1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
明治三十年三月十日(水曜日)午後一時二十九分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第二十一號 明治三十年三月十日(水曜日)
午後一時開議
第一 貨幣法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二 貨幣整理資金特別會計法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 明治十七年第十八號布告兌換銀行劵條例中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四 明治十八年第十四號布告中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第五 明治十二年第三十五號布告廢止法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=0
-
001・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 是ヨリ報告ヲ爲シマス
〔田中書記官朗讀〕
貴族院ヨリ送付セラレタル議案左ノ如シ
古社寺保存法案
貴族院ハ本院ノ送付ニ係ル政府提出鐵道敷設法中改正法律案ヲ可決シタル
旨同院ヨリ通牒アリ
議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
登錄稅法中改正法律案
提出者廣住久道君寺田彥太郞君
市町村立小學校〓員年功加俸國庫補助法中追加法律案
提出者小室重弘君高田早苗君
柏田盛文君中島又五郞君
特別委員長及理事左ノ通當選セラレタリ
戎器火藥類取締法案外四件委員長多田作兵衞君
同理事市島謙吉君
國稅徵收法案委員長杉村寛正君
同理事谷堀越寬介君
震災地方租稅特別處分法案委員長河尙忠君
同理事沼田宇源太君
肥料取締法案委員高橋小十郞君
同理事板東勘五郞君
會計年度改正ニ關スル建議案委員長改野耕三君
同理事江藤新作君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=1
-
002・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 是ヨリ會議ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=2
-
003・元田肇
○元田肇君(百十二番) チヨット御報告ヲ致シマス、豫算委員會ニ於キマシ
テ、明治三十年度歲入歳出總豫算追加總追第一號、明治三十年度各特別會計
歲入歲出豫算追加特追第一號、孰モ本院ニ於テ可決スベキモノナリト議決致
シマシタ、此段ヲ報告致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=3
-
004・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 是ヨリ本日ノ日程ニ入リマス、日程第一、貨幣法案第
一讀會ノ續-武富時敏君
第貨幣法案(政府提出)(軽減税明細69元/36第一讀會ノ續
〔武富時敏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=4
-
005・武富時敏
○武富時敏君(二百二十二番) 貨幣法案外四件委員會ノ經過及結果ヲ御報告
致シマス委員會ハ本月四日ニ成立致シマシテ、委員長理事ノ當選者ハ過日
議場ニ報告セラレタル通デゴザリマスソレヨリ數囘ノ會議ヲ開キマシテ審
議討論ノ末、總テ政府案ヲ可決致シマシタ、旣ニ政府案ヲ可決致シマシタル
以上ハ委員長トシテ別ニ報告スルコトハゴザリマセヌ、實ハ是マデ出張ク
テ申ス程ノコトハゴザリマセヌ儀式ノ報〓ダケヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=5
-
006・大竹貫一
○大竹貫一君(七十四番) チヨット本案ニ就イテノ質問ガアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=6
-
007・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=7
-
008・大竹貫一
○大竹貫一君(七十四番) チヨット過日本案提出ノ際ニ於キマシテ、松方伯
ハ支那ノ償金ヲ手ニ入レマシタト云フコトハ誠ニ千歲ノ一遇デアルト云フコ
トヲ申サレマシタ、若シ此千歳一遇ノ好機會ヲ失シマスレバ再ビ金準備ノ
時ガナイヤウニ申サレタヤウニ承知シテ居リマス、私考ヘマスルニ一 一
ノ經濟ト云フモノハ卽チ此輸出入ノ增減、所謂其勝敗ニ依リマシテ消長ス
ルノデアリマス、然ルニ未ダ經常輸出入ニ於キマシテ、十分敗北ヲ取ラナイト
云フ所ノ見込ガ立チマセナンデ、一時ノ償金ヲ當ニ致シマシテ、此改正ヲス
ルト云フコトハドウ云フコトデゴザリマセウカ、昨年ノ輸入超過ト云フモ
ノハ戰後ノ經營デアリマスカラシテ、平年ノ時ヲ以テ律スベキ時デハアリ
マセヌケレドモ一年間ニ於テ輸入ガ五千六百万ノ超過デゴザリマス、若シ
斯ノ如キコトガ兩三年モ續キマシタナラバマルデ金準備皆無ニナルト云フ
コトハ當然デアリマス、其際ニハ政府ハ如何ニシテ金ノ準備ヲスルコトデア
リマセウカ、或ハ公債デモ賣却シテ、而シテ其不足ヲ塡補スル所ノ意デデリ
マセウカ、今一ツハ國家經濟ト云フモノハ、恆久的ノ事物ニ上ニ立テネバ誠
ニ不安心ノコトヽ思ヒマスルノニ、償金ノ如キ絕テナク稀ニアル如キ一時ノ
モノヲ標準ト致シマシテ、國家經濟ノ基礎ヲ立テルト云フコトハ、如何ニモ
不安心ノコトデアリマス、政府ハ斯ノ如キ一時ノモノヲ以テ、恆久的ニアラ
ザルモノヲ以テ、國家經濟ノ基礎ヲ定メルト云フコトハ、如何ナル安全ナ基
礎ガ立ッテ居ルカ此二〓ヲ聽キタイノデアリマス
(政府委員大藏次官法學博士男爵田尻稻次郎君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=8
-
009・田尻稻次郎
○政府委員(男爵田尻稻次郞君) 唯今大竹君ノ御質問ニ答ヘマスガ、此支那
償金ト云フモノガアリマスノハ、誠ニ此準備ヲ爲スノ好機會デアリマシテ、
若シ此事微リセバ、斯ノ如キ巨額ノ準備ヲ得ルト云フコトハムツカシイコト
デアリマスカラ、此度之ヲ好機會トシテ其準備ヲ爲スニ誠ニ適當ノ時勢デ
アルト云フコトヲ過日大藏大臣ヨリ申述ベタ譯デアリマス而シテ他日ノ
-今ノ維持ノコトニ就イテノ御心配ト先ヅ聽受ケマスルガ、是ハ昨年ノ如
キコトガ二三年モ續キマシタナラバ、金本位デアラウガ、銀本位デアラウガ、
準備ハアブナクナルノデ、强チ此金本位ニナリマシタカラ、昨年ノヤウナコ
トガアブナイ銀本位デ据置ケバアブナクナイト云フコトハ決シテナイノデ
アリマシテ、昨年ノ如キコトガアリマスレバ、金本位、銀本位ヲ擇バス、餘
程方法ヲ設ケテ引締メナケレバナラヌト云フコトニナルノデアリマスカラ、
此案ニ就キマシテハ金銀ト云フ區別ニ就イテ、何モ違ッタ論ハ起ラヌト考ヘ
テ居リマス、而シテ又昨年ノ輸入ノ超過ノコトヲ御話ニナリマシタガ、勿論
我國ト云フモノハ、必シモ輸出超過國ト極ッタ國デハアリマセズ、時ニ依ク
テハ輸出ガ超過シマスルシ、時ニ輸入ガ超過スルト一云フコトニ立至ッテ居リ
マスケレドモ先ヅ過去十年位ノコトヲ見マスルトドウシテモ先ヅ輸出超
過ノ傾キニアル國ニ違ヒナイノデ、十五年カラシテ十九年項カラ、ソレカラ
昨年ヲ取除ケマシテハ其中ニ御承知ノ通ニ二十二年ト云フ凶歳ガアリマシ
テ、二十三年ト云フヤウナ時ニハ米穀ノ輸入デ以テ餘程ノ輸入超過ニナッ
テ居テ、非常ノコトガアリマスルガ、其非常ノ年ヲ入レマシテモ昨年ヲ除
キマスルト矢張平均ニハ輸出超過ニナッテ居ル譯デアリマスカラ、先ヅ大
勢ハ輸出超過ノ國ト認メ得ラルヽト思ヒマス而シテ昨年ノ所ハ殊ニ輸入超
過ニナッタコトハ巨額デアリマスガ、是等ハ大竹君ノ御話ニナリマシタ通、
此戰後ノ經營ニ就イテ種々勃興シタ所ヨリシテ、他日ハ或ハ歲入ノ根源ニナ
リ國家ノ事業ノ發達ノ根源ニナルト云フ樣ナモノヽ輸入モ、ソレニハ澤
山這入ッテ居マシテ、其輸入ト云フモノニ就イテハ先ヅ他日ハ或ハ是ガタ
メ又此貿易ノ景況ガ能クナラウト思フモノモ廉々アルノデアリマス、而シテ
此償金ノコトハ御承知ノ通ニ、他國ニモ例ノアリマス通ニ、此償金ヲ取リマ
シタ跡ト云フモノハ、吾國ノ昨年ノ如キ景況ヲ生ズルト云フコトハ是ハ種
々アルコトデアリマシテ、是ガ永ク續クト云フコトデハ勿論ゴザリマセヌケ
レドモ、是ハ一時ノコトヽ見テ宜クアリマセウ、サウシテ此事業ノ勃興ノ有
樣ト云フモノガ或ハ後年ニ及ビマシテハ餘程此國家ノ經濟、政府ノ歲入
ト云フモノモ、是カタメニ養ハレルト云フヤウナコトニナリマスルシ、彼是
デ是カラ先キノ貿易ト云フモノハ、勿論此一二年ト云フ所ハマダ事業發達ト
云フモノモ使フノミデアリマシテ、收利ト云フコトハソンナニ急ニハ參リマ
セヌケレドモ、此三五年、七八年ノ後ト云フモノハ、今日費ス所ノモノガ大イ
ニ發達致シマシテ、是ガタメニ國勢ヲ張ルト云フコトガ-眞實ニ張ッテ往
クト云フコトガ出來マセウカラ、先ヅソレ邊デ此外國爲換彼是モ、此金本位ニ
依ッテハ良クナリマスカラ、銀デ此儘置キマスルヨリハ金ニナシタ方ガ
懸念ハアルマイ今輸出超過ニナッテ、準備ガナクナルデハナイカト云フ
御話ハ是ハ金デモ銀デモ均シク感ズルコトデアリマスカラ、ソレ邊ハ今ノ
改正ニハ直接ニ關係ノナイ問題ト心得マスルガ、而シテ唯今申上ゲル通、今
日費ス所ノモノソレカラ金本位ノ結果トシテ爲換相場ノ變動ダケヲ避ケル
コトガ、是ハ間違ヒナク斷言ガ出來マスカラ、サスレバ此二ツノ原素ヨリシ
テ他日ハ是ガタメニ餘程日本ノ生產事業貿易ガ發達シヤウ、サスレバ十五
年以來ノ經驗ニ依リマシテ、必シモ日本ガ輪入超過國トハ極ラヌコトデゴザ
リマスカラ、先ヅ此戰後ノ經濟ノ一波瀾ヲ取除ケマシタナラバ、此事ハ常勢
ニ復シマシテ、丁度十五年以來ノヤウナ鹽梅、卽チ十五年カラ二十三年ノヤ
ウナ不都合ナ年ヲ取除ケマシテ、昨年ヲ除ケマシテ、二十八年頃マデノ所ニ、
復シハシナイカト考ヘテ居ルノデゴザリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=9
-
010・大竹貫一
○大竹貫一君(七十四番) 此金銀何レニ就イテモ云々ト云フコトハ、議論ニ
ナリマスカラ敢テ再ビ問ヒマセヌガ、然ラバ今日ノ國力ノ發達ノ上デハ今
田尻君ノ言ハレル所デアリマスレバ、此金貨國ヲ十分維持スルダケニ、國力
ガアルト御決答ガ出來マスカ、其御決答ヲ聽イテ置キタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=10
-
011・田尻稻次郎
○政府委員(男爵田尻稻次郞君) 簡單デスカラ此處カラ申上ゲマス、無論ア
ル積デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=11
-
012・小西甚之助
○小西甚之助君(二百九十三番) チヨット議事中デアリマスガ、チヨイト議場
ノ承認ヲ得タイト思ヒマス、重要ナル問題ノ議事中デハアリマスガ、是ヨリ
登錄稅法中改正法律案ニ就イテ、委員會ヲ開ク準備ヲ致シテアルノデゴザリ
マスカラ、ドウカ是ヨリ退席シテ委員會ヲ開クコトノ承認ヲ得タイノデア
リマス、若シ此承認ヲ經ルナラバ、本案ノ決議ノ場合ハ、ドウカ御通知ヲ願
ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=12
-
013・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 登錄稅法ノ委員長カラ、退席シテ委員會ヲ開キタイト
云フ求メガアリマスガ、如何致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ「異議アリ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=13
-
014・木暮武太夫
○小暮武太夫君(百四十八番) 私モ委員デスガ、ドウゾ後ニ致シタイ、重要
ナ問題デスカラ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=14
-
015・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 小西君ニ御諮リ致シマスガ、此問題ハ大問題デアッテ、
委員諸君ハ或ハ退席シナイカモ知レマセヌガ、ドウデスソレトモ御話ガ附イ
テ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=15
-
016・小西甚之助
○小西甚之助君(二百九十三番) ソレナラ後ニ致シマセウ
〔田口卯吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=16
-
017・田口卯吉
○田口卯吉君(百九十五番) 諸君、本員ハ委員會ノ少數ノ意見ヲ、諸君ニ報
道致シマスルデゴザリマス、委員會ノ少數ノ意見ハ其論旨ガ必シモ一ニ歸
シテ居リマス譯デハゴザリマセヌ、ソレ故ニ其要點ヲ諸君ニ一々申上ゲマス
譯デゴザリマス第一ハ政府ガ此度貨幣制度ヲ改革スルニ就キマシテ、準
備ノ金貨ガアルノハ、實ニ千載一過ノ好機會ナリト言ハルレドモ、委員等ハ之
ヲ以テ決シテ千載一遇ノ好機會トハ見ルコトガ出來ヌ、何ゼナレバ政府ガ
今現ニ一億九百万圓ノ金貨ヲ有スト云フガ、其金貨ト云フモノハ如何ナルモ
ノカト云ヘバ國力ノ歲入出ニ於テハ、皆使ヒ拂ヒモ濟ンデ居ル金、其金ガ
如何ナルモノニ歸スルカト云ヘバ詰リ日本銀行ノ正貨準備ニナッテ居ルト
云フダケノ話ナンデ、面シテ日本銀行ガ如何ナル次第デ、正貨準備ヲ一億九
百万圓モ持ッテ居ルカト云フト詰リ兌換劵ヲ增發シテ、若クハ預合ヒノヤ
ウナ譯ニシテ、平生ナラソレ程兌換劵ガ流通ガ出來ナイノニ、此場合特ニ兌
換劵ヲ增發シテ、ソレダケ正貨準備ガアルト云フ次第ナンデス、兌換劵デ增
發シテ玆ニ金ガアルト云フノハ恰モ借金ヲシテ玆ニ金ガアルト云フノト同
ジコトデアル詰リ取附ケラレテシマフノデ、斯ノ如キ譯デ金貨ガ日本銀行
ニアルト云フナラ、決シテ千載ノ一遇デハナク、イツデモ出來ル話デス然
ラバデス、今日ノ如ク戰後經營、其他種々ノ國家ニ大問題ノアルノニ、頁ノ
斯ノ如キ至難ナル、大問題ナル金貨本位ヲ此際ニ立テルト云フ必要ハ見ナイ、
況シテヤ輸出入其他ノ景況ニ於キマシテモ、如何ナル事件ガ起ルカモ知レヌ、
故ニ今日ハ却テ金貨制度ヲ立テルニハ好機會デハナイー機會トハ認メヌト
云フノガ、是ガ委員ノ少數者ノ意見ノ一ツデゴザリマス、ソレカラ第二ハ
若シ此金貨本位制度ヲ行ッタトキニハ歐羅巴、亞米利加等ニ於テ、金貨制
度ヲ行ッタ後ノ景況ニ徵シテ見マシテモ、物價ガ下落シテ、農商工種々ノ困
難ヲ被ッテ居ルデ輸出入上ニモ大ナル損失ヲ被ッテ居ル、現ニ日本ノ如キ
ハ銀貨本位デアッタタメニ、此數年間非常ニ貿易上ニモ利益シテアッタノニ
若シ金貨本位ヲ行ッタナラバ、今日歐羅巴諸國ガ被ッテ居ル如キ不幸ヲ、我
貿易上ニ被リハシナイカト云フ旨意ヲ以テ、本案ニ對シテ反對ヲ表スルモノ
デゴザイマス、第三ハ、右ノ論トハ全ク反對デ、今後歐羅巴ノ、若クハ亞米
利加アタリニ於テノ景況ニ觀察シテ見マスルト、彼ノ萬國複本位論ノ如キハ
縱シヤ行レズトスルモ歐羅巴諸國ニ於テ金貨本位ノ結果トシテ、物價ノ下
落ト云フモノニ人民ノ苦ンデ居ルコトガ非常デアル、此下落ヲ救フト云フ方
法ハ歐羅巴、亞米利加ニ於テドウシテモ行ハナケレバナラヌコトヽ思ハレ
ル、其時ニハ此度今日ノ如キ金銀比價ヲ以テ貨幣制度ヲ定メタ時ニハ貨幣
制度自身ガ自カラ崩レテシマフ金一銀二十八ノ補助貨ト云フ如キ仕組ハ
全ク崩レテシマッテ、補助貨カ海外ニ輸出シテシマッテ、日本ニハ補助貨ガ
ナイト云フヤウナ國トナル虞ガアルノミナラズ、物價ガ騰貴シ、彼ノ明治二
十三年ニ、日本銀行ガ金貨下落ノタメニ非常ナ損失ヲナシタヤウナコトヲ、
日本ノ商業界ニ被ラシメル、アノ時ハ日本銀行ダケデ濟ンダンデアリマス、
此度ハ日本ノ全國ノ國立銀行、私立銀行、皆金貨資本ニナル、其時ノ災害ト
云フモノハ彼ノ歐羅巴ニ於テ今日度々見ル所ノ、銀行破產ノ如キ恐ヲシハ
シナイカ、此論旨ヲ以テ本案ニ反對スル者モアルノデゴザイマス又第四ニ
ハ彼ノ貨幣制度調査會ノ報告ニ依レバ、金ト云フモノハ銀ニ比スレバ動搖
ノ多イ貨幣デアル貨幣トシテハ却テ銀貨ガ宜シイト認メテ居ルノニ今日
ニ方ッテ其動ガナイ貨幣ヲ、動ク貨幣ニ移スト云フノハドウシテモ反對シ
ナケレバナラヌト、此論旨ガアル、ソレカラ又第四番目ハ、免ニ角此問題ハ
實ニ人民ノ利害財產上ニ大關係ノアルコトデアル、然ルニ此法案ヲ請取ッテ
以後、實ニ僅カノ時間デアル、實ハ貨幣制度調査會ノ報告スラモ、十分ニ〓
究シテ讀ム丈ノ時間モナイノニ之ヲ〓卒ニ議決スルト云フコトハ實ニ出
來ナイコトデアルモウ少シ熟考ノ時日ヲ欲シイ、ソレヲ許サヌ以上ハ本
案ニ就イテハ反對ヲ表サナケレバナラヌト云フ、詰リ國家重大ノ問題デアル
モノヲ、輕々ニ議スベカラズト云フ趣意デ以テ、本案ニ反對ヲ表スルモアリ
やく、少數者意見ノ詳細ヲ申上グマスコトハ、勿論出來ヌコトデゴザイマス、
唯大要ヲ摘ミマスト右ノ如キコトデアリマスカラ、是ダケヲ諸君ニ報道致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=17
-
018・東尾平太郎
○東尾平太郎君(八十八番) 田口君ニチヨット承リタイ、質問ガアル-少
數者ノ意見ハ田口君ヨリ御報告ガアリマシタガ特別委員會ニ於テ少數者ノ
意見ヲ承リマスニ、田口君ハ金一銀十六ノ複本位ニシタイ、故ニ此原案ニ
ハ反對ト云フコトヲ言ハレマシタ、ソレカラ栗原君ノ反對論ハ、金本位ハ吾
吾ハ徹頭徹尾贊成スルガ、調査ガ不十分デアルカラ、今暫ク猶豫シタイト云
フ反對論デアルソレカラ又天埜伊左衞門君ノ反對論ハ、金本位ハ尙ホ早シ、
卽チ尙早論デアル、ソレカラ伊藤德太郞君ノ反對ハ松方內閣ハ功名心ニ驅
ラレ、又ハ財政ノ政略ノ上カラヤルカラ反對タ、詰リ反對ガ斯ウ幾ツモアッ
テ皆違フ、然レバ此理由ハ何レノ理由ガ理窟ノアル一定シタ議論デアリマス
カ大主眼トスル所ハ何レデアルカ、特別委員會ニ於テハ四人アッテ、四色
ニ變ッテ居ル、此理由ハ何レヲ主トシテ報告セラレルノデアルカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=18
-
019・田口卯吉
○田口卯吉君(百九十五番) 何レノ理由ト云フコトハナイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=19
-
020・東尾平太郎
○東尾平太郞君(八十八番) 田口君ノ金ト銀ト-複本位論ヲ以テ否決スル
ノデアルカ、時機尙ホ早シト云フノデ否決シマスカ、又伊藤君ノ松方內閣ガ
遣ルノハ面白クナイ伊藤內閣ガ遺ルノナラバ贊成スル(笑聲起ル)ト云フノ
デ否決スルノカ、ドウ云フ反對論デアルカ、四人四色ダカラ、合同シタ一致
ノ意見ヲ承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=20
-
021・田口卯吉
○田口卯吉君(百九十五番) 唯今申シマシタ通、論旨ハ色〓分レテ居ルデス、
其反對ノ理由ハ色ミニ分レテ居リマスガ、皆反對ト云フ所ニハ一ニナル、而
シテ前ニ私ガ四ノ理由ヲ述ベマシタガ、此中ドレモ是モ一々反對ト云フ譯テ
ハナイ、反對論者ノ中デモ、說ノ互ニ一致シテ居ル所モアリ、又互ニ一致シ
ナイ所モアルノデ、殊ニ將來ノ見込抔ニ至リマシテハ金ガ下落スルト見込
デ、必シモ確信シテ金ノ騰貴スルト云フコトニハ同意シナイト云フヤウナコ
トデハナイノデ、詰リ見込ノコトデアリマス序ニチヨット申シテ置キマス
ガ、金一、銀十六ノ複本位ト云フヤウナコトハ私ハ言ッタコトハナイ、又
此世ノ中ニ今日ソレ程ノ複本位論ハナイト信ジテ居リマス、是丈ヲ一寸申シ
テ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=21
-
022・東尾平太郎
○東尾平太郞君(八十八番) 田口君ハ金一、銀十六ト云フコトヲ、昨日ノ特
別委員會ニ於テ明々瞭々ニ言ハレテ居ル、速記錄ヲ見レバ分リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=22
-
023・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 緊急動議ガ出テ居リマスカラ朗讀セシメマス
〔町田書記官朗讀〕
緊急動議
議院法第二十五條ニ據リ左ノ議案ヲ議長指名ノ繼續委員二十七名ニ付託シ
次期通常議會開會ノ日迄ニ其審査ヲ結了セシム
一貨幣法案
一貨幣整理資金特別會計法案
一明治十七年第十八號布告兌換銀行券條例中改正法律案
一明治十八年第十四號布告中改正法律案
一明治十二年第三十五條布告廢止法律案
右成規ニ據リ提出候也
明治三十年三月十日
提出者新井毫
伴直之助発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=23
-
024・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 是ハ緊急動議ト云フ名義デ出テ居リマスガ、議長ハ先
決問題ト認メマスカラ直チニ議事ニ付シマス
〔新井毫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=24
-
025・新井毫
○新井毫君(二百三十一番) 諸君、本員ハ唯今朗讀致シマシタル動議ヲ提出
致シマシタ、卽チ本日此日程ニ上ッテ居リマスル貨幣法案ハ實ニ國家重大
ノ問題ニ致シテ、國家ノ經濟、國民ノ利害、繫ッテ此一案ニ在リト斷定致シ
テ差支ナイコトデアル、卽チ本案ノ結果ニ依ッテハ輸出入ノ上ニモ、國民
ノ生活ノ上ニモ、各般ノ事業ノ上ニモ、種々樣ミナ變化ト關係ヲ生ズルト云
フコトハ事物ノ定數デアル、全體此貨幣論ニ就イテハ、我日本國ノ國論ガ
何レニ歸決スルカハ差措イテ、世界列國ノ有樣ト雖モ未ダ其一定ノ歸著ヲ見
ナイ今日デアリマス或ハ金貨ニ換ヘルト云ヒ若クハ複本位ガ世界列國ノ
貨幣制度ノ上ニ於テ傾キデアルト云ヒ種々ニ申シマス、又我國ニ於テ設ケ
タル貨幣調査會ノ經過ヲ聞キマシテモ亦其大問題ノ調査ノタメニ歐米列國
ニ派遣シタル調査委員ノ人ミガ齎シ來ッタル報告ニ依リマシテモ、色ミノ結
果ヲ報告致シテ居ル、實ニ此案ノ施行ノ結果ト云フモノハ言フベカラザル
ノ變化ト關係トガ生ズルト云フコトハ-多クノ關係ヲ生ズルト云フコトハ
事實明カデアリマス、故ニ斯ノ如キ重大ナ案ヲシテ、短期日ノ間ニ輕々ニ議
了スルト云フコトハ、甚ダ國家ノタメニ自分等ハ取ラナイ所デアリマス、故
ニ議院法第二十五條ニ依リ「各議院ハ政府ノ要求ニ依リ又ハ其同意ヲ經テ議
會閉會ノ間委員ヲシテ議案ノ審査ヲ繼續セシムルコトヲ得」ト云フ趣意ニ基
キマシテ、二十七名ノ委員ヲ舉ゲ、議長ノ指名ニ依ッテ相當ノ人材ヲ舉ゲテ、
我國家ヲ代表スル所ノ衆議院ニ於テ設ケタル調査委員會ニ於テ、十分ニ調査
セシメマシテ、次期ノ議會ニ至ルノ間丁寧反覆調査ヲ爲シタル上報〓セシメ
テ、然ル後徐ニ決スルモ敢テ遲シトナサズト考ヘルノデアリマス、本案ノコ
トニ就イテハ如何ナル有樣デアルカト云フコトハ諸君モ御熟知ノ如ク、製
造家モ農民モ商人モ、官吏モ、僧侶モ、此問題ニ就イテ影響ヲ受ケナ
イ者ハアリマセヌカラ、到ル處トシテ本問題ノ結果如何ト云フコトハ、四千有
餘万ノ同胞〓ッテ注目致シテ居ル大問題デアリマス、此大問題ヲ唯輕卒ニ議
了スルト云フコトハ眞ニ國家ノタメニ取ラナイ所デアリマス願ハクハ
此案ニ對シテハ諸君ガ勿論國家的觀察ヲ以テ、虛心平氣ニ御判斷下サイマシ
テ、至誠國ヲ思フヨリ此意見ヲ提出致シタ譯デアリマスカラ、願ハクハ全會
一致ヲ以テ繼續委員ヲ設ケルト云フコトニ御贊成アランコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=25
-
026・綾井武夫
○綾井武夫君(二十番) 質問ガアリマス、今ノ說ヲ聽キマスト、貨幣問題ハ
日本ノ內ニモ議論ガアルノミナラズ、世界各國ニ於テモ學者ノ間ニ議論ノヤ
カマシイ問題デアルト云フコトヲ新井君ガ言ハレタガ、私モ御同感デアル、偖
テソレニ就イテハサウ云フ問題デアルガ故ニ、此次ノ議會迄調ベサスト云フ
コトニ聽キマシタガ、是ヲ延ベタラ歐羅巴ノ學者ノ議論ヲ一定シ、是ヲ調査
スル人ノ議論ガ一定スルト云フ御見込ナノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=26
-
027・新井毫
○新井毫君(二百三十一番) 御答致シマス、必ズ歸決スルコトヲ得ル、得ヌ
ト云フコトヲ我輩豫言スルモノデナイガ、併シ此案ノ議會ニ現ハレタノハ本
月二日デアル、調査會ヲ設ケラレタトカ、政府ガドウ云フ取調ヲスルトカ、
某銀行ガドウスルカト云フコトハ耳ニシテ居ッタガ、國民ノ耳ニシタノハ幾
日モナイコトデゴザイマス、實ニ疑惑ノ中ニ沈ンデ居ルト云フコトハ綾井
君モ御承知デアラウ、然ラバ國民疑惑ノ中ニ輕々ニ議了スルハ、輕卒ニアラ
ズシテ何ゾヤ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=27
-
028・綾井武夫
○綾井武夫君(二十番) 議論ハ致シマセヌガ、其疑惑ヲ一年經テバ解クコト
ガ出來マセウカ、斷定スル決心ガアリ此貨幣ニ就イテ考ヲ-貨幣ノ學問
ヲシテ居ルモノハ、自分ノ見ル所ニ依ッテ大抵極ッテ居ル、ソレガ迷フテ居ルノ
ハ經濟書モ何モ知ラヌモノガ迷フテ居ルノデアル、ソレ等ノ人ガ一年ノ間經
テハドチラガ宜イト云フ決定ヲスルコトガ出來ルカト云フコトヲ聽キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=28
-
029・新井毫
○新井毫君(二百三十一番) 其事ハ疑惑ヲユキナリ排除シテ十分ナル歸決ヲ
見ルコトハ免モ角モ、縱シ本案ヲ議決シテ何ノ會社デモ、ドウ云フ階級ノ人民
デモ、此案ガ通過スレバ斯樣ニスルト云フ準備ヲスル途ガアラウト思フ、銀
ガ宜イカ、金ガ宜イカト云フ覺悟ヲ取ルコトニナリマセウ、決定ヲシテ其優
劣ヲ取ルコトハ各〓ノ腦膸ニアル、人各〓意見ノナイ者ハナイ、然ラバ〓究
ト熟考ノ時間ヲ與ヘテ、又議會モ自ラ國民ニ代ッテ重大問題ヲ調査致シテ、十
分本案ニ對スル準備ヲナサシムルノ後、徐ニ議決實行スルモ遲シトシナイト
云フ意見デアル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=29
-
030・小室重弘
○小室重弘君(二百九十六番) 此先決問題ニ贊成ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=30
-
031・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 通告ガアリマス-中野武營君
〔中野武營君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=31
-
032・小室重弘
○小室重弘君(二百九十六番) 議長、チヨット聽イテ置キマス、貨幣法案ノ
通〓デナシニ、此問題ハ別デアリマセウ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=32
-
033・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 更ニ通告ガアッタンデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=33
-
034・中野武營
○中野武營君(百三十六番) 新井君、伴君ノ兩君ヨリ緊急動議ヲ提出セラレ
マシテ問題ト相成ッテ居リマスガ、本員ハ反對ノ意見ヲ持ッテ居リマスデ
アリマス、故ニ其意見ヲ申述べヤウト思ヒマス、新井君ガ此提出シタル所ノ
理由トセラルヽモノハ此問題ハ重大ナル問題デアル、輸出入ニ關係スル、
人民ノ生活ニモ關係スル、又金單本位複本位制ノ如キハ世界ニ於テモ未ダ
十分論定ノ立ッテ居ラヌモノデアル、貨幣制度調査ノ有樣ヲ見テモ十分ナ
極リハ付イテ居ラヌノデアル、斯ウ云フコトガ原因ト爲ッテ居ルヤウデゴザ
イマス、抑〓此問題ノ重大ナルコトハ申上グルマデモナイ重大ナコトニハ
相違ゴザイマセヌ、併ナガラ此問題ハ日本近時ニ起ッタ問題デナイ、唯日本
ダケニ起ッタ問題デモナイ、旣ニ金本位複本位ノ論ノ如キコトハ各國ノ
學者實業者ナリガ十分ニ論ジツヽアルノデ、論ジ來ッテ居ルノデアル、今
遂ニ我帝國ニ於テ始テ斯樣ナ發明ヲシ、始テ斯樣ナコトヲ發見シテ施行スル
ト云フ問題デハナイノデアル加之政府ニ於テモ、現ニ貨幣制度調査會ト
云フモノヲ組織セラレタノデアル此組織ハ啻ニ私ニ組織シタルモノデハナ
イ勅令ヲ以テ此會ヲ組織セラレテ、朝野ノ名士ヲ集メテ、是ニ數多ノ日月ヲ
假シテ、調査ヲサシタモノデアリマス、又帝國議會ハ此貨幣調査-貨幣制度
調査會、此會ヲ必要ナリト認メテ、是ニ對スル支出、卽チ經費ヲ協賛ヲシテ居
ラレルノデアル而シテ今日ニ至ッテ、政府ガ此案ヲ提出セラレタコトニ相
成ッタノデアル、固ヨリ貨幣制度調査會ノ〓末ハ今日私ガ此處ニ於テ詳ク
申述ベルニハ及バヌ、銘々ノ意見ヲ吐露シテ、其意見ト云フモノヲ集メタモ
ノデアリマス、政府ハ是ニ重キヲ措イテ、サウシテ尙ホ時機ト云フモノヲ一
方ニ考ヘテ見テ、此時ニシテ此制度行フモ可ナリト云フ意見ヲ定メテ提出
セラレタモノト思フノデアル、既ニ內外國ニ於テ、此論ト云フモノハ多年ノ間
ニ起ッテ、サウシテ是ハ相當ナ智識ヲ持ッテ居ルモノナラバ、平常ニ考案
シツヽアル問題デアッテ、此度始テ此議會ニ法案ガ出タニ依ッテ、始テ驚
クベキモノデハナイノデアル、併シ此國民ノ多數ナル、斯樣ナ重大ナ問題ヲ
悉ク了解スルト云フコトハ、決シテ出來得ラルヽモノデハナイノデアル、國民
ガ又悉ク知リ得ラルヽモノデナイト云フコトハ、何處モ同ジコトデ、日本國
ダケデハゴザイマセヌ、又議員ト云フモノガ、此法案ト云フモノニ接シテ、
始テ是デ此貨幣制度ノ學問ヲシテ、ソレカラデナケレバ決著ガ出來ヌト云フ
コトヲ言譯ニ出來マスデゴザイマセウカ、是ハ議員ノ本分トシテ、攻究ヲシ
テ決著スルヨリ外仕方ガナイノデアル、一ハ學理的ノモノモアリ、實際ノ利
害モアル、卽チ其責任ニ當ッテ居ル者ガ十分ニ〓究ヲシテ、相當ナ意見ヲ定
メナケレバナラナイ、然ルニ此〓究ノ時間ト云フモノガ短イト長イトドレ
程ノ違ヒガアル、ソレノ攻究ノ結果ト、社會ニ之ガタメニ及ブ所ノ利害トハ、
ドウデアルカト云フコトヲ考合シテ見ネバナラヌ、成ル程十日ヨリハ三十日、
三十日ヨリハ六十日ト、日增シニ長クシタナラバ、攻究ノ時間ハ幾分カ綿密
ニナルカ知レナイ、併シ斯ノ如キ問題ガ、長キ間帝國議會ニブラサガッテ、ド
チラニモ決セズ、雨ト成ルカ、晴ト成ルカト云フコトノ分ラヌ境遇ニ置イタ
ナラバ、ドウ云フ結果ヲ社會ニ現ハスデゴザイマセウカ吾〓實業ニ從事シ
テ居ル者ハ甚ダ恐レル、是位危險ナモノハナイト云フコトヲ感ズル、旣ニ此
法案ガ帝國議會ヘ提出ニナッタ、委員會ノ結果ハドウデアルダラウ、唯數日
ノ間ノコトデアッテスラ、其影響ハ一般社會ニ及ンデ居ルノデアル、卽チ其
響ハ獨リ日本內地ダケデハナイ外國ヘ及ンデ居ルノデアル、旣ニ此銀貨
相場抔ト申スモノハ、英國倫敦ヘ響イテ居ルノデアル、日本ノ人民ガ少モ社會
ノ事ニ考ヲ持タズ、如何ナルコトヲ立法部デ議サウガ、如何ナルコトヲ政府
ガ計ラウモソレニ無頓著無氣力ノ人間ナラバ率ザ知ラズ、旣ニ此日本ト爲ツ
テ、各國ヲ相手ニ商賣ヲ致シ、各國ヲ對手ニ取引ヲシテ居ル此社會ノ上ニ於
テ、此法案ノ決定ト云フモノヲ遲々シテ、衆議院モ未ダ〓究ガ付カヌサウ
ナ、代議士モ見込ガ立タヌト云フテ、一箇年之ヲブラ〓〓一ツ考ヘテ見ヤウ、
學問ヲシテ見ヤウト申ス如キ境遇ニ此法案ヲ處シタナラバ、此關係ト云フモ
ノハ、獨リ實業社會ダケデナイ、總テノ取引ト云フモノニ於テ、目的ガ立タ
ヌコトニナッテ、右ニ歸センカ、左ニ歸センカ、更ニ方針ガ立タナイ、凡ソ
人民ガ物ヲ處シテ參ルモノハ先ヅ方針ト云フモノガ立チ、目的ト云フモノ
ガ定レバコソ、ソレカラ事ヲシテ參ルノデアル、事ヲ始テ行クノデアル、事
ヲ行フテ往クノデアル其目的ガ立法部ノ意見ガ立タズ、中ブラリンナコト
ニ之ヲ處置シテ置カレタナラバ、何ヲ目的ニ事ヲ處シテ往キマセウ、何ヲ目
的ニ商業ガ出來マセウ、此關係ノ及ブ所ハ實ニ言葉ヲ以テ申シマスコトハ
出來ナイ、卽チ困難ノ境遇ニ日本ヲシテ陷ラシムルデアラウト云フコトヲ、
私ハ深ク恐レルノデアル、僅數日議院デ議シツヽアル場合デスラ、此關係ガ
內地ニ及ビ、外國ニ及ブ程ノ大關係ノ法案ヲ、之ヲシテ一年間悠々緩々處置
スルコトヲ知ラズ、方針ヲ示サズシテ置キマシタナラバ實ニ甚シイ禍ヲ起
スノデゴザイマス、之ヲ考ヘテ見マスルト、議院ハ悠々緩々ニ此法案ヲ付シ
去ルト云フコトニ同意スルコトハ出來マスマイト思フ、ソコデ然ラバ分ラヌ
ナリニ處置シテシマフカ、分ル分ラヌハ銘々ノ判斷デアル、苟モ人民ノ代議
士ト爲リ、人民ニ選舉セラレテ居ル以上ハ、判斷ノ付カナイト云フコトハナ
イ筈デアルト思フ、然ルヲソレヲ口實トシテ、サウシテ之ヲ遲々センカ、却テ
其自分ガ執ルベキ、自分ガ處スベキ事柄ヲ緩ニスルガタメニ、其害ヤ人民ニ
及スト云フコトデアル、先刻新井君ハ此問題ニ就イテハ四千餘万ノ同胞ガ
注目シテ居ルモノデアルト仰セラレタ、其通デアル、四千餘万ノ同胞ハ實
ニ此案ガドウ決著ニナルカト云フコトハ日夜注目シテ居ルモノデアルソ
レ程注意シテ居ルモノヲ、此儘ニシテ置キマセウカ、實ニ歸スル所ヲ知ラヌ
ト云フコトニナルノデアル左樣ナ大關係ノアル問題ヲ、此繼續委員ニ付セ
ラルヽト云フニ至ッテハ私ハ實ニ驚カザルヲ得ナイノデゴザイマス願ハ
クハ審議ヲ十分此議場ニ於テ盡サレテ、サウシテ孰ニナリトモ決著ヲシテ、
方針ヲ示シテ、サウシテ此國民ヲシテ總テノ取引、總テノ生活ノ上ニ於テ、
今日歸著スル目的ヲ示スト云フコトガ、是ガ議會ノ務デアル、是非サウ致サ
ナケレバナラヌモノデアルト云フコトヲ信ズルモノデゴザイマス、簡單ナ問
題デゴザイマスルカラ、是ダケニ止メテ置キマス
〔政府委員大藏書記官添田壽一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=34
-
035・添田壽一
○政府委員(添田壽一君) 此金單本位問題、複本位問題ナルモノハ最早學
者ノ〓究ニ依リマシテモ、各國ガ種々經歷シタ上カラ見マシテモ其利害得
失ハ旣ニ定ッテ居ルモノト申上ゲテ宜シイノデアリマス、是ハ今後〓究セラ
ルベキ問題ニアラズシテ、取捨撰擇セラルベキ問題デアル、故ニ今日ニ當リ
マシテハ此二ツノ問題ノ上ニ於テハ唯孰カヲ御撰ビニナルト云フコトノ
外ハナイノデゴザイマシテ、此後幾ラ〓究ヲ重ネマシテモ、金單本位論ト云
フモノト、複本位論ト云フモノハ決シテ調和ノ途ハナイノデアリマス一方
ハ罪ヲ金ニ歸シ、一方ハ罪ヲ銀ニ歸ス、總テ是ハ氷炭相容レザルモノデゴザ
イマシテ此二ツノモノヲ調和スルノ見込ガアレバ或ハ又〓究ノ必要モア
ルカモ知レマセヌケレドモ、到底此問題ハ調和スルト云フコトハ出來ナイノ
デアリマシテ、各〓自カラ御信ジニナル所ニ依ッテ取捨撰擇ヲ定メラルヽ外
ハナイノデアリマス、加フルニ斯ノ如キ問題ガ未決ニアリマスルト獨リ我
國內ノ經濟ヲ動搖セシムルノミナラズ、實ニ此〓ニ於テハ我邦ノ名譽ト云フ
テ宜ウゴザイマセウカ、此海外ノ金銀ノ相場マデモ變動ヲ與ヘテ居ルノデゴ
ザイマス、世界ノ金銀ノ價ト云フモノヲ、不安ノ地位ニ置クマデノ責任ヲ取
ラナケレバナラヌノデアリマス、ソレカラ又此改正ノ法案ニ於キマシテハ
人民ノ經濟、物價、貸借總テノ現存ノ關係ニ變動ヲ與ヘルト云フコトノ最モ少
キヲ目的ト致シテ居リマスルカラ、其變動ガ餘程大デアリマスレバ、格別デア
リマスケレドモ、餘程此〓ニ就イテハ注意ニ注意ヲ加ヘテ居リマスカラ詰
リ是ハ取捨撰擇ノ問題デアルト云フコトヲ呉〓モ御記憶ヲ願ヒタイノデアリ
マス、試ニ彼ノ印度ガ爲シマシタコトヲ御參考マデニ申上ゲテ置キマスガ、
彼ハ全ク此事ヲ祕密ニ措キマシテ、卽日決行スルト云フマデニ、此事ニ就イ
テハ卽決ヲ貴ンダノデアリマス、然ラザレバ市場ニ言フベカラザルノ弊害ヲ
與ヘルト云フカラシテ、斯ノ如キマデ注意ヲスレバ卽決ヲシナケレバナラヌ
問題デアリマス、ソレデ政府ニ於キマシテハ、此問題ノ性質カラ言フテモ、
又此問題ヲ遲疑スルタメニ生ズル害毒カラ言フテモ、ドウシテモ繼續委員ト
云フコトニハ御贊成ヲ申上ゲルコトガ困難デアルト云フコトヲ一應申上ゲテ
置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=35
-
036・小室重弘
○小室重弘君(二百九十六番) 私ハ此處カラ簡單ニ新井君ノ提案ニ贊成ノ意
ヲ述ベテ置キマスガ、全體此金銀ノ問題ト云フ如キモノハ、今添田君デアツ
タカ、旣ニ世界ノ上ニ決セラレテ居ル議論デアルト云フヤウナコトヲ言ッテ
今ハ撰擇ノ時代ト言フテアル、ソレハ添田君カラハ左樣ニ言ハレルカ知レマ
セヌガ、私共ハサウハ見テ居ラナイ、尙ホ世界ノ上ニアッテ一大問題ト爲ッ
テ居ル譯デアリマス、私共ハ嘴ノ黃色イ學者達ガ或ハ日本ノ國家ヲ過ルト云
フコトガアッタラ實ニ憂慮スベキ事デアルト思フデス、元來輿論ノ結果ヲ
以テ政治ヲ爲ス上ヨリ之ヲ見タナラバ今日ニ在ッテ此問題ガ日本ノ國ノ上
ニ議論トシテ〓究サレツヽアルニモ拘ラズ、政府ハ既ニ知ッテ居ル、汝等ハ
政府ノ爲ス所ニ盲從セヨ、諸君、私共ハ甚ダ疑フ、此問題ハ今ノ大藏大臣ノ
演說ヲ見テモ、何ヲ見テモ、政略ニ關係ハナイ、財政計畫ニ關係ハナイト云フ
ガ、吾ミハ此財政計畫ノ上デ政略トシテアルト云フコトヲ疑ッテ居リマス、
大イニ〓究シナケレバナラヌ點デアルト思フ、綾井君ノ如キハ三百ノ代議士
ハ皆知ッテ居ル筈デアル隨分生意氣ナコトヲ言フ人ガゴザイマス、一番世
ノ中ニ恐ルベキコトハ知ラヌ事ヲ知ッタフリヲシテ盲從ヲスルコトガ一
番恐ロシイモノデアル、ソレデ先程委員長ノ報告ヲ見テモ唯政府案ニ贊成
ト云フダケデアルカラ、別ニ理由ハ言ハナイ、諸君、此問題ガ今決セラレン
トスル場合ニ在ッテハ天下ノ人心ハ如何ニ洶々タルカ社會ガ如何ニ此進
行ニ就イテ疑ヲ抱イテ居ルカ之ヲ必ズ此處デ決セネバナラヌ、今日此席ニ
於テ決定シナケレバナラヌト云フモノハ、何ノ必要ガアッテカ左樣デアルカ
一年間先キニ延ス或ハ他ノ事件デ調査ヲ致スト云フニ何ノ不都合ガアル
カ私ハ國事ヲ鄭重ニスル上ニ於テ斯ノ如クシナケレバナラヌ、多數ヲ恃
ンデ頭ノ澤山アルト云フコトヲ恃ンデ、斯ノ如キ危險ナル斯ノ如キ國運ノ
消長、人民ノ休戚ニ關スルモノヲ輕ミシク決スルト云フコトハ政府ガ斯ノ
如キ案ヲ輕ミシク出シタト云フ輕卒ト同時ニ、又此輕卒ノ後ニ衆議院ガ盲從
ヲシテ往ク事ニ就イテハ、吾ミハ斷ジテ贊成ガ出來マセヌ、宜シク新井君ノ提
案ノ如ク繼續委員ヲ設ケルト云フコトニ贊成アランコトヲ希望スル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=36
-
037・東尾平太郎
○東尾平太郞君(八十八番) 八十八番ハ新井君ノ繼續委員ニ反對スル、政
府ハ既ニ貨幣調査委員ヲ設ケテ十分ノ調査ヲサセタ、今日ハ此法案ニ對シテ
唯可否ノ判斷ヲ決スレバ宜イ、假ニ一步ヲ讓ッテ二十七名ノ委員ヲ置イテモ、
二十七名ハ分ルガ殘リ一一百七十三名ハ矢張分ラヌ又繼續委員ヲ置カナケレ
バナラヌトシタ所ガ、繼續委員ガ之ヲ可決モセズ否決モセズ、或ル政黨ノ如
ク洞ケ峠ヲ極メタトキハ經濟社會ニ大變動ヲ來シマスカラ、此說ニハ反對
ヲ致シマス
〔伴直之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=37
-
038・伴直之助
○伴直之助君(六十六番) 本日ハ日本帝國議會ガ始リマシテ以來ノ大問題
ガ、諸君ノテ-、ブルノ上ニ乘ッテ居ルト思ヒマス、此問題ノ重大ナルト云フ
コトハ三百議員諸君ガ孰モ御承知デアル此大問題ガドウデゴザイマセウ
カ本月一日ノ晩ニ諸君ノ御手許ニ參ッテ僅九日ヲ經テ今日此處デ決セネ
バナラヌ(「モウ分ッテ居リマス」ト呼フ者アリ)國家ノ長計タル此問題ヲ僅
ニ十日ヤソコラノ間ニ決スルト云フコトハ實ニ危險極ルコトヽ思フ、多ク
ノ言葉ヲ須ヒズシテ、是ハ吾〓共ガ深ク考ヘネバナラヌコトヽ思フ、唯今政
府委員ノ申サレタ言葉ノ中ニ、此問題ハ世界デ以テ既ニ決セラレテ居ル問題
デアル、併ナガラ私ハサウ思ハヌ、未ダ世界ニ於テ決セラレナイ問題デアル、
極ク近イ例ヲ申シマセウナラバ、金ト銀トノ論ハ未ダ決セラレテ居リマ
セヌ、今ヤ將ニ爭議盛ナル時デアル、又事實ノ點カラ言ッテ見マシテモ、
數年前米國ノ大統領選舉ニ就イテハ、銀ノ相場ハ如何ニ狂ヒマシタカ、成ル
程統計表ノ上カラ言ヒマスルナラバ、銀ノ產ハ金ノ產出ヨリ餘計デアル、其
關係ヨリシテ銀ガ金ニ對スル價ハ下落シテ居ル其統計表ノ順カラ言フナラ
バ銀ト云フモノハ益〓今日マデハ下落シテ居ル、併ナガラ將來如何ト云フ
コトヲ考ヘテ見ルト銀ガ是ヨリ先キ騰貴スルカ、銀ガ是ヨリ先キ下落スル
カト云フ見込ニ就キマシテハ、寧ロ銀ハ是ヨリ後騰ルベキ見込ハアラウトモ、
下ルベキ見込ハナイト思フ現ニ米國大統領ノ選舉競爭ニ際シ、銀ハ如何ナ
ル變動ヲ致シマシタカマッキンレーガブライアンニ勝ヲ制セラレマスルヤ
ウナ模樣ガアリマシタトキハ、銀ガ四十六七弗ヨリ五十二弗ニ騰ッタデハ
アリマセヌカ是レ卽チ諸君ノ眼ノ前ニ於テ觀ラルヽ事實デアル、其如ク銀
ノ變動ガ眼ノ前ニ在ルノニ、金銀ノコトニ就イテノ問題ハ世界ニ於テ既ニ
決シテ居ルト云フノハ政府委員ガ吾ミヲ欺クノデアル、縱令何ト言ハレテ
も、事實ガ是ヲ證明シテ居ル此事實ヲ世界ノ歷史カラ取消サヌ以上ハ世
界ノ實事カラ取消サヌ以上ハ、政府委員ガ如何ニ辯明スルトモ、之ヲ取消ス
コトハ出來ヌノデアル、此事實ヲ吾ミガ見テ居ルノニ二十日ノ間ニ之ヲ決シ
テ是カラ後吾ミガ選舉區ニ這入ッテ何ト申シマセウ、、御前ハ此問題ニ贊成
シタ御前ハ此問題ニ反對シタ何故ニ是ニ贊成シタカ(笑聲起ル)私ハ實ニ
諸君ノ前ニ私ノ無學ノ無識ヲ白狀シマス、本員ニハ分ラヌ、分ラヌカラ贊
成シロト云フノハ甚ダ誤デアリマスサウシテ左樣ナ如クニ僅ノ日數ノ間
ニ、此大問題ヲ決スル-〓究モセズ、又委員會ニ於テモ僅ニ三囘-委員
會ノ開ケタノハ僅ニ三囘、其時間ヲ言フテ見レバ、殆ド半日少シ餘ニ過ギヌ、
其短イ時間ニ此委員ガ調べ、其調ベト云フモノハ、自ラ稱シテ審査ヲ遂ゲタ、
是ハ決シテ世ノ中ノ人ガ承知スベキコトデナカラウト思フ、故ニ本員ハ此案
ニ就キマシテハ繼續委員ヲ置キマシテ、次ノ議會マデニ十分ナル調査ヲ遂
ゲサセテ、或ハ其中歐羅巴ニ派出シテモ宜シ、亞米利加ニ派出シテモ宜シイ、
確ニ新聞ヤ外ノ手紙ナドニ依ッテ見ルデハナクシテ、親シク其事情-狀況
ト云フモノヲ調査セシメテ、然ル後ニ此次ノ議會ニ於テ決スルト云フコトヲ
私ハ望ンデ居ル、是レ私共ガ此繼續案ヲ提出スル所以デゴザイマス若シ然
ラズ唯今政府委員ノ述べラレタ如ク、十日ノ間ニ唯默ッテ決シロト云フノハ
恰モ本員ハ耳ヲ掩フテ鉛ヲ偸ム如キコトデアッテ、本員ハ甚ダ將來日本ノタ
メニ憂フルコトデアル、又一億五千万ノ貨幣準備ト云フコトニ就イテハ私
ハ甚ダ危ク思フノデス、僅ニ一億五千万ノ貨幣準備ヲ以テ、金一ニ對シテ銀
三十ノ割合デヤリマシテ、サウシテ此日本ノ財政ト云フモノヲ、今後鞏固ナ
ル位置ニ置クト云フコトハ私ハ甚ダ危ク思フデス日本ノ國勢カラ云フナ
ラバ一方ニハ軍備擴張ト云フコトガアル財政ノ位置ト云フモノハ段々
危險ニ陷ラントシテ居ル場合デアル、故ニ此時ニ於テ幣制ヲ改革スルト云フ
コトハ大變ノ誤デアル恰モ此事情ノ惡ルイ時ニ臨ンデ、更ニブランデー
ヲ飮ムト同ジテアリマス、身體ノ病氣ノ時ニブランデ-ヲ飮ムト同ジコト
デアル、其タメニ一時ハ宜イカ知ラヌケレドモ、其酒ニ醉ッタト云フ結果ガ
數年ノ後ニ現レテ來ルコトヽ本員ハ信ジマス、故ニ此貨幣制度ヲ改正スルニ
就キマシテモ、銀ト金トノ比價ハ非常ニ關係ガゴザイマスガ故ニ、本員ハ切
ニ諸君ニ希望シマス、此案ハ速ニ決スルコトヲ止メテ、次ノ議會ニ於テ、十
分ニ審査ノ上、決セラレンコトヲ本員ハ切ニ望ミマス
(「討論終結」ト呼フ者アリ「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=38
-
039・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 討論終結ニ贊成ガアリマスカ
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=39
-
040・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 討論終結ノ動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=40
-
041・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 多數ト認メマス-是ハ重要ノ問題ト思ヒマスカラ、
記名投票ニ依ッテ採決シヤウト思ヒマス-閉鎖発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=41
-
042・元田肇
○元田肇君(百十二番) 重要ト云フナラバ、無記名ニナサッテハ如何デス、
敢テ建議シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=42
-
043・工藤行幹
○工藤行幹君(百九十七番) 唯今ノハ何デスカ、先決問題ダケデスカ、後ト
マデ含ンダモノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=43
-
044・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 先決問題ダケデス-注意シマス先決問題ノ贊成ノ諸
君ハ白、卽チ繼續委員ヲ置クニ贊成ノ諸君ハ白、反對ハ靑デゴザイマスー
氏名〓呼ヲシマス
〔町田書記官氏名ヲ點呼ス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=44
-
045・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 開鎖-開函致シマス
〔書記官投票ノ數ヲ計算ス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=45
-
046・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 記名投票ノ結果ヲ御報道シマス
出席總數二百五十九
可トスル者九十八
否トスル者百六十
記名ナキタメ無效ナル者一発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=46
-
047・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 本案ハ否決シマシタ-通〓ノ順序ニ依ッテ、本案ノ
討論ニ移リマス、重岡薰五郞君
(重岡薰五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=47
-
048・重岡薫五郎
○重岡薫五郞君(百十五番) 本案ニ就キマシテ、私ハ反對ノ意見ヲ有スル者
デゴザイマスデ、先ヅ本案ニ對シマシテ、利害ノ關係ヲ廣ク說及サウト致
シマシタナラバ或ハ貨幣ノ性質ト致シマシテハ、如何ナル性質ノモノガ適
當デアルカ、或ハ金銀雙方ノ間ニ於キマシテハ貨幣ハイヅレガ優レル所ノ
性質ヲ有スルトカ又金銀兩者ノ間ニ於ケル所ノ相場ハ將來如何ナル變動
ヲ生ズルカ、又旣往ニ於テハ如何ナル景況デアッタカト云フ事柄ヲ、一々述
ベルト云フ事柄ハ甚ダ必要デアルヤウニ考ヘラレマスルケレドモ、併シ是等
ノコトヲ諄々シク申シマスルナレバ、或ハ此議場ハ寧ロ經濟學ノ講釋場ニ變
ズルヤウナ傾ガゴザイマス、又多數ノ辯士モゴザイマシテ、今日是等ノ詳キ
所ノ話カラシテ說始メルト云フ事柄ハ遺憾ナガラ本場ニ於テ出來ヌデゴザ
イマスルカラ致シマシテ、唯本員ハ此問題ニ就キマシテ、先ヅ今日本問題ヲ
實行スル所ノ時機デアルカ如何、又此方法ト云フモノハ、本問題ヲ決スル上
ニ就イテ、最良ノ方法デアルカ、ドウデアルカ、此方法ヲ執ッテ斷行ヲ致シ
タナラバ、將來ニ於ケル所ノ貨幣ノ問題ハ完全ニ行レテ、日本ノ繁榮幸福ヲ
圖ルデアラウカ、ドウデアラウカト云フコトヲ述ベルコトガ大切デアリマス
カラ、此〓ニ就キマシテ、寧ロ實際ト今日ノ方法ニ就キマシテ、聊論辯ヲ致
サウト考ヘル次第デゴザイマス先ヅ本問題ニ就キマシテ、今日ガ幣制ノ改
革ヲ致シマスルノ時機デアルカ、ドウデアルカ、幣制改革ノ時機ガ、今日ヲ
以テ最モ好イ時デアルカ、ドウカト云フ〓ハ、此本問題ヲ決スル上ニ於キマ
シテ、最モ必要ノ問題デアル、デ、時機如何ト云フコトニ就キマシテハ本
員ノ考ヘル所、又本員ガ歐洲各國ニ於ケル、又亞米利加ニ於ケル所ノ、此財
政上ノ有樣ヲ考ヘテ見マスルト、今日ハ甚ダ幣制改革ノ時機デナイト云フ、
斯ウ云フ斷案ヲ下スノデアル、ソレハナゼデアルカト申シマスルナラバ諸
君、世界ノ大勢ヲ御覽ナサイマセ、又世界ノ中デ金貨ノ制度ヲ執リ、金貨ヲ
以テ主タル所ノ貨幣トシマスル所ノ各國ノ有樣、各國ノ經濟上ノ有樣ハ如何
デアルカト云フコトヲ御觀察ニナレバ一番分ルノデアル、此金貨國ニ於ケ
ル所ノ經濟上ノ有樣ハ諸君ガ御存ジノ如ク、千八百七十三年、卽チ我明治
六年ニ於キマシテ、獨逸ガ金貨制度ヲ採リマシタ、幣制ノ改革ヲ致シマシテ
以來、今日ニ至ルマデ歐洲ノ金貨國ノ經濟社會ニ於キマシテハ實ニ金貨ノ
制度カラ致シマシテ、物價ノ上ニ大イナル低落ヲ致シ、物價ノ低落ハ延イ
テ商工業ノ不景氣トナリ、勞働者ノ不必要ト爲リ、銀行ノ破產ト爲リ農業
ガ衰頽ニ傾キマシテ、種々ノ實ニ言フベカラザル、經濟上ニ於テ忌ムベキ所
ノ現象ハ、各國皆受ケテ居ルノデアル、ソレ故ニ金貨國ニ於キマシテハ、
種々ナ議論ガアッテ此形勢ヲ挽囘致シ、明治六年以前ニ於ケル所ノ、經濟界
ノ圓滑ナル所ノ有樣ヲ囘復シヤウト云フニハドウ致シタラ宜カラウカ、デ
此方法ハ如何致シタラ宜カラウカト云フコトニ就キマシテハ、實業者ハ勿論、
學者ハ勿論、世ノ中ノ財政家ハ勿論皆頭ヲ痛メマシテ、ドウカ是ガ最良ノ方
法ヲ採ッテ、囘復ノ策ヲ講ジタイト、銘々ニ考ヘテ居リマシテ或ハ此等ノ
輿論ガ延イテ複本位ノ同盟ト爲リ、或ハ是ガ又擴ガリマシテ、萬國複本位
ノ同盟論モ今日隨分盛ニ行ルヽコトデアル、又學者間ニ於キマシテモ、金貨
制度ヲ採ル事柄ハ贊成デアル、金貨ノ單本位論者デアルト云フ事柄ハ、自分
ニ主張ヲ致シマスルケレドモ、併シ今日ノ如ク、各國ガ金ニ傾イテシマヒ金
貨ヲ皆採ラネバナラヌト云フ所ノ形勢ニ傾キマシタタメニ、今日ノ衰頷ヲ
來シ、此衰頽ノ多クハ遺憾ナガラ金單本位ヲ主張スルコトモ出來ヌ、寧ロ
何カ方法ガアルナラバ複本位論ヲ主張シテモ宜シイ又世界各國ノ同盟ガ
出來ルナラバ其同盟ニ加ッテモ宜シイト言ッテ、萬國複本位ノ貨幣會モ
世界ノ各國ニ於テハ行レタ所ノ次第デゴザリマス斯ノ如ク歐洲各國ニ於ケ
ル狀況、變革ノ狀況ハ私ガ申述ベル通デゴザイマシテ、今日金貨諸國ニ於
キマシテハドウカ此幣制ヲ改革シテ、金貨ヲ都合好ク致シ、或ハ銀貨制ヲ
之ニ加ヘテ複本位ニスルカ、或ハ何カ金銀ノ間ニ相當ナ割合ヲ附ケテ、以テ此
經濟社會ノ衰頽ヲ挽囘シタイト云フ議論ガ實ニ盛ンナル次第デアル、然ルニ
今日ノ形勢ニ於テ、我國ガ舊來採リ來ッタ所ノ名ハ金貨本位デゴザリマスケ
レドモ其實ハ銀貨國デアル銀貨本位デアルト云フ、其銀貨本位ヲ俄ニ變
ジマシテ金貨ニ變ヘルト云フコトハ如何デゴザリマセウカ殆ド世界ノ大
勢ヲ見ナイ、世界ノ經濟上ノ有樣ヲ全ク眼中ニ置カナイ、實ニ亂暴ナル處置
ト云ハナケレバナラヌノデゴザリマス、斯ノ如キ急激ナル亂暴ナル處置ガ、
決シテ今日ニ於テ其時機デアルカ、ドウデアルカ金貨國ハ寧ロ進ンデ銀
貨國ニ變ゼンカト云フ議論ガ盛ンナル時ニ向ッテ、吾ハ此銀貨制ヲ廢シテ、
金貨ニ俄ニ移ラウト云フノハ、如何ナル必要ガアッテ之ヲスルノデアルカ、
實ニ私共ハ斯ノ如キ改革ニ就キマシテハ所謂世界ノ經濟ヲ見ナイ亂暴ナ
處置ト斷言シマシテ、反對ヲ致サザルヲ得ヌ次第デアルデ或ハ私ガ斯ノ如
ク複本位デアルトカ、萬國複本位ノ同盟會デアルトカ斯ウ云フコトヲ申シ
マシタナラバ政府案ニ贊成ノ諸君ハ必ズ謂フデアラウイカサマサウ云フ
議論ガ歐洲諸國ニアルノデアル併ナガラ是ハ學者妄想デアル、學者ノ夢デ
アル、コンナ夢ノヤウナ事柄ヲ、何ガ故ニ信ズルノデアルカト云フ事柄ヲ言
フ人ガゴザリマスルガ、是ハ唯斯ノ如キ瞞著ナル手段ヲ以テ、所謂世界ノ
經濟上ヲ掩ハウトスル所ノ手段ニ過ギヌノデアル、諸君ガ各國經濟學者-
經濟學者ノ有名ナル人〓ニ就イテ、議論ヲ御聽キニナリ、又新聞上ニ於ケル所
ノ金貨國ノ經濟社會ノ有樣ヲ御覽ニナッタナラバ、決シテ私ガ申上グル事柄
ハ間違ガナイ次第デアリマス、ソレ故ニ今日ハ先ヅ時機デナイト云フ事柄ガ
私ノ反對ヲスル第一ノ原因デゴザリマスガ、偖テ本法ガ當議院ニ提出サレマ
シタ所ノ前後ノ景況ニ就キマシテ、果シテ本案ヲ議院ニ提出スルニ就イテ、十
分議員ニ熟考ヲセシムルノ餘地時間ヲ與ヘタカドウカ、又世ノ中ニ向ッテ、
本問題ハ如何デアルカ、此問題ニ對スル所ノ意向ハ如何デアルカト云フ事柄
ヲ、先ヅ立憲政體ノ國ト致シマシテ、輿論ノ政治ヲ執ルト云フ國ニ於キマシ
テハ、是等ノ餘地、又準備ト云フ事柄ハ、極テ必要ナ次第デゴザリマスル、政
府ハ本問題ヲ如何ニシテ提出致シマシタカ、吾〓ガ御大喪ニ就キマシテ京
都ニ參リ、其參ッテ居ル折頃ニ於キマシテ、政府ノ或ル部內デ、金銀幣制ノ
問題ハ今日必要デアル、改革ガ今日必要デアルト云フ所ノ議論ガ、或ル二三
ノ人ニ起ッテ俄ニ是ハ面白カラウ、宜カラウト云フヤウナ所カラ、遂ニ花ガ
咲キマシテ、俄ニ内閣ノ決議ト爲リ遂ニ本院ニ其問題ヲ提出スルニ至ッ
タ次第デアル是等ハ如何デゴザリマセウカ、此〓ニ就キマシテ、先キニ栗
原議員カラ致シマシテ松方總理大臣ニ質問ヲ致シタコトガゴザリマスガ、
總理大臣ガ言ハルヽニハ彼ノ印度ノ幣制改革ヲ見ズヤ印度ニ於テハ如何
デアッタカ幣制問題ヲ出ス時ニ於テ、議院ハ驚イタデハナイカ斯ノ如ク
政府ハ祕密ニスル必要ガアル、又祕密ニスルガ、幣制問題ニ就イテハ最モ適
當ナ方法デアルト云フ辯論ガアッタノデアル、是ハ如何デゴザリマセウカ、
私ハ斯ノ如キ答辯ヲ承リマシテハ、甚ダ此議會-日本帝國ノタメニ惜ムノ
デアル、ナゼナレバ印度ノ幣制改革ハ何デ致シマシタカ、所謂財政上ノ都合
ニ依ッテ、試驗的ニ英吉利ガ印度ニ向ツテ、我屬國ニ向ッテ斷行シタ所ノ
次第デアル所謂屬國ニ向ッテ試驗的ニシタヤウナ事柄ヲ、我日本ニ向ヒ、
我日本帝國ニ向ッテ致シマシテ、斯ノ如クシタイノデアル、印度ノ如クニアシ
ラヒタイノデアルト云フヤウナ事柄ヲ聽キマスノハ私議員ト致シマシテ、
吾〓四千万ノ代表者ト致シマシテハ之ヲ聞クニ甚ダ惜ムノデアル、吾ミハ
決シテ印度屬國ノ取扱ハ受ケナイノデアル、日本帝國四千万人ノ人民ヲ代表
スル神聖ナル議場ニ於テ正々堂々ト議論ガシタイノニ、印度ヲ以テ是ニ比
較セラレルノハ甚ダ其當ヲ得ヌト云フコトヲ、私ハ諸君ニ斷言シテ憚ラヌ
ノデゴザリマス、斯ノ如ク私ガ今日ハ時機デナイト申シマスルナラバ或ハ
政府ノ人ハ又本案ニ贊成ヲ表セラレル人ハ言フデゴザリマセウ、今日ハ幸
ニモ日〓戰爭ノ結果トシマシテ償金ガ多分ニ國庫ニ這入ル、是ハ預合ヒノ
方法ニ依ッテ日本銀行ノ手ニ這入ルデハナイカ、既ニ多分ノ償金ガ這入ッ
テ、此時機ニ於テ幣制ノ改革ヲスルノハ、最モ好時機デアル、此時機ヲ失シタ
ナラバ、又幣制ノ改革ハ、何時望ンデモ出來ナイデアルト云フコトノ議論ガ、
最モ盛ナノデゴザリマス、是ハ如何デゴサリマスルガ、私ハ今日之ヲ斷行
シナクテモ、決シテ此償金ハ使ッテ海外ニ出シテシマハナクテモ宜シイ、イ
カサマ償金ガゴザイマスルケレドモ此償金ハ所謂日本銀行ノ準備金ト致
シマシテ積ンデ置イテ宜シイノデアル、之ヲ銀貨ニ引換ヘルトカ、銀貨ニ
鑄潰ストカ云フヤウナ必要ハ更ニナイノデアル、唯兌換券ニ對スルノ準備ト
シテ品物ガアレバ宜シイノデアルカラシテ、今日得タル所ノ金貨ガ必要ナモ
ノトシタナラバ、藏ノ中ニ積ンデ置イテ少シモ差支ナイデアル、唯幾ラカ兌換
引換ニ對スル所ノ銀貨ノ準備ガアリサヘスレバソレデ十分デアル、ソレ
故ニ政府ガ今日幣制ノ改革ヲシナカッタナラバ此折角取ッタル金ヲ使ツテ
シマウ、又時機ガナイヤウニナルト云フ事柄ハ如何デゴザリマセウカ、畢竟
議員抔ニ威シヲ喰ハスヤウナ、實ニ淺薄ナル處ノ處置デハゴザリマスマイカ
金ハ何時デモ積ンデ置ケル、積ンデ置イテ、サウシテ時機ガ來タナラバ其
時機ニ向ッテ斷行シテ、更ニ支ヘノナイコトデアル、若シ假リニ之ヲ一步ヲ讓
リマシテ使ハネバナラナイ折角取ッタ金貨モ使ハネバナラヌト致シマシ
タ所デ、其必要ガアルナラバ使ッテモ宜シイノデアル若シ他日ニ於テ幣制
改革ノ必要ガ、今日ガ時機デアル、今日斷行シナケレバナラヌト云フ所ノ時
節ガ到來致シマシタナラバ、其時ニ金貨公債ヲ募ッテ、金貨公債ヲ積ンデ以
テ幣制ノ改革ヲ致シテモ出來ルノデアル、今日ヲ棄テタナラバ、又出來ナイ、
取返シノ付カナイト云フ所ノ問題デハ決シテナイコトヽ私ハ考ヘル、旣ニ澳
地利ノ幣制改革ハ如何デゴザリマシタ、外債ヲ募集シ、外債ノ募集ニ依ッテ
此幣制ノ改革ヲシタト云フ事柄ハ、諸君ノ御存ジノアルコトデゴザリマスカ
ラシテ、今日時機ヲ外セバ、又斷行ノ出來ナイト云フ事柄ハ、少シ輕舉ナル
所ノ言ヒ方デハナイカト、私ハ深ク信ズル所ノ次第デゴザイマス、ソレカラ
次ニ本案ニ反對シマスル所ノ理由ト致シマシテ、此幣制改革ハ果シテ我國
ノ貿易ノ利益ヲ補塡スルニ必要ナモノデアルカ、ドウデアルト云フ〓ニ就イ
テ、最モ本員ノ苦慮致シマスル所ノ〓デゴザリマス、我國ノ貿易ハ私ガ喋々
申スマデモゴザイマセズ、銀貨ノ制度ヲ取リマシテ、銀貨ガ段々下落スル度
ニ世界各國ハ非常ニ貿易ノ不振ヲ唱ヘ、經濟社會ノ衰頽ヲ唱ヘテ居ル折柄
ニ於キマシテ、我國ハズン〓〓生產ハ膨脹ヲ致シ、國ノ富ヲ餘計造リ、外國
ノ貿易ヲ盛ンニスルト云フ事柄ハ諸君ガ御承知ノコトデアル、又是等ノ點
ニ就キマシテハ、旣ニ貨幣調査會ニ於キマシテ、異口同音ニ我國ノ貿易ハ主
トシテ銀貨ノ制度ニ依ッテ此發達ヲ致シタト云フ事柄ヲ、誰モ申シテ居ル次
第デゴザリマス、斯ノ如キ報告ガアル、確ナル所ノ報告ガアル、皆吾〓ノ
心中ニ於テ、此貿易發達ハ主トシテ銀貨ノ制デアルト云フコトヲ認メマシテ
尙ホ今後ノ貿易ノ發達モ益〓此銀貨ノ制度ニ依ッテ得ヲ得ントスルノ曉ニ於
キマシテ、何ガ故ニ之ヲ改革スルノデゴザリマセウ、果シテ貿易上ニ損ガ
アリ不利ガアルト云フナラバ又理窟ノ分ル話デゴザリマスケレドモ、貿易
上ノ發達スル所ノ一ノ原動力ト爲リ、大原動力ト爲ッテ居ルモノヲ捨テヽ日
本ノ貿易ヲスル、果シテ將來如何ナル所ノ形勢ニ陷ラシムル所ノ豫算ガアル
ノデアルカ、或ハ此〓ニ就キマシテ、松方大藏大臣ハ貨幣金銀ノ步合ノ
相場力ニ對シテ、貿易ノ上ニ障碍ヲ及ス、相場ガ狂フタメニ、貿易上ニ種々
ナ妨ヲ受ケル、イカサマ是ハ一ツノ理窟デゴザイマシテ、私モ日本ガ金貨
制ヲ執ッテ英吉利ト貿易スル時ニ、同ジ金貨制ノ二ツノ國デ相對シマシテ貿易
ヲスルナレバ、金銀ノ相場ヨリ生ズル所ノ困難ト云フモノハ、避ケラルヽト云
フ事柄ハ私ガ認メテ居ルノデアル併ナガラ日本ハ新大國トシマシテ、世
界ノ競爭場裡ニ立ッテ貿易ノ輸羸ヲ爭ハネバナラヌト云フ時ニ當リマシテ
如何デアリマセウ、唯爲換相場ニ依ッテ一ノ僅ナル困難ガアル斯ウ云フ樣
ナル事柄ヲ理窟トシマシテ、改革ヲスルノ必要ハドウデアルカ、私ハモウ一
ツソレヨリ大ナル所ノ利益ガアリマシテ、貿易ノ盛ナル所ノ原動力デアル所
ノ此銀貨デアルナラバ此銀貨ハ少々爲換上ニ於テ多少ノ不便ガアリ損ガ
アルトシマシテモ此損ハ僅デアルカラシテ、是ハ棄テヽ大ナル利益ヲ取ラ
ウト云フ所ノ望ミデアル、ソレ故ニ少クトモ日本ノ外國貿易ヲ盛ナラシメ、
日本ノ產業ノ發達力ヲ與ヘヤウトスル所ノ諸君ナラバドウシテモ此銀貨制
度ヲ棄テルト云フコトヲ、先ヅ今日ニ於テ主張スルコトハ出來ナイノデゴザ
リマス、ソレハ卽チ本案ガ外國貿易ノ衰頽ヲスル所ノ原因ト爲ラント云フ所
ノ〓カラシマシテ、反對ノ意ヲ表セナケレバナラヌノデアル次ニ私ガ本案
ニ對シマシテ反對ヲ致シマスルノハ、此法案ヲ通過致シマシタ後ニ、政府ガ
唱ヘル所ニ依リマスレバ一億五千万圓ノ合貨、卽チ金銀貨ヲ集メテ之ヲ準
備ト致シ、此準備ニ依ッテ先ヅ幣制改革ノ完全ナル鞏固ナル所ノ手段ヲ執
ルコトデアルト云フコトデゴザリマスルガ、イカサマ一億五千万圓ト云フ金
ハ容易ナラヌ金デアル、又得難イ金デアルト云フコトハ私ハ認メマスルガ
果シテ日本今日ノ狀況ニ考ヘテ見マシタナラバ一億五千万圓ノ準備金ガ、
幣制改革ヲ完全ニ行ハセ其準備金ガ鞏固ナルモノデアッテ、千万年ト云ヘ
バ長イコトデゴザリマスガ、三五年、十年間モ先ヅ續イテ準備金ガスッカ
リ減ラズニ坐ッテ居ルカ、ドウカト云フ事柄ヲ考ヘテ見マシタナラバ甚ダ
懸念ナル所ノ事實ガ玆ニ顯レテ來ルノデアル、卽チ今日ノ時勢ハドウデゴザ
イマスルカ、日〓戰爭ノ結果トシマシテ償金ガ這入ル-償金ガ這入ッタト
云フ事柄ハ著シク通貨ノ上ニ膨脹ヲ來シ膨脹ヲ來シタノミナラズ償金熱ト
云フモノガ、日本人民ノ頭ニ這入ッテ、銘々ノ融通ガ宜シイ種々ナル所ノ變
化ガ出マシテ、是等ノ原因ヨリシマシテ物價ノ上ニ非常ニ騰貴ヲ致シ、輸出
入ノ上ニ甚ダ不平均ヲ致シ、旣ニ昨年ノ如キハ五千六百万圓ト云フ大金ヲ海
外ニ出マシタノデアル斯ノ如キ今日ノ狀況ハ實ニ忌ムベキ嫌フベキ所謂
獨逸國ガ佛蘭西ヨリ五十億フランノ償金ヲ得マシテ、償金熱ニウカサレテ、
償金ノタメニ、大イナル損害ヲ及シ貿易ノ上ニ不平均ヲ數年間及シタト云
フコトハ、皆諸君ノ御承知ニナルコトデアル、斯ノ如キ事柄ハ今日我國ニ於
テモ、尙ホ數年間ハドウシテモ續カザルヲ得ヌノデアル如何ニ致シマシテ
モ此熱ノ冷メルマデノ間ハ所謂數年ノ間ハ、貿易上ニ於テ不平均ヲ生ズル
ト云フ事柄ハ、最モ明ナル事柄デアリマス、或ハ昨年ノ如ク五千餘万圓ノ
金ガ貿易上ニ不平均ヲ生ジナイカモ知レマセヌケレドモ尙ホ數千万圓ノ不
平均ハ、必ズ本年ニ於テモ生ジ、明年ニ於テモ生ズルト云フコトハ私ハ斷
言シテ決シテ差支ナイコトデアラウト信ズル、既ニ一月ニ於ケル所ノ輸出入
ノ不平均ニ於テモ、百何十万圓ノ金ガ出タト云フコトハ、既ニ御承知ニナル
コトデアラウ是等ノ點カラ致シマシテモ、先ヅ數年間ハ貿易上ノ不平均ヲ
生ズルト云フ事柄ガ、明カナル事實デアリマシタナラバドウデゴザイマセ
ウ、準備金ハイカサマ一億五千万圓アルト申シテモ、一方ニ於テ輸出入ノ不平
均カラゾロ〓〓金ガ出マシタナラバ到底此準備金ガ如何程アッテモ底ノナ
イ袋デアル、直チニ流レ出テシマフノデアルカラシマシテ、私ハ今日ノ狀况
ニ於テ此準備金ガ維持サレ得ルカ甚ダ今日ノ形勢ヨリシテ氣遣ニ堪ヘナ
イト云フコトヲ、諸君ニ御吹聽ヲ致スノデアル、啻ニ貿易上平均カラ是等ノ
事ガ生ジマスルノミナラズ、今日海外ニ流出シマシタ壹圓銀貨ガゴザイマ
ス、此銀貨ハ一億餘万圓銀貨ガ出テ居ルノデゴザイマス、併シ此一億餘万圓ノ
金ノ中デ、政府ハ再ビ金デモ上ッタ時ニ、日本ニ舞戾ッテ來ル所ノ銀貨ハ、僅ニ
八百万圓カ千万圓足ラズデアル斯ウ云フ事柄ヲ政府ハ主張スルノデアリマ
スガ、併シ一億餘万圓ノ金ガ苟モ海外ニ出マシタ以上ハ吾ミハ此金、此
銀貨ト云フモノハ決シテ八百万圓ヤ千万圓位デ、見越シヲ付ケルト云フコ
トハ、隨分輕イ請合デハゴザイマスマイカ、此八百万圓ハ政府ノ唱フル所ニ
據リマスレバ、各所在ノ領事ヲシテ調ベサセタト云フコトデゴザイマスガ
領事ガ其國ニ流通スル所ノ日本ノ銀貨ガ幾ラアルカト云フ事柄ハ、精密ニ調
ベルコトガ出來マセウカ隨分粗漏ナル報告デハ實際ナカラウカ、既ニ領事
ノナイ國デ、或ハ香港······柴根デアルトカ、或ハ厦門デアルトカ、日本ノ領
事館ノナイ國デ日本ノ貨幣ノアル時ニハドウシタカト云フニ、是ハ領事ガ
ナイカラ調ベル方法ガナイ、斯ウ云フ報告デアル斯ノ如キ報告ニ依ッテ、
一千万圓ヨリ還ラナイ、斯ウ云フ豫想ヲ以テ、此準備金ガ鞏固デアルト云フ
事柄ヲ唱ヘマシタナラバ如何デアル、若シモ一億万圓ト云フ金ガ支那ノ內地
ニ渡ツテ、種々ニ傷ヲ附ケラレ、或ハ潰サレテ居ル、或ハ支那人ガ貯藏シテ
持ッテ來ナイカモ知レマセヌ、併シ尙ホ數千万圓ノ金ハ、準備金ニ繰込デ置
カナケレバナラヌト云フコトハ、從來ノ事實ニ徵シテ明カナルコトデアル
斯ノ如ク準備金ニ於キマシテモ一億五千万圓ハ甚ダ鞏固ト言ハレヌ、日本
ノ形勢トシマシテ此準備金ハ鞏固デナイト云フ事柄ハ唯今申シマスルヤウ
ナ次第デゴザイマスルガ斯ノ如キ事ヲ申シマスレバ本案ニ贊成ナル諸君
ハ必ズ言フデアラウデ果シテ準備金ガ流出シ易イ、數年ノ後ニハ流出スル
氣遣ガアルト云フナラバ、矢張銀貨制度ヲ執ッテモ同ジ事デハナイカ今日
ノ儘デ抛ッテ置イテモ、此準備銀貨ト云フモノガ流レ出ルデハナイカサス
レバ金ニシテモ、銀ニシテモ、同一デアルト云フ駁論ヲナサルヽデゴザイマ
セウガ、是ハ金銀其物ニ於ケル所ノ社會ノ需要、社會ノ好ミ、社會ノ嗜欲、
是等ヲ知ラナイノデアル、今日各國ニ於ケル所ノ財政上ノ有樣ヲ見マスレバ、
成ルベク自國ニ向ッテ金ヲスイ吸致シ、金ヲ取ッテ來テ自分ノ準備金ヲ鞏固
ニ致シ、自分ノ財政ヲ固ク致シテ、互ニ金ノ取合セニナッテ居ル所ガ此世界
ノ有樣デアル、此時ニ於キマシテ一方ニ於テハ時機ガアレバ銀貨ヲ排斥シヤ
ウト云フ、斯ウ云フ所ノ國ガアル此國ニ向ヒマシテ、日本ガ腹ノ中ニ大切ニ
金ヲ暖メテ居リマシタナラバ、他カラ吸取ル所ノ力ガ强カッタナラバソ
レガ出テ往クノデアル、之ニ反シテ銀貨デアッタナラバ世界ガソレ程スイ
吸致シテ取ラネバナラヌト云フ欲望ガナイカラスイ吸力欲望ノ上ニ就イテ大
變ナ懸隔ガアルカラ、銀貨ト致シテ準備金ガ如何デアルカ金貨トシテ準備
金ガ如何デアルカト云フコトニ於キマシテ、同ジヤウナ譯デハゴザイマスル
ケレドモ、實際ニ於ケル所ノ結果ニ依ッテ見マシタナラバ二者ノ間ニハ大
イナル事柄ハ諸君ガ御承知ニナッタナラバ宜カラウト思フ(東尾平太郞君「重
岡君ノ演說ハ抑揚バカリデ、議論ノ要領ガ分ラナイカラ··」ト呼フ)分ラ
ネバ御控ヘナサイ(東尾平太郞君「音聲ノ抑揚ハ聽カヌデモ宜シイ、議論ノ
骨子ヲト呼フ)言論ノ自由ヲ得テ居ルカラ默ッテ御出デナサルガ宜
シイ(東尾平太郎君「言論デナイ、形容バカリノ演說ダ」ト呼フ)斯ノ如キ
準備金ニ於キマシテハ甚ダ不安心デアル、此準備金ガ將來ニ於テ維持サレル
カ、ドウデアルカト云フコトハ諸君ノ十分御了解ニナルコトデアリマシテ
モ、尙ホ準備金ニ就キマシテ甚ダ危險ナル〓ヲ申シマスルナラバ、我邦ハ遺憾
ナガラ關稅ガ獨立シテ居ナイ所ノ國デアル、關稅ガ獨立シテ居ナイ國デゴザ
マスルガ故ニ、世界ニ於キマスル所ノ金貨ヲスイ吸スル所ノ力ガ段々强ウゴ
ザイマシテ、其强イ所ノ力ガ唯凖備金ヲズン〓〓引出ス所ノ有樣ガ來タ時ニ
於テ、之ヲ防グ所ノ堤防ハ果シテドレデアル、若シ關稅ガ獨立致シテ居マシタ
ナラバ一國ノ周リニ向ッテ、大イナル鞏固ナル堤防ヲ築キマシテ、此準備
金ノ流出ヲ防グト云フ事柄ガ出來マスノデゴザイマス、其堤防ハ卽チ關稅デ
アル、關稅ヲ隨意ニ定メマシテ、保護稅ヲ掛ケマシテ、此準備金ノ流出ヲ防
ギ得ル所ノ堤防ガ各國卽チ文明諸國ニ於テ造リ得ルノデゴザイマスルケレ
ドモ遺憾ナガラ我邦ハ稅權囘復シタト云フノハ其名ノミデゴザイマシテ、
實際ニ於キマシテハ未ダ稅權ノ囘復ハ出來テ居ナイノデアル、所謂日本ノ稅
率、卽チ海關稅ハ各國トノ協定、卽チ相談ヅクデ出來タノデゴザリマスカラ
シテ、一朝準備金ノ流出ヲ防ガンナラヌ所ノ必要ガアッテ、堤防ヲ設ケント
シタ所デ、此堤防ハ決シテ設ケルコトハ出來ナイ方法デアル是ガ卽チ我國
ニ於キマシテハ最モ準備金ノ大切ニ保護スル所ノ方法ガ、缺ケテ居ルト云フ
事柄ヲ私ガ斷言スルノデゴザイマス、デ、斯ノ如ク保護スル方法モナシ、日
本ノ貿易上ノ傾キハ甚ダ流出ニ傾イテ居ルト云フ事柄ヲ見マスレバ一億五
千万圓ト云フ金ハ、決シテ是ニ安心シテ安閑ト眠ルコトハ出來ナイノデアリ
マスルト云フ事柄ハ、諸君モ十分御承知ニナラネバナラナイノデアリマス、
デ、斯ノ如キ危險ガゴザイマスルノミナラズ、政府ハ何ガ故ニ本問題ヲ咄嗟
ノ間ニ決シ、何故ニ此問題ヲ此議會ニ於テ是非トモ通過サセネバナラナイト
云フ所ノ必要ニ臨ンダ所ノ眞正ナル誠ノ事實ガ何處ニアルカ、何處ニ原因ガ
アルト云フ事柄ヲ私ハ探究シテ見マスレバ政府ハ決シテ本問題ヲ出スノハ
財政上ノ都合ニハ依ラナイ、今日ガ幣制改革ノ時機デアルト云フコトヲ認メ
タガ故ニ、ソレ〓ニ本問題ヲ出シタト云フケレドモ併ナガラ諸君ガ本年度
ノ豫算ニ於ケル所ノ歲入ノ不足、卽チ六千餘万圓ノ金ト云フモノハ是非公
債ヲ以テ募ラナケレバ此世帶ト云フモノハ所謂世渡リハ出來ナイト云フ所
ノ必要ニ迫ッテ來テ居ル、併ナガラ六千万圓ト云フ大金ハ日本ノ今日ノ經濟
社會ニ於テ、果シテ募リ得ルカドウカト云フ事柄ハ一目瞭然デアッテ、誰モ斯
ノ如キ大金ハ募リ得ナイト云フコトハ主張シ斷言シテ憚ラナイノデアル
ソレ故ニ政府ハ議會ニ向ッテ、此金ハ六千万圓ハ內債ヲ募ッテ都合ヲ立テル
トハ申シマスケレドモ併ナガラ到底出來ナイト云フ事柄ヲ腹ノ中デ見マス
カラシテ、何カ都合ガ付ク方法ガアレバト云フ所ノ單純ナル理由カラシテ
遂ニ財政上ノ都合カラ、會計上ノ遣リ繰リカラシテ本問題ヲ提出致シ、幣
制ノ改革ヲ致シ、日本ハ銀貨ヨリ金貨制度ヲ執ッタト云フ、斯ウ云フコトニ
ナッタナラバ各國ノ-文明諸國ノ金貨國ニ於キマシテハ進ンデ日本ノ
資本ヲ供シ、日本ノ公債ヲ買入レテ呉レルダラウ、サウスレバ六千万圓ノ金ハ
財政上見事融通ガ出來ルコトニナルデアラウト云フ豫想カラシテ、遂ニ本問
題ヲ出スニ至ッタデハナイカト私ハ信ズルノデアル、果シテ斯ノ如キ本案ヲ
決定シタ後ニ於テ、外國ノ資本家ガ澤山資本ヲ日本ニ下ロスカドウデアルカ、
是ハ最モ氣遣ハシイ〓デアル政府ハ太問題ヲ決スルナラバ安イ利息ノ資
本ガ澤山這入ッテ來ルト云フ想像ハ、或ハアベコベニ反對ノ結果ヲ見ルカモ
知ナイノデアル、卽チ日本ハ舊來銀貨制度ヲ執リ、銀貨制度ニ依ッテ國家ノ
發達ヲ來シ、國產ノ隆盛ヲ來スノデアリマスルニ、一朝社會ノ熱ガ金ニ傾キ
金ヲ皆執ル、文明諸國ハ金ヲ執ルカラシテ、吾ミモ文明諸國ノ仲間入ヲシタ
カラシテ、金制度ヲ執ルガ宜シカラウト云フアサハカナ志ヲ以テ、斯政上ノ
大變革ヲシタト云フコトハ各國ハ日本ニ向ッテ信用ヲ置クカモ知レヌガ
日本ハ今日ノ法ニ依ッテ、國力ノ發達ヲ來シタケレドモ、最早金貨制度ヲ執ッ
タナラバ今後ノ進步スル所ノ速力ハ最早是デ止ルノデアラウ、シタナラバ
日本ノ財政ハ將來見据ガ就イテ居ルカラシテ、此國ニ向ッテ資本ハ下サヌト
斯ウ云フヤウナ結果ガ生スルカ知レナイ、故ニ私ハ政府ガ豫想スル是ニ依タ
テ六千万圓ノ金ヲ作ラウト云フノハ所謂淺智惠デハナカラウカト心配致シ
やく、是ハ決シテ日本國ノミデハナイノデアル一體此幣制上ノ改革ハ、大
抵ノ國ヲ見マスルト、借金ノ都合ニ依リ自分ノ國ノ多分ノ外國債ヲ有シマ
シンっ其外國債ハ常ニ金貨デゴザイマシテ其金貨デアルガ故ニ、其利息ニ
ハ金貨デ拂ハナケレバナラナイ金貨デ拂フガ故ニ、年々金銀ノ比價カラ生
ズル所ノ差カラ致シマシテ、利息ハ据ハリデアリマスケレドモ、金ニ直シテ
拂フトキニハ澤山ニ要ッテ、甚ダ困ッテ居ルト、斯ウ云フヤウナコトガ重大
ナル所ノ原因トナリマシテ、各國幣制ノ上ニ於テ遂ニ改革ヲ及シタト云フ事
柄ハ私ガ隨分各國今日マデ改革ヲシマシタ所ノ諸國ニ就キマシテ、往々見
ル所ノ次第デアル、政府ガ決シテ是等ヲ隱シテ斯ウ理由デハナイトカ、何
トカ言ッテ餘リ滿足ナル顏ヲシテ居ル事柄ハ、隨分餘處々々シイ話デアッテ、
寧ロ淡泊ニ是ハ財政上ノ都合デアルト云フコトヲ斷言シテ言フノガ淡泊デ宜
シイノデアル、既ニ澳地利デアル、或ハ將ニ金制度ヲ採ラントスル所ノ露西
亞デアラウトモ是等ノ國ハ佛蘭西、英吉利抔ノ富ノアル國ニ向ッテ、負フ
所ノ外債ハ澤山デアッテ、其國ハ銀貨ノ制度デアルカラ、金ヲ買ッテ、利子
モ拂ハネバナラヌ、又其金貨ヲ一々拂フトキニ於テハ、金銀ノ差カラシテ不利
益ガアルト云フ理由カラシテ、是等ノ國ガ幣制改革ノ手段トシテ遂ニ金本位
ノ制度ヲ執ッタト云フ事柄ハ、先ヅ今申シタヤウナ澳地利ナリ又アルゼン
タイン、チリーデゴザイマス、其外何レノ國ニ於キマシテモ、多少財政上ノ
都合カラシテ斯ノ如キ幣制ノ改革ヲシタト云フハ事實ニ徵シテ明カデアル
是ガ政府ガ本案ヲ提出スル所ノ第一ノ理由デゴザイマスケレドモ第二ニ
モウ一ツアラウト思フ、卽チ裡面ノ理由、卽チ第二ノ理由ト云フモノハ、松方
伯ハ財政上ノ-財政界ニ於ケル所謂經濟界ニ於ケル所ノ實ニ有力ナル人デ
アル、又其信用ニ於キマシテモ誠ニ私共ノ感服スル程ノ人デゴザリマス
此人ガ昨年內閣ヲ組織致シ、松方內閣ヲ組織シタナラバ、日本ノ財政界ノ
上ニ於テハ、實ニ大イナル所ノ信用ヲ博シ、松方伯ノ技倆ヲ財政界ニ於テ見ル
ト云フコトハ、事業家、經濟家、民間ノ隨分金持連中ガ竊ニ望ンダ所ノ次第
デアル、然ルニ實際內閣組織以來、日本ノ經濟界ハドウデゴザリマセウ、諸
君ガ昨年ノ秋以來御承知ノ通恐慌ガ起リパニックガ起ルト云フ、種々ノ風評
ガ日本ニ起リ、其風評ノタメニ日本ノ經濟ハ如何動亂スルデアラウカト云フ
事柄ハ皆〓心配ヲ致シタ所ノ次第デアリマシタガ、併シ幸ニシテ今日ハド
ウヤラ斯ウヤラ囘復ニ傾イタヤウデアリマスケレドモ併シ松方伯ノ財政上
ノ技倆ハ遺憾ナガラ今日マデ見ルコトガ出來ズ、寧ロ恐慌ガ起リハシナイ
カト云フヤウナ事柄ノ內閣組織以來其樣ナ有樣デアリマスカラシテ、今日
ハドウカ何カ松方伯ノ信用ヲ維持シ將ニ信用ガ幾ラカ傾キハセヌカト云フ
今日ニ於テ、是等ノ問題ヲ議スルハ實ニ內閣ノ信用、松方伯ノ財政上ノ技倆
ヲ維持スルタメニ必要デハナイカト云フ所ノ論點ガ、此問題ヲ提出スル所ノ
大理由ニナッテハ居ナイカト云フコトヲ私ガ竊ニ想像ヲ致スノデゴザイマ
ス果シテ斯ノ如ク唯一時ノ功名心、一時ノ政策、一時ノ冐險ニ依ッテ、果
シテ日本ノ幣制ガ都合好ク往ッタラバ誠ニ松方內閣ノミナラズ、日本帝國
ノタメニ萬々歲デゴザイマスケレドモ若モ失策ヲ致シマシタラドウデゴザ
イマセウ唯政治家ノ權謀ノタメニ、少シ位ノ政策ヲ用ヒルコトハ政治家
トシテ許シマスルガ、一國ノ盛衰ニ關スル大問題ヲ、自家ノ藥囊ノ中ニ供ス
ル-自家ノ權謀材料ニ供スルコトハ現政府ノタメニ惜ム次第デアル、餘
リ長ク致シテハ諸君ノ御退屈デゴザイマスカラ、反對ノ理由ハ斯ノ如キ次第
デゴザリマス
〔河島醇君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=48
-
049・河島醇
○河島醇君(二百八番) 諸君、此時機時運ニ最モ國家ニ切要ナル所ノ本案ニ
向ヒマシテ、本員ガ登壇ヲ致シマシタノハ本員ニ取ッテ最モ名譽トスル所
デゴザリマス、抑〓本問題ハ數十年來歐洲各國ニ於ケル所ノ一大問題デゴザ
リマシテ、學理上、若クハ實際上、最モ本問題ニ就イテ〓究調査ヲ要シタ問
題デゴザリマス、卽チ輓近十數年間ニ於キマシテ、金貨比價ノ變動ト云フモ
ノニ非常ノ激變ヲ加ヘマシタガ故ニ、其暴騰暴落ハ遂ニ極樂ノ帝國ニ向ッ
テ幾許ノ影響ヲ及シマシタガ故ニ、我政府ハ先キニ勅令ヲ以テ貨幣制度調査
會ヲ設立セラレ、其調查會ニ向ッテ本院ハ巨額ノ費用ヲ協贊シタノデゴザイマ
ス、爾來其調査會設立以來、卽チ明治二十六年ヨリ一一十八年間ニ至ル、凡ソ
二十餘箇月ノ間、十分ナル調査ヲ遂ゲ、卽チ其調査ノ材料ト致シマシテハ
在外公使、若クハ領事ニ訓令ヲ下シテ、各國ノ狀況、及是ニ對スル所ノ調査
ノ材料、其他正金銀行ノ如キハ各在外ノ支店ニ訓令シ又日本銀行ノ如キハ
特ニ人員ヲ印度ニ派遣シテ、其實況ヲ調査シタ位ノ問題デゴザリマス、ソレ
故ニ此問題タルヤ、朝野ノ間ニ十分ニ歲月ヲ積ミ、緻密ニ緻密ヲ加ヘ、鄭重
ニ鄭重ヲ加ヘタル所ノ問題デゴザリマス今ヤソレコレ調査ノ結果、遂ニ本
案ガ本院ニ提出ニナッタノデゴザリマスガ、本案提出以來、未ダ日尙ホ淺ウ
ゴザリマスケレドモ、其提出ノ前後ニ於キマシテ、朝野ハ果シテ如何デゴザ
リマシタカ實業家ニ學者ニ、新聞社ニ、政黨社會ニ於テ、凡ソ政治上ニ
眼ヲ注ギ、社會上ニ注意ヲ致シマスル者ニ於キマシテハ、孜々トシテ此調査
ニ從事シ、又朝野ノ名士ト稱フル諸君ハ普ク各〓平生執ル所ノ議論ヲ發表
シ、現ニ朝野ノ一大講究問題ト爲ッテ居ルノデゴザイマス、而シテ此大問題
ガ既ニ海外各國ニ於キマシテ、既ニ輿論ノ歸一スルコトニナッテ居リマスノ
ミナラズ、亦我本邦ニ於キマシテモ、數歳月ヲ費シテ調査ノ結果、今日ニ至ッ
タ譯デゴザリマス、故ニ之ヲ自他ノ問題ニ比較ヲ致シマシタナラバ最モ
緻密ニ、最モ鄭重ニ調査ヲ要シタ所ノ問題デアルト云フコトヲ斷言スルノ
デゴザリマス、抑〓本員ハ金貨單本位ニ徹頭徹尾贊成致シマス者デゴザリマ
ス、何故ニ金貨單本位ニ斯ノ如ク贊成ヲ致スカト申シテ見レバ凡ソ貨幣ハ
百貨賣買交換的ノ價格ヲ有スルモノデアッテ、卽チ物價ノ價格ヲ秤定スル所
ノ度量衡、卽チ是ガ尺度デゴザイマス、是ガ一ノ衡デアッテ、卽チ是ハ尺度
デアルソレデ其尺度ノ原位ト云フモノハ成ルベク一定不動ノモノデナク
テハナラヌ、其物質ハ始終動クモノデハナリマセヌ、必ズ一定不動ノ性質ヲ
有スベキモノヲ撰バナケレバナリマセヌ、ソレ故ニ金貨ト云フモノハ今ヤ
殆ド世界共通ノ實價ヲ有スルモノデアッテ、世界共通ノ貨幣ト爲ッテ居ル所
ノモノデゴザリマス、ソレ故ニ金銀比價ノ變動ハ、頗ル我帝國ニ向ッテ影響
ヲ受ケタコトデゴザリマスルガ故ニ、今此時機時運ニ依ッテ整制改革ヲ爲ス
ト云フモノハ最モ適當ナコトデアッテ、卽チ幣制ノ改革ハ國家經濟ノ基
礎ヲ鞏固ニスル所ノ原因デゴザリマスガ故ニ、願クハ世界各國共通ノ定價ア
ル所ノ金單本位制ヲ施行スルト云フコトハ、我帝國將來ノ經濟上、卽チ國家
經濟ノ基礎ヲ鞏固ニスル上ニ就イテ、最モ必要アリト認メルノデゴザイマ
ス、ソレ故ニ本員ガ第一本案ニ向ッテ贊成ヲ表スル所ノ理由ハ、我帝國經濟的
國是ヲ定ムル上ニ就イテデゴザイマス、富國强兵ハ卽チ此優勝劣敗、競爭世
界ニ於ケル所ノ最モ樞要ナル要務デゴザイマスガ、孰モ自國ノ治安公寧ヲ保
タント致シマスレバ、第一兵ヲ强クシ國ヲ富サナケレバナラヌ、今兵ヲ强ウセ
ントスレバ固ヨリ國ヲ富スノ策ヲ講ゼナケレバナラヌ、卽チ富國ハ一國ノ
生存ノ依ッテ係ル所デゴザイマスカラ、歐米各國トナク、又東洋諸國トナ
〃各〓自國ノ生存發達ヲ圖ルト云フコトハ、其程度ハ異ニ致シマスルケレ
ドモ、歸スル所ハ必ズ一デアルト考ヘテ居リマス、申スマデモゴザリマセヌ、
國ノ進步發達上ニ就キマシテハ、何レノ諸國ト雖モ、最初ハ土地ノ物產ヲ增殖
セシメ、卽チ農業經濟ヲ首ト致シマス、是レ卽チ經濟社會初期ノ時代デゴザイ
マリ、自國ノ生產ノ發達追〓〓ニ就クニ隨ッテ、是ニ精巧ヲ加ヘ、卽チ工業
ヲ興シ、併セテ自國ノ生產ヲ發達スル、卽チ物產ノ增殖ヲ計ルト云フコト
ニナリマス、ソレヨリ段々進ンデ參リマスト、自國ノ生產力、卽チ物貨ヲシテ
廣ク海外ニ開キ、而シテ內外ニ於テ宜シク其利益ヲ占メルト云フコトヲシナ
クテハナラヌ、卽チ世界ノ市場ニ於テ自國ノ物產ヲ賣買シ、是ニ依ッテ自國
ノ利益ヲ得ナクテハナラヌト云フノガ、卽チ其發達ノ順序デアルト思ッテ居
リマス、今ヤ我帝國ノ現況ヲ見マスルニ國家經濟的ノ發達進步ハ日ニ尙ホ
著クゴザイマシテ、今日ハ農產發達ノ時代モ未ダ全キヲ得ナイ所モゴザイマ
スルガ、商工業ハ日ニ盛大ニ趨キ、旣ニ海外貿易ニ於テ尙ホ步ヲ進メテ、大
ミニ將來ノ計畫ヲ爲サウ、則チ我商工業ノ進歩發達ヲ鞏固ナラシメナケレバ
ナラヌト云フノハ今日ノ時運必要デアラウト思ヒマス、而シテ又我帝國ノ
世界ニ對スル所ノ地位ハ果シテドウデアルカト問フテ見マスレバ、則チ諸
般ノ文物制度ト伴ヒマシテ、我經濟上ノ獨立進步モ又今日ヲ期シテ大イニ發
達ヲ計ラナケレバナラヌノデアリマス則チ國威ノ宣揚ト伴フテ、經濟的獨
立ヲ有スルト云フコトヲ努メナクテハナラヌノデアリマス、ソレ故ニ今國ヲ
富マシ兵ヲ强クスルノ策ハ、內國ノ殖產興業ノ發達ヲ計リ、外海外貿易ヲ奬
動致シテ、十分ニ其富ヲ內外ニ求ムルト云フコトヲ努メナクテハナラヌ、則チ
商工業ノ發達ハ宜シク外ニ向ッテ十分ニ其利益ヲ收ムルト云フコトヲ計ラナ
クテハナリマセヌ是レ我帝國ガ經濟的國是ヲ定ムル順序方法デアラウト思
ヒマス、ソレ故ニ從來我帝國ノ行ヒ來リマシタ所ノ、此銀貨本位ナルモノガ
卽チ世界市場ニ於テ購買力ヲ失ハントスルモノデゴザイマス、今ヤ大イニ購
買力ヲ減殺セラレテ居ル所ノ貨幣デゴザイマス、ソレ故ニ我帝國ハ更ニ通用
貨幣ノ購買力ヲ將來ニ維持センタメ、宜シク今日ノ時機ヲ計リ、世界共通貿
易上ノ殆ド通貨ト爲ッテ居ル所ノ金單本位ヲ採ルト云フノハ最モ時機ニ適
シ、我帝國將來ノ經濟的國是ヲ定ムル上ニ於テ、最モ適當ナル法案デアル
ト考ヘマス、抑〓優勝劣敗世界競爭場裡ニ對シマシテ、十分ニ貿易上ノ爭、
卽チ利益ノ爭ヲ爲サウトスレバ吾モ又彼ト同ク世界共通ノ貨幣ヲ保タナ
クテハナリマセヌ、之ヲ若シ戰爭ニ例ヘテ見マスレバ、敵ガ軍器ニ軍艦ニ
最モ新式精練ノ物ヲ持ッテ居レバ、吾亦是ニ向ッテ刀槍弓矢ヲ以テ戰ヲ挑ム
コトハ出來ナイ、則チ彼ト均シキ所ノ精銳ナル兵隊ト、又銳利ナル所ノ軍器
ヲ持ッテ、是ト戰ヲ爲サナクテハナラヌ、則チ是ト勝敗ヲ爭ハナクテハナラ
ヌノデゴザイマス、恰モ銀貨ヲ以テ今日世界ノ貿易市場ニ向ッテ、彼ノ富强
文明ナル所ノ各國ニ對シテ、是ト利益ヲ爭フト云フコトハ、恰モ今日ノ戰爭
ニ向ッテ刀槍弓矢ヲ持ッテ、訓練アル所ノ兵隊ニ向フガ如キモノデゴザイマ
ス、又第二ニ本案ニ贊成ヲ表スル所ノ理由ハ何デアルカト申シテ見レバ、改
正條約實施準備ニ就イテヾアリマス、改正條約ノ實施ハ既ニ今後二年餘デゴ
ザイマシテ、明治三十二年ノ半バョリ致シテ、是ガ實施セラレルモノデゴザ
イマス、御承知ノ如ク條約改正ノ問題ハ、數十年來困難ナル問題デゴザイマ
シタガ、今ヤ戰勝ノ餘威ニ由ッテ、其改正條約モ殆ド局ヲ終リ、將ニ是ガ實
施ニ著手セラレントスルノ時デアリマス、抑〓改正條約ノ困難ハ何デアルカ
ト申シテ見マスレバ、御承知ノ如ク是ハ最モ經濟上ニ關係ヲ有スル〓デゴザ
イマス何シニ是ガ經濟上ノ點ニ於テ頗ル困難ヲ感ジタカト申シテ見レバ、
御承知ノ如ク歐米各國相互ノ條約ト云フモノハ各〓自國ノ利益ト他國ノ利
益ト交換的ニ諦盟ヲ致シタモノデアル、然ルニ歐米各國ガ東洋諸國ニ向ッタ
所ノ貿易條約ハ、果シテドウデアルカト申シテ見レバ彼ノ治外法權ノ如キ、
領事裁判ノ如キ、其歸因ハ何デアルカト申シテ見レバ、彼ハ則チ他國ニ於ケ
ル所ノ貿易上ノ實利ヲ占メヤウ、實權ヲ得ヤウト云フノガ目的デアリマス、
抑〓又此歐米各國ガ東洋諸國及南洋諸國ニ向ッテノ植民政策ニ二種ノ區別ガア
リマス、其二種ノ區別ト申スモノハ、一ハ政治的侵略デアッテ、二ハ營利的侵
略デアリマス所謂北方ノ强國ガ西南部ニ向ッテ南進シテ參リマス、南下シ
テ參リマスノハ何デアルカト申シテ見レバ、是レ卽チ政治的侵略政策デゴザ
イマス、而シテ歐洲西部ノ諸國ガ東洋諸邦ニ向ッテ植民地ヲ拵ヘ又進ンテ
極東ニ向ッテ參リマスノハ何デアルカト申シテ見レバ、是レ卽チ營利的侵略
政策デアリマス、然ルニ極東ノ諸國、我帝國及支那帝國ノ如キハ、旣ニ印度
ノ諸邦若クハ中央亞細亞等ニ於ケル所ノ諸國ト進歩ノ度合ヲ異ニスルガタメ
ニ直チニ政略的侵略若クハ營利的侵略ヲ施スコトガ出來ズ、其實條約ノ條
規ニ據ッテ商權ノ占有ヲ得ヤウ、商賣ノ機利ヲ專ニ爲サウト云フノガ、卽チ
チ營利的侵略政策ニ一步ヲ進メタ所ノ政策デアルノデアリマス、ソレガ故ニ
歐米各國ハ東洋諸國我帝國ニ向ッテモ治外法權、領事裁判ト云フコトヲ原
ニ致シテ、總テ貿易上ノ權利ヲ占有シテ居ッタノハ久シイコトデアリマス、則
チ營利的方針ニ依テ商權ヲ占有シヤウト云フ目的デゴザイマスルガ故ニ、從
來條約改正ト云フモノガ非常ニ困難ヲ致シタノデゴザイマス、而シテ今ヤ
改正條約ハ實施セラレントスル所ノ有樣デゴザイマスルガ、其改正條約ノ結
果ト致シテ申スマデモアリマセヌ、内地雜居ト云フコトガ出來テ參リマス、則
チ內外人民ト云フモノガ彼我ノ區別ナク自由ニ營業ヲ爲スコトガ出來ル、自
由ニ商工業ヲ內地デ營ムコトガ出來マス、是マデハ內外ノ區別、則チ日本帝
國臣民ト外國ノ臣民トハ、權利上ニ區別ガゴザイマシタガ故ニ、自カラ法律
INSEN
上ノ制裁ニ依ッテ、甲ノ利益ハ乙ガ侵スコトガ出來ナイ場合ニナッテ居リマ
シタケレドモ、改正條約實施ノ結果、卽チ彼我內地ニ雜居ヲ致シテ居ル曉ニ
於キマシテハ、固ヨリ內地人民ト同權、彼モ亦內地ニ於テ營業ヲ自由ニスル
ト云フ結果ニナリマス、サウ致シテ見マスレバ、今日ノ內外貿易、卽チ橫
濱神戶ノ貿易ヲ以テ、內外貿易ト考ヘテ居ッタ時代トハ大イニ趣ヲ異ニ
致シマスルガ故ニ是ヨリ日本帝國ノ商工業家ハ一層銳意奮勵ヲ致シマシ
テ、彼ノ經驗アリ資產アル所ノ人民ト十分ニ貿易場裡ニ於テ優勢ヲ占ムル
ト云フコトヲ務メナケレバナラヌ、ソレヲ、務ムル上ニ於テ何ガ必要カト申
シマスレバ最モ低利ノ資本ヲ應用シテ、安イ勞役賃ト原料トヲ以テ、十分
ニ未ダ內地雜居ノ開ケザル前ニ當ッテ、其利益ヲ占ムル所ノ準備ヲナサナケ
レバナラヌノデゴザイマス今ヤ我帝國經濟上ノ有樣ハドウデアルカト申シ
マスレバ、所謂低利ノ資本ト云フモノヲ利用スル方便ガナイ、若シ本案ガ通過
シテ金貨制度ニナリ、從ッテ外資ノ輸入ト云フコトガゴザリマシタナラバ
日本メ商工業社會ハ低利ノ資本ヲ利用シテ、卽チ內地雜居ノ內外人民、自由
營業ヲ爲サヾル先キニ當ッテ、十分ニ其準備ヲ爲シ十分ニ彼ト競爭スル所
ノ手段ヲ爲スコトガ出來ヤウト思フノデアル今ヤ鎖國的籠城主義ヲ執ルト
キデハゴザイマセヌ、卽チ我帝國ハ開國進取ノ國是ヲ以テ、外交上ノ方針ト
致シタ以上ハ、固ヨリ今日ハ決シテ鎖國的割據主義ヲ執ッテ、僅ニ法律上ノ
制裁、其他ノ力ニ依ッテ、今日僅ノ利益ヲ爭フト云フコトヲ鑑ルトキデナイ、
天ハニ進ンデ彼ト智力ヲ爭ヒ、十分ニ自カラ進ンデ低利ノ資本ヲ利用シテ、併
テ世界貿易市場ニ於テ、彼ノ經驗アル所ノ貿易業者ト、十分ナル所ノ競爭ヲ
爲スト云フコトヲ今日ヨリ務メル場合デゴザイマス、ソレニ就キマシテハ
第一ニ我商工業者ハ廣ク世界ノ市場ヨリシテ、低利ナル資本ヲ利用シ、是一
依ッテ以テ十分ニ我國ノ商工業ノ發達ヲ圖ルト云フコトヲ務メナケレバナラ
又若シ人民各自ガ自主自營ノ方針ヲ執ルコトガ出來ズシテ、若シ內地雜居、
內外人民自由ニ貿易ヲ營ミマシタトキニ於キマシテ、彼ト競爭スルコトガ出
來ナイ曉ニハ、數年刻苦經營シタ條約改正モ、或ハ國家ニ對シテ其效ガナイ
コトニナリマスソレ故ニ此法案ノ實施ト共ニ廣ク、世界ノ貿易市場ヨリ低
利ノ資本ヲ供給シ、是ニ依ッテ以テ十分ニ內地雜居自由營業ニ對シテ優勢
ヲ占ムルト云フコトヲナサナケレバナラヌ、此事ニ就イテ金單本位制ノ採
用最モ必要ト認メマス、又第三ニ本員ガ本案ニ向ッテ贊成ヲ表スルノハ何
ンデアルカト云フト卽チ我財政ノ基礎ヲ鞏固ニスル〓ニ於テヾゴザイマ
ス抑〓我射政ノ基礎ハ、固ヨリ鞏固デハゴザリマスケレドモ、御承知ノ如ク、
金銀比價ノ變動ヨリ致シテ其影響ハ直接ニ國家ノ財源、歲出ニ關係ヲ及シ
例ヘテ申シマスレバ在外公使館、其他外國ニ對シ仕拂フ費途ニ對シテハ
殆ド豫算モ立テ難イ有樣デアリマス、ソレノミナラズ輸出入ノ不平均ニ就キ
マシテモ此銀貨本位ハ不便ト云フコトハ申スマデモナイコトデアリマスガ
故ニ、今ハ宣シク財政ノ基礎ヲ鞏固ニスルタメニ、進ンデ金貨本位ヲ採ラナ
ケレバナラヌ所デゴザイマス固ヨリ金貨本位ヲ採ルト云フコトハ一四ノ
經濟的國是ヲ定ムル上ニ就イテ、又改正條約實施ノ〓ニ就イテ、又財政ノ基
礎ヲ鞏固ニスル〓ニ於テ、ソレガ金貨本位制ヲ採用スル主意ノ重モナル所ノ
原因デハゴザイマスケレドモ、是ニ從ッテ生ズル利益ハ何ンデアルカト申シ
テ見マスレバ、此金貨單本位制ガ施行セラルヽト同時ニ、外ニ對スル日本帝
國ノ財政上經濟上ノ信用ハ、著シク增加スルノデゴザイマス、固ヨリ戰後經
營上ニ於テハ國費ノ增加スルト云フコトハ申スマデモナイコトデアッテ
今ヤ其增加ハ避クベカラザルコトデゴザイマスケレドモ、若シ今日政府ガ進
デ財政上ニ積極自動的ノ方略ヲ執ラズンバ、到底今日膨脹シタ國費ヲ維持ス
ルコトハ殆ド困難デアリマセウ、何ヲ以テ積極自動的ノ方略ト申スカト申
シテ見マスレバ卽チ軍備擴張、其他旣ニ債金ニ依ッテ費途ガ定メテゴザイ
マスケレドモ、尙ホ國家樞要ノ事業ニ對シテハ、事業公債ヲ募ッテ是ヲ以テ
費途ニ供スル設計ニナッテ居リマス、其事業公債ハ申スマデモナク、是ヲ內
地ノ貿易市場ニ於テ募集シナケレバナラヌ、卽チ今日經濟上ノ有樣、巨額ノ費
途ヲ悉ク內地ノ市場デ募集スルコトガ出來マセウカ、又內地ノ貿易市場ニ其
資金ハイヅレヨリ得ルコトガ出來マスカ、若シ幸ニ金貨本位制度ガ施カレタ
ナラバ、日本ノ貿易市場ニつ世界ノ貿易市場ヨリ低利ノ資金ヲ供給スル便ガ
ゴザイマスガ故ニ、我帝國政府ガ募ラントスル所ノ事業公債モヨ容易ニ其目
的ヲ達スルコトガ出來マス段々外債ニ向ッテ反對ノ諸君ガゴザイマスガ
本員モ外債必ズ利アリトハ言ハヌサリナガラ外資輸入ト、外債トハ固ヨリ
其性質ヲ異ニシテ居ル外債ハ特別ノ條約、彼我協定ノ公債デゴザイマスガ
故ニ、或ハ外債ヲ起ス場合ニ於キマシテハ特別ノ抵當ヲ置キ若クハ特別
ノ條件ヲ置カナケレバナラヌノデゴザイマス、諸君モ固ヨリ御承知ノコトデ
ゴザイマスガ、外債ヲ起ス場合ニ於テハ、例ヘバ四朱利附ノ外債ヲ倫敦市場
ニ於テ募ルトスレバ、第一ニ倫敦市場ニ於テハ一ツノシンヂゲート卽チ仲
立人ガ組合ヲ致シテ、卽チ組合ガ公債ヲ引受ケマス、其組合ハ固ヨリ幾許ノ
利益ヲ受クルノミナラズ、又從ッテ彼ノ國デ發行スル場合ニハ此印刷ノ費
用、若クハ公債ニ對スル稅金其他、卽チ印紙稅其他ノ費用ト云フモノガ巨額
ニナリマスガ故ニ、例ヘバ百圓ノ額面ノ公債ハ實際九十五圓カ、若クハ九十
五圓以下デナクテハ募集スルコトガ出來ナイノデアリマス、其殘リノ額面ニ
對スル所ノ利益ハ、右申シタ所ノ仲立人等ガ引受ケルタメニ作ッタ所ノ組合
ノ手數料、若クハ印紙稅其他ノ費用ガ掛リマス、故ニ縱令四朱ノ利子デアッテ
モ額面通ニ直チニ募集スルト云フコトハ實際出來ナイモノデゴザイマス
其邊ノ關係デゴザイマスガ故ニ、外國公債ト云フモノハナカ〓〓募集ニ手數
ガ掛リ、又其結果ハ國ノ餘リ利益ニナルモノデハゴザイマセヌ、是ニ反對致
シテ卽チ內國債ヲ、廣ク海外ノ市場ニ賣買セラルヽト云フコトハ自國ノ國
定公債ガ、其信用ニ依ッテ世界ノ貿易市場ニ販賣セラルヽト云フ所ノ結果デ
ゴザイマスルガ故ニ、一モ外債ノ如ク牽束ヲ受ケズシテ自由ニ外資ヲ引入
レルト云フコトガ出來ルノデアリマス、又此貨幣改革方法ニ於テハ、段々是
ニハ懸念ヲスル人モゴザイマスケレドモ申スマデモナク自國卽チ國定ノ公
債デアレバ、之ヲ外國人ガ各自ニ好ンデ買入レタモノデゴザイマスガ故ニ、
彼ニ十分ナル所ノ特權アルモノデハナイ、卽チ政府ハ法律ニ規定シテアル所
ノ條項ニ依ッテ、隨意ニ其處分ガ出來ルノデゴザイマス、ソレ故ニ今金貨本位
制施行ノ結果ト致シテ日本ノ公債證書ガ自由ニ世界ノ貿易市場ニ販賣セラ
4從タテ外資ガ輪入致スト云フ結果ハ豈啻ニ經濟上ニ大キナル利益ヲ與
フルノミナラズ戰後經營ノ問題ニ就イテ國家須要ナル所ノ事業モ亦容易
ニ起スト云フコトガ出來マス、故ニ是ハ固ヨリ從ッテ生ジタ所ノ利益デゴザ
イマス卽チ從因デゴザイマスケレドモ是又戰後財政上ニ於テ最モ利益ナ
ルコトデゴザイマス、ソレ故ニ金貨單本位制ト云フモノハ、財政上ノ基礎ヲ
鞏固ニスル〓、若クハ戰後財政ノ計畫ヲ實施スル〓ニ於テ、最モ利益デアル
ト云フコトヲ本員ハ主張スルモノデゴザイマス、又第四ニ本員ガ本案ニ向ッテ
贊成ヲ表スルモノハ現今ノ經濟社會卽チ我商工業ノ進步發達上ニ就イテヾ
ゴザイマス現今ノ經濟界、卽チ我商工業ノ進步發達上ニ就イテヾゴザイマ
ズ內外貿易上ニ於テ最モ損害ヲ受ケタモノハ何デアルカト言ヘバ金銀比
價ノ變動ヨリ生ジ彼我物價ニ非常ナ暴騰暴落ヲ來シタ、卽チ物價ノ平準ヲ失
フタト云フコトガ、一番損害ノ本デゴザイマスソレハ何故ニ彼我ノ物價ニ
斯ノ如キ暴騰暴落ヲ來シ普ク物價ノ平準ヲ失ハシメタカト申シテ見レバ
則チ日本帝國ハ銀單本位制デアッテ、我帝國ト直接取引ヲ爲ス所ノ最モ巨額
ノ輸出入ヲ爲ス所ハ何レノ國デアルカト問フテ見レバ、殆ト金貨國デゴザイ
せい、成程其幾分ハ我東洋ノ隣邦卽チ銀貨國ニ向ッテ輸出スルモノデゴザイ
マスケレドモ今日重ナル所ノ輸出物ニ就イテモ、其原料ハ凡ツ金貨國ヨリ
購求シナクテハナラズ、又日本ガ今日購求ヲスル所ノ重モナル輸入品ハ悉
ク金貨國ヨリ買入レルモノデゴザイマス又日本ノ特產輸出品ハ何デアルカ
ト云フト、生糸、製茶等ガ最モ其巨額ナルモノデアッテ我巨額ナル輸出物卽
チ特有物產ハ悉ク金貨國ニ向ッテ賣買ヲスルモノデアリマス、ソレ故ニ今
日金銀比價ノ變動ヲ免レ、金銀比價ノ變動ノタメニ貿易上、取引上巨額ノ利
益ヲ外國ノ銀行其他ニ占有セラレタト云フコトハ夥シイコトデゴザイマスル
ガ今日本案ガ通過致シテ、我帝國ガ金貨單本位トナッタニ曉ニハ、決シテ金
銀比價ノ變動ノタメニ、中間ニアル所ノ外國銀行ヨリシテ巨額ノ利益ヲ占メ
ラルヽト云フ所ノ憂ガナクナルノデアリマス、唯爲換ノ方ハ幾分ノ利益ヲ彼
ガ得ルコトモゴザイマセウケレドモ、爲換以外ニ故ラニ金銀變動ノ結果、
巨額ノ打步ヲ拂フト云フガ如キコトハナイノデゴザイマスガ故ニ、其利益上
ヨリ致シテ、內外貿易ノ進歩發達期シテ疑フベカラザルコトデゴザイマス
又日本ノ物價ガ平準ヲ致シタナラバ彼ノ海外諸國ハ一定ノ計算ヲ立テヽ
日本ノ重ナル所ノ物產生糸ノ如キ、製茶ノ如キ、其他彼ガ製造物ノ原料ト致
ス所ノ諸物品ハ、競ッテ買入レルデゴザイマセウ、今金銀變動ノタメニハ或
ハ一時日本ノ特產物ガ多額ノ取引ヲ爲シタト云フコトモゴザイマスルケレド
毛、ソレハ一時ノコトデアッテ永久ノ取引ト云フモノヽ必ズ物價ガ、凡ソ
平準ヲ致シ、一定ノ價カナクテハ到底廣ク購買ハ出來ルモノデハゴザイマ
セヌ、ソレ故ニ日本ノ物價ガ金銀比價ノ餘響ヲ被ラズ、一定ノ價格ヲ有シタ
モノデゴザイマスナラバ其結果トシテ日本ノ貨物ガ海外諸國ニ向ッテ販路
ガ擴マリ、卽チ多額ノモノガ輸出スルト云フコトハ、疑フベカラザルコトデ
ゴザイマス、而シテ金銀比價ノ變動ニ就イテハ、外國銀行ガ貿易上ニ於テIE)
額ノ利益ヲ傍ニ占ムルノミナラズ、從ッテ我商業界ノ基本ト云フモノガ確立
シナカッタノデアリマス、卽チ金銀比價ノ變動ニ依ッテ、或商業界ノ基礎ハ
一向確定致サナカッタノデアル、ソレ故ニ我商業界ト云フモノハ始終浮沈
極リナイ有樣デアッタノデアリマス、卽チ商工業ノ浮沈ハ全ク金銀比價變
動ノ結果、卽チ內外貿易ノ不權衡ノ結果ト云フモノガ、其大イナル原因デゴ
ザリマス、成程戰後國勢ノ膨脹ト伴ヒマシテ、一時經濟社會ハ最モ好況ヲ呈
シマシタガ、昨秋以來一部ノ經濟社會ニ恐慌ヲ生ジタ以來、金融ハ俄ニ逼迫
ヲ致シ、從ッテ金利ハ非常ニ騰貴ヲ致シ、彼ノ有價證劵ノ如キモ非常ニ下落
ヲ致シ、殊ニ計畫セラレタ所ノ起業ハ、玉石トナク悉ク衰廢ヲ致シテ、今日
殆ド玉石混淆トモニ成立ノ見込デナイ有樣ニナッテ居リマス、固ヨリ玉ハ拾
ヒ瓦礫ハ碎キ、其成立スベキモノ其有益ナルモノハ自ラ成立スベキコトデ
ゴザイマスケレドモ、一部ニ於ケル所ノ經濟上ノ恐慌ハ延イテ殆ド全經濟
社會ニ影響ヲ及ボシテ、其結果一時盛ナラント致シタ所ノ我商工業ハ、今ヤ
極タ今日不振ノ境遇ニ際シタノデアリマス、若シ金單本位ガ施行セラレ外
資ガ隨ッテ輸入ヲ致シ、日本ノ公債證書ハ固ヨリ、其他有價證券等ニ向ッテ
外國人ガ賣買ヲ爲ス場合ニ於キマシタナラバ隨ッテ出ル所ノ外資ガ世界貿
易市場ヨリ供給ヲ致スコトニナルガ故ニ、是マデ一時沈シダ所ノ商工業モ
爲ニ再ビ發達スルニ至ルト云フコトハ是ハ豫期スベキコトデゴザイマス、
又此金貨本位施行ノ結果ト致シテ、或ハ今後ノ經濟上、若クハ租稅、彼我ノ貸
借、物價、生活、及勞役賃等ニ對シテ、如何ナル影響ヲ及スデアラウカ或
ハ金貨制度ヲ布イタナラバ彼ノ歐米ニ在ル所ノ金貨國ノ如ク、直グニ生活
ガ高クナリ併セテ勞役賃ガ增シテ來テ、總テ其餘響ハ物價ニ及ビ、或ハ租
稅或ハ貸借等ニ對シテモ、多イナル所ノ損害ヲ被ルデハナイカト云フノハ
卽チ世人ノ𣏌憂スル所デゴザイマス、是レ畢竟本案ノ性質ヲ攻究スルノ疎ナ
ルガ故ニ金貨本位ノ割合其他ヲ未ダ詳ニスルモノガ少イ所ヨリ、斯ノ如キ
𣏌憂ガ生ズルノデアッテ、決シテ租稅、貸借、物價、生活、勞役賃ニハ些ノ
影響モナイノデゴザイマス、殊ニ銀貨國ニ對スル所ノ輸出品ハ決シテ俄ニ
金貨本位ノ施行ノタメニ、不利益ヲ來スガ如キコトハナイノデゴザイマス
何故銀貨國ノ貿易ニ對シテ、金貨本位採用ノ結果、少モ損害ハナイカト申シ
テ見レバ、日本ノ貨幣制度ハ卽チ現世界ニ於ケル所ノ金銀ノ實價ニ依ッテ
本位ヲ定ムル所ノ法案デゴザイマスガ故ニ、縱令銀貨國ニ向ッテ今日取引ヲ
致サウガ、彼ヨリ銀塊ヲ引受ケマシテモ、亦通貨ヲ引受ケマシテモ、商賣上
ニ於テ決シテ損害ハ無イノデゴザイマス、併ナガラ今後大イニ銀貨下落ヲ
致シタ場合ニ於テハ、或ハ多少ノ影響ハゴザイマスケレドモ、決シテ今日ニ
於テ、銀貨國ニ向ッテ輸出上ノ困難ハナイ、又將來ニ向ッテハ幾何ノ困難ガ
生ズルカト問フテ見レバ、吾ミハ銀貨國ニ向ッテ今後生ズベキ所ノ利益ヲ
懸念スルノミナラズ、恐ラクハ蕭増-意外ノ所ニ其困難ガアラウカト思フ、
何故蕭墻ノ內ニ其困難ガ生ズルカト申シテ見レバ、ソレハ改正條約ノ結果、
內地雜居彼我人民ノ自由營業上ニ就イテハ、吾〓ハ有力ナル所ノ人民ト共ニ
競爭ヲシナクテハナラヌ、故ニ是マデ銀貨國ニ向ツテ、日本人民ガ占有シテ
居ッタ所ノ利益ハ、內國ニ於テ商工業ヲ營ム所ノ外國人ニ奪ハルヽカモ知レ
ナイノデアリマス、ソレデ吾ミハ長ク銀貨國ヲ花客トシテ-銀貨國ヲ花客
先ト致シテ、巨額ノ利益ヲ永ク受ケヨウト云フコトハ今日ヨリ餘程勘考ヲ
致サナケレバ、大イニ後日失敗ヲ來スコトガアラウト思フ、殊ニ銀貨國ニ對
シー、我商工業ノ利益トスル所ノ物品ハ何デアルカト云ヘバ、是ハ帝國ノ特
產物ニアラズシテ、ソレハ皆外國ノ模造品デアル、綿絲ノ如キ、其他ハンケ
チーフ、及種々ナル所ノ織物ノ如キ、多クハ外國品ヲ模造シタモノデアリマ
ス、卽チ東洋ノ銀貨國ハ未ダ民度ガ低シ、殊ニ低價ナル所ノ物品ヲ好ムガ故
ニ、或ハ一時歐洲等ヨリ輸入スル所ノ立派ナルモノヨリモ、却テ日本デ製造
シタ所ノ模造品ガ彼ノ嗜好ニ適シ、又彼ノ貧富ノ度合ニ適合シタモノガゴザ
イマスガ故ニ、其邊ノ所ニ依ッテ、暫ハ澤山ノモノヲ輸出ヲ致シマシタケレ
ドモ、彼ノ國々、殊ニ支那等ノ如キモ決シテ長ク外國ノ模造品ヲ、日本帝
國ヨリ購求スルト云フコトノミニハ止リマスマイカラ、必ズ支那人其他東洋
諸國ノモノモ、自ラ斯ノ如キ需用品ハ自國デ製造スルカ、若クハ外國人ガ彼
ノ國ニ製造所ヲ建ッテ、卽チ彼國ノ需要ニ應ズルダケノ物品ハ製造スルニ
至ルデアラウト思フ、其實例ヲ舉ゲテ見マスレバ、日本帝國ハ則チ英吉利其
他ヨリ、幾何ノ木綿卽チ金巾、及綿絲ヲ輸入致シマシタガ、殆ド一千万餘ニ
及ブ所ノ綿絲ト云フモノガ、長ク輸入ヲ致シ來ッタノデアル、然ルニ日本ノ
國運ノ進步、總テ商工業ノ進步ト伴ッテ、先キニ彼ヨリ輸出シ居ッタ所ノ綿
絲ハ悉ク輸入ヲ止ムルノミナラズ、今日ハ却テ日本デ綿絲ヲ製造シテ之ヲ支
那其他ニ賣込ムト云フ場合ニナッテ居リマス、サウシテ抑〓事物ノ進歩ト云
フモノハ、豈ニ啻ニ我帝國バカリ進步スルノデハナイ、世界悉ク進步スル
モノデアル支那其他ノ諸國モ、決シテ永ク利益ヲ我帝國ノミニ占メサセヤ
ウト云フコトハ致サナイ、自國ニ需要アルモノハ、必ズ自國ニ製造スルト云
フコトヲナスニ違ヒナイノデアリマス、ソレヲ以テ見レバ、僅少數ノ銀貨國
ニ對シテ、是マデ僅ノ利益ヲ得タコト、卽チ一時ノ僥倖ヲ夢ミテ、尙ホ今日
銀貨ハ銀貨國ニ對スル輸出上大イニ利益ガアル、卽チ銀貨國ニ對スル貿易ハ、
銀貨ノ方ガ利益デアルト云フノハ是亦一時ノ夢デゴザイマス、ソレ故ニ今
此金貨本位施行ノ結果ト致シテ、外資ガ追〓輸入ヲ致シテ來テ、隨ッテ我諸
株式モ價ヲ復シ、併テ興業資本モ十分ニ供給ヲ受クルコトガ出來、隨ッテ銀行
其他ノ取引上ニ於テ、利息モ低利ニナリマシタナラバ、我商工業者ハ、其低
利ナル所ノ資本ヲ利用シ、我廉價ナル所ノ勞役者ヲ使用シ、十分ニ金貨國ニ對
シ、若クハ銀貨國ニ對シ、將來ノ貿易上、大イニ其進步發達ヲ圖ルコトガ出
來ヤウ、卽チ我商工業ハ十分是カラ進ンデ利益ヲ舉ゲルコトガ出來ヤウト考
ヘルノデアリマス、卽チ我今後商工業ノ進步發達ヲ圖ラウト致シマスレバ、
則チ此外資ヲ輸入シ、低利ノ資本ヲ世界ヨリ供給ヲ受ケルト云フコトヲ務メ
ナクテハナリマセヌ、卽チ金貨本位ハ固ヨリ外資ガ輸入致シテ、我商工業ハ
是ニ依ッテ大イニ進步發達ヲスルト云フコトハ疑ナイコトデゴザイマス、又
此銀貨ノ將來、卽チ銀貨國ノ貿易ハ、我銀貨ノ處分ニ就イテ、段々反對者モ
ゴザイマス是ニ就イテ杞憂ヲ抱ク者ガゴザイマスガ、我帝國ハ實ニ今日幸
ナル所ノ地位ヲ得テ居リマス、一方ニ向ッテハ、卽チ歐米各國ニ向ッテ、我
特有ノ物產ヲ販賣シ、又近鄰ノ銀貨國ニ向ッテモ、自國ノ製造品ヲ販賣シ、
併テ利益ヲ受クルコトガ出來ル、而シテ縱令銀貨ガ幾何ノ下落ヲ致シマシテ
モ、其銀貨國ノ貿易ニ對シテ、非常ノ損害ヲ比較的ニ日本帝國ノ受ケヌト云
フコトハ最モ喜ブベキコトデアル、何故ニ貿易上ニ於テ將來比較的ニ損害
ヲ受ケヌカト申シテ見レバ、旣ニ諸君ノ御承知ノ如ク、貴族院ニ政府ヨリ提
出セラレタ所ノ臺灣銀行法案ト云フモノガ、果シテ兩院ヲ通過ヲ致シテ、此
銀行ガ創立ヲセラレタ時ニ於キマシテハ實ニ我海外貿易上、殊ニ銀貨國ニ
對スル所ノ貿易ニ對シテハ、非常ナル利益ガアルデアラウト云フコトハ、本
員ハ確信スルモノデゴザイマス、固ヨリ彼ノ銀行ハ、臺灣、內地、其他ニ向ッ
テノ必要ヨリ設置セラレシモノトスルモ、其銀行ノ應用上ニ於キマシテハ
卽チ恰モ是ハ亞細亞ノ西南部ニ於ケル所ノ、貿易銀行デアルノデアラウト云
フコトヲ信ズルノデアリマス、其應用如何ニ於テハ、亞細亞南部ノ貿易權ヲ
占有スルコトガ出來ヤウト云フノデアル、卽チ此臺灣銀行ガ成立シテ十分
ノ働ヲ爲ス場合ニ於キマシテハ、此力ニ依ッテ銀貨國ノ貿易ヲ盛ニシ、卽チ
銀貨ハ十分ニ之ヲ處理スルコトガ出來、併テ北ハ露〓銀行ニ對シ、南ハ香港、
上海等ノ各銀行ニ對シ、十分彼等ト競爭シテ、其間ニ於テ利益ヲ占ムルコ
トガ出來ヤウト思ヒマス、固ヨリ銀行其者ハ之ヲ運用スル所ノ人物、卽チ軍
用ノ妙ハ其人ニ存スルモノデハゴザイマスケレドモ、今我帝國ノ地形上、亞細
亞南部ノ貿易ニ對シテ、十分ニ該銀行ノ整理發達ヲ期シタナラバ、卽チ我帝
國ノ南洋貿易、及亞細亞海峽ノ貿易ハ、十分ニ進步發達セシムルコトガ出來
ルト考ヘルノデアリマス、是ニ由ッテ觀レバ、卽チ今後幾何ノ銀貨ガ下落シ
テモ右樣ナ機關ニ依ッテ十分ニ是ガ整理ヲ爲ス場合ニ於キマシタナラバ、
決シテ我商工業者ハ非常ノ損害ヲ被ラズシテ、大イニ利益ヲ得ルコトガ出來
ヤウト思フノデアリマス、是々ノ利益アルヲ以テ、金貨單本位施行ト云フコ
トハ直接我經濟上ニ大イニ利益ヲ與ヘ、現今將來ニ於テ我商工業者ノ進步
發達ヲ期スル〓ニ於テハ最モ必要ナルコトデアルト考ヘテ居リマス、又第
五ニ於テ、本員ガ本案ニ贊成ヲ表スル所以ハ何デアルカト申シテ見レバ、卽
チ金貨本位施行ノ方法及其時期ト割合デゴザイマス-金貨本位施行方法
及時期ト割合デアリマス、此貨幣制度改正ニ對シマシテハ、歐米諸國ニ於キ
マシテ最モ困難ヲ感ジタモノデゴザイマス、其困難ヲ感ジタ所ノ原因ハ何デ
アルカト申シテ見レバ、第一ニ自國ニ通用シタ所ノ銀貨幣ハ、世界ノ動勢ヨ
リ致シテ、日ニ購買力ヲ減殺セントスル、此購買力ヲ失ハントスル通貨ヲ如
何ニ處分シヤウカ、直チニ金貨本位制ヲ施行センカ、如何ニシテ其準備金、
卽チ金貨本位制ヲ施行スル所ノ資金ヲ購買スルコトガ出來ヤウカ、金貨制度
ヲ施クニハ金ヲ何レノ國、何レノ方法ニ依ッテ吸收スルコトガ出來ルカ、又
自國ノ銀貨ハ何レノ方法ニ依ッテ之ヲ賣却シ、若クハ之ヲ處分スルコトガ出
來ルカ、是ガ所謂貨幣制度改正ニ對スル所ノ二大困難デアルノデアリマス、
然ルニ我帝國ハ其二大困難ト云フモノヲ免レテ居ル、何ノタメニ其二大困難
ヲ免レテ居ルカト申シテ見レバ、幸ニ戰㨗ノ餘威、支那國ヨリ受ケル所ノ償
金ニ依ッテ、金ノ準備、其資金ト云フモノハ、十分ニ金貨制度ヲ施行スルニ
足ルダケノ額ヲ有シテ居ルノデアリマス、又是ト同時ニ、我銀貨ト云フモノ
ガ比較的ニ通用ノ高ガ少イノデアリマス、是ヲ亦處分スルニ最モ易イノデア
リマスノミナラズ、政府ガ本院ニ提出シタ所ノ本案ハ、金一、銀三十二强ト
云ア所ノ割合デゴザリマスルガ故ニ、日本ノ銀貨ヲ處分スルニ就イテハ、最モ
困難デナイノデアリマス、卽チ世界各國ガ自國ノ購買力ヲ失ハントスル所
ノ銀貨ヲ維持スルガタメニ、金貨本位ヲ施行セントシタモノニ比較ヲ致シマ
スレバ、實ニ雲泥ノ違ヒデアッテ、其方法ハ易イコトデゴザイマス、右ノヤ
ウナ幸運ニ際會ヲ致シテ居リマスルガ故ニ、金貨本位ヲ施行スルニ就イテハ
最モ時期、時運ニ適當ヲ致シテ居ルノデアルト考ヘル、併ナガラ段々是ニ對
スル所ノ反對論者、若クハ杞憂論者ト云フモノガゴザイマスルガ、ソレ等ハ
一億五千万ノ準備金ハ甚ダ不足デアル、此輸出入ノ不平均抔ニ就イテハ將
來幾許ノ準備金ヲ取付ケラルヽカモ知レナイ、又今後ハ如何ノ方法ニ依ッテ、
金貨ヲ更ニ吸收スルコトガ出來ルカ、海關稅其他モ十分ニ收ムルコトガ出來
ルデアラウカ、又銀貨制ヲ廢シテ金貨トシタナラバ、貿易上ニ於テモ幾何ノ
損害ヲ受ケハシナイカ、若シ損害ヲ受ケ、又巨額ノ金貨ヲ外國ニ仕拂フ場合
ニナッタナラバ、如何ニシテ此金貨本位制ヲ維持スルコトガ出來ヤウカ、是
レ杞憂者ノ論旨デゴザイマス、ソレハ恰モ購買力ヲ失ハントスル銀貨ヲ排斥
シテ、若クハ此銀貨ノ囘收策ヲ圖ッテ、而シテ金貨本位制ヲ施カウト云フ所
ノ困難ニ比シテ見レバ、最モソレハ行レ易イ所ノ問題デ、殆ドソレハ主因デ
ナクシテ、其從因デアリマス、金貨本位ヲ施カウト云フコトハ、最モ困難ノ
原因デゴザイマスルケレドモ、金貨本位ヲ施行シタ後、其維持方法ニ依ッテ
生ジタ所ノ困難ハ、最モ是ハ處スルニ易イ方法デアリマス、チヨット譬ヘテ
見レバ茲ニ家屋ヲ建築セントスルトキ、其木材石材ハ何レノ土地ヨリ取寄
セルカ、又家屋ノ古材木ハ如何ナル方法ニ依ッテ之ヲ賣却スルカ、是ガ世界
ニ於ケル所ノ困難ナル問題デアル、卽チ家ヲ建築スルニハ、其木材石材ハ何
レヨリシテ之ヲ購入スルカ、又其古材木ハ如何ニシテ之ヲ處分スルカト云フ
ノガ困難ノ問題デアル、所謂金ヲ何レノ地方ヨリ之ヲ求ムルカ、銀ハ何レノ
方法ニ依ッテ之ヲ賣却スルカト云フノガ困難ノ問題デアル、然ルニ我帝國ノ
現況ニ於キマシテハ右等ノ困難ナク、卽チ家ヲ建テル-家ヲ建築スルト云
フコトハ易イコトデアル、家ヲ建築シタ後ニ、其修繕ハ如何ニスルカト云フ
コトデゴザイマスルガ故ニ、其修繕ノ如キハ最モ今日ヨリ方法アリ、貿易ノ
奬勵、其他海關稅、若クハ事業ノ發達等ニ於テ是ヨリ十分ニ其利益ヲ外ヨリ
收ムルコトガ出來マスルノデアリマス、卽チ一億五千万ノ準備金ハ、尙ホ今
後貿易上ノ發達其他海關稅、若クハ外ヨリ種々ナ方法ニ依ッテ買入レル所ノ金
貨、若クハ金塊ヲ十分ニ吸收シテ、之ヲ以テ其取付ケニ對シテ十分ナル所ノ豫
備ヲ爲スコトノ餘地ハアルノデゴザイマス又此金銀比價ノ割合ト云フコト
ハ、世界各國ニ於キマシテ最モ困難ヲ感ジタ所ノ問題デゴザイマスルガ、ソレ
ハ何故ニ困難ヲ感ジタト申シテ見レバ、金銀比價ノ變動ト云フモノハ、此僅十
年間ニ於テハ非常ニ激變ガアッタノデアリマス、其激變ニ對シテ、自國ノ原
因ヲ究ムル上ニ就イテハ、最モ困難ヲ感ジタノデアル、或ハ金一、銀十五、
若クハ銀十六抔ト云フヤウナ割合ヲ取ッタノガ、是ガ各國ノ現況デアル然
ルニ殆ド世界金銀ノ變遷ハ稍一定ヲ致シテ、輓近ノ相場ハ殆ド金一、銀
三十內外ト云フモノガ定價ニナッテ居リマス、固ヨリ僅ノ高低ハ免レザルコ
トデゴザイマスルケレドモ、今日ノ法案ノ如ク金一、銀三十二强ノ割合ト云フ
モノハ、實ニ今日ノ世界ノ大勢金銀價ノ比較ニ對シテ最モ適當ナル所ノ割合
デアルト云フコトヲ確信スルノデアリマス、固ヨリ我帝國ニ於テ、今日金
貨制度ヲ施カウトスレバ、此方法ヨリ他ニ良策ハゴザイマスマイ、若シ他ニ
方法ガナイトスレバ、或ハ是ハ消極的彌縫政策デハナイカト云フ所ノ疑モ
幾分カゴザイマセウケレドモ、是ハ決シテ消極的政策デナイ、其結果ハ世界
各國ニ對シ、卽チ金一、銀十五若クハ金一、銀十六ノ諸國ニ對シテハ、非常
ナル是ハ積極的政策ノ結果ヲ見ルノデアリマス、如何トナレバ今後若シ世界
ノ銀價ガ下落ヲ致シマシテモ日本帝國ニ於キマシテハ此割合上大イナル所
ノ損害ハ受ケマセヌケレドモ、彼ノ金一、銀十五若クハ十六ト云フ割合ヲ取ク
テ居リマスル所ノ諸國ニ於キマシテハ、非常ナル損害ヲ受ケルノデアリマス、
其結果ヲ今日ヨリ豫測ヲ致シテ見ルト日本帝國ガ金一、銀三十二强ト云フ
所ノ割合ハ、最モ世界ノ大勢上適當ナル方法デアッテ、卽チ我帝國ガ此制度
ヲ採ルニ最モ幸運ニ遭遇シタ適當ナル所ノ時期ニ遇ッタト云フコトヲ本員ハ
斷言スルモノデゴザイマス、今若シ本案ノ方法ノ如キ割合ヲ以テ、金銀比價ノ
價格ヲ公定致シタ場合ニ於キマシテハ今後ハ恐ラクハ再ビ改正ヲスルノ必
要-貨幣制度ヲ改正スルノ必要ハナイデアラウト云フコトヲ確信スルモノ
デゴザイマス以上述ベマシタ所ノ要領ハ、卽チ本員ガ本案ヲ贊成スル所ノ
理由デゴザイマスルガ、尙ホ進ンデ本案ニ反對スル所ノ論者ニ向ッテ幾分ノ
駁擊ヲ加ヘナクテハナラヌ、反對論者ノ理由ト云フモノハ其論據薄弱ニシ
テ卽チ先刻モ東尾君ノ述ベラレタ如ク、四人ノ說ハ四人トモ違ヒ、卽チ此議
場ニ於テ少數報告トシテ述べラレタ所ノ理由ニ於キマシテモ、卽チ四ツノ理
由ガアルノデアル、卽チ四人ハ四人トモ其意見ガ違フト云フノハ、卽チ其少
數意見ニ依ッテ其事實ヲ現ハシタノデアリマス、ソレ故ニ其論據ヲ悉ク舉ゲ
テ之ヲ駁擊スルノ價値ハナイト認メマスケレドモ、要スルニ反對ノ理由ノ論
據ト云フモノハナンデアルカト云フナラバ、萬國複本位制ノ期成、現行ノ
銀單本位ノ維持及金單本位制實施後ニ對スル𣏌憂論ニ過ギマセヌ、此三論ニ
過ギマセヌ、或ハ又他ニ幾分政治的反對ノ意味ナキニシモゴザイマセヌガ、
先刻重岡君ノ述ベラレタ如ク、幾分カ政治的意味ヲ以テ反對ナキニシモゴザ
イマセヌ、併ナガラ煎ジテ見マスレバ、反對論者ノ理由ト云フモノハ前ニ
述ベマシタ所ノ三點デアッテ、唯他ノ政治的反對ノ意味ヨリ述ベルモノハ、
〓シテ此問題ハ大問題デアルガ故ニ、容易ニ決定ヲスベキモノデハナイ、時
日ヲ重ネテ調査ガ必要デアルト云フ論〓ニ過ギヌノデアリマス、固ヨリ此問
題ハ世界的〓究問題デアッテ、大問題ニハ違ヒハナイ、併ナガラ其原因結果
ト云フモノハ既ニ學理上若クハ實際上殆ド世界ノ輿論ト云フモノガ歸向ヲ
致シテ居リマス、其輿論ト云フモノガ歸著ヲ致シテ居ルノデアリマス殊
我帝國ニ於キマシテハ、先々モ述ベマシタ如ク、明治二十六年度ヨリ二十八年
度ニ於テ、貨幣制度調査會ヲ設ケ、十分ニ審査攻究ヲ要シ、鄭重ニ鄭重ヲ
重ネテ審議ヲ致シマシタ所ノ結果、彼ノ貨幣調査會ノ報告ヲ提出スルニ至ッタ
ノデゴザイマスルガ故ニ、之ヲ自他ノ問題ニ對シマシタナラバ、實ニ鄭重ニ
鄭重、緻密ニ緻密ヲ重ネタ所ノ最モ審議ヲ盡シタ問題デアルト云フコトハ明
カナコトデゴザイマス、併ナガラ物ノ理ニ於テ、或ハ一利一害ト云フコトハ
免レザルコトデゴザイマスルケレドモ、此金貨制度ノ如キハ殆ド九分九厘ノ
利益ガアッテ、或ハ一分ノ損害ガアルカモ知リマセヌケレドモ是ハ九分九
厘ノ利益ガアルト云フコトヲ斷言シテ憚ラザルモノデゴザイマス、今萬國同
盟複本位論者ニ向ッテ駁擊ヲ加ヘントシマスレバ、自ラ其論據ニ遡ラナケレ
バナラヌコトニナル、此萬國同盟複本位論ト云フモノハ、ドウ云フ原理ニ依テ
テ起ッタモノト考ヘテ見マスレバ、今日ハ其原論ト其結果ト大イニ齟齬ヲ致
シテ居ルノデアリマス、其原論ハ本員ノ記憶ヲ致シテ居ル所ニ依クテ見マス
ルト、昔者波蘭國ノ經濟學者ガ複本位說ヲ唱ヘ出シタノデアル、其複本位說
ヲ唱ヘ出シタ所ノ原理ト云フモノハ、何處ニ在ルカト申シテ見レバ世界ノ
統計上ニ依ッテ見レバ、全世界ニ生活シテ居ル所ノ人民ト云フモノハ數億
ノモノデアル、其全部世界ニ生活シテ居ル所ノ數億ノ人民ハ、其生活上從ツ
テ巨額ノ貨幣ヲ要用トスルニ違ヒハナイ、其貨幣ハ何ヲ適當トスルカナラバ、
金ハ固ヨリ貨幣ニ於テハ適當ナモノデアルケレドモ、限リアルノ金貨ヲ以テ
限リナキノ需用ニ充スト云フコトハ、勢ノ出來ベカラザルコトデアル、ワレ
故ニ金貨ニ次イデ價アル所ノ貴金屬、所謂銀貨ト共ニ其割合ヲ定メテ通貨ト
致シタナラバ、世界數億ノ人民ノ生活上、交通上、大キニ便利ヲ與ヘルデア
ラウ、是ガ卽チ其原論デゴザイマス、然ルニ段々其歷史ハ沿革ヲ致シテ、輓
近二三十年間ニ於キマシテハ、金銀ノ產出ニ非常ナ異動ヲ生ジタデアル、所謂
金ノ產出ガ比較的ニ少ナクシテ、銀ノ產出ト云フモノハ非常ニ增加ヲ致シタ
ノデアリマス、又英國ハ從前金單本位制ヲ採ッタ國デゴザイマス、而シテ
英國ノ金單本位制ト云フモノハ畢竟他ノ各國ヨリモ、世界ノ貿易ニ對シテ
非常ナ利益ヲ占メタノデアル、殆ト世界ノ貿易場裡ニ於テ、英人ハ專賣的利
益ヲ占メタノデアリマス嘗テ日本迄モ綿絲等ヲ賣込ンダ如キ、卽チ英國ノ
商工業、殊ニマンチエストルノ紡績事業ノ如キハ殆ド全世界ニ向ツテ其販
路ヲ開イテ居ッタノデゴザイマス、英國ハ斯ノ如ク世界各國ニ先ジテ海外貿
易ノ途ヲ開キ、卽チ得意先ヲ世界ニ開キ、又自國ハ純然タル所ノ金貨本位ヲ
以テ、世界各國ト十分ニ貿易上ノ競爭ニ於テモ非常ナ利益ヲ占タ國デゴザイ
やっ、然ルニ前ニ申シマシタ如ク、波蘭國經濟學者ノ說ニ依ッテ、彼ノ佛蘭
西國ガ卒先ヲ致シテ、彼ノ一時歐洲ノ西部ニ於テ覇王ト稱ヘマシタ所ノ拿破
命三世ハ、萬國複本位論ノ趣旨ニ基キマシテ、歐洲ノ西部ニ羅甸同盟ト云フ
モノヲ起シタノデアリマス、卽チ羅甸同盟ノ複本位國ト云フモノヲ起シタノ
デゴザイマス、其當時ナボレオン三世ノ勢力ト云フモノハ殆ド全歐ヲ支配
スル如キ有樣デゴザイマシタケレドモ、此貨幣政策ニ於テハ其勢力ヲ他ニ
及スコトガ出來ズ、僅ニ四五箇國ノ間ニ之ヲ實施スルコトガ出來テ、僅カ一
ヲ隔ツル所ノ英吉利ニ及スコトガ出來ズ、又鄰邦ノ獨逸其他ニ之ヲ及スコト
ガ出來ナカッタノデゴザイマス、其當時彼ノナボレオンノ勢力ヲ以テシテス
ラモ、僅羅甸同盟部ト云フ、僅ノ區域ニ複本位制ヲ止メタデゴザイマス、而
シテ其制ガ正ニ成立ヲ致シテ、兩本位、卽チ金一、銀十五ト云フ割合ニ複本
位制ガ施行セラレマシタ所ガ、前ニ申シマシタ如ク、金銀ノ產出ト云フモノガ
非常ニ增加ヲ致シテ、其差額ト云フモノモ、金ハ比較的ニ少ナク、銀ハ俄
ニ多額ノ產出ヲ見マシタガ故ニ、追〓金銀比價ノ間ニ巨額ノ差ヲ生ゼントシ
タノデゴザイマス、殊ニ海外貿易上ニ於テ、英吉利ガ殆ド世界ノ貿易市場ノ
利益ヲ占メテ居リマシタガ故ニ是ト競爭上ニ於テモ尙ホ海外貿易ニハ金
貨本位ヲ採用スルノ必要ヲ見マシタガ故ニ、彼ノ獨逸國ニ於キマシテハ卽
チ普佛戰爭ノ結果、獨逸ガ佛蘭西ヨリ巨額ノ償金ヲ收得致シマシタ所ノ結果
トシテ、獨逸ハ直チニ銀單本位制ヲ變更ヲ致シテ、金貨制度ニ施行ヲ致シタ
ノデゴザイマス、併ナガラ獨逸ハ其當時尙ホ自國ニ多額ノ銀貨ヲ有シテ居リ
マスルガ故ニ、其處分ニ最モ困難致シタノデアリマス、併ナガラ獨逸ガ金
貨本位ヲ施行シタ結果ト云フモノハ、非常ナ獨逸ノ商工業ニ進步發達ヲ與ヘ、
卽チ今日世界ニ向ッテ殆ド英國ニ亞グ所ノ貿易權ヲ、彼自ラ占有シタト云フ
モノハ、彼ノ戰爭ノ餘威、直チニ金貨本位制ヲ施行シタノガ其起原デゴザイ
V、、斯ノ如ク獨逸ハ自國ノ通貨ノ銀貨ヲ處分スルニ困難ナルノミナラズ、
進ンデ金貨制度ヲ施キマシテ、自國ノ商業ガ發達致シマシタガ、其餘響トシ
テ彼ノ羅甸部諸國卽チ佛蘭西ヲ始メ、羅甸同盟ノ複本位國ハ如何ナル影響ヲ
受ケマシタカ、先キニ積極的政策ヲ以ッテ施行シタ所ノ複本位ハ、直チニ
消極的、卽チ受働的ノ地位ニ立ッテ、是ガ防禦策ヲ講ゼナケレバナラヌト云フ
必要ヲ見タノデゴザイマス、ソレ故ニ佛蘭西ヲ始メ、羅甸同盟國ハ銀貨ノ自由
鑄造ト云フモノニ制限ヲ致シテ、漸ク其複本位制ヲ維持シテ、殆ド制限アル
銀貨通用國トナシテ、漸ク其複本位ト云フ所ノ名稱ヲ維持シタト云フ所ノ實
況デゴザイマス、斯ノ如ク歐洲ノ形勢ガ一變ヲ致シ、卽チ金銀貨幣ノ政策上
ニ非常ニ變動ヲ來シマシタガ故ニ、瑞典ノ如キ、澳匈ノ如キ、若クハ亞米利
加ノ如キ、又印度ノ如キ、各〓貨幣ノ政策ヲ改正致サウト云フ所ノ事ニ著手
ヲ致シタノデゴザイマス、ソレ故ニ此金銀比價ノ變動ト云フモノハ人爲的
ニ非常ナ暴騰暴落ヲナシタ、卽チ金ノ需要ガ非常ニ增加ヲ致シタガ故ニ-
各國ノ需要ガ非常ニ增シマシタガ故ニ、俄ニ金ハ暴騰ヲ致シテ、又各國共ニ銀
ハ非常ニ供給ガアッテ、需要ガ少イガ故ニ、銀貨ト云フモノガ非常ニ下落ヲ
致シタノデアル、卽チ是レ全銀比價ノ變動、金銀價格ニ就イテ暴騰暴落ヲナ
シタ所ノ原因デゴザイマス、斯ノ如キ有樣ニナリマシタガ故ニ、非常ニ金貨
國モ一時困難ヲシ、又銀貨國モ非常ナ困難ヲ致シタノデゴザイマス、ソコデ
歐洲ノ各國ハ如何ナ貨幣政策ヲ採ッタカトシテ見レバ、自國ノ購買力ヲ失ハ
ントスル所ノ銀貨ヲ、如何ニシテ是ガ價ヲ恢復シヤウカ、歐洲ノ各國ハ、自
國ノ購買力ヲ失ハントスル所ノ銀貨ヲシテ、如何ニシテ此價ヲ維持スルコト
ガ出來ヤウカト、是レ歐洲ニ於テ、卽チ一種ノ複本位論ト云フモノガ再興シ
タ所以デゴザイマス、ソレハ萬國複本位ヲ主張シタ所ノ原論ニ依ラズシテ、
實際上銀貨ガ下落ヲスルニ就イテ、此銀貨ノ購買力ヲ維持スルガタメニハ、
如何ナル方策ヲ採ルガ宜カラウカ、制限的銀貨自由鑄造モ、一國ニハ一時維
持スルコトガ出來ヤウナレドモ、到底之ヲ萬國ノ利益ニ依リ、卽チ萬國同盟
ノ複本位制度デモ立テナケレバ、到底此銀貨ノ購買力ヲ維持スルト云フコト
ハ出來ナイト云フノガ、卽チ其歷史上ノ沿革デアリマス、ソレデ前ニ申シタ
如ク、複本位說ト云フモノハ、其原理ト其結果ト、大イニ其趣ヲ異ニシテ居
ルノデアリマス、今段々複本位ニ就イテ說ヲ爲ス論者ハ、其原理ヲ推究スルコ
トハ知ラズシテ、唯歐洲ノ困難ナル所ノ貨幣政策、銀貨購買力維持策ノミニ
頭ヲ注イテ居ル所ノ論者デアッテ、實ニ其原因結果ヲ推敲シテ、果シテ是ガ
我帝國ニ利益ガアルヤ否ヤヲ推敲スルニ最モ拙ノ所ノ論旨デアルト云フコト
ヲ本員ハ斷言致スノデアル、右樣ナ有樣テゴザリマスルガ故ニ、金貨ハ各國
共ニ需要ガ多ク、卽チ供給ノ少ナイモノデアッテ、各〓自國ノ經濟的信用ヲ維
持スルガタメニ、所謂對物信用ヲ維持スルノ必要上、各國競ヒテ金貨ヲ
儲蓄致シマスル、ソレニ反シマシテ、銀貨ハ悉ク各國所有スル所ノ貨幣ヲ自
由ニ通融セシメ、若クハ是ガ鑄造ヲ爲シタナラバ、自國ノ貨幣ハ益〓購買力
ヲ失フガタメニ、其購買力ヲ維持センガタメニ、貨幣ノ鑄造ヲ制限シ、若ク
ハ其貨幣ヲ巳ムヲ得ズ貯藏ヲシテ、成ルベク是ガ通融ヲ制限スルト云フ政策
ヲ採ッテ居ルノデゴザイマス、ソレガ故ニ金銀ノ價ト云フモノハ漸クニ維
持セラレテ、今日ハ其金ノ價ハ自然的ニ騰貴ヲ致シテ居リマスケレドモ、銀
ハ漸ク人爲的、卽チ各國ノ政策上ニ於テ今日ノ價ヲ漸ク保ッテ居ルノデゴザ
イマス、若シ今後銀ノ產出ガ假ニナイトシマシテモ今世界ニ在ル所ノ銀貨、
若クハ銀塊ヲシテ之ヲ世界ノ市場ニ撒キマシタナラバ、銀貨ハ直チニ激變ヲ
致シテ非常ニ暴落ヲ致スト云フコトハ當リ前ノ事柄デアリマス、又或ル論
者ハ曰ク、現ニ金貨國ニナッタ所ノ諸國ハ、其國ノ興業上ニ於テ最モ困難ヲ
シテ居ルデハナイカ、實ニ其國ミノ殖產工業ハ金貨本位ヲ採ッタタメニ餘
程不振ヲ生ジタノデアル、振ハナイノデアル、ソレデ殖產工業ノ發達ハ寧
ロ銀貨國ニ利益ガアルデハナイカト云フ論者ガアル、ソレハ誤解ノ甚シキモ
ノデアル、英吉利國ハ卽チ金貨本位デアッテ非常ナ利益ヲ得タノデアル、今
マンチェストルノ如キ名高イ處ノ貿易市場ガ振ハナクナッタト云フノハ、何
ニ起因スルカト云ヘバ、決シテ金貨本位ニナッタ結果デハナイ世界各國ガ
進步發達ヲシテ、卽チ世界各國ガ各〓自國ノ殖產工業ヲ發達セシメテ、他ノ
國ヨリ供給ヲ仰ガナイコトニナッタダケノコトデアル、卽チ英吉利ノ貨物ヲ
他國ガ買ハヌヤウニナッタカラ、振ハヌヤウニナッタノデアリマス、共他歐
洲ノ諸國ガ、極東其他ニ向ッテ利益ヲ占メ居ッタ製造物モ、追〓極東ノ諸國
ニ於テモ自ラ之ヲ製造スルコトガ出來、又他ヨリ競爭者モ段々生ジマシタガ
故ニ、一二ノ國カ世界ノ利益ヲ占有スルコトガ出來ナクナッタ結果、從ツテ
其自國ノ商工業ニ對シテモ、幾分カ不利益ヲ來シタ、卽チ振ハザルヤウニナ
タト云フノハ、當リ前ノ結果デアリマス、ソレデ諸君モ御承知デゴザリマセ
ウ、獨逸抔ハ此殖產工業ノ發逹ト共ニ、卽チ彼ノ社會黨ト云フモノガ蔓延ス
ルノデアル、其社會黨ハ何デアルカト云ヘバ卽チ資本家ニ對スル所ノ無資
產ノ者デアリマス、所謂製造家ニ對スル所ノ勞働者デアリマス、其勞働社會ハ
ナゼ斯ノ如キ激發ヲシタカト云ヘバ、今日吾ミガ、卽チ有產家ノ事業ニ就イ
テ今日生活ヲ致シテ居ル者デアル、然ルニ今日貿易其他ノ振ハザルガタメ
ニ、吾ミハ其資產アル所ノ製造家ガ十分其製造ノ發達ヲ圖ラナイガタメニ、
吾〓ハ其賃銀ヲ受ケルコトガ出來ナイ、ソレガタメニ生活ニ苦シム、ソレガ
故ニ政府ハ宜シク英國其他ヨリ輸入スル所ノ外國品ニ保護稅ヲ掛ケテ、成ル
ベク自國ハ自國ノ生產物ニ依ッテ生活スルヤウナ法ヲ立テヽ貰ヒタイ、
斯クノ如クナサヾル以上ハ、獨逸ノ殖產工業ハ發達セズ、吾〓無資產ノ者ガ
生活ニ苦ムト云フコトガ、卽チ獨逸ノ社會黨デアル、是ニ反シテ英吉利ノ勞
働者、卽チマンチェストルスクール、卽チマンチェストル派ノ經濟一派デア
リマス、例ノコブデンクラブ、是抔ノ論旨ハ獨逸ト全ク論旨ヲ異ニシテ
居ルノデアリマス、併ナガラ其歸スル所ノ利益ハ一デアリマス、其歸スル
所ノ理論ハ一ニ歸スルノデアリマス、ソレハ何デアルカト云ヘバ、英國ハ自
由貿易ニ依ッテ立ツモノデアル、世界ヲ自由貿易ニシテ、英國ノ生產物、英
國ノ綿絲、英國ノ織物ノ如キ物品ヲ、世界ノ人ニ買ハセナクテハナラヌ、世
界ノ人ハ買ハセテ、マンチェストルノ如キ勞働者ヲ始メ、資本家ヲ始メ、皆
利益ヲ得ルノデアル、ソレデ自由貿易ヲ唱ヘタノデアル、彼ガ唱フル所
ノ世界的自由貿易ハ、卽チ英國ノ工業ニ利益ガアッテ、英國ノ勞働社
會、卽チ職工ニ向ッテ非常ニ利益アル議論デアリマス、是彼ヲ比較致シ
マシテ、其獨逸ノ社會黨、英吉利ノ自由貿易家ノ論旨ヲ能ク分析ヲ致シテ見
レバ、論理ハ異ナッテ居リマスガ、其歸スル所ノ目的ハ一デアリマス、斯ノ
如キモノデアリマスルガ故ニ、金貨本位ヲ施行シタガタメニ、俄ニ此製造業
ガ衰ヘテ、ソレガタメニ勞働社會ガ窮スルト云フヤウナ原理ハ決シテナイ、
又實際上決シテナイ、ソレハ世界ノ交通上、世界進步ノ結果ト致シテ、需要
供給ガ殆ド世界普通ニナッタ所ノ結果、一國先進ノ國ガ世界ニ向ッテ利益ヲ
占ムルコトガ出來ナクナッタ結果今日ノ如キ有樣ヲ生ジタノデアル、是ハ論
ヨリ實地デアリマス、又段々此複本位制ヲ主張ナサル所ノ諸君ニ於テハ、ナ
ゼ此日本帝國ハ各國ニ行ック如キ金一、銀十六位ノ割合ヲ以テ、金貨制度ヲ
定メナイカ、世界ニ行レザル所ノ方法ヲ採ッタト云フノハ、實ニ奇々怪々デ
アル、今世界ニ於テハ銀貨ノ購買力ヲ失フコトヲ餘程苦ンデ居ルノデアル、
其購買力ヲ失ハントスル所ノ銀貨ヲ恢復セントスルノデアリマス、世界ハ銀
貨ノ價ヲ恢復シヤウト計ル所ニ於テ、我帝國ハ反對ニ銀貨ノ購買力ヲ更ニ減
ジヤウト云フノハ、不思議ノ至デハナイカ、彼ノ宋ノ襄王ノヤウナ、所謂宋
襄ノ仁ト云フヤウナ論旨ガアルノデアリマス、成ル程自由貿易主義、世界博
愛主義カラ申シタナラバ、斯ノ如キ論理ガ起ルカ知リマセヌガ、ソレ〓〓優
勝劣敗、卽チ世界ノ競爭場裡ニ立ッテ一國ノ獨立、其生存發達ヲ鞏固ニシヤ
ウトスレバ、決シテ自他ヲ顧ミルコトハ出來マセヌ、段々歐羅巴ノ學者、若ク
ハ歐羅巴各國ニ向ッテ數年來複本位論ヲ唱ヘテ居ッテ、其實行ヲ見ルコトガ
出來ナイノハ、各國〓其利益ト其進步發達ノ度合ヲ異ニスル所ノ〓ニ依ッテ
是ガ實施ガ出來ナイノデアル、若シ論者ノ如ク我帝國ニ於テ萬國複本位ノ期
ヲ待ツナラ、其期ノ成ルヲ待タウト云フ樣ナ論旨ハ、恰モ百年〓河ヲ待ッガ
如キ所ノ論旨デアル、到底得テ望ムベカラザル所デアリマス、若シ又世界ガ
數變ヲ致シテ、世界各國其富ノ力ヲ同ウシ、從ッテ其利益ノ爭モ息メ、世界
各國干戈ヲ動スヤウナコトモナク、共ニ永久ノ平和ヲ維持スルコトガ出來、
又世界各國共通ノ商法モ出來、併セテ共通ノ貨幣條例モ出來テ來ル曉ニナリ
マシタナラバ、從ッテ世界各國ノ高等裁判所モ出來マセウ、若シ斯ノ如キ諸法
例抔ガ出來マシテ、世界各國共通ノ高等裁判所ガ出來ルトキニ、或ハ複本
位論者ノ希望ノ如ク、世界同盟ノ複本位モ實施セラルヽカ知リマセヌガ、決
シテ其事ハ百年〓河ヲ待ツガ如キコトデアリマス、併ナガラ諸君ハ永ク天命
ヲ保タレマセウカラ、又數十年ノ齡ノアル御方バカリデアリマセウカラ、宜
シク皷腹シテ卽チソレヲ御樂ミナサッタナラバ、或ハ其時機ニ達スルカモ知
レマセヌ、又銀本位ヲ維持セントスル論持ハ、金單本位制ハ、此歐米各國ニ
於テ製造業ニ大イニ不利益ヲ來シテ居ル、卽チ前ニ言ッタ如クデアル、今日
本ノ舊貨幣制度、卽チ銀單本位制ヲ廢メテ、新タニ金貨制ヲ施行シタナラバ、
其餘響ト云フモノハ非常ニ我殖產工業上ノ發達ヲ妨害スルデアラウ、又金貨
本位制ヲ施イタナラバ、各國ヨリ低利ナル所ノ資本ガ輸入シテ來ル、低利ノ
資本ヲ得ルコトガ出來ルト云フコトガアル、ソレハ却テ不利益デアラウ、北
米ノ所謂北亞米利加ノ有樣ハドウデアルカ、始終國ノ騷亂ヲ生ゼントスル
場合ハ、外國ノ資本ガ入ッテ居ルガタメニ、外國人ガ皆其資本ヲ引上ゲル、ソ
レガタメニ其影響ト云フモノハ、非常ニ亞米利加ノ貿易上及工業上ニ損害ヲ
受ケル、若シ外國ノ資本ガ入ッテ來レバ、成ル程低利ノ資本ヲ以テ、自國ノ殖
產興業ヲ幾分カ發達スルコトハ出來ルケレドモ、一朝事アル時ニ臨ンデ、其
資本ヲ引上ゲラレルトキハ、非常ニ困難スルト云フ論者ガアル、是ハ一ヲ
知ッテ其二ヲ知ラヌ者デアル、亞米利加ハ外國ノ資本ニ依ッテ立ッタ國デア
ル、亞米利加ノ如キ國ハドウ云フ國デアルカト言ヘバ、則チ經濟上ノ議論ヲ
以テ、其國ノ國是トシテ居ルモノ、彼ノ國ノ國是ト云フモノハ、全ク經濟上
ニ依ッテ立ッテ居ルノデアリマス、ソレ故ニ彼ノ大統領ノ選舉ニ於テモ所
謂經濟上ノ議論ヨリシテ、一黨派ヲ爲シテ自由貿易ト保護貿易トガ、今日自
由貿易、保護貿易ノ論者ハ變ジテ、卽チ金派、銀派ノ二ツニ分レタノデアル、
若シ亞米利加ガ尙ホ元トノ保護、自由貿易ヲ以テ、今日ノ政治上ノ大問題ト
致シテ居リマシタナラバ、決シテ金派、銀派ヲ生ズル譯ハナイノデアル諸
君ノ承知セラルヽ如ク、亞米利加ノ北部ハ卽チ工業國デアル、工業國ノ亞米
利加人ハ、皆保護貿易主義デアリマス、ソレニ反シテ南部ハ皆農業國デアル、
其農業國ノ國ハ皆自由貿易デアル、所謂商業家ノ多クハ保護貿易主義デアツ
テ、農業家ハ自由貿易主義デアルノデアル、然ルニ今日ハ何ニナッタカト言
たら、彼ノ農業者ノ自由貿易者ハ銀派ニ屬シテ銀貨維持論者ト爲ッテ、彼
ノ保護貿易ヲ主張シタ所ノ商工業者ハ、卽チ金派トナッタノデアル、金本位
制ト爲ッタノデアル、斯ノ如ク亞米利加ノ經濟社會ノ有樣ハ一變ヲ致シタ
ノデアリマス、若シ是ガ元トノ自由保護ノ理論カラ申シテ見タナラバ、亞米
利加南部ノ者ハ却テ自由貿易ヲ主張スル方ハ金貨本位ヲ望ミ、彼ノ保護貿
易ヲ主張スル北部ノ者ハ銀貨本位ヲ望マナケレバナラヌ、ソレガ反對ニ至ッ
タト云フモノハドウデアルカ、其邊ヲ以テ見レバ、卽チ亞米利加ノ經濟上
ノ國是上ニ於テ、非常ニ此金銀貨幣政策ト云フモノガ其實業上、農業上若
クハ鑛山ニ對シテモ-鑛山所有者ニ對シテモ、非常ナ利害ヲ及スガ故ニ、
今日此金派、銀派ノ二黨ヲ亞米利加ノ政治社會ニ顯シタ〓デアリマス、又或
論者ノ言フニハ銀ハ將來騰貴スル傾ガアル、亞米利加其他ノ銀貨國ハ非常
ナ力ヲ以テ、今日ノ產出ノ比較上ヨリハ尙ホ人爲的ニ銀貨ヲ貯藏シ、銀貨ノ
保護ヲ爲スガタメニ、銀ハ是ヨリ產出ヲ增サズ、必ズ是ヨリ銀ノ價ハ騰貴ス
ルデアラウ、ソレニ反シテ金ノ價ハ既ニ極度ニ騰貴シテ居ルガ故ニ、必ズ是
ヨリ金ノ產出ハ增シテ來テ、金貨ハ下落スルデアラウ、若シ今日貨幣制度ヲ
改ムルニ方ッテ、將來金ガ下落シテ銀ガ騰貴スル曉ニハ、如何ニ影響ヲ被ル
カ、ソレデ宜シク世界ノ狀勢ニ照シ、道理ニ依ッテ將來ヲ豫期シテ、今日金
本位制ヲ施行スルノハ甚ダ策ノ得ナイモノデナイト云フ論者ガアル、是ハ物
ニ就イテ所謂需要供給ノ區別ヲ知ラナイ論者デアル、成ル程金ノ價ガ高イ
カラ、是ヨリ世界ニ向ッテ餘程產出ヲ增シマセウ、併ナガラ金ガ僅ニ產出ヲ
增加致シテモ、決シテ金ノ需要ハ世界ニ減少ハ致サヌ、世界ノ金ノ需要ト云
フモノハ、決シテ減少ハ致シマセヌ、是ニ反シテ銀ハ是ヨリ產出ガ少クナリ
マセウ、併ナガラ人爲的ニ漸ク制裁ヲ加ヘテ、サウシテ價ヲ保ッテ居ル銀デ
ゴザリマスルガ故ニ、若シ一朝是ヲ解放致シタナラバ、今後銀ノ產出高ノ如
何ニ拘ラズ、銀ト云フモノハ直チニ下落スルト云フコトハ當リ前ノコトデ
アル、併ナガラ銀ガ直チニ下落致シテハ、各國共ニ自國ノ財政上、經濟上ニ
苦シミマスガ故ニ、成ベク人爲的ニ銀ノ暴落シナイヤウニ各國ノ注意スル所
デアル、若シ論者ノ如ク世界ノ金ノ需要ガ澤山ニナッテ、サウシテ來タナラ
バ世界ノ貨幣ト云フモノハ銀ヲ用井ルニ及バヌノデアル、其時ハ金貨ノミ
ニシテ宜イ、何ヲ苦ンデ金銀兩本位策ヲ用ロルノ必要ハアリマセヌ、世界
共ニ金單本位デ宜イ、唯補助貨ヲ銀ナリ銅ナリトシテシマヘバ宜イ、若シ金
ガ世界ノ需要十分ニナリ、卽チ產出ヲ增加シテ世界ノ需要ニ充ツルコトニナ
リマシタ時ニハ銀ハ決シテ世界各國ニ於テ貨幣ニ用ヒルモノハナイ、彼ノ
印度ノ如キ、支那ノ如キモ、決シテ其銀ヲ愛シハ致シマセヌ、銀ヲ鑄造致シ
マセヌ、其場合ニナリマシタナラバ、銀ハ世界ノ市場ニ溢レテ、銀ノ價ト云
フモノハ非常ニ下落シテ、決シテ金ノ產出ノ增加ノタメニ銀ノ價ハ增シハセ
ズシテ、銀貨ハ非常ニ價ヲ落シテ、其時ハ銅ト價ヲ同クスル、銅ト同ジ價ニ
ナルカモ知レナイ、其時ハ銀ハ何ニ使フカト云フト、茶器、食器若クハ鍋釜
ニ使ハナケレバ他ニ使フ途ガナクナル、卽チ鍋釜ノ價ニナルノデアル、決シ
テ金ノ產出ガ殖エテモ銀ノ價ヲ增スト云フ道理ハナイ、金銀共ニ貨幣トシテ
通用スレバ價ヲ持ッナレドモ、卽チ金ヲ單本位ニシテ世界ノ需用ガ十分ニナリ
マスレバ、決シテ銀ヲ貨幣ニスル必要ハナイ、卽チ是ハ普通ノ金屬所謂銅ナ
ドト同樣ニ、銀デ諸器具ヲ製造スル場合ニナリマス、卽チ鍋釜ヲ鑄造スル
曉ニナルノデアリマス、ソレカラ金單本位制ハ反對デナイ、併ナガラ此維持
方法ニ苦シム、今日ノ輸出入ノ不平均カラ以テ見テモ、殆ド昨年ナドハ五千
万圓ノ不平均ガアル、斯ノ如ク輸出入ニ不平均ヲ來タス場合ニ於テハ壹億
五千万圓位ノ金本位準備デハ甚ダ乏シイ、直チニ取附ケラレハセヌカト云
フ論者ガアル、抑〓サウ云フ杞憂論者ハドコカラ生ズルカト言ヘバ此準備
金ト云フモノハ、ドウ云フ割合ノモノデアルト云フコトヲ知ラナイ論者カラ
起ルノデアル、抑〓準備金ト云フモノハ何カラ起ルカト云フニ、是ハ卽チ民度
ノ發達、貿易商工業ノ盛衰上カラ起ルノデアリマス、本員ガ嘗テ歐洲ニ在ッタ
時、調査シタ結果ニ據リマスレバ、是ハ一千八百七十五六年度デアリマシタ、
獨逸ノ今日ノ商工業ノ進步發達ハ未ダ英佛ニ及バナイ、ソレ其故ニ獨逸帝國
ノ銀行ヲ設立スルニ當ッテ、是非其三分ノ一ハ正貨準備ガナケレバナラヌ、
卽チ三分一ハ正貨準備ニシテ、三分ノ二ハ有價證券其他割引手形等デアリマ
ス、三分一ハ正貨準備トシテ、三分二ヲ以テ諸手形卽チ有價證券トスレバ宜
イノデアル、所謂保證凖備トスレバ宜シイ、所ガ佛蘭國ハ商工業ガ獨逸ヨリ
發達シテ居ルカラ、五倍デ宜イ、卽チ五分ノ一ヲ正貨準備トシテ、其四倍ハ
保證準備デ宜イノデアル、又ソレヨリ英吉利ハ發達シテ居ルカラ、七倍ノ力
ガアル、七分ノ一ハ正貨準備トシテ、アトノ六分ハ矢張保證準備デ宜シイ
ノデアル、獨逸、佛蘭西、英吉利其當時ノ有樣ハ、經濟上ノ發達商工業進歩ノ
程度ニ依タテ、卽チ準備金モ一ハ三分ノ一、一ハ五分ノ一、一ハ七分ノ一デ
宜イト云フコトデアッタ、先刻一億五千万圓デ不足デアルト云フ論旨ハ、何レ
ノ〓ヨリ起ルカ一向其論旨ノ起ル處ヲ知ラナイ、段々經濟學者ガ類例ヲ舉ゲ
ラレ、統計ヲ舉ゲテ論ゼラレタケレドモ、一向其論〓ガ分ラヌノデアル海
外貿易デモ決シテ硬質ノミ、卽チ堅イ金バカリヲ以テスルモノデナイ、今日
ノ世界ハ皆進步致シテ居リマスカラ、卽チ互ニ信用取引ト云フモノガアッテ、
手形ナリ、若クハ英吉利ノ銀行券ノ如キモノナリ、現ニ金銀貨幣ニ代ッテ働
ヲスルモノガ澤山アル、其力ガ最モ烈シイノデアル所謂爲替ノ作用其他デ
アリマスサウ云フ作用ニ依ッテヤリマスガ故ニ、盡ク金銀貨ノ實貨ヲ以テ
取引スルモノデナイ、ソレデ決シテ五千万圓不足シテモ、其五千万圓ハ決シ
テ準備金カラ取付ケラレルト云フコトハナイ、準備金ガ一億五千万圓置ケ
バ決シテソレヨリ增サナイト云フコトデハナイ、始終埋メテ來ルモノデアル、
卽チ佛蘭西ノ五倍、英吉利ガ七倍、獨逸ガ三倍デ宜シイ通デ、取付ケラレテ
モドン〓〓拂込ンデ、貸シタ金ガ這入ッテ來ル、他ニ資本ヲ卸シタモノガ
利益ガ上ッテ這入ッテ來ル、サウ云フ具合ニ互ニ貸借ノ間ニ返辨スル金ガ返ッ
テ來マス、故ニ決シテ準備金ヲ取付ケラレルコトハナイ、我帝國日本モ今
日寢テ物ヲ食フテ居ル如ク、何モセズシテ今日一億五千万圓積ンデアルカラ、
是カラ貿易上ノ發達モ期セズ、何カ實貨ヲ吸收スル所ノ卽チ金貨ヲ吸收スル
所ノ策ヲ講ゼズシテ、所謂手ヲ空クシテ坐食シテ居リマシタナラバ諸君ノ
御心配ノヤウナ結果ガ生ズルノデアリマスガ、一國ノ信用ノ發達、卽チ一國ノ
殖產興業ノ發達上ト共ニ、皆支拂ッタモノハ後トカラ埋メル所ノ方法ヲ講ジ、
卽チ今日一億五千万圓ノ準備ハ、尙ホ是ヨリドシ〓〓更ニ金貨ヲ吸收スル所
ノ方法ヲ講ズレバ、決シテ其準備ニ不足ノアルノミナラズ、斯ノ如キ準備金
ノ巨額ナル所ハ、世界各國ニナイノデアリマス、若シ一億五千万圓ノ準備ガ
アルナラバ之ヲ三倍トシテモ四億五千万圓ト云フモノヽ働ガ出來ルノデア
ル、二倍トシテモ三億圓ト云フ貨幣ガ出サルヽノデアル、偖テ日本ノ貨幣ノ
流通高ハ如何デアリマスカ、殆ド一億五千万圓ノ準備金ニ對シテハ、兌換券
ノ働ト云フモノハ僅カ二億何千万圓ト云フモノデアルサア是カラ發達モ致
シマセウガ、發達ヲ致ストシテ置イテモ、是カラ我商工業ノ發達其他經濟上
ノ進步ニ依ッテ十分働イタナラバ、決シテ正貨準備ニ不足ト云フコトハ云フ
コトハナラヌノデアリマス、各國ノ比例ニ取ノテ見テモ實ニ十分ナリ、斯ノ
如キ準備金ノアル處ハ、世界各國ニナイデゴザイマス、是一ノ杞憂論デゴザ
イマス、決シテサウ云フ虞ハナイデゴザイマス、又ドンナ健康ナ人デモ、平
生健康デアッタト言ッテ、暴飮暴食ヲシテ決シテ健康ヲ保ツコトハ出來ナイ、
一億五千万圓若クハ三億ノ準備デモ、決シテ是ヨリ貿易工業ノ發達ヲ圖ラズ
シテ、ソレノミニ依賴シテ坐視シテ居リマシタナラバ、取付ケラレテシマフ、
所謂健康ナ人モ暴飮暴食ノタメニ斃レルノデアル、如何ナル健康ナ人デモ
矢張攝生ヲシナケレバ斃レル、ソレト同ジ事デアリマス、ソレデ決シテ𣏌憂
論者ノ如ク、此準備金ノ少額ナルガタメニ、卽チ薄弱ナルガタメニ危険デア
ルト云フ憂ハナイ、又從ッテ銀貨國ニ對スル貿易上ノ取引上ニ不便デアル
ト云フ虞モナイノデアル、デ、是ヨリ卽チ日本帝國ノ人民ガ宜シク金貨本位ノ
實施ト共ニ、世界ノ市場ニ向ッテ外國ト貿易市場ニ競爭ヲシ、十分ニ自ラ進
ンデ其利益ヲ內外ニ收ムルコトヲ圖ツタナラバ帝國ノ前途、我經濟上ノ獨
立ニ於テ決シテ憂慮スルコトハナイ、少シモ懸念ガナイ、併ナガラ人民各自
ガ自營自計ヲ營ミ計ラズ、自ラ營ミ自ラ計ラズ、所謂坐視傍觀ヲシテ居リマ
シタナラバ、或ハ論者ノ云フガ如キ不幸ヲ視ルカモ知レマセヌガ、固ヨリ銀
貨制度ニ致シマシテモ、人民ガ働カズ怠惰デアッタナラバ決シテ國ガ立ツ
モノデナイ、ツレハ銀貨本位デモ、金貨本位デモ同ジ事デゴザイマス、其國
ノ人民ガ自營自計ノ謀ヲ爲サヌ以上ハ銀貨國デアッテモ、決シテ國ハ豐デ
ナイ、却テ潰レルノデアリマス、今金貨國ニナッテ、卽チ世界ノ競爭場裡ニ
於テ巨額ノ利益ヲ收ムルコトヲ、我殖產興業者ガ進ンデ計畫スル曉ニ於キマ
シテハ、決シテ今後我國家ノ生存發達上ニ於テ、危險ナリト云フ憂ハナイノ
デアリマス、ソレ故ニ本員ハ帝國將來經濟上ノ國是ヲ定ムル上ニ於テ、我經
濟上ノ獨立ヲ鞏固ニスル上ニ就イテ、本案ハ最モ必要デアル、卽チ杞憂論者
ノ述ベルガ如ク、所謂歐羅巴ノ現況、一ノ銀貨政策上ノ現況ノミニ目ヲ眩マ
シン、世界萬國複本位制ヲ待ツガ如キ論者、若クハ銀本位ヲ維持スルガ利益
デアルト云フ、所謂鎖國的籠城主義ノ如キ、若クハ金貨本位ハ良イケレドモ
之ヲ維持スルニ困難デアル、或ハ輸出入ノ不平均其他ニ於テ、大イニ不利益
ヲ釀シハシナイカ、卽チ一億五千万圓ノ準備金デハ不足デハナイカト云フ𣏌
憂論者ノ如キハ、御安心アッテ宜イノデアル、サウ云フ論旨ハナイノデアル、
若シ又世界ニ於ケル經濟上ノ論理、若クハ歷史上ノ沿革ニ於テ、尙ホ將來吾
帝國ノ經濟上ニ於テ攻究スベキコトハ十分ニ攻究シテ宜シイ、併ナガラ本
問題ニ對シテ、特ニ斯ノ如キ調査ヲ要スル必要ハナイノデ、今論者ノ言フガ
如キコトヲ舉ゲテ、更ニ之ヲ調査スル必要ハナイノデアル、何故カトナラバ、
此問題タルヤ、旣ニ世界各國ニ於テハ、十分ニ調査ヲナシタルモノデアル、
又吾帝國ニ於テ、旣ニ先キニ貨幣調査會ヲ設ケテ、十分ニ審議ヲ盡シタ問題
デアル、卽チ朝野ノ名士ヲ集メテ論究シタ問題デアルノミナラズ、本案ガ提
出セラレントスル曉ニ於テハ、我經濟社會ハ狂奔スルガ如ク、今マデ眠ッテ
居ッタ人民ガ、殆ド始テ眼ヲ覺マシタ如ク、旣ニ金貨單本位施行ノ本案提出
セラレントスルニ當ッテハ、朝野トナク、此問題ハ世界的學理上、實際上、最
モ攻究ヲ要シタノデアル、ソレ故ニ朝野ノ名士ハ、悉ク其論說ヲ新聞紙上、
若クハ公會ニ出テヽ其意見ヲ發表シ、又取引所ノ如キ、其他諸商業上ノ諸機
關ハソレ〓〓會議ヲ開イテ、是ニ對スル所ノ意見ヲ定メ、殊ニ新聞紙上ニ於
テハ、各新聞社各〓此問題ノ利害ニ對シテ〓究調査ヲ爲シタノデアリマス、
デ、此問題ガ一度社會ニ現レテヨリ、朝野ノ名士、商業家、若クハ新聞社會
其他苟クモ社會ノ上流ニ立ッテ居ル所ノ人民ハ、悉ク此利害ノ〓究ヲ要シタ
ノデアル、成程帝國議會ニ於テ之ヲ審査スルノハ尙ホ日モ淺イコトデゴザ
イマスケレドモ之ガ朝野ノ問題ト爲ッテ居ルト云フコトハ事實ニ於テ非
常ナル所ノ審査ヲ要シタ結果デアル況ヤ此問題ハ世界ニ於ケル三十年來ノ
大問題デアッテ、殊ニ輓近數年間ハ、最モ世界ニ於テ調査ヲ要シ、殊ニ帝國
ニ於テハ金銀比價ノ變動、其餘響ノ如何ニ依ッテ、卽チ貨幣調査會ヲ設ケ
テ、殊ニ審査ヲ要シ、殊ニ本案提出ニ就イテ、當局者ニ於テ之ヲ審議スルノ
ミナラズ、諸會社及ヒ朝野政黨間ニ於テモ、最モ審議攻究ヲ要シタ所ノ問題
デアル、故ニ此問題ハ更ニ審査攻究ヲ要スル必要ハナイノデアル、全ク必要ハ
ナイノデアル今ヤ本問題ニ對シテハ殆ド此本院ハ恰モ高等裁判所、大審院ノ
如キ地位ニ在ルノデアル、此問題ハ原被共ニ卽チ始審、控訴ノ裁判ハ濟ンデ
來テ居リマス、唯此大審院デハ可否ヲ定決スルダケデアル、決シテ攻究モ何
モ要ラナイ、最早始審、控訴ヲ濟ンデ來テ、大審院ノ問題デアルカラ、唯利
害ノアルコトハモウ明カナコトデアルカラ、卽チ金貸本位ヲ採用スルガ、
我帝國ノ現今將來國家ノ生存發達上ニ就イテ卽チ帝國經濟上ノ國是ヲ定ム
ルニ於テ適當ナリト判斷スルノ一點デアリマス、願ハクハ諸君、速ニ金貨本
位ヲ採用スルコトニ、本案ヲ可決セラレンコトヲ希望致シマス
(「討論終結」ト呼フ者アリ「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=49
-
050・小畑岩次郎
○小畑岩次郞君(百二十八番) 此議會ハ明日ニ讓ルト云フコトヲ提出致シ
マッ。重大ノ問題デアリマスカラ、明日ニ讓ルコトニ
(「贊成々々」又ハ「反對」ト呼フ者アリ議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=50
-
051・小畑岩次郎
○小畑岩次郞君(百二十八番) 此議會ヲ明日ニ讓ルト云フ動議ヲ出シマス、
緊急ノ動讀ヲ······賛成ガアリマス
(「討論終結」又ハ「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=51
-
052・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 動議ガ出テ居リマスカラ、採決シテ見マセウ、討論終
結ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
起立者少數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=52
-
053・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 少數ト認メマス-田口卯吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=53
-
054・小畑岩次郎
○小畑岩次郞君(百二十八番) 更ニ緊急動議ヲ出シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=54
-
055・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 田口君ニ登壇ヲ許シマシタカラ、其後トニナサイ
(「明日ニ讓ルニ贊成」ト呼フ者アリ議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=55
-
056・小畑岩次郎
○小畑岩次郞君(百二十八番) 緊急動議ニ贊成ガアリマス、ドウデス先決問
題ダ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=56
-
057・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 田口君ニ登壇ヲ許シタノデスガ、田口君ガ承諾スレバ
宜シイ
(鈴木充美君「議場ニ御諮リニナッタラドウデス」ト呼フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=57
-
058・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 默ッテ入ラッシヤイ、田口君ノ承諾ガアルナラバ-
ソレデハ田口君ハ承諾スルト云フコトデアリマスカラ、延期ノコトニ就イテ
採決シヤウト思ヒマス、明日マデ延會ヲスルト云フ動議ニ同意ノ諸君ノ起立
ヲ求メマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=58
-
059・鳩山和夫
○議長(鳩山和夫君) 多數ト認メマス、今日ハ是デ〓會シマス
午後五時三十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001013242X02118970310&spkNum=59
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。