1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正二年二月二十七日(木曜日)午後一時五分開議
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議事日程 第六號 大正二年二月二十七日
午後一時開議
第一 災害地方田畑地租免除に關する法律案(森茂生君外六名提出) 第一讀會
第二 未成年者飮酒取締に關する法律案(根本正君提出) 第一讀會
第三 水道條例中改正法律案(井上角五郎君外五名提出) 第一讀會
第四 私設運河法案(漆昌巖君提出) 第一讀會
第五 關税定率法中改正法律案(岡崎久次郎君外八名提出) 第一讀會
第六 衆議院議員選擧法中改正法律案(古島一雄君外三名提出) 第一讀會
第七 紛爭仲裁法案(高木益太郎君提出) 第一讀會
第八 私立學校用地免租に關する法律案(久保通猷君提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=0
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001・大岡育造
○議長(大岡育造君) 過日ノ決議ニ基イテ本日開會ヲ致シマシタ、是ヨリ諸般ノ報
告ヲ致サセマス
〔書記朗讀〕
一議員ノ異動左ノ如シ
富山縣郡部選出議員廣瀬鎭之君退職セリ
兵庫縣郡部選出議員柴崎鹿之助君退職セリ
一政府ニ於テ撤囘シタル識案左ノ如シ
大正二年度歲入歳出總豫算案竝大正二年度各特別會計歲入歲出豫算案
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
明治四十三年度歲入歲出總決算
明治四十三年度各特別會計歲入歲出決算
明治四十三年度歲入歳出決算檢査報告
自明治四十三年八月二十九日舊韓國政府豫算襲用會計歲入歲出決算
至间年九月三十日
自明治四十三年八月二十九日舊韓國政府豫算襲用各特別會計歳入歳出決算
至同年九月三十日
自明治四十三年八月二十九日舊韓國政府豫算襲用會計歲入歳出決算檢査報告
王同年九月三十日
大正二年度歳入歲出總豫算案竝大正二年度各特別會計歲入歳出豫算案
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
羽越沿岸鐵道建設ニ關スル建議案
提出者佐藤信太君加藤勝藏彌高橋光威君
田邊熊一君小林源君君君長晴登君
戶狩權之助君田中隆三三浦盛德君
若杉喜三郞君
上越鐵道建設ニ關スル建議案
提出者加藤勝彌君武金吉君根岸峮太郞君
佐野喜平太君田邊藤熊一君若杉喜三郞君
信越河東鐵道建設ニ關スル建議案
提出者加藤勝彌君
所得稅法中改正法律案
提出者犬養毅君守屋此助君高木益太郞君
吉田圓助君關直彥君
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
內閣ノ政綱ニ關スル質問
提出者林毅陸君
一昨二十六日山本內閣總理大臣ヨリ左ノ通リ政府委員仰付ラレタル旨ノ通牒ヲ
受領セリ
法制局長官法學博士岡野敬次郞君
鐵道院技師長尾半平君
政府委員
內務省所管事務內務次官法學博士水野錬太郞君
農商務省所管事務農商務次官橋本圭三郞君
遞信省所管事務遞信次官犬塚勝太郞君
一常任委員辭任ノ申出アリタル諸君左ノ如シ
第三部選出豫算委員尾崎行雄君
第五部選出豫算委員伊東要藏君
第六部選出豫算委員小久保喜七君
第六部選出決算委員堀切善兵衞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=1
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002・大岡育造
○議長(大岡育造君) 是ヨリ會議ヲ開キ先ヅ御諮リヲ致シマス、元田肇君外十名ヨ
リ提出ノ決議案ハ、提出者全部ヨリ撤囘ノ申出ガアリマス、許可シテ御異議ハアリマセ
ヌカ
(「異議ナシ」ノ聲起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=2
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003・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ許可スルコトニ決シマス、過日報告致シマシ
タ第三部選出懲罰委員村田虎次郞君、第六部選出請願委員森茂生君、第九部選
出同大久保弁太郎君及唯今報告ノ諸君ヨリ委員辭任ノ申出ガアリマス、之ヲ許可
シテ差支アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=3
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004・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ許可スルコトニ決シマス、同時ニ其部ノ諸君
ハワレノ補缺選擧ヲ行ハレンコトヲ希望致シマス、尙其際請暇ノ件モ報告致シテ置
キマシタガ、是ハ追認致シテ差支ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=4
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005・大岡育造
○議長(大岡育造君) 又左ノ委員ヨリ請暇ノ申出ガアリマス、伊藤要藏君病氣ノ
爲メ今二十七日ヨリ十日間、許可スルコトニ御異議ハアリマセヌカ
(「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=5
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006・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ許可スルニ決シマス-山本内閣總理大
臣
〔內閣總理大臣伯爵山木權兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=6
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007・日向輝武
○日向輝武君 議長、私ハ議員ノ請暇ニ付テ一言シタイノデアリマスガ、花井卓藏、
鵜澤總明兩君ハ立法部ニ於ケル重ナル御方デアリマスガ、此兩君ハ唯今朝鮮ヘ行ッテ
內亂罪ノ辯護ヲ致シテ居リマスルガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=7
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008・大岡育造
○議長(大岡育造君) 唯今ハ許シテアリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=8
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009・日向輝武
○日向輝武君 此請暇ニ付テノ引續キデ御尋ヲ致スノデ、差支ナイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=9
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010・大岡育造
○議長(大岡育造君) 唯今總理大臣ニ許可シテアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=10
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011・日向輝武
○日向輝武君 總理大臣ノ御演說ノアトデ、私ハ總理大臣ニ質問ノ演說ノ通告ヲ
今致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=11
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012・山本權兵衞
○內閣總理大臣(伯爵山本權兵衞君) 諸君、本大臣ハ今囘揣ラズモ大命ヲ拜シマ
シ六、今日茲ニ諸君ト相見ユルノ機會ヲ得マシタルハ實ニ本大臣ノ光榮ト致シマスル
トコロデゴザリマス諸君、帝國ト列國トノ交際ハ曩ニ前內閣總理大臣ガ本議場ニ於
キマシテ開陳致シマシタル如ク、益〓親善ヲ加ヘ、英國トノ同盟ハ愈〓鞏固ニ、日佛日
路ノ兩協約ハ益〓實效ヲ收メツヽアリマスルノハ諸君ト共ニ大ニ喜ブトコロデゴザリマ
ス、行政及財政ノ整理ヲ致シマスルノ必要アルコトハ、前々內閣ノ當時既ニ之ヲ認メマ
シテ、其實行ヲ企畫シツヽアルニ際シテ當局ノ更迭ヲ見マシタ、本大臣ハ卽チ其ノ計
畫ニ基キマシテ、更ニ調査ヲ遂ゲ、是ガ實行ヲ期センコトヲ期シテ居リマスル大正二年
度ノ豫算案ハ行政及財政ノ整理ト相俟チマシテ、新ニ之ヲ編成スベキ筈デゴザリマスケ
レドモ、帝國議會ノ會期旣ニ半ヲ過ギ、而モ新會計年度ノ開始モ剩ストコロ僅ニ一箇月
デアリマシテ、整理ノ結果ヲ具體的ニ像算ニ實現スルコトノ出來マセヌノハ、誠ニ巳ムヲ得
ザル次第デゴザイマス、卽チ茲ニ撤囘致シマシタル同一ノ豫算案ヲ、再ビ本院ニ提出致
シマシタ、諸君ニ於カレマシテモ現下ノ事態ニ察セラレマシテ、協贊ヲ與ヘラレンコトヲ希
望致スノデゴザリマス、現今ノ稅制ハ負擔ノ均衡ヲ得ザルモノ、其他整理ヲ要スルモノ
尠カラザルハ、既ニ久シク一般ノ認メテ居リマスルトコロデアリマス、卽チ之ヲ整理致シマシ
テ其均衡ヲ得セシメ、又財政ノ許ス範圍内ニ於キマシテ、負擔ノ輕減ヲ圖リマスルコトハ
現下ノ國情ニ照シマシテ其最モ緊切ナルコトヲ信ズルモノデゴザイマス、本大臣ハ行政及
財政ノ整理ト共ニ、更ニ必要ナル調査ヲ遂ゲマシテ、是ガ計畫ヲ立テンコトヲ期シテ居リ
マス而シテ所得稅法ノ改正ハ、從來數〓本院ノ議ニ上リ、其實行ヲ緩ウスベカラザルコ
トヲ察シマシテ、本會期中ニ於テ之ヲ本院ニ提出スルノ運ビト致シマス、本大臣ハ豫メ玆
ニ之ヲ言明致シテ置キマス、以上ハ本大臣ガ差當リ行ハントスルトコロノ大要デゴザイ
さ、若夫レ產業ノ振興、其他國力ノ充實ニ必要ナル施設ヲ爲シ、兼テ施政ノ改善
ヲ圖ルコトノ如キハ玆ニ特ニ之ヲ言明致サズトモ、本大臣ハ須叟モ留意ヲ缺クコトナカ
ルベキハ固ヨリ當然ノコトデゴザリマス、諸君願クハ本大臣ノ意ノ在ルトコロヲ諒察セラ
レムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=12
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013・大岡育造
○議長(大岡育造君) 高橋大藏大臣
〔大藏大臣男爵高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=13
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014・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 諸君私ハ大正二年度豫算及稅制整理ニ關シマ
シノ、茲ニ一言致シマスルコトハ最モ光榮ト致ストコロデゴザイマス、大正二年度豫算ハ、
旣ニ内閣總理大臣ノ演說セラレマシタルガ如ク新ニ行政及財政ノ整理ニ關スル計畫
ヲ立テヽ之ニ依テ編成ヲ爲スノ餘曰ガアリマセヌタメニ曩ニ撤囘シタルモノ二何等ノ
變更ヲ加フルコトナク、本日再ビ之ヲ提出スルコトニ致シマシタノデゴザイマス、而シテ其
計數ニ關シマシテハ旣ニ諸君ノ了知セラレルトコロデゴザイマスルガ故ニ、私ハ玆ニ之ヲ
說明スルコトヲ省略致シマス財政及稅制ノ整理ハ今日ノ最モ急務トスルトコロデゴザ
イマス、私ハ專ラ其局ニ當ッテ、銳意之ヲ實行スルコトヲ期シテ居ル者デゴザイマス、而シ
テ所得稅法ノ改正ハ、其最モ急ヲ要スルモノト認メマシテコ私就任ノ後、直チニ其調査
ニ著手ヲ致シマシタ、及ブ限リ之ヲ結了ヲ致シマシテ、是ガ改正案ヲ本期議會ニ提出
致シマスルコトヲ期シテ居リマス諸君願クバ現下ノ事態ニ察セラレ、政府ノ意ノ存スル
トコロヲ諒セラレ、協贊ヲ與ヘラレンコトヲ切ニ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=14
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015・大岡育造
○議長(大岡育造) 犬養毅君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=15
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016・犬養毅
○犬養毅君 私ハ極ク簡單ナ質問デアリマスカラ此處カラ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=16
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017・大岡育造
○議長(大岡育造君) 登壇ヲ望ミマス
〔犬養毅君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=17
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018・犬養毅
○犬養毅君 總理大臣、大藏大臣ノ御演說ニ對シテ、極ク簡單ナ御問ヲ發シタウ存
ジマス總理大臣ノ演說ハ大要ヲ御舉ゲニナリマシタガ、最モ遺憾ニ感ズルノハ國防問
題ニ付テハ一〓之ニ觸レラレナイト一云フコトデアル最モ前々內閣ノ破壞サレタト云ヲ
原因ニナッテ居ル二個師團問題ハ、如何ニナッタノデアルカ、大正二年度ニ於テハ一切
之ヲ出サレヌモノト認メマスルガ果シテ然ルヤ、若シ之ヲ出サレヌト云フナラバ次年度
ニ於テハ二個師團問題ハ又生ジテ來ルノデアルカ否否、何レニシテモ二個師團問題、卽
チ二個師團增加ト云フコトヲ此處ニ止メラレタト云フナラバ其止メタト云フコトハ國防
ノ大體カラ割出シテ、陸軍ハ今日以上增加スルノ必要ナシト認メラレテ此增加ヲ止メラ
レタノデアルカ、或ハ時ノ財政之ヲ許サズ、ソレ故ニ一時之ヲ止メル、併ナガラ少シデモ
財政餘裕ヲ生ジテ來タトー云フナラバ、出サレルノデアルカ言換ヘルナラバ國防全體ノ上
ノ計畫カラシテ、陸軍ハ此上ニ增加スルコトノ必要ナシト認メラレルカ、或ハ財政ガ許シ
タナラバ又出サレルノデアルカ、是ガ御問致シタイ、ソレカラモウ一ツノ問題ハ、官制ニ關係
シタ事デアル、前ノ內閣ニ對シテ政友會ヨリ質問書ヲ提出セラレタ、其内ニ陸海軍ノ官
制陸海軍大臣ハ現役大中將ニアラザレバ出來ナイコトニナッテ居ル是ハ憲政運用ノ
上ニ差支アリト認メルヤ否ヤト云フコトノ問ニ對シ、前內閣桂大臣ハ憲政運用ニ差支
ナイト云フ答辯ヲセラレタノデアル、併ナガラ吾ィハ事實斯ヤウナ官制ハ、憲政運用ノ上
ニハ非常ナ妨害ヲ與ヘテ居ルト云フコトハ認メルノデアル現內閣總理大臣ハ果シテ此
儘ノ官制デ、現在及未來ニ憲政運用ノ上ニ一切差支ナイモノト認メラレルヤ否ヤ、是デ
ゴザイマス、モウ一ツハ財政計畫ノコトニ關シテ、內閣ヲ造ラレタ其日マダ淺シ、是ハ何
處マデモ吾〓ハ其事情ヲ認メテ居リマスルガ、併ナガラ既ニ內閣ニ出デラレ其任ニ當ラル
ルト云フ上ハ腹案ハアル筈デアル、此行政財政ノ整理カラ生ズルトコロノ金額ハ、凡ワド
ノ位マデ整理シ出サレルト云フ御見込デアルカ、而シテ其節減シ得タル中カラ減稅ニ向
ケラレル額ハドノ位ト云フ腹案ヲ持ッテ居ラレルカ今日ノ御演說ニ依ルト」云フト所得
稅ハ擧ゲラレタノデアルガ、其以外ノ諸稅ハ節減ハナサレヌ御積リデアルカ、無論整理ニ
著手シテ愈〓計算シ上ゲタ後デナケレバ細カイ勘定ハ分リマスマイガ、其任ニ當ラレタ以
上ハドノ位マデ節減シ得ルト云フコトノ大體ノ腹案、其節減シ得タ中カラ減稅ニドノ位
向ケル、是ハ御分リニナッテ居ル筈デアルカラ、是ダケノ御答ヲ得タイノデアリマス
〔拍手起ル〕
(內閣總理大臣伯爵山本權兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=18
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019・山本權兵衞
○內閣總理大臣(伯爵山本權兵衞君) 諸君、唯今大養君ヨリノ二三ノ御質問ガ
ゴザイマシタ、第一ハ增師問題ニ對スル問題デアルト考ヘテ居リマス、是ハ大正二年度
ニ於キマシテハ陸軍省所管ノ中ニ計上シテゴザイマセヌノデゴザイマス、然レドモ國防ノ
事タル單純ニ此演壇ニ於テ、將來ニ對シテ詳カニ玆ニ御答スルト云フコトハ甚ダ困難ヲ
感ズルノデゴザイマスカラ、左樣御承知ヲ願ヒ、重ネテ又之ニ對シテハ御書面デモ出シテ
下サルト、愼重ニ愼重ヲ重ネマシテ御答スルコトニ致シタイノデアリマス第二問ノ陸海
軍大臣ハ現役ノ大中將ニアラザレバ出來ヌガ、是ハ憲政運用上ニ差支アリヤ否ヤ、前
內閣ニ於キマシテハ之ニ對シテ憲政運用上何等ノ差支ナイト云フ答辯デアッタガ、此
內閣ハ如何ト云フコトデゴザイマス、是亦重大ナ問題デゴザイマスルニ依テ、今申上ゲマ
シタル如ク、等シク書面ニテ御尋ネ下サルコトヲ偏ニ希望致シ、併セテ丁寧ニ又御答ヲ
(「ノウ〓〓」ト呼フ者アリ)致シタイト思フノデアリマス
(「マダ殘ツテ居ルデハナイカ」ト呼フ者アリ〕
〔大藏大臣男爵高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=19
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020・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 唯今犬養君ヨリ御質問ノ、一番ノ末段ニアリマシタ
卽チ行政財政ノ整理ニ依テ節約シ得ルトコロノ金額ハドノ位ノ豫定デアルヤ、又ソレヲ
減稅ノ方ニハドノ位、用ヒル積リデアルカ、又所得稅ダケハヤルト言ウタガ、後トノモノハド
ウスルノカト、斯ウ云フ御尋デアッタト記憶致シマス、無論前々內閣ニ於キマシテ、所得
稅、營業稅、其他取引所稅等ノコトガ明言サレテアリマシタガ、ヤハリ其趣意ニ依テ斷行
シテ行ク覺悟デゴザイマス、故ニ此所得稅ノ調査ガ濟ミマスト、直ニ次ニハ營業稅ノ調査
ヲ取急イデ致シマシテ、卽チ出來得ベクムバ此議會ニ提出スルノ覺悟ヲ以テ、調査ヲ
晝夜兼行急ク積リデゴザイマス、而シテ其金額ニ至リマシテハ、前々內閣ノ取調ベノ草稿
ニ依テ見マスト、諸稅合セテ又鹽價ノ引下ゲヲ合セテ彼是九百万圓前後ノ數ニ上ポッテ
居リマスガ、此金額ニ至リマシテハ詳細ニ取調ベタ上テナケレバ明言ハ出來マセヌノデアリ
マス
(「腹案ヲ言ヘ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=20
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021・犬養毅
○犬養毅君 ソレデハ山本總理大臣ニ求メテ置キマス、殊ニ書面デ質問ハ出シマセヌ、
唯今質問致シマシタコトガ、重大ナ問題デ御卽答ガ出來ナイト云フ御考デアルナラバ、
餘裕ヲ與ヘマセウ、書面ハ別ニ出サナクテモ私ガ玆ニ述ベタコトニ對シテ二日ナリ三日ナ
リ御考ガ極マリ次第、最モ早イ時間ヲ以テ御答ヲ願ヒタイ(拍手起ル)
〔島田三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=21
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022・島田三郎
○島田三郞君 諸君ヽ是ヨリ內閣總理大臣ニ特ニ御質問ヲ致シマスル事柄ハ、甚ダ
簡單ナルモノデアリマス、併ナガラ其事柄ハ極メテ重大ナルモノト本員ハ確信致シマス、
其明白ナルガ故ニ、御答モ亦明白ニ承リタイト云フコトヲ特ニ此處ニ申シテ置きマス、本
員ノ見ル所ニ依リマスルト、何レノ內閣モ皆此事ニ就テハ嚴正ニ考ヘラレナケレバナラヌ
事デアリマスルガ、特ニ政友會ノ御方ガ前內閣ニ向ッテ望マレタトコロノ事柄デアリマスカ
ラ、唯今ノ時機ニ営ッテ明白ニ此事實ヲ天下ニ知ラシメテ、天下ノ人ヲシテ安心ヲスル
ヤウニ致シタイト思フノデゴザイマス、是ハ上下共ニ同一ノ感ヲ懷イテ居ルトコロノ重大ナ
問題デアリマスガ、卽チ宮中ト府中ノ關係、宮內官ト政黨ノ關係デアリマス、本員ノ知
リ得ル限リニ於テ、唯今內閣ノ椅子ヲ占メラレテ居リマストコロノ一人ノ御方、閣員ニア
ラザルモ政府ノ重職トシテ椅子ヲ占メラレテ居ル一人ノ御方ガ、宮中顧問官ヲ兼任シ
テ居ラレルト云フコトハ、如何ナル次第ニ現內閣ハ考ヘラレテ居ラルヽカ、之ヲ承リタイ
ノデアリマス、宮中府中ノ別ヲ明カニスルト云フコトハ憲政ノ下ニ立ッテ最モ嚴正ニ見
ナケレバナラヌト思フ、更ニ政黨ノ發達ニ隨ツテ、愈〓宮中ト政黨トノ其關係ヲ明白ニ致
サナケレバナラヌト云フノハ國ヲ思フトコロノ人ノ同一ナル觀念デアリマス、若シ一方ニ新
ニ起ルトコロノ力ガ强クナリマシテ、是ガ宮中ニ關係ヲ持ツト云フコトニナリマスレバ、國ニ
取ッテ重大ナル事柄デアリマス、唯今述ベタトコロノ事柄ヲ、事實ニ當篏メテ見マスルト
奧田文部大臣ハ宮中顧問官在官デ居ラレマス、此宮中顧問官デ居ラレル御方ガ、在
官、卽チ現在ノ椅子ヲ占メラルヽニ先ッテ、政友會ニ入黨ヲセラレタノデアリマスガ、是ハ
如何ナル關係ヲ此間ニ於テ現內閣ハ有セラレテ居リマスカ、之ヲ承リタイノデアリマス
(「尙大ナル質問ガアル」ト呼フ者アリ)宮內官ガ政治ニ關係スルト云フコトハ、勿論憲政
ノ下ニ於テ言ハズモガナ、許スベカラザルコトデアルト本員ハ思ウテ居リマス、抑ノ宮中顧
問官ハ名譽職デハナイノデアリマシテ、宮内省官制ノ第二十一條ニ顧問官ト云フモノハ
大臣ノ諮問ニ應ジ、又ハ臨時大臣ノ命ヲ受ケ省務ヲ輔クトアリマシテ、事實宮中ノ事
ヲ掌ルトコロノ重キ官吏デアリマシテ、此御方ガ大臣ノ椅子ヲ占メラレル前ニ、政黨ト其
關係ヲ付ケラレテ、自ラ政友會ニ入會セラレタト云フコトハ、宮中ニ官ヲ有シテ居ル者
ヲ、現內閣ハ政治ニ關係スルコトヲ許サレ、更ニ政黨ニ入ルコトヲ許サレルト云フ、此通
則ヲ明ニ認メラレタノデアリマスカ、之ヲ承リタイノデアリマス(拍手起ル)錦鷄間祇候ノ
如キ名譽職デナイト云フコトハ、唯今本員ノ述ベタルトコロノ明文ガアリマスルカラ純
然タル宮內官デアリマス、大臣タル者ガ政黨ニ入リ、大臣タル者ガ宮內官ヲ兼ネル、此
事ニ付テハ宮內官ヲ兼ネルト云フコトニ付テ、如何ナル關係ヲ有ッテ居ラレルカ、是ハ第
二ノコトヽ致シマシテ宮中顧問官ガ直ニ政黨ニ入ラレルト云フコトヲ認メラルヽノハ、大
臣ニシテ然リ、重要ナルトコロノ椅子ヲ占メテ居ルトコロノ人ニシテ然リ、然ラバ宮內ニ
席ヲ有ッテ居ラルヽトコロノ大小ノ官吏ハ、舉ゲテ政黨ニ關係シ、政黨員トナルコトヲ許サ
レルト云フ現在ノ内閣ハ見解デアルヤ否ヤ、、之ヲ承リタイノデアリマス(拍手起ル)是ハ
政黨ノ區別ヲ問ハズシテ、定メシ滿場ノ御方ガ重大事件デアルト云フコトヲ、認メラレル
デアラウト思フ宮中府中ノ別ヲ紊ルドコロデハナイ、政黨ト宮廷トノ間ヲ紊ルトコロノ
一大事件デアルト本員ハ言ハナケレバナラヌト思フノデアリマス(拍手起ル)知ラズシテ爲
サレタト云フコトニ至ッテハ、決シテ私ハ之ヲ許スコトハ出來ナイ、奧田君ハ法律ニ精通
セラルヽトコロノ御方デアル、承ルトコロニ據レバ宮廷ノ諸規則ヲ調ベラレタトコロノ御方
デアル、唯今ノ衆議院選舉法ハドウ書イテアリマスカ、其第十五條ニ宮內官ハ被選權
ヲ有スルコトヲ許シテナイノデアリマス何故ニ宮内官ニ被選權ヲ許サナイノデアルカ、
是ハ宮內官ヲシテ間接ニモ政治ニ關係セシメズト云フトコロノ宮中ト政治トノ區別ヲ
嚴格ニ示ス一大箇條デアルト本員ハ思ウテ居リマス、被選權ヲ許サヾルトコロノ宮內官
ヲシテ、直接政黨員タラシメテ、之ヲ問ハザルト云フコトニ至ッテハ、如何ナルコトデアル
カ承ルトコロニ據レバ其政黨ニ入ラレタ手續ニ於テ、唯今ノ總理大臣山本伯モ、ヤハ
リ連帶シテ其席ニ居ラレタカノ如ク新聞ハ傳ヘテ居リマス、然ラバ現內閣ハ宮廷ヲ舉ゲ
テ政黨ニ入ラシムルモ亦可ナリト云フ通則ヲ御認メニナッタノデアルカ、之ヲ承リタイ、集
ガラソレハ許サナイト云フコトデアレバ現在ノ事實ヲ如何ニスルカ、之ヲ承リタイ、夏ノ
法制局長官ヲ承ッテ居ルトコロノ岡野君ハ如何デアルカ、今日ノ報告ニ據ルト、確ニ此
法制局長官ハ政府委員トシテ新ニ命ヲ受ケテ、此處ニ御出席ニナルベキ順ニナッテ居リ
マス、此方モヤハリ宮中顧問官ノ一人デアル、政府ノ法律關係ニ主腦ヲ占メテ居ラレル
此方ガ、是モ可ナリト云フ御意見デアッテ、御自身モ亦宮中府中ノ別ヲ問ハザル見解デ
アルカ、之ヲ承リタイ併ナガラ本員ハ岡野君ニ問ハナイ、又奧田君ニモ問ハナイ、內閣
ノ主腦ヲ持ッテ居ラルヽトコロノ總テヲ總管シテ居ラルヽトコロノ總理大臣山本伯ニ、直
接ニ御意見ヲ承リタイノデアリマス、事實斯ノ如クデアレバ、更ニ御調ハ要サナイノデア
ル書面ヲ以テ差出スニモ及バナイノデアル(拍手起ル)時日ノ餘裕ヲ與ヘルニ及バナイノ
デアル、ソレ故ニ全責任ヲ有ッテ居ラレル總理大臣ヨリ、此席ニ於テ更ニ之ニ直接關係
アルトコロノ御方ノ列席セル此座ニ於テ、卽刻ニ御答ヲ得ナケレバナラヌ、宮中府中ノ
別ヲ紊リ、政黨ト宮廷ノ關係ヲ混亂スルト云フコトハ一大事デアッテ、一日モ猶豫ナク
御明答ヲ與ヘラレムコトヲ、切ニ希望スルノデアリマス
〔文部大臣法學博士奧田義人君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=22
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023・奧田義人
○文部大臣(法學博士奧田義人君) 唯今島田君ヨリ、總理大臣ヘ對シテノ二箇條
ノ御質問ガアリマシタガ、私ヨリ之ヲ御答致シマスルハ僭越デアッテ、定メシ御不滿足デア
ラウト考ヘマスルケレドモ、事自身直接關係ヲ有ッテ居ルコトヽ思ヒマスルカラ、私ヨリ答辯
スルコトヲ御許シアラムコトヲ希望致シマス、私ガ宮中顧問官デアッテ、且ツ文部大臣ヲ
兼ネテ宮中府中ノ關係ヲ紊ッテ居ル、宮中顧問官ハ名譽職デナイ、斯ウ云フ御話デアリ
マシタガ、是ハ一應申上ゲテ置キマスルガ、宮中顧問官ハ名譽職デアリマス、俸給ハ一文
タリトモ貰ッテ居ルモノデハアリマセヌ(拍手起ル)然レドモ宮中顧問官ハ宮內官ニ相違ハ
アリマセヌ、文部大臣ノ任命ト共ニ、此御許ヲ願フコトニ手續中ニ相成ッテ居リマスカラ
御承知ヲ·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=23
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024・島田三郎
○島田三郞君 更ニ承リマスガ手續中デアレバ、現在ハ尙ホ宮內官デアルト思ヒマスガ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=24
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025・奧田義人
○文部大臣(法學博士奧田義人君) ソレハドウモ致方ガナイ、何分早急ナコトデ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=25
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026・島田三郎
○島田三郞君 然ラバ政黨ニ御入リニナッタト云フノハ······(「桂公ハ如何」ト呼フ者
アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=26
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027・奧田義人
○文部大臣(法學博士奧田義人君) ソレカラ御承知ヲ乞イタイノハ、制度調査ノコ
トニ付テ關係ヲ有ッテ居リマシタ私ノコトデアリマスルカラ、其始末ヲ著ケズ無責任ニ逃ゲ
ル譯ニハ參リマセヌノデ、其始末ヲ著ケルタメニ遲クナッタダケノコトデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=27
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028・島田三郎
○島田三郞君 ソレナラバ尙ホ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=28
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029・大岡育造
○議長(大岡育造君) 島田君暫ク御控ヘナサイ、唯今文部大臣ノ答辯中デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=29
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030・奧田義人
○文部大臣(法學博士奧田義人君) 第二ニ法制局長官ガ、宮中顧問官ヲ兼任シ
テ居ルト云フ御話デアリマス是ハ宮內官ト政府ノ役人ト便宜相互ニ兼任スルト云フコ
トガ勅令ニ於テ認メラレテ居リマシテ、現在ニ於キマシテモ法制局參事官デ宮内官
ヲ-書記官ヲ兼ネテ居ル人モアリマスル、是等ノ人ミハ事務官デアルニ依リマシテ、蓋
シ斯樣ニ相成ッテ居ルコトナリト信ジテ居リマス、御承知アランコトヲ希望致シマス
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=30
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031・島田三郎
○島田三郞君 今一應質問ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=31
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032・大岡育造
○議長(大岡育造君) 島田三郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=32
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033・島田三郎
○島田三郞君 唯今名譽職デアルト仰シヤイマシタガ、名譽職デアルト云フコトノ區別
ヲ承リタイノデ、第一ニハ手續ヲ··
〔「ノウノ」ト呼ヒ又「無用々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=33
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034・島田三郎
○島田三郞君 御默リナサイ本員ハ許可ヲ得テ居リマス
(「登壇シ給ヘ」又「學校ニ往ケ」ト呼フ者アリ議場騒然)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=34
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035・島田三郎
○島田三郞君 ソレナラバ登壇致シマス
〔島田三郞君登壇〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=35
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036・島田三郎
○島田三郞君 斯樣ナル大切ナルコトヲ不分明ニスルト云フコトハイケナイト思ヒマス、
(「三百」ト呼ヒ又「ヤルベシ」ト呼フ者アリ)再ビ奧田君ニ對シテ申上ゲマス(「無用」ト呼
フ者アリ)無用デアリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=36
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037・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜肅ニ·····
〔「無用々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=37
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038・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御靜ニナサイ、唯今質問中デアリマス(「無用」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=38
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039・島田三郎
○島田三郞君 無用デアリマセヌ、議長、制止ナサイ議長ガ制シテ居リマスカラ、本
員ハ此事ノ明白ナル御答ヲ得ルマデハ、一時間デモ二時間デモ立ッテ居リマス
〔笑聲起り「三百」ト呼ヒ〓ハ「無用」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=39
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040・島田三郎
○島田三郞君 奧田君ハ不都合ナル答ヲ與ヘラレタト本員ハ明言致シマス、唯今手
續中デアル、サウ致シマスルト以來ハ官吏ハ辭表ヲ出シマシテ、手續中デアレバ其官吏ガ
同時ニ民間デ商業ヲ營ンデ宜シイノデアリマスカ手續中ニ(「ヒヤノ」ト呼フ者アリ)ソ
レト同ジ論法ヲ以テ(「三百論」ト呼フ者アリ)手續キノ著カナイ內ニ政黨ニ這入タテ、宮
中ノ人ヲシテ政黨員タラシムルト云フコトハ、現內閣ハ許サルヽノデアリマスカ伺ヒマス
(「三郞三百ニナレリ」ト呼フ者アリ)議長御鎭メ下サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=40
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041・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御靜ニナサイ、靜肅ニ·
〔拍手起リ又笑聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=41
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042・島田三郎
○島田三郞君 宮內官ガ政黨ニ這入ルト云フコトヲ、現在ノ內閣ハ許ス內閣テアルガ
故ニ、斯ノ如キ重キ任ヲ荷ウテ居ルトコロノ宮內官ガ手續中デアルト云フ言葉ヲ以テ政
黨ニ這入ラルヽナラバ以來大小ノ宮內官ハ皆手續中デアルト云フ言葉ヲ以テ、日ヲ經ル
マデ、ヤハリ其手續中ニ政治ニ干與スルト云フコトヲ許スト云フ現在ノ內閣ノ通則デアル
ナラバ、本員ハ之ヲ以テ再ヒ適當ナ處置ヲ執ッテ、現內閣ニ向ッテ本員ハ發議ヲ致ス積
リデアリマス、事實ハ斯ノ如キモノデアリマシテ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=42
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043・大岡育造
○議長(大岡育造君) 島田君、質問ダケニ了ッテ····
〔「ヒヤ〓〓」ト呼ヒ拍手スル者アリ笑聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=43
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044・島田三郎
○島田三郞君 宣シウゴザイマス、併ナガラ事實ハ斯ノ如キモノデアリマス、宮內官デアッ
テ、政黨ニ此儘這入ッタ事實ハ明白トナリマシタ(「恥ヲ知レ」ト呼フ者アリ)ソレデ更ニ、
モウ一ツ奧田君ニ問ウテ置キマス名譽職デアルト云フコトヽ名譽職デナイト云フコトハ、
宮中ノ事務ヲ執ルト執ラザルトノ別デアルト本員ハ理解シテ居リマスガ、錦鷄間祗候ト
云フヤウナ名譽ノ位地ニアラズシテ、宮內省官制ノ二十一條ニハ臨時大臣ノ命ヲ承ケ
省務ヲ輔クトゴザイマスルカラ、本員ノ見ル所ノ名譽職ト云フモノトハ違フノデアリマス
純然タル宮内省ノ官吏デアッテ、宮內省ノ官吏デアル時ニ政黨ノ駈引ノ都合ニ依ジテ
政黨ニ入ラレタト云フ事實ハ、長ク速記錄ニ記錄シテ、官制ヲ紊ルコトヲ認メタル內閣
ナリト云フコトヲ本員ハ斷言致シマス
(「答辯スル必要ナシ」又「問題外」ト呼フ者アリ〕
〔文部大臣法學博士奧田義人君登壇〕
(拍手起リ又「總理大臣ヨリ答辯スベシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=44
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045・奧田義人
○文部大臣(法學博士奧田義人君) 今一應私ヨリ御答致シテ置キマス、島田君ハ
唯今役人ト會社ノ重役ナドト一緒ニナッテモ構ハヌヤウナ(「被告ダカラ默レ」ト呼フ者ア
リ)御話ガアリマス、ソレハ甚ダ極端ノ御話デアリマシテ、役人ノ代リ目ノ時ニハ、往々ニシテ
數日ノ間ト云フモノハイロ〓〓重複ヲシタコトノアリマスルノハ、從來ノ例デアリマシテ、必
ズシモ其例ヲ襲フ譯デハアリマセヌケレドモ、是マデ皇室ノ制度ノ調査ノ事ニ與ッテ居リマ
シタカラ、其始末ダケヲ既ニ此一兩日中ニ付ケマシテ、御免ヲ蒙ルコトノ手續ヲ致シテ居
リマスルカラ、ソレデ御承知ヲ願ヒマス
〔宮中府中ノ制ヲ紊ル〓ハナイカ」ト呼ヒ又「默レ」「辭職スベシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=45
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046・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=46
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047・奧田義人
○文部大臣(法學博士奧田義人君) ソレカラ名譽職ト云フコトハ、私ハ唯今宙デハ
覺エマセヌケレドモヽ確カ宮內省ノ官制ニハ、宮中顧問官ハ名譽職トスト云フコトノ明
文ガアルト覺エテ居リマス、(「何條ニアリマス」ト呼フ者アリ)宙デ覺エマセヌト御答致シマ
シタ、若シ御必要デゴザリマスレバアトデ取調ベテ御答ヲ致シマス
(「政黨ヘ入ッタノハドウカ」ト呼ヒ刄ヘ「總理大臣ノ答辯ヲ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=47
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048・大岡育造
○議長(大岡育造君) 奧繁三郞君
〔奧繁三郞君登壇〕
〔拍手起ル〕
(總理大臣ト文部大臣ト同ジ意見デアルカ總理大臣ノ答辯ヲ求ム」ト呼フ者
3色
(日向輝武君「議長、私ノ番ハ何番デアリマスカ」ト呼フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=48
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049・奧繁三郎
○奧繁三郞君 諸君、本員ノ質問ハ、犬養君ノ第三項ノ質問ト殆ド同一デゴザイマ
ス、(八百長カ」又同ジナラヤメルベシ」ト呼フ者アリ)第二十八議會ニ於テ(「八百長」ト
呼フ又默ッテ聽ケ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=49
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050・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=50
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051・奧繁三郎
○奧繁三郞君 時ノ大藏大臣ガ、所得稅ノ外ニ營業稅ノ改正案竝ニ鹽價ノ引下ヲ
宣明セラレマシタ、此結果ヲ聽キタイノデアリマス、吾ミハ公言ニ對シテ今期議會ニ此事
ヲ實行サレルコトヲ望ムノデアリマス、諸君、八百長デモ何デモ宜イ、(笑聲起ル)是ハ國
民希望デアル、(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)此國民ノ希望ヲ吾〓ハ實行スルコトヲ望ムノ
デアリマス、尙重ネテ此事ヲ政府ノ答辯ヲ求ムルノデアリマス(「君等ノ主張ヲ政府ガ容
レテ居ルノデハナイカ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=51
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052・大岡育造
○議長(大岡育造君) 高橋大藏大臣
〔大藏大臣男爵高橋是〓君登壇〕
〔拍手起ル「好イ取組ダ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=52
-
053・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 唯今奧君カラ、重ネテ稅政ノコトニ付テ御尋ガゴザ
イマシタ國民ノ希望トシテ此營業稅及鹽價引下ノコトヲ實行ヲ此議會ニ於テ望ムト
斯ウ云フ御質問ト拜聽致シマシタ、鹽價ノ引下ハ、之ヲ實行スルニハ法律モ要ラナイ
譯デアリマスカラシテ、行政ノ處分デ出來ル範圍デゴザイマス(拍手起ル)就キマシテハ其
手續キト財源ヲ早速ニ調査致シマシテ、之ヲ二年度中ヨリ實行スルノ決心ヲ持ッテ居リ
マス(拍手起り「伺ヒノ通リ」ト呼フ者アリ)又營業稅ハ此議會ニ法案ヲ提出スルノ覺悟
ヲ以チマシテ、調査ヲ今急イデ居ル所デゴザリマスカラ、左樣御承知ヲ願ヒマス(拍手起
ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=53
-
054・大岡育造
○議長(大岡育造君) 增田義一君
〔增田義一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=54
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055・増田義一
○增田義一君 本員ハ總理大臣竝ニ大藏大臣ニ對シテ質問致シマス、總理大臣ハ、去
二十一日首相官邸ニ於テ、上院議員ノ代表者ヲ御招キニナッテ、其ノ席上ニ於テ、施政
ノ方針トモ見ラルベキ御演說ガアッタノデゴザリマス、其際ニ近時我國民ノ閣族打破、憲
政擁護ノ運動ニ對シ、大分感情ノ激昂シタト云フコトヨリ、其行動ニ對シテ總理大臣
ハ評シテ曰ク、近時我國民ハ動モスレバ支那ノ二ノ舞ヲ演ズルノ虞ガアル、斯樣ナコトヲ
明言サレテ居ル此事ハ果シテ事實デアルヤ、デ、支那ノ二ノ舞云々ト云フコトハ、支那
國民ガ革命ヲ演ジテ居ル所ノ意味デアルカ、忠良ナル我國民ニ對シテ、革命思想アリト
御認メニナッテ左樣仰シヤッタノデアルカ、又其時ノ演說ニ、桂公ハ政友會ト情意投合
妥協ヲ演ジタ、之ヲ以テ範トスト御述ベニナッタ、所ガ二十二日ノ各新聞ニ揃フテ掲載
シテアッタガ、翌日モ翌々日モ、正誤モ訂正モゴザリマセナンダ、五日隔テタ後ニ、更メテ
演說筆記ナルモノガ新聞ニ現ハレタ所ニ依ルト、此ノ二項目ガ取除ケラレテアル、果シテ
何レガ眞デアルヤ否ヤ、國民ハ總理大臣トモアルベキ御方ガ、責任ノ地位ニ居ッテ述ベラ
レタコトガ、五日モ隔テヽ演說ノ取替ガ新聞ニ出ルト云フコトハ甚ダ不審ニ感ズル所デ
アリマス何レガ是ナリヤ、明答アランコトヲ希望致シマス、第二ニ唯今總理大臣ハ施
政ノ演說中ニ、產業ヲ進步シ、國力ノ充實ヲ圖ルト云フコトヲ、御述ベニナッテ居リマス
ガ、今日日本ノ產業ノ發展ヲ阻害シテ居ルノハ何デアルカ、惟フニ不自然ナル物價騰
貴、此ノ物價騰貴ハ言フマデモナク兌換劵ノ增發、而シテ其ノ增發セラレタル兌換券
ハ、伸縮力ヲ失ナッテ居ルノデアル、而シテ在外正貨、政府ノ所有セラルヽ正貨、日本銀
行ノ所有セラルヽ正貨、之ヲ引當ニ兌換劵ガ出テ居ル而シテ輸入超過ノタメニ正貨
ガ出テ行クベキ筈ノ所ニ、在外正貨ガ國債貸借ヲ決濟セラレルタメニ、兌換券ノ伸縮力
ヲ失ッテ居ルノデアル是ガタメニ大ナル物價騰貴ノ影響ヲ受ケ、政府ノ費用ヲ增シ、民
間經濟界ニ於テモ生產費ヲ增加シテ困ッテ居ルノデアル、此變則ナル政策ハ全廢セラル
ル見込アリヤ否ヤ、尤モ新大藏大臣ハ兌換券ノ多キコトハ物價ニ關係ナシト云フ、一世
ヲ驚カス明論ヲ說カレタ(「明論ニアラス愚論ナリ」ト呼フ者アリ)メイノ字ハ反對ニ迷フト
云フ字デアルカモ知レヌ、是マデ大藏大臣ハ在外正貨ヲ取寄セル所ノ運賃、保險料ガ
不經濟デアルト云フコトヲ、何處カデ御述ベニナッタガ、其正貨ノ輸入又輸出スル所ノ
運賃保險料ノ損ト、此變則ナル制度ノタメニ國家及ビ民間共ニ受クル所ノ損失ノ輕
重大小何レニ在ルト思ヒナサルカ、又其在外正貨ハ幾ラアルカ、之ニ對シテ明答アラン
コトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=55
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056・大岡育造
○議長(大岡育造君) 山本總理大臣
〔內閣總理大臣伯爵山本權兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=56
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057・山本權兵衞
○內閣總理大臣(伯爵山本權兵衞君) 唯今增田君ヨリ三箇條ノ質問ガゴザイマシ
タ、第一ノ御質問タルヤ、過日總理大臣官邸ニ於キマシテ、貴族院ノ一部分ノ御方々
ト御話ヲ致シマシタル事柄ガ、翌日ノ新聞紙上ニ現ハレテ居ル其要〓ヲ舉ゲレバ政治
上ノ活動ヨリ遂ニ常軌ヲ逸スルノ虞ガアル此儘デ行ッタナラバ或ハ支那ノ二ノ舞ヲシナ
イカト云フヤウナコトガアッタヤウノ意味デアルヤウニ考ヘマス、諸君今增田君ハ新聞
紙ニ若シ誤リガアッタナラバ、翌日若クハ其翌日直チニ取消ヲヤルベキ筈デアルニ拘ハラ
ズ、其儘放ッテ置イタカラ、果シテ是ハ事實デアルデアラウト云フ如キコトデゴザイマシタ、
私モ常ニ諸君ト均シク、新聞紙上ニ最モ重キヲ置ク一人デゴザイマス、然レドモ內閣組
織以來諸事複雜ヲ致シテ、ナカ〓〓諸般ノコトニ對シマシテ、總テ注意ヲ致スト云フコト
ガ間〓脫ケルコトガゴザリマシテ、然レドモ新聞紙上ニ現ハレテ居リマスル所ノモノハ、貴族
院ノ諸君ニ御話致シマシタルコトヽマルデ違ッテ居ルノデゴザリマス(ノウノ)決シテ此ノ
議場ニ向ッテ間違ッタコトハ申シマセヌ(拍手起ル)又新聞紙上ニ現ハレテ居ル事柄ヲ直
チニ此議場ノ問題ト致シマシテ、露骨ニ申シマスレバ答辯ノ限リデハゴザリマセヌケレド
モっ誠意ヲ以テ御質問デゴザリマスカラ、一言申述ベルノ必要アリト、信ズルノデゴザリマ
ス(拍手起ル)斯ノ如キ言ハ、決シテ爲シタコトハゴザリマセヌ、左樣御承知置キニナリタ
1、第二條ノ情意投合ト云フコトモ、誠ニ摸範デアルカラ、之ニ則リタイ、是亦ゴザリマ
セヌ(拍手起ル)左樣御承知置キニナリタイ、又本日此議場ニ置キマシテ申述ベマシタル
事柄ニ對シテノ御質問ハ、事重大ノ事デゴザイマスカラ、尙ホ篤ト熟考ヲ重ネマシタ末、
便宜ノ場合ニ於キマシテ開陳スルコトデゴザリマスカラ、左樣御承知置キヲ願ヒタイ
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=57
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058・大岡育造
○議長(大岡育造君) 高橋大藏大臣
〔大藏大臣男爵高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=58
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059・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 唯今增田君ノ第三ノ御質問ハ、物價、在外正貨、
此二ツノ問題ト拜察致シマシタ、又嘗テ私ガ物價騰貴ニハ通貨ノ膨張ハ何等關係ガナ
イト申シタコトヲ御聞キニナッタト見エマシテ、(「ソレヲ聞キタイデス」ト呼フ者アリ)ソレヲ
尋ネタイト云フコトデアリマス、是モ其當時銀行通信錄ニ筆記シタモノガ出テ居リマス
如ク、決シテ何等ノ關係ガナイト申シタコトデハナイノデアリス、此物價騰貴ノ原因ヲ爲
スモノハ種々樣々ナ關係ガアッテ、世ノ中ニハ單ニ物價騰貴ノ原因ヲ爲スモノハ通貨ノ數
量デアルト簡單ニ論ジテ、之ガ爲ニ多ク世上ヲ誤リハセヌカ、銀行者タルモノハモット深ク
〓究シテ、此物價騰貴ノ原因ヲ論スルナラバ、事實ニ付テ〓究ノ上述ベテ貰ヒタイト云
フ希望ヲ以テ、話シヲ致シタコトデゴザイマス、此物價騰貴ノ原因ニ付キマシテハ、百有餘
年以來歐米ノ實業家モ經濟學者モ常ニ論ジテ居ルコトデ、未ダニ是レナラバト云フ解
決ガ出來テ居ラナイソレハ此經濟社會ノ狀態ガ時々刻々變化ヲシテ居リマス、人智ノ
進ムコト、發明ノ力、運輸交通ノ開ケテ往クコト、新規ニ殖民地等ニ事業ノ起ルコト、
サウ云フ關係ハ日ニ月ニ進步シテ往クタメニ、一年トシテ世界ノ經濟ノ狀態ガ動カズニ
同ジ有樣デアッタト云フコトハナイノデアリマスカラ、學者ガ其時ノ事實多クハ過去
ノ事實ニ就イテ〓究ヲシテ、之ヲ未來ノ事或ハ(講釋ハイラヌト呼フ者アリ)成ルタケ短
クヤリマスサウ云フ譯デアリマスカラ此處デ以テ物價ノ事ヲ充分ニ御答ヲスルト云フナラ
バ、或ハ六箇月モ七箇月モ掛ルカモ知レナイ(「分ッテ居ル」又ハ「在外正貨問題デス」ト
呼フ者アリ)在外正貨ハ如何ニシテ此在外正貨ガ出來タモノデアルカ、其事ヲ御〓究ニ
ナルト直チニ分カルノデス、、日本銀行ガ持ッテ居ルトコロノ在外正貨ハ、必ズ內地ニ於テ兌
換劵ヲ發行シテ以テ買ッタ在外正貨デアリマスカラ直チニ是ガ正貨準備ニ入ルベキモノデ
アル、併シサウ致シマシテハ、經濟社會卽チ金融社會ノ調節ヲスルコトヲ怠ルコトニナリ
マスカラ、金融社會ノ波動ガ大キクナルカラ、時ニ因テ此兌換券ヲ發行シテ出シタ
正貨ヲモ準備ニ入レズニ、此市場ノ金融ヲ調節シテ往クト云フヤウナコトニナッテ居リマ
スソレカラ又、正貨ガアルガタメニ物價ニ及ボスト云フコトハ直接見出サナイ(「簡單」
又ハ「明瞭」ト呼フ者アリ)此位デモウ·
〔拍手スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=59
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060・大岡育造
○議長(大岡育造君) 片岡直溫君
〔片岡直溫君登壇〕
〔「簡單」ト呼ヒ又ハ拍手スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=60
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061・片岡直温
○片岡直溫君 私ハ總理大臣竝ニ大藏大臣ノ財政計畫ニ對シテ、質疑ヲ試ミタイト
考ヘルノデアリマス(「桂公ノ出シタノト同ジタト」呼フ者アリ)大藏大臣ハ豫算ニ對シテハ、
一旦撤囘ヲ致シタガ桂內閣ノ編製シタモノヲ、其儘提出致シタ、斯ウ說明セラレマシタ
ダケデ、是等ノ內容ニ對シテ現內閣ハ如何ニ施設シテ行クト云フ御說明ハ更ニ無イノデ
アリマス、ソレ故ニ玆ニ言ヲ設ケテ質議ヲ試ミタイト思フノデアリマス、此桂內閣ノ財政計
畫ニ依リマスルト、大藏證券ヲ發行スル最高限度ハ五千万圓ニ止ムルトシテアルノデアリ
マス併ナガラ此豫算ヲ此儘實行致シマシタナラバ、五千万圓ノ大藏證券ノ發行制限
高ヲ茲ニ止ムルト云フコトデハ、到底仕賄ヒハ附カヌ筈テアル然ルニ現内閣ハ之ヲ果
シテ大藏證券ヲ五千万圓限度ニ止ムルト云フ御考デアルカ、果シテ其御考デアリトスレ
ハ其不足ヲ生ズルモノニ向ッテハ如何ナル方法ヲ以テ眞補ヲナサルカ、斯ウ云フコトガ
第一ニ御尋ネヲ致シテ見タイト思フノデアリマス、思フニ現內閣ハ此歲出歲入總額五
億八千餘万圓ノ中カラ、節減ヲ致サルルデアラウト考ヘルノデアリマス、卽チ其節減ヲスル
トコロノモノニ依ッテ大藏證券ノ發行額ハ五千万圓ニ止ムルコトヲ得ルト云フ御考ガアル
デアラウカト推測ヲスルノデアリマス、然ラバ其節減スベキトコロノ金額ハ如何程デアルカ、
其金額ヲ御明答ヲ願ヒタイノデアリマス、總理大臣ノ財政計畫ニ對スル御說明ノ要點
ヲ見マスルト、前々內閣ニ於テ計畫サレタトコロノモノヲ踏襲シテ、尙ホ之ニ調査ヲ加ヘ
テ整理ヲ實行スルト云フ御趣意ノヤウニ見エルノデアリマス然ラバ前々內閣卽チ西園
寺內閣ニ於テハ、合計三千七百万圓許リノ節減ヲシ得ルコトニナッテ居ッタ如クニ聲明
サレテ居ルノデアリマス、此聲明ハ政友會ノ總會ノ當時ニ於テ、總裁トシテモサレテ居ル
ヤウデアリマス、然ラバ現內閣ニ於テモ必ズ三千七百万圓ノ金額ハ少クモ節滅セラルル
デアラウト考ヘル、尙ホ此上ニ節減サレル御計畫ガアルナラバソレヲモ併セテ伺ヒタイノ
デアリマスガ、此三千七百万圓ヲ假リニ節減スルト云フ御趣意デアルナラバ此三千七
百万圓ノ中ニハ事業ノ繰延ベモゴザイマセウ廢止モ多少ゴザイマセウガ、是等ノ金ヲ節
減スルガタメニ又財源モ多少減ル筈デアラウト思フノデアリマス、(「ヒヤノ」ト呼フ者ア
リ)然ラバ此三千七百万圓ト云フ金ハ財源ト見テ宜シイカ、又財源トハ見ラレヌ、ワ
レハ總體ノ節減額デアルト云フナラバ其內財源ニ屬スベキ金額ハ、幾ラデアルカ、
又ソレ以上ノ節減ヲナサルト云フナラバ其金額ガ凡ソ幾何デアッテ、其內財源ニ屬ス
ルモノガ幾ラ程アルカト云フコトヲモ併セテ御說明ヲ願ヒタイノデアリマスソレカラ此豫
算ノ總額カラ吾ミガ考ヘマスルトコロハ、五千万圓乃至六千万圓ノ節減ヲナサルニアラ
ザレバ到底大藏證券ノ發行高ハ五千万圓ニ止メルト云フコトハ出來得ナイコトデア
ル三千七百万圓ノ節減ヲナサルトシテモ、尙五千万圓ノ大藏證券ノ發行額デアレバ
必ズ不足ヲ生ズルト考ヘル、然ラバ其不足ヲ如何ニ補塡ヲナサルヽカト云フコトヲ次ニ伺
ヒタイ、其次ニ伺ヒタイノハ減稅ノコト、減稅ハ旣ニ總理大臣竝ニ大藏大臣ニ於テ所
得稅ハ此議會ニ提出スル、而シテ營業稅竝ニ鹽ノ價額ニ關シテモ成ルベク此議會ニ提
出サレルヤウニ取調ヲスルト云フガ如クニ大藏大臣ハ御說明ニナッタヤウニ考ヘル星代
テ然ラバ其所得稅ノ減稅ハ幾ラノ滅額デアルカソレカラ營業稅竝ニ鹽ノ價ヲ引下ゲル
所ノ價額ハ何程デアルカ、是ハ調査ヲ進行シナケレバ分ラヌト云フガ如キ、御答ヲ得ルコ
トヲ惡ルヽノデアリマスガ、凡ツ今日ノ我國ノ財政狀態ニ於キマシテハ、先以テ節減シ
得ルトコロノ金額ヲ極メテ、而シテ其節減サレタ財源ノ中ニ於テ必要ナルトコロノ支出ニ
充テヽ、而シテ此減稅ニ幾ラ充テルト云フコトヲ頭ニ押ヘルニアラザレバ、調ベテ以テ稅ヲ
減サウナドヽ云フコトハ眞ニ空想ニ屬スルデアラウ、若シ又等減ヲシテ宜イト云フ論カラ
言ヘバ、稅其モノハ何レモ實ハ節減ヲシテ欲シイモノニ外ナラヌノデアル唯如何セン財
源其モノヲ得ナイ爲メニ、何レモ辛抱シテ居ルト云フ譯デアル、然ラバ此所得稅ノ節減
ニ對スル凡ソ之ニ充當スベキ金額、竝ニ營業稅ノ改正ニ對スル之ニ補充スルトコロノ金
額又鹽ノ代價、若シ之ニ尙加フルニ取引所稅ノ如キモノヲ以テスルナラバソレニ充ツ
ル金額ハ如何程ヲ以テ其標準內ニ於テ修正ヲスルト云フコトデナケレバ、ソレハ實行シ
得ベキ信ヲ措クコトモ出來ナケレバ又實行シ能ハザルモノト信ズルノデアリマス、ワレ
カラ右ニ御尋致シタトコロノ減稅ヲ實行ナサルヽ場合ニ於テハ、此豫算ニ對シテ必ズ總
高ヲ幾ヲ減ス、其幾ラ減ス中ニ於テ財源ニ屬スル金額ガ幾ラアル、其幾ラノ金額中、ドレ
ドレノモノヲ以テ總額幾ラダケノモノヲ此減稅ニ充テルト云フ財源ノ御明示ヲ與フルコト
ハ是ハ當然デアラウト思フ、而シテ其財源ヲ得ル方法ヲモ併セテ御明示ニナケレバナラヌ
筈デアラウト考ヘル、故ニ其財源ヲ豫算上ニ於テ作出ス其御考ハ如何ニナサルヽカト云
フコトヲ伺ヒタイト思フノデアル而シテ其財源ノ既ニ充當スル、卽チ一面カラ言ヘバ財
源ノ奪ハルヽ金額ハ何程デアルト云フコトヲ、玆ニ御明示ニナルト同時ニ、從ッテ第一ノ
御尋ヲシタトコロノ五千万圓限度ニ止メル、大藏省證劵ハ果シテ五千万圓デ足ルカ、
又之ニ足ラヌトスレバソレハ如何ニ御處置ニナルカト云フコトヲモ、玆ニ併セテ御答ヲ得ナ
ケレバナラヌノデアリマス、若モ大藏省證券ヲ五千万圓ノ限度ニ止メ、尙且ツ其內ニ於
テ減稅ヲモ行フト云フコトデゴザイマスレバ減稅ノ金額ニモ依リマスルガ、公債償還ハ恐
ラクハ出來得ナイコトニナリハセヌカト思フ、公債ハ此豫算ノ計畫ニ依リマスレバ五千万
圓ハ償還ヲスルコトニナッテ居ルノデアリマスガ、果シテ大藏大臣ハ右御尋ヲ致シマシタ金
額ヲ充當シテ、尙大藏證券ヲ五千万圓ニ止メ、而シテ國債證劵ヲ五千万圓償還ナサ
ル御考ガアルカドウカ、又國債證券ヲ償還スルトー云フコトハ是ハ一方ニ經濟界ノ調節ヲ
圖ルト云フコトヲ最モ重キヲ置カナケレバナラヌ、然ラバ經濟界ノ伸縮ノ-最モ伸縮
ヲ現ハスベキ時期ト云フモノハ明ニ定マッテ居ル、然ラバ其時期ニ於テ調節ヲ圖ルタメニ
之ノ償還ヲ要スルノデアリマス、然ルニ前內閣以來、前々內閣以來不幸ニシテ其實質
ヲ能ウ見ナイノデアリマス、將來ニ於テハ卽チ現大藏大臣ニ於テハ此國債償還ヲ、民間ノ
經濟調節ヲ圖ルノ適切ナル時期ニ於テ、必ズ償還ヲ御實行ニナルヤ否ヤ、ソレヲ伺ヒタ
イソレカラ次ニハ犬養君ヨリ御尋ニナリマシタ陸軍ノ問題デアリマス、是ハ大養君旣ニ
藉スニ時日ヲ以テスト云フコトニナッタノデアリマスガ、此二箇師團問題ナルモノハ既ニ前
內閣ノ瓦解ヲモ來シタル問題ニナッテ居ルノデアリマス、之ニ將來ノコトヲ考ヘテ見ナケレ
バ分ラヌナドト云フ事柄ト違ッテ、隨分長イ間、朝野ノ問題トナッタ事柄デアリマス、而
モ之ヲ大正二年度ニ於テ豫算ニ計上セヌガ、大正三年後ニ於テドウスルカト云フガ如キ
コトハ、餘リ御考ヲ要スベキ事柄デナイ、直チニ御答ヘ得ラルベキコトヽ信ズル、況ヤ其事
柄ハ財政ノ計畫ニ大關係ヲ要スルコトデアリマス、、故ニ本員ハ此場合ニ於テ、成ベク御答
ヲ願ヒタイ若シ是ガ二三日ヲ要スルト云フコトナラバ已ムヲ得マセヌノデアリマスガ、然ラ
バ海軍擴張ニ對シテハ如何ニスルカ、海軍ノ計畫ニ對シテハ、當豫算ニ於テハ六百万圓
ヲ計上シテアルカト思ッテ居リマスガ、明年度以後ニ於テハ是等ノタメ金ヲ要スルガ如キコ
トハナイノデアリマセウカ若シアリトスルトスレバソレハ明年度以後ノ財源ハ如何ニナサル
デアリマセウカ明年度以後ノコトヲ玆ニ御尋ネヲスルト云フコトハ、本年度ノ豫算ニ對シテハ
不必要カノ如キ御感シモ起ルカモ知リマセヌガ、我國ノ財政計畫ハ、多ク繼續計畫ニナッテ
居ルノデアリマス、此六百万圓ハ玆ニ繼續計畫ノ如クニハ見エテ居ラヌノデアリマスルガ、性
質必ズ繼續ノ性質ニナラナケレバナラヌ筈ノモノデアラウカト思フ、然ラバ之ヲ如何ニ明年
度以後ナサルカ、之ヲ問フ所以ノモノハ、曩ニ御尋シタ三千七百万圓ノ減額ヲ假ニナサル、
其以上ヲナサルトシテモ、ソレヲ以テ是等ノモノニ充當セラルヽト云フコトニナレバ、減稅ニ
充ツルトコロノモノハ極メテ少ナクナリハセヌカト云フコトヲ恐レル、故ニ減稅ノコトヲ聞
クト同時ニ、之ヲ併セテ御尋シタイノデアリマス、其次ニモウ一ッ伺フノハ是ハ鐵道ノ既
往ノ費用デアリマス、卽チ五千五百万圓ハ確カ三月ト五月トノ期日ニ於テ償還ヲシナ
ケレバナラヌ筈ニナッテ居ラウト思ヒマス然ラハ其五千五百万圓ノ金ハ、又借換ヘヲナ
サルノカ若クハ外國債デモ御起シナサルノカ、內國債デモ御起シナサルノカ、之ニ併セテ
其外ニ預金部ノ方ニ於テ千五百万圓ノ借入金ガアル筈テアリマス、然ラバ合計シテ七
千万圓、此七千万圓ノ始末ヲ如何ニナサルカト云フコトヲ御答ヲ望ムノデアリマス、是
グケ質問ヲ致シマス、大分長ウゴザイマスカラ此處ニ原稿ヲ置イテ置キマセウカラ、之ニ
對シテ御答ヲ願ヒタイ
〔內閣總理大臣伯爵山本權兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=61
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062・山本權兵衞
○內閣總理大臣(伯爵山本權兵衞君) 諸君、唯今片岡君ヨリ數箇條ノ御質問ガ
ゴザイマシテ、此事タルヤ、重要ナル問題デゴザイマスニ依ッテ直チニ此處ニ御答辯スルコ
トガ出來マセヌノヲ甚ダ遺憾ト存ジマス、謹ンデドウプ御書面デ御出シ下サイマスレバ、
深思熟慮ノ上御答ヲスルコトヽ御承知置キヲ顧ヒタウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=62
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063・片岡直温
○片岡直溫君 今ノ質問ニ對シテ、チヨット一言致シタイ、今總理大臣ハ面アタリ御聽
キ下サッタ上ニ、尙書面デモ出セト云フコトデスガ、要〓ダケハソコニ出シテアリマス、ワレニ
依テ御答下サルヤウニト一云フコトハ、速記錄ニモ載ッテアルコトデアリマス、別ニ書面ヲ差
出スト云フガ如キコトハ要シナイカト考ベマス、若シモ尙ホワレデモ御分リニナラナカッタナラ
バ、更ニ政府ノ方カラ御質問ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=63
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064・山本權兵衞
○內閣總理大臣(伯爵山本權兵衞君) 片岡君ヨリ再度ノ御言葉デゴザイマスルガ、
是非共質問書ヲ出シテ下サルコトヲ希望致シマス、ソレニ對シテ政府ハ相當ナル期間ニ
於キマシテ、深思熟慮ノ上、書面ヲ以テ御答ヲ致シマス、左樣御承知ヲ顯ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=64
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065・大岡育造
○議長(大岡育造君) 日向輝武君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=65
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066・日向輝武
○日向輝武君 此席カラ申述ベマス
(「登壇々々」ト呼フ者アリ〕
〔日向輝武君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=66
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067・日向輝武
○日向輝武君 私ハ總理大臣ノ御演說ニ對シテ簡單ニ私ノ問ハントスル要點ヲ申述べ
マ、、私ガ質問ノ通告ヲ致シマシタノハ總理大臣ガ將ニ演壇ニ立タントスル刹那デアリ
マシテ、質問通告ノ第一ナリト信ジテ居ッタノデアリマスルガ、斯ノ如キ場合トナッテハ申述
ベルコトハ盡ク前質問者ガ述ベテシマッタノデアル、併ナガラ折角登ッタノデアリマスカラ、
一二ノ質問ヲ玆ニ致シタイト思フ、私ハ內閣組織ノ根本義ニ付テ、山本伯ノ把持セラ
ルヽ意見ヲ叩カントスルノデアル、山本伯ハ政黨主義ヲ以テ(「伯ハ居マセヌ」「伯ハ退席
シタ」「出席ヲ要求スベシ」ト呼フ者アリ)內閣組織ノ根本義ナリト信ゼラルヽカ如何、是
ハ時局ノ解決ヲ以テ立タレタル山本伯ニ對シテ極メテ重要ナル質問デアルト信ズルノデア
ル(「論旨ガ分ラヌ」ト呼フ者アリ)議長山本伯ヲー(笑聲拍手起ル)私ハ總理大臣
ニ問フノデアッテ議員ニ問フノデモ、議長ニ問フノデモ、他ノ政府委員諸君ニ問フノデモ
ナイ、總理大臣ノ御出席ヲ私ハ玆ニ諸君ノ御同意ヲ得テ要求シ、議長ヨリ通知サレン
コトヲ希望スル、而シテ總理大臣ノ御出席ニナルマデハ、本員ノ質問權ヲ此處ニ保留シ
御出席ヲ待ッテ居リマス
〔「贊成ヤ々」「降壇スベカラズ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=67
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068・大岡育造
○議長(大岡育造君) 院議ヲ以テ內閣總理大臣ノ出席ヲ求メルト云フ御發議デア
リマスカラ、同意ノ諸君ハ起立ヲ求メマス
起立者少數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=68
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069・大岡育造
○議長(大岡育造君) 少數デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=69
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070・日向輝武
○日向輝武君 然ラバ、私ハ玆ニ他ノ閣員諸君ガ御列席ニナッテ居リマスカラ、其閣
員諸君ニ問フノデアル、此山本新內閣ナルモノハ去ル二十日ノ夜、宮中ニ燭ヲ秉ッテ
親任式ヲ行フタノデアル金曜日ノ前夜、而シテ其大藏大臣タリ、農商務大臣タリ文
部大臣タル高橋山本奧田ノ御三方ハ、親任式ノ當日政友會ニ入會セラレタノデアリマ
ス、一夜漬ノ内閣員デアル-一夜漬ノ内閣員デアル、卽チ內閣員ナルモノガ新內閣
ノ組織上···
〔此時內閣總理大臣伯爵山本權兵衞君出席)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=70
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071・大岡育造
○議長(大岡育造君) 總理大臣ガ出席ニナリマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=71
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072・日向輝武
○日向輝武君 新內閣ノ組織上臨時必要アルガタメニ、山本伯ハ此三君ヲ政友會
ニ入會セラルヽヤウ御取計ヒニナッタノデ、若シ内閣ガ破滅シタル曉ニ於テ其必要ナキニ
至レバ、忽チニ此御三方ハ去ルノデアル、殷鑑遠カラズー殷鑑遠カラズ金子堅太郞君、
末松謙澄君ヲ御覽ナサイ、(「何ノ趣意カ分ラヌ」ト呼フ者アリ)金子堅太郞君、末松謙
澄君ハ今政友會ト如何ナル關係ヲ持ッテ居ルカ、唯大臣ニナルトキダケノコトデアル私
ガ之ヲ言フノハ御覽ナサイ是ノミデハナイ、、成程(「政黨ノ本部デナイ」ト呼フ者アリ)成
程、外形ハ政黨內閣ノ形式ヲ備ヘテ居リマスケレドモ實質ニ於テ內閣ノ軍事及外
交、其他財政ノ三大權ハ政黨以外ノ人若クハ一夜漬ノ臨時入黨大臣ノ掌中ニ歸
シテ居ルノデアル、ソレノミナラズ此內閣ノ首班タル山本伯ハ、薩閥ノ巨頭デアル薩摩
閥族ノ大頭デアッテ現任海軍大將デアル(「明治座デヤレ」ト呼フ者アリ)山本伯固ヨリ
政黨ノ人デハゴザイマセヌ、政友會ガ非常ニ其入會ヲ要望シ、要求シ、强請シ、而シテ伯ハ
之ニ向ッテ斷然ト其入會ヲ拒絕シタノデアル(「何ヲ質問シテ居ルノダ」ト呼フ者アリ)斯ル
內閣-斯ル內閣組織ヲ指シテ、尙政黨內閣ト稱スルコトガ出來ルデアリマセウカ、私ハ山
本總理大臣ガ政黨主義ヲ根柢ニ持ッテ、此新內閣ヲ組織セラレタリトハ信ジナイノデア
ル、山本伯ハ前(「ドウ云フ質問ダカ演說ダカ分ラヌ」ト呼フ者アリ)前西園寺內閣ノ·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=72
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073・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=73
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074・日向輝武
○日向輝武君 施政ノ方針ヲ是認スト稱シテ居ル(「靑年會館デハナイゾ」ト呼フ者ア
リ)又政友會ノ主義綱領ヲ-政友會ノ主義綱領ニ順應スルト云フコトヲ宣明サレテ
居ルノデアル、而シテ其造ル所ノ內閣ハ斯ノ如キ閣族内闇デアル、私ハ山本伯ガ內閣組
織ニ對シテ果シテ政黨主義ヲ組織ノ根本義トセラルヽヤ否ヤヲ疑ヒ、先ヅ此所ニ付テ山
本伯ノ明確ナル答辯ヲ煩ハシイタイノデアル、更ニ進ンデモウ一ツアル(「簡單々々」ト呼フ
者アリ)政友會ハ閥族打破、憲政擁護ヲ絕叫致シマシタ、其叫ビニ鑑ミテ今ヤ陸海軍
大臣ノ現役ヲ大中將ニ局限セル特殊官制ノ改革ト、竝ニ支官任用令ノ改廢ヲ山本伯
ノ脚下ヨリ起ッテ要求セントシテ居ルノデアル、先程犬養君ノ御質問ニ對シテ山本伯ハ考
慮ヲ費シ、深思熟考ノ上書面ヲ以テ御答ヲスルト云フ答辯デアリマシタケレドモ、山本伯
ガ今更斯ノ如キ言ヲ爲スコトハ實ニ怪シカラヌノデアル何トナレバ山本伯ハ政友會ノ提唱
スルトコロノ主義政綱ニ付テハ之ヲ遵奉シ、其精神ニ準據シテ萬般ノ政治ヲ措置スルノ
確信ヲ言明スルト云ウテ居ルデハナイカ、卽チ政友會ガ閥族打破ヲ叫ンダルトコロノ其
責任ニ鑑ミタル結果トシテ、此所ニ官制ノ改革文官任用令ノ改廢ヲ提唱シ、此等
閥族擁護ノ根柢タル官制ヲ破壞セントスルニ當ッテ、山本伯ガ之ニ同意ヲ表セザルハ何
故デアルカ(拍手起ル)之ニ對シテ明確ナル答辯ヲ此議場ニ於テ與ヘ能ハザルト云フノハ
何故デアルカ、若シ政友會ガ之ヲ主張セズ、現內閣又其言葉ヲ曖昧ニ致シマシタナラ
バ、是レ卽チ互ニ詐リヲ以テ欺キ、詐リニ酬ユルニ詐リヲ以テスルノデアル(拍手起ル)
(「書面デ答辯スルト言ッテ居ル」ト呼フ者アリ)書面デ答辯スルヨリモ今直チニ答辯スルノ
義務ガアル山本伯ハ時局ヲ救濟シ、憲政ノ美果ヲ收メンガタメニ、大命ヲ拜シテ蹶然
起ッタノデアリマス、斯ノ如クンバ私ハ何レノ日カ伯ノ所謂憲政ノ美果ヲ收メルコトヲ
得ルカ、疑ハザルヲ得ナイノデアリマス、山本伯ハ政機ヲ去ルコト六年、蓄財一百万
圓(拍手起ル)而モ恐クハ昨年來ノ政治ノ時局ノ紛糾ニ對シテ、徹底的ノ觀念ヲ御持
チニナッテ居ラヌノデハアルマイカヲ疑フノデアル或ハ又衆議院ニ多數ヲ援引シテ(「何ヲ
言フノダ」「簡單ニ要〓ヲ言ヘ」ト呼フ者アリ)是ガ要〓ケ、閥族政治ヲ夢ミテ居ルノデハ
アルマイカト疑フノデアリマス、故ニ言葉ヲ換ヘテ新ニ申シマスレバ、總理大臣ハ內閣組織
ノ根本要義トシテ、政黨主義ヲ執ラルヽヤ否ヤ、第二ハ政友會ノ要望ヲ容レテ、此不都
合ナル制度ノ改革ヲ斷行スルノ意志アリヤ如何、此二〓ニ付テ簡單且ツ明快ナル總理
大臣ノ答辯ヲ、私ハ此壇上デ書面デナク此處デ煩シタイノデアリマス、私ガ此質問ヲ此
處デ爲ス所以ハ、總理大臣ヲシテ辯解ノ機會ヲ與フル好意ニ外ナラヌノデアル
(「答辯ニ及バズ」「必要ナシ」ト呼フ者アリ〕
(内閣總理大臣伯爵山本權兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=74
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075・山本權兵衞
○內閣總理大臣(伯爵山本權兵衞君) 諸君、唯今日向君ヨリ縷々數百言ヲ費サ
レマシタ御質問ノ大要ヲ拜聽致シマシタ、要スルニ其重要ナル問題ハ內閣組織ノ根本
義ニ關スルコトデアルト存ジマスルノデアリマス、是レ私ヨリ此第一ハ說明スル限リニアラ
ズト信ジテ居リマス(「ノウ〓〓」ト呼フ者アリ)第二ハ政友會ノ要望ヲ容レテトアリマスガ、
抑〓事內閣ニ關係致シマスルコトハ、總テ内閣ノ希望ニ、卽チ計畫ニ基キマスルノテ、從
テ本議場ニ於ケル諸君ノ要望ニ副フコトモ多々アルト考ヘマスル、故ニ政府信ナクシテ唯
人ノ言ヲ容レテ之ヲ以テ足レリト致シマスル譯デハゴザイマセヌカラ、其邊ハ宜シク御了解
ヲ願ヒマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=75
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076・大岡育造
○議長(大岡育造君) 加藤政之助君-加藤君ハ取消サレマシタ(「ヒヤ〓〓」ト呼
フ者アリ)其次ハ早速整爾君デスー伊東君デスー早速君御待チナサイ、、伊東君デス
〔伊東知也君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=76
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077・伊東知也
○伊東知也君 私ハ此機會ニ於テ、支那ニ關スル現內閣ノ方針ニ付テ、質問致サウ
ト思フ、申ス迄モラク支那ノ治亂興廢ト云フモノハ、繫ッテ我國ノ盛衰ニ關スルノデアル、然
ルニ先刻總理大臣ノ施政ノ方針ニ關スル御演說ガアリマシタガ、或ハ日英同盟、或
ハ日露日佛、其他ノ泰西諸國トノ關係ニ御論及ニナッタヤウデアルガ、惜イ哉支那
問題ニ關スル御方針ニ付テハ、私ハ聽クコトガ出來ナカッタ、諸君、支那ノ事情、支那
ノ現在ハ如何デアルカ、支那ニ關スル所ノ我國ノ政府ノ是マデ十何年以來執ッテ來タ
主義方針ト云フモノハ、殆ド無定見デアリ無方針デアル今日支那四百餘州ノ革命
ガ出來タト云フコトニ驚イテ、眼ヲパチクリシテ居ルガ、ソンナコトハ不肖ナガラ私共苟モ
支那ニ關係ヲ有ッタ所ノ吾〓浪人仲間ノ同士(笑聲起ル)默ッテ御聽キナサイ、二三ノ
先輩ヲ除イテハ眞闇ガリデアル彼ノ十數年前所謂三十三年ニ、孫逸仙ガ支那ニ於ケ
ル革命ヲ企テタ當時ハドウデアルカ、政府ハ壓迫ニ壓迫ヲ加ヘテ、强盜殺人犯者モ啻ナ
ラヌヤウナ取扱ヲシテ居ッタノデアル併ナガラ吾ミ不肖ト雖モ、支那ノ今日ノ現狀デ
ハドウシテモイカナイ、支那ノ革命ヲシナクテハ支那ノ立國ト云フモノハ出來ルモノデナイ、
支那ガ所謂壞亂ニ歸シタナラバ日本ハ非常ニ危キニ陷ルカラ、是非共是ハ革命ヲ唱
道シナケレバナラヌト一ムフコトデ、不肖ハ身ヲ挺シテ吾〓同士ハ支那ヘ行ッテ孫逸仙ト手
ヲ携ヘテ多少所謂死生ノ間ニ奔走シタコトガアルノデアル(「何ヲ質問スルノダ」ト呼フ
者アリ)何デス眞面目ニ御聽キナサイ、冗談事デハナイ、苟モ代議士ガ壇上ニ立ッテ論ズ
ル所ノモノハ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=77
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078・大岡育造
○議長(大岡育造君) 他ノコトニ亙ラヌヤウニ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=78
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079・伊東知也
○伊東知也君 ソレナラ止シマス、然ラバ我國ニ於テ所謂其革命ニ對スル方針ハドウ
デアッタカ、常ニ掌ヲ覆スガ如キモノデアッテ、少クトモ革命ガ出來ルモノト見タ人ハ恐ラクハ
千万人中一人アッタカ分ラヌ位デアル、所ガ天下ノ大勢ハサウ云フモノデハナイ、轉々變
化シテ昨年一昨年デアッタカ、武昌ニ火ノ手ガ一タビ擧ヲテ、四百餘州ガ亂麻ノ如ク亂
レ、愛親覺羅ノ天下ハ忽チニ引クリ返ッタデハナイカ、諸君其當時ソレマデノ政府ハ盲
目滅法無定見無方針デアッタガ、其革命ノ大時期、其大時期ニ際シテ其當時ノ政府所
謂政友會諸君ノ成立サレテ居ッタ所ノ政府ノ執ッタ方針ハドウデアルカ、其當時孫逸仙
ハ恰モ亞米利加ニ居ッテ、武昌ノ革命ガ將ニ擧ガラントスル際、、日本ヲ通シテ歸シテ呉
レト云フヲ吾〓ノ仲間ニドシ〓〓電報ヲ打ッタノデアル、時ノ政府ニ吾ミハ頭ヲ下ゲテ大
ニ懇願シタケレドモ、ドウモ列國ノ恩惑モアルト云フテ斷然刎付ケタ、併ナガラ支那ニ於
ケル勢ヒ益〓舉ガッタ所カラシテ、遂ニ遲蒔ニモソンナラバ許シテヤラウト云フコトニ運ビ
ヲ付ケタガ、孫逸仙ハ既ニ亞米利加ヲ去ッテ倫敦ニ行ッテ居ル、駄目デアル、所ガ愈革
命ノ火ノ手ガ熾ニナッタガ、〓テ所謂其當時ノ政府ノ革命ニ對スル方針ハ如何ナルモノ
ヲ執ッタカ南ハ南、北ハ北萬事支離滅裂デ無定見無方針デ、而モ私ガ革命ノ際
ニ武昌等ニ視察ニ出掛ケテ行ッタガ、其當時日本カラ行ッテ居ル者ハドウ云フ機關デ
アルカト云ヘバ外務省ノ領事館ニハ總領事ガアル、陸軍省カラハ軍人ヲ派遣シテ居ル、
海軍省モ軍艦ヲ遣シテ居ル、所ガ其外務省ノ採ル方針ト、陸軍省ノ採ル方針ト、海軍
省ノ執ル方針ト、悉ク個々別々ニナッテ居ル、此ノ如キ方針ヲ執ッテ何事ガ出來ルカ,果シ
テ折角吾〓同志ノ者ガ、命ヲ捧ゲテ助ケテ居ッタニ拘ラズ、其當時革命黨仲間カラハ寧
ロ日本ハ却テ向フノ官軍ヲ助ケテ吾〓ヲ毒スルモノデハナイカト云フ疑惧ヲ招イダ、其後
幸ニシテ吾〓ノ熱誠及先輩諸氏ガ彼地ニ渡ラレテ、纔ニ其疑ヲ解イテ、爾來日本ヲ信
賴スル氣ニナリマシタガ、併ナガラ私モ幾ラカ考ヘタ、此革命ハ妥協ニ依シテ成立ヲシ
タ、南北ノ妥協ニ依テ成立ヲシタカラ、或ハ或國ニ於ケル妥協政治ノ如キ變ナモノ
デアリハセヌカト云フ心配モアルカラ、少クモ視察ヲスル必要ガアルト思ヒマシテ、昨年ノ
秋此議院ヨリ派遣ヲサレテ支那ヲ一巡シマシタガ、ワレデ見ルトナカ〓〓立派ニ出來テ
居ル是ナラバ決シテ妥協ノ結果ト思ハレナイ程旨ク出來上ッテ居ル是ナラバドウシテ
モ之ヲ完成セシムルノガ我ガ日本ノ最大急務デアルト私ハ信ジタノデアリマス、ソレニ依テ
此度孫逸仙ガコッチヘ來タノモヽドウシテモ此東亞ノコトハ日本ニ賴ラナケレバナラヌト云
フ所ノ信賴心カラ來タノデアル、此ニ於テカ私ハ現內閣ニ對シテ御註文ガアル、ソレハ所
謂形式モアルデアリマセウガ、少クトモ支那ノ中華民國ナルモノヲ承認スルト云フコト
ハ、他ノ國ニ先鞭ヲ著ケラレナイヤウニ、列國ノ手前ナドヲ考ヘズニ、免ニ角日本國ガ率
先シテヤルト云フ方針ヲ、現內閣ニ執ッテ貰ヒタイ、又現內閣ノ諸公モ其位ノ考ガアル
デアラウト思フ、有ルカ無イカ、イヱスカノウカ、ヤルカヤラヌカ、其決心ガ有ルカ無イカト云
フ二ツニ一ツノ答辯ヲ聞キタイ、一口ニ有ルカ無イカヽソレ位ノコトハ言ヘサウナモノダ、ア
トハ細カナ金ノコトヽカ、算盤ノ上ノコトハ他ニ適當ナ人ガアルデセウカラ私ハ問七マセヌ、
唯イエスカノウカノ御返事ヲ承リマセウ
〔外務大臣男爵牧野伸顯君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=79
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080・牧野伸顯
○外務大臣(男爵牧野伸顯君) 唯今ノ伊東君ノ御質問ニ御答致シマス、前段ニ御
述ベニナリマシタコトハ御質問ノ要領ヲ摘シ兼ネマシタノデアリマスガ併ナガラ末段ニ
於キマシテ、承認ノコトニ付テ質問ガアッタヤウニ存ジマス、此承認問題ハ成ベク早ク行ハ
レルコトヲ支那ノ爲メニ又我ガ帝國ノ爲メニモ望ンデ居ルノデアリマス、サリナガラ承認問
題ト牽聯致シマシテ、帝國臣民ノ利害ノ關係スル所頗ル重大デアリマスカラ、充分ナ考
慮ヲ費シテ、此問題ハ解決シナケレバナラヌノデアリマス、此問題ニ付キマシテハ現政府
ハ斷エズ注意ヲ拂ッテ居リマスカラ、左樣御承知ヲ願セマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=80
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081・早速整爾
○早速整爾君 私ハ簡單ニ此席カラ申述ベマス、總理大臣ハ免角書面デ送付セヨト
云フコトデゴザリマスカラ私ハ大藏大臣ニ向ッテ質問ヲ致スノデアリマス、是ナラバ書面デ
ナツトモ、此席デ御答ヲ得ルコトガ出來ルデアラウト思ヒマス、重大ナル此財政整理ノ計
畫ニ付テ、大藏大臣ガ具體的ノ說明ヲ與ヘラレナイト云フコトハ、詢ニ私共ノ遺憾トスルト
コロデアリマス、內閣ガ組織セラレテ日ハ頗ル淺イノデゴザリマスルケレドモ、併ナガラ此財
政整理ノ計畫ト云フコトニ付キマシテハ、本日ノ議場アタリデハ今少シ詳細ニ御說明アッ
テ然ルベキコトヽ恩ヒマスガ、ソレニモ拘ラズ前刻ノ此大藏大臣ノ御演說ハ、頗ル簡單
ニ唯ホシノ此豫算ノ一部分ノコトヲ言明ヲセラレタニ止ッテ、全體ニ於テノ此財政整理
ノ計畫ニ付テ十分御說明ヲ與ヘラレナイト云フコトハ、本日ノ議場ニ列席ヲ致シテ居リ
マス吾ミトシテハ誠ニ遺憾ニ堪ヘナイノデアリマス、大分時間モ經ッテ居リマスルカラシ
テ、私ハ極ク要〓ダケヲ少シ述ベテ、明白ナル大藏大臣ノ御答ヲ煩シタイト思フ、先程來
他ノ諸君カラノ御質問モゴザイマシタガ、或ハ重ナルトコロガアルカハ知リマセヌガ、併シ既
ニ御答ニナッタコトハ私ハ尋ネル必要ハナイノデアル、第一ニ此公債政策ニ付キ御說明ヲ
承ラナケレバナラヌ、、今日マデノ此財政紊亂ノ原因ハ、公債政策ガ紊レテ居ッタト云フ
コトガ、其一點デアルト云フコトハ私ガ申スマデモナイノデアリマス、財政ノ局ニ當ルモノハ
此公債政策ヲ如何ニスルカト云フコトニ付テ、先ブ第一ニ考ヲ頰ハサナケレバナラヌ
筈デアル此故ニ私ハ公債政策ニ付テ新大藏大臣ノ御意見ヲ伺フノデアリマス、今日
マデト同ジクヤハリ、此公債政策ハ、或ハ以前ノ西園寺內閣が採リ來ッタルトコロ、或或
桂內閣ガ採リ來ッタトコロト同ジヤウナ方針ヲ以テ、此公債政策ヲ採ラルヽデアルヤ否ヤ
卽チ實行ノ出來ナイ公債政策ヲ立ッテ、豫算ノ實行ニハ行キ詰ルト云フ公債政策ヲ立ツ
テ、ソレデ以テ財政ヲ紊亂セシムルト云フヤウナ、是マデノ內閣ト同ジヤウナル公債政策
ヲ採ラルヽ積リデアルカドウカ、之ヲ私ハ御聞キ致シタイノデアリマス豫算面ノ上カラ調
ベテ見マスレバ、ヤハリ公債募集ノ金ヲ要スルコトハ隨分アルノデアル、是マデ通リノ計畫
デゴザイマスルト、是ハドウシテモ遣リ切レナイ豫算ノ實行不可能ト云フ所謂行キ詰リ
ニ陷ルト云フコトハ私共ガ之ヲ明言スルコトガ出來ルノデゴザリマス、今度ノ內閣モヤ
ハリ、其通リデアルカ、行キ詰ッテモ構ハナイ、幾ラ窮シテモ構ハナイ、前ノ內閣ト同ジ通
リノ公債政策ヲ採ッテ行クト云フ考デアルカドウカ、之ニ付キマシテ私ハ尙ホ大藏大臣ノ
意見ヲ確メタイ國債償還ハ前內閣卽チ此桂內閣ハ國債償還ト云フコトニ重キヲ置
イテ、何時デモ五千万圓ノ償還ヲシナケレバナラヌト云フコトヲ、固執シテ居ルノデアリ
マス、私共ハ此桂內閣ノ意見ニハ反對デアルガ、併シ其意見ハ姑ク措キマシテ、今度ノ
新ラシキ大藏大臣モヤハリ桂內閣ト同シコトニ公債ノ五千万圓償還ト云フコトハ、何處
マデモ前內閣ト同ジヤウナ方針デヤッテ行クト云フ御考デアルカドウカ詳細ニ亙リマシテ
ハ私ハ委員會等デ更ニ承リタイト思フノデゴザリマスルガ、公債政策ニ付テ、此二點ニ於
テモ伺ヒタイソレカラ稅制整理ノ問題デアル、是ハ先刻大藏大臣ノ御答モゴザイマシタ
ケレドモ、頗ル曖昧デアル或ハ所得稅ノ改正トカ、或ハ營業稅ノ改正ヲスルトカ取引
所稅ガ如何デアルトカ云フコトヲ御答ニナッタヤウデアルガ、新シキ內閣ノ此稅制整理方
針ハソレダケデ、其他ニハ何等ノ御計畫モナイト云フコトヲ私共ハ信ジテ差支ナイノデア
リマセウカ、大問題稅制整理ト云ヘル大問題ニ付テ唯アノ位ノ御意見ダケデアルト云
フコトニ相成リマスレバ私ハ實ニ此新シキ內閣ノ財政ニ關スル御意見ト云フモノニ疑ヲ
容レザルヲ得ナイノデアル、今少シデス-今少シ此稅制整理ト云フコトニ付テノ御經綸
ガアルノデハナイカ、御計畫ガアルノデハナイカ此〓ニ付テハッキリ御答ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス、ソレカラ、モウ一ツ私ハ御尋ヲシタイ。先程增田君カラノ御尋ニ對シテ、大
藏大臣ノ御答ハ頗ル要領ヲ得テ居ラナカッタノデゴザリマスル、私ハ方面ヲ變ヘテ御尋ヲ
致シタイ、新シキ大藏大臣ノ是カラ後民間ノ經濟社界ニ對スル政策ハ如何デアルカト
云フコトナノデアル今日マデノ經過ニ依リマスレバ時ノ内閣ハ何時デモ此民間ノ經
濟社會ニ對シテ、壓迫ヲ加ヘルト云フ態度ヲ採ッテ居ル、最モ著シキ事實ハ、日本銀行
ニ對スル內閣ノ遣リ口ト云フモノガ、明カニ之ヲ證明シテ居ル、日本銀行ガ民間ノ經
濟社會ノ機關トナルコトガ稀ニシテ、御上ノ御用機關トナッテ、常ニ財政ノタメニ此民
間ノ經濟社會ヲ苦シメテ居ッタト云フ事實ガアルノデアリマス、此民間ノ經濟社會ニ對ス
ル壓迫此壓迫ヲ今日以後如何ニスルカヽ新シキ大藏大臣ハ此〓ニ關シテ如何樣ナル
考ヲ御持チニナッテ居ルカト云フコトヲ、明白ニ御答ヲ願ヒタイノデアル、財政ノ遣繰リ
ヲシテ、何時デモ財政ノ遣繰リノタメニ、日本銀行ヲ利用スルト云フコトニ相成リマシテ
ハ、總理大臣ノ所謂經濟上ノ調和ヲ保ツト云フコトハ殆ドムヅカシイノデアル)此〓ニ付
テハ財政ヲ整理スルト云フコトヲ眼目トシテ、民間ノ經濟社會ノ壓迫ヲ除クトムフ斯ウ
云フコトニ相成ラナケレバナラヌト私ハ考ヘルノデゴザリマスルガ、新シキ大藏大臣ノ所見
ハ如何デアルカ、增田君ノ御尋ニ對シテ大藏大臣ノ御答モアッタノデゴザリマスルガ、私ハ
明瞭ニ其御答ヲ得タイガタメニ、項目ヲ舉ゲテ御尋ヲ致シマス(「登壇々々」「簡單ニヤレ」
ト呼フ者アリ)今日ノ物價ノ騰貴ニ關シテ大藏大臣ハ此物價ノ調和策ニ付テ、如何樣
ナル策ヲ採ラントセラルヽカト云フコトガ一ツ、今一ツハ、此貿易ノ逆調ヲ挽囘スルタメニ
內閣ハ如何樣ナル政策ヲ採ラントセラルヽカト云フコトガ一ツ、ソレカラ兌換券ノ膨脹ト云
フコトニ關シテ、將來內閣ハ如何樣ナル政策ヲ採ラントセラルヽカト云フコトガー是ダ
ケノ問題ヲ明白ニ御答ヲ願ヒマスレバ、先ヅ大體ニ於テ新内閣ノ財政方針ト云フモノヲ
伺フコトガ出來ルノデアラウト私ハ考ヘルノデゴザリマス細目ハ豫算委員會ニ讓リマシ
テ、唯今申シタ〓ニ付テ大藏大臣ノ御答ヲ煩シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=81
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082・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=82
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083・大岡育造
○議長(大岡育造君) 高橋大藏大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=83
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084・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 大分長イ御質問デアリマシテ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=84
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085・大岡育造
○議長(大岡育造君) 登壇ヲ希望シマス
〔大藏大臣男爵高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=85
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086・高橋是清
○大藏大臣(男爵高橋是〓君) 唯今早速君ノ御問ノ第一ガ、公債政策ヲ如何ニ
スルヤ是マデノ政府ノ如クヤハリ豫算實行ガ出來ナクナッテ行詰リハセヌガ-私ノ記
憶ノアル限リデハ未ダ日本政府ガ公債政策ノタメニ行詰ッテヽ豫算實行ガ出來ナカッタ
ト云フコトヲ知リマセヌデス、ソレデ事實ヲ舉ゲテ書面デ質問ヲ願ヒマス、又第二ノ質問ハ
國債償還五千万圓ヲ繼續シテヤルカ永遠ヤルカ、斯ウ云フ御問ノヤウデシタ、是ハ
我國ノ信用ガ相當ニ-國ノ位置相當ニ安心シテ保タレルマデハ斷ジテ繼續スル積リ
デアリマス稅制整理ハ過刻此所テ名指シマシタルモノヽ外ハ何モヤラヌノカ斯ウ云フ
御問ノヤウニ伺ヒマシタ、是ハ唯今ノ二題ニ向ヒマシテ凡ツ三年度ニ於テ斯クスルコトヲ、
斯ク斯ク考ヘテ居ルト申シタノデゴザイマスヽ凡ソ財政ノ局ニ當リマス者ハ、國運ノ順當
ナル發展ヲ害セザル程度ニ於テ、常ニ政費ノ節約ヲ計ラネバナラヌモノト私ハ心得テ居ル
ノデス、苟モ之ヲ一年二年怠リマシタナラバ、必ズ其毒ガ殘ルノデゴザイマス、故ニ政費
ノ節約ノコトハ常ニ留意致ス積リデゴザイマス、ソレカラ政府ガ經濟社會ヲ壓迫シタ
日本銀行ヲ全ク國家ノ機關トセズニ、政府ノ都合ノ好イ機關トシテ使ッテ、經濟社會
ヲ壓迫シタト云フ御非難デアリマス、是モドウカ事實ヲ舉ゲラレテ書面デ御問ヲ願ヒマス、
其他物價ノ騰貴デアリマストカ、貿易ノ擴張、ソレハ皆書面デ御答致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=86
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087・大岡育造
○議長(大岡育造君) 日程ニ入リマス日程第一災害地方田畑地租免除ニ關ス
ル法律案提出者森茂生君
第一災害地方田畑地租免除ニ關スル法律案(森茂生第一讀會
君外六名提出)
災害地方田畑地租免除ニ關スル法律案
第一條明治四十五年中災害又ハ天候不良ニ因リ府縣又ハ北海道ノ全部若
大正元
ハ一部ニ亙リ收穫皆無ニ歸シタル田畑ノ地租ハ其ノ年分ニ限リ之ヲ免除
ス
第二條前條免除ノ申請ハ本法施行後一箇月以內ニ所轄稅務署ニ申出ツヘ
シ此ノ期間ヲ經過シタルトキハ免除ノ處分ヲ受クルコトヲ得ス
明治三十六年法律第三號ニ依リ地租延納ヲ出願シタル者ハ本法ニ依ル地
租免除ノ出願ヲ爲シタル者ト看做ス
第三條本法ニ依リ被害調査中ハ其ノ田畑ノ地租ノ徵收ヲ猶豫ス
第四條本法ニ依リ免除シタル地租ハ法律上總テノ納稅資格中ヨリ控除セ
ス
〔森茂生君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=87
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088・森茂生
○森茂生君 諸君、昨年九月三重愛知岐阜ノ三縣下ニ於ケル暴風ノ大被害ガ、本
案ヲ提出スルノ己ムヲ得ザルニ至ッタノデアリマス、尙ホ此外ニ被害ヲ受ケタ地方モ少ナ
カラヌコトヲ聞及ンデ居ルノデアリマス、昨年九月ノ暴風雨ハ、諸君御承知ノ如ク數十
年來甞テ無イ所ノ暴風デアリマシテ、强風ハ潮ヲ捲上ゲテ、之ヲ田畑ニ降ラシタノデアリ
ソーハ
(此時議長大岡育造君議長席ヲ退キ副議長關直彥君議長席ニ著ク〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=88
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089・森茂生
○森茂生君 故ニ其地方ノ田畑ノ收穫ト云フモノハ殆ド皆無ニ歸スルノ慘狀ニ至ク
タノデアリマス、然ルニ今日此被害救濟ニ關スル法律ハ二ツアルノデアリマスガ、一ハ地
租延納法一ハ水害ノ場合ニ於ケル地租免除法デアルノデマリマス此延納法ハ被害人
民ニ對スル思惠法デアリマシテ、其手續ト云フモノハ甚ダ繁雜テ、實際其思澤ニ浴スル
コトヽ云フモノハ誠ニムヅカシクシテ、實ニ效果ノ薄イ法律デアリマス、地租ト云フモノハ
御承知ノ如ク年ノ豐凶ニ依テ其稅ヲ增減スルモノデナイト云フ原則デアリマスケレド
モ既ニ水害ノ場合ニ於テ免租ノ除外例ヲ認ムル以上ハ、他ノ災害ノ場合ト雖モ之ラ
免租スルハ適當ノ處置ト云ハネバナラヌノデアリマス、又是非トモ免租ヲ爲スベキモノデア
ルト信ズルノデアリマス、我國民ハ平時ニ於キマシテ國家ノ經費ヲ負擔スルコトハ決シテ
厭フモノデナイノデアリマス、殊ニ戰時ノ如キ國家危急ノ場合ニ於キマシテハ、最後ノ一錢
モ決シテ國費ニ投ズルコトヲ辭セザル國民デアルノデアリマス故ニ一方災害ニ依リマシ
テ、收穫ガ皆無ト云フヤウナ場合ニ於キマシタトキニハ、此不幸ノ國民ヲ救フノニ免租ヲ
スルト云フコトハ、國家ト致シテ當然ノ義務デアルト信ズルノデアリマス、帝國今日ノ財
政ハ實ニ餘裕ノ無イコトデアリマスカラ、此國家ノ收入ヲ減ズルト云フコトハ甚ケ我々
ノ好マザル事デアリマスケレドモ、斯ノ如キ不幸ノ人民ガ出來タ場合ニ於キマシテハ、之
ヲ免除スルト云フコトニ於キマシテ、政府當局ニ於キマシテハ決シテ異議ノ無イコトヽ信
ズルノデアリマス、願クバ滿場ノ諸君本案ニ御贊成アランコトヲ祈ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=89
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090・福田又一
○福田又一君 議長-提出者ニ質問ガアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=90
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091・關直彦
○副議長(關直彥君) 福田又一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=91
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092・福田又一
○福田又一君 チヨット提出者ニ御尋致シマスガ、一昨年卽チ四十四年ニ、秋田山
形ニ稻熱病ト云フモノガ起リマシテ(「委員會デ」ト呼フ者アリ)委員會デナイ、此場
合-委員會ハ委員會デアリマス、秋田山形ノ稻熱病ノ劇シカッタコトハ御承知ノ通
リデアリマス及ヒ東京ノ電害ノコトモ御承知デアリマセウガ、就テハ四十五年度ト云フ
コトヲ一年繰上ゲテ、四十四年度ニ遡ラスト云フコトニ御異議ハ無イノデアリマセウカ、
ソレヲチヨット此場合ニ御尋致シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=92
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093・森茂生
○森茂生君 本員ハ昨年ノ九月ノ問題ニ對スル案ヲ提出致シタノデアリマスカラ、左
樣御承知アランコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=93
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094・松田源治
○松田源治君 本案ハ議長指名九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ希望致シマス
(「贊成々々」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=94
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095・關直彦
○副議長(關直彥君) 松田君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=95
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096・關直彦
○副議長(關彥直君) ツレナラバ議長指名九名ノ委員ニ付託スルコトニ決定サレマシ
タ、次ハ日程第二未成年者飮酒取締ニ關スル法律案ノ第一讀會ヲ開キマス-根本
正君
第一未成年者飮酒取締ニ關スル法律案(根本正君提第一讀會
四
未成年者飮酒取締ニ關スル法律案
營業上酒類ヲ供給スル者ハ未成年者ニ酒類ヲ飮用セシメ又ハ其ノ自用ニ供
スルコトヲ知リテ販賣若ハ給與スルコトヲ得ス
前項ニ違反シタル者ハ十圓以下ノ科料ニ處ス
〔根本正君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=96
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097・根本正
○根本正君 諸君、未成年者飮酒取締ニ關スル法律案ハ、過ル三十二年來提出ニ
ナリマシテ、此事ニ付キマシテハ諸君ガ能ク御承知デアリマスルカラシテ、詳シク申上ゲマセ
ヌ、併ナガラ最モ必要ナル箇條ヲ一二申上ゲタイト思フノデアリマス、此未成年者タルモ
ノハ主ニ學校ニ居ル者デアリマス、此法案ハ亞米利加ノ如キハ二十五年前、英吉利
ノ如キハ一千九百一年卽チ十三年前ニ出來テ居リマス、帝國ニ於キマシテモ本案ハ
十年以前ニ出來テ居ランケレバナラヌ問題デアリマスル併ナガラ未ダ衆議院ハ通過スル
ケレドモ貴族院ノ方ニ於テ、每々調査中ニ終ルコトデアリマス、此ニ特ニ諸君ニ申上
ゲテ置キタイコトハ此法案ハ、昔ハ要ランデアッタガ今日ハ必要ナモノデアルト云フコト
ヲ、能ク御承知ヲ願ヒタイコトデアリマス、ト云フモノハ今日帝國ニ於ケルトコロノ普通
〓育、卽チ小學校ノ爲メニ、公稅卽チ租稅ヲ以テ、八千万圓以上出シテ居リマスル、
故ニ今日ハ子ガアッテモ無クッテモ、租稅ヲ以テ〓育ノ費用ニ充テル、國庫ヨリハ先年百
万圓補助スルコトニナッテ居ッテ、其後又百万圓、二百万圓、又之ニ加フルニ〓育基金
一千万圓ノ利子五十万圓ト言フヤウニ、地方費及ビ國費カラ成立ッテ居ルモノデアリ
マスル、斯ノ如ク法律ノ結果ヨリシテ、莫大ナル金ヲ〓育ノ爲メニ費スルモノデアリマス
故ニ、此ノ學生ガ一人タリト雖モ、不結果ヲ見マスルナラバ其ノ弊害ハ誰ニ及プカト云
フト、卽チ子ガアッテモ無クッテモ一般人民諸君ニ及ブ譯デアリマス、デアリマスル故ニ、
昔〓育ト云フモノハ只其地方ニ於テ、其地方ノ智識ノアル者ニ限ッテ學ブ時代デアッタ
ナラバ此法律ガ無クテ濟ミマシタケレドモ、今日ハ卽チ普通〓育、國民〓育ト云フコ
トニナッテ、國家卽チ法律ノ上ニ〓育ト云フモノヲ支配スルコトニチッテ、寺子屋ノ自由
ニナラヌ譯ニナッタノデアリマス、故ニ此ノ子弟ガ一人タリト雖モ立派ノ者ニナリマスルナラ
バ卽チ日本ノ文明ヲ盛ンニシ又一人タリト雖モ之ガ堕落シマスルナラバ、日本ノ國
威ヲ下ゲルド云フコトニナル、ダニ依ッテ、此法案ハ未成年者ヲ保護シ、立派ヲ立憲的
ノ人民ヲ作ッテ、卽チ政黨內閣ヲスルニモ此ノ法案ガアラズンバ本當ノ良民ハ出來ナイノ
デアリマス、(拍手スル者アリ)故ニ此理由トシテハ卽チ三十九頁ノ長イ理由ガ書イテアリ
マスルカラシテ、之ヲ議長ノ許可ヲ得テ例年ノ如ク速記ニ載セテ、此法案ノ如何ニ必要
デアルカト云フコトヲ、滿天下ノ人ニ知ラシメテ、以テ吾ミガ國家ニ對スル責任ニ對ヘタ
イト思ヒマス、ドウカ諸君ノ御贊成ヲ以テ、今年ハ啻リ衆議院ノミナラズ、貴族院ニ於
テモ通過スルコトヲ、私ハ望ンデ居ルモノデアリマス
〔根本正君演說參考書〕
至金大利用者元年十一月二十五日未成年者喫煙禁止法ニ依リ處分シタル人員調(內務省警保局)
廳府縣喫煙器具罰金又ハ科料ニ說諭ニ止メ計
沒收人員處シタル人員タル人員
海三四四二一四二五四、三一三
三三、六一四三三、六四四
一一七三一五、五四二一五、六二一
一〇四一一五
奈二九七
三、
四一
〇七三三三八 三六四三〇八〇四
-
一一
三
二七三
二一-一三五
一一三五三一〇七
ニ二六八八一五
二一四一五
一〇一大正貳
一一一四二六·七二
六一一。
沖鹿宮熊佐大福高愛香德和山廣岡島鳥富石福秋山靑巖福宮長岐滋山靜愛三奈栃茨千群埼新長兵神大京東北計繩島崎本賀分岡知媛川島山口島山根取山川井田形森手島城野阜賀梨岡知重良木城葉馬玉潟崎庫川阪都京道七九
二立1-1三1-11二1ニ二三一11一二1一三|六ー二二一一一六一一1四|1 - 二 1 - 1 三 1 - - 1
一。一〇
一七二〇八六八六一二七五八
一一五一八三
二四-一
二五二四二四二〇一三五二六三六八九三五三一三九七八八五六三七一四
一二
一二二三四六九六八一二〇
一一
歌五九五〇五三八九八四一七四八〇八二二四四七四八八一三〇五五
一一
二四二〇七一八三五二三三四五六二八一一五
八ニ
三國五十一四八
七四
一二
兒七二
七〇七七
合八六九六〇、五四七六一、四八七
未成年者飮酒取締ニ關スル法律案理由書
未成年者ノ身體各部ノ組織ハ未タ完全セサルヲ以テ之ヲ成年者ニ比スレハ「アルコー
ル」ノ侵害ヲ受クルコト一層多大ナリ其ノ最患フヘキモノハ全國幾萬ノ學生カ飮酒ノ
爲其ノ目的タル學業ヲ成ス能ハサルニアリ是レ文明諸國カ幼者ノ飮酒取締ニ關シ特
ニ嚴重ナル規定ヲ設クル所以ナリ
英國ニ於テハ千九百一年八月十七日議會ヲ通過シ其ノ翌年一月一日ヨリ施行セ
ル幼者酒類賣買取締法アリ又米國ノ如キハ千八百八十二年ヨリ千九百二年ニ至
ル二十年間ニ各州相前後シテ未成年者ニ酒類ヲ販賣スルコトヲ禁止スルノ法律ヲ
實施シ千八百九十年ヨリ千九百年ニ至ル十年間ニ於テ合衆國ノ人民ノ壽命ハ平
均四年ト十分ノ一ヲ伸暢セリトハ米國〓育協會「ハント」氏ヨリ菊池前文部大臣ヘ
ノ通信ニ確報セラレタル所ナリ飮酒ノ害タル大要ヲ舉クレハ左ノ如シ
-心臓ノ神經又ハ筋肉ヲ刺載シテ之ヲ衰弱セシムルノミナラス其ノ筋質ヲシテ
脂肪ニ變セシメ終ニ其ノ作用ヲ完全ニ營ムコト能ハサラシム
二血管ハ酒精ノ作用ニ依リテ變質シ血壓ノ爲ニ往々破裂スルコトアリ彼ノ卒
中症ノ如キハ全ク腦血管ノ破裂ニ依ルモノナリ
三身體衰ヘ從テ肺臟ヨリ呼出スル炭酸ノ量ヲ減ジ炭酸ノ排泄減スレハ卽チ體
內ノ酸化作用妨害セラル其ノ結果體溫減シ身體衰フ
四腎臟實質ヲ脂肪性ニ變シ者廢物ヲ排除スルコト能ハサラシム
五肝臟ヲ肥大セシメテ常形ノ二倍ト爲スニ至ルノミナラス膽汁ヲ變シテ綠色ト
爲シ甚シキハ黑色ト爲スニ至ル
七六消〓器ノ粘膜ヲ害シ血管ノ彈力性ヲ變弱セシム
血管遲動神經ニ痲痺ヲ起スヲ以テ血管劇張シ血行活潑ト爲リ諸器管ハ一
時ニ興奮シ從テ腦ノ判力ヲシテ錯雜ナラシメ興奮ノ爲諸器管活潑ト爲リシ
後尙飮酒ヲ持續スレハ先ツ小腦侵サレ爲ニ筋肉ヲ指揮スルノ力減弱シ僅ニ
增進シタル體溫忽チ減退シ身體寒冷ト爲ルヘシ
故ニ孰レノ點ヨリ觀察スルモ酒ノ人身ニ有害無益ノ毒物タルヤ明ナリ吾人國民ハ將
來ノ良民ト爲ルヘキ未成年者ニ對シテ最愛ナル親權ヲ施行シ之ヲ監督養成スヘキ大
責任ヲ負擔スレハ法律ニ依リ未成年者ノ飮酒ヲ取締ルハ決シテ干涉ニ過クルモノニ
非サルナリ偶々本案實行ノ困難ヲ說ク者アルモ其ノ困難ハ獨リ本案ノミニ限ラルヘキ
ニ非ス若之ヲ口實トシテ本案ノ廢棄ヲ唱フル者アラハ是レ强竊盜盡キサルノ故ヲ以テ
之ヲ自由ニ放任スヘシト說キ其取締ノ全廢ヲ主張スル者ト何ソ擇フ所アラム是レ其
ノ制定ノ必要ヲ認メ本案ヲ提出スル所以ナリ
〔參照〕
獨逸皇帝陛下ノ禁酒御演說ノ全文
獨逸皇帝陛下カ明治四十三年十一月二十一日獨逸國「ミユーフイック」海軍
兵學校生徒ニ對シ禁酒御演說ノ全文左ノ如シ
朕ハ此ノ序ヲ以テ獨逸國民ニ對シ朕カ深ク懸念スル所ノ一事ヲ警告セムト欲ス
卽チ飮酒ノ問題是ナリ朕ハ飮酒ヲ嗜好スルハ古來我カ國民ノ習慣ナル事ヲ熟知
ス然レトモ自今我等ハ人事ノ凡テノ場合ニ於テ克己制欲シテ此ノ惡習慣ヨリ脫
却セサルヘカラス想フニ朕カ統治二十二年間ニ起リタル犯罪事件ノ十中ノ九迄ハ
飮酒ニ基因スルモノト斷言スル事ヲ得ルナリ蓋往時ハ豪飮ヲ以テ靑年ノ能事ノ
如ク思惟シタル時代モアリキ而シテ朕カ一少壯士官タリシ項之ニ關係セスト雖
其ノ例證ヲ見聞シタル事少カラサリキ然レトモ是等ハ三十年戰爭時代ニハ適シタ
ル過去ノ思想ニシテ現代ニハ不適當ナル事ト知ラサルヘカラス此ノ他飮酒ノ結果
如何ニ就テハ敢テ朕ノ辯說ヲ要セサルカ故ニ暫ク措テ論セス玆ニ先ツ諸子カ將來
ノ職務上ニ關シ諸子ノ注意ヲ促スモノアリ〓ハ諸子カ他日軍艦生活ヲ爲スニ當
リ諸子ハ朕カ海軍ハ勇壯無比ノ任務ヲ要スルノ程度ニ達シタレハ平時ニ充分ノ
氣力ヲ營養シテ緩急ノ場合ニ應セサルヘカラサルヲ發見スヘシ抑將來ノ海戰ハ健
全ナル神經ヲ要ス之ヲ換言スレハ海戰ノ勝敗ヲ決スル者ハ神經ナリ然ルニ飮酒ハ
此ノ神經ヲ遲鈍ナラシメ而シテ之ニ危害ヲ加フルモノナリ又諸子ハ他日射的船
ニ對スル現今ノ砲術練習ヲ目撃スルニ當リ如何ニ强健ナル神經ト冷靜ナル頭腦ト
ヲ要スルカヲ發見スヘシ卽チ「アルコール」ヲ最モ少ク飮用スル國民カ常ニ勝利者タ
ルヲ知ルヘシ是レ卽チ朕カ諸子ニ警告スル所以ニシテ而シテ又諸子ヲ通シテ艦員
ニ好模範ヲ與ヘムト欲スルナリ就テハ朕カ諸子ニ希望スル所ノ者ハ諸子カ今後
在校中ト乘艦中ト將タ又普通交際場裏トニ拘ラス如何ナル時如何ナル場處ニ在
リテモ飮酒ヲ目シテ諸子カ特權ノ一ナルカ如ク思惟スヘカラサル是レナリ
近時我カ園ニアリテモ美風集會所赤十字同盟會等ノ禁酒矯風圍體設立セラレ
テ旣ニ幾多ノ士官ト數百ノ兵卒トハ之ニ入會シタリ朕ハ諸子モ亦之ニ加盟セラレ
テ自他禁酒矯風ノ實ヲ擧ケラレム事ヲ切望ス現ニ英國ノ海軍ノ如キハ已ニ三萬
ノ將卒カ此ノ種ノ圜體ニ加入セル事ニ諸子ノ注意ヲ要スルナリ
是レ實ニ朕カ海軍及朕カ國民ニ對スル一大問題ナリ若諸子ノ首唱ニ由リテ艦員
カ凡テ禁酒ノ人ト爲リ而シテ他日彼等退役ノ後斯ノ主義ヲ全國到ル處ニ傳播ス
ルニ及ハハ其ノ時コソ朕ハ道德崇高ニシテ身體健全加フルニ知識明斷ナル臣民
ヲ得ヘキナレ
請フ諸子ヨ朕ヲシテ卿等ト共ニ此ノ事業ニ從ハシメヨ(帝ヲシテ禁酒會員ノ一タラ
シメヨノ意)
英國海軍禁酒〓ノ〓況
英國第一ノ軍港「ポーツマウス」ニハ禁酒禁煙主義ヲ以テ成立セル海兵休息所ナ
ル者ノ外ニ皇國海軍禁酒團ナル者有之本部ヲ右ノ休息所內ニ置キ現役豫備ノ
大中將以下數十名ノ將校ヲ名譽會員トシテ下士卒ノ現ニ會員タル者三萬餘人
アリ先帝「エドワード」先々帝「ヴ井クトリヤ」陛下ノ如キモ大ニ同情ヲ垂レ給ヒ度々
御臨幸モアリ御下賜金モアリ御肖像下賜サヘ有之以テ如何ニ英國ノ上流社會カ
國力ノ要素タル海軍ノ林〓酒事業ニ重キヲ措クカヲ見ルニ足ルヘク而シテ又英國ノ
海軍カ其ノ「ドレツドノート」外ニ別ニ雄飛スルノ素地アルヲ察知スヘキナリ
獨英斯ノ主義ニ注意ヲ拂フ此ノ如シ
玆ニ歐米各國ノ法典中ヨリ幼者ノ飮酒禁止ニ關スル條項ヲ摘載シ以テ參稽ニ資セ
ムトス
○「カリホルニア」州ノ法律
「カリホルニア」州ハ千八百九十一年三月十一日ヲ以テ幼者飮酒禁止法ヲ制定セリ
幼者飮酒禁止法
第一條満十八年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シ又ハ給與シタル者竝ニ滿十八年
以下ノ幼者ヲ來客トシテ出入セシメタル飮酒店料理店等ノ店主ハ失行罪トシ
テ之ヲ處分シ二百圓以上六百圓以下ノ罰金ニ處ス
本條ノ罰金ヲ賦納シ得サル者ハ地方監獄ニ於テ百日以上ノ禁錮ニ處ス
第二條此ノ法律ニ牴觸スル法律規則ハ總テ之ヲ廢棄ス
第三條此ノ法律ハ議定ノ當日ヨリ有效ナルモノトス
○「メイリランド」州法律
酒類取締法
第八十九條第二項滿二十一年以下ノ幼者年齡ヲ僞テ成年者ト稱シ酒類販
賣者ヨリ酒類ヲ購求シタルトキハ該幼者ヲ二圓以上四十圓以下ノ罰金ニ處シ
五日以上三十日以下ノ禁錮ニ處ス
同第三項滿二十一年以下ノ幼者ノ爲メ酒類ヲ購末シタル者ハ四十圓以上百
圓以下ノ罰金ニ處シ三十日以上九十日以下ノ禁錮ニ處ス
○英國幼者酒類賣買取締法(明治三十四年八月十七日可決)
英國皇帝陛下ハ貴族院及衆議院ノ協賛ヲ經タル幼者酒類賣買取締法ヲ裁可シ
玆ニ之ヲ公布セシム
第一條千八百八十六年ニ發帶セラレタル幼者酒類賣買取締法ハ之ヲ廢棄ス
第二條酒類販賣營業免許ヲ有スル者酒類ノ何タルヲ問ハス情ヲ知テ滿十四
年以下ノ幼者ニ之ヲ販賣若ハ交付スルトキ又八八ヲシデ該幼者ニ販賣若ハ交
付セシムルトキハ四十志以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ五磅以下ノ罰金ニ處ス
但シ購買者ノ住宅又ハ執業勞働所ニ於テ販賣若ハ交付スル場合竝ニ酒類賣
買ノ場所以外ノ地ニ於テ消費セラレムカ爲メ一平(二百五十二匁)以上ノ分
量ヲ器物ニ入レ該器物ニ栓ヲ爲シ且封印シテ販賣若ハ交付スル場合ハ此限
在ラス
何人タルヲ問ハス酒類ヲ得ヘキ目的ヲ以テ酒類ヲ販賣セラレ若ハ交付セラレ又
ハ配賦セラルル場所ヘ情ヲ知テ滿十四年以下ノ幼者ヲ使ニ送ルコトヲ禁ス此ノ
禁ヲ犯ス者ハ前項ノ罰金ニ處ス但シ販賣交付又ハ配賦セラルヘキ酒類若ハ前
項ノ如ク器物中ニ封印セラレタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三條酒類販賣營業免許ヲ有スル者ハ酒類ノ交付者トシテ家族、僕婢、雇
人等ヲ使用スルコトヲ得
第四條此ノ法ノ下ニ訴訟ノ起リタル場合ニ於テハ此ノ法ハ英國ニ於テハ千八
百七十二年ヨリ同七十四年マテ施行セラレタル酒類免許條例、蘇格蘭ニ於テ
ハ千八百二十八年ヨリ同九十七年マテ施行セラレタル酒類免許條例、愛蘭ニ
於テハ千八百三十三年ヨリ千九百年マテ施行セラレタル酒類免許條例ト同一
ノモノトシテ解釋セラルヘキモノトス
第五條此ノ法ニ於テ「栓」ト稱スルハ塞子ノ種類ノ木タルト其ノ他ノ物體タルト
ヲ問ハス總テ之ヲ栓ト稱スルモノトス
封印ト稱スルハ其ノ物ノ何タルヲ問ハス之ヲ破壞セサレハ橙ヲ引拔ク能ハサルモ
ノヲ云フ
第六條此ノ法ヲ稱シテ千九百一年ノ幼者酒類賣買取締法ト云フ
第七條此ノ法ハ千九百二年一月一日ヨリ施行ス
英國幼者酒類賣買禁止法案ノ提出
英國衆議院議員「クロムヒー」氏ヨリ同院ニ提出セル幼者酒類賣買禁止法案ハ
千九百一年二月十九日ヲ以テ同院ノ議事日程ニ上リ同三月二十日其ノ第一
讀會ハ開カレタリ
是ヨリ先キ同法案ハ「サー、シヨセフ、リース」氏ヨリ議院ニ提出スヘキ筈ニテ氏ハ多年
衆議院議員トシテ議場ノ經驗ニ富ミタル老練家ナルカ故ニ議院內外ノ禁酒主義
者ハ深ク氏ニ望ヲ囑シ氏モ亦法案提出ノ件ニ付大ニ斡旋スル所アリシカ不幸ニシ
テ病ニ罹リ到底同案提出ノ如キ重大ナル責任ヲ負擔スヘカラサルモノアリ依テ氏ハ
後繼者トシテ「クロムゼー」氏ヲ推薦シ同主義者モ亦一般ニ之ニ同意ヲ表セルヲ以
テ氏ハ則チ「クロムセー」氏ニ後事ヲ託シ政界ノ煩悶ヲ避ケ暫ク閑地ニ靜養セリ
「クロムビー」氏ハ新進ノ政治家ナレトモ其ノ技倆ノ非凡ナルハ既ニ世人ノ認識セ
ル所ナレハ氏ハ議院內外ノ興望ニ依テ愈々禁酒法案ノ提出者トナリ左記ノ諸氏
ハ贊成者トシテ同法案ニ署名セリ
前國務大臣「アスケス」氏「ドーグラス」氏「ヘンリー、フヲーラー」氏
「サーエドワード、グレー氏「ハーリー」氏「サー、ジヨセフ、リース氏
「サー、ウイリアム、ホーヅウヲース」氏「トリトン」氏「ヱー、トーマス」氏
「ウイリアム、ジヨンストン」氏「ピール」氏
一千九百一年三月二十日午後零時ヲ以テ禁酒法案ノ第一讀會ハ開カレタリ、
此日傍聽席ハ開會前既ニ滿員シ近年稀ナル盛況ヲ呈シタリシカ原案提出者「ク
ロムビー」氏ハ滿堂喝采拍手ノ裡ニ起立シテ左ノ如ク演說セリ
「クロムビー」氏滿堂ノ諸君ヨ余ハ原案提出ノ榮譽ヲ得タルコトラ諸君ニ感謝
スルト同時ニ豫メ諸君ニ懇望スヘキ一事カアル、其レハ外ノ事テハナイ元來此ノ原
案提出者ハ知名ノ人物テナイ(謙遜々々ト呼フ者アリ)提出者カ有名ノ人士テナイ
カラト云フテ併テ原案其物ヲ輕ク見ラレヌ樣豫メ希望ス、扨テ是ヨリ本法律案ニ
就キ鄙見ヲ開陳センニ抑々本案ハ三個ノ性格ヲ具備シテ居ル、則チ第一ニ本案ハ
黨派問題ニ非サルコト(拍手喝釆)第二ニ本案ハ時勢ノ必要ニ適合シテ居ルコト
第三ニ本案ハ禁酒主義ヲ溫和ニ應用セルモノナルコトヽ此ノ三個テアルカ濫和ナル
禁酒主義ニ對シテ本院中何人モ反對ハアラサルヘシ、否ナ溫和ナル禁酒主義ハ滿
堂諸君ノ歡迎セラルル所ナラン(ヒヤ/ヽ)囘顧スルニ禁酒主義者ト其ノ反對者ハ
近年マテ相共ニ極端ニ走テ氷炭相容レス前者ハ法律ヲ以テ一國ノ酒類ヲ全滅シ
根絶セヨト說キ後著ハ酒類ノ賣買ノコト竝ニ之ヲ飮ムトカ飮マヌトカ云フ樣ナコト
ハ一切法律ヲ以テ干渉スヘカラスト論シ雙方共竇ニ非常ノ極端主義ヲ固執シタリ
シカ爾來世ノ風潮全ケ一變シテ復タ斯ル極端主義ヲ主張スルコトヲ止メ雙方共ニ
中正穩和ノ意見ニ依テ酒類問題ヲ解釋スルニ至レリ余輩ハ國家ノ爲之ヲ祝セサル
ヲ得ス(ヒヤ〓〓)今ヤ酒類問題ハ推象的討論問題ノ範圍ヲ脫シテ具體的實行
問題トナリ、倫理道德問題ノ域ヨリ進ミテ國家生存問題トナレリ(喝采拍手)然
リ酒類問題ハ國家ノ生存ニ大關係ヲ有スル實際問題ナリ、請フ試ニ世界進化ノ
大勢ヲ見ヨ、列國間ニ於ケル生存競爭ハ年一年ニ激烈ノ度ヲ加フルニアラスヤ、此,
ノ激烈ナル競爭場裡ニ立テ優勝ノ位置ヲ占ムル者ハ必ス心身ノ强健ナル國民ナル
ヘク劣敗ノ悲境ニ落入ル者ハ體格ノ軟弱ナル人民ナラム是レ明々白々ナル自然
ノ數ニシテ面シテ酒ハ人ノ體格ヲ軟弱ナラシムル諸原因中實ニ其ノ絕大ナルモノニ
非スヤ(大喝采)果シテ然ラハ酒類害毒ノ蔓延ヲ防禦セムカ爲相當ノ取締ヲ爲ス
ハ國家當然ノ義務ナルヘシ(大喝采)夫レ然リ酒類ノ害毒ハ之ヲ防止セサルヘカラ
ス、但シ現代人民ノ飮酒ニ由テ生スル所ノ細大ノ弊害ハ嚴重ナル取締ニ依テ一切
之ヲ掃蕩シ得ヘキカ之ハ一ノ疑問テアル激烈嚴密ノ法律ヲ設テ之ヲ厲行スルトキ
ハ現代國民飮酒ノ弊害ヲ悉ク除却スルコトヲ得ヘキヤ否、之ハ疑問テアル而シテ
余ハ今玆ニ之カ解釋ヲ試ミサルヘシ、余ハ過去現在ノ國民ニ就テハ玆ニ喋々セラルヘ
シ、然リト雖將來ハ吾人ノ眼前ニ在リ今ノ幼者ハ將來ノ國民ナリ、此ノ將來ノ國民
ハ今日ニ比シ數層激甚ナル世界列國生存競爭場裡ニ立タントスル者ナルカ故ニ彼
等ノ心身ヲ强健ナラシムルハ彼等ノ父母タル吾人人民ノ一大責任ニ非スヤ(喝采拍
手)次代國民ノ體格ヲ完全ニ發育セシムルハ當代ノ國民タル吾人ノ一大義務ニ非ス
ヤ(喝采拍手)果シテ然リトセハ吾人ハ酒類害毒ノ幼者ニ傳染スルヲ豫防セサルヘカ
ラス、是レ〓輩同志者カ本案ヲ提出シテ諸君ノ贊同ヲ求ムル所以ナリ(拍手大喝
釆)而シテ酒類ニ關スル現時ノ狀態ハ如何、彼ノ飮酒店及酒類販賣店ノ形況ハ
如何、余面ヨリ是等ノ營業其ノ物ヲ非難スルニアラス亦店主其ノ人ヲ責ムルニ非
ス是等ノ營業者中ニハ寧ロ尊敬スヘキ人モ少ナカラス、然レトモ次代ノ國民トシテ
國家ヲ負擔スヘキ少年子弟カ是等ノ營業店ニ出入スルコトニ關シテハ余輩絕對的
ニ反對セサルヲ得ス(ヒヤ〓〓)、精確ナル統計ニヨレハ是等酒店ニ往來スル者ノ中
ニテ少ナクモ其ノ一割四分ハ幼者ニシテ是等ノ幼者ハ其ノ初メハ父兄ノ爲メニ酒
ヲ買フニ過キサルニモセヨ屢々酒店ニ出入スルニ從ヒ幼者自カラ飮酒ノ惡習ニ感染
スルコトナキヲ保シ難シ、否ナ酒氣ヲ帶ヒタル少年ヲハ吾人ハ途上ニ於テ往々目擊
スルコトアリ、尤モ從來ノ法律モ幼者ノ飮酒ヲ禁止セサルニ非ス卽チ酒類ノ營業者
ハ其ノ販賣ノ場所ニテ飮用セラルヽモノト知リタル以上ハ幼者ニ賣渡スコトヲ禁
止セラレ、酒ニ醉フタル幼者ハ警察官ニ依テ拘留ノ刑ニ處セラル、去レト此ノ現行
法ハ實地格別ノ效用ヲナササルト云フ其ノ次第ハ成ルホト、販賣ノ場所ニ於テ幼
者ハ飮用スルコトヲ得サレトモ其ノ場所以外ノ地ナラハ幼者ハ現行法ノ下ニテ自
由ニ酒ヲ飮ミ得ルナリ、又酒ニ醉フタル少年ハ現行法ニヨリ拘留ノ處分ヲ受クルト
雖之ハ酩酊セル少年カ警察官ニ反抗シテ其ノ命ニ服セサル等ノ如キ場合ニ限ラレ
タルニ似タリ故ニ余ハ現行法ヲ評シテ同法ハ幼者ノ飮酒ヲ制止スヘキ效力ヲ有セ
サルモノト斷言スルヲ憚ラス是レヨリ先キ政府ハ幼者飮酒弊害ノ漸ク大ナラムトスル
ヲ見テ卽チ調査委員ヲ任命シ少年ニ酒ヲ賣ルコトニ據テ生スル所ノ弊害ノ度如何
ヲ審査セシメタルニ其ノ審査ノ結果ハ幼者ニ酒ヲ賣ルコトノ大害アル事實ヲ充分ニ
證明セリ、但シ二十餘名ノ委員ハ自他ノ間多少見解ヲ異ニシ從テ其ノ調査報告
書モ多數者ノ意見及少數者ノ意見ナル二種ニ分レ卽チ多數者ハ酒ヲ幼者ニ賣ル
者ト酒買ヒニ幼者ヲ遣ル父母トヲ併セテ罰スヘシト報告シ少數者ハ酒ヲ幼者ニ賣
ル者ノミ罰スヘシト報告セリ、少數者ハ更ニ附記シテ曰ク法律ハ輿論ニ適合セサル
ヘカラス而シテ幼者ニ酒ヲ買ハシメタル父母ヲ罰スルハ輿論ノ贊成スル所ニ非ス故
ニ酒ヲ賣リタル者ノミヲ罰スレハ足レリト、去レハ父母ヲ罰スヘキヤ否ノ件ニ付テハ
多數少數二派ノ調査委員其ノ說ヲ異ニスト雖酒類ヲ賣リタル者ヲ罰スルノ件ニ
關シテハ二派其ノ意見ヲ同フシテ而シテ亦實ニ全國輿論ノ贊成スル所ナリ此ノ故
ニ余輩同志者ノ提出セル本案ハ全國輿論ノ後援ヲ得且政府ノ贊助ヲ得タルモノ
ト云フヘシ何トナレハ調査委員ハ政府ノ代表者ニシテ而シテ本案ハ同委員全部ノ
意見ニ符合スレハナリ、且又本案カ本院ニ提出セラレテヨリ以來或ハ個人ノ資格
ヲ以テ或ハ團體ノ資格ヲ以テ本院ニ宛テタル哀訴請願書竝ニ各議員ニ宛テタル
勸告狀ハ其ノ數實ニ幾千萬通ナルヲ知ルヘカラス而シテ其ノ大部分ハ本案ノ通過
ヲ懇請スル者ニ在ラサルハ無シ亦以テ本案カ輿論ヲ代表セルノ明證ナラム(大喝
釆)若夫レ本案ノ各條項ニ至リテハ其ノ字句中多少ノ修正ヲ要スルモノモアルヘシ
本案ノ提出者ハ一字一句ノ修正ヲモ施スヘカラサル議案トシテ之ヲ本院ニ提供セ
ルニハ非ス、卽チ幼者ニ酒類ヲ賣ルコトヲ禁止セムトスルヲ以テ本案ノ目的トナス
(ヒヤ〓〓)此ノ目的ヲ達スルコトヲ得ハ卽チ足レリ、仰キ願クハ本案ヲシテ此ノ目
的ヲ貫徹セシメヨ(拍手大喝釆)
「クコムビー」氏ノ演說ハ之ニテ終了シ夫レヨリ討論ニ入ル
「ホーヅウヲース」氏(保守黨議員)余ハ本案ヲ贊成ス、法案ニ對シテ熱心ナル同
情ヲ表ス
「ゼームソン」氏余ハ本案ニ反對ナリ、併シ酒屋ト何カ關係カアルカラ反對スルト
看做レテハ迷惑ナリ、余ハ飮酒店ニハ何等ノ關係ヲ有セス(此トキ「ジヨンストン」氏
橫合ヨリ皮肉ノ質問ヲ試ミ「火酒釀造所」ニモ關係ナキヤト尋ネタリ、之ニハ「ゼー
ムソン」氏頗ル閉口シタリト云フ、其ノ譯ハ氏ハ「ダブリン」市ニ於ケル有名ナル火酒
釀造所ノ大株主ナレハナリ(余ハ決シテ自カラ爲メニスル所アツテ反對スル譯テハナ
イ本案ハ結構ナ者テアルカモ知ラヌカ併シ本案ニ由テ却テ祕密ニ酒ヲ飮ム弊害カ
增長シヨウト思ハレル
「タリー」氏余モ亦本案ニ反對ス、尤モ余ハ幼者ノ飮酒スルコトヲ大ニ嫌惡スレト
モ併シ法律ノ力ニ依テ此ノ弊害ヲ制止スルコトハ到底出來マイト思フ、是レ余カ本
案ニ反對スル所以テアル
「ルーカス」氏本案ニ反對
「トムキンソン」氏本案ニ贊成
「フローワー」氏本案ニ贊成
「ヲーシヨーネシー」氏本案ニ贊成(同氏ハ愛蘭ヨリ選出セラレタル少壯議員ニシ
テ熱心ナル贊成演說ヲ爲シテ議場ニ非常ノ感動ヲ與ヘタリ)
「ミドルモーア」氏斯ル法案ニハ反對セサルヲ得ス、斯ル法案ハ破壞セサルヘカラス
「ハルデーン」氏本案ニ贊成ス而シテ余ハ本案ニ對スル政府ノ意嚮ヲ尋問セムト
欲ス
(此トキ政府委員席ニ在リタル內務次官「コリング」氏ハ直ニ超テ左ノ如ク答辯
セリ)
「コリング」氏(内務次官)內務大臣「リツチー」氏カ所勞ノ故ヲ以テ本日出席セ
ラレサルハ余ノ深ク悲ム所テアル併シ大臣カ居ラサルニモセヨ余ハ大臣ニ代リ責任
ヲ以テ答辯スルコトカ出來ル元來政府ハ本案ニ對シテ干涉スルコトヲ欲セス、本
案ノ取捨ハ全ク之ヲ議員各自由意思ニ放任スルコトニ政府ハ決定シテ居ル、本
案ニシテ第二讀會ヲ開クコトヽナラハ內務大臣ハ其ノ時意見ヲ述ヘラルヽテアロウ
カ併シ同大臣ハ本案ノ幼者年齡十六年ヲ改メテ滿十四年トナスヘシト豫テ申テ
居ラレタ、又本案第二條中ニ「情ヲ知テ」ナル文字ヲ挿入スヘシト申シテ居ラレタ、
此ノ意見ニハ余モ同感テアル(「コリング」氏ハ斯ク答辯シテ演說ノ局ヲ結ヒタリシカ
其ノ終局ニ當リテ暗々裡ニ本案ニ對シテ同情ヲ表セサルカノ如キ口調ヲ漏シタリ)
「ハーコート」氏(自由黨前內閣ノ內務大臣)只今內務次官ハ其ノ答辯ノ結末ニ
於テ酒類問題ニ關シ法律ニ依テ幼者ヲ制裁スルハ不都合テアルカノ如キ口調ヲ漏
サレタルカ併シ若之ヲ不都合ナリトスレハ普通〓育問題ニ關シ法律ニ依テ幼者ノ
就學ヲ制裁スルコトモ亦不都合ト云ハネハナラヌ、法律ニ依リ幼者ノ就學ヲ督促ス
ルハ何人モ是認スル所ナルト共ニ法律ニ依テ幼者ノ飮酒ヲ制止スルコトモ亦之ヲ
是認スヘキ筈テアル、故ニ余ハ政府カ本案ニ對シテ出來得ル限リ便宜ヲ與ヘ以テ
本案ノ成立ヲ贊助セムコトヲ希望ス、又余ハ本案ヲ法律調査委員會ニ付託セムコ
トヲ希望ス、何トナレハ本案ヲ全院委員會ノ議ニ付スルトキハ本案ハ恐ラク破碎ス
ヘケレハナリ
「パートレー」氏(倫敦市ノ選出議員余ハ大ニ本案ニ反對ス、余ハ本案ノ破滅ヲ
熱望ス
「サンドーワン」氏余ハ本案ニ大贊成ナリ余ノ選出地ナル愛蘭ノ人民ハ其ノ政派
宗派及階級ノ何何タルヲ問ハス國民一般ニ本案ニ對シテ深厚ナル同情ヲ表シ本
案ノ通過ヲ熱望セリ(拍手喝采)本案ヲシテ當期議會ヲ通過セシムルハ全ク政府
ノ責任ニ屬ス而シテ余ハ此ノ責任ヲ完フセムコトヲ政府ニ向テ懇望スル者ナリ(滿
場拍手大喝采)
(「サンドーソン」氏ノ演說ヲ了リタルハ午後五時過ナリシカ軈テ原案提出者ナル
「クロンピー」氏ヨリ討論終結ノ動議ヲ提出セリ)
○討論終結
議長只今「クロンビー」氏ノ提出セル討論終結ノ動議ニ就キ採決スヘシ
討論終結ヲ可トスル者四百〇七人
討論終結ヲ非トスル者三十一人
討論ハ玆ニ全ク終結セリ
○採決
議長次ニ第二讀會ヲ開ク可キヤ否ヤニ付キ採決スヘシ、之ヲ開クヲ可トスル者ハ
卽チ「可」ト云ヒ之ヲ開クヲ否トスル者ハ卽チ「否」ト云フヘシ
「可」ト云フ者三百七十二人
「否」ト云フ者五十四人
依テ本案ハ非常ノ大多數ヲ以テ第二讀會ヲ開クコトニ確定セラレタリ
是レヨリ先キ議長カ第二讀會ヲ「可」トスル者過半數ナリト宣告スルヤ本案ノ反對
者ナル「ゼームソン」「タリー」ノ諸氏ヨリ異議ヲ提出シテ「否」トスル者多數ナリト主
張シ之レカ爲メ議場ハ一時混雜ヲ極メタルカ議長カ最後ニ「可」「否」兩派議員ニ
起立ヲ命シ衆議院書記官ヲシテ其ノ頭數ヲ精算セシムルニ及ヒ前記ノ如キ結果ヲ
得タルナリ
次ニ「クロンビー」氏ヨリ本案ヲ法律調査委員ニ付託スヘシトノ動議ヲ提出シ全院
委員會ノ議ニ本案ヲ付スルコトノ不可ナル理由ヲ簡明ニ演說シタリシカ、時恰モ閉
場時刻ニ接近セルヲ以テ當日ハ之ニテ閉場セラレタリ
又右ノ「可」三百七十二人ト「否」五十四人ヲ政黨ニ類別スレハ左ノ如シ
自由黨出席議員全部百四十七人
「可」三百七十二人此ノ內譯保守黨百三十二人
統一黨四十二人
國民黨五十三人
保守黨四十三人
「否」五十四人此ノ內譯統一黨三人
國民黨十人
但シ自由黨ノ出席議員中「否」ニ贊成シタル者ハ一人モ無ク、則チ自由黨員ハ全
部擧テ禁酒法案ノ賛成者ナリト知ルヘシ
又右表中ノ統一黨ハ「チヤムバレン」氏「デボンシヤイア」公等ト共ニ曾テ自由黨ヨリ
分離セル一派ニシテ國民黨ハ則チ愛蘭ヨリ選出セラレタル議員ノ團體ナリ又自由
黨ノ名士ニシテ前內閣大臣タリシ「ハーコート」、「ジヨン、モーレー」、「バンナーマン」、
「アスケス」、「チヤールジルク」等ノ諸氏ハ當日打揃フテ議場ニ出席シ熱心ナル拍
手喝采ヲ以テ禁酒派ノ演說ヲ歡迎シ且採決ノ際「クロムビー」氏ノ動議ヲ贊成セ
リ、然ルニ本案ニ反對シテ第二讀會ヲ開クヲ「否」トセル保守黨員以下五十四名
ノ議員中ニハ知名ノ人士皆無ニシテ平凡ノ議員ノミナリシハ當日ノ一奇觀ニテア
リキ
「ハーコート」氏ハ「グラットストン」氏終身ノ親友ニシテ「グ」氏ト共ニ議場ニ出入
セルコト數十年、其ノ間「ク」氏ト共ニ內閣ニ列セシコト前後數囘ニ及ヘリ、自由
黨中議院ノ經驗ニ於テ「ハーコート」氏ノ右ニ出ツル者ナク氏ハ實ニ自由黨中屆
指ノ老政治家ナルカ禁酒法案第一讀會ノ終了セル後或ル人ニ語テ曰ク「クロン
ビー」氏ノ演說ハ余カ議院ニ於テ多年聽聞セル演說中最モ善美ナルモノノ一ナ
リト、以テ「クロムビー」氏演說ノ價値ヲ察スルニ足ラム
英國諸領地ノ酒類販賣ニ關シ幼者ニ酒類ヲ販賣スル者ヲ罰スル法律ハ大同小
異ナルヲ以テ茲ニ之ヲ〓括シテ幼者ノ年齡ト罰金ノ額ノミヲ略記スレハ左ノ如シ
アススコシア」幼者年齡二十一年以下
罰金五十弗
「ノース、ウェスト、テリトリー」ニ於テハ幼者年齡十八年以下、初犯罰金二十五
弗、罰金ヲ納付シ得サルトキ禁錮一箇月、再犯罰金五十弗、免許狀沒收、罰
金ヲ納付シ得サルトキハ禁錮二箇月
「オンタリ幼者年齡二十一年以下
ヲ」罰金十弗以上五十弗以下
未成年者
「プリンス、エドワード」島罰金十弗、酒類販賣營業六箇月停止、再
犯ハ罰金二十弗、酒類販賣免許狀沒收
未成年者
「クイベツク」罰金二弗、罰金ヲ納付シ得サレハ禁錮二週
間
、幼者年齡十五年以下
「セ1チルス」罰金十留、再犯以上ハ罰金二十留
〓幼者年齡十六年以下
「タスマア」〔罰金十磅以下
ツ幼者年齡十二年以下
「トリニダト」罰金五磅以下
幼者年齢十六年以下
「タークス、アイランド」罰金十磅以下、再犯以上ハ罰金二十磅以
下
幼者年齡十六年以下
ヴイクトリア」罰金二磅以上十磅以下
前記法律ノ統計英國諸領地ニ於テ幼者ニ酒類ヲ販賣スルコトヲ禁止スル諸
州ハ約三十箇ニシテ此ノ内幼者ノ年齡ヲ十六年以下ニ定ムルモノ十二箇、十
五年以下六箇、十八年以下三箇、未成年者三箇、二十一年以下十四年以
下十二年以下各二箇宛ナリ又罰金ハ平均五磅乃至十磅ナリ
米國未成年者飮酒禁止法理由書
未成年者ノ身體各部ノ組織ハ未タ完成セサルヲ以テ之ヲ老者ニ比スレハ「アルコー
ル」ノ侵害ヲ受クルコト一層多大ナリ其ノ最患フヘキモノハ全國都鄙幾萬ノ學生カ飮
酒ノ爲其ノ目的タル學業ヲ威ス能ハサルニアリ是文明諸國カ幼者ノ飮酒取締ニ關シ
特ニ嚴重ナル規定ヲ設クル所以ナリ
酒ハ人身ノ臟腑ヲ損傷シ血液ヲ汚敗シ腦髓ヲ侵害シ神經ヲ痲痺ス
酒ハ疾病貧困犯罪等社會百害ノ最大原因ナリ
酒ハ國家ノ資力ヲ減殺シ國民ノ元氣ヲ消耗セシム酒ノ原質ハ酒精卽チ「アルコール」
ナリ然ルニ「アルコール」ハ「モルヒネ」又ハ「クロロホルム」等ニ均シキ毒藥ニシテ專門醫
家ノ外ハ濫ニ之ヲ使用スヘキモノニアラス
「アルコール」ノ胃ニ入ルヤ胃液及唾液ヲ非常ニ分泌セシメテ消化機ノ調和ヲ破リ且
胃液中消化ニ必要ナル「ペブシネ」ノ作用ヲ妨害ス
「アルコール」ノ血管ニ入ルヤ血液中ノ酸素ヲ奪取シ水分ヲ減少シ蛋白質ヲ凝固セシ
メ以テ血液ノ作用ヲ失ハシム
「アルコール」ハ肝臟腎臟心臟等ニ危險ナル脂肪變化ヲ起シ肺臟ヲ侵害ス
「アルコール」ハ神經及腦髓ヲ刺激シ殊ニ知覺感〓ノ司府タル後腦部ハ「アルコール」
ノ爲損傷セラルルコト最大ナリ
故ニ何等ノ〓ヨリ觀察スルモ酒ノ人身ニ有害無益ノ毒物タルヤ明ナリ或ハ飮酒家ノ
肥滿ヲ見テ健康ノ表顯ナリト云フ者アレトモ事實ハ正シク反對ニシテ其ノ肥滿ハ卽チ
不健康ノ證左ナリ蓋シ不淨ナル脂肪ノ凝積スルハ身體ニ害アリテ益ナケレハナリ或ハ
酒ハ體溫ヲ增進スト云フ者アレトモ是亦誤謬ノ見解ナリ酒ヲ飮ムトキハ其ノ刺激ニ
由リテ體内ノ過度外部ニ發出スルヲ以テ皮膚ノ神經ハ體溫ノ增加ヲ感スト雖其ノ
實外部ノ增加ハ內部ノ減少ニ由來スルヲ以テ全體ノ過量ハ寧口幾分カ減退スルモノ
トス或ハ又酒ハ勇氣ヲ鼓舞シ氣力ヲ振興スト云フ者アレトモ其ノ鼓舞振興タルヤ恰
モ鞭ノ馬ニ於ケルカ如ク鞭ヲ加アル愈〓激シケレハ馬ハ唯タ益〓疲勞スルノミ
要スルニ酒類ハ個人又ハ社會ヲ害スル各種ノ毒惡物中ニテ其ノ最タルモノナリ故ニ
國家ハ之ヲ禁止スヘキ義務ヲ有ス國家既ニ阿片ヲ禁スル以上ハ酒類亦固ヨリ之ヲ
禁セサルヘカラス蓋酒ノ害毒ハ阿片ニ比スレハ數倍甚シキモノアレハナリ之ヲ病患ニ喩
フレハ阿片ハ「コレラ」、「ベスト」ノ如ク酒ハ肺病、黴毒ノ如シ肺病、黴毒ノ害毒ハ「コ
レラ」、「ベスト」ノ如ク顯著ナラサレトモ其ノ陰險頑强ニシテ而カモ流毒範圍ノ廣大ナ
ルハ「コレラ」、「ベスト」等ノ遠ク及フ所ニアラス
法律ニ依リ未成年者ノ飮酒ヲ禁スルハ聊カ干渉ニ過ルノ嫌ナキ歟ト疑惑スル者アレ
トモ現代ノ老者ト現代ノ未成年者トノ關係ハ一家親子ノ關係ト毫モ異ナルナク卽チ
吾人國民ハ將來ノ良民トナルヘキ未成年者ニ對シテ嚴重ナル親權ヲ施行シ之ヲ監
督養成スヘキ大責任ヲ負擔スルモノナリ此ノ理ヲ了解スレハ前記ノ疑惑ハ自カラ氷
解セぶ或ハ又幼者禁酒法實行ノ困難ヲ說ク者アレトモ其ノ困難ハ獨リ同法ニ限ラル
ヘキニ非ス若シ之ヲ口實トシテ同法ノ廢棄ヲ唱フル者アラハ是强竊盜盡キサルノ故ヲ
以テ之ヲ自由ニ放任スヘシト說キ賣淫絕ヘサルノ故ヲ以テ之カ取締ヲ全廢スヘシト唱
フル者ト何ソ擇フ所アラム
玆ニ北米合衆國諸州ノ法典中ヨリ幼者ノ飮酒取締ニ關スル條項ヲ摘載シ以テ參
稽ニ資セムトス
「アイヲワ」州ノ法律
第二千四百三條父母又ハ後見人若ハ醫者ノ保證狀ヲ有セサル幼者ニ酒類ヲ
販賣シ又ハ給與シタル者ハ二百圓ノ罰金ニ處ス粗シ罰金ノ一半ハ該罪狀ノ告
發者ニ賦與シ一半ハ該罪狀發生地ノ學校基金中ニ寄贈スヘキモノトス
「オレゴン」州ノ法律
幼者ニ酒類ヲ販賣シ又ハ給與シタル者竝ニ幼者ヲ出入セシメタル飮酒店、料理店
等ノ店主ハ百圓以上六百圓以下ノ罰金ニ處シ一年以內ノ禁錮ニ處ス
右ノ場合ニ於テハ酒類販賣者又ハ店主ノ有スル營業免許狀ハ之ヲ官廳ニ沒收
ス
幼者年齡ヲ詐リテ滿二十一年以上ノ成年者ト稱シ酒類ヲ購求シタルトキハ該幼
者ヲ五十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
「イリノ井ス」州ノ法律
父母若ハ後見人又ハ醫師ノ酒類購求委任狀ヲ有セサル幼者ニ酒類ヲ販賣シ又
ハ給與シタル者ハ四十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處シ十日以上三十日以下ノ
禁錮ニ處ス
「ニーハンプシヤ」ノ法律
飮酒店ノ店主又ハ酒類ヲ差出ス宴席ノ席主等ハ滿十六年以下ノ幼者ヲ出入
セシメ又ス列列席セシムルコトヲ得ス此ノ條項ニ背反シタル店主、席主等ハ四十圓以
下ノ罰金ニ處ス
「フロリダ」州ノ法律
第二千六百三十五條葡萄酒、麥酒等苟モ多少ノ酒精ヲ含有スル飮料ヲ幼者
ニ賣與シタル者ハ無免許密賣罪ニ依リ之ヲ處分ス
「アラバマ」州ノ法律
第三千五百二十一條酒類販賣ノ免許ヲ出願スル者ハ幼者ニ酒類ヲ販賣シ
又ハ給與セサルヘキ旨目嚴正ニ宣誓シタル誓約書ヲ當該官廳ニ差出スコトヲ要
ス
紐育州ノ法律
酒稅法第三十條會社又ハ個人ニシテ酒類販賣ヲ營業スル者ハ滿十八歲以下
ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シヌスハ綸與スルコトヲ得ス
「ミゾリ」州ノ法律
第三千九條父母或ハ監督者又ハ後見人ノ記名セル酒類購求認許狀ヲ有セサ
ル幼者ニ酒類ヲ販賣シ又ハ給與シタルモノハ失行罪トシテ之ヲ處分シ百圓以上
四百圓以下ノ罰金ニ處ス
西「ウヲルジニア」州ノ法律
第四千二百四十五條何人ニ限ラス幼者ニ酒類ヲ販賣シ又ハ給與シタル者ハ
失行罪トシテ之ヲ處分シ二百圓以下ノ罰金ニ處シ三箇月以下ノ禁錮ニ處ス
第四千二百四十六條飮酒店ノ營業者幼者ヲ登店セシムルトキハ失行罪トシテ
之ヲ處分ス
又同州ノ酒類取締法中ニ左ノ一節アリ
酒類販賣營業免許ヲ出願者ニ對シ當該官廳ハ之ニ免許狀ヲ下付スル前豫メ誓
約書ヲ差出サシムルコトヲ要ス
該誓約書中ニハ該出願者滿二十一年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シ又ハ給與シタ
ルトキハ償金七千圓ヲ差由山スヘキコトヲ記載セシムルモノトス
又該誓約書中ニハ該出願者ノ販賣シ又ハ給與シタル酒類ヲ飮用シタル者ノ醉狂ニ
由リテ生シタル一切ノ損害ハ該出願者總テ之ヲ賠償スヘキコトヲ記載セシムルモノ
トス
「ウィスコンシン」州ノ法律
第千五百五十七條飮酒店營業者、酒類販賣者其ノ他何人タルヲ問ハス幼者
ニ酒類ヲ販賣シ又ハ之ヲ給與シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ三
十日以下ノ禁錮ニ處ス
「ミスシッピ」州ノ法律
第千五百九十四條幼者ニ酒類ヲ販賣スル者又ハ之ヲ給與シタル者ハ二百圓
以上二千圓以下ノ罰金ニ處シ六箇月以下ノ禁錮ニ處ス
第千六百七條飮酒店營業者若シ幼者ヲ登店セシムルトキハ四十圓以上一千
圓以下ノ罰金ニ處シ三箇月以下ノ禁錮ニ處ス
第千六百八條滿二十一歲以下ノ幼者其ノ年齡ヲ詐リテ成年ナリト稱シ飮酒
店ニ入リタル場合ニ於テ年齡詐稱ノ證據ヲ發見シタルトキハ該幼者ヲ四十圓
以下ノ罰金ニ處シ十日以下ノ禁錮ニ處ス
「モンタナ」州ノ法律
第五百四十條飮酒店又ハ酒類ヲ販賣スル料理店ノ營業者若シ幼者ヲ登店セ
シメタルトキハ失行罪トシテ之ヲ處分ス
第五百四十一條何人ニ限ラス幼者ニ酒類ヲ販賣シ又ハ給與セムトスルトキハ其
ノ父母又ハ監督者ノ認可ヲ受ケサルヘカラス若シ其ノ認可ヲ經スシテ之ヲ販賣
シ又ハ給與シタルトキハ販賣者又ハ給與者ハ幼者ノ醉狂ニ由リテ生シタル金錢
上若ハ財產上等ノ損害ヲ賠償シ且失行罪ノ處分ヲ受クヘキモノトス
英國ニ於ケル幼者酒類賣買禁止ニ關スル實況
英國希望協會ノ運動十有五年前卽チ千八百八十六年五月十五日ヲ以テ英國
希望協會ハ幼者酒類賣買禁止ニ關スル意見書一百萬部ヲ印刷シテ之ヲ全國ニ配
布シ大ニ輿論ヲ喚起シタリシカ同書ノ主意ハ幼者ヲ使トシテ酒類ヲ購求スルトキハ幼
者ノ身體上及精神上ニ間接ニ直接ニ非常ノ惡影響ヲ及ホスモノアルカ故ニ幼者ヲ
シテ酒類ヲ購求セシムルコトハ斷然禁止セサルヘカラスト云フニ在リ
「コニービール」氏ノ提出議案衆議院議員「コニービール」氏ハ千八百八十六年ハ
議會ニ於テ幼者ニ酒類ヲ賣ルコトヲ禁止スルノ法案ヲ提供セリ當時議院內外ノ同
志者ハ右法案ヲ通過セシメンカ爲メ大ニ運動シタレトモ不幸ニシテ議會ノ委員會ニ
於テ修正セラレタリ卽チ原案ニ於テハ酒類賣買ノ場所ニ於テ該酒類ノ消費セラルル
ト否トヲ問ハス幼者ニ酒類ヲ賣ルコトハ一切之ヲ禁止スルノ法案ナリシニ修正案ハ酒
類賣買フ場所ニ於テ該酒類ノ消費セラルヘキ場合ニ限リ之ヲ幼者ニ賣ルコトヲ禁止
スルコトトセルカ故ニ幼年ハ父兄等ノ爲メニ酒類ヲ買テ之ヲ持チ去ルコトヲ得ルナリ斯
ル不完全ノ修正案ニテハ固ヨリ有志家ノ目的ヲ達スルコトヲ得サルヲ以テ禁酒同盟
會希望協會其他ノ同志者ハ相一致シテ貴衆兩院ノ各議員ニ意見書ヲ送リ「コニー
ビール」氏ノ原案ヲ復活セシメンコトヲ請求シタレトモ遺憾ナカラ貴衆兩院ハ委員會ノ
修正案通リ可決セリ卽チ左ノ如シ
酒類取締法(修正案)千八百八十六年可決
酒類販賣營業免許ヲ有スル者情ヲ知テ滿十三年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣リ之ヲ
其賣買ノ場所ニ於テ使用消費セシムルトキハ二十志以下ノ罰金ニ處シ再犯以上
ハ四十志以下ノ罰金ニ處ス
右ノ法律ハ議會ニ於テ可決セラレタル後直ニ施行セラレタレトモ格別善良ナル
結果ヲ奏スルコトヲ得サリキ何トナレハ該法律ノ下ニ於テ幼者ハ酒ヲ買フタル場
所ニテ飮ムコトヲ禁セラルルニ止リ他ヘ携帶シ行クコトハ自由ナルカ故ニ幼年飮
酒禁止ノ大目的ハ斯ル不完全ナル法律ニ依テ決シテ之ヲ達スルコトヲ得サレハ
ナリ
各團體ノ運動希望協會、禁酒同盟會、幼者飮酒禁止同盟會等ノ諸團體ハ
千八百九十一年十月更ニ一百萬部ノ禁酒意見書ヲ印刷シテ之ヲ全國ニ配布シ
酒類ノ弊害ヲ國民ニ知悉セシメ輿論ノ力ニ依テ前記「コニービール」氏ノ原案ヲシ
テ議會ヲ通過セシメントセリ然レトモ今囘モ亦議會ニ於テ否決セラレタリ
「ハルデン」氏ノ議案同氏モ亦千八百九十六年ヲ以テ幼者飮酒禁止法案ヲ議
會ニ提出シタレトモ是亦成功セサリキ
其後ノ形況是レヨリ先キ禁酒ヲ主張スル各種〓體竝ニ慈善有志家等ハ前記
ノ如ク數百萬部ノ意見書又ハ雜誌ヲ全國ニ頒布シ或ハ演說ニ講話ニ遊說ニ百
方手段ヲ盡シテ酒類ノ弊害ヲ人民ニ知ラシメタルヲ以テ飮酒上ニ於ケル諸種ノ惡
習慣漸ク改善セントスルノ狀況ヲ示シ殊ニ幼者ヲ使トシテ酒ヲ買ハシムルノ惡習著
シク減少シ從前夜ノ十一時頃迄續々トシテ幼者カ酒買ヒニ往來セル街衢モ近來
ハ晩方ヨリ此ノ如キ兒女ノ隻影ヲ見サルニ至レリ又夜間兒女ヲ使ニ出スノ結果ハ
兒女ノ朝寢ト爲リ從テ每朝小學校ヘ出席スル者ノ數ヲ滅シ此弊害ハ就中下層
社會ニ於テ甚シカリシモ近來幼者ヲシテ夜間使ヘセシムル惡習ノ大ニ減少セルカ爲
メ自然勤學兒童ノ數ニ增加ヲ來シタリ一小習慣ノ改良ト雖モ其成蹟此ノ如ク著
明ナルカ故ニ若シ吾人ノ熱望スル如ク幼者ノ飮酒ヲ全ク嚴禁シ幼者ニ酒類ヲ賣
ルコトヲ禁止スルニ於テハ其功蹟ノ偉大ナル實ニ測リ知ルヘカラサルモノアルヘシ、又
前記諸團體ヲ初メ有志諸士ハ爾來「ロンドン」、「マンチヱスター」、「リバプール」、
「ダブリン」等ノ諸都會ヲ中心トシテ禁酒運動ヲ繼續シツツアルヲ以テ「コニービール」
「ハルデン」諸氏ノ法案ハ不幸ニシテ破レタリト雖モ是等運動カ間接ニ直接ニ好果
ヲ奏セルコト尠ナシトセス
其他ノ運動各寺院、諸〓會、市會、町會幼者保護會、學務委員會等ハ一方
ニ於テ政府及議會ニ向テ禁酒運動ヲナスト同時ニ他方ニ於テハ酒屋運動ヲ開始
シ全國ノ酒類販賣營業免許ヲ有スル者ヲ訓戒シテ幼者ニ酒ヲ賣ルヘカラサル理由、
ヲ說示セリ
禁酒運動ノ反對者由來實業家ト稱スルノ徒ハ唯是レ我田引水的私利我慾ノ
輩ノミ彼等ノ眼中ニハ唯金錢アルノミ彼等ハ牽强附會ノ說ヲ捏造シテ内務大臣
及議會ニ宛テ幼者ニ酒類ヲ販賣スルモ敢テ弊害ナキ旨ヲ具申シタレトモ固ヨリ一
顧ノ價値タモナキモノトス
調査委員會禁酒運動益〓激甚ヲ加フルニ從テ政府モ之ヲ默視スルヲ得ス卽チ
調査委員二十四名ヲ任命シテ幼者ニ酒類ヲ賣ルコトニ由テ生スル所ノ弊害ノ度
如何ヲ調査セシムルコトトハナレリ
調査委員會ノ報告該報告書ハ實ニ數千頁ノ記事ヨリ成ルモノナルカ各頁悉ク
幼者ニ酒ヲ賣ルノ弊害ヲ證明スルモノニ非サルハナシト云フモ敢テ過言ニ非ス又該
報告ハ多數者ノ意見ト少數者ノ意見ト甲乙二種ヨリ成ルモノニシテ二種共ニ滿
十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣ルヲ以テ弊害アルモノト認定セリ但シ委員二十四
人ノ內四名丈ケハ多數者及少數者ノ意見ニ反對シ幼者ニ酒ヲ賣ルモ全ク弊害ナ
シトノ意見ナリシカ此四名ハ卽チ例ノ實業家中ヨリ撰拔セラレタル委員ナレハ彼等
カ弊害ナシト言フモ無理ナラサル次第ナリ扨又右甲乙二種ノ報告ハ左ノ如シ
( 中)多數者報告
酒類賣買ノ場所ニ於テ該酒類ノ使用消費セラルルト否トヲ問ハス滿十六年以下
ノ幼者ニ酒類ヲ賣ルコトハ一切之ヲ禁止スヘシ又該年齡ノ幼者ヲ酒類ヲ買ニ遣リタ
ル者ハ之ヲ賣リタル者ト同罪ニ處スヘシ
(2)少數者報告
酒類賣買ノ場所ニ於テ該酒ノ使用消費セラルルト否トヲ問ハス滿十六年以下ノ
幼者ニ酒類ヲ賣ルコトハ一切之ヲ禁止スヘシ
卽チ見ルヘシ少數報告者ハ幼者ヲ酒買ニ遣リタル父兄ヲハ之ヲ賣リタル者ト同罰
ニ處スルノ意見ヲ關クト雖モ幼者ヲシテ酒ハ買ハシムルノ弊害ハ少數者多數者ノ
共ニ等シク認定スル所ナルヲ
法律改正ノ必要前記二十四名ノ調査委員ハ最モ公平ニ撰拔セラレタル者ニシ
テ而カモ其報告右ノ如クナルカ故ニ從來ノ幼者酒類賣買取締法ヲ改定シテ一層
嚴重ナル法律ヲ設クルノ必要ハ朝野ノ均シク是認スル所トナレリ
英國ノ諸領地ニ於ケル法律幼者禁酒運動ハ歐洲大陸諸國ニ於テモ將ニ熾ン
ナラントス然トモ外國ノ禁酒形況記事ハ之ヲ他日ニ讓リ本誌ニ於テハ專ラ我英國
ニ關スル禁酒運動ノ成否如何ヲ敍述センニ我屬地及殖民地ノ現況ハ左ノ如シ
「アンチグワ」ノ法律
千八百七十九年「アンチグワ」ニ於テ制定セラレタル法律ハ左ノ如シ
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣リタルトキハ二十志
以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ四十志以下ノ罰金ニ處ス
「ベルムダ」ノ法律
千八百八十年「ベルムダ」ニ於テ制定セラレタル法律ハ左ノ如シ
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者カ飮用スルヲ知テ之ニ酒類ヲ賣
ルコトヲ得ス
前項ヲ犯シタルトキハ二十磅以下ノ罰金ニ處シ竝ニ該罪犯ノ〓發ニ關スル一切ノ
費用ヲ該犯罪者ヨリ徵收ス又再犯ノ場合ニ於テハ前記罰金及告發入費ノ外ニ
酒類販賣免許ヲ三箇月以內停止シ三犯ノ場合ニ於テハ酒類販賣營業ヲ禁止ス
「ケープ、コロニー」ノ法律(千八百八十三年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十五年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シ若クハ交付シ
又ハ飮用セシメタルトキハ十磅以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ四十磅以下ノ罰金
二酸六、
「セーロン」ノ法律(千八百九十一年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者又ハ飮〓店ノ店主タル者滿十五年以下ノ幼者ニ酒
類ヲ賣リ之ヲ飮用セシメタルトキハ十留以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ二十留以下
ノ罰金ニ處ス
「フヲークランド」島ノ法律(千八百八十二年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣リ之ヲ消費セシムル
トキハ十磅以下ノ罰金ニ處シ且初犯ニ於テハ酒類販賣ノ免許ヲ六箇月間停止シ
再犯以上ニ於テハ該免許ヲ取上クヘキモノトス又該免許ヲ有スル者ニシテ族店飮
食店等ノ營業者ナルトキハ再犯以下ニ於テハ該營業ヲ二年以上五年以下停
止ス
何人タルヲ問ハス滿十二年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シ若クハ交付シ之ヲ持チ去
ラシメタルトキハ五磅以下ノ罰金ニ處ス
「ガムビア」ノ法律(千八百九十四年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣リ之ヲ飮用セシメタ
ルトキハ二十志以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ四十志以下ノ罰金ニ處ス
「ヂブローター」ノ法律(千八百八十五年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ兒女ニ酒類ヲ賣リ之ヲ飮用セシメタ
ルトキハ二十五「ペセタ」以下ノ罰金ニ處シ再犯ニ於テハ五十「ベセタ」以下ノ四副金
ニ處シ三犯ニ於テハ百二十五「ペセタ」以下ノ罰金ニ處ス
「グレナダ」ノ法律(千八百九十六年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十二年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣リ又ハ人ヲシテ賣ラ
シメタルトキハ五十磅ノ罰金ニ處ス
人島ノ法律(千八百九十七年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十四年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シ若クハ交付シ又
ハ人ヲシテ販賣シ若クハ交付セシメタルトキハ四十志以下ノ罰金ニ處シ再犯以上
ハ五磅以下ノ罰金ニ處ス
「マルタ」島ノ布告(千八百八十三年發布)
何人ニ限ラス滿十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣スルコトヲ得ス
「マニトバ」ノ法律(千八百九十一年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者ニ酒類供給シタルトキハ二十五
弗ノ罰金ニ處シ他ノ命ヲ受テ酒類實地供給シタル者モ同罪ニ處ス
罰金ヲ納付シ得サル場合ニ於テハ一箇月ノ禁錮ニ處ス再犯ニ於テハ五十弗ノ罰
金ニ處シ之ヲ納付シ得サル場合ニ於テハ二箇月ノ禁錮ニ處シ酒類販賣ノ免許ヲ
沒收ス
海峽殖民地ノ法律(千八百七十八年制定)
何人タルヲ問ハス滿十五年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣リ之ヲ飮用セシメタルモノハ十
留ノ罰金ニ處シ再犯以上ニ於テハ二十留ノ罰金ニ處ス
「ナタル」ノ法律(千八百九十六年制定)
酒類小賣營業免許ヲ有スル者滿十五年以下ノ幼者ニ酒類ヲ賣ルトキハ二十磅
以下ノ罰金ニ處ス
罰金ヲ納付シ得サル場合ニ於テハ三箇月以內ノ禁錮ニ處ス
「ニユーハプランスウィツク」ノ法律(千八百九十六年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者未成年者ニ酒類ヲ販賣シ若クハ給與スルトキハ十弗
以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ二十弗以下ノ罰金ニ處ス(他ノ命ヲ受ケテ酒類ヲ
實地販賣シ若クハ給與セル者モ亦同罰ニ處ス)
「ニュー、フヲーンドランド」ノ法律(千八百九十五年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十八年以下ノ少年ニ酒類ヲ販賣シ若クハ交付スル
トキハ五十弗以下ノ罰金ニ處ス
「ニユーサウス、ウェールス」ノ法律(千八百九十八年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ販賣シ若クハ委付シテ
之ヲ飮用セシムルトキハ十磅以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハ四十磅以下ノ罰金ニ
處ス他ノ命ヲ受テ酒類ヲ實地販賣シ若クハ交付セル者モ亦同罰ニ處ス
「ニユーゼーランド」ノ法律(千八百八十一年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十六年以下ノ幼者ニ酒類ヲ供給シテ之ヲ飮用セシ
ムルトキハ十磅以下ノ罰金ニ處シ他ノ命ヲ受テ酒類ヲ實地供給セル者モ亦同罰ニ
處ス
初犯ニ於テハ酒類販賣免許ヲ六箇月間停止再犯以上ニ於テハ該免許ヲ沒收ス
南部濠洲ノ法律(千八百八十年制定)
酒類販賣ノ免許ヲ有スル者滿十五年以下ノ兒女ニ酒類ヲ賣リ之ヲ飮用セシムル
トキハ二十五志以上五磅以下ノ罰金ニ處ス
濠洲「クイーンスランド」ノ法律(千八百八十五年制定)
飮食店ノ店主又ハ酒類小賣營業人タル者滿十四年以下ノ兒女ニ酒類ヲ販賣
供給シタルトキ又ハ滿十八年以下ノ兒女ニ酒類ヲ販賣供給シテ之ヲ飮用セシメタ
ルトキハ一磅以上五磅以下ノ罰金ニ處シ再犯以上ハニ一磅以上十磅以下ノ罰金
ニ處シ且ツ罪犯告發ノ費用ヲ納付セシム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=97
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098・松田源治
○松田源治君 本案ハ議長指名九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=98
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099・關直彦
○副議長(關直彥君) 松田君ノ動議ニ御贊成デアリマスカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=99
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100・關直彦
○副議長(關直彥君) 御異議ガナケレバ九名ノ議長指名ノ委員ニ付託スルコトニ決
シマシタ、次ハ日程第三、本道條例中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、議案ノ朗
讀ハ省略イタシマスー井上角五郞君
第三水道條例中改正法律案(井上角五郞君外五名第一讀會
提出)
水道條例中改正法律案
水道條例中左ノ通改正ス
第二條第一項但書ヲ左ノ如ク改ム
但當該市町村ニ於テ其資力ニ堪ヘサルトキハ市町村以外ノ企業者ニ水道
ノ布設ヲ許可スルコトアルヘシ
同條第二項ヲ削ル
第三條第二項中「、元資償却ノ方法」ヲ削ル
第十七條市町村ニ非サル企業者ノ布設シタル水道ニシテ許可年限ノ滿了
シタル後ハ關係市町村ハ水道布設ニ要シタル費用ヲ支拂セ其水道及水道
經營ニ必要ナル土地物件ヲ買收スルコトヲ得但水道及水道經營ニ必要ナ
ル土地物件ニシテ布設當時ニ比シ價格ヲ減損シタルモノアルトキハ水道
布設ニ要シタル費用ヨリ之ヲ控除ス
前項費用ノ範圍及金額ニ關シ當該市町村ト企業者トノ間ニ爭アルトキハ地
方長官之ヲ決定ス其決定ニ不服アル者ハ內務大臣ニ訴願スルコトヲ得
第十八條市町村ニ非サル企業者ノ布設シタル水道ニシテ關係市町村ニ於
テ必要ト認ムルトキハ許可年限ノ滿了前ト雖之ヲ買收スルコトヲ得
前項ノ買收價格ハ協議ニ依リ之ヲ定ム協議調ハサルトキハ鑑定人ノ意見
ヲ數シ地方長官之ヲ決定ス其決定ニ不服アル者ハ內務大臣ニ訴願スルコ
トヲ得
第十九條本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ市町村又ハ市町村ニ非
サル企業者ニ於テ履行スヘキ事項ヲ履行セス又ハ之ヲ履行スルモ充分ナ
ラスト認ムルトキ又ハ必要ノ時限內ニ履行シ得スト認ムルトキハ地方長
官ハ府縣費ヲ以テ之ヲ施行シ其費用ヲ市町村又ハ市町村ニ非サル企業者
ヨリ之ヲ追徵スルコトヲ得
前項ノ處分ハ豫メ履行期間ヲ指定シテ戒告スルニ非サレハ之ヲ爲スコト
ヲ得ス但第八條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十條市町村ニ非サル企業者ニシテ前條ノ費用ヲ指定ノ期限內ニ納付
セサルトキハ國稅徵收ニ關スル規定ニ依リ之ヲ徵收ス
第二十一條內務大臣ハ必要ト認ムルトキハ水道ノ布設ヲ市町村ニ命スル
コトヲ得発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=100
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101・井上角五郎
○井上角五郎君 極メテ簡單デゴザイマスカラ、本席デ述ベルコトヲ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=101
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102・關直彦
○副議長(關直彥君) 御登壇ヲ願ヒマス
〔井上角五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=102
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103・井上角五郎
○井上角五郞君 本案ハ昨年ノ議會ニ提出致シマシテ、衆議院ハ之ヲ贊成シ、政府
委員ハ又相當ノ修正ヲ望ミマシテ其修正ノ通リ可決致シテ貴族院ニ送リマシタガ、貴
族院ガ遂ニ議了スルニ至ラザリシ問題デアッテ、各地其急ヲ〓グルモノガ甚ダ多イノデゴザ
イマスルカラ、ドウカ今年ハ速ニ手續ヲ了シテ可決セラルヽヤウニ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=103
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104・松田源治
○松田源治君 本案モ議長指名九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=104
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105・關直彦
○副議長(關直彥君) 松田君ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=105
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106・關直彦
○副議長(關直彥君) 御異議ナケレバ其通リ決定致シマシタ、次ハ日程第四、私設
運河法案第一讀會ヲ開キマス、議案ノ朗讀ハ省略ヲ致シマスー漆昌巖君
第四私設運河法案(漆昌巖君提出)第一讀會
私設運河法案
私設運河法
第一條本法ハ一般交通ノ用ニ供スル私設運河ニ適用ス
第二條本法ニ依リ私設運河ヲ施設セムトスル者ハ株式會社ヲ發起シ左ノ
書類及圖面ヲ具シ其ノ免許ヲ主務官廳ニ申請スヘシ
一一定款
起業方法書
設計略圖及說明書
一工費〓算及收支〓算書
第三條主務官廳ハ前條ノ書類圖面ノ外必要ト認ムル書類圖面ノ提出ヲ命
スルコトヲ得
第四條主務官廳ハ公益上必要ト認ムルトキハ申請事項ヲ變更セシメ又ハ
免許ニ條件ヲ附スルコトヲ得
免許ニ附シタル條件ニ違反シタルトキハ免許狀ハ其ノ效力ヲ失フ
第五條定款ノ變更又ハ工事設計ノ變更ヲ爲サムトスルトキハ主務官廳ノ
許可ヲ受クヘシ
第六條免許ニハ工事施行認可申請ノ期限ヲ附ス
第七條會社ハ免許ニ附シタル期間內ニ實測設計ノ上工事著手期ヲ定メテ
工事施行ノ認可ヲ申請スヘシ
免許ニ附シタル期間內ニ會社カ成立セス又ハ工事施行ノ認可ヲ申請セサ
ルトキハ免許ハ其ノ效力ヲ失フ但シ正當ノ事由アリテ延期ノ認可ヲ受ケ
タルトキハ此ノ限ニ在ラス
工事施行ノ不認可ハ免許ノ效力ヲ失ハシム
工事施行ノ認可ニハ工事竣功ノ期限ヲ附ス此ノ期限ノ效力ニ關シテハ前
項ノ規定ヲ準用ス
第八條株式ハ金錢ヲ以テスルノ外之ヲ引受クルコトヲ得ス
株金ノ第一囘拂込金額ハ株金ノ十分ノ一迄下クルコトヲ得
第九條會社ハ主務官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ他ノ業務ヲ兼營スルコ
トヲ得ス
第十條主務官廳ハ會社ノ工事ヲ監督シ何時ニテモ會社ヲシテ其ノ事業ノ
報告ヲ爲サシメ又ハ會社ノ業務及工事ノ狀況ヲ檢査スルコトヲ得
第十一條會社カ工事方法書又ハ法令ニ違反シテ工事ヲ施行シタルトキハ
主務官廳ハ其ノ除却若ハ改築ヲ命シ又ハ之ヲ停止スルコトヲ得
第十二條會社カ法令ノ規定又ハ免許ニ附シタル條件ニ依リ命令シタル施
設ヲ爲ササルトキハ主務官廳ニ於テ之ヲ施行シ會社ヲシテ其ノ費用ヲ辨
償セシムルコトヲ得
第十三條會社ハ通航料其ノ他運河ニ關スル料金ノ賃率ヲ定メ主務官廳ノ
認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ
主務官廳ニ於テ公益上必要ト認ムルトキハ賃率ノ變更ヲ命スルコトヲ得
第十四條政府ハ營業開始ノ日ヨリ滿二十五箇年後ニ於テ運河及附屬物件
ヲ買上クルノ權利ヲ保有ス
第十五條前條ニ依リ運河及附屬物件ヲ買上クルトキハ前五箇年ノ株券價
格ヲ平均シテ買上價格ト定ム
第十六條會社ハ主務官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ運河及附屬物件ヲ讓
渡シ又ハ債務ノ擔保ニ供スルコトヲ得ス
第十七條會社ハ主務官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ增資ヲ爲シ又ハ他ノ
會社ト合併スルコトヲ得ス
第十八條左ニ揭クルモノヲ以テ運河ノ用地トス
一水路用地其ノ兩側ノ道路、堤防、架橋、工事用地竝工事用材料運搬ニ
要スル敷地
二繫船場、信號所、貨物揚場、貨物置用上屋、貨物倉庫等ノ敷地
三運河ニ屬スル船舶其ノ他修理工場敷地
四資料、器具、機械ヲ貯藏スル倉庫ノ敷地但シ運河ニ沿ヒタル土地ニ限
ル
五運河營業從事員ノ役宅竝從事員ノ駐在所等ヲ建設スル土地
第十九條政府ハ公益上必要ト認ムルトキハ拂込資本金ニ對シ工事著手ノ
日ヨリ滿五箇年間ハ年五分以下ニ相當スル金額ヲ補助スルコトヲ得
第二十條政府ハ交通機關ノ完備ヲ圖ル爲保護上必要ト認ムルトキ又ハ工
事上必要缺クヘカラサルモノト認ムルトキハ運河敷地以外ノ官地ヲ特ニ
拂下及貸下又ハ公有水面ノ埋立ヲ許可ス
第二十一條會社カ本法ノ規定又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シタル
トキハ取締役又ハ監査役ヲ十圓以上千圓以下ノ過料ニ處ス
第二十二條過料ノ徵收ニ關シテハ非訟事件手續法ヲ適用ス
附則
第二十三條本法ノ施行ニ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四條本法施行前ニ既ニ得タル免許ハ本法ニ依リテ得タル免許ト看
做ス
〔漆昌巖君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=106
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107・漆昌巖
○漆昌巖君 唯今問題ニナッテ居リマスル此私設運河法案ハ、一條ヨリ二十四條マデ
成立ッテ居リマスルガ、至三分簡單ナルモノデ、此要旨ハ我國ハ陸上ノ交通ハ略〓全備
致シマシタガ、未ダ其水陸連絡ノ交通ガ甚ダ不完全デアルト考ヘルノデゴザイマス此水
陸ノ連絡ヲ取ルタメニハ運何ガ最モ必要デアラウト考ヘマス、然ルニ此運河法案ト云
フモノガゴザイマセヌタメニ甚ダ手續ニ煩雜ヲ來シマスルガラシテ、遂ニ其企畫者ヲシテ
心ノ儘ニ企畫スルコトガ今日マデ出來ナカッタラウト考ヘマスノデス、本案の昨年私設運
河築港ニ關スル建議案ト云フモノヲ出シマシテ、略〓政府モ御同意ヲ下スッテ、本年アタ
リハ多分政府案トシテ現ハレルデアラウト考ヘテ居リマシタガ、此ノ政變旁〓デ殊ニ依ル
ト政府ハ御出シ下サルマイト思ヒマスカラ、本案ヲ提出致シマシテゴザイマス、ドウゾ宜シ
ク御贊成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=107
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108・松田源治
○松田源治君 本案ハ議長指名九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=108
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109・關直彦
○副議長(關直彥君) 松田君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=109
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110・關直彦
○副議長(關直彥君) ソレナラバ其通リ決定致シマス、諸君ニ御諮リ致シマスガ、日
程第五ハ關稅定率法中改正法律案、是ハ提出者カラ延期ノ申出ガアリマスガ、延期シ
テ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=110
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111・關直彦
○副議長(關直彥君) ソレデハ延期致シマス、次ニ日程第六、衆議院議員選擧法
中改正法律案、是モ提出者ヨリ延期ノ申出ガアリマス
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=111
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112・關直彦
○副議長(關直彥君) 御異議ガナケレバ延期スルコトニ致シマス、次ハ日程ノ第七、
紛爭仲裁法案第一讀會ヲ開キ、議案ノ朗讀ヲ略シマス
第七紛爭仲裁法案(高木益太郞君提出)第一讀會
紛爭仲裁法案
紛爭仲裁法
第一章仲裁役職務
第一條民事上ノ紛爭ヲ調和スル爲各市町村ニ仲裁役ヲ置ク但シ市町村ノ
小ナルモノハ他ノ市町村ト合シテ一人ノ仲裁役ヲ置キ大ナルモノハ數箇
ノ仲裁區劃ニ分ツコトヲ得
市制第六條ノ市ノ區ニ關シテハ區每ニ之ヲ置ク
仲裁役ノ職務執行ノ場所ハ市町村又ハ區ノ役場ニ之ヲ置ク但シ事件ノ性
質カ役場ニ於テ其ノ職務ヲ行フコトヲ許ササルトキ又ハ關係人疾病其ノ
他正當ノ事故ニ因リ出頭スルコト能ハサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二條仲裁役ハ名譽職トス
左ニ記載スル者ハ仲裁役タルコトヲ得ス
一滿四十歲ニ達セサル者
二執務スヘキ仲裁區域內ニ住居セサル者
三市町村ニ於テ公民權ヲ有セス又ハ公民權停止中ノ者
四懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者
五禁治產者及凖禁治產者
官吏竝市町村區ノ吏員カ伸裁役ト爲ル場合ハ所屬官公署ノ認可ヲ受クル
コトヲ要ス
第三條仲裁役ハ市町村會又ハ市制第六條ノ市ノ區ニ關シテハ區會ニ於テ
之ヲ選舉ス其ノ任期ハ三年トス但シ後任者ノ就職迄ハ從來ノ仲裁役其ノ
職ヲ行フモノトス
第四條仲裁役ニ選舉セラレタル者ハ司法大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第五條仲裁役就職シタルトキハ其ノ住所地ノ地方裁判所長ノ面前ニ於テ
其ノ職務ノ執行前左ノ宣誓ヲ爲スコトヲ要ス
誠實熱心ニ仲裁役タル義務ヲ履行スルコトヲ誓フ
第六條仲裁役ニ對スル監督權ハ左ノ者ニ屬ス
一仲裁役ノ總員ニ付テハ司法大臣
二控訴院管內居住ノ仲裁役ニ付テハ控訴院長
三地方裁判所管內ノ仲裁役ニ付テハ地方裁判所長
仲裁役カ職務執行上失當ノ行爲アリタルトキハ監督官之ヲ責問スルノ權
ヲ有ス
仲裁役ノ職務ノ執行又ハ其ノ遲滯ニ對スル抗告ハ管轄地方裁判所ニ之ヲ
申立ツヘキモノトス
抗告ニ付テハ民事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第七條仲裁役ハ左ノ事由アルトキニ限リ就職ヲ拒絕シ又ハ任期滿了前辭
職ヲ爲スコトヲ得
一滿六十歲ニ達シタルトキ
二三年以上名譽職タリシトキ
四三疾病ニ罹リ其ノ任務ニ堪ヘサルトキ
職業ノ爲長時間又ハ屢住所ヲ離レサルヲ得サル者
五官之公吏タル者
六其ノ他正當ノ事由アル者
就職拒絕ノ當否ハ仲裁役ノ選舉權ヲ有スル市町村會又ハ區會ニ於テ之ヲ
決定シ辭職ノ當否ハ地方裁判所長終局ノ裁決ヲ爲ス
第八條仲裁役ノ在職ヲ許スヘカラサル事由ノ發生シタルトキ其ノ他重大
ノ事由アルトキハ其ノ職ヲ免セラルヘキモノトス
免職ノ決定ハ仲裁役ノ住所ヲ管轄スル控訴院第一民事部ニ於テ本人ノ陳
述ヲ聽キタル後之ヲ爲ス
若本人呼出ニ應セサルトキハ闕席ノ儘直ニ決定スルコトヲ得
第九條第八條規定ノ事由ナキニ仲裁役其ノ就職ヲ拒絕シ又ハ規定ノ在職
期間中執務ヲ拒ムトキハ千圓以下ノ罰金ヲ宣告セラルルコトアルヘシ
此ノ宣告ハ仲裁役ノ住所ヲ管轄スル地方裁判所ノ第一刑事部ニ於テ前條
ノ規定ニ依リ之ヲ行フ
第十條仲裁役ニ一名ノ代理者ヲ附屬セシム代理者ニハ第二條乃至第九條
ノ規定ヲ準用ス
仲裁役竝其ノ代理者共ニ執務ニ妨ケアルトキハ地方裁判所長ハ直近ノ仲
裁役又ハ其ノ代理者ヲシテ一時其ノ事務ヲ代理セシムルコトヲ得
第十一條市町村ト市町村トノ間ニ於ケル紛爭又ハ調和ニ困難ナル紛爭ニ
付テハ當該仲裁役ノ申立ニ依リ監督官ハ府縣知事、郡長、市町村長、區長、
警察署長產業其ノ他ノ〓體ノ首長、官公私立學校長、神官僧侶等ニ仲裁役
ノ職務ノ輔佐ヲ囑託スルコトヲ得
第二章民事上ノ紛爭ニ關スル仲裁手續
第十二條仲裁手續ハ財產權、親族、相續ニ關スル紛爭ニシテ法律上調和ヲ
爲スヲ得ヘキ事柄ニ付之ヲ行フ
仲裁役ハ當事者ノ一方又ハ雙方ヨリ求メアルトキ又ハ裁判上仲裁ニ附ス
ル決定アルトキハ仲裁ノ手續ヲ爲スコトヲ要ス
仲裁役ハ當事者ニ對シ事件ノ解決ヲ强ユルコトヲ得ス
第十三條事件ノ管轄ハ申立人ノ相手方ノ住所ノ仲裁役ニ屬ス
當事者ハ明示又ハ默示ノ合意ヲ以テスルトキハ當然管轄權ナキ他ノ仲裁
役ニ事件ヲ管轄セシムルコトヲ得
第十四條仲裁役ノ除斥ニ付テハ民事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第十五條仲裁役ハ左ノ場合ニ於テハ職務ノ執行ヲ拒絕スル權利ヲ有ス
一當事者カ其ノ主張事實ヲ證明シ得サルトキ
二當事者ノ行爲能力又ハ處分能力ニ付又ハ法定代理ノ權限ニ付疑ノ虞
アルトキ
第十六條仲裁役ハ左ノ場合ニ於テハ職務ノ執行ヲ拒絕スルコトヲ得
一單ニ當事者ノ合意ニ依リ管轄ヲ生シタルトキ
二紛爭事件カ甚困難ニシテ調和ノ見込ナシト思料シタルトキ
第十七條當事者ハ委任代理人ヲ用フルコトヲ得サルモノトス但シ市町村
其ノ他法人ハ其ノ職員ヲ以テ代理人ト爲スコトヲ得
第十八條當事者ハ辯護士又ハ親族ヲ輔佐人ト爲スコトヲ得
第十九條仲裁手續ノ申立ハ書面又ハ口頭ヲ以テ仲裁役ニ之ヲ爲スヘシ
若書面ニ依ラス口頭ヲ以テ之ヲ爲ストキハ調書ニ筆記セシムルコトヲ得
申立ニハ當事者ノ氏名年齡身分職業住所竝紛爭事件ノ表示及申立人ノ署
名捺印ヲ要ス
第二十條仲裁事件ノ申立アリタルトキハ仲裁役ハ卽時申立人ニ對シ仲裁
ノ期日竝場所ヲ指示シ請書ヲ徵スヘシ但シ申立人正當ノ事由ナクシテ指
定期日ニ出頭セサルトキハ處罰セラルヘシ
又被申立人ニ對シテハ仲裁ノ期日竝場所及正當ノ事由ナクシテ出頭セサ
ルトキハ處罰ヲ受クヘキ旨ヲ記載シタル呼出狀ヲ執達吏又ハ書留郵便ヲ
以テ送達スルコトヲ要ス
第二十一條當事者ノ一方カ指定ノ期日ニ仲裁役ノ面前ニ出頭スルコトヲ
欲セサルカ又ハ出頭スルコト能ハサルトキハ遲クモ期日ノ前日迄ニ書面
ヲ以テ其ノ旨ヲ仲裁役ニ屆出ツルコトヲ要ス此ノ屆出ナカリシトキハ仲
裁役ハ期日ニ出頭セサル當事者ヲ五十錢以上二十圓以下ノ過料ニ處スル
コトヲ得
過料ノ言渡ニ對シテハ地方裁判所ニ抗〓スルコトヲ得
第二十二條仲裁役ノ面前ニ於ケル當事者ノ陳述ハ口頭ヲ以テ爲スヘシ
仲裁役ノ審問ハ之ヲ公開セス
第一次ニ於テ終結セス又ハ仲裁役ニ於テ必要アリト認メタルトキハ更ニ
續行ノ期日ヲ定メ卽時ニ當事者雙方ニ指示スルコトヲ要ス
此ノ期日ニ出頭セサル當事者ハ第二十一條ニ依リ過料ニ處セラルヘシ
第二十三條仲裁役ハ任意ニ出頭シタル證人竝鑑定人ヲ當事者ノ同意ヲ得
テ審問スルコトヲ得
第二十四條事件調和シタルトキハ調書ニ依リ之ヲ明確ニスルコトヲ要ス
其ノ調書ハ日本語ヲ以テ之ヲ作成スヘキモノトス
調書ニ記載スヘキ事項左ノ如シ
一仲裁ノ場所日時
二出頭シタル當事者、法定代理人、輔佐人ノ氏名竝其ノ權限ヲ證明シタ
ル文書ノ表示
三紛爭ノ目的物又ハ事柄
四伸裁成立ノ〓末
若仲裁成立セサルトキハ其ノ要領ヲ記載スヘシ
第二十五條調書ハ之ヲ當事者ニ讀聞カセ又ハ閱覽セシムルコトヲ要ス
調書ニハ此ノ手續ヲ終リタルコト竝當事者ノ承認ヲ經タルコトヲ附記ス
ルコトヲ要ス
第二十六條調書ノ末尾ニハ當事者竝仲裁役署名捺印スルコトヲ要ス若署
名捺印スルコト能ハサル當事者ハ輔佐人ヲシテ之ニ署名捺印セシメ仲裁
役ニ於テ如何ナル事由ニ依リ自署スル能ハサルカヲ附記スルコトヲ要ス
第二十七條調書ニハ時ノ順次ヲ以テ之ニ事件番號ヲ附スルコトヲ要ス
調書ハ一週間內ニ仲裁役ノ住所ヲ管轄スル地方裁判所ニ交付スルコトヲ
要ス
第二十八條當事者又ハ其ノ承繼人ハ其ノ調書ノ謄本又ハ正本ノ交付ヲ求
ムルコトヲ得
第二十九條正本ハ調書ノ謄本ニ正本ナル旨ヲ附記シタルモノトス
正本ノ附記ニハ正本作成ノ場所竝年月日時ヲ記載シ正本ノ交付ヲ受クル
當事者ヲ表示シ仲裁役之ニ署名シ職印ヲ押捺スルコトヲ要ス
第三十條正本ハ調書ノ原本ヲ保管スル仲裁役之ヲ交付ス
仲裁役ハ正本交付前交付ノ日時及受領者ノ何人ナルカヲ調書ノ原本ニ附
記スルコトヲ要ス
調書カ地方〓判所ノ保管ニ屬スルトキハ其ノ裁判所ノ書記ニ於テ正本又
ハ謄本ヲ交付スルモノトス
第三十一條仲裁役ノ面前ニ於テ成立シタル仲裁事件ハ裁判上ノ强制執行
ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニハ公正證書ニ基ク强制執行ニ關スル規定ヲ準用ス
第三十二條裁判所ハ訴訟進行中ノ事件ト雖職權ヲ以テ本法ニ依リ仲裁ニ
附スルノ決定ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ訴訟ノ進行ヲ中止ス
第三章告訴ヲ待テ訴追スヘキ刑事事件ニ關スル手續
第三十三條告訴ヲ待テ訴追スヘキ刑事事件ニ在リテハ仲裁役ハ仲裁ヲ試
ムル權利ヲ有ス
第三十四條前條ノ仲裁手續ハ第二章ノ規定ヲ準用ス
第四章費用
第三十五條仲裁申立書竝仲裁調書ニ付テハ印紙ノ貼用ヲ要セス但シ當然
印紙貼用ノ義務アル法律行爲カ仲裁ノ一部タリシトキハ當事者ハ印紙貼
用ノ義務ヲ有ス
第三十六條當事者ハ仲裁事件ノ成立ト同時ニ印紙稅法ノ規定ニ從ヒ其ノ
調書ノ原本ニ印紙ヲ貼用スルコトヲ要ス
第三十七條仲裁申立書ノ作成仲裁調書ノ正本謄本及證明書作成ノ爲ノ筆
記手數料ハ一枚金二十錢トス其ノ一枚ニ滿タサルモノハ之ヲ一枚ト看做
ス
第三十八條手數料竝實費ハ其ノ事件ヲ惹起シタル當事者ノ負擔トス
仲裁カ成立シタルトキ又ハ當事者雙方ニ於テ仲裁ヲ求メタル場合ニ於テ
ハ手續ノ完結迄ニ生シタル手數料ハ各當事者平等ニ之ヲ負擔スヘキモノ
トス
必要ナル場合ニ於テハ仲裁役ノ決定ニ基キ手數料竝實費ヲ市町村稅徵收
ノ手續ニ依リ當事者ヨリ取立ツルコトヲ得
第三十九條仲裁役ノ職務ヲ行フニ要スル經費ハ市町村又ハ區之ヲ負擔ス
數箇ノ町村又ハ區聯合シテ仲裁役ヲ置クトキハ其ノ經費ハ關係町村又ハ
區ニ於テ各人口數ニ應シ之ヲ分擔ス
第四十條手數料過料等ハ經費ヲ負擔スル市町村又ハ區ノ收入トス
第四十一條本法ノ施行細則竝手數料ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=112
-
113・高木益太郎
○高木益太郞君 此席カラ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=113
-
114・關直彦
○副議長(關直彥君) 御登壇ヲ願ヒマス
〔高木益太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=114
-
115・高木益太郎
○高木益太郞君 諸君、本案ハ資本主ト勞働者ノ間、又地主ト借地人トノ間、又地
主ト小作人トノ間ノ衝突、親子親族間ニ於ケル相續財產ノ分配、離婚養子ニ關スル
紛爭、其外民事ニ於ケルトコロノ和解ノ出來ル事柄ハ總テ仲裁ヲ爲シ、刑事ニ於テモ
告訴ヲ待ッテ論ズル事件ハ、仲裁ガ出來ル方法ヲ執ル、斯ウ云フタメニ此紛爭仲裁法ヲ
提案致シタノデアリマス、詳細ノ理由ハ、議長ノ許可ヲ得マシテ御手許ニ囘シテアル此提
案理由書ヲ、其儘速記錄ニ揭載ヲ願ヒマス、此案ニ付キマシテハ何卒諸君ノ充分ナル
御質成ヲ願ヒタイノデアリマス
(「贊成々々」ト呼フ者アリ〕
紛爭仲裁法案理由書
世ノ進運ト共ニ社會ノ狀態ハ益複雜ヲ極メ隨テ個人又ハ團體間ノ紛爭ハ愈多端ヲ
加フルハ勢ノ免カレサル所ナリ蓋シ現今社會政策ノ實施ハ宇內文明諸國ノ政府カ
銳意怠ラサル所ニシテ我カ國ト雖亦以テ今日其ノ社會ノ情態ニ鑑ミ之カ實施ノ必
要ヲ認ムルヤ甚急ナリト謂ツヘシ
顧フニ近世人文ノ進步發達ニ隨伴シ交通開拓ノ頻繁ヲ誘致シ商工業ノ發展產業
ノ殷盛勃興ハ時々一張一弛ノ止ム能ハサルモノアリシト雖之ヲ昔日ニ比スレハ霄壤モ
啻ナラサルナリ斯ノ如クニシテ國民ノ社會組織ヲ益複雜ナラシメ從テ個人對個人、團
體對團體、階級對階級トノ利害衝突ハ一層ノ頻繁增加ヲ致サムコト之レ數ノ免カ
レサル所ナリ若夫レ社會萬般ノ紛糾錯雜斯ノ如ク續出限リナキ人事ノ諸關係ヲ一
ニ權利義務ヲ規定スル法律ニノミ依リテ解決セムトスルハ到底不可能ノ事ト云フヘキ
ナリ
翻テ泰西諸國ニ於ケル資本主ト勞働者トノ間ニ起レル衝突カ如何ニ貧富懸隔ノ甚
シキモノアルカヲ見ヨ其ノ產業界ニ慘憺タル惡影響ヲ與ヘツツアルハ顯然タル事實ニ
非スヤ又地主ト借地人トノ衝突ノ如何ニ地主カ借地人ノ怨府ト爲リツツアルカハ是
レ亦覆フヘカラサル事實ニ非スヤ又彼ノ親子又ハ親族間ニ於ケル相續財產ノ分配若
ハ離婚養子等ノ諸問題ニ付テ如何ニ各國政府カ苦心シツツアルカヲ知ルヘシ而シテ
此等ニ對スル救濟的社會政策ノ實施ニ付テ各國政府カ第一ニ採用シツツアル有效
ノ手續ヲ仲裁制度ト爲ス
英國ニ於テモ既ニ前大法官ロアバーン卿ハ曾テ正義ノ遲延ハ正義ノ拒絕ニ等シト喝
破シ大ニ部下判事ノ覺醒ヲ促シ又米國曩ノ大統領タフト氏モ屢訴訟ノ遲延ヲ痛嘆
セシコト一再ナラスシテ民事訴訟手續ノ改正ヲ企畫スル所アリタリ而シテ此ノ訴訟ノ
遲延タルヤ或ハ幾部分其ノ訴訟手續ノ不完全ナルニ基因スト雖社會事情ノ複雜ニ
伴ヲ訴訟ノ增加ハ其ノ重モナル原因ニシテ限リナキ人事ノ紛爭ヲ限リアル司法裁判
所ニ於テ悉タ其ノ解決ヲ求メムトスルハ抑亦至難ノ事ニ屬ス
現ニ英國ノ如キハ一昨年來其ノ高等法院ノ判事ヲ增加スルノ議起リ昨年ヲ以テ之
ヲ實行シタリト雖今日ニ於テハ猶其ノ缺乏ヲ訴ヘツヽアリト
同國ノ如キ各種仲裁機關ノ完備セル國ニ於テ猶且然リ況ヤ未タ全ク是等ノ機關ヲ
缺ケル我カ國ニ於テ早晩此ノ現象ヲ見ルニ至ルヤ必セリ殊ニ又今日ノ司法制度ニ於
テ最悲ムヘキ事實ハ多額ノ訴訟入費ト過重ノ訴訟印紙稅トヲ負擔セサルヘカラサル
コトニシテ裁判ハ三四年ヲ費シテ漸ク其ノ勝訴ニ歸スル場合アリトスルモ其ノ得ル所
ハ費ス所ヲ償フニ足ラサルコトナリトス故ニ成ルヘク爭訟ヲ爲サシメサラムコトヲ欲セハ
仲裁ノ制度ヲ設クルヨリ急ナルハナク是レ實ニ時弊救濟ノ最大要務ナリト云ハサルヘ
カラス蓋シ個人ハ之ニ依リ其ノ融和ヲ得テ無益ノ用ト時間トヲ省キ亦國家ハ多大
ノ經費ヲ節スルコトヲ得ハ是レ所謂一舉兩得ノ利益ヲ收ムルモノト云フヘシ
曾テ大審院長橫田國臣君ハ今日ノ司法裁判所ノミヲ以テ國家ノ治安ヲ保ツノ不
可能ナルヲ論シ情實裁判所設置ノ必要ヲ唱道セラレタルコトアリキ
昔者德川幕府時代江戶ニ於ケル公事訴訟ノ慣例ヲ按スルニ先ツ訴訟前ニ於テ其ノ
町內ノ自身番ニ詰メ居ル町役人卽チ五人組及大家等カ其ノ事件ニ干涉シ仲裁ヲ
試ミ而シテ當事者ノ飽迄强硬ニシテ融和セス其ノ仲裁ニ服セサル時初メテ町奉行所
ヘ訴ヘ出ツルモノナレトモ恐ラク十中ノ八九ハ所謂自身番仲裁ニ依リ事件ノ解決ヲ
得タリ若自身番仲裁不調ニ依リ奉行所ヘ出訴ノ場合ニ於テモ必ス五人組ト大家ト
ノ附添アルニ非サレハ其ノ訴ヲ受理セサル制度ナリキ又田舍ニ於ケル村民間ノ衝突ノ
如キモ村內長老又ハ名主ノ仲裁ニ依リ十中八九ハ其ノ調和ヲ見ルニ至レリ
人或ハ幕府政治ノ壓制ヲ非難スレトモ其ノ中ニ就キ是ノ如ク今日ノ自治制度ニ見
難キ美〓ノ存スルモノナキニ非ス
維新後ニ於テモ明治九年甲第十七號達ヲ以テ民事ノ訴訟ハ成ルヘク治安裁判所
ノ勸解ヲ請フヘキ旨ヲ布令シ明治二十三年民事訴訟法ノ實施迄此ノ規則ノ實行
ヲ見タリキ
(參照)明治二十三年勸解出願統計三十九万千〇七十二件(調停)二十一
万千六百八十六件(不調)十万八千八百七十二件ナリ
此ノ勸解制度ニ依リテ貧富ノ衝突ヲ防遏シ彼ノ貧困ノ債務者ニ對シ勸解吏ハ其
ノ債務ノ履行ニ恩惠期限ヲ與ヘ以テ惡竦ナル債權ノ執行ニ對シ相當ノ調和策ヲ講
スルヲ常トセリ
之ヲ外國ノ例ニ見ルニ英國ハ羅馬法ヲ踏襲シテ往古ヨリ仲裁制度ヲ採用シ之ニ關
スル法律ハ數度發布スル所アリタルカ遂ニ是等ノ條例ハ一八八九年ノ仲裁法ヲ以テ
統一セラレ民事事件ノ多クハ其ノ訴訟前ニ於テ仲裁人ノ解決ニ待ツ處多シ殊ニ市
町村間ノ土地收用ニ關スル地方廳ト人民トノ紛爭、地主ト小作人トノ紛爭、、職工ノ
住家ニ關スル家主トノ紛爭職工ノ賠償ニ關スル紛爭等ニハ强制的ニ此ノ仲裁法ヲ
適用シツツアリ現蘇克蘭ノスサーランド侯爵ノ所有ニ係ル廣大ノ農地ニ於テハ地代ノ
點ニ付紛爭ノ起リタル場合ニハ必ス仲裁人ヲ選任シテ之カ解決ヲ爲サシムルノ制度
ナルヲ以テ借地人ハ大ニ其ノ居住ノ安全ヲ得テ今ヤ蘇克蘭ノ荒地中此ノ範圍ノミハ
土地肥沃ニシテ非常ノ收穫アリト云フ
英國ニハ又一八九六年ノ發布ニ係リ主トシテ產業ノ紛議ヲ仲裁スル法律アリ此ノ
法律ニ依リ各種ノ產業組合カ組織シタル仲裁院ハ一九○六年ノ調査ニ於テ其ノ數
百九十七箇所アリ而シテ一八九七年ヨリ一九〇六年ニ至ル十年間ニ於テ是等仲
裁院カ和解ヲ試ミテ解決ヲ得タル困難ナル產業紛議事件ノ數ハ實ニ七千二百四十
八年ニ及ヒ之ニ關係シタル人員(職工)ハ其ノ數百二十五万人以上ニ達シタリ而シ
テ右七千二百四十八件ノ紛議中單ニ九十二件ノミ其ノ解決前ニ於テ「ストライキ」
ヲ見タルノミナリト
又今日倫敦ニ於ケル商業上ノ紛議ヲ見ルニ其ノ司法裁判所ノ裁判カ遲延スルカ爲
ニ金額六万磅以上ノ紛議事件ト雖仲裁人ノ手ニ依リテ著々ト解決ヲ告クルモノ多
シト云フ
(參照)大正元年九月三十日付在倫敦帝國總領事ノ倫敦仲裁裁判所ニ關
スル報告
佛國ハ個人主義ノ發達シタル共和國ナレトモ仲裁ハ町村役場內ニ於テ不公開式ニ
勸解吏カ調和ヲ謀レリ又商業ニシテ組合組織ヲ有スル者ノ紛議事件ニハ其ノ昔强
制的仲裁制度ヲ採用シタレトモ一八五六年ノ法律ヲ以テ之ヲ廢シ今日ニ於テ之ヲ
商業裁判所ノ管轄ニ移シタリ又佛國ノ工業地ニハ仲裁院ナルモノアリテ雇主ト職工
トノ間ノ紛爭ヲ處理シ居レリ
白耳義ノ仲裁法ハ全然佛國法ヲ採用シ一八九九年ノ協約ニ依リ仲裁人ノ與ヘタ
ル決定ハ兩國ニ於テ交互執行スルヲ得ルコトトナセリ
又獨逸ノ普魯西ニ於テハ一八七〇年ヲ以テ仲裁法ノ發布アリ各町村ニ一人ノ仲
裁人ヲ置キ總テノ事件ヲ仲裁セシム仲裁ハ無料ニシテ仲裁附托ハ任意ナリ此ノ法律
ハ一八九六年「ブランズイック」ニ採用サレ又一八八六年「パーデン」ニモ採用セラルル
ニ至レリ刑事ノ喧嘩及名譽囘復等ノ事件ニ於テ仲裁ノ結果曲直ノ判明シタルトキ
ハ曲者ハ一方ノ相手ニ向テ謝罪金ヲ提出スルコトト爲セリ而シテ此ノ謝罪金ノ一部
ハ町村ノ收入ニ歸シ其ノ町村ノ慈善事業ノ費用ニ充テシム
伊太利ニ於テハ一八六五年六月二十五日ノ民事訴訟法ヲ以テ仲裁官ノ制度ヲ設
定セルニ其ノ效果大ニ見ルヘキモノアリシヲ以テ一八九二年更ニ之ヲ擴張シテ五十
「リラ」以下ノ事件ニ付テハ仲裁官ノ裁判ニ對シ上訴ヲ許サス五十「リラ」以上百「リ
ラ」以下ノ事件ニ付テハ區裁判所ニ上訴シ得ルコトトセリ而シテ仲裁官ハ法律智識
ヲ必要トスル處ナク唯取引上ノ慣習ヲ知リ且社會一般ノ信用アル者ナルヲ以テ足
ル故ニ公定試驗其ノ他類似ノ試驗ニ合格セル者竝以前諸般ノ官吏公吏タリシ者ハ
凡テ仲裁官タルノ資格ヲ有シ控訴院長ノ任命スル所ニ從ヒテ仲裁官トナルコトヲ
得ヘク但其ノ任期ハ三年ニシテ猶ホ仲裁官ニハ其ノ所屬市町村ヨリ書記廷丁各一
名ヲ附屬セシメラル仲裁官ハ當事者本人ノ出頭ヲ命スルノ權ヲ有シ訴訟手續ハ頗ル
簡單迅速ナルノミナラス和解ノ費用ハ極メテ低廉ニシテ五十「リラ」以下ノ事件ニ付
テハ一一「リラ」四十「サンチーム」五十「リラ」以下ノ事件ニ付テハ一「リラ」二十「サン
チーム」ノ少額ヲ徵收スルニ止マル以上ノ制度ハ伊國一般ノ歡迎スル所ナリ現今仲
裁官ノ總數ハ八千餘名ノ多キニ及ヘリ
其ノ他瑞西(一八八三年)西班牙(一八二〇年)瑞典、諸威(一八八七年)等ニモ
佛國法ト似タル仲裁法アリ
米國紐育州及「マサチユセツ」州ニハ州立仲裁院ナルモノアリ主トシテ產業上ノ紛議
ヲ仲裁スルモノニシテ若產業上資本主ト勞働者トノ間ニ紛讀起リタルトキハ直ニ其ノ
場所ニ出張シテ事件ノ調査ヲ遂ケ而シテ後チ之カ解決ヲ與フルモノナリ
其ノ他英國諸制度ノ唯一試驗場ノ觀アル「ニユージーランド」ニ於テハ土地ノ紛爭ニ付
夙ニ仲裁法ヲ採用シテ世界ニ於ケル最完備セル理想的土地制度ノ實現ヲ見又資
本主ト勞働者トノ紛爭ニハ必ス强制的仲裁法ヲ適用セリ
以上略敍スル如ク歐米ノ諸國一トシテ今日仲裁法ヲ採用セサル所ナク之ニ依リテ人
事萬般ノ紛議事件ヲ解決シ以テ當事者雙方ノ感情ヲ融和シ社會ノ秩序ト平和ト
ヲ保チ旁〓訴訟入費ト無益ノ時間トヲ省略シ得テ最羨望スヘキ圖滿ノ效果ヲ呈セ
リ
德義ト常識トヲ加味セル裁判ハ一ニ仲裁ニ依リテ得ラルルナリ徒ニ權利義務ヲ基礎
トセル法律ヲ唯一ノ城壁トシテ人類相爭フハ決シテ眞ノ友明社會ニ於テ稱贊スヘキ
コトニハ非サルナリ旣ニ法律ノミニ依ラスシテ他ニ人事ノ紛爭ヲ圓滿ニ解決スルノ方
法アリトセハ吾人亦何ヲ苦ムテカ手續ノ煩雜ニシテ費用ノ多額ナル司法裁判ニノミ
之カ處決ヲ求ムルノ愚ヲ爲サムヤ宜シク能フヘキ範圍內ニ於テ諸般ノ紛、事ヲ平和ノ
解決手段ニ依リ求ムルヲ以テ文明ヲ標榜セル吾人人類間ノ義務ニシテ亦其ノ誇リト
スル所ナラム彼ノ國際間ニ於テスラ平和運動ノ熾ナル今日瑣々タル個人ト個人、團
體ト團體トノ紛爭ノ如キモノニシテ仲裁ヲ以テ其ノ解決ヲ見難キ理由アラムヤ
見ヨ殷鑑近キニアリ週年我カ東京市ノ交通機關ノ上ニ於テ吾人ノ最聡辱トスル一
大悲慘事ヲ現出シ尋テ日本郵船、橫須賀船渠等ニ於テ不穩ノ事實ヲ暴露セシニ非
スヤ又一方ニ於テハ橫暴ナル地主ハ薄弱ナル借地人、小作人ニ對シ惡竦ナル誅求ヲ
爲シ茲ニ社會上最憂惧スヘキ階級間ノ怨恨ト貧富ノ懸隔トヲ釀成セムトシツツアリ
尙社會ノ闇黑面ニハ種々ノ惡漢跳梁跋扈シ人ノ弱〓ニ乘シテ脅喝ヲ加フル等ノ害
毒ヲ敢テスル者鮮シトセス
我カ國今日ノ民間ニ於テ當事者雙方ノ間ニ立チ仲裁ノ勞ヲ執ル者亦ナキニ非スト
雖其ノ多クハ所謂三百代言ニシテ其ノ事件ノ結局ニ至リ裁判所ニ於テ爭ヒシヨリ以
上多大ノ費用ヲ支拂フニ至ル者往々之レ有ルヲ見ル刑事ノ裁判ニ對シテハ執行猶
豫ノアルアリト雖民事ニ付テハ敗者直ニ强制執行ヲ受ケ此ノ間些ノ猶豫アルニアラス
其ノ怨恨ニ泣ク者決シテ世間ニ尠ナカラサルニ非スヤ殊ニ高利貸ノ爲ニ非常ノ酷薄
ニ遇ヒ遂ニ產ヲ傾ケ親子夫婦爲ニ離散ノ悲境ニ沈淪セシ者亦世間ニ其ノ例甚多キ
ヲ見ルニ非スヤ
我カ國古來親族間ノ紛議ハ成ルヘク親族間ニ於テ解決シ世間ノ外聞ヲ憚カルノ風
アリ從テ其ノ事件ヲ訟廷ニ爭フカ如キハ所謂絕對絕命ノ場合ニ瀕シテ之ヲ爲スノ慣
習ナルモ法律ノ規定ハ如何セム親子ト雖互ニ法廷ニ立チテ相爭ハサルヲ得サルヲ以テ
止ムナク之ニ從フノミ斯ノ如キハ畢竟法律ノ缺〓ニシテ大ニ我カ國ノ美風良俗ヲ破
壞スルモノト云フヘシ是等ノ紛議事件ニ對シテハ殊ニ仲裁制度ノ適當ナルヲ感セスム
ハアラス
今ニシテ能ク是等ノ弊害ヲ豫防シ其ノ平和的解決方法ヲ馴致シ置クニアラスムハ他
日社會事情ノ益複雜トナリ階級間ノ怨恨ト懸隔トカ愈擴大ナルニ及テハ遂ニ又如
何トモスヘカラサルノ情態ニ陷ラムコト火ヲ睹ルヨリモ明カナリ況ヤ是等ノ原因ヨリ起
ル階級間ノ訴訟ハ今ヤ漸ク健訟ノ傾ニ流レ司法裁判所ノ混雜ト遲延トハ益顯著ト
ナリツツアルニ於テヲヤ
我カ國ハ由來家族主義ヲ以テ基礎ト爲ス故ニ個人主義ノ國ニ比スルトキハ其ノ國
民ノ關係最圓滿調和ナルノ〓ニ於テ吾人ノ大ニ誇ルニ足ルモノアリトス吾人ハ今ヤ
我カ國ノ前途ニ鑑ミ海外法治國ノ趨勢ヲ觀察シ亦我カ古來ノ習俗ニ酌ミ將タ深ク
現時ノ情態ヲ考慮シ我カ國ニ仲裁制度ノ必要ヲ認ム卽チ茲ニ本案ヲ提出スル所以
ナリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=115
-
116・松田源治
○松田源治君 本案ハ議長指名九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=116
-
117・關直彦
○副議長(關直彥君) 御異議ガナケレバ松田君ノ動議ノ通リ決定ヲ致シマス、次、
日程第八私立學校用地免租ニ關スル法律案、第一讀會ヲ開キマシテ議案ノ朗讀ヲ
省略致シマス、久保通猷君
第八私立學校用地免租ニ關スル法律案(久保通猷君第一讀會
提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=117
-
118・關直彦
○副議長(關直彥君) 久保通猷君御出デハアリマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=118
-
119・松田源治
○松田源治君 提出者ガ今日出席シテ居ナイヤウデアリマスカラ延期ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=119
-
120・關直彦
○副議長(關直彥君) 延期ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=120
-
121・關直彦
○副議長(關直彥君) ツレデハ延期ニ決シマス、報告ガアリマス、チヨット私カラ御報
告ヲ致シマス、各委員ノ氏名ハ公報ニ依テ御通知ヲ致シマス、又次ノ議事日程ハ公報
ヲ以テ御通知ヲ致シマスカラ、左樣御承知ヲ願ヒタウゴザイマス、今日ハ是デ閉會ヲ致
シマス
午後三時二十四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003013242X00519130227&spkNum=121
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