1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
明治二十九年三月十八日(水曜日)午前十時五十分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第三十八號 明治二十九年三月十八日
午前十時開議
第一 民法中修正案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第三 獸疫豫防法案(政府提出衆議院囘付) 會議
第四 日本勸業銀行法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第五 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第六 農工銀行法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第七 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第八 農工銀行補助法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第九 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第十 復祿及復族祿の請願 會議
第十一 地價特別修正の請願 會議
第十二 山陽鐵道線延長の請願 會議
第十三 排水器試驗場設置の請願 會議
第十四 軍港及商港設置の請願 會議
第十五 電話施設普及の請願 會議
第十六 郡分合に關する請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=0
-
001・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 昨十七日衆議院ヨリ政府提出銀行合併法案、移
民法案、靜岡縣下郡廢置法律案、岐阜縣下郡廢置及郡界變更法律案、愛媛縣
下郡廢置法律案ヲ受領致シマシテゴザイマス、今一ツゴザイマス衆議院提出、
郡制改正法律案、是モ受領致シマシテゴザイマス、同日丸山作樂根岸武香君ヨ
リ九十三名ノ贊成ヲ以テ神祇ニ關スル官衙設置ノ建議案ヲ發議セラレマシテ
ゴザイマス、酒造稅法案外四件特別委員會ニ於キマシテ委員長ニ子爵谷干
城君、副委員長ニ男爵槇村正直君、輸入棉花海關稅免除法案特別委員會ニ於
キマシテ委員長ニ公爵近衞篤麿君、副委員長ニ田中芳男君當選ニナリマシテ
ゴザイマス、昨日本席ヘ御委託ニナリマシタル各特別委員ヲ選定ニ及ビマシ
タニ依ッテ其氏名ヲ書記官長ヲシテ朗讀致サセマス
〔中根書記官長朗讀〕
會計檢査院法中改正法律案外二件特別委員
侯爵松平康莊君伯爵立花寬治君子爵河鰭實臣文君君
岩村高俊君調所廣丈君男爵菊池武
渡正元君中島永元君諫早家崇君
河川法案特別委員
伯爵大原重朝君子爵小笠原壽長君船越衞君
渡邊千秋君千阪高雅君藤村紫朗君
長谷川貞雄君武井守正君水之江浩君
裁判所ノ設立及位置竝管轄區域ノ變更ニ關スル法律案特別委員
公爵德川家達君伯爵中川久成君子爵伏原宣足君
子爵津 輕承敍君男爵神山郡廉君男爵楫取素彥君
原田一道君兒島惟謙君關田可通君
大阪府下郡廢置法律案外八件特別委員
子爵林友幸君根岸武香君久保田眞吾君
佐藤〓右衞門君大塚永藏君櫻井伊兵衞君
山崎愼三君角田林兵衞君五十嵐敬止君
富山縣下郡分離及廢置法律案外八件特別委員
船越衞君男爵金子有卿君野崎武吉郞君
紫垣伴三君林宗右衞門君水之江浩君
田部長右衞門君山田莊左衞門君中村雅眞君
鐵道敷設法中改正法律案特別委員
箕作麟祥君男爵小澤武雄君名村泰藏君
村田保君馬屋原彰君〓浦奎吾君
山脇玄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=1
-
002・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是ヨリ會議ニ移リマス、本日ノ議事日程第一民
法中修正案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ヲ開キマス、通牒文ノミヲ朗
讀致サセマス
〔有賀書記官朗讀〕
民法中修正案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
明治二十九年三月十六日
衆議院議長楠本正隆
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶殿
〔左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
民法中修正案
民法第一編第二編第三編別册ノ通定ム
此法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治二十三年法律第二十八號民法財產編財產取得編債權擔保編證據編ハ此
法律發布ノ日ヨリ廢止ス
(別册)
民法
第一編總則
第一章人
第一節私權ノ享有
第二節能力
第三節住所
第四節失踪
第二章法人
第一節法人ノ設立
第二節法人ノ管理
第三節法人ノ解散
第四節罰則
第三章物
第四章法律行爲
第一節總則
第二節意思表示
第三節代理
第四節無效及ヒ取消
第五節條件及ヒ期限
第五章期間
第六章時效
第一節總則
第二節取得時效
第三節消滅時效
第二編物權
第一章總則
第二章占有權
第一節占有權ノ取得
第二節占有權ノ效力
第三節占有權ノ消滅
第四節準占有
第三章所有權
第一節所有權ノ限界
第二節所有權ノ取得
第三節共有
第四章地上權
第五章永小作權
第六章地役權
第七章留置權
第八章先取特權
第一節總則
第二節先取特權ノ種類
第一款一般ノ先取特權
第二款動產ノ先取特權
第三款不動產ノ先取特權
第三節先取特權ノ順位
第四節先取特權ノ效力
第九章質權
第一節總則
第二節動產質
第三節不動產質
第四節權利質
第十章抵當權
第一節總則
第二節抵當權ノ效力
第三節抵當權ノ消滅
第三編債權
第一章總則
第一節債權ノ目的
第二節債權ノ效力
第三節多數當事者ノ債權
第一款總則
第二款不可分債務
第三款連帶債務
第四款保證債務
第四節債權ノ讓渡
第五節債權ノ消滅
第一款辨濟
第二款相殺
第三款更改
第四款免除
第五款混同
第二章契約
第一節總則
第一款契約ノ成立
第二款契約ノ效力
第三款契約ノ解除
第二節贈與
第三節賣買
第一款總則
第二款賣買ノ效力
第三款買戻
第四節交換
第五節消費貸借
第六節使用貸借
第七節賃貸借
第一款總則
第二款賃貸借ノ效力
第三款賃貸借ノ終了
第八節雇傭
第九節請負
第十節委任
第十一節寄託
第十二節組合
第十三節終身定期金
第十四節和解
第三章事務管理
第四章不當利得
第五章不法行爲
民法
第一編總則
第一章人
第一節私權ノ享有
第一條私權ノ享有ハ出生ニ始マル
第二條外國人ハ法令又ハ條約ニ禁止アル場合ヲ除ク外私權ヲ享有ス
第二節能力
第三條滿二十年ヲ以テ成年トス
第四條未成年者カ法律行爲ヲ爲スニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ
要ス但單ニ權利ヲ得又ハ義務ヲ免ルヘキ行爲ハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ニ反スル行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得
第五條法定代理人カ目的ヲ定メテ處分ヲ許シタル財產ハ其目的ノ範圍內
ニ於テ未成年者隨意ニ之ヲ處分スルコトヲ得目的ヲ定メスシテ處分ヲ許
シタル財產ヲ處分スル亦同シ
第六條一種又ハ數種ノ營業ヲ許サレタル未成年者ハ其營業ニ關シテハ成
年者ト同一ノ能力ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ未成年者カ未タ其營業ニ堪ヘサル事跡アルトキハ其法
定代理人ハ親族編ノ規定ニ從ヒ其許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ
得
第七條心神喪失ノ常況ニ在ル者ニ付テハ裁判所ハ本人、配偶者、四親等內
ノ親族、戶主、後見人、保佐人又ハ檢事ノ請求ニ因リ禁治產ノ宣告ヲ爲ス
コトヲ得
第八條禁治產者ハ之ヲ後見ニ付ス
第九條禁治產者ノ行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得
第十條禁治產ノ原因止ミタルトキハ裁判所ハ第七條ニ揭ケタル者ノ請求
ニ因リ其宣告ヲ取消スコトヲ要ス
第十一條心神耗弱者、聾者、啞者、盲者及ヒ浪費者ハ準禁治產者トシテ
之ニ保佐人ヲ附スルコトヲ得
第十二條準禁治產者カ左ニ揭ケタル行爲ヲ爲スニハ其保佐人ノ同意ヲ得
ルコトヲ要ス
一元本ヲ領收シ又ハ之ヲ利用スルコト
二借財又ハ保證ヲ爲スコト
三不動產又ハ重要ナル動產ニ關スル權利ノ得表ヲ目的トスル行爲ヲ
爲スコト
四訴訟行爲ヲ爲スコト
五贈與、和解又ハ仲裁契約ヲ爲スコト
六相續ヲ承認シ又ハ之ヲ抛棄スルコト
七贈與若クハ遺贈ヲ拒絕シ又ハ負擔附ノ贈與若クハ遺贈ヲ受諾スル
二十
八新築、改築、增築又ハ大修繕ヲ爲スコト
九第六百二條ニ定メタル期間ヲ超ユル賃貸借ヲ爲スコト
裁判所ハ場合ニ依リ準禁治產者カ前項ニ揭ケサル行爲ヲ爲スニモ亦其保
佐人ノ同意アルコトヲ要スル旨ヲ宣告スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ反スル行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得
第十三條第七條及ヒ第十條ノ規定ハ準禁治產ニ之ヲ準用ス
第十四條妻カ左ニ揭ケタル行爲ヲ爲スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
一第十二條第一項第一號乃至第六號ニ揭ケタル行爲ヲ爲スコト
二贈與若クハ遺贈ヲ受諾シ又ハ之ヲ拒絕スルコト
三身體ニ覊絆ヲ受クヘキ契約ヲ爲スコト
前項ノ規定ニ反スル行爲ハ之ヲ取消スコトヲ得
第十五條一種又ハ數種ノ營業ヲ許サレタル妻ハ其營業ニ關シテハ獨立人
ト同一ノ能力ヲ有ス
第十六條夫ハ其與ヘタル許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得但其取
消又ハ制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者二對抗スルコトヲ得ス
第十七條左ノ場合ニ於テハ妻ハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要セス
一夫ノ生死分明ナラサルトキ
二夫カ妻ヲ遺棄シタルトキ
三夫カ禁治產者又ハ準禁治產者ナルトキ
四夫カ瘋癲ノ爲メ病院又ハ私宅ニ監置セラルルトキ
五夫カ禁錮一年以上ノ刑ニ處セラレ其刑ノ執行中ニ在ルトキ
六夫婦ノ利益相反スルトキ
第十八條夫カ未成年者ナルトキハ第四條ノ規定ニ依ルニ非サレハ妻ノ行
爲ヲ許可スルコトヲ得ス
第十九條無能力者ノ相手方ハ其無能力者カ能力者ト爲リタル後之ニ對シ
テ一个月以上ノ期間內ニ其取消シ得ヘキ行爲ヲ追認スルヤ否ヤヲ確答ス
ヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ無能力者カ其期間內ニ確答ヲ發セサルト
キハ其行爲ヲ追認シタルモノト看做ス
無能力者カ未タ能力者トナラサル時ニ於テ夫又ハ法定代理人ニ對シ前項
ノ催告ヲ爲スモ其期間內ニ確答ヲ發セサルトキ亦同シ但法定代理人ニ對
シテハ其櫂限內ノ行爲ニ付テノミ此催告ヲ爲スコトヲ得
特別ノ方式ヲ要スル行爲ニ付テハ右ノ期間內ニ其方式ヲ踐ミタル通知ヲ
發セサルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス
準禁治產者及ヒ妻ニ對シテハ第一項ノ期間內ニ保佐人ノ同意又ハ夫ノ許
可ヲ得テ其行爲ヲ追認スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ準禁治者又ハ妻
カ其期間內ニ右ノ同意又ハ許可ヲ得タル通知ヲ發セサルトキハ之ヲ取消
シタルモノト看做ス
第二十條無能力者カ能力者タルコトヲ信セシムル爲メ詐術ヲ用井タルト
キハ其行爲ヲ取消スコトヲ得ス
第三節住所
第二十一條各人ノ生活ノ本據ヲ以テ其住所トス
第二十二條住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ト看做ス
第二十三條日本ニ住所ヲ有セサル者ハ其日本人タルト外國人タルトヲ問
ハス日本ニ於ケル居所ヲ以テ其住所ト看做ス但法例ノ定ムル所ニ從ヒ其
住所ノ法律ニ依ルヘキ場合ハ此限ニ在ラス
第二十四條或行爲ニ付キ假住所ヲ選定シタルトキハ其行爲ニ關シテハ之
ヲ住所ト看做ス
第四節失踪
第二十五條從來ノ住所又ハ居所ヲ去リタル者カ其財產ノ管理人ヲ置カサ
リシトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ其財產ノ管理ニ付
キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得本人ノ不在中管理人ノ權限カ消滅シタ
ルトキ亦同シ
本人カ後日ニ至リ管理人ヲ置キタルトキハ裁判所ハ其管理人、利害關係
人又ハ檢事ノ請求ニ因リ其命令ヲ取消スコトヲ要ス
第二十六條不在者カ管理人ヲ置キタル場合ニ於テ其不在者ノ生死分明ナ
ラサルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ管理人ヲ改任ス
ルコトヲ得
第二十七條前二條ノ規定ニ依リ裁判所ニ於テ選任シタル管理人ハ其管理
スヘキ財產ノ目錄ヲ調製スルコトヲ要ス但其費用ハ不在者ノ財產ヲ以テ
之ヲ支辨ス
不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ利害關係人又ハ檢事ノ請求アルト
キハ裁判所ハ不在者カ置キタル管理人ニモ前項ノ手續ヲ命スルコトヲ得」
右ノ外總テ裁判所カ不在者ノ財產ノ保存ニ必要ト認ムル處分ハ之ヲ管理
人ニ命スルコトヲ得
第二十八條管理人カ第百三條ニ定メタル權限ヲ超ユル行爲ヲ必要トスル
トキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ爲スコトヲ得不在者ノ生死分明ナラサル
場合ニ於テ其管理人カ不在者ノ定メ置キタル權限ヲ超ユル行爲ヲ必要ト
スルトキ亦同シ
第二十九條裁判所ハ管理人ヲシテ財產ノ管理及ヒ返還ニ付キ相當ノ擔保
ヲ供セシムルコトヲ得
裁判所ハ管理人ト不在者トノ關係其他ノ事情ニ依リ不在者ノ財產中ヨリ
相當ノ報酬ヲ管理人ニ與フルコトヲ得
第三十條不在者ノ生死カ七年間分明ナラサルトキハ裁判所ハ利害關係
人ノ請求ニ因リ失踪ノ宣告ヲ爲スコトヲ得
戰地ニ臨ミタル者、沈沒シタル船舶中ニ在リタル者其他死亡ノ原因タル
ヘキ危難ニ遭遇シタル者ノ生死カ戰爭ノ止ミタル後、船舶ノ沈沒シタル
後又ハ其他ノ危難ノ去リタル後三年間分明ナラサルトキ亦同シ
第三十一條失踪ノ宣告ヲ受ケタル者ハ前條ノ期間滿了ノ時ニ死亡シタル
モノト看做ス
第三十二條失踪者ノ生存スルコト又ハ前條ニ定メタル時ト異ナリタル時
ニ死亡シタルコトノ證明アルトキハ裁判所ハ本人又ハ利害關係人ノ請求
ニ因リ失踪ノ宣〓ヲ取消スコトヲ要ス但失踪ノ宣告後其取消前ニ善意ヲ
以テ爲シタル行爲ハ其效力ヲ變セス
失踪ノ宣告ニ因リテ財產ヲ得タル者ハ其取消ニ因リテ權利ヲ失フモ現ニ
利益ヲ受クル限度ニ於テノミ其財產ヲ返還スル義務ヲ負フ
第二章法人
第一節法人ノ設立
第三十三條法人ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ依ルニ非サレハ成立スルコト
ヲ得ス
第三十四條祭祀、宗〓、慈善、學術、技藝其他公益ニ關スル社團又ハ財
團ニシテ營利ヲ目的トセサルモノハ主務官廳ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト爲
スコトヲ得
第三十五條營利ヲ目的トスル社團ハ商事會社設立ノ條件ニ從ヒ之ヲ法人
ト爲スコトヲ得
前項ノ社團法人ニハ總テ商事會社ニ關スル規定ヲ準用ス
第三十六條外國法人ハ國、國ノ行政區畫及ヒ商事會社ヲ除ク外其成立ヲ
認許セス但法律又ハ條約ニ依リテ認許セラレタルモノハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ニ依リテ認許セラレタル外國法人ハ日本ニ成立スル同種ノ者
ト同一ノ私權ヲ有ス但外國人カ享有スルコトヲ得サル權利及ヒ法律又ハ
條約中ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第三十七條社團法人ノ設立者ハ定款ヲ作リ之ニ左ノ事項ヲ記載スルコト
ヲ要ス
一目的
二名稱
三事務所
四資產ニ關スル規定
五理事ノ任免ニ關スル規定
六社員タル資格ノ得喪ニ關スル規定
第三十八條社團法人ノ定款ハ總社員ノ四分ノ三以上ノ同意アルトキニ限
リ之ヲ變更スルコトヲ得但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
定款ノ變更ハ主務官廳ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其效力ヲ生セス
第三十九條財團法人ノ設立者ハ其設立ヲ目的トスル寄附行爲ヲ以テ第三
十七條第一號乃至第五號ニ揭ケタル事項ヲ定ムルコトヲ要ス
第四十條財團法人ノ設立者カ其名稱、事務所又ハ理事任免ノ方法ヲ定
メスシテ死亡シタルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ之
ヲ定ムルコトヲ要ス
第四十一條生前處分ヲ以テ寄附行爲ヲ爲ストキハ贈與ニ關スル規定ヲ準
用ス
遺言ヲ以テ寄附行爲ヲ爲ストキハ遺贈ニ關スル規定ヲ準用ス
第四十二條生前處分ヲ以テ寄附行爲ヲ爲シタルトキハ寄附財產ハ法人設
立ノ許可アリタル時ヨリ法人ノ財產ヲ組成ス
遺言ヲ以テ寄附行爲ヲ爲シタルトキハ寄附財產ハ遺言カ效力ヲ生シタル
時ヨリ法人ニ歸屬シタルモノト看做ス
第四十三條法人ハ法令ノ規定ニ從ヒ定款又ハ寄附行爲ニ因リテ定マリタ
ル目的ノ範圍內ニ於テ權利ヲ有シ義務ヲ負フ
第四十四條法人ハ理事其他ノ代理人カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ加ヘタ
ル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
法人ノ目的ノ範圍內ニ在ラサル行爲ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキ
ハ其事項ノ議決ヲ贊成シタル社員、理事及ヒ之ヲ履行シタル理事其他ノ
代理人連帶シテ其賠償ノ責ニ任ス
第四十五條法人ハ其設立ノ日ヨリ二週間內ニ各事務所ノ所在地ニ於テ登
記ヲ爲スコトヲ要ス
法人ノ設立ハ其主タル事務所ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ
以テ他人ニ對抗スルコトヲ得ス
法人設立ノ後新ニ事務所ヲ設ケタルトキハ一週間內ニ登記ヲ爲スコトヲ
要ス
第四十六條登記スヘキ事項左ノ如シ
一目的
二名稱
三事務所
設立許可ノ年月日
七六五四存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
資產ノ總額
出資ノ方法ヲ定メタルトキハ其方法
八理事ノ氏名、住所
前項ニ揭ケタル事項中ニ變更ヲ生シタルトキハ一週間內ニ其登記ヲ爲ス
コトヲ要ス登記前ニ在リテハ其變更ヲ以テ他人ニ對抗スルコトヲ得ス
第四十七條第四十五條第一項及ヒ前條ノ規定ニ依リ登記スヘキ事項ニシ
テ官廳ノ許可ヲ要スルモノハ其許可書ノ到達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ
起算ス
第四十八條法人カ其事務所ヲ移轉シタルトキハ舊所在地ニ於テハ一週間
內ニ移轉ノ登記ヲ爲シ新所在地ニ於テハ同期間內ニ第四十六條第一項ニ
定メタル登記ヲ爲スコトヲ要ス
同一ノ登記所ノ管轄區域內ニ於テ事務所ヲ移轉シタルトキハ其移轉ノミ
ノ登記ヲ爲スコトヲ要ス
第四十九條第四十五條第三項、第四十六條及ヒ前條ノ規定ハ外國法人カ
日本ニ事務所ヲ設クル場合ニモ亦之ヲ適用ス但外國ニ於テ生シタル事項
ニ付テハ其通知ノ到達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス
外國法人カ始メテ日本ニ事務所ヲ設ケタルトキハ其事務所ノ所在地ニ於
テ登記ヲ爲スマテハ他人ハ其法人ノ成立ヲ否認スルコトヲ得
第五十條法人ノ住所ハ其主タル事務所ノ所在地ニ在ルモノトス
第五十一條法人ハ設立ノ時及ヒ每年初ノ三个月內ニ財產目錄ヲ作リ常ニ
之ヲ事務所ニ備ヘ置クコトヲ要ス但特ニ事業年度ヲ設クルモノハ設立ノ
時及ヒ其年度ノ終ニ於テ之ヲ作ルコトヲ要ス
社團法人ハ社員名簿ヲ備ヘ置キ社員ノ變更アル每ニ之ヲ訂正スルコトヲ
要ス
第二節法人ノ管理
第五十二條法人ニハ一人又ハ數人ノ理事ヲ置クコトヲ要ス
理事數人アル場。合ニ於テ定款又ハ寄附行爲ニ別段ノ定ナキトキハ法人ノ
事務ハ理事ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
第五十三條理事ハ總テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス但定款ノ規定又ハ
寄附行爲ノ趣旨ニ違反スルコトヲ得ス又社團法人ニ在リテハ總會ノ決議
ニ從フコトヲ要ス
第五十四條理事ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗
スルコトヲ得ス
第五十五條理事ハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ決議ニ依リテ禁止セラレサ
ルトキニ限リ特定ノ行爲ノ代理ヲ他人ニ委任スルコトヲ得
第五十六條理事ノ缺ケタル場合ニ於テ遲滯ノ爲メ損害ヲ生スル虞アルト
キハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ假理事ヲ選任ス
第五十七條法人ト理事トノ利益相反スル事項ニ付テハ理事ハ代理權ヲ有
セス此場合ニ於テハ前條ノ規定ニ依リテ特別代理人ヲ選任スルコトヲ要
ス
第五十八條法人ニハ定款、寄附行爲又ハ總會ノ決議ヲ以テ一人又ハ數人
ノ監事ヲ置クコトヲ得
第五十九條監事ノ職務左ノ如シ
一法人ノ財產ノ狀況ヲ監査スルコト
二理事ノ業務執行ノ狀況ヲ監査スルコト
三財產ノ狀況又ハ業務ノ執行ニ付キ不整ノ廉アルコトヲ發見シタル
トキハ之ヲ總會又ハ主務官廳ニ報〓スルコト
四前號ノ報告ヲ爲ス爲メ必要アルトキハ總會ヲ招集スルコト
第六十條社團法人ノ理事ハ少クトモ每年一回社員ノ通常總會ヲ開クコ
トヲ要ス
第六十一條社團法人ノ理事ハ必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ臨時總
會ヲ招集スルコトヲ得
總社員ノ五分ノ一以上ヨリ會議ノ目的タル事項ヲ示シテ請求ヲ爲シタル
トキハ理事ハ臨時總會ヲ招集スルコトヲ要ス但此定數ハ定款ヲ以テ之ヲ
增減スルコトヲ得
第六十二條總會ノ招集ハ少クトモ五日前ニ其會議ノ目的タル事項ヲ示シ
定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲スコトヲ要ス
第六十三條社團法人ノ事務ハ定款ヲ以テ理事其他ノ役員ニ委任シタルモ
ノヲ除タ外總テ總會ノ決議ニ依リテ之ヲ行フ
第六十四條總會ニ於テハ第六十二條ノ規定ニ依リテ豫メ通知ヲ爲シタル
事項ニ付テノミ決議ヲ爲スコトヲ得但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ
在ラス
第六十五條各社員ノ表決權ハ平等ナルモノトス
總會ニ出席セサル社員ハ書面ヲ以テ表決ヲ爲シ又ハ代理人ヲ出タスコト
ヲ得
前二項ノ規定ハ定款ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第六十六條社團法人ト或社員トノ關係ニ付キ議決ヲ爲ス場合ニ於テハ其
社員ハ表決權ヲ有セス
第六十七條法人ノ業務ハ主務官廳ノ監督ニ屬ス
主務官廳ハ何時ニテモ職權ヲ以テ法人ノ業務及ヒ財產ノ狀況ヲ檢査スル
コトヲ得
第三節法人ノ解散
第六十八條法人ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス
一定款又ハ寄附行爲ヲ以テ定メタル解散事由ノ發生
二法人ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能
三破產
四設立許可ノ取消
社團法人ハ前項ニ揭ケタル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス
-總會ノ決議
二社員ノ缺亡
第六十九條社團法人ハ總社員ノ四分ノ三以上ノ承諾アルニ非サレハ解散
ノ決議ヲ爲スコトヲ得ス但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第七十條法人カ其債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ裁判
所ハ理事若クハ債權者ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ破產ノ宣〓ヲ爲ス
前項ノ場合ニ於テ理事ハ直チニ破產宣告ノ請求ヲナスコトヲ要ス
第七十一條法人カ其目的以外ノ事業ヲ爲シ又ハ設立ノ許可ヲ得タル條件
ニ違反シ其他公益ヲ害スヘキ行爲ヲ爲シタルトキハ主務官廳ハ其許可ヲ
取消スコトヲ得
第七十二條解散シタル法人ノ財產ハ定款又ハ寄附行爲ヲ以テ指定シタル
人ニ歸屬ス
定款又ハ寄附行爲ヲ以テ歸屬權利者ヲ指定セス又ハ之ヲ指定スル方法ヲ
定メサリシトキハ理事ハ主務官廳ノ許可ヲ得テ其法人ノ目的ニ類似セル
目的ノ爲メニ其財產ヲ處分スルコトヲ得但社團法人ニ在リテハ總會ノ決
議ヲ經ルコトヲ要ス
前二項ノ規定ニ依リテ處分セラレサル財產ハ國庫ニ歸屬ス
第七十三條解散シタル法人ハ〓算ノ目的ノ範圍內ニ於テハ其〓算ノ結了
ニ至ルマテ尙ホ存續スルモノト看做ス
第七十四條法人カ解散シタルトキハ破產ノ場合ヲ除ク外理事其〓算人ト
爲ル但定款若クハ寄附行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ總會ニ於テ他人ヲ選
任シタルトキハ此限ニ在ラス
第七十五條前條ノ規定ニ依リテ〓算人タル者ナキトキ又ハ〓算人ノ缺ケ
タル爲メ損害ヲ生スル虞アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請
求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ〓算人ヲ選任スルコトヲ得
第七十六條重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害關係人若クハ檢事ノ請
求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ〓算人ヲ解任スルコトヲ得
第七十七條〓算人ハ破產ノ場合ヲ除ク外解散後一週間內ニ其氏名、住所
及ヒ解散ノ原因、年月日ノ登記ヲ爲シ又何レノ場合ニ於テモ之ヲ主務官
廳ニ居出ツルコトヲ要ス
〓算中ニ就職シタル〓算人ハ就職後一週間內ニ其氏名、住所ノ登記ヲ爲
シ且ツ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコトヲ要ス
第七十八條〓算人ノ職務左ノ如シ
-現務ノ結了
二債權ノ取立及ヒ債務ノ辨濟
三殘餘財產ノ引渡
〓算人ハ前項ノ職務ヲ行フ爲メニ必要ナル一切ノ行爲ヲ爲スコトヲ得
第七十九條〓算人ハ其就職ノ日ヨリ二个月內ニ少クトモ三囘ノ公〓ヲ以
テ債權者ニ對シ一定ノ期間內ニ其請求ノ申出ヲ爲スヘキ旨ヲ催告スルコ
トヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス
前項ノ公〓ニハ債權者カ期間內ニ申出ヲ爲ササルトキハ其債權ハ〓算ヨ
リ除斥セラルヘキ旨ヲ附記スルコトヲ要ス但〓算人ハ知レタル債權者ヲ
除斥スルコトヲ得ス
〓算人ハ知レタル債權者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス
第八十條前條ノ期間後ニ申出テタル債權者ハ法人ノ債務完濟ノ後未タ
歸屬權利者ニ引渡ササル財產ニ對シテノミ請求ヲ爲スコトヲ得
第八十一條〓算中ニ法人ノ財產カ其債務ヲ完濟スルニ不足ナルコト分明
ナルニ至リタルトキハ〓算人ハ直チニ破產宣告ノ請求ヲ爲シテ其旨ヲ公
告スルコトヲ要ス
〓算人ハ破產管財人ニ其事務ヲ引渡シタルトキハ其任ヲ終ハリタルモノ
トス
本條ノ場合ニ於テ既ニ債權者ニ支拂ヒ又ハ歸屬權利者ニ引渡シタルモノ
アルトキハ破產管財人ハ之ヲ取戾スコトヲ得
第八十二條法人ノ解散及ヒ〓算ハ裁判所ノ監督ニ屬ス
裁判所ハ何時ニテモ職權ヲ以テ前項ノ監督ニ必要ナル檢査ヲ爲スコトヲ
得
第八十三條〓算カ結了シタルトキハ〓算人ハ之ヲ主務官廳ニ屆出ツルコ
トヲ要ス
第四節罰則
第八十四條法人ノ理事、監事又ハ〓算人ハ左ノ場合ニ於テハ五圓以上二
百圓以下ノ過料ニ處セラル
本章ニ定メタル登記ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
二第五十一條ノ規定ニ違反シ又ハ財產目錄若クハ社員名簿ニ不正ノ
記載ヲ爲シタルトキ
三第六十七條又ハ第八十二條ノ場合ニ於テ主務官廳又ハ裁判所ノ檢
査ヲ妨ケタルトキ
四官廳又ハ總會ニ對シ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキ
五第七十條又ハ第八十一條ノ規定ニ反シ破產宣告ノ請求ヲ爲スコト
ヲ怠リタルトキ
六第七十九條又ハ第八十一條ニ定メタル公〓ヲ爲スコトヲ怠リ又ハ
不正ノ公〓ヲ爲シタルトキ
第三章物
第八十五條本法ニ於テ物トハ有體物ヲ謂フ
第八十六條土地及ヒ其定著物ハ之ヲ不動產トス
此他ノ物ハ總テ之ヲ動產トス
無記名債權ハ之ヲ動產ト看做ス
第八十七條物ノ所有者カ其物ノ常用ニ供スル爲メ自己ノ所有ニ屬スル他
ノ物ヲ以テ之ニ附屬セシメタルトキハ其附屬セシメタル物ヲ從物トス
從物ハ主物ノ處分ニ隨フ
第八十八條物ノ用方ニ從ヒ收取スル產出物ヲ天然果實トス
物ノ使用ノ對價トシテ受クヘキ金錢其他ノ物ヲ法定果實トス
第八十九條天然果實ハ其元物ヨリ分離スル時ニ之ヲ敗取スル權利ヲ有ス
ル者ニ屬ス
法定果實ハ之ヲ收取スル權利ノ存續期間日割ヲ以テ之ヲ取得ス
第四章法律行爲
第一節總則
第九十條公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行爲
ハ無效トス
第九十一條法律行爲ノ當事者カ法令中ノ公ノ秩序ニ關セサル規定ニ異ナ
リタル意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ從フ
第九十二條法令中ノ公ノ秩序ニ關セサル規定ニ異ナリタル慣習アル場合
ニ於テ法律行爲ノ當事者カ之ニ依ル意思ヲ有セルモノト認ムヘキトキハ
其慣習ニ從フ
第二節意思表示
第九十三條意思表示ハ表意者カ其眞意ニ非サルコトヲ知リテ之ヲ爲シタ
ル爲メ其效力ヲ妨ケラルルコトナシ但相手方カ表意者ノ眞意ヲ知リ又ハ
之ヲ知ルコトヲ得ヘカリシトキハ其意思表示ハ無效トス
第九十四條相手方ト通シテ爲シタル虛僞ノ意思表示ハ無效トス
前項ノ意思表示ノ無效ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第九十五條意思表示ハ法律行爲ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無效トス但
表意者ニ重大ナル過失アリタルトキハ表意者自ラ其無效ヲ主張スルコト
ヲ得ス
第九十六條詐欺又ハ强迫ニ因ル意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得
或人ニ對スル意思表示ニ付キ第三者カ詐欺ヲ行ヒタル場合ニ於テハ相手
方カ其事實ヲ知リタルトキニ限リ其意思表示ヲ取消スコトヲ得
詐欺ニ因ル意思表示ノ取消ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得
ス
第九十七條隔地者ニ對スル意思表示ハ其通知ノ相手方ニ到達シタル時ヨ
リ其效力ヲ生ス
表意者カ通知ヲ發シタル後ニ死亡シ又ハ能力ヲ失フモ意思表示ハ之カ爲
メニ其效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第九十八條意思表示ノ相手方カ之ヲ受ケタル時ニ未成年者又ハ禁治產者
ナリシトキハ其意思表示ヲ以テ之ニ對抗スルコトヲ得ス但其法定代理人
カ之ヲ知リタル後ハ此限ニ在ラス
第三節代理
第九十九條代理人カ其權限內ニ於テ本人ノ爲メニスルコトヲ示シテ爲シ
タル意思表示ハ直接ニ本人ニ對シテ其效力ヲ生ス
前項ノ規定ハ第三者カ代理人ニ對シテ爲シタル意思表示ニ之ヲ準用ス
第百條代理人カ本人ノ爲メニスルコトヲ示サスシテ爲シタル意思表示
ハ自己ノ爲メニ之ヲ爲シタルモノト看做ス但相手方カ其本人ノ爲メニス
ルコトヲ知リ又ハ之ヲ知ルコトヲ得ヘカリシトキハ前條第一項ノ規定ヲ
準用ス
第百一條意思表示ノ效力カ意思ノ欠缺、詐欺、强迫又ハ或事情ヲ知リタル
コト若クハ之ヲ知ラサル過失アリタルコトニ因リテ影響ヲ受クヘキ場合
ニ於テ其事實ノ有無ハ代理人ニ付キ之ヲ定ム
特定ノ法律行爲ヲ爲スコトヲ委託セラレタル場合ニ於テ代理人カ本人ノ
指圖ニ從ヒ其行爲ヲ爲シタルトキハ本人ハ其自ラ知リタル事情ニ付キ代
理人ノ不知ヲ主張スルコトヲ得ス其過失ニ因リテ知ラサリシ事情ニ付キ
亦同シ
第百二條代理人ハ能力者タルコトヲ要セス
第百三條權限ノ定ナキ代理人ハ左ノ行爲ノミヲ爲ス權限ヲ有ス
一保存行爲
二代理ノ目的タル物又ハ權利ノ性質ヲ變セサル範圍內ニ於テ其利用
又ハ改良ヲ目的トスル行爲
第百四條委任ニ因ル代理人ハ本人ノ許諾ヲ得タルトキ又ハ巳ムコトヲ得
サル事由アルトキニ非サレハ復代理人ヲ選任スルコトヲ得ス
第百五條代理人カ前條ノ場合ニ於テ復代理人ヲ選任シタルトキハ選任及
ヒ監督ニ付キ本人ニ對シテ其責ニ任ス
代理人カ本人ノ指名ニ從ヒテ復代理人ヲ選任シタルトキハ其不適任又ハ
不誠實ナルコトヲ知リテ之ヲ本人ニ通知シ又ハ之ヲ解任スルコトヲ怠リ
タルニ非サレハ其責ニ任セス·
第百六條法定代理人ハ其責任ヲ以テ復代理人ヲ選任スルコトヲ得但巳ム
コトヲ得サル事由アリタルトキハ前條第一項ニ定メタル責任ノミヲ負フ
第百七條復代理人ハ其權限內ノ行爲ニ付キ本人ヲ代表ス
復代理人ハ本人及ヒ第三者ニ對シテ代理人ト同一ノ權利義務ヲ有ス
第百八條何人ト雖モ同一ノ法律行爲ニ付キ其相手方ノ代理人ト爲リ又ハ
當事者雙方ノ代理人ト爲ルコトヲ得ス但債務ノ履行ニ付テハ此限ニ在ラ
ス
第百九條第三者ニ對シテ他人ニ代理權ヲ與ヘタル旨ヲ表示シタル者ハ其
代理權ノ範圍內ニ於テ其他人ト第三者トノ間ニ爲シタル行爲ニ付キ其責
三世六
第百十條代理人カ其權限外ノ行爲ヲ爲シタル場合ニ於テ第三者カ其權限
アリト信スヘキ正當ノ理由ヲ有セシトキハ前條ノ規定ヲ準用ス
第百十一條代理權ハ左ノ事由ニ因リテ消滅ス
一本人ノ死亡
代理人ノ死亡、禁治產又ハ破產
此他委任ニ因ル代理權ハ委任ノ終了ニ因リテ消滅ス
第百十二條代理權ノ消滅ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
但第三者カ過失ニ因リテ其事實ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
第百十三條代理權ヲ有セサル者カ他人ノ代理人トシテ爲シタル契約ハ本
人カ其追認ヲ爲スニ非サレハ之ニ對シテ其效力ヲ生セス
追認又ハ其拒絕ハ相手方ニ對シテ之ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ其相手方
ニ對抗スルコトヲ得ス但相手方カ其事實ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第百十四條前條ノ場合ニ於テ相手方ハ相當ノ期間ヲ定メ其期間內ニ追認
ヲ爲スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ本人ニ催告スルコトヲ得若シ本人カ其期
間內ニ確答ヲ爲ササルトキハ追認ヲ拒絕シタルモノト看做ス
第百十五條代理權ヲ有セサル者ノ爲シタル契約ハ本人ノ追認ナキ間ハ相
手方ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得但契約ノ當時相手方カ代理權ナキコトヲ
知リタルトキハ此限ニ在ラス
第百十六條追認ハ別段ノ意思表示ナキトキハ契約ノ時ニ遡リテ其效力ヲ
生ス但第三者ノ權利ヲ害スルコトヲ得ス
第百十七條他人ノ代理人トシテ契約ヲ爲シタル者カ其代理權ヲ證明スル
コト能ハス且本人ノ追認ヲ得サリシトキハ相手方ノ選擇ニ從ヒ之ニ對シ
テ履行又ハ損害賠償ノ責ニ任ス
前項ノ規定ハ相手方カ代理權ナキコトヲ知リタルトキ若クハ過失ニ因リ
テ之ヲ知ラサリシトキ又ハ代理人トシテ契約ヲ爲シタル者カ其能力ヲ有
セサリシトキハ之ヲ適用セス
第百十八條單獨行爲ニ付テハ其行爲ノ當時相手方カ代理人ト稱スル者ノ
代理權ナクシテ之ヲ爲スコトニ同意シ又ハ其代理權ヲ爭ハサリ〓トキニ
限リ前五條ノ規定ヲ凖用ス代理權ヲ有セサル者ニ對シ其同意ヲ得テ單獨
行爲ヲ爲シタルトキ亦同シ
第四節無效及ヒ取消
第百十九條無效ノ行爲ハ追認ニ因リテ其效力ヲ生セス但當事者カ其無效
ナルコトヲ知リテ追認ヲ爲シタルトキハ新ナル行爲ヲ爲シタルモノト看
做ス
第百二十條取消シ得ヘキ行爲ハ無能力者若クハ瑕疵アル意思表示ヲ爲
シタル者、其代理人又ハ承繼人ニ限リ之ヲ取消スコトヲ得
妻カ爲シタル行爲ハ夫モ亦之ヲ取消スコトヲ得
第百二十一條取消シタル行爲ハ初ヨリ無效ナリシモノト看做ス但無能力
者ハ其行爲ニ因リテ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ償遠ノ義務ヲ負フ
第百二十二條取消シ得ヘキ行爲ハ第百二十條ニ掲ケタル者カ之ヲ追認シ
タルトキハ初ヨリ有效ナリシモノト看做ス但第三者ノ權利ヲ害スルコト
ヲ得ス
第百二十三條取消シ得ヘキ行爲ノ相手方カ確定セル場合ニ於テ其取消又
ハ追認ハ相手方ニ對スル意思表示ニ依リテ之ヲ爲ス
第百二十四條追認ハ取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後之ヲ爲スニ非サレ
ハ其效ナシ
禁治產者カ能力ヲ囘復シタル後其行爲ヲ了知シタルトキハ其了知シタル
後ニ非サレハ追認ヲ爲スコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ夫又ハ法定代理人カ追認ヲ爲ス場合ニハ之ヲ適用セス
第百二十五條前條ノ規定ニ依リ追認ヲ爲スコトヲ得ル時ヨリ後取消シ得
ヘキ行爲ニ付キ左ノ事實アリタルトキハ追認ヲ爲シタルモノト看做ス但
異議ヲ留メタルトキハ此限ニ在ラス
一全部又ハ一部ノ履行
二履行ノ請求
三更改
四擔保ノ供與
五取消シ得ヘキ行爲ニ因リテ取得シタル權利ノ全部又ハ一部ノ讓渡
六强制執行
第百二十六條取消權ハ追認ヲ爲スコトヲ得ル時ヨリ五年間之ヲ行ハサル
トキハ時效ニ因リテ消滅ス行爲ノ時ヨリ二十年ヲ經過シタルトキ亦同シ
第五節條件及ヒ期限
第百二十七條停止條件附法律行爲ハ條件成就ノ時ヨリ其效力ヲ生ス
解除條件附法律行爲ハ條件成就ノ時ヨリ其效力ヲ失フ
當事者カ條件成就ノ效果ヲ其成就以前ニ遡ラシムル意思ヲ表示シタルト
キハ其意思ニ從フ
第百二十八條條件附法律行爲ノ各當事者ハ條件ノ成否未定ノ間ニ於テ條
件ノ成就ニ因リ其行爲ヨリ生スヘキ相手方ノ利益ヲ害スルコトヲ得ス
第百二十九條條件ノ成否未定ノ間ニ於ケル當事者ノ權利義務ハ一般ノ規
定ニ從ヒ之ヲ處分、相續、保存又ハ擔保スルコトヲ得
第百三十條條件ノ成就ニ因リテ不利益ヲ受クヘキ當事者カ故意ニ其條
件ノ成就ヲ妨ケタルトキハ相手方ハ其條件ヲ成就シタルモノト看做スコ
トヲ得
第百三十一條條件カ法律行爲ノ當時既ニ成就セル場合ニ於テ其條件カ停
止條件ナルトキハ其法律行爲ハ無條件トシ解除條件ナルトキハ無效トス」
條件ノ不成就カ法律行爲ノ當時既ニ確定セル場合ニ於テ其條件カ停止條
件ナルトキハ其法律行爲ハ無效トシ解除條件ナルトキハ無條件トス
前二項ノ場合ニ於テ當事者カ條件ノ成就又ハ不成就ヲ知ラサル間ハ第百
二十八條及ヒ第百二十九條ノ規定ヲ準用ス
第百三十二條不法ノ條件ヲ附シタル法律行爲ハ無效トス不法行爲ヲ爲サ
サルヲ以テ條件トスルモノ亦同シ
第百三十三條不能ノ停止條件ヲ附シタル法律行爲ハ無效トス
不能ノ解除條件ヲ附シタル法律行爲ハ無條件トス
第百三十四條停止條件附法律行爲ハ其條件カ單ニ債務者ノ意思ノミニ係
건トキハ無效トス
第百三十五條法律行爲ニ始期ヲ附シタルトキハ其法律行爲ノ履行ハ期限
ノ到來スルマテ之ヲ請求スルコトヲ得ス
法律行爲ニ終期ヲ附シタルトキハ其法律行爲ノ效力ハ期限ノ到來シタル
時ニ於テ消滅ス
第百三十六條期限ハ債務者ノ利益ノ爲メニ定メタルモノト推定ス
期限ノ利益ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得但之カ爲メニ相手方ノ利益ヲ害スル
コトヲ得ス
第百三十七條左ノ場合ニ於テハ債務者ハ期限ノ利益ヲ主張スルコトヲ得
ス
一債務者カ破產ノ宣告ヲ受ケタルトキ
二債務者カ擔保ヲ毀滅シ又ハ之ヲ減少シタルトキ
三債務者カ擔保ヲ供スル義務ヲ負フ場合ニ於テ之ヲ供セサルトキ
第五章期間
第百三十八條期間ノ計算法ハ法令、裁判上ノ命令又ハ法律行爲ニ別段ノ
定アル場合ヲ除ク外本章ノ規定ニ從フ
第百三十九條期間ヲ定ムルニ時ヲ以テシタルトキハ卽時ヨリ之ヲ起算
ス
第百四十條期間ヲ定ムルニ日、週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ期間ノ
初日ハ之ヲ算入セス但其期間カ午前零時ヨリ始マルトキハ此限ニ在ラ
ス
第百四十一條前條ノ場合ニ於テハ期間ノ末日ノ終了ヲ以テ期間ノ滿了ト
ス
第百四十二條期間ノ末日カ大祭日、日曜日其他ノ休日ニ當タルトキハ其
日ニ取引ヲ爲ササル慣習アル場合ニ限リ期間ハ其翌日ヲ以テ滿了ス
第百四十三條期間ヲ定ムルニ週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ暦ニ從ヒ
テ之ヲ算ス
週、月又ハ年ノ始ヨリ期間ヲ起算セサルトキハ其期間ハ最後ノ週、月又ハ
年ニ於テ其起算日ニ應當スル日ノ前日ヲ以テ滿了ス但月又ハ年ヲ以テ期
間ヲ定メタル場合ニ於テ最後ノ月ニ應當日ナキトキハ其月ノ末日ヲ以テ
滿期日トス
第六章時效
第一節總則
第百四十四條時效ノ效力ハ其起算日ニ遡ル
第百四十五條時效ハ當事者カ之ヲ援用スルニ非サレハ裁判所之ニ依リテ
裁判ヲ爲スコトヲ得ス
第百四十六條時效ノ利益ハ豫メ之ヲ抛棄スルコトヲ得ス
第百四十七條時效ハ左ノ事由ニ因リテ中斷ス
一請求
二差押、假差押又ハ假處分
三承認
第百四十八條前條ノ時效中斷ハ當事者及ヒ其承繼人ノ間ニ於テノミ其效
力ヲ有ス
第百四十九條裁判上ノ請求ハ訴ノ却下又ハ取下ノ場合ニ於テハ時效中斷
ノ效力ヲ生セス
第百五十條支拂命令ハ權利拘束カ其效力ヲ失フトキハ時效中斷ノ效力
ヲ生セス
第百五十一條和解ノ爲メニスル呼出ハ相手方カ出頭セス又ハ和解ノ調ハ
サルトキハ一个月內ニ訴ヲ提起スルニ非サレハ時效中斷ノ效力ヲ生セス
任意出頭ノ場合ニ於テ和解ノ調ハサルトキ亦同シ
第百五十二條破產手續參加ハ債權者カ之ヲ取消シ又ハ其請求カ却下セラ
レタルトキハ時效中斷ノ效力ヲ生セス
第百五十三條催告ハ六个月內ニ裁判上ノ請求、和解ノ爲メニスル呼出若
クハ任意出頭、破產手續參加、差押、假差押又ハ假處分ヲ爲スニ非サレハ
時效中斷ノ效力ヲ生セス
第百五十四條差押、假差押及ヒ假處分ハ權利者ノ請求ニ因リ又ハ法律ノ
規定ニ從ハサルニ因リテ取消サレタルトキハ時效中斷ノ效力ヲ生セス
第百五十五條差押、假差押及ヒ假處分ハ時效ノ利益ヲ受クル者ニ對シテ
之ヲ爲ササルトキハ之ヲ其者ニ通知シタル後ニ非サレハ時效中斷ノ效力
ヲ生セス
第百五十六條時效中斷ノ效力ヲ生スヘキ承認ヲ爲スニハ相手方ノ權利ニ
付キ處分ノ能力又ハ權限アルコトヲ要セス
第百五十七條中斷シタル時效ハ其中斷ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ其
進行ヲ始ム
裁判上ノ請求ニ因リテ中斷シタル時效ハ裁判ノ確定シタル時ヨリ更ニ其
進行ヲ始ム
第百五十八條時效ノ期間滿了前六个月內ニ於テ未成年者又ハ禁治產者カ
法定代理人ヲ有セサリシトキハ其者カ能力者ト爲リ又ハ法定代理人カ就
職シタル時ヨリ六个月內ハ之ニ對シテ時效完成セス
第百五十九條無能力者カ其財產ヲ管理スル父、母又ハ後見人ニ對シテ有
スル權利ニ付テハ其者カ能力者ト爲リ又ハ後任ノ法定代理人カ就職シタ
ル時ヨリ六个月內ハ時效完成セス
妻カ夫ニ對シテ有スル權利ニ付テハ婚姻解消ノ時ヨリ六个月內亦同シ
第百六十條相續財產ニ關シテハ相續人ノ確定シ、管理人ノ選任セラレ
又ハ破產ノ宣告アリタル時ヨリ六个月內ハ時效完成セス
第百六十一條時效ノ期間滿了ノ時ニ當タリ天災其他避クヘカラサル事變
ノ爲メ時效ヲ中斷スルコト能ハサルトキハ其妨碍ノ止ミタル時ヨリ二週
間內ハ時效完成セス
第二節取得時效
第百六十二條二十年間所有ノ意思ヲ以テ平穩且公然ニ他人ノ物ヲ占有シ
タル者ハ其所有權ヲ取得ス
十年間所有ノ意思ヲ以テ平穩且公然ニ他人ノ不動產ヲ占有シタル者カ其
占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動產ノ所有權ヲ取得ス
第百六十三條所有權以外ノ財產權ヲ自己ノ爲メニスル意思ヲ以テ平穩且
公然ニ行使スル者ハ前條ノ區別ニ從ヒ二十年又ハ十年ノ後其權利ヲ取得
ス
第百六十四條第百六十二條ノ時效ハ占有者カ任意ニ其占有ヲ中止シ又ハ
他人ノ爲メニ之ヲ奪ハレタルトキハ中斷ス
第百六十五條前條ノ規定ハ第百六十三條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三節消滅時效
第百六十六條消滅時效ハ權利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ進行ス
前項ノ規定ハ始期附又ハ停止條件附權利ノ目的物ヲ占有スル第三者ノ爲
メニ其占有ノ時ヨリ取得時效ノ進行スルコトヲ妨ケス但權利者ハ其時效
ヲ中斷スル爲メ何時ニテモ占有者ノ承認ヲ求ムルコトヲ得
第百六十七條債權ハ十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
債權又ハ所有權ニ非サル財產權ハ二十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
第百六十八條定期金ノ債權ハ第一囘ノ辨濟期ヨリ二十年間之ヲ行ハサル
ニ因リテ消滅ス最後ノ辨濟期ヨリ十年間之ヲ行ハサルトキモ亦同シ
定期金ノ債權者ハ時效中斷ノ證ヲ得ル爲メ何時ニテモ其債務者ノ承認書
ヲ求ムルコトヲ得
第百六十九條年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金錢其他ノ物ノ給付
ヲ目的トスル債權ハ五年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
第百七十條左ニ揭ケタル債權ハ三年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
醫師、產婆及ヒ藥劑師ノ治術、勤勞及ヒ調劑ニ關スル債權
二技師、棟梁及ヒ請負人ノ工事ニ關スル債權但此時效ハ其負擔シタ
ル工事終了ノ時ヨリ之ヲ起算ス
第百七十一條辯護士ハ事件終了ノ時ヨリ公證人及ヒ執達吏ハ其職務執行
ノ時ヨリ三年ヲ經過シタルトキハ其職務ニ關シテ受取リタル書類ニ付キ
其責ヲ免ル
第百七十二條辯護士、公證人及ヒ執達吏ノ職務ニ關スル債權ハ其原因タ
ル事件終了ノ時ヨリ二年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス但其事件中ノ各
事項終了ノ時ヨリ五年ヲ經過シタルトキハ右ノ期間內ト雖モ其事項ニ關
スル債權ハ消滅ス
第百七十三條左ニ揭ケタル債權ハ二年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
-生產者、卸賣商人及ヒ小賣商人カ賣却シタル產物及ヒ商品ノ代價
二居職人及ヒ製造人ノ仕事ニ關スル債權
三生徒及ヒ習業者ノ〓育、衣〓及ヒ止宿ノ代料ニ關スル校主、塾主、
〓師及ヒ師匠ノ債權
第百七十四條左ニ揭ケタル債權ハ一年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス
一月又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル雇人ノ給料
二勞力者及ヒ藝人ノ賃金竝ニ其供給シタル物ノ代價
三運送賃
四旅店、料理店、貸席及ヒ娛遊場ノ宿泊料、飮食料、席料、木戶錢、消費
物代價竝ニ立替金
五動產ノ損料
第二編物權
第一章總則
第百七十五條物權ハ本法其他ノ法律ニ定ムルモノノ外之ヲ創設スルコト
ヲ得ス
第百七十六條物權ノ設定及ヒ移轉ハ當事者ノ意思表示ノミニ因リテ其效
力ヲ生ス
第百七十七條不動產ニ關スル物權ノ得喪及ヒ變更ハ登記法ノ定ムル所ニ
從ヒ其登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第百七十八條動產ニ關スル物權ノ讓渡ハ其動產ノ引渡アルニ非サレハ之
ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第百七十九條同一物ニ付キ所有權及ヒ他ノ物權カ同一人ニ歸シタルトキ
ハ其物權ハ消滅ス但其物又ハ其物權カ第三者ノ權利ノ目的タルトキハ此
限ニ在ラス
所有權以外ノ物權及ヒ之ヲ目的トスル他ノ權利カ同一人ニ歸シタルトキ
ハ其權利ハ消滅ス此場合ニ於テハ前項但書ノ規定ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ占有權ニハ之ヲ適用セス
第二章占有權
第一節占有權ノ取得
第百八十條占有權ハ自己ノ爲メニスル意思ヲ以テ物ヲ所持スルニ因リ
テ之ヲ取得ス
第百八十一條占有權ハ代理人ニ依リテ之ヲ取得スルコトヲ得
第百八十二條占有權ノ讓渡ハ占有物ノ引渡ニ依リテ之ヲ爲ス
讓受人又ハ其代理人カ現ニ占有物ヲ所持スル場合ニ於テハ占有權ノ讓渡
ハ當事者ノ意思表示ノミニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得
第百八十三條代理人カ自己ノ占有物ヲ爾後本人ノ爲メニ占有スヘキ意思
ヲ表示シタルトキハ本人ハ之ニ因リテ占有權ヲ取得ス
第百八十四條代理人ニ依リテ占有ヲ爲ス場合ニ於テ本人カ其代理人ニ對
シ爾後第三者ノ爲メニ其物ヲ占有スヘキ旨ヲ命シ第三者之ヲ承諾シタル
トキハ其第三者ハ占有權ヲ取得ス
第百八十五條權原ノ性質上占有者ニ所有ノ意思ナキモノトスル場合ニ於
テハ其占有者カ自己ニ占有ヲ爲サシメタル者ニ對シ所有ノ意思アルコト
ヲ表示シ又ハ新權原ニ因リ更ニ所有ノ意思ヲ以テ占有ヲ始ムルニ非サレ
ハ占有ハ其性質ヲ變セス
第百八十六條占有者ハ所有ノ意思ヲ以テ善意、平穩且公然ニ占有ヲ爲ス
モノト推定ス
前後兩時ニ於テ占有ヲ爲シタル證據アルトキハ占有ハ其間繼續シタルモ
ノト推定ス
第百八十七條占有者ノ承繼人ハ其選擇ニ從ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又
ハ自己ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ之ヲ主張スルコトヲ得
前主ノ占有ヲ併セテ主張スル場合ニ於テハ其瑕疵モ亦之ヲ承繼ス
第二節占有權ノ效力
第百八十八條占有者カ占有物ノ上ニ行使スル權利ハ之ヲ適法ニ有スルモ
ノト推定ス
第百八十九條善意ノ占有者ハ占有物ヨリ生スル果實ヲ取得ス
善意ノ占有者カ本權ノ訴ニ於テ敗訴シタルトキハ其起訴ノ時ヨリ惡意ノ
占有者ト看做ス
第百九十條惡意ノ占有者ハ果實ヲ返還シ且其既ニ消費シ、過失ニ因リ
テ毀損シ又ハ收取ヲ怠リタル果實ノ代價ヲ償還スル義務ヲ負フ
前項ノ規定ハ强暴又ハ隱祕ニ因ル占有者ニ之ヲ準用ス
第百九十一條占有物カ占有者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リテ滅失又ハ毀損
シタルトキハ惡意ノ占有者ハ其囘復者ニ對シ其損害ノ全部ヲ賠償スル義
務ヲ負ヒ善意ノ占有者ハ其滅失又ハ毀損ニ因リテ現ニ利益ヲ受クル限度
ニ於テ賠償ヲ爲ス義務ヲ負フ但所有ノ意思ナキ占有者ハ其善意ナルトキ
ト雖モ全部ノ賠償ヲ爲スコトヲ要ス
第百九十二條平穩且公然ニ動產ノ占有ヲ始メタル者カ善意ニシテ且過失
ナキトキハ卽時ニ其動產ノ上ニ行使スル權利ヲ取得ス
第百九十三條前條ノ場合ニ於テ占有物カ盜品又ハ遺失物ナルトキハ被害
者又ハ遺失主ハ盜難又ハ遺失ノ時ヨリ二年間占有者ニ對シテ其物ノ囘復
ヲ請求スルコトヲ得
第百九十四條占有者カ盜品又ハ遺失物ヲ競賣若クハ公ノ市場ニ於テ又ハ
其物ト同種ノ物ヲ販賣スル商人ヨリ善意ニテ買受ケタルトキハ被害者又
ハ遺失主ハ占有者カ拂ヒタル代價ヲ辨償スルニ非サレハ其物ヲ囘復スル
コトヲ得ス
第百九十五條他人カ飼養セシ家畜外ノ動物ヲ占有スル者ハ其占有ノ始善
意ニシテ且逃失ノ時ヨリ一个月內ニ飼養主ヨリ囘復ノ請求ヲ受ケサルト
キハ其動物ノ上ニ行使スル權利ヲ取得ス
第百九十六條占有者カ占有物ヲ返還スル場合ニ於テハ其物ノ保存ノ爲メ
ニ費シタル金額其他ノ必要費ヲ囘復者ヨリ償還セシムルコトヲ得但占有
者カ果實ヲ取得シタル場合ニ於テハ通常ノ必要費ハ其負擔ニ歸ス
占有者カ占有物ノ改良ノ爲メニ費シタル金額其他ノ有益費ニ付テハ其價
格ノ增加カ現存スル場合ニ限リ囘復者ノ選擇ニ從ヒ其費シタル金額又ハ
增價額ヲ償還セシムルコトヲ得但惡意ノ占有者ニ對シテハ裁判所ハ囘復
者ノ請求ニ因リ之ニ相當ノ期限ヲ許與スルコトヲ得
第百九十七條占有者ハ後五條ノ規定ニ從ヒ占有ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
他人ノ爲メニ占有ヲ爲ス者亦同シ
第百九十八條占有者カ其占有ヲ妨害セラレタルトキハ占有保持ノ訴ニ依
リ其妨害ノ停止及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
第百九十九條占有者カ其占有ヲ妨害セラルル虞アルトキハ占有保全ノ訴
ニ依リ其妨害ノ豫防又ハ損害賠償ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得
第二百條占有者カ其占有ヲ奪ハレタルトキハ占有囘收ノ訴ニ依リ其物
ノ返還及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
占有囘收ノ訴ハ侵奪者ノ特定承繼人ニ對シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス但
其承繼人カ侵奪ノ事實ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第二百一條占有保持ノ訴ハ妨害ノ存スル間又ハ其止ミタル後一年內ニ之
ヲ提起スルコトヲ要ス但工事ニ因リ占有物ニ損害ヲ生シタル場合ニ於テ
其工事著手ノ時ヨリ一年ヲ經過シ又ハ其工事ノ竣成シタルトキハ之ヲ提
超スルコトヲ得ス
占有保全ノ訴ハ妨害ノ危險ノ存スル間ハ之ヲ提起スルコトヲ得但工事ニ
因リ占有物ニ損害ヲ生スル虞アルトキハ前項但書ノ規定ヲ準用ス
占有囘收ノ訴ハ侵奪ノ時ヨリ一年內ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス
第二百二條占有ノ訴ハ本權ノ訴ト互ニ相妨クルコトナシ
占有ノ訴ハ本權ニ關スル理由ニ基キテ之ヲ裁判スルコトヲ得ス
第三節占有權ノ消滅
第二百三條占有權ハ占有者カ占有ノ意思ヲ抛棄シ又ハ占有物ノ所持ヲ失
フニ因リテ消滅ス但占有者カ占有囘收ノ訴ヲ提起シタルトキハ此限ニ在
ラス
第二百四條代理人ニ依リテ占有ヲ爲ス場合ニ於テハ占有權ハ左ノ事由ニ
因リテ消滅ス
一本人カ代理人ヲシテ占有ヲ爲サシムル意思ヲ抛棄シタルコト
二代理人カ本人ニ對シ爾後自己又ハ第三者ノ爲メニ占有物ヲ所持ス
ヘキ意思ヲ表示シタルコト
三代理人カ占有物ノ所持ヲ失ヒタルコト
占有權ハ代理權ノ消滅ノミニ因リテ消滅セス
第四節準占有
第二百五條本章ノ規定ハ自己ノ爲メニスル意思ヲ以テ財產權ノ行使ヲ爲
ス場合ニ之ヲ準用ス
第三章所有權
第一節所有權ノ限界
第二百六條所有者ハ法令ノ制限內ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用、收益及
ヒ處分ヲ爲ス權利ヲ有ス
第二百七條土地ノ所有權ハ法令ノ制限內ニ於テ其土地ノ上下ニ及フ
第二百八條數人ニテ一棟ノ建物ヲ區分シ各其一部ヲ所有スルトキハ建物
及ヒ其附屬物ノ共用部分ハ其共有ニ屬スルモノト推定ス
共用部分ノ修繕費其他ノ負擔ハ各自ノ所有部分ノ價格ニ應シテ之ヲ分ツ
第二百九條土地ノ所有者ハ疆界又ハ其近傍ニ於テ牆壁若クハ建物ヲ築造
シ又ハ之ヲ修繕スル爲メ必要ナル範圍內ニ於テ隣地ノ使用ヲ請求スルコ
トヲ得但隣人ノ承諾アルニ非サレハ其住家ニ立入ルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ
得
第二百十條或土地カ他ノ土地ニ圍繞セラレテ公路ニ通セサルトキハ其
土地ノ所有者ハ公路ニ至ル爲メ圍繞地ヲ通行スルコトヲ得
池沼、河渠若クハ海洋ニ由ルニ非サレハ他ニ通スルコト能ハス又ハ崖岸
アリテ土地ト公路ト著シキ高低ヲ爲ストキ亦同シ
第二百十一條前條ノ場合ニ於テ通行ノ場所及ヒ方法ハ通行權ヲ有スル者
ノ爲メニ必要ニシテ且圍繞地ノ爲メニ損害最モ少キモノヲ選フコトヲ要
ス
通行權ヲ有スル者ハ必要アルトキハ通路ヲ開設スルコトヲ得
第二百十二條通行權ヲ有スル者ハ通行地ノ損害ニ對シテ償金ヲ拂フコト
ヲ要ス但通路開設ノ爲メニ生シタル損害ニ對スルモノヲ除ク外一年每ニ
其償金ヲ拂フコトヲ得
第二百十三條分割ニ因リ公路ニ通セサル土地ヲ生シタルトキハ其土地ノ
所有者ハ公路ニ至ル爲メ他ノ分割者ノ所有地ノミヲ通行スルコトヲ得此
場合ニ於テハ償金ヲ拂フコトヲ要セス
前項ノ規定ハ土地ノ所有者カ其土地ノ一部ヲ讓渡シタル場合ニ之ヲ準用
ス
第二百十四條土地ノ所有者ハ隣地ヨリ水ノ自然ニ流レ來ルヲ妨クルコト
ヲ得ス
第二百十五條水流カ事變ニ因リ低地ニ於テ阻塞シタルトキハ高地ノ所有
者ハ自費ヲ以テ其疏通ニ必要ナル工事ヲ爲スコトヲ得
第二百十六條甲地ニ於テ貯水、排水又ハ引水ノ爲メニ設ケタル工作物ノ
破潰又ハ阻塞ニ因リテ乙地ニ損害ヲ及ホシ又ハ及ホス虞アルトキハ乙地
ノ所有者ハ甲地ノ所有者ヲシテ修繕若クハ疏通ヲ爲サシメ又必要アルト
キハ豫防工事ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百十七條前二條ノ場合ニ於テ費用ノ負擔ニ付キ別段ノ慣習アルトキ
ハ其慣習ニ從フ
第二百十八條土地ノ所有者ハ直チニ雨水ヲ隣地ニ注瀉セシムヘキ屋根其
他ノ工作物ヲ設クルコトヲ得ス
第二百十九條溝渠其他ノ水流地ノ所有者ハ對岸ノ土地カ他人ノ所有ニ屬
スルトキハ其水路又ハ幅員ヲ變スルコトヲ得ス
兩岸ノ土地カ水流地ノ所有者ニ屬スルトキハ其所有者ハ水路及ヒ幅員ヲ
變スルコトヲ得但下口ニ於テ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス
前二項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ從フ
第二百二十條高地ノ所有者ハ浸水地ヲ乾カス爲メ又ハ家用若クハ農工業
用ノ餘水ヲ排泄スル爲メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ低地ニ水ヲ通
過セシムルコトヲ得但低地ノ爲メニ損害最モ少キ場所及ヒ方法ヲ選フコ
トヲ要ス
第二百二十一條土地ノ所有者ハ其所有地ノ水ヲ通過セシムル爲メ高地又
ハ低地ノ所有者カ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ他人ノ工作物ヲ使用スル者ハ其利益ヲ受クル割合ニ應
シテ工作物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分擔スルコトヲ要ス
第二百二十二條水流地ノ所有者ハ堰ヲ設クル需要アルトキハ其堰ヲ對岸
ニ附著セシムルコトヲ得但之ニ因リテ生シタル損害ニ對シテ償金ヲ拂フ
コトヲ要ス
對岸ノ所有者ハ水流地ノ一部カ其所有ニ屬スルトキハ右ノ堰ヲ使用スル
コトヲ得但前條ノ規定ニ從ヒ費用ヲ分擔スルコトヲ要ス
第二百二十三條土地ノ所有者ハ隣地ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ疆界ヲ
標示スヘキ物ヲ設クルコトヲ得
第二百二十四條界標ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負擔ス
但測量ノ費用ハ其土地ノ廣狹ニ應シテ之ヲ分擔ス
第二百二十五條二棟ノ建物カ其所有者ヲ異ニシ且其間ニ空地アルトキハ
各所有者ハ他ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ其疆界ニ圍障ヲ設クルコトヲ
得
當事者ノ協議調ハサルトキハ前項ノ圍障ハ板屏又ハ竹垣ニシテ高サ六尺
タルコトヲ要ス
第二百二十六條圍障ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負擔ス
第二百二十七條相隣者ノ一人ハ第二百二十五條第二項ニ定メタル材料ヨ
リ良好ナルモノヲ用井又ハ高サヲ增シテ團障ヲ設クルコトヲ得但之ニ因
リテ生スル費用ノ增額ヲ負擔スルコトヲ要ス
第二百二十八條前三條ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ從フ
第二百二十九條疆界線上ニ設ケタル界標、圍障、牆壁及ヒ溝渠ハ相隣者ノ
共有ニ屬スルモノト推定ス
第二百三十條一棟ノ建物ノ部分ヲ成ス疆界線上ノ牆壁ニハ前條ノ規定
ヲ適用セス
高サノ不同ナル二棟ノ建物ヲ隔ツル牆壁ノ低キ建物ヲ踰ユル部分亦同シ
但防火牆壁ハ此限ニ在ラス
第二百三十一條相隣者ノ一人ハ共有ノ牆壁ノ高サヲ增スコトヲ得但其精
壁カ此工事ニ耐ヘサルトキハ自費ヲ以テ工作ヲ加ヘ又ハ其牆壁ヲ改築ス
ルコトヲ要ス
前項ノ規定ニ依リテ牆壁ノ高サヲ增シタル部分ハ其工事ヲ爲シタル者ノ
專有ニ屬ス
第二百三十二條前條ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ
請求スルコトヲ得
第二百三十三條隣地ノ竹木ノ枝カ疆界線ヲ踰ユルトキハ其竹木ノ所有者
ヲシテ其枝ヲ剪除セシムルコトヲ得
隣地ノ竹木ノ根カ疆界線ヲ踰ユルトキハ之ヲ截取スルコトヲ得
第二百三十四條建物ヲ築造スルニハ疆界線ヨリ一尺五寸以上ノ距離ヲ存
スルコトヲ要ス
前項ノ規定ニ違ヒテ建築ヲ爲サントスル者アルトキハ隣地ノ所有者ハ其
建築ヲ廢止シ又ハ之ヲ變更セシムルコトヲ得但建築著手ノ時ヨリ一年ヲ
經過シ又ハ其建築ノ竣成シタル後ハ損害賠償ノ請求ノミヲ爲スコトヲ得
第二百三十五條疆界線ヨリ三尺未滿ノ距離ニ於テ他人ノ宅地ヲ觀望スヘ
キ窻又ハ椽側ヲ設クル者ハ目隱ヲ附スルコトヲ要ス
前項ノ距離ハ意又ハ椽側ノ最モ隣地ニ近キ點ヨリ直角線ニテ疆界線ニ至
ルマテヲ測算ス
第二百三十六條前二條ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ從フ
第二百三十七條井戶、用水溜、下水溜又ハ肥料溜ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ六
尺以上池、地窖又ハ〓坑ヲ穿ツニハ三尺以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス
水樋ヲ埋メ又ハ溝渠ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ其深サノ半以上ノ距離ヲ存ス
ルコトヲ要ス但三尺ヲ踰ユルコトヲ要セス
第二百三十八條疆界線ノ近傍ニ於テ前條ノ工事ヲ爲ストキハ土砂ノ崩壞
又ハ水若クハ汚液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル注意ヲ爲スコトヲ要ス
第二節所有權ノ取得
第二百三十九條無主ノ動產ハ所有ノ意思ヲ以テ之ヲ占有スルニ因リテ其
所有權ヲ取得ス
無主ノ不動產ハ國庫ノ所有ニ屬ス
第二百四十條遺失物ハ特別法ノ定ムル所ニ從ヒ公〓ヲ爲シタル後一年
內ニ其所有者ノ知レサルトキハ拾得者其所有權ヲ取得ス
第二百四十一條埋藏物ハ特別法ノ定ムル所ニ從ヒ公〓ヲ爲シタル後六个
月內ニ其所有者ノ知レサルトキハ發見者其所有權ヲ取得ス但他人ノ物ノ
中ニ於テ發見シタル埋藏物ハ發見者及ヒ其物ノ所有者折半シテ其所有權
ヲ取得ス
第二百四十二條不動產ノ所有者ハ其不動產ノ從トシテ之ニ附合シタル物
ノ所有權ヲ取得ス但權原ニ因リテ其物ヲ附屬セシメタル他人ノ權利ヲ妨
ケス
第二百四十三條各別ノ所有者ニ屬スル數個ノ動產カ附合ニ因リテ毀損ス
ルニ非サレハ之ヲ分離スルコト能ハサルニ至リタルトキハ其合成物ノ所
有權ハ主タル動產ノ所有者ニ屬ス分離ノ爲メ過分ノ費用ヲ要スルトキ亦
同シ
第二百四十四條附合シタル動產ニ付キ主從ノ區別ヲ爲スコト能ハサルト
キハ各動產ノ所有者ハ其附合ノ當時ニ於ケル價格ノ割合ニ應シテ合成物
ヲ共有ス
第二百四十五條前二條ノ規定ハ各別ノ所有者ニ屬スル物カ混和シテ識別
スルコト能ハサルニ至リタル場合ニ之ヲ準用ス
第二百四十六條他人ノ動產ニ工作ヲ加ヘタル者アルトキハ其加工物ノ所
有權ハ材料ノ所有者ニ屬ス但工作ニ因リテ生シタル價格カ著シク材料ノ
價格ニ超ユルトキハ加工者其物ノ所有權ヲ取得ス
加工者カ材料ノ一部ヲ供シタルトキハ其價格ニ工作ニ因リテ生シタル價
格ヲ加ヘタルモノカ他人ノ材料ノ價格ニ超ユルトキニ限リ加工者其物ノ
所有權ヲ取得ス
第二百四十七條前五條ノ規定ニ依リテ物ノ所有權カ消滅シタルトキハ其
物ノ上ニ存セル他ノ權利モ亦消滅ス
右ノ物ノ所有者カ合成物、混和物又ハ加工物ノ單獨所有者ト爲リタルト
キハ前項ノ權利ハ爾後合成物混和物又ハ加工物ノ上ニ存シ其共有者ト
爲リタルトキハ其持分ノ上ニ存ス
第二百四十八條前六條ノ規定ノ適用ニ因リテ損失ヲ受ケタル者ハ第七百
三條及ヒ第七百四條ノ規定ニ從ヒ償金ヲ請求スルコトヲ得
第三節共有
第二百四十九條各共有者ハ共有物ノ全部ニ付キ其持分ニ應シタル使用ヲ
爲スコトヲ得
第二百五十條各共有者ノ持分ハ相均シキモノト推定ス
第二百五十一條各共有者ハ他ノ共有者ノ同意アルニ非サレハ共有物ニ變
更ヲ加フルコトヲ得ス
第二百五十二條共有物ノ管理ニ關スル事項ハ前條ノ場合ヲ除ク外各共有
者ノ持分ノ價格ニ從ヒ其過半數ヲ以テ之ヲ決ス但保存行爲ハ各共有者之
ヲ爲スコトヲ得
第二百五十三條各共有者ハ其持分ニ應シ管理ノ費用ヲ拂ヒ其他共有物ノ
負擔ニ任ス
共有者カ一年內ニ前項ノ義務ヲ履行セサルトキハ他ノ共有者ハ相當ノ償
金ヲ拂ヒテ其者ノ持分ヲ取得スルコトヲ得
第二百五十四條共有者ノ一人カ共有物ニ付キ他ノ共有者ニ對シテ有スル
債權ハ其特定承繼人ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得
第二百五十五條共有者ノ一人カ其持分ヲ抛棄シタルトキ又ハ相續人ナク
シテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ歸屬ス
第二百五十六條各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得
但五年ヲ超エサル期間內分割ヲ爲ササル契約ヲ爲スコトヲ妨ケス
此契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコ
トヲ得ス
第二百五十七條前條ノ規定ハ第二百八條及ヒ第二百二十九條ニ掲ケタル
共有物ニハ之ヲ適用セス
第二百五十八條分割ハ共有者ノ協議調ハサルトキハ之ヲ裁判所ニ請求ス
ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ現物ヲ以テ分割ヲ爲スコト能ハサルトキ又ハ分割ニ因
リテ著シク其價格ヲ損スル虞アルトキハ裁判所ハ其競賣ヲ命スルコトヲ
得
第二百五十九條共有者ノ一人カ他ノ共有者ニ對シテ共有ニ關スル債權ヲ
有スルトキハ分割ニ際シ債務者ニ歸スヘキ共有物ノ部分ヲ以テ其辨濟ヲ
爲サシムルコトヲ得
債權者ハ右ノ辨濟ヲ受クル爲メ債務者ニ歸スヘキ共有物ノ部分ヲ賣却ス
ル必要アルトキハ其賣却ヲ請求スルコトヲ得
第二百六十條共有物ニ付キ權利ヲ有スル者及ヒ各共有者ノ債權者ハ自
己ノ費用ヲ以テ分割ニ參加スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ參加ノ請求アリタルニ拘ハラス其參加ヲ待タスシテ
分割ヲ爲シタルトキハ其分割ハ之ヲ以テ參加ヲ請求シタル者ニ對抗スル
コトヲ得ス
第二百六十一條各共有者ハ他ノ共有者カ分割ニ因リテ得タル物ニ付キ賣
主ト同シク其持分ニ應シテ擔保ノ責ニ任ス
第二百六十二條分割カ結了シタルトキハ各分割者ハ其受ケタル物ニ關ス
ル證書ヲ保存スルコトヲ要ス
共有者一同又ハ其中ノ數人ニ分割シタル物ニ關スル證書ハ其物ノ最大部
分ヲ受ケタル者之ヲ保存スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ最大部分ヲ受ケタル者ナキトキハ分割者ノ協議ヲ以テ
證書ノ保存者ヲ定ム若シ協議調ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス
證書ノ保存者ハ他ノ分割者ノ請求ニ應シテ其證書ヲ使用セシムルコトヲ
要ス
第二百六十三條共有ノ性質ヲ有スル入會權ニ付テハ各地方ノ慣習ニ從フ
外本節ノ規定ヲ適用ス
第二百六十四條本節ノ規定ハ數人ニテ所有權以外ノ財產權ヲ有スル場合
ニ之ヲ準用ス但法令ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四章地上權
第二百六十五條地上權者ハ他人ノ土地ニ於テ工作物又ハ竹木ヲ所有スル
爲メ其土地ヲ使用スル權利ヲ有ス
第二百六十六條地上權者カ土地ノ所有者ニ定期ノ地代ヲ拂フヘキトキハ
第二百七十四條乃至第一一百七十六條ノ規定ヲ準用ス
此他地代ニ付テハ賃貸借ニ關スル規定ヲ凖用ス
第二百六十七條第二百九條乃至第二百三十八條ノ規定ハ地上權者間又ハ
地上權者ト土地ノ所有者トノ間ニ之ヲ準用ス但第二百二十九條ノ推定ハ
地上權設定後ニ爲シタル工事ニ付テノミ之ヲ地上權者ニ準用ス
第二百六十八條設定行爲ヲ以テ地上權ノ存續期間ヲ定メサリシ場合ニ於
テ別段ノ慣習ナキトキハ地上權者ハ何時ニテモ其權利ヲ抛棄スルコトヲ
得但地代ヲ拂フヘキトキハ一年前ニ豫〓ヲ爲シ又ハ未タ期限ノ至ラサル
一年分ノ地代ヲ拂フコトヲ要ス
地上權者カ前項ノ規定ニ依リテ其權利ヲ抛棄セサルトキハ裁判所ハ當事
者ノ請求ニ因リ二十年以上五十年以下ノ範圍內ニ於テ工作物又ハ竹木ノ
種類及ヒ狀況其他地上權設定ノ當時ノ事情ヲ斟酌シテ其存續期間ヲ定ム
第二百六十九條地上權者ハ其權利消滅ノ時土地ヲ原狀ニ復シテ其工作物
及ヒ竹木ヲ收去スルコトヲ得但土地ノ所有者カ時價ヲ提供シテ之ヲ買取
ルヘキ旨ヲ通知シタルトキハ地上權者ハ正當ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコ
トヲ得ス
前項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ從フ
第五章永小作權
第二百七十條永小作人ハ小作料ヲ拂ヒテ他人ノ土地ニ耕作又ハ牧畜ヲ
爲ス權利ヲ有ス
第二百七十一條永小作人ハ土地ニ永久ノ損害ヲ生スヘキ變更ヲ加フルコ
トヲ得ス
第二百七十二條永小作人ハ其權利ヲ他人ニ讓渡シ又ハ其權利ノ存續期間
內ニ於テ耕作若クハ牧畜ノ爲メ土地ヲ賃貸スルコトヲ得但設定行爲ヲ以
テ之ヲ禁シタルトキハ此限ニ在ラス
第二百七十三條永小作人ノ義務ニ付テハ本章ノ規定及ヒ設定行爲ヲ以テ
定メタルモノノ外賃貸借ニ關スル規定ヲ準用ス
第二百七十四條永小作人ハ不可抗力ニ因リ收益ニ付キ損失ヲ受ケタルト
キト雖モ小作料ノ免除又ハ減額ヲ請求スルコトヲ得ス
第二百七十五條永小作人カ不可抗力ニ因リ引續キ三年以上全ク收益ヲ得
ス又ハ五年以上小作料ヨリ少キ收益ヲ得タルトキハ其權利ヲ抛棄スルコ
トヲ得
第二百七十六條永小作人カ引續キ二年以上小作料ノ支拂ヲ怠リ又ハ破產
ノ宣告ヲ受ケタルトキハ地主ハ永小作權ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得
第二百七十七條前六條ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ從フ
第二百七十八條永小作權ノ存續期間ハ一一十年以上五十年以下トス若シ五
十年ヨリ長キ期間ヲ以テ永小作權ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ五十
年ニ短縮ス
永小作權ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五十年
ヲ超ユルコトヲ得ス
設定行爲ヲ以テ永小作權ノ存續期間ヲ定メサリシトキハ其期間ハ別段ノ
慣習アル場合ヲ除ク外之ヲ三十年トス
第二百七十九條第二百六十九條ノ規定ハ永小作權ニ之ヲ準用ス
第六章地役權
第二百八十條地役權者ハ設定行爲ヲ以テ定メタル目的ニ從ヒ他人ノ土
地ヲ自己ノ土地ノ便益ニ供スル權利ヲ有ス但第三章第一節中ノ公ノ秩序
ニ關スル規定ニ違反セサルコトヲ要ス
第二百八十一條地役權ハ要役地ノ所有權ノ從トシテ之ト共ニ移轉シ又ハ
要役地ノ上ニ存スル他ノ權利ノ目的タルモノトス但設定行爲ニ別段ノ定
アルトキハ此限ニ在ラス
地役權ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ讓渡シ又ハ他ノ權利ノ目的ト爲スコト
ヲ得ス
第二百八十二條土地ノ共有者ノ一人ハ其持分ニ付キ其土地ノ爲メニ又ハ
其土地ノ上ニ存スル地役權ヲ消滅セシムルコトヲ得ス
土地ノ分割又ハ其一部ノ讓渡ノ場合ニ於テハ地役權ハ其各部ノ爲メニ又
ハ其各部ノ上ニ存ス但地役權カ其性質ニ因リ土地ノ一部ノミニ關スルト
キハ此限ニ在ラス
第二百八十三條地役權ハ繼續且表現ノモノニ限リ時效ニ因リテ之ヲ取得
スルコトヲ得
第二百八十四條共有者ノ一人カ時效ニ因リテ地役權ヲ取得シタルトキハ
他ノ共有者モ亦之ヲ取得ス
共有者ニ對スル時效中斷ハ地役權ヲ行使スル各共有者ニ對シテ之ヲ爲ス
ニ非サレハ其效力ヲ生セス
地役權ヲ行使スル共有者數人アル場合ニ於テ其一人ニ對シテ時效停止ノ
原因アルモ時效ハ各共有者ノ爲メニ進行ス
第二百八十五條用水地役權ノ承役地ニ於テ水カ要役地及ロ承役地ノ需要
ノ爲メニ不足ナルトキハ其各地ノ需要ニ應シ先ツ之ヲ家用ニ供シ其殘餘
ヲ他ノ用ニ供スルモノトス但設定行爲ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラ
ス
同一ノ承役地ノ上ニ數個ノ用水地役權ヲ設定シタルトキハ後ノ地役權者
ハ前ノ地役權者ノ水ノ使用ヲ妨クルコトヲ得ス
第二百八十六條設定行爲又ハ特別契約ニ因リ承役地ノ所有者カ其費用ヲ
以テ地役權ノ行使ノ爲メニ工作物ヲ設ケ又ハ其修繕ヲ爲ス義務ヲ負擔シ
タルトキハ其義務ハ承役地ノ所有者ノ特定承繼人モ亦之ヲ負擔ス
第二百八十七條承役地ノ所有者ハ何時ニテモ地役權ニ必要ナル土地ノ部
分ノ所有權ヲ地役權者ニ委棄シテ前條ノ負擔ヲ免ルルコトヲ得
第二百八十八條承役地ノ所有者ハ地役權ノ行使ヲ妨ケサル範圍內ニ於テ
其行使ノ爲メニ承役地ノ上ニ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ承役地ノ所有者ハ其利益ヲ受クル割合ニ應シテ工作
物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分擔スルコトヲ要ス
第二百八十九條承役地ノ占有者カ取得時效ニ必要ナル條件ヲ具備セル占
有ヲ爲シタルトキハ地役權ハ之ニ因リテ消滅ス
第二百九十條前條ノ消滅時效ハ地役權者カ其權利ヲ行使スルニ因リテ
中斷ス
第二百九十一條第百六十七條第二項ニ規定セル消滅時效ノ期間ハ不繼續
地役權ニ付テハ最後ノ行使ノ時ヨリ之ヲ起算シ繼續地役權ニ付テハ其行
使ヲ妨クヘキ事實ノ生シタル時ヨリ之ヲ起算ス
第二百九十二條要役地カ數人ノ共有ニ屬スル場合ニ於テ其一人ノ爲メニ
時效ノ中斷又ハ停止アルトキハ其中斷又ハ停止ハ他ノ共有者ノ爲メニモ
其效力ヲ生ス
第二百九十三條地役權者カ其權利ノ一部ヲ行使セサルトキハ其部分ノミ
時效ニ因リテ消滅ス
第二百九十四條共有ノ性質ヲ有セサル入會權ニ付テハ各地方ノ慣習ニ從
フ外本章ノ規定ヲ準用ス
第七章留置權
第二百九十五條他人ノ物ノ占有者カ其物ニ關シテ生シタル債權ヲ有スル
トキハ其債權ノ辨濟ヲ受クルマテ其物ヲ留置スルコトヲ得但其債權カ辨
濟期ニ在ラサルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ハ占有カ不法行爲ニ因リテ始マリタル場合ニハ之ヲ適用セス
第二百九十六條留置權者ハ債權ノ全部ノ辨濟ヲ受クルマテハ留置物ノ全
部ニ付キ其權利ヲ行フコトヲ得
第二百九十七條留置權者ハ留置物ヨリ生スル果實ヲ收取シ他ノ債權者ニ
先チテ之ヲ其債權ノ辨濟ニ充當スルコトヲ得
前項ノ果實ハ先ツ之ヲ債權ノ利息ニ充當シ尙ホ餘剰アルトキハ之ヲ元本
ニ充當スルコトヲ要ス
第二百九十八條留置權者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ留置物ヲ占有ス
ルコトヲ要ス
留置權者ハ債務者ノ承諾ナクシテ留置物ノ使用若クハ賃貸ヲ爲シ又ハ之
ヲ擔保ニ供スルコトヲ得ス但其物ノ保存ニ必要ナル使用ヲ爲スハ此限ニ
在ラス
留置權者カ前二項ノ規定ニ違反シタルトキハ債務者ハ留置權ノ消滅ヲ請
求スルコトヲ得
第二百九十九條留置權者カ留置物ニ付キ必要費ヲ出タシタルトキハ所有
者ヲシテ其償還ヲ爲サシムルコトヲ得
留置權者カ留置物エ付キ有益費ヲ出タシタルトキハ其價格ノ增加カ現存
スル場合ニ限リ所有者ノ選擇ニ從ヒ其費シタル金額又ハ增價額ヲ償還セ
シムルコトヲ得但裁判所ハ所有者ノ請求ニ因リ之ニ相當ノ期限ヲ許與ス
ルコトヲ得
第三百條留置權ノ行使ハ債權ノ消滅時效ノ進行ヲ妨ケス
第三百一條債務者ハ相當ノ擔保ヲ供シテ留置權ノ消滅ヲ請求スルコトヲ
得
第三百二條留置權ハ占有ノ喪失ニ因リテ消滅ス但第二百九十八條第二項
ノ規定ニ依リ賃貸又ハ質入ヲ爲シタル場合ハ此限ニ在ラス
第八章先取特權
第一節總則
第三百三條先取特權者ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ從ヒ其債務者ノ財產ニ
付キ他ノ債權者ニ先チテ自己ノ債權ノ辨濟ヲ受クル權利ヲ有ス
第三百四條先取特權ハ其目的物ノ賣却、賃貸、滅失又ハ毀損ニ因リテ債務
者カ受クヘキ金錢其他ノ物ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得但先取特權者ハ
其拂渡又ハ引渡前ニ差押ヲ爲スコトヲ要ス
債務者カ先取特權ノ目的物ノ上ニ設定シタル物權ノ對價ニ付キ亦同シ
第三百五條第二百九十六條ノ規定ハ先取特權ニ之ヲ準用ス
第二節先取特權ノ種類
第一款一般ノ先取特權
第三百六條左ニ揭ケタル原因ヨリ生シタル債權ヲ有スル者ハ債務者ノ總
財產ノ上ニ先取特權ヲ有ス
一共益ノ費用
二葬式ノ費用
三雇人ノ給料
四日用品ノ供給
第三百七條共益費用ノ先取特權ハ各債權者ノ共同利益ノ爲メニ爲シタル
債務者ノ財產ノ保存、〓算又ハ配當ニ關スル費用ニ付キ存在ス
前項ノ費用中總債權者ニ有益ナラサリシモノニ付テハ先取特權ハ其費用
ノ爲メ利益ヲ受ケタル債權者ニ對シテノミ存在ス
第三百八條葬式費用ノ先取特權ハ債務者ノ身分ニ應シテ爲シタル葬式ノ
費用ニ付キ存在ス
前項ノ先取特權ハ債務者カ其扶養スヘキ親族又ハ家族ノ身分ニ應シテ爲
シタル葬式ノ費用ニ付テモ亦存在ス
第三百九條雇人給料ノ先取特權ハ債務者ノ雇人カ受クヘキ最後ノ六个月
間ノ給料ニ付キ存在ス但其金額ハ五十圓ヲ限トス
第三百十條日用品供給ノ先取特權ハ債務者又ハ其扶養スヘき同居ノ親族
竝ニ家族及ヒ其僕婢ノ生活ニ必要ナル最後ノ六个月間ノ飮食品及ヒ薪炭
油ノ供給ニ付キ存在ス
第二款動產ノ先取特權
第三百十一條左ニ揭ケタル原因ヨリ生シタル債權ヲ有スル者ハ債務者ノ
特定動產ノ上ニ先取特權ヲ有ス
一不動產ノ賃貸借
二旅店ノ宿泊
旅客又ハ荷物ノ運輸
六五四三公吏ノ職務上ノ過失
動產ノ保存
動產ノ賣買
七種苗又ハ肥料ノ供給
八農工業ノ勞役
第三百十二條不動產賃貸ノ先取特權ハ其不動產ノ借賃其他賃貸借關係ヨ
リ生シタル賃借人ノ債務ニ付キ賃借人ノ動產ノ上ニ存在ス
第三百十三條土地ノ賃貸人ノ先取特權ハ賃借地又ハ其利用ノ爲メニスル
建物ニ備附ケタル動產、其土地ノ利用ニ供シタル動產及ヒ賃借人ノ占有
ニ在ル其土地ノ果實ノ上ニ存在ス
建物ノ賃貸人ノ先取特權ハ賃借人カ其建物ニ備附ケタル動產ノ上ニ存在
ス
第三百十四條賃借權ノ讓渡又ハ轉貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特權ハ
讓受人又ハ轉借人ノ動產ニ及フ讓渡人又ハ轉貸人カ受クヘキ金額ニ付キ
亦同シ
第三百十五條賃借人ノ財產ノ總〓算ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特權ハ
前期、當期及ヒ次期ノ借賃其他ノ債務及ヒ前期竝ニ當期ニ於テ生シタル
損害ノ賠償ニ付テノミ存在ス
第三百十六條賃貸人カ敷金ヲ受取リタル場合ニ於テハ其敷金ヲ以テ辨濟
ヲ受ケサル債權ノ部分ニ付テノミ先取特權ヲ有ス
第三百十七條族店宿泊ノ先取特權ハ旅客、其從者及ヒ牛馬ノ宿泊料竝ニ
飮食料ニ付キ其旅店ニ存スル手荷物ノ上ニ存在ス
第三百十八條運輸ノ先取特權ハ旅客又ハ荷物ノ運送賃及ヒ附隨ノ費用ニ
付キ運送人ノ手ニ存スル荷物ノ上ニ存在ス
第三百十九條第百九十二條乃至第百九十五條ノ規定ハ前七條ノ先取特權
ニ之ヲ準用ス
第三百二十條公吏保證金ノ先取特權ハ保證金ヲ供シタル公吏ノ職務上ノ
過失ニ因リテ生シタル債權ニ付キ其保證金ノ上ニ存在ス
第三百二十一條動產保存ノ先取特權ハ動產ノ保存費ニ付キ其動產ノ上
ニ存在ス
前項ノ先取特權ハ動產ニ關スル權利ヲ保存、追認又ハ實行セシムル爲メ
ニ要シタル費用ニ付テモ亦存在ス
第三百二十二條動產賣買ノ先取特權ハ動產ノ代價及ヒ其利息ニ付キ其動
產ノ上ニ存在ス
第三百二十三條種苗肥料供給ノ先取特權ハ種苗又ハ肥料ノ代價及ヒ其利
息ニ付キ其種苗又ハ肥料ヲ用井タル後一年內ニ之ヲ用井タル土地ヨリ生
シタル果實ノ上ニ存在ス
前項ノ先取特權ハ蠶種又ハ蠶ノ飼養ニ供シタル桑葉ノ供給ニ付キ其蠶種
又ハ桑葉ヨリ生シタル物ノ上ニモ亦存在ス
第三百二十四條農工業勞役ノ先取特權ハ農業ノ勞役者ニ付テハ最後ノ一
年間工業ノ勞役者ニ付テハ最後ノ三个月間ノ賃金ニ付キ其勞役ニ因リテ
生シタル果實又ハ製作物ノ上ニ存在ス
第三款不動產ノ先取特權
第三百二十五條左ニ揭ケタル原因ヨリ生シタル債權ヲ有スル者ハ債務者
ノ特定不動產ノ上ニ先取特權ヲ有ス
一不動產ノ保存
二不動產ノ工事
三不動產ノ賣買
第三百二十六條不動產保存ノ先取特權ハ不動產ノ保存費ニ付キ其不動產
ノ上ニ存在ス
第三百二十一條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百二十七條不動產工事ノ先取特權ハ工匠、技師及ヒ請負人カ債務者
ノ不動產ニ關シテ爲シタル工事ノ費用ニ付キ其不動產ノ上ニ存在ス
前項ノ先取特權ハ工事ニ因リテ生シタル不動產ノ增價カ現存スル場合ニ
限リ其增價額ニ付テノミ存在ス
第三百二十八條不動產賣買ノ先取特權ハ不動產ノ代價及ヒ其利息ニ付キ
其不動產ノ上ニ存在ス
第三節先取特權ノ順位
第三百二十九條一般ノ先取特權カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先權ノ
順位ハ第三百六條ニ揭ケタル順序ニ從フ
一般ノ先取特權ト特別ノ先取特權ト競合スル場合ニ於テハ特別ノ先取特
權ハ一般ノ先取特權ニ先ツ但共益費用ノ先取特權ハ其利益ヲ受ケタル總
債權者ニ對シテ優先ノ效力ヲ有ス
第三百三十條同一ノ動產ニ付キ特別ノ先取特權カ互ニ競合スル場合ニ
於テハ其優先權ノ順位左ノ如シ
第不動產賃貸、旅店宿泊及ヒ運輸ノ先取特權
第二動產保存ノ先取特權但數人ノ保存者アリタルトキハ後ノ保存者
ハ前ノ保存者ニ先ツ
第三動產賣買、種苗肥料供給及ヒ農工業勞役ノ先取特權
第一順位ノ先取特權者カ債權取得ノ當時第二又ハ第三ノ順位ノ先取特權
者アルコトヲ知リタルトキハ之ニ對シテ優先權ヲ行フコトヲ得ス第一順
位者ノ爲メニ物ヲ保存シタル者ニ對シ亦同シ
果實ニ關シテハ第一ノ順位ハ農業ノ勞役者ニ第一一ノ順位ハ種苗又ハ肥料
ノ供給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ屬ス
第三百三十一條同一ノ不動產ニ付キ特別ノ先取特權カ互ニ競合スル場合
ニ於テハ其優先權ノ順位ハ第三百二十五條ニ揭ケタル順序ニ從フ
同一ノ不動產ニ付キ逐次ノ賣買アリタルトキハ賣主相互間ノ優先權ノ順
位ハ時ノ前後ニ依ル
第三百三十二條同一ノ目的物ニ付キ同一順位ノ先取特權者數人アルトキ
ハ各其債權額ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受ク
第四節先取特權ノ效力
第三百三十三條先取特權ハ債務者カ其動產ヲ第三取得者ニ引渡シタル後
ハ其動產ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
第三百三十四條先取特權ト動產質權ト競合スル場合ニ於テハ動產質權者
ハ第三百三十條ニ揭ケタル第一順位ノ先取特權者ト同一ノ權利ヲ有ス
第三百三十五條一般ノ先取特權者ハ先ツ不動產以外ノ財產ニ付キ辨濟ヲ
受ケ尙ホ不足アルニ非サレハ不動產ニ付キ辨濟ヲ受クルコトヲ得ス
不動產ニ付テハ先ツ特別擔保ノ目的タラサルモノニ付キ辨濟ヲ受クルコ
トヲ要ス
一般ノ先取特權者カ前二項ノ規定ニ從ヒテ配當ニ加入スルコトヲ怠リタ
ルトキハ其配當加入ニ因リテ受クヘカリシモノノ限度ニ於テハ登記ヲ爲
シタル第三者ニ對シテ其先取特權ヲ行フコトヲ得ス
前三項ノ規定ハ不動產以外ノ財產ノ代價ニ先チテ不動產ノ代價ヲ配當シ
又ハ他ノ不動產ノ代價ニ先チテ特別擔保ノ目的タル不動產ノ代價ヲ配當
スヘキ場合ニハ之ヲ適用セス
第三百三十六條一般ノ先取特權ハ不動產ニ付キ登記ヲ爲ササルモ之ヲ以
テ特別擔保ヲ有セサル債權者ニ對抗スルコトヲ妨ケス但登記ヲ爲シタル
第三者ニ對シテハ此限ニ在ラス
第三百三十七條不動產保存ノ先取特權ハ保存行爲完了ノ後直チニ登記ヲ
爲スニ因リテ其效力ヲ保存ス
第三百三十八條不動產工事ノ先取特權ハ工事ヲ始ムル前ニ其費用ノ豫算
額ヲ登記スルニ因リテ其效力ヲ保存ス但工事ノ費用カ豫算額ヲ超ユルト
キハ先取特權ハ其超過額ニ付テハ存在セス
工事ニ因リテ生シタル不動產ノ增價額ハ配當加入ノ時裁判所ニ於テ選任
シタル鑑定人ヲシテ之ヲ評價セシムルコトヲ要ス
第三百三十九條前二條ノ規定ニ從ヒテ登記シタル先取特權ハ抵當權ニ先
チテ之ヲ行フコトヲ得
第三百四十條不動產賣買ノ先取特權ハ賣買契約ト同時ニ未タ代價又ハ
其利息ノ辨濟アラサル旨ヲ登記スルニ因リテ其效力ヲ保存ス
第三百四十一條先取特權ノ效力ニ付テハ本節ニ定メタルモノノ外抵當權
ニ關スル規定ヲ準用ス
第九章質權
第一節總則
第三百四十二條質權者ハ其債權ノ擔保トシテ債務者又ハ第三者ヨリ受取
リタル物ヲ占有シ且其物ニ付キ他ノ債權者ニ先チテ自己ノ債權ノ辨濟ヲ
受クル權利ヲ有ス
第三百四十三條質權ハ讓渡スコトヲ得サル物ヲ以テ其目的ト爲スコトヲ
得ス
第三百四十四條質權ノ設定ハ債權者ニ其目的物ノ引渡ヲ爲スニ因リテ其
效力ヲ生ス
第三百四十五條質權者ハ質權設定者ヲシテ自己ニ代ハリテ質物ノ占有ヲ
爲サシムルコトヲ得ス
第三百四十六條質權ハ元本、利息、違約金、質權實行ノ費用、質物保存ノ費
用及ヒ債務ノ不履行又ハ質物ノ隱レタル瑕疵ニ因リテ生シタル損害ノ賠
償ヲ擔保ス但設定行爲ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第三百四十七條質權者ハ前條ニ揭ケタル債權ノ辨濟ヲ受クルマテハ質物
ヲ留置スルコトヲ得但此權利ハ之ヲ以テ自己ニ對シ優先權ヲ有スル債權
者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三百四十八條質權者ハ其權利ノ存續期間內ニ於テ自己ノ責任ヲ以テ質
物ヲ轉質ト爲スコトヲ得此場合ニ於テハ轉質ヲ爲ササレハ生セサルヘキ
不可抗力ニ因ル損失ニ付テモ亦其責ニ任ス
第三百四十九條質權設定者ハ設定行爲又ハ債務ノ辨濟期前ノ契約ヲ以テ
質權者ニ辨濟トシテ質物ノ所有權ヲ取得セシメ其他法律ニ定メタル方法
ニ依ラスシテ質物ヲ處分セシムルコトヲ約スルコトヲ得ス
第三百五十條第二百九十六條乃至第二一百條及ヒ第三百四條ノ規定ハ質
權ニ之ヲ準用ス
第三百五十一條他人ノ債務ヲ擔保スル爲メ質權ヲ設定シタル者カ其債務
ヲ辨濟シ又ハ質權ノ實行ニ因リテ質物ノ所有權ヲ失ヒタルトキハ保證債
務ニ關スル規定ニ從ヒ債務者ニ對シテ求償權ヲ有ス
第二節動產質
第三百五十二條動產質權者ハ繼續シテ質物ヲ占有スルニ非サレハ其質權
ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三百五十三條動產質權者カ質物ノ占有ヲ奪ハレタルトキハ占有囘收ノ
訴ニ依リテノミ其質物ヲ囘復スルコトヲ得
第三百五十四條動產質權者カ其債權ノ辨濟ヲ受ケサルトキハ正當ノ理由
アル場合ニ限リ鑑定人ノ評價ニ從ヒ質物ヲ以テ直チニ辨濟ニ充ツルコト
ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ質權者ハ豫メ債務者ニ其請
求ヲ通知スルコトヲ要ス
第三百五十五條數個ノ債權ヲ擔保スル爲メ同一ノ動產ニ付キ質權ヲ設定
シタルトキハ其質權ノ順位ハ設定ノ前後ニ依ル
第三節不動產質
第三百五十六條不動產質權者ハ質權ノ目的タル不動產ノ用方ニ從ヒ其使
用及ヒ收益ヲ爲スコトヲ得
第三百五十七條不動產質權者ハ管理ノ費用ヲ拂ヒ其他不動產ノ負擔ニ任
ス
第三百五十八條不動產質權者ハ其債權ノ利息ヲ請求スルコトヲ得ス
第三百五十九條前三條ノ規定ハ設定行爲ニ別段ノ定アルトキハ之ヲ適用
セス
第三百六十條不動產質ノ存續期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨ
リ長キ期間ヲ以テ不動產質ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮
ス
不動產質ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ十年ヲ
超ユルコトヲ得ス
第三百六十一條不動產質ニハ本節ノ規定ノ外次章ノ規定ヲ準用ス
第四節權利質
第三百六十二條質權ハ財產權ヲ以テ其目的ト爲スコトヲ得
前項ノ質權ニハ本節ノ規定ノ外前三節ノ規定ヲ準用ス
第三百六十三條債權ヲ以テ質權ノ目的ト爲ス場合ニ於テ其債權ノ證書ア
ルトキハ質權ノ設定ハ其證書ノ交付ヲ爲スニ因リテ其效力ヲ生ス
第三百六十四條指名債權ヲ以テ質權ノ目的ト爲シタルトキハ第四百六十
七條ノ規定ニ從ヒ第三債務者ニ質權ノ設定ヲ通知シ又ハ第三債務者カ之
ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ第三債務者其他ノ第三者ニ對抗スルコト
ヲ得ス
前項ノ規定ハ記名ノ株式ニハ之ヲ適用セス
第三百六十五條記名ノ社債ヲ以テ質權ノ目的ト爲シタルトキハ社債ノ讓
渡ニ關スル規定ニ從ヒ會社ノ帳簿ニ質權ノ設定ヲ記入スルニ非サレハ之
ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三百六十六條指圖債權ヲ以テ質權ノ日的ト爲シタルトキハ其證書ニ質
權ノ設定ヲ裏書スルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三百六十七條質權者ハ質權ノ目的タル債權ヲ直接ニ取立ツルコトヲ
得
債權ノ目的物カ金錢ナルトキハ質權者ハ自己ノ債權額ニ對スル部分ニ限
リ之ヲ取立ツルコトヲ得
右ノ債權ノ辨濟期カ質權者ノ債權ノ辨濟期前ニ到來シタルトキハ質權者
ハ第三債務者ヲシテ其辨濟金額ヲ供託セシムルコトヲ得此場合ニ於テハ
質權ハ其供託金ノ上ニ存在ス
債權ノ目的物カ金錢ニ非サルトキハ質權者ハ辨濟トシテ受ケタル物ノ上
ニ質權ヲ有ス
第三百六十八條質權者ハ前條ノ規定ニ依ル外民事訴訟法ニ定ムル執行方
法ニ依リテ質權ノ實行ヲ爲スコトヲ得
第十章抵當權
第一節總則
第三百六十九條抵當權者ハ債務者又ハ第三者カ占有ヲ移サスシテ債務ノ
擔保ニ供シタル不動產ニ付キ他ノ債權者ニ先チテ自己ノ債權ノ辨濟ヲ受
クル權利ヲ有ス
地上權及ヒ永小作權モ亦之ヲ抵當權ノ目的ト爲スコトヲ得此場合ニ於テ
ハ本章ノ規定ヲ準用ス
第三、百七十條抵當權ハ抵當地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外其目的タル不
動產ニ附加シテ之ト一體ヲ成シタル物ニ及フ但設定行爲ニ別段ノ定アル
トキ及ヒ第四百二十四條ノ規定ニ依リ債權者カ債務者ノ行爲ヲ取消スコ
トヲ得ル場合ハ此限ニ在ラス
第三百七十一條前條ノ規定ハ果實ニハ之ヲ適用セス但抵當不動產ノ差押
アリタル後又ハ第三取得者カ第三百八十一條ノ通知ヲ受ケタル後ハ此限
ニ在ラス
第三取得者カ第三百八十一條ノ通知ヲ受ケタルトキハ其後一年內ニ抵當
不動產ノ差押アリタル場合ニ限リ前項但書ノ規定ヲ適用ス
第三百七十二條第二百九十六條、第三百四條及ヒ第三百五十一條ノ規定
ハ抵當權ニ之ヲ準用ス
第二節抵當權ノ效力
第三百七十三條數個ノ債權ヲ擔保スル爲メ同一ノ不動產ニ付キ抵當權ヲ
設定シタルトキハ其抵當權ノ順位ハ登記ノ前後ニ依ル
第三百七十四條抵當權者カ利息其他ノ定期金ヲ請求スル權利ヲ有スルト
キハ其滿期ト爲リタル最後ノ二年分ニ付テノミ其抵當權ヲ行フコトヲ得
但其以前ノ定期金ニ付テモ滿期後特別ノ登記ヲ爲シタルトキハ其登記ノ
時ヨリ之ヲ行フコトヲ妨ケス
第三百七十五條抵當權者ハ其抵當權ヲ以テ他ノ債權ノ擔保ト爲シ又同一
ノ債務者ニ對スル他ノ債權者ノ利益ノ爲メ其抵當權若クハ其順位ヲ讓渡
シ又ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ抵當權者カ數人ノ爲メニ其抵當權ノ處分ヲ爲シタルト
キハ其處分ノ利益ヲ受クル者ノ權利ノ順位ハ抵當權ノ登記ニ附記ヲ爲シ
タル前後ニ依ル
第三百七十六條前條ノ場合ニ於テハ第四百六十七條ノ規定ニ從ヒ主タル
債務者ニ抵當權ノ處分ヲ通知シ又ハ其債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ
之ヲ以テ其債務者、保證人、抵當權設定者及ヒ其承繼人ニ對抗スルコトヲ
得ス
主タル債務者カ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ承諾ヲ爲シタルトキハ抵當權ノ處
分ノ利益ヲ受クル者ノ承諾ナクシテ爲シタル辨濟ハ之ヲ以テ其受益者ニ
對抗スルコトヲ得ス
第三百七十七條抵當不動產ニ付キ所有權又ハ地上權ヲ買受ケタル第三者
カ抵當權者ノ請求ニ應シテ之ニ其代價ヲ辨濟シタルトキハ抵當權ハ其第
三者ノ爲メニ消滅ス
第三百七十八條抵當不動產ニ付キ所有權、地上權又ハ永小作權ヲ取得シ
タル第三者ハ第三百八十二條乃至第三百八十四條ノ規定ニ從ヒ抵當權者
ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ拂渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵當權ヲ滌除
スルコトヲ得
第三百七十九條主タル債務者、保證人及ヒ其承繼人ハ抵當權ノ滌除ヲ爲
スコトヲ得ス
第三百八十條停止條件附第三取得者ハ條件ノ成否未定ノ間ハ抵當權ノ
滌除ヲ爲スコトヲ得ス
第三百八十一條抵當權者カ其抵當權ヲ實行セント欲スルトキハ豫メ第三
百七十八條ニ揭ケタル第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス
第三百八十二條第三取得者ハ前條ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵當
權ノ滌除ヲ爲スコトヲ得
第三取得者カ前條ノ通知ヲ受ケタルトキハ一个月內ニ次條ノ送達ヲ爲ス
ニ非サレハ抵當權ノ滌除ヲ爲スコトヲ得ス
前條ノ通知アリタル後ニ第三百七十八條ニ揭ケタル權利ヲ取得シタル第
三者ハ前項ノ第三取得者カ滌除ヲ爲スコトヲ得ル期間內ニ限リ之ヲ爲ス
コトヲ得
第三百八十三條第三取得者カ抵當權ヲ滌除セント欲スルトキハ登記ヲ爲
シタル各債權者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス
-取得ノ原因、年月日、讓渡人及ヒ取得者ノ氏名、住所、抵當不動產ノ
性質、所在、代價其他取得者ノ負擔ヲ記載シタル書面
二抵當不動產ニ關スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル權利ニ關スル
登記ハ之ヲ揭クルコトヲ要セス
三債權者カ一个月內ニ次條ノ規定ニ從ヒ增價競賣ヲ請求セサルト
キハ第三取得者ハ第一號ニ揭ケタル代價又ハ特ニ指定シタル金額ヲ
債權ノ順位ニ從ヒテ辨濟又ハ供託スヘキ旨ヲ記載シタル書面
第三百八十四條債權者カ前條ノ送達ヲ受ケタル後一个月內ニ增價競賣ヲ
請求セサルトキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス
增價競賣ハ若シ競賣ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ十分ノ一以
上高價ニ抵當不動產ヲ賣却スルコト能ハサルトキハ十分ノ一ノ增價ヲ以
テ自ラ其不動產ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ對シテ之ヲ請求ス
ルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テハ債權者ハ代價及ヒ費用ニ付キ擔保ヲ供スルコトヲ要
ス
第三百八十五條債權者カ增價競賣ヲ請求スルトキハ前條ノ期間內ニ債務
者及ヒ抵當不動產ノ讓渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス
第三百八十六條增價競賣ヲ請求シタル債權者ハ登記ヲ爲シタル他ノ債權
者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス
第三百八十七條抵當權者カ第三百八十一一條ニ定メタル期間內ニ第三取得
者ヨリ債務ノ辨濟又ハ滌除ノ通知ヲ受ケサルトキハ抵當不動產ノ競賣ヲ
請求スルコトヲ得
第三百八十八條土地及ヒ其上ニ存スル建物カ同一ノ所有者ニ屬スル場合
ニ於テ其土地又ハ建物ノミヲ抵當ト爲シタルトキハ抵當權設定者ハ競賣
ノ場合ニ付キ地上權ヲ設定シタルモノト看做ス但地代ハ當事者ノ請求ニ
因リ裁判所之ヲ定ム
第三百八十九條抵當權設定ノ後其設定者カ抵當地ニ建物ヲ築造シタルト
キハ抵當權者ハ土地ト共ニ之ヲ競賣スルコトヲ得但其優先權ハ土地ノ代
價ニ付テノミ之ヲ行フコトヲ得
第三百九十條第三取得者ハ競買人ト爲ルコトヲ得
第三百九十一條第三取得者カ抵當不動產ニ付キ必要費又ハ有益費ヲ出タ
シタルトキハ第百九十六條ノ區別ニ從ヒ不動產ノ代價ヲ以テ最モ先ニ其
償還ヲ受クルコトヲ得
第三百九十二條債權者カ同一ノ債權ノ擔保トシテ數個ノ不動產ノ上ニ抵
當權ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代價ヲ配當スヘキトキハ其各不動產ノ
價額ニ準シテ其債權ノ負擔ヲ分ツ
或不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキハ抵當權者ハ其代價ニ付キ債權ノ
全部ノ辨濟ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵當權者ハ
前項ノ規定ニ從ヒ右ノ抵當權者カ他ノ不動產ニ付キ辨濟ヲ受クヘキ金額
ニ滿ツルマテ之ニ代位シテ抵當權ヲ行フコトヲ得
第三百九十三條前條ノ規定ニ從ヒ代位ニ因リテ抵當權ヲ行フ者ハ其抵當
權ノ登記ニ其代位ヲ附記スルコトヲ得
第三百九十四條抵當權者ハ抵當不動產ノ代價ヲ以テ辨濟ヲ受ケサル債權
ノ部分ニ付テノミ他ノ財產ヲ以テ辨濟ヲ受クルコトヲ得
前項ノ規定ハ抵當不動產ノ代價ニ先チテ他ノ財產ノ代價ヲ配當スヘキ場
合ニハ之ヲ適用セス但他ノ各債權者ハ抵當權者ヲシテ前項ノ規定ニ從ロ
辨濟ヲ受ケシムル爲メ之ニ配當スヘキ金額ノ供託ヲ請求スルコトヲ得
第三百九十五條第六百二條ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸借ハ抵當權ノ
登記後ニ登記シタルモノト雖モ之ヲ以テ抵當權者ニ對抗スルコトヲ得但
其賃貸借カ抵當權者ニ損害ヲ及ホストキハ裁判所ハ抵當權者ノ請求ニ因
リ其解除ヲ命スルコトヲ得
第三節抵當權ノ消滅
第三百九十六條抵當權ハ債務者及ヒ抵當權設定者ニ對シテハ其擔保スル
債權ト同時ニ非サレハ時效ニ因リテ消滅セス
第三百九十七條債務者又ハ抵當權設定者ニ非サル者カ抵當不動產ニ付キ
取得時效ニ必要ナル條件ヲ具備セル占有ヲ爲シタルトキハ抵當權ハ之ニ
因リテ消滅ス
第三百九十八條地上權又ハ永小作權ヲ抵當ト爲シタル者カ其權利ヲ抛棄
シタルモ之ヲ以テ抵當權者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三編債權
第一章總則
第一節債權ノ目的
第三百九十九條債權ハ金錢ニ見積ルコトヲ得サルモノト雖モ之ヲ以テ其
目的ト爲スコトヲ得
第四百條債權ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ債務者ハ其引渡ヲ爲ス
マテ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス
第四百一條債權ノ目的物ヲ指示スルニ種類ノミヲ以テシタル場合ニ於テ
法律行爲ノ性質又ハ當事者ノ意思ニ依リテ其品質ヲ定ムルコト能ハサル
トキハ債務者ハ中等ノ品質ヲ有スル物ヲ給付スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ債務者カ物ノ給付ヲ爲スニ必要ナル行爲ヲ完了シ又ハ
債權者ノ同意ヲ得テ其給付スヘキ物ヲ指定シタルトキハ爾後其物ヲ以テ
債權ノ目的物トス
第四百二條債權ノ目的物カ金錢ナルトキハ債務者ハ其選擇ニ從ヒ各種ノ
通貨ヲ以テ辨濟ヲ爲スコトヲ得但特種ノ通貨ノ給付ヲ以テ債權ノ目的ト
爲シタルトキハ此限ニ在ラス
債權ノ目的タル特種ノ通貨カ辨濟期ニ於テ强制通用ノ效力ヲ失ヒタルト
キハ債務者ハ他ノ通貨ヲ以テ辨濟ヲ爲スコトヲ要ス
前二項ノ規定ハ外國ノ通貨ノ給付ヲ以テ債權ノ目的ト爲シタル場合ニ之
ヲ準用ス
第四百三條外國ノ通貨ヲ以テ債權額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ履行地
ニ於ケル爲替相場ニ依リ日本ノ通貨ヲ以テ辨濟ヲ爲スコトヲ得
第四百四條利息ヲ生スヘキ債權ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其利率
ハ年五分トス
第四百五條利息カ一年分以上延滯シタル場合ニ於テ債權者ヨリ催告ヲ爲
スモ債務者カ其利息ヲ拂ハサルトキハ債權者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコト
ヲ得
第四百六條債權ノ目的カ數個ノ給付中選擇ニ依リテ定マルヘキトキハ其
選擇權ハ債務者ニ屬ス
第四百七條前條ノ選擇權ハ相手方ニ對スル意思表示ニ依リテ之ヲ行フ
前項ノ意思表示ハ相手方ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第四百八條債權カ辨濟期ニ在ル場合ニ於テ相手方ヨリ相當ノ期間ヲ定メ
テ催告ヲ爲スモ選擇權ヲ有スル當事者カ其期間內ニ選擇ヲ爲ササルトキ
ハ其選擇權ハ相手方ニ屬ス
第四百九條第三者カ選擇ヲ爲スヘキ場合ニ於テハ其選擇ハ債權者又ハ債
務者ニ對スル意思表示ニ依リテ之ヲ爲ス
第三者カ選擇ヲ爲スコト能ハス又ハ之ヲ欲セサルトキハ選擇權ハ債務者
三國八
第四百十條債權ノ目的タルヘキ給付中始ヨリ不能ナルモノ又ハ後ニ至リ
テ不能ト爲リタルモノアルトキハ債權ハ其殘存スルモノニ付キ存在ス
選擇權ヲ有セサル當事者ノ過失ニ因リテ給付カ不能ト爲リタルトキハ前
項ノ規定ヲ適用セス
第四百十一條選擇ハ債權發生ノ時ニ遡リテ其效力ヲ生ス但第三者ノ權利
ヲ害スルコトヲ得ス
第二節債權ノ效力
第四百十二條債務ノ履行ニ付キ確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到
來シタル時ヨリ遲滯ノ責ニ任ス
債務ノ履行ニ付キ不確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到來シタルコ
トヲ知リタル時ヨリ遲滯ノ責ニ任ス
債務ノ履行ニ付キ期限ヲ定メサリシトキハ債務者ハ履行ノ請求ヲ受ケタ
ル時ヨリ遲滯ノ責ニ任ス
第四百十三條債權者カ債務ノ履行ヲ受クルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受クルコ
ト能ハサルトキハ其債權者ハ履行ノ提供アリタル時ヨリ遲滯ノ責ニ任ス
第四百十四條債務者カ任意ニ債務ノ履行ヲ爲ササルトキハ債權者ハ其强
制履行ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ
此限ニ在ラス
債務ノ性質カ强制履行ヲ許ササル場合ニ於テ其債務カ作爲ヲ目的トスル
トキハ債權者ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ爲サシムルコトヲ裁判
所ニ請求スルコトヲ得但法律行爲ヲ目的トスル債務ニ付テハ裁判ヲ以テ
債務者ノ意思表示ニ代フルコトヲ得
不作爲ヲ目的トスル債務ニ付テハ債務者ノ費用ヲ以テ其爲シタルモノヲ
除却シ且將來ノ爲メ適當ノ處分ヲ爲スコトヲ請求スルコトヲ得
前三項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第四百十五條債務者カ其債務ノ本旨ニ從ヒタル履行ヲ爲ササルトキハ債
權者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因
リテ履行ヲ爲スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ
第四百十六條損害賠償ノ請求ハ債務ノ不履行ニ因リテ通常生スヘキ損害
ノ賠償ヲ爲サシムルヲ以テ其目的トス
特別ノ事情ニ因リテ生シタル損害ト雖モ當事者カ其事情ヲ豫見シ又ハ豫
見スルコトヲ得ヘカリシトキハ債權者ハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第四百十七條損害賠償ハ別段ノ意思表示ナキトキハ金錢ヲ以テ其額ヲ定
ム
第四百十八條債務ノ不履行ニ關シ債權者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ
損害賠償ノ責任及ヒ其金額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
第四百十九條金錢ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ
法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利
率ニ依ル
前項ノ損害賠償ニ付テハ債權者ハ損害ノ證明ヲ爲スコトヲ要セス又債務
者ハ不可抗力ヲ以テ抗辯ト爲スコトヲ得ス
第四百二十條當事者ハ債務ノ不履行ニ付キ損害賠償ノ額ヲ豫定スルコト
ヲ得此場合ニ於テハ裁判所ハ其額ヲ增減スルコトヲ得ス
賠償額ノ豫定ハ履行又ハ解除ノ請求ヲ妨ケス
違約金ハ之ヲ賠償額ノ豫定ト推定ス
第四百二十一條前條ノ規定ハ當事者カ金錢ニ非サルモノヲ以テ損害ノ賠
償ニ充ツヘキ旨ヲ豫定シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百二十二條債權者カ損害賠償トシテ其債權ノ目的タル物又ハ權利ノ
價額ノ全部ヲ受ケタルトキハ債務者ハ其物又ハ權利ニ付キ當然債權者ニ
代位ス
第四百二十三條債權者ハ自己ノ債權ヲ保全スル爲メ其債務者ニ屬スル權
利ヲ行フコトヲ得但債務者ノ一身ニ專屬スル權利ハ此限ニ在ラス
債權者ハ其債權ノ期限カ到來セサル間ハ裁判上ノ代位ニ依ルニ非サレハ
前項ノ權利ヲ行フコトヲ得ス但保存行爲ハ此限ニ在ラス
第四百二十四條債權者ハ債務者カ其債權者ヲ害スルコトヲ知リテ爲シタ
ル法律行爲ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其行爲ニ因リテ利益ヲ
受ケタル者又ハ轉得者カ其行爲又ハ轉得ノ當時債權者ヲ害スヘキ事實ヲ
知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ハ財產權ヲ目的トセサル法律行爲ニハ之ヲ適用セス
第四百二十五條前條ノ規定ニ依リテ爲シタル取消ハ總債權者ノ利益ノ爲
メニ其效力ヲ生ス
第四百二十六條第四百二十四條ノ取消權ハ債權者カ取消ノ原因ヲ覺知シ
タル時ヨリ二年間之ヲ行ハサルトキハ時效ニ因リテ消滅ス行爲ノ時ヨリ
二十年ヲ經過シタルトキ亦同シ
第三節多數當事者ノ債權
第一款總則
第四百二十七條數人ノ債權者又ハ債務者アル場合ニ於テ別段ノ意思表示
ナキトキハ各債權者又ハ各債務者ハ平等ノ割合ヲ以テ權利ヲ有シ又ハ義
務ヲ負フ
第二款不可分債務
第四百二十八條債權ノ目的カ其性質上又ハ當事者ノ意思表示ニ因リテ不
可分ナル場合ニ於テ數人ノ債權者アルトキハ各債權者ハ總債權者ノ爲メ
ニ履行ヲ請求シ又債務者ハ總債權者ノ爲メ各債權者ニ對シテ履行ヲ爲ス
コトヲ得
第四百二十九條不可分債權者ノ一人ト其債務者トノ間ニ更改又ハ免除ア
リタル場合ニ於テモ他ノ債權者ハ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得
但其一人ノ債權者カ其權利ヲ失ハサレハ之ニ分與スヘキ利益ヲ債務者ニ
償還スルコトヲ要ス
此他不可分債權者ノ一人ノ行爲又ハ其一人ニ付キ生シタル事項ハ他ノ債
權者ニ對シテ其效力ヲ生セス
第四百三十條數人カ不可分債務ヲ負擔スル場合ニ於テハ前條ノ規定及
ヒ連帶債務ニ關スル規定ヲ準用ス但第四百三十四條乃至第四百四十條ノ
規定ハ此限ニ在ラス
第四百三十一條不可分債務カ可分債務ニ變シタルトキハ各債權者ハ自己
ノ部分ニ付テノミ履行ヲ請求スルコトヲ得又各債務者ハ其負擔部分ニ付
テノミ履行ノ責ニ任ス
第三款連帶債務
第四百三十二條數人カ連帶債務ヲ負擔スルトキハ債權者ハ其債務者ノ一
人ニ對シ又ハ同時若クハ順次ニ總債務者ニ對シテ全部又ハ一部ノ履行ヲ
請求スルコトヲ得
第四百三十三條連帶債務者ノ一人ニ付キ法律行爲ノ無效又ハ取消ノ原因
ノ存スル爲メ他ノ債務者ノ債務ノ效力ヲ妨クルコトナシ
第四百三十四條連帶債務者ノ一人ニ對スル履行ノ請求ハ他ノ債務者ニ對
シテモ其效力ヲ生ス
第四百三十五條連帶債務者ノ一人ト債權者トノ間ニ更改アリタルトキハ
債權ハ總債務者ノ利益ノ爲メニ消滅ス
第四百三十六條連帶債務者ノ一人カ債權者ニ對シテ債權ヲ有スル場合ニ
於テ其債務者カ相殺ヲ援用シタルトキハ債權ハ總債務者ノ利益ノ爲メニ
消滅ス
右ノ債權ヲ有スル債務者カ相殺ヲ援用セサル間ハ其債務者ノ負擔部分ニ
付テノミ他ノ債務者ニ於テ相殺ヲ援用スルコトヲ得
第四百三十七條連帶債務者ノ一人ニ對シテ爲シタル債務ノ免除ハ其債務
者ノ負擔部分ニ付テノミ他ノ債務者ノ利益ノ爲メニモ其效力ヲ生ス
第四百三十八條連帶債務者ノ一人ト債權者トノ間ニ混同アリタルトキハ
其債務者ハ辨濟ヲ爲シタルモノト看做ス
第四百三十九條連帶債務者ノ一人ノ爲メニ時效カ完成シタルトキハ其債
務者ノ負擔部分ニ付テハ他ノ債務者モ亦其義務ヲ免ル
第四百四十條前六條ニ揭ケタル事項ヲ除ク外連帶債務者ノ一人ニ付キ
生シタル事項ハ他ノ債務者ニ對シテ其效力ヲ生セス
第四百四十一條連帶債務者ノ全員又ハ其中ノ數人カ破產ノ宣告ヲ受ケタ
ルトキハ債權者ハ其債權ノ全額ニ付キ各財團ノ配當ニ加入スルコトヲ得
第四百四十二條連帶債務者ノ一人カ債務ヲ辨濟シ其他自己ノ出捐ヲ以テ
共同ノ免責ヲ得タルトキハ他ノ債務者ニ對シ其各自ノ負擔部分ニ付キ求
償權ヲ有ス
前項ノ求償ハ辨濟其他免責アリタル日以後ノ法定利息及ヒ避クルコトヲ
得サリシ費用其他ノ損害ノ賠償ヲ包含ス
第四百四十三條連帶債務者ノ一人カ債權者ヨリ請求ヲ受ケタルコトヲ他
ノ債務者ニ通知セスシテ辨濟ヲ爲シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ
得タル場合ニ於テ他ノ債務者カ債權者ニ對抗スルコトヲ得ヘキ事由ヲ有
セシトキハ其負擔部分ニ付キ之ヲ以テ其債務者ニ對抗スルコトヲ得但相
殺ヲ以テ之ニ對抗シタルトキハ過失アル債務者ハ債權者ニ對シ相殺ニ因
リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得
連帶債務者ノ一人カ辨濟其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルコト
ヲ他ノ債務者ニ通知スルコトヲ怠リタルニ因リ他ノ債務者カ善意ニテ債
權者ニ辨濟ヲ爲シ其他有償ニ免責ヲ得タルトキハ其債務者ハ自己ノ辨濟
其他免責ノ行爲ヲ有效ナリシモノト看做スコトヲ得
第四百四十四條連帶債務者中ニ償還ヲ爲ス資力ナキ者アルトキハ其償還
スルコト能ハサル部分ハ求償者及ヒ他ノ資力アル者ノ間ニ其各自ノ負擔
部分ニ應シテ之ヲ分割ス但未償者ニ過失アルトキハ他ノ債務者ニ對シテ
分擔ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百四十五條連帶債務者ノ一人カ連帶ノ免除ヲ得タル場合ニ於テ他ノ
債務者中ニ辨濟ノ資力ナキ者アルトキハ債權者ハ其無資力者カ辨濟スル
コト能ハサル部分ニ付キ連帶ノ免除ヲ得タル者カ負擔スヘキ部分ヲ負擔
ス
第四款保證債務
第四百四十六條保證人ハ主タル債務者カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ
其履行ヲ爲ス責ニ任ス
第四百四十七條保證債務ハ主タル債務ニ關スル利息、違約金、損害賠償
其他總テ其債務ニ從タルモノヲ包含ス
保證人ハ其保證債務ニ付テノミ違約金又ハ損害賠償ノ額ヲ約定スルコト
ヲ得
第四百四十八條保證人ノ負擔カ債務ノ目的又ハ體樣ニ付キ主タル債務ヨ
リ重キトキハ之ヲ主タル債務ノ限度ニ減縮ス
第四百四十九條無能力ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ債務ヲ保證シタル者
カ保證契約ノ當時其取消ノ原因ヲ知リタルトキハ主タル債務者ノ不履行
又ハ其債務ノ取消ノ場合ニ付キ同一ノ目的ヲ有スル獨立ノ債務ヲ負擔シ
タルモノト推定ス
第四百五十條債務者カ保證人ヲ立ツル義務ヲ負フ場合ニ於テハ其保證
人ハ左ノ條件ヲ具備スル者タルコトヲ要ス
一能力者タルコト
二辨濟ノ資力ヲ有スルコト
三債務ノ履行地ヲ管轄スル控訴院ノ管轄內ニ住所ヲ有シ又ハ假住所
ヲ定メタルコト
保證人カ前項第二號又ハ第三號ノ條件ヲ缺クニ至リタルトキハ債權者ハ
前項ノ條件ヲ具備スル者ヲ以テ之ニ代フルコトヲ請求スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ債權者カ保證人ヲ指名シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第四百五十一條債務者カ前條ノ條件ヲ具備スル保證人ヲ立ツルコト能ハ
サルトキハ他ノ擔保ヲ供シテ之ニ代フルコトヲ得
第四百五十二條債務者カ保證人ニ債務ノ履行ヲ請求シタルトキハ保證人
ハ先ツ主タル債務者ニ催告ヲ爲スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得但主タル債
務者カ破產ノ宣告ヲ受ケ又ハ其行方カ知レサルトキハ此限ニ在ラス
第四百五十三條債權者カ前條ノ規定ニ從ヒ主タル債務者ニ催告ヲ爲シタ
ル後ト雖モ保證人カ主タル債務者ニ辨濟ノ資力アリテ且執行ノ容易ナル
コトヲ證明シタルトキハ債權者ハ先ツ主タル債務者ノ財產ニ付キ執行ヲ
爲スコトヲ要ス
第四百五十四條保證人カ主タル債務者ト連帶シテ債務ヲ負擔シタルトキ
ハ前二條ニ定メタル權利ヲ有セス
第四百五十五條第四百五十二條及ヒ第四百五十三條ノ規定ニ依リ保證人
ノ請求アリタルニ拘ハラス債權者カ催告又ハ執行ヲ爲スコトヲ怠リ其後
主タル債務者ヨリ全部ノ辨濟ヲ得サルトキハ保證人ハ債權者カ直チニ催
告又ハ執行ヲ爲セハ辨濟ヲ得ヘカリシ限度ニ於テ其義務ヲ免ル
第四百五十六條數人ノ保證人アル場合ニ於テハ其保證人カ各別ノ行爲ヲ
以テ債務ヲ負擔シタルトキト雖モ第四百二十七條ノ規定ヲ適用ス
第四百五十七條主タル債務者ニ對スル履行ノ請求其他時效ノ中斷ハ保證
人ニ對シテモ其效力ヲ生ス
保證人ハ主タル債務者ノ債權ニ依リ相殺ヲ以テ債權者ニ對抗スルコトヲ
得
第四百五十八條主タル債務者カ保證人ト連帶シテ債務ヲ負擔スル場合ニ
於テハ第四百三十四條乃至第四百四十條ノ規定ヲ適用ス
第四百五十九條保證人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保證ヲ爲シタル場
合ニ於テ過失ナクシテ債權者ニ辨濟スヘキ裁判言渡ヲ受ケ又ハ主タル債
務者ニ代ハリテ辨濟ヲ爲シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務ヲ消滅セシムヘキ
行爲ヲ爲シタルトキハ其保證人ハ主タル債務者ニ對シテ求償權ヲ有ス
第四百四十二條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四百六十條保證人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保證ヲ爲シタルト
キハ其保證人ハ左ノ場合ニ於テ主タル債務者ニ對シテ豫メ求償權ヲ行フ
コトヲ得
主タル債務者カ破產ノ宣告ヲ受ケ且債權者カ其財團ノ配當ニ加入
セサルトキ
二債務カ辨濟期ニ在ルトキ但保證契約ノ後債權者カ主タル債務者ニ
許與シタル期限ハ之ヲ以テ保證人ニ對抗スルコトヲ得ス
三債務ノ辨濟期カ不確定ニシテ且其最長期ヲモ確定スルコト能ハサ
ル場合ニ於テ保證契約ノ後十年ヲ經過シタルトキ
第四百六十一條前二條ノ規定ニ依リ主タル債務者カ保證人ニ對シテ賠償
ヲ爲ス場合ニ於テ債權者カ全部ノ辨濟ヲ受ケサル間ハ主タル債務者ハ保
證人ヲシテ擔保ヲ供セシメ又ハ之ニ對シテ自己ニ免責ヲ得セシムヘキ旨
ヲ請求スルコトヲ得
右ノ場合ニ於テ主タル債務者ハ供託ヲ爲シ、擔保ヲ供シ又ハ保證人ニ免
責ヲ得セシメテ其賠償ノ義務ヲ免ルルコトヲ得
第四百六十二條主タル債務者ノ委託ヲ受ケスシテ保證ヲ爲シタル者カ債
務ヲ辨濟シ其他自己ノ出捐ヲ以テ主タル債務者ニ其債務ヲ免レシメタル
トキハ主タル債務者ハ其當時利益ヲ受ケタル限度ニ於テ賠償ヲ爲スコト
ヲ変数、
主タル債務者ノ意思ニ反シテ保證ヲ爲シタル者ハ主タル債務者カ現ニ利
益ヲ受クル限度ニ於テノミ求償權ヲ有ス但主タル債務者カ求償ノ日以前
ニ相殺ノ原因ヲ有セシコトヲ主張スルトキハ保證人ハ債權者ニ對シ其相
殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得
第四百六十三條第四百四十三條ノ規定ハ保證人ニ之ヲ準用ス
保證人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保證ヲ爲シタル場合ニ於テ善意ニ
テ辨濟其他免責ノ爲メニスル出捐ヲ爲シタルトキハ第四百四十三條ノ規
定ハ主タル債務者ニモ亦之ヲ準用ス
第四百六十四條連帶債務者又ハ不可分債務者ノ一人ノ爲メニ保證ヲ爲シ
タル者ハ他ノ債務者ニ對シテ其負擔部分ノミニ付キ求償權ヲ有ス
第四百六十五條數人ノ保證人アル場合ニ於テ主タル債務カ不可分ナル爲
メ又ハ各保證人カ全額ヲ辨濟スヘキ特約アル爲メ一人ノ保證人カ全額其
他自己ノ負擔部分ヲ超ユル額ヲ辨濟シタルトキハ第四百四十二條乃至第
四百四十四條ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ非スシテ互ニ連帶セサル保證人ノ一人カ全額其他自己ノ負
擔部分ヲ超ユル額ヲ辨濟シタルトキハ第四百六十二條ノ規定ヲ準用ス
第四節債權ノ讓渡
第四百六十六條債權ハ之ヲ讓渡スコトヲ得但其性質カ之ヲ許ササルトキ
ハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ハ當事者カ反對ノ意思ヲ表示シタル場合ニハ之ヲ適用セス但
其意思表示ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第四百六十七條指名債權ノ讓渡ハ讓渡人カ之ヲ債務者ニ通知シ又ハ債務
者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ對抗スルコ
トヲ得ス
前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル證書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ
債務者以外ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第四百六十八條債務者カ異議ヲ留メスシテ前條ノ承諾ヲ爲シタルトキハ
讓渡人ニ對抗スルコトヲ得ヘカリシ事由アルモ之ヲ以テ讓受人ニ對抗ス
ルコトヲ得ス但債務者カ其債務ヲ消滅セシムル爲メ讓渡人ニ拂渡シタル
モノアルトキハ之ヲ取返シ又讓渡人ニ對シテ負擔シタル債務アルトキハ
之ヲ成立セサルモノト看做スコトヲ妨ケス
讓渡人カ讓渡ノ通知ヲ爲シタルニ止マルトキハ債務者ハ其通知ヲ受クル
マテニ讓渡人ニ對シテ生シタル事由ヲ以テ讓受人ニ對抗スルコトヲ得
第四百六十九條指圖債權ノ讓渡ハ其證書ニ讓渡ノ裏書ヲ爲シテ之ヲ讓受
人ニ交付スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ
得ス
第四百七十條指圖債權ノ債務者ハ其證書ノ所持人及ヒ其署名、捺印ノ
眞僞ヲ調査スル權利ヲ有スルモ其義務ヲ負フコトナシ但債務者ニ惡意又
ハ重大ナル過失アルトキハ其辨濟ハ無效トス
第四百七十一條前條ノ規定ハ證書ニ債權者ヲ指名シタルモ其證書ノ所持
人ニ辨濟スヘキ旨ヲ附記シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百七十二條指圖債權ノ債務者ハ其證書ニ記載シタル事項及ヒ其證書
ノ性質ヨリ當然生スル結果ヲ除ク外原債權者ニ對抗スルコトヲ得ヘカリ
シ事由ヲ以テ善意ノ讓受人ニ對抗スルコトヲ得ス
第四百七十三條前條ノ規定ハ無記名債權ニ之ヲ準用ス
第五節債權ノ消滅
第一款辨濟
第四百七十四條債務ノ辨濟ハ第三者之ヲ爲スコトヲ得但其債務ノ性質カ
之ヲ許ササルトキ又ハ當事者カ反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在
ラス
利害ノ關係ヲ有セサル第三者ハ債務者ノ意思ニ反シテ辨濟ヲ爲スコトヲ
得ス
第四百七十五條辨濟者カ他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ更ニ有效ナル辨濟
ヲ爲スニ非サレハ其物ヲ取戾スコトヲ得ス
第四百七十六條讓渡ノ能力ナキ所有者カ辨濟トシテ物ノ引渡ヲ爲シタル
場合ニ於テ其辨濟ヲ取消シタルトキハ其所有者ハ更ニ有效ナル辨濟ヲ爲
スニ非サレハ其物ヲ取戾スコトヲ得ス
第四百七十七條前二條ノ場合ニ於テ債權者カ辨濟トシテ受ケタル物ヲ善
意ニテ消費シ又ハ讓渡シタルトキハ其辨濟ハ有效トス但債權者カ第三者
ヨリ賠償ノ請求ヲ受ケタルトキハ辨濟者ニ對シテ求償ヲ爲スコトヲ妨ケ
ス
第四百七十八條債權ノ準占有者ニ爲シタル辨濟ハ辨濟者ノ善意ナリシト
キニ限リ其效力ヲ有ス
第四百七十九條前條ノ場合ヲ除ク外辨濟受領ノ權限ヲ有セサル者ニ爲シ
タル辨濟ハ債權者カ之ニ因リテ利益ヲ受ケタル限度ニ於テノミ其效力ヲ
有ス
第四百八十條受取證書ノ持參人ハ辨濟受領ノ權限アルモノト看做ス但
辨濟者カ其權限ナキコトヲ知リタルトキ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリ
シトキハ此限ニ在ラス
第四百八十一條支拂ノ差止ヲ受ケタル第三債務者カ自己ノ債權者ニ辨濟
ヲ爲シタルトキハ差押債權者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ辨濟ヲ
爲スヘキ旨ヲ第三債務者ニ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ第三債務者ヨリ其債權者ニ對スル求償權ノ行使ヲ妨ケス
第四百八十二條債務者カ債權者ノ承諾ヲ以テ其負擔シタル給付ニ代ヘテ
他ノ給付ヲ爲シタルトキハ其給付ハ辨濟ト同一ノ效力ヲ有ス
第四百八十三條債權ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ辨濟者ハ其引渡ヲ
爲スヘキ時ノ現狀ニテ其物ヲ引渡スコトヲ要ス
第四百八十四條辨濟ヲ爲スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特
定物ノ引渡ハ債權發生ノ當時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ爲シ其他ノ
辨濟ハ債權者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス
第四百八十五條辨濟ノ費用ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其費用ハ債
務者之ヲ負擔ス但債權者カ住所ノ移轉其他ノ行爲ニ因リテ辨濟ノ費用ヲ
增加シタルトキハ其增加額ハ債權者之ヲ負擔ス
第四百八十六條辨濟者ハ辨濟受領者ニ對シテ受取證書ノ交付ヲ請求スル
コトヲ得
第四百八十七條債權ノ證書アル場合ニ於テ辨濟者カ全部ノ辨濟ヲ爲シタ
ルトキハ其證書ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
第四百八十八條債務者カ同一ノ債權者ニ對シテ同種ノ目的ヲ有スル數個
ノ債務ヲ負擔スル場合ニ於テ辨濟トシテ提供シタル給付カ總債務ヲ消滅
セシムルニ足ラサルトキハ辨濟者ハ給付ノ時ニ於テ其辨濟ヲ充當スヘキ
債務ヲ指定スルコトヲ得
辨濟者カ前項ノ指定ヲ爲ササルトキハ辨濟受領者ハ其受領ノ時ニ於テ其
辨濟ノ充當ヲ爲スコトヲ得但辨濟者カ其充當ニ對シテ直チニ異議ヲ述ヘ
タルトキハ此限ニ在ラス
前二項ノ場合ニ於テ辨濟ノ充當ハ相手方ニ對スル意思表示ニ依リテ之ヲ
爲ス
第四百八十九條當事者カ辨濟ノ充當ヲ爲ササルトキハ左ノ規定ニ從ヒ其
辨濟ヲ充當ス
一總債務中辨濟期ニ在ルモノト辨濟期ニ在ラサルモノトアルトキハ
辨濟期ニ在ルモノヲ先ニス
二總債務カ辨濟期ニ在ルトキ又ハ辨濟期ニ在ラサルトキハ債務者ノ
爲メニ辨濟ノ利益多キモノヲ先ニス
三債務者ノ爲メニ辨濟ノ利益相同シキトキハ辨濟期ノ先ツ至リタル
モノ又ハ先ツ至ルヘキモノヲ先ニス
四前二號ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ債務ノ辨濟ハ各債務ノ額ニ
應シテ之ヲ充當ス
第四百九十條一個ノ債務ノ辨濟トシテ數個ノ給付ヲ爲スヘキ場合ニ於
テ辨濟者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ爲シタルトキ
ハ前二條ノ規定ヲ準用ス
第四百九十一條債務者カ一個又ハ數個ノ債務ニ付キ元本ノ外利息及ヒ費
用ヲ拂フヘキ場合ニ於テ辨濟者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサ
ル給付ヲ爲シタルトキハ之ヲ以テ順次ニ費用、利息及ヒ元本ニ充當スル
コトヲ要ス
第四百八十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四百九十二條辨濟ノ提供ハ其提供ノ時ヨリ不履行ニ因リテ生スヘキ一
切ノ責任ヲ免レシム
第四百九十三條辨濟ノ提供ハ債務ノ本旨ニ從ヒテ現實ニ之ヲ爲スコトヲ
要ス但債權者カ豫メ其受領ヲ拒ミ又ハ債務ノ履行ニ付キ債權者ノ行爲ヲ
要スルトキハ辨濟ノ準備ヲ爲シタルコトヲ通知シテ其受領ヲ催告スルヲ
以テ足ル
第四百九十四條債權者カ辨濟ノ受領ヲ拒ミ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサ
ルトキハ辨濟者ハ債權者ノ爲メニ辨濟ノ目的物ヲ供託シテ其債務ヲ免ル
ルコトヲ得辨濟者ノ過失ナクシテ債權者ヲ確知スルコト能ハサルトキ亦
同シ
第四百九十五條供託ハ債務履行地ノ供託所ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
供託所ニ付キ法令ニ別段ノ定ナキ場合ニ於テハ裁判所ハ辨濟者ノ請求ニ
因リ供託所ノ指定及ヒ供託物保管者ノ選任ヲ爲スコトヲ要ス
供託者ハ遲滯ナク債權者ニ供託ノ通知ヲ爲スコトヲ要ス
第四百九十六條債權者カ供託ヲ受諾セス又ハ供託ヲ有效ト宣告シタル判
決カ確定セサル間ハ辨濟者ハ供託物ヲ取戾スコトヲ得此場合ニ於テハ供
託ヲ爲ササリシモノト看做ス
前項ノ規定ハ供託ニ因リテ質權又ハ抵當權カ消滅シタル場合ニハ之ヲ適
用セス
第四百九十七條辨濟ノ目的物カ供託ニ適セス又ハ其物ニ付キ滅失若クハ
毀損ノ虞アルトキハ辨濟者ハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競賣シ其代價ヲ供
託スルコトヲ得其物ノ保存ニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ
第四百九十八條債務者カ債權者ノ給付ニ對シテ辨濟ヲ爲スヘキ場合ニ於
テハ債權者ハ其給付ヲ爲スニ非サレハ供託物ヲ受取ルコトヲ得ス
第四百九十九條債務者ノ爲メニ辨濟ヲ爲シタル者ハ其辨濟ト同時ニ債權
者ノ承諾ヲ得テ之ニ代位スルコトヲ得
第四百六十七條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五百條辨濟ヲ爲スニ付キ正當ノ利益ヲ有スル者ハ辨濟ニ因リテ當然
債權者ニ代位ス
第五百一條前二條ノ規定ニ依リテ債權者ニ代位シタル者ハ自己ノ權利ニ
基キ求償ヲ爲スコトヲ得ヘキ範圍內ニ於テ債權ノ效力及ヒ擔保トシテ其
債權者カ有セシ一切ノ權利ヲ行フコトヲ得但左ノ規定ニ從フコトヲ要ス
一保證人ハ豫メ先取特權、不動產質權又ハ抵當權ノ登記ニ其代位ヲ
附記シタルニ非サレハ其先取特權、不動產質權又ハ抵當權ノ目的タ
ル不動產ノ第三取得者ニ對シテ債權者ニ代位セス
二第三取得者ハ保證人ニ對シテ債權者ニ代位セス
三第三取得者ノ一人ハ各不動產ノ價格ニ應スルニ非サレハ他ノ第三
取得者ニ對シテ債權者ニ代位セス
四前號ノ規定ハ自己ノ財產ヲ以テ他人ノ債務ノ擔保ニ供シタル者ノ
間ニ之ヲ準用ス
五保證人ト自己ノ財產ヲ以テ他人ノ債務ノ擔保ニ供シタル者トノ間
ニ於テハ其頭數ニ應スルニ非サレハ債權者ニ代位セス但自己ノ財產
ヲ以テ他人ノ債務ノ擔保ニ供シタル者數人アルトキハ保證人ノ負擔
部分ヲ除キ其殘額ニ付キ各財產ノ價格ニ應スルニ非サレハ之ニ對シ
テ代位ヲ爲スコトヲ得ス
右ノ場合ニ於テ其財產カ不動產ナルトキハ第一號ノ規定ヲ準用ス
第五百二條債權ノ一部ニ付キ代位辨濟アリタルトキハ代位者ハ其辨濟シ
タル價額ニ應シテ債權者ト共ニ其權利ヲ行フ
前項ノ場合ニ於テ債務ノ不履行ニ因ル契約ノ解除ハ債權者ノミ之ヲ請求
スルコトヲ得但代位者ニ其辨濟シタル價額及ヒ其利息ヲ償還スルコトヲ
要ス
第五百三條代位辨濟ニ因リテ全部ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ハ債權ニ關ス
ル證書及ヒ其占有ニ在ル擔保物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
債權ノ一部ニ付キ代位辨濟アリタル場合ニ於テハ債權者ハ債權證書ニ其
代位ヲ記入シ且代位者ヲシテ其占有ニ在ル擔保物ノ保存ヲ監督セシムル
コトヲ要ス
第五百四條第五百條ノ規定ニ依リテ代位ヲ爲スヘキ者アル場合ニ於テ債
權者カ故意又ハ懈怠ニ因リテ其擔保ヲ喪失又ハ減少シタルトキハ代位ヲ
爲スヘキ者ハ其喪失又ハ減少ニ因リ償還ヲ受クルコト能ハサルニ至リタ
ル限度ニ於テ其責ヲ免ル
第二款相殺
第五百五條二人互ニ同種ノ目的ヲ有スル債務ヲ負擔スル場合ニ於テ雙方
ノ債務カ辨濟期ニ在ルトキハ各債務者ハ其對當額ニ付キ相殺ニ因リテ其
債務ヲ免ルルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラ
ス
前項ノ規定ハ當事者カ反對ノ意思ヲ表示シタル場合ニハ之ヲ適用セス但
其意思表示ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五百六條相殺ハ當事者ノ一方ヨリ其相手方ニ對スル意思表示ニ依リテ
之ヲ爲ス但其意思表示ニハ條件又ハ期限ヲ附スルコトヲ得ス
前項ノ意思表示ハ雙方ノ債務カ互ニ相殺ヲ爲スニ適シタル始ニ遡リテ其
效力ヲ生ス
第五百七條相殺ハ雙方ノ債務ノ履行地カ異ナルトキト雖モ之ヲ爲スコト
ヲ得但相殺ヲ爲ス當事者ハ其相手方ニ對シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠
償スルコトヲ要ス
第五百八條時效ニ因リテ消滅シタル債權カ其消滅以前ニ相殺ニ適シタル
場合ニ於テハ其債權者ハ相殺ヲ爲スコトヲ得
第五百九條債務カ不法行爲ニ因リテ生シタルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以
テ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五百十條債權カ差押ヲ禁シタルモノナルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ
債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五百十一條支拂ノ差止ヲ受ケタル第三債務者ハ其後ニ取得シタル債權
ニ依リ相殺ヲ以テ差押債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五百十二條第四百八十八條乃至第四百九十一條ノ規定ハ相殺ニ之ヲ準
用ス
第三款更改
第五百十三條當事者カ債務ノ要素ヲ變更スル契約ヲ爲シタルトキハ其債
務ハ更改ニ因リテ消滅ス
條件附債務ヲ無條件債務トシ、無條件債務ニ條件ヲ附シ又ハ條件ヲ變更
スルハ債務ノ要素ヲ變更スルモノト看做ス債務ノ履行ニ代ヘテ爲替手形
ヲ發行スル亦同シ
第五百十四條債務者ノ交替ニ因ル更改ハ債權者ト新債務者トノ契約ヲ以
テ之ヲ爲スコトヲ得但舊債務者ノ意思ニ反シテ之ヲ爲スコトヲ得ス
第五百十五條債權者ノ交替ニ因ル更改ハ確定日附アル證書ヲ以テスルニ
非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五百十六條第四百六十八條第一項ノ規定ハ債權者ノ交替ニ因ル更改ニ
之ヲ準用ス
第五百十七條更改ニ因リテ生シタル債務カ不法ノ原因ノ爲メ又ハ當事者
ノ知ラサル事由ニ因リテ成立セス又ハ取消サレタルトキハ舊債務ハ消滅
セス
第五百十八條更改ノ當事者ハ舊債務ノ目的ノ限度ニ於テ其債務ノ擔保ニ
供シタル質權又ハ抵當權ヲ新債務ニ移スコトヲ得但第三者カ之ヲ供シタ
ル場合ニ於テハ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス
第四款免除
第五百十九條債權者カ債務者ニ對シテ債務ヲ免除スル意思ヲ表示シタル
トキハ其債權ハ消滅ス
第五款混同
第五百二十條債權及ヒ債務カ同一人ニ歸シタルトキハ其債權ハ消滅ス
但其債權カ第三者ノ權利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス
第二章契約
第一節總則
第一款契約ノ成立
第五百二十一條承諾ノ期間ヲ定メテ爲シタル契約ノ申込ハ之ヲ取消スコ
トヲ得ス
申込者カ前項ノ期間內ニ承諾ノ通知ヲ受ケサルトキハ申込ハ其效力ヲ失
フ
第五百二十二條承諾ノ通知カ前條ノ期間後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ
於テハ其期間內ニ到達スヘカリシ時ニ發送シタルモノナルコトヲ知リ得
ヘキトキハ申込者ハ遲滯ナク相手方ニ對シテ其延著ノ通知ヲ發スルコト
ヲ要ス但其到達前ニ遲延ノ通知ヲ發シタルトキハ此限ニ在ラス
申込者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ承諾ノ通知ハ延著セサリシモノト
看做ス
第五百二十三條遲延シタル承諾ハ申込者ニ於テ之ヲ新ナル申込ト看做ス
コトヲ得
第五百二十四條承諾ノ期間ヲ定メスシテ隔地者ニ爲シタル申込ハ申込者
カ承諾ノ通知ヲ受クルニ相當ナル期間之ヲ取消スコトヲ得ス
第五百二十五條第九十七條第二項ノ規定ハ申込者カ反對ノ意思ヲ表示シ
又ハ其相手方カ死亡若クハ能力喪失ノ事實ヲ知リタル場合ニハ之ヲ適用
セス
第五百二十六條隔地者間ノ契約ハ承諾ノ通知ヲ發シタル時ニ成立ス
申込者ノ意思表示又ハ取引上ノ慣習ニ依リ承諾ノ通知ヲ必要トセサル場
合ニ於テハ契約ハ承諾ノ意思表示ト認ムヘキ事實アリタル時ニ成立ス
第五百二十七條申込ノ取消ノ通知カ承諾ノ通知ヲ發シタル後ニ到達シタ
ルモ通常ノ場合ニ於テハ其前ニ到達スヘカリシ時ニ發送シタルモノナル
コトヲ知リ得ヘキトキハ承諾者ハ遲滯ナク申込者ニ對シテ其延著ノ通知
ヲ發スルコトヲ要ス
承諾者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ契約ハ成立セサリシモノト看做ス
第五百二十八條承諾者カ申込ニ條件ヲ附シ其他變更ヲ加ヘテ之ヲ承諾シ
タルトキハ其申込ノ拒絕ト共ニ新ナル申込ヲ爲シムルモノト看做ス
第五百二十九條或行爲ヲ爲シタル者ニ一定ノ報酬ヲ與フヘキ旨ヲ廣告シ
タル者ハ其行爲ヲ爲シタル者ニ對シテ其報酬ヲ與フル義務ヲ負フ
第五百三十條前條ノ場合ニ於テ廣告者ハ其指定シタル行爲ヲ完了スル
者ナキ間ハ前ノ廣告ト同一ノ方法ニ依リテ其廣告ヲ取消スコトヲ得但其
廣告中ニ取消ヲ爲ササル旨ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス
前項ニ定メタル方法ニ依リテ取消ヲ爲スコト能ハサル場合ニ於テハ他ノ
方法ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得但其取消ハ之ヲ知リタル者ニ對シテノミ
其效力ヲ有ス
廣告者カ其指定シタル行爲ヲ爲スヘキ期間ヲ定メタルトキハ其取消權ヲ
抛棄シタルモノト推定ス
第五百三十一條廣告ニ定メタル行爲ヲ爲シタル者數人アルトキハ最初ニ
其行爲ヲ爲シタル者ノミ報酬ヲ受クル權利ヲ有ス
數人カ同時ニ右ノ行爲ヲ爲シタル場合ニ於テハ各平等ノ割合ヲ以テ報酬
ヲ受クル權利ヲ有ス但報酬カ其性質上分割ニ不便ナルトキ又ハ廣告ニ於
テ一人ノミ之ヲ受クヘキモノトシタルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ受クヘキ者
コルビー
前二項ノ規定ハ廣〓中ニ之ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ之ヲ適
用セス
第五百三十二條廣告ニ定メタル行爲ヲ爲シタル者數人アル場合ニ於テ其
優等者ノミニ報酬ヲ與フヘキトキハ其廣告ハ應募ノ期間ヲ定メタルトキ
ニ限リ其效力ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ應募者中何人ノ行爲カ優等ナルカハ廣告中ニ定メタル
者之ヲ判定ス若シ廣告中ニ判定者ヲ定メサリシトキハ廣告者之ヲ判定ス」
應募者ハ前項ノ判定ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得ス
數人ノ行爲カ同等ト判定セラレタルトキハ前條第二項ノ規定ヲ準用ス
第二款契約ノ效力
第五百三十三條雙務契約當事者ノ一方ハ相手方カ其債務ノ履行ヲ提供ス
ルマテハ自己ノ債務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得但相手方ノ債務カ辨濟期ニ在
ラサルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十四條特定物ニ關スル物權ノ設定又ハ移轉ヲ以テ雙務契約ノ目
的ト爲シタル場合ニ於テ其物カ債務者ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リ
テ滅失又ハ毀損シタルトキハ其滅失又ハ毀損ハ債權者ノ負擔ニ歸ス
不特定物ニ關スル契約ニ付テハ第四百一條第二項ノ規定ニ依リテ其物カ
確定シタル時ヨリ前項ノ規定ヲ適用ス
第五百三十五條前條ノ規定ハ停止條件附雙務契約ノ目的物カ條件ノ成否
未定ノ間ニ於テ滅失シタル場合ニハ之ヲ適用セス
物カ債務者ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リテ毀損シタルトキハ其毀
損ハ債權者ノ負擔ニ歸ス
物カ債務者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リテ毀損シタルトキハ債權者ハ條件
成就ノ場合ニ於テ其選擇ニ從ヒ契約ノ履行又ハ其解除ヲ請求スルコトヲ
得但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第五百三十六條前二條ニ揭ケタル場合ヲ除ク外當事者雙方ノ責ニ歸スヘ
カラサル事由ニ因リテ債務ヲ履行スルコト能ハサルニ至リタルトキハ債
務者ハ反對給付ヲ受クル權利ヲ有セス
債權者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ爲スコト能ハサルニ至リタル
トキハ債務者ハ反對給付ヲ受クル權利ヲ失ハス但自己ノ債務ヲ免レタル
ニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債權者ニ償還スルコトヲ要ス
第五百三十七條契約ニ依り當事者ノ一方カ第三者ニ對シテ或給付ヲ爲ス
ヘキコトヲ約シタルトキハ其第三者ハ債務者ニ對シテ直接ニ其給付ヲ請
求スル權利ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ第三者ノ權利ハ其第三者カ債務者ニ對シテ契約ノ利益
ヲ享受スル意思ヲ表示シタル時ニ發生ス
第五百三十八條前條ノ規定ニ依リテ第三者ノ權利カ發生シタル後ハ當事
者ハ之ヲ變更シ又ハ之ヲ消滅セシムルコトヲ得ス
第五百三十九條第五百三十七條ニ揭ケタル契約ニ基因スル抗辯ハ債務者
之ヲ以テ其契約ノ利益ヲ受クヘキ第三者ニ對抗スルコトヲ得
第三款契約ノ解除
第五百四十條契約又ハ法律ノ規定ニ依リ當事者ノ一方カ解除權ヲ有ス
ルトキハ其解除ハ相手方ニ對スル意思表示ニ依リテ之ヲ爲ス
前項ノ意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第五百四十一條當事者ノ一方カ其債務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ相當
ノ期間ヲ定メテ其履行ヲ催告シ若シ其期間內ニ履行ナキトキハ契約ノ解
除ヲ爲スコトヲ得
第五百四十二條契約ノ性質又ハ當事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ
一定ノ期間內ニ履行ヲ爲スニ非サレハ契約ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト
能ハサル場合ニ於テ當事者ノ一方カ履行ヲ爲サスシテ其時期ヲ經過シタ
ルトキハ相手方ハ前條ノ催告ヲ爲サスシテ直チニ其契約ノ解除ヲ爲スコ
トヲ得
第五百四十三條履行ノ全部又ハ一部カ債務者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リ
テ不能ト爲リタルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第五百四十四條當事者ノ一方カ數人アル場合ニ於テハ契約ノ解除ハ其全
員ヨリ又ハ其全員ニ對シテノミ之ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ解除權カ當事者中ノ一人ニ付キ消滅シタルトキハ他ノ
者ニ付テモ亦消滅ス
第五百四十五條當事者ノ一方カ其解除權ヲ行使シタルトキハ各當事者ハ
其相手方ヲ原狀ニ復セシムル義務ヲ負フ但第三者ノ權利ヲ害スルコトヲ
得ス
前項ノ場合ニ於テ返還スヘキ金錢ニハ其受領ノ時ヨリ利息ヲ附スルコト
刁夏、
解除權ノ行使ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第五百四十六條第五百三十三條ノ規定ハ前條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五百四十七條解除權ノ行使ニ付キ期間ノ定ナキトキハ相手方ハ解除權
ヲ有スル者ニ對シ相當ノ期間ヲ定メ其期間內ニ解除ヲ爲スヤ否ヤヲ確答
スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間內ニ解除ノ通知ヲ受ケサルトキ
ハ解除權ハ消滅ス
第五百四十八條解除權ヲ有スル者カ自己ノ行爲又ハ過失ニ因リテ著シク
契約ノ目的物ヲ毀損シ若クハ之ヲ返還スルコト能ハサルニ至リタルトキ
又ハ加工若クハ改造ニ因リテ之ヲ他ノ種類ノ物ニ變シタルトキハ解除權
ハ消滅ス
契約ノ目的物カ解除權ヲ有スル者ノ行爲又ハ過失ニ因ラスシテ滅失又ハ
毀損シタルトキハ解除權ハ消滅セス
第二節贈與
第五百四十九條贈與ハ當事者ノ一方カ自己ノ財產ヲ無償ニテ相手方ニ與
フル意思ヲ表示シ相手方カ受諾ヲ爲スニ因リテ其效力ヲ生ス
第五百五十條書面ニ依ラサル贈與ハ各當事者之ヲ取消スコトヲ得但履
行ノ終ハリタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス
第五百五十一條贈與者ハ贈與ノ目的タル物又ハ權利ノ瑕疵又ハ欠缺ニ付
キ其責ニ任セス但贈與者カ其瑕疵又ハ欠缺ヲ知リテ之ヲ受贈者ニ告ケサ
リシトキハ此限ニ在ラス
負擔附贈與ニ付テハ贈與者ハ其負擔ノ限度ニ於テ賣主ト同シク擔保ノ責
三匹八
第五百五十二條定期ノ給付ヲ目的トスル贈與ハ贈與者又ハ受贈者ノ死亡
ニ因リテ其效力ヲ失フ
第五百五十三條負擔附贈與ニ付テハ本節ノ規定ノ外雙務契約ニ關スル規
定ヲ適用ス
第五百五十四條贈與者ノ死亡ニ因リテ效力ヲ生スヘキ贈與ハ遺贈ニ關ス
ル規定ニ從フ
第三節賣買
第一款總則
第五百五十五條賣買ハ當事者ノ一方カ或財產權ヲ相手方ニ移轉スルコト
ヲ約シ相手方カ之ニ其代金ヲ拂フコトヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
第五百五十六條賣買ノ一方ノ豫約ハ相手方カ賣買ヲ完結スル意思ヲ表示
シタル時ヨリ賣買ノ效力ヲ生ス
前項ノ意思表示ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ豫約者ハ相當ノ期間ヲ定
メ其期間內ニ賣買ヲ完結スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ相手方ニ催告スル
コトヲ得若シ相手方カ其期間內ニ確答ヲ爲ササルトキハ豫約ハ其效力ヲ
失フ
第五百五十七條買主カ賣主ニ手附ヲ交付シタルトキハ當事者ノ一方カ契
約ノ履行ニ著手スルマテハ買主ハ其手附ヲ抛棄シ賣主ハ其倍額ヲ償還シ
テ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第五百四十五條第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニハ之ヲ適用セス
第五百五十八條賣買契約ニ關スル費用ハ當事者雙方平分シテ之ヲ負擔ス
第五百五十九條本節ノ規定ハ賣買以外ノ有償契約ニ之ヲ準用ス但其契約
ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
第二款賣買ノ效力
第五百六十條他人ノ權利ヲ以テ賣買ノ目的ト爲シタルトキハ賣主ハ其
權利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移轉スル義務ヲ負フ
第五百六十一條前條ノ場合ニ於テ賣主カ其賣却シタル權利ヲ取得シテ之
ヲ買主ニ移轉スルコト能ハサルトキハ買主ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
但契約ノ當時其權利ノ賣主ニ屬セサルコトヲ知リタルトキハ損害賠償ノ
請求ヲ爲スコトヲ得ス
第五百六十二條賣主カ契約ノ當時其賣却シタル權利ノ自己ニ屬セサルコ
トヲ知ラサリシ場合ニ於テ其權利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移轉スルコト能
ハサルトキハ賣主ハ損害ヲ賠償シテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ買主カ契約ノ當時其買受ケタル權利ノ賣主ニ屬セサル
コトヲ知リタルトキハ賣主ハ買主ニ對シ單ニ其賣却シタル權利ヲ移轉ス
ルコト能ハサル旨ヲ通知シテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第五百六十三條賣買ノ目的タル權利ノ一部カ他人ニ屬スルニ因リ賣主カ
之ヲ買主ニ移轉スルコト能ハサルトキハ買主ハ其足ラサル部分ノ割合ニ
應シテ代金ノ減額ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ殘存スル部分ノミナレハ買主カ之ヲ買受ケサルヘカリ
シトキハ善意ノ買主ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
代金減額ノ請求又ハ契約ノ解除ハ善意ノ買主カ損害賠償ノ請求ヲ爲スコ
トヲ妨ケス
第五百六十四條前條ニ定メタル權利ハ買主カ善意ナリシトキハ事實ヲ知
リタル時ヨリ惡意ナリシトキハ契約ノ時ヨリ一年內ニ之ヲ行使スルコト
ヲ要ス
第五百六十五條數量ヲ指示シテ賣買シタル物カ不足ナル場合及ヒ物ノ一
部カ契約ノ當時既ニ滅失シタル場合ニ於テ買主カ其不足又ハ滅失ヲ知ラ
サリシトキハ前二條ノ規定ヲ準用ス
第五百六十六條賣買ノ目的物カ地上權、永小作權、地役權、留置權又ハ質權
ノ目的タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ爲メニ契約ヲ爲
シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ノ解除ヲ爲スコ
トヲ得其他ノ場合ニ於テハ損害賠償ノ請求ノミヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ハ賣買ノ目的タル不動產ノ爲メニ存セリト稱セシ地役權カ存
セサリシトキ及ヒ其不動產ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ
準用ス
前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事實ヲ知リ
タル時ヨリ一年內ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第五百六十七條賣買ノ目的タル不動產ノ上ニ存シタル先取特權又ハ抵當
權ノ行使ニ因リ買主カ其所有權ヲ失ヒタルトキハ其買主ハ契約ノ解除ヲ
爲スコトヲ得
買主カ出捐ヲ爲シテ其所有權ヲ保存シタルトキハ賣主ニ對シテ其出捐ノ
償還ヲ請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ買主カ損害ヲ受ケタルトキハ其賠償ヲ請求スルコ
トヲ得
第五百六十八條强制競賣ノ場合ニ於テハ競落人ハ前七條ノ規定ニ依リ債
務者ニ對シテ契約ノ解除ヲ爲シ又ハ代金ノ減額ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ債務者カ無資力ナルトキハ競落人ハ代金ノ配當ヲ受ケ
タル債權者ニ對シテ其代金ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ債務者カ物又ハ權利ノ欠缺ヲ知リテ之ヲ申出テス又
ハ債權者カ之ヲ知リテ競賣ヲ請求シタルトキハ競落人ハ其過失者ニ對シ
テ損害賠償ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第五百六十九條債權ノ賣主カ債務者ノ資力ヲ擔保シタルトキハ契約ノ當
時ニ於ケル資力ヲ擔保シタルモノト推定ス
辨濟期ニ至ラサル債權ノ賣主カ債務者ノ將來ノ資力ヲ擔保シタルトキハ
辨濟ノ期日ニ於ケル資力ヲ擔保シタルモノト推定ス
第五百七十條賣買ノ目的物ニ隱レタル瑕疵アリタルトキハ第五百六十
六條ノ規定ヲ準用ス但强制競賣ノ場合ハ此限ニ在ラス
第五百七十一條第五百三十三條ノ規定ハ第五百六十三條乃至第五百六十
六條及ヒ前條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五百七十二條賣主ハ前十二條ニ定メタル擔保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特
約シタルトキト雖モ其知リテ〓ケサリシ事實及ヒ自ラ第三者ノ爲メニ設
定シ又ハ之ニ讓渡シタル權利ニ付テハ其責ヲ免ルルコトヲ得ス
第五百七十三條賣買ノ目的物ノ引渡ニ付キ期限アルトキハ代金ノ支拂ニ
付テモ亦同一ノ期限ヲ附シタルモノト推定ス
第五百七十四條賣買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ拂フヘキトキハ其引
渡ノ場所ニ於テ之ヲ拂フコトヲ要ス
第五百七十五條未タ引渡ササル賣買ノ目的物カ果實ヲ生シタルトキハ其
果實ハ賣主ニ屬ス
買主ハ引渡ノ日ヨリ代金ノ利息ヲ拂フ義務ヲ負フ但代金ノ支拂ニ付キ期
限アルトキハ其期限ノ到來スルマテハ利息ヲ拂フコトヲ要セス
第五百七十六條賣買ノ目的ニ付キ權利ヲ主張スル者アリテ買主カ其買受
ケタル權利ノ全部又ハ一部ヲ失フ虞アルトキハ買主ハ其危險ノ限度ニ應
シ代金ノ全部又ハ一部ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得但賣主カ相當ノ擔保ヲ供シ
タルトキハ此限ニ在ラス
第五百七十七條買受ケタル不動產ニ付キ先取特權、質權又ハ抵當權ノ登記
アルトキハ買主ハ滌除ノ手續ヲ終ハルマテ其代金ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得
但賣主ハ買主ニ對シテ遲滯ナク滌除ヲ爲スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得
第五百七十八條前二條ノ場合ニ於テ賣主ハ買主ニ對シテ代金ノ供託ヲ請
求スルコトヲ得
第三款買戾
第五百七十九條不動產ノ賣主ハ賣買契約ト同時ニ爲シタル買戾ノ特約ニ
依リ買主カ拂ヒタル代金及ヒ契約ノ費用ヲ返還シテ其賣買ノ解除ヲ爲ス
コトヲ得但當事者カ別段ノ意思ヲ表示セサリシトキハ不動產ノ果實ト代
金ノ利息トハ之ヲ相殺シタ·ルモノト看做ス
第五百八十條買戻ノ期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期
間ヲ定メタルトキハ之ヲ十年ニ短縮ス
買戾ニ付キ期間ヲ定メタルトキハ後日之ヲ伸長スルコトヲ得ス
買戾ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ五年內ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第五百八十一條賣買契約ト同時ニ買戾ノ特約ヲ登記シタルトキハ買戾ハ
第三者ニ對シテモ其效力ヲ生ス
登記ヲ爲シタル賃借人ノ權利ハ其殘期一年間ニ限リ之ヲ以テ賣主ニ對抗
スルコトヲ得但賣主ヲ害スル目的ヲ以テ賃貸借ヲ爲シタルトキハ此限ニ
在ラス
第五百八十二條賣主ノ債權者カ第四百二十三條ノ規定ニ依リ賣主ニ代ハ
リテ買戻ヲ爲サント欲スルトキハ買主ハ裁判所ニ於テ選定シタル鑑定人
ノ評價ニ從ヒ不動產ノ現時ノ價額ヨリ賣主カ返還スヘキ金額ヲ控除シタ
ル殘額ニ達スルマテ賣主ノ債務ヲ辨濟シ尙ホ餘剩アルトキハ之ヲ賣主ニ
返還シテ買戾權ヲ消滅セシムルコトヲ得
第五百八十三條賣主ハ期間內ニ代金及ヒ契約ノ費用ヲ提供スルニ非サレ
ハ買戾ヲ爲スコトヲ得ス
買主又ハ轉得者カ不動產ニ付キ費用ヲ出タシタルトキハ賣主ハ第百九十
六條ノ規定ニ從ヒ之ヲ償還スルコトヲ要ス但有益費ニ付テハ裁判所ハ賣
主ノ請求ニ因リ之ニ相當ノ期限ヲ許與スルコトヲ得
第五百八十四條不動產ノ共有者ノ一人カ買戾ノ特約ヲ以テ其持分ヲ賣却
シタル後其不動產ノ分割又ハ競賣アリタルトキハ賣主ハ買主カ受ケタル
若クハ受クヘキ部分又ハ代金ニ付キ買戻ヲ爲スコトヲ得但賣主ニ通知セ
スシテ爲シタル分割及ヒ競賣ハ之ヲ以テ賣主ニ對抗スルコトヲ得ス
第五百八十五條前條ノ場合ニ於テ買主カ不動產ノ競落人ト爲リタルトキ
ハ賣主ハ競賣ノ代金及ヒ第五百八十三條ニ揭ケタル費用ヲ拂ヒテ買戾ヲ
爲スコトヲ得此場合ニ於テハ賣主ハ其不動產ノ全部ノ所有權ヲ取得ス
他ノ共有者ヨリ分割ヲ請求シタルニ因リ買主カ競落人ト爲リタルトキハ
賣主ハ其持分ノミニ付キ買戾ヲ爲スコトヲ得ス
第四節交換
第五百八十六條交換ハ當事者カ互ニ金錢ノ所有權ニ非サル財產權ヲ移轉
スルコトヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
當事者ノ一方カ他ノ權利ト共ニ金錢ノ所有權ヲ移轉スルコトヲ約シタル
トキハ其金錢ニ付テハ賣買ノ代金ニ關スル規定ヲ準用ス
第五節消費貸借
第五百八十七條消費貸借ハ當事者ノ一方カ種類、品等及ヒ數量ノ同シキ
物ヲ以テ返還ヲ爲スコトヲ約シテ相手方ヨリ金錢其他ノ物ヲ受取ルニ因
リテ其效力ヲ生ス
第五百八十八條消費貸借ニ因ラスシテ金錢其他ノ物ヲ給付スル義務ヲ負
フ者アル場合ニ於テ當事者カ其物ヲ以テ消費貸借ノ目的ト爲スコトヲ約
シタルトキハ消費貸借ハ之ニ因リテ成立シタルモノト看做ス
第五百八十九條消費貸借ノ豫約ハ爾後當事者ノ一方カ破產ノ宣告ヲ受ケ
タルトキハ其效力ヲ失フ
第五百九十條利息附ノ消費貸借ニ於テ物ニ隱レタル瑕疵アリタルトキ
ハ貸主ハ瑕疵ナキ物ヲ以テ之ニ代フルコトヲ要ス但損害賠償ノ請求ヲ妨
ケス
無利息ノ消費貸借ニ於テハ借主ハ瑕疵アル物ノ價額ヲ返還スルコトヲ得
但貸主カ其瑕疵ヲ知リテ之ヲ借主ニ〓ケサリシトキハ前項ノ規定ヲ凖用
ス
第五百九十一條當事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ貸主ハ相當ノ期
間ヲ定メテ返還ノ催告ヲ爲スコトヲ得
借主ハ何時ニテモ返還ヲ爲スコトヲ得
第五百九十二條借主カ第五百八十七條ノ規定ニ依リテ返還ヲ爲スコト能
ハサルニ至リタルトキハ其時ニ於ケル物ノ價額ヲ償還スルコトヲ要ス但
第四百二條第二項ノ場合ハ此限ニ在ラス
第六節使用貸借
第五百九十三條使用貸借ハ當事者ノ一方カ無償ニテ使用及ヒ收益ヲ爲シ
タル後返還ヲ爲スコトヲ約シテ相手方ヨリ或物ヲ受取ルニ因リテ其效力
司法大
第五百九十四條借主ハ契約又ハ其目的物ノ性質ニ因リテ定マリタル用方
ニ從ヒ其物ノ使用及ヒ收益ヲ爲スコトヲ要ス
借主ハ貸主ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ借用物ノ使用又ハ收益ヲ
爲サシムルコトヲ得ス
借主カ前二項ノ規定ニ反スル使用又ハ收益ヲ爲シタルトキハ貸主ハ契約
ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第五百九十五條借主ハ借用物ノ通常ノ必要費ヲ負擔ス
此他ノ費用ニ付テハ第五百八十三條第二項ノ規定ヲ準用ス
第五百九十六條第五百五十一條ノ規定ハ使用貸借ニ之ヲ準用ス
第五百九十七條借主ハ契約ニ定メタル時期ニ於テ借用物ノ返還ヲ爲スコ
トヲ要ス
當事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ借主ハ契約ニ定メタル目的ニ從
ヒ使用及ヒ收益ヲ終ハリタル時ニ於テ返還ヲ爲スコトヲ要ス但其以前ト
雖モ使用及ヒ收益ヲ爲スニ足ルヘキ期間ヲ經過シタルトキハ貸主ハ直チ
ニ返還ヲ請求スルコトヲ得
當事者カ返還ノ時期又ハ使用及ヒ收益ノ目的ヲ定メサリシトキハ貸主ハ
何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得
第五百九十八條借主ハ借用物ヲ原狀ニ復シテ之ニ附屬セシメタル物ヲ收
去スルコトヲ得
第五百九十九條使用貸借ハ借主ノ死亡ニ因リテ其效力ヲ失フ
第六百條契約ノ本旨ニ反スル使用又ハ收益ニ因リテ生シタル損害ノ賠
償及ヒ借主カ出タシタル費用ノ償還ハ貸主カ返還ヲ受ケタル時ヨリ一年
內ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス
第七節賃貸借
第一款總則
第六百一條賃貸借ハ當事者ノ一方カ相手方ニ或物ノ使用及ヒ收益ヲ爲サ
シムルコトヲ約シ相手方カ之ニ其賃金ヲ拂フコトヲ約スルニ因リテ其效
力ヲ生ス
第六百二條處分ノ能力又ハ權限ヲ有セサル者カ賃貸借ヲ爲ス場合ニ於テ
ハ其賃貸借ハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
一樹木ノ栽植又ハ伐採ヲ目的トスル山林ノ賃貸借ハ十年
二其他ノ土地ノ賃貸借ハ五年
三建物ノ賃貸借ハ三年
四動產ノ賃貸借ハ六个月
第六百三條前條ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間滿了前土地ニ付
テハ一年內建物ニ付テハ三个月內動產ニ付テハ一个月內ニ其更新ヲ爲ス
コトヲ要ス
第六百四條賃貸借ノ存續期間ハ二十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長
キ期間ヲ以テ賃貸借ヲ爲シタルトキハ其期間ハ之ヲ二十年ニ短縮ス
前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但更新ノ時ヨリ二十年ヲ超ユルコト
ヲ得ス
第二款賃貸借ノ效力
第六百五條不動產ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其不動產ニ付キ
物權ヲ取得シタル者ニ對シテモ其效力ヲ生ス
第六百六條賃貸人ハ賃貸物ノ使用及ヒ收益ニ必要ナル修繕ヲ爲ス義務ヲ
負フ
賃貸人カ賃貸物ノ保存ニ必要ナル行爲ヲ爲サント欲スルトキハ賃借人ハ
之ヲ拒ムコトヲ得ス
第六百七條賃貸人カ賃借人ノ意思ニ反シテ保存行爲ヲ爲サント欲スル場
合ニ於テ之カ爲メ賃借人カ賃借ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト能ハサルト
キハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第六百八條賃借人カ賃借物ニ付キ賃貸人ノ負擔ニ屬スル必要費ヲ出タシ
タルトキハ賃貸人二對シテ直チニ其償還ヲ請求スルコトヲ得
賃借人カ有益費ヲ出タシタルトキハ賃貸人ハ賃貸借終了ノ時ニ於テ第百
九十六條第二項ノ規定ニ從ヒ其償還ヲ爲スコトヲ要ス但裁判所ハ賃貸人
ノ請求ニ因リ之ニ相當ノ期限ヲ許與スルコトヲ得
第六百九條收益ヲ目的トスル土地ノ賃借人カ不可抗力ニ因リ借賃ヨリ少
キ收益ヲ得タルトキハ其收益ノ額ニ至ルマテ借賃ノ減額ヲ請求スルコト
ヲ得但宅地ノ賃貸借ニ付テハ此限ニ在ラス
第六百十條前條ノ場合ニ於テ賃借人カ不可抗力ニ因リ引續キ二年以上借
賃ヨリ少キ收益ヲ得タルトキハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第六百十一條賃借物ノ一部カ賃借人ノ過失ニ因ラスシテ滅失シタルトキ
ハ賃借人ハ其滅失シタル部分ノ割合ニ應シテ借賃ノ減額ヲ請求スルコト
ヲ得
前項ノ場合ニ於テ殘存スル部分ノミニテハ賃借人カ賃借ヲ爲シタル目的
ヲ達スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第六百十二條賃借人ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ其權利ヲ讓渡シ又ハ
賃借物ヲ轉貸スルコトヲ得ス
賃借人カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ賃借物ノ使用又ハ收益ヲ爲サシ
メタルトキハ賃貸人ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第六百十三條賃借人カ適法ニ賃借物ヲ轉貸シタルトキハ轉借人ハ賃貸人
ニ對シテ直接ニ義務ヲ負フ此場合ニ於テハ借賃ノ前拂ヲ以テ賃貸人ニ對
抗スルコトヲ得ス
前項ノ規定ハ賃貸人カ賃借人ニ對シテ其權利ヲ行使スルコトヲ妨ケス
第六百十四條借賃ハ動產、建物及ヒ宅地ニ付テハ每月末ニ其他ノ土地ニ
付テハ每年末ニ之ヲ拂フコトヲ要ス但收穫季節アルモノニ付テハ其季節
後遲滯ナク之ヲ拂フコトヲ要ス
第六百十五條賃借物カ修繕ヲ要シ又ハ賃借物ニ付キ權利ヲ主張スル者ア
ルトキハ賃借人ハ遲滯ナク之ヲ賃貸人ニ通知スルコトヲ要ス但賃貸人カ
旣ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス
第六百十六條第五百九十四條第一項、第五百九十七條第一項及ヒ第五百
九十八條ノ規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス
第三款賃貸借ノ終了
第六百十七條當事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メサリシトキハ各當事者ハ何時
ニテモ解約ノ申入ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ賃貸借ハ解約申入ノ後
左ノ期間ヲ經過シタルニ因リテ終了ス
一土地ニ付テハ一年
二建物ニ付テハ三个月
三貸席及ヒ動產ニ付テハ一日
收穫季節アル土地ノ賃貸借ニ付テハ其季節後次ノ耕作ニ著手スル前ニ解
約ノ申入ヲ爲スコトヲ要ス
第六百十八條當事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタルモ其一方又ハ各自カ其期
間內ニ解約ヲ爲ス權利ヲ留保シタルトキハ前條ノ規定ヲ準用ス
第六百十九條賃貸借ノ期間滿了ノ後賃借人カ賃借物ノ使用又ハ收益ヲ繼
續スル場合ニ於テ賃貸人カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前賃貸借ト
同一ノ條件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ爲シタルモノト推定ス但各當事者ハ第六
百十七條ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ爲スコトヲ得
前賃貸借ニ付キ営事者カ擔保ヲ供シタルトキハ其擔保ハ期間ノ滿了ニ因
リテ消滅ス但敷金ハ此限ニ在ラス
第六百二十條賃貸借ヲ解除シタル場合ニ於テハ其解除ハ將來ニ向テノミ
其效力ヲ生ス但當事者ノ一方ニ過失アリタルトキハ之ニ對スル損害賠償
ノ請求ヲ妨ケス
第六百二十一條賃借人カ破產ノ宣告ヲ受ケタルトキハ賃貸借ニ期間ノ定
アルトキト雖モ賃貸人又ハ破產管財人ハ第六百十七條ノ規定ニ依リテ解
約ノ申入ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ各當事者ハ相手方ニ對シ解約ニ
因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第六百二十二條第六百條ノ規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス
第八節雇傭
第六百二十三條雇傭ハ當事者ノ一方カ相手方ニ對シテ勞務ニ服スルコト
ヲ約シ相手方カ之ニ其報酬ヲ與フルコトヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
第六百二十四條勞務者ハ其約シタル勞務ヲ終ハリタル後ニ非サレハ報酬
ヲ請求スルコトヲ得ス
期間ヲ以テ定メタル報酬ハ其期間ノ經過シタル後之ヲ請求スルコトヲ得
第六百二十五條使用者ハ勞務者ノ承諾アルニ非サレハ其權利ヲ第三者ニ
讓渡スコトヲ得ス
勞務者ハ使用者ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ自己ニ代ハリテ勞務
ニ服セシムルコトヲ得ス
勞務者カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ勞務ニ服セシメタルトキハ使用
者ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第六百二十六條雇傭ノ期間カ五年ヲ超過シ又ハ當事者ノ一方若クハ第三
者ノ終身間繼續スヘキトキハ當事者ノ一方ハ五年ヲ經過シタル後何時ニ
テモ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得但此期間ハ商工業見習者ノ雇傭ニ付テハ
之ヲ十年トス
前項ノ規定ニ依リテ契約ノ解除ヲ爲サント欲スルトキハ三个月前ニ其豫
告ヲ爲スコトヲ要ス
第六百二十七條當事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各當事者ハ何時
ニテモ解約ノ申入ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後二
週間ヲ經過シタルニ因リテ終了ス
期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ解約ノ申入ハ次期以後ニ對シテ
之ヲ爲スコトヲ得但其申入ハ當期ノ前半ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス
六个月以上ノ期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ前項ノ申入ハ三个
月前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第六百二十八條當事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ巳ムコトヲ得
サル事由アルトキハ各當事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得但其事
由カ當事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ相手方ニ對シテ損害賠
償ノ責ニ任ス
第六百二十九條雇傭ノ期間滿了ノ後勞務者カ引續キ其勞務ニ服スル場合
ニ於テ使用者カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前雇傭ト同一ノ條件ヲ
以テ更ニ雇傭ヲ爲シタルモノト推定ス但各當事者ハ第六百二十七條ノ規
定ニ依リテ解約ノ申入ヲ爲スコトヲ得
前雇傭ニ付キ當事者カ擔保ヲ供シタルトキハ其擔保ハ期間ノ滿了ニ因リ
テ消滅ス但身元保證金ハ此限ニ在ラス
第六百三十條第六百二十條ノ規定ハ雇傭ニ之ヲ準用ス
第六百三十一條使用者カ破產ノ宣告ヲ受ケタルトキハ雇傭ニ期間ノ定ア
ルトキト雖モ勞務者又ハ破產管財人ハ第六百一一十七條ノ規定ニ依リテ解
約ノ申入ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ各當事者ハ相手方ニ對シ解約ニ
因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第九節請負
第六百三十二條請負ハ當事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手
方カ其仕事ノ結果ニ對シテ之ニ報酬ヲ與フルコトヲ約スルニ因リテ其效
力ヲ生ス
第六百三十三條報酬ハ仕事ノ目的物ノ引渡ト同時ニ之ヲ與フルコトヲ要
ス但物ノ引渡ヲ要セサルトキハ第六百二十四條第一項ノ規定ヲ準用ス
第六百三十四條仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ對シ相
當ノ期限ヲ定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサ
ル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代ヘ又ハ其修補ト共ニ損害賠償ノ請求ヲ爲スコト
ヲ得此場合ニ於テハ第五百三十二條ノ規定ヲ準用ス
第六百三十五條仕事ノ目的物ニ瑕疵アリテ之カ爲メニ契約ヲ爲シタル目
的ヲ達スルコト能ハサルトキハ注文者ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得但建
物其他土地ノ工作物ニ付テハ此限ニ在ヲス
第六百三十六條前二條ノ規定ハ仕事ノ目的物ノ瑕疵カ注文者ヨリ供シタ
ル材料ノ性質又ハ注文者ノ與ヘタル指圖ニ因リテ生シタルトキハ之ヲ適
用セス但請負人カ其材料又ハ指圖ノ不適當ナルコトヲ知リテ之ヲ告ケサ
リシトキハ此限ニ在ラス
第六百三十七條前三條ニ定メタル瑕疵修補又ハ損害賠償ノ請求及ヒ契約
ノ解除ハ仕事ノ目的物ヲ引渡シタル時ヨリ一年內ニ之ヲ爲スコトヲ要ス」
仕事ノ目的物ノ引渡ヲ要セサル場合ニ於テハ前項ノ期間ハ仕事終了ノ時
ヨリ之ヲ起算ス
第六百三十八條土地ノ工作物ノ請負人ハ其工作物又ハ地盤ノ瑕疵ニ付テ
ハ引渡ノ後五年間其擔保ノ責ニ任ス但此期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ金
屬造ノ工作物ニ付テハ之ヲ十年トス
工作物カ前項ノ瑕疵ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ注文者ハ其滅失
又ハ毀損ノ時ヨリ一年內ニ第六百三十四條ノ權利ヲ行使スルコトヲ要ス
第六百三十九條第六百三十七條及ヒ前條第一項ノ期間ハ普通ノ時效期間
內ニ限リ契約ヲ以テ之ヲ伸長スルコトヲ得
第六百四十條請負人ハ第六百三十四條及ヒ第六百三十五條ニ定メタル
擔保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特約シタルトキト雖モ其知リテ〓ケサリシ事
實ニ付テハ其責ヲ免ルルコトヲ得ス
第六百四十一條請負人カ仕事ヲ完成セサル間ハ注文者ハ何時ニテモ損害
ヲ賠償シテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
第六百四十二條注文者カ破產ノ宣告ヲ受ケタルトキハ請負人又ハ破產管
財人ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ請負人ハ其既ニ爲シタ
ル仕事ノ報酬及ヒ其報酬中ニ包含セサル費用ニ付キ財團ノ配當ニ加入ス
ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ各當事者ハ相手方ニ對シ解約ニ因リテ生シタル損害
ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第十節委任
第六百四十三條委任ハ當事者ノ一方カ法律行爲ヲ爲スコトヲ相手方ニ委
託シ相手方カ之ヲ承諾スルニ因リテ其效力ヲ生ス
第六百四十四條受任者ハ委任ノ本旨ニ從ヒ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ
委任事務ヲ處理スル義務ヲ負フ
第六百四十五條受任者ハ委任者ノ請求アルトキハ何時ニテモ委任事務處
理ノ狀況ヲ報告シ又委任終了ノ後ハ遲滯ナク其〓末ヲ報告スルコトヲ要
ス
第六百四十六條受任者ハ委任事務ヲ處理スルニ當リテ受取リタル金錢其
他ノ物ヲ委任者ニ引渡スコトヲ要ス其收取シタル果實亦同シ
受任者カ委任者ノ爲メニ自己ノ名ヲ以テ取得シタル權利ハ之ヲ委任者ニ
移轉スルコトヲ要ス
第六百四十七條受任者カ委任者ニ引渡スヘキ金額又ハ其利益ノ爲メニ用
ユヘキ金額ヲ自己ノ爲メニ消費シタルトキハ其消費シタル日以後ノ利息
ヲ拂フコトヲ要ス尙ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第六百四十八條受任者ハ特約アルニ非サレハ委任者ニ對シテ報酬ヲ請求
スルコトヲ得ス
受任者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ委任履行ノ後ニ非サレハ之ヲ請求
スルコトヲ得ス但期間ヲ以テ報酬ヲ定メタルトキハ第六百二十四條第二
項ノ規定ヲ準用ス
委任カ受任者ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リ其履行ノ半途ニ於テ終了
シタルトキハ受任者ハ其既ニ爲シタル履行ノ割合ニ應シテ報酬ヲ請求ス
ルコトヲ得
第六百四十九條委任事務ヲ處理スルニ付キ費用ヲ要スルトキハ委任者ハ
受任者ノ請求ニ因リ其前拂ヲ爲スコトヲ要ス
第六百五十條受任者カ委任事務ヲ處理スルニ必要ト認ムヘキ費用ヲ出
タシタルトキハ委任者ニ對シテ其費用及ヒ支出ノ日以後ニ於ケル其利息
ノ償還ヲ請求スルコトヲ得
受任者カ委任事務ヲ處理スルニ必要ト認ムヘキ債務ヲ負擔シタルトキハ
委任者ヲシテ自己ニ代ハリテ其辨濟ヲ爲サシメ又其債務カ辨濟期ニ在ラ
サルトキハ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得
受任者カ委任事務ヲ處理スル爲メ自己ニ過失ナクシテ損害ヲ受ケタルト
キハ委任者ニ對シテ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第六百五十一條委任ハ各當事者ニ於テ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得」
當事者ノ一方カ相手方ノ爲メニ不利ナル時期ニ於テ委任ヲ解除シタルト
キハ其損害ヲ賠償スルコトヲ要ス但巳ムコトヲ得サル事由アリタルトキ
ハ此限ニ在ラス
第六百五十二條第六百二十條ノ規定ハ委任ニ之ヲ準用ス
第六百五十三條委任ハ委任者又ハ受任者ノ死亡又ハ破產ニ因リテ終了ス
受任者カ禁治產ノ宣告ヲ受ケタルトキ亦同シ
第六百五十四條委任終了ノ場合ニ於テ急迫ノ事情アルトキハ受任者、其
相續人又ハ法定代理人ハ委任者、其相續人又ハ法定代理人カ委任事務ヲ
處理スルコトヲ得ルニ至ルマテ必要ナル處分ヲ爲スコトヲ要ス
第六百五十五條委任終了ノ事由ハ其委任者ニ出テタルト受任者ニ出テタ
ルトヲ問ハス之ヲ相手方ニ通知シ又ハ相手方カ之ヲ知リタルトキニ非サ
レハ之ヲ以テ其相手方ニ對抗スルコトヲ得ス
第六百五十六條本節ノ規定ハ法律行爲ニ非サル事務ノ委託ニ之ヲ準用ス
第十一節寄託
第六百五十七條寄託ハ當事者ノ一方カ相手方ノ爲メニ保管ヲ爲スコトヲ
約シテ或物ヲ受取ルニ因リテ其效力ヲ生ス
第六百五十八條受寄者ハ寄託者ノ承諾アルニ非サレハ受寄物ヲ使用シ又
ハ第三者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得ス
受寄者カ第三者ヲシテ受寄物ヲ保管セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ第
百五條及ヒ第百七條第二項ノ規定ヲ準用ス
第六百五十九條無報酬ニテ寄託ヲ受ケタル者ハ受寄物ノ保管ニ付キ自己
ノ財產ニ於ケルト同一ノ注意ヲ爲ス責ニ任ス
第六百六十條寄託物ニ付キ權利ヲ主張スル第三者カ受寄者ニ對シテ訴
ヲ提起シ又ハ差押ヲ爲シタルトキハ受寄者ハ遲滯ナク其事實ヲ寄託者ニ
通知スルコトヲ要ス
第六百六十一條寄託者ハ寄託物ノ性質又ハ瑕疵ヨリ生シタル損害ヲ受寄
者ニ賠償スルコトヲ要ス但寄託者カ過失ナクシテ其性質若クハ瑕疵ヲ知
ラサリシトキ又ハ受寄者カ之ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第六百六十二條當事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メタルトキト雖モ寄託者
ハ何時ニテモ其返還ヲ請求スルコトヲ得
第六百六十三條當事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ受寄者ハ
何時ニテモ其返還ヲ爲スコトヲ得
返還時期ノ定アルトキハ受寄者ハ巳ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ
其期限前ニ返還ヲ爲スコトヲ得ス
第六百六十四條寄託物ノ返還ハ其保管ヲ爲スヘキ場所ニ於テ之ヲ爲スコ
トヲ要ス但受寄者カ正當ノ事由ニ因リテ其物ヲ轉置シタルトキハ其現在
ノ場所ニ於テ之ヲ返還スルコトヲ得
第六百六十五條第六百四十六條乃至第六百四十九條及ヒ第六百五十條第
一週、第二項ノ規定ハ寄託ニ之ヲ準用ス
第六百六十六條受寄者カ契約ニ依リ受寄物ヲ消費スルコトヲ得ル場合ニ
於テハ消費貸借ニ關スル規定ヲ準用ス但契約ニ返還ノ時期ヲ定メサリシ
トキハ寄託者ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得
第十二節組合
第六百六十七條組合契約ハ各當事者カ出資ヲ爲シテ共同ノ事業ヲ營ムコ
トヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
出資ハ勞務ヲ以テ其目的ト爲スコトヲ得
第六百六十八條各組合員ノ出資其他ノ組合財產ハ總組合員ノ共有ニ屬ス
第六百六十九條金錢ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル場合ニ於テ組合員カ其
出資ヲ爲スコトヲ怠リタルトキハ其利息ヲ拂フ外尙ホ損害ノ賠償ヲ爲ス
コトヲ要ス
第六百七十條組合ノ業務執行ハ組合員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
組合契約ヲ以テ業務ノ執行ヲ委任シタル者數人アルトキハ其過半數ヲ以
テ之ヲ決ス
組合ノ常務ハ前二項ノ規定ニ拘ハラス各組合員又ハ各業務執行者之ヲ專
行スルコトヲ得但其結了前ニ他ノ組合員又ハ業務執行者カ異議ヲ述ヘタ
ルトキハ此限ニ在ラス
第六百七十一條組合ノ業務ヲ執行スル組合員ニハ第六百四十四條乃至第
六百五十條ノ規定ヲ準用ス
第六百七十二條組合契約ヲ以テ一人又ハ數人ノ組合員ニ業務ノ執行ヲ委
任シタルトキハ其組合ハ正當ノ事由アルニ非サレハ辭任ヲ爲スコトヲ得
ス又解任セラルルコトナシ
正當ノ事由ニ因リテ解任ヲ爲スニハ他ノ組合員ノ一致アルコトヲ要ス
第六百七十三條各組合員ハ組合ノ業務ヲ執行スル權利ヲ有セサルトキト
雖モ其業務及ヒ組合財產ノ狀況ヲ檢査スルコトヲ得
第六百七十四條當事者カ損益分配ノ割合ヲ定メサリシトキハ其割合ハ各
組合員ノ出資ノ價額ニ應シテ之ヲ定ム
利益又ハ損失ニ付テノミ分配ノ割合ヲ定メタルトキハ其割合ハ利益及ヒ
損失ニ共通ナルモノト推定ス
第六百七十五條組合ノ債權者ハ其債權發生ノ當時組合員ノ損失分擔ノ割
合ヲ知ラサリシトキハ各組合員ニ對シ均一部分ニ付キ其權利ヲ行フコト
ヲ得
第六百七十六條組合員カ組合財產ニ付キ其持分ヲ處分シタルトキハ其處
分ハ之ヲ以テ組合及ヒ組合ト取引ヲ爲シタル第三者ニ對抗スルコトヲ得
ス
組合員ハ〓算前ニ組合財產ノ分割ヲ求ムルコトヲ得ス
第六百七十七條組合ノ債務者ハ其債務ト組合員ニ對スル債權トヲ相殺ス
ルコトヲ得ス
第六百七十八條組合契約ヲ以テ組合ノ存續期間ヲ定メサリシトキ又ハ或
組合員ノ終身間組合ノ存續スヘキコトヲ定メタルトキハ各組合員ハ何時
ニテモ脫退ヲ爲スコトヲ得但巳ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ除ク外組
合ノ爲メ不利ナル時期ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得ス
組合ノ存續期間ヲ定メタルトキト雖モ各組合員ハ巳ムコトヲ得サル事由
アルトキハ脫退ヲ爲スコトヲ得
第六百七十九條前條ニ揭ケタル場合ノ外組合員ハ左ノ事由ニ因リテ脫退
ス
一死亡
二破產
三禁治產
四除名
第六百八十條組合員ノ除名ハ正當ノ事由アル場合ニ限リ他ノ組合員ノ
一致ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得但除名シタル組合員ニ其旨ヲ通知スルニ非
サレハ之ヲ以テ其組合員ニ對抗スルコトヲ得ス
第六百八十一條脫退シタル組合員ト他ノ組合員トノ間ノ計算ハ脫退ノ當
時ニ於ケル組合財產ノ狀況ニ從ヒ之ヲ爲スコトヲ要ス
脫退シタル組合員ノ持分ハ其出資ノ種類如何ヲ問ハス金錢ヲ以テ之ヲ拂
戾スコトヲ得
脫退ノ當時ニ於テ未タ結了セサル事項ニ付テハ其結了後ニ計算ヲ爲スコ
トヲ得
第六百八十二條組合ハ其目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能ニ因リテ
解散ス
第六百八十三條巳ムコトヲ得サル事由アルトキハ各組合員ハ會社ノ解散
ヲ請求スルコトヲ得
第六百八十四條第六百二十條ノ規定ハ組合契約ニ之ヲ準用ス
第六百八十五條組合カ解散シタルトキハ〓算ハ總組合員共同ニテ又ハ其
選任シタル者ニ於テ之ヲ爲ス
〓算人ノ選任ハ總組合員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
第六百八十六條〓算人數人アルトキハ第六百七十條ノ規定ヲ準用ス
第六百八十七條組合契約ヲ以テ組合員中ヨリ〓算人ヲ選任シタルトキハ
第六百七十二條ノ規定ヲ準用ス
第六百八十八條〓算人ノ職務及ヒ權限ニ付テハ第七十八條ノ規定ヲ準用
ス
殘餘財產ハ各組合員ノ出資ノ價額ニ應シテ之ヲ分割ス
第十三節終身定期金
第六百八十九條終身定期金契約ハ當事者ノ一方カ自己、相手方又ハ第三
者ノ死亡ニ至ルマテ定期ニ金錢其他ノ物ヲ相手方又ハ第三者ニ給付スル
コトヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
第六百九十條終身定期金ハ日割ヲ以テ之ヲ計算ス
第六百九十一條定期金債務者カ定期金ノ元本ヲ受ケタル場合ニ於テ其定
期金ノ給付ヲ怠リ又ハ其他ノ義務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ元本ノ返
還ヲ請求スルコトヲ得但既ニ受取リタル定期金ノ中ヨリ其元本ノ利息ヲ
控除シタル殘額ヲ債務者ニ返還スルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第六百九十二條第五百三十三條ノ規定ハ前條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六百九十三條死亡カ定期金債務者ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リテ生シタ
ルトキハ裁判所ハ債權者又ハ其相續人ノ請求ニ因リ相當ノ期間債權ノ存
續スルコトヲ宣告スルコトヲ得
前項ノ規定ハ第六百九十一條ニ定メタル權利ノ行使ヲ妨ケス
第六百九十四條本節ノ規定ハ終身定期金ノ遺贈ニ之ヲ準用ス
第十四節和解
第六百九十五條和解ハ當事者カ互ニ讓步ヲ爲シテ其間ニ存スル爭ヲ止ム
ルコトヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
第六百九十六條當事者ノ一方カ和解ニ依リテ爭ノ目的タル權利ヲ有スル
モノト認メラレ又ハ相手方カ之ヲ有セサルモノト認メラレタル場合ニ於
テ其者カ從來此權利ヲ有セサリシ確證又ハ相手方カ之ヲ有セシ確證出テ
タルトキハ其權利ハ和解ニ因リテ其者ニ移轉シ又ハ消滅シタルモノトス
第三章事務管理
第六百九十七條義務ナクシテ他人ノ爲メニ事務ノ管理ヲ始メタル者ハ其
事務ノ性質ニ從ヒ最モ本人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ其管理ヲ爲ス
コトヲ要ス
管理者カ本人ノ意思ヲ知リタルトキ又ハ之ヲ推知スルコトヲ得ヘキトキ
ハ其意思ニ從ヒテ管理ヲ爲スコトヲ要ス
第六百九十八條管理者カ本人ノ身體、名譽又ハ財產ニ對スル急迫ノ危害
ヲ免レシムル爲メニ其事務ノ管理ヲ爲シタルトキハ惡意又ハ重大ナル過
失アルニ非サレハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス
第六百九十九條管理者ハ其管理ヲ始メタルコトヲ遲滯ナク本人ニ通知ス
ルコトヲ要ス但本人カ既ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス
第七百條管理者ハ本人、其相續人又ハ法定代理人カ管理ヲ爲スコト
ヲ得ルニ至ルマテ其管理ヲ繼續スルコトヲ要ス但其管理ノ繼續カ本人
ノ意思ニ反シ又ハ本人ノ爲メニ不利ナルコト明カナルトキハ此限ニ在ラ
ス
第七百一條第六百四十五條乃至第六百四十七條ノ規定ハ事務管理ニ之ヲ
準用ス
第七百二條管理者カ本人ノ爲メニ有益ナル費用ヲ出タシタルトキハ本人
ニ對シテ其償還ヲ請求スルコトヲ得
管理者カ本人ノ爲メニ有益ナル債務ヲ負擔シタルトキハ第六百五十條第
二項ノ規定ヲ準用ス
管理者カ本人ノ意思ニ反シテ管理ヲ爲シタルトキハ本人カ現ニ利益ヲ受
クル限度ニ於テノミ前二項ノ規定ヲ適用ス
第四章不當利得
第七百三條法律上ノ原因ナクシテ他人ノ財產又ハ勞務ニ因リ利益ヲ受ケ
之カ爲メニ他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ其利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ
返還スル義務ヲ負フ
第七百四條惡意ノ受益者ハ其受ケタル利益ニ利息ヲ附シテ之ヲ返還スル
コトヲ要ス尙ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第七百五條債務ノ辨濟トシテ給付ヲ爲シタル者カ其當時債務ノ存在セサ
ルコトヲ知リタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス
第七百六條債務者カ辨濟期ニ在ラサル債務ノ辨濟トシテ給付ヲ爲シタル
トキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス但債務者カ錯誤ニ
因リテ其給付ヲ爲シタルトキハ債權者ハ之ニ因リテ得タル利益ヲ返還ス
ルコトヲ要ス
第七百七條債務者ニ非サル者カ錯誤ニ因リテ債務ノ辨濟ヲ爲シタル場合
ニ於テ債權者カ善意ニテ證書ヲ毀滅シ、擔保ヲ抛棄シ又ハ時效ニ因リテ
其債權ヲ失ヒタルトキハ辨濟者ハ返還ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
前項ノ規定ハ辨濟者ヨリ債務者ニ對スル求償權ノ行使ヲ妨ケス
第七百八條不法ノ原因ノ爲メ給付ヲ爲シタル者ハ其給付シタルモノノ返
還ヲ請求スルコトヲ得ス但不法ノ原因カ受益者ニ付テノミ存シタルトキ
ハ此限ニ在ラス
第五章不法行爲
第七百九條故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ權利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リ
テ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第七百十條他人ノ身體、自由又ハ名譽ヲ害シタル場合ト財產權ヲ害シタ
ル場合トヲ問ハス前條ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財產以
外ノ損害ニ對シテモ其賠償ヲ爲スコトヲ要ス
第七百十一條他人ノ生命ヲ害シタル者ハ被害者ノ父母、配偶者及ヒ子ニ
對シテハ其財產權ヲ害セラレサリシ場合ニ於テモ損害ノ賠償ヲ爲スコト
ヲ要ス
第七百十二條未成年者カ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ其行爲ノ責任
ヲ辨識スルニ足ルヘキ知能ヲ具ヘサリシトキハ其行爲ニ付キ賠償ノ責ニ
任セス
第七百十三條心神喪失ノ間ニ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ賠償ノ責ニ任セ
ス但故意又ハ過失ニ因リテ一時ノ心神喪失ヲ招キタルトキハ此限ニ在ラ
ス
第七百十四條前二條ノ規定ニ依リ無能力者ニ責任ナキ場合ニ於テ之ヲ監
督スヘキ法定ノ義務アル者ハ其無能力者カ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償
スル責ニ任ス但監督義務者カ其義務ヲ怠ラサリシトキハ此限ニ在ラス
監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
第七百十五條或事業ノ爲メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行
ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但使用者カ被用者ノ選
任及ヒ其事業ノ監督ニ付キ相當ノ注意ヲ爲シタルトキ又ハ相當ノ注意ヲ
爲スモ損害カ生スヘカリシトキハ此限ニ在ラス
使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
前二項ノ規定ハ使用者又ハ監督者ヨリ被用者ニ對スル求償權ノ行使ヲ妨
ケス
第七百十六條注文者ハ請負人カ其仕事ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠
償スル責ニ任セス但注文又ハ指圖ニ付キ注文者ニ過失アリタルトキハ此
限ニ在ラス
第七百十七條土地ノ工作物ノ設置又ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損
害ヲ生シタルトキハ其工作物ノ占有者ハ被害者ニ對シテ損害賠償ノ責ニ
任ス但占有者カ損害ノ發生ヲ防止スルニ必要ナル注意ヲ爲シタルトキハ
其損害ハ所有者之ヲ賠償スルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ竹木ノ栽植又ハ支持ニ瑕疵アル場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ場合ニ於テ他ニ損害ノ原因ニ付キ其責ニ任スヘキ者アルトキハ
占有者又ハ所有者ハ之ニ對シテ求償權ヲ行使スルコトヲ得
第七百十八條動物ノ占有者ハ其動物カ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責
ニ任ス但動物ノ種類及ヒ性質ニ從ヒ相當ノ注意ヲ以テ其保管ヲ爲シタル
トキハ此限ニ在ラス
占有者ニ代ハリテ動物ヲ保管スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
第七百十九條數人カ共同ノ不法行爲ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキ
ハ各自連帶ニテ其賠償ノ責ニ任ス共同行爲者中ノ孰レカ其損害ヲ加ヘタ
ルカヲ知ルコト能ハサルトキ亦同シ
〓唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行爲者ト看做ス
第七百二十條他人ノ不法行爲ニ對シ自己又ハ第三者ノ權利ヲ防衞スル爲
メ已ムコトヲ得スシテ加害行爲ヲ爲シタル者ハ損害賠償ノ責ニ任セス但
被害者ヨリ不法行爲ヲ爲シタル者ニ對スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
前項ノ規定ハ他人ノ物ヨリ生シタル急迫ノ危難ヲ避クル爲メ其物ヲ毀損
シタル場合ニ之ヲ準用ス
第七百二十一條胎兒ハ損害賠償ノ請求權ニ付テハ旣ニ生マレタルモノト
看做ス
第七百二十二條第四百十七條ノ規定ハ不法行爲ニ因ル損害ノ賠償ニ之ヲ
準用ス
被害者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ額ヲ定ムルニ付キ之ヲ
斟酌スルコトヲ得
第七百二十三條他人ノ名譽ヲ毀損シタル者ニ對シテハ裁判所ハ被害者ノ
請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名譽ヲ囘復スルニ適當ナ
ル處分ヲ命スルコト得
第七百二十四條不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求權ハ被害者又ハ其法定代
理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサルトキハ時效
ニ因リテ消滅ス不法行爲ノ時ヨリ二十年ヲ經過シタルトキ亦同シ
〔國務大臣侯爵伊藤博文君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=2
-
003・伊藤博文
○國務大臣(侯爵伊藤博文君) 本日本院ニ提出相成リマシタ民法修正案ノ事
ニ就キマシテ大略ヲ陳述ニ及ビマス、本法ハ去ヌル二十五年ノ第三議會ニ於
キマシテ現在ノ民法ヲ修正スルト云フ議ニ基イテ延期法案ガ提出ニ相成リマ
シテ上下兩院通過ノ後同年ノ十一月ニ於テ發布セラレマシテ而シテ修正ノ期
限ヲ明治二十九年十二月三十一日マデト定メラレテアリマス、右法案ノ結果
ニ基キマシテ政府ハ現在ノ民法ヲ修正スル義務ヲ負ヒマシタノデアリマス、
翌二十六年ノ三月ニ於キマシテ勅令ヲ發布サレテ修正委員ヲ組織サレマシテ
本大臣ハ其總裁ノ任命ヲ蒙リマシタ、此法典調査委員會ノ組織ト申シマスル
モノハ、第一ニ髙等行政官及司法官、其次ニ大學ノ〓授、帝國議會ノ議員、
辯護士、又學識經驗アル民間ノ諸氏ヲ以テ集合サレテ居リマス、其中ニ於テ
本院ノ議員中ヨリハ殆ト三分ノ一强ノ委員ヲ選定サレテアリマス、此人員ニ
依ッテ二箇年有餘ノ間ニ修正ヲ終リマシタル所ノ民法ノ部分ガ卽チ今囘ノ議
會ニ提出サレマシタノデゴザイマス、其法典調査會ニ於キマシテ委員ノ諸氏
ハ異常ニ勉强致シマシテ斯ノ如ク迅速ニ運ビマシタノデアリマスガ、此間ニ
ハ十分ナル討議ヲ盡シ又日本ノ習慣及舊來ノ法律等ヲモ參酌ノ屆クベキ所マ
デハ十分ニ〓究ヲ盡シ、且ツ與國ノ民法等ニモ參考致シマシタノデゴザイマ
ス、故ニ此修正ノ結果トシテハ決シテ佛國民法ニ據ルトカ、或ハ英吉利ノ習
慣法ニ係ルトカ或ハ其他ノ諸國ノ民法ニ依クテ修正ノ機軸ヲ成シタモノデハ
ゴザイマセヌ、舊來發行サレテアル所ノ卽チ現在シテ居ル所ノ民法ニ於キマ
シテ日本ノ習慣上ニ幾分カ牴觸スル所ガアッテ是デハ事實上ニ於テ差支ガア
ラウト云フ所ヨリシテ卽チ延期法案ガ出マシタノデアリマス、其意ヲ斟酌致
シテ修正ヲ致シマシタモノデアリマス、右ノ譯合ヲ以テ修正ガ成立ッテ居リ
マスルニ依ツテ此修正ニ依ッテ實行サルヽニ於テハ決シテ事實上ニ差支ハナ
カラウト云フ政府ノ決議ニ依ッテ裁可ヲ蒙ッテ卽チ帝國議會ニ提出致シマシ
タ、旣ニ衆議院ノ可決ヲ經テ本院ニ參リテ居ルノデアリマス、如何ニモ短縮
ノ時日デハアリマスルケレドモ卽チ本院ノ議員中ヨリモ十一名ノ委員モ其中
二期四テ十分ニ今日マデニ討議ヲ盡シ〓究ヲ盡シタルノ結果トシテ成立クタ
ル所ノ修正案デゴザイマス、政府ハ本院ニ向ヶテ本會期ニ於テ此議了ニ相成
ランコトヲ飽マデ希望致シマスルデ諸君ニ於テ十分ノ御勉勵ヲ以テ速ニ議了
ニナランコトヲ希ヒマス
〔村田保君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=3
-
004・村田保
○村田保君 本員ハ此民法修正ノ事ニ就キマシテハ初期議會ヨリ致シマシテ
大分關係ヲ持ッテ居リマスルカラシテ諸君ノ中ニハ御存ジノイラッシヤラヌ
御方モ有ラウカト思ヒマスルカラシテ行掛リ上ノ事ヲ一應辯ジマシタラバ諸
君ノ御參考ニモ爲リ、不必要ナ事デモナイト存ジマスルカラシテ一應申上ゲ
置キタイト思フ今日此民法修正案ガ出マシタ根源ト申シマスルモノハ全ク
此初期ノ議會ニアラウト存ジマス、ソレデ此一體旣成法典中民法ノ施行ト申
シマスルモノハ二十六年一月カラト云フコトニナツテ居リマシタ、商法ハ二
十四年一月カラト云フコトニナッテ居リマシタ、ソレデ初期ノ議會ニ於キマ
シテ商法ヲバ民法ト同樣ニ二十六年一月マデト同ジヤウナ施行期限ニシタイ
ト云フ法律案ガ出マシテ、ソレガ通過ヲ致シテ政府モ其通、發布ニナッテ居
リマス、續イテ初期ノ議會ノ時分ニ民法竝ニ此商法ノ修正ヲ致シタイト云フ
コトガ本院カラ建議ガ出テ居ルノデ、然ル處ツレハ政府デ採用ニナリマセヌ
デ居リマシタ、ソレデ第三議會デアリマス二十五年ノ第三議會ニ於キマシテ
卽チ本員ガ民法竝ニ商法ヲバ修正ヲ行フガタメニ二十九年十二月三十一日マ
デ延期シタイト云フコトヲバ發議ヲ致シマシテ、其時分ニ百十餘名ノ贊成ヲ
得マシテ、其時分ノ國務大臣ニ既ニ三名程ハ非常ニ反對ヲサレテ此議事ト申
シマスルモノハ丁度三日掛リマシタ三日掛リマシテ熱心ニ政府ハ反對ヲサ
レマシタケレドモ、其結果タルヤ六十一名ニ對スル百二十三名ノ大多數ヲ以
テ本院ヲ通過シテ居ルサウ致シテソレガ政府ヘ出マシテ其後二十五年十月
七日ニ民法商法施行取調委員ト云フモノヲ政府デ設ケマシテ是ハ丁度斷行ノ
者ト延期ノ者ヲ半々デ組立クタモノデ、其時分ニ是モ數日間討論ノ末、民法
··商法ハ一部施行ニナリマシテ或ハ會社法トカ爲替法トカ云フモノヲ一部
施行シテ迹ハ延期スルト云フコトニ爲リマシタ、ソレカラ民法ハ全部延期ト
云フコトニ爲リマシタ、其後二十六年四月十三日ニ法典調査會ガ出來マシ
テ、ソレガ今日マデ從事致シマシテ此民法ノ修正モ出來マシタ所以デアリマ
ス、本員ハ一體此既成法典ニハ最モ反對ヲ致シマシタ一人デゴザイマスル
ガ、既ニ第三議會ニ於キマシテ此大體不都合ナル〓ヲ餘程澤山揭グテ其時分
ニ述ベマシタ、其本員ノ兼〓不都合ト見マスル〓ハ多クハ今日大〓此度ノ修
正デハ取除ケテ居ル本員ハ此不都合ノ〓ヲ今日段々述べタウゴザイマスル
ガ、實ハ今日ハ本員ハ是カラ脇ヘ出ナクチャナラヌ用事ガゴザイマスルカラ
長クハ述べラレマセヌカラ極ク簡略ニ一二ノ例ヲ述ベマスル、此既成ノ法典
ト云フモノハ既ニ其體裁ト云フモノハ〓科書トカ或ハ註釋ト云フヤウナ體裁
デゴザイマス、サウ云フコトハ今日ノ民法デハ御覽ニナルト分リマスガ皆取
除ケテ居リマス、又日本ノ慣習ニ背ク所ノ或ハ用益權トカ使用權トカ住居權
トカ云フモノハ日本人ノ夢ニダモ知ラヌ事ガ有リマシタガ、是モ取レテ居リ
マス、又賃借權ガ物權ニ爲ッテ居ル是モ日本デハ無イ事デゴザイマス是
等モ今度ハ物權カラ除ィテアリマス、或ハ自然義務ト云フヤウナモノモゴザ
イマシテ、シテモ宜イ、シナイデモ宜イ又人ニ催促モ出來ナケレバ裁判所ヘ
訴ヘルコトモ出來ナイト云フヤウナ事ガ、クド〓〓シク書イテゴザイマシ
タ、ソレ故ニ從來ノ民法デゴザイマスト千三百條カラ餘ニナッテ居リマシタ
ガ今日ノハ殆ド其半分デ七百餘條デ事ガ濟ムト云フヤウニ簡略ニナッテ居リ
マス、デ本員ノ最モ反對ヲ致シマシタ一ツノ原因ト申シマスルモノハ既成ノ
民法ト云フモノハ實ニ外國人ノ手ニ成ッテ居リマス、外國人ノ手ニ成リマシ
タモノヲ殆ド其儘······多少ノ修正ハゴザイマスケレドモマア其儘出シタト
云ッテモ宜イヤウナモノデアリマシタ、ワレガ本員ハ甚ダ遺憾ト思フ、ナゼカ
ト言ヘバ日本ノ民法ヲバ日本人ガ作ラヌデ外國人ノ手デ作クタモノヲ出シタ
ラ實ニ世界各國ニ對シテ一大耻辱ダラウト云フノガ本員ノ最モ遺憾ニ思ッテ
居ル所デゴザイマス、然ル所ガ此度ノ修正案ハ全ク日本人ノ手ニ成ッタモノ
デ決シテ外國人ノ手ヲ借リテ出來タモノデナイ、此一〓ニ就イテモ此度ノ民
法ノ修正ト申シマスモノハ既成ノ民法トハ一大面目ヲ改メテ居リマス本員
抔ハ旣成民法ト此修正ニナッタノト比較致シマスルト今日ノ修正ニナリマシ
タ方ガ數層優〃テ居ルモノト信ジテ居リマスカラ本員ハ初カラノ行掛リモゴ
ザリマス故ソレダケノ事ヲ一應申上ゲテ置キマシタラ諸君ノ御參考ノ一端ニ
モ爲ラウト思ヒマスカラ是ダケヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=4
-
005・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 一寸後ノ例ニモ爲リマスカラ一應申上ゲテ置キ
マスガ、唯今村田君ニ發言ヲ許シマシタノハ是ハ全ク此法案ニ就イテ諸君ノ
御參考ノタメニ希望ヲ述ベタイト云フコトデアリマスカラ許シマシタノデア
リマス、規則ニアル手續ニ依リマスレバ政府委員·······大臣若クハ政府委員カ
ラ辯明ガ終レバ直ニ委員ニ付スル手續ニナルノデアリマスルカラ是ハ特ニ村
田君カラノ請求デアッタニ依ッテ許シタモノト御承知ヲ願ヒタイ、··本案
ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選舉ニ移リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=5
-
006・渡正元
○渡正元君 本員ハ此際ニ於テ緊急動議ヲ提出致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=6
-
007・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 併シ唯今ハ委員ノ選舉ノ事ニ移ッテ居リマスガ
其事デゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=7
-
008・渡正元
○渡正元君 其事デゴザイマス、抑此民法法案ハ國家百年ノ法典ノ基礎ニ
爲ルモノデ其關係スル所廣ク重大ナルモノデアリマス、而シテ其條項ハ七百
二十三條ノ斯ノ如ク浩瀚重大ナル法典ヲ委員ニ付託シテ審査セシムルコトニ
附イテハ顧ルニ帝國議會開會ノ日數餘ス所僅ニ一週日ニ過ギマセヌ、其中大
祭日日曜ヲ除ケバ僅ニ五六日間ニ止マル、此僅ニ五六日間ニ於テ此重大ナル
法典且ツ七百二十三條ニ渉ツテ居ル法典ヲ審査セシムルト云フコトハ思ヒモ
寄ラザル事ト本員ハ考ヘマス、若シ之ヲ此五日間ニ於テ審査結了スルコトヲ
得ルト言フ者ガ有レバソレハ審査スルニアラズシテ逐條素讀シタト言ハザ
ルヲ得ヌ、若シ之ヲ審査修理スルコトガ出來ズシテ逐條素讀シテ盲判ヲ捺ス
ト云フコトデアッタナラバ貴族院ノ體面ニ於テ如何デアリマセウカ、貴族院
ハ國家百年ノ基礎タル法典ノ基礎タル民法ヲ素讀スルガ如クニシテ決了シタ
ト云フコトデアッタナラバ貴族院ハ其職掌ニ於テ世ノ非難ヲ招キ又天下後世
ノ嗤ヲ貽スコトデアラウト本員ハ實ニ苦慮ニ堪ヘマセヌ、依ッテ此際議院法
第二十五條ニ據クテ繼續委員ヲ置クコトヲ建議致シマス、而シテ帝國議會閉
會ノ後、繼續委員ニ之ヲ付託シテ反覆審議シテ十分ニ審査ヲ遂ゲサセタイト
云フ希望デアリマス、故ニ今特別委員選定ノ場合ニ於テ此緊急動議ヲ提出シ
テ此緊急動議ノ成否ヲ待ッテ然ル後、議事日程第二項ノ特別委貝人員竝ニ選
定ノ方法ヲ定メラレンコトヲ望ミマスノデアリマス、若シ幸ニ同感ノ贊成者
議場ノ多數ノ贊同ヲ得テ此動議ノ採用セラレンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=8
-
009・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 渡君ニ一寸確メテ置キマスガ、唯今ノ御話ハ繼
續委員ヲ置キタイト云フ御動議デアリマスカ、或ハ特別委員ヲ置クト云フ御
動議デアリマスカ、其動議ヲ一ツ伺クテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=9
-
010・渡正元
○渡正元君 特別委員ヲ置クト云フコトハ既ニ議事日程ニ載ツテ居リ且ツ議
長カラモ御宣告ヲ受ケテ居リマスカラ此際ニ於テ緊急動議トシテ繼續委員ヲ
置クト云フコトヲ提出致シタノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=10
-
011・津輕承敘
○子爵津輕承敍君 渡君ニ贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=11
-
012・瀧口吉良
○瀧口吉良君 私ハ繼續委員ヲ置クト云フコトニハ大反對デアリマス、ナゼ
トナラバ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=12
-
013・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 暫ク御待チ下サイ
(瀧口吉良君「贊成ガアッテ成立チハシマセヌカ」ト述フ〕
併ナガラ未ダ其事ヲ議スルト云フコトノ順序ニ及ンデハ居リマセヌカラ暫ク
御待チ下サイ、議事日程ノ變更ニ係ルノデアリマスカラ······唯今御聽ノ通渡
君カラ動議ガ出テ贊成ガ有リマシタ以上ハ是ハ卽チ議事日程ヲ變更シテ唯今
ノ動議ノ如何ヲ決スル事ニ爲リマス、先ヅ議事日程ヲ變更スルヤ否ヤノ決ヲ
採ルコトニ爲リマス、渡君ヨリ繼續委員ヲ置キタイト云フ御動議ガ出テ居リ
マス、贊成ガゴザイマス、依ッテ議事日程ヲ變更追加スルヤ否ヤノ決ヲ採リマ
ス、議事日程ヲ變更シテ渡君ノ動議ヲ議スベシトスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者少數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=13
-
014・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 少數デゴザイマス、依ッテ消滅致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=14
-
015・西五辻文仲
○男爵西五辻文仲君 此特別委員ハ人員ヲ十五名トシテ議長ニ於テ選定ヲ希
望致シマ人発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=15
-
016・柴原和
○柴原和君 贊成致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=16
-
017・小原重哉
○小原重哉君 贊成致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=17
-
018・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 西五辻男爵ヨリ委員ノ數ヲ十五名トシテ議長ニ
於テ選定ニナルヤウニ致シタイト云フ動議、此動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請
ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=18
-
019・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 多數デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=19
-
020・渡正元
○渡正元君 本員ハ今日赤阪離宮ニ召サレテ參内致シマスニ附イテ是ヨリ退
席致シマス
〔「本員モ退席致シマス」ト述ル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=20
-
021・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 次ニ獸疫豫防法案、政府提出、衆議院囘付、會
議ヲ開キマス是ハ本院ヨリ送付致シタルノヲ衆議院ニ於テ修正ニナリマシ
タルニ依ッテ再ビ會議ニ付シタノデアリマス、依ッテ三讀會ノ順序ヲ經ル會
議デハナイノデアリマス、此可否ヲ決スルダケノ會議デゴザイマス、通牒文
ノミヲ朗讀致サセマス
〔有賀書記官朗讀〕
獸疫豫防法案
右貴院ノ送付ニ關ル政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十
五條ニ依リ及囘付候也
明治二十九年三月十六日
衆議院議長楠本正隆
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶殿
〔左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス〕
獸疫豫防法案
第二條獸類獸疫ニ罹リタルコト若ハ其ノ疑アルコトヲ發見シタル所有者、
管理人又ハ獸醫ハ直ニ其ノ旨ヲ所轄警察署又ハ市町村長特別市制ヲ施行
スル市ニ於テハ
區長、市制町村制ヲ施行セサル地方ニニ屆出ヘ
於テハ區戶長、又ハ之ニ準スへキ者
(政府委員藤田四郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=21
-
022・藤田四郎
○政府委員(藤田四郞君) 此獸疫豫防法案ハ本院ニ於キマシテ最初議決相成
リマシテ衆議院ヘ送付セラレタモノデゴザイマス、衆議院委員會ニ於キマシ
テ調査中本年三月五日デゴザイマシタ沖繩縣ノ郡區ニ關スル編成ニ就キマシ
テ勅令ガ出マシタソレガタメニ沖繩縣役所廳ト云フモノガ廢セラレマシテ其
他ノ名前ト爲リマシテ從ッテ獸疫豫防法案第二條ニ於キマシテ割註ノ所ニ
「沖繩縣ニ於テハ役所廳」トゴザイマス所ガ此勅令ノ變更ニ依リマシテ斯ウ
云フモノガ今年四月一日ヨリ無クナリマス事ニ爲リマス、就キマシテハ丁度
衆議院ニ於キマシテ調査中デゴザイマシテ彼ノ勅令モ出マシタコトデゴザン
スルカラ、ソレニ能ク釣合フヤウニナッタ方ガ宜イト云フコトノ議デゴザイ
マシテ此ヤウニ改マリマシタ譯デゴザンスル、政府ニ於キマシテモ最モ希望
致ス所ノ事柄デゴザンシテドウシテモ此法律ハ斯ウ改マルコトハ是ハ必要ト
認メマシタ譯デアリマス、故ニ此修正ニ就キマシテハ本院ノ諸君モ御贊成ア
ランコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=22
-
023・田中芳男
○田中芳男君 此修正ハ唯今ノ政府委員カラ述ベラレマシタ通勅令ノ結果ト
シテ斯ヤウニ修正セネバナラヌト云フコトニ爲リマシタノデ何モ他ノ修正ト
八起動テ居リマシテ是非斯樣ニセネバナラヌト云フ譯デアッテ其理由ハ明瞭
デアリマスルカラシテ至極此修正通ニシタラ宜カラウト考ヘマスカラ本員ハ
最モ贊成ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=23
-
024・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 別ニ御發言ガナイト存ジマスニ依ッテ衆議院ノ
修正ヲ可トスルヤ否ヤノ決ヲ採リマス、衆議院ノ修正ヲ可トスル諸君ノ起立
ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=24
-
025・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 多數デゴザイマス次ニ日本勸業銀行法案、政府
提出、衆議院送付、第一讀會ヲ開キマス、通牒文ノミヲ朗讀致サセマス
〔有賀書記官朗讀〕
日本勸業銀行法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
明治二十九年三月十四日
衆議院議長楠本正隆
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶殿
〔左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
日本勸業銀行法
第一章總則
第一條日本勸業銀行ハ農業工業ノ改良發逹ノ爲資本ヲ貸付スルヲ以テ
目的トスル株式會社ニシテ其ノ本店ヲ東京ニ置ク
第二條日本勸業銀行ノ資本金ハ一千萬圓トス但シ株主總會ノ決議ニ依リ
政府ノ認可ヲ經テ資本金ヲ增加スルコトヲ得
第三條日本勸業銀行ノ各株式ノ金額ハ二百圓トス
第四條日本勸業銀行ノ存立時期ハ設立免許ノ日ヨリ百箇年トス但シ株主
總會ノ決議ニ依リ政府ノ認可ヲ經テ存立時期ヲ延長スルコトヲ得
第二章重役
第五條日本勸業銀行ニ總裁副總裁各一人理事監査役各三人以上ヲ置ク
第六條總裁ハ日本勸業銀行ヲ代表シ其ノ事務ヲ總理ス
副總裁ハ總裁事故アルトキ其ノ職務ヲ代理シ總裁缺員ノトキ其ノ職務ヲ
行フ
副總裁及理事ハ總裁ヲ補助シ定款ノ定ムル所ニ從ヒ日本勸業銀行ノ業務
ヲ分掌ス
監査役ハ日本勸業銀行ノ業務ヲ監査ス
第七條總裁副總裁ハ百株以上ヲ所有スル株主中ヨリ政府之ヲ命シ其ノ任
期ヲ五箇年トス但シ其ノ任期滿限ノ後再任ヲ命スルコトヲ得
理事ハ五十株以上ヲ所有スル株主中ヨリ株主總會ニ於テ二倍ノ候補者ヲ
選舉シ政府其ノ中ヨリ之ヲ命シ任期ヲ五箇年トス但シ其ノ任期滿限ノ後
本條ノ手續ニ依リ再任ヲ命スルコトヲ得
監査役ハ三十株以上ヲ所有スル株主中ヨリ株主總會ニ於テ之ヲ選定シ其
ノ任期ヲ三箇年トス但シ其ノ任期滿限ノ後再選スルコトヲ得
總裁副總裁理事及監査役ハ任命若ハ選定ノ六箇月前ヨリ引續キ本條規定
ノ株數ヲ所有スル者ニ限ル
第八條總裁副總裁及理事ハ在任中何等ノ名稱ニ拘ラス他ノ職務又ハ商業
ニ從事スルコトヲ得ス但シ大藏大臣ノ認可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラ
ス
第三章株主總會
第九條通常株主總會ハ每年二囘定款ニ定メタル時期ニ於テ總裁之ヲ招集
ス
第十條臨時株主總會ハ臨時ノ事項ヲ議スル爲何時ニテモ總裁之ヲ招集ス
ルコトヲ得
第十一條監査役又ハ總株金ノ五分ノ一以上ニ當ル株主ハ會議ノ目的ヲ示
シテ臨時株主總會ノ招集ヲ總裁ニ請求スルコトヲ得
總裁前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ臨時株主總會ヲ招集スヘシ
第十二條株主總會ニ於テハ株主ハ議決權ヲ有スル株主ノ外代理ヲ委託ス
ルコトヲ得ス但シ法定代理人ハ此ノ限ニ在ラス
日本勸業銀行ノ役員及使用人ハ株主總會ニ於テ株主ノ代理人タルコトヲ
得ス
第十三條株主ノ議決權ハ十株ニ付キ一箇トス但シ十一株以上ヲ有スル株
主ニ在リテハ五十株ヲ增ス每ニ一箇ヲ加フ
他人ノ代理ヲ爲ス者ハ五人以上ヲ代理スルコトヲ得ス又其ノ株數ハ總株
數ノ十分ノ二以上ヲ超過スルコトヲ得ス
第四章營業
第十四條日本勸業銀行ハ五十箇年以內ニ於テ年賊償還ノ方法ニ依リ不動
產ヲ抵當トシテ貸付ヲ爲スモノトス
日本勸業銀行ハ年賦償還貸付金總高ノ十分ノ一ニ相當スル金額ヲ限リ不
動產ヲ抵當トシ又ハ地金銀若ハ國債證券地方債證劵ヲ質トシ五箇年以內
ノ定期償還貸付ヲ爲スコトヲ得
第十五條日本勸業銀行ハ府縣郡市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル公共團
體ニ貸付ヲ爲ス場合ニ於テ抵當ヲ徵セサルコトヲ得
第十六條日本勸業銀行ニ於テ不動產抵當ヲ徵スルトキハ總テ第一抵當ナ
ルコトヲ要ス但シ舊債アル場合ニ於テ日本勸業銀行ヨリ借入スル新債ヲ
以テ舊債ヲ償還スル效果ニ依リ新債ノ第一抵當トナルコトヲ得ヘキトキ
ハ此ノ限ニ在ラス
第十七條日本勸業銀行ニ於テ抵當トシテ徵スル土地ハ永續スヘキ確實ナ
ル收益ノ見込アルモノニ限ル
日本勸業銀行ニ於テ抵當トシテ徵スル建物ハ保險付ノモノニ限ル但シ抵
當物ノ外ニ貸付金高二倍以上ノ價格ヲ有スル動產又ハ不動產ヲ添抵當ト
爲ス場合ニ於テハ保險ニ付セサルコトヲ得
第十八條不動產ヲ抵當トシテ貸付クル金額ハ日本勸業銀行ニ於テ鑑定シ
タル價格ノ三分ノ二以內トス
第十九條年賦金ハ元金ト利子トヲ併セテ之ヲ計算シ各年ヲ通シテ一定平
等ノ償還額ヲ定ムヘシ
前項ノ償還額ハ之ヲ變更スルコトヲ得ス但シ貸付金ノ一部償還ノ場合ニ
於テ其ノ額ヲ更定スルハ此ノ限ニ在ラス
第二十條土地抵當貸付ニ對スル年賦金ハ其ノ抵當地ノ平年收益額ヨリ公
課額ヲ扣除シタル殘額ヲ超過スルコトヲ得ス
第二十一條貸付金ノ年賦償還ニ付キテハ一箇年以上五箇年以內ニ於テ据
置年限ヲ定ムヘシ但シ其ノ年限間ノ利子ハ此ノ限ニ在ラス
第二十二條債務者年賦金、定期償還金又ハ利子ノ拂込ヲ遲延シタルトキ
ハ拂込期日ノ翌日ヨリ其ノ金額ニ對シ利子ヲ仕拂フノ義務ヲ負フ
第二十三條年賦償還ノ方法ヲ以テ借入ヲ爲シタル債務者ハ償還期限前ニ
借用金ノ全部若ハ一部ヲ償還スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ日本勸業銀行ハ定款ニ於テ定ムル所ノ率ニ依リ相當
ノ手數料ヲ要求スルコトヲ得
第二十四條債務者ハ借用金ノ五分ノ一以上ヲ償還シタルトキハ其ノ割合
ニ應シ抵當物一部ノ解除ヲ要求スルコトヲ得其ノ殘額ニ對シテモ亦同シ
第二十五條日本勸業銀行ハ年賦金ノ拂込ヲ遲延スル債務者ニ對シ償還期
限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第二十六條日本勸業銀行ハ抵當物ノ價格減少シ貸付金償還殘額ニ對シ第
十八條ノ割合ニ不足ヲ生シタルトキハ增抵當ヲ要求シ若ハ其ノ不足ニ相
當スル貸付金額ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
債務者前項ノ要求ニ應セサルトキハ日本勸業銀行ハ償還期限前ト雖貸付
金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第二十七條抵當不動產ノ全部若ハ一部カ土地收用法ニ依リ收用セラルヽ
場合ニ於テ日本勸業銀行ハ償還期限前ト雖貸付金ノ償還ヲ要求スルコト
ヲ得但シ債務者ニ於テ收用補償金ヲ供託シ又ハ相當ノ不動產ヲ以テ增抵
當トスルトキハ此ノ限ニ在ラス
其ノ收用一部ニ止マルトキハ償還ノ要求モ其ノ割合ニ應スヘキモノトス
第二十八條無抵當ニテ借入ヲ爲シタル府縣郡市町村其ノ他法律ヲ以テ組
織セル公共團體ニ於テ年賦金、定期償還金又ハ利子ノ拂込期日ヲ過キ之
ヲ拂込マサルトキハ日本勸業銀行ハ監督官廳ニ其ノ處分ヲ請求スルコト
ヲ得
前項ノ場合ニ於テ日本勸業銀行ハ府縣ニ對シテハ內務大臣ニ郡市町村其
ノ他法律ヲ以テ組織セル公共團體ニ對シテハ第一次監督官廳ニ其ノ請求
ヲ爲スヘシ
監督官廳請求ヲ受ケタルトキハ府縣郡市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル
公共團體ニ命令シテ延滯金及第二十二條ノ利子ヲ拂込マシムヘシ
第二十九條日本勸業銀行ハ農工銀行法ニ依リ設立シタル各農工銀行ノ發
行スル農工債券ヲ引受クルコトヲ得
第三十條日本勸業銀行ハ農工債券ヲ引受ケムトスル場合ニ於テ農工銀
行ノ業務及財產ノ實況ヲ調査スルコトヲ得
第三十一條日本勸業銀行ハ地金銀又ハ有價證劵ノ保護預リヲ爲スコトヲ
得
第三十二條日本勸業銀行ハ營業上餘裕金アルトキハ一時各種ノ國債證劵
地方債證劵ヲ買入レ又ハ日本銀行ニ預ケ金ヲ爲スコトヲ得
日本勸業銀行ハ前項ニ依ルノ外營業上ノ餘裕金ヲ使用スルコトヲ得ス
第三十三條日本勸業銀行ハ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ營ムコトヲ得ス
第五章勸業債券
第三十四條日木勸業銀行ハ資本金四分ノ一以上ノ拂込アリタルトキハ拂
込金額ノ十倍ヲ限リ勸業債券ヲ發行スルコトヲ得但シ年賦償還貸付金總
高及其ノ引受ケタル農工債券現在高ヲ超過スルコトヲ得ス
第三十五條勸業債券ハ券面金額ヲ五十圓以上トシ無記名利札附トス但シ
應募者又ハ所有者ノ請求ニ依リ記名ト爲スコトヲ得
第三十六條日本勸業銀行ハ少クトモ年賦償還貸付金及其ノ引受ケタル農
工債劵ノ償還高ニ應シ每年二囘以上抽籤ヲ以テ勸業債券ヲ償還スヘシ
日本勸業銀行ニ於テ勸業債券ヲ償還スル場合ニ於テハ割增金ヲ附與スル
コトヲ得但シ其ノ方法及金額ハ大藏大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第三十七條日本勸業銀行ハ勸業債劵借換ノ爲一時第三十四條ノ制限ニ依
ラス低利ノ勸業債券ヲ發行スルコトヲ得
低利ノ勸業債券ヲ發行シタルトキハ發行後一箇月以內ニ抽籤ヲ以テ其ノ
發行券面金額ニ相當スル舊勸業債券ヲ償還スヘシ
第三十八條勸業債券ノ利子ハ每年二囘定款ニ定メタル時期ニ於テ之ヲ仕
拂フヘシ
第三十九條日本勸業銀行ハ年賦償還貸付金ノ償還延滯シテ豫期ノ金額ニ
達セサルトキ及其ノ引受ケタル農工債券ニシテ之ヲ發行シタル農工銀行
解散ノ爲ニ全額ノ償還ヲ得ルコト能ハサルトキハ第三十六條ノ償還ト同
時期ニ抽籤ヲ以テ其ノ延滯金額又ハ償還ヲ得サル農工債券面金額ニ相當
スル勸業債劵ヲ償還スヘシ
第四十條勸業債券ノ所有者其ノ元金又ハ利子ヲ要求セサルトキハ元金
ハ十五箇年利子ハ五箇年ニシテ其ノ要求ノ權ヲ失フモノトス
第四十一條勸業債券ヲ僞造又ハ變造シテ行使シタル者ハ刑法第二百四條
ノ例ニ依リ處罰ス其ノ模造ニ關シテハ明治二十八年法律第二十八號通貨
及證券模造取締法ニ依リ處分ス
第四十二條勸業債券ニ關シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法
律第六十號ヲ適用ス
第六章準備金
第四十三條日本勸業銀行ハ每年準備金トシテ資本ノ缺損ヲ補フ爲利益ノ
百分ノ八以上ヲ積立テ及利益配當ノ平均ヲ得セシムル爲利益ノ百分ノ二
以上ヲ積立ツヘシ
第七章政府ノ監督及補助
第四十四條大藏大臣ハ日本勸業銀行ノ業務ヲ監督ス
第四十五條日本勸業銀行ハ其ノ定款ヲ變更セムトスルトキハ大藏大臣ノ
認可ヲ受タヘシ
第四十六條日本勸業銀行ニ於テ支店又ハ代理店ヲ設置セムトスルトキハ
大藏大臣ノ認可ヲ受クヘシ又大藏大臣ニ於テ支店若ハ代理店ヲ要用ナリ
トスルトキハ日本勸業銀行ニ命シテ之ヲ設置セシムルコトアルヘシ
第四十七條日本勸業銀行ハ大藏大臣ノ認可ヲ經ルニ非サレハ株主ニ配當
金ノ分配ヲ爲スコトヲ得ス
第四十八條大藏大臣ハ日本勸業銀行ノ營業上法律命令又ハ定款ニ背戾シ
若ハ公益ヲ害スル事件アリト認ムルトキハ之ヲ制止スヘシ
第四十九條日本勸業銀行ハ大藏大臣ノ命令ニ從ヒ其ノ營業ニ關スル諸般
ノ景況及計算報告書ヲ差出スヘシ
第五十條大藏大臣ハ必要ナリト認ムルトキハ日本勸業銀行ノ貸付金額
及方法ヲ制限スルコトヲ得
第五十一條日本勸業銀行貸付金ノ利子ノ最高步合ハ每營業年度ノ初ニ於
テ大藏大臣ノ認可ヲ經テ之ヲ定ムヘシ其ノ營業年度內ニ於テ之ヲ變更セ
ムトスルトキモ亦同シ
第五十二條日本勸業銀行ニ於テ勸業債券ヲ發行セムトスルトキハ直接ニ
大藏大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第五十三條大藏大臣ハ特ニ日本勸業銀行監理官ヲ置キ日本勸業銀行ノ業
務ヲ監視セシム
第五十四條日本勸業銀行監理官ハ何時ニテモ日本勸業銀行ノ金庫、劵書
庫、帳簿及諸般ノ文書ヲ檢査スルコトヲ得
日本勸業銀行監理官ハ監視上必要ナリト認ムルトキハ何時ニテモ日本勸
業銀行ニ命シテ營業上諸般ノ計算及景況ヲ報告セシムルコトヲ得
日本勸業銀行監理官ハ株主總會其ノ他諸般ノ會議ニ出席シテ意見ヲ陳述
スルコトヲ得但シ議決ノ數ニ加ハルコトヲ得ス
第五十五條日本勸業銀行ノ配當金年百分ノ五ニ達セサルトキハ政府ハ創
立初季ヨリ十箇年間ヲ限リ之ニ達セシムヘキ金額ヲ補給スヘシ其ノ額ハ
如何ナル場合ト雖拂込資本金ノ百分ノ五ヲ超過スルコトヲ得ス
第八章罰則
第五十六條日本勸業銀行ニ於テ左ノ事犯アルトキハ總裁若ハ總裁ノ職
務ヲ行ヒ又ハ代理スル副總裁ヲ百圓以上千圓以下ノ過料ニ處ス其ノ事犯
副總裁又ハ理事ノ分擔業務ニ係ルトキハ副總裁理事ヲ過料ニ處スルコト
亦同シ
一第十四條ノ規程ニ反シ貸付ヲ爲シタルトキ
二第十六條ノ規程ニ反シ第一抵當ニ非サルモノニ對シテ貸付ヲ爲シタ
ルトキ
三第三十二條第二項ノ規程ニ反シ營業上ノ餘裕金ヲ使用シタルトキ
四第三十三條ノ規程ニ反シ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ營ミタルトキ
五第三十四條ノ規程ニ反シ勸業債券ヲ發行シタルトキ但シ第三十七條
第一項ニ該當スルモノハ此ノ限ニ在ラス
六第三十六條第一項第三十七條第二項及第三十九條ノ規程ニ反シ勸業
債劵ノ償還ヲ爲ササルトキ
七第四十三條ノ規程ニ反シ利益金ヲ處分シタルトキ
第五十七條日本勸業銀行ノ總裁副總裁及理事第八條ノ規程ヲ犯シタルト
キハ二十圓以上二百圓以下ノ過料ニ處ス
第五十八條前二條ニ揭ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但シ其
ノ命令ニ對シ十四日以內ニ抗告ヲ爲スコトヲ得
附則
第五十九條政府ハ設立委員ヲ置キ日本勸業銀行設立ノ免許ヲ與フルマテ
其ノ發起ニ關スル一切ノ事務ヲ處理セシム
第六十條設立委員ハ定款ヲ作リ政府ノ認可ヲ得タル後株主ヲ募集ス
第六十一條設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込簿ヲ政府ニ
差出シ銀行設立ノ免許ヲ稟請スヘシ
第六十二條設立委員前條ノ免許ヲ得タルトキハ其ノ事務ヲ日本勸業銀行
總裁ニ引渡スヘシ
第六十三條設立初度ノ總裁副總裁理事及監査役ノ第七條ニ依リ所有スヘ
キ株數ノ時期ニ付テハ同條第四項ヲ適用スルノ限ニ在ラス
第六十四條設立初度ノ總裁副總裁及理事ノ任期ハ三箇年トス
設立初度ノ理事及監査役ハ株主中ヨリ政府之ヲ命ス
〔國務大臣子爵渡邊國武君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=25
-
026・渡邊國武
○國務大臣(子爵渡邊國武君) 日本勸業銀行及日本農工銀行ノ設立ノ旨趣ヲ
一括シテ辯明致シマスルガ要スルニ此銀行設立ノ要〓ハ農工者ニ向クテ低利
ナル且ツ永年賦ナル農工者ニ適當ナル資本ヲ供給スルニ必要ナル、又一面ニ
ハ是マデ商業銀行ノ中ニ於テ商業ノ資本ニ供セラルベキ資本ノ多ク農工業ニ
占領セラレテ居ッタノヲ解放シマシテ商業上ノ繁盛ヲモ併テ圖リ得ルト云フ
ノガ大要デアリマス、尙ホ詳細ナル事ハ政府委員ヨリ辯明致シマスカラ十分
ニ審議ヲ御盡シアッテ通過セラレンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=26
-
027・藤村紫朗
○藤村紫朗君 政府委員ニ一二〓御尋ヲ致シタイ、此日本勸業銀行法案ノ最
モ骨子ト存ジマスルノガ不動產ヲ抵當トシテ貸付金ヲ爲スト云フ事デアリマ
ス、卽チ土地ヲ抵當ニスルト云フ事ガ最モ其必要ナ點デアルト考ヘマス、若
シ此法案ニシテ其土地ヲ利用シテ農工業者ノタメニ金ヲ貸付ケルト云フ事ガ
無カッタナラバ銀行法案ハ殆ド成立タヌト云フ程ノ大關係ノモノト信ジマ
スル、然ルニ此他國ノ土地抵當銀行抔ノ法ヲ見マスルト銀行ガ貸付ヲ爲スニ
當ッテ最モ信用スル所ノモノハ此土地ニアル其人ヤ其事業ハ第二ニ置イテア
ルヤウニ思ハレルソレデ既ニ土地ガ抵當ニ爲ツタ以上ハ土地其モノハ土地
自身ガ生ズル收益ヲ以テ擔保ニ供シテ如何ナル場合ト雖モ其銀行ハ收益ヨリ
公課額ヲ控除致シマシタ其殘リノ收益ハ其銀行ハ先取特權ヲ多クハ與ヘテ居
ルヤウニ思ハレル、既ニ一度銀行ノ抵當ト爲ッタ土地ハ一箇ノ義務ト負擔ト
ヲ有シテ其土地ハ縱令他ニ賣買サレテモ土地ノ收益ヨリ公課額ヲ引イタ殘金
ハ借受ケク年賦償還金ニ對シテ其義務ヲ荷フテ行クト云フ方ニナッテ居ルヤ
ウニ承知致シテ居リマス、此法案ハ矢張他國ノ土地抵當銀行抔ノ法案ヲ參酌
サレテ立案サレタモノト考ヘマスガ此法案ニ依ルト普通ノ抵當ト爲ツテ居リ
マス、是ハ多分調査ノ上ニ他國ノ例ニ依ルヨリ矢張普通ノ抵當トスル方ガ銀
行ノタメ若クハ借受ル人ノタメニ便宜デアルトカ或ハ利益デアルトカ云フ理
由ガアルダラウト考ヘマスルガ本員ハソレヲ見出スコトガ出來マセヌデ其〓
ヲ先ヅ御說明ヲ願ヒタイノデス、尙ホ餘ニ一二御尋致シタイ事ガゴザイマス
ガ續イテ御尋致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=27
-
028・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) 御答ヲ致シマスデゴザイマスガ大體此勸業銀行農
工銀行法案提出ニ就キマシテハ他國ノ例ヲ參考ニシナイデハゴザイマセヌケ
レドモ成ルベク我國ノ程度我國ノ現況ニ重キヲ置イタ譯デアリマシテ、必ズ
他國ニ有ル例ヲ直樣用ヒルト云フコトハシナカッタノデアリマス、成程御尋ノ
通ニ此抵當ノ上ニ銀行ガ確カナル權利ヲ有スルト云フコトハ最モ必要デアリ
やべ、故ニ法案ノ第十六條ニハ「總テ第一抵當ナルコトヲ要ス」ト云フコト
ヲ揭ゲテ置キマシタノデ、此第一抵當權ヲ持〃テ居リマスレバ我國ノ一般ノ
法律ノ規定ニ依リマシテ他ノ第二第三等ノ抵當ニ對シテハ餘程優クテ居ル權
利ヲ持ツコトガ出來マスル故ニ是デ滿足シテ可ナリト云フ考デアリマシテ或
ハ先取權ヲ有スルトカ或ハ轉々賣買シテモ其抵當權ハ動カヌトカ云フ規定ハ
必要ガナイト存ジマシテ此第十六條ダケノ規定ヲ以テ滿足シテ居ル譯デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=28
-
029・藤村紫朗
○藤村紫朗君 尙ホ續イテ御尋ヲ致シマスルガ農工銀行法案ニ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=29
-
030・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 農工銀行法案ニハマダ移ッテ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=30
-
031・藤村紫朗
○藤村紫朗君 イヱ、之ヲ比較ニ取ッテ御尋ヲスルノデゴザイマスガ申述べ
タ上テ間違ッタラ御察當ヲ受ケマス······農工銀行法案ノ第二十一條ニ貸付ケ
タ目的ニ反シテ貸付金ヲ使用シタトキニハ償還期限前ト雖モ償還ヲ求ムルコ
トヲ得ルト云フコトガゴザイマスガ日本勸業銀行法案ニハ此箇條ガ見エナイ
ノデ聊カ疑ヲ起スノデゴザイマス、農工銀行法案ニハ法律ヲ以テ期限前ト雖
モ償還ヲ求ムルコトヲ得ルト云フコトヲ規定シテ日本勸業銀行法ニ其事ガ無
イト云フト請求スルコトモ出來ナイ、或ハ又請求シタ所デ借リタ方デハソレ
ヲ拒ムト云フ事ニ爲リハセヌカ、免ニ角同ジヤウナ性質ノ法案デアッテ一ハ
唯大仕掛ノ仕事ヲサセルト云フ法案、一ハ地方ノ小仕掛ノ仕事ニ向ッテ貸付
ケヲ爲スト云フ法案、大體ニ於テハ違ヒマセヌガ其規定ガ一方ニハ有ル、
方ニハ無イト云フノハドウ云フ譯デアリマスカ少シク疑ヲ存スルノデアリマ
ス、其〓ヲドウゾ御說明ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=31
-
032・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) 藤村君ニ御答致シマスルガ御尤ナル御質問デゴザ
イマス、丁度藤村君ノ御話ノ中ニ見エマシタ通、日本勸業銀行ハ主トシテ大
仕掛ノ事業ヲ目的トスルモノデアリ、又農工銀行ハ小仕掛ノモノヲ相手ト致
スモノデアルト云フ所ニ此規定ノ差ヲ生ジタル原因ガ存スルノデゴザイマ
ス、既ニ大仕掛ノ事業デゴザイマスレバ別段借リマシタ後トデ目的以外ニ使
フト云フヤウナル懸念ハナイノデゴザイマス、又日本勸業銀行ハ政府ノ直接
ノ監督ノ下ニ居リマシテ監督ノ眼ガ直接ニ及ビマスルカラ卽チ其第一條ニ於
テ農業工業ノ改良發達ト云フコトノ目的デ資金ヲ貸付セニヤナラヌト云フコ
トハ無論銀行ガ守ル義務デゴザイマスル故ニ此義務ヲ犯スト云フコトハナイ
ノデアリマスルノミナラズ、ソレヲ犯ス場合ニハ監督スル道ハ直ニ得ラルヽ
ノデゴザイマス、此事ハ矢張勸業銀行ノ定款ヲ以テ農工銀行法第二十條ノ如
キ意味ノ規定ハ設ケサセタイト云フ希望デゴザイマスルガ別段是ハ法律ヲ以
テセズトモ銀行ガ己レノ利益上カラ卽チ償還金ノ滯リヲ防ギタイト云フ考カ
ラ其事ヲ怠ラナイデアラウト云フ考ヲ以テ設ケナカッタノデゴザイマス、農工
銀行ノ方ハ各地方ニ散亂モ致シテ居リマスルシ監督ノ便モ幾ラカ間接ニナリ
マスルト云フ所カラ殊更ニ法律ニ規定シタ譯デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=32
-
033・藤村紫朗
○藤村紫朗君 尙ホ御尋致シマスルガ稍〓御答デ分リマシタガ本員ノ疑ハ監
督ノ居ク屆カヌト云フノデハナイノデス、法律ニ一方ニハ期限前ト雖モ償還
ヲ求ムルコトヲ得ルト規定シ、一方ニハワレガ無イトー云フト兩銀行ノ權利ノ
差ガアルヤウニ感ズルノデス、今ノ御答デ見ルト日本勸業銀行ノ方ニハ定款
ヲ以テ同樣ナ條項ヲ規定サセル積ダト云フコトデゴザイマシタガ、サウ致シ
マスルト法律ト銀行ノ定款トガ同樣ナ效力ヲ持ツト云フヤウナ考ヲ持ツノデ
ス、併シ私ノ考ヘル所デハ定款ナルモノハ銀行ノ取極メデアツテ法律ハ之ヲ
遵守セシメルノ效力ガアルモノデアルノデ定款ト法律トハ少シ違ヒハセヌカ
ト思ヒマスガ如何デゴザイマスカ、尙ホドウゾ御說明ヲ請ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=33
-
034・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) 藤村君ニ御答致シマスガ勿論法律ト定款トハ其效
力ニ於テ差ガアルト云フコトハ御說ノ通デゴザイマス定款ニ規定サセルト
申シタノハ卽チ契約ヲ以テ若シ目的以外ニ使用スレバ期限前ト雖モ償還ヲ命
ジマスルゾト云フ規定ヲ設ケサセルト云フ事ニ爲リマシテ別段契約ノ力ニ
依ッテヤル事デゴザイマセヌカラ其差ハ申上ゲマセヌデモ御了解下サルコト
ト信ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=34
-
035・藤村紫朗
○藤村紫朗君 モ一度些細ナ事デゴザイマスガ第十四條ノ二項ニ「日本勸業
銀行ハ年賦償還貸付金總高ノ十分ノ一ニ相當スル金額ヲ限リ云々」ト云フコ
トガゴザイマスガ本員ノ考ヘルニ此年賦ノ償還貸付金額ト云フモノハ時々總
金額ニ狂ヒガ出ルダラウト思フノデ之ヲ以テ之ヲ標準トシテ其十分ノ一ニ相
當ナル金額ヲ限ッテ此動產·····不動產又ハ金銀公債證劵ノ如キモノヲ抵當ト
シテ貸付スルコトヲ得ルト云フノハ實際餘程不便ハ有リハシマイカ年賦償還
貸付金ノ十分一ガ狂フト若シ償還スルト貸付ヲ取立テナケレバナラヌト云フ
又事實ニ於テ期限前抔ニ係ヲテ居ルト取立テ得ラレヌト云フ事ガ有ハセヌ
カ、免ニ角一定デナイ、年賦償還貸付金ノ總高ノ十分ノ一ト云フ標準ハ不便
デハナイカト云フ考デゴザイマスガ、是ハドウ云フ御考デゴザイマセウカ一
應御尋シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=35
-
036・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) 是又御尤ナル御尋デゴザイマスガ年賦償還貸付ト
申シマスルノハ御承知アラセラレマスル通、餘程是ハ規則立ッタモノデゴザ
イマシテ、豫メ償還期限モ定ッテ事實ヲ假想シテ申上ゲマスルト殆ド表ノ如
キモノヲ作ッテ明ニ何年ニハ何ンボ貸シ何年ニハ何ンボ殘ルト云フ計算ガ出
來ル程是ハ正確ナモノデゴザイマスカラ動クモノデハゴザイマセヌ殆ド確定
ト云フテ見込ノ附キ得ルモノデゴザイマス、併シ御說ノ通ニ丁度是ト同額ニ
卽チ十分ノ一ト云フ中ニ相當スル額マデニヤッテ居リマスルト或ハ御尋ノヤ
ウナ懸念モゴザイマスルカラ成ルベク此金額ヲ限ルト云フ文字ガ示スガ如ク
十分ノ一以內ニ致シマシテ其貸付金高ト此政府償還ノ高トハ餘程高ノユトリ
ヲ取ッテ置ケバ別段差支ナイ積デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=36
-
037・藤村紫朗
○藤村紫朗君 尙ホモウ一箇條御尋ヲ致シマス、第十三條株主ノ議決權ノ事
デゴザイマス「十株ニ付キ一箇トス但云々」ト云フコトガゴザイマスガ、是
ハ一株以上九株マデハ權利ナキモノト御認メデゴザイマスカ、其株主ニシテ
一株以上九株マデノモノハ議決權ヲ持タナイト云フコトハドウ云フ理由デゴ
ザイマスカ疑ガアルノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=37
-
038・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) ソレハ現ニ成立ツテ居リマスル日本銀行ノ例ニ
依、テヤリマシタノデゴザイマシテ斯ノ如キ大會社ニ於キマシテハドウモ其
巳ムヲ得ナイ事ト存ジマスノデ、卽チ今御話ノ通ニ十株ニ滿タヌケレバ一ツ
ノ議決權ヲ有セナイト云フ結果ニハ爲ルノデゴザイマスガ斯ノ如キ巨大ナル
會社ニ於テハ已ムヲ得ナイ事デアラウト存ジマスルノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=38
-
039・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 本案ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選舉ニ移リ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=39
-
040・中川興長
○男爵中川興長君 本案ノ特別委員ハ議長ニ於テ選定アランコトヲ望ミマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=40
-
041・大原重朝
○伯爵大原重朝君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=41
-
042・藤村紫朗
○藤村紫朗君 本員ハ此日木勸業銀行法案、農工銀行法案、同ジク補助法
案。此三案ノ如キハ殆ド此戰後經營ノ問題中デ最モ其價値アルモノト認メテ
居リマスルデ斯ク價値アルモノデゴザイマスレバ尙ホ更愼重ニ審査スルコト
ヲ致シタイ、ソレデ既ニ各課稅法案抔デハ特別委員十五名トセラレテ居リマ
スルガ願クハ此案ニ對シテハ矢張十五名ト委員ヲ致シタイト思ヒマス、選舉
ノコトハ矢張議長ニ御委託致シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=42
-
043・水之江浩
○水之江浩君 藤村君ノ十五名說ニ贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=43
-
044・吉村角次郎
○吉村角次郞君 藤村君ノ十五名說ニ贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=44
-
045・梅原修平
○梅原修平君 藤村君ニ贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=45
-
046・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 藤村君ヨリ委員ヲ十五名ニシテ選舉ハ議長ニ託
スルト云フ御說ガゴザイマス、中川男爵ヨリ議長ニ託スル·······是ハ單ニ議長
ニ託スルト云フダケノ動議デゴザイマス、藤村君ノ委員ヲ十五名ニシテ選定
ハ議長ニ託スル此動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=46
-
047・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 多數ト認メマス、次ニ農工銀行法案、政府提出
衆議院送付、第一讀會ヲ開キマス、通牒文ノミヲ朗讀致サセマス
〔有賀書記官朗讀〕
農工銀行法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
明治二十九年三月十四日
衆議院議長楠本正隆
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶殿
(左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
農工銀行法
第一章總則
第一條農工銀行ハ農業工業ノ改良發達ノ爲資本ヲ貸付スルヲ以テ目的ト
スル株式會社ニシテ其ノ資本金ヲ二十万圓以上トシ各株式ノ金額ハ二十
圓トス
第二條農工銀行ハ北海道又ハ一府縣ヲ以テ一營業區域トス但土地ノ情況
ニ依リ勅令ヲ以テ北海道又ハ一府縣ヲ二箇以上ノ營業區域ニ分割スルコ
トヲ得
第三條農工銀行ノ設立ハ一營業區域內ニ一行ヲ以テ限トス
第四條農工銀行ノ營業區域內ニ原籍及住所ヲ有スル者ニ非サレハ其ノ株
主トナルコトヲ得ス
株主ニシテ農工銀行ノ營業區域外ニ原籍又ハ住所ヲ移轉スルコトアルモ
株主タルノ資格ヲ失フコトナシ
第五條農工銀行ノ營業區域內ノ府縣郡市町村モ亦其ノ株主タルコトヲ得
第二章營業
第六條農工銀行ハ左ノ事業ヲ營ムモノトス
一三十箇年以內ニ於テ定期及年賦償還ノ方法ニ依リ不動產ヲ抵當トシ
テ貸付ヲ爲スコト
二市町村又ハ法律ヲ以テ組織セル公共團體ニ對シ三十箇年以內ニ於テ
無抵當ニテ定期及年賦債還ノ貸付ヲ爲スコト
三農業者又ハ工業者ニ對シ其ノ生產ニ係ル物品ノ賣買ヨリ生スル爲替
手形ノ割引ヲ爲スコト
四農業者又ハ工業者ニ對シ其ノ生產ニ係ル物品ノ荷爲替貸ヲ爲スコト
五二十人以上ノ農業者又ハ工業者申合セ連帶責任ヲ以テ借用ヲ申出テ
タルトキハ其ノ信用ノ確實ナルモノニ限リ五箇年以內ニ於テ定期償
還ノ方法ニ依リ無抵當貸付ヲ爲スコト
第七條前條第一號第二號及第五號ノ貸付ヲ爲スハ左ノ事項ニ使用スルヲ
目的トスルモノニ限ル
一開墾、排水、灌漑及耕地土質ノ改良
二耕作道路ノ築造又ハ改良
三殖林事業
四種苗、肥料其ノ他農工業用原料ノ購入
五農工業用ノ器具、機械、舟車、獸畜ノ購入
六農工業用建物ノ築造又ハ改良
七前各項ノ外農工業ノ改良
第八條農工銀行ニ於テ不動產抵當ヲ徵スルトキハ總テ第一抵當ナルコト
ヲ要ス但シ舊債アル場合ニ於テ農工銀行ヨリ借入スル新債ヲ以テ其ノ舊
債ヲ償還スル效果ニ依リ新債ノ第一抵當トナルコトヲ得ヘキトキハ此ノ
限ニ在ラス
第九條農工銀行ニ於テ抵當トシテ徵スル土地ハ永續スヘキ確實ナル收益
ノ見込アルモノニ限ル
農工銀行ニ於テ抵當トシテ徵スル建物ハ保險付ノモノニ限ル但シ抵當物
ノ外ニ貸付金高二倍以上ノ價格ヲ有スル動產又ハ不動產ヲ添抵當ト爲ス
場合ニ於テハ保險ニ付セサルコトヲ得
第十條不動產ヲ抵當トシテ貸付クル金額ハ農工銀行ニ於テ鑑定シタル價
格ノ三分ノ二以內トス
第十一條年賦金ハ元金ト利子トヲ併セテ之ヲ計算シ各年ヲ通シテ一定平
等ノ償還額ヲ定ムヘシ
前項ノ償還額ハ之ヲ變更スルコトヲ得ス但シ貸付金ノ一部償還ノ場合ニ
於テ其ノ額ヲ更定スルハ此ノ限ニ在ラス
第十二條土地抵當貸付ニ對スル年賦金ハ其ノ抵當地ノ平年收益額ヨリ公
課額ヲ扣除シタル殘額ヲ超過スルコトヲ得ス
第十三條貸付金ノ年賦償還ニ付キテハ一箇年以上五箇年以內ニ於テ据置
年限ヲ定ムヘシ但シ其ノ年限間ノ利子ハ此ノ限ニ在ラス
第十四條債務者年賦金定期償還金又ハ利子ノ拂込ヲ遲延シタルトキハ拂
込期日ノ翌日ヨリ其ノ金額ニ對シ利子ヲ仕拂フノ義務ヲ負フ
第十五條年賦償還ノ方法ヲ以テ借入ヲ爲シタル債務者ハ償還期限前ニ借
用金ノ全部若ハ一部ヲ償還スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ農工銀行ハ定款ニ於テ定ムル所ノ率ニ依リ相當ノ手
數料ヲ要求スルコトヲ得
第十六條債務者ハ借用金ノ五分ノ一以上ヲ償還シタルトキハ其ノ割合ニ
應シ抵當物一部ノ解除ヲ要求スルコトヲ得其ノ殘額ニ對シテモ亦同シ
第十七條農工銀行ハ年賦金ノ拂込ヲ遲延スル債務者ニ對シ償還期限前ト
雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第十八條農工銀行ハ抵當物ノ價格減少シ貸付金償還殘額ニ對シ第十條ノ
割合ニ不足ヲ生シタルトキハ增抵當ヲ要求シ若ハ其ノ不足ニ相當スル貸
付金額ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
債務者前項ノ要求ニ應セサルトキハ農工銀行ハ償還期限前ト雖貸付金全
部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第十九條抵當不動產ノ全部若ハ一部カ土地收用法ニ依リ收用セラルヽ場
合ニ於テ農工銀行ハ償還期限前ト雖貸付金ノ償還ヲ要求スルコトヲ得但
シ債務者ニ於テ收用ノ神償金ヲ供託シ又ハ相當ノ不動產ヲ以テ增抵當ト
スルトキハ此ノ限ニ在ラス
其ノ收用一部ニ止マルトキハ償還ノ要求モ其ノ割合ニ應スヘキモノトス
第二十條無抵當ニテ借入ヲ爲シタル市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル公
共團體ニ於テ年賦金、定期償還金又ハ利子ノ拂込期日ヲ過キ之ヲ拂込マ
サルトキハ農工銀行ハ血督官廳ニ其ノ處分ヲ請求スルコトヲ得
監督官廳前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル
公共團體ニ命令シテ延滯金及第十四條ノ利子ヲ拂込マシムヘシ
第二十一條農工銀行ハ第六條第一號第二號及第五號ノ貸付ヲ爲シタル場
合ニ於テ債務者カ貸付ノ目的ニ反シ貸付金ヲ使用スルトキハ償還期限前
ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第二十二條農工銀行ハ定期預リ金ヲ爲シ又ハ地金銀有價證劵ノ保護預リ
ヲ爲スコトヲ得
第二十三條農工銀行ハ營業上餘裕金アルトキハ一時各種ノ國債證券地方
債證券及勸業債劵ヲ買入レ又ハ他ノ銀行ニ預ヶ金ヲ爲スコトヲ得
農工銀行ハ前項ニ依ルノ外營業上ノ餘裕金ヲ使用スルコトヲ得ス
第二十四條農工銀行ハ日本勸業銀行ノ代理店タルコトヲ得
第二十五條農工銀行ハ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ營ムコトヲ得ス
第三章農工債劵
第二十六條農工銀行ハ資本金四分ノ一以上ノ拂込アリタルトキハ拂込金
額ノ五倍ヲ限リ農工債券ヲ發行スルコトヲ得但シ年賦償還貸付金總高ヲ
超過スルコトヲ得ス
第二十七條農工銀行ハ少クトモ年賦償還貸付金ノ償還高ニ應シ每年二回
以上抽籤ヲ以テ農工債券ヲ償還スヘシ
第二十八條農工銀行ハ農工債券借換ノ爲一時第二十六條ノ制限ニ依ラス
低利ノ農工債券ヲ發行スルコトヲ得
低利ノ農工債劵ヲ發行シタルトキハ發行後一箇月以内ニ抽籤ヲ以テ其ノ
發行券面金額ニ相當スル舊農工債券ヲ償還スヘシ
第二十九條農工債券ノ利子ハ每年二囘定款ニ定メタル時期ニ於テ之ヲ仕
拂フヘシ
第三十條農工銀行ハ年賦償還貸付金ノ償還延滯シテ豫期ノ金額ニ達セ
サルトキハ第二十七條ノ償還ト同時期ニ抽籤ヲ以テ其ノ延滯金額ニ相當
スル農工債劵ヲ償還スヘ
第三十一條農工債券ノ所有者其ノ元金又ハ利子ヲ要求セサルトキハ元金
ハ十五箇年利子ハ五箇年ニシテ其ノ要求ノ權ヲ失フモノトス
第三十二條農工債券ヲ僞造又ハ變造シテ行使シタル者ハ刑法第二百四條
ノ例ニ依リ處罰ス其ノ模造ニ關シテハ明治二十八年法律第二十八號通貨
及證劵模造取締法ニ依リ處分ス
第三十三條農工債券ニ關シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法
律第六十號ヲ適用ス
第四章準備金
第三十四條農工銀行ハ每年準備金トシテ資本ノ缺損ヲ補フ爲利益ノ百分
ノ八以上ヲ積立テ及利益配當ノ平均ヲ得セシムル爲利益ノ百分ノ二以上
ヲ積立ツヘシ
第五章政府ノ監督及補助
第三十五條大藏大臣ハ農工銀行ノ業務ヲ監督ス
第三十六條農工銀行ノ定款ハ大藏大臣ノ認可ヲ要ス之ヲ變更セムトスル
トキモ亦同シ
第三十七條農工銀行ニ於テ支店又ハ代理店ヲ設置セムトスルトキハ大藏
大臣ノ認可ヲ受クヘシ又大藏大臣ニ於テ支店若ハ代理店ヲ要用ナリトス
ルトキハ農工銀行ニ命シテ之ヲ設置セシムルコトアルヘシ
第三十八條農工銀行ハ大藏大臣ノ認可ヲ經ルニ非サレハ株主ニ配當金ノ
分配ヲ爲スコトヲ得ス
第三十九條大藏大臣ハ農工銀行ノ營業上法律命令又ハ定款ニ背戾シ若ハ
公益ヲ害スル事件アリト認ムルトキハ之ヲ制止スヘシ
第四十條農工銀行ハ大藏大臣ノ命令ニ從ヒ其ノ營業ニ關スル諸般ノ景
況及計算報告書ヲ差出スヘシ
第四十一條大藏大臣ハ必要ナリト認ムルトキハ農工銀行ノ貸付割引ノ金
額及方法ヲ制限スルコトヲ得
第四十二條農工銀行貸付金ノ利子ノ最高步合ハ每營業年度ノ初ニ於テ大
藏大臣ノ認可ヲ經テ之ヲ定ムヘシ其ノ營業年度內ニ於テ變更セムトスル
トキモ亦同シ
第四十三條政府ハ特ニ北海道廳府縣高等官中ヨリ農工銀行監理官ヲ命シ
大藏大臣ノ指揮ヲ承ケテ農工銀行ノ業務ヲ監視セシム
第四十四條農工銀行監理官ハ何時ニテモ農工銀行ノ金庫、劵書庫、帳簿
及諸般ノ文書ヲ檢査スルコトヲ得
農工銀行監理官ハ監視上必要ナリト認ムルトキハ何時ニテモ農工銀行ニ
命シテ營業上諸般ノ計算及景況ヲ報告セシムルコトヲ得
農工銀行監理官ハ株主總會其ノ他諸般ノ會議ニ出席シテ意見ヲ陳述スル
コトヲ得但シ議決ノ數ニ加ハルコトヲ得ス
第四十五條農工銀行營業補助ノ方法ハ別ニ之ヲ定ム
第六章罰則
第四十六條農工銀行ニ於テ左ノ事犯アルトキハ取締役ヲ五十圓以上五百
圓以下ノ過料ニ處ス
一第六條ノ規程ニ反シ貸付ヲ爲シタルトキ
二第八條ノ規程ニ反シ第一抵當ニ非サルモノニ對シ貸付ヲ爲シタルト
キ
三第二十三條第二項ノ規程ニ反シ營業上ノ餘裕金ヲ使用シタルトキ
四第二十五條ノ規程ニ反シ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ營ミタルトキ
五第二十六條ノ規程ニ反シ農工債劵ヲ發行シタルトキ但シ第二十八條
第一項ニ該當スルモノハ此ノ限ニ在ラス
六第二十七條第二十八條第二項及第三十條ノ規程ニ反シ農工債券ノ償
還ヲ爲サヽルトキ
七第三十四條ノ規程ニ反シ利益金ヲ處分シタルトキ
第四十七條前條ニ揭ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但シ其ノ
命令ニ對シテ十四日以內ニ抗〓ヲ爲スコトヲ得
過料ノ辨納ニ付キテハ取締役連帶シテ其ノ責任ヲ負フ
附則
第四十八條府縣知事ハ大藏大臣ノ認可ヲ經テ設立委員ヲ置キ農工銀行設
立ノ免許ヲ得ルマテ其ノ發起ニ關スル一切ノ事務ヲ處理セシム
第四十九條設立委員ハ定款ヲ作リ政府ノ認可ヲ得タル後株主ヲ募集ス
第五十條設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込簿ヲ政府ニ
差出シ銀行設立ノ免許ヲ禀請スヘシ
第五十一條設立委員前條ノ免許ヲ得タルトキハ其ノ事務ヲ農工銀行取締
役ニ引渡スヘシ
第五十二條農工銀行ニ關シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法
律第七十二號銀行條例ヲ適用ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=47
-
048・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 本案ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選舉ニ移リ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=48
-
049・水之江浩
○水之江浩君 本案ハ勸業銀行ト同一委員ニ付託致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=49
-
050・瀧口吉良
○瀧口吉良君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=50
-
051・關田可通
○關田可通君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=51
-
052・飯淵七三郎
○飯淵七三郞君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=52
-
053・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 水之江君ヨリ本案ハ前案ト同一委員ニ付託スル
此動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=53
-
054・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 多數デゴザイマス、次ニ農工銀行補助法案、政
府提出、衆議院送付、第一讀會ヲ開キマス、通牒文ノミヲ朗讀致サセマス
〔有賀書記官朗讀〕
農工銀行補助法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
明治二十九年三月十四日
衆議院議長楠本正隆
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶殿
(左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
農工銀行補助法案
農工銀行補助法
第一條農工銀行法ニ依リ設立スル農工銀行ノ營業ヲ補助スル爲政府ハ豫
算ニ定ムル所ニ從ヒ其ノ營業區域ヲ管轄スル府縣(沖繩縣ヲ除ク)ニ其ノ
株式引受資金ヲ交付ス
前項ノ交付金額ハ該府縣ノ宅地鑛泉地池沼ヲ除キ有租地反別百町ニ付七
十圓以內トス但如何ナル場合ニ於テモ一府縣ニ交付スル總額三十萬圓ヲ
超過シ又ハ農工銀行拂込資本金ノ三分ノ一ヲ超過スルコトヲ得ス
第二條北海道及沖繩縣ニ設立スル農工銀行ノ營業ヲ補助スル爲其ノ創立
初季ヨリ十箇年ヲ限リ政府ハ豫算ニ定ムル所ニ從ヒ北海道ノ農工銀行ニ
二萬五千圓以内沖繩縣ノ農工銀行ニ五千圓以内ヲ每年交付ス但農工銀行
ノ拂込資本金額ニ對シ一箇年百分ノ五ノ割合ヲ超過スルコトヲ得ス
第三條府縣ハ第一條ノ交付金ヲ農工銀行ノ株式引受ニ供スルノ外他ニ使
用スルコトヲ得ス
第四條此ノ法律ニ依リ府縣ノ引受ケタル株式ニ對シテハ農工銀行ハ其ノ
創立初季ヨリ五箇年間ハ利益配當ヲ爲スコトヲ要セス
前項ノ期限經過後仍五箇年間ハ農工銀行ハ前項府縣引受ノ株式ニ對スル
配當金ヲ悉皆準備金ニ繰入ルヘシ
第五條農工銀行ハ前條ノ期限ヲ經過シタル後ハ此ノ法律ニ依リ府縣ノ引
受ケタル株式ニ對シ他ノ株式ト同一ノ利益配當ヲ爲スヘシ
前項ノ配當金ハ府縣ノ收入ニ繰入ルヽモノトス
第六條府縣ハ此ノ法律ニ依リ其ノ引受ケタル農工銀行ノ株式ヲ離權スル
コトヲ得ス但第七條ノ場合ハ此ノ限ニアラス
第七條農工銀行創立初季ヨリ十箇年經過ノ後府縣知事ハ府縣會ノ議決ヲ
經內務大臣及大藏大臣ノ認可ヲ得テ此ノ法律ニ依リ引受ケタル農工銀行
ノ株式ヲ市町村ニ交付スルコトヲ得
市町村ハ前項ニ依リ交付セラレタル農工銀行ノ株式ヲ基本財產ト爲スヘ
〔藤村紫朗君發言ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=54
-
055・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 藤村君ハ御質問デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=55
-
056・藤村紫朗
○藤村紫朗君 少シ御尋致シタウゴザイマス、此第一條ノ第二項デゴザイマ
ス、七十圓以內ト云フ事ト拂込資本金ノ三分ノ一ト云フ事ニ就イテ、御尋致シ
マス、本員ガ此補助法案ヲ解スル所ニ依ルト有租地段別ヲ標準トシテ補助サ
レルノデアルガ併シ其額ハ三十万圓ヨリ超過スルコトガ出來ナイト云フノハ
大縣抔ハ四十万五十万ト爲ル所ガ有ルヤウニ思ヒマスカラ之ニ制限ヲ置カレ
タト考ヘル、ソレ等ノ時ノタメニ七十圓以內ト云フコトヲ御附ケニナッタノ
カ、豫テ承レバ此金額ハ凡ソ一千万圓ト云フ御見込デアッテ有租地段別ガソ
レニ適當シテ居ルト云フ御說明抔ガ衆議院デ有ッタヤウデアリマスガ、ソレ
ナラバ七十圓トシテモ宜イカト思ヒマス、ソレガ以內ト云フコトノアルノガ
少シ分リ兼ネル、是ハ三十万圓ヲ超過スルヲ得ヌト云フコトノタメニ以內ト
云フコトガ書イテアルノカ、斯ウ解シマスルガ、如何デゴザイマス、又拂込
資本金ノ三分ノ一ト云フコトガ少シ分リ兼ネマス、デ一例ヲ舉ゲテ御尋致シ
マスルガ、六十万圓ノ資金ノ銀行ガ出來ル、然ルニ御承知ノ如ク大〓初ヨリ
全部ノ拂込ヲスルモノデハナイ、必要ニ應ジテ漸次二三囘ニ分ツトカ四五囘
ニ分ツトカ云フ拂込ガ通例ニナクテ居ル、ソレデ六十万圓全部拂込ヲ爲サズ
シテ其四分ノ一ノ十五万圓ト云フモノヲ拂込ンデ先ヅ業ヲ開クト云フ時ハ其
三分ノ一ノ五万圓ホカ交付サレナイト云フノデアリマスカ、資本金ト云フモ
ノハ拂込マナイ資本金ト云フモノハ無イ譯デ、遲カレ早カレ拂込ミハスルト
云フモノデアルカラ六十万圓ニ對スル三分ノ一ト云フコトデアルカ、其〓ガ
少シ分リ兼ネマスデゴザイマスガ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=56
-
057・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) 御答致シマスル、此第一ノ御尋ノ七十圓以內トス
ト云フコトハ別段深イ原因ノアル譯デハゴザリマセヌ、先ヅ七十圓カッキリ
ト云フコトニ御承知ヲ願ヒタイノデゴザリマス、ソレカラ第二ノ御尋ノ六十
万圓ノ會社デゴザリマスレバ矢張四分ノ一ノ拂込デ先ヅ營業ヲスル場合ニ於
テハ此拂込ニ應ジテ國庫カラハ支出ヲスル譯デアルノデアリマス、例ヘバ御
話ノ十五万圓ノ事實ノ營業資本デゴザリマスレバ其矢張三分ノ一ダケニ相當
スルダケノ外其時ニハ國庫カラハ支出ヲシナイデ總額デハ六十万圓ノ三分一
マデハ出シマスケレドモ自ラ拂込ニハ期節ガゴザリマスカラ其期節ニ應ジテ
國庫ノ支出モ矢張分レテ出ル積デアルノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=57
-
058・藤村紫朗
○藤村紫朗君 尙ホ少シ御尋致シマスガ左スレバ是ハ府縣廳ガ株主ニ爲ルノ
デゴザリマスカラ國庫ノ交付ヨリナル株ニシロ又普通ニシロ株金ノ拂込ガ平
等デナケリャナラヌ詰リ此意味ハ六十万圓ノ資金デアッタトキニハ其三分ノ
一、卽チ二十万圓ノ額ヲ拂込メバ其四分ノ一ナラ四分ノ一マデ其上ニ五圓ノ
拂込ナラ五圓ノ拂込ヲスルト云フ斯ウ云フ意味デゴザイマスカ、サウ承知シ
テ宜シイノデゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=58
-
059・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) ソレデ宜シイノデゴザリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=59
-
060・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 本案ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選舉ニ移リ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=60
-
061・堤功長
○子爵堤功長君 本案ノ特別委員ハ前案ト同一ノ委員ニ付託シタイト存ジマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=61
-
062・小原重哉
○小原重哉君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=62
-
063・大原重朝
○伯爵大原重朝君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=63
-
064・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 本案ノ特別委員ハ前案ト同一委員ニ付託スル堤
子爵ノ動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=64
-
065・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 過半數デゴザイマス、次ニ復祿及復族祿ノ請願
會議ヲ開キマス、請願會議ハ以前ノ例モゴザイマスルニ依ッテ簡便法ヲ以テ
朗讀モ省キ起立モ省クコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=65
-
066・二條基弘
○公爵二條基弘君 例ニ依リマシテ便宜上一々說明モ省略致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=66
-
067・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂留君) 復祿及復族祿ノ請願
〔左ノ意見書案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下傚之
意見書案
復祿及復族祿ノ件
一鳥取縣鳥取市梶川町士族小林フサ外八名呈出
二三重縣桑名郡長島村平民三輪彥次郞外四十名呈出
三愛媛縣越智郡櫻井村平民石原晋作外五名呈出
四兵庫縣明石郡伊川谷村平民內藤敬尸外十七名呈出
五同縣同郡明石町平民市村正道外五十六名呈出
六宮城縣仙臺市土樋士族松倉恂外十八名呈出
七福岡縣久留米市莊島町平民笠與八外五百十二名呈出
八茨城縣水戶市上市士族管秀男外二百十二名呈出
九滋賀縣滋賀郡大津町平民寺田周三郞外二十八名呈出
十兵庫縣明石郡明石町平民中村觀龍外百六十九名呈出
土茨城縣水戶市上市士族藤田友也外三名呈出
十二愛媛縣新居郡氷見村平民十龜玄造呈出
右ノ請願ハ陳述スル所各〓多少ノ差異アレトモ要スルニ第一ハ曩ニ下賜セ
ラレタル金祿公債證書石代乘率錯誤アルカ爲自カラ其ノ祿ヲ削減セラレタ
ルヲ以テ之ヲ訂正シ其ノ不足額ヲ追給セラレムコトヲ請願シ、第二第三第
四第五ハ士族ニ列シ永世祿ヲ給セラルヘキ者ナルニ故ナクシテ其ノ族祿ヲ
併セ失ヘリ故ニ之ヲ復舊セラレムコトヲ請願シ、第六ハ維新ノ際叛逆首謀
ノ處斷ヲ受ケ除族沒祿セラレタル者ノ相續者ニシテ曩ニ大赦ノ恩典ヲ蒙リ
復族ヲ得タレハ他ノ國事犯罪者ト同シク金祿公債證書ヲ下賜セラレムコト
ヲ請願シ、第七ハ士族ニ列シ祿ヲ受クヘキ者ナルニ明治七年其ノ族祿ヲ廢
除セラル故ニ之ヲ復舊セラレムコトヲ請願シ、第八ハ維新ノ際國事犯罪ニ
因リ除族沒祿ノ處分ヲ受ケシカ後大赦ノ恩典ヲ蒙リ復籍セラレタレハ之ニ
伴フ所ノ金祿公債證書ノ下賜ヲ請願シ、第九ハ舊藩ニ於テ歸田法ヲ設ケ强
テ歸農セシメラレシカ爲士族ニ列シ祿ヲ受クルヲ得ス後其ノ法ヲ廢シタレ
ハ其ノ族祿ヲ復舊セラレムコトヲ請願シ、第十ハ曩ニ族祿ヲ廢除セラレタ
ルハ全ク舊藩吏ノ錯誤ニ出ルモノナレハ永世祿ニ相當スル金祿公債證書ノ
下付ヲ請願シ、第十一ハ維新ノ際朝憲ニ悖リ家名斷絕セシニ後大赦ニ因リ
復族ノ榮ヲ得タレハ之ニ伴フ所ノ祿ヲ復給セラレムコトヲ請願シ、第十二
ハ士族ニ列セラルヘキ者ナルニ廢藩ノ際故ナクシテ民籍ニ降サレタレハ其
ノ族ヲ復セラレムコトヲ請願スルモノニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册十二通及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=67
-
068・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 此意見書案ニ御異議ハナイト存ジマス、原案ニ
決シマス、次ニ地價特別修正ノ請願會議ヲ開キマス
意見書案
地價特別修正ノ件
岐阜縣方縣郡石谷村平民大野元三郞外八十名呈出
右ノ請願ハ岐阜縣ハ他府縣ニ比シ地租重ク方縣郡ハ縣內ニ在テ又重ク石谷
村ハ郡内最モ重シ而シテ本村ハ山間ノ孤村ニシテ土地疲瘠且ツ伊自良川ノ
治水堤塘費ニ多額ノ負擔ヲ免レス然ルニ他村ニ比シ地租最モ重キヲ以テ改
租後村民ノ疾苦困弊益〓甚シ收穫表及地價比較表土地賣買實價ニ比シ其ノ
懸隔スルヲ見ルモ亦以テ地租ノ重キヲ證スヘシ明治二十二年地價特別修正
ヲ行ハレタルモ其ノ低減ノ度ハ郡一般ニシテ本村ニ限リ特別修正ノ特典ナ
キヲ以テ偏重ノ苦ハ依然隨伴シテ永ク苛重ノ負擔ヲ脫スル能ハス益村村
ノ困苦ヲ增加スルヲ以テ特別ニ地價ヲ修正セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族
院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
別册及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=68
-
069・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是レ亦別段御異議ナシト認メマシテ原案ニ決シ
マス、山陽鐵道線延長ノ請願會議ヲ開キマス
意見書案
山陽鐵道線延長ノ件
山口縣佐波郡三田尻村平民吉武昌作外十四名呈出
同縣厚狹郡宇部村村長庄俊輔外百六十名呈出(六通)
同縣豐浦郡豐西東村村長片山理明外二十八名呈出
右ノ請願ハ我邦鐵道線路著々其ノ步ヲ進メ山陽鐵道ノ如キモ漸ク三田尻ニ
達セムトス地方人民ノ利便知ルヘキナリ然ルニ三田尻馬關間ノ鐵道未タ成
ラサルハ豈遺憾ナラスヤ蓋シ馬關ハ交通運輸上樞要ノ地位タリ然ルニ鐵道
未タ全通セサルハ實ニ國家經營上ノ缺典ト謂フヘシ故ニ速ニ之レカ敷設ヲ
望ムトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ別册八通及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=69
-
070・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是レ亦原案ニ決シマス、排水器試驗場設置ノ請
願會議ヲ開キマス
意見書案
排水器試驗場設置ノ件
千葉縣香取郡新島村平民大須賀權右衞門外三百一一十三名呈出
右ノ請願ハ新島組合耕地ハ皆水田ニシテ最モ米產ニ適スルモ土地低窪ニシ
テ常ニ浸水ノ厄ニ罹リ光熱空氣ノ浸透ヲ妨ケ土中ノ脫酸作用ハ作物ノ生育
ヲ害スルコト夥シク殊ニ利根川ノ末流ニ瀕スルヲ以テ降雨ニ際スレハ河水
暴溢万項ノ稻田ヲシテ碧海ニ變セシム是ヲ以テ農家ハ一定ノ收穫ヲ豫期ス
ル能ハス流離其ノ堵ニ安セサルノ悲境ニ沈淪スルモノ少カラス故ニ排水器
ヲ耕地ニ利用セハ幾多ノ害ヲ排除シ早魃ノ諸害ヲモ救フヲ得ヘシ然レトモ
之カ購入ノ負擔ハ細民ノ能ク堪ユヘキニ非レハ國費ヲ以テ試ニ之ヲ設置シ
該耕地ノ諸害ヲ排除シ地方人民ヲシテ安堵就業ノ惠澤ヲ受ケシメラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院
法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=70
-
071・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是レ亦原案ニ決シマス、軍港及商港設置ノ請願
會議ヲ開キマス
意見書案
軍港及商港設置ノ件
石川縣鹿島郡七尾町平民松井善四郎外七百八十五名呈出(三通)
右ノ請願ハ能登國七尾港ハ日本海ニ突出シ其ノ位置形狀遠ク新潟港ノ上ニ
出ツ加フルニ海底水亦深ク灣內風波靜穩ナルヲ以テ常ニ大船巨艦ヲ輻湊セ
シムルニ足リ實ニ一大良港タリ蓋シ西比利亞鐵道完成ノ期ニ至ラハ日露韓
ノ貿易ハ更革ヲ來シ隨テ日本海方面ニ於テ益〓通商運輸ノ頻繁ヲ生スルヤ
明カナリ是ノ時ニ方リテ七尾ヲ以テ一大商港ト爲サハ北陸地方ノ產物ハ悉
ク此ニ集リ直ニ海外ニ輸出スルヲ得ヘシ果シテ然ラハ從來ノ如ク貨物ヲ橫
濱神戶ニ輸送スルモノニ比シ其ノ便益日ヲ同シテ語ルヘカラサルナリ又軍
事上ヨリ觀察スルモ其ノ天然ノ形勢最モ軍港ニ適セリ然ルニ此ノ良灣ヲ抛
棄シテ顧ミサルハ東洋多事ノ今日ニ際シ警備上貿易上頗ル遺憾トスル所ナ
ルヲ以テ速ニ商港軍港ト爲スニ必要ナル設計ヲ施サレタシトノ旨趣ニシテ
貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
依リ別册三通及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=71
-
072・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是モ原案ニ決シマス、電話施設普及ノ請願會議
ヲ開キマス
意見書案
電話施設普及ノ件
岡山商業會議所會頭香川眞一呈出
右ノ請願ハ本邦電話事業ノ進步頗ル遲鈍ニシテ之カ應用ノ區ハ僅ニ少數ニ
過キス故ニ其ノ必要ヲ知悉スルモ尙ホ未タ其ノ慶ヲ蒙ラサルノ地方人民ハ
其ノ施設ノ早カランコトヲ欲スル情切ナリ故ニ是ノ時ニ方リ官設民設ノ如
何ニ關セス治ク其ノ妙技ヲ利用スルニ至ラハ社會交通上ノ利轉瞬ヲ爭フ地
方商工業上ノ敏活ニ裨益ヲ與フル其ノ實利ノ莫大ナルノミナラス所謂戰後
經營上最モ貴重ノ策ニシテ文明ノ光輝ヲ倍スルニ足ルヘシ故ニ從來布設ナ
キノ地方ヲシテ速ニ電話ヲ普及セシメ以テ地方人民ヲシテ文明ノ餘澤ヲ蒙
ラシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=72
-
073・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是モ原案ニ決シマス、郡分合ニ關スル請願會議
ヲ開キマス
意見書案
郡分合ニ關スルノ件
島根縣安濃郡大田村平民楫野權市外六十一名呈出
右ノ請顧ハ島根縣安濃郡ハ邇摩郡ト合シテ一行政區ノ下ニ在リト雖地勢民
情自ラ其ノ撰ヲ異ニシ全ク利害ヲ共ニシ難キモノ多ク同一制度ノ下ニ立ツ
ヘカラサルナリ兩郡ノ關係此ノ如クナレハ依然合併セハ百般ノ事業上益〓
其ノ衝突ヲ來シ本郡民ノ不幸ヲ增加スヘシ故ニ本郡ヲ獨立セラレムコトヲ
望ムヤ久シ而シテ本郡ハ其ノ資力等獨立自治ノ體ヲ具備スルニ足リ邇摩郡
モ亦其ノ利益ヲ失ハス曩ニ政府ノ第一期帝國議會ニ提出セラレタル法案ニ
據レハ此ノ利害ヲ異ニスル兩郡ヲ合シテ一郡トナサムトスルモノヽ如シ是
レ本郡民ノ最モ恐ルヽ所ナリ故ニ本郡ノ爲獨立郡制ヲ施行セラレタシトノ
旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治二十九年三月日
貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=73
-
074・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 是レ亦原案ニ決シマス、民法中修正案及日本勸
業銀行法案外二件特別委員ハ直ニ指名ヲ致シマス、民法中修正案特別委員、
侯爵黑田長成君、伯爵〓棲家〓君、子爵松平乘承君、子爵本莊壽巨君、男爵
槇村正直君、箕作麟祥君、小畑美稻君、兒島惟謙君、名村泰藏君、長松幹君、
村田保君、〓浦奎吾君、菊池武夫君、小幡篤次郞君、山田莊左衞門君、日本
勸業銀行法案外二件特別委員、伯爵松浦詮君、伯爵正親町實正君、伯爵萬里
小路通房君、子爵酒井忠彰君、子爵新莊直陳君、男爵小澤武雄君、何禮之君、
藤村紫朗君、平田東助君、宮島誠一郞君、宮崎總五君、中村良謙君、大塚永
藏君、渡邊甚吉君、五十嵐敬止君、明日ノ議事日程ヲ御報告ニ及ビマス書
記官長ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔中根書記官長朗讀〕
午前十時開議
開港外ニ於テ外國貿易ノ爲メ船舶出入強化、
第及荷物輸出入ノ件ニ關スル法律案第一讀會ノ續長報告一
府提出衆議院送付)
第二神奈川縣下郡廢置法律案(政府提出衆第一讀會ノ續特別委員
議院送付)長報〓
第三長崎縣下郡廢置法律案(政府提出衆議第一讀會ノ續(Restaurants
院送付)長報告一
第四新潟縣下郡界變更及郡廢置法律案(政第一讀會ノ續(特別委員)
府提出衆議院送付)長報告
第五山口縣下郡廢置法律案(政府提出衆議第一讀會ノ續(6cm36
院送付)長報告
第六和歌山縣下郡廢置法律案(政府提出衆第一讀會ノ續(無添加香糖
議院送付)長報告
第七福岡縣下郡廢置法律案(政府提出衆議第一讀會ノ續特別委員0
院送付)長報告
第八佐賀縣下郡廢置法律案(政府提出衆議第一讀會ノ續(¥300
院送付)長報告
第九宮崎縣下郡廢置法律案(政府提出衆議第一讀會ノ續特別委員)
院送付)長報告
第十銀行合併法案(政府提出衆議院送付)第一讀會
第十一右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉
第十二移民保護法案(政府提出衆議院送付)第一讀會
第十三右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉
第十四靜岡縣下郡廢置法律案(政府提出衆議院送付)第一讀會
第十五右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉
第十六岐阜縣下郡廢置及郡界變更法律案(政府提出第一讀會
衆議院送付)
第十七右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉
第十八愛媛縣下郡廢置法律案(政府提出衆議院送付)第一證書
第十九右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉
第二十水產業保護ニ關スル建議案(村田保君發議)會識発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=74
-
075・蜂須賀茂韶
○議長(侯爵蜂須賀茂韶君) 本日ハ〓會
午後零時八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=000903242X03818960318&spkNum=75
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。