昭和二十一年八月二十四日(土曜日)   午前十時五十分開議    ━━━━━━━━━━━━━ 議事日程 第三十四號  昭和三十一年八月二十四日   午前十時開議 第一 帝國憲法改正案     第一讀會の續(委員長報告)    ━━━━━━━━━━━━━  〔朗讀を省略した報告〕一、議員から提出された議案は次の通りである 纖維工業再建に關する建議案  提出者     青木清左ヱ門君 貝塚、粉河間鐵道敷設に關する建議案  提出者      寺田榮吉君 重信川改修工事國營に關する建議案  提出者   安平鹿一君  馬越晃君   關谷勝利君  稻本早苗君   林田哲雄君 藥師神岩太郎君   高橋英吉君(以上八月二十三日提出)一、昨二十三日吉田内閣總理大臣から木村副議長宛次の通り發令があつた旨の通牒を受領した     衆議院議長 樋貝詮三 願に依り衆議院議長を免す一、昨二十三日吉田内閣總理大臣から木村副議長宛次の通り發令があつた旨の通牒を受領した     正五位勳三等 山崎猛 議院法第三條に依り衆議院議長に任す一、昨二十三日次の通り特別委員の異動があつた 食糧緊急措置令(承諾を求める件)委員 辭任井出一太郎君 補關小坂善太郎君    ━━━━━━━━━━━━━  〔書記官長大池眞君議長山崎猛君を演壇に伴ふ〕○書記官長(大池眞君) 昨日本院議長に勅任せられました山崎猛君を御紹介申上げます  〔拍 手〕○山崎猛君 不肖此の度諸君の御推薦に依りまして、昨日揣らずも衆議院議長の大命を拝しました、光榮之に過ぐるものなく、職責の眞に重大なるを痛感致す次第であります、而も今後の新しき時代に處して眞に民主議會の實を擧ぐる爲には、自ら顧みて餘りに無力なるを惧れるものであります、之に加ふるに議院の法規典禮に付きましては、甚だ通ぜざるものがあるのでありまして、今後諸君の御支援と御鞭撻に俟つ所頗る大なるものがあると信ずるのであります(拍手)偏に諸君の御協力を此の上ながら御願ひ致す次第であります、ここに謹んで就任の御挨拶を致す次第であります  〔拍 手〕  〔山崎猛君議長席に着く〕○議長(山崎猛君) 前議長樋貝詮三君より發言を求められて居ります、之を許します──樋貝詮三君  〔樋貝詮三君登壇〕○樋貝詮三君 御挨拶を申上げます、此の度深く考ふる所がありまして、御聽許を得て議長の職を去ることと相成りました、思へば極めて短期間ではありましたけれども、此の歴史的議會に議長の職務を執らせて戴きましたことは、光榮之に過ぐるものはありませぬ、在任中は微力で何等なすこともなく、皆樣の御期待に十分に副ひ得なかつたことは洵に慚愧に堪へませぬ、尚ほ今後も引續き諸君の驥尾に附しまして、國家憲政の爲に努力を致す覺悟でございます、何卒一層の御支援と御鞭撻とを乞ふ次第であります、之を以て御挨拶と致します  〔拍 手〕○議長(山崎猛君) 此の際菅又薫君より發言を求められて居ります、之を許します──菅又薫君  〔菅又薫君登壇〕○菅又薫君 不肖年長の故を以てここに前議長に對し一言御挨拶を申上げ、山崎新議長に對し御祝辭を申述べたいと存じます(拍手) 樋貝君が此の度議長の職を辭せられるに當り、只今御鄭重なる御挨拶を戴きました、申すまでもなく今期議會は國家再建の基盤を築くべき重大議會でありまして、御在職中は熱誠事に當り、常に公正を期せられて、其の重責に當られて居りましたことを深く感謝致します、今日未だ會期を終らざるに、考ふる所あられて、議長の椅子を退かれましたが、冀くは邦家の爲め益益御自愛、御健鬪あらんことを切望して已みませぬ、謹んで御挨拶申上げます(拍手) 尚ほ山崎新議長に對しここに御就任の御祝辭を申上げたいと存じます、此の際前議長の後を繼ぐべき最適任者を得ましたことは、先以て我々の最も欣幸とする所であります(拍手) 山崎君は既に多年に亙つて議會政治の實際を體驗せられた方でありまして、君の高邁な識見は必ずや此の豐富なる經驗を新時代に再生し、以て我が民主議會の權威を十二分に昂揚せられることと信じます、切に今後の御奮鬪を祈る次第であります、ここに議員一同を代表致しまして、謹んで御祝辭を申上げます(拍手)    ━━━━━━━━━━━━━○議長(山崎猛君) 是より會議を開きます、只今までに登院せられた議員數は四百六名であります、是にて憲法第七十三條第二項の議員總數三分の二以上の定數は十分であります、日程第一、帝國憲法改正案の第一讀會の續を開きます、委員長の報告を求めます──委員長芦田均君   ──  ・  ── 帝國憲法改正案     第一讀會の續(委員長報告)    ━━━━━━━━━━━━━    報告書 一 帝國憲法改正案(政府提出) 右は本院に於て別紙の通り修正すべきものと議決した因つてここに報告する  昭和二十一年八月二十一日       委員長 芦田均   衆議院議長樋貝詮三殿  〔別紙〕    日本國憲法  日本國民は、國會における正當に選擧された代表者を通じて、我ら自身と子孫のために、諸國民との間に平和的協力を成立させ、日本國全土にわたつて自由の福祉を確保し、政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が發生しないやうにすることを決意し、ここに國民の總意が至高なものであることを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであり、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ、その利益は國民がこれを受けるものであつて、これは人類普遍の原理であり、この憲法は、この原理に基く。ものである。我らは、この憲法に反する一切の法令と詔勅を廢止する。  日本國民は、常に平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠な理想を深く自覺するものであつて、我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した。我らは、平和を維持し、專制と隸從と壓迫と偏狹を地上から永遠に拂拭しようと努めてゐる國際社會に伍して、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。我らは、すべての國の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から解放され、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。  我らは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならぬのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであると信ずる。この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。  日本國民は、國家の名譽に懸け、全力をあげてこの高遠な主義と目的を達成することを誓ふ。    第一章 天皇 第一條 天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、日本國民の至高の總意に基く。 第二條 皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する。 第三條 天皇の國務に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。 第四條 天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない。   天皇は、法律の定めるところにより、その權能を委任することができる。 第五條 皇室典範の定めるところにより攝政を置くときは、攝政は、天皇の名でその權能を行ふ。この場合には、前條第一項の規定を準用する。 第六條 天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。 第七條 天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國務を行ふ。  一 憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。  二 國會を召集すること。  三 衆議院を解散すること。  四 國會議員の總選擧の施行を公示すること。  五 國務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。  六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を認證すること。  七 榮典を授與すること。  八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認證すること。  九 外國の大使及び公使を接受すること。  十 儀式を行ふこと。 第八條 皇室に財産を讓り渡し、又は皇室が、財産を讓り受け、若しくは賜與することは、國會の議決に基かなければならない。    第二章 戰爭の抛棄 第九條 國の主權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、他國との間の紛爭の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。   陸海空軍その他の戰力は、これを保持してはならない。國の交戰權は、これを認めない。    第三章 國民の權利及び義務 第十條 國民は、すべての基本的人權の享有を妨げられない。この憲法が國民に保障する基本的人權は、侵すことのできない永久の權利として、現在及び將來の國民に與へられる。 第十一條 この憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。又、國民は、これを濫用してはならぬのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 第十二條 すべて國民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に對する國民の權利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。 第十三條 すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別を受けない。   華族その他の貴族の制度は、これを認めない。   榮譽、勳章その他の榮典の授與は、いかなる特權も伴はない。榮典の授與は、現にこれを有し、又は將來これを受ける者の一代に限り、その效力を有する。 第十四條 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。   すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。   すべて選擧における投票の祕密は、これを侵してはならない。選擧人は、その選擇に關し公的にも私的にも責任を問はれない。 第十五條 何人も、損害の救濟、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廢止又は改正その他の事項に關し、平穩に請願する權利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。 第十六條 何人も、いかなる奴隸的拘束も受けない。又、犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。 第十七條 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。 第十八條 信教の自由は、何人に對してもこれを保障する。いかなる宗教團體も、國から特權を受け、又は政治上の權力を行使してはならない。   何人も、宗教上の行爲、祝典、儀式又は行事に參加することを強制されない。   國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。 第十九條 集會、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。   檢閲は、これをしてはならない。通信の祕密は、これを侵してはならない。 第二十條 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移轉及び職業選擇の自由を有する。   何人も、外國に移住し、又は國籍を離脱する自由を侵されない。 第二十一條 學問の自由は、これを保障する。 第二十二條 婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。   配偶者の選擇、財産權、相續、住居の選定、離婚竝びに婚姻及び家族に關するその他の事項に關しては、法律は、個人の權威と兩性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 第二十三條 法律は、すべての生活部面について、社會の福祉、生活の保障及び公衆衞生の向上及び増進のために立案されなければならない。 第二十四條 すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。   すべて國民は、その保護する兒童に初等教育を受けさせる義務を負ふ。初等教育は、これを無償とする。 第二十五條 すべて國民は、勤勞の權利を有する。   賃金、就業時間その他の勤勞條件に關する基準は、法律でこれを定める。   兒童は、これを酷使してはならない。 第二十六條 勤勞者の團結する權利及び團體交渉その他の團體行動をする權利は、これを保障する。 第二十七條 財産權は、これを侵してはならない。   財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。   私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。 第二十八條 何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。 第二十九條 何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。 第三十條 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、權限を有する司法官憲が發し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。 第三十一條 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに辯護人に依頼する權利を與へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正當な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその辯護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。 第三十二條 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、搜索及び押收を受けることのない權利は、第三十條の場合を除いては、正當な理由に基いて發せられ、且つ搜索する場所及び押收する物を明示する令状がなければ、侵されない。   搜索又は押收は、權限を有する司法官憲が發する各別の令状により、これを行ふ。 第三十三條 公務員による拷問及び殘虐な刑罰は、絶對にこれを禁ずる。 第三十四條 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける權利を有する。   刑事被告人は、すべての證人に對して審問する機會を充分に與へられ、又、公費で自己のために強制的手續により證人を求める權利を有する。   刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辯護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、國でこれを附する。 第三十五條 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。   強制、拷問若しくは脅迫の下での自白又は不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを證據とすることができない。   何人も、自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。 第三十六條 何人も、實行の時に適法であつた行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。    第四章 國會 第三十七條 國會は、國權の最高機關であつて、國の唯一の立法機關である。 第三十八條 國會は、衆議院及び參議院の兩議院でこれを構成する。 第三十九條 兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。   兩議院の議員の定數は、法律でこれを定める。 第四十條 兩議院の議員及びその選擧人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信條、性別、社會的身分又は門地によつて差別してはならない。 第四十一條 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間滿了前に終了する。 第四十二條 參議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半數を改選する。 第四十三條 選擧區、投票の方法その他兩議院の議員の選擧に關する事項は、法律でこれを定める。 第四十四條 何人も、同時に兩議院の議員たることはできない。 第四十五條 兩議院の議員は、法律の定めるところにより、國庫から相當額の歳費を受ける。 第四十六條 兩議院の議員は、法律の定める場合を除いては、國會の會期中逮捕されず、會期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、會期中これを釋放しなければならない。 第四十七條 兩議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。 第四十八條 國會の常會は、毎年一囘これを召集する。 第四十九條 内閣は、國會の臨時會の召集を決定することができる。いづれかの議院の總議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。 第五十條 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の總選擧を行ひ、その選擧の日から三十日以内に、國會を召集しなければならない。   衆議院が解散されたときは、參議院は同時に閉會となる。但し、内閣は、國に緊急の必要があるときは、參議院の緊急集會を求めることができる。   前項但書の緊急集會において採られた措置は、臨時のものであつて、次の國會開會の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その效力を失ふ。 第五十一條 兩議院は、各各その議員の選擧又は資格に關する爭訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。 第五十二條 兩議院は、各各その總議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。   兩議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半數でこれを決し、可否同數のときは、議長の決するところによる。 第五十三條 兩議院の會議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多數で議決したときは、祕密會を開くことができる。   兩議院は、各各その會議の記録を保存し、祕密會の記録の中で特に祕密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。   出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを會議録に記載しなければならない。 第五十四條 兩議院は、各各その議長その他の役員を選任する。   兩議院は、各各その會議その他の手續及び内部の規律に關する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。 第五十五條 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議院で可決したとき法律となる。   衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。   參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。 第五十六條 豫算は、さきに衆議院に提出しなければならない。   豫算について、參議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は參議院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて四十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。 第五十七條 條約の締結に必要な國會の承認については、前條第二項の規定を準用する。 第五十八條 兩議院は、各各國務に關する調査を行ひ、これに關して、證人の出頭及び證言竝びに記録の提出を要求することができる。 第五十九條 内閣總理大臣その他の國務大臣は、兩議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について發言するため議院に出席することができる。又、答辯又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。 第六十條 國會は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、兩議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。   彈劾に關する事項は、法律でこれを定める。    第五章 内閣 第六十一條 行政權は、内閣に屬する。 第六十二條 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣總理大臣及びその他の國務大臣でこれを組織する。   内閣は、行政權の行使について、國會に對し聯帶して責任を負ふ。 第六十三條 内閣總理大臣は、國會の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。   衆議院と參議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、國會休會中の期間を除いて二十日以内に、參議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。 第六十四條 内閣總理大臣は、國會の承認により、國務大臣を任命する。この承認については、前條第二項の規定を準用する。   内閣總理大臣は、任意に國務大臣を罷免することができる。 第六十五條 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、總辭職をしなければならない。 第六十六條 内閣總理大臣が缺けたとき、又は衆議院議員總選擧の後に初めて國會の召集があつたときは、内閣は、總辭職をしなければならない。 第六十七條 前二條の場合には、内閣は、あらたに内閣總理大臣が任命されるまで引き續きその職務を行ふ。 第六十八條 内閣總理大臣は、内閣を代表して議案を國會に提出し、一般國務及び外交關係について國會に報告し、竝びに行政各部を指揮監督する。 第六十九條 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。  一 法律を誠實に執行し、國務を總理すること。  二 外交關係を處理すること。  三 條約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、國會の承認を經ることを必要とする。  四 法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理すること。  五 豫算を作成して國會に提出すること。  六 この憲法及び法律の規定を實施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。  七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を決定すること。 第七十條 法律及び政令には、すべて主任の國務大臣が署名し、内閣總理大臣が聯署することを必要とする。 第七十一條 國務大臣は、その在任中、内閣總理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の權利は、害されない。    第六章 司法 第七十二條 すべて司法權は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に屬する。   特別裁判所は、これを設置することができない。行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。   すべて裁判官は、その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。 第七十三條 最高裁判所は、訴訟に關する手續、辯護士、裁判所の内部規律及び司法事務處理に關する事項について、規則を定める權限を有する。   檢察官は、最高裁判所の定める規則に從はなければならない。   最高裁判所は、下級裁判所に關する規則を定める權限を、下級裁判所に委任することができる。 第七十四條 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒處分は、行政機關がこれを行ふことはできない。 第七十五條 最高裁判所は、法律の定める員數の裁判官でこれを構成し、その裁判官は、すべて内閣でこれを任命し、法律の定める年齡に達した時に退官する。   最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際國民の審査に付し、その後十年を經過した後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際更に審査に付し、その後も同樣とする。   前項の場合において、投票者の多數が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。   審査に關する事項は、法律でこれを定める。   最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相當額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。 第七十六條 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齡に達した時には退官する。   下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相當額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。 第七十七條 最高裁判所は、終審裁判所である。   最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は處分が憲法に適合するかしないかを決定する權限を有する。 第七十八條 裁判の對審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。   裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、對審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に關する犯罪又はこの憲法第三章で保障する國民の權利が問題となつてゐる事件の對審は、常にこれを公開しなければならない。    第七章 財政 第七十九條 國の財政を處理する權限は、國會の議決に基いて、これを行使しなければならない。 第八十條 あらたに租税を課し、又は現行の租税を變更するには、法律又は法律の定める條件によることを必要とする。 第八十一條 國費を支出し、又は國が債務を負擔するには、國會の議決に基くことを必要とする。 第八十二條 内閣は、毎會計年度の豫算を作成し、國會に提出して、その審議を受け議決を經なければならない。 第八十三條 豫見し難い豫算の不足に充てるため、國會の議決に基いて豫備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。   すべて豫備費の支出については、内閣は、事後に國會の承諾を得なければならない。 第八十四條 世襲財産以外の皇室の財産は、すべて國に屬する。皇室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし、法律の定める皇室の支出は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。 第八十五條 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは團體の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に屬しない慈善、教育若しくは博愛の事業に對し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。 第八十六條 國の收入支出の決算は、すべて毎年會計檢査院がこれを檢査し、内閣は、次の年度に、その檢査報告とともに、これを國會に提出しなければならない。   會計檢査院の組織及び權限は、法律でこれを定める。 第八十七條 内閣は、國會及び國民に對し、定期に、少くとも毎年一囘、國の財政状況について報告しなければならない。    第八章 地方自治 第八十八條 地方公共團體の組織及び運營に關する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。 第八十九條 地方公共團體には、法律の定めるところにより、その議事機關として議會を設置する。   地方公共團體の長、その議會の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共團體の住民が、直接これを選擧する。 第九十條 地方公共團體は、その財産を管理し、事務を處理し、及び行政を執行する權能を有し、法律の範圍内で條例を制定することができる。 第九十一條 一の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共團體の住民の投票においてその過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない。    第九章 改正 第九十二條 この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。   憲法改正について前項の承認を經たときは、天皇は、國民の名で、この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれを公布する。    第十章 最高法規 第九十三條 この憲法が日本國民に保障する基本的人權は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの權利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び將來の國民に對し、侵すことのできない永久の權利として信託されたものである。 第九十四條 この憲法竝びにこれに基いて制定された法律及び條約は、國の最高法規とし、その條規に反する法律、命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その效力を有しない。 第九十五條 天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。    第十一章 補則 第九十六條 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を經過した日から、これを施行する。   この憲法を施行するために必要な法律の制定、參議院議員の選擧及び國會召集の手續竝びにこの憲法を施行するために必要な準備手續は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。 第九十七條 この憲法施行の際現に華族その他の貴族の地位にある者については、その地位は、その生存中に限り、これを認める。但し、將來、華族その他の貴族たることにより、いかなる政治的權力も有しない。 第九十八條 この憲法施行の際、參議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、國會としての權限を行ふ。 第九十九條 この憲法による第一期の參議院議員のうち、その半數の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。 第百條 この憲法施行の際現に在職する國務大臣、衆議院議員及び裁判官竝びにその他の公務員で、その地位に相應する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、當然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選擧又は任命されたときは、當然その地位を失ふ。    附帶決議 一、憲法改正案は憲法附屬の諸法典と相俟つて、始めてその運用の完全を期待し得るものである。然るに皇室典範、參議院法、内閣法その他多數の各種法令は、未だその輪廓參さへ明かでないために、憲法の審議に當つても徹底を期し得なかつたことは、深く遺憾とするところである。政府は速やかに是等諸法典を起案し、國民の輿論に問ふ準備をなすべきである。 二、改正憲法が生活權、勞働權等の經濟的基本權を確立したことは時代の要求に即應する適切な措置であるが、然し是等の權利の裏附となるべき諸施設は、現状を以ては頗る不充分なものがある。政府は速かに廣汎な社會政策を樹立し、當面の失業對策、社會保障制度の確立と同時に、他面生産の増強を圖り、以て經濟再建の促進に萬遺漏なきを期すべきである。 三、參議院は衆議院と均しく國民を代表する選擧せられたる議員を以て組織すとの原則はこれを認むるも、これがために衆議院と重複する如き機關となり終ることは、その存在の意義を沒却するものである。政府は須くこの點に留意し、參議院の構成については、努めて社會各部門各職域の智識經驗ある者がその議員となるに容易なるよう考慮すべきである。 四、憲法改正案は、基本的人權を尊重して、民主的國家機構を確立し、文化國家として國民の道義的水準を昂揚し、進んで地球表面より一切の戰爭を驅逐せんとする高遠な理想を表明したものである。然し新しき世界の進運に適應する如く民衆の思想、感情を涵養し、前記の理想を達成するためには、國を擧げて絶大の努力をなさなければならぬ。吾等は政府が國民の總意を體し熱情と精力とを傾倒して、祖國再建と獨立完成のために邁進せんことを希望するものである。    ━━━━━━━━━━━━━  〔芦田均君登壇〕○芦田均君 本日いとも嚴肅なる本會議の議場に於て、憲法改正案委員會の議事の經過竝に結果を御報告し得ることは深く私の光榮とする所であります 本委員會は六月二十九日より改正案の審議に入りまして、前後二十一囘の會合を開きました、七月二十三日質疑を終了して懇談會に入り、小委員會を開くこと十三囘、案文の條正案を得て、八月二十一日之を委員會に報告し、委員會は多數を以て之を可決致しました、其の間に於ける質疑應答の概要竝に修正案文に付て説明致します 勅命を奉じて政府より提案せられた憲法改正案は、六百五十字に餘る前文と、百箇條に上る規定とを具へた畫期的な大法典でありまして、其の中に包含する新しき理想と、時代精神に生きんとする民主國家の構想とを以て、未曾有の敗戰の後を承けた我等の祖國を燒土の中から建直し、國際場裡に名實共に具ふる獨立國たらしめんとする企圖を以て起案せられたものであります、之を現行憲法と比較して最も顯著に目に付く點は、今囘の改正案が明かに二つの面を持つと云ふことであります、即ち一は、我が國の國家機構から一切の封建的殘滓を取除いて、眞に民主的な國會制度、内閣制度、司法制度を確立せんとする現實的、構成法的の部門であります、其の二は、國内に於て基本的人權を尊重し、諸外國との間に平和的協力を成立させ、國際社會に伍して名譽ある地位を占めようとする意思表示であつて、將來の國際的生活に對する理想主義的な分子を含む面であります、而も改正憲法の前文に於て、我が國の主權が國民に存することを明白にしたことは、各種各樣の波紋を與へまして、憲法改正に關する論議の中心となつたことは諸君の御承知の通りであります、隨て本委員會に於て多數の委員から發せられた質問は、此の憲法改正案が我が國體を變革するものなりや否やと云ふ點でありました 「第一章天皇」の章に付ては、國體の問題、天皇制及び主權の所在等に關聯して、最も熱心に論議せられました、政府の説明に依れば、主權と云ふ言葉は極めて多岐に用ひられて居るけれども、之を國家意思の實質的源泉と云ふ意味に解するならば、主權は正に國民の全體にある、而も天皇を含めての國民全體に在ると云ふのであります、更に詳しく申せば、國家意思の源泉は個々の人間の考へ其のものではない、國民が各自結合聯結する中に纏まつて來る所の考へが國家意思の源泉となるのであつて、隨て主權の本體は天皇を含めての國民の組織體に在る、國家意思の源泉は全國民の心と繋がつて居ると考へざるを得ないと云ふのであります、ここに注意すべきことは、主權の觀念に伴ふ泰西の思想と、我が國憲の基本主義との差異であります、歐米に於ては國家構成の思想は古くより二元的になつて居り、人民と云ふ文字には、君主其の他の治者に對する被治者の地位を聯想するのでありますから、主權の觀念にも亦國家に於ける二元性を前提とする考へ方が附隨することは否定出來ませぬ、政府の説明に依れば、君主主權と云ひ、主權在民と云ふ、從來の學説には常に對立意識が附帶するものであるが、我が憲法の解釋として、主權の所在を問題にする場合には、前述の如き意味の日本國國民協同體に在りとする理論を至當ととすると言ふのであります、然らば主權が天皇を含む國民に在りとする場合に、國體の變更を來すのではないかと云ふ質疑がありましたが、之に對して、先づ國體なる言葉を如何に解するかと云ふことが先決問題であつて、政府は、國體とは憲法の基礎にある所の國家の基本特色を指すものと解釋するのであります、即ち我が國體は、天皇を憧れの中心として國民全體が結合し、以て國家が組立てられて居る所にあると言ふのであつて、本改正案は我が國家存立の基底を變更するものではないから、之に依つて國體の變革は來すことはないと結論するのであります、現行憲法に於ては天皇は統治權の總攬者であると規定し、伊藤公の憲法義解を初め、我が國幾多の憲法學者が、國體と云ふ言葉の公法上の意義は、如何なる人が統治權を總攬するかと云ふ觀點から見た國家の形態であると唱へ、萬世一系の天皇を戴く君主制が我が國體であると唱へて怪しまなかつたに拘らず、今囘の改正案は、天皇が統治權を總攬し給はざる旨を規定して、尚且つ國體の變革なしと云ふのは、如何なる理由に依るかとの質疑が多くの委員より行はれたのであります、之に對する政府の見解は、現行憲法第一條又は第四條を根拠として、天皇が統治權を總攬せらるることを以て我が國體なりとする論は、其の時代の制度の表面に現はれた所に重點を置き、謂はば政體の面に着眼しての考へであつて、更に深く國體の眞髓に徹したものではない、本改正法案に依つて我が國の政體的な面に於て大いなる變更を生ずることは認めるけれども、之を以て國體の變更と見ることは出來ないと言ふのであります、即ち我が國體觀念は、我が國民的伝統を背景とし、特殊の歴史的事實の上に生成したものであつて、天皇は君民一體又は君民一如の如き言葉に依つて表はされて居る國民的統合の中心であるとするのが、我が國民的信念であると説くのであります、之に對して一部の委員は、天皇を以て日本國の象徴と言ひ、日本國民統合の象徴とするのは、社會事象の説明として首肯出來るけれども、公法の理論として、改正案第一條は、國家と天皇との關係を如何に説明し得るかと云ふ質問がありました、之に對して政府は、象徴たる天皇の地位は、改正案第一條に規定することに依つて明かに憲法上の制度となつたものであつて、一たび憲法上の制度となつた以上、最早國民各人の意思の如何を問はず、天皇は國家に於て斯樣な象徴としての地位を保有せらるることに法的に定められて居ると言ふのであります、斯くして天皇の地位は、現行憲法が規定する統治權の總攬者たる地位とは根本的に異なる所であり、第六條及び第七條に規定する天皇の執らるる國務は、天皇が國の象徴たる地位に相應しきものに限られたのでありますが、それは我が國體とは何の關する所なき變化であるとの説明でありました、尚ほ以上の政府の見解は、主權の所在の問題と、國體の問題とは別個の問題であると云ふ立場に立つのでありまして、此の別個の問題を混同して考へられる場合に、主權の所在及び國體の問題に付て、論議は明白を缺くに至ると強調されたのであります 次に改正案第一條に規定する象徴とは何を意味するかと云ふ問題であります、政府の説明に依れば、前述の如き天皇の地位に鑑み、國民の憧れの中心たる天皇を見る時、そこに日本國の嚴然たる姿を見、且つそこに國民自らが結合せられた形態を看取することが出來る、此の天皇に伴ふ特質を捉へて、象徴と云ふ文字を以て表はしたものであると言ふのであります、隨て天皇の象徴たる御地位は、「主權の存する日本國民の總意に基く」、即ち國民の總意の基礎の上に存すると規定したのは、具體的の現實に即した表現であつて、明治以來一部の間に唱へられた如く、神祕的、非合理的な性質のものではないと云ふのが當局者の見解であります 次に統治權の總攬者にあらざる天皇の權能と云ふのは如何なるものであるかとの質疑に對して、政府の説明は大要次の如くでありました、天皇は象徴である、隨て無色透明、公平無私の存在でなければならぬ、然るに現行憲法に於ては、立法、司法、行政の三權が天皇に依つて總攬せられ、其の統治權の行使に當るものは、それぞれ帝國議會、裁判所及び政府であつて、根本に於ては天皇の御名に依つて行はれるとの建前から之を大權政治と呼んだのであります、然るに改正案に於ては此の原則を採らず、立法、司法、行政とも、それぞれ國會、裁判所、内閣が自らの權として之を行ふのであつて、天皇の權能は法文第六條及び第七條に掲げる範圍に限られ、且つ是等の國務に付ても内閣の助言と承認とを必要とし、政治上の責任は總て内閣が負ふのであつて、曾て行はれた如き、天皇の御名を藉りて國民の意思を無視する政治が行はるることを根絶せんとする意圖であります、第六條及び第七條に掲げた天皇の權能に付ては、或は是れ以上に權能を擴充することを可とする論、又是れ以上に制限することを可とする論、双方の論が聽かれたのでありますが、政府は此の程度の權能は、象徴たる天皇の地位から密接且つ不可分に流れ出るものであつて、多からず少からざる適宜の所に限界を置いたとの説明でありました 附加へて申すべきことは、第七條に用ひられた認證と云ふ文字に付てでありますが、委員會に於ては、認證を裁可と改むべきであるとの論もあり、又他方には、第七條の二より四までに規定する事項を認證事項となすべしとの論もありました、ここに裁可とは、或る行爲の方向を實質的に決定すると云ふ意味を持つものであり、認證とは或る行爲の存在を確認する作用であつて、隨て其の行爲の最終的の有效條件たる差異があることは定説であります、それ故に政府としては天皇に政治上の責任を歸する餘地を殘さない爲には、認證を裁可と修正することは不適當なりと考へ、又第七條の二より四までに列記する國務は何れも形式的又は儀式的のものであるから、敢て之を認證とする必要はないとの意見でありました、要するに改正憲法の第一章は、萬世一系の天皇が國民至高の總意に基き、天壌と共に永劫より永劫に亙り國民を統合する君主としての地位を確保せらるることを明記したものであります(拍手)斯くて天皇は國民の中にありながら、自ら實際政治の外に立ち、而も國民生活の中心、精神的指導力としての權威を保有せられる嚴然たる事實を確認し得たことは、委員の絶對多數が最大の歓喜を以て迎へた所であります(拍手) 「第二章戰爭の抛棄」に付て説明致します、改正案第二章に於て戰爭の否認を聲明したことは、我が國家再建の門出に於て、我が國民が平和に對する熱望を大膽率直に表明したものでありまして、憲法改正の御詔勅は、此の點に付て日本國民が正義の自覺に依り平和の生活を享有することを希求し、進んで戰爭を抛棄して誼を萬邦に修むる決意である旨を宣明せられて居ります、憲法草案は戰爭否認の具體的な裏付けとして、陸海軍其の他の戰力の保持を許さず、國の交戰權は認めないと規定して居ります、尤も侵略戰爭を否認する思想を憲法に法制化した前例は絶無ではありませぬ、例へば一七九一年の「フランス」憲法、一八九一年の「ブラジル」憲法の如きであります、併し我が新憲法の如く全面的に軍備を撤去し、總ての戰爭を否認することを規定した憲法は、恐らく世界に於て之を嚆矢とするでありませう(拍手)近代科學が原子爆彈を生んだ結果、將來萬一にも大國の間に戰爭が開かれる場合には、人類の受ける慘禍は測り知るべからざるものがあることは何人も一致する所でありませう、我等が進んで戰爭の否認を提唱するのは、單り過去の戰禍に依つて戰爭の忌むべきことを痛感したと云ふ理由ばかりではなく、世界を文明の壞滅から救はんとする理想に發足することは言ふまでもありませぬ(拍手) 委員會に於ては此の問題を繞つて最も熱心な論議が展開せられました、委員會の關心の中心點は、第九條の規定に依り我が國は自衞權をも抛棄する結果となるかどうか、自衞權は抛棄しないとしても、軍備を持たない日本國は、何か國際的保障でも取付けなければ、自己防衞の方法を有しないではないかと云ふ問題、竝に我が國としては單に日本が戰爭を否認すると云ふ一方的行爲のみでなく、進んで世界に呼び掛けて、永久平和の樹立に努力すべきであるとの點でありました、政府の見解は、第九條の一項が自衞の爲の戰爭を否認するものではないけれども、第二項に依つて其の場合の交戰權も否定せられて居ると言ふのであります、之に對し委員の一人は、國際聯合憲章第五十一條には、明かに自衞權を認めて居り、且つ日本が國際聯合に加入する場合を想像するならば、國際聯合憲章には、世界の平和を脅威する如き侵略の行はれる時には、安全保障理事會は其の兵力を以て被侵略國を防衞する義務を負ふのであるから、今後に於ける我が國の防衞は、國際聯合に參加することに依つて全うせられるのではないかとの質問がありました、政府は之に對して大體同見である旨の囘答を與へました、更に第九條に依つて我が國が戰爭の否認を宣言しても、他國が之に贊同しない限り、其の實效は保障されぬではないかとの質問に對して、政府は次の如き所見を明かに致しました、即ち第九條の規定は我が國が好戰國であるとの世界の疑惑を除く消極的效果と、國際聯合自身も理想として掲げて居る所の、戰爭は國際平和團體に對する犯罪であるとの精神を、我が國が率先して實現すると云ふ積極的效果があり、現在の我が國は未だ十分な發言權を持つて、此の後の理想を主張し得る段階には達して居ないけれども、必ずや何時の日にか世界の支持を受けるであらうと云ふ答辨でありました、委員會に於ては更に一歩を進めて、單に我が國が戰爭を否認すると云ふ一方的行爲のみを以ては、地球表面より戰爭を絶滅することが出來ない、今日成立して居る國際聯合でさへも、其の組織は戰勝國の平和維持に偏重した機構であつて、今尚ほ敵味方の觀念に支配されて居る状況であるから、我が國としては、更に進んで四海同胞の思想に依る普遍的國際聯合の建設に邁進すべきであるとの意見が表示せられ、此の點に關する政府の努力に付て注意を喚起したのでありました 「第三章國民の權利及び義務」に付て説明致します、此の章に規定する内容は、基本的人權の擁護、社會的生存權の確認及び個人の尊嚴と兩性の本質的平等に立脚する家庭生活の調整、竝に勤勞大衆の爲に勞働權と團結權とを保障する等、廣汎な領域に亙るものでありまして、之を現行憲法の規定に比べますと、著しく時代の要求に即應せんとする立法の意圖が窺ひ知られるのであります、此の章は所謂人權宣言とも稱すべき規定でありまして、民主的憲法の骨子を成すものであることは言ふまでもありませぬ、さればこそ、草案第九十三條には、此の憲法の保障する基本的人權は、人類の多年に亙る自由獲得の努力の成果であつて、是等の權利は、過去の幾多の試練に堪へ、現在及び將來の國民に對し、侵すことの出來ない永久の權利として信託されたものであると聲明して居るのであります、此の根本理念から出發して、草案第十一條には自由の權利の保障、第十二條には個性の尊重、第十三條には總ての國民が政治的に、經濟的に、さうして又社會的に平等たるべきことを規定して居ります、殊に第二十二條に於て大膽に男女兩性の本質的平等に立脚して、家庭生活の基準を定めるとしたことは、我が國の社會制度に根本的な變化を與へるものとも言ひ得るでありませう、本委員會に於ては改正法が保障する基本的人權は、資本主義の勃興及び勝利の記念碑として必要であつたが、現在の日本は既に其の時代を突破して、資本主義から生ずる不利益を蒙る者を保護する爲の社會的、經濟的規定を加へなければならないとの意見が表示せられました、之を具體的に言へば、財産權は不可侵であるとの規定に、更に進歩的な考へを採り入れること、年寄、癈疾者の生活の保障、著作權、發明權及び農民の耕作權の保護、家庭生活の保障、個人の生活權の保障、就業の機會均等及び勤勞の義務等を規定することが必要であると云ふ意味であります、之に對する政府當局の答辨は、日本國民は最近まで個人の權利自由を十分に自覺して、之を主張する機會を逸して來た事情に鑑み、改正案は此の方面の保障に重點を置いたのであつて、社會的經濟的規定は、國民の多數に共通な基盤を持つものに限つて採入れたのである、過度に此の種類の規定を採入れると、憲法と社會の實情との間に不一致を來し、憲法が空文化する虞があるとの説明でありました、尤も國民の經濟生活、社會生活に付ては直接憲法に認めなくとも、將來各種の立法に依つて規定する基礎は出來て居るのであつて、例へば改正案第二十七條は相當に幅のある規定であり、第十一條との關聯の下に之を解釋すれば、最も進歩的な原理を之に採入れることが出來ると云ふのが政府の見解でありました、更に具體的に申せば、生活の保障に關するものに付ては、第二十三條に依り、耕作權に付ては第二十七條の第二項に定めた財産權の一として、必要に應じ法律を以て定め得る事項であり、又家庭生活の保護、勤勞の義務は、何れも此の改正案全體を貫く精神の上に、今後立法に依つて解決され得る問題であるとの政府の見解でありました、併しながら勞働權の裏付けとして、健康な國民が勞働の義務を負ふものとするのは、國家に對して生活權の保障を求める以上當然のことであるとの意見が表示せられました、此の點は修正案の説明に際して更に言及することと致します 要するに改正案第三章の中には、今後我が國の社會、經濟が進むべき現實的方向に付ては何等觸れる所がないと云ふ不滿に對しては、政府はそれ等の問題は此の新憲法の下に於て、今後民主政治の過程に於て解決せらるべきものであり、此の憲法は諸々の政治原理が相鬪ふべき共通の基盤、謂はば土俵を提供するものであるとの意見でありました、又委員會に於ては、草案第二十二條に規定する如く、個人の尊嚴と兩性の本質的平等とに立脚して、財産權、相續權、戸主權、其の他家族に關する事項を再吟味する場合には、我が國固有の家族制度の運命はどうなるかと云ふ質疑がありました、此の點に付て政府は、草案に定める趣意は必ずしも從來の家督相續、戸主權、離婚の請求權等を一掃すると云ふ趣意ではなくて、家族生活は常に其の中心を必要とするのであるから、勢ひ戸主の地位に強力な男子を据えて、家を繼がせることとしたいとの意向を明白にしたのであります、國民の權利義務の項目中、最も重要なる參政權の問題に付ては、改正案に於て國民が國政の根源的な擔當者であることを明白にして、所謂民主主義政治の基本を規定して居りますから、委員會は此の點に付き一樣に政府に滿足の意を表したのであります、要するに第三章に定めた規定は民主主義の根本をなす重要なものでありまして、時代精神の推移を察するに足る近代的法規たることは、委員の多數が承認するに躊躇しない所であります 「第四章國會」に付て説明致します、「ポツダム」宣言に謂ふ所の日本國の政治の最終の形態は、國民の自由に表明した意思に依り決定せらるべきものとの言葉は、最も簡明に民主制政治の眞髓を定義したものであります、改正案が第三十七條に於て、國會は國權の最高機關であるとし、國家組織の基本を國會を置いたことは、現行憲法の規定に比べて著しき飛躍であります(拍手)隨て本委員會に於て最も論議せられた問題は、改正案の意味する三權分立の思想及び議院内閣制の運用に付てでありました、改正案の意圖は「イギリス」式の議院内閣制を採用するが如く見えるに拘らず、他方には最高裁判所の權限として、憲法に違反する立法に對し審査權を認めるのは、最高機關たる性質に矛盾するのではないかとの質疑がありました、之に對する政府の答辨は、最高裁判所の審査權は、憲法違反と認められる法律の適用を拒否すると云ふ消極的、制限的機能に止まつて居つて、常識的には國會が最高機關であることに妨げはないと言ふのであります、更に多數黨の横暴を抑制する爲め、天皇に拒否權を認めることと、又衆議院の解散を國民投票に問ふ等の途を開いてはどうかとの意見も表示せられましたが、政府は天皇の拒否權を認めることは、其の政治的實權を行使せしめないことを適當なりとする改正案の趣旨に合致しないと考へると答へ、解散の可否を國民投票に問ふことは、國會の地位を輕からしめ、却て政治上の紛糺を招く虞があるとの見解を明かにしたのであります、之に附加へて議院内閣制の運用は、一に國民の叡智に信頼し、國民の總意が秩序ある結果となるやうに導く工夫を考へる外に途はないとの意見を表示されました、改正案に規定する參議院の制度に附隨して、一院制と兩院制との可否が論究せられ、參議院を設置するとせば、職能代表制を加味するのでなければ、徒らに衆議院と重複する立法機關を作ることになるのではないかとの質疑がありました、職能代表制に對する政府の見解は、國會に國民の聲の總合的に歸着する所を表はす爲には、職能代表制は適當でない、殊に我が國の現状では實際技術的に不可能な點があるし、隨て參議院に付ても國民公選の趣旨を堅持すると同時に、職能に熱意と經驗と知識とを有する者が國政に參畫出來るやうに其の構成を考へたいと云ふことでありました、本委員會に於きましては、參議院法の内容が明白でない以上、一層根本的に論議することは困難であるから、政府は其の大綱を示すべきであり、皇室典範に付ても亦同樣の要請がありました、之に對して政府は、先づ憲法の骨組に付て協贊を求め、其の機會に議會の意見を知り、尚ほ臨時法制調査會の手に依つて、重要附屬法令の立案に當る積りであるとの答辨でありました、其の際知り得た所に依れば、政府側の腹案は、皇室典範に付ては、皇位繼承、攝政等に關する規定を主なる内容とする簡素なものにしたい考へであり、又女帝及び天皇讓位の問題は考慮して居ないと云ふことであります、附加へて申すべきことは、衆議院と參議院の地位及び權能に差等あることは、改正案の條項に依つて明白でありますが、實際の運用に當つて兩者の聯絡を如何に取扱ふべきかは、追つて國會法及び參議院法に於て詳細に規定せらるべきであると云ふのが政府の答辨であります 「第五章内閣」に付て説明致します、内閣制に付ては、追つて制定せらるべき内閣法に依つて其の性格と運用とが明白にせられる譯でありますが、改正案の意圖する所は、從來専制的權力を握つて立法司法部をも睥睨して居つた政府の地位を著しく弱くするにあることは疑ひありませぬ、本委員會に於ては、内閣は合議制か多數決制か、又天皇の國務に對する助言と承認は、内閣總理大臣が行ふのか、各國務大臣が行ふのかとの點に付て質問がありました、之に對する政府の答辨は、内閣は第六十二條第二項に示すやうに聯帶して責任を負ふのであるから合議制である、内閣の運營に付ては、現行憲法に於ては各國務大臣が天皇を輔弼することになつて居るけれども、改正案は集團の考へを基礎として居るから、内閣を代表する總理大臣が、閣員全體の意思を明かにする文書に依つて助言し承認する方法を豫定して居ると言ふのであります、議院内閣制に於ける内閣と議會との關係を如何に適正に調整するかとの質疑に對し、政府は議院内閣制の下に於ても、行政部は國内の一政黨の奉仕者ではなくして、國家全體の奉仕者であることは、三權分立の精神から考へて當然である、併し之を放任すると、動もすれば官僚獨善の弊に陷るから、議會に依つて嚴密に批判せらるべきであり、議員も亦全體の奉仕者として働くのであるから、斯くして立法府と行政府とは調和し得るのであるとの見解を明かにせられました、内閣總理大臣は勿論國會が指名して選ぶのであるから、自由に閣僚を選任し得る筈であつて、國會の承認を必要としないではないかとの質問が提起せられました、政府の所見に依れば、内閣總理大臣の權限を餘りに強くすることは、指導者原理を招來する虞がある、一國の政治は一人の識見のみに信頼し得るものではないから、集團體である内閣に力を集中するのが適當であると言ふのであります 「第六章司法」より「第十一章補則」に至る六章二十八箇條の規定に付ては、一括して之を報告致します、改正案が最高裁判所の權限として違憲立法の審査權を與へたこと、是は第七十七條であります、竝に最高裁判所の裁判官は、任命後國民投票に依つて審査を受けることと定めたことは、現行憲法に比べて著しく進歩性を示したものであります、此の制度は裁判所をして民衆に依る政治の最後の保障たらしめると同時に、民衆も亦最高裁判所の態度に對して十分の批判と監視とを行ふことを明かにしたものであります、最高裁判所が違憲立法の審査權を持つ點に付ては、委員會に於ても多少反對意見の表示があつたことは前述の通りでありますが、國民投票に依つて裁判官の任命を審査する點に付ても、其の運用に困難の少くない事實から、同樣に反對の意見が提示せられました、又改正案は何故に司法權が天皇の名に於て行はれないかとの質疑に對して、政府の答辨は次の如くでありました、裁判は正しきが故に正しいのであつて、天皇の御名を藉りることに依つて正しいのではない、又天皇は司法權の行使に付て實質に關與されないのに、恰も關與されるかの如き形を裝はしめて行ふことは正當ではない、裁判に誤判があつた時は却て累を天皇に及ぼすことになると云ふのが政府の見解であります 委員會に於て深き關心を持たれた問題は、第八十四條の規定、即ち皇室財産の收益及び處分に關する案件であります、御承知の如く政府原案に於ては、「世襲財産以外の皇室の財産は、すべて國に屬する。」と規定して居りますが、洵に畏多いことながら、上御一人に於て財産の保持に御關心を御持ちにならうとは國民の誰もが推察致しては居りませぬ(拍手)併しながら世襲財産として皇室の御持ちになる或る程度の財産から收益を生ずる場合に、悉く國庫に歸屬させることは如何なる理由に依るか、特に皇室に限つて所有權に制限を加へ、其の收益の權利を認めないと言ふには、何等か重大な理由がなければならぬ、其の根拠如何との質疑がありました、之に對して政府は皇室財産に纏つはる疑惑を除く爲めであるが、此の點に付ては國民諸君の批判を聽きたいとの答辨でありました、改正案第九十四條に付ては、其の必要性に付て各方面より論議せられましたが、憲法が國の最高法規たることは認容するけれども、原案の如く改正憲法に基いて制定せられた法律及び條約に對しても、之を最高法規として他の法令に優先する地位を與へることは不合理ではないかとの意見が提示せられました、之に對する政府の答辨は稍稍明確を缺いた如く思はれますが、此の點は修正案の説明に讓ることとしまして、ここには之を省略致します 憲法改正案に付き、委員會は前後二十囘に亙る會議に於て、當初は總括的に、次に逐條的に、微に入り細に亙つて質疑應答を重ねた結果、原案の精神と、之に對する各委員の見解も略略明瞭となりましたので、七月二十三日に質疑を打切り小委員會を設けました、以上の報告は質疑應答の重要なる諸點に觸れて、其の概要を申述べたに過ぎませぬ、詳細は之を速記録に付て御承知あらんことを希望致します(拍手) 次に憲法改正案委員會に於て原案に修正を加へた諸點に付き報告致します、但し此の報告に於ては、主要なる修正點に付て報告するに止めまして、單に字句を改めた理由に付ては之を速記録に讓ることと致します、政府原案は取急いで立案せられた結果、修辭的には生硬な語句、難解な文字も少くありませぬ、殊に改正案の前文に付て其の感が深いのであります、委員會に於ては之を徹底的に改竄する意向が有力でありましたが、内外の情勢は速かに本案の成立を必要とする事情に鑑み、遺憾ながら是が實現を斷念して、字句の修正は最小限度に止めることと致しました、此の點特に御諒承を願ふ次第であります、改正案前文の冒頭に「國民の總意が至高なものであることを宣言し」とあつたのを修正して「ここに主權が國民に存することを宣言し」と改めた點に付て、簡單に其の趣意を申述べます、何れの國の憲法に於ても、主權が何處に在るかを明かにすることが、舊き慣例として採用せられて居ることは、諸君御承知の通りであります、現行憲法も亦第四條に、「天皇は國の元首にして統治權を總攬し」と規定して居ります、改正案に於ては其の前文と法第一條とに之を規定したのでありますが、改正案の根本思想は主權が國民に在るとするのでありますから、隨て「國民の至高の總意」なる文字を用ひて之を表現しようと企てたのであります、併しながら國民主權と云ふ思想は、舊來の憲法解釋として、我が國に於ては必ずしも廣く普及せられて居ない點に顧みまして、原案の字句が動もすれば誤解を招く虞ありと考へ、本委員會に於ては、寧ろ率直簡明に「主權が國民に存す」と改めることを適當と考へたのであります(拍手)既に前文に於て斯樣な字句を用ひる以上、法第一條に於ても此の趣旨を明白にすることは當然の歸結であるとの意見に從ひ、原案第一條に新たに「主權の存する」と云ふ六字を挿入して「主權の存する日本國民の總意に基く。」と改め、萬一の誤解を避ける用意を致したのであります 法第六條の二項として、「天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。」との條文を挿入した趣意は、三權分立の精神に照して、司法權が立法、行政と同等の重要性を持ち、隨て其の長たるものが内閣總理大臣と略略同樣の地位を占めることを明かにせんとしたものであります、第九條に於て第一項の冒頭に「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、」と加へ、其の第二項の冒頭の「前項の目的を達するため、」なる文字を挿入したのは、戰爭抛棄、軍備撤退を決意するに至つた動機が、専ら人類の和協、世界平和の念願に出發する趣旨を明かにせんとしたのであります(拍手)第九條の規定する精神は、人類進歩の過程に於て明かに一新時期を畫するものでありまして、我々が之を中外に宣言するに當り、日本國民が他の列強に先駈けて、正義と秩序を基調とする平和の世界を創造する熱意あることを的確に表明せんとする趣旨であります(拍手) 第三章に於ては其の冒頭に、「日本國民たる要件は、法律でこれを定める。」との一箇條を挿入致しました、又第三十條として、「國民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」との一箇條を設けました、此の類の條項は、改正案の他の條文と對照して既に明白なことであるから、之を明記する必要はないとの論もありましたけれども、本委員は斯かる規定が國の基本的法制として最小限度に必要なりと認めまして、新たに挿入した次第であります 次に、從來我が國に於ては公務員の不法行爲に依つて損害を受けた場合、又罪なくして處罰を受ける、即ち冤罪の場合に賠償又は補償を受ける權利が十分保護せられて居なかつたことは既に御承知の通りであります、是等の權利を憲法に明記して、國家又は公共團體の賠償責任を明かにする爲め、特に二つの場合を區別して第十七條と第四十條とに新たな規定を設けることと致しました、更に個人の生活權を認めた修正案第二十五條に付ては、多少の説明を必要とするかと考へます、改正案第二十五條に於ては、總て國民は勤勞の權利を持つと規定して、勤勞意欲ある民衆には勤勞の機會を與へられることを示唆致して居ります、此の勤勞權は民衆に一定の生活水準を保障し、延いて國民の文化生活の水準を高めようとするものであり、國は此の點に付き社會保障制度、社會福祉に付て十分の努力をなすべき旨を第二十三條に規定して居ります、併しながら第二十三條の字句には、多少意を盡さない憾みがある如く考へられまするので、委員會に於ては、一層明白に個人の生活權を認める趣旨を以て、原案第二十三條に、「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」との條項を挿入し、原案を第二項として、「國は、すべての生活部面について、社會福祉、社會保障及び公衆衞生の向上及び増進に努めなければならない。」と修正した次第であります、斯樣に生活權の保障を規定する以上、他方に勞働の義務も規定することが至當であるとの意見に從つて、原案第二十五條に修正を加へて、「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」としたのであります(拍手) 「第四章國會」の章に於ては、第五十一條に修正を加へて、國會が議員の選擧に關する爭訟を裁判する權限を削除致しました、其の理由は、一つには運用技術上の困難、他方多數黨横暴等の弊害を防止せんとしたものであります、又原案第五十六條、第六十三條に定める參議院の審議期間をそれぞれ短縮して、第五十六條の「四十日」を「三十日」と改め、第六十三條の「二十日」を「十日」と修正しました、是は共に國務の渋滯を防がんとする趣意に外ならぬのであります、改正案第六十三條に定める内閣總理大臣の指名は、國會議員の中から國會の議決を以てすることに修正致しました、又第六十四條の國務大臣の任命に付ては國會の承認を必要としないこととし、但し内閣閣僚の過半數は國會議員であることを必要とする趣意を以て、それぞれ必要の修正を加へました、新憲法が國會を以て政治の中枢とし、明白に議院内閣制を採用する以上、此の點は自明の理でありまして、委員會は之を條文に規定することは著しき改善なりと考へた次第であります(拍手) 第八十四條の皇室財産の規定に於ては、「世襲財産以外の皇室の財産は、すべて國に屬する。皇室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし、」と規定して居ります、併しながら本委員會の多數の意見は、我が國の法律觀念に於ては、公共の福祉に反しない限り所有權を無償にて侵害しないことが原則であるから、皇室の世襲財産から生ずる收益は總て國庫の收入とすることは、論理的に説明が困難である、仍て前記の制限的字句を削除することに多數意見は纏まらんとして居つたのでありますが、之には豫想外の困難あることを發見致しました、然るに同條に規定する世襲財産と云ふ制度は今日尚ほ確立せられて居ないのであるから、寧ろ斯かる制度に言及することを避けて、現存の皇室財産は一應國庫に歸屬せしめて、天皇及び皇族の個人財産は第八十四條に謂ふ皇室財産に含まないものとの原則に從ひ、將來天皇又は皇族の所有に歸することあるべき財産は、之を個人財産として維持されることを明確にして置くことが、法理的にも正しく且つ常識にも適ふものと考へて、改めて第八十四條を次の如く修正することに決定したのであります、「すべて皇室財産は、國に屬する。すべて皇室の費用は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。」、此の規定に依り、恐らく世襲財産は創設せられないことと想像せられますが、同時に天皇及び皇族の個人財産は、第八十四條に謂ふ皇室財産に包含せられないことも明かにされたのであります(拍手)此の規定に從つて國に屬すべき皇室財産は如何なる種類のものであるかを考へまするに、天皇が國の象徴として公的に御使用になる財産は國に屬することとなり、然らざるものは個人的財産に編入せられるのであります、併しながら公的財産として國に屬するものと雖も、天皇が象徴たる御地位に不可分のものは舊來通り御使用になることは當然でありまして、政府の見解も此の點に付て委員會の意見と全然一致して居ります(拍手) 第九十四條の規定に付ては、先に報告致しました通りの理由に依つて、憲法が國の最高法規たることは認めるけれども、之に附隨する法律までも最高法規とする必要なきものとして、原文の中より「これに基いて制定された法律及び條約」なる文字を削除したのであります、然るに諸外國との條約は、今後誠實に之を履行して、日本國民が國際生活に於ける法則と約束とを遵守する精神は、憲法の何れかの箇所に表示することが適當であるとの意向を以て、之を第九十四條の二項に新しく挿入することと致しました、即ち「日本國が締結した條約及び確立された國際法規は、これを誠實に遵守することを必要とする。」との一項をここに挿入する理由であります 最後に華族制度に關する第九十七條の削除に付て一言致します、時代の進運に伴つて改正憲法は明確に個人の自由平等を宣言し、其の第十三條には、「華族その他の貴族の制度は、これを認めない。」としたことは、階級平等の宣言を徹底させる爲に行はれた大變革でありますが、是と同時に世の所謂部落問題の如き舊來の陋習に付ては、將來一層官民の自肅を要望する意味をも包含するものと解釋すべきでありませう、然るに政府原案は社會の急激なる變化を避ける爲め、第九十七條を以て現に生存する華族其の他の貴族に限り一代限りの地位を認める旨を規定したのでありますが、本委員會に於ては斯かる過渡的の措置は、必ずしも重大な弊害を伴はないにしても、民主化を促進する現在の要請と相容れないものとして、本條を削除することに決定したのであります 以上は小委員會に現はれた多數意見の概要でありますが、八月二十一日を以て憲法委員會に其の報告を行ひ、委員會は直ちに討論に入り、委員長報告に對して社會黨より別個の修正案が提出せられました、其の主なる點を擧げて、詳細は修正案提出者の説明に讓ることと致します、第一點は改正案の第一條として、「國權は、國民から發する。」との條項を挿入せんとするものであり、其の二は改正案第七條の天皇の國事に關する行爲を更に縮小して内閣の權限に移さんとするものであります、第三章に於ては「才能あつて資力なき青年の高等教育は、國費でする。」との一項を設けんとする修正であり、更に第二十七條の財産權の内容を詳細に規定せんことを提議するものでありました、斯くて委員會は鈴木義男君の提案になる社會黨の修正案に付て採決の結果少數を以て右修正案は否決せられ、次いで委員長報告に付て討論の末、自由、進歩、社會、協同民主黨、新政會及び無所屬倶樂部を代表して、高橋泰雄君、吉田安君、棚橋小虎君、林平馬君、大島多藏君、柏原義則君よりそれぞれ贊成意見の陳述があり、共産黨を代表して野坂參三君より反對意見を述べられ、採決の結果、共産黨を除く大多數を以て委員長報告の通り可決せられました(拍手)次いで附帶決議案を採決に付し、是れ亦共産黨を除く大多數を以て可決せられたのであります(拍手)附帶決議の案文は諸君の御手許に配付せられて居りますから、時間の關係上朗讀と説明とは省略致します 尚ほ一言附加へて申上げることは、此の憲法の實施を前にして、廣く國民に憲法の精神を周知せしめ、將來の我が國の方向に誤りなきを期する爲に、官民共に力を協せて最善の努力をなす必要があるとの點でありまして、附帶決議は抽象的に言及したに過ぎませぬけれども、此の際新聞、「ラジオ」、講演等に依り、全國津々浦々に宣伝、教育の方策を講ずべしとの意見は、本委員會一致の要望でありました(拍手) 終りに臨み、本委員會に現はれた雰圍氣に付て一言致します、顧みれば、明治初年五箇條の御誓文と共に近代民主主義の黎明が訪れ、明治二十二年に初めて大日本帝國憲法が制定發布せられ、爾來ここに五十有七年の歳月が流れました、明治憲法は其の用語に於て簡潔雄渾、其の内容は博大要約、一大特色を持つ憲法でありました、當時の起草者は、此の憲法の基盤の上に我が國民が一日も速かに世界の文明開化を攝取し、富國強兵の目的を達成せんことを企圖したのでありまして、憲法の運用宜しきを得るならば、我が國憲政の發達は漸を逐うて見るべきものがあつたに相違ないと信ぜられるのであります(拍手)然るに世界の大勢に通ぜない一部の徒輩は此の憲法の特色を逆用し、遂に我等の愛する祖國と同胞とを今日の境涯に導いたと云ふことは洵に痛恨の極みであります(拍手)而も此の秋に方つて我々は永久に明治憲法と袂を分たんとして居りますことは、過去を偲び現在を思うて、洵に感慨に堪へないものがあります(拍手)併しながら我等は此の際過去の過ちを切實に反省し、廢墟と窮乏の中から起ち上つて、民主主義的、文化的日本を建設すべき使命を果さなければなりませぬ、其の基盤として時代の進運に副ふ新しき憲法を制定することこそ、本議會に課せられた最大の任務であると信じます(拍手)本委員會は其の責任の重大なるに鑑み、過去五十日間に亙つて誠實熱心に改正案の審議を盡し、本日之を本會議に報告し得る運びとなりました 申すまでもなく改正憲法が持つ意味は、國内的にも對外的にも極めて重大であります、歴史未曾有の敗戰に依り帝都の大半が燒け野原と化して、數萬の寡婦と孤兒の涙が乾く暇なき今日、如何にして希望の光を彼等に與へることが出來るか、又「アメリカ」合衆國が終戰直後の對日政策に於て發表した如く、日本に平和的、民主的、責任政府を樹立することはどうして達成することが出來るか、總て是等は民主的憲法の制定と、新憲法の裏付けとなるべき國民文化の向上とに依つてのみ成し遂げ得ることは、何人も疑ひを容れない點であります(拍手) 改正憲法の最大の特色は、大膽率直に戰爭の放棄を宣言したことであります、是こそ數千萬の人命を犧牲とした大戰爭を體驗して、萬人の齋しく翹望する所であり、世界平和への大道であります、我々は此の理想の旗を掲げて全世界に呼掛けんとするものであります(拍手)さうして是こそ日本が再生する唯一の機會であつて、斯かる機會を日本國民に與へられたることに對し、私は天地神明に感謝せんと欲するものであります(拍手)併しながら憲法が如何に完全な内容と雄渾の文字を以て書綴られたとしても、所詮それは文字たるに過ぎませぬ、我々國民が憲法の目指す方向を理解して、其の精神を體得するにあらずんば、日本の再生は成し遂げることは出來ないと思ひます(拍手)斯かる信念の下に、本委員會は其の附帶決議の中に次の如く述べて居ります、即ち「新しき世界の進運に適應する如く民衆の思想、感情を涵養し、前記の理想を達成するためには、國を擧げて絶大の努力をなさなければならぬ。吾等は政府が國民の總意を體し熱情と精力とを傾倒して、祖國再建と獨立完成のために邁進せんことを希望するものである。」此の決議の趣旨は、獨り責任を政府にのみ歸せんとするものではありませぬ、新憲法の制定を契機として、我々國民一人殘らず、新しき理想の下に、新しき希望を懷いて勇往邁進するの決意を表明したものであります(拍手)私は恐らく諸君も亦此の決意に御共鳴下さることを固く信じて疑ひませぬ(拍手)以上を以て委員長の報告と致します(拍手)○議長(山崎猛君) 質疑の通告があります、之を許します──尾崎行雄君  〔尾崎行雄君登壇〕○尾崎行雄君 洵に良い憲法の修正になりましたに付ては、私は滿腔の贊成を表するのでございます(拍手)此の細目に付ては無論文章の上に於て、或は字句の上に於て、改善すべき點は幾らもございませうが、左樣な細義を論ずべき今日ではない故に、私は一切意見を述べずして、全部贊意を表します、唯斯くの如き良い憲法を行ふに當つては、餘程良い心掛けがなければ實行出來ないと思ひまするが、如何なる心掛けがあるかを委員長初め、主として滿場の諸君に伺ひたいと云ふのが、私の質問の趣意であります(拍手) 之に比すれば遥か劣つて居つた所の是までの憲法すら、我が國民は十分に實行し得ない結果が、千古未曾有の國辱となつて今日現はれて居ります、あの憲法が正當に行はれて居るならば、決して今日の如き大窟辱には遭遇せぬ筈であります、而して今囘制定せられんとする所の憲法は、彼に比すれば非常に優れたものである、優れれば優れる程、知識、道徳の尚ほ低い我が國人民に於ては、實行は困難であると云ふことを覺悟して置かなければなりませぬ(拍手)良い憲法さへ作れば國が良くなるなどと云ふ輕率な考へを以て之に御贊成になりますると、非常な間違ひである、憲法で國が救はれるならば、世界に滅亡する國はありませぬ、良い憲法を作ることは洵に容易なことである、併し之を行ふことは非常に難かしい(拍手)此の點を諸君に尋ねると同時に、私は顧みて己れにも尋ねなければならぬ程に心配を致して居ります 元來民主主義と云ふものは、申すまでもなく官尊民卑の弊習が骨髓に滲み込んで居る所の我が國人民に於ては、餘程行ひにくい事柄であります、良いことを言ふことは誰にでも出來まするけれども、之を身に行ふことは非常に困難である、元來民主主義となる以上は、國家の政治の主體が議會になければならぬ、立法府が國家の政治の主體となつて、行政府は其の補助機關とも言ふべき位置に立つのであります(拍手)今度の憲法に依つても、總理大臣は國會の指名に依つて其の人を定める、即ち總理大臣の選定までも既に立法府に移るのであります故に、是までは主客顛倒、從來は行政府が國の政治の主體であつた、立法府は其の補助機關、極めて柔弱微力なる補助機關の如く扱はれて、又全國人民も大體それに滿足して居つたやうでありまするが(拍手)今日此の憲法が制定せらるる以上は、それではいけませぬ、立法府が國家政治の主體であつて、行政府は其の補助機關とならなければならぬ、之を實行するに當つては先づ議場から改造しなければならぬ、此の前にも申しました通り、此の議場の造り方は何でありますか(拍手)大臣席及び政府委員席の如きは一般高い所に設けて居る、是は議院を全く無視した、補助機關として造つた構造である、斯くの如き不都合なる議場に於て、本當の議事が運べる筈はないのであります(拍手)故に第一に、眞に民主主義を行はうと云ふ御考へがあるならば、先づ第一に此の議場を改造をせねばならぬ。(「ひやひや」)大臣席或は政府委員席などは直ちに廢止して、是は議員席としなければならぬ筈のものである、議場では、議員外には何人も發言權を與ふべき筈のものではないのでありまするが、我が國に於ては議員の發言權は極度に制限せられて居る、之に反して大臣及び政府委員の如き、將來補助機關となるべきものは、何時でも發言することを許して居る(拍手)斯くの如く主客轉倒、己れの位置すらも知らない議會の構造に於て、眞の民主主義を行はうなどと云ふことは、非常な心得違ひでありまするから(拍手)第一に議場を改造し、議長の選擧をもう少し本當にしなければならぬと云ふことは、此の前申述べて置きましたが、今日は先づ私は此の程度で稍稍滿足──十分な滿足ではないが、承認は致して居る、併しながらこんな選擧の仕方では本當の民主主義は行へませぬ、隨て書記官長を初めとして、現に議會に於ける役員は、皆議長若しくは議長の指名する所の立法府の機關が選任する、豫算は立法府が編成し、萬事此處で決めて、行政府の御厄介にはならないやうにしなければならぬ、それと同時に凡そ議員たるものは、行政府の役人に任命せられ、若しくは内閣等から委員などに任命せられて、喜んでそれを受けると云ふ如き奴隸根性を以てしては、眞に民主主義は行はれませぬ(拍手)併し是は二千年近く養ひ來つた所の官尊民卑の弊習でありますから、之を改めることは容易に出來ないと思ひます、恐らく二代、三代以上掛からなければ、此の弊習を改めることは出來ないと思ひまするから、私は先般憲法委員會の進行中に、芦田委員長宛に、此の根本を改正するのには、どうしても教育の力に依るより外に仕方がない、それでなければ如何に憲法を良くしても、それが良ければ良い程實行は出來ないと云ふ意味の書面を發して、御參考に願つて居つたのである、是は如何なる御考慮になつたか、まだ承つて居りませぬが、其の根本に觸れなければ、憲法は有名無實なものになつて終るかと云ふ心配を持つて居るのであります、どうぞ此の點を十分に御考へを願ひたい 今日述べたいことは、細目を述べて居りますと大層長くなりますから、殊に諸君は色々の述ぶべき立派な御意見を持つて居ると思ひますから、私はそれは一切述べずして、書面に要點だけはざつと書き記してありまするから、之を議長の手許に差出して、私の演説の材料として此處に言ふべきものを略したと云ふやうな意味で、出來るならば官報速記録にでも載せて戴くことにして、私は極めて簡單に意見の點だけを述べて御免を蒙ります(拍手) 一番大切なのが、第一に主客顛倒して居る此の状態を改めることであります、行政府が補助機關であつて、立法府が將來は政治の主體とならなければならぬ、それに相應しい所の選擧法、議院法、議事規則、議場の構造、總てのことを皆改めなければなりませぬ、今は皆客體若しくはお客振りのやうな積りで、邪魔者と言はぬばかりの方法、精神を以て、總ての法律、命令及び議場の構造まで出來て居るのであります、隨て此の議會に於て議事の進行の方法を拝見致しますると、是は私共が責任者で最も罪が重いと思ひまするが、是まで五十有餘年間行つて居つた惡俗陋法、惡い風俗習慣が其の儘今日繼承せられて、現在も尚ほ行はれて居るやうであります(拍手)驚くべきことであります、なぜ我々が此のやうな不都合な、世界の文明國の何れの國にも見ることの出來ないやうな議事手續を運んだかと言ふと、是には深い理由があつて、當時は日本には民主主義などと云ふ思想は少しもない、迂濶に之を言へば直ちに牢に入れられると云ふ時代であつて、藩閥全盛の際で、苟くも總理大臣などと云ふ行政府の首腦は、門閥か、薩長の藩閥か、但しは軍閥か、或は官僚閥の外は──是まで五十囘近く内閣の首腦は迭りましたが、普通の全國日本人の側から出た總理大臣と云ふものは、犬養毅君一人より外はないと思ひます(拍手)それは諸君の御手許に渡つて居る所の日記帳の如きものに歴代内閣の表がありますから、どうぞ詳しく御調べを願ひたい、大正年間は政黨政治の世の中などと申しましたけれども、其の時ですらも政黨の側から立つて内閣の首席を占めた者は、大隅侯にした所が元は藩閥の人である、況やそれに續いて出た所の加藤高明、原敬、若槻禮次郎、或は其の他の色々な有象無象悉く官僚出身の者である(笑聲、拍手)軍閥官僚以外に總理大臣となつた者は、犬養毅君一人より外ないのであります(拍手)其の事實は御分りにならなければならぬ、將來内閣大臣は無論全部衆議院議員でなければ、實際政治は出來ないやうな世の中になるべき筈でありまするが、此の根本の心掛けを改めなければ、内閣を倒しても作ることは出來ますまいと思ひます、現に此の間も幣原内閣を倒したらしい、併しながら後が出來ないで一箇月ばかりぐづ付いて居つたことは實に愚劣の至りであります(拍手)なぜ斯う云ふ醜態を諸君は演ずるのであります(拍手)色々研究して見ましたが、結局御同樣の抱負が足らないと云ふことに歸着するのであります(拍手)前の明治の維新は王政維新と言つた、今度の維新は民政維新であります(拍手)前の王政維新に比べれば二倍、三倍若しくは十倍も重大なる民政の維新である、此の維新をする以上は、從來の如き心掛けでは相成りませぬ、まだ文化未開の王政維新の際ですらも、幕府を倒すと直ぐ列藩から無名の青少年が出て、内閣の實權を取つて、參議と云ふ名義で立派に維新の大業を成就しました、明治の初めに參議となつて現在の日本を作ることに盡力した所の人は、皆現在の諸君と比べれば智識經驗最も缺けて居る所の若い青年であります、まあ西郷、大久保などは稍稍年が行つて居りましたけれども、それにしても四十、五十代の者はない、大抵二十代、三十代、彼等の知識見識なんと云ふものは、諸君に比べて劣りますとも決して優つて居つた氣遣ひはないのであります、それですら王政維新と云ふ比較的小さい事變に遭遇して起つて、起てば此の日本をどうか斯うか經營することが出來たのは、見識が高いのではない、知識が多いのではない、抱負があつたからであります(拍手)國家を以て自ら任じて居つたからである、御同樣は彼等に比べれば、知識も經驗も餘程富んで居りますけれども、如何せん、官尊民卑の弊風に縛られて居つて、抱負がない、國家を背負つて起つだけの抱負がないから、詰らぬことで喧嘩をして、内閣でも倒せば非常な手柄であるかの如く心得て居る(拍手)あんなものを倒すのは手柄でも何でもありませぬ、全國の力を以て倒す、藩閥や何かを、我々ですらもあの亂暴な世の中に於て遂に倒したのである、全國は決して我々の後押しをしない、全國は却て我々に反對したにも拘らず、武力を以て頼みとする所の藩閥を倒し得た、是は力があつた爲めではない、抱負があつた、其の見識を持つて居つたからである、今日選擧權も大いに擴張せられ、全國一體となつて後楯にならせればなるべき民主政治の初めに於きまして、内閣を倒すとか、國家を經營するなどと云ふことは、維新當時の後に元勳と言はれた人々に比べれば、我々の方が餘程有利な位置に立つて居るのであるが、諸君は如何せん抱負がない、それだけの自信がない、維新の聯中は盲ら滅法界に自ら任じて居つたものだから、兎に角相當な知識經驗も得られた、今日は知識や何かを得ることは其の當時に比べれば極めて樂である、故に諸君に國家を背負つて起つと云ふ抱負さへあるならば、今日の窮境を切拔けることは何でもないことと思ひますが、其の抱負が殘念ながらあるかないか疑はしいから、之を先づ承つて見たいのであります 是から後はどうしても政黨政治にならなければなりませぬけれども、政黨に付ても、今日の如きやり方では眞の政黨は出來ないのであります(拍手)私は一生涯殆ど政黨の爲に盡力した、初めは大隈侯を戴き、後には伊藤公を首領となして、先づ是等が維新の元勳中知識的には一番勝れた人でありましたから、我々はそれを戴きまして、政黨を作りに掛りましたけれども、どうしても出來ませぬ、徒黨は直ぐ出來ます、博徒が作るが如き、唯自分達の一身の利害榮辱を考へて離合集散する所の徒黨は何時でも出來る(拍手)國家の政治を擔任して行くべき政黨は、不幸にして大隈侯にも出來ない、伊藤公にも出來ない、故に私は是等の兩先輩をも見限つて、迚も駄目である、私自身は尚ほ駄目であるから、もう將來政黨に關係は致さぬと云ふことに覺悟して、此の民主主義を行ひ得べき人間の養成、教育に全力を盡すと云ふことに、今日は致して居るのであります、此のことが諸君に御贊成出來るや否やを承りたいのであります(拍手)現在のものが本當の政黨であると御考へになると大變な間違ひであります、政黨の眞似ではあるけれども、あれ等は徒黨であります、又其の黨員と云ふものは、黨議に縛られれば正邪曲直を問はず、良心を棄てて黨議に服從します(拍手)現に議長選擧で此のことが證明せられて、幾度も恥を掻いて居るけれども、まだ御分りにならぬやうであります(拍手)今日以後もまだ斯くの如き失態は、此の魂を改めざる以上は幾らも出て來ます、又出る筈である、政黨が大層意地張つて、多數黨であるから内閣を取らなければならぬなどと、恰も抱負があるが如く言つて居りまするけれども、其の人々が如何なる人間を首領とするかと言ふと、自分達の仲間からは總裁を仰ぎ得ずして、官僚の古手を搜し出して、自由黨も進歩黨も之を首領として戴かなければならぬと云ふ程の恥しい状態であります、之を眞の政黨などと御考へになると根本的に違ひます、徒黨であるからあんなことが出來るのである、本當の政黨であるならば、斯う云ふ働きは恥しくて出來ない筈と私は思ふのであります(拍手)隨て現在首領となつて居る所の幣原君とか或は吉田君──吉田君も私は交りは浅いから能くは知らぬけれども、外から見れば官僚中の餘程優れた、類を見ない人であります(拍手)故に之を戴くと云ふことに付ては異議はないけれども、さりとて自由黨に之に越した人間がないかと言へば、さうでもない、幾らもあるだらうと思ひます、皆是は官尊民卑の惡習から出ることである、幣原君に付ては私は餘程長く知つて居ります、次官時代から色々交渉したこともあつて、其の人物には感心して居ります、併し是も官僚の古手であると云ふに過ぎない、政黨社會には之と對抗すべき者がまだ幾らもあるべき筈でありまするけれども、如何せん抱負がない、まるで使用人の如く考へて、大臣にでも任命せられれば、欣喜雀躍して御祝ひすると云ふやうな聯中が首領株になつて居るのでありまするから(拍手)それでは迚も民主主義は行へないかと思ひます、是等の點をどうぞ御考へを願ひたい それから今日一番大切なのは、現在の日本は死生の關頭に立つて居るのであります、一歩誤れば倒れてしまふ、之を生かさうとするのは非常に困難である、是は思想的に困難であるのみならず、現在は肉體的にも困難で、衣食住に非常に窮して居るのであります、此の場合に我々が衣食住が充足して、堂々藩閥をも倒して、世界の五大強國とか六大強國などと言はれる得意の時代にやつたあのやり方は非常手段であります、官尊民卑の弊を一掃するが爲に已むを得ず施した惡手段である、あれは決して良いやり方ではありませぬ、質問などと唱へて難題を政府に持掛けたり、用もないのに高い聲を出して喧嘩を仕掛けたりしたと云ふのは、あの威張つて居る聯中を天下公衆の前で叩き付けて、こんな人間であるぞと云ふことを知らす爲に我々はやつたので、あれは良い趣向ではありませぬ、併しそれをやつて行かなければ、どうしても日本全體が大臣などを見れば、我々より十段も高い人間の如く考へて、我々の言ふことを聽かないから、此處で大勢の前で叩き付けて、此の通りの人間であると云ふことを知らす爲にやつた惡手段である、今日はそんなことをする必要は少しもないのでありますから、議事は議事らしく、喧嘩と議事とは違ふから、おとなしく眞に熟談協議、殊に國家が今日の如く難境に陷つて居る時には、議論等に違つた所があつても、延ばすことが出來るものは出來るだけ延ばして、目下の急務だけをお互ひに助け合つて國を救ふと云ふことを執らなければならぬ、即ち小異どころではない、大異をも捨てて大同に合して、救國的働きをせなければならぬのでありますが、我々が三、四十年間喧嘩腰でやつた手をどうも諸君は學んで居るやうに見えます、近來の議事を見ると、我々の子供の時にやつた點に大層似て居ります、熟練したからと言つて、あんなことはどうしても改めなければならぬ、之を學ぶと云ふに至つては、實に諸君の爲に私は殘念千萬に堪へないのであります、どうぞ斯う云ふやり方は根本的に改めて、議場は議員だけの集會場所として、行政官などはこちらへ呼出し、説明をさせようとする時には全院委員會を開いて説明させる、本會議には議員にあらざる大臣や其の他の人間をば一切入れない、物を言はせないで、御同樣だけが熟議懇談すると云ふことにして國家の急務を片付けなければならぬと思ひます、是は總ての法規を改正する實行手段として、議院法、選擧法其の他の法規の改正は、憲法改正以上に、目下の弊を救ふに必要かと思ひます(拍手)どうか是等に付ては十分な御盡力を願つて、深く議會の體面を改めることに願ひたいのである、是までのやうな唯喧嘩腰のやうなやり方は非常にいけない、それも平生日本が隆々進運に向つて、世界の六大強國などと言はれる運命にある時には、時々は間違つた喧嘩をしても宣しいが、今日の如き生きるか死ぬか分らぬ、肉體的にも精神的にも生死不明と云ふ状態に於て、どうもせないでも宜い喧嘩をする、出さぬでも宜い高い聲を出す、甚だしきに至つては毆り合ひまですると云ふやうな醜態は、絶對に禁ぜなければならぬかと思ひます(拍手) 以上洵に老娑心であるかと思ひますけれども、是等の衷情を申述べて、諸君の御考へを承りたいと云ふのが私の質問であります(拍手)でありますから、どうぞ之には明白な御答辨を願ひたい、尚ほ申述べたいことはありまするけれども、それは書面に少し書いてありまするから、之を議長の手許に差出しまして、諸君の御迷惑を考へて私は是で降壇を致します(拍手)○議長(山崎猛君) 委員長からは別に御答辨がないとのことであります──是にて質疑は終了致しました    ━━━━━━━━━━━━━○山口喜久一郎君 此の際午後一時三十分まで休憩せられんことを望みます○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て休憩致します   午後零時三十九分休憩     ――――◇―――――   午後一時五十六分開議○議長(山崎猛君) 休憩前に引續き會議を開きます、本案の委員長の報告は修正であります、尚ほ本案に對しては原彪之助君外三名より成規に依り修正案が提出されてありますから、其の趣旨辨明は第二讀會に於て之を許すことと致します、本案の第二讀會を開くに御異議ありませぬか  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て本案の第二讀會を開くに決しました    ━━━━━━━━━━━━━○山口喜久一郎君 直ちに本案の第二讀會を開かれんことを望みます○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに本案の第二讀會を開き、議案全部を議題と致します、先づ最初に原彪之助君外三名提出の修正案の審議に入ることと致します、修正案の趣旨辨明を許します──原彪之助君     ――――◇――――― 帝國憲法改正案     第二讀會    ━━━━━━━━━━━━━ 帝國憲法改正案に對する修正案     (原彪之助君外三名提出)       (小字及──は修正)  帝國憲法改正案の一部を次のやうに修正する。     日本國憲法   日本國民は、國會における正當に選擧された代表者を通じて、我ら自身と子孫のために、諸國民との間に平和的協力を成立させ、日本國全土にわたつて自由の福祉を確保し、政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が發生しないやうにすることを決意し、ここに國民の總意が至高なものであることを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであり、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ、その利益は國民がこれを受けるものであつて、これは人類普遍の原理であり、この憲法は、この原理に基くものである。我らは、この憲法に反する一切の法令と詔勅を廢止する。   日本國民は、常に平和を念願し、人間相互の關係を支配する高遠な理想を深く自覺するものであつて、我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した。我らは、平和を維持し、專制と隸從と壓迫と偏狹○を地上から永遠に拂拭しようと努めてゐる國際社會に伍して、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。我らは、すべての國の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から解放され、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。   我らは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならぬのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであると信ずる。この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。   日本國民は、國家の名譽に懸け、全力をあげてこの高遠な主義と目的を達成することを誓ふ。   第一章 天皇 第一條 天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、日本國民の至高の總意に基く。 第二條を第三條とし、以下順次繰り下げる。 第七條 天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國務を行ふ。  一 憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。  二 國會を召集すること。  三 衆議院を解散すること。  四 國會議員の總選擧の施行を公示すること。  五 國務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。  六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を認證すること。  七 榮典を授與すること。  八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認證すること。  九 外國の大使及び公使を接受すること。  十 儀式を行ふこと。 第二章を第三章とし、以下順次繰り下げる。 第二十四條 すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。   すべて國民は、その保護する兒童に初等教育を受けさせる義務を負ふ。初等教育は、これを無償とする。 第二十七條 財産權は、これを侵してはならない。   財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。   私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。 第六十九條 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。  一 法律を誠實に執行し、國務を總理すること。  二 外交關係を處理すること。  三 條約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、國會の承認を經ることを必要とする。  四 法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理すること。  五 豫算を作成して國會に提出すること。  六 この憲法及び法律の規定を實施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。  七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を決定すること。 第九十二條 この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。   憲法改正について前項の承認を經たときは、天皇は、國民の名で、この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれを公布する。    ━━━━━━━━━━━━━  〔原彪之助君登壇〕○原彪之助君 私は日本社會黨を代表致しまして、只今上程致されて居りまする憲法改正案に對する我が黨の修正意見を申述べたいと存ずるものでございます、其の前に是と關聯致しまして、私は民主主義國家日本、文化國家日本として新しく出發しようとする我が國が、如何なる心構へに於て政治に當らなければならないかと云ふ所見をも併せて申述べて見たいと思ふものでございます 我が黨が憲法改正の問題に付て如何なる態度を以て臨んで來たかと云ふことは、既に我が黨が立黨以前、其の準備會時代から屡屡天下に公表した所であり、又去る六月二十五日の本會議に憲法改正案が上程致されました時に、我が黨の同志鈴木義男君、森戸辰男君に依つて質問が行はれましたが、此の質疑の中に、改正案に對して我が黨が如何なる點を修正し、如何なる條項を追加せんとするものであるかと云ふ其の大要は、既に申述べられて居る所でございますが、其の趣旨に則つて、本案が委員會に付託されまするや、我が黨の委員は全力を擧げて此の趣旨貫徹の爲に努力致したのでございます、其の結果我が黨の主張が大體に於て其の八割までは貫徹された、我が黨の主張が如何なる點にあつたかと言へば、主として主權の問題、それから殊に經濟、社會、文化等の部面に於ける國民の基本的なる要求をはつきりと憲法の中に確保せしめんとする點にあつたのでございます、さうして其の趣旨は大體に於て委員會に於て採用されたのでございまするが、此の時我が黨の委員の執つた態度が、黨派を超越し、國家的見地に立ち、而も勤勞大衆の利益を代表した所の公正なる態度であつたと云ふことは、當時の報道機關が之を詳かにして居る所であり、殊に讀賣新聞の如きは社説に於てさへ之を取上げて居つたのであります(笑聲)併し殘念ながら其の二、三の點に於て委員會に於ける他會派の贊成を得ることが出來なかつたのでございます、そこで特別委員會に於きまして我が黨は修正案を提出致しまして、其の趣旨貫徹に努力致したのでございまするが、不幸にして否決し去られました、其の我が黨の修正案に對する反對意見が如何なるものであつたかと云ふことに付きましては、特別委員會が本案を採決致しました當夜、即ち八月二十一日の「ラジオ」放送に於ける放送記者の議會報告對談會に於て、其の状態を報告致して居りましたが、此のことが我が黨の修正案が如何に正當なものであり、公正なものであるかと云ふことを説明することになるのでございます、他會派の反對理由には大して強い反對の根拠はなかつた、謂はば積極的に之に贊成することも出來ないが、さりとて強硬に反對する理由を擧げて言ふ程のこともないと云ふことであつたと報じて居るのであります、果して我が黨の修正し、追加しようとする所の問題が、爾く積極的に反對すべき理由もない、と言つて有力なる根拠を擧げて反對するだけの勇氣もなかつたと云ふやうな取扱ひ方をされて宜いものであるかどうか、是は私共の修正が單なる字句の問題ではないのでございます、事苟くも一國の主權に關係する所の問題を明文化しようとすることであり、謂はば憲法問題の根本に觸れる重要なる點であるのでございます、更に又一國の文運を支配し、日本をして將來眞に文化國家たらしめるか否かの鍵を握つて居る教育の問題に關する點であるのでございます、更に又財産權に相當程度の制限を加へて、之に公共性を持たせようとする所の問題であり、更に進んで重要な點は、經濟的な罪惡の最も尤なるものである所の搾取と云ふ事實を、拔本塞源的に拜除しようとする主張であるのでございます(拍手)是等が果してどうでも宜い問題であるでございませうか、其の何れを取つて見ましても、眞に日本を文化國家として再建しようとし、民主主義を徹底しようとする者に取りましては、決して輕々に付すべき問題では絶對にないと私は思ふのでございます(拍手)是等の主張は要するに政治的竝に經濟的な民主主義を、所謂社會民主主義の思想を、信念を以て我が新しき憲法の中に導入しようとするものであるのでございますから、共産黨の如くに共産主義の建前からする所の反對は勿論あり得ると思ひます、又「ブルジョア」の利害を代表する所の資本主義の立場を取る者も、亦之に反對することも豫期されるのでございます、併し我々は反對論を下劣な弥次を以て妨害したり、或は又之に耳を掩ふ程の偏狹なる者ではございませぬ、我々は飽くまでも正論には襟を正し、頭を下げて、之を聽くだけの雅量と餘裕とを持つて居るものであるのでございます、然るにも拘らず先程諸君は一笑に付して居られますけれども、議會状況を報告する所の放送對談會に於て、其の記者に斯うした印象を與へたと云ふこと、即ち印象に殘る程の反對論がなかつたと云ふことは、政治的な良心と信念の缺如するものであるか、若しくは黨派的な私心が働いたものではないかと疑はざるを得ないのでございます(拍手)我が黨は既に立黨以前に、先程も申しました如く、憲法改正問題に對する所の態度を表明致しまして、天皇の大權事項の大幅縮減を主張して參つたものでございますが、此の發表せられました政府原案を見ますると、尚ほ我々の主張に及ばざること遠いものがあるが故に、更に憲法第七條に於ける天皇の大權事項中、削減すべき箇條を修正しようとしたものであるのでございまするが、之に對して委員會に於ては社會黨の此の主張は、既に縮小されて居る所の天皇の權限に對して追討ちを掛けるものであると云つた意味の反對論が行はれたと云ふことを、放送記者の一人は、何か反對理由はなかつたかと云ふことの中から探し出して居るのであります、併し之を追討ちだと感ずると云ふことは、十分に考へて戴かなくてはならぬのであります、例へば自由黨の諸君の──法制局が編纂致しました「新聞等に表はれた各政黨その他の憲法改正案」の中に收録されて居りまする「日本自由黨の憲法改正要綱、昭和二十一年一月二十一日發表」でございます、是は「一、天皇」の條項に、「天皇は統治權の總攬者なり」と云ふ一項目が入れてございます、又「日本進歩黨の憲法改正問題、昭和二十一年二月十四日發表」、此の中には「彼の天皇を國家の機關なりとする説の如き、又天皇制は存置するが統治權は其の一部を天皇に殘し他は人民に歸せしめんとし、或は天皇制を廢して天皇を以て單に儀禮的象徴とするに非ざれば民主主義を貫き得ずと考ふるが如きは、何れも我黨の採らざる所である。」と謳つてある箇條があるのでございます、成程斯うした考へ方、即ち天皇を統治權の總攬者とし、國權の總てを擧げて天皇に歸一させなくてはならないと云ふ考へ方を執つて居つた人々に取りましては、發表せられました政府草案が意外に主權在國民の思想を以て書かれて居るが爲に聊か驚かれたかも知れませぬ、そこに更に我が黨の大權縮小と云ふ修正意見が出て見れば、成程是は追討ちであると云ふ感じを受けられたかも知れませぬけれども、決して我々はさうした態度を持つて居るものではございませぬ、即ち我が黨は立黨以來憲法問題に付ては、眞に民主主義憲法の制定は、現行憲法に於ける大權事項の大幅縮減を必要とすると云ふことは、今日まで終始變らざる主張であるのでございます(拍手)唯其の政府草案が我々の欲する所に達しないが爲に、更に之を縮減しようとするに過ぎないのであつて、唯單に之を追討ちとして反對するが如きは、反對論の頗る薄弱であるものを、天皇の名に於て反對せんとするが如き感じを與へるものであつて、私は洵に遺憾とするものでございます(拍手) 一體日本の新しい政治の第一歩を踏出します門出に等しい此の第九十議會に於きまして、此の議會を構成する我々議員は、而も此の歴史的な畫期的な憲法制定と云ふ、嚴肅で而も光輝ある榮譽を擔つて居りまする我々と致しましては、又新しい心構へを以て、超黨派的な澄み切つた心境を以て、國家的見地に立ち、否、世界的な見識を以て公正なる判斷をしなくてはならないと思ふのでございます(拍手)私共は光輝ある野黨として立つては居りまするが、併し從來の如き誤れる野黨觀念に於て行動して居るものではございませぬ、先程も申しました如く、最も公正なる態度を以て總ての審議に當らうとして居るものでございます、私は願はくは他會派の諸君も、殊に自由黨、進歩黨の諸君は健全なる與黨としての行動を執つて戴きたいと思ふのでございます 議會政治と云ふものは數の政治だと言はれますけれども、數其のものに價値を認めて居るのではないのでございます、本當の道理を發見し、過ちを正す爲の、現在に於て許されて居る最高可能の方法として、多數決の方法を執つて居るに過ぎないのでございまして、飽くまで是は手段でございます、手段の爲に目的が見誤られては私はならないと考へます、正しい目的は飽くまでも間違ひのない方法に依らなくてはならない、若し誤れる方法を以て議せられまするならば、それは過ちを重ねて居るに等しいと私は考へるのでございます、私共は決して惡い先例を追ふのではない、善い模範を作ると云ふ心構へを以て審議に當りたいと考へて居ります(拍手)私は斯うした心構へを皆樣に御願ひ致して置きまして、以下我が黨の修正意見に對する所の公正なる御批判を御願ひしたいと思ひます、既に我が黨の鈴木君から、學術的又法理論的な立場から質問の際に、其の大意は盡して居ると思ひますので、私は主として政治的、道徳的な見地から申述べて見たいと存じます 先づ第一に修正すべき點は主權の問題であるのでございます、此の主權に關しましては、我が黨は新しく第一章を設け、之を「國權」として、「第一條 國權は、國民から發する。」と云ふ一條を追加したいと希望するものでございます、此の國權と云ふ言葉を此處に使ひましたことは、既に本議場に於て鈴木君が説明を致して居りますから重ねて申しませぬ、現代の公法學的通説として、斯うした場所には、主權と云ふ言葉よりも、國權と云ふ言葉の方がより適當であると云ふ意味に於て、國權と云ふ言葉を使ひ、隨て原案第二章の戰爭抛棄に關する所に於きましても、主權と云ふ言葉を國權と云ふ言葉に修正を致して居るのでございます、是は唯單に章の編成を變へると云ふだけの簡單な問題ではないのでございまして、實質的な、政治的な效果を持つて居る問題でございます、世界各國民の注意は今日此の處に集められて居ります、日本が果して民主主義的憲法を作るかどうかと云ふことは、此の我々の憲法審議の態度如何に依つて明かにされるのでございます、日本人が民主主義的な憲法を作り得ると云ふ明確なる囘答を與へることは、端的に、簡單明瞭に此の條章を附加へること以外に私はないと信ずるものでございます(拍手)一體憲法法典を讀む者は、特殊の研究を致します者は別として、法典の第一章第一條と讀み始めるのが普通でございます、此の法典を第一章第一條と讀み始めた時に、其の最初の條文に於て、明確に主權在國民の趣旨を端的に謳つてあれば、明かに此の憲法は民主主義的精神に依つて作られて居る憲法であると云ふことが、他を見ずして既に明確になり得ると思ふのでございます(拍手)主權在民の思想を曖昧ならしむべからずとなすことは、最早一致した意見でございます、政府原案の前文及び第一條の修正せられました所以も、私はそこにあると思ふのでございます、然らば何故に更に一歩を進めて、主權在國民の思想を明確に條文化すると云ふことに反對する理由があるのでございませうか(拍手)私は其の理由を解釋するに苦しむのでございます、誤解や紛淆を避ける爲めの用意をして、なぜ惡いでありませうか、前文を讀む者は稀である、さうして原案第一章は天皇の地位、身分を規定して居るものであるのでございまして、其の第一條の天皇の身分を規定してある所に、先程芦田委員長の説明せられました修正案文に依れば、「主權の存する日本國民の總意に基く。」と、「主權の存する」と云ふ言葉が挿入されてあることに依つて、主權が國民にあることを明確にしようとして居るものであるのでございますが、併し是は謂はば借物であります、他の條章を借りて主權の所在を明確にしようとするものでありまして、謂はば形容詞的な用ひ方に依つて大切な主權の問題を片付けようとして居るものであつて、決して積極的な表明であるとは申されませぬ(拍手)殊に第二章の戰爭抛棄の原案が頗る消極的であると云ふ意味を以て、委員會は、更に戰爭抛棄の高遠なる理想を積極的に表明すべしと云ふ意見で修正されて居るのでございます、第二章の表現が消極的であるが故に、之を積極的に修正すべしと云ふ意見が採用せられたと致しまするならば、より重大である國家の性格を規定する主權の問題をもつと積極的に、もつと明確に條文の上に表はすと云ふことに對する反對理由を私は發見するに苦しむものでございます(拍手)此の儘では、恰も主權在國民の思想が、丁度門柱に表札を掛けないで、内玄關の中に掛けて居るやうなものであつて、此の憲法を讀んで、主權在民、民主主義的な思想を發見しようとする際に、頗る苦しむ者が後世出て來るであらうと私は思ふ(拍手)何故に我々は堂々と、墨痕鮮かに門柱に主權在國民の思想を掲げないのでございませうか(拍手)斯う云ふ意味に於て、私は第一に、第一章第一條主權の點に付ての修正を要求するものでございます、是は私は諸君に本當に今度の憲法が民主的な憲法になつたかどうかを、頗る簡單明瞭に表示し得る所の方法であると信ずるからでございます、試みに現行憲法の第一條を御覽になれば、「大日本帝國は萬世一系の天皇之を統治す」と規定されて居る、政府原案の第一章は、「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、日本國民の至高の總意に基く。」となつて居る、之を修正したものは、先程讀みました如く、此の「日本國民」に「主權の存する」と云ふ形容詞が僅かに附加へられて居るのでございます、我が黨は此の開巻第一に、「國權は、國民から發する。」と明確に規定したい(拍手)此の三つのものを竝べた時に、果して主權在國民、所謂民主主義的な思想に成る憲法であるかどうかを判斷することは、三歳の童兒と雖も私は容易になし得るであらうと思ふ、其の意味に於てどうしても私は斯うした修正を主張したいのであります 次に第二點と致しまして、修正を要求したい箇條は、政府原案第七條の天皇の所謂大權事項を規定して居る箇條でございますが、是は十項目に分れて居る、其の第一項は「憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。」となつて居るのを、「政令」以下の文句を削りまして、「憲法改正、法律、政令を認證すること。」としたいのであります、此の原案第七條に規定して居ります條文を通讀致しまするならば、此の第一項以外は悉く天皇は認證と云ふ行爲をすることになつて居るのでございますが、唯第一項の憲法改正、法律、政令に關する限り公布と云ふことが規定されて居るのでございまするが、此の公布と言ふ行爲は、謂はば法律の效力發生の要件であり、施行と離すことの出來ない一つの要件でございます、斯うした實質的の内容を持つて居る所の條項を、此の點に關してのみ規定すると云ふことは、私は天皇が國家の象徴であると云ふ性質から見ましても穩當でないと思ふのみならず、本來責任と行爲とは相表裏するものであり、行爲者に對して責任は追究せられることを原則とするものでございます、然るに天皇は政治的には責任を問はれることはない地位にあるのであります、此の政治上無責任なる天皇の行爲の中に、斯うした實質的效果を伴ふ所の行爲が規定されて居ると云ふことは、一つの矛盾であるのみならず、天皇の地位に相應しくないものと私は考へるが故に、此の點は他の條項と同樣「認證」と修正致したいのでございます 更に是は今日までの日本の政治運營の事實に徴して見ましても、天皇が現行憲法に於て規定せられて居る多くの大權事項を、自らの意思に依つて行使せられたことは殆どないのでございます、其の時の内閣が政治的の判斷に依つて行つて居る、殊に此の新憲法草案に規定せられて居る國會の召集、衆議院の解散、國會議員の總選擧の如きは、専らさうした見地から運營されて來て居ると云ふ事實に鑑みましても、私は將來日本の立憲政治運營の上に於ては、天皇を斯うした點から遠ざけ、さうして是は内閣の責任に於て行はるべきことを明確に條文に規定する必要があると考へるのでございます、殊に吉田總理の提案理由の説明の中には、斯う云ふ説明がされて居ります、「現行憲法に於ける如く廣汎なる大權事項を規定するに於ては、却て政府其の他の權力者が時に誤つた理念に侵されて、天皇の御名に隱れ、民意を歪曲し、國政を專斷し、動もすれば無暴なる政策を施行せんとして、遂に國家國民を破滅に導き、累の及ぶ所豫斷を許さざる事態に立至る虞あることを免れませぬ、改正案に於きましては、天皇は内閣の助言と承認に依り一定の國務のみを行はせらるることと致して居るのでありまして、此の形態は正に民主主義國政の常道を踏むものであると存ずるのであります」と云ふ説明がなされて居ります、既に大權事項の多いことが國政を紊す本になるかの危險を感じて居られるものと推察するのでございます、大權事項が少ければ少い程さうした危險から遠ざかり得る、今假に現行の憲法に於て大權事項として規定されて居りますものは、第六條以下第十六條に及び、更に第三十一條、第三十四條、第四十二條、第四十三條、第七十條、第七十三條の十七項目擧げられて居ります、此の中で軍の解體、戰爭の抛棄と云ふことに依つて自然に消滅する條項が五項目ございます、殘るものは十二項目であるが、此の新憲法草案に於ては十項目が掲げられて居ります、僅かに二項目の縮減のみであることを思ひます時に、私はどうしても此の第七條に於ける天皇の大權事項中、殊に政治的な意味を多分に持つて居る所の二、三、四の條項は削除して、之を内閣の權限に移行することを主張したいものでございます、斯うしてこそ私は本當に天皇の國家の象徴であり、國民統合の象徴としての地位身分に相應しく、却て國民の親愛の情を増す所以であると存ずるものでございます、此の第七條の修正に關聯致しまして、「内閣」の章に於て第六十九條の内閣の權限が追加され、更に第九十二條の第二項が改められて行くことは、是は申すまでもないと存じます 次に第三點として私が主張致したいことは教育の問題でございます、教育は先程も申述べました如く、文化國家建設の爲には最も根本的な問題であつて、是が正しく行はれるかどうかと云ふことが、將來日本が文化國家として再建されるかどうかを決定する問題であるのでございます、先般來朝致しました米國の教育使節團の意見書の中の、教育と行政とが分離されなくてはならないと云ふことを指摘して居ります中に、良き教育家が最も能く其の本領を發揮し得るのは自由の環境に於てである、而して此の自由の環境を用意してやるのが教育行政の任務であると云つて居るのでございますが、洵に是は至言であると思ひます、更に私は之に附加へて、良き教育の成果を齋しく國民に享受せしむるものは政治の責務であると云ふことを申上げたいのでございます(拍手)原案に於ては教育の機會均等と云ふことが規定されて居ります、洵に結構なことでございます、更に原案の義務教育の範圍を初等科から中等科にまで擴大して、所謂普通教育の義務教育化が規定されましたことは、より一層結構なことであると思ふのでございまするが、更に私は専門、大學の高等教育をも、國民に等しく受け得る所の機會を國家の負擔に於て與へるべきであると主張したいのであります(拍手)或は教育は初等、中等の所謂普通教育を義務教育として廣く與へれば宜いのであつて、それ以上の問題にまで及ぼす必要はないと御考へになる方があるかも存じませぬ、勿論父兄の義務として其の子弟に初等及び中等の教育を廣く總てに與へると云ふ建前であることは、是は言ふまでもございませぬ、又私が只今申しました高等教育を、是と同等に總ての國民に與へると云ふのでは決してないのでございます、我々は惠まれたる特定の者に對して眞の良き教育が行はれる限りに於ては、高等教育を受ける所の機會を等しく與へなければならないと思ふのでありますが、今まで此の惠まれた人として教育を受け得た所の者は、所謂財産を持つて居る所の「ブルジョア」の子弟に限られて居つたのでありますが、私の言ふ惠まれた特定の人と云ふのは、物に惠まれた者ではなくして、才能に惠まれた者、即ち才能を持つて居るが、資力なきが故に高等教育を受け得ないで、折角の才能を其の儘に埋もらして行くと云ふ氣の毒な人達を救ひ上げ、拾ひ上げて、眞の立派な高等教育を受け得る機會を國家の負擔に於て與へる必要があると主張したいのでございます(拍手)斯うしたことが出來てこそ、本當に教育の機會均等の趣旨が徹底するものであると存じます、其の意味で政府原案の第二十四條に第三項を加へまして、「才能あつて資力なき青年の高等教育は、國費でする。」と云ふ一項目を追加致したいと存じます 次に原案第二十七條に對しての修正を主張したいのでございます、第二十七條は所謂財産權の不可侵性を規定して居る條項でございます、即ち「財産權は、これを侵してはならない。」と第一項に規定致して居りますが、我々は之を「經濟生活の秩序は、公共の福祉を増進することを目的とする。」と云ふ風に改めたいと思ふのでございます、一體財産の不可侵性と云ふものは、資本主義社會に於ける「ブルジョア」の大憲章であるのでございまするが、資本主義が漸次行詰つて、必然的に社會主義への方向を示しつつある實際的な要請と致しまして、財産の公共性若しくは社會性と云ふものは、之を認めざるを得ない状態に立至つて居るのでございます(拍手)現に現代法學に於ける所有權の解釋の如きも、曾ての絶對的解釋から、漸次相對的な解釋へ移りつつあることが、其の通説であると云ふ風に考へて見ましても、現在及び將來に亙つての我々の經濟生活に於ては、財産權と云ふものは絶對不可侵のものであると云ふことを憲法に於て規定するが如きは、最早時代錯誤であることを私は主張したいのであります(拍手)物が人を支配してはならない、物の爲に人の生活が制限されてはならないのであつて、我々の生活は飽くまでも主人公でなくてはならない、人間が主であり、物は之に從屬すべきものであります、隨て我々の生活の爲に適當なる制限を財産權に加へると云ふことは當然の主張であると私は考へます(拍手)斯うした意味に於て第二十七條の修正を主張したいと存じます、尚ほ第二十七條は、第二項を「この目的に反しない限りにおいて財産權と經濟的自由とは保障される。」、先づ原則として公共の福祉に依つて制限されることを規定して、其の次に此の目的に反しない限りに於ける財産權と經濟的自由とを認めることを規定し、更に財産の徴用の場合は、事情に依つては國家は國會の議決に依つて補償を給しない、即ち無償で之を用ひ得ることを規定する爲に最後の條章に但書を附けまして、「但し、已むを得ない場合には、國會の議決によつて補償を給しないで用ひることもできる。」と云ふ一項目を附加へることを主張したいのであります 最後に私は前文に還りまして、憲法前文の中に斯うした字句がございます、「專制と隸從と壓迫と偏狹を地上から永遠に拂拭しようと努めてゐる國際社會に伍して、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。」と云ふ字句がございますが、此の「專制と隸從と壓迫と偏狹」の次に、「搾取と窮乏」と云ふ字句をどうしても挿入したいと云ふ修正意見を提出するものであります(拍手)之に付ては或は同じ前文の中に、其の後で「すべての國の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から解放され、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。」と云ふ文句があるから、敢て此處に搾取と窮乏と云ふ字句を挿入する必要はないではないかと云ふ反對意見があると思ふのでございますが、是は明かに原因と結果とを誤つて居るものと思ふのであります、恐怖觀念の最も大きいものは、貧乏から來る所の生活不安であると私は思ひます(拍手)昔から、四百四病の病より貧程辛いものはない、貧乏が一番怖いと云ふことを申して居りまするが、其の貧乏は勤勞大衆の勞働が無償で搾取されると云ふ事實から起きて來て居ると云ふことを我々は銘記しなくてはならないのであります(拍手)是が所謂資本主義社會に於ける一つの特色であつて、即ち物富めども人富まざる矛盾を最も惡質の──先程申した所謂物の爲に人間が駆使せられて居ると云ふ現象を示して居るものであるのでございます、此の搾取の事實が勤勞大衆に絶えざる恐怖觀念を與へて居ることを思ひまする時に、恐怖と缺乏から解放される所の權利を確認されただけでは不十分であるのでございます、更に斯うした恐怖と缺乏とを生み出す所の根源、即ちさうした結果を生み出す所の原因としての搾取と云ふ事實を、永遠に地上から拂拭すると云ふことが、保障されなくてはならないと思ひます(拍手)是れなくしては我々は決して滿足し得ない、此の搾取と云ふ事實が直接除かれることに依つて、私は此の新憲法の條章に於て國民の生存權又勞働權が認められて、其の改正が本當に生きて來ると思ふのでございます、單なる勞働權だけが認められたのでは、働けば働く程搾取される事實が追加されると云ふことにしかならないのであつて、我々は勞働の成果を其の儘收め得る、所謂勞働全收權が確認されなくては安心して働けないのでございます(拍手)勞働權の確認と共に、私は更に勞働全收權の確認を要求する意味に於て、前文の「專制と隸從と壓迫と偏狹」の次に、「搾取と窮乏」と云ふ字句を挿入して戴くことを敢て要求するものでございます、近世の我々は、古代や中世に於て見るが如き奴隸を解放し得たことを以て誇りと感じて來たものでございますが、豈に圖らんや現代に於ては、我々は賃銀奴隸と云ふ新しき奴隸を持つて居る、而も此の賃銀奴隸は地上に充滿して居る、此の新しき奴隸を生み出す所のものは何であるか、言ふまでもなく、生産過程に於ける所の搾取と云ふ事實が、其の原因を成して居るものであるのでございます、斯うした點に於て、此の現代の恥づべき賃銀奴隸の階級を、現代人類の崇高なる義務として地上から解放したいと考へて居ります 以上が大體に於て我が黨の修正したいとする箇所であり、其の修正を敢て主張する理由であるのでございます、私は今奴隸解放と云ふことを申上げましたが、此のことに付て思ひ合すことは、「エブラハム・リンカーン」のことでございます、「リンカーン」は奴隸解放の爲に南北戰爭を敢てしたと言はれて居るのであります、其の南北戰爭の直接原因は、南部諸州が「ユニオン」から脱退するの權利を得んとして、所謂合衆國憲法の精神を蹂躪せんとしたことに對する憤りからであります、「リンカーン」は直接憲法の精神を擁護せんとして南北戰爭を起した、さうして此の憲法擁護と共に、彼が少年時代から深く心に刻んで居つた所の、人道の爲の奴隸解放と云ふ事實をも敢て同時に行はうとしたのでございます、私は日本に新しき民主主義的憲法を作らうとする此の秋此の際、同時に現在が持つた所の經濟的罪惡の根源である搾取を、地上から永遠に拂拭することを期して、民主主義的な憲法を更に人道的な憲法たらしめんとするものである、私は皆さんに、此の「リンカーン」の情熱と、「リンカーン」の信念と、「リンカーン」の勇氣とを以て、改めて我が黨の修正意見に對する公正なる御批判を下されて、滿場の御贊同を得んことを希望するものでございます(拍手)○議長(山崎猛君) 是より修正案の討論に入ります、順次發言を許します──北浦圭太郎君  〔北浦圭太郎君登壇〕○北浦圭太郎君 私は社會黨の前後二囘に亙りまする憲法修正案を繰返し繰返し讀んで見たのであります、所謂民主主義的合理主義の線に沿うて、草案若しくは成案を修正せんと非常な努力を拂つて居られることが看取出來るのであります、憲法の最大特色でありまする法律や行政行爲に依つて侵犯せられない所の個人の自由と權利、此の保障と共に、國會に對する立法原則、行政に對する施政の原則とを規定すべしと主張さるる點は極めて正當でございます、特に社會黨が義務の方面に着目せられたることは、共産黨と其の趣きを異に致しまして、私は私かに敬意を表して居ります(拍手) 元來憲法を權力の學問なりと言ふのも誤りであります、それと同時に自由の學問と考へることも誤りであります、學説は多岐に分れまするが、私は組織法論者の、所謂憲法とは國家の根本的組織の法なりと信ずるものであります、隨て權力と自由と、尚ほ社會黨主張の義務規定を忘却してはならないことは勿論であります、唯社會黨の諸君は、折角公正なる憲法の中核に着目致されましたが、其の修正態度が餘りに微に入り細を穿ち過ぎて、所謂憲法條項としては其の線が非常に細いのであります(拍手)一體憲法が困難なる學問であると云ふことは、諸君御承知の通り文字の上にはありませぬ、學説紛々として多岐に分るる點にあるのであります、隨て片假名を平假名に變へたり、漢文體を口語體に致したからと言うて、憲法學の困難は解決されて居りませぬ、社會黨の諸君は此の紛々たる多くの學説に囚はれて、而も其の主張たる民主主義的、合理的の方向に、換言致しますると近代國家の憲法を制定せんと急ぐの餘り、「ワイマール」憲法、最近流産になりましたあの「フランス」の憲法、此の十字路に立つて、聊か理論一貫を缺く嫌ひもあるのであります(拍手)總括して申しますると、線が細くて、憲法に規定するには餘りに不適當なる缺點、もう一つは學説に禍ひされて理論一貫を缺き、矛盾撞着の憾みがあるのであります(拍手)私は是より順次其の事實を指摘致しまして、社會黨諸君の憤りを買はうとは致しますが、併しながら私は社會黨諸君の此の憲法論は如何にも深い、思付きではない、即ち其の研究と學問に敬意を表して論を進める積りでありまするので、「テーブル」を叩いたり、拳骨を振廻したり、左樣な激怒を買はない積りでありまするから、御安心願ひたいのであります(拍手) 先づ第一點、社會黨の諸君は其の代表者をして只今此處で、主權在民、是は第一章第一條に書かなければならぬ、玄關に堂々と書け、それでなければ民主主義的國家と云ふことが容易に判斷出來ないのだ、而も斯くの如き主張は立黨以來の主張だと、斯う申して居られますが、ここに不思議なことがある、「ワイマール」憲法の第一章第一條に其の通り書いてある、即ち社會黨の諸君の、日本社會黨の生れる前から斯樣な條文の規定があるのであります(拍手)論者は政治的、道徳的にいとも詳細にここに説かれたのでありまするが、左樣なことは日本社會黨の生れる前から我々自由黨の者は能く承知致して居るのであります(拍手、「もう少し眞面目にやれ」と呼ぶ者あり)要するに我々が前文に書き、尚ほ第一條に書きましたことは──此の第一條に書くと云ふことは社會黨の御主張を容れたと云ふことを聞いて居りまするが、眞の民主主義は、「ワイマール」憲法を諸君が御写しになつたとは申しませぬが、能く似たことを書く、或は書かないではなくして、尾崎先生の言の如くに文字の位置ではなくして、我々國民の覺悟であります 第二點、社會黨の諸君は、委員會に於て、最高裁判所の長官を、内閣の任命より天皇の任命に移すことを主張致されました、理由は申すまでもなく司法權の獨立を維持する爲めであります、天皇を内閣よりも神聖なりと信ぜられたからであります、是は日本辨護士會數千名の念願でありまして、委員會も亦之を容れ、草案は修正されたのであります、勿論私は此の點に付きましては、社會黨の諸君の御主張に感謝の意を表して居るものであります、尚ほ社會黨の同僚諸君は、行政機關の最高峯たる内閣總理大臣の任命權が天皇にあると云ふことも、全員一致御贊成のやうであります、其の心の奧底を金森博士流に申して見ますると、天皇は國民の憧れの中心である、心と心との繋がりの中心であり、時に天皇の權限に消長はありましても、例へば水は流れても川は流れないと同樣、日本の國體に變りはないのであります、と斯う云ふ天皇尊崇の精神に依つて天皇の權限を擴大されたものと私は信じて居ります、然るに他面に於て天皇の權限を大幅に制限せんと主張されるが如きは、其の内心的效果意思と表示行爲との間に、大いなる矛盾撞着なしと云ふことは出來ないのであります(拍手)併しながら社會黨の修正案には襟を正して讀まなければならぬ事項もあります(拍手)就中、才能あつて資力なき者に對し國費を以て高等教育を施せ、是は私は心私かに贊成致して居ります、諸君、現代は大學の講堂で學問すべき青年が、あの省線の下で靴を磨いて居ります、白線、柏の帽子を冠るべき俊才が、深山の奧で木を伐つて樵夫をやつて居る、將來婦人代議士となつて時めく筈の才能ある少女が、闇の女となつて苦しんで居ります(拍手)洵に人生の悲慘事であります、人生の悲慘事是れより大なるはない、私は、國家は須く才能ある青年の爲めでなく、人物經濟の建前から、國家の爲に英才教育を斷行致さなければならぬと信じます、故に私は此の主張には贊成であります、併しながら之を憲法法典に規定すべきものであるか否かは自ら別箇の問題であります(拍手) 之に付て想ひ出されるのは、私の郷里にある奈良の五重の塔であります、面白い話がある、此の五重の塔は、諸君御承知の通り鎌倉時代の建築物であります、堂々たる外觀、あの雄壮なる五重の塔、正に美術的價値として、且つ歴史的遺物としては日本一であります、然るに或る時彼處に雷が落ちました、火が出た、政府の役人は驚いて之に避雷針を取付けた、基礎から絶頂に至るまで雲表に聳えるあの見事な五重の塔に、周圍に避雷針を取付けた、是が爲に日本一のあの五重の塔は其の外觀を非常に傷つけまして、今も五重の塔は聳えて居りますが、此の非美術的の避雷針を付けた政府の役人、千三百年の奈良の公園に、此の政府の役人の愚かなる思想、所謂醜態を暴露致して居るのであります、諸君、社會黨の此の育英教育は正に此の五重の塔に絡み付いて居る所の針金であります(拍手)苟くも國家百年の大計を基礎作るべき所の憲法大法典に、左樣な線の細い小さなことを規定すべきものではない(拍手) 次に社會黨の諸君はよく「フィクション」を拜斥されます、「フィクション」は擬制であります、憲法二、三の條文は「フィクション」であるが故に、永く國民の信頼を得る所以ではないと主張せられるのであります、尤も千萬であります、併しながら例へば天皇は斷じて國家意思を決定せらるべきものでないに拘らず、名のみの權限を與へるが如きは、明白なる「フィクション」であります、諸君、天皇の國務中、何處に一つとして「フィクション」ならざるものがあるか、内閣の助言と承認とを得るにあらざれば、何一つとして國務の執行は出來ないではないか、然らば此の「フィクション」を削除すべしと言ふのならば、共産黨の如く天皇の權限全部を削除するか、或は我々と共に實體權を附與すべく努力するか、其の二者一を擇ばなければ理論は一貫しないではありませぬか(拍手)是れ其の修正態度に矛盾あり、撞着ありと言ふ所以であります(「ひやひや」拍手) 次に其の條項に付て、議會の解散や召集は政治的含みがあるから天皇の權限中から削除する、斯樣に主張される、凡そ國民代表中の代表たる内閣總理大臣の任命と、諸君の削除せんとせらるる所の選擧期日の告示と、一體政治的含みはどちらが大きいか、將來社會黨の片山君が天皇に召されて總理大臣に任命せらるる場合、全日本の政治的含みの偉大さと、天皇の議會を解散せらるる場合の國民の政治的關心と、何れが大きいか、社會黨の諸君はどちらと御考へになりまするか、苟も行政機關の最高峰を任命する權は、政治的影響力が最大であると言はなければならぬ、然るに此の最大の政治的含みの天皇國務を諸君は双手を擧げて贊成する、而して選擧期日の公示と云ふやうな微細なことの削除を主張される、是れ矛盾撞着にあらずして何ぞ(拍手) 次に社會黨の諸君は口を開けば民主主義を叫ばれますが、民主主義は社會黨の専賣特許ではない(「ひやひや」)今や全日本人は凡ゆる角度から民主主義陣營に進行を續けなければならぬ、社會黨は草案第二十七條を指摘して、中華民國も笑ふ反民主主義的條文だと申されますが、米英兩國の憲法に於きましても、個人の財産權は立派に尊重されて居るのであります、英國の三大法典の如きは私有財産尊重の長き鬪爭史であると言つても宜いのだ、「アメリカ」合衆國の憲法も、印紙條例から端を發すと言ひ得るのであります、我々の眼から見まして、個人財産權を尊重することは、民主主義とは決して相背反するものではないのであります(「ひやひや」拍手)諸君は此の第二十七條に但書を挿入して、已むを得ない場合には國會の議決に依り補償を給しないで私有財産を用ふることと修正せんと致されます、非常の場合は是で宜いと思ひまするが、私は現行憲法の非常大權を改正憲法にも規定すべしと云ふ論者でありますから、此の點社會黨の諸君と意見は相一致するのであります、併しながら憲法上の非常大權は、國家非常の場合には憲法の條章悉くを中止せんとする雄大なる目的を持つて居りまするが、社會黨の修正案は單に個人の私有財産に關する補償問題でありまして、ここにも其の神經的なる大學「プロフエッサー」のやうな缺陷を暴露して居るのであります(拍手)以上の事實を總合考覈致して見ますると、社會黨の修正案は尊敬すべき學問的のものであり、且つ深さはありまするが、畢竟するに古き憲法學と今日の憲法學との挟撃に會つて、理論は一貫を缺き、矛盾撞着か、然らざれば五重の塔に絡み付く避雷針かと云ふ結論に到達するのであります(拍手) 諸君、御承知の通り今や世界は二つの世界に分れつつあります、各民族は其の何れに住まはんかと迷ひつつあります、「ドイツ」から「バルカン」半島に掛けて、「ダニューブ」の河は悠々と流れて居りまするが、水上の船舶は一つの世界に支配され、さうして河川航行權は他の一つの世界に抑へられて居ります、沿岸に住む七千五百萬の民族は、今や其の何れの世界に住まはんとするか迷うて居ります、隣の中華民國に於きましても、一つの世界と一つの世界とは今激鬪中であります、此の議場に於きましても、天皇制廢止と天皇制擁護の二つの世界は今盛んに討論中であります、社會黨の諸君は此の二つの世界の何れに住まはんとせらるるのであるか、其の憲法修正の態度を考へて見ますると、天皇の權限を大幅に制限せんとする態度は半ば共産黨に足を入れ、而して天皇の權限を擴大せんとする態度は、半ば我々の陣營に居られるのであります(「ひやひや」拍子)諸君、速かに態度を決定して國家の爲に盡瘁あらんことを、是が諸君の修正案に反對する我々の結論であります(拍手)○議長(山崎猛君) 菊地養之輔君  〔菊地養之輔君登壇〕○菊地養之輔君 私は日本社會黨を代表致しまして本修正案に贊成の意を表するものであります 其の理由は、我が黨の原君に依り條理整然委曲を盡して説明せられましたから、是れ以上附加する必要を認めないのであります、只今北浦君より其の反對論の開陳がありましたが、遺憾ながら我々の修正案に對する信念と熱情は微動だも致しませぬ、新しい文化國家として世界平和の先駆者たらんとする我が日本の憲法が、搾取と窮乏に目を掩うて顧みざるが如きは、矛盾も甚だしいではありませぬか(拍手)天皇制護持の美名の下に天皇の大權を強化し、再び軍閥、財閥、官僚「ファッショ」の温床を作つてはならないことは今日の日本國民の常識であります(拍手)又才能あつて資力なき青年に高等教育の希望を與ふることは、文化國家を志向する當然の義務であると信じます、況んや第二十七條の財産權に關する修正案の如きは、社會進化の必然性を信ずる我々が、無血革命への道を拓かんとする熱情に外ならぬのであります、之を要するに修正案に對する北浦君の反對は、故意に修正案の内容を曲解するか、或は十九世紀的感覺を以て依然たる封建憲法に滿足する以外の何ものでもありませぬ(拍手)我等の斷じて取らざる所であります、以上の理由に依りまして反對論に反對し、修正案を絶對に支持するものであります(拍手)○議長(山崎猛君) 青木泰助君  〔青木泰助君登壇〕○青木泰助君 私は日本進歩黨を代表致しまして、只今議題と相成つて居りまする日本社會黨の修正案に反對致すものであります、今其の理由を極めて簡單に表明致します 第一は、即ち社會黨修正案の一點は、改正草案の前文中に「搾取と窮乏」の五字を挿入せんとする御主張であります、御承知の通り改正案の前文には「我らは、平和を維持し、專制と隸從と壓迫と偏狹を地上から永遠に拂拭しようと努めてゐる國際社會に伍して、名譽ある地位を占めたいものと思ふ。」とあります、洵に其の通りであります、之に對して社會黨では更に「搾取と窮乏」の五字を追加挿入の御希望でありまして、其の理由は只今縷縷御説明の通りであります、而も此の點は特別委員會に於かれましても、社會黨の委員の方方から種々なる御意見がありましたが、御承知の如く改正草案前文の建前から致しましても、草案の全精神から申しましても、人間生活に搾取があつてはならぬことは當然であります(拍手)又人類をして窮乏に陷らしむるやうなことがあつては相成らぬことも言を俟たぬ所であります、是が民主憲法の大なる眼目の一であります、故に故らに之を明記する必要はないと信ずるものであります(拍手)此の點委員會を通じて大多數の意見が一致した所であります、即ち前文中に、自由の齎す惠澤と其の福利は國民が之を享受する、我等は全世界の國民が恐怖と缺乏から免れ、平和の裡に生存する權利を有することを確認するなどと明記する所であります、故に社會黨の御意見の點も亦十分それに現はれて居ることを信ずるのでありまして、敢て反對する次第であります 第二は、草案第一章第一條は、申すまでもなく日本國の象徴たる天皇の御地位を表はす至重至高の規定でありますことは、今更多言を要しないのであります、之に對し我が黨は勿論、社會黨を除き、他の黨派の委員の方々も、既に前文中に主權在民と明記致しました關係上、更に又「第一章、第一條國權は、國民から發する。」と云ふ規定を設くる必要はないと信じます、草案第一條に、天皇の御地位は日本國の象徴であり、日本國民統合の象徴であつて、主權の存する日本國民の總意に基くと、一刀兩斷に明文化したのであります、故に主權の所在は明々白々であります、然るに社會黨は前述の如く、新たに第一章第一條を設けて、「草案第一章天皇」、第一條天皇の御地位を規定したる嚴肅なる條章を、第二章第二條に順次繰下げて、且つ主權と國權の意義の使用上困難なる區別を敢て主張せられるのでありまするが、既に主權が國民に存する以上、國權が又國民から發することは敢て言を俟たない所であります、至高尊嚴なる天皇の條章を順次繰下げてまで修正せんとする本案には、同意し能はざる所であります(拍手) 第三、草案第七條第一號の「條約」を削除し、「公布」を「認證」と修正し、第二號乃至第四號の天皇の大權事項を悉く削除して、之を第六十九條の内閣の専管事項に移さんとされるのであります、諸君御承知の通り第七條の規定は、北浦君の申された通り悉く内閣の助言と承認を必要とするのであります、換言致しますれば、内閣の助言と承認なくしては、天皇は絶對に國事に關し何事もなし得ないのであります、洵に感慨無量の次第であります、然るに、社會黨が天皇の此の權限さへ大幅に縮小し去らんとするが如きことは、我が黨としては斷じて贊成し難い所以であります(拍手)況や社會黨の修正の通りとすれば、最高機關たる國會を召集すること、衆議院を解散すること、國會議員の總選擧の施行を公示することを内閣の事務に入れんとするもので、斯くの如きは不合理も甚だしいと信じます(拍手) 第四、第二十四條に至りましては、社會黨と共に委員會で殆ど全會一致を以て大修正をなして居りますので、只今御主張の、才能あつて資力なき者の教育の如きは、其の精神としては勿論同感でありまするが、さりとて之を憲法に明記することは如何でありませうか、是は文教の府に於て善處し得ることと信ずるのであります 第五、最後に第二十七條の修正であります、財産權の保障は草案の如く明記すべきであると信じます、修正案の如く一定の目的に反しない限りに於て保障されると云ふが如きは、財産權の保障に條件を附するものと解するが故に反對するものであります、又修正案中「公共の福祉を増進する」云々は、草案第二項の「財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と殆ど同じ意味と思はれまするから、草案の規定で足りるものと信じます、以上の理由に依りまして、社會黨の修正案には全面的、積極的に反對するものであります(拍手)○議長(山崎猛君) 是にて修正案に對する討論は終局致しました、採決致します、原彪之助君外三名提出の修正案に贊成の諸君の起立を求めます  〔贊成者起立〕○議長(山崎猛君) 起立少數、仍て原彪之助君外三名堤出の修正案は否決されました(拍手)是より委員長報告に對する討論に入ります、順次發言を許します──野坂參三君  〔野坂參三君登壇〕○野坂參三君 私は日本共産黨を代表しまして、今上程されました委員長報告修正案及び之と切離すことの出來ない全憲法草案に付て、私達の所見を述べ、此の修正案及び原案全體に對して反對の意見を述べたいと思ふのであります 當憲法改正草案が、現在行はれて居る憲法よりも進歩的である、此の事實を我々は率直に認めるものであります、併し此の草案の條文及び本議院に於ける諸大臣の答辨を愼重に吟味する時、此の草案は「ポツダム」宣言の要望するやうな、又我が國民の欲するやうな完全な民主主義を實現せず、寧ろ不徹底と曖昧と矛盾に滿ちて居ると我々は考へるのであります(「ノーノー」)なぜ其のやうなことが起つたのか、それは、幣原前内閣及び吉田現内閣が、心の底からの熱意を持つて、確信を持つて之を作つたのではないからであります、即ち世界の民主主義的輿論と、日本國内人民の民主主義的要望の壓力に抗し得ずして、實は厭や厭やながら作つたのである(「ノーノー」)而も吉田内閣は、此の草案を餘りに民主主義的にすることは、自己の意思に反すると共に、國内の保守反動勢力の反撃に遭ふのである、斯くして内外の民主的勢力と國内の保守勢力との間を政府がうろついた結果の苦悶の産物が、即ち此の憲法草案である、形だけは民主的であるが、内容は出來るだけ封建的遺制を遺さうとする苦心の跡が歴然と現はれて居る(「ノーノー」)共産黨は此の草案が出來るだけ民主主義的に修正されることを主張した、併し此の主張は悉く容れられなかつたのであります、そこで共産黨は此の草案の衆議院通過に反對せざるを得なくなつた、以下に其の理由を出來るだけ簡單に述べたいと思ひます 當草案は集會、結社、言論、出版等の自由を保障して居ります、併し是等の自由が紙の上に於て規定されただけでは、貧乏人に取つては意義がない、貧乏人が此の自由を行使するに必要な、例へば集會の「ホール」、出版に必要な印刷所、紙、是等が國家に依つて保障される時、初めて勤勞民は集會や出版の自由を獲得するのであります、それ故に共産黨は、憲法の上に於ける是等の自由に對する物質的保障を要求したのであります、更に共産黨は勤勞の權利と共に最低賃金、八時間勞働制、失業者が保護を受ける權利、勤勞婦人が特殊の保護を受ける權利、寡婦が保護を受ける權利、老年者や疾病者や勞働災害者が保護を受ける權利、勞働者や戰災者が住宅を保障される權利、農民に對する耕作權の確立、以上の如き規定を當憲法に設けることを主張したのであります、なぜならば是等の權利は働く者に取つては基本的なものであり、是は憲法に於て規定され、保障さるべきものであつて、議會内の多數決に依つて容易に變更し得るやうな一般法律の上で規定さるべきものでない、斯く我々は信ずるのであります、併し是等の要求は總て否決されたのであります、當草案には、財産權の保護の爲には非常に鄭重な規定があります、是は財産を持つて居る資本家や大地主の保護であることは言ふまでもない、是は財産のない貧乏人に取つては意味のない條項であります、此のやうに政府は金持の保護の爲には熱心であるが、貧乏人の生活權や勞働權を保障するやうな規定を設けることには反對して居る、我々は勤勞者の保護の規定を十分に含まないやうな憲法に贊成することは出來ない、是が我々の憲法に反對する第一の理由であります 更に共産黨は、當憲法草案が發表された時、主權在民を明記することを主張しました、幸ひにして我々の要求は容れられ、前文に是が明記されました、是は此の憲法草案の一歩前進である、併しそれでは此の草案は果して主權在國民の思想を一貫したものであるかどうか、遺憾ながら實質はさうでない、ここに問題がある、主權在民の羊頭を掲げて、非民主的な狗肉、言換れば、主權在君の狗肉を賣らんとするのが此の憲法であります、先程どなたか其處らで羊頭狗肉と言はれたが其の通りだと私は思ひます、是が當草案の本質である、是は一體どう云ふ意味であるかと言へば、第一に若し國民に主權があるならば、なぜ憲法の第一章に先づ國民に付ての規定を設けないのか、此の案草では第一章に國民が來るのではなくて、國民の中の一人に過ぎない天皇の規定が第一に來て居ります、金森國務大臣は之を説明して曰く、天皇は國民の統合の象徴だから……(「其の通り」と呼ぶ者あり)併しどうして象徴を前にして實體を後にしなければならないのか、ここに問題がある、天皇の地位は國民の意思に由來すると憲法に明記してある、是は國民が實體であつて、天皇は單なる象徴に過ぎない、斯う書いてある、それならば實體である所の國民が先づ第一に規定さるべきである、日の丸の旗は我が國の象徴である、では第一章第一條に日の丸の旗を規定することを政府は贊成されるでありませうか、勿論贊成されない、世界の何處の憲法にも、象徴である國旗を劈頭に掲げるものはない、それではなぜ政府は此のやうなことをするのであるか、それは即ち天皇を神聖化し、天皇に特權的地位を與へ、天皇を國民の上に君臨させようとする政府の意圖があるからであります 第二に、抑抑民主主義とは、國民が自らの手に依つて政治を行ふことであります、隨て國家機構の中に、國民の意思に依つて自由に選任し、或は罷免することの出來ない機關を設けることは、是は徹底した民主主義ではない(「ノーノー」)是は必要なことです、所が當草案には、國民の選任し罷免することの出來ない世襲の天皇を存置し、其の天皇の手に諸種の重要な特權を與へ居ります、即ち當草案第六條及び第七條に依つて、天皇の手には十一の色々の政治的な、或は儀式的な國事が與へられて居る、其の中には總理大臣の任命、國會の召集と解散、總選擧の執行の如き重要な權限が含まれて居ります、斯くの如き重要な權限を天皇に與へることは、民主主義の原則から言へば明かに逆行するものである 是等の天皇の權限は、國會の指名や或は内閣の承認と助言が必要でありますが、併し天皇が總理大臣の任命や國會の召集、解散や總選擧の執行を拒絶した時にはどうなるか、此の憲法には拒絶しないと云ふ保障は一つもありませぬ、ここに我が國の政治の將來に取つて重大な危險があると我々は考へるのであります、過去の日本の歴史にあつては、官僚や軍閥が天皇の特權を利用して凡ゆる虐政を行つて來た、此の憲法草案では其のやうなことが將來再び起らないと云ふ保障はないのであります、天皇の特權的地位が將來再び官僚や保守反動勢力の要塞とならないと云ふ保障はないのであります、我が共産黨が當憲法に贊成しない理由もここにあるのであります 第三に、政府は天皇に對する不敬罪が存在することを言明して居ります、而も政府の發表に依れば、此の不敬罪は現行の條文を其の儘存續する、斯う云ふ風に言つて居ります、是は天皇が國民の一人であり、而も國民は法律の下に平等であると云ふ原則を蹂躪するものである、單に象徴であると云ふ此の一事からして、何故に此のやうな異例の取扱がなされなければならないか、若し天皇が國民の一人であるならば、一般國民の地位に於けると同樣に、名譽毀損罪又は侮辱罪の法文を適用すればそれで宜いではないか、更に不敬罪は如何なる言動が不敬罪に問はれ、或は問はれないか、此の限界は専ら裁判官の見解に任されて居ります、今日まで不敬罪の罪名に依つて如何に多くの無辜の民が囚はれ、又如何に言論が壓迫されたか、是は世界周知の事實であります、現在世界の何處を見ても、共和國は固より、君主國に於てさへも、不敬罪なるものは實質的には存在して居ない、「イギリス」に於ても之に關する規定はありますが、實質的には死文化して居る、併し日本に於ては若し此の不敬罪が規定されるならば、過去に於けると同樣に、是が警察に依る人民彈壓の武器となることは極めて明かであります、此のことは現に行はれて居る東京地方裁判所に於ける一勞働者の「プラカード」事件を見てもはつきりして居る、不敬罪の如きは、言論の自由を要請する「ポツダム」宣言の明かな違反であると斷ずることが出來る、ここに我々が當草案に反對する理由があります 第四に、金森國務大臣は、天皇は憧れの中心である、斯う云ふ風に言はれた、或は心の繋がりであると言はれた、是は天皇を神祕化し、宗教化すると云ふ説明です、確かに我が國の天皇は一面では今日まで政治上及び軍事上の最高統治者であり、同時に最高統帥者であつた、だが他面に於て天皇は國民の間に半宗教──半分宗教的な役割を演じて來た、國務大臣の言ふ所の憧れの中心とは、即ち半宗教的存在たることを説明して居るに外ならない、所が當憲法草案の第十八條には「いかなる宗教團體も、國から特權を受け、又は政治上の權力を行使してはならない。」、斯うしてあります、是は明かに宗教と政治との分離を規定して居る、さうすれば當草案第一章に於て、半宗教的存在である天皇の手に、國の特權や政治上の權力を持たすことは、明かに當草案第十八條の違反であると斷ぜざるを得ない、是は明かに宗教と政治との結合である(發言する者あり)是は明かに宗教と政權との結合である、此の點に付ては特に聯合國側に於ても特別な警告を發して居る、我々は是は明かに宗教的なものと、之に政權に携らせると云ふことを規定して居るものと考へる、それ故に我々は此のやうな憲法にどうしても贊成することが出來ない、當議場に於て曾て或る議員は、天皇を以て實のない花であると言はれました、山吹の花である、斯う云ふ比喩を用ひられました、若し天皇が何等實際の權限のない、單なる象徴であるならば何をか言はんや、併し此の憲法草案は天皇を山吹の花とせずして、天皇の手に實際的に政治的特權を與へて居る、我々がなぜ此の問題を此のやうにしつこく申すかと言へば、それは今日の日本の置かれて居る所の特殊の状態から、即ち我が國には今尚ほ保守反動勢力、軍國主義勢力が頑強に殘つて居る、此の事實を我々は認めなければならない(「ノーノー」其の他發言する者あり)此の殘物が殘つて居ることを我々は認めなければならない、此の時少しでも一般國民の上に君臨する特權者が存在する時には、之を利用して再び反動勢力を復活する危險があるからであります(拍手)是は將來のことではありませぬ、昨日、一昨日一體此の議場に於てどんなことが起りましたか、樋貝議長は天皇に對する忠誠の名に依つて我々の憲法審議を妨害されたではないか(拍手)それ自身即ち天皇の名に依つて此の議場、此の演壇に於て非立憲なことが行はれた(拍手)又我々は「ドイツ」の例を取つて見ても宜い、あの「ワイマール」憲法、あれは理想的な民主的な憲法と言はれて居りました、併しながら此の憲法が、而も社會民主黨の手に依つて作られ、之の下に是が執行されて居る、それにも拘らず──此のやうな民主的な憲法に拘らず、其の後に於ては「ヒトラー」は此の憲法を土臺としてあの「ナチ・ドイツ」を實現して居る、今の日本は「ドイツ」に比べれば、まだ多くの保守反動的な殘物が殘つて居る、斯う云ふ時に此のやうな非民主的な特權者を殘すと云ふことは、明かに我々の將來に重大な危險を殘すと云ふことになる、我々は日本の將來の爲に、我々子孫の將來の爲に、民主主義の爲に、我々は少しでも反動的に利用され得るやうな條項を含む憲法にどうしても贊成することは出來ない、我々は草案の第一章は民主主義に反する規定であると認める、ここに我々が此の草案に反對する第二の理由があります、以上の如く天皇を規定する第一章は、古き天皇制を新しい形に於て殘さんとするものであります、是は明かに反民主的規定である それだけではありませぬ、更に第四章には參議院を規定して居る、ここにも官僚や保守反動勢力を温存しようとする計畫が行はれて居る、而も驚くべきことは、今日に至るまで參議院の性格、構成、選擧方法等に付て政府の具體案が今尚ほ此の議會に提出されて居ない、當草案に依れば、參議院は國權の最高機關である國會の重要な一構成要素である、だから此の憲法草案が當議會を通過する時には、當然參議院の内容が我々議員に明かにされて居なければならない、參議院がどんなものであるか、政府にも我々にも分らない儘にして、此の憲法を通過させることは不當であり、又違法であると言ふことが出來る、それにも拘らず政府はなぜ參議院を此のやうな状態にして設置することを頑強に主張されるのであるか、是は唯一つの意圖から行はれて居る、唯一つの意圖から出て居る、即ち國民の直接に選擧した衆議院が全權を握ることを惧れ、即ち我々衆議院、是が全權を握ることを惧れ、此の權限を出來るだけ制限するやうに、他方では參議院を保守反動勢力の要塞たらしめようとして居ることであります、參議院をして今日の貴族院の役割を演ぜしめようとすることであります、私は曾て進歩黨の犬養君が、參議院を廢して一院制に贊成される私の意見を發表されましたが、是は明かに進歩的な意見だと思ひます、併し遺憾ながら此の進歩的な意見が進歩黨に依つて否定された(笑聲)私は之を非常に遺憾とするものでありますが、此のやうに參議院は我が國民主主義化の妨害物であると云ふことが出來る、此のやうな有害無益な時代錯誤の代物を憲法から一掃することである、さうして人民の選んだ衆議院が唯一つの國權を行使する機關とならなければならない、是が我々の主張であります、ここに我々が此の草案に反對する第三の理由があります 更に當草案は戰爭一般の抛棄を規定して居ります、之に對して共産黨は他國との戰爭の抛棄のみを規定することを要求しました、更に他國間の戰爭に絶對に參加しないことを明記することも要求しましたが、是等の要求は否定されました、此の問題は我が國と民族の將來に取つて極めて重要な問題であります、殊に現在の如き國際的不安定の状態の下に於て特に重要である、芦田委員長及び其の他の委員は、日本が國際平和の爲に積極的に寄與することを要望されましたが、勿論是は宜いことであります、併し現在の日本に取つて是は一個の空文に過ぎない、政治的に經濟的に殆ど無力に近い日本が、國際平和の爲に何が一體出來やうか、此のやうな日本を世界の何處の國が相手にするであらうか、我々は此のやうな平和主義の空文を弄する代りに、今日の日本に取つて相應しい、又實質的な態度を執るべきであると考へるのであります、それはどう云ふことかと言へば、如何なる國際紛爭にも日本は絶對に參加しないと云ふ立場を堅持することである、之に付ては自由黨の北君も本會議の劈頭に於て申されました、中立を絶對に守ると云ふこと、即ち我が政府は一國に偏して他國を拜すると云ふが如き態度を執らず、總ての善隣國と平等に親善關係を結ぶと云ふことであります、若し政府が誤つて一方の國に偏するならば、是は即ち日本を國際紛爭の中に巻込むこととなり、結局は日本の獨立を失ふこととなるに違ひないのであります、我々は我が民族の獨立を飽くまで維持しなければならない、日本共産黨は一切を犧牲にして、我が民族の獨立と繁榮の爲に奮鬪する決意を持つて居るのであります、要するに當憲法第二章は、我が國の自衞權を抛棄して民族の獨立を危くする危險がある、それ故に我が黨は民族獨立の爲に此の憲法に反對しなければならない、是が我々の反對する第四の理由であります 以上が我が共産黨の當憲法草案に反對する重要な理由であります、要するに當憲法は、我が國民と世界の人民の要望するやうな徹底した完全な民主主義の憲法ではない、是は羊頭狗肉の憲法である、財産權を擁護して、勤勞人民の權利を徹底的に保障しない憲法である、我が民族の獨立を保障しない憲法である、天皇の特權である參議院の存在は、明かに官僚や保守反動勢力の要塞となると共に、禍を將來に貽す憲法である、我々は我が國の將來と我が子孫の爲に、我が國の民主主義と平和を絶對に保障するやうな憲法を作り、將來保守反動勢力が彼等の足場に是等を利用するやうな、特權的機關と危險を此の憲法の中に貽すことは出來ない、それ故に我々は此の草案が當議會を通過することに反對しなければならない、併し我々の數は少數であります、此の草案がここに可決されることは明かであります、それ故に我々は當憲法が可決された後に於ても、將來當憲法の修正に付て努力するの權利を保留して、私の反對演説を終る次第であります(拍手)○議長(山崎猛君) 北れい吉君  〔北れい吉君登壇〕○北れい吉君 私は芦田憲法委員會委員長の報告通り、修正條項を加へましたる政府提出の改正憲法草案に贊成するものであります(拍手)自由黨を代表して其の贊成の理由を述べたいと存じます 御承知の如く日本は目下占領軍の占領下にあり、又「マッカーサー」司令部の特別の配慮に依る食糧輸入に依つて飢餓突破をなし得た現在に於て、此の憲法改正草案を審議すると云ふことは感慨無量であります、併しながら我々は此の特殊の事情、殊に列國環視の事情の下に於て、此の憲法草案が適當に修正され、兩院一致の決議を以て通過したる場合に於ては、此の憲法は「ポツダム」宣言の認むる所のみならず、日本國民の大衆が支持するのみならず、世界の輿論が之を支持すると云ふ意味に於て、私共は非常なる信頼感を持つのであります、若し此の憲法が無事に成立致しましたならば、前總理大臣幣原氏竝に現總理大臣の勞苦を多としなければならぬのであります、私は此の憲法には大體に於て我々の大きな政治上の理想が現はれて居ると共に、近代國家に相應しき色々の現實的規定が織込まれて居ると思ひます、或る人は此の憲法を政治教科書にすべしと言ふのでありまするが、是は此の理想の方面に着眼して斯かる主張をなすのであると存じます、併しながら高遠の理想は之を實現するに中々困難を感じます、小さな人物が偉大なる理想を持てば、理想の達成能力の貧弱なるが爲に、却て其の人を悲劇的ならしめるが如く、偉大なる理想を持つて居る國民が、若し教養が足らなかつたならば、其の國民を却て悲劇的運命に陷れるものであります、御承知の如く、民主主義は必ずしも絶對的眞理と申すことは出來ない、既に「ギリシャ」に於て明かにされたる如く、民主主義は失敗すれば愚民政治になる、是は何處の國の經驗に於ても或る程度まで現はれて居るのでありまして、數箇月前、中國共産軍の研究者として有名なる「エドガー・スノー」氏が日本に來て、讀賣新聞紙上に「ヨーロッパ」の政情の觀察を公に致しましたが、「デモクラシー」は「アングロサクソン」諸民族竝に北歐諸國に於て成功して居るが、他の國々に於ては未だ成功して居らない、「ヨーロッパ」の「フランス」から「アジア」の中國に至るまで、「デモクラシー」の實現の爲に今や苦しき歩みを續けて居ると云ふ言葉があります、そこで我々はここに憲法草案の審議を了へて、紙の上で理想的な進歩的な憲法が出來上りましても、果して之を完全に運用し得るや、我々自ら今日より深刻なる反省をしなければならぬことであると存じます(拍手)私は此の反省さへありまするならば、日本の民主化は成功すると思ひます、併しながら我々は隣邦に於ても苦しき經驗を持つた實例を見て居るのであります、辛亥革命の成立後、中國の國家は形式的、法律的には近代化し、さうして二院制度を採用し、參議院、衆議院を設けられましたが、其の議場は毎日怒號喊叫でありまして、中國の將來は中々近代化しないと識者をして慨歎せしめたのでありますが、今日中國は日本に勝ちたりと雖も、尚ほ民主主義の實現には可なり遼遠なる前途を持つて居るのであります、我々も世界各國が監視して居る此の議場に於て、國權の最高機關に相應しき態度を執られんことを我々自らも深く覺悟し、同僚諸君にも要望する次第であります(拍手)斯かる心構へから我々が此の憲法の草案の審議に至りますれば、私は前文は實に立派な理想が織込まれて居ると思ひます、例へば「日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、」──簡單のやうでありますが、今までは大命に從つてのみ我々は行動して居つた、然るに國會は最高の國權の機關であつて、此の決議に依つてのみ我々は行動する、大筋に日本の今日の國の骨組を表はしたものであります、さうして理想が何處にあるかと言へば、諸國民と平和的に協力し、國際的平和主義を一面に標榜し、又他面に於ては自由が齎す惠澤を全國に遍くしよう、即ち信仰の自由、言論の自由、思想の自由、凡ゆる自由の齎す所の惠澤を我がものにしよう、目的が二つ既に明かにされて居るのであります、さうして政治と云ふものは所謂大權内閣に依つて運用されるのではなく、國民の代表者が政治の局に當るのである、政治の權威は國民に由來し、又國政の權力は總て國民から出て來るのである、さうして政治の目的も國民大衆の幸福にある、是は「リンコルン」の有名なる人民の政治、人民に依る政治、人民の爲の政治と、近代「デモクラシー」の本質を言ひ表はしたことと符節を合するものであります(拍手)さうして是が人類を支配すべき普遍の原理である、此の原理に違反する所の一切の憲法、一切の法令、一切の詔勅を拜除する、是は日本の言葉で言へば、天地の公道を示したものである、西洋流に言へば普遍的原理である、東洋流に言へば道とか、宇宙の大道とか、宇宙の公道と云ふことになるのであります、表現は西洋流の言葉で表はして居りますけれども、我々の最も近い思想であると私は考へるのであります、從來の日本は獨善主義に陷り、國家至上主義に陷つて、他國の尊嚴を害し、自主權を蹂躪する虞があつたのでありますが、ここに我々は百八十度の囘轉を致しまして、東洋、西洋、兩方に通ずる根本的の政治原理、政治理想に目覺めて再出發せんとするのでありますから、我々は此の憲法を全面的に支持せざるを得ないのであります(拍手) 次いで此の憲法は國民主權と云ふことをはつきり述べました、之に付ては進歩黨、社會黨、自由黨等に於ても、色々の世間の批評がありましたから、ここで明かにして置きたいと思ひます、我々は御承知の如く國家主權を主張致しました、又社會黨もさうであつたと思ひますが、國家主權と云ふのも、天皇を含めた國民の全體に主權があると云ふのも、實質的には私は異なつて居らぬと思ふ、法理解釋に付きましては、國家法人説──法人説に付ても、擬制的の法人説あり、實體的の法人説がありまするし、又國家人格説、國家人格實在説と云ふ立場に立つて國家主權を唱へたのであります、そこで是が國民主權と云ふ表現に變つたからと言うても、思想の内容は變らないのでありまして、所謂通俗に言ふ君民一如、君民一體、君臣共治と言ふ大筋は私は變らないと思ふので、變説にも改論にもあらず、唯近代的の概念で明確化したに過ぎないのであります(拍手)そこで我々は此の憲法の前文に於て憲法の全體の方向が示されるのでありますから、此の前文の趣旨に從ひまして、我々は各章の大體に付て贊成意見を述べたいと思ひます 先づ第一章の天皇の規定でありますが、日本國の象徴であり、日本國民統合の象徴であると云ふことに付ては、憲法委員會に於ても世間でも色々論議されました、我が黨と致しましては象徴と云ふことが一つの短い文章に二つあるのはいけないから、一つは元首と直してはどうか、斯う云ふ考へを持つて居りました、私も憲法を初めて上程されました本會議の此の席に於きまして、元首としてはどうかと云ふ質問を致しました、併し委員會に於ては又其の問題に觸れまして、元首と云ふ解釋の仕方に依れば、曾て井上密博士が言はれたやうに、國家神識の宿る所──神の意識は元首のみに宿つて居る、我々は不靈の動物であるかの如き印象を與へる表現を致して居りまして、多少誤解を招く虞もあるのであるから、此の元首と云ふ言葉には長所もあれば短所もある、私は批判的の質問を致して居りましたが、國際情勢其の他を考へて、元首と云ふ言葉は誤解を招く虞がある、斯う云ふのであれば、我々は原理の末にこだはる必要はないから、政府當局の發表致しました此の象徴と云ふことに贊成致したのであります、實質は之に依つて何等變る所はないと私は確信致して居ります、なぜかと言ひますれば、天皇の權能は憲法第六條と第七條に規定されて、第一條の表現が如何なる言葉であらうとも、天皇の御仕事の實質には寸毫の差異がないのでありまするから、名目上の問題に過ぎないと存じます、それから其の地位は主權の存する國民の總意に基く、是は先程の辨士が色々説明致しましたから繰返し申上げませぬ、唯現行憲法と比較して見れば、所謂天皇の大權は大幅に縮小されて居ることは事實であります、今までの天皇大權と申しますれば、まあ天皇主權論者で言へば、主權の大部分を掌握されて居つた、最高機關説を主張する者も「統治權を總攬す」と云ふ一言から出發して、機關としては最高の地位にある、内容から申しますれば行政、司法、立法、それから兵馬の權、外交權、閣員任命の權、課税權、其の中我々が議會に於て發言權を持つて居るのは主として二つであります、立法は議會の協贊なくては成立たない、課税も議會の承認がなければ税金を課することは出來ないのであるから、此の二つの點に於ては議會政治、民主政治の一面はありましたれけども、閣員任命の大權、條約締結の大權、統帥の大權、司法の大權、殆ど天皇の手に掌握されて居りました、若し輔弼の臣僚宜しきを得たならば、大權の行使に誤りがなかつたでありませうが、輔弼の臣僚宜しきを得なかつた爲に今日の悲慘を招いたのでありますから、輔弼の臣僚の善惡に依らず、平凡と非凡とに依らず、天皇に間違ひのないやうに天皇の權能を大幅に縮小致しまして、政治的、法律的の權力の上に超越され、鬪爭の彼岸に御立ちになられるやうに規定されたと云ふ意味に於て、私は天皇竝に皇室の地位は却て安全になられたのではないかと考へる一人であります(拍手) 顧みますれば第一次大戰前後「ロシア」の帝室は倒れ、「ヨーロッパ」で最も由緒ある「ハプスブルグ」の王室も倒れ、又「ドイツ」の「ホーヘンツォルレルン」家も倒れ、有名なる「ヨーロッパ」の朝、相次いで倒れたのであります、此の度戰爭に大敗しながら我々は天皇制を擁護することを得たのは、聯合國の首腦部の日本國民性に對する深き理解と、日本國民は天皇制を擁護しつつ、而も近代的の民主國たり得ると云ふ信用があつた爲めであらうと私は衷心から考へます(拍手)私は今日に及びましては、社會黨を除く各派の共同修正案が出來ましたので、芦田委員長の實に理路整然、而も熱情に燃えた委員長報告に對して之を繰返す愚は致しませぬ、そこで天皇の大權の各權能の個々の點に付ては觸れませぬ 次いで戰爭の抛棄と云ふことに參りますが、政府の原案では唯戰爭を抛棄する、陸海空の三軍は持たない、交戰權は認めない、目的がはつきりして居らぬ、是だけでは媾和條約の規定で宜からう、或は敗戰國が懺悔をした文章に過ぎない、或は前科者の痕跡があるのではないかと云ふ疑ひを受ける、然るに憲法委員會の周到なる審査檢討に依つて、「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、」、即ち戰爭抛棄の目的を明瞭にして居ります、而して此の目的を達成するが爲に陸海空の三軍を保持しない、洵に堂々たる態度を示したので、私は此の委員諸君の憲法修正に對する努力を多とするに吝かならないのであります(拍手)是であれば日本が平和國家として再出發するのみならず、世界の總ての國に向つて平和主義を實現して貰ひたいと云ふ強き要請をなすことになりまして、日本は實力なしと雖も、道義的に國際思想の第一線に立つことが出來る、此の點に付て「マッカーサー」司令官も數度自分の意見を發表して激勵を致して居るやうでありまして、我々敗者として慘苦を受けて居りますが、再生の希望是にありと言はざるを得ないのであります(拍手) 第三の國民の權利義務の規定に付きましては、大體に於きまして權利思想が非常に強く現はれて居ります、「フランス」では十八世紀の「フランス」革命後に達成されました人權擁護、「アメリカ」では獨立戰爭以來達成されました人權の擁護、是が日本に於て明かにされたのであります  〔議長退席、副議長着席〕 勿論現行憲法に於きましても、徳川時代の封建時代とは違つた人權擁護の規定は數々ありまするけれども、法律以上に封建時代の強き習慣が支配して、基本的人權が確立して居りませぬでした、即ち憲法には可なり立派な明文がありましたが、治安維持法とか治安警察法とかに依つて、憲法の精神を蹂躪するやうな規定があつたのであります、然るに今度の憲法に於きましては、國民の義務よりも權利を強調致して居ります、見る所は十八世紀的であり、如何にも日本が二世紀も昔に退却したやうな感じを持つのでありますが、日本は封建制度の遺習をまだ拂拭して居りませぬ、そこで十八世紀の思想に還ると云ふことは、或る意味に於ては日本が新しくなると云ふことを意味するので、我々は之を新思想として歓迎するに吝かでないのであります、併しながら權利の規定を數々擧げるが爲に、却て義務の規定を掲げることを忘れたので、納税の義務其の他が入つたのであります、又社會黨の方面から第二十五條の修正意見を出しまして、「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」と、斯う出して來ました、是は我々も喜んで此の適當な修正には應じたのであります、御承知の如く日本は戰爭に負けた結果、領土を失ひ、又産業施設を破壞され、極度の窮乏の裡にあります、之を築き上げるには、どうしても全國民の勤勞精神に俟たなければならぬ、勤勞立國とも言はなければならぬ状態であります、そこで此の憲法に於て勤勞の權利と共に義務も規定すると云ふことは、私は洵に賢明なる考へ方であると思ひます 次に原案の二十七條に「財産權は、これを侵してはならない。」、是は相當小委員會に於ても論議されましたが、勿論個人の私有財産で是は公益と衝突する場合もあります、又社會福祉を害する場合もありますが、大體に於て私有財産を認めると云ふことは社會秩序を維持し、公共の福祉に貢獻すると云ふことを認めなければならないと思ふのであります、御承知の如く戰時中は我々の生命財産は天皇のものである、之を奉還すべしと、斯う言つたり、或は軍部官僚の指導に於きましては、生命財産は殆ど權威を認められなかつた、生命は消耗品の如く取扱はれた、財産は唯假物の如く看做され、財産權の侵害が多かつたのでありますから、私は人心に安定を與へる意味で一應斯う規定するのは當り前であると思ふ、併し此の規定があつたから直ちに是は資本家、地主に味方する自由黨である、進歩黨であると言はれては私は迷惑を感ずるのであります、我々は獨占資本を之に依つて謳歌せんとするものでもなく、財閥の復活を狙ふものでもない、勤勞に依る財産、是はささやかなものであつても尊重すべきものであると存じます(拍手)例へば日本に非常に影響致しました英國の「ジョン・スチュアート・ミル」は、中産階級讃美と云ふ書物を書いて居る、餘りに貧乏であれば人間は羨む、さもしい根性が出る、又卑窟になる、餘りに富めば驕つて來る、丁度中産位の者は、驕る精神もなく、卑窟にもならないから洵に結構だと言つて居ります、又有名な「ドイツ」の哲人の「フィヒテ」は、財産權は人格權の基礎なり、人格の基本的權利と言つて居る、少しの財産もなかつたならば私は基本的權利の擁護は困難である、即ち人格の基本的權利を裏付ける意味に於て財産權は神聖視すべきものであると思ふ(拍手)是が公共の福祉を害する限りに於ては適當の制限を加へるのは固より當然であります、我々は自由主義の權利是にありと考へまして、此の憲法の條項に付ては衷心から支持致します(「簡單々々」と呼ぶ者あり) 其の他兩院制の問題でありますが、此の衆議院と參議院と二つ置くことに付て、唯參議院の内容がはつきりしないから議論があると思ひまするが、世界各國の状態を見ますると、少し名の知れた國では「トルコ」と「ブルガリヤ」位のものでありまして、一院制の國は其の他極く小さな國に多少ありますが、世界の壓倒的大多數の國は二院制を採つて居ります、是は一院制であれば動もすれば一時の激情で行過ぎがあつてはならぬ、反省の材料として第二院を設けて、第一院に於きましては、どちらかと云へば健全なる常識の持主、國民の眞意を代表する人々、第二院は特殊の學識經驗を持つた者、或は或る職域に付て利益を代表するやうでは困るが、知識と經驗とを代表するやうな人を選びたい、即ち専門家を多く集めたいと云ふ要求が各國にもあるから、日本にも私はなくてはならぬと思ふ、此の兩院制の設置に依つて私は長短相補ひ、さうして國權の最高機關と云ふ役割を果して行くのではないかと考へるのであります(拍手)其の意味に於て參議院の構成は、我々の手で次の臨時議會等に於きまして立派な組立を拵へれば宜しいので、原則としては承認することに致しました それから内閣の方面に移りまして、第六十四條には、原案には「内閣總理大臣は、國會の承認により、國務大臣を任命する。」と云ふことになつて居りましたが、最後の修正では國會の承認が要らぬことになりました、是も非常に私は滿足する所であります、なぜかと言へば、内閣總理大臣は閣員を勝手に罷免することが出來る、若し不適當な國務大臣を任命した場合に於ては議會は即ち國會は、内閣總理大臣を彈劾する權能を持つて居るのでありまするから、私は内閣總理大臣が閣員を罷免する自由と同時に、即ち任命する自由を持つて貰ひたいと希望して居りましたが、原文が修正されましたことに付きましては、私は國會運營の將來を思うて洵に慶賀の念に堪へないものであります 更に第八十四條皇室の財産の問題でありますが、是は非常な議論がありまして、私共は根本的に考へれば皇室財産のことは憲法で規定したくはなかつたのであります、皇室の年々の費用は國會で決議すると云ふことにして置いたならば、簡單明瞭で宜かつたではないかと考へて居ります、皇室財産の處分の如きは、政府當局と其の筋との關係折衝に任せて置くべきもので、是は一時的に規定すれば將來に對して何等效力のないものだから、永續性を持つべき憲法の條文としては、皇室の通常の經常費だけ掲げれば宜い、期う考へて居りましたが、是は色々の國際關係もあつて、原案に多少の修正が加へられて、委員長報告通りになつたのでありまして、是は已むを得ざることと考へて居ります、勿論根本的に考へれば、歴代の天皇の詔勅を拝讀致しましても、天皇に私財なしと云ふ言葉も既にあります、又國家が是れ位窮乏して居る時に莫大な皇室財産を持つと云ふことは、道徳的の影響としても私は好ましからぬと思ふのであります、即ち第一次大戰前に於ては、世界の帝室で一番の財産家と言ふと、「ロシア」の「ツァール」、「トルコ」の「カリフ」、日本の皇室と言はれて居りました、是では近代國家の面目に相應しくないのでありますから、大斧鉞を加へて徹底的に整理をしなければならぬと云ふことは國民の常識でありまして、唯是が行過ぎにならないかと我々は憂へたのであります、併し象徴たる天皇の地位から、皇室財産が擧げて國有になつても、無一物の所是れ無盡藏と云ふ言葉が當るのでありますが、我々は何等懸念する所なしと確信致すのであります、そこで委員長の報告を私共は是認し、之に贊意を表するものであります 次に最高法規の問題であります(「簡單簡單」と呼ぶ者あり)簡單に今度述べますが、最高法規の九十三條は實は一寸日本にぴんと來ない、「この憲法が日本國民に保障する基本的人權は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの權利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び將來の國民に對し、侵すことのできない永久の權利として信託されたものである。」、何か他國のことを聞いて居るやうな感じがして、お互ひにはぴんと來ない、我々は戰時中官僚軍閥の極端なる統制下に窒息せんとするやうな状態で、今日の自由は我々自らの多年の努力に依つて獲得したものぢやない、是は戰敗の結果與へられたもので、何となく外の國のことを聞くやうでありますが、是は人類共通の遺産として我々は之を設けても差支へない、聊か恥ぢ入る次第、我々の貢獻は最も少いが、我々に教訓を與へる意味に於て我々は之を承認することに致しました 更に九十四條の條約尊重のことに付きましては、よくも之を入れて修正したかと私共は敬服致す次第であります、元來日本國民は條約尊重を以て有名でありました、滿洲事變以來國際條約を蹂躪する癖があり、中國の領土竝に主權を尊重する九箇國條約、又國際紛爭解決手段として戰爭をやらないと云ふ不戰條約、是等を相次いで破つたことは天下公知の事實であります、そこで我々が平和なる國際社會に伍して信用を囘復せんとするならば、國際條約尊重のことを憲法に入れるのが當然であらうと思ひます、「ワイマール」憲法に於きましては、國際條約は「ドイツ」の憲法の一部をなすとまで規定してあります、そこで我々は憲法と同じ意味に於て國際條約を尊重することが、我々の再出發を促すに便利であらうと考へて、是も滿腔の贊意を表する次第であります(拍手) 是で大體私の贊成意見は纏つたのでありまするが、結局は斯かる立派な憲法を實際政治の運用に持つて來ると云ふことは、議員諸公竝に政府當局者の協同の努力に俟たなければならぬので、尾崎先生が前に言はれた通りに、根底は國民の教育であらうと思ひまするから、我々も修養しつつ國民を啓蒙すると云ふ大きな考へで、此の民主政治、自由政治を實現することに努力したい、此の希望を述べて、此の政府提出の原案修正條項を加へて贊意を表するものであります(拍手)○副議長(木村小左衞門君) 犬養健君  〔犬養健君登壇〕○犬養健君 私は日本進歩黨を代表致しまして委員長の報告に贊成し、極めて簡潔に其の趣旨を述べたいと存じます 我々は日本歴史の悠久なる經過の裡にありまして、ここに一大變局に際會し、意義深き憲法改正の責務を擔つたのでありますが、審議の進むに聯れまして益益任の重きことを痛感致したのであります(拍手)今我々の心情を率直に述べますならば、我々は或は知らざる内に時流の急激なるに棹さしまして、安易を冀ふことなきやを反省したこともありますし、或は此の時流に乘ずることを警戒するの餘り、却て平和民主國家再建の大道を自ら阻むやうなことなきやを嚴肅に反省したこともあつたのであります(拍手) 偖て我々が特に心を碎きましたのは、申すまでもなく主權の所在の明確化と、之に關聯する天皇の御地位の問題であります、之に付て第一に熟慮致しましたのは、彼の「ポツダム」宣言を忠實に履行すべき現國情にありまして、而も尚且つ我々日本國民が如何にして永遠に天皇を尊崇、親愛して行くの實を擧げ得るやと云ふことであります(拍手)第二には、併しながら如何に其の實を擧げ得たとしましても、それが我が日本民族の血液の中に、脈々として生きて居る所の天皇に對する深い心情に正しく適合するものでなくてはならないと云ふことであります(拍手)第三には日本國民の象徴としての天皇の權限が、眞に一分一厘の過不足もなく飽くまでも適當に正確に條文の中に表現せられなければならないと云ふことであります(拍手)此の結果我々が率直に申しまして、自己の研究の足らざる點は之を改め、或は眞實に向つて更に眼を開き、而して幾多の論議の紆餘曲折を經ました後に於て、日本の主權は國民に存することを明確に致したのであります(「ひやひや」拍手)而して此の國民の中には天皇を含み、國民は天皇と對立せず、其の天皇は國民の總意に依つて日本國の象徴たるの地位にあらせられると我々は解釋を致したのであります(拍手)且つ第七條に規定した所の天皇の國事に關する行爲の内容と條件も、亦此の觀點より致して審議致したのであります、私は日本國民一般が、此の度の憲法改正に當りまして、肇國以來初めて白日の下に天皇の御本質を凡ゆる立脚點より敢て檢討致しました擧句に於て、尚且つより一層の平靜なる教養と、而して昨年の一大悲痛に依つて醇化せられた所の道徳的情熱を以て、天皇を益益敬愛する心情を世界に示さんことを確信するのであります(拍手) 次に順序を元に戻しまして、本改正案の冒頭に掲げられましたる前文に付て一言致します、此の前文は御承知のやうに隨所に於て文章の修正が行はれて居ります、之を一讀致しますに付け、我々は口語體としての我が日本語が、殊に法律に關して用ひらるる場合、如何に未だ成熟の途上にあるかを痛感致したのでありまして、將來とも幾多の文學の天才が出現致し、凡ゆる形に於て縱横の表現を試み、之に依つて我等の日本語に更に多角的にして豐富なる魅力を加へんことを期待致すのであります(拍手) 第二章の戰爭抛棄の條章にも相當の修正が加へられて居ります、是は原案の内容が論理としては一應意を盡して居るのでありまするが、如何せん文章が頗る消極的でありまして、彼の現世紀の特徴であつた所の力と力の哲學を斷乎として拜除し、ここに中外に向つて人類の恆久平和に關する徹底的な一大提言を試みるの氣魄に乏しい憾みがありましたので、私は委員長の報告の如き修正は、極めて妥當であると考へるのであります(拍手) 偖て第三章には大いに議論があるのであります、此の第三章は、御承知のやうに國民の權利と義務の條章であります、私は此の第三章を熟讀致しまして、一つの深い感銘を懷かざるを得ませぬ、それは如何なる國の基本法と雖も、凡ゆる哲學や文學の傑作と同樣に、畢竟其の時代の特徴を反映せぬものはないと云ふ一事であります、而して此の憲法草案の時代的特徴は、此の第三章の隨所に現はれて居ります所の基本的人權の確立と云ふことであります、即ち人間を掛替へのない一個として尊重し直すと云ふことでありまして、彼の過去數年間に亙つて人間の生命を極端に無視した所の慘憺たる時代の直後に於て、此の新憲法が、萬事は個人の尊重から出直すのだと云ふ時代思想の基盤の上に作られましたことは、洵に自然でありますと同時に、相當の論議が此の思想上の時代色に對して當然向けられたのであります(拍手)例へば同僚の一人が、此の草案は十九世紀の「フランス」の人權宣言を彷彿せしむるではないかと質問致しましたのも、本案の此の時代的特徴に對する懷疑の表現でありました、又草案の前文中に非民主的國家の罪惡として専制と隸從、壓迫と偏狹の二つのみが掲げられ、一部の委員の深刻なる不滿にも拘らず、經濟民主主義上の罪惡が敢て除かれて居りますのも、從來の我が國の最大弱點の中、直接此の度の戰爭の原因となりましたもののみを摘發したと云ふ意味に於て、確かに時代色を現はして居るのであります、又此の草案が財産の公共性を力説して居るに拘らず、第二十二條の冒頭に於て、先づ私有財産の不可侵權を明確に規定して居りますのも、此の憲法に拠つて立つ所の時代的基礎を言表はして居るのであります、而して委員會が是等の時代色の濃淡を是正し、出來得る限り均衡あらしめようとした努力の跡は、軈て世人の知る所であらうと考へます、例へば委員會は、此の草案が政治上、法律上の基本的人權を力説する割合には、經濟上に於けるそれを説くこと極めて大略に止めて居ります點に注目致しまして、第三章中勤勞者に關する二、三の意味深き修正を行つたことは、洵に當然であると考へるのであります(拍手)即ち委員會は新たに勤勞者の權利と義務、勤勞者に對する最低の文化水準の生活保障、勤勞者の休息權等を明記致したのであります、元來昨年の一大敗戰後の施策としましては、政治に於ても、經濟に於ても、ここに思切つた大掃除を行はねばならないことは申すまでもございませぬ、我々は今日より眞に文字通り勤勞國家たるの實を擧げて再出發しなくてはなりませぬ、而して此の新しき勤勞國民に對し、國の全力を擧げて、豐富にして明朗なる文化の裏打を行ひ、之に依つて新鮮にして而も奧床しき平和國家を打樹てなければなりませぬ、此の意味に於て私は第三章に關する委員長の修正に心より贊成するものであります(拍手) 此の第三章に於ては、此の外に各個人の言論の自由、集會、結社の自由も亦國家に依つて明白に尊重せられることになりました、而して何人と雖も明示せられたる理由なくしては、逮捕せられず、拷問を受けることもなく、自己に不利益な供述を強要せられることもなきに至りましたことは、實に天日を仰ぐの思ひを致すのであります(拍手)  〔副議長退席、議長着席〕 殊に我々議員は行政官吏諸君と頗る異なりまして、彼の過去に於て民權思想擁護の爲に尊き歴史を遺したる幾多の先輩の遺志を繼ぎました結果、屡屡軍憲當局や司法當局より、思想上の傾向に付て脅迫と訊問とを受け(拍手)或は獄中の人となり、眞に身を以て裁判の不當を體驗したる者が、現に此の議場の中に少くないのであります(拍手)殊に第三章の人權擁護の宣言は、我れ人共に永年の願望の初めて充たされる思ひを致すのであります(拍手) 第四章中に付て最も論議の的となりましたのは、言ふまでもなく參議院の組織の問題であります、元來私は參議院が衆議院の行過ぎを調整すべき機關なりとの議論に對しては、不幸にして無條件には贊同出來ませぬ、斯かる議論は、嚴密に申せば衆議院の自己否定となるのでありまして、若し夫れ參議院を必要なものとするならば、それは須らく此のお互ひの衆議院が、最も善き意味に於ける政治的常識に依つて行政を監視し、立法を議決するに對しまして、參議院は其の専門的知識に依つて衆議院の議決を補ふと云ふ程度のものでなくてはなりませぬ(拍手)即ち參議院は、第二院的本質と言はんよりは、寧ろ副次的存在たるの地位に退かなくてはなりませぬ(拍手)此の理由に依りまして、參議院の構成分子は、各界の學識經驗者を以て、職能代表的な心持に依つて組織せられることが宜しいと考へて居ります(拍手)之を要するに參議院は飽くまでも第二の衆議院的構成であつてはならないのでありまして、然る場合は寧ろ參議院なきに如かずと云ふ議論も起るのであります(拍手)私は委員長報告が、此の問題に關しまして嚴重なる附帶決議を附けたことを以て、極めて當然であると考へて居ります(拍手) 第五章より第十章までに付ては特に申述べる點はございませぬ、唯第十章の最高法規の條章に於ては頗る重要な修正が行はれました、即ち修正案は、特に我が國が締結したる國際條約は勿論、一般に承認せられた國際法規に對しましても、最大の尊重の念を拂ふべきことを明記致したのであります、是は洵に意味深長なる表明でありまして、此の一見目立たないやうに見える所の修正は、實は左に於ては第二章の戰爭抛棄の精神と直ちに結合し、右に於ては此の憲法草案の隨所に盛られた所の文化向上の精神と固く手を携へて居るのであります(拍手)言ひ換へますならば、此の修正は世界の凡ゆる民族より敬愛せらるる新日本人の再起の宣言であるのみならず、過去十數年に亙つて我が國の指導者が犯しました所の國際法規蹂躪の歴史に對する、清らかなる國民的懺悔と申すべきものであります(拍手) 偖て草案第八十四條、即ち皇室財産を國庫に歸屬せしむるの條項に付ては、最も愼重なる討議が繰返されましたことは既に御承知の通りであります、私は、天皇陛下には極めて簡素なる御生活を志して居られます由を承りまして、衷心より深き感激を懷くものであります、併しながら此の條項に關して我々が憂慮致しました所以のものは、要するに天皇の私的御生活に屬する財産までが、天皇なるが故に總て是が國庫に歸屬すると云ふやうなことがありましては、洵に不合理も甚だしいと云ふ點にあつたのであります(拍手)然るに此の修正案の審議の進むに聯れまして、國家に屬すべき皇室財産と、天皇の御所有となる所の私的財産とが、軈て畫然として合理的に區別せられ、隨て天皇の私有財産は本法の適用外にあることが明かとなつたのであります(拍手)且つ法的には國家に屬すべき皇室財産と雖も、國の象徴たる天皇の御地位と不可分なる財産は、當然從來通り使用せらるることも亦明瞭となつたのであります(拍手)而して國家の象徴たる天皇に必要にして相應しき經費は、豫算に計上して議會の決議を經るのでありますが、之に付けても屡屡繰返すやうではありますけれども、我々は平靜にして純正なる態度を以て此の議決を取扱ひ、以て我が國民の廣い深い心情を世界に示したいものであると存ずるのであります(拍手) 私は茲に最後に感慨無量なる一つの御報告を致さなければなりませぬ、それは去る二十日に至りまして、委員會は遂に内閣總理大臣は國會議員の中から選ばれなければならない旨の修正を行つたことであります、私は此のことを此の壇上より、明治二十三年の國會開設以來憲政の爲に盡瘁したる幾多の先輩の靈に對して、滿場の諸君と共に、而して生きて明治憲法と訣別したる尾崎行雄議員と共に、報告致したいと思ふのであります(拍手) 以上を以て修正案贊成の趣旨を述べたのでありますが、之を要するに此の憲法改正案は種々の批評はありますけれども、何と申しましても祖國再建の途上に於ける傑作の一たるを失はないと存じます(拍手)併しながら凡そ新憲法の精神は、之を細かく規定した所の紙の上には宿らずして、之を讀む所の國民の心の裡に宿るのであります(拍手)假令手に一冊の憲法參考書なくしても、尚且つ笑つて己の心の裡にある所の憲法の大略の精神を讀み浮べることの出來る國民こそ、眞に法の何ものたるかを知るものと言はなければなりませぬ(拍手)我々の待望致しますのは實に斯くの如き日本人であります、憲法の理論は難かしく、憲法の心は平易なものでなくてはなりませぬ、而して此の間の消息を能く知る所の未來の日本人の教養こそ、實に新憲法の前途を左右すべき貴重なる要素であります(拍手)政府は國民と相協力して、渾身の努力を以て此の一點に注がなければなりませぬ、新憲法改正の日に當り、政府に深く警告する所以であります(拍手)○議長(山崎猛君) 片山哲君  〔片山哲君登壇〕○片山哲君 日本社會黨が提出致しました修正案は不幸にして敗れたのであります、私はここに敗れたる現在に於ては、委員長報告に贊成する意思を表明するものであります(拍手)現下の内外情勢に鑑み、且つ民主憲法が我が國に於て最も制定を急がれて居りまする現状に鑑みまして、私は日本社會黨の考へて居りまする憲法觀を、而して新しき憲法に對する希望を是から申述べつつ、委員長報告に贊成する理由を述べたいと思ふのであります 第一は天皇制と民主化政治確立の問題であります、天皇制の下に果して民主主義政治は確立し得るものであるか、是は憲法草案發表以前より世の論議となつて居つた所であります、私はここに諸君に向つて天皇制の下に民主化の達成は出來得るものであると云ふことを明白に致すものであります(拍手)而して天皇制の下に民主主義政治達成の爲には、どうしても我が黨が考へて居りました修正案を明かにして貰ひたかつたのであります、眞に我が國將來の政治を考へ、眞に民主主義の爲に之を熱望したのであります、併しながら今日に於てはそれを望むことは出來なかつたのでありますが、委員長報告に贊成する理由は何處にあるかと申しまするならば、主權は國民に在りと云ふことが前文及び第一條に明かにせられたことを以て、天皇制の下、尚ほ民主化が出來るものであると云ふことを私共は考へるものであります(拍手)而して我々は尚ほ之を明かにする爲に、更に諸君の御努力を願はなければならないと思ふのであります、我が國の歴史、國民の心持、是等を考へつつ、憲法の運用と、其の附屬法規と、是から出まする所の各種の人權法、生活法に對して民主化精神を織入れることは、我々に與へられたる大きな任務であると云ふことを考へるのであります(拍手) 我が國憲法の特色は、天皇制の下に民主化達成であると共に、今一つ新しき第二の特色が現れたと思ふのであります、それは何であるかと申しまするならば、委員長報告に於ても明かにせられ、諸君の既に論議せられた戰爭抛棄の點であります、我々は世界に向つて平和を宣言し、日本國民は平和を愛好する國民であると云ふことを心より主張するものであります(拍手)決して此の條項は與へられたる條項ではなくして、日本國民の心の底に流れて居つた大きな思潮であり、將來の日本を之に依つて背負つて行かなければならないと云ふことを私は信ずるものであります(拍手)其の大きな平和宣言と戰爭抛棄を、憲法の中に重要なる事項として採入れたる以上は、それに打つて代る反射作用が此の憲法の中になければならないと思ふのであります、積極的に國民を惹付け、國民に魅力を與へ、國民に迫力を以て、我が國發展の爲に我が國國力増進の爲に貢獻すべき根底がなければならないと思ふのであります、それは何であるかと申しまするならば、それこそ新しく國民を惹付ける文化であり、平和に對する熱情でなければならないと思ふのであります(拍手)金森國務相は天皇象徴を國民の憧れと言はれました、是も洵に我が國情から申しまして理由のあることでありませう、併し積極的に新しき社會に乘出し、新しき世界に「スタート」を切らなければならない日本國の新憲法、國民を惹付けて行くべき所の新しき目標は、文化に對する、平和に對する國民の憧れを明かにしなければならないと思ふのであります(拍手)文化昴揚と、藝術の尊重と、平和に對する熱情を新しき國民の憧れとすることは、新憲法の大きな使命であると私は考へるものであります(拍手)敗戰「ドイツ」に於ける國民の憧れは何であるか、色々之を私は消息通に尋ねて見ました、或は本に依つて之を讀み、色々考へて見ました、聞く所に依りまするならば、敗戰「ドイツ」國民の憧れの目標は「カント」であり「ゲーテ」であると云ふことを言はれました、「カント」、「ゲーテ」の個人よりも、「カント」の哲學思想であり、「ゲーテ」への藝術的な憧れは、敗戰「ドイツ」を起ち上らす大きな憧れであると私は考へるものであります(拍手)我々日本國民も、是から新しき目標と新しき憧れを憲法の中に積極的に見出さなければならないのであります、自由、平等、平和は十八世紀憲法の中に唱へられたでありませうが、併しながら我々は、政治上に於ける形式的な自由平等よりも、今日に於ては經濟的、生活的な自由平等を求めて、國民に眞の文化生活を與へることが最も必要であると感ずるのであります(拍手)斯くして新しき世界に國民を導いて行かなければならない、其の使命を憲法が持つて居るのであります、新憲法は眞に日本國民に新文化を與へ、戰爭を抛棄した反射作用としての文化と平和と國民平等の精神を深く吹込むことが、最も要望せられることであると信ずるのであります 第三に主權在民の思想と明文が憲法の中に明かにせられたのであります、然らばそれと同じやうな精神、且つそれから出まする所の各種の條項が、均齋を保つて憲法の中に規定されなければならないと思ふのであります、一面に於ては主權在民であるが、一面に於ては尚ほ封建的な色彩を持つて居ると云ふやうな事柄や、或は國民の生活權や、國民の勞働權や、休息權や、教育權に缺くる所あり、且つ舊思想の拘束があつたならば、それは跛行的憲法であると云ふことを言はなければならないと思ふのであります(拍手)跛行状態をやめて、眞に均齋の取れたる、整備せられたる憲法として行かなければならないのであります、是に於て初めて國民に魅力を與へ、國民を惹付け、新しき文化を建設する指導力としての憲法が制定せらるると私は信ずるのであります 私は更に進んで第四に、憲法の如き大なる國家の生命であり、國民の本當の眞髓をとろけ出して居りまする所の生命とも言ふべき大法典は、時代に先んじたものでなければならないと思ふのであります、現状に低徊せずして、或は現在の状態を調節する作用を持つよりも、時代に先行し、國民大衆の生活を指導する大きなる理想を掲げた理想法でなければならないと思ふのであります(拍手)其の意味に於て我々の生命を左右し、我々を眞に導いて行かうと致しまする新憲法は理想法でなければならない、是に於て初めて國民を惹付ける力を持つのであります、先程からの御話で色々伺ひましたが、餘りに時代に囚はれ、現状に拘束されて、其の現状を脱することが出來ないやうな心持を持つならば、新時代に對する感覺をなくするに至るのであります、又時代を飛躍して其の歴史的發展又は自然的現實を無視して幾多空想の議論に走るならば、是れ亦國民感情に副はざるものが出來ると思ふのであります(拍手)我々は此の意味に於て眞に現實に即しつつ且つ理想は何處までも高く、其の崇高なる考へを、其の高尚なる理念を我々の目標として、それに向つて進むことは、國民を眞に進取的に導く所の大きな指導力になると云ふことを感ずるものであります(拍手)此の意味に於きまして、憲法は幾多の絆を斷切つて舊習慣に囚はれることなくして、封建的な桎梏を打捨てて、新しき理想に向つて進まなければならないと思ふのであります、眞に民主主義政治を目標とし、それに向つて深き信念を持ち、斷じて窟せざる意氣を以て進むことこそ、新日本の國民に與へられたる重大なる使命であると考へるものであります(拍手) 其の意味に於て私は第五に、然らば理想法たる憲法は如何なる體系に屬すべきものであるか、斯く問はれるならば、私は率直簡明に御答へ致したいのであります、理想法たる新憲法は社會法でなくてはならないと云ふことを信ずるものであります(拍手)敢て本日私は社會法と總括致します、社會法を新しき體系で組立なければならない、太陽の如く憲法を中心とするのであります、星座を作つて附屬法を作る、或は民法の如き人權法、生活法、經濟法、産業法、幾多の法規を星座と致しまして、新しき體系に進んで行かなければならないと思ふのであります、歴史法學に囚はれることなく、自然法學説に囚はれることなく、併しながら之を根底として發展して行かなければならない、新しき發展に向つて行く其の目標は、社會法であることを私は信ずるのであります(拍手)社會法の中に於きましては、國民の生活權利、國民の休息權、國民の教育、國民の生活を向上するものであります、働きさへするならば其の國民は生活をなすことが出來るのであると云ふ國家保障を明かにし、七時間働いて後は休息して宜しいのであり、國民に休息權を與へなければならないのであり、是からの各種の生活法は國民の休息に關する法規を制定すべきであると思ふのであります、我々は善き音樂を聽きたいと思ひましても、良き映畫を見たいと思ひましても、好き劇を鑑賞致したいと思ひましても、中々其の自由は得られないのであります、恐らく勞働者、農民、一般の働く人々は、其の生活に追はれて何等の休息權が與へられなかつたのが、現在に於ける事實であると私は思ふのであります(拍手)憲法は其の不足を補填する爲に、其の足らざる所を充實する爲に、星座の如く繞つて居りまする所の、生活經濟法、産業法を以て之を補填して行かなければならない、勞働調整法は何故に勞働大衆の反撃を買つて居るのでありませうか、冷靜に能く御考へ願はなければならぬと思ふのであります、勞働大衆に信頼を與へることなく、勞働大衆の指導者を信任することなくして、唯單に之を取締る、唯單に之を調整すると云ふかの如き觀念を以て進みますならば、それは反撃を買ふのは當然のことであると私は思ふのであります(拍手)宜しく人間生活に關する生活法規、經濟法規は指導的な立場に立つて、國家は生活指導の方針を明かにすべき必要ありと思ふのであります、一に今後に於ける憲法を生命あらしめ、今後に於ける憲法の活動を生氣あらしめ、眞に民主主義憲法の實を發揮せしむる爲には、周圍を繞つて居りまする各種の法規を十分に充實することが必要であると考へるのであります(拍手)それは諸君に與へられ、且つ我々は共にかを協はして眞に國家の爲に、將來の國民の爲に、又此の憲法を活かす爲に努力しなければならないと云ふことを私は感ずるものであります(拍手)大きなる責任と、大きなる責務が我々に與へられて居ると云ふことを私は考へるのであります、之を以て新憲法を活かして行かなければなりませぬ、以上の如く民主化徹底の爲に我々は努力して行かなければならないと云ふことを申上げて、委員長報告に贊成の意思を表明致す次第であります(拍手)○議長(山崎猛君) 林平馬君  〔林平馬君登壇〕○林平馬君 私は協同民主黨を代表致しまして本案に贊成の意を表したいと思ひます、帝國憲法改正案は少からず國民感情を痛め、我々の伝統精神を悲しましめるものがないでもありませぬ、併しながら日本が踏み迷へる過去の大いなる過ちを懺悔し、且つ日本の只今のあり方を深く認識致し、仍て以て日本が現在の世界情勢の中に善處して、將來の光明を辿らんとする爲には、蓋し最善のものであると了解するものであります(拍手)又日本は戰爭に依つて失ふ所が餘りに多いのでありますが、此の新憲法こそは、實に慘憺たる戰禍の中から拾ひ上げ、築き上げたる唯一の、而も最大のものであることを痛感するのであります(拍手)私は斯かる意味合に於て、ここに最も嚴肅なる態度を以て新憲法案に贊成の意を表する次第であります 偖て、今少しく立入つて贊成の趣旨を述べたいと思ひます、其の第一點は、新憲法は現行憲法に比べまして大權事項が頗る縮小されて居るのでありますが、是は民主主義傾向の強化を圖れとの御聖旨に應へる所以であると共に、累を皇室に及ぼす原因を芟除する點に於て贊成するものであります 第二點と致しましては、戰爭抛棄の點であります、惟ふに戰爭は人間行爲中の最惡のものであります、又平和は最善のものであります、而して宇宙間に同一の場所に於て同時に二つの物體の存在を許されないと同樣に、人間は戰爭と平和の二つを持つことは許されない筈であります、隨て軍備を伴ふ平和は脅迫的平和であつて、眞の平和とは申されませぬ、此の原理を無視し或は錯覺して、軍備を以て平和を獲得せんとするが如きは人類共通の錯誤であると信じます、然るに我が國は敗戰の大試錬を經て、ここに敢然として平和の途を選び、軍備を放擲し得たことは、誰が何と批評しやうとも實に神に對して光榮を感ずるものであります 第三點と致しましては、新憲法に依つて國民の權利が大いに擴充されたことであります、即ち國民の基本的人權は大いに確保され、其の質、其の量、共に法律を以ても尚ほ侵されぬこととなつたことは、國民生活を大いに明朗化するものとして特に喜ばしい次第であります 第四點としては、新憲法は三權を完全に分立せしめた上に、立法權を最高のものとして、其の下に行政權と司法權とを竝べた形と致し、議會政治の水準を最高度に引上げたことは一大飛躍であると共に、民主主義政治を實行する上に最も喜ばしい變化と言はなければなりませぬ(拍手) 第五點と致しましては、華族其の他の貴族特權制度を全廢したことであります、自由平等の民主主義政治の發達を阻碍して來たものの一つは、實に特權的貴族階級の存在であつたことは詳論を俟たざる所であります(拍手)併しながら長い間封建的坩堝の中で鋳固められたる日本國民としては、此の貴族制度を廢止することは頗る至難と見られた所であるにも拘らず、期せずして各黨各派が一致して華族存續の原案を削除したことは、最も欣快とする所であると共に、如何に日本國民が脱皮性に富み、新時代に突入する勇氣に富める國民であるかを立證して餘りある次第であります、恐らく世界諸國民の賞讃を博するに足るものであると信ずるものであります 以上要するに、此の新憲法は民主主義政治を行つて「ポツダム」宣言に應へる爲には十分整つた憲法なりと信じます、併しながら唯條文のみが如何に立派に羅列され、又如何に雄渾なる文字を以て書き表はされても、之を實行する人々の心が眞に民主主義に脱皮しなければ完遂を期することは出來ませぬ(拍手)然るに由來我が國に於て民主主義の發達を阻碍して來たものは、實に軍閥と官僚であることは何人も御異存のない所でありませう、今や其の軍閥は一掃されて寸影をも留めぬに至つたのでありますが、官僚は依然として殘存して居るのであります、若し官僚にして其の非を飜然として悔悟し、免れて恥なき態度を根本的に改めて大幅の脱皮をすることがないならば、我が國に於ける民主主義政治の完成は遂に不能に陷り、本改正憲法も或は一片の反古に歸する虞なしとせぬのであります(拍手)就ては常に官僚公務員の總元締の任にある政府當局は、深く思ひをここに致し、須く最も有效適切なる手段を講ぜられんことを強く要求するものであります(拍手) 尚ほ私は此の際戰爭抛棄に關聯して、少しく所見を述べて見たいと思ひます、凡そ國家の正義と安全を保障する爲には軍備なかるべからずとすることは、世界共通の原則とされて來たのであります、然るに今我が國は敢然として此の原則を捨てて軍備を放擲するには、何か軍備に代るべきものがなければならないのであります、言ふまでもなくそれは軍備以上の極めて逞しき思想でなければなりませぬ(拍手)又其の裏付けなくしては、斯かる空手の術が永續するものとは到底思はれませぬ、さらば我が國には果して軍備に代る偉大なる思想があるかどうかと申しますと、幸ひなる哉大いにあるのであります、世間動もすれば日本には思想がないと云ふ人もあるが、當らざるも甚だしいと思ひます、實は餘りに大きい存在である爲に、人々皆見落して居るのであります、即ち科學的、文獻的體系こそはないが、二千六百年實踐躬行の中に底深く流れて來た民主思想であります、今其の淵源を繹ねるならば、神武天皇が建國の初めに當り、正しきを養ひ、慶びを積み、暉を重ねることの大道を立て、殊に苟くも國民の爲になることであるならば如何なることをしても宜しいと、極めて率直大膽に民主主義の大本を宣言せられたのであります、ここに淵源を發し、由來歴代の天皇は能く此の思想の光を絶やすことなく承け繼がれ、國民の福祉を御軫念せられることのみを天職とせられたのであります、名利榮達や、貪欲野心を包藏して即位せられた御方は一人もなく、全く國民への終生奉仕の爲であります、此の民主的奉仕の思想と實踐とが、實に二千六百年の久しきに亙つて、皇室の承繼が出來た所以であり、將來又永遠に御安泰を豫想せられる所以であると確信致します(拍手)即ちここに淵源を發し、我が國に於ける奉仕的國民思想となり、實踐倫理となつて參つたものであると私は深く信ずるものであります、又此の奉仕の思想と、其の實踐程、國家社會に潤ひを與へるものはないのであります、而して世界永遠の平和を如何にして達成するかと言ふに、此の奉仕思想の實踐躬行を基盤とする以外にはあり得ないと信じます、即ち全人類が全人類に相互に奉仕すると云ふ實踐倫理以外に、世界平和の途は斷じてないのであります、又平和を眞に愛好する民族でなくては、奉仕の思想は持ち得ないのであります、故に我が國民こそが眞に平和愛好の國民であることは、此の天皇思想が一貫して國内に滿ち流れ、且つ實踐躬行されて來た事實に依つて明白であります(拍手)我々は今ここに世界の光は何處より發するかの豫言を聽かんとするよりも、如何なる條件の下に發生するかを考察することが最も緊要であると信じます、人或は偉大なる哲人の現はれることに期待を掛けて居る者もありますが、人類の歴史に徴するに、釋迦、孔子、「キリスト」「マホメット」を初めとし、「ソクラテス」「プラトン」「ルーテル」「カント」或は「タゴール」「トルストイ」等々、哲人の數は必ずしも少しとは致しませぬ、然るに永遠の平和は今に尚ほ招來しないのであります、殊に「カント」の永遠の平和を説いて既に百數十年を經過するにも拘らず、戰爭は益益擴大し、且つ其の方法は益益苛烈を極めるのみであります、仍て惟ふに、軍備を擁しての平和論は、結局擬裝平和の押賣か、然らずんば平和解説の域より一歩も前進するものではあり得ないのであります、斯く觀じ來る時、永遠の平和創造の方法としてここに殘されたる唯一の手段は、眞に平和的大理想を持ち、且つ眞に戰爭を忌み嫌ふ民族が、率先軍備を撤廢して、平和の使徒となるにあると信じます 飜つて我が國民は、今申した通り奉仕を最高の道徳なりとする實踐道徳を所有する國民であり、且つ沁々戰爭の悲慘と罪惡とを體驗したる結果、ここに率先軍備の放擲を宣言するに至つたことを思ふ時、光は正に日本よりと申すべきであります、唯ここに考へさせられることは、日本國民は新憲法に基き、崇高なる理想の下に軍備を放棄するのでありますけれども、其の結果として、如何なる弱小國家よりも侵される脅威を感ぜずには居られない状態に置かれる次第であります、併しながら此の點に付ては、平和を熱望する世界諸民族の公正と信義に深く信頼せんとするものであります、「カント」の平和論を見るのに、我々人間が居住し得る場所は此の地球上に限られて居る、即ち人間は總て住家を同じうする一種の共同團體である、隨て共同生活の理念は、地球上の全人類全體の關係を支配するもので、一部の國民の勝手な恣意私欲に依つて、共同生活の理念を破壞されんとする場合には、相互に抑制し合はねばならない、又人間は如何なる場所に居住するも、そこで危險な行爲さへなくば、人々より厚遇を受ける權利があると論じて居るのでありますが、眞に其の意を盡して居ると言はねばなりませぬ、又「カント」は永遠の平和論の一節に、講和の場合に於て肝要なことは、眞の平和は一切の敵意の終熄に依つて初めて得られるものであるから、平和條約は交戰國相互の敵意を全然一掃する内容のものでなければならぬ、即ち將來の戰爭の禍根を藏する休戰的意思を留めてはならないと論じて居るのでありますが、是れ實に肯綮を衝いたものと言はねばなりませぬ、此の點に付ては既に軍備を放擲した我が國に對して、來るべき講和條約の締結に際し、聯合國の公正にして聰明なる態度に我々は全幅の信頼を繋ぐ次第であります(拍手)人類歴史あつて以來凡そ國を成すものが、一切の軍備を放擲して、世界平和の一路を辿るべき必然的の覺悟を憲法に示した國家のあるを聞かぬのであります(拍手) 隨て我々國民の此の偉大なる決意の發足は、實に人類未曾有の冒險的試驗と言はねばなりませぬ(拍手)而して之を成功せしめるか否かは、一に懸つて人類に平和の有無を決するものでありますから、眞に平和を熱愛する世界人は、日本の此の超國家的試驗をば成功せしめる義務ありと信ずるものであります(拍手)而して「カント」の法理的平和論に加ふるに、日本の協同原理を含む奉仕思想を以てするならば、不可能とせられる世界永遠の平和は、必ずや完成し得るものなりと固く信ずるものであります(拍手)然るに此の憲法に盛られた大理想が、若しも失敗に終ることともならば、何れの國か又軍備を放擲するものがありませう、却て益益軍備の擴充強化を理論付け、人類より永遠に平和の二字を削除されるに至るであらうことを深く憂慮するものであります、仍て眞の平和を確立して、人類の壞滅を永久に救はんとする日本の此の崇高なる希求に基く新發足に對しては、世界諸國民は批判的又は見物的態度より、百尺竿頭一歩を前進せしめて、共同事業的熱意を以て支援せられんことを私は切望して已みませぬ(拍手) 最後に私の頗る深憂禁ぜざるものは敗戰國の共通現象の一つである國民思想の弛緩頽廢であります、就中、中堅青年層が次第に質實性を失ひつつある現状を深く悲しむものであります(拍手)凡そ青年の特質は、將來の希望が生命であるにも拘らず、今日の國情に於ては其の希望が持ち得ない、加之極度の食糧難、就職難、生活難等々より見るならば、青年層が次第に蝕まれて行くことは必然的現象であつて、決して無理とは思ひませぬ、併し我々は如何に考へて見ても、日本の犯した戰爭の責任は免れることが出來ぬのであります、其の爲には國内諸般の建直しを必要とするは勿論、國際間に伍しては、此の憲法の示す通り世界平和建設の一翼を率先して擔はなければならないのであります、斯かる難局の、さうして大事業の第一線に立つものは實に青年層でなければならぬことを思ふ時に、青年層が理想を失つて、刹那的享樂主義に走り、淫蕩堕弱に傾き、國内の風紀が紊れ、爲に國民全體の氣魄が昏迷に陷るに至つたならば、我が國の運命は如何でせう、私は新憲法の活殺權は實に日本の青年層に握られてあるとさへ信ずるものであります(拍手)故に私は一面青年層の一大奮起を要望すると共に、一面政府に對して此の際極めて有效適切なる青年層對策を樹立して、新憲法實施と相呼應せられんことを要望して已みませぬ(拍手)以上を述べまして、私は衷心より新憲法案に贊成の意を表する次第であります(拍手)○議長(山崎猛君) 大島多藏君  〔大島多藏君登壇〕○大島多藏君 新政會を代表致しまして、憲法改正案に對しまして全面的な贊意を表することを私は光榮に存ずる次第であります(拍手) 「フランス」の文豪「ヴィクター・ユーゴー」が、其の著「レ・ミゼラブル」の中に於て斯う云ふことを申して居ります、神が人の善し惡しを試さんとする時には、先づ其の人物を艱難の坩堝の中へ投ずる、若しも其の人物が價値のある人物であつた場合には、其の人は其の艱難の坩堝の中から、半ば神の如き神々しい所の姿となつて現はれて來る、之に反しまして、若しも其の人物が價値のない所の人物でありましたならば、目も當てられないやうな慘めな姿となつて現はれて來る、斯う申して居ります、此のことは、神が人物の善し惡しを試さんとする時だけではなしに、國家を試さんとする時も同樣であらうと思ふ次第であります(拍手)今や我が國は敗戰と云ふ所の此の艱難の坩堝の中へ投ぜられて居る次第であります、此の敗戰と云ふ所の艱難の坩堝の中から、果して我が國が如何なる姿となつて現はれて來るであらうか、我々國民は齋しく神の如き神々しい所の姿となつて現はれて來ることを念願する次第であります(拍手) 飜つて日本の現状を見ますと、經濟混亂其の極に達し、道義亦地を拂ひ、思想渾沌として歸一する所を知らず、眞に憂ふべき現状にある次第であります、此の時に當りまして緊急を要する所の幾多のことがある譯でありますが、其の中でも最も急を要することは、依て以て國民が向ふべき所の明確なる所の方針を示して、さうして如何なる方向に向つて我が國を建直して行くかと云ふことを示すことである、此の見地から致しまして、此の度改正案が提案されましたことを、私は最も時宜を得たる所の措置だと考へる次第であります、中には此の憲法制定は其の時期にあらずと論ずる人もありますが、私はさう云ふ人達の眞意が那邊にあるか了解に苦しむ次第であります(拍手)早急の間に今次の改正案が立案されましたので、且又此の議會に於きまして十分なる所の愼重審議を凝らすことが出來なかつた爲に、若干の不滿な點はある次第でありますが、併しながら私は大體次に述べます所の三つの點から、全面的に贊意を表したいと思ふ次第であります 第一は天皇制の問題でありますが、從來の天皇制の規定は、形式と内容とが必ずしも相伴ひませぬで、それが爲に所謂袞龍の袖に隠れて、軍閥、官僚其の他の者が自己の野望を恣にする餘地が殘されて居つた次第であります、今次の改正案に於きましては、此の形式と内容とが適當に調和されまして、天皇の權限廣きに失せず、狹きに亙らず、洵に私は中庸を得た規定であると考へる次第であります、中には大幅な今次の改正を目しまして(「簡單々々」と呼ぶ者あり)國體の變革ありと、斯う云ふ風に論ずる人もありますが、私は決してさう思ひませぬ、懇切なる金森國務相からの今議會に於ける御説明の通り、我々國民の心の中に於きまして、我々國民の心の繋がりに於きまして、我々國民の憧がれの中心と致しまして、天皇を中心と致しまして團結をする所に立派に我が國體は護持せられて居ると確信する次第であります(拍手)是れ贊成の第一理由であります 次に戰爭抛棄の問題でありますが、人類の永遠の理想、最高の理想と云ふものが戰爭なき、鬪爭なき所の國際社會の實現にあると致しますれば、我が憲法に於きまして敢然と致しまして此のことを萬國に先駈けて規定致しましたことは、洵に我々國民として誇りとする所であります、中には此の規定を目しまして敗戰國の泣言みたやうな規定である、斯う云ふ風に評する人もありますが、此の永遠の平和と云ふものが、戰爭なき所の國際社會の實現と云ふものが、人類最高の理想である限りに於きまして、私は列國に先駈けて力強く國民的信念を持つて、高らかに全世界に向つて宣言致しますことは、洵に當を得たる所の處置だと考へるのであります(拍手)是れ贊成の第二の理由であります 次に凡ゆる特權階級的存在を拂拭致しまして、人種の如何を問はず、身上の如何を問はず、男女の別を問はず、且又社會的地位の如何を問はず、完全なる所の國民全體の平等なる基盤の上に、新日本民主主義國家として、基本的人權の尊重と云ふ大黒柱を打建てましたことは、我々國民として同慶に存ずる次第であります(拍手)是れ贊成の第三の理由であります、此の三つの理由から致しまして、私は今次改正案に對して滿腔の贊意を表する次第であります(拍手) 最後に唯一つ附加へて置きたいことは、我が新政會と致しましては、民主的文化國家日本を建設するには教育の尊重以外にあるべからずと云ふ其の建前から致しまして(拍手)此の新憲法に於きまして一章を設けまして、教育の自主性、教育の獨立性、即ち他の外部の力に依つて教育の根本理念、根本方針と云ふものが歪められないやうに致したいと考へた次第であります、併し此のことは實現を見なかつた次第でありますが、議員諸君の同情ある御理解と、政府當局の御協力と、國民の政治的自覺の向上に依りまして、此の懸念が單なる杞憂に終らんことを私は念願する次第であります(拍手)御清聽を感謝致します(拍手)○議長(山崎猛君) 田中久雄君  〔田中久雄君登壇〕○田中久雄君 私は無所屬倶樂部を代表致しまして、政府提出憲法改正案に對し、委員會に於て修正せられました芦田委員長報告の通り修正せる改正案に贊成するものでありますが、既に各黨代表の諸君に依つて凡ゆる角度より討議せられましたので、ここに重複を省略致しまして、極めて簡單に贊成の理由を申述べたいと存じます(拍手) 「ポツダム」宣言は勿論、之に關聯して聯合國側より發せられます所の各種の命令文書に對しましては、我が國政府は之に服從し、之を履行する義務を負うて居ることは勿論でございます、而して「ポツダム」宣言の中、第一に軍國主義を駆逐して永久平和を實現すること、第二に我が國を誤らしめた封建勢力を駆逐すること、第三に民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障碍を除去し、以て民主主義原理の具現をなすこと、第四に言論、宗教、思想等一切の自由を保障し、基本的人權の尊重を確保すること、此の四點が憲法改正に關係を持つ所の宣言の内容であります、而して憲法改正の方向は、正に此の四つの事項を自主的に自律的に且つ積極的に實施することが出來得るやうに改正の行はれて行くことが絶對に必要であります そこで本案を見まするに、本案は其の第二章第九條に於て、國權の發動たる凡ゆる場合の一切の戰爭を全面的に抛棄するのみならず、國際紛爭を解決する手段として、武力を示して威嚇をしたり、武力を行使するが如きことは一切之を抛棄すると規定し、曾て世界人類史上に前例を持たざる全面的且つ永久的の戰爭放棄を規定し、以て平和主義の徹底的確立に貢獻し、此の信念に立脚して、陸海空軍其の他の戰力は之を保持することを許さずとする、軍國主義駆逐の根本規定を設けて居るのであります、即ち「ポツダム」宣言第六項の軍國主義の駆逐竝に永久平和の確立と云ふ原則を遺憾なく貫いて居ることは、私が此の案に贊成致します第一の理由であります 第二に本案は貴族院を廢止致して居ります、貴族院に付きましては、之に類する參議院を設けたるが如き外觀を呈して居りますが、參議院は貴族院の如く全國民の一般選擧に依らざるものとは異なり、衆議院同樣全國民より選擧せられたる議員を以て構成し、何等貴族院の如き封建的勢力の代表機關たる特質を有せざることは、既に明白な所であります、本案が斯かる特質を有する貴族院を全廢すると共に、同じく重臣其の他特權階級の封建的勢力の温床になると見られて居りました枢密院制度を全廢することに依つて、封建的勢力の根絶を期して居りますことは、眞に忠實に宣言事項を實現せんとする努力の現はれであると信じます(拍手)是れ私が本案に對して贊成する第二の理由であります 次に第三に、本憲法案の前文に於きましては、「ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の崇高な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受するものである。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基く。」と規定し、延いて國民總意至高の原理とも云ふべき民主主義原理の確立を宣言し、以て民主主義的傾向の復活強化に努めて居るのであります、而して本案は其の前文に於て此の民主主義的原理の宣言を行つて居るに止まらず、改正案本文に至つては、殆ど其の全條章に亙りまして、國民總意至高の原理を貫いて居ることは洵に明かであります、第一條に於きまして、天皇の御地位は主權の存する日本國民の總意に基くと規定せられて居り、又第二條に於て皇位の繼承は皇室典範の定める所に依る、而も新しい皇室典範は舊來の如く皇族會議と枢密院の議を經ることを許さず、法律同樣國會に於て之を議決することを定めて居ります、是れ何れも國民總意を至高とする原理の具現であることは何等の説明を要しませぬ(拍手)第三に議院制度は二院制度を採り、參議院の構成を衆議院同樣、全國民から選出せられたる議員を以て組織することを規定致して居ります、第四に内閣總理大臣は國會議員の中から國會の議決で之を指名することとし、國務大臣の過半數は國會議員の中から選ばれることを規定致して居ります、第五には、又第四十一條に於て、「國會は、國權の最高機關であつて、國の唯一の立法機關である。」と規定し、行政機關たる内閣、司法機關たる最高裁判所に對し幾多優位なる地位を與へ、以て國權の最高機關たる實を與へて居るのであります、是等の規定も、申上ぐるまでもなく國民總意の至高の現はれであると言ふべきものであります、更に第六には、最高裁判所の裁判官に對して國民が其の罷免權を持つことが規定せられ、第七には、公務員に對する選定權と罷免權を國民固有の權利として第十五條に規定致して居ります 第八には、地方自治に關して都道府縣の長官、市町村長の地方住民に依る直接選擧を規定致して居ります、是等の規定は國民竝に地方住民の總意を至高なりとする大精神の顯現に外ならないと存ずるのであります(拍手)第九に最も重大なることは、將來此の憲法を更に改正するの必要ある場合は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が之を發議する、さうして特別の國民投票に依つて、其の過半數の贊成を得ることと規定して、斯くて改正が成立致しました場合は、天皇は國民の名で此の憲法と一體を成すものとして直ちに之を公布すると規定致して居ります、憲法改正の如き重大なる國事に、國民總意至高の原理を適用致して居りますことは、洵に當然のことと言はなければなりませぬ、以上申述べました九項目に亙る幾多の規定の内容は、是れ悉く民主主義原理の現はれであつて、日本民主化の具體的大方針を定めるものであると信ずるのであります、是れ私が本案に贊成を致します第三の理由であります 更に本案は第三章第十條以下四十條に至りますまで、三十一箇條に亙りまして、實に詳細なる國民の自由と權利を擁護する爲の規定を設けて居ります、舊憲法に於きましても幾多の國民の權利を擁護する規定は設けて居りましたが、是等の規定は信教の自由に關する唯一つを除きましては、悉く法律に依つて制限することが出來たのであります、然るに新憲法に於きましては、公共の福祉に反せざる限りに於て、ここに規定する幾多の自由と權利は、法律に依りましても永久に斷じて侵害することを許さぬ旨を規定し、以て國民の權利は永久不可侵なりとの原則を其の全章に亙つて規定致して居るのであります(拍手)此の素晴らしい人權宣言とも謂ふべき規定の内容は、政府の「ポツダム」宣言に對する眞に忠實なる履行の決意の現はれであると信ずるのでありますが、是れ私が本案に贊成をする第四の理由であります 諸君、凡そ一國の憲法が制定せられ、又改正せられました歴史を見ますると、其の多くは古き支配者を拜して、新しき力を得ました人達が、將來此の力を再び覆されることを防ぐ爲に、ここに既に得たるものを動かざるものとして規定致して居るのでありますが、我が國の今度の憲法政正は、未だ何ものも得て居ないのであつて、唯之を將來に實現せんとする理想を法文化して居るのに過ぎないのであります、詰り綺麗ではありますが、實ではありませぬ、花であつて實ではないのであります、日本國民は憲法が良くなつたからと言うて、安心すべきではなく、其の成果は寧ろ將來全國民の撓まざる努力に依つてのみ初めて羸ち得るものであることを自覺しなければなりませぬ(拍手)最後に一言申上げます、我が國は今や戰爭を抛棄して、世界人類の最高理想を憲法に定め、日本民族の安全と生存を擧げて世界諸國民の公正と信義に委ねんとするのでありますが、我々は果して如何なる生活を續けて行くべきかであります、詰り一切を棄てて素つ裸になつたと云ふことは、燃え盛る火の中に蓮華の花を咲かすやうな實に大悲願であつて、此の實現には我々日本國民が個人としても、國家としても己の權利を主張する前に、先づ他の權利を尊重するの心掛が要る、更に進んでは世界平和、他の平和と幸福の爲に己を捧ぐるの高い宗教的生活を持たなければならないのであります、奪ひ合ひ、呪ひ合ひの生活、即ち戰爭の原因となる生活を捨てて、讓り合ひ、助け合ひ、拝み合ひの生活、即ち懺悔の生活ら持つ民族となります時に、初めて剣も立向ひ得ざる權威が現はれ、戰爭抛棄の大理想が實現するのであります(拍手)幸ひにして我が國は既に四十餘年に亙つて斯う云ふ懺悔の生活をして居る人々があり、戰爭前に「アメリカ」の一女性に依つて此の事實は賞讃をせられて居るのであります、我々は之を見ます時に、日本民族の將來は正に泰然自若たるものが其の中から生れると信じます、斯くて將來我が國に續いて敗れた國も、勝利を得た國も共に戰爭を抛棄する時代が生れます時には、此の戰爭は人類永遠の平和を招來する爲の戰爭であつたのであり、犬死をしたと思はれた幾百萬の英靈は、眞に尊い世界平和實現の爲の犧牲となつて生き還つて來るのであります(拍手)私は我々の犯した過誤を、生活を通じて懺悔し、以て之を償ひ、我々の子孫と世界人類の永遠の平和の爲に貢獻すべき勇氣と歓喜を新たに致しまして、本案に贊成を致します(拍手)○議長(山崎猛君) 是にて委員長の報告に對する討論は終局致しました(拍手)採決致します、本案は委員長報告の通り決するに贊成の諸君の起立を求めます  〔贊成者起立〕○議長(山崎猛君) 七名を除き其の他の諸君は全員起立、仍て本案は委員長報告の通り三分の二以上の多數を以て可決致しました、是にて本案の第二讀會は終了致しました(拍手)    ━━━━━━━━━━━━━○山口喜久一郎君 直ちに本案の第三讀會を開かれんことを望みます○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませぬか  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに本案の第三讀會を開き議案全部を議題と致します     ――――◇――――― 帝國憲法改正案            第三讀會○議長(山崎猛君) 是より第三讀會の採決を致します、此の採決は記名投票を以て之を行ひます、本案を第二讀會議決の通り決するに贊成の諸君は白票、反對の諸君は青票を持參せられんことを望みます――閉鎖――議席第一番より順次投票せられんことを望みます  〔各員投票〕○議長(山崎猛君) 投票漏はありませぬか──投票漏はありませぬか──投票漏なしと認めます──投票函閉鎖──開匣──開鎖  〔書記官投票の數を計算〕○議長(山崎猛君) 投票の結果を書記官長より報告致させます  〔大池書記官長朗讀〕 投票總數 四百二十九  可とする者 白票 四百二十一  〔拍 手〕  否とする者 青票     八  〔拍 手〕○議長(山崎猛君) 右の結果本案は第二讀會議決の通り三分の二以上の多數を以て確定致しました  〔拍 手〕    ━━━━━━━━━━━━━  〔參照〕   本案を第二讀會議決の通り決するを可とする議員の氏名   安部俊吾君  青木孝義君   芦田均君  荒船清十郎君   有田二郎君  井田友平君   井上卓一君  伊藤郷一君   飯國壯三郎君  石井光次郎君   石原圓吉君  磯崎貞序君   稻田直道君  稻葉道意君   今井はつ君  岩本信行君   上塚司君  上原悦二郎君   内海安吉君  江崎眞澄君   江藤夏雄君 小笠原八十美君   小川原政信君  小澤佐重喜君   小野眞次君  小野孝君   大井直之助君  大石倫治君   大内一郎君  大塚甚之助君   大野伴睦君 大久保留次郎君   加藤一雄  加藤宗平君   加藤睦之介  花月純誠君   片岡伊三郎君  上林山榮吉君   神田博君  河原田巖君   河西清君  木島義夫君   木村公平君  木村チヨ君   木村義雄君 菊池長右エ門   北れい吉君  北浦圭太郎君   栗山長次郎  小池政恩君   小島徹三君  小柳冨太郎君   厚東常吉君  古賀太郎君   近藤鶴代君  左藤義詮   齊藤行藏君  坂田道太君   坂本實君  鹽月學君   庄司一郎君  島村一郎君   杉田一郎君  杉田馨子君   鈴木仙八君  鈴木平一郎君   世耕弘一君  田中源三郎君   田中重弥君  田中實司君   田邊讓君  高橋英吉君   高橋泰雄君  瀧澤脩作君   瀧清麻吉君  竹田儀一君   武田キヨ君  武田信之助君   塚田十一郎君  辻寛一君   圓谷光衞君  寺尾豐君   殿田孝次君  苫米地英俊君   中島守利君  中野武雄君   中野寅吉君  夏堀源三郎君   西村久之君  葉梨新五郎君   花村四郎君  林讓治君   服部岩吉君  原侑君   板東幸太郎君  廿日出厖君   樋貝詮三君  廣川弘禪君   平塚常次郎君  深津玉一郎君   渕田長一郎君  古島義英君   本多市郎君  本田英作君   星島二郎君  細田忠治郎君   牧野寛索君  益谷秀次君   松川昌藏君  松永佛骨君   三浦寅之助君  三ツ林幸三君   水田三喜男君  水口周平君   村上勇君  森幸太郎君   森曉君  森崎了三君   森田豐壽君 山口喜久一郎君   山口好一君  山田善三君   山本勝市君  山本正一君   山村新治郎君  八重樫利康君   矢野庄太郎君 藥師神岩太郎君   横田 清藏君  亙四郎君   綿貫佐民君  逢澤寛君   青木泰助君 青木清左ヱ門君   天野久君  有馬英二君   井上知治君  飯島祐之君   犬養健君  荊木一久君   馬越晃君  江川爲信君   江部順治君  小川半次君   小笹耕作君 小野瀬忠兵衞君   大久保傳藏君  大島定吉君   太田秋之助君  岡部得三君   加藤高藏君  神戸眞君   川崎秀二君 木村小左衞門君   北村徳太郎君  九鬼紋十郎君   小池新太郎君  小林かなえ君   古賀喜太郎君  五坪茂雄君   齋藤隆夫君  齋藤てい君   佐藤久雄君  佐伯忠義君   白井秀吉君  白木一平君   柴田兵一郎君  椎熊三郎君   鈴木明良君  鈴木強平君   鈴木周次郎君  菅原エン君   菅又薫君  關根久藏君   關谷勝利君  田中萬逸君   瀧澤濱吉君  橘直治君   竹内歌子  地崎宇三郎君   佃良一君  津島文治君   坪川信三君  寺島隆太郎君   寺田榮吉君  苫米地義三君   中川重春君  中山たま君   中村又一君  仲川房次郎君   長尾達生君  長野長廣君   成島勇君  西山冨佐太君   原健三郎君  原捨思君   原夫次郎君  林聯君   林田正治君  日比野民平君   一松定吉君  平野増吉君   舟崎由之君  降旗徳彌君   保利茂君  星一君   細川八十八君  堀川恭平君   本間俊一君  本名武君   松岡運君  松田正一君   宮原庄助君  宮前進君   宮澤才吉君  武藤嘉一君   武藤常介君  村井八郎君   村島喜代君  最上英子君   森山ヨネ君  八木佐太治君   八坂善一郎君  山口光一郎君   山崎岩男君  山下春江君   山田悟六君  吉澤仁太郎君   吉田安君  早稻田柳右エ門君   荒畑勝三君  井伊誠一君   井上良次君  伊藤卯四郎君   石川金次郎君  今村等君   上田清次郎君  氏原一郎君   及川規君  大澤喜代一君   大矢省三君  岡田春夫君   奧村又十郎君  加藤勘十君   加藤鐐造君  片山哲君   叶凸君  金子益太郎君   金井芳次君  川島金次君   菊地養之輔君  清澤俊英君   黒田壽男君  佐竹晴記君   榊原千代君  澤田ひさ君   澁谷昇次君  島田晋作君   須永好君  杉本勝次君   鈴木茂三郎君  鈴木義男君   田中健吉君  田中松月君   田原春次君  田萬廣文君   田村定一君  高津正道君   高瀬傳君  竹内克己君   竹谷源太郎君  棚橋小虎君   玉井潤次君  辻井民之助君   堤隆君  土井直作君   冨吉榮二君  堂森芳夫君   中崎敏君  中原健次君   中村高一君  永江一夫君   永井勝次郎君  西尾末廣君   西村榮一君  新妻イト君   野溝勝君  長谷川保君   林虎雄君  林田哲雄君   原彪之助君  平野市太郎君   平野力三君  藤田榮君   細田綱吉君  細野三千雄君   松澤兼人君  松澤一君   松本七郎君  松本淳造君   松永義雄君  松岡駒吉君   松尾トシ君  前田榮之助君   正木清君  町田三郎君   水谷長三郎君  宮村又八君   武藤運十郎君  森三樹二君   森戸辰男君  森本義夫君   山崎道子君  山口靜江君   山下榮二君  矢尾喜三郎君   安平鹿一君  米窪滿亮君   米山久君  東隆君   麻生正藏君  伊東岩男君   飯田義茂君  石原登君   今井耕君  井上徳命君   宇田國榮君  大原博夫君   大宮伍三郎君  大橋喜美君   川越博君  川野芳滿君   鹿島透君  香川兼吉君   木下榮君  河野金昇君   越原はる君  駒井藤平君   酒井俊雄君  丹野實君   坪井亀藏君  二階堂進君   原尻束君  林平馬君   林興一郎君  原國君   橋本二郎君  平川篤雄君   平野八郎君  船田享二君   藤本虎喜君  藤井正男君   松本瀧藏君  松本六太郎君   的場金右衞門君  三木武夫君   森由己雄君  山本實彦君   米倉龍也君  赤澤正道君   秋田大助君  安藤はつ君   井上赳君  井出一太郎君   伊藤幸太郎君  伊藤恭一君   池村平太郎君  池上隆祐君   石崎千松君  石田一松君   大谷瑩潤君  大津桂一君   大島多藏君  小川一平君   岡田勢一君  久芳庄二郎君   久保猛夫君  小坂善太郎君   笹森順造君  鈴木憲一君   鈴木彌五郎君  田中たつ君   豐澤豐雄君  中田榮太郎君   仲子隆君  野本品吉君   野村ミス君  早川崇君   疋田敏男君  松原一彦君   丸山修一郎君  増井慶太郎君   山下ツね君  吉田セイ君   米山文子君  井上東治郎君   伊藤實雄君  石黒武重君   大石ヨシエ君  笠井重治君   柏原義則君  菊池豐君   喜多楢治郎君  北政清君   紅露みつ君  小西寅松君   田中久雄君  田中伊三次君   圖司安正君  東井三代次君   戸叶里子君  中野四郎君   中島茂喜君  中山榮一君   布利秋君  福田繁芳君   松谷天光光君  山本武夫君   和崎ハル君  楢橋渡君   三木キヨ子君  否とする議員の氏名   穗積七郎君  細迫兼光   柄澤と志子君  志賀義雄君   高倉輝君  徳田球一君   中西伊之助君  野坂參三君○議長(山崎猛君) 此の際内閣總理大臣より發言を求められて居ります──吉田内閣總理大臣  〔國務大臣吉田茂君登壇〕○國務大臣(吉田茂君) 只今本院に於て憲法改正案が可決されました、ここに政府を代表致しまして一言御挨拶を申述べたいと思ひます 去る六月二十五日憲法改正案が本院に上程せられまして以來、本會議、委員會等を通じ、議員諸君の終始愼重にして熱誠なる御努力は、洵に衷心から敬意を表する次第であります(拍手) 申すまでもなく本案は新日本建設の礎石を築き、世界の平和の先頭に立たんとするものでありまして、本日本草案に贊意を表せられた議員諸君の御演説は、國民の總意を代表するものとして内外に反響を致しまして、新憲法草案の意義特色を内外に更に一層鮮明に諒解せしむるものと確信致しまして、洵に欣快に堪へませぬ(拍手)本案が成立するまでには尚ほ必要な手續を殘して居りまするが、ここに諸君の御努力に對し、感謝の意を表する次第であります(拍手)○議長(山崎猛君) 是にて帝國憲法改正案の審議は終了致しました(拍手)次會の議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します   午後六時三十四分散會     ――――◇―――――  〔尾崎行雄君演説參照〕   憲法案贊成演説の要點(1) 本案は終戰後發表された官民各種の草案よりも、更に一層進歩した良安と信じ、大體に於て贊成。  特に國家的殺人強奪を非認し、その機關たる軍備を禁止したる一點に於ては、世界無双の良憲法と信ず。  之と同時に、國名年號の如きも、之を改め、且つ假名文字で書いても、わかるような、文章にしたいのだが、予自身にも、未だその良案を得ない故、此のままに贊成して置く。然し予一身の私書には、新日本二年制定とかくつもり。諸君に於ては、更に一そう、よい方法を、お考へあらんことを希望する。  實は、現行憲法の如きは、漢文くづしとも稱すべき文章にして、その意義の不明瞭な文句が多い。予らをはじめ、全國大多數の人民が充分に之を理解せずして行動したるがため、遂に建國以來未曾有の國辱を招致してのであらう、もし憲法實施以前に於て、今囘の如き事變に遭遇したなら、薩摩が之を主張すれば、長州は之に反對し、中國が之に贊成すれば、東北は之に反對するが如き状態となり、結局、内亂とはなるも、擧國一致の外戰とはならなかつたらうかも知れぬ。現に西郷、板垣らの征韓論は、内亂とはなつたが、外戰にはならなかつた。  今囘の新憲法は、非常に進歩したものだから、官尊民卑の惡習が骨髓にまで、しみこんでゐる我が同胞には、更に一そう瞭解しにくいに相違ない。これ予が新憲法に滿腹の贊成を表すると同時に、その運用について、從來に幾倍する所の、思慮研究を盡されんことを、切望する所以です。  元來憲法は、人によつて運用されるものだから、人がわるければ、憲法が、いかによく、できてゐても、よい結果を、生ずることはできない。いな、よければ、よいほど、文化の低い人民には、運用し難いのです。  現在の憲法も、決して亡國的惡法ではないが、之を曲解し、惡用し、且つ不當の議院法議事規則、そのたの法令等を以て、その運用を妨げ、遂に今日の國難を招致したのです。(2) 正しき立憲政治の下に於ては、政治の主體は、國民總意の發現所たる議會、即ち立法部であつて、行政部は、むしろその補助機關たるべきはづだのに、憲政が、いまだ充分に發達しない國々に於ては、行政部を以て、政治の主體となし、議會をば、その補助機關となしてゐる。我國の如きもそのお仲間である。  從て、議場の構造、そのた、萬事みなその心もちで、構成されてゐる。議場の一段高い所に、大臣及び政府委員席を設けたるが如きは、その一例である。眞に、議會政治を行はんと欲せば、とりあへず、  (イ) 議場を、改造し、  (ロ) 議院の吏員をば、すべて議長が、選任し、  (ハ) その豫算も、議長が、編成し、  (ニ) 選擧法、議院法、議事規則、その他の議院關係の法令をも、改善し、以て政治の主體たるに、ふさはしき、制度をつくらねばならぬ。  (ホ) 議會、みづから各種の、常設委員を選定しなければならぬ。現在のように行政部から、各種の委員を命ぜられ、之を受諾するが如き、主客顛倒の惡習は、すべて之を廢棄しなければならぬ。  (ヘ) 議長は、とりあへず、行政部の使傭人たるが如き心意を改め、廣く世界の議事制度や、その運用方法を調査せしめ、以て議事法を根本的に、革新しなければならぬ。(3) 議員の心掛革新の必要。 現在の議員諸君は、大體に於て、明治二十三年以來、予らが實行してきた慣例を、踏襲してゐるようだが、これらは、多くは、惡慣例にして、是非とも改善しなければならないものである。  (イ) 明治年間は、大體に於て藩閥の全盛期であつて、かれらは、あらゆる法令、その他の手段方法を以て、議院の發言、その他の權利を抑壓したから、我らは、之を打破して、憲政の根本を確立せんがため、止むを得ず、憲法が許すかぎりの、非常手段を施して、彼らの弱點をついたのです。     餘らが明治年間に、採用した便法は、非立憲的政府の下に於て、止むなく施した非常手段であつて、議事の本體ではない。その證據には、世界何れの文化國にも、我國に行はれてゐるような、議事進行法を實行してゐる所はない。予らが質問の刑式を以て、各種の難題を提げて、政府を苦めたるが如きは、その一例です。  (ロ) 今日は藩閥も軍閥も、みなすでに、倒れて、純然たる、民主國を現出せんとする際なれば、眞誠穩健な議事進行法を採用しなければなりません。(4) わが國民性と群集運動。 世界のひろきも、わが國民ほど、破壞と殺傷のすきな民族はあるまい。  これは、わが國土が、火山國で地震、津波、颱風など、破壞的な天變地異そのたの出來事が頻繁なのに原因するものでもあらうが、よしその原因は、いづれにあるにしても、右の事實だけは、みとめなければなるまい。明治維新以來の、我國の大人物にして、殺傷されず、その天命を、まつたふしたものは、きはめてすくない。  大久保、伊藤、大隈、板垣より、星、原、犬養、濱口、齋藤、高橋、團、井上等にいたるまで、みな殺され、又は殺されかかつた。  こういふ國柄に於て、群集運動をなす者は、平和と秩序について、特別の注意を拂はなければならぬ。冷靜、沈着にして、暗殺等を企てる者のない、英國等に流行する「メイ・デイ」運動なども、これをわが國人がまねる時は、暴動、内亂の原因となる、おそれがある。  すでに民主國となり、議會を以て政治の主體となす以上は、國家の大問題は、すべて議院に於る多數の投票によつて、決めなければならぬ。故に實際政治家の運動は、多數の贊成者を得ることを以て、その目的となさねばならぬ。いかなる名論、卓説も、多數の贊成者を得て、議院で可決されなければ、之を實行することはできない。  しかるに、感情的で激昴し易い、わが同胞は、旗などを立て氣勢をはり、大勢集つて示威運動をする時は、ややもすれば腕力に訴へたくなる。議事堂に於てすら、喧嘩や毆りあひ等をするほどの民族だから、多人數が街頭を行進する時は、自然に大きな聲を出し、腕力をも用ひたくなる。現に各所の大衆運動に於て、流血の慘事を生じたのは、その一證である。その結果は、思慮ある人々をして、厭氣を起さしめ、從て多數の反對者を生じ、肝心の投票を多くうる能はざることになる。且つ結局、暴動、内亂の端緒をひらき、流血革命を促す虞もある。   參考事實(1) 憲法制定の最大目的は、國家人民の幸福安寧を圖るに在り。而して現在は、世界の平和を維持するに非ざれば、此目的を達する能はず。  然るに武力に依て幕府を倒して藩閥政府は、最も武力に重きを置き、皇室制度の如きも、露、獨、墺の三國を手本となし、その憲法を制定するに方つても、武力本位の獨、墺を學んだ。  而して此の三國の皇室は、共に滅亡した。帝室存奉に熱心な人々は、深く此の事實を考慮しなければならぬ。滅亡の覆轍を踐行しつつ、天皇制維持論を主張するものは、深大の考慮を要す。  前囘の世界戰爭には、五、六の國王が滅亡した。 今囘も四、五箇國は、無王の國になるだらう、天皇制、維持論者も、廢止論者も、此らの事實を考慮するを要す。  主權なき國王の位地は、隨分迷惑なものならん。將來人類普通の教育を受け、文藝そのたの嗜好を有する皇族樣方にとつては、皇位につくことは、ずいぶん御迷惑の次第ならんかとも恐察し奉る。儀禮その他無意味のことがらに、多くの時間をとられて、自己天賦の嗜好を研磨する時間を得るあたはざる生活は、決してたのしきものではあるまい。將來は英國前皇帝の如く、皇位を避るものが増加するかも知れない。(2) 藩閥專横の實例一斑。  最初藩閥は薩長土肥の四藩であつたが、後には土肥は脱落して、薩長の二藩となつた。彼等が、その勢力を維持せんがため、主とし用ひた手段方法は、  (イ) 官尊民卑の舊習を維持する事と  (ロ)武力を專有することであつた。陸海軍の元帥は勿論、大將も幾んど全部薩長人、警視總監も明治三十一年の隈板内閣までは、すベて薩人であつた(長州派の土佐人が一度總監となつたかと思ふ。)(3) 現在の吉田内閣は第四十六囘目の内閣だが、此長い間に七八千萬の普通の日本人にして、首相となつたものは、犬養氏一人よりない。他はみな門閥、藩閥、軍閥、官僚閥の人であつた、此弊習を根本的に掃清するに非ざれば、如何なる良憲法を作つても、民主政治を行ふことはできないように思はれる。