第40回帝国議会　衆議院　本会議　第13号　大正7年2月19日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  　大正七年二月十九日（火曜日）午後一時十九分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　議事日程　第十二號　大正七年二月十九日
  　　　　午後一時開議
  　　　　　　質問
  　　　一　外交に關する質問（押川方義君提出）
  　　　二　對支外交に關する質問（樋口秀雄君提出）
  　　　三　本野外務大臣の誠意なき答辯に關する質問（望月小太郎君提出）
  　　　四　千葉縣安房郡の再選擧に關する質問（鈴木富士彌君提出）
  　　　五　物價調節に關する質問（紫安新九郎君外一名提出）
  　　　六　ルーマニア行醫師團の潰散に關する質問（土屋清三郎君提出）
  　　　七　小麥製粉類の買占めに關する質問（横山勝太郎君提出）
  　　　八　言論の自由の妨害竝人權蹂躪に關する質問（三木武吉君外一名提出）
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　第一　有價證券割賦販賣業法案（政府提出）　　　　　　　　　　　　　　第一讀會
  　　第二　右議案の審査を付託すへき委員の選擧
  　　第三　衆議院議員選擧法中改正法律案（藤澤幾之輔君外四名提出）　　　　第一讀會
  　　第四　鐵道建設に關する建議案（根本正君外五名提出）
  　　第五　警察官年功加俸令制定に關する建議案（松本誠之君提出）
  　　第六　野岩羽鐵道建設に關する建議案（八田宗吉君外六名提出）
  　　第七　東方調査局設置に關する建議案（伊東知也君提出）　　　　　　　　（委員長報告）
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• 001・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　諸般ノ報告ヲ命ジマス
  〔書記朗讀〕
  一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
  大正四年度歲入歳出總決算
  大正四年度各特別會計歲入歲出決算
  大正四年度歲入歳出決算檢査報告
  罹災救助基金法中改正法律案
  一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
  纖維原料政策及織物廣幅奬勵ニ關スル建議案
  提出者武藤金吉君工藤善助君
  鑛業法中改正法律案
  提出者藏內次郞作君
  物價調節ニ關スル建議案
  提出者降旗元太郞君武市彰一君野村嘉六君
  日本勸業銀行法中改正法律案
  提出者恆松隆慶君井上角五郞君藏內次郎作君
  林毅陸君津田毅一君林平四郞君
  安達謙藏君久須美東馬君佃安之丞君
  秋田寅之介君高木益太郞君
  農工銀行法中改正法律案
  提出者恆松隆慶君井上角五郞君藏內次郎作君
  林毅陸君津田毅一君林平四郞君
  安達謙藏君久須美東馬君佃安之丞君
  秋田寅之介君高木益太郞君
  輕便鐵道法中改正法律案
  提出者恆松隆慶君井上角五郞君藏內次郞作君
  林毅陸君津田毅一君林平四郞君
  安達謙藏君久須美東馬君佃安之丞君
  秋田寅之介君高木益太郞君
  軌道條例中改正法律案
  提出者恆松隆慶君井上角五郞君藏內次郞作君
  林毅陸君律田毅一君佃林平四郞君
  安達謙藏君久須美東馬君安之丞君
  秋田寅之介君高木益太郞君
  陰陽連絡廣江鐵道速成ニ關スル建議案
  提出者恆松隆慶君
  一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
  高等學校入學試驗制度ニ關スル質問主意書
  提出者長峰與一君
  〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ揭載ス〕
  一去十六日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如シ
  醫師法中改正法律案
  八木逸郞君工藤吉次君土屋〓三郞君
  秋山金也君正木照藏君綾部惣兵衞君
  櫻井兵五郞君大林森次郞君近藤達兒君
  郡制中改正法律案
  高橋光威君阿部德三郞君学生育学院
  中野寅次郞君金太郞君除草丼 印刷新岩彥君
  櫻井庄平君株式会社島肇君卓男君
  刑法中改正法律案
  〓水市太郞君赤尾彥作君高見之通君
  鳩山一郞君井戶文四郞君黑須龍太郞君
  三木武吉君富島暢夫君湯淺凡平君
  爆發物取締罰則廢止法律案
  松田源治君小泉策太郞君磯部尙君
  岡田榮君鈴木富士彌君野村嘉六君
  井原喜代太郞君田島達策君村松恆一郞君
  私立學校及公益法人ノ用地免租ニ關スル法律案
  林毅陸君萩亮君本元貞君
  土谷全次君橫山勝太郞君有井頭原百吉介君君
  小林嘉平治君橫井藤四郞君森新
  優良職工表彰ニ關スル建議案
  澤來太郞君成田榮信君兒玉好熊君
  工藤善助君松岡勝太郞君大森與三次君
  鈴木久次郞君金澤仁作君牧野鐵九郞君
  一去十六日地種變更免租年期ニ關スル法律案委員北井波治目君辭任ニ付其補
  關トシテ佐々木平次郎君ヲ議長ニ於テ選定セリ
  一去十八日徵兵令中改正法律案委員村松龜一郞君辭任ニ付其補闕トシテ田中
  萬逸君ヲ、市町村立小學校〓員俸給國庫負擔法案委員小山東助君辭任ニ付
  其補關トシテ野村嘉六君ヲ孰モ議長ニ於テ選定セリ
  一去十八日地種變更免租年期ニ關スル法律案委員會理事補闢選舉ノ結果左ノ
  如シ
  地種變更免租年期ニ關スル法律案
  理事佐々木平次郞君(理事北井波治目君補闕)
  一去十八日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
  醫師法中改正法律案委員會
  委員長八木逸郞君理事近藤達兒君
  郡制中改正法律案委員會
  委員長阿部德三郞君理事松島肇君
  刑法中改正法律案委員會
  委員長湯淺凡平君理事高見之通君
  爆發物取締罰則廢止法律案委員會
  委員長松田源治君理事鈴木富士彌君
  私立學校及公益法人ノ用地免租ニ關スル法律案委員會
  委員長橫井藤四郞君理事萩亮君
  優良職工表彰ニ關スル建議案委員會
  委員長澤來太郞君理事金澤仁作君
  一去十八日衆議院規則第十五條但書ニ依リ議長ニ於テ議席ヲ左ノ如ク變更セリ
  第一番尾崎元次郞君第四十三番川眞田德三郞君
  第四十五番花井卓藏君第四十六番橋本太吉君
  第四十九番石原正太郞君第五十番豐三郞君
  第五十一番河野徹志君第五十二番與三
  第五十三番田辰五郞君第五十四番
  第五十五番原彌里第五十七番川末田村禰浦田三靜龍介德興彥郎
  第五十八番林森次郞君君第五十九番
  第六十番堀橫佃大關福安之丞君第六十一番
  第六十二番第六十四番玄良三
  井藤四郞君小若富飯松田古石津松中美松北
  第六十五番尾茂助君第六十九番川君君君君君君君君君君君君君
  第七十番平田健太郞君第七十一番島島達
  第七十二番々木平次郎君第七十三番
  第七十四番根正次君第七十五番精
  第七十八番杉英五郞君第七十九番尾島田璋暢第壹新聞紙大法第三種類医療法
  第八十一番坂秋尾金山崎敬第八十二番
  第八十田第八十四番川〓太
  第八十八番号 一番田本金3月 -明日発売第八十七番松木ドッキー
  第八十毅君君君君第八十九番井上水
  第九十番上津田彌第九十一番吉田中君
  第九十二番北井波治目君第九十三番松本剛吉君
  (33.4)肥田景之君第九十九番河崎助太郞君
  第百番吉村鐵之助君第百七番金澤仁作君
  第百八、番G
  吉田三郞右衞門君

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• 002・濱田國松

  ○副議長(濱田園松君)　是ヨリ會議ヲ開キマス、此場合諸君ニ御諮リヲ致シマス、
  第六部選出決算委員長尾元太郞君、常任委員辭任ノ申出ガアリマシタ、許可スルニ
  御異議ガアリマセヌカ
  〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 003・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　御異議ガナイト認メマス、許可ノ上ハ第六部ノ諸君ハ速ニ
  補缺選舉ヲ行ハレ、申出アラムコトヲ希望致シマス-巡査看守退隱料及遺族扶助
  料法中改正法律案ノ委〓貝曾、右ヲ本會議中ニ開會致シタキ趣委員長ヨリ請求ガア
  リマシタ、許可スルニ御異議ガアリマセヌカ
  〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 004・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　御異議ガナイト認メマス-井原喜代太郞君ヨリ病氣ニ
  付、今十九日ヨリ二週間請暇ノ申出ガアリマシタ、許可スルニ御異議ガアリマセヌカ
  〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 005・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　御異議ガナイト認メマス、是ヨリ日程ニ移リマス、外交ニ關
  スル質問-押川方義君
  -外交ニ關スル質問(押川方義君提出)
  外交ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據り提出候也
  大正七年一月二十五日
  提出者押川方義贊成者今井嘉幸
  外三十人
  外交ニ關スル質問主意書
  宣戰ノ意義ニ關シ遣米特命全權大使ノ宣明ト國務大臣ノ說明トニハ多大ノ相違
  アリ其ノ理由如何
  右質問候也

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• 006・押川方義

  ○押川方義君　外務大臣ノ御出席ガ願ヒタイ

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• 007・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　今御出席ニナリマス
  〔押川方義君登壇〕

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• 008・押川方義

  ○押川方義君　私ハ今日時局ニ關聯致シマシテ、外交問題ニ付テ重要ナル質問ヲ致
  シタイト思ヒマス、我輩ト雖モ外交ノ事、、實ニ容易ナラヌト云フコトハ承知ヲ致シテ居ル、
  歷代ノ內閣ノ諸公ハ申ス迄モナク、朝野ノ有名ナル方ミガ此五六十年ノ間、極メテ身
  心ヲ勞サレマシタル事ハ多クハ外交問題デアルト思ヒマス、而モ其人〓ノ中ニハ有能ナ
  ル多才ナル、且ツ智識モアリ經驗モアリ、殊ニ大識見ヲ有シテ居ラレマシタ人ミモ多ク御
  坐イマス、其人〓モ尙ホ外交問題ニ付テハ苦心慘擔ヲ極メラレタノデアリマス、決シテ是
  ハ容易ナル事業デアルトハ考ヘテハ居ラナイ、サリナガラ其人〓ニ對スル後輩ハ最モ心
  シナケレバナラナイ事ハ、外交ノ方針ヲ立テマスル時分ニ、消極ト積極トノ二樣ヲ採ラレ
  マツ、是迄我國家ガ大ニ國運ヲ開キ、進展ヲ爲シマシタル一ノ紀元ニ於キマシテハ、必ズ
  周到ナル思想ヲ持タル積極的方針ヲ採ラレタ事ニ依テ居リマスルコトハ諸君ノ御承知
  ノ事デアリマス、今日ハ私外交問題ニ付テト申シマスルガ、殊ニ對米ノ事ニ付テ承リタイ
  事ガアル、此問題ハ事詔勅ノ意義及了解ニモ關係致シマスル故ニ、又大日本帝國ノ
  威信ニモ關スルコトデアリマスルシ、我六千万ノ同胞ガ要スベキ所ノ覺悟ニ向ッテ、指導
  ヲ爲シマスル事ニモナリマスル、又此日獨戰爭ニ付キマシテ、我日本全國ノ人〓ノ覺悟
  ヲ定メマスル所ノ事ニモナルト考ヘテ居リマス、過ル頃我日本ヨリ北米合衆國ニ向ヒマシ
  テ特派大使ガ派遣セラレマシタ、此石井大使ガ亞米利加ニ居ラレマシタ時ニ、亞米利
  加ノ人ミガ石井大使ヲ見マスルコトハ、丁度桑港ニ上陸ヲセラレテ、彼地ニ於テ市長ノ
  歡迎會ニ臨ミマスル頃ニ、其市長ガ亞米利加子爵ノ今囘ノ使節ハ(「亞米利加子爵」
  ト呼フ者アリ)大日本皇帝陛下ノ代理デアラセラルヽ故ニ、最モ愼重ナル考ヲ以テ
  遇セナケレバナラナイト云フコトヲ申シテ居ル、石井大使ガ各處ニ於キマシテ、最モ懇切ナ
  ル待遇ヲ受ケラレタルコトハ、決シテ偶然デハアリマセヌ、所謂日本帝國ガ北米合衆國
  ニ於テ、非常ナル尊敬ヲ受ケマシタノト、是ハ同ジ事デアリマス、然ラバ亞米利加ニ於テ石
  井大使ノ一言一行ハ、是ハ取リモ直サズ日本國家ヲ代表シテ、或ハ言說ヲ爲シ、或ハ
  行動ヲセラレマシタルコトデアリママス、固ヨリ現內閣ハ嚴格ナル訓令ヲ與ヘタニ相違ナ
  イ、周到ナル監視ノ下ニ、石井大使ヲシテ其使命ヲ完カラシメムガ爲ニ力ヲ盡サレマシタ
  ルコトハ、信ジテ疑ヒマセヌ、而シテ石井大使ガ亞米利加ニ於テ、此大戰亂ニ際シテ聲
  明ヲ致シマシタル所ノ事ヲ、時々ノ報告ニ依テ承知致シテ居リマスガ、是ハ各處ノ公會
  ノ席上ニ於キマシテ、或ハ又彼ノ國ノ當局者ト會見ヲ致シマシテ談議ヲシマシタル時ニ、
  直接若クハ間接ニ、日本ノ此對獨戰爭ノ目的ハ、亞米利加合衆國ノ對獨戰爭ノ目
  的ト同一デアルト云フコトヲ、屢〓明言セラレテ居ルノデアリマス、然ラバ米國ノ所謂米
  獨戰爭ノ意義及目的ハ、大日本帝國ガ執ッテ居リマスル所ノ主義及目的ト同一デナケ
  レバ左樣ナル事ヲ申サレナイト思フ、然ルニ我日本帝國ノ日獨戰爭ノ目的ハ、詔勅ニ
  明カニ示サレテ御坐イマスルガ故ニ、誰モ之ヲ疑フ者ガアリマセヌ、又其意義ヲ誤解スル
  者モ恐テクアリマスマイ、米國ノ大統領ガ交戰ノ宣言ヲ致シマシタル所ノ事ハ、大變意味
  ガ違ッテ居ルト我輩ハ思ヒマス、亞米利加ノ對獨戰爭ノ目的ハ、申ス迄モナク「ウ井ルワ
  ン」ノ宣告書ニ明カニ出テ居ル、是ハ外務大臣ニ、我大日本帝國ノ爲ニ謹ンデ承リタ
  イ(「此方ヘ御向キナサイ」ト呼フ者アリ)又若シモ我輩ノ述ブル所ニ就テ御了解ガ御坐
  イマセヌデアッタナラバ、御質シノ上サウシテ明白ナル御答ヲ希望致シマス、米國ノ對獨
  戰爭ノ目的ハ「ウ井ルソン」ノ宣言書ノ中ニ在リマシテ、其中ノ主モナルモノヲ一一四私ハ
  朗讀致シマシテ、日本ノ對獨戰爭ノ目的トハ違フト私ハ斷ジテ思ヒマスルガ故ニ、之ヲ
  同一ダト申シマシタ所ノ責任者ヲ問ヒタイノデアリマス、此宣言書ノ中ニ「吾人ハ須ラク
  造次〓沛モ忘ルヘカラサル民主主義ノ爲ニ戰フヘシ」斯ウアル、是ハ固ヨリ今日申シマス
  ル民本主義ノコトヲ申スノデアリマセウ、併シ米國ニ於テ民本主義ト申シマスルコトハ
  我輩モ民本主義ヲ唱ヘマスル人デハアリマスルガ、日本ノ民本主義トハ意義ヲ均シウ
  シテ居ラナイト思フ、又均シウシテハナラヌトヾ心得テ居リマス、然ルニ米國ノ人ガ申シマシ
  タノハ、米國人ノ考ヲ以テ、米國人ノ意義ヲ附シテ申シマシタルコトニ相違ナイガ故ニ、
  之ニ同意ヲシテ居ルト申シマスルナラバ、我輩ハ大責任ガアルト思フ(拍手起ル)ソレカ
  ラ第二ノ事ハ「吾人ハ何等領土的慾望ナキハ固ヨリ、吾人トシテハ償金ヲ得ントノ希望
  モナシ、卽チ吾人ノ犠牲ニ對シテハ何等物質的復活ヲ得ントスルモノニアラス吾人ハ自
  ラ人道ノ一撰手トシテ立ツ人道ノ擁護ヲ見得レハ卽チ足レリト」斯ウ申シテ居ル、所謂
  非賠償非併合ト云フ主義デアリマス、此戰爭ノ目的ハ非賠償デアルシ、非併合デアル
  (リレハ目的ヂヤナイ」ト呼フ者アリ)確ニ此事ヲ申シテ居リマス(「目的トハ言ッテ居ナイ」
  「默レ」ト呼フ者アリ)我輩ノ國家デハ、斯ウ云フ事ニテテ何何モ言ウテ居リマセヌ(「我
  輩ノ國家」ト呼フ者アリ)併ナガラ米國デハ、確ニ其事ヲ戰爭ノ宣言ノ一ツノ重大ナル
  問題トシテ出テ居ルト思フ、之ガ爲ニ歐羅巴ハ大ニ動カサレマシテ、英佛ナドモ之ニ對ス
  ル所ノ相當ノ意義ヲ附シテ、總理大臣若クハ有力ナル閣員ノ中ニ、之ニ就テ自分ガ戰
  爭ノ意義ヲ申述ベタコトガアリマス、之ニ同意ケト申シマスルナラバ、勿論此事ニ向ッテ、
  十分ナル日本國家ガ承認シテ居ルコトヲ承知シナクテハナラヌト思フ第三ニハ民本主
  義ノ眞諦トモ謂フヤウナルコトガ言ウテアル、是ハ斯ノ如キ事ヲ「ウイルソン」ハ申述ベテ居
  リマス「眞正ノ平和眞正ノ協同ハ唯民主主義ノ國民ニ依リテノミ維持セラレ得ヘシ官
  僚政府ニハ信用ヲ措キ難シ最近露國ニ於テ行ハレタル所ヲ見テ米國民ハ世界將來ノ
  平和ノ上ニ大ナル希望ヲ發見シタリトセスヤー路國民本來ノ性情ハ決シテ專制政治的ナ
  ラス彼等ハ今ヤ其專制政治ヲ打破シ彼等本來ノ性情ニ立チ還リテ自由ト正義ト眞正
  ノ平和ノ爲ニ戰ハムトス之ニ反シテ獨逸ノ專制政治ハ決シテ吾人ノ朋友トシ難キモノナ
  リ吾人ハ將ニ此自由ノ好敵手ニ對シ戰鬪場裡ニ相見エムトス卽チ場合ニ依リテハ剛慢
  ト其力ヲ遮リ且ツ之ヲ消滅スル爲ニ吾人ノ全國力ヲ傾倒スヘキナリ」ト斯ウ書イテアル、
  是ハ宣言デアリマス、サウスルト民主主義ノ是ハ眞諦トモ謂フベキモノデアラウガ、米國大
  統領ハ露西亞ノ革命ヲ喜ンデ居ル、眞正ノ自由眞正ノ正義ハ、續イテ此所ヨリ生レ來
  ルデアラウト斯ウ唱ヘテ居ル、彼ガ初メニ贊成致シマシタノモ、或ハワレガ基トナッテ居ルカ
  モ知レヌ、ソレノミナラズ「眞正ノ平和眞正ノ協同ハ唯〓民主主義ノ國民ニ依リテノミ
  維持セラレ得ヘシ」ト斯ウ斷言シテ居ル、ソレカラ獨逸ニ向ッテ好敵手ヲ得タリトシテ、次
  ニ「剛慢ト其力ヲ遮リ且ツ之ヲ消滅スル爲ニ吾人ノ全國力ヲ傾倒スル」ト斯ウ言ウテ居
  ル、亞米利加ノ目的ハ獨逸ヲ絕滅スルノデアルト斯ウ言ウテアル、ソレカラ第四ニハ「世
  界ノ眞ノ自由ト自治的國民ノ間ニ共通ノ目的ト好意ヲ樹立セムカ爲ニハ組織的武力
  ノ後援ヲ有スル官僚政府ノ存在ハ平和ト自由ノ敵ナリ」ト斯ウ出テ居リマス、我輩ハ今
  玆ニ亞米利加大統領ノ宣戰ニ對スル所ノ宣言ヲ、免ヤ斯ウ申スノデハナイ、此是非善
  惡ヲ二言フノデモナケレバ、或ハ遠大デアルトカ淺近デアルトカ、或ハ善デアルトカ、惡デア
  ルト申スノデハ決シテアリマセヌ、之ヲ批評申スノデハ決シテナイ、又如何ナル國家ニモ無
  上善ト申スコトハ唱ヘラレテ居リマス限リハ、亞米利加ノ共和國カラ申シマスレバ、是ハ亞米
  利加ノ自由デ、無上善デアルカモ知レマセヌケレドモ、日本帝國ハ此四ツノ事ニ付キマシ
  テ、全ク同意デアッテ、北米合衆國ノ宣戰ノ意義ヲ同ジクシテ居ルト申シマスルコトハ
  私ハ何處ニ於テ斯ウ云ウコトガ言ハレルカ甚ダ疑フ、若シ此事ヲ石井大使ガ日本國家
  ヲ代表シテ言ハルヽナラバ、又現內閣ノ意思ヲ承ケテ之ヲ聲明セラレタナラバ、其據ル所
  出ヅル所ハ、何所ニ基カレタノデアルカヲー承リタイノデ、私ノ拜讀致シマシタ所ノ詔勅ノ大
  意ニ依リマスレバ、此日獨戰爭ノ由ッテ起ッタ所ハ、日英同盟ノ誼ニ仗テ、東洋永遠ノ平
  和ヲ確保スルガ爲ニ、煥發セラレマシタル所ノモノデアリマスコトヲ承知致シマシタ、其外
  或ハ民主的ノ爲ニドウスルダノ、或ハ閥族打破ノ爲ニドウスルダノ、若クハ償金トカ、土地
  ヲ併合セムガ爲ニドウスルダノ、或ハ民主國ヲ建ツルガ爲ニドウスルダノ、斯ウスルダノト
  云フコトハ、一切日獨宣戰ノ意義ノ中ニ含ンデ居ラヌ、東洋永遠ノ平和ヲ確保スルガ
  爲デアルコトハ大主眼デ、實ニ其精神ノ基ク所ハ公明正大テ、兩國ノ友誼ヲ重ンジマシ
  テ、國交ヲ完ウスルノミナラズ、國ト國トノ約束ヲ確守致シマシテ、天下ニ之ヲ號令シテ東
  洋ノ永遠ノ平和ヲ確保スル、斯ウ云フ大目的ノ爲ニ日獨宣戰ガ煥發ヒラレマシタ、亞
  米利加人ニ對シテ、故ラニ斯ウ云フ大事ノ時ニ臨ンデ歡心ヲ買フ必要ハナカラウ、現內
  闇ガ最モ得々トシテ居ラルヽ如ク承リマシタノハ、日米協同ノ宣言デアルサウデ御坐イマ
  ス、石井大使ハ其使節ヲ元ウシテ日本ニ齎シ歸リマシタモノハ、所謂日米協同宣言ノ事
  デアリマス、之ニハ色〓異議ガ御坐イマスガ、サウ云フ善惡是非ヲ言フ必要ハナイ、私ノ
  今日外務大臣カラ明白ニ御答辯ヲ願ヒタイノハ、米國ノ宣言ニ同意ヲ致シタト申-シマ
  スル事ハ、是ハ天下ニ宣言シタコトデアリマスガ、是ハドウ云フ事ニ基イテ、斯ノ如キ事ヲ
  言ヒ得ルカラ伺ヒタイ、過日尾崎君ガ質問致シマシタ時ニ、別ニ戰爭ノ目的ト云フヤウ
  ナ事ハ、詔勅ノ外ハ決シテ無イ、吾等ハ其詔勅ヲ嚴重ニ之ヲ守レバ足レリデアルト斯ウ
  仰セラレマシタ、併ナガラ日本ヲ代表シテ、內閣ノ監督ノ下ニ米國ニ使致シマシタ所ノ
  石井大使ハ、日本ノ戰爭ノ目的ハ、米國ノ戰爭ノ官言ト同一ダト云フ事ヲ明言シテ
  居ル、是ハ決シテ同一ノモノデナイト私ハ了解致シマス、故ニ此事ニ付キマシテ御明答ヲ
  願ヒタイノデアリマス
  〔拍手超ル〕
  〔國務大臣法學博士子爵本野一郞君登壇〕

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• 009・本野一郎

  ○國務大臣(法學博士子爵本野一郞君)　唯今押川君カラノ御質問ハ、大分多岐
  ニ亙ッテ居ル問題デアリマスルカラ、ドウカ書面デ御提出ヲ願ヒマス、而シテ政府ハ書面
  ヲ以テ御答ヲ致シタイト思ヒマス

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• 010・押川方義

  ○押川方義君　外務大臣ニ一言承リタイ

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• 011・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　押川君

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• 012・押川方義

  ○押川方義君　其中主ナル點ヲ一二承リタイ(「必要ナシ」ト呼フ者アリ)一二承リタ
  イ、多岐ニ亙ッテ居リマシテ、御返答ノ出來マセヌ點ハ宣シウ御坐イマス、是ハ日本ノ宣
  言ト·····(「必要ナシ」「無用々々」ト呼フ者アリ)斯ウ云フ大問題ヲ色〓邪魔ヲサレマシ
  テ、承ルコトガ出來ヌト云フコトハ遺憾デアリマス、出來マセヌカ

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• 013・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　對支外交ニ關スル質問、樋口秀雄君
  二對支外交ニ關スル質問(樋口秀雄君提出)
  對支外交ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正七年一月二十八日
  提出者樋口秀雄贊成者黑須龍太郞
  外百十四人
  對支外交ニ關スル質問主意書
  對支外交ニ關シテハ本期議會開會以來本會議竝豫算委員會ニ於テ議員ヨリ幾多
  ノ質疑提起セラレ政府亦之ニ對シ答辯セラレタリト雖其ノ答辯ノ正鵠ヲ得サルモノ
  尠カラス又其ノ質疑應答ニ於テ事實ノ列擧セラレサルモノ多シ而モ是レ邦家ノ大事
  ニ關ス依テ左記ノ各件ニ對シ具體的事實ヲ列擧シ詳細ナル答辯ヲ望ム
  一日支親善ノ大方針ニ關スル件
  現內閣ノ段氏內閣ニ對スル態度ニ關スル件
  交通借款ニ關スル件
  兵器借款ニ關スル件
  山東民政問題ニ關スル件
  一南方支那國民ノ輿論ニ對スル件
  一支那駐箚日本外交官及領事官ニ關スル件
  其ノ他
  右及質問候也
  〔樋口秀雄君登壇〕
  〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=13

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• 014・樋口秀雄

  ○樋口秀雄君　本員ハ對支外交ニ關シテ、現內閣ノ諸公、殊ニ本野外務大臣ニ質
  問ヲ致シタイノデアリマス、此問題ニ付キマシテハ、過般來本會議ニ於キマシテ、又豫算
  委員會其他ノ委員會ニ於キマシテ、同僚諸君ヨリ種々ノ御質問ガ提出セラレマシテ、殆
  ド其問題ハ盡サレテ居ルヤノ感ガアリマスルケレドモ、之ニ對スル當局ノ御答辯ニ於テハ、
  些ノ誠意ヲ認ムルコトハ出來ナイ、甚シキニ於テハ、當然御承知アルベキ筈ノ外務大臣
  等ガ、事外交ニ關スル重大問題ニ關シテスラ年月ヲ錯誤シ、時日ヲ忘レ、而モ之ニ依テ
  當座道レノ御答辯ヲ爲サルト云フニ至ッテハ、私甚ダ不滿ニ存ズルノデアリマス、本日私
  ノ御尋シヤウトスル所ハ、成ベク抽象的ノ議論ヲ避ケマシテ、事實ニ亙ッテ御答ヲ願ヒタイ
  ト思フノデアリマス、先ヅ第一現内閣ノ支那ニ對スル外交ノ大方針ニ關シテ御伺ヲシタイ
  (「抽象的ヂヤナイカ」ト呼フ者アリ)卽チ日支親善ノ方針ト云フ事ヲ頻リニ御唱ニナリマ
  スルガ、此日支親善ト云フ事ヲ、現內閣デハドウ云フ風ニ御解釋ニナッテ居ルノデアルカ、
  個人ト個人トノ親善ナラバ、或ハ御互ニ讓歩スルトカ、若クハ互ニ利害ノ衝突ヲ避ケタイ
  ト云フ事ニ依テ、或ハ親善ヲ善クスルコトガ出來ルカモ知ラヌ、併ナガラ苟モ國ヲ鄰
  邦ニ立テヽ居ッテ、利害ノ其間ニ扞格スルモノアルニ於テハ、常ニ讓步退讓ヲ以テ之ヲ
  親善ノ第一義ナリト爲スニ至ッテハ、斷ジテ不覺デアルト私ハ信ジテ居ル(「眞直ニ向イ
  テ言ッテ呉レヌカ」ト呼フ者アリ)先日伊東君ハ、支那ノ南方北方論ヲ御唱ヘニナッテ、
  現內閣ノ諸公ハ、支那ノ國民性ヲ解シテ居ラナイト云フ御言葉ガアリマシタガ(「其通
  リ」ト呼フ者アリ)其他ノ問題ニ就テハイザ知ラズ、此點ハ伊東君ノ御意見ニ私ハ大贊
  成ヲスル(「當リ前ダ」ト呼フ者アリ)現內閣ノ諸公ハ、支那ノ國民性ナルモノニ付テ殆ド
  御了解ニナラナイト思フ、事唯今ノ所デハ免ニ角親交國ノ事デアリマスカラ、其國民ノ
  弱點ヲ提ヘテ、此壇上ニ於テ議論スルコトハ私ハ聊カ遠慮致シマス、併ナガラ此大多數
  ノ支那ノ國民ハ事大主義デアル、古來歷史上カラ見マシテモ常ニ事大主義デアル、權
  力ヲ以テ臨ム者ニ對シテ飽マデ讓歩シ、却テ親善ヲ致シマスルケレドモ一度之ニ讓步
  致シマシテ甘イ顏ヲ見セタナラバ、愈ヾツケ上ルト云フノガ、支那大多數ノ國民ノ氣風ノ
  一デハナイカト思フノデアル、此支那民族ノ根本的性質ト云フモノヲ、殆ド眼中ニ置カ
  レズニ、或ハ鄭家屯ノ問題ト云ヒ、其他各種日支間ノ懸案問題ニ於テ、常ニ讓歩又
  讓步ヲ致サレテ、之ニ依テ日支親善ガ果シテ出來ルト云フヤウナ御考ニナッテ居ルノハ
  甚ダ間違ッタ次第ダラウト思フ、若シ此現內閣ノ創立以來、日支ノ間ニ親善ノ加ッタ事
  實ガアレバ、具體的ニ御示シヲ願ヒタイ、成程現内閣ト段内閣間ニハ、或ハ親善ノヤウナ
  外面ノ面影ガアルカモ知ラヌ、併ナガラ此段內閣ノ中心人物タル-必ズシモ段祺瑞
  其人トハ申シマセヌガ、中心人物タルベキ人々ガ、日本ニ對シテ如何ナル感情ヲ持ッテ居
  ルカト云フ事ニ付テハ、殆ド本野外務大臣ハ御承知ノナイ事ダラウト思フ、其事實ハ是
  カラ申上ゲマスルガ、免ニ角今ノ外務大臣ガ支那ニ對スル御方針ガ、徒ラニ親善ヲ羸チ得
  ンガ爲ニ、日本ハ讓步是レ第一義ナリト爲サレルヤウナ姿ガアルニ至ッテハ、實ニ私ハ日本
  帝國ノ爲ニ遺憾ニ堪ヘヌ次第ニ存ズルノデアル、議論ノ順序ト致シマシテ、私ハ此質問
  書ニ揭ゲマシタ他ノ問題ヲ先ヅ御話シテ、サウシテ此大方針ノ問題ニ再ビ復ッテ御質問致
  シタイト思フ、寺內總理大臣首メ本野外務大臣等ハ、過日來ノ質問ニ於キマシテモ、
  常ニ此寺內內閣ガ段內閣ノミヲ援ケタ、對人關係トシテ段祺瑞其人ヲ援ケタト云フ非
  難ニ對シテ、決シテサウデハナイト云フ御辯解ガアッタ、併ナガラ天下ノ衆目ノ見ル所ハ、
  現內閣ガ段祺瑞內閣ヲ常ニ援ケテ居ッタト云フ事ニ、略く輿論ガ歸著シテ居ルヤウデア
  リマスルガ、尙ホ詳ニ觀察致シテ見マスルト、現內閣ハ必ズシモ段祺瑞ノ內閣ノミヲ援ケ
  タノデハナイヤウデアル、大體ニ於テ段祺瑞ノ內閣ヲ援ケテハ居リマシタガ、段祺瑞ガ失墜
  シテ勢力ガ無クナッテ、是ハイカヌト見ルト二ノ足ヲ踏ム、送巡スル、勢力ノアル間ハ援ケ
  テヤルガ、一寸景氣ガ惡クナルト先ヅ二ノ足ヲ踏ム、其時ハ何ヲ言フカト云フト、他國ノ
  內政ニ干涉セズト云フ口實ノ下ニ二ノ足ヲ踏マレル、斯ル路圍逡巡タル態度ヲ以テ臨
  マレタガ爲ニ、彼ノ第一回ノ段祺瑞失脚ノ當時ニ於テ、段竝ニ其幕僚ノ輩ハ、日本帝
  國政府ノ外交ニ對シテ、非常ナ深イ恨ヲ持ッタト云フ事ハ、御承知ニナッテ居ルダラウト
  思フ、勿論支那駐箚ノ日本公使館竝ニ領事館ヨリノ報告ハ、必ズシモ此裏面ノ消息
  ニ付テハ、詳細ノ御報告ガ無カッタラウト思フ、又出來ナイダラウト思フ、現ニ支那ノ日
  本公使館等ニ居ラレル人〓、其名前ヲ申スコトハ憚リマスガ、夫等ノ人〓モ自ラ此現內
  閣ノ、殊ニ本野外相ノ外交方針ニ對シテ不滿ヲ懷キ、國家ノ爲ニ却テ深憂ヲ抱イテ居
  ル人ガアルノデアル、勿論官吏ト致シマシテ上官カラノ命令ナリ、又其內閣ノ方針ニ對シ
  テハ、反對ノ意見ハ申述ベラレヌデアリマセウケレドモ、之ヲ私人トシテ他人ニ語ルニ至ツ
  テハ、公言スルヲ憚カラザル人〓ガ無イデモナイ、是等ノ人〓ガ日本ノ外務省ヘノ報告ニ
  於テ、此事實ヲ申越スノヲ憚ルノハ當然デアル、日本政府-我外務大臣ガ吾ミハサ
  ウ云フ事實ノ在ッタノヲ知ラヌ、知ラヌト云ヲ御答辯デアリマセヌガ、知ラヌノデハナイ、斯
  ル報告ヲスルニ忍ヒズシテ知ラサナイノデアル、部下ノ者ガ餘リ上長ガ事情ニ迂濶デアッ
  テ、時々刻々外交上ノ失敗ヲ指摘スルノハ御氣ノ毒デアルカラ、私ハ報告シナイノデアラウ
  ト思フ、現內閣ノ諸公ハ此段祺瑞ト云フ人ノ性格ニ非常ニ信賴セラレ、サウシテ此段
  祺瑜ニ非ズンバ、支那ノ政局ヲ收拾スルニ足ラヌト云フ御考ノミデアル、此段祺瑞ガ克
  ク日支ノ親善ヲ圖リ得ル人デアルト云フ御考ノミノヤウニ私ハ伺ッテ居ル、此事ハ獨リ世
  間ノ風評ノミニ止ラズ、外務大臣ガ今囘ノ議會ニ於ケル答辯ニ依テ明カニ此意味ヲ申
  サレテ居ル、然ルニ昨年ノ二月九日、支那ガ亞米利加ノ勸告ニ應ジマシテ、獨逸ニ潛
  航艇戰ノ抗議ヲ申込ングトキニ如何デアッタカ、亞米利加ノ通牒ガ支那ニ參リマシタノ
  ガ二月ノ三日、越エテ九日ニ閣議ヲ開イテ、此反抗ノ通告ヲ爲スニ至ル間ニハ、其事
  情ヲ日本政府ハ此二トモ御承知ガ無カッタヤウデアル北京ニ於ケル公使館ノ諸君モ此
  事ニ付テハ御聞ガ有ッタカ無カッタカ、夫迄ノ事情ハ存ジマセヌガ、兔ニ角一週間ノ間事
  實ノ有リマスルニ拘ラズ、此事實ヲ御承知ナイサウシテ此段祺瑞一派ノ人〓ガ日本ヲ
  信賴シ、日本ニ依テ總テ東洋方面ノ政局維持ノ重大事ヲ圖ラントスルナラバ、獨逸ノ
  潛航艇戰ニ對シテ抗議ヲ申込ミマスル前ニ於テ、先ヅ日本政府ニ豫メ交涉スルノガ當然デ
  アッタラウト思フ、然ルニ御心好シノ日本外務省ガ出シ拔カレテ、九日ノ日ニ其通牒ガ
  出タノデ、初メテ驚イテ是デハイカヌ、斯ウ云フ事ヲシテ居ッテハ、却テ米國ノ勢力ニ依テ
  段祺瑞ガ左右セラルヽヤウニナルカラト云フノデ、其埋合セト申シマセウカ、何ト申シマセ
  ウカ知ラヌガ、其抗議ヲ申込ミマシタ翌々日、二月十一日吉澤代理公使ガ北京政府
  ニ參リマシテ-國務院ニ參リマシテ、サウシテ更ニ一層進ンデ、協商國側ニ加入スベ
  キコトヲ勸誘シタト云フ事實ガアル、此處ニ居ラレマスル政務局長ノ小幡君ガ、前ノ比
  理公使トシテ居ラレマシタ頃ハ、彼ノ對支勸告ノ際、自ラ日本代理公使デ在リナガラ、
  列國ノ使臣ヲ率井テ、支那ノ好意中立ヲサセタ、是ガ北京外交家ノ一ノ卒先者デアッ
  タノニ、ソレヲ距ル事朞年ナラズシテ、本野外務大臣ノ下ニ在テハ米國ニ先ジラレ、其埋
  合セニ果シテ日本ノ將來ニ對シテ有利デ有ルカ無イカ分ラナイニモ拘ラズ、支那ニ協商國
  加入ヲ勸誘シテ、是デ御茶ヲ濁サウト言フ、是レ抑〓如何ナル御考デアルカ、又現內閣
  諸公ハ、常ニ政府デアルカラ政府ヲ對手ニスルヨリ仕方ガ無イト仰シヤル、之ヲ御非
  難ヲナサル方モアリマスルガ、是ハ一理アル事デアリマセウ、併ナガラ支那モ彼ノ暫行法
  律暫行憲法ニ據テ、國務院ト總統府ト云フモノヲ日本外務省ハドウ御覽ニナル
  カ、例ヘバ黎總統ト段首相トガ反目シタ時ニ、孰レヲ以テ支那ノ主權者トシ、若クハ支那
  國民ヲ代表スル者ト見テ御交涉ナサルカ、御交渉ヲナサル機關ガ成程國務院デナクテハ
  ナラヌ、併ナガラ此場合ハ黎總統及總統府ノ意見ニ重キヲ置カレルカ將タ國務院總
  理ノ下ニ在ル內閣ノ意見ニ重キヲ置カレルカ、此御判斷ニ依テ外交ノ方針ガ違フベキデ
  アル、何時モ寺內伯及本野外務大臣ハ、政府デアルカラ政府ヲ對手ニスルト言ハレルケ
  レドモ、今ノ支那ノ暫行憲法ニ據ル國務院ト總統府トノ權力關係、其他ノ關係カラ
  見テ、是ガ衝突又ハ乖離シタトキニハ、孰レニ重キヲ置クノデアルカ、甚ダ了解スルニ苦
  シン、獨リ黎ト段トノ衝突ノ場合ノミデハナイ、今囘ノ馮ガ大總統ニナッテ、段內閣ガ
  成立シテ居リマシタ際ニ、漏大總統ト段總理トノ間ニ意見ガ衝突シ、國務院ト總統
  府トノ意見ガ衝突シタ時分ニ、政府ガ果シテ孰レヲ援ケラレタカ、斯ノ如キ場合ニ於
  テ此總統府ト云フモノガ支那民國ニ於ケル元首ト見ルベキ總統ノ中心ヲ致スモノデア
  リマスカラ、若シ輕重ヲ問ハヾ、卽チ總統府ノ意見ヲ以テ國務院ノ意見ヨリモ重シトスルノ
  ガ私ハ當然デハナイカト思フ、然ルニ現政府ノ御解釋ハ是ト反對デアッテ、何時モ國務院
  ノ方許リヲ援ケル、其國務院モ段祺瑞ガ總理デアル時ニ、國務院ダケヲ以テ政府ト御
  考ニナッテ居ル、是ハドウ云フ御解釋ニナッテ居ルカ之ヲ伺ヒタイ、又本野外務大臣始メ
  決シテ我政府ハ段祺瑞其人ノミヲ援ケテ居ラヌ、時ノ政府ガ當局者デアルガ爲ニ援ケタ
  ト仰シヤルケレドモ或場合ニ於テハ段祺瑞ヲ御援ケニナッタコトガアルノデアラウ、彼ノ
  三月四日ノ政變ハ如何デアル、三月四日ニ段祺瑞ガ辭表ヲ出シテ、直チニ天津ニ夜逃
  ヲシテ仕舞ッタ、此際ニ於テ再ビ段祺瑞ヲシテ北京ニ歸ルヤウナ時機ヲ造ラセタノハ誰方
  デアル、若シ日本ノ政府ガ此際後援スルコトガナカッタナラバ、此段祺瑞ノ失脚ト云フモノ
  ハ遂ニ永遠ノ失脚トナッタカモ知レヌト云フ事實ガアル、然ルニ此際ニ於テ、日本政府ガ
  飽迄段祺瑞ニ信賴シ、段祺瑞ノ內閣ニ非ズンバ中華民國ノ統一ガ覺束ナイト云フ態
  度デ、表面裏面ニ之ニ援助ヲ與ヘタガ爲ニ、再ビ段祺瑞ガ復活シタノデハナイカ、此時
  ニハ段祺瑞ハ決シテ政府ノ當局者ニ非ラズ、辭表ヲ呈シテ天津ニ逃去ッタ、此段祺瑞
  ヲ援ケテ尙ホ總督トシテ、暫行憲法ノ規定ノ下ニ總統トナッテ居ル黎總統竝ニ總統府
  ノ政策ニ反對シタノガ日本政府デハナイカ、何ヲ目的トシテ此時政府ヲ援ケタト云フ御
  辯解ガ出來ルカ、之ヲ伺ヒタイ、又其政府ノ方針ガ何時豹變スルカ測ルベカラズト云フ
  證據トシテハ、彼ノ張勳ノ復辟問題ノ時分ニ著シキモノデアル、日時ノ事ハ後ニ申上ゲ
  マスガ、我陸軍ノ田中參謀次長ガ支那ニ漫遊デアルカ、視察デアルカ御出デニナッタ當
  時カラシテ、此復辟黨トノ間ニ一種ノ連絡ノ有ッタト云フコトハ事實デアル、サウシテ此
  張勳ガ復辟ヲ致シマスル少シ以前ニ、田中次長竝ニ司令官石光少將、及ビ段祺瑞ノ
  心醉者タル、我公使館附武官タル齋藤少將、是等ノ人〓ト支那ノ宗社黨トノ運動ノ
  間ニ、如何ナル連絡ガアッタカト云フコトヲ知ラヌト仰シヤルナラバ、ソレハ餘リニ國事ニ
  冷淡デアル、自分ノ當面ノ職務ニ不忠實デアル、若シ知ッテ居ラレタラ何故ニ放任セラ
  レテ居ッタノデアル、呑氣迂濶ナル外務省ガ、機敏ナル有力ナル陸軍ノ方針ニ遂ニ對抗
  スルコトガ出來ズシテ、之ニ一任シタト仰シヤルナラバソレデ宜シイ、若シサウデナイトスレ
  バ、此間ニ於ケル石光齋藤ノ諸君ト、支那ノ復辟側トノ關係ニ付テハ如何ニ御覽ニナ
  ルカ而モ張勳ガ事ヲ擧ゲントスル僅カ以前、此石光少將齋藤少將等ガ復辟ヲ寧ロ勸誘
  シタ事實ガアル、是ハ人名ヲ申上ゲルコトハ私ハ友人關係トシテ甚ダ忍ビザルコトデアリ
  マスガ、日本ノ外務省關係ノ官吏、竝ニ支那ノ國務院ノ最モ有力ナル地位ニアル者ガ、
  自ラ話シタ所ニ依テ信ジテ疑ハナイ、而モ其以前マデハ之ヲ慫慂シテ置キナガラ、急遽復
  辟ノ實行ヲ致サントスル其少シ間際ニ至エテテドド云云闇議ガアッタカ、恐ラク外交調査
  會ノ決議ヲ受ケラレタノデアリマセウカ、是ハ私ノ推測デアリマスガ、日本ノ政府カラ斯ウ
  云フ電報ガ來テ居ル、陸軍大臣ノ名デ出タ電報デアル「帝國政府ハ闇議ヲ以テ支那政
  局ニ付キ絕對不干渉ト決セルヲ以テ今後復辟運動ニ干涉スベカラズ」文言ハ此通リデ
  アッタカドウカ不明デアリマスガ、斯ウ云フ意味ノ電報ガ來テ居ル、此意味ノ電報ガ來
  タト云フテ示シタ所ノ日本ノ武官ナリ外交官ナリガ、自分ノ地位ヲ擁護スル爲ニ、故ラ
  ニ作ッタ電報ナラバイザ知ラズ、支那ノ官吏側ノ手カラ私ガ受取ッタ電報ニ、斯ウ云フ
  モノガアル、是ガ陸軍ノ有力ナル參謀次長ヲ始メ、石光齋藤少將等ガ復辟運動ヲ慫通
  シテ置キナガラ、其間際ニ至ッテ闇議デ絕對不干涉ニ定マッタカラ、止メテ呉レト云フ蟲
  ノ好イ御注文デアル、想フニ此點ト云フモノハ、本野外務大臣ガ餘リニ御人ガ好イ爲
  ニ、陸軍ノ隱謀ヲ御承知ガナクテ、不意ニ思付カレテ是デハナラヌト云フノデ、外交調ノ
  會諸君ノ袖ニ縋ッテ此電報ヲ打タセタカ、然ラズンパ初メカラサウ云フ方針デアッタガ他
  査方面カラ抗議ガ出タ爲ニ、猫ノ眼ノ如クニ豹變サレタノデアルカ、孰レカ一ニ居ラナケレ
  バナラヌト思フ、此場合ニ政府ノ態度ハドウ云フ譯デ斯ウ云フコトニナッタノデアルカ、此
  電報ガ陸軍大臣ノ名デ出テ居ルノハ、殊ニ注意スベキ事ト思フ、外務省カラ外務大臣
  ノ名ヲ以テ、支那駐筍ノ外交官ニ對シテ、斯ノ如キ電報が出タナラバ分ルガ、陸軍大
  臣ノ名ヲ以テ支那ニ駐箚シテ居ル陸軍武官ニ對シテ、斯ウ云フモノガ來タ、本員ハ玆ニ
  陸軍大臣ノ御出席ノ無イノヲ遺憾トシマスガ、陸軍大臣ハ見テ見ヌ振リヲシテ、外務省
  ハ陸軍ノ勢力ヲ以テスレバ、ドウデモナルト云フノデ捨テ置イタ、ツレデヤッテ居ルト、恐ラ
  ク此時ノ事ト思ヒマスガ、外交調査會アタリデ反對論ガ出タト云フコトヲ新聞紙上デ
  承ッタ、其結果急遽閻議ヲ開イテ、外交調査會ノ結果ソレガ出來ヌコトニナッタノデ、
  澁ミナガラ陸軍ノ方カラ電報ヲ發セラレタノデナイカト思フ、又斯ク私ガ推定スベキ理由
  ガアル、現內閣ノ首相タル寺內陸軍大臣ハ-總理大臣ハ曾テ朝鮮總督ノ頃ニ、支
  那ノ第一革命ニ依テ、〓帝國ガ滅ビテ中華民國ニナッタ時ニ、朝鮮總督ト云フ地位ニ
  在リナガラ、特ニ內閣ニ對シテ抗議ヲ申越サレタ、鄰國ニ共和國ガ出來ルト云フコトハ
  日本ノ國體上·白々敷キ大事デアル、桐花學會ノ曲學阿世ノ學者ノ言フヤウナ、鄰國ニ
  共和國ノ出來ルノハ日本ノ國體上由々敷キ事デアル、斯ノ如キ事ハ當然如何ナル干
  涉ヲシテモ成立セシメテハイカヌト云フ意見ヲ御出シニナッタ、寺內伯ハ今總理大臣デア
  ルガ、陸軍部內ニハ由來斯ノ如キ議論ガ多イト承ッテ居ル、想フニ本野外務大臣ハ如
  何ナ方針ヲ執ラレテ居ルカ知ラヌケレドモ、總理大臣ハ口ニハ他國ノ內政ニハ不干涉ト
  唱ヘナガラ、頭ノ中ニハ嘗テ持ジテ居ッタ桐花學會的ノ舊思想が潛ンデ居ッテ、機ニ臨ン
  デ現ハレントスルヤウニ考ヘラレル、參謀本部ノ英才諸君ハ、勝手放題ノ運動ヲシテ復
  辟運動ヲ慫慂シテ、外交調査會カラ袖ヲ牽カレルト是デハイカヌト云フヤウナ豹變的
  態度ヲ取ッテ居ルガ故ニ、日本ト云フモノニ對シテ決シテ段祺瑞一派ノ人〓ト雖モ信賴
  ヲシテ居ルノデハナイ、國務院日本ニ長ク居リマシタ所ノ國務院官吏、今樞機ニ
  關係シテ居ル人ト雖モ、私人的ノ話トシテハ、日本ノ方針ニ對シテ苦情ヲ言ウテ居
  ル、殊ニ本野外務大臣ト云フモノニ對シテ、稍〓嘲笑的ノ意味ヲ以テ非難ヲシテ居ル、
  今ヤ日本ノ外務省ノ眼テ御覽ニナッテ居ル段祺瑞一派ハ、大層親日デアルヤウニ見エル
  カ知ラヌガ、一度此世界ノ大戰ガ熄ンデ、更ニ時局展開ノ曉ニ於テハ、決シテ段一派ノ
  ア人ミハ親日派デアルトハ信ゼラレナイノデアル、然ルニ外務大臣始メ今ノ當局ノ諸君ハ
  何ノ見ル所ガアッテ此段內閣ヲ助ケネバナラヌト考ヘラレルノデアルカソレモ徹頭徹尾一
  貫セラルヽナラバ恕スベシ、時ニ依テ景氣ガ惡クナッタラ不干渉、景氣ガ好クナレバ段ヲ
  助ケル、サウ云フ方針デ彼等ノ信賴ヲ得ルコトハ出來ヌト云フコトハ鏡ニ懸ケテ明カナ
  ル事實デハアリマセヌカ此復辟問題ノ事ニ聯關シテ現內閣ガ飽迄モ段ヲ當時助ケラレ
  タト云フコトニ付テハ屢〓議會ノ問題トナリマシタ、交通銀行借款ノ問題ニ付テ論及シ
  ナケレバナラヌト思フ、御承知ノ如ク交通銀行ニ對スル借款ハ、最初ハ五百万圓、六一
  二千万圓、合セテ二千五百万圓ノ借款ガ日本カラ交通銀行ニ對シテアル、其中五百
  万圓ハ、豫テ問題トナリマシタ西原某ナル者ノ斡旋ニ依テ出來上ッタ借款デ、サウシテ
  其調印ハ一月二十日、二月五日ニ發表シテ居ルト記憶シテ居ル、所ガ復辟運動ノ
  際交通銀行ノ借款問題ガ種トナッテ、若クハ日本ノ他ノ人ノ借款ガ本トナッテ之ヲ
  利用シテ現內閣ガ段祺瑞ヲ助ケラレタノデアルト云フ質問ラ、我尾崎君島田君等カラ
  發セラレタ時ニ、外務大臣ハ斯樣ニ答辯サレテ居ル、一月二十四日ノ豫算委員會テ、
  島田君ノ質問ニ對シテ本野外務大臣ハ斯ウ言ウテ居ラレル「私ノ記憶スル所ニ依レバ
  九月ニ成立ッテ居リマス騒ギハ八月デアリマス、デアリマスカラ騷ギノ濟ンダ後ニ馮國璋ガ
  賴ンデ來タ後ニ借款ガ成立ッタノデアリマスカラ、是ハ所謂今ノ其亂ノ用ニ供スル爲ニ
  借款ガ出來タト云フコトハ私ハ言ハレマイト思ヒマス」斯ウ云フ專ヲ日本帝國ノ堂々タル
  外務大臣本野子爵ガ言ウテ居ラルヽ面白イ話デアル張勳ガ復辟ヲ致シマシタノヲ八
  月デアルト仰シヤルガ、是ハ何處ノ國ノ八月デアルカ、今ヤ中華民國ノ曆モ日本ノ太陽
  暦モ同ジデアリマス張勳ガ北京ヘ入京致シマシタノガ六月十六日、北京デ復辟ヲ斷
  行シマシタノガ六月三十日、然ルニ憶面モナク此帝國議會ノ豫算委員會ニ於テ、其騷
  ギハ八月デアルト言ッテ居リマス、成程呑氣ナ外務大臣ガ居ラルヽ六月三十日ノ復辟
  ヲ八月ニヤッタ、サウシテ借款ハ九月ニ出來タノダカラ、其金ヲ使タタノデハナイト云フ、斯
  ウ云フ不誠意ノ答辯ヲシテ、吾〓議員ヲ瞞著スルコトガ出來ルト御考ニナルカ(拍手起
  ル)實ニ馬鹿氣タ答辯、勝田大藏大臣ノ答辯ハ流石ニ當局デアリマスカラ、本野外務
  大臣トハ違ヒマスカラ、モット詳シク事情ヲ述ベテ、多少本野外務大臣ノ答辯ト違ッテ居
  リマスガ而モ尙ホ其解釋ニ於テ自分ノ政策ヲ庇護スルニ急ナル、我田引水的ノ解釋ヲ
  シテ居ラルヽカラ、事實ノ眞相ヲ誤ッテ居リマス故ニ此問題ハ度〓出マシテモ、私ハ此
  處デ繰返シテ追究スル必要ガアル、唯今ノ六月三十日ニ張勳ガ復辟ヲヤッテ、サウシテ
  此復辟運動ニ對シテハ最初ハ段祺瑞其人モー外務大臣ノ眼カラ見ルト、篤實ナル
  信賴スベキ段祺瑞其人モ、策略上張勳ニ對シテ略〓同意ノ趣ヲ申越シタコトハ、日本ノ
  留學生デアッテ、張勳ノ祕書役トシテ甚ダ面白カラザル人物デアリマスケレドモ、當時重
  要ナル事ヲ働イタ一官吏ニ其證據ヲ握ラレテ居ルデハアリマセヌカ此段始メ復辟ニハ
  贊成ノヤウナコトヲ督軍ガ言ッタ、是ハ一部ノ政略トシテ、段派ガ勢力恢復トシテ言ッタ
  モノデアラウト思フ、段其者ハ口ニ中華民國ノ共和ノ守護者デアルト云フコトヲ唱ヘテ
  居ルカラ、本心デサウシタモノトハ思ヒマセヌガ、免ニモ角ニモ斯ノ如キ通牒ヲ送ッテ居ル、
  愚直ナル張勳先生ハ一圖ニ夫等ノ人〓ヲ信ジテ、急遽事ヲ擧ゲテ、遂ニ策ヲ誤ッタノデアリ
  マスガ、其事業ノ成否ハ免モ角モ、其事ハ唯今申上ゲル通リ、六月三十日ニ復辟ヲ斷
  行シタ、此復辟斷行ト同時ニ、段祺瑞ハ手ヲ翻スガ如ク張勳ニ對スル通牒ニ反シテ、
  討逆ノ軍ヲ起シタ、民國ヲ轉覆セムトスル逆賊張勳ヲ討ツト云フ美名ノ下ニ、張勳ニ對
  シテ反抗ノ兵ヲ起シタ、然ルニ悲シイ哉金ガ無イ、爰ニ至ッテ第一ノ運動準備ヲスル金
  デアリマスカラ、此問題ニ付テ日本ノ公使館ニ交涉ヲ致シタ事實ガアル、是ハ或ハ本野
  外務大臣ノ加キ、年月スラ間違ッター最近ノ事實スラ二月モ御間違ヘニナルヤウナコ
  トヲ、平然トシテ言ハレル外務大臣デアルカラ、其樣ナ事實ハ斷ジテ無イト言ハルヽカ知
  ラヌガ、此處ニモ一ツ證據ガアル但シ私ハ友人關係ト致シマシテ、之ヲ私ニ明カシタ日
  本ノ官吏ノ名ヲ言フコトハ出來ナイ强ヒテ外務大臣ガ鷺ヲ白而ト云フ詭辯ヲ以テ言ヒ
  遁ルヽナラバ、之ニ對スル證據ハ提供スルコトガ出來ルガ、良心ニ御尋ガアッタナラバ、果シ
  テ其事實ナルコトヲ御承知ニナラナケレバナラヌノデアリマス、卽チ七月上旬デアリマス、
  此日ハ私ノ聞イタ所ガ記憶ニ確カデアリマセヌガ、此段祺瑞ガ復辟ヲ致シマシタ張勳ヲ
  討伐スルガ爲ニ、所謂討逆軍ヲ起スニ當ッテ金ガ要ル、其資金ヲドウカシテ呉レト云フ
  賴ミガアッタ時ニ、之ヲ日本ノ公使館ガ直接ニ口ヲ添ヘタトハ申シマセヌガ、間接ニ日本
  公使ノ慫通ニ依ッタ事實デアルト存ジテ居リマスガ、三菱合資會社カラ此百万圓ト云フ
  モノヲ借ルコトニナッタ、サウシテ其借入ル形式ハ、當時三菱ノ北京支店ニ於テハ、百万
  圓ト云フ正金ガ無イ、ソコデ借款ナラバ宜シイガ、之ヲ政治上ノ用途ニ供セラレテハ困ル
  カラト言ッタ所ガ-ト云フ口實ヲ以テ、一應ハ拒絕致シマシタ所ガ、其際ニモ或ル二
  三ノ人〓ガ間ニ立チマシテ、公使館ニ交涉ヲ致シマシタ所ガ、北京ノ公使館ニ於テハ
  此大借款ノ前渡ノ第二次ノ借款、若クハ交通借款ノ件ガ、話ガ旣ニ略〓決ッテ居ルノ
  デアリマスカラ、今融通サレル一百万圓ハ、其次ニ出來マス何レカ早イ方ノ借款中カラ
  返却ヲサセルト云フ保證ヲ與ヘタニ依テ、三菱ハ此百万圓ヲ貸シタノデアル、而モ是ハ
  三菱ノ支店長ノ秋山氏ガ天津マデ下ッテ參リマシテ、サウシテ此段祺瑞一派ニ交渉ヲシ
  テ、百万圓ト云フモノヲ八分五厘ノ利子ヲ以テ一百万圓ヲ貸渡シタ、其擔保ニハ成程
  海蘭炭礦ノ株券ガアリマス、此株劵タルヤ當時ニ於テハ殆ド値打ノ無イ、人〓其價値
  ヲ疑ッタ株券デアル、斯ノ如キ薄弱ナル擔保ヲ以テ日本ノ實業家ガ、若シ間接ナリトモ
  日本政府ノ保證デモ無カッタナラバ、何故ニ危ナイ既ニ失脚シテ居ル所ノ段祺瑞ニ對シ
  テ、百万圓ト云フ大金ヲ融通スルコトガ出來マセウカ、而モ其百万圓ハ三菱ノ手ニ無
  ク正金銀行カラ借入レタ、正金銀行カラ借入ルニ付テ、正金銀行ハ無擔保若クハ無
  擔保同樣ナ三菱ノ借款ニ對シテ、今ノ百万圓ヲ貸スコトハ危險デアルト云フコトヲ、小
  貫正金支店長ガ申述ベタ所ガ、是ハ日本ノ公使館ガ保證スルカラ貸與ヘタラ宣シカラ
  ウト云フコトヲ忠告サレタ、斯ノ如ク二重三重ノ忠告ノ下ニ、段祺瑞ハ百万圓ヲ借リ
  テ、之ヲ基トシテ初メ一度政略上贊成シマシタ張勳ノ復辟運動ニ反對シテ、美事ニ共
  和ノ擁護者タルノ美名ヲ得テ、再ビ權力ヲ恢復シタ次第デアル、此間ニ於ケル我ガ外務
  省ノ段祺瑞ニ對スル〓誼ハ到レリ盡セリデアリマス、吾ミカラ見ルト不思議ナ程厚意ヲ
  御盡シニナッテ居ル、而モ八月十二日ニ段祺瑞ガ北京ニ入リマシテ、張勳ノ軍ヲ攻擊
  致シマシタ時ニ、張勳ノ別軍ガ天壇ニ立籠ッテ居ル、張勳ノ屋敷ノ中ニ居ル兵ハ既ニ包
  國サレテ居リマスガ若シ此天壇ニ居ル張勳ノ兵ガ、一度死ヲ決シテ起ッタナラバ北京
  ノ城下ハ兵火ノ巷トナルノデアル、其時ニ僅カ七万五千圓カ七万七千圓ト云フ金ヲ
  公使館書記官ガ正金銀行ヘ自ラ行ッテ御取出シニナッテ、段祺瑞ニ御授ケニナッタ斯
  ク迄段祺瑞擁護ノ役ヲ御遣リニナル外務省ノ御方針ハ、果シテ如何ナル確信アッテヤラ
  ルヽカ、是文ノモノヲ出シテ、ソレニ依テ段祺瑞ノ勢力ガ確立シ、支那四百餘州ノ統一
  ト云フコトガ出來ルナラバ結構デアルガ、而モ其後ノ形勢ニ於テハ、段ハ再ビ失墜シ、三
  タビ失墜シテ居ルデハナイカ、斯ノ如ク反覆常ナキ人ヲ援ケテ、之ニ依テ飽迄對支親善
  ノ方針ガ成レリト御考ニナルニ至ッテハ私ハ幾ド無方針無誠實ト云フコトニ付テ、深ク
  國家ノ爲ニ〓嘆セザルヲ得ヌ(拍手起ル「簡單々々」ト呼フ者アリ)斯ウ申シマスト、本野
  外務大臣ノ如キ--誠意ヲ缺イテ居ル御答辯ヲナサル方ハ、ソレハ間違ッテ居ル、此借
  款ノ出來タノハ其當時テナイ、此處ニ自分ハ間違ッテ借款ノ約束ガ九月ニナッテ成立シ
  タト申シテ居ルケレドモ、是ハ實際ニ於テ借款ガ出來タノガ九月デアルト云フヤウナ御答
  辯ヲナサルカ知ラヌ、併シソレハ間違デアリマス、九月ニ成立シマシタ借款ハ交通借款ナ
  ノデアリマス、併ナガラ交通借款ノ約束ガ小田切君トノ間ニ結バレマシタノハ七月
  二十九日デアリマス、此即チ段祺瑞ガ張勳ヲ討伐シテ北京ニ再ビ乘入ッタノガ十四日
  デアリマスカラ、其間ヲ隔ツルコト十四日ニ過ギナイ、此時ニハ約束ガ成立シテ居ル、此
  約束ヲ目當ニ三菱ガ百万圓貸スト云フコトハ少シモ怪ムニ足ラヌ、此外務大臣ノ御答
  辯ハ失禮ナガラ僞ヲ言ハレタモノニ非ズンバ、健忘症ニ罹ラレタ御答辯ト思フ、其次ニ
  御尋致シタイノハ同ジク是ハ段一派ノ北洋派ノ軍閥ヲ援ケル結果ニナッタノデアリマス
  ガ、所謂軍器借款ノ問題デアリマス、此軍器借款ノ問題モ其端〓ヲ尋ネマスレバ、田
  中參謀次長ノ渡支ノ當時ニアルト伺ッテ居リマスガ、是ハ私ハ正確ニ證明ハ出來ナイ
  免ニモ角ニモ此軍器借款ト云フモノハ、田中次長、石光少將等ノ人ミノ相談ノ結果、
  此九月初旬ニ於テ既ニ北京ニ於テハ略〓決シテ居ッタト云フコトハ事實デアル、私ハ九月
  六日ニ齋藤少將ニ親シク面會致シマシタガ、其當時少將ハ將ニ大演習參觀ヲ兼ネテ
  國ヘ歸ラントシテ居ル、其用務ハ實ハ重大ナ案件デアルト云フコトヲ言ハレタガ、ソレヲ偵
  察シマシタ所、重大ノ案件トハ卽チ軍器借款三千万圓、表面四百万圓ノ名ヲ以テシ
  タ三千万圓軍器借款締結ノ爲ニ歸ラレタ、所ガ南北倥像ノ最中ニ當リマシテ、北軍
  團ノ爲トハ申シマセヌケレドモ、日本カラ三千万圓ニモ達スベキ巨額ノ金額ニ相當スベキ
  武器ヲ供給シマスルナラバ、縱令是ガ直接ニ南方討伐ノ用ニ供もラレズトモ、過日望月
  君ガ質問致サレマシタ通リ、今月四日ニ秦皇島ニ著イタ武器ノ如ク、此武器ガ著キマス
  レバ遂ニ濟南ノ倉庫ヲ空ニシテ兵庫ヲ空ウシテ之ヲ他ニ送ルト云フヤウナ風デ、ド
  ウデモ融通ガ付クモノデアリマスカラ、結局ハ南方討伐ノ用ニ供セラルヽノハ言ヲ俟タナ
  イ而モ甚ダ蟲ノ好イ話デアル、此軍器借款三千万圓ハ南方討伐ニ用ヒズト云フ條件
  ガ附イテ居ルト齋藤少將ハ言フ、コンナ條件ガ支那人ニ對シテドウ云フ效力ガアルカ、南
  方ノ討伐ニ用ヒズナドヽ云フケレドモ今囘送リマシタ日本ノ軍器ハ、是ガ最近ニ於ケル或
  ハ大正三年式ト云フヤウナ如キ銃デアッタトスレバ、是ガ到著シマスルト同時ニ豫テ持ッテ
  居リマシタ四十三年式等ヲ南方ヘ運ベバ、矢張討伐ノ用ニ供サレテ居ルモノト言ハレル、
  同ジク武器ハ南方討伐ノ用ニ供セラレテ居ル、然ルニ斯ウ云フ條件ヲ附シタ所ガ、決一
  テ北洋武斷派ヲ援ケタモノデナイト云フ御辯解ハ、甚ダ暗イ御辯解ト思フ、尙ホ此問題
  ノ如キ時ニモ、而モ御失敗ニナッタ豫テ問題ニナッテ居ル、鳳凰山竝ニ水口山ノ問題ヲ條
  件ニシマシテ、此鳳凰山竝ニ水口山ノ亞鉛鑛ノ問題ヲ解決スルナラバ之ニ付テ或方
  法ヲ講ジテヤラウト云フヤウナ御話ヲナスッタサウデアリマス、而モ是ハ美事ニ刎付ケラレタ
  私共ノ見ル所ヲ以テシマスレバ、此軍器借款ノ爲ニ如何ニ所謂南方派南方派ト
  云フト語弊ガアリマスルガ、所謂廣東政府及是ノ一味ノ連中若クハ長江沿岸ニ於ケル
  北京政府ト必ズシモ合致シナイ所ノ灰色ノ是等ノ人ミトノ間ニ、此日本ノ軍器借款ハ非
  常ナ不人望デアル、此爲ニ延イテ更ニ鳳凰山ノ問題ノ解決ヲ急ガセマシテ、日本ノ實業
  團ノ取リ得ベキ利權ハ空シク支那ノ南洋華僑等ノ手ニ這入ッテシマッテ、遂ニ日本ハ垂涎
  スルニ過ギナカッタト云フコトヲ言ッテ居ル、若シ是位ノ借款ヲ-兵器ヲ御賣込ニナッテ
  借款ヲナサレヤウト云フナラバ、何故ニ少ナクトモ北洋派ニ對シテ、反抗ヲ持ッテ居ル南
  方ノ連中カラ非難ヲ受ケザルヤウニ、他ノ水口山ナリ鳳凰山ノ問題ヲ解決シテ、之
  ニ對シテ支那政府ニ三千万圓金ヲ貸ス、其借リタ金デ以テ支那ハ日本ニ於テ泰平公
  司カラ武器ヲ買フト云フコトニシマスレバ、日本政府ガ北方ヲ援ケタト云フ非難ハ免カルヽ
  ノミナラズ、之ニ依テ日本ノ最モ必要トスル所ノ利權モ併セ得タノデアリマセウノニ、其
  爲サレ方ガ陸軍方面ノ交涉ト外務省方面ノ交涉ト、常ニ齟齬懸隔致シテ居リマシタ
  爲ニ、或ハ早ク反抗ヲ招キ、或ハ事實ニ齟齬ヲ來シテ、遂ニ此有力ナル問題ヲ失ッテシ
  マッタ、此利權ヲ本トシタ所ノ借款ト云フ好名目ヲ失ッテ、徒ニ軍器借款ト云フ名ヲ貽
  シン、各方面カラ反對ヲ受ケ、遂ニ延イテ日本政府ガ段祺瑞ヲ飽マデ援ケルコトハ坊
  主憎ケレバ袈裟マデ憎シト云フ喩ノミナラズ、排段ノ感情ハ軈テ排日ノ感情ニナッテ、長
  江沿岸ニ於テ排日感情カ漲リ來ッタコトハ御承知デアラウト思フ、又(「マダアルカ」ト呼
  フ者アリ)山東民政問題ニ關シマシテモ、當局ノ御答辯ハ更ニ要領ヲ得ナイ、過日來
  此問題ニ對スル御質問ヲナスッタ諸君ガ大勢アリマシタガ、其中デ一月二十九日ノ豫
  算會議ニ於ケル古谷久綱君ノ質問ニ對シテ、陸軍大臣ハ何ト云フテ御答ニナッタカ、此
  支那政府ガ之ニ對シテ、支那ノ人民竝ニ支那ノ政府ガ、山東民政問題ニ反抗シマスル
  ノトハマルデ根柢ヲ異ニシタ御答辯ニナッテ居ル、例ヘバ山東民政署ノ支署ガ某市ニ
  一箇所アル、其某市ノ附近ニハ日本ノ山東鐵道ノ軍事的占領ニ依テ、其附屬地デ
  ハアリマセヌガ、附近ニ多數ノ日本人ガ集ッタ其所ヘ支那人モ來テ、一緒ニ町ヲ造ッテ
  新市街ガ出來テ居ル、其新市街ハ是ハ矢張民政署ノ管轄トナサル御積リデアルカ、ド
  ウカト云フコトヲ、古谷君ニ突込マレタ時ニ、陸軍大臣ハ斷然是ハ日本ノ民政署ノ管
  轄以外デアル時ニ依レバ御近邊ダカラ御世話ハスルカモ知レヌガ管轄以外デアルト明言
  サレテ居ル、是ハ速記錄ニ明カニ載ッテ居ル、サウ致シマスレバ此事實ガ初メカラ明カデアッ
  タナラバ、今囘ノ如キ山東民政問題ニ對スル支那人ノ反抗ト云フモノハ、殆ド起ラズニ
  濟ンダラウト思フ、而モ此問題ニ對シテ、外務省ハ陸軍省デ決定サレテ、愈〓民政署ガ
  置カルヽマデ御承知ナカッタト云フ御目出度イ事實ガアルヤウデアル、支那政府カラ
  之ニ對スル抗議ガ出マシテモ一月經テドモ二月經テドモ外務省カラ答辯ガ來ナイ、來
  ナイノモ御尤デアル、其當時或ハ寛大宏量ナル本野外務大臣丈ハ、御承知デアッタカ知
  ラヌガ、少ナクトモ日本ノ支那ニ居リマスル公使始メ公使館員ナリ、領事館員ナリ、一人
  トシテ此山東ニ民政ヲ布クト云フ問題ヲ知ッテ居ック者ガ無カッタノデアル一人モ無イ、
  是ハ彼等ガ明カニ言ウテ居ル、所デ外務大臣御一人ハ御承知カ知ラヌケレドモ、ソレヲ
  自分ノ部下タル所ノ公使館員ヤ領事館員ニハ何等ノ御通知モ無ク、況ヤ未ダ曾テ
  支那ノ事情ヲ餘リ御〓究ニナラナイ本野君ガ、若シ御誠意ガアルナラバ、此方面ニ長ク
  居ッテ事情ヲ承知シテ居ル者ニ對シテ陸軍カラ斯ウ云フ交涉ガアッタガ、其結果如何デ
  アッタラウト云フ交涉ガ、一應有ルベキ筈デアッタラウト思フ、然ルニ何ゾヤ是ガ布カレテ
  支那ノ方面カラ反對運動ガ起ッタ後ニ至ッテ、初メテ驚イテ、斯ウ云フ事ハ無イ筈ダ毛むけ.
  ハ何等ノ通牒ヲモ受ケズ、後デ之ヲ知ッタノデアルト云云コトハ、日本ノ外務省所屬ノ官
  吏ガ公言シテ居ル事實デアル(「ドウデス簡單ニシマシタラ」「同ジ事ヲ止メ給ヘ」ト呼フ者
  アリ)此問題ニ對シテ支那ノ方面カラ反對ノ起リマシタ理由ハ、此日本ガ軍事的占領
  ニ依リマシテ、占領致シマシタ雜縣以東ノ土地ニ民政ヲ布カレヤウト云フ、ワレハ支那ガ
  何等關係スル所デハナイ、然ルニ山東鐵道ナルモノハ南滿鐵道、東〓鐵道等トハ違ヒマ
  シ六、附屬地ナルモノハ鐵道線路ノ外、幅五間ヲ出デナイ兩側五間ヲ出デナイ、、其間
  ニハ一人ト雖モ日本臣民ノ居住スル者ハ無イ、唯〓附屬ノ停車場ノ驛員ガ居ルノミデ
  アル、而モ山東鐵道ノ驛員ハ御承知ノ通リ軍屬トシテ板ハレテ居ル、軍屬ニ對シテ民政
  ヲ以テ之ヲ治メラレル所以ハ何處ニアル、其維縣以東ト云フ範圍ヲ乘越シテ某市ニ至
  リ、更ニ最初ノ御計畫ニ依レバ、高縣濟南悉ク民政支署ヲ置カレヤウト云フ方針デアッ
  タ、其爲ニソラ大變ナ事デアル、日本ハ唯ダ一本ノ鐵道線路ガアレバ、ソレヲ言掛リニシ
  テ其處ヘ民政ヲ施イテ、而シテ支那ノ人民マデモ日本ノ民政ノ下ニ統治シヤウトスル
  斯ノ如クデアッテハ、到底支那ノ國權ト云フモノハ保テナイ、他ノ滿蒙地方ニ於テモ、到
  ル處ニ日本ハ民政ハ施クニ違ヒナイ、斯クテ支那ノ領土權ハ蹂躙サレルト云フ、是ガ彼
  等ノ誤解ノ本デアル、然ルニ其問題ハ外務省ハ初メ御承知デナイ、支那カラ抗議ヲ受
  ケタ後ニ始メテ御承知ニナック、而モ今二至ッテハ段々向フノ方ニ理窟ガアル、日本ノ
  外務省部內ニモ、支那ノ主張ニ贊成者ガアル、此ニ至ッテハ答辯ニ窮シテ、陸軍デハ
  言遺レノ爲ニ、彼ノ某市等ニ民政支署ヲ置イタノハ、決シテ其附近ニ出來タ新市街ノ
  支那人日本人ヲ管轄スルノデハナイ近イカラ御親切ニ世話ハ燒イテヤルカモ知レヌガ、
  之ヲ管轄ハシナイト云フヤウナ答辯ヲ陸軍大臣ガシテ居ラレル、其御答辯ニ對シテハ、外
  務大臣ハ何ノ顏色ガアッテ支那官憲ニ見エントセラルヽカ、又斯ノ如キ問題ニ對シテ支
  那ノ反抗ヲ惹起シ、次デ大眼目タル日支親善ヲ害スルニ至ッタ其責任ヲ、如何ニ爲サ
  ル御考デアルカ、之ニ對スル御答ヲ伺ヒタイト思フ(「未ダアルノカ」「モウ宜カラウ」「要點
  ヲ簡單ニ顧ヒマス」ト呼フ者アリ)次ニ伺ヒタイノハ、此日本ノ外務省ノ諸君ハ、支那ノ
  長江以南ノ人民ノ謂ハヾ輿論ト謂フベキモノニ對シテ、ドウ御考ニナッテ居ルカト云フコト
  デアル、北京ニ於ケル日本外務省ノ代理者、又陸軍ノ代表者等ハ曰ク、日本人ハ動〓
  モスレバ南方派ノ勢力トカ何トカ言ハレルガ、南方派ナルモノガ何處ニアルカ、彼ノ陸榮
  廷ノ如キハ元ト草賊ニ過ギナイ、又岑春煊ノ如キハ老朽爲スニ足ラナイ、コンナ者ヲ對手
  ニシテ居ッテハ、到底日支親善ハ出來ルモノデナイ、寧口日本ニ最モ信賴シテ、サウシテ有
  力ナル實力ノアル段祺瑞ヲ援ケルニ若カズト云フコトハ、是ハ公言サレテ居ル事實デア
  ル、併ナガラ若シ實際ノ實力ヲ問フナラバ、私ハ之ニ反シテ、寧ロ所謂南方派ナル者ノ
  方ガ實力ガ多イト思フ、殊ニ段祺瑞ガ自分ノ乾兒ノ傳良佐トカ、呉光新トカ云フ者ヲ
  誑カサレテ湖南方面へ送ッテ、出ルニ出ラレズ、退クニ退カレズ、遂ニ免職サレルヤウナ羽
  目ニ陷レラレテ仕舞ッタ、其無智無策ニ至ッテハ賴ミニスルニ足ラナイト思フ、況ヤ外
  務省當局ノ諸君ナドガ所謂草賊ト爲シテ居ラレル所ノ、陸榮廷ノ兩廣地方ニ於ケル勢
  力ハ如何デアルカ、若シ陸榮廷ヲ以テ草賊ナリト云フナラバ、〓朝ト雖モ元ト草賊デア
  ル、段祺瑞ト雖モ草賊ノ乾兒デアル、又張作霖ノ如キハ馬賊デアル、斯ノ如キ出身云
  云ヲ以テ、日本ガ外交ノ對象トスベキ人〓ニ對スル價値ヲ評價スベキモノデハアルマイト
  思フヽ然ルニ何ゾヤサウ云云安安タル意見ニ滿足シテ居ッタ爲ニ機宜ヲ誤ッテ、今ヤ南方
  ノ勢力ガ、却テ所謂北洋軍閥派ノ勢力ヲ壓セントスルノ勢ヲ進メシメタト云フモノハ、
  結局日本ガ段祺瑞氏ヲ買被ラレタ爲カ、若クハ段ノミヲ援ケテ、所謂南方派ノ與論ナ
  ルモノヲ無視サレタ責任デアルカ、孰カ其一ニ出デナクテハナラヌト思フ、過去ハ追フ
  ベカラズト致シマシテモ、將來ニ於テ所謂此南方派ノ勢力ナルモノヲ、我ガ外務當局其
  他ガ餘リニ輕視セラレルト、支那ノ紛擾ハ永遠ニ熄ムコトハ出來ヌト私ハ思フ、近頃支那
  ノ形勢ヲ論ズル者ノ中ニ、段々此外務省ノ如キ僻見カラ脫シマシテ、南北ノ調停、四百
  州ノ統一ト云フコトヲ以テ、日本ノ對支方針ノ根本ニシナケレバナラヌト云フコトヲ論ゼ
  ラレル御方ガアルノハ、甚ダ慶ブベキ傾向デアリマスルが、過去ヲ旣ニ咎メズトスレバ、更ニ
  本野大臣等ハ一層御一考アッテ、從來ノ御方針ヲ御變更ナサル御考ガ有ルノデアルカ、
  無イノデアルカ、唯ダ吾ミハ徒ラニ反對黨トシテ、本野外務大臣攻擊ノ爲ニ言辭ヲ弄ス
  ル次第デハナイ、日本ノ將來ノ爲ニ、東洋百年ノ大計ノ爲ニ、是ハ重大ナ問題デアル、
  徒ラニ前言ニ拘泥セラレ、其場限リノ誤魔化シノ答辯ヲ以テ、一時ヲ糊塗シテ滿足セ
  ラレルト云フコトハ、決シテ國家ニ忠實ナル御處置トハ申サレマイト思フ(拍手スル者ア
  リ)私ハ本日寺內總理大臣ノ御出席ノ無イノヲ遺憾ト致シマスガ、寺內首相始メ本野
  外務大臣ニ至ルマデ、從來支那ニ對シテ、對支方針トシテ執ラレマシタ所ハ、根本カラ
  誤ッテ居ル、而モ諸種ノ借款、山東問題ト云と、又所謂南方派ヲ餘リ輕視セラレタ其
  結果ト云ヒ、因果覿面日本ノ外交ヲシテ、愈~難局ニ陷ラシメタノヲ見テ、願クハ今一
  應曾テ本野君ガ歐洲出兵論ヲ露西亞デ唱ヘラレテ、其言責ガ殘ッテ居ル爲ニ、之ヲ協
  商國ニ拒絕スルコト能ハズ、已ムヲ得ズ屋上屋ヲ加ヘテ外交調査會ヲ設ケ、其決議デ
  アルト云フ口實ノ下ニ出兵ヲ拒絕セラレタト同ジヤウニ、更ニ御一考アッテ、從來ノ方針
  ガ間違ッテ居ッタカラ、以後改メテ、支那ニ對スル方針ヲ定メヤウト云ウコトヲ、國民ト共
  ニ、吾〓國民ノ代表者ト共ニ御謀リニナルヤウニ、改過遷善ノ御決心ノ付カンコトヲ希
  望スル次第デアリマス(「質問デスカ希望デスカ」ト呼フ者アリ)尙ホ支那ニ於ケル我ガ
  外交官竝ニ領事官ノ事ニ付テモ、少シク御伺ヒシタイ事ガアッタノデアリマスガ、後ノ質
  問者モ多ウ御坐イマスシ餘リニ長クナリマシタカラ是デ止メマス(拍手起ル)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=14

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• 015・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　本野外務大臣

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=15

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• 016・樋口秀雄

  ○樋口秀雄君　尙ホ申添ヘテ置キマスガ、恐ラク此御答辯ハ卽席デハ出來マイト思ヒ
  マスカラ、御熟考ノ上書面デヾモ御提出ヲ願ヒマス
  〔國務大臣法學博士子爵本野一郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=16

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• 017・本野一郎

  ○國務大臣(法學博士子爵本野一郞君)　政府ノ對支方針ニ付キマシテハ、再三再
  四本大臣カラ諸君ノ前ニ於テ述ベテアリマス、諸君ハ能ク御承知ノ事ト思ヒマス、唯ダ
  其方針ニ付テ、樋口君ヤ吾輩等ノ意見ガ異ナルト云フコトデアリマス、ソレカラ今日色〓
  御持出シニナリマシタ點ハ、既ニ再三再四本會議デモ、又委員會デモ、分科會デモ、祕
  密會デモ、隨分同ジ問題ニ付テ屢〓、答辯致シテ置イタ次第デ御坐イマス、併ナガラソ
  レニ付テモ、尙ホ政府ノ答辯ハ不誠意デアルトカ何トカ、勝手自儘ノ御批評ガ御坐イマス
  ルケレドモ、其御批評ハ別ト致シマシテ、唯今モ御話ノ通リ、此事ハ最早私カラ答辯致
  シタ事デ十分デナイト云フ御考デアリマスル以上ハ、書面ヲ以テ御答致スコトニ致シタ
  イト思ヒマス、左樣御承知ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=17

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• 018・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　質問ノ第三ハ、質問者ニ於テ順序變更ノ申出デガアリマシ
  タカラ、之ヲ許可致シマス、隨ッテ物價調節ニ關スル質問ヲ許可致シマス-紫安新九
  郞君
  五物價調節ニ關スル質問(紫安新九郞君外一名提出)
  物價調節ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正七年一月三十一日
  提出者紫安新九郞野村嘉六
  贊成者賴母木桂吉
  外二十九人
  物價調節ニ關スル質問主意書
  暴利ヲ目的トスル賣買ノ取締ニ關スル農商務省令ハ法律又ハ緊急勅令ヲ以テ制定
  スヘキ事項ナリト信ス政府ノ之ニ依ラサリシ根據如何
  右及質問候也
  〔「議長議事進行ニ關スル緊急動議ガアリマス」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=18

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• 019・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　紫安君ニ發言ヲ許シマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=19

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• 020・紫安新九郎

  ○紫安新九郞君　農商務大臣ノ出席ヲ要求致シマス
  〔紫安新九郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=20

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• 021・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　紫安君ニ申上ゲテ置キマス、農商務大臣ハ、貴族院ノ豫
  算委員會ノ方ニ出席ヲサレテ居リマスカラ、其通告ヲ致シマシタガ、成ルベク出席ヲスル
  トノ事デアリマシタ
  (「農商務大臣ガ居ラヌデモ傍聽人ガ居ルカラ宜シイ」ト呼フ者アリ笑聲起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=21

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• 022・紫安新九郎

  ○紫安新九郞君　諸君、私ノ政府ニ對シテ質問セントスル事柄ハ、今ヤ世上ノ大問
  題ト目セラレテ居ル所ノ物價調節令、卽チ暴利ヲ目的トスル賣買ノ取締-農商務
  省令ニ付テ質問セントスルノデアリマス、現政府ハ曩ニ營業ノ自由、取引ノ自由ヲ制限
  セラレテ、對敵取引ノ禁止令ヲ施行スルニ當ッテモ、之ヲ法律ニ依ラズ、又緊急勅令ニ
  依ラズシテ、單ニ法律ヲ以テ(「法律ナラ宜イヂヤナイカ」ト呼フ者アリ)公布致シマシタ
  ガ、此度モ亦最モ國民ノ權利ニ重大ノ關係ノアル所ノ物價調節令ヲ布クニ當ッテ、單
  ニ省令ヲ以テシテ、大ニ官僚政治ノ特色ヲ發揮シテ居ルノデアリマス、現政府ニ對シテ
  官僚政治ノ弊ヲ攻擊スルト云フコトハ、恰モ路傍ノ石地藏ニ說法スルヤウノモノデアル、
  甚ダ手應ノナイ事柄デハアリマスカナレドモ、近來ノ如ク政府ガ官僚式ヲ發揮シテ、帝
  國議會ノ立法協賛權ヲ蹂躙スルニ至ッテハ、已マント欲シテ一言已ム可ラザルモノガアル
  ノデアリマス(拍手起ル)暴利ヲ目的トセル賣買ノ取締ニ關スル命令ノ目的ト精神ニ至ッ
  テハ、天下何人モ之ニ異論ヲ唱フル者ハ無イノデアル、今ヤ戰時ノ影響ヲ受ケマシテ、
  諸物價ハ非常ニ騰貴シ、就中米價ガ暴騰致シマシテ、國民ノ中產階級以下ニ屬スル
  者ハ、之ガ爲ニ生活ヲ脅サレテ居ルノデアル故ニ此場合ニ於テ國民ノ必需品ノ市價ノ
  標準--正準ヲ得セシメ、騰貴ノ防遏ヲ爲サシムル事ガ最モ必要デアルト云フコトハ、
  是亦論ヲ俟タヌ話デアリマス、故ニ此命令ノ目的ト精神カラ判斷スレバ、時局今日ノ
  場合ニ於テハ最モ適當デアル、併ナガラ此命令ヲ出スニ當ッテ、政府ハ果シテ適法ノ手
  段ニ出デタノデアルカ、又此命令ノ運用上ノ效果ハ果シテ如何、是レ本員ガ政府ニ質
  問セントスル所デアル、私ハ此政府ノ發布セル暴利ヲ取締ル命令ハ、確ニ立法ノ形式ヲ
  誤ッタモノデアル、明カニ憲法違反タル事ヲ玆ニ斷言スル者デアリマス、何故ニ本員ハ此
  命令ヲ以テ憲法違反ナリト斷言スルカト云ヘバ營業ノ自由ヲ制限シ、取引ノ自由ヲ
  制限シ、所有權ヲ侵セルモノデアルカラデアリマス(「ソンナニ斷言スルナラ決議案デモ出セ
  パ宜イヂヤナイカ」ト呼フ者アリ)營業ノ自由ノ淵源ハ、明カニ帝國憲法ニ存スルノデア
  ル、伊藤公爵ノ帝國憲法義解ハ、憲法第二十二條ノ解釋ニ於テ斯樣ニ言ッテ居ルノデ
  アル、「凡ソ日本臣民タル者ハ帝國疆內ニ於テ何レノ地ヲ問ハス定住シ借住シ寄留シ及
  營業スルノ自由アラシメタリ而シテ憲法ニ其ノ自由ヲ制限スルハ必法律ニ由リ行政處
  分ノ外ニ在ルコトヲ揭ケタルハ此レヲ貴重スルノ意ヲ明ニスルナリ」トアル、然ルニ仲小路
  農相ガ昨年此命令ヲ發布シタル當時ニ說明セル言トシテ、坊間ニ傳ハル所ニ依レバ、政
  府ガ此命令ヲ出シタル憲法上ノ根據ハ、憲法第九條ニ在ルト言ッテ居ルノデアル、然ルニ
  憲法義解ハ農相ノ憲法上ノ根據トセル憲法第九條ノ行政命令ノ大權ノ解釋ニ付テ、
  斯樣ニ言ッテ居ルノデアリマス「本條ニ揭クル行政命令ハ以テ法律ノ範圍ノ內ニ處分シ
  又ハ法律ノ曠闕ヲ補充スルコトヲ得ルモ法律ヲ變更シ及憲法ノ特ニ揭ケテ法律ヲ要ス
  ル所ノ事件ヲ規定スルコトヲ得ス」ト明記シテ、憲法起草者ノ精神ヲ明カニシテ居ルノデ
  アル、而シテ更ニ又憲法第二十七條ニハ所有權ノ不可侵ヲ保障シテ居ルノデアル、卽
  チ憲法第二十七條ニ依レバ「日本臣民ハ其ノ所有權ヲ侵サルヽコトナシ公益ノ爲必要
  ナル處分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル」トアルノデアル、所有權ニシテ自由デアッタナラバ所
  有權ノ所得及使用モ亦自由デナケレバナラヌノデアル、營業ハ所有權ノ取得及使用
  ノ一ノ方法ニ外ナラヌノデアル、營業ニシテ自由デナカッタナラバ所有權モ亦自由テアル
  ト云フ事ハ言ハレナイノデアル、然ルニ彼ノ暴利取締令ニ所謂賣惜ト謂ッテ居ルノハ何テ
  アルカ、暴利取締令ニ賣惜ト謂ッテ居ル事ハ禁止行爲デアル、此禁止行爲ハ明ニ所有
  權ヲ侵害セルモノト言ハザルヲ得ヌノデアル、然ルニ農商務內務兩大臣ガ、憲法第九條
  ノ單純ナル行政命令ニ依ッタ事ハ、明ニ憲法ニ違反セリト言ハナケレバナラヌノデアル、若
  シ仲小路農相ガ說明セルガ如ク、營業及取引ノ自由ヲ制限シ、所有權ヲ侵害セル所
  ノ暴利取締令ヲ行政命令デ差支ナイト解釋シタナラバ、而シテ憲法第九條ニ依ッタル事
  ヲ之ヲ適法ナリト致シマシタナラバ、憲法第二十二條及第二十七條ニ依テ保障セラレ
  タル所有權ノ不可侵ト營業ノ自由ハ、單ニ行政官ノ手心ニ依テ-一片ノ省令ニ依ツ
  テ以テ破壞セラルヽモノト言ハザルヲ得ヌノデアリマス天皇ノ立法權ニ協賛スル所ノ帝國
  議會ハ、果シテ斯カル解釋ヲ是認シ、行政權ヲ無限ニ擴大シ、帝國議會ノ權限ヲ
  非常ニ縮小スル事ハ、私ハ斷ジテ同意セザル所デアリマス、本員ノ深ク信ズル所ニ依レ
  バ、法律生活ノ根本原則ノ設定變更ハ、法律ニ依ルノガ實ニ立憲政治ノ精神デアルト
  本員ハ信ズルノデアル、又是ガ我憲法ノ精神デアルコトヲ信ズル者デアリマス、故ニ暴利
  取締令ナルモノハ、確ニ立法ノ形式ヲ誤ッタルモノト言ハザルヲ得ヌノデアリマス、是ハ此
  命令ノ制定上ヨリ論ジタル事デアリマスガ、次ニハ暴利取締令ノ運用上ノ效果ハドウデ
  アルカ、運用上ノ效果ニ付テ質問セザルヲ得ヌノデアリマス、暴利取締令ハ急激ナル市
  價ノ變動ヲ誘起シ、依テ暴利ヲ得ルノ手段トシテ、米穀類其他六種ノ物品ニ付テ、買占
  又ハ賣惜ヲ爲ス者ニ對シテ、司法上ノ處分ヲ以テ之ヲ處罰セントスルモノデアリマスガ、
  急激ニ非ラズシテ、若シ漸次ニ市價ノ變動ヲ誘起シタ場合ハドウデアリマスカ、急激ニ市
  價ガ變動スルモ、漸次ニ市價ガ變動スルモ、國民多數ノ生活ニ不安ヲ與フルニ至ッテハ
  同一デアリマス、然ルニ政府ハ漸次ニ市價ガ變動シタル場合ハ、之ヲ放任スル考デアリマ
  スカドウデアルカ、又暴利取締令ノ中ニハ、或ハ急激ナル市價ノ變動ト云ヒ、或ハ暴利
  ト云ヒ、又ハ買占ト云ヒ賣惜ト云ッテ、總テ抽象的ノ規定デアル、其意義頗ル不徹
  底デアル、故ニ是ガ適用ニ付テハ、何人ト雖モ明確ナル判斷ヲ爲ス事ノ出來ナイト云フ
  三·蓋シ政府自身モ爭ハザル所デアラウト思フノデアル此抽象的ノ規定ヲ善意ニ
  解スレバ、是ハ寧ロ本令制定者ノ苦心ノ存スル所デアル、之ニ依テ以テ運用ノ妙ヲ極メ
  ントナスノカモ分ラヌト思フノデアリマス、併ナガラ國民ガ憲法ニ依リ法律ニ依テ保障セラ
  レタル行爲ニ對シテ、是ガ判斷ヲ悉ク政府ノ自由ニ委シ政府ハ其廣大無限ノ權限ニ
  依テ、場合ニ依レバ懲罰的ニ、一夜ノ內ニ背負ヒ切レザル負擔ヲ以テ之ヲ國民ニ施ス
  事モアリ、又場合ニ依テハ國民ノ既ニ遂行シタル行爲ニ對シテ、背後ヨリ拔打的ニ存分
  ナル制裁ヲ之ニ加ヘル事ガアルカモ測ラレヌノデアル卽チ古臭イ言葉デアリマスガ所謂
  民ヲシテ由ラシムベシ知ラシムベカラズト云フ、專制政治ノ遺風ニ外ナラヌ遣方デアルト
  本員ハ信ズルノデアル、是ハ畢竟スルニ官僚政治ノ固陋ナル頭腦ヨリ、流レ出デタル必
  然ノ手段デハナイカト本員ハ考ヘルノデアリマス、更ニ又本員ノ問ハントスル所ハ、暴利
  取締令ノ中ニハ買占賣惜ヲ禁止致シテ居リマス、買占賣惜ヲ禁止シテ、而シテ彼ノ空
  賣ヲ度外セルハ是ハドウ云フ考ヘデアルカ、米價ノ暴騰ハ買占賣惜ノミニ依テ暴騰スルノ
  デハナイノデアル、時ニハ空賣ニ依テ米價ガ暴騰スルノデアル、卽チ政府ハ曩ニ或ル米ノ
  買占ヲ爲シタリト看做スベキ者ニ對シテ。戒告ヲ與ヘタルニモ拘ハラズ、其後米價ガ引續
  キ暴騰シテ居ルノハ何ニ依ッタノデアルカ、是ハ卽チ明カニ空賣ニ依テ居ルノデアル、何故
  ニ米ヲ一俵モ持タナイ者ガ空賣ヲスルカト云ヘバ、是ハ暴利取締令ガアルカラデアル、卽
  チ米ヲ賣ッテ置イテ是ガ高クナレバ、政府ハ此命令ニ依テ必ズ頭ヲ叩クデアラウ、然スレ
  バ今賣ッタル米ハ廉クナルモノデアルト云フコトヲ豫期スルカラデアル、此命令ノアルガ爲ニ
  空賣ヲ爲シ、其結果政府ガ曩ニ買占ヲ爲シタル者ニ對シテ戒告ヲ與ヘクルニモ拘ラズ、
  米價ハ依然トシテ暴騰ヲ繼續シツヽアルノデアル、然ルニ政府ハ何故ニ買占賣惜ヲ禁止
  シテ、而シテ其米價ノ騰貴ニ對シテ同ジ原因ヲ成ス所ノ此空賣ニ對シテ何等ノ制裁ヲ
  加ヘナイト云フノハ、如何ヤウナ理由デアルカ、之ヲ政府ニ問ハントスルノデアル、又更ニ
  本員ガ政府ニ問ハントスル事ハ政府ハ單ニ命令ヲ以テ暴利ヲ取締ルノミヲ以テ、其效
  果ガ十分ナリト致シテ、是レ以上ニ命令以上ニ、卽チ何故ニ今日物價ガ騰貴シテ
  居ルノデアルカ、何故ニ米價ハ騰貴シテ居ルノデアルカ、其原因ヲ尋ネテ、此原因ニ對シ
  テ救治策ヲ講ゼントスルノ意思ヲ持ッテ居ルノデアルカドウデアルカ、之ヲ問ハントスル所デ
  アリマス、米價ヲ首メ其他物價ノ騰貴ノ原因ニ至ッテハ一ナラザルモ、其最大ノ原因
  ハ通貨ノ膨脹ニ在ルコトハ爭フベカラザル事デアルト信ズルノデアリマス、二月十五日現
  在ノ我正賃ハ十億五千五百万圓デアリマス、從テ通貨モ亦非常ニ膨脹シテ居ル、卽チ
  昨年末現在ノ通貨ハ八億二千四百万圓ニシテ、之ヲ五年末ノ六億百万圓ニ比スレ
  パ一箇年ノ膨脹高ハ二億二千三百万圓デアル、大藏大臣ハ曩ニ貴族院ノ委員會ニ
  於テ、物價騰貴ハ通貨ノ膨脹ヲ以テ主因トハ認メナイト云フコトヲ斷言シタノデアル、併
  ナガラ本員ハ通貨膨脹ヲ以テ物價騰貴ノ主因ト認メザルヲ得ヌノデアリマス、其通貨ノ
  非常ナル膨脹ガ、戰時貿易ノ大輪出超過ニ基因スル以上ハ、此戰爭ガ繼續スル間ハ、
  貿易ノ關係ハ大體ノ上ニ於テ大ナル異動ヲ見ナイモノト言ハンケレバナラヌノデアリマス、
  故ニ隨テ通貨ヲ或程度迄收縮スレバ、從テ又脹膨シテ來ルノデアル、絕エズ是ガ調節ニ
  心掛ケヌケレバナラヌノデアリマスガ、此場合ニ方ッテ政府トシテハ適當ナル正貨ノ處分策
  ヲ講ズルト云フコトガ、私ハ肝要ナ事柄デアラウト思フノデアリマス、次ニ物價騰貴ノ原因ハ
  運輸機關ノ不備デアリマス、卽チ曩ニ政府ガ同僚ノ質問ニ對シテ答ヘタル所ニ依レバ、今ヤ
  鐵道ニ於テハ五六十万噸ノ貨物ガ停滯シテ居ルト云フコトデアリマス、卽チ此運輸機關
  ノ不備ガ今日ノ物貨騰貴ノ原因ヲ成シテ居ルト云フコトモ、亦爭フベカラザルコトデア
  リマス、隨テ運送ノ不足、運賃ノ騰貴ト云フコトモ、物貨騰貴ノ原因ヲ成セルモノデア
  ル、然ルニ政府ハ何故ニ是等物貨騰貴ノ原因ヲ調節スルコトニ努メナイノデアルカ、病
  メル者ニ對シテ藥ヲ與ヘントスレバ、其病氣ノ由テ來ル所ヲ究メヌケレバ、之ニ對シテ藥
  ヲ投ズルコトガ出來ナイト同樣ニ、今日ノ物價ヲ或ル適當ノ度合マデ調節セントスルナラ
  バ、何故ニ物價ガ騰貴セルカト云フ原因ヲ調査シテ、此原因ニ對シテ調節ヲ加ヘルト
  云フコトハ、當然ノ處置デアラウト思フノデアリマス、而シテ政府ハ又何ガ故ニ輸入米
  ノ奬勵ヲ爲シテ、關稅ノ撤廢又ハ引下ゲニ努メナイノデアルカ、是等物價騰貴ノ原因ヲ
  調査シ、又原因ヲ調節セザル間ハ、政府ガ如何ナル命令ヲ出シテモ、決シテ米價ヲ首メ
  其他ノ物價ヲ適當ノ度合マデ調節スルコトノ出來ナイト云フコトハ、本員ノ斷言シテ憚
  ラザル所デアル、政府ガ物價ヲ調節セントスル其目的ト精神ハ、本員亦深ク之ヲ諒トスル
  者デアル、然ルニ政府ガ之ヲ法律ニ依ラズ、緊急勅令ニ依ラズ、單ニ一片ノ命令ニ出デ
  タル所ノ此動機ヲ察スルノニ、之ヲ善意ニ解釋スレバ、政府ガ政府ノ判斷ヲ以テ完全
  無缺ナリト信ジタ結果デアラウト思フノデアリマス、政府ガ斯ク信ズルノ一事ハ、便宜
  テ官僚政府ノ如何ニ非常識デアルカト云フコトヲ暴露セルモノト言ハザルヲ得ヌノデアル
  (拍手起ル)若シ之ヲ反對ニ峻刻ニ解スレバドウテアルカ、卽チ上ニ私ガ述ベマシタル立
  法ノ方式ト運用ハ、政府ガ此機會ニ於テ唯ダ官僚政府ノ官權ヲ擴大シ、官僚ノ威力
  ヲ伸張センガ爲ノ野心ヨリ來レルモノト斷言スルモ、政府ハ之ニ對シテ正當ナル辯解ノ
  辭ノ無カルベキヲ信ズルノデアル(拍手起ル)若シ果シテ斯ノ如シトスレバ、洵ニ是ハ論外
  ノ沙汰ト言ハザルヲ得ヌノデアル、故ニ政府ノ斯カル手段ニ出デタル動機ガ何レニ在ルヲ
  問ハズ、斯カル命令ノ下ニ於テハ、國民ハ一定ノ軌道ノ下ニ於テ進ムコトハ出來ナイノデ
  アル、何故ニ一定ノ軌道ノ下ニ於テ進ムコトガ出來ナイカト言ヘバ何時如何ナル制裁
  ヲ其商行爲ニ對シテ加ヘラレルカ測リ知ルコトガ出來ナイカラデアル、昨年ノ九月此命
  令ガ發布セラレタル當時、奔騰ヲ致シテ居リマシタル物價ハ一時落付キマシタ故ニ、政
  府カラ見レバ是ハ命令ノ効果デアルト見做シタカモ知レヌノデアリマスガ、仔細ニ吟味スレ
  バ是ハ物價自然ノ調節ニ非ズシテ、當業者ガ政府ノ一種ノ壓迫ト不安トヲ感ジタル
  結果デアルト私ハ見ルノデアリマス、果シテ然リトスレバ是ハ洵ニ不祥ナル事ト言ハザルヲ
  得ヌノデアリマス、政府ハ申ス迄モナク、專制政治タルト立憲政治タルトヲ問ハズ、宜シ
  ク公明正大デナケレバナラヌノデアル、公明正大ニシテ初メテ國民ノ信賴ヲ繫ギ、國家ノ
  威信ヲ保ツコトガ出來ルノデアル、若シ政府ニシテ單ニ枝巧ヲ弄シ、權略ヲ用ウルナラ
  バ、其目的ガ一般國民ノ幸福ヲ增進スルト云フ所ニ在ッテモ、其政策ハ結局失敗ヲ免
  レナイモノト言ハザルヲ得ヌノデアル、暴利取締令ハ其目的其精神ハ、今日ノ時局ニ於
  テ洵ニ適當ノ事デアッテ、ドウシテモ今日ノ騰貴セル物價ヲ或適當ノ度合マデ調節シテ、
  中流以下ノ國民ノ生活ニ對シテ安定ヲ與ヘルト云フコトハ、政治上ヨリ見テ洵ニ大切
  ナル事柄デアル、併ナガラ之ガ爲ニ國民ヲ壓迫シ、國民ヲ脅迫シテ、其目的ヲ達スルト
  云フコトハ、斷ジテ憲法政治ノ目的ニ非ズト信ズルノデアリマス(拍手起ル)多數國民ノ
  幸福ヲ增進スルガ爲ニ、一部國民ガ其權利財產ヲ制限セラルヽト云フコトハ、固ヨリ免
  ルベカラザル事柄デアル、併ナガラ其制限セラレタル範圍ニ於テハ、其一部ノ國民モ其
  所有權ヲ享有スルノ樂ヲ得セシメンケレバナラヌノデアリマス、卽チ憲法發布ノ勅語ニ於
  テ「臣民ノ權利及財產ノ安全ヲ尊重シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範圍內ニ於テ
  其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコト」ト宣ハセ給ヘル所以、蓋シ此ニ在ルコトヽ本員ハ信ズル
  ノデアリマス之ヲ要スルニ政府ハ暴利取締令制定ノ根據ニ於テ之ヲ適法ナリト信ズル
  ノデアルカ、又此命令ノ效果ヲ以テ適當ナリト信ズルノデアルカ、又更ニ此命令以外ニ
  私ガ前來申シマシタル關稅ノ撤廢デアルトカ、引下デアルトカ、交通上ノ機關ノ不備ヲ
  補フデアルトカ云フ實際的ノ方面ニ於テモ、政府ハ意ヲ用イントシテ居ルノデアルカ、又
  今日迄何故ニ此實際的ニ效果ノアル方面ニ政府ハ手ヲ觸レナンダノデアルカト云フコト
  ヲ、玆ニ政府ニ質問スル次第デアリマス(拍手起ル)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=22

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• 023・濱田國松

  ○副議長(濱田國松君)　質問第四、千葉縣安房郡ノ再選舉ニ關スル質問-鈴
  木富士彌君
  四千葉縣安房郡ノ再選舉ニ關スル質問(鈴木富士彌君提出)
  千葉縣安房郡ノ再選舉ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正七年一月二十九日
  提出者鈴木富士彌贊成者花井卓藏
  外三十四人
  千葉縣安房郡ノ再選舉ニ關スル質問主意書
  一千葉縣知事折原己一郞ハ大正六年十二月八日千葉縣告示第三百八十三
  號ヲ以テ衆議院議員鵜澤總明外九名ノ當選證書ヲ取消シタリ然ルニ本件選
  舉訴訟ノ結果無效トナリタル選舉ハ千葉縣安房郡ノ選舉ニシテ千葉縣全部ノ
  選舉ニ非サルヲ以テ衆議院議員選舉法第七十六條ニ依リ當選證書ヲ取消ス
  ヘキ議員ハ安房郡選擧無效ノ結果直接ニ當選ヲ失ヒタル磯野敬君一人ニ限
  ルモノニシテ尙當選ヲ失ハサル鵜澤總明君外八人ノ當選證書ハ斷シテ之ヲ取
  消スヘキモノニ非スト思料ス隨テ千葉縣知事カ本件ニ於テ選舉一部ノ無效ト
  選舉全部ノ無效トヲ混同シ卒然トシテ千葉縣選出議員全部十名ノ當選證書
  ヲ取消シタルハ不法不當ノ甚シキモノニシテ當然無效ノ處分ナリト確信ス內務
  大臣ノ所見如何
  二假ニ前記ノ當選證書取消ヲ有效ノ處分ナリトスルモ當選證書ノ取消ハ衆議院
  議員タル資格證明ノ具ヲ剝奪スルニ過キスシテ苟モ法定數以上ノ得票ヲ有シ
  且有效投票ノ最多數ヲ得タル者ノ所謂「當選人」タル資格ヲ剝奪スルノ效力ア
  ルモノニ非ス是レ選擧法第七十條ニ「有效投票ノ最多數ヲ得タル者ヲ以テ當
  選人トス」ト規定シ且同法第七十五條ニ「當選人當選ヲ承諾シタルトキハ地方
  長官ハ直ニ當選證書ヲ付與シ云々」ノ規定アルニ徵シテ明白ナリ本件ニ於テ鵜
  澤總明君、吉植庄一郞君、木村政次郞君關和知君、津田毅一君、鵜澤宇
  八君、柏原文太郞君、加瀨禧逸君、土屋〓三郞君ノ九人ハ明白ニ法定數以
  上ノ得票ヲ有シ且有效投票ノ最多數ヲ得タル者ナルカ故ニ假令當選證書ハ取
  消ノ處分ヲ受クルモ尙選舉法ニ所謂「當選人」タル資格ヲ失フモノニ非ス隨テ千
  葉縣知事折原己一郞カ大正六年十二月八日千葉縣告示第三百八十四號
  ヲ以テ千葉縣安房郡ニ再選舉ヲ命シタルハ選舉法第七十四條ノ規定ニ違背ス
  ル不法ノ處置ニシテ其ノ結果同年同月十八日同縣同郡ニ於テ施行セラレタル
  遷舉モ亦當然無效タルコト論ヲ俟タス內務大臣ノ所見如何
  三本件ノ如ク選舉一郡無效ノ結果現任衆議院議員中ニ失格者ヲ生シタル場合
  ニ於テ之ヲ補充スルノ方法ハ選舉法第七十條第三項ノ規定ニ基キ同條第二
  項ノ順位ニ則リ法定數以上ノ得票ヲ有スル者ノ中ヨリ順次當選人ヲ定ムヘキ
  モノニシテ選舉區ノ一部ニ付再選舉ヲ行ヒ之ヲ通算シテ當選人ヲ定ムヘキモノ
  ニ非スト思料ス內務大臣ノ所見如何
  四近時選擧官吏(及公吏)動モスレハ不注意ニシテ且選舉ニ關スル法規ニ通曉セ
  ス其ノ結果選舉訴訟及當選訴訟類發シテ之カ爲當選者後日ニ至ル迄迷惑ヲ
  蒙ルコト尠カラス當局ハ速ニ之カ改善ニ付相當ノ方法ヲ講スヘキモノト思料ス
  內務大臣ノ所見如何
  右及質問候也
  〔鈴木富士彌君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=23

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• 024・鈴木富士彌

  ○鈴木富士彌君　千葉縣安房郡ノ再選擧ニ關シマシテ、法律上竝ニ取扱上幾多ノ
  疑問ガ存スルノデアリマス、今其中特ニ重要ナルモノ三四點ヲ舉ゲテ內務當局ニ質シ、
  御答辯ノ次第ヲ記錄ニ留メマシテ、後日ノ參考ニ供シタイト思ヒマス、無味乾燥ノ問題デ
  アリマスカラ、成ベク手短ニ申上ゲマス、疑問ノ第一ハ議員ノ當選證書取消ニ關スル事
  柄デアリマス御承知ノ如ク(「高聲ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ)安房郡ニ於テ再選舉ノ施
  行サレマシタノハ、昨年ノ暮ノ十二月十八日デアリマス、ソレニ先ダツコト約十日、卽チ
  十二月八日ニ千葉縣知事タル折原某ハ、千葉縣告示第三百八十三號ヲ以テ、鵜澤
  總明君外九名、卽チ千葉縣カラ選出サレマシタル衆議院議員全部十名ノ當選證書ヲ
  取消シタノデアリマス、是ハ果シテ適當ナル處分デアリマセウカ、私ノ見ル所ヲ以テスレバ、
  是ハ地方長官トシテ少シヤリ過ギタ處置、少クトモ必要ノ程度ヲ超越シタル處置、一
  層適切ニ言ヘバ、法ニ依テ定メラレタル範圍ヲ超越シテ爲サレタル不當ノ處分デアルト思
  料サレルノデアリマス、何故ニ不當デアルカ、告示第三百八十三號ヲ見マスルト「選舉
  訴訟ノ結果安房郡ノ選舉無效トナリタルニ付選舉法第七十六條ニ依リ當選證書ヲ
  取消シタリ」斯樣ニ書イテアリマス、此〓示ノ中ニ謠ッテアリマス選舉訴訟ト申スノハ、旣ニ
  新聞紙上ニ於テ御承知ノコトデアリマセウガ、昨年四月總選舉ノ節ニ、安房郡平群村
  ノ投票所ガ設備不完全デアッテ、投票記載所ガ往來カラ能ク見エル、往來ニ立ッテ中ヲ覗
  ケバ、投票記載所ニ於テ選舉人ガ書イテ居ル文字ガハッキリ分ル、如何ナル人ニ投票シテ
  居ルノカ判知サレルノミナラズ、投票所ノ羽目板カラ往來ヲ隔テヽ約八間ノ所ニアル、
  原田屋ト云フ宿屋ノ二階カラモ能ク是レガ見エル、又投票所內ニ於テ選舉人ガ投票
  ヲ書ク時分ニ、一寸眼ヲ轉ズレバ、オ鄰リデ他ノ選舉人ノ書イテ居ル文字ガ能ク見エ
  ル、是ハ選擧法施行令第十一條ニ違反スルモノデアルカラ、平群村ノ投票ハ無效トス
  ベキモノデアル、而シテ平群村ノ投票ハ、他ノ村ノ投票ト混同シテ識別スルコトハ出來マ
  セヌカラ、延イテ安房郡丈ハ全部一括シテ無效トスベキモノデアル、左樣ナ理由ヲ以チマ
  シテ原告ノ勝訴、卽チ知事側ノ敗訴ヲ言渡サレタ訴訟事件デアリマス、故ニ無效トナリ
  マシタ選舉ハ、安房郡丈ノ選舉デアリマシテ、千葉縣十二郡中殘ル十一郡ノ選舉ト云
  フモノハ、有效トシテ生キテ居ル、之ヲ投票デ申シマスレバ、千葉縣全部四万六千餘ノ
  投票ノ中、安房郡五千票餘ノ投票ガ無效トナッタノミデ、殘ル四万一千餘ノ投票ト云
  フモノハ尙ホ生キ居ルノデアリマス、先ヅ此點ガ第一ニ御留意ヲ願ヒタイ所デアリマス、
  第二ニ千葉縣知事ガ當選證書ヲ取消シタ唯一ノ根據タル、選舉法ノ第七十六條ニ
  ハドンナ事ガ書イテアルカト申シマスルト「選擧訴訟若ハ當選訴訟ノ判決ニ依リ選舉若
  ハ當選無效トナリタルトキ云々地方長官ハ其ノ當選證書ヲ取消シ之ヲ管內ニ告示スヘ
  シ」ト書イテアリマス、此條文ハ選擧訴訟ノ結果無效トナッタ場合ニハ、其當選ヲ失ヒタル
  者ニ限リ、選舉ヲ取消スベシト云フ趣意ニ解釋スベキモノト信ズルノデアリマス、之ヲ
  具體的ニ申シマスレバ、選舉區全部ノ選舉ガ無效トナッタ場合ハ、此議員全部ノ當
  選ヲ取消シ、選舉區一部ノ選舉ガ無效トナッタ場合ハ、其選舉無效トナリシ爲ニ當選
  ヲ失ヒシ者丈ノ、當選證書ヲ取消スベキモノデアル、斯樣ナ意味ニ解釋シテ然ルベシト
  信ズルノデアリマス、何トナレバ法文ニハ明白ニ「選擧若ハ當選無效トナリタルトキ」ト斯
  クアリマシテ、直ク其下ニ「其ノ當選證書ヲ取消スヘシ」ト書イテアリマス、卽チ無效トナッ
  タ其選舉ト、當選證書ヲ取消サレル人トノ間ニハ、直接ノ因果關係ガナケレバナラヌノデ
  アリマス、又常識カラ考ヘテ見マシテモ、當選ヲ失ハザル者ノ當選證書ヲ取消ス必要ハ
  ナノデアリマス、又之ヲ取消スノハ甚ダ慘酷デアル、又理由モ無ケレバ根據モ無イノデアリ
  さく、如何ニ法文ヲ曲解致シマスレバトテ、選舉ニ關シマシテハ、單ニ一事務官ニ過ギザ
  ル地方長官ガ··
  (副議長濱田國松君議長席ヲ退キ議長大岡育造君著席〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=24

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• 025・鈴木富士彌

  ○鈴木冨士彌君　無暗ニ當選證書ヲ取消スト云フヤウナ、サウ云云大キナ重要ノ權限
  ハ、私決シテ無イト斷ズルノデアリマス、是ガ第二ニ御留意ヲ願ヒタイ點デアリマス、以上
  述ブル二點ヲ綜合考覈致シマスレバ、其由テ生ズル結論ハ自ラ明瞭デアリマス、千葉縣
  ニ於テ無效トナリタル選舉ハ安房郡丈デアッテ、安房郡選舉無效ノ結果、當選ヲ失ヒタ
  ル者ハ某君唯ダ一人デアリマス、夫故ニ其一人ヲ除キマシタ跡ノ九人ノ議員ノ當選證
  書ヲ取消スト云フコトハ、斷ジテ不當ノ處置ト私ハ確信スルノデアリマス、或ハ說ヲ爲ス
  者ガアリマス、安房郡選舉ノ結果、何人ガ當選ニ何人ガ落選スルカ不明デアルカラ、手
  續上一時當選證書ヲ取消シタノデアル、斯樣ニ申ス者ガアリマスガ、此說ニハ少クトモ
  二ツノ誤謬ヲ含ンデ居リマス、先ヅ第一ニ千葉縣ノ議員十名ノ中、鵜澤總明君、吉植
  庄一郞君、木村政次郞君、柏原文太郞君ト關和知君、此五名ノ方ハ安房郡以外ニ
  於テ三千票以上ノ得票ヲ持ッテ居リマス、安房郡ノ再選舉ニ於テ如何ナル番狂ハセガア
  ラウトモ、此五人ノ方丈ハ貧乏搖ギモシナイ丈ノ確實ノ地步ヲ持ッテ居ルノデアリマス、
  是ハ別ニ六ケ敷イ事デモ何デモアリマセヌ、加算ト減算丈デ直チニ出デ來ル答デアリマ
  ス、何人ガ落選スルカ分ラヌナドヽ申シマスガ、此五人ノ方ノ落選シナイト云フコトハ、
  確實一點ノ疑ヲ容レザル所デ、縱令大地ヲ打ツ槌ハ外レテモ、是バカリハ決シテ外レナイ、
  是ハ五人ノ方ガ私ノ申スコトヲ、必ズ裏書シテ下サルコトダラウト信ジマス、デアリマスカ
  ラ少クトモ五人ノ方ノ當選證書ヲ取消シタト云フコトハ、ドウシテモ斷ジテ不當デアルト
  云フ結論ニ到達スルノデアリマス、或ハ一時的ニ取消シタノデアルカラ、ナニ差支ナイダラ
  ウト云フヤウナ御議論ガアルカモ知レマセヌケレドモ、假令一時的ナレバトテ、識員ガ當
  選證書ヲ取消サレルト云フコトハ甚ダ迷惑ヲスル、一日二日デモ甚グ迷惑ヲ致シマスガ、
  本件ニ於テハ十四日間取消サレマシタ、此間汽車ノ「パッス」ノ使ヘナイ位ノコトハ我慢
  スルト致シテモ、若シ實發的ノ事ガ生ジマシタナラバ、或ハ取返シノ付カヌヤウナコトガ、
  生ジハシナイカト信ズルノデアリマス、假令一時的ノ取消ナレバトテ甚ダ迷惑ヲ感ズル、
  是ガ第一ノ誤謬デアリマス、ソレカラ第二ニ何人ガ當選シ、何人ガ落選スルカ分ラ
  ヌト云フコトデアリマスガ、是ハ將來ノ豫想デアリマス、將來ノ豫想ニ依テ現在ノ事實
  ヲ破壞スルト云フノハ、甚ダ不穩當デアルト信ジマス、殊ニ天下ノ選良タル議員ノ當選
  ノ證明書ヲ剝奪スルト云フヤウナ、重大ナ事ヲ漫リニヤラレテハ甚ダ當感ヲスル次第デア
  リマス、安房郡ノ選舉無效ト云フノハ、是ハ現在ノ事實デアリマスカラ、此事實ニ基イ
  テ何某君一人ノ當選證書ヲ取消スノハ是ハ至當デアッテ何人モ異論ノ無イ所、此レ以
  外ノ九人ノ當選證書ヲ取消スト云フコトハ、斷ジテ必要ノ程度ヲ超越シタル不當ノ處
  置デアルト信ズルノデアリマス、若シ安房郡ハドウシテモ再選舉ヲシナケレバナラヌト云フノ
  デアレバ、再選擧ノ結果落選シタトキニ、初メテ其落選者ノ當選證書ヲ取消セバソレデ
  宜シイ、敢テ晩シトシナイ、是ガ誤謬ト信ズル第二ノ點デアリマス、以上述ブル所如何ナ
  ル點カラ觀察致シマシテモ、某君一人ヲ除キ、他ノ九人ノ當選讀書ヲ千葉縣知事ガ取
  消シタノハ、法ニ依テ定メラレタル範圍ヲ超越シテ、爲サレタル不當ノ處置デアッテ、且ツ甚
  ダ僭越ナル處分デアルト私ハ固ク信ズルノデアリマス、此點ニ關シマシテ內務當局ハ如何
  ナル見解ヲ持セラルヽカ承ルコトガ出來レバ大變幸福デアルト存ジマス、併シ唯今ノ論
  點ハ、實ノ所餘リ重要デアリマセヌ、又現行ノ法制ニ於テハ、此處分ノ無效ヲ認ムル手
  續ト云フモノガ〓如シテ居ルヤウニ信ジマスカラ、是ハ假リニ有效ノ處分ト致シマシテ、次
  ニ當然生ズベキ第二ノ疑問ニ移リタイト存ジマス、疑問ノ第二ハ、再選舉施行ノ法律
  的根據ニ關スル事柄デアリマス、御承知ノ如ク總選舉ト補闕選舉ニ關シマシテハ、選舉
  法ニ明白ナル規定ガアリマス、一部ノ再選擧ニ就キマシテハ、選擧法ニ何等直接ノ規定
  ガナイノデアリマス、千葉縣知事ハ何ヲ根據ニシテ再選舉ヲ命ジタカ、告示第三百八十
  四號ヲ見マスルト「選擧法第七十四條ニ依リ安房郡ニ於ケル選舉ヲ行フ」トアリマス、
  然ラバ其七十四條ニハ何ト書イテアルカ、「當選人ナキトキハ地方長官ハ期日ヲ
  定メ······更ニ選舉ヲ行ハシムヘシ」ト書イテアリマス、卽チ當選人ノナイトキニ限リ再選
  舉ヲナスベシト云フ趣意デアリマシテ、其反面ニハ當選人ノアル場合ニハ、再選舉ヲ爲ス
  ベカラズト云フ意味ヲ含ンデ居ルノデアリマス、然ラバ當時千葉縣ニハ、當選人ガ無カッタ
  カト申シマスルノニ、千葉縣ニハ立派ナ當選人ガ有リマス、某君一人ヲ除キ他ノ九人ノ
  方ハ、選舉會ニ於テ判然確定サレタル所ノ當選人デアリマス、而シテ次點者ノ鈴木久
  次郞君ハ、選舉會サヘ聞ケバ、直チニ當選人トシテ確定サルベキ資格ヲ有ッテ居ル方デア
  リマス、是等ノ人々ヲ當選人ニ非ズトハ、何ヲ根據ニシテ申スカ、千葉縣知事ハ當選證
  書サヘ取消セバソレデ當選人タル資格ハ當然消滅スルモノデアルト、斯樣ニ考ヘテ居ル
  ヤウニ見エマスルガ、是ハ大ナル誤リ、以テノ外ノ謬見デアルノデアリマス、申スマデモアリ
  マセヌガ、郡部ノ選舉ニ於テ、如何ナル順序手續ニ依テ當選人ト云フモノガ確定サレルカ、
  選舉法ヲ見レバ一目瞭然デアリマス、各町村ニ於テ投票ガ終リマスレバ、投票函ヲ當然
  郡役所ニ持込ミマス、開封ヲ致シマス、開票ヲ致シマス、開票ノ結果ヲ選舉長ニ報〓
  ヲスル、選舉長ガ選舉會ヲ開イテ報告書ヲ調査シテ、當選人ト云フモノヲ確定致シマ
  ス、是デ當選人ト云フモノガ明白ニ決ッテ仕舞フノデアリマス、然ル後當選人ニ其旨ヲ
  告知シテ、當選人カラ承諾スルヤ否ヤノ屆出ヲ爲ス、拙者當選ヲ承諾致シテ御坐ルト
  云フ承諾書ガ出テ、初メテソコデ當選證書ト云フモノヲ交付スル、斯樣ナ順序ニナッテ居
  ルノデアリマス、デアリマスカラ、此當選證書ヲ附與スルト云フコトハ一番最後ノ手續テ
  アル、當選證書ヲ附與スル前ニ、當選人ト云フモノハ決ッテ居ラナケレバナラヌノデアリマ
  ス、當選人ガ決ッタラ告知ノ必要モアリ、承諾ノ必要モアリ、又當選證書ヲ附與スル必要
  ヲ生ズルト、斯ウ云フ筋合ノモノデアリマス、當選證書ト云フノハ讀ンデ字ノ如ク、當選
  シタリト云フ一ノ證明書ニ過ギナイノデアリマス、吾〓議員ハ當選證書ヲ貰ッテカラ、初
  メテ當選人ニナルニ非ズシテ、當選人ナルガ故ニ、當選證書ヲ貰フト云フ筋ニナルノデア
  リマス、デアリマスカラ、何カノ間違デ地方長官ガ此當選證書ヲ取消スコトガアリマシテ
  モ、吾ミガ法定數以上ノ得票ヲ有シ、且ツ投票ノ最多數ヲ有シ、選舉會ニ於テ當選人
  ト確定サレテ居ル以上ハ、其後ノ手續ニ如何ナル變化ヲ生ジヤウトモ、吾〓ノ當選人タ
  ル資格ハ、少シモ動搖スルモノテナイノデアル、當選證書ノ剝奪ト云ヘバ、何ダカ大變大
  仰ニ聞エマスケレドモ、是ハ唯グ當選證明書ヲ剝奪スルニ過ギナイ、當選ノ資格其物ニ立
  入ッテ之ヲ覆スノカト云フモノハ、斷ジテ無イノデアリマス、是ハ選舉法第八章ノ規程ガ
  七箇條アリマス、其七箇條ヲ能ク熟讀致シマスレバ、自ラ明瞭ニナル所ノ法理デアリマ
  ス、然ルニ千葉縣知事ハ、當選證書サヘ取消セバ、當選人ハ無クナルモノト考ヘテ居ラ
  ルヽト云フニ至ッテハ、是ハ主客〓倒、本末ヲ誤ルノ甚シキモノデアルト私ハ信ズルノデア
  リマス、若シ千葉縣知事ノ所見ノ如ク、假リニ當選人ガ無クナルモノデアルトスレバ、千
  葉縣全部ニ亙ッテ、再選舉ヲ施行シナケレバナラヌト云フ結論ヲ得ルノデアリマス、安房
  郡ニ限リ再選舉ヲ行フト云フノハ、前ノ議論ト牴觸矛盾シテ來ルト云フコトニナリマス、
  右ノ如キ次第デアリマスカラ、選舉法第七十四條ニ依テ安房郡ノ再選舉ヲ取消シタリ
  ト云フ千葉縣知事ノ處置ト云フモノハ、斷シテ不當デアルト云フコトヲ、私ハ責任ヲ以テ
  申上ゲルコトガ出來ルノデアリマス、或ハ順序ノ上ヨリ考察致シマシテ、選舉區一部ノ再
  選舉ハ、或ハ選舉區制ヲ蹂躪スルモノデアルトカ、選舉不可分ノ原則ニ反スルトカ、新
  ニ選出サレタ議員ノ任期ヲ起算スルニ不都合ヲ生ズルトカ或ハ〓員補充ノ規定ニ抵
  觸スルトカ色ミノ議論ガアリマスルガ、是等ハ皆ナ再選舉ヲ否認スルニ有力ナル議論デ
  アリマスカラ、私ハ又爰ニ之ヲ引用致シマス立法論政治論トシテ、私ハ又別ニ一箇ノ見
  解ガアリマス、現行法ノ解釋トシテハ、安房郡ニ再選舉ヲ取消シタル事ニ付テ、私ハ斷ジ
  テ贊意ヲ表スルコトガ出來ヌノデアリマス、內務當局ハ此點ニ關シテ如何ナル見解ヲ持
  セラルヽヤ、是亦承リタイノデアリマス、疑問ノ第三ハ、議員ノ缺員補充ノ方法ニ關スル事
  柄デアリマス、本件ノ如ク選舉一部無效ノ結果、現任議員中ニ失格者ヲ生ジタル場合
  ニ之ヲ補充スルノハ、選舉法第七十條第三項ノ規定ヲ適用スレバ、ソレデ宜シイノデハナ
  イカト私共ハ信ズルノデアリマス、選舉法第七十條ノ第三項ト申シマスルノハ「選舉訴訟
  若ハ當選訴訟ノ結果ニ依リ必要ナルトキハ本條ノ例ニ依リ更ニ當選人ヲ定ム」ト斯樣
  ニ書イテアリマス、本條ノ例トハ何デアルカト云フト、是ハ第二項ノ規定デアリマシテ「得
  票者ニシテ當選人ト爲ラサリシ者ノ中ニ就キ得票ノ順位ニ依リ之ヲ補充ス」トアリマス、
  卽チ次點者ノ中ニ就テ、得票ノ順位ニ依テ之ヲ補充スルト云フ規定デアリマス、デ千葉
  縣ノ場合ニ於キマシテハ、安房郡選舉無效ノ結果、當選資格ヲ失ヒタル者ハ某君一
  人デアリマスカラ、是ハ次點者ノ鈴木久次郞君ヲ舉ゲテ補充スレバ宜シイノデアルト、私
  共信ズルノデアリマス、若シ第七十條第三項ノ規定ガ、本件ノ如キ場合ニ適用ノナイモ
  ノデアルト致シマスレバ、殆ド此條文ハ適用スル機會ガ無クナッテ仕舞フ、全ク空文ニ屬ス
  ルト云フコトニナルノデアリマス、是ハ斷ジテ選舉法ノ精神デハアルマイト私信ズルノデア
  リマス、或ハ此選舉法ノ第六十四條ノ二項ヲ引キマシテ、其法文ニ「選舉ノ一部無效
  トナリ更ニ選舉ヲ行ヒタル場合ニ於テ」云々ノ規定ヲ引キマシテ、選舉法ハ確ニ一部ノ再
  選舉ヲ豫想シテ居ルト論ズル者ガアリマス、論者ノ言ハ頗ル理由ガアリマス、如何ニモ法ハ
  一部ノ再選舉ヲ豫想ハ致シテ居リマスルガ、是ハ選舉ノ一部ガ無效トナッテ、且ツ當選
  人ノ無キ場合ニ爲シタル再選舉ヲ指スモノデアリマス、又一ツニハ選舉會ヲ開ク前ニ選
  擧ガ無效トナッテ、再選舉ヲ行ヒタル場合、卽チ大正五年ノ十二月ニ、石川縣能美郡
  ノ或ル村ニ於テ行ハレタル再選舉ノ如キモノ、是等ヲ含ムモノデアリマシテ、本件ノ如ク當
  選人ノアル場合ニハ、此第七十條ノ第三項ニ依テ缺員ヲ補充スルノガ、至當デアルト
  信ズルノデアリマス、此點ニ關シテ內務當局ハ如何ナル見解ヲ持セラレルカ、是亦伺ヒタ
  イノデアリマス、疑問ノ第四、是ハ疑問ト云フヨリハ、寧口警告ト言フガ適當デアルカモ
  知レマセヌガ、近來選舉事務ヲ取扱ヒマスル官吏公吏ガ不注意不謹愼デアッテ、且ツ選
  舉法ニ通曉セザル爲ニ、選舉訴訟及當選訴訟ナドガ澤山ニ出マシテ、後日ニ至ルマデ
  當選人ガ甚ダ迷惑ヲスルコトノアルハ、既ニ諸君ノ御承知ノ通リデアリマス、選舉ト事モ
  ナゲニ申シマスケレドモ、選舉ニ際シテ候補者ノ苦心ト云フモノハ、寔ニ筆紙ニ盡シ難イ
  辛苦ヲ嘗メルノデアリマス、大官諸公ハ此選舉ニ付テハ、直接ノ御關係ハアリマスマイト
  思ヒマスガ、候補者ガ選舉ニ當リマシテハ、筆ト舌トヲ以テ奮鬪シカ戰スル位ノ事ハ、是
  ハ普通ノ事デアッテ、少シク激シクナリマスルト云フト、骨肉相食ム程ノ激戰ヲシナケレバナ
  ラヌト云フ譯デアリマシテ、斯ノ如クニシテ辛ウジテ當選者ノ地位ヲ羸チ得テ、ホット一息吐
  ク間モナク、又官公吏ノ不注意ノ爲ニ訴訟ヲ提起セラレテ其他位ヲ脅カサレ、其地位ヲ
  覆サレルト云フニ至ッテハ、實ニ氣ノ毒トモ悲慘トモ、言ヒヤウノ無イ慘タラシイ出來事デ
  アルト私ハ思フノデアリマス、故ニ當局者ハ此點ニ關シテ、速ニ改善ノ方法ヲ講ズベキモ
  ノト思料致シマス、此點ニ關シテ內務當局ハ如何ナル見解ヲ持セラレルヤ、是モ承リタ
  イノデアリマス、以上四點ノ質問ニ關シテ、私ハ內務當局ノ誠意アル御答辯ヲ期待致
  シマス、頃者道路ニ傳フル者アリ、水野內務次官ハ、此安房郡ノ再選舉ノ不當デアル
  コトヲ知ッテ居ルケレドモ、或ル事情ノ爲ニ、地位ヲ賭シテ之ヲ斷行シタノデアル、斯樣ニ
  申ス人ガアリマス、是ハ恐クハ事實デハアルマイト思ヒマス、若シ事實ナリトスレバ、其特
  別ノ事情トハ何デアルカ、併セ聽クコトヲ得バ、是レ單リ私ノ滿足許リデハアリマセヌ、天
  下ノ疑惑ガ之ニ依テ消散スルノ機會ヲ得ルデアラウト思ヒマス、誠意アル御答辯ヲ期待
  致シマス
  〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=25

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• 026・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　第六、「ルーマニア」行醫師團ノ潰散ニ關スル質問、土屋〓三
  郞君
  六「ルーマニア」行醫師團ノ潰散ニ關スル質問(土屋〓三郞君提出)
  ルーマニア行醫師團ノ潰散ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正七年一月三十一日
  提出者土屋〓三郞贊成者江藤哲藏
  外二十九人
  ルーマニア行醫師團ノ潰散ニ關スル質問主意書
  ルーマニア行醫師團潰散ノ始末如何
  右及質問候也
  〔土屋〓三郞君登壇〕
  〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=26

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• 027・土屋清三郎

  ○土屋〓三郞君　私ハ羅馬尼國政府招聘醫師團ノ潰散ニ關シテ、文部當局者ニ質
  問致シタイト思フノデアリマス、此問題ハ啻ニ關係醫師團ノ迷惑デアル許リデナク、又關
  係セラレタ所ノ當局者ニ於テモ、定メシ御迷惑デアッタラウト思フノデアル、併ナガラ此結果
  ハ、之ヲ內ニシテハ、國民ノ政府ノ施設ニ對スル不安トナリ、之ヲ外ニシテハ、我政府
  及國民ノ信用ニ關スル事デアリマスルガ故ニ、如何ニ善意ニ解釋致シマシテモ、一言此
  始末ヲ質サヾルヲ得ナイノデアリマス、昨年ノ六月羅馬尼國政府ヨリ、我ガ伊太利大使ヲ
  通ジテ、罹馬尼國ガ發疹窒扶斯ノ流行ニ苦シンデ居ルガ故ニ、之ヲ救濟スベク、我國
  ノ醫師百名ノ招聘ヲ申込ンデ參ッタノデアリマス、同時ニ恰モ羅馬尼ノ國ヨリ、軍需品
  買入ノ爲ニ我國ニ派遣セラレテ居ッタ所ノフエリックスペテレスコ此兩陸軍大佐ガ、矢
  張伊太利大使ノ紹介ヲ以テ、我ガ政府ニ其事ヲ依賴ヲシテ來タ、此ニ於テ外務省ハ、
  先ヅ之ヲ陸軍、文部、内務ノ三省ニ通牒致シマシタ所ガ、陸軍ニ於テハ現役ノ軍醫ハ勿
  論ノ事、豫後備ノ軍醫モ亦之ヲ派遣スルコトガ出來ナイト一石フコトデ、一言ノ下ニ之ヲ
  斷ハラレタ、文部省ニ於テハ、恰モ醫學專門學校長會議ヲ開イテ居ッタ際デアリマシタノ
  テ、其席ニ相談ヲ致シマシタ所ガ、一校二三人位ナラバ出來ヤウケレドモ、百人ト云フ者
  ハ出來ナイト云フコトデ、是亦斷ハラレタノデアリマス、內務省ノ方ニ於キマシテハ、從來
  ノ關係デ、發疹窒扶斯其他ニ經驗アル所ノ醫師ニシテ、嘗テ內務省關係ノ場所ニ奉
  職シタ者モアリマスガ爲ニ、若シ民間ニ於テ斯ノ如キ醫師ノ志望者ガアッタナラバ、相當
  周旋ノ勞ヲ執ッテヤラウト云フ程度ノ御挨拶デアッタト云フコトデ御坐イマシタ、間モナク
  羅馬尼國ノ狀態ハ、發疹窒扶斯ハ段々ニ屏息ヲシテ來テ、却テ戰場ヨリ歸來スル所ノ
  傷病者ヲ治療スル爲ニ、內科及外科ニ經驗アル醫者ヲ欲シイ、故ニ曩ノ百名ハ此方面
  ノ人ニ換ヘテ貫ヒタイト云フコトヲ更ニ申入レテ參ッタノデアリマス、所ガ陸軍ハ左樣ニシ
  テ斷ハラレタ、內務省ニ於テハ唯ダ單ニ紹介ノ勞ヲ執ラウト云フ範圍ニ止ッテ居ル、又文
  部省ニ於キマシテモ、專門學校長會議ニ於テ斷ハラレタ後ニ於テ、如何ナル事情ガアッタ
  カハ存ジマセヌケレドモ、文部ノ當局就中田所次官及林傳染病〓究所長ガ俄ニ活動
  ヲ始メテ、非常ナ勢デ此事ニ盡力ヲ始メタ、先ヅ第一ニ是ニハ一行百名ノ醫師ヲ率ユルニ足
  ル所ノ適當ナル團長ヲ求メナケレバナラナイト云フコトデ、林傳染病〓究所長ハ桑養、
  我赤十字社ヨリ佛蘭西ニ派遣セラレタル所ノ茂木醫學博士ヲ最モ適任ト認メテ、同
  博士ニ團長タランコトヲ交涉致シタノデアリマス、然ルニ茂木博士ハ、當時恩賜財團濟
  生會病院ノ外科部長デアルシ、又夫人ハ病ノ爲ニ病院ニ入院中デアリ、幼ナイ子供ハ
  乳母ノ手ニ於テ養ハレテ居ルト云フ色ミナ事情ノ爲ニ、再三斷ハラレタノデアリマシタガ、
  林傳染病〓究所長ハ此度ノ醫師團ト云フモノハ、其實質ハ我政府ガ羅馬尼政府ノ
  招聘ニ應ジテ派遣スルモノデアル、卽チ實質ニ於テハ政府ノ事業デアル、又羅馬尼國政
  府トノ交渉ハ、代表者ニ依テ調ッテ居ル、テ今日ハ唯ダ人ノ問題丈デアッテ、人サヘ纒マ
  レバ一刻モ早ク派遣シテヤリタイノデアル、故ニ此際區々ノ情ヲ捨テ、國家的事業、國
  家的名譽ノ爲ニ、是非共此任ヲ受ケテ吳レヨト云フ切ナル慫通ノ爲ニ、一身一家ノ事
  情ヲ顧ミズ、進ンデ此任ニ當ル事ニナリ、文部當局其他ト會見致シマシテ、林傳染病〓
  究所長ノ言ヲ確メ、同時ニ此醫師團ノ組織其他ニ關スル覺書ヲ協定致シタノデアリマ
  ス、其覺書ハ傳染病〓究所ノ公ノ用紙ヲ以テ認メラレテアル、前後十二箇條ニ亙ッテ
  居リマスガ、是ハ一々朗讀スルコトヲ略シマシテ、唯ダ其中ノ注意スベキ一二ノ點ヲ
  申上ゲマスルト云フト、其第二項ニ「總班長及班長ハ內務文部兩省ニ於テ協議ノ上
  選定シ班員ハ各班長ニ於テ之ヲ選定シ兩省當局者ノ承認ヲ經ルヲ要ス、文部內務外
  務省等ニ出願セル志望者ノ履歷書ハ人選上參考トシテ之ヲ各班長ニ提示ス」、第六
  項ニ「羅馬尼國政府ト交渉其他ニ關シ必要ト認ムルヲ以テ佛語ニ堪能ナル通譯一名ヲ
  總班長ニ隷屬セシムル事」第八項ニ「總班長及班長ヲシテ羅馬尼國衞生狀況其他班員
  勤務狀況ヲ時〓報告セシムル爲メ本省ヨリ囑託ノ辭令ヲ交付スル事」其他ハ俸給デア
  ルトカ、或ハ旅費デアルトカ色〓アリマスケレドモ、ソレハ略シマス、免ニ角斯ノ如キ覺書ヲ
  交換シテ、サウシテ愈〓茂木博士ハ團長タルコトヲ引受ルコトニナッタノデアリマス、ソコニ
  持ッテ參リマシテ、當局者ノ方デハ是ハ非常ニ急グノデアル、殊ニ西比利亞鐵道ハ目下
  貨物ガ輻輳シテ居ル爲ニ、一箇月位前カラ申込ンデ置カナケレバ到底間ニ合ハナイ故
  ニ、セメテ荷物ノ必要ナル大凡ノ噸數ヲ調上ゲテ、一刻モ早ク報告シテ貫ヒタイ、出來
  得ルナラバ七月下旬ニ此方ヲ出發シタイカラト云フノデ、非常ニ急立テラレマシタ爲ニ、
  茂木博士ハ此協定ニ基キマシテ、曩ニ佛蘭西ニ行ッタ教護團ニ屬シテ行ッテ、當時神戶
  ノ或商館ニ高給ヲ以テ奉職シテ居ッタ所ノ通譯ヲ、神戶カラ態〓其所ヲ罷メサセテ賴ミ、
  又同ジ佛蘭西救護班ニ附イテ行ッテ、目下名古屋ニ居ル所ノ藥劑師ヲ呼寄セ、一々當
  局者ト打合ヲ致シマシテ、或ハ陸軍衞生材料廠ニ就テ、救護ニ必要ナル藥品ノ種類
  及材料ノ數量等ヲ調ベ、又赤十字社ニ對シマシテ必要ナル器具材料ノ貸與ヲ依賴シ、
  竝ニ民間ノ醫療器械或ハ藥品商等ニ對シテ、イツ何時デモ必要ナル所ノ藥品器械ヲ
  買ヒ得ルヤウニ內交涉ヲ致シ、朝ハ早朝カラ夜ハ十一時十二時頃迄家ヲ捨テ、此準備
  ニ奔走ヲ致シマシタノデアリマス、又一方ニハ團長ノ下ニ附ク所ノ各班長ハ、傳染病〓
  究所長竝ニ文部當局者ト協定ヲシテ、夫〓各方面ヨリ適當ナル人ヲ選拔シ、又班員
  タル所ノ醫員ハ、傳染病〓究所長ガ公文書ヲ以テ各大學及醫學專門學校長ニ、斯ノ
  如キ依賴狀ヲ出シタノデアリマス、是ハ速記ニ載セル丈ニシテ朗讀スルコトハ略シマス
  拜啓時下大暑ノ候愈御〓穆奉賀候却說今囘ルーマニヤ國ヨリ外科醫、內科醫、招
  聘ノ件申込相來リ候ニ就テハ左記ノ條件ニテ貴院醫員ニ希望モ有之候ハヾ履歷書
  取揃ヘ御通知被下度此段及御依賴候也
  大正六年七月十六日
  傳染病〓究所長林春雄
  各大學及醫學專門學校附屬病院長宛
  左記
  一、期間八箇月
  二、俸給四百圓乃至七百圓
  三、旅費四百圓
  四、支度料三百五十圓
  五、俸給ハ內地出發ヨリ起算ス
  六、住居食事ハ向持以上
  斯ノ如クニシテ班長ニナッタ人達ハ、何レモ此事業ガ國家的事業デアル、日本ノ醫學ノ
  名譽デアルト云フ意味カラシテ、或ハ日本醫學專門學校ノ外科部長デアッタ福地政一
  博士、北海道ノ小樽病院ニ在ッタ瀨尾博士、其他各方面ノ若手ノ人達ガ集リマシテ、
  班長タルコトヲ承諾シ、班員等モ夫ミ內決シテ、イツ何時デモ出發ヲスルヤウニト云フ準
  備ヲ致サセタノデアリマスサウシテ七月二十四日ニ、文部省ニ於テ公然此班長其他ヲ
  決定シ二十八日ニハ班員全部ヲ文部省ノ圖書館ニ集メテ、此處デ文部次官ハ一場
  ノ訓示ヲ與フベク、參事官ニ其原稿マテモ作ラセテ、愈其日ニナリマシタ所ガ、何等カ
  ノ出來事ガアッタト見エマシテ、ソレガ見合ニナッタノデアリマス、是ト前後致シマシテ、或
  ハ其前デアリマシタカ後デアリマシタカ、免ニ角此前後ニ於テ新聞ニ斯樣ナコトガ現レタ
  寺內總理大臣ハ新聞紙ニ於テ此事ヲ承知セラレテ、下僚ノ方ニ御尋ニナッタ所ガ、ソレ
  ハ事實デアルト云フ事ソコデ總理大臣ハ政府ヨリ派遣スルガ如キ形式ヲ取ルト云フ
  コトハ考ヘモノデアル、軍籍ニ無イ所ノ人〓デアッテ、先方ニ於テ萬一ノ事ガアッタ時分ニ
  ハ、救護ノ方法ガ無イデハナイカト云フコトノ尤モナ御注意ガ有ッタノデアリマス所謂
  鶴ノ一聲トデモ申シマセウカ、、此事アッテ以來、文部當局竝ニ、林傳染病〓究所長ノ
  態度ハガラリ變ッテ仕舞ッタノデアル一方團長ハ總テノ準備ヲ整ヘ班長以下班員ハ
  夫ミ家庭ノ方ノ極リヲ付ケテ、何時出發ノ命令ガアルカト云フコトヲ待ッテ居ルヤウナ次
  第デアリマスカラ、團長ヨリ此事ヲ文部當局者ニ聞キ質シテ見マスルト、實ハ羅馬尼ガ
  目下アヽ云フ狀況デアル故ニ、當方ヨリ醫師團ヲ派遣シテモ、夫等ノ身元ノ保證ガ出
  來ルカドウカト云フコトヲ伊太利大使ノ手ヲ經テ、卽チ伊太利政府ガ保證ガ出來ルカ
  ドウカト云フコトヲ、目下交渉中デアル、其保證ガ來次第二、明日ニモ出發スルト云フ
  コトデアッタノデアリマシタガ如何ニモ世間ノ雲行ガ怪シイ、殊ニ政府ノ意嚮ヲ知ルベク、
  醫界ニ於テ最モ古イ歷史ガアリ、最モ信用ノアル「醫海時報」ト云フ雜誌ニ、後藤內
  務大臣竝ニ罹馬尼使節ノ此事ニ關スル談話ガ載セラレタ其一節ヲ此所デ引用致シマ
  ズカ、後藤内相ハ曰ク「羅馬尼ヘ日本醫師ノ雇ハルヽニ付テハ、我輩何等反對ハセ
  又、唯グ併シ政府ガ餘リ干渉的ニ容喙スルノハ間違ッテ居ル醫師ヲ傭フニ付テ世話ス
  ルコトハ、無論差支ノ無イコトデアルガ、之ヲ政府ノ事業ナルカノ如ク政府ガ其事務ヲ
  執ルニ至リテハ正ニ公私混淆デアル、一體內務省ニシテモ亦文部省ニシテモソンナ
  事ヲ如何ニモ政府ノ事業ラシク思ハシムルノハ能吏ノスベキ業デハナイ、斯ンナ事業ハ
  宜シク醫師會ニ紹介シテ、醫師會邊リデ撰擇推薦スルノガ當然ノ事デアル政府トシテ
  ハ須ク羅馬尼人ト醫師會トノ中間ニ立ッテ、紹介ノ勞ニ服セバ宜イノデ、最後ノ人選
  迄政府ガ自ラ關係スルニ至ッタノハ多分官吏ガ事務閑散デアルガ爲デアラウ」途中ヲ
  少シ略シマス「文部省ガソンナニ人事興信事業ニ手ガ出シタクバ宜シク熨斗ヲ附ケテ、
  文部省ニ御讓リスルノガ、此暑中ニ於ケル官衙ノ事務デアル、文部省ハ元來〓育ニ關
  スル事務ヲ統一シテ居ル所ノ官府ナルニモ拘ラズ、何時ノ間ニカ人事興信事業ヲ開クヤ
  ウニナッタノダ」更ニ羅馬尼使節ノ言葉ガ載ッテ居リマス、羅馬尼使節曰ク「總テノ條件
  ガ漸次變更サレタガ、其都度吾〓ハ之ニ同意シタ、然ルニ最後ニ至リテ、旅費ノ件ニ付
  テハ、吾〓ハ無論ノ事伊太利大使等ニ於テモ、絕對ニ其提案ヲ不當ト認メタ、其事
  實ト云フハ他無シ、總テノ條件ヲ容認セル最後ニ、旅費ニ付テハ當初四百圓ト云フ申
  出アリシニ、後ニハ七百圓ニアラザレバ否ロ言來タ、爲ニ貴國政府ハ其後ニ於テ、醫
  師團ト協議ヲ重ネルト言ッタ限リ、未ダ何等ノ消息ニ接セヌガ、吾〓ハ四百圓ナラバ前
  來ノ條件テ招聘スベシ、吾〓ハ貴國ノ經驗アル實地家ヲ招聘セムガ爲ニ、多大ノ時日ヲ費
  セルガ、要スルニ貴國政府當局者ノ要求ハ非當ニシテ、宛然緣日ノ商人テアル、予ハ其幾
  度カ要求ヲ變更シテ、戰爭ヲ口實トシテ、聯合國側タル義務ヲ盡サズシテ、却ッテ金儲ケニ
  熱中スルニアラザルカヲ疑フモノデアル」實ニ斯樣ナ後藤內務大臣ト云ヒ又羅馬尼使節ト
  云ヒ、意外ヲ事ヲ公言シテ居ルノデアリマス、而モ其間ニ我國ヨリ後レテ交渉ヲ受ケタ所ノ
  亞米利加ノ醫師團ハ、遠慮ナク橫濱ニ上陸シテ悠々東京ヲ見物シテ一足先ニ羅馬尼ニ出
  發ヲシテ仕舞ッタノデアリマス、此ニ於テ茂木博士ハ始メテ最初林傳染病〓究所長
  ト交換シタ所ノ此覺書ガ、間違ヒデアッテ、總理大臣モ御承知ガナイ、內務大臣ハ寧ロ
  御不同意デアルカノ如キ口吻ヲ洩サレテ居ル、吾〓ハ全ク個人ノ雇傭關係デ行クト云フヤ
  ウナ譯デアル、又交涉モ總テノ契約モ成立シテ居ルカノヤウニ承知ヲシテ居ッタ所ガ、其交涉
  モマグ本當ニハ成立シテ居ラナイ軍ニ條件ヲ先方ニ示シタノミデアッテ、先方ハ此條件ニ必ズ
  應諾ヲスルデアラウト、速斷シタノデアッタニ過ギナイト云フコトニ心付キマシテ甚ダ心外
  ニ思ヒ、文部當局者ニ談判ヲ致シマシタ所ガ、次官ハ前ノ言葉トハ打ッテ變ッテ、文部
  省ハ單ニ斡旋スルト云フニ過ギナイデ、免ニ角今近イ內ニ伊太利大使ヨリ返事ガ來ルデ
  アラウト思フカラ、保證ノ囘答ガ來サヘスレバ明日ニモ出發スルカラト云フヤウナコトヲ繰
  返ス丈デアッテ更ニ要領ヲ得ナイ、仍テ最初ノ交渉者デアル當ノ責任者デアル所ノ林
  傳染病〓究所長ニ會見ヲ求メマシタ所ガ、機敏ニモ逸早ク東京ヲ去ッテ夫人ヲ携帶シ
  テ鎌倉ノ別莊ニ悠々ト遊ンデ居ラルヽ、鎌倉ニ推蒐ケテ行ケバ近所ニ旅行シタト云ッテ
  留守ヲ使ハレル巳ムヲ得ズ今度ハ手ヲ換ヘテ羅馬尼ノ使節ニ通譯ヲ送ッテ談判ヲサ
  セタ所ガ、通譯ハ前ニ申シマシタ通り、唯〓我政府當局者ノ不信ヲ罵倒スルノミデ、殆ド
  要領ヲ得ナイ是ニ於テ茂木博士ハ背後二一百ノ班員ヲ控ヘテ非常ナル決心ヲ
  以テ上京シテ來タ所ノ班員ヲ控ヘテ、自分ハドウスルコトモ出來ナイ、所謂進退兩難ノ
  苦境ニ陷リマシタガ爲ニ已ムヲ得ズ、八月二十九日辭任ニ關スル詳細ナル書面ヲ林
  傳染病〓究所ニ送ッテ、團長タルコトヲ辭退シ、同時ニ班長ヲ集メテ其事ヲ報告致シ
  マシタ所ガ、各班長ハ何レモ憤慨シテ、團長ガ旣ニ左樣ニ意ヲ決スルナラバ吾ミモ亦
  共ニ同一行動ヲ執ルト」云フコトデ、悉ク斑長タルコトヲ辭シ玆ニ羅馬尼醫師團ト云フ
  モノハ成ルニ垂ントシテ全ク潰散致シテ仕舞ッタノデアリマス之ガ爲ニ世間ノ輿論ハ非
  常ニ沸騰シテ來タ、林傳染病〓究所長ハイツニナッテモ歸京セラレナイ、獨リ田所支部
  次官ハ例ノ如キ得意ナ辯ヲ揮ッテ辯解ヲ爲サレテ居ルドウ云フコトヲ申シテ居ルカト
  言ヒマスト「ドウモ茂木君ハ氣ガ短クテ困ル、アンナニ早クヤッテ呉レナイデモ宜カッタノデ
  アル、明日ニモ伊太利大使カラ保證ガ來サヘスレバ直グニモ出發シナケレバナラヌ、或
  ハ準備ヲシテ、器械ヲドウシタトカ何トカ言フケレドモ當局者トシテハ唯ダ準備ノー
  下準備ヲシロト言ッタニ過ギナイ、又班長等ガ非常ニ迷惑シテ居ルト云フコトデアルケレ
  ドモ、是亦政府トシテハ、公然辭令ヲ渡シタ譯テモ何デモナイ、向フガ地方カラ出テ來タ、
  或ハ現在ノ職ヲ捨テヽ來タト云フコトハ是ハ勝手デアッテ、文部省ハ何モ與リ知ラナイ、
  或ハ茂本君アタリハ損害ヲ餘程シタデアラウナント云フ者モアリマスケレドモ、是ハ茂木
  君自身ガ言フガ如ク、僅ニ一杯ノ麥酒ヲ班長等ニ振舞ッタ費ヘニ過ギナイ、併ナガラ之
  レガ爲ニ茂木君モ大分名ガ賣レタカラ、差引辛抱ガ出來ヤウ」ト、斯ウ言フヤウナ御言
  葉デアル間モナク伊太利ノ大使カラハ日本ヨリ羅馬尼ニ派遣スル所ノ醫師團ニ對シ
  テハ保證ガ出來ナイト云フコトヲ斷ッテ參リ、又羅馬尼ノ使節モ口ヲ極メテ文部當局
  者ヲ罵倒シツヽ故國ニ引揚ゲテ仕舞ッタト云フノガ、之ガ此問題ノ大體ノ經過デアリマ
  ス、是ニ於テ、私ハ二ツノ-三ツノ點ニ於テ、文部當局ニ質問ヲ致シタイト思フ、第
  最初ハ政府ノ事業デアルカノ如クニ吹聽シ、此ノ爰ニ在ル所ノ覺書ニ依テモ、又團長
  班長等ニ次官其他ノ方ガ仰セラレタコトニ依テモ實ハ實質ハ政府ノ事業デアル政府
  ヨリ派遣スルモ同樣デアルト云フコトヲ屢〓申サレテ居リナガラ、一朝鶴ノ一聲ニ依テ、形
  勢不利ト見ルヤ直チニ態度ヲ一變シテ、是ハ個人關係デアッテ、文部當局ハ單ニ周旋ノ
  勞ヲ執ッタニ過ギナイト斯ウ申サレテ居リマスガ、若シ果シテサウデアルナラバ何モ文部
  當局ガ、彼ノ大學〓授ニシテ、傳染病〓究所長デアル林博士ノ如キ人ガ、非常ニ忙シ
  イ間ニ於テ、其職ヲ捨テヽ大騒ヲスルニハ當ラナイ、後藤內務大臣ノ申サレタ如ク、醫
  師會ニ取次イデヤリサヘスレバソレデ澤山デアル、道路傳フル所ニ依リマスルト、何ガ故ニ
  傳染病〓究所長ヤ文部次官アタリガ、左樣ニ此事ニ力ヲ入レタカト申シマスルト、傳
  染病〓究所ガ移管後ニ於テ、信用殆ド地ニ墜チタト云フコトハ、是ハ萬人ノ認ムル所
  デアル殊ニ此信用ハ醫師社會ニ於テ零デアル何等カ機會ヲ以テ之ヲ挽囘シヤウト企
  テヽ居ッタ矢先、圖ラズモ羅馬尼政府ヨリ醫師ノ招聘ヲ求メテ參リマシタノデ、之ヲ機會
  ニ故ラニ事實ヲ大袈裟ニ新聞其他ニ吹聽シテ、畢竟人氣取リニヤッタノニ過ギナイ、又
  交部次官其他ガ之ニ關係セラレタト云フコトハ、一ツハ林君ト個人的同意ノ關係モア
  ルシ、又甚シキニ至ッテハ是ハ實ニ-斯樣ナ事ヲ申上ゲテ宜イカドウカ分リマセヌケレ
  ドモ、戰爭ノ跡ノ論功行賞ノ關係モアッテ、大騷ヲシタノデアラウナドヽ云フ、甚ダ失禮
  ナ說ヲ唱ヘテ居ル者モ世間ニ在ルノデアリマス而シテ實際ノ經過ヲ見マスルト云フト、
  初メハ非常ニ意氣込ミ、形勢ガ非ナリト見レバ逃出シテ人ニモ會ハヌ、卽チ髙ハ己レ
  ノ手ニ過チハ他ノ上ニト云フ、當世風ノ責任轉換ヲヤッテ居ル所ヲ見マスルト、斯ノ
  如キ風說ガ道路ニ傳ヘラレテモ、强チ打消スコトガ出來ナカラウカト思フノデアリマス
  若シモ政府ガ初メヨリ國家的事業トカ、或ハ實質ニ於テ政府事業デアルト云フガ
  如キコトデナクシテ、卽チ單ニ周旋ノ勞ヲ執ッタニ過ギナイ、ソレ以外ハ政府與リ知
  ラズト云フコトデアレバ然ラバ此最初ノ覺書ハドウスルノデアリマス、本省ガ與リ知
  ラナイノニ、傳染病〓究所長ト云フ者ガ、公ケノ文書ヲ以テ斯ノ如キ契約ヲ結ンデ、
  世間ヲ大騷ヲサセテ、サウシテ他ニ非常ナル迷惑ヲ掛ケタト云フコトデアレバ此林傳染
  病所長ニ對シテ、文部大臣ハ如何ナル處置ヲ執ラレタノデアルカ、是レ私ガ第一ニ
  御尋致シタイ所デアル第二ハ覺書ノ如ク最初一切交渉ガ成立シタカノ如ク、團長其
  他ヲ誘ッテ準備ガ愈〓出來テ、然ラバイツ何時デモ出發ガ出來マスト云フコトニナリマスレ
  バマグ交渉ガ本當ニ成立シテ居ナイ、旅費ノ如キ話ガ纏ラナイ、伊太利大使ヨリ返書
  ガ來ナイト云フ爲、却テ羅馬尼使節ハ日本政府ニハモウ懲リ〓〓デアルト言ハレ、伊太
  利大使カラ之ヲ拒絕セラレ一方團長以下各班員ハ尻ヲ向ケテ辭任ヲ申出テヽ、潰散
  シテ仕舞ッタト云フコトハ、何ト云フ失態デアリマセウ、殊ニ向フトノ契約ガ全ク成立シナ
  イ以前ニ於テ、此方ノ話ノミヲ先ニ成立サセテ仕舞ッテ、羅馬尼ニ向ッテ何時出發シテ
  宜イカト云フコトノ督促ヲ致スヤウニナリマシタ爲ニ、主客轉倒シテドウカ早ク此醫師團
  ヲ雇ッテ呉レト、向フニ依賴スルガ如キ結果ニナリマシタ爲ニ羅馬尼ノ使節ハ、日本ハ金
  儲ケノ爲アンナ事ヲスルト一云フヤウナ無禮ノ言ヲ發セラレテ、尙ホ我慢シテ居ナケレバナラ
  ヌコトニナッタ、文部省ハ幸ニ外務省デナイカラ幸福デアル、若シ是ガ外務省デアッテ、事
  外交ニ關スル事デアルナラバ、外交上ノ大失敗ト言ハナケレバナラヌト思フノデアリマス
  而シテ是ガ爲ニ內外ニ對シテ、政府ノ信用ヲ失墜シタト云フコトハ甚ダ尠ナカラヌト思
  フ、之ニ對シテ文部當局ハ如何ナル見解ヲ有セラレルノデアルカ、是ガ第二、第三ハ此
  輕卒ナル當局ノ處置ノ爲ニ人身供養ニ舉ゲラレタル所ノ團長以下各派員ニ對シテ、
  當局ハ何等カ慰安ノ方法ヲ爲サレタノデアルカドウカ、文部次官ノ御言葉ノ如ク當局
  ハ與リ知ラズト云フコトデアレバ左樣ナ事ハ萬々ナイ筈デアリマスガ、果シテサウ云フ方
  法ヲ執ラナカッタカドウカ、或ハ執ッタカドウカ、執ラントシタカ、執ッタナラバ、其目的ヲ達
  セラレタカドウカト云フ事ヲ承リタイノデアリマス、最後ニ附加ヘテ申上ゲタイ事ハ기私ガ
  此質問ヲ提出セントスル風說ガ立ッタ當時ニ於テ、文部省ノ或當局ト羅馬尼醫師團
  ノ團長デアッタ茂木博士トノ間ニ、何事カ起ッテ醫界ノ新聞ハ筆ヲ揃ヘテ「羅馬尼事件ノ
  死灰再燃」ト云フ題デ熾ニ書立テタ、其內容ヲ摘ンデ申シマスト一月中頃ニ名前ハ
  故ラ申上ゲマセヌガ文部省ノ此問題ニ關係ノ最モ深カッタ或勅任官ノ御方ガ、七百
  圓ノ金ヲ茂木博士ノ處ヘ運バレタ所ガ、ソレハ醫師試驗委員トシテノ金ハ別ニナッテ居
  テ、全ク意外デアリマシタカラ間違ヒト思ウテ斷ッタ所ガ、次ニハ別ノ矢張勅任ノ方ガ
  御出ニナッテ、是非是ハ受ケテ置イテ呉レロト云フコトデアリマシタガ、茂木博士ハ名ノ
  無イ所ノ金ハ戴クコトハ出來マセヌト言ウテ之ヲ御返シニナッテ、七百圓ノ金ハ多分今頃
  文部省ニウロツイテ居ルデアラウト云フコトガ、事詳細ニ記載サレテ居ルノデアリマス、併
  ナガラ是ハ後ノ事デアル、私ハ前ニモ申シマシタ通リ、此問題ニ依テ迷惑ヲ蒙ッタ所ノ人
  ハ獨リ醫師團許リデナク、文部當局ニ於テモ御迷惑ニナリツヽアルノデアリマスガ故ニ、
  總テ當事者ノ爲サレタ事ヲ善意ニ解釋スル意味ニ於テ、此七百圓ニ關スル質問ハ他日
  ニ保留シ、今日ハ謹デ敬意ヲ表スルニ止メテ置クノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=27

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• 028・元田肇

  ○元田肇君　議長

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=28

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• 029・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　元田肇君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=29

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• 030・元田肇

  ○元田肇君　本員ハ此際緊急動議ヲ提出致シマシテ、質問ノ順序トシテ議事日程
  ニ列舉サレテアリマスガ、其以前卽チ此場合ニ於テ、國民ガ非常ニ心配致シテ居リマス
  米國輸出入制限令ニ付キマシテ、外務大臣ニ質問シタイト存ジマス、ドウカ滿場ノ御贊
  成ヲ戴キタク動議ヲ提出致シマス
  〔「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=30

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• 031・大岡育造

  ○議長(大岡　育造君)元田君ヨリ緊急質問ノ動議ガアッテ、議事日程ノ變更ヲ求メ
  ラレマシタ御異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=31

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• 032・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　御異議ナシト認メマス、仍テ日程ハ變更セラレマシター-元田
  肇君
  米國政府ノ輸出入制限令ニ關スル緊急質問
  大正七年二月十九日
  提出者元田肇
  〔元田肇君登壇〕
  〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=32

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• 033・元田肇

  ○元田肇君　緊急動議ノ御許ヲ蒙リマシテ寔ニ滿足ニ存ジマス、本員ノ質問セント欲
  スル事ハ、簡單ナ質問テ御坐イマスガ、極メテ重大ナ事ト存ジマスノハ昨今新聞ニ表ハ
  レテ居ル所ヲ見マスト、米國政府ハ輸出入品ニ付キマシテ制限令ヲ發布セラレタト云フコ
  トデアリマス、此制限令ノ適用如何ニ依リマシテハ、我國ニ奈何ナル影響ヲ及ポスカ分
  ラヌノデアリマシテ.殊ニ盛ニ通商貿易ヲ致シテ居ル米國ト日本トノ關係ニ付キマシテハ
  其結果ノ如何ニ依リ重大ナル關係ヲ來ス事ト存ジマス而シテ此事ハ一日モ早ク其成
  行等ノ眞相ヲ知ラント、國民ハ舉ゲテ希望シテ居ル事ト本員ハ存ジマス、此際政府ハ
  寧ロ外務大臣ト申シマセウカ出來得ル限リ其經過ニ付キ詳細ナル眞相ヲ報告シ又
  之ニ對シテ政府ハ如何ナル措置ヲ執ル積リデアルカ、若シ御答ガ出來ルナラバ、今日承
  リタイ萬一公會ニテ差支アレバ祕密會デモ宜シイガ、滿天下ノ人民ハ實ニ其眞相ヲ
  知リタク希望シテ居リマスカラ、ドウカ成ルタケ明白ニ今日迄ノ經過及政府ノ執ラントス
  ル措置ニ付御答辯下サレタイ、敢テ之ヲ請求致シマス
  〔國務大臣法學博士子爵本野一郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=33

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• 034・本野一郎

  ○國務大臣(法學博士子爵本野一郞君)　唯今ノ元田君ノ御質問ニ簡單ニ御答致
  サウト思ヒマス、米國ノ禁輸問題ト云フ事ハ、餘程モウ前カラ起ルデアラウト云フコトハ
  豫期シテ居ッタ問題デアリマシテ、實ハ出來得ル限リノ手段ヲ執リマシテ、帝國ノ貿易
  產業ニ害ヲ來サナイヤウニシタイト云フ考ガ、此問題ノ起ッタ初メカラ、十分ニ政府デハ
  注意ヲシ、又相當ノ手段ヲ執ッテ居タノデ御坐イマス、併ナガラ此戰爭ガ長引クニ從ヒ
  マシテ、米國政府ニ於テハ已ムヲ得ズ、斯ノ如キ手段ニ出デザルヲ得ザルニ至ック次第デ
  御坐イマス然ルニ今日マデ吾〓ガ得テ居リマスル所ノ報告ニ依リマスレバ中立國ノ物
  品ニ對シマシテハ、直チニ制限法ヲ施行シタノデ御坐イマス、又聯合與國ノ物品ニ對シ
  マシテハ聯合與國ノ代表者ト協議上ニ、其品物モ高モ定メルト云フコトニナッテ居リマ
  ス、孰レ不日華盛頓ニ於テ、協議會ト云フモノガ開カレル事ニナッテ居ル、ソコデ日本ノ
  方デハ早速華盛頓ノ方ヘ訓令ヲ下シマシテ、又亞米利加ニ今行ッテ居リマスル其筋ノ
  者モ、其協議會ニ參列セシメマスヤウナ、手段ヲ執リマシテ、出來得ル限リ、帝國ノ貿
  易ノ保護ニ付キマシテ努力サセル積リデ御坐イマス、尙ホ又米國當局者ニ對シマシテモ
  此問題ノ起リマス前、又起リマシテカラモ、十分ニ注意ヲ致シテ居ル次第テ御坐イマス、
  今日ノ所デハ今迄ノ經過又政府ガ執ッテ居ル手段ハ是レ以上ノ事ヲ一寸今申上ゲ
  兼ネマスガ、免ニ角此問題ハ帝國ニ取ッテハ極メテ重大ナル問題デアリマス、其積リデ政
  府ハ出來得ル丈ヤル積リデ居リマス、左樣ドウカ御承知置キ相成リタウ御坐イマス

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• 035・早速整爾

  ○早速整爾君　唯今ノ御說明ニ付テ一寸承リタイノデ、是カラ後ノ御考ハ如何ヤウデ
  アルカヲ更ニ承リタイノデアリマスガ是マデ既ニ斯樣ナ問題ガ起ルデアラウト豫期シテ居
  ラレタ、昨年ノ亞米利加ノ金ノ輸出禁止以後、此問題ハ公ノ制限ト云フ事ガ起ッテ來
  ハシナイカト云フ事ハ何人モ氣遣ッテ居タノデアリマスソレハ當局者モ旣ニ豫期シテ居
  ラレタヤウナ唯今ノ御言葉デアリマス、ソレニ對シテ相當ノ手續ヲ盡シタト云フ御言葉デ
  アッタガ、今日ニ至ルマデ如何ヤウナル手段ヲ執ラレタカ一寸吾〓考ヘルト、之ニ關シテ
  ハ當局者ハ今日マデ非常ニ御盡力ニナッタ形跡ガ無ケレバナラヌ筈デアル之ニ付テ如
  何ヤウナル手段ヲ執リ來ッタカト云フ事ヲ、今少シ詳細ニ御說明ヲ願ヒタイト思ヒマス
  〔國務大臣法學博士子爵本野一郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=35

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• 036・本野一郎

  ○國務大臣(法學博士子爵本野一郞君)　問題ガ公ニナッテ居ラヌコトデ御坐イマス
  カラ、隨テ執ルベキ手段ト一云フノモ公ノ手段許リデハナイノデ御坐イマス、隨テ今詳細ニ
  ドウ云フ事ヲシタカト二ヲ事ニ付テハ、少シ私ハ御答致スニ憚ルノデアリマスガ、併ナガラ
  斯ウ云フ日本ノ貿易ニ對シテ妨害ヲ來サナイヤウニ、或ハ米國當局者ノ注意ヲ促シ、或
  ハ間接ニサウ云フ事ニナラナイヤウニ種々ノ手段ヲ盡シタノデアリマス、ソレデソレ以上ノ事
  ハ、私一寸此處デ申上ゲ兼ネマスカラ、是レハドウカサウ御了承相成リタウ御坐イマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=36

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• 037・早速整爾

  ○早速整爾君　重大問題デアリマスカラシテ、私ハ此問題ハ丁寧ニ御說明ヲ仰グ必
  要ガアルト思フ、唯今ノ御說明ノミニ依テ見マシテハ今日マデ當局者ガ無爲無策ニシ
  テ打過ギラレタノデハナイカト吾〓疑ハザルヲ得ナイノデアル、色ミノ方法ヲ執ッタト仰セニ
  ナリマスケレドモ、國民ハ之ニ付テ安心スル事ガ出來ナイ以上將來ニ對シテ更ニ吾ミハ
  憂慮ノ念ヲ懷カザルヲ得ナイノデアリマス、元田君モ最初此問題ハ祕密曾ヲ開イテヾモ
  詳細ニ說明ヲ聽キタイト云フ御要求デアリマシタ、若シ祕密會ニシテ外務大臣ヨリ此以
  上詳細ノ說明ヲ聽タコトヲ得ラレルノデアリマシタナラバ願クバ祕密會ニシテヾモ其今
  日マデノ經過竝將來執ラレントスル所ノ方針ニ付テハ、國民ガ安心スルヤウニ國家ノ
  利益ニナルヤウニ、此處ハ極メテ詳細ニ御說明ヲ私ハ仰ギタイト思フノデアリマス
  〔國務大臣法學博士子爵本野一郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=37

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• 038・本野一郎

  ○國務大臣(法學博士子爵本野一郞君)　今日ノ所ニ於キマシテハ、唯今私ガ述ベ
  タ以上ノ事ハ公會ニ於テモ祕密會ニ於テモ申上ゲル事ハ出來マセヌ
  〔「ノウノ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=38

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• 039・正木照藏

  ○正木照藏君　一寸御尋致シタイ、亞米利加ガ斯樣ナ制限ヲシタ所ノ原因ガ何レニ
  御坐リマスルカ、新聞ノ傳フル所ニ依リマスレバ船腹ノ調節ガ一ノ原因テアルト云フ事
  ガ書イテ御坐イマスガ、果シテ左樣デ御坐イマスカ、如何デ御坐イマス
  〔國務大臣法學博士子爵本野一郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=39

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• 040・本野一郎

  ○國務大臣(法學博士子爵本野一郞君)　私ノ所ニ達シテ居リマスル報告ニモ、唯
  今御述ベノヤウナ事ガ申シテ參ッテ居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=40

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• 041・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　小麥製粉類ノ買占ニ關スル質問、橫山勝太郞君
  七小麥製粉類ノ買占ニ關スル質問(橫山勝太郞君提出)
  小麥製粉類ノ買占ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正七年二月一日
  提出者橫山勝太郞贊成者正木照藏
  外三十人
  小麥製粉類ノ買占ニ關スル質問主意書
  左ノ事實ニ關シ農商務大臣ニ對シ質問ヲ爲ス
  事實
  諸物價ノ騰貴極メテ急激ニシテ國民生活ノ危機ニ瀕ス
  之レ時局ノ變調ニ基ク影響ノ然ラシムル所ナリト雖奸商輩ノ不正手段ニ原因スルモ
  ノ鮮シトセス
  就中頃者小麥製粉類ノ買占〓ナルモノ所在ニ起リ大資本ヲ投シテ日本全國ニ涉リ
  テ買煽ヲ實行シ之カ爲ニ市價ノ暴騰ヲ來シ延テ米穀類麵類味噌醤油等日常品ノ
  騰貴ト爲リ第三階級ノ困難殆ト言語ニ盡シ難ク深憂ニ勝ヘサル所ナリ
  質問主旨
  一政府ハ目下諸物價ノ騰貴ノ原因ハ何レニ在リト爲スカ
  二政府ハ小麥製粉類ノ買占團ニ對シ如何ナル措置ヲ採ラムトスルカ
  三政府ハ一般ニ暴利取締令ヲ適用スルノ方針ナリヤ如何
  右及質問候也
  〔橫山勝太郞君登壇〕
  〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=41

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• 042・横山勝太郎

  ○橫山勝太郞君　餘程時間モ經過致シマシテ、甚ダ御倦怠ノヤウニ存ジマスガ、事國
  民ノ實際生活ニ關スル事項デ御坐イマスカラシテ、成ルベク御靜聽ヲ煩ハシタイト考ヘマ
  スデ、質問ヲ致シマスル以前ニ唯こ一言申上ゲテ置キタイト思ヒマスノハ先刻我黨ノ紫
  安君ヨリ暴利取締令ハ憲法違反ニアラズヤトノ御質問ガアリマシタ、私ノ質問セント致シ
  マスル點ハ、此暴利取締令ナルモノガ憲法ニ違反スルヤ)百ヤト云フ點ニハ存シナイノデアリ
  マV、法律上ノ問題ト致シマシテハ或ハ憲法違反デアルカモ存ジマセヌガ私ハ此憲法
  違反ノ問題ハ姑ク別ノ問題ト致シマシテ姑ク此暴利取締令ナルモノハ我大日本帝國
  ノ國法ト見テ、之ヲ言定シタル前提ノ下ニ御尋ラシタイト考ヘルンアアリマス、御承知ノ
  如ク假令暴利取締令ナルモノガ憲法違反ナリトスルモ、此憲法違反ノ農商務省令ハ、
  行政官ノ行政命令其他相當ナル立法ノ手續ニ依テ廢止セラルヽ迄ハ違憲ナガラ之ヲ
  有效ト見ネバナラヌト私ハ考ヘマス、旣ニ違憲デアルケレドモ有效ト見マスル以上ハ矢
  張日本帝國ノ法令デアリマスルカラシテ、其現存シタル法令ハ矢張當局國務大臣其
  他行政官ニ於テ之ヲ嚴重ニ厲行スルノガ當然ノ任務デアルト考ヘマスカラ、此見地ニ基
  イテ御尋ヲ致シタイノデアリマス而シテ此問題ヲ申上グルニ當ッテ更ニ一言致シタイノ
  ハ我日本ノ近世史ヲ繙イテ見マスルト、今日ヲ距ル恰モ八十二年前、卽チ天保八年
  ノ二月十九日ニ大阪ニ於テ大鹽平八郎ナル者ガ、國民ノ生活問題ニ關シテ徒黨ヲ組
  ンデ亂ヲ作シテ、サウシテ時ノ官憲ニ對シテ叛逆ヲ企アタシ云フコトハ明瞭デアリマ、私
  ハ此暴利取締令ニ關スル質問書ヲ本月ノ一日ニ提出ヲ致シマシテ、偶然ニモ八十二
  年後ノ恰モ二月十九日ノ今夕此席ニ發言ノ機會ヲ與ヘラレマシタト云フ事柄ハ、重大
  ナル意味ガ寓セラレテ居ルト考ヘマス、八十二年前ノ二月十九日ニ國民ノ生活問題ニ
  關シテ大阪市ニ叛亂ガ起ッタ、又今日八十二年後ノ大正七年ノ二月十九日ニ此問
  廻る僕クノ此議會 處上ニ於テ簡ヲ致シラスト云フ子伯ハ人樣事中
  吾〓國民ハ歷史ノ範圍ニ超越スルコトハ出來ヌデアリマス、歷史ハ之ヲ繰返スモノデアリ
  マく、當局大臣ハ勿論、國民モ此點ニ付テハ餘程注意ヲシナケレバナラヌ事項デアルト
  私ハ確信スルノデアリマス(拍手起ル)是故ニ今日ハ復タ農商務大臣モ御出席ガ御坐
  イマセヌガ、農商務大臣ヨリモ精シク此問題ヲ御調査ニナッテ居リマスル岡商工局長ガ
  御出デニナリマスルカラ、此局長ヨリシテ私ハ卽時ニ詳細ノ御答辯ヲ得タイト考ヘマス、
  私ノ申上ゲマスル點ハ、事柄ガ製粉類ト小麥ノ買占ニ關スル質問ト申シマスルノデ、甚
  ダ大キナ問題デハナイノデ、諸君ノ倦怠ヲ買フコトヽ存ジマスカラシテ、私ハ成ルベク簡單ニ
  申上ゲマス、大正六年ノ一月ニ小麥粉ノ相場ガドノ位致シテ居ッタカト云フコトヲ調査
  致シテ見マスルト一袋六貫目入ッテ居リマスル所ノモノガ二圓二十錢致シテ居ッタノデ
  アリマス、ツレガ二月三月ニナッテ一一圓三十錢ニ騰リマシタ、五月ニ三圓ト相成リ、十一
  月ニハ三圓五十錢ト相成リ、十二月ニハ三圓七十五錢ト相成リマシタ、今年ノ一月
  ノ初ニ當リマシテハ、四圓五十錢ト云フ相場ヲ示シテ居ルノデアリマス、卽チ去年ノ
  一月ノ小麥粉ノ相場ト、今年ノ一月ノ小麥粉ノ相場ト云フモノハ實ニ十割ノ臘
  貴ヲ示シテ二倍ノ價値ヲ持ツコトニナッタノデアリマス、ソレガ漸次進ンデ參リマシテ、
  先月ノ下旬ニナリマスルト、四圓九十錢ニ暴騰致シマシタ二月ニ入リマシテカラハ
  五圓三十五錢ト相成リ、若クハ五圓六十五錢ト相成リ、五圓七十五錢ト相成リ、最
  近ニ至リマシテハ實ニ五圓九十錢、本日モ大阪地方ノ人ガ上京セラレテ御報告ニ依リ
  マスルト、實ニ六圓內外ノ相場ヲ持ッテ居ルト云フ話デアリマス、卽チ昨年ノ一月ニ僅ニ一圓
  二十錢致シテ致ッタモノガ今日此頃ニ於キマシテハ六圓、約三倍ノ値段ニ相成ッテ居
  ルト云フ事柄ハ皆サンニ御注意ヲ願ハネバナラヌ點デアリマス、而シテ斯ノ如キ暴騰ヲ
  致シマスル原因ハ〓製粉類ガ少イノデアルカト申シマスレバ決シテサウデハナイノデアリマ
  ス長クナリマスルカラシテ、大阪地方ニ於ケル分ハ之ヲ省略致シテ置キマスルガ、東京
  地方ニ於ケル分ノミヲ調査致シマシテモ、二月初旬ノ實際ノ調査ニ依リマスルト、日本
  製粉會社ガ八十万袋、東亞製粉會社ガ二十万袋、日〓製粉會社ガ五十万袋、是
  程澤山ノ製粉類ト云フモノガ現ニ我東京市中ニ於テ倉ノ內ニ藏セラレテアルノデアリマ
  ス、決シテ物ガ無イノデハナイノデアリマス、然ラバ製粉類ノ原料タル小麥ノ出來高ハド
  ウデアルカト云フト、是モ精シク調ベテ居リマスルガ、詳細ハ申上ゲマセヌ唯ダ簡單ニ申
  上ゲマスレバ、大正六年ニ我日本ノ內地ニ於ケル小麥ノ收穫高ハ約六百七十八万石
  デアリマス、其前年ノ大正五年度ヨリ約九十万石乃至百万石ノ增收ニ相成ッテ居リマ
  ス、之ニ加フルニ大正五年度ニ於テ國民ガ消費シ能ハザリシ小麥ノ所謂越高ト稱スル
  モノガ、約五六十万石ハ日本內地ニ存在シテ居ルノデアリマス斯ノ如ク小麥其物モ
  澤山存在シテ居リマスルシ、製粉類モ亦澤山市中ニアルニモ拘ラズ、今日斯ノ如キ騰貴
  ヲ致シタト云フ事柄ハ、如何ナル原因デアルカト云フコトヲ私ハ諸君ト共ニ攻究ヲ致シテ
  見タイト考ヘルノデアリマス前辯士モ既ニ御話ニナリマシタカラシテ(笑聲起ル「錦輝館
  テハアリマセヌ」ト呼フ者アリ)物價騰貴ノ原因ハ、殊ニ小麥及製粉類ノ騰貴ノ原因ハ、
  第一ガ通貨ノ膨脹デアル、第二ハ一般經濟界ノ影響ヲ受ケタト云フ是ハ誰方ガ御
  考ニナッテモ間違ノナイ事實デアリマス、然ラバ此通貨ノ膨脹ト一般經濟界ノ影響以外
  ニハ小麥ナリ或ハ製粉類ナリノ暴騰スル原因ハ無イカト申シマスレバ確ニ原因ハアル
  ノデアリマス、然ラバ其原因ハ何デアルカト申シマスレバ、吾〓國民ノ膏血ヲ絞ル所ノ吾ミ
  國民ノ實際生活ニ迫害ヲ加ヘル所ノ奸商ナル者ガアッテ、製粉類ノ買占ヲ爲シ其原
  料タル小麥ノ買占ヲ爲スト云フコトガ原因デアルコトヲ吾ミハ探知シタノデアリマス、而シ
  テ此小麥ノ買占及ビ製粉類ノ買占ハ何人ガ如何ナル方法デヤッテ居ルカト云フコトヲ
  更ニ〓究シテ見マスレバ、神戶ニ幾千万圓ノ大資本ヲ有シテ居リマス所ノ某商店デアリ
  マス、道路傳フル所ニ依レバ、此商店ノ主人ハ閣臣ノ一人ノ甚ダ緣ノ薄イ關係ヲ持ッテ
  居ルト云フコトヲ傳ヘテ居リマス私ハ固ヨリ之ヲ信ジマセヌ、併シ左樣ナ不祥ナ噂ヲ持ツ
  テ居ル者ガ、、國民ノ一角ニ確カニ存在シテ居ルト云フコトハ現內閣ノ諸公ハ餘程御考
  ヘニナラナケレバナラヌコトヽ私ハ存ズルノデアリマス、此現內閣ノ閣臣ノ一人ト薄キノ
  關係ヲ持ッテ居ルト稱セラルヽ神戶ノ某商店ガ、大阪神戶馬關東京ヽ南ノ端ノ臺
  灣ニ至ル迄、約五千万圓ノ資本ヲ投ジテ、製粉類及ビ其原料タル小麥ノ買占ヲヤッテ
  居ルノデアル、先刻大阪市カラ御上京ニ成リマシタ有志ノ語ル所ニ依レバ、阪神地方ニ
  於テモ二百万袋ノ製粉ヲ買占メテ居ル、東京ニ於テモ二百万袋ヲ買占メテ居ル臺灣
  ニ於テモ十万袋買占メテ居ル、馬關ニ於テモ五十万袋員占メテ居ル、合計約五百万袋
  買占メテ居ルノデアリマス(「辯士五十万圓デハ勘定ガ合ヒマセヌ」ト呼フ者アリ)資本ガ
  足ラヌト云フ仰セデアリマスガ、彼等ハ信用ヲ持ッテ居リマスカラ、一俵二俵買フ人ト違ッ
  テ、彼等ハ金ヲ要シナイノデアリマス、先物賣買モアリ、信用ノ賣買モアリマス、私ノ申
  上ゲタノハ、現ニ五十万圓式ハ資本ヲ投ジテ居ルト云フコージ申シタノアクリス算盤
  ハ決シテ合ハヌコトハアリマセヌ、斯樣ナ方法ニ依テ、卽チ大規模ノ買占ヲヤッテ居ルノデ
  アリマスガ、今日官憲ノ方デモ多少ノ取締ヲ致シテ來ルシ、新聞ニ於テモ輿論ニ於テモ大變
  八釜敷クナッテ來マシタノデ、彼等ハ遂ニ斯樣ナ口實ヲ捻出シタノデアリマス、佛蘭西及ビ英
  吉利邊カラノ約束ガアルカラ此約束ニ基イテ輸出ヲシナケレバナラヌ、此契約ヲ實行セネ
  バナラヌト云フノガ、彼等ノ方ノ答辯デアリマス、此答辯ハ吾〓ハ甚ダ疑フノデアリマス、何ト
  ナレバ私ノ聞ク所ニ依レバ,佛蘭西テ日本ノ製粉類ハドノ位ノ相場ヲ持ッテ居ルカト云フコ
  トヲ問合セマシタ所ガ、日本ノ製粉類ハ七圓五六十錢乃至八圓以下ノ相場デアルト云フ
  コトデアル、而シテ佛蘭西ヘノ運賃ハドノ位カト申スト四圓乃至五圓要ルト云フコトデアリ
  マス、今日船舶ノ甚ケ少ナイ場合、他ノ方面ノ非常ニ需要ノ多イ場合ニ於テ、四圓ヤ五圓
  デハ或ハ輸出ガ出來ヌカモ知レマセヌ假リニ四圓五十錢若クハ五圓デ運送ガ出來ルモノト
  シテモ日本ノ製粉ガ佛蘭西ヘ參リマスルト、ドウシテモ十一三圓ノ相場ニ賣レナケレパ算盤ガ
  取レヌコトニナッテ居リマス、斯樣ヲ事柄デアルニ拘ラズ、果シテ此鈴木商店-否ナ神
  戶ノ某商店ガ此輸出ヲヤッテ、果シテ金利ヲ得ルコトガ出來ルカドウカ、此點ニ付テハ私
  ハ一種ノ口實デアリハセヌカト思ヒマス從テ此英吉利方面ヘヤルト云フノモ、私ハ口實
  デハナイカト考ヘテ居リマス、唯ダ玆ニ彼等ノ言フ事柄ヲ一〓ニ排斥スルコトガ出來ヌト云
  フ事柄ハ、本月ノ一日ニ下關カラ二三一万袋某汽船ニ積ンデ某商店ガ之ヲ外國ニ輸
  出致シテ居リマス、若シ果シテ是ガ事實デアリマスルナラパ否ナ事實デアリマスカラ、或
  ハ彼等ハ矢張損ガ立ッテモ國際ノ信義ヲ重ンジ、契約上ノ信義ヲ重ンジテ、外國ニ輸
  出スルト云フヤウナコトガアルカモ知レヌト存ジマス、事此ニ至レバ日本政府ノ官吏ハド
  ウ云フ態度ヲ執ルノデアルカ、之ヲ私ハ切ニ聞カントスルノデアリマス、我日本政府ガ此
  小麥若クハ製粉類ノ買占ノ事實ハ、之ヲ現ニ御認メニナッテ居ルト云フ事柄ハ、警視廳ノ
  鈴木捜査係モ此事實ヲ認メマシテ、幾十人ノ警察官ヲ使ッテ、此事實ヲ調査致シテ居
  リマス、又農商務省ノ此局ニ當ッテ居ラルヽ官吏モ、此事ヲ明言シテ居ルノデアリマス、農
  商務省ガ少ナクトモ此製粉類ノ買占ノ事實ガアルト云フコトヲ認メテ居ルト云フ事實ハ、
  本月四日ニ農商務省令ノ第三號ヲ以テ、先年發布致シマシタ暴利取締令ノ第一條
  ノ米穀類トアリマス下ニ、「穀粉類」ト云フ三字ヲ加フル旨ノ省令ヲ發シマシタ、之ニ
  依テ農商務ノ當局者が、日本ノ內地ニ於テ奸商輩ガ少ナクトモ製粉類ノ買占ヲヤッテ居
  ルト云フ事實ヲ確認致シテ居ルノデアリマス確認致シテ居リナガラ今日迄何事モシナイ
  ノデアル此故ニ私ノ憂フル所ハ、此小麥若クハ製粉類ノ買占ナルモノガ、吾〓國民ノ
  生活ニ、如何ナル關係ヲ持ッテ來タカト云フ事柄ヲ極メテ簡單ニ申上ゲマス、此小麥製
  粉類ノ買占ヲナサレマシタ結果、無論他ノ一般經濟界ノ影響ヲ受ケタ事柄モ原因
  トナルデアリマセウガ、主トシテ買占ノ結果デアリマス、此麵類ノ非常ナ暴臟ヲ致シタ
  ト云フコトカラ、一番最下等ノ麵類、何ト申シマスカ、皆樣モ召上ルヤウデアリマスガ、
  是ガ五錢六錢ト云フ相場ニナッテ來タノデアリマス、又勞働者ノ日夕第二ノ主食料
  トシテ使ッテ居リマス麵類ガ丸三ト稱スル分ガ現ニ一杯三錢ト云フコトニナッテ居リ
  マヽ、殊ニ恐ルベキ結果ハ素麵業者ノ上ニ非常ナ影響ヲ持ッテ參リマシテ、素麺業
  ハ御承知ノ如ク寒中ニ於テ製造致シテ置キマシテ、之ヲ夏ニ販賣致スト云フノガ斯
  業者ノ從來ノ仕來リデアリマス、所ガ製粉類ガ非常ニ暴騰致シマシタ結果素麺業
  者ハ素麵ヲ造ルコトヲ一切止メ、若クハ止メントシテ居ルト云フコトノ實際ノ狀況ヲ
  產出シテ居リマス又普通麺類ヲ販賣致シテ居ル飮食店モ、餘リ製粉類ガ高クナリ
  マシタ結果、廢業ヲ致シ、休業ヲ致ス者ガ所在ニ頻々トシテ起ッテ居ルト云フコトハ、
  否ムベカラザル事實デアリマス殊ニ最モ直接ノ影響ヲ與ヘマシタノハ麵麭デアリマス、
  麵麭粉殊ニ〓麵麹デアリマス東京市ニ於キマシテハ一斤八錢乃至十錢若クハ
  十二錢致シテ居リマシタモノガ、本月ノ十五日カラハ現ニ十五錢ト云フ相場ニナッ
  テ居リマス、橫濱ニ於キマシテハ一斤十二錢ノ麵麭ガ今月ノ十五日ヨリ十八錢
  ト云フコトノ値上ニナッテ居リマス、其他一箇一錢五厘ノ麵麹ガ二錢トナリ一錢
  五厘ノモノガ二錢トナル一箇一錢デ十匁アッタモノガ五匁六匁ニ減ッテ居ルト云フヤ
  ウナ事實ガ、現時此菓子麵麵、食麵麭ノ上ニ現ハレテ來テ居ルノデアリマス此麵麹ノ
  影響ハワレデ御分リデ御坐イマセウガ(「分ラヌネ」ト呼フ者アリ、殊ニ吾ミガ「質問ノ趣
  意ハ何デス」ト呼フ者アリ)最モ憂フル所ノモノハ、吾〓ノ日常缺クベカラザル味噌醬
  油ノ上ニ非常ナル影響ヲシタ事實デアリマス、(「ソンナ事ハ分ッテ居ルデハナイカ」ト呼
  フ者アリ)詳シイ事ハ御承知ナラ申上ゲマセヌガ、御分リニナラヌ御方モアルヤウデアリマ
  スカラシテ、一言申スノデアリマス簡單ニ申シマスレバ味噌ハ一二年前ニ比シテ十割
  ノ騰貴ヲ致シテ居リマス、醤油ハ約五割ノ騰貴ヲ致シテ居リマス、斯樣ナ事實デアリマ
  シテ小麥、若クハ製粉類ヲ奸商輩ガ買占ヲシタ結果、吾〓ノ日用品ノ上ニ非常ナル暴
  騰ヲ來シタト云フ事柄ハ、爭フベカラザル事實ニナッテ居リマス、諸君ノ如ク何事モ御承
  知ノ御方ハ宣シイシ澤山ノ資產ヲ持ッテ居ル御方ハ一向差支ナイノデアリマスルガ、實
  際第三階級ノ人民ニ取リマスト、是ハ非常ナル生活上ノ追害デアルト私ハ考フルノデア
  リマス(拍手起リ「東京ノ町ノ大根一本何程ナルヤ」「五月蠅イ」ト呼フ者アリ)ツレデ〓
  府ニ御尋ヲ致シテ置キタイト考ヘマスノハ此製粉類若クハ小麥ノ騰貴ノ原因ハ、矢張
  私ガ先刻申上ゲマシタヤウニ奸商輩ノ暴利ヲ目的トスル買占ニ在ルト云フ事柄ヲ認メ
  ルカドウカデアリマス、旣ニ製粉類及小麥ノ價ノ暴騰ガ買占ニ在ルト云フ事柄ヲ政府當
  局ガ認メマスル以上ハ今日迄ドノヤウナ手段方法ヲ執ッタカト云フコトヲ聞キタイノデア
  リマス(「早クサウ云ヘバ宜イ」「分ッテ居ル」「ソレヲ聞クバ宣イ」ト呼フ者アリ)御承知ノ如
  ク暴利取締令ハ洵ニ恐ルベキ法律ノヤウデアリマスルケレドモガ、元來法ハ死物デアリマ
  ス、如何ニ立派ナ法令デアッテモ如何ニ嚴重ナル法制デアッテモ、之ヲ政府當局ガ嚴
  重ニ國民ニ對シテ適用シナカッタナラバ、是ハ畫ニ描イタ唐獅子デアリマス(「ワレハ買占
  ノ結果デハナイ」ト呼フ者アリ)此故ニ從來暴利取締令ナルモノヲ、製粉類ノ買占、
  麥ノ買占ニ對シテ如何ニ適用シタカ、適用シ來ッタ事實ヲ聞キタイト思フノデアリマス、
  之ヲ今日迄農商務大臣ハ言明ヲ致シマセヌ又現ニ買占ヲヤッタ者ガアルノニ對シテ、
  何等ノ方法ヲ執ッテ居ラヌカラシテ、已ムヲ得ズ此壇上ニ立ッテ聞クノデアリマス(「聞キタ
  イコト丈聞キ給ヘ講釋ヲ言ハヌデ」ト呼フ者アリ)サウ仰シヤラヌデモ聞キタイ丈聞イテ居
  ルノデス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=42

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• 043・大岡育造

  ○議長(大岡育造君私)　私語ヲ禁ジマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=43

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• 044・横山勝太郎

  ○橫山勝太郞君　第二ニ承リタイノハ、此警視廳ナリ農商務省ノ當局者ハ、今日迄
  如何ナル方法ヲ執ッテ居ッタカト云フコトモー承リタイノデアリマスガ今日以後ドノヤウニセ
  ントシテ居ルカト云フコトモ聞カネバナラヌノデアリマス、又從來ノ形跡ニ徵スレバ今日
  迄此暴利取締令ナルモノハ何等ノ效果ガ無イカラシテ、之ヲモ適用セヌト云プノデアル
  カ此法律ニ依テハ何等ノ取締方法ヲ講ゼナイト云フノデアルガ、之ヲ私ハ詳細ニ承リ
  タイト思フノデアリマス、第三ニハ小麥製粉類ノ買占ニ對シテ、素ヨリ此暴利取締令ノ
  適用ヲ御願ヒシタイノデアリマスルガ、之ヲ一般ノ物價ニ對シ、一般ノ日用品ニ對シテ
  政府ハ適用スル意思ナキヤ否ヤト云フコトモ御尋ヲシタイノデアリマス、御承知ノ如ク
  吾〓國民ハ小麥及製粉類ノ物價ノ騰貴ニ依テ、非常ナ困難ヲ致シテ居リマスルガ、吾ミ
  國民ガ困難ヲ致シテ居ルノハ、單ニ製粉ト小麥トノ價ノ醫貴ニ非ズシテ、他ノ物價ノ騰
  貴ニ依テモ吾〓國民ハ困ッテ居ルノデアリマス、之ニ對シテ政府當局ハ、此暴利取締令
  ナルモノヲ如何ニセントスルカト云フコトヲ私ハ承リタイノデアリマス御承知ノ如ク(「モ
  ウ宣カラウ」ト呼フ者アリ)我寺內內閣ハ(笑聲起ル)吾ミガ演說會ヲ開キ、其他集會ヲ
  致シマス(「辯士何ンダウレハ」ト呼フ者アリ)非常ナル暴力ヲ加ヘテ人權ノ蹂躙ヲ致シテ
  居リマスルガ吾ミハ元來良民デアルノデアリマス吾〓ノ同志ハ元來良民デアリマス、此
  吾ミノヤル政治運動ニ對シテ、不法越權ナル人權蹂躙ヲ加ヘルヨリモ吾〓國民ノ實
  際生活ニ對シテ迫害ヲ加フル所ノ奸商輩ニ向ッテ一大鐵槌ヲ下ス事柄ガ急務デアルト私
  ハ考ヘマス(拍手起ル)現內閣ハ何ヲ致シテ居ルノデアリマスカ、日比谷ニ五人カ十人
  人ガ集マレバ、幾百人ノ巡查ヲ出シテ大騷動ヲヤリ、僅カ五百人カ三百人ノ人間ガ上
  野ニ集シテ宴會ヲヤレバ三百人五百人ト巡查ヲ使ッテ人權ヲ蹂躪シテ居ルニモ拘ハラ
  ズ中產階級以下ノ人ガ、幾万人幾十万ノ人間ガ現ニ生活上ノ迫害ヲ受ケテ居ルノ
  ニ、此官權ヲ奸商輩ニ向ッテ使用セヌコトハ、本末ヲ〓倒スルコトノ甚シキモノデアルト私
  ハ考ヘマス(拍手起ル)岡牟一人ノ取締ガ出來ヌヤウデ、又第二ノ岡半タル小麥ヤ製粉
  類ノ買占ヲスル此一商人ノ取締ガ出來ヌヤウデ、傲然トシテ內閣ニ列スルト云フ事柄
  ハ不都合千萬ナ話ダ、先刻政友會ノ領袖ノ人〓ヨリ緊急動議トシテ適切ナル御質
  問ガアリマシタガ、ソレニ付テモ私ハ想ヒ起スノデス、明治二十三年ノ八月ニドウ云フ事
  ガアリマシタカ、朝鮮ニ於テ朝鮮ノ咸鏡道ノ監司ト稱スル役ノ趙秉式ナル者ハ(「脫線
  脫線」ト呼フ者アリ)恰モ其年ガ凶歲デアッタト云フ事柄ヲ口實ニシテ、諸君モ御承知ノ
  如ク防穀兮ナルモノヲ出シテ、我日本ノ商人ニ對シテ幾十万圓ノ損害ヲ與ヘテ居ルト
  云フ事實ガアリマス、私ハ何モ農商務大臣ナリ內務大臣ナリガ防穀令ヲ出シテ、西洋各
  國ニ對シテ損害ヲ與ヘヨト云フノデハアリマセヌケレドモ、現ニ我ガ內地ニ於テ陛下ノ赤子ガ
  幾十百万トナク此生活問題ニ付テ困ッテ居ルニ拘ハラズ平然トシテ居ル事柄ガ不思議ニ
  堪ヘヌノデアリマス、此意味ニ於テ朝鮮ノ政治家ヨリモ劣レルノデアリマス、ドウカ斯樣ナ事モ
  歷史ノ上ニハアルノデアリマスカラシテゝ眞ニ國民ノ事ヲ思ヒ、眞ニ國務大臣トシ職責ヲ義
  意ガアルナラバ、折角發布セラレタル此暴利取締令ナルモノヲ、完全ニ使ッテ貫ヒタイト私ハ
  斯ウ考ヘマス(「分リマシタ」ト呼フ者アリ)其次ニ終リニ一言尋ネテ置キマスガ、此暴利取締令
  ナルモノハ、若シ政府ガドノヤウニ運用ヲ致シマシテモ厲行ヲ致シマシテモ、一人ノ岡半ヲ取締ル
  コトガ出來ズ、一人ノ買占〓ヲ取締ルコトガ出來ヌト云フ、詰ラナイ法律デアリマスナラバ
  今日限り廢メタラドウデアリマスカ、私ハ憲法違反論法律論ラスルノデアリマセヌ、實
  際ニ於テ價値ノ無イ法令デアルナラバ寧ロ廢メタ方ガ宜カラウト私ハ考ヘマス、殊ニ此
  暴利取締令ナルモノニ對シテ、最後ニ一言言許シヲ願ヒマス點ハ(「許サヌ」ト呼フ者ア
  8笑聲起ル)一體此暴利取締令ニ於テ、果シテ法制局ノ新進ノ學者ヲ集メテ協議シ
  タル法令デアルカ、是ハ疑フベク誠ニ缺點ノ多イ法令デアリマス此一條ヲ讀ンテ御覽
  ナサイ「急激ナル市價ノ變動ヲ誘起シ因テ暴利ヲ得ルノ手段トシテ左ニ揭クル物品ノ買
  占又ハ賣惜ラ爲シ又ハ爲サントスル者ト認ムルトキハ農商務大臣ハ期間ヲ定メテ其ノ行
  爲ヲ爲スヘカラサル旨ヲ戒告シ且必要ト譯ムルトキハ同一物品ノ賣買ニ付キ條件ヲ附ス
  ルコトヲ得他人ヲシテ其行爲ヲ爲サシメ又ハハササシメントスル者ト認ムルトキ亦同シ」是ガ
  一體今日法制ノ知識ノ進ンダル日本帝國ノ法令トシテ、果シテ諸君ハ如何ナル御感
  ジヲ御持チニナリマスカ此一條ノ冒頭ニアリマス「急激ナル市價ノ變動ヲ誘起シ因テ
  暴利ヲ得ルノ手段トシテ」ト云フ此〓十ノ文字ハ無クテモ宜シイ、明治五六年頃カ
  慶應ノ三年頃ノ法令ニハ能ク斯ウ云フ長イ文章ノ法律ガアリマシタ、今日進ンダル法
  制ノ下ニ、斯ウ云フ長イ詰ラナイ文章ヲ書クト云フ事柄ハ、是ハ法制局ノ役人ニ相談
  シナカッタ法令ト考ヘテ居リマス此第一條ハ私ハ一言ニシテ申上ゲマスレバ無學文盲
  ナル遊女ノ艶書ノ如シ遊女ノ文デアリマス、誠ニ詰ラナイ法交デアリマス、殊ニ此一條
  つ
  ノ一項ノ末文ニアリマス「他人ヲシテ其行爲ヲ爲サシメ又ハ爲サシメントスル者ト認ムルト
  キ亦同ジ」ト云フハ、是ハ刑法總則ノ適用上、無クテモ宜シイ事柄デ、此樣ナ事ハ誰デ
  モ存ジテ居リマス、ソレヲ農商務大臣ガ恰モ無智文盲ノ朝鮮人カ臺灣人ニデモ〓ヘルヤ
  ウナ考ヲ以テ、斯ウ云フ法文ヲ作ルト云フ事柄ハ、少クトモ立法ノ事ニ付テハ少シモ學
  問シテ居ラヌ當局デアルト私ハ斷言シテ憚ラヌノデアル、斯ウ云フ次第デアリマスカラ、斯
  ウ云フ詰ラヌ法律ハ、寧口御廢メニナッテ、更ニ一層有力ナル法律ヲ以テ、若クハ行政
  命令ヲ以テ、サウシテ眞面目ニ此問題ヲ〓究致シテ貰ヒタイ考ヘマス、而シテ博學ナル
  諸君ノ前ニ言フノ必要ガ無イカモ知レマセヌガ、政府當局ニ對シテ一言私ハ申上ゲタイ
  ト考ヘマス、ソレハ冒頭ニ申上ゲマシタ天保八年二月ノ十九日ニ、大鹽平八郎ガ大阪
  ニ於テ亂ヲ起シタ際ニ、多數下民ノ爲ニ、特ニ奸官ヲ誅スルト云フ意味ノ所謂斬奸
  狀ナルモノヲ天下ニ發布致シテ居リマス、此所謂檄文ナルモノヽ一端ヲ讀ンデ、政府當
  局ノ注意ヲ促シテ置キタイト思ヒマス、之ヲ以テ私ノ此演說ヲ終ルノデアリマス(「止
  セシ」ト呼フ者アリ)大鹽平八郞ノ檄文ノ一端ニ曰ク「二百四五十年太平ノ間ニ
  上タルモノ漸ク驕奢ヲ極メ政事ノ樞要ニ預ルノ吏僚ハ公然賄賂ヲ受ケ〓緣ニ綠ラバ道
  德仁義ヲ知ラサルノ徒輩ト雖陞ッテ重職ニ就クコトヲ得單ニ一人一身ヲ肥スニ腐心シ
  亦其他ヲ問ハズ領內ノ下民ニ命ズルニ過重ノ納金ヲ以テシ從來年貢諸役ノ甚シキニ苦
  シメルガ上ニ誅求收領シテ至ラザルナク財用益、多クシテ賦課益〓重ク竟ニ四海ノ困窮
  ヲ致セリ、殊ニ三都ノ中ニ就キ大阪ノ富豪等ハ年來金穀ヲ諸侯ニ貸與シ算利ノ銀兩
  ヲ占ムルコト極メテ多ク又其貢米等ヲ壟斷シテ既ニ未曾有ノ殷富ヲ致シ商豎ノ身ヲ以
  テ爲ニ諸侯ノ重臣ニ准用セラレ更ニ土地田面ヲ有スルコト益〓多ク又世ニ饑寒アルヲ知
  ラズ是ヲ以テ方今ノ天災ヲ見ナガラ毫モ天命ヲ畏レズ又餓死ノ窮民流氓ヲサヘ救ハズ
  其身ハ膏梁ノ味ヲ〓ミテ妾媵ノ家ニ燕居シ或ハ諸侯ノ士人ヲ妓樓娼舍ニ誘引シテ高
  價ノ酒ヲ費スコト水ヲ棄ツルガ如シ此至難危急ノ時ニ當リテ輕暖ノ絹服ヲ纏ヒ遊民妓
  女ノ輩ヲ迎ヘテ遊樂ニ耽ルコト平日ニ殊ラザルハ果シテ何事ゾヤ」マダ御坐イマスガ、之
  ヲ以テ大鹽平八郎ノ檄文ノ一端ヲ政府當局ニ御示シテ致シテ置キマス(「朗讀ヲ許スノ
  ハドウ云フ譯デアリマスカ」其他發言スル者アリ)

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• 045・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　靜ニ·

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• 046・横山勝太郎

  ○橫山勝太郞君　諸君冐頭ニ於テ申上ゲタ如ク、吾〓國民ハ(「左樣ナ不吉ナコトヲ
  言フコトハナラヌ」ト呼フ者アリ)歷史ノ範圍ヲ超越スルコトハ出來ナイ、歷史ト云フモノ
  ノ慶繰返スモノデアリマス私ハ大橋平八郞(笑聲起ル)ノ出ルコトヲ好ム者デハアリマ
  セヌガ、今日此頃ノ政府當局ノヤリ方デアッテ、中產階級以下ノ生民ノ生活問題ヲ毫
  モ念頭ニ置カナイデ、人權ノ蹂躪ヲヤリ、憲法ノ破壞ヲ業トシテ居リマスナラバ、或ハ知
  ラヌ斯ウ云フ者ガ起ラヌトハ言ヘナイ、此點ニ於テ政府當局ハ宜シク歷史ニ鑑ミテ、下民
  ノ愛スベキコトヲ考ヘ此時此際完全ナル法律ヲ作リ、此法律ヲ属行シテ、サウシテ吾ミ
  中流階級以下ノ生活問題ヲ圓滿ニ解決シテ呉レンコトヲ切ニ希望スルノデアリマス、
  是丈ヲ私ハ申上ゲマス(拍手起ル)

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• 047・岡實

  ○政府委員(岡實君)　議長

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• 048・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　岡政府委員
  〔政府委員岡實君登壇〕
  (「簡單ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕

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• 049・岡實

  ○政府委員(岡實君)　卽席ニ答辯ヲ致スベシト云フ御注文ガアルサウデアリマスカラ、
  簡單ニ一言申上ゲマス、唯今橫山君ノ縷々御述ニナリマシタ如ク、小麥粉ハ今年初メ、
  遡レバ去年ノ十二月頃カラ暴騰ヲ致シマシタ、其原因ハ果シテ何レニ在リヤト云フコト
  ハ、十分ニ調査ヲ致シマシタノデアリマスルガ、結局此世界的ニ此糧食ガ缺乏致シテ居
  ルト云フ一事ニ歸著スルノデアリマス、卽チ亞米利加ノ參戰ニ依リマシテ、是迄既ニ不
  足ヲ告ゲテ居ッタ所ノ世界ノ小麥粉ハ、尙ホ一層不足ヲシタ、此影響ハ結局我國ノ小
  麥粉マデ、矢張歐洲ノ戰場ニ持出スコトノ已ムヲ得ザルヤウナ羽目ニ陷ッタノデアリマス、
  尤モ昨年ハ一昨年一昨々年ヨリモ餘程多大ノ輸出ガアリマシタ、凡ソ我國ニ出來ル
  小麥粉ノ二割以上モ輸出サレテ行ッタノデアリマスガ、本年ハ旣ニ注文ノ入ッテ居ル丈デ
  も、或ハ昨年出タ額位ニ達スルカノ如ク見エルノデアリマス、此大需要ニ伴ッテ、大暴騰
  ヲ致シマシタコトデアリマスルカラ、其間ニ商人ガ多少其需要ニ對應スベク、買占ト申シマ
  スルカ、買込ト申シマスルカ、注文價格ニ應シテ、買入行爲ヲ爲シタト云フコトハ事實デ
  アリマス、併ナガラ此事ハ暴利令第一條ニ所謂市價ノ急激ナル變動ヲ誘起シテ由テ
  以テ暴利ヲ貪ルト云フ事ニ該當スルヤ否ヤ、此點ハ聊カ法律上ノ疑問ガアリマス、故ニ政
  府ニ於キマシテモ、其點ハ十分目下審理中デアリマス、又此小麥粉ヲ單ニ暴利令ニ入
  レルノヲ以テ滿足スベキヤ、尙ホ其他ニ何等カノ施設ヲ爲スベキヤ否ロ、此點モ愼重審
  議中デアルコトヲ申上ゲテ置キマス

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• 050・横山勝太郎

  ○橫山勝太郞君　議長

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• 051・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　橫山勝太郞君

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• 052・横山勝太郎

  ○橫山勝太郞君　簡單デアリマスカラ、モウ一言私ノ質問ヲ致シマシタ趣意ハ、
  此小麥及製粉類ノ買占ガアルト云フ事柄ヲ政府ハ認メテ居リナガラ其事實ニ關シテ、
  何故ニ暴利取締令ヲ適用シナイカ、又今日マデ其規則ヲ適用シタノデアリマスルナラバ
  ドウ云フ事ヲヤッタノデアルカ、其具體的ノ經過ヲ承リタイト申スノデアリマス、此故ニ今
  一度言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ、斯樣ナ買占ヲ爲ス者ガアッタニモ拘ラズ、一人モ犯則
  者ガ出ヌノハドウ云フモノデアリマスカ一人ニ對シテモ戒告ヲ與ヘヌノデアリマスカ私
  現ニツレハアック筈ノヤウニ記憶シテ居リマス、ソレカラ今商工局長ハ、唯今審理中デアル
  ト言ハレマシタケレドモ吾ミガ二月ノ初旬ト伺ヒマシタ時ニモ、熱心ニ〓究ヲ致シテ居
  ルト言ハレタ、今日ハ何日デアリマス、今日ハ大正七年ノ二月十九日デアリマス、貴方
  ハ俸給ヲ御取リニナッテ、午前ノ九時ニ出勤ヲシテ、午後ノ四時ニ御歸リニナレバ、リレデ
  目的ヲ達シテ居リマセウガ、吾〓國民ハ、時々刻々物ヲ食ハナケレバ生キテ居ラレヌノデア
  リマス、凡ソ何日マデ御〓究ニナルノデアリマスカ、先刻申上ゲマシタヤウナ事柄ハ新聞
  ニモ出テ居ル、雜誌ニモ出テ居ル、數十百人ノ人ガ陳情モシテ居ル、又請願書モ出シテ
  居リマス、ソンナ事ハ〓究セヌデモ誰ガ何處ニ於テドノヤウナ買占ヲシテ居ルカト云フコ
  トハ、悉ク貴方ニ分ッテ居ルデハナイカ、ソレヲ二月初旬私ガ參ッタ時分ニモ〓究中デ
  アルト稱シ、殆ド二月ガ將ニ盡キントスル今日ニ及ンデ未タ審理中トハ何事デアリマ
  入、吾ミハ政府カラ月給ヲ貰ッテ居ル役人トハ違ヒマス、殊ニ第三階級ノ貧民ハ、政府
  カラ月給ヲヤッテ居ル譯デハアリマセヌ、麺類ガ高クナリ、麵麭ガ高クナリ、味噌醤油ガ高
  クナレバ每日々々困ッテ居ル、ツレヲ何時マデ貴方ハ御〓究ニナルノデアリマスカ、此事
  ヲ詳細ニ御答辯ヲ願ヒタウ御坐イマス

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• 053・岡實

  ○政府委員(岡實君)　議長

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=53

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• 054・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　岡政府委員
  〔政府委員岡實君登壇〕

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• 055・岡實

  ○政府委員(岡實君)　尙ホ再度ノ御質問ニ御答致シマスルガ、其點ハ唯今既ニ御
  答辯ヲ致シタ筈デアリマス、何トナラバ暴利取締令ハ、單純ナル買占ヲ罰スルト云フ趣意
  デハナイノデアリマス、暴利取締令ノ見テ居ル所ハ、買占中市價ノ急激ナル變動ヲ豫期
  スル目的ガナクテハナラヌ、此小麥粉ノ場合ニ於キマシテハ旣ニ非常ナル高價ヲ以テ、
  是ガ供給ヲ受ケヤウト云フ申出ガアルノデアル、此申出ガ原因トナッテ、我國ノ市價
  ガ騰貴シタト云フ事實デアリマスカラ、其間或ハ小サナ商人、小サナ仲買人ガ、或
  此大需要ニ對應スベク、中間的ニ其買占ヲ爲シタカモ知レヌ、併ナガラ其大需要ノ根
  本ヲ握ッテ居ル所ノ商人ニ於テハ、暴利取締令第一條ニ該當スベキ意思ハ無イノデア
  ル、併ナガラ此點ニ付テハ、政府ニ於テハ先程モ申上ゲマス通リ、目下十分ニ審理シテ
  居ルノデアリマシテ、必ズシモ是ガ當ラヌト今斷言スル譯デハアリマセヌ、十分ニ繼續シテ、
  審議致シテ居ルト云フコトヲ申述ベタノデアリマス、左樣御承知ヲ請ヒマス

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• 056・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　言論自由ノ妨害竝人權蹂躙ニ關スル質問-三木武吉君
  言論自由ノ妨害竝人權蹂躪ニ關スル質問(三木武吉君外
  八一名提出)
  言論自由ノ妨害竝人權蹂〓ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正七年二月六日
  提出者三木武吉橫山勝太郞
  贊成者山道襄一
  外三十人
  言論自由ノ妨害竝人權蹂〓ニ關スル質問主意書
  左記各項ニ對スル內閣總理大臣及內務大臣ノ所見如何
  一濫ニ集會演說ヲ禁壓シ公安ヲ害スル虞ナキ者ヲ不法檢束シタルコト
  一行政執行令ヲ濫用シテ檢束シタル者ヲ前科數犯ノ刑事被告人ト同室セシメ以テ
  睡眠ヲ取ルコト能ハサラシメ異常ノ〓物ヲ與ヘ剩ヘ賤役ニ從ハシメタルコト
  一濫ニ通行人ノ身體檢査ヲ行ヒ腕力ニ訴ヘテ飮食ヲ妨ケ警察署ニ引致シタルコト
  一公園ニ遊戲中ノ朝鮮人學生ニ其ノ脫衣ヲ著スルノ餘裕ヲモ與ヘス之ヲ不法檢束
  シタルコト
  一無辜ノ良民ニ尾行巡査ヲ附スルカ爲管轄外ノ駐在所巡査ヲ使役シ其ノ本務ヲ
  曠廢セシメタルコト
  右及質問候也
  〔三木武吉君登壇〕
  〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=56

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• 057・三木武吉

  ○三木武吉君　私ノ總理大臣及內務大臣ニ質サント欲スル事項ハ、本月一日ヨリ
  二日ニ亙リマシテ、日比谷警察署竝ニ警視廳ガ、ヽ所謂靑年急進團ト稱スル都下各大
  學ノ卒業生、竝ニ在學生ニ依テ組織セラレタル政談集會ノ關係者、竝ニソレニ關聯シ
  タル人〓ニ對シテ、行政執行法第一條ノ檢束ヲ爲シタルノ事實ニ付テ、政府ノ之ヲ可
  トスルヤ否ヤト云フコトヲ質サント欲スルノデアリマス、簡單ニ事實ヲ申シマスルト、本月
  一日午後九時ヨリ十一時迄ノ間ニ於キマシテ、武谷甚太郎外四名ノ者が、何等ノ事
  實及其理由ヲ明示スルコトナク、日比谷警察署ニ於テ檢束ノ宣告ヲ得テ、其宣告ニ基
  イテ、本月三日卽チ一日ヨリ申シマスレバ三日目三日ノ正午ニ解散ヲセラレタルノ
  事實ガアルノデアリマス、是ガ一ツ質サント欲スルノ事項、其次ハ是等ノ靑年團及此急
  進團ニ關係ノアル人〓ガ、一日ヨリ二日ニ亙ッテ、十有一名前申シマシタノト同樣ノ檢
  束ヲセラレ、警視廳ニ抑留セラレタト云フロ事實、モウ一ツノ事實ハ本月二日午後日
  比谷公園內ニ於キマシテ、帝國通信記者柴田久雄、竝ニ朝鮮人鄭某ト云フ者ガ、何
  等ノ理由ナクシテ行政執行法第一條ノ檢束ノ宣告ヲセラレ、其翌日マデ抑留ヲセラレ
  タト云フ事實デアリマス、事ハ頗ル輕微ナル事件デ御坐イマスルガ、警視國ガ斯ノ如キ
  處分ヲ爲シタル裏面ニ於テハ、恐ルベキ立憲政治ノ破壞ヲ來スガ如キ、大ナル原因ヲ含
  ンデ居ルノデ御坐イマスカラ、特ニ此點ニ對スル政府ノ明確ナル答辯ヲ求メタイト思ヒ
  てい、第一ノ事實ハ、前ニモ申シマシタ通リ、一日ノ午後十時ヲ中心ニシテ起ッタ事件
  デ御坐イマスルガ、其第一ニ檢束セラレタ武谷甚太郞外二名尙ホ其十二時近クニ檢
  束ヲセラレタル他ノ二名ノ者ハ、日比谷警察署長ノ前ニ於テ檢束ノ宣〓ヲ受ケタル其
  時間ト云フノガ、一日ノ午後十一時四十分デ御坐イマシタ、其宣告ヲ受ケルト同時ニ、
  自動車ニ分乘セシメラレテ警視廳ニ送ラレ、警視廳ニ於テ、監倉或ハ留置場ニ愈入
  レラレタ時間ハ零時三十分頃デ御坐イマシタ、玆ニ一ツノ問題ガアル、若シデス檢束
  ト云フモノヽ效力ガ、檢束ノ宣告ヲ爲シ、其宣告ニ基イテ人身ノ自由ヲ束縛スル時ニ
  始マルモノデアルト云フナラバ此檢束ハ本月一日ニ始マルモノト謂ハナケレバナラヌ、若
  シ檢束ノ效力ト云フモノガ警視廳ノ留置場ニ抛リ込ムト云フ事デアルナラバ、ソレハ二
  日ノ午前ニ起ッタ事實デ御坐イマス、御承知ノ通リ檢束ガ公安ヲ害スルノ虞アル場合
  ニ於テ、人身ヲ拘束スルモノデアルト云フナラバ、敢テ之ヲ留置場ニ入レ、敢テ之ヲ監獄
  ニ入レル事ヲ條件トシナイコトハ言フ迄モナイ、然ラバ此警視廳或ハ警察署ニ於テ爲シ
  タル檢束ト云フモノハ、今月一日ニ始マッタモノト謂ハナケレバナラヌニ拘ラズ、而シテ檢
  束ノ效力ハヽ行政執行法第一條ニモ書イテアリマス通リ「其ノ翌日ノ日沒ヲ過クルコ
  ト能ハス」ト云フナラバ、是等ノ靑年ニ對シテハ警視廳及日比谷警察署長ハ、其人
  體ノ解放ヲ二日ノ日ニ於テ爲サナケレバナラヌニモ拘ラズ、之ヲ三日迄拘留シタト一云フノ
  ハ、果シテ何等ノ法規ノ根據ガアルノデアルカ、ドウカ是ガ第一ニ尋ネタイ事項デ御坐
  イマス之ニ對シテ警視廳當局者ハ一ノ辯解ヲ爲スベキ手段ヲ前以テ講ジテ居ルノ
  デ御坐イマス多分其事ハ政府テモ御答辯ニナルダラウト思ヒマスカラ、前以テ申上ゲ
  テ置キマスガ、警視廳ニ於テ留置場ニ入レタ時間ガ前申シマシタ二日ノ午前零
  時三十分ニ、其留置場ニ入レントスル其瞬間ニ於テ、警視廳ノ役人ハ是等ノ靑年ニ
  對シテ時計ヲ指シテ曰ク、柱ノ時間ヲ見ロー時計ノ時間ヲ見ロ今ハ零時三十分テ
  アルカラ、是カラオ前達ヲ檢束ヲ始ムルノデアルゾト云フ事ヲ、事モナゲニ是等ノ靑年ニ〓
  ゲタノデアリマス、能ク詐欺師ナドガ、手形ノ時日ヲ態ト經過サセヤウトスルヤウナ手段デ
  ヤッテ居ル、是デ警視廳ノ當局ハ、檢束ハ留置場ニ入レタ時間、卽チ時計ヲ指シテ示シ
  タ通リ二日ノ日ニ始マッテ居ルノデアルカラ、三日迄置イテ差支ナイト云フ答辯ヲ致ス
  サウデ御坐イマス、現ニ左樣ナコトヲ申シテ居リマスガ、法規ノ運用ヲ爲ス所ノ警視廳
  ガ、斯ノ如キ詐欺ノ手段ヲ以テ人身ノ拘束ヲ爲スヤウナ事ガアレバ是ハ由々敷キ天下
  ノ大問題ニナルノデアリマス(拍手起ル)第二ニ質サント欲スル事柄ハ其翌日日比谷
  公園ニ於テ爲シタル檢束、竝ニ前申シマシタ五名ノ靑年ニ對スル檢束デ御坐イマス申
  上ゲル迄モナイ此等ノ靑年ハ大學ノ卒業生ニ非ザレバ大學生ガ其大部分ヲ占メテ居
  ルノデ御坐イマスカラ、常ニ彼等ノ爲ス所ノ行動ハ、實ニ公明正大正々堂々タルモノガア
  ルノデ御坐イマス、何等ノ暴力ヲ用フルナク、何等ノ亂暴ヲ爲スナク、常ニ堂々ト公開ノ
  演說會ヲ開イテ、彼等ノ主義彼等ノ綱領ノ宣傳ヲ爲シテ居ルノデ御坐イマス、故ニ彼
  等ノ爲シタル所ノ行爲政談ノ集會演說是等ノ事ニ付テ、所謂暴行ヲ行フト云フヤウ
  ナ虞ノ無イノハ申ス迄モナイ是ハ警視廳ノ人〓モ認メテ居ル彼等ハ無賴漢デナイ、立
  派ナル學者若クハ學生デアル、腕力ヲ用ヒ暴力ヲ用ヒテ、社會ノ秩序ヲ紊スヤウナ人デ
  ナイト云フ事ハ認メテ居ルニモ拘ハラズ是等ノ人ヲ檢束ヲ爲シタト云フノハ何ガ故デア
  ルカ、御承知ノ通り本月二日ニハ、是等ノ靑年ハ全國靑年大會ト云フモノヲ日比谷公
  國ニ開カント欲シ四方ニ檄ヲ飛バシタノデ御坐イマス、勿論屋外集會ヲ爲スノデ御坐
  イマスカラ、成規ノ手續ヲ經テ、十二時間前ニ警視廳ニ對シテ、是等ノ政談集會ヲ爲
  ス-屋外集會ヲ爲ス事ノ居出ヲナシタ、適法ナル方法、適法ナル手段ニ依テ屋外
  集會ヲ爲ス屆出ヲ爲シテ居ルノデ御坐イマス、之ニ先ダッテ警視廳ノ人〓ハ此靑年ノ
  檢束ヲ始メタノデ御坐イマスカラ、私共ハ是等ノ靑年ノ檢束ヲ爲スト云フ事ニ對シテ、少
  クトモ此靑年大會ト云フモノガ其原因ヲ成シテ居ルモノデアル警視廳モ亦靑年大會ト
  云フモノニ向ッテ、或一ツノ迫害或一ツノ抑壓ヲ加ヘント欲シテ爲シタノデアラウト私ハ
  思ヒマス、デアリマスカラ、先ヅ此靑年大會ト云フ集會ガ、危險性ヲ帶ビテ居ルヤ否ヤ、
  暴行性ヲ帶ヒテ居ルヤ否ヤ、ト云フ事ノ〓究ヲシナケレバナリマセヌ、繰返シテ申ス迄モナ
  ク是等ノ靑年ハ、暴行ヲ爲ス性質ノ人〓デナイ、唯ダ彼等ノ主張ガ、或ハ矯激或ハ過
  激ニ亙リハシマイカト云フ丈ノ憂デ御坐イマス、此點ニ付テハ本員亦多少ソレニ付テ留
  意シテ、憂ヲ持ッテ居リマシタカラシテ、詳細ニ彼等ノ言フ所、彼等ノ主張ヲ取調ベテ見マシ
  タ所ガ、何等公安ヲ害スル虞ハ認メナイ試ニ彼等ノ主張スル宣言綱領、竝ニ決議ヲ爲
  シテ運動ヲセル事項ニ付テ申シマスレバ宣言ノ方ハ省キマス、第一ハ「普通選擧ヲ實施シ
  以テ民本主義ヲ發揚スヘシ」ト云フノデ御坐イマス第二ハ「文官任用令ヲ撤廢シ以
  テ人材ノ進路ヲ開クベシ」ト云フノデ御坐イマスヽ第三ハ「閥族ヲ撲滅シ各政黨ノ聯合
  ヲ畫シ以テ眞正ナル舉國一致內閣ノ樹立ヲ圖ルヘシ」ト云フノデ御坐イマシテ。最後
  ノ決議ガ「吾人ノ目的ヲ貫徹スル爲メ先ツ其精神ニ反スル非立憲內閣ノ倒潰ヲ
  期ス」ト云フノデ御坐イマス、諸君ヽ是等ノ綱領、是等ノ宣言ガ、果シテ公安ヲ害
  スルノ虞ガアリマセウカ、私ハ特ニ此點ニ付テ政府ノ人ミニ問セタイノデ御坐イマス、第
  一ノ「普通選舉ヲ實施シ以テ民本主義ヲ發揚スヘシ」是ガ公安ヲ害シマセウカ、此頃
  聞キマスルト云フト、普通選擧主張ノ演說會ハ、常ニ政府ガ妨害ヲ加ヘル、民本主義
  或ハ民主々義ト云フヤウナ言葉ヲ用フル者ガアレバソレガ恰モ革命黨デアルカノ如クニ
  政府ハ敵視シテ居ルト云フ事ハ今日隱レナイ事實デアリマスガ「普通選擧ヲ實施シ以
  テ民本主義ヲ發揚スヘシ」ト云フ事ガ、何所ニ公安ヲ害スルデアリマセウカ、普通遷擧ノ
  主張ト云フモノハ屢〓當議場ニモ現レタコトノアル事實テ御坐イマス、又我黨ヨリ選舉
  權ノ擴張ニ關スル議案ノ提出ヲ致シテ居リマス、彼レヲ見テモ今日直チニ普通選舉ノ
  主張ハ致シマセヌケレドモ段ヤ々々ニ普通選擧ニ近ヅクベキ道筋ヲ辿リツヽアルコトハ
  事實テ御坐イマス、世界ニ於ケル立憲國日本ヲ除ク一二ノ國以外ハ、總テ普通選
  舉ヲ、實行シテ居ル理想ヲ餘リ白絹ノ如キ靑年ガ、其理想ノ爲ニ其理想ノ宣傳
  ヲ爲スノガ、何故惡ルイノデ御坐イマスカ「民本主義ヲ發揚スヘシ」ト云フニ至ッテハ更
  ニ私ハ何等公安ヲ害スル所無ク、寧ロ之ニ依テ、我立憲政治ノ完成ヲ圖ル事ガ出來ル
  ノダト信ジテ居ル、後藤男爵内務大臣寺內伯爵總理大臣ノ如キハ民本主義ト云
  ヘバ、恰モソレガ革會黨ノ如ク御考ニナッテ居ルカ知リマセヌガ、吾ミハ歴代ノ天皇、日
  本建國ノ精神ニ、民本主義ト云フモノガアル事ヲ信ジテ居ル、今後ノ日本ノ政治ハ寺
  內內閣ヲ最後トシテ、總テ民本主義ヲ以テ行ハレルベキモノト私ハ信ジテ居ル若シ是
  等ノ民本主義ノ主張ガ、公安ヲ害スルモノデアルト云フナレバ、檢束ヲ爲スノ必要ガアル
  ト云フナレバ何ガ故ニ警視廳ハ何ガ故ニ內務大臣ハ、是等ノ靑年ヲ檢束スル以前
  ニ朝カラ晩迄寢テモ醒メテモ民本主義民本主義ト主張シテ居ル吾ミ及吾〓ノ先
  輩ニ對シテ檢束ヲ爲サヌノデアル、之ヲシテモ爲スコト能ハズ、孱弱イ後援ノ無キ靑年ニ
  向ッテ迫害ヲ加ヘルト云フノハ、所謂弱ヲ挫キ强ニ諂フ暴政ノ模範ヲ示スモノデアルト私
  ハ思フ、文官任用令ノ撤廢ヲ主張スルノが、何所ガ惡イノデ御坐イマセウ、若シ斯ノ如
  キ制限ノアル不自由ナル非文明ナル法律ガ無カッタナラバモウ少シ立派ナ內閣モ出
  來ルシ、立派ナ政府委員モ出來ルノデアリマス、之ヲ靑年ガ-理想ニ憧憬レル靑年
  ガ主張シタカラト云ッテ、何所ガ惡イノデアリマス、閥族ヲ撲滅シ各政黨ノ聯合ヲ圖
  リ以テ神聖ナル舉國一致ノ內閣ヲ樹テルト云フノハ是ハ少シモ惡ルイ事ハナイ、最
  後ノ此精神ヲ實行スル爲ニ、非立憲ナル寺內內閣ヲ倒サウト云フノデ御坐イマス、是
  公安ヲ害シヤシマスマイ私共ハ始終決議案ヲ出シテ居ル、決シテ公安ヲ害スルト云ハレテハ
  居ラヌノデアリマス、若シ行政執行法トカ治安警察法ト云フ法律ガ、寺內內閣ヲ擁
  護スル爲ニ出來テ居ル法律ナレバ寺內內閣ヲ倒スト云フコトハ其目的ニ反スル、卽チ
  公安ヲ害スルモノデアリマスガ、是等ノ法律ハ吾〓日本人全部ノ利益ノ爲ニ出來テ居
  ルノデアル、吾〓ノ言論、吾〓ノ自由ヲ擁護スル爲ニ出來テ居ル法律デアリマスカラ、寧ロ
  吾〓ノ自由吾〓ノ言論ヲ抑壓スル寺內內閣ヲ倒スコトガ、公安ヲ維持スル所以寺
  內內閣ノ存在ソレ自身ガ、私ハ公安ヲ害スルモノデアルト信ジテ居ルノデアリマス以上
  申述ベマシタ所ニ依リマスト、是等ノ靑年ノ爲シタル行動、是等ノ靑年ノ爲シタル、主張
  ト云フモノハ、毫モ公安ヲ害スル憂無ク、行政執行法ニ依テ處分セラルベキニ質ヲ備ヘ
  テ居ラヌニ拘ラズ何ガ故ニ公安ヲ害スルノ虞アリトシテ檢束ヲ爲シタノデ御堂イマセウ
  五月蠅ク申シマス迄モナク吾ミノ身體ノ自由、吾〓ノ言論ノ自由、集會ノ自由ト云
  フモノハ、帝國憲法ニ於テ炳トシテ認メラレテ居ルノデアリマス、立憲政治ノ基礎ヲ確立
  スル爲ニ、缺クベカラザル條件ト認メラレテ居ル此言論ノ自由人身ノ自由ニ對シテ、
  法律ノ規定ニ依ラズ、若クハ法律ヲ曲解シ若クハ事實上ノ根據無クシテ其追害ヲ爲
  スニ至ッテハ現內閣諸公ノ眞意何レニ在ルヤ私共ハ疑ハナケレバナラヌノデアリマス
  昔カラ能ク申シマスガ、其所爲ヲ憎ンデ其人ヲ憎マズト云フコトガアル、其所爲ヲ憎ミ其
  人ヲ憎マナイノガ、善政デアル〃德政デアルト云フコトヲヨカラ言ハレテ居リマスガ寺內
  內閣ノ人々、後藤內務大臣、或ハ其走狗デアル警視總監アタリノスル事ハ同ジ民本
  主義ヲ主張シテモ同ジ普通選舉ヲ主張シテモ、吾ミガ主張スルナレバリレハ公安ヲ害
  スルトハ言ハナイ、何等ノ檢束ヲ加ヘズシテ、弱キ靑年ガ爲シタル場合ニ於テハ、直チニ
  之ニ檢束ヲ加ヘル人ヲ憎マズシテ其所爲ヲ憎ムト云フコトガ、善政德政ノ模範デアル
  トスルナレバ、其人ノ差別ニ依テ、同ジ所爲デモ罪トナル一同シ所爲デモ罪トナラナイ、言
  ヒ換ヘテ見マスレバ其人ヲ憎ンデ其所爲ヲ責メザル現內閣、竝ニ其走狗ノ爲ス處分ト
  云フモノハ明カニ暴政ノ私ハ模範デアルト思フ、惡政ノ標本デアルト信ジテ居ルノデア
  リマス、若シ政府ニシテ私共ノ言フ所ガ事實ニ違ヒ理論ニ適ハズト言フナレバ明カナ
  ル此點ニ對スル答辯ヲ求メタイノデアリマス最後ニ申上ゲナケレバナラヌノハ、其處ノ日
  比谷公園ノ場所ニ、職務ノ爲ニ出張シテ居ッタ新聞記者ヲ檢束シタ事實デアリマス、先
  刻モ名前ヲ明カニ申上ゲマシタ帝國通信記者柴田某、職務ノ爲ニ公園ニ出張シテ居
  ル新聞記者ニ、有無モ言ハセズシテ直チニ檢束處分ヲスル朝鮮人某ト云フ者モ檢束
  ヲサレタ、此朝鮮人ハ現ニ其日ハ土曜日デ御坐イマシタカラ、彼ノ日比谷ノ運動場テ
  以テ「フートボール」ヲシテ遊ンデ居ッタ男テ御坐イマス、現實警視廳ニ抑留セラレタ時テ
  モ著物ヲ著テ居ラナイ、靴ヲ穿イテ居ラナイ。運動服、運動「ズボン」ヲ穿ーテ、此寒天
  ニ此寒空ニ彼ノ獄意テ慄ヘテ居ッタト云フノガ隱レナキ事實デアリマス私ハ新聞
  記者ガ職務ノ執行ヲ爲スタメニ、公園ニ行ッテ居ルコトガ何ノ公安ヲ害スルノデアルカ
  朝鮮人ガ「フートボール」ヲシテ避ブノガ、何ノ公安ヲ害スル所ガアルノカト聽キタイノデア
  リマス、更ニ私共ガ惡レテ居ル所ノ一ツノ事實ガ御坐イマス、此事實ヲ露骨ニ申上ゲル
  コトハ、帝國ノ爲ニ不利益、帝國ノ威信ニ關スル問題デアリマスカラ、私ハ內容ハ申シ
  マセヌガ、其朝鮮人ガ自分ノ生レタ朝鮮ガ日本ニ併合サレナイ時ニハ隨分ノ暴政虐
  政ニ苦ンデ居ッタガ、朝鮮ガ日本ニ併合セラレタ今日、稍〓吾〓モ其堵ニ安ンジテ居ラ
  レルト思フタ所ガ日本ニ於テ斯ノ如キ亂異ナル法律ガアル斯ノ如キ無慈悲ナル法律
  ガアル斯ノ如キ非文明ナル法律ガアル、是デハ日本ノ法律モ信用ガ出來ナイ、日本ノ
  政府ニ對シテモ信用ガ出來ナイ、我ハ國ニ歸シテ、或ル事ヲ爲サント云フコトヲ斷言シタ
  ノデアリマス是デ御坐イマス、私ハ唯ゲ渺タル一朝鮮ノ學生ノ言葉トハ聞キマセヌヅ
  是ハ寺內伯ノ如キ、長ラク朝鮮妹抗治ノ任ニ誉ッテ居ッタ人ノ卸ニハ、是ガ何ト響クデ御
  坐イマセウ、眞面目ニデス彼ノ朝鮮ノ統治朝鮮ノ經營〓及朝鮮人ノ撫育ト云フコ
  トニ心ヲ寄セテ居ル人ハ、此朝鮮ノ一學生ノ言葉ヲ何ト聞クデ御坐イマセウカ、私ハ其恐
  ルベキ-其日本ノ文明ヲ呪フ所ノ言葉ニ對シテ、最モ憂慮ヲ致シマスルモノテ御坐イ
  マスルガ、斯ノ如キ怨言斯ノ如キ怨ヲ聽クノモ本ヲ糺セバ現內閣ガ人權ノ蹂躙ヲ爲
  スニ基因スルモノデアルト云フ事實ヲデス僞リ無イモノトスルナラバ私ハ現內闇ノ如キ
  人權蹂躙ヲ爲シテ顧ミザル內閣ノ一日モ早ク其職ヲ去ラレムコトヲ望ムノデアリマスル
  ガ、富島君ノ所謂鼻糞內閣鼻糞ノ如キ內閣(「目糞演說」ト呼フ者アリ)其事實
  斯ウ云フ內閣ノ人ハドウ云フ事ヲ言ウテモ恥ヂズ恐レナイ人〓デ御坐イマスカラ、唯ダ其
  ノ事實ノミノ闡明事實ニ對スル答辯ヲ聽イテ、更ニ國家社會ノ人〓ニ訴ヘントスルノデアリマ
  ス(拍手起ル)切ニ誠實ナル僞ラザル答辯ヲ求メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=57

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• 058・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　水野內務次官
  (政府委員法學博士水野錬太郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=58

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• 059・水野錬太郎

  ○政府委員(法學博士水野鍊太郞君)　唯今ノ御質問ハ事實ニ依リマシテ、詳シク
  答辯致シマスコトヲ適當ト信ジマスカラ、書面ノ答辯ニ讓リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=59

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• 060・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　日程第一、有價證券割賦販賣業法案ノ一讀會ヲ開キマ
  ス-勝田大藏大臣
  第一有價證券割賦販賣業法案(政府提出)第一讀會
  有價證券割賦販賣業法案
  有價證券割賦販賣業法
  第一條本法ニ於テ有價證券割賦販賣ト稱スルハ代金ヲ分割シテ數囘ニ受
  入レ有價證券ノ給付ヲ爲スヲ謂フ代金ノ分割受入ト同一ノ目的ヲ達スヘ
  キ方法ニ依リ有價證券ノ給付ヲ爲スモノ亦同シ
  第二條有價證券割賦販賣ノ營業ハ主務大臣ノ免許ヲ受クルニ非サレハ之
  ヲ爲スコトヲ得ス
  第三條有價證券割賦販賣業ノ免許ヲ受ケムトスルトキハ資本金額及營業
  所ヲ定メ主務大臣ニ申請スヘシ
  有價證券割賦販賣業ヲ營ム會社ノ資本又ハ財產ヲ目的トスル出資ノ總額
  ハ十萬圓、其ノ金錢ヲ以テスル拂込金額ハ五萬圓ヲ下ルコトヲ得ス
  第一項ノ申請ヲ爲スニハ申請書ニ事業方法書及販賣契約約款ヲ添附シ會
  社ニ在リテハ尙定款ヲ添附スヘシ
  第四條有價證券割賦販賣業ヲ營ム會社ノ合併ハ主務大臣ノ認可ヲ受クル
  ニ非サシハ其ノ效力ヲ生セス
  第五條有價證券割賦販賣業者ハ左ノ場合ニ於テハ主務大臣ノ認可ヲ受ク
  ·ン
  一他ノ事業ヲ兼營セムトスルトキ
  二支店又ハ代理店ヲ設置セムトスルトキ
  三商號、資本金額又ハ營業所ヲ變更セムトスルトキ
  四事業方法書又ハ販賣契約約款ヲ變更セムトスルトキ
  五會社ニ在リテハ定款ヲ變更セムトスルトキ
  第六條有償證券割賦販賣業者ハ左ノ方法ニ依ルノ外其ノ營業上ノ資金ヲ
  運用スルコトヲ得ス
  一公債又ハ特別ノ法令ニ依リ設立シタル會社ノ社債若ハ株式ノ應募、
  引受又ハ買入
  二前號ノ有價證券又ハ其ノ販賣スル有價證券ヲ擔保トスル貸付
  三買入ノ契約ヲ爲シタル者ニ對シ旣ニ拂込ミタル賦拂金ヲ限度トスル
  貸付
  四銀行ヘノ預ケ金又ハ郵便貯金
  第七條有價證券割賦販賣業ヲ營ム株式會社カ會社財產ヲ以テ其ノ債務ヲ
  完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ割賦販賣契約ニ基ク會社ノ債務
  ニ付各取締役ハ連帶シテ其ノ辨償ノ責ニ任ス前項ノ責任ハ取締役ノ退任
  前ノ債務ニ付退任ノ登記後二年間仍存續ス
  第八條有價證劵割賦販賣業者ハ買入契約者カ賦拂金拂込ノ義務ヲ履行セ
  サルトキハ其ノ都度遲滯ナク相當ノ期間ヲ定メテ履行ノ催告ヲ爲スヘシ
  第九條有價證券割賦販賣業者ハ前條ノ催告ヲ爲シタルニ拘ラス買入契約
  者カ引續キ二囘以上期間內ニ賦拂金ノ拂込ヲ爲サス且其ノ延滯金額カ代
  金ノ十分ノ一以上ニ達スルトキハ契約ノ解除ヲ爲シ又ハ特約アル場合ニ
  限リ之ニ基キ未拂込賦拂金總額ノ一時拂込ヲ請求スルコトヲ得但シ契約
  解除前又ハ一時拂込請求前延滯賦拂金總額ノ拂込アリタルトキハ此ノ限
  ニ在ラス
  有價證券割賦販賣業者前項ノ規定ニ依リ一時ニ未拂込賦拂金總額ノ拂込
  ヲ請求スルトキハ履行期ニ拘ラス有價證券ノ給付ヲ爲スコトヲ要ス此ノ
  場合ニ於テハ民法第五百三十三條ノ規定ヲ準用ス
  第十條有償證券割賦販賣業者カ契約ノ解除ヲ爲シタルトキハ各當事者ハ
  直ニ相手方ヲ原狀ニ囘復セシムルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テ有價證券割
  賦販賣業者ハ返還スヘキ金額中ヨリ販賣契約約款ニ定メタル違約金其ノ
  他買入契約者ニ請求シ得ヘキ債權顏ヲ控除スルコトヲ妨ケス
  第十一條前三條ノ規定ニ反スル契約ハ無效トス
  第十二條有償證劵割賦販賣業者ハ每半年事業報告書ヲ作リ主務大臣ニ提
  出スヘシ
  第十三條有價證劵割賦販賣業者ハ每半年貸借對照表ヲ作リ新聞紙ニ依リ
  之ヲ公告スヘシ
  第十四條有價證劵割賦販賣業ヲ營ム會社ハ資本又ハ出資ノ總額ニ達スル
  迄ハ利益ヲ配當スル每ニ準備金トシテ其ノ利益ノ十分ノ一以上ヲ積立ツ
  ヘシ
  第十五條主務大臣ハ何時ニテモ有價證券割賦販賣業者ヲシテ其ノ事業ノ
  報告ヲ爲サシメ又ハ業務及產ノ狀況ヲ檢査スルコトヲ得
  第十六條主務大臣ハ有價證券割賦販賣業者ノ業務又ハ財產ノ狀況ニ依リ
  買入契約者ノ利益ヲ保護スル爲必要アリト認ムルトキハ其ノ事業方法ノ
  變更又ハ事業ノ停止ヲ命シ其ノ他必要ナル命令ラ爲スコトヲ得
  有價證券割賦販賣業者カ法令、定款又ハ主務大臣ノ命令ニ違反シ其ノ他
  公益ヲ害スヘキ行爲ヲ爲シタルトキハ主務大臣ハ事業ノ停止若ハ役員ノ
  改任ヲ命シ又ハ營業ノ免許ヲ取消スコトヲ得
  第十七條主務大臣ノ免許ヲ受ケスシテ有價證券割賦販賣業ヲ營ミタル者
  ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
  第十八條左ノ場合ニ於テハ會社ニ非サル有價證券割賦販賣業者又ハ有價
  證券割賦販賣業ヲ營ム會社ノ業務ヲ執行スル社員、取締役、監査役ヲ十圓
  以上千圓以下ノ過料ニ處ス
  一第五條、第六條、第十條、第十二條又ハ第十三條ノ規定ニ違反シタルト
  キ
  二第十五條ノ規定ニ依ル報告ヲ爲サス又ハ檢査ヲ妨ケタルトキ
  三第十六條ノ現定ニ依リ主務大臣ノ爲シタル命令ニ違反シタルトキ
  四不正ノ報告又ハ公告ヲ爲シタルトキ
  五認可ヲ受ケタル販賣契約約款ニ反スル契約ヲ爲シタルトキ
  第十九條第十四條ノ規定ニ違反シタルトキハ會社ノ業務ヲ執行スル社
  員、取締役、監査役ヲ十圓以上千圓以下ノ過料ニ處ス
  第二十條非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ本法ニ定メ
  タル過料ニ之ヲ準用ス
  第二十一條本法中主務大臣ノ臓權ニ屬スル事項ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ
  地方長官ヲシテ之ヲ行ハシムルコトヲ得
  附則
  第二十二條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  第二十三條本法施行ノ際現ニ有價證券割賦販賣業ヲ營ム者ハ本法施行前
  ニ爲シタル割賦販賣契約ノ完了スル迄仍其ノ契約ニ關スル業務ニ限リ之
  ヲ繼續スルコトヲ得
  前項ノ場合ニ於テハ第十五條、第十六條、第十八條及第二十條ノ規定ヲ準
  用ス
  第二十四條本法施行ノ際迄六月以上引續キ有價證券割賦販賣業ヲ營ム會
  社カ本法施行後六月內ニ營業ノ免許ヲ申請スル場合ニ於テハ其ノ資本又
  ハ出資ニ付本法施行後五年ヲ限リ第三條第二項ノ規定ヲ適用セス但シ其
  ノ資本又ハ財產ヲ目的トスル出資ノ總額ハ五萬圓ヲ下ルコトヲ得ス
  〔國務大臣勝田主計君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=60

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• 061・勝田主計

  ○國務大臣(勝田主計君)　近年經濟界ノ發展ニ伴ヒマシテ、公債證書又ハ其他ノ
  有價證券ノ割賦販賣ヲ業トスル者ガ段々殖エテ參リマシタ、今日ノ所斯ノ如キ業體ヲ
  營ンデ居リマスル所ノ會社ガ、約九十許リアリマス、個人ト致シマシテ五十許リアリマ
  入、會社ノ資本金ガ大體六百万圓内外ノ程度デアリマス、サウ致シマシテ最近一年ニ
  亙リマシテ、其契的高ガ約二千五百万圓位ニナッテ居リマス、斯樣ナ今日ハ狀態ニナッ
  テ居リマス、此有價證券ノ割賦販賣ナルモノハ之ヲ善導致シマスレバ、卽チ國民ノ貯
  蓄ヲ奬勵スルト云フ一ノ機關ニモナリ得ルノデアリマス、併ナガラ今日ノ狀態カラ見マス
  んた。是等ノ會社ナリ或ハ個人ナリガ、極メテ小ナイ所ノ資本ヲ持チマシテ、其營業ノ狀
  態ガ餘リ確實デナイノガ多イノデアリマス、同時ニ是等ト契約致シマスル者ガ、隨テ不安
  ヲ感ズル、色ミナ弊害ガ玆ニ起ル、斯ウ云フヤウナ現況ニナッテ居リマス、斯樣ナ次第デア
  リマスルニ依テ、玆ニ是等ノ會社或ハ此業體ヲ營ミマスル所ノ個人ガ、準據スベキ一ツ
  ノ法律ヲ作リマシテ、ソレニ準據シテ營業ヲセシムルト云フコトニナリマスレバ、先刻申上
  ゲマシタ如クニ、此機關ガ卽チ一般ノ貯蓄ヲ奬勵スル立派ナ機關ニナリ得ルコトヽ信ズ
  ルノデアリマス、夫故ニ今囘此法律案ヲ提出致シマシタ次第デ御坐イマスルカラ、ドウカ
  御審議ノ上御協賛ヲ顧ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=61

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• 062・小山松壽

  ○小山松壽君　大藏大臣ニ一二質問致シタイト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=62

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• 063・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　一丁-最早定刻ノ六時ニ接近致シマス、此審議ヲ終ルマ
  デ時間ガ來テモ延長致シマスー小山松壽君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=63

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• 064・小山松壽

  ○小山松壽君　唯今大藏大臣ハ、本案ヲ提出ニナリマシタ理由ヲ御說明ニナリマシタ
  ガ、本案ハ有償證券ノ割賦販賣ヲ營ム者ガ、近時其數ヲ增シテ參ッテ、或ハ債券ノ月
  賦若クハ國債ノ割賦ト云フヤウナコトヲ營業スル者ノ取締ヲスルト云フコト卽チ其經
  營ニ付テ準據スル所ヲ示スト云フ事ノ趣旨デアルト云ノ仰セデアリマシタ、近頃貯蓄ト云
  フ事ノ思想ノ關係ヲ利用致シマシテ、此種ノ營業ガ續々起ルト云フコトハ一面ニ於テ
  取締ノ必要ヲ切實ニ感ズルコトニナル、卽チ弊害ヲ除去スルコトニナリマスルガ、本案ヲ見
  マスルト、第一ハ有價證券ノ割賦販賣業ハ主務大臣ノ免許ヲ要シ、而シテ免許ヲ受ケ
  ムトスル者ハ、資本金幾何、卽チ第二條第三條、第三條ノ二項、是等ニ依テ規定致シ
  テアリマスルガ故ニ、何人モ此免許サヘ得レバ本業ヲ營ムコトガ出來ルノデアリマスルケ
  レドモ、若シ果シテサウデアリト致シマスレバ、此法案ニハ會社ノ場合ヲノミ主トシテ規定
  シテアリマス、卽チ資本ノ如キモ十万圓、五万圓ノ拂込會社ヲ主トシテ規定シテア
  リマシテ、個人ノ事ニ對シテハ、其準據スル所ヲ窺知ルニ苦ムルノデアリマス、勿論「會社
  ニ在リテハ、若ハ會社ニアラザル」云々ト云フ文句ガ法律ノニアリマスルカラ、個人ノ
  營業ヲモ認メラルヽコトヽ考ヘマスガ、此個人ノ營業ハ、是ハ大藏大臣モ憂ヲ同一ニ
  セラルヽデアラウト思ヒマスガ、會社ニ於キマシテハ、資本金ガ正確ニナッテ居リマス、而シ
  テ個人ノ場合ニ於テハ、其資本金ガ明確ニナッテ居リマセヌ、而モ其個人ノ資本金ノ保
  證若クハ準備、是等ニ對シテ如何ナル準據ヲ爲スベキモノデアルカヲ知ルニ苦ムノデア
  リマス、而シテ是等ニ所謂貯蓄銀行法ノ精神ヲ、本法ニ於テモ適用致シタイト云フコト
  ガ明瞭ニナッテ居ルノデアリマスルカラ、此點ニ於テ如何ナル精神ヲ以テ、如何ナル方法ヲ
  以テ、個人ノ營業ヲ認メラルヽノデアルカドウデアルカ、而モ是等ハ無盡業ト一ムフヤウナ
  モノト同一ノ性質ニナリマシテ、嘗テ無盡業ニ對スル嚴重ナル取締法モ見タノデアリマス
  ガ、下層ノ零碎ナル資金ヲ吸收シテ、資金化スルト云フコトノ一ツノ方法デアリマスルカ
  ラ、此取締-個人トシテノ取締如何ハ、非常ニ愼重ナル規則ヲ設ケマセヌケレバ、偶ミ
  本法制定ノソレニ依テ遁カルヽ途アリト致シマスナラバ、細民ノ零碎ナル資金ヲ吸收シテ
  以テ、弊害百出シテ、之ヲ苦メルト云フ結果ニ陷リハシナイカト考ヘラルヽノデアリマス、
  此點ニ付テ大藏大臣ノ御答辯ヲ願ヒタイト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=64

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• 065・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　森政府委員
  〔政府委員森俊六郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=65

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• 066・森俊六郎

  ○政府委員(森俊六郞君)　個人ノ營業ニ付キマシテハ、第三條ノ一項ニ依リマシテ、
  資本金額、營業狀態ヲ定メマシテ、大藏大臣ノ認可ヲ受ケルコトニナッテ居リマス、其業
  體ノ內容ニ付キマシテハ事業方法或ハ契約約款等ニ讓リマシテ、第三條ノ末項ニ書イ
  テアルノデアリマス、事業ノ方法若クハ約款等ヲ極メサセマシテ、大藏大臣ガ之ニ認可ヲ
  與ヘルト云フコトニナッテ居リマス

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• 067・小山松壽

  ○小山松壽君　資本金ハ··

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=67

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• 068・森俊六郎

  ○政府委員(森俊六郞君)　資本金ハ無盡業ニ就キマシテハ、五千圓ノ資本金ヲ以テ
  許ス方針ヲ取ッテ居リマス、所ガ無盡業ハ御承知ノ通リ會社ノ資本金ハ三万圓ニ致シ
  テ御坐イマスガ、此會社ハ十万圓ニナッテ居リマス關係モアリマスノデ、マダ確定イタシタ
  モノトハ申上ゲ兼ネマスガ、大約一万圓位ノ程度デ個人ノ營業ヲ許ス考ヲ持ッテ居リマ
  ス、其外ノ取締ニ關シマスル規定ハ、大體無盡業法ト同ジ程度ニナッテ居リマス、詳細ノ
  事ハ委員會ニ於テ申上ゲルコトニ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=68

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• 069・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　日程第二委員ノ選舉ヲ議題ト致シマス
  第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=69

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• 070・岩崎勲

  ○岩崎勳君　委員ノ數ハ特ニ十八名トシ、議長ニ於テ指名セラレンコトヲ望ミマス
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=70

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• 071・大岡育造

  ○議長(大岡育造君)　岩崎君ノ動議ニ御異議ナキモノト認メマス、本案ハ十八名ノ
  議長指名ノ委員ニ付託スルコトニ決シマシタ、本日ハ是ニテ散會
  午後六時二分散會
  衆議院議事速記錄第十二號正誤
  頁段行誤正頁段行誤正
  二一三上四五一箇月三十万一箇月三百万二一三上一五三百六十万圓三千六百万圓
  圓圓

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004013242X01319180219&spkNum=71

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