第46回帝国議会　衆議院　本会議　第35号　大正12年3月20日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  大正十二年三月二十日（火曜日）午後一時二十二分開議
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  　議事日程　第三十四號　大正十二年三月二十日
  　　　午後一時開議
  　第一　中央卸賣市場法案（政府提出、貴族院囘付）
  　第二　瓦斯事業法案（政府提出、貴族院送付）　　　　　　　　　　　　　　第一讀會
  　第三　右議案の審査を付託すへき委員の選擧
  　第四　東京帝國大學臨時政府支出金繰入に關する法律案（政府提出）　　　　第一讀會
  　第五　右議案の審査を付託すへき委員の選擧
  　第六　共通法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）　　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　第七　船舶を以て衆議院議員の一選擧區と爲すの法律案（林田龜太郎君外三名提出）　第一讀會
  　第八　所得税法中改正法律案（鳩山一郎君外三名提出）　　　　　　　　　　第一讀會
  　第九　衆議院議員選擧法中改正法律案（押川方義君提出）　　　　　　　　　第一讀會
  　第十　人事訴訟手續法中改正法律案（麓純義君外五名提出）　　　　　　　　第一讀會
  　第十一　府縣郡の廢合整理に關する建議案（平野光雄君外四名提出）
  　第十二　米穀法運用に關する建議案（荒川五郎君外五名提出）
  　第十三　普通選擧に關し一般投票實施に關する建議案（林田龜太郎君外二名提出）
  　第十四　猿投神社昇格に關する建議案（齋藤鷲太郎君提出）
  　第十五　治水事業に關する建議案（松浦五兵衞君外三名提出）
  　第十六　町村長の教員任用申請に關する建議案（植場平君外二名提出）
  　第十七　重三鐵道建設に關する建議案（吉良元夫君外三名提出）
  　第十八　對外貿易法制定に關する建議案（金光庸夫君外二名提出）
  　第十九　郡町村連絡直通電話特設奬勵に關する建議案（佐久間啓莊君外八名提出）
  　第二十　姫津鐵道龍野町經由に關する建議案（木下甚三郎君外一名提出）
  　第二十一　因襲打破に關する建議案（横田千之助君外六名提出）
  　第二十二　地方廳衞生課長たる國費支辨技師配置に關する建議案（八木逸郎君外一名提出）
  　第二十三　官幣大社宗像神社境内整理復舊に關する建議案（中村清造君外二名提出）
  　第二十四　肝屬川改修速成に關する建議案（津崎尚武君外二名提出）　　　　（委員長報告）
  　第二十五　八幡濱中村間鐵道速成に關する建議案（矢野丑乙君外三名提出）　（委員長報告）
  　第二十六　日足鐵道速成に關する建議案（松岡俊三君提出）　　　　　　　　（委員長報告）
  　第二十七　氣仙沼前谷地間鐵道速成に關する建議案（高橋長七郎君外八名提出）　（委員長報告）
  　第二十八　湖南鐵道建設に關する建議案（八田宗吉君外五名提出）　　　　　（委員長報告）
  　第二十九　野岩羽鐵道速成に關する建議案（八田宗吉君外三名提出）　　　　（委員長報告）
  　第三十　烏黒、伊棚鐵道敷設に關する建議案（石川玄三君外一名提出）　　　（委員長報告）
  　第三十一　宇岩鐵道敷設に關する建議案（植竹龍三郎君外二名提出）　　　　（委員長報告）
  　第三十二　柳津小出間及只見古町間鐵道速成に關する建議案（中野寅吉君外三名提出）　（委員長報告）
  　第三十三　柳津小出間及只見古町間鐵道速成に關する建議案（八田宗吉君外六名提出）　（委員長報告）
  　第三十四　第六囘内國勸業博覽會開催に關する建議案（加藤重三郎君外九名提出）　（委員長報告）
  　第三十五　岐阜地方及區裁判所移轉改築に關する建議案（山田永俊君外二名提出）　（委員長報告）
  　第三十六　大漁船奬勵に關する建議案（櫻内幸雄君外二名提出）　　　　　　（委員長報告）
  　第三十七　國立水産試驗場設置に關する建議案（廣瀬鎭之君提出）　　　　　（委員長報告）
  　第三十八　水産銀行設立に關する建議案（鵜澤宇八君外三名提出）　　　　　（委員長報告）
  　第三十九　帝國在郷軍人會國庫補助に關する建議案（八田宗吉君外六名提出）　（委員長報告）
  　第四十　熱海大仁間鐵道速成に關する建議案（小泉策太郎君外一名提出）　　（委員長報告）
  　第四十一　發明奬勵に關する建議案（島田俊雄君外八名提出）　　　　　　　（委員長報告）
  　第四十二　化學工業奬勵に關する建議案（鈴木錠藏君外三名提出）　　　　　（委員長報告）
  　第四十三　決議案（中野正剛君外三名提出）
  　第四十四　決議案（田川大吉郎君提出）
  　第四十五　自治刷新に關する建議案（安達謙藏君外六名提出）
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• 001・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　諸般ノ報告ヲ致サセマス
  〔原田書記官朗讀〕
  一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
  東京帝國大學臨時政府支出金繰入ニ關スル法律案
  (第四號)大正十二年度歲入歳出總豫算追加案
  (以上三月十九日提出)
  一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
  矢部川改修工事ニ關スル建議案
  提出者吉原正隆君富安保太郞君
  大野川改修速成ニ關スル建議案
  提出者金光庸夫君吉良元夫君
  木下謙次郞君
  (以上三月十九日提出)
  一昨十九日貴族院ヨリ囘付セラレタル政府提出案左ノ
  如シ
  中央卸賣市場法案
  一昨十九日貴族院ニ於テ本院ノ送付ニ係ル左ノ議案ヲ
  可決シタル旨同院ヨリ通牒ヲ受領セリ
  朝鮮私設鐵道補助法中改正法律案
  煙草專賣法中改正法律案
  一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
  郵便切手賣捌手數料及外國郵便ニ關スル質問主意
  書
  提出者根本正君
  製鐵所ノ整理及經營方針ニ關スル再質問主意書
  提出者永井柳太郞君
  司法權ノ運用ニ關スル再質問主意書
  提出者横山勝太郞君
  (以上三月十九日提出)
  軍艦天城ニ關スル疑獄事件ニ付緊急質問主意書
  提出者安達謙藏君關和知君
  賴母本桂吉君田中善立君
  三木武吉君
  (以上三月二十日提出)
  一昨十九日政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
  衆議院議員村山喜一郞君提出林業政策ニ關スル資
  問ニ對スル答辯書
  林業政策ニ關スル質問主意書
  右成規ニ據リ提出候也
  大正十二年三月十四日
  提出者村山喜一郞
  賛成者鈴木周三郞
  外三十一名
  林業政策ニ關スル質問主意書
  輓近我カ邦人文ノ發達生活ノ向上ニ伴ヒ木材ノ需用
  逐年增加ノ趨勢ニ在リ而モ國内ノ生產漸次減少シ近年
  著シク外材輸入ノ增加ヲ來シツツアルハ洵ニ寒心ニ堪ヘ
  サルモノアリ政府ハ木材ノ生產增加ニ對シ如何ニ其ノ政
  策ヲ樹立シツツアリヤ
  右及質問候也
  大正十二年三月十九日
  內閣總理大臣男爵加藤友三郞
  衆議院議長粕谷義三殿
  衆議院議員村山喜一郎君提出林業政策ニ關スル質問
  ニ對シ別紙答辯書差進候
  〔別紙〕
  衆議院議員村山喜一郎君提出林業政策ニ關スル
  質問ニ對スル答辯書
  政府ハ國有林野ニ對シテハ堅實ナル施業計劃ノ下ニ銳
  意生產ノ增加ヲ圖リ公私有林野ニ對シテハ一般ニ林業
  思想ノ普及ヲ圖ルト共ニ公有林野造林補助、公有林野
  官行造林、樹苗養成及竹林造成ノ補助ヲ行ヒ銳意林
  產ノ增殖ニ努メツヽアリ
  右及答辯候世
  大正十二年三月十九日
  農商務大臣荒井賢太郞
  〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ揭
  載ス〕
  一昨十九日行政及稅制ノ整理ニ聞スル建議案委員床
  次竹二郞君辭任ニ付キ其補闘トシテ植竹龍三郞君
  ヲ同委員松本孫右衞門君辭任ニ付キ其補關トシテ
  向井倭雄君ヲ同委員武藤金吉君辭任ニ付キ其補關
  トシテ岩切重雄君ヲ漢學振興ニ關スル建議案委員
  山本悌二郞君辭任ニ付キ其補開トシテ武田德三郞
  君ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
  一昨十九日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如シ
  社會事業基金特別會計法案
  小川平吉君波多野承五郞君堀切善兵衛君
  田邊熊一君瀧正雄君津野田是重君
  渡邊祐策君竹內明太郞君松野鶴平君
  長峰與一君山崎猛君永井柳太郞君
  橫山金太郎君小野重行君粟山博君
  前川虎造君平野光雄君木村權右衞門君

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• 002・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　此際一言申上ゲテ置キマス、本日
  ハ質問日デアリマスルケレドモ、議案ノ都合ニ依リマシテ之
  ヲ見合セマス、但シ此週間内ニ於キマシテ、別ニ質問日ヲ設
  ケタイト考ヘテ居ルノデアリマス、左樣ニ御諒承ヲ願ヒマス、
  是ヨリ會議ヲ開キマス、議事進行ニ付テ發言ヲ求メラレテ
  居リマス、太田信治郞君
  〔太田信治郞君登壇〕

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• 003・太田信治郎

  ○太田信治郞君　私ハ曩ニ憲政會及革新倶樂部、政友
  會ノ各派ヨリ提出セラレテアル所ノ東京市ノ帝都制案、卽
  チ東京市特別市制案及束京市ノ區制案デアリマス、各派
  共ニ其內容ニ付テハ多少ノ相違ガアルカモ知レマセヌガ、之
  ヲ緊急トシテ提案致シマシタル趣旨ニ於テハ、全會一致ト
  私ハ信ジテ居ルノデアリマス、然ルニ會期切迫致シマシタル
  今日ニ至リマシテモ、マダ是ガ上程セラルヽコトニ至リマセ
  ヌ、本案ノ如キハ東京市民ガ三十年來ノ懸案ト致シマシテ、
  市會ニ於キマシテモ又十五區ノ各區會ニ於キマシテモ之ヲ
  切望シ、之ヲ請願致シマシタルコトハ一再ナラナイノデアリ
  マス、然ルニ此必要ナル、此希望ヲ致シテ居リマスル所ノ本
  案ガ、此會期ノ切迫致シテ居リマス今日迄、是ガ議案ノ上
  程ヲ見マセヌコトハ、私ハ甚ダ遺憾ニ存ズルノデアリマス、聞
  ク所ニ依リマスト、是ガ印刷ノ都合ト云フヤウナコトニ藉口
  セラレテ、何等カ其間ニ此提案ヲ出シ澁ルヤウナ傾向ガアリ
  ハシナイカト私ハ窃ニ疑ッテ居ルノデアリマス、議長ニ於テハ
  今日迄如何ナル考ヲ以テ是ガ御提案ヲ爲サラナイノデアリ
  マスカ、速ニ此御提案ヲ爲スッテ、此案ノ通過ヲ御圖リニナル
  御考ハ無イノデアリマスカ、此點ニ付テ私ハ緊急議長ノ御
  考ヲ伺ッテ、之ヲ提案セラレンコトヲ希望スルト共ニ、今日迄
  遲延致シテ居リマシタルコトニ付テ、甚ダ私ハ奇怪ニ存ジテ
  此質問ヲ致シタ次第デアリマス(拍手)

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• 004・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　御答ヲ致シマス、別ニ議長ノ手許
  ニ於キマシテハ、何等故意ニ之ヲ遲延セシメテ居ルコトハ斷
  ジテ無イノデアリマス、要スルニ兵今御聞込ミノ通リ、印刷
  ノ都合ニ依ッテ未ダ上程スルニ至ラヌノデアリマス、尙ホ今明
  日中ニ印刷モ出來ルト云フコトデアリマスカラ、程ナク上程
  サレル事ト信ジテ居リマス、此事ヲ御答致シマス、次ニ吉良
  元夫君ヨリ同樣議事進行ニ付テ發言ヲ求メラレテ居リマ
  ス、吉良元夫君

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• 005・吉良元夫

  ○吉良元夫君　至極簡單デアリマスカラ、自席ヨリ述ベマ
  ス、私ハ議事進行ナドニ付テハ發言シタクナイノデアリマス、
  併ナガラ發言セザルヲ得ヌノデアリマス、會期ハ如何デゴザ
  イマス、僅ニ後ト六日間ヲ剩スノミデアリマシテ、其間ニハ春
  季皇靈祭アリ、日曜日アリ、正味四日間デアリマス、然ルニ
  今日ノ如クニ至リマシテモ、今日ニ始ッタ事ナラ申シマセヌ
  ガ、會議ハ必ズ午後一時ヨリ開クベキ事ニナッテ居ルニモ拘
  ラス、一時ニ振鈴ガ鳴リマシテ、サウシテ振鈴ガ鳴リマシタ後
  ニ議席ニ澤山-控室ニ御居リニナッテ容易ニ御出マシガナ
  イ、早ク議席ニ著ク者ヲ輕蔑スルノミナラズ、非常ニ冷笑フ
  方ガアルノハ何タル事デアリマス(拍手)今日ノ如キ二十五
  分間モ貴重ナル時間ヲ空過シテ居ル、時間厲行ト云フコト
  ハ行ハレナイ事デアルト言ヒマスガ、行ハントスレバ是程行ハ
  レ易イ事ハナイノデアリマス(拍手)嘗テ承ル所ニ依レバ、西
  哲ノ中ニ最モ尊重スベキ「カント」ト云フ人ハ、非常ニ時間ヲ
  厲行シタ人デアッタヤウデアリマス、「カント」ハ其市外ニ出
  テ散策スル、若クハ總デノ事ヲ規律的ニ、時計以上ニ正確ナ
  人デアッタト云フコトヲ承ッテ居ル、吾々ハ斯ノ如キ碩學ノ大
  家ニ比シテハ虫姑ノヤウナモノデアリマスケレドモ、是ハ諸
  君、是非一ツモウ少シ眞面目ニ緊張シテオヤリ下サレヌト、
  後ニ殘クテ居リマス所ノ議案ハ山ノ如クアリマシテ、審議未
  了ニ終ラネバ宜イガト思フノデアリマスカラ、ドウカ明日ヨリ
  ハ一分ノ遲刻モ無ク開會サレマスヤウニ、議長ヨリ各議員ニ
  御通告アランコトヲ希望致シマス(拍手)

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• 006・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　只今吉良君ノ御述ニナリマシタコ
  トハ、議長ニ於テモ御同感ニ堪ヘマセヌ、「ドウカ議員諸君ハ
  一層御精勵アランコトヲ希望致シマス、日程第一、中央卸
  賣市場法案、貴族院ノ囘付案ヲ議題ニ致シマス
  第中央卸賣市場法案(政府提出、貴族
  院囘付)
  (小字ハ貴族院修正)
  中央卸賣市場法案中貴族院囘付ノ箇所左ノ如シ
  第七條開設者ハ前條ノ規定ニ依リ閉鎖ヲ命セラレタ
  ル市場ノ開設者及卸賣ノ業務ヲ爲ス者ニ對シ
  ○勅令ノ定ムル所ニ依リ
  ○損失ヲ補償スヘシ
  前項ノ規定ニ依リ補償スヘキ金額ハ當事者ノ協議ニ
  依リ之ヲ定ム協議調ハサルトキハ地方長官ノ決定ヲ
  求ムヘシ地方長官ノ決定ニ不服アル者ハ決定書ノ送
  付ヲ受ケタル日ヨリ起算シ九十日內ニ通常裁判所ニ
  出訴スルコトヲ得

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• 007・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　貴族院ニ於ケル修正箇所ハ、旣
  印刷シテ御手許ニ配付シテアリマスカラ御承知ノコトヽ存
  ジマス、此囘付案卽チ貴族院ノ修正案ニ同意スルヤ否ヤヲ
  御諮リ致シマス

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• 008・横田千之助

  ○橫田千之助君　本案ニ付テノ貴族院ノ修正ハ、本院決
  議ノ精神ニ觸ルヽ所モ無シト信ズルノデアリマス、仍テ貴族
  院ノ修正ニ同意スルコトヲ、此場合ニ於テ表明致シマス
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕

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• 009・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　貴族院ノ修正ニ同意スルコトニ付
  テハ別ニ御異議ナシト認メマス、仍テ修正ニ同意スルコトニ
  決シマシク、日程第三、瓦斯事業法案ノ第一讀會會開キマ
  ス、荒井農商務大臣
  第二瓦斯事業法案(政府提出貴族院送
  付第一讀會
  (小字及-ハ貴族院修正)
  瓦斯事業法案
  瓦斯事業法
  第一條本法ニ於テ瓦斯事業ト稱スルハ一般ノ需用ニ
  應シ導管ニ依リテ瓦斯ヲ供給スル事業ヲ謂フ
  第二條本法ニ於テ瓦斯工作物ト稱スルハ瓦斯發生
  裝置、瓦斯精製裝置、瓦斯溜、導管其ノ他瓦斯供給
  ノ爲施設スル工作物ニシテ瓦斯事業ノ用ニ供スルモノ
  ヲ謂フ
  第三條瓦斯事業ヲ營マムトスル者ハ勅令ノ定ムル所
  ニ依リ主務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
  第四條瓦斯事業者ハ主務大臣ノ指定スル期間內ニ
  工事施行ノ許可ヲ申請シ且其ノ事業ヲ開始スヘシ
  主務大臣ハ正當ノ事由アリト認ムル場合ニ限リ前項
  ノ期間ノ延長ヲ許可スルコトヲ得
  瓦斯事業者前二項ノ期間內ニ工事施行ノ許可ヲ申
  請セス又ハ事業ヲ開始セサルトキハ前條ノ許可ハ其ノ
  效力ヲ失フ
  第五條瓦斯事業者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官
  廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ工事ヲ施行シ又ハ瓦斯
  工作物ヲ使用スルコトヲ得ス
  第六條瓦斯事業者ハ河川、溝渠、道路、橋梁、堤防其
  ノ他公共ノ用ニ供セラルル土地ニ導管ヲ施設スル必
  要アルトキハ其ノ效用ヲ妨ケサル限度ニ於テ其ノ管理
  者ノ許可ヲ受ケテ之ヲ使用スルコトヲ得
  前項ノ管理者正當ノ事由ナクシテ前項ノ許可ヲ拒ミ
  タルトキハ主務大臣ハ瓦斯事業者ノ申請ニ依リ前項
  ニ規定スル使用ヲ許可スルコトヲ得
  前二項ノ場合ニ於テハ瓦斯事業者ハ勅令ノ定ムル所
  ニ依リ使用料ヲ納ムヘシ
  前三項ノ規定ハ道路法ニ依ル道路及其ノ附屬物竝
  道路法第七條ノ規定ニ依リ同法ノ規定ヲ準用スル道
  路及其ノ附屬物ト爲ルヘキモノニ關シテハ之ヲ適用セ
  ス
  第七條瓦斯事業者ハ必要アルトキハ導管ノ施設ニ關
  スル調査、測量若ハ工事ノ爲他人ノ土地ニ立入リ又
  ハ現在ノ使用方法ヲ妨ケサル限度ニ於テ他人ノ土地
  ニ導管ヲ施設スルコトヲ得
  前項ノ規定ニ依リ瓦斯事業者他人ノ土地ニ立入リ又
  ハ導管ヲ施設セムトスル場合ニ於テ其ノ所有者及占
  有者ト協議調ハス又ハ協議ヲ爲スコト能ハサルトキハ
  其ノ使用ノ範圍ヲ定メ豫メ行政官廳ノ許可ヲ受タヘ
  瓦斯事業者前項ノ許可ヲ受ケタル後他人ノ土地ニ立
  入リ又ハ導管ヲ施設セムトスルトキハ少クトモ五日前
  ニ其ノ旨土地ノ所有者及占有者ニ通知スヘシ
  第八條前條ノ規定ニ依リ他人ノ土地ニ導管ヲ施設シ
  タル場合ニ於テ其ノ土地ノ所有者又ハ占有者ハ其ノ
  土地ノ使用方法ヲ變更スル爲必要アルトキハ命令ノ
  定ムル所ニ依リ瓦斯事業者ニ對シ導管ノ位置ノ變更
  其ノ他土地ノ使用ニ對スル障害ノ豫防又ハ除却ニ必
  要ナル施設ヲ爲スコトヲ請求スルコトヲ得
  前項ノ施設ニ要スル費用ハ瓦斯字業者ノ負擔トス但
  シ瓦斯事業者前項ノ施設ヲ爲シタル後前項ノ規定ニ
  依リ請求ヲ爲シタル土地ノ所有者又ハ占有者カ正當
  ノ事由ナクシテ其ノ土地ノ使用方法ノ豫定ノ變更ヲ
  爲ササルトキハ其ノ者ノ負擔トス
  第九條瓦斯事業者ハ瓦斯工作物ノ修理又ハ檢査ノ
  爲必要アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ工作物ヲ
  施設シタル他人ノ土地又ハ建造物ニ立入ルコトヲ得
  但シ日沒ヨリ日出迄ノ間ニ於テハ占有者ノ意ニ反シ
  テ邸宅又ハ建造物ニ立入ルコトヲ得ス
  第十條第七條及前條ノ場合ニ於テ現ニ生シタル損失
  ハ瓦斯事業者之ヲ補償スヘシ
  前項ノ規定ニ依ル補償金額ニ付協議調ハス又ハ協議
  ヲ爲スコト能ハサルトキハ行政官廳之ヲ裁定ス其ノ栽
  定ニ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以
  內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
  行政官廳ハ必要アリト認ムルトキハ瓦斯事業者ヲシテ
  損失ノ補償ニ充ツヘキ金額ヲ供託セシムルコトヲ得
  第十一條瓦斯工作物相互間及瓦斯工作物ト其ノ他
  ノ工作物トノ間ニ於ケル障害ヲ防止スル爲必要ナル
  事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
  前項ノ規定ニ依リ爲ス工事ニ關スル費用ノ負擔其ノ
  他ノ事項ハ命令ヲ以テ定ムルモノノ外當事者ノ協議
  ニ依リ之ヲ定ム協議調ハス又ハ協議ヲ爲スコト能ハサ
  ルトキハ主務大臣之ヲ裁定ス
  第十二條瓦斯料金其ノ他命令ヲ以テ定ムル瓦斯供
  給條件ノ設定又ハ變更ハ瓦斯事業者ト其ノ供給區
  域ノ屬スル市町村トノ協議ニ依ル協議調ハサルトキハ
  ノ認可ヲ受クヘシ
  勅令ノ定ムル所ニ依リ主務大臣之ヲ裁定ス
  前項ノ場合ニ於テ主務大臣ハ關係市町村ノ意見ヲ徴スヘシ
  主務大臣ハ公益上必要アリト認ムルトキハ瓦斯料金
  其ノ他瓦斯供給條件ニ關シ必要ナル命令ヲ發シ又ハ
  處分ヲ爲スコトヲ得
  市町村ト瓦斯事業者トノ間ニ存スル事業經營ニ關スル定ニ
  基キ瓦斯事業者カ市町村ノ承認ヲ求メタル場合ニ於テ協議
  調ハサルトキハ主務大臣之ヲ裁定ス
  第十三條瓦斯ノ成分、壓力、光力及熱量竝瓦斯工
  作物ニ關スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
  第十四條瓦斯事業者ハ正當ノ事由アルニ非サレハ瓦
  斯ノ供給ヲ拒ムコトヲ得ス
  第十五條瓦斯事業者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ主務
  大臣ノ許可ヲ受クルニ非サレハ其ノ事業ノ全部又ハ一
  部ヲ廢止シ又ハ休止スルコトヲ得ス
  第十六條瓦斯事業〓者其ノ事業ヲ讓渡セムトスルト
  ◦勅令ノ定ムル所ニ依リ
  キハ〇主務大臣ノ許可ヲ受クヘシ瓦斯事業ヲ營ム會
  社〓合併又ハ解散ヲ爲サムトスルトキ亦同シ
  第十七條市町村カ瓦斯事業ヲ營マムトスルトキハ
  ◦勅令ノ定ムル所ニ依リ
  〇主務大臣ノ認可ヲ受ケ其ノ管轄區域內ノ瓦斯事業　ヲ買收スルコトヲ得
  前頃ノ規定ニ依ル買收ノ價格其ノ他買收ノ條件ニ關
  シ協議調ハス又ハ協議ヲ爲スコト能ハサルトキハ主務
  大臣之ヲ裁定ス
  前項ノ規定ニ依ル栽定中買收價格ニ付不服アル者ハ
  裁定ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以內ニ通常裁判所
  ニ出訴スルコトヲ得
  第十八條行政官廳ハ瓦斯事業者ニ對シ業務及財產
  ノ狀況ニ關シ檢査ヲ爲シ、報告ヲ爲サシメ其ノ他監督
  上必要ナル事項ヲ命スルコトヲ得
  第十九條第一條ニ掲クルモノヲ除クノ外瓦斯ヲ供給
  シ又ハ使用スル事業ニ關シテハ第六條乃至第十條及
  第十七條ノ規定ヲ除クノ外勅令ノ定ムル所ニ依リ本
  法ノ全部又ハ一部ヲ準用スルコトヲ得
  第二十條瓦斯事業者本法若ハ本法ニ基キテ發スル命
  令ニ違反シ、行政官廳ノ命シタル事項ヲ執行セス又ハ
  公益ヲ害スヘキ行爲ヲ爲シタルトキハ主務大臣ハ第三
  條ノ許可ヲ取消スコトヲ得
  第二十一條本法中主務大臣ノ職權ハ命令ヲ以テ之
  ヲ地方長官(東京府ニ在リテハ警視總監)ニ委任スル
  コトヲ得
  第二十二條瓦斯工作物ノ損壞其ノ他ノ方法ヲ以テ
  瓦斯ノ供給ヲ妨害シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千
  圓以下ノ罰金ニ處ス
  前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
  第二十三條瓦斯事業者ノ承諾ヲ得スシテ濫ニ瓦斯工
  作物ノ施設ヲ變更シタル者ハ二百圓以下ノ罰金又ハ
  科料ニ處ス
  第二十四條本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ
  ◦又ハ認可◦又ハ認可
  許可◦ヲ受クヘキ事項ヲ許可◦ラ受ケスシテ爲シタル者
  又ハ第十二條ノ命令若ハ處分ニ違反シタル者ハ五千
  圓以下ノ罰金ニ處ス
  第二十五條瓦斯事業者左ノ各號ノ一ニ該當スルトキ
  ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
  -第十四條ノ規定ニ違反シタルトキ
  二正當ノ事由ナクシテ第十八條ノ規定ニ依ル檢査
  ヲ拒ミ、妨ケ若ハ忌避シ又ハ報告ヲ爲サス若ハ虚
  僞ノ報告ヲ爲シ其ノ他行政官廳ノ命シタル事項
  ヲ爲ササルトキ
  第二十六條瓦斯事業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、雇
  人其ノ他ノ從業者カ其ノ業務ニ關シ本法若ハ本法ニ
  基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタ
  ルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ
  免ルルコトヲ得ス
  第二十七條本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ
  瓦斯事業者ニ適用スヘキ罰則ハ瓦斯事業者法人ナル
  トキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役
  員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理
  人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力
  ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〓又ハ認可
  本法ニ依リ許可0ヲ受クヘキ事項ニシテ本法施行ノ際
  ◦又ハ認可
  現ニ存スルモノハ之ヲ本法ニ依リ許可◦ヲ受ケタルモノト
  看做ス
  本法施行ノ際現ニ存スル瓦斯料金其ノ他瓦斯供給條
  件ハ本法ニ依リ設定セラレタルモノト看做ス
  第十七條ノ規定ハ本法施行ノ際市町村ト瓦斯事業者トノ間ニ
  瓦斯事業ノ買收ニ關シ期間ノ定アルトキハ其ノ期間之ヲ適用
  セス
  〔國務大臣荒井賢太郞君登壇〕

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• 010・荒井賢太郎

  ○國務大臣(荒井賢太郞君)　瓦斯事業法ハ公共ノ利害
  ニ重大ナル影響ヲ及ス事業デアリマスカラシテ、一面カラ申
  シマスレバ是ガ保護ニ付テ相當ノ規定ヲ必要トシマス、又一
  面カラ申シマスレバ相當是ガ取締監督ヲ爲スノ必要ガアル
  ト信ズルノデゴザイマス、然ルニ現在ニ於テハ右等ノ事ニ關
  シテ、何等依ルベキ一定ノ法規ガアリマセヌ、唯各府縣ニ
  於キマシテ警察的ノ見地カラ致シマシテ、是ガ取締ニ關スル
  府縣令ガ存スルバカリデアリマス、故ニ今囘是等ノ點ニ關シ
  マシテ、一般的ノ法規ヲ制定スルノ必要ヲ感ジマシテ、本案
  ヲ提出シタ次第デアリマス、爾カ致シマシテ本案中ニ規定致
  シマシタル主ナル事項ニ付テ二三ヲ擧ゲマスト、第一ニ瓦
  斯事業ハ特許主義ヲ採用致シマシタルコト、次ニ道路、河
  川、其他ノ公共物ヲ使用スルコトニ關スル規定ヲ設ケマシ
  タコト、次ニ料金其他瓦斯供給條件ニ關スル規定ヲ設ケマ
  シタルコト、次ニ瓦斯工作物ニ對シマシテ、保安上、又衞生
  上カラ見マシタル規定ヲ設ケマスコト、次ニ瓦斯事業ノ譲渡
  又ハ買收ニ關スル事項ヲ規定シマシタコト、次ニ瓦斯ノ光
  力、熱量、壓力、成分等ニ關シマスコトヲ規定シマシタコト、
  是等ガ本法案ニ規定致シマシタル主ナル事項デゴザイマス、
  而シテ本案ニ對シマシテ貴族院ニ於テ修正ヲサレマシタル
  箇所ガアリマスル、卽チ本案第十二條ニ於キマシテ、原案ハ
  瓦斯料金其他瓦斯供給條件ノ設定及ハ變更ニ關シマシテ
  ハ、先以テ關係市町村ト協議ヲシテ定ムベキモノデアル、而
  シテ協議纏ラザル際ニハ主務大臣ガ之ヲ裁定スル、斯樣ニ
  原案ニアリマシタ、之ニ對シマシテ貴族院ハ、瓦斯料金竝ニ瓦
  斯供給條件ノ設定變更ニ付テハ、主務大臣ノ認可ヲ受
  ケルト云フコトガ必要デアル、而シテ其認可ニ際シテハ主務
  大臣ヨリ關係市町村ノ意見ヲ聽取スベシ、斯樣ナ修正ニナ
  リマシタ、ソレカラ同ク第十二條ノ末項ニ一項加ヘラレマシ
  タ、卽チ市町村ト瓦斯事業者トノ間ニ存スル事業經營ニ關
  スル定ニ基イテ、瓦斯事業者ガ市町村ニ承認ヲ求メタル場
  合ニ於テ、協議ガ整ハナイトキニ、主務大臣ガ之ヲ栽定スル
  ト云フ一項ガ加ハリマシタ、是ハ事業經營ニ關シマシテハ
  或ハ利益配當ノ制限デアルトカ、增資ノ制限デアルトカ云フ
  ヤウナ事ガ市町村トノ間ニ定メテアル場合ニ、瓦斯事業者
  ガ之ニ附帶シマシテ市町村ノ承認ヲ求メタル場合ニ、協議
  ガ整ハナイトキニ主務大臣ガ裁定スル、斯ウ云フ趣意ヲ以
  テ此一項ガ加ハリマシタ、ソレカラ今一ツ修正ノ箇所ハ、本
  案ニ於キマシテ市町村ガ瓦斯事業ノ强制買收ヲ致ス場合
  ヲ認メマシテ、第十七條ニ於テ斯ル場合ヲ認メテ規定ヲ致
  シテ居リマスル、ソレニ付キマシテ若シ本法施行ノ際ニ、市町
  村ト瓦斯事業者トノ間ニ瓦斯事業ノ買收ニ關シテ期間ノ定
  ガアルトキニハ、其期間內ハ本法ノ强制買收ノ規定ハ適用セ
  ナイ、斯樣ナコトヲ附則ニ規定サレマシタ、是ガ貴族院ニ於
  ケル修正ノ主ナル箇所デアリマス此他二三ノ點ニ付テ修正
  ガ施サレタノデアリマス、此修正ニ對シマシテハ、政府ハ同意
  ヲ致シテ差支ナイト考ヘテ居リマス、何卒御審議ノ上協賛
  アランコトヲ希望シマス

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• 011・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　質疑ノ通告ガアリマス、作間耕逸
  君
  〔作間耕逸君登壇〕

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• 012・作間耕逸

  ○作間耕逸君　本案ノ運用上、其根本方針ニ關シマシテ
  玆ニ政府ノ所見ヲ確メテ置キタイ事ガ二三點アリマス、簡
  單ニ申上ゲマス、先ヅ瓦斯ハ今ヤ一般國民ノ殊ニ都市住民
  ノ日常生活ノ資料トモ相成ッテ居リマスレバ、又文化生活ノ
  要素トモ相成ッテ居ル次第デアリマスルガ、政府ハ是等特殊
  ノ事業ハ將來市町村、卽チ自治體ニ於テ自營自給ノ出來
  得ラル限リハ、成ベク之ヲ誘技奬勵シテ、其自給ヲ非營利
  的ニシ、且ツ普遍的ニセラルヽ目的ヲ以テ、原則トシテハ市
  町村ニ經營ヲ爲サシムル爲ニ其事業ヲ許可セラレタリ、又ハ
  買收ヲ認可セラレタリスル御方針ヲ御執ニナル御考ハアリ
  マセヌカ、本案中ノ規定ノ表面ニ在リマスル通リニ、是等ノ
  事業ニ付キマシテモ、地方自治體ト會社其他ノ營利業者ト
  ヲ全然差別セラレマセズニ、其何レニテモ隨時隨意ニ開業ヲ
  許可セラレタリ、又ハ買收ヲ認可セラルヽト云フ御意見デア
  リマスルカ、又同一ノ區域ニ於キマシテハ、其市町村ナリ自
  治體ニセヨ、又營利業者ニセヨ、將來矢張獨占事業トシテ
  之ヲ御認ニナル御積リデアリマスルカ、又二個以上ノ同業
  者ガ競爭的ニ現レマシタ場合ニハ、共ニ併セテ之ヲ許可セラ
  ルヽ方針デアリマスルカ、此種ノ事業ハ一方其供給ノ方面
  ヲ經濟的ニ統一セシムル關係カラ見マスレバ、獨占ニ委スル
  ヲ可トセラルヽヤウデハアリマスルケレドモ、他方ニ於テ自然
  ノ裡ニ橫暴ニ過グルトカ、或ハ全區域ニ供給スル設備能力
  ガ及バナイヤウナ場合ガアリマシテ、法規ノ裏面ダケデハ如
  何トモスベカラザル需要者側ノ迷感ヲ感ズル事ガアルノデア
  リマス、獨占ノ弊ハ競爭ノ弊ヨリモ更ニ大ナルモノデアリマ
  スルガ、現在ノ事業者ト市町村トノ間ノ所謂報償契約ガ有
  效ニ存續致シマスルマデハ別ト致シマシテ、政府ハ將來事業
  ノ許可、買收ノ認可、又ハ協定條件ノ栽定等ニ當リマシテ、
  此事業ノ獨占又ハ非獨占ト云フ關係ヲ如何ニ認メラレヤ
  ウト爲サレマスルカ、此點ニ付テハ本案ノ規定中ニ、第十七
  條第一項ニ朧氣ニ現レテ居ルヤウニハ見エマスルケレドモ、
  未ダ明確ノ規定ヲ存シテ居ナイノデアリマスルカラ、之ヲ御
  尋致シテ置キマス、次ニ本案中ノ規定ニ依リマスレバ、瓦斯
  事業者ガ正當ノ理由ナクシテ瓦斯ノ供給ヲ拒ミマシタトキ
  ニハ、五百圓以下ノ罰金ニ處セラレル、斯ウ云フコトニ相成ッ
  テ居リマスルガ、是ハ瓦斯事業ノ性質上、固ヨリ當然ノ事デ
  ハゴザイマスルガ、一定區域內ノ或ル事業者ガ、資力ノ不足
  又ハ事業ノ不備ナルウナ所カラ、其區域内ノ需要者ニ對
  シマシテモ往々供給ノ爲シ難キ點ガアルノデアリマス、是等ハ
  事業者ノ方面カラ見マスレバ、敢テ無理カラヌトモ見エルノ
  デアリマスケレドモ、一方需要者側カラ見マスレバ、甚ダ不
  滿ニ堪ヘ難イ事情モアルノデアリマス、玆ニ其一例トシテ申
  上ゲマスレバ、現在ノ東京瓦斯株式會社ノ如キハ、先年料
  金ヲ引上グルニ當リマシテ、設備ノ充實ヲ公ニ約シマシタ、
  然ルニ拘ラズ未ダ新株ハ拂込モ致シマセヌケレバ增資ノ計
  晝ヲモ定メラレテ居リマセヌ、供給ノ點ハ料金引上ノ前ト餘
  リ異ル所ハナイノデアリマス、隨テ東京市內及附近ノ住民ニ於
  キマシテモ、瓦斯ノ需要上ニ甚シク不便ヲ感ジテ居ル者モ少
  クナイヤウナ實例モアルノデアリマスルガ、政府ハ是等事業者ノ
  經濟上ノ原因ニ基キマシタモノハ、縱シ供給ヲ拒絕スル、卽チ
  需要者側ノ申込ニ應ジテ直ニ取附ケヲシナイ、瓦斯ヲ送ラナ
  イト云フヤウナ事ノアッタ場合二、其事業者ノ貴任ヲ如何樣ニ
  考ヘテ居ラレマスカ、最後ニ今一點ハ、瓦斯料金ニ付テハ報償
  契約ガ有效ニ存續致シマシテ、所謂「スライジングスケール」
  ノ原則ヲ實際ニ屬行シテ居ルヤウナモノハ格別デアリマスケ
  レドモ、將來一般的ニハ本案中ノ只今農商務大臣ガ提案ノ
  理由ヲ御述ニナリマシタ際ニ說明サレタ如ク、事業者ト市
  町村トノ協定ニ依リ、協定不調ノトキハ主務大臣之ヲ裁
  定スト云フ規定ガアッタノヲ、貴族院ニ於テハ遺憾ナガラ單
  ニ主務大臣ノ認可ヲ受クベシト修正サレタヤウデアリマスガヽ
  其何レニ致シマシテモ、一旦協定又ハ裁定ヲ經マシタ料金
  ハ、其後事業者側殊ニ營利會社ニ於テ經營致シマスル場
  合ニ、財界ノ事情ガ甚シク好變致シマシテ、例へバ石炭ガ非
  常ニ下落ヲシタトカ、副產物ノ値段ガ非常ニ騰貴致シタヤ
  ウナ場合ニ、豫期以上ノ利益ヲ擧ゲテ株主ニモ多大ノ配當
  ヲ致シ、或ハ自然ニ其株價ガ暴騰シテ、會社ハ經濟上餘裕
  綽々タル場合ヲ生ズル事ガアリマシテモ、サウ云フ事アリト
  假定致シマシテモ、政府ハ是等ノ事業ノ特殊ナル性質ニ顯
  ミラレテ、進ンデ是ガ料金等ニ制限ヲ加ヘルト云フ措置ヲ御
  執ニナル御考ガアリマスカ、或ハソレ等ニハ一切干涉シナイ
  ト云フ御考デアリマスカ、本案ノ規定中ニ、政府ハ公益上必
  要アル場合ニハ料金等ニ關シテモ必要ナル命令ヲ下スコト
  ガ出來ルヤウニ御考デアリマスカ、本員ガ只今申上ゲマシ
  タ會社ノ經濟ガ非常ニ潤澤ニ相成リ、相當以上ニ利益ガ擧
  リマシタ際ニ、料金等ニ付テ政府ハ必要ナル相當ナル命令ヲ
  發セラルヽヤウナコトハ、是等ノ所謂公益命令ト云フ中ニ含
  マレテ居テ、實際其時ニハサウ云フ命令ヲ臨機ニ御下シニ
  ナッテ、一般需要者側ノ公益ヲ尊重セラルヽト云フ御意思ガ
  アリマセウカ、ソレヲ伺ヒタイノデアリマス、其他本案ノ內容
  解釋等ニ付テ根本ニ觸レザル御尋ハ、委員會ノ節ニ讓リタク
  思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=12

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• 013・荒井賢太郎

  ○國務大臣(荒井賢太郎君)　只今ノ御質問ニ對シテ御
  答致シマス、第一ノ御質問ハ、瓦斯事業ノ如キ公益ニ關ス
  ル事業ハ、成ベク市町村ノ經營ヲ原則トスルコトハナイ
  カ、又サウ云フ方針デ進ムト云フ意見ハナイカト云フヤウナ
  御質問デゴザイマシタガ、成程斯カル事業ハ成ベク地方公
  共圍體ニ經營致サセタイ考ハアリマス、併ナガラ現在ノ狀況
  ニ於テハ、全國ニ七十有餘箇所ノ瓦斯事業經營者ガアリマ
  シテ、其中僅ニ五箇所ダケ市町村ノ經營ニ屬シテ居リマス、
  其他ハ悉ク私立ノ會社デ經營致シテ居リマスルカラシテ、今
  遽ニ之ヲ原則トシテ公共團體ノ經營ニ致スト云フコトハ困
  難デアラウト思ヒマスルカラシテ、本案ニ於キマシテハ私立色
  社ノ經營ヲモ認メ、市町村ノ經營ヲモ併セテ認メルコトニ
  ナッテ居リマス、爾カ致シマシテ、私立會社ノ經營ニ對シマシ
  テハ、公益事業デアルト云フ點カラ致シマシテ、十分ニ取締
  ヲ致ス積リデアリマス、尙ホ又市町村ニ於テ經營スルノ意思
  ガアリマシテ是ガ必要ト認メマスレバ、第十七條ニ於テ强制
  買收ノ途ヲ開イテ置キマシタノデアリマス、其程度ニ之ヲ止
  メテ置クノガ本案ノ趣旨デアリマス、第二ニ一區域內ニ於テ
  二箇以上ノ事業經營者ヲ認メルヤ否ヤト云フ御質問デゴ
  ザイマスガ、是ハ取引所法ニ於ケル取引所ノ如ク、必ズ一區
  域内ニ於テ一箇所ニ限定スルマデノ必要ヲ認メテ居リマセ
  ヌノデゴザイマス、併ナガラ事業ノ性質ガ公益ニ關スル事業
  デアリマシテ、相當ニ取締ヲ致シマスト同時ニ、相當ニ其事
  業ニ對シマシテハ保護ヲ致ス必要ガアリマスルカラ、事實ニ
  於テハ一箇町村ニ於テ二箇所ノ事業ヲ認メルト云フコト
  ハ稀有ノ例ニ屬スルコトヽ信ジマス、併ナガラ何モ獨占的ニ
  一箇所ニ限ルト云フ規定ハ設ケテ居リマセヌ、第三ニ本條
  第十四條ニ「瓦斯事業者ハ正當ノ事由アルニ非サレハ瓦斯
  ノ供給ヲ拒ムコトヲ得ス」トアル、此正當ノ事由ト云フコトノ
  解釋如何ニ依ッテハ、瓦斯事業者ガ困ル事ガアラウト思フ、
  例ヘバ經濟上ノ事由ニ基イテ瓦斯事業者ガ需要者ノ要求
  ニ應ジテ供給スルコトガ出來ナイ場合ガ隨分アルト思フ、斯
  樣ナ場合ニ於テモ尙ホ本條ノ適用ヲ受ケテ、正當ノ事由無
  クシテ供給ヲ拒ンダモノダト云フコトニナルノデアラウカドウ
  カト云フヤウナ御質問デアリマシタガ、是ハ貴族院ノ委員會
  ニ於テモ屢〓議論ガアリマシタコトデ、正當ノ事由デアルカ無
  イカト云フコトハ、一々其事實ニ當ノテ適當ノ判斷ヲ下サナ
  ケレバ分ラヌ事デアリマスルガ、只今御述ニナリマシタヤウ
  ニ、瓦斯事業者ガ瓦斯ヲ供給致シタイトシテモ經濟上致ス
  コトガ出來ナイト云フガ如キ場合ハ、恐ラク正當ノ事由ト云
  フコトニ歸著スルデアラウト當局デハ考ヘテ居リマス、ソレカ
  ラ最後ニ第十二條ノ瓦斯料金ニ關シテ關係市町村トノ協
  議ヲ以テ決定スルカ、或ハ主務大臣ノ認可ヲ得テ決定サレ
  ルカ、一旦決定サレタモノニ對シテモ、將來經濟上ノ狀況其
  他ノ事情ニ依ッテ更ニ是ガ變更ヲ必要ト認メタ場合ニ於テ
  ハ、主務大臣ハ十二條ノ第三項ニ依ッテ「公益上必要アリト
  認ムルトキハ瓦斯料金其ノ他瓦斯供給條件ニ關シ必要ナ
  ル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得」ト云フ條項ヲ
  適用シテ、一旦認可シタ料金ト雖モ必要ノ際ニハ更ニ變更
  ヲ命ズルコトガ出來ルヤ否ヤ、是ハ無論出來ル積リデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=13

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• 014・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　日程第三、右議案ノ審査ニ付託ス
  ベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
  第三右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
  選舉

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=14

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• 015・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　本案ハ秦豐助君外七名提出、電力政策
  實施ニ關スル建議案外二件ノ委員ニ併セテ付託シ、委員ノ
  數ヲ特ニ十八名ニ增加シ、追加ノ分ハ議長ニ於テ指命アラ
  ンコトヲ望ミマス
  〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=15

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• 016・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ御異議ナシト認メ
  マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第四、東京帝國大學
  臨時政府支出金繰入ニ關スル法律案ノ第一詰會ヲ開キ
  マス-鎌田文部大臣
  第四東京帝國大學臨時政府支出金繰入
  ニ關スル法律案(政府提出)
  第一讀會
  東京帝國大學觀時政府支出金繰入ニ關スル法律案
  火災復舊ノ費用ニ充ツル爲大學特別會計法第二條ノ
  外總額金六十万圓ヲ大正十二年度及大正十三年度ニ
  亙リ每年度豫算ノ定ムル所ニ依リ一般會計ヨリ東京帝
  國大學特別會計ニ繰入ルヘシ
  〔國務大臣鎌田榮吉君登壇〕

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• 017・鎌田榮吉

  ○國務大臣(鎌田榮吉君)　東京帝國大學工學部應用
  化學科ノ〓室ガ、不幸ニモ昨年十月八日ニ火災ニ罹リマシ
  テ、建物ノ大部分竝ニ諸般ノ設備ヲ燒爐致シマシタ、是ガ
  爲ニ學術ノ研究上竝ニ授業上尠カラヌ支障ヲ生ジマシタ、
  一日モ早ク其回復ヲ圖ラナケレバナラヌノデアリマス、而シテ
  其經費ハ九十五万圓ヲ要スル譯デアリマス、然ルニ同大學
  特別會計ニ於キマシテハ其財源ニ不足ヲ致シマス故ニ、十
  二、十三、兩年度ニ亙リマシテ、臨時ニ六十万圓ヲ同特別
  會計ニ繰入ルヽ必要ガアリマス、故ニ此案ヲ提出致シマシ
  タ、何卒御審議ノ上速ニ御協賛アランコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=17

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• 018・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　日程第五、右議案ノ審査ヲ付託
  スヘキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
  第五右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
  選舉

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=18

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• 019・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　本案ハ有馬秀雄君外一一名提出、東京帝
  國大學農學部實科ニ關スル建議案外三件ノ委員ニ、併セ
  テ付託セラレンコトヲ望ミマス
  「「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=19

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• 020・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニハ御異議ナシト認
  メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第六、共通法中改
  正法律案、第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メ
  マス、小山田信藏君
  第六共通法中改正法律案(政府提出、貴
  族院送付)第一國會ノ (警告證據多項
  報告書
  一共通法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致候此段及報告
  候也
  大正十二年三月十七日
  共通法中改正法律案委員長
  小山田信藏
  衆議院議長粕谷義三殿

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• 021・小山田信藏

  ○小山田信藏君　簡單デアリマスカラ此庸カラ報告ヲ政
  シマス

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• 022・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　成ベク大聲ニ願ヒマス

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• 023・小山田信藏

  ○小山田信藏君　只今議題ニナリマシタ共通法中改正
  法律案、本案ハ委員會ニ於テ別ニ質疑ガアリマセヌ、討論ニ
  移リマシテ、滿場一致ヲ以テ可決致シマシタ、此段御報告
  致シマス

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• 024・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　本案ノ第二讀會ヲ開クニ御異議
  アリマセヌカ
  [「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 025・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　御異議ナシト認メマス、仍テ第二
  讀會ヲ開クニ決シマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=25

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• 026・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、第三議會ヲ
  省略シテ、委員長報告ノ通リ可決確定アランコトヲ望ミマス
  〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=26

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• 027・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ御異議ナシト認メ
  マス、仍テ直ニ第二讀會ヲ聞キ、議案全部ヲ議題ニ供シマス
  共通法中改正法律案第二讀會(確定議)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=27

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• 028・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　別ニ御發議ガアリマセヌカラ、第三
  讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ可決確定セラレマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=28

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• 029・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　議事日程變更ニ關スル緊急動議ヲ提出
  致シマス、卽チ大正十一年度第二豫備全支出ノ件、大正
  十一年度豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件、
  大正十一年度特別會計第二豫備金支出ノ件、大正十一
  年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ
  件ノ承諾ヲ求ムル件ヲ議題トシ、委員長ノ報告ヲ求メ、次
  ニ政府提出賠償金特別會計法中改正法律案、對支文化
  事業特別會計法案、支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資本ニ關
  スル法律案ヲ一括議題トシ、直ニ第一讀會ノ續ヲ開キ委員
  長ノ報告ヲ求メ且ツ其容議ヲ進メラレンコトヲ願ヒマス
  〔「贊成」「贊成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=29

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• 030・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ」

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=30

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• 031・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　御異議ナシト認メマス、仍テ日程
  ハ變更セラレマシタ、卽チ玆ニ大正十一年度第二豫備金支
  出ノ件外三件、承諾ヲ求ムル件ヲ議題ト致シマス、委員長
  井上角五郞君
  一大正十一年度第二豫備金支出
  ノ件
  一大正十一年度豫備金外ニ於テ(承諾ヲポ
  豫算超過及豫算外支出ノ件ムル件)
  一大正十一年度特別會計第二豫(委員長報
  備金支出ノ件告白
  一大正十一年度特別會計豫備金
  以外ニ於テ豫算超過及豫算外
  支出ノ件
  報告書
  一大正十一年度第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル
  作
  右ハ本院ニ於テ承諾ヲ與フヘキモノト議決致候此段及
  報告候也
  大正十二年三月二十日
  大正十一年度第二豫備金支出ノ件(承
  諾ヲ求ムル件)委員長
  井上角五郞
  衆議院議長粕谷義三殿
  報告書
  一大正十一年度豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支
  出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
  右ハ本院ニ於テ承諾ヲ奥フヘキモノト議決致候此段及
  報告候也
  大正十二年三月二十日
  大正十一年度豫備金外ニ於テ豫算超過及
  豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)委員長
  井上角五郞
  衆議院議長粕谷義三殿
  警告
  豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ヲ爲スハ極メ
  テ重大ノ事ナルニ拘ラス大正十一年度支出中ニハ取扱
  上頗ル遺憾トスルモノアリ政府ハ將來ニ於テ深ク注意ス
  ルヲ要ス
  報告書
  一大正十一年度特別會計第二豫備金支出ノ件(承諾
  ヲ求ムル件)
  右ハ本院ニ於テ承諾ヲ與フヘキモノト議決致候此段及
  報〓候也
  大正十二年三月二十日
  大正十一年度特別會計第二豫備金
  支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)委員長
  井上角五郎
  衆議院議長粕谷義三殿
  報告書
  一大正十一年度特別會計豫備金以外ニ於テ豫算超過
  及豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
  右ハ本院ニ於テ承諾ヲ與フヘキモノト議決致候此段及
  報告候也
  大正十二年三月二十日
  大正十一年度特別會計豫備金
  以外ニ於テ豫算超過及豫算外支
  出ノ件(承諾ヲ求ムル件)委員長
  井上角五郞
  衆議院議長粕谷義三殿
  警告
  豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ヲ爲スハ極メ
  テ重大ノ事ナルニ拘ラズ大正十一年度支出中ニハ取扱
  上頗ル遺憾トスルモノアリ政府ハ將來ニ於テ深ク注意ス
  ルヲ要ス
  〔井上角五郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=31

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• 032・井上角五郎

  ○井上角五郞君　委員會ノ經過竝ニ結果ヲ報告致シマス、
  大正十一年度第二豫備金支出ノ二件、豫備金外支出二
  件、其金額ハ一般會計ト特別會計ニ於テ合計ガ二千三百
  四十七万圓デアリマス、豫算超過ノ支出ハ八百二十三万
  圓、豫算外ノ支出ハ千五百十四万圓デアリマス、第二豫備金
  支出一般會計ニ於テ支出シタ金高ハ八百万圓デアリマス、
  特別會計ニ於テ第二豫備金ヲ支出シタ金額ハ二百二十
  一万圓デアリマス、豫備金外支出歲入支辨金ノ、卽チ歲入
  ハ造幣局、專賣局作業ニ係ルモノガ五百十三万圓、剝餘全
  ヲ繰入レタモノガ八百十三万圓デアリマス、此金額ノ支出
  ニ付キマシテ四日ニ亙リ、ジレ〓〓質問ガゴザイマシタケレド
  モ、本案ニ直接ノ關係ヲ有シテ居ルモノハ、要スルニ海軍省
  所管ニ於テ海軍軍備制限條約ニ伴ヒ、主力艦ノ建造中止
  ノ爲メ解傭セラルベキ職工ニ支給スル所謂退職特別賜金
  三百六十八万二千十一圓ニ關係シテ居リマシタ、此三百
  六十八万二千十一圓ハ海軍職工ノ爲ニ退職特別場金ト
  シテ支出シタモノデアッテ、第二豫備金カラ支出シタノデアリ
  マス、此項ニ關シマシテノ質問ノ要領ハ、政府ガ大正十一年
  十月七日勅令第四百二十八號ニテ發布シタルモノハ憲法
  ノ違反デハナイカ、卽チ質問ハ違反デアラウト云フノデアリ
  マシテ、政府當局ハ違反ニアラズト答ヘマシタ、又右勅令ニ
  依リマシタ第二豫備金ノ支出ハ、全部現金ヲ以テ支出シタ
  ル形式ニハナッテ居リマスガ、實際ハ其中ノ幾分ハ公債ヲ以
  テ交付シタノデアリマス、別ニ豫算委員會二大正十一年度
  ノ追加豫算、大正十二年度ノ追加豫筭トシテ海軍其他ノ
  特別賜金ノ件ガ出テ居リマスガ、又ソレニ對シテ別ニ勅令
  ガ發布サレテ居リマスガ、其方ハ現金ハ追加豫算デ之ヲ要
  求シ、公債ハ卽チ公債條例ニ依ッテ發布スルコトニナッテ居
  リマスノデ、第二豫備金支出ノ只今御報告申上ゲルモノト
  手續ガ違ッテ居ル、此違ッテ居ル手續ハ要スルニ違法デハナ
  イカト云フコトガ多クノ質問デゴザイマシタ、政府ニ於テハ決
  シテ違法デナイト云フ答ヲシタノデアリマス、斯樣ニ致シマ
  シテ討論ノ結果、卽チ決議ニ入リマシタトキニ、大口喜六君
  ヨリ只今中上ゲマシタル第二豫備金支出ノ海軍職工ノ爲
  ノ特別賜金ヲ承諾セズト云フノ意見ガ出マシタ、其承諾セ
  ザル理由トシテハ、第一ニ追加豫算ノ問題ノトキニ板野君
  ガ辯ゼラレタルガ如ク、彼ノ勅令ノ發布ハ憲法ニ違反シテ居
  ルモノデアルカラ、承諾ガ出來ナイ、第二ハ政府ノ當局ノ答
  辯ニ依レバ、此特別賜金ノ支出ハ既定ノ歲出ニナラヌト
  言っテ居ルケレドモ、大口君ノ信ズル所デハ矢張後日同一ノ
  場合ガアレバ、是ガ旣定ノ歳出】ニナルモノデアル、左樣ナ性
  質ヲ帶ビル、其モノハ只今ノ所謂憲法違反ノ勅令ガ根據ニ
  ナッテ居ルノデアルカラ、此點カラモ承諾ハ出來ナイ、第三ニ
  ハ第二豫備金ノ支出ハ三百六十幾万圓ガ悉ク現金支出
  ノ形ヲ現シテ居ルケレドモ、實際ハ公債ニ依ッテモ支出シテ
  アルノデアル、是ハ手續ガ間違クテ居ル、故ニ承諾ハ出來ナイ、
  勿論此金高ハ吾々ニ於テハ同情スル金高デアルガ、斯樣ナ
  ルモノヲ此場合ニ職工ニ支給スルト云フコトハ、決シテ當ヲ
  得タトハ思ハナイ、若シ勅令其モノヽ問題ガ此間ニ存シテ居
  ナイナラバ、必ズ內容ヲ調査シテ或ハ賛成スルノデアラウケ
  レドモ、遺憾ナガラ勅令發布其當ヲ失ッテ居ルカラ、之ヲ承
  諾スルコトガ出來ナイ、是ガ大口君ノ議論デアリマシタ、ソレ
  カラ正本君ヨリ、此承諾ノ問題ニ付テハ今日ノ場合ニ於テ
  ハ全部ノ承諾ヲ與ヘルト云フ御意見ガ出マシタ、多木君ヨ
  リモ亦同一ノ御意見ガ出マシテ三案共採決ノ結果、承諾
  ヲ與ヘルコトニナリマシタ、玆ニ大正十一年度豫備金外ニ
  於テ豫算超過及豫算外支出ヲ爲シタル件、大正十一年
  度特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ヲ爲
  シタル件、所謂貴任支出ニ對シマシテハ委員會ニ於テノ應
  答中各省ノ答フル所、往々ニシテ豫備金ノ支出モ責任支
  出モ殆ド之ヲ同一ニ見テ、殊ニ何トシテモ斯樣ナモノハ責任
  支出トハ言ハレナイト思フ程ノモノヲ貴任支出ニシテ居ル
  ノ嫌モアルノデアルカラ、承諾ハ。與へタガ當局ニ對シテ警告
  ヲスルガ然ルベシト云フコトノ議論ガ大口君カラ出マシタ、
  多木君竝ニ正木君モ共ニ同意セラレマシテ、卽ヲ承諾書ニ
  ハ警告ヲ附シタノデアリマス、「豫備金外ニ於テ豫算超過及
  豫算外支出ヲ爲スハ極メテ重大ノ事ナルニ拘ラス大正十
  一年度支出中ニハ取扱上頗ル遺憾トスルモノアリ政府ハ
  將來ニ於テ深ク注意スルヲ要ス」斯樣ナ警告ヲ附シテ之ニ
  承諾ヲ與ヘルコトニ致シマシタ、尙ホ正木君ヨリ獨リ責任支
  出ノミナラズ、第二豫備金ニ於テモ豫備金ノ所謂豫算外支
  出スルニ於テモ甚ダ如何ハシイモノガアルカラ、是モ併セテ
  注意ヲ望ンデ置クト云フ說ガ出マシテ、別ニ反對モゴザイマ
  セヌガ、是ハ特ニ警告書ヲ作リマセヌデシタ、是ダケヲ御報
  告申上ゲマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=32

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• 033・鈴木錠藏

  ○鈴本錠藏君　本案ハ委員長報告ノ通リ承諾ヲ與ヘラ
  レンコトヲ望ミマス
  〔「賛成」「賛成」ノ聲起リ又「反對」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=33

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• 034・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ御異議アリマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」又『異議アリ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=34

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• 035・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　ソレデハ起立ニ依ッテ採決ヲ致シマ
  ス、本件ニ承諾ヲ與フベシトスル諸君ノ起立ヲ求メマス
  〔賛成者起立〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=35

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• 036・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　多數デアリマス、仍テ本件ハ承諾
  ヲ與フルコトニ決シマシタ-次ハ賠償金特別會計法中改
  正法律案、對支文化事業特別會計法案、支那ニ本店ヲ設
  クル會社ノ資本ニ關スル法律案、右三案ヲ一括シテ議題ト
  ナシ、第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマス、委
  員長改野耕三君-理事一宮房治郞君
  賠償金特別會計法中改正法律案(政府是
  問第一讀會ノ續(體
  報告書
  一賠償金特別會計法中改正法律案(政府提出)
  右ハ本院ニ於テ可決スへキモノト議決致候此段及報告
  候也
  大正十二年三月二十日
  賠償金特別會計法中改正法律案委員長
  改野耕三
  衆議院議長粕谷義三殿
  對支文化事業特別會計法案(政府提出)
  第一讀會ノ續(co/net
  報告書
  一對支文化事業特別會計法案(政府提出)
  右ハ本院ニ於テ別紙ノ通修正スヘキモノト議決致候此
  段及報告候也
  大正十二年三月二十日
  對支文化事業特別會計法案委員長
  改野耕三
  衆議院議長粕谷義三殿
  〔別紙〕
  (小字及-ハ委員會修正)
  對支文化事業特別會計法案中左ノ通修正ス
  第五條本會計ニ於テハ左ニ揭クル事業ニ關スル諸費
  ヲ以テ其ノ歳出トス
  一支那國ニ於テ行フヘキ〓育、學藝、衞生及救恤
  ○其ノ他文化ノ助長
  ○ニ關スル事業
  二帝國ニ在留スル支那國人民ニ對シテ行フヘキ前
  號ニ揭クル事業ト同種ノ事業
  三帝國ニ於テ行フヘキ支那國ニ關スル學術〓究ノ
  事業
  支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資本ニ關スル
  法律案(政府提出)第一讀會ノ續(報告明治三十年
  報告書
  一支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資本ニ關スル法律案(政
  府提出)
  右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致候此段及報告
  候也
  大正十二年三月二十日
  支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資
  本ニ關スル法律案委員長
  改野耕三
  衆議院議長粕谷義三殿
  〔一宮房治郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=36

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• 037・一宮房治郎

  ○一宮房治郞君　委員長ガ不在デアリマスカラ、私ガ代フテ
  御報告ヲ中シマス、只今議題トナッテ居リマスル賠償金特
  別會計法中改正法律案、對支文化事業特別會計法案、
  支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資本ニ關スル法律案、此三案ノ
  委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告致シマス、先ヅ便宜上賠
  償金特別會計法中改正法律案カラ御說明ヲ申上ゲマス、
  本案ハ今回山東問題ノ懸案ガ解決致シマシタガ爲、山東
  鐵道及鑛山等ヲ支那ニ還スコトニナッタノデアリマス、之ニ對
  スル賠償金ガ支那ヨリ日本ノ方ニ支拂ハルヽコトニナリマシ
  タカラ、ソレガ爲ニ之ヲ特別會計ニ歸屬セシムルガ爲ニ、本
  改正案ヲ必要トシタ次第デアリマス、委員會ニ於キマシテハ、
  本案ニ付テハ別ニ大シタ質疑應答モナカッタノデアリマス、唯〓
  成田君カラシテ、山東鐵道ノ評價ガ如何ナル標準ニ依ッタモ
  ノデアルカト云フ質問ガアリマシテ、政府委員ガ懇切ニ此事
  ニ付テハ御說明ガアッタノデアリマス、本案ニ付テハ唯〓是等
  ノ質問ガアリマシタダケデ、殆ド異議ナク滿場一致ヲ以テ本
  案ハ可決スベキモノトシテ可決サレタノデアリマス、次ニハ對
  支文化事業特別會計法案デアリマスルガ、此案ハ重大ナル
  案トシテ委員會ニ於テモ具サニ質問應答ヲ重ネ、國務大臣
  及政府委員ガ臨席致サレマシテ、熱心ニ此問題ニ付テハ愼
  重審議ヲ盡シタノデアリマス、本案ハ支那ノ文化事業ヲ助
  長シテ、日支兩國ノ親善ヲ增進スルガ爲ニ、特別會計ヲ設
  置致シマシテ、其特別會計ニハ昨年ノ十二月ニ於テ支拂猶
  豫ノ期限ガ滿チテ、日本ノ方ニ歸屬スル所ノ義和團ノ賠償
  金約七千二百万圓、又山東問題ノ解決ニ依ッテ我國ニ支拂
  ハルベキ所ノ山東鐵道及山東ノ鑛山會社カラ-山東ノ
  鑛山竝ニ我國ノ得テ居リマシタ所ノ製鹽ヲ支那ニ返還シマ
  スルガ爲ニ、『ソレニ依クテ賠償セラルヽ所ノ是等ノ賠償金ヲ
  基金ト致シマシテ、サウシテ此基金カラ生ジテ來ル所ノ金ヲ
  以テ、支那ノ文化事業ノ助長ニ盡シタイト云フノデアリマ
  ス、詳シク其細目ヲ中シマスルト云フト、義和團賠償-我
  國ノ受領スベキ義和團賠償金總額約七千二百十万餘圓、
  山東ノ懸案ノ解決ニ依シテ我國ノ製鹽業者ニ支拂フベキモノ
  ヲ差引イタ所ノ製鹽ノ賠償金約五百三十万圓、ソレカラ山
  東鐵道ノ鐵道及財產ノ償還トシテ受クル所ノ國債證劵約
  一千四百五十万圓、又山東ノ鑛山會社ヲ日支兩國ノ合
  辦會社ニ讓ルガ爲ニ、支拂ハルヽ所ノ二百三十二万圓、合
  計九千四百三十二万餘圓ヲ特別會計ニ歸屬セシメテ、ソ
  レニ民間ヨリ爲ル所ノ寄附金ヲ加ヘテ、是等ノ收入カラ生
  ジテ來ル所ノ金ヲ每年二百五十万圓ノ範圍內ニ於テ、對支
  文化事業ノ助長ニ支出シタイト云フノガ本案ノ大體ノ趣
  旨デアリマス、而シテ其目的トスル事業ハ何デアルカト申シ
  マスレバ、第五條ニ依ッテ支那ニ於テ行フベキ所ノ學術、衞
  生、救恤等ニ關スル事業、ソレカラ帝國ニ在留シテ居ル所ノ
  支那人民ニ對シテ行フベキ前述ク事業ト同種ノ事業、又帝
  國ニ於テ行フベキ支那ニ關スル學術〓究ノ事業、是等ニ向ウ
  テ此基金カラ生ズル所ノ收入ヲ每年支出致シタイト云フ
  ノガ本案ノ趣意デアリマス、本案ニ對シテ質問應答ノ主ナル
  モノハ、斯ノ如キ範圍ヲ定メテ居ルガ、斯ノ如キ範圍ニ屬ス
  ル所ノ經費ノ支出ニ付テハ、大ニ愼重ナル考慮ヲ費サナケ
  レバナラヌ、之ニ對シテ政府ハ如何ナル方法ヲ執ラルヽカ、斯
  ノ如キ質問ニ對シテ、政府ニ於テハ此經費ヲ此目的ノ範圍
  內ニ於テ、是等ノ費用ヲ支出致シマスルガ爲ニハ、特別ニ外
  務省ニ諮問機關ヲ造ル、其諮問機關ニハ成ベク學者、實業
  家、其他是等ノ事業ニ經驗ノアル人々ヲ網羅致シマシテ、サ
  ウシテ愼重ニ是等ノ事業ノ範圍、及是等ノ支出ノ點ニ付テ
  〓究ヲ致シテ、大正十三年度ヨリ此諮問機關ノ決定ヲ待ッ
  テ是等ノ事業ヲ遂行スル積リデアルケレドモ、大正十二年
  度ニ於テ緊急止ムベカラザル所ノ支出ガアル、ソレハ支那ノ
  留學生ガ支那財政ノ困難ノ爲ニ送金ノ途ガ絕エテ居ル、是
  等ノ人々ニ對シテ相當ナル金ヲ支出シテ、之ヲ救濟スルト云
  フコトハ緊急拾置キ難キ事デアル、又山東病院デアルト
  カ、或ハ山東ニ於ケル學校ト云フヤウナモノハ、旣ニ支那ニ
  山東ヲ返還シナイ以前ニ於テ經營ヲ爲シテ居ッテ、相當ノ成
  績ヲ續ケテ居ル、是ハ支那ニ山東ヲ返還スルト共ニ、經費ノ
  支出ト云フ途ガ絕エルノデアルカラシテ、是等ハ緊急止ミ難
  キモノトシテ大正十三年度ニ於テ諮問機關ノ審議ヲ經ズシ
  テ、是等ニ對シテハ相當ナル支出ヲスル積リデアル、斯ウ云
  フ政府ノ答辯デアリマシタ、又本會計法ヲ設置スルニ付テ、
  委員會ノ最モ論議ノ目的トナリマシタノハ、此特別賠償
  金-對支文化事業ノ基金ヲ積立ツル事ニ付テ、其主ナル
  動機トナッテ居ル事トシテ政府カラ說明ニナリマシタ所ノ、大
  正七年ニ後藤男爵ガ當時ノ外務大臣トシテ支那ニ向ッテ
  一ツノ內意ヲ漏サレテ居ル、其內意ハ「帝國政府ハ日支隣
  交ノ增進ニ拳々タルノ衷情ヲ表象センガ爲メ、追テ適當ノ
  時期ニ於テ義和團事件賠償金ノ請求權ヲ抛棄スルノ內意
  ヲ有ス其辨法ニ至リテハ更ニ考慮ヲ盡シ決定セントス」斯ウ
  云フ內意ヲ支那ニ向ッテ表明シテ居ルノデアッテ、卽チ拳匪
  賠償金ヲ支那ノ利益ノ爲ニ抛棄スルト云フコトヲ言明シテ
  居ル、然ラバ現當局トシテモ此聲明ヲ重ンジテ支那ノ爲ニ
  抛棄シタモノデアルカラシテ、斯ノ如キ特別基金ヲ設ケルト
  云フヤウナコトハ、甚ダ不穩當デナイカト云フヤウナ質問モ
  アッタノデアリマス、卽チ支那ニ向ッテ抛棄シタモノデアル以上
  ハ、支那ヲシテ自由ニ其使途ヲ〓究セシムルガ適當デハナイ
  カト云フヤウナ意味ノ質問モアッタノデアリマスガ、之ニ對シ
  テ政府ノ說明及ビ言明ト致シマシテハ、今回對支文化事業
  基金ヲ作ルニ付テハ、是等ノ聲明ガアッタト云フコトガ其動
  機ノ主ナル一原因ニハナッテ居ルノデアル、ケレドモ元來今日
  ノ時勢ニ於テ支那ニ向ッテ文化事業ヲ爲シタイト云フノハ
  當局ノ希望デアル、議會ニ於テモ屢〓各派ノ建議案トナッテ
  建議セラレ、サウシテ議會ハ滿場一致ヲ以テ之ヲ可決シテ居
  ルノデアルカラシテ、當局トシテモ是非共機會アル每ニ支那
  ニ對シテ文化事業助長ノ爲ニ相當ナル方法ヲ講ジテ居ッタ
  ノデアルガ、偶、拳匪賠償金ノ猶豫期限ガ昨年ヲ以テ滿了
  シタ、ソレト共ニ山束ニ於テハ山東ヲ返還スルガ爲ニ相當ナ
  ル賠償金ヲ得タ、此機會ヲ以テ所謂對支文化事業ノ助長
  ニ充テヤウトスル決心ヲ固メタノデアッテ、前ノ後藤外相ノ聲
  明ト云フモノハ大ナル動機デハアッタガ、何等之ニ拘束セラ
  ルヽモノデハナイ、又後藤前外相ノ內意ノ言明ニ於テモ、其
  辯法ニ至ッテハ更ニ考慮ヲ盡シテ決定スルト云フコトデアル
  カラシテ、此意思表示ニハ何等拘束ヲ受クルモノデハナイト
  云フ當局ノ聲明デアッタノデアリマス、斯ノ如ク質問應答ヲ
  盡シマシテ、當局ノ意思モ能ク了解致シマシタ、ソレデ討論
  ニ入ルニ先ダチマシテ革新倶樂部ノ前川君カラシテ、斯ノ如
  キ希望ノ提出ガアッタノデアリマス、シレハ斯ル費用ヲ支那ノ
  文化事業ノ助長ノ爲ニ支出スルト云フコトハ洵ニ結構デア
  ル、結構デハアルガ、是等ノ使途ニ付テハ大ニ〓究ト調査ヲ
  要スル、然ルニ大正十二年度ニ於テハ留學生ノ費用デアル
  トカ、或ハ済南病院ノ經費デアルトカ云フコトニ支出スルコ
  トニナッテ居ルノデアルガ、是等ノ使途ニ向ッテハ權威アル所
  ノ諮問機關ニ依ッテ之ヲ決定スルト云フノガ當局ノ言明デ
  モアリ、又吾々ノ希望デモアル、然ルニ大正十二年度ニ便宜
  ノ策トシテ支出シタコトガ先例トナッテ、後ノ諮問機關ヲ拘
  束スルト云フヤウナコトニナッテハ、甚ダ面白クナイ事デアル
  カラシテ、斯ル事ハ大正十二年度ノ一時限リノ事ニシテ、
  其後ノ決定ニ付テハ諮問機關ノ意見ヲ重ンジテ貰ヒタイ、
  斯ウ云フ希望ガ出タノデアリマスルガ、外務大臣ハ之ニ對シ
  テ、洵ニ同感デアルカラシテ、大正十二年度ニ於ケル支出ハ
  大正十二年度限リノモノデアッテ、決シテ以後ノ諮問機關ノ
  諮問權限ト云フモノヲ-議決權限ト云フモノヲ拘束スル
  モノデハナイト云フ意味ノ明カナル言明ガアッタノデアリマス、討
  論ニ入リマシテ政友會カラ致シマシテ、私卽チ一宮ガ、斯ル時
  期ニ於テ日支親善ノ眞目的ヲ逹スルガ爲ニ支那ノ文化學業
  ノ助長ノ爲ニ相當ナル方法ヲ講ズルト云フコトハ洵ニ機宜
  ノ策デアルト思フ、故ニ、吾々ニ於テハ此案ニ賛成デアルト
  云フ意思ヲ定明致シタノデアリマス、之ニ對シテ續イテ憲政
  會ノ加藤定吉君ガ、矢張政府案ニ賛成デアルト云フ意味ヲ
  述ベラレタノデアリマスルケレドモ、唯、今日ノ如キ日支ノ關
  係ガ奇妙ナル狀態ヲ現ハシテ居ル際ニ、斯ノ如キ事業ヲ爲
  スト云フコトハ一種ノ感ジヲ起スモノデアルケレドモ、元來本
  事業ノ如キモノハ所謂報酬主義ニ依ッテ之ヲヤルカラシテ、
  支那ノ好意ヲ求ムルト云フヤウナ意味デナクシテ、恆久的ニ
  支那ノ文化ヲ助長シヤウト云フ崇高ナル目的ヲ持ッテ居ル
  モノデアルカラ、目前ノ感情其他ニ囚ハレズシテ、斯ル事業
  ヲヤルト云フコトハ大ニ吾々ノ賛成スル所デアルト云フ贊成
  意見ガアッタノデアリマス、續イテ前川君及上塚君カラ贊成
  ノ意見ガアリマシテ、本案ハ滿場一致ヲ以テ可決致サレタノ
  デアリマス、一寸報告ガ脫ケマシタガ、私カラ致シマシテ本案
  ニ付テハ大體ニ賛成デアルケレドモ、唯〓此第五條ニ於テ本
  會計支出セラレル所ノ此事業中ニ於テ「支那ニ於テ行フヘ
  キ〓育、學藝、衞生及救恤ニ關スル事業」ト斯クアルノデア
  リマスガ、此條文ノミヲ以テハ殆ンド吾々ガ目的ト致シテ居
  ル所ノ支那ノ留學生ヲ收容スル爲ニ寄宿舍ヲ造ルトカ、或
  ハ支那ニ於テ日本カラ歸ッタ所ノ留學生諸君ガ一種ノ社交
  倶樂部ヲ造ッテサウシテ日支親善及留學生同志ノ懇親ノ
  目的ヲ達スルト云フヤウナ希望ヲ達スルコトガ出來ナイカ
  ラ、此點ニ是等ノ意味ヲモ包含セシメルヤウニ、是等寄宿舍
  トカ、或ハ會館デアルト云フヤウナモノニ對シテモ、相當ナル
  補助ノ出來ルヤウニ「支那國ニ於テ行フヘキ〓育、學藝、衞
  生、救恤、其他文化ノ助成ニ關スル事業」トスルヤウニ修正
  センコトヲ私カラ提出致シマシタ、サウシテ憲政會ノ加藤君
  及上塚君其他ノ賛成ガアリマシテ、本修正ヲ滿場一致ヲ以
  テ可決サレタノデアリマス、第三ニ支那ニ本店ヲ設クル會社
  ノ資本ニ關スル法律案、是ハ近來我國ノ支那ニ於ケル發展
  ガ餘程盛大ニナッテ來テ、サウシテ經濟的發展ニ伴ウテ會社
  其他ノ設立セラレルモノガ少クナイ、然ルニ我ガ日本ノ商法
  ニ於テハ金資本ニ對スル規定ハアルケレドモ、銀資本ト云フ
  モノヲ認メテ居ナイ、支那ノ如キ銀貨國ニ於テ仕事ヲ爲ス
  上ニ於テ、銀資本ヲ以テ設立セラレタル所ノ會社ガ、日本ノ
  商法ニ於テ認メラレナイト云フコトハ、甚シク我國ノ經濟的
  發展ニ不便ガアル、隨テ商法ノ規定ニ一種ノ例外規定ヲ設
  ケテ、支那ニ本店ヲ有スル我國ノ會社ノ資本ニ關シテハ、銀
  資本ヲ認ムルト云フコトニ致シタイト云フノガ本案提出ノ
  趣意デアリマシテ、其内容ハ政府ヨリ提案セラレタル法律案
  デ見レバ、直ニ御承知ノ事デアルト思フノデアリマス、本案ニ
  付テモ多少ノ質問應答ハゴザイマシタガ、本案直接ノ質疑
  應答ト致シマシテハ、特ニ御報告ヲ中ス程ノ重大ナ問題モ
  無イヤウニ思フノデアリマス、唯〓御報告ヲ申シテ置カナケレ
  バナラヌノハ本案ニ關係ヲ致シマシテ革新倶楽部ノ大口君
  カラシテ、所謂大連ニ於テ銀資本ノ會社ヲ設ケルコトガ便
  利トスル場合ガアルデアラウガ、關東廳ニ於テハ如何ナル御
  方針ヲ執ッテ居ルカト云フヤウナ御質間ガアッタノデアリマス、
  之ニ對シテ關東廳ニ於テ若シ本法ガ施行セラルヽコトニナッ
  タナラバ、關東廳ニ於テモ銀資本ヲ以テ會社ノ設立ヲ許ス
  ト云フ特例ヲ認メテ、サウシテ是ハ遠カラズ勅令ヲ以テ出ス
  積リデアルト云フ聲明ガアッタノデアリマス、本案モ各派ニ於
  テ滿場一致ノ賛成デアリマシテ可決致サレタノデアリマス、
  右三案ノ委員會ノ經過及結果ハ只今御報告中上ゲタ通リ
  デゴザイマスガ、願クハ滿場諸君ニ於カセラレマシテモ、何卒
  本案ニ御賛成アランコトヲ希望シテ置ク次第デアリマス(拍
  手、

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• 038・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　賛成ノ通告ガアリマス、順次其發
  言ヲ許シマス、加藤定吉君
  〔加藤定吉君登壇〕

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• 039・加藤定吉

  ○加藤定吉君　對支事業法案、本案ハ三ツアルノデアリマ
  スガ、其第一ハ金ノ收支ノ取扱デアリマスカラ別ニ重要ナモ
  ノトモ思ヒマセヌ、第二、第三ニ付テ一寸中上ゲマス、旣ニ一
  宮君ガ大要ヲ盡シテ居ルノデアリマスカラ、別ニ私ガ詳シク
  申ス必要モアリマセヌ、唯〓本案ハ非常ニ重要ナ問題デアリ
  マスルガ之ヲ賛成スル上ニ於テ、我黨ノ態度ヲ明カニシテ置
  ク必要ガアルト思ヒマスカラ、其點ヲ簡單ニ申上ゲテ置キマ
  ス、本案ハ團匪事件賠償金、山東賠償金、約九千五百万
  國內外ヲ以テ支那ニ於ケル〓育、學藝、衞生、救恤、其他ノ
  事業ニ充テルト云フノデアリマシテ、是ハ實ニ大事業デアル
  ノデアリマス、我ガ政府ノ現在ノ財政ニ於テ、斯ノ如キ殆ド
  一億ニ垂ントスル金額ヲ支那ノ文化事業ニ費スト云フコト
  ハ、非常ニ是ハ現在ニ於テハ大事業デアルノデアリマス、併
  シ此案ハ斯ノ如ク支那ニ於テ文化事業ヲ企テナケレバナラ
  ナイト云フコトハ、數年來朝野及此貴衆兩院議員ニ於テモ
  唱道サレテ居ルノデアリマシテ、今日此案ガ實現サルヽト云
  フコトニ付テハ、吾々トシテモ滿腔ノ賛意ヲ表スル者デアリ
  マス、唯〓吾々ガ最モ懸念シマスノハ、現在ニ於テ斯ノ如キ案
  ヲ提出スル時期ヲ得テ居ルモノデアルカドウカ、若シ斯ノ如
  キ業ガ我ガ帝國ノ威信ノ大ニ强ク盛デアッタ北〓事變後位
  ノ際ニ於テ、斯ノ如キ案ガ提出サレマシタナラバ、非常ニ是ハ
  支那人ノ感謝ヲ受ケ、支那人ノ非常ニ歡迎ヲ受ケタコトデ
  アルダラウト思フノデアリマスガ、併シ〓日ノ我ガ支那ニ對ス
  ル外交ト申シマスルモノハ、御承知ノ通リ數年來當局者ガ其
  方針ヲ誤リ、帝國ノ威嚴ト云フモノガ支那ニ於テハ非常ニ
  失墜シテ居ルノデアリマス、此際、殊ニ最近ハ日支ノ條約マ
  デ破棄シヤウナント云フ事ヲ支那カラ提案サレテ居ル、斯ノ
  如ク侮ヲ受ケテ居ル此際ニ、斯ノ如キ案ヲ提出スルト云フコ
  トハ、如何ニモ吾々ハ一種ノ奇態ナル對照トシテ感慨ニ堪へ
  ナイ思ヲスルノデアリマス、此點ガ吾々トシマスルト最モ懸念
  スル所デアッテ、此時機如何ニ付テハ同志ノ間ニモ大分議論
  ガアルノデアリマス、併ナガラソレニシマシテモ、兔ニ角此團匪
  事件ノ賠償金ヲ以テ、支那ノ文化事業ニ充テルト云フコト
  ハ、前內閣ニ於テ後藤外務大臣ヨリ旣ニ聲明サレテ居ル所
  デアリマス、殊ニ其團匪事件ノ金額ノ一部分ハ昨年支拂ハ
  レテ居ルト云フ話デモアリマスシ、殊ニ本事業ト云フモノハ、
  永遠ノ目的ヲ有スルモノデアリマシテ、日支當局者ノ手腕
  技倆如何ト云フヤウナ眼前ノ事態ニ拘束サレテ居ルモノデ
  ハアリマセヌ、斯樣ナ風ニ此事業ト云フモノハ日支目前ノ關
  係ニ超越シテ居リマスル崇高ナ目的ヲ有スルモノデアリマス
  カラシテ、吾々ハ矢張此案ニ賛成ヲ表シ、サウシテ吾々ノ態
  度ト云フモノ-吾々國民ノ態度ト云フモノハ當局者如何
  ニ拘ラズ、支那ニ對シテ十分ナ好意ヲ持ッテ居ルト云フコト
  ヲ示シ、サウシテ此案ニ賛成シマシタナラバ、支那ニ於テモ吾々
  ノ此好意ト云フモノヲ諒解シマシテ、サウシテ吾々ノ此賛
  成スル意義ノ如何ナルモノデアルカト云フコトヲ十分理解
  サレルコトニナルダラウト思フノデアリマス、此意味ニ於キマ
  シテ吾々ハ本案ニ贊成シタノデアリマス、ソレカラ尙ホ原案以
  外ニ只今一宮君ノ述べラレマシタ修正、此使用ノ目的ニ對
  スル事項ノ中ノ修正、是モ最モ妥當ナ修正ト信ジマシテ贊
  成シタノデアリマス、サウシテ更ニ私共ガ此際當局ニ希望シ
  テ置キマスノハ、本案ヲ實行スルニ當リマシテハ、從來外務
  當局ノ態度ハ、案ヲ提出スル場合ニハ相當ナ熱心ヲ持クテ
  居ルノデアリマスケレドモ、一度其案ガ通過シマシタ後ハ、其
  事業ヲ殆ド顧ミナイト云フヤウナ、極ク取扱ガ疎漏ナ嫌ガ
  從來ノ歷史ニアルノデアリマス(拍手)ソレ故ニ此點ニ於テハ、
  當局ニ於テモ如何ナル案ヲ持フテ居ルカト云フコトヲ尊ネマ
  シタ所ガ、今回ノ分ハ特ニ之ヲ諮問機關ヲ置キ、サウシテ朝
  野ノ有識者、有力者ヲ集メテ、此事業ノ進捗ニハ大ニ愼重ナ
  態度ヲ執ルト云フコトデアリマシタカラ、吾々ハ當局者ノ此
  事ニ信賴致シマシテ、總テ此案ト云フモノニ賛成ノ意ヲ表
  シタノデアリマス、最後ニ支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資本ニ
  關スル法律案、是ハ極ク簡單ナル案デアリマシテ、支那ニ於
  テ會社ヲ營ム、支那ニ資本ヲ注入スルト云フ場合ニハ、ドウ
  シテモ銀本位ヲ必要トスルコトハ、支那ノ實情ニ於テ非常ニ
  必要ナ事ト思フノデアリマスカラ、是ハ簡單ニ贊成ヲ致シタ
  ノデアリマス、以上吾々ノ意見ヲ簡單ニ申上ゲマス(拍手)

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• 040・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　松本君平君ヨリノ通告ハ取消サレ
  マシタ、仍テ直ニ採決ヲ致シマス-三案ノ第二讀會ヲ開ク
  ニ御異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕

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• 041・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　御異議ナイト認メマス、仍テ三案ト
  モ第二讀會ヲ開クコトニ決シマス

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• 042・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　三案ヲ一括シテ直ニ其第二讀會ヲ開キ、
  第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ、卽チ對支文化事
  業特別會計法案ニ付テハ委員會修正可決ノ通リ確定アラ
  ンコトヲ望ミマス
  、「賛成」「賛成」ノ聲起ル〕

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• 043・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニハ御異議ナイト認
  メマス、仍テ直ニ三案ノ第二讀會ヲ開キ、議案全部ヲ議題
  ニ供シマス
  賠償金特別會計法中改正法律案
  第二讀會(確定議)
  對支文化事業特別會計法案
  第二讀會(確定議)
  支那ニ本店ヲ設クル會社ノ資本ニ關スル
  法律案第二讀會(確定議)
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 044・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　別ニ御發議ナイト認メマス、仍テ第
  三讀會ヲ省略シテ、三案トモ委員長ノ報告ノ通リ可決確
  定セラレマシタ(拍手)議事進行ニ付テ發言ヲ求メラレテ居
  リマス、八田宗吉君

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• 045・八田宗吉

  ○八田宗吉君　此席ヨリ申シマス

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• 046・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　許シマス

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• 047・八田宗吉

  ○八田宗吉君　會期モ切迫シタ今日ニナリ來リマシテ、議
  案ハ山ヲ成ス狀態デアリマスガ、此時ニ方ッテ最モ遺憾ニ感
  ジマスル事ハ、速記者ガ少イ爲ニ委員會ヲ開クコトノ出來ナ
  イ事デアリマス、本員ハ柳津、小出間ノ鐵道建設案外十六
  件ノ委員長トシテ、去ル十六日以來委員會ヲ開クベク委員
  課ニ對シテ請求致シマシタル所、速記者ガ無イ爲ニ委員會
  ヲ開クコトノ出來ナイコト今日マデ三日間デアリマス、斯樣
  ナル缺陷事ニ對シテ、衆議院ハ何故豫算ヲ十分ニ取シテ、此
  國務ヲ議スルニ方ッテ妨ゲヲ爲スヤウナ、斯樣ナル狀態ニ對
  シテ之ヲ取除クベキ方法ヲ講ゼラレナイノデアルカ、私ハ速ニ
  議長ニ於キマシテ委員課ニ就テ調査ヲ遂ゲラレテ、サウシテ
  議事ノ進行上差支ナイヤウニ進メラレンコトヲ希望致シマ
  テ、茲ニ提議致シマス
  〔「賛成」ト呼フ者アリ〕

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• 048・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　承知致シマシタ、出來ル限リノ盡力
  ヲ致シマス-日程第七、船舶ヲ以テ衆議院議員ノ一選
  擧區ト爲スノ法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、提出者ノ趣旨
  辯明ヲ許シマス、砂田重政君
  第七船舶ヲ以テ衆議院議員ノ一選舉區
  ト爲スノ法律案(林田龜太郞君外
  三名提出)第一讀會
  船舶ヲ以テ衆議院議員ノ一選擧區ト爲スノ法律案
  第一條全國ノ船舶ヲ以テ一選擧區トシ其ノ選擧スヘ
  キ議員ノ數ハ二人トス
  第二條一船舶ヲ以テ一投票區トシ船長ヲ以テ投票
  管理者管船局長ヲ以テ選舉長トス
  第三條選擧人名簿調製ニ關シ船長ハ町村長及郡市
  長ノ事務ヲ兼攝ス
  第四條投票ノ期日ハ衆議院議員選擧法第四十三條
  ノ例ニ依ル但シ地方長官ノ職務ハ管船局長之ヲ行フ
  第五條選擧會ハ管船局ニ於テ之ヲ行フ
  第六條何等ノ理由ニ關セス選擧期日後三十日以內
  ニ到達セサル投票ハ無效トス
  第七條船舶ニ於テ投票シタル者ハ他ノ選擧區ニ於テ
  投票スルヲ得ス犯スモノハ衆議院議員選擧法第八十
  六條ノ例ニ依リ處斷ス
  〔砂田重政君登壇〕

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• 049・砂田重政

  ○砂田重政君　只今上程サレマシタ船舶ヲ以テ衆議院議
  員ノ一選擧區ト爲ス法律案ノ提案ノ趣旨ヲ簡單ニ說明致
  シタイト思ヒマス、船舶乘組ノ海員中ニ於テ、現ニ多數ノ選
  擧權利者ガアルニ拘ラス、是ガ選擧權行使ノ方法ノ無イコ
  トヲ遺憾ト致シマシテ、今日マデ屢、こ請願トナリ、或ハ建議案
  トシテ此議場ニ提案サレタノデアリマス、而シテ數回ニ互ル
  請願ハ悉ク採擇セラレ、又建議案モ昨年ハ政友會ノ牧野
  君ヨリ御提案ニナリマシテ、滿場一致ヲ以テ此建議案モ通
  過シタノデアリマス、特ニ此不在者ノ選擧權行伎ニ關スル
  問題ハ非常ナ攻究ヲ要シ、〓究ヲ要スベキモノト信ジマス
  ガ、其中ニ於テ船舶ノ乘組員ニ對シテハ、我國ノ國情ガ所
  謂四面海ヲ以テ環ラシマシタ場所ニ於テ、殊ニ海運ノ發達、
  船舶業ノ發展ト云フコトハ望マナケレバナラヌ重大ナ問題
  デアリマス、而モ其船舶ノ高等海員トシテ所謂三圓以上ノ
  現在ノ選擧法ニ依ル資格ヲ有スベキ者ガ約七方人アルノデ
  アリマス、現在選擧有権者トシテ名簿ニ登録セラレタル者ノ
  ミニテモ約一万五千人ノ多數ニ上ヲテ居ルノデアリマス、而
  モ此人〓ガ如何ニシテモ若シ選擧權ヲ行使セントスル場合
  ニハ、船舶ヨリ下船スルカ、或ハ一時選擧當日ニ於テ船舶
  ヲ停止スルヨリ外途ガ無イノデアリマス、斯ノ如キコトハ國
  家ノ重大ナル機關ノ休止ヲ伴フコトデアリマスカラ、絕對ニ
  是ハ不可能ノ事デアリマス、其意味ニ於テ最モ國家ニ取ッテ
  重要ナル職貴ヲ盡シ、而モ我國ニ於ケル有力ナル地位ヲ占
  メル學識識見ヲ持ツ多數ノ人こガ、選擧權ヲ行使スル方法
  ノ無イコトヲ遺憾トシマシテ、此船舶乘組員其他ノ不在者
  ニ對スル選擧權ノ行使ノ方法ニ付キマシテハ、英吉利ニ於
  テモ亞米利加ニ於テモ、又諾威ニ於テモ、船舶ノ乘組員ニ
  對シテソレ〓〓相當ノ立法ヲ定メテ居ルノデアリマスガ、眞ニ
  徹底シタ立法ハ未ダ之ヲ見出スコトガ出來ナイノデアリマ
  ス、又彼國ノ立法其モノヲ以テ直ニ我國ノ國情ニ之ヲ應用
  スルコトモ困難デアリマス、斯樣ナ點ヲ色〓考慮熟考致シマ
  シタ結果、全國ニアリマス我國ノ國籍ヲ有スル船舶ヲ一選
  擧トシテ、而シテ其船舶ノ中ノ一船舶ヲ以テ一投票區トシ
  テ選擧ヲ行ハシメテ、二名ノ議員ヲ選出セシメルト云フ方法
  ヲ考案シタノデアリマス、是ガ卽チ本案ヲ提出スルニ至ッタ所
  以デアリマス、申ス迄モナク船舶ハ遠ク我國ノ領海ヲ離レ
  テ、到ル處ニ航行スルモノデアリマスガ、斯樣ナ場合ニ於テモ
  總テ其乘組ノ船長ハ、其船內ニ於ケル行政權及警察權マ
  デモ付與サレテ居ルノデアリマス、恰モ一ツノ自治機關ト同
  樣ノ權限ヲ-市町村長ト同一ノ權限ヲ與へラレテ居ル場
  合ガアリマシテ、又之ヲ他ノ方面カラ見マシテモ船舶ノ航行
  シテ居ル間ハ、其船舶ノ航行シテ居ル場所ニ領土ガ延長サ
  レタ形ニ今日マデ認メラレテ居ルノデアリマス、此意味ヨリ
  考ヘマシテ、此船長ヲ以テ選擧ヲ執行セシムル一ノ機關トナ
  シ、而シテ更ニ之ヲ監督スル管船局長ヲ以テ選舉管理者ト
  シテ-選擧長トシテ選擧ヲ行ハシメルト云フコトハ、洵ニ
  吾々ノ從來考ヘテ居リマス最モ適當ナル選舉權ヲ行使セシ
  メル方法ト信ジマスノデアリマス、唯〓玆ニ一言致シマスコト
  ハ、此法律案ヲ提出スルノ趣旨ハ、職業別ニ依シテ議員ノ選出
  ヲナサシメル趣旨デハナイノデアリマス、唯〓特別ニ所謂衆
  議院議員選擧法ノ一條、二條ニ對スル一ツノ例外ヲ設ケ
  テ、此多數ノ有力ナル選擧有權者ヲシテ其選擧權ヲ行使セ
  シメタイト云フ趣旨ニ於テ、選擧法ノ特例ヲ設ケルト云フノ
  デ、此法律案ヲ提案シタ次第デアリマス、固ヨリ此提案ハ初
  テノ試ミデアリマス、隨テ其內容ニ於テ尙ホ幾多ノ補充ヲ要
  スル點ノアルカモ知レヌト云フコトヲ吾々ハ感ジテ居リマス、
  此法案ニ對シマシテハ諸君ノ十分ニ御熟考ノ下ニ、本案ヲ
  成立セシメルト云フ趣旨ニ於テ、十分ニ御修正ガアル場合
  ニ於テ、吾々ハ是ニ同意スルコトニ吝ナラヌ者デアリマス、願ハ
  クハ本案ニ滿場一致ヲ以テ贊成アランコトヲ切望致シマス

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• 050・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　本案ハ濱田國松君外八名提出、市制中
  改正法律案外九件ノ委員ニ、併セテ付託セラレンコトヲ望
  ミマス
  〔「賛成」「賛成」ノ聲起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=50

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• 051・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ御異議ナシト認メ
  マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第八、所得稅法中改正
  法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、提出者ノ趣旨辯明ヲ許シ
  マス、鳩山一郎君-河上哲太君
  第八所得稅法中改正法律案(鳩山一郞
  君外三名提出)第一讀會
  所得稅法中改正法律案
  所得稅法中左ノ通改正ス
  第一條ノ二本法ニ於テ貸付信託ト稱スルハ信託會社
  ノ引受ケタル金錢信託ニシテ信託財產ノ運用方法ヲ
  預入又ハ貸付ノミニ限定シタルモノヲ謂フ
  第二條中「前條」ヲ「第一條」ニ改メ「利子」ノ下ニ「若ハ貸
  付信託ノ利益ノ」ヲ加フ
  第三條中「利子」ノ下ニ「若ハ貸付信託ノ利益」ヲ加フ
  第三條ノ二第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
  但シ本法施行地ニ於テ信託利益ノ支拂ヲ爲ス貸付信
  託ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
  第三條ノ二第三項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
  信託會社ノ所得計算ニ付テハ貸付信託ニ因ル收入
  及支出ハ其ノ總益金及總損金ヨリ之ヲ控除ス
  附則
  本法ハ大正十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
  本法施行地ニ於テ信託利益ノ支拂ヲ受クル貸付信託ノ
  所得ニシテ從前ノ規定ニ依リ第三種所得トシテ計算ス
  ヘキモノニ付テハ信託利益ノ支拂期カ本本施行前ニ在
  ルモノニ限リ大正十二年分第三種所得トシテ計算ス
  〔河上哲太君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=51

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• 052・河上哲太

  ○河上哲太君　簡單ニ提案ノ理由ヲ說明致シマス、『曩ニ
  政府ガ本議會ニ所得稅法改正法律案ヲ出シマシタトキニ、
  委員會ニ於テモ既ニ銀行ノ預金ヨリ得ル所得ニ對シテ第
  二種所得稅ヲ課スルナラバ、信託財產カラ生ズル所ノ利益ニ
  對スル課稅モ、第二種所得稅ニシテハドウデアルカト云フコ
  トニ付キマシテ、政府トノ間ニ質問應答ガアッテ〓究サレテ
  居ッタコトデアリマスカラ、此經過ノ次第ハ諸君ハ御承知ノ
  事ト思ヒマス、唯〓當時直ニ此案ニ付テ解決ガ出來ナカッタ
  コトハ、信託財產カラ生ジマスル利益、銀行預金カラ生ジマ
  スル刊子、是ハ法律上ニ於テ性質ノ相違ガアッテ、且ツ直ニ
  總テノ信託財產カラ生ズル利益ニ對シマシテ第二種所得
  稅ヲ課シマスルト、脫稅其他ノ弊害ガアリマスカラ、當時之
  ヲ保留サレテ其儘ニナッテ居ッタノデアリマス、其後種々〓究
  ヲ致シマシタ所ガ、信託財產ノ中-金錢信託ノ中デ且ツ
  其運用方法が預入及貸付ニ限ラレタモノニ對シマシテハ、實
  際上ノ問題トシテ銀行預金ト殆ド類似ノモノデアリマシテヽ
  之ヲ特ニ法律上ノ性質ニ拘泥シマシテ第三種所得稅ヲ課
  シマスルコトハ、信託業ノ發達ト且ツ信託者ニ對シマスル
  課稅ノ率ガ餘リニ多クシテ、却テ小資本ヲ信託スルヤウナモ
  ノニ對シマシテ不公平ノ嫌ガアル、故ニ之ヲ實際上ノ問題ヲ
  土臺トシマシテ、第二種所得稅ヲ課スルヤウニシタイト云フ
  ノガ本案ノ理由デアリマス、委細ハ委員會ニ於テ說明致シマ
  スカラ、會期切迫ノ今日ドウカ諸君ノ滿場一致ノ御賛成ヲ
  得テ、本案ノ成立致スヤウ御願致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=52

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• 053・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　本案ハ林田龜太郞君外一名提出、明治
  四十一年法律第三十七號中改正法律案外九件ノ委員
  ニ、併セテ付託セラレンコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=53

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• 054・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ御異議ナイト認メ
  マス、仍テ動議ノ如ク決シマス、日程第九、衆議院議員選擧
  法中改正法律案ノ一讀會ヲ開キマス、提出者押川方義君
  第九衆議院議員選舉法中改正法律案
  (押川方義君提出)第一讀會
  衆議院議員選擧法中改正法律案
  衆議院議員選擧法中左ノ通改正ス
  第七章議員候補者名簿、選舉費用
  第六十四條選擧長ハ選擧期日公布ト同時ニ議員候
  補者名簿正副二本ヲ調製シ各候補者ノ申告ニ基キ
  テ其ノ資格ヲ調査シ運滯ナク候補者名簿ニ登錄シ其
  ノ副本ハ選擧期日前三日迄ニ地方長官ニ送付スヘシ
  議員候補者タラムトスル者ハ選擧期日五日前迄ニ金
  一千圓又ハ之ニ相當スル公債證書ヲ選擧長ニ供託ス
  ヘシ
  前項ニ依リ供託金ヲ領收シタルトキハ選擧長ハ直二之
  ヲ候補者名簿ニ登錄シ且三日以內ニ告示スヘシ
  當該候補者當選セス且其ノ得票カ第十七條ノ規定
  ニ達セサルトキハ供託金ハ之ヲ國庫ニ沒收シ其ノ他ノ
  場合ニ於テハ之ヲ當該候補者ニ返付スヘシ
  第六十五條議員候補者ノ選舉費用ハ前條第二項ノ
  供託金ノ外左ノ金額ヲ超ユルコトヲ得ス
  選擧人名簿ニ登錄セラレタル選擧人ノ數三千人以内
  ノ選擧區ニ於テハ金三千圓、三千人ヲ超ユル選擧區
  ニ於テハ一人ヲ超ユル每ニ金五十錢ノ割合ヲ以テ增
  加スルモノトス
  議員候補者ハ選擧終了後一箇月以內ニ選擧費用明
  細書竝之ニ關スル受領書ヲ添へ選擧長ニ提出スヘシ
  但シ十圓以下ノ支出ニ對シテハ受領書ノ添付ヲ要セ
  ス
  議員候補者ニ對スル選擧費用ハ選擧終了後一箇月
  間請求セサルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
  第六十六條選擧應援ノ目的ヲ以テ公衆ヲ會同スル集
  會ヲ聞キ又ハ廣告若ハ出版物ノ頒布竝戶別訪問等
  ニ要スル費用ヲ供與セムトスル者ハ豫メ文書ヲ以テス
  ル議員候補者ノ委任若ハ承諾ヲ受クルヲ要ス
  前項ノ費用ハ議員候補者ヨリ之ヲ選舉費用ノ一部ト
  シテ選擧長ニ屆出ツヘシ
  第六十七條議員候補者ハ選舉期日公布後ヨリ選舉
  期日前日ニ至ル間順次選舉ニ關スル公開ノ集會ノ爲
  其ノ授業ニ支障ヲ生セサル範圍內ニ於テ官公立學校
  ヲ使用スルコトヲ得
  第六十八條議員候補者ハ選擧期日公布後ヨリ選擧
  期日ニ至ル間選舉人ニ對シ一回ヲ限リ選擧ニ關スル
  文書ヲ無料ニテ發送スルコトヲ得但シ郵便法第十八
  條ニ依ル第四種郵便物ニ限ル
  第八十七條第一項中「處ス」ヲ「處シ」ニ改メ其ノ下ニ
  「其ノ議員候補者ノ當選ハ無效トス」ヲ加ヘ同條第一
  項ニ左ノ一號ヲ加フ
  十選擧ニ要シタル費用カ法定額ヲ超過シタルトキ
  第九十五條中「旗幟」ノ下ニ「、立看板」ヲ加フ
  第九十五條ノ二議員候補者若ハ選擧運動者ハ投票
  當日投票所附近ニ選舉事務所又ハ休憩所ヲ設ケ若
  ハ選擧ニ関スル運動ヲ爲スコトヲ得ス
  附則
  本法ハ次ノ總選擧ヨリ之ヲ施行ス
  〔押川方義君登壇〕

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• 055・押川方義

  ○押川方義君　會期切迫ノ折柄デゴザイマスカラ、成ベク
  議案理由ノ說明ノ如キハ簡略ニ致シマシテ、ドウカ輻輳致シ
  テ居リマスル所ノ議事ノ進行ヲ捗ラシタイト云フ希望デアリ
  やっ、併ナガラ今日提案ヲシテ居リマスル所ノ選擧法改正
  案ハ、多ク其章條ナドヲ設ケタ點ガアリマス、デ議案自體ニ
  付テ極ク大略五分バカリ諸君ニ內容ヲ申上ゲテ置キタイ、
  十分ニ御考慮下サイマシテ、此事ノ實行出來マスルヤウニ、
  殆ド先ヅ初テノ案デアリマスノデ、十分ニ宜シキヲ得テ、我國
  ノ選擧界ノ大廓〓ノ基ニナルヤウニ致シタイノデアリマス、ソ
  レデ第七章ニ「議員候補者ノ名簿ト選擧費用」ト云フ章ヲ
  設ケテ居リマス、ンレカラ第六十四條ニ選舉人ノ名簿ヲ作
  リマシテ、選擧候補者ノ申告ニ從ヒマシテ、其姓名ヲ記入致
  シマスルコトニ致シタイノデアリマス、選擧候補者トナリマシ
  タル所ノ人ハ、供託金ヲ要求致サレマシテ、其供託金ノ高ハ
  金一千圓、若クハソレニ相當スル所ノ公債ヲ選舉長ニ納メ
  マシテ、サウシテ是ガ登錄セラレマシテカラ、初テ候補者ノ資
  格ヲ持ツモノニシタイノデアリマス、其供託金ノ處分ニ至リマシ
  テハ當選者ハ申スマデモナシ、法定數ニ達シマシタル人ニハ、
  其供託金ハ返付致シマス、併ナガラ若シ法定數ニ達シマセ
  ヌ人ハ、其供託金ハ官沒サレルト云フコトニナルノデアリマ
  ス、是ハ純良ナル候補者ヲ保護シタイト云フコトヽ泡沫候
  補者ノ濫ニ出マスコトヲ防ギタイト云フ精神ニ出タノデアリ
  マス、第六十三條ニ於キマシテハ、選擧費用ヲ制限シタイト
  云フノデアリマス、其選擧費用ノ制限ノ程度ハ、市町村ヲ通
  ジマシテ一選舉區ニ於テ三千以內ノ選擧民ノアリマスル所
  ニ於キマシテハ三千圓、尤モ候補者ハ己レノ費用トシテ別ニ
  一千圓ヲ使フコトヲ許シマス、ソレカラ三千人以上ノ選擧
  人ノアリマスル所ハ、一人ニ付キマシテ金五十錢ヲ增シマス、
  ソレ故ニ先ヅ假ニ一萬人ノ選擧民ガアルト云フ所デアリマ
  スレバ、候補者白ノノ費用ヲ除キマシテ、其一千ヲ除キマシ
  テハ七千五百圓ガ卽チ程度ニ定メラレテ居ルノデアリマス、
  此第六十六條ニ於キマシテ、此制限費用ト云フモノハ如何
  ナル名義ノ下ニ於キマシテモ、ソレヨリハ增シテ使フコトハ決
  シテ出來ナイノデアリマス、ソレ故ニ例ヘバ是マデノ運動者ト
  申スヤウ人ガ、種々樣々ニ運動ヲスル爲ニ費用ヲ要シマスル
  ガ、其費用モ卽チ其他一切ノ費用ノ今ノ制限セラレマシタ
  費用ノ中ニ這入っテシマウノデアリマス、ソレ故ニ例ヘバ一萬
  人ノ選擧人ガアリマスル所ハ、己レノ一人ノ費用ニ使ヒマ
  スル所ノ一千圓外ハ、七千五百圓ヨリハ決シテ使フコトノ
  出來ナイト云フ制限デアリマス、其次ニ第六十七條ニ於
  テハ、官公立學校ハ之ヲ〓授上ニ於テ差支ヘナイ程度ニ於
  キマシテ、無償ニ選擧ノ爲ニ、或ハ演說等ノ爲ニ使用スルコ
  トヲ許スノデアリマス、第六十八條郵便物ニ、卽チ四匁一音
  信ノモノヲ一回無償ニテ選擧候補者ハ之ヲ使用スルコトガ
  出來ルノデアリマス、ソレカラ第八十七條ニ於キマシテハ、制
  限セラレタル所ノ費用以上ニ使用致シマスコトガ分リマスレ
  バ卽チ候補者ノ當選ハ之ハ無〓トスル制限デアリマス、ソ
  レカラ第九十五條ニハ選擧地ノ選擧場ノ附近ニ於キマシテ
  ハ、事務所若クハ運動場ト云フヤウチルモノヲ設ケルコトヲ
  禁遏スルノデゴザイマス、面シテ、本條ハ次ノ總選擧ヨリ之ヲ
  施行シタイト云フ希望デアリマス、是ハ諸君ニ於カレマシテ
  モ、隨分直接重大ノ聞係ヲ持シテ居ラレマスルシ、隨分選擧
  人、被選舉人、非常ニ緊切ナル重要ナル問題デアリマス、併
  ナガラ之ヲ實施致シマスルニ付テハ、極テ困難ナル事情ガ爰
  ニ此間ニ蟠クテ居リマスル故ニ、十分賢明ナル諸君ノ御考慮
  ヲ煩シタイ、尤モ是ハ今日ノ選擧法ニ於テ申シマシタル所ノ
  改正案デゴザイマシテ、若シ幸ニシテ吾等ノ主張致シマスル、
  所ノ所謂普通選擧ガ行ハレマスルニ至リマシテハ、無論此選
  擧費ヨリモ非常ニ一人前ハ僅カナモノニナラナケレバナラヌ
  ト云フノハ申ス迄モナイコトデアリマス、英吉利ニ於テハ普通
  選擧ヲ行ハレテ以來、一人宛五片ヲ以テ制度トシテ居リマ
  ス、現今ニ於テハ七片ヲ以テ一人前ノ制度トシテ居リマス、
  然ラバ五片ヲ以テ一人前ト致シマスレバ、五片ハ二十錢デ
  アリマス、一人宛二十錢ノ費用ヨリ以上ヲ使フコトハ出來ナ
  イ、故ニ一萬人ノ選擧人ノアリマスル所ニ於テハ、僅二二千
  圓ヨリ使フコトハ出來ナイノデアリマス、今日選擧場裡ニ於
  テ非常ナル所ノ惡弊ノ流行シテ居リマスルコトハ、諸君ノ御
  承知ノ事デアリマス、併ナガラ今日我國ニ於キマシテ、官紀
  〓正ノ聲ガ盛ンデアリマスケレドモ、先以テ衆議院自ラ改ム
  ルニアラザレバ、決シテ他ニ官紀肅正ヲ要求シテモ實行ハ出
  來ナイノデアリマス、ソレ故ニ此選擧民ヲ覺醒セシメテ、卽チ
  候補者ノ人物ヲ出スト云フコト、官權金權若クハ拜ミ倒シ
  ナドヲ以テ決シテ議員ニナルコトハ出來ナイ、卽チ人物本位
  ニ於テ選舉ノ實ガ擧ガルト云フヤウニ致シマスルナラバ、卽チ
  今日ノ此腐敗シタル狀態ハ改マリマシテ、日本ハ見ルガ如キ
  盛ンナル國トナルコトハ疑ヒナイト吾輩ハ信ジテ疑ハナイ、
  故ニ願クバ此事ニ付テ十分ニ御考慮下サイマシテ、來年ノ
  總選擧ニハ此案ガ少クトモ今ノ選擧法其儘デアッテモ、實施
  ノ出來マスルヤウニ十分ニ御盡力アランコトヲ希望致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=55

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• 056・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　本案ハ濱田國松君外八名提出、市制法
  中改正法律案外十件ノ委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望ミ
  マス

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• 057・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニハ御異議ナシト認
  メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシク、日程第十、人事訴訟手
  續法中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、提出者鮎川盛
  貞君
  第十人事訴訟手續法中改正法律案(麓
  純義君外五名提出)第一讀會
  人事訴訟手續法中改正法律案
  人事訴訟手續法中左ノ如ク改正ス
  第三十條ノ二私生兒認知ノ訴ハ其相手方トスヘキ者
  カ死亡シタル後ハ檢事ヲ以テ相手方トス
  〔鮎川盛貞君登壇〕

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• 058・鮎川盛貞

  ○鮎川盛貞君　只今議題ニナリマシタル人事訴訟手續法
  中改正法律案ニ付キマシテ、提案者ノ一人ト致シマシテ簡
  單ニ說明ヲ致シマス、改正ヲ致シマスル要點ハ、同法ノ第二
  章第三十條ノ次ニ、第三十條ノ二ト致シマシテ「私生兒認
  知ノ訴ハ其相手方トスベキ者カ死亡シタル後ハ檢事ヲ以テ
  相手方トス」ト云フ一條文ヲ加ヘタイト云フノデアリマス、是
  ハドウ云フ譯カト申シマスレバ、今日立派ニ儀式ニ依フテ結
  婚ヲ致シマシテ、二年三年夫婦トシテ實際上同棲シテ居リ
  マシテ、サウシテ子供ヲ產ミマシタ場合ニ、其戶籍ガ入ッテ居
  リマセヌ爲ニ、其子供ノ出生以前ニ夫タルベキ者ガ死ニマシ
  タ場合ニ於テハ、此子供ヲ認知サセル所ノ手續ノ方法ガ無
  イノデアリマス、現ニ私共ハ自己ノ職業上、度々斯ウ云フ問
  題ニ出會マシテ、非常ニ氣ノ毒ニ感ジテ居ルノデアリマス、同
  ジ人事訴訟手續法中デモ、第一章ノ婚姻事件ノ方ニナリマ
  スルト、其相手方ガ死亡シタル後ハ、檢事ヲ以テ相手方トス
  ルト云フ規定ガアリマシテ、相手方ト致スベキ者ガ死亡致シ
  テモ、立派ニ相當ナル法律上ノ手續ガ裁判所へ出來得ルコ
  トニナッテ居マス、所デ人事訴訟、-只今ノ第二章ノ親子
  關係ノ事件ノ方ニ付キマシテハ、此規定ガ〓ケテ居リマス
  爲ニ、サウ云フヤウナ場合ニハ、其子ハ全ク庶子トシテ認メラ
  レルコトガ出來ナイト云フ手續ノ缺陷ガアルノデアリマス、此
  理由ニ依リマシテ本案ヲ提出シタ次第デアリマス、此事柄ニ
  付キマシテハ無論法律ノ缺陷ハ明白デアリマスカラ、司法ノ
  當局ニ於カレマシテモ、異議ノアルベキ道理ハナイト考ヘテ居
  リマス、會期切迫ノ今日デアリマスカラ甚ダ恐入リマスケレ
  ドモ、成ベク至急委員會ヲ開催サレマシテ、此簡明ナル法律
  案ヲ是非共本年兩院ヲ通過スルヤウニ御盡力アラレタイコ
  トヲ御願ヒシテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=58

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• 059・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　本案ハ橫山勝太郞君外二名提出借家法
  中改正法律案外三件ノ委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望
  ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=59

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• 060・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニハ御異議ナシト認
  メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス、此際御諮リヲ致シタイ事
  ガアリマス、乃チ安達謙藏君外四名ヨリ軍艦天城ニ關スル
  疑獄事件ニ付緊急質問ヲ致シタイト云フ申出ガアリマス、
  此際日程ヲ變更シテ御質問ヲ許スコトニ御異議アリマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 061・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　御異議ナシト認メマス、仍テ緊急
  質問ヲ許スコトニ決シマス、軍艦天城ノ疑獄事件ニ關スル
  緊急質問、野田文一郞君
  軍艦天城ノ疑獄事件ニ關スル緊急質問

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• 062・作間耕逸

  ○作間耕逸君　總理大臣兼海軍大臣ノ出席ヲ求メマス、
  議長カラ相當ノ手續ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=62

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• 063・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　只今總理大臣ハ本院ニ於ケル豫
  算委員會ニ於テ質問ニ對スル答辯中ダサウデス、直グニ參
  ルヤウニ致シマス、今政府委員ノ出席ヲ要求致シテアリマス
  〔野田文一郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=63

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• 064・野田文一郎

  ○野田文一郞君　諸君、私ハ軍艦天城ニ關スル疑獄事件
  ニ付キマシテ緊急質問ヲ提出致シマシタ、其質問ノ趣旨ヲ
  申述ベマシテ、政府ノ答辯ヲ要求スル者デアリマス、昨年ノ
  六月、現加藤內閣ノ成立後間モナク、軍艦天城ニ關スル疑
  獄事件ナルモノガ發表セラレマシテ、爾來國民ハ其成行ヲ
  注意致シテ居ッタノデアリマス、此事件ヲ最初申告ヲシタ者
  ハ、大崎留藏ト云フ人デアリマシテ、此大崎留藏氏ハ東京
  瓦斯電氣株式會社ノ職エヲ證人トシテ、驅逐艦ノ沼風、波
  風及巡洋艦ノ赤城、天城、此四艦ノ工事ニ付テ、其用ヒラ
  レタル材料ニ不正ノ品ガアルト云フコトヲ申告ヲ致シタノデ
  アリマス、尙ホ大崎氏ノ言明スル所ニ依レバ、戰艦陸奥ニモ
  同様ノ不正ノ材料ヲ以テ組立ヲシテ居ルト云フコトヲ申シ
  テ居ルノデアル、此二箇ノ巡洋戰艦、二箇ノ驅逐艦、更ニ陸
  奧、此五ツノ軍艦ノ中ノ問題デ、天城ニ關スル事件ハ、昨年
  ノ十一月三十日東京地方裁判所ニ於テ豫審終結決定ニ
  ナッタノデアリマス、而シテ殘ル沼風、波風及赤城ニ關スル事、
  竝ニ陸奥ニ關シテ不正ノ材料ヲ用ヒラレタリヤ否ヤト云
  フ問題ハ、今尙ホ其儘ニナッテ居リマスルカラ、是ガ如何ニナッ
  タカト云フコトハ現在ノ程度ニ於テハ之ヲ知ルコトガ出來ナ
  イノモデアリマス、併シ旣ニ豫審終結ニナリタル天城ニ關スル
  事實ニ依ッテ之ヲ考ヘマスレバ、此大崎留藏氏ノ申シタコト
  ハ、事實トシテ現ハレテ參ッテ居ルノデアリマスルカラ、他ノ四
  艦ニ於テモ矢張不正ノ材料ヲ用ヒラレテ居ルニアラズヤト
  云フコトノ疑念ヲ抱クト云フコトハ、當ニ相當ノ疑デアルト
  謂ハナゲレバナラヌト思フノデアル(拍手)今日我國ハ、現内
  閣總理大臣タル加藤男爵ガ、外ニ使シテハ軍艦制限ノ問
  題ニ付テ、其比率ニ於テ謂レナキ讓步ヲ致シ、更ニ防備問題
  ニ於テモ大ナル失態ヲ致シテ居ルノデアリマーシテ、假令然ラ
  ザル場合ニ於テモ、國防ノ大任ヲ負フ所ノ軍艦ノ製造ニ對
  シテハ、細心ノ注意ヲ拂ヒ、又國民ト致シマシテハ、立派ニ完
  成ヲセラレテ國防ノ任務ヲ全ウスルコトヲ望マナゲレバナラ
  ヌノデアリマスルガ、今日我國ノ狀態ハ今申ス如ク、外ニ使
  シテハ我國ガ大ナル壓迫ヲ受ケテ居ルノデアリマスルカラ、國
  民ト致シマシテハ軍艦ノ製造ニ對シテハ、一層ノ努力ヲ拂→
  テ、其制限ノ範圍內ニ於テ造ラルヽモノハ、何等ノ缺點ナク、
  最大ノ威力ヲ發揮スルモノデナケレバナラヌト云フコトハ、當
  然ノ事ト信ズルノデアリマス、然ルニ昨年ノ六月以後ニ於
  テ、大崎氏ノ申告ニ依シテ今中ス如キ事實ガ暴露セラレテ、
  天城ニ關スル事ニ付テハ、現ニ豫審決定ヲ見タト云フニ至ン
  テハ、吾々ハ海軍部內、殊ニ製艦ノ點ニ於テハ實ニ店ニ粟ヲ
  生ズル思ナキヲ得ヌノデアリマス、豫審決定ノ示ス所ニ依リ
  マスレバ、軍艦ヲ造ルニ付テハ、海軍造船材料試驗規格ト
  云フモノガアリマス、是ハ海軍省ノ達ニ依ッテ定ッテ居ル、其
  外ニ大正四年十月十八日ノ內規ニ依シテ、內國製造監督
  服務內規ト云フモノガアルノデアリマス、此二箇ノ規則ノ下
  ニ嚴正ナル試驗ヲシテ、之ニ合格スルモノニ非ズ一ンバ材料ト
  シテ用フルコトガ出來ナイト云フコトニナッテ居ル、然ルニ此
  天城ニ用ヒタル喞筒ニ付テハ、東京瓦斯電氣株式會社ニ
  注文ヲシテ製作ヲシタノデアリマスガ、此東京瓦斯電氣株
  式會社ハ設備不完全ニシテ、多量ノ合金材料ヲ熔解スベ
  キ大型ノ坩堝ガ無イ、隨テ新シキ地金ヲ熔解シテ大型ノ物
  體ヲ鑄造スルト云フコトハ、作業極テ困難デアルト云フコト
  ヲ先ヅ而シテ居ルノデアル、ソレト同時ニ「キユーポラ」ニ依ッテ
  價格ノ低廉ナル古金、屑全ヲ熔解使用シタナラバ、新シキ地
  金ヲ使用スルニ比シテ、會社及工場當局者ノ利益ガ頗ル甚
  大デアル、工場當局者ノ利益ト云フコトハ稍、明確ニゴザイ
  マセヌ、併シ斯樣ナル事ヲ致セバ、會社ガ甚大ナル利益ヲ得
  ルノデアルト、云フコトハ明ニ玆ニ〓シテ居ルノデアル、斯ノ如
  ク設備不完全ナル會社ニ此大切ナ軍器ノ製造ヲ注文スル
  ガ如キコトハ、實ニ大ナル失態デアッテ、斯ノ如キ不都合ナル、
  設備不完全ナル會社ニ注文シテ軍器ヲ造ルト云フガ如キコ
  トハ、斷ジテ吾々ノ許スコトノ出來ナイ大失態デアルト思フ
  ノデアリマス、斯樣ニシテ瓦斯電氣會社ニ注文致シ、大正十
  年一月下旬カラ十二月マデノ間ニ於テ、有ユル不正ノ事ガ
  行ハレタノデアル、其結果海軍機關中佐森袈裟一、監督助
  手海軍技手神垣本藏、監督補助伍長淺葉要助外二名ノ
  立會監督ノ下ニ鑄造サレタノデアル、サウシテ結局胡麻化シ
  ヲセラレテ、喞筒七十餘種ハ悉ク不合格-其規定ニ合ハ
  ザルモノヲ納入シタト云フコトガ事實ノ大要デアリマス、此
  豫審決定ニ揭ゲタル事實ハ、政府ハ之ヲ否認スルコトハ斷
  ジテ出來マセヌ、何故ナレ」バ檢事ガ此事實ヲ認メテ起訴ヲ
  致シタノデアル、檢事ガ既ニ其事實ヲ是認シテ起訴致シタ
  以上ハ、此檢事ノ認メタル事實ハ政府ノ認メタル事實デア
  リマスカラ、今日ニ於テ之ヲ否認スルト云フコトハ斷ジテ出
  來ナイ、然ルニ貴族院ニ於テ、本月二日ノ豫算總會ニ江木
  翼氏ヨリ海軍大臣ニ對シテ、海軍部内ニ近來忌ハシキ風評
  ガ色〓アルガ、若シ事實ナリトスレバ由々敷大事デアルト云
  フノデ、懇ニ事實-事情ヲ備ヘテ質問致シテ居リマスガ、之
  ニ對シテ海軍大臣ハ大體ニ於テ重大ナル事ハナイト云フヤ
  ウナ答辯ヲ致サレテ居ル、準士官ガ反物ヲ貫ツタトカ何トカ
  云フヤウナコトノ爲ニ、利ニ觸レタト云フ實例ハアル、ソレ位
  ノ事ハアルケレドモ、大ナル事ハ無イノデアルト言ハレテ居リ
  マス、此貴族院ノ答辯ノ時ニハ、申スマデモナク此豫審決定
  ノ事實ハ加藤海軍大臣ハ御承知ノ筈デアル、否像審決定
  ニナッテカラ始メテ知リ但付タルニアラズシテ、起訴ノ當時ヨリ海
  軍大臣トシテ當然其事實ヲ知っテ居ルノデアル、知ッテ居リ
  ナガラ「シーメンス」事件ノ如キ大ナル事ハ無イ、唯〓反物ヲ貰。
  タト云フ位ノ事ハアルケレドモ、注目ニ殖スルヤウナ事ハ無
  イト云フヤウナコトヲ答辯ヲセラレテ、暗ニ私ノ質問ヲセン
  トスル此天城ニ關スル事ニ付テハ、之ヲ隱シタガ如キ態度ヲ
  致サレタト云フコトハ、國務大臣トシテ私ハ其責任觀念ヲ
  疑ハザルヲ得ヌノデアリマス、若シ眞ニ此點ニ付テ注意ヲ拂
  ハレテ居ッタナラバ、是等ノ質問ノ出ルマデモナク、加藤海軍
  大臣自ラ進ンデ、昨年ノ夏ハ天城問題ニ付テ世ノ注意ヲ惹
  クコトニ相成ッタガ、是ハ是レ々々ノ次第デアルト云フコトヲ
  議會ニ報告ヲナサルト云フコトガ、當然ノ處置デアルト〓四ズ
  ルノデアリマス、然ルニ自ラ進ンデ之ヲ議會ニ報告ヲ致サミ
  ルノミナラズ、議員ノ質問ニ對シテ、暗ニ之ヲ掩蔽スルガ如キ
  態度ヲ執ルト云フニ至フテハ、吾々ハ海軍大臣ノ心事ヲ疑ハ
  ザルヲ得スノデアル、現在此納入セラレタル不正ノ喞筒ハ如
  何ナル所デ造ッテ居ルカト云フコトハ、私共其實物ヲ見セマ
  セヌカラ分リマセヌケレドモ、併シ豫審決定ノ示ス所ニ依レ
  バ、此不足ノ喞筒ガ納入セラレテ、代金ヲ拂フタト云フコトニ
  書イテナイガ、恐ラク納入ヲ濟マシタナラバ、代金モ拂ッテシマッ
  テ居ルノデアラウト思ア、既ニソレダウノ事實ガ明カニナッテ
  居レバ此喞筒ハ矢張軍艦ニ使用セラレタ物デアラウト云フ
  コトニ吾々ハ推定ヲスル外ハナイノデアリマス、殊ニ此瓦斯電
  氣會社ノ-瓦斯電氣株式會社ノ重役ハ、世ニ名アル人デ
  アリマスカラ、或ル新聞紙ハ是等ノ事實ヲ促ヘテ、加藤海軍
  大臣ニ對シテ-加藤海軍大臣デハアリマセヌ、海軍部内ニ對
  シテ一種ノ疑惑ヲ以テ見テ居ルト云フヤウナ論評モ吾々ガ見
  ルノデアリマスガ、斯ノ如キ新聞記事ヲ讀ムト云フコトハ、洵ニ
  不快千萬デアッテ我ガ海軍ノ爲ニ深ク之ヲ悲マナケレバナラス
  ノデアリマス(拍手)私ハ左樣ナ事ノ無キコトヲ信ジ、又無
  キコトヲ欲スル者デアリマスルカラ、其等ノ點ニ向ッテハ深ク
  之ヲ論及致シマセヌ、又併ナガラ設備不完全ト云フコトノ
  明カナル會社ニ向ヲテ此大切ナル軍器ノ注文ヲ爲スト云フ
  ガ如キコトハ、大ナル責任ヲ感ジナケレバナラヌノデアリマスル
  カラ、私ハ此點ニ向ッテ政府ガ明カニ吾々ヲシテ了解ヲセシム
  ルダケノ答辯ヲ與ヘラレンコトヲ要求スル者デアリマス、卽チ
  之ガ質問趣意書ノ第一項ハニアル豫審決定書記載ノ事實ヲ
  認ムルヤ否ヤト云フコトヽ、最後ニ右事件ニ依リ納入セラシタ
  ル不正物件ハ、之ヲ如何ニ處分シタカト云フコトガ質問ノ趣
  意デアリマス、申マデモナク現内閣ハ網紀肅正ト云フコトヲ
  其成立ノ初ニ當ヲテ聲明ヲ致サレタ、是ハ何ノ必要ガアッテ
  斯ノ如キ事ヲ申シタノデアルカ、數年ノ間政友會內閣ノ下
  ニ綱紀ハ頽廢シ行政ハ斎亂ヲ致シテ(ノウ〓〓)正ニ其紊
  亂ニ於テハ極度ニ達シタ、未ダ曾テ我國ニ見ザル所ノ大頽
  廢ヲ致シタノデアルカラ、此綱紀ノ肅正ヲシナケレバナラヌト云
  フコトハ一般ノ論ズル所デアッテ、吾々同志ハ極力綱紀肅正
  ト云フコトヲ唱ヘ來ッタノデアリマスルガ、此吾々ノ綱紀肅正
  ノ主張ハ、貴族院ニ於テハ豫算ノ附帶決議トシテ現ハレ、
  政友會內閣ノ瓦解ノ後ニハ、現加藤内閣ガ成立ヲシテ、吾々
  ノ數年唱ヘ來シタル綱紀肅正ト云フコトヲ一ツノ政策ト
  致シタト云フコトハ、明カニ政友會內閣ノ綱紀紊亂ノ事實
  ヲ裏書致シタモノデアルト云フコトハ明白デアリマス(拍手)
  其綱紀紊亂ノ後ヲ承ケテ生レタル現内閣ハ其聲明スルガ
  如ク綱紀肅正ノ事實ヲ擧ゲル所ノ大ナル責任ガアル、併ナ
  ガラ吾々ハ甚ダ失禮ナル申分デハアリマスガ、初ヨリ綱紀ノ
  〓正ニ對シテ果シテ之ヲ斷行スルノ力アリヤ否ヤト云フコト
  ハ、疑ヲ以テ見テ居リマス、實ハ大ナル期待ヲ致シテ居リマセ
  ヌカラ、今日綱紀肅正ノ事實ガ擧ラズトスルモ、之ニ對シテ
  吾々ハ敢テ嘆聲ヲ漏ス者デハナイ、失望スル者デハナイ、最初
  ヨリ豫期シタ通リデアルノデアリマス(拍手)併シ斯ノ如キ重
  大ナル問題ガ起〓テ、旣ニ軍艦天城ニ不正ナル品物ヲ納入
  セラレテ軍艦ヲ造フタ事亦目ガアル、彼ノ士官ニ於キマシテハ一
  旦世ノ中ニ大崎氏ノ言明ガ發表セラレタケレドモ、サウデナ
  イト云フコトノ之ヲ打消スダケノ事實ガ現ハレテ居ラヌノデ
  アリマスカラ、其點カラ考ヘレバ東京瓦斯電氣株式會社ト
  此注文ヲ發スル者トノ間ニ、或ハ種々ナル請託ガ行ハレテ居
  ルノデハナイカト云フコトモ、吾々トシテ之ヲ推測ヲセザルヲ
  得ヌノデアル、一體何故ニ斯ノ如クナルカト言ヘバ、加藤海
  軍大臣ガ貴族院ニ於テ江木氏ノ間ニ對シテ「シーメンス」事
  件以來特ニ注意ヲ致シタト云フコトヲ言ハレル、成程相當
  ナ注意ヲ拂ックデアリマセウ、併ナガラ流ルヽ水ハ〓クシテ、之
  ヲ飮ムコトモ出來ル、立派デアリマスガ、水モ停滯スルト腐敗
  ヲ生ズル、同ジ人ガ長ク同ジ局ニ當フテ居レバ、其人ハ、主觀
  的ニハ頗ル努力ヲ致シテ居ル、部內ニ於テ決シテ不正ナ事
  ハ無イデアラウ、無カラシムルコトニ努力致シテモ、何時ノ間
  ニカ子子ガ湧イテ、種々ナル疑獄事件等ガ起ルト云フコト
  ハ、世ノ中ノ現象トシテ沟ニ已ムヲ得ザル事デアリマスカラ、
  加藤海軍大臣モ長キ間歴代ノ內閣ニ歷任ヲ致サレテ居リ
  マス故ニ、加藤海軍大臣御自身ハ餘程御注意ヲナサッテ居
  ルカハ如ラナイガ、同ジ所ニ同シ人ガ長ク停滯致シテ居ル
  ト云フト、其間ニ弛ミヲ生ジ、府敗ヲ生ズルト云フコトガ世
  ノ中ノ現象トシテ免カシ難キ事デアルガ故ニ、海軍部内ニ
  於テ近來頻々トシテ色々ナ面白カラザル事ガ世ノ中ニ
  現ハレルト云フコトハ、私ハ斯ノ如キ世ノ中ノ道理ヨリ參ッタ
  タノデナイカト云フコトヲ深ク憂フル者デアリマス、故ニ本件
  ノ豫審決定ニ現ハレタル事實ヲ根據トシテ、政府ハ果シテ
  如何ニシテ綱紀肅正ノ責任ヲ果シタノデアルカ、又現在竝
  ニ將來ニ於テ如何ニスル積リデアルカ、主トシテ本件ニ於テ
  其責任ヲ如何ニシテ之ヲ明カニスルカト云フコトガ、第二項
  トシテ私ノ問ハントスル所デアリマス、更ニ第三ニ斯ノ如キ
  結果ヲ見ルニ至ッテハ、國防ノ上ニ大ナル缺陷ヲ生ズルコト
  ナキカ、假令缺陷ヲ生ゼズトモ、一種ノ不安ヲ生ズル事ガナ
  イカ、少クトモ斯ノ如キ事實ガ既ニ確定ヲ致シテ、世ノ中ニ
  發表セラレマスレバ、吾々此國防ノ問題ニ對シテ大ナル不安
  ヲ感ゼザルヲ得ヌノデアリマスルガ、海軍大臣ハ果シテ之ニ
  對シテ不安ヲ威ズルコトナキヤ、之ガ私ノ第三トシテ問ハン
  トスル點デアリマス、以上述ブル次第デアリマスカラ、此天城
  ニ關スル問題ニ付テ、詳細ノ國民ノ疑惑ヲ解クニ足ルダケ
  ノ明白ナル御答辯ヲ要求スルノデアリマス、今日新聞ノ報
  ズル所ニ依レバ、艦政部長ハ一種ノ辯解ヲ發表致シテ居ル、
  岡田艦政部長ノ談話トシテ報知新聞ニ載フテ居リマス、
  之ニ依リマシテモ吾々ハ尙ホ疑念ヲ解クコトハ出來ナイ、ア
  ノ會社ハ設備不完全デアルト云フコトハ事實デアル、設備
  不完全ト云フコトハ事實デアルガ、喞筒位ノモノハ出來ナイ
  コトハナーデアラウト思フ、斯ウ云フコトガアリマスガ、若シ斯
  ノ如キコトヲ眞ニ國田鑑政部長ガ語リシモノトスレバ、是亦
  大ナル無責任者デアルト弱ハチケレバテラヌ、既ニ設備ノ不
  完全ト云フコトヲ認メテ居ル以上ハ、アノ位ノ物ハト云フコ
  トハ何タル放言デアル、私ハ機械ニ付テノ特別ノ智識ヲ持
  チマセヌガ、併シ間ク所ニ依レバ、此備付ノ喞筒ハ立派ナル
  武器デアル、軍艦ニ備付ケル所ノ立派ナル武器デアルト云
  フコトヲ聞イテ居ル、此立派ナル武器ヲ造ルニ當ッテ、アレ位
  ノ物ハ、會社ノ設備ハ不完全デモヤレルデアラウト云フガ如
  キコトハ、如何ニモ問題ヲ馬鹿ニシテ居ル、此大切ナル軍器
  ヲ取扱フニ當ノテ、餘リニ無責任ナル言分デアリマスルガ故
  ニ、斯樣ナル答辯ガ私共ノ聞カントスル所デハナイ、或ハ又
  是ハ横須賀ノ工廠デヤッ夕問題デアルカラ、海軍省ニハ關係
  ガ無イト云フヤウナコトモアリマス、恐クハ是ハ何等カノ誤デ
  アラウ、海軍大臣ガ貴任ヲ以テ議會ニ答辯ヲ爲サルニ當フテ
  ハ、斯ノ如キ無責任ナル答辯ハ致サナイデアラウト思ヒマス
  ガ、新聞ノ記事ニアリマスカラ、私ハ此點モ豫メ御斷リ申シ
  テ置クノデアル、又之ニ關係シタ人ヒハ未ダ處分ヲシテナイ
  ヤウデアル、監督官ハ、若シサウ云フコトニナレバ何トカ處分
  ヲシナケレバナラヌト云フガ如キ手緩キコトヲ申シテ居ルノ
  デアル、是等ノ總テノ話ヲ事實ト致シマスレバ、如何ニモ無
  責任ナル言分デアリマスルガ故ニ、本件ノ如キ品物ヲ注文
  スルニ當ッテモ、十分ノ注意ヲ拂ハズシテ、情實ニ囚ハレテ斯
  ノ如キ事ヲ致シクモノデハナカラウカ、或ハ更ニ進ンデ或種
  ノ請託ガアルノデハナカラウカト云フコトニ想像ヲ及ボサミル
  ヲ得ヌノデアリマス、何レノ時代ニ於テモ國防ハ大切デアル
  ガ、前申ス如ク今日ハ極テ特ニ國防ノ點ニ付テハ注意ヲ拂
  ハナケレバナラヌ、此時代ニ當ッテ。本件ノ如キ不祥事ヲ見ル
  ト云フコトハ、國家ノ爲ニ洵ニ憂フベキ現象デアリマスカラ、
  海軍大臣ハ責任ヲ以テ丁寧親切ニ此點ニ對シテ御答辯ヲ
  與ヘラレンコトヲ要求スル者デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=64

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• 065・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　野田君ニ御尋シマスガ、海軍大臣
  ハ豫算委員會ニ於テ、濱口雄幸君ノ質問ニ對シテ答辯中
  デアルサウデアリマス、隨テ只今此處ニ出席セラレテ答辯セ
  ラレルコトハ不可能ト存ジマス、併シ只今ノ御質問ノ事實ノ
  問題ニ付テハ、海軍次官ヨリ御答辯ヲ致シテモ宜シイト
  云フコトデアリマスガ、ンレデ御滿足ニナリマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=65

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• 066・野田文一郎

  ○野田文一郞君　海軍次官ニ於テ御答辯ノ出來ル範圍
  ニ於テ御答辯ヲ顯ヒマス、但シ答辯不十分デアル場合ニハ、
  更ニ海軍大臣ニ御答辯ヲ要求致シマス

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• 067・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　井出海軍次官
  〔政府委員井出謙治君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=67

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• 068・井出謙治

  ○政府委員(井出謙治君)　只今ノ御質問ニ御答辯ヲ申
  上ゲマス、其以前ニ一言申上ゲマスガ、私ハ事實ヲ大略申
  上ゲル積リデアリマス、今ノ御質問ノ中ニハアリマシタ責任
  其他ニ付キマシテハ、海軍大臣ヨリ御答辯アルコトヽ永知
  致シマス、左樣御承知ヲ願ヒマス、此東京瓦斯電氣株式會
  社へ種々ナル注文ヲ致シマシテ、ソレニ付キマシテ不正品ヲ
  納メタト云フコトヲ大崎留藏ガ申告ヲ致シマシテ、此問題
  ヲ取調べマシタノデゴザイマス、ソレデ此問題ハサウ云フ事實
  カラ取調べマシタ結果、使用ノ金物ニハ古金ヲ使クテハ居リ
  マスガ、不正ノ物デハナイ、使用シタ金物ハ差支ナイ、最終ニ
  當リマシテ試驗鈑ヲ取リマスコトニ付キマシテ行ヒマシタ行
  爲ハ不正デアッタ、ソレカラ納入品ノ一部ノ物ハ、再試驗ノ
  結果、實用上差支ナイモノモアリ、又或ル物ハ廢棄シナケレ
  パナラヌモノガアル(「其數ヲ明瞭ニ」ト呼フ者アリ)ソレデ不
  合格品ハ總テ廢品トシマシテ、損害ハ會社ガ負擔ヲスルコ
  トニシテアリマス、又實用上差支ナイモノハ、其程度ニ從ヒマ
  シテ減價購入ト云フコトヲ致シマスシ、又其機械ノ保證年
  限ヲ延長致シマシタ、又正式ノ試驗ノ如何ニ拘ラズ、此會
  社ノ納メマシク物ニ對シテハ、保證年限ヲ延期スルコトニ取
  計ヒマシタ、又此問題ハ只今豫審ハ決定ヲ致シマシテモ、公
  判ハ濟ミマセヌノデゴザイマスカラ、此方トシテハ責任ノ歸著
  ハ裁判決定ノ上ニ決メルコトニシテ居リマス、先程御話ニナ
  リマシタ沼風、波風、之ニ使ヒマシタ機械ハ通風機デゴザイ
  マス、是ハ物ガ黃銅製デハアリマセヌ、此問題ニハ觸レテ居リ
  マセヌ、主ニ使ヒマシタノハ天城用デアリマシテ、其一部ノ物
  ヲ申上ゲマスレバ、大形汲水喞筒、是ハ十八箇注文致シマ
  シテ、七箇ダケハ不用デ、ドウシテモ使フコトガ出來ナイノデ
  賣却致シマシタ、又送水喞筒ハ八臺注文シテ三臺ダケハ不
  用デゴザイマス、イケマセヌノデゴザイマス、其他細々シタ物
  ハゴザイマスガ、其中ノ靑銅製ノ物ニ對シテハ十分ナル試驗
  ヲシテ居リマス、又靑銅製デナイ鑄鐵其他デ拵ヘル物ニ對
  シテハ、一度試驗ヲシマシテ其儘ニ採用シテ居リマス-尙
  ホ一言申シマス、只今····
  〔「何ノ爲ニ監督シテ居ルノカ」「靜ニ」又ハ「静ニ出來
  ルカ」ト呼フ者アリ〕

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• 069・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　中野君、靜ニ··

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• 070・井出謙治

  ○政府委員(井出謙治君)(續)　裁判ガ確定致シマスレ
  バ、只今海軍ニ於ケル責任者ハ處分致シマス、又會社ニ對
  シテモ海軍購買名簿登錄ヲ取消スコトニ致ス積リデアリマ
  ス、事實ダケヲ御答辯申上ゲマス(拍手)

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• 071・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　再ビ議事日程變更ノ動議ヲ提出致シマ
  ス、卽チ茲ニ-"(「議長」「議長」ト呼ヒ其他發言スル者多
  シ)日程第四十三及第四十四ニ揭ゲタル決議案ヲ議題ト
  シ、各〓其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
  〔「議長」「議長」ト呼ビ其他發言スル者多ク議場騷
  然

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• 072・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　一寸御待チ下サイ

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• 073・野田文一郎

  ○野田文一郞君　只今ノ答辯ハ私ノ問ハントシタモノニ
  向ッテ要領ヲ得テ居リマセヌ、故ニ海軍大臣ノ答辯ヲ要求
  致シマス

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• 074・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　何レ其中ニ海軍大臣ヨリ答辯ガ
  アルト信ジマス、鈴木君ノ動議ヲモウ一度御述ヲ願ヒマス

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• 075・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　更ニ申上ゲマス、再ビ議事日程變更ニ關
  スル動議ヲ提出致シマス、卽チ玆ニ日程第四十三及第四
  十四ニ揭ゲタル決議案ヲ議題トシ、各、其審議ヲ進メラレ
  ンコトヲ望ミマス
  〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕

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• 076・粕谷義三

  ○議長(粕谷義三君)　鈴木君ノ動議ニ異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=76

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• 077・粕谷義三

  ○議長(粕各義三君)　異議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如
  ク日程ハ變更サレマシタ····日經第四十三、議決案ヲ議題
  ト致シマス、提出者中野正剛君
  第四十三決議案(中野正陶君外三名提
  〓
  決議案
  決議
  政府ハ速ニ露西亞政府ヲ承認シ對露國策ノ根本方針
  ヲ確立遂行スヘシ
  右決議ス
  〔中野正剛君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=77

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• 078・中野正剛

  ○中野正剛君　「政府ハ速ニ露西亞政府ヲ承認シ對露國
  策ノ根本方針ヲ確立遂行スベシ」ト云フノガ本決議案ノ本
  文デアリマス、是ガ理由ノ大略ハ諸君ノ手許ニ配付シテアル
  理由書ニ明確デアリマスガ、是ハ議長ノ許可ヲ得テ速記錄
  ニ上ポシ、私ハ更メテ諸君ニ對シテ本案ノ說明ヲ致シ、諸君
  ノ御賛成ヲ仰ギタイ次第デアリマス、今日露西亞ニ對スル
  諸懸案ヲ解決致シテ、日露ノ圈交ヲ親密ニシ、更ニ進ンデ
  兩國經濟融合ノ途ヲ開クト云フコトハ、我國トシテハ國際
  的ニ唯一ノ活路ヲ開拓スルノ所以デアリマシテ、又露西亞
  ニ對シテハ、今日悲慘ナル境遇ニ居ル人〓ニ對シテ、幸福ノ
  曙光ヲ與へ、同時ニ世界共通ノ經濟ノ安定ニ貢献スル所以
  ト考ヘルノデアリマス、卽チ我國ノ立場カラ、又露西亞ノ立
  場カラ、又世界的見解カラ見テ、此案ノ實行ハ最高ノ正義
  人道ヲ躬行スルト共ニ、世界最大ノ利益ニ貢献シ、同時ニ
  口本國トシテ其餘澤ニ均霑スル次第トナルノデアリマス、之
  ガ必要ニ付テハ、政府モ略認認テテラルヽ樣デアル、本員ノ
  豫算總會ニ於ケル質問ニ對シマシテ、加藤總理大臣ハ稍、
  徹底セル意見ヲ開陳シテ居ラレヽ、卽チ有ユル手段ヲ盡シ、
  機會ヲ伺ヲテ、露西亞ト第三次交渉ヲ開始スルノ考ガアル
  ト述ペラレテ居ル、又此時ニ當ッテ個人デハアリマスガ、後藤
  子爵ガ革命露西亞ノ政治家「ヨツフエ」君ヲ招待シテ政界
  ニ一ツノ話柄ヲ起シテ居ル、憲政會ハ曩ニ露西亞ニ對スル
  通商ノ建議案ヲ出シ、其建議案ハ委員會ヲ通過シタ樣子
  デアリマス、併ナガラ政府當局者ハ唯、露西亞ト接近シタイ
  ト云フ希望ヲ持ッテ居ラルヽダケデアル、如何ニシテ之ガ手段
  ヲ求メルカニ付テハ定見ガアル樣ニ見エナイノデアリマス、又
  憲政會ノ提案モ、一部ノ露西亞ニ對スル資本家ヤ實業家
  ノ利益ヲ代表シテ居ルトハ見エマスガ、今日ノ場合、當ノ露
  西亞ノ本體ヲ承認セズシテ、之ト通商ヲ結プト云フ如キ遣
  口ハ、日本國ノ國家ノ堂々タル外交政策トシテハ、未ダ徹
  底ヲ缺イテ居ルト私ハ信ズルノデアリマス(拍手)併ナガラ今
  日日本ノ政界、財界有ユル方面ヲ通ジテ、露西亞ト接近ス
  ルノ有利ナルコトハ略、認メラレテ居ル、露西亞ト親善ナル
  關係ニ立ツト云フコトニ對シテハ、殆ド異論ガ無イ、ソレナラ
  バ我國ノ欲スル所ヲ求メルト共ニ、亦露西亞ガ何ヲ欲スルカ
  ニ付テ能ク考ヘテヤッテ、大局ノ上カラ日露接近ノ手段ヲ講
  ズルコトガ、私ハ今日ノ急務デアルト思フ(拍手)此點カラ考
  ヘマシテ私共ハ卒直ニ露西亞政府ヲ承認スルコトガ露西
  亞ニ對シテ第三次交涉ヲ開始スル時ノ眼目デアリ、又憲政
  會提案ノ對露通商ヲ行フベキ前提デアッテ、之ヲ後ニシタル
  區々ノ議論ハ本末ヲ〓倒セルモノト斷ゼザルヲ得ナイト思
  ヒマス(拍手)最近日露關係ノ發展經過ヲ見マスト云フト、
  露西亞ノ回復ト共ニ我國ノ譲步ガ件ッテ居ル、彼レ一步進
  メバ我必ズ退イテ居ル、英米ノ外交ニ引摺ラルヽト云ハレタ
  日本ノ外交ハ自ラ輕蔑シテ居ル、露西亞ニ引摺ラレテ居ル
  觀ヲ呈スルヲ遺憾トスル、例ヘバ「ヨツフエ」君ノ來ル時ニ
  當ノテ、内務省ハ之ニ對シテ上陸ヲ拒絕スルガ如キ行動ヲ
  執ッタ、而シ「ヨツフエー」君ガ日本ニ座リ込ンデ見ルト、ドウ
  ニモ處分スルコトガ出來ナイ、而シ政府ハ今日ニ至ッテ「ヨツ
  フエー」君ヲ囚ハレ人ノ如キ待遇ヲ爲シ、暗號電報ノ交換ヲ
  許シテ居ナイ、内々政府ノ本意ハ歸フテ欲シイカモ知レヌ、併
  ナガラ彼ハ歸リハシナイ、今ニ迫出スト云フヤウナ態度ヲ執
  ルカ、又何處迄モ通信ヲ拒絕スルト云フコトニナルト、彼レノ
  方デ日本カラ派遣サレテ居ル浦湖ノ領事ヲ追出スガ、其時
  ハドウスルカ、浦潮ノ領事ノ暗號電報ヲ禁止スルガ、ソレヲ
  ドウスルカト、段々タグリ込マレルト云フコト、ドウニモ仕方カナク
  ナリハシナイカ、コンナ調子デ遂ニハ一「ヨツフエー」氏スラモ處
  分スルコトガ出來ズシテ、露西亞カラ引摺ラレルハ愚カ、一浪
  人カラ引摺ラレル觀ヲ呈シ、遂ニ始末ニ困ルヤウデハ、甚ダ遺憾
  千万デハアリマセンカ、是ノミデナク、遡ッテ大連會議、長春會
  議ノ經過ヲ見テモ、日本ノ外交ハ引摺ラレテ居ル、大連會議ハ
  色と有利ナ條件ヲ確定シテ居リマシタガ、我ガ政府ガ西伯
  利撤兵ノ時期ヲ表明スルコトヲ拒絕シタガ爲ニ是ガ破レタ、
  大連會議ガ成立シテ居ッタナラバ、憲政會ニ於テ唱ヘルヽガ
  如ク日本ノ實業家ノ利益ハ十分ニ保護セラレテ居ックト思
  フ、其次ニ長春會議ハ何デ破レタカ、矢張北樺太ノ撤兵ヲ拒
  絕シタ、北樺太ノ撤兵ノ時期ヲ表明シナカッタ爲ニ破レタノ
  ガ表面ノ事實デアリマス、今度第三次交涉ヲ始メルニ當ッテ、
  ソレデハモウ一ツ北樺太カラ兵ヲ引カラドウカ宜シク賴ムト
  出ルヤウデハ、全然緣日商人ノ遣方デアル、緣日商人ノ如
  キ態度ヲ取ルカラ、買人ノ方デモ增長シテ、又々値切ッテ來
  ルト云フコトヲ私ハ憂慮スル者デアリマス、此時日本ノ當局
  者ニ於テハ、相手國代表者ノ態度ヲ非難シ、「ヨツフエ」ト
  云フ男ハ圖々シイ奴ダ、長春會議ニ於テ彼ハ權謀術數ヲ逞
  ウシタ、大連會議ノ十七箇條ヲ基本協定トシヤウト云フコト
  ニナッテ居ルノニ、而モ彼ハ其基本協定ノ項目ヲ重ンジナカッタ、
  彼ハ非公式ニ約束シタ「アントノーフ」ト日本政府トノ内約ト
  違ッタ態度ヲ取ッタト云フコトヲ非難シテ居リマス、松平全權
  ハ此議論ヲ以テ十分手酷ク彼ト交涉シタヤウデアルガ、單ニ
  露西亞ヲ窘メ上ゲルノガ日本ノ外交ナラパソレデ宜シイガ、
  更ニ露西亞ヲ大局ノ上カラドウシヤウ、接壞セル露西亞ヲ
  ドウスルコトガ日本ノ利益デアルカト云フ大局ノ打算ガナイ
  ノハ、如何ニモ愚昧デハアリマセヌカ、最モ「ヨツフエ」君ハ權
  謀術數ヲ逞ウシタデセウ、併ナガラ或ル場合ニハ哀訴スル、
  或ル場合ニハ歎願スル、或ル場合ニハ誘惑スル、或ル場合ニ
  ハ脅迫スル、斯ノ如キ態度ヲ以テ革命露國ノ浪人ガ日本ノ
  中ヘマデモ飛込ンデ來テ、何所マデモ執拗ニ日本ヲタグリ込
  マウトスル所ニ、若キ革命露西亞ノ生命ハアルト思フ、彼等
  ハ大連協定「アントノーフ」ノ話、是等ノ重ンズベキ事ヲ知ツ
  テ居リマセウガ、免ニ角顏ヲ合セタナラバモウ一一步進ンデ談
  判ヲシテ、何トカシテ日本ヲシテ露西亞ヲ承認サセタイト云
  フ活力ガ彼等ニアルモノト私ハ信ズマノデアリマス、之ニ對スル日
  本ノ外交ハ、全然文書外交デアリ、官僚外交デアル、彼等ノ
  潤達タル生命アルノニ對シ、我外交ハ死ンデ居ルガ如キ外
  交デアルト思フ、大連會議ノ經過ヲ見、更ニ進ンデ長春會
  議ノ狀態ヲ見マシテモ、此眞相ハ能ク現ハレテ居ル、例ヘバ
  長春會議ノ第一番ニ於テ、日本全權ト彼ト何デ爭フタカト云
  ヘバ、資格問題デアル、詰リ「ヨツフエ」君ヲ勞農露西亞代表
  者タル資格ヲ兼ネ有セシムルカドウカト云フコトデ日本ハ爭ッ
  タ、勞農露西亞ノ代表者トシテハ話ヲシナイト云フノガ日本ノ
  主張デアル、第二ニハ何デアルカ、日本ノ主張ニヨレバ、通商條
  約ヲ締結シテモ、此條約ノ適用區域ハ極東露西亞ダケニシ
  テ、本部露西亞ニハ及スマイト云フノデアル、之ニ對シ先方カ
  ラハ本部露西亞マデニ通商區域ヲ擴張シテ下サイト願ッタノ
  デアル、然ルニ日本ノ方デハ何處マデモ頑張ッテ、オ前ノ國ニ
  ハ行カヌ、極東ダケシカ行カナイト主張シタ、而モ松平代理
  ハ之ヲ主張シテ、其主張ヲ遂ゲタノデアル、是ニ於テ露西亞ハ
  仕方ガナイカラ急ニ北樺太ノ撤兵ノ問題ヲ出シテ、是デ長
  春會議ヲ破ッタノデアル、露西亞ハ第一ニ全權ノ資格ヲ認メ
  テ吳レ、通商條約ヲ締結シタナラバ、本部露西亞ト通商ヲシ
  テ呉レ、「パスポード」ニ裏書スルカラ露西亞ニ來テ吳レト訴へ、
  漸次ニ露西亞ヲ承認シテ貰フ前提ヲ作ラントシタノデアル、所
  ガ日本ハ是ト接近シマイ、往クマイ、極東ダケニ通商區域ヲ止
  メテ唯其處等デ損ヲシタ人々ヲ助ケテヤラウト云フ少サイ外
  交方針ヲ取ッタノデアル、而モ此時考ヘテ置カナケレバナラヌ
  事ハ、我國ハ露西亞ニ對シテ幾多ノ利權ヲ要求シテ居ル、當
  局者ハ沿海州ノ利權、北樺太ノ資源ガ欲シイノデアリマセウ、
  既ニ期限ガ切レテ居ル漁業權モ囘復シタイデアラウ、更ニ尼港
  ノ賠償金ヲ取リタイトサへ思ッテ居ラルヽ、是ダケ我國ハ色々
  ナモノヲ欲シイ、色々ナモノヲ要求シテ條約ヲ結バウト思ヒナ
  ガラ向フノ代表者其人ヲ捉ヘテオ前ハ條約ニ判ヲ捺セ、併ナガ
  ラオ前ハ露西亞ノ全權トシテ資格ヲ認メナイ、オ前ノ國ハ亡國
  ダ、亡國ヲ表代シテ條約ニ調印セヨト言っテモ彼ノ承認ヲ得ルコ
  トガ出來ルモノデナイコトハ常識デ分ルデハアリマセンカ、賢明ナ
  ル内閣ノ諸公ガ、日本ヲ代表シ外國ト條約ヲ締結スル場合ニ、
  オ前ノ國ハ亡國デアルカラ代表者トシテノ資格ハ認メナイ
  ガ、此條約ニ調印セヨト言ハレテ、之ニ調印スル者ハ日本國
  中ニ恐ラクアルマイト思フ、彼我地位ヲ代ヘテ彼ノ地位ヲ諒
  察スルニアラザレバ、日露ノ國交ハ回復シナイ、今日ノ外交
  ハ國民外交デアル、國民ノ希望ニ反シ、國民ノ面目ヲ蹂躪
  シタ條約ハ何等ノ效力ガナイ、例ヘバ歐洲列國ガ彼ノ「セー
  ブル」條約ニ於テ、吾々ト同ジ有色人種デアル所ノ土耳古ヲ
  虐待シ、恰モ蟹ノ手足ヲ協イダヤウニシタ、其結果ハ土耳古
  ニ於テ聯合列國ニ反對スル新革命運動、新國民主義ノ運
  動ガ起ッタ、是ガ代表者タル「ケマルバシヤ」ガ、土耳古ノ自覺
  セル民族ヲ提ゲテ〓起シタ時ニ、歐洲列國ノ政治家ハ之ヲ
  處分スルコト能ハズ、土耳古全權ハ「ローザンヌ」會議ニ於テ
  英国初メ列國ノ膽ヲ寒カラシメタノハ事實デアル、「ヴルサイ
  ユ」條約デモ今日マデ其效力ヲ十分ニ發揮シナイノハ何デア
  ルカ、當時強國及戰捷國ガ、餘リニ自國ノ利益ヲ主張シ、餘
  リニ自國ノ復讐心ニ囚ハレテ小弱國ヲ壓迫シタカラ、今日
  マデ此實效ガ現ハレテ來ナイノデアル、現ニ御覽ノ通リニ「ヴ
  ルサイエ」條約ノ不完全カラ、獨逸ト佛蘭西トノ間ニハ今尙
  確執ヲ見テ居リ、歐洲ノ天地ニ今日ニ至ルマデ暗雲ヲ低
  遠セシメテ居ル、國民ガ承諾セザルガ如キ條約ヲ他國ノ使節
  ヲシテ結パシメルト云フコトハ、私ハ無效デアルト考ヘマス、
  然ルニ獨逸ト露西亞トノ關係ヲ見マスト「ブレストリンスク」
  講和條約ニ為テ-所謂單獨講和ニ於テ露西亞ハ後多ノ
  實利ヲ獨追ニ讓ッタ、併ナガラ獨逸ハ其時カラ露西亞ニ國
  家クル體面ヲ與ヘテ居ル、又民族自決ノ如キ高遠ナル理想
  ヲ其條約ノ中ニ會込ンデ居ルカラ、今日ニ至ルマデ獨露接
  近ノ障害トハナラナイデ、此兩國ハ飽迄手ヲ握っテ居ル、斯ノ
  如ク〓觀スルト、ドウシテモ露西亞人ノ主張スル希望ハ、國
  家トシテノ體面ト云フモノヲ承認シテ吳レト云フノデアルカ
  ラ、此名前ダケヲ與ヘテ、サウシテ彼等ノ政治家ノ面目ヲ立
  テシメ、而シテ露西亞ノ感情ヲ融和スルコトガ前提デアッテ、
  然ル後ニ幾多ノ具體的ノ經濟其他ノ關係ニ對スル條約ヲ
  締結スルノガ、日露外交ノ最モ要點デアルト私ハ確信スル
  者デアリマス、政府當局者ニ若シ本會議ニ於テ亦委員會ニ
  於テ衆明シテ居ラルヽガ如キ誠意ガアルナラバ、本案ノ通過
  ニハ御同意デアリ、又歡迎ノ意ヲ表セラルベキモノト私ハ思
  フ、賢明ナル政府當局者及與黨ノ諸君ハ今日露西亞ト接
  近スルノ有利ナルコトヲ皆知ッテ居ル、サリナガラ日本ノ政界
  ###いいどんだ
  ニハ樞密院、貴族院、其他ノ方面ニ妙ナ反動的分子ガ多
  イ、財界ノ一部ニモ大勢ヲ審ニセザル所ノ愚昧ナル
  勢力ガアル、是等ニ氣兼ネスル事ガ我國ト政治家
  ノヤリ損ヒノ原因ニナッテ居ル、此際ニ院議ヲ以テ此露西亞
  承認ノ議ヲ確定致シマスレバ、政府ノ政策ヲ遂行シ、其政
  策タルヤ世界ノ人道ニ和シ、世界ノ經濟ニ貢獻シ、同時ニ
  日本自ラ利スルト云フ立派ナ政策ヲ遂行スル間接射擊ニ
  ナルモノト私ハ確信スル、之ニ反對セラレル理由ハ毛頭ナイ
  モノト思フノデアリマス、吾々革新倶樂部ハ夙ニ政綱ノ中ニ
  此露西亞ヲ承認スルト同時ニ、露西亞及獨墺舊同盟國ヲ
  國際聯盟ニ加入セシムベシト云フコトヲ一ツノ政策トシテ
  發表シテ居ル、此決議ハ此政策ノ必然ノ發展ニ外ナラヌト
  思フ、ンコデ私共此決議案ノ必要ヲ主張スルニ先ダッテ、先
  ヅ吾々同志ノ立場ヲ表明スル必要ガアリマス、今日世ノ中
  ニ此露西亞問題ニ對スル議論ハ略、二ツノ潮流ニ分レテ
  居ルト思フ、第一ハ卽チ極端ナル反對論、是ハ思想上ヨリス
  ルモノデアリマス、所謂露西亞ト交通スレバ過激主義ノ侵
  入ガ恐シイ、露西亞ト接近スレバ日本ガ共產化スルカモ知
  レナイ、共産主義ノ露西亞ヲ承認スルト云フ事スラ我國ノ
  面目ニ關スル、之ガ露西亞承認反對者ノ議論デアル、モウ
  一ツハ何デアルカト云ヘバ、ソレハ眼前ノ小計ニ囚ハレタル
  對露接近論デアリマス、是ハ餘リニ手近イ小サイ利害ヨリス
  ルモノデアッテ、例ヘバ「メルニコフ」政權時代ニ日本ニ投資シ
  テ居ッタ利權ハドウシテ吳レル、「セミヨノフ」時代ニ投資シテ
  居ル金ハドウシテ吳レルカ、尼港事件ノ賠償金ハ遺族ニハド
  ンナ風ニ分ケテヤリタイ、之ニ就テ露西亞ト接近シナケレバ
  ナラヌト云フ調子ノモノデ、卑近ナル實利的ノ議論ガアリマ
  ス、商賣人ノ手先キノ議論デアリマス、國家ノ政策トシテハ
  採ラナイト思フ、卽チ一方ノ思想ヨリスル露西亞承認反對
  論ノ無意義ナルコトハ、〓日私ガ多ク說明セズトモ諸君ハ
  御分リニナッテ居ルダラウト思フ、卽チ現實ニ露西亞ヲ政治
  的ニ經濟的ニ取扱ハズシテ、空虛十思想論デ以テ之ヲ拒ム
  ナドト云フヤウナコトハ實ニ愚ナ話デアル、露西亞ハ決シテ
  日本ト接近シタトテ、日本ヲ過激化スル所ノ力ハナイ、思想
  ヲ恐レテ之ト交通シナイト云フコトハ無意義デアル、一體日
  本ノ傾向ヲ見マスト、思想的ニハ甚ダ幼穉デアッテ時ノ流行
  ニ動カサレ、右ニ左ニ變ル虞レガアル、何處ニ原因スルカト云
  ヘバ世界ノ現實ニ接觸セザル、世界ノ大勢ニ通暁セザル故、
  田舍者デアルカラ淺薄ノ思想ニ動カサレルモノト私ハ思フ
  (拍手)ガ故ニ彼等ト相接スルコトハ日本人ノ幼稚ナル思想
  ヲ鍛鍊スル上ニ於テ有效ナリト思フ(拍手)殊ニ共產主義
  ハ一時ニ非常ナ勢ヲ以テ列國ノ「プロレタリヤ」ニ謳歌セラレ
  マシタガ、勞農露國ノ失敗ト共ニ、此主義ニ對スル嚴正ナル批
  判ハ今旣ニ確立シテ居ルノデアル、英國ニ於テハ彼ノ國際
  聯盟ノ提唱者デアル「ロイドジオージ」ヨリモ一步進ンダル理
  想的ノ政治家「スマッツ」氏ノ如キハ、露西亞ノ革命ガ起リ
  マシタ時カラ此間ノ消息ヲ述ベテ居ル、彼ハ曰ク露西亞ト
  云フモノハ革命ヲ斷行シ、共產主義ヲ布イテ今ヤ此主義ノ
  實驗シテ居ル、「レイニン」ナル人傑ハ露西亞人ト其國土トヲ
  試驗管ノ中ニ入レテ共産主義ヲ實驗シテ居ルノデアル、外
  國カラ之ヲ干涉スル必要ハナイ、外カラ見テ居レバ宜イ、其
  實驗ニ於テ調ベタコトハ世界ノ學問上ニ貢獻スル、或ハ世
  界ノ理想家ハ是ガ實驗ニヨリテ目覺メシメラルヽデアラウト
  言ック、今ヤ其「スマッツ」氏ノ言ッタ通リ露西亞ニ於ケル實驗
  ハ、露西亞政府自ラ其失敗ナルコトヲ覺フテ、共產主義ハ漸
  次ニ改メラレテ居ルノデアル、露西亞ノ思想ハ成程過激デア
  リマシタデセウ、世界第一ノ專制國ニハ、世界第一ノ反抗思
  想ガアッタ、暴力政治ニ反抗スル所ノ思想ガアッタ、虐政ニ尖
  ラセラレタル露西亞人ノ神經ハ、彼ノ感化力多キ所ノ文學
  ヲ生ンダ、卽チ露西亞ノ文學ハ既ニ夙ニ日本ニ傳ヘラレテヽ
  今ヤ文壇ハ思想的革命ヲ遂ゲテ居ル、今度ハ如何ナル順序
  ニナルカト云ヘバ斯ノ如ク露西亞ガ變革ヲ爲シテ新ニ生レ
  テ來タ此現實ハ、果シテ如何ナルモノデアルカト云フコトヲ
  接觸シテ知ラシムル順序ニナッテ居ル、今度露西亞人ト交ッテ
  見ル「トルストイ」ヤ「ツルゲネフ」ノヤウナ人バカリカト云フト、
  サウデナイ、交クテ見ルト泥棒ノヤウナ者モ居ル、横著者モ居
  ル、嘘吐キモ居ル、是レト相接シテ見ルト露西亞ノ現實ハ如
  何ナルモノデアルカ、又大戰ヲ經過シ、革命ヲ經過シタル露
  西亞人ノ惱ミハ如何ナルモノデアルカト云フコトガ了解セラレ
  ル、乃チ露西亞ト交通スルコトハ一部ノ露西亞ヲ妄想的ニ尊
  敬シテ居ッタ人〓ニ對シテ幻滅ノ悲哀ヲ與ヘルモノト私ハ思フ、
  卽チ露西亞ニ接近スルコトガ我國ノ思想ヲ中正公明ニスル
  所以デアルト私ハ思フ、西伯利アタリノ露西亞人ト接近シ
  テ、日本ガ赤化スルナド云フガ如キハ實ニ愚ナ話デアル、西伯
  利アタリノ露國人ノ狀態ハ殆ド朝鮮ノ地方ノ農夫ト違ハナ
  イ、共產主義ノ信念ナド云フヤウナムヅカシイ事ガ解ラウ筈
  ハナイ、此露西亞トノ接近ガ日本ノ思想ヲ赤化スルモノナリ
  トシテ、之ニ反對スルガ如キハ朝鮮ヲ通過スルト朝鮮人ニ化セ
  ラルヽト云フノト異ラナイ、斯樣ノ論法デ行ケバ我國ハ鎖國
  ノ昔ニ返ラナケレバナラヌ、此樣ナ頑冥ナル思想ハナイ、露西
  亞ニ接近スレバ日本ノ經濟組織ガ破壞セラレ、彼ノ思想ノ
  爲ニ動カサルヽヤウナコトハ毛頭ナイト確信スル(拍手)又一面
  商賣人ヤ、投資家ノ利益ヲ代表シテ、三百万圓程投資シテ
  居ッタ金ハドウシテ吳レル、又是レ々々ノ利權ハドウシテ吳レ
  ル、山ヲ買フテ居ルガ、材木ヲ運ビ出スコトガ出來ナイガ、是ハ
  ドウスルノダ、コンナ議論ハ「ブルジヨア」ノヤルコトデアル、是
  モ結構デセウ、日本ノ愚ナル軍閥ハ種々資本家ヲ勸誘シテ
  西伯利ニ投資セシメタ、併モ之ガ保障ノ地位ニ立ッタ者ガ、
  露西亞カラ見レバ賣國奴ノ白軍政府デアル、ソレニ誤ラレテ
  金ヲ出シタ商賣人ハ可哀想ナモノデアル、是レハ保護シテ
  ヤァテ宜イ、又一面尾港事件ノ賠償金ハ露西亞カラ取レナ
  イ、ソコデ遺族ニ對シテハ政府ハ別ニ考ヘテヤッテ宜イト思
  フ、是等ノコトハ後ニ來ル問題デアル、極テ卑近ノ問題デア
  ル、之ヲ捉ヘテ露西亞ト談判スルコトハ、日本國民ノ體面ヲ
  思ハザル、實ニ小サイ商賣人ノ番頭ノ議論デアルト私ハ思フ
  (拍手)此二ツノ議論ニ超然トシテ吾々ハ日本ノ世界的政
  策、帝國ノ「ウオールド、ポリチツクス」ノ上カラ經濟的ニ、政治
  的ニ、此露西亞ト接觸スルコトノ必要ナルコトヲ私ハ斷定シ
  タイノデアル、卽チ吾々議論ハ大局カラ見タル所ノ實際論デ
  アリマス、本案ノ此議場ヲ通過スルコトヲ好マレナイ諸君ハ、
  反對ノ論據ナキガ故ニ、主義トシテハ結構デアルガ、實行ハ
  覺束ナイト言ハレルデセウ、併シサウヂヤナイ、主義ノ問題デハ
  ナイデス、此議論ハ實行トシテ意義義ルコトデアル、是程現
  實的ナ事ハ私ハナイト斷言シタイノデアル(拍手)ンコデ日本
  カラ見テ露西亞ト接近スルノ必要ナルヲ說クニ先ダツテ、私
  ハ一應世界的問題トシテノ露西亞ヲ解剖シタイト思フ、玆
  ニ私ガ說クマデモナク、露西亞ハ世界七分ノ一ノ領土ヲ
  占メ、一億七千万ノ人民ヲ包容シテ居ル、寒帶ヨリ熱帯ニ
  到ル處ノ土民ヲ有シテ居ル、此富源ヲ開拓シテ世界的經濟
  ノ流ト合流セシムルニアラザレバ、私ハ世界ノ經濟的政策ハ
  安定シナイト思フ、又一面此一億七千万ノ人ヲドウカシテ
  安息セシメ、飯ヲ食ハシメ、而シテ彼等ノ精力ヲ生產的ニ發
  揮セシメテ、世界ノ經濟ニ貢獻スル働キヲ爲サシメルコトガ
  世界入類ノ利益デアル、同時ニ露西亞ト境ヲ接シテ居ル日
  本ノ利益トスル所デアルト私ハ思フノデアリマス、此點ニ付
  テ列國共ニ同ジ意見ヲ持ッテ居ル、英、米、佛共ニ學者ヤ實
  行家ヲ派シテ随分〓究シテ居ル、新間紙ノ傳フル所ニ依リ
  マスレバ、最近ニ亞米利加ノ「ファーヴァト」ドカ「ポラー」トカ云
  フ經濟家ヤ、政治家モ露西亞ヲ訪問シテ是ガ事實〓究ニ從
  事スベキ狀態デアル、佛蘭西ノ如キ反動的ノ政府デスラモ、
  漸次ニ態度ヲ變ヘテ有力ナ人とガ露西亞ノ內情ヲ調ベヤ
  ウトシテ居ル、而シテ彼等ガ露西亞ヲ〓究シテ得タ結論ト
  云フモノハ、頗ル明白デアッテ既ニ一致シテ居ル、卽チ其結論
  ハドウデアルカト云ヘバ、露西亞政府ハ必ズ永續スル、革命
  政府ハ永續スルガ共產主義ハ漸次ニ變化スルト云フノガ彼
  等ノ結論デアリマス、其前途ヲ見越サナイ、國ハ何處ニモナ
  イ、結論バ同一デアリマスガ、各國各々ノ立場ニ依ッテ異レル
  政策ヲ執ッテ居ルト云フノガ今日ノ狀態デアリマス、ソコデ各
  國ヲ〓觀シマスト獨逸、波蘭、土耳古、彼斯、阿富汗、波羅
  的ノ三國、是等ハ既ニ露西亞ヲ承認シ對等ノ條約ヲ締結
  シテ居リマス、又英國、伊太利、瑞典、「チエツク」確力丁抹モ
  是等ハ皆通商條約若クハ半條約ヲ結ビ莫斯科ノ外交團ニ
  公然加ハッテ居リマス、亞米利加ハ救恤委員ノ手ヲ經テ種
  種露西亞ト直接ノ交涉ヲ經テ居リマス、最モ反動的ナル佛
  蘭西デスラモ波蘭ヲ通ジテ露西亞ト外交上ノ接觸ヲ怠クテ
  ハ居リマセヌ、此廣大ナル經濟的價値ヲ有スル露西亞ヲ無
  視スルコトノ出來ナイガ故ニ、列國共各〓立場ハ違ヒマスガ、
  何等カノ手段ヲ以テ接觸シテ居ルノガ今日ノ實情デアリマ
  ス、之ニ後レタ者ハ露西亞ト境ヲ接シ直接利害關係ヲ有ス
  ル日本デアルコトハ、本員ノ諸君ト共ニ慨嘆ニ堪ヘナイ所デ
  アルト申シタイ(拍手)殊ニ諸君モ御存ジデアリマセウガ、莫
  斯科ニハ中央購買組合、露西亞語デ「センツロソイズ」トカ
  申スサウデアリマス、此中央購買組合ハ露西亞ヲ認メタ諸
  國ニ其支部ヲ設ケテ居ル、貿易ノ紹介ヤ實行ヲ之ニ依ッテ
  爲シテ居ル、露西亞ヲ認メナイ國ニ向ッテハドウシテ此購買
  組合ヲ派出スルカト云へバ、英國ニ購買組合ノ支部ヲ置キ
  マシテ、英國法ニ依フテ倫敦ニ此支部ヲ設置シテ、倫敦ノ支
  部ノ又支部トシテ各地ニ此中央購買組合ノ派出所ヲ置イ
  テ居ル、例ヘパ哈爾賓ニモ上海ニモ英國法ニ依ッテ保護サ
  レ、英國領事ニ依シテ監督サレル「センツロソイズ」ガアル、我ガ
  横濱ニモ「センツロンイズ」ガアッタノデアルガ、日本ノ壓迫ニ
  依クテ潰サレタサウデアリマス、斯樣ニ各國共經濟的手段ヲ
  講ジテ露西亞ト段々接觸シテ居ル、サウシテ大體カラ見マシ
  テ、境ヲ接シテ居ル國ハ皆露西亞ヲ認メテ居ル、日本ハ獨身
  ノ立場ニ依シテ之ヲ承認シテモ宜ササウナモノデアル、併シ私
  ハ政府ヲ攻擊スルコトヲ好ミマセヌガ、日本ノ外交ハ何時モ
  英米ノ後塵ヲ拜シテ居ル、英國ト亞米利加ガ之ヲ承認シナイ
  爲ニ、日本ガ承認出來ナイト云フノガ其謂ハレデアラウト思フ
  併ナガラ英、米、佛ノ露西亞ニ對スル態度ト、日本ノ態度ハ
  別デナケレバナラヌ、卽チ國際關係ガ違フノデス、佛蘭西ハ
  露西亞ニ夥シキ借金ヲ貸シテ居ル、露西亞ハ專制時代ニ西
  伯利ニ發展スル際ニ、千八百九十一年、千八百九十二年、
  千八百九十四年ノ數回ニ亙ッテ莫大ナル金ヲ佛蘭西ヨリ
  借リ戰前ニ於テ通計セラレタルモノモ略〓日本ノ全ニシテ四
  十億圓以上ニ當ッテ居ル、ンコデ佛蘭西ト云フ國ハドウシテ
  モ、露西亞ニ對スル債權カラシテ關係ガ複雜デアリ、問題ガ
  面倒デアル、「ゼノア」會議ノ際ニ佛蘭西ハ此態度ヲ取タテ
  居ッタカラ、勞農露國ノ「チチエリン」氏ハ佛蘭西ノ全權ヲ
  罵ッテ、佛蘭西ノ全權ハ佛蘭西ノ代表デナクシテ佛蘭西ノ
  一千ノ債權者ノ代表者デアルカト言ッタサウデアリマス、成
  程コンナ關係デアルト私ハ思フ、英吉利モ莫大ナル債權ヲ
  持ッテ居ル、列國ノ露西亞ニ對スル債權ト云フモノヽ總計ハ
  略、二百億圓以上ニナルト云フノハ是ハ有各ナ「ケーレンス」
  氏ノ通計デアリマシテ、「ゼノア」會議デモ列國ハ之ヲ露西亞
  ニ要求シタノデアリマス、是ト比較スルト日本ノ露西亞ニ對
  スル債權ハ、只二億圓、其二億圓モ主トシテ政府ノモノデ
  アッテ、民間ノ關係ハ僅少デアル、斯ノ如ク露西亞ノ問題ヲ
  解決スルニハ易々タル立場ニアル日本ト、二百億ト云フ大債
  權ヲ持っテ居ル英、米、佛ト一〓ニナッテ、彼等ガ承認シナイ
  カラ仕方ガナイカラ、日本モ承認シナイト云フノハ、餘リ彼等
  ノ後塵ヲ拜シ、彼我ノ立場ヲ辨別セザルモノト斷セザルヲ得
  マセヌ、露西亞ト境ヲ接シ
  〔粕谷議長議長席ヲ退キ松田副議長代リ著席〕
  露西亞ト直接關係ヲ有シテ居ル國ハ露西亞ヲ承認シテ居
  リマス、弱イ國デモ之ヲ承認シテ居リマス、彼等獨自ノ立場
  ニ依シテ行動スルコトハ小國ト雖モ英、米、佛ハケ)ヲ咎メマセ
  ヌ、彼等ガ單獨ニ露西亞ヲ承認スルコトハ英、米、佛ニ對ス
  ル反逆デモ何デモナイカラデアル、小國スラヤル事デアリマシテ
  、日本/外務省ガオヤリニナッテモ、ンンナニ怖イ事デナイコト
  ヲ私ハ申上ゲテ置キマス、日本ハドウシテモ政治經濟的ニ一
  個獨自ノ立場ニ依ッテ彼ト接觸スルコトガ必要デアルト私
  ハ思フ、私ハ經濟的ニ日本ノ立場ガ如何ニ露西亞ト接近
  スルノ必要ニ迫ラレテ居ルカヲ簡單ニ說明シタイ、諸君、我
  國ガ此島大ノ地ニ據フテ今日程ノ產業的發達ヲ爲シマシタ
  ニ付テハ、隨分無理ナ點ガ多イ、是ニ於テカ必然生ジ來ルベ
  キ後多ノ難問題ニ遭遇シテ居リマス、是ハ日本ノ如キ小國
  家ガ產業ニ依テテ國ヲ建ッタトキニ、歷史的ニ見テモ必ズ遭
  過スベキ必然ノ運命ニ陷クテ居ルモノト思フ、小國ガ產業ヲ
  勃興セシメ、通商貿易ノ利益ヲ占ルヤウニナルト、之ニ隣シ
  タル大國ガ必ズ保護政策ニ依ッテ原料ヲ壁斷シ、市場ヲ閉
  鎖シテ之ヲ壓迫スル、是アルガ爲メ伊太利ノ都市國家ハ〓
  亡シタノデアリマス、次ニ起ッタ「ハンザ」同盟モ是ガ爲ニ漬レ
  タノデアリマス、英国モ同シ一度ハ運命ニ遭遇シマシタガ、
  彼ハ帝國主義的政策ニ依クテ全世界ニ植民地ヲ獲得シ、之
  ニ依ヶテ小国ノ透過スベキ悲慘ナル運命ヲ切拔ケタノハ事
  實デアリマス、今日日本ハ英國ヲ學ンデ帝國主義ノ政策ヲ
  執リ、植民地ヲ取ルト云フコトガ出來ナイ、出來ナケレバ同
  シ運命ニ居クテ漸次〓亡ノ道ヲ辿ッタ小國ノ跡ヲ追ハナケレ
  バナラヌカ、吾々ハ何トシテデモ生キナケレバナラヌ、生キルガ
  爲ニハ方法ヲ講ジナケレバナラス、現ニ〓期ノ議會ニ見マシ
  テモ其幅ミガ現レテ居ル、近來ノ議會ヲ輕蔑スルノハ社會
  一般ノ屋潮ニナッテ居リマスルガ、私如キ後輩ガ議會ノ大勢
  ヲ兒ルト、〓多感服スベキ事モ大分アリ、卽チ今度ノ議會ハ
  經濟的問題ガ中心ニナッテ居ル、大戰後ノ恐慌ニ依ヲテ商工
  業者ハ打撃ヲ象ッタガ、ンレハ彼等ノミノ被クタ單ナル打撃デ
  ナク、其次ニハ其苦痛ガ一層根强ク進シデ來マシテ、今日ハ
  農村到ル處ニ生存權ヲ主張センガ爲ニ、悲痛ナル叫ガ上っテ
  居ルコトハ事實デアリマス、是ニ於テカ本議會ニ於テハ經濟
  問題ガ中心ニナリ、地租、營業稅ノ地方委譲トカ、農村振
  興トカ、中央金庫法案トカ、其他幾多ノ法案ガ出テ來テ、
  農民ノ利益ヲ代表シテ居ラレル所ノ經驗アル諸君ガ、具體
  的ニ問題ヲ解決サレヤウトスル熱心ニ對シテ、私ハ敬服シ
  テ居ルノデアリマス、併シ更ニ高所カラ大觀致シマスルト、是
  等ノ問題ヲドウ〓究シタ所デ、要スルニ此日本ト云フ小サ
  ナ天地ニ賜請シテ居ッテハ、長屋ノ中ノ設備ヲ改善シテ電燈
  ヲドウシヤウトカ、瓦斯ヲドウスルトカ、湯殿ヲ輕便ニシヤウ
  トカ、臺所ヲドウ經濟的ニシヤウトカ云フ程度ノモノデ、是ダ
  ケデハ外ヨリ來ル所ノ生活難ニハ對抗スルコトハ出來ナイ
  ノデアリマス、寧ロ一家ノ主人公タル者ハ、斯ノ如キ問題モ
  必要デアルガ、外ニ活動シテ此經濟的設備ヲ國際的ニ按排
  スルト云フコトガ、私ハ今日ノ急務デハナイカト思フ、農村間
  題ハ今ヤ非常ニヤカマシイ。政府ノ委員ハ何カノ委員會デ
  農村生活ノ察乏セル理由ニ付テ質問ヲ受ケ、其根本原因
  ヲ叩カレタトキニ、ソレハ絣地ノ不足ガ根本原因デアルト簡
  單ニ述ベラレテ居ル、私ハ要領ヲ得タ答辯デアルト思フ、今
  日ノ農村ハドウシテモ現存スル農民ヲ養フダケノ經濟力ス
  ラモ持タズシテ、農家ノ子弟ト云フモノハ陸續トシテ中央都
  市ニ現ハレテ來ナクレバナラヌ、今日日本ノ農村ヲ〓觀致
  シマスト云フト、土地ノ割合ヨリモ人口ガ多イ、大勢ノ人ガ
  能率ヲ發揮シ得ズシテ農村ニ嚙リ付イテ居ルカラ農村生活
  ガ困難デアル、卽チ農村ノ人口ガモット少クテ、中央ノ商工
  業都市ニ於テ農民ノ子弟ヲ十分ニ吸收シ得テ、此商工業
  地ニ於ケル活動ガ世界的經濟ノ脈絡ノ中ニ解ケ込ンダ所
  ニ我ガ國民ノ經濟的生活ガ初メテ安定スルモノト私ハ斷定
  シタイ、今日農村問題ヲ議スルニモ、商工立國ノ方針ヲ講
  ズルニモ、ドウシテモ對外的活動ガ其前提トシテ必要デア
  ル、世界ノ原料ヲ吸收シ來。テ、玆ニ大製造工業ヲ起シ、其
  製造品ヲ世界ノ市場ニ向シテ供給スル、此政策ヲ樹立スルデ
  ナケレバ、日本ノ立場ハ無イト思フ、近年日本ノ靑年ガ元氣
  ヲ有シナイ、雄大ナル氣象ヲ有シナイト云ッテテ小言ヲ云フ
  先輩モ大分多イ、併ナガラ今日ノ農村ノ父兄ガ子供ヲ農村
  ニ置イテモ飯ガ食ヘヌ、其活路ヲ開拓セシメンガ爲ニ粒々辛
  苦シテ都會ニ遊學セシムル、都會デ學校ヲ卒業シテモ行キ
  所ガナイ、今月ノ如キ夥シイ専門學校、大學ノ卒業生ガア
  リマスガ、皆就職難ニナッテシマフ、是ヲドウシテ救濟スルカ、
  活動ノ天地ガ日本ニ無イカラ、靑年ガ就職難ニナル、卽チ商
  工業ノ大發展ヲ來シ、原料ヲ十分ニ供給シテ販路ヲ擴張
  シテ行ケバ、都市ニ於テ靑年ノ就職口ハ見出サルヽ、更ニ之
  ニ依ノテ農村モ亦繁榮スルコトハ大戰爭中ノ都市繁榮時代
  ニ、農村ニ於テ到ル處ニ成金ヲ生ジタニ依クテモ見ルコトガ
  出來ル、此見地カラシテモ吾々ハ露西亞ト接近スルノガ一
  番必要ト考ヘマス、支那モ必要デアリマスガ、支那ハ旣ニ原
  料生產時代ヲ通過シテ粗製工業時代ニ入リ、動モスレバ日
  本ノ工業ト對抗セントスル狀態ヲ呈シテ居ル、露西亞ノミハ
  マダ此時代ニ參クテ居ナイ、露西亞ノ現狀ヲ御覽ニナルト云
  フト、大革命以後產業ハ壞レテシマッタ、最近ニ於テ秩序ヲ
  立直シテ漸ク農業ガ勃與シ初メタガ、工業ハ全減ノ狀態デ
  アリマス、歷史的ニ見マスルト、世界ノ大戰爭ニ參加シテ其
  國ガ外カラ包圍ヲ受ケタトキニハ、卽チ大保護政策ヲ自ラ
  布イタト同ジ結果ヲ生ジマス、外ニ封鎖ヲ受ケルト自給自
  足ノ必要ニ迫ラレルノデ、若シ其國ガ工業的黎明期ニ達シ
  テ居ル図ナラバ、必ズ之ニ依ッテ工業的發展ヲ來スノハ必然
  デアリマス、彼ノ百年戰爭後ノ英國、獨立戰爭後ノ亞米利
  加、英米戰爭後ノ亞米利加、最近歐洲戰爭後ノ亞米利加
  ハ其適例デアリマス、卽チ是等ハ國々ハ大戰爭ノ間接ノ結
  果トシテ、保護政策ヲ行ッタト同樣ノ影響ヲ受ケ、工業ノ大
  發展ヲ來シタモノデアリマス、然ルニ露西亞ハマダ工業ノ黎
  明期ニ達シテ居ナイ、其ノ證據ニハ此戰爭ノ後ニ依然トシテ
  商工業ハ起ラナイデ、農業ノミガ復活シヤウトシテ居ル、諸
  君モ御存知ノ通リニ、最近ノ露西亞ノ像算ヲ見テモ、工業
  〓育ノ豫算ハ削減セラレテ、農業〓育ノ方ニ振向ケラレテ
  居ル、又今年ノ八月ニ聞カルベキ莫斯科ノ博覽會ニモ、農
  業製作品ノ陳列ガ主ナルモノニナッテ居ル、總テノ形勢ヲ見
  マシテモ、露西亞ハ是カラ後ドウシテモ農業ニ依リテ第一ニ
  活路ヲ得テ、稍、、經濟ヲ回復シテ來タ所デ、列國ノ資本ヲ入
  レテ工業ヲ囘復スル、卽チ農村ガ稍、經濟力ヲ回復スレバ、
  購買力ガ出來テ外國ノ製品ヲ買込ム、輕便鐵道モ架ケナ
  ケレバナラヌ、農具モ買込マネバナラヌ、更ニ地方ノ交通ガ完
  備スレバ幹線ノ交通モ良クシナケレバナラヌ、獨逸ノ「クルツ
  プ」會社カラ月々ニ三十五臺以上ノ機關車ヲ供給シテ居ル
  ト云フ報告ハ、夙ニ世間ニ傳ヘラレタ所デアリマス、斯ノ如
  キ狀態デ段々農業ガ勃與シテ來ル、ソコデ農作物ヲ其他ノ
  原料ト共ニ外國ニ輸出シ、漸次ニ經濟的ニ力ヲ養ッテ、總テ
  工業物典ノ機運ヲ誘ノガ露西亞復活ノ當然ノ經路デア
  ルヤウデアリマス、又露西亞ガ原料國ヨリ工業國ニ變ハル
  ニハ、是カラ五十年ヲ要スルト云フ學者ノ推定ハ、大體要
  領ヲ得テ居ルヤウデアリマス、卽チ日本ノ如キ工業國デアッテ、
  原料ナリ市場ナキモノト、原料ト市場ノ有餘ヲク所ノ〓西
  亞ト相携フルコトハ、經濟上ノ原則ニ適ッタモノト私ハ確信
  スルモノデアリマス、今日ノ日本國民生活ノ根本的活路ヲ
  開拓スル爲ニモ、露西亞ノ如キ原料國ト手ヲ携ヘルコトハ
  喫緊ノ急務デアルト私ハ經濟的ニ斷定スルノデアリマス、又
  內田外務大臣ハ望月小太郎君トノ質問應答ノ際ニ、露西
  亞ガ私有財產權ヲ認メナイカラマダ、是ガ承認ハ出來ナイ、
  通商貿易ヨリ承認ガ先キダガ、私有財產權ヲ認メヌカラド
  ウスル事モ出來ヌ、是ガ決マラナケレバ通商モ貿易モ出來ハ
  シナイト斯ウ言ッテ居ラレル、內田外務大臣ハ外交ノ責任ニ
  任ジテ居ラルヽカラシテ、彼ノ露西亞ニ旣ニ行ハレテ居ル、卽チ
  千九百二十一年三月十七日ニ發表セラレタル所ノ露西亞
  ノ新經済政策「ニユー、エコノミツク、ポリシー」ハ御存ジト思
  フ、此「ニユー、エコノミック、ポリシイ」ノ頭文字三字ヲ取ッテ
  列國ハ之ヲ「ネツプ」ト稱シ、今ヤ其評判ハ大變ナモノデアル、
  其新經済政策ノ要項ハ全部デ九箇條ヨリ成ッテ居リマスガ
  其規定ニ依ルト農業ハドウ云フコトニナッテ居ルカト云
  フニ、土地ヨリ收穫スル所ノ三分ノ一ヲ納メサヘスレバ、
  三分ノ二ハ私有シテ宜イコトニナッテ居ル、卽チ事實
  ニ於ケル土地ノ所有權ハ農民ニ與ヘラレテ居ルト同
  樣デアル、商業ハドウナッテ居ルカ、最初共產主義ノ
  革命ヲ行ッタトキニハ、經濟物資供給委員會、卽チ物資ヲ供
  給スル委員會デアッテ、一切ノ商賣ヲ禁ジテ居ッタ、然ルニ之
  ヲ取拂ッテ内地ノ商業ハ新ニ許可セラレテ居リマス、モウ
  ツ共產主義ニ向ッテ資本主義ガ相接觸スルノニ最モ面倒ト
  言ハルヽ所ノ賃銀制度モ既ニ復活セシメラレテ居ル、内田
  外務大臣ハ「ネツプ」卽チ新經済政策ハ御存ジデアルト思
  フ、是許リデハアリマセヌ、昨年ノ十月二十五日二ハ露西亞ノ
  中央「ソビエト」執行委員會デハ、民法商法ノ一部ヲ改正
  シテ、所有權ヲ旣ニ認メテ居リマス、財產ノ私有權ヲ認メテ
  居リマス、外國貿易ニモ個人ガ參與シテ宜イト云フコトヲ是
  亦認メテ居リマス、露西亞ハ今日ハ共產主義ノ暗闇デハア
  リマセヌ、旣ニ國立銀行モアリ都市ノ家屋ノ如キハ木造ハ
  三十五年間ノ私有ヲ許シ、石造モ四十九年間ノ私有ヲ許
  シテ居ル、面モソレダケノ年限デハナイ、年限ガ來タナラバ又
  延長シテモ宜イト云フコトニナッテ居ル、啻ニソレダケニ止マ
  ラズ、外資ヲ輸入スル所ノ十分ノ保證ヲ與ヘテ居ル、是等ノ
  事實ヲ考へ合スレバ、私有財產ヲ認メナイ露西亞ト交通ス
  ルコトハ出來ナイト云フコトハ、全ク無意味ノ議論デアリマ
  ス、御覽ナサイ、千九百二十一年ノ十一月二十三日、中央
  執行委員會ハ外國財團ニ對スル富源提供ニ關スル布告ヲ
  出シテ居ル、此內容ハ極テ簡單デ六箇條ヨリ成ッテ居リマス
  ガ、御參考ニナルト思ヒマスカラ、失禮ヲ顧ミズ一寸讀上ゲ
  マス、卽チ第一條ハ投資報償契約ノ定ムル限度ニ於テ生產
  物ヲ上納シ、殘餘ハ是ガ輸出ヲ許可ス、第二ハ投資者ガ大
  規模ノ生產手段ヲ使用スル場合ニ於テハ、商業上ノ特權ヲ
  與フ、第三、投資ノ性質及條件ニ依リテハ長期間、三十六
  箇年間ノ「コンセッシヨン」ヲ與フベク、之ニ使用スベキ技術的
  手段ニ對シ、完全ナル保障ヲ與ヘ、總テノ危險ヲ防止スベ
  シ、第四、企業ニ使用セラルヽ財產ハ、國有トセラレ、又ハ沒
  收後發セラルヽコトナキヲ保障ス、第五、投資者ハ露國勞働
  者ニ對シ其地方ノ勞働法ニ基クカ、又ハ特別ナル私的協定
  ニ依ル報酬ヲ與フルノ權利ヲ有スベシ、第六、勞農政府ハ布
  告又ハ特別ノ命令ヲ以テ當初ノ投資條件ヲ變更セザルコ
  トヲ保障ス、卽チ露西亞ハ資本主義ノ國ト多大ノ妥協ヲ遂
  ゲ、投資ノ安全ヲ保障シ、後日ニ法律命令ヲ以テ此權利ヲ
  無視スルコトハナイト云フコトヲ明言シテ居ル、是等ヲ御覽
  ニナルト、露西亞ノ政府ハ共產主義ノ政府デアルガ、幾多ノ
  除外例ヲ認メテ、事實上ニ於テ私有財産ノ安全ヲ認メテ居
  ルト云フコトハ、内田外相モ御承認ニナッテ宜イト思ヒマス、
  露西亞ハ〓日農業國トシテ徐々トシテ恢復シテ居ルガ、是
  デハ、足ラヌノデ外國ノ資本ガ要ル、外國ノ資本ヲ求メテ富
  源ヲ聞發スル、富源ヲ開發シテ原料ヲ輸出スル、是デ活キ上
  リタイ、是ガ爲ニ列國ニ對シテ是ダケノ條伴ヲ明示シテ、列
  國ノ資本ヲ歡迎シヤウトシテ居ルノデアリマス、卽チ私ハ露
  西亞ガ私有財產制度ヲ認メナイカラ、事ヲ承認スルコトハ
  出來ナイト云フ當局者ノ議論ノ全然根據ナキヲ斷定シタイ
  ノデアリマス、是ダケガ日本ガ露西亞ニ對シ經濟的ニ結ブノ
  有利ナル理由デアリ、又結ブニモ危險ガ餘程少クナッテ居ル
  コトノ說明デアリマス、隨テ露西亞ヲ永認シテ、然ル後ニ幾
  多末節ノ實際問題ヲ協定スベキ時期ニ達シテ居ルト云フ議
  論ノ大要デアリマス、更ニ政治的ニ見テモ日本ハ露西亞ト
  接近スルコトハ最モ必要デアッテ、是ハ歷史ノ證明スル所デ
  アルガ故ニ、玆ニ一言ヲ加ヘタイ、諸君、御存知ノ通リ舊露
  西亞ハ帝國主義ノ政策ヲ執ッテ東洋ニ臨ンダ、之ニ對シ我
  國ハ有色人種、極東ノ諸民族ヲ代表シテ敢テ戰端ヲ開始
  シタ、是ト戰クテ此强大ナル路西亞ニ一撃ヲ加へタコトハ、大
  和民族ノ傳統的ノ誇トシテ諸君ノ記憶セラルヽ所デ、アル、
  併ナガラ勝チマスルト共ニ、我國ハ大和民族獨特ノ美シキ
  性情ヲ發揮シタ、乃チ誥君ト諸君ノ先輩トハ戰ニ勝ッタ後ニ
  露西亞ヲ虐メナカック、戰勝國タル日本ハ露西亞ニ對シテハ
  寛大ニシテ同情アル政策ヲ執リ始メタ、此點ニ於テ私ハ歐
  羅巴列國ヨリモ、日本人ノ性情ハ先天的ニ優フテ居ルト思
  フ、大戰爭ノ終了後今日ニ到ルマデ、獨逸ヤ露西亞ヲ虐メ
  上ゲテ、歐羅巴ニ血腥イ風ヲ吹カセテ、自ラ其禍亂ヲ被ッテ
  居ル歐羅巴人ヨリハ、敢テ露西亞ヲ一撃シタ後ニ寛大ナル
  政策ニ依クテ結ンダル諸君及諸君ノ先輩ノ政策ハ、大成功
  デアッタト思フ、卽チ戰後ニ露西亞ヲ虐メナカッタ結果トシテ
  日露ノ握手ガ出來タ、是アルガ故ニ日本ハ利益ヲ受ケタ、極
  東ニ向ノテ來ル第三國ノ經濟的侵略ニ對シテ、是デ對抗ス
  ルコトガ出來タ、露西亞ト日本ト感情ヲ融和シテ居ッタガ爲
  ニ、彼ノ亞米利加例カラ所謂「ノックス」ノ滿洲鐵道中立ノ
  提議ナド持出シタトキニ、露西亞ト日本ノ協力ニ依ヶテ之ヲ
  斥ケルコトガ出來タ、又日本ノ滿洲鐵道ニ競爭センガ爲メ、
  錦州愛琿間ニ鐵道ヲ敷設セントスル、所謂錦愛鐵道ナルモ
  ノハ英米ノ資本ニ依シテ試ミラレタガ、此時ニモ日露ノ握手ハ
  之ヲ斥ケルコトガ出來タ、東洋ニ於テ露西亞亞握手シタル日
  本ハ極束ノ權威デアッタ、日露相握手スルガ故ニ日本ノ立場
  ガ鞏固デアル、此力ガアッタカラ英吉利ハ日英同盟ヲ繼續シ
  テ居ッタ、露西亞ヲ失ヒ、大陸トノ連續ヲ失ッタ日本ガ、今日
  如何ニ孤影寂然デアルカト云フコトハ、諸君ト當局者ト十
  分ニ知悉セライヽ所デアルト思フ、又日本ノ事バカリ言ッテモ
  露西亞ノ事モ考ヘテヤラナケレバ問題ニナラヌ、露西亞カラ
  言シテモ日本ト握手スレパ彼等ノ利益デアル、日露戰爭以前
  ノ露西亞ハ世界ヲ震駸セシムル大勢力デアッタ、然ルニ此舊
  (西西亞帝國ハ日本ト戰シタ故ニ滅亡ノ途ヲ辿リ始メタ、露
  西亞ノ有名ナル「アレキチンスキー」ト云フ著者ハ、日露戰爭
  ガ舊露西亞亡滅ノ原因デアルコトヲ詳シク論斷シテ居ル、卽
  チ舊帝國露西亞ハ獨逸ノ「カイゼル」ナドニ煽テラレテ日本
  ト戰クタ、此日露戰爭ノ種ヲ蒔イタ「ウイッテ」外交ハ露西亞
  ノ爲ニ大失敗デアッタ、極束侵略ノ外交ハ「ウイ,テ」外交ノ大
  失敗デアッタ、彼ガ日本ト戰テテ日本海ノ海戰ニ負ケ、奉天ノ
  戰ニ負ケルト、今マデ煽動シテ居シタ獨逸ハ露西亞ニ向キ直ッテ
  國境關稅ノ改訂ヲ迫クタ、露西亞ハ戰敗デ困フテ居ル所へ獨獨
  逸カラ難題ヲ持掛ケラレ、已ムヲ得ズ讓步シテ不利ナル關稅
  改訂ヲ爲シタル結果、年々五千万圓以上ノ損失ヲ招イタ、
  又東洋ニ於テ日本ニ負ケタル露西亞ハ、阿富汗ヤ、印度ヤ、
  波斯ノ方面ニ於テ英吉利トノ交渉ニ大屈辱的條件ニ從ハナ
  ケレバナラナカッタ、斯クテ日露戰役以後ノ露西亞帝國ハ徐々
  ニ滅亡ノ道ヲ步イタト云フコトハ諸君御承知ノ通リデアル、
  日露兩國ハ相合シテ利益ヲ得、相背イテ兩國ノ損失トナル
  ノデアル、最近ノ大勢ハ此狀態ヲ何所マデモ證明シテ居ル、
  革命露西亞ハドウデス、露西亞ノ現當局者ハ階級爭鬪ノ
  「モットー」ニ依ッテ大革命ヲ斷行シタガ、貧民ヲ代表スル政
  治家ガ一タピ革命ノ首腦トナッテ政府ヲ握レバ、今度ハ全露
  西亞民族ヲ團結シテ國際的ニ虐ゲラレタル者ト手ヲ携ヘ、
  強大ナル國ニノ専制ニ對抗スルト云フコトガ勞農露西亞ノ
  最近ノ政策デアリマス、卽チ此見地ヨリシテ露西亞ハ獨逸
  ト手ヲ握リ、獨逸ハ率先シテ露西亞ト握手ヲシタ、「ゼノア」
  會議進行中「ラツパロ」ニ於ケル獨逸ト露西亞トノ握手ガ成
  功シ「チチエリン」ガ萬丈ノ氣焔ヲ吐キタルトキ二ハ、流石ノ
  英國ノ「ロイドジオージ」モ獨逸ト露西亞ノ握手ニ依シテ、歐
  羅巴ノ外交界ハ二分セラレルト言っテ悲〓ヲ揚ゲテ居ル、其後
  歐洲ノ外交ハ二分ドコロか四分五裂シ、此間唯〓獨露ノ提携
  ノミ飽迄固イト云フ狀態ニナッテ居ルノデアリマス、露西亞ハ
  虐ゲラレタル獨逸、窮乏セル獨逸ト互ニ手ヲ握ッテ臥薪嘗膽
  シ、苦シキ者ガ相携ヘテ此境遇ヲ開拓セントスル政策ニ出タ
  ノデアル、更ニ諸君ト吾々ト共ニ痛快ニ感ゼラルヽノハモウ
  一ツノ出來事デアル、諸君御覽ナサイ、彼ノ將ニ滅亡セント
  スル土耳古ヨリ「ケマルパシヤ」ナル一靑年ガ弦月旗ヲ提ゲテ
  起ッタルトキニ、英吉利ノ「ロイドジオージ」モ是ガ爲ニ巴爾幹
  ノ外交ニ蹉跌シ、「ロイドジオージ」ハ內閣ヲ辷リ落チナケレバ
  ナラヌ狀態ニ立至ッ夕、此土耳古ノ背面ニハ何ノ力ガアルカ
  ト言ヘバ露西亞ノ力ガアル、露西亞ハ更ニ波斯、阿富汗、
  埃及、印度方面ノ虐ゲラレタル諸民族ト亞細亞民族トノ間
  ニ氣息ヲ通ジテ、自ラノ活路ヲ開拓セントシツヽアル、世界
  中ノ白人國デ最モ人種的偏見無キ者ハ露西亞人デアル、
  日本人ハ世界ノ有ユル所ニ於テ排斥ヲ被ッテ居リマスガ、今
  日襟懷ヲ披イテ日本人ヲ迎ヘントスルモノハ僅ニ露西亞ノ
  一國ノミデアリマス、彼ノ迎フル所我レ拒絕スル理由ハ毛頭
  ナイ、吾々ハ此際獨逸ト露西亞ト同盟シテ英米ニ當ルト云
  フ政策ヲ講ズルト云フノデハナイ、左樣ナ議論デハナイ、唯〓
  斯ノ如ク世界的ニ波ヲ打タセツヽアル露西亞ノ前途向フ所
  ヲ見破シテ、此露西亞ノ窮境ヨリ脫セントスル努力ニ同情
  シ、此同情シタル結果世界ニ虐ゲラレタル民族ガ一步デモ
  開放セラルヽコトガ、國際的無產者ノ立場ニ在ル日本人ノ
  活路ニ一點光明ヲ授ケル所以デアルト私ハ思ヒマス、日本人
  ハ必シモ英米ノ外交ニ追隨スル必要ガ無イ、內田外相ハ英米
  ト步調ヲ揃ヘルコトガ日本ノ外交ニ必要デアルト言ハレテ居ル、
  併ナガラ我國ハ必シモ英米ト總テニ亙ッテ步調ヲ共ニスル必
  要ヲ見ナイ、何トナレバ英米ト日本トノ對露外交ハ、初カラ
  別ニナッテ居ル、諸君御存ジデハナイカ、日本ハ英米ト西伯利
  ニ協調出兵ヲ爲シタノデアルガ、亞米利加ハ其必要ガナイト
  見ルヤ直ニ單獨撤兵シ、日本一人ニ置イテケボリヲ喰ラハシ
  タノデアル、我國ノ當局者モ接壤ノ地ニアルカラ外國ト關係ガ
  違フト言ウテ、協調以上ニ七万五千ノ大兵ヲ出シタデハナ
  イカ、其大兵ヲ最近ニ至ルマデ露西亞ニ駐メテ置イテ、列國
  トハ立場ガ違フト揚言】シタデナイカ、斯ノ如ク我國ハ列
  國ト協調セザル外交ヲ執ッテ居ル、惡イ事ハ[協調ヲ破クテ勝
  手ニヤッテ置イテ、善イ事ハ列國ガヤル迄率先シテハヤラヌト
  云フナラバソレハ列國ト共ニ惡イ事ダケヲ一〓ニシヤウト云
  フ事ニナル、コンナ馬鹿氣タ外交ハアルモノデナイト私ハ思
  フ、我々ノ主張ハ是迄日本ノ帝國主義的外交トシテ非
  難シテ居ルモノヲ、一變シテ經濟的ニ平和的ニ貢獻
  スル新ナル外交方針ニ踏込ム所ノ第一歩デアルト信ズルノ
  デアル、斯ノ如キ信念ノ下ニ露西亞ノ承認ヲ主張シタイ、最
  後ニ簡單ニ是ヨリ生ズル實行問題ニ付テ諸君ニ御諮リヲ
  シタイ、露西亞承認ト共ニ如何ナル事ガ起ッテ來ルカト云ヘ
  バ、此樺太ノ撤兵デアリマセウガ、私ハ御氣ノ毒デアリマス
  ガ、諸君ノ前デ第一ニ俗論ヲ排シテ明言スル、北樺太ハ卽
  時無條件デ撤兵ヲスルニ非ザレバ、帝國ノ外交ハ退クモ進
  ムモ出來ヌコトニ至ルコトヲ斷言致シマス、北樟太ハ尼港事
  件ノ慘劇ニ對スル補償占領ト言ハレテ居ル、併ナガラ是モ
  私ハ大膽ニ申上ゲル、是ハ陸軍當局者モ御聽ニナッテ宜シ
  イ「ニコライウスク」ノ慘劇ハ日本ノ陸軍ノ命令ガ出兵中ニ
  朝令暮改セシヨリ起リマシタ所ノ、我ガ警備區域內ノ出來
  事デアリマス、其責任ハ無論我ガ陸軍當局ニ在ル、當時我
  國軍閥ノ頭目ハ安價ナル宣傳家ニ入レ智慧シテ此尼港事
  件ノ怨ヲ晴ラス爲ニ、露西亞人ノ肉ヲ啖ハザルベカラズト公
  言シタ、而シ吾々ハ之ニ就テ露西亞人ノ肉デナク責任者タ
  ル軍事當局ノ肉ヲ啖ハナケレバナラヌ、何トシテモ尼港事
  件ハ陸軍軍事當局者ノ一大失敗デアル、英吉利ノ如キハ
  「ダーダネルス」ノ戰敗ニ對シテ其責任ヲ問ハンガ爲ニ、議會
  ニ於テ委員會ヲ設ケテ之ヲ調査シ、軍務當局者ノ責任ヲ看
  過シナカッタ、本員ハ帝國軍人ハ功名アレバ必ズ酬イラルヽ
  ガ、斯ノ如キ大失敗ヲ來シタトキニハ十分ニ糺彈セラレネバ
  ナラヌモノト思フ、尼港慘劇ヲ被ッ夕遺族ニ對シテハ、我ガ政
  府カラ適當ナ慰藉方法ヲ講ズベキモノデアッテ、之ヲ露西亞
  ヨリ取ルコトハ全然出來ナイ事デアルト云フコトヲ私ハ斷言
  シタイ、斯ノ如ク論ジマスレバ、【、【露西亞ニ對シテ何モ彼モ讓
  步シテシマフノカト云へバ決シテサウデハナイ、吾々ハ露西亞
  ノ面目ヲ立テヽ之ヲ承認シ、對等ノ立場ニ依ッテ兩國ガ相
  立チ、過去ノ問題ノ一切ヲ棒引ニシテ、將來有利ナル條件
  ヲ互ニ協定スルコトガ、日露外交ノ前提デナケレバナラヌト
  思ヒマス(拍手)卽チ之ニ依ッテ立チマスレバ、沿海州ノ利害問
  題モ按排セラレ、北樺太ニ向ッテ亞米利加ガ擅ニ利源ヲ獲
  得スルコトナドハ、日露ノ了解ト日本外交ノ權威トニ依ッテ
  十分付ケルコトガ出來ルト思フ、卽チ露西亞ヲ對等ノ國家
  トシテ承認シ、是ト手ヲ携へテ十分了解ヲ得タル後ニ、諸種
  ノ實利的問題ヲ考究スベキモノデアル、場合ニ依テテハ北樺太
  ノ如キハ日本カラ相當ノ全ヲ出シテ買改スルコトモ不可能
  デナイ、卽チ我國ハ無理ナル政策ヲ以テ立チ、今ニ米國アタ
  リニ叩カレテ恥ヲ曝シナガラ、實際ノ利益ヲ失フヨリハ、帝
  國ノ利益ヲ考慮シテ此露西亞ヲ承認シ、此窮地ニアル露西
  亞ヲ世界ニ紹介シテヤッテ、國際聯盟ノ中ニ加ヘルコトガ此
  露西亞民族ノ活路ヲ開クト共ニ、日木民族ノ利益開拓ノ
  爲ニ宜イ事ト確信シマス、是ガ我々ノ露西亞承認ノ決議ヲ
  提出スル理由デアリマス、病中デアリ】マシテ氣力衰へ、甚タ
  徹底致シマセヌ、御〓聽ヲ煩ハシマシタコトヲ感謝シマス(拍
  き)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=78

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• 079・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　決議案ニ對シテ政府ニ質疑ガア
  リマス、此場合之ヲ許シマス、田中武雄君
  〔田中武雄君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=79

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• 080・田中武雄

  ○田中武雄君　私ハ此場合只今中野君ニ依シテ說明セラ
  レマシタ決議案ヲ根柢ト致ジマシテ、五ツノ質問ヲ政府ニ
  向ッテ致シタイト考ヘル者デアリマス、ソレニ先ダッテ申上グテ
  置キマスガ、憲政會ハ此問題ヲ自由問題ト致シマシタ、自由
  問題ト致サレマシタル自由ノ立場カラ質問致ス者デアリマ
  ス、第一ハ此今中。野君ニ依ッテ說明セラレマシタル如ク承認
  ト云フコトガ日露ノ國交囘復及將來ニ對スル前提デアルト
  云フ意見ニハ、私ハ賛成ヲ表スル者デアリマス、日路兩國ノ
  立場カラ考ヘマシテモ、或ハ東亞ノ平和ヲ維持スルト云フ上
  カラ考ヘマシテモ、或ハ歐洲列國對露西亞ト云フ關係カラ
  見マシテモ、世界ノ外交界ノ大局カラ見マシテモ、日本ガ此
  場合露西亞ヲ承認スルト云フコトハ、最モ有意義ナル世界
  的ノ解決ヲ付ケル方法ト信ズルノデアリマス、一體國民ハサ
  ウデモアリマセヌデシタガ、當局者ハ露西亞ヲ化物屋敷ノ如
  ク考ヘテ、是ガ爲ニ數年ヲ費サレ、其數年ノ間ニハ數億圓ノ
  金ヲ費サレ、サウシテ又數千人ノ人命ヲ失ッテ、サウシテ進ム
  コトモ退クコトモ出來ナクナッテ居ルヤウナ現狀ニ對シマシテ、
  本案ノ如キハ實ニ航海中ニ羅針盤ヲ失ッテ居ル、楫ヲ失ッテ
  居ル所ノ船長ニ、其方角ヲ知ラス羅針盤ヲ與ヘ、サウシテ楫
  ヲ與ヘルヤウナ感ヲ以テ私ハ本案ニ向ッテ居ル者デアリマス
  (拍手)サウシテ此際政府ニ御伺シタイコトハ、過去ノ經緯
  デアルトカ何トカ云フコトヲ腹ニ持ッテ居ナガラ、奇麗十顏ヲ
  シテ雙方失敗ヲ隠シテ手ヲ握ラウト思ッテモ、ンレハ不成功
  デアル、是ガ大連會議ノ失敗デアル、是ガ長春會議ノ決裂ノ
  原因デアルト私ハ信ズル者デゴザイマスルガ政府ハ承認スル
  ト云フコトガ前提デアッテ、通商ト云フコトハ次ニ來ルベキ問
  題ナリヤ又通商ト云フコトヽ承認ト云フコトガ同時ニ行フ
  ベキモノナリヤ、又通商ヲ先ニシ承認ヲ後ニスルヲ正當トス
  ルト考ヘラルヽヤ、是ガ私ノ第一問デゴザイマス、ソレカラ只ハ今
  中野君ニ依フテ是モ說明セラレマシタガ、勞農政府ハ現在ニ
  於テハ或ル程度ノ私有財產ヲ認メテ居リマス、先日來內田
  外務大臣ノ說明ニ依リマスルト、此私有財產ヲ認メナイ認
  メルト云フ點ニ依シテ、此通商ト云フコトモ考慮シテ居ル、斯
  ウ云フ御話デアリマシタガ、政府ハ露西亞ガ全然私有財產
  ヲ認メナケレバ、通商モ承認モシナイモノデアルカ、是ガ第二
  問デゴザイマス-時間ガゴザイマセヌカラ簡單ニ申シマスル
  ガ、第三ハ歐洲ノ諸國ハ露西亞ニ對シマシテハ、日本ニ對ス
  ル經濟關係トハ全然異,タル所ノ關係ヲ持ッテ居ル、卽チ今
  中野君ノ數トハ若干違フカ知レマセヌガ、私ノ調ベタル所ニ
  依リマスレバ、米國ハ十六億圓ノ貸付ガアリ、英國ハ六十
  三億圓、佛國ハ七十億圓ノ債權ヲ持ヲテ居ルニ對シテ、我ノ
  債權ナルモノハ一切合切ヲ合セマシテ確カ三億圓ニ足ラナ
  イモノデアルト考ヘテ居リマス、此立場カラ考へマシテモ我ガ
  經濟的ノ立場ト云フモノハ、歐洲諸國ノソレノ如ク日本ニ
  於テ之ヲ同等ニ考ヘルコトハ、甚ダ問題ダト考へルノデゴザ
  イマスガ、歐洲諸國ハ經濟的ノ關係ヨリ其承認ヲ考慮シテ
  居ルヤウニ私ハ思フノデアリマスガ、我國ハ同樣ノ考ヲ以テ
  經濟的ニハ如何ニ之ヲ考慮シテ居ルカト云フコトヲ御伺シ
  タイノガ其次ノ問題デアリマス、次ハ此露西亞ト云フ所ノ問
  題ガ相對的ノ意味カラシテ日本對露西亞、或ハ日本對西
  伯利、或ハ歐洲對露西亞、又露西亞ノ政體ノ變遷、革命、動
  亂、斯ウ云フ風ナコトガ遠慮ナク世界ノ舞臺ニ曝ケ出サレマ
  シテ以來ハ、確ニ日本ノ思想界ニモ相當ニ衝動ヲ與ヘテ居
  リマス、併シ此過激派ノ思想、所謂中央勞農政府ノ持フテ
  居ル思想ノ如キハ、遠慮ナク我國ニ這入ッテ來テ居ルト云フ
  コトモ亦私ハ認メルノデアリマス、如何ニ銃劍デ以テ之ヲ防
  ガウト思ッテモ、思想ハ決シテ遠慮ヲセズニドシノしト這入ッテ
  來テ居ルモノト私ハ信ズル者デアリマス、又露西亞ニ限リマ
  セヌ、英吉利ニ於ケル所ノ思想、其他ノ諸國ニ於ケル所ノ新
  思想ト云フモノガドン〓〓這入ッテ參リマシテ、斯ル思想ニ對
  スル所ノ反動的思想、卽チ外國思想ガ這入ッテ來ルト、此外
  國思想ニ對抗シテ往カウト云フ思想ガ玆ニ起キテ居ル、此
  反動思想ノ首唱者ト云フモノヽロカラ、我ガ國體ハ外國思
  想ニ依ッテ紊サレテ居ルカラ、我ハ我ノ固有ノ思想、所謂國
  粹ノ思想ヲ以テ直ニ日本ヲ擁護シナケレバナラヌト云フ所
  へ思想ガ起キハノハ、是ハ私ハ當然ト思フ、サウシテ此思想ノ起
  キタ其思想ノ出所ハ、此人達ガ唱フルコトハ主トシテ皇室中
  心主義ヲ高唱スルモノデアリマシテ、此點ニ對シマシテハ私モ
  全ク同意デゴザイマスルガ、此人達ノスル態度ハ思想ニ對ス
  ルニハ思想ヲ以テセズ、思想ヲ以テセズシテ思想ニ對スルニ
  力ヲ以テ此思想ニ對シテ來ヤウト云フノガ、是ガ日本ノ只
  今ノ思想界ニ於ケル憂フベキ現象ノ一ト私ハ信ズルノデア
  リマス、サウシテ其皇室中心主義ト云フガ如キ儼トシタル所ノ
  思想ヲ、一ツノ城廓ノ中ニ入レテ、段々段々ト小サイ所ノ城廓
  ニ入レテ後退サリヲシテ、小ザク小サクスルヤウナ傾向ハ甚ダ
  遺憾デアル、是ダケ皇室中心主義ニ自信ガアルナラバ、其皇
  室中心主義ノ思想ヲ曝ヶ出シテ、サウシテ過激思想來ルベ
  シ、如何ナル思想モ來ルベシト言ッテ、ソレデ政テ練唐シ、ソレデ
  本當ノ思想對思想ト云フモノヲ以テ、之ヲドンノ〓ト輪廓ヲ
  大キクスルニ至ッテ、初メテ日本ノ國粹主義ト云フモノガ保
  タレルモノト私ハ思フノデアリマス、所ガドウモ此頃ノ傾向ヲ
  見マスト、此擧ニ出デズシテ種々ノ問題カラ-是ハ論シマセヌ
  ガ-種々ノ問題カラ甚ダ反對ノ現象ヲ呈シテ來テ居ル、ソ
  レハ私ハ甚ダ遺憾ニ感ズル次第デゴザイマスガ、日本ノ民衆
  ト云フモノハ先程中野君モ之ヲ言ハレマシタガ、外國思想ガ
  特ニ露西亞ノ生活、露西亞ノ文學ニ對スル趣味ノ如キハ大
  ニ私ハ、認ムベキモノガアルト思フ、又日本ノ民衆ノ趣味ト
  云フモノハ、或ハ見方ニ依レバ民衆ガドウデアルトカ、斯ウデ
  アルトカ云フコトヲ議政ノ壇上ニ論ズル人ノ頭ヨリハ、一般ノ
  民衆ノ頭腦ト云フモノハ水平線ヲ越シテ默フテ伸ビテ居ルト
  云フコトモ私ハ認ムルノデアル、此意味ニ於キマシテ或ハ農奴
  ノ解放ヲ唱ヘマシタ所ノ「ツルーゲネフ」ノ思想デアルトカ或
  ハ愛他主義、人道主義ノ思想ヲ唱ヘマシタル「トルストイ」ト
  カ「ドフトエフスキー」トカ、近代ニ至リマシテ新「ローマン」主
  義ノ「メルシコフ」トカ、斯ウ云フヤウナ人ノ思想ハ相當ニ中
  ニ消化サレテ來テ居ルコトヽ私ハ思ヒマスガ、假令露西亞ニ
  通商ヲ開始スルトモ、或ハ進ンデ永認ヲ致ストスルモ、日本
  民族ガ永年鍛へ來ッタ所ノ思想ノ根柢ハ益、進ムベキモノデア
  リマシテ、決シテ退クベキモノデナイト云フコトヲ感ズル者デアリ
  マスガ、之ニ對スル影響利害ヲ政府ハ如何樣ニ解釋シテ居ラツ
  シヤルカト云フ事ヲ伺ヒタイノガ其次ノ質問デアリマス、モ
  ウ一件ダケ伺ヒタイ事ハ、是ハ此承認トカ或ハ通商トカ云フ
  コトニ先ダチマシテ、甚ダ重要ナル案件デアリマスルカラシテ
  玆ニ眞相ヲ一寸申上ゲテ、サウシテ尙ホ之ニ對スル明確ナ
  ル御答辯ヲ要求スルノデアリマス、ソレハ我國ノ外交政策ナ
  ルモノガ、トモスレバ助クルガ如ク助ケザルガ如ク、是ガ形ニ
  ナッテハ二重外交トナッテ失敗ヲ重ネタノデアリマスガ、或ル
  意味ニ於テハ今度ハ過激派ニ反對デアルカト思ヘバ、或ル
  意味ニ於テハ過激派ヲ助ケテ居ル、助ケルノダカ殺スノダカ
  譯ノ分ラヌ玆ニ撞著矛盾ヲ呈シテ居ル、此事實ガ玆ニアリ
  マスノデ、此事實ノ眞相ハ如何デアルカト云フコトヲ伺ッテ、
  御互ニ參考ニ供シタイト思フノデアリマス、是ハ白軍ノ方ニ
  對シマシテ、白ニモ赤ニモ非常ニ矛盾ヲ來シテ居ルト云フコ
  トノ例證トシテ、是ハ三月十九日ノ東京朝日新聞ノ、十八
  日浦潮特派員ノ特電デアリマス、ソレハ「元山ノ白軍ヲ「レ
  ペデフ」及ビ「ベザール」兩提督指揮ノ下ニ北樺太ニ山動セン
  トシ、武器ノ供給及輸送ハ日本軍ノ了解ノ下ニ福田組コレ
  ニ當リ、吉林方面デハ「モルチヤノフ」準備シ、尙ホ「ヂトリス
  ク」一派ハ福田組ト協定シ、今回ノ遠征隊ガ成功ノ曉ハ韃
  靼海峽ノ漁區ヲ提供スル契約ヲ結ンデ居リ其他朝鮮、大連、
  哈爾賓方面デ白軍ノ輸送ニ忙殺サレテ居ル事實ヲ列擧シ、
  若シ日本軍ニ於テ極東ニ白軍ヲ支援シ、勞農露國ニ對スル對
  抗策ヲ依然改メナイナラバ、是ヨリ極東平和破壞ノ責任ハ
  日本ニ歸サネバナラヌ」ト云フ所ノ抗議書ヲ勞農外務委員
  代理「カラハン」氏ガ內田外務大臣宛ニ抗議書ヲ提出シタ
  ト云フ所ノ件デアリマス、此ノ如キハ實ニ眞トスルナラバ、白
  軍ヲ一面ニ於テ斯ノ如クニシテ今援クルト云フコト、斯ノ如
  キハ甚問題ヲ控ヘタ現在ニ於キマシテ、重大ナリト考ヘルノデ
  アリマスガ、他ノ一面カラ申シマスレバ·····「「簡單」ト呼フ者ア
  リ)簡單ニ申シマスガ、他ノ一面ニ於テハ大正十年三月十
  日、是モ東京朝日新聞デアリマスガ、是ハ內容ガ餘リ長クナ
  リマスカラ、極ク切詰メテ申シマス、玆ニ外務省ノ囑託ノ岩
  堂某氏ガ政府ノ機密費ヲ受ケテ、十万五千圓ノ金ヲ摑ン
  デ、サウシテ今浦湖ニ於テ發行セラレテ居リマス所ノ新聞、
  其新聞紙ノ「クラスノ、エズカムヤ」是ハ「クラスノ、ズナムヤ」ノ
  問違デアリマス「クラスノ、ズナムヤ」ハ赤イ政府ノ機關紙デア
  リマシテ、現ニ浦湖ニアル新聞デアリマスガ、之ヲ買收シテ、
  之ニ對シテ十万五千圓ヲヤッテ、過激派ヲアベコベニ援ケタ
  ヤウナ事實ガコザイマシテ、此十万五千圓ノ金ヲ提供シタト
  云フコトハ是ハ二度ニ提供シタノデアリマス、印刷所ノ買收
  費ハ外務省ノ機密費デ一一度ニ十万五千圓ヲ支出シタコト
  ハ意兵隊デモ認メテ居ル、何故必要ナル印刷所ヲ多額ノ外
  務省ノ機密費ヲ投ジテ買收シタカト云フコトニ對シテハ、大
  キナル實ハ波紋ガ起キタト云フコトデアリマスガ、之ニ對スル
  事情ハ私ガ申サズトモ、陸軍大臣ガ御承知ノ筈デアル、ガ之
  ニ對シテ斯ウ云フ風ナ矛盾ナ政策ガ、兩方デ右トモ左トモ
  付カナイ、政策ガ尙ホ存シテ居ルト云フコトハ甚ダ憂フベキ
  次第ト信ジマスカラ、之ニ對シマシテモ政府ノ明瞭ナル御答
  辯ヲ要求シ、以上ノ點ニ付キマシテ玆ニ私ニ最モ卒直ニ御
  答辯ヲ下サルナラバ、幸トスル所デアリマス(拍手)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=80

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• 081・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　國務大臣內田康哉君
  〔國務大臣內田康哉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=81

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• 082・内田康哉

  ○國務大臣(內田康哉君)　只今ノ田中君ノ五ツノ御質
  問ニ御答致シマス、第一ノ御質問ハ政府ハ承認ヲ前提ニシ
  テ居ルカ、又通商ヲ先ニシテ居ルカト云フ御趣意ニ聽取リマ
  シタガ、果シテサウデアリマスレバ、是マデ政府ガ執リマシタ措
  置ニ依シテ、政府ノ趣旨ヲ御了解下サルコトガ出來ヤウト思
  ヒマス、卽チ一國ヲ承認スルト云フコト、殊ニ勞農政府ノ如
  キ殆ド是迄世界ニ見ザリシ所ノ主義政綱ヲ以テ成立ッ夕所
  ノ政府ヲ承認スルト云フコトハ、誠ニ容易ナ事デハナイ、ソレ
  デ之ヲ政府ガ承認スルト云フ事ニ付キマシテハ、何處迄モ愼
  重ナル考慮ヲ要スルノデ、成程先刻中野君ガ述ペラレマシタ
  カノ中ニモ、勞農露國ヲ承認シタ國ハアルノデアリマス、是ハ
  獨逸ヲ除ク外ハ殆ド嘗テ露西亞ト一國ヲ成シタ所ノ國デア
  ル、卽チ波蘭ノ如キ、「リトアニア」ノ如キ、「エストニフ」ノ如キ、
  或ハ亞細亞ニ於ケル共和國ノ如キ、皆當テ露國ト緣故ガ
  アッタ國デアリマス、又獨逸ノ如キハ是餘程今日特別ノ狀態ニ
  居ル國デアリマスカラ、是ガ露西亞ヲ承認スルト云フコトモ、
  是亦特別ノ理由ガアルモノト私ハ看做シテ差支ナイト思フ、
  其他ノ國ニ行キマシテハ、未ダ露國ヲ承認シタ國ハ無イ、伊
  太利ノ如キ、英吉利ノ如キ、通商ノ暫定協約ハ結ビマシタケ
  レドモ、未ダ承認スルト云フ域ニ達シナイ、故ニ承認ト云フ
  事ニ付テハ、ドウシテモ時日ガ掛カル、然ラバ露國ト殊ニ境ヲ
  接シテ居ル我國ノ如キハ、承認ヲセズ何モセヌト云フコトニ
  ハ行キマセヌカラ、免モ角モ通商關係ヲ結ビタイト云フコ
  トカラ大連會議、長春會議ヲ開イタ次第デアリマスケレド
  モ、是ハ不幸ニシテ二ツトモ其成功ヲ見ルコトガ出來ナカッタ
  ノデアリマス、今日ニ於キマシテモ先ヅ通商關係ヲ開クコト
  ガ出來レバ、ソレニ越シタ事ハナイ、卽チ其機會ガ來レバイツ
  何時ニ於テモ政府ハ所謂第三回ノ交渉ニ應ジタイノデアリ
  マス、其結果ノ如何ニ依ヲテ承認如何ヲ決スベキ事デアラウ
  ト思フ、ソレ故ニ承認ハドウシテモ第二段ニ來ルモノト御考
  へ下サッテ宜シイ、ソレカラ第二ノ御質問ハ私有財產ハ既ニ
  露西亞ニ於テ認メテ居ルデハナイカ、之ニ對シテ中野君ハ條
  文マデモ御朗讀ニナッタ次第デアリマスルガ、私モ其報告ニハ
  接シテ居リマス、併シ御承知ノ如ク露國ニ於テ各種ノ法令
  ハ出テ居リマスガ、果シテソレガ實行サレテ居ルカドウデアル
  カト云フコトニハ、多大ノ疑ガアル、英吉利ノ如キハ通商關
  係マデモ結ピマシタケレドモ、或ル報告ニ依リマスト實際是
  ハ行ハレテ居ナイト云フコトデアル、現ニ我國ノ關係カラ申
  シマシテモ、漁業權ノ如キハアレハ「ポーツマウス」條約ノ結果
  トシテ得タ所ノ、ドウ云フ事ガアッテモ讓ルベカラザル權利デ
  アリマスガ、之ヲスッカリ否認シツヽアルコトガ、今日浦潮ニ於
  ケル我ガ漁業問題ガ非常ナ困難ヲ來シテ居ルノデアリマス、
  故ニ露國ニ於テ如何ナル法令ヲ拵ヘマシテモ、是ガ翌日
  ニ變更サレルカモ知レヌ、又實際其通リ行ハレテ居ナイカ
  モ分ラヌ、ソレ故ニドウシテモ此事ニ付テハ兩國ノ間ニ、互ニ
  私有權ヲ尊重スルト云フ了解ガナケレバナラヌ、此了解ガ
  アッテ初テ通商關係ト云フコトガ安全ニ執行ハレル、卽チ各
  國トノ通商條約ハ御互ニ保障シ合ノテ居ル、此保障ヲ得タ
  イト思フ、是ガ卽チ通商關係ヲ開ク最モ重要ナル所ノ點デ
  アル、ソレカラ第三ノ點ハ日本ハ露西亞ニ對シテ債權ガ大
  變少イノデアル、各國ハ何十億、或ハ百億ニモ達スルヤウナ
  金ヲ貸シテ居ル、日本ハ二億カ三億ニ過ギナイ斯ウ云フ經
  濟關係ニ願慮スル必要ハナイ、卽チ露図ヲ承認シテヾモ宜
  イデハナイカト、斯ウ云フヤウナ御質問デアリマスガ、歐洲デ
  露國ヲ承認セナイノハ、獨リ金錢ノ關係バカリデハナイノデ、
  是ハ「ゼノア」ノ關係ニ致シマシテモ、又海牙ニ於ケル勞農
  露國ノ代表者ノ交涉ノ經過ヲ御考ニナッテモ能ク分ル話デ、
  最モ問題ニナリマシタノハ露西亞ニ於ケル各國人ノ財產ヲ
  總テ露國ガ無視シテ居ル、國有ニシテ居ル、之ヲドウシテモ
  陪償シテ貰ハナケレバナラヌ、返シテ貰ハナケレバナラヌト云
  フ事ガ問題ニナッテ、露國ノ方デハ承認シナカック是ハ今日ト
  雖モ歐米ノ各國共ニ此點ニ於テ私ハ其主張ヲ變ヘテ居ル
  モノトハ思ハナイ、故ニ勞農露國ヲ承認スルト一云フコトニハ、
  單リ露國ニ貸付ケタ金ノ多寡ニ依ッテ支配サレルモノデハナ
  イト云フコトハ、各國モ私ハ同ジ事デアラウト思フ、ソレカラ
  第四ノ御質問ハ、思想問題ニ關スル御質問デアリマシタガ、
  是ハ田中君ノ御說ノ通リニ、暴力ヲ以テ思想ヲ防壓シヤウ
  ト云フコトハ、到底今日ノ時勢ガ許サナイコトヽ私ハ思フ、ケ
  レドモ過激思想ニ對シマシテ、其國々ニ於テ必要ナル取締
  ヲスルト云フコトハ、是ハ私ハ已ムヲ得ナイ事デアラウト思
  フ、唯、過激思想ヲ奉ジ、若クハ之ヲ傳播スル者ニ對シテ、何
  處マデモ暴力デ之ヲ防壓スルト云フコトハ、是ハ考物カモ知
  レマセヌガ、或ル程度ノ取締ハドウシテモシナクテハナラヌ、現
  ニ露西亞ノ如キハ、初ハ暴力ヲ以テ彼等ノ主義ヲ宣傳シタ、
  是等ニ對シテハ之ヲ取締ルコトモ或ハ必要アルカモ知レヌト
  思ヒマスガ、先方ガ暴力ヲ用井ズシテ、或ハ文書ニ依リ或ハ
  色々ナ事ヲ以テスルニ對シテ、暴力ヲ以テ取締ルト云フコト
  ハ、ムヅカシイ事デアラウト思ヒマス、併シ之ニ對シテモ適當ノ
  取締ハ私ハ必要ト感ジテ居ル、ソレカラ第五ノ御質問、卽チ
  日本政府ハ過激派ヲ援ケルガ如ク援ケザルガ如ク、白ヲ援
  ケタリ援ケナカッタリシテ居ルヤウデアル、其實例トシテ二ツ
  ノ例ヲ御擧ゲニナリマシタガ、是ハ何レモ事實無根デアリマ
  ス、殊ニ最近新聞ニ出テ居リマス元山ニ居ル白軍ヲ日本ガ
  使嗾シテ樺太ニ送クタト云フ事ニ付テハ、成程露國側ヨリ抗
  議ガ來テ居リマス、是ハ寔ニ迷或千万ナ話デアリマスカラ、
  幸ヒ御質問ガアリマシタカラ私此ニ明ニ申上ゲマス、萬サウ
  云フ事ガ無イト思ヒマシタガ、念ノ爲ニ取調ヲ致シマシタ所
  ガ、今日マデノ報告ニ於テハサウ云フ事ハ無イ、又アリヤウガ
  無イ話デアル、御承知ノ如ク元山ニ來テ居ル者ハ、既ニ軍艦
  ニ乘ク夕者ハ軍艦ハ皆南ノ方ノ馬尼刺其他ノ方ニ行ッテシ
  マッタ、是モ日本政府ハ或ル時間ヲ許シテ元山ニ泊ラシメ
  或ハ釜山ニ石炭ヲ積込ムカ何カノ爲ニ、一二日碇泊サセタ
  ト云フコトハアリマシタケレドモ、是ハ旨勸誘シテ我領土ヲ
  去ラシメタ、殘ル者ハ五千位居リマセウカ、是等ハ皆貧困ノ
  狀態ニナッテ居ル、是等ヲ使嗾シテ樺太ニ送ッテ何ノ爲ニナ
  ル、露國側ノ言フ所ニ依リマスレバ、日本ハ結局樺太カラ撤
  兵ヲスルカラ、其後ニ日本ノ方ノ味方ノ白軍ヲ送ッテ駐屯セ
  シメル爲ニ、斯ウ云フ者ヲ送ルト云フヤウナ話デアリマスガ、
  是ハ寔ニ迷惑千萬ナ話デアル、日本ハ尼港事件ノ解決ヲ見
  ルマデハ撤兵シナイト云フコトハ聲明ヲ致シテ居ル話デアリ
  マスカラ、何ヲ苦ンデ元山ニ居ル白軍ヲ使嗾シテ樺太ニ送ル
  ヤウナ考ハ少シモナイ、是ハ全然先方ノ誤解カ、或ハ何カノ
  誤報ニ誤マラレテ居ルト思ヒマスカラ、ドウゾ左樣御承知ヲ
  願ヒタイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=82

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• 083・田中武雄

  ○田中武雄君　只今ノ御答ニ依リマシテ尙ホ伺ヒタイ事
  ガゴザイマスガ、時間ノ關係ニ依リマシテ、私ハ之ヲ以テ打切
  リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=83

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• 084・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　是ヨリ討論ニ入リ通告順ニ依
  テ發言ヲ許シマス、中西六三郞君
  〔中西六三郞君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=84

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• 085・中西六三郎

  ○中西六三郞君　本案提出ノ理由ハ理由書記載ノ外、
  尙ホ只今中野君ニ依テ極メテ熱心ニ御說明ヲ與ヘラレマ
  シタ、深キ注意ヲ以テ拜承致シマシタ、中野君ノ說カレタル
  所極メテ多岐デアリマス、併ナガラ其說カレタル大〓ノ事ハ、
  吾々モ亦之ヲ注意シ、之ヲ穿鑿シ、之ヲ考慮シツヽアル事デ
  アリマス、而モ尙ホ此提案ニ向ッテハ只今吾々ガ同意スベキ
  機會ニアラズト考ヘマシテ、否決ノ意見デアリマス、仍テ吾々
  ガ何故ニ之ヲ否決セント欲スルカト云フ其理由ヲ茲ニ明ニ
  致シテ置キタイト思フ、勞農露國ハ其成立ニ際シマシテ、外
  ハ各國ニ對シテ一切ノ條約ヲ破棄シ、一切ノ債務ノ不拂ヲ
  宣告シテ、國際的ノ信義ヲ根柢ヨリ蹂躪ヲ致シタルノミナ
  ラズ、內ニアッテハ社會ノ秩序ガ紊亂シ、民衆ノ生活ガ破壞
  サレ、有史以來ノ悲慘事ヲ演出ヲ致シ、世界各國ヲ驚倒セ
  シメタルコトハ、寔ニ吾々ノ記憶ニ新タナルモノデアリマシテ、
  今之ヲ想フモ尙ホ戰慄ヲ禁ズル能ハザル所デアリマス、然レ
  ドモ幸ニシテ其後漸ク事情ノ推移ヲ見、近時露國ノ狀態ハ
  漸ク平靜ニ向ヘルノ觀アルコトヲ吾々ハ認メマス、然レドモ
  同時ニ又卽チ其國內ノ秩序、民衆ノ生活ガ、果シテ如何ナ
  ル程度ニマデ改善セラレタリヤト云フコトヲ明ニ認メル機會
  ニハ達シテ居リマセヌ、勞農露國ガ從來執リ來リシ共產主
  義的政策ハ、到底實行ノ能ハザルヲ悟ッタ結果ト見エマシテ
  最近ニハ新タナル經濟政策ヲ採用シテ、各種ノ改革ヲ行ハ
  ント致シテ居ルコトノ事實ハ、吾等モ之ヲ認メルノデアリマ
  ス、而モ其改革ハ果シテ滿足ニ成果ヲ擧ゲ得ルヤ否ヤト云
  フコトモ、尙ホ今日ハ疑ノ程度ニアルノデアリマス、彼ガ單ニ
  其方針ヲ變更シタリト云フ一片ノ狀態ヲ見テ、直ニ勞農露
  國ノ實質ガ常道ニ復シタルモノデアルト卽斷スルコトハ、却
  テ此政府本來ノ性質面目ヲ解セザルモノデアルト謂ハネバ
  ナリマセヌ(拍手)故ニ我國ニシテ苟モ正式ニ勞農政府ヲ承
  認セント欲スルナラバ、審ニ彼ノ眞相ヲ明ニシ、將來ノ歸趨
  ヲ確カメ、且ツ内外百般ノ事情ヲ斟酌致シテ、愼重ニ其可
  否ヲ考慮セナケレバナラヌ重大事デアルト考へマス、翻ッテ露
  西亞ガ歐洲ニ於ケル外交ノ關係ヲ見ルニ「ゼノヴ」或ハ海牙
  ノ列國會議ニ際シマシテハ、彼ハ如何ナル態度ヲ取ッタカ、依
  然トシテ放恣ノ態度ヲ恣ニシテ、毫モ國際的ノ信義ヲ守ル
  ノ誠意ヲ現ハサナカッタノデアリマス、又我國ニ對シテノ關係
  ニ於テモ、大連會議ノ事ハ姑ク措クト致シマシテモ、長春會
  議ニ於テ尙ホ彼ハ既定ノ諒解又ハ約束ヲ恣ニ違背致シマ
  シテ、卒然トシテ北樺太ノ撤兵期日ノ明元ヲ求メ、基本協
  約ノ締結ヲ回避セントスルノ態度アリシモノト見受ケラレ
  ル、ノミナラズ甚ダシキ至ッテハ、北樺太ノ駐兵ガ尼港事件ノ
  解決ノ保證占領デアルト云フコトハ、我政府ノ屢、聲明ヲ致
  シタルコトデアッテ、世界各國亦露西亞ニ於テモ固ヨリ之ヲ
  承知シテ居ルベキ筈ヲ、始メテ之ヲ承知シタルガ如ク眞似
  シ、是ガ爲ニ遂ニ此會議ヲ決裂ノ已ムヲ得ザルニ至ラシメタ
  ノデアリマスガ故ニ、今日ニ於テモ國家トシテノ彼ノ信義誠
  意ハ、尙ホ吾々ハ深キ疑ヲ擲ツコトガ出來ナイノデアリマス、
  又最近彼ノ地ニ在ル我國民ガ、事業ヲ企テ、又ハ旅行ヲ爲
  サントスルニ當リマシテ、殊更ニ妨害ヲ加フルノ狀態ガアル
  ノミナラズ、現ニ我國ノ保證占領中ニ係ル北樺太ノ油田權
  利ヲ恣ニ米國ノ營利會社ニ許容致シマシテ、之ヲ以テ白米
  間ノ紛爭ニ利用セントスル傾アル如キハ、信義ヲ重ンズル因
  家ノ行動トシテハ吾々ハ之ヲ認メルコトガ出來ヌノデアリマ
  ス、斯ノ如キ場合ニ於テ十分ナル考慮ヲ費スコトナク、漫然
  勞農政府ヲ承認セントスルガ如キノ、卽チ輕卒ニシテ且ツ危
  險ノ措置ナリト思ハナケレバナラヌノデアリマス、本決議案
  ノ理由ヲ見ルニ、通商條約ノ締結モ、漁業問題モ、樺太問
  題モ、總テ露西亞政府承認ヲ前提トシテ、其解決ヲ考慮セ
  ザルペカラザルモノデアルト言ハレテ居リマスガ、斯ノ如キハ
  誤レルモノデアルト信ジマス、若シ勞農露西亞ニシテ果シテ
  十分ノ誠意ガアルナラバ、通商條約ノ締結モ、漁業問題ノ
  解決モ、今ノ關係ニ於テ必ズシモ困難ノ事デアルトハ思ヒマ
  セヌ、又彼ニ誠意ガアルナラバ、疾クニ長春會議ニ於テ是等
  ノ問題ハ適當ナル解決ヲ得タリシモノデアルト吾々ハ信ズル
  ノデアリマス、卽チ必ズシモ勞農政府ノ承認ヲ前提トスル要
  ハ無イコトデアルト考ヘマス、論者ハ又他ノ理由ト致シマシ
  テ、歐羅巴ニアッテ獨逸ヲ初トシ、波蘭、土耳其、波斯、阿
  富汗斯坦、波羅的、是等ノ國ニガ公式ニ勞農政府ヲ承認
  シタルコトヲ指摘サレマシタ、併ナガラ是ハ只今外務大臣ノ
  田中君ニ答ヘラレタル說明ニ自ラ明カナルガ如ク、是等ハ元
  ト歷史上玆ニ政治上、經濟上特殊ノ事情ニ原因スルモノ
  デアリマシテ、我國ガ之ヲ以テ比スベキ位置關係ニハ決シテア
  ルノデハゴザイマセヌ、之ニ反シテ英吉利、亞米利加、佛蘭西、
  伊太利是等ノ强國ハ、其經濟上ノ利害關係ハ極メテ緊切ナ
  ルモノアルニ拘ラズ、今日尙ホ斷乎トシテ勞農露國ヲ承認致シ
  テ居リマセヌバカリデナク、佛蘭西ノ如キハ通商委員ノ派遣
  ニスラ反對ヲ致シテ居ルヤウナ關係デアリマス、勿論是等ハ
  皆其國〓ノ關係ニ於テ特殊ノ事情ガアリモ致シマヒウガ、大
  體世界列强ガ尙ホ今日露國ヲ承認致シテ居リマセヌ、斯ノ如
  キハ畢竟主トシテ勞農政府ガ國際的信義ヲ重ンズルノ信用ヲ
  拂フコトガ出來ナイコトニ基因シテ居ルノデアリマス、論者ハ又
  英吉利、伊太利、瑞典等ガ莫斯科外交團ニ事實上ノ代表
  者ヲ派遣致シテ居ルト云フコトヲ指摘サレル、外交團ニ事
  實上ノ代表者トシテ派遣セルコト、此事實ハ國家ヲ正式ニ
  承認スルト云フコトハ全ク其性質觀念ノ系統ヲ異ニ致シ
  マスガ故ニ、此間ニ甚シキ相違ガアリマス、差別ガアリマス、
  之ヲ同一ニ見テ諭據トセラレルコトハ、失當モ明カナルコト
  デアラウト思ヒマス、之ヲ要スルニ勞農政府ニシテ舊來ノ態度
  ヲ改メテ、誠意ヲ以テ我ニ對シ、尼港事件ノ解決ハ勿論ノ
  コト、相當ナル國家トシテ當然履ムベキノ道ヲ履ミ、盡スベ
  キノ義務ヲ盡シテ、國際信義ヲ守ルベキコトノ明確ナル場合
  ニ當リマシテハ、固ヨリ我國ハ喜ンデ之ヲ承認スルニ躊躇セ
  ザルモノデアリマスガ、彼ノ態度尙ホ從前ノ如ク、今日ノ如
  クンバ、今俄ニ此提案ニ同意スルコトノ能ハザルヲ吾々ハ遺
  憾トスル者デアリマス、此理由ニ於テ吾々ハ此案ヲ直ニ否
  決セラレンコトヲ希望スル者デアリマス

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• 086・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　田淵豊吉君
  〔田淵豐吉君登壇〕

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• 087・田淵豐吉

  ○田淵豊吉君　此前ニ中野君ガ此對露問題ニ付テ〓究
  爲スッテ居ル、又之ニ付テ承認ヲシタ方ガ宜イト云フシ、田中
  君モ御演說サレマシタ、ンレカラ外相モ何ゾ說ガアッタ、ソレカ
  ラ中西君ノ御演說モ、政友會カラチヤント原稿書イテ來テ、
  國際問題デアルカラ愼重ナル態度ヲ取ラレタコトヽ私ハ思
  フ、私ハ是ハ重大ナ問題デスガ、成ベク簡單ニ述べタイト思
  ヒマスカラ、ドウカ御靜聽ヲ煩ハシタイ、御存知ノ通リ露國ハ
  「ナポレナン」乃後デ言フクト云フコトデアル、露國ト組シア居フ
  テ、露國ノ嫁サンヲ貰フテ居ッタナラバ、斯ウ慘メナ事ハナカラ
  ウ、斯ウ言ッタ、墺國ト組ンデ、墺國カラ後妻ヲ貰シタ事ハ失
  敗デアルト云フテオルソレカラ「ビスマルク」ガ彼ノ墺太利ト組
  ンデ、露國ニ反對シタノデアリマス、所ガ佛蘭西ガ彼ノ露國ト
  結ンデ、露國ガ佛蘭西ノ金ヲ借リテ西伯利ニ鐵道ヲ敷イテ、
  トウ〓〓日本ト戰ヲシタ、露國ガ倒レテ、サウシテ又今度ノ革
  命ニナッテ來タ、詰リ佛蘭西ガ獨逸ニ對シテ敵ヲ討タンガ爲
  ニ、露西亞ト組ンデ、サウシテ其恨ヲ七分通リ霽ラシタノデア
  ル、所ガ今回ハ獨逸ガ佛蘭西ヲ擊ツ爲ニ、二三十年間臥薪
  言膽ヲナクレバナラヌカラト云フノデ、今度ハ露國ト組ン
  デサウシテ世界ニ雄飛スル所ノ原料ヲ取リ、又物ヲ賣フテ露
  门ト組マウト、斯ウ云フ事ニナッタノデアリマス、御承知ノ通
  リ日英同盟ハ何クラ出來タカト云フト、詰リ印度ト云フ屬
  地ヲバ露西亞ガ壓迫スル爲ニ、英國ガ日本ノ兵隊ヲ借リタ
  イ爲ニ、一度ナラズ二度マデモ結ンダノデアリマス、所ガ露國
  ガ崩壞シテ仕舞ッタカラ、モウ日本ハ用ガナイト云フノデ、先
  e般日英同盟ノ袋續ト云フモノガ出來ナイヤウニナッタノデハ
  アリマセヌカ、詰リ日木ト露國ノ間ト云フモノハ、最初ハ戰
  爭ニ打勝チ、第二ニハ日英同盟カラ外サレルト云フヤウナ事
  デ、非常ナ關係ヲ持テテ居ルノデアリマス、又亞米利加ハドウ
  デアルカト云フト、千八百六十七年ノ彼ノ「アラスカ」ヲ「ルソ
  アメリカンフアー、カンパニー」卽チ露西亞及亞米利加!毛
  皮會社ガ「コンセツシヨン」權利ヲ得テ居ッテ、千七百九十九
  年カラ六十餘年問モ得テ居ッタノヲ、遂ニ千八百六十七年
  ニ於テ七百二十万弗テ以テ買ノタ、五百万弗ニ負ケテ吳レ
  ト言ッタケレドモ、負ケナイデ、七百二十万弗デ買ッタ、所ガ日
  本ニ於テハ北樺太ハドウデアルカト云フト明治五年ニ於テ彼
  ノ副島種臣君ガ北緯五十度以北ノ樺太ヲ買ハナケレバナラ
  ヌト云フノデ、之ヲ買ハウトシタノデアリマスガ、講ガ纏ラズ、露
  西亞ハ應セナイシ日本デモ意見ガ合ハナカッタノデ、到頭買
  フコトガ出來ナカッタト一云フヤウナ狀態デアル、サウシテ又歷
  史ニ依シテ見マスト云フト、嘉永六年ニ「ペルリ」ガヤッテ來タ、
  其一月後ニ露西亞ガ來テ、通商ヲ開イテ吳レト云ッテ長崎
  ニヤッテ來タ、其時ニ日本ハ何ト答ヘタカト云フト、マア一寸
  待ッテ吳レ、マダ今日通商ハ許サレヌケレドモ、若シ通商ヲ許ス
  ナラバ、オ前ノ所ニ一番先キニ許スト云フコトヲ言ッテ居ル、六
  十年七十年ノ昔ニ於テ、モウ旣ニ日本ト露國トハ交涉スル
  ト云フヤウナ非常ニ密接ナ關係ヲ持ヲテ居ッタノデアル、伊藤
  博文公ノ如キハ「オロシヤ」ト聞イテ慄ヘタト云フコトデアル、
  實ニ危イ「インペリアリズム」ノ國デアッタ、所ガ今回「ポルシヱ
  ヴイズム」ニ變化シテ來タ、一體ドチラガ怖イカト一云フノハ問
  題デアルガ、ドチラカト云ヘバ「ボルシヱウイズム」ハ何モ怖クナ
  イノデアル、私カラ言ハセレバ「ゼスイツト」ヲ禁ズルガ爲メニ、
  織田信長モ許シタシ、太閤秀吉モ少シ怖カッタケレド、德川
  二百六十年間ト云フモノハ、鎖國狀態テ「ゼスイツト」ガ怖イ
  モノデアルカラ、到頭日本ヲ開國シナイデ、小サクナッテ居ッタト
  云フ狀態デアル、今日ハドウカト云フト、「ポルシエヴイズム」ガ
  又怖イカラト云フノテ、小サクナッテ居ヤウト云フコトハ、維新
  ノ-開國進取ノ國是ト云フコトヲ忘レテ、日本ガ大ナ
  ル所ノ誤ヲ私ハ爲シテ居ルノデハナイカト思フ(拍手)諸君
  ガ德川時代ノ「ゼスイット」ヲ恐レタヤウナ心ヲ笑フナラバ、諸
  君ガ「ポルシエヴイズム」ヲ恐レル心ヲ嗤ハナイト云フコトハ、
  問違デハナイカト思フ(拍手)ソレデ私ハ諸君モ御存ジデアリ
  マセウガ、既ニ日本ハ華盛頓會議ニ於テ、モウ手モ足モ大分
  〓ガレテ、英米ガ「アンタント」ヲシテ來タト云フヤウナ狀態
  デアリマス、併ナガラ日本ガ何モ露國ト同盟シテ、或ハ亞米
  利加ト戰爭スル時ニ、支那ガ或ハ謀叛ヲ起シテ、日本ニ食
  糧ヲ送ラヌト云フヤウナ事ガアッテハ困ルカラ、ンレデ露西亞
  ト組マウト云フヤウナ腹デ言フノデハナイ、サウ云フヤウナ腹
  デ軍事的見地カラソレヲ言フノデハナイ、併ナガラ世界ハ成
  ベク一ツノ「インターナシヨナリズム」ニ依クテ吾々ハ國家ヲ成
  シテ居リマスケレドモ、國家ノ聯合ニ依シテヤラウト云フノ
  ガ華盛頓會議ノ精神デアルナラバ、能ク其點ヲ腹ヲ締メテ
  吾々ガ各國ト交涉ヲ有ッテ居ルト云フコトハ、外交上軍事
  上ニ於テ、是ハ實ニ政治家ノ執ルベキ態度デハナカラウカト
  思フノデアリマス、諸君ガ御存知ノ通リ彼ノ神聖同盟ハ何
  デ起ッタカト云フト、佛蘭西ニ革命ガ起ッタ、ンコデ露西亞ノ
  「アレキサンダー」ト墺太利ノ「メッテルリツヒ」ト普魯西ノ王樣
  ト此三人ガ組ンデ、此革命運動ト云フモノヲ妨ゲヤウトシタ、
  詰リ政治的革命ト云フモノヲ妨ゲヤウトシテ、或ハ宗〓ノ
  力、或ハ王様ノカト云フモノヲコーチヨヲシテ神聖同盟ヲ結
  ンデ、出兵ヲシテマデ之ニ干涉シタノデアリマス、所ガ英國ハ
  サウ云フヤウナ主義ハイカヌト云フノデ、彼ノ「カンニング」ガ
  千八百二十五年ニ於キマシテ、西班牙ガアノ亞爾然丁ニ於
  テ大ナル壓迫ヲ加ヘタ、遂ニ革命ヲ起シタ、ソレト英國ノ「カ
  ンニング」ガ通商條約ヲ開イテ之ヲ承認シタノガ千八百二十
  五年デハアリマセヌカ、然ルニ西班牙ハ中々之ヲ認メナイデ、
  漸ク千八百四十七年ニ於テ之ヲ認メタト云歷史ヲ吾々ハ
  聞イタ事ガアル、サウ云フヤウナ事情デ、英國ガ領土的干係
  デ其國家ノ中ノ狀態ニ依フテ必要ナル時ニ起ッ夕所ノ革命ニ
  對シテハ、外カラヤカマシク言ハナイト云フ所ノ政策ヲ執ッタ
  ノデゴザイマス、佛蘭西モ半バ出兵ヲシテ居ルシ、ソレニ付
  テハ餘リ賛成デハナカッタ、英國モ固ヨリ其通リデアル、所ガ
  日本ハドウデアルカト云フト、或ハ露國ニ干渉ヲシテ見タリ、
  又手ヲ引イテ見タリ、何等政策ガ一定シナイノデアリマス、
  人或ハ言フノデアリマス、アノ白軍ヲ日本ガ援ケタト云フノ
  ハ赤軍ガ倒レルダラウト思フテ白軍ヲ援ケタノデアルト言フ
  ガ、アノ齊多政府ガ出來タト云フモノハ、假面ヲ被ッテ居ッタ
  モノダト私ハ思フ、私ハ外交ノ事ハ明ルクナイガ、多分假面
  ヲ被ッテ來タモノデアラウト思フ、日本ハ赤イモノヲ出スト怖
  ガルカラ、先ヅ桃色ナレバ宜シイト思フテ油斷ヲスルダラウ
  ト云フノデヤッテ來タ、ダカラ日本ガ撤兵スル事ヲ
  聲明シテシマッタラ直グ赤イモノヲ作レテ出テ來タト
  云フヤウナ狀態デアル、詰リ日本ガマルデ彼等ニ操
  ラレテ居ッタ事ハ明カナル事デアラウト思フ、ソコデ吾々
  ガ重大ナル關係ヲ有ッテ居ルト思フノハ、彼ノ神聖同盟ニ加
  擔シタ所ノ露國ト云ヒ、墺地利ト云ヒ、或ハ普魯西ト云フ
  ヤウナ、此神聖同盟ヲ十分ニセヨヲトシタ王權主義專制政
  治ノ國ハ悉ク倒レテシマッタデハナイカ、寧口英國トカ此神聖
  同盟ニ反對シタモノガ、却テ〓日王國トシテ尙ホ世界ニ
  隆々トシテ榮エテ居ル結果ト云フモノハ、如何ナル原因デア
  ルカト云フ事ヲ知ラナケレバナラヌト思フ(拍手)諸君モ御
  存知ノ通リ彼ノ露國ノ革命ト云フモノハ、色々ノ見方モゴ
  ザイマセウケレドモ、專制壓迫ノ間ト云フモノガ百年モ二百
  年モ續イタモノデアルカラ、遂ニ彼ノ農奴ノ解放カラ、或ハ
  色〓ノ政策ヲ執リマシタケレドモ、到頭持チ堪ヘズシテ革命
  ニナッタ、人或ハ言フノデアリマス「レニン」ノ彼ノ政策ト云フ
  モノハ「マルキシズム」デアルト言ッテ居ル「マルクス」ノ政策デ
  アルト言ヒマスケレドモ、或ル人ハ又言フ是ハ「バクーニン」ノ
  政策ヲ加味シテ居ルノデアル「マルクス」ハ詰リ農業時代カ
  ラ工業時代ニ變化シテ、勞働者ノ力ガ大キクナテテ來ル、資
  本ハ集積シテ來ル、サウシテ唯物史觀ガ根底ヲナシテオル又
  階級爭鬪ガ起ルト云フ三ツノ事ヲ以テ彼ハ「マニフエスト」ナ
  ルモノヲ世界ニ宣傳シタノデゴザイマス、所ガ此「マルクス」ノ
  主義ニ依ッテ「レポリユーシヨン」ガ起フテ眞ノ「ミレニユーム」ニ
  達スルニハ千年モ二千年モ掛カルト云フノデアリマスガ「パ
  クーニン」ハ何ヲ言ッタカト云フト、詰リ一足飛ニ露國ノ狀態
  ト云フモノヲ改善スルニハ露國固有ノ主義ニ依ッテ革命ニ
  依シテ一氣呵成ニ是ガ出來ル下云フ事ヲ言ッテ居ル、是カラ
  今日ノ露國ト云フモノガ出デ來タモノト私ハ思フ、此「パクー
  ニン」ノ思想ト「マルクス」ノ思想ガコンガラガッテ、今日ノ勞
  農露國ノ「レニン」之ヲ執ッタモノト私ハ思フ、諸君御存知ノ
  通リニ彼ノ獨逸ニ生ジタ所ノ「マルクス」ト云フ者ト「バクー
  ニン」ハ卽チ佛蘭西トカ西斑牙トカ、伊太利等ニ於テ勢力
  ヲ有ッテ居クタ、此二ツノモノガ相寄"テヤッタモノト私ハ思フ、
  而シテ獨逸ニ於ケル所ノ猶太人ハ、國家主義ヲ執リマスケ
  レドモ佛蘭西ニ於ケル猶太人ト云フモノハ「インターナシヨ
  ナリズム」デアッテ、世界萬國ノ猶太人ノ力ヲ職合シヤウト云
  フ傾ヲ持ヲテ居ル、御承知ノ通リ彼ノ「レニン」及「カリーニン」
  ト云フ人ハ露國デゴザイマスケレドモ、其背後ニ居ル所ノ人
  ニハ、何百人トカノ猶太人ガ居ル、或ハ此前ニハモ路西亞人
  ノ中ニ猶太人ガ二百万人トカアッタト云フ事デアル、是等ノ
  人ガ非常ニ壓迫サレタカラ、遂ニ絕好ノ機會ヲ捉ヘテ「ケレ
  ンスキー」ノ内閣ヲ倒シテ、卽チ天下ヲ取ッタノデアラウト私
  ハ思フ、故ニ私ハ露國ノ主義ト云フモノハ、必シモ主義ダケ
  デハナクシテ、露國ノ内政ニ萌シテ居ッタ所ノモノガアッタカラ
  デハナカラウカト思フ、諸君モ御存知ノ通リ、彼ノ松茸ガ生
  ヘルト云フノハ、松ノ樹ノ年齡ト氣候ト山ノ土壞ノ狀態ニ
  依ッテ松茸ガ生エルノデアッテ、決シテヒヨックリ起ルモノデハ
  ナイ、故ニ「ボルシエヴイズム」ト云フモノハ、今日本ニ直グ來
  ルカト云フト、私ハ決シテ來ルモノデハナイト思フノデアリマ
  ス、土耳古ガ數百年ノ間、歐洲列國ト境ヲ接シテ居リマス
  ケレドモ、歐洲列國ノ影響ヲ受ケルコトノ少ナイノハ、ドウ云
  フ譯デアルカト云フト、私ハ過日哈爾賓ニ行キマシテ、勞農
  露國ノ代表者「オゾルニン」ト云フ人ニ一時間半バカリ會ヒマ
  シテ、ハルピン駐在ノ日本總領事館ノ書記生ノ大谷ト云フ人
  ノ通譯デ話ヲシタノデアリマス、オゾルニンハ斯ウ云フコトヲ
  言フタノデアリマス、露西亞ニハ或ハ鑛山トカ鐵道トカ云フ
  モノハ國有ニスルケレドモ矢張借地權ヲ許ス、耕スダケハ耕
  サ七、喰フダケノモノハ許ス、日本ノ資本家デモ土地ヲ吳レ
  ト言ヘバ相當ニヤルト云ッテ居ル、サウシテ日本ノ製造工業
  者ガ來テモ、其製造工業ヲ許サレル、併ナガラ其賃銀ハドウ
  スルカト云フト、其所ノ勞働組合トカ或ハ勞働者ノ〓體、或
  ハ技師ノ團體ガ最低最高賃銀ヲ決メル、其決メタ通リニ賃
  銀ヲ支拂ヘバ宜イ、尙ホ利益ガアル場合ニハ、幾「パーセント」
  ノ金ヲ露國政府ニ拂へバ宜イト言ノテ居ル、サウシテ更ニ曰
  ク、其市價ト云フモノハ取引所ト云フヤウナ市場デ之ヲ決
  メルノデハナイ、露國ニ於テハ政府ガ之ヲ決メルノデアル、サ
  ウシテ又必要ナ場合ニハ、會社ニ其製造品ヲ一定ノ價格ヲ
  以テ納入スルコトヲ命ズルト云フヤウナコトヲ言ッテ居ッタノ
  デアリマス、私ハサウ云フヤウナ狀態デハ、到底兩國ノ間ニ十
  分ナ經濟的交涉ガ無イカラ、巧ク行カナイダラウト言ッタ所
  ガ、彼ノ「オゾルニン」ガ言ヒマスニハ、段々ト露西亞ト云フモ
  ノハ「キヤピタリズム」ヲ執ヲテ來テ、後來ノ發展ノ爲ニ備ヘヤ
  ウト云フコトヲ言ッテ居リマス、其事ガ果シテ當,テ居ルカ否
  カハ知リマセヌケレドモ、私ノ考ヘル所ニ依ルト、露西亞ト云
  フモノハ常ニ專制政治ヲ以テ「デモクラシイ」ヲ行ッタ國デア
  ルト云フコトヲ歷史ニ依ヲテ知ッテ居ル、故ニ「レニン」ガ露國
  ノ現狀ヲ見マシテ、百万ノ大軍ヲ以テ「マホメット」ノ如クコー
  ランカ貢獻カ刀劔カ-ート云フヤウナ思想ヲ以テ此露西亞
  ヲ席捲シタモノデアルト私ハ確ク信ズルノデアリマス、故ニ是
  ニ於テ露西亞ト云フモノハ、百万ノ大軍或ハ七十万ノ大軍
  ニ依ッテ治メテ居ル、軍國主義ノチヤキチヤキヲヤッテ、サウシ
  テ其國ガ纏ラントスル狀態デアリマス、故ニ私ハ信ズル若シ
  モ日本「ポルシエピズム」ヲ怖ガッテ露國ノ實情ヲ見ナイト云
  フノハ、非常ナ誤リデハナカラウカト思フノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=87

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• 088・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　時間ヲ延長致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=88

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• 089・田淵豐吉

  ○田淵豐吉君(續)　故ニ私ハ此露西亞問題ハ非常ニ世
  界ニ大影響ヲ及ボスニ違ヒナイ、、既ニ日本ニハ影響ガ及ンデ
  來テ居ルノデゴザイマス、併ナガラ日本ニハ中野君ガ言ハレル
  通リ、今日ハ人口過剰デ困フテ居ル狀態デアル、然ルニ西伯
  利ハドウデアルカト云フト、西伯利ノ面積ハ亞米利加合衆
  國ト加奈陀ヲ合セタ四分ノ三ノ面積ヲ以テ居ッテ、僅ニ一
  千万ノ人口シカ無イ、亞米利加ト加奈陀ニハ一億數千万
  ノ人間ガ住ンデ居ルト云フ狀態デアリマス、之ヲ日本カラ申
  シマスレバ、北米合衆國ハ南米ニ其ノ原料ヲ取リ製品ヲ賣
  ルト同樣ニ、日本カラ見レバ西伯利ト云フモノニ著目シナケ
  レバナラヌト思フ、而シテ歐洲ニ出ルニハ西伯利鐵道デ出ル
  ト云フコトニナッテ居ル、亞米利加ガ鐵道ヲ敷イテ、歐露ノ大
  陸ニ出ル所ノ聯絡ヲ白令海峽ニ依シテヤルト云フコトハ遠ク
  ナイト思ヒマス、日本ハ今ヤ非常ナル危機ニ遭遇シ、經濟上、
  政治上、外交上ニ非常ナル狀態ニ遭遇シテ居ル、內ニ在ッテ
  水平社ト國粹會ガ爭テ、少サイ內亂ガ起ッテ居ルト云フ狀
  態デナイカ、露西亞ニ於テ小サイ事トシテ居ッタ運動ガ、遂ニ
  今日ノヤウニナッテ來タト云フ譯デゴザイマスカラ速ニ階級ヲ撤
  廢スルノ必要ガアリマスカラ、又早ク普通選擧ヲ布キ、或ハ
  政策ヲ確立シナケレバナラヌト云フコトヲ私ハ常〓言ッテ居リ
  マス、諸君ガ若シ「ポリシエビズム」ヲ怖イト云フナラ、何ガ故ニ
  內ニ國家ノ安全ノ爲メ權利ヲ與ヘナイカ、爲スベキ事ヲ爲サ
  ズシテ而シテ恐レルト云フコトハ、最モ國家ニ忠實デナイ所以
  ト思ヒマス、故ニ段々差別觀念ヲ撤退スル「ボルシエビズムㄴ
  モ日本ニ於テハ「ブロパカンダ」ヲ亞米利加ノ如ク許シマセヌ
  ガ、通商條約ヲ結ブコトハ必要デアル、卽チ私ハ中西君ニ
  言ッテ置キタイノハ、アナタ方ハ-私モサウデアリマスガ、日
  本ノチツポケナ島國デ、世界的ノ頭ヲ持ッテ居ラナイデ、非常
  ニ物ヲ細ク切ッテ居ル人デゴザイマスマイガ、露西亞ハ大雜
  駁ナ國デアル、斯ウ云フ人ト取組ムニハ、此機會デ見ルヤウ
  ナ、或ハ選擧區デ諸君ガヤルヤウナ懸引ヲ以テハ、到底イカ
  ヌト思ヒマス、非常ナル大襟度ヲ以テ世界ノ大策ヲ確立シ
  テ行クコトガ、大ニ必要デアルト思フ、露國人ハ「フシエラブノ
  ー」ト口クセニ云フ何モカモ同一デアルト又「ニーチエブオ」ト
  云フ仕方ガナイト云フコトヲ口クセニ云フ國民デアル、大國
  民デアル、殊ニ英國ノ如キ態度、或ハ亞米利加ノ如キ態度ヲ
  以テ堂々ト行カナケレバナラヌ、然ルニ加藤首相ハ何ト言ロッ
  テ居ルカ、六月十五日ニ何ト言ッテ居ルカ、西伯利ニ於ケル
  諸問題ハ迅速ニ圓滿ナル解決ヲ告ゲルコトニ努力スルト云
  フテ居ルデハナイカ、撤兵スルト云フコトヲ言ッテオルガ向フハ先
  カラ先キヲ見テ、遂ニ此方ガ改ケルト云フノデアリマス、故ニ私ハ
  ドウカ强硬ニ懸合ッテ貰ヒタイ、確カリヤッテ貫ヒタイ、併ナガラ
  讓ルベキ所ハ讓ッテ、小サイ問題ニハ少シモ拘泥セズ、事明白ニ
  物ヲヤッテ頂キタイ、彼ノ懸引ニ乘ゼラレズ、明白ニ此方ガ上
  手ニナッテ、露國ヲ導クダケノ氣慨ガナケレバ、明治維新ノ開
  國、進取ノ國宜ハ今何レニ在ルカト私ハ言ヒタイノデアリマス、
  諸君ガ此大問題ヲ捕へテ簡單トカ短クトカ云フコトヲ言ハ
  レマスケレドモ、日本ガ從來或ハ內亂ガ起ル場合ニ於テモ、
  此露國ト云フモノニ大ニ學ブ所ノ必要ガ迫クテ居ルト思ヒマ
  ス、又日本ガ世界的ニ外交的位地ヲ取ルト云フナラバ、世界
  ニ覇ヲ稱ヘ、三大國及ビ一等國ノ列ニ列セヤウトスルニハ、斯
  ウ云フヤウナ問題ヲ親切ニ取扱アテ露國國民ヲ窮狀カラ救ッ
  テ、而シテ世界ノ爲メ一肌脫グト云フコトハ、日本帝國臣民
  ノ爲スベキ點ト思ヒマス、徒ラニ「ポルシエビズム」ヲ恐レテ、
  自己シ政策ヲ確立セヌヤウナコトデハ到底駄目デアル、世界
  ノ大勢ニ順應シテ唯、佛蘭西ハ金ヲ貸シニ居ル、成ベク餘計
  取リタイカラ承認ヲシナイト云フテ居ル、是ハ本統カドウカ
  知レマセヌガ、吾々ハ唯〓彼等ノ爲メニ云フノデナイ、吾々ハ
  露西亞「ガバーメント」露西亞國民ノ政府ヲ認メントスルノ
  デアリマス、或ハ制度ガ餘リ進ミ過グルト反革命ガ起ル、或ハ
  社會狀態ガ進化シ過ギマスルト革命ガ起ルト云フヤウニ、或
  人ガ言フテ居ル如クデアルト思フ、今ヤ露國ノ國民ハ猶太ノ
  民族ガ十万二十万ト云フ大ナル人々ガ、此露國一國ノ人
  民ヲ制駁スルト云フコトヲ思ッテ居ッタ、ソレヲ「レーニン」及ビ
  其當時ノ人ミハ、僅カ二十万ノ人卽チ貴族及僧侶、此王
  侯ニ依ッテ治メラレタト云フコトヲ不滿ニ思ッテ居ルト云フ
  演說ヲシテ居リマス、「カウンターレボリユウシヨン」卽チ反動
  的革命ガ來テ「レーニン」「トロツキー」ノ一派ヲ木葉微塵ニ亂
  サレルカモシレナイ私ハ、「レーニン」政府ヲ認メヤウト云フノデ
  ナイ、彼等ハ勢一杯彼等ノ國家ヲ安定ニ導ク爲、或ハ間違ク
  テ居ルカモ知ラヌガ、世界ノ進步ニ資センガ爲ニ、彼等ガヤッ
  テ居ル所ニ敬意ヲ表サナケレバナラヌ、而シテ日本ハ此世界ニ
  於テ立タナケレバナラヌ點ヲ持ッテ居リマスカラ、彼等ヲ認ム
  ルノデアリマス、決シテ「レーニン」政府ヲ認メルノデナイ、卽チ
  露國國民ノ政府ヲ認メテ行ケバ-ヨイノデアル彼ノ黑龍
  江ノ總督ノ「ゴンダツチー」ニ私ハ會ヒマシタガ、或ハ王國ガ來
  ルカモ知レナイ、王國ガ來タ後ニハ大統領ガ來ルカモ知レナイ、
  而シテ二三十年スル中ニハ、露國ガ固マルト云フヤウナコト
  ヲ言フテ居ル色々ナ說ガアリマスガ、併ナガラ私ハ世界ノ大
  戰ニ依ッテ生ジタル所ノ露國ノ現狀ガ、サウ易々ト先キノヤ
  ウナ大ナル革命ニ導クコトニ至ルコトハナイト思ヒマス、政府
  〓覆トカ猶太人ニ對スル反逆ハアリマセウケレドモ、大革命
  ハナイト思フ、諸君ガ尤モ「インペリヤリスト」デアッテ、露國ヲ
  取ッテシマウト云フナラバ何ヲカ言ハンヤデアル、併ナガラ諸
  君ガ僅ニ西伯利ノ撤兵ヲシナケレバナラヌト云フヤウナ、サウ
  云フヤウナ、弱小ノ身ヲ省ミズシテ大キナ事ヲ言フノハ間違ッ
  テ居ル、寧ロ吾々ハヤルベキ日本ノ任務ヲ盡シテ、世界ヲ
  取ッテシマウコトガ出來ナイナラバ、露西亞ノ事情ニ於テ出
  來タ所ノ政府ト云フモノヲ認ムルト云フコトハ、日本帝國ガ
  更ニ外國ノ干涉ヲ受ケタクナイガ如キ狀態デハナイカト思
  ヒマス、故ニ私ハ日本政府ハ(「露政府ハ誠意ガナイ」ト呼フ
  者アリ)ソレハ中野君ノ御意見デ、又中西君ノ御意見デモ
  アッタヤウニ拜見シテ居ルノデアリマス(笑聲起ル)併ナガラ吾
  吾ハ誠意ト云フモノハ露國人ガ持ッテ居ル、唯、考へ方ガ違
  フデハナイカト私ハ思フノデアリマス、故ニドウカ諸君ガ心ヲ
  大ニシテサウシテ誠意ヲ疑フナラバ、寧ロ吾々カラ飛込ンデ
  サウシテ露國ノ國民ヲ導キ、世界ノ同盟國ニ入レテ、日本ノ
  誼ミヲ入レテ行クト云フコトハ、軈テ日本ガ大ナル援ケヲ得
  ヌトモ限ラヌ-助ケヲ求メヤウト云フノデハナイ、今貿易ヲ
  開イタカラト云ッテ、望月君ノ言ハルヽヤウナ大ナル利益ガア
  ルコトハ私ハ思ハヌ、併ナガラ日露ガ接近シテ、此大國ガ互
  ニ提携シテヤルト云フコトハ、後來三十年ノ後ニ於テ大ナル
  影響ヲ畫クト思ヒマス、斯ク信ズルノデアリマス、故ニ私ハ諸
  君ノ前ニ於テ虛心坦懷、大ニ氣宇ヲ大ニシテ、世界ニ於ケル
  日本ノ立場ヲ了解シテ、世界ノ大國ト結ンデ世界ニ濶步セ
  ンガ爲ニ、日露ノ通商竝ニ此承認ヲ致シ-先ヅ承認ヲ致
  シテ通商ヲ致スト云フコトモアリマセウ、通商ヲ致シテ十分
  ニ之ヲ言語ニ現ハサナイデ默認スルト云フ例ハ、國際公法ニ
  モ幾ラモ例ガアリマス、併ナガラ私ハ「オープリンリー」ノ承認
  ヲシテ正々堂々ト條約ヲ結ブト云フコトハ、日本ガ後來世
  界ニ立ツ所ノ一大基礎ヲ爲スト云フコトヲ斷言シテ此案ニ
  賛成ヲ致シ、此壇ヲ降ルノデアリマス
  〔國務大臣伯爵内田康哉君登壇〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=89

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• 090・内田康哉

  ○國務大臣(伯爵内田康哉君)　私ハ此場合極ク簡單ニ
  決議案ニ對スル所見ヲ申述ベタイト思ヒマス、帝國政府ハ
  露國々民ニ對シテ常ニ渝ラザル友誼心ヲ持ッテ居ルノデアリ
  マスカラ、一日モ早ク〓路國ガ列國トノ關係ヲ回復スルコトヲ
  希望シテ已マザル者デアリマス、併シ今日直ニ露國ヲ承認ス
  ルト云フコトハ、先刻モ申述ベマシタ通リニ、最モ愼重ナル考
  慮ヲ要スルノデアリマス、少クトモ國際的信義、又國際義務
  ト云フコトニ關シマシテ、確實ナル諒解ヲ得ルコトヲ必要ト
  致シマス、故ニ若シ此決議案ノ御趣旨ニシテ今直ニ無條件
  ニ露國ヲ承認セヨト云フ御趣意デアレバ、政府ハ賛意ヲ表
  スルコトハ出來ヌノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=90

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• 091・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　討論終結ノ動議ヲ提出致シマス
  〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=91

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• 092・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　鈴木君ノ討論終局ノ動議ニハ
  異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」「異議アリ」「異議アリ」「異議ナシ」ト呼
  フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=92

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• 093・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　異議ガアレバ採決致シマス
  〔「議長通告ガシテアリマス」「討論終結デハナイカ」ト
  呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=93

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• 094・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=94

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• 095・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　異議ナシト認メマス、仍テ討論
  ハ終局致シマシタ、平野光雄君カラ本案ヲ委員付託ニ致シ
  タイト云フノ動議ガ出テ居リマス、成規ノ贊成ガアリマスカ
  〔「アリマス」「アリマス」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=95

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• 096・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　成規ノ賛成ガアルト認メマス、是
  ハ先決問題デアリマスカラ、先ヅ之ヲ採決致シマス、平野光
  雄君ノ委員ニ付託スルト云フ動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ
  求メマス
  〔賛成者起立〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=96

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• 097・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　少數デアリマス、消滅致シマシ
  タ-本案ニ付テ採決致シマス、本案ニ贊成ノ諸君ノ起立
  ヲ求メマス
  〔贊成者起立〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=97

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• 098・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　起立少數デアリマス、本案ハ否
  決サレマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=98

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• 099・鈴木錠藏

  ○鈴木錠藏君　殘餘ノ日程ニ對シ延期ノ動議ヲ提出致
  シマス
  〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=99

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• 100・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　鈴木君ノ動議ニハ異議アリマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=100

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• 101・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　異議ナシト認メマス、仍テ殘餘ノ
  日程ハ延期致シマス、-諮問事項ガアリマス、第三部選出
  豫算委員紫安新九郞君、第六部選出豫算委員永井柳太
  郎君ヨリ常任委員辭任ノ申出ガアリマシタガ許可スルニ異
  議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=101

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• 102・松田源治

  ○副議長(松田源治君)　異議ナシト認メマス、仍テ許可
  致シマス其部ノ諸君ハ速ニ補闕選擧ヲ行ヒ、御屆アランコ
  トヲ望ミマス、次ノ日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ
  是ニテ散會
  午後六時七分散會
  衆議院議事速記錄第二十八號中正誤
  頁段行誤正
  六一九上四五海上海潮
  衆議院議事速記錄第三十三號中正誤
  頁段行誤正
  七五〇下三四理事ノ下ニ「松本君平君」ヲ挿入ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004613242X03519230320&spkNum=102

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