1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十二年三月十三日(火曜日)午後一時三十七分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=0
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001・二條厚基
○委員長(公爵二條厚基君) 是ヨリ開會イタシマス、昨
日ニ引續キマシテ大體ニ亙ル質疑ヲ許シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=1
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002・池田長康
○男爵池田長康君 私ハ過日本會議ニ於キマシテ質疑ノ
要領ヲ申上ゲマシテ、サウシテ御答辯ヲ得タノデアリマスガヽ
何分彼ノ際ハ時刻ガ非常ニ夕刻ニ迫クテ居リマシタノデ、尙
ホ殘ッテ居リマスル質疑ヲ十分ニ致ス機會ヲ得ナカッタノアア
リマス、最初ニ御尋致シマシタ憲法ニ牴觸スルヤ否ヤト云フ
點ニ付キマシテ御尋致シタノデアリマスガ、此點ハモウ隨分
去年以來、又有力ナル御方カラ段々御質問ニナッテ居ルノデ
アリマシテ、成ルベク其要該ニ觸レタ點ニ付キマシテ實ハ伺
ヒタイト思ッテ居ルノデアリマス、過日來大臣ヨリノ御話ニ依
リマシテ、亦去年ノ陪審法案ガ出マシタ時ノ政府當局ヨリ
ノ御答辯ニ依リマシテモ、事實ノ認定ハ裁判ノ一部デアルト
云フ御考ヲ以テ此陪審法ヲ御提出ニナッタト云フコトハ、今
日明瞭ニナッテ居ルノデアリマス、其點ニ付キマシテハ私モ同
感デアリマシタ、政府當局ニ質疑イタシマスル點デハナイノデア
リマス、シコデ直接此法案ガ憲法ニ牴觸スルヤ否ヤト云フ問
題ニ觸レルヤ否ヤハ別問題デアリマスガ、伺ッテ置キタイト思
ヒマス點ハ事實ノ認定ハ裁判ノ一部デアル、併シ此法案ニ
於キマシテハ、事實ノ認定ハ裁判ノ一部アアラウトモアル
マイトモ、憲法ノ牴觸ノ問題ニハ關係ガナイノデアルト云フ
御說明ヲ得テ居ルノアアリマス、然ラバ法ヲ適用イタス、陪
審員ハ法ヲ適用イタスト云フコトデアリマシテモ矢張リ此
法案ノ骨子カラ申シマスルト、矢張リ憲法ニハ牴觸シナイモ
ノデアラウト云フ結論ヲ得ラルルヤウニ考ヘラレルノデアリ
マス、又一步進ンデ事實ノ認定竝ニ法ノ適用、之ヲ包括シ
タモノヲ陪審員ノ意見ノ答申デアルト云フ形ニ於テ致シマ
スルナラバ憲法ニ牴觸シナイト云フコトニ此法案ノ趣意ニ
依ッテ考ヘマスレハ、サウ云フ風ニモ亦云ヒ得ルト云フ風ニ解
釋イタシテ宜シウゴザイマスカ、此點ヲチヨット伺ッテ見タイト
思ヒマスル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=2
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003・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郎君) 唯今ノ池田男爵ノ御質問
中ニ、或ハ私ノ伺ヒマシタ所、誤解デモアリハセヌカト云フ憂
ヲ抱イテ居ルノデ、一應豫メ申上ゲテ置キタイノデアリマス、
ソレハ御言葉中ニ事實ノ認定ハ裁判デアル、斯ウ云フ趣旨
ハ私ノ說明ニ依シテ明白ニナッタト、斯ウ仰シヤッタノデアリマ
スガ、ソレハ池田男爵ハ或ハ御出席ガナカッタカト私ハ思フノデ
アリマスルガ、前々回卽チ第一囘ノ委員會ニ於キマシテ、花
井博士ヨリ政府ノ見解ハドウデアルカト云フコトヲ御尋ニ
ナッタ、是ニ對シマシテ私ガ事實ノ認定ハ裁判ナリト政府ノ
意見ヲ定メテ居ルノデハナイノデアリマス、又事實ノ認定ハ
裁判ニアラズト云フ意見ヲ定メテ居ルモノデモナイト云フコ
トヲ私ハ御答ヲ致シマシタ、此點ハ繰返シテ明日ニナッタコト
ト私ハ思ッテ居ノタノデアリマス、併ナガラ而シテ又事實ノ認
定ハ裁判ナリト云フ趣意ノ下ニ立案シタモノデアルト云フコ
トモ、或程度迄明日ニナッタト云フオ言葉ガアッタヤウニ思フ
ノデアリマスガ是モ左樣デハナイノデアリマス、是ハ豫メ私ハ誤
解ヲ避クル爲ニ申上ゲテ置キタイノデアリマス、尙ホ同日ニ
湯淺君ヨリ本會議ニ於キマシテハ矢張リ事實ノ認定ハ裁
判ナリト云フコトヲ國務大臣トシテ答辯ヲシテ居ルノデア
ル、今日委員會ニ來テ聞イテ見レバ、其點ハ右トモ左トモ決
定シテ居ルノデハナイト云フコトヲ云フカト云フ御尋サヘモ
蒙ッタノデアリマス、其時ニ私ハ衆議院以來今日ニ至ル迄、
明ニ事實ノ認定ハ裁判ナリト云フコトヲ政府ノ見解トシテ
申述ベテ居ルノデハアリマセヌ、唯此事實ノ認定ハ裁判ナリ
ヤ否ヤト云フコトニ付キマシテハ、說ガ分レテ居ルノデアッテヽ
而シテ其所謂學說上ノ問題デアリマスガ、此學說上ノ卽チ
學理上ノ問題ハ、所謂學者ノ解釋、〓究ニ委セテ然ルベキ
デアル、私一人ハ卽チ事實ノ認定ハ裁判ナリト說ヲ奉ズルモノ
デアルト云フコトヲ私ハ申述ベテ居ルノデアリマス今モ尙ホ
私ハサウ云フ見解ヲ有ッテ居ルノデアリマス、サウ云フヤウニ
私ハ湯淺君ニ對シテモ答辯ヲ致シタコトデアリマス、先ヅ其
點ヲ私ハ明カニシテ置キタイト思フノデアリマス、ソレカラ事實
ノ認定モ亦法律ノ解釋モ共ニ陪審員ノ答申ニ依クテ意見ヲ
徴スルト云フコトニナルト憲法ニ反スルモノデアルカラ其點
ヲ聽キタイト云フ唯〓ノ御尋ネデアリマス、私ノ耳ニ致シテ
居リマスル範圍ニ於キマシテハ法律問題ニ付テ、法律ノ解
釋問題ニ付テ陪審員ノ意見ヲ徴スルト云フコトハナイヤウ
ニ私ハ思ヒマス、而モ本案ニ於キマシテモ唯事實ノ認定ニ付
テ、陪審ニ付シ其意見ヲ求メルト云フコトモ外國ニ於ケルガ
如クニ所謂徹底論者ノ謂フ所ノ程度ニハ進メテ居ラヌノデ
アリマス、私ハ法律ノ解釋問題、法律ノ適用問題迄モ陪審
ニ付スルト云フ制度ハナイヤウニ思ヒマス、又陪審制度ヲ論
ズル者ニ於テ其意見ノアルコトヲ寡聞デアルカモ存ジマセヌ
ガ聞キマセヌ、私ハ此問題ガ果シテ憲法違反デアルカ否ヤト
云フコトハ御答ヘスルコトモ出來マセヌシ、又御答ヘスル必
要モナカラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=3
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004・池田長康
○男爵池田長康君 事實ノ認定ガ裁判ノ一部ヲ構成ス
ルヤ否ヤト云フコトニ付テ今大臣ノ御意見ヲ承リマシタ、過
日來花井君カラ此點ニ付テ質問セラレタノデアッテ、サウシテ
大臣ガ御答ヘニナッタヤウニモ聽キマシタ、先年來陪審員問題
ニ關スル速記等ヲ見マスルト現在ノ法制局長官ノ馬場君
カラ其コトニ付テハ明瞭ニ云ッテ居ラレルヤウニ考ヘラレル、
是ハ政府ノ意見デナク馬場君一個ノ意見デアルト云フ風ノ
御話デアレバソレ迄ノ話ニシテ置キマスルガ、免ニ角ソレハド
ウデモ宜シイノデ詰リ學界ニ於テハ事實ノ認定ハ裁判ノ一
部デアルトカ、或ハ事實ノ認定ハ裁判ノ一部ニアラズト云フ
見解モアリマセウ、又法制審議會ニ於キマシテノ多數ノ意
見モ此事實ノ認定ハ裁判ノ一部デアルト云フ風デアッタト
云フコトモ先年速記錄ヲ見マシテサウ云フ風ノ御話モアル
ノデアリマスガ、此議論ノ數ガドチラガ多數デアリ、ドチラヲ
採ッテ居ルカト云フヤウナコトハ別問題トシテ、サウ云フ點カ
ラ窺ヒ知ルコトガ出來ルノデアリマシテ、私ハソレヲ此處デ問
題ニスル必要ハアリマセヌガ、併シ司法大臣トシテモ或ハ個
人トシテノ御考ヘデモ、或ハ又現在ノ法制局長官ノ御意見
ニシテモ亦林局長ノ御得見デアッテ見テモ、事實ノ認定ハ裁
判ノ一部デアルト云フ見解ヲ採ッテ居ラレルノデアリマシテ、
是ハ政府ノ全體ノ決シタ意見デアルカ、其處迄私ハ追求スル
必要ハナカラウ、又御答辯ガナクテモ宜シイト思ヒマスケレド
モ詰リ事實ノ認定ガ裁判ノ一部デアルト云フコトニナリマ
スルト其說ニ依リマスルト、其主張ニ依リマスルト、憲法問題
ニ牴觸スル問題ガ餘程出テ來ル點ガ多イノデアリマス、ソコ
デ憲法ニ牴觸スルヤ否ヤト云フコトヲ研究ィタシマスニ付キ
マシテハ此點カラ見テ此本案ガ憲法ニ牴觸スルヤ否ヤト云
フコトフ私ハ考ヘナケレバナラヌト思ッタノデアリマス、ソレカ
ラ次ニ法ノ解釋、法ノ適用ト云フコトガ若シモ陪審員ガ假
ニスルヤウニナッタナラバ憲法ニ牴觸スルヤ否ヤト云フ點ニ付
テ御尋ネ致シマシタナラバサウ云フ制度ハ諸外國ニモナイ、
又ソレニ付テハ答辯スル必要モナイト云フ御話デアリマシ
タ、私ト致シマシテモ必シモサウ云フコトガ宜シイカラサウ云
フヤウニシタラドウダトカ、或ハ又陪審制度ト云フモノハサウ
云フモノデアルカラサウシロト云フヤウナ希望ナリ意見ヲ以
テ申上ゲタノデハアリマセヌ、要スルニ是ガ憲法ニ牴觸スルヤ
否ヤト云フコトヲ考ヘル上ニ於キマシテ事實ノ認定ガ裁判
ノ一部デアル、サウスルナラバ法ヲ適用スルト云フコーモ
亦裁判ノ一部デアル、詰リ裁判其モノヲ所謂裁判官
以外ノ者ガ致シマシテモ詰リ答申ト云フ形式、又今度出來
マスル陪審法案ノヤウナ仕組ニシテヤルナラバ裁判其モノヲ
他ノ者ガ假リニ致シマシテモ、其意見ニ付シ谷申ト云フ形
式トシテ置クナラバ憲法ニハ牴觸シナイト云フ矢張リ結論
ニナッテ來ルデハアルマイカト云フコトヲ御尋ネシタノデアリ
マス、ソレハ現在ノ陪審法ト云フモノハソンナモノデアル、サウ
云フモノニシナケレバナラヌト云フ希望ナリ意見ヲ以テ實ハ
申上ゲタノデハナイノデアリマス、其點ハ御了解ヲ願ハヌトイ
ケマセヌ、其上矢張リ御答辯ニナル必要ガナイト御認メニナ
レバ次ノ質問ニ移リマスガ如何デゴザイマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=4
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005・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 事實ノ認定ニ付テハ御尋
ネニナリマスル要點デナイヤウニ御述べニナリマシタ、從ッテ之
ニ對シテ辯明ヲ要スルコトモナカラウカト思ヒマスケレドモ、
念ノ爲ニ私ハ尙ホ補充的ニ一言申上ゲテ置キタイノデアリ
マス、之モ前後二回ノ委員會ニ於キマシテ私ヨリモ亦政府
委員ヨリモ御答辯イタシタ點デアリマスルガ、此事實ノ認定
ガ裁判ノ一部デアルヤ否ヤト云フコトニ付キマシテハ先刻モ
申上ゲマシタヤウニ是ハ學說ノ爭デアルノデ、而シテ事實ノ
認定ハ裁判ニアラズトー云フコトノ說ヲ採リマスレバ、陪審法
案ノ起案ニ當リマシテハ其方針ニ基イテ各〓正條ヲ定メマス
カラ、或ハ今日ノ提案ニナッテ居ル所ノ陪審法案トハ違ッタ
形ニナラウカト思フノデアリマス、併シナガラ事實ノ認定ハ裁
判デアルト云フ說モ決シテ少クナイノデアリマス、而シテ此問
題ハ學說ノ爭ナルガ故ニ之ヲ學者ノ見解ニ任セルト云フ方
針ノ下ニ陪審法案ヲ起案致シマスル以上ハ、事實ノ認定ハ
栽判ノ一部ナリトシテ居ル、此憲法上ノ疑義ヲ將來ニ殘サ
ナイヤウニセネバナラヌト云フ趣旨ノ下ニ、立案ヲセナケレバ、
此問題ヲ、輕卒ニ、讓シタト云フ趣旨ハ立タヌト思ハレマス、
ソレガ故ニ、假リニ其見解ハ正シイモノト見テ、立案スルヨリ
外ニ致方ナイト云フコトヲ私ハ申上ゲテ置キタイノデアリマス、
ソレカラ法律問題ノコトデアリマスガ、此法律問題ノ、法ノ
適用ヲ陪審ニ付シテ、憲法違反ニナルカナラヌカ、斯ウ云フ問
題ニ付キマシテハ、此提案ノ趣旨カラ申セバ、固ヨリ法ノ適
用問題ヲ、陪審ニ付スルト云フ制度ヲ取ッテ居ラヌノデアリ
マス、又事實ノ問題ニ付キマシテモ、陪審ニ付スルコトハ付ス
ルノデアリマスケレドモ、併ナガラ其陪審ノ谷申ニ依シテ、拘
束セラレナイト云フ方針ヲ採ッテ居ルノデアリマス、ソレデ法
ノ適用問題ヲ、陪審ニ付シタナラバ、ソレガ審法違反ニナル
ヤ否ヤト云フコトハ、私ハ少ナクトモ、法制審議會ノ關係以
外ニ於テハ、其問題ノ攻究セラレタコトヲ承知致シマセス、
又外國ノ何レノ國ノ法律ヲ見マシテモ、私ノ聞知シテ居リマ
スル範圍ニ於キマシテ、法ノ適用問題ヲ、陪審ニ付スルト云
フモノハ、一ツトシテ存スルモノハナイノデアリマス、眞ニ區
區ノ問題ニ私ハ過ギナイト思フ、而シテ、此陪審法案ガ、法
ノ適用問題ヲ、陪審ニ付スルト云フヤウナ意味合ノ規定ブ
モアレバ、之ニ付テハ、遂ニ事實ノ認定ハ陪審ニ付スルガ、憲
法上ノ關係如何ト云フ問題ト、同樣ナ問題ヲ惹起スダラウ
トハ存ジマスケレドモ、サウ云フ法ノ適用問題ヲ陪審ニ付ス
ルト云フ制度モナケレバ、此法案ニ付イテモ、又陪審ニ付スル
ト云フコトハシテ居ラヌノデアリマスカラ、之ニ付テハ、私ハ政
府ノ意見トシテ、之ニ御答ヘヲスル必要モ私ハナイト考ヘテ
居ル、又此問題ガ各省ノ間ニ論議ノ問題トナッテ居ルト云フ
コトモ、私ハ承知致シマセヌノデアリマス、併ナガラ若シ御前
一個ノ意見ハドウデアルカト、斯ウ云フコトデアルナラバ、ソレ
ハ私ハ御答ヘヲシテモ宜シイノデアリマス、私ハ若シ假設ノ問題
トシテ、御前一人ハドウ考ヘルノデアルカ、斯ウ御尋ネニナリマ
スレバ、若シ法ノ適用問題ヲ陪審ニ付スルコトガ適當デアル
ト云フ前提ノ下デナケレバ、問題ニハナラヌガ、私ハ適當ニア
ラズト考ヘテ居ル、假リニ之ヲ適當ナリトシテ、陪審ニ付シタ
ラドウナル、ソレハ若シ其答申ガ裁判官ヲ抱束スルコトナシ
ト云フ、斯ウ云フコトニナル私ハ憲法ニ反セザルモノト考ヘテ
居リマス、是ハ併ナガラ、私一個ノ見解ヲ申シ述ベヘノデアリ
マス、果シテ其說ヲ奉ズルモノガ他ニアリヤ否ヤ、曾テ〓究セ
ラレタコトヲ承知致シマセヌカラ私モ斯ウ云フ根據ガアルト
云フコトデアリマセヌケレドモ、只今御尋ネニ對シテ、此ニ於
テ、私ノ思ヒ付キヲ自分一個ノ意見トシテ、申上ゲレバ、サ
ウ云フ結果ニナルデアラウト申シ上ゲルニ過ギナイノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=5
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006・池田長康
○男爵池田長康君 只今御說ノ如ク、外ニ法ノ適用ヲ以
テ陪審云々ト云プヤウナコトハ、御聞キニモアリマセヌン、御覽ニ
モナラヌノデアリマスガ、是ハ全クノ想像デアリサウシテ今司法大
臣ノ所謂御私見トシテ、假ニ陪審ニソレヲ許スモノトシテ
考ヘテ見レバ、可ナリサウ云フ前提ノ下ニ考へテ見ルナラバ、
若シカ裁判官ヲ拘束スルモノデナケレバ、憲法ニ違反セズト
云フ、ソレダケノコトヲ承ッテ置ケバ、宜シカッタノデアリマス、
却ッテ御面倒ナ煩ハシイ質疑ニナリマシテ、御迷惑ダッタラウ
ト思ヒマス、次ニ私ガ本議會ニ於キマシテ、質問イタシマシタ
其點ハ、繰返ス必要ハアリマセヌガ、詰リ其陪審員ノ評決ト
裁判官トノ意思ガ合致スルマデハ、循還シテ行クト云フヤ
ウナコトニナリハシナイカ、詰リ消極的ニモ考ヘテ見テ、陪審
員ノ評決ガ、裁判官ヲ拘束スルヤウナコトニナリハシナイカ、
又言ヒ換ヘレバ、裁判官ハ陪審員ノ評決ニ背クコトハ出來
ナイ、斯ウ云フコトニナル、是ハ消極的意味ニ於テ、裁判官ヲ
拘束スルモノト言ヘハシナイカト云フ御尋ネヲ致シマシタノ
ニ對シマシテ、大臣ヨリ御答ヲ得タノデアリマス、ンレハ、消極的
ノ拘束力ト云フ數字ヲ用ヒラルルモ、ソレハ自由デアル、斯ウ
云フ風ニ申述べニナリマシテ、引續イテ斯ウ云フコトデアリマ
セス、併ナガラ、免モ角栽判所ノ見ル所ト陪審員ノ答申トガ
一致セズバ判決スルコトガ出來ナイト云フ結果ヲ生ズル、是
ハ認メケレバナラヌ、斯ウ云フ御詁デアリマス、ンレカラ又終
リニ於ア、例トシテ是ハ恰モ檢事ノ起訴ガナケレバ、判事ノ
訴訟事件ニナラヌカラ、判事トシテモ致方ナイノデノリマス、
ソレト稍と類スル所ノモノガアルト御承知下サイ、斯ウ云フヤ
ウナ御答辯ヲ得タノデアリマス、ンコデ伺ッテ置カナケレバナリ
マセヌガ、結局其陪審員ノ答申ト、ソレカラ裁判官ノ考へ
ト、一致スルト云フコトデナケレバ、判決ノ下スコトガ出來ナ
イ、卽チ參考トシテ引クニアラズシテ、裁判ソレ自體ノ構成
要件デアル、實質ノ要件デアル、是ハ條件デナイノデアリマス、
卽チ此陪審員ノ答申ト、ソレガフ裁判官ノ見解ト、此兩者
ガアッテ、裁判ト云フモノガ成立ツノデアリマス、此一ツヲ缺
クナラバ、裁判ト云フモノハ出來ナイ、成立タナイ、裁判ト云
フモノガナイ〓サウ致シマスルト、是ハ條件ニ非ズシテ、要件デ
アル、詰リ裁判ノ要件デアル、サウ考ヘテ見マスルト云フト
此陪審員ノ答申卜云フモノハ、單ニ參考トシテ、提供トサレ
ルモノニ非ズシテ、所謂裁判ソノモノノ裁判ヲ爲スコトノ要
件デアルト云フ風ニ考ヘラレルノデアリマス、サウ致シマスル
ト云フト、裁判官ト云フモノハ、此陪審員ノ所謂評議事實
ノ認定ト云フモノト共力シテ、始メテ玆ニ栽判ト云フモノガ、
成立ツノデアリマスカラ、裁判官ノ所謂意見ト云フモノハ、ド
ウシテモ此陪審員ノ評決ト云フモノニ拘束サレルト云フコト
ハ、是ハ明カナル事柄デハアルマイカ、ト斯ウ考へルノデアリマ
スガ、此點ニ付イテ、御意見ハ如何デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=6
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007・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 只今御尋ネノ消極的ノ拘
束力ガアルト見テ差支ナイカト云フ御質問ノ御言葉ハ私ハ尙
ホ之ニ對シテ私ノ思フ所ヲ平タク申シ上ゲマスレバ、私ハ拘
束力アルト云フコトハ裁判所ガ意ニ反シテ裁判ヲシネバ
ナラヌト云フ場合ニ於テ眞ニ拘束力アルト思フノデアル、陪
審員ノ答申ガ裁判官ヲ羈束シテ裁判官ガ自己ノ意ニ反シ
テ其答申ニ從ハナケレバナラヌー云フ時ニ於テ眞ニ拘束力
ガアルト思ヒマス、然ルニ裁判所ノ見ル所ト陪審員ノ見ル所
ニ於テ一致シタ場合ニ於テ裁判ヲ爲スノデアルト云フノデ、
自己ノ意ニ反シテ答申ニ羈東サレテ裁判スルノデナイ、裁判
所ノ意思ト陪審員ノ意思ガ合致シタトキニ初メテ裁判スル
ト云フノデアリマスカラ、裁判官ハ卽チ陪審員ノ答申ニ拘束
セラルヽモノデナイト云フ、斯ウ云フコトヲ私ハ申上ゲタイ、
併ナガラ裁判所ノ自ラ信ズル所ノ意見ト陪審員ノ信ズル所
ノ意見ト一致シナケレバ裁判ヲスルコトノ出來ナイト云フ結
果ハ、此陪審法案ノ認ムル所デアリマス、併シンレハ裁判所
ノ自由意思ニ依シテ見ル所ト、陪審員ノ自由意思ニ依テ見
ル所ガ合致シテ裁判ヲ爲スト云フノデ自己ノ意ニ反シテ答
申ヲ採用シナケレバナラヌト云フカハ無イノデアリマスカラ、
是ハ私ハ拘束力トハ申サヌ、併ナガラ陪審員ノ答申ヲ斥ケ
テ此栽判所自ラ思フ所、自ラ信ズル所ニ依テ自由ニ裁判ヲ
爲シ得ナイト云フ關係ニナルノデアリマスガ、之ヲ稱シテ消
極的ノ拘束ナリト云フ名ヲ御付ケニナルナラバ、是ハ御意見
ニ御任セスル外ナイト思ヒマス、斯ノ如キ趣旨ニ依ッテ私ハ
御答シタイト思ヒマス、ソレ等ハ左樣ナコトデアルガ故ニ今
池田男爵ノ御見解ト違フト申スヨリ外ナイト思ヒマス、ソレ
ナラバ答申ハ裁判ノ要件デアル、只參考ニスルノデナイ、要
件デアル、斯ウ云フヤウニ仰ツシヤイマシタガ、是ハ裁判ハ裁
判官、自ラ下ス所ノモノデアルト云フ原則ヲ取ッテ居リマス
カラ曩ニモ委員會ニ於テ冒頭ニ私ハ述ベタノデアリマス、裁
判權ノ一部ヲ構成スルモノデナイ、陪審員ハ裁判權ノ一部
ヲ行フモノデナイト云フノデアル、斯ウ云フ主義ヲ取ッテ居ル
ト云フコトヲ私ハ申シテ居ルノデアリマス、要件ト云フコトハ
ドウ云フ意味ニ御用ヒニナルカモ知レマセヌ、栽判ハ獨リ裁
判官ノ行フモノデ、陪審員ガ行フモノデナイ、從ァテ之ニ組織
シテ居ル所ノ答申ニ拘束セラレテ裁判ヲ行フモノデアルト云
フコトナラバ裁判ノ趣旨ニ反スルモノデアルト云フコトヲ御
答ヘシナケレバナリマセス、而シテ先刻モ申述ベマシタ通リ、
裁判所ハ白ラ信ズル所ト陪審員ノ信ズル所ト合致シタ時
ニ裁判ヲ爲スノデアリマスガ、基ク所ハ陪審員ノ答申モアリ
マセウガ裁判官ガ自ラ信ズル所ニ於テ裁判スルノデアリマス
カラ、他カラ制裁ヲ受ケルト云フモノデハナイノデアリマス、左
樣ニ御考ヲ願ヒマス、而シテ若シ裁判所ノ見ル所ト陪審員
ノ見ル所ト相違スルト云フコトモアラウ、異ナル所モアラウト
思ヒマス、何時モ裁判所ハ陪審員ノ答申ニ從ハナケレバナ
ラヌト云フコトニナルカト云フト私ハ必ズシモ然ラズト云フ
コトハ前囘ノ委員會ニモ申述ベマシタ、何レモ反省シテ裁判
官ニ於テ自ラ其ノ非ヲ悟ルト云フコトモアルカモ知レマセヌ、
ソレハ見ル所ヲ誤ッタト云フコトニ歸著スルカモ知レマセヌ、
或ハ陪審員ノ見ル所ハ誤ッテ居ルト云フコトニ歸著スルカモ
知レヌ、必ズシモ裁判ハ陪審員ノ答申ニ依クテ羈束サレナ
ケレバナラマト云フコトハ断定スルコトハ出來マイト私ハ思ツ
テ居ルノデ、只兩方自由ニ見ル所ニ一致シタ後ニアラザレバ
裁判ヲ爲スコトガ出來ヌモノデアルト云フコトハ是ハ明カニ
認メナケレバナリマセヌト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=7
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008・池田長康
○男爵池田長康君 私ノ問ニ對シマシテ只今大臣ヨリノ
御答ガアリマシタガ、ツマリ裁判官ノ所謂見地、サウシテ自
由ナル意見、ソレカラ陪審員ノツマリ事實ノ認定ト一致ス
ルノデナケレバララヌ、ケレドモ又陪審員ノ答申ヲ無視スル
コトハ出來ナイ、サウ云フ點ニ於テハ或ハ拘束ト云ハレルカ
モ知レヌケレドモ併シ裁判官ノ意思卜陪審員ノ答申ガ一致
スルト云フ場合デアルカラ拘束力ヲ裁判官ニ與ヘルト云フ
ノデナイ、此點ハ私ハ一番憲法ニ牴觸スルモノデナイカト云
フ分岐點デアリハシナイカ、私ノ甚ダゾンザイナル頭ヲ以ッテ
考ヘテ見マスルト其點ハ憲法ニ違ヒハセヌカト云フ、私ハ分
岐點デアリハシマイカト考ヘマスルデアリマスルカラ、自分ト
致シマシテハ此點ニ付テ尙ホ疑ヲ抱イテ居リマス、尙ホ能ク
考ヘマシタ其點ニ對シテ疑ガアリマスガ、又後ノ機會ニ於テ
質問スルコトニ保留イタシテ置キタイ、ソレデ尙ホ當時御說
明ニナリマシタ點ニ於キマシテ恰モ檢事ノ起訴ガナケレバ刑
事ノ訴訟事件ニナラナイ、判事トシテモ致シ方ガナイ、ソレト
稍〓一致スルト云フ御言葉ガアリマシタガ、其程度ハ自ラ又
差違アルゴトデアリマセウカラシテ、モウ私ハ是ハ全ク違フヤ
ウニ考ヘテ居ル、是ハ裁判ヲ爲ス條件、ツマリ問題ガ、裁判
ニスベキ問題ガ提供サレナイカラ裁判シナイ、片方ノ問題
ハ裁判ソレ自體ノ部分ヲ爲ス、成程陪審法第一條ニ聲明
サレテ居リマス、第一條ニ斯ウ書イテアリマスカラト第一條
ニ書イテアルコトノミヲ以ッテ考ヘル譯ニイカヌ、其他ノ實況
ヲ見テ事實ヲ判斷シテ行カナケレバサウ云フコトヲ宣告シテ
居ルカラト云フテ裁判所ガ之ヲナルノダト云フコトニ一〓ニ
見ルノ聊カ早計ニ思ハレル又第一條ハ稍〓疑ハシク考へ
ラレマス、デゴザイマシテ要スルニ此第一條ノガアリマスケレ
ドモ第一條ハ陪審詰リ此裁判所ガ陪審ノ協議ニ附シテ免
ニ角、裁判所ガ事實ノ判斷ヲ爲スノダ、斯ウ云フ原則ヲ揚
グラレタ、サウシテ外ノ條項ニ於テソレニ矛盾シ夕事柄ハナ
イト云フ御見解デ居ラツシヤルノデゴザイマセウカ、ソレヲ
伺ッテ置キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=8
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009・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 凡ソ法律ノ解釋ニ付キマ
シテハ徐口ニ法案ノ全體ニ通ジテ解釋ヲ下スノガ當然デア
ルコトハ是ハ私ハ承知イタシテ居ルノデアリマス、必ズシモ一章
內ノ一字一句ニ依クテ解釋シスベキモノデナイ、是ハ全然御同
感デアリマス、併ナガラ此法案ノ第一條ニ於テ事實ノ判斷
ハ先ヅ裁判所ノ爲ス所ノモノデアルト云フコトヲ揭ゲル以
上ハ、之ヲ事實ノ判斷ハ裁判所ノ爲スモノニアラズト云フ主
義デナイト云フコトハ是ハ私ハ一點ノ疑ハナイト思ヒマス
此事實ノ判斷モ亦裁判所ノ司ルコトデアルト云フコトヲ書
イテ居ルノニ此條文ハ然ラズ、サウ云フ意味デナイ、斯ウ云
フ解釋ハ到底許サレヌモノデアルト考ヘテ居ルノデアリマス、
併ナガラ御質問中ニ他ノ條項ニ於テ此第一條ニ揭ゲル所
ノ大原則ト衝突スルモノガアルカドウカ、斯ウ云フ御尋ネデ
アリマス、是ハ相當ニ審議ヲ盡シタ所ノモノデアリマシテ、若
シ斯ウ云フ條文ガ牴觸スルカモ知レヌト云フヤウナ御疑ガ
アリマスナラバ、其條文ヲ揭ゲテ御質問ヲ願ヒタイノデ、政府
ト致シマシテハ無論牴觸スル所ナシト確信シテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=9
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010・池田長康
○男爵池田長康君 憲法ニ關シマスル私ノ質疑ハ是デ止
メテ置キマス、サウシテ唯昨日申上ダマシタ此憲法ニ牴觸ス
ルヤト云フ大切ナ其分岐點ブアラウト思フ點ニ付キマシテ
質疑ヲ保留シテ置キマシテ、又質問ノ餘裕ガ出來マシタ際
ニ於キマシテハ其時ニ質疑ノ機會ヲ與ヘテ下サルナラバ是
デ憲法ニ關スル質問ハ止メテ置キマス、尙小他ノ質問ニ私
ハ移ルノデゴザイマスガ、併シ又他ノ方モ御出デヾゴザイマス
カラ暫ク他ノ方ニ御讓リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=10
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011・岡野敬次郎
○國務大〓(岡野敬次郞君) 一言私ノ申上ゲマシタ
コトニ付テ誤解ハナイト思ヒマスガ、一言補ッテ置キマス、此
憲法ノ五十七條ニ「司法權ハ裁判所之ヲ行フ」斯ウ云フ
規定ガアルノデアリマス、此裁判所デ「之ヲ行フ」ト云フテア
リマスルノハ裁判所ノ干與ナクシテ、裁判所ノ意志ニ反シテ
陪審員ノ表決通リニ栽判ヲセネバナラヌト云フヤウナコトニ
ナリマシタナラバ、是ハ或ハ憲法ノ五十七條ニ反スルト云フ
議論モ起リ得ルノデアリマス、併ナガラ裁判所ガ司法權ヲ
行フニ付キマシテモ、無論其法律ノ規定ニ依ッテ行フノデア
リマスカラ、其法律ノ規定ニ依シテ陪審員ノ評議ニ附シテ、
而シテ其答申ヲ俟ッテ所謂栽判ヲ行フト云フコトデアレバ是
ハ無論憲法ノ五十七條ニ反スルコトヽ思フ、斯ウ云フコトヲ
一言補充シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=11
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012・池田長康
○男爵池田長康君 是七先般本會ニ議於ア御尋ネ致シ
マシタ點デアリマスガ、本案提案ノ理由ガ薄弱ノヤウニ私ハ
考ヘルト云フコトヲ實ハ申上ゲタノデアリマス、併シ是ハ意
見ノ相違デアリマスカラ、當時質疑ヲ留メマシタノデアリマ
ス、ンコデ尙ホ此點ニ付テ伺ッテ置カナケレバナラヌト思ヒマ
スノハ、此陪審制度ヲ設ケラレテ行カレル、サウシテ此陪審法
案ヲ拜見イタシマスルト其當時申上ゲテ置キマシタノデアリ
マスルガ、陪審員ガ其事實ノ認定ヲスルノハ其結論トシテ然
リトカ或ハ否トカ云フ結論ヲ以テスルノデアリマス、サウシテ
多數決ニ依シテ之ヲ決定スルノデアリマスガ其事柄ガ果シテ
裁判ノ實質ヲ高メ、而シテ心服セシムルモノデアルヤ否ヤト
云フコトニ付テ私ハ疑ガアルノデアリマス、其當時多少意見
ヲ私ハ申述ベテ置イタノデアリマスルガ、詰リ其事實ノ認定
ヲスルニ付テモ其根據及ビ理由ト云フモノヲ尊ブノデハアル
マイカト考ヘル、具體的ニ此法案ニ付キマシテ見マスト此法
案ノ第九十七條、ソレカラ此刑事訴訟法第二百三條ヲ見
マスト云フト「刑ノ言渡ヲナスニハ罪トナルヘキ事實及ヒ證
據ニ依リテ之ヲ認メタル理由ヲ明示シ」トアル、ソレカラ第九
十七條ハソレカ脫ケテ居ルノデアリマス、其ノ脫ケテ居ル
代リニ陪審ノ所謂「イエス」「ノー」ト云フ結果ノ多數ニ依ッテ
決メテ行クト云フコトデアリマスガ、是ガ私ハ此陪審制度ト
ソレカラ現在ノ裁判官ニヤラシテ置クトノ微妙ナル問題デ
ハアルマイカト思フノデアリマス、是ガ相竝ビ立ッテ居リマス、
場合ニ於キマシテハ是ハモウ申分ノナイノデアリマス、ソコデ
此差違ハ畢竟ズルニ證據ニ依リテ之ヲ認メタル理由ヲ明示
スルト云フ事柄ガ一體其現代ノ文化ニ於キマシテ必要デア
ルコトデハアルマイカ、只常識的デアルト云ッテ陪審員ノ參
加ヲ俟ッテ、ソレニ「イエス」、「ノー」ヲ云ハセテ、サウシテ之ヲ多
數デ、之ヲ極メテ行クト云フコトハ、何レガ一體文化的デア
リ、又眞ニ心服ノ伴シタルモノデアルカト云フ點ニ付キマシテ、
私ハ非常ナル疑議ヲ有ッテ居ルノデアリマス、〓ノ裁判ニ於
キマシテハ詰リ知識ノ程度ガ低イグ爲ニ、或ハ熱湯ニ手ヲ入
レテ物ヲ判斷シタト云フ時代モアッタ、ソレヨリ進ンデ又或ハ
多クノ人ノ言葉ニ依ッテ判斷ヲスルト云フコトモアッタラウト
思フノデアリマスルガ、最モ大切ナル事柄ト云フモノハ其證
據及其理由ト云フモノヲ明ニスルト云フコトガ、私ハ最モ此被
告ノ爲ニモ必要デアルモノノヤウニ考ヘラルル、然ルニンレヲ
捨テテ、サウシテ陪審員ノ「イヱス」「ノー」ト云フ判斷、理由ノ
ナイ、此判斷シマシテ多數、絕對····滿場一致ト云フノデナ
クシテ多數ト云フモノノ判斷ニ依ッテ裁判ヲシテ行クコトガ
果シテ被告ノ爲ニ之ガ心服セシムルモノデアルヤ否ヤト云フ
點ニ付キマシテ、非常ニ疑ヒヲ懷ィテ居ル者デアルノデアル、
近代ノ進化ノ經過トイタシマシテハ、ソレハサウ云フ風デアル
デアルベキモノト云フ御信念ヲ有ッテ御居デデセウカ、否カ、
其點ノ御所見ヲ一ツ伺ッテ置キタイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=12
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013・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郎君) 私ハ刑事訴訟法ノ明文ハ
知リマセヌケレドモ、凡ン從來ノ法規ニ依リマシテ判決ヲナ
スニ當リマシテ、其理由ヲ明ニスルコトハ固ヨリ申スマデモナ
イコトデアリマス、現行法ノ下ニ於キマシテ、之ニ反スルモノ
ハ、現行法ノ規定ニ反スル所ノ規定ハ詰リ陪審法ニ入レ
テ置カナケレバナラヌノデアリマス、若シ現行法ヲ基トシテ之
ガ正シイト云フコトデアレバ、陪審法ガ正シクナイト云フコト
ニ歸著スルノデアリマス、是ハ當然デアリマス、併ナガラ政府
ニ於テハ斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、先ヅ近時ノ、近代
ノ立法-云フモノハ私ノ承知イタシマスル所ニ於キマシテハ、
素人ヲ加ヘテ其意見ヲ徴スルノデアルト一云フコトガ、ドウモ
近代ノ立法ノ傾向ノヤウニ私ハ思フノデアリマス、陪審ニ付キ
マシテ、固ヨリ陪審ニ附スル以上ハ然リ又ハ然ラズト云フ答申
ヲ求メル外ニハ致方ナイノデアリマス、併ナガラ然リ又ハ然
ラズト云フ答申ヲ得ルニ付キマシテハ、十分ニ事件ノ眞相
ヲ明ニスルノ必要ガアルコトハ論ノナイコトデアリマスルガ、
此點ニ付テハ幾多陪審法案ニ規定ヲ設ケテアルノデアリマ
ス、陪審員ヲシテ十分ニ事件ノ眞相ヲ會得スルダケノ注意
ハ致シテ居ルノデアリマス、而シテ之ヲ國民ノ側カラ申シマ
スレバ陪審ノ趣旨ハ何ニアルカト云フト國民ヲシテ裁判ニ
悅服セシメルノデアルト云フコトヲ申シテ居ルノデアリマス、
私ハ自ラ、恰モ他人デアル·····俗ニ申セバ常識栽判官ノ栽
判ニ喜服スルノデアルカ、常識裁判ト申マスケレドモ或ハ自
己ノ同胞ノ幾多ノ人間ガ之ニ加ハノテ、而シテ此栽判ヲシテ
貰フト云フノト何レガ所謂喜服ヲ得ルノ途デアルカト云フ
問題トシテ考ヘテ見ナケレバナラヌ問題デル、只理由ヲ明ニ
スル、或ハ理由ヲ示サヌト云フダケノ問題デハナイノデア
リマス、裁判其モノニ對シテノ信賴ヲ厚クスルト云フコトニ
付キマシテハ、矢張リ常識裁判官以外ノ素人ヲ加へ、卽チ
自分ノ仲間カラ之ニ加ハル所ノ人間ヲ出シテ而シテ出來タ
所ノ栽判デアルナラバ或ハ其裁判ハソレニ依ッテ、ソレニ對シ
テ誤リ無シト云フコトハ是ハ私斷言ハ出來マセヌケレドモ、
是ハ誠ニ已ムヲ得ナイコトデアル、併ナガラ甘ンジテ裁判ニ
服スルノガ、是ガ卽チ私ハ國民ヲシテ裁判ニ喜服セシムル所
以デアラウト思フノデアリマス、私ハ理由ヲ明ニスルトカ、理
由ヲ示ストカト云フ小問題ヨリモ、小問題ト云フコトハアリ
マセヌガ尙ホ問題ノ大キクシテ考ヘテ行カナケレバナラヌコ
トデアラウト思フノデアリマス、而シテ又若シモ被告人ニ於
キマシテ陪審ニ附セラルルコトヲ好マヌ、自分ハ常織栽判官
ノ裁判デ結構デアル之ニ十分ニ服スル積リデアルト云フノ
デアルナラバ、敢ヘテ陪審員ヲ其者ニ向ッテ强制スル譯デハナ
イノデアル、普通裁判ト雖モ尙ホ陪審ニ附スルコトヲ辭退ス
ルコトヲ許シテ居ルノデアリマス、要スルニ其被告人ノ側カ
ラ申セバ何レノ途ヲ取ルニ致シマシテモ自ラ栽判ニ悅服ス
ルト云フコトデアル以上ハ、必ズシモ陪審ヲ強制スル譯デハ
ナイノデアリマスカラ、一向私ハ差支ナイ····殊ニ外國ニ於
キマシテ申スマデモナク古クヨリ陪審制度ト云フモノハ行ハ
レテ居ルノデアリマス、併シ陪審ノ行ハレテ居ル所モ、陪審制
度ニ對スル多少ノ弊ハ認メテ居ルノデアリマス、此弊ヲ除去
シナケレバナラスト云フコトノ議論ハ幾多聞クノデアリマス
ル、併ナガラ陪審制度ヲ根本的ニ廢シテ終ヘト一云フヤウナ議
論ハ私ハ嘗ツテ聞キマセヌノデアリマス、ソレデ此法案ヲ立テ
ルニ當リマシテモ、外國人ノ弊トシテ居ル所、外國ノ法律ニ
於キマシテ學者ナドガ論シテ居ル弊ハ努メテ之ヲ除去スル
ノニ努メタノデアル、面カラ申シマスレバ今日マデ陪審制
度ノナカッタコトハ我ガ司法制度ノ缺點デアルト云フ議論モ
アルヤウナモノデアリマス、殆ド歐羅巴ノ、亞米利加ハ勿論
デアリマスルガ歐羅巴ノ大キナ國ニシテ陪審制度ヲ採用シ
テ居ラナイモノハナイト申上ゲテモ宜シイノデアリマス、之ニ
文化ノ進步デアルト云フ御言葉ヲ御用ヒニナルト云フナラ
バ私ハ之ニ對シテモ一向異存ハナイ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=13
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014・池田長康
○男爵池田長康君 唯〓ノ御所見ヲ拜聽イタシタノデア
リマスルガ、此被告人ガ判決ニ心服スルト云フ事柄ハ餘程
事實ニ的確ニ來タ場合ニ於テ感ズルコトデアリマセウガ、併
シ多クノ場合ニ於キマシテ、詰リ被告入ガ諦メヲソコニ有ス
ルト云フ結果ニ私ハ過ギマイト思フ、卽チ諦メヲスルノニ付
テ自分ノ惡イコトヲシタ、サウシテソレニ對スル十分ナル證據
及ビ其犯罪ノ出マシタ所ノ事柄、理由、其他ヲ下サレテ、茲
ニ諦メヲ私ハ生ジタノデアラウト思フ、然ルニ唯文字ノ書キ
讀ミ出來ル程度ノモノデ而モ抽籤ニ依シテ出テ來夕所ノ此
陪審員ハ單ニ多數決デアルト云フコトニ依シテ決定サレテ、
サウシテ其證據ニ依ッテ理由ト云フモノヲ明元サレズ、サウシ
テ玆ニ犯罪ガ決定スルト云フコトニナリマシテ、果シテソレガ締
メヲ生ゼシムルモノニ十分ナル力有ルモノデアルカ否カト云
フ點ニ付テ疑ガアル、元來此裁判ト云フモノハ所謂神ノ裁判
デナケレバナラヌ、然ルニ人間ニ依シテ栽判ヲスルノデアリマ
スカラ、餘程及バザル所ヲ考慮シテ行カナケレバナラヌノデア
リマスルカラ、唯多勢デ之ヲ決メタカラ、ソコニ眞理ガアルト
云フコトハ私ハソレノミデハ言ヘヌ、矢張リ人間ノ合理的判
斷·····合理的順序ヲ踏ンダル所ノ判斷デナケレバ諦メヲ生
ゼシメ、隨ジテ心服スルコトハ困難デアラウ、斯ウ思フノデアリ
マスガ、併シ其點ニナリマスルト全ク所見ノ差違ニナッテ參リ
マスノデ、質疑ノ範圍ニ這入リマセヌカラ、ソレハ止メマシテ、
尙ホモウ一應私ハ伺ッテ置カナケレバナラヌ點ハ、此現代ノ
思潮ニ於キマシテハ所謂司法權ニ於テモ此國民ガ參與ス
ルト云フ傾向ガアル、又行政權ナリ、立法權ニ於テ其通リデ
アルト云フ見解デアリマスルガ、サウ云フ現象モ見得ラレル
ノデアリマスルケレドモ、果シテンコニ必要ヲ感ズルカ、ナ
カ〓〓實益ヲ自覺セズシテ、唯其モノニ對シテ參加スレバ宜
イト云フ傾向デアルト云フ風ニ御考ヘニナルノデアリマセウ
カ、其點ヲ一ツ伺ッテ置カウト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=14
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015・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 私ハ陪審法案提出ノ理由
ハ本會議ニ於テモ大要述ベタ積リデアリマス、又委員會ニ於
キマシテモ重ネテ其點ニ付テ申述ベタ積リデ居リマス、又本
會議ニ於キマシテ幾多ノ質問ニ對シテモ御答ヲ致シタノデ
アリマス、唯今ノ御尋ノ點ニ付テハ十分ニ最早申述ベタ積
リデアリマス、唯空ニ陪審法案ヲ机ノ上ニ於テ書イテ、是
誠ニ結構ナモノデアルト云ッタヤウナ意味合デ提案シタモノ
デナイト云フコトハ之ニ依シテ既ニ政府ノ意ノ有ル所ハ御了
解ヲ下サッテ居ルモノト私ハ思ウテ居ル、重ネテ同ジヤウナコ
トヲ申述ベルヤウナコトデアリマス、而シテ司法權ニ參與ス
ルコトサへ出來レバソレハ宜シイト云フ聲ガアル、是ハ私ハ何
レノ機會ニ於テデアルカ、唯〓シッカリ記憶ハ致シマセヌケレ
ドモ、陪審法案ノコト】ハ此二三年ニ於テ初メテ問題ニナッタ
ト云云ノデハアリマセヌ、餘程以前カラ問題ニナッテ居ッタノデ
アリマス、相當ニ學者モ論ジ、司法當局ニ於テモ之ニ付テハ
相當ニ調査ヲ致シタノデアリマス、而シテ全國ノ辯護士會
一二ヲ除クノ外ハ何レモ皆陪審法ノ提案ノ必要ナルコトヲ
唱ヘテ居ル、此ニ於テ先年法制審議會ヲ設ケマシテ、サウシ
テ民間ノ法曹、其他栽判等ニ實驗アル人〓ヲ集メマシテ、果
シテ今日ノ時勢ニ於テ陪審ノ法ヲ立ツルコトガ必要デアル
カ否ヤト云フコトヲ主題ニ之ヲ諮問イタシマシテ、サウシテ申
スマデモナク愼重ニ審議ヲ盡シ、大綱ヲ定ムルニ付キマシテ
モ永イ間攻究ヲ重ネタノデアリマス、非常ニ激論モアッタト云
フコトヲ私ハ承知イタシテ居ルノデアリマス、私ハ專門違ヒノ
故ヲ以テ其委員會ニハ參加イタサナカッタノデアリマスルケ
レドモ、利害得失ニ付テ非常ニ議論ヲ重ネタ末ニ、此大綱ヲ
定ムルニ付テハ結局滿場一致ヲ以テ可決シタ所ノモノデア
ル、更ニ之ヲ法制審議會ノ總會ニ付シテ總會ニ於キマシテ
モ滿場一致デ可決セラレタ所ノモノデアルノデアル、ダガ玆ニ
一言申添ヘテ置キマスガ、事實ノ認定ハ法制審議會ノ總會
ニ於テ裁判ナリト云フ意見ガ多カッタト云フ御話ヲ先程承
リマシタガ、私ハ自ラ其總會ニ出席シテ居リマシテ、其大綱
ヲ可決スル時ニハ滿場一致ニ可決シテ居リマシタガ、ソレガ
故ニ事實ノ認定ハ裁判ナリヤ否ヤト云フコトハ總會ニハ問
題ニナラナカッタノデアリマス、唯質問ガアッタ位ノコトデアリ
マス、要スルニ滿場一致デ可決シタノデアリマス、随テ事實ノ
認定ハ裁判ナリヤ否ヤト云フコトニ付テ討議ヲ致シタノデモ
何デモアリマセヌ、又各自ノ意見ヲ述べタノデモアリマセヌ、随
テ事實ノ認定ハ栽判デアルト云フコトハ多數ノンコニ現
レタ意見デアルカト云フコトハソレハ分リマセヌ、銘々ニ聽イ
タラドウ云フ意見ヲ有ッテ居ルカ分リマセヌ、法制審議會ノ
會議ノ席上デ多數デアルトカ少數デアルトカ云フコトヲ判
斷スベキ材料ハ一ツモナイノデアリマス、此事ハ序ナガラ茲ニ
申上ゲテ置クノデアリマス、而シテ御承知ノ如クニ法制審議
會ニ於テ大綱ヲ滿場一致デ可決イタシマシテ、サウシテ之ヲ
其大綱ニ基イテ提案ヲ致シマシタノハ司法省デアリマス、之
モ相當ニ永ク掛リマシテ作案ノ後ニ、之ヲ樞密院ノ議ニ付
シテ樞密院デ矢張リ三十幾度モ會議ヲ重ネマシテ、而シテ
結極可決セラレマシテ、前會議ニ之ガ提案トナッタ次第デア
リマス、而シテ衆議院ニ於テハ多數ヲ以テ可決イタシタノデ
アリマス、本年再ビ政府ニ於テ提案ヲナスニ當リマシテ矢張
リ重ネテ樞密院ニ諮問ヲシナケレバナラヌノデアリマス、樞密
院ニ諮問ヲイタシマシテ、矢張リ多數ヲ以テ可決セラレタノ
デアリマス、而シテ衆議院ニ於テ矢張リ大多數ヲ以テ通過
イタシタヤウナ譯デアリマスガ、相當ニ此陪審法案ノ審議ニ
ハ十分ニ力ヲ盡シ、十分ノ審議ヲ盡シタ上ノモノデアリマス、
之ガ單ニ机ノ上ニ於テ陪審法十云フノハ然ルベキ制度デア
ルカラト云ウテ机ノ上デ圖ヲ引ッ張ルヤウニシタノデハアリマ
セヌ、長イ間〓究ノ結果、又活キタ機關ノ陪審法ノ提案ヲ
必要トスル其聲ニ鑑ミテ卽チ是ハ國民ノ要求ナリト云フ下
ニ前回ニ提案シタ次第デアリマス、固ヨリ陪審法ノ實用實
益アルコトヲ認メタ上ノ提案ト御承知ヲ願ヒタイノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=15
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016・佐竹義準
○男爵佐竹義準君 私ハ先日第一回ノ委員會ニチヨット
出席ヲ致シマシテ、其後豫算ニ引シ掛リノアル爲ニ出ルコト
ガ出來マセヌカラ、或ハ私ノ伺ッタ所ガ重複スル點ガアルカモ
知レマセヌ、併シ速記錄ガ出來テ居リマスレバ速記錄ヲ拜
見シテ見マスケレドモ速記錄ハマダ拜見ガ出來ナイノデアリ
マスカラ、或ハ重複シタ御尋ヲスルコトガアルカモ知レマセヌ、
併ナガラ私ノハ極ク簡單ナル御尋デアリマス、先程池田男
爵ノ御尋ノアッタ通リ花井博士カラ御尋ノアッタ詰リ事實ノ
認定ハ裁判デアルヤ否ヤト云フコトニ付テ司法大臣ガ申述
ベマシテ政府ノ意見デハナイケレドモ自分ハ斯ウ思フト云フ
御話ガアッタ、私ハ是ハチヨット疑問デアル御提案ニナル以上
ハ司法大臣タル岡野博士ノ御意見デナイト思フ、政府ノ御
意見デ御提案ニナッタデアラウ、政府ノ御意見ハ果シテ如何
デアルカト云フコトヲ花井博士カラ御尋ガアリマシタヤウデ
アリマスガ、マダ私ノ胸ニ十分落チマセヌ、岡野博士ノ御考
ト云フコトハ是ハ別ニ致シマシテ、政府トシテノ徹底ノ御考
ヲ伺ヒタイ、ソレニ付マシテ私ガ間違シテ居ルダラウト存ジマス
ガ、歐羅巴諸國ノ陪審ニ於キマシテモ陪審ノコトガソレ程良
イヤウニ····評判ガ良イトモ私ハ思ヘナイノデ、ソレヲ事實ノ
認定ハ裁判ノ一部カ否ヤト云フコトハ學者ノ間ニ議論ガア
ル、マダ一定シナイト云フモノヲ今日御出シニナルノニハ政
府トシテ御意見ガ一定シテ居ラナケレバナラヌ、又之ヲ今御
出シニナルノハ唯〓國民ノ輿論ト云フ御話デアリマス、私
考ヘマスノニハ果シテ是ガ國民ノ輿論デアルカ否ヤト云フコ
トガ又疑ノ一ツデアル、又唯〓池田男爵ノ御質問ニ對ンア
御答辯デアリマスカ、法制審議會等ニ於キマシテ長イ間御
審議ニナッテ滿場一致ヲ以テ通過シ、樞密院デモ是ハ贊成シ
タ問題デアルト云フ御話デアリマシタガ、甚ダ失禮ナ申分カ
モ存ジマセヌガ、是ニハイロイロナ經緯ガアッテ初メノ間ニ之
ニ付テ實ニ大分御論ガアッタト承知イタシマシタ、反對論者
モ多カッタト云フコトヲ私ハ聞イテ居ル、今日司法省ノ御
方ハ存ジマセヌガ裁判官其他ノ矢張法津家ノ御方ミノ御
意見ヲ伺フテ見テモ、ドウモ反對ノ御意見ガ多少私共ノ耳ニ
這入ルヤウニナル、サウ云フヤウナ情況デゴゼイマスカラシテ
之ヲ御出シニナリマスナラバ餘程重大ナ何カドウシテモ出サ
ナケレバナラヌト云フヤウナ根本的ノ御趣旨ガナケレバナラ
ナイト私ハ考ヘル、併ナガラ私ノ意見ハ餘リ間違ッテ居ルカモ
知レヌガ其點ハドウ間違ッテ居レバ間違ヲテ居ルト仰セヲ願ヒ
タイ唯"私ノ伺ヒタイノハ政府ノ御意見ガ決定シタ所ガナ
イノデアルカト云フコトト、ツマリ是ガ果シテ國民ノ輿論デア
ルカ否ヤト云フコトト、今日之ヲ御出シニナル必要ガ何カサウ
急イデ御出シニナル必要ガアルカト云フ此三點ヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=16
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017・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 事實ノ認定ハ裁判ナリヤ
否ヤト云フ點ニ付テ花井博士ノ第一囘ノ委員會ニ於ケル
御質問ニ對シテ私ハ御答イタシマシタ其ノ點ハ明デナイト
云フコトデアリマスガ、明カニ御答イタシテ居リマス、其明カ
ト云フコトハ是ハ學說ノ異ナル點デアッテ敢テ此法案ヲ制定
スルニ當リマシテ右トモ左トモ決定シテ居ラヌノデアルト云
フコトヲ私ハ御答シタノデアル、是以上ハ明カニ御答スルコ
トガ出來マセヌ、而シテ先刻池田男爵カラノ御尋ニ對シテ
同ジイコトヲ繰返シテ私ハ今日モ申上ゲテアルカラ、私ノ自
分一人トシテハ事實ノ認定ハ裁判ナリヤ否ヤト云フコトヲ
御問ニナレバ、私ハ裁判ノ一部デアルト云フ見解ヲ有ッテ居
レト云フニトヲ併セテ申上ゲテアルノデアリマス、御前ハサウ思フ
カラ政府ノ意見モサウナケレバナラヌトサウ云フ理窟ハ毛頭
ナイノデアリマス、是ハ學說ガ違フノデアリマス、而シテ其
學說ハ右ニスルカ左ニスルカト云フコトハ、政府ノ意見トシ
テ此法案ヲ立ツルニ至ッテ定マッテ居ラヌノデアル、之ガ定マッ
テ居ラヌノハ不都合デアルト云フナラバ是ハ御意見ニ屬
スルノデ、政府ノ意見ハサウデアリマス、又從來ノ立法ニ於キ
マシテ私ハ相當長イ間立法ノ事業ニ關係ヲ致シテ居ルノデ
アリマス、幾多此學說上ノ爭ヒ問題ト云ヲモノハ法案ヲ立ツ
ル上ニ於テ一カラ十マデ之ヲ立案ノ際ニ解決シテシマウ
ト云フコトハ出來ナイノデアリマス、又立法上甚ダ不得策ナ
コトデアルト思フ、必ズシモ此ノ日本ノ立法バカリデハゴザイ
マセヌ、何レノ國ヲ見テモ斯ノ如キ問題ハ之ヲ學說ノ爭ヒ、學
說ニ任セタ方ガ宜イ、法律ヲ作ルニ當ッテ其主義ヲ明カニス
ルト云フコトハ却テ是ハ學說ヲ拘束スルモノナルガ故ニ、其
主義ヲ執ラヌ方ガ宜イト云フトノ趣旨ノ下ニ立法セラレテ
居ルト云フモノガ決シテ少クナイノデ、ソレデアリマスカラ此
法案ヲ立ツルニ當リマシテ、ツマリ何レノ說ヲ採ルニ致シマシ
テモ、ソレハ學說上ノ見解ニ任セルノデアルト云フ趣旨ヲ以
テ立案シタモノデアルト云フコトハ、是ハ御承知ヲ願ヒタイ
ノデアリマス、ソレカラ陪審制度ノ可否ニ付テ外國ニハ論ガ
アル、成程論ハアリマセヌ、日本ニ於テモ論ハナケレバナラヌ、
勿論反對論ガ多少アルノデアリマス、現ニ此法案ニ明カニ
反對ガアルトシテ述べラレ居ル所ノ者ガ衆議院ニモアルノ
デアリマス、又恐ラク貴族院ニ於キマシテ此法案ヲ討議セ
ラレテ反對ヲ表明セラレル者ガアルノデアリマス、成程總テノ
人悉ク陪審法案ニ贊成デアルト云フコトハ私ハ申シマセヌ
ノデ、法律案ニシテ反對ノ意見ヲ有タナイ者ガ一人モナイト
云フモノハ私ハ殆ド事例モナイト思ヒマス、是ハ見解ノ相違
ニ屬スルモノデアリマシテ、我國ニ於キマシテモ陪審法案ニ反
對スルモノ一人モナシト云フヤウナコトハ決シテモ私ハ申シマ
セヌ、併ナガラ反對ノ聲ガ大ナルモノデアルカ賛成ノ聲ガ大
ナルモノデアルカト云フコトニ依テ事ガ定マルノデアリマス、
見解ノ相違ハ已ムヲ得ナイコトト申スヨリ仕方ガアリマセ
ヌ、故ニ反對ノ聲ガアルカラ立案ハ止メデアル、法律ノ制定
ハ止メデアルト云フ結論ニハドウシテモ達スルコトハ私ハナ
イト思ヒマス、若シ反對ヲスル者ガ多イ場合ニハ已ムヲ得
ヌ、賛成ガ多クシテ反對ガ少イ場合ニハ反對ノ方ガ誤ッテ居
ルト大體ニ於テ看做スヨリ致方ガナイト思ヒマス、法制審
議會ニ於テ反對ガ多數アッテ贊成者ガ少カッタ、是ハ佐竹男
爵ガ私ヨリモ或ハ尙ホ法制審議會ノコトハ御承知デアルノ
カ存ジマセヌガ、反對論者ノ方ガ多カッタト云フコトハ私ハ
認メテ居リマセヌ、議論ノアッタト云フコトハ先刻モ申上ゲマ
シタ通リデアリマス、ンレハ併ナガラ私ハ能ク細カイコトハ承
知イタシマセヌケレドモ外國ノ陪審制度ノヤウナモノヲ立テ
ルカ立テナイカ、凡ソ陪審制度ト云ヘバ大〓何人モ外國ノ
陪審制度ノ如キモノヲ考ヘルノガ當然アアリマス、私モ陪審
制度ト云ヘバ恐ラク外國ノ陪審制度ヲ指スノデアラウト斯
ウ考ヘルノデアリマス、多クノ人モ左樣デアラウト私ハ思フノ
デアリマス、併ナガラ結局先刻申上ゲマシタ通リ長イ間議
論ヲ重ネ、長イ間審議ヲシ、隨分激論モアッタト一ムフコトヲ
承ッテ居リマス、結局此案ノ本トナル所ノ大綱ヲ議スルニ當
リマシテハ、法制審議會モ滿場一致デアル、司法省ニ於テ立
案ニ從事シタル起草委員諸君ノ意見モ滿場一致デアル、斯
ウ云フコトデアリマスレバ其滿場一致ヲ見ル經路ニ至ル間
ニ於テ議論ガアッタカト云ッテ、之ガ爲ニ提案ノ運命ニ何等
影響ノナイコトト申サナケレバナラヌノデアリマス、ソレカラマ
ダ外國ニ於テ陪審制度ノ可否ニ付テ論ガアルノニ、何故日
本ニンンナ議論ノアルモノヲ作ルカ、斯ウ云云御質問モアリ
マシタ、陪審制度ノ弊トシテ認メテ居ル所ノモノハ外國ニ於
テモアルノデアリマス、ソレハ外國ノ陪審制度ノ下ニ於テ改
ムベキ點ガアルト云フコトニ付テ議論ノアルコトハ承知イタ
シテ居ルノデアリマスケレドモ、併シナガラ陪審制度ソノモノ
ヲ廢スルト云フ聲アルコトハ、私寡聞ノ故カ一モ聞キマセ
ヌ、現ニ行ハレテ居ル陪審制度ヲ廢メテシマヘト云フ聲ハ聞
キマセヌ、成程施行上カラ考ヘマシテ弊アルト云フ點ハ是ハ
改メネバナラヌ、其論ノアルコトハ聞イテ居ルノデアリマス、是
等議論ノアル所ハ十分ニ參酌ヲ致シマシテ可ナリト認メタ
所ノモノヲ此法案ニ採用ヲ致シタノデアリマス、ソレガ故ニ
外國ノ陪審制度ノ弊トシテ認メテ居ル所ハ成ベク是ハ除去
スルコトニ努ムルト云フコトヲ提案ノ理由ノ中ニモ申述ベタ
積リデアリマス、外國ニ於テ行ハレテ居ル陪審制度ソノモノ
ニ付テ何等議論ガナイト云フコトハ私ハ申シマセヌガ、併ナ
ガラ其議論アルノハ現ニ行ハレテ居ル制度ノ可否ニ付テ論
ガアル、陪審制度ソノモノヲ根本的ニ除イテシマウト云フ論
ノアルコトハ私ハ承知イタシマセヌ、ソレカラ國民ノ要望要
求デアルヤ否ヤヲ疑ウト云フ御話デアリマス、是ハ御疑ヒニ
ナルト云フコトデアレパ已ムヲ得ナイコトデアリマスケレドモ、
政府ハ之ヲ國民ノ要求スル所ノモノデアルト云フコトヲ認メ
テ提案ヲ致シタ譯デアリマス、既ニ陪審制度ト云フモノハ國
民ヲシテ益〓裁判ニ對スル所ノ信用ヲ厚クスル、而シテ裁判
ニ對シテハ少シモ不滿ノナイヤウニスル、國民ヲシテ十分ニ裁
判ニ悅服セシムルト云フコトガ陪審法案提出ノ理由ノ一
ツデアリマス、而シテ大ナル理由ノ一ツデアリマスル以上ハ、
成ベク速ニ之ヲ實施スルコトガ必要デアルト云フコトニナル
ノデアリマス、政府ト致シマシテハ、出來ルナラバ成ベク早ク
施行イタシタイト考へテ居ルノデアリマス、併ナガラ前回デア
リマシタカ申述べマンタガ如ク、大正十七年ヲ待タズンバ施
行ガ出來ナイ、却テ大正十七年ヲ待タズンバ施行ノ出來ナ
イト云フコトハ甚ダ遲イ、モット早ク施行シタラ宜カラウー云
フ議論ハ澤山聞クノデアリマス、併シ色〓富施ノ準備ノ都
合モアリマスシ、又今ヨリ詰リ五年ヲ待タズンバ法律ノ完全
ナル施行ガ出來ナイト云フ狀況ニアルノデアリマス、出來ル
コトナラバ早ク施行シタイ一日モ早ク裁判ノ信用ヲシテ益〓
堅カラシムルコトニ致シタイト云フ意向ヲ有ッテ居ルノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=17
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018・佐竹義準
○男爵佐竹義準君 唯〓精シク御說明下サイマシテ洵ニ
有難ウ存ジマス、尙ホ一應伺ッテ見タイノハ、是モ段々御質
問ガアッタヤウニ傳承ヲ致シ、又先程池田男爵カラモ御質問
ガアッタコトニ關聯イタシテ居リマスガ、此陪審員ノ答申ガ
栽判官ノ意見ニ合致シナイ場合ニ、之ヲ數回代ヘテヤルト
云フコトニナリマスト、唯今仰セノ裁判ガ益、公平デアリ悅
服スルヤウナモノガ出來ルカ出來ナイカ私ハ如何ナモノデア
ラウカト思フ、此爲ニ色こ弊害ガ起ッテ來ハシナイカ、詰リ抽
籤ニ依テ陪審員ニナッタ者ノ答申ガ裁判官ノ意見ト合致シ
ナイ中、改メテ又答申ヲサセルト云フコトニナリマシタナラ
バ、陪審員ハ甚ダ迷惑デ本當ノ考ヲ申シマシタナラバ之ガ採
用サレナケレバナラヌ、栽判官ハ立派ナ裁判官デアリマスカ
ラ御意見モゴザイマセウ、併ナガラ栽判官ノ意見ト陪審員ノ
意見トガ一致シナケレバ之ヲ採用シナイト云フ曉ニハ、色〓
ノ弊害ガ起フテ來ハシナイカ、陪審員モ裁判官ノ意向ヲ窺ッテ
答申ヲスルト云フ結果ガ起リハシナイカ、其時ニモ色と弊害
ガ起リハシナイク、或ハ政黨關係ノ場合デアレバ、之ニ對シテ
種々ナ弊害ガ起ッテ參リマシテ、却テ今日ノ裁判官ノ公平ヲ
維持シテ居ラレタヨリモ、或ハ國民カラ見マスト不安ノ念ヲ
抱クヤウナコトガ起リハセヌカト云フコトヲ杞憂イタス次第
デ、此點ニ付マシテサウ一云フコトガ絕對ニ無イト云フコトデ
アリマスレバ私モ安心デアリマスガ、一應伺ッテ置キタイト思
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=18
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019・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) ドウ云フヤウニ御答ヲ致シ
テ宜シイカチヨット分リ兼ネマスガ、併シ御質問ノ趣旨デアラ
ウト云フ點ニ對シテ申上ゲテ置キマス、第一ニハ陪審員ハ迷
感デアル面カラ申シマシタナラバ迷惑カモ知レマセヌ、尤
モ前キニ申上ゲタ通リデアリマス、兵役ノ義務ノ如キモノデ
モ法律ニ規定サレテ居ルモノデ、又證人トシテ栽判官カラ鑑
定ヲ命ゼラレル甚ダ迷感ノコトデアル、稅ナラバ拂ハヌ方ガ
宜イ納稅ノ義務ナドト云ウテ法律ニ依テ負擔ヲセラレルト
云フコトハ迷惑デアルト云フ個人個人ノ立場カラ申シマシ
タナラバ、私ハ陪審員トシテ法廷ニ立タナケレバナラヌト云ヘ
バ、其方面カラ云ヘバ迷感デアラウト思ヒマス、併ナガラ是ハ
一般國民ノ義務トシテ國民全般トシテ裁判ニ對スル信用
ヲ厚クスルト云フモノトシテ、制定イタサレタモノト致シマス
レバ、是ハドウモ已ムヲ得ナイコトダラウト思ヒマス、併ナガラ
陪審法ニ對シテハ成ベク迷惑ニナラヌヤウニシテ、法律ノ制
定ノ上ニ努メナケレバナラヌト云フコトハ論ハアリマセヌ、就
中公判準備手續ト云フモノヲ設ケテ成ベク準備ヲ整へ、然ル
後ニ公判ニ付スルト云フコトニ致シマシタノモ所謂迷惑ヲ
成ベク少ークスルト云フヤウニ致シタイト云フ趣旨ニ出テテ
居リマス、又陪審ニ付スルニ致シマシテモ必ズ一日終了スル
コトニスル、ソレハ終了シ得ナイコトモアリマセウケレドモ、併
ナガラ成ベクハ一日デ濟マサレルヤウニ致シタイト云フノデ、
先ヅ一日デ濟マセルコトヲ原則トシタ、是亦一般ノ國民ハ
迷惑ニナラヌコトニシナケレバナラヌト思ヒマス、ソレ等ノ注
得ヲ出來ルダケ此法案ニ於テ致シテ居ル積リデアリマス、ソ
レカラ裁判ニ國民ガ悅服スルト云フコトヲ云フケレドモ却テ
悅服セヌカモ知レヌ、政府ハ悅服セシムルノ趣旨デ本案ヲ提
出イタシテ居ルツモリデアル、若シ佐竹男爵ノ御問ノ如ク國
民全體ガ裁判ニ休テ悅服スルシナイト云フ疑アルト云フコ
トナラバ陪審法案ニ反スル御說ト見ナケレバナリマセヌ、政
府ハ左樣ニ信ジテ居ラヌノデ、而カモ是亦被告ハ一人一人ニ
付テ申シマシタナラバ、早ク陪審ヲ辭シテ居ッタナラバ斯ノ如キ
刑ニ處セラレナカッタラウ陪審ヲ辭ナカッタカラ法廷ニ出テ陪
審ノ事件トシテ陪審ニ付セラレタ爲ニ、斯ウ云フヤウナ重イ
刑ニ處セラレタト云フテ悔ムカモ知レマセヌ、又陪審ノ請求
ヲシナケレバ斯ンナコトニナラナカッタカモ知レマセヌ、是ハ兩
立スペカラザル二ツノ事柄デアリマシテ、單ニ今申スヤウナ事
例デ云ヘバ愚痴ニ屬スルヤウナモノデアリマス、大體ニ於キ
マシテ政府ノ見ル所デ陪審ヲ辭退シ又請求陪審デアルナラ
パ取下ゲルコトヲ致サズシテ居クタカラ法規ニ依テ陪審ニ依
テ裁判サレタ、是ハ當人ガ陪審員ノ答申ニ依テ服スルモノト
認メザルヲ得マセヌ、ソレデアリマスルカラ若シモ被告人ガ陪
審ヲ好マヌト云フコトデアレバ、法廷陪審ト雖モ之ヲ辭スル
コトモ出来ル、請求陪審ナラパソレヲ取下ゲルコトモ出來得
ルト云フコトニ許シテ居ル、要ハ國民ニシテ裁判ヲ知ラシム
ル趣旨ニアルト云フコトニ御承知ヲ願ヒタイ、是ハ御尋ノ中
ニハナカッタガ御答ノ序ニ申シテ置キマスガ、此陪審員ガ裁
判官ノ鼻息ヲ窺フト仰ッシヤイマシタガ、ソレ等モ一ツノ弊デ
アラウト云フ御話デアリマスガ、是ハ私ハ左樣ニナラヌト確
信イタシテ居リマス、若シモ鼻息ヲ窺ッテ裁判官ノ思フ通リ
ニ陪審員ガ答申スルナラバ陪審員ノ必要ナイ、併ナガラ又
一方ニ於テハ裁判官ハ其見ル所ヲ以テ陪審員ノ幾分ノ意
見ヲ或ハ抂ゲサセルトカ少ナクトモサウ云フ嫌ガアルト云フ
サウ云フコトハ何處マデモ避ケナケレバナラヌコトハ勿論デ
アリマス、併ナガラ又一方ニハ陪審員ヲシテ十分ニ事件ノ心
證ヲ知ラシムル必要モアル、然ラバ答中モ或ハ誤ラヌトモ限
ラヌノデ、ソレニ付マシテハ第七十二條ニ於キマシテ裁判所
ヨリハ然リ又ハ然ラズト云フ答申ヲ爲スニ足ルダケノ法律
上竝ニ事實上ノコトヲ十分ニ說明セヨ、證據ヲ要領ヲ擧ゲテ
之ヲ說明セヨ、サウシテ答申ヲ致シ、而カモ此證據ノ如何ニ
付テ又罪跡ノ有無ニ付テハ一切栽判官ニ對シテ意見ヲ陳
ズルコトヲ禁ズル、何處マデモ公平ニ陪審員ノ見ル所ヲ以テ
答ヲ爲スヤウニ致シテ居ル次第デアリマス、尙ホ小サイコトデ
申上ゲマスレバ陪審員ハ陪審員自ラ信ズル所ニ依テ他カ
ラ何等制肘ヲ受ケナイヤウニ注意スベキ所ノ規定ヲ設ケテ
居ルノデアリマス、其他ハ小サイコトニナリマスカラ申上ゲマ
セヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=19
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020・内田嘉吉
○内田嘉吉君 昨日デゴザイマシタガ實施ニ付テ御說明
ガゴザイマシテ、大體諒解イタシテ居ルノデアリマスガ、十六
年ニ一部施行セラレテ十七年ニ全部實行ニナル、此全部實
行ニナッタ以後ニ於テ每年幾ラ位ノ經費ガ掛カル御見込デ
アリマス、一箇年ノ總額ヲ伺ヒタイ、ソレカラ此全部ニ付マシ
テ十二年度ハ調査ノ費用ダケノヤウニ記憶シテ居リマスガ、
ソレカラ建築費等總括イタスト十六年ナリ十七年ナリ迄ニ
支出イタシマスル總テノ費用ガ幾ラ位ニナリマスカ、ソレヲチ
ヨット承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=20
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021・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郎君) 全部施行イタシマスルニハ
大正十七年四月迄ノ豫定ヲ致シテ居リマス、此場合卽チ
十七年度ニ於テ要求スベキ豫算ハ是ハ〓算ヲ申シマスレバ
先ヅ四百万圓、四百十三万千七百二十圓ト云フノデアリマ
ス、是ハ內容ノ御尋ハナカッタデスガ陪審院ヲ七十一箇所設
置スル經費、陪審員選定事務費、鑑定ニ要スル經費、ソレカラ
十二年度ノ、昨日カト思ヒマスガ、追加豫算ヲ衆議院ニ提
出イタシマシタガ、是モ昨日申上ゲマシタ外國陪審裁判視
察費デゴザリマスガ、九万六千六百七十五圓デアリマス、是
ハ十二年度ニハ視察費ダケヲ要求シタカト申シマスト、ッ
ニハ昨日モ申述ペマシタ如ク施行準備ニ相當ノ歲月ヲ要ス
ル、建築ヲ明年ニ必要ト致サナイト云フコトモアリマスケレド
モ、ソレヨリハ主トシテ外國ノ陪審制度ノ施行ノ實況ヲ見マ
シテ、例ヘバ法廷ハドウ云フ風ニ造ルガ便利デアル、陪審員
ノ宿含ハドウ云フヤウナ連絡ニ致シタラ最モ使利デアラウカ
又陪審員ガ成ベク迷惑ニナラナイヤウニスルニハ設備ノ上ニ
於テドウ云フヤウニ待遇ヲ致シタラバ適當デアラウカ、サウ云
フヤウナコトヲ見テ、サウシテ明年卽チ大正十三年ニ於テ初
メテ建築費ノ一部ヲ要求スル斯ウ云フ積リデ居リマスノデ、
卽チ視察ハ一ツハ建築物ノ視察モ致サセル積リデアリマス
ノデ、ソレデ十二年度ノ追加豫算トシテ視察費ダケヲ要求
シタノデアリマス、ソレカラ施行準備費ハ總額ニ於テ八百万
圓程ヲ要スルノデアリマス、卽チ十二年度ヨリ十六年度ニ至リ
マス五箇年間ノ施行準備費ノ總計デアリマス、是ハ必ズシ
モ其五分ノ一ガ年度割ノ金額ニハナラヌノデアリマス、十二
年度ハ視察費、十三年度ハドウ云フモノ、十四年度ハドウ
云フモノ、十五年度ニ至ッテ初メテ要求スルモノガアル、十六
年度ニ至ッテ初メテ要求スルモノガアル、年度ニ依ッテ金額ガ
違ヒマス、サウシテ此經常費ノ四百万圓、臨時費ノ約八百
万圓デアリマスガ、是等ノ金額ハ多少ノ增減ハ出來ヤウカト
思フ、或ハ殖エルコトハ無カラウカト思ヒマスガ、尙ホ此金額
ノ確定ハ大藏當局ト十分交涉ヲ經夕上デナケレバ、唯計畫
ダケハ既ニ仕舞フテアル、政府ノ議ハ決シテ居ル、金額ニ付テ
ハ多少ノ異動ハアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=21
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022・河村譲三郎
○河村譲三郞君 議事ノ順序ニ付マシテ私ヨリ御協議ヲ
致シタイト思ヒマスガ、大體ノ質問ハ略ボ終了致シタト思ヒ
マス、更ニ逐條ニ入リマシテ質問ヲ御許シニナッテハ如何デアリ
マスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=22
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023・二條厚基
○委員長(公爵二條厚基君) チヨット河村君ニ御諮リシ
タイト思ヒマスガ、マダ一二ノ方ノ質問ガアルヤウニ聞イテ店
リマス大體ニ於テ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=23
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024・河村譲三郎
○河村譲三郞君 若シ間ニ大體ノ質問ヲ持ニ御許シニナ
ルト云フヤウナコトデハイケマセヌデセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=24
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025・二條厚基
○委員長(公爵二條厚基君) 如何デスカ、今河村君ノ御
發議ニ對シテ御異議ガ無ケレバ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=25
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026・内田嘉吉
○內田嘉吉君 チヨット速記ヲ止メテ懇談ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=26
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027・二條厚基
○委員長(公爵二條厚基君) ソレデハ速記ヲ止メテ
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=27
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028・二條厚基
○委員長(公爵二條厚基君) ソレデハ本日ハ是デ以テ散
會イタシタイト思ヒマス、サウシテ明日ハ午前中ダケ開クコ
トニ致シタイト思ヒマスル、左樣ニ御承知ヲ願ヒマスル
午後三時五十三分散會
出席者左ノ如シ
委員長公爵二條厚基君
副委員長河村讓三郞君
委員
子爵酒井忠亮君
子爵黑田〓輝君
松室致君
河村善益君
富谷銓太郞君
內田嘉吉君
男爵佐竹義準君
男爵池田長康君
男爵中川良長君
湯淺倉平君
花井卓藏君
國務大臣
司法大臣岡野敬次郞君
政府委員
司法次官山內確三郞君
司法省刑事局長林賴三郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004602974X00319230313&spkNum=28
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