1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十二年二月一日(木曜日)午後一時十四分開議
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議事日程 第六號 大正十二年二月一日
午後一時開議
第一 市町村義務教育費國庫負擔法改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 職業紹介法中改正法律案(安達謙藏君外六名提出) 第一讀會
第四 失業保險法案(安達謙藏君外六名提出) 第一讀會
第五 勞働組合法案(安達謙藏君外六名提出) 第一讀會
第六 身元保證に關する法律案(上畠益三郎君提出) 第一讀會
第七 所得税法中改正法律案(岩本平藏君外六名提出) 第一讀會
第八 社寺現境内地無償下付に關する法律案(鵜澤總明君外二名提出) 第一讀會
第九 民事訴訟法中改正法律案(大道寺慶男君提出) 第一讀會
第十 柳津小出間及只見古町間鐵道速成に關する建議案(中野寅吉君外三名提出)
第十一 電信線電話線建設條例第六條に依る手當金増額に關する建議案(木下甚三郎君提出)
第十二 自由港設置に關する建議案(野田文一郎君外四名提出)
第十三 舞鶴軍港廢止に伴ふ地方善後に關する建議案(大島實太郎君外二名提出)
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一 國務大臣の演説に對する質疑 (前會の續)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=0
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001・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 諸君、今日ハ議長ハ缺席セラレ
マシタカラ、私ガ代理ヲ致シマス-諸般ノ報告ガアリマス
〔原田書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
大學特別會計法中改正法律案
大正八年法律第十二號中改正法律案
(以上二月一日提出)
-議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
治安警察法中改正法律案
提出者砂田重政君
勞働組合法案
提出者板野友造君
(以上一月三十一日提出)
市町村ニ對シ補助金交付ニ關スル建議案
提出者納富陳平君
(以上一月二十九日提出)
小松島後免問鐡道速成ニ關スル建議案
提出者淺石惠八君竹內明太郞君
國澤新兵衞君岡順次君
坂本素魯哉君海原〓平君
水野吉太郞君
土山三田間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者多木久米次郞君廣岡宇一郞君
木下甚三郞君松山常次郞君
第六回内國勸業博覽會開催ニ關スル建議案
提出者加藤重三郞君下出民義君
三輪市太郞君山本〓三郞君
齊藤鷲太郞君舞田壽三郞君
吉原祐太郎君〓水市太郞君
加藤紋右衞門君瀧正雄君
毛織物ノ關稅免除ニ關スル建議案
提出者多木久米次郞君
食糧充實ニ關スル〓建議案
提出者多木久米次郞君
高砂港修築ニ關スル建議案
提出者多木久米次郞君改野耕三君
廣岡宇一郞君
郡ノ併合ニ關スル建議案
提出者多木久米次郞君改野耕三君
廣岡宇一郞君
動章年金增額ニ關スル建議案
提出者根本正君森恪君
上埜安太郞君白井博之君
木下成太郞君高見之通君
日本アルプス山中高地(神河內)ニ國立公園設定ニ關
スル建議案
提出者塚原嘉藤君春日俊文君
花岡次郞君小坂順造君
佐藤寅太郞君小田切磐太郞君
牧野良三君
日露通商開始促進ニ關スル建議案
提出者望月小太郞君
農村振興ニ關スル建議案
提出者安達謙藏君關和知君
賴母木桂吉君田中善立君
三木武吉君
牧野法制定ニ關スル建議案
提出者吉良元夫君
(以上一月三十日提出)
農村振興ニ關スル建議案
提出者床次竹二郞君小川平吉君
川原茂輔君武藤金吉君
中西六三郞君橫田千之助君
高橋光威君三土忠造君
井上敬之助君島田俊雄君
熊谷直太君望月圭介君
行政及稅制ノ整理ニ關スル建議案
提出者床次竹二郞君小川平吉君
川原茂輔君武藤金吉君
中西六三郞君橫田千之助君
高橋光威君三土忠造君
井上敬之助君島田俊雄君
熊谷直太君望月圭介君
(以上一月三十一日提出)
岐阜地方及區裁判所移轉改築ニ關スル建議案
提出者山田永俊君大道寺慶男君
牧野良三君
入學難緩和ニ關スル建議案
提出者荒川五郞君高田耘平君
樋口秀雄君田中武雄君
小野重行君
(以上二月一日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
勸銀割增金ニ關スル質問主意書
提出者佐々木千秀君
(以上一月三十日提出)
一去三十日內閣總理大臣ヨリ左ノ通リ發令アリタル旨
ノ通牒ヲ受領セリ
文部書記官伊藤仁吉
文部省所管事務政府委員被仰付
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲玆ニ揭載
ス〕
一昨三十一日衆議院規則第十五條但書ニ依リ議長ニ
於テ議席ヲ左ノ如ク變更セリ
三五七田川平三郞君三七〇田中善立君
三七一關和知君四三四中原德太郞君
四四九鈴置倉次郞君四五七小泉又次郞君
四五八小山松壽君四五九望月小太郎君
一今一日衆議院規則第十五條但書ニ依リ議長ニ於テ
議席ヲ左ノ如ク變更セリ
一四六舞田壽三郞君二三六松實喜代太君
三一九鶴見孝太郞君三二四田川平三郞君
三五七川副綱隆君
去三十日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如シ
朝鮮事業公債法中改正法律案外二件
小山田信藏君吉野小一郞君宇野勇作君
河崎〓君安原仁兵衞君松山常次郞君
坂本素魯哉君有馬秀雄君岩切重雄君
齋藤鷲太郞君鈴木巖君加藤定吉君
一柳仲次郞君古賀三千人君淺賀長兵衞君
土井權大君鈴木久次郞君木村權右衞門君
一去三十日委員長理事互選ノ結果左ノ如シ
朝鮮事業公債法中改正法律案外二件
坂本素魯哉君
委員長小山田信藏君理事加藤定吉君
土井權大君
一昨三十一日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ如シ
第二部選出豫算委員鈴木義隆君(山本悌二郞君
補闕)
第六部選出豫算委員早速整爾君(望月小太郞君
補闕)
一今一日朝鮮事業公債法中改正法律案外二件委員
岩切重雄君辭任ニ付其ノ補闕トシテ牧山耕藏君ヲ
議長ニ於テ選定セリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=1
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002・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、日程第
一市町村義務〓育費國庫負擔法改正法律案ノ第一讀
會ヲ開キマス
第一市町村義務〓育費國庫負擔法改正
法律案(政府提出)第一讀會
市町村義務〓育費國庫負擔法改正法律案
市町村義務〓育費國庫負擔法
第一條市町村立尋常小學校〓員ノ俸給ニ要スル經
費ノ一部ハ國庫之ヲ負擔ス
第二條前條ノ規定ニ依リ國庫ノ負擔トシテ支出スヘ
キ金額ハ每年度四千万圓ヲ下ラサルモノトス
第三條國庫支出金ハ第五條ノ交付金額ヲ除キ其ノ
三分ノ二八市町村ニ、三分ノ一ハ第四條ノ交付金額
ヲ除キ町村ニ、各其ノ半額ヲ前年六月一日ニ於ケル市
町村立尋常小學校ノ〓員數ニ、他ノ半額ヲ前年六
月一日ニ於ケル市町村ノ就學兒童數ニ比例シテ交付
ス
第四條政府ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ資力其ノ他ノ事
情ニ依リ必要アリト認メタル市ニ對シ前條ノ規定ニ依
リ當該市ノ受クル金額ノ二分ノ一ヲ超エサル範圍內
ニ於テ特ニ交付金額ヲ增加スルコトヲ得
前項ノ增加交付金ノ總額ハ前條ノ規定ニ依リ市ニ交
付スル金額ノ十五分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス
第五條政府ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ資力其ノ他ノ事
情ニ依リ必要アリト認メタル町村ニ對シ國庫支出金
ノ十分ノ一ヲ超エサル範圍內ニ於テ特ニ交付金額ヲ
增加スルコトヲ得
第六條本法ニ定ムル市町村立尋常小學校〓員中ニ
算入スヘキ代用〓員ノ範圍ハ文部大臣之ヲ定ム
第七條本法ノ適用ニ付テハ市町村組合ハ之ヲ市、町
村組合及町村制ヲ施行セサル地域ニ於ケル町村ニ準
スヘキ公共團體、其ノ組合又ハ小學校設置區域ハ之ヲ
町村ト看做ス
本法ノ適用ニ付テハ市町村立尋常高等小學校ニ於
テ尋常小學校ノ〓科ヲ授クヘキ部分ハ之ヲ市町村立
尋常小學校ト看做ス
附則
本法ハ大正十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=2
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003・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鎌田文部大臣
〔國務大臣鎌田榮吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=3
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004・鎌田榮吉
○國務大臣(鎌田榮吉君) 市町村義務〓育費國庫負擔
法改正法律案ヲ提出致シマシタ、是ハ御承知ノ如ク從來
小學校〓員ノ俸給ニ充ツル爲ニ、每年國庫ヨリ一千万圓ヲ
支出シテ參ッタノデアリマス、此小學校〓育費ノ段々增加ヲ致
シマシテ、近來非常ナル激增ヲ致シテ居リマス、又市町村經
濟ノ狀態ヲ顧ミマスト、國庫負擔金ノ增額ヲ致スト云フコ
トガ非常ナ必要ナコトヽ認メマス、大正十二年度豫算ニハ
四千万圓ヲ計上致シマシタ、卽チ三千万圓ノ增額ニナリマ
ス、又國庫支出金ノ配當方法ニ付キマシテモ、過去數年間
ニ於ケル施行ノ實績ニ顧ミ、市町村ノ實情ニ鑑ミマスルト、
之ヲ幾分カ改正スル必要ガアルト認メマスノデ、玆ニ市町村
義務〓育費國庫負擔法改正法律案ヲ提出致シマシタノデ
アリマス、何卒御審議ノ上御協賛アランコトヲ望ミマス、(拍
き、発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=4
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005・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 質疑ノ通告ガアリマス、高田耕
平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=5
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006・山本悌二郎
○山本悌二郞君 是ヨリ稅制ノ委員會ヲ開キタウ存ジマ
ス御許可ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=6
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007・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=7
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008・山本悌二郎
○山本悌二郞君 委員諸君ハ、ドウカ委員室ニ御參集ヲ
請ヒマス
〔高田耕平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=8
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009・高田耘平
○高田耕平君 只今ノ法律案ニ付キマシテ、三點バカリ政
府ノ所見ヲ伺ヒタイト田心フノデアリマス、義務〓育費國庫
負擔金增加ノ問題ガ、輿論ノ要望スル所、政府ガ之ヲ容レ
マシテ法律案ヲ改正シ、尙ホ三千万圓增額スル豫算ヲ提案
ニナリマシタコトハ、私ハ此點ニ付テ文部當局ノ御心勞ニ對
シテ深ク敬意ヲ表スルニ吝ナラヌ者デアリマス、而シテ伺ヒタ
イ要點ハ、第一政府ハ此三千万圓增加シタル卽チ四千万
圓ヲ以テ、此負擔金增加ノ打切トナスモノデアルヤ否ヤ、斯
ウ云フコトガ第一デアリマス、申ス迄モナク本法制定ノ當時
ノ趣旨ニ依リマシテハ、義務〓育費國庫負擔法ハ、義務〓
育ニ從事スル小學校〓員ノ俸給ノ半額迄ニ達セシムルト云
フコトガ、其法律ノ大體ノ趣意デアリマシタ、半額ニ達セシム
ルトスレバ、現在ノ義務〓〓費ニ屬スル小學校〓員ノ俸給
人 野2一億一千万圓ニ近キコトヽ信ズルノデアリマス、サウ
スレバ其半額ヲ支出スルト致シマシテモ、尙ホ約千五百万圓
許リノ支出ヲシナケレバ、本法制定當時ノ趣旨ニ適ハナイノ
デゴザイマス、故ニ私ハ此四千万圓ヲ以テ滿足セズシテ、更
ニヨリ多タ、少タトモ一千五百方圓ダケノ增額ヲ、義務〓育
ノ支出ニ向ッテ爲スコトガ當然デアルト思フノデアリマスガ、
政府ハ之ニ對シテ如何ナル御考ヲ持ノテ居ルカ、之ヲ以テ打
切トスルノ意思ナリヤ、尙ホ是レ以上進ンデ增加スルノ意思
ナリヤ否ヤト云フコトヲ、第一ニ御伺シタイノデアリマス、第
二ハ地租及營業稅ヲ地方ノ財源ニ委譲スル、斯ウ云フ事
柄ニ依フテ生ズル疑問デアリマス、勿論政府ガ地租及營業
稅ヲ委讓スルト云フコトニ付テハ、或ル程度ノ御調ガアルヤ
否ヤ、疑問デアリマス、何トナレバ昨日貴族院ニテ阪谷議員
ノ質問ニ對シテ、加藤首相ハ地租ヲ委讓スルトカ云フコトニ
付テハ、未ダ政黨ノ何者トエ何等ノ交涉モ無イ、又委譲スル
ト云フヤウナル場合ニナッテ、ドウスルカト云フコトニ付テモ、
何等ノ〓究ガ無イト云フコトヲ、貴族院ニ於テ答ヘテアリマ
スルカラ、無論政府ハ此點ニ付テ御意見ガ決マッテ居ラヌヤ
ウニモ思ヒマス、併ナガラ一方今日ノ都下ノ各新聞紙ヲ見
マスレバ、其新聞紙ノ中ニ、政友會ノ諸君ガ御提案ニナリマ
シタル稅制及行政整理ノ建議案ノ事ニ付キマシテ、政友會
ノ代議士會ニ於テ而モ床次君ガ、政府ト此地租委譲ノ問
題ニ付テ交涉ヲ遂ゲタノデアル、而シテ政府モ之ニ對シテ大
體ニ於テ贊成シテ居ルノデアル、斯ウ云フコトガ都下ノ新聞
ニ、殆ド新聞全體ガ傳へテ居ルノデゴザイマス、サウスレバ是
ハ間違ッタコトデナイヤウニ思フ床次君ガ政友會ノ代議士
總會ニ言ヒシ事ガ眞ナリヤ、或ハ貴族院ニ於テ加藤總理
大臣ガ何等交涉セシ事ナシト云フコトガ眞ナルヤ、其何レヲ
採ルカト云フコトハ私分リマセヌガ、私ハ此際免ニ角モ四圍
ノ事情ヨリシテ、政友會ト現内閣トノ關係ヨリシテ、何等カ
ノ其間ニ於テ一點ノ諒解ガアッタノデハナイカト疑フノデアリ
マス、故ニ若シ總理大臣ガ昨日貴族院ノ議場ニ於テ、阪谷
議員ノ質問ニ對シテ御答辯アリシ如ク、政友會トモ其他ノ
各政黨トモ地租委譲等ニ付テ何等ノ御話ガ無イト致シマ
スレバ。是ハ或ハ私ノ質問ガ無益ニナルカ知レマセヌガ、四圍
ノ情勢ヨリ多少ノ御諒解ガアッタニアラズヤト思フノデアリマ
ス、サウスレバソコデ起ル疑問ハ、若シ地租及營業稅ヲ地方
稅ニ委讓スルト云フ場合ニ於キマシテ、此義務〓育費國庫
負擔法ヲ廢止シ、或ハ之ヲ或ル程度ニ減額スルニアラズヤト
ノ疑問ガアルノデゴザイマス、シレハ都下ノ或ル新聞モ政府
當局者ガ、政友會ノ地和委譲ニ依ッテ大藏當局ガ四苦八
苦ノ最中デアッテ、其財源ヲ得ル爲ニハ義務〓育費國庫負
擔法ヲ廢止スレバ四千万圓ノ金ガ出來ルカラ、之ニ依シテヤ
ルト云フヤウナル意〓ガアルト云フヤウナル事ガ、都下ノ二
三ノ新聞ニ傳ヘラレテ居ルノデゴザイマス、加之義務〓育費
國庫負擔金增加ノ問題ニ付テ、全國ノ〓育社會ヲ代表シ
テ、最モ熱心ニ數年間連續的ニ努力奮闘致シマシタル帝國
聯合〓育會モ、何ニ見ル所アッテカ一種ノ聲明書ヲ發シタノ
デゴザイマス、其聲明書ナルモノハ、世間或ハ地租委譲等ニ
依クテ此義務〓育費國庫負擔金增加ヲ、或ハ阻止スルヤウ
ニ誤解スル人ガアルガ、帝國聯合〓吉會トシテハ、飽迄
モ義務〓育費國庫負擔金增加ノ問題ニ向ッテ突進スルモ
ノデアルト云フ聲明書ヲ發シテ居ルノデゴザイマス、此聲明
書ハ何ヲ語ルモノデアルカト云ヘバ、帝國〓育聯合會ノ人
モ、世聞ノ或ル一部ノ人とモ、地租或ハ營業稅ノ委譲ニ依
リマシテ、地方ニ財源ヲ移スト同時ニ、此義務〓百費國庫
負擔金增加-否此法律ヲ廢止シ、或ハ減額スルニアラズ
ヤトノ疑ヲ持ッテ居ルコトヲ表明スルモノデアラウト思フノデ
アリマス、義務〓育費國庫負擔法ノ趣旨ハ、申ス迄モナク
地方ノ疲弊困憊シタル町村ノ財政ヲ緩和スルト云フコトモ
一ツノ趣意デアリマシタケレドモ、吾々ハ寧ロソレ以上ニ國
民〓育ノ普遍的振典ヲ圖ルト云フコトニ在ッタノデアリマ
ス、卽チ假令地方ニ地租或ハ營業稅ナル財源ヲ自治體ニ與
ヘマシテモ、地方ノ町村ノ資力ニハ非常ナル差ガアルノデアリ
マス、卽チ何万ト云フ地租ヲ納ムル村モアリ、或ハ殆ド一錢
一厘モ地租ヲ納メナイヤウナ村モアルノデゴザイマス、故ニ義
務〓育費國庫負擔法制定ノ趣意ハ、自治體ノ負擔ヲ緩和
スルト同時ニ、國民〓育ノ普遍的振興ヲ圖ルト云フコトガ
寧口主題デアリマシタ故ニ、吾々ハ假令如何ナル場合ガアッテ
モ、地租營業稅ヲ地方稅ニ委譲スルト云フ場合ガ起ッテモ、
此義務〓育費國庫負擔金ハ、假令增加スルトモ之ヲ減額
スベキモノニアラズト信ジマスルケレドモ、政府ハ若シ地租
或ハ營業稅ヲ地方稅ニ委讓スル場合ニ於テモ、吾々
ト同一ナル所見ヲ取ッテ、此法律ハ無論廢止セズ、
尙ホ增額スルノ方法ヲ執ルベキモノト信ジマスガ、之ニ對ス
ル政府ノ所見如何、第三ハ配當方法ニ關スル事デアリマス、
金額ノ增加スルニ付キマシテ、配當方法モ餘程意ヲ用ヒナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、本案ヲ見マスルト、政府モ此
所ニ意ヲ用ヒマシテ、元ハ市町村ヲ同一ニシ、尙ホ資力薄弱
ナル町村ニ向ッテハ特別ナル支給ヲスルコトデアリマシタノ
ヲ、市ト町村トヲ區別シ、尙ホ市モ之ヲ區別シ、更ニ資力薄
弱ナル町村ニモ特別ナル待遇ヲスルト云フコトデゴザイマス
ルカラ、大分配當ノ細カニナッタニ付キマシテハ、私共非常ニ
喜ブ者デアリマス、併ナガラ資力薄弱ト云フ中ニモ、又色々
アルノデゴザイマス、卽チ前申上ゲマシタ通リ、山間僻地ノ村
落ニ於キマシテハ、此殆ド全部ガ國有林デアルガ爲ニ、地租
モ無シ、營業稅モ無イト云フコトデアル、是等ノ村落ニ向ッテ
ハ、同ジ資力薄弱ナル町村デモ、他ノ資力薄弱ナル町村トノ
區別ハ、之ヲ如何ナル方法ニ於テ區別スルトモ、資力薄弱
ナル町村ヲ二種ナリ、三種ナリニ區別シテ、此配當金ヲ分ツ
必要ガアラウト思フノデアリマス、是ハ勿論勅令ノ力ニ依ル
コトガ出來ルモノデアリマスケレドモ、政府ハ此配當方法ニ
付テハ、私共ノ意見ヲ容レテ、私共ノ希望ノ通リ、何トカ最
モ資力薄弱ナル町村ニ、最モ多クノ金額ヲ補助スルノ方法
ヲ講ズルヤ否ヤト云フコトヲ伺セタイト思フノデアリマス、以
上三點極メテ簡單ニ中上ゲタ次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=9
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010・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鎌田文部大臣
〔國務大臣鎌田榮吉君登壇】発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=10
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011・鎌田榮吉
○國務大臣(鎌田榮吉君) 高田君ノ御質問ニ御答ヲ致
シマス、第一ノ四千万園ニテ打切ルヤ否ヤ、此御問ニ對シテ
ハ斯ク御答スル外ハアリマセヌ、今回三千万圓ヲ增額致ス
ト云フコトハ、財政ノ許ス限リノ極度デアリマシテ、是ヨリ以
上ニ現狀ニ於テハ何等ノ增額ヲ致スベキ今ハ望ミハナイ、併ナ
ガラ是ガ永遠ニ四千万圓ニ止マルト云フ決シテ譯デハナイ
ノデアリマス、左樣御承知ヲ願ヒマス、地租委譲ト此負擔法ト
ノ關係ニ付キマシテモ、御質問ガゴザイマシタガ、是ハ全ク別
ノ事デアリマス、國庫負擔法ハ負擔法、又此地租ノ事ハ地
租ノ事デアリマシテ、委譲云々ノ事ハ何等マダ具體的ノ事
デハアリマセヌカラ、ソレヲ少シモ考慮ノ中ニ入レテ居リマセ
ヌカラシテ、此負擔法ハ負擔法トシテ御決議下サッタナラバ
宜イノデアリマス、又配當方法ニ付キマシテ、此所謂資力ノ乏
シイ町村ト云フモノヲ特別ニ優遇シテ居ルガ、此資力薄弱
ナリト稱スル中ニモ、色々段階ガアル、之ニ就テハ其配當法
ニ又段階ガアルヤ否ヤト云フ御問デアリマシタガ、是ハ御間
ノ精神ト同樣ニ政府ハ取扱フ積リデアリマスカラ、凡テ三等
乃至六等位ニ何レ分ケルコトガ、物令ニ依ッテヾモ定メラレ
ルデアラウト思ヒマス、ンレダケノ事ヲ申上ゲテ置キマス(拍
手ノ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=11
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012・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 日程第二、右議案ノ審査ヲ付
託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=12
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013・高見之通
○高見之通君 委員ノ數ハ特ニ十八名トシ、議長ニ於テ
指名セラレンコトヲ希望致シマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=13
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014・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議ナイ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス、日程第三乃至第五
ハ、關聯セル議案デアリマスカラ、便宜上一括議題ト爲スニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=14
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015・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、日程第
三、職業紹介法中改正法律案、日程第四、失業保險法
案、日程第五、勞働組合法案、右三案ヲ一括シテ議題ト致
シマス、此提出者ノ說明ヲ求メマス、野田文一郞君
第三職業紹介法中改正法律案(安達謙
藏君外六名提出)第一讀曾
職業紹介法中改正法律案
職業紹介法中左ノ通改正ス
第六條ノ二職業紹介所カ失業保險組合ヨリ失業ニ
關スル事項ニ關シ共助ヲ求メラレタルトキハ之ヲ拒ム
コトヲ得ス
前項ノ事務ノ遂行ニ付經費ヲ要スルトキハ職業紹介
所ノ負擔トス
第十條中「二分ノ一」ヲ「三分ノ二」ニ改ム
附則
本法ハ失業保險法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス
第四失業保險法案(安達謙藏君外六名
提出)第一讀會
失業保險法案
失業保險法
第一章總則
第一條政府ハ一定ノ事業ノ經營ニ當ル傭主及職工ヲ
シテ一定ノ地域ニ依リ失業保險ノ爲失業保險組合ヲ
設ケシムルコトヲ得
前項ノ組合成立シタルトキハ當該地域内ニ於ケル傭
主及職工ハ組合ニ加入スルコトヲ要ス政府ハ一地域
內ニ數箇ノ組合ヲ設立セシムルコトヲ得
第一項ノ事業及地域ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
前項ニ依リ勅令ヲ以テ指定セラレタル事業ニ從事スル
職業ハ之ヲ保險職業トス
第二條失業保險ニ於テハ失業保險組合カ職工ノ失
業ニ關シ保險給付ヲ爲シ之カ對償トシテ國家、傭主
及被保險者ヨリ保險料ヲ徴收スルモノトス
第三條失業保險ノ保險給付及保險料ハ被保險者ノ
基本給料ニ依リ之ヲロ里定ス
第四條被保險者ノ基本給料及保險料ニ關シテハ勅
令ヲ以テ之ヲ定ム但シ被保險者ノ負擔スヘキ保險料
ノ額ハ基本給料ノ千分ノ十五ヲ超ユルコトヲ得ス
第五條失業保險ニ關スル爭議事項ハ司法栽判所ノ
管轄トス
第六條失業保險ニ關スル書類ニハ印紙稅ヲ課セス
保險給付ハ租稅其ノ他ノ公課ノ目的ト爲スコトヲ得
ス
第七條失業保險ノ事務ニ關スル郵便物ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ無料ト爲スコトヲ得
第二章保險範圍
第八條傭主ヨリ報償ヲ受ケテ指定セラレタル事業ニ
從事スル左記ノ者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ從業ノ時
ヨリ失業保險ノ被保險者タルモノトス
一職工、傭人
二平務員及技術員
公吏及官公署雇員、傭人其ノ他國家又ハ公共〓體
ノ業務ニ從事スル者ニ付テハ國家又ハ公共〓體ヲ以
テ傭主ト看做ス
傭主ヨリ受クル報償ハ体給又ハ給料ノ外被保險者カ
其ノ代用トシテ受クル利益配當、現品給與其ノ他ノ
給與ヲ總稱ス
前項ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第九條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ組合ニ加入スル
コトヲ得ス
-年齡十六年以下ノ者及見習職工
二年齡六十年以上ノ者
第十條第八條第一項第二號ニ揭ケタル者ニ於テハ其
ノ受クル報償カ一年ノ所得額千二百圓以下ナルコト
ヲルヲ
第十一條被保險者カ任意ニ保險職業ヲ去リタルトキ
又ハ前條ノ制限ヲ超過スル報償ヲ受クルニ至リタルト
キハ被保險者タル資格ヲ失フ
第十二條被保險者タルヘキ義務アル者ノ從業ノ開始
又ハ終了、取得ノ變更其ノ他失業保險ニ關シ必要ナ
ル事項ハ命令ノ定ムル所ニ依リ傭主ヨリ組合ニ報告
スヘシ
第三章失業保險組合
第十三條政府カ失業保險組合ノ設立ヲ命シタル場
合ニ於テハ關係者ハ規約ヲ作成シ主務大臣ノ認可ヲ
受クヘシ
組合ハ前項ノ認可ニ依リ成立ス
規約ヲ變更セムトスルトキハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘ
シ
第十四條失業保險組合ハ法人トス
第十五條組合成立シタルトキハ主務大臣ハ遲滯ナク
組合設立ノ旨ヲ告示スルコトヲ要ス
組合ハ其ノ告示アル迄其ノ成立ヲ以テ第三者ニ對抗
スルコトヲ得ス
第十六條規約ニハ左ニ揭クル事項ヲ規定スルコトヲ
要ス
-組合ノ目的
二組合ノ地區
三組合ノ資格、其ノ加入脫退ニ關スル規定
四基本給料ノ等級
五保險料ノ比率
保險料徵收ノ方法
七六
保險給付支給ノ方法
八組合ノ會議及役員ニ關スル規定
九其ノ他勅令ヲ以テ定メタル事項
第十七條組合業務ノ管理ハ政府、傭主、被保險者各
同數ノ理事ヲ選任シ之ヲ爲サシムルモノトス
理事長ハ政府選任ノ理事ノ內ヨリ主務大臣之ヲ命ス
第十八條主務大臣ハ何時ニテモ組合ノ事業ニ關スル
報告ヲ徵シ事業ニ付認可ヲ受ケシメ事業及財產ノ狀
況ヲ檢査シ現約ノ變更ヲ命シ其ノ他監督上必要ナル
命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第十九條組合ノ役員ニ故障アルトキ又ハ組合ノ役員
其ノ執行スヘキ職務ヲ執行セサルトキハ監督官廳ハ官
吏又ハ其ノ選任シタル者ヲシテ其ノ職務ヲ管掌セシム
ルコトヲ得但シ其ノ費用ハ組合ノ負擔トス
第二十條組合ノ事業若ハ組合財產ノ狀況ニ依リ其
ノ事業ノ繼續ヲ困難ナリト認ムルトキ又ハ組合ノ決議
若ハ役員ノ行爲ニシテ法令、主務大臣ノ命令若ハ規
約ニ違反シ又ハ組合員ノ利益ヲ害シ若ハ害スルノ虞
アリト認ムルトキハ主務大臣ハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ
得
一決議ノ取消
二役員ノ解職
三組合ノ解散
第二十一條前條ニ依リ解散セラレタル組合ノ權利義
務ハ政府之ヲ承繼ス
前項ニ依リ政府カ承繼シタル場合ニ關シ必要ナル規
定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二條組合ノ設立、廢止、分合及之ニ要スル要
件、手續竝組合加入ノ要件、手續其ノ他組合ニ關シ
必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四章保險給付
第二十三條被保險者其ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ
因リ保險職業ヲ去リタルトキハ組合ヨリ保險給付ヲ
受クルコトヲ得
第二十四條保險給付ノ支給ハ失業後第十六日目ヨ
リ開始シ開始後一年ヲ以テ終了ス
第二十五條保險給付ノ額ハ被保險者失業當時ノ基
本給料ノ二分ノ一乃至三分ノ二ノ範圍ニ於テ勅令
ニ依リ之ヲ定ム
第二十六條組合ハ前條ノ給付ニ代ヘ住宅其ノ他現
品ヲ貸與又ハ給付スルコトヲ得
代用給付ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十七條左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニハ保險給
付ヲ爲サス
疾病保險法、工場法又ハ鑛業法ニ依リ保險給
付又ハ扶助ヲ受クル期間
二陸海軍ニ召集セラレタル者
三自己ノ便宜ニ依リ保險職業ヲ去リタル者
四不當ナル勞働爭議ニ加ハリ因テ失業シタル者
五禁錮以上ノ刑ニ處セラレ依テ刑ノ執行ヲ受クル
ニ至リタル者
六本法施行地外ニ其ノ住所ヲ移シタルトキ
七公費ノ救助ヲ受クルニ至リタルトキ
八感化院ニ收容セラレタルトキ
第二十八條失業シタル被保險者ニシテ本人ノ技能ニ
適當シタル職業ヲ紹介セラレ之ヲ拒否シタル者三對シ
テハ組合ハ保險給付ヲ停止スルコトヲ得
第二十九條季節勞働ニ從事スル職工ニ在リテハ季節
失業ハ失業ト看做サス
第三十條保險給付ヲ受クヘキ者二年間請求ヲ爲サ
サルトキハ請求權ハ時效ニ依リ消滅ス
第三十一條保險給付ハ命令ノ定ムル所ニ依リ被保
險者ノ申請ニ依リ組合之ヲ決定ス
第三十二條保險給付ノ請求權ハ之ヲ讓渡スコトヲ
得ス
第三十三條保險給付ノ請求權ハ之ヲ差押フルコトヲ
得ス
第三十四條失業ニ關スル事故發生シタルトキハ傭主
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ組合ニ報告スヘシ
第五章保險料
第三十五條保險料ハ國庫、傭主及被保險者各其ノ三
分ノ一ヲ負擔ス
第三十六條被保險者カ報償ヲ受ケサルニ至リタルト
キハ保險料ヲ徵牧セス
第三十七條傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ自己ノ負擔
タルヘキ保險料額ト共ニ其ノ使用スル被保險者ノ負
擔タルヘキ保險料額ヲ拂込ムヘシ
第三十八條前條ニ依リ傭主ノ拂込ミタル被保險者ノ
負擔タルヘキ保險料額ハ被保險者ノ受クヘキ報償ノ
中ヨリ控除スヘキモノトス
第三十九條被保險者カ同時ニ二箇以上ノ勞務關係
ヲ有スルトキハ各傭主ハ其ノ保險料ニ付連帶シテ其ノ
責ニ任ス
第四十條組合ハ保險料ノ滯納者ニ對シ市町村又ハ
之ニ準スヘキモノヲシテ國稅徵收ノ例ニ依リ之ヲ徴收
セシムルコトヲ得但シ徵收金額ノ百分ノ四ヲ市町村
又ハ之ニ準スヘキモノニ交付スルコトヲ要ス
第四十一條前條ノ徴收金ハ市町村又ハ之ニ準スヘキ
モノノ徴收金ニ次キ先取特權ヲ有シ其ノ追徵還付
及時效ニ付テハ國稅ノ例ニ依ル
第六章監督
第四十二條組合ハ必要ト認メタルトキ被保險者ヲシ
テ組合事務所所在市町村役場又ハ職業紹介所ニ出
頭セシムルコトヲ得
第四十三條組合ハ檢査員ヲシテ傭主ノ事務所工場
其ノ他附屬建設物及被保險者ノ住居其ノ他所在ノ
場所ニ臨ミ必要ナル調査ヲ爲サシムルコトヲ得
第四十四條組合ハ業務遂行ノ爲必要ナリト認ムルト
キ市町村役場及職業紹介所ニ共助ヲ求ムルコトヲ得
第七章貸付及割戾
第四十五條組合カ其ノ責任準備金及各種積立金ヲ
以テ保險給付ノ支出ニ應スルコト能ハサル場合ニ於テ
必要アリト認ムルトキハ政府ハ一千万圓ヲ限リ無利
息ヲ以テ組合ニ貸付ヲ爲スコトヲ得
前項ノ貸付ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定
ム
第四十六條被保險者ニシテ五年以上繼續シテ保險
料ヲ支拂ヒ其ノ間保險給付ヲ受クルコトナカリシ者年
齡滿五十年ニ達シタルトキハ被保險者ノ掛金ニ相當
スル一時金ノ割戾ヲ受クルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ相當ノ利
息ヲ附スルコトヲ得
策四十七條組合ハ三年間繼續シテ被保險者ヲ使用
シタル傭主ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ間ニ於ケ
ル傭主ノ掛金ノ三分ノ一ヲ割戾スコトヲ要ス但シ其ノ
間失業保險給付ヲ受ケタルコトナカリシ者ニ限ル
第八章審議機關
第四十八條失業保險ニ關シ重要ナル事項ヲ審議セシ
ムル爲失業保險委員會ヲ置ク
失業保險委員會ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十九條本法ニ基キテ發スル命令ハ失業保險委
員會ノ審議ヲ經ルコトヲ要ス
第五十條失業保險委員會ハ政府、傭主及被保險者
竝學識經驗アル者ノ中ヨリ政府ニ於テ委員ヲ命シ之
ヲ組織ス
第九章審査機關
第五十一條失業保險ニ關スル爭議事項ヲ審査裁定
セシムル爲失業保險審査會ヲ置ク
失業保險審査會ノ審査ニ付スヘキ事項ハ本法ニ定ム
ルモノノ外勅令ヲ以テ之ヲ定ム
失業保險審査會ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十二條失業保險ニ關シ民事訴訟ヲ提起セムト
スル者ハ失業保險審査會ノ審査ヲ經ルコトヲ要ス
前項ノ審査ヲ受ケタル後一箇月ヲ經過シタルトキハ
訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第五十三條前條ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シテ
ハ之ヲ栽判上ノ請求ト看做ス
第十章罰則
第五十四條正當ノ理由ナクシテ組合檢査員ノ臨場
調査ヲ拒ミ若ハ之ヲ妨ケ又ハ其ノ訊問ニ對シ虛僞ノ
答辯ヲ爲シ若ハ答辯ヲ爲ササル者ハ二百圓以下ノ罰
金ニ處ス
第五十五條正當ノ理由ナクシテ被保險者ニ關スル調
査ノ提出ヲ拒ミタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十六條本法ノ保險給付ヲ受クル目的ヲ以テ故
意ニ不實ノ告知又ハ陳述ヲ爲シタル者ハ六箇月以下
ノ懲役ニ處ス
第五十七條傭主カ故意ニ被保險者ノ負擔タルヘキ保
險料額以上ノ金額ヲ其ノ支拂ハルヘキ給料中ヨリ控
除シタルトキハ三箇月以下ノ懲役ニ處ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
保險給付、保險料、割戾其ノ他失業保險ニ關シ必要ナル
事項ハ木法ニ定ムルモノノ外勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五勞働組合法案(安達謙藏君外六名
提出)第一讀會
勞働組合法案
勞働組合法
第一條同種若ハ類似ノ企業又ハ之ニ密接ノ關係ヲ
有スル企業ニ從事スルコトヲ目的トスル勞働者ハ相集
リテ本法ニ依リ勞働組合ヲ設立スルコトヲ得
前項ニ屬セサル勞働者ハ別ニ勞働組合ヲ設立スルコ
トヲ得
同種若ハ類似ノ企業又ハ之ニ密接ノ關係ヲ有スル企
業ノ種類及前項ノ勞働組合ニ開シテハ主務大臣之
ヲ定ム
第二條勞働組合ハ組合員相互ノ扶助其ノ地位及利
益ノ擁護竝上進ヲ以テ目的トス
勞働ノ條件又ハ報酬ニ關シ協同ノ行動ヲ爲シ又ハ之
カ爲組合員ノ行爲ニ制限ヲ加フルハ前項目的ノ範圍
內ノ行爲ト看做ス
第三條勞働組合ヲ設立セムトスルトキハ設立ニ同意
シタル者ノ創立總會ヲ開キ定款ヲ議定スヘシ
前項定款ノ議定ハ設立同意者ノ四分ノ三以上ノ同
意アルコトヲ要ス
第四條定款ニハ別ニ定ムル所ニ依リ規定スルコトヲ要
スルモノノ外左ノ事項ヲ規定スルコトヲ要ス
-目的
二名稱
三事務所
四區域
五組織及事務管理ノ方法
六資產ニ關スル規定
八七組合員タル資格ニ關スル規定
組合員ノ加入及脫退ニ關スル規定
九會費、加入金、手數料又ハ授業料等ノ額及拂込
方法
十組合員相互扶助ノ事業ニ關スル規定
十一組合員相互又ハ組合及組合員間ノ爭議栽定
ノ方法ヲ定ムル場合ニハ之ニ關スル規定
十二組合カ職業紹介及職工資格ノ證明ヲ爲ス場
合ニハ之ニ關スル規定
十三組合カ販賣組合、購買組合又ハ生產組合ノ事
業ヲ爲ス場合ニハ之ニ關スル規定
十四前各號ノ外組合ノ目的タル事業ノ遂行ニ關ス
ル規定
十五準備金ヲ置ク場合ニハ其ノ額及積立方法
定款ハ總組合員ノ四分ノ三以上ノ同意アルニ非サレ
ハ之ヲ變更スルコトヲ得ス但シ定款ニ別段ノ定アルト
キハ此ノ限ニ在ラス
定款及其ノ變更ハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第五條勞働組合ハ定款ノ認可ヲ受ケタルトキハ遲滯
ナク其ノ區域ヲ管轄スル地方廳ニ設立ノ屆出ヲ爲ス
ヘシ
屆出ニ關スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
地方廳第一項ノ屆出ヲ受ケタルトキハ直ニ之ヲ公示
スヘシ
前項ノ公示ハ法人ノ登記ト同一ノ效力ヲ有ス
第六條勞働組合ハ法人トス
第七條勞働組合ニハ所得稅及營業稅ヲ課セス
組合ノ爲ス行爲ニ付テハ登錄稅ヲ課セス
組合ト組合員トノ間ノ法律行爲ニ關シテハ印紙稅ヲ
課セス
第八條勞働組合カ組合員相互扶助ノ目的ヲ以テ生
命保險ノ事業ヲ營ム場合ニ於テハ保險業法ヲ適用セ
ス
第九條勞働組合カ組合員相互扶助ノ目的ヲ以テ販
賣組合購買組合又ハ生產組合ノ事業ヲ營ム場合ニ
於テハ產業組合法ヲ適用セス
第十條使用者ハ使用人ニ對シ其ノ勞働組合員タル
ヲ理由トシ雇傭ヲ解クコトヲ得ス
第十一條勞働組合ハ少クトモ每年一回組合員ノ通
常總會又ハ總會ニ代ル機關ノ通常會ヲ開クコトヲ要
ス
必要アリト認ムル場合ニハ何時ニテモ臨時總會又ハ
總會ニ代ル機關ノ臨時會ヲ招集スルコトヲ得
第十二條特別ノ事由ニ依リ「總會ヲ開クコト困難ナル
勞働組合ニ在リテハ定款ヲ以テ總會ニ代ル機關ヲ設
クルコトヲ得
前項機關ノ組織員ハ組合員中ヨリ之ヲ選擧スルコト
ヲ要ス
本法ニ定ムルモノノ外總會ニ代ル機關ニ關スル事項ハ
定款ヲ以テ之ヲ定ム
第十三條總會ニ代ル機關ハ定款ノ議定其ノ變更解
散及合併ノ決議ヲ爲スコトヲ得ス
第十四條組合員ハ總組合員五分ノ一以上ノ同意ヲ
得テ總會ノ目的及其ノ招集ノ理由ヲ記載シタル書面
ヲ提出シテ總會ノ招集ヲ理事ニ請求スルコトヲ得但
シ此ノ定數ハ定款ヲ以テ之ヲ增減スルコトヲ得
前項ノ規定ハ總會ニ代ル機關ヲ設ケタル場合ニ之ヲ
準用ス
第十五條組合員ハ總會又ハ之ニ代ル機關ノ招集手
續若ハ其ノ決議ノ方法ニシテ法令又ハ定款ニ違反ス
ト認ムルトキハ決議ノ日ヨリ一箇月以內ニ其ノ決議
ノ取消ヲ監督官廳ニ請求スルコトヲ得
第十六條總會及之ニ代ル機關ハ理事之ヲ招集ス
第十七條總會又ハ之ニ代ル機關ノ招集ハ少クトモ五
日前ニ其ノ會議ノ目的タル事項ヲ示シ定款ニ定メタ
ル方法ニ從ヒテ之ヲ爲スコトヲ要ス
第十八條勞働組合ニ理事及監事ヲ置ク
理事及監事ハ總會又ハ之ニ代ル機關ニ於テ之ヲ選擧
ス但シ組合設立當時ノ理事及監事ハ定款ヲ以テ之
ヲ定ム
第十九條理事ノ任期ハ三年トシ監事ノ任期ハ一年ト
ス但シ定款ニ別段ノ定アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十條理事及監事ハ何時ニテモ總會又ハ之ニ代ル
機關ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得
第二十一條理事及監事ノ選擧及解任ハ總組合員ノ
半數以上出席シ其ノ議決權ノ四分ノ三以上ヲ以テ
之ヲ決ス但シ定款ニ別段ノ定アルトキハ此ノ限ニ在ラ
ス
前項ノ規定ハ總會ニ代ル機關ヲ設ケタル場合ニ之ヲ
準用ス
第二十二條民法第五十三條乃至第五十五條、第五
十七條、第五十九條、第六十三條乃至第六十六條
ノ規定ハ勞働組合ニ之ヲ準用ス
第二十三條勞働組合ハ主務官廳之ヲ監督ス
主務官廳ハ何時ニテモ理事ヲシテ組合ノ事業及財產
ニ關スル報告ヲ爲サシメ組合〕ノ事業及財產ヲ檢査シ
其ノ他監督上必要ナル命令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第二十四條勞働組合ノ事業又ハ行爲カ法令又ハ定
款ニ違反シ其ノ他公益ヲ害スルノ虞アルトキハ主務官
廳ハ總會又ハ之ニ代ル機關ノ決議ヲ取消シ理事監事
ノ改選ヲ命シ組合事業ヲ停止シ又ハ組合ヲ解散スル
コトヲ得
第二十五條民法第六十八條乃至第八十四條ノ規
定ハ勞働組合ニ之ヲ準用ス
第二十六條勞働組合相互ノ氣脈ヲ通シ其ノ目的ヲ
達成スル爲同種ノ勞働組合ハ勞働組合聯合會ヲ設
立スルコトヲ得
勞働組合聯合會ヲ設立セムトスルトキハ各組合ノ聯
合總會又ハ總會ニ代ル機關ノ聯合會ヲ開キ定款ヲ議
定スヘシ
本法ノ規定ハ勞働組合聯合會ニ之ヲ準用ス
勞働組合聯合會ハ法人トス
附則
本法ハ大正十二年六月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行前ニ成立シタル組合ニシテ本法ニ該當スルモノ
本法施行後二箇月以內ニ第四條第三項ノ認可ヲ受ケ
ムトスル場合ニハ第三條ノ手續ヲ經ルヲ要セス
〔野田支一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=15
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016・野田文一郎
○野田文一郞君 諸君、私ハ社會政策ニ關スル我黨ノ三
箇ノ法案、卽ヲ職業紹介法中改正法律案、失業保險法案
竝ニ勞働組合法案ニ付キマシテ、提案ノ理由ヲ說明セント
スル者デアリマス、失業保險法竝ニ職業紹介法中改正法
律案ハ、第四十議會ニ提案ヲ致シタモノト其內容ヲ同ジク
スルノデアリマシテ、此兩案ハ第四十五議會ニ於キマシテハ、
武內作平君ニ依リマシテ、提案ノ理由ノ說明ヲ致シマシタ、
又勞働組合法案ハ、第四十四議會竝ニ第四十五議會ニ
提案ヲ致シマシテ、四十四議會ニ於テハ我黨ノ鈴木富士
彌君ヨリ詳細ニ提案ノ理由ヲ說明ヲ致シマシタ、又四十五
議會ニ於キマシテハ、私ヨリ聊カ說明ヲ致シタノデアリマス、
デ斯ノ如ク以上ノ三案ハ一回若クハ二回此議場ニ於テ、既
ニ提案ノ理由ヲ說明ヲ致シタノデゴザイマスカラ、今日ハ極
メテ簡單ニ其〓要ノミヲ說明ヲスルニ止メント致シタイト思
ヒマス、デ先ヅ失業保險法案ニ付テ申シマスルガ、失業者ヲ
如何ニシテ救濟ヲスルカト云フコトノ問題ハ頗ル重大ニシ
テ、且ツ緊要ナル事柄デゴザイマシテ、此問題ノ解決ハ一日
モ之ヲ忽ニスルコトヲ許サヾル必要ニ迫ラレテ居ルノデアリ
マス、然ルニモ拘ラズ、政府ハ從來之ニ對シテ、何等ノ立法
的政策ヲ立ツルコトナク、極テ冷淡ニ今日マデ打過ギ來ッテ
居リマシテ、今日尙ホ此種ノ法案ヲ政府ヨリ提出セザルコ
トハ、本員ノ最モ遺憾トスル所デアリマス、失業ノ原因ハ、
或ハ失業者ガ自ラ職業ヲ怠リマシテ、其結果トシテ職ヲ失
フニ至ルコトモゴザイマセウ、又サウデナクシテ使用者ノ方デ
或ハ事業ヲ廢止スルトカ、若クハ使用人ヲ減ズルトカ云フ
ヤウナ事ノ爲ニ、卽チ勞働者ノ過失ニ依ラズシテ、其職ヲ失
フコトモアルノデアリマス、併シ其前者ニ對シテモ、國家ハ固
ヨリ適當ノ處置ヲ講ジナケレバナラヌト云フコトハ勿論デア
リマスルガ、特ニ必要ヲ感ズルモノハ卽チ後者デアル、自己ノ
過失ニ依ラズシテ職業ヲ失ヒ、妻子ト共ニ生活ノ脅威ノ中
ニ呻吟ヲスルト云フコトハ、國家トシテ一日モ之ヲ看過スル
コトハ出來ナイコトハ、申ス迄モナイコトヽ信ジマス、卽チ之
ヲ救濟スルト云フコトハ[國家當然ノ責任デアルト信ズルノ
デアリマス、吾々ハ此失業者ヲ救濟スル一ノ手段トシテ、我
國ニ失業保險ノ制度ヲ設ケタイト云フコトガ、本案提出ノ
根本理由デアルノデアリマス、失業保險ノ經營ニ付テハ、或
ハ之ヲ官營トスルト云フ主義モアリマスガ、我黨ノ提案ニ係
ル法案ハ、此主義ニ依ラズシテ、組合ヲシテ經營セシメルコトニ
致シタノデアリマス、而シテ其組合ハ政府ガ勅令ヲ以テ一定ノ
事業ヲ定メ、又一定ノ地域ヲ定メマシテ、其定リタル一定ノ
事業、一定ノ地域ノ間ニ於テ、失業保險組合ト云フモノヲ
設立セシメルコトニ致シタノデアリマス、之ニ依シテ設立セラ
レタル失業保險組合ハ、法人格ヲ有スルコトニナリマシテ、
其組合ノ業務ハ近代ノ思想ヲ參酌致シマシテ、單リ政府ノ
ミ、若クハ雇主、被保險者ト云フ者ノミニ偏セズシテ、政府
ト雇主ト被保險者ト此三ツノ者カラ各と理事ヲ選任致シ
テ、其施行ノ任ニ當ラセルコトニシテ居ルノデアリマス、又元
來本案ハ薄給者、卽チ極メテ少額ノ報酬ノ下ニ勞務ニ服シ
テ生活ヲスル者ヲ保護スルコトガ目的デアリマスカラ、一箇
年千二百圓以內ノ報酬ニ依シテ生活ヲスル者ノミニ適用ス
ルノデアリマス、又其勞務者ハ單リ單純ナル筋肉勞働者ノ
ミニアラズシテ職工、ソレカラ事務員、技術者ト云フヤウナ
者モ、矢張千二百圓以內ノ報酬ノ下ニ生活ヲスル者ハ、此
失業保險法ニ依シテ救濟ヲ受ケル範圍ニ屬セシメタノデア
リマス、又保險料ハ國庫ト被保險者ト雇主ト、此三ツノ者
ガ各、三分ノ一宛ヲ負擔ヲスルト云フコトニナリマスガ、併
ナガラ被保險者ヲ擁護スル精神ニ基キマシテ、被保險者ニ
對シテハ絕對ニ給料ノ百分ノ一以上ハ負擔ヲセシメナイコ
トニ致シタノデアリマス、先ヅ案ノ大體ノ骨子ハ以上申上ゲ
ル通リデアリマスガ、前ニ申ス如ク失業問題ハ頗ル重大ナル
社會問題デアッテ、今日ハ財界ノ不況ニ伴ヒマシテ、益〓失
業者ノ數ハ增加シツヽアルノデアリマシテ、諸君御永知ノ如
ク、最近ノ新聞ニ依リマスレバ、此東京府下ニ於キマシテモ
數千ノ勞働者ガ其職業ヲ失ッテ寢ルニ所ガ無イト云フノデ、
百數十名ノ委員ヲ選任シテ、東京市役所ニ陳情ヲ致シテ居
ルト云フ事實ノ記事ヲ見タノデアリマス、又更ニ神戶市ニ於
キマシテハ二月一日、卽チ本日ヨリ護謨工業ガ一齊ニ休業
スルト云フコトヲ發表致シマシタ爲ニ、五千ノ勞働者ハ是ガ
對策ヲ講ズル爲ニ、湊川ノ勸業館ニ於テ會合ヲ致シテ、種々
運動ヲシテ居ルト云フコトガ現レテ居ルノデアリマス、是等
ノ新聞ノ記事ハ、其數ニ誤リアルヤ否ヤハ私ハ存ジマセヌ、
免モ角モ斯ノ如キ有樣デアッテ、現在就職難ニ陷リツヽアル
者ハ、日ニ月ニ增加シツヽアルノデゴザイマシテ、之ヲ救濟ス
ルコトハ誠ニ緊要ナ事柄デアラウト信ズルノデアリマス、若シ
本案ガ前議會ニ於テ通過ヲ致シテ、法律トシテ其效力ヲ發
生ヲ致シテ居リマシタナラバ、今日ノ幾分タリトモ此法律ニ
依シテ救濟ヲ受ケ得ベキモノガアッタデアラウト思ヒマスルガ、
前議會ニ於キマシテ此法案ノ通過ヲ見ザリシコトハ、頗ル本
員ノ遺憾トスル所デアリマス、故ニ斯ノ如キ問題ヲ吾々ガ看
過スルコトハ忍ビザル事柄デゴザイマスカラ、本案ハ我黨ノ
提案ニ係ルモノナリトハ雖モ、多數ノ失業者ニ同情シ、國家
當然ノ責任ヲ盡ス意味ニ於キマシテ、諸君ガ特ニ御賛成ア
ランコトヲ希望セザルヲ得ヌノデアリマス、職業紹介法中改
正法案ハ、是ハ極テ簡單デゴザイマシテ、案ヲ御一覽下サイ
マスレバ、直ニ明瞭ヲ致スノデアリマシテ、要スルニ失業保險
法ヲ一方ニ於テ實施ヲ致シマスレバ、職業紹介所ヲシテ是
ト協力シテ、其效果ヲ完カラシメルト云フコトノ趣旨ノ下ニ
改正ヲ致スノデアリマス、更ニ勞働組合法案ニ付テ簡單ニ
申上ゲヤウト思ヒマス、勞働組合法案ハ前ニモ申ス如ク、既
ニ二回說明ヲ致シテ居リマスカラ、是モ極テ簡單ニ申上ゲマ
スルガ、要スルニ此勞働組合法案ハ、勞働者ノ團結權ヲ承
認スルト云フコトガ根本ノ思想デアリマス、其勞働者ノ團體
ハ共通ノ利害關係ヲ有スル者ヲシテ、先ヅ組合ヲ組織セシ
メル、此共通ノ利害關係ヲ有スル者ニ依ッテ出來タモノガ、
組合ノ單位デアリマシテ、主トシテ此組合ガ活動ヲスルノデ
アリマスルガ、又必要ニ依ッテハ此單位集合ガ更ニ集ッテ、聯
合會ヲ形成ヲ致シテ、聯合會ノ仕事トシテ活動ヲスル場合
モアルノデアリマス、勞働組合法案ヲ制定スルコトガ、今日
内外ノ必要ニ迫ラレテ居ルコトハ多ク申ス迄モナイノデアリ
マシテ、卽チ諸君ノ御承知ノ如ク、大正八年ノ十月華盛頓
ニ於ケル國際勞働第一囘ノ會議ニ於テ、我國ハ其勞働委
員內ニ於テ鞏固ナル團體ガナクシテ、團體ヲ代表セザル委
員ガ出席ヲ致シタノハ、是ハ資格ニ缺クル所ガアルト云フノ
デ、列國ノ委員ノ前ニ色々窘メラレタト云フコトハ、私ガ
前期議會ニ於キマシモ說明ヲ致シタ通リデアリマスルガ、更
ニ諸君ノ記憶ヲ喚起スル爲ニ、其時ノ決議案ヲ一讀ヲ致シ
タイノデアリマス、其當時ノ米國ノ委員「ゴンパース」ノ提案
ニ依リマシテ、斯樣ナル決議案ガ提出サレテ居マス「華盛頓
會議ノ勞働委員ハ日本ノ正式勞働委員ノ列席ナキヲ認ム
此出席ナキハ日本政府ガ勞働者ノ結社權ノ自由ナル行使
ヲ禁止シアル結果ナリト思考スルニヨリ斯カル政策ハ民主
主義ニ背戾シ兼テ國際勞働會議ノ根本精神ニ牴觸スルモ
ノナリト思考スルニ依リ本會ヨリ日本政府ニ對シ日本ニ於
テモ國際聯盟ガ各構成國ト同樣組合結社權ノ無制限ナル
行使ヲ完全ニ承認シ且ツ遵守セシメル爲メ干涉ヲ爲スベキ
コトヲ要求ス」斯ノ如キ提案ヲセラレタノデアリマシテ、我國
ハ今日ハ外ニ對スル國際信誼ノ立場カラ申シマシテモ、
勞働組合法ガ我國ニ施セラレザルガ如キハ斷ジテ許
スコトノ出來ナイ情勢ニナッテ居ルノデアリマス、啻ニ外國
ニ對スル關係ニ於テ然ルノミナラズ、國內ニ於テモ今日ノ
自覺セル勞働者ヲ率ユルニハ、勞働組合法ニ依ッテ勞働者
ノ幸福ヲ增進シ、又同時ニ勞働運動ヲシテ規律アリ、節
制アル法規ノ下ニ活動セシムルト云フコトニ致シマシテ、資
本家ヲシテ間接ニ其利益ヲ享受セシムルト云フコトガ、
最モ必要デアッテ卽チ勞働組合法ノ制定ハ外ニ對シテハ國
際信誼ノ上ニ於テ、内ニ在ッテハ資本家、勞働者ヲシテ共ニ
規律アル法規ノ下ニ、產業ノ發達ニ貢獻セシムル上ニ於
テ、一日モ缺クベカラザル制度デアルノデアリマス、勿論今日
ハ資本家ニ於テモ、勞働者ノ人格ヲ段々ニ認メテ參リ、常ニ
溫情的ノ施設、又社會ノ輿論ニ促サレテ、種々ナル設備ヲ
致シマスルカラ、勞働者ハ之ニ依シテ救濟スルコトモゴザイマセ
ウシ、又一面ニ於テハ、現政府ノ下ニハ左樣ナル施設ヲ見マ
セヌケレドモ、曩ニ說明ヲ致シマシタ勞働失業保險法案ノ
如キ、社會政策ノ實施ニ依ヶテ、勞働者ガ救濟ヲ受ケルト云
フコトモアリマスルカラ、勞働團體ノ持久的救濟事業ヲ經
営スル範圍ハ、漸次縮小セラレルノデアリマスルケレドモ、併シ
勞働者ヲシテ其機宜ニ應ズル種々ナル事業ノ持久的ノ經
營ヲ爲サシメルト云フコトハ必要デアリマスカラ、此法案
ハ-斯樣ナル問題ハ定款ヲ以テ定ムルコトニ致シテ居リマ
ス、今日勞働者ノ仲間ニ於キマシテハ、實ハ勞働組合法案ナ
ドヲ作ルト云フコトハ手緩イ、更ニ一步ヲ進メテ運動ヲシナケ
レバナラヌト云フコトノ思想モアルノデアリマシテ、斯ノ如キ
急激ナル思想ヲ持クテ居ル者ニ對シテモ、速ニ本案ノ如キ立
法ヲ完成ヲシテ、サウシテ無秩序ナル行動ヲ爲サシメズ、勞働
運動ハ社會現象トシテ免ルペカラザルコトデアリマスルカラ
此勞働運動ヲシテ健全ニ發達セシメテ、サウシテ眞ニ我ガ產
業ニ貢獻ヲセシメルト云フコトニ致サナケレバ、勞働者ノ思
想ハ益〓險惡ニ趨キ、或ハ斯樣ナル方面ヨリ致シマシテ、將
來吾々ノ最モ憂フベキ事態ヲ惹起スコトナシトモ斷言スルコ
トガ出來ヌノデアリマス、以上ノ理由ニ依リマシテ、此社會
政策的三箇ノ立法ハ、今日ノ急務ニ迫ラレテ居ル問題デア
リマスルカラ、愼重ナル御審議ノ下ニ御贊成アランコトヲ希
望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=16
-
017・田淵豐吉
○田淵豊吉君 今ノ點ニ付テ質問致シタイト思ヒマス
メ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=17
-
018・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 田淵豊吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=18
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019・田淵豐吉
○田淵豊吉君 此處デ宜ウゴザイマスカ
〔「登壇」「登壇」ト呼フ者アリ〕
〔田淵豊吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=19
-
020・田淵豐吉
○田淵豊吉君 一寸簡單ニ今ノ事ヲ出シ夕人ニ伺ヒマス
失業保險法案ハ一體官業ニシタラ宜シイト云フ人ガ多イダ
ラト思フ官業ニシタラ宜イカ、今ノ民業ニシタラ宜イカ、其
點ヲ聽キタイ、中ミソレガ重大問題ダト思フ、ソレカラ第二ニ
此失業ト云フコトノ定義ハドウカ、片方デ「ストライキ」ヲス
ル、資本家ハ「ストライキ」ヲサレテ、其資本家ハ皆倒レテシマ
フカラ、全國ノ資本家ヲ悉ク網羅スルヤウニ、强制的ニヤル
ノカドウカ、ソレカラ百分ノ一ヲ勞働者ニ出サセタナラバ、資本
家ガ何分ノ一出シテ、政府ガ何分ノ一ヲ出スノカ、其分數ヲ
聽キタイ、三掛ケタラ百分ノ三ニシカナラナイ、失業ガ多
カッタラ立行クマイト思フ、此三點ヲ一寸簡單ニ聽キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=20
-
021・野田文一郎
○野田文一郞君 此席ヨリ御答ヲ致シマス-田淵君ノ
御質問ノ第一點ハ、失業保險ハ官營ニシタラ宜シカラウト
云ア御趣意ニ承リマシタ、曩ニ申ス如ク官營ニスルト云フコ
トモ一ツノ主義デアッテ、斯樣ナルコトモ或ハ宜シイカモ存ジ
マセヌガ、我黨ノ提案ハ今日ノ時代ニ於テ、官營ト云フコト
ハ成ベク避ケテ、斯樣ナル事ハ成ベク自治的ニサセタイト云
フコトガ目的デアル、官營ニスルト云フコトヨリハ、寧口全部
組合ノ事業ニスルト云フコトニシテ、政府ノ干涉ヨリ全ク除
クト云フコトガ理想デアルカモ知レマセヌガ、今日ノ時代ニ
於テハマダー〓其程度ニ達セザルモノト認メマシテ、組合ヲ
シテヤラセマスケレドモ、政府ガ常ニ之ヲ監督スルト云フコト
ガ、今日ノ時代ニ適應シタル立法ナリト考ヘテ、斯樣ニ致シ
タノデアリマス、ソレカラ第二點ノ率ノ問題デアリマスガ、是
ハ私只今能ク聽取レナカッタノデアリマス、百分ノ一ニシタナ
ラバ百分一以上ハ-給料ノ百分ノ一以上ハ負擔ヲセシメ
ナイト、斯ウ云フ風ニ致シタノデアリマスルガ、是ハ三分ノ一
ヲ負擔スルノデアルケレドモ、斯ル薄給者ヲシテ多クノ保險
料ヲ負擔セシメルト云フコトハ穏當デナイカラ、卽チ財源等
ヲ極メマシテ、百分ノ一以上ニ及ブコトハ出來ヌト云フコト
ニシタノデアリマス、ソレ以上ノ計數ノ問題ハ、ドノヤウナ計
算ニナリマスルカ更ニ細カク伺ヒマシテ、答辯ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=21
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022・高見之通
○高兄之通君 日程第三乃至第五ノ三案ヲ一括シテ、議
長指名ヲ以テ、九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=22
-
023・頼母木桂吉
○賴母木桂吉君 議事ノ進行ニ付テ發言ヲ求メマス、只
今高見君ヨリ九名ノ委員設置ノ意見ガ出マシタ、私ハ先般
ノ廢滅稅ノ問題ニ付テ、多數ノ農民竝ニ多數ノ商工業者、
此利害休戚ニ關スル重大ナ問題ヲ僅ニ十八名ノ委員ニ付
託シ、極メテ此問題ヲ輕ク取扱ハレタト云フコトヲ、私ハ遺
憾千萬ニ考ヘテ居ルノデアリマス、又此社會政策ニ關スル重
大ナル問題ヲ、昨年ハ十八名ノ委員ニ附託サレ夕、然ルニ今
年之ヲ九名ノ委員ニ付託スルト云フ理由如何、私共ハ此
重大ナル問題ヲ輕ク扱フト云フコトハ、甚ダ宜シクナイコト
ト思フ、高見君ノ辯明ヲ求メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=23
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024・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 賴母木君ニ御尋致シマスガ、賴
母木君ハ更ニ委員ノ數ヲ增加シヤウト云フ御意見デアリマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=24
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025・頼母木桂吉
○賴母木桂吉君 其通リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=25
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026・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 然ラバ別ニ何名ト云フ說ヲ御提
出ニナッテハ如何デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=26
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027・頼母木桂吉
○賴母木桂吉君 私ハ更ニ十八名ノ委員ニ付託スベシト
云フ動議ヲ提出致シマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=27
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028・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) ソレデハ本案ノ委員ノ數ニ付テ
意見ガ分レマシタ、卽チ高見君ノ御意見ハ、之ヲ九名ノ委
員ニ付託スルト云フコトデアリマス、更ニ之ニ對シテ、賴母木
君ヨリ十八名ニシタイト云フ修正ノ御意見ガ出テ居ルノデ
アリマス、先ヅ賴母木君ノ御說ニ就テ採決致シマス、賴母
木君ノ十八名說ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=28
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029・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 少數ト認メマヌ、更ニ高見君ノ
九名說ニ就テ採決致シマス、此說ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請
ヒマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=29
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030・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 多數ト認メマス、九名ノ委員ニ
付託スルコトニ決シマシタ(拍手)次ハ日程第六、身元保證
ニ關スル法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、提出者ノ趣旨辯明
ヲ許シマス、上畠益三郞君
第六身元保證ニ關スル法律案(上畠益
三郞君提出)第一讀會
身元保證ニ關スル法律案
第一條雇傭契約其ノ他ニ因リ他人ノ事務ヲ處理ス
ル者ノ爲ニスル身元保證契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ二
年ヲ經過シタルトキハ身元保證人ニ於テ之ヲ解除スル
コトヲ得
前項ノ場合ニ於テ契約ノ解除ハ六箇月前ノ豫告ヲ以
テ之ヲ爲スコトヲ要ス
第二條身元保證契約成立ノ日ヨリ五年ヲ經過シタル
トキハ其ノ契約ハ當然解除セラレタルモノト看做ス但
シ此ノ期間ハ商工業見羽日者ノ身元保證ニ付テハ之ヲ
十年トス
第三條身元保證契約ノ解除ハ將來ニ向テノミ其ノ效
力ヲ生ス
第四條前三條ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保證
人ニ不利益ナルモノハ之ヲ爲ササリシモノト看做ス
附則
本法ノ規定ハ本法施行前ニ成立シタル身元保證契約ニ
亦之ヲ適用ス但シ第一條第一項及第二條ノ期間ハ本
法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
〔上畠益三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=30
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031・上畠益三郞君
○上畠益三郞君 極テ簡單ニ趣旨ヲ申上ゲマス、本案ハ
二回本院ノ本會議ヲ通過致シマシテ、殊ニ昨年ハ貴族院ヲ
モ通過致シタ次第デゴザイマスカラシテ、最早詳細ノ事ヲ此
席デ申上ゲル必要ハゴザイマセヌ、適當ナル範圍ニ身元保
證ノ效力ヲバ制限ヲシテ、之ヲ實際ノ必要ト適合セシムルト
云フコトハ、今日ノ急務デゴザイマシテ、本案ハ昨年貴族院
ニ於テ加ヘラレタ多少ノ修正ヲ參酌致シテ、前年ノ法案ニ
多少ノ變更ヲ加ヘタ次第デゴザイマス、ドウカ宜シク御賛成
ノ程ヲ願ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=31
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032・高見之通君
○高見之通君 本案ハ議長指名ヲ以テ、九名ノ委員ニ付
託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=32
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033・副議長(粕谷義三君)
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=33
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034・副議長(粕谷義三君)
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、仍テ動
議ノ如ク決シマス、日程第七、所得稅法中改正法律案ノ第
一讀會ヲ開キマス、提出者岩本平藏君
第七所得稅法中改正法律案(岩本平藏
君外六名提出)第一讀會
所得稅法中改正法律案
所得稅法中左ノ通改正ス
第十四條第一項第三號ヲ左ノ如ク改ム
三山林ノ所得ハ竹木伐採ニ因ル前年ノ總收入金
額ヨリ其ノ植栽養成ニ必要ナル經費ヲ控除シタル
金額
第二十三條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ山林ノ所得ハ以外ノ所得ト之ヲ區分シ其ノ所得
ノ原因タル竹木ノ年齡ニ除シタル平均額ニ對スル稅
率ヲ適用ス
〔岩本平藏君登壇〕
岩本平藏君本案提出ノ理由ヲ簡單ニ述ベヤウト思ヒ
マス、本案ハ前回及前々囘ノ二回トモ本院ヲ通過致シマシタ
ル所ノ改正案デアリマス、三タビ諸君ノ御配慮ヲ煩スコトニ
相成アタコトハ、甚ダ遺憾トスル所デアリマス、此改正ノ要點
ハ理由書ニ詳細書イテアル積リデアリマスカラ、私ハ多クヲ
遠ベルコトヲ避ケマス、但シ此提案ノ度每ニ、其〓要ヲ申シ
テ居リマスル通リ山林ノ所得ハ、其竹木ガ土地カラ離レテ
一ノ動南トナッテ、初テ其間ニ所得ガ生ズルト云フコトハ、是
ハ多ク論ズル必要ハナイト私ハ思フノデアリマス、然ルニ其
伐採期ニ到達セザル所ノ尙ホ幼樹ノモノモ、其竹木ヲ土地
ト共ニ賣買譲渡セシモノニ對シテ、尙ホ所得アリトシテ此所
得稅ヲ課スルト云フコトハ、卽チ一ノ資產ヲ換價〓シテ金
ニ換ヘタニ外ナラヌノデアリマシテ、其間ニ所得ト認メルモノ
ハナイト私ハ信ズルノデアリマス、假ニ其間ニ若干ノ差益ガ
アルト致シマシテモ、ソレハ例ヘバ有價證劵ノ換價ノ如ク、
又所謂靑田賣買ノ差ノノクク、是等ハ營利ヲ目的トシタ
ル所ノ賣買デハナイノデアリマシテ、是ガ所得稅法ノ第十
八條ノ第五ニ、明ニ、利益ヲ目的トセザル一時ノ收入ニハ
課稅セラレザルコトニ相成ッテ居ルノデアリマス、私ハ此意味
ヲ以チマシテ、當然此中間ノ賣買讓渡ハ是ハ課稅スベカラ
ザルモノト思フノデアリマス、由來此森林ノ經營ニ付キマシ
テハ、色と其森林ノ目的ガアリマシテ、其樹木ノ養成等ニ付
キマシテモ、或ハ喬林作業、或ハ倭林作業或ハ天然林作
業、斯ウ云フ風ニ山ニハ幾通リモ山林作業ガアリマシテ、其
目的ガ各、違フノデアリマス、又經濟上ノ點カラ申シマシテ
モ、主木ヲ以テ收入ノ目的トスルモノモアリ、又間伐ヲ以テ
收入ノ目的トスルモノモアルノデアリマシテ、是等ハ其土地
ノ性質運搬ノ便否、又雷要等ノ如何ニ依ッテ總テノモノガ
決スルノデアリマス、殊ニ此〓入ニ付テハ數年ニ一回待ル
コトガアリ、或ハ數十年ヲ要スルモノガアリ、甚シキハ百數十
年ヲ要シテ初メテ其利益ヲ得ルモノガアリマシテ、此利益ニ
付テハ顏ル復雜ヲ極メルモノデアリマスカラ、此一ノ不動產
ノ移轉ニ因ッテ、移轉每ニ課稅ヲスルト云フガ如キハ、仝ク
森林ノ經濟ヲ御存デナイ結果ニ由ッテ斯フ云フ法案が定
メラレタモノデアルト払ハ信ズルノデアリマス、是ガ卽チ第十
四條43項第三號ヲ改正ヲ致ス所ノ主ナル趣意デアリマ
ス、次ハ二十三條ニ付テ改正ヲ加ヘタイノハ、是ハ數十年
間假ニ伐木ヲ致シテ收入ヲ得ルニ致シマシテモ、數十年間
乃至百數十年間蓄積シタル其益金ヲ、其所得ノ纏ヲタモ
ノニ對ウテ稅率ヲ課スルト云フコトハ、如何ニモ穩富ヲ缺ク
ト信ズルノデアリマス、是ハ例ヘバ其竹木ガ五十年ナラ五十
年間其所ニ在ルモノナラバ、其總額ハ總益金ヲ五十年デ
割ッテ、サウシテ一年ニ當ック所ノ稅率ヲ以テ之ヲ本金額ニ
賦課スルコトニシタナラパ、丁度一年ノ所得ニ對シテ課稅ス
ルコトニ相成リマスケレドモ、何十年ト纏ヲタモノニ持ッテ
來テ稅率ヲ課スルト云フコトハ、非常ニ重イコトニナルノデ
アリマス、現行法ニ依レバ、山林所得ト一般所得トハ、之ヲ
引分ケテ課稅フルコトニ相応ヲテ居リマスケレドモ、尙ホ之
ヲ引分ケタ所デ、只今申シタヤウナ結果ニ相成ルノデス、林
業家トシテハ少シモ其四心典ヲ得ル譯デナイト信ジマス、殊ニ
林業一ツヲ以テヤルモノニアリテハ、此森林以外ノ所得ト
引分ケルト致シマシテモ、ソレヲ引分ケヤウガナイ、一ツデア
リマスカラ矢張金額ノ負擔ヲスルコトニ相成ルノデアリマ
ス、故ニ蓄積シタル年限デ以テ之ヲ除シテ、サウシテ稅率ヲ
適用スルヤウニ本條ヲ改正致シタイノデアリマス、今更私ガ
玆ニ更メテ申上ゲル迄モナク、我國ノ面積ノ大部分ハ森林
デアリマシテ、卽チ八割五歩迄ハ森林デ、我國ハ世界ノ森
林國ノ一ト申シテモ宜イニモ拘ラズ、昨年ノ如キハ總額七、
八千万圓ノ材木ヲ輸入シテ居ル次第デアリマス、是ニハ色
色ノ理由モアリマセウガ、一ハ山林事業ニ對シテ國家ト云ヒ
地方ト云ヒ種々ナル稅目ヲ設ケマシテ、餘リ種々ナル稅ヲ課
スルノモ其一ノ理由デアル、ソレガ爲ニ林業家ハ山林ニ厭氣
ヲサシテ、愛林思想ガ薄クナッデ、祖先傳來ノ森林事業ヲ荒
廢セシムル懸念ガテリマス、一朝サウ云フコトニナリマシタナ
ラバ、外ノ事ト違クテ直ニ取返シノ出來ナイヤウナ事ニナルノ
デアリマス、殊ニ山林事業、造林事業ハ直接ニハ木材ノ供給
薪炭ノ供給ニ目係アルコトハ勿論デアリマスガ、一面ニ於テ
ハ風土氣候ノ調節、或ハ水源涵養、土砂扞止、斯ウ云フ事
ハ自然ニ因土保安上ニ誠ニ重大ナル關係ヲ持ツコトデアリ
マスカラ、寧口吾々ハ森林事業ハ出來ルダケ奬勵スルコソ
至當デアルト思ヒマス、現ニ我ガ政府ニ於テモ官行造林法
ノ如キモノヲ設ケテ、相當ニ造林ノ計畫ヲ立テヽ居リマス、
併ナガラ國有林ナリ公有林ナリ、官行造林法ノ如キニ致シ
マシテモ、國家ガ造林ヲ致ス事ハ半面ニ於テハ矢張之ニ依ッテ
民業ヲ壓迫スルヤウナコトニナルト私ハ考へルノデアリマ
ス、ソレ故ニ吾々ノ理想ト致シマシテハ、寧口森林事業ニ對
シマシテハ、所得稅ノ如キハ全然之ヲ免除スルコトハ至當デ
ナカラウカト思ヒマス、ケレドモ今日ハ、マダ其場合デナイト
思ヒマスガ、本案ノ如キハ此改正案ヲ提出致シマシテ、諸君
ノ御賛同ヲ願フ次第デアリマス、ドウゾ御賛成ヲ請ヒマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=34
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035・高見之通
○高見之通君 本案ハ政府提出、所得稅法中改正法律
案外十四件ノ委員ニ合セテ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=35
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036・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ハナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス-日程第八社寺現境
內地無償下付ニ關スル法律案ノ第一讀會ヲ開キマス-
岩崎勳君
第八社寺現境內地無償下付ニ關スル法
律案(鵜澤總明君外二名提出)
第一讀會
社寺現境內地無償下付ニ關スル法律案
第一條社寺境内地ニシテ現ニ國有ニ屬スル現境内地
ハ申請ニ依リ之ヲ其ノ社寺ニ下付スヘシ
第二條本法ニ依ル下付ノ申請ハ大正十五年七月三
十一日迄ニ之ヲ主務大臣ニ差出スヘシ
第三條此ノ申請ニ對スル處分ニ付不服アル者ハ其ノ
指令ヲ受ケタル日ヨリ三箇月內ニ行政裁判所ニ出訴
スルコトヲ得
第四條第一條ニ依リ下付ヲ受ケタル者ハ其ノ境内地
及立木竹ノ所有權ヲ取得ス
前項ニ依リ所有權ヲ取得シタル者ハ其ノ土地及立木
竹ニ付第三者ノ現ニ有スル權利ヲ害スルコトヲ得ス
第五條本法ニ依リ下付ヲ受ケタル境內地及立木竹ハ
主務大臣ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之カ讓渡シ又ハ
地上權、抵當權若ハ質權ノ目的ト爲スコトヲ得ス
第六條本法施行前行政處分又ハ裁判所ノ判決ヲ受
ケタル者ト雖本法ニ依リ下付ノ申請ヲ爲スコトヲ妨ケ
ス
附則
本法ハ大正十二年五月一日ヨリ之ヲ施行ス
〔岩崎動君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=36
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037・岩崎勲
○岩崎動君 極テ簡單ニ本案提出ノ理由ヲ說明致シマ
ス、木案ハ昨年モ本院ヲ通過致シマシテ、貴族院ニ送付セラ
レクモノデアリマスガ、會期切迫ノ爲ニ其議ヲ經ルニ至ラナ
カッタノデアリマス、社寺境內又ハ山林ニシテ、朱印又ハ上
地ノ證據アルモノハ社寺ノ所有デアルト云フコトハ、行政栽
判所ノ判例ノ夙ニ認ムル所デアリマス、總テノ社寺境内山
林ハ皆同ジ性質デアリマシテ、社寺、佛堂ノ如キハ既ニ各、
其當該社寺ノ所有トナヲテ居ルニ拘ラズ、獨リ其敷地ノミガ
國有トシテ殘ッテ居ルト云フコトハ實ニ理由ノ無イコトデア
リマス、卽チ衆議院ニ於キマシテハ、明治四十四年以來、社
寺上地下戾ニ關スル法律案ヲ議會ニ提出致シマシテ、大
正八年三月迄都合四囘衆議院ヲ通過シテ貴族院ニ回付
セラレテ居リマス、貴族院ノ特別委員會ニ於テハ、時ノ委
員長松平直之伯ヨリ政府ニ交涉致シマシタ結果ハ社寺上
地ニ關スル農商務省所管、國有林ニ對シマシテハ保管林規
則ヲ改正致シマシテ、保管年限ヲ五十年ニ延長シ、且ツ其主
產物ノ三分ノ二ヲ其社寺ニ無償ニテ交付スルコトニ致シマ
シタ、又内務省所管ニ屬スル社寺ノ境内敷地ハ、無償讓
與ノ形式ニ依リマシテ、其社寺ニ交付スルコトニ協定ガ成
立ッタノデアリマス、此協定ニ依リマシテ、農商務省ニ於キマ
シテハ保管林規則ヲ改正シテ、大正六年六月之ヲ發布致
シマシテ、現ニソレガ施行セラレテ居ルノデアリマス、內務省
ニ於テハ此協定ノ趣旨ニ依リマシテ、社寺境内敷地ヲ無償
讓與ノ形式ニテ、當該社寺ニ下付スルト云フ勅令ヲ發布ス
ル豫定ニナッテ居ッタノデアリマスガ、其儘今日ニ至ッテ居ルノ
デアリマス、而シテ第四十四議會ニ於キマシテハ、之ニ關ス
ル建議案モ本院ヲ通過致シテ居リマス、昨年ハ法律案トシ
テ本院ヨリ貴族院ニ提出セラルヽヤウニ至ッタノデアリマス
カラ、何卒本年モ速ニ御協賛アランコトヲ希望致シマス(拍
手ノ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=37
-
038・高見之通
○高見之通君 本案ハ議長指名ヲ以テ、九名ノ委員ニ付
託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=38
-
039・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ハ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス-日程第九、民事訴
訟法中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス-提出者大
道寺慶男君
第九民事訴訟法中改正法律案(大道寺
慶男君提出)第一讀會
民事訴訟法中改正法律案
民事訴訟法中左ノ通改正ス
第三百十五條第二項ヲ左ノ如ク改ム
富事者ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ證人ニ問ヲ發スルコト
ヲ得
〔大道寺慶男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=39
-
040・大道寺慶男
○大道寺慶男君 提案ノ理由ヲ說明致シマス、本改正案
ハ至極簡單ナ案デアリマスルガ、在朝在野一般ノ法曹界ノ
多年切望シテ居リマスル、我ガ訴訟法上重要ナル意義ヲ有
スル案デアリマス、裁判手續ノ中軸トモ申シマスル證人調べ
ニ於キマシテ、從來我國ノ訴訟法ハ民事、刑事ヲ通ジマシテ、
裁判官竝ニ檢事以外ニハ絕對ニ直接訊問ヲ許シテ居ラヌ
ノデアリマス、隨テ當事者ハ常ニ裁判長ヲ通ジマシテ間接訊
問ヲ求メテ居ルノデアリマス、ソレガ爲ニ訊問ノ趣旨ガ徹底致
シマセズシテ、其眞相ヲ得ルコトノ出來ナイ憾ガアルノデアリ
マス、更ニ四十五議會ヲ通過致シマシタル新刑事訴訟法ノ
三百三十八條ニ於キマシテハ、此直接訊問ノ趣旨ヲ認メテ
改正サレテ居ルノデアリマス、又當院ダケ通過致シマシタ陪
審法案ノ第四十二條ニモ、此趣旨ヲ認メラレテ居ッタノデア
リマス、免ニ角此直接訊問ト云フコトハ、裁判ノ證據調ノ上
デ眞相ヲ得ル手續手段ト致シマシテ、斯ク改正シナケレバ栽
判ノ眞髓ヲ得ルコトガ出來ナイコトニナルノデアリマス、然ル
ニ斯ノ如ク刑事訴訟ノ方面ダケ改正サレテ、民事訴訟ダケ
ヲ此儘ニ捨テヽ置クト云フコトハ、到底時代ノ進運ニ適セザ
ルコトデアルト思フノデアリマシテ、本改正案ヲ提出致シマシ
タ所以デアリマス、ドウカ御一同ノ御賛成ヲ求メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=40
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041・高見之通
○高見之通君 本案ハ日程第六、上畠益三郞君提出身
元保證ニ關スル法律案ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ
望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=41
-
042・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ハ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス-日程第十、柳津小出
間及只見古町間鐡道速成ニ顕スル建議案ヲ議題ト致シマ
ス、提出者ノ說明ヲ許シマス-中野寅吉君
第十柳津小出間及只見古町間鐵道速成
ニ關スル建議案(中野寅吉君外三
名提出)
柳津小出間及只見古町間鐵道速成ニ關スル建議案
柳津小出間及只見古町間鐵道速成ニ關スル建議
政府ハ福島縣柳津ヨリ只見ヲ經テ新潟縣小出ニ至ル
間及前記只見ヨリ古町ニ至ル間ノ鐵道ヲ速成シ以テ運
輸交通ノ發達ヲ促進セラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔中野寅吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=42
-
043・中野寅吉
○中野寅吉君 極ク簡單ニ提案ノ理由ヲ申上ゲマス、併
シ提案ノ理由ヲ申上ゲズトモ、是ハ此前ノ議會ニモ出タノ
デアリマスカラ、直ニソレハ必要デアル、滿場一致賛成スルカ
ラ此儘下レト云フ御命令ガアレバ下ッテモ宜シイノデアリマス、
要スルニ是ハ福島縣河沼郡柳津ヨリ只見ヲ經マシテ、新潟
縣ノ小出ニ達スル鐵道デアリマス、此鐵道ヲ架ケレバ架ケタ
ダケノ利益ハ誓ッテアリマス、ドウゾ其理由等ハ提案ニ附イ
テ居ルノデ能ク分リマスカラ、滿場一致御賛成アランコトヲ
切ニ希望致シマス
〔「賛成」拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=43
-
044・高見之通
○高見之通君 本案ハ議長指名ヲ以テ、九名ノ委員ニ付
託セラレンコトヲ朗ミマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=44
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045・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-議事進行ニ關シテ
發言ヲ求メラレテ居リマス、湯淺凡平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=45
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046・湯淺凡平
○湯淺凡平君 吾々ハ先月ノ二十四日附ヲ以テ、同志ノ
名ヲ以テ日支郵便約定問題ニ關シテ、内閣ト樞密院ノ間
ニ意見ヲ異ニシ、其結果遂ニ優諚ヲ賜ッテ、其局ヲ結ベリト
傳ヘラレテ居リマス事實ニ對シ、此事實ハ日支兩國間ノ外
交ノ上、又我ガ憲法政治運用ノ上ニ於キマシテ、重大ノ關
係アルモノト認ム、政府ハ宜シク其〓末ヲ明ニスペシト云フ
決議案ヲ提出シテ居ルノデアリマス、而シテ此問題ハ今日
政治上重大ノ問題トナッテ居ルノデアリマス、然ルニ今日ニ
至ルマデ未ダ此決議ニ對スル所ノ議案ノ御配布モナク、又
日程ニモ上サレテ居ナイ、如何ナル理由デアリマスルカ、其次
第ヲ承リタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=46
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047・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 唯〓湯淺君ヨリ御等ノ事ハ、早
速取調ベマシテ、相當ノ處置ヲ致シマス-日程第十一、電
信線電話線建設條例第六條ニ依ル平當金增額ニ關スル
建議案ヲ議題ト致シマス、提出者木下甚三郞君
第十一電信線電話線建設條例第六條ニ
依ル手當金增額ニ關スル建議案
(木下甚三郞君提出)
電信線電話線建設條例第六條ニ依ル手當金增額ニ
關スル建議案
電信線電話線建設條例第六條ニ依ル手當金增額
ニ關スル建議
電信線電話線建設條例第六條ニ依ル手當金ヲ增額セ
ラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔木下甚三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=47
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048・木下甚三郎
○木下甚三郞君 電信電話ノ手當金增額ノ建議案ハ、
昨年滿場一致頗ル元氣好ク議決ヲシテ貰ヒマシタ、サウシ
テモウ此年度ニハ法律ノ改正案ガ出ルカト思ヒマシタガ、マ
ダ出マセヌノデアリマスガ、何レ出ルコトヽ信ジマス、ドウカ去
年以上ニ御賛成下サルコトヲ希望シテ已ミマセヌ
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=48
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049・高見之通
○高見之通君 本案ハ議長指名ヲ以テ、九名ノ委員ニ付
託ニセラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=49
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050・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第十二、自由
港設置ニ關スル建議案ハ提出者ヨリ延期ノ申出ガアリマシ
夕、許可スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=50
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051・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、仍テ延
期ニ決シマス-日程第十三、舞鶴軍港廢止ニ伴フ地方
善後ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス、提出者大島實太
郞君
第十三舞鶴軍港廢止ニ伴フ地方善後ニ
關スル建議案(大島實太郞君外
二名提出)
舞鶴軍港廢止ニ伴フ地方善後ニ關スル建議案
舞鶴軍港廢止ニ伴フ地方善後ニ關スル建議
政府ハ舞鶴鎭守府ヲ廢止シタル結果同地方ノ衰退ニ對
スル善後ノ措置ニ就キ適當ナル方法ヲ講セラレムコトヲ
望ム
右建議ス
〔大島實太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=51
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052・大島實太郎
○大島實太郞君 只今上程セラレマシタ本案ニ付キマシ
テ、極テ簡單ニ說明ヲ致サウト存ジマス、舞鶴鎭守府ノ廢止
ハ、華盛頓會議ノ結果ト致シマシテ、軍備縮小ノ一大國策
ノ下ニ廢止セラレタノデアリマス、此一大國策ノ下ニ廢止セ
ラレタノデアリマスカラ、廢止ニ對シマシテハ何等異議ヲ挾
ム意思ハナイノデアリマス、併ナガラ唯、帝國四軍港ノ中、
獨リ舞鶴鎭守府ノミ廢止セラレマシテ、其廢止セラレマシタ
結果トシテ、舞鶴町民ハ實ニ悲慘ヲ運命ニ陷,テ居ルノデア
リマス、舞鶴軍港廢止ノ問題ハ、是ヨリ先キ大正十年ノ暮
ニ、一二ノ新聞ニ現レタノデアリマス、舞鶴町民ガ驚イテ當
局ニ其實否ヲ質シマシタ所ガ、海軍當局ハ決シテ廢止スル
コトハ無イト云フコトヲ言明セラレタノデアリマス、故ニ町民
ハ此當局ノ言明ニ安ジテ、安心シテ居ッタノデアリマス、所ガ
一朝ニシテ今回廢止セラルヽト云フコトニナッタノデアリマ
ス、舞鶴町民ハ唯、〓安心シテ居ッタバカリデアリマセヌ、諸種
ノ發展策ヲ講ジテ、諸般ノ施設ヲ爲シツヽアッタノデアリマ
ス、所ガ當局ノ言明ヲ裏切ッテ、是ガ實際問題トシテ現レテ
來タノデアリマスルカラ、町民ノ驚ハ一層深キヲ加へ、實ニ慘
憺タル狀況ヲ呈シテ居ルノデアリマス、元來舞鶴ノ鎭守府
ノ置カレマシタノハ、今カラ丁度二十年前デアリマス、其二
十年前ニ鎭守府ノ置カレマシタ時ニハ、鎭守府ノ在リマスル
場所ハ、漸ク戶數百戶ニ滿タヌ一漁村デアッタノデアリマス
所ガ此鎭守府ノ設置ニ伴ヒマシテ、鎭守府ヲ中心ト致シマ
シテ、非常ナル發展ヲ來シタノデアリマス、サウシテ今日デハ
舞鶴ト申シマシテモ、舊舞鶴、是ハ前カラ有ッタ舞鶴町デアリ
マスルシ、鎭守府ニ依ッテ發展致シマシタノハ新舞鶴、中舞
鶴ノ二町デアリマス、今日ノ現況ニ依リマスレバ、新舞鶴ハ
戶數三千五百デアリマス、中舞鶴ガ亦三千アルノデアリマ
ス、人口ハ此兩町ヲ合セマシテ實ニ三万五千ノ人口ヲ有ス
ル事ニナッテ居ルノデアリマス、殊ニ先年軍備擴張、八八艦
際ノ計畫ガ定マリマスルヤ、海軍當局ハドウ云フ風ニセラレ
タカト申シマスルト、八八艦隊ニ伴フ施設ヲセヨト懲慂セラ
レタノデアリマス、又此當局ノ勸誘ニ基キマシテ、町民自體
モ町自體モ、非常ナ努力ヲ致シマシテ、之ニ順應スルノ諸
般ノ施設ヲ爲シタノデアリマス、此順應スル施設ノ第一ト致
シマシテハ、住宅ノ經營デアリマス、御存知ノ通リ舞鶴ハ新
開地デアリマスルガ爲ニ、或ハ低利資金ヲ借入レ、或ハ保險
會社カラ金融ヲ仰ギ、銀行其他カラ極力資本ヲ仰ギマシテ、
第一ニ計畫シタルモノハ住宅ノ經營デアリマス、サウシテ此
住宅ノ經營ハ、海軍擴張ニ件フノデアリマスルカラ、主トシ
マシテハ、准士官以上ヲ入レル住宅ヲ主ナルモノトシタノデ
アリマス、所ガ此准士官以上ヲ入レマスル住宅ハ、一町ニ於
テ殆ド百五十戶ヲ超エタノデアリマス、其他ノ住宅モ澤山
アリマスルガ、准士官以上士官ナドヲ迎ヘルガ爲ニ百五十
戶ノ住宅ヲ拵ヘタ所ガ、一朝ニシマシテ鎮守府ガ廢セラレマ
シタガ爲ニ、此准士官ナドヲ入レル住宅ハ殆ド今日ハ空家
同然ニナッタノデアリマス、其他ニモ町ト致シマシテハ、町民
ガ個人ノ力ニ依ッテ住宅ヲ建設スル場合ニハ、町ハ之ニ補助
ヲスルト云フ規定ヲ拵へタノデアリマス、此町ノ補助規定ニ
基キマシテ、町民モ奮起致シマシテ、サウシテ此住宅ヲ經營
致シマシタ所ガ今回ノ鎭守府廢止ニ伴ヒマシテ、總テ此住
宅ハ空家トナッテ居ルノデアリマス、殊ニ悲慘ナ點ハ、住宅ガ
半バ出來上ッテ未ダ完成セズ、立腐レマスルヨリ」方法ガナイ
ト云フ慘狀ヲ認メルコトガ出來ルノデアリマス、次ニ町竝ニ
町民トシマシテ計畫致シマシタノハ學校デアリマス、此學校
ハ八八艦隊ガ完成スル、八八艦隊ガ完成致シマスルナラバ、
非常ナル勢デ就學兒童ガ殖エルト云フコトノ下ニ、小學校
增築ノ大計畫ヲ致シタノデアリマス、而シテ設計既ニ成リマ
シテ、工事ハ請負人ニ請負ハシメタノデアリマス、所ガ今回ノ
鎭守府廢止ニ伴ヒマシテ、請負人ハ請負致シマシタケレド
モ、之ヲ完成セシメテ而シテ這入ル兒童ガ無イト云フコトニ
ナッタノデアリマスルカラ、勢ヒ中止シナケレバナラヌ悲境ニ
陷ッテ居ルノデアリマス、町モ困リ又請負人モ困ッタノデアリ
マス、ンコデ万策畫キマシテ、此小學校ノ擴張計畫ハ中止致
シマシテ、町ハ是ガ請負人ニ對シテ賠償ヲ致シクノデアリマ
ス、而シテ悲慘ノ事ニハ、其本村ヲ積ンデ町ガ保存シテ居ッテ、
今日其置場ニ困ッテ居ルト云フ慘狀デアリマス、其他詳シク
申上ゲマセヌデモ、道路ナリ、河川ナリ、下水ナリ、公園ナリ、
ソレ〓〓設備ヲ今日ハ了リマシテ、八八艦隊ヲ迎ヘントシタ
ノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマスルガ爲ニ、町トシテハ町
債ヲ起シ、町民ハ非常ナル重稅ノ負擔ヲ忍ビマシテ、尙ホ個
人ト致シマシテハ、出來得ル限リノ負債ヲ起シマシテ、此發
展策ヲ講ジテ居クタノデアリマス、私共ハ屢〓舞鶴ニ參リマシ
テ、非常ニ惨憺タル感ジヲ致シマスノハ、旅館ナリ、料理屋ナ
リデアリマス、私共ノ泊リマス旅館モ、非常ナ擴張ヲ致シマシ
タ所ガ、マダ荒壁ガ附イタ儘デ、上塗ガ出來ナイト云フ惨狀
デアリマス、之ヲ完成致シマシテモ、迚モ迎フベキ客ガ無イト
云フコトデ泣イテ居ルノデアリマス、眞ニ私共ハ此慘狀ヲ見
マシテ、同情ニ堪ヘヌ次第デアリマス、現在此町民ハ如何ニ
考ヘテ居ルカト申セバ、幾分デモ餘裕ノアル者ハ去ッテ-舞
鶴町ヲ去ッテ、或ハ京都ニ、或ハ大阪ニ、神戶ニ、吳ニ、佐世
保ニ移住シテ、生活ノ安定ヲ求メントシテ居ルノデアリマス
ガ、餘裕ノ無イ者ハ已ムコトヲ得ズシテ其處ニ土著スルヨリ
仕方ガナイノデアリマス、[若シ此儘ニシテ放置致シマシタナ
ラバ、舞鶴町ハ非常ナル多大ノ負擔ヲ以テ町モ破產シ町民
モ亦破產スルノ已ムナキニ至リハシナイカト云フコトヲ私共
ハ心配致スノデアリマス、尙ホ此鎮守府ノm直カレマシタトキ
ニ、斯ウ云フ話ガアルノデアリマス、鎭守府ガ最初置カレマシ
タ今カラ二十年前ニ、一村全部ヲ海軍省デ買收セラレタノ
デアリマス、其買歌セラレタノハ一村全部デアル、一村ノ山
林モ、田モ、畑モ、宅地モ全部ヲ買收金二万圓デ買收セラレ
タノデアリマス、此村民ハ此僅カナ二万圓ヲ以テ國家ニ對ス
ル奉公ナリトシテ、國家ノ爲ナリトシテ涙ヲ呑ンデ此買收ニ
應ジタノデアリマス、又軍備擴張ノ聲ガ起リマスルト、先刻
來中シマシタヤウニ、種々ナ施設ヲ爲シタノデアリマス、斯ノ如
ク柔順ニシテ、斯ノ如ク國策ニ順應スル奉公ノ念ノ厚イ町民
ガ、今又國策ノ結果是ガ犠牲トナリマシテ、獨リ舞鶴鎭守
府ノミガ廢セラレマシテ、進ムコトモ出來ズ、退クコトモ出來
マセズ、實ニ生活ノ脅威ヲ受ケテ居ルト云フノガ實際ノ實情
デアリマス、尤モ舞鶴町ト申シマシテモ、中舞鶴町ハ舞鶴ノ
工廠ダケガ餘リ職工ヲ減ラサズシテ、漸ク續ケラレ居ルノデ
アリマスカラ、此點ダケハ〓分安心ノ出來ルコトデアリマスケ
レギモ、鎮守府ノ廢止ノ結果、所屬艦隊ハ全部無クナリ、水
兵ノ一万五千ト云フモノガ、舞鶴町ヲ去ッタノデアリマス、サウ
シテ僅ニ殘ルノハ、要港部トシテ防備艦ノ一二隻ガ殘ルト
云フニ止マルノデアリマス、此場合此國策ノ犠牲トナッタ無
鶴町ニ對シマシテ、適當ナル善後策ヲ講ジテ、町民ノ生活ノ
安定ヲ圖ルト云フコトハ、私ハ國家トシテ當然爲スベキ筋合
ナリト確信致スノデアリマス、(拍手)斯樣ナ次第デアリマシ
テ、本案ヲ提出致シタノデアリマス、願クバ諸君ノ協賛ヲ得
マシテ、此案ノ通過スルコトヲ希望致シテ止マヌノデアリマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=52
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053・高見之通
○高見之通君 本案ハ議長指名、九名ノ委員ニ付託セラ
レンコトヲ望ミマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=53
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054・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシク、是ニテ日程ヲ終リマシ
タ、茲ニ御諮リ致ス事ガアリマス、關和知君ヨリ日支郵便
約定ニ關スル緊急質問ガ提出サレマシタ、之ヲ許可スルニ
御異議アリマセヌカ
Tax議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=54
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055・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、仍テ之
ヲ許可致シマス、關和知君
口支郵便約定ニ關スル緊急賃間(関和知
君提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=55
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056・作間耕逸
○作間耕逸君 最モ重要ナ問題デアリマスカラ、特ニ總理
大臣及關係國務大臣ノ出席ヲ求メマス、而シテ多分兩大
臣共豫算總會ニ出席中デアリマセウケレドモ、繰合セテ必ズ
此席ニ山席下サルヤウ、議長ニ於テ御取計ヲ顯ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=56
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057・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御答致シマス、先刻來豫算委員
會ノ方ニ向ヒマシテ交涉ヲ進メテ居リマス、左樣御承知ヲ
願ヒマス-關君ニ御尋シマスガ、總理大臣ノ御出席ガナク
テハ質問ヲ御述ニナルコトハ出來マセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=57
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058・關和知
○關和知君 是非總理大臣竝ニ外務大臣ノ御出席ヲ希
望スルノデアリマス、御出席ガナケレバシレマデ御待ヲ中シテ
モ宜シイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=58
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059・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 少シク御待チヲ願ヒマス
〔「休憩ヲ希望シマス」「休憩」「休憩」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=59
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060・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 暫時休憩ヲ教シマス
午後二時四十一分休憩
午後三時七分開議
日支郵便約定ニ關スル緊急質問(續)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=60
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061・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 休憩前ニ引續イテ會議ヲ開キマ
ス、先刻作間君ヨリ御要求ニナリマシタ總理大臣外關係大
臣出席ノ事ハ、早遠交涉致シマシタ、併ナガラ總理大臣ハ
豫算會議ノ都合上、何分ニモ出席ガ出來ヌサウデアリマス、
外務大臣ガ御出席ニナッテ居リマス、關君御發言ニナリマス
カ-闘和知君
〔關和知君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=61
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062・關和知
○國和知君 諸君、本員ハ玆ニ國家ニ取ッテ極テ重大ナル
問題ニシテ、吾々臣子ノ分トシテ寸時モ晏如トシテ視テ居ル
コトヲ許サナイ、、極テ大切ナル問題ニ付テ、總理大臣ノ答辯
ヲ求メル爲ニ質問ヲ提起スルノデアリマスルガ、只今議長ノ
仰セニ依レバ、加藤首相ハ豫算總會ノ議事ノ都合ヲ以テ、
當議場ニ御出席ニ相成ラヌト云フコトデアリマシテ、深ク遺
憾ニ存ジマスルガ、問題ニ關係ヲ有スル當該外務大臣ノ出
席ヲ得マシクニ依^テ、私ノ質問ノ趣意ヲ簡單ニ申述ベテ見
タイト思ヒマス、事ハ日支郵便約定ノ問題デアリマスルガ、
此事ハ今日ニ於テハ、一面樞密院ト政府トノ交渉問題トナ
リ、一面ニハ御承知ノ如クニ貴族院竝ニ衆議院ニ於テ種々
ナル論爭ノ中心ヲ爲シテ居リマス、而シテ此郵便條約ノ成
立ニ付キマシテハ、特ニ此場合說明ヲスル必要モナク、現ニ政
府ト樞密院トノ間ニ其條約ノ成立ノ效力、及其手續ニ付キ
マシテ意見ノ扞格ヲ來シ、衝突ヲ見タル其結果畏クモ聖斷
ヲ仰グニ至フタト云フコトハ、今日ニ於テハ天下公知ノ事實デ
アリマス、本員等ハ此問題ノ內容ニ付キマシテ、樞密院ト政
府トノ間ニ於ケル交涉ガ如何ニ發展ヲシ、如何ニ解決ヲスベ
キカ、又此條約ニ對スル政府ノ處置ニ付テ如何ナル過失若
クハ齟齬ノアッタカト云フコトハ姑ク之ヲ別問題ト致シテ置
キマスルガ、此場合特ニ看過スルコトノ出來ナイ事柄ハ、本
件ニ關シテ畏クモ聖斷ヲ仰イデ、樞密院竝ニ政府ニ向ッテ勅
諚ヲ賜シタト云フコトノ事實デアリマス、而シテ其所謂御沙
汰書ナルモノニ付テハ、私共勿論其内容ヲ窺知スルコトハ出
來マセヌガ、現ニ都下ニ於ケル幾多ノ新聞紙ニハ、當時早タ
其御沙汰書ノ內容ナルモノガ揭載ヲセラレテ、一般民衆ノ
前ニ是ガ公表セラレテ居リマス、其新聞ニ依シテ吾々ガ優諚
ノ内容ナルモノヲ窺ヒマスルト云フト、實ニ斯樣ナル事柄ヲ
傳ヘテ居リマス、一月ノ二十四日ノ東京朝日新聞ニ依リマ
スルト云フト、攝政宮殿下ヨリ政府ニ對シテ賜リマシタ御沙汰
ト致シテ「樞密院ハ帝國ノ外交ニ關シ非常ニ憂慮シテ居ル
ヤウデアル、外交ハ世界平和ノ大義ニ依ッテ行ハネバナラヌ
ガ、又併セテ帝國ノ權利ヲ擁護セネバナラヌ」ト宣ヒ、更ニ「將
來先帝ノ偉業ヲ失墜スルコトガアッテハナラヌ」ト云フ旨ヲ御
論シニナリマシテ、尙ホ樞密院ニ對シテハ「日支郵便約定御
諮詢奏請ノ手續ニ關シテハ官制ノ規定ヲ遵守シ、斯クテ大
政輔弼ノ機關タル國務大臣ト至高詢謀ノ府トノ間ニ柄鑿
牴牾ヲ避ケ以テ聖慮ヲ安ンゼヨ」云々更ニ同日ノ東京日々
新聞ニ依リマスルト、同ジク御沙汰ノ內容トシテ政府ニ對シ
テ「天皇ハ樞密院ノ上奏ノ趣旨ニ基キ外交上ノ事ハ重大
デアルカラ、朕ガ祖宗ノ遺業ヲ體シ能ク注意シテ事ニ當レヨ
又樞密院ノ官制ノ規定ハ之ヲ重セヨ」トアリ、樞密院ニ對シ
テハ「外交上ノコト及ヒ樞密院官制ノ重ンズベキコトニ付テ
ハ國務大臣ニ諭シテアルカラ卿等ソレ之ヲ諒セヨ」斯樣ニ畏
多クモ政府及樞密院ニ對シテ下シ賜クタル勅諚ノ内容ガ公
表セラレテ居リマス、私共是ニ於テ臣子トシテ深ク疑ヒ感フコ
トハ、若シ此勅諚ノ内容ガ意味ニ於テ只今朗讀シタルガ如
キモノデアルトスルナラバ、政府ニ對シテ樞密院ノ官制ノ規
定ヲ尊重セヨト、斯樣ニ仰セラレタル御言葉ノ意味ヲ拜察
致シマスルト云フト、如何ニモ現政府ノ此條約ニ對スル手
續ノ上ニ於テ、憲法上樞密院官制ノ定ムル所ニ何等カノ過
失ガアッタカ、或ハ過誤ノ點ガアッタカ、卽チ手續上ニ於テ官
制ニ關シテノ過チガアッタト云フコトガ基礎ニナフテ、ソレニ
依シテ陛下ヨリ官制ノ規定ハ尊重セナケレバナラヌソト云フ
御言葉ヲ賜ッタモノデハナカラウカト拜察セザルヲ得ナイノデ
アリマス、又兩新聞ノ孰レニモ、或ハ先帝ノ偉業ヲ失墜シテ
ハナラヌ、祖宗ノ遺業ニ-言葉ハ違ヒマスルガ萬一瑕瑾ヲ
付クルヤウナコトガアッテハ相成ラヌト云フヤウナル御言葉ヲ
拜讀致シマスルト云フト、少クトモ其意味ニ於テハ現内閣ノ
外交ナルモノガ、或ハ先帝ノ偉業ヲ失墜スルノ虞アルモノカ
ノ如ク思召サルヽ所ノ、亭實ノ根據ガ潜ンデ居ルノデナケレ
バ、畏多イ事デアリマスルガ、至尊ヨリ斯ノ如キ御言葉ヲ特
ニ此内閣ニ賜ルト云フベキ筋合ハ、吾々臣子ノ常識ヲ以テ
判斷ヲ致シマシテモ、斯樣ニ拜察セナケレバナラヌノデアリマ
ス(拍手)政府ハ果シテ此新聞ニ依フテ公表セラレタルガ如
キ御沙汰ヲ拜受致シタモノデアルヤ否ヤ、若シ事實御沙汰
ヲ拜シタトスルナラバ、其內容ハ世聞ニ傳フル所ノ斯ノ如キ
意味合ノモノデアッタカドウカ、若シ斯ノ如キ內容ノ勅諚ヲ拜シ
タリトスルナラバ、現内閣ノ諸公ハ此勅諚ニ對シア、政治上如
何ナル責任御ヲ御自覺ニナラルヽノデアルカ、而シテ尙ホ御尋
申シタイコトハ、今日此問題ハ實ニ上下ヲ舉ゲテ六千万ノ
同胞ガ國家ノ爲ニ、又國體ノ上ニ、又憲法政治ノ上ニ於キ
マシテ實ニ憂慮措ク能ハザル問題トナッテ居リマス、殊ニ斯ノ
如キ勅諚ヲ拜讀スル所ノ臣子ト致シマシテハ、獨リ當局ノ政
府ノミナラズ、一般ノ吾々同胞ハ聖旨ノ程ヲ推測リ奉ノテ寔ニ
恐懼措ク能ハザル所ノ感ニ堪ヘナイノデアリマス、政府ガ若シ
斯ノ如キ勅諚ヲ拜シタリトスルナラバ、其性質カラ言ウテモ、
其關係カラ中シマシテモ、國務ニ關スル有難キ勅諚デアル以
上ハ、其勅諚ニ依ッテ臣子ガ疑ヒ感ウテ居ルト云フ場合ニ於
キマシテハ、政府當局トシテ宜シク此勅諚ヲ公表致サレテ、聖
旨ノ畏キ思召ノ存スル所ヲ一般ニ光被セシムルト云フコト
ハ、獨リ此問題ヲ解決スル上ニ於テ必要ナルノミナラズ、臣
子ヲシテ國務ニ對シ、陛下ニ對スル所ノ安心ヲ與フル所以デ
アッテ、政治上輔弼ノ重責ニ在ル所ノ大臣トシテハ當然爲ス
ベキ所ノ手段デアルト考ヘマスカラ、此勅諚ノ内容ナルモノヲ
國民ニ向ノテ公表スル御考ガアルヤ否ヤ、此點ガ私ノ總理大
臣ニ向ッテ御尋ヲシタイト云フ要點デアリマス、臨時ニ日程
ヲ變更シテ、此問題ニ付テ政府當局ノ御意見ノ在ル所ヲ伺
ヒタイト云フコトハ、恐ラク本員等同志ノミナラズ、天下一
般ノ愛國忠良ノ精神ニ富メル吾々ノ六千万ノ同胞ハ、一日
モ早ク其眞相ヲ知ルガ爲メニ、政府ノ斯ノ如キ公明ナル處
置ニ出デラレンコトヲ望ム者デアルト考ヘマシテ、玆ニ此質
問ヲ提起シタ所以デアリマス
〔外務大臣伯爵内田康哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=62
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063・内田康哉
○外務大臣(伯爵内田康哉君) 只今關君ノ爲サレマシタ
御質問ハ、洵ニ重大ナル問題デアリマスガ故ニ、總理ヨリ御各
スルノガ、當然ノ事ト思ヒマスガ、豫算委員會ノ方ニ於テ已ム
ナキ用ガアッテ、本席ニ出席スルコトノ出來ナイノヲ遺憾ト致
シマス、問題ハ私ノ管掌事務ニ關シマスカラシテ、一應私ヨ
リ御各辯ヲ中上ゲマス、開君ハ日支郵便協定ノ事ニ付テ本
月二十二日ニ攝政殿下ヨリ何カ御沙汰書ガアっタ、其事柄
ガ新聞ニ出テ居ル、其新聞ノ記事ヲ引證セラレマシテ、四箇
條ノ御質問デアリマスガ、是ハ度々總理大臣ガ本席及貴族
院ニ於テ答辯ヲセラレマシタ通リニ、政府ト樞密院トノ間ニ
於ケル本件ノ交涉及御沙汰ノ次第ハ、遺憾ナガラ公表スル
コトガ出來ナイ、御沙汰ノアッタコトハ總理大臣自ラ之ヲ本
席ニ於テ確カ申シ述ベタト私ハ存ジマス、御沙汰ノ次第ハ
其如何ナル御言葉ニモ拘ラズ無論闇臣トシテ恐懼措ク能
ハザル所デアリマスケレドモ、此御沙汰ノ次第ヲ公表スルコ
トガ出來ザル以上ハ、只今ノ御質問ニ對シテ御答ヲスルコト
モ當然出來ナイ、隨シテ第一問ノ新聞紙ニアルガ如キ御沙
汰ヲ拜シタカト云フ御質問ニ對シマシテハ、御沙汰ハ拜シタ
ト云フコトハ既ニ總理大臣之ヲ言明致シマシタガ、ソレガ果
シテ新聞紙ニアル如キモノデアルカナイカト云フコトハ、是ハ
言明スル限デハアリマセス、第二問ノ内容云々モ隨テ是亦
遺憾ナガラ御答ガ出來ナイ、唯、〓此日支郵便協定ノコトニ
付キマシテ、又御沙汰ヲ拜シタコトニ付キマシテハ、政府ハ何
處マデモ責任ヲ取ルノデアリマス、是ハ總理大臣自ラモ此事
ヲ言明シテ居リマス、總テノ政治ノ事ニ付キマシテ、内閣ガ
執ッタ所ノ事柄ニ付テ、閣臣ガ其責任ヲ取ルハ當リ前ノ事デ
アリマス、最後ノ御質問ハ、此事件ノ性質ヨリシテモ、又關
係ヨリシテモ、免モ角モ全國民ガ疑ヲ懷イテ居ルカラ、宜シク
御沙汰ノ次第ヲ公表シテ疑ヲ解クガ宜カラウト云フ御質問
デアリマシタガ、是亦總理大臣ガ旣ニ言明シタ所ヲ繰返スヨ
リ外ハナイノデアリマス、然ラバ總理大臣ハ何ト中シタカト
申シマスレバ、樞密院ト政府トノ間ニ於ケル交渉及御沙汰
ノ次弟ハ、遺憾ナガラ之ヲ公表スルコトガ出來ナイ、併シ世
ノ中ノ疑ヲ解ク爲ニ、何カ他ニ方法ガアルナラバ、是ハ攻究
ヲスル、併シ今現ニ斯ノ如クスレハ其疑ヲ解クニ足ルト云フ
案ハ未ダ之ヲ持ッテ居ナイ、斯ク明ニ言明ヲシテ居リマス、卽
チ此言明ヲ繰返シテ御各辯トスル外ハナイト私ハ存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=63
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064・關和知
○關和知君 此席ヨリ御許シヲ願ヒマス、只今ノ外務大
臣ノ各辯ヲ伺ヒマスルト、殆ド先日來總理大臣竝ニ外務大
臣ガ衆議院ニ於テ、或ハ貴族院ニ於テ、質問ニ對スル答辯
ト何等異ナル所ナク、徹頭徹尾樞密院ト政府トノ交涉ナル
ガ故ニ之ヲ明ニ答ヘルコトガ出來ナイト言ヒ、唯祕密ノ一
言ヲ以テ有ユル天下ノ疑感ニ向ッテ谷ヘラレルト云フヨリ外、
何モノモ此答辯ニ依シテ得ル所ハアリマセヌ、元來樞密院ト
政府トノ交涉問題デアルト云フコトハ、此成立チカラ無論
吾々モ承知ヲ致シテ居ル、併シ事ハ確ニ國務ニ屬スル重大
ナル問題デアッテ、其國務ニ對スル所ノ國家最高ノ機關タル
樞密院ト政府トノ間ニ意見ノ扞格ヲ生ジ、其結果畏クモ聖
斷ヲ仰グニ至ッタト云フコトハ、是ハ確ニ図家重大ノ問題デ
アッテ、其問題ハ唯、單ニ政府ト樞密院トノ兩者ニ依ッテ獨
占サルベキ性質ノモノデハナイノデアリマス(拍手)殊ニ此問
題ノ經過ニ依ッテ見マスレバ、只今詳シク中上グル必要モナ
イ、此事ハ天下ニ明ニ既ニ事實ノ定マッテ認メラレテ居ル所
ノモノデアル、衆議院ノ質問ニ於テモ、貴族院ノ論議ニ依クテ
見マシテモ、此條約ノ效力發生ノ時期ニ付テ、現內閣ノ此
問題ニ對スル處置ハ、一面ニ於テハ樞密院ヲ欺キテ居ル又
樞密院ノ上奏ニ對シテ己ノ過チノ蔽ハンガ爲ニ、內容ヲ發表
スルコトガ出來ヌ、答辯ガ出來ナイト云フヨリ外、何人ニ
依クテモ推測スルコトガ出來ナイコトニナッテ居リマス、斯ノ如
ク、事ハ聖裁ヲ煩シ天下一般此問題ノ委曲ニ付テ疑ヒ感ウ
テ居ル場合ニ拘ラズ、國務重大ノ事件タルコトヲ知ッテ、
國民ヲ疑感ノ中ニ置イテ、何等ノ答辯モ與ヘズ、而シテ唯と
責任ヲ感ズルト云フコトニ依シテ、吾々ニ向ッテ滿足ナル答辯
ト心得ラルヽト云フコトハ、如何ニモ國務大臣、殊ニ此內閣
ノ國務大臣ハ至尊ニ對シ、國務ニ對シテ、誠意ヲ缺クノ甚ダ
シキモノデアルト斷定セザルヲ得ナイノデアリマス、(拍手)勅
諚ガアッタト云フコトヲ旣ニ認メラレテ居ル、其勅諚ハ新聞ニ
依シテ天下萬衆ニ公表サレテ居ル、其勅諚ハ事實デアックカ
事實デナイカト云フコトハ、何故ニ是ガ谷辯ガ出來ナイカ、
其公表サシテ居ル內容ガ誤リデアルト云フナラバ、國務大臣
トシテハ一刻モ速ニ之ヲ正サルベキ筈デアル、若シ正スベキ程
ノ誤リガナイ、事實斯ノ如キ內容ノ勅諚ヲ拜シタト云フコト
デアルナラバ、國務大臣ガ責任ヲ感ズルト云フ以上ハ、此陛
下ニ對スル輔弼ノ責ヲ誤ッタト云フコトニ對シテ引責スルト
云フコトハ、當然ノ結論デアラウト思ヒマス此點ニ付テハ不
幸ニシテ今日ハ總理大臣ノ答辯ヲ得ザルコトヲ深ク遺憾ト
スルノデアリマスガ、出来得ルナラバ責任ヲ自覺サレテ居ル
外務大臣トシテ、此問題ニ對スル引責ノ御考ヲ伺ヒタイ(拍
き)
〔「答辯ノ必要ナシ」「無用」「必要アリ」「大臣責任論
ダ」ト呼フ者アリ〕
〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇」発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=64
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065・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 關君ハ私ノ答辯ハ、既ニ
本席或ハ貴族院ニ於テ、總理大臣若クハ私ヨリ答辯シタ所
ニ何等加フル所ガナイト仰セラレマシタガ、其通リデアリマ
ス、各辯ハ是レ以上ニ致シ兼ネル、固ヨリ政府輔弼ノ任ハ
何處マデモ盡シテ居ル積リデアリマス、此點ニ付テハ總理大
臣モ既ニ言明ヲ致シテ居リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=65
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066・粕谷義三
○副議長粕谷義三君) 是ヨリ前囘ニ引續キマシテ國務
大臣ノ演說ニ對スル質疑ニ移リマス、通告順ニ依フテ發言
ヲ許シマス、安藤正純君
一國務大臣ノ演說ニ對スル質疑
(前會ノ續)
[安藤正純君登壇]発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=66
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067・安藤正純
○安藤正純君 私ハ大正十二年度ノ豫算ニ羅馬法王廳
ニ外交ノ使節ヲ駐派スル經費トシテ十一万四千餘圓ヲ計
上サレテ居リマスコトニ付キマシテ、是ガ疑問ヲ簡單ニ總理
大臣、外務大臣、竝ニ文部大臣ニ御伺ヒ致シタイト思フノデ
アリマス、私ノ質問致シタイト思フ第一ハ、從來取來リマシ
タ我ガ外交ノ方針ニ反シテ、新ニ羅馬法王廳ト使節ノ交
換ヲスルト云フコトニ付キマシテハ、爰ニ新タナル重大ナル
意義ト理由トガナクテハナルマイト思フノデアル、殊ニ經費
節減ノ必要ニ迫マラルヽ今日、最モ重大且ツ緊要ノ事デナ
クテハナリマセヌ、然ルニ私共ノ見ル所ニ依リマシテハ、斯ル
重大ナル意義理由ヲ發見スルコトガ出來マセヌ、之ニ對シ
テノ御說明ヲ願ヒタイノデアリマス、第二ハ費額ハ十一万
四千餘圓デ、大シタ費目デモアリマセヌガ、此新ラシキ施
設カラ生ズル所ノ將來ニ對スル我ガ國策上ノ影響如何ト
云フコトデアリマス、第三ハ法王廳ノ使節交換ハ、向フカラ
參リマスル使節ノ使命ガ外交使節デアルカ、宗〓使節デア
ルカ、勿論外交ノ使節ニ相違ナイノデアリマスガ、果シテ外
交使節ナルモノト-羅馬法王廳ノ高僧ガ其使命ヲ帶ビ
テ參ル外交使節ト-宗〓使節トノ間ニ劃然タル、區別ガ
立テラレルヤ否ヤト云フコトデアリマス、第四ハ果シテ其限
界ガ劃然ト立テラレナイト致シマスルト、現政府ノ施政ノ方
針ハ確ニ統一ヲ缺イテ居ルト考ヘルノデアリマス、此四ツノ
點ヲ御伺ヒ致シタイノデアリマス、仍テ是カラ簡單ニ質問ノ
理由ヲ申上ゲタイノデアリマス、第一羅馬法王廳ニ使節ヲ
派遣スルト云フ理由ハ、外務大臣ガ貴族院ニ於キマスル所
ノ江木君ニ對スル答辯、竝ニ其以後ニ貴衆兩院ニ於ケル
總テノ場合ニ於ケル外務大臣ノ辯明、及ビ外務省カラ發
表ヲ致シマシタモノニ依ッテ分明致シテ居リマスルガ、要スル
ニ外務大臣ノ是ガ理由ト致シマシテハ羅馬法王ト云フモ
ノハ、大戰中平和ノ促進ニ貢獻シタ、其結果、各國カラ使節
ガ派遣サレテ居ル、大戰中ハ十四箇國デアッタガ、斯ウ云フ
結果ニ基イテ、戰争ガ終ッテカラハ二十七箇國ニ增加シテ
居ル斯ル場所ニ外交官ヲ派遣シテ、世界ニ三億數千万ノ
信者ヲ持ノテ居ル此勢力ヲ通シテ、日本ノ平和的精神ヲ各
國民ノ間ニ十分ニ了解ヲセシメタイ、斯ウ云フノガ一番主ナ
ル理由ノヤウデゴザイマス、私ハ此理由ハ餘リニ薄弱ニシテ、
一言ニシテ殆ド理由トナラナイト云フコトヲ少々申上ゲテ
質問ヲ致シタイト思フノデアル、假令大戰中十四箇國シカ
ナカッタ使節ガ、戰後二十七箇國ニ殖エマシテモソレハ皆基
督〓國ノ間デアル、基督〓國相互ノ間ニ於テハ、成程其便
利モアリマセウガ、日本ノヤウナ非基督〓國デハ特ニ其便宜
ハナイノデアル、勿論信〓自由ノ世ノ中デアリマスカラ、羅
馬〓會ノ宗〓上ノ宣傳トカ、或ハ交際トカ云フコトニ付テ
彼此レ言フベキ筋合ノモノデハナイト私ハ思ッテ居ル、此點
ハ勿論自由デアリ平等デナクテハナラヌト思ッテ居ルノデア
リマス、唯〓併シ其羅馬法王廳ナルモノト日本ト-關係
モ何モナイ、羅馬法王廳ト-宗〓上デハナク、外交上ノ交
際ヲ開ク特別ノ必要ハナイノデハナイカ、斯ウ云フコトヲ考
ヘルノデアリマス、卽チ同一ノ宗〓國間ニ於テ使節ノ交換
ヲスルト云フコトハ、寧ロ禮儀デモアリ、又便利ガ多イニ違ヒ
ナイガ、異宗〓國ノ間ニ於テハ、ソレ程ノ便利モ必要モアリ
マセヌ、加之此事ノ爲ニ國內關係ニ於テ測ラザル事變ヲ釀
モサナイトモ限ラナイ、之ハ外交家トシテ政治家トシテ、大ニ
考フベキ事デハナイカト思フノデアリマス、殊ニ此羅馬〓會
ノ勢力ヲ通ジテ、日本ノ平和的精神ヲ世界ニ宣明シヤウナ
ドヽ云フコトハ、殆ド是ハ嗤フニ堪ヘタ事デハナイカト思フ
(拍手)歐洲ノ二十七箇國ガ法王廳ニ使節ヲ派遣シタカ
ラ、日本モ是ニ做シテ使節ヲ派遣シテ、日本ガ侵略主義ノ國
デハナイ、軍國主義ノ國デハナイ、平和主義ノ國デアルト云
フコトヲ、是ニ依フテ世界ニ認メサセヤウナドヽ云フコトハ餘
リニ兒戲ニ類シタ噴飯滑稽ノ事デハナイカト思フノデアル
(拍手)若シ外務大臣ガソレ程ニ侵略主義、軍國主義ト云
フコトヲ外國カラ言ハレルノガ氣ニナッテ、日本ハ平和主義
ノ國デアルト云フコトヲ宣明シタイナラバ、私ハ羅馬法王ノ
所ニ公使ヲヤルナドヽ云フ、ソンナ形式的ナ廣告的ナ事ハ
後トシテ、モット國内ノ平和的諸制度ヲ充實シナクテハナル
マイト思フ先ヅ其第一ニハ二重外交ノ撤廢デアル、日本ハ
陸軍ト外務ト二重外交ヲシテ居ルト云フコトハ、歐米ノ政
府及國民ガ常ニ言シテ居ルノデアル、外務省ノ裏ニハ陸軍ガ
アッテ、常ニ日本ノ外交ニハ軍閥ト云フモノガ邪魔ヲシテ居
ル、卽チ日本ノ外交ニ二重外交デアル、ソレダカラ平和ノ外
交ト云フモノガ出來ナイ、平和主義ノ內政ノ妨ゲニナル、若
シ外務大臣ガ日本ハ平和主義ノ國デアルト云フコトヲ、ソレ程
急イデ宣明ヲシタイナラバ、先ヅ此軍聞外交ヲスッカリ廢メ
テシマッテ、國民ヲ基礎トスル外交ヲ外務省ガヤルト云フコ
トガ一番先キデハナイカト思フノデアル(抬手)ンレカラ又軍
備縮小デモサウデアリマス、前議會ニ於テ本院ガ各派一致
ノ決議ヲ以テ致シマシタ此軍縮ノ事ニ對シテハ、其後陸軍
デハ之ヲ實行致シマシタガ、本院ガ決議ヲ致シマシテ軍縮ト
ハ其ノ間大分ノ距離ガ多イノデアル、而モ此陸軍ノ軍縮ノ
內容ナルモノハ、表面ハ立派デアルガ、題目ヲ美名ニ藉リテ、
內實ハ胡麻化シテアル、事ガ歴々トシテアルモウ少シ誠意ノ
在ル所ノ軍縮ノ施設ヲ致シテコソ、初テ我ガ日本ノ平和主義
ノ宣明ヲスルコトガ出來ルノデハナイカト思フノデアリマス、
更ニ又普通選擧デモサウデアル、今日日本ニ普通選
擧ガ行ハレテ居ラヌト云フコトハ是ハ恥辱デアリマス、
外國ニ對シテ恥辱デアリマス、ダカラシテ日本ハ官僚
主義ノ國デアルー云フヤウナコトヲ言ハレテ居ル、本
當ニ平和主義ノ宣明ガシタケレバ、先ヅ此普通選擧ヲ先キ
ニ斷行スル方ガ宜シイ(拍手)現政府ニ於テハ選擧法制度
調査會ヲ設ケテ、技末ノ事項ニ付テノ調査ハシテ居リマスル
ガ、普通選舉卽行ノ第一義ヲ決定シナイ、以上簡單ニ擧ゲ
マシタヤウナコトヲ實行スル方ガ、眞ニ世界ニ對スル實質的
ノ平和主義ノ宣明ト云フモノデアリマス、唯〓徒二二十七
箇國ガ使節ヲ派遣スルカラ、日本モ此顰ニ傚ッテ使節ヲ派
遣スルナドト云フコトハ、是コソ實ニ追隨外交-歐羅巴ノ
追隨外交、歐羅巴ノ通辨外交ノ標本ト云フモノデアラウト
思フ(拍手)抑モ明治維新以來、五十餘年ニナリマスガ、我
國ニハ我國ノ國是ガアル、此國是ニ基ク所ノ外交ノ方針ガ
アリマス、開國以來五十餘年間、我國ハ羅馬法王廳ト何等
常設的ノ修交関係ハ致シテ居リマセヌ、面シテ今日現在モ
決シテ其必要ハアリマセヌ、我國ニハ我國ノ獨立シタル思想
ト、我國特有ノ國情トガアル、假令歐羅巴全體ガ法王廳ト
修交關係ヲシタト云っテモ、我國ハ我國特殊ノ國情ニ依ッテ
外交ノ方針ヲ執レバ宜カリサウナモノダト思フノデアル、之ヲ
要スルニ今日財政緊縮ヲシナケレバナラヌト云フ必要ニ迫
ランル今日、十一万四千餘圓ノ金ヲ出シテ、此薄弱ナル理
由、何等有力ナル積極的ノ理由ト認ムベキモノヽナイ羅馬
法王廳ト使節ノ交換ヲスルト云フ必要ハナイト私ハ思フノ
デアル、併ナガランレ以上ニ今日目ノ當リ、ドウシテモ斯ル重
大ナル必要ガアルト云フコトガ此理由以外ニアルナラバ、外
務大臣カラ承リタイト思フノデアリマス、次ニ羅馬法王廳ナ
ルモノガ、主宰タル所ノ羅馬〓會ノ歐羅巴ニ於ケル歴史ヲ
見マスルト、羅馬教會ト云フモノハ常ニ基督新〓ト爭ヲシテ
居リマシテ、殊ニ國家宗〓ノ關係ニ對シテハ世界ノ平和ヲ
攪亂シテ居ル、而シテ彼ハ羅馬〓會ヲ以テ單リ精神的ノ權
威トスル許リデナク、實ニ地上ニ於ケル-此世ニ於ケ
ル-物質的實在ノ絕對權威者トシテ居ルノデアル、其結
果各國ノ君主ヲ惱マシ、國家ノ獨立ヲ脅威致シマシク、ー
言ニシテ言ヘバ羅馬法王廳ノ過去ノ歴史ハ國家宗〓衝突
ノ流血ノ歷史ト云フテ宜シイノデアル、併シ是ハ歐羅巴中世
ノ事デアル、過去ノ事デアル、私ハ過去ノ事ハ是ダケ言フニ
止メテ、今更之ヲ繰返シテ、斯ウ云フ事ガアルカライカヌト
云フヤウナ、ソンナ頑具ナコトハ申上ゲナイノデアル、ソレヨリ
モデス、現在ノ事ニ付テ外務大臣ニ伺ヒタイ、外務大臣ハ貴
族院ニ於テモ江木君竝ニ山脇君ノ質問ニ答ヘラレマシテ、
法王廳ガ世界大戰ノ中ニ於テ、或ハ戰後ニ於テ平和二貢
獻シタト云フコトヲ極力言ハレテ居ル、ソレダカラ日本モ平
和的精神ノ闡明ノ爲ニ使節ヲ交換スルノダト極力言ハレテ
居ル、私ハ餘リニ外務大臣ガ法王廳/平和ノ貢献ト云フコ
トヲ高調セラルヽカラ、玆ニ私ハ又疑問ヲ起シタノデアル、外
務大臣ガンレ程法王廳ノミガ非常ニ平和ニ貢献シテ居ルト
云フコトヲ高調シナケレバ、私モ特ニ斯ンナ事ヲ言ハウトハ
思ハナイガ、餘リ際立ッテ御言ヒニナルカラ茲ニ一言世ノ疑
ヲ解イテ置キタイ、卽チ然ラバ愛蘭ノ獨立騒動ハドウデアル、
是ハ現在ノ事デアリマス、中世ノ事デハナイ、過去ノ事デハナ
イ、現在ノ事デアルガ、是ハ如何デアルカ、愛蘭ガ母國ノ英國
ニ反抗ヲ致シマシテ、獨立共和ノ激烈運動ヲシタコトハ其裏
面ニ誰ガ在ルカ、言フ迄モナク羅馬〓會ガ其裏面ニ潜在シ
テ居ルト云フコトハ殆ド誰デモ知ッテ居ルコトデハナカラウカ
ト思フ、現ニ法王應ハ戰爭中ニモ非常ニ平和ニ貢献シタト
御言ヒニナルガ、戰爭中ニ英國ハ愛蘭ニ徴兵令ヲ布キマシ
タ、所ガ北部ノ「ウルスター」ノ方ハ之ヲ認容致シマシタガ、南
部愛蘭ニ於キマシテハ激烈ニ此微兵令ニ反對フシク、其反
對ノ中心ヲ爲シタノハ誰カト云ヘバ、卽チ羅馬〓會ノ坊サ
ンデアル、法王ノ下ニアル羅馬〓會デアル、其反徴兵運動
ノ誓約書ト云フモノガ出來テ居ルガ、其誓約書ノ中ニハ現
ニ「ログーン」大僧正ヤ「ワルシユ」大僧正ト云フヤウナ、有名
ナ羅馬法王直轄ノ高僧ガ之ニ署名ヲシテ、澤山ノ僧侶ヲ
使クテ反抗運動ヲサセテ居タデハナイカ、加之反徵兵運動ノ
基金募集ヲ盛ニヤフタノデス、其結果ガドウ現レテ來タカト
云フト、兵役ニ應募シタ其壯丁ノ比例ヲ言ッテ見マスト、英
蘭ヤ蘇格蘭ニ於キマシテハ、七十一「パーセント」デアッタ、之
ニ對シテ愛蘭ハ丁度其數字ヲ逆マニスル所ノ十七「パーセ
ント」ノ外壯丁ノ募集ガ出來ナカッタト云フ結果ヲ生ジテ居
ル、斯ノ如ク母國ガ今危急存亡ニ瀕スルト云フ場合ニ當ッ
テ、徴兵令ノ反對運動ヲシテ此數字ヲ出サシメタノハ、誰
デアルカト云ヘバ、羅馬〓會デアル、羅馬法王ノ使ッテ居ル所
ノ僧侶デアルト云フコトハ、是ハモウ有名ナ事實デアル、此狀
態ヲ見マスト羅馬〓會ト云フモノハ、平和々々ト仰ッシヤル
ガ、果シテ平和ガ理想カ、非平和ガ理想カ、惑ハザルヲ得ナ
イノデアリマス、我國ニモ植民地ガアル、殊ニ朝鮮ノヤウナ不
逞鮮人ナル者ガアッテ、常ニ獨立隱謀ヲ逞ウシテ居ルト云フ
事實モアル、私ハ此最近數年間ノ愛蘭ノ狀態ト、之ニ關係
スル羅馬〓會ノ有樣ヲ見マシテ、茲ニ何モ殊更ニ(信徒ノ少
ナイ彼ノ地盤ノ薄弱ナル我ガ日本ノ國ニ、特ニ羅馬〓會ト
修交ヲ開クト云フ必要ハアルマイト思フ、若シ之ヲ爲サント
スルナラ我ガ國策上ノ將来ノ影響ニ向クテ、一大考慮ヲ用フ
ベキ筋合ノモノデハナイカト思フノデアリマス、之ニ對スル政
府ノ所見ヲ伺ヒタイノデアル、第三ニ、江木翼君ハ貴族院ニ於
キマシテ、日本ノ憲法ニ定メル所ノ安寧秩序ヲ妨ゲズ、臣民
タルノ義務ニ背カザル限リニ於テハ、信徒ノ自由ト云フモノ
ガアルカラ其點ハ差支ナイガ、併シ羅馬法王ト日本ノ國家
トガ如何ニシテ修交關係ヲ結バナクテハナラヌノカ、此ノ眇
タル「パチカン」ノ一局ニ籠テテ居ル所ノ羅馬法王ト、何故急
ニ日本ガ外交關係ヲ開カナクテハナラヌカ、斯ウ云フ質問ヲ
シタノデアル、是ハ私モ同意見デアリマス、而シテ外務大臣
ノ是ニ對スル答辯ハ、顧ミテ他ヲ言フト云フ態度ナンデス、
何ト答ヘテ居ルカト一云フト、羅馬法王カラ派遣ノ使節ガ宗
〓ヲ宣傳シタリ、或ハ宗〓事項ニ關係アルヤウニ世間デ誤
解シテ居ルガ、ソレハ全然間違ヒダ、羅馬法王ノ使節ト云フ
モノハ宗〓ニハ關係ガナイ、純然タル外交使節ダカラ安心シ
テ可ナリト、斯ウ云フ答辯ヲシテ居ル、此問答ハ全ク當篏ッテ
居ラヌ、實際顧ミテ他ヲ言ッテ居ルノデス、江木君ノ方ハサウ
云フ質問デハナイ、宗〓ノ方ハ是ハ信〓ノ自由ノ今日ノ世
ノ中ダカラ差支ナイ、併ナガラ何故斯ウ云フモノト外交ノ使
節ヲ交換シナケレバナラヌカト云フ質問ナノデアル、サウスル
ト外務大臣ハ其方ハ地リ出シテ置イテ、宗〓ニハ關係ガナ
イカラ御安心ナサイト云フ、マルデ嘯イテ他ノ事ヲ言ッテ答辯
シテ居ル、是ハ私ハ分ラナイ、私ハ此外務大臣ノ答辯ハドウ
シテモ分リマセヌガ、併シソレハソレトシテ置イテ、私ハ此外
務大臣ノ答辯ニ依シテ更ニ新タナル大ナル疑問ガ生ジタ、卽
チ法王ノ使節ガ舊〓ノ坊サンデアル以上、殊ニ高僧デアル以
上、外務大臣ガ言フガ如クニ純然タル外交ノ事ノミデ、羅馬
〓會ト云フモノヽ宣傳ニハ一切關係ガ無イト云フコトガ實
際上出來ルカドウカト云フコトデス、是ハ私ハ常識上サウ云フ
事ハ出來マイト思フ、羅馬法王ノ命令ヲ聽イテ羅馬〓會ノ
宣傳ガ中心デル所ノ羅馬〓會ノ高僧ガ來ルノデスカラ、サウ
明ニ外交使節ダト云フテ、宗〓トハ全然關係ガ無イト云フコ
トハ出來マイト思フ、是ハ歐羅巴ニ羅馬法王ノ所カラ使ニ來
テ居ル今日迄ノ歷史ヲ見ルト、直グ分ルノデアリマス、此點ニ付
テ私ハ特ニ外務大臣ニ伺ヒタイノハ、外務大臣ハ繰返シ〓
宗〓ニハ關係ハ無イ、外交使節ダカラ、ソレハ宗〓事項ニハ
關係無イカラ御安·心ナサイト、斯ウ言ウテ居ル、ケレドモ分ラ
ナイ事ガアル、理論カラ推シテ、又常識カラ見テ今言フ通リニ
サウ云フ差別ハ出來マイト思フガ、其私ノ常識ノ推測ハ先ヅ
百步ヲ讓シテ置キマシテ、玆ニ事實上ノ問答ヲシタイ、卽チ
外務省ガ斯ウ云フコトヲ言ッテ居ル、羅馬法王廳ガ何故ニ
日本トノ修交關係ノ開設ニ應ズルカト云ヘバ、第一ニ日米
兩國間ノ調和デアル、第二ニ極東傳道方法ノ革新デアル、
第三ニ法王廳ノ國際的地位ノ向上デアルト、斯ウ云フコト
ヲ言ノテ居ラレル、是カラ見ルト、第一ノコトハ別ト致シマシ
テ第二ノ極東傳道方法ノ改新トカ、第三ノ法王廳ノ國際
的地位ノ向上トカ云フコトハ、之ハ日本ノ方ノ便利ヂヤナ
イ、法王廳ノ方ノ便利ナンダ(拍手)、外務省ハ現ニ斯ウ云フ
文書ヲ發表シテ居リマス、是ハ餘リ世間デ言ッテ居ラナイ、外
務大臣モ此事ハ初ニハ發表シタガ、後トデハ言ハナクナッタ、
此處デ私ハソレヲ念ノ爲ニ讀ンデ置キマスルガ、此說明文ノ
中ニ「第二ニ極東ニ於ケル加特力〓會ノ中樞地點ヲ日本ニ
置キ、極東ニ於ケル傳道事業ノ安全ヲ日本ノ勢力ノ下ニ託
シタイ、ト云フ切ナル希望ガ法王廳ニ在ルノデアル、斯ノ如キ
希望ハ最近ノ極東ニ於ケル形勢ニ依ッテ益〓具體化シテ來
タノデアル、卽チ第一ハ支那ニ於ケル加特力〓徒ノ保護權
ヲ有スル佛國-佛蘭西デス-佛國トハ圓滿ナル諒解ヲ
遂ゲ、近ク法王廳使節ヲ北京ニ駐在セシメ、以テ〓徒保護
權ハ當ノ「ヴアチカン」ニ返還サルヽコトニ運ビタル事、第二ニ
ハ法王廳ニ於テハ近キ將來ニ於テ西伯利傳道事業ニ著手
スベキ必要ヲ認メタル事ニ依ッテ、法王廳ガ日本ノ援護ヲ背
景ニ有シタキ希望ガ、益、濃厚ニナッテ來タノデアル」ト、斯ウ
外務省ガ立派ニ說明文ヲ出シテ居ル、サウシテ見ルト、是ハ
宗〓ノコトニ關係ガナイ所ヂヤナイデス、極東傳道方法ヲ
スッカリ改新シヤウト云フノダ、今度加特力〓會ガ支那ニ於
ケル所ノ此遣り方モ、西伯利ニ新シキ傳道事業ヲ起スト云
フノモ、斯ウ云フ宗〓ノ宣傳ヲヤラウト云フニ當リテ、羅馬
〓會ノ其宣傳ノ援護者、寧口東洋宣傳ノ中心ニ日本ヲ當
テヤウト云フノデアル、コウ云フ重大ナコトヲ立派ニ外務省
ガ發表シテ居ルデハナイカ、之ヲ殆ド忘レタルガ如クシテ、佛
〓徒ナリ、其他ヲ國論ガ喚起シテ、事重大トナッテカラ次ニ
發表シタノガ、此文書ナノデス、ソレヲ見ルト、マルデアベコペ
ナ說明デアル、一寸、二三行讀ンデ見ルト、「使節派遣問題
ハ全然外交ノ見地カラ計畫サレタモノデアッテ、我宗〓行政
ノ上ニハ何等變更ヲ來スモノデハナイ、使節派遣ノ結果我
國ニ於ケル加特力〓徒ニ特別ノ保護ヲ與ヘルトカ、其布〓
上ニ便宜ヲ供スルトカ云フヤウナコトハナイ」トアル、外務大
臣ハ、斯ウ云フヤウナコトヲシテ、其時〓ノ御都合主義デ、外
國ノ表面的ノ歡心ヲ買フニハ努メルガ、此多數ノ民衆デス、
自分ノ國內ニ在ル所ノ白分ノ背負ッテ立ッテ居ル日本七千
万ノ民衆ノ希望トカ、國論トカ云フコトハ其方除ケニシテ居
ル、斯ノ如クシテ迄モ、法王廳ト修交關係ガ何故ソレ程ニ結
ビタイカト云フコトヲ私ハ伺ヒタイノデアル、要スルニ外務大
臣ハ、初カラ羅馬法王トノ外交使節ト云フモノハ、此外交
使節ガ明ニ宗〓上ノ宣傳トカ、布〓トカ云フヤウナコトヽハ
結付イテ居ッテ分ケルコトハ出來ナイト云フコトヲ御承知ナ
ンデ、御承知ノミナラズ、明ニ此所ニ出テ居ル、斯ウ云フヤウナ
極東傳道ノ改新ト云フヤウナ根本的ノコトヲヤリタイカラシ
テ、其援護者ニナラレタイト云フコトヲ羅馬法王ガ希望シテ
居ル、其羅馬法王廳ノ希望要求ヲ外務省ガ御取次ヲシテ
居ル、シテ見レバ外務大臣モ此外交使節ニハ宗〓關係ヲ分
ケルコトハ出來ナイト言フコトハ百モ千モ承知デアルニ相違
ナイ、出來ナイノニ議會等ニ於キマシテ、外務大臣ハ宗〓園
係トハ全然關係ガナイ、純然タル外交使節ト言ロテ居ルノハ
ドウ云フ御了簡デアルカ、ンレヲ伺ヒタイ、要スルニ是ハ最近
國)諭ノ沸騰ニ依リマシテ、急ニ外務大臣ガ其本性ヲ隱シテ都
合ノ好イ辯明ノ言葉ヲ見出シタコトデアラウト思フ、斯ノ如
キニ至ッテハ外務大臣ノ國民ヲ賣ル所ノ不誠意モ極マレリト
言ハナケレバナラヌノデアリマス(拍手)、第四ニ、果シテ此間
ニ宗〓使節ト外交使節トノ間ニ限界ガ立テラレナイト致シ
マスト、日本ニハ未ダ國內法トシテ宗〓法ナルモノヽ發布ガナ
イノデアリマス、是ハドナタモ御承知ノコトダラウト思フ、法
治國トシテ一大缺點デアル、日本モワレヲ認メタカラシテ、
今日ヨリ約二十五年前、明治三十二年ニ時ノ山縣内閣ガ
貴族院ニ向シテ宗〓法ナルモノヲ提出致シマシタガ、宗〓關
係ノ國內ノ事柄ヲ能ク辨ヘナイデ、未熟生硬ノ案ヲ以テ之
ヲ提出シタモノダカラ、國論ノ沸騰ニ會シマシテ、遂ニ政ヘナ
ク否決ノ運命ニ遭シタノデアル、爾來二十五年間今日迄其
儘ニナッテ居ルノハドウ云フ譯ナノカムヅカシイ-此問題ハ
因論ガムヅカシイカラ、其儘ニナッテ居ルノデアラウ、而シテ政
府モ其必要ヲ認メタカラ內務省カラ其管轄ヲ移ナレタ、文
部省デハ、此宗〓ノコトニ關シマシテ、玆二三年來宗〓法
制度調査費ト云フモノヲ費目ニ盛上ゲマシテ-每年之ヲ
豫算ニ盛上ゲマシテ-每年僅カデハアリマスガ、八千圓バ
カリノ費用ヲ以テ、外國ニ若イ参事官カ何カヲ出シテ調べ
サシテ居ルデハアリマセヌカ、殊ニ昨年ハ本議會ニ於キマシ
テ私共ガ提出シタ宗〓法制度調査會ノ必要ノ建議案ヲ可
決ヲ致シテ居ルヤウナ次第デアリマス、此國内法ノ宗〓法ト
云フモノガ未ダ出來ナイデ、日本ガ宗〓ニ對スル此政策ト
云フモノガ確立シテ居ラナイ今日、外交使節ト言ッテモ外務
省自身ノ言フ所ニ依ッテ宗〓事項マデモ含ムヤウナ此使節
ヲ、何故國内ノ宗〓ヲ管轄スル文部大臣ガ之ヲ詔容ナスッタ
ノデアルカト云フコトデアル、卽チ一方ハ存在セネバナラナイ、
宗〓法ヲ今日迄拵ヘナイデ、宗〓ニ對スル國策ヲ怠慢ニ附
シナガラ、サウシテ一方ニ外交關係カラ延テ國内ノ傳道事
業、卽チ宗〓事業ニ關係ガ及ンデ來ル所ニ此使節交換ト
云フモノヲ、政府ガ行フコトニ至フテハ、茲ニ外務ト文部トノ
政策ノ不統一ト云フコトヲ暴露スルコトニナルノデアリマス、
文部大臣ハ之ニ對シテ何等ノ疑惑モナク、外務大臣ノ此提
唱ニ御貸同ヲ爲サレタノデアルカ、如何デアルカ、若シ文部
大臣ガ之ニ對シ何ノ理由ナクシテ贊同サレタト云フナラバ
文部大臣ハ餘リニ御自分ノ職務ニ不忠實ナルモノト言ハナ
クテハナラスト思フノデアル(拍手)以上ノ質問、之ヲ要スル
ニ第一從來ノ外交方針ニ及シマシテ、不必要ノ事業、今日
迄ノ外交方針ニナイ所ノ此新事業ヲ、何故民衆ノ輿論、國
民ノ考ト云フヤウナコトモ突止メナイデ、行ハナクテハナラヌ
ノカト云フコトガ第一、羅馬〓會ノ現在ニ微シテ、我図策ノ
將來ノ影響如何ト云フコトガ第二、外交使節ト宗〓使節
ト確然限界ガ立ツト思ハレルカ、殊ニ外務省ノ說明二テハ、
明カニ宗〓事項ニ關係ガアルト言ッテ居ル、而シテ外務大臣
ハ貴族院ニテ、宗〓事項ニ關係ガ無イト言ハレテ居ル、何レ
ガ外務大臣ノ眞意デアラルカ是ガ第三果シテ確然限界
ガ立テナイトスレバ、國內法タル宗〓法ガ定マラナイノニ早
ク既ニ羅馬〓會ノミ國內ノ布〓上ノ便宜ヲ與フルコトヽナ
ル、是ハ國家ノ政策ノ不統一デアリマス、之ニ對スル文部大
臣ノ所見ヲ承リタイガ、第四、私ノ質問ハ此ノ四點デアリマ
ス、而シテ總理大臣ガ御出席デアラルヽナラバ、之ヲ包含シ
テノ總理大臣トシテノ意見モ伺ヒタイノデアリマス、御出席
ガゴザイマセヌナレバ、外務大臣竝ニ文部大臣カラ明確ナル
御答辯ヲ願ヒタイノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=67
-
068・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 內田外務大臣
〔國務大臣伯爵內田康哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=68
-
069・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君) 安藤君ノ御質問ニ答へ
マス前ニ一言致シタイ、外務省ハ此大戰ニ際會致シマシテ、
又大戰後ニ於キマシテ、外交機關ノ規模ガ如何ニモ狹小デ
アルト云フコトヲ痛感シタノデアリマス、ソレ故ニ大戰後ニ於
マキシテ、財政ノ許ス限リハ外交機關ノ擴張ヲ圖ッタノデア
リマス、今日ノ狀態ヲ戰前ニ比シマスレバ、殆ド倍數以上ニ
ナッテ居リマス、是ハ我ガ國運ノ進展スルニ伴ヒ、世界各地ノ
主要地點ニ外交機關ヲ增設スルト云フコトハ、是ハ已ムヲ
得ナイコトデアリマス、國運ヲ如何程マデニモ發展セシメント
欲スレバ、其必要ヲドウシテモ認メザルヲ得ナイノデアリマス、
ソレ故ニ年々二三ノ公使館、或ハ四五ノ領事館ヲ增設シ
來ッタノデアリマス、ソコデ此羅馬法王廳ト使節ヲ交換スル
コトモ、多年其必要ヲ認メテ居ッタノデアリマス、殊ニ戰後ニ
於テ最モ其必要ヲ認メタノデアリマス、只今安藤君ノ言ハレ
マスガ如クニ、歐洲ノ國ガ派遣シタカラ、戰前十四ノモノガ
戰後ニハ二十七ニモナッタカラ、其眞似ヲシテ迫隨ヲシテヤル
ノデハナイ、十四ガ二十七ニナックト云フコトハ、ロ継馬法王廳
ノ世界ニ於ケル勢力ガ如何ニ偉大デアルカト云フコトヲ言
ハンガ爲ニ例證シタノデアル、數ガ多クナッタカラシテ日本モ
ヤルト云フ趣意デハナイ、斯ノ如ク世界ノ各地ニ於テ勢力
ヲ持ッテ居ル所ノ此羅馬法王廳、成程純然タル國家トハ申
スコトハ出來マセス、併シ免モ角モ事實上ノ〓體トシテ各國
ガ認メテ、純然タル外交機關ヲ創設シテ居リマスルカラ、是
等ト揆ヲ一ニシテ我ガ使節ノ交換ヲスルニ何等差支ナイ、
斯ウ云フ見地ヨリ此度豫算ニ計上ヲ見タノデアリマス、ンコ
デ是迄羅馬法王廳トハ外交使節ノ交換ハ屢〓ヤッテ居ル(「誰
ガヤッテ居ル」ト呼フ者アリ)先年西園寺公モ特派大使トシ
テ行カレク事ガアリマス、其次ニハ私ガ當テ維也納ニ大使ヲ
シテ居ルトキニ、同ジク特派大使トシテ行ッタノデアリマス、是
ハ先方ヨリ其前ニ此使節ヲ出シマシタカラ、之ニ對スル答禮
デシタ、御大薩ノ時ニハ先方ヨリ矢張使節ヲ出シテ來タ、之
ニ對シテ確カ瑞西ニ居リマス我ガ公使ヲシテ矢張特派使節
トシテ答禮ヲセシメタ、斯ノ如キ使節ノ交換ハ屢〓是迄ヤッテ
居ル、既ニ展島法王廳トハ或ル意味ニ於テ外交關係ガ出
來テ居ル、之ヲ常設ニスルニ何等ノ差支ハナイ、只今申シマ
シタ通リ、免モ角モ此世界ニ於ケル大勢力ヲ持ッテ居ル所ノ
〓體ト外交關係ヲ開クコトハ、我ガ國運ノ伸展上最モ必要
デアル、此見地カラ起ッテ居ル、何モ日本ガ貧弱デアルカラ、貧
弱國ト云フ誤解ヲ受ケルカラ、之ヲ除イテ貰フ爲ニヤルト云
フノデモナイノデス、無論誤解ハ各方面ニ於テ之ヲ正スノハ
勿論ノ事デアリマス、ケレドモ、卽チ主タル目的ハ免モ角モ世
界ノ各勢力ト相共ニ手ヲ携ヘテ、世界的平和ノ增進ヲ圖
ル、此趣旨ヨリ外ハナイ、ソレカラ何カ羅馬法王廳ト使節交
換ヲスルノハ、我國ノ思想ト矛盾スルカノ如キ御說明ガア
リマシタケレドモ私ハ斷ジテ其虞ハ無イト思フノデス、旣
信〓ノ自由ヲ許サレテ、日本ニハ七八万ノ信徒ガ居リ、又
朝鮮ニハ十万以上ノ信徒ガ居ルノデアル、若シ思想ノ矛盾
衝突ヲ恐レルナラバ、是等モ禁止シナクテハナラヌ、旣ニ信〓
ノ自由ニ於テ之ヲ許シタ以上ハ、純然タル外交機關ヲ創設
スルコトハ、私ハ何等ノ其處ニ反對スベキ理由ヲ見ナイ、ソ
レカラ羅馬法王廳ノ歴史ヲ述ベラレテ、何カ羅馬法王廳ハ
所謂宗〓至上權ヲ以テ世界ヲ統一シ、或ハ其信徒ヲ通ジ
テ行政權デモ行フカノ如キ御質問モアリマシタガ、是亦私ハ
何等心配スルニ足ラヌコトデアラウト思フ、今日ノ羅馬法王
ハ各國ノ國家ヲ認メ、其信徒ガ之ニ服從スルコトハ寧口奬
勵シテ居ル、ソレデ羅馬法王廳ガ平和ニ貢獻シタト云フコト
ヲ能ク言フガ、愛蘭ノ例ハドウデアルカ、斯ウ云フ御說デア
ル、愛蘭ノ騒動ハ今ニ始ッタ話デハアリマセヌ、是ハ愛蘭ノ國
情ガ然ラシムルコトデアッテ、彼ガ羅馬〓ヲ信ズルガ故ニ然リ
ト云フコトハ私ハ肯定スルコトハ出來ナイ、又羅馬ノ使節ハ
愛蘭ニ居リモ何モシナイ、尙ホ羅馬〓ヲ信ズレバ其信徒ガ
國家ニ叛クカノ如キ御說モアリマシタ、現ニ朝鮮ニ於ケル例
ヲ擧ゲラレマシタガ、是ハ私ノ聞ク所ニ依レバ寧ロ反對デア
ル、一昨年デアリマシタカ、其前年デアリマシタカ、朝鮮ニ獨
立運動ガ起ッタ、此時此獨立運動ニ朝鮮ノ信徒ニシテ加擔
シタ者ハ一人モ無イト云フコトデアル、然ルニ神道又ハ佛〓
徒ノ中ニハアッタト云フコトデアリマス、ソレカラ江木君ト貴
族院ニ於ケル質問應答ニ關シテ、何カ私ガ顧ミテ他ヲ言フ
ト云フ御話デアリマシタガ、御質問ノ意味ガ能ク分ラナイ、
羅馬法王應ヨリ派遣スル所ノ使節ガ高僧デアル以上ハ、宗
〓ニ關係セヌコトハナカラウト云フ御心配ノヤウデアッタ、又
其御議論ヲ確メルガ爲ニ、何力外務省ガ發表シタモノニ前
後矛盾ガアルト言ッテ讀上ゲニナリマシタガ、前者ハ私ハ能ク
見テ居リマセヌ、恐ラク外務省デ出シタノデアルカドウデアル
カ、若シ出シタモノデアレバ、無論個人ノ意見ヲ出シタノカ知
リマセヌケレドモ、外務省ノ意見トシテ公表シタコトハ今日
迄何モナイ、是ハ取調ベテ申上ゲマス、免モ角モ羅馬法王廳
ヨリ使節ヲ愈、交換スルト云フ場合ニ於テ、其使節ガ宗〓ニ
携ハリ、又外交官ノ特權ヲ利用シテ、羅馬〓ノ宣傳ニ努メ
ルト云フコトニ對シテハ、如何ナル取極モ出來得ルト思フ、
其邊ノ事ニ付キマシテハ、何モ心配セラルヽ必要ハナイト思
フ、尙ホ宗〓法ノコトニ付テノ御質問ハ、文部大臣ニ對スル
御質問デアリマスカラ、私ノ答ハ是デ御免ヲ蒙リマス
〔國務大臣鎌田榮吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=69
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070・鎌田榮吉
○國務大臣(鎌田榮吉君) 安藤君ノ文部ニ關スル御質
問ニ御答致シマス、此羅馬法王使節交換ニ付テ、宗〓法ノ
制定ト云フコトニ關聯シテ御尋ガアリマシタガ、私ノ考ヘル所
デハ、此宗〓ノ制度ト云フモノヽ審査ニ付キマシテハ、餘リ
此事ト關係ハ無イノデス、是ハ今日頻ニヤッテ居リマス、此資
料ヲ調査致シマシテ、内外ノ制度ヲ調ベルト云フコトニハ、
大勉強デヤッテ居リマス、而シテ使節ノ交換ハ、外務大臣答
辯ノ如ク何等宗〓ニ關係ノ無イコトデアル、ソコデ此宗〓
法ヲ制定シナケレバ、使節ノ交換ヲシテ都合ガ惡イトカ善イ
トカ云フコトハ、全ク是トハ別ノ問題デアリマス、併ナガラ宗
〓法制定ハ銳意致シテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=70
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071・安藤正純
○安藤正純君 此席カラモウ一度簡單ニ外務大臣ト文
部大臣ニ質問ヲ致シタイト思ヒマス、外務大臣ノ答辯ハ色
色ニ御答ニナリマシタガ、要スルニ私ノ伺フノハ、積極的ニド
ウ云フコトガ現在羅馬法王廳ト修好關係ヲ結ブ必要ノア
ル理由デアルカト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス、之ニ對シ
テ領事館トカ何トカヲ每年四ツ五ツ殖ヤシテ居ルカラ、ソコ
デ羅馬法王廳カラ、前カラノ話合デ殖ヤスト云フコトデアル
ガ國家ニ對スル公使館ヤ領事館ト、羅馬法王廳ノ使節交
換トハ、非常ニ是ハ性質ガ違フノデアル、其性質ノ違フ從來
類例ノ無イ、常設ノ修好關係ヲ開クト云フコトハ、如何ナル
理由デアルカト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス、ソレカラマダ
他ニ色々御答辯ガアリマシタガ、是ハ煩ハシイカラ、サウシテ
迚モ伺ヒマシテモ滿足ナ各辯ヲ得ラレマイト思ヒマスノデ、ソ
レ等ハ略シマシテ、最後ニ外務省ハ羅馬法王ノ使節ハ宗〓
ニ關係ガアルト云フコトヲ前ニ立派ニ言ンテ、後ノ發表ト前
後矛盾シテ居ルト私ガ言ッタニ對シテ、前ノモノニ對シテハ責
任ハ負ハナイト仰ノシヤッ夕、後カラ出夕文書ニ對シテハ責任ヲ
負ウテ前ニ出シタ交書ニ對シテハ貴任ヲ負ハヌト云フノハドウ
云フコトデアリマスカ、後カラ出シタ外務省ノ文書ハアナタノ今
日ノ立場ニ都合ガ好イカラ責任ヲ負フ譯ニナルノデアリマスカ、
前ニ出シタノハ都合ガ惡イカラ責任ヲ負ハナイト言ハレル
ノデアリマスカ、現ニ外務省ノ用紙ニ極祕ト書イテ發表シテ
居ルデハアリマセスカ、ソレヲ承リタイ、外務大臣ノ答辯ハ餘
リニ不誠意ニ餘リニ無責任ト言ハナクテハナラヌ、此ノ點ニ
付テ、先ヅ外務大臣ニモウ一度伺ヒマス
「國務大臣伯爵內田康哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=71
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072・内田康哉
○國務大臣(伯爵內田康哉君) 第一問ノ何ノ積極的ノ
必要ガアルト云フ御質問デアリマスガ、私ハ其必要ノ點ハ明
カニシタ積リデアル(「ノウし〓」)免モ角モ日本ノ世界ニ於ケ
ル地位ノ發展ト共ニ、各方面ニ外交機關ヲ增設シテ世界ノ
平和ニ貢獻シ、日本ノ國ノ伸展ニ資スル爲ニ必要デアル、貿
易ヤ何カノ如キ、サウ云フ風ナ具體的ノ必要許リニ外交ノ
關係ハ限ッテ居ナイ、ンレカラ第二ノ質問デアリマスルガ、外
務省ノ公表ノ文書ニ付テ言ハレマシタガ、成程外務省當局
談トシテ最近ニ公表シタ事ニ付テハ、私ハ之ヲ認メル、併シ
其前ノモノハ外務省ノ公表文トシテ出シタノデハナイ、外務
省ノ紙ニ書イテアルト言ハレマシタケレドモ、私ハソレヲマダ
能ク讀ンダコトモナイ位デアル、恐ラク外務省ノ者ガ出シタ
ナラバ、其私見ヲ發表シタ位ノモノデアルト思フ、是ハ往々ア
リ得ルコトデアル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=72
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073・安藤正純
○安藤正純君 外務大臣ノ只今ノ御話ニ依リマスルト、
前ニ出シタノハ知ラナイト言フガ、併シ是ハ極祕トシテ外務
省ノ紙ヲ使ッテ出シテ居ルノデアルカラ、アナタハ知ラナイデモ
國民ハ知ンテ居ル、併シ知ラナケレバ然ラバ知ラナイデ宜イカ
ラ、ソレヲ取糺シテ十分辯明ヲ願ヒタイノデス、無責任ナ事ヲ
言シテ免レントシテモ、ンレデハ外務大臣ノ責任ハ濟ムマイト
思フ、要スルニ外務大臣ノ答辯ハ唯〓形ニ隱レテ必要ガア
ルト云フダケデ、必要ノ理由ヲ具體的ニ申サレマセヌカラ、私
ノ其内容ヲ聽ク質問ニ對スル答辯ニハナラヌト認メマスカ
ラ、此處デ幾ラ議論ヲシテモ盡キマセヌカラ、議論ハ別ニ紙
上ノ-紙上ト云フノハ紙ノ上ノコトデス、-紙上其他ノ
コトヽ致シマシテ、此處デハ外務大臣トノ問答ハ是デ打切リ
マス、而シテ文部大臣ニ向ッテモウ一應伺ヒタイノハ、宗〓調
査ノ事トハ別問題デアルト言ハレルガ、サウ云フ事ハ子供デ
モ分ッテ居ル、サウ云云事ヲ伺ッテ居ルノデハナイ(「ヒヤ〓〓」)宗
〓調査費ハ八千圓每年計上シテオ井デニナルカラ、ソレハ
分ッテ居ル、ソレヲ聽イテ居ルノデハナイ、此ノ使節ノ交換ガ
宗〓事項ニ關係ガアルト云フコトニナッテ來ル、サウスルト國
內法ノ宗〓政策ハソッチ除ケニシテ置イテ、自然外交關係ノ
方カラ國內ノ宗〓政策ノ方へ這入ッテ來ルデハナイカ、其點
ハドウ爲サルト云フノデス、サウシテ外務省ノ方カラ文部省
ノ管轄事項ノ宗〓ノ方ニ踏込マレテ、アナタハ知ラナイ顏ヲ
シテオキデニナルノデアリマスカ、ソレデハ政府ガ不統一デハナ
イカト云フ、ソコヲ伺ヒタイノデアリマス
〔國務大臣錄田榮吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=73
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074・鎌田榮吉
○國務大臣(錄田榮吉君) 最初申上ゲマシタ通リニ、全
ク宗〓ニハ關係無イ事デアル、隨テ宗〓上何等サウ云フ憂
ヲ致スコトハナイ、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=74
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075・安藤正純
○安藤正純君 議長、議長
[「諄イ々々」「登壇」ト呼ヒ其他發言スルモノ多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=75
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076・粕谷義三
○副議長(柏谷義三君) 靜ニ-通告者ハ正木照藏君
デアリマス-正木君ノ登壇ヲ促シマス-正木君ヨリ總理大
臣外四大臣ノ出席ヲ求メラレテ居リマス、先刻カラ交涉ヲ
致シマシタガ、何分ニモ豫算總會ノ都合ニ依リマシテ、總理
大臣及ヒ內務大臣ノ出席ハ叶ヒマセヌ、ソレデモ御質問ニナ
リマスカ
〔正木照藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=76
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077・正木照藏
○正木照藏君 施政ノ御方針ニ關聯致シマシテ數箇條
ノ質疑ヲ致シマス、其前ニ外務大臣ニ先以テ伺ヒ置キタイ
事ガアリマス、先刻關和知君トノ御問答ノ中ニ關シタ事デ
アリマス、日支郵便條約ノ事ニ關シマシテ、樞密院對政府
ノ關係ニ付テ御優諚ガ降ッタト申スコトハ事實ニ相違ナイ、
ソレガ新聞ニ公表サレテ居ル、ソノ新聞ニ公表サレテ居ル事
ガ事實ヲ誤クテ居リマスカ如何デアリマスカ、若シ事實ヲ誤クテ
居ルナラバ、何故取消ヲ御命ジニナリマセヌカ、是ガ第一、次
ニ內閣ハ之ニ對シテ責任ヲ持ツ、斯ウ云フ御答辯デゴザイマ
シタガ、此責任ハ外務大臣一己ノ責任デゴザイマスカ、內閣
全體ノ責任デゴザイマスカ、此事ヲ承リマス、ソレカラ唯今安
藤君カラモ縷々御尋ニナリマシタ羅馬法王廳使節ノ事ニ付
デ御伺ヒ致シタイ事ガアリマス、天國ノ出張所ノヤウナ所へ
俗界カラ使節ヲ送ルト云フコトハ、甚ダ私ハ合點ガ行カヌ、
殆ド神樣ヲ相手ニシテ俗界ノ仕事ヲ何カ交渉スルト云フコ
トハ甚ダ分ラヌ、私ハ宗〓上ノ事ニ付テハ餘リ議論ヲ致シマ
セヌケレドモ、唯〓憂ヘル所ハ日本國內ニ於テ十分ノ九以
上ニ達シテ居ル佛〓徒ガ非常ニ反對シテ居ル、ソレニモ拘ラ
ズ、若シ之ヲ御斷行ニナリマシタトキニ、日本ノ國ノ思想上
ニ大變ナル變亂ヲ與へルト云フコトハ、御考ニナリマセヌカ
如何デスカ、尙又私ガ玆ニ御尋致シタイ事ハ、安貝ハ私共萬
國議員會議ニ參リマシタ連中三四人デ羅馬ニ參リマシテ、
其時分ニ申合ハセマシテ、羅馬法王ト云フ者ハドンナ者デア
ルダラウ、「ヴァチカン」ノ宮殿ハドンナモノデアルカ、一遍見ヤ
ウデハナイカ、羅馬法王ニ謁見トハ往キマセヌガ、羅馬法王
トハドンナ顏ヲシタ人間カ見タイモノデアル、ンコデ大使館ニ
紹介ヲ賴ンダ所ガ、大使曰ク、何分伊太利ノ政府ト羅馬法
王廳卜云フモノトハ不和ノ仲デアル、不和ノ仲デアッテ吾々
大使館ノ連中ハ伊太利政府ニ向ッテ來テ居ル人間デアルカ
ラ、ドウモサウ云フ紹介ノ勞ヲ孰ルコトハ出來ナイ、アナタ方ガ
若シ羅馬法王ヲ見タケレバ、羅馬法王廳ニ內務大臣某ト
云フ者ガ居ルカラ、ソレニ御打合セニナッタラドウデゴザイマス
カ、斯ウ云フコトヲ永ッテ居ル(「統治權モ認メテ居ラヌ」
ト呼フ者アリ)ドウモ其通リ、湯淺君ノ仰ッシヤル通リ同ジ事
ヲ言ッタ、統治權モ認メテ居ラヌト云フコトヲ言ッテ居ル、ソコ
デ若シ此處デ羅馬法王廳ニ對シテ特別ニ使節ヲ送ッタナラ
バ、伊太利ノ國ノ感情ヲ害スルト云フ虞ハゴザイマセヌカ、若
シ感情モ害セヌデ、何カ特別ニ置ク必要ガアリトシタナラバ、別
ニ特ニ使節ヲ御送リニナリマセヌデモ、伊太利大使館ノ大使
ニ兼轄サセテ差支ナイ、伊太利ノ大使館ニ行ッテ見ルト、何
モ用ハナイ、實ハ何ヲシテ居ルカト思ッテ行ッテ見ルト、アヽ云
フ大キナ大使館ニ居ル人間ガ、何ヲシテ居ルカト云フコトヲ
不審ニスル位デアル、私共ハ先般歐羅巴各國ヲ廻ッテ、實ハ
日本ノ國カラ澤山ナ公使館ニ公使ヲ派出シテ居ル、八箇國
モ十箇國モ派出致シテ居ル、例ヘバ日本デ申セバ東京ニモ
大使館、其次ニ靜岡、其次ニ名古屋ト云フヤウニ、和蘭、白
耳義、或ハ瑞典ト、澤山ナ公使館、瑞典ノ如キハ「ストツクホ
ルム」ニ行フテ見ルト日本人ハタッタ一人、公使館ニ四五人居
ル、ソレモ歸リソコナッタ人間ガタッタ一人居ル所デス、或ハ波
蘭アタリモサウ澤山ハ居リマセヌ、「チエックスロパック」ニモ居
リマスマイ、斯ウ云フヤウナ所ニ必ズ大使館、公使館ヲ置カ
ナケレバナラヌ必要ガ何處ニアルカ知ラムト云フコトヲ實ハ
心配シテ居ル、考ヘテ居ルヤウナ所デゴザイマス、其場合ニ
同ジヤウナ羅馬市へ持っテ行ッテ、サウシテ法王廳ノ公使館、
伊太利ノ公使館、斯ウ一一ツモ置ク必要ガ何處ニアルカ況ヤ
若シ之ヲ派遣致シマシタナラバ、忽チ伊太利政府ノ感情ヲ
害スルコトハ分リ切ッタ話デアル、感情ヲ害セヌノデアッタラ、
モウ少シ詳シイ事ヲ承リタイ、ソレカラ私ガ玆ニ承ラントスル點
ハ、外國ニ派遣致シマス所ノ大使又ハ公使ノ任用ノ方針ヲ
承リタイ、由來我國ノ外交ノ振ハザルト申スコトハ、國民一
般ノ認メテ痛嘆スル所デアリマス、何故斯ノ如ク外交ガ振ハ
ヌカト申シマスレバ、時ノ政府ノ執ッテ居ル所ノ政策卽チ外
務大臣ノ案出サレタ所ノ政策如何ニ因ルモノデアル、外務
大臣ガ其全責任ヲ御負ヒニナルコトハ勿論デアルガ、同時ニ
又海外ニ派遣サレテ居ル所ノ大使公使モ其責ヲ分タンケレ
バナラヌト考ヘル、外務大臣ハ外交官中ノ長老デアル、恐ラ
ク米ノ御飯ヲ御上リニナッタヨリカ、麵麭ヤ「バタ」ノ方ヲ餘計
ニアガッテ居ル、箸ヲ持ツヨリモ「ナイフ」ヤ「フオーク」ヲ餘計ニ
御持ニナック長老デアル、御就任以來、旣ニ四箇年半ニモナッ
テ、其成績ニ付キマシテハ隨分毀譽紛々タルモノアル外務大
臣、此席ニ於テ望月君ノ御尋ニ對シテ御答ニナッタ次第、又
ハ貴族院ニ於キマシテ御答ニナッタ所、大分御自讃ガアル自
畫自讃ガ大分アル、斯ウ云フ事モシテ居ル、斯ウ云フ事モシ
テ居ッタデハナイカト云フ御陳述モアリマシタガ、或ハ支那ニ
對シテ申シマスレバ、譲步ハシタ、讓歩ハシタケレドモ支那國
民トノ親善ノ實ヲ擧ゲツヽアルカ、印紙ヲ貼用シテ居ッタ所
ノ證書ヲ卷イテヤッタラ彼等ガ喜ンデ居ルカト云フト喜バ
ヌ、一ツ卷イタラ又大キナヤツヲ卷イテ吳レト言フ、斯ウ云フ
コトニナッテ來ル、卽チ私ハ繰返シテ申シマセヌガ、參議院ト
カ衆議院トカニ於テ二十一箇條ノ撤廢、之ヲ若シ聽イテヤッ
タラ、又今度ハ臺灣ヲ戾シテ吳レ、琉球ヲ戾シテ吳レ、是ガ
若シ聽カレナカッタラ外務大臣如何デアリマスカ、排日ノ茲
ニ議ガ起ルト御考ニナリマセヌカ、此二十一箇條云々ノ事ニ
付テハ色々質問ガゴザイマシタガ、之ニ對シテ若シ日本政府
ガ刎付ケタナラバ、又排外ノ議ガ生ジテ來ハセヌカ、是ハ私
序ニ御尋スルノデゴザイマスガ、或ハ外務大臣ヲ評シテ秦檜
デアルトカ云フヤウナコトモゴザイマシタガ、是等ノ事ハ私ノ
一向何トモ申シマセヌ、秦檜、張浚ト雖モ廖柴舟ノ如キ大ニ
辯護ヲ書イタモノヲ讀ンダコトガゴザイマスガ、或ハ他日外
務大臣ノ爲ニ大ニ辯護ヲ書ク者モアリマセウ、唯私ハ外務
大臣ハ誠ニ立派ナル外交家デアルトハ認メマスケレドモ、併
シ外務大臣ガ果シテ政治家デアルカ如何ト云フ事ニナリマ
シタナラバ、恐ラク國民ガ內田伯爵ヲ大政治家デアルト申ス
者ハ尠カラウト考ヘル、有ルカモ知レマセヌ、尤モ總理大臣ノ
二度モ御勤メニナッタ、臨時總理大臣ヲ御勤メニナッタ御方
デアリマスカラ、御自身ハ大政治家ト御考デアリマ
セウガ、國民ガ果シテ大政治家ト云フコトヲ言ハレルカドウ
カト云フコトハ、是ハ少シ怪シイト思フ(拍手)又ソレト同時
ニ、只今各地ニ派遣サレテ居ル所ノ大使、公使、其人モ外交
家トシテ誠ニ立派ナ御方デ、隨分澤山洋食ヲオアガリニナッタ
方デ、數十年間職ニ在ラレル御方デ、隨分中ニハ敬服スベキ
人モアリマスケレドモ、ソレガ果シテ政治家デアルカト申シマ
スト、是亦國民ハ政治家デアルトハ申サヌ、今日ハ申ス迄モ
ナク昔モ同ジ事デゴザイマスケレドモ、此外交ノ事ハ追々頻
繁錯綜致シマシテ、國民ノ生活上其他ノ上ニ、非常ナ影響
ヲ及ボシテ居ル故ニ、凡ン外國ニ使スル人、又外務ノ局ニ當
ル人ハ、ドウシテモ國民ノ意嚮ヲ十分了解ナサッテ居ル所ノ
人デナケレバナラヌ、卽チ國民外交ノ實ヲ擧グル所ノ人デナ
ケレバナラヌト思ッテ居リマス、我國ニ於キマシテモ私ガ茲ニ
申スマデモゴザイマセズ、前ニハ或ハ井上伯トカ-井上侯、
伊藤公、又大隈侯、陸奥伯爵、其他第一流ノ政治家ガ外
交ノ任ニ當ッテ居ル、又蕞爾タル所ノ朝鮮ニ對シテモ、井上
侯爵モ御出ニナッテ居ル、只今御生存デゴザイマスカ三浦梧
樓子モ御出ニナル、又大石正已君ノ如キ立派ナ御方モ御
出ニナル、米國ニ對シテモ星亨君ノ如キ寔ニ一代ノ奇傑ト
唱ヘラレル御方モ御出張ニナッタ、是ガ近來ハ下ウモサウ云フ
人ガ行ッテ居ラヌ、外交官ノ鰻上リノ人許リデ、外交官ヲ長
ク御勤ニチッタ人許リガ行ッテ居ル、是デ國民外交ノ實ヲ擧
ゲントスルコトハ木ニ緣っテ魚ヲ求ムルトハ申シマセヌケレド
モ、ドウモ溝渠ノ中ニ以テ行ッテ鯉ヲ探スト、斯ウ云フコトニナ
リハセヌカト思フ、私ハ今日ノ狀況ヲ申シマスレバ、中ニ支那
ニ對シテモ、亞米利加ニ對シテモ、決シテ其關係ハ昔時ノ朝
鮮ノ如キ比デハアリマセヌ、大變大事デアル、併シ其處ニ使
サレテ居ル御方ハ、悉フ外交官出身ノ鰻上リノ御方ヲ以テ
スルモノト云フコトハ、當ヲ得タモノデハナイト思ヒマス、亞米
利加カラ日本ニ來ル使臣、又英吉利カラ方々ニ出ル使臣ヲ
御覽ニナッテモ、第一流ノ政治家デアル、ソレデコソ
初テ國民ガ信賴スルコトガ出來ル、私ハ大臣自身
ノ事ハ論評致シマセヌケレドモ、實際政府ノ方針如
何ニ依ッテ、日本ノ國民ノ意嚮ヲ能ク了解サレテ居
ル實業家、大學者等モ、隨分外國使臣タルコトヲ請合ッ
テヤルダラウト思ヒマス、ソレヲ私ハ希望スルノデアリマス、今
後ノ使臣ノ派遣方ハモウ少シ御考ヲ願ハナケレバナラヌ、ソ
レニ對シテ政府ノ御考ハドウデアルカ、是ガ私ノ第一問、ン
レカラ次ニ西伯利撤兵ノ事ニ付テ御伺ヒ致シタイ、是ハ出
スベカラザル大兵ヲ出シ、引揚グベキ時ニ引揚ゲズシテ、遂
ニ數億ノ金ヲ費シ、數千ノ人命ヲ失ッタト云フヤウナ結末デ、
何トモ實ニ我國ノ歴史上比較スルコトノ出來ナイ問題デア
ル、望月君ハ、太閤ノ朝鮮征伐ト仰シヤイマシタガ、太閤ノ
朝鮮征伐ドコロデハナイ、ソレ以上ノ事デアルト思フ、昨年
現政府ニ至リマシテ、斷然ト撤兵サレテ、卽チ六月二十何
日カニ聲明サレテ今日ハ旣ニ其事ヲ了ッタト中スコトハ遲
蒔ナガラモ國民トシテハ寧口喜ブ、國民ノ非常ナ重荷モ濟
ンダ、斯ウ云フコトニナル、所ガ其理由ヲ永ルト何ト申サレ
タ、西伯利ノ政局ガ追と安定シタ、西伯利ノ政局ガ安定セ
ントスル徴候ガアルニ依テ此撤兵ヲシタ、斯ウ云フ御話デ
アル、之ニ就テ私ハドウシテモ外務大臣ニ伺ハナケレバナラ
ヌコトハ、昨年私ガ其事ニ付テ外務大臣ニ御尋シタ時分
ニ、外務大臣ノ御各ハ何ト仰シヤッタ、私ハ斯ウ云フコトヲ
尋ネタ-總理大臣ハ此間ノ御演說ニ「帝國政府ハ一日
モ速ニ政局ノ安定秩序ノ回復ヲ告ゲ、我ガ守備隊ヲ全部
撤退スルニ至ランコトヲ切望シテ止マナイ」ト仰シヤッテ居
ル、又外務大臣ハ齊多トノ交涉ヲ御述ニナッテ斯ウ云フコトヲ
御話シニナッテ居ル、「一般通商問題ノ外我ガ居留民ノ生
命財產ノ保護竝ニ交通ノ危險及帝國ニ對スル脅威ノ除
去、各種產業ノ經營自由等ニ對シテ、適當ノ保障ヲ得ント
スルニ外ナラヌノデアリマス」斯ウ云ウコトヲ仰シヤッタ、ン
レ故ニ私ハ斯ウ云フ御尋ヲシタ「元來外務大臣ノ仰シヤッタ
帝國ニ對スル脅成ト申スモノハ、何ノ事デゴザイマスカ、又
危險ニ對スル保障ト申スノハ誰カラ此保障ヲ求メントスル
御趣意デゴザイマスカ、又政局ノ安定秩序ノ回復ト總理大
臣ガ仰シヤルノハ、是ハ何時ノコトヽ御考ニナルカ、何時ニ
ナッタラサウ云フコトガ出來ルト云フ御見込デアリマセウカ」
斯ウ云ムウコトヲ御尋シタ、ソレニ對シテ内田外務大臣ノ御
答ハ「チエックスローバック」救援以來其目的ヲ達シマシタ今
日ニ於テモ、如何ニモ先方ノ政情ガ安定セズ、我國ニ對スル
脅威ガ除去サレヌカラ、已ムナク先方ニ駐兵ヲシテ居ル次
第デアル」斯ウ言ハレシ、ソレカラ「今日我兵ヲ撤兵シマスレ
バ、浦潮方面ニ於ケル我ガ臣民ガ如何ナル狀態ニ在ルカト
云フコトハ明白ニ分ル次第デアリマス、何等ノ保障モ得ズ
撤兵ヲシタ曉ニ、我國ノ被ル所ノ脅威ハ是亦申スマデモナ
ク明瞭ナ事實デアル、」斯ウ云フ御答デアル、私ガ之ニ對シテ
再質問ヲ致シマシタ「外務大臣ニ御尋シタ中ノ外務大臣
ノ御演說中ニアル帝國政府ニ對スル脅威トハ何ノ事デゴ
ザイマスカ、又危險ニ對スル保障ヲ誰カラ之ヲ御求メニナラ
ントスルカ、此二點、總理大臣ニ對シテハ帝國政府ハ速ニ
政局ノ安定秩序ノ回復ヲ付ケルト云フノデアリマスガ、是
ハドウ云フ御見込デアリマスカ、凡ソ何時ニナツタラサウ云フ
コトニナリマスカ、今迄通リナラバ此先キ何年掛ルカ分ラナ
イト云フ體栽デアリマスガ、之ニ就テ政府ハドウ云フ御見込
デアルカト云フコトヲ御尋シタノデアリマス」斯ウ言ッタ、高橋
總理大臣ノソレニ對スル御答ハ「西伯利撤兵ハ政局ノ安
定ヲ待ッテヤルト云フ意味ノコトガアッテ、サウ云フコトデアル
ナラバ何時撤兵ガ出來ルカ、西伯利ノ政局ノ安定ト云フコ
トハ容易ニ期シ難イ、安定ト云フコトハドウ云フコトダト云
フ御質問ノヤウデアリマス、是ハ外務大臣カラモ御說明ヲ
致シタト思ッテ居リマスガ、詰リ我ガ居留民、此生命財產ノ
保障ガ立テバ先ヅ政局安定ト見ルノデアリマス、卽チ是マデ
我國ノ彼ノ地ニ居ル人々ノ生命財產、營業ヲ安心シテ出
來ルト云フ狀態ニナランコトヲ期待シテ居ルノデアリマス、
而シテ今大連ニ於テ會議ヲシテ居リマス、ソレモ卽チ其目
的ニ外ナラヌノデアリマス、其保障者モ無クシテ今直ニ撤
兵スルト云ヘバ、數千人ノ我國ノ商賣人等ノ生命財產ノ
安定ヲ認メズシテ、撤兵スルト云フコトニナッテソレハ政府ト
シテ出来ナイコトデアル、免ニ角時々我國ノ政府ハ、露西亞
ニ於ケル或ル政權ト始終交涉スルコトバ必要デアル、假令
露西亞ノ政府ヲ認ムルニ至ラズトモ、實際日常起ル所ノ事
柄、居留民ノ生命財產ノ安定ト云フヤウナコトニ付キマシテ
ハ、其地方ニ於ケル時々ノ政權ト交涉スル外途ハ無イノデ
アリマス、今日其政權ト交涉シテ條約ガ出來レバ、責任者
ガ其所ニ現ハレテ來ルノデアリマスカラ、政府ハ其場合ニ於
テハ速ニ兵ヲ撤スルノデアリマス」、ソレカラ外務大臣ハ斯ウ
云フ御答ヲシテ居ル、少シ長ウゴザイマスケレドモ皆讀マヌ
ト分リマセヌカラ-「省威トハ取リヤウデ如何樣ニモ取レ
マス、併シ先刻ノ私ノ辯中ニモ申シマシタ通リニ、今日何等
ノ保障ヲ得ズシテ、其保障ハ誰カラ取ルト云フ御質問デ
アリマスカラ、其方ヲ先ニ答ヘマス、保障ハ無論其相手タル
ベキ露西亞ノ官憲ヨリ得ル話デアル、私ノ希望ニ於テハ、若
シ大連會議ガ滿足ニ解決スルナラバ、所謂齊多政府ヨリ其
保障ヲ得タイト思ウテ居リマス、齊多政府ガ我ガ交渉ニ應
ジテ滿足ナル通商條約ヲ締結シ、我ガ求メル所ノ保障ヲ與ヘ
タナラバ、初テ浦湖方面ヨリ撤兵スルコトガ出來ルデアラウ
ト思フ、固ヨリ其前ニハ彼ノ地ニ於テ只今政權ヲ持ッテ居ル
所ノ浦湖政府ノ始末ヲ付ケナクテハナラヌ話、是ハ中々容
易ナラヌ問題デアラウト思ヒマスケレドモ、幸ニ齊多政府ガ
我ト妥協ヲ得タ曉ニハ、餘程私ハ形勢ガ變ッテ來ルデアラウ
ト思フ、卽チ我ニ對シテ有效ナル保險ヲ與ヘ得ルデアラウト
思フ、其保障ガ與ヘラレタ曉ニハ、先方ヨリ撒兵スルコトガ
出來ヤウト思フ、併ナガラ若シ是等ノ保障ガ無クシテ撤兵
シタナラバ、只今總理ガ答ヘラレマシタ通リニ、浦湖方面ニ
於ケル幾千ノ日本人ガ生命財產ノ安固ヲ危クサレル話、是
モ矢張帝國ニ對スル脅威ノ一ツデアルノミナラズ、浦潮方面、
極東西伯利ニ於テハ幾十万ノ不逞鮮人ガ居ル話、是等ハ
今日我ガ駐兵ニ依シテ朝鮮境ニ接スル所ヲ防止サレテ居ル
ノデス、ソレニモ拘ラズ時々ヤリマスケレドモ、若シ此兵ヲ徹
退シタ時ニ於テハ過激派分子ト一緒ニナッテ、朝鮮ニ對シ
テドウ云フ脅威ヲ起スカ分リハシナイ、政府トシテハ此邊ノ
事ニ付テモ十分ナル考慮ヲ拂ッテ處置ヲシナクテハナラヌ次
第デアル、其他過激思想ノ傳播ニ對シテ便宜ヲ得ルコトハ
是ハ勿論ノ話、今日上海ニ於テサヘ活動シテ居ル次第デア
ルノデアリマス、若シ浦潮方面ニ於ケル十分ナル保障ヲ得ズ
シテ、勝手ニ宣傳ヲサレルト云フヤウナ事デアレバ、是モ矢張
帝國ニ對スル脅威ノ一ト見テ私ハ差支ナカラウト思フ」斯
ウ云フ御答、是ハ私ノ如キ眇タル老人ノ質問デアリマスカ
ラ、或ハ御答ヲ御忘レニナッタカモ知レマセヌケレドモ、苟モ
此壇上ニ於テ御答ニナッタコトハ、國民全般ノ記憶ニ留ッテ
居ルコトデアル、其處ニ於テ私ガ承リタイノハ、此御答以來
六月ノ末マデハ僅ニ四箇月間位シカナイ、其間ニ西伯利ノ
政局ガ如何ニ變化シタカ、又外務大臣此通リ、總理大臣モ
共ニ御明言ニナッテ居ル通リ、居留民ノ生命財產ニ對シテ
立派ナ保障ヲ御取リニナリマシテゴザイマスカ、ドウカ、保障
ガナケレバドウシテモ撤兵スルコトガ出來ナイト云フコトヲ
此處ニ明言サレタガ、保障ヲ御取リニナッタカ、又朝鮮ニ對
スル脅威ノコトニ付キマシテ、私ハ此間憲政會ノ方ニ朝鮮
ノ政務總監ガ御出ニナリマシタトキニ問フタ、脅威ハ去ッタ
カト申シマスト一向去ラナイ、益〓增ス許リデアル、斯ウ云ウ2
コトヲ承リマシタ、私ハ元來速ニ撤兵シロ、斯ウ云フ論者デ
アル、只今撤兵シタカラト云ウテ之ヲ彼此レヤカマシク言フ
ノデハゴザイマセヌケレドモ、苟モ昨年此壇上ニ於テ立派ニ
御答ニナッタ所ノ事實ト齟齬シテ居ル、是ハドウ云フ譯デア
ル或ハ誰カデゴザイマシタカ、外務大臣ノ答辯ハ始終不誠
實デアルト云フコトヲ言ハレテ居リマスガ、ドウモ此點カラ
見マスト餘リ信賴スルニ足ラナイヤウニ思フ、第一居留民ガ
ドウナリマシタカ、私昨年六月カラ外國へ參ッテ居リマシタノ
デ、詳シイ事情ハ知リマセヌガ浦湖ニ居リマシタ居留民ハド
ウナリマシタカ、朝鮮ノ數千ノ居留民ハ果シテ生命財產ノ
安固ヲ得テ殘ッテ居リマスカ、承ル所ニ依レバ五六千モ居ッタ
所ノ人間ガ、僅ニ三百カ四百シカ今日ハ殘ッテ居ラヌト云フ
コトヲ承ッテ居ル、果シテ然ラバ本當ノ生命財產ノ安固ヲ得
ナイ證據デアリハシナイカト思フ、外務大臣ノ御言葉ト事
實ハ餘程違フ此點カラ考ヘマスト、何分昨年仰シヤッタ御
答ト云フモノハ私ハ虚僞ノ御答トハ申シマセヌケレドモ、信
賴ヲスルコトガ出來ナイ御答、今日ニナッテ來ルト、少々嘘ニ
近イト申上ゲナケレバナラヌヤウナコトニナル、若シ此例ヲ追
ウテ居リマスルト、例ヘバ北樺太ノ撤兵ノ如キモ、或ハ露國
官憲ト相當ノ約束ガ出來ルマデ留置クト、今曰ハ仰シヤッテ
居リマスケレドモ、又少シ致シマスト、今度又自分デ撤兵ス
ルコトニナリハシナイカト思フ、ソレナラバ今日早ク御引揚
ニナッタラ宜カラウト思フ、是ハ言葉咎メヲスルヤウデ、甚ダ
私モ快ク思ヒマセヌケレドモ、何分此壇上ニ立ッテ御答ニナッ
タコトデアリマスカラ、國民ニ對シテ容易ナラヌ事ト考ヘマ
スカラ、之ヲ明白ニ承リタイ外務大臣ガ何故昨年斯ウ云フ
事ヲ言ッテ、保障ヲ得ナケレバドウシテモ撤兵スルコトガ出
來ナイト云フコトヲ仰シヤッタカ、其時ニハ卽チ今ノ總理大
臣モ、陸軍大臣モ、皆其事ニ御同意デアッタニ違ヒナイ、同ジ
閣員ニ列セラレテ居ッタノデアルカラ-然ルニ內閣ガ更ル
ト同時ニ飜然ト御改メニナッタト申スコトハ、私考ヘルニ過
ヲ改メルト云フコトハ洵ニ結構デアリマス、大變喜バシイケ
レドモ、改メルニ付テハ其事ヲ聲明サレルガ宜イ、昨年仰シヤッ
タコトヽ違フヤウナコトデハ甚ダ信賴スルニ足ラヌト思フ、
此點ニ付テ明ニ國民ニ昨年ノ御答ト其御取リニナッタ所ノ
行動ト相反シテ居ルト云フコトヲ、十分ニ明ニ明元アランコト
ヲ私ハ希望スル、ソレカラ次ニハ前ニ殘シ置キマシタデゴザイマス
ガ、外交官ヲ養成スルト云フコトハ大變必要ナ事デアル、其駐
在國ノ言語風俗ニ十分熟サナケレバナラヌト同時ニ、又日
本ノ國ノ狀況ニモ通ゼナケレバナラヌ、此事ニ付テハドウ云フヤ
ウナ御考ヲ御持ニナッテ居リマスカ、此間色〓廻ッテ見マスト、
中〓日本ノ國情ハ餘リ知ラナイ御方ガ多イ、又然ラバ外國ノ
事情ヲ御承知カト申スト、是亦餘リ熟知シテ居ラヌ方ガ多
イ、私ハ玆ニ知合ノ御方ノ事ヲ中上ゲルノハ甚ダ不本意デ
アリマスケレドモ、私ガ此間同船シテ歸ッテ來マシタ一外交
官ハ、細君ト子供ヲ連レテ歸ッテ來タ、其子供ハ凡ソ五ツカ
六ツニナル、日本語ハ一ツモ知リマセヌ、立派ナ妻君ガ御伴
レニナッテ、サウシテ御夫婦デ伴レテ歸ル所ノ御方ニ、日本語
ハ一言、オ父サン、オ母サン、オ早ウト云フコトモ知リマセヌ、
悉ク佛蘭西語、又佛蘭西ノ領事館ニ招バレテ參リマシタ時
分ニ、其處ニ子供ガ二人アル、六ツカ五ツ位ノ子供ガ二人
アル、其子供ノ一人ノ方ハ、オ母サンノ言フコトハ少シ分ル
ケレドモ、日本語デ答ガ出來ナイ、其次ノ子ハ一切佛蘭西
語デナケレバ分ラナイ、斯ウ云フヤウナコトデアル、是ハ或ハ
或點カラ申シマシタナラバ、彼ノ地ノ風俗ニ染ミ、言語ニ通
ズルト云フ點カラ申シマシタラ宜イカモ知レマセヌケレドモ、
苟モ日本ノ國民ガ、自分ノ母國語ヲ兩方共立派ナ御夫婦
ガ附イテ居ッテ、一言モ〓ベナイト云フコトハ、如何ナル事デ
アルカト私ハ怪ム、蓋シ外務省ノ御方針ガ其處ニアッテ、サウ
云フヤウナコトニナリ來ッタモノデナイカ知ラヌト思フ、是等
ニ付キマシテハドウ云フ方針ヲ以テ今後外交官ヲ御養成ニ
ナル御考デアルカ、ドウモ私共一寸考ヘマシテモ甚ダ實ハ不
快デアル、ドウモ日本人ノ子供デアリナガラ、日本語ヲ一ツ
モ知ラナイ、斯ウ云フコトハ甚ダドウモ不便デアル、斯ウ云フ
御方ガ追〓公使ニナリ、大使ニナリマシテ、其御方ニ對シテ
愈こ國家ノ利益ヲ增進サセルト云フコトハ、或ハムヅカシイカ
モ知レヌ、是ハ甚ダ私ハ遺憾デアル、誰カ申シマスヤウニ、外
國ノ外交官デモアリマスマイケレドモ、日本ノ外交官トシテ
如何ニモ不似合デアル、故ニ之ニ就テ外務大臣ノ御方針ヲ
承リタイ、次ニ文部大臣ニ伺ヒマスガ、近來日本カラ海外ニ
留學シテ居ル所ノ人ガ澤山アル、之ニ對シテハ海外留學生
規程ト申スヤウナモノガアルヤウデゴザイマスガ、果シテ其規
程ガ嚴重ニ行ハレテ居リマスカ、誰カ之ヲ監督シテ居リマス
カ、私共此間廻ッテ見マシテ承ル所ニ依リマスレバ、獨逸ノ物
價ガ非常ニ安イカラ、何レノ留學生モ皆獨逸ニ集ッテ來テ
居ル、何故ト云ッテソレハ其筈デアリマス、私共參リマシタ時
分ニ、磅ニ對シテ三千乃至五千馬克ノ相場デアル、其時分
ニ或ル留學生ニ、君達ハ幾ラ位下宿代ナドヲ拂フカト云フ
ト、二千馬克乃至三千馬克デアリマス、ソレデ晩飯モ朝飯モ
食ハセル、日本ノ凡ソ十圓以下デアル、ソレデ三百六十圓ノ
學資ヲ貰ッテ居リマス、隨分澤山ナコトニナル、ンレ故ニ此
餘ック金ヲ持ッテ彼等ハドウ云フコトヲシテ居ルカト言ヒマス
レバ、中ニハ日本ノ留學生ガ數人集リマシテ「レストラン」ヲ
買切ッテシマヒマス、又「レストラン」デ音樂ヲヤッテ居ルノヲ、
錢ヲ出シテ其音樂ヲ止メサセル、斯ウ云フヤウナ事ヲヤッテ居
ル、或ハ別ニ出來ナイ所ノ料理ヲ註文致シマシテ、相客ノ感
情ヲ害ッテ居ル、サウシテ喧嘩ヲオッ始メテ、二三人傷ヲ負ウ
テ病院ニ這入ッテ居ルト云フヤウナ事モ承ッテ居リマス、是ハ
ドウモ今日此儘ニ抛ッテ置クコトハ私ハ出來ヌト思フ、若シ
之ヲ抛ッテ置キマスト、歸リマシタ上ニハ立派ナ〓職ニ從事
セシメンナラヌ人間ニ、甚ダ不似合ナル惡風ヲ染込マセル、
斯ウ云フヤウナ結果ニナリハシナイカト思ヒマス、之ニ對シテ
文部大臣ハドウ云フ御方針ヲ御執ニナル御考デアリマスカ
モウ少シ監督ヲ嚴重ニシテ置クカ、學費ガ多ケレバ減ジテシ
マフ斯ウ云ウヤウナ御方針デモ執ランナラヌヤウニナリハシ
ナイカ、斯ウ云ウヤウニ考ヘマス、之ニ就テ御考ガ承リタイ、
ソレカラ次ニ遞信大臣ニ御伺ヒ致シマス、我ガ帝國ノ如キ幾
多ノ島嶼カラ成立ッテ居ル國ニ於キマシテハ、海運ノ便ヲ付
ケルト云フコトガ何ヨリ大切ナ事デアル、故ニ維新以來保護
獎勵ニ努メマシテ、今日ハ幸ニ國內ノミナラズ、海外各地ニ
至ル迄モ我國ノ船舶ガ參ルヤウニナッテ、餘程途ガ開ケテ、船
ノ分量ノ如キモ三倍以上ノ多キニナッテ居リマスコトハ、洵ニ
國家ノ爲ニ欣ブベキ有樣デアリマス、唯今日ヨリ之ヲ見マ
スレバ、國家ガ今執ッテ居リマス所ノ保護奬勵ノ方法ガ區々
ニナッテ居リマス、色々別々ニナッテ統一ヲ缺イテ居ル、例ヘバ
海外航路ニ對シマシテモ、第一遠洋航路補助規程ニ依ルモ
ノ、次ニ郵便定期航路補助法ニ依ルモノ、又單ニ豫算外國
庫ノ負擔トナルベキ契約ニ依ルモノ、遠洋航路補助法ニ依
ルモノハ南米北米ノ航路、郵便規程ニ依ル航路ハ橫濱倫
敦ノ航路、神戶「シアトル」ノ航路、又次ニ一般ノ豫算外國
庫ノ負擔トナルベキ契約ニ依シテ居ルモノハ南洋航路、ソレ
カラ支那ノ諸港、凡ン十五航路アル、其他單ニ航海費補助
トシテ内地ノ離島間、或ハ內地カラ浦潮へ行タヤウナ航路
ニ補助ンテ居ル、其他ニ朝鮮ニ於キマシテハ朝鮮ノ經濟ヲ
以テ、朝鮮ノ沿岸航路ヲ補助シテ居ルノミナラズ、朝鮮カラ
日本ヘ出テ來ル航路迄モ補助シテ居ル、臺灣ニ於キマシテハ沿
岸航路ノミナラズ、内地臺灣間、又臺灣カラ南洋へ行ク航
路、臺灣カラ支那へ行ク航路モ補助シテ居ル、斯ウー云フヤウ
ナ風デ餘程區々ニナッテ居ル、私共申ス迄モナイ、保護奬勵
ニ對シデハ各、色々條件ガアル、或ハ船ノ分量トカ、或ハ船ノ
噸數トカ、平素取ル義務トカ、是ハ管轄ガ違ヒ航路ガ違ッテ
來ルト、自ラ義務ガ異。テ來ル、同ジ太平洋ニ於キマシテモ、
東洋汽船會社ノ航路ハ違洋航路補助法ニ依クテ居ル、郵
船會社ノヤッテ居ル航路ハ、郵便定期航路法ニ依ッテ居ル
商船會社ノ航路ハ何モ依ル所ガナイ、又臺灣ノ方カラ申シ
マシテモ、臺灣自身ニ內地ニ通ズル所ノ航路ヲ持シテ居ルケ
レドモ、其他ノモノニ付テハ遞信省ノ管轄カラ航路ヲ付ケ
テ居ル、大連ニ行キマス航路デモ、例ヘバ樺太へ行ク航路デ
モ、サウ云フコトニナッテ居リマス、ドウモ是ハ少シ統一ヲ致シ
マシテヤルコトガ今日ハ必要デアル、然ルニモ拘ラズ、當年御
出シニナッテ居ル所ノ豫算ヲ見マスト、矢張是迄通リノ方法
■
ヲ御取ニナラントスル方法ニナッテ居リマス、或ハ事實ニ於テ
害ハ無イカモ知レマセヌガ、斯ノ如キハ此我ガ海運ヲ發達セ
シムル上ニ於テハ、多少障碍ヲ及ボスモノト信ジマス、是ハ何
故御統一ニナラヌカ、モウ少シ整理スベキ所ノ途ガ澤山アリ
マス、何故ソレヲオヤリニナラヌカ、又例ヘバ學校ノ問題ノ如
キモ、遞信省ノ管轄ニ屬シマス東京商船學校ガアリマス、文
部大臣モ御出ニナリマスガ、文部省ノ所管ニ屬スル神戶ノ
高等商船學校ト云フモノガアル、同ジ學校デアリナガラ一ツ
ハ文部省、一ツハ遞信省ノ所管デアル、是ハドウシテモ統一
シナケレバナラヌ、又船ノ輸入稅ニ關シマシテモ、大連或ハ朝
鮮等デ取ッテ居ル所ノ率ト、日本ノ率トハ違フ、輸入スルニ付テ
モ稅ヲ納メマス上ニ、大連ニ籍ヲ置ク所ノ船ヲ拵ヘル、今デモ
アルデセウ、サウ云フコトニナッテ頗ル統一ヲ缺イテ居ル、現政府
ハ行政整理ヲ行ヒ、經費節減ヲスルト云フコトヲ主トシテ居ラ
レルカラ、是等ハ第一ニ御〓究ニナッテ、サウシテ御進ミニナラ
ンケレバナラヌコトヽ私ハ考ヘル、之ニ對シテ未ダ其事ニ御若
手ニナラヌノハドウ云フコトデアルカ、モウ一ツ遞信大臣ニ御
尋致シクイノハ、物價調節ノ策ト致シマシテ、私ハ此壇上ニ於
テ、昨年政府自ラ其範ヲ示サンケレバナラヌ、第一鐵道ノ運
賃ヲ引下ゲルガ宜シイ、ソレカラ煙草專賣ノ如キ代價ヲ引
下ゲルガ宜シイ、ンレカラ電信料ヲ引下ゲルガ宜シイト云フ
コトヲ言ッタ、政府ハ私ノ此言ッタコトニ同意サレテ、鐵道ノ
運賃モ追と御下ゲニナラントシテ居ル、又煙草ノ專賣ノ如
キモ恐ラク私ノ申上ゲタコトヲ御容レニナッテ、四百後ラノ金
ガ減ルニ拘ラズ値下ニナヲテ居ル、然ルニ電信料ニ對シテハ
未ダ其事ガ行ハレナイデ、電信料ハ二十錢カラ三十錢ニ
ナッタ、五割以上ニナッテ居ル、電信ノ資本ニ對スル所ノ割合
ガ一割何分ト云フコトハ、非常ナ好イ割合ニナッテ居ル、是
等ハ第一ニ下ゲンケレバナラヌ、輸入稅ト違ッテ電信料ハ電信
ニ關スル費用デアルカラ、是亦下ゲルト云フコトガ最モ必要
デアル、之ニ對シマシテ未ダ御著手ニナラヌノハ如何ナル御
考デアルカ、是ガ伺ヒタイ、以上デ私ノ申スコトハ大抵済ミ
マシテゴザイマスガ、其他ニ私ハ玆ニ綱紀〓正ニ關スル事ニ
付テ御尋ヲシタイ、是ハ總理大臣ガ御出ニナラナケレバ、法
制局長官モ御出デゴザイマスカラ、ドウゾ私ノ申シマスルコ
トヲ御聽取リ下サレマシテ、他日ノ機會ニ於テ總理大臣ヨ
リ御答辯アランコトヲ希望スル、ソレハ綱紀粛正ニ付テ
貴族院ニ於テ、又或ハ衆議院ノ豫算委員會ニ於テ、幾
多ノ問答ガアッテ、其中ニモ綱紀肅正ノ最モ大切ナ事ハ
地方ノ黨弊ヲ艾除スルニ在ル、地方ノ黨弊ヲ革メンケレバ
ナラヌト云フコトニナッテ居ル、ソレニ對シテ總理大臣ハ、其
事ハ自分モ同感デアッテ、頻ニ之ニ力ヲ注イデ居ル、未ダ完
全ニ行カヌノハ遺憾トスル所デアル、是ガ廓〓ノ途ニ努メ
ル、斯ウ云フコトヲ御答ニナッテ居ル、然ルニ之ニ反シテ内務
大臣ハ何ト仰シヤッタカ、内務大臣ハ政黨政派-立憲政
治ニハ政黨ハ必要デアル、旣ニ政黨ガ必要デアル以上ハ、
各〓其黨勢擴張ニ努メルト云フコトハ無論デアルト云フコ
トノ前提ノ下ニ、地方ノ事ニ付テ斯ウ云フヤウナ御答辯ニ
ナッテ居ル「併シモウ一ツ玆デ私共特ニ御注意願ハンケレバ
ナラヌコトハ、免ニ角議會政治トナリマスレバ、議會ノ多數
ニ依ッテ事ヲ處理スルト云フノデアリマス、帝國議會ニ於キ
マシテモ、府縣會ニ於キマシテモ、市町村會ニ於キマシテモ、其
決議機關ノ議決ヲ經ルニアラザレバ、地方ノ事業モ何事モ
出來ナイノデアリマス、左樣デアリマスルカラシテ、其決議機
關ガ多數者ノ或派ニ屬シテ居リマストキニハ、其派トノ
諒解ヲ得ナケレバナラヌト云フコトモ、是亦政治上己ムヲ
得ヌ事ダラウト思フ、若シ斯ノ如キコトヲセズシテ、常ニ相
衝突シ、相軌轢シテ居ッタナラバ、始終當局者ト議決機關
ト云フモノハ衝突シテ、何事モ地方ノ事業ハ出來ナイト云
フコトニナルノデアリマス、ソレデアリマスカラシテ時ニ依リマ
スレバ其議決機關ノ多數ノモノト意思ノ疏通ヲ圖ル必要
モアリマセウ、肝膽相照ス必要モ生ジルノデアリマセウ、デア
リマスカラ總テノ場合ニ於テ單ニ理想若クハ理窟ノミヲ以
テ行ケヌコトノアルト云フコトモ、是亦能ク御承知下サノコ
トデアラウト思フ、」又更ニ之ニ就キマシテ藤村男爵ノ御尋
ニ對シテ斯ウ云フ事ヲ仰シヤッテ居ル「地方議會等ニ於キマ
シテモ當局者ト其地方議會トノ意思ノ疎通ヲ圖ルノデナ
ケレバ、何等ノ仕事モ十分ニ行ハレテ行クモノデナイト私ハ
考ヘルノデアル、若シ議決機關ト當局者ト常ニ相衝突シ、
相扞格シテ行キマスレバ、何等ノ仕事モ出來ナイト云フコ
トハ當リ前ノコトヽ思フノデアリマス、ソレデアリマスルカラ
成ベク其間ニ意思ノ疏通ヲ圖ッテ、圓滿ニ國家ノ爲ニ若ク
ハ地方事業ノ爲ニ進運ヲ圖ルト云フコトハ、是ハ已ムヲ得
ナイコトヽ思フノデアリマス、其意味ニ於キマシテ、私ハ一昨
日私ノ演述中ニ其一端ヲ申述ベタノデアリマス、斯ク言ヘ
バ內務大臣ハ地方ノ-地方議會ノ多數派トノ結託ヲ容
認スルモノデハナイカト云フヤウナ誤解ヲ、地方官ノ頭ニ與
ヘルコトニナリハセヌカト云フ御心配デアッタノデアリマス、私
ハ結托ト云フ意味ガドウ云フ意味デアリマスカ、能ク分リマ
セヌガ、若シ結托ナル意味ガ惡イ意味ニ於テ、不正ノ意味ニ
於テ結托スルト云フコトデアルノナラバ、是ハ私ハ宜シクナイ
コトヽ思フノデアリマシテ、私ノ申上ゲタノハ決シテ其惡イ
意味ニ於テ結托セヨト云フヤウナ意味デナイト云フコトハ
御諒承ヲ願ヒタイ、但シ此結托ナル意味ガ議會ト理事者
トノ間ニ、互ニ意思ノ疎通ヲ圖ルト云フコトノ意味デアルト
云フノナラバ結托ト云フコト、必シモ惡イ事デナイト思フ」斯
ウ仰シヤッテ居ル、總理大臣ノ仰シヤッタ意味トハ餘程違クテ
居ル、是ハ內務大臣ガ不正ナ事デナケレバ肝膽相照セト云
フ一方ニ於テ、黨勢擴張ハヤラナケレバナラヌ卽チ黨勢擴
張ノ爲ニスルコトハ彼等ヲ助ケテヤレ斯ウ云フ意味ニ聽ニル、
地方官ニ於テハ必ズサウ思フ、總理大臣ノ仰シヤルコトヽ
餘程反對ニナッテ居ル、内務大臣ガ肝膽相照セト云フノハ
何事ダ、肝膽相照スト云ノハ腹ノ內ヲ打明ケル、我ガ兵庫縣
ニ於テモ、昨年多數黨ノ人ト或ル理事者ガ何所カ酒飮場ニ
行ッテ縣政ヲ議シタト云フコトガ縣會ノ問題ニナッテ居ル、是
ガ肝膽相照シタノデゴザイマセウ、又政友會ノ-是ハ此
間、私ガ新聞デ見タノデゴザイマシテ、本當カ嘘カ知リマセ
ヌガ、今度郡道ノ問題ニ付テ縣會ニ於テ議シタモノハ、其
儘內務省デ通シテ吳レト申込ムト云フ議決ニナクテ居ル、
是等ハドウ云フコトヲ意味スルカト云フト、卽チ政友會ガ
黨勢擴張ノ爲ニ御註文ニナッタト云フ、ソレハ私ガ過言カ
知レマセヌガ、免ニ角政友會ノ多數ノ方ガ議決ニナッタコト
ハ、内務省デ其儘通シテ貰ハナケレバナラヌト云フ御註文
ヲ爲サルト云フコトニナッテ居ル、ソコデ私ハ總理大臣ニ御
尋シタイノハ、サウ云フヤウナ內務大臣ノヤウナ筆法ヲ以テ
ヤッタナラバ、果シテ地方ノ黨弊ガ匡正サレルモノデゴザイマ
セウカ、此內務大臣ノ御考ハ總理大臣モ御同感デアルカ、
如何、斯ウ云フコトニ付テ何時ノ機會デモ宜シウゴザイマス
カラ、明カナル御答ヲ願ヒマス、又内務大臣ニ付テハ不正ノ
結托ト云フコトニ付テ、不正ト云フノハ如何ノ事デスカ、例
ヘバ金儲ケヲスルト云フコトデアレバ不正デゴザイマスカ、或
派ノ人ガ己ノ所ニ入黨セヌケレバ此道ヲ付ケテヤラヌ己ノ
所ニ入黨スレバ此港灣ヲヤッテヤラウト云フヤウナ風ニ、入
黨書ヲ片方ニ持テテ迫リ、サウシテ案ヲ拵ヘル、斯ウ云フコト
ハ不正ト見ルカ、是ハ黨勢擴張デ已ムヲ得ナイ必要デアル、
是等ノ事ニ付テハ地方官モ十分助ケテヤレ、肝膽相照シテ
諒解ヲ得テモ宜シイト云フ御考デアリマスカ、是ガ黨弊ノ
根本問題デアルト考ヘル、斯ウ云フヤウナ御方針デ黨弊ヲ
廓〓シヤウト云フコトハ到底出來ナイヤウニ思ハレル、尤モ
中央政府デゴザイマスナラバ、多數黨ト其意見ガ違ヒマス
レバ或ハ議會ヲ解散スルカ、然ラザレバ總辭職ヲスル外ハゴ
ザイマセヌガ、地方ノ政務ニナリマスレバ、府縣知事ハ內務
大臣ニ伺ッテ原案執行ノ權利ヲ持ッテ居ル、故ニ自ラ御認ニ
ナッテ是ガ必要ナリト思へバ其道ガ執レル、必ズ多數黨ニ默
從シナケレバナラヌ必要ハナイ、多數黨ノ人ガ言ッタ所ガ、色
色ノ關係カラ出來タコトデアレバ、之ヲ改メルコトハ何時デ
モ出來ル、ソレニ拘ラズ是ハドウシテモ是非多數黨ノ人ノ諒
解ヲ得テ肝膽相照スコトヲ以テ是ガ必要デアルト云フコト
ハ、何分ニモ黨弊ヲ匡正スルニアラズ、寧ロ助長サセル虞ガ
アルコトヲ私ハ何所マデモ信ズル、之ニ就テ十分ナ御答ヲ何
時ノ機會デモ宜シウゴザイマスカラ與ヘラレンコトヲ玆ニ總
理大臣内務大臣ガ御出席ガゴザイマセヌカラ、法制局長
官カラ宜シク御傳ヘアランコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=77
-
078・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 內田外務大臣
〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=78
-
079・内田康哉
○國務大臣(伯爵内田康哉君〕 只今ノ正木君ノ御質問
ニ御答ヲ致シマスガ、第一ノ御質問、卽チ先刻關君ノ御
質問ニ關聯シテ、御沙汰ノ趣ガ新聞紙ニ出テ居ルガ、ソレハ
誤シテ居ルカ、事實デアルカト云フ御質問スヤウデアリマシタ
ガ、是ハ先刻モ御答辯中シマシタ通リニ、御沙汰ノ次第ハ公
言ガ出來ナイコトデアリマスカラ、隨テ如何ナル記事ガ新聞
ニ出テ居リマシテモ、之ニ對シテ何等私ガ申上ゲ兼ル、尙又
私ガ責任云々ト言ッタガ、ソレハ外務大臣限リノ責任デアル
ガ、内閣全體デアルカドウカト仰シヤル、苟モ政務ニ關シテ政
府ガ執ッタ處置行動ニ關シテハ、內閣全體其責任ヲ負フ考
デアリマス、尙ホ羅馬法王廳ノ件ニ關シテ、我ガ佛〓徒ノ思
想上ニ如何ナル變化ヲ與ヘルカモ分ラナイト云フ御質問ガ
アリマシタガ、是ハ洵ニ遺憾ナ事デアリマシテ、私ハザウ云フ
變化ヲ來サウトハ思ハナイ、今日ノ佛〓徒ノ信念ハ玆ニ羅
馬使節ガ來タカラト云ッテ、變動ヲ見ルヤウナ薄弱ナモノデ
ハナイト私ハ確信シテ居ル、唯〓或ハ羅馬法王使節交換ノ
事柄ガ能ク了解セラレナイ結果トシテ、誤解ヲ懷カレテ居ル
コトガアルカ知レヌケレドモ、旣ニ本席ニ於テモ詳シク說明シ
タ所ヲ了解シテ貰ヘバ、憂ハナカラウト思フ、尙ホ此問題ニ
關聯シテ、伊太利ト羅馬法王廳ノ關係ニ言及サレマシタガ、
是ハ數年前マデハ長イ歷史ノ結果トシテ、其關係ハ寧ロ良
好デナカッタ、ソレ故ニ羅馬法王廳ノ使節ニ行ッタ人ハ、殊更
ニ伊太利ノ皇室訪間ヲ避ケ、又伊太利皇室若クハ伊太利
ノ政府ニ關係ノ有ル人ハ、羅馬法王廳ニ行カナイヤウナ關
係ニナッテ居ル、矢張今日モ表面ハサウナッテ居ラウト思ヒマ
ス、ツレ故ニ正木君ガ伊太利ニ行カレタトキニ、我ガ公使館
員ガ御紹介ノ勞ヲ執リ得ナカッタノハ無理モナイコトデアラ
ウト思フ、併シ最近羅馬法王廳ト伊太利政府トノ關係ハ
殊ニ戰後ハ大變良クナッテ居ル、ソレ故ニ先年亞米利加ノ
大統領ガ伊太利ニ行キマシタトキニ、政府ヲ訪問スルト同時
ニ、法王モ訪問シタヤウデアリマス、現ニ我ガ皇太子殿下
ガ先年伊太利ヲ御訪問遊バシマシタトキニハ、矢張法王廳
ヲ御訪問遊バシタノデアル、斯ウ云フ良關係デアシバ、何モ
同ジ地ニ二人ノ使節ヲ置ク必要ハナイデナイカ、伊太利ニ
居ル大使ヲツテ兼ネシメテハドウデアルカト仰セラレマスケレ
ドモ、國際禮儀上、又是マデノ歷史ニ顧ミ、サウー云フ譯ニハイ
カナイ、矢張爰ニハ割然タル區別ガアリマスカラ、羅馬法王
廳ノ使節ヲシテ伊太利政府ノ使節ヲ兼シメルコトガ出來ヌ
ト同時ニ、伊太利政府ニ派遣シタル我ガ大使ヲシテ羅馬法
王廳ノ使節ヲ兼シムルコトハ出來ナイ、ソレカラ外國ニ派遣
スル大公使ノ人選ニ付テノ御質問ガアリマシタガ、其序ニ何
カ二十一箇條及臺灣ニ關シテ御質問ガアリマシタガ、是ハ
何カ御質問ノ趣旨デモナイト云フ御言葉デアリマシタ、又
此問題ニ對スル我ガ政府ノ決心ハ旣ニ屢、聲明ヲ致シマシ
タカラ、之ニ對スル答辯ハ御宥恕ヲ願ヒタイ、唯〓海外ニ派
遣シテアル我大公使ハ外交家デアルカモ知レヌガ、政治家ト
ハ言ヒ兼ル、又私モ或ハサウデアルカモ知レヌト云フノデア
リマシタガ、是ハ謹デ〓ヲ奉ジマスガ、成程此問題ニ付キマシ
テハ、先日貴族院ニ於テモ同ジヤウナ御質問ガアッタ、政府
ニ於テハ出來得ル限リ外交官デアルト同時ニ、政治家デア
ルノヲ得タイト思ウテ居ル、外交官ト政治家ト云フ區別モ
甚ダムヅカシイ問題デアリマスケレドモ、先ヅ爰ニ何カノ相違
ガアルトスレバ、外交家タルト同時ニ、政治家デアッテ貰ヒタ
イ、卽チ外國ノ事ヲ知ルト同時ニ、日本ノ内地ノ事ニモ餘
程解ッテ居ル、斯ウ云フ事ガ最モ必要デアラウト思フ、又サウ
云フ風ニ外交官ヲ養成シタイト思ヒマス、大學ヲ出デ若ク
ハ外交官試驗ヲ經テ採用シタ外交官デ、成ベク內地ニモ置
キ、海外ニモ置クヤウニシテ、兩々相交代シテ、外國ノ事情ヲ
知ルト同時ニ、日本ノ事情ヲ知ルヤウナ者ヲ造リタイト思フ、
獨リ外務省ニ於テ養成スルノミナラズ、汎ク之ヲ民間ニ求メ
タイト思フ、尙ホ爰ニムヅカシイノハ、目星ヲ附ケテ、此人ハ
外交家デアルト同時ニ、政治家デアルト思ウタ人ヲ交涉スレ
バ、ドウモドウ云フ譯デアルカ知ラヌ、サウ云フ人ハドウモ大
抵御請ガナイ、是マデ一一一貴族院ヨリモ、又衆議院ヨリモ御
請ヲ願ッタコトモアリマス、又今後モアラウト思ヒマスカラ、何
卒サウ云フ時分ニハ喜ンデ御請アランコトヲ私ハ爰ニ希望
ヲ表シテ置ク、其次ニ尙ホ何カ此外交官ノ養成ノ事ニ付テ
外務省ハ西洋ニ生レタ子供ニ日本語ヲ習ッテハイケナイ、外
國語ヲヤレトカ、或ハ外交官ノ子供ハ必ズ世襲的デ外交官
デナケレパイカヌト云フヤウナコトガアリマシタガ、併シ子供
ガ外國語ヲ覺エルト云アコトハ往々アル、ソレハ其家族ノ內
情ニモ依ル話デアリマシテ、其兩親ト雖モ日本語ヲ禁ジテ〓
ヘナイト云フコトハナイケレドモ、子供ガ外國ニ居ッタ其遊ビ
相手ガ、皆外國人デアル場合ニハ、ドウシテモ西洋語ノ方ガ
早ク行ク、是ハ獨リ日本ノ子供許リデハナイ、現ニ東京ニ居
ル外交官ノ子供デ、日本語ヲ能ク話ス者ガアル、併シ同時ニ
其子供ガ日本ニ歸ッテ來レバ、初メ逢ッタトキハ日本ニ居ル
兄弟ト言語相通ジナイ者ガ、二三箇月スレバ自由ニ話スコ
トガ出來ル、是等ノ點ハ御心配ニ及バヌト思フ、最後二西伯
利ノ撤兵ノ事ニ付テ、前議會ニ於ケル問答ヲ長々御朗讀ニ
ナリマシタガ、是ハ私ハ簡單ニ說明ガ出來ルト思フ、其當時
ハ如何ニモ西伯利ノ國情安定セズ、何カノ保障ヲ得ズンバ
到底彼處カラ兵ヲ引揚ゲルコトハ出來兼ル、斯ウ云フ考デ
アリマシタガ、其後成程サウ長イ間デアリマセヌデシタケレド
モ、露西亞全體ニ於ケル國情竝ニ極東西伯利ニ於ケル國
情ハ餘程違ッテ來タ、露西亞人ノ思想ニ於テモ、又浦潮方
面ニ於ケル現狀ニ於テモ、撤兵ヲ斷行シテ先ヅ差支ハナイ
ト云フ確信ヲ得タノデアリマス、ソレデ斷行ヲ致シタ、幸ニ其
鑑識ガ當ヲテ今日マデ何等ノ不安定ナ事ガ無イヤウニ思ウ
テ居リマス、現ニ引揚ゲル際ニ於テハ、何等カノ事變ガ起リ
ハシナイカトサウ認定ヲシナガラモ、恐レテ居リマシタガ、所謂
一兵衂サズシテ、撤兵ヲ完了シ、我ガ浦潮方面ニ在留ノ邦
人ニハ、生命財產ニ危害ヲ及ボサレタ者ハ幸ニ無カッタノデ
アリマス、成程浦潮ニ於ケル人數ハ餘程是ハ減リマシタ、是
ハ我軍ニ依シテ衣食ヲシテ居ル者ガ引揚ルノハ無論ノ事デア
ル、又殘ッタ者モ軍ノ引揚ゲタ後ハ何等ノ商業モ出來ズ殆ド
坐食スル許リデアリマシタカラ、是等ノ中デモ引揚ゲタ者ガ
多數アルノデアリマス、免モ角モ生命ト財產ニ危害ヲ及ボス
ヤウナコトハ、今日マデ認メテ居リマセヌ
〔國務大臣鎌田榮君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=79
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080・鎌田榮吉
○國務大臣(鎌田榮吉君) 正木君ノ外國留學生ニ關ス
ル御質問ニ御答致シマス、大低此外國ニ留學ヲ致サシテ居
リマス者ハ、皆最高等ノ〓育ヲ受ケマシテ自己ノ責任デ、自
己ヲ取締ルコトノ出來ル人間許リデアリマス、之ニ監督官ヲ
附クルナドト云フコトハ致シテ居リマセヌノデアリマス、自ラ
紳士的態度ヲ持シテ行クト云フコトニ致サナケレバナラヌ、
而シテ此留學生中ニ、放埓ナル所業ヲナス者ガアルヤノ御
話デアリマスガ、未ダ左様ナ事實ハ承知致シマセヌノデアリマ
ス、併ナガラ獨逸ハ餘程此物價ガ他ノ國トハ違ヒマスヤウ
デ、今囘ノ豫算ニハ此留學費、年々ノ留學費ハ輕減ヲ致シ
テ豫算ヲ提出シテ居ル譯デアリマス、ドウカ左樣御承知ヲ願
ヒマス(拍手)
〔國務大臣子爵前田利定君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=80
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081・前田利定
○國務大臣(子爵前田利定君) 江木君ノ御質問ニ御答
致シマスルガ、正木君ハ船舶ノ事ニハ洵ニ御明ルイ方ト承ッテ
居リマスカラ、或ハ私ノ御答デハ御不滿足カモ知レマセヌガ、
私ノ存ジテ居ル範圍ニ於キマシテ、御答申上ゲタイト思ヒマ
ス、成ベク簡單ニ御各致シマス、航路ノ補助ニ付キマシテハ
御市ノ通リニ形式ガ區々ニナッテ居リマス、當初ハ遠洋航路
補助法ニノミ依シテ補助シテ居ッタヤウニ私ハ記憶シテ居リ
マスケレドモ、近來ハ郵便定期ノ航路ニ對シテ補助ヲスルト
云フヤウナコトモアリマス、色々區々ニナッテ居リマスガ、併ナ
ガラ此區々ニナッタ形式ガ居リマスト云フコトハ、ソレ〓〓ノ實
況ニ應ジテ斯クナッテ居ルコトヽ私ハ考ヘテ居ルノデアリマ
ス、故ニ形式カラ申シマスレバ甚ダ不統一デアリマスルケレド
モ、其不統一ガ詰リ實況ニ照シマシテ能ク當ッテ居リマスル
ガ故ニ、ソコニ又味ヒガアルコトヽ思フノデアリマス、今直ニ
之ヲ統一ヲ致シマスト云フコトニ付キマシテハ、法律ノ改廢
ヲ伴ヒマスルコトデモアリマスルシ、愼重ニ攻究ヲシテ見ナケ
レバナラヌ事ト思ヒマスノデアリマス、併シ現在ニ於キマシテ
ハ、形式ハ區々ニナッテ居リマシテモ、實際上サシタル不便ハ
ナイモノト私ハ信ジテ居リマス次第デアリマス、次ニ電信料
ニ付キマシテ、モソット料金ヲ引下ゲナイカト云フヤウナ御質
問デアリマシタケレトモ、遞信當局ト致シマシテハ、電信料ノ
三十錢ハ必シモ今日ノ經濟界ノ實況ニ對シマシテ高カラズ
ト斯樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマシテ、引下ゲルト云フコト
ニ付テノ考慮ハ致シテ居リマセヌ、次ニ商船學校ノ御話デア
リマシテ、文部省ニテモ矢張商船學校ガアルカラ、何レヘカ
統一シタラ宜カラウト云フ御尋デアッタヤウニ伺ヒマシタガ、
御永知ノ通リニ海員ノ養成ト云フモノハ、船舶ノ操縱ノ任
ニ當ル者ノ養成デアリマシテ、事ガ實際的ニ〓育ガ施サレナ
ケレバナラヌト思フノデアリマス、而シテ〓日ノ海運界ニ於
テ、所謂高等海員ヲ養成シテ貰ヒタイト云フヤウナ要求、或
ハ又戰後ノ海運界ニハ如何ナル〓育ヲ施シタラ宜カラウカ
ト云フヤウナ事柄ハ、一般ノ〓育ヲ掌ッテ居リマスル文部省
ヨリモ、此海事ニ付キマシテ常ニ監督指導シテ居ル所ノ遞
信官署ニ於テ學校ヲ管理シテ居ルト云フゴトガ、實際ノ便
宜デアラウト思フノデアリマス、マア第一ニ海員ノ〓育上ノ
〓官ノ配置ノコトニ付キマシテモ、又海員ノ實習ニ付キマシ
テモ、之ヲ遞信省ノ海事行政官廳ノ下ニ置クト云フ方ガ宜
カラウヤウニ考ヘテ居ルノデアリマス、而シテ又之ヲ假令統一致
シテ見マシタ所デ、別ニ經費ノ節減ニモナラヌノデアリマスル
カラ、旁〓海事ノ行政官廳ニ此商船學校ヲ一ノ模範學校
トシテ存置シテ置ク方ガ宜カラウト信ジテ居ルノデアリマス、
ソレカラ大連ノ輸入稅ニ付テノ御話ガゴザイマシタケレドモ
是ハ大連ハ租借地デハゴザイマスルケレドモ、免ニ角外國ノ
土地デアリマスルカラシテ、輸入稅ニ差異ノアルト一云フコトハ是
ハ致方ガナイコトヽ考ヘテ居ルノデアリマス、甚ダ不十分デ
アリマセウケレドモ、御尋ニナリマシタ點ニ付キマシテ御答ヲ
致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=81
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082・正木照藏
○正木照藏君 只今ノ御答辯中、内田大臣ノ西伯利ニ關
スル事、竝ニ只今遞信大臣ノ御答、孰レモ私ハ滿足ヲ致シ
マセヌ殊ニ遞信大臣ノ答辯ニ付テハ滿足致シマセヌガ、再ビ
之ヲ御尋スル所ノ時間ガアリマセヌカラ、私ノ質問ハ是デ打
切リマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=82
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083・岩崎勲
○岩崎勳君 國務大臣ノ演說ニ對スル質疑ハ一月二十
三日ヨリ今日ニ至ルマデ、實ニ五日ニ亙ッテ之ヲ繼續シタノ
デアリマス、質疑ノ通告者ハ尙ホ數名ヲ殘シテ居ルノデアリ
マスガ、今ヤ豫算其他ノ委員會ハ逐次開催セラレマシテ、政
府ニ附スル質疑、質問ハ尙ホ有ユル機會ニ於テ之ヲ爲スコ
トヲ得ルノデアリマスガ故ニ、一月二十三日當議場ニ於ケル
國務大臣ノ演說ニ對スル質疑ハ、此程度ニ於テ之ヲ終了ス
ベシトノ動議ヲ提出致シマス
〔「贊成」「反對」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=83
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084・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ハ成規ノ賛成ヲ
得テ提出サレテ居リマス、之ニ對シテハ反對ノ聲モ耳ニ致シ
テ居ルノデアリマスカラ、起立ニ依シテ採決ヲ致シマス、山崎
君ノ動議ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=84
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085・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 多數ト認メマス、仍テ岩崎君ノ
動議ノ如ク可決致シマシタ
〔「異議アリ」「異議アリ」「議長々々」「大ニ異議アリ」
ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=85
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086・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ガアリマスナラバ、念ノ爲
ニ岩崎君ノ動議ニ反對ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔「異議アリ」「異議アリ」「議長議長」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=86
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087・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 起立サレマセヌカ-念ノ爲ニ
採決ヲ致シマス、岩崎君ノ動議ニ反對ノ諸君ノ起立ヲ請ヒ
フス
〔反對者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=87
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088・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 少數ト認メマス
〔「多數」「少數」「異議アリ」「異議アリ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=88
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089・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 少數デアリマスカラ、岩崎君ノ動
議ハ可決確定セラレマシタ(「異議アリ」「異議アリ」ト呼フ者
アリ)次會ノ日程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是デ
散會
午後五時三十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X00719230201&spkNum=89
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