1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十二年一月二十五日(木曜日)午後一時十八分開議
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議事日程 第四號 大正十二年一月二十五日
午後一時開議
第一 明治四十年法律第二十一號中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 所得税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第四 營業税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 石油消費税法廢止法律案(政府提出) 第一讀會
第六 賣藥税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第七 印紙税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
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一 國務大臣の演説に對する質疑 (前會の續)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=0
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001・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 諸君、諸般ノ報告ヲ致シマス
〔原田書記官朗讀〕
一昨二十四日議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
氣仙沼前谷地間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者高橋長七郞君伊澤平左衞門君
菅原傳君野副重一君
中島鵬六君遠藤良吉君
佐藤庄助君志賀和多利君
佐藤良平君
肝屬川改修速成ニ關スル建議案
提出者津崎尙武君日野辰次君
岩崎宗茂助君
未穀專賣法制定ニ關スル建議案
提出者小菅劍之助君松下禎二君
八幡濱中村間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者矢野丑乙君竹內明太郞君
渡邊修君深見寅之助君
國有林野所在ノ府縣市町村ニ對シ交付金下付ニ關ス
ル建議案
提出者八田宗吉君堀切善兵衛君
松本孫右衞門君阿部武智雄君
石川淳君白井博之君
鈴木巖君
帝國在〓軍人會國庫補助ニ開スル建議案
提出者八田宗吉君津野田是重君
一宮房治郞君石川玄三君
成田直一郞君牧山耕藏君
河上哲太君
決議案
提出者濱田國松君林田龜太郞君
前川虎造君
(以上一月二十四日提出)
-議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
經濟界枚済ニ關スル質問主意書
提出者橋本喜造君
米國ノ日本人歸化權ニ關スル質問主意書
提出者〓水留三郞君
(以上一月二十四日提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=1
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002・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、議事日程
第一、明治四十年法律第二十一號中改正法律案ノ第一
讀會ヲ開キマス
第明治四十年法律第二十一號中改正
法律案(政府提出)第一讀會
明治四十年法律第二十一號中改正法律案
明治四十年法律第二十一號中左ノ通改正ス
第一條第一項ニ左ノ一號ヲ加フ
六漁業稅
附則
本法ハ大正十二年分ヨリ之ヲ適用ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=2
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003・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 永井政府委員
〔政府委員永井金次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=3
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004・永井金次郎
○政府委員(永井金次郞君) 只今ノ議題ニ上サレマシタ
法律案ニ付キマシテ、私ヨリ說明ヲ致シマス、本案ハ極メテ
簡單ナル問題デゴザイマシテ、樺太ニ於キマスル租稅ノ稅目
中ニ、漁業稅ト云フ一項目ヲ追加セントスルノデゴザイマス、
從來樺太ニ於キマシテハ、漁業ニ對シマシテ漁業料ヲ徵收
シテ居ッタノデゴザイマス、ソレヲ今回租稅ニ改メタイト考ヘ
ルノデゴザイマス、其理由ト致シマシテハ、租稅ニ致シマスル
ト、當業者ノ側ニ於キマシテモ納稅資格ニ編入サレマスル結
果トシテ、諸般ノ點ニ於テ利益モゴザイマスルシ、特點モアリ
マスルシ、又政府ト致シマシテモ、收入ノ安全ト確實ヲ得ル
點ニ於キマシテ便宜ガゴザイマスノデ、卽チ當業者ニ於キマ
シテモ、政府ニ於キマシテモ便利デゴザイマスカラ、漁業稅ト
改正致シタイノデゴザイマス、其內容ニ至リマシテハ、漁業
料ト租稅トハ殆ド同樣デゴザイマスルガ、唯改正ヲ機ト致
シマシテ、若干漁業稅ノ輕減ヲ圖リタイト云フ方針ヲ持シテ
居ル次第デコザイマス、右樣ノ次第デゴザイマスルデ、何卒
御審議ノ上ニ御協賛アランコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=4
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005・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 日程第二、右議案ノ審査ヲ付託ス
ベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=5
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006・高見之通
○高見之通君 委員ノ數ヲ九名トシ、議長ニ於テ指名サ
レンコトヲ望ミマス
〔「賛成々々」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=6
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007・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 高見君ノ動議ニ御異議アリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=7
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008・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ動議ノ
如ク決定致シマシタ日程第三乃至第七ハ同種ノ議案デア
リマスルカラ、一括議題ト爲スニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=8
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009・奧繁三郎
○議長(奧繁三郎君) 御異議ナシト認メマス、仍テ一括シ
テ議題ト致シマス
第三所得稅法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
所得稅法中改正法律案
所得稅法中左ノ通改正ス
第二條及第三條中「、銀行定期預金又ハ定期預金ノ
性質ヲ有スル銀行預金」ヲ「又ハ銀行預金」ニ改ム
第二十六條中「申出テタルトキハ」ヲ「申出テタルトキハ
前二項ノ規定ニ拘ラス」ニ改メ同條第一項ノ次ニ左ノ一
項ヲ加フ
所得調査委員會聞會後第三種ノ所得ノ決定ニ付脫
漏アルコトヲ發見シタルトキハ其ノ決定ヲ爲スヘカリシ
年ノ翌年ヨリ三年以內ニ於ケル所得調査委員會ノ
調査ニ依リ政府ニ於テ其ノ所得金額ヲ決定スルコト
ヲ得
第二十七條中ニ左ノ一項ヲ加フ
前項ノ規定ハ前條第二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十八條中「又ハ北海道、沖縄縣ノ區」ヲ削ル
第三十條中「又ハ北海道、沖繩縣ノ區」ヲ削リ同條ニ左
ノ一項ヲ加フ
町村組合ニシテ町村ノ事務ノ全部又ハ役場事務ヲ
共同處理スルモノハ之ヲ一町村ト看做ス
第三十二條ニ左ノ一項ヲ加フ
第三十條第二項ノ町村組合ニ付テハ其ノ組合管理
者ヲ町村長ト看做ス
第七十三條ノ二政府ハ法人ノ株主又ハ社員ノ一人
及其ノ親族、使用人其ノ他特殊ノ關係アリト認ムル者
ノ株式金額又ハ出資金額ノ合計カ其ノ法人ノ株式
金額又ハ出資金額ノ二分ノ一以上ニ相當スル法人ニ
付テハ其ノ留保シタル所得中左ノ各號ノ一ニ該當ス
ルモノニ限リ之ヲ株主又ハ社員ニ配當シタルモノト看
做スコトヲ得
ー事業年度末ニ於ケル積立金及其ノ事業年度ノ
所得中留保シタル金額ノ合計金額カ其ノ事業
年度末ニ於ケル拂込株式金額又ハ出資金額ノ
二分ノ一ニ相當スル金額ヲ超過スルトキハ其ノ
超過金額ニ屬スル其ノ事業年度ノ所得中留保
シタル金額ヨリ其ノ事業年度ニ於ケル所得ノ二
十分ノ一ニ相當スル金額ヲ控除シタル金額
二各事業年度所得中留保シタル金額カ其ノ事業
年度ニ於ケル所得ノ十分ノ三ニ相當スル金額ヲ
超過スルトキハ其ノ超過金額
第七十三條ノ三前條ノ法人ト其ノ株主又ハ社員及
其ノ親族、使用人其ノ他特殊ノ關係アリト認ムル者ト
ノ間ニ於ケル行爲ニ付所得稅通脫ノ目的アリト認ム
ル場合ニ於テハ政府ハ其ノ行爲ニ拘ラス其ノ認ムル所
ニ依リ所得金額ヲ計算スルコトヲ得
第七十三條ノ四政府ハ前二條ノ規定ヲ適用セムトス
ルトキハ所得審査委員會ノ決議ニ依リ之ヲ決定ス
第七十四條第一項中「通脫シ」ノ下ニ「又ハ通脫セムト
シ」ヲ加へ同條第二項中「第一項」ヲ「第二項」ニ改ム
附則
本法ハ大正十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行地ニ於テ支拂ヲ受クル銀行預金利子中從前
ノ規定ニ依リ第三種所得トシテ計算スヘキモノニ付テハ
支拂期ノ本法施行前ニアルモノニ限リ大正十二年分第
三種所得トシテ計算ス
第四營業稅法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
營業稅法中改正法律案
營業稅法中左ノ通改正ス
第五條ノ二中「私設鐵道法、輕便鐵道法」ヲ「地方鐵道
法」ニ改ム
第十二條第一項ヲ左ノ通改ム
營業稅ハ左ノ課稅標準及稅率ニ依リ每年之ヲ賦課
ス
業名誤稅標準稅率
卸賣甲萬分ノ八
額乞萬分ノ十一
物品販賣業賣上金甲萬分ノ二十
小賣乙萬分ノ三十
從業者一人每ニ二圓
銀行業、保險業、資本金額千分ノ三、五
無盡業從業者一人每ニ二圓
金錢貸付業、物運轉資本金額千分ノ四、八
品貸付業從業者一人每ニ二圓
製造業、印刷業、資本金額千分ノ三、三
出版業、寫眞業從業者一人每ニ二圓
從業者ノ内臟工勞役者一人每ニ五十錢
連送業、運河業資木金額千分ノ三、五
イ後橋業、船舶碇從業者人每ニ二圓
察場業、貨物陸從業者ノ内職工勞役者一人每ニ五十錢
楊承
建物賃貸價格千分ノ五十七
倉庫業從業者人每ニ二圓
從業者ノ內職て勞役者人每二五十錢
收入金額十分ノ十四
銀道業從業者人每ニ二圓
從業者ノ內戰工勞役者一人每ニ五十錢
請負金額千分ノ二、八
4.請負業從業者一人每ニ二圓
從業者ノ内職工勞役考-人每ニ五十錢
席貸業建物賃貸價格千分ノ七十九
從米者人每ニ二圓
料理店業建物賃貸價格千分ノ八十
從業者一人每ニ二圓
旅人宿業建物賃貸價格千分ノ五十
税業者一人每ニ二園
周旋業、代理業報償金額千分ノ二十一
仲立業、問屋業、從業者一人每ニ二レ
信託業
第十七條製造業ノ資本金額カ左ノ金額ノ十二割ニ
相當スル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ヲ課稅標
準ヨリ控除ス
-前年ノ資本金額カ前前年ノ資本金額以下ナル
トキハ前年ノ資本金額
二前年ノ資本金額カ前前年ノ資本金額ヲ超過ス
ルトキハ前前年ノ資本金額
第二十六條課稅標準ハ營業稅調査委員會ノ調査ニ
依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
調査委員會聞會後課稅標準ノ決定ニ付脫漏アルコト
ヲ發見シタルトキハ其ノ決定ヲ爲スヘカリシ年ノ翌年
ヨリ三年以內ニ於ケル調査委員會ノ調査ニ依リ政府
ニ於テ其ノ課稅標準ヲ決定スルコトヲ得
調査委員會閉會後營業者納稅義務アルコトヲ申出
テ又ハ課稅標準ノ增加アルコトヲ申出テタルトキハ前
二項ノ規定ニ拘ラス政府ニ於テ其ノ課稅標準ヲ決定
ス
第二十六條ノ二ニ左ノ一項ヲ加フ
前項ノ規定ハ前條第二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十六條ノ三中「又ハ北海道、沖繩縣ノ區」ヲ削ル
第二十六條ノ四調査委員ハ各選擧區ニ於テ之ヲ選
擧ス
調査委員ヲ選擧スルトキハ同時ニ之ト同數ノ補關員
ヲ選擧スヘシ
第二十六條ノ五調査委員及補閱員ノ選舉區域ハ調
査委員會ヲ置クヘキ區域ニ依リ投票區及間票區ハ市
町村ノ區域ニ依ル但シ市制第六條ノ規定ニ依リ指定
セラレタル市ニ在リテハ區ノ區域ニ依ル
町村組合ニシテ町村ノ事務ノ全部又ハ役場事務ヲ
共同處理スルモノハ之ヲ一町村ト看做ス
第二十六條ノ六選擧區域內ニ於テ營業シ其ノ年第
十三條ノ申〓ヲ爲シ課稅標準ノ決定ヲ受ケタル者ニシ
テ選擧人名簿ニ登錄セラレタルモノハ調查委員及補
關員ヲ選擧シ又ハ調査委員若ハ補關員ニ選擧セラル
ルコトヲ得但シ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ此ノ限ニ
在ラス
無能力者
二破產若ハ家資分散ノ宣告ヲ受ケ復權セサル者
又ハ身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨濟ヲ了ヘサル
者
三國稅滯納處分ヲ受ケタル後一年ヲ經サル者
四六年以上ノ懲役若ハ禁鋼ノ刑ニ處セラレ又ハ舊
刑法ノ重罪ノ刑ニ處セラレタル者
五六年未滿ノ懲役又ハ禁錮ノ刑ニ處セラレタル者
ニシテ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコ
トナキニ至ル迄ノ者
六第三十四條乃至第三十四條ノ三ノ規定ニ依リ
處罰セラレタル後五年ヲ經サル者
其ノ年分課稅標準決定前選擧ヲ爲ス場合ニ於テハ
前年營業稅ヲ納メ其ノ年第十三條ノ申告ヲ爲シタル
者ヲ以テ課稅標準ノ決定ヲ受ケタル者ト看做ス
營業繼續ノ場合ニ於テハ前ノ營業者ノ爲シタル申告
若ハ納稅又ハ其ノ受ケタル課稅標準ノ決定ハ後ノ營
業者ノ爲シタル申告若ハ納稅又ハ其ノ受ケタル課稅
標凖ノ決定ト看做ス
營業者カ法人ナル場合ニ於テハ選擧ニ關スル代表者
ヲ定メ政府ニ申告スヘシ
調査委員ニ當選シタル者又ハ第一項但書ニ該當スル
者ハ法人ノ代表者タルコトヲ得ス選舉人名簿ニ關ス
ル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十六條ノ七投票及開票ニ關スル事務ハ市區町
村長又ハ戶長之ヲ擔任シ選擧會ニ關スル事務ハ稅務
署長之ヲ擔任ス
第二十六條ノ五第二項ノ町村組合ニ付テハ其ノ組
合管理者ヲ町村長ト看做ス
第二十六條ノ八稅務署長ハ調査委員及補閱員ノ選
擧期日ヲ定メ之ヲ市區町村長又ハ戶長ニ通知スヘシ
市區町村長又ハ戶長前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ少
クトモ選擧期日七日前其ノ旨ヲ公示スヘシ
第二十六條ノ九選擧ハ無記名投票ヲ以テ之ヲ行フ
投票ハ調査委員及補闕員ノ各選擧ニ付選擧區域每
二一人一票ニ限ル
選擧人ハ選擧ノ當日投票時間内ニ自ラ投票所ニ至
リ被選舉人各一人ノ氏名ヲ各別ノ投票用紙ニ記載
シテ投票スヘシ但シ選擧區域ヲ異ニシ各別ニ營業稅
ヲ納ムル場合ニ於テハ代人ヲシテ投票セシムルコトヲ得
投票用紙ハ選擧ノ當日投票所ニ於テ之ヲ選擧人ニ
交付ス
第二十六條ノ十市區町村長又ハ戶長ハ投票ヲ調査
シ直ニ其ノ結果ヲ稅務署長ニ報告スヘシ
第二十六條ノ十一稅務署長前條ノ報告ヲ受ケタル
トキハ選擧會ヲ開キ之ヲ調査スヘシ
第二十六條ノ十二投票、開票及選擧會ニハ立會人ヲ
立會ハシムヘシ
立會人ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十六條ノ十三投票ハ多數ヲ得タル者ヲ以テ當選
人トス投票ノ數同シキトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
調査委員ニ當選シタル者同時ニ補閱員ニ當選スルモ
補閱員タルコトヲ得ス
第二十六條ノ十四調査委員及補關員ノ選擧終了シ
タルトキハ稅務署長ハ當選人ノ氏名ヲ公示シ且之ヲ
當選人及市區町村長又ハ戶長ニ通知スヘシ
市區町村長又ハ戶長前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ當
選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十六條ノ十七調査委員及補關員ノ任期ハ選擧
期日ノ屬スル月ヨリ四年トス但シ選擧區域ニ變更ヲ
生シタル場合ニ於テハ其ノ任期ハ選擧區域ニ變更ヲ
生シタル曰ノ屬スル月ヲ以テ終了スルモノトス
第二十六條ノ十九調査委員ニ關員ヲ生シタルトキハ
投票ノ最多數ヲ得タル補關員ヨリ順次之ヲ補充シ投
票ノ數同シキトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
調査委員ニ關員ヲ生シ之ヲ補充スヘキ補闕員ナキト
キハ調査委員ノ補關選擧ヲ行フ
第二十六條ノ二十中「補關員ヨリ調査委員」ヲ「前條ノ
規定ニ依リ調査委員又ハ補關員」ニ改ム
第二十六條ノ二十七中「五月三十一日」ヲ「三月三十
一日」ニ改ム
第二十八條ノ一前條ノ請求アリタルトキハ營業稅審
査委員會ノ決議ニ依リ政府ニ於テ其ノ課稅標準ヲ決
定ス
審査委員會ハ前條ノ請求ヲ爲シタル者ニ對シ營業ニ
關スル事項ヲ質問スルコトヲ得
第二十六條ノ二十八ノ規定ハ之ヲ審査委員會ノ決
議ニ準用ス
第二十八條ノ二各稅務監督局所轄內ニ營業稅審
査委員會ヲ置ク
審査委員會ハ左ノ審査委員ヲ以テ之ヲ組織ス
-收稅官吏中ヨリ大藏大臣ノ命シタル者三人
二稅務監督局所轄內各府縣又ハ北海道ニ於テ調
査委員ノ互選シタル者府縣ニ在リテハ各一人北海
道ニ在リテハ四人
審査委員會、審査委員及其ノ補閱員ニ關スル事項ハ
本法ニ定ムルモノヲ除クノ外命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十八條ノ三調査委員ヨリ選擧セラレタル審査委
員ニハ日當及旅費ヲ給ス
第二十八條ノ四課稅標準中其ノ年ノ實蹟ニ依リ計
算シタル額カ政府ノ決定シタル額ノ二分ノ一ニ達セサ
ルモノアルトキハ政府ハ營業者ノ請求ニ因リ其ノ課稅
標準ヲ更訂ス
第二十九條其ノ年ニ於ケル營業ノ利益カ其ノ年分
營業稅額ニ達セサルトキハ營業者ノ請求ニ因リ其ノ
不足額ニ相當スル營業稅ヲ免除ス
前項ノ利益ノ計算ニ付テハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第三十條前二條ノ規定ニ依リ課稅標準ノ更訂又ハ
營業稅ノ免除ヲ受ケムトスル者ハ翌年一月三十一日
迄ニ之ヲ政府ニ請求スヘシ但シ法人ニ在リテハ前條
ノ請求ニ限リ其ノ年十二月末日ヲ含ム事業年度終
了後三十日以內ニ請求スルコトヲ得
第三十一條前條ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ處
分ノ確定スルニ至ル迄稅金ノ徴收ヲ猶豫スルコトヲ
得
第三十一條ノ二營業者第二十八條ノ一ノ決定又ハ
第二十八條ノ四若ハ第二十九條ノ處分ニ對シ不服
アルトキハ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第三十三條ノ二政府ハ同業組合其ノ他ノ營業者ノ
團體ニ對シ營業稅ノ課稅標準ニ關スル事項ヲ諮問ス
ルコトヲ得
前項ノ諮問ヲ受ケタル團體ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
課稅標準ニ關スル調書ヲ提出スヘシ
第三十四條第十三條ノ申告ヲ爲サス若ハ虛僞ノ申告
ヲ爲シタル者、故意ニ第三十二條ノ帳簿ノ記載ヲ怠リ
若ハ虚僞ノ記載ヲ爲シタル者又ハ帳簿ノ檢査ヲ拒ミ
タル者ハ五百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第三十四條ノ三營業稅ノ調査又ハ審査ノ事務ニ從
事シ又ハ從事シタル者其ノ調査又ハ審査ニ關シ知得
タル祕密ヲ正當ノ事由ナクシテ漏洩シタルトキハ五百
圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十五條ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ第三十四條及前條ノ罪ヲ犯シタル者ニ付テハ此
ノ限ニ在ラス
附則
本法ハ大正十二年三月三十一日ヨリ之ヲ施行ス但シ第
十二條、第十七條及第二十八條ノ四乃至第三十一條
ノ改正規定ハ大正十二年分營業稅ヨリ之ヲ適用ス
營業稅調査委員及營業稅審査委員ニ關シテハ大正十
二年五月十日迄ハ仍從前ノ規定ニ依ル
第二十六條ノ二十七ノ改正規定中三月三十一ヨトア
ルハ大正十二年ニ限リ五月十日トス
大正十二年三月末日ニ於テ任期ノ終了スヘキ營業稅
調査委員及補關委員ノ任期ハ大正十二年五月十日迄
之ヲ延長ス
第五石油消費稅法廢止法律案(政府提
四第一讀會
石油消費稅法廢止法律案
石油消費稅法ハ之ヲ廢止ス
附則
本法ハ大正十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行前外國ニ輸出若ハ朝鮮ニ移出ノ目的ヲ以テ
消費稅ヲ納付セスシテ製造場若ハ保稅地域ヨリ引取リ
消費稅ヲ納付シテ外國ニ輸出若ハ朝鮮ニ移出シ又ハ消
費稅ノ徵收ヲ猶豫シタル石油ニ付テハ仍從前ノ例ニ依
ル
第六賣藥稅法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
賣藥稅法中改正法律案
賣藥稅法中左ノ通改正ス
第一條中「賣藥規則」ヲ「賣藥法」ニ改ム
第一條ノ二乃至第一條ノ六ヲ削ル
第二條、第三條、第五條及第十條中「賣藥印紙稅」ヲ
「賣藥稅」ニ改ム
第十三條ノ二ヲ削ル
第十六條本法ヲ犯シタル者ニハ刑法第三十八條第
三項但書、第三十九條第二項、第四十條、第四十一
條、第四十八條第二項、第六十三條及第六十六條ノ
例ヲ用井ス
第二十條ヲ削ル
附則
本法ハ大正十三年一月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行前賦課スヘキ賣藥營業稅ニ付テハ仍從前ノ
例ニ依ル
第七印紙稅法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
印紙稅法中改正法律案
印紙稅法中左ノ通改正ス
第二條中「五圓」ヲ「十圓」ニ、「五十圓トナルトキハ五十
圓」ヲ「百園ヲ超ユルトキハ百圓」ニ改ム
第三條削除
第四條左ニ揭クル證書、帳簿ニ關シテハ證書ハ一通
每ニ帳簿ハ一册一年以内ノ附込ニ對シ左ノ印紙稅
ヲ納ムヘシ
-貯金通帳、積金通帳及積金證
書(貯蓄銀行法第一條ノ貯金又
ハ積金ニ付發スルモノニ限ル)
二產業組合ノ發スル貯金通帳
三產業組合又ハ住宅組合ノ發スル
出資證劵
四農業倉庫證劵
五委任狀
六約束手形
八七爲替手形
銀行預金證書
九產業組合又ハ產業組合聯合會
ノ發スル貯金證書
十產業組合聯合會ノ發スル出資
證劵
十一船荷證劵
十二運送貨物引換證
十三倉庫證劵
十四保險證劵
十五株劵
十六債劵
十七相互保險會社ノ發スル基金證
劵
十八株式申込證
十九社債申込證
二十地上權、永小作權又ハ地役權
ニ關スル證書
二十一使用貸借、賃貸借、雇傭、寄
託又ハ定期金ニ關スル證書
二十二信託行爲ニ關スル證書
二十三無盡ニ關スル證書
二十四定款及組合契約書
二十五權利ノ變更ニ關スル證書
二十六追認又ハ承認ニ關スル證書
二十七物品切手
二十八賣買仕切書
二十九物品又ハ有價證劵ノ只買ニ
關スル證書
三十送狀
三十一受取書
三十二金高記載ナキ證書
三十三擔保品差入證書及擔保品
預證書
三十四通帳
-錢
錢
三錢
三十五判取帳二十五錢
第五條左ニ揭クル證書、帳簿ニ關シテハ印紙稅ヲ納ム
ルコトヲ要セス
-官廳又ハ公署ヨリ發スル證書、帳簿
二官廳又ハ公署ニ職ヲ奉スル者ノ職務上發スル證
書、帳簿
三國庫金ノ取扱ニ關シ發スル證書
四慈善又ハ公共事業ノ爲ニスル寄附ニ關シ官廳又
ハ公署ニ提出スル證書
五小切手
六產業組合、產業組合聯合會又ハ住宅組合ノ發ス
ル出資證劵ニシテ其ノ記載金高十圓未滿ノモノ
又ハ金高記載ナキモノ
七記載金高十圓未滿ノ約束手形又ハ爲替手形
八記載金高十圓未滿ノ積金證書及銀行預金證
書
九產業組合又ハ產業組合聯合會ノ發スル貯金證
書ニシテ其ノ記載金高十圓未滿ノモノ
十記載金高一圓未滿ノ物品切手
十一記載金高十圓未滿若ハ金高記載ナキ又ハ非
營業者ニ發スル賣買仕切書
十二物品又ハ有價證劵ノ賣買ニ關スル證書ニシテ
其ノ記載金高十圓未滿ノモノ又ハ金高記載
ナキモノ
十三記載金高十圓未滿若ハ金高記載ナキ又ハ運
送契約ニ依ラサル送狀
十四記載金高十圓未滿若ハ金高記載ナキ又ハ營
業ニ關セサル受取書
十五主タル債務ノ證書ニ併記シタル擔保契約書
十六手形及證劵ノ裏書又ハ之ニ併記シタル受取
書
十七株劵又ハ債劵ニ記載シタル讓渡ノ證明書
十八手形ノ引受及保證
十九手形又ハ證劵ノ拒絕證書
二十手形又ハ證劵ノ複本及謄本
第十一條中「脫稅高二十倍ノ科料又ハ罰金ニ處ス」ヲ
「證書、帳簿一箇每ニ脫稅高二十倍ノ罰金又ハ科料ニ
處ス但シ脫稅高二十倍ノ金額三圓ニ達セサルトキハ三
圓ノ科料ニ處ス」ニ改ム
第十三條中「一圓九十五錢以下」ヲ「證書、帳簿一箇每
ニ二圓」ニ改ム
第十四條本法ヲ犯シタル者ニハ刑法中犯罪ノ不成立、
刑ノ減免、併合罪及酌量、減輕ノ例ヲ用ヰス但シ第
十二條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十四條ノ二證書、帳簿ノ作成名義人ノ代理人、戶
主、家族、同居者、雇人等ガ名義人ノ爲ニ作成スル證
書、帳簿ニ關シ本法ニ違反シ之ヲ處罰スヘキ場合ニ於
テハ其ノ名義人ヲ處罰ス
附則
本法ハ大正十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行前作成シタル證書又ハ帳簿ノ印紙稅ニ關シテ
ハ仍從前ノ例ニ依ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=9
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010・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 市來大藏大臣
〔國務大臣市來乙彦君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=10
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011・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彦君) 只今日程ニ上リマシタ、稅法
ノ改廢ニ關スル法律案ニ付キマシテ說明ヲ致シマス、一般ノ
租稅制度ニ改善ヲ加へマシテ、之ヲ整備スルト云フ事ハ、從
來ノ懸案デアリマス、然ルニ此懸案ヲ解決致シマシテ、一般
ノ稅制ノ整理案ヲ作リマスルコトハ、決シテ一朝一タニ能
クスル所デハアリマセヌ、政府ト致シマシテハ銳意是ガ〓究
ヲ致シテ居リマスルケレドモ、此議會ニ一般ノ稅制ノ整理案
ヲ提出スルノ運ビニ至リマセヌコトヲ遺憾ト致シマス、併ナ
ガラ二、三ノ稅法ノ中デ、稅法自體ニ付キマシテ課稅ノ標
準ニ關シ、徵稅ノ方法ニ關シ、論議ノアルモノガアルノデゴザ
イマス、是等ノ二、三ノ稅法ニ付キマシテハ、今日ニ於テ是ガ
修正ヲ致シマスルト云フコトガ最モ急務デアルト考ヘマシテ、
是等ノ稅法ニ適當ナル改善ヲ加ヘマシテ、本案ヲ提出致シ
マシタ次第デアリマス、其一ツハ所得稅法中ノ改正案デアリ
マス、現行ノ所得稅法ニ依リマスレバ、個人ニ對スル課稅ト、
會社ニ對スル課稅トハ自ラ相異ッテ居リマス、隨テ近時所
調保善會社ナル組織ノモノヲ設ケマシテ、配當スベキ利益
ヲ留保致シマスルト云フ遣方ガ多ク起ッテ參リマスル傾向ガ
アリマス、此方法ニ依リマスレバ、自ラ配當ニ對スル課稅ヲ
免レルト云フコトニ相成リマスルノデアリマス、是ハ課稅ノ
公正ヲ期シマスル上カラ、相當ニ課稅ヲ致シマスル方法ヲ
執ルベキノガ當リ前デアルト考ヘマシテ、斯ノ如キ所謂保善
會社ニ對シマスル課稅ノ方法ヲ定メマシテ、修正ヲ致シマシ
タシデアリマス、又現行法ニ於キマシテハ、銀行預金ノ中、定
期預金デアリマスルモノハ、第二種ノ所得ト致シマシテ其利
子ニ課稅ヲ致シテ居リマス、然ルニ定期預金以外ノ銀行預
金ノ利子ニ付キマシテハ、貯蓄預金ノ利子ヲ除キマスル
外ハ、第三種ノ所得トシテ綜合的ニ課稅ヲサレルコトニ相
成シテ居リマス、然ルニ第三種ニ屬シマスル銀行預金ノ利子
ハ、多クノ納稅者ノ申告ニ漏レマスル傾ガアリマシテ、今日
ニ於テハ其大體ニ對シテ課稅ヲ致シテ居ラナイト云フ現況
ニ在ルノデアリマス、卽チ課稅ノ權衡ヲ失ッテ居ルト云フノデ
アリマシテ、之ヲ改メマスルコトガ必要デアルト考ヘマシテ、ソ
レ等ノ預金モ定期預金ノ利子ト同ク第二種ノ所得トシテ
課稅ヲスルコトニ改メテアリマス、以上ガ所得稅法ニ付キマ
シテ修正ヲ加ヘマシタ要點デアリマス、次ニ營業稅ノ修正
ニ付テ申述ベマスレバ營業稅ハ各稅法ノ中、課稅ノ標準ニ
付キマシテモ、徵收ノ手段ニ付キマシテモ、最モ多クノ論議
ガアリマスル稅目デアリマス、之ヲ適當ニ改正ヲ致シマセウ
ナラバ、根本的ノ改正ヲ加ヘナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、併ナガラ營業稅法ヲ根本的ニ改正致シマスルト云フコ
トハ、一般ノ稅制ヲ根本的ニ改正スルニアラザレバ、到底出
來難イコトデアルト考へマス、此際ハ營業稅法ニ對シマシテ、
應急的ニ改正ヲ加ヘルコトニ止ムルノ外ナイト云フコトヲ
認メマシテ、其意味ニ依リマシテ修正案ヲ拵ヘマシタノデア
リマス、卽チ建物賃貸價格ニ付テ申シマスレバ、二三ノ營業
ヲ除キマスル外ハ、建物賃貸價格ナル課稅標準ガ必シモ
負擔ノ力ニ比例ヲシテ居ラヌト云フコトヲ認メマシテ、是等
ノ營業ニ在リマシテハ賃貸價格ヲ課稅標準中ヨリ除クニト
ニ致シタノデアリマス、是ガ結果ト致シマシテ、各種ノ營業ニ
亙リマシテ其稅率ヲ各、低ク改メマシテゴザイマス、又現行
法ノ規定ニ依リマスレバ、課稅標準額ガ減損更訂ノ處分ヲ
受ケマシテ、其結果ト致シマシテ、法律ニ定メテアリマスル所
ノ最低限度ヨリモ課稅標準額ガ低クナリマシテモ、尙ホ之ニ
ハ課稅ヲスルト云フコトニ相成ッテ居リマス、併ナガラ減損
更訂ノ結果デアルト致シマシテモ、旣ニ課稅サルベキ標準額
ガ法律ニ定メラレタ所ノ最低限度ヨリ下ルモノデアリマスレ
バ、課稅ヲシナイト云フコトガ相當デアルト考へマスノデアリ
マシテ、此場合ニハ課稅ヲ免ズルト云フコトニ規定ヲ改メマ
シテゴザイマス、又一度課稅標準ニ依リマシテ納稅ノ決定
ヲ致シマスレバ、假令營業者ノ所得ノ全然無イ場合デアリ
マシテモ、課稅ヲ致シマスルノガ現行法ノ規定デアリマス、是
ハ穏當デナイト考ヘマシテ、營業者ノ所得ガ全然無イ場合ニ
ハ課稅ヲ免ズルト云フコトニ改正ヲ致シマシテゴザイマス、尙
ホ營業稅ノ調査ニ關シマシテ公平確實ヲ期シマスル爲ニ、營
業者ノ團體ニ對シマシテ、課稅ニ關スル事項ノ諮問ヲ致シ
マスル機關ヲ設ケルヤウナ規定ヲ設ケマシテゴザイマス、尙ホ
調査委員、審査委員等ニ付キマシテモ、大體ニ所得稅法ノ
規定ニ準ジマスルコトガ、最モ適當デアルト云フコトヲ今回
迄ノ經驗ニ依テ考ヘテ居リマスルノデ、是モ左様ノ立方ニ
修正ヲ加ヘルコトニ致シタノデアリマス、以上ガ營業稅法ノ
改正ノ要點デアリマス、次ニ賣藥稅法ノ修正ニ付キマシテ
申述ベマスレバ、御承知ノ如ク現行法ノ賣藥稅法ナルモノ
ハ一方劑每ニ製造ノ定價ヲ總計致シマシタ價格ニ對シテ課
稅ヲスルコトニ相成ッテ居リマス、随テ製造ノ總計ノ價裕ハ
同一デアルト致シマシテモ、其包數ノ多少ニ依リマシテ、自
然課稅ノ金額ニ多少ヲ生ズル次第デアリマシテ、是ハ公平
ヲ缺キマスルト云フコトガ言ヘマスルノデアリマス、又製造定
價ノ總高ガ十万圓ヲ超過致シマシテモ、ソレハ稅額ヲ增加
シナイト云フコトニナッテ居リマスルノデ、是亦公平ヲ缺クト
云フ嫌ガアリマスルノデアリマス、デ此際賣藥營業稅ヲ廢止
致シマシテ、賣藥營業者ニ對シテハ、一般ノ營業稅ヲ課稅
致シマスルコトガ、寧ロ穏當デアルト考ヘマスルノデアリマス、
何トナレバ賣藥ノ製造販賣デアリマシテモ、又他ノ物品ノ製
造販賣デアリマシテモ、殊更ニ之ヲ區別スルコトガ必要デナ
イト考ヘルノデアリマス、是等ノ意味ニ依リマシテ、之ヲ廢止
スルコトニ致シマシテゴザイマス、次ニ印紙稅法ノ修正ニ付
テ申述ベマスレバ、御承知ノ如ク印紙稅法ハ明治三十二年
ノ創定ニ係ルモノデアリマシテ、經濟關係ノ進步致シマシタ
ル今日ノ情勢ニ照シテ、兄テ適合セズト認メマスル規程ガ
多イノデアリマス、是等ノ關係ニ依リマシテ、或ハ課稅標準
ヲ引上ゲマスルトカ、或ハ各種ノ證書ニ對スル稅率ヲ引下
ゲマスルトカ云フヤウナコトニ付テ、適當ト考へマスル修正ヲ
加ヘタノデアリマス、尙ホ最後ニ石油消費稅ノ修正ニ付テ申
上ゲマスレバ、御永知ノ如ク今日ノ石油消費稅ナルモノハ、
石油ノ消費ニ對スル課稅デアリマシテ、石油ノ消費者ト申
シマスルモノハ普通ニ下層階級ノ人々デアリマス、又山間僻
地ニ住シテ居ル人々ノ負擔スル所デアリマス、殊ニ又電氣
瓦斯ノ發達ニ伴ヒマシテ、石油ノ消費ト云フモノハ自然ニ
減少スル傾向ヲ持ッテ居リマスルノデアリマス、是等ノ關係
カラ考ヘマスレバ、石油消費稅ナル少額ノ稅ヲ維持スル必
要ガナイノミナラズ、寧ロ之ヲ廢止スルコトガ今日ノ經濟情
勢ニ適スルモノト考ヘマシテ、石油消費稅ハ之ヲ全ク廢
止スルコトニ致シマシタノデアリマス、稅法ノ改廢ニ關シマス
ル大體ノ理由ハ、右ニ申上ゲマシタ通リデアリマス、尙ホ其
詳細ノ點ハ委員會ニ於テ說明ヲ致シマスル考デゴザイマス、
御審議ノ上ニ御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ希望致シマス(拍
き)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=11
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012・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 川崎克君
〔川崎克君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=12
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013・川崎克
○川崎克君 此度御提出ニナリマシタ此稅制整理ニ關ス
ル案件ハ頗ル重大ナル問題デアリマシテ、此問題ニ付テハ只
今大藏大臣ヨリ御說明ニナリマシタル要點ダケデハ、甚ダ
了解ニ苦シム點ガ多々アリマスノデ、此點ニ付テ二三簡單
ニ質疑ヲ致シタイト存ジマス、此度ノ稅制整理ノ理由トセ
ラレテ、否、今御述ニナッタ中デ、稅制整理ヲ一般的ニ之ヲ行
フコトハ他日ニ讓ルト云フ御話デアリマシタガ、此稅制整理
ノ中デモ、此度行ハレマスル稅目ノ中デ、營業稅ノ課稅標準
ノ改正ニ伴フ所ノ負擔ノ減額千九百八十万圓ト云フガ如
キ大キイ高ニ上リマシテ、此稅額ガ他ノ諸稅トノ釣合ノ關
係ノ上ニ於テ、負擔ノ均衡ノ上ニ於テ此稅制整理案ガ重
大ナル關係ヲ持ッテ居リマスル爲ニ、租稅體系ノ上カラ見マ
シテ、營業稅、地租ノ兩稅ノ關係ヲ見テ、此大キナル所ノ改
正ヲ企テラレタト云フコトノ御趣意ヲ更ニ承リタイノデアリ
マス、此營業稅ノ一部改正ニ伴ウテ減額セラルヽ金額千九
百八十万圓ノ全ノ出途ハ、何處カラ出テ來ルカト云ヘバ、
申ス迄モナク陸海軍ノ整理ノ爲ニ出テ來タ所ノ金額差引
イテ約七千万圓、行政整理ノ爲ニ出テ來夕金額三千九百
万圓、繰延ヲ除イテ大體ニ於テ一億一千万圓ト云フ此金
額ヲ向フニ見テ、茲ニ營業稅ノ一部、所謂稅制整理ガ行ハ
レテ居ルト云フコトハ、見遁スベカラザル事實デアルノデアリ
マス、此處ニ論據ヲ置イテ考ヘテ見マスルナラバ、海陸軍ノ
軍備整理ニ伴フ所ノ租稅ノ改廢、負擔ノ輕減斯ウ云フコ
トニ取得ルト私ハ思フノデアル、左樣ニ考ヘレバ租稅ノ體系
ノ上カラ申シマシテ、地租ト營業稅トハ離ルベカラザル關係
ノ上ニ打立テラレテアル以上ハ、單リ營業稅ノミヲ改正ヲ行
ハレテ地租ヲ御除キニナルト云フ理由ハ、私共了解ニ苦ム所
デアル、最モ此地租、營業稅ノ今日ニ至リマシタ原因ニ遡シテ
考ヘテ見マスレバ、地和ニ於テハ明治三十二年、山縣內閣
ノ當時ニ於テ陸軍ノ軍備擴張ニ件ッテ地租ノ增稅ヲ行ッタ
ノデアル、續イテ日露戰爭ノ時ト二十七八年ノ兩度ニ增稅
ガ行ハレテ、非常特別稅トナッテ行ハレタル所ノ增稅ガ、此
非常ノ事變ノ終局ト共ニ、此租稅ノ改廢ヲ行ハナケレバナ
ラヌ時機ニ迫ックトキニ、國費多端ノ折柄デアル、公債元利
支辨資金ノ必要ニ迫ラレテ、此非常特別稅ヲ存置シテ今
日ニ至ックコトハ、大藏大臣モ御承知ノ次第デアル、然ルニ
今日此增稅ノ原因デアル所ノ所謂軍國主義的色彩ノ下ニ
彩ラレタル所ノ此稅ガ、今度初メテ平和的色彩ニ彩ラレタル
軍備縮小ノ原因ニ依シテ、此地和及營業稅ノ還元ガ行ハレ
ナケレバナラヌコトハ當然ノ歸結デアルトハ私ハ思フノデア
ル(拍手)私ハ地租ニ對シテ四分五厘ヲ二分五厘ニ輕減ス
ルト云フコトニ對シマシテハ、世間唱フルガ知キ減稅論ヲ
唱ヘル者デハナイノデアリマス、是ハ當然還元スベキ性質ノ
モノデアル、卽チ現内閣ガ提出セラレタル稅制整理ノ意味ニ
於テ、還元セラルベキモノデアルト斯樣ニ存ズルノデアル、
度斯樣ニ餘裕ノ生シタル場合ニ於テ、地租、營業稅ハ共ニ
負擔ノ均衡ヲ得ル意味ニ於テ還元セラレルコトハ當然デ
アッテ、營業稅ノ一部輕減ヲ行ハレルコトガ、是レ卽チ附帶
特別稅ノ還元ヲ意味スルモノト私ハ斯樣ニ解釋ヲシタイノ
デアリマス、此意味ニ於テ地租、營業稅負擔ノ關係ノ上ニ
於テ、租稅體系ノ上カラ見テ、非常特別稅ノ還元ヲ行フコ
トニ付テ、大藏大臣ハ如何ナル御考ヲ御持ニナッテ居ルノデ
アルカ、此點ヲ第一ニ御伺シタイノデアル、第二ニ先日早速
君ノ質問ノ中ニ、國民負擔ノ均衡ヲ正ス意味ニ於テ、矢張
地租ト營業稅トノ關係ニ付テ論及セラレタルコトニ對シテ、
大藏大臣ノ御答辯ハ根本的整理ヲ行ハナケレバナラヌト云
フコトガ一ツ、ソレカラ負擔ノ輕減ヲ圏ルト云フコトハ、必シ
モ滅稅ダケデハナイノデアル、減稅以外ノ事モ國民ノ經濟
力ヲ增進スル意味ニ於テ幾多ノ方法ガアルノデアッテ、〓育
費國庫支辨額ノ增額ノ如キモ、其一手段デアルト云フトコ
ヲ御述ニナッテ居リマス、併シ〓育費國庫支辨額ノ增額ト
云フモノガ、地租ト營業稅トノ均衡ヲ破ッテ居ルト云フコト
ニ對スル御說明ノ材料ニハ當ラナイノデアル、私ハ何故ニ此
大正十二年度ノ稅制ヲ整理セラレルニ當リマシテ、營業稅
ノミヲ本年度オヤリニナッテ、地和ノミヲ本年之ヲ行ハズ、來
年若ハ其翌年之ヲ行ハントスル御考ノ何レニ在リヤヲ承リ
タイノデアリマス、而シテ私共ノ見ル所ニ依レバ、農民ト商工
業者トノ負擔ノ均衡ヲ得ルト云フコトニ付テハ、大藏大臣
モ固ヨリ御考ニナッテ居ルコトデアラウト思ヒマスガ、政府ガ
現ニ一定ノ補助ヲ與へテ居ル帝國農會ノ發表シタル、大正
十年度ノ商工業者ト農民トノ負擔表ヲ見マスト、今日營
業稅ノ一部輕減ヲ行ハレタル所ノ御趣旨ト、全ク反對ノ統
計ヲ示シテ居ルノデアリマス、此統計ハ「大藏大臣ノ御手許
ニモ參ッテ居ルデアラウト思ヒマスカラ、御承知デゴザイマセ
ウガ、念ノ爲ニ其統計ノ一端ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス、
北陸三縣ニ於ケル新潟、富山、福井、此三縣ニ於ケル商工
業者ト農民トノ負擔ノ割合ヲ現シテ居リマスル所ヲ見マス
ルニ、地主ノ百分ノ百ニ對シマシテ自作農ノ四十九、營業
稅販賣業者ノ四十二、製造業者ノ三十、石川縣ハ地主ノ
百分ノ百ニ對シマスル自作農ノ五十、商工業者ノ四十
五-商業家ノ四十五、工業家ノ二十五、斯ウ云フ例ニ
ナッテ居リマシテ、三重、愛知、福島、福岡、岐阜、島根ノ各縣
ニ亙ッテノ調査ヲ見マスルト、〓ネ此統計ト殆ド變リナイ所
ノ數字ヲ現シテ居ルノデアリマス、此統計ガ果シテ信賴スベ
キモノトスルナラバ、負擔ノ輕減ヲ圖ルト云フコトハ、寧口商
工業者ヨリモ農業者ニ對シテ與ヘナケレバナラヌ結論ガ生
レテ出ルノデアリマス、併シ此統計ガ信賴スベカラズト云フ
ナラバ免モ角モ、帝國農會ノ統計ナルモノハ、農商務省アタ
リデハ常ニ統計ノ材料ニ用井テ居ルノデアリマスカラ、是ハ
全部信賴出來ナイマデモ、多少據ル所アル統計デアルト私
ハ思フノデアリマス、之ニ依シテ見マスルト、商工業者ト農民
トノ負擔ノ均衡ガ、現在ニ於テスラモ釣合ガ取レテ居ラヌモ
ノヲ、更ニ々々商工業者ノ負擔ヲ輕クシテ、農業者ノ負擔ヲ
反對ニ重カラシムル結果ヲ生ズル所ノ稅制整理ヲ、大正十
二年度ノ豫算ノ上ニ於テ御實施ニナルト云フ所ノ統計上
ノ根據ハ、何レニ在ルカト云フコトヲ御尋ヲ致シタイノデア
リマス、第三ニ御伺ヲ致シタイノハ、此營業稅ノ本質的改
善、卽チ課稅標準ノ變更、是ガ卽チ稅制整理ノ意味デアル
ト云フヤウニ取リマスルナラバ、單リ營業稅ガ本質的改善ヲ
要スルダケデハアリマセヌ、之ヲ農民ノ側カラ見マシテモ、地租
ニ對シテ本質的改善ヲ要スルモノハ多々アルト思フノデア
リマス、大臣モ御承知ノ通リ、紛糾シテ參ッテ居リマスル小
作爭議ノ問題ノ如キモ、之ヲ如何ニシテ根絕スルカト云フコ
トヲ御考ニナリマスレバ、自作農ヲ多クシテ、又自作農及小
作農ヲ多クシテ、サウシテ此紛糾ノ原因ヲ少ナカラシムルト
云フノ外ハナカラウト思フノデアリマス、然ルニ農商務省ノ
統計ニ依リマシテモ、大正元年カラ九年迄ノ間ニ於テ、農民
ノ戶數ガ增減殆ド無イ、僅ニ五千ノ增加ヲ見タヾケデアル、
卽チ五百五十七万三千、其戶數ガ殆ド增減ガ無イニモ拘
ラズ、自作農ノミガ單リ此九箇年間ノ間ニ年々減少致シテ
自作農ガ此間ニ八万ノ減少ヲ見テ居ルト云フ、而シテ此自
作農ノ減少致シタメケ、小作農及自作農兼小作農ノ殖エ
テ居ルト云フ狀況ハ、中產農民ノ減少ヲ語ルモノデアッテ、此
中產農民ノ減少ハ軈テハ小作爭議ヲ助成スベキ原因ヲ此
中ニ蒔カレテ居ルト思ハナケレバナラヌ、此問題ヲ根本的ニ
改善ヲスルコトニ進ンデ行カウトスルナラバ、租稅ノ上ニ御
注意ニナッテ、租稅ノ按排ヲ宜シクシテ、サウシテ自作農及中
產農民ノ保護政策ヲ確立セラルヽコトガ最モ必要ナ事デハ
アルマイカト思フノデアリマス、租稅ノ本質的改善ト云フコ
トニ意ヲ染メラレテ、稅制ノ整理ヲオヤリニナルト云フ御趣
意デアルナラバ、此ニ心ヲ致サナケレバナラヌト私ハ思フノ
デアリマスガ、大藏大臣ハ如何ニ御考ニナリマスカ、最後ニ
御伺ヲ致シタイノハ、此根本的整理ト云フコトヲ御話ニ
ナリマスルガ、此根本的整理ト云フコトハ、軈テ地租ヲ移
讓スルト云フコトヲ意味スルコトデアルカノヤウニ聞
エルノデアリマス、果シテ左樣ナ御考ガ御有リニナルナラバ、
何時ノ時期カラ之ヲ御實施ニナルノデアリマスルカ、卽チ此
地方移譲ヲ行ハレルト云フコトニナリマシタル時ノ、此稅制
ノ體系ハドウ云フ風ニナルノデアリマスカ、所得稅ノ如キ彈
力稅ノミニ依ッテ、租稅ノ中心トシテ此稅ノミニ依ッテ他ニ補助
ノ體系ヲ作ラヌト云フコトハ、租稅系統ノ上ニ於テ危險デアリ
マスカラ、或ハ財產稅ヲ起ストカ、收入稅ヲ起ストカ何等カ
外ニ所得稅以外ノ稅ヲ以テ之ヲ補助シナケレバナラヌト思
ヒマスガ、地方ニ營業稅及地租ヲ移譲セラルヽト云フコトニ
ナリマスルト、租稅ノ體系ハドウ云フ風ニナリマスカ、ソレモ
伺ヒタイノデアル、唯〓一ツノ疑問ヲ感ジマスノハ、營業稅ハ
斯ノ如ク一部改正ガ行ハレタノデアッテ、地租ニ手ヲ著ケラ
レナイト云フコトハ、地租ノミヲ移譲スルガ如ク見エルノデア
リマス、併ナガラ或ハ地租モ營業稅モ共ニ移譲ナサルト云フ
御趣意デアルナラバ、今日營業稅ノ一部改廢ヲ行フニ當ッテヽ
當分地租モ地方ニ移讓スルマデハ地租ノ還元ヲ行ハナケ
レバナラヌ論理ニナルノデアリマスガ、此點ハドウ爲サル御考
デアリマスカ、營業稅ダケハ當分殘シテ置イテ、地租ノミヲ移
讓ナサルト云フ御趣意デアリマスカ、第二ノ根本的整理ト云
フコトニ付テ、具體的ノ御說明ヲ願フナラバ、ドウ云フコトニ
ナルノデアリマスルカ、ソレヲハッキリ御伺ヲ致シタイノデア
ル、卽チ一部稅制ノ整理ヲ行ハレルガ爲ニ、各種ノ粗稅ノ
權衡ヲ破ルト云フガ如キ現在ノ狀況ニ於テハ、吾々ハ此稅
制ニ對シテ甚ダ不滿ナ感ジヲ持ッテ居ルノデアリマスカラ、此
點ニ付テ詳細ノ御答辯アランコトヲ希望致シマス(拍手)
〔國務大臣市來乙彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=13
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014・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彥君) 川崎君ノ御質問ニ對シテ御
各致シマス、營業稅ニ對シテ修正ヲ加ヘテ減稅ノ結果ヲ見
ル一方ニ於テ、何故ニ地租ニ修正ヲ加ヘテ減稅ヲ試ミナイ
カ、非常特別稅ノ還元的整理ヲ如何ニスルカ、又統計ニ照
セバ、營業稅ノ負擔ヨリモ地租ノ負擔ノ方ガ寧ロ重キニ過ギ
テ居ル、其不權衡ヲ如何ニスルカ、政府ガ此度二三ノ稅法
ニ付テ修正案ヲ提出致シマシタ理由ハ屢〓申述ベマシテゴ
ザイマス、卽チ稅制ノ全體ニ亙リマシテ、整理ヲ加フベキ懸
案ガアル、併シ之ヲ直ニ解決スルコトハ困難デアル、御承知
ノ如ク從來政府ガ財政經濟調査會ヲ組織致シマシテ、之ニ對
シテ稅制ノ一般整理ノコトニ付キマシテ諮問ヲ致シマシタ、
二箇年ヲ經マシテ調査會ニ於テ一ツノ案ガ出來夕、併シ此
案ナルモノハ、調査會ノ成規ノ決議ヲ經ルマデニハ至ラナ
カッタ一部委員會ノ決議ニ出來夕成案デアル、左樣ニ一般
ノ稅制整理ト云フコトハ頗ル愼重ナル攻究ヲ要スベキモノ
デアリマシテ、又幾多ノ議論ガ其間ニ介在シテ起ルモノデア
リマス、隨テ財政經濟調査會ニ於テモ成規ノ手續ニ依リマ
シテ、成案ヲ作ルマデニハ運ンデ居ラナカッタ、併ナガラ一般
ノ稅制整理ヲスベシト申ス〓トハ、是ハ多年ノ懸案デアリマ
シテ、必ズ是ハ實行シナケレバナラヌコトデアルト考ヘマス、非
常特別稅遠元的整理ト云フコトモ、是一、一般ノ稅制整理
ノ範圍ニ含マルベキモノデアリマシテ、一般ノ稅制整理ガ、卽チ
非常特別稅トノ還元整理ヲ含ンデ實行サルベキモノト思フ
ノデアリマス、政府ガ一般稅制ノ整理ヲ調査致シマシテ、未ダ
其成案ヲ得ザルト云フコトハ、前ニ申上ゲマシタルヤウナ單ニ
一朝一夕ノ力ニ依ッテ出來ベキモノデハナク、尙ホ愼重ノ攻
究ヲ要スルガ爲デアリマス、併ナガラ玆ニ問題ガアリマスルノ
ハ、主トシテ營業稅ニ於テ種々ノ論議ガアリマスルノデアリ
マス、ソレハ營業稅ノ制定ノ當時ヨリ致シマシテ、實行上ニ
非常ニ困難ナ事デアッタノデアリマス、今日マデ幸ニシテ根
本的ノ修正モ加ヘルコトナク、又稅法ノ大部分ノ精神ヲ改
メルコトナクシテ參リマシタモノヽ、今日ノ經濟界ノ情勢其
他ニ照シマシテ、如何ニシテモ應急的ノ整理ヲ加ヘネバナラ
ヌト云フ必要ニ迫ラレマシタノデアリマス、是等ノ關係ヨリ
致シマシテ、一部的ノ改善ヲ加ヘルコトノ修正案ヲ作リマシ
タ、併ナガラ營業稅法ノ缺點ト認ムベキモノハ、尙ホ他ニモ
アリマスノデ、今日ノ修正ヲ以テ根本的ニ營業稅其モノヽ
整理ガ出來タトハ中シマセヌ、營業稅ノ根本的ノ整理ヲ致
シマスニハ、矢張一般ノ稅制整理ノ根本的ノ整理ト伴フ必
要ガアルト考ヘマス、今回ハ已ムヲ得ズ一部ノ應急的ノ修
正ニ止ムル外ナカッタノデアリマス、卽テ一般ノ稅制整理ニ
涉ラズニ、一部稅法ニ付テ應急的ノ修正ヲ加へルコトニ致
シマシタ爲ニ、其他ノ消費稅ニ修正ガ及バナカッタト云フ次
第デアルノデアリマス、卽チ營業稅ノ一部ノ修正ニ依リマシ
テ稅額ノ上ニ或ル程度ノ輕減ヲ見ルニハ至リマシタケレド
モ、是ハ全體ノ租稅ヲ輕減スル立方ニ依シテ得タ所ノ結果デ
ナイノデアリマス、是等ノ理由ニ依リマシテ、地租或ハ他ノ消
費稅法ニ對シテ、一般的ノ整理ヲ見ルニ至ラナカッタ次第デ
アリマス、併ナガラ、營業稅ト地租トノ間ニ不權衡ヲ來スコ
ト無キヤ、川崎君ノ御說ニ依レバ、統計ニ依シテ却テ反對ノ
場合ヲ見ルト云フコトデアリマスガ、其統計ガ正確ナモノデ
アルナラバ或ハサウデモアリマセウ、營業稅ト地租トハ共ニ
大正四年ニ於テ修正ガアリマシテ、爾今並行シテ來テ居リ
マス、併ナガラ大體ニ於デ考ヘマスレバ、地租ハ課稅標準夕
ル地價ニ異動ヲ生ズルコトナク、又稅率ニ於テ無論異動ヲ
生ズルコトハアリマセヌ、一方營業稅ニ於キマシテハ、一般ノ
經濟界ノ進運ニ伴フ〓テデモアリマセウガ、課稅標準ニハ年々
少カラザル增加ヲ致シテ來テ居リマシテ、大正四年ノ當時
ニ比較致シマスレバ、三割ノ增牧ヲ見ルヤウナ次第ニモ相
成シテ居リマス、是等ノ點カラ大體ヲ觀察致シマシテモ、今玆
ニ千九百万圓ノ輕減ノ結果ヲ整理ニ依ツテ見ルト致シマス
シテモ、地租トノ間ニ甚シキ不權衡ヲ來スモノトモ思ハレマ
セヌ、又川崎君ノ御質問ニ依リマスレバ、農村ニ於ケル中產
農民ノ保護ヲ如何ニスルカト云フコトデアリマスガ、勿論是
ハ相當ノ保護ヲ致サナケレバナリマセヌ、併ナガラ、中產農民
ノ保護ヲ致シ、農村ノ振興ヲ圖リマス爲ニハ、單ニ獨リ地租
ノ輕減ノミニ依ル譯デモゴザイマセヌ、是ハ農村ノ振興ニ付
テ、相當ノ攻究ヲ致シマシテ、所謂農村ノ振興策ナルモノヲ
實行スルコトガ必要デアルト考ヘマス、ソレ等ノ點ニ依リマ
スレバ、地租ノ少シ許リヲ輕減致シマスト云フコトモ、是ハ勿
論其結果ハ宜シイデアリマセウガ、併ナガラ進ンデ農村ノ振
興ノ方策ヲ執リマシテ、之ヲ實行スルコトガ中產農民ノ保
護ノ上ニ、又農村振興ノ上ニ最モ必要デアルト考ヘルノデ
ゴザイマス、尙ホ一般稅制ノ整理ヲ致シマスレバ、其體系ハ
ドウナルノデアルカ、其立方ハドウナルノデアルカト云フ點デ
アリマスガ、是ハ目下〓究中ニ在リマスルノデ、一般ノ稅制
整理ノ結果ハ如何ニナルベキヤト云フコトニ付キマシテハ、之
ヲ申上ゲルマデニ進行ヲ致シテ居リマセヌ、隨テ地租ト營業
稅ノ移讓ノ關係ニ於キマシテモ、地租ノミヲ移讓スベキデア
ルカ、地租營業稅ヲ併セテ移讓スベキデアルカ、又如何ナル
程度ノ移譲ヲ爲スベキデアルカ、是等モ今日ニ於テ尙ホ調
査ニ屬スル關係デアリマシテ、玆ニソレ等ノ關係ヲ申上ゲル
デマニ調査ガ進行致シテ居リマセヌト云フコトヲ申上ゲテ
置キマス···
〔「ソレマデニハ政權ガ移讓スル」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=14
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015・奧繁三郎
○議長(與繁三郞君) 中野君、靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=15
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016・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彥君)(續) 要スルニ今囘ノ稅制ノ整
理ハ、先程申上ゲマシタヤウニ、一般ノ整理ニ渉ッタ譯デハア
リマセヌ、一般ノ租稅ノ輕減ヲ試ミタ譯デモアリマセヌ、此
際改正ノ最モ急ナルモノニ付キマシテ、二三ノ稅法ニ付テ
改廢ヲ加ヘタト云フ程度ニ止ッテ居ルノデアリマシテ、隨テ
地租ナリ、他ノ消費稅ナリニ、改廢ノ及バナカッタト云フ理由
ガ玆ニ在ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=16
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017・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 太田信治郞君
〔太田信治郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=17
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018・太田信治郎
○太田信治郞君 私ハ只今議題ニナッテ居リマス所ノ、政
府提出ノ法律案中ノ營業稅法案ニ付テ其大要ヲ簡單ニ
質問ヲ致シタイト思フノデアル、只今大藏大臣ノ御答辯ニ
依リマシテモ、尙又此政府提出ノ法律案ノ理由書ニ依リマ
シテモ、營業稅ノ負擔ノ均衡ヲ失シテ居ルコトハ、政府モ御
認ニナッテ居ル次第デアリマス、又本稅ノ不公平、不均一ナ
ル惡稅ナルコトハ、朝野齊シク之ヲ認メテ、數十年來之ガ全
廢ヲ與論トシテ唱ヘラレテ居ル次第デアリマス、併ナガラ私
共ハ單リ此營業稅ノミニ限ラズ、地租ニ於キマシテモ、又所
得稅ニ於キマシテモ、現行ノ稅制ハ總テノ點ニ於テ不滿足
ヲ感ジ、總テノ點ニ於テ不公平ナモノデアルト云フコトヲ斷
定スルノデアリマス、此點ニ付テハ大藏大臣モ御同感ト見
エマシテ、一般ニ根本的整理改正ヲシナケレバ、到底其公平
ヲ期スルコトガ出來ナイト云フ御話デアリマス、御尤ナ事デア
ル、左樣致シマスルト、是ハ一般ノ稅制整理ニ俟タズシテ、
其一部ノ應急的改正ヲ加ヘラレマシタコトハ、洵ニ國民
ノ幸福ト云フ譯ニハ參ラナイノデアリマス、速ニ此稅制ノ根
本的整理ヲ致シテ、其稅制體系ノ基本ヲ確立シ、而シテ之
ニ依ッテ公平ナル課稅ヲスルコトヲ、一日モ早ク御實施ニナ
ラナケレバナラヌノデアリマス、然ルニ御調査ニ藉口セラレ、
之ヲ實行シナイト云フコトハ、國民ノ甚ダ遺憾トスル所デア
ルト私ハ信ズルノデアリマス、併ナガラ此地租、營業稅ノ移讓
問題其他ニ付テハ、只〓ノ大藏大臣ノ御答辯ハ洵ニ了解
ニ苦シム次第デアリマスルケレドモ、是ハ他日復タ議論ヲ致
スト致シマシテ、此場合ニ營業稅ノ事ニ付テ、其應急的手
段トシテ改正ヲセラレタル所ノ本案ニ致シマシテモ、此不權
衡、不公平ナル所ヲ除去セラレ、完全ナルモノデアルト云フコ
トヲ御認ニナリマシタノデアリマスルカ、吾々ノ見ル所ヲ以テ
シマスレバ、甚ダ不徹底ナル感ヲ致シテ居リマス、併ナガラ免
ニ角此改正案ガ實施セラレマスルモノト致シマシテ、其課稅
標準ノ立法ノ上ニ付テ甚ダ不審ナル點ガアリマス、此點ヲ
二三簡單ニ御質問シタイト思フノデアル、先ヅ第一ニ此課
稅標準ヲ〓計標準ニ御採リニナッテ居ルコトハ、依然トシ
テ今日改正ヲセラレテ居ラヌ、物品販賣業ニ致シマシテモ、
此賣上金額ニ基準ヲ置カレテ居ル、左樣致シマスルト此賣
上金ト云フモノハデス、必シモ利益ノ收入トハナッテ居ラヌノ
デアリマス、賣上金ノ中カラ仕込ノ原價ヲ控除致シマス、其
場合ニハ却テ損失トナル場合ガ決シテ少クナイノデアリマ
ス、要スルニ不景氣ノ時代デアルトカ、或ハ非常ナ災害ヲ
被ッタ場合デアルトカ、此場合ニ本法ノ二十九條ヲ如何ニ
御適用ナサルノデアリマスルカ、ソレヲ伺ヒタイ、賣上金ノ課稅
ノ缺點ハ、大體ニ於テ此薄利多賣ト云フ所謂商工發展ノ
眞義ニ違反スルモノデアルト私ハ信ジマス、殊ニ大貨物ヲ取
扱フ者ハ、其取扱數ノ多イニ從シテ、其牧益ハ反比例ヲ致シ
テ減少ヲスルモノデアリマス、然ルニ此〓計標準ノ課稅ハ其
事情ヲ參酌スルコトヲ許サナイ、又利益ノ皆無ナル場合ハ、
要スルニ損失ヲ爲シタル擔稅力ノ無イ納稅者デアル、此納
稅者ガデス、本稅ノ賦課ヲ受ケナケレバナラヌト一云フコトハ
最モ苦痛トスル所デ、此點ガ要スルニ此營業稅ノ惡稅タル
所以ノ一デアルト私ハ思フ、次ニ社會政策上ノ見地ヨリ致
シマシテ、此免稅點ヲ御改正ニナラナカッタ點ヲ伺ッテ見クイ
ト思フ、ソレハ所得稅ハ八百圓以下ヲ免稅トスル、是ハ社會
政策的見地ヨリ致シマシテ、大ニ從前ヨリハ免稅點ヲ引上
ゲラレタ次第デアリマス、而シテ營業稅ハ賣上金額二千圓
以下ノ金額ハ免稅デアリマスルガ、其以上ノ金額ハ免稅點
ニハナリマセヌ、左樣致シマスルト此所得稅ノ八百圓ノ年收
ヲ得マスル者ハ、二割ノ控除ヲ致シマスルカラ千圓ノ年收ガ
アル、千圓ノ年收ノアル者ハ先ヅ商高ニスルト一万二三千
圓以上ノ商ヲスル者デナケレバ所得稅ヲ納メル資格ガ無イ、
然ルニ營業稅ハ二千圓ニシテ其國稅ヲ負擔シ、又附加稅ヲ
負擔シ、洵ニ重稅ヲ負擔シナケレバナラヌ、更ニ此物品販賣
業者ノ賣上金額二千圓以上ト云フコトニシマスルト、二千
圓以上ハ今日一日當ニ致シマスルト五圓六十錢ト相成リ
マス、今日五圓六十錢ノ商ヲ致シテ居ル者ハ、其中カラ原
料ノ仕入代金ヲ引去リ、而シテ生活ヲ安定シテ行ケルト云
フコトハナイノデアリマス、是等ノ所謂小規模ノ商人ハ自己
ノ勞働、自己ノ勤務、自己ノ勤勞ヲ資本化シ、又商品化シ
テ、生活ノ資料ト致シテ居ルノデアリマス、二千圓ドコロデハ
アリマセヌ、五千圓六千圓乃至七千圓ト云フマデノ商ヲ一
年間ニシテ居ル、此小賣商若クハ製造業者ハ半勞働-半
分勞働ヲ致シテ居ル者デアリマス、資本ガ從デ勞働ガ主デ
アリマシテ、資本ヲ主トシ勞働ヲ從トシテ居ル者トハ、全然
其利益ノ差ト云フモノハ甚シク相違ヲ來シテ居ルノデアリマ
ス、然ラバ此小賣商人ノ半勞働者、所謂勤勞ヲ以テサウシ
テ所得ニ代ヘ其勤勞所得ニ依ッテ生活ヲ致シテ居ル者ガ、
若シ此賣上金額カラ原料ノ仕入代、自己ノ勤勞ニ對スル
報酬、所謂勞働賃銀ヲ除イタナラバ、營業ノ利益ト云フモノ
ハ甚ダ皆無ニナリマス、其皆無ニナルコトハ明カナル次第デ
アリマスルガ、此場合ニ本條ノ二十九條ノ、其利益ノ皆無ナ
ルモノト云フコトヲ御適用ニナルノデアリマスルカ、之ヲ如何
ニ御覽ニナルノデアリマスルカ、若シ此場合ニ之ヲ均シク資
本ヲ以テ營業ヲスル者ト同一ニ御覽ニナルト云フコトデ
アッタナラバ、私ハ社會政策上甚ダ面白カラザル結果ヲ生ジ
ハセヌカト思フノデアリマス、全ク半勞働者、所謂半勞働ノ
營業者ハ實際其勤務勞働ノ人ヨリハ、寧ロ恩給其他ノ保
護ガアリマセヌカラ、一層悲慘ナ狀態ニ在ル者デアリマス、此
悲慘ナ狀態ニ在リマスル者ニハ寧ロ重稅ヲ課スル而シテ却
テ大規模ノ營業者ニハ脫稅者ガ多クアルト云フ有樣デアリ
マス、ソレハ小規模ノ營業者ハ嚴重ニ監察スルコトガ出來
マス爲ニ、稅務官吏ガ無常ニモ知ラズ識ラズノ裡ニ苛斂誅
求ヲスルノデアリマス、大規模ノ營業者ハ業務ガ廣汎ナルガ
故ニ却テ脫稅ヲシ易イ、年々決算ニ依リマスルト隨分此脫
稅ノ痕跡ヲ認メル次第デアリマス、而シテ又此物價調節ノ
上カラ申シマシテモ、社會政策ノ上カラ申シマシテモ、社會
ノ恩惠ニ浴スベキ者ハ此半勞働者タル小賣商人、小製造業
者、斯ノ如キ者デアリマス、然ルニ是等ノ者ハ却テ重稅ヲ課
セラレテ、而モ暴利ヲ貪ルト申サレテ居リ、社會ノ有害不必
要ノ者ノヤウニ取扱ハレテ居ル、甚ダ同情ニ禁へナイ次第デア
リマス、是等ノ多數ノ小製造業者、小賣商人ハ寧口將來國家
ノ中樞ヲ成スベキ人々デアル、然ルニ自己ノ勞働ノ爲ニ、自己
ノ子弟ノ學校ノ通學サヘ十分ニスルコトガ出來ナイ、是等
ノ者モ皆勞働ニ從事サシテ、其勞働ノ勤務ニ依ッテ營業ヲ
續ケテ居ル者ヲ免稅點ノ內ニ入レナイノハ、社會政策上甚
ダ面白カラザル事デアル、要スルニ應急手段トシテ御改正ニ
ナッタモノトシマシテモ、此現時ノ社會ノ思想問題ノ上カラ
申シマシテモ、負擔ノ衡平ヲ期スル上カラ云ッテモ、此免稅
點ヲ依然存シテ置カレタルコトハ、如何ナル御考アッテノ事デ
アルカ、其邊ノ所ヲ御尋シタイト思ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=18
-
019・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 市來大藏大臣
〔國務大臣市來乙彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=19
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020・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彥君) 太田君ノ御質問ニ御答致シ
マス、營業稅ノ中ニ付テ最モ缺點アリト認メマス點ガ二ツ
ゴザイマス、賣上金ニ對スル課稅ト、建物賃貸價格ヲ課稅
標準ニスルト云フ點デアリマシテ、之ヲ根本的ニ改良致シマ
スナラバ、必ズ此二點ニ修正ヲ加ヘルノガ相當ト考ヘマス、
併ナガラ賣上金ヲ課稅標準ヨリ除キマスコトハ、今日ノ場
合ニ於テハ到底適當ナル修正案ヲ得マセヌ、已ムヲ得マセヌ
關係カラ致シマシテ、之ヲ出來得ルダケ緩和スルコトヲ努メタ
ノデアリマス、其一ノ方法ト致シマシテハ、利益以上ノ課稅ヲ
シナイト云フ主義デアリマス、而シテ其規定ヲ第二十九條ニ
現シタノデアリマシテ、稅額ニ對シテ利益ガ少ナイナラバ利
益ヲ超過スル程度ノ稅額ハ免ズルト云フ規定ヲ立テタノデ
アリマス、卽チ二十九條ノ規定ニ依リマシテ、利益皆無ノ場
合、又利益ヲ超過スル稅額ノ超過額ノアル場合、是ハ或ル
程度ニ於テ免稅スル、尙ホ第二ノ點ニ付テ免稅點ヲ何故引
上ゲナカッタカ、是ガ卽チ曩ニ申上ゲマシタ特ニ營業稅ヲ輕
減スル意味ヲ以テ修正ヲ加ヘナカッタ點デアリマス、出來得
ルダケ應急的ノ修正ヲ加ヘルコトニ致シマシタ、其結果幾
分ノ減收ヲ見ルコトニナリマシタガ、進シデ輕減ヲ圖ルト云
フ意味ヲ以テシマセナカッタ爲ニ、免稅點ヲ引上ゲル程度ニ
及バナカッタノデアリマス、尙ホ免稅點ナルモノハ、地租ニ關
係モアリ、其他所得稅ノ關係ト云ヒ、他ノ稅法トノ權衡ヲ得
テ聯絡ヲ保ッテ居リマス關係ガアリマスノデ、營業稅ノミニ付
テ改善ヲ致スト云フコトハ、他ノ諸稅トノ聯絡ヲ失フト云フ
虞ガアリマス爲ニ、矢張是モ一般稅制整理ヲ致ス場合デナ
ケレバ實行ノ出來ナイコトデアリマス爲ニ、此點ニハ修正ガ
及バナカッタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=20
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021・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 田川大吉郞君
〔田川大吉郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=21
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022・田川大吉郎
○田川大吉郞君 諸君、政府ノ提案ノ中、營業稅ニ關
スル三四ノ點ノ疑ヲ質シ、政府ノ所見ヲ確ムルト同時ニ、諸
君ノ御考慮ヲ冀ヒ置キタイト思ヒマス、其前ニ私共同志ハ
昨年十二月二十七日ヲ以テ、營業稅廢止ニ關スル法律案
ヲ提出致シテアルノデアリマス、爾來既ニ一箇月ニ垂ントシ
テ居リマス、今日ニ至ルマデ、其議案ガ上程セラレルニ至ラ
ナイコトヲ遺憾ニ存ジマス、議案ノ按排ハ議長ノ全權ニ屬
スル事デアリマスケレドモ、私共モ亦政府ニ劣ラザルノ熱情
ヲ以テ、國家生民ノ利害ヲ考ヘテ居ル者デアリマス、今日政
府ノ提案ガ、此議場ニ上程セラレル機會ニ、何ガ故ニ一箇
月以前ニ提案サレテ居ル私共ノ營業稅廢止法律案ガ、上
程セラレル運ビニ至ラナカッタカト云フコトハ如何ニモ殘念
ニ堪ヘマセヌ、將來斯ノ如キコト無キヤウニ議場ノ御諒解
ヲ願フト同時ニ、議長ニ於テモ一層深切ニ御取扱下サラン
コトヲ希望致シテ置キマス、此營業稅ニ關シマシテ、第一ニ
御尋ま致シタイノハ、此所ニ揭ゲテアル第十二條第一項ヲ
改正セラレタル課稅標準ノ實際ニ於ケル適用ハ、稅務監督
局若クハ其吏員ノ手心ニ依シテ、如何樣ニモ增減伸縮セラ
ルベキ實際ノ取扱振ニナリ來ッテ居リマスガ、政府ハソレ等
ノ出張吏員ノ手心ヲ一切用井シメザル監督ノ手段、其計
畫ヲ確實ニ準備シテオヰデニナリマスカ、私ハ空ナ事ヲ申ス
ノデハナイ、大正九年三月ハ我ガ經濟界ガ非常ナ不景氣
風ニ襲ハレタル時デアリマス、其年度ノ營業狀態ガ、前年度
若ハ前々年度ノ營業狀態ニ對シテ、著シイ悲慘ノ狀態ニ
陷リマシタコトハ、天下萬衆ノ誰ノ眼ニモ鮮カデアッテ光景
デアル、然ルニ當時ノ營業稅ヲ審査査定サレルニ當リマシテ
ハ、處ニ依ッテハ違ヒマスケレドモ、我ガ東京市ニ於テ、前年
度ノ營業振ニ對シテ五割增ヲ審査ノ標準トシテ立テヽ居
ラレマシタ、此査定振ニ對シ、審査振ニ對シ、東京市ノ營業
者トシテ苦情ヲ訴ヘラレタ人ガ少クナイ、現ニ私ニ向ッテマデ
斯ノ如キ苛酷ナル徴稅ノ方法ニ對シテハ不納租同盟ヲ造
リタイト思フガ、ソレハ間違ッテ居リマスカト相談セラレタ人
ガアリマス、一人デハアリマセヌ、又實際ノ狀況カラ顧ミテ、
大正九年ニ於ケル營業振大正八年ノ營業上ノ全盛期ニ
較ペテ、ヨリ以上ノ課稅ノ標準ヲ以テ査定セラレントスルコ
トニ對シテ、營業者ノ間ニ不滿ノアッタト云フコトハ當然デ
アリマス(「ヒヤ〓〓」)斯ノ如キ事ガ實際ニ屢、行ハレル、ンコ
デ政府ハ左樣ナ事ヲ-徵稅監督ノ當局者ヲシテ左樣ナ
亂暴不正ナル事ヲ行ハザラシムベク、政府ニ於テ此標準ヲ
一定ノ標準トシテ、確實ニ實行致シ得ラレル見込ガアリヤ、
其準備アリヤ、之ヲ御尋スルノデアリマス、是ガ第一ノ點デア
リマス、第二ニハ此改正ニ依シテ政府ハ幾許ノ營業稅ヲ徵
收セントシテ居ラレルカ、只今大藏大臣ハ此處デ千九百万
圓ノ減ニナルト仰セニナッタ、豫算ノ大綱ニ於テハ私モソレヲ
千九百万圓ト認メマシタ、現在受取ッテ居ル豫算ニ於テハ、
私ハソレハ千七百万圓ノ減デアルト思フ、大藏大臣ノ言ハ
關係スル所ガ重大デアリマス、二百万圓ノ差ト雖モ重大デ
アリマス、其用井ラレル言葉ニ付テノ御注意ヲ願ヒタイガ、私
ノ言フ所ガ間違デアリマスカ、大藏大臣ノ申サレタル千九
百万圓ガ正確デアリマスカ、ソレハ僅カノ數字ノコトデアリマ
スガ更ニ御尋シタイ、此減稅ノ後ニ四千九百万圓ヲ收入セ
ントセラレル歲計ノ計畫ニナッテ居ル、其四千九百万圓ガ目
的デアリマスカ、四千九百万圓ノ名ニ於テ、ヨリ以上ノ收入
ヲ期セントシテ居ラレルノデハアリマセヌカ、是ガ第二ノ問デ
アリマス、何故ナラバ昨年ノ營業稅ノ徴稅額ニ依リマスレバ
其調定總額ハ七千九百二十九万圓ニナッテ居リマス、大正
十一年度--若シ是カラ千七百万圓ヲ減ジマスナラバ、當
然ニ六千二百万圓ノ收入アル筈デアリマス、昨年ノ豫算ニ
較ベテ千七百万圓ヲ減ズレバ、其結果ハ今日ノ豫算ノ如ク
ニ、四千九百万圓ノ收入トナッテ現レマス、ケレドモ昨年ノ
豫算ト昨年ノ調定額トノ間ニハ大ナル差ガアル、其調定額
ハ七千九百万圓ニナッテ居ル、ソレガ基準デアリマセウカ、豫
算ガ基準デハナイ筈デアリマス、其基準ニ基イテ千七百万
圓ヲ減ズルナラバ、其收入ハ當然ニ六千二百万圓トナッテ
現レナケレバナラナイ、政府ハ四千九百万圓ノ收入ト豫算
ニハ揭ゲテオ井デニナリマスケレドモ、實際ニハ六千二百万
圓以上ノ收入ヲ期シテ居ラレルノデハアリマセヌカ、御尋ヲ
シマス點ハ、此計畫ニ依ッテ收入セントセラレル營業稅ノ總
額ハ四千九百万圓デアルカ、將タ六千二百万圓以上ノ計
算デアルカ、此點デアリマス、私ハ序ニ一ノ事例ヲ茲ニ供ヘ
テ置キマス、大正十年度ノ營業稅ノ收入ノ豫算ハ、大正十
年度ノソレハ四千八百万圓トナッテ居リマシタ、今年ノ豫算
ヨリハ正ニ百万圓ダケ少ナカッタ、ケレドモ大正十年度ノ營
業稅ノ收入ノ結果ハ、六千八百万圓トナッテ現レテ居リマ
ス、四千八百万圓ノ豫算ガ六千八百万圓ノ收入トナッタ、
サウスレバ今年ノ豫算ニ於テ四千九百万圓ナル收入ノ豫
算ハ、結果ニ於テハ又六千八百万圓ノ收入トナッテ八ルデ
アラウト豫想セラレル、デスカラ政府ハサウ云フ工合ニ名ハ
四千九百万圓デアルガ、實ハ六千二百万圓以上或ハ六千
八百万圓ニモ近キ收入ヲ期シテ居ラレルノデハナイカト云
フ問ヲ起サヾルヲ得ナイノデアリマス、眞ニ四千九百万圓ノ
收入ヲ期セラレマスナラバ茲ニ揭ゲテアリマス課稅ノ標準
ノ標準率ハ更ニ切下ゲテモ宜イ筈デアリマス、私共ガ若シ其
修正ヲ試ミルナラバ、政府ハ當然其修正ニ御同意ナサル
ベキ筈デアル、又私共カラ其修正ヲ試ミマセヌマデモ、政府
ガ眞實ニ四千九百万圓ノ歲入ヲ以テ甘ンゼラレル方針デ
アルナラバ、政府自ラ進ンデ此標準ノ步合ヲ切上ゲラルベキ
筈デアリマス、是ハ如何デアリマセウカト云フ事ガ第二ノ問
デアリマス、第三ニ第三十三條ノ改正トシテ、營業者ノ團
體ニ向ッテ諮問セラレル場合ノアルコトヲ規定セラレマシタノ
ハ、政府ガ其方針ヲ此程度ニマデ進メラレタ精神ニ對シテ
同意ヲ表シマス、併ナガラ更ニ一步ヲ進メラルベキデアッタラ
ウ、此進メラレ方ノ足ラナイ點ニ對シテ遺憾ニ思フノデアリ
マス、今日ノ海外ノ事ヲ申ストシテハ生意氣デアリマセウガ、
今日ノ斯ノ如キ課稅ノ調定ニ當リマシテ、調査委員ノ外ニ
審査委員ヲ設ケ、調査委員、審査委員ノ以外ニ市民ノ批
評ヲ求メルト云フコトハ、其直接關係者ノ批評ヲ求メルト
云フコトハ、其直接關係者ヲ相會セシメテ、互ニ批評シ〓
究セシメルト云フコトハ、殆ド世界ノ文明各國ノ間ニ行ハレ
テ居ル一般ノ慣例デハアリマセヌカ、又左樣ニシテ市民ト政
府トノ間ニ十分ノ諒解ヲ得テ相協力シテ、此間ニ於ケル
關係ヲ爲シ得ル限リ圓滿ニ保タウト云フコトガ、今日ノ立
憲政治ノ精神デハアリマセヌカ、私ハ今日マデ此機關ノ設
ケラレテ居ナカッタコトヲ殘念ニ感ジテ居リマシタ、此改正ニ
當ッテ、團體ニ諮問ヲセラルルマデ政府ガ注意ヲ拂ハレルニ
至ッタコトヲ滿足ニ存ジマスガ、是デハ未グ足リマセヌ、諮問
ヲ發セラレル位デハ足リマセヌ、市民自身ハ-關係者自
身ハ權利トシテ、之ヲ要求シ之ヲ批判スルコトガ出來得ナ
ケレバナラヌ筈ダト思ヒマス、然ルニ政府ハ其通リノ計畫ヲ
爲スニ至ラナカッタト云フコトノ理由ハ何デアリマスカ、是ガ
第三ノ間デアリマス、第四ニ、第二十九條ノ本文ノ意味ガ
私ニ分リマセヌ、-第一一十九條ノ本文ノ意味、此意味ガ
私ニハ分リマセヌ、念ノ爲ニ讀上ゲマスナラバ、「其ノ年ニ於
ケル營業ノ利益カ其ノ年分營業稅額ニ達セサルトキハ營
業者ノ請求ニ因リ其ノ不足額ニ相當スル營業稅ヲ免除ス」
此文字ヲ此通リニ、私ハ素人デアリマスガ、素人ナリニ讀下
シマスレバ、營業ノ利益ガ營業稅額ニ達シナイ場合ガアル營
業ノ稅額ガ營業者ノ利益ヨリモ高イ場合ガアル、此場合ニ
於テハ、營業者ノ請求ニ依ッテ其高イ部分ダケヲ切下ゲル、
斯ウ云フ御趣意ノヤウニ伺ハレマス、果シテサウトスレバ-
私ニ誤解ガアルカモ知レマセヌ、御〓ヲ願ヒマス、果シテサウト
スレバ、營業者ニハ何等ノ利益ガ殘ラナイト云フコトニナル、
營業ノ利益ガ其營業稅額ニ達セザル場合ニ於テハ、其達セ
ザル部分ダケヲ營業者ノ請求ニ依シテ減免スルコトガ出來
ルトナッテ居ルノデアリマス、營業稅額ト營業者ノ利益トハ
同等ノモノニナル、同ジ數字割合ノモノニナル、サウ致シマス
レバ、營業者ハ何ヲ以テ其事業ヲ擴張シテ、其利益ヲ增進
スルコトガ出來ルカ、何ヲ以テ安ジテ其營業ニ從事スルコト
ガ出來ル、營業者ヲ其營業ニ依ッテ一年ノ間、其方ノ利益
スル所ノ無イト云フ結果ニナルト、此文字通リニ讀ミマスレ
バ考ヘラレルノデアリマス、是ハ果シテサウ云フ趣意デアリマ
セウカ、若シサウ云フ趣意デアルトスレバ、餘リニ殘忍酷薄ノ
事デアル、驚クベキ殘忍酷薄ノ事デアル、實際ノ運用上已ム
ヲ得ズシテ此ニ至ル場合ガアルト致シマシテモ、法文ノ上ニ
露骨ニ斯ノ如キ事ヲ規定シテ居ルト云フコトハ、餘リニ殘
忍ノ至リデアルト思ヒマスガ、是ハ私ノ讀ミ損ヒデアリマセ
ウカ、念ノ爲ニ詳シイ御〓ヲ伺ヒタイ、之ヲ以テ此法案自
體ニ對スル、此改正案ノ內容ニ對スル私ノ質問ハ略〓終ッタ
ノデアリマス、初メニ申シマシタ通リ、私共ハ營業稅全廢ヲ
提案ヲ致シテ居リマス、是ガ私共ノ精神デアル、是デナクン
バ到底イケナイト思ッテ居ルノデアリマス、勿論私ハ其說明
ヲ此所ニシヤウト致シテ居ルノデナイケレド、私共ガ斯ノ如
キ意見ヲ持ッテ居ル、斯ノ如キ意見ヲ持ッテ居ル者ガ、少數ナ
ガラモ此議場ノ一隅ニ居ルト云フ事實ヲ政府ノ當局者モ
念頭ニ存セラレテ、私共トシテ、此希望ヲ玆ニ訴ヘナケレバナ
ラヌ痛苦ノ境遇ニ陷ッテ居ル多數ノ營業者ノアルト云フ事
實ヲ念頭ニ置カレテ、以上ノ四點ニ對スル詳細ナル明確ナ
ル御囘答ヲ承リタイト田心フノデアリマス、且ツ此場合ニ地租
ノ移譲ト云フコトガ先程アリマシタケレドモ、其事ハ分リマ
セヌガ、實ハ私共ハ政友會ノ諸君ガ地租移譲ノ御考案ヲ
持っテ居ラツシヤルモノダト思ッテ居ルノデアリマス、今年ノ議
會ニ於テドウナリマセウトモ、サウ云フ御考デアルト思シテ居
リマス、其地租移讓ヲ決行シタル日ニハ、ドウシテモ營業稅
移譲モ決行セラルベキデアル、私共ノ今日ノ聲ハ極メテ少
數者ノ聲デアリマスケレドモ、遠カラズシテ此議場ヲ壓スル
多數黨ノ力ニ依ッテ、地租ノ移譲モ又營業稅ノ移讓モ、決
行セラルヽノ日ガ來ルベシト信ジテ期待シテ居ルノデアリマ
ス、ンコニ憲政會ノ方ハ營業稅ヲ廢セラレマスケレドモ、特
別所得ト云フヤウナコトニ依ッテ所得稅ノ修正ヲ試ミラレ
マスカ、或ハ特別法ノ設定ヲ試ミラレマスカ、別段ノ意見ヲ
御立テニナッテ居ルヤウデアリマスガ、私共ハ今日ノ所得稅
ノ超過ノ現狀ニ鑑ミテ、營業稅ヲ全廢致シマシタ後ニ、特別
所得ヲ今日ノ營業者ニ課スルト云フ餘裕ハ到底ナイモノダト
思うテ居ル、サウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマス(拍子)斯ウ
云フ事情ヲモ能クアナタ方ハ斟酌シテ下サルコトヲ望ミ、私
共ノ此切ナル思想ト、觀察トヲ考慮ノ中ニ置イテ御答下サ
ランコトヲ希望スルノデアリマス、(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=22
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023・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 市來大藏大臣
〔國務大臣市來乙彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=23
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024・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彥君) 田川君ノ御質問ニ對シテ御
答ヲ致シマス、營業稅法ノ修正ノ第十二條第一項ヲ確實
ニ實行スル準備アリヤ否ヤ、私ガ申スマデモナク稅法ヲ執行
スルニ當リマシテ、一ツノ目的デナケレバナラヌコトハ、圓滿
ナル進行ヲ見ルト云フ點デアリマス、然ルニ今日ノ現狀ニ於
キマシテハ、殊ニ營業稅ニ付テ圓滿ナル遂行ヲ見ルノ點ガ缺
ケテ居リマスルノデアリマス、納稅道德モ今日ニ於テハマダ
十分ニ發達ヲ致シテ居リマセヌ、隨テ稅務官吏ノ納稅者ニ
臨ミマスル關係モ、亦圓滿ヲ缺キマスル場合ガ無イデモアリ
マセヌ、其兩者ヲ調和致シマシテ、圓滿ニ稅務行政ヲ擧ゲテ
行クト云フコトガ、稅務執行ノ一ツノ目的デアリマスルノデ
アリマス、收稅官吏ガ營業者ニ就テ帳簿等ノ檢査ヲ致シマ
スルコトモ、或ル場合ニハ必要デアリマスルケレドモ、是ハ吾
吾ノ望ム所デハアリマセヌ、成ベキ納稅道德ヲ高メマシテ、正
確ナル確實ナル申告ヲスルコトヲ希望シテ居リマス、然ルニ今
日マデ總テノ場合ニ於キマシテ、斯ノ如キ十分ナル成績ヲ得マ
スルコトハ期シ得ラレナイノガ今日ノ狀況デアルノデアリマス、
局ニ當リマスル者ハ常ニ此點ニ付キマシテ、憂慮致シマシテ、
如何ニカシテ圓滿ナル成績ヲ擧ゲンコトヲ考ヘシマテ徵稅ノ關
係ニ於キマシテモ、出來得ベキダケ手心ヲ致スコトモアリマスル
シ、出來ルダケノ圓滿ナル方法ヲ攻究シテ居ルノガ實情デア
リマス、是等ノ關係カラ考ヘマスレバ、必ズ確實ニ、必ズ嚴正
ニ稅法ガ實行サレルト云フコトハ洵ニ至難ノ事デゴザイマシ
テ、出來得ルダケ納稅者ノ事情ヲモ察シマシテ、假令現實ナ
ル牧入ハ得ラレヌト致シマシテモ、圓滿ニ執行シ得ルコトヲ
希望シテ居リマス、是等ノ理由ニ依リマシテ、先刻田川君モ
御同意デゴザイマシタガ、營業者ノ團體ニ對シマシテ、課稅
標準ニ關シテ諮問モヤリマシテ、相互ノ諒解ヲ得ルニ努メル
ト云フコトヲ修正案ニ加ヘマシタノデゴザイマス、尙ホ調査
委員審査委員ノ制度ニ付キマシテモ、相當ニ修正ヲスルコ
トニ致シマシタ、是等ノ方法ニ依リマシテ、出來得マスルダ
ケ圓滿ナル成績ヲ擧ゲマスルコトヲ希望致シテ居リマスル次
第デゴザイマス、尙ホ收稅ノ金額ニ付キマシテ、豫算面ニ計
上シアリマス所ノ四千九百万圓ニ對シマシテハ、是レ以上ニ
テ收入ノ無ケレバナラヌト云フコトハ、豫期致シテ居リマセヌ、
唯〓附加ヘテ申上ゲナケレバナラヌコトハ、豫算ノ金額ナルモ
ノハ、卽チ見込ヲ以テ拵ヘマシタ計數デアリマス、必ズ之ガ
正確ニ其通リニ上ガルモノデアルト云フコトハ、多クノ場合
ニ於テハ困難ナ事デアリマス、豫算以上ニ收入ノアルコトモア
リ、又豫算ニ收入ガ達シナイ場合ノアルコトモ已ムヲ得マセ
ヌ、サウ云フ意味ヲ以チマシテ、政府ト致シマシテハ四千九
百万圓、卽チ豫算ニ計上シマシタ金額以上ニ必ズ收入ガナラ
ネバナラヌト云フコトハ、豫期シヲ居ラヌト云フコトヲ申上ゲ
マス、四千九百万圓ノ收入ヲ得ベキデアルナラバ、稅率ハ今
少シク繰下ゲテモ宜シイデハナイカト云フ御意見デアリマシ
タガ、是ハ政府ト致シマシテハ御同意ハ出來ヌノデアリマス、
今日ノ經濟社會ノ狀態カラ推測致シマシテ、修正案ニ計上致
シマシタ稅率ニ依リマシテ計算ヲ取リマシタ結果豫算ニ計
上シテアル全額ヲ收人シ得ベシト推測スルノデアリマス、是ハ
雨々相離ルベカラザル關係ガアリマスノデ、稅率ヲ繰下ゲ
ルコトハ無論出來ヌコトヽ考ヘマス、尙ホ諮問機關ヨリハ一
步進ンダ制度ヲ採ッテ市民ガ-人民ガ權利トシテ-納稅
者ガ權利トシテ課稅ノ關係ニ參與シ得ルヤウナ制度ヲ立テ
ルガ、宜シイト云フ御意見デアリマスガ、左樣ノ方法ハ今日
ノ納稅關係ニ付キマシテハ、稍、進ミ過ギテ居ルト考ヘマス、
納稅者デアル團體ニ對シマシテ諮問ヲ致シマスト云フコト
ガ、旣ニ進步シタル方法デアリマシテ、今日ノ場合此程度ニ
於テ滿足スベキデアルト考ヘマス、尙ホ地租營業稅等ノ移
譲ノコトニ付キマシテ一言申述ベテ置キマス、財政經濟調
査會ニ於テ出來マシタ一ツノ案ハ、財產稅ヲ新ニ起シテ地
租竝ニ營業稅ヲ地方ニ移讓スベシト云フ意味デゴザイマス、
政府ニ於キマシテハ一般ノ稅制整理ヲ致シマスル爲ニ、免
ニ角其案ヲ一ツノ參考ノ材料ト致シテ調査ヲ致シテ居リマ
ス、併ナガラ何時財產稅ヲ起スベキデアルカ、如何ナル形ニ
於テ財產稅ハ起スベキデアルカ、又地租營業稅ヲ移譲スベ
キデアルカ、地租ノミヲ移讓ガ出來ルノデアルカ、是等ハ總テ
今後ノ調査〓究ニ俟チマセヌケレバ決定シナイ問題デアリ
マス
〔田川大吉郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=24
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025・田川大吉郎
○田川大吉郞君 大藏大臣ノ御答辯ニ對シテ、更ニ繰返
シテ御尋シテ置キタイ點ガアリマス、他ノ多クノ事ハ一切省
キマシテ、歳人ノ計算ニ關シテダケ御尋シテ置キマス、大正
十年度ニ四千八百万圓ノ豫算ニ於テ、六千八百万圓ノ
歳入ノアッタコトハ明確ナル事實デアル、是ハチットモ御爭ニ
ナラヌコトデアリマセウ、二千万圓以上ノ豫算以上ノ歲入
ガアッタ、百万圓ヤ、二百万圓ヤ三百万圓ノコトデアルナラバ
申シマセヌ、多年財務ノ局ニ當ッテ練達セラレテ居ル所ノ方
々ガ、四千八百万圓ノ歲入豫算ヲ立テ、六千八百万圓、殆
ド三分ノ一、左樣ナ多大ノ見積リ相違ガアルト云フコトヲ
爲サレテ、ソレヲ改メズニ尋常ノ事トシテ看過シテ居ラレルコ
トヲ怪シムノデアリマス、又昨年度ノ營業稅ニ關スル徴稅額
ハ、七千九百万圓デアッタト云フコトモ最早御爭ニナリマス
マイ、其七千九百万圓カラ一千七百万圓-減稅ガ目的
デナクトモ、整理ノ結果ハ一千七百万圓ヲ減ズルト仰セラル
ルナラバ、大正十一年度ノ實際ノ收入トシテハソレガ六千
二百万圓ニナル、昨年ト今年ト事情ニ相違ガ起リマセヌケ
レバ、ソレガ六千二百万圓ニナルト云フコトハ少シモ御疑ヒ
ナサイマスマイ(拍手)サウスルト其六千二百万圓ニナルベキ
數字ガ、此處ニハ四千九百万圓トナッテ現レテ居リマスカラ、
其數字ニ對シテ間違ハナイカト申スノデアリマス、ンコデ四
千九百万圓デ宜シイノナレバ、此課稅ノ標準率ヲモット御下
ゲニナッテ宜シイ御下ゲナサルノガ當然デアル、斯樣ニ申スノ
デアル、御下ゲニナリマセヌト云フコトナラバ、私共ハ六千二
百方圓以上ノ歲入ノアルモノトシテ、政府ノ今日ノ歲人豫
算ニハマダ一千万圓以上ノ-少ク見積リマシテ一千二三
百万圓以上ノ收入超過ガ、確實ニ得ラレルコトヲ論斷シテ
モ差支ナイ、私ガ空想ニ驅ラレテ想像ヲ申スノデハアリマセ
ヌ、政府ノ示シテ居ラレル此數字ガソレヲ明ニ證明シテ居
ル、之ヲドウ御考ニナルノデアリマスカ、此數字ニ對シテ確實
ナル御答辯ヲ煩シタイト申スノデアリマス(拍手)
〔國務大臣市來乙彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=25
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026・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彥君) 御答致シマス、旣往ノ年度ニ
於キマシテ、營業稅ノ豫算ニ對シテ收入ノ增加シタト云フコ
トハ事實デアリマス、經済界ノ好景氣ノ時代ニ於テ、左樣ナ
現象ヲ現シタコトハ無理ナラヌコトデアリマセウ、爾來經濟
界ノ不景氣ヲ見ルニ至リマシテ、政府ノ歲入豫算ヲ見積ル
ニモ、相當ノ滅收ヲ見ルノガ又當然ノコトデアリマス、今回
ノ十二年度ノ營業稅ノ收入ヲ計算スルニ當リマシテ、從來
ノ實狀ヲ本ト致シマシテ相當ノ斟酌ヲ加ヘマシテ、減收ヲ見
ルモノトシテ計算ヲ取リマシタノデアリマス、計算ノ立方ニ
ハ種々アリマセウ、又不景氣ノ程度ノ見方租稅ノ減收ノ考
方ニモ色〓アリマセウ、政府ハ今計算ヲ立テテ居リマス程度、
從來ノ實狀ニ對シテ加ヘマシタ斟酌ハ、ソレヲ以テ相當ナリ
ト見テ居ルノデアリマス、右樣ノ次第ニ依リマシテ豫算ニ計
上致シマシタ金額ノ收入ヲ豫期シテ居ルノデアリマシテ、其
以上ノ收入ノアルベキコトハ豫期ハ致シテ居リマセヌ、唯と
是ハ見込ニ依シテ立テタ計算デアリマスノデ、ソレガ如何ニカ
增減ヲ生ズルカト云フコトハ實際ニ至ッテ已ムヲ得ナイデア
リマセウ、ソレ等ノ見込計算ニ依リマシテ、今日稅率ヲ更ニ
減ラシテ宜イト云フコトハ私トシテハ考ヘラレマセヌ、ドウカ
此原案ノ通リノ計算デ原案ノ率ニ依ッテ通過ヲ希望シマス
ル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=26
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027・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 日程第八、右各案ノ審査ヲ付託ス
ベキ委員ノ選擧ヲ議題ニ致シマス
第八右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=27
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028・高見之通
○高見之通君 日程第三ヨリ第七ニ至ル五案ヲ一括シテ
委員ノ數ハ特ニ十八名トシ議長ニ於テ指名セラレンコトヲ
望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=28
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029・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 高見之通君ノ動議ニ御異議ハア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=29
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030・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ動議ノ
如ク決シマシタ、是ヨリ國務大臣ノ演說ニ對スル質疑ニ移
リマス、鈴木富士彌君
一國務大臣ノ演說ニ對スル質疑
(前會ノ續)
〔鈴木富士彌君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=30
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031・鈴木富士彌
○鈴木富士彌君 私ハ近頃世上ニ論議セラレテ居リマス
ル日支郵便約定ノ件ニ付キマシテ、【專ラ國法上ノ見地ヨ
リ數點、疑ヲ質スノ御許ヲ得タイト思ヒマス、此問題ハ俗ニ
樞密院上奏問題ト呼バレテ居リマスルガ、私ハ樞密院審議
ノ内容ニ付テ御尋ヲスル譯デハアリマセヌ、日支郵便約定ノ
締結公布ニ關シテ、國法上ノ見地カラ懷ク所ノ疑問ニ付、
諸公ノ〓ヲ受ケテ自ラ蒙ヲ啓キタイト思フ趣旨ニ外ナラヌ
ノデアリマス、此問題ニ付キマシテハ旣ニ貴族院ニ於キマシ
テモ、衆議院ニ於キマシテモ、一部分ノ答辯ガ政府カラアッタ
ヤウデゴザイマスガ、マダ全部徹底シタル回各ニハナッテ居ナ
イヤウニ承知ヲ致シテ居リマス、御答辯ハ相成ルベク內閣ノ
首班者タル國務大臣加藤總理ヨリ承リタイト思ヒマスケレ
ドモ、本日ハ特別御顏色モ御惡イヤウニ御見受ケ致シマス
カラ、主トシテ其責任論ニ關スル部分ニ付テノミ加藤總理
ヲ煩ハシタイト思ヒマス、其事實ニ關スル部分ハ內田外相、
而シテ其法理ニ亙ル部分ハ岡野法相、此兩國務大臣カラ
御答辯ガ願ヘレバ結構ダト思ヒマス、豫メ是レダケヲ申上ケ
テ置キマス、昨年十二月樞密院が。日支郵便約定ニ關シテ
政府ノ處置憂慮ニ堪ヘズト云フ」意味ノ上奏ヲ致シマシテ、
天下ノ耳目ヲ聳動致シマシタコトハ私ノ深ク遺憾トスル所
デアリマス、幸ニ其後政府及樞密院ニ對シテ優握ナル其筋
ノ御沙汰ガアリマシテ、所謂確執ナルモノハ稍、、緩和セラレタ
ルヤニ承ッテ居リマスガ、若シ事實デアリトスルナラバ是亦本
員ノ大イニ喜ブ所デゴザイマス、サリナガラ本件ハ元ト國法
上竝國策上ノ問題デアリマシテ、感情上ノ問題デアリマセヌ
カラ、假令感情ハ融和セラレタリトシテモ、責任問題ハ尙殘
ル譯デアリマス、其責任ハ全體何人ガ負擔スルカ、此疑問ハ
未ダ何等ノ解決ヲ與ヘラレテ居ナイノデアリマス、感情ハ時
トシテ無雜作ニ釋然氷解スルコトモゴザイマセウガ、國際上
竝政治上ノ責任ニ至ッテハ、唯〓、ハハナク之ヲ水ニ流スト
云フコトハ斷ジテ容スベカラザルコトデアルト私ハ確信ヲス
ルノデアリマス(拍手)元來今囘問題トナリマシタ日支郵便
約定ハ、御承知ノ如ク支那ニ於ケル日本郵便局ノ撤廢ニ
伴フ郵便物ノ取扱ニ關スル細則ノ取極デアリマシテ、內容
其モノハ餘リ重大ナモノトモ思ヘナイノデアリマス、見方ニ
依レバ比較的輕微ナ事案トモ觀測セラルヽノデアリマス、ケ
レドモ昨年八月本件ノ商議開始以來、政府ノ執リタル處
置ガ其當ヲ得ザルガ爲ニ、著シク周圍ノ空氣ヲ惡化致シマ
シテ、外交上由々シキ失態ヲ醞釀シ、又國法上ニモ閑却ス
ベカラザル過誤ヲ惹起致シマシテ、容易ナラザル重要問題ト
轉化致シタノデアリマス、之ヲ具體的ニ申シマスレバ、先ヅ
第一段ニ於キマシテ、政府ハ滿鐵附屬地ノ郵便局ニ關シ、
之ハ將來ノ商議ノ題目トナリ得ベキ主意ノ覺書ヲ提出致
シマシテ、是ガ爲ニ禍根ヲ貽シタト云フ點ニ於テ、此問題ガ
外交上ノ重要事案トナリマシタノデアリマス、更ニ第二段ニ
於キマシテ本件約定ハ是ガ締結ノ手續ニ於テ過誤アリ、是
ガ諮詢ノ順序ニ於テ手落アリ又是ガ交付ノ形式ニ於テ非
違アリ、或ハ大權干犯トナリ、[或ハ憲法蹂躪トナリ、或ハ公
式令違反トナリタル點ニ於テ、本件ガ又國法上重要ノ問題
トナッタノデアリマス、更ニ第三段ニ於テ、政府斯クノ如キ失
態ヲ爲シタルニ拘ラズ、其後處置ヲ誤フテ遂ニ樞密院ノ上
奏トナリ··
〔議長奧繁三郎君退席副議長粕谷義三君代リ著
廣
御叡慮ヲ煩シ奉リ且ツ御宸襟ヲ惱シ奉リタル點ニ於テ、本
件ガ憲法上默視スベカラザル由々敷キ重大問題トナッタノ
デアリマス、故ニ私ハ此問題ハ決シテ"〓日輕微ナル問題デ
ハ無イト思フノデアリマス、此點ニ付キマシテ質問ヲ致ス譯
デアリマスルケレドモ、其外交上ノ失態ニ關スル部分ハ、旣
ニ望月小太郞氏ヨリ詰問的質問ガアリマシタシ、又將來他
ノ御方ヨリ質問ノアルコトヽ存ジマス、私ハ專ラ國法上ノ問
題ニ限ッテ質問ヲ致シテ見タイト思フ次第デゴザイマス、先
ヅ第一ニ私ノ問ハント欲スル所ハ、政府ガ勅裁ヲ經ズシテ日
支郵便約定及附帶協定ニ調印シテ、國際義務ヲ負擔シタ
ノハ大權干犯テハナイカト云フ問題デアリマス、此約定ハ昨
年十二月八日附デ協定ガ成立致シマシテ、翌九日ニ調印
ヲ了シテ居リマス、調印ヲ了スルト同時ニ、約定ハ對外的ニ
ハ完全ニ其效力ヲ發生致シテ居ルノデアリマス、何時カラ之
ヲ實施スルカト云フコトニ付テハ約定ノ中ニ何等ノ規定ガ
ナイ、唯一末段ニ於テ「此約定ハ兩郵政廳ニ於テ取極ムへ
キ日ヨリ之ヲ實施ス」ト云フ文句ガ書イテアルノミデアリマ
ス、御承知ノ如ク實施期限ハ約定ヲ實際ニ施行スル所ノ期
限デゴザイマスカラ、效力發生ノ時期トハ全然其觀念ヲ別
ニスルモノデアリマス、是ハ單リ條約ニ限リマセヌ、國內ノ法
令ト雖モ皆同一ノ關係ニ立ツノモノデアリマス、慣例カラ申
シテモ、學說カラ申シテモ、效力ノ發生ト實施ノ時期トハ嚴
格ニ之ヲ區別致シテ居リマス、故ニ法令ハ假令實施ノ時期
ニ至ラズト雖モ、栽可又ハ公布ニ依ッテ其效力ヲ發生シ、漫
ニ之ヲ取消スコトハ出來マセヌ、之ヲ取消ス爲ニハ更ニ他ノ
法令ヲ必要トスルノデアリマス、私法上ノ契約ニ至リマシテ
ハ此特質ヲ最モ顯著ニ具備致シテ居ルノデアリマス、條約
ハ國ト國トノ合意デアリマスカラ、其性質ハ寧ロ契約ニ類似
スル所ガゴザイマス、特ニ批准ヲ要セサル條約ニ於テハ、調印
ト同時ニ效力ヲ發生スルノデアリマシテ、之ヲ何日カラ實施
スルカト云フコトハ自カラ別問題デナケレバナラヌノデアリマ
ス、本件約定ハ九日ニ調印ヲ了シタノデアリマスカラ、九日
カラ完全ニ效力ヲ發生シテ居ルノデアリマス、卽チ其日カラ
日本帝國モ、支那共和國モ、共ニ此約定ヲ實施スル義務ヲ
負擔シテ居ルノデアリマシテ、兩國ハ任意ニ之ヲ廢棄シタリ、
取消シタリスルコトハ出來マセヌ、是ハ明白ナ事デアリマス、
然ルニ昨日貴族院ニ於キマシテ江木氏ノ質問ニ對シ、加藤
總理ノ答ヘラレタ所ヲ聞キマスト云フト、條約ニハ調印後直
ニ效力ヲ發生スルモノアリ、御栽可ヲ經テ效力ヲ發生スル
モノガアル、本件約定ハ此後者ニ屬スルモノデアルト云フ御
言葉デアリマシタガ、是ハ明ニ條約ノ對外的效力ト對內的
效力トヲ混同セラレテ居ル所ノ御答辯デアル、面シテ更ニ
其效力發生期ト實施期トヲ混同セラレタ所ノ御答辯デア
リマス、斯樣ナ事ハ吾々ドウシテモ推服スルコトノ出來ナイ
法理デアルト思フノデアリマス、斯様ナ次第デゴザイマスルカ
ラ、本件ノ如キ調印後直ニ效力ヲ發生スル條約ハ、其效力
ヲ發生スル前ニ先ヅ勅裁ヲ經ルコトガ至當ノ順序デハナイ
カト斯樣ニ私ハ考ヘル次第デゴザイマス、此點ニ付キマシテ、
政府或ハ辯明シテ申スカモ知レマセヌ、其事ハ既ニ政府ノ
全權委任ノ範圍內ニアルカラ、別ニ勅栽ヲ經ズトモ差支無
イノデアルト、斯樣ナ御辯解アルカモ知レマセヌケレドモ、全
權委任狀ノ性質ガ左樣ナモノデナイコトハ、批准ヲ要スル條
約ニ於テモ同ジ意味ノ委任狀ガ交付セラレル事實ニ鑑ミテ
明白デアルト思フノミナラズ、其全權委任狀ハ華府會議ニ
於テ調印セラレタ所ノ協約及附屬決議ノ細目協定ノ全權
委任狀デアリマシテ、華盛頓會議ニ於テ除外セラレタ所ノ
滿鐵附屬地ノ郵便局ニ關スル件ニ付テ、帝國政府ヲ代表
シテ支那ト協約ヲ結ブト云フ權限ハ與ヘラレテ居ナイ筈デ
アル、此點ニ於テハ確ニ大權干犯ト云フ議論ハ起リ得ルト
私ハ思フノデアリマス、次ニ政府或ハ又辯解シテ、ソレハ先
例アルト申サレルカモ知レマセヌケレドモ、私ノ調査シタル範
圍ニ於テ、同ジ性質ノ先例ハ斷ジテアルコトナシ、特ニ郵便
ニ關シテハ類似シタル先例スラ無イノミナラズ、寧ロ反對ノ
先例ニ充チテ居ル、卽チ一タビ法規全書ヲ繙イテ見マシタ
ナラバ現レ來ルモノハ何デアルカ、英國トノ小包郵便物交換
ニ關スル約定、香港、海峽植民地、濠洲、英領加奈陀、是等
ノ諸國ト締結シタル所ノ小包郵便物ニ關スル約定ト云フ
モノハ、悉ク勅栽ヲ經テオヤリニナッテ居ルモノデアル、本件ニ
限ッテ其先例ヲ破ラレタノハ如何ナル理由デアリマセウカ、
又政府或ハ辯解シテ申サレルカモ知レマセヌ、此事ハ既ニ批
准ヲ經マシク華盛頓條約ノ範圍內ニ在ルカラ別段差支ナ
イコトデアルト斯樣ニ申サレルカモ知レマセヌケレドモ、併ナ
ガラ御承知ノ如ク華盛頓ニ於テ調印セラレタ九國協約ト
云フモノハ、未タ效力ヲ發生シテ居ナイ、是ハ確カナ事實デ
アリマス、附帶決議モ效力ヲ發生シテ居ナイ、效力ヲ發生シ
テ居マセヌカラ、ソレニ基イテ今囘ノ郵便約定ノ協定ヲシタ
ト致シマシテモ、此日支郵便約定ナルモノハ獨立ノモノデア
ル決シテ其範圍內ニ於テ包含セラレタリト見ルコトハ出來
ナイノミナラズ、其條約ノ實行約款デアルト云フ法理モ通ラ
ヌ譯デアリマス、卽チ獨立ノ國際約束ト見ルノ外ハ無イノデ
ゴザイマスルカラ、是ハ既定條約ノ許可ノ範圍內ニ在リトス
ル議論モ通ラヌト私ハ信ズルノデアリマス、免ニ角斯ノ如キ
次第デアッテ、何レノ點カラ見マシテモ勅栽ヲ經ズシテ本件
約定ニ調印シテ效力ヲ發生セシメタト云フコトハ、不都合
ノ所爲デアルト申サナケレバナラヌノデゴザイマス、特ニ私ガ
玆ニ中シテ置カナケレバナラヌコトハ、條約ハ元來國家永遠
ノ自由活動ヲ束縛スルモノデアリマスルカラ、極テ國家ニ
取ッテ重大ナルモノデアリマス、國內法ノ旦ニ發シテタニ改メ、
或ハ今日命ジテ翌日廢スルコトヲ得ルノ類ト、同日ニ談ズ
ルコトハ出來ヌノデアリマス、國家ノ運命ニ關スル所ノ重要
約束デゴザイマスルカラ、ソコデ帝國憲法ニ於キマシテハ、第
十三條ヲ以テ、條約締結ノ權ヲ「天皇御親栽ノ事項」ト致
シテ之ヲ議會ノ容喙ノ外ニ置イテ居ル、是ガ日本帝國憲法
ノ特色デアリマス、殊ニ條約ノ事ハ祕密ヲ要シ、統一ヲ尙ビ
又迅速ヲ要スルモノデアリマスルカラ、大權事項ニ專屬セシ
メタル趣意デアルト私共ハ解シテ居リマスルカラ、勅裁ヲ經
ルコトハドウシテモ執ラナケレバナラヌ手續デアリマス、國務
大臣ニ對シ之ヲ包括的ニ委任スルト云フ筋合ノモノデナク、
又委任シタル事例モ無イノデアル、各別ニ勅裁ヲ經ベキモノ
デアルト信ズルニモ拘ラズ、本件約定ニ限ッテ憲法十三條ノ
規定ヲ無視シタノハ是レ卽チ大權干犯デハナイカ、是レ私ノ
議論ノ根據デゴザイマス、(拍手)昨日加藤總理竝ニ內田外
相ノ答ヘラレタ所ハ、此點ガ甚ダ曖昧ヲ極メテ居リマシタノ
デ、之ヲ御聽ニナリマシタ岡野法相、定メテ冷汗背ヲ濡シタ
コトヽ思フノデアル、本日ハ極メテ明確ナル御答辯ヲ煩シタ
イノデアル、ソレカラ第二ニ問ハント欲スル所ハ、政府ハ何故
ニ調印前ニ日支郵便約定及附屬協定ノ成案ヲ樞密院ニ
諮詢シナカッタカト云フ問題デゴザイマス、本件約定ノ效力
發生前ニ政府ガ約定ノ成案ヲ樞密院ニ諮詢シナカッタト云
フ事ハ、隠レモナイ事實デゴザイマス、外務省ノ或ル當局者
ハ本件ノ如キ「アグリーメント」ハ別ニ樞密院ニ諮詢スル必
要ハナイ、事後ニ報告スレバ足ルモノヽ如キ言辭ヲ弄セラレ
テ、ンレガ或ル新聞ニ載ッテ居タノデゴザイマス、サリナガラ
憲法第五十六條ニハ御承知ノ如ク「樞密顯問ハ樞密院官
制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ應ヘ重要ノ國務ヲ審議
ス」ト規定シテゴザイマシテ、之ニ基イテ作ラレタ所ノ樞密院
官制第六條ニ何トアリマスカ「樞密院ハ左ノ事項ニ付キ諮
詢ヲ待テ會議ヲ開キ意見ヲ上奏ス」ト書イテアリマス、而シ
テ同條第四號ニハ「列國交涉ノ條約及約束」ト書イテアリ
マス、單ニ條約ト言ハズシテ條約及約束ト書イテアル所ニ重
要ノ意義ガ存在スルト私ハ思フノデアリマス、卽チ苟モ對外
ノ交涉案件デアル以上ハ、其批准ヲ要スルト要セザルトニ拘
ラズ、又一時性ナルト永久性ナルトニ拘ラズ、名稱ハ或ハ條
約ト云ヒ、協約ト云ヒ、或ハ取極、或ハ約定其他宣言又ハ
議定書等、其名稱ノ如何ニ拘ラズ、總テ是ハ樞密院ノ諮詢
ニ付シテ啓沃ノ力ニ倚ルノ趣旨デアル事ハ明白一點ノ疑ヲ
容レナイコトデアル、蓋シ條約ハ前ニ申シマシタ如ク、國家ノ
行動ヲ將來ニ涉シテ束縛スルモノデアリマスシ、同時ニ國內
法規トシテモ、國民ノ權利義務ヲ拘束スルモノデアリマスカ
ラ、其重要ナル點ニ鑑ミマシテ、斯ク規定ヲ致シタノデアリマ
ス、故ニ歐米諸國ニ於キマシテハ、御承知ノ如ク立憲國デモ
共和國デモ殆ド例外ナク條約ハ必ズ諮詢前ニ議會ノ協賛
ヲ經ベキモノト規定致シテゴザイマス、帝國憲法ハ此點ガ少
シク異ッテ居ルノデアッテ、議會ノ協贊ヲ經ナクテモ宜シイガ、
其過誤ナキヲ期スルガ爲ニ、條約ハ國務大臣ノ輔弼ニ依ル
ノ外、樞密院ノ諮詢ヲ經ベキモノト定メタノハ卽チ此理由デ
アリマス、詰リ慎重ニ手續ヲ致シマシテ、過チナキコトヲ期ス
ルノ趣旨ニ外ナラヌノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマスルカ
ラ、總テノ條約約定ト云フモノハ、一應樞密院ニ諮詢スルガ
至當ノ手續デアリマシテ、之ヲ採擇スルヤ否ヤハ至尊ノ御
自由デゴザリマスルケレドモ、免モ角一度ハ樞密院ノ審議ニ
掛ケナケレバナラヌ、是レ穩當ナ解釋デアルト私ハ信ジテ居
ルノデアリマス、然ルニ本件ノ約定ニ限リマシテ、樞密院ニ諮
詢シナカッタト云フコトハ、甚ダ手續ヲ過ッタモノデハナイカト
思フ次第デゴザイマス、政府或ハ辯明シテ、旣ニ諮詢シタリ
ト申サレルカモ知レマセヌガ、諮詢トハ何デアルカ、卽チ意見
ヲ徵スル事デアリマス、可否ノ意見ヲ徵シテ至尊ノ御參考
ニ供スルノデアリマス、御意思決定ノ參考ニ供スルガ爲ニ諮
詢ヲ致スノデアリマスルカラ、諮詢ト云ヘバ必ズ事前ニ爲サ
ナケレバナラヌ、事後ノ諮詢ナルモノヽアルベキ道理ハ斷ジテ
無イ、或ハ帝國議會ニ於ケル緊急勅令、緊急處分ノ事後承
諾ノ件ヲ引イテ御辯明ナサルカモ知リマセヌケレドモ、緊急
勅令ノ事後承諾ハ、憲法ノ明文之ヲ規定スルガ故ニ效力ガ
アルノデアッテ、之ハ憲法第八條ニ規定シテアリ、緊急處分
ハ憲法第七十條ニ規定シテアル、故ニ效力ガ生ズルノデア
ルノミナラズ、此事後承諾ナルモノハ、若シ議會ニ於テ、是ガ
承諾ヲ拒否シマスナラバ、將來ニ於テ其效力ヲ失フノデア
リマス、條約ハ對外的ノ約束デアリマスルカラ、國內ノ統治
機關ガ其承諾ヲ拒否致シマシテモ、對外的ニ效力ヲ失フコ
トハ斷ジテ無イノデアル、此點ニ於テモ、條約ノ事後諮詢
ナルモノヽアルベキ道理ハ斷ジテ無イト思フ、又政府ハ或
ハ之ニモ先例ガアルト申サレルカモ知レマセヌガ、是ハ先程モ
中シマシタ如ク、英國トノ小包郵便物取扱ニ關スル約定、墨
西哥、香港、濠太刺利、海峡植民地ニ對スル約定等ヲ參照
スレバ寧口反對ノ結論ヲ致サナケレバナラヌ例デハナイカト思
フノデアリマス、又政府ハ新聞紙上デ見マスルト云フト、日
英協約、日露協約、日佛協約及單獨不講和協約加盟ノ
件等ヲ引用シテ辯明セラレテ居ルヤウニモ見受ケラレマス
ケレドモ、其引用セラレタ所ノ先例ナルモノハ本件ノ約定ト
ハ若シク其性質ヲ異ニスルノミナラズ、此等ノ事例ハ樞密
院ニ於テ極力其不法ヲ爭ヒ之ヲ非難致シタモノデゴザイマ
スカラ、樞密院ノ容認シタル先例デハナイ、隨テ今日ノ據ルベ
キノ先例デナイノミナラズ、只今擧ゲタ協約ノ如キハ何レモ
帝國ノ國際的地位ヲ高メ帝國ノ利益ヲ增進シマシタ所ノ
榮譽アル協約デアリマスケレドモ、本件ハマルキリ讓步ノミ
ヲシタ條約デアッテ帝國國際的地位ヲ高メタ條約デハナイ
ノデアル、御承知ノ如ク利益ヲ得、義務ヲ免ルヽ所ノ約束
ハ何人ニ相談シナクテモ過チト云フモノハアリマセヌガ、利
益ヲ失ヒ義務ヲ負擔スル約束ト云フモノハ極メテ愼重ニ之
ヲ相談シナケレバ過誤ヲ生ズルガ故ニ、今日民法商法其他
ノ法制ニ於テモ、此兩者ノ間ニハ嚴格ニ取扱ガ違テテリリススノ
ミナラズ、先程擧ゲタ事例ノ如キハ、事外交ノ機密ニ涉ッテ
極メテ迅速ヲ要スル種類ノモノデアリマスケレドモ、本件ノ
約定ハ何處ニ祕密ガアリ、何處ニ迅速ヲ要スル點ガアルノ
デアリマスカ、而シテ其內容ハ直接ニ國民ノ權利義務ニ關ス
ルコトデアリマスカラ、日英同盟等ノ例ヲ引イテ之ヲ辯解ス
ルコトハ甚ダ當ラヌモノデアルト私ハ思ヒマス、又政府或ハ
諮詢ノ暇ガナカッタト云フヤウナ事ヲ申シテ辯解シテ居ル
ヤニモ新聞デ拜見致シマスガ、暇ガナカッタトハ、ドウ云フ事
デアリマスカ、本件ノ商議ガ開始サレマシタノハ昨年ノ八月
十八日デアル、約定ノ調印セラレタノハ十二月八日デア
ル-八日ニ成立シテ九日ニ調印シタノデアル、此間數箇
月アッテ咯〓其成案モ日本ニハ分シテ居ナケレバナラヌ筈デ
アッタノニ、ソレヲ諮詢スル暇ガナカッタトハドウ云フコトデアル
カ、又是ハ一月一日カラ何デモ施行シナケレバナラヌヤウナ
急グ必要ガ何處ニアッタカ、是ハ旣ニ何人カヽラ質問ガアッタ
ヤウニモ思ヒマスガ、御承知ノ通リ基本條約タル九國協約
ト云フモノハ、未ダ效力ヲ發生シテ居ナイ、而シテ支那ガ滿
鐵附屬地ノ郵便局ニ付十マシテ、言ヒ懸リヲ拵ヘテ徒ニ談
判ヲ遲延セシメントシテ居ルノデアリマスカラ、若シ之ガ爲
ニ實施ガ遲レタトシタナラバ、其責任ハ支那側ニアッテ日本
側ニハナイ筈デアル、然ルニモ拘ラズ之ヲ無暗ニ取急グノハ
ドウ云フ譯デアルカ、暇ガナカッタト云フ御答辯ハ恐ラク
立ツマイト思ヒマス、斯樣ナ次第デゴザイマスカラ、若シ一
月一日ニ實施スルコトガ出來ナケレバ、其出來ナカッタ理由
ヲ公表シマスレバ、帝國ノ國際信義ト云フモノハ立ツ譯デ、
之ヲ讓步シ國內ノ法規マデモ無視シテ支那ノ便宜ヲ圖ル
ト云フ必要ハ何處ニモナイヤウニ私ハ思フ、而シテ取急ギタ
ル結果ハドウデアルカ、昨日望月小太郞君ガ此席上ニ於テ
申サレタ通リ、郵便物ハ山積シ不著、延著、紛失、破壞、其
數夥シク、支那カラ來ル電報ニ故障ガアッテ、日本デハ氣
象ノ報告モ十分出來ヌト云フウナ結果ヲ見テ居ルノデアリ
マス、免モ角モ樞密院ニ諮詢シナカッタト云フコトハ何レノ
方面カラ觀察致シマシテモ、明ニ憲法ノ蹂躙デアルト同時
ニ、樞密院官制ヲ無視シタルモノデゴザイマス、何事ヲ諮詢
スベキヤ否ヤト云フコトハ、明ニ國務大臣ノ輔弼事項ノ一
ツデゴザイマス、此意味ニ於テ政府ハ如何ナル御辯明ガアル
ノデアリマスルカ、是モ永リタイト思ヒマス第三ニ問ハント欲
スル所ハ、政府ハ何故ニ日支郵便約定ヲ公式令第八條ノ
規定ニ依ラズシテ、公布シタカト云フ問題デアリマス、政府
ハ本年一月一日慌シク本件郵便約定ヲ外務省告示トシ
テ發表致シテ居リマスルガ、條約及ビ約束ハ批准ヲ要スル
ト要セザルトニ拘ラズ、總テ公式令第八條ニ依ルベキモノデ
アルトスルノガ私ノ見解デアリマシタ、是ガ一般ノ認ムル所
ト確信致シマス卽チ、公式令第八條ニ依リ上證ヲ附シ、其
上諭ニハ樞密顧問ノ諮詢ヲ經タル旨ヲ記載シナケレバナラ
ヌ、政府或ハ此内容ハ極メテ輕微デアルカラ其手續ヲ採ラ
ナカッタノデアルト辯解爲サルカモ知レヌ内容ガ輕〓デアル
ト御考ニナッタノデアルナラパ、何故ニ後デ諮詢ヲ爲サッタ
ノデアルカ、其諮詢ヲ爲サッタ點カラ見レバ、內容ハ
決シテ輕微デナイト御考ニナッタ趣旨デアル事ハ想像スルニ
難クナイノデアリマス、又假令內容ハ輕微デアリマシテモ、
樞密院官制ノ規定スル所ハ必ズ諮詢ニ附サナケレバナラヌ
モノデアリマスシ、殊ニ暫定協約-滿鐵附屬地ニ於ケル
日本郵便局ニ關スル暫定協約ナルモノハ、事極メテ重大デ
ゴザイマスルカラ、ドウシテモ是ハ諮詢ニ附シ、且ツ上諭ヲ附
シテ公布スルガ極メテ穩當ノ處置デアルト思フノデゴザイマ
スガ、政府ハ公式令ヲ無視致シマシテ、告示トシテ掲示致
シマシテ、國民ノ權利義務ヲ束縛シタノデゴザイマスカラ、此
點ハ聊カ亂暴デハナイカト云フ考ヲ私ハ持ッテ居ルノデアリ
マス、若シ告示デ宜イノナラバ、何故ニ樞密院ニ諮詢シタノ
デアリマスカ、樞密院ニ諮詢シタ事ガ至當ノ手續デアルナ
ラバ、上諭ヲ附サズニ告示トシテ發表シタコトハ其意味ヲ了
解スルコトガ出來ヌノデアリマス、御承知ノ如ク樞密院ハ諮
詢ノ府デアッテ、報告ノ府デハアリマセヌカラ、諮詢シタル以
上ハ公式令第八條ニ依リ樞密院ニ諮詢シタル旨ヲ書イテ
公布スルノガ至當ノ順序デアルト存ジマス、此點ニ付キマシ
テモ政府或ハ辯解シテ其先例アリト申サレルカモ知レヌガ、
其所謂先例ト稱スル所ノ支那關稅改訂ニ關スル協約ノ如
キ、是ハ其性質ガ全ク異ナルモノデアッテ、協定ト云フヨリハ
寧ロ一片ノ通告文ト稱シテ然ルベキモノデアリマスルノミナ
ラズ、若シ上諭ヲ附スル必要ガナイト云フノデアルナラバ、法
制局カラ内閣ニ回付サレ、内閣カラ更ニ樞密院ニ囘付サレ
タル時分ニ、何故ニ上諭ノ文案マデ添ヘテ諮詢ヲ爲サッタノ
デアルカ、此事實ハ何ト御辯解爲サルノデアルカ、公式令ニ
依ル必要ガナケレバ、上諭ノ文案ヲ添ヘテ諮詢スル必要ハ
ナイ、此點ハ何ト御說明ヲ爲サルノデアリマスカ、恐ラク政
府最初ノ腹案ニ於キマシテハ、矢張上諭ヲ附シテ、公式令
第八條ニ依シテ公布スベキモノト御考ニナッタ事ハ明白デハ
ナイカト私ハ思フノデアリマス、樞密院ハ申スマデモナク、憲
法上ノ機關デアル、國務大臣ト共ニ機務ニ參與シ、至尊ノ聰
明ヲ啓キ大權ヲ輔翼スル機關デゴザイマシテ、唯其樞府ト
國務大臣ト異ル所ハ、今更申スマデモナイ、政府ハ進ンデ政
策ヲ獻替シ、王命ヲ出納シ、施政ノ實局ニ當ルニ對シ、樞密
院ハ自ラ進ンデ政策ヲ獻替スル事ハアリマセヌガ、諮詢ニ應
ヘテ、可否ヲ申上ゲナケレバナラヌ、王命ヲ出納セズ、施政ノ
實局ニ當ル事ガ出來ナイト云フ差異ガアルノミデゴザイマシ
テ、共ニ憲法上、大權輔翼ノ機關デアルコトハ少シモ變リハ
無イ筈デアル、故ニ重要ナル勅令竝條約ニ付キマシテハ、常
ニ樞密院ノ諮詢ヲ經タル旨ヲ上諭ニ書キ、樞密院ヲ尊重スル
ト同時ニ、一般國民ニ對シテ偏聽ナカリシコトヲ發表シ、國
務大臣ノ輔弼モ得タガ、樞密院ノ諮詢モ經タ、偏聽ニ依シテ
事ヲ決シタルモノデナイト云フコトヲ國民ニ知ラシメル趣旨
デゴザイマスルカラ、之ヲ無視スル事ハ畢竟樞密院ヲ大イニ
侮辱スルコトニナルノミナラズ、憲法及樞密院官制ノ精神
ヲ蹂躪スル事ニナルノデアリマス、然ルニ政府ハ此條約ニ
限リマシテ、公式令第八條ノ規定ヲ無視シタノデアリマスカ
ラ、此點ハ甚ダ諒解ニ苦シム次第デアリマス、政府ハ如何ナ
ル御見解デゴザリマスルカ、御辯明ヲ承リタイト思ヒマス、第
四ニ私ノ問ハント欲スル所ハ、政府ノ失態ガ樞密院ノ上奏
ニ依リマシテ事〓間ニ達シテ、玆ニ御聖慮ヲ煩シ奉ッタ事
ハ、輔弼獻替ノ任ヲ誤ッタモノトシテ、政府之ガ責ヲ負フベ
キモノデナイカト云フ問題デアリマス(拍手)私ハ既ニ三箇
ノ疑問ヲ提出致シマシテ、政府ノ處置ハ國法上カラ見マシ
テ、大權干犯デアリ、憲法蹂躪デアリ、公式令違反デアルコ
トヲ申上ゲテ、責任ノ重大ナルコトヲ指摘シタノデゴザイマス
ルガ、之ヲ外交上カラ見マシタナラバ、其附帶協定ヲ決シタ
ル點ガ更ニ重大ナル責任ヲ追加スルモノデアリマス、樞密院
ノ上奏文ガ專ラ力ヲ入レタノハ、此後ノ問題デゴザイマス
ガ、此滿鐵附屬地郵便局ノ件ハ、華府會議二月一日ノ本
會議ニ於テ採用セラレタル決議ハ支那ニ於ケル外國郵便
局ヨリ「租借地内ニ在ルモノ、又ハ條約ニ依テ特ニ規定セ
ラレタルモノヲ除ク」ト書イテゴザイマスカラ、滿鐵附屬地郵
便局除外ノ件ハ列國ニ承認サレタル常國ノ特權デアルニモ
拘ラズ、本日發表サレマシタ所ノ附屬協定文ヲ見マスルト
云フト、「兩國政府間ノ交涉ノ題目ト爲スコトアルヘキ南滿
洲鐵道云々」ト書イテアッテ、暫定的ニ現狀ヲ維持スルコト
ニナッテ居リマスカラ、此暫定協約ナルモノハ卽チ華盛頓會
議ニ認メラレタル原則ニ穴ヲ明ケタモノデアルト言ハレテモ
恐ラク辯解ノ辭ハトカラウト思フ、幾ラロデハ將來讓歩ノ
意思ハナイト申サレテモ、斯樣ナ事ヲ容認致シマス以上ニ
於キマシテハ、是ガ將來紛爭ノ因トナルト云フコトハ明白デ
ゴザイマシテ、而モ御丁寧ニモ證文ヲ出シテ後日ノ禍根ヲ構
ヘタモノデアルト言ハレテモ辯解ノ辭ハナカラウト思フノデ
アリマス、既ニ此問題ガ斯クマデニナル以上ハ、次デ來ルベキ
問題ハ二十一箇條撤廢問題デアリ、又租借地返還問題
デアルト云フコトハ豫測スルニ難クナイ事デアリマシテ、此
點ガ卽チ帝國ノ最モ憂フベキ事デアルト私ハ思フノデゴザ
イマス、只管ニ列國協調ト云フ美名ノ下ニ、英米ノ後塵ヲ拜
シテ、帝國ノ既得權ヲ惜氣モナク抛棄スル內田外相ノ態
度ト云フモノハ甚ダ失禮デハゴザイマスケレドモ、私共ノ見
ル所デハ過グル慶長ノ昔ニ、大阪城ノ外廓ヲ崩シ外濠ヲ埋
メタ所ノ大野治長ノ態度ト頗ル似テ居ル所ガアルト思フノ
デアリマス、(拍手)而シテデス-而シテ施政悉ク失態ノ連
續デアルニモ拘ラズ、外相其人ノ爵位ノミガ獨リ榮進スルノ
狀態ト云フモノハ、是ハ恰モ南宋ノ社稷ヲ衰亡ニ導キナガ
ラ、自分獨リハ位人臣ヲ極メタル秦檜ト髣髴タルモノガアル
ト私ハ信ズルモノデアリマス(拍手)此秦檜タリ、大野治長
タル内田外相ハ、大正七年ノ九月ニ外相ノ印綬ヲ帶ビラレ
テカラ旣ニ四年以上ヲ經過シテ居リマス、此四年問ノ啻國
外交史ト云フモノハ、讓步ト退嬰ト失敗ノ記錄デアルト申
シテ差支ナイノデアル、此記錄ノ如何ナル頁ニ帝國ノ國際
的地位ヲ確立シタル所ノ事蹟ガ載ッテ居リマスカ、然ルニモ
拘ラズ外務大臣ハ此席上ニ於キマシテ-此席上ニ於キマ
シテ、當職ガ就任シタル當時ニ於テハ、列國トノ關係ガ極メ
テ憂フベキ狀態ニアッテ、若シアノ儘ニ推移シタナラバ、四面
楚歌ノ聲ニ陷ッタカモ知レヌト云フコトヲ申サレタ、ソレハ諸
君モ御承知デゴザイマセウ(「其通リ」ト呼フ者アリ)然ラバ
申上ゲマス-然ラバ申上ゲネバナラヌ、內田外相ノ就任サ
レタノハ、大正七年ノ九月デゴザイマス、其前ニ外務大臣デ
アッタ方ハドナタデゴザイマスカ、其前ノ外務大臣ハ後藤新
平氏デゴザイマス、其前ハ本野一郞氏デゴザイマス、而シ
テ-而シテ現在總理大臣ニナラレテ居ル加藤友三郞氏
ガ國務大臣トナラレタノハ、大正四年ノ八月デアル、而シテ
外交調査會ノ委員トナラレタ所ノ日時ハ大正六年デゴザ
イマスカラ、若シ內田外相ノ就任當時ニ於テ列國トノ關係
ガ憂フベキ狀態ニアッタトシタナラバ、此憂フベキ狀態ニ對シ
テ責任ヲ負フベキ者ハ加藤友三郞氏デアルト言ハナケレバ
ナラヌ、此加藤友三郞氏ハ一海軍大臣デハアリマセヌ、海
軍大臣デアルト同時ニ國務大臣デアリマス····
〔「加藤高明ハドウシタ」「卑怯ナコトヲ言フナ」ト呼
ヒ其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=31
-
032・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=32
-
033・鈴木富士彌
○鈴木富士彌君(續) 然ルニ內田外相ハ此席上ニ於テ、
就任當時ハ憂フベキ狀態ニ在ッタガ、今ハ頰ル改善シテ洵
ニ好イ狀態ニナッタト言ハレテ居ルガ、之ヲ言フコトハ詰リ外
相ガ間接ニ當時ノ責任者ノ一人タル加藤友三郞氏ヲ彈劾
シテ居ルト同ジ事デハナイカ、右ノ如キ狀態デアリマスカラ、
是ガ導火線トナッテ樞密院ノ上奏トナリ、而シテ遂ニ御聖
慮ヲ煩シ奉ルニ至ッタモノデアリマシテ、其結果內大臣平田
伯爵ニ御下問ヲ賜ハルト云フコトニナッタノデアリマシテ、此
點ハ私共ノ甚ダ恐懼措ク能ハザル所デゴザイマス、申ス迄
モナク天皇ハ神聖ニシテ侵スペカラザルモノデアルト云フ
規定ハ、天皇ガ法律上無答責、無責任ノ位置ニ置カレ
テ居ルコトヲ明白ニシタルモノデアル、英國ノ諺ニ「國王ハ惡
ヲ爲スコト能ハス」ト云フノハ卽チ他ノ一面カラ之ヲ說明シ
タモノデアリマス、故ニ天皇ニハ正トカ不正トカ、法律的評價ノ
アルベカラザルハ勿論、又善トカ惡トカ道德的ノ評價モアッテハ
相成ラヌ、斯ノ如キ評價ヲ國民ヨリ受クベキ位置ニ置クコトス
ラモ之ヲ遠慮シナケレバナラヌモノデゴザイマス、國務大臣
ノ輔弼責任制度ヲ立テタノハ畢竟此理由ニ基クモノデアル、
然ルニ政府斯ノ如キ失態ヲ演ジテ、遂ニ事上奏トナリマシ
テ、至尊ヲ政府ノ處置至當ナルカ、樞密院ノ上奏採擇スベ
キカト云フ御裁斷ヲ爲ス位置ニ置キ奉ッタト云フコトハ、如
何ニモ畏多イコトデアッテ無答責、無責任ノ至尊ヲシテ答責
ヲ負ハシメタルモノデアルト言ハナケレバナラヌト思フ、斯樣
ナ次第デアリマスカラ、是ハ畢竟國務大臣輔弼ノ責任ヲ愆
リタルモノトシテ、責任ヲ執ルベキモノデハナイカ、少クトモ斯
ル紛擾ヲ惹起シテ御宸襟ヲ惱シ奉リタル點ニ於テ、政府ハ
責任ヲ執ルベキモノデナイカト云フコトヲ私ハ御伺スルノデ
ゴザイマス、承レバ過グル二十二日畏キ邊ヨリ優渥ナル御
沙汰ガ降リマシテ、此問題ハ解決セラレタト辯明サレテ居ル
ノデゴザイマスガ、國務大臣ガ君命ニ藉口シテ其責ヲ免ルヽコ
トハ憲法上斷ジテ許サナイ所デアリマス、(「何ダカ分ラナイ」
ト呼フ者アリ)分シテ居ナイノデアル、分ッテ居ナイカラ私ガ此
點ヲ申上ゲルノデアリマス、政友會ノ創立者ニシテ第一回
ノ政友會總裁タル伊藤公ガ憲法義解ヲ著サレテ居リマス、
特ニ此點ニカヲ入レテ書カレテ居ルト云フコトハ諸君モ定
メテ御承知デアリマセウ、此點ハ諸公ニ取ッテ非常ニ大切ナ
ル點デアリマスカラ、其一節ヲ讀ミマセウ、「蓋立憲ノ目的ハ
主權ノ使用ヲシテ正當ナル軌道ニ由ラシメムトスルニ在リ卽
チ公議ノ機關ト宰相ノ輔弼ニ依ルヲ謂フナリ故ニ大臣ノ君ニ
於ケルハ務メテ奬順匡救ノ力ヲ致シ若其ノ道ヲ愆ルトキハ
君命ヲ藉口シテ以テ其ノ責ヲ逃ルヽコトヲ得サルナリ」ト書
イテアル、只管ニ恩命ガアッタカラト云ウテ、恩命ハ輔弼ノ過
失ヲ辯護スルニハ足ラヌノデアリマス、累ヲ皇室ニ及ボシ
奉ッテ其責任ヲ執ラザルコトハ、憲法上ノ大罪惡デアル、私ハ
此責任ヲ如何ニスルカト云フコトヲ御尋シタ次第デゴザイ
マス、私ノ問ハント欲スル所ハ大體ニ於テ以上四點デゴザイ
マスガ、承リマスレバ本件ノ約定ガ初メテ樞密院ニ諮詢セラ
レタノハ昨年十二月二十五日デアッテ、委員會ニ於テ上奏
文ノ可決サレタノガ二十八日デ、本會議ニ於テ可決サレタ
ノガ二十九日ダト云フコトデアリマスガ、申ス迄モナク樞密
院ノ審議ハ事細大トナク至尊特別ノ御許可ヲ得ルニ非ザ
レバ、之ヲ公洩スルコトハ出來ヌモノデアリマスガ、不思議ニ
モ此事件ハ昨年十二月一一十九日ニ新聞ニ現レマシテ、同
ク二十九日ノ英字新聞「ジヤパンアドヴアタイザー」ニ甚ダ
奇怪ナル所ノ投書ガ掲載セラレタノデアリマス、私ノ取調べ
タル範圍ニ於テ、本件ニ關スル記事ノ出所ハ政府筋デアル
ト云フコトヲ私ハ信ジテ疑ハナイノデアリマス、特ニ「ジヤパ
ンアドヴアタイザー」ニ書イテアル記事ト云フモノハ、口ヲ極
メテ樞密院ノ態度ヲ罵ノテ、內田伯ノ外交方針ヲ極力辯護
シテ、樞密顧問ハ或ハ常識ノ無イ頑固ナル人間デアルヤノ
如ク罵ッテ居ルノデゴザイマス、此記事ハ外務省ノ人デナク
シテ何人ガ之ヲ書キマスカ、私ハ之ヲ書イタ人ハ外務省ノ
情報部ニアルト云フコトヲモ聞イテ居ルノデゴザイマス、或ハ
內田外務大臣ノ官房カラ出タノカモ知レマセヌガ、是ハ能
ク御取調ニナレバ分ルコトデアリマスガ、之ニ依シテ樞密院ヲ
非常ニ罵シテ居ル、能ク之ヲ御覽ナサイ非常ニ罵ヲテ居ル所
ノ記事ガアルノデアリマス、而シテ匿名ヲ以テ現內闇ノ某々
大官ガ樞密院ヲ或ハ無用ノ長物デアルトカ、或ハ越權ノ行
爲デアルトカ罵倒ヲ致シテ居ルノデゴザイマス、樞密院廢止ス
ベキヤ否ヤハ立法論デアリマス、又樞密院ノ實權ヲ奪ッテ之
ヲ英國ノ「プライヴイーカウンシル」ノ如クナラシムルトカ、或
ハ舊「プロイセン」王國ノ「ゲハイメル、ラート」ノ如キ位置ニ置
カシムベシト云フ議論ハ、是亦立法論ニ過ギナイ、現行ノ憲
法ニ於テ樞密院國務大臣ハ相竝ンデ大權輔翼ノ機關デア
ルト云フコトハ只今中シタ通リデアリマス、然ルニ之ヲ樞密
院ノ越權デアルカノ如ク罵ルノハ思ハザルノ甚シキモノデア
リマシテ、樞密院トシテハ決シテ越權ノ處置デハナイ、此點ハ
革新倶楽部ノ犬養木堂居士ガ(笑聲)矢張十四日ノ新聞
ニ於テ同ジ意見ヲ發表致シテ居リマス、若シ樞密院ガ政府諮
詢ノ事項ニ一々盲從スベキモノデアルナラバ、憲法ニ於テ樞
密顧問ヲ設ケタル趣旨ト云フモノハ沒却セラレルノデアリマ
ス、而シテ樞密院攻撃ノ聲ヲ現内閣ノ諸公ヨリ聽クト云フ
コトハ、是ハ冠履轉倒ノ甚シキモノデアリマス、申ス迄モナク
現內閣ハ衆議院ヲ基礎トシタルモノデナク、貴族院議員ノ
ミヲ以テ組織セラレタル所ノ內閣デゴザイマスガ、一元來立憲政
治ノ國ニ於テ、貴族院ハ如何ナル職分ヲ有スルモノデアルカ
內相水野博士ハ嘗テ「上院論」ナルモノヲ著シテ、其職分ニ
付テ詳細ナル記述ヲ致シテ居リマス、其中ニハ斯樣ナル事
ヲ申シテ居ルノデアリマス「上院ハ大體ニ於テ下院政府ト
獨立シテ、公平ニ政府下院ノ行動ヲ審査評論シ、政府ノ威
力モ之ニ加ヘル事ハ出來ナイ、無謀ナル與論ノ聲モ之ヲ動
カス事ガ出來ナイ地位ニ置カナケレバナラヌ、併ナガラ是ト
同時ニ上院ハ其地位ノ鞏固ナル事ヲ楯トシテ、又政府ト下
院多數黨ノ聯盟結合ヲ嫉視シテ、濫ニ政府下院ニ反抗シ
テ以テ國運ノ振興ヲ阻害スルコトガアッテハ相成ラヌ、是レ決
シテ上院本然ノ任務ニアラズ、若シ斯ノ如クデアレバ、是ハ
寧口下院ト同ジク感情ニ走リ、黨爭ノ渦中ニ投ズルモノデ
アッテ、等シク醉ヘル「ヒリップ」デアル、醉者相爭フ國家ノ危
險是ヨリ大ナルハナシ」ト云フ事ヲ水野內相ハ明ニ申サレ
テ居ルノデアル、而シテ遞信大臣前田利定氏ハ大正十年
三月十一日貴族院本會議ニ於テ「風〓ニ關スル決議案
ノ反對演說ヲ爲サルヽニ當リ、英國人ノ所謂「醉ヘルヒリツ
プ」ヨリ眞面目ナル「ヒリップ」ニ訴フベシ」ト云フ諺ヲ取リマ
シテ、衆議院ノ醉ッテ居ル時分ニハ貴族院ハ眞面目ニ此醉
漢ヲ介抱シナケレバナラヌ、ソレガ貴族院ノ任務デアル、貴
族院ハ憲法上ニ於テ解散サレナイト云フ保障ガアル、一部
ニ於テハ世襲議員モアレバ、終身議員モアル、而シテ直接國
民カラ選擧セラレタル議員ナル者ハ無イ、政府モ手ヲ染ムル
事ガ出來ナイシ、更ニ國民モ一指ヲ觸ルヽ事ハ出來ナイ、衆
議院トハ餘程組織ガ變ッテ居ル、貴族院ガ此堅城ニ立籠ッテ
濫ニ衆議院ニ對シテ反抗的態度ヲ取ルコトハ、貴族院トシ
テハ愼マナケレバナラヌコトデアル、貴族院ハ衆議院ト組織
ガ異ッテ居ル、解散セラレナイト云フ保障ガアリ、其使命モ異ッ
テ居ルカラ、衆議院ト同ジヤウナ氣持ヲ以テ過當ナル注文
ヲ發セラルヽコトハ貴族院トシテ甚ダ迷惑ニ感ズル所デアル
斯樣ニ言ハレテ居ル、名論デアリマス、ソレハ卽チ凡ソ立憲
國ノ政治ハ衆議院ヲ基礎トシナケレバナラヌト云フ原則ヲ
承認セラレタモノデアルト私ハ信ズルノデアリマス、(拍手)然
ルニ此內閣ハ貴族院ヲ基礎トシテ成立シ、衆議院ニハ沒交
涉ノモノデアル、故ニ若シ貴族院ノ職分ナルモノガ、水野内
務大臣、前田遞信大臣ノ論ゼラレタル如キモノデアルト致
シマスルナラバ、貴族院ノミヲ基礎トシテ成立シタル現内閣
ハ、憲法ノ精神ヲ破壊スルモノデアルト言ッテモ差支ナイト思
フノデアリマス(拍手)此不當ナル所ノ內閣ガ樞密院ヲ非難
スルノハ矛盾ノ甚シキモノデゴザイマシテ、苟モ現內閣ハ責
任ヲ知リマスルナラバ
〔發言スル者多〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=33
-
034・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=34
-
035・鈴木富士彌
○鈴木富士彌君(續) 此宸襟ヲ惱シ奉ッタト云フコトニ付
テ、思命ニ藉口スルコトナク、衰龍ノ袖ニ隱ルヽコトナク、此
責任上相當ノ處置ヲ執ラナケレバナラヌモノデアルト私ハ信
ズル、故ニ此質問ヲ提出シタル所以デアリマス、以上ガ私ノ
述ブル質問ノ大要デゴザイマスガ、改メテ質問ノ要領ヲ申
上ゲマス、第一ニ政府ガ勅裁ヲ經ズシテ、日支郵便約定及
附屬協定ニ調印シテ國際義務ヲ負擔シタノハ大權干犯デ
ハナイカ、此疑問ハ岡野法相ヨリ御答辯ヲ承リタイト思ヒ
る、而シテ滿鐵附屬地ノ暫定協定ノ調印ハ、全權委任ノ
範圍外ニ脫出シタルモノデハナイカト云フ問題ハ、內田外相
ヨリ御答辯ヲ承リタイト思ヒマス、第二ニ政府ハ何故ニ調
印前ニ日支郵便約定及附屬協定ノ成案ヲ樞密院ニ諮詢
シナカッタカト云フ問題ハ、內田外相ヨリ御答辯ヲ承リタイ、
而シテ政府ハ將來モ斯ノ如キ事ハ事後諮詢ニテ差支ナイ
モノト御認メニナルカドウカ、此點ヲモ承リタイノデアリマス
ルガ、是ハ加藤總理又ハ岡野司法大臣ヨリ御答辯ヲ承リ
タイト思ヒマス、而シテ九國條約ガマダ效力ヲ發生セザル以
前、日本致府ハ此郵便約定ノ實施ヲ急グ必要ガ何處ニアル
カ、差支ナイカモ知レマセヌガ、急グ必要ハナカッタデハナイカ
ト云フ質問デアリマスガ、是ハ內田サンヨリ承リタイト思ヒ
マス、而シテ遊信省ハ本件ハ樞密院ノ諮詢ヲ經ベキモノデ
アッタト云フ意見ナルヤニ拜聽ヲ致シテ居リマスルシ、又先例
モサウ云フ事ヲ示シテ居リマスルガ、此點ハ遞信當局ハ如何
ニ御考ニナルカ、前田サンヨリ御答辯ヲ承リタイト思ヒマス、
第三ニ政府ハ何故ニ日支郵便約定ヲ公式令第八條ノ規
定ニ據ラズシテ公布シタノデアルカト云フ質問、是ハ同野法
相ヨリ答辯ヲ承リタイト思ヒマス、而シテ何故ニ上論ノ文
案ヲ附シテ樞密院ニ諮詢シタノデアルカト云フ問題ニ付キ
マシテハ、內田サシヨリ御答辯ヲ煩シタイ、第四ニ政府ノ失
態ガ樞密院ノ上奏ニ依ッテ事叡聞ニ達シ、終ニ御聖慮ヲ煩
シ奉ッタノハ、輔弼獻替ノ途ヲ愆リタルモノトシテ、政府之ガ
責任ヲ負フベキモノデハナイカト云フ問題ハ、加藤總理ヨリ
御答辯ヲ承リタイト思ヒマス、而シテ優渥ナル御沙汰ヲ賜
リタルガ故ニ、之ガ責任ヲ負フノ必要ナシト云フ御意見デア
ルカ、是モ併セテ御答辯ヲ承ハリタイ、私ノ質問セント欲ス
ル所ハ以上四件、及ビ之ニ附帶スル事實ニ止マルノデアリ
マスカラ、成ベク詳細ニ御答辯アランコトヲ希望シテ私ハ此
壇ヲ降リマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=35
-
036・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 加藤總理大臣
〔國務大臣男爵加藤友三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=36
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037・加藤友三郎
○國務大臣(男爵加藤友三郞君) 只今鈴木君ヨリ日支
郵便約定ニ關シマシテ縷々御意見モアリ、御質問ニモ接シ
タノデアリマス、其中責任ニ關ヌル問題ヲ私ニ答辯セヨト云
フコトデアリマス、此點ニ付テ御答ヲシ、其他ノ問題ニ付キ
マシテハ御指名ノ大臣ガ答辯スルコトデアリマセウ、元來大
體ニ於テ政府ノ爲シマシタコトニ付テハ、其善タルト惡タル
トヲ間ハズ、政府ガ責任ヲ負ウテ居ルノデアリマス、而シテ私
ハ殊ニ其全責任ヲ負ウテ居ルト云フコトヲ御了解ヲ願ヒタ
イ、今囘ノ問題ニ付キマシテ御沙汰ガアッタカラ云々、樞密院
ト何ヲシタカラ云々、斯樣ナル御話モアリマシタガ、是等ノ問
題ハ政府ト致シテ公言スベキ限リデナイ公表スベキモノデモ
ナイ(拍手)隨テ是等ニ對シマシテハ何等申上ゲルコトハ出
來マセヌガ、免ニ角政府ノ爲シマシタ事ハ其善惡ヲ問ハズ、
政府ノ責任デアリ、殊ニ私ハ其大部分ノ責任ヲ負ウテ居ル
者デアルト御了解ヲ願ヒタイ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=37
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038・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 內田外務大臣
〔國務大臣伯爵內田康哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=38
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039・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 只今鈴木君ヨリ日支郵
便局約定ノ事ニ付テ數々ノ御質問ガアリマシタ、又此御質
問ニ對シテ、答辯者モ其問題ニ依ッテ御指名ニナリマシタガ、
實ハ私ニハドレダケ御問ニナリマシタカ能ク記憶致シマセヌ、
併シ私ノ管掌シテ居ル事項デアリマス「カラ、大體皆ノ御質
問ニ對シテ御答ヲ致シマス、尙ホソレデ御不足デアッテ、更ニ
他ノ閣僚ニ向ッテ御質問トアレバソレハ御自由ニ委セマス、
鈴木君ハ此問題ヲ非常ニムヅカシク說立テラレマシタガ、或
ハ能ク問題ノ經過等ヲ御承知ノナイ點カラ起リハシナイカ
ト思フ、殊ニ其一例ト致シマシテ、何カ樞密院ニ對シテ私ノ
官房ガ攻撃ヲサセタトカ、或ハ情報部カラ出タトカ云フヤウ
ナコトヲ仰セラレタガ、是ハ全然間違ヲテ居ル話デアル、決シ
テサウ云フ事ハアリマセヌ、若シ斯ウ云フ報告ニ立脚サレテ
御質問ニナッタト云フコトデアレバ總テガ間違っテ居ル、併シ
免モ角モ此日支郵便約定ノ事ニ付キマシテハ、昨日來貴族
院ニ於テモ、又當院ニ於テモ御質問ガアッテ、此事ニ付テハ
私ハ十分御說明ヲ致シテ居ル積リデアル、既ニ今日ノ新聞
等ニモ散見シテ居ルノデアリマスカラ、詳シク申上ゲル必要
ハナイ、デアリマスカラ極ク簡單ニ此經過ヲ中上ゲレバ、ソレ
ガ總テノ御質問ニ對スル答辯トナラウト私ハ思フ、隨テ御
質問ノ順序ヲ逐ハズニ、私ガ最モ明瞭ニ說明シ得ベキ途ト
思フ點ニ從ッテ申上ゲマス、抑こ華府會議ニ於テ、各國ハ出
來得ル限リ支那ニ援助ヲ與ヘタイ、又支那ノ開發ニ向ッテ、
支那ノ獨立ヲ援ケル點ニ向ッテ出來得ル限リノ事ヲ致シタ
イ、隨テ各國ガ支那ニ於テ獲夕所ノ權利モ讓リ得ベキモノハ
譲ラウ、殊ニ條約上ノ權利ニモ立脚セザル所ノモノハ尙更ノ
事デアル、斯ウ云フ趣意ヨリシテ、支那ニ於ケル各國ノ郵便
局、是ハ殆ド條約ノ根據ハ無イト言ッテモ宜イカモ知レナイ、
種々ノ支那ノ變亂ニ處シテ、支那ニ於ケル各國人ノ便益ヲ
圖ランガ爲ニ、支那ノ郵便ノ組織ガ完全デナイカラシテ、實
際ノ必要ニ應ジテ設ケラレタノグ各國ノ郵便局デアルノデ
ス、斯ノ如キモノハ成ベク早ク之ヲ撤退シテ、支那自身ヲシ
テ之ニ當ラシメル、御承知ノ如ク支那ノ稅關ト郵便局トハ、
其首班ノ席ニ居ル者ハ皆外國人ニナッテ居リマス、割合ニ其
組織モ近頃ハ進ンデ來テ居リマスカラ、此郵便局ノ如キモ
支那ノ郵政ニ挖シテ差支ハナカラウ、斯ウ云云フ趣意ヨリシテ
一ツノ決議ヲ議決シタノデアル、是ガ卽チ此郵便約定ノ生
レル根源デアル、ソコデ各國ガ一ノ決議ヲ致シマシテ、或ル條
件ヲ附シテ、免モ角モ本年ノ一月一日迄ニハ郵便局ヲ撤廢
シヤウト云フ決議ヲヤッタノデアル、然ルニ玆ニ日本ニ取ッテ
困難ナル問題ハ、所謂南滿鐵道附屬地内ニ於ケル日本ノ
郵便局、是ガ各國ニ比シテ困難ナル事情ヲ日本ガ特ニ
持ノテ居ル次第デアル、ソコデ此問題ニ對シマシテハ、支那ヨ
リハ是ハ矢張他ノ各地方ニ於ケル外國ノ郵便局ト同樣ニ、
日本モ南滿鐵道附屬地ヨリ撤退スベキモノデアルト云フコ
トヲ、强硬ニ主張シタノデアル、之ニ對シテ我方ノ委員ハ、是
ハマルデ其性質ヲ異ニスルモノデアル、東〓鐵道露〓間ノ條
約ニ依ルモ、又是迄ノ實際上存在シタル事實ニ顧ミルモ、
是ハ他ノ各地ニ於ケル外國郵便局トハ其性質ヲ異ニスル
カラシテ、撤退スベキモノデハナイト云フコトヲ强硬ニ主張シ
タノデアル、サウシテ結局此問題ノ爲ニ其決議卜云フモノモ
遂ニ纏マルニ至ラナカッタ、其故ニ何カ一ツノ便法ヲ案ジテ、
免モ角モ此問題ヲ引離シテ決議ヲ成立セシメヤウト云フノガ、
卽チ此決議文ノ中ニ「租借地及特ニ條約ニ依リ規定セラレ
タルモノヲ除ク」ト云フ文句ヲ八レテ、免モ角モ決議ガ成立
シタノデアル、然レドモ此解釋ハ日支雙方解釋ヲ異ニシテ別
レタ、卽チ此問題ハ日支ノ間ニ協定ヲ見ズシテ、懸案ノ儘デ
昨年北京ノ談判ニ移ッタノデアリマス、果シテ支那ノ方デハ
華府ニ於ケル所ノ議論ヲ繰返シ、又日本モ同樣ノ主張ヲ
繰返シテ、此爲ニ所謂日支郵便協定ナルモノモ屢、停頓ヲ
欽シタノデアリマス、是ニ於テ更ニ何カノ便法ヲ講ゼザルヲ
得ナイコトニナリマシテ、卽チ本日公表ヲ致シマシタ所ノ約
定ナルモノヲ締結シテ、免モ角モ他ノ郵便局ニ關スル協定
ト切離スコトニナッタノデアル、固ヨリ南滿鐵道附屬地ノ事
ニ付キマシテハ、其困難ヲ排除スル必要ノ外ニ尙ホ千九百
十年ノ日支間ノ郵便協定ガ廢止セラルヽ結果ト致シマシテ、
何等カノ協定ヲ矢張要スル必要ガアッタカラ、此點モ矢張
此約定ノ中ニ入レテアッテ、卽チ是ハ地方的ニ之ヲ協定ヲス
ル、是ガ抑、南滿鐵道附屬地ニ關スル協定ノ成立ッタ所以デ
アル、斯ノ如クシテ日支間ニ於ケル四ツノ郵便約定ガ昨年
十二月八日ニ成立ッタ、調印ハ翌日ノ九日ニナッテ居リマス
ケレドモ、日附ハ八日ニナッテ居ル、ンコデ何故ニ此調印スル
前ニ樞密院ノ諮詢ニ付セナカッタト云フノガ主タル御質問
ノヤウニモ思フ、此事情ヲ能ク申上ゲタイト思フ、(「ソレバカ
リヂヤアリマセヌ」ト呼フ者アリ)他ノ點モ申上ゲマス、是迄
遞信省ニ於テ條約ヲ締結致シマシタ、卽チ鈴木君ガ擧ゲラ
レマシタ所ノ諸小包郵便物ノ如キハ、是ハ成程是迄ノ慣例
ニ依リマスト、當事國ト協定ガ出來テ將ニ調印セントスル時
ニナッテ、一時調印ヲ見合ハセテ之ヲ樞密院ノ議ニ付スルト
云フ慣例ニナッテ居ル、ケレドモ此慣例ハ外務省ニ於テハ殆
ド近來ナイ、遠キ昔ハ率知ラズ、外務省ニ於テ取扱ヒマスル
所ノ條約、約束ノ如キモノハ總テ調印ヲ致スノデアリマス、其
前ニ其當事國ト協定ガ成ッタ草案ハ、樞密院ノ議ニ付スル
ヤウナコトハナイ、故ニ外務省ガ取扱一ヒマシタ此場合ニ於テ
モ、同ジ先例ヲ踏ンデ協定ヲ-調印ヲシタノデアリマスノ
ミナラズ實際遞信省ノ方ニ廻サントシテモ其餘裕ハナイ、成
程昨年八月頃ヨリ此交涉ヲ始メマシタケレドモ、調印ノ間
際迄ニ所謂確定案ナルモノガ出來ナイ、支那ノ方ヨリハ種
種ノ修正ヲ申込ンデ來ル殊ニ當時ノ支那ノ政情ト云フモノ
ハ屢〓政府ガ迭リ、無政府ノヤウナ狀態ニナッテ居ル、若シ其
際ニ於テ八日ニ或ル協定案ガ出來タ、一寸待ヲテ吳レト云
フノデ、ソレヲ日本ノ方ニ送ッテ、サウシテ之ヲ樞密院ノ議ニ
付シタナラバ、恐ラク時機ヲ失シテ、今日モ何モ出來テ居ナ
イト思フ(「ノウ〓〓」)政府ハ斯ル事情ノ下ニ於テ、政府ノ貴
任ヲ持ッテ斷ジテ調印スルコトニ至ル、今後ニ於テモ私ハ調
印スルト思フ、ソコデ是迄ノ先例ニ依リ、又其支那ノ政情、
及一月一日ヨリハ之ヲ實施スルト云フコトハ、華府ニ於テ
各國トモ相談シテ、各國ハ一月一日ヨリ殆ド之ヲ實施スル
狀態ガ見エテ居リマシタ、唯、日本獨リ之ヲ實施シナイト云
フコトハ、假令其責任ハ支那ニ在リトスルモ、大局ヨリ考ヘ
テ甚ダ面白クナイ、或ル手續ノ爲ニ之ヲ躊躇スルト云フコト
ハ、私ハ甚ダ國家ノ不得策デアルト思フ、殊ニ先例ガアル話
デアリマスカラ、之ヲ追ウテ調印ヲシタ、其調印ヲシテ之ヲ北
京ニ於ケル公使館員ニ持參サシテ、之ニ飜譯其他ノ手續ヲ
盡シテ、確カ二十一日デアルト思ヒマス、之ヲ樞密院ノ方ニ
持出シタノデアル、或ハ正式ニ各顧問官ニ行ッタノハ二十五
日ニナッタカモ知レマセヌ、免モ角實際著ク早々、出來]得ル
限リ速ニヤッタノデアリマス、ソコデ鈴木君ノ言ハレマシタ所
ノ大權千犯論ナント云フ理由ハ無イ、政府ハ調印ハ致シマ
シタケレドモ、之ヲ確定的ニ效力ヲ生ゼシムルニハ御批准ヲ
要スベキモノトシテ御諮詢ヲシタ、御裁可ヲ要スベキモノト
シテ樞密院ニ御諮詢遊バサレタノデアル、不幸ニシテ樞密院
ト見解ヲ異ニスル事ガアリマシタガ、免モ角モ樞密院ニ於テ
ハ、此條約ノ内容ニ付テハ何等不當ノ事ハナイト云フコト
デアル、ソレ故ニ昨年末ニ御栽可ヲ仰イデ、御栽可ヲ得テ之
ヲ發布ヲシタ、何等御裁可ヲ經ベキモノヲ經ズシテヤッタノデ
ハナイ、隨テ憲法論ガ出ヤウガナイ、ソレカラ其次ニ之ヲ公
布シタ事ニ付テ、公式令ニ違反シテ居ルト云フ御議論デア
ル、此御議論ハ是迄モアル、現ニ反對ノ意見ヲ持ッテ居ル人
ハ澤山アル、是ハモウ公知ノ事デアル、議論ヲスレバ雙方ニ
理屈ガアルト思フ、恐ラク外務省ニ於テハ此條約トシテ御
批准ヲ經テサウシテ諮詢セラレタモノ、卽チ御諮詢ニナルベ
キ條約ハ、條約第何號トシテ、公式令ニ依ッテ樞密院ニ懸ケ
テ之ヲ公布セシムト云フ詔勅ヲ附シテ公布スル、其外ノ約
束ナリ或ハ約定ナリ、是ハ假令樞密院ノ議ニ御諮詢遊バシ
タモノト雖モ、外務省ハ外務省告示デ發布シテ居ル、卽テ
此例ヲ追ウタニ過ギナイ、甚ダ重大ナル問題ノ日英同盟ニ
モ、矢張是ハ外務省ノ告示ガ或ハ何カノ欄外ニ慥カ記載シ
タト思フ、其例ハ多々アリマス、ソレ故ニ公式令ノ問題モ起
キヤウガナイ筈、議論ハアリマセウ、アリマセウケレドモ、是迄ノ
慣例ニ依シテ外務省ハンレヲ踏襲シタニ止マル、大低是デ御
質問ニ私ハ答ヘタ積リデアリマス(「十分」「答テナイ」ト呼フ
者アリ)尙ホ何ガアレバ更ニ答ヘマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=39
-
040・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岡野司法大臣
〔國務大臣岡野敬次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=40
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041・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 先刻鈴木君ノ段々ニ御尋
ニナッタ事柄ニ付キマシテハ、問題ヲ御擇ビニナリマシテ私ヲ
指名ナサレ、法理上ノ見解ニ付テハ、私ヨリ御答辯ヲ申上ゲ
ルベク御注文デアリマシタ、旣ニ大體ノ事ニ付キマシテハ總
理大臣ヨリ、又御質問ノ全體ニ通ジマシテハ、只今外務大
臣ヨリ御答辯ヲ致シタノデアリマス、デ私ハ玆ニ御注文ニ依
リマシテ演壇ニ立チマシタケレドモ、特ニ是ハ法理論ナリト
シテ、別ニ申上グベキ必要ヲ認メナイノデアリマス(「ヒヤー〓」)
唯違クタロヨリ違ック言葉ヲ以テ申上ゲマシタナラバ、或ハ
幾分御了解ニ便デアラウカト思フノデアリマス、先刻外務大
臣ヨリ說明ヲセラレタ通リ、此日支郵便約定ニ付キマシテ、
政府ノ執リマシタル手續ハ、調印前ニ-調印ヲ致シタ後
ニ於テ、樞密院へ御諮詢ニ相成ルベク奏請ヲ致シタノデアリ
マス、其樞密院ノ議ヲ經タ後ニ於テ、御裁可ヲ得テ之ヲ公
布致シタト云フノガ事實デアルノデアリマス、而シテ私ハ鈴
木君ノ如キ法律ノ專門ノ方ニ向ッテ、彼此レ法理論ヲ申上
ゲマセヌデモ、鈴木君ノ御質問中ニゴザイマシタ通リノ、卽チ
調印前ニ樞密院へ御諮詢ニ相成ルベク奏請ヲ致シマシテ、
サウシテ御栽可ヲ經テ、然ル後ニ調印ヲ致シ、更ニ調印ノ後
ニ於テ御裁可ヲ奏請シテ之ヲ發布スルト云フノハ、此調印
前ニ御諮詢ニナッタ場合ノ慣例デアルノデアリマス、是ハ鈴
木君モ定メシ御承知ノ事デアラウト思ヒマス、此慣例ニ依リ
マスレバ、調印前ニ一タビ御栽可ヲ經テ、而シテ調印ノ後ニ
於テ再ビ御栽可ヲ經テ、之ヲ公布スルト云フコトニナルノデ
アリマス、此場合ニ於キマシテ、前ノ御裁可ト後ノ御裁可ト
云フモノト二ツアルノデアリマス、ソコデ若シモ前ニ御裁可ヲ
經タナラバ、後ノ御裁可ハ不必要デアルト云フ論ハ無イノデ
アリマス、果シテ然リトスレバ、後ノ御裁可ニハ矢張憲法上
竝ニ法律上ノ意義ガナケレバナラヌノデアリマス、此度目支
ノ郵便條約ニ付キマシテ、先刻外務大臣ヨリ述ベラレマシ
タル通リノ事情ニ依テ、調印前ニ樞密院ノ御諮詢ニナルベ
キノ餘裕ガナカッタガ故ニ先ヅ調印ヲシタノデアル、其調印ノ
後ニ於テ、樞密院へ御諮詢ニ相成ルベク奏請シ、且ツ御裁
可ヲ經タノデアリマス、此場合ニ於キマシテハ、前ニ擧ゲマシ
タ所ノ例ニ於ケル第二ノ御栽可ト、此度ノ御裁可ト云フモ
ノトノ間ニ、法律上意義ヲ異ニスベキ道理ハ無イノデアリマ
ス、ソレデ昨日總理大臣モ政府ノ見ル所ヲ述べラレマシタル
通リニ、御栽可ニ依テ初メテ效力ヲ發生スル所ノ約定デア
ル、斯ウ云フコトヲ述ベラレテ居ルノデアリマス、ソレガ故ニ此
御裁可ヲ經ルノ前ニ於キマシテ、條約トシテ完全ニ其效力
ヲ發生スベキモノデハナイノデアリマス、調印ヲ致シタ後ニ於
テモ、條約トシテ完全ニ其效力ヲ發生スルモノヂヤナイト云
フ見解ヲ政府ハ執ッテ居ルノデアリマス、之ヲ先刻申述ベラ
レフシタ所ノ鈴木君ノ御註文通リ、卽チ遞信省ノ執リマシ
タ慣例通リニ、調印前ニ御諮詢ニ相成ルベク奏請シタ場合
ニ於ケル第二ノ御栽可ノ場合ト比較シテ見マシタナラバ、自
ラ其意義ノ明瞭デアラウト存ズルノデアリマス、固ヨリ鈴木
君ノ御演說中ニモアリ一シタ通リニ、實施期日ト效力ノ發
生ト云フモノガ、是ガ同ジデアルト云フヤウナ見解ハ執ッテ居
ラヌノデアリマス、ソレハ鈴木君ノ御說ノ通リニ私モ解釋ヲ
シテ居ル次第デアリマス、殊ニ左樣ノ案件デアリマスカラ、既
ニ内閣ト致シ一シテハ、樞密院ニ御諮詢相成ルベク奏請ヲ
シテ、サウシテ御裁可ヲ經テ之ヲ公布シタ、其御裁可ニ付テ
憲法上竝ニ法律上意義ガ無イト云フ道理ハ無イノデ、是ハ
事態ニ於テ有リ得ベカラザル事デアルノデアリマス、其御裁
可ヲ經ルノ必要アルコトハ、是ハ認メネバナラヌ!デアリマス、
又認メテ居ルガ故ニ御裁可ヲ仰イダ次第デアリマス、果シテ
然リトスレバ、調印後ニ於テ御裁可ヲ奏請シタルガ故ニ、大
權ヲ干犯シタルモノデアルト云フ議論ナドノ生ズル餘地ハ毛
頭無イ譯デアリマス、(拍手)ソレカラ更ニ第三ノ公式令云々
ノ事ニ付キマシテハ、先刻外務大臣ヨリ述ベラレマシタ通リ
ノコトデアリマス、之ニ附加ヘテ申上ゲル必要ハ無イノデア
ル、卽チ斯ノ如キ事柄ハ、此外交關係ノ頻繁複雜ヲ極メル
ニ從ッテハ、其兩國ノ間ニ交換セラルベキ所ノ公文ト云フモ
ノヽ種類ガ、色々ニナッテ居ルノデアリマス、ソレデ先刻ノ協
定ノ如キハ、所謂公式令ノ第八條トハ關係ノ無イモノデア
ルノデアリマスカラ、關係ナイ以上ニ於テハ、公式令違反ト
云フ問題モ亦自ラ生ズル餘地ガナイノデアリマス、此事ヲ申
上ゲテ置キマス、(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=41
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042・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 前田遞信大臣
〔國務大臣子爵前田利定君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=42
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043・前田利定
○國務大臣(子爵前田利定君) 私ニ對シマシテ御注文ノ
點ニ付キマシテ御答ヲ致シマス、從來通信關係竝ニ管船關
係ノ外國トノ條約約定等ニ付キマシテハ、遞信當局ガ主トシ
テ之ヲ管掌ヲ致シマシテ、外交手續モ致シタノデアリマス、併
シ外務省ニ條約局ガ出來マシタ以來、殊ニ華盛頓會議竝
ニソレニ關聯ヲ致シマスル所ノ諸條約、諸約定ニ付テハ外
務當局ガ主トシテソレ等ノ。取扱ヲ爲スコトニ移ッタノデアリ
マス、隨ヒマシテ此度ノ日支郵便約定ノ内容ニ付キマシ
テハ、遞信當局ノ立場ヨリ、ソレノ協議ニ參加スル委員ヲ差
出シテ居ッタノデアリマス、併ナガラ外交文書ノ取扱手續等
ハ、外務當局ガ主管トシテ致シタノデアリマス、ガ故ニ、遞
信當局トシマシテハ、此間何等ノ意見ヲ申シタコトモアリマ
セヌシ、容喙ヲ致シタコトハナイノデアリマス、而シテ此事ハ
閣議決定ノ上、ソレ〓〓事務ガ進行ヲ致シマシタ今日ニ於
キマシテ、敢テ遞信當局トシテソレ等ノ意見ヲ申述ベル要ハ
無イ、斯樣ニ考ヘテ居リマス、尙ホ先程御質問中ニ、本年ノ
初頭ニ於キマシテ、支那カラ來ル氣象ノ電報ノ遲延ニ付テ
御小言ガアッタト思ヒマス、是ハ遞信當局ト致シマシテハ、甚
ダ迷惑ヲ感ズル次第デアリマシテ、此支那氣象ノ電報ハヽ
大北電信會社ガ取扱ッテ居ルノデアリマシテ、大北線ニ依リ
マシテ我國ニ來ルノデアリマス、全ク遞信當局ノ責任以外ノ
事ニ屬シテ居リマスカラ、此事ヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=43
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044・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鈴木富士彌君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=44
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045・鈴木富士彌
○鈴木富士彌君 簡單デアリマスカラ、此席カラ質問スル
ノ御許ヲ願ヒマス、只〓加藤總理ヨリ御答辯ガゴザイマシ
タ、其趣旨ニ依リマスルト、一切ノ事ハ總理大臣責任ヲ負ハ
レルト云フコトデアリマシタガ、果シテ左樣デアルナラバ、其
責任ヲ負フト云フ事實ハ如何ニシテ之ヲ具體的ニ御示シニ
ナルノデアルカ、此點ヲ重ネテ御伺ヒスルノデアリマス、而シ
テ岡野法相ヨリノ御答辯中ニ、總理ガ本件約定ハ裁可ヲ
經テカラ後チ效力ヲ發スルモノデアルト言ハレタル御說ヲ是
認ナサッタノデアリマスケレドモ、是ハ對内的ノ效力ヲ謂フノ
デアッテ、對外的ニハ昨年十二月九日調印ト同時ニ效力ガ
發生シテ居ルモノデアルカラ、對內的效力ト對外的效力ト
ヲ混同ナサッテハ困ルト云フコトヲ初カラ斷ッテアルコトデア
リマス、矢張岡野法相ハ對外的ニモ栽可ヲ經タ後ニ效力ヲ
發生スルモノテアルト云フ御見解ヲ執ッテ居ラレルノデアル
カ、此點ヲ重ネテ御伺致シマス、而シテ内田外相ガ、樞密院
ニ事前ニ諮詢シナカッタノハ、大權干犯デハナイト云フ趣意
ノ御言葉ガアリマシタケレドモ、私ガ大權干犯ナリト言フタ
ノハ、勅栽ヲ經ズシテ調印ヲシタ點ヲ重モニ指摘シタノデアリ
マス、本件ハ岡野法相ノ言ハレタ如クニ、全體二ツノ栽可ヲ
經ベキモノデアル、調印前ニ、一ノ確定案ニ就テ御勅栽ヲ經
而シテ又更ニ國內法トシテ公布スベキ際ニ御裁可ヲ經ベキ
モノデアリマス、後ノ裁可ハ經タケレドモ、前ノ勅裁ハ經ナ
カッタノデアルカラ、此點ハ大權干犯デハナイカト、斯樣ニ質
問シタノデアルガ、其點ノ御答辯ハ明確デナカッタノデアリマ
ス、之ヲ重ネテ御伺致シマス、而シテ若シ上諭ヲ附シタル公
布卽チ公式例第八條ニ依ル公布ノ必要ガ無イトスルナラ
バ、何故ニ樞密院ニ諮詢スルニ當ッテ、上諭ノ文案ヲ附シテ
諮詢ナサッタノデアルカ、此點ヲ御伺シタイノデアリマス、而シ
テ內田外相ノ御言葉ニ依リマスルト、今後モ樞密院ノ諮詢
ヲ經ズニ調印ヲスルト云フコトデアリマス、而シテ樞密院ハ
調印後ニ諮詢ヲシタト云フコトガ手續ヲ誤ッタモノデアルト
シテ、上奏文ノ第一項ニ掲ゲテアルヤウニ承知ヲ致シテ居ル
ノデアリマスガ、果シテ然ラバ樞密院ノ上奏ガアッタニモ拘ハ
ラズ、今後モ今囘執ッタ手續ト同樣ニ、先ヅ調印ヲシテ然ル
後ニ事後諮詢ヲ爲サルト云フ御積リデアルカ此點ヲ明確ニ
御答ヲ願ヒタイノデアリマス
〔國務大臣男爵加藤友三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=45
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046・加藤友三郎
○國務大臣(男爵加藤友三郞君) 重ネテノ御質問デアリ
マシタガ、責任ヲ具體的ニドウシテ表ハスカト云フ御尋、洵
ニ難問題デアリマス、政府ハ日支郵便約定ノミナラズ澤山
仕事ヲシテ居ルノデ、皆責任ヲ負ヒ、責任ヲ以テ實行シテ居
ル、其一々ノ事柄ニ對シテ、具體的ニ責任ヲ表ハスト云フコ
トハ出來ルモノデハナイ、日支郵便條約ニ於テモ同樣デアリマ
ス、私ハ別ニ茲ニ具體的ニ責任ヲ表ハスコトノ必要ヲ感ゼ
ズ、又左樣ナ性質ノモノデナイ、免ニ角責任ヲ負ウテ居ルモ
ノデアルト云フコトヲ御了解ヲ願ヒタイ
〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=46
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047・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 只今ノ御質問ニハ私ハ
最モ明確ニ御答ヲシタ積リデアリマス、調印前ニ御栽可ヲ
請フト云フコトハ、外務省ノ慣例ハ致シテ居リマセヌ(「ソン
ナ事ハアリマセヌ」ト呼フ者アリ)ソンナ事-私ハ外務省ニ
居ッテ能ク知ッテ居ル、今日ノ此世界交際ノ頻繁ナル時ニ、
調印ヲスルマデニハ色〓ノ交涉ヲ經テ、此交涉ナルモノハ調
印間際マデニ續クモノデアル、然ルニ調印セントスル時ニ之ヲ
止メテ、サウシテ之ヲ日本ニ送ッテ-總テ電報位デイケマセ
ヌ、亞米利加ナリ、英吉利ナリカラ其書類ガ來テ、之ヲ樞密
院ノ議ニ附シテ掛ケルト云フヤウナコトヲスレバ、二三箇月
ハ少クトモ掛ル(「ソレデハナイ勅裁ノコトヲ言ッテ居ル」ト呼フ
者アリ)勅栽ヲ請フト云フコトハ、樞密院ニ掛ケナクチヤナラ
ヌコトニナル、是マデ遞信省デヤッタノハ、勅栽ヲ請ウテ樞密
院ノ議ニ付シタコトガ諮詢デス(「岡野サンノ答辯トハ違ヒ
マス」「違ヒマセヌ」ト呼フ者アリ)ソレデ澤山、分ッテ居ル譯デ
アル····(「他ノ事ハドウシタ」「答辯無用」「狼狽ルナ」ト呼フ
者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=47
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048・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 静肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=48
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049・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君)(續) 只今ノ答辯デ後ノ
事モ含ンデ居リマス、今後モ其通リニ致スノデアリマス、其他
ニ何カアリマスカ(「無イ」ト呼フ者アリ)上諭ヲ附シテ-上
奏シタトカ何トカ云フコトヲ仰セラレマスガ、是ハ手續上ノ
事デアリマシテ、此處デ答辯スル限リデアリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=49
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050・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 森下龜太郞君
〔森下龜太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=50
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051・森下亀太郎
○森下龜太郞君 私ハ一昨日大藏大臣ガ、當院ニ於テ御
演說ニナリマシタ一節中ニ於キマシテ御述ニナリマシタ財界
ノ不祥事ニ關シマシテ、第一ニ政府ガ銀行ノ監督上ニ關ス
ル責任第二ニ其責任ニ伴フ所ノ處置如何ト云フコトニ付
キマシテ御伺ヲ致シ、第三ニハソレニ關聯致シマシテ、政府ノ
一般ノ金融政策ニ付キマシテ、特ニ大藏大臣ノ御所存ヲ
拜聽致シタイト思フノデアリマス、大藏大臣ノ一昨日ノ御
演說中ニ於キマシテ、昨年中ノ銀行ノ取付ト云フ出來事ハ
洵ニ遺憾デアッタト云フ御挨拶ガアリ、之ガ善後策ト致シマ
シテハ、第一ニ銀行ノ合同ト云フコトヲ推奬サレタノデアリ
マス、而シテ第二ニハ、將來ハ政府トシテハ銀行ノ監督檢査ヲ
嚴重ニ屬行致スト云フコトヲ聲明サレタノデアリマス、大藏
大臣ノ財界ノ不祥事ニ對シテハ、洵ニ遺憾デアルト云フ所
ノ御一言ニ依リマシテハ、未ダ以テ從來ニ於ケル政府當局
ノ、銀行ニ對スル監督上ノ責任ヲ解除スルト云フ理由ニハ
相成ラヌノデアリマス、又私ハ政府ガ此問題ニ付キマシテ
其善後策ノ方法トシテ擧ゲラレマシタ所ノ二ツノ事柄デハ、
私共ハ洵ニ尙ホ澤山ノ疑ヲ持ツモノデアリマスガ、其疑ハ是
ヨリ逐次順序的ニ御伺致ス考デデリマスガ、ソレニ先タチマ
シテ先ヅ第一ニ御伺ヲ政シタイト思ヒマスルノハ、假令大藏
大臣ノ御意見ノ通リニ、銀行ノ合同ヤ銀行ノ監督ガ果シテ
理想通リニ實現サレルト致シマシテモ、其之ヨリ生ズル效果
ト云フモノハ、固ヨリ遠キ將來ニ之ヲ望ムベキモノデアリマシ
テ、現下只今差迫リタル此財界ノ危機ヲ救濟スル手段トハ
相成ラヌト考ヘルノデアリマス、ンコデ私ガ此處デ御伺シタイ
ト中シマスノハ、此切迫シタル財界ノ危機ヲ、此混亂セル國
民ノ不安ト云フモノヲ一掃セラレルト云フコトニ付キマシテ
ハ、大藏大臣ハ如何ナル成案ヲ有セラレルカト云フコトヲ御
尋ヲシタイノデアリマス、大藏大臣ハ昨年ノ不祥事ト致シマ
シテ、銀行ノ取付ノミ御擧ゲニナリマシタガ、私共ハ商工都
市ノ中心デアル大阪ニ居リマス關係上、此銀行取付ノ事
實ヲ御擧ゲニナッタ以上ニ於キマシテ、何ト致シテモ其銀行
取付ノ導火線トナリマシタ所ノ石井某ニ對シテ、銀行業者
ノ不謹慎ト云フコトヲ玆ニ指摘セネバナラヌノデアリマス、石
井某ノ破產債圍ニ對シマシテ、今日マデ債權ノ屆出ノアリ
マシタ總額ハ、實ニ七千万圓ト云フ莫大ナル計數ヲ示シタ
ノデアリマス、其被害ノ銀行ノ行數ハ實ニ四十餘行ト云フ
多數ヲ示スノデアリマス、是デ債權ノ全部デアルカト申シマ
スナラバ、サウデモナイ、逐次ニ其屆出ガ嵩ンデ參ルト云フコ
トデアリマスカラ、今後此勢ヲ以テ進ンデ參リマシタナラバ、或
ハ驚クベキ一億圓ト云フ計數ヲ示スカモ分ラヌノデアリマス、
而シテ一面ニ於キマシテ當面ノ問題デアル-彼ノ當面ノ
問題ノ的トナッテ居リマス彼ノ積善銀行ノ始末ナルモノヲ見
マスルト、其債務ノ總額カ實ニ千四百万圓ト申シ、又ハ千五
百万圓ト傳ヘラレルノデアリマス、其一千万圓ノ違ヒハ如何樣
ト致シマシテモ、ソレト同時ニ預金者ノ數ガ實ニ四十万、四
十万ト申シマスト大低ノ大都市ニ於ケル總人口ノ是ハ多
數ニ當リマスガ、是ダケノ多人數ノ預全者ト云フモノハ、彼
ノ年末ニ當リマシテ首ヲ縊ラネバナラヌト云フ苦境ニ立ッタ
ト云フコトノ事實ヲ考へネバナラヌノデアリマス、又實ニ其預
金者中ニ於キマシテハ、大會ノ席上ニ於キマシテ實ニ憤死シ
夕老人モアルノデアリマス、斯ル事實ガ諸公ノ面前ニ展開サ
レマシタ以上ニ於キマシテ、銀行ノ監督ノ大貴任ヲ有セラレ
ル大藏省ト致シマシテハ、之ヲ馬耳東風ニ御聞流シニナル
ト云フコトハ、斷ジテ出來ヌト私ハ考ヘルノデアリマス、之ガ
爲ニ一般ノ銀行業者ハ、此多數ノ民衆カラ甚大ナル不信
用ヲ招徠致シマシテ、御承知ノ如ク取付騒ギヲ演出致シマ
シタ、一波萬波ヲ起シマシテ、其弊ハ遂ニ全國ニ及ンダト云
フ次第デアリマス、而シテ此取付ラレタル所ノ預金ノ中ニハ、
或ハ他ノ確實ナル銀行ニ預ケ替ヘタ者モアルノデアリマシテ、
或ハ郵便貯金ニ振替ヘタ者モアルデアリマセウ、併ナガラ中
ニハ可惜貴重ノ財寶ヲ徒ニ筐底ニ死藏シ居ル結果トナッタ
モノモアラウト思ヒマス、金融業者ノ受ケタル影響ハ中ミ容
易ナモノデナイト云フコトヲ考ヘネバナラヌ、隨テ此金融業
者カラ資金ノ供給ヲ受クル所ノ地位ニ在ル一般事業者ノ
受ケタル困惑ト云フモノハ、是亦中と容易ナモノデナイト云
フコトニ御考ヲ及ポシテ戴キタイノデアリマス、政府ハ斯ル焦
眉ノ急ニ應ズル策ト致シマシテハ、如何ナル御手段ヲ御執
リニナル御考デアリマスカ、又如何ナル將來ニ於キマシテ處
置ヲ御執リニナル御考デアリマスカ、先ヅ是ガ御伺シタイ所
ノ私ノ趣意ノ第一點デアリマス、私ノ知レル範圍ニ依リマシ
テハ、日本銀行ノ兌換劵ノ發行高ガ、昨年末ニ於キマシテ
十六億圓ト云フモノニ近イ新記錄ヲ示シタト云フ事實デア
リマス、是ハ申ス迄モナク、日本銀行ガ各銀行ニ對スル年末
ノ救濟資金ヲ奮發シク其消息ヲ語ルモノデアリマスガ、私ハ
機宜ノ處置ヲ得タモノト考ヘマス、サリナガラ私共ガ遠慮ナ
ク希望ヲ玆ニ申述ベルコトガ出來ルナラバ、何故ニ政府ハ
一步ヲ進メテ、一般財界ノ輿論トモ見ルベキ金利ノ引下ヲ、
早ク之ヲ斷行ナサラナカッタカト云フコトヲ御尋シナケレバナ
ラヌ、何故ニ此際ニ於テ特殊銀行ガ、普通銀行ノ「コール」ヲ
漁ル如キコトヲ御取締ニナラヌカト云フコトヲ御尋シナケレ
バナラヌ、或ハ金利ノ引下、是ハ政府ノ一般政策デアル、物
價調節ト矛盾スルト云フ御考ヲ御持ニナルカ分リマセヌガ、
私ハ此際ニ於テドウシテモ政府ハ政府ノ一般政策ト、此財
界ノ危機ニ處スル應急策トハ、全然切離シテ御考ヲ願ハナ
ケレバナラヌト考ヘルノデアルガ、金利ノ引下ハ兌換劵ノ增
發ヨリ洵ニ容易ニ行ハレルモノデアリマス、而シテ財界ノ模
樣ニ依リマシテハ、是ハ何時デモ之ヲ元ノ通リ引戾スコトガ
出來ル事柄デアリマシテ、洵ニ運用ノ妙ヲ有スル作用ヲ爲ス
モノデアリマスガ、政府ハ一時之ヲ斷行ナサルト云フ御考ヲ
御持ニナラヌノデアラウカト云フコトガ、私ノ御伺シタイ第二
點デアリマス、第三ニ私ハ更ニ進ンデ政府ノ銀行監督ノ責
任ニ關シテ御伺ヲシタイ、大藏大臣ノ銀行監督ニ關スル權
能ト致シマシテハ、銀行條例ノ第八條ニ於キマシテ、極メテ
絕大ナル權限ヲ茲ニ規定ヲ致シテ居ルノデアリマス、卽チ大
藏大臣ハ自ラ其銀行及所屬ノ部下ヲシテ銀行ヲ檢査セシ
メルコトモ出來レバ、或ハ地方長官ヲシテ銀行檢査ヲスルコ
トモ出來ルノデアリマス、此結果ト致シマシテハ、若シ政府ニ
於テ不當ノ營業ヲ爲セルモノト御認メニナッタ時ニ於キマシ
テハ、何時ニ於テモ其營業ノ停止ヲ命ズルコトモ出來レバ、
或ハ營業免許ノ取消ト云フ大鐵槌ヲ下スコトモ出來得ラ
レルノデアリマス、英吉利ノ如ク社會ノ信用機關ト云フモノ
ガ完備シテ居リアシテ、會計士ナドニ依リマシテ、貸借ノ信用
ト云フモノガ正確ニ確保セラレルト云フ國柄デアリマシタラ
免ニ角、商業道德モ未ダ幼稚ノ域ニ在ル、社會信用ノ機關
ハ未ダ具備シテ居ラメト云フ我國ノ現狀ニ於キマシテ、何ト
云フテモ自由放任、無干涉主義ニ追ッ放スト云フコトハ、政
府ノ責任ヲ自覺セザルモノト私ハ斷言ヲ致スノデアリマス、
政府ハ果シテ從來ニ於テ此銀行ノ監督權ナルモノヲ遺憾ナ
ク行使シテ居ッタト云フ御考デゴザイマセウカ、是ガ私ノ第三
ニ御伺シタイ點デアリマス、或ハ之ヲ大藏大臣ノ辯明トシテ
想像致シマスルト、大藏省ノ官吏ニハ限リガアル、二千有餘
ノ全國ノ銀行ヲ此少數ノ官吏ヲ以テ檢査監督ヲスルト云
フコトハ、到底理想通リニ進ムモノデナイト云フ御辯明ガア
ルカモ分リマセヌケレドモ、私ハソレナラバ何故ニ第二次ノ監
督官トシテ、地方長官ヲ御利用ナサラヌカト云フコトヲ御追
窮申上ゲナケレバナラヌノデアリマス、今日迄ノ大藏省ノ檢
査ノ方法ニ於キマシテハ、假令檢査官ヲ今日ノ五倍
若クハ十倍ニ殖シマシタ所ガ、私ハ到底監督ノ實ヲ擧ゲル
コトハ出來ヌト考ヘル、内務大臣ニ御尋ニナレバ洵ニ分ル
事デアルマスルガ、國民ノ治安ノ局ニ御當リニナル警察官
ナル者ハ、七千万ノ個々ノ民衆ニ就テ警戒ヲ致スノデハア
リマセヌ、用意周到ナル要視察名簿ニ依ッテ、此治安ノ目的
ヲ達成致スノデアリマス、東京ノ市中ニ於ケル夜番ヤ火事
番ノ如ク、拍子木ヤ鉛ノ音ヲ以テ、泥棒ニ遁仕度ノ準備ヲ
與ヘルト云フヤウナ方法ノ監督デハナイ、極メテ祕密ノ間
ニ偵察ノ目的ヲ達成致スノデアリマス、洵ニ露骨ノ言葉ヲ
以テ中上ゲルヤウデアリマスルガ、大藏省ノ銀行檢査ナルモ
ノハ私共カラ觀マスルナラバ、宛然東京市中ニ於ケル所ノ
火事番同樣デアリマス、夜番同樣デアリマス、拍子木ヤ鈴ノ
音ニ依リマシテ、泥棒ニ遁仕度ヲサセルモノト御批評申上
ゲナケレバナラヌ、夜番ノ捕ヘタ所ノ泥棒ノ無イト同樣ニ、
今日ノ大藏省ノ檢査官ノ手ニ懸カルヤウナ銀行業者ハ
人モ無イノデアリマス、斯ク申上ゲマスレバソレハ怪シカラ
ヌ、大藏省ノ檢査モ相當ニ嚴重ニ致シテ居ル、大藏省ノ檢
査ハ前觸ニ非ズシテ、常ニ不意打ノ遣方ヲシテ居ルノデアル
ト、斯ウ御辯明ニ相成ルカモ知レマセヌケレドモ、成程大臣
ノ方ハ不意打デアルカハ分リマセヌケレドモ、銀行屋ノ方
カラ見マスレバ、全ク檢査ノ日取ナルモノハ、檢査前ヨリ明
確ニ分ッテ居ルノデアリマス、其證據ニハ檢查終了ノ當日ニ
於ケル檢査終了ノ慰勞會ノ會場ナルモノハ、檢査前ヨリチャ
ント約束ヲサレテ居ルト云フ事實ガアルト云フコトヲ傳ヘ
ル者ガアルノデアリマス、甚シキ說ヲ爲ス者ハ、檢査官ノ御
歸リニナル時ニ當ッテノ御土產ナルモノハ、既ニ檢査以前ヨ
リ其道ノ商人ニ誂ヘラレテ居ルト云フコトヲ傳ヘル者ガアル
ノデアリマス、私ハ斯ル事柄ト云フモノハ、省內ニ於ケル所ノ
綱紀〓正ノ措置トシテ、、一ツ檢査ノ日取、檢査終了ノ日ニ
於テ催サレル宴會ノ會場ノ取極ヲシタト云フ日ノ御取調
ヲ願ヒタイ、此御調査ニ依リマシテ、恐ラクハ斯ル說ヲ爲ス
者ノ言葉ト云フモノハ、必シモ齊東野人ノ言葉デナイト云
フコトヲ、御會得ニナルコトヽ私ハ考ヘルノデアリマス、更ニ
私ハ大藏省ノ檢査ノ實質ナルモノガ、如何ニ形式ニ流レテ
居ルカト云フコトヲ指摘シテ見マセウ、凡ソ人間ノ能力ニハ
限リノアルコトデアリマシテ假令眼光紙背ニ徹スル底ノ明
敏サヲ以テシマシテモ、全ク地方ノ事情ニ疎イ人ニ於キマシ
テハ、如何ニ其實績ヲ擧ゲヤウト致シマシテモ、其實績ヲ擧
ゲ得ルデアリマセウカ、例ヘバ高知商業ナルモノ、信用程度
ヲ知ラザル所ノ檢査官ガ、如何ニシテ同行ノ預金證書ナル
モノガ、是ハ幽靈ノ振出デアルト云フコトヲ看破シ得ラレル
デアリマセウカ、石井某ノ信用程度ヲ知ラザル檢査官ガ、如
何ニシテ同人ノ「カブリ」ナルモノガ-數十万圓、數百万圓
ノ「カブリ」ナルモノガ、不當ナル貸出デアルト一云フコトヲ、看
破シ得ラレルデアリマセウカ、ソレ故ニ此檢査ナルモノヲ徹
底的ニ確實ニヤラウト云フコトニナリマスレバ、ドウシテモ其
地方ノ事情ニ精通ヲシテ居ル地方長官ノ協力ト云フコト
ガ、私ハ必要ナルモノト考ヘルノデアリマスルガ、各省ノ割
據-封建時代ノ遺習デアル各省ノ割據ト致シマシテ、大
藏省ハ內務省ノ御世話ニナルコトハ甚ダ好マシカラヌト云
フヤウナ洵ニ偏狹ナ考ヲ持チマシテ、盲滅法ノ檢査ヲ彼等
ハ致スノデアリマス、斯ル事柄ハ政府ニ於カレマシテハ、今
後斷ジテ之ヲ御廓〓ナサルト云フ御意見ガ有ルカ無イカ、
是モ私ガ大藏大臣ニ責任ヲ持ッテ御答ヲ願ヒタイ一ツノ質
疑デアリマス、ツレカラ終リニ臨ミマシテ、銀行ノ合同ト云フ
御意見ニ付キマシテ、私ノ質疑ヲ向ケヤウト思フノデアリマ
ス、大藏大臣ハ昨年ノ出來事ニ御鑑ミニナリマシテ、其善
後策トシテ銀行ノ合同ト云フコトハ、ドウシテモヤラナケレバ
ナラヌト云フコトヲ御聲明ニ相成ッタノデアリマス、今更申
上ゲルマデモナイコトデアリマスルガ、基礎ノ不完全ナル銀
行ヤ信用ノ不確實ナル小銀行ガ、雜然トシテ日本全國ニ散
在シテ居ルト云フコトハ、洵ニ財界ノ安定ヲ保維スル所以
デナイト云フコトハ、是ハ何人モ一致スル所ノ意見デアリマ
ス、故ニ此大藏大臣ノ御意見ハ洵ニ結構ナル御意見トハ
拜聽致シマスルケレドモ、玆ニ相當ナル資本ヲ有シ、健全ナ
ル基礎ヲ有スル所ノ銀行モ、尙且ツ合同ト云フ御意見中
ニ包含セシムルコトデアリマシタナラバ、私共へ大ニ是ハ〓
究スベキ餘地ガアルト信ズルノデアリマス、否ナ寧ロ私
ハ是ハ現在ノ此日本ノ財界ノ實情ニ照シテ、寧口反
對ノ意見ヲ表示スルコトガ適當デアルト考ヘテ居ルノ
デアリマス、御承知ノ如ク何ノ事業ニ致シマシテモ、ソレ〓〓
歴史ト云フモノガアリ、沿革ト云フモノガアルノデアリマス、
之ヲ銀行業ニ就テ中シマスルナラバ、商業ノ種類ニ依リマ
シテ自ラ得意先ト云フモノガ分類サレテ居ル、又多年ノ取
引ニ依リマシテ、銀行業者ト得意先ナルモノハ雙方ニ於ケ
ル諒解ト云フモノガ出來テ、其諒解ノ下ニ圓滿ナル取引ト
云フモノガ行ハレテ居ルノデアリマス、ソレガ一朝五ツモ十
モ一纏メニシテ、一ツノ銀行ニシテシマフト云フコトデゴザイ
マシタナラバ、個々ノ銀行ニ對シテ諒解ヲ得テ居ッタ者モ、個
個ノ銀行ニ取引上ノ沿革ヲ有シデ居フタ者モ此總テノ今日
迄ノ取引上ニ關スル利益ト云フモノハ全ク、若クハ半以上
玆ニ犧牲ニ供シテシマハナケレバナラヌト云フ結果ヲ來スト
云フコトヲ考ヘネバナラヌ、又何レノ營業ニシマシテモ、或ル
程度ノ競爭ト云フモノガアリマシテ、~始テ其營業ノ發達及
增進改良ト云フコトガ期待シ得ラレルノデアリマシテ、是ガ
獨占事業若ハ獨占事業ニ近イヤウナモノニナルコトニナリ
マシタナラバ、恐クハデス、今ノ幼稚ノ域ニ在ル銀行業ガ、元
ノ昔ノヨリ以上ノ幼稚ノ時代ニ逆行スルコトヲ私ハ惧レル
ノデアリマス、殊ニ左ナキダニ官僚的ニ流レントスル銀行業
者ノ態度デアリマスル、之ヲ資本ニ資本ヲ加へ、合同ニ合同
ヲ加ヘテ合同ヲ致シマシ夕曉ニハ、銀行業者ノ態度ハ彌ガ
上ニモ非常ニ官僚式ニナッテ、其取引ヲスル所ノ相手方デ
アル一般ノ實業界ニ於キマシテハ、非常ナル迷感ヲ致サナ
ケレバナラヌコトニナル、ソレハ只今私ガ申述べマシタ多クノ
事柄ハ、或ハ支店若ハ出張所ノ設置ニ依シテ、多ク其弊害
ヲ緩和スルコトガ出來ルト云フ意見ヲ持ツ者モ無イ譯デハ
アリマセヌガ、實際上ノ取引ニ於テハ、出張所若ハ支店ナル
モノハ、或ル一定ノ權限ニ局限サレテ居リマス、其結果支
店若ハ出張所ノ者ト取引ヲ始メタ所デ、到底今日ノ刻一
刻ヲ爭フ、非常ニ機敏ヲ尙ブ今日ノ實業界ノ利便ニ應ズ
ベキ機能ヲ發揮セシメルコトハ、甚ダ不十分ト謂ハナケレバ
ナラヌト考ヘル、是ニ於テ私ハ大藏大臣ニ御尋致ス、大藏
大臣ノ理想トセラレル合同ナルモノハ、如何ナル範圍ニ於テ
如何ナル程度ニ於テ、之ヲ實現シテ見タイト云フ御考デア
リマセウカ、或ハ資本程度ニ依ルモノデアラウカ、或ハ信用
程度ト云フモノデアルカ、其程度ニ付テ大藏大臣ノ描カレ
テ居ルモノガアルナラバ、玆ニ明確ニ御發表ヲ顧ヒタイ、折
角財界ノ安定ヲ圖ル爲ニ此銀行ノ合同ヲ聲明サレテ、其
聲明サレタモノガ却テ財界ノ疑惧ヲ招ク一ノ結果ヲ招來
スルト云フコトデアレバ、抑〓大藏大臣ノ期待セラレル所ニ
反ク譯デアリマスカラ、一般財界ノ安定、及一般銀行業
者ノ安心スル程度ニ於テノ御意見ヲ拜聽スルコトガ出
來マスレバ、洵ニ結構ナ事デアリマス、先ヅ私ノ御尋
スル所ハ以上述ブル所ノ五點ニ止メテ置キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=51
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052・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 市來大藏大臣
〔國務大臣市來乙彥君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=52
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053・市來乙彦
○國務大臣(市來乙彥君) 森下君ノ御問ニ對シテ御答
ヲ致シマス、昨年末ニ起リマシタ財界ノ一ノ動搖、卽チ銀行
ニ對スル預金ノ取付、私ノ監督ヲ致シテ居リマス銀行ニ於
テ、或種ノ原因ノ爲ニ取付ノ災難ニ遭シタ、私ハ銀行ニ對ス
ル監督者ト致シマシテ、預金者ニ對シテ極メテ深キ同情ヲ
持チマスト共ニ、私ノ監督ノ尙ホ不行屆デアルト云フ點ニ付
テハ甚ダ恐縮シテ居ル次第デアリマス、過グル時代ノ好景氣
ノ時カラ不景氣ノ時ニ移リマス際ニハ、往々ニシテ斯ノ如キ
現象ノアルコトモ、亦已ムヲ得ナイ關係ノ無イデモナイト考
ヘマス、併ナガラ是等ハ常ニ監督ヲ十分ニ致シマシテ、之ヲ
取締ルベキコトハ勿論デアリマシテ、政府ト致シマシテハ出
來ルダケノ監督ヲ致シテ居リマス、卽チ監督ノ作用ニ依リマ
シテ、營業方法ノ改善ヲ命ジタコトモアリマス、營業ノ停止
ヲ命ジタ場合モアルノデアリマス、併ナガラ今日マデノ監督
ヲ以テ決シテ滿足致シテ居リブセヌ、不幸ニシテ森下君モ御
認ニナリマシタヤウニ、銀行ノ數ハ非常ニ多數トナリマシテ、
監督ノ吏員ト云フ者ハ比較的少數デアリマス、監督ノ不十
分デアルコトヲ常ニ感ジテ居ルノデアリマス、檢査官吏ノ充
實ノコトニモ十分努メテ居ル次第デアリマス、監督ニ際シテ
ハ地方官憲ノ共助ヲ得マシテ、地方府縣官吏ト協同シテ檢
査監督ニ從事サセテ居ル有樣デアリマス、森下君ノ仰セニ
ナリマシタ大藏省ガ内務省ノ厄介ニナルコトヲ好マナイト
云フヤウナコトハ、今日ニ於テハ既ニ無イノデアリマス、併ナ
ガラ將來ニ於テハ、尙ホ一層内務省地方官吏ノ共助ヲ要ス
ルコトガ深クナケレバナラヌコトヽ考ヘテ居リマス、昨年末銀
行ノ取付ガ各地ニ起リマシタニ付テハ、應急ノ方法トシテ
相當ノ事ヲ試ミマシタ、卽チ森下君モ御認ニナリマスヤウニ、
日本銀行ヲシテ援助セシメマス爲ニ、比較的多額ノ兌換劵
ノ發行ヲ致シマシタ、特殊銀行ヲシテ肩代リヲ致サセマシテ、
取付ニ遭ヒマシタ銀行ノ負擔ヲ輕ク致シマシテ、預金ノ拂
出ニ便利ヲ與ヘルト云フ方法モ採ッタノデアリマス、又有力
ナル銀行ヲシテ、有力デナイ銀行ニ對スル援助ヲ爲サシメル
コトモ試ミタノデアリマス、免ニ角應急ノ方法トシテ出來ル
ダケノ手續ヲ盡シタト考ヘマス、尚ホ今後ノ檢査ノ關係ニ付
テハ、吏員ノ充實ヲ圖ルコトモ一ノ方法デアリマセウ、尙ホ
從來ヨリモット立入リマシテ、檢査ヲ深ク致スコトモ一ノ方
法デアリマセウ、若シ森下君ノ御話ニナリマシタヤウナ、檢査
官ノ檢査ガ形式ニ流レテ居ルヤウナ點ガアリト致シマスレ
バ、是ハ無論相當ニ改善ヲ致ス積リデアリマス、唯"檢査官
吏ト檢査ヲ受ケマス銀行トノ間ニ、何等カ面白クナイ關係
モアルヤウナ御話モアリマシタガ、私ノ今日マデ見テ居リマス
所デハ、左樣ナ事ガアルヤウニハ思ヒマセヌ、併ナガラ私ノ注
目ノ足リマセヌ點ニ於テ若シ左樣ナ事ガアリマスナラバ、是
ハ嚴重ニ取締ル考デアリマス、尙ホ財界ニ對スル應急ノ緩
和ノ方法ト致シマシテ、金利ヲ引下ゲル必要ガアルト云フ御
意見デアリマシタガ、金利引下ニ付テハ尙ホ多少攻究ヲ要
スルコトヽ考ヘマス、金利ヲ引上ゲマスコトハ是ハ一ノ政策
トシテ、人爲的ニ實行ヲ擧ゲ得ル關係ノモノト思ヒマスガ
金利ヲ引下ゲルコトハ、是ハ自然ノ經濟狀勢ニ基カナケレバ
ナラヌコトデアリマシテ假令無理ニ金利ヲ引上ゲテ見テモ、
融通サルベキ資金ト云フモノガ其所ニアリマセヌケレバ、到
底實效ハ擧ラヌモノデアルト考ヘマス、此理由ニ依ッテ、先ヅ
以テ今日ノ經濟狀態カラ事業家、銀行家ヲシテ、整理ノ停
滯シテ居ルモノヲ整理サスノガ急務ト考ヘマス、是ハ常ニ督
勵ヲ加ヘテ居リマス、財界ノ整理ガ一應出來マスレバ、所謂
金融ガ圓滿ニナルト云フ傾キヲ生ジテ參リマスノデ、是ニ於
テ始メテ金利ノ引下ト云フコトガ成功スルモノデアラウト考
ヘマス、金利ノ引下ヲ致シマス間ニハ、今少シク猶豫ガアラウ
ト考ヘテ居リマス、尙ホ銀行ノ合同ガ財界ニ對スル救濟策
ノ有力ナモノデアルト考ヘテ居リマス、其外增資ヲ致シマス
コト。尚ホ預金支拂ノ準備ヲ拵ヘルコト、其他種々ノ將來ニ
對スル方策ハ自ラアルコトヽ考ヘマス、是ハ一應ノ〓究ヲ遂
ゲマシテ實行致ス考ヘデアリマス銀行ノ合同ニ付キマシテ森
下君ノ種々ノ御心配ノアルコトヲ拜察致シマス、銀行ノ合
同ガ必要デアルト考ヘル所以ハ、殊ニ預金ノ取付ノ狀態ヲ
見テ明カデアリマスガ、資力ガ少クテ信用ノ薄弱ナル銀行ニ
於テ最モ必要ヲ感ズルノデアリマス、旣ニ小銀行ガ合同ヲ致
シタト致シマシテ、其信用ヲ增シ、資力ヲ增スコトニ相成リ
マスレバ、自然ト取付ナドト云フ事ガ起ラヌ筈デアルノデア
リマス、此等ノ關係カラ致シマシテ、主トシテ資力信用ノ乏
シイ銀行ノ合同ヲ致スコトガ最モ必要デアラウト考ヘマス、
大キナ銀行ノ合同ニ至リマシテハ、是ハ其銀行ノ種類ニ依
リ、立場ニ依リ、營業ノ方法ニ依ルベキコトデゴザイマシテ、
森下君ノ御心配ニナリマスヤウナ、強テ合同セシメテ、却テ
得意關係ニ損害ヲ及ボシマスルトカ、其他事業ノ經營ヲ却
テ不安ニ陷レシメルトカ云フコトハ、固ヨリ私ノ望ム所デハ
ナイノデゴザイマス、其點ニ付キマシテハ十分ニ私ノ考ヲ御
諒承下サイマシテ、一般ニ斯ル心配ノナカランコトヲ希望致
シマスル次第デゴザイマス、尙ホ銀行ノ合同ノ標準ニ付テハ、
是ハ具體的ニ一定ノ方針ヲ示スコトハ、甚ダ困難デゴザイマ
シテ、時ト場合ニ依リ、又銀行ノ種類ニ依リ之ヲ實行シ、又
之ヲ勸奬スル外ナイト考ヘマス、幸ニ近來小銀行ノ人々ガ
合同ヲ望ム機運ガ非常ニ熟シテ參リマシタ、私ハ此機運ニ
際會致シマシテ、是非ソレ等ノ希望ノ有リマスル人々ノ希望
ヲ滿足セシメ、同時ニ資力信用ノ薄イ銀行ノ合同ヲ成功致
シマシテ、財界ニ安定ヲ與ヘル一助ト致シタイト云フコトヲ
希望致シテ居リマス次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=53
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054・岩崎勲
○岩崎勳君 國務大臣ノ演說ニ對スル質疑ハ本日モ此
程度ニ止メ、次ノ本會ノ日程議了後ニ更ニ繼續セラレンコ
トヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=54
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055・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニハ御異議ナシ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス、次會ノ日程ハ追テ公
報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是ニテ散會
午後五時二十三分散會
衆議院議事速記錄第五號中正誤
頁段行誤正
二二許可ヲ得テ、此所ニ許可ヲ得テ、速記
四九中錄ニ添ヘ此所ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00519230125&spkNum=55
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