1. 会議録本文
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000・会議録情報
會議
大正十五年三月十一日（木曜日）午前十時二十九分開議
出席委員左の如し
委員長 齋藤隆夫君
理事 磯部尚君
理事 井阪豐光君
理事 山口政二君
高木益太郎君 手代木隆吉君
平川松太郎君 菅原英伍君
廣瀬徳藏君 岡本實太郎君
武富濟君 熊谷直太君
黒住成章君 岩崎幸治郎君
渡邊伍君 則元由庸君
麓純義君 原夫次郎君
祷苗代君 谷原公君
清瀬一郎君
三月十日委員横山勝太郎君辭任に付其の補闕として手代木隆吉君を議長に於て選定せり
出席國務大臣左の如し
司法大臣 江木翼君
出席政府委員左の如し
司法政務次官 本田恒之君
司法書記官 長島毅君
司法書記官 森田豐次郎君
本日の會議に上りたる議案左の如し
民事訴訟法中改正法律案（政府提出、貴族院送付）
民事訴訟法中改正法律施行法案（政府提出、貴族院送付）発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=0
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001・齋藤隆夫
○齋藤委員長 是ヨリ民事訴訟法中改
正法律案外一件ノ特別委員會ヲ開會致
シマス、審議ノ方法ハ一ニ委員諸君多
數ノ御希望ニ依テ定メルコトニ致シマ
ス、先ヅ第一ニ本案提出ニ關スル大體
ノ意見ハ、本會議ニ於テ述ベラレテ居
リマスケレドモ、尙ホ委員諸君ニ於テ
御希望ガゴザイマスナラバ、幸ニ司法
大臣ノ御出席ガアリマスニ依テ、一應
御聽キシタラ如何カト思ヒマスガ、ド
ウデゴザイマセウカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ
者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=1
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002・江木翼
○江木國務大臣 本案ノ制定ニ關シマ
シテハ本會議ニ於テ大要說明致シマシ
タル通リ、明治四十四年以來法律取調
委員會ニ於テ、改正ノ事業ニ着手ヲ致
シマシテ、其以前法典調査會ニ於テ公
表致シマシタル草案ニ基イテ、更ニ裁
判所、辯護士會及商業會議所等ノ意見
ヲ徵シタル上、改正ノ審議ヲ進メタノ
デゴザイマス、斯樣ニ致シマシテ本案
ハ卽チ學者、辯護土、裁判官等、學識經
驗アル各方面ノ士ヨリ成リマスル所ノ
委員會ニ於テ、愼重審議ヲ經テ提案ヲ
致シタノデゴザイマス、而シテ右兩委
員會ヲ通ジマシテ委員總會ヲ開キマス
ルコト六十四囘、起草委員會ヲ開キマ
シタルコトガ實ニ四百三十四囘ニ達シ
テ居ルノデアリマス、謂ハバ各方面ヨ
リ出タル民事訴訟ニ關シマスル專門家
ガ、殆ド心血ヲ注イデ出來マシタ案ト
申シテ宜シイノデゴザイマス、本案ノ
編別ハ大體現行ノ民事訴訟法ノ例ニ據
ツテ居ルノデゴザイマス、唯訴訟費用
ノ規定ヲ當事者ノ章ヨリ分離致シマシ
テ別章ト致シマシタコト、ソレカラ判
決ノ表題ヲ裁判ト改メマシテ、之ヲ第
一審ノ訴訟手續ノ編ヨリ總則ノ編ニ移
シマシタコト、及ビ督促手續ニ付キマ
シテハ之ヲ獨立ノ一編ト爲シマシタコ
トガ、編別改正ノ主ナル點デゴザイマ
ス、尙ホ强制執行ノ手續ニ付キマシテ
ハ、此手續ト裁判ノ手續トハ其趣ヲ異
ニスルモノガアリマスルシ、且ツ競賣
ノ手續ト離スベカラザル關係ヲ持ッテ
居リマスルガ故ニ、共ニ特別ノ法規ヲ
以テ律スルノヲ適當ト認メマシタルニ
依リマシテ、强制執行ノ手續ニ關スル
法規ノ改正ハ之ヲ分離シ、引續キ調査
委員會ヲ設ケテ出來ルダケ速ニ其完成
ヲ期シタイト思ウテ居ルノデゴザイマ
ス、現行民事訴訟法改正ノ目的ハ旣ニ
本會議ニ於テ述べマシタ通リ、主トシ
テ訴訟手續ノ延滯ヲ防止シ、且ツ裁判
ノ適正ヲ期スルニ出タルモノデアリマ
シテ、其改正ノ要點ノ主ナルモノヲ擧
ゲテ見マスレバ、第一現行法ニ於テハ
專ラ當事者主義ヲ採用致シマシテ、訴
訟手續ノ進行ノ如キモ、主トシテ當事
者ノ意思ニ一任ヲ致シテ、私權ニ一任
ヲシテ居ルノデアリマス、私權ノ保護
ヲ目的トスル民事訴訟ニ於テ根本ノ原
則ヲ爰ニ置キマシテ、當事者ノ意思ヲ
尊重致シマスルコトハ固ヨリ當然デア
リマスルケレドモ、一面ニ於キマシテ
訴訟手續ガ圓滑迅速ニ進行スルヤ否ヤ
ト云フコトハ、公益ニ關係致シマスル
コト頗ル大ナルモノガアルト認メマシ
テ、或ル程度ニ於テハ職權主義ヲ加味
スルコトガ實際上極メテ肝要デアリマ
スルコトハ、多年ノ經驗ニ照シテ明ナ
ル所デアリマス、仍テ本案ニ於キマシ
テハ書類ノ送達、證據調及中斷シタル
訴訟手續ノ續行等ニ付キマシテ、相當
ノ程度ニ於キマシテ裁判所ノ職權ヲ擴
張致シマシテ、職權主義ヲ併用致ス
次第デアリマス、第二ニ現行法ニ於キ
マシテハ準備手續ハ例ヘバ計算事件ト
云フガ如キ、極メテ特種ノ複雜ナル訴
訟ニ限定ヲ致シテアルノデゴザイマス
ルケレドモ本案ニ於キマシテハ地方
裁判所ノ管轄ニ屬シマスル訴訟ニ付キ
マシテハ、原則トシテ準備手續ヲ採用
スルコトト致シタノデアリマス、準備
手續ニ於キマシテハ受命判事ハ簡便ナ
ル手續ニ依テ當事者ヲシテ事案ノ關係
ヲ申述セシメ、之ニ基キマシテ相互ノ
爭點ヲ明確ニシ、且ツ當事者ヲシテ其
主張致シテ居リマスル所ノ爭點ニ對ス
ル一切ノ證據方法ヲ申出デシメ、證人ノ
呼出シ、書類ノ取寄セ等、證據調ノ準備
ヲ整へ、斯クシテ準備手續ガ完結スルノ
ヲ俟マシテ、逐次公判ヲ開廷致シテ、公判
ニ於テハ成ベク接近シタル期日ヲ指定
致シマシテ、其期日ニ於テ法律上ノ
論議、事實上ノ調査、殊ニ證據調ヲ集
中統一シ、以テ審理ノ適正ト、迅速ヲ
期スル、斯樣ナコトニシタイト云フ積
リデアリマス、第三ニ、現行法ニ於ケ
ル缺席手續ハ徒ニ訴訟手續ノ延滯ヲ
來スモノガアリマスノデ、本案ハ之
ヲ廢止致シタノデアリマス、而シテ
當時者ノ一方ガ口頭辯論期日ニ出頭セ
ザル場合ト雖モ、裁判所ハ出頭シタル
當時者ニ辯論ヲ命ジテ、必要ナル證據
ヲ取調べ、對席判決ヲ爲スコトガ出來
ルモノト致シタノデゴザイマス、第四
ニ、現行法ハ總テノ訴訟法ニ付テ上訴ヲ
認メテ居ルノデゴザイマスルガ、上訴
ニ因リテ受クベキ利益ノ極メテ僅小ナ
ル場合ニ於キマシテ、上訴ヲ許シマス
ルコトハ訴訟經濟上必シモ當ヲ得タル
モノト認メラレナイノデゴザイマス
ル、ソレデ、本案ハ上訴ニ因リテ受クベ
キ利益ガ、一定ノ額ニ充タナイ場合ニ
於キマシテハ上訴ヲ許サナイ、斯ウ云
フコトニ致シタノデゴザイマス、民事
訴訟法中改正法律施行法案ノ主旨ハ大
要以上擧ゲマシタ點ノ外ニ、尙ホ主要
ナル點ト致シマシテ或ハ證書訴訟、或
ハ爲替訴訟ノ廢止、其他管轄ニ關シマ
スル規定等多々アリマスガ、尙ホ御質
問ニ依リマシテ、政府委員等ヨリ說明
ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、其
法施行法ノ主旨ハ、單ニ新舊兩法ノ施
行上ノ調和ヲ圖ルニ出デタニ過ギナイ
モノデアリマス、尙ホ此兩案中、貴族院
ニ於キマシテ、條文ノ上カラ申シマス
ルト數十條ニ亙テ居リマスルガ、修正
ヲ致サレタノデアリマス、其一二ヲ擧
ゲテ見マスルト、控訴ノ制限ノ額ヲ原
案ニハ三百圓トシテアリマシタノヲ、
二百圓ニ低下致シマシタ、當時者ノ僞
宣誓ノ場合ニ於ケル過料ノ額ヲ原案ニ
ハ千圓トアリマシタノヲ、五圓ニ低下
致シタト云フガ如キハ修正ノ主ナルモ
ノデアッタノデアリマス、政府ニ於キマ
シテハ其修正ノ全部ニ對シテ同意ヲ表
シタノデアリマス、尙ホ詳細ノ點ハ政
府委員ヨリ說明ヲ隨時致サセマス、何
卒十分御審議ヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=2
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003・齋藤隆夫
○齋藤委員長 通〓ノ順序ニ依テ質間
ヲ願ヒマス、高木益太郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=3
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004・高木益太郎
○高木委員 政府ハ此民事訴訟法ノ落
著ニ付テ、民衆ノ力ヲ利用スルト云フ
考ガアルカト云フ點ニ付ヲ伺ヒタイノ
デアリマス、旣ニ刑事ニハ陪審制度ヲ
大正十七年ヨリ實行シヤウト云フコト
ニナッテ居ルノデアリマスルガ、民事ニ
於テモ陪審制度ヲ御設ケニナル御考ハ
ナイノデアラウカ、本員等ガ廔英米、露
西亞ノ裁判所ノ樣子ヲ見ルト云フト、
此陪審若クハ三審ノ利用ニ依テ、判決
流ルルガ如クト申シテハ少シ言過ギル
カモ知レマセヌガ、裁判ガ非常ニ早ク
進行シテ居ル有樣ヲ見テ羨シク思フノ
デアリマス、日本ガ既ニ民衆ノ力ヲ借
リテ、刑事ニ於テ陪審制度ヲ用ユル以
上ハ、民事ニモ用ヒナケレバナラヌ、何
ガ故ニ民衆ノ力ヲ借リルコトヲ獨リ刑
事ノミニ止メルノデアルカ、何方ト言
ヘバ刑事ヨリハ寧ロ民事ノ方ガ必要デ
アラウト思フノデアリマス、刑事ハ强
盜ヲジタトカ、火ヲ放ケタトカ云フヤ
ケナ比較的單純ナモノデアリマスガ、
ソレデスラモ、御役人ダケデハイカヌ
ト云フノデ、民衆ノ力ヲ借リナケレバ
ナラヌト云フ以上ハ、民事ニ付テ陪審
ヲ設ケルト云フコトハ當然ノ次第デハ
ナイカ、現ニ其思想ノ一部ト云フモノ
ハ借地借家調停法、又ハ一兩日前本院
ノ委員會ヲ全會一致デ可決サレタ商事
調停法、是等ハ一ツノ矢張民衆ノ力ヲ
借リルモノデアル、斯ウ云フ考ガ法
案ノ上ニ現ハレテ居ル、調停仲裁バカ
リデナク、尙ホ進ンデ民間ノ生活問題
ニ密接ナル關係ノアル者ヲ以テ、審判
ニ參與セシムルト云フコトハ最モ必要
デハナイカ、殊ニ損害賠償事件ノ數額
ヲ決定スルト云フコトニ付テハ、民間
ノ人ノ力ガ最モ適當スルコトニナッテ
居ルノデアリマスルガ、今迄ノ裁判所
ハ往々此點ニ付テ遺憾ノアルコトガ少
クナイノデアリマス、損害賠償ノ原因
アリヤ否ヤト云フコトバカリデナク、
ドノ位ノ損害賠償ヲ拂フコトガ適當デ
アルカト云フヤウナ事ニ付テハ亞米
利加邊リデハ頻ニ陪審ヲ利用シテ、其陪
審ノ判斷ト云フモノハ最モ適當ナルコト
ヲ示シテ居ルヤウデアリマス、ソコデ、只今
民事訴訟法ノ大修正ヲシヤウト云フ以
上ハ、時代ノ要求ニ應ジタル此陪審制度ヲ
矢張採用スルト云フコトハ當然デハナ
イカ、是ガ第一ノ御尋デアリマス、ソレ
カラ第二ハ旣ニ調停法ガ本院ハ國民ノ
歡迎スル案ト認メテ、黨派ノ如何ヲ問
ハズ全會一致ヲ以テ委員會ハ可決シ
テ、最早本日日程ニ上ッテ、多分是ハ一
人ノ異議ナク本會ヲ通過スルコトデア
ラウト思ヒマスルガ、是ト同樣ニ此交
通ノ關係ニ故障ガ中〓少クナイノデア
リマス、例ヘバ交通機關ヲ發達ニ依テ
電車、汽車、自動車、自轉車、斯ウ云フヤ
ウナ事柄ニ關係シテ起ル所ノ事件ガ東
京ダケデモ一年ニ數萬件アルノデアリ
マス、警視廳ノ示シテ居ル統計デ當局
者モ御承知ニナッテ居ルコトデアラウ
ト思フ、又例へバ大キイ問題デ云ヘバ
曩ニ箱根デ電車ガ脫線ヲシマシテ十六
七人ノ死ンダ人ガ出來、又重傷者モ少カ
ラヌヤウデアリマス、斯ウ云フ問題ヲ
一々普通ノ手續ニ依テ審判ヲスルト云
フコトハ、證據モ滅失ヲシマスシ、事ノ
眞相ヲ得ルト云フコトハ餘程困難デア
ラウ、是ニ於テ丁度商事調停法ノ特別
ナル機關ヲ拵ヘタ如クニ、交通ノ事故
ノ特別ナル裁判所ヲ設クルト云フコト
ハ必要デハナイカ、又此取引所或ハ市
場、株ニ於テ、綿絲ニ於テ、米ニ於テ、魚
ニ於テ、或ハ靑物ニ付テ、是ハ餘程其途
ノ事情ニ通ジタモノデナケレバ或ハ先
物デアルトカ、中デアルトカ云フヤウ
ナ、普通ノ人ハ言葉ノ意味デスラモ分
ラヌヤウナ事ガアルノデアリマスカラ
シテ、是ハ平素取引所ノ事柄ヲ能ク〓
究シテ、事情ニ通ジタ人デナケレバ當
事者モ紛爭ノ衝點ヲ能ク捉ヘテ、適當
ナル裁判ヲスルト云フコトハ餘程困難
デアラウト思フノデアリマス、サウ云
フヤウナ問題ニ付テ特種ノ機關ヲ設ク
ルト云フコトハ必要デハナイカ、又家
庭ノ事故、或ハ夫婦喧嘩デアルトカ、親
子喧嘩デアルトカ、親族ノ間ノ衝突デ
アルトカ云フヤウナ事柄ハ、之ヲ一般
ノ訴訟手續ニ依ラズシテ、速ニ判斷ヲ
スルト云フコトガ必要デハナイカ、新
聞紙ニ依ルト云フト家庭審判法ト云フ
モノハ當局ニ於テ既ニ起草セラレタト
云フヤウナコトヲ聽イテ居リマスガ、
是ハ何時頃御提案ニナル御考デアリマ
セウカ、是モ一ツ伺ッテ置キタイ、ソレ
カラ今迄裁判所ノ仕事ト云フモノハ多
ク筆記ニ依ル所ノ記錄ニ基イテ、文書
ニ基イテ判斷ヲシタノデアリマスガ、
今日ハ「ラジオ」デアルトカ、或ハ活動
寫眞デアルトカ、或ハ蓄音機デアルト
カ、色〓機械ノ力ニ依テ眞相ヲ穿ツ時代
ニナッテ來テ居ル、殊ニ境界ノ爭ヒ、或
ハ其外ノ場合ニ寫眞ノ利用ト云フモノ
ガ餘程多クナッテ居ルノデアリマス、
ソレカラ又證人、參考人、鑑定人等ガ提
供スルヤウナ書類ニ付テモ、之ヲ寫眞
デ撮ッテ置クト云フヤウナコトハ、證據
調ノ上ニ於テ非常ニ便利デアラウト思
フ、又例ヘバ長崎ニ居ル人ガ上告ノ爲
ニ態〓大審院ヘ出頭スル必要ハナイ、長
崎ノ區裁判所ナラ區裁判所ノ「ラジオ」
ヲ利用シテ、東京ノ大審院ニ向ッテ上告
審ノ辯明ヲシヤウト云フ時ニハ「ラジ
オ」ヲ利用シテヤルト云フコトデアル
ナラバ、非常ニ訴訴ノ費用ヲ減ズルコ
トガ出來、又澤山ノ事件ヲ解決スルコ
トガ出來、兩方便利デアラウト思フ、文
書デ事情ガ盡セヌ時ニハ左樣ナ方法ヲ
以テヤルト云フヤウナ事柄ガ、周圍ノ
科學ノ發達ニ依テ訴訟法ノ從來ノ舊イ
規程ト云フモノガ動カナケレバナラヌ
時代デハナイカト思フ、例ヘバ日本デ
ハ裁判所デ以テ喚出シヲ掛ケルト云ツ
タ所ガ、一々廷丁ガ辯護士ノ所ヘ行キ、
ソレカラ證人鑑定人ノ所へ呼ビニ行
キ、ソレカラ判事ノ所へ行キ、書記ノ所
ヘ行ク、サウシテ或ル時刻ニ是ガズット
揃フト云フコトデアリマスガ、何カ電
氣ノ作用カ何カデ以テ、一筒所デ以テ
矢張全部ニ連絡ガ付キ、裁判へ同ジ時
刻ニ圖ラズ顏ヲ合スト云フヤウナ工合
ニスルコトガ出來ルノデアリマスカラ
シテ、機械力ノ利用ト云フコトヲ圖ラ
ナケレバナラヌト云フコトハ問題デア
ラウト思フノデアリマス、隨テ此訴訟
法ノ規程ノ中ニモ段々時代ノ進ムト共
ニサウ云フヤウナモノヲ應用ガ出來ル
ト云フヤウナ規程ヲ設ケルト云フコト
ハ、最モ必要デハナイカ、殊ニ帝國議會
ニ於テハ速記ニ依テ總テノ事柄ヲ記載
シマスケレドモ、マダ裁判所ノ方ハ速
記ヲ利用スルト云フコトガ全ク無イ、
サウシテ豫審ナリ或ハ其他ノ取調ニ付
テモ、一々判事ガ其要領ヲ自分ガ記憶
シテ居ッテ、判事ガ書記ニ口示スルノデ
アリマス、當事者ノ言ッタ陳述ト記錄サ
レタ書類トガ餘程喰ヒ違フコトガ少カ
ラヌノデアリマス、速記者ノ利用ト云
フコトモ亦是ハ新シイ問題デハナイ、
長イ間世間デ利用シテ居ルモノデアリ
ナガラ、裁判所ノミガ此利用ニ付テ特
別ナル規程ガ無イ、隨テ其速記ガドノ
位ノ效力ヲ持ッカ-議會ニ於テハ速
記ガ直ニ總テノ問題ヲ解決サレル材料
ニナルノデアリマスケレドモ、民事訴
訟ニハ口頭辯論調書ノミニ依テ法式ノ
遵守ヲ證明スルト云フコトニナッテ居
リマス、口頭辯論調書以外ニ速記ガア
ラウト其速記ハ何等ノ效ハ無イ、殆ド
公ノ上ニ於テハ速記ト云フモノハマル
デ認メラレテ居ナイノデアリマス、是
ハドウモ餘程時勢後レノ法律デアラウ
ト考ヘル、是等ノ點ニ付テマダ中〓世
ノ中ハ進ンデ行キマスシ、此訴訟法ハ
只今政府委員カラ受取リマシタ改正案
理由書ニ付キマシテモ、明治二十八年
ニ訴訟法ノ改正ニ着手シタノデアリマ
ス、ソコデ段々變遷ヲ經テ今日始メテ
此委員會ニ於テ明治二十八年以來ノ問
題ヲ解決スルト云フヤウナ譯デアリマ
ス、必ズ此改正訴訟法モ一旦決メタ以
上ハ改正スルト云フコトハ容易ナモノ
デナイ、何カ法文ノ上ニ時代ノ進運ニ
應ジテ、サウ云フ機械力ナンカヲ利用
ガ出來ルヤウナ條文ヲ設ケルト云フコ
トガ必要デハナイカ、マダ吾ミガ知ラ
ヌ事柄デ是カラ先キ或ハ醫學其他ノ方
法デ事ノ眞相ヲ得ルト云フヤウナ、簡
便ナ手段ガナイト云フコトハ出來ナイ
ノデアリマス、是等ノ事ニ付テ包括的
ノ條文ヲ御設ケニナル御考ガアリマセ
ウカ如何デアリマセウカ、現ニ日本辯
護士協會、竝ニ東京辯護士會カラノ修正
意見ノ中ニ、速記者ヲ利用スルト云フ
コトガ書イテアリマシテ、速記ニ付テ
ハ特別ナル規定ヲ設ケテ貰ヒタイト云
フヤウナコトガアリマス、單ニ速記バ
カリデハナイ、電氣其他ノ發明ト云フ
モノハ餘程利用シテ宜イモノガアラウ
ト思フ、證人ナリ參考人ナリヲ法廷ニ
出サナケレバナラヌ場合モアル、併ナ
ガラ必ズシモ法定ニ出ナクテモ簡單ナ
事柄デ自分ノ內ノ帳簿ナラ帳簿ヲ見
テ、ソレニ依テ答ノ出來ル時ニハ電話
デモ宜カラウト思フ、刑事ノ方デハ電
話デ以テ或ハ檢事局ナリ其他ノ照會ニ
對シテ答ヲスル場合ガアル、民事ノ方
ニ於テハナイト云フコトハ一向譯ガ分
ラヌコトデアル、何カ其事柄ガ重大ナ
事デアレバ、證人ナリ鑑定人ナリ參考
人ガ法廷ニ出ルト云フ必要ガアリマス
ケレドモ、何デモナイホンノ經過行途
ダケヲ聞クヤウナ場合ニ、一々裁判所
ニ之ヲ喚出シテ宣誓ノ上證言セシムル
ト云フコトハ多忙ナ商人ナドハ非常
ニ困ル、例ヘバ幾日ノ社債ナリ公債ハ
幾ラノ値段デアルカ、斯ウ云フヤウナ
事ヲ聽ク場合ニハ裁判所ガサウ云フ
公債社債ヲ扱フ者ニ對シテ電話デ以テ
何月何日ノ公債ノ相場ハ幾ラト云フコ
トヲ聞ケバ、一方ハ帳簿ニ依テ其日ノ
公債ノ賣買價格ハ幾ラデスト云フコト
ヲ電話デ答ヘル、ソレヲ一方デ書記ガ
錄スル、ソレヲ直ニ證據ニシテモ差支
ナイ、現ニ刑事ニ於テハ檢事ガ人ヲ起
訴スル、或ハ人ヲ引ッ括ル場合ニ、起訴
狀若ハ勾引狀ヲ電信電話デ以テ之ヲヤ
ルト云フコトハ中〓多イ、サウ云フ人
身ノ自由ニ影響ノアル起訴行爲デアル
トカ、或ハ勾引スルトカ云フヤウナ事
柄ニ對シテ電信電話ノ利用ガ出來ルノ
ニ、民事ニ於テ或ル財產上ノ問題ニ付テ
ノ相場ヲ聞クトカ、或ハ此邊ノ地代ハ
幾ラガ宜カラウカト云フヤウナ簡單ナ
事ヲ聞クノニ、必ズ本人ガ法廷ニ出テ
宣誓ノ上ヤラナケレバナラヌト云フ事
ハ、ドウモ繁劇ノ今日ノ時代ニ於テハ
迷惑千萬ナ事デアラウ、國民ノ義務ト
ハ云ヘ、サウ鄭重ニシナクテモ宜イ事
柄ト、鄭重ヲ要スル事柄トアル、事ノ輕
重ニ依テ必ズシモ裁判所ニ之ヲ喚出ス
ト云フ事柄ハ時代ノ狀態ニ應ジナイモ
ノデハナイカ、是ハ物ノ眞相ヲ得サヘ
スレバ宜イデアッテ、其手續如何ハ問フ
モノデハナイ、當事者モ異議ガナイ、裁
判所モ亦電信ヤ電話デ宜シイト認メタ
場合ニハ、サウ云フ方法デドン〓〓事
件ノ解決ヲ付クルト云フコトガ當然ナ
事デハナイカ、何時モ古イ訴訟法ニ依
テ必ズ證人鑑定人ガ法廷ニ出テ、判事
ノ面前ニ於テ長イ間待タサレテ、宣誓
ノ上陳述ヲ爲スト云フコトハ舊式ナ事
デ、今日ノ狀況ニハ應ジナイ事デアラ
ウカト考ヘル、ソレ等ノ點ニ付テ根本
的ニ思想ヲ變ヘルト云フコトガ當然デ
ハナイカ、ソレカラ又僅ナコトデアリ
マスケレドモ、證人ナリ鑑定人ナリガ
裁判所ニ出マスト云フト、陳述ヲシテ、
サウシテ其日當ヲ取ルト云フヤウナ場
合ニ、更ニ又日當請求書ト云フモノヲ
出ス、ソレカラ裁判所ニ決定シテ貰フ、
ソレカラソレニ對シテ支拂命令ヲ貰
フ、其支拂命令ヲ又日本銀行ニ持ッテ行
ツテ受取ルト云フノデアル、陳述ヲス
ルト云フコトハ一日デ濟ムケレドモ、
日當ヲ貰フ爲ニ二日以上ヲ要スルコト
ガ少クナイ、大抵ノ者ハ手續ノ煩勞ニ
懲リテシマッテ、日當ノ請求ヲスル者ハ
甚ダ少イ、既ニ暇ヲ潰サセルト云フコ
トガ氣ノ毒ナ上ニ、中カラ以下ノ人間
ハ何等ノ報酬モ受ケズニ、何等ノ實費
モ賠償ヲ受ケズシテ歸ラナケレバナラ
ヌト云フコトニナルト、裁判所ト云フ
モノヲドウ感ズルカ、非常ニ國民ニ迷
惑ヲ與ヘル場所デアル、斯ウ云フ感ジ
ヲ懷カセル、ソレモ其事件ノ當事者ナ
ラバ已ムヲ得ヌケレドモ、當事者デモ
何デモナイ人ヲ喚出シテ、國民ノ義務
ナリトシテ證人ナリ、鑑定人ナリ、參考
人ナリトシテ調ベル、僅ナコトヲ聽イ
テ、サウシテ其車馬賃モ拂ハナイ、假ニ
拂フトシタ所ガ餘程ソレヲ受取ルニハ
煩シイ手續ヲ要スルト云フヤウナコト
ハ、今日ノ時代ニ於テ何トカ改良シナ
ケレバナラヌ事柄デアルト思フ、所ガ
先進國ノ裁判所デハ證人ヲ取調ベルト
云フト、裁判長ガ禮ヲ言ッテ、今日ハ多
忙ナ所ヲ能ク來テ吳レテ洵ニ辱イ、直
ニ其處デ以テ現金ヲ拂ッテヤルノデア
ル、其處デ日當請求書ヲ出シ、支拂命令
ヲ貰ッテ日本銀行へ取リニ行クト云フ
ヤウナコトハアルモノデハナイ、如何
ニモ簡單ニ濟ンデシマフ、然ラバ日本
デ出來ナイカト云フニ、例ヘバ陸海軍
ノ費用ト云フモノハ前拂ノコトガア
ル司法部デモ登記所ノ費用ハ前渡ニ
ナッテ居ル、外務省ニ於テモ同樣ナコト
ガアルカラ、裁判所ニ證人トシテ喚出
ス場合ニ判事ヲ信用シテ、若干日當ニ
當ル金額位ヲ拂渡ガ出來ナイト云フコ
トハナイデアラウト思フ、非常ニ改正
ヲ要スルコトデアリマスガ、是ハ長イ
問題デ今私等ガ初テ事新シク愬ヘルト
云フヤウナコトハオカシイ位デアル、
サウ云フヤウナ點ニ付テ今度ノ訴訟法
ハドウ云フ工合ニ御留意ニナッタノデ
アリマスカ、實ハ江木司法大臣ニサウ
云フコトヲ申上ゲルノハオカシイ譯デ
アリマスケレドモ、明治二十八年以來
實ハ此改正ニ着手シテ居ルガ、改正委
員ノ顏振ヲ見ルト、裁判所ニ出入シナ
イ者ガ此法案ノ起草ニ關與シテ居ル、
芝居ヲ見タコトノナイ者ニ芝居ノ話ガ
出來ルカ、裁判所ニ來タコトノナイ人
間ガ此法案ノ起草ニ關與スル、是ハ何
ト言ッテ宜イカ、是ガ何カ高尙ナ道理ヲ
〓究スルモノナラバ兎モ角、訴訟ノ手
續ナンデアリマスカラ、簡便ニ迅速ニ
早ク落着ヲ附ケサヘスレバ宜イ、所ガ
一遍モ法廷ヘ出タコトノナイ人間ガ此
法案ノ起草ニ-是ハ現內閣ガヤッタ
譯デハナイガ、明治二十八年以來關係
シテ居ル、私ハドンナモノガ出來ルカ
ト思ッテ實ハ見テ居ッタノデアリマス
此內閣ニナッテ他ノ重要ナ法案ト共ニ
此永イ間ノ懸案ヲ解決セラレルト云フ
事ハ、洵ニ私ハ結構ナ事ダト思フ、今ノ
點ニ付テ今度ノ改正法ハドウナッテ居
リマセウカ、殊ニ日本辯護士協會、東京
辯護士會カラ訴訟法一百九十五條ニ
只今私ノ申シマシタ趣意ノ一部ヲ揭ゲ
テ「證人ノ爲シタル行爲ハ寫眞又ハ蓄
」音器其他適當ノ技術ヲ以テ保存スルコ
トヲ得、技術者ニ付テハ鑑定ノ規定ヲ準
用ス、理由、第二百九十五條ニ依リ證人
ヲシテ爲サシムル行爲ハ指紋ヲ押捺ス
ルコト、音聲ヲ發スルコト、特殊ノ擧動
ヲ爲スコト等枚擧ニ遑アラス、致底調
査ノ記載ノミヲ以テ滿足スヘキニアラ
ス、仍テ之ヲ特殊ノ技術ヲ以テ保存シ、
採證法ニ遺憾ナキヲ期セントス、」斯ウ
云フ說明マデヲ附ケテ、多分政府委員
ノ御手許ヘハ日本辯護士協會及東京辯
護士會カラ修正意見トシテ御廻シ申シ
テ居ル事デアラウト思ヒマスガ、斯ウ
云フ點ニ付テ政府ノ御考ハドウ云フモ
ノデアラウカ、尙ホ判事忌避ノ規定デ
アリマスガ、今日マデ明治二十三年ニ
制定セラレタ民事訴訟法、其外治罪法、
刑事訴訟法等ニ判事忌避ノ規定ガアリ
マスガ、忌避ガ立ッタ事ガアルカナイカ
ト云フコトヲ見ルト、ドウモ吾〓ノ寡
聞ナル、忌避ノ申立ト云フモノガ立ッタ
コトヲ殆ド聞イタ事ガナイ、是ハ立ッタ
例ガゴザイマセウカ、如何デアリマセ
ウカ、司法省デ統計カ何カ御取リニナッ
タ事ガアルカドウカ、然ラバ判事ノ中
ニ何カ疑ヲ懷ク原因ガ絕對ニナイカト
云ヘバ、例ヘバ山口淳ノ如キ、帆足〓萃
ノ如キ、或ハ先頃モ長崎ノ控訴院ノ某
判事ガ瀆職罪デ有罪ニサレタト云フヤ
ウナ事モアル、多數ノ判事デアルカラ
絕對ニ無イト云フコトハ斷言出來ナ
イ、ソコデ當事者カラ判事ノ取調ノ方
針ト云フモノガ公平ヲ缺ク、斯ウ云フ考
デ辯護士ガ忌避ノ申立ヲスル、或ハ又
審理中ニ豫斷ヲ表白スルト云フヤウナ
事ガアルト云フト、訴訟ノ進行ハ出來
ナイノデアリマスガ、サウ云フ場合ニ
忌避ノ申請ヲシタ時ニ立ッタ例ガアル
ダラウカ、立タヌモノトスレバ無駄ナ
條文ヲ玆ニ唯陳列シテアルニ過ギナ
イ、幾ラヤッタ所ガ立ッタ事ガナイト云
フコトデアレバ何モナラヌ、唯紙ノ上
ニ忌避ノ規定ガアルダケデアッテ、事實
ノ上ニ於テハ當事者ノ申請ガ採用ニナ
ラヌト云フコトデアレバ、何モナルモ
ノデハナイ、然ルニ司法官ハ他ノ場合
トハ違ッテ、潔癖ヲ貴ブモノデ、所謂李
下ニ冠ヲ正シウセズデ、實際ニ瀆職ナ
リ或ハ偏頗ナル行爲ガ無クトモ、世間
カラ見テ是ハドウモ公平ヲ缺クモノダ
ト疑フニ足ルベキ事情ガアル時ニハ
囘避スルノガ當然デアル、然ルニソレ
ヲ囘避シナイデ之ヲヤルト云フ場合
ニ、當事者又ハ辯護士カラ之ヲ忌避ス
ルト云フ事ハ當然ナ事デアル、其忌避
ノ問題ヲ判斷スルノニ、其一〓ニ居ル
同僚ガ、而モ同ジ部ニ居ル所ノ同僚ガ
判斷ヲスルト云フコトハ、是ハ人情上
爲スヲ忍ビナイノデアリマス、ソレヲ
矢張其ノ儘玆ニ規定シテ置イタノデ
ハ、ドウモ今日民衆政治ノ時代ニ國民
ノ常識ガ法律ニナル時代ニ、甚ダ時代
後レノ感ヲ持ツ、私ハサウ云フ場合ニ
ハ例ヘバ辯護士會長ガ之ヲ判斷スル、
辯護士會ノ無イ所ハ一ケ所モナイノデ
アリマスカラ、所屬判事ニ公平ヲ缺ク
ヤウナ疑ガアルト云フノデ、當事者又
ハ辯護士カラ申請ガアッタ時ニハ、超然
タル別ノ機關ガ之ヲ判斷スルト云フコ
トニシナケレバ、裁判所ノ同僚同士デ
アレバ互ニ之ヲ庇護スルカ、庇護シナ
イニシタ所ガ自分ノ同僚ニ對シテ忌避
ノ原因ガアルト判斷スルト云フコトハ
遠慮スル傾向ガアル、確ニソレハ統計
ノ上ニ於テ恐ラクハ忌避ノ立ッタ例ト
云フモノハ吾〓聞カナイ、サウスレバ
是ハ何カ一ツ審判ノ公平ナル事ヲ保障
スル一ツノ規定ヲ設ケルト云フコトハ
當然ナ譯デハナカラウカト考ヘル、是
等ノ點ニ付テ政府ハドウ云フ御考ヲ御
持チデアリマセウカ、ソレカラ同時ニ
伺ッテ置キタイノハ、是迄ノ裁判所ガ財
產權ヲ保護シテドノ位實效ガアッタカ、
民事訴訟ニ依テ栽判ヲヤッテ、其栽判ノ
結果ドノ位執行ガ出來タカ、例ヘバ玆
ニ五億圓ナラ五億圓ノ財產權ヲ保護シ
テアル、然ルニ是ガ執達吏ヲ以テ强制
執行ヲヤッテ見ルト一億五千萬圓ダケ
ハ取立ガ出來タガ、アト三億五千萬圓
ト云フモノハ裁判ガ執行出來ナイ、卽
チ司法權ノ働キニ依テ國民ノ財產權ト
云フモノヲドノ位保護サレテ居ルカ、
是ガ訴訟法ノ一番肝要ナ目的デアラウ
ト思フ、其目的ト云フモノハドノ位實
現セラレテ居ルカ、成程裁判ヲ起シタ
時カラ落着シタ時迄ノ期間ニ付テノ表
ハ頂戴シテ居リマスケレドモ、其期間
以內ニ實行ガ出來タノガドノ位デアル
カ、斯ウ云フ事ガ國民ノ知ラント欲ス
ル所デアリマス、是ハ凡ソデ宜シイ、
ケ年ニ何億圓ノ訴訟ガ起ッテ、ソレニ對
シテ印紙ヲ幾ラ貼ラシテ、國家ハソレニ
對シテ栽判ヲシテ、結局執達吏ニ依テ
國家ノ栽判ト云フモノガドノ位實行出
來タカ、卽チ取立ハドノ位得ラレタカ、
斯ウ云フ事ヲ大體ニ於テ說明ヲ仰ギタ
イト思フ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=4
-
005・江木翼
○江木國務大臣 只今高木君ノ御質問
ハ頗ル廣汎ニ亙テ居リマシテ、多年ノ
御經驗ニ依リマス專門的ノ事柄ガ非常
ニ多イノデアリマス、私ガ御答ヲ致ス
ノデハ却テ便利デナイ事柄ガ多イト思
ヒマスノデ、重要ナル部分ニ付テ私ヨ
リ御答致シマシテ、而シテ其他ノ點ニ
付キマシテハ政府委員ヨリ御答スルコ
トニ致シタイト思ヒマス、爭訟等ノ事
柄ニ付キマシテ國民ノ力ヲ藉リルト云
フ點ニ付キマシテハ、御說ノ點ハ主義
トシテ大變ニ宜イコトダト思ヒマスノ
デ、全然賛意ヲ表スルノデアリマス、今
日旣ニ小作ニ付キマシテハ小作爭議調
停ト云フモノガ出來、之ニハ調停主任ノ
外ニ調停委員ト云フモノヲ民間ヨリ採
リマシテ、小作土地制度ト云フモノニ
知識ヲ持チ、且ツ其土地ニ特有ナル知
識經驗ヲ持ッテ居リマスル人ヲ特ニ調
査委員ニ致シマシテ、サウシテ調停決
定ヲ爲サシムル、斯ウ云フ制度ガ出來
テ居ルノデアリマス、ソレカラ借地、借
家ニ付キマシテ、御說ニモアリマシタ通
リ、大キナ市街地ニ於テハ之ヲ實行致
シマシテ、非常ニ好イ成績ヲ擧ゲテ居
ルノデアリマス、而シテ是ガ實行ニ付
キマシテモ成ベク調停主任ハ自ラ指導
的態度ヲ執ラズ、成ベク此調停委員ノ
意思ノ表示ニ依リマシテ、公正ナル決
定ニ到達スルヤウニ仕向ケルト云フ方
針ニ致シテ居リマシテ、非常ニ好キ成
績ヲ擧ゲテ居ルト思フノデアリマス、
今囘商事調停ニ付キマシテモ、旣ニ委
員會ハ全會一致ノ御決定ニ至ッタト云
フヤウナ次第デ、斯ウ云フ點ニ付キマ
シテハ、所謂普通ノ常識ヲ以テ爭訟調
停ヲ爲スト云フコトハ洵ニ適當ナコト
デアルト認メテ居ルノデアリマス、而
シテ斯ノ如キ方法ヲ民事裁判ニ用ヒ
テ、而シテ民事裁判ニ付テ、或ハ事實ノ
決定、或ハ法律ノ適用マデ進ンデ、陪審
制度ヲ用ヒルガ宜イデハナイカト云フ
點ニ付キマシテハ、十分民事訴訟法ノ
案ヲ公表サレマシタ時ニ多少左樣ナ意
向ガ或一部カラ出テ居ラヌデハナカッ
タヤウデマリマシタ、英吉利等ニ於キ
マシテ、長イ間民事ニモ「ヂユリー」ノ
制度ヲ採ッテ居リマスルノヲ、日本ニ移
シテモ宜イデハナイカト云フヤウナ意
見ガナイデハアリマセヌノデアリマシ
タガ、大體ニ於キマシテ今日民事ノ爭
訟ニ付キマシテハ、御互ニ當事者ノ主
張ト云フモノヲ十分ニ鬪ハシテ、而シ
テ其當事者ノ主張デ結局裁判官ガ裁判
ヲシナケレバナラヌ點ヲ裁判官ノ判斷
ニ求メルト云フ、當事者ヲ縱トシテ居
ル所ノ主義ヲ採ッテ居ルノデアリマシ
テ、一般ノ法曹社會其他ニ於キマシテモ
民事ノ裁判マデ陪審ノ制度ヲ用ヒルト
云フコトハ、ドウモ多クノ意見デナサ
サウニ見エルノデアリマシテ、今囘ノ
訟訟法ノ改正ニ付キマシテハ其點ハ用
ヒナカッタノデアリマス、ソレカラ第二
段ニ御述べニナリマシタ如ク、調停ノ
事項ト云フモノヲ成ベク廣クシテ、サ
ウシテ社會ノ通念ニ法律其他ノ爭訟事
件ヲバ裁判セシムルト云フ途ニ出デタ
ト云フコトハ、事柄ヲ迅速ニ、適正ニ始
末ヲ付ケマス上ニ付キマシテモ、頗ル
必要ナコトト思ヒマスノデ、是ハ所謂
調停法ト云フ方面ニ於キマシテ用ヒタ
イト政府ニ於テハ考ヘテ居ルノデアリ
マス、旣ニ今囘ノ議會ニ商事調停法案
ヲ出シ、又勞働爭義ニ付キマシテハ勞
働爭議ノ調停法案ヲ出シテ居ルト云フ
ヤウナ次第デゴザイマシテ、漸次此方
法ヲ擴ゲルト云フコトハ餘程好キ結果
ヲ收メルモノデアラウト信ジテ居ルノ
デアリマス、第二段ノ商事調停ハ既ニ
委員會ノ決定ヲ經タガ、斯ルモノヲ交
通ノ事件等ニ付テ擴張スルノガ必要デ
ハナイカト高木君ハ御述ニナリマシタ
ガ、交通ニ關スル事故ハ非常ニ多イノ
デアリマス、而シテ必ズヤ此交通ニ關
スル事故ガムズカシイ法律問題ヲ包含
シテ居ルモノガ多イトモ認メラレナイ
ノデアリマス、電車ト人力車ガ衝突シタ
トカ、自働車ト電車ガ衝突シタトカ云フ
ガ如キ問題ニ付キマシテハ、全ク常識
デ-社會ノ通念デ以テ判斷ヲシテ宜
キ事項ガ多イト思ハレルノデアリマ
ス、左樣ナ事柄ニ付キマシテモ或ハ民
事ノ調停手續ト云フモノヲ拵ヘルノガ
便利デアルカモ知レヌト思フノデゴザ
イマスガ、實ハ斯樣ナ案ヲ來シマスニ
モ相當詳密ナ調査ヲ逐ゲマシテ、サウシ
テ之ヲ實行スレバ必ズ斯樣ナ成績ヲ擧
ゲ得ルト云フ大體ノ信念ガ出來マシタ
所デ、漸次案ヲ立テタイト云フヤウナ
方針ヲ以チマシテ、先ヅ借地、借家ヨリ
始メ、小作及商事ニ及ビ、勞働爭議ニ及
ブ-勞働爭議ハ裁判所ノ方ハ關係ゴ
ザイマセヌガ、及ブト云フヤウナ工合
ニ段々其途ヲ擴ゲタイト云フ趣旨デ提
案ヲ致シテ居ル次第デゴザイマス、マ
ダ目下ノ所デ商事以外ニ他ノ民事ニ付
キマシテ調停法案ヲ作ラウト云フ段取
ニハナッテ居リマセヌガ、髙木君ノ暗示
ハ洵ニ適當ナ暗示ト思ヒマスノデ、漸
次之ヲ調査致シマシテ、適當ト認メル
場合ニ於キマシテハ提案ヲスル運ビ
ニ致シタイト思フノデアリマス、ソレ
カラ取引所及市場等ニ對シマシテモ同
樣ノ機關ガアッテ宜イデハナイカ、取引
所及市場ノ取引ニ付キマシテハ、或場
合ニハ是ハ所謂商事ト認ムベキモノガ
-法律上商事ニ屬スベキモノガ多數
アルノダラウト思フノデアリマス、ソ
レハ自ラ今囘ノ商事調停法ニ依リマシ
テ、調停手續ガ進行シ得ルコトデアラ
ウト思フノデアリマス、其他ノ點ニ付
キマシテ特別ノ機關ヲ設ケル必要アリ
ヤ否ヤト云フヤウナ點ニ付キマシテ
ハ、相當調査ヲ要スルコトト思フノデ
アリマシテ、只今直グ左樣ナ機關ヲ設
クル意思アリト云フコトヲ明言スル譯
ニハ參ラヌノデアリマス、ソレカラ家
庭ノ事項ニ付キマシテ特別ノ機關ニ依
テ裁判ヲスルコトガ適當デアル、此事
ハ洵ニ御尤デアリマシテ、此點ニ付テ
ハ既ニ法制審議會ノ方ヘ家事審判所ナ
ルモノノ創設及其手續ヲ制定致シマス
コトガ諮問ニナッテ居リマシテ、將ニ法
制審議會ニ於テ審議セラレムトスル狀
態ニナッテ居ルノデアリマス、固ヨリ家
事審判所ニ付キマシテハ民法ノ親族
篇。相續篇等ノ關係モアルコトデゴザ
イマスカラ自然此法ノ改正ト相伴フト
云フ結果ニナリマセウト思ヒマスノ
デ、之ヲ次ノ議會ニ出スト云フ如キ御
約束ヲ今日申上ゲル程度ニハ進マヌト
思ヒマスガ、兎ニ角既ニ綱領ハソレゾ
レ編成サレ、審議ニ附セラレテ居ル、斯
ウ云フ狀態デゴザイマスノデ、左樣御
承知ヲ願ヒタイノデアリマス、ソレカ
ラ裁判所ガ裁判ヲ致ス材料ト致シマシ
テ、各種ノ文明的ノ機關、其他ノ力ヲ應
用スルコトガ適當デハナイカ、殊ニ寫
眞デアルトカ、或ハ活動寫眞、速記若ク
ハ蓄音機ト云フガ如キモノヲ應用スル
ノ餘地ガ十分アルデハナイカト云フヤ
ウナ御話ガアリマシテ、意見ヲ求メラ
レタノデアリマスガ、是ハ私ハ裁判所
內ニ於ケル手續ト致シマシテ、卽チ非
常ニ事ノ明確、確實ヲ期スル上ニ於キ
マシテ直ニ「ラヂオ」トカ、或ハ蓄音機
トカ云フモノガ利用ガ出來マスカ、ド
ウデアリマスカ、ソレ等ノ點ニ付キマ
シテハ寧ロ多年サウ云フコトニ關係ノ
アル政府委員ヨリ御答辯ヲ致サセマシ
タ方ガ適當デアルカト思フノデアリマ
ス、ソレカラ證人鑑定人ノ日當ノコト
ニ付キマシテ、些細ノヤウナコトデア
ルガト云フ意味デ御尋ガゴザイマシタ
ガ、是ハ一見些細ノ如キモノデアリマ
シテ實ハ重要ナ點デアルノデアリマ
ス、御說ノ如キ點、手續ガ如何ユモ煩雜
デアルト云フコトハ、私只今承リマシ
テ洵ニ御尤ト思ッテ居リマス、是ハ訴訟
法ノ規定トハ直接ニ關係ハナイノデア
リマシテ、寧ロ會計法、會計規則、竝ニ
會計上ノ手續ノ問題デアルト思ヒマス
ガ、御說ノ點ガ訴訟法ト關係ナシニ簡便
ニ運ブ途ガアリハシナイカト云フ考ヲ
起シタノデアリマス、能ク是ハ調ベサ
セマシテ御趣意ニ副フヤウニ致シタイ
ト申上ゲテ置キマス、其他ノ各種ノ點
ニ付キマシテハ只今直グデ宜シケレバ
政府委員ヨリ申上ケルコトニ致シマス
シ、或ハ政府委員カラ申上ゲルコトハ
後デ一括シテ別ナ機會ニ御讓リ下サル
ト云フコトデアリマスレバ、其機會ニ
致シタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=5
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006・高木益太郎
○高木委員 甚ダ御親切ナ御答ヲ得マ
シテ滿足致シマスガ、一ツ仰セノ如ク
御調ベヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレデ
此民事訴訟法改正案ニ對スル修正意見
トシテ日本辯護土協會、東京辯護士協
會等カラ印刷物ガ來テ、政府委員ノ御
手許ヘモ行ッテ居リマスガ、此辯護士會
ガ政府ニ對シテ質問スルト云フコトハ
出來ナイノデアリマスカラ-ト云フ
テ私ガ代人ニナルノモオカシイデス
ガ、兎ニ角民間ノ有力ナル團體カラ斯
ウ云フ修正意見ガ出テ居リマス、此修
正意見ヲ假ニ吾〓共ガ政府ニ質問シタ
モノト致シマシテ、政府委員カラ此各
項目ニ付テ只今デナクテモ、明日デモ明
後日デモ、能ク御覽ニナリマシラ、此修
正ノ項目ニ同意ノ出來ル點、同意ノ出
來ヌ點、又同意出來ヌノハドウ云フ譯
カト云フ御答ヲ願ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=6
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007・江木翼
○江木國務大臣 辯護士會ニ依テ提出
サレタ修正意見ニ付テ司法當局ノ意見
ヲ說明ヲセヨト云フコトハ、貴族院ニ
於テモアッタノデアリマス、是ハ適當ナ
機會ニ於テ何時デモ申上ゲテ宜カラウ
カト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=7
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008・谷原公
○谷原委員 私ハ此準備手續ノ點ニ付
テ先ヅ簡單ニ御尋ヲ致シタイト思ヒマ
ス、曩ニ刑事訴訟法ガ實施サレマシテ、
準備手續ト云フモノモ矢張其當時ハ或
ル期間併合サレマシテ、別ニ所謂主任
者ト云フモノヲ置カズシテ、其部員ノ
中ノ主任者ト云フヤウナ者、或ハ裁判
長トナルベキ者ガ矢張此準備ノ主任ト
ナッテヤッテ居リマシタガ、人ニハ自ラ
能力ニ限リモアリ、今日ニ於キマシテハ
私共ノ知ル所デハ殆ド此準備手續ト云
フモノハ實行サレテ居ナイ唯證人ノ申
出ノ採否位ニ止ッテ居ルヤウニ見受ケ
ルノデアリマス、其點ヲ吾〓職務上ノ
經驗カラ考ヘマシテ、過般豫算ノ總會
ニ於キマシテ其點ヲ此民訴ノ實施ニ關
聯シテ御尋致シマシタ所ガ、政務次官
ノ御答辯ニ依リマスト別ニ之ヲ實施シ
テモ增員ヲシナイ、寧ロ此準備手續ガ
行ハレルコトニ依テ裁判所ノ事務ト云
フモノハ簡捷ニナル、經濟的ニナル、或
ハ人ハ減シテモ決シテ增スヤウナ御心
配ハナイ、斯ウ言ハレタノデアリマス
ガ、併ナガラ若モ之ヲ所謂構成ヲヤッテ
居ル部員ノ主任者ト云フヤウナ者ガ、
矢張此準備ノ受命判事トナッテヤルト
云フコトニナリマシタナラバ、是ハ決
シテ本法ニ豫想シ得ルヤウナ綿密ナ準
備ハ出來ナカラウト思フ、此二百四十九
條ノ但書ニ書カレタ裁判所ノ中デハ兎
モ角モヤリマセウガ、結局ハ是ハ準備
ノ必要ガナイト云フヤウナ認定ノ下ニ
準備ト云フモノガ有名無實デ、行ハレ
ナイ事ニナリハセヌカト心配致スノデ
アリマス、手許へ御配リ下サッタ英國ノ
制度等ニ於キマシテモ、矢張主事ト云
フモノガ殆ド此訟廷以外ニ於ケル準備
ノ受持ニナッテ居ルト云フヤウナ次第
ニ、此配付サレタ書類等ニ依テ私共ハ
察スルノデアリマス、又此事ニ付テハ
私共英國ノ制度等ヲ或機會ニ〓究シタ
際ニモ左樣ニ承知シテ居ルノデアリマ
ス、デアリマスカラドウシテモ此準備
手續訴訟ヲ十分ニ敏速ニヤルト云フ主
義ノ下ニ御運用ニナルナラバ、特別ノ
主事トカ、或ハ受命判事デモ宜シイガ、
宜シク此構成員ノ中ノ、其以外ノ者ニ
專任者ヲ置イテ、準備手續ヲシナケレ
バ、到底本法ニ豫想スルヤウナ準備ノ
手續ハ完全ニ出來ナカラウト思フノデ
アリマスガ、政府ニ於キマシテハ是ハ
ドウ云フ方法ニ依テ完全ニ御連用ニナ
ル御考デアリマスカ、此點ヲ承リタイ
ノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=8
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009・江木翼
○江木國務大臣 準備手續ノ點ハ本案
改正ノ骨子中ノ骨子トモ言フベキモノ
デアリマシテ、一番大事ナ點デアルト
思フノデアリマス、御說ノ通リ刑事訴
訟法ノ改正ニ依リマシテ、刑事手續ニ
於テモ此點ヲ廣ク用ヰルト云フノデア
リマスガ、是ハ或ハ實行ガ鈍イデハナ
イカ、隨テ之ヲ民事ニ用ヰタ所ガ十分
行カナイデハアルマイカト云フ御懸念
デアリマスガ、刑事ノ方ニ付キマシテ、
裁判所方面ヲ司法當局ヨリ視察サセマ
シタ者ノ報告ニ依リマスト、相當ニ此
準備手續ト云フモノガ漸次慣用セラレ
ルヤウニ進ンデ居ルヤウデアリマス、
何シロ從前ノ規定ニ比シマスルト、比
較的新ラシキ手續デアリマスルガ故
ニ、或ハ法ヲ執リマスル者ハ此精神ヲ
十分ニ呑込マナイ場合ニ於テハ、是ガ實
行ニ際シテ慣熟ヲ致サナイト云フ憂ガ
ナイトモ限ラヌノデアリマス、刑事ニ
付キマシテハ、漸次法ノ目的ニ到達シ
テ居ルト云フ報告ヲ各地カラ得テ居ル
ノデアリマス、或ハ民事ノ訴訟ニ付キ
マシテモ、之ニ特別ノ人ヲ置クトカシ
ナケレバ十分デナイノデハナイカ、是
モ一應御尤ノ御質問ト思フノデアリマ
ス、是ハ申スマデモナク今マデノ訴訟
法ハ大體獨逸ノ舊法ノ式ニ依リマシ
テ、何處マデモ口頭辯論、公判廷ニ於テ
當事者ノ双方ノ申立ヲ聞キ、有ユル防
禦ノ方法ヲ公判廷ニ於テ陳述セシメルト
云フ、極メテ今日カラ考ヘルト臆劫ナ
手續ヲ執ッテ居ッタノデアリマスガ、今
囘ハ受命判事ヲシテ、準備手續ニ於テ
有ユル攻擊、防禦ノ證據ヲ提出セシム
ル、此點ニ於テハ私自身ト致シマシテ
ハ、殆ド此民事訴訟ノ手續ニ付テハ根
本的ノ改正デアルト思フノデアリマ
ス、付キマシテハ此民事訴訟法ノ改正
案ハ之ヲ大正十七年中ニ施行致シタイ
ト思フノデアリマスガ、其施行マデ一
年半ナリ二年アリマスル、此期間ニ十分
此準備手續ナリ其他ノ改正條項ガ各判
事ニ徹底スルヤウニ有ユル努力ヲ司法
當局ニ於テ拂フ積リデアリマス、サウ
シテ此改正法ノ趣旨ガ十分徹底シテ、
サウシテ原則トシテ地方裁判所ノ手續
ニ於テハ、準備手續ヲ用ヰルモノデア
ルト云フコトガ分リマスレバ、自ラ此
施行ト云フモノガ滑カニ行クモノデア
ラウ、特ニ別ニ增員ヲ致サヌデモ十分ニ
間ニ合ッテ行クデアラウ、判事ノ此新法
ニ對スル準備、理解ト云フコトノ養成ニ
付テハ最大ノ努力ヲ拂ッテ撤底シタイ、
斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、必ズ
其目的ヲ達シ得ルト信ジテ居ルノデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=9
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010・谷原公
○谷原委員 事實ノ點ニ付テ吾〓ノ見
聞ト大ニ違フ所ガアリマスルガ、是レ
以上ハ意見ニ亙リマスカラ此點ハ止メ
テ置キマス、次ニ此爲替訴訟等ヲ削除
シタ點ニ付テ一寸伺ヒタイノデアリマ
スガ、是ハ本會議ニ於テ黑住君カラ熱
心ナル質問ガアリマシタガ、ドウモ御
答ノ點ニ於テ私多少十分ナル諒解ヲ缺
イタコトガアリマスルノデ、重複ノヤ
ウデアリマスケレドモ、簡單ニ御伺ヒ
シタイノデアリマス、詰リ此爲替卽チ
手形類ガ取引市場ニ於テ敏速ニ流通ス
ルト云フコトハ、是ハ取引界ノ取引行
爲ヲ敏活ニ結了サスト云フ上ニ於キマ
シテ重大ナル關係ヲ持ッテ居ルコトト
思ヒマスガ、ソレ故ニ舊法ニ於テ特別
ナ訴訟ヲ認メテ居ッタト思フノデアリ
マス、又實際ノ運用ノ上ニ於キマシテ
モ、爲替訴訟ノ如キハ、或雜誌ニ東京ノ
地方裁判所長ナドガ統計ノ數字マデ擧
ゲテ示シテアル如ク隨分實効ガ擧ッテ
居ルノデアリマス、今之ヲ廢シテ普通
ノ手續ニ依リ、而モ金額ノ如キモノニ
付キマシテハ、今司法大臣ノ述ベラレ
ル所ニ依リマスト、假令爲替訴訟ノヤ
ウナモノデアリマシテモ、又準備手續
ト云フモノヲ經ル場合モアルノデアラ
ウト思フノデアリマス、ノミナラズ多
少此職權ヲ加味致シマシテ、證據ノ蒐
集、或ハ又此訴訟ノ審理ヲ敏速ニスルト
致シマシテモ、苟モ攻擊、防禦ノ方法ガ
ソコニ對立シマスル以上、一方ニ攻擊
ノ證據ヲ出セバ防禦ノ證據モ出テ參リ
マシテ、隨分是ハ普通訴訟デヤルト致
シマシタナラバ、複雜ナル問題ガ起ル
デアラウト思フノデアリマス、私共ハ
ドウモ在來ノ經驗ニ依リマスト、此モ
ノハ獨立サスコトガ爲替流通、手形流
通ノ上ニ於キマシテハ、當業者ニ取ッテ
頗ル便利デアル、又訴訟ノ敏速ヲ圖ル
ト云フ、此改正ノ趣旨ニ至極舊法ハ合
シテ居ルヤウニ思フノデアリマス、政
府ガ特ニ之ヲ削除スルト云フコトニ付
キマシテ、爲替訴訟ノ弊害、或ハ之ヲ普
通訴訟ニ直スコトガ適當デアルト云フ
コトニ付テ特別ノ理由ガ御有リナサル
コトト思ヒマスガ、此點ヲ一應伺ッテ置
キタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=10
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011・長島毅
○長島政府委員 洵ニ御尤ナ御尋デア
リマス、實ハ爲替訴訟、證書訴訟ノ廢止
ノ問題ハ十分取調會ノ方デモ〓究致サ
レタノデアリマス、ソレデ大體調査ノ
結果ニ依リマスト、爲替訴訟竝ニ證書
訴訟ニ付キマシテハ、缺席判決ノ數ガ
相當ニ多イノデアリマス、此分ニ付キ
マシテハ特別訴訟手續ヲ認ムル必要ハ
ナイデアラウ、是ハ實務ニ御當リノ方
ハ御存知ノ通リ、多ク爲替訴訟ノ場合
ハ金ガナクテ拂ヘナイト云フ場合ガ非
常ニ多イノデ、此分ハ缺席判決ニナッテ
居リマスガ、此分ニ付テハ特殊ノ手續
ハ要ラナイト云フ風ニ考ヘラレマス、
ソレカラ缺席判決ニ依ラズシテ終結シ
テ居リマスモノヲ見マスト通常訴訟
カラ見マスト、其結果ハ早クナッテ居リ
マスガ、終局判決ガ延ルト通常訴訟ト
餘リ違ヒガナイ結局ソレデ缺席ノ分
ハ特殊ノ手續ヲ執ル必要ハナイデアラ
ウシ、サウデナイ分デアリマスト餘リ
ニ證書訴訟、爲替訴訟トシテハ敏速手
續ノ效果ガ現ハレテ來ナイ、尙ホ其上
ニ少シムヅカシイ事件ニナリマスト、
通常訴訟ニ引直サレル、表ノ上カラ見
マスト、其數ハ一割ト少シ多イ位ニナツ
テ居リマス、殊ニ少シムヅカシイヤウ
ナ、目立ツヤウナモノハ通常訴訟ニ引
直サレテシマフ、サウスルト此點ニ付
テ爲替訴訟、證書訴訟ノ效果ハ無イト
云フコトニナリマス、又假ニ引直サレ
ナイト、是ガ結審致シマシテモ、通常訴
訟ニ於ケル權利ノ留保ガアリマスカ
ラ、其方デ權利ガ不確定ニナッテ居リマ
スノデ、是ハ勝訴判決ヲ得テモ甚ダ不
安ノ狀態ニ置カレテ居ルコトデアリマ
スノデ、旁〓以テ此證書訴訟、爲替訴訟
ヲ廢止シテモ宜シイ、本案デ一般ニ手
續ノ簡便ト云フコトヲ大ニ圖ッテ居ル
カラ、ソレデ補ヘルヂヤナイカ、斯ウ云
フコトデ實ハ廢止シタ譯デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=11
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012・谷原公
○谷原委員 今一點伺ヒタイノハ、此
强制執行卽チ六篇以下ノ規程ハ別ニ御
編成ニナルト云フ御方針ニ承リマシタ
ガ、其際ハ競賣法ト云フモノヲ別ニ獨
立サセテ置クト云フ御豫定デアリマス
カ、或ハ强制執行ト競賣法ト云フモノ
ハ或ハ合一ニ御制定ニナルト云フヤウ
ナ御豫定デアリマセウカ、又此强制執
行或ハ競賣法ト云フモノハ、隨分是ハ
缺點ガアリマシテ、現ニ六百四十五條
ノ如キハ判決ガ確定シテモ、アノ規程
ニ從テ執行ガ出來ズ、五年モ六年モ苦
ンデ居リ、又アレガ惡用サレテ殆ド實
效ガ擧ッテ居ナイト云フ例ノ澤山アル
コトヲ、吾〓其職務ニ關係ノ有ル者ハ
其弊ヲ認メテ居リマス、是等ノ强制執
行、競賣法ト云フ規定ノ改正ハ引續イ
テ政府ハ御提案ニナル御考デアルカ、
又御提案ニナルトスレバ是ガ時期ニ付
テ分ッテ居ル程度デ宜ジイ、御答ヲ願ヒ
タイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=12
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013・江木翼
○江木國務大臣 洵ニ御尤ナ御尋デゴ
ザイマシテ、先程モ一寸此點ニ付テ申
上ゲタノデアリマスガ、强制執行ノ點
竝ニ競賣、是ハ非常ニ相互ノ間ニ關係
ノ深イモノデアリマシテ、而シテ共ニ
今日ノ現行法ニ於キマシテハ頗ル不備
ヲ感ジテ居ルノデアリマス、マダ細イ
所マデノ調査ハ出來テ居リマセヌガ、
大體ニ於キマシテハ御說ノ如ク强制執
行ノ篇ト競賣法トヲ一〓ニ致シマシ
テ、一ツノ法律ニ致シマシテ、民事訴訟
法ノ中カラ引離シテ單行法ヲ作ルノガ
適當デアル、斯ウ云フヤウナ說ガ多イ
ノデアリマシテ、自然サウ云フ結果ニ
ナルコトト思フノデアリマス、是ダケ
申上ゲテ置キマス、但シマダ細目ニ亙
リマシテ改正ノ要項ガ整頓サレテ居ル
ト云フ狀態デアリマセヌノデ、別ニ明
年度ノ議會ニ之ヲ提出スルコトガ出來
ルト云フ御約束ハ出來マセヌガ、成べ
ク急ギマシテ、出來得ベクンバ民事訴
訟法ノ施行ガ大正十七年デアリマスナ
ラバ、ソレマデニハ案ヲ得テ施行ノ運
ビニ至レバ大變幸デアル、斯樣ニ當局
デハ今日考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=13
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014・谷原公
○谷原委員 各條ニ關スル質問ハ留保
致シマシテ、私ノ質問ハ是デ一應打切
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=14
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015・齋藤隆夫
○齋藤委員長 一寸磯部君ニ伺ヒマス
ガ、質問ハ長イノデスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=15
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016・磯部尚
○磯部委員 長クハナイガ、御答ニ依ツ
テ長クナルカモ分リマセヌ、若シ都合
ガ惡ケレバ後トデモ宜シイ、併シ午後
ト云フコトハ、重要案件ガ上程サレル
カラ、午後ト云フコトハ考ヘモノダラ
ウト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=16
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017・齋藤隆夫
○齋藤委員長 一寸御諮リ致シマス
ガ、午後ハ本會ガアリマスノデ、明日ノ
午前十時カラ開カウト思ヒマスガ、如
何デスカ
(「宜イデセウネ」ト呼フ者アリ)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=17
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018・齋藤隆夫
○齋藤委員長 ソレカラ是ハ御承知ノ
通リ、非常ニ私權ニ關スル重要法案デ
アルノデ、大分浩澣ナモノデアリマス、
ソレデ此質問ノ大體ハ御濟マシヲ願ッテ
置キタイト思ヒマス、先ヅ總體ノ質問
ヲ明日、明後日ニ願ヒマシテ、明週ニハ
各條ニ入ッテノ質問ヲシテ貰ヒタイト
思ヒマスガ、如何デアリマセウカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=18
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019・齋藤隆夫
○齋藤委員長 ソレデハ明日午前十時
カラ開キマス、散會致シマス
午後零時一分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005113284X00219260311&spkNum=19
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