1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十二年一月二十四日（水曜日）午後一時二十七分開議
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議事日程 第三號 大正十二年一月二十四日
午後一時開議
一 國務大臣の演説に對する質疑 （前會の續）
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第一 明治四十年法律第二十一號中改正法律案（政府提出） 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=0
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001・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 諸君、諸般ノ報告ヲ致シマス
〔原田書記官朗讀〕
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
所得稅法中改正法律案
提出者岩本平藏君玉置良直君
山口熊野君舞田壽三郞君
北井波治目君河崎〓君
佐藤榮吉君
奈良縣吉野郡ヲ中心トスル國立公園設定ニ關スル
建議案
提出者岩本平藏君八木逸郞君
玉置良直君磯田粂三郞君
福井甚三君津野田是重君
日足鐵道速成ニ關スル建議案
提出者松岡俊三君
大日光國立公園設置ニ關スル建議案
提出者松岡俊三君横田千之助君
石川玄三君植竹龍三部君
友常穀三郞君波多野承五郞君
恩給法改正ニ關スル建議案
提出者三浦得一郞君
(以上一月二十三日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
漁港施設ニ關スル質問主意書
提出者藤井啓一君
米穀法ニ依リ食料ノ安定農民ノ困憊防止ニ關スル
質問主意書
提出者木下甚三郞君
(以上一月二十三日提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲玆ニ揭載ス〕
一昨二十三日內閣總理大臣ヨリ左ノ通發令アリタル
旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏書記官富田勇太郞
大藏省所管事務政府委員被仰付
鐵道省建設局長八田嘉明
鐵道省所管事務政府委員被仰付
一今二十四日常任委員補闘選擧ノ結果左ノ如シ
第四部
決算委員齋藤宇一郞君(鮎川盛貞君補閣)
第五部
決算委員村田虎之助君(村山喜一郞君補關)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=1
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002・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 會議ヲ開キマス、國務大臣ノ演說ニ
對スル質疑、前囘ノ續キ-望月小太郞君
〔望月小太郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=2
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003・望月小太郎
○望月小太郞君 本員ハ玆二一般外交ニ對シテ質問ヲ
致シマス前ニ、一言ヲ附加ヘテ置キタイコトハ、昨日總理大
臣ヨリ施政方針中、外交問題ニ關シマシテハ、帝國ノ世界
ニ於ケル地位ト責任、進ンデハ對支政策、對西伯利問題、
華府會議ノ跡始末ノ一般輪廓ヲ示サレマシテ、此外交方
針ノ事實的方面ニ對シマシテハ、外務大臣ヨリ事務的報
告ヲ承リマシタ、其報告中、一國ノ外務大臣トシテハ、何等
經綸抱負ノ無カッタコトハ、本員深ク遺憾ニ存ジマスル、殊
ニ外務大臣ノ御演說中右外交各方面ニ對シ極メテ樂觀
的御意見ヲ述べラレマシタニモ拘ラズ、吾々ハ過去四年有
半、帝國ノ外交ヲシテ〓日ノ如タ八方塞ガリノ窮極ニ陷
ラシメタ者ハ、卽チ内田外務大臣、其中心人物デアルト確
信致シマス、(拍手)此信念ヨリ致シマシテ、是ヨリ事實ニ付
テ御尋ヲ致シマスルガ、其本員ノ質疑ニ對シテハ、總理大
臣ハ只今本員ノ申述べタル外交上ノ重大問題ニ對シテ
ハ、御病氣中デハアリマセウガ、國家ノ爲メ、當然總理
大臣御自身ノ答辯ヲ要求シ、其他詳細ニ至リマシ
テハ勿論當該外務大臣ノ御答辯ヲ促シマス、但シ外
務大臣ニ對シテハ前以テ御斷リ致シテ置キタキ
コトハ、本員ノ質疑ニ對シテ過去四年有半、常ニソレハ意
見ノ相違デアルト云フコトノ議論ニ分レテ居リマスガ、トウ
ゾ今日ハ本員ノ疑點ト致シマスル事實其モノニ付テ、若シ
誤ガアルナラバ之ヲ是正ナサレテ、此事實ノ上ニ於テ答辯ア
ランコトヲ念ノ爲ニ斷リ置キマスル、是ヨリ總理大臣ニ向ッテ
第一ニ御尋致シタイ要點ヲ申上ゲマスル、第一ハ華府デ決
定セル四國條約ノ米國保留條件ノ效力ニ付テ、總理大臣
ノ御所見ヲ承リタイノデアリマス、一昨年八月六日、此四國
條約締結ノ訓令ヲ受ケラレタル現總理大臣、其時ノ首席
全權、而シテ此訓令ヲ下シタル內田外務大臣ハ當議場ニ
於テ、此四國協約ハ日英同盟ノ精神ガ乘移ッタモノデアル
ト功名顏ニ御同樣ニ報告セラレテ居リマス、然ルニ昨年三
月八日米國元老院ニ於テ、此四國條約ノ發案者自身タル
米國全權ノ有力ナル一人、「ロツヂ」氏ガ、其元老院ニ報告ス
ル意見ハ全ク我ガ外務大臣ノ報〓トハ異ナリマシテ、其言
葉ヲ玆ニ申述べマスル、卽チ「ロツヂ」氏ハ曰ク、四國條約ノ
骨子ハ、日英同盟ヲ廢棄セシムルモノデアル、日英同盟ノ如
キ脅威的ノモノヲ廢棄セシムル爲ニ此新協約ノ必要ヲ認メ
テ提議ヲシタノデアル、四國協約ト日英同盟トノ間ニハ何
等類似ノ點ヲ認メズト、明白ニ我ガ外務大臣ノ報告ヲ否認
致シテ居リマスル(拍手)當時此外務大臣ノ訓令ノ下ニ働
カレタル、現總理大臣タル其當時ノ加藤全權モ、定メテ此
四國條約ニハ斯ル重大ナル意義ノ存スルモノトシテ御働キ
ニナリマシタラウ、又其御苦勞ハ本員之ヲ認メマスルケレド
モ、只今米國金權ノ報告ニ依シテ見マスレバ、此四國條約ハ
結局日英同盟ヲ廢棄スル爲ニ、所謂告朔ノ篩羊ニ此案ヲ提
出致シタト云フコトニナル、而モ其案タルヤ、去ル四十五議會
ニ於テ、本員ガ此壇上ニ於テ御靜聽ニ愬ヘタ如ク、內容空
漠、實質不分明、卽チ米國ノ目的ハ第三者、ニ對スル共同戰
鬪ノ義務アル、其日英同盟ヲ葬ランガ爲ニ、假令四國協約
ハ締結シテモ、此四國協約ニ於ケル權利ダケハ米國之ヲ保
留シテ、其義務ハ成ベク之ヲ忌避セントシタト云フコトガ只
今申上ゲタル「ロツデ」氏ノ報告ニ於テ、此四國協約締結當
時ノ米國ノ精神ガ推測致サレマス、果セル哉去年三月二十
四日米國元老院ニ於テ「ブランデ」氏ノ發議ニ依ッテ、此四
國協約ナルモノハ一ノ保留條件ガ附キマシテ、玆ニ米國ガ
批准ヲ致シマシタ、此點ガ本員ノ總理大臣ニ御尋致シタイ
眼目デアリマスル、其保留條件ニ曰ク「合衆國ハ本條約ノ
全文、及、條約ノ規定ニ依リ武力若ハ同盟ニ關スル條約又
ハ防禦ニ参加スベキ何等ノ義務ヲ有スルコトナキモノトス」
トアル首相ニ伺ヒタキハ此條件ハ四國協約締結ノ當時ニ
於ケル締盟國ノ精神ト一致スルモノデアルヤ否ヤ是ガ一點、
次ニハ斯ル條件ハ時ノ全權タリシ〓ノ加藤首相ハ、豫メ之
ヲ豫期セラレタヤ否ヤ、本員ハ「ロツヂ」氏ノ意見ヲ參考トシ
テ見マスレバ、是レ畢竟、日英同盟ヲ人身御供ニ供スルガ爲ニ
此空漠ナル四國條約ハ結ンダコトヽナル、併シ結ンダガ米國
ハ之ニ對シ其條約ノ權利ハ主張スルモ將來ノ義務ダケハ此
條件デ削除致シタコトヽナルノデアル、質問ハ此點デアリマ
ス、申スマデモナク此條約ハ二個ノ目的ヲ持チマシテ、其第
一條ニ於テハ締盟四國ガ太平洋ニ於ケル所ノ其島嶼、若
クハ屬領地ノ間ニ若シ外交上ノ紛擾ノ來ッテ、是ガ〓滿解
決ノ出來ザル場合ニハ、締盟與國ハ所謂合同會商ヲ致シ
マシテ、腹藏ナク意見ノ交換ヲ致シテ、之ニ依ッテ平和ヲ維
持スルノガ第一條、此點ハ論ジマセヌ、併シナガラ第二條ニ
於テ、若シ其四國ガ持ッテ居ル太平洋ニ於ケル所ノ島嶼又
ハ領地ニ對シテ第三者ガ侵略ヲ企テルヤウナ危險ノアッタ時
ノ保障ト致シテ此二條ノ明文ガゴザイマスル卽チ「締盟國
以外ノ國ノ侵略的行爲ニ依リ脅威セラレタル場合ニハ締
盟國ハ右特殊事態ノ意ニ應ズル爲メ共同ニ又ハ別ニ執ル
ベキ最モ有效ナル措置ニ關シ諒解ヲ遂ゲンガ爲メ充分ニ且
隔意ナク互ニ交渉スベシ」此二條ガ本論出發ノ要所デゴザ
イマスル、今之ヲ事實ニ照シテ想像致シマスレバ、若シ第三
國ガ來リマシテ日米及英佛ノ四國ノ中ノ其島嶼-假ニ
日米二國ニ關スル範圍ニ於テ、例ヘバ我ガ臺灣ニ第三國ガ
侵略ヲ企テ此場合ニ、臺灣トハ五百五十浬シカ隔ッテ居ラ
ヌ米國ノ比律賓ニ、若シ米國ノ艦隊ガ在ッタ場合ニハ、合同
會商ノ結果ト致シテハ、便宜上最善ノ處置トシテ米國ノ艦
隊ヲ我ガ臺灣附近ニ招キ得ル、卽チ共同防衞ニ從事セシメ
得ベキ結果トモナリマセウ、又同時ニ米國ノ比律賓ガ第三
者ニ侵サレタ場合ニモ、合同會商ノ結果ハ、矢張同一ノ共
同行爲ニ日本ガ出向カナケレバナラヌト云フコトモ推測シ得
ラレマスル、然ルニ只今申シマシタル此保留條件ガ通過致
シタ曉ニハ、米國ハ總テノ自分ノ太平洋ニ於ケル島嶼、及、
領土問題ノ權利ノ關係上、日本カラ合同會商ヲ求メラレ
ルダケノ權利、卽チ日本ノ最善ノ處置ニ付テ唯之ヲ聽キ
置クダケノ權利ハ保留致シマスルガ、但シ拙者ハ其共同防
衞若ハ武力的援助ヲ致ス義務ハ無イト云フコトガ、此條件
ノ結果トナル、言ヒ換へレバ四國協約ニ對スル日本ト亞米
利加トノ權利義務ハ、日本ノ方ハ全幅ノ義務ヲ持チ、米國
ハ片務ノ義務ヲ持ッテ宜シイト、斯ウナリマスルコトハ、如何
ニ致シマシテモ條約當時ノ精神ト一致シナイモノデハナカラ
ウカト云フノガ本員ノ疑點デアリマスル、且又、國際法ノ原
則ト致シテ、同一ノ成文ニ依シテ初メテ同一ニ批准サレベキ
モノヲ、此米國ノ保留條件ヲ認メルト云フコトニナリマスレ
バ、恰モ御同樣ガ連帶借用證文ヲ書イテ、其連帶義務ノ有
ル一人ガ印判ヲ押シタ後ニ、但シ拙者ハ辨償ノ義務無之候
ト云フ附加條件ヲ致シタ暁ニハ、其人ハ連帶償却ノ義務ヲ
免レル、卽チ連帶責任ト云フ事ノ根本ヲ破壞スルヤウニ本
員ハ感ジマスルガ故ニ、此點ニ對シテ當時全權タリシ加藤
首相ニ伺ヒタイ、首相ハ全ク米國ノ此保留條伴ハ豫想外
デアッタ、或ハ條約當時ノ精神ニ於ケルモノトハ全ク異ヲテ居
ルカ、或ハ同ジモノデアル、此所ヲ明白ニ御答ヲ願ヒタイ、第
二ハ海軍制限條約實施ニ付テ、何カ英米二國ヨリ得タル
確定ナル保障アリヤ否ヤト云フコトヲ伺ヒタイ、昨日首相ノ
御演說中ニモ、英米トノ諒解ト云フ文字ガアリマシタ故ニ、
此點ヲ特ニ明ニシタイ、何トナレバ此海軍軍備條約ノ效力
發生ノ時期ニ對シテハ、右二十四條ニ明記シテアル、御承
知ノ如ク、右條ニ締盟國各自ノ憲法上ノ手續ニ從ヒ批准
セラルベク、成ベク華盛頓ニ於テ行ハルベキ批准書全部ノ
寄託アリタル日ヨリ其效力ヲ發生ストアル、昨日首相說明
ノ如ク日英米ノ三國ハ之ヲ批准致シマシタガ、此條約ニ重
大ノ關係ノ有ル佛伊一一國ハ、今以テ批准致シテ居リマセ
ヌ、此事ハ洵ニ本員遺憾ト致シテ當局ト其所感ヲ同ジウ致
シマス、併ナガラ顧ミテ佛國ノ狀勢如何ト觀マスレバ、佛國
下院ニ於ケル外交委員長「レーグ」氏ハ業ニ既ニ此海軍條
約ニ付テ、自分ハ下院ニ向ッテ反對ノ報告ヲ致ス、少クトモ
批准スルニハ、佛國トシテハ相當ナル條件ヲ附ケナケレバナ
ラヌト云フコトヲ述ベラレテ居リマスル」ノミナラズ、最近近
東問題ニ於テ彼ノ土耳其ノ海峽問題ノ關係上、手路國ト云
フ一ノ海軍國ガ新ニ加テ來タコトハ、近東及地中海、彼
ノ方面ニ利害關係アル佛蘭西トシテハ深甚ノ考慮ヲ要ス
ルコト、又其次ニハ御同樣ガ只今見ツヽアル所ノ此獨佛賠
償問題ニ付テ、佛蘭西ノ執リタル行動ハ獨逸工業地ノ中心
「ルール」ニ軍事的行動ヲ開始シタル此前途ハ、外務大臣モ
言ハレル如ク、洵ニ前途測リ知ルベカラザル此大問題ヲ控
ヘタル佛國議會ガ、縱シ日英米三國ノ如ク批准スト致シマ
シテモ、其批准ハ卽今容易ニ出來上ルヤ否ヤハ、本員深
キ疑ヲ持ッテ居ルノミナラス、吾々國民ノ代表者ト致シテ爰
ニ提出セラレ、將ニ一週間內外ノ間ニ於テ其審議ニ入ラザ
ルベカラザル豫算案ニ付テハ、全ク考慮ノ決斷ニ迷ヒ
ツヽアルノデアリマス、憲法上、議院法上、條件附ノ豫算
審議ト云フコトガ若シアルトシタナラバ、ソレハ此當四十六
議會初メテ是ガ俑ヲ作スモノデアルト云フ、此重大ナル議
院ノ權能上カラ見マスレバ、餘程此點ニ注意ヲ拂ハナケレバ
ナラヌ、ソコデ此效力發生セザル所ノ海軍軍備制限條約ニ
對シテ、飜々テ我國ノ態度如何ト觀レバ、列國ノ信義ヲ全ウ
ヌルガ爲ニ業ニ既ニ廢艦作業ニ著手致シ、將校士官ノ任
免、若ハ整理ト申シマセウカ、又職工ノ解雇、造船所へノ賠
償金、軍港ノ整理ヨリ其廢艦スベキ軍艦ノ武備撤廢ト云
フ頗ル進ンダ事ヲ致シタ結果ガ、茲ニ豫算ニ計上致サレタ
ル四千六百万圓ノ數字ヲ見ルニ至ッタノデ、是レ日本ハ當然
此四國軍備制限條約ガ出來ルモノト確信ノ上ニ、此豫算
ヲ編成セラレタノデアリマセウ、ソコデ外交上斯ク迄ノ貴任
ヲ以テ廢艦作業ニ從事スル上ハ、當然英米二國ヨリ確定
ナル諒解、若クハ保障ヲ得テ初メテ此廢艦作業ニ御從事ナ
サッタコトヽ、思慮周密ナル加藤首相ニ對シテ本員之ヲ推察
セザルヲ得ナイ、是ガ卽チ本員質問ノ第二點デアル、果シテ
然ラバ、其英米カラ得タ所ノ確定ナル條件若ハ信賴スベキ
所ノ其諒解トハ如何ナル種類ノモノデアルカ、又其保障ハ
何月何日之ヲ英米カラ得ラレタカ、此點ヲ御尋致シマス、
第三ハ西伯利撤兵ニ付テ政府ノ責任感念ヲ御尋致シマ
ス、詳シイ事ハ此問題デハ最早之ヲ申スマデモナク、諸君御
承知ノ如ク、大正八年八月二日ヨリ昨年十月末ニ至ルマ
デ我ガ西伯利出兵ノ失敗ハ、日本國民トシテハ誠ニ豐太閤
三韓征伐以來ノ一大恨事デアルト云フ言葉ヲ以テ盡キヤ
ウト思フ、兵ヲ動カスコト十數萬、人ヲ殺シ傷ケタルコト三
千五百、御同樣ノ國費ヲ濫費スルコト六億、而シテ得タル
所ノモノハ度々申上グルガ如ク何物モ無イ、而モ其出兵ノ
目標タルヤ、內田外務大臣ハ度々之ヲ變更致シ、當初ニハ
過激派ノ討伐ト申サレ、其次ニハ嚴正中立ト言ヒ、昨日ノ
御演說ニモアッタガ、今迄モ駐兵ノ理由トシテハ最後ニ極東
政情ノ安定ト、我居留民保護ノ安心トヲ得ルマデ之ヲ置ク
ト云フ、斯ウ云フ風ニ目標ヲ塗リ替へマシタ、此塗リ替ヘラレ
タル目標ノ爲ニ、國策ト出征軍隊トノ衝突ハ遂ニ彼ノ忌ム
ベキ前古未聞ノ尼港事件虐殺問題マデモ惹起シ、遂ニハ進
ンデ洵ニ不愉快ナル事デゴザイマスガ、先頃マデ世間傳フル
外務省ノ宣傳ニ係ルトカ云フ、所謂武器紛失事件マデ起
シタト云フ此一大悲劇、而モ最後ニ昨日外務大臣ガ御辯
明ニナッタ、其極東政情ガ安定致シタ、居留民ノ生命財產
ニ危險ハ無イ、仍テ撤兵致シタト言ヒマシタガ、事實ハ如何
デアリマス、我ガ撤兵セザル爲ニ極束ノ政情ハ極メテ動亂
不安ノ態ニ居ッタノデアル、我ガ撤兵ト共ニ忽チ極東ノ政情
ハ玆ニ安定セラレタノデアル(拍手)又居留民ハ如何デアリマ
セウ、御同樣ノ同胞居留民ハ、駐兵ノ爲ニ遂ニ極東三州ニ
向っテ發展致シタ者ガ、段々蹙シテ、浦湖ノ一角ニ封鎖セラ
レ、其經濟的活動ノ範圍ハ遂ニ縮小致サレマシテ、已ムナク
撤兵ト共ニ纔ニ身ヲ以テ本國ニ歸ッテ來タト云フ此有樣(拍
手)斯ウ見タナラバ、出兵ノ最後ノ目的トシタ政情ノ安定
モ、居留民ノ保護モ實ハ撤兵ニ依ッテ初メテ之ヲ實現シ得
ラレタト云フコトニナル、(拍手)而モ玆ニ事實ヲ以テ申上ゲ
タイ事ハ、大正九年七月ニハ參謀本部スラ、此西伯利駐兵
ノ目的ノ空シキコトヲ知リマジテ、全部ノ撤兵ヲ致サウトシ
タ時ニ、外務省ハ暫ク待ッテ貰ヒタイ、大連會議ニ於テ何ト
カ撤兵ノ口實ヲ得ルカラト云ウテ之ヲ引延バシマシタ、其
事ハ後段大連會議ノ所ニ於テ申述べマスガ、而モ其望ミヲ
囑シタ大連會議ハ如何、外務省ノ目的トハ全ク反對ノ結
策トナッテ來テ、今更撒兵ノ口實ハ無クナリ、已ムヲ得ズ萬
策畫キテ遂ニ昨年十月一一十五日最後ノ撤兵トナッテ、我ガ
出征軍司令長官立花將軍ハ、露國赤軍司令官「ポレオウヰ
ツチ」氏ニ向ッテ、「閣下ノ公明ト機宜ノ處置ニ依リ衝突ヲ
避ケ得タルハ歡喜ニ禁ヘズ」ト云フ一場ノ悲哀ナル挨拶文
テ遣シテ、曾テハ極束三州ヲ風靡シタル我ガ光輝アル軍隊
ガ、恰モ夜逃ゲ同樣ニ浦湖ヲ引揚ゲタト云フ此事實ヲ如
何ニセン、(拍手)序ナガラ此事ニ付テ總理大臣ハ、西伯利
ノ撤兵ニ付テ英米其他ヨリ追窮セラレタコトハ無イト云フ
コトヲ、昨日貴族院デ御答ニナッタヤウニ新聞紙上デ拜見
致シマスガ再ビ其點ダケハ總理大臣ニ御尋致シマスカラ、
此議場ニ於テ後刻御答辯ヲ煩ハシタイ、ソコデ此西伯利出
兵ノ跡始末ニ對シテノ現内閣ノ責任觀念ニ付テ御說明ヲ
煩ハスコトハ、斯ノ如キ罪惡的國策ノ遂行者タル張本人ハ
無論內田外務大臣デアリマスガ、顧ミテ加藤首相ハ寺內
內閣ノ此出兵事件以來古參ノ閣臣ト致シテ、內田君ノ
此無謀ナル國策ニ共鳴シ援助セラレタ、其責任義務、又
引續イテ其閣議ニ同意致サレタ所ノ其當時ノ大木司法
大臣、及現、山梨陸軍大臣等ハ、當然此出兵ノ跡始末、
卽チ撤兵ニ對シテハ連帶責任ヲ負フベキ方々デアルト思
フ、少クトモ此撤兵ノ聲明ヲ致サレタ、六月二十四日御栽
可ヲ、得ル時ニハ、定メテ罪ヲ闕下ニ待タレタデアラウ
ト思フダ其時ノ思召ハ如何ナルコトデアッタカ、不幸吾々國
民少クトモ本員等未ダ之ヲ知リマセヌ、仍テ此撤兵ニ對ス
ル政府ノ責任親念ヲ御尋致シタイ、ノデアル(拍手)第四ハ
只今モ申述べマシタル大連會議ト引續キ長春會議ヨリ
步進ンデ對露方針ニ關スル質疑ヲ致シテ見タイト思フ、
昨年八月二十六日ヨリ昨年四月十六日マデ八箇月間、
外務省ハ大連會議ヲ開キ之ニ依ッテ一面ニハ前段申シ述
ベタル撤兵ノ口實ヲ得、他面ニハ極東露領ニ於テ通商ヲ開
カウト致シタコトハ、昨年四月二十日外務省ノ公表文、及
昨日外相ノ演說ニ於テ大要了解致シマスルガ、玆本員ニ質問
ノ二點ハ特ニ外務大臣ニ向ッテ申述ベルコトデアリマス、抑モ
此大連會議ノ失敗ハ何ニ原因スルカト申スト、第一ハ日本
ガ、大連會議ノ對手方ヲ見誤ッタノガ、卽チ我ガ不覺ノ一箇
條デハナイカ、第二ニハ其交涉ノ本末輕重ヲ誤ッタ爲ニ、折
角ノ此交涉ガ遂ニ缺裂致シタモノデハナイカト云フコトガ、
本員質問ノ要旨デアリマス、ソコデ此質問ノ第一ノ點ニ付テ、
交渉ノ相手方ヲ見誤ッタデハナイカト云フコトヨリ申シマス、
卽チ外務大臣ハ齊多ト勞農露國、本國政府トノ關係ヲ御
有ジデアッテ、此長春會議ヲ開イタモノデアルカ、ソレトモ勞農
露國ト齊多政府トノ關係ハ全ク知ラザリシカ、外務省ノ右
十月二十四日ノ公文書ニ在ルガ如ク、齊多政府ヲ一個獨
立ノ政府ト致シテ交涉ヲ開イタモノデアルカ、疑問ハ此點デ
アリマス、申スマデモナクは万農露國ト齊多政府トハ主從ノ
關係デアル、此事ハ成立當時ヨリモ分明デアルノミナラズ、
本員スラ第四十四議會ニ於テ此席上ニ於テ、若シ日本ガ
極東問題ヲ解決セントスルナラバ、其極東問題ノ主人公タ
ル勞農露國ヲ相手トセナケレバナラヌ、其本店タル勞農露
國ヲ離レテ、出店、出張所同樣ナル齊多又ハ浦潮政團ト開
始致シテモ、效能ノ無イト云フコトヲ申上ゲマシタガ、果セル
哉、勞農露國ノ其陰ニ隱レタル齊多政府ノ交涉ハ、八箇月ノ
後ニ破レマシタル其結果ハ、丁度子供ガ狐ニ騙サレタヤウナ有
樣デアル、(拍手)是ガ卽チ第一問ト致シタ相手ノ主人公ヲ
見誤ッタ結果デハナイカト云フ質疑ノ一點、次ニハ交涉ノ目
的ノ本末輕重ヲ誤ッタデハナイカト云フコトハ此大連會議
ニ臨ムニ當フテハ其實搬兵ヲ先決問題トシテ、撤兵ニ對スル
口實ヲ得ント致シタノデアル、果シテ然ラバ其撤兵ト通商
開始トハ全ク切リ離シテ、撤兵ハ撤兵、通商開始ハ通商開
始トシテ、男ラシク率直ニ御交涉ニナルコトガ何故出來ナカッ
タノデアリマセウカ、撤兵ト通商開始ヲ交換條件ニ致シマシタ
結果、遂ニ齊多政府ハ何月何日ニ撤兵スルカ、其確定的時
日ヲ示セト云フコトガ、最後談判破裂ノ原因デアルト外務省
ノ公文書ニハ之ヲ記載致シテアリマスル、內田君モ屢〓此壇上こ
ニ於テ御同樣ニ述ベラレタコトニ、西伯利ノ出兵ハ自主的デア
ル、旣ニ自主的出兵デアッタ以上ハ、其撤兵モ亦自主的ナラザ
ルベカラズ、其自主的ナルベキ所ノ撤兵ヲ交換條件ト致シテ、
通商開始ヲ求メルト云フコトハ、外務省ハ齊多政府ヲ以テ
不誠實ト言ヒマスルガ、第三者タル吾々カラ見ルト、此内田外
務大臣、是レガ又案外駈引ヲ弄スル不誠實ノ點ガ玆ニ現レ
テ居ルデハナイカト云フコトヲ申述ベタイ(拍手)現ニ右交
涉破裂ノ結果、六月二十四日外務省ハ自發的ニ撤兵ノ聲
明ヲ致シタ、是ガ何ヨリノ證據デアルデハナイカ(拍手)齊多政
府ガ承知シヤウガシマイガ、通商開始ガ出來ヤウガ出來マイ
ガ、撤兵ハ撤兵ト云フコトハ、此二十四日ノ聲明其モノガ之ヲ
立證致スト云フ點カラ見マシタナラバ、餘リ當初ヨリ本末輕
重ヲ誤ラレタル其結果ガ、此大連會議ノ破裂ヲ來シタモノ
デハナイカト云フコトヲ疑フノデアリマスルカラ、玆ニ說明ヲ
煩シマス、次ニ長春會議ノ經過ヲ尋ヌル、是ハ極メテ簡單ニ
述ベマセウ、此經過ニ付テ不思議ニモ外務省ハ未ダ國民ニ
向ノテ明細ナル報告ヲ致シテ居リマセヌヤウニ本員存ジテ居
リマス、故ニ之ヲ五點ニ分チテ御尋致シテ見タイト思フ、卽
チ九月四日ヨリ長春ニ於テ開カレタル此會議ニハ、露西亞ノ
「ヨッフエー」氏ト「ヤンソン」氏ガ、勞農露國政府及、極東共
和國雙方ノ代表者トシテ出席セラレタ、而シテ第一回ノ街
突ハ委任範圍ニ付テ、日露兩代表ノ間ニ意見ノ不一致ヲ
見マシタ、露國ハ曰ク、勞農露國モ列席スル以上ハ極東ノ
一部モ勞農露國ノ領土デアルガ故ニ、極東問題ト共ニ、全
露問題ノ交涉ニ入リタイト斯樣ニ申シタニモ拘ラズ、日本
ハ極束問題ヲ先ニ致シテ、ンレガ幸ニ出來タナラバ、第二ノ
全露問題ニ移ラウト、斯ウナリマシタ、更ニ露國代表ハ全露
政府ト極束政府トノ關係ヲ、日本代表ノ質問ニ依ッテ左ノ
如ク答辯セラレタ如ク、内外ノ報道ハ之ヲ言ウテ居リマス、
卽チ其一ツハ莫斯科政府ハ齊多政府ト經濟的關係ヲ結
ビ、財政的ニ援助ヲ與ヘツヽアル事、卽チ財政經濟的ニハ、
齊多ハ勞農露國ノ世話ヲ受ケテ居ルト云フ事、第二ニハ條
約問題ニ關シテ、齊多政府ト外國トノ間ニ締結セル諸條約
ハ、必ズ莫斯科政府ノ批准ヲ經ベキモノナル事、此「ヨッフエー」
氏ノ說明ガ正シイト致シタナラバ、齊多政府ハ恰モ勞農露
國政府ノ保護國デアル、今其保護國ヲ相手ニ談判ヲ爲サ
レタ結果、第三點ノ疑問ト致シテ御尋スルコトハ、我ガ代表
ハ是ヨリ勞農露國全體ニ向ッテノ御相談モ開キマセウガ、但
シ勞農露國ハ正式ニ其勞農露國政府ノ承認ヲ日本ニ求
メナイト云フ約束ヲ申出テ貰ヒタイト云フコトヲ言ハレタト
云フ、旣ニ勞農露國ヲ會議ニ列席サセタ以上ハ、事實上之
ヲ承認シタト同ジ事デアル、其勞農露國ニ向ッテ斯ル條件ヲ
要求致シタト云フコトハ、多分虚傳デアリマセウ、又虚傳ナ
ランコトヲ望ミマスルガ此事實ヲ伺ヒタイ、卽チ日本ノ大
使ト致シテ獨逸ニ在ル、其獨逸ト勞農露國トハ承認交換
ヲ致ス、其處ニハ日置大使ガ居ル、尚又勞農露國ヲ承認シ
タル波蘭ニハ、外務省露國通ノ一人タル川上公使ガ居ル、
是等の機關ヲ通ジテ外務省ハ當然勞農露國、對齊多政府
ノ關係ハ豫メ承知シテ居ルベキ筈デアル、豫知シテ居ッタト
シタナラバ、如何ニシテ斯ウ云フ一方勞農政府ヲ相手ニシ、
他方極東共和國、卽チ齊多政府ヲ相手ニスルヤウナ此矛
盾ガ何トシテモ了解ガ出來マセヌ、(拍手)次ニハ長春會議
ノ無效ニナッダ最後ノ原因ト致シテ尼港問題ニ移リタイ、露
國ハ尼港問題ト薩哈連撒兵トハ分離シテ貰ヒタイ、尼港問
題ハ共同調査ヲ致シタ上ニ確定致シマセウカラト、薩哈連
ヲ撤兵致スコトヲ日本ニ要求致シタ處、日本ハ曰ク薩哈連
撤兵問題ト尼港問題トハ不可分デアルト云フコトガ、達
破裂ノ最後ト見ラレタヤウニ存ジマス、此處ガ卽ヲ本員ノ現
在尙ホ殘シテ居ル北薩哈連保障占領ノ我ガ撤兵ノ機會ガ
禾ダ到著セヌト云フ、昨日現總理ノ貴族院ニ於テ述ベラレ
タヤウニ記憶致シマスカラ、序ニ此事ヲ申述べテ置ク、抑と
旣ニ勞農露國ヲ相手トシテ談判ヲ開キ、之ト尼港交涉事
件ヲ開イタ、其勞農露國ハ尻港事件ニ付テハ共同調査ヲ
致シヱセウト言ウタ、此機會ニ何故ニ北薩哈連ノ撤兵ヲオヤ
リナサラチカッタノカ(拍手)斯ル立派ナ機會ガアッタデナイカ、
其事ハ特ニ昨日總理大臣ノ御辯解ガアリマシタ故ニ、此議
場ニ於テモ御說明ヲ煩シマス、更ニ外務大臣ニ對シテノ質
疑ハ斯ノ如ク日露關係ノ破綻致シマシタ結果、今日ハドウ
デアリマスカ、極東西伯利ニ於ケル林業、鑛山、漁業等總テ
我國民中既得ノ權利迄蹂躪セラレテ居ル、(拍手)現ニ大
藏大臣タル市來君ガ、大藏大臣タリシマデ社長トナッタ所ノ
彼ノ日露實業會社ト記憶致シマスル、アノ會社ヲ初メ三井、
大倉、秋田製材會社等ハ此外務大臣ノ勸誘ノ下ニ、露領
ニ向フテ經濟的發展ヲ致シテ、極東浦湖政團ト交涉ヲ致シ
テ獲得シタル其利權が右申ス如ク、極東浦潮政團ハ我ノ出
兵中ハ丁度大木ノ蔭ニ生ジタル葺ノ如ク勢好ク見エマシタ
ヴ、我撤兵ト共ニ消エテシマッタ、其消エタル政府トノ條約ト
云フモノヲ齊多政府ガ之ヲ無效トスル、其齊多政府ハ更ニ
昨年十二月十二日ト記憶致シマスガ、勞農本國政府ノ訓
令ニ依クテ極東革命委員會ト云フコトニナリマシタ、斯ウ云
フコトデ、外務大臣ガ對露政策ノ根本ノ定ラザルガ爲ニ、斯
ク迄日本ノ實業家ガ露國方面ニ向ッテ、外務省ノ勸誘ニ基
イテ下シタ資本スラモ、今日ハ回收スルコトガ出來ナイ、現
大藏大臣、日露實業會社ノ關係スル範圍ニ於キマシテ此
事實ヲ御否定下サルナラバ、本員謹デ〓ヲ受ケテ見タ
イノデアル、(拍手)斯ク迄ニ露西亞ト日本トノ關係ハ殆
ド敵國外患ノ如キ今日ノ有樣ヲ來シタコトハ、畢竟日本
ノ對露政策ノ根本ガ定ラヌモノト私ハ思フノデア
リマス、(拍手)此場合政府ハ一歩進ンデ英佛米伊ニ向ヒ、
日本ト露國トノ關係ハ、露國ト中間諸國ヲ隔ヲタル米佛英
伊トハ異〓テ、極東ニハ斯ノ如キ政治上、經濟上纏綿シタル
問題ガアル、仍テ或ル條件ノ下ニ露國勞農政府ヲ承認シ、
御互ニ通商開始ヲシヤウデハナイカト云フ、其先頭第一ノ
提議ハ疾クノ昔ニ帝國政府ガ主張スベキコトガ帝國ノ利
益デアルト斯樣ニ本員ハ思フ、遲レタリト雖モ今日以後、卽
刻ニモ此新シキ方針ヲ開始スルト云フ勇氣ハ現外務大臣
ニアルヤ否ヤヲ伺ヒタイ、(拍手)現在露國ニ向ッテ政府コン
ハ承認致シマセヌデモ、露英、露佛、露米、斯ウ云フ幾多ノ
協會ハ勿論露國ヲ承認シタル國々ノ、通商會社、露蒙經濟
發展會社マデ、マルデ世界ノ手ハ西伯利ノ富源、露國經濟
ノ開發ニ努力シテ居ルニ拘ラズ、内田外務大臣ハ過去四
年間何ヲシテ居リマシタカ、(拍手)此點ハ外務大臣ハドウ
ゾ議論デナク、事實ノ上ニ懇篤ナル說明ヲ煩シタイ、第五ハ
昨日首相ノ御演說中ニモアリマシタル對歐關係デアル、首
相ハ曰ク「帝國ノ世界ニ於ケル地位ト責任トニ鑑ミ諸般ノ
國際案件ニ對シ云々」進ンデ世界恆久平和ノ確立ニ努力
シツヽアルノデアリマス、是ハ諸君ト共ニ慶賀ニ堪ヘマセヌ」
ト果シテ斯ノ如キモノナラバ、本員ハ雙手ヲ舉ゲテ現内閣ノ
此對歐政策ニ賛成致シタイ、併ナガラ事實ハ全ク之ト異ル
ヤウニ存ジマスルガ故ニ、玆ニ對歐外交方針、卽チ「ゼノア」
會議ヨリ目下獨佛ノ不幸事件タル此「ルール」ニ於ケル佛
國軍事行動ニ對シテ帝國ノ執ルベキ方策、ソレマデ伺ッテ見
タイト思フ、先ヅ第一ニ「ゼノア」會議ニ付テ御尋ヲ致ス、抑"
此「ゼノア」會議ハ申スマデモナク、露國ヲ中心ト致シテ歐洲
經濟的復興ノタメ露國ノ其富源ヲ開發致シタイト、斯ウ云
フコトデ「ゼノア」ニ集ッタ上ハ、帝國ハ之ヲ絕好ノ機會ト致
シテ、前段申シタル極東ニ於ケル日露特殊ノ事情ヲ列國ノ
前ニ披瀝致シテ、露國代表「チナリン」氏ト肝膽相照スマデ
ニ行カヌニシテモ、非公式ニナリトモ、日露將來ノ親交ニ對
シテ十分努力スベキ機會ハ確カ四十日アッタト記憶致シマ
ス、然ルニ此間我ガ代表ハ何ヲ致シテ居ッタ、露國ノ代表ト
ハ全ク敵國外患ノ如キ有樣ヲ以テ、我ガ代表タル石井大
使ト「チチリン」氏トハ喧嘩ヲ致シタト云フ以外ニハ、「ゼノ
ア」會議ニ帝國ノ方針ハ皆無デアッタ、(拍手)其證據ニ、内
田君ノ下ニ於ケル現倫敦駐箚林大使ガ斯ノ如キハ言葉ヲ
述ベラレテ居ル、曰ク日本ノ政治家ハマルデ馬鹿ダ、無經
綸極マルト、此林ガ言ウタト言ウテ毫モ差支ナイ、去フコト
ガ彼ガ「ゼノア」カラ歸ッテ日本ノ朝日新聞ノ特派員ニ言ウ
タ言葉、卽チ五月二十六日、是ガ外國ノ新間ニ飜譯セラレ
テ居リマス、茲ニ伺ヒタイノハ「ゼノア」會議ニ對シテノ帝國ノ
方針ナリ其訓令ハ如何ト云フコトデアル、此點ヲ伺ヒタイ、
次ニ首相ヨリ說明ヲ望ミタイノハ、只今申シタ帝國ノ地位、
及、其責任ヨリ、世界問題ニ對シマシテ、恆久平和確立
ニ努力シツヽアルト云フ言葉ニ非ズシテ、其事實ヲ御尋致
シタイ、洵ニ國際的協調ハ、誰人カ之ニ反對致シマセウ、併
ナガラ今日國ヲ成ス以上ハ、各國銘々自國ノ利益、自國ノ
權利ヲ忌憚ナク、ソコニ吐露シ、其意見交換ノ結果、交譲
妥協ノ其後ニ於テ現ハレタルモノガ眞ノ國際協調主義ト謂
フノデアル、(拍手)我ノ言ハントスル所、我ノ要求セントスル
所、ソレハ如何ニ重大デアルニモ拘ラズ、之ヲ列國ノ前ニ述
ベズシテ、唯、他國ノ提案ニ追随シ、附和シ雷同スル、斯ノ如
クンバ所謂國際協調ナルモノハ、其實ハ國際的追随、國際
的盲從ト云フコトトナリ而カモ是ガ帝國ノ對歐外交方針
デアルヲ如何ニセン(拍手)今、之ヲ事實ノ上ニ付テ申述べ
タイ、卽チ現在ノ獨佛ノ關係デアル、昨年八月二日以來、倫
敦ニ於テ英佛米伊白-米ハ要ラナイ、英佛白伊日此五
箇國ガ會合致シ、獨逸ノ賠償金問題ニ付テ議論ヲ重ネタ、
其以來會議ヲ重ヌルコト殆ド數回、紛擾ニ紛擾ヲ來シテ其
結果ハ遂ニドウ衝突スルカト云フコトハ、我歐米ニ於ケル所
ノ大使ハ當然之ヲ豫測スベキモノ、デ少クトモ外務大臣ガ
玆ニ甚深ナル注意ヲ拂ウタ以上ハ、是等ノ大使ガ此問題ニ
努力スベキコトデアル、外務大臣ノ昨日ノ演說ニモ、此賠償
問題ハ場合ニ依ッテハ極メテ重大ナル事態ニ立至ラヌトモ
限リマセヌト云ハレタ、其重大事態、卽チ總理大臣ノ所謂、
世界ノ平和ニ貢獻シナケレバナラヌ日本ノ地位ト、責任ア
ル其日本ガ何ヲシテ居ルカ、(拍手)現在倫敦ニ於ケル林大
使ハ、此紛擾地タル英佛意見ノ不一致ノ其賠償問題ノ大
切ノ時機ニ遠ク去ッテ、近束會議ニ倫敦カラ遁ゲテ居リマ
ス、佛蘭西大使館ノ石井大使ハ、今歸ッテ貴族院ニ居リマセ
ウ、又米國ノ大使館ニ於ケル幣原大使、是亦不幸病氣ノ爲
ニ昨年歸ッテ其儘デアル、歐洲問題解決ノ中心タル英佛米ノ
我ガ大使館ハ空家同樣、斯ル冷淡ナル態度ヲ以テ、歐洲ノ
中原ニ向フテ、日本ノ總理大臣ガ能クモ白々シク世界恆久
平和ノ確立ニ努力シツヽアルナドヽ云フコトヲ仰ツシヤラレ
ル、欺クモ亦甚シイモノデアル(拍手)加之國際聯盟規約ニ
從ヘバ獨逸ハ獨逸ノ要求ヲ致シテ居ル-條文ハ讀ミマセ
ヌ-彼ハ彼ノ抗議スベキ條項ガアリマセウ、佛蘭西ハ佛蘭
西デ軍事行動ヲ開始スベキ理由ガアリマセウ、卽チ銘々ノ
條項ガアリマセウ、卽チ佛蘭西ノ行動ハ聯盟規約第八編
第二附屬書第十八條、獨逸ハ、四百二十九條、四百三十
條、此條文朗讀ハ略シマスルガ-然ルニ日本ハドウデアル、
國際聯盟規約ノ二百三十三條、二百三十四條ニ從ッテ、獨
逸賠償委員會ノ五大國ノ一人トシタ所ノ其權利、而モ此
賠償委員會ハ、獨逸ノ賠償額ヲ、或ハ減ジ若ハ賠償方法ヲ
延期シ、其他ノ栽量權アル所ノ此日本帝國、何トテ此場合
ニ獨佛ガ殆ド干戈ヲ以テ爭フガ如キ程ノ軍事行動ニマデ押
寄セルマデノ衝突ヲ、默ッテ視テ居ッタカト云フコトデアル、又
條約ノ條文ヲ離レテ大所高處ヨリ、外務大臣ノ所謂昨日
演說中ノ世界人類ノ生活ノ安定ニ貢獻セント云フコトガ、
眞ニ現外務大臣良心ノ響キデアッタナラバ、何故此英佛ノ爭
ノ數箇月間ニ、日本ガ此間ニ斡旋シナカッタノデアルカ(拍
手)佛蘭西ハ迚モ賠償金ヲ得ルニ非ザレバ、其國土ノ回復
ガムヅカシイ英吉利日ク、獨逸ノ此支拂ハ不可能デアルカ
ラ、四箇年間ヲ延期シヤウ、佛蘭西曰ク、二箇年間デナケレ
バナラヌ、二年ト四年ノ間ニハ、若シ內田外務大臣ニシテ
或ル經綸ガアッタナラバ、日本ガ何トカ其間ニ幹旋ノ餘地モ
アリマセウ、成程日本ガ獨逸カラ要求スベキ其賠償額ハ、
僅ニ五億万圓ニシカ足リマセヌ併ナガラ、場合ニ依ッテハ
其賠償額ニ付テモ、相當甚深ナル同情ノ考慮ヲ拂フコ
トモ出來マセウ、況ヤ前段申上ゲタル賠償委員會ニ於ケ
ル日本ノ權能等ヨリ見テモ、何トカ此間ニ相當ノ考案ガ出
來ヤウト思フ、否、此歐洲問題ヲ離レテ、若シモ佛國ガ斯ノ
如ク軍事行動ヲ開始スレバ、前段申上ゲタ吾々御同樣ガ、
今日只今、今ニモ電報ヲ待チツヽアル其佛國ノ海軍批准
ガ之ガ爲ニ遲レルナラバ、日本國民ノ負擔ノ輕減ノ上ニ
於テモ、政府ノ編成シタ豫算ノ審議ニ於テモ、重大ナル關
係ガアルト見マシタナラバ、尙更日本ハ是等ノ理由ヲ以テ
英佛意見不一致ノ場合ニハ、好意的斡旋ヲスルコトガ本員
ハ十分出來得ル機會ガアッタラウ、ト思フノデアル然ルニ今日
迄何等更ニ著手ハ致サヌノデアル「仍テ、此場合ニ、昨日外
務大臣ハ此賠償問題ニ付テ、或ル一種ノ何カ理想デモアリ
サウナ事ヲ言ハレマシタガ、此點ニ向ッテ本員ハ露骨ニ申上
ゲル、本員ノ此機會ヲ利用セラレテ、佛獨關係ノ緩和ガ、日
本ト云フ嚴正中立ナル其一人カラ現ハレタト云フガ如ク、
何トカ道德的聲明デモ宜シイ、卽チ日本政府ノ此問題ニ
對スル所ノ公正ナル立場ヲ明白ニ致スコトガ、外務大臣昨
日ノ演說中、世界人類ノ生活安定ニ貢獻セントスル唯一ノ
手段デアルカラ、之ニ就テ何カ廟議ノ上ニ於テ、決定致シテ
居ルモノガアルヤ否ヤンレモ又ヒ英米ノ天氣ヲ見テ、其鼻息
ニ從ッテ行動ナサラウト一云フノデアルカ(拍手)是モ序ナガラ
伺ッテ置キタイ、(拍手)最後ニハ對支政策ニ付テ御尋致シマ
ス、對支政策ニ付テハ、外務大臣既往四箇年ノ方針、竝ニ
昨日加藤總理ノ演說ヲ聽イテ見マシテモ、事實ノ上ニ於テ
帝國ノ對支政策ナルモノハ全ク無方針デアル、若シ方針ア
リトセバ、忌憚ナク之ヲ論評スレバ、其方針タルヤ唯夫レ傍
觀主義デアル、追随主義デアル讓步主義デアル(拍手)ト云
フコトヲ、本員ハ之ヲ疑ヒナキ事實ニ照シテ、深ク遺憾ノ信
念ヲ持タザルヲ得ナイモノデアル、而シテ此傍觀主義、讓步
主義、屈辱主義ガ如何ニ我ガ國家ニ有害危險ノ政策デア
ルカト云フコトハ、本員多年此演壇ニ痛論致シテ居ッタノデ
アル、其事ヲ事實ノ上ニ對照致シテ、外務大臣初メ總理大
臣ノ答辯ヲ煩ハス、第一ニ傍觀主義ノ事實ヨリシテ申述べ
テ見マス、內田外務大臣ガ第四十一、第四十二議會ニ於
テハ斯樣ニ述べラレタ、支那南北妥協勸告ノ爲ニハ有效的
盡力ヲ致シタキ旨ヲ述べラレ、第四十三議會ニ於テハ是ガ
一變致シテ傍觀主義トナッタノデアル、外相日ク支那國民
ノ覺酷ハ洵ニ注目スベキモノアル故、我國ハ不偏不黨ノ方
針、及、公平嚴正ナル態度ヲ持スル旨、斯ウ云フコトヲ言ハ
レテ居リマス、然ルニ昨四十五議會ニハ何ト言ハレタカト申
スト、「隣邦支那ニ於キマシテハ、不幸ニシテ未ダ統一ヲ見
ルコトガ出來ザルノミナラズ、最近ニ至ッテハ同國ノ實情却
テ反對ノ方面ニ進展セントス云々」卽チ四十四議會迄ノ
外務大臣ノ形勢ノ樂觀ハ全ク見込違デアルト云フコトヲ
告白セラレタ、(拍手)ソコデ已ムナク空想的文字ト本員ハ
思ヒマスガ、昨日モ述ベラレタル所謂、不偏不黨、公明正大ト
云フヤウナコトヲ羅列セラレテ居リマス、是ガ內田外務大
臣ノ對支政策ノ無方針デアルト云フコトヲ、傍觀主義上ヨ
リ見タル所ノ證據デアル而シテ現内閣ニ至ッテ卽ヲ加藤新
首相ハ、定メシ此間ニ何カ積極的方針ニ出デラレルデアラウ
ト、本員モ多少ノ期待ヲ持テ居リマシタガ、昨日ノ演說中ニ
モアルガ、更ニ現内閣創立當時卽チ昨年六月十五日ニ加
藤首相ノ名前ヲ以テ發表シタル陳述書ニハ斯樣ニ書イテア
リマス、曰ク日本國民ハ隣邦支那ガ速ニ現在ノ不幸ナル政情
ヲ脫シ、該國民自身ノ努力ニ依テ平和統一ノ實ヲ擧ゲンコト
ヲ切望ス」ト而シテ昨日演述ノ意味モ斯樣ニ拜聽致シマシタ、
是ハ如何ニモ墨西哥デアルトカ巴爾幹デアルトカ云フ日本ノ
利害關係ノ少キ國ニ向ッテ、一國/總理大臣ガ外交的辭令
ト致シテ發表ナサルノナラ免モ角モ、切ッテモ切レヌ禍福存亡
ノ共同責任アル支那ニ向ッテ、斯ウ云フ冷淡ナル文字ガ、果シ
テ是ガ帝國ノ政策トシテ御同様ニ安心ガ出來マセウカ(拍
手)況ヤ其支那ハ多年ニ亘ル内亂同樣ノ國難、前途測ルベ
カラザル所ノ運命ニ呪ハレツヽアル所ノ其支那ニ對シ、盛衰
興廢トマデハ行カヌデモ、安危盛衰ヲ均シウスベキ共同運
命ニ在ル所ノ日本ガ、支那ニ對シテ支那ノ事ハ支那自身ニ
委スベシト云フ、內田外務大臣ノ無方針政策ヲ繼續シタナ
ラバ、軈テハ此無方針ノ對支政策ハ、我ガ日本吾自ラ我ガ
國命ヲ縊ル所ノ危險政策ト本員ハ思フノデアリマス(拍手)
唯.前段申上ゲタ六月十五日ノ首相ノ聲明中、一縷ノ望
ヲ囑シテ前途改善ノ希望ノアルト思フタコトハ、右陳述書
ノ續ニ斯樣ニ述ベラレテ居ル「日本國民ハ支那國民ノ福祉
ニ對シ感情及實質兩方面ニ於テ敏感ナリ蓋シ我國民ノ福
社ハ偉大ナル隣邦ノ平和繁榮ニ俟ツ所多ケレバナリ」トア
ル、斯ノ如ク精神上、物質上、爾ク甚ダ支那ニ向ッテ敏感ナ
ル日本ガ、此紛亂セル現時ノ支那ニ對シテ、手ヲ拱イテ之ナ
傍觀スルト云フコトハ、ドウシテ國家ヲ念ヒ、支那ニ向ッテ忠
實ナル隣國ノ政策ト云フコトガ出來マセウカ、(拍手)支那
ノ欲スル根本目的ト、同時ニ日本盛衰榮枯ノ關スル其歸
著點トハ、如何ニスレバ支那ニ安定セル統一政府ガ出來ル
カト云フニ在ル、左レバ日本ハ此問題ニ向ッテハ全力ヲ擧
ゲテ、常ニ眞摯ナル友情ト、熱誠ナル援助トヲ傾注シテ行カ
ナケレバナラヌ、外務大臣ガ四十一議會ニ申逑ベラレタル
其初一念ヲ四箇年ノ今日マデ若シ繼續シテ居ッタナラバ、
所謂雨垂デモ石ヲ穿ツガ如ク、何カ效ガアッタニ相違ナイ、少
クトモ日支兩國民ノ此關係ハ今日ノ如ク惡化致シマセヌ、
首相及外相ハ現在ニ於ケル日支ノ關係ヲ洵ニ樂觀ナサレ
テ居ルガ、吾々ガ每日見ル支那國民代表ノ言動ト云ヒ、支
邪國民一部ノ感情ガ、果シテ日本ニ對シテ親善ヲ盡シツヽ
アリト云フ紙ノ上ノ言葉、文字ノ上ノ解釋ハ別物トシ、事實
問題ト致シテ諸君ノ良心ガ之ヲ是認致スヤ否ヤ(拍手)本
員ハ此傍觀主義ヲ事實ノ上ニ於テ證明致シテ見マス、昨
年三月奉直戰爭ノアッタ當時、支那ヲ思ヒ、日本ノ利害關
係ヲ思フタナラバ、日本ハ何故進ンデ此奉直戰爭ノ起ラザ
ル、否ナ起ラントスル時ニ、列國ニ先タッテ奉直戰爭ヲ避ク
ペク勸告的努力ヲナサラナカッタノデアルカ、云フマデモナク
日露戰爭以後日本ノ束三省ニ於ケル利害ハ、極メテ密接
トナッテ居ル、其東三省ニハ六十五万ノ御同樣ノ同胞、日
露戰爭以後官民放資ノ總額ハ實ニ二十五億万圓、而シテ
其東三省ヲ事實上治メテ居ル張作霖氏ト直隸ノ吳佩孚
氏ト戰爭ヲ起シ、何方ガ勝タウガ負ケヤウガ、其影響ハ直接
支那ノ平和ヲ亂シ、我國トシテハ其東三省ニ於ケル日本
國民ノ利益、及權利ニ影響ヲ來スト云フコトハ明白デアル、
況ヤ華府會議ニ於ケル九箇國條約ノ精神ニ從ヘバ、日本
ハアノ場合進ンデ英米佛伊ニ向ッテ、扨テ御互ガ聯合國運
動ヲ起シテ張作霖、吳佩孚兩氏及北京政府ニ此戰爭中止
ヲ勸告シヤウデハナイカ、而シテ列國若シ應ゼズンバ、日本ハ
右ノ利害關係ヨリシテ直接ニ是ガ言ヒ得ラレタノデアル、然
ルニ日本ハ之ヲ爲サナイ、之ニ反シテ日本ヨリハ利害關係
薄イ所ノ英米ガ之ニ著手致シテ、忘レモセヌ又五月二十二
日、英吉利ハアノ滿洲ニ於ケル關潔炭坑ノ其附近ニ戰爭ガ
起レバ、英國ノ利害ニ關係スルト云フ所カラ、英國ノ軍隊
數百人ヲ深州ニ差シ向ケテシマッタ、ンコデ張作霖氏ハ戰線
ノ不利トハ知リナガラモ、已ムヲ得ズ英國ノ此積極的行動
ノ爲ニ自己ノ地盤ヲ抛ッタノデアル、進ンデ其六月十二日ニ
ハ奉直戰爭和議、第一ノ發案者ハ日本ニ非ズシテ、英國宣
〓師ノ「ヤング」、米國人「ブラッド」氏ガ英米領事ノ諒解ノ下
ニ此運動ヲ開始サレタ、其十七日ニ米人「ヤンソン」、英人
「ネーサン」ノ一一人ガ支那奉直兩軍ノ代表者ト山海關ニ會
見シ、戰線ヲ玆ニ現狀ニ維持スルト云フコトニ定ッタノデア
ル、此間我ガ內田外務大臣ハ全ク手ヲ拱イテ、高見ノ見物
同樣ナ傍觀主義、(拍手)申スマデモナク諸君、傍觀主義ノ
結果ハ屈辱主義トナリ、屈辱主義ノ結果ハ譲步主義トナ
ルハ自然ノ論理デアル、此日本ノ傍觀主義ヲ執ッタル其直
接ノ影響ハ、遂ニ我ガ朝鮮ト境ヲ接スル彼ノ頭道溝ニ對シ
テノ燒打事件、武器ハ奪ハレ、人命ハ屠ラレ、財產ハ掠奪セラ
レ、支那國民ノ國民性カラ見マシタナラバ、日本ハ支那ニ對
シテ利害關係アルベキ國ガ、自國ノ利害ヲ直接ニ脅威セラ
レテモ、手ヲ拱イテ高見ノ見物ヲスルト云フコトハ、忽チ馬
賊ノ蹶起ヲ促シタ、而シテ張作霖氏敗ルヽヤ其ノ禍ハ啻ニ
頭道溝ノミナラズ、局子街ヨリ間島全體ニ及ンダ、更ニ甚シ
キハ我ガ軍隊マデモ直隸軍ノ爲ニ侮辱ヲ被ッタ、卽チ凌辱ヲ
サレタ、ソレハ千九百一年ノ北京ノ最終議定書ニ依レバ、日
本兵ノ守備區域タルアノ山海關、此守備區域ニ於ケル日
本軍隊ヲ山海關ニ出入スベカラズト云ッテ禁止シタ、此禁止
ヲシタモノハ直隷軍、ソノ上ニ我軍ノ前面デ、山海關ト秦皇
島ニ於ケル日本ノ軍用電線ヲ切斷致シタ、斯ウ云フ事ガ頻
頻トシテ行ハレタト云フコトモ、畢竟尼港虐殺事件ガ誤ッタ
ル國策ノ爲ニ半バ之ガ起タッタト同ジ樣ナ風ニ、頭道溝以
下南滿洲及朝鮮國境ニ於ケル此ノ動亂ハ、外務大臣傍觀
ノ賜デアルト云フコトヲ本員ハ申上ゲテ置ク、(拍手)第二
點ハ支那ニ對シテ目下列國ノ間ニ頗ル問題トナッテ居ル支
那ノ財政困難ノ結果、或ハ財政共同管理ノ步武ニ進ムデ
ハナカラウカ、ドウゾ然ラザルコトヲ希望致シマスルガ、現在
ノ有樣ハ支那ノ無力ニ乘ジテ、各國ハ恰モ蜘蛛ノ巢ノ各方
面ニ涉ッテ居ルガ如ク、支那ノ前途ハ洵ニ吾々トシテハ同情
ニ堪ヘナイ、此形勢ヲ政府ハ何ト觀テ居ル乎、現ニ來ル三
4月支那ニ開カルベキ關稅會議ニ於テ、アノ關稅會議ハ華盛
頓會議ノ決議ノ結果トシテ支那ニ關稅ノ自主權ヲ與ヘル、
ンコデ關稅ヲ增ス、增シタ收入ヲ以テ支那ノ内政整理ニ充
ツルガ目的デアル、其内政整理ニ充ツベキ所ノ關稅ノ收入ヲ
以テ、先ヅ以テ列國ノ此外債ニ充ツベシト云フ所ノ決議ハ、
多分日本モ同意ナサッタラウト思フ、卽チ英佛米ト共ニ北京
政府ニ此事ヲ提議セラレタノデアル、斯ウ云フ怖ルベキ形勢
ヲ見マシタナラバ、支那ノ前途ニ對シテ我國ハ最早傍觀ス
ル所ノ時機デハナイ、如何ニシテ此支那ノ困難ナ其不安定
ノ政情ヲ救ヒ、如何ニシテ支那ノ此困迫セル財政ヲ救ッテ
行クカト云フコトニ付テ、帝國政府若シ一定ノ經綸アラバ
謹ンデ永リタイ、是モ內田君ノ主義トシテー母舌ヲ弄スル
ノデハナイガ、相變ラズ英米ノ發案次第ダト云フ(拍手)御
意見デアルナラバソレモ宜シイカラ承ハラウ、是ヨリ私ハ其
譲步主義ノ實例ニ就テ述ベテ見タイ、外務大臣ハ昨日モ我
ガ國家ノ權威國運ノ伸張ニ對シテハ、深甚ナル注意ヲ拂フ
旨ヲ中述べラレタト記憶致シマス、勿論日支兩國ノ關係ニ
於テ讓ルベキモノハ、勿論支那ノ爲ニ讓フテモ宜シイガ、此外
務大臣ノ演說ノ如ク、我ガ國權ノ伸張、我ガ國家ノ權威ニ
關スル既得ノ權利ニ向ッテ、支那ガ抱ケバ負ブサルト云フ、
所謂隴ヲ得テ蜀ヲ望ムガ如キ無法ノ要求希望ニ對シテハ、
嚴肅ニ之ヲ拒絕シ、斯ク致シテコン外務大臣ノ所謂國運ノ
仲張モ國家ノ權威モ、之ヲ完ウシ得ラレヤウト思フ、况ヤ支
那ニ對スル讓歩、其讓步モ我國ガ支那ヲ援クル自發的ノ誠
意カラ起ッタ譲歩デアルナラバ洵ニ結構デアルガ、其讓歩タ
ルヤ、他ノ壓迫若クハ世界周圍ノ機嫌氣褄ヲ伺ヒツヽ、恰
モ高利貸ガ其利息ヲ人カラ勸メラレテ値切ルガ如キ所ノ讓
步、コンナ事ヲシテ支那ノ國民ガ何トシテ嬉シク思ヒマスカ
(拍手)此事實ヲ申シテ見ル、四十三議會ニ於テ內田君ハ
滿洲ニ於ケル特殊地位ガ確保致シテ居ルコトニ付ア、列國
ノ諒解ヲ得テ居ルト云フコトヲ御同樣ニ明言シテ居ル、而
ルニ滿蒙ニ於ケル特殊地位ハ、華盛頓會議ニ於テ全然之
ヲ一擲ナサッテ居ルデハアリマセヌカ、又四十五議會ニ於テ山
東問題ニ關シ、本員モ昨年此演壇デ申述ベタ如ク、英米監
視ノ下ニ日支兩國單獨交涉ヲ開始スベキ其問題ヲ華盛頓
會議マデ持出シテ、而モ持出シタ結果其節申上ゲタ如ク、
緣日ノ植木屋同樣値切ラレテ、値切ラレタ最後到頭全部
讓歩ト云フコトニナリ-國家ノ利害デアル、御謹聽ニ愬ヘ
タイ-遂ニ我ガ主張シタ所ノ山東鐵道ノ合辦、居留地、
是モ專管カ共同カニスルト言ッタ其事、日支合辦ノ山東鐵
道ヨリ農業ノ權利、都市開市、皆失ッテシマッテ居ルデハナイ
カ、昨日總理大臣ハ貴族院ニ於テ此山東問題ノ事ニ對シ
テ、英米ノ監視ヲ受ケタコトハナイト云フガ如クニ新聞紙上
ニ於テ拜見致シマシタガ、果シテ總理大臣ハ此山東問題ガ
英米監視ノ下ニ行ハレナカッタト云フ事デ、單刀直入ニ申セバ
英米ノ監視幹旋ノ下ニ讓リニ譲リ、譲フテ決定致シタモノデ
アルト云フ本員ノ信念ニ對シテ、之ヲ此壇上ニ打消スダケ
ノ勇氣アリヤ否ヤ、是ハ總理ニ殊ニ承ッテ置キタイ、又外務
大臣ニ對シテ最後ノ問題トシテ、日支郵便條約附屬文書
ニ付テ、譲歩ノ一例トシテ其說明ヲ煩シタイ、華府會議ノ
結果、日本ハ昨年十二月九日、日支郵便條約ヲ締結セラ
レ、其際ニ於テ、左ノ如キ意味ノ附屬文書ヲ支那政府ニ交
付セラレタト云フ、其意味ハ「將來日支兩國間ノ交涉問題
トナリ得ベキ南滿鐵道附屬地ノ郵便ハ暫定的現狀ヲ維
持シ、其取扱ニ付テハ千九百十一年二月九日、日支郵便
條約ニ依ル」、斯樣ナ意味ニ摘略致シテ申述ベマスガ、果シテ
斯ウ云フ附屬文書ヲ出シタトスレバ、此文書ノ意味ハ斯ウナ
ル卽チ只〓滿鐵ノ附屬地ニ於ケル日本デ取扱ッテ居ル郵
便事務モ、追テハ今回支那ニ還シタ所ノ其外ノ支那ニ於ケ
ル日本ノ郵便事務ノ如ク、將來ノ交涉ニ於テ之ヲ還付スル、
其交涉ヲ開ク時期ニ讓フテ居ルト、斯樣ニ常識上カラ考へ
得ラレヤウト思フ、殊ニ世上傳フル所ニ依レバ、此附屬文書
ヲ交付スルニアラザレバ、折角華盛頓會議ニ於テ確定シタ
ル日支郵便條約、一月一日ニ之ヲ實行スルコトガ出來ナイ
爲ニ此文書ヲ遣クタト云フコトデアル、本來人民直接ノ此重
大ナル郵便事務、遞信大臣ニモ殊ニ此點ニ付テ答辯ヲ要
求致ス、卽チ一月一日支那ニ實行スベキ所ノ其郵便ヲ、本
員誤ナクンバ斯樣ニ信ズル、本年ノ同月同日卽チ一月一
日之ヲ發布致シテ、一月一日ヨリ實施スルト云フ、サウスル
迄急速ヲ要スル理由ヲ、外務大臣ト共ニ辯明ヲ煩シタイ、
此事ニ付テハ詳細ハ追フテ吾々ノ同志カラ質問致シマセウ
ガ、目下ニ於ケル所ノ大權干犯論マデ起ッテ居ルト思ッテ居
ル、ソレハ申述べヌ、唯と遞信大臣ニ此問題ト共ニ事實ト併セ
テ御尋スルノハ、日本ガ支那ニ於ケル所ノ人民ノ權利ノ重
大ナルコトハ申スニ及バズ、支那ニ於ケル外國ノ會社ノ數ハ
約九千五百、其中日本人ノ會社ハ六千百以上、又在外外
國人中、日本人程多イモノハ無イ、約十四万ト思フ、此十四
万ノ人間ニ、本員ヲ初メトシテ年賀狀其他ノ必要ナル手紙
ヲ出ス、其手紙ガ一月一日ノ公報ト共ニ其一月一日ヨリ
ハ是ガ支那ノ郵便事務ニ移ッタ、斯ウナッタ爲ニ現在本員ノ
承ッテ居ル所ニ依レバ、郵便ノ延著、留置、紛失、又ハ日本ヘ
逆送サレテ來テ居ルモノガ、數万ニ及ンデ居ルト云フ、其事
實ヲ御否定ニナルヤ否ヤ、是ハ遞信大臣ニ向ッテ序ナガラノ
質問デアル、加藤總理モ御記憶ノ如ク、華盛頓會議ニ於テ、
支那ハ日本ノ租借地タル關東州還付ヲ要求シタ時分ニ、
我ガ全權ハ斷然トシテ之ヲ反對シタ、是ハ支那カラ借リタ
モノデハナイ、日露戰爭ノ結果、日本ガ多大ノ人命ト國帑
トヲ費シテ、露國カラ得タ所ノ繼承權デアルト謝絕致シタ
場合ニ、顯維鈞氏ガ、然ラバ最早此問題ハ日本ニ向ッテ、此
會議ニ於テ打切リマス、ト斯ウ言ウタ、顯維鈞氏ノ其答辯
ハ、移シテ以テ南滿鐵道附屬地ニ於ケル日本ノ郵便權ニ應
用ガ出來ヤウト思フ、卽チ此條約權ヲ支那ニ還付スル、其
條約ノ中ニハ、租借地内ニ在ルモノ、又ハ條約ニ依リ特ニ規
定セラレタルモノヲ除クトアル、卽チ問題ノ南滿洲鐵道附
屬地ニ於ケル我郵便權ハ、日露戰爭後ノ「ポーツマウス」條
約、北京協約ニ依シテ得タル當然此除外例ニ屬スベキモノ
ト〓究スルニモ係ラズ、本員ノ右讀ミマシタル附屬文書ガ
果シテ誤リナク、又果シテ之ヲ交付シタモノトシタナラバ、外
務大臣ガ此不必要ナル附屬文書ヲ交附シタ理由ヲ承リタ
イ、本員ハ惧ル、支那ハ後日此附屬文書ヲ以テ、現ニ今日
御同樣ガ支那ノ國會議員ノ決議ニ對シテ、其世界的知識
ニ缺乏シテ居ルコトヲ氣ノ毒ホド思フ、カノ日支條約ノ改
廢、卽チ所謂二十一箇條ヲ廢止スルトカ、又唯今申上ゲタ
所ノ我ガ〓東租借地、回收決議トカソレハ支那ノ現大總
統黎元洪氏ガ、昨年十月十七日之ヲ以テ東洋ノ「アルサ
ス、ローレン」ニ比較致シタ、ト報ゼラルヽガ如ク洵ニ責任アル
人トシテハ誤マッタル意見、是ハ定メテ間違ッタ報道デアラウ
ト云フコトヲ希望スル、ガ此報道ノ眞否ハ免ニ角モ、支那ノ
國會ハ大連、旅順回收案迄決議シテ居ル、是等ノ事ヲ見ル
1、一方我國ハ誠心誠意ヲ披瀝スル、又披瀝シタニモ拘ラズ、
支那ハ大正四年ノ我條約權、而モ其條約ハ兵力若ハ壓迫ニ
依ッタニ非、スシテ、兩國ガ共同ノ利益ノ爲ニ喜ンデ調印シタ
ル其條約スラモ、破壞セントスル所ノ今日ノ支那ノ國民狀
態、此支那ノ國民性ニ鑑ミテ見マシタナラバ、本員カラ見テ
以テ不必要ノ文書トナス斯ル書附ヲ交附シタ曉ハ、支那ハ
此文書ヲ以テ將來南滿洲鐵道附屬地ニ於ケル日本ノ郵
便權ハ支那ニ回收シ得ラルベシト云フ意味ニ於テ、內田外
務大臣ガ之ヲ交付シタモノデアルト云フ第二ノ難題ヲ、吾々
ニ吹掛ケル虞ハナイカト思フ、是ハ本員特ニ說明ヲ煩シテ見
タイト思フノデアル仍テ此場合本員ノ所謂不必要ナル文書
ヲ交附シタル理由及ソレト共ニ、此演壇ニ於テ此交換文
書ハ右本員ノ言フガ如キ趣意ニ非ズシテ、日本ノ滿洲鐵道
ノアラン限リ、其附屬地ノアラン限リハ、其處ノ郵便權ハ依
然トシテ旣往ノ如ク、卽チ只今申上ゲタ其條約ノ通リニ、斷
然日本ハ之ヲ支那ニ讓渡ス意味ニ於テ交換シタモノデナイト
云フ、絕對的否認ノ御證明ヲスルコトガ、日支兩國民ノ誤
解ヲ解ク上ニ於テ極メテ便宜デアルト思ヒマス、最後ニ申
述ベタキ事ハ、内田外務大臣外交ノ方針ハ、只今申上ゲタ
如ク世界各方面ニ亙クテ總テ譲歩ニ讓歩ヲ以テシ、吾々ガ
漢學デ能ク聽イタ、朝ニ一城ヲ讓リ暮ニ一壘、斯ウ云フ遣
方ガ內田君ノ譲步主義。此實例ハ先刻申上ゲタ西伯利ニ
於テ、支那ニ於テ、北ハ滿蒙ヨリ南上海ニ至ルマデ、日本ノ
實業家、政友會ノ中ニハ多數ノ實業家諸君ガアッテ、實業
上ノ其知識ハ本員以上ニ豊富デゴザル、此方々ヲ初メトシ
テ、日本ノ政黨政派ヲ離レタル在外六十万ノ同胞ガ、今日ノ
外交ノ方針ニ安心致シテ、海外發展ニ從事スル者ガ果シテ
幾人アリマセウ(拍手)而モ彼レ昨日ハ曰ク、我ガ國民ノ對外
經濟的發展ヲ圓滿-能クモ斯ウ云フコトガ言ヘタモノデア
ル(拍手)西伯利ニ、支那ニ、滿蒙ニハ加奈陀ニ、北米ニ、濠
洲ニ、到ル處八方塞リノ此運命、皆是レ內田外務大臣ノ無
方針、無經綸ノ結果デアッタト云フ其證據ハ、四十一議會ノ
速記錄ヲ今晩大臣歸ヲテ二時間讀シデ見給へ、アナタノ言
ウタ事ハ悉ク前後矛盾、自家撞著、甚シキハ外國ニ向ッテマ
デモ影響スル事ヲ、白々シク確的ナル諒解ヲ得タカノ如キ事
マデ言フ、斯クマデ其良心ハ、寔ニ神經質ナラザルコトハ內田
外務大臣個人ノ特長デアラウガ、國家其モノヽ利益カラ見
タナラバ、御同樣國民ノ代表者トシテ確ニ外務大臣ニ向ン
テ、其外交方針ノ皆無ナルコトニ深甚ノ考慮ヲ拂ハナケレ
バナラヌト思ヒマス、(拍手)露骨ニ申スト大正七年九月二
十九日、外務大臣就職以來今日ニ至ルマデノ外交ハ、其
日暮シノ日傭外交ト申ス以外ニハナイノデアル、(拍手)是
ハ外務大臣自己ノ良心ニ御尋ヲ願フト云フ本員モ極メテ
穩健ナル一言ヲ玆ニ殘シテ、ソコデ更ニ此外ニ御答辯ヲ煩
スニ先タッテ、議長ノ許可ヲ得テ、此所ニ現外務大臣ガ就職
以來、列國ニ對シテ初メノ提議ヲ如何ニ譲リ、讓ッタ其妥
協案ヲ更ニ如何ニ譲ッタカト云フ「外務大臣譲步一覽表」
ト云フベキ其事實ノ立證、是ハ而モ本員ノ個人ノ意見ニ非
ズシテ、外務省ノ公表シタル其公文書ヲ基礎ト致シタ所ノ
其材料ノ出所ヲ、悉ク明記致シタ積リデアリマスルガ故ニ、
朗讀ニ代ヘ之ヲ玆ニ殘シテ外務大臣卽席ノ答辯ヲ煩シマセ
ヌガ能ク々々御覽ニナッタナラバ、外務大臣自身モ中宵定メ
テ啞然トシテ其良心ノ苛責ニ堪ヘナイモノデアルト云フコトノ、
此一言ヲ殘シテ、同時ニ之ヲ國民ノ判斷ニ訴ヘマスル、是ダ
ケヲ以テ御〓聽ヲ煩シタコトヲ感謝致シマス(拍手)
〔國務大臣男爵加藤友三郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=3
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004・加藤友三郎
○國務大臣(男爵加藤友三郎君) 只今望月君ヨリ外
交ニ關スル澤山ナル御質問ガアリマシタ、其中若干ハ私ニ
答辯シロト云フ御言葉デアリマス、尙ホ詳細ニ至リマシテハ、
當局者タル外務大臣ヨリ詳シク答辯サレルコトヽ信ジマス、
私ハ大體ニ就テ御答致シタイト存ジマス、第一ハ四國協約
ニ關スル米國上院議員「ロッヂ」氏ガ、上院ニ於テ述ベマシ
夕所ノ問題ニ付テノ御尋デアリマス、卽チ四國協約ハ一方
ニ於テハ日英同盟ニ代ルペキモノデアルト云フガ如キ意味
ノコトヲ、外務大臣ハ述ベタコトガアルト云フ御話モ此中ニ
アッタヤウデゴザイマス、一元來此協約ハ、精神ニ於キマシテハ、
帝國ト致シマシテハ日英同盟ニ代ルベキモノデアルト云フ
考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、勿論其內容ガ大ニ異クテ居ル
ト云フコトハ、事實爭フベカラザルコトデアリマスケレドモ、
併ナガラ精神ハ此ニアルト云フコトヲ確信致シテ居ルノデア
リマス、同時ニ又此協約ガ太平洋ノ安定ヲ圖ルガ爲ニ、
飽マデ平和的精神ヲ以テ締結セラレテ居ルト云フコトモ、
其精神ノ一ツデアルノデアリマス、是亦帝國ノ確信致シテ
居ル所デアリマス、米國上院議員「ロッヂ」氏ガ、此協約ノ裏
ニハ武力ナルモノガ無イト云ンコトヲ述ベタト云フ御話デア
リマスガ、私モ此事ハ承知致シテ居リマス、是ハ卽チ米國上院
議員デハアリマセヌケレドモ、現政府側ノ人デアリマスガ故ニ、
或ハ政府ノ方針デアリマセウト考ヘル、併シ是ハ米國政府
ノ解釋デアル、帝國政府ニ於テモ元來ノ精神ガ平和的デ
アリ、隨テ武力ト云フコトハ爲シ得ル限リ避ケルト云フガ、此
協約ノ精神デアリマスル以上、精神上ニ於キマシテハ、武力ナル
モノヽ無イト云フ解釋ヲ爲スモ、決シテ過デナイト信ジテ居
ルノデアリマス、併ナガラ協約面上何等之ニ對スル規定ハ
無イノデアリマス、隨テ比律賓方面ニ於ケル何等カノ出來
事ノ場合ニ於ケル例ヲモ引イテ御話ガアリマシタケレドモ、
若シ帝國ガ此協約國-協約的武力ヲ用井ルノ必要ヲ感ジ
マシタ場合ニハ、或國ト相談ノ上之ヲ爲スコトニ於テハ、何
等ノ差支ハナイト思フノデアリマス、是等ノ事ハ自然各國ハ
所謂內政上ノ關係モアリマセウ、又書キ物ノコトデアリマス
ルカラ、解釋ト云フコトニ付テハ多少ノ相違ヲ生ズベキ場合
モ或ハアルカモ知レナイト思フノデアリマス、隨テ「ロツヂ」氏
ノ斯ノ如キ解釋ヲ加ヘ、留保ヲ爲シタカト云フガ如キコトハ
米國政府ノ事デアル、其精神ニ於テハ我ガ政府ニ於アモ異
存ハ無イノデアリマス、唯〓或ル場合ニ於テ前申上ゲマスル
通リ、相談ノ上ニハ武力ヲ用井ルコトノ出來得ナイコトハナ
イ、斯樣ナ事モ爲シ得ル餘地ノアルモノデアルト云フ、解釋ヲ
持ッテ居ルト云フコトヲ申上ゲテ置クノデアリマス、次ニハ海
軍條約ニ付テノ御話デアリマスガ、此御質問ノ要點ハ一寸
記憶致シマセヌガ、大體私ノ解釋ニ依シテ御答ヲ致シマスガ、
今回ノ豫算ヲ編成スル上ニ於テ、英米政府ト何等カノ諒解
ヲ得タカト云フ御話ノヤウデアリマシタ、外交上ノ公然ノ手
續ヲ以チマシテハ何等諒解ハ得マセヌ、又其必要ヲ感ジナ
イノデアリマス、御承知ノ如ク英米兩國トハ公然ノ外交形
式ニハ依リマセヌケレドモ、大使館員若クハ「アツタツセ」ヲ
以テ軍事當局者、若ハ外交當局者ト非公式ニ意見ノ交
換ヲ終始致シテ居リマス、故ニ、此兩國ガ此條約ヲ實施スル
ト云フ上ニ於キマシテ如何ナル事ヲ爲シツヽアルカ、今後如
何ナル事ヲ爲サントスルカト云フガ如キ大體ノ事ハ、政府ニ
於テ能ク分ッテ居リマス、又我國ノ今回編成致シマシタル豫
算ニ依ッテ、御覽ノ如キ方針モ此兩國ニハ通ジテゴザイマス、
卽チ條約ハ望月君ノ御話ノ如ク、不幸佛伊兩國ノ批准ガ
濟ミマセヌガ爲ニ、今日マデ效力ヲ生ズルコトノ出來ナイノ
ハ洵ニ遺憾ト致ス所デアリマスルガ、併シ是亦已ムヲ得ナイ
ノデアリマス、併ナガラ此條約ノ精神ナルモノハ、今日ノ場合
飽マデ實行スベキデアルト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、英米
兩國ニ於キマシテモ卽チ實行致シテ居ルノデアリマス、現ニ
來年度ノ英米兩國ガ豫算ヲ編成スル上ニ於テ、又本年度
内ニ於キマシテモ、卽チ現在ニ於テ如何ナル事ヲ爲スカ、如
何ナル方針ニ依シテ、此效力ノ生ゼザル以前ノ遣方ニ付テ其
方針等ヲ聽キタイト云フコトモ問合セマシテ、其返事モ得テ
居ル、此兩國ハ現ニ今回豫算ニ依ッテ御覽ノ如キ我ガ執リ
ツヽアル所ノ方針ト、大體ニ於テ同樣ノ態度ヲ執ッテ居ルノ
デアル、或ル軍艦ノ如キハ旣ニ廢毀ニ著手シ、士官ヲ初メ兵
員ニ至ルマデノ大減員ヲ實行致シテ居リマス、是亦我ガ海
軍ニ於テ實行致シマシタ所ト更ニ違フ所ハナイノデアル、軍
港竝ニ陸上設備ノ整理、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ縮小デアリマ
ス、是亦既ニ英米等モ實行致シテ居ル、我ガ海軍ニ於テモ
或ル一部分ハ實行致シマシタ、嚴格ニ申シタナラバ效力ヲ
生ゼザル以前ニ諸君ヲ煩ハスベキ正當ナル豫算ヲ編成スル
ト云フコトハ、或ル想定ノ下ニヤッタノデアルカライケナイト
云フ議論モ、或ハ出來マセウカトモ考ヘマス、併ナガラ條約其
モノヽ精神ガ、已ニ軍備ノ競爭ヲ止メヤウト云フガ如キ理
由ノ下ニ生ジテ居ルノデ、殊ニ方ニ批准ニ關スル萬般ノ準
備整ウテ居ル英米兩國ガ旣ニ其精神トシテ、殆ド效力ノ生
ジタル場合ニ於ケルト同樣ナル態度ヲ執ッテ居ル際ニ、帝國
獨リ之ニ反スル態度ヲ執ルト云フコトハ、全局カラ見テ果
シテ利益デアルヤ否ヤ、是ハ大ニ考慮ヲ要スベキ點デアラウ
ト思フノデアル、斯樣ナ兒地ヨリ考ヘマスレバ、多少ノ議論
ノ餘地アリト致シマシテモ、今日ノ場合之ヲ實行致シマスコ
トガ、華府會議ノ精神ヲ尊重シテ、列國ノ信用ヲ得ル上ニ
於テモ利益デアラウカト思フノデアリマス、又一面ニ於キマ
シテハ、是ガ御質問ノ主旨デアッタカニモ考ヘマスガ、又此條
約ガ成立ヲ致シマセヌ場合ヲ豫想スルコトモ必要デアラウ
カト思フ、此點ニ付テハ昨日早速君ノ御質問ニモ御答ヲシ
テ置キマシタガ、現在當局ガ此豫算編成ヲ致シマス當時ノ
決心ハ、只今望月君ノ御述ノ如ク、效力ノ生ゼザル場合ニ、
卽チ佛伊兩國ガ此批准ヲセザリシ場合ニドウスルカト云フ
コトニ付テ、極ク大體ノ方針ヲ海軍省ガ定メマスニハ、隨分
苦心ヲ致シタノデアル、爲ニ豫算編成ニ取掛リマス以前ニ
於テ、形式コソ具ヘマセヌガ、前申上ゲルヤウナ英米兩國ノ
態度方針等ハ「アッタッセ」竝ニ大使館員ヲ以テ、互ニ非公式
ニ意見ノ交換ヲシ之ニ依ッテ得マシタ所ノ材料ニ依フテ、此
兩國ハ假令效力ガ生セザルニモセヨ、本年度ヨリ直ニ爲シ
得ル限リ、此條約ノ精神ヲ實行スルモノデアルト云フコトノ
確信ヲ得タノデアル私ハ、是ハ疑ハナイ、故ニ我ガ海軍ニ於
キマシテモ、今囘ノ豫算ノ如キ方法ヲ實行スルガ時機ヲ得タモ
ノデアルト信ジマシテ、既ニ諸君ノ御前ニ差出シマシタ通リノ
豫算ヲ編成シタ次第デアリマス、故ニ萬一效力ガ生ジマセ
ヌ場合ニ於キマシテモ、所謂軍備縮小ナル主義ノ下ニ此ノ
豫算ヲ編成シテアリマスノデ、其主義方針ノ大部分ハ實行
致ス決心ヲ持フテ居ル、故ニ昨日早速君ニ申上ゲマシタ通
リ、假令條約不成立ノ場合ニ於キマシテモ、現ニ提案シテア
リマス豫算案ヲ改訂スルトカ、遣リ直ストカ云フコトハ、斷ジ
テ致ス積リデアリマセヌ隨テ英米兩國ガラ保障ヲ得ルト云
フガ如キコトハ致シテ居リマセヌ、私ハ斯樣ナルコトハ寧ロ
今日ノ場合ニハ致サナイ、御互ニ非公式ノ問合ヲ信
賴シテ誠意ヲ示シタ方ガ宜カッタデアラウカト思フ
ノデアリマス、唯、、事實ハ保障ヲ得ルト云フヤウナ
手續ハ履マナカッタト云フコトダケヲ申上ゲマス、ソレカ
ラ西伯利ノ問題ニ付テ、撤兵ニ付テノ責任觀念ヲ問フト
云フ御話デアリマスガドウモ是ハ實ハ能ク了解致シマセヌ
デシタガ、モウ總テ撤兵ト云フコトニ付テハ責任觀念ハ感ジ
テ居ル、決シテ責任ヲ囘避致シマセヌ、而シテ是ハ御質問デ
アリマシタカ如何デアリマシタカ、詰リ撤兵ニ依ッテ初メテ安
定シタノデアルト云フヤウナ御言葉ガアッタヤウデアリマス、
私ハ左様ニハ解シテ居ナイ、大體ニ於テ安定ノ兆候ヲ見マ
シテ初メテ撤兵致シタ、是ハ或ハ見樣ニ依ッテ考ガ違フカモ
知レマセヌ、又撤兵ニ關シテ英米カラ追窮サレタコトガ有ル
カ無イカト云フ御話、左樣ナコトハ決シテアリマセヌ、ソレカ
ラ長春會議ニ關スル御質問中私ヘノ御質問ガ、露國委員
ガ共同調査ヲ爲スト言ウタ時ガ、最モ薩哈嗹ノ撤兵ヲスベ
キ好時機デハナカッタカ、何故之ヲ利用シナカッタカト云フ御
質問ノヤウデアリマス、當時ノ此會議ニ於ケル政府ノ方針
ハ、通商ニ關シマスル問題ト、尼港事作ニ關スル問題トハ全
然區分致シテ居ッタノデアリマス、隨テ通商ニ關スル條約ノ
出來マセヌ限リニハ、尼港事件ニ關スル相談ニハ應ジナ
カッタガ、決シテ之ヲ混同シテ話ハ致シテ居リマセヌ、此方針
ヲ持續致シテ居リマシタ故ニ、斯樣ナル機會ヲ利用スルト
云フ考ハ持タナカッタノデアリマス、併ナガラ一面ヨリ考ヘマ
シテ、共同調査ヲスルト云ウッタ其時機ヲ利用シテ撤兵スルコ
トガ、果シテ得策デアッタヤ否ヤ、是ハ別問題トシテ大ニ攻究
ノ餘地ガアルカト思フ、對支政策ニ付テノ御質問ノ中ニ、私
ニ答ヘヨト仰セニナッタヤウデアリマシタガ、望月君ハ支那ニ
對シテハ常ニ友情ト援助トヲ以テヤラナクチヤナラヌト云フ
御言葉、全然御同意デアリマス、今日モ友情ト援助トヲ
以ッテヤッテ居ル考デアリマス、援助ヲ致スト申シテモ、援助ヲ
スル事柄時機其他列國トノ關係、種々ナル點ニ付テ考慮ス
ペキ事柄ハアリマセウケレドモ、主義トシテハ全然御同感デ
アリマス、今日モ此方針ヲ實行致シテ居ル積リデアリマス、
ソレカラ最後ニ華盛頓ニ於テ山東問題ニ付キマシテ、日支
兩國間ニ會議ヲ開キマスル際ニ、英米兩國ノ干涉ヲ受ケタ
コトハ無イト云フコトヲ斷言シ得ルヤ否ヤト云フ御話シデアリ
マス、受ケタコトハ無イト云フコトヲ斷言致シマス、決シテ干
渉ハ受ケマセヌ、唯〓此會議ヲ開クガ爲ニ「バルフオア」、「ヒ
ユーズ」兩氏ガ幹旋ノ勞ヲ執ッテ吳レタト云フコトハ事實デ
アリマス、是ハ私ハ最モ好意アルコトデアルト喜ンデ居ル、併
ナガラ會議ヲ開イタ以上ハ、日支兩國委員ノ自由意思ニ
依ッテ意見ノ交換ヲ致シタ以外、英米兩國ノ監視、若ハ監
督ト云フコトハ斷ジテ受ケタコトハ無イト云フコトヲ言明致
シテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=4
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005・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 内田外務大臣
〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=5
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006・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 私ハ望月君ノ御質問、
寧口御希望ニ對シテ十分ノ滿足ヲ與ヘ兼ネルノヲ悲ミマス、
望月君ハ私ニ對シテ意見ノ相違デアルト言ッテ、自分ノ質問
ヲ囘避セヌコトヲ望ムト云フ御希望デアリマシタ、然ルニ只
今御質問ナルモノヲ聽イテ見マスレバ、寧口御意見ノ開陳、
或ハ一層進ンデ私ノ就職以來ノ外交ヲ非難センガ爲ニ批
評ヲ下サレタモノデアル、併シ私ハ敢テ意見ノ相意トシテ、回
避ハ致シマセヌ之ニ對シテ私ノ意見ヲ申上ゲ、事實ノ御質
問ハ多クハ自ラ問ハレテ自ラ答ヘラレタ點モ多々アルヤウニ
思フ一、二思違ノ點モ持ッテ居ラルヽヤウデアリマスカラ、是
ハ其所ニ至ッテ申上ゲマス、先ヅ望月君ハ私ガ四年前ニ就
職シタ以來ノ外交ハ悉ク失敗デアル、傍觀主義ヲ執ッテ
居ッタ、讓步主義ヲ執ッテ居ッタ、今一ツ何トカ仰セラレマシタ
同ジヤウナ意味デセウ、先ヅ此點ニ付テ私ハ反對ノ意見ヲ
持ッテ居ル、敢テ自畫自讃ヲスルデハアリマセヌケレドモ、私
ガ就職シタ當時ノ外交關係ハドウデアル支那ニ對スル關
係、列强ニ對スル關係ハドウデアリマシタ、然ルニ今日ノ狀
態ニ於テハ、洵ニ多年ノ問題デアッタ所ノ山東問題モ解決
シ、山束ヨリ悉ク撒兵ヲシ、四年有餘西伯利ノ野ニ曝サレタ
ル所ノ兵モ悉ク牧メタ、之ニ對シテ日支ノ關係モ私ハ確ニ
改善シ-改善シツヽアルト思フ(「ノウ〓〓」「ヒヤ〓〓」)又
西伯利ニ於ケル狀況モ其政情モ安定シ、今日ハ殆下北樺
太ノ占領ヲ除ク外ハ、所謂勞農露國ハ統一セラレ、此勞農
露國トノ感情モ餘程融和シツツアルト思フ、遠カラズ勞農
露國ト更ニ商議ヲ開始スル機運ノ來ランコトヲ私ハ寧口希
望シテ居ル、單リ此感想ハ私ガサウ思フノミナラズ、恐ラクハ
日本國民ノ多數、殊ニ有識者ハサウ思ッテ居ルト私ハ思フ
(拍手「ノウー〓」)此事ハ歐米諸國ノ識者モ之ヲ言明シテ
居ル、現ニ亞米利加ニ於テモ歐羅巴ニ於テモ、日本ニ對スル
感情モ大ニ好クナッテ居ル、是ハ第一望月君トノ意見ノ相
違デアル、望月君ハ讓步ヲ爲シテハイケナイ、又條約デ決メ
タ事、或ハ私ガ四年前ニ言ッタ事ト變ッテ居ル、御丁寧ニモ
其表ヲ作ラレタト云フコトデアリマスガ、私ハ皆覺ヘテ居ル、
若シ譲步シタモノガアレバ、讓步シタ事ハ覺ヘテ居ル、私ハ
讓步シナイトハ言ハナイ、、譲步スベキモノハ讓步スル、啻ミ讓
步シタノデナイ、卽チ其代リガアルカラ譲步シタノデアル、大
局ノ上カラ顧ミテ日支ノ親善ヲ來シ、日露ノ親善ヲ來サン
ガ爲メニシタノデアル、若シ此讓步ヲ爲サズシテ、何所マデモ
自分ノ主張ヲ言ヒ張フテ居ッタナラバ、今日ハ如何ナル狀態
デアリマスカ、恐ラクハ日本ハ所謂四面楚歌ノ裡ニ孤立ヲ
守ッテ居ッタト思ヒマス、私ハサウ確信ヲスル(「ノウ〓〓」)嘗テ
英吉利ガ日本ノ位置ヲ認メテ、明治二十七年ニ初メテ對
等ノ條約ヲ日本ト締結シタコトガアリマス、日本ノ政權日
本ノ法權ヲ認メタノハ英國ガ第一デアル、此時ニ於テ日本
ニ於ケル所ノ英國人ハ殆ド悉ク之ニ反對シタ、然レドモ此
英吉利ノ卓見英斷ガ日英同盟ヲ齎ラシタノデアル、支那ニ
對シテモ露西亞ニ對シテモ、譲ルベキモノガアッタ時ハ讓ッテ
モ決シテ差支ナイ、是ヨリ御質問ラシイモノニ對シテ御答致
シマスガ、西伯利ニ對シテ屢〓政府ガ方針ヲ變更シタ、是ハ
今ニ始ラヌ御質問、每議會ニ此御質問ガアル、之ニ對シテ
私ハ何時モ同シ事ヲ答ヘテ居ル、或ハ御記憶デアルカラ申
上ゲル必要ガナイカ知ラヌガ、元々西伯利ニ出兵ヲシタ目
的ハ、「チエック、スロバック」ノ援助ニ在ルケレドモ、其時西
伯利ニ於ケル情勢ガ變テ赤化ノ虞ガアルカラ、之ニ對
シテ備へ、又南滿洲朝鮮等ニ對スル脅威ヲ排除シ、且
ツ滿洲ニ於ケル多數ノ我ガ國民ノ生命財產ヲ保護
スルニハ駐兵ヲ必要トスル、國情ガ安定シタ場合ニ於テ
駐兵ノ必要ヲ認メナイトキニ於テハ、一日モ早ク之ヲ撤兵
スルト云フコトヲ屢〓聲明ヲ致シタ、卽チ其時ガ來マシタカラ
撤兵ヲ斷行シタノデアリマス、何カ其撤兵ノ事ニ就テ、外務
省ト參謀本部ト意見ヲ異ニシタカノ如キ御尋モアリマシタガ、
サウ云フコトハナイ、何時モ總テ兵事ニ關スル事ハ、參謀本
部若クハ陸軍省ガ主トシテ之ヲ定メル、何時モ互ニ協議ヲ
シ、何等其間ニ扞格モ何モナイ、ソレカラ其次ニ大連會議ノ
事ニ就テ質問ガアリマシタガ、大連會議ノ失敗ハ、結局其
御相手方ヲ見誤ッタカラ失敗ニ歸シタト言ハレタガ-(「先
見ノ明ナシデハナイカ」「默レ」「何ダ動物」ト呼フ者アリ議場
騒然)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=6
-
007・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 注意シマス····中野君ニ注意シマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=7
-
008・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君)(續) 是レハ當時ノ事情
ヲ御承知ナイカラ、斯ル御質問ニナッタト思ヒマス、(「動物」
「默レ」ト呼フ者アリ議場騒然)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=8
-
009・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君)(續) 是ハ當時ノ事情ヲ
御承知ナイカラ御質問ニナッタコトヽ思ヒマスガ、御承知ノ
如ク此齊多政府ナルモノハ、日本ノ立場ヲ顧慮シテ寧ロ出
來タル緩街國デアル、當時大連會議ヲ開キマシタ時ニハ····
(議場騒然)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=9
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010・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 靜〓ニ-中野寅吉君ニ著席ヲ
命ジマス-靜肅ニ··発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=10
-
011・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君)(續) 大連會議ヲ開キマ
シタ當時ハ、極束共和國ナルモノハ免モ角モ獨立國トシテ
日本モ之ヲ認メ、勞農政府モ之ヲ認メテ居タ、勞農政府ト
極東共和國ノ内輪ノ關係ハ兔モ角モ、對外的ニハ獨立政
權トシテ各國ニ於テモ之ヲ認メテ居ッタ、其獨立政權ト極
東共和國ニ關スル商議ヲ爲ス時ニ方ッテ、此共和國ヲ飛越
シテ、之ヲ無視シテ、勞農露國政府ニ交涉ヲ乞フト云フ譯
ニハ行カナイ、若シ萬一交涉ヲ始メテ向フヨリ拒絕サレタ
時ハ洵ニ面目ナイ次第デアル、齊多政府ニ於テ日本ト通商
關係ヲ結ビタイト云フ希望ニ應ジテヤッタノデアル、無論初
メヨリ非常ナ私ハ確信ハ持ッテ居ラナカッタ、併シ先方ノ希
望デアルカラ之ニ應ジタノデアル、決シテ本末輕重ヲ〓倒シ
タノデハナイノデ、是ガ何モ會議ノ決裂ノ原因ト云フ譯デモ
何デモナイ、又此問題ニ關聯シテ撤兵ノ期限ヲ明ニシタラ
宜カッタラウト云フ御考デアリマスガ、此撤兵ハ所謂出兵ト
同ジク自主的ニヤルト云フコトハ、是ハモウ我ガ國策ノ決
フッタ事デアル、成程大連會議ノ破裂シタ後ニ於テ、此撤兵
期日ヲ聲明ハ致シマシタケレドモ、大連會議ノ際ニ於テハ、
未ダ政府ニ於テ撤兵スパキ時期ヲ明定スルコトハ爲シ得ナ
カッタ、若シ其時ニ於テ西伯利ノ政情ガ安定シタモノト認メタ
ナラバ、會議中ニモヤッタカモ知レマセヌケレドモ、サウ認メナ
イカラヤラナカッタ、先方ノ方デハ之ヲ以テ談判破裂ノ原因
トシテ居ルカモ知レマセヌケレドモ、是ハ無理ナ話デアル、此
事ハ明ニ先方ニモ言ッタノデアリマス、先方ニ對シテハ若シ
通商條約ガ出來ルナラバ、三箇月モ經テバ恐ラク撤兵スル
時期ニナルデアラウト云フコトハ通ジタニモ拘ラズ、先方ハ
之ヲ寧ロ言草トシテ談判ヲ切上ゲタノデアリマス、ソレカラ
其次ニ長春會議ノ經過ニ付テ御質問ガアリマシタガ、昨年
九月四日ヨリ此會議ヲ開カレテ、是ニハ「ヨッフエ」「ヤンソ
ン」等ガ這入ッテ來タガ、結局極東問題ト全露ノ問題トヲ一
〓ニシタイト云フ事デアッタガ、是ハドウ云フコトデアルカト
云フ御質問ノヤウデアル、成程勞農露國政府ノ代表者「ヨ
ツフエ」氏ガ此ノ會議ニ參加ヲ希望シ、之ヲ日本ハ承認シタ
ノデアル、併シ此會議ハ大連會議ノ定メタモノヲ基礎トシテ
ヤルト云フ、初メカラノ雙方ノ契約デアル、又極東共和國ニ
關スル基本協約ヲ結ンダ上ニハ、全露問題ニ對シテモ商議
ヲスルコトヲ辭サナイ、尙ホ進ンデ尼港問題ニ付テモ商議ヲ
スルコトモ辭セナイト云フコトヲ言シタノデアル、是ハ交涉ノ
經過當然然ルベキ事デアル、然ルニ尼港問題ヲ商議セヌガ
爲メニ談判ヲ繼續スルコトガ出來ヌト先方ハ言タノデアリ
マス、是ハ洵ニ無理ナ話、未ダ露國勞農政府ヲ承認スル域ニ
達シテ居ナイ、日本ハ免モ角モ承認シ得ベキ-少クトモ事
實上ノ政權トシテ承認シ得ベキ政府ト認メタ時ニ、初メテ
商議ヲスル覺悟デアル、或ハ今日ニ於テハ既ニ全露統一シ
タ暁デアリマスカラ、先方ノ誠意如何ニ依クテハ、此問題ヲ
商議スルコトヲ敢テ辭セヌ積リデアル、全露問題ヲ議スルト
共ニ、之ヲ承認スル機運ガ來ルトモ私ハ思ウテ居ル、ソレカ
ラ極東西伯利方面ニ於ケル我ガ邦人ガ獲タ權利ノ事ニ付
テ御質間ガアリマシタガ、是ハ抑ニ斯ノ如キ政情ノ安定シナ
イ、一ツノ政權ト取結ンダ權利其他ノ利益ガ、之ニ反對ナ
ル政權ガ來タ時ニドウナルカト云フコトハ、眞ニ法律上ノ難
問題デアル、其點ハ浦鹽方面其他ニ出テ、是等ノ利權ヲ求
メル實業家ニ對シテハ明ニ示シテアル、卽チ彼等ノ危險ニ
於テ之ヲ爲スヨリ外ハナイ、卽チ各自ノ「リスク」デアルケレ
ドモ、一タビ結ンダ緣故ト云フモノハ非常ナ强キ理由ニナル
デアラウ、ソレハ後ノ政權が出テ來テ居ッテモ、ソレニ依ッテ出
來得ル限リハ其權利ヲ主張スルガ宜シイ、又政府ニ於テモ
出來得ル限リ便宜ヲ與ヘルト云フ諒解ハアリマス、是ハ斯
ノ如ク政情ノ變更スル場合ニ於テハ已ムヲ得ナイ事ト思フ、
ソレカラ尙ホ極東ニハ特別ノ事情ガアルカラ-日本ト極
東卜ノ事情ハ特別デアルカラ、是等ノ事ヲ明ニ言ッテ英米其
他ノ國ニ提唱シテ、何故ニ極東ニ於ケル日本ノ位地ヲ確
保スルノ途ヲ講ゼナカッタカト云フヤウナ御質問デアッタ、是
ハ御注文通リニ致シク、「ゼノア」ニ於テモ極東ノ問題ハ是ハ
別デアル、關係國ニ於テモ之ヲ承認シテ居ル、若シ極東ノ事
マデ「ゼノア」其他ニ於テ規定セラレルモノデ羈束セラレルヤ
ウニナッテハ、甚ダ我ガ立場ニ害ヲ及ボス話、此點ニ付テハ明
ナル諒解ヲ求メテ居リマス、尙又「ゼノア」ノ會議ニ關シテ、
單ニ他國ニ追隨盲從セズ、大ニ世界平和ノ爲ニ盡力セナ
カッタノデアルカト言フヤウナ御質問ノヤウニ思ヒマスガ、是
モ或ル程度ニ於テハ致シテ居ル、併シ物ニハ程度ガアル、日
本ガ今歐羅巴ニ最モ關係アル問題ニ對シテ、例ヘパ御質問
中ニモアリマシタガ、「ルール」事件ノ如キモノニ對シテ、漫ニ
日本ガ重要ナル仲介ノ勞ヲ執ルト云フコトハ、是ハ餘程
私ハ考物デアラウト思フ、殆ド佛蘭西ノ死活問題、獨逸ノ
死活問題ニ關スル此大問題ニ對シテ、唯、單ニ日本ガ何
カノ働ヲセンガ爲ニ之ニ干與スルト云フコトハ、大ニ考ヘナ
クチヤナラヌ、干與シテ效ヲ收メルベキモノデアレバ、無論之
ヲ辭シマセヌケレドモ、此微妙ナル問題ニ付テ唯、世話燒的
ニ仲間入ヲシテ、色ミナ事ヲスルト云フコトハ、私ハ大ニ考
物デアラウト思ノ、殊ニ賠償委員會ニ於テハ、日本ノ委員ハ
關係アル時ダケニ出席スル、總テノ賠償問題ニ委員會ニ出
席スルト云フコトニハナッテ居ラナイ、是ハ利害ノ關係ガ自ラ
輕重ガアルノデアリマスカラ、「ヴエルサイユ」會議ノ時カラサ
ウ極ヲテ居ル、ゾレカラ對支政策ニ付キマシテ御質問ガアリ
マシタガ、是ハ最初ニ申シマス通リニ、終始讓步ヲ以テ終クテ
居ルト云フヤウナ御意見デアルガ、是ハ先刻申シマシタ通リ、
私ハサウ思ハナイ、無論譲ッタ所モアリマス、併シ是ハ兔モ角
モ、日本ノ大正四年以來ノ日支ノ間ニ於ケル洵二面白カラザ
ル關係ヲ匡救センガ爲ニ、少シ譲っタモノガアレバ拂ッタ機牲
デアルケレドモ、其結果トシテハ今日日支ノ關係ハ餘程面
目ヲ改メタ、又改メツヽアルト私ハ思フ、本日貴族院ニ於テ
モ江木君ヨリ御質問ガアッテ、私ハ御答辯ヲシテ置イタ、其大
體ノ趣旨ヲ此處デ繰返シ申シマス、私ハ支那ニ對シテハ深
キ緣故ヲ持ヲテ居ル、兩度モ支那ニ使ヲシテ居ル、日本ノ
將來ハ支那ニ懸フ)テアリト私ハ言ッテモ過言デナイト思フ、
此領土ノ小ナル園ヲ以テ、割合ニ非常ナ多クノ人口ヲ持ッテ
居ル図ガ、今後生存シテ行クニハ、支那ノ物資ニ依ラザルヲ
得ナイ、ドウシテモ支那ト相提携シナケレバナラヌ、然ルニ支
那ト反感、相反目シテ居ッタナラバ、如何ナル條約ガアリ、如
何ナル取極メガアッタカラト云ッテモ、何等ノ效ヲ爲サナイ思
切ッテ譲ルベキハ譲ッタ方ガ宜イ、サウシテ其關係ヲ一新スル
ガ、最モ國ノ爲デアルト私ハ確信シテヤッタ、幸ニ山東問題
モ解決ヲ告ゲテ今日ノ狀態ニナッタコトハ、私ハ私ノ職
責トシテハ爲スベキヲ爲シタコトヽ思フ(「ヒヤ〓〓」)ソレカ
ラ何カ保管事件ノ例トシテ、奉直戰爭ノ時分何故ニ干
涉シナカッタカ、是ハ甚ダ驚入ッタル御觀察ト思フ、若シ其際
ニ日本ガ何等カノ干渉ヲ爲シタナラバ、今日ハ如何ナル事
態ヲ來シテ居ルコトデスカ、中ニ英米ノ使臣ガ人道上若ハ
其利益ヨリシテ何カ致シタコトガアリマスガ、私ハ此行動ハ
甚ダ感心シナイ、我ガ日本ガソコヘ色〓ノ世話燒ヲ爲シタナ
ラバ、甚ダ面白カラザル結果ヲ來シタカモ知レヌト思フ、併シ
是ハ一個人ノ行動デアル、此際日本ガ是迄ノ各國トノ取極
メ、協調、諒解ニ背イテ何カ一種ノ干涉ヲシヤウヂヤナイカト
云フヤウナ提唱ヲシタナラバ、初メヨリ是ハ斥ケラレルコトハ
分リ切ッテ居ル、又干涉ヲスル以上ハ、之ニ伴フ所ノ重大ナ
ル責任ヲ感ゼザルヲ得ナイ、私ハ此際何等干渉的態度ニ出
デズ、矢張嚴正中立ノ位置ニ出デタコトハ、洵ニ彼ノ時局ニ適
應シタ政策デアッタト思フ(拍手)ソレカラ財政共同管理ニ步
武ヲ進メツヽアリハシナイカ、其步武ヲ進メル機會トシテ、來
ル三月ニ關稅會議ガ開カレルト云フヤウナ御質問デアリマ
シタガ、是ハ條約ヲ少シ御覽下サルト思違ガアラウト思ヒマ
ス、是ハ關稅ニ關スル條約中ニ規定シテアリマスガ、其條約
ガ實行サレテカラ三箇月後ニ會議ヲ開クト云フコトデアリマ
スカラ、今日ハ此條約ハ未ダ實行サレナイ、何時實行サレル
カ分ラナイ、來年ニナルカ再來年ニナルカ分ラナイ、故ニ此時
ノ特別會議ト云フモノハ、五箇月ノ後ニ來ルカ一箇年ノ後
ニ來ルカ是ハ分リマセヌ、併シ此會議ノ重要ナルコトハ、私
ハ望月君ト意見ヲ一ニ致シマス、是ハ誠ニ外債整理ノ時ニ
最モ重大ナル機會デアラウト思フ、支那ノ財政ヲ共同管理
スルガ如キコトハ、隣邦トシテ何處迄モ避ケナクチヤナラヌモ
ノデアリマス、併シ支那ガ外國ニ負フ所ノ外債ハドウシテモ
是ハ整理セザルヲ得ナイ、殊ニ日本ノ如キハ巨億ノ整理ス
ベキ外債ヲ持ッテ居ル、是ハ斯ウ云フ機會ヲ逸セズ、各國ト
共ニ外債ノ整理ヲスベキモノデアル、其議モ既ニ現今ニ於テ
モ行ハレツヽアリマシテ、ソレニ我ガ政府ニ於テモ何等異存
ガナイ、ケレドモ望月君ノ参ヘラルヽガ如ク、此三月ニ來ルヤ
ウニ、サウ速ニハ來ヤウハナイト思フ、ソレカラ最後ニ滿洲ノ附
屬地鐵道-南滿鐵道ノ附屬地ニ於ケル郵便局ノコトニ
付テ御質問ガアリマシタガ、是モ今朝貴族院デ同ク質問ガ
アッテ、詳細ニ御答ヲ致シテ置キマシタカラ、極ク〓略ニ譲リ
タイト思ヒマス、其質問ニ最モ關係アル協定ナルモノガ未ダ
公布サレテ居マセヌ或ハ誤解ガ生ジテ居ルカモ知レマセヌ
ガ、此協定ハ一應支那ト打合ヲ要スル協定デアリマシテ、先
日來其手續ヲ執ッテ旣ニ手續ガ濟ミマシタ、今日アタリ發表
ヲ致ス積リデアリマス、ソレ故ニ此席ニ於テ之ヲ申上ゲテモヽ
少シモ差支アリマセヌカラ茲ニ其協定ノ全文ヲ朗讀致シマ
ス「本日附ノ新郵便約定ニ署名セントスルニ當リ兩國ノ首
席代表者間ニ於テハ兩國政府間ノ交涉ノ題目ト爲スコト
アリ得ヘキ南滿洲鐵道附屬地帶內日本郵便局ノ問題ニ
關スル意見ノ相違ニ鑑ミ南滿洲鐵道附屬地帶內日支雨
國郵便局門ノ關係及是等郵便局ノ業務ニ付テハ暫定的
ニ原則トシテ現狀ヲ維持スルコト竝ニ南滿洲鐵道附屬地
帶內ニ於ケル日支兩國郵便局間ノ關係ハ千九百十年ノ
郵便約定ニ規定セラレタルト同一條件ニ依リ支配セラルヘ
ク之カ適用ニ關スル細目ハ中央政廳ノ同意ヲ經テ關係地
方郵便官憲ヲシテ取極メシムルコトニ一致セリ、千九百二
十二年十二月八日北京ニ於テ小幡酉吉、劉符誠」斯ウ云
フ協定ニナッテ居リマス、一應此協定ヲ結ブニ至リマシタ來
歴ヲ御話シ致シタイ、華盛頓會議ニ於テ此九箇國條約卽
チ支那ニ關スル諸條項ヲ議定スル爲ニ、當時會合シタル九
箇國ガ-支那モ無論其中ニ入ッテ居ル-定メタ條約ガ
アリマス、此條約ハ免モ角モ支那ヲシテ自ラ開發シ、支那ニ
對シテ便利ヲ各國ヨリ與ヘテ、支那ヲシテ富強ノ國ニナラシ
メル、又現在支那ノ若イ人、外圍ニ居ッテ育ッテ歸ル-所謂
新支那、此新支那ノ活動ニ對シテ出來得ル限リ援助ヲ與
ヘタイト云フ氣ハ、各國之ヲ持ッテ居ッタノデ、ソレデ是マデ支
那ニ於テ各國ガ得タ所ノ權利ニ致シマシテモ、之ヲ抛棄スベ
キモノハ抛棄セヨ、況ヤ條約上ノ權利無キモノヽ如キハ、成
ベク之ヲ早ク廢メテシマハウト云フヤウナコトカラシテ九國
條約モ出來、支那ニ於ケル郵便局モ其一ツトシテ決議ヲ以
テ定メタノデアリマス、望月君ハ條約デ定メタヤウニ言ハレマ
シタケレドモ是ハ決議デアル、其決議ト九國條約トノ關係ニ
付テハ、法律上色〓解釋ガアルノデス、或ハ九國條約ノ附帶
條約デアルト云フ議モアル、然ラバ九國條約ガ出來ナイ時
ニ、決議バカリドウシテ效力ヲ生ズルカト云フヤウナ質問モ
アリマスケレドモ、免モ角モ只今申シタヤウナ趣旨ヨリ決議
ヲ致シタ決議デアリマスカラ、實行サレ得ベキモノハ一日モ
早ク實行シタイ、是ガ各國ノ意思デアル、日本モ無論之ニ
賛成ヲシテ居ル、ソレ故ニ決議ノ一タル戰時法規ノ變
更改正ノ如キハ現ニ海牙ニ於テ日英米佛伊五箇國、及
開催地タル所ノ和蘭ヨリ各委員ヲ出シテ現ニ會議ヲ
開イテ居ル昨年十一月ヨリ開イテ居ル、我國ヨリハ松井
大使ヲ特派シテ之ニ參加セシメテアル、是モ決議ノ一ツ
デアルンコデ此郵便條約、支那ニ於ケル外國ノ郵
便局、尤モ支那ニ於ケル外國ノ郵便局ト申シマシテ
モ四箇國ニ限ッテ居ル、日本ト英吉利ト亞米利加ト
佛蘭西、是ダケデアル、是等ハ條約上ニ依ッテ寧ロ得タト云
フコトハ言ヒ難イノデアル、色〓ノ支那ノ事變ニ際シテ、便
宜ノ爲ニ各地ニ此四國ガ自己ノ郵便局ヲ置イタノデアル、
支那カラハ無論是等ノ撤退ヲ熱望シテ居ル、此希望ニ應ジ
テ撤退シヤウヂヤナイカ、出來レバ一月一日、卽チ本年一月
一日ヨリ撤退シヤウト云フコトヲ申合シタノガ卽チ決議デ
アル、其趣旨ニ依シテ之ヲ撤退スルニ付キマシテハ、日本ハ支
那ニ對シテ最モ複雜ナル關係ヲ持ッテ居ル、郵便局ノ數ニ
於テモ他國ノ到底及ブ所ヂヤナイ、故ニ英米佛ノ如キハ特
別ノ協定ヲ必シモ要セナイ、萬國郵便條約ノ規定ニ依ッテ
行ッテモ差支ナイノデアル、日本ノ立場トシテハ、ドウシテモ之
ヲ萬國郵便條約ノミニ讓ル譯ニ行カナイ、ソレデ日支ノ間
ニドウシテモ約定ヲ必要トシテ、遂ニ四ツノ約定ヲ締結シタ
ノデアリマス、然ルニ之ニ關係ガアルノハ、卽チ南滿洲鐵道
附屬地内ニ於ケル日本郵便局デアル、是ハ華盛頓會議ニ
於テモ支那ハ强硬ニ反對シタ、是ハ他ノ郵便局ト同樣ニ撤
退スベキモノデアル、卽チ南滿洲鐵道地内ニ於ケル郵便局
ト云フモノハ、支那ガ條約上ニ與ヘタルモノデハナイ、租借
地ニ於ケル郵便局トハ性質ヲ異ニスル關束州ニ於ケル、郵
便局ハ何等ノ問題モナクシテ是ハ決定シテ居ル、鐵道附屬
地ニ於ケル郵便局ハ、、露西亞ニ對シテモ同樣ニ交涉ヲシテ
居ッタ、是ガサウ云フ論據ニ依シテ强硬ニ反對シ又日本モ强
硬ニ之ニ反對ヲシタ、結局華盛頓ニ於テハ此問題ハ解決ヲ
告ゲズシテ持越シテ來タノデ併シ決議ニハ何等カノ始末ヲ
付ケナクテハナラヌカラ、結局租借地若ハ特ニ條約ニ依ッテ
定メラレタルモノヲ除クト云フノデ決議ガ出來テ居ルノデス、
此特ニ條約ニ依シテ定メラレタル郵便局ト云フモノガ日本
ト支那トノ正ニ見解ガ反對シテ居ル、果シテ北京デ此交涉
ヲ始メルニ當ッテ、又是ガ雙方ノ論點トナッテ、此爲ニ屢〓會
議ガ停頓シタノデアリマス、是ニ關係シテ何時迄モヤッテ居ッテ
ハ、到底支那ニ於ケル日本ノ郵便局撤退ト云フモノハ行ハ
レナイ、他國ハ撤退シテモ日本ハ撤退シナイ、ト云フコトニ
ナッテハ、甚ダ面白カラザル關係ヲ生ジマスノデ、ドウシテモ此
協定ヲシタイ、支那ニ於テモ同樣ナ感ヲ懷イテ、結局此協定
ニ依シテ附屬地ニ於ケル郵便局問題ヲ引離スト云フコトカ
ラ此協定ガ出來タノミナラズ、千九百十年ノ郵便協定ハ、
今般ノ協定ニ依シテ廢止サレルコトニナリマシタカラ、實際
上ト致シマシテモ何等カ協定ヲ必要トスルコトニナッテ、卽チ
鐵道附屬地内ニハ日本ノ郵便局モアレバ支那ノ郵便局モ
アリ、又附屬地外ニハ支那ノ郵便局ガアッテ、是等ノ間ノ聯
絡ヲドウシテモ取ラナケバナラヌ、然ルニ日支ノ郵便ヲ規定
シタ所ノ千九百十年ノ約定ガ廢止サレルト、何等ノ協定モ
無イコトニナリマスカラ、是ハ地方的ニ定メル、ソレ迄ハ暫行
的ニ原則トシテ現狀ヲ維持スルト云フノガ、矢張此協定ヲ
結ブニ至ク夕理由ノ一ツデアル、ンレデ斯ル〓係ヨリシテ此
協定ガ出來タノデアリマシテ、外務省側トシテハ寧口時宜ニ
適シタル名案ト思ッテ居ル、唯〓世間デハ此條約ニ依ッテ日
本ガ滿洲ニ於ケル既得ノ權利ヲ譲步シタデナイカト虞レル
人ガアルガ、是ハ非常ニ間違ッ夕考デ其條約ニ依ッテ何等ノ
譲ル所ハナイ、成程他日交涉ノ題目トナス事アルベキトアリ
マスカラ、支那側カラ問題ニスルコトモアリマスカ知レマセヌ
ガ、其時ハ日本ノ主張ヲ繰返スニ止マル、寧ロ此郵便ノ問
題ヲ圓滿ニ解決センガ爲ニ、色々ノ苦心ヲシテ雙方デ定メタ
モノデアッテ、決シテ此中ニ附屬地內ニ於ケル郵便局ヲ、日
本ガ讓ラウトカ何トカ云フヤウナ事ガ含マッテ居ルノデナイ、
又今後ニ於テモサウ云フ意思ハ持タナイノデス、尙ホ此問題
ニ附帶シテ何カ日本ガ憲法上-政府ガ憲法ニ違反シタ
ヤウナ行動ヲ執ックト云フ御質問モアリマシタガ、是ハ恐
クハ調印前ニ樞密院ノ諮詢ニ供セナカッタト云フコトヲ
言ハレルコトデアリマセウガ、是亦誤解ノ甚シキモノデア
リマス、政府ハ此協約ハ-私ハ四ツノ協約ノ事ヲ中ス、
四ツノ協約ハ御裁可ヲ經ベキモノト思ヒ、之ヲ樞密院ノ議
ニ付シタノデアリマス、殊ニ此四ツノ條約ハ未ダ實行セラ
レテ居ナイノデアリマス、其期日ヲ確定スルマデニ此批准ヲ
仰イダノデアッテ、卽チ御裁可ヲ得ンガ爲ニ批淮ヲ仰イダノ
デアッテ、決シテ憲法上ノ問題ガ出ツベキモノデナイ、結局昨
年末ニ於テ御裁可ヲ得テ、一月一日ヨリ公布ヲシタノデアリ
マス、ソレデ外務省ニ於テハ此總テノ對外交涉ニ係リマス
協約等ハ、多ク調印後ニ其批准ヲ仰グベキモノハ仰ギ、又
卽時ニ效力ヲ生ズベキモノハ卽時ニ之ヲ發布スルト云フ手
續ヲ執ッテ居リマシテ、調印前ニ其草案ナリ、若ハ對手國ト
協定シタ案文ヲ具ヘテ批准ヲ仰グト云フコトハナイ、今般ハ
殊ニ支那ノ政情ニ顧ミテ、一日モ早ク調印ヲ要スル事情ガ
アリマシタカラシテ、十二月ノ九日、日附ハ八日ニナッテ居リ
マスケレドモ、九日ニ調印ヲ了シタ次第デアリマス、何等憲
法上ノ問題ヲ惹起スベキモノトハ思ヒマセヌ(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=11
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012・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 前田遞信大臣
〔國務大臣子爵前田利定君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=12
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013・前田利定
○國務大臣(子爵前田利定君) 望月君ノ御質問ニ對シ
マシテ御答ヲ致シマス、仰セノ通リニ本年一月一日ヨリ我ガ
在支ノ郵便局ハ撤廢ヲ致シマシテ、支那ノ郵便政廳ニ事務
こゑヲ引繼イダノデアリマス、何分ニモ差替リノ時節ガ年頭デア
リマシタノト、事務ニ慣レナカッタト云フ點カラ致シマシテ、或
ハ郵便ノ運行上ニ於キマシテ、事務ノ滑カデナカッタ點ガ
アッタカモ知レマセヌ、併ナガラ私ノ手許ニハ、御述ニナリマシ
タヤウナ夥シキ郵便物ガ、或ハ遲著ヲ致シタリ、或ハ內地ニ
逆送サレタト云フ事實ニ付テノ報道ニハ接シテ居ラヌノデ
アリマス、尙ホ念ノ爲ニ部內ノ者ニ確メマシタ所ガ、矢張何
等ノ左樣ナ報道ニハ接シテ居ラヌト云フコトデアリマス、併
シソレハ偖措キマシテ、我ガ郵便局ガ支那ノ郵政廳ニ事務
ノ引繼ヲ致シマスノニ際シテ、引繼後ニ御述ベニナリマシタ
ヤウナ、サウ云フヤウナ不始末ノ起ルヤウナコトガアッテハ甚
ダ遺憾デアルト考ヘマシタノデ、大勢ノ局員ヲ殘務整理委
員ト云フ名ノ下ニ、各局ニ遺留サセテアルノデアリマス、北
京、天津、上海ノ如キ大局ニ於キマシテハ、一箇月殘留ヲサ
セルト云フコトニ致シテアリマス、其他ノ小局ニ於キマシテ
ハ十五日間殘シテアルノデアリマス、而シテ支那ノ局員ヲ及
ブダケ援助シテ、滑カニ郵便物ノ運行ガ出來マスヤウニ、十
分注意ヲ致サセテ置イタノデアリマス、然ルニ果シテ望月君
ノ言ハルヽヤウナ郵便物ノ故障ガアッタト致シマスレバ、洵ニ
遺憾ノ事ニ考ヘマスルケレドモ、當局ト致シフシテハ撤廢後
ニ於テノ事故ノ起ラヌヤウニ、豫メ手配ヲ致シマシタト云フ
コトハ御了承ヲ願ヒタイト思フノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=13
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014・望月小太郎
○望月小太郞君 山梨陸相ハ御病氣トノコト次ニ大木鐵
相モ御留守デスカ(「居マス」ト呼フ者アリ)質問案件ニ付テ
一寸一言、西伯利問題ノ責任ニ對シテ加藤、內田、大木、
山梨、當然連帯責任者デアルベキ筈ト思フ、其大木鐵相ノ
答辯ヲ求メタ上デー居ラレナケレバ宜シイ(「居リマス」ト呼
フ者アリ)見エナイ-御答辯ガ無ケレバソレデ宜シウゴザイ
マス(「居リマセヌ」ト呼フ者アリ)然ラバ是ヨリ總理大臣、外
務大臣ノ御答辯ニ付テ、極メテ簡單ニ申述ベテ見タイト思
ヒマス
〔「其席デ宜シイ」「登壇」「登壇」ト呼フ者アリ〕
〔望月小太郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=14
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015・望月小太郎
○望月小太郞君 極メテ簡單ニ總理大臣ノ答辯ニ付テ
不滿ヲ述べ、尙ホ外務大臣ノ答辯ニ對シテ不服ヲ申述ベマ
ス、總理大臣ハ第一條ノ四國協約ヲ以テ、日英同盟同樣ノ
精神ノモノデアルトノ趣意、隨テ此米國ノ保留條件ガ何等
條約ノ精神ニ悖ルモノデハナイト、斯ウ云フ御趣旨ノヤウニ
拜聽致シマシタガ、總理大臣御記憶デモアリマセウ、アノ當
時此四國協約ヲシテ、太平洋ダケニ於テハ、少クトモ日英
同盟同樣ニ四箇國ハ權利モ平等デアレバ、隨テ義務モ平
等タラザルベカラズド、此趣意カラ英國ノ「バルフオアー」氏ハ
四國協約ガ出來ナカッ夕時分ニハ、日英同盟ヲ復活シヤウ
ト云フコトノ一條項ヲ入レタノデアル、アナタヲ初メトシテ他
ノ全權ハドウ云フ理由カ知ラヌガ、此英國ノ好意アル所ノ
深キ考ノ此條項ヲ削除シタ、ンコデ漫然米國ノ案ニ從ッタノ
デアル、此問題ハ時ノ外務大臣能ク御承知デアル筈デアル、
是ニ於テカ外交調査會ニ於テ大議論トナッテ-犬着君
此席ニ居ッタナラバ、恐ラク否認ハナサレマスマイ、遂ニ日本
政府ヲシテ「パルフオアー」氏ニ向ッテ一ツノ感謝ノ挨拶ヲ爲
サシメタ程ニ、其四國ニ向ッテハ同一ノ權利アルト共ニ、同一
ノ義務アルト云フコトノ、其英國ノ精神スラモ此保留條件
ニ於テハ確ニ破壞セラレタト云フコトヲ否認ハ爲サレマスマ
イ第二ニ海軍ノ軍備制限ニ著手スルニ際シテ英米ノ了解
ヲ得タト云ハレタガ、是カ抑、と加藤首相ノ奧ノ手デアル、此
調子ニヤラレテ、吾々ハ八々艦隊ト云フモノガ無カッタナラバ
國家ガ潰レルヤウニ、本員ノ如キハ熱狂的賛成ヲ與ヘタ一
人デアリマスル、是ガ加藤流ノ答辯、是ハ本員洵ニ此場合ニ
於テ露骨ニ申ス、卽チ事實ヲ擧ゲテ之ヲ言フ初メ加藤首相
ガ華盛頓會議ノ全權トシテ出發スル時ニ、首相ヲ推薦シテ
今日ノ地位ヲ作ラセタ山本伯ノ評ニ、加藤全權ハ結構デア
ルガ、餘リ妥協性ニ富ムト、本員ハ此山本伯ノ言ッタコトヲ
見ルト、妥協性ハ免モ角モ全譲性、全ク讓ッテシマフト云フ
性質ノ御方ト思ヒマス、是ハ事實ニ於テ申上ゲル、華府會
議ニ於テ例ノ六割七割ヲ、國家存亡ノ其必要點カラ爭ウ
テ、一箇月而モ內田外務大臣ノ如キハ此議場ニ於テ、ソレ
ハ全權ノ言ウタコトデナイ、又加藤海軍大臣モ其通リノ事
ヲ前年貴族院、衆議院ニ於テ同一ノ意味ヲ言ハレタ、然ル
ニ本員幸ニ華府會議ヲ視察シテ居ル時ニ、日本全權ノ名
ニ依ッテ提出シタ公文書ヲ突付ケテ、是ハドウダトニロッタラバ、
ソレナラバドウモ責任ハ囘避セヌト、斯ウ云フ此答辯、此政
治的ノ答辯、其巧妙ナハコトル本員洵ニ感服ハ致スガ、是ガ
加藤首相ノ奧ノ手デアル、ソコデ序ニ素破抜イテ置カザルヲ
得ナイコトハ當時外交調査會ハ何故米國ノ六ト云フニ付
テ七ナドト言ウテ無駄ナコトヲ言ウテ爭フカ、現ニ七隻アラ
ウガ、八隻アラウガ、其戰艦ニ使フベキ石油スラモ我國ニハ
僅ニ二三箇月シカ持ッテ居ラヌデナイカト云フコト、是モ加
藤全權ハ御存ジアリマスマイガ、內田君ノ如キハ至極御尤
ダト言ッテ、是コン妥協性ノ外務大臣、直ニ六割說ニ贊成シ
タ、ト云フ掛引ノ事實其他本土包含論ナルモノハ日本全
土マデモ包含シテ他國ノ思召ヲ聽クニアラザレバ我防備ハ
出來ヌト言フ英米ノ提議ニ調印シタ、流石ノ內田君モソレ
ヲ聽クニ於テ洵ニ驚イタ、直ニソレヲ取消シタコト、更ニ又
防備制限區域問題ニ付テ英國ノ賛成タル經緯度ノ問題、
其中ニ「アリウシヨシ」列島ノ北ノ方ニ、海軍大臣タリシ加
藤君ハ御存ジデアルアノ、「ダッチハーバー」ト云フ冬モ凍ラヌ
島嶼ガアルガ、アノ港ヲ米國ノ自由防備ノ區域內ニ置カウ
トテ、此條約ニモ一旦調印爲スッタ、加藤首相斯クマデニ妥
協性ヲ越エテ、全然本員カラ見マスト云フト全讓性、不幸
本員ハ海軍問題ニ付テ洵ニ御耻シイケレドモ專門的知識
ガ無イ、ソコデ加藤首相ノ答辯ニ英米ノ諒解ヲ得テ居ルト
カ、英米ノ豫算モソレニ依ッテヤッテ居ルト云フ奧ノ手デアッタ
ナラバ、本日只今天佑ナル哉本員ノ得タ所ノ此英國ノ海
軍ニ對スル與論ヲ申上ゲテ置ク、是ハ英國ノ海軍記者トシ
テ最モ有名ナル「アーチボルドハード」氏ノ說デアル、彼曰ク
世界ハ再ビ海軍競爭ノ事實ガ、目下英米日ノ間ニ於テ勃
興シツヽアル、華府會議ニ於テ定メタ其戰鬪艦ニ對シテハ
是ヲ近世的ニ改良シツヽアルコト、第二ニハ華府會議ニ確
定スルコトガ出來ナカッタ巡洋艦補助艦、潜水艇、驅逐艦、
等ニ付テハ英吉利ハ斯樣、亞米利加ハ斯樣、日本ハ斯樣、
佛蘭西ハ斯樣、伊太利ハ斯樣ニ競爭的ニ建造シツヽアルト
云フ意見、茲ニ參考ニ披露シテ置キマス、而モ此電報ハ一昨
日「ロンドン」發トナッテアル形勢ヲ見ルニ付テモ、本員ハ勿
論亞米利加ノ誠意ハ信ジマス、英吉利ノ誠意モ信ジマスケ
レドモ、此奧ノ手ノ極メテ冷靜ナル加藤君ハ、何カ申サレル
コトニ付テハ、斯ウ云フ點ニ付テモ内ホ加藤君ニ深ク發ヲ
受ケタイノデアル、アナタハ海軍專門家デアル、此事ヲ何ト見
ル乎、次ニ西伯利撒兵問題ニ就テ英米ヨリ何モ要求ハ無
カッタト云フ、是ハ盲ニ事實ヲ能ク調査爲サラザル所ノ答辯
ト思ヒマスカラ、其事ヲ是正シマス、本員自ラ華府會議ノ總
テノ材料カラ著述シタ其原料ハ此處ニ持シテ居ル、此事實ニ
依レバ西伯利問題ニ付テ、我ガ幣原全権ガ撤兵ニ付テノ
問題ヲ華府會議ニ於テ聲明サレタ時ニ、米國國務卿「ヒユー
ズ」氏ガ矢張此聲明ヲ致シマシク、而モソレハ一月二十三
日、其時ノ聲明書中ニ、暗默ニ日本ノ西伯利駐兵ニ反對
致シテ居ル如キ文字ガ明ニアル、其聲明書ハ米國ガ千九百
二十一年五月三十一日日本政府ニ送クタ其公文書ヲ朗
讀シテ居ラレマス、其公文書ニ依ルト、曰ク米國政府ハ東
部西伯利ノ軍略的、中心地ノ繼續的占領、浦潮港ノ無期
限占領「ハバロフスク」」ニコリスク」「デカストリー」「モゴスビ
イスク」其他重要地點ノ駐兵、露碩樺太ノ占領、疑念ト敵
愾心トヲ誘發シテ、民政ノ施行ハ是等該地方ノ紛亂ト騷
擾トヲ鎭靜スルヨリモ、寧ロ增加スルモノデアルト思惟スルモ
ノデアルト右公文書ヲ此場合ニ「ヒユーズ」氏ハ讀マレマシ
タ、更ニ進ンデ、不必要ナル所ハ省略致シマスガ續イテ朗讀
シテ曰ク、假令一時的ニセヨ、露國ノ領土ヲ占領シ、或ハ西
伯利ノ人民ニ軍政又ハ民政ヲ施サナイト云フ約束ヲ露國
ニ與ヘヤウトシクノデアル、米國政府ハ、日本政府ノ執ッタ行
動ハ西伯利ノ出兵ニ對シテ、兩國間ニ締結サレタ極メテ明
確ナル諒解モ或ハ其間ニ於テ誤解アラザリシカヲ疑ハシムル
モノアリト確信ス云々最後ニ日本政府ノ執リタル手段ハ現
行條約ノ權利或ハ露國ノ傾土的保全ニ危害ヲ及ボスヤウナ
場合ニハ斷ジテ之ヲ默認スルコトガ出來ヌコトヲ聲明ス」是
ハ成程直接米國ガ壓迫ハ致シマスマイガ流石米國デ、此巧
妙ナ言葉デ日本ノ西伯利駐兵ノ非ナルコトヲ暗默ドコロデ
ハナイ、裏面ニ公々然トシテ指摘シタモノト本員ハ思フノデ
アリマス、此事ヲ以テ總理ノ御答辯ハ其點ニ於テ事實ガ違
フト反駁シマス、其次ニ山東問題ニ對シテ英米監視ノ「下ニ
開カレタデナイカト云フコトヲ申上ゲタラ、斷ジテナイト言フ
是モ事實相遣ノ點ヲ指摘致シマス、米國上院ノ議事錄及其
當時ノ各新聞ニアルモノハ控席ニ持ッテ居リマスガ、當時本
員ハコレヲ飜譯シマシテ歸リマシテ「華府會議ノ眞相」ト題
シテ世上ニ公ニシマシタモノデアリマスカラ、自分ハ全責任
ヲ持ツ積リデアリマス、此等ノ材料ニ依レバ日支兩國ガ十
二月一日カラ米國隨員「ランソン」氏、及英國隨員「ジヨル
ダル」立會ノ下ニ-立會ノ下ニ華盛頓、「パンアメリカン、ビ
ルデイング」ニ於テ交渉ヲ開イタ、原文ニハモット進ンデ書イ
テアリマス、卽チ此所ニ原文ノ證據ガアル之ニ依ルト其日
ニ於テ英國ノ全權「バルフオアー」氏「ヒユーズ」氏ハ「サー、ジ
ヨン、ジコルダン」「マイルス、ランプソン」氏「マックミユーレー」
氏「エドワード、ベル」氏ヲ件ウテ此日支雨國ノ會ヲ開キ「バル
フオアー」氏「ヒユーズ」氏ハ以上ノ英米四代表者ヲシテ此
會議ニ幇助ノ爲ニ列席セシメ「兩全權ハ退場セリト書イテ
アリマス、卽チ英米二國ノ監視ノ下ニ此會議ガ開カレタト
云フコトハ、此事實ヲ以テ申上ゲタノミナラズ、而モ日本ガ
駈引ヲ弄シ過ギテ、山東問題ニ付テ獨逸ヨリ得タ所ノ權利
ハ日本ガ繼承スルト言ヒ出シ、支那ハ之ニ反對致シ遂ニ會
議ハ中絕致シ、十二月二十四日以後ト云フモノハ、英米全
權ノ幹旋ニ依シテ一月四日再開サレタノデアル然ルニ茲ニ
モ又日本ガ第二ノ譲步ヲ致シタ卽チ山東鐵道合辦ヲ支那
ノ年賦支拂ノ卽賣案ニ譲步致シタ、支那ハ又之ニ應ゼズシ
テ再ビ又英米ノ仲栽妥協案ト致シテ十五箇年ノ期限据置
ト云フコトニナリマシタ、當時倫敦「タイムス」評シテ曰ク、山
東問題ハ回ヲ重ヌルコト二十餘囘、而カモ日本ハ出席ノ每
會必ズ譲步スルヲ常トス云々斯樣ニ記載シテアル(拍手)是
等ノ事實カラ見マシテ、本員ハ只今中上ゲタ所ノ英米監視
ノ疑問ヲ懷ク者デアリマス、是ガ加藤總理ノ只今ノ御答辯
ニ對シテ、賛成ノ出來ナイ不滿ノ證據ヲ申上ゲタノデアル、
更ニ對支政策ニ付テ一言申上ゲマスレバ、支那ニ向ッテ援
助ヲ致シテ居ルト內田君モ斯ノ如ク言ヒマスガ、然ラバ御
尋申ス、彼ノ義和團賠償費ハ、確カ後藤子爵ガ外務大臣
タリシ時、之ヲ以テ支那ノ文化事業ニ使ハウ、又內田現外
務大臣モ、本員ノ質問ニ對シテ同樣ノ意味ヲ述べラレタニ
モ拘ラズ、昨年ハ英佛其他ノ國ノ意見ニ從ノテ、賠償金ノ
支拂ヲ延期スルコトニ反對スル、若シ首相ノ所謂支那ヲ援
助スル心ナラバ今日東京ニ於ケル支那二三千ノ學生ハ殆
下學資ニ苦ミ、ソレガ爲ニ支那公使ハ日本ニ赴任スルケレ
ドモ直ニ逃ゲテ行ク、此目前ノ急務ニ向ッテ、何故義和團事
件費ヲ以テ之ニ寄附ナサラナイノデアルカ、又第二ノ例トシ
テハ華府會議ノ結果ト致シ、西伯利鐵道線中ノ束支線ノ
諸條件ノ責任ヲ支那ニ委ネタ、此東支線ニハ言フマデモナク
哈雨賓カラ只今我ガ滿鐵ノ長春、此長春「ハルピン」間ハ大
隈内閣ノ時ニ、石井外務大臣ガ旣ニ露國カラ其權利ノ讓
與マデ約束致シタル此問題、支那ニ對シテ東支鐵道ヲ回收
セシメ、之ニ日本ガ援助ヲ與ヘルト云フコトハ、政治問題ヲ
離レテ目前直接ノ經濟問題デハアリマセヌカ、然ルニ總理大
臣アナタ方ハ何ヲシテ居ラレル(拍手)之ヲ以テ總理大臣ニ
對スル答辯ノ答辯ト致シマス(笑聲起ル)總理大臣ノ答辯
ニ對スル再抗議ト致ス-言葉尻ヲ捉へ給フナ-更ニ外
相ニ向ッテ、其答辯ニ洵ニ不服且ツ事實ヲ誤ッテ居ルコトヲ
指摘セザルヲ得ナイ、外相ハ日本ノ今日ノ境遇ハ列國ニ對
シテ洵ニ感情ガ好クナッテ居ルト言ハレテ居ル、列國ノ提議
ニ追隨致シテ、我ニ何等自主的意見ノ無イ結果、列國ノ感
情ハ好イカハ知ラヌ、併ナガラ列國ノ尊敬ハドウデアル、本
員之ヲ「ゼロ」ト認メル(拍手)第二ニハ支那ニ向"テ讓歩ス
ルコトヲ望月君ハ惡イト言ウタト申サレタ、是ハ誤解デアル、
讓歩ノ出來ルモノハ宜シイガ、苟モ日本國民ノ生存的根本
問題ニ關シ、既得ノ權利ニ關シテマデ之ヲ譲步スルト云フ
トキニハ、隴ヲ得テ蜀ヲ望ムノガ支那ノ人情デアルゾヨ、斯ウ
云フコトデアル、然ルニアナタノ爲サレ方ハドウカ滿蒙問題、
山東問題、總テ緣日植木屋ノ遣方デアッテ、是デドウシテ日
支ノ國民ノ親善ガ得ラレルカト云フノガ根本ノ質問デアル
(拍手)ソレヲ事實ヲ揑造シタ如ク仰シヤルガ、四十二議會
ノ速記錄ニアルアナタノ答辯ノ要點ヲ先刻質問ノ中ニ羅列
シタノミナラズ、此速記錄ニ附加シテアル所ハアナタノ讓步
シタ所ノ其實質、其結果ヲ見タナラバ、サウ云云口舌上ノ議
論ヲ爲サラズシテ、如何ニモ御尤ノ次第ダト言ウタ方ガ男ラ
シイデハナイカ(拍手)況ヤ帝國ノ外交方針ヲ本員ノ如クニ
スレバ、日本ノ國交ハ四面楚歌ノ有樣ニ陷ル云々トテ、條約
當時ニ於テ英國ノ反對ニ會フタコトヲ述ベラレタガ、是程時
代錯誤ノ說ヲ述ベラレル方ハ無イ、(拍手)今日ハ五大國ノ一
人、三大國ノ一人デアル日本、ソレガ自己ノ言ハント欲スル
所ガ言ヘナイトハ何タルコトデアル、御說ノ如ク舊日本ニ屬
シテハ世界モ輕ク視テ居ッタ其證據ハ本員今モ記憶ス、日
〓戰爭當時ニ英國現外務大臣「カーゾン」卿スラ日本ガ支
那ト戰爭シテドウシテ勝テルモノカ、支那弱シト雖モ鯨ノ如
ク大デアル、日本敏捷ナリト雖モ蝦ノ如ク小サイノデアルト、
是迄ニ其當時ノ日本ヲ誤解シタル所ノ其英吉利ノ現外務大
臣「カーゾン」卿ノ其時代トハ全ク違フ、今日ハ世界ニ向ッテ
日本ハ苟モ公正ト平等トヲ求ムルナランニハ、千萬人ト雖
モ吾往カント云フ勇氣ヲ持ッテ貰ヒタイト云フコトヲ言ウテ
置ク(拍手)其公正モ求メズ、平等モ求メズ、唯、他國ノ意
見ニ追隨シテ往カウト云フ斯ウ云フ外相、之ニ向ッテ世界ノ
感情ガ日本ニ對シテ融和セラレタト云フニ至ッテハ、私ハ帝
國ノ爲ニ内田外務大臣ノ答辯ヲ悲シムモノデアル(拍手)第
三ニ於テ勞農露國ヲ相手ニセナカッタ尼港問題ニ付テノ御答
辯、ソレハ追テ正式、卽チ日本政府ノ正當政府ト認メルモノ
ガ成立シタ上ニ交涉スルト、斯樣ニ御答ニナッタ、故ニ尼港
問題ニハ觸レナイトノ答辯、是ハ自家撞著ノ御議論デハアリ
マセヌカ、免ニ角勞農露國ヲ一方ノ相手ト致シテ長春會議ニ
臨ンタノデアル、ソコデ若シ長春會議ニ於テ其勞農露國ト
日本ト、玆ニ一箇ノ協約ガ締結サレタ場合ニハ、其勞農露
國ヲ今日事實上ノ政府ト認メテコン、此調印ガ出來ルノデ
ハナイカ、然ルニ其調印サレタ所ノ勞農露國ヲ認メナイ、
〔奧議長議長席ヲ退キ粕谷副議長代リ著席〕
他日交涉スベキ他ノ政府ガ出來タラバ之ト交涉スルト云フ
論理ナラバ假ニ長春會議ガ、調印出來タモノヲバ勢ヒ之ヲ
反古ニスルト云フ意味ニナル、斯ンナ前後矛盾ノ論理ヲ以
テ帝國ノ外交ヲ處理スルト云フ、洵ニ本員遺憾ニ感ゼザル
ヲ得ナイ(拍手)其次ハ「ゼノア」會議ニ帝國ハ何ヲ爲シテ
居ッタカ、又其次ニハ現在賠償問題ニ付テ賠償委員會ノ權
限ヲ御說キニナッテ居ル、ガ本員ハ條約上權限ヲ離レテ大所
高處ヨリシテ、日本ノ幹旋スベキ、居中調停スベキ事ガ是レ
是レアルデハナイカト云フコトヲ指摘シタノデアル、ソレニ付
テ何等ノ御答ガ無イデハナイカ、若夫レ日支ノ關係ニ付テ
本員ノ質問ニ關スル答辯ハ誤解モ甚シイ、本員ハ彼ノ奉直
戰爭ニ對シテ、何故此利害關係ノ深イ日本ガ其戰爭ヲ中
止スベク忠言シナイカ、所謂居中調停セヌカト言ウタノデア
ル、其質問ニ對シテ、外務大臣ハソレハ干涉ダト言ハレタ、
是ハ外務大臣ガ根本ヨリノ誤リデアル、一寸デモ口ヲ利ケバ
干涉ト御感ジニナルノカ、現ニアナタノ誤ッタ事實ヲ申上ゲ
ル、四十一議會ニ、支那南北ノ和平ヲ勸告シテ見タ所ガ、
其和平ノ出來ナイ原因ハ支那ニ督軍ガアリ、無駄ナ兵ガア
ル廢督栽兵ニ向ッテ積極的勸告ヲシナイ爲メデハナイカト本
員ガ申シタラ、外務大臣ノ答辯ニハ支那ノ內政上ノ督軍ヲ
廢シテ兵數ヲ減ズルト云フコトハ、內政干涉デアルト言ハレ
タニモ係ハラズ華盛頓會議ニ於テハドウデアル、他國ノ尻ニ
附イテ、支那ニ向ッテ廢督栽兵ノ其決議ニ調印ナサッーデハ
ナイカ(拍手)サウ云フ自己ノ爲シタ事實ヲ胡麻化シテ、吾々
外交上ノ智識ノ乏シキ國民ニ一時逃レノコトヲ答辯ナサル
ト云フコトハ、何タル君國ニ不忠實ナ事デハナイカ(拍手)又
最後ノ日支郵便問題暫定條約云々卽ヲ現在ノモノガ暫定
條約トハ別言スレバ當分ノ間、追テ之ヲ交涉スルト云フ意
味ニナル併シナガラ只今ノ御答辯ニ依レバ、決シテ支那ニ
日本ノ郵便權ヲ還サセル意味ニ於テ交付シタノデハナイ、ト
云フコトデ吾々モ滿足シタ、果シテ然ランニハ此滿洲鐵道
附屬地內ノ日本ノ郵便權ヲ支那ニ回收セシムベク、將來ノ
交涉問題トシタト云フコトデナケレバ、然ラバ重ネテ言フナ
ゼ此樣ナ不必要ナ文書ヲ交附シタノデアルカ、是ガ實ニ危
險ナル遣方デアル、現在アナタガ此通リノ遣リ損ヒヲシタ爲
ニ、日米問題ニ今日ノ大困難ヲ來シテ居ル同一ノ事實ガア
ル、豫テ本員此壇上ニ指摘シタ如ク、四十四年二月二十一
日、現今不備ノ日米條約ハ追テ七月以後通知ニ依ッテ、其
改正ノ時期ニ迫クテ居ル、其詳細ハ他日ニ讓リマスケレドモ、
彼ノ時ニ米國ヲ相手トシテ日米通商ヲ結ンダ現外務大臣
タル貴下、米國ノ憲法ニハ無論條約ハ州法ヨリ重シトアル、
此原則アルニモ拘ラズ、其米國ノ中央政府ト日本國トノ條
約ヲ交涉スルニ當リテ、其時ノ駐米大使タリシ內田君ハ亞
米利加ノ國務卿ニ向フテ、米國ノ州法以上尊重スベキ其憲
法上ノ條約ヲ締結スルニ當ッテ、驚クベキ大過失ハ其州權ノ
獨立ヲ是認シタ附屬文書ガ今尙ホ米國政府ニ殘ッテアル、
ソレ故ニ大正八年以來、日本ハ「カリフオルニア」州其他ニ
於ケル我同胞ニ對スル州法ノ迫害ヲ受ケ、三回マデモ抗議
ヲ申込ンデ居ルガ、抗議ノ遣リッ放シデアル、支那ノ電報戰
爭ト同ジデアル、其抗議ヲ徹底的ニ突付ケテ米國ノ確答ヲ
寄越セト云フコトハ、內田外務大臣就職中ニハ出來ナイノ
ハ右ノ詫リ證文ガアルカラデアル(拍手)今又同一ノ事ヲ支
那ニ繰返シニナッタノデアル、洵ニ怪シカラヌ遣方デアル(拍
手)私ハ最早外務大臣ノ答辯ニ對シテ是レ以上申ス必要
ハ無イ、實ニ本員議會ニ出入シテ玆ニ二十數年、未ダ曾テ帝
國ノ外務大臣中、斯ル不誠實ナル一時遁レノ說明ヲ、此神
聖ナル議院卽チ國民ノ法廷ニ爲サル者ハ內田君ノ外、他ニ
其人無イト云フコトヲ申上ゲル、(拍手)次ニ大木司法大
臣-其時ノ司法大臣デアッタ、西伯利敬兵ノ連帶責任者
ノ一人、政治上カラ見ルト吾々カラ見テ被告人視スル一人、
兔モ角モ總理大臣モ、西伯利撤兵ノ事ニ付テハ政治的責
任ヲ自覺ナサレテ居ルト云フ本員ガ多年尊敬シテ居ル、大
木君ノ御記憶ダケヲ喚起シタイノハ、昨年五月二十三日地
方長官會議ニ於テ大木司法大臣ノ訓示中、國民思想ヲ攪
亂セントスル近來ノ傾向ヲ憤リ、其惡思想ガ我建國ノ基礎
ヲ否認シ、忠孝ノ大義ヲ蔑視スル此惡思想、進ンデハ社會
ノ制度ヲ破壊セントスルガ如キハ何レモ國憲ノ根義ニ悖リ、
人倫ノ大本ニ反ス云々、斯樣ナ行動ヲ取締レト云フコトヲ
地方長官會議ニ調示サレタ其大木君、先刻本員ガ申上ゲ
ル通リ、太閤征韓以來、未ダ曾テ此様チ大失敗ヲ致シタコ
トノ無イ西伯利出兵ノ責任觀念ニ對シテ、今日鐵道大臣
タル大木君、此時司法大臣タリシ所ノ其訓令ヲ能ク御覽
ナサイマシテ、斯ノ如ク國家官吏ノ其模範タルベキ內閣大
臣ガ自己ト政治的責任ニ對シテ冷淡ナルトキニハ、斯ノ如
キ惡思想ヲドウシテ撲滅シ得ラレルカ、甚深ナル御考慮ニ愬
ヘルト云フコトヲ申上ゲ、進ンデ、前田遞信大臣ノ只今ノ御
各辯ニ付テハ、更ニ昨年八月二十一日遞信局長官會議ノ席
上ニ述ベラレタ一言ヲ引用シテ、此日支條約ヲ斯ク迄一日
ノ間ニ發表シ、卽日屬行スルト云フコトガ、私ガ多年尊敬ス
ル貴族華曽社會ニ於テ此人アリト思フ其前田君ノ良心ニ
愬ヘル、此遞信局長會議ニ於テ、遞信大臣タル前田君曰ク
「公衆ノ輿望ニ副ヒ不便ヲ與ヘズシテ整理ヲ爲ス途ヲ見出
スコトニ努メナケレバナラヌ公衆ノ利害ニ影響スル所大ナル
モノアルヲ以テ處置ノ公正ヲ誤ルコト無キ樣」云々、ソコデ
先刻ノ支那郵便ノ發表ヲ今少シ急ガヌデ、外務大臣ヲ喰
留メタナラバ、各遞信局長ヘノ此訓示ハ、實ニ花モ實モ有ル
ト、斯ウ云フコトニ付テ御考慮ヲ頰ハスト云フ言葉ヲ殘ス、
是ガ本員ノ總理以下內田君、及兩君ノ答辯ニ向,テ言ハン
ト欲スル所デアリマス(拍手起ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=15
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016・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 內閣總理大臣
〔國務大臣男爵加藤友三郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=16
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017・加藤友三郎
○國務大臣(男爵加藤友三郞君) 只今ノ望月君ノ御話ハ
全部御質問デナクシテ、先刻吾々ノ御答致シマシタ事ニ付
テノ御意見、竝ニ不足不滿ヲ御述ニナッタト思ヒマス、併ナ
ガラ其中一二ハ玆ニ申上ゲテ置イタ方ガ宜クハナイカト思
フノデアリマス、四國協約ノ決定セザル以前ノ草案ニ付テ
御述べニナリマシタ、草案ナルモノニハ種々ナル案ガアッタノ
デアリマス、我ガ全權ガ提案致シマシタモノモ一デハアリマ
セヌ、英米亦然リデアリマス、決定シタモノニ付テ御意見ヲ
伺ヒ、又申上ゲル外ハナイト思フ、ソレカラ西伯利問題ニ付
テ英米ヨリ要求云々ト云フコトニ付テ、「ヒユーズ」氏ガ華
盛頓デ讀上ゲタ「ステートメント」ノ內容ニ付テノ御話デ
アリマス、是ハ事實デアルニ違ヒナイ、華府會議ノ開カレマス
ル以前ニ、米國政府ト我ガ政府トノ間ニ、西伯利駐兵問題
ニ付テ意見ノ交換ハ度ミアッタノデアリマス、其アッタ所ノ意
見ノ交換中ノ「ヒユーズ」氏ノ讀上ゲタル「ステートメント」中
ノ文句ヲ以テ、私ハ要求ト云フガ如キ性質ノモノトハ思ハ
ナイノデアリマス、當時非公式ニ此問題ニ付キマシテハ四數
囘圓滿ナル意見ノ交換ヲ致シマシテ、互ニ意ノ在ル所ヲ率
直ニ「ステートメント」ヲ出シテ、ソレデ此問題ハ打切ル、會
議ニ掛ケルト云フ如キコトハシナイト云フ意見ノ一致ヲ見
タノデアリマス、爲ニ我ガ全權モ我ガ政府ノ意ノ在ル所ヲ率
直ニ開陳シ、米國政府モ旣往ニ於キマシテ、我ガ政府ト意
見ノ交換シタコトモ率直ニ述ベルト云フニ過ギナイ、之ヲ以テ
要求ト望月君ガ御解シニナルナラバ、是ハ已ムヲ得マセヌ、私
ハ左様ニハ解シナイト云フコトヲ申上ゲテ置キマス、最後ニ
此山東問題ニ關スル日支間ノ兩國全權委員ノ會議ガ、監
視ノ下ニサレタト云フノデ、只今御讀ミニナリマシタモノハ
私ハ讀ンダコトガゴザイマセヌガ、米國上院デアリマシタカ何レ
デアリマシタカ、英米兩國ノ「ジヨルタン」氏其外ガ列席シテ
云々ト云フコトノ御話ガゴザイマシタ、是ハ事實ヲ御話致ス
ノデアリマス、卽チ兩國全權ノ斡旋ニ依リマシテ、日支兩國
間ニ會合スルコトノ決定ヲ致シマシタ、第一回ノ會合ニハ私
モ出席シ、其他ノ會合ニハ時〓出席致シマシタガ、他ノ全
權ニ委任シテ居ッタノデアリマス、此會合ノアリマシタル後ニ、
英米雨全權ヨリシテ、山東問題ハ隨分各方面ニ於テ誤解
ヲ受ケ、日支雨國間ノ親善上、之ガ爲ニ大ニ之ヲ阻害サレ
テ居ル重要ナル問題デアル、殊ニ玆ニ幸ニ吾々兩人ノ幹旋
ニ依ッテ、兩國委員間ニ自由意志ニ依テ茲ニ會議ノ開カレ
ルト云フコトハ衷心ヨリ喜ブ、付テハ何モ干涉スルトカ何ト
カ云フ趣旨デハナイガ、自分ノ方カラ一人二人出スカラ傍
聽ヲ許シテ吳レヌカト一云フコトヲ希望シテ來タノデアリマス、
是ハ事實デアリマス、仍テ其干涉ト云フガ如キコトナク、祕
密ヲ保ツト云フ條件ノ下ニ、單ニ傍聽サルヽト云フナラバ、
折角幹旋ノ勞ヲ執ラレタ其好意ニ對シテモ、之ヲ拒絕スル
コトノ不利益デアルト感シテ、仍テ傍聽ト云フコートハ許シタ
ノデアリマス(中野寅吉君「傍聽モ干涉デハナイカ」ト呼フ)
ソレヲ以テ干渉ト御考デアルナラバ、ソレハ中野君ノ御考デ
アリマス、傍聽人ガ傍聽シテ居ルノト同ジデアリマス、一言モ
發言ヲ許サナイ、(中野寅吉君「傍聽ガ卽チ監視デハナイカ」
ト呼フ)ソレヲ監祝ト御解釋ニナルナラバソレハ、解釋スル御
方ニ御任セスル外ハアリマセヌ(中野寅吉君「事實上監視
デハナイカ」ト呼フ)決シテ監視監督ハサレテ居リマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=17
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018・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 靜ニー発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=18
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019・加藤友三郎
○國務大臣(男爵加藤友三郞君)(續) 是ダケノ事實ヲ
申上ゲマス、ソレヨリ以上ハ御解釋ニ任ス、斯樣ニ御承知ヲ
願ッテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=19
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020・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 內田外務大臣
〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=20
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021・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 望月君ノ御質問中ニ、是
ハ總理大臣ニ質問スルト言ハレマシタ二點ガアル、ソレハ義
和團賠償金ニ關スル事ト、束支線ニ關スル事デアル、是ハ私
ヨリ御答辯申シマシタ方ガ宜シカラウト思フ、此義和團賠
償金ノ事ニ付キマシテハ、後藤子爵ガ外務大臣中ニ、是ハ
日本ニ於テハ結局支那ノ爲ニ此金ヲ利用スルト云フヤウナ
內約ヲ爲サレタコトガアルノデス、政府ニ於テモ其內約ヲ重
ンジテ、是ハ專ラ支那ノ文化事業ニ利用シタイト思ウテ居ル
ノデス、然ルニ御承知ノ如ク支那ガ世界大戰爭ニ參加スル
コトニ付キマシテ、免モ角モ五箇年間此賠償金ヲ取立テナ
イ、支那ヨリ各國ニ拂フベキ金ヲ其五箇年ノ間ハ取ラナイト
云フコトデ、是ハ昨年十一月末マデ取ラナカッタ、此十二月
カラ此金ハ又復活シテ各國ノ賠償金トシテ今稅關ノ方デ
留メテ居ル譯デアル、ンレデ是ハ支那ノ政府ハ今二年カ一
年延バシテ貫ヒタイト云フコトデアル、卽チソレダケノ金ヲ支
那ノ政費ニ使ヒタイト云フコトデアル、是ハ望月君ノ希望サ
レル所ノ文化事業ニ之ヲ利用スルト云フコトヲ無ニスルコ
トニナル、日本ハ今日ノ支那ノ政情ニ顧ミテ、斯ノ如キ金ハ
洵ニ珍重ナル金デアッテ、之ヲ支那ノ文化事業ニ利用センガ
爲ニ、支那ノ請求ニ應ズルコトガ出來ナイト云フノデ、各國
ヨリ希望モアリマシタケレドモ、結局日本ノ主張通リニナッタ、
是ハ決シテ日本ガ著服スルノデハナイ、後藤君ガ約束シタ事
ヲヤラウト斯ウ思ッテ居ル、何レ此金ノ始末ニ付テハ、當期議
會ヲ煩サナケレバナラヌコトモアリマセウ、口ハ今色〓會計上ノ
法規ヤ何ヤニ付テ案ヲ練シテ居リマス、此金ハ-十二月ヨ
リ入ル金ハ結局文化事業ニ利用サレルト御承知下サッテ此二
トモ差支ナイ、卽チ政府ガ其賠償金ノ延期ニ同意シナカッタ
ノハ、卽チ支那ヲ實際上友好的ニ援助スルコトデアル、ソレ
カラ東支線ニ付テ何故支那ヲ助ケテ之ヲ回枚シナイカト云
アヤウナ御質問デアッタヤウデスガ、是ハ少シ東支線ノ歴史ヲ
御〓究ニナレバ、サウ云フ御質問ハ起ラナイト思フ、東支線
ハ御承知ノ通リ其實露國ノ鐵道ト言ッテモ宜シイ、唯、露
國ガ今日舊帝政ガ瓦解シテ、今日ノ狀態ニナッテ居リマスカ
ラ、此東支線ノ法律上ノ位置ト云フモノハ甚ダムヅカシク
ナッテ居ル、併シ實際ハ支那ノ勢力ガ露西亞ノ勢力ニ優ッテ
居ルカラ、今日ハ殆ド支那ガアレヲ管理シテ居ルヤウナ姿ニ
ナッテ居ル、無論日本ガ出兵中ハ鐵道管理規則ト云フモノ
ヲ拵ヘテ、各國ガ之ニ干與シテ居ッタ、卽チ是モ日本ノ撤兵
ト共ニ其協約ハ-協定ハ-列國ノ協定ハ悉皆止ンデシ
マッタ、ソレ故ニ今日ニ於テハ支那ノ勢力ニ對抗スル勢力ハ
無イ、併シ支那ハ果シテ法律上ニ此鐵道ヲ自由ニスルコト
ガ出來ルカドウデアルカト云フコトハ、是ハ大變ナ疑問デアル、
露國ガ復活シタ暁ニハ、必ズ法律上ノ問題ガ起ヲテ露支ノ爭
ニナル、是ニハ日本ナリ列國ナリガ、或ハ態度ヲ決メテ干與
スルト云フコトハ餘程考へ物デアル、併シ支那カ實際之ヲヤッテ
居リマスルカラ、支那ノ管理ニ委セテ居ルガ、總テノ責任ハ支那
ニ在ルト云フ通告モ各國ヨリ支那ニ出シテ居リマス、又此
鐵道ニ對シテハ日本國モ餘程金ヲ出シテ居リマス、是等ノ
責任モ結局支那ニ歸スル、又此鐵道ニ歸スルト云フヤウナ
意味合ノ通告モ出シテ居リマス、ソレデ此東支線ヲ日本ガ
提唱シテ、各國ト共ニ支那ニ買收セシムルト云フコトハ、是
ハ甚ダ考フベキ事柄ト思フ、其他六箇條ノ御質問見タヤウ
ナ御質問デナイヤウナ、歸スル所先刻御述ニナッタ御意見ガ
勝ッテ居ルト思フ、之ニ對シテ私ハ十分私ノ意見ヲ開陳シタ
ノデ、ソレ以上御答スル必要ガ無イト私ハ思ヒマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=21
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022・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鐵道大臣
〔國務大臣伯爵大木遠吉君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=22
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023・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 望月君ノ私ニ對スル責
任觀念如何ト云フ御尋ネニ對シテハ、私ハ西伯利ノ駐兵竝
撤兵ニ付キマシテ、責任ヲ十分持ッテ居ルコトヲ承知シテ居
リマス、卽チ撤兵ノ時機到ラザリシ間ハ之ヲ駐兵シ、撤兵ノ
機來リシ時之ヲ撤兵シタルコトハ當然ノ處置デアルト信ジ
テ疑ハナイノデアリマス、左樣御承知ヲ願ヒマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=23
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024・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 中野正剛君
〔中野正剛君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=24
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025・中野正剛
○中野正剛君 昨日以來總理大臣、大藏大臣、外務大
臣御三人ハ、政府ノ立場ヲ說明スルコトニ付テ、十分ノ勞
ヲ執ラレタヤウニ御見受ケシマス、又大體議院內ノ質問ニ
對スル御應答モ承リマシタガ、其言葉ノ中ノ意味、又言外
ノ調子ニ於テ隨分ト自ラヲ擁護シテ居ラルヽケレドモ、其
中ニ悲觀的消極的態度ガ多クシテ、此非常ナ秋ニ當フテ此
國ヲ奈何センカト云フ決意ト、而モ御勇氣トニ至ッテハ甚ダ
缺乏セルヤニ感ジテ、窃ニ憂慮ニ堪ヘナイモノデアリマス(拍
手)是ハ單ニ内閣諸公ノ態度ノミデナク、今日ノ日本一般
ノ氣風ヲ反映シテ居ルモノト思ヒ、一層私ハ憂慮ニ思フノ
デアリマス、元來財政ハ行詰フタ、經濟ハ行詰ッタ、日本ノ立
場ハ苦シイ、ドノ方面ヲ見渡シテモ行詰ッタト云フ聲ハ近來
頻リニ聞ユル、此行詰フテ居ル時局ヲ略、御諒解ニナッテ、之
ニ相應シテ御態度ヲ執ッテ居ラルヽコトヲ私ハ見ル、之ヲ私
ハ見ナガラ、モウ一ツ考へタイ事ハ、單ニ行詰ッタ時局ニ對シ
テ、行詰ッタ、困ッタト云フノミデハ致方ガナイ、此困ッタ時局
ヲ如何ニシテ轉囘スベキカ、之ニハ一切ノ勇氣ト決意ヲ要
スル、國家ハ元來難局ニ依リテ亡ブルモノデナク、財政經濟
ノ困難ニ依リテ立場ヲ無クスルモノデナイ、要ハ之ヲ如何ニ
轉囘スルカ、前途ニ光明ヲ示スコトガ政治家ノ責任デアル、
前途ニ光明ガ元ザルレバ、行詰ッタ時局ニ於ケル國民ハ非
常ナ勇氣ヲ以テ前途ノ光明ニ邁進スルモノト私ハ思フ、別
シテ財政經濟計畫ニ付キマシテ、吾々ノ同志大口喜六君
カラ質問ヲ致シマシタル時ニ、內務大臣モ略〓地方行政ノ
狀態ヨリ之ニ同感ノ意ヲ表セラレ、大藏大臣モ同感ノ意ヲ
表セラレ、總理大臣モ同樣デアッタ、政府トハ最モ異ッタル財
政經濟計畫ヲ立テヽ此豫算ニ臨マントスル我ガ同志ノ意
見ニ對シテ、一々之ニ同感デアルト云フ御言葉ヲ聽イタコ
トハ、近來ノ珍シキ現象デアルト私ハ思フ(拍手)唯、內閣
諸公ト吾々ト異ナル所ハ、現狀ヲ有リノ儘ニ認メテ居ルコ
トハ同一デアッテ、如何ニシテ此現場ニ處スルカニ付テ、勇
氣ガ有ルカ無イカ、經綸ガ有ルカ無イカト云フノ相違ダケト
私ハ思ヒマス、アレダケ現狀ヲ御承認ニナリ、吾々ノ主張ノ
前提ヲ御承認ニナッタ以土ハ、遠カラズ財政經濟計畫ニ付
テ、吾々ノ提案スル所ニ御同意アルモノト窃ニ信ズル者デア
リマス(拍手)之ニ付キマシテ、吾々ハ多ク論ジナイ、御同意
ガ無ケレバ卽チ勇氣ノ無イ、經綸モ無イモノト見テ、之ニ
對スル方策ヲ講ジナクレバナラヌト思ヒマス、財政經濟計
畫ニ對スル御答辯ノ割合ニ率直ナリシニ似ズ、外交ニ關シ
テハ頗ル時局ノ眞相ヲ蔽ウテ居ラルヽカニ感ジテ、私ハ非常
ニ遺憾ニ思フ、總理大臣、外務大臣ヲシテ言ハシムレバ、外
交ノ事ハサウ露骨ニ言ヘヌト仰セラルヽカ知ラヌ、ソレハ私
ハ國民ガ未ダ外交ノ知識ガ無ク、又國家ガ今日ノ如ク複
雜ナル國際關係ノ裡ニ於テ、國民ノ各〓ノ生活ガ外交ト密
接ノ關係ガ少ナカッタ時代ノ遺習デアリマス、今日ノ總理大
臣外務大臣タル者ハ、國民ニ向ッテ率直ニ、明白ニ現狀ヲ
說明セラレ、此國民ト倶ニ難局ヲ踏開クベク經綸ヲ講ゼラ
ルヽコトガ、今日ノ責任デアルト私ハ信ジマス(拍手)私ハ率
直ニ見テ「ヴェルサイユ」條約、華盛頓條約以後、日本ノ國
際的地位ハ孤立致シテ、非常ナ難局ニ沈淪シテ居ルモノト
信ズルノデアリマス、是ハ獨リ現內閣ノミノ罪デナイ、日本
國民全體ニ此責任モアリマセウガ、世界ヲ支配シテ居ル今
日ノ强國ノ政治ニ誤ラレル所モアリマス、貴任ハ政府ニ在
リ、國民ニ在リ、又世界ノ不公正ナル立場ニ在ルト思ヒマス、
此點ニ對シテ國民ガ率直ニ、少クモ此神聖ナル議場ニ於テ、
事實ヲ見ルコトニ付テ蔽フ所ナカランコトヲ私ハ希望スル
者デアル、私ガ斯ク申シマスルト、華盛頓會議ニ於テ日英同盟
ガ無クナッタ、無クナッタ代リニ四國條約ガ出來タデナイカ、
九箇國條約ガ出來タデナイカト云フ御說明ニナルカ知レマ
セヌ、併ナガラ私ハ斯樣ナ形式論ヲシテ居ル者デナイ、日英
同盟ガ無クナッタコトハ事實デアル、或ル人ノ言ヲ藉リテ言
ヘバ、苹盛頓會議ハ日英同盟ノ葬式ヲ致ス會デアッタトス
ラ解セラレテ居ル、併ナガラ之ガ無クナッタ、無クナッタガ四箇
國協約ナルモノガ、卽チ日英同盟ニ代ル立場ガ出來タト云
フコトデハナイ、英國ノ言葉ヲ藉リテ言ヘバ、國ハ同盟ヲ有
スルガ故ニ安定ナルニアラズ、同盟ヲ善用スルノ確信ト實
力アルニ依リテ、初メテ安寧ナリト言ッテ居リマス、四箇國協
約ハ出來マシタデセウ、併ナガラ此背後ニ存スル國際的ノ
形勢、又此形勢ヲ支配スル國際的經濟關係、此經濟關係
ノ下ニ動キツヽアル各國ノ國民生活、此生活ノ欲求ヨリ發
スル國民ノ努力ト云フモノヲ見ナケレバ、未ダ容易ニ四箇
國協約ガ出來タト云ウテ、日本ノ立場ハンレデ安泰デアル
ト言ヘナイト私ハ思フ、諸君、日英同盟ガ無クナル迄日本
帝國ノ政府ノ諸公ハ、日英同盟ハマグ繼續セラルヽモノト
信ジテ居タヤウデアリマス、前々期議會マデハ、外務大臣總理
大臣ノ開口第一ノ言葉ハ、日英同盟ノ基礎益、安固ニシテ
帝國ノ立場ハ益〓良好デアルト云フノガ、殆ド紋切型ノ文
句デアッタノデアル、其同盟ガ無クナルベキ形勢ハ一昨年、其
モウ一ツ前頃カラ明白ニ英吉利ニハ動イテ居ルノデアル、
畏レ多イコトデアリマスガ、一昨年ノ春ヨリ夏ニ掛ケテ、我ガ
攝政宮殿下ガ御外遊ニナクタ際ノ事ヲ吾々ハ想起シテ恐
懼ニ堪ヘナイ次第デアル、當時我ガ政府ハ日英同盟ノ改訂
ト皇太子殿下ノ御外遊トハ、何等ノ關係ハ無イト公式ニ
又非公式ニ聲言シテ居クタデアル、殿下ガ彼地ニ御出ニナ
リ、隨員諸公ノ報告、更ニ一般ノ通信ニ依ルト、非常ニ御歡
迎ヲ受ケサセラレタコトモ事實デアル、又殿下個人ノ麗ハシ
キ珠ノ如キ御性格ニ依ッテ、同盟國ハ、固ヨリ其他歐洲
列國ノ人心ニ善良ノ印象ヲ與ヘラレタコトモ事實デア
リマス、第三者ハ此ニ解釋シテ以爲ヘラク、曰英同盟ハ
其年ノ夏ニ期限ガ到來シテ、改訂セラルベキ狀態ニナッテ
居ル、日本政府ハ殿下ノ麗ハシキ御聖德ニ依ッテ英
國ノ好感情ヲ得タルニ乘ジ、日英同盟ヲ改訂セントスルノ
意嚮アルモノト解釋シテ居ッタ、私共ハ其時ニ英國ニ動キツ
ツアル實情ヲ見テ恐惶ニ堪ヘナカッタノデアル、英國ハ左ノ
手デ殿下ヲ非常ニ歡迎シ奉ッタ、併ナガラ彼ハ同時ニ右ノ
手ニ於テ、英植民地ノ卽チ英帝國植民地首相會議ヲ開イ
テ何ヲ論ジテ居ルカ、日英同盟改訂スベキヤ否ヤノ議論ヲ
ソコデ鬪ハシタ、殿下未ダ歐洲ニ滯在マシマス其間ニ、其眼
前ニ於テ日本ヲ俎上ニ上ゲテ"色〓議論ヲヤッタ、而モ其實
際上ノ決議ハ遂ニ日英同盟ノ案文ヲ引裂イテ地ニ叩キ付
ケテ、日本ハ第二ノ獨逸ナリトカ、日本ハ侵略主義ナリトカ、
穩カナラヌ言葉ヲ繰返シタル最後、米國ノ態度ヲ決定スル
マデハ、日英同盟ヲドウシヤウト云フ者ハ無カッタノデアル、其
時ニ於テ英吉利ガ亞米利加ヲ重ジテ日本ヲ輕ンズル、少ク
トモ極東ノ外交ニ於テ亞米利加ト手ヲ握ッテ、日本トノ手ヲ
斷ツト云フ形勢ハ、アノ會議デモ明白デアッタノデアリマス、聰
明ナル殿下ハ御歸朝ノ後益、御聖德ヲ進マセラレタト傳ヘラレ
テ居リマスルガ、アノ歐洲ノ戰後ノ思想、殊ニアノ日英同盟
ヲ論議セラレタル當時ノ光景ニ付、深ク感ゼサセラレタル所
ノモノガアルト私ハ思フ、其頃カラ日英同盟ガ無クナッテ、英
米ノ接近シタコトハ明白ナル事實デルト思フ、華盛頓會議
ハ之ヲ事實ノ上ニ現シテ來タ、又英米接近シテ日本ヲ疏ン
ズルニ付テハ其理由ガアル、近來-大戰爭以後亞米利加
ノ地位ガ段々上ッテ參リマシテ、英國以上ノ勢力ヲ示スカニ
見エマスガ、國際政局ノ主動者ハ依然トシテ英吉利ニ在レ
カノ感ガアリマス、英吉利人ハ其點甚ダ巧妙デアル、英吉利
ハ亞米利加ト手ヲ握ルベキ經濟的ノ必要ニ迫ラレテ居ルノデ
アル、現ニ佛獨ノ衝突モ、總理大臣外務大臣モ御話ニナリ
マシタガ獨逸ノ賠償問題ニ付テ佛蘭西ハ莫大ナル賠償金
ヲ獨逸ヨリ取ラザレバ、今後ノ計畫ガ立テラレナイ、獨逸ハ
左樣ナ賠償金ヲ出セバ國ハ亡ビルト云フ此爭ガ纏綿シテ
居ル、現ニ佛蘭西ガ兵ヲ出スニ至ッタガ、英國ノ態度ハドウ
カト云ヘバ、佛蘭西ノ帝國主義ヲ或ル程度マデ牽制シ、獨
逸人ヲ或ル程度マデ緩和シ、速ニ獨佛ヲシテ和セシメテ歐
洲ノ平靜ヲ保チ、平靜ヲ保ヲテ而シテ後ニ何ヲ要求スルカ
ト云フト、亞米利加ガ歐洲ニ資本ヲ出シテ、歐洲戰後ノ經
濟的疲弊ヲ枚濟セントスルコトデアル、英國ハ歐洲ノ平
和ヲ保タシメ、亞米利加ノ資本ヲ注込マセ、財界ヲ復活サ
セ、歐洲ノ購買力ヲ復活サセ、自國ノ製品ヲ歐洲ノ市場ニ
賣出スコトガ英國ノ產業ヲ救濟スル所以デアリ、英國ノ失
業者ニ食物ヲ與フル所以デアルト解釋シテ居ル、此點ニ於
テハ英國ハ近ク亞米利加ト手ヲ握リ、英吉利ハ亞米利加
ヲ歐洲ニ引張リ込ム爲ニ、十二分ノ歡心ヲ求メテ居ルト云
フコトハ十分明白ナル事實デアリマス、又東洋問題ニ於テ
モ、巴里會議ノ最中ニ今日問題トナッテ居ル山東問題ガ紛
糾シテ、支那ニハ排日運動ガ勃發シタ、非〓ニ極端ナル運
動デアッタ、政府當局者ハ最初事〓ヲ樂觀シテ「ポイコットL.
ハイヽ加減ニ濟ムノヲ先例ト思ッテ居ッタヤウデアル、併シ是
ハ中〓濟マナカッタ、遂ニ全支那ニ亙ル排日運動トナリ、學
生フデモ之ニ參加スル、漢口、天津、上海、長沙、呉〓、到ル
處ニ於テ排日運動ガ盛ンニナリ、日本ノ物資ハ大道ニ於テ
燒棄テラレ、日本ト通商セシ支那人ノ店ハ、掠奪若ハ破壞
セラレルト云フ狀態デアッタ、其時ニ亞米利加人ガ之ニ好意
ヲ表シ、又亞米利加ノ公使其他色ミノ人ガ間接ニ之ヲ聲
援シタコトハ、明白ナル事實デアル極端ニ申シマスレバ、支
那ノ排日運動ハ亞米利加ノ對支發展ノ商業政策ト合致
スルモノト解釋スルコトガ出來ル亞米利加ノ遣方トシテハ
巧妙デアッタト思ヒースガ、之ヲ導キ之ヲ助ケタ者ハ支那ニ
滯在シテ、支那ノ狀況ニ能ク通曉スル英吉利人デアッタコト
モ能ク御存ジノ通リデアリマス、卽チ米支兩國ハ手ヲ握ヲテ
支那ノ排日運動ヲ助長セシメ、日本ノ對支貿易ハ之ガ爲
ニ非常ナル打撃ヲ被ッタノデアル、大正九年彼ノ財界ノ大
破ガ始ッタ、アノ三月以前數箇月ニ於テ、對支貿易ノ減退ハ
此排日騒ギノ進行ト共ニ著シキ減少デアリマシテ、日本ノ
對支貿易ハ或ハ二分ノ一ニ減ジ、或ハ三分ノ一ニ減ズルト
云フヤウナ統計ガ、各市ノ商業會議所ニ於テ發表セラレテ
居ル、併ナガラ同ジ期間ニ於テ、日本ノ退ク所ヲ亞米利加
ノ物質ガ這入ッテ來テ、日本ノ減ズル間ニ亞米利加ノ物質
ガ二倍ニナッテ這入ッテ來テ居ルト云フ事實デアル、併シ同
ジ期間ニ於テ米國ノ對支輸出ハ二倍ニナルト、英吉利ノ對
支輸出ハ四倍ノ統計ヲ示シ、長江沿岸一帶ハ所謂英吉利
ノ「マンチユスター、グツズ」ヲ以テ滿タサレルト云フ狀況デ
アッタ、此點カラ觀察致シマシテモ、日本ノ支那ニ於ケル蹉
跌、通商貿易ノ蹉跌ハ取モ、直サズ米國ノ利益デアルケレド
モ、表面二ハ立タナイガ英國ハ更ニ餘計利スルト云フコトニ
ナッテ居リマス、極東ニ於テ、亞米利加ノ產業帝國主義ト申
シマスカ經濟的資本主義ト申シマスカ、其必要ノ爲ニ支那
西伯利ノ原料市場ニ向フテ、亞米利加ガ驀進シテ來ルノハ
必然ノ勢デアリマシテ、此時ニ英吉利ガ亞米利加ト手ヲ握
リ、日本ノ對支發展ヲ阻害スルノハ、自ラノ東洋ニ於ケル立
場ヲ囘復スル唯一ノ手段デアルト云フコトハ、是ハ明白ナル
事實デアリマス卽チ英米二國ハ東洋ニ於テ握手スルノ必要
ヲ感ジ、又歐洲ニ於テ握手スルノ必要ヲ感ジテ居ル、此二
國ガ主トナッテ四箇國協約ガ締結セラレタノデアル四箇國
協約ニ就テハ望月君カラ色々御質問ガアリマシタガ私ハ望
月君ノ第二條以下ノ質問ヨリハ、第一條ニ付テ色々ノ考ヲ
持フテ居ルノデアリマス、第一條ニ於テハ締約四國ハ、四國相
互間ノ紛爭ヲ豫期シテ居ル、相互問ニ紛争起リシ時ハ、四
國ノ審議ニ依シテ之ヲ處分スベキ前提ヲ認メテ居ル、此時ニ
當ッテ-是ハ餘程面倒ナル問題デアリマス、卽チ此時ニ於
テ英米二國ハ今申シタル如キ必要ガアッテ握手シテ居ル、日
英同盟ヲ廢棄シテマデモ亞米利加ト手ヲ握ッタ英國ガ、亞
米利加ト一〓ニナルノハ當然デアリマス、歐洲ニ於テ何レノ
國ヨリモ亞米利加ノ救濟ヲ仰ガナケレバナラヌノハ佛蘭西
デアリマス、英米二國ニ佛蘭西ヲ加へ、ソレト日本トガ一〓
ニナッテ、卽チ四箇國協約ヲ結ンデ居ル、サウシテ相互
ノ間ニ紛爭ヲ豫期シ、其紛爭ハ多數決ニ依ッテ決ス
ベキ意味ニ解シ得ラレル條約ヲ結ンダト云フコト
ガ、果シテ之ヲ日英同盟ニ代ッタト言ヒ得ルカドウカ、
日英同盟ハ相互間ノ紛爭ヲ豫期セズ、所謂攻守同盟デ兩
國手ヲ握ッテ第三者ニ當ルノデアッタ、四國協約ハ四箇國相
互間ノ紛爭ヲ豫期スルコトガ主デアッテ、卽チ第二條以下ニ
規定シテアル第三國ニ對スル行動ニ就テハ、亞米利加ニモ
異存アルハ望月君ノ言ハレタ通リデアル、卽チ四國協約ハ
日英同盟ガ無クナッタ代リニ結パレタノデハナイ、日英同盟
ガ變ッテ日本ガ孤立シタ、日本ガ孤立シテモ尙ホ危險デアル、
彼奴ノ束洋ニ於ケル行動ヲ監督スルト云フ意味ニ於テ、四
國協約ハ働クベキモノデアルト云フコトハ、其文字ノ上ノ解
釋ト同時ニ其內面ニ、動キツヽアル國際關係ヲ調ベテ見マ
スレバ、是ハ常識ヲ以テモ吾々ノ觀察ガ誤ッテ居ラヌト云フ
コトガ考ヘラレル、而モ此時ニ當ッテ巴里講和會議ヨリ華盛
頓會議ヲ經テ、日英同盟ハ無クナッタノデアリマス、帝國ノ
立場ハ益、安泰ナリト云フ四國協約ヲ結バレタ當局者ニ對
シテ、其見解ノ誤リナルコトヲ思ハザルヲ得ナイ、之ニ對シテ
ソンナ形式上ノ事デナク、內心如何ニ御解釋ニナッテ居ルカ
ト云フコトヲ承リタイノデアリマス、更ニ九箇國條約デアリ
マスガ、支那ノ主權ヲ尊重スルトカ、傾土權ヲ尊重スルトカ、
色々ノ事ガ定メラレテ居ル、固ヨリ之ニ異存ノアルベキ筈ハ
ナイ、併ナガラ是ハ日英米佛以外ニ伊太利モ來レパ葡萄牙
モ來ル、白耳義モ來レバ和蘭モ來ル、色々ノ國ヲ混ヘテ居ル、
是等ノ國ガ集ヲテ支那ノ問題ヲ相談スルト云フノデアルガ、
今マデ日本ノ認メテ居ッ夕原則ヲ、皆ナ一〓ニナッテ會議ヲ
開イテ之ヲ決メル必要ハナイト思フ、我國ハ日露戰爭前後
ニ掛ケテ色々ノ關係ヲ持テ居ッタ、日露戰爭後ニ至ッテ我國
ノ立場ガ決定スルヤ、益、列國トノ關係モ複雜ニナッタガ、日
本ノ立場ハ有利デアッタ日英同盟ガアル上ニ、日米同盟モ
アリ、日露協約モアリ、曰佛協約モアリ、日獨間ニモ色々ノ
申合ガアリ、伊太利ニ於テモ日本ヲ尊重スルノ意思ガアッタ、
卽チ日本ハ東洋ノ中心トナッテ、極東ノ平和ヲ維持スル協
約竝ニ條約ヲ總テノ國ト結ンダ、卽チ日本ガ中心デアッタ、
日本ハ東洋ニ於テ其平和ヲ維持スル。東洋會議ノ議長タル
地位ヲ有シテ居ッタノデアル、ソレガ今度ハ個々別々ノ國ガ一
〓ニナッテ、九箇國ノ中ニ日本ガ入ッタ、而モ東洋ノ保全ヲ
約スル條約デハアルガ、其國々ハ何レモ英米ノ欲スルガ儘ニ
動ク國ノミデレル、實ニ彼等ハ歐洲ニ於テハ複雜ナル關係
ヲ有シテ居ルガ、英米二國ノ外ハ東洋ニ對スル關係ガ甚ダ
少イ、其少イ所ノ問題ニ付テハ英米ノ指導ニ從ヒ、歐洲ノ
問題ニ於テ英米ノ恩顧ヲ蒙ルコトハ、彼ノ利益トスル所デ
アル、卽チ九箇國條約、四箇國協約ヲ見マスルト、日本ト立
場ヲ異ニスル英米ガ主トナッテ、皆多數決ヲ以テ日本ノ立場
ヲ監督スルモノト私ハ解釋スル、一ト三、孰レガ多數ナリヤ、
一ト八孰レガ多數ナリヤ、此點ニ於テ日本ノ東洋ニ於ケル
立場ハ、二重ニモ三重ニモ束縛ヲ感ジテ居ルモノト思フ、是
ハ文字ノ上ノ解釋ニハ出テ居リマセヌガ、現ニ日本ノ世界
ニ立テル環境、世界ノ經濟關係、總テノ所ヨリ推論シテ斯ノ
如キ結果ニナリハセヌカ、或ル英人ノ述ベタ如ク、日本ニ必
ズ協約ヲ善用スルノ實カアリヤ、又確信アリヤ、之ニ就テ內
閣諸公ノ意見ヲ私ハ承リタイノデアリマス、次ニハ山東問題
デアリマス、山東問題ニ於テ我國ガ今日譲歩ヲ爲シテ支那
ニ還付スルニ至ッタ、私ハ此讓步ガ支那ニ對シテノ讓歩ナラ
バ寸毫モ遺憾ハアリマセヌ、思切ッテ讓步スルノ可ナルヲ信
ズル者デアリマス、内閣諸公ガ言ハルルヤウニ、支那ハ我國ノ
前途ノ安危ヲ託スル鍵ヲ持スルモノデアリマシテ、而モ支那
ト云フ他國ニ向ッテ我ガ國福ヲ繫クル以上、其民心ニ適合
スル政策ヲ講ズル爲ニハ、十二分ノ讓步ハ覺悟デアルト思
フ、唯、遺憾ナルコトハ望月君トノ質問應答ノ間ニモ見ヘ
マシタガ、日本ハ支那ニ對スル親愛ノ情ヲ表示スルニ非ズ、
支那ノ今日ノ窮狀ニ對シテ任俠的精神ヲ發揮スルニ非ズ
シテ、世界ノ國際的舞臺ニ於テ、露骨ニ申シマスレバ、英米
共同ノ壓迫ニ屈シタルモノト解サルルコトヲ遺憾ニ思フノデ
アリマス(拍手)山東問題ニ付テ、列國ノ干涉ヲ受ケナイト
仰シヤルガ、山東問題ヲ巴里デ解決スレバモット有利ニ解決
シ得ラレタ、引繼イテ華盛頓會議ノ起ル前卽チ大正十年ノ
九月ニ、我ガ小幡公使ガ支那ニ向フテ與ヘタ所ノ山東協
定ノ九箇條ト云フモノハ、後ニ華盛頓會議ニ於テ「ヒユー
ズ」「バルフオア」諸氏ノ幹旋ニ依フテ、支那ト立會フタ時ニ提
出シタル基本條項トハ多大ノ差ガアル、北京デハ、東京デハ
支那ニ向ッテ相當高壓的ノ態度ヲ執ヶタモノガ、太平洋ヲ
渡ッテ亞米利加ニ行ッタダケデ、英米ノ人ガ其處ニ居ルダケ
デ、初メカラ是ダケノ基本條項ヲ變更ナシニ屈從スルノ態度
ヲ執ラナケレバナラヌコトニナッタト云フコトヲ、私ハ衷心ヨ
リ遺憾ニ思フ(拍手)望月君ノ說明ノ通リニ、其處ニハ英米
ノ随員ガ傍聽シテ此會議ヲ進行セシメタ、日本ノ要求ガ支
那ニ容レラレナイデ、殊ニ山東鐵道ノ問題ニ對シテハ一時行
詰ッタ、五月七日ニ於テ顧維鈞ハ「ヒユーズ」「ベルフオア」二
氏ヲ訪問シテ色々訴フル所ガアッタ、而シテ此二氏カラ日本
ニ對シテ調停ノ申込ガアッタ、日本ハ調停ハ斷ッタガ、調停條
件ヲ示シテ貰ッタノデアルカラ、條件ヲ示シテ貰ッテ、此英米
ノ調停條件ガ基礎トナッテ復タ山東問題ノ協議ヲ始メタ、
併ナガラ鐵道問題ハ益〓紛糾シテ後廻シトシ、愈、期日ガ切
迫スルニ及ンデドウシタカ、日本ハ山束問題ヲ直接交涉デ
解決スル、華盛頓會議デ世界ノ批判ヲ仰ガナイ、飽迄モ直
接交渉主義ヲ高調シテ居ッタガ、事實ニ於テ直接交渉デモ
何デモナイ、事實華盛頓會議ガ段々進行スル、其進行ニ伴ッテ
山東交渉ガ進マナイカラ、色々方々カラノ雰圍氣的壓迫ヲ
葉ッタ「ハーヂング」スラ此問題ニ乘出シテ之ヲ解決スベキ勢
ヲ元シタ幣原大使ハ「ハーヂング」氏ニ面會シテ色々相談
スル所ガアリ、華盛頓會議全體ノ進行ヲ妨害シテハイカヌ
ト云フノデ大ニ復タ譲歩シテ、一月三十一日ニ我國ノ全權
ハ御調印ニナッタノデアリマスカラ、能ク御記憶ト思フ、卽チ
是ハ干涉デアル、英米ノ審判ニ服シタト私ハ言ヒタイ、其審
判ノ條件ガ支那ニ向ッテ日本自ラガ有スル條件ヨリ雲泥
ノ差ガアルト云フコトハ、支那ニ向ッテノ親愛ノ精神ニ
出デズシテ、列國ニ向"テノ恐怖ニ出デタリト斷ズル、帝
國外交ノ世界ニ對スル信義ト正義トニ付テ、多大ノ
遺憾ヲ感ズルノデアルガ、此點ニ對シテ全權及內田外務大
臣ハ如何ニ感ゼラルヽカ、山東問題ハ是デス、諸君、山東ハ日
本ガ七年半ノ間之ヲ經營シタ、山束ノ市街ハ殆ド二倍半ト
ナッタ、鐵道二百四十哩ヲ駛フテ居ル、炭坑ガアル、泗川坊子
ノ炭坑ガアル、鐵ガアル、之ヲ支那ニ還ス、還スノハ遺憾ハナ
イ、此小大阪ノ如キ觀ヲ呈シ、大ニ貿易ノ發展シタル山東ヲ
支那ニ還スノデス、而モ是ガ賠償金七千万圓、而モ其中ノ二
千万圓ハ現金デ渡サナケレバナラヌモノヲ、之ヲモ工面シテ
ヤッテ支那ノ便宜ナルガ如ク取計ッテ之ヲ還ス、是ダケ犧牲
的ノ事ハ珍シイ事ト思フ、亞米利加ノ雜誌「アウトルック」ハ批
評シテ、世界デ今日ノ利己主義外交ガ行ハレテ居ル際ニ、
日本ノ山東還付ノ如キ公正ナル道德的立場ニ於テ、血一
滴流サズ、談判ノ最後ノ通牒一ツ送ラズシテ、斯クノ如キ解
決ヲ見タコトハ、他ニ類例ナキ事デアルト褒メテ居リマス、私
ハ加藤全權ノ軍人デアルニモ拘ラズ、此讓歩的精神ヲ發揮
セラレタコトハ偉イト思フガ、此讓步的精神ヲ發揮セラレタ
結果ハドウデアリマスカ、支那人ハ之ニ感謝スルコトナクシ
テ、益〓我國ヲ侮ルデハナイカ、(「ヒヤ〓〓」)世界ニ於ケル我
國ノ立場ヲ彼ガ立派デアルト云フノハ、當座ノ新聞ノ褒言
葉デアッテ、何時モ讓歩シ夕際ニ褒言葉ヲ頂戴スル、「アウト
ルツク」ノ褒メタノハ褒メタノデハナイ、揶揄ッタノデアル、對米
問題カラ移民問題、土地問題等ニ於テ、外國ニ讓步シテ褒
メラレナイコトハナイ、其餘炎ガ冷メルト復夕問題ガ起ヲテ來
ル、サウシテ又窘メラレル、譲レバ褒メラレル、列國ノ評判ガ好
イト云フコトガ事實ナラバ宜イガ、當座ノ褒言葉デハ困ルノ
デス、日本ト西洋トノ論ナク困ッタ時、窘メラレタ時ニ一モ二
モナク屈從スル、少シ手ヲ弛メレバ增長スルト云フコトハ、是
ハ、束西何レノ道德ヲ以テ批判シテモ感心シタ事デハナイ、斯
クノ如キ態度ヲ執ッタコトハ、決シテ我國ノ權利ヲ擁護スル
所以デモナイ、帝國ノ威信ヲ高メル所以デモナイト思フ(拍
手)軍人出身ノ加藤總理大臣ハ華盛頓會議ヨリ(蹄ッテ來ラ
レテ、軍備縮小ノ大業ヲ成サレタ、其事ハ御成功デアッタデセ"
ウガ、總テノ交涉ニ伴シテ日本ガ餘リ巧クヤラナカッタト云フ
コトハ、本人御認メデアル、或場合ニ卒直ニ之ヲ話サレタト
思フ、私ハ之ニ敬意ヲ表スル、何故〓日帝國議會ニ於テ白〓
シクモ、華盛頓會議以來ノ帝國ノ立場ハ、益良好ナリト
爲スガ如キ言辭ヲ弄セラレルカ、帝國議會ヲ信任セラレザル
モノト思フ、然ラザレバ自己ノ立場ヲ擁護スルニ急ニシテ、眞
實ヲ吐クノ勇氣ナキモノト斷ゼザルヲ得ナイト思フ、山東問
題ガ支那ニ對シテ良好ノ結果ヲ與ヘナカッタ其證據ニハ、山
束引渡ノ最後ノ協定ノ間ニ、支那ノ委員ト日本ノ委員ト
色〓押問各ヲシタ、其際ニ王正廷君等ハ何ト言ッタカ、此問
題ハ早ク片付ケテ貰ヒタイ、是ガ濟メバ滿洲問題ガアル、關
東州ノ問題ガアル、更ニ滿鐵ノ問題モアル、對支二十一箇
條ノ總テノ條項ニ付テ吾々ハ言フベキ權利ガアルト言ッタ、
外務省ノ方ニ此報告ガ來テ、一時大狼狽ヲ爲サッタコトヲ
私ハ承知致シテ居ル、而モモウ一ツ戾リマスガ、山東ノ話合
ガ付イテシマッタ其際ニ、亞米利ノ「ヒユーズ」ハ如何ナル態度
ヲ執ッタカ、彼レ立上ッテ千百十四年、卽チ日支交涉、對支
二十一箇條ノ交涉當時、亞米利加ハ抗議書ヲ提出致シテ
居ル、其全文モアスコニ控ガアリマスガ、此處デ讀上ゲル必
要ハナイ、必要ハナイガ免ニ角支那ノ領土權主權ヲ侵シ、亞
米利加ノ既得ノ權利ヲ侵ス如キ交涉ニハ、亞米利加ハ斷ジ
テ承認ヲ與ヘナイト云フコトヲ日本ニ抗議シタ、私ハ時ノ內
閣ヲ今カラ攻撃ヲスル必要ハナイガ、矢張日本ハ傳統的ニ
强大ナルモノヲ怖レ、小弱ナルモノヲ侮ルト云フ精神ハ其際
ニモ現レテ居ル、對支二十一箇條ノ協約ノ第五項ヲ留保ト
シ、其他ノ件ニ付テハ初メノ權幕ヲ失ッタコトハ、卽チ此亞米
利加ノ抗議ニ依シテ分ル、卽チ日本ニ喧嘩腰ニナッタ時ノ亞
米利加ノ科白、ソレヲ山束問題ガ解決シタトキニ亞米利加
ノ「ヒユーズ」ガ之ヲ長々ト讀上ゲテ、而シテ今度ハ山東問題
ハ濟ンダ、然レドモ日本ハ今度譲ッタガ、尚ホ是ダケハ日本ノ
權利ガ殘ッテ居ル、御存ジノ通リ對支二十一箇條ノ要求
中八箇條シカ殘ッテ居ナイ、此八箇條ヲ讀上ゲテ、是ハ日本
ガ支那ニ對シテ石井「ランシング」ノ協約ノ精神ヲ以テ、特殊
ノ權利ヲ有ツモノトハ認メナイ、排他的ノモノトモ思ハナイガ
故ニ、最惠國條款ニ依シテ、亞米利加ハ之ト同樣ノ要求ヲ
支那ニ向ッテ爲スコトガ有ルデアラウト言ッタ、隨分酷イ言ヒ
事デアル、喧嘩ノ時ノ拾科白ヲ其處へ持っテ來テ、而シテ今
度ノ亞米利加ノ決意ヲ以テ山東會議ヲ治メタト云フ事ガヽ
之ガ曾迫デナクテ何デアリマセウカト私ハ言ヒタイ、而モ支
那ノ顧維鈞ハ更ニ曰ク、此問題ハ解決シタガ、一一十一箇條
ノ條約ニ付テハ、支那ハ機會アル每ニ之ニ抗議スルコトヲ
留保スルト言ッテ居ル、亞米利加ハ正當ト見レバコソ、之ト同
等ノモノヲ俺レガ要求スルト言ッタ、支那ハ正當ト認メナイカ
ラ、其他ノ條項ヲ之ガ撤囘ヲ迫ルノ機會ヲ留保スルト云フ、
日本ガアレ程徹底的ニ譲シ、、〓シテシマッタナラバ、ナゼ其時
駄目ヲ押サヌカ、對支懸案ハ全部解決シタ、今後ハ何等保
留スベキモノ無シトナゼ言ハヌカ、又支那ガ日本ニ向ッテ對
支二十一箇條ノ反對ヲ唱ヘルトキニ言フ文句ハ、ブレハ支
那ノ正當ノ意見ニ依リテ自由ノ意思ニ依ッテ、締結シタ條
約ニ非ズシテ、脅迫壓迫ノ下ニ爲シタモノデアルカラ效能ガ無
イト言フ、併ナガラ日支交涉其時ノ事ヲ考ヘテ見ルトサウデ
ナイモノガアル、御存ジノ通リアノ年ノ確カ一月十八日カニ、
大隈內閣ガ日置公使ヲシテ支那ニ向ニテアノ二十一箇條ノ
要求ヲ突付ケシメタ、支那ハ二月二十二日ニ於テ之ガ對案
ヲ出シテ居ル、之ニ對スル支那ノ案ヲ與ヘテ居ル、其中ニ滿
洲鐵道ノ租借期限、關東州ノ租借期限、年ノ算ヘ方ハ少シ
違ヒマスケレドモ、何レモ九十九箇年之ヲ延長スルヲ、何等
壓迫ナキニ日本ノ要求ニ對シテ直ニ承認ヲ與ヘテ居ル、日
本ハ更ニ四月二十六日カニ、再ビ第二ノ要求書ヲ與ヘタ、
之ニ對シテ再ビ支那ハ五月ノ確カ一日カニ對案ヲ與ヘテ居
ル、此第一囘ノ對案ニ於テ、支那ハ明白ニ關東州、滿洲鐵
道ノ租借期限延長ヲ承認シテ居ル、第二囘ノ對案ニ於テ
漢冶萍其他ノ條項ヲ承認シテ居ル、此二囘ノ交涉ニ至ルマ
デハ、日本ノ對支交渉ハ壓迫デハナイ、之ニ對シテ五月七日
時ノ内閣ハ最後通牒ヲ與ヘ、第二案ハ是非共承認セヨト
言ッテ抑付ケタモノデアル、卽チ支那ハ第二囘ノ對案マデノ
中ニ認メタモノガ、今日殘ッテ居ル所ノ八箇條デアル、滿洲
鐵道、關東州租借權延長、漠冶萍ニ關スル權利、沿岸不割
讓ニ關スルモノ、其他ノ條項八箇條ト云フモノハ、支那人ハ
日本人ノ壓迫ヲ受ケズシテ承認シタモノデアル、而モ之ヲ華
盛頓ノ眞中デ、殘シテ居ル條項ヲ壓迫ニ依シテ居ルモノデアル、
何レノ機會ニカ之ヲ回復スルノ權利ヲ保留スルト言ハレテ、
亞米利加ノ褒言葉デアルカ、脅シ文句デアルカ、此二ツヲ列
ベラレテ、其儘引退ッタコトガ今後ノ交涉ニ如何ナル影響ヲ與
ヘルカ、王正廷ノ口吻ニ察スルモ、支那ハ之ニ引續イテ、所謂二
十一箇條中ノ八箇條ニ關スル所ノ滿洲鐵道、關東州是等ノ
還付ヲ要求スルコトヲ私ハ憂慮シテ居ル、諸君、黎元洪-
溫厚ナル黎元洪モ新聞記者ニ向ッテ嘗テ聲言シテ居ル、滿
洲ハ支那ニ取リテ「アルサス、ローレン」デアルト言フ、隨分善
良ノ交ヲ續ケテ居ル國、其國ノ首班ニ居ル人トシテハ思
切ック言ヒ事デアル、又亞米利加人デ支那ノ最高顧問デア
ル「フアンダーソン」ナドハ、頻ニ滿洲問題ヲ擔廻,テ、支那ノ
政界ヲ遊說シテ居ル支那ノ少壯議員ハ對支二十一箇條
ノ全部ノ徹廢ヲ要求スルノ案ヲ議會ニ出シ議會ニ於テ之ガ
通過ヲ見タノデアル、滿場一致通過シタ、固ヨリ排日ノ政治
家ガ立派ナ政治家デハナイ、亞未利加トノ關係ヲ持ッテ居ル
者ガアル、又人格卑シキ者ガアル、金錢ニ操縱セラレテ居ル
者ガアル、騒動が起ッテ後ニモ瀆職事件ナドニ繫ッタ連中モア
ル、併ナガラ彼等ハ駄目デアル、下ラナイ奴デアリマスルガ、彼
等ノ騒ガ物ニナラヌトハ言ヘヌ、若シ支那ニ秩序アル政治
家ガアリ、支那國ノ政治家ガ支那ノ前途ニ遠大ノ目的ヲ
持ッテ、眞ニ支那ノ與陸ヲ欲スルガ如キ政治振ヲシテ居ルナ
ラバ、日本ハ之ニ對シテ相當諒解ヲ求メテ、相抱イテ前途
ヲ開拓スルノ方案ヲ立テ得ルノデアリマスルガ、斯ノ如ク混
亂シテ居ル支那デアレバコソ、更ニムヅカシイト私ハ思フ、支
那人ハ何故斯樣ニ騒グカ、官テ大戰爭中寺內內閣ノ對支
政策、大隈內閣ノ對支政策皆遺憾ナ點ガ多カッタガ、全支
那人中、一人トシテ日本ニ向ッテ堂々トシテ正面ノ反對ヲ
爲シタ者ハ無イ、彼等ノ反對ハドウ云フ事デアルカト言フ
ト、北方黨ハ曰ク、俺レヲ相手ニ支那ヲ統一サセナイカライ
ケナイ、南方黨ハ曰ク、寺內內閣ハ北方ヲ尊重スルカライケ
ヌ、俺レヲ何故助ケテ吳レヌカ、日本ニ對スル怨嗟ノ聲ハ
俺レト結パザルト云フコトヲ怨ムヨリ外ナカッタ、是ハ東洋ニ
於ケル日本ノ力ガ儼存シテ居ッタカラデアル、而モ日本ノ實
力ガ極東ニ認メラレテ居ッタカラデアル、支那ノ事大主義ガ
日本ニ賴ラナケレバナラヌト云フ觀察ヲシタカラデアル、然ル
ニ今日亞米利加人ニシテ支那ノ最高顧問トナルガ如キ人、
亞米利加ノ金ニ依シテ新聞雜誌ヲ發行シテ居ルガ如キ人、
是等ノ人ガ掻混ゼルト、支那ノ國會議員モ政治家モ甚シキ
ハ大總統マデモ一緒ニナッテ、滿洲ハ第二ノ「アルサス、ローレ
ン」ナリナドヽ云フコトヲ言フノハ、日本ニ對スル怨ヲ有スル
ト共ニ日本ノ力ヲ輕ンズル、日本ガ列國ノ前ニ出デテハ何等
言フベキコトヲ言ハズ、一モ二モナク屈從スル、支那ニ對シテ
ハ直接之ヲ窘メ上ゲル、露西亞ノ窮乏ヲ見テハ兵ヲ出シテ
之ニ暴レ込マシメ、列國カラ叱ラレルト、又引退ル、卽チ強大
ナル者ニハ屈シテ、臥薪嘗膽、拮据經營シテ我國ノ國是ヲ
進メルダケノ國民ニ決意ナキコトヲ、政府ノ外交ニ依フテ看テ
取シタル結果デアルト私ハ思フ(「ヒヤ〓〓」拍手)年限ニ依シテ
調べマースレバ、今年三月二十一日ニハ關東州二十五年
ノ租借期限ハ切レマス、千九百三十九年ニハ三十六箇年
ノ滿洲鐵道和借期限ガ切レマスル、滿洲ノ實情ヲ調ベマス
ルト地方ノ省議會ニ於テモ自治機關ニ於テモ、選擧ヲ爭フ
トカ、自己ノ政見ヲ發表スル時ニ滿洲鐵道ノ囘復ヲ叫ビ、關
束州カラ日本人ヲ追出サウト云フヤウナコトヲ唱ヘナケレ
バ、選擧ニ勝ツコトスラ出來ナイト云フ狀態デ「アル、支那ノ
民心ヲシテ此ニ至ラシメタモノハ日本ノ支那ニ對スル親愛
ノ情ガ徹底セズシテ、強大ナル者ニ屈シ、小弱ナル者ヲ踏付
ケルト云フ此卑シムベキ根性ヲ支那人ガ看テ取ッタル結果
デアルト思フ、我國ガ滿洲ニ鐵道ヲ有スルト云フコトハ決
シテ侵略主義ノ爲デハナイ、滿洲鐵道ノ各哩ニハ吾々同胞
ノ骨ガ鏤メラレテ居ル、而モ是ハ侵略主義ノ爲ニ非ズシテ、
東洋平和ノ基礎ヲ確保スル爲ニ、日本ガ滿洲ニ是ダケノ足
場ガ要ル、同時ニ滿洲鐵道ニ依リテ支那ノ利源ヲ開拓シ、
滿洲鐵道ニ依リテ支那ノ物資ヲ運ブ、諸君ガ滿洲ニ御出デ
ニナルト、一等車二等車ハ殆ド「パス」バカリデ、只デ乘ッテモ
尙滿洲鐵道ハ引合フ、何故引合フカト云ヘバ、アノ單一ナル
原野ニ充溢スル物資ヲ悉ク引出サセテ、滿洲鐵道ニ依ッテ
送リ出サレ、之ニ對シテ色ミノ物資ガ供給セラレナケレバ、
全滿洲ニ向フテノ貿易ハ出來ナイ、卽チ滿洲ヨリ物資ヲ取
リ來リ、我國ノ物資ヲ賣込ムコトガ支那人ノ生活ヲ維持ス
ル所以デアリ、日本國民ノ生活ヲ維持スル所以デアル、滿洲
鐵道ノ各哩ニハ日本人ノ居住者-今生活ニ困ッテ居ル勞
働ノ生命ガ託サレ、百姓ノ生命ガ託サレテ居ルト云フコトハ
重大ナル問題デアル、此問題ガ眼前ニ紛糾シ來リ、此紛糾
ヲ見ルガ如キ時局ヲ造リ出シタル政府トシテ、之ニ責任無シ
ト感ズルカ、又前途之ニ對シテ如何ナニ方策ヲ以テ萢マント
スルカ之ニ對シテ斷手タル決意ヲ私ハ承リタイ、內田外務大
臣ハ嘗テ私ノ質問ニ對シ、中野ト俺レトハ個人的ニ話ノ出
來ナイ間柄デナイカラ、御諒解ヲ求メテモ宜イト云フヤウナ
コトヲ言ハレタ、今日ノ問題ハ個人的デハイケナイ、議會ニ
於テ斷乎タル決意ヲ表明セラルヽコトハ、私ニ對スル答辯
タルノミナラズ、帝國議會ニ對スル答辯デアル(拍手)又此日
本ノ東京ノ一角ヨリ世界ニ向ッテノ宣言デアルト私ハ確信
スルガ故ニ、堂々ト御意見ヲ述ベテ戴キタイト私ハ思フノデ
アリマス、滿鐵ハ斯ノ如キ狀態ニナッテ居ル、之ヲ日本ハドウ
スルカ、支那ノ此狀態ハ極東ニ於ケル日本ノ立場ノ落チタ
證據デアル、是ハ誰ニモ分ッテ居ル、此立場ヲ如何ニシテ挽
回スルカ支那ニ向ッテ拳ヲ振上ゲテモ物ニハナリマセヌ、
私ハ斷乎トシテ之ニ反對スル、此際ニ帝國ノ活路ヲ
開クベキモノハ、此正面ノ衝突ヲ避ケテ、別ニ遠大ノ抱
負ガナクテハナラヌ、日本ノ世界政策ニ於テ新紀元ヲ
劃スルコトガ、今日ノ急務デアルト私ハ斷ジテ信ズル
ノデアル(「ヒヤ〓〓」拍手)尤モ此日本ノ世界ニ對スル新世
界政策ヲ決定スル前ニハ、日本國民ハ固ヨリ、内閣諸公カ
ラシテ心ノ革新ヲ行ハナケレバ駄目デアル、總テノ外交ハ人
格ノ發現デアル、大和民族ノ精神ガ今日ノ如キ內閣ニ依リ
テ代表セラレ、今日ノ内閣諸公ノ懐カレテ居ル其考ガ、諸
公ノ人格ガ外交政策トシテ發露スル以上、私ハ日本國民ノ
根本精神、內閣諸公ノ根本精神ニ大革新ヲ喚起スコトガ新
政策ヲ樹立シ、之ヲ表明スル前提デアルト確信スル者デア
リマス(「ヒヤ〓〓」)諸君、我國ハ明治新政以來日露戰爭ニ
至ルマデハ、內治外交ニ遠憾ノ點ガ多カッタノデアリマスガ、
維新以來ノ傳統的精神ガ玆ニ躍如タルモノガ、アフタ、其精
神トハ何デアルカ、正ヲ履ンデ恐レザルノ精神デアル、我ノ正
義ヲ抂ゲントスル者アラバ、强大ナルモノニ向ッテモ亦之ニ對
抗スルノ決意ト勇氣ト、小弱ナルモノヲ壓迫セントスレバ之
ヲ援ケ起ス、正義ノ爲ニ之ヲ援クルニ任侠、卽チ勇氣ト任
俠トハ我ガ大和民族ノ精神トシテ外交政策ノ上ニ無意識
ノ間ニ現レテ來テ居ッタノデアル、今日日英同盟ガ無クナッ
タノニ悲觀シテ居ラレルデセウ、内田氏モ日英同盟ヲ論ゼ
ラレマシタガ、日英同盟ハ何故出來タカ、諸君、嘗テ日本ハ
歐羅巴ノ侵略主義ヲ代表スル獨逸、露西亞、佛蘭西ノ協
同ノ侵略的脅威ノ前ニ立ッタ、其時ニ於テ日本ハ孤立デア
リマシタ、其時ニ於テ日本ノ財政ハ今日ヨリ窮乏シ、日本ノ
經濟的狀態ハ今日ヨリ幼稚デアリマシタ、併ナガラ日本人
ハ-先帝陛下ニ依リテ率ヰラレタル此大和民旅ハ、猛然
トシテ正義ヲ履ミ、東洋ノ平和ヲ維持センガ爲ニハ、歐洲三
大强國ノ會威ノ前ニ敢然トシテ起ツノ勇氣ヲ有シテ居ッタ
モノデアル、此勇氣ノ發現ハ何處カラデアルカ、東洋平和ヲ
維持シ、小弱ナル者ヲ援ケル任侠心ト强大ナル者ニ屈セザ
ル意氣ト此二ツデアル、此意氣、此任俠心、此二ツノモノハ
算盤ニハ一向掛ラナイモノデアリマス、英國人ハ功利主義
ナリト言ヒ、英國ノ外交ハ功利主義ナリト申シマスガ、此功
利主義ノ英國人ハ功利ニ徹底スルガ故ニ、何人ヨリモ早ク
日本人ノ此臥薪嘗膽ノ意氣ヲ實力ノ上ニ換算シタノデア
リマス、之レ有リシガ故ニ此意氣ヲ見テ日英同盟ハ結バレ
夕、日本外交ノ發動ノ根本源泉ハ此ニ在ッタカラ初メテ友ヲ
得タ、力アル者ハ友ヲ得ル、力ヲ失ヘバ友ヲ亦失フ、友ヲ有スル
モ亦友ノ驅馳スル所トナル、此所ガ重大ナ點デアリマス、加
藤總理大臣ハ日本海海戰ノ謀將トシテ、大和民族ノ此意
氣ヲ當時胸ノ中ニ躍ラセラレタル人デアリマス、當年ノ日
本ト今日ノ外交狀態トヲ比較セラレテ、果シテ如何ノ御考
ガアルカ、私ハ此日本ノ明治改革以來ノ傳統的精神ヲ喚
起シテ、玆ニ日本ノ世界政策ノ新活路ヲ開ク必要ヲ感ズル
新活路ヲ開クニ必要ナコトヲ私ハ玆ニ二箇條提供シタイ、
此二箇條ニ對シテ決意ガアレバ、斯ノ如キ政策ヲ行フト
言ッテ貰ヒタイ、加藤總理大臣ノ朗々タル聲ヲ以テ帝國議
會ニ表明セラルレバ、其表明ノミニシテ世界ノ人心ヲ動カシ、
帝國外交ノ上ニ一大新活路ヲ與ヘル所以トナルコトヲ私
ハ確信スルガ故ニ、能ク私ハ此二大項目ニ對シテ御考ヲ伺
ヒタイ、第一ニ私ノ言ハント欲スル所ハ、日本ノ立場ガ四方
八面ニ塞ッタル時ニ世界ヲ見渡スト、新ナル形勢ガ動キツヽ
アル、獨逸ト佛蘭西トノ關係ハ面倒デアル、其上ニ近東ニ
ハ此頃珍ラシキ風雲ガ動イテ居ル、此際ニ日本帝國ハ嘗テ
「ヴエルサイユ」講和條約ノ際ニ表明シタル人種平等ノ大主
義ヲ再ビ提唱シテ、此主義ニ依ッテ立チ、此主義ヲ以テ世界
ニ臨ミ、此主義ヲ奉ズル者ニ同情ヲ表シ、此主義ヲ壓迫ス
ル者ニ對シテ敵意ヲ有スル所以ノ決心ヲ表明セラルヽコト
ガ今日ノ急務デアルト思フ、第二ハ是ヨリソロー~說明致シ
マスガ、是ト關聯シマシテ、速ニ勞農露西亞ト通商條約ヲ締
結シ、亞米利加、露西亞及獨逸、墺地利、舊同盟諸國ヲ國
際聯盟ニ加入セシムベシト云フコトデアル、此二箇條ヲ信條
トシテ日本ハ起チ、此內閣ハ之ニ準據シテ外交上ノ進退ヲ
爲スモノデアルト云フ表明ヲ私ハ欲シイト思フ、是ガ····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=25
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026・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 旣ニ定刻ニ近ヅキマシタカラ、時
間ヲ延長致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=26
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027・中野正剛
○中野正剛君(續) 此二箇條ニ對シテ、政府當局者ハ如
何ノ御考ヲ持タルヽカ、諸君、日英同盟ガ無クナッタト云フコ
トハ華盛頓會議以後日本ノ立場ニ多大ノ影響ヲ來シタ、
何ト辯明セラレテモ、其以後ノ我ガ對外方針ハ、退嬰萎縮
ニ改マラザルヲ得ナイノデフリマス(「ヒヤ〓〓」)併ナガラ英吉
利ノ「ロイドジヨージ」内閣ガ日英同盟ヲ輕々シクモ抛棄シ
テ、亞米利加ト手ヲ握ッタト云フコトハ、彼等ニ於テ一面ノ
眞理ヲ摑ンダノデアリマスガ、彼等ニ於テ半面ノ日英同盟ノ
效果ヲ沒却シタル結果デアルト私ハ思フ(拍手)日本ガ外交
ノ孤立ニ恐レテ、對外政策ハ總テ退嬰ニ走リツヽアル際ニ、
英吉利ニ於テモ同樣ノ聲ガ起ッテ居ル、極端ニ申シマスレバ
「ロイドジヨージ」ガ、内閣ヲ失ヒ、總選擧ニ敗レ、孤影悄然タ
ル形ニナッタノハ、事實ハ彼ガ日英同盟ヲ失ッタル結果デアル
ト推斷シテ宜イト思フ、ソレハ何故デアルカ、彼ハ日英同盟
ニ依シテ印度ヲ保護セラレ、英吉利ノ屬領ノ安泰ヲ得テ居ル
事實ヲ忘レテ居ッタ、諸君、近東問題ハ今日ノ重大問題デア
リマス、土耳其ノ一角ヨリ起リマシタル一靑年ガ「アンゴラ」ニ
國民政府ヲ作リ、英國ノ手先キデアル希臘ヲ蹴飛バシテ「ス
ミルナ」ヲ占領シ蘇士ヲ囘復シ、君士坦丁堡ニ迫リ、近頃ハ
聯合列國ニ向ッテ最後通牒スラ送ル如キ意氣込ヲ示シタ、之
ニ對シテ英國ガ斷乎タル處置ヲ執ルコト能ハズシテ、近東
外交失敗ノ爲ニ「ロイドジヨージ」ハ內閣ヲ滑リ陷ラナケレバ
ナラナクナッタコトハ、英國ガ日英同盟ヲ失ヒタル當然ノ結
果デアルト思フ、若シモ英吉利ガ勞働黨ノ反對ヲ顧ミズ、土
耳其ノ此國民主義ノ人々ヲ叩キ付ケレバ、彼等ハ四散シテ
其友ヲ呼ブ(私語スル者アリ)能ク御聞キナサイ、卽チ此土
耳其軍ガアレダケノ兵力ヲ以テシテ、アレダケノ實力ヲ發揮
シタルモノハ、背後ニ經濟的ノ「パック」ガナケレバナラヌ、武器
彈藥ヲ供給スル者ガナケレバナラヌ、御存ジノ通リニ埃及ニ
ハ革命ノ機運ガ燃エツヽアル、阿富汗ニモ左樣デアル(「分ッタ」
「分ッタ」ト呼フ者アリ)分ラナイアナタニハ-「アゼルバイゼ
ン」ニモ動キツヽアル、勃牙利ニモ共鳴シツヽアル(私語スル
者アリ)議長、アンナ者ヲ制シテ下サイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=27
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029・中野正剛
○中野正剛君(續) 斯ノ如キモノガ皆共鳴シツヽアル、別
シテ看過スベカラザルモノハ、印度ニ於テ三億ノ民衆ガ革命
的風潮ヲ帶ビテ居ルコトデアル、印度ニ革命的風潮ヲ帶ブ
ル者アリ、英領ノミデモ囘々〓徒ガ一億程アル、是等ノ人々
ガ互ニ相結ンデ獨立ノ機運ニ動キツヽアル、其事ガ「ケマルパ
シヤ」背後ノ力デアリ、是アルガ故ニ英吉利ハ手ヲ觸ルヽコト
ガ出來ナイ、若シモ日英同盟ガ現存シテ居ッタナラバ、同盟ノ
條項ノ指示スルガ如ク、印度ガ第三國、卽チ土耳古若クハ
勞農露西亞ト牒シ合セテ、英吉利ニ對シテ敵意ヲ表スル時
ニ、日本ハ之ヲ鎭定スル義務ガアル、日本ノ外務省ハ命ゼラ
ルヽガ儘ニ、少クトモ軍艦位出スベキモノデアラウト思フ、是
ハ軍艦位デハナクシテ、大戰爭中ニモ新嘉坡ニ於デ印度人
ノ叛亂ガ起ッタ時ニ、英米ハ之ヲ鎮撫スルコト能ハズシテ、日
本ノ陸戰隊ガ之ヲ鎮撫シ、印度ノ回々〓兵ハ、日本人ハ兄
弟デアル、兄弟トハ戰ハヌト言シテ之ニ降ッタ、降ッテ印度兵ノ
武装ヲ解除セシメテ英吉利ニ引渡シタ、此大ナルモノヲ日
本ハヤラナケレバナラヌデアラウ、然ルニ吾ヨリ欲セザルニ、日
英同盟ヲ向フカラ足蹴ニシテ之ヲ捨テタノデアル、之ヲ捨テ
タノデアル、捨テタガ故ニ此日英同盟ニ拘束セラレテ、近東
問題ノ不公平ナル態度ヲ執ル必要ガナイ、卽チ今日ニ於テ
ハ英吉利ニ於テモ「ロイドジヨージ」ガ權變不思議ノ働ヲ爲
シ、一定ノ信念ナカリシコトハ、英吉利ヲ今日ノ窮地ニ陷レ
タリト云フ反對ノ議論ガ聞エテ居ルノハ、取モ直サズ日英同
盟ノ廢棄ニ關スル反對ノ意見デアリマス(此時發言スル者
アリ)能ク御聽キナサイ、アナタ方ノ有利ナ事ヲ言ウテ上ゲマ
ス-今日日本ノ一角ニハ、孤影情然タルニ驚イテ、再ビ日
英同盟ヲ囘復セネバナラヌト云フガ如キ議論ガ、日本政界
ノ一角ニ動キツヽアルノハ事實デアリマス、望月君ノ御話ノ
中ニモ「バルフオアー」ノ所言ヲ非常ニ喜ンデ、曰英同盟囘復
云々ノ事ガアッタ、恐ラクハ日本ノ一角ニハモウ一遍日英同盟
ヲ回復シテヤラウト言ハレルナラバ、協調主義ノ外交ニ慣レ
タル我當局ハ、之ニ傾イテ居ルカモ知レヌ、今日ノ時局ハ左
樣ナ事デナクシテ、曩ニ突放サレタ同盟ヲ又握手シヤウト云
フヤウナ時デナク、此世界ノ大勢ニ鑑ミ、日本ハ囘々〓徒ヲ
中心トシテ動キ立ッタル中央亞細亞、埃及、アノ万面ニ動キ
立ッタル民族自決ノ風潮ニ對シテ、間接ニ聲援ヲ與ヘナケレ
バナラヌ、巴里ニ於テ一度揚ゲラレタル人種平等ノ大施ヲ
再ビ揚ゲラレルコトガ、今日ノ急務デアルト私ハ信ズルノデ
アリマス、知ラズ、政府當局者ハ斯ノ如キ信念ヲ有ッテ居ラル
ルカ、相變ラズ退嬰屈從ヲ以テ信念ト爲シ、モウ一遍協調外
交、モウ一遍日英同盟ト云フガ如キ考ヲ有ッテ居ラルヽカ、私
ハ此點ヲ質問致シタイト思ヒマス、モウ一ツ急務ナルモノハ勞
農露西亞トノ通商問題デアル、勞農露西亞トノ通商ニ對シ
テ、免ヤ角非難ノ言ヲ爲ス者ガアル、是ハ思想上ノ問題ト國
交上ノ問題トヲ混同シタルモノデアル、近來印度ニ對スル露
西亞ノ赤化計畫ナルモノガ仰々敷宣傳セラレテ、日本ノ新
間ニモ多少轉載セラルヽモノガアリマス、露西亞ハ確ニ南方
ニ向ッテ伸ビントスルノ考ヲ有シテ居ル、又經濟的ニ考ヘマシ
テモ、アノ寒帶ニ居ル所ノ露西亞ト、アノ熱キ印度トハ、其物
資ヲ交換スル事ニ依リテ、各、經濟的片輪ノ地位ヲ脫シ、其
生產力ヲ回復スルガ故ニ、「レーニン」政府ガ印度ニ聲援シ、
回々〓徒ノ勃興ノ氣運ニ聲援スルコトハ、近來隱レナキ事
實デアルト思フ、此際ニ於テ極東問題デアリマス、私ノ信ズル
所ニ依リマスレバ(露西亞ハ第三次會議ヲ開催スルノ氣ア
リ、「ヨツフエー」自ラ日本ニ乘込マントスル考ガアルト云フ、
此際ニ於テ露西亞ト速ニ手ヲ握ラレ、又更ニ此勞農露西
亞ヲ承認スルノ前提ヲ與ヘルコトハ、此露西亞ヲシテ極東ニ
事無キヲ得セシメ、極東後顧ノ憂ナクシテ、其欲スルガ儘ニ
經濟的進出ヲ南方ニ試ミ、近東ニ試ミ、世界ニ對シテ新形
勢ヲ作リ出スベキモノデアラウト思ヒマス、古カラ近東ニ事
アル時ニハ、東洋ハ安固ナルヲ得タ再ビ近東ガ今日ハ政治
上ノ駈引ニ非ズ陰謀ニ非ズシテ、民族的自覺ニ依テ動キ立
タントスル今日ニ於テ、日本帝國ガ露亞西ト握手シ、此新
興民族ノ勃興ニ對シテ、人種平等ノ大主義ニ依ッテ聲援ヲ
與ヘルト云フコトハ、世界ニ新ナル形勢ヲ作リ出ス唯一ノ方
策デアルト思ヒマス(此時發言スル者アリ)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=29
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030・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 靜ニ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=30
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031・中野正剛
○中野正剛君 議長、醉漢ヲ處分シテ下サイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=31
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032・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 私語ヲ禁ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=32
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033・中野正剛
○中野正剛君(續) 私ハ此際ニ於テ-此際ニ於テ日本
ノ世界ニ於テ行詰リタル此形勢ヲ回復スル爲ニ、一ハ勞農
政府ト直ニ通商條約ヲ締結シ、更ニ····(發言スル者アリ)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=33
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034・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 靜〓ニ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=34
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035・中野正剛
○中野正剛君(續) 舊獨墺側諸國ヲ國際聯盟ニ加八セ
シムル事、是ガ今日ノ急務デアルト思ヒマスガ、之ヲ如何ニ
思ハレルカ、モウ一ツハ、今申シマスル人種平等ノ大施ヲ世
界ニ向テモウ一度揭グル勇氣ヲ示サレルカ、此二件ハ私ハ
今日ニ於テ最モ急務ナル問題デアルト思ヒマス(發言スル
者多シ)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=35
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036・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 静ニ-靜ニ願ヒマス(發言スル
者多シ)三枝君、靜肅ニ願ヒマス-私語ヲ禁ジマス
〔「近東トハ何處ダ」ト呼ヒ、其他發言スル者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=36
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037・中野正剛
○中野正剛君 近束ヲ知ラナイ者ガアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=37
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038・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 私語ヲ禁ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=38
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039・中野正剛
○中野正剛君(續) 私ハ大勢上ヨリ推斷致シマシテ、文
字ノ上ニアラズ、世界ノ國際關係上、此國際關係ヲ具サニ
觀察致シマスル上ニ於テ、日本ノ立場ガ此二大方針ヲ甚ダ
急務トスル、之ニ對シテ如何ナル觀念ヲ有フテ居ラレルカ、之
ニ對シテ私ハ御答辯ヲ煩ハス次第デアリマス、更ニ又御尋
シマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=39
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040・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 靜肅ニ願ヒマス-加藤總理
大臣
〔國務大臣男爵加藤友三郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=40
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041・加藤友三郎
○國務大臣(男爵加藤友三郞君) 只今中野君ヨリ歐米
極東ニ亙リマシテ各種ノ御意見ヲ拜聽致シマシタ、御演說
ノ大部分ハ、是等各方面ニ於ケル現狀ヨリ、或ハ既往ニ亙
リ、將來ニ渉リ、所謂縱横ニ御意見ヲ御述べニナッタコトヽ
拜聽致シタノデアリマス、而シテ結論トシテ御質問ニナリマ
スル要點ハ、今日我國ガ執ルベキ最モ必要ニシテ急務ナル
問題ハ人種平等問題デアル、是ハドウスル考デアル、御意見
ガ一ツデアッタト記憶致シマス、御承知ノ通リ此問題ハ、曩
ニ講和會議ノ際ニモ提起サレ、御承知ノ通リノ結果ニ相
成ッテ居ルノデアリマス、政府ト致シマシテ、將來-或ハ近
キ將來ニナリマスルカ、其時期ニ付テハ今日豫測ハ出來マ
セヌケレドモ、機會ガアラバ幾度モ之ヲ提出スル意思デアル
ト云フ事ヲ御諒解ヲ願ヒタイノデアリマス、又勞農露國ト
通商條約ヲ締結スルト一云フ意思ガアルカドウカト云フ御話
デアックヤウニ拜聽致シマシタ、是亦同政府ト通商條約ヲ締
結致シタイト云フ考ハ持ノテ居ルノデアリマス、既ニ是迄モ此
問題ニ付キマシテ多少攻究モ致シ、或ハ形式ハ具ヘマセヌ
迄モ、我政府ノ意ノ在ル所ハ先方ニ於テハ或ハ諒解ヲシテ
ハ居ナイカト、是ハ私想像致スノデアリマス、是亦機會ガア
ラバ之ヲ實行致シタイト云フ考ヲ持ッテ居ルコトニ御諒解ヲ
願ヒタイノデゴザイマス、最後ニ國際聯盟ニ、米國其他今日
之ニ加入シ居ラザル國ヲ加入セシムルコトニシタラドウカト
云フヤウナル御意見デアリマス、是ハ帝國政府獨リ或ハ斡
旋スルトカ云フヤウナルコトハ、今日ノ狀況ニ照シマシテ、容
易ニ出來ルコトデハナイカト思フノデアリマスガ、是等諸國
ガ國際聯盟ニ加入致シマスコトハ政府ノ最モ歡迎スル所デ
ゴザイマス、以上ヲ申上ゲマシテ御答辯ニ代ヘマス(拍千)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=41
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042・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 內田外務大臣
〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=42
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043・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 只今總理大臣ガ答ヘラ
レマシタ點以外ニ亙ル御質問ニ對シラ、一應私ヨリ御答ヲ
致シマス、只今總理大臣モ申サレマシタ通リ、中野君ノ御
質問ハ多クハ御意見ノ開陳デアル、其御意見ハ私ハ多大ナ
ル參考トシテ承リ置キタイト思フ、併シ實際責任ヲ持ッテ外
務ノ局ニ當リマス以上ハ、其ノ自身ニ於テ如何ナル理想ニ
共鳴シ、又自ラ如何ナル理想ヲ持ッテモ、ソレヲ直ニ世界ニ
宣言スル譯ニ行カナイ、只今總理ノ答ヘラレマシタ人種問
題ニ付テモ、中野君ハ此問題ヲ世界ニ提唱シ、之ニ共鳴セ
ザル者ハ敵トスルト言ハヌ許リノ御質問ノヤウデアリマシタ
ガ、サウ云フコトハ到底責任アル位置デハ言ヘナイ、併シ人
種平等ト云フモノハ、是ハ「ヴエルサイユ」會議以來帝國ハ提
唱シテ居リフス、又機會アレバ此ノ主張ハ何處迄モ貫徹
シタイト思ッテ居リマスコトハ、只今總理ガ申シタ通リデアリ
マス、其他最初ニ御述べニナリマシタコトハ、ドレガ御質問ノ
點カト突止メマスコトハ、甚ダムズカシク感ジテ居リマスガ、
要スルニドウモ中野君ト私トハ考ノ出發點ガ違クテ居ルト思
フ、何カ是迄日本ガ「ヴエルサイユ」會議、華盛頓會議以來
シタ事ハ、强國ニ壓迫サレテ、又英米ガ手ヲ組ンデ日本ヲ壓
迫セントシテ居ルト云フコトヲ前提トサシテ、御意見ヲ御述
ニナ、タヤウデアル、若シ果シテサウデアレバ、是ハ大變ニ間
違フテ居ル、日本ガ英米ニ壓迫サレル譯モナイ、又英米ガ日
本ヲ壓迫シヤウトハ思ッテ居ナイト私ハ確信シテ居ル、殊ニ
友邦ニ對シマシテ、斯ル言議ヲ此公開ノ席上ニ於テ私ガ彼
此レ申スコトハ、愼ムベキコトデアルト思フ、卽チ其點ガ間
違ッテ居リマスカラ、是迄ノ交涉ニ對シテ日本ガ壓迫ヲ受ケ
テ居ルト云フ御質問ハ、是ハ殆ド私ハ答辯ノ必要ヲ認メテ
居ナイ、細目ニ亙ッテ申上ゲレバ多々アリマスケレドモ、既ニ
其ノ出發點ガ違クテ居リマスカラ、此上答辯ノ必要ヲ認メマ
セヌ(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=43
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044・岩崎勲
○岩崎勳君 國務大臣ノ演說ニ對スル質疑ハ本日モ此
程度ニ止メ、日程ト共ニ之ヲ延期シ更ニ明二十五日本會
議日程議了後ニ之ヲ繼續セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ノ聲起ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=44
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045・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎動君ノ動議ニ御異議ガナ
イト認メマス、依テ動議ノ如ク決シマス、-諮問致シマスコ
トガアリマス、高橋久次郞君病氣ニ付本月二十五日ヨリ
二月三日マデ、綾部惣兵衞君病氣ニ付本月二十五日ヨリ
二月七日マデ、野村治三郞君病氣ニ付本月二十五日ヨリ
二月三日マデ、右何レモ請暇ノ申出ガアリマス、許可シテ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=45
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046・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、許可スル
コトニ決シマス、明日ノ日程ハ公報ヲ以テ御通知申上ゲマ
ス、本日ハ是ニテ散會
午後六時十六分散會
衆議院議事速記錄第三號中正誤
頁段行誤正
四二上二五遞信國務発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00419230124&spkNum=46
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