1. 会議録本文
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000・会議録情報
會議
大正十二年二月二十日午前十時四十五分開議
出席委員左の如し
委員長 鵜澤總明君
理事 黒住成章君 理事 横山勝太郎君
理事 清瀬一郎君 理事 上畠益三郎君
宮崎三之助君 大道寺慶男君 原夫次郎君
水野吉太郎君 祷苗代君 麓純義君
熊谷直太君 森山儀文治君 横山金太郎君
鈴木富士彌君 高柳覺太郎君
出席政府委員左の如し
司法次官 山内確三郎君
司法省人事局長 皆川治廣君
司法省刑事局長 林頼三郎君
司法省行刑局長 山岡萬之助君
司法書記官 近藤三郎君
本日の會議に上りたる議案左の如し
陪審法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=0
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001・鵜澤總明
○鵜澤委員長 是ヨリ陪審法案ノ委員會ヲ開キマス、高
柳君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=1
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002・高柳覺太郎
○高柳委員 過日橫山君ノ質問ニ對スル大臣ノ答辯ハ、
陪審法ノ根本主義ハ國民ヲシテ裁判ニ悅服セシムルニ在
ル、斯ウ云フ御答辯デノッタノデアリマスガ、ソレハ直ニ陪審
法ノ根本義デアルカナイカニ付テ疑ガアリマスガ、國民ヲ
シテ裁判ニ悅服セシムルト云フコトハ、單リ陪審制度ニ限ラ
ズ、總テノ栽判ガ國民ヲシテ悅服セシムルノガ目的デアル、裁
判ハ適正ナル裁判ヲシテ國民ヲシテ悅服セシムル、是ガ裁判
ノ生命デアルノデ、單リ陪審制度ニ限ッタコトハナイ、陪審制
度ノ根本主義ハモウ少シ他ニアルダラウト思フ、其事ハ此陪
審制度ノ賛成論者、或ハ謳歌スル所ノ論者ハ、第一ニ政治
論ニ重キヲ措イテ居ラルヽヤウデアリマス、過日本會議ノ際
ニモ、提案ノ理由トシテ大臣ノ說明ヲ聽キマスルト、國民ヲ
シテ司法裁判ニ參與セシムルノハ、立憲政治ノ本旨ニ適フ、
是ガ提案ノ第一ノ理由デアッタヤウデアリマス、續テハ人文ノ發
達ニ伴ウテ、裁判ニ國民ヲシテ參與セシムルコトヲ拒絕スルト
云フコトハ全然理由ガ無イト云フ所カラ、國民ニ裁判ニ參與
セシメ、裁判ニ親マシメ、國民ヲシテ裁判ヲ理解セシムルト云
フヤウナ附タリノ理由ハアリマスルガ、先ヅ陪審制度ノ根本
義ハ何所ニ在ルカト云フト、是ガ立憲政治ノ本義デアル、立
憲政治ノ通義デアル、此ニ根本義ガアルヤウニ承知スルノデ
アリマスガ、是ハ單リ過日ノ司法大臣ノ演說ノミニ止マラ
ズ、昨年ノ議會ニ於テノ大木司法大臣ノ說明ニ依ッテモ、國
民ヲシテ立法ニ參與セシメ、行政トシテモ地方自治ニ參與
セシメテ居ルノデアルカラ、司法ニモ亦國民ヲシテ參與セシム
ルノガ是ガ立憲政治ノ本旨デアル、斯樣ニ言ッテ居ル、又多
クノ賛成論者ハ、此問題ノ根本精神ハ卽チ是ハ立憲政治
ノ通義デアル、裁判上ニ立憲政治ヲ施クノデアル、斯様ニマ
デモ極端ニ其意味ヲ擴張シテ言ハレテ居ル、卽チ此點ガ陪
審法ガ立憲政治ニ副フ所謂デアルト云フコトノ說明デアル
ヤウニ承知スルノデアリマスガ、私ハソレガ了解ガ出來ナイ、
陪審制度ト立憲政治トノ關係ハ左樣ニ深ク、陪審制度ハ
立憲政治ノ通義デアルト云フコトハ其意味ヲ了解スルニ苦
ムノデアリマス、其點ヲ伺ヒタイノデアリマスガ、私ノ了解スル
立憲政治ハ、先ヅ通俗的ニ言ヒマスルト、立憲政治ト云フモ
ノハ國民ヲシテ立法府ニ參與セシメ、國民ノ代表者ガ立法
府ニ出テ、法律ノ制度、豫算ノ議定ニ與カル、而シテ行政ニ
對シテハ監督ノ地位ニ在ル、國民ガ立法ニ參與シテ而シテ
行政ニ對シテハ監督ノ地位ニ在ル、國民ガ立法ニ參與シテ、
而シテ行政ニ對シテハ監督ノ地位ニ在ル、此行政ト云フ意
味ハ私ガ申上ゲルマデモナク、司法モ含ンデ居ル所ノ廣キ意味
ニ於ケル行政デアル、卽チ詳シク申シマスレバ、一面ニ立法ニ國
民ガ參與シテ、而シテ一面ニ行政司法ヲ監督スル、是ガ私ハ
立憲政治ノ本旨デアラウト思フ、憲法ノ立テ方ニ依ッテ多少
ノ差異ハアリマスルガ、何レノ立憲國ヲ通ジテモ、何レノ立憲
國ニモ共通スル所ノ立憲政治ナルモノハ、國民ヲシテ立法ニ
參與セシメ、行政ニ對シテハ監督スル、斯ウ云フコトニ私ハ思
フ、ソレヲ陪審論者ハ立法ニ參與スルト同ジヤウナ意味ニ於
テ、行政ニモ參與シナケレバナラヌ、司法ニモ參與スルノガ立
憲政治ノ本旨デアル、斯樣ニ言ヒマス、然ラバ玆ニ聽キタイ
ノハ、我國デハ-又歐米ノ立憲國デモ行政ニ參與セシムル
所ガアリマスルガ、成程地方ノ自治ニハ國民ハ參與シテ居ル
ニ違ヒナイケレドモ、地方ノ自治ハ所謂自治其モノデアル、
其名稱ノ如ク地方ノ行政ニ對シマシテハ、國民ガ參與スル
ドコロデハナイ、國民自ラ政治ヲシテ居ルノデアル、併シ立法
ニ對シテ行政ト云フ陪審論者ノ言フ所ノ趣意ハ地方ノ行
政ト云フヤウナ小サイ問題ニ非ズシテ、立法ニ參與スルト同
一ノ論法ヲ進ムレバ、中央ノ行政ニ參與シナケレバナラヌ、
中央ノ行政ニ國民ガ參與シテ居リマスルカ、參與致シマセ
ヌ、司法ニモ同ジク參與スルノ權利ガ立憲政治ノ本旨トシ
テアルト云フコトハ、私ハ疑ガアルノデアリマス、行政ニ關シテハ、地
方ノ自治ニコン關係シテ居リマスルガ、中央ノ政治ニ直接ノ交
涉ハ無イノデアル、唯〓中央ノ行政ニ對シテ之ヲ監督スル、ソ
コデ立憲政治ノ本旨ヲ極ク進メマスレバ、所謂立法府ニ多
數ヲ占メテ居ル者立法府ニ基礎ヲ有スル者ハ、天皇/信任
ヲ受ケテ內閣ヲ組織シ、各省ノ大臣ニナル、斯ウ云フ譯デアリ
マス、ソレモ國民ガ直接ニ參與スル譯デハナクシテ、國民ガ直接
ニ參與スルノハ唯〓立法府ダケデアル、立憲政治ノ本意ガ
滑ニ、又所謂常道的ニ行ハレマスレバ、卽チ是ニ於テ立法府
ノ多數ヲ占ムル所ノ者ガ行政權ヲ握ル、斯ウ云フコトデアッ
テ、國民ノ代表者ガ直ニ直接行政權ニ參與スルモノデハナ
イ、然ルニ過日ノ司法大臣ノ御演說ト云ヒ、又從來ノ陪審
制度ヲ主張スル論者ノ第一ノ理由ト致シマシテ、此政治上
ノ意味ヲ陪審制度ノ採用ニ付テ論ゼラレマスノハ、全ク其
思想ノ根柢ニ間違ガアルト私ハ思フ、此點ニ付テノ御所見
ヲ伺ヒタイノデアリマス、之ヲ要スルニ過日根本義ト言ハレ
タ所ノ、國民ヲシテ裁判ニ信賴セシムルト云フコトガ根本義
ノヤウニ承知致シマスガ、左樣致シマスレバ、立憲政體ノ根
本義ト云フコトガ全ク違ッテ來ヤウト思フ、其點ニ付テノ御
意見ヲ承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=2
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003・林頼三郎
○林政府委員 政府ガ陪審制度ヲ我國ニ行フコトヲ適當
ト認メマシタ理由ハ、大臣ヨリ說明サレマシタ如ク、一ハ政
治上ノ理由、一ハ司法上ノ理由、是ガ主ナル理由ニナッテ居
ル、只今高柳君ノ御尋ノ第一ニ付キマシテハ、無論陪審制
度ノミナラズ、總テノ栽判手續ト云フモノハ、裁判ニ付テノ
國民ノ悅服ト云フコトヲ期シテ居ルノハ疑ナイ、裁判ガ能ク
事實ニ適合シ、法律ノ精神ニ合致シテ居ッテモ、國民ガ之ヲ
信ジナイト云フコトデハ、裁判本來ノ目的ヲ達スルコトガ出
來ナイノデアリマス、ソレデ陪審制度ナラズトモ、國民ノ信賴
ヲ度外ニ措イテハナラヌト云フコトハ疑ナイノデアルガ、所謂
人文ノ發達、社會ノ變遷ニ伴ヒマシテ、彌ガ上ニモ裁判ノ結
果ニ付テ國民ノ悅服ヲ期スルニ付テハ、國民ヲ參與セシムル
コトガ適當デアル、斯ウ云フ考デアリマス、第二ノ御尋ハ、是
ハ政治哲學ノ根本ノ問題デアリマスカラ、之ヲ詳細ニ論ズル
ニハ多クノ時ヲ要スルト思ヒマスガ、私ノ考ヘテ居ル所ヲ率
直ニ申上ゲマスト、所謂立憲ノ本義ト云フモノハ、國民ノ翼
賛ニ依ッテ國務ヲ遂行シ、國務ノ遂行竝ニ其結果ニ付テ國
民ヲシテ不平ナカラシムル、國民ヲシテ滿足セシムル、是ガ少
クトモ立憲政治ノ根本ノ一ノ精神デアルト云フコトハ疑ナ
イト信ジテ居リマス、ソレ故ニ立憲政治ト云フモノハ、立法ノ
ミニ國民ノ參與ヲ許スト云フコトニ依→テ滿足スベキモノデ
ナイ、實際ノ働ニ於テハ、立法ノ方面ニ於テ國民ノ參與ノ關
係ガ多ク現レテ居ルノデアリマス、併ナガラ行政ト云ヒ司法
ト云ヒ、同ジク國務ノ重要ナルモノデアリマス、此方面ニ付テ
國民ハ更ニ無關係デ宜シイ、立法トハ違フノデアル、斯ウ云フ
コトハ私是マデ學ンデ居ル所トハ違フ、唯〓事柄ノ性質ニ依〃
テ、ドレダケノ範圍ニ國民ガ關係シ、又ドレダケノ程度ニ關
係スベキカト云フコトハ、ソレハ事柄ノ性質ニ依リ、時代ニ依
リ、國民ノ思想ニ依リ、色々ノ點カラ變ッテ來ルダラウト思ヒ
マス、ソレデ今日マデ、立憲國ノ何レニ於テモ、立法ノ方面ニ
於テ多ク働ヲ現シテ居リマスガ、行政ノ方面ニ於テモ國民ノ
參與ハ段々多クナッテ來テ居リマス、御話ノヤウニ地方ノ自
治ニ付テハ主トシテ國民ガ之ヲ行ッテ居ル、中央行政ニ付テ
モ段々國民ノ參與スル範圍ガ廣クナッテ來テ居リマス、有ユ
ル方面ニ於テ今日デハ委員會ト云フヤウナモノモ設ケラレ、
國民ガ重要ナル事ニハ參與スルト云フコトニナッテ居リマスヽ
是モ立憲ノ根本義ノ上カラ言ヘバ洵ニ適當ノ事ト考ヘル、
ソレト同ジ樣ナ思想カラ致シマシテ、司法權ノ運用ニ付テモ
全然國民ガ無關係デアル、司法權ノ運用ハ全ク官吏ノ獨
斷專行ニ委ネル、國民ハ全然關係シナイト云フヤウナコト
ハ、立憲ノ本旨ニ照シテ適當デナイト考ヘル、併ナガラ所謂
社會ノ事情、人智ノ發達、其他諸般ノ狀況カラ、何時之ヲ
行フカ、又ドノ程度ニ行フカト云フコトハ餘程攻究ヲ要スル
問題ダラウト思ヒマス、ソコデ今日陪審制度ヲ立テマスルニ付
テ色々攻究致シマシタ結果、此法案ノ如キ內容ノモノガ適當
デアル、斯ウ云フコトニ政府ハ考ヘテ居ル次第デアリマス、其
意味ニ於テ是マデ大臣ニ於テ說明サレタモノト私ハ信ジテ
居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=3
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004・高柳覺太郎
○高柳委員 國民ヲシテ政務ニ參與セシムルノハ立憲政
治ノ本旨デアルト云フコトハ、今更改テノ御答辯デアリマシ
タガ、所謂「デモクラシー」ト云ヒマスカ、民衆化ト云ヒマスカ、
其上カラ申シマスレバ結構ナ譯デアリマスガ、併ナガラ其事
ニ付テハ矢張國法ヲ規定ニ待ツノ外ハナイト思フ、卽チ國
民ガ何所マデ立法、行政、司法ニ參與スルコトガ出來ルヤ否
ヤト云フコトハ、憲法ノ規定ヲ待ッテ定マルノデアル、所デ現
ニ立法ニハ參與シテ居ル、デアルカラ行政ニモ司法ニモ參與
セシメナケレバナラヌト云フノガ、立憲政治ノ本旨トシテ御
主張ニナリマス理由ノヤウニ承知致シマス、ソレハ今現ニ立
法ニハ參與シテ居リマスガ、行政ニハ參與シテ居リマセヌ、地
方ノ小サナ自治體ニハアリマスガ、中央ノ行政ニハ參與シテ
居ラヌ、國務ニ參與セシムルノガ立憲政治ノ本旨デアルト云
ヒマシテモ、今ハ參與シテ居ラヌ、將來ハ參與セシムル御考ガ
アルノデアリマスカ、ンコデ私ハ立法ト行政トハ分タナケレバ
ナラヌ、行政是亦大權ノ發動デアル、憲法ノ第十條ニ依ッテ、
天皇定ムル所ノ官制ニ依シテ各省大臣ハ任命サレル、此大
臣ト同一様ノ働ヲ爲ス所ノモノ、或ハ其補助機關トモナル
ベキヤウナモノヲ、國民カラシテ此行政府ニ入レルト云フコト
ガ出來マスルカドウカ、私ハ憲法ノ規定ノ上カラシテ、ソレハ
絕對ニ左樣ナ者ハ入レベキモノデナイ、入レルコトガ出來ナ
イ、斯樣ニ解スルノデアリマスガ、現在ノ帝國憲法ノ規定ノ
上ニ於テモ、サウ云フ者ヲ各省大臣ノ對手トシ、各省ノ大臣
ト共ニ國政ヲ料理スル所ノ或者ヲ國民カラ入レルト、ソレガ
立憲政治ノ本旨ニ叶フト云フ御意見デアリマスカ、重ネテ其
點ヲ伺ヒマス
〔鵜澤委員長委員長席ヲ退キ黑住理事代リ著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=4
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005・林頼三郎
○林政府委員 先程申上ゲマシタヤウニ、ドウ云フ範圍ニ
於テ、又ドウ云フ程度ニ於テ關與セシムルカト云フコトハ、事
柄ノ性質ニ依シテ、其他四圍ノ事情ニ依ッテ違っテ參リマス、
行政ニ關與セシムルト申シマスルガ、國民ヲシテ恰モ國務大
臣ノ如ク、行政權ヲ行フト云フヤウナ關係ニ置カウト申スノ
デハ勿論ナイノデス、適當ノ範圍ニ於テ國民ヲシテ參與セシ
メル、斯ウ云フ事ガ事柄ノ性質ニ依ッテハ適當デアル、サウ云
フ事ハ蓋シ立憲ノ本義ニ合フモノデアル、斯ウ云フ意味デ申
シタノデ、今日デモ例ヘバ鐵道ノ事デアリ、土木或ハ衞生ノ
事デアリ、經濟財政ノ事デアリ、或ハ馬政ノ事デアリ、有ユル
重要ナル行政上ノ方面ニ於キマシテ、國民ガ委員デアリ、或
ハ囑託デアリ、色々ノ方面ニ亙ッテ關與シテ居ル事ハ隨分ア
ルト私ハ思ウテ居リマス、是ガ將來ドウ云フ風ニ擴ガルカ、或
ハ俠マルカ、ソレハドウモ色々ノ事情ニ依シテ變ラウト思ヒマ
スケレドモ、併ナガラ斯ウ云フ程度ニ於テ斯ウ云フ形式ニ於
テ行政ニ關與スルト一云フコトハ無論憲法ノ精神ニモ反シテ
居リマセヌノデアリマシテ、ンレガ矢張立憲政治ノ根本ノ精
神ニハ適合致シテ居ル、斯ウ云フコトニ考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=5
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006・高柳覺太郎
○高柳委員 甚ダ了解スルニ苦シムノデアリマスノデ、尙ホ
重ネテ伺ヒマス、或ル程度トカ、或ル範圍ニ於テ行政權ニ參
與セシメルト云フコトデアリマスガ、今私ノ問フノハ國民ヲシテ
立法ニ參與セシムルト云フ、其同一ナル權衡ノ下ニ於テ行
政權ニ參與スルト云ヘバ、ドウシテモ內閣トカ各省ノ國民ヲ
入レテハナラヌ、斯ウ云フ釣合ニナラウト思フ、デ或ハ程度ト
カ或ル範圍トカ云フ意味ニ仰シヤラズニ、斯ウ云フ事ガ眞ニ
立憲政治ノ本旨ニ適フモノデアルヤ否ヤヲ伺ヒタイ、尙ホ序
ナガラ司法ハ何ノ關係モ無イ、現在ニ於テ關係ノ無イト云
フヤウニ私ハ聽取リマシタケレドモガ、司法ハ最モ國民ニ關
係ガ現在ニ於テモアル、憲法ノ規定ニ於テ司法ハ最モ裁判
ヲスルコトニ-裁判所ハ法律ニ依ラザレバ裁判ヲ行フコト
ハ出來ナイ、裁判官ハ法律ニ規定スル所ノ資格ヲ備ヘヌケ
レバ裁判官ニナレナイ、總テ法律ノ力ニ依シテ此司法權ノ運
用ガ出來ル譯デアル、司法權ノ運用ノ基礎ハ矢張法律デアル
卽チ立法ノ結果ニ依ルノデアル、其立法ニ國民ガ直接ニ參
與スルノデアルカラシテ、此點デ私ハ國民ガ決シテ司法ニ無
關係ノモノデナイ譯デ現在ノ憲法ノ規定ニ於テハ、此規定
ノ範圍內ニ止メル外ナイト私ハ思フ、卽チ國民ト直接ノ交
涉ハ無イノデアルケレドモ、裁判所ノ基礎、裁判官ノ基磯ト
云フモノガ法律ニ依ッテ定メラレテアルト云フ、此憲法ノ保障ニ
依リマスレバ、十分ナル國民トノ斯ウ云フ關係ガアル、課デア
ル是ダケノ關係ニ依ッテ今日デハ吾々國民ハ司法ニ關係ス
ルト云フコトデ先以テ諦メナケレバナラヌ、斯ウ信ズルノデア
リマスケレドモ、重ネテ其點ヲ御意見ガアレバ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=6
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007・林頼三郎
○林政府委員 高柳君ト或ハ根本ノ意見ヲ異ニシテ居ル
ノカモ存ジマセヌガ、私ノ解スル所ニ依レバ、國民ガ法律ヲ制
定スルコトニ關與スル、裁判所ハ其法律ヲ適用スルモノデア
ルカラシテ、モウ旣ニ其關係ニ於テ司法ニ關與スルト云フ、
斯ウ云ウ御說ノヤウデアルガ、ソコハドウモ私ハ違フ考ヲ持ッ
テ居リマス、ソレダケノ程度デハ矢張リ立法ニ關與スルダケ
デアル、司法ト云フモノハ法律ヲ作ルノデハナイ、法律ヲ適用
スル方面デアルト云フコトハ論ハ無イノデアリマス、ソレダケ
デハ國民ガ司法ニ關與スルト云フコトハドウモ言ヒ惡イデハ
ナイカト考ヘマス、ソコデ憲法ノ規定ニ依リマスト云フ、ト裁
判權其モノハ無論栽判所ガ行フ裁判官ガ行ハナケレバナラ
ヌ、併ナガラ裁判官ガ裁判權ヲ行フ手續ニ國民ガ參與スル
ト云フコトハ、憲法ノ上デ禁ジテ居リマセヌ、栽判官ガ裁判
權ヲ行フ手續ハ法律デ定メラレルノデ、其法律ニ依クテ國民
ガ或ル程度ノ參與ヲスルト云フ事ヲ認メルト云フコトハ憲
法ト牴觸シナイ、ソレガ先程申シタ立憲ノ本旨ニ適フノデア
リマス、其意味ダケハ十分ニ御諒解ヲ願ヒタイ、アトハドウモ
意見ノ相違ニナリマスカラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=7
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008・高柳覺太郎
○高柳委員 其御答辯デ、今ノ所左樣ニ承ル外ハナイノデ
アリマスガ、尙ホ其點ニ付キマシテ、他ノ機會ニ於キマシテ大
臣ノ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス、更ニ〓ノ事ヲ他ノ方面ヨリ
伺ヒタイ、陪審法ハ憲法附屬ノ法律デアリマスカドウデスカ
其點ヲ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=8
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009・林頼三郎
○林政府委員 憲法附屬ノ法律トハ心得テ居リマセヌ、サ
ウデナイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=9
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010・高柳覺太郎
○高柳委員 陪審法案ノ内容實質ト云フモノハ、私ノ考
ヘル所ニ依リマスルト云フト、其一部ハ裁判所構成法、他ノ
一部ハ刑事訴訟法ニ屬スルモノデアル、法律ノ形式カラ申
シマスルト云フト、一部ハ裁判所構成法、一部ハ刑事訴訟
法ニ屬スルモノデアルト斯樣ニ思フ、此點ハ如何デアリマス
カ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=10
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011・林頼三郎
○林政府委員 陪審制度ノ内容ニ依リシテハ、卽チ西洋
流ノ陪審制度デアリマスト、御尋ノ如ク一部ハ裁判所構成
法ニ屬スルコトニナリマス、併ナガラ此法案ニ於ケル陪審制
度ハ、是ハ全ク刑事訴訟法ノ範圍ニ屬スルノデアリマシテ
裁判所構成法ニハ關係ナイ、卽チ此法案ニ於テハ、裁判所
ノ構成ハ裁判所構成ニ依"テ定"夕通リ判事ガ裁判所ヲ構
成シテ裁判權ヲ行フ、陪審員ハ其栽判權ヲ行フ手續、卽チ
刑事訴訟手續ニ關係ヲシテ來ル、斯ウ云フ立前ニナッテ居リ
マス、此法案デハ構成法ノ一部ト云フコトニハナリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=11
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012・高柳覺太郎
○高柳委員 左様致シマスト、斯ウ云フ意味ニナルノデス
カ、外國ノ陪審制度ハ構成法ニ關係スルヤウナ趣意ニナル
譯デアルガ、此法案ノ意味カラ申シマスト云フト、此法案デ
ハ陪審制度ハ裁判所ノ構成ニハ關係ナイ、斯ウ云フ意味デ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=12
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013・林頼三郎
○林政府委員 全ク其通リデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=13
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014・高柳覺太郎
○高柳委員 陪審制度ガ裁判所ノ構成ト關係ナイ、裁判
所ノ構成ヲスルモノデナイト云フコトノ意味ヲ尙ホ深ク伺ヒ
マスガ、ソレハ〓ノ御說明ノ意味ヲ考ヘテ見マスト、本法案ノ
九十五條ノヤウナ規定ガアルノデアッテ、外國ノ陪審制度ト
殆ド性質ヲ一變スルガ如キ此規定ニ依ッテ、陪審員ハ裁判
所ヲ構成スルモノデナイト云フ御見解ヲ執ラレルヤウニ御伺
スルノデアル、ソレハ唯〓形式論ニ過ギナイノデアッテ、其實質
ヲ考ヘテ見マスト、矢張陪審員モ裁判所ヲ構成スルモノデア
ルト私ハ思フ、進ンデ少シク說明致シマスレバ、本法案ニ依リ
マス所ノ陪審員ハ、成程事實ヲ直接ニ判斷スルモノデナイ、
斯ウ云フコトニ御解釋ヲ執ラレテ居ルデアリマセウシ、又サウ
云フ規定モ見エルヤウデアリマスガ、其陪審ノ精神ノ實體カ
ラ考ヘテ見ルト、事實ノ認定ノ一部ヲ確ニスルモノデアル、裁
判所ガ事實ノ判斷ヲシマスケレドモ、其事實ヲ判斷スルニ付
テハ、陪審員ノ意見ヲ徴スルノデアル、陪審員ノ谷申ヲ待ッテ
而シテ裁判スル譯デアル、少クトモ裁判ノ一部ヲ成シテ居ル
ト云フコトハ、左樣ニ解釋スルノガ正當デアルト私ハ思フ、現
ニ當局ノ是迄ノ御說明ニ依リマシテモ、陪審員ハ法律的ノ
意味デ言ヘル、現在ノ裁判官ノ補助機關デアル、裁判所補
助機關デアルト云フ、此當局ノ說明ヲ今尙ホ御維持ニナッテ
居ルモノト思ヒマスケレドモ、其意味カラ致シマスト、補助機
關ハ確ニ補助機關デアッテ、裁判ノ機關ニ違ヒナイ、裁判ノ
機關ヲ別テバ、主クル機關ト補助機關トアル、現在ノ卽チ常
職栽判官ガ主タル機關デアル、陪審員ハ之ヲ補助スル機關
デアル、サウスレバ主從共ニ相俟ッテ、此所デ始メテ事實ノ判
斷ガ出來ル譯デアルカラ、陪審モ矢張裁判ノ機關デアル、卽
ヲ陪審員ノ評定ナルモノハ、矢張裁判ノ基礎ヲ成シテ居
ル、陪審員ノ評議ノ效力ノ範圍ハ、屢、御說明ノアリマス通
リ、諮問機關デモナイガ、直接ノ評議機關デモナイ、所謂中
間性デアル、其中間性ノ所ガ此法ノ妙所デアルト云フコトニ
御說明ガナッテ居ル、妙所デアルカ、但ハ憲法ヲ避クル爲ノ已
ムヲ得ザル規定デアルカ、ソレハ別問題ト致シマシテ、免ニ角
陪審員ハ事實ノ判斷ヲ爲スモノデアル、直接ニ裁判ハセヌト
云フノデアリマスケレドモ、併ナガラ裁判所ガ裁判ヲスル所ノ
其基礎ヲ成シテ居ル現ニ陪審員ノ答申ヲ不當ト認メレバ、
此陪審ヲ非トスルコトハ出來ルケレドモ、併ナガラ陪審員ノ
意見ヲ除外シ、陪審員ノ意見ヲ無視シテ裁判ヲスルコトハ
出來ナイ、玆ニ確ニ陪審員ノ評定ナルモノハ拘束力ヲ持ッテ
居ル、直接ニ裁判ヲ拘束スルモノデナイ、裁判官モ直接ニハ
陪審員ノ評決ニハ拘束サレナイケレドモ、ソコガ中間性ノ性
質デアッテ、或ル限度ニ於テハ拘束サレル譯デアル、全然必然
的ニハ拘束シナイケレドモ、或限度、或ル範圍ニ於テハ確ニ
栽判官ヲ拘束シテ居ル、裁判ヲ拘束スル、卽チ栽判官ハ陪
審員ノ答申ヲ無視シテ判決ハ出來ナイ、陪審員ノ答申ト裁
判官ノ意見ト合致シタトキニ裁判ガ出來ルト云フノデアル
カラ、卽チ十分ノ拘束力ハアリマセヌケレドモ、或ル限度ニ於
テハ拘束力ハ確ニアル、斯樣ニ解釋シデ宜シイト私ハ思フ、
其等ノ點ニ付テモ御意見ヲ伺フノデアリマスケレドモ、結局
ンコデ左樣ニ或ル限度ニ於テ、或ル範圍ニ於テ免ニ角拘束
力ガアル、陪審員ノ評定ヲ無視スルコトガ出來ナイト云フ此
意味ニ於キマシテ考ヘテ見マスト、陪審員ナルモノハ矢張栽
判所ノ一機關デアル、現ニ當局者ノ說明スル如ク裁判所ノ
補助機關デアル、裁判所ノ補助機關ト云ヘバ、裁判所ノ一
部ヲ構成ヲスルモノニ違ヒナイ、其機關ガ直接ニ裁判シナイ
デモ、直接裁判ヲスル所ノ基礎ヲ成スモノト致シマスレバ、裁
判所ノ一部ノ構成ヲ爲スモノニ相違ナイト私ハ思フ、此點
ニ付テ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=14
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015・林頼三郎
○林政府委員 此法案ニ於キマシテハ、栽判權ハ裁判所
ガ行フモノデアッテ、陪審員ハ裁判權ノ一部ヲ行フモノデハナ
イ、斯ウ云フ事ヲ根本トシテ確立致シテ居リマス、其事ハ特
ニ第一條ニ之ヲ宣明致シテ居ル、斯ウ云フ次第デ形式上ニ於
テハ勿論デアリマスガ、實質上ニ於テモサウデアル、唯今九
十五條ノ關係ヲ引用致サレマシテ、陪審員ノ評議ト云フモ
ノガ裁判ヲスル基礎ニナル、サウスレバ或ル程度ニ於テ裁判
所ヲ拘束スルノデハナイカ、斯ウ云フ御尋ガアリマシタガ、其
點ハ私共ハ全ク見解ヲ異ニシテ居ル、裁判ヲ拘束スルト云
フコトハ、裁判ノ内容ニ付テ裁判官ノ意思ヲ左右スルコトヲ
云フノデ、裁判ノ手續上ニ於テ裁判官ノ獨斷專行ヲ許サナ
イ、或ル制限ヲ加へ、或ル拘束ヲ加ヘルト云フコトハ是ハ裁
判ノ拘束デハナイ、刑事訴訟手續ノ大部分ト云フモノハ裁
判官ノ手續上ノ働ヲ拘束シテ居ル、若シ裁判官ノ行動ヲ
拘束スルカラ、ソレガ裁判ニ關與スルコトデル、ンレガ裁判
ノ一部ヲ行フト云フコトニナルトスレバ、檢事モ辯護士モ栽
判ノ一部ヲ行フト云フコトニナル、殊ニソレ等ガ裁判ノ一部
ヲ行フト云フコトニナルトスレバ、被告人ノ或ル行爲ガ手續
上必要ナル趣旨ニハ、被告人モ裁判ノ一部ヲ行フト云フ
コトニナリマス、例ヘバ檢事ガ公訴ヲ提起シナケレバ、裁判所
ハ、裁判ヲスルコトガ出來ナイ、公訴シタ事實ヲ基礎トシ
テ裁判ヲスル、此以外ニ出ルコトハ出來ナイ、又被告人ハ出
頭シテ辯論シナケレバナラヌ、最終ニ辯論シナケレバ判決ヲ
下スコトガ出來ナイ、其他訴訟關係人ハ訴訟法上許サレ
テ居ル權利ニ基イテ、其訴訟ニ携ッテ來ルノデアリマス、サウ
云フ手續ヲ履ミ、順序ヲ經テ、始メテ裁判スルコトヲ許スノ
デアリマス、是等ノ法規ニ定メテアル事柄ト云フモノハ、凡テ
手續上ニ於デ裁判所ヲ拘束シテ行クケレドモ、手續上ノ拘
束ハ裁判ヲ拘束スルモノデハナイ、裁判ノ拘束ト云フコトハ、
裁判ノ內容ニ付テ拘束スルコトデアル、サウ云フ次第デアリ
マスカラ、此法案ニ於テハ裁判ニ付テノ拘束ハ全然ナイ、
唯〓手續上ノ拘束ハサウ云フ關係ニナッテ居リマス、故ニ實
質上ニ於テモ陪審員ガ裁判權ノ一部ヲ行フト云フコトハ、
斷ジテナイ關係ニナッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=15
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016・高柳覺太郎
○高柳委員 甚ダ了解ニ苦シムノハ遺憾デアリマスガ、今
ノ御說明ニ依レバ、檢事ヤ訴訟關係人ガ裁判手續ニ關係
スルト云フ事柄ハ、是ハ裁判官ヲ拘束スルモノデハナイト云
フ意味ノヤウニ聽取リマシタガ、檢事ヤ訴訟關係人ハ訴訟
手續ニ關係スルケレドモ、裁判ニ付テ何等ノ交涉關係ハ無
イ、有罪無罪ヲ決スルノハ全ク裁判官ノ獨立判斷デ以テ決
スルモノデアル、檢事ガドウシヤウト、訴訟關係人ガドウシヤ
ウト、辯護人ガドウシヤウト、裁判官ハ少シモ拘束サレナイ、
併シ此陪審員ノ評議答申ナルモノニ依ッテ、裁判官ガ此答
申ヲ無視スルコトハ出來ナイ、陪審員ガ無罪ト思ヘバ裁判
官ガ有罪ト認メテモ、此場合ニ於テ直ニ有罪ノ判決ガ出來
ナイ、確ニ是ハ栽判ヲ拘束スルヤウニ思フ、成程陪審員ガ無
罪ト評議シタ其評議ニ、直ニ裁判官ガ服從シナケレバナラヌ
ト云フノデハナイガ、無罪ト評議シタ場合ニ直ニ有罪ノ判決
ヲスルコトガ出來ナイト云フ場合ニハ、有罪ノ判決ヲスルト
云フ裁判ニ確ニ陪審ノ拘束力ガアル、無論絕對的必然的ノ
拘束力デハナイケレドモ、或ル程度或ル範圍ニ於テ拘束力
ガアル、卽チ裁判ヲ制限シテ居ルノデアル、裁判ガ此陪審員
ノ評決ニ依クテ制限サレルノデアル、是ハ決シテ檢事ノ公訴
手續ヤ訴訟關係人ヤ、辯護人ノ裁判ニ關與スル關係トハ
全然別問題デアルト思フ、繰返シテ御尋スルヤウデアリマス
ケレドモ、此陪審員ノ評議答申ナルモノハ、確ニ裁判ノ基礎
ニナッテ、裁判ヲ或ル程度ニ於テ拘束スルモノデアル、現ニ司
法當局ハ是ハ中間制デアルト言ッテ居ル、林政府委員モ、是
等ノ司法當局ノ中間制デアルト云フコトハ御認ニナッテ居ル
ト思フ、昨年デアリマスルカ、橫田法制局長官ノ此點ニ對スル
說明ハ極メテ微細ヲ盡シテ居ル、陪審員ノ答申ニハ必然的
ニハ拘束サレナイケレドモ
〔黑住理事委員長席ヲ退キ鵜澤委員長復席〕
陪審員ノ評議答申ヲ全然無視シテハ裁判ハ出來ナイノデ
アル、此意味カラ申スト陪審員ノ評議谷申ナルモノハ、確ニ
裁判ノ基礎ヲ成ス、裁判ノ一部ヲ成スト解釋シテモ差支ナ
イト斯樣ニ思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=16
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017・林政府委員
○林政府委員 只今御尋ノ點ハ此法案ノ最モ大切ナ點
デアリマスカラ、十分ニ御諒解ヲ願フテ置キタイト思フノデア
リマス、裁判ノ拘束ト云フコトハ、先程モ申上ゲマシタ通リ裁
判ノ內容ニ付テ裁判官ノ意思ヲ左右スル、卽チ栽判官ガ無
罪デアルト確信シテ居ルノニ、陪審員ガ有罪ナリト評議シタ
場合ニ、裁判官ガ自己ノ意思ヲ枉ゲテ有罪ノ判決ヲシナケ
レバナラヌト云フコトニナレバ、ソレハ正シク裁判ヲ拘束スル
モノデアル、併ナガラ此法案ニハサウ云フコトハ斷ジテ認メナ
イノデアリマス、裁判官ノ確信ニ基イテ飽迄栽判ヲスベキモ
ノデアッテ、陪審員ノ評議ガ有罪デアルトシテ、之ヲ裁判官ガ
無罪ト考ヘタ場合ニハ、其陪審員ヲ更新シテ新シイ陪審員
ノ評議ニ付スル、斯ウ云フ關係ニナルノデ、裁判官ガ陪審員
ノ評議ニ基イテ、自己ノ確信ニ反シテ裁判ヲスルコトハ斷ジ
テ無イ、故ニ陪審員ノ評議ガ裁判官ノ意思ヲ拘束スルコト
ハ形式ニ於テモ實質ニ於テモ決シテ無イ、唯〓最初申上ゲ
マシタ通リ、手續ニ於テハ一定ノ拘束ヲ受ケル、併ナガラ手
績上ニ於テ拘束ヲ受ケルト云フコトハ、刑事ノ訴訟ノ多クノ
手續ハンレデアル、先程モ申述べマシタガ、例ヘバ裁判官ガ或
ル大罪人デアルト斯ウ考ヘテモ、有罪ノ判決ヲスル譯ニハ行
カナイ、如何ニ明白ナ大罪人ガアッテ、犯人ガ現ニ眼前ニ居ッ
テモ、之ニ對シテ有罪ノ判決フ下スコトガ出來ナイ、有罪ノ
判決ヲセント欲スレバ檢事ノ起訴ガ必要デアル、檢事ノ起
訴ト云フモノニ裁判官ガ拘束ヲ受ケルノデアル、御承知ノ通
リ或ル時代ニ於テハ糺問主義デ、檢事ノ起訴ガ無クテモ、裁
判官ト云フ者ハ勝手ニ裁判ガ出來タ、所ガ訴訟法ノ規定
デ、彈劾主義ヲ執ッテ、檢事ノ起訴ガ無クシテハ裁判シテハナ
ラヌ、斯ウ云フ事ニナッタノハ、所謂手續ノ上ニ於テ裁判官ヲ
拘束スルノデアル、而シテソレガ爲ニ檢事ガ裁判ノ一部ヲ行
フト云フコトハ何人モ考ヘナイ、是ハ一例デアリマスガ、刑事
訴訟法ノ手續ハ、大部分ハ手續ノ上ニ於テ栽判官ヲ拘束定ガ無イ、總テノ憲法デモ法律デモサウ云フヤウニ、何デモ彼
スルニ違ヒナイ陪審員ノ評議ト云フコトモ、矢張同樣ノ關デモ突留メタト云フ規定ヲ設ケナイ場合ガ澤山アル、例ヘバ
係ニ立ツノデアリマス、ソレガ爲ニ陪審員ガ裁判ノ一部ヲ行兩院協議會ニ於テ、協議ノ成立セザル場合ヲ豫見シテ規定
フノデアルト云フ、斯ウ云フ論ハ私ハ首肯ガ出來ヌト思ヒマシタモノガ無イノモ矢張ソレデアル、斯ウ云フコトヲ言ハレテ
ス、又此法案ヲ立テルニ當ッテ是等ノ點ハ十分攻究致シマシ居リマスルガ、此場合ハ私ハ矢張規定ガ有ルト思フデス、兩
テ、斯ウ云フコトニ法案ノ趣意ハ定マッテ居ル次第デアリマス院ノ協議會ニ於テ協議ガ成立シナイ場合ニ於テハ、當然其発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=17
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018・高柳委員
○高柳委員 サウシマスト尙ホ序ニ少シ伺フ事ガアリマス、問題ハ成立シナイ譯デアリマス、ソレカラ尙又馬場政府委
本案ノ九十五條ニ依リマシテ、陪審員ノ答申ヲ不當ト認ム員ノ答辯ヲ見マスルト、斯ウ云フヤウナ說明ヲシテ居ルヤウ
ルトキハ陪審員ノ更新ガ出來ル、所ガ又更新サレタル陪審デアリマス、總テノ法律ハ兩院ヲ通過スル-兩院ヲ通過ス
員ノ其答申ヲ同ジク不當ト認メタ場合ニ於テハ、何囘デモルケレドモ、御裁可ガナケレバ法律ノ效力ヲ生ジナイ、御栽
繰返サレル、是モ法規ノ規定ガ左樣ニナッテ居リマス、併ナガ可ノ無イ場合ヲ憲法ニ規定シテナイ、コンナヤウナ意味ノ答
ラ最後ハ陪審員ノ答申ト栽判官ノ意見ト一致シタ所ニ於辯ガアッタヤウニ承知シマス、是モ甚ダ解ラヌ說明ノヤウニ思
テ、始メテ裁判ガ出來ル譯デアル、陪審員ノ谷申ヲ無視スルヒマス、法律案ガ兩院ヲ通過致シマスレバ、無論當然御裁
コトガ出來ナイト云フコトハ明デアル、無視スルコトガ出來可ノアルベキデアル、無論當然御裁可ノアルモノデアリマスレ
ナイ、、陪審員ノ答申ニ背反シテ裁判ガ出來ナイ、是モ明ナルバ、何モ御栽可ノ無イ場合ヲ規定スル必要ガナイ、併ナガラ
本法案ノ規定デアリマスル以上ハ、私ハドウシテモ陪審員ナ一ケア天皇ガ之ヲ御栽可スル以上ハ、御裁可シナイ場合ハ
ル者ガ裁判ノ一部ニ交涉ヲ有ッテ居ル、又栽判ノ一部ニソレドウナルカト云フコトモ、突留メタ規定トシテハアルベキ筈ダ
ノ效力ガアッテコソ陪審ノ値打ガアルデハアリマセヌカ、陪審ト云フ議論モアルカ分リマセヌケレドモ、ソレハ兩院ヲ通過
員ノ答申ガ裁判官ヲ覊束シナイ、ホンノ參考的ノモノデアルスレバ當然御裁可ニナルベキ譯デアルカラ、御栽可ニナラナ
ト云フナラバ、陪審制度ノ全價値ト云フモノハ全ク沒却サレイ場合ヲ何モ突留メタ規定ヲ要スル譯ハナイ、併ナガラ若
ル譯デアル、全然必然的ノ效力ガ無クテモ、所謂政府當局シ極端ニ其栽可ニナラナイ場合ガアルト想像致シマシタ所
ノ說明スルガ如ク、中間的ノ性質ヲ以テンコニ陪審員ノ答ガ、是デモ極リガ付クト思フ、法律案ガ兩院ヲ通過シタ場合
申ニ或ル效力ヲ有タセテコソ、陪審制度ノ價値ガソコニ出ニ於テ、若シ御栽可ガ無イ場合ニ於テ-當然御裁可ガア
ル譯デアル、是ガ何等ノ拘束力ガ無イトカ、裁判ノ基礎ヲ成ルベキ筈デアリマスケレドモ、若シ街栽可ガ無イ場合ニ於キ
スモノデナイトカ云フコトデアリマスレバ、私ハ陪審制度ノ全マシテハ、是ハ法律上ノ問題ガ政治問題ニ移ル譯デアル、法
價値ガ全ク無クナッテシマフモノデアルト思フ、所デ尙ホ伺ッテ律ノ問題ガ政治問題ニ移ッテ解決ガ出來ル譯デアル、突留
置キタイノハ、數回繰返シテ尙ホ裁判官ノ意兄ト陪審員ノメラレテ居ルノデアリマス、何レノ場合ニ於テモ必ズ突留メラ
答申トガ一致シナイ場合ニ於テハ、ドウスルカト云フ事ニ付レベキ譯デアル、突留メタ規定ガアル譯デアル、所ガ此陪審法
テノ最後ノ規定ガ無イノデアリマス、是モ本會ヤ或ハ委員會案ニ於テ、獨リ何囘デモ陪審員ノ答申ガ不當デアッタ場合ニ
デ以テ屢〓繰返サレタル問答デアリマスルガ、此點ヲ尙ホ伺ッハ、十回ガ二十回百囘デモ千回デモ繰返シテ終局スル所ガ
テ置キマスル、何故最後ノ規定ヲ設ケナイノデアリマスカ、最ナイト云フ、其突留メタ規定ガナイト云フコトハ、法文ノ上デ
後ノ規定ヲ設ケマセヌケレバ、陪審員ノ答申ト裁判所ノ意不備デアルマイカト私ハ思フデス、殊ニ今ノ憲法上ノ問題ト
見トノ一致シナイ場合ニ於テハ、裁判ノ終局ヲ見ルコトガ出カ、普通ノ行政ノ法規ノ如キハ、突留メタ規定ガ無クテモ宜
來ナイ、此點ニ付キマシテノ政府當局ノ說明ヲ聽キマスルトイト思フデスケレドモ、此司法ニ關スル規定ハ、ドウシテモ突
云フト、左様ニ絕對ニ終局ノ事ヲ定メナイデモ、或ル程度ニ留メタ規定ヲ要スルモノデアルト思フ、人權ノ保護ニ關スル
於テ其納リハ著クモノデアル、數回繰返サレル間ニ於テハ裁所ノ司法ニ關スル此規定ガ突留メテ居ラナイ、終局ノ決定
判官ニ於テモ自省スル所ガアッテ、必ズヤ一致スル場合ガアヲ法文ノ上ニ現サヌト云フコトハドウシテモ不備ナヤウニ思
ルノデアルカラ、其最後ノ究極ノ場合ヲ玆ニ豫見シテ規定スフ、此點ノ御說明ヲ伺ヒタイ
ル必要ハ無イ、斯ウ云フ答辯ノヤウニ承知シテ居リマス、其○林政府委員御尋ハ二點ニナルヤウデアリマス、第一ノ
理由トシテノ說明ガ大分色々ノ說明ヲ私ハ速記ノ上デ拜點ハ裁判ノ内容ニ付テ拘束ヲサレナイ、併ナガラ手續ノ上ニ
見シタノデアリマス、横田法制局長官ノ答辯ヲ見マスルト云於テ拘束ヲ受ケル、是ガ此法案ノ特色デアリマシテ、サウシテ
フト、例ヘバ兩院ノ協議會ノヤウナ場合デアル、兩院協議會裁判ノ内容ニ於テ全然拘束ヲ受ケヌト云フ點ガ、卽チ歐羅
ノ場合ニ於テ、協議ガ成立シナイ場合ニ於テノ突留メタ規巴ニ於ケル陪審制度ノ弊ヲ此法案ニ於テ除イタ所以デア
ル、サウシテ實際ノ運用ニ於テ十分ノ效果ヲ收メルコトヲ得
ル、斯ウ云フ確信ヲ持っテ居ル次第デアリマス、次ニハ然ラバ陪
審ノ評議ト、裁判官ノ判斷ト結局一致シナイ場合ニ於テハ
ドウナルカ、ソレヲ突留メタ規定ガ無イノハ不備デアル、斯ウ
云フ御論ノヤウデアリマスガ、是ハ申スマデモアリマセヌガ、法
律ヲ立テルニ方ッテハ、無論社會ノ實際ノ事柄ヲ對象トスレ
バ宜シイノデアリマスカラ、實際上生ジナイヤウナ事柄ヲ見
込ンデ、必ズシモ究極マデ法律ニ定メテ置ク必要ハナカラウ
ト思フ、公判廷ニ於テ有ユル證據ヲ直接ニ調ベテ、裁判官モ
ソレヲ聰キ、陪審員モンレヲ聽イテ、サウシテ判斷スルノデア
リマスカラ、法律問題デアリマストカ其他細カイ問題デアル
ト、意見ガ結局一致セヌト云フコトガアリマセウケレドモ、併
ナガラ陪審ノ問題ハ犯罪構成ノ事實ノ有無デアリマス、斯
ウ云フ事柄ニ付テ全然意見ガ違フコトハ無イモノト考ヘル、
無論多少意見ノ相違ハアリマセウケレドモ、實際的ニ考ヘマ
スト、數回反覆シテ尙ホ意見ノ一致ヲ見ナイト云フヤウナコ
トハ、實際ニ於テハアルマイト考ヘル、サウ云云次第デアリマ
スカラ、法律トシテ實際上殆ド無イヤウナ事マデ考ヘテ、ソレ
ニ對スル規定ヲ設ケルト云フコトハ、是ハ寧口考ヘモノデア
ルト考ヘマス、斯ウ云フコトハ他ノ立法ニモ澤山アリマス、必
ズシモ此法案ノミデハナイ、先程兩院協議會ノ問題デアルト
カ、或ハ議會ニ於ケル議決ト裁可等ノ關係ノ御話ガアリマ
シタガ、モット卑近ナ問題ニ付テ考ヘマシテモ、例ヘバ衆議院
ト云フモノハ選擧權ノ有ル者ガ議員ヲ選擧シテ、之ヲ組織
スルコトニナッテ居ル、併シ選擧法ノ何所ヲ讀ンデ見テモ、選
舉人ガ選擧ヲシナカッタラドウナルカト云フ規定ハ無イ、若シ
選擧權ヲ行ハナカノタラ議員ハ一人モ出來ナイ、サウスルト
衆議院ハ構成出來ナイ、サウ云フ事ガ法規ノ上ニ無イカラ、
選擧シナイ場合ニ於テ之ヲ匡濟スル途ガ無イ、併ナガラ斯ウ
云フ事ハ實際ニ於テハ無イ、無イカラ法律ハンコマデ突留メ
テ置カヌ、是ハ極端ナ例デアリマスガ、法規ノ上ニハサウ云フ
事ガ澤山アリマス、必シモ陪審法ノ此部分ニ終局ノ點マデ
突留メテ置クト云フコトハ要ラナイト思フ、實際上ニ於テ是
ダケデ少シモ不都合ナ結果ヲ生ズルコトハ無イ、斯ウ云フ考
ヲ持ッテ居ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=18
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019・高柳覺太郎
○高柳委員 ドウモ滿足スル御答辯ヲ得ナイノデアリマス
ガ、更ニ其他ノ點ニ付テ伺ヒマス、政府ハ本案ヲ無論最善ノ
立法トシテ御提案ニナッタモノデアリマセウカラシテ、此法案
以外ノ制度方法ニ付テハ、特ニ御考慮ニナッテ居ルコトハナ
カラウト存ジマスガ、假ニ斯ウ云フ事ヲ一ツ伺ヒタイノデアリ
マス、陪審制度ヲ採用スルト云フコトニ付テハ、歐羅巴先進
國ノ法令ヲ十分ニ御參照ニナッタ、而シテ其陪審制度ノ精
神ハ、陪審員ヲシテ事實ノ認定ヲサセルト云フ、此大體ノ趣
意ニ於テ採用サレントシテ試ミタモノデアルト思フ、偶、審議
會或ハ樞密院ニ於テ憲法ノ違反ガアルト云フ事カラシテ、
本法案ノ第一條ノ規定ヲ設ケテ、第九十五條、九十六條、九
十七條等ノ規定ヲ設ケテ、當局ノ說明スル如ク、歐羅巴現
在ノ陪審制度ニ非ズシテ、特ニ新發明ノ此陪審法ヲ規定
シタモノデアルト云フコトデアル、先ヅ當初ノ考カラ致シマス
レバ、陪審制度ヲ採用シテ.陪審員ヲシテ事實ノ認定ヲセシ
ムルト云フ所ニ基礎ヲ置イテノ御考デアルト致シマスレバ、
大體ニ於テ歐洲ノ制度ト同樣ナ規定ヲ設ケル-設ケナケ
レバナラヌト云フ考ヲ以テ致シマスレバ、其場合ニ於テサウス
レバ憲法ニ違反スル、憲法ニ違反セザル範圍內ニ於テ、歐羅
巴ノ制度タル所ノ陪審制度其モノヲ先ヅ其儘ニ採用スルト
云フ考ヲ維持スルニ付テハ、何等カ御考慮サレタノデアリマ
セウカ、憲法ニ違反スルト云フコトカラシテ、此中間的ノ惡ク
言ヘバ曖昧不徹底的ナ規定ニナルノデアラウト云フ論者モ
アルノデス、ドウシテモ之ヲ歐洲其儘ノ所謂事實ノ認定ヲセ
シムルト云フ制度ヲ、何所迄モ採用シナケレバナラヌト云フ
場合ニ於キマシテハ、而モソレヲ採用シテ憲法ノ違反ナラシ
メザル所ノ方法ニ付テ御考ヲ爲サレタカドウデアルカ、斯ウ
云フ事ヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=19
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020・林頼三郎
○林政府委員 此法案ノ成立シマシタ經過ハ、今高柳君
ガ言ハレルノデハ、初ハ歐羅巴ト同ジ様ナ陪審制度ヲ施ク
積リデアッタガ、憲法トノ關係ニ於テ斯ノ如キ案ニナッタノデ
ハナイカト云フコトデアリマスガ、決シテサウ云フ次第デハア
リマセヌ、内閣總理大臣ガ臨時法制審議會ヘ諮問シタ時
ニモ、陪審制度ノ可否如何、可トスレバ其綱傾ヲ如何ニ定
ムルヤ、斯ウ云フヤウナ諮問ニナッテ居リマスノデ、歐羅巴ニ
行ハレテ居ル陪審制度ヲ日本ニ施イタ方ガ宜シイカドウカ、
斯ウ云フコトニナッテ居リマセヌ、ソコデ法制審議會ニ於テモ
無論外國ノ立法例ト實際ノ有樣ヲ〓究シ、又憲法トノ關
係モ十分ニ調査ヲ致シテ、且ツ日本ノ國情ヲ更二十分ニ攻
究致シマシテ、其結果本案ノ如キ趣意ノ陪審制度ガ適當デ
アル、斯ウ云フ事ニ決マリマシタ、本案ニ定メタ如キ陪審制
度デアレバ、憲法ニ牴觸セザルハ勿論、歐羅巴ニ於ケル陪審
制度ノ實際ノ弊ヲ去ッテ、而シテ日本ノ國情ニ適合スル陪審
制度ヲ立テタノデアリマシテ、憲法ト牴觸スルガ故ニ、心ナラ
ズモ斯ノ如キ案ヲ作ッタノデアルト云フヤウナコトデハ斷ジテ
ナイノデゴザイマスカラ、其點ニ付テハ世間デモ往々誤解スル
向ガアルヤウデアリマスガ、今申上ゲタ關係デアルト云フコト
ハ、十分御諒解ヲ乞ヒタイノデアリマス、憲法上ノ問題ト致
シマシテハ、歐羅巴流ノ陪審制度其儘ヲ採フテモ、日本ノ憲
法ニハ反シナイト云フヤウナ有力ナル學者ノ論ガアル位デア
ル、御承知ノ陪審ニ付テノ熱心ナル主唱者デアル江木博士
ノ如キハサウデアル、歐羅巴流ノ陪審其モノヲ採ヲテモ憲法
ニ反シナイ、是ハ議論デアリマスガ聽クベキ論デアル、サウ云
フ次第デアリマスガ、私共ハ假令憲法ニ反シナイニシタ所ガ、
歐罹巴流ノ陪審其儘ヲ日本ニ施クト云フコトハ、日本ノ國
情ニ合ハナイ、憲法ニ反シナイデモ、歐羅巴流ノ陪審ヲ今日
施クト云フノデアルナラバ反對デアル、此內容ノ陪審制度ヲ
施クト云フコトハ洵ニ我國ノ實情ニ合フ、斯ウ云フ確信ヲ
持ッテ居ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=20
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021・高柳覺太郎
○高柳委員 非常ニ此案ニ付テノ絕對的確信ヲ持シテ居
ラレルト云フコトニ付キマシテ敬服スル次第デアリマスガ、併
シ仰シヤル所ガ、是マデノ說明ト多少違ッテ居ル所ガアリハセ
ヌカト疑フノデゴザイマス、昨年ノ本會ニ於ケル議員ノ質問
ニ對シマシテノ横田法制局長官ノ答ニ、斯ウ云フ事ヲ承ッテ
居ル、陪審員ノ事實認定ガ常ニ裁判所ヲ必然的ニ覊束ス
ルト云フコトハ、現在ノ憲法ノ解釋ノ有力ナル部面ニ於テ、
非常ナル反對ガ起ッテ來ル、此反對ハ合理性ヲ持ッテ居ル、
此點ハ避ケナケレバナラヌ、同時ニ陪審ノ評議ト云フモノヲ
シテ威力ナカラシムルコトハ、本案制定ノ大精神ニ違背ス
ル、是ニ於テ-是ニ於テ本案ハ陪審ノ意見ニ悖戾シテ、裁
判所ハ事實ノ認定ガ出來ナイト云フ組立ニナッテ居ル、此橫
田長官ノ答辯ノ趣意ヲ考ヘテ見マスレバ、陪審制度ハ先ヅ
歐洲制度ノ其儘ノ陪審制度ヲ採用シタイト云フ希望ガアッ
タラシイ、所ガサウスレバ有力ナル部面ニ於テ非常ナ反對
ガ起ッテ來ル、是ハ審議會或ハ樞密院デアリマセウ、此反對
ハ合理性ヲ持クテ居ル、此點ハ避ケナケレバナラヌ、此意味カ
ラ申シマスト、本法案ヲ編成スルニ付テ、先ヅ當局者ガ最初
ノ意思ト云フモノハ、歐洲其儘ノ制度デアル、所謂事實ノ認
定ヲ陪審員ガスルト云フコトハ、無論御考ガアッテヤッタノデ
アル、唯〓有力ナル部面ニ反對ガアル、其反對ハ合理性デア
ル、故ニ之ヲ避ケナケレバナラヌ、併ナガラソレヲ全ク避ケテ
シマヘバ、陪審ノ制度ト云フモノガ無力ニナル、而シテ陪審
法案ノ制定ノ精神ニ全ク違背スル譯ニナッテシマウ、是ニ於テ
本案ハ陪審ノ意見ニ悖戾シテ、裁判所ハ事實ノ認定ガ出
來ナイト云フ組立ニナクテ居ル、只今林政府委員ノ御答辯
ニ依リマスト、此法案ヲ絕對無類ノ善良ナル法案ト御考ニ
ナッテ居ル、理想的ノ法案ト御考ニナッテ居ッテ、殆ド歐洲其
儘ノ制度ノ如キハ、顧ミルニ足ラナイト云フ迄ニ御考ノヤウ
ニ拜承致シマシタガ、今申上ゲマシタ前會ノ橫田政府委員
ノ答辯ノ趣旨トハ反對スルヤウニ思ヒマスガ其點ハ如何デ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=21
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022・林頼三郎
○林政府委員 立法ノ經過ハ先程申上ゲマシタ通リデア
リマシテ、重ネテ申上ゲル必要ハナイト思ヒマスガ、横田君ノ
先年說明サレタ今高柳君ノ言ハレタ部分ハ、憲法トノ關係
ニ於テ述ベラレタニ過ギヌノデアリマシテ、全體ニ涉ッテノ說
明デハナカラウト思ヒマス、私ノ先程申マシタ趣意ガ間違
ガナイノデアルト云フコトニ十分ニ御諒解ヲ願ヒタイノデア
リマス、此點ハ私モ昨年政府委員トシテ、陪審法案ノ委員
會ノ第一日ニ於テ、此九十五條ト云フモノハ、日本陪審法
ノ誇ルベキ特色デアルト云フコトヲ明言致シテアリアス、次
第デアリマス、先年ト本年トソレ等ノ點ニ於テ說明ヲ異ニス
ル筈モナシ、又異ニシテ居ラヌ積リデアリマスカラ、左樣御承
知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=22
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023・高柳覺太郎
○高柳委員 陪審ノ制度ハ私ノ考へデハ、所謂栽判ヲ民
衆化スル、司法ニ民意ヲ入レルト云フ點ニ於テノミ、漸クニ
シテ意味アル事デアルト思フノデアリマス、併シ其民意ヲ入
レル民衆化スルト云フコトハ、洵ニ結構ナ譯デアリマスルガ、
此陪審法案ニ依ル所ノ陪審制度ニ依シテ、眞ノ民意ヲ入レ
ルコトガ出來マセウカ、民衆化スルコトガ出來マセウカ、成程
國民ノ中ノ或者ガ多少ナリトモ裁判ニ參與スルト云フコト
ノ仕組カラ、民意ヲ入レルト云フコトモ言ハレマセウケレドモ、
併ナガラ眞ノ民意ト云フモノハ所謂國民ヲ代表スル輿論デ
アル、輿論裁判デアル、此意味ニ於テ民意ヲ人レルト云フ其
民意ニ强キ意味ヲ持ツノデアル、國民中ノ或ル一部分、而モ
抽籤ニ依ル所ノ權兵衞太郞兵衞ガ、裁判ニ參與スルト云フ
コトヲ以テ裁判ニ民意ヲ入レル、民衆化スルト一云フヤウナ、此
重大ナ意味ヲ持タナイカト思フノデアリマス、國民ヲ裁判ニ
入レル、裁判ニ參與セシムルト云フ意味カラ單ニ申シマスル
ト、私ハ斯ウ言ヒタイト思フ、現ニ國民ハヤッテ居ルヂヤナイ
カ、彼ノ裁判官モ外國人デハナイ國民デアル、ケレドモ所謂
國民ヲ參與セシムルト云フ上ニハ、平ノ平民-素人ヲ入レ
ル、此點ニ於テ民意ノ暢達ヲ圖ル、民意ヲ司法ニ入レルト云
フノデアルカラ.今ノ裁判官ガ國民デアルト云フ意味トハ違
ヒマスケレドモ、併ナガラ眞ニ民意ヲ裁判ニ入レルト云フ必
要カラシテ、民衆化ト云フコトノ必要カラシテ、此陪審制度
ヲ採用スルト云フノデアリマスルナラバ、其民意ニ最モ强キ
意味ヲ持タナケレバナラヌ、國民ノ信賴スル所ノ意味ガ其
中ニ含マレナケレバナラヌト思フ、然ルニ權兵衞太郞兵衞ヲ
唯〓裁判ニ參與セシムルト云フコトダケヲ以テ、是デ民意ヲ
入レルト云フ意味ニ御考ニナッテ居ラルルデアリマセウカ、其
點ヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=23
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024・林頼三郎
○林政府委員 民意ヲ入レルトカ或ハ裁判ノ民衆化ト云
フヤウナコトハ、世間デ使フ言葉デアリマスガ、是ハ必シモ人
ニ依ヲテ意義ガ一致シテ居ラヌノデアリマス、此法案ガ民意
ヲ入レル趣意ヲ含ンデ居ルカ、或ハ裁判ノ社會化ト云フヤウ
ナ意味ヲ含ンデ居ルカト云フヤウナコトハ、其言葉ノ意味ヲ
正確ニ定メズシテ御話スルコトハ困難デアリマス、ソレカラ素
人デアル國民ヲ參與セシムルト云フコトニ依ッテ、一般國民
ヲシテ裁判其モノヲ理解セシムル、斯ウ云フ趣意ガ含ンデ居
ルト云フコトハ、司法大臣ノ說明サレタ通リデアリマス、此
參與ノ程度ヲ如何ニ定メルカト云フコトハ、無論各自ノ意
見ノ違フ所デアリマス、此制度ニ參與スルコトニ依ッテ、國民
ニ或ル程度ノ理解ヲ持チ、サウシテ參加セザル手續ヨリハ
栽判ニ對シテ、國民ハ信賴スル、被告人モ悅服スル斯ウ云
フ結果ヲ生ズルノデアラウト信ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=24
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025・鵜澤總明
○鵜澤委員長 ソレデハ午後開クコトニ致シマシテ休憩致
シマス
午後零時十三分休憩
午後二時二十九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=25
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026・鵜澤總明
○鵜澤委員長 是ヨリ午前ニ引續イテ陪審法案ノ委員會
ヲ開キマス-原君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=26
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027・原夫次郎
○原委員 私ハ昨日ニ引續イテ質問致シタイノデアリマス、
昨日疑義トシテ出シテ置キマシタ本案第四十條、第七條、
第五條、是等ニ牽聯スル問題デアリマスガ、先ヅ第一ニ本案
ニ於テハ、公判ヲ準備スル爲ノ公判準備期日ヲ定メテアル
ノデアリマス、而シテ此準備期日ニ於テハ、唯〓裁判所獨リガ
簡易ナル準備手續ヲ爲スダケデハナクシテ、裁判所ヲ構成ス
ルヤウニナッテ居ル、定數ノ判事檢事、書記、辯護人、而シテ
此公判準備期日ニ於テハ證據決定ヲ爲シ、又必要ナル證
據調マデモ爲スコトガ出來ルコトニナッテ居ル、殊ニ被告人ニ
對シテハ必ズ訊問ヲ爲サナケレバナラヌコトニナッテ居ル、而
シテ被告人ニ對シテ訊問ヲ爲スノハ、是ハ固ヨリ訴訟的ニ
申セバ公判ト擇ブ所ハナイノデアリマス、辯論デアリマス、然
ルニ公判準備期日ノ取調ハ之ヲ密行スル、公行シナイ、斯ウ
云フ規定デアル、所ガ本員等ノ考フル所ニ依ルト、モウ一旦檢
事ノ手ヲ離レ、或ハ豫審ノ手ヲ離レタナラバ、ソレ以後ハ總
テ公判ノ手續デアルノデアリマスカラ、其公判ノ手續中ニ於
キマシテ、或ハ裁判長ガ期日ヲ指定スルトカ、或ハ證人ニ喚
出ヲ掛ケルトカ、サウ云フ本當ノ準備行爲デアルナラバ、是ハ
所謂準備ノ行爲デアッテ、辯論ナルモノハ含マナイノデアルカ
ラ、之ニ付テハ決シテ彼此申スノデハアリマセヌ、是ハ密行シ
ヤウガ何所デヤラウガ一向構ハヌ、併ナガラ堂々ト法廷ニ於
テ構成員ガ立入ッテ辯論ヲ爲ス以上ハ、之ヲ密行スルト云フ
理由ガ分ラナイ、憲法ニハ確ニ公判ノ手續ニ關スル對審判
決ハ、之ヲ公行スルト云フ保障ガアル、構成法ニモ此保障ガ
アル、而シテ上告審、上告理由トシテハ是ハ絕對ノ上告理
由ニナルモノデアル、此公開主義ヲ採ルト云フコトハ、私ガ申
スマデモナク、裁判ガ近世ノ訴訟主義ニ從フテ公々然トヤラ
ナケレバナラヌ、是ガ人民ガ裁判ニ悅服スル所以デアル、又
自由ノ保障デアルト思フノデアリマスガ、陪審法ノ根本義ハ
是等ノ保障ニ向ッテノ法律デアル、法律ノ立テ方ニ於キマシ
テモ、人民ノ爲ノ裁判デアルカラ、出來ルダケ人民ガ疑感ヲ
抱カナイヤウニヤラナケレバナラスノデアル、唯〓裁判所ノ御
都合、若クハ當局官吏ノ御都合ノ爲ニ法律ガ規定サレルノデ
ハナイ、官吏其者ガ言フマデモナク人民ノ爲ニ置イテアルノ
デアリマスカラ、ドンナ手數ヲ取クテモ忍バナケレバナラナイ、
然ルニ斯ウ云フ重大ナル手續ヲ密行スルト云フ規定ヲ置イ
タコトガ、一向ドウ云フ理由デアルカ分ラナイ、是ガ第一點デ
アリマス、又第二點ハ、此準備手續ニ於テ被告人ニ向ッテ訊
問ヲスル、訊問ヲシタ結果之ニ訓戒ヲ與ヘルコトガ出來ル、
オ前ハ陪審ニ付サナイデモ宜シイゾ、丁度從來法廷ニ於テ
辯護人ヲ附セナイデモ、御土デ相當ニ裁判ガアルト言フト、
成程サウデアリマスカト言ウテ辯護人ヲ附ケナイ場合ガアル
ガ、此陪審法ノ規定ニ依ルト訓諭ヲ與ヘルコトガ出來ル、斯
ウ云フ規定ガ殊更ニ附シテアルノデアリマス、ソレカラ被告
人ニ向ッテ密行ノ辯論ニ於テ、豫審記錄檢事聽取書等ニ基
イテ、ドン〓〓糺問ヲ爲スコトモ出來ルノデアル、唯〓單ニ法
律ニハ被告人ヲ訊問スベシトアルケレドモ、訊問ノ程度ハ當
該判事ニ一任シテアルノデアリマス、而シテ其結果若シ被告
人ガ犯罪事實ヲ自白シタナラバ、モウ陪審ニ付スルコトガ出
來ナイ、陪審ノ權利ヲ遮斷シテ居ルノデアリマス、此重大ナ
失權ノ効果ヲ結付ケテ置イテ、其公判ノ期日ハ之ヲ實行ス
ル、斯ウ云フコトニナリマス、進化シタル法律ノ立テ方、普通
ノ刑事訴訟法ヨリカ實際劣ッタ法律ニナル、成程新刑事訴
訟法ニ於キマシテモ、公判ノ準備期日ト云フモノヲ設ケテア
ル、併ナガラ新刑事訴訟法ニ於キマシテハ、必シモ準備期日
ト云フモノハ陪審法ノヤウニ強制デナイ、サウシテ其準備ヲ
爲スト云フ趣意ハ、主トシテ被告人ニ對シテ辯護人ヲ附ス
ルカ否ヤ、或ハ證據ノ申立ガアルカ否ヤト云フヤウニ、被告
人側ノ爲ニ規定シテアル、隨テ新刑事訴訟法ノ趣意カラ申
シマスト、何所カニ規、定ガアッタヤウニ考ヘマスト、其準備手
續ノ期日ニ於キマシテ、被告人ガ犯罪事實ヲ否認シタ場合
ニ於キマシテハ、更ニ當リ前ノ公判期日ニ於テ、曩ノ自白ヲ
取消スコトモ出來ルヤウニナッテ居ル、所ガ陪審法デハサウ云
フ餘地ガ無イ、ドウモ憲法ノ趣意、陪審法ノ根本等ニ照シ
テ、斯ウ云フ密行主義ヲ執ルト云フ所以ガ分ラヌノデアリマ
ス、要スルニ質問ハ三個ノ點ニ歸著ヲスルノデアリマス、先ヅ
之ヲ密行スル理由、公判準備期日ニ於キマシテ、被告人ヲ
犯罪事實ニ就テ特ニ訊問シナケレバナラヌ理由、舊刑事訴
訟法ニ於キマシテハ、一應被告人ヲ訊問ヲシテ辯護人ヲ附ス
ルヤ否ヤヲ聞クト云フコトニナッテ居リマス、「一應」ト云フ文
字ガ使ッテアル、詳シク訊問セヨト云フ意味デナイ、ソレカラ
第三ニハ公判準備期日ニ於テ、被告人ガ犯罪事實ヲ自白
シタトキニハ、陪審ヲ附スルコトガ出來ナイト云フ失權ノ效
力ガ附シテアル、其譯ヲ御尋シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=27
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028・林頼三郎
○林政府委員 公判準備期日ヲ密行スル理由ハ、此委員
會ノ初ニ於キマシテ他ノ委員カラ御尋ガアリマシテ、大體御
答シテアルノデアリマス、公判準備期日ハ、申ス迄モナク公
判ニ於テ爲スベキ證據調ヲ準備シマス、サウシテ公判ニ於テ
ハ直接審理ノ主義ヲ完ウシ、且ツ成ベク早ク審判ヲ遂ゲテ、
サウシテ一面ニ於キマシテハ刑法ノ目的ヲ達シ、一面ニ於テ
ハ關係者ノ迷惑ヲ少ナカラシメル、斯ウ云フコトカ主ニナッテ
居リマス、ソコデ十分ニ準備ヲ爲サシメルト云フコトガ必要
ニナリマス、是ハ關係人ガ打解ケテ膝組デ相談ヲ遂ゲテ、サウ
シテ之ヲ定メルト云フコトガ實際ニ於キマシテ適當デアル、
公開致シマスト免角形式張ッタ事ガ行ハレ易イ、ソレデドウ
シテモ準備スル目的デアレバ、他人入ラズ水入ラズノ打解ケ
タ熟談ガ宜シイ、外ノ事デモサウデアリマスガ、此場合ニ於キ
マシテモ之ガ適當デアラウト云フ大體ノ趣意カラ出タノデ
アリマス、ンコデ原君ハ公判準備期日ニ於キマシテ行フベキ
手續ト云フモノハ、判事モ、檢事モ、書記モ、被告人モ辯護
人モ列席シテヤルノデアルカラ、卽チ對審デアル、對審デアレ
バ憲法ニ於テ公開シナケレバナラヌノニナゼ公開セヌカ、斯ウ
云フ疑デアリマスガ、對審ニ付キマシテハ昨日モ申シマシタ
如ク、對審ハ一般ニ認メラレテ居ル意義ニ依レバ、判決ノ基
礎トナル審理、卽チ本案ノ審理ヲ云フノデ、準備手續ハ對審
デナイ、故ニ今日ノ訴訟法ニ於テ豫審モ對審デナイ、是ハ殆
ド論ガ無イ、此法案ノ公判準備ト云フモノハ、ソレヨリ鄭重
ナ手續ニナッテ居リマス、手續ハ鄭重デアルガ、準備タル性
質ニハ變リガナイ、サウ云フ次第デアリマスカラ、憲法論トシ
テ公開デナケレバナラヌト云フコトハ私ハ全然理由ガナイト
思ヒマス、要スルニ唯〓利害得失ノ問題デアル、利害得失問
題デアルトスレバ、先程申スヤウニ公開シナイガ宜シイ、若シ
ソレガイカヌト云フコトデアレバ意見ノ相違デアリマス、ソレ
カラ次ニ被告人ヲ公判準備期日ニ於テ訊問シナケレバナラ
ヌ理由ハ何所ニ在ルカ、斯ウ云フコトデアリマスガ、訊問シナ
ケレバ準備ヲスルコトガ出來ヌ、陪審法ト云フモノハ、新刑事
訴訟法ヲ土臺トシテ、其特別法ノ關係ニ於テ立法サレタノ
デアリマシテ、昨年御協賛ヲ經タノデ能ク御承知ノ通リ、新
刑事訴訟法ノ被告人訊問ハ現行法ト違フ、被告人ニハ公
訴事實ヲ告ゲテ、之ニ付テ辯解スル事ガアレバ聞カウ、ソレダ
ケノ事デアリマス、被告人ガ辯解スルカ、被告人ガ答ヘヌカ
自由デアル、ソレデ此陪審法ニ所謂被告人訊問モ同樣デア
リマス、先ヅ被告人ノ辯解ヲ聞イテ、何所ニ爭ガアルカト云
フコトガ定ラナケレバ準備ノ仕樣ガナイ、檢事モ準備スルコ
トガ出來ヌ、又辯護人モ準備スルコトガ出來ナイ、其故ニ今
ノ質問ハ甚ダ其意ヲ得ナイ質問デアリマス、訊問ヲシナケレ
バ準備ガ出來ナイデアリマスカラ、當然デアリマス、殊ニ訊問
スル時ニ裁判長ガ被告人ニ何カ勸メテ、陪審ニ付スルコトヲ
辭退スル虞ガアルトノコトデアルガ、是ハ邪推モ甚シイ、斯ウ
云フコトヲ言ヘバ總テノ規定ガ皆ナ壞レテシマウ、法律通リ
行ハナケレバナラヌ、ソレカラ次ニハ普通ノ刑事訴訟デアル
ト、自白ヲ後デ取消ス、併シ陪審法ノ關係ニ於テハ、公判準
備ニ於テ自白ヲスルト後デドウモ仕樣ガナイ、斯ウ云フ話デ
アリマスガ、自白ヲ公判ニ於テ取消スカドウカト云フコトハ
普通ノ訴訟手續ト變リハナイ、唯〓自白ヲ致シマスルト陪審
ニ付セナイト云フ結果ヲ生ズル、斯ウ云フ事ニナッテ居リマ
ガ、此陪審ニ付セナイト云フ結果ガ生ズルカラ、此手續ハ公
判デアルト云フ論ハ無理ナ論デアル、昨日モ申上ゲマシタ通
リ、或ル訴訟行爲ヲスレバ、ソレニ一定ノ效果ヲ生ズルト云
フコトハ當然デアリマス、豫審手續ニ於テモ或ル訴訟行爲ヲ
シナイト、或ル權利ヲ喪失スルコトガアル、例ヘバ管轄違ノ申
立ノ如キハ、豫審ニ於テ申立ヲシナイト其權ヲ喪失スルコト
ガアル、陪審法ニ於テモ、或ル行爲カラ一定ノ效果ヲ生ズル
ト云フコトハ當リ前デアリマス、ソレデアリマスカラソレガ爲ニ
公判準備期日ハ公判デアルト云フ論ハ、到底論ニナラナイト
私ハ考ヘル、公判準備ト云フノハ此規定デ明ニナッテ居リマ
ス通リ、辯論デハナイノデアリマス、辯論デアルト檢事ガ公訴
事實ヲ陳述シ、ンコデ口頭辯論ガ開カレ、被告人ガソレニ對
シテ陳辯スルト云フコトニナルノデアリマスガ、公判準備ニ於
テハ檢事モ陳述ヲシナイ、栽判長ノ方デ書類ニ依ッテ、檢事
ノ起訴狀ニハ斯ウナッテ居ル、オ前ハ此事實ニ付テ一體ドウ
云フ考ヲ持テ居ルカト言ヒ、ンコデ辯明スレバソレニ付テ證
據ヲ能ク準備セネバナラヌカラ、熟談ヲシテ證據準備ヲスル
ト云フ關係ニナル、サウ云フ次第デアリマスカラ、形ガ今日ノ
重罪下調ノ如キモノトハ非常ニ鄭重ニナッテ居ル、鄭重ニナッ
テ居ルト云フコトハ、先程申シタヤウニ準備ヲ完全ニシテ、關
係人ヲシテ遺憾ナカラシメ、而シテ公判ニ於テ、直接審理ノ
作用ヲ十分發揮シタイト云フ所カラ來テ居ルノデアリマスカ
ラ、立法トシテ御質問ノ點ニ付テハ、不十分ノ點ハ少シモ無
カラウト考ヘテ居リマス、唯〓公判準備期日ニ於テ自白シタ
時ニ陪審ニ付セナイト云フコト、是ハ一ノ問題ダラウト思ヒ
マス、被告人ガ自白ヲシタ場合ニ於テモ、矢張陪審ノ評議ニ
付スルカ、陪審ノ評議ニ付セナイカト云フコトハ、御承知ノ通
リニ各國ノ立法例ハ區々ニナッテ居リマス、自白シテモ陪審ノ
評議ニ付スル所モアリ、サウデナイ所モアル、是ハ立案ノ際ニ
隨分議論モ出十分ノ〓究ヲシタノデアリマス、ソレデハ何故
ニ自白シタ場合ニ陪審ノ評議ニ付セナイコトニシタカト云フ
ト、是ハ昨年モ御間ガアッテ御答シタノデアリマスガ、詰リ被
告人ガ自白ヲシタト云コトニナリマスト、素人ハ其自白ニ重
キヲ置ク傾向ガアル、モウ被告人ガ自白シタノダカラ、間違
ガナイト有罪ニ斷ズル傾向ガアル、是ハ書物ナドニモ能ク
載ッテ居リマス、又實際ダラウト思ヒマス、經驗ノアル者デア
ルナラバ、被告人ガ自白ヲシテモ冷靜ナル判斷ニ依リ、其自
白ハ本當カドウカト云フコトヲ判斷ヲシマスガ、素人ハ後デ
何ト言ッテモ、本人ガ自白シタコトガアレバ間違ガナイト言ッテ
ソレニ決スルト云フコトハ自然ノ結果デアル、ソレデアルカラ
外國ノ立法デモ、自白シタ場合ニハ陪審ニ付セナイト云フ
國ガアリマス、詰リ此法案ニ於テハ、サウ云云場合ニハ陪審
ニ付セナイ方ガ宜イト云フコトニ議ガ纏リマシテ、玆ニ現レタ
次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=28
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029・原夫次郎
○原委員 モウ極メテ簡單ニ申上ゲマス、經驗家ノ林君ノ
御答辯トシテ、ドウモ吾々ニ一向承服ガ出來ナイノデアリマ
ス、モウ一點ダケ聽イテ置キマスガ、被告人ガ自白シタコトニ
囚ハレズ訴訟行爲ヲ爲スコトノ利害得失ニ付テハ、能ク御
承知ト思ヒマス、尤モ被告人ガ刑事事件ニ引掛カレバ、彼
レ自身ニ於テ利害得失ヲ考ヘル、デアルカラ自白シタカラト
云ッテモ、決シテ其自白通リノ眞相デナイ場合ガ多イ、是、
邪推デモ何デモナイ、其事例ハ澤山アル、所ガ此陪審法ニ依ツ
テハ自白ニ重キヲ置イテ、自白スレバモウ事件ハ被告人ノ
言フ通リデアルトシテノ立方デアル、經驗家ノ眼カラ見マス
レバ決シテサウデナイ、ンレカラ公判準備ノ本旨ト云フモノ
ハ歐羅巴各國ノ陪審制度ノ上カラ考ヘレバ、モウ何モ疑ハ
ナイ讀ンデ字ノ如ク準備デアル、準備行爲ニ付テノ〓束力
ナドモ生ジ得ベキ訊問ヲスルモノヂヤナイ、少クトモ陪審制
度ノ立方ハサウ云フモノヂヤナイ、次ノ公判廷ニ於ケル辯論ノ
準備ヲ爲ス、ソレダケノ事デアル、所ガ本法ノ立方ハサウデナ
ク、名ヲ準備ニ藉ッテ準備行爲モ加ッテ居ルガ、準備行爲ノ
奧底ニハ色々效果ヲ生ズル、否ナ被告人ニ對スル訊問ノ程
度ハ姑ク措テ、其訊問ノ結果ニ依シテ陪審ニ付スベカラズ
ト云フ結果ニナルコトヽ尙ホ其外ニ歐羅巴各國ニ於テハ、
此準備期日ニ於テハ被告人側ノ立證ヲ要求スレバ、皆ソレ
ヲ喚出シテヤル、又檢事側カラ要求スレバソレモ喚出シテヤ
ル、所ガ本法ニ於テハ、此準備期日ニ於テ裁判所ガ被告人
訊問ノ際申請シタル證據調ニ付テハ、裁判所ガ證據決定ヲ
爲シ、被告人カラ申請シタル證據ガ必要デナイトスルナラバ
之ヲ許サナイ、サウシテ犯罪ノ證據トナルベキモノヲ主トシテ
陪審ノ前ニ供述セシムル、斯ウ云フ準備ノ證據決定ヲ爲シ
夕場合ニ、一體ドウナルノデアリマセウ、此陪審法ノ運行シタ
ル結果ハ甚ダ憂慮ニ堪ヘナイ、是等ノ點カラ見ルト、此準備
斯日ナルモノヽ仕事ガ餘リニ重荷過ギテ居ル、是ハ被告人
ヲ一應訊問スル、一體愉事ガ起訴シタ場合ニハ、檢事ノ起
訴狀ニ依リ、其關係ノ證據ヲ具シテ一應檢事ガ起訴スルノ
デアル、ソレニ依シテ利害關係ヲ定メテ關係人ヲ喚出スト云
フコトダケデモ出來ル、又豫審カラ記錄ガ廻レバ、豫審記錄
ヲ見レバ、ソレニ依ッテ自ラ決マルノデアリマス、今陪審ニ付
テ御議論ガアッタノデアリマスガ、固ヨリソレハ公判ナルモノ
ガ檢事ノ起訴事實ノ陳述ニ始マリ、サウシテ被告人ノ訊問、
證據調、辯論ト云フ風ニナルノガ是ハ當然デアリマス、一體
憲法ノ趣意ハ何所ニ在ルカト、云フト人民ノ自由ノ保障デ
アルノデアリマスカラ、唯其現行法ヲ規定スルニ付テノ、
是ガ註釋的ノ御議論トシテハソレハ洵ニ其通リデアリマセ
ウ、其通リデアルガ、憲法ノ趣意カラ云ヘバ、公判ノ對審判決
ハ之ヲ公行スルト云フ重大ナル保障ヲ與ヘテアル、而シテ今
日刑事訴訟法ノ下ニ行ハルヽ所ノ彼ノ下調ノ手續スラモ、公開
シテイケナイト云フ刑事訴訟法ノ規定ハ無イノデアリマスカラ、
今日公開シテ居ル、密行シテ必ズヤレト云フ規定ハ無イ、刑事
訴訟法ニ於テハサウ云フ規定ハ無イ、密行スルトモ公開
スルトモ勝手デアルカラ、實際法廷ニ於テノ取調ハ、判事又
ハ裁判長獨リガヤル仕事デナイ、本案ノ規定ノ公判準備期
日ハ、チヤント法廷ニ於テ檢事モ判事モ辯護人モ皆列席シ
テ、ソコデ取調ヲスルト云フノデアルカラ、是ハ密行スベキモノ
ニ非ズト云フ憲法ノ趣意カラ割出シテノ議論デアルノデス、
註釋的ノ議論ヲスルモノデナイノデアリマス、今日陪審法ヲ
制定スルト云フ趣意ハ、ドウシテモ少クトモ公行スベキコトデ
アル、ソレカラ又陪審ノ被告人ガ自白シタ所ヴ、矢張ソレニ依
テ陪審ニ付スルコトヲ、被告人ニ知ラサシメナイト云フ趣意
トナルベキモノハ無イノデアリマス、斯ウ云フ事デアルノデアリ
マス、是ダケノ事ヲ申述ベマシテ、私ノ質問ハ此點ニ於テ一
應終シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=29
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030・林頼三郎
○林政府委員 利害得失ノ問題ハ見ル人ニ依ッテ違ヒマ
スカラ、申上ゲマヒヌガ、憲法論ニ付テハ一言只今ノ原君ノ
誤ヲ正シテ置ク必要ガアルト思ヒマス、憲法デ裁判ヲ公開ス
ル趣意ハ、人權ノ保障ト云フコトガ含ンデ居ルケレドモ、サウ云
フ人權ノ保障ト云フコトノミカラ、訴訟手續ヲ總テ公開シナ
ケレバナラヌト云フナラバ、豫審手續デモ同樣、捜査デモ同
樣デアル、公開スルト云フコトハ被告人ノ權利ノ保障ノ方
面ダケカラ申スナラバ、豫審デモ公開スルノガ或ハ適當デア
ル、併ナガラ總テノ手續ハ人權保障ノ一點張リデハ參リマセ
ヌ、對審ノミガ公開ヲ要スルノデアル、ソレ故ニ搜査モ豫審モ
公開シナイデモ、ソレハ少シモ憲法ノ精神ニ觸レナイ、憲法
デハ、總テ公判ノ手續ハ公開スルコトニナッテ居ルノデハナイノ
デアリマスカラ、公判準備ハ人權ヲ保障スルト云フヤウナ點
カラ、公開スルガ宜シイト云フ御論ハ出來マセウ、併ナガラン
レハ憲法ノ精神デアルカラ、其手續ヲ公開シナケレバナラヌ
ト云フコトハナイ、ソレデアリマスカラ公判準備ノ手續フ公
開スル和害得失問題ハ別デアルガ、憲法ノ精神ニ反スルト
云フ論ハ全然誤リデアルト確信シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=30
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031・森山儀文治
○森山委員 陪審法ニ付キマシテハ、前議會ノ委員會以
來多數ノ質問應答ヲ重ネラレマシテ、此法律ノ意味モ餘程
明瞭ニナッテ居リマスカラ、私ハ自己ノ不諒解ノ點ニ付テ-
極ク簡單ニ二三ノ點ニ付テ〓ノ爲ニ伺テ置キタイト思フノ
デアリマス、デ第一ハ此陪審法制定ノ目的ノ範圍デアリマ
ス、是ハ大臣ノ御說明モゴザイマシテ、其御聲明ニ依リマス
ルト云フト、國民ヲシテ司法事務ニ參與セシメ、國民ニ裁判
ノ理解ト信用ヲ得セシメルニ在ル、斯ウ云フコトデゴザイマ
シタガ、是ハ固ヨリ目的ノ主ナ一ツデゴザイマセウガ、主ナル
目的ハ此一點ニノミ在ルノデアルカ、尙ホ是ト同時ニ他ノ一
面ニ於キマシテハ、被告人ノ權利利益ヲ保護シテ、公平ナル
裁判ヲ受ケサセヤウト云フノモ主ナル目的デアルノデアリマ
セウカ、今マデノ御答辯ヲ承リマスルト云フト、事ニ害ナキ
點、サウ云フ事ハ已ムヲ得マセヌガ、害ナキ點ノ被告人ニ利
益ニナルヤウナ事モ、隨分不同意ヲ御唱ヘニナルヤウナ風ニ
見受ケラレマスカラシテ、サウ致シマスルト勿論此陪審法ニ
依リマスレバ、直接間接ニ於キマシテ、被告人ノ利益ニナル
コトハナイノデハナイガ、被告人ノ利益ト云ヘバ、例ヘバ提灯
ヲ點ケテ行ク後ニ追隨シテ行ク利益ト云フガ如キモノデ、其
目的ハ國民關係ヲ専ラニ致シマシテ、被告ノ方ノ關係ヲ重
クシテ居ラレナイヤウデアリマスカラ、此點ニ付キマシテ全體
ニ木案ノ改正ヲ要シ、修正ヲ要スベキ點ガアラウト思ヒマス
カラ、第一ニ此點ヲ御伺致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=31
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032・林頼三郎
○林政府委員 陪審法案制定ノ目的ハ、大臣ノ說明サレ
タ通リ色〓理由ガアリマシテ、其大臣ノ說明サレタ中ニモ、
其一トシテ常職裁判官ノ時ニ陷ラントスル弊ヲ防グト云フ
コトヲ述ベラレテ居リマスカラ、今御尋ニナッタ様ニ、陪審制
度ハ被告人トナッタ者ノ權利利益ノ保護、斯ウ云フ趣意モ
含ンデ居ルコトハ疑ノナイコトヽ信ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=32
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033・森山儀文治
○森山委員 ンコデ尙ホ大臣及」政府委員ノ方ノ御說明
ニ依リマスルト云フト、此本法ノ九十五條ヲ制定セラレマシ
タ理由ハ、要スルニ裁判ト云フモノハ事實ノ認定ト法律ノ
適用トヲ含ンデ居ルモノデアル、唯〓單ニ法律ノ適用ノミデハ
ナイ、故ニ陪審員ニ事實認定ノ絕對權、卽チ拘束方ヲ與ヘ
レバ憲法違反ニナルカラ、之ヲ與ヘルコトガ出來ナイト云フ
意味ノ御說明ノアッタヤウニ記憶シテ居リマス、果シテサウデ
アルトシマスレバ、此九十五條ノ制定ガゴザイマシテモ、表面
ハイザ知ラズ、事ノ實際ニ於キマシテハ、矢張憲法違反トナ
ル虞ガ無イノデアリマスルカ、ト申シマスルノハ、此九十五條ニ
依レバ裁判官ハ不當ト認ムルトキハ、五遍デモ十遍デモ百
遍デモ陪審員ヲ取換へルコトガ出來ルデハナイカト云フ質問
ニ對シマシテ、政府ノ御答辯ニ依リマスト、シレハ理窟ハサウ
デアルケレドモ、事實ニ於テハサウ云フ事ハ無イ、裁判官ニ於
テ其陪審員ノ說ニ從ッテ結局採用スルコトニナルノデアルカ
ラシテ、實際ニ於テハ差支ナイ、斯ウ云フ御說明ガアッタノデ
アリマス、サウ致シマスルト、結局此制定ガアリマシテモ、精
神的ニ於テハ裁判官ガ拘束セラルヽ結果ヲ生ジハシナイカ
ト思ハルヽノデアリマス、裁判官カ二度三度五度取換ヘテ
不當ト信ズルケレドモ、餘リ幾度モ取換ヘルコトハ出來ナイ
ト云フ所カラ致シマシテ、遂ニ陪審員ノ言フコトニ從フト云
フコトニ、實際ニ於テハナルデアリマセウシ、又政府委員モ斯
ノ如キ結果ヲ生ズルカラ、此法律ノ妙味トシテ決シテ心配ハ
無イ、斯ウ云フ御說明ニナッテ居リマスガ、サウスルト云フト
此御說明ノ意味ヲ簡單ニ解釋致シマスレバ、外形ニ於テハ
拘束力ハ無イケレドモ、實際ニ於テハ拘束力ガ有ルノデアル
カラ害ガ無イ、斯ウ云フ意味ニ歸著スルノデアリマス、果シテ
然ラバ當局ニ於カレマシテハ、形式的ニ於テ拘束力ガ無イ形ニ
ナッテ居レバ實際ニ於テハ拘束力ガ有ッテ差支ナイ、憲法ニ
牴觸シナイト云フ御意見デアルカ、シテモ差支ナイト云フ御
意見デアルカ、若シサウ云フ譯デゴザリマシタナラバ、何モ形
式ト實際ト分ケルニハ及ビマセヌカラシテ、此際ニ於テ一回
トカ三回トカ五囘トカ云フモノダケハ陪審員ヲ取換ヘルコト
ガ出來ルガ、ソレ以上ニナッタラ栽判官ガ從ハネバナラヌト云
フ風ニ、明ニ立法ノ上ニ規定ヲ設ケラレテハ如何デゴザイマ
セウカ、此點ヲ伺ヒタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=33
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034・林頼三郎
○林政府委員 此法案ニ於キマシテハ裁判所ハ陪審ノ評
議ニ付キマシテ、形式上拘束サレナイノハ勿論デアリマスガ、
實質上ニ於テモ拘束サレルト云フコトヲ法律ハ認メテ居リ
マセヌ、ソレガ爲ニ意見ガ違ッテ居レバ、幾度デモ新シイ陪審
ノ評議ニ付スルコトガ出來ルト云フコトニナヲテ居リマス、拘
束サレルト申スト、要スルニ自己ノ意思ニ反シテ裁判ヲスル
コトニナルノデアリマスガ、ソレハ形式上ノミナラズ、實質上ニ
於テモ全然認メマセヌ、ソレデアリマスカラ、此法案ニ付テハ、
從來說明シテ居ッタ如ク、全然拘束ガ無イト斯ウ云フコトニ
御了解ヲ乞ヒタイノデアリマス、唯〓御話ノヤウニ度々更新
スルノモ工合ガ惡イト云フノデ、實際ニ於テハ拘束サレルト
同ジヤウナ結果ガ起リハセヌカト云フ御心配モアッタヤウデア
リマスガ、ソレハ要スルニ裁判官ノ人格、識見、能力ノ問題デ
アルト思ヒマス、若シ外部ノ力ニ依シテ拘束ヲ受ケルト云フヤ
ウナ意味ガ今申サレタ意味ニ於テアルナラバ、陪審ノ評議バ
カリデハアリマヤヌ、裁判官ガ識見モ無イ者デアレバ、或ハ世
間ノ批評ニ依シテ影響ヲ受ケルト云フヤウナ事モ無イトハ限
ラヌ、ソレハサウ云フ事ガ有ルカモ知レヌト云フ心配ノ下ニ、
此規定ヲドウシヤウト云フコトニハ一寸同意致シ兼ネルノデ
アリマス、サウ云フ事ハ我國ノ裁判官ニ於テハ斷ジテ無イ、
今日ニ於テモ將來ニ於テモサウ云フ事ハ無イト云フコトヲ考
ヘテ居リマス、免ニ角、此法案ニ於キマシテハ、陪審員ガ答申
シテサウシテ裁判官ガ其答申ガ間違フテ居ルト思ヘバ其陪
審ヲ更メル、自分ノ意見ヲ法律ニ依ッテ更ムベキ拘束ト云フ
モノハ、實質上ニ於テモ受ケヌノデアリマス、其意味ニ御承
知ヲ願ヒタイト考へマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=34
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035・森山儀文治
○森山委員 昨年モ伺ヒマシタガ、此百一條ニ依リマスト
陪審ノ答申ヲ採擇シテ、事實ノ判斷ヲ爲シタル事件ノ判決
ニ對シテハ、控訴ヲ爲スコトガ出來ヌト云フ規定ニナッテ居リ
マスガ、是ハ被告人ノ利益フ圖ルノガ目的ナリト致ンマスレ
バ、此規定ハ非常ニ被告人ノ利益ニ反スル規定デハナイカ
ト思フノデアリマス、卽チ只今御說明ニナリマシタ通リ、陪審
ノ權限ハ絕對ニ拘束力ガ無イ、ソレカラ陪審員ノ資格ニ付マ
シテハ、十二條等ノ條件ヲ具ヘル者ニ依ッテ抽籤ヲ以テ選擧
スル、斯ウ云フ事デゴザイマシア、之ニ信賴致シマシテ陪審ノ判
斷ヲ受ケ、サウシテ、裁判ヲ受ケマスレバドノ位ノ利益ガアルカト
申上ゲマスレバ、是ハ隨分疑問デアラウト信ズルノデアリマス、
言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ餘リ被告人ノ利益ニハナラヌモノ
デアルト思フノデアリマス、然ルニ他ノ一方ニ於キマシテ最モ
被告人ノ權利ヲ尊重シ、公正適切ナル裁判ヲ得ルニ必要ナ
ル上訴權、卽チ事實上ノ判斷ニ對シマスル上訴權ヲ絕對ニ
失ハレルト云フヤウナコトニナリマスカラ、是ハ被告人ニ取リ
マシテハ頗ル由々シキ事柄デアラウト信ズルノデアリマス、ソ
レ故ニ私ノ意見ト致シマシテハ、ドウカ是ハ一面ニ於テハ陪審
ノ利益ニ浴セシメルト同時ニ、他ノ一面ニ於キマシテハ、上
訴ノ出來ルヤウニ致シタイト云フ考デアリマス、然ルニ先程ノ
御答辯ニ依リマスト、控訴審等ニ於テハ、陪審ハ必要ガ無イト
云フヤウナ御意見デアリマスガ是モ御尤デアリマスガ、全國
七箇所ノ控訴院ニ優秀ナル陪審ヲ置キマシタ所ガ、其經費
ノ問題カラ申シマシテ大シタモノデハナイト思ヒマス、人民ノ
權利利益ヲ保護スルト一云フ點カラ見マスト、洵ニ些細ナモノデ
アラウト思ヒマスガ、其邊ノ所ヲ忍ンデ、ドウカ控訴、陪審ハ出
來ナイモノデアラウカ、若シ費用ガ非常ニ掛ッテ困ルト云フコ
トデアリマスレバ、此控訴院ノ陪審ヲ經ザル上訴ニ對シマシ
テハ、少シ鄭重ナ手續フ執リマシテ、例ヘバ三人ノ判事ヲ五
人ニスルトカ、特ニ優秀ナ判事ヲ選擇シテサウシテ、裁判一
當ラシメルト云フヤウナ、普通ヨリモ特別ナル方法ヲ設ケラ
レマシテサウシテ、一面ニ於テハ被告人ヲシテ陪審ノ利益ニ
浴セシムル、他ノ一面ニ於キマシテハ、之ニ不服デアル場合ニ
於テハ上訴ヲ致シマシテ、サウシテ自己ノ權利利益ヲ擁護ス
ルコトガ出來ルヤウニ爲サルコトガ出來ナイノデゴザイマセ
ウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=35
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036・林頼三郎
○林政府委員 陪審ノ評議ニ付シタ判決ニ對シテ控訴ヲ
許サヌト云フコトハ、費用等ノ關係デハゴザイマセヌ、被告人
ノ利益ト云フ方面ノミカラ觀察致シマスルト、或ハ二審、三
審、四審、五審、六審ト云フヤウニ、不服ナラバ幾囘デモ不服
ノ手段ノ執ルコトヲ許スト云フノガ、ソレハ或ハ宜イカモ知レ
マセヌ、併ナガラソレデハ遂ニ確定スル時期ガ無イノデ外ノ、
方面ノ色ミナ差支ヲ生ズル、斯ウ云フ次第デ、或ル程度ニ於
テ打切ルト云フコトガ制度トシテハ必要ナ事デアリマス、普
通ノ裁判手續ニ於テハ控訴上告、斯ウ云フコトニナッテ居ル
ノニ陪審ノ評議ニ付スル事件ニ於テハ一審、二審ノミデ控
訴ト云フコトヲ除イテアリマス、是ハ先刻他ノ委員ニ對シテ
御答ヲシタ通リ、陪審ノ評議ニ付シテ判決ヲスル場合ニ於
テハ、常識ニ基イタ素人ノ判斷ト、專門家デアル裁判官ノ判
斷ガ一致シタ所テ、裁判ヲ下スノデアリマス、先ヅ人事ヲ盡
シタモノト謂ハナケレバナラヌ、ソレデアリマスカラ此程度デ
打切ルト云フコトハ適當デアルノミナラズ、同ジヤウナ手續ヲ
更ニ繰返シマシタ所デ、果シテ後ノガ宜シイカ、先ノガ宜シイ
カ、容易ニ是ハ判斷ガ付カヌト思フ、サウ云フ次第ブゴザイマ
マスカフ、陪審ノ評議ニ付シタ事實ノ審判ハ一審限リ、斯ウ
云フコトニ定メタ次第デゴザイマス、ンレデ被告人ガ斯ウ云
フ結果ヲ豫期シテンレデハ不利益デアル、普迪ノ手續ニ依ッ
テ一審二審三審ノ權利ヲ保留ンタイト云フ考ナラバ、法定
ヤ陪審ニ於キマシテモ之ヲ辭退スルコトガ出來ルノデアリマ
ス、被告人ハ陪審手續アルガ爲ニ、普通ノ場合ヨリハ不利益
ヲ受ケルト云フコトハ全ク無イ關係ニナッテ居リマス、ソレデ
矢張控訴ト云フコトヲ認ムル必要ハ無イコトニナップ居リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=36
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037・森山儀文治
○森山委員 陪審法案ニ關聯致シマシア今一言ダケ御尋
ヲ致シマシテ、ソレデ私ハ止メヤウト思ヒマス、先頃黑住君ヨ
リ起訴、陪審ノコトニ付テ御質問ガアリマシテ、其中ニ刑事
起訴ノ濫用、或ハ人權擁護、人權蹂躪等ノ御說明ガアリマ
シア、是ハ私モ大ニ同感デゴザイマス、所ガ私ハ刑事起訴ニ
付キマシテ、他ノ方面カラ詰リ伺ッテ見タイト思フノデアリマ
ス、ソレハ卽チ現今ノ起訴ノ方針ニ付テデアリマス、成程起
訴ノ濫用ハイケナイ、又人權蹂躪ハ無論イケマセヌ、是ハ申
ス迄モゴザイマセヌケレドモ、一面一於キマシテハ相當ナ搜査
ヲ遂ケテ、社會ノ公安ヲ害シマスル犯罪人ニ對シマシテハ十
分ノ懲戒ヲセナケレバナラヌ、之ヲ怠レバ先頃司法大臣ノ御
述ニナリマシタヤウナ、所謂司法權ノ萎靡不振ト云フコトヲ
來シ、國民ノ信賴ヲ薄クスルコトニナルノデアリマス、從來ノ
此起訴方法ヲ見マスルト云フト、ドウモ檢事ノ起訴ノ方針
ト云フモノガ一定シテ居ラナイ、ト申シマスルノハ時ニハ極ク
徴罪迄モドシ〓〓檢擧ヲ致シマシテ、起訴サレルコトモアリ
マス、又其時期ヲ經過致シマスルト云フト、洵ニ重大ナル事
犯デモ容易ニ起訴ヲサレナイ、不問ニ附セラレテ居リマスル
ヤウナ狀態デ、一寸之ヲ形容シテ申シマスルト云フト、起訴
ノ狀態ガ波ノヤウナ形ニナッテ居ルヤウニ自分等ハ實見致シ
テ居リマス、ンコデ今日ノ狀態ハドウデアルカト申シマスルト
云フト、ドウシテモ起訴官ガ少シ退嬰主義ヲ執ラレマシテ、
相當ノ起訴スベキモノヲ遠慮シテ居ラレル傾向ガアリハシナ
イク、斯ウ云フ風ニ私ハ考ヘテ居リマス、彼ノ政治犯ニ關係
致シマシテ、細鱗ヲ罰シテ吝舟ノ魚ヲ逃スト云フコトガアル
ガ、是ハ別ト致ンマシテ、一般地方ノ狀態ヲ見マシテモ、ドウ
モ相當社會ノ公安ヲ害シ、刑罰權ノ執行ヲシナケレバナラヌ
ト思フヤウニ事案ニ對シマシテモ、緩慢ナ手續ヲ執ラレマシ
テ、不問ニ付サレテ居ルヤウナ傾向ガ多イノデアリマス、斯ル
ガ故ニ或ル地方ニ於キマシテ司法警察官等ハ搜査ヲシタ所
ガ、檢事局ニ送ノタラ駄目ダカラト云ッテ、殆ド匙ヲ投ゲテ手
ヲ著ケナイト云フヤウナ所モアリマス、又或ル地方ノ裁判所
ニ於キマシテハ、是迄豫審判事ハ二人若クハ一人半位テ十
分手ニ餘ル程ノ事務ガアリマシタノガ、昨今ニ至リマシテハ
一人ノ豫審判事デ、後審デハ十分仕事ガ出來マシテ、民事
ノ裁判ノ手傳ヲスル、時トシテハ一件カ二件位豫審判事ノ
手ニ上ラナイナドト云フヤウナコトガアル、是ハ社會ガ眞ニ進
ンデ參クテ居クテ、所謂野ニ罪人ガ無イ犯罪者ガ無イ、斯ウ云
フコトデゴザイマスレバ、眞ニ黃金時代デ結構デアリマスルケ
レドモ、、事ノ實際ヲ見マスルト云フト決シテサウデハナイ、澤
山アル、尙ホ重大ナル犯人モ共ニ其中ニ潛ンデ居ル、極ク狡
猾ナル犯罪人ニ於キマシテハ所謂鬼ノ留守ニ洗濯、今日ハ
少ン位惡イ事ヲシタカラト云ッテ中〓檢擧サレナイカラ、先ヅ
働クノハ今デアルナドト云ウテ、大業ニ犯罪ヲシテ居ル者モ
アルヤウニ聞イテ居ル、是ハドウ云フ譯デアルカト申シマスル
ト云フト、ドウモ檢事局ノ起訴ノ寬嚴其宜キヲ得ナイ爲メ
デハナカラウカト信ズル次第デアリマス、就キマシテハ當局ニ
於カレマシテハ、今日此起訴方針ニ付テハ如何ナル方法ヲ
執ッテ居ラレルノデアルカ、尙ホ今日實際行ハレテ居ルアレダ
ケノ程度デ十分デアノテ、所謂司法權ノ萎靡不振ト云フヤ
ウナモノヲ來サナイト御確信ニナッテ居ルノデゴザイマスカ、是
ハ人權蹂躪人權擁護ト云フ事ト一寸アベコベナ事デアリマ
スガ、今日ノ實況ニ於キマシテハ左樣ナル狀態ニ私ハ見受
ケマスルカラ、念ノ爲ニ伺フ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=37
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038・林頼三郎
○林政府委員 起訴不起訴ノコトハ、御水知ノ通リ明
治三十二年以來公益上ノ觀察ト、刑事政策ノ要求ニ
合スルヤウニ適當ニ分界ヲ立テテ決定ヲ致シテ居リマ
ス、無論時ノ變遷ニ依リマシテ、實際ノ應用ト云フモノ
ハ違ヒマスケレドモ、司法省ニ於テハ大體ノ方針卜云フモノ
ハ變シテ居ラナイ、サウ云フ次第デアリマシテ、只今御話ニナ
リマシタヤウナ、今日檢擧ノ方針ガ所謂退嬰主義デアル、必
要ナモノヲ起訴シナイト云フヤウナコトハ全ク意外ノ事デア
リマシテ、只今承ッテソレガ事實デアルナラバ、吾々ノ責任ニ
歸スル譯デアリマスガ、併シ此檢擧ハ申ス迄モナク最モ人權
ニ影響ガアルノデアリマスカラ、相當ノ根據ガナケレバ輕々ニ
ヤル譯ニハ行カナイ、起訴スル塲合ニハ有ユル方面カラ十分
調査シテ、相當ノ根據ガ確マッテンレカラ起訴スルト云フヤ
ウナ、隨分愼重ナ態度ヲ執ッテ居リマス、ソレガ爲ニ或ハ世間
デ犯罪ガ有ルト云フヤウニ漠然考ヘテ居ルヤウナ事柄ニ付
テ、檢擧ノ手ガ及ンデ居ラヌト云フヤウナコトガ絕無トハ限
リマセヌガ、併シ是ハ檢擧ヲ愼重ニシテ、サウシテ十分ナル根
據ヲ摑ムコトガ出來ナイヤウナ場合ニ生ズルノデアリマス、サ
ウ云フ場合ニハ果シテ世間デ疑ッテ居ルノガ正ンイノデアル
カ、故ナキ疑デアルカ、是ハ容易ニ判斷ガ付カヌト思フ、或ハ又
警察官ガ檢事局へ送ッテモ、駄目デアルト云フノデ手ヲ著ケ
ヌト云フ御話ガアリマシタガ、私トシテハドウモ信ジラレナイ
サウ云フコトハ事實トシテアルマイト思フ、或ハ警察官ガ自
己ノ責任ヲ免ルヽ爲ニ、左様ナコトヲ言觸スコトガ無イトモ
限リマヒヌ、檢事局ガ十分ニ力ヲ入レテヤラヌカラ、警察デ
手ヲ著ケテモ駄目ダト云フヤウナ事ハ無イト確信シテ居リ
マス、無論警察デ時トシテハ根據ノ無イモノヲ持ッテ來ル場
合モアル、サウ云フ場合ニハ檢事ノ方デハ取上ゲナイ、モット
十分調ベテ來イト云フコトハアリマセウ、併ナガラ檢事ノ方
面ニ於テ、今仰セニナッタヤウナ事柄ハ私ハ無イト確信致シテ
居ル、ンレカラ又豫審判事ガ非常ニ手ガ隙イテ居ルノハ、檢
事局ノ檢擧ノ方針ガ退嬰主義デアル、近頃萎靡振ハヌ爲デ
アルト云フ御話モアリマシタガ、是ハサウ云フコトハアリマセ
ヌ、所ニ依シテ隨分豫審判事ノ手ノ隙イテ居ル所モアリマス、
是ハ司法省ニ於テモ能ク調ベテアノマス、地方ニ依クテハ豫
審ノ件數ガ少ナイ、複雑ナ事件デナイト豫審ニ掛ケナイ、ソ
コデ從來ハ豫審判事ハ豫審專門デアッテ、民事ヲ手傳フコ
トハサセナカッタガ、今日ハ流通シテ餘力ヲ他ノ方ニ用ヰル〓
サウ云フ次第デ、今御尋ニナッタヤウナ事ガアルト云フコトハ
實ハ意外ノ感ガ致スノデ、若シサウ云フヤウナ具體的ノ事ガ
アリマシタナラバ、此席デト申ス次第デアリマセヌガ御知ラセ
ヲ受ケマスレバ、私政府委員トシテ-刑事局長トシテ非常
ニ幸トスル所デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=38
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039・鵜澤總明
○鵜澤委員長 諸君ニ申上ゲテ置キマスガ、二十三日
ニ決議ヲシタイノデスガ、質問ハ二十三日ノ午前中迄ニ打
切リタイト思ヒマスカラ、其考デドウゾ願ヒタウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=39
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040・高柳覺太郎
○高柳委員 午前ニ質問シマシタ愚問ヲ重ネルヤウデアリ
マスガ、其方面カラモウ少シ私ノ質問ノ意味ヲ明ニシマシテ、
適切ナ御答辯ヲ得タイト思ヒマス、此法律ノ第九十七條ヲ
見マスト「陪審ノ答申ヲ採擇シテ判決ノ言渡ヲ爲スニハ裁
判所ハ陪審ノ評議ニ付シテ」云々斯ウアリマス、判決ノ言渡
ヲ爲スニハ、必ズ陪審ノ答申ヲ採擇シナケレバナラヌ、所ガソ
コデ一ツ伺ヒタイノハ、此法文ノ意味ガ一寸瞹眛ニ思フ、陪
審ノ答申ヲ採擇シテ判決ヲ爲スト云フ文句ガアリマスカラ、
此半面カラシテ、陪審ノ答申ヲ採擇シナイデ判決セラルヽ場
合ガアルヤウニ豫想セラレル、所ガ本案全體ヲ通ジテ、又政
府委員ニ說明ヲ聽クト、必ズヤ陪審ノ答申ヲ採擇シテ判決
スルノデアッテ、卽チ裁判ハ陪審ノ答申ニ背戾スルコトハ出
來ナイト云フコトハ明デアル、陪審ノ答申ヲ必ヤ採擇シテ判
決ノ言渡ヲ爲スノデアリマスガ、左樣ニシマスレバ、何モ「陪審ノ
答申ヲ採擇シテ」ト云フ文字ヲ使ハナイデモ宜シイト思フ、
司法省ノ原案ニハ此文字ハ全ク入ラナカッタ、所ガ樞密院デ
此文句ガ入ッタト云フコトニ承知シテ居ルノデアリマス、陪審
ノ答申ヲ採擇シテト云フコトハ全ク贅文ノヤウニ思フ、何故
ニ「陪審ノ答申ヲ採擇シテ」ト云フ文字ヲ御入レニナリマシ
タカ、ソレヲ一ツ先ヅ伺ヒタイ、ソレカラ續イテ此九十七條ノ
規定ノ精神ヲ考ヘテ見マスト、卽チ陪審ノ答申ヲ採擇シナ
ケレバ判決ハ出來ナイ、必ヤ陪審ノ答申ヲ採擇シテ判決ス
ルノデアル、サウ致シマスト、判決ニハ陪審ノ答申ト云フモノ
ガ第一ノ基礎ニナル、陪審ノ答申ニ背戾シテハ判決ガ出來
ナイ、陪審ノ答申ヲ採擇シテ判決スルノデアルト云ヒマスト、
判決ノ基礎ハ陪審ノ答申ニ在ルニ違ヒナイ、唯〓此法案ノ
第一條ニ於テハ、陪審ノ評議ニ付シテ裁判所ガ判斷スルト
云フコトニナッテ居リマスガ、ンレハ形デ拵ヘタ規定文句ニ過
ギナイノデアッテ、實質上ニ於テ、又法ノ陪審ノ精神ニ於テハ、
裁判ノ基礎ニ確ニ陪審ノ答申ガナッテ居ルモノト解サナケレ
バナラヌ、サウスレバ此陪審ナルモノハ矢張裁判ノ一部デア
ル、陪審ノ構成ハ矢張栽判所ノ構成デアル、斯ウ云フ結論
ヲ生ズルモノト思フ、尙ホ申上ゲテ置キマスガ、無論此陪審
ノ答申ナルモノハ屢〓、御答辯ニナル如ク、必然的ニハ裁判ヲ
拘束シナイ、常ニ必然的ニハ裁判ヲ拘東スルモノデハナイガヽ
併ナガラ或ル程度ニ於テハ拘束テシ居ル、或ル限度ニ於テハ
確ニ裁判ノ效力ニ效果ヲ及シテ居ル、判決ニ效果ヲ及ボス
モノデアルト思フ、ソレガ全然裁判ニ何等ノ效果ガ無イト
云フモノデアルナラパ、陪審制度ハ初メカラ何等ノ價値ナキ
モノデアル、素人ガ裁判ヲシテ、其栽判ガ判決ニ效果ヲ及ボ
スモノデアルカラ陪審ノ價値ガ出ル譯デアル、サウ云フ精神
的或ハ實質的ニ考へテ見マスト、確ニ陪審ハ判決ニ十分ナ
效果ヲ及ボシテ居フテ、卽チ陪審ハ裁判ノ一部ヲ成スモノデ
アル、斯ウ云フコトハ結論ガ生ズルヤウニ思フ、尙ホ昨年ノ議
會ニ於テ政府委員ノ說明ノ文句ヲ拾ウテ見マスト、横田政
府委員ノ答辯デアリマスガ、斯ウ云フコトヲ言ハレテ居ル「陪
審法案ハ陪審員ノ評定ノ結果ガ裁判所ノ事實ノ認定ト合
致スルトキニ換言スレバ陪審員ノ評定ガ基礎トナッテ、裁判
所ガ之ヲ採擇スルトキニ於テ事實上ノ判斷ノ上ニ效果ヲ發
スルト云フ主義精神ノ上ニ立ッタ立案デアリマス、卽チ陪審
員ノ答申ナルモノハ、裁判所ノ事實上ノ判斷ノ上ニ效果ヲ
及ボシテ居ル、其效果ヲ發スルノハ卽チ此陪審ノ精神デア
ル、其主義デアル、斯ウ云フコトヲ言ハレテ居ル、確ニ明ニ陪
審員ノ答申ナルモノハ裁判ノ基礎トナッテ居ル、效果ヲ及ポ
シテ居ル、ソレカラ尙ホ斯ウ云フコトヲ言ハレテ居ル、此司法
權ノ上ニ國民中カラ參與シテ事實上ノ判斷ニ立八ルト云
フコトハ、日本ノ法制史上ニ一大「レコード」ヲ致スモノト考
ヘル、國民中カラ參與シテ事實上ノ判斷ニ立入ッテ居ル立
入ラヌデナイ、此事實上ノ判斷ニ立入ルト云フノハ卽チ陪
審ノ效果ノ仕事デ、裁判ノ一部ヲ成シテ裁判ノ基礎ヲ成ス
ト云フコトハソコカラ生ズルノデアル、左樣致シマスレバ此陪
審ナルモノハ確ニ裁判ノ一ツヲ成シ、陪審ノ構成ガ裁判所
構成ノ一部デアル、斯ウ云フコトノ結論ヲ生ズルヤウニ思ヒ
マスガ、甚ダ諄クナリマスガ此點ヲ伺シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=40
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041・林頼三郎
○林政府委員 第一ノ御尋ノ陪審ノ答申ヲ採擇スル云々
ト云フ文字デアリマスガ、是ハ此陪審法ニ於キマシテハ、陪審
ノ答申ヲ可ナリト認ムレバソレニ基イテ判決ヲスルシ、可ナ
リト認メザレバ他ノ陪審ノ評議ニ付スル、斯ウ云フ趣意ニ
ナッテ居リマスノデ、其趣意ヲ明ニスル爲ニ、陪審ノ答申ヲ採
擇スルト云フ文字ヲ此所ニ揭グマシタノデ、ソレ以上ニ此文
字ニハ意味ハ無イノデアリマス、ソレ故ニ或ハ此文字ガ無ク
テモ、解釋トシテハ同樣ニ歸スルコトヽ考ヘマス、併ナガラ此
文字ガ有リマス方ガ其趣意ガ一層明ニナル、斯ウ云フ考デ
此法文ガ出來夕次第デアリマス、之レ有ルガ爲ニ疑ガ生ジ、
感ノ起ルト云フコトモナカラウト思ヒマス、矢張是デ法文ト
シテ適當デアルト考へテ居リマス、ソレカラ次ニハ陪審ノ答
申ヲ採擇シテ判決ヲスルト云フコトニナレバ、卽チ陪審ノ答
申ガ判決ノ基礎トナル、然ラバ結局陪審ガ裁判ノ一部ヲ行
フコトニ歸スルノデナイカ、斯ウ云フ御尋デアリマスガ、是ハ
先程モ申シタ通リサウ云フ關係ニハナッテ居リマセヌ、裁判
權ハ飽迄モ裁判所ガ行フ、陪審員ハ自己ノ評議ノ結果ヲ
答申スルニ過ギナイ其答申ガ裁判所ノ判斷ト一致スレバ
栽判所ガ裁判ヲスル、一致シテ居ラナケレバ更ニ他ノ陪審評
議ニ付スルノデ、裁判權ノ一部ヲ行フコトハ此法案ニ於テ
全ク認メテ居ラヌ、第一條ガ此法案ノ根本ノ精神ヲ現シテ
居ルノデアリマス、第一條ハ單ニ飾リニ置イタ次第デハナイ、
第一條ニ依シテ寧ロ他ノ法文ヲ解スベキモノデ、他ノ法文カ
ラ第一條ヲ逆ニ解スルト云フコトハ、此法案ノ精神ヲ見ル
所以デナイト考ヘマス、尙ホ第三ニハ陪審ノ答申ト云フモノ
ハ裁判所ヲ拘束シナイト、政府委員ハ言フケレドモ、或ル程
度ニ於テ拘束スルデナイカ、現ニ昨年ノ陪審法ノ委員會ニ
於テ、横田政府委員ハ事實上拘束力ヲ生ズルトカ、或ハ事
實ノ判斷ニ立入ルノデアルトカ云フコトヲ申シタト云フコト
デアリマスガ、或ハ橫田君ハサウ云フ說明ヲサレタカ知リマセ
ヌガ、ドウモ是ハ法律的ニ正確ニ言フト、サウ云フコトニハナ
ラヌト考ヘマス、横田君ハ政治家デスカラ、話ガ幾分カ大
雜把ニナッテ居ルト思フ、ドウモ法律的ニ中シマスト此法案
ハサウ云フ關係ニナッテ居リマセヌ、唯〓先程申シタ通リ拘束
ヲ受ケルト云フノハ、手續上拘束ヲ受ケルノデアリマシテ、内
容ニ付テハ拘束ヲ受ケナイ、其點ハドウゾ十分ニ御了解ヲ
願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=41
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042・高柳覺太郎
○高柳委員 自分ノ了解スルマデノ御答辯ヲ得ナイノハ
甚ダ殘念デゴザイマスガ、其邊ニ止メテ置キマス、更ニ御尋シ
タイノハ暫ク此法案ヲ離レル、此法案ヲ離レテ一般普通ノ
觀念デ陪審法ヲ考ヘテ見ル、陪審制度ナルモノヲ我國ノ栽
判制度ニ採用スルト云フコトハ憲法上ニ於テ差支ナイカ
否ヤ、此法案ヲ離レテ暫ク普通陪審制度ヲ考ヘテ、其陪審
制度ヲ採用スルト云フ場合ニ於テ、違憲ノ疑ヲ來スコトナ
イカ否ヤ、斯ウ云フコトヲ承リタイ、ソレデ陪審員ハ事實ノ認
定ヲスルモノデアル、單純ニ裁判官ノ手ヲ離レテ事實ノ判斷
ヲスルモノデアル、斯樣ニ前提ヲ置キマスレバ、ンレハ裁判デ
アルトカ、陪審員ノ判斷ハ裁判デアルカラ、憲法ニ違反スル
ト云フ大體ノ解釋ヲ採ルト云フコトニ承知シテ居ル譯デア
リマスカラ、今其事實ノ判斷ヲ陪審セシムルト云フ、其制度
ヲ採用セントスル場合ニ於テ、卽チ斯ウ云フ新規發明ノ御
案ニ非ズシテ、泰西ニ今現在行ハレテ居ル所ノ制度其物ヲ
其儘ニ採用スル場合ニ於テ、是ガ憲法上ノ違反トナルヤ否
ヤ、斯ウ云フコトヲ伺ヒタイ、ソレカラ若シソレガ泰西ノ陪審
制度ヲ其儘採用スルト云フ場合ニ於キマシテ憲法上ノ嫌
アリトセバ、其憲法上ノ嫌ヲ避ケルニ付テ、ドウ云フ方法ガ
アルカト云フコトニ付テ御考ヲ伺ヒタイ、憲法ノ五十七條
デアリマスカ、五十八條デアリマスカ、此憲法ノ主義ニ反セ
ザル程度ニ於テ、陪審員ト云フ裁判官ヲ設ケル所ノ立法ノ
仕方ガアルデナイカ、甚ダ而倒デスガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=42
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043・鵜澤總明
○鵜澤委員長 一寸高柳君ニ御尋シマスガ、今ノ泰西ノ
陪審制度ト云フト、陪審制度モ御承知ノ如ク英吉利ニモ
アリ、佛蘭西ニモアリ、獨逸ニモアル、名ハ色々ニナッテ居ル、
其中ノ御考ハアタノハ何所ヲ指スノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=43
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044・高柳覺太郎
○高柳委員 一般共通デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=44
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045・鵜澤總明
○鵜澤委員長 共通デナイ、所々デ違っテ立法シテ居ルノガ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=45
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046・高柳覺太郎
○高柳委員 大體事實ヲ判斷スル、其事實ノ有無トカ罪
跡ノ有無発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=46
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047・鵜澤總明
○鵜澤委員長 ソレヲ判斷トシテ居ルモノヲ、陪審制度ト
シテ採用スル場合ニト云フノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=47
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048・高柳覺太郎
○高柳委員 左様デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=48
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049・林頼三郎
○林政府委員 此法案以外ノ事ニ付テ、政府委員トシテ
御答シテ宜イカドウカ問題ダト思ヒマスガ、併シ御尋デアリ
マスカラ一應私トシテノ意見ヲ申上テ見タイト思ヒマス、
只今委員長カラモ御話ガ一寸アリマシタガ、歐羅巴流ノ陪審
制度ト申シテモ一樣デハナイヤウデアリマス、大體ニ於テ所
謂普通ニ申ス陪審制度、ンレカラ參審制度、斯樣ナ事ニ大
體分レテ居リマス、ソレカラ又普通ノ陪審制度ニ於テモ、陪
審員ノ權限ト云フモノガ單ニ事實ノミニ付テ判斷スルノト、
罪貴ニ付テ判斷スルノト分レテ居"マス、サウ云フ制度ヲ日
本ニ其儘持ッテ來テハ、憲法ニ反スルカドウカト云フ御尋デ
アリマスガ、參審制度ハ御承知ノ通リ、專門ノ裁判官ト素
人ガ相合シテ一ノ部ヲ構成スル、卽チ專門家ト素人ガ團體
ヲ作リ、其團體ニ於テ栽判權ヲ行フト云フコトニナリマスヽ
是ハ事實問題モ法律問題モ其部ニ於テ決スル次第デアリ
マス、是ハ憲法ニ於テ司法權ハ裁判所之ヲ行フ、斯様ナ主
意ニ明白ニ反スルコトニナリマス、故ニ素人ガ純粹ニ裁判
權ノ一部ヲ行フト云フ參審制度ハ我國ニハ行ハレナイ、普
通ノ陪審制度ニシテモ、罪責ノ問題ヲ陪審員ガ決定スルコ
トニナリマスト、陪審員ハ單ニ事實問題ニ關係スルノデアリ
マセヌカラ、是モ帝國憲法ニ反スルコトニナルト思ヒマス、唯マ
殘ル所ハ事實問題ノミヲ判斷スルト云フ斯樣ナ制度ガ、日
本ノ憲法トドウ云フ關係ニ立ツカト云フト、憲法ニ於テ司法
權トカ裁判トカ云フ言葉ノ中ニ事實ノ認定ガ含ンデ居ルカ
ドウカ、裁判ト云フノハ法律ノ適用ノミヲ謂フノデアルカ、斯
樣ナ問題ノ解決如何ニ依ッテ憲法トノ關係ガ解決サレル譯
デアリマス、若シ裁判ト云フモノガ法律ノ適用ノミデ、事實
判斷ハ入ラヌト云フコトニナリマスレバ、事實ノ有無ヲ判
斷スルニ止マル陪審員制度デアレバ、憲法ニハ反シナイト云
フコトニナルガ、帝國憲法ノ栽判ノ中ニハ事實ノ判斷モ入ル
ト云フコトニナレバ、事實ノ判斷ノミノ陪審制度モ憲法ニ違
反スルト云フ結果ニナラウト思ヒマス、然ラバドノヤウニヤッタ
ラ憲法ニ反シナイカト云フト、此法案ノ如キモノデアレバ少
シモ憲法ニ反シナイ、併シ本案ハ憲法ニ反シナイコトノミヲ
期シテ立法シタノデハナイト云フコトハ、度々申シタ次第デア
リマスガ、此案ノ如キモノデアレバサウ云フ點ノ疑ハ更ニ起リ
マセヌ、且ツ實際ニ鑑ミテモ此法案ハ國情ニ合スルモノト云
フ確心ノ下ニ提案シタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=49
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050・高柳覺太郎
○高柳委員 是レ以上ハ意見ニナリマスカラ止メマスガ、
尙ホ一ツ伺ヒタイノハ事實ノ認定ヲスル陪審制度トシテ、其
陪審ニ於テハ結局現在ノ司法當局ノ解釋デハ、裁判ノ中ニ事
實ノ認定モ入レルト云フコトヲ前提トスレバ憲法違反デア
ルト云フ、其違反ヲ避クル方法ハ無イカト云フコトヲ伺ヒタ
イノデアリマス、尙ホ申シマスレバ此陪審員ヲ裁判官ニス
ル-憲法ノ所謂裁判官トスル、法律ノ規定ヲ以テ裁判官
ニスルト云フコトニスレバ何モ違反ニナル譯ハナイト思フ、併
シ斯樣ナ陪審員ヲ裁判官トスルト云フ法律上ノ規定ハ甚ダ
ムヅカシイ問題ト思ヒマスガ、ソレガ絕對不可能トナレバ意
見ハアリマセウガ、若シ法律ノ規定ヲ以テ裁判官ニスルト云
フ規定ガ出來レバ、是ニ於テ違憲ヲ避ケルコトガ出來ルト思
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=50
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051・林頼三郎
○林政府委員 無論陪審員ヲ裁判官トシテ、其裁判官ガ
栽判所ヲ組織シテ裁判權ヲ行フコトニスレバ憲法ニ反シマ
セヌガ、ソレデハ陪審制度ノ本旨ニ反スルコトニナルト考ヘマ
ス、苟モ裁判官ト云ヘバ官吏デアリマスカラ、任命ノ形式ニ
依シテ之ヲ採用シナケレバナラヌ、サウスルト所謂官吏ノ裁判
ニナルノデアリマス、陪審制度ハサウデハナクシテ、一般ノ人
民ガ裁判手續ニ關與スルト云フコトガ根本ノ精神デアッテ、今
御話ノヤウナ方法ニスレバ、憲法ニ反シナイ代リニ、陪審制
度ノ根本ノ精神ニ反スルコトニナラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=51
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052・高柳覺太郎
○高柳委員 尙ホ伺ヒマスガ、此陪審制度ハ憲法ニ大ナル
關係ヲ持ツモノデ、我ガ帝國憲法制定當時ニ於テモ、此陪
審制度ハ必ズ問題ニナッタコトヽ思フ、現ニ泰西ノ憲法ニハ
明ニ此陪審制度ノ規定アルコトヲ見受ケルノデアリマス、又
或ハ陪審制度ヲ謳歌スル論者ハ、常ニ立憲政治ノ本旨デア
ルトカ、立憲政治ノ定義ト云フコトヲ言ハレテ居ルノヲ見テ
モ、憲法ニ大關係ヲ有シテ居ルコトガ窺ヒ知ラルヽノデアル、
現ニ泰西ノ憲法ニハ陪審制度ヲ採用スルコト、或ハ國民ハ
陪審ノ裁判ヲ受クルノ權利アルコトノ明ナル規定ガアル、然
ルニ我ガ帝國ノ憲法ニハ、陪審制度ニ關スル規定ガ何モ無
イ、私ハ此憲法制定當時ニ於ケル立法者ノ意思ヲ忖度シ
テ、我ガ帝國ノ憲法デハ陪審制度ヲ認テ居ラヌ、認メテ居ラ
ヌカラ、此憲法ニ何等ノ規定ガ無イト云フコトガ推論サレル
ヤウニ思フ、國法トシテ陪審制度ヲ採用スル意思アリトスレ
バ憲法制定當時ニ於テ必ズヤ其事ガ憲法ノ條規ノ上ニ現
レナケレバナラヌ、立憲政治ノ本旨トカ定義デアルト云フヤ
ウナ重大ナル問題ガ、憲法ノ規定ニナケレバナラヌ筈デアル、
而モンレガ憲法ノ條規ニ入レテナイノハ、其當時ノ憲法起
草者ノ頭ノ中ニハ、此陪審法ハ我國ニ於テ採用スベキモノ
デハナイ、陪審制度ヲ否認シテ居タモノデアルト考ヘルノデア
リマス、陪審制度ハ既ニ泰西ニ於テハ舊クカラ行ハレテ居ル
法律デ、我國ニ於テモ既ニ明治ノ初年ニ於テ詰ラヌ規則デ
アルガ、ソレニ類シタモノガアリ、又「ポアンナー」ナドノ治罪法
ニ於テモ陪審制度ヲ明ニ規定シテ居ルノデアル、其治罪法
ニ明ニ規定シテアル一部ヲ何故ニ削ラレタカト云フト、マダ
時代ガ早イ、所謂尙早イト云フノ理由ヲ以テ、此陪審制度
ハ廢棄サレタヤウニ承知シテ居リマス、是ハ明治十五年デア
リマス、ソレカラ數年ヲ經テ明治二十一年カラ二年ニ亙リマ
シテ、今ノ帝國憲法ヲ制定シマス場合ニ於キマシテ、此司法
權ヲ憲法ノ條規ノ上ニ現ス場合ニ於テ、陪審制度ヲ如何ニ
スルカト云フコトハ、當然此立法者ノ頭ニアッタ譯デアリマス、或
ハ其記錄ナルモノガ、司法省デハ御取寄ニナルカ何カノ方法
デ調ベマシタコトヽ私ハ思ヒマス、若シ其御調ガアリマスレバ
ソレモ序ナガラ伺ヒタイ、斯樣ナ譯デ憲法制定當時樞密院
ノ會議ニハ、確ニ此問題ガ上ノタモノデアルト思フ、樞密院ノ
會議ノ問題ニ上ッタケレドモ、我ガ帝國デハ此陪審制度ヲ採
用スベキデナイ、此帝國憲法ノ條規カラ云ヘバ、確ニ陪審制
度ヲ採用シナイト云フコトヲ豫定シテ、此憲法ノ條規ガ出
來タヤウニ私ハ思フ、尙ホ左樣ニ信ジマスル所ノ理由ハ澤山
アルト思フ、憲法ノ起草者デアリマス所ノ伊藤公ノ憲法義
解ヲ見マシテモ、憲法制定ノ精神ノ在ル所ヲ十分ニ言ハレ
テ居ル、サウシテ先年屢、問題ニナッタ司法官ノ退職トカ、或
ハ轉職、一昨年尙ホ制定シマシタ停年法、是等モ憲法ヲ表
面カラ勝手ニ解釋シマスト、是モイケヌデハナイカト云フ疑ガ
起リマスケレドモ、退職、轉任、或ハ停年法ノ適用、是等モ總
テ伊藤公ノ憲法義解ノ中ニハ其事モ說明サレテ居ル譯デア
リマス、此所迄ニ憲法ノ制定者ハ-起草者ハ非常ニ司法權、
殊ニ裁判ノ制度ニ付テ苦心サレ熟考サレ、サウシテ將來ニ
涉ル事迄モ明ニ說明サレテ居ル譯デアリマス、此憲法義解
ヲ能ク繙イテ考ヘマスト、吾々ノ考カラ申シマスト云フト、憲
法ヲ制定スル當時ハ全然陪審制度ヲ否認シテ居ル、斯樣ニ
認メラルヽト考ヘマス、之ニ付キマシテ何等カノ御考ガアリマ
スレバソレヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=52
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053・林頼三郎
○林政府委員 陪審制度ノ事柄ハ、歐羅巴ノ憲法ニ於キ
マシテモ必ズシモ書イテアルノデナイ、憲法ニ規定シテアル國
モアリマスシ、規定シテナイ國モアリマス、サウシテ規定シナイ
國デモ陪審制度ヲ行ッテ居リマス、是ハ御永知ノ通リデアリ
マス、ソレデ必ズシモ憲法ニ規定ナキ故ニ、陪審制度ヲ否認
スルト云フコトニハ申セヌト思ヒマスガ、併ナガラ陪審制度ヲ
立テル色とノ調査ヲシマシタ時ニ、憲法制定當時ドウ云フ
考ガアッタノデアルカト云フコトヲ參考ニスルコトハ必要ト考
ヘマシテ、此點ハ憲法制定當時ノ記錄關係書類ヲ十分ニ
調ベマシタガ、陪審制度ノ可否ニ付テノ點ハ記錄ニハ全ク
遺ッテ居リマセヌ、是ハ實ハ何カ其當時ニ於テ論ガアッタノデ
アラウト云フコトヲ私共ハ考ヘテ居ッタガ、記錄ノ全ク無イノ
ハ實ハ意外トスル所デアッタ、ソレデ憲法制定ノ事ニ關係シ
夕人ニ就テ段々ト問合セタノデアリマスガ、陪審制度ノ事ハ
其當時座談ニ上ッタ、併ナガラ其陪審制度ハ欧羅巴デ行ハ
レテ居ル陪審デアッテ、本案ノ如キ陪審デナカッタコトハ間違
ガナイ、歐羅巴流ノ陪審制度ノ話ガアッタ、併ナガラソレガ正
式ニ議トナッテ、日本ニ採ルカ採ラヌカト云フコトハ定シテ居
ラヌ、憲法ガ全クソレニ觸レテ居ラヌ、要スルニ社會ノ變遷ニ
從ァテ適當ニ左樣ナ事ハ處置スル考デ、憲法ニ現レナカッタラ
シイ、是ハ想像デアリマス、記錄ニハ全クゴザイマセヌ、其點ダ
ケヲ申シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=53
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054・清瀬一郎
○〓瀨一郎君 私モ二三御尋ヲシタイ、其第一ハ直接審
理ノ點デアリマス、是モ先刻原君ヨリ御質問ニナリマシタ事
ニモ牽聯シマス、陪審裁判ガ比較的良キ結果ヲ現スト云フ
コトハ色〓ノ理由モアリマセウガ、私ハ嚴格ニ直接審理ヲヤ
ル、其故ニ證據ノ誤認ガ無イカラシテ安全デアル、斯ウ私ハ
考ヘテ居リマス、沿革カラ申セバ、其國々ノ歷史ニ依ッテ、色
色ナ事情カラ陪審ト云フモノガ發生シテ居ルト云フコトハ
歴史ヲ見テ承知ヲシテ居リマスガ、古キ沿革ハサテ措テ、只
今ノ社會トシテ陪審制度ガ相當稱讃ヲ博シテ居ルコトハ、
裁判ヲスル事實ノ認定ハ陪審員ガ目ノ前デ聞イタ眞實ノ
事、之ガ私ガ陪審制ノ效ヲ奏スル一番ノ要點ノヤウニ陪審
裁判ヲ見テ感ジタ、随テ英吉利ナドデハ、日本デ謂フ前科調
書ノ如キモノデモ書面デ證明スルニ、矢張人證デ以テ、其人
ガ前ノ前科人ト同一デアルヤ否ヤ、及如何ナル前科ガアッタ
ト云フコトマデモ、帳簿ノ上或ハ索引デ以テ調ベルト云ンコ
トニヤッテ居ルヤウニ思フノデアリマス、然ルニ北案ヲ拜見致
シマスルト第七十二條ニ主ニ關係致シマス、尤モ此七十二
條ニ昨年改正ニナリマシタ刑事訴訟法ノ三百四十三條、
是モ牽聯スルコトヽ思ヒマス、此七十二條ノ公判準備手續
ニ於テ調ベタル證人訊問調書、卽チ其所ニ居ル陪審官ガ調
ベタノデナク、他ノ場所ニ於テ他ノ人ガ訊問シタ調書ヲ陪審
裁判ノ基礎トスルコトハ、如何ナル必要ガアッタモノデアリマ
セウカ、我國ノミ特別ナル事情ガアッタノデアリマセウカ、ソレ
カラシテ此訊問調書ヲ陪審裁判ノ根據トスルニハ陪審員
ニ請ンデヾモ聽カセルノデスカ、廻覽カ閲覽ヲサセルノデアリ
マスカ、是ハ事實問題デアリマスガ、ドウ云フ風ニスル御考デ
アリマスカ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=54
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055・林頼三郎
○林政府委員 御話ノ通リ陪審制度ニ於テハ、直接審理
ハ大切ナ原則デアルト存ジマスノデ、本案ニハ直接審理ノ原
則ヲ採ルコトハ明ニシテ居リマス、ソコデ公判準備手續ニ於
テ調ベタ所ノ證人ノ訊問調書ヲ證據トスルノハ、適當デナイ
ト云フ御意見ノヤウデアリマスガ、公判準備手續ニ於テハ、
原則トシテハ證據ノ準備ヲスルダケデアッテ、證人訊問ト云
フヤウナコトハ致シマセヌ、唯、例外ノ場合-實際上已ムヲ
得ザル場合ニ於テノミ證人ノ訊問ヲスルノデス、而シテ本案
ノ中ニ公判準備手續ニ於テ、證人ヲ如何ナル場合ニ訊問ス
ルカト云フ規定ガ無イノハ、是ハ普通法タル刑事訴訟法ノ
規定、卽チ同法第三百二十六條ニ依ルノデアリマス、例へ
バ證人ガ非常ニ病氣ガ重イトカ其他ノ理由デ公判期日ニ
出テ來ラレナイトキニハ直接審理ノ原則ヲ徹底スルト證據
ニスルコトヲ得ナイ、是デハ實際上困ル、ンコデ斯ウ云フモノ
ハ例外トシテ公判準備手續中ニ訳問ヲ許スノデ、是ガ陪
審手續ニ於テモ同ジ必要ノ程度ニ於テ現レテ來ルノデアリ
マス、ソコデ公判準備ノ手續ニ於テハ辯護人モ檢事モ立會
シテ調ペヲスル、斯ウ云フ關係ニナル、公行ハ致シマセヌケレ
ドモ、併ナガラ其調書ノ眞確ニ付マノ保障ハ十分アルコトニ
ナッテ居リマス、斯ウ云フ次第デアリマスカラ、此調書ヲ證據
トスルコトハ、敢テ不當デアルマイト云フ考カラ、此法案ガ出
來タノデアリマス、然ラバサウ云フ調書ヲ證據トスル場合ニ
於テ、陪審員ニドウ云フ方法デ知ラセルカ、是ハ一般刑事訴
訟法ノ原則ニ於テ證據トスル場合ニハ、朗讀シテ內容ヲ知
ラセルコトニナッテ居リマス、矢張陪審デモ其手續デ進行スル
ノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=55
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056・清瀬一郎
○〓瀨委員 今ノ御答ニ依ルト非常ニ稀レナ場合デ、公判
準備手續デ訊問スルノハ例外デアルト云フ御說明デアリマシ
タ、私モ左モアルベキ事デアラウト思ヒマス、是ガ例外デナク
シテ、丁度今ノ豫審調書ノヤウニナッテ、ソレヲ訟廷ニ持フテ
來ラレテハ怪シカラヌ話デ、陪審制度ノ根本ハ殆ド覆サレル
ト思フノデアリマスガ、若シ例外ナラバ其規定ヲ置ク必要モ
ナカラウト思ヒマス、ソレハ死掛ケテ居ルヤウナ證人ヲ訊問シ
タ場合ノ調書ハドウ云フ抜ニナルカト云フト、刑事訴訟法ノ
第三百四十三條ニ依フテ、供述者死亡シタルトキハト云フノ
デ證據タルコトヲ許シテ居ル、尤モ此證據ノ規定ヲ陪審手
續ニ直ニ準用シ得ルカドウカハ-準用規定ガ要ルカドウカ
ハ疑問デアリマス、若シ政府委員ノ言ハルヽ通リニスルト刑
事訴訟法デ足リルノデハナイカ、若シ之ニ入ラヌトシテモ、陪
審デモ供述者死亡シタトキト云フ制限ヲ付スルノハ當然デ
ナイカ、人權ヲ保護スル陪審デアリマスカラ、斯ノ如キ間接
證據ハ例外トシテ、供述者ガ死亡シタラ陪審ニ喚ビ出スコ
トノ出來ナイ場合ト云フヤウニ爲サラナイト、折角陪審ヲセ
ラレテモ其效果ヲ舉ゲルコトハ出來ナイト田心ヒマス、八年モ
十年モ經クテモ效果ガ舉ラヌト云〓テ陪審ヲ否認スルヤウナ
議論ガ起レバ、吾々ノ責務トシテンレハ困ルノデアリマス、旣
ニ陪審ヲ施イタ以上ハ、通常ノ裁判ヨリモモット良イ構造ヲ
設ケテ置キタイト思フノデアリマス、如何デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=56
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057・林頼三郎
○林政府委員 大部分御意見デアリマシタガ、私共ノ考トハ
違フノデアリマス、準備手續ニ於テ調ベル場合ハ、豫審ヤ何カ
ノ調ト違フノデ、準備期日ニハ被告人モ辯護人モ出ル、卽チ
訴訟關係人ガ立會フコトニナッテ居リマス、唯〓一般公衆ガ
入っテ居ラナイ丈ノ違ヒデアリマス、訴訟關係人カラ申セバ、
先ヅ確カデアルト云フ點ハ十分ニ保障サレテ居ル、且ツ之
ガ頻繁ニアルモノデモナイ、隨テ之ガアルカラ、陪審手續ノ土
臺ガ壞レルト云フ程ノ大キナ問題デモナイト思ヒマス、故ニ
此手續ニ於ケル訊問調書ハ證據トアルコトハ差支ナイト思
ヒマス、要スルニ直接審理主義ヲ何所迄徹底スルカト云フ
意見ノ相違デアルト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=57
-
058・清瀬一郎
○〓瀨委員 此點ハ政府委員竝ニ特別委員諸君ノ御考
慮ヲ煩スト云フコトニシマシテ、次ノ質問ニ移リマス、ソレハ
法規ト云フヨリモ政府ノ御見込ヲ伺フノデアリマス、第百七
條ニ關係スルノデスガ一體此制度デハ陪審ト云フモノヽ法
定陪審デモ被告人ハ辭スルコトガ出來ル、任意陪審デモ請
求スルバ附ケルコトガ出來ル、要スルニ言ノ上ノ相違デ大同
小異デアル、サウスルト陪審ヲ請求スルカシナイカノ決心ハ
何ニ依ヲテ起ルカト云フト、陪審ヲ請求スレバドレ丈ケ金ガ
掛ルカト云フコトニナル、法定陪審デモ金ガ澤山掛レバ止メ
テシマウ、任意陪審ニモ金ニ絲目ノ無イ者ハ陪審ニヤル、斯
ウ云フコトニナルノデアル、已ムヲ得ズシテ作ッ夕法案デアリマ
スケレドモ、此法案ノ已ムヲ得ザル缺點デアリマス、私ハ其方
針ヲ執ラレタコトヲ咎ムルノデハナイガ、大體法定陪審デモ、任
意陪審デモ、結局陪審ヲ依賴スルト云フコトハ金ノ問題ニ
關係スル、今ノ世ノ中ノ風潮ハ、有產階級特權階級ガ利益
ヲ受ケル、無產階級ガ不利益ヲ受ケルヤウナ事ガ多イノデア
リマスケレドモ、私ハ所謂世間ノ政論家ノ口吻ヲ眞似テ無
產階級ノ利益ノミヲ濫リニ言フノデハアリマセヌケレドモ、免
モ角モ其邊ニ關係ノアルモノト思ヒマス、經濟上ノ不平等ハ
已ムヲ得ヌトシテモ、自由競爭ノ結果、法律ノ下ニ於テ此不
平等ヲ攻撃スルト云フコトハ愼ムベキ事デアリマスガ、犯
罪人ヲ捕ヘテ裁判所デ裁判ヲ受ケネバナラヌノニ、陪審ト云
フ國ノ制度ガアッテ裁判ヲスルト云フ事デアルナラバ陪審ヲ
シテ貰ラッタカラト云ッテ、其金ヲ犯罪人カラ取立テルト云フ
コトハ可笑シイ、ンコデ私ノ此疑ハデス、百七條ニハ「第三條
ノ場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ爲ストキハ其ノ全部又ハ一部ヲ被
告人ノ負擔トス」ト斯ウゴザイマスガ陪審ト云フコトデハ金
ガ要ルト云フ積リデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=58
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059・林頼三郎
○林政府委員 陪審員ヲ一度喚ブニドノ位掛ルカト云フ
コトハ、今明白ニハ御答致シ兼ネルノデアリマス、是ハ今日モ
旣ニ攻究致シテ居リマスガ、陪審法案通過ノ上ハ具體的ニ
之ヲ定メル必要ガアリマスガ、成ダケナラバ陪審員トシテ出
頭スルノハ國民ノ義務デアルト云フ考ニ基イテ、成ベク費用
ハ餘リ要求シテ貰ヒタクナイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、併ナ
ガラ相當ノ旅費デアルトカ、或ハ日當等モ、申スマデモナク一
定ノ額ト云フモノハ給與スルコトガ必要デアラウ、泊ルヤウナ
トキハ宿舍ヲ建テル豫定ニナッテ居リマスカラ、費用ノ給與
ハ要ラヌノデアリマス、ドノ位掛ルカ見當ハ付キマセヌガ、成
ベタ給與スル額ハ少ナイ程度デ、陪審員ハ義務觀念デシテ
貰ヒタイト云フ考デ居リマス、其額ト云フコトハ御答致シ兼
ネマス、而シテ此法案ニ於テ陪審費用ヲ斯ノ如ク致シタト
云フノハ詰リ法定陪審ト云フノハ比較的重大ナ事件デアツ
テ、任意陪審ノ方ハソレヨリ輕イモノデ、請求ヲ待ッテスルノ
デアリマシテ、一方ハ消極的ニ辭スルコトガ出來ルノデアルガ、
一方ハ進ンデ請求スルト云フ積極的ノ性質ヲ持ッテ居ルカ
ラ、餘程違フ所ガアルノデアリマスガ、免ニ角、法定陪審ハ辭
スルコトガ出來ル請求陪審ノ方ハ進ンデヤッテ貰ハウト云フ
コトニナリマスカラ、其關係ニ於テ費用ノ負擔ノ關係ガ違ツ
テ來テモ、決シテ不合理ナ事ハナイト考ヘマス、殊ニ請求陪
審ト云フ方モ全部負擔スルト云フ譯デナイ、全部又ハ一部
ト云ンコトニナッテ居リマス、殊ニ〓瀨君ノ質問ノ中ニ、陪審
ト云フモノハ裁判所構成ノ一部デアレバ、國庫ノ負擔ト云
フコーモ考ヘナケレバナラヌト云フコトモ一理アル事ト考ヘマ
スガ、此陪審法案デ裁判所ノ構成ニ入ッテ居ラヌカラ、其關
係トハ別ニシナケレバナラヌコトヽ考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=59
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060・清瀬一郎
○〓瀨委員 此法案全部ニ就テ意見ヲ申スト云フコトハ
餘程長ク掛ルト思ヒマスカラシテ、質問終了マデニ大體ノ見
込ダケヲ承ッテ置キタイト思ヒマスガ、此費用ハ全部負擔サ
セルト大變デスカラ、初メカラ半額位ヲ負擔サセルコトニ定
メタイト考ヘマスカラ、相當ノ見込ガ付ケバ卽問卽答デハ困
リマセウカラ、尙ホ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ少
シ文字ニ關係スルヤウナ事デアリマスケレドモ、初メカラ順次
ニ少シ伺ッテ見タイト思ヒマス、第四條ノ三號ニゴザイマス
「軍機保護法、陸軍刑法又ハ海軍刑法ノ罪其ノ他軍機ニ
關シ犯シタル罪」ト斯ウアリマス、此終リノ「其ノ他軍機ニ關
シ犯シタル罪」ト云フノハ是ハ何デアリマスカ、是ハ通常ノ竊
盜トカ、或ハ歐打トカ、詐僞トカ云ッテモ、其犯罪ノ實質ガ軍
機ニ關スルト云フ場合ヲ言フノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=60
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061・林頼三郎
○林政府委員 サウ云フ意味デハアリマセヌノデ「軍機ニ
關シ犯シタル罪」ト云フノハ、軍機ノ祕密ヲ法益トスル罪ト
云フ積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=61
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062・清瀬一郎
○〓瀨委員 サウ、スルト軍機保護法ト別ニ視テアリマセ
ヌ、ソレノ犯罪ト云フコトガ分リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=62
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063・林頼三郎
○林政府委員 軍機保護法ト云フ法律ガアル、其他軍機
ノ保護ヲ目的トスル規定モアラウ、ソレヲ一々其法律ノ條文
ナドヲ揭ゲルト云フコトハ適當デナイ、尙ホ又將來ニ於テモ
軍機ニ關スル法規ガ制定サレル場合モアリマスカラ、斯ノ如
ク定メテ置ク方ガ適當デアラウト斯ウ云フコトデ致シマシタ、
現行法デハ多分徴發令ニ軍機ニ關スルモノガアッタカト記
憶シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=63
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064・清瀬一郎
○〓瀨委員 今一々覺エテ居リマセヌガ、徴發令、アレニモ
軍機ニ關スル事ガアルヤウデアリマス、アヽ云フモノデ議論ニ
ナルヤウナコトハアリマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=64
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065・林頼三郎
○林政府委員 是ハ別ニ差支ハナカラウト思ヒマス、サウ
問題ニナルヤウナ事ハアルマイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=65
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066・清瀬一郎
○〓瀨委員 吾々ハ裁判所ニ於テ疑問ニナッテ頭ヲ捻ルヤ
ウナ事ガアラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=66
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067・林頼三郎
○林政府委員 ソレハ調ベガ付キマスレバ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=67
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068・清瀬一郎
○〓瀨委員 徵發令ニ軍機ノ爲ニト云フコトガアルヤウニ
記憶シテ居リマス、ソレカラ第七條ノ但書ニ「共同被告人
中公訴事實ヲ認メサル者アルトキハ此ノ限ニ在ラス」トアリ
マスガ、今ノ遣方デハ大キナ事件ニナリマスト、犯罪ノ實質ナ
リ內容ナドガ違クテモ共同被告ニシテ居ル、甲ト乙トガ犯罪
ガ牽聯シ、乙ト丙トガ犯罪ガ牽聯スル場合ニハ、甲ト丙トハ
牽聯ガ無イノニ、共同被告トスルコトニナッテ居リマスガ、此
但書デモ宜シイデアリマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=68
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069・林頼三郎
○林政府委員 是ハ共犯關係アル被告人ノ意味デ書イタ
ノデアリマス、併シ是ハ「共犯」ト書イテハ共犯ハ必シモ一ツ
ノ手續デ審理サレルモノデアリマセヌカラ、矢張「共同被告
人」ト書カヌト却テ害ガアルト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=69
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070・清瀬一郎
○〓瀨委員 私共ノ扱ッテ居ル事件ノ中ニ、二十人モ被告
人ノアルノガアリマスガ、是ナドハ始メノ被告人ト終リノ方ノ
被告人トハ、犯罪ノ性質モ場所モ違フテ居ルノガアルノデス、
之ヲ共同被告人トシテ、一方ガ公訴事實ヲ認メヌカラト云ム
テ、自白ノアル者ニ付テモ陪審ガイケルトカイケヌトカ云フコ
トハ、無理ナ事デハナイカト思ヒマス、ソレカラ八條、九條、是
ハ誤解シテ居ルカ分リマセヌガ、第八條ノ第一項ニ是ハ管
轄移轉ノ規則デスガ、此法案デハ管轄移轉ノ請求ハ被告
人ニハ出來ズニ、檢事ノミニ出來ルト云フノガ八條ノ原則デ
「檢事ハ直近上級裁判所ニ管轄移轉ノ請求ヲ爲スコトヲ
得」トアリマスガ、檢事一體ト云ッテ實際今ハ一體デオヤリニ
ナッテ居ルノデ、檢事長モ檢事正モ一ツデアリマス、サウスルト
九條ニ持ッテ行ッテ、第一一項ノ「管轄栽判所ノ檢事ヲ經由ス
ヘシ」ト云フノハ檢事ガ自分デ出シテ自分ノ所ヲ經由スル
ヤウニナリマスガ、是デ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=70
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071・林頼三郎
○林政府委員 是ハ前年ニモ質問ガアリマス點デアリマス
ガ、八條ノ一項ノ檢事ト云フノハ、無論第一審裁判所ノ檢
事ノ意味デアリマス、九條ノ方ハ管轄栽判所、卽チ直近上
級裁判所ノ檢事ヲ意味スルコトニナルノデス、大〓法文ノ
書方ハサウ云フヤウニナッテ居ルヤウニ考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=71
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072・清瀬一郎
○〓瀨委員 末項ニ更ニ「管轄裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽
キ決定ヲ爲スヘシ」ト云フノハ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=72
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073・林頼三郎
○林政府委員 是ハ第一審ノ檢事カラ請求ヲシマシテヽ
請求書ヲ管轄裁判所ノ檢事ヲ經由シテ管轄栽判所ニ出
ス、サウシテ管轄裁判所ハ之ヲ裁判スル場合ニ、其裁判所ノ
檢事ノ意見ヲ聽クコトガ必要デアル、是ダケノ意味デアリマ
シテ、第一裁判所ノ檢事ノ意見ノミニ依ラズニ、其裁判所
ノ檢事ノ意見モ聽イテヤレ、斯ウ云フコトニナリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=73
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074・清瀬一郎
○〓瀨委員 御趣意ハソレデ分リマシタ、私ノ考デハ檢事
一體トシテ檢事ガ出シタルモノヲ、檢事ガ意見ヲ附ケルト云
フコトハ重複ノ手續ノヤウニ考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=74
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075・原夫次郎
○原委員 一寸議事ノ進行ニ付テ-之ヲ條ヲ拾ッテ
質問ヲスルト云フコトニナレバ、其拾ハレタ條ノ中デ矢張各
自ニ質問シタイ事ガアルノデスガ、ソレハドウ云フ風ニ調和
ヲ圖ッテ戴ケマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=75
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076・鵜澤總明
○鵜澤委員長 條文ガ簡單デスカラ成ベク全體ノ質問デ、
各條質問ハヤッテモ極ク簡單ニスル積リデス、今ノハ文字ヲ
聽カレテ居リマスガ、全體質問ノ積リデスガ、之ニ付テ特ニ
關聯スル質問ガアレバオヤリニナッテモ宜イノデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=76
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077・原夫次郎
○原委員 此八條ニ就テデアリマスガ、是ハ慥カ、前回ニ於
テモ色ニ議論ノアッタ條文デアッテ、其議論ノ焦點ハ地方ノ狀
況ニ依ッテ陪審ノ評議ガ公平ヲ失スルノ虞ガアルトキニハ、
檢事ハ直近上級管轄栽判所ニ管轄移轉ノ請求ヲ爲スコト
ガ出來ル、是ハ檢事ダケニ許ス規定ニナッテ居ルガ、被告人ニ
ハ許ス規定ヲ何故此ニ置カナイカト云フ質問ガ續發セラレ
夕場合ニ、林政府委員ノ意見ニ依ルト、ソレハ矢張被告人
ニモ許スノダ、ソレハ何デ許スカト云ヘバ此條文ニハサウ云フ
規定ガナクテモ、刑訴ノ規定デ矢張許スコトニナルノダト云
フコトニ私ハ記憶シテ居リマスガ、其點ハ矢張前囘ノ通リデ
アリマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=77
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078・林頼三郎
○林政府委員 サウ云フ御答ヲシタコトハアリマセヌ、被告
人ニハ許シマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=78
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079・清瀬一郎
○〓瀨委員 十二條第三號ニ「直接國稅三圓以上ヲ納
ムルコト」ト云フコトガアリマシテ、直接國稅ノ種類ハ百十四條
デ勅令ヲ以テ定ムルト云フコトニナッテ居リマス、直ニ發布サ
レル法律デアリマスカラ、此直接國稅ノ種類ハ見當ガ付イテ
居ラウト思ヒマスガ、矢張選擧法ナドニアリマス地租、所得
稅、營業稅ト云フ御考デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=79
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080・林頼三郎
○林政府委員 是ハ追テ勅令案ヲ立案シマストキニ、十分
ニ攻究ヲスル筈デアリマスカラ、今明確ニ責任ノアル御答ヲ
スルコトハ出來ヌノデアリマスガ、併ナガラ大體ニ於テ此選擧
法附屬ノ勅令等ニ定メテアル、アヽ云フモノガ標準トナルコト
ダケハ御答シテ置イテモ差支ナイカト考へマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=80
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081・清瀬一郎
○〓瀨委員 サウナルト是モ餘程御考慮ヲ頴ハナケレバナ
ラヌノハ幾ラ勅令デ定メテモ、國稅デナイモノヲ國稅ナリト
認定スル譯ニハ行クマイト思ヒマスガ、今世ノ中ノ形勢ハ、
地租モ營業稅モ地方ニ委譲サレルヤウナ形勢ニナッテ居リマ
ス、サウシマスト地方稅ヲ幾ラ勅令デモ國稅デアルト云フ譯
ニ行キマセヌカラ、豫メ此ニ於テ國稅ト云フコトニ限ッテ御置
ニナラヌ方ガ宜シクハアルマイカト云フ考ヲ持ッテ居リマス、
所得稅ト云フコトニナリマスト最低ガ八百圓デ、田舍ノ土
地ヲ持ッテ生活シテ居ル者ハ所得稅ヲ納メルニハ、田地ヲ四
町以上持ッテ居ラヌト課リマセヌ、四町以上ト云フト一寸シ
タ地主デアリマシテ、陪審制度ノ本來ノ裁判ノ民衆化ト云
フコトニハ副ハヌヤウニナルト思ヒマス、一定ノ租稅ヲ納メル
者、其租稅ハ斯樣々々ト云フコトニシテ置キマセヌト、一 十
御困リニナリハセヌカト思フノデアリマスガ、此點ハ矢張御
考慮ニ入ッテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=81
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082・林頼三郎
○林政府委員 稅制ノ事ガ將來ドウ云フ風ニ變ルト云フ
コトハ、今日豫期スル譯ニハ行カヌト思ヒマス、今日陪審法
ヲ立テルニ當リマシテハ、矢張今日ノ制度ヲ先ヅ對象トシテ
法文ヲ制定スルコトガ當然デアラウト考ヘテ居リマス、無論
時勢ノ變遷ニ從ッテ色とノ關係事項ハ變ッテ來ルコトガアル
ダラウト思フ、サウ云フ時ニ若シ必要ガアレバ、部分的ニ改
正スルコトモ必要デアラウト思ヒマスガ、今日ツレヲ見越シテ
置クト云フコトハ如何デアラウカト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=82
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083・清瀬一郎
○〓瀨委員 是ハ私共ノ方デハ、法律トシテ稅制ガ今ノ通
リナラバ、其納稅ハ國稅ナリト云フコトヲ勅令デ定メレバ立
法ノ順序トシテ宜イト思フ、是ハ簡單ナ事デアリマスガ、次ニ
「讀ミ書キヲ爲シ得ルコト」是ハ意味ハ分ッテ居リマスガ、何カ
試驗ヲスルト云フ譯ニモ行キマスマイガ、是ハドウ云フ風ニ
御定メニナリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=83
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084・林頼三郎
○林政府委員 是ハ御承知ノ通リ此九月一日ヲ現在ト
シテ、陪審員資格者名簿ト云フモノヲ市町村長ガ作ルト云
フコトニナッテ居リマスカラ、實際ノ働トシテハ市町村長ガ之
ヲ認定スルコトニナリマス、サウシテ名簿ヲ公示シマシテ、サウ
シテ異議ノアル者ハ之ニ對シテ異議ノ申立ヲスルコトガ出
來ル、異議ニ付テハ裁判所ガ決定ヲスル、結局サウ云フ手續
デ確定スルコトニナリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=84
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085・清瀬一郎
○〓瀨委員 サウナリマスト牽聯致シマスガ、矢張第十九
條ニ之ニハ又其他ノ注文ニモ關係ガアリマスガ、陪審資格
者名簿ニ登載セラレザル者ハ異議ガ言ハレヌ、第三者ガアノ
某ガ陪審員ニナッテ居ル、アレハ文字ノ無イ者ダト言ウテ、第
三者カラ異議ヲ申立テル途ハナイヤウニ思ヒマスガ·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=85
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086・林頼三郎
○林政府委員 第三者カラハ異議ノ申立ハ許サヌ趣意ニ
ナッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=86
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087・清瀬一郎
○〓瀨委員 ソレナラバ今政府委員ノ御說明ニ依ルト、公
告ヲシテ異議ノアル者ハ異議ヲ申立テル、結局文字ノ無イ
者ガ陪審員ニ選バレテモ、救濟セラレヌト云フコトニナリマス
ガ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=87
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088・林頼三郎
○林政府委員 私ノ申スノハ文字ノ無イ者ガ登載サレテ
居レバ、其者ガ異議ノ申立ヲスル、若シサウ云フ者ガアレバ
第三者ハ忌避スルコトガ出來ルノデ、實際ニ於テサウ云フ事
ハ起ラヌト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=88
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089・清瀬一郎
○〓瀨委員 御說明ハ承ッテ置キマスガ、是ハ何カ考案ヲ
スル必要ガアラウト思ヒマス、ソレカラズット飛ビマシテ三十
六條ニ行キマシテ第二項ニ「被告人ノ利害相反セサルトキ
ハ同一ノ辯護人ヲシテ數人ノ辯護ヲ爲サシムルコトヲ得」ト
云フノガアルノデアリマスガ、利害反セザルト一云フコトハ一體
ドンナ意味デアリマセウカ、共同被告ト云フモノハ始終利害
ガ反シテ居ルヤウニモ見ヘ、又反セザルヤウニモ見ヘルノハ當
リ前デアル、實ハ辯護ヲシタ成績ニ依ッテ見マスト、向フノ方
ニ利益ニナッタトカ云フコトモアリマスガ、「反セサルトキ」ト云
フコトハ私ハ分ラヌヤウニ思ヒマスガ、斯ウ云フコトヲ能ク通
俗ニ利害反スルトカ反セズトカ言フガ、是ハ大體ノ見方デ
アッテ、法律上ニ何故ニ利害相反スルカト云フコトハ殆ド認
メガ付カナイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=89
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090・林頼三郎
○林政府委員 此點ハ昨年御協賛ヲ經マシタ改正刑事
訴訟法ノ、第四十三條第二項ニモ同ジヤウナ規定ガアリマ
ス、旣ニ御同意ヲ得テ居ル事ト全ク同一デアリマス、陪審法
モ刑事訴訟法ト同樣ニ定メタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=90
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091・清瀬一郎
○〓瀨委員 刑事訴訟法ノ方ハ被告人ガ反セズトシテ勝
手ニ見ルノデアリマスガ、官選デヤルノハドウデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=91
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092・林頼三郎
○林政府委員 被告人ガ選任スル場合ハ利害相反シテ
居シテモ構ハヌ、今ノハ官選ニ付テノ規定デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=92
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093・清瀬一郎
○〓瀨委員 第五十條ニ「前條第一項ノ手續ヲ爲スヘキ
日時及場所ハ被告人ニ之ヲ通知スヘシ」トアルガ、「但シ急
速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス」通知ト云フモノハ卽刻
的ノモノデアルガ、矢張此但書ガ必要アリマスカ、ドウ云フ場
合ヲ想像シテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=93
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094・林頼三郎
○林政府委員 是ハ全ク例外ノ場合デアリマシテ、通常ノ
場合ニ於テハ、無論通知ヲスルノデアリマス、併ナガラ證人ガ
最早危篤ニ瀕シテ居ルト云フヤウナ場合ニハ、之ヲ訊問スル
ト云フ時ニ通知ノ遑ガナイト云フコトモアラウト思ヒマス、又
鑑定ノヤウナ場合ニハ、鑑定ノ目的物ガ時間ヲ置クト云フ
ト變シテシマフトカ、無クナッテシマフト云フヤウナコトモ考ヘナ
ケレハナラヌ、サウ云フ場合ニハ通知ヲスル遑ガナイコトモア
ラウト思ヒマス、サウ云フコトハ極メテ實際ニ於テハ稀ニ起
ルヤウナ事デアリマスガ、法律トシテハソコマデモ見テ置ク必
要ガアルト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=94
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095・原夫次郎
○原委員 今ノ四十九條、五十條ノ前ニ牽聯シタ問題ハ、
公判準備期日外ニ於テ、證人又ハ鑑定人ノ訊問ヲ爲スト
キニ被告人モ亦立會フコトガ出來ル、第二項モ「拘禁セラレ
タル被告人ハ之ニ立會フコトヲ得ス但シ裁判所必要ト認ム
ルトキハ立會ハシムルコトヲ得」ト云フ規定デアリマスガ、後
ニ證據トナルベキ證人ノ訊問ヲ爲ス場合デアルカラ、被告人
ニハ必ズ立會ハセルト云フ規定ヲ置カナイデ、斯ウ云フ立會
ハシモ宜シイ、立會ハセナクテモ宜シイト云フ任意ノ規定ヲ設
ケタ理由ト、此期日外ニ證人鑑定人ノ訊問ヲ爲ストキニ辯
護人ハ立會クテ宜シイト云フコトハ、是ハ多分前會ノ私ハ標
ヲ付ケテ置キマシタガ、林政府委員ノ意見ニ依ルト、刑事訴
訟法ノ適用トシテ、辯護人モ矢張立合フコトガ出來ルト云
フ御答辯ノヤウニ記憶シテ居リマスガ、是ハ此所ヘ辯護人モ
立會フコトガ出來ルト云フ規定ヲ、明ニ設ケタ方ガ宜シイト
思ハレルデアリマスガ、之ニ對スル御意見ト、ソレカラ一體斯
ウ云フ場合ニ於テハ辯護人ニ通知シテ辯護人ノ出頭ヲ待,
テ取調ヲ爲サシメル、被告人ヲ立會ハセテ取調ヲスル、斯ウ
云フ規定ヲ致サナケレバナラナイ筋合ノモノデアルト思フノ
デアリマスガ、此點ニ對スル御意見ヲ伺ッテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=95
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096・林頼三郎
○林政府委員 拘禁セラレタル被告人ハ證人鑑定人ノ訊
問、斯ウ云フ場合ノミナラズ、公判期日以外ノ手續ニ付テ
ハ、原則トシテハ立會フコトガ出來ナイト云フコトガ普通法
デアル、刑事訴訟法ノ主義トナッテ居リマス、ソレデ矢張其主
義ヲ承ケテ斯ウ云フ規定ガ出來テ居リマス、シレカラ辯護人
ノ立會ノ關係デアリマスガ、御尋ノ如ク刑事訴訟法ニ其事
ガ明白ニ定マッテ居リマス、陪審法ハ刑事訴訟法ノ特別法
デアリマスカラ、普通法ニ定クテ居ル事ヲ二重ニ規定スルコト
ハ却テ體ヲ成サヌ、若シサウ云フコトニナリマスト此規定ノミ
デナク、澤山ナ規定ヲ二重ニ作ラスト原君ノ御滿足ヲ得ヌ
コトニナル、是ハ矢張此方ガ却テ適當デアラウト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=96
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097・清瀬一郎
○〓瀨委員 モウ一ツ簡單ニ御尋致シマス、第六十四條
第二項ニ「被告人數人アルトキハ忌避ハ共同シテ之ヲ行フ
共同ノ方法ニ付協議整ハサルトキハ忌避ヲ行ハシムル方法
ハ裁判長之ヲ定ム」トアリマスガ、是ハドウ云フ事ヲ云フノデ
アリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=97
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098・林頼三郎
○林政府委員 此第二項ノ意味ハ、例へバ被告人ガ二人
アルト云フヤウナ場合ニ於テハ、二人デ相談ヲシテ意見ノ一
致シタ所ニ基イテ忌避ヲスルカ、承認ヲスルカト云フコトヲ
決メル、併ナガラ場合ニ依ッテ被告人間ニ於テ意見ノ一致シ
ナイ時ガアル、斯ウ云フ時ニドウスルカ、是ハ立案ノ際ニ段々
〓究シタノデアリマスガ、結局ソレハ實際ノ場合ニ於テ裁判
長ガ之ヲ決スル、或ハ二人ノ中抽籤デ當シタ者ガ忌避承認
ノ權利ヲ行フ、或ハ何カノ順序ニ依ッテ之ヲ行フ、卽チ初メニ
甲ト云フ被告人ガヤル、其次ニハ乙ガヤルト云フヤウナ順序
デヤルコトモ宜ンカラウ、ソレ等ノ事ハ實際ノ模樣ニ依シテ裁
判長ガ適當ニ定メル、斯ウ云フ意味デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=98
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099・清瀬一郎
○〓瀨委員 是ハ事小ナリト雖モ忌避權ノ行使デアリマ
スガ、訴訟法ト云フノハ斯ウ云フコトヲ決メルノガ訴訟法ダ
ト思フ、裁判長ガ勝手ニ決メテ、東京邊デハ協議ガ整ハヌト
止メテシマフ、大阪ヘ行ケバ抽籤ニナル、廣島へ行ケバ年長
順ニナル、或ハ長崎へ行ケバ順番デ行クト云フコトニナルト
甚ダ不都合ダト思フ、是ハ今迄ノ政府委員ノ御說明ニナッタ
如ク稀ニアル事デナイ、ドノ陪審ヲ開イテモ一件每ニ必ズ起
ル事件ト思ヒマス、被告人ガ二人アル、其裁判官ヲ忌避スル
ノニ、甲ト乙ト別々ニ忌避權ヲ行フ時分ニ、俺ハ忌避スル、俺ハ
忌避セヌ、譲ルカ讓ラヌト云フコトハ必ズ起ルト思フ、寧口官
憲デ壓迫シテ、サウサセズニ忌避ヲ止メテシマヘトカ、(昭)
忌避セヨト云ヘバ別デアルガ、被告人ハ弱イ者デアルケレド
モ、外ノ事ト違ッテ忌避ダケハ官憲デ干涉シテハ忌避ニナラ
ヌ、今ノ裁判所デハ忌避フスルト昔ノ謀叛デモスルヤウニ、忌
避シタ爲ニ辯護人ガ懲戒ニナッタリスル、世ノ中ニコンナ滑
稽ナ事ハナイ、忌避ノ行使ニ付キ官憲ノ壓迫干涉ハ絕對ニ
無イヤウニシナケレバナラヌ、不當ノ忌避デアッテモ正當ノ忌
避デアッテモ、忌避ヲスルコトハ日常茶飯事ノヤウデナケレバ
陪審權ハ何モナラヌ、サウスルト共同的忌避ヲ行フコトモ裁
判長ニ委セ、栽判長ノ手心ニ姿セアハ忌避ハ行ハレメ、各
國ニモ忌避ハアル「チヤレンジ」ト云フコトハ、ドノ陪審制度
ニモアルコトデアルカラ、尙ホ能ク御〓究ノ上御決メヲ願ヒタ
イ、是ハ陪審制ガ成功スルカンナイカノ岐レ目カト思フ、外ノ
小サイ事ハ澤山申シマセヌガ、此規定ハ真實私ノ憂フル點
デアルカラ御考慮ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=99
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100・林頼三郎
○林政府委員 此共同被告人ノ場合ノ忘避權ニ付テハ、
立案ノ際ニモ隨分是ハ攻究ヲシマシタ、外國ノ立法例ナド
モ段々調ベテアル、色々議論ヲシ、攻究ヲ重ネタ結果、此方
法カ一番宜シイト云フコトニ定マリマシテ、政府トシテハ此
以上攻究スル餘地ハ無イト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=100
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101・鵜澤總明
○鵜澤委員長 モウ五時デスカフ止メヤウト思ヒマスガ、モ
ウ一ツ二ツデ濟メバヤリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=101
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102・清瀬一郎
○〓瀨委員 モウ一ツデス、七十六條ノ第三項デ「被告人
又ハ辯護人ニハ最終ニ陳述スル機會ヲ與ヘシ」トー云フコトガア
リマスガ、此辯護人ノ陳述ト云フ中ニハ、辯護ト云フコトモ無論
入ルト思ヒマスガ、辯護ハ事件グ濟ンダ時分ニヤルコトノ慣
例ニナッテ居リマス、刑事訴訟法デハ從前共最終陳述ト云
フコトヲ被告人ノ重大ナル權利トシテ、被告人ニ最終ノ陳
述ヲサスト云フコトハ、事小ナリト雖モ矢張人權ノ擁護ノ規
定デアリマスガ、七十六條ノ第三項ノヤウニシテ置カレマス
ト、被告人ニ最終陳述ノ權利ガ湮滅スルヤウニ考ヘマスガ、
是デ宜シイノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=102
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103・林頼三郎
○林政府委員 其點ハ多分〓瀨君ノ誤解ガアルノヂヤナ
イカト思ヒマス、刑事訴訟法ニ於テモ、被告人又ハ辯護人ガ
最終ノ辯論權ヲ持ノテ居ルコトニナッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=103
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104・清瀬一郎
○〓瀨委員 ソレカラモウ一ツ伺ヒマス、百四條ニ上告ノ
規定ガアリマス、第二項ニ「第十二條第一項第一號又ハ第
十三條ノ規定ニ依リ陪審員タルコトヲ得ザル者評議ニ關
與シタルトキ但シ評議ヲ了ル前訴訟關係人異議ヲ述ヘザリ
シトキハ此ノ限ニ在ラス」斯ウ云フ規定ガアリマスガ、私ガ前
ニ使シタ言葉ノ中ニ、陪審ハ裁判ノ構成云々ト云フコトヲ言
ヒマシタガ、是ハ法律上ノ意味デ言ッタノデハナイ、今高柳君
ノ質問ニ對シテ、陪審法ハ裁判所構成法ニ依ルト云フ趣意
デナイト云フ御說明ガアリマシダ、併ナガラ實際ニ於テ事實
ノ認定ニ關與スルモノデアルカラ、其モノハ裁判所構成法ト
大同小異デアルト私ハ思ヒマス、サウシテ裁判ヲスルトカ、事
實ノ認定ヲシタモノガ實際間違ッタコトガアル、例ヘバ人間ト
見タガ狐ノ化物デアッタトカ云フヤウナ、是ハ一例ヲ申スノデ
アルガ、實際構成ニ不正ガアルト云フコトハ重大ナ事トシテ、
民事訴訟法デモ刑事訴訟法デモ再審ヲ許シテ居リマス、裁
判ガアッテカラ後ニ構成ニ缺點ガアレバ再審ヲ許シ、上告モ
無論許ス、陪審員トシテノ價値ニ付テハソレト同ジデアル、
或ル意味ニ於テハンレ以上ノ價値ガアルト思ヒマス、證人ノ
呼バレル以前ニ異議ヲ述べナイト、陪審員ガンレヲ發見シタ
所デ、上告ノ意義ハ成立タナイト云フコトハ甚ダ無理デアル
ヤウニ思ヒマスガ、是モソレデ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=104
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105・林頼三郎
○林政府委員 ソレデ宜シイ積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=105
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106・鵜澤總明
○鵜澤委員長 是モ保留ヲ願ッテ置キマス、ンレデハ本日ハ
是デ止メマシテ、明日午前十時カラ開會致シマス
午後五時三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004612973X00519230220&spkNum=106
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