1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二年三月一日(火曜日)午後一時十七分開議
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議事日程 第十八號
昭和二年三月一日
午後一時開議
質問
一 貴衆兩院議員の待遇及事務局の職制竝豫算に關する質問(篠原和市君提出)
二 産業政策に關する質問(土井權大君提出)
三 正米市場政策に關する質問(兼松寅太郎君提出)
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第一 花柳病豫防法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 兌換銀行劵整理法案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 家畜傳染病豫防法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第六 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第七 電氣事業法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第九 勞働組合法案(政府提出) 第一讀會
第十 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十一 國有財産整理資金特別會計法の特例に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十三 國産奬勵の爲の會計法の特例に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十五 徴兵令改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十六 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十七 土地收容法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十八 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十九 王公族より内地の家に入りたる者及内地の家を去り王公家に入りたる者の戸籍等に關する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十 不動産登記法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十一 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第二十二 不良住宅地區改良法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 國債整理基金特別會計法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十四 海外移住組合法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十五 商法中改正法律案(三浦數平君提出) 第一讀會
第二十六 恩給法中改正法律案(長峰與一君外三名提出) 第一讀會
第二十七 恩給法中改正法律案(松實喜代太君外三名提出) 第一讀會
第二十八 治安警察法中改正法律案(山枡儀重君外四名提出) 第一讀會
第二十九 大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案(坂東幸太郎君外三名提出) 第一讀會
第三十 架空索道の抵當に關する法律案(清瀬一郎君提出) 第一讀會
第三十一 被害水田改良事業助成法案(星廉平君外二名提出) 第一讀會
第三十二 金鵄勳章年金に關する法律案(古川清君外二名提出) 第一讀會
第三十三 北海道御料拂下地免租年期に關する法律案(東武君外三名提出) 第一讀會
第三十四 民法施行法中改正法律案(大石大君提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三十五 地租條例中改正法律案(大石大君提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三十六 商法中改正法律案(土屋清三郎君提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三十七 移住組合法案(津崎尚武君外九名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三十八 産業組合中央金庫法中改正法律案(由谷義治君外五名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三十九 義務教育年限延長に關する建議案(増田義一君提出)
第四十 郡山市に高等工業學校設置に關する建議案(粟山博君外六名提出)
第四十一 郡山市に高等師範學校設置に關する建議案(粟山博君外五名提出)
第四十二 奈良縣に藥學專門學校建設に關する建議案(福井甚三君外二名提出)
第四十三 國立蠶絲大學設置に關する建議案(篠原和市君外五名提出)
第四十四 福井縣小濱に高等水産學校設置に關する建議案(山口嘉七君外二名提出)
第四十五 福島市に高等蠶絲學校設置に關する建議案(大島要三君外六名提出)
第四十六 岡山市に綜合中國帝國大學設置に關する建議案(清水長郷君提出)
第四十七 金澤市に綜合大學設置に關する建議案(佐藤實君外四名提出)
第四十八 盛岡市に高等師範學校設置に關する建議案(柏田忠一君外四名提出)
第四十九 松江市に山陰帝國大學設置に關する建議案(原夫次郎君外二名提出)
第五十 仙臺市に高等師範學校設置に關する建議案(内ヶ崎作三郎君外三名提出)
第五十一 廣島市に女子專門學校設置に關する建議案(江藤榮吉君提出)
第五十二 廣島市に綜合大學設置に關する建議案(江藤榮吉君提出)
第五十三 西宮市に綜合大學設置に關する建議案(前田房之助君外四名提出)
第五十四 遞信大學設立に關する建議案(作間耕逸君提出)
第五十五 福岡市に高等師範學校設置に關する建議案(大里廣次郎君提出)
第五十六 熊本市に高等師範學校設置に關する建議案(藤井敬愼君提出)
第五十七 北海道綜合大學の完成竝高等教育機關設置に關する建議案(東武君外三名提出)
第五十八 文政改革に關する建議案(篠原和市君外三名提出)
第五十九 國定教科書中略字採用及字音假名遣改正に關する建議案(増田義一君提出)
第六十 書道振興に關する建議案(山宮藤吉君外二名提出)
第六十一 民族博物館設立に關する建議案(山枡儀重君提出)
第六十二 滋賀縣伊吹山高層氣象觀測所國營移管に關する建議案(井上敬之助君外二名提出)
第六十三 體育運動奬勵に關する建議案(牧野良三君外五名提出)
第六十四 私學奬勵に關する建議案(山下谷次君提出)
第六十五 明治六年地租改正條例に依る土地丈量立替費用償還に關する建議案(土屋清三郎君提出)
第六十六 國有雜種財産處分に關する建議案(大島要三君外七名提出)
第六十七 税務官の待遇改善に關する建議案(大島要三君外七名提出)
第六十八 國税徴收交付金増額に關する建議案(八田宗吉君提出)
第六十九 葉煙草賠償價格増額に關する建議案(中林友信君外四名提出)
第七十 不良鹽田整理に關する建議案(山下谷次君提出)
第七十一 飛行事業擴張に關する建議案(長岡外史君提出)
第七十二 國防審議會設置に關する建議案(長岡外史君提出)
第七十三 國防會議設置に關する建議案(蟻川五郎作君提出)
第七十四 陸海軍現役兵及豫後備兵優遇竝在郷軍人會國庫補助に關する建議案(三善清之君外七名提出)
第七十五 海洋調査機關整備に關する建議案(小西和君外一名提出)
第七十六 勞働省設置に關する建議案(清瀬一郎君提出)
第七十七 我か國國號の統一顯正に關する建議案(由谷義治君提出)
第七十八 我か帝國國號の稱呼使用に關する建議案(熊谷五右衞門君外一名提出)
第七十九 恩給法改正に關する建議案(湯淺凡平君提出)
第八十 恩給其の他の恩典に雇員在職年數通算に關する建議案(青木精一君提出)
第八十一 一時賜金癈兵に對する恩給支給法制定に關する建議案(山下谷次君外一名提出)
第八十二 軍人傷痍記章令中改正に關する建議案(山下谷次君外一名提出)
第八十三 部落問題の國策確立に關する建議案(望月小太郎君外十八名提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=0
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
勞働組合法案
國有財產整理資金特別會計法ノ特例ニ關
スル法律案
國產獎勵ノ爲ノ會計法ノ特例ニ關スル法
律案
徵兵令改正法律案
(以上二月二十八日提出)
大正十四年法律第五十一號中改正法律案
(關東州ノ生產品輸入稅免除ノ件)
關稅定率法中改正法律案
(以上三月一日提出)
一昨二十八日貴族院ヨリ受領シタル政府提
出案左ノ如シ
王公族ヨリ內地ノ家ニ入リタル者及內地
ノ家ヲ去リ王公家ニ入リタル者ノ戶籍等
ニ關スル法律案
不動產登記法中改正法律案
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
淀川低水工事改良ニ關スル建議案
提出者
川崎安之助君森田茂君
村上國吉君田中万逸君
佐竹庄七君
豫備兵召集時期ニ關スル建議案
提出者
高橋元四郞君阿由葉勝作君
齋藤太兵衞君神田正雄君
日光國立公園設定ニ關スル建議案
提出者
高橋元四郞君生方大吉君
齋藤太兵衞君
野岩羽鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
高橋元四郞君中野寅吉君
齋藤金吾君
日足鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
高橋元四郞君齋藤太兵衞君
古物商取締法改正ニ關スル建議案
提出者
山本芳治君廣瀨德藏君
筒井民大郞君武藤山治君
田中讓君沼田嘉一郞君
羽室庸之助君〓瀨一郞君
板野友造君吉津度君
金鵄勳章受動者優遇ニ關スル建議案
提出者
中林友信君井坂豐光君
實業補習〓育振興ニ關スル建議案
提出者
河上哲太君靑木精一君
(以上二月二十六日提出)
香取神宮神苑擴張ニ關スル建議案
提出者今井健彥君
(以上二月二十八日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
下關漁港修築ニ關スル質問主意書
提出者秋田寅之介君
(以上二月二十六日提出)
一政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
衆議院議員兼松寅太郞君提出正米市場政
策ニ關スル質問ニ對スル答辯書
(以上三月一日受領)
正米市場政策ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和二年二月十日
提出者兼松寅太郞
正米市場政策ニ關スル質問主意書
一米穀ハ我カ國生產品ノ大宗ニシテ且國
民ノ主要食糧品タリ故ニ之カ生產ノ多
寡價格ノ高低如何ハ直ニ我カ國民經濟
ノ振否ニ甚大ナル影響ヲ及ホシ殊ニ現
下ノ重要問題タル食糧問題人口問題農
村振興問題等ト至緊至密ノ關係ヲ有ス
故ニ之カ配給ノ組織、價格構成機關ニ
付テハ萬全ノ策ヲ講スルノ必要アリト
認ム然ルニ斯ル重要商品ニ對シ公正適
切ナル價格ヲ決定スルノ機關完備セサ
ルハ吾人ノ遺憾トスル所ナリ之ニ對ス
ル政府ノ所見如何
一或ハ謂ハム「現在我カ國ニハ各主要地ニ
米穀取引所存在スルヲ以テ可ナリ」ト然
レ其吾人ヲ以テ見レハ現存米穀取引所ハ
所謂長期〓算取引ヲ本旨トシ且轉賣買
戾ヲ認ムルカ故ニ其ノ取引ノ多クハ實
米ノ受渡ヲ期待セサル投機、差金取引
ニシテ從テ其ノ構成スル價格ハ正米事
情ニ基礎ヲ置クコト少キノミナラス寧
ロ他ノ社會的經濟的原因ニ支配サルル
ヲ以テ之カ正米取引ニ與フル效果極メ
テ少ク寧ロ不適當ナリト認ム之ニ對ス
ル政府ノ所見如何
一現下ノ米穀取引所ハ株式組織ニシテ夙
ニ政府ニ於テ其ノ弊害ヲ認メカメテ會
員組織化ノ助成ヲ圖ラムトスル行政方
針ニアルヲ見ル然ルニ頃日政府ノ正米
市場ニ對スル行動ヲ看ルニ政府ハ正米
市場ヲ旣存ノ米穀取引所ニ併置スルノ
方策ナルモノノ如シ抑米穀取引所ニ於
ケル取引ト正米取引トハ全然其ノ目的
性質相反スルヲ以テ斯ノ如キハ正米取
引ノ健實ナル發達ヲ害シ正米取引ヲ投
機化ニ導クノ危險大ナリト認ム政府ノ
所見如何
一政府ハ前述ノ如キ不合理不公正アルニ
モ拘ラス將來正米市場ヲ既存ノ米穀取
引所ニ併置セシムルノ方針ナリヤ
一現在正米取引機關トシテ東京神戶等ニ
所謂正米市場ノ設置セラルルアリト雖
單ニ消費地ニ於ケル消費者ヲ目的トス
ルモノニシテ生產地ニ於ケル生產者ノ
機關タル正米市場ハ未タ之カ設置ヲ見
ス舊來ノ取引方法ニ依ル取引ニ委セラ
レツツアルモノノ如シ政府ハ正米取引
ノ圓滑ヲ圖ル爲正米市場法ヲ制定スル
ノ意思アリヤ
一若正米市場法ヲ制定スルノ意思アリト
セハ其ノ組織取引ノ態樣制定ノ時期實
施ノ時期ニ付テ詳細ナル意見ヲ承知シ
タシ
右及質問候也
昭和二年三月一日
內閣總理大臣若槻禮次郞
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員兼松寅太郞君提出正米市場政
策ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員兼松寅太郞君提出正米市場
政策ニ關スル質問ニ對スル答辯書
米穀ノ公正ナル相場決定機關ノ完備
ニ付テハ常ニ注意ヲ怠ラス
現存米穀取引所ハ米穀ノ取引ニ對シ
相當寄與スル所アルモノト認ム
旣存米穀取引所ニ實物市場ヲ設置ス
ルコトハ相當ノ監督ヲ加フルニ於テハ
實物取引ヲ投機化シ不公正ナラシムル
モノトハ思惟セス
既存ノ米穀取引所ニ實物市場ノ設置
ヲ認ムルヤ否ヤハ其ノ地方ノ實情等ニ
依リ決定セラルヘキ事項ニ屬ス
正米市場法ノ制定ニ付テハ目下調査
中ニ屬ス
前項ノ通リニシテ之カ組織取引ノ態
樣等ハ未タ言明シ難シ
右及答辯候也
昭和二年三月一日
商工大臣藤澤幾之輔
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一去二十六日若槻内閣總理大臣ヨリ左ノ通
發令アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
遞信省電氣局長中西四郞
遞信省所管事務政府委員被仰付
一去二十六日辭任シタル常任委員左ノ如シ
第六部決算委員竹原樸一君
一去二十六日理事補關選擧ノ結果左ノ如シ
商法中改正法律案(土屋〓三郞君提出)外
四件委員
理事渡邊伍君(理事吉木陽君本
月二十四日辭任ニ付其ノ補闕)
一去二十六日議長ニ於テ選定シタル委員左
ノ如シ
大正九年法律第五十三號中改正法律案
(關稅法等ノ朝鮮ニ於ケル特例ニ關スル
件)委員
小池仁郞君粟山博君
中野猪之助君永田善三郞君
古川〓君三善〓之君
石坂豐一君則元由庸君
柏田忠一君
一去二十六日京都市ニ關スル法律案外四件
委員山本芳治君辭任ニ付其ノ補闘トシテ近
藤達兒君ヲ震災手形損失補償公債法案外
一件委員平川松太郞君辭任ニ付其ノ補闕
トシテ佐藤實君ヲ國債整理基金特別會計
法中改正法律案委員中野實君辭任ニ付其
ノ補闕トシテ谷口源十郞君ヲ孰レモ議長
ニ於テ選定セリ
一昨二十八日辭任シタル常任委員左ノ如シ
第九部決算委員坂梨哲君
一昨二十八日常任委員理事補闘選擧ノ結果
左ノ如シ
決算委員
理事田崎信藏君(理事山口政二君
本月二十三日死去ニ付其ノ補
關
一昨二十八日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ
如シ
第六部選出決算委員
高木音藏君(竹原樸一君補闘)
一昨二十八日委員長及理事互選ノ結果左ノ
如シ
大正九年法律第五十三號中改正法律案
(關稅法等ノ朝鮮ニ於ケル特例ニ關スル件)
(政府提出)委員
委員長則元由庸君
理事
粟山博君石坂豊一君
一昨二十八日水戶鐵道株式會社、越後鐵道
株式會社、陸奧鐵道株式會社、苦小牧輕便
鐵道株式會社及日高拓殖鐵道株式會社所
屬鐵道買收ノ爲公債發行ニ關スル法律案
外一件委員大竹謙治君辭任ニ付其ノ補闘
トシテ植原悅二郞君ヲ公益質屋法案委員
砂田重政君辭任ニ付其ノ補闕トシテ原惣
兵衞君ヲ保險業法中改正法律案委員大竹
謙治君辭任ニ付其ノ補關トシテ梅田寛一
君ヲ朝鮮事業公債法改正法律案外二件委
員坂梨哲君辭任ニ付其ノ補闕トシテ神崎
動君ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=1
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002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、諸君(拍手起ル)先帝陛下御崩御ニ付キ
マシテ、去ヌル十二月二十九日白耳義國上
院ニ於テ、一月十一日同國下院ニ於テ、深
厚ナル弔意表彰ノ決議ヲセラレ、又二月十
日英國下院ニ於テ、同ジク十五日同國上院
ニ於テ、共ニ深厚ナル哀悼ノ意ヲ表シ、我
ガ今上陛下ニ對シ奉リ、兩院ノ我國皇室、
政府及國民ニ對シテ有スル深甚ナル同情ヲ
傳ヘラレンコトヲ希フ爲メ、同國皇帝陛下
ニ對スル上奏文ヲ議決サレマシタ旨、ソレ
ゾレ外務大臣ヨリ通牒ニ接シマシタ、此事
ハ昨日公報ヲ以テ御報道致シテ置キマシタ
カラ、詳シク御承知ノコトヽ存ジマス、兩
國ノ議院ガ御大喪ニ際シマシテ元サレマシ
タル深厚ナル同情ニ對シマシテハ、全國民
ノ深ク感銘致ス所ト存ジマス、就キマシテ
ハ本院ハ兩國ノ上下兩院ニ對シマシテ、院
議ヲ以テ感謝ノ意ヲ表シタイト存ジマス、
諸君ノ御同意ヲ冀フ次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=2
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003・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君 只今議長ノ御發議ニ對シテ
ハ謹ンデ賛成ノ意ヲ表白致シマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=3
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004・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 採決ヲ致シマス、此
決議ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=4
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005・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 總員起立、全會一致
ヲ以テ可決セラレマシタ(拍手)是ヨリ質問
ノ趣旨辯明ヲ許シマス、質問第一、貴衆兩
院議員ノ待遇及事務局ノ職制竝豫算ニ關ス
ル質問、篠原和市君
貴衆兩院議員ノ待遇及事務局ノ職
制竝豫算ニ關スル質問(篠原和市君提
出)
貴衆兩院議員ノ待遇及事務局ノ職制竝
豫算ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和二年二月四日
提出者篠原和市
貴衆兩院議員ノ待遇及事務局ノ職制
竝豫算ニ關スル質問主意書
憲政ノ發達ト時勢ノ進運ニ鑑ミ貴衆兩
院議員ノ待遇ハ之ヲ向上スルノ必要ア
リト認ム想フニ兩院ノ議長ハ立法府ノ
首長トシテ行政長官タル內閣總理大臣
ト對立スヘキモノニシテ卽チ宮中篇次ニ
於テモ內閣總理大臣ノ次席トシ副議長
ハ親任官ノ待遇、兩院議員ハ勅任待遇ト
爲スヲ至當ナリト認ム政府ノ所見如何
二貴衆兩院事務局ノ官制ハ明治二十三
年ノ制定ニシテ爾來殆ト四十年此ノ間
ニ於ケル時勢ノ進運ト憲政發達ノ經路
ニ顧ルトキハ實ニ隔世ノ感ナキ能ハス
特ニ衆議院ニ於テ然リトス然ルニ官制竝
豫算ノ上ニ於テ何等ノ變革ヲ見ス寧ロ
退嬰ノ感アリ依テ左ノ事項ニ付政府ノ
所見ヲ問フ
イ明治二十三年制定當時ノ官制ニ於
テハ書記官十名屬二十名ナリ爾來多
少ノ增減アリト雖今日ニ於テハ却テ
減少シ書記官四名屬十四名ニ過キス
想フニ兩院共議員ノ數ハ五割以上增
員シ特ニ衆議院ニ在リテハ事務ノ分
量幾十倍ニ達シ立憲田心想ノ發達ハ益
議院政治ノ複雜ヲ來セシ今目ニ於テ
ハ書記官長ヲ親任トシ書記官以下ノ
職員ヲ增員シ書記官中一名ハ之ヲ勅
任トシ參事官及事務官ノ制ヲ設ケ議
院警察ノ重要サル任務ヲ有スル守衞
長ヲ勅任トシ守衞副長ヲ奏任トスル
要アル等官制ニ於テ根本的ニ改正ノ
必要アリト認ム政府ノ所見如何
ロ普通選擧ハ將ニ實施セラレムトス
複雜ナル社會組織ニ於テ幾多ノ新立
法事項ヲ生スルニ當リ政府ノ發案權
ニ對シテハ常置的審査機關タル法制
局アルニ拘ラス立法府タル議院ニ於
テ何等之ニ關スル設備ナシ官僚萬能
ノ時代ハ去レリ民意暢達ノ途ヲ開ク
上ニ於テ全然議員ヨリノ提案ノミヲ
審査セシムル爲南院事務局內ニ參事
官及事務官數名ヨリ成ル一局又ハ一
課ヲ設クル必要アリト認ム之ニ對ス
ル政府ノ所見如何
ハ議會政治以來殆ト四十年既往ノ事
績ニ鑑ミ貴衆雨院ハ事務ノ分量ニ於
テ相當懸隔アリ又貴族院ハ立法事業
ノ調節機關トシテ衆議院ト異リタル
職責アルモノト信ス從テ官制及豫算
ニ於テ必スシモ同一チルヲ要セスト
考フ政府ノ所見如何
右及質問候也発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=5
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006・磯部尚
○磯部尙君 是ヨリ決算委員會ヲ開キマス
カラ、委員諸君ノ御來會ヲ望ミマス
〔篠原和市君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=6
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007・篠原和市
○篠原和市君 私ノ質問ハ貴衆兩院議員ノ
待遇、事務局ノ職制竝ニ豫算ニ關スル質問
デアリマス、我ガ議會政治ノ發展向上ヲ圖
ル上ニ於キマシテ、極メテ重大ナル問題デ
アリマス、我ガ憲政ノ發達ハ段々完備ニ近
ヅキツヽアリマスルケレドモ、憲法政治ノ
有終ノ美ニ達スルニハ、マダ其道程ニ在ル
ノデアリマス、而シテ我ガ議會ノ實際ノ運
用ノ狀態ヲ見マスルト、遺憾トスル點ガ多
々アルノデアル、先ヅ第一ニ立法部ニ於ケ
ル所ノ貴衆兩院議長ト內閣總理大臣トノ待
遇ヲ比較シテ見マスルト、立法部ニ於ケル
貴衆兩院ノ議長ハ、總理大臣ト較ベマスル
ト非常ニ待遇ガ下ニ在ル、殊ニ副議長ヲ見
マスルト、副議長ハ高等官一等ト高等官二
等トノ問ニ在ル、此議場ニ於キマシテモ、
副議長ハ書記官長ヨリ以下ニ、座席ヲ置カ
レルト云フヤウナコトニナッテ居ルノデア
リマス、是等ノ點ハ非常ニ不合理デアリマ
スルカラ、行政部ニ於ケル內閣總理大臣ト
貴衆兩院ノ議長トハ同格ニシナケレバナラ
ヌ、此必要ヲ本員ハ認メルノデアリマス、
隨テ宮中ニ於ケル席次ニ於キマシテモ、內
閣總理大臣ノ次ニ貴衆兩院議長ノ座席ヲ設
ケラレ、更ニ副議長ハ國務大臣ノ待遇ニス
ル、斯樣ニスル必要ガアルト思フノデア
ル、又吾々議員ノ待遇デアリマスガ、此點
ハ勅任官ト奏任官トノ間ニ入ッテ居ル、實ニ
均衡ヲ得ナイノデアリマスカラ、是等ノ點
ニ關シマシテモ、貴衆兩院議員ハ勅任待遇
トスルコトガ論ヲ俟タナイ當然ノコトデア
ルト斯樣ニ本員ハ考ヘルノデアリマス、是
等ノ點ニ關シマシテ、若槻首相ハ如何ナル
考ヲ持シテ居ラレルカ、先ヅ此點ニ關シテ
伺ヒタイノデアリマス、更ニ貴衆兩院ノ事
務局ノ官制デアリマスガ、是ハ吾々ニ取ッテ
ハ大切ノ問題デアル、卽チ現行ノ官制ハ明
治二十三年ノ制定デアリマスカラ、爾來玆
ニ四十年、甚ダ實際ニ適切デナイ點ガ多イ
ノデアリマス、卽チ此狀態ヲ見マスト云フ
下、事務局ニ於テモ高等官-書記官デア
リマスガ、明治二十三年ニ於キマシテハ、
書記官ガ十名アッタ、之ニ準ジテ各般ノ人
材ガ配置シテアリマシタガ、爾來幾多ノ變
遷ガアリマシタ結果、明治二十三年ニハ十
名ノ書記官タリシモノガ、現在ニ於キマシ
テハ僅ニ四名、殊ニ又屬官ノ如キモ明治二
十三年ニハ二十名アリマシタガ、今日ニ於
キマシテハ、十四名ニ減ジテ居ルト一云ヲ狀
態デアルノデアリマスル是等ノ點ハ吾々
ガ國務ヲ議シ、國政ヲ審議協賛スル上ニ於
テ、極メテ重大ナル關係ヲ持シテ居ルノデ
アリマス、更ニ此費衆兩院ニ於ケル警察、
守衞ノ問題デアリマスガ、此守衞長ハ從來
ハ判任官デアッタ、然ルニ議院ニ於キマシ
テ之ヲ昇格優遇スル必要ヲ感ジマシテ、今日ニ
於キマシテハ最低ノ高等官ニナッテ居ルノデ
アル、是等ニ付キマシテモ苟モ國務大臣竝ニ此
議員ノ身體總テヲ保護スル警備ノ任ニ當ル重大
ノ任務ニ在ル者デアリマスカラ、守衞長ハ當
然之ヲ勅任官トシ、副守衞長ノ如キモ之ヲ二
三名會員致シマシテ、之ヲ奏任官ニスル、
守衞ニ對シマシテモ最モ優遇ノ途ヲ講ズル
コトガ、目下ノ最大急務デアルト斯樣ニ本
員ハ考ヘルノデアリマス、殊ニ是等ノ守衞
ノ待遇ヲ調べテ見マスト、警視廳ニ於ケル
警部巡査ノ待遇ヨリモ以下デアリマシテ、
丁度彼ノ消防夫ノ纏持ト此議院ノ守衞ハ同
格ニナッテ居ルノデアル、私ハ役人ヲ遇ス
ルニ、現在ノ制度ハ改革シナケレバナラヌ
ト考ヘル、是ハ本問題ト關係ガアリマスガ、
根本的ニ變ヘル必要ヲ認メテ居ルノデア
ル、卽チ現在ニ於キマシテハ官吏ガ一號表、
二號表、三號表ト云フコトニ表付ニナッテ居
ル、我ガ議院ノ守衛ノ如キハ三號表デ三等ニ
ナッテ居ルノデアル、是等ハ一號表、二號表三
號表ト云フモノヲ撤廢致シマシテ、機會均
等ニ優遇スルコトガ最モ急務デアルト考へ
ルノデアリマス、殊ニ今日ニ於キマシテハ、
最早直ニ普通選擧モ實行スルノ機運ニナッ
テ居ルノデアリマスカラ、此事務局ニ於ケル
貴衆兩院ノ事務ト云フモノハ、非常ニ繁劇
ヲ極メテ居ル、貴族院ニ於キマシテモ、又
衆議院ニ於キマシテモ、明治二十三年當時
ト較ベマスト、實ニ雲泥ノ差ガアルノデア
リマスル、殊ニ貴族院ノ事務局モ隨分多忙
ニ見受ケテ居ルガ、我ガ衆議院ノ事務局ノ
繁忙ハ是亦貴族院ト比較ニナラナイ非常ナ
ル繁忙ヲ極メテ居ルノデアリマスル、本員
ノ調査ニ依リマスト、議員提出ノ法律案、
上奏案、建議案、決議案、重要ナル動議質
問、懲罰事犯等ノ各重要問題ニ付テ、此事
務ノ實際ヲ見マスト云フト、五十一議會ニ
於キマシテ議員提出ノ法律案ハ貴族院ニ
於テハ八件、衆議院ニ於テハ六十八件デア
リマス、又上奏案ハ衆議院ニ於テハ一件、
貴族院ニ於テハ土奏案ハナイ、又建議案デ
アリマスガ五十議會、最モ近イ例ヲ以テ見
マスト、五十議會ニ於テハ貴族院ハ五件、
我ガ衆議院ニ於キマシテハ二百六十四件デ
アリマス、五十一議會ヲ見マスルト貴族院
ニ於テハ二件、我ガ衆議院ニ於キマシテハ
三百五十五件アルノデアリマス、決議案ニ
於キマシテハ、貴族院ニ於テハ無イガ、衆
議院ニ於テハ五十議會十件、五十一議會ニ
於キマシテハ六件アッタ、又質問ニ致シマ
シテモ、五十一議會ニ於テハ貴族院ニハ無
イガ、我ガ衆議院ニ於テハ七十五件アッタ
ノデアリマス、懲罰事犯ノ如キハ貴族院ニ
ハ更ニ無イノデアリマスルガ、我ガ衆議院
ニ於キマシテハ四十四議會ニ六件、四十五
議會ニ十件、四十六議會ニ二件、五十議
會ニ九件、五十一議會ニ於テ八件、斯ウ云
フ狀態デアリマシテ、是等ノ案件ヲ合計シ
テ見マスルト云フト、五十一議會ダケノ分
ヲ見マシテモ、貴族院ニ於テハ十五件、我
ガ衆議院ニ於テハ五百一一十五件ト云フ數字
ヲ示シテ居ルノデアル、殊ニ最近ニ於ケル
速記ノ狀態デアリマス、是モ實際爭フベカ
ラザル數字ニ依ッテ見マスルト、五十議會
ニ於キマシテ、貴族院ニ於テハ本會議ノ速
記ガ五百五十四頁、衆議院ニ於テハ九百九
十二頁デアリマスルカラ、倍デアル、又各
委員會ニ於キマシテモ、貴族院ニ於テハ六
百五十二頁、衆議院ニ於テハ八百十頁、斯
ウ云フ關係ニナッテ居リマシテ、本會議ト
委員會、各速記ノ頁ヲ比較シテ見マスルト
云フト、五十議會ニ於テ、貴族院ニ於キマ
シテハ二千三百三十六頁、衆議院ニ於テハ
四千四百四十一頁、又五十一議會ニ於キマ
シテハ、貴族院ニ於テハ二千三百八十九頁、
衆議院ニ於キマシテハ四千七百六十九頁ト
云フ數字ヲ示シテ居ルノデアリマス、斯ノ
如ク實際ノ仕事ノ内容分量ガ、非常ナル懸
隔ガアルノデアリマス、殊ニ最近ニ於ケル
請願ノ狀態デアリマスルガ、五十議會ニ於
キマシテハ、貴族院ニ於テハ四百一件、我
ガ衆議院ニ於テハ千百二十六件デアル、特
別報告ノ如キハ貴族院ニ於テハ百十件、衆
議院ニ於テハ八百五十一件、其他ノ報告ニ
於キマシテモ、貴族院ニ於テハ二十五件デ
アルガ、衆議院ニ於テハ三百九十六件、五
十一議會ニ於キマシテハ、貴族院ニ於ケル
提出ノ請願ノ數ハ八百九十三件デアッテ、衆
議院ニ於テハ千二百七十四件、特別報告ハ
貴族院ニ於テハ九十一件、我ガ衆議院ニ於
テハ千六十四件、斯樣ナ數字ヲ元シテ居ル
ノデアリマシテ、衆議院ノ事務ニ於ケル守
得意〓、速記者其他ノ事務員ノ繁忙ハ、
寶ニ吾々ハ察シテ居ルノデアル、殊ニ吾々
が各委員會其他ノ審議ノ總テヲ徹底的ニ致
シマスルニハ、種々ナル缺陷ヲ生ジテ來ル
ルデアリマスカラ、是等各般ニ亙リマシテ
速ニ增員ヲシ、待遇ヲ充實スルト云フコト
が目下ノ急務ナリト本員ハ確信スルガ、此
點ニ關シテ政府ノ所見ハドウガ、此點ヲ伺
ヒタイノデアル、ソレカラ又豫算ノ關係デ
アリマスルガ、此豫算關係ハ昭和二年度ノ
實際ノ貴衆兩院ノ事務費ヲ見マスルト、貴
族院ノ事務費ハ十七万七千五百五十七圓、
我ガ衆議院ノ豫算ハ二十万五千三百七十三
圓デ、二万七千八百圓バカリガ衆議院ノ層
額ニナッテ居ル、卽チ約一割多イ、然ルニ仕
事ノ分量ノ實際ヲ見マスルト、貴族院ト衆
議院ヲ比較シテ見マスレバ、約倍額以上ノ
仕事ノ內容ガ衆議院ニアルノデアル、固ヨ
リ貴衆兩院ハ對立主義デアリマスガ、豫算
其モノマデ必シモ貴族院ト衆議院下殆ド同
額ノ豫算ニシテ置クト云フコトハ、是ハ議
論ニナラナイノデアル(拍手)必要ニ應ジテ
其施設ヲスルコトガ、目下ノ急務デアルト
本員ハ信ズルノデアルガ、此點ニ關シテ政
府ノ所見ハドウカ、此點ヲ承リタイノデア
リマス、更ニモウ一點デアリマスガ、我ガ
議院ニ於ケル圖書館ノ設備デアル、實ニ貧
弱ナル圖書館デアリマシテ、何等調ベル所
ノ材料ガナイ、之ヲ爭フベカラザル數字ニ
依シテ本員ガ調ベテ見マスルト大正十六年
度昭和二年ノ豫算デアリマスガ、我ガ衆
議院ニ於ケル圖書館ノ費用ハ、僅ニ千七百四
十九圓之ヲ要求シテアルノデアリマス、之
ヲ北米合衆國ノ議會ニ於ケル圖書館ノ豫算
ト比較シテ見マスルト、華盛頓政府ニ於キ
マシテハ、千九百二十二年度ノ圖書館豫算ガ
七十一万弗ニナッテ居ルノデアル、我ガ日本
貨ニ換算致シマスルト百五十万圓デアル、
之ニ對スル我ガ圖書館ノ經費ハ僅ニ千七百
圓桁ノ違フノモ實ニ驚キ入ッタ狀態ニナツ
テ居ルノデアルカラ、此圖書館ノ設備ヲ完
全ニスル必要ガアル、凡ン世界列强ニ於ケ
ル議會政治ノ實際ノ狀態-此世界ノ進運
ト共ニ吾々ハ國際競爭ヲシナケレバナラナ
イ、之ニ對シテ吾々ガ圖書館ニ參リマシテ
モ古イ雜誌ガアル位ナモノデ、何モ世界ノ
形勢ガ分ラナイ、最近ハ新聞事業ガ段々發
達シテ參リマスカラ、田舍ノ小サイ新聞社
ニ於テモ、大〓世界ノ形勢ハ赤電報デ入ツ
テ參ルト云フ狀態デアルニ拘ラズ、此貴衆
兩院ノ國書館ノ貧弱ナルコトハ最モ遺憾ト
スルモノデアリマス、斯ウ云フ狀態デハ世
界ノ國際競争場裡ニ、我ガ日本ハ段々落伍
ズルヤウナ形勢ニナルコトヲ本員ハ深ク憂
フル者デアリマスカラ、此點ニ關シテ政府
ハ必要ナル豫算ヲ請求致ス考ハナイカ、更
ニモウ一點デアリマスガ、此議長交際費、
議員ノ海外派遣費デユザイマス、是ハ極メ
テ重大ナル關係ニアル、昭和二年度ノ豫算
ニハ僅ニ四万圓計上ニナッテ居ルノデアル
ガ、是等ノ貧弱ナル豫算ヲ以テ議員ガ海外
ニ派遣サレマシテモ、十分ノ調査モ出來ナ
イ此豫算ノ如キハ三四十万圓カラ五十万
圓ヲ請求シテ、我が貴衆兩院ハ此昭和新政
ニ當ノテ國策ヲ樹立シナケレバナラナイ、
更始一新、我ガ日本ノ此新シイ政治ヲ世界
列强ト競爭シテ行フニ當テハ、是等ノ缺陷
ニ眼ヲ注ギマシテ、政府ハ四五十万圓ノ豫
算ヲ請求致シマシテ、世界ノ形勢ヲ實際ニ
視察シ、更ニ兼テ國際關係ヲ圓滑ニスル必
要ガアルト本員ハ考ヘルガ、此點ニ關シテ
政府ノ所見ハドウカ、先ヅ大體此點ニ付テ
伺フノデアリマス(拍手)此處ニ總理ガ御見
エニナッテ居ラナイガ、是ハ極メテ重大ナ
問題デアリマシテ、殊ニ帝國憲法三十五條
ヲ母體トシタル議院法、之ニ關スル議院關
係ノ職制デアリマスカラ、若槻總理大臣ヨ
リ私ノ速記ヲ御覽ニナッテ、懇切丁寧ナル
御答辯ヲ要求スルノデアリマス
〔政府委員塚本〓治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=7
-
008・塚本清治
○政府委員(塚本〓治君) 篠原君ノ只今ノ
御質問ニ對シマシテハ、政府ハ書面ヲ以テ
答辯致シマズカラ、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=8
-
009・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ産業政策ニ關ス
ル質問土井權大君
二產業政策ニ關スル質問
(土井權大君提出)
產業政策ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和二年二月九日
提出者土井權大
產業政策ニ關スル質問主意書
產業振興政策ニ關スル政府ノ所見如何
右及質問候也
〔土井權大君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=9
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010・土井權大
○土井權大君 極メテ簡單ニ產業政策ニ關
シ御尋が致シタイノデアリマス、固ヨリ本
會議其他ノ委員會ニ於テ、質問應答ノアリ
マシタル事項ハ省略ヲ致シマス、第一ニ御
尋致シタイノハ產業政策ノ根本方針ニ關
シテ質問ヲスルノデアリマス、先日來ノ本
會議其他ノ委員會ニ於ケル質疑應答ヲ伺ヒ
マスルト、政府ハ產業方針ニ關シ三ツノ基
礎ヲ持タレテ居ルカノ如ク私ハ發見ヲ致シ
タノデアリマス、第一ニハ產業ノ振興發達
ニハ奬勵金、補助金、又ハ助成金等ヲ與ヘ
テ產業ヲ發達セシメヤウ、卽チ政府ハ決シ
テ產業ト云フモノヲ忽セニ致シテ居ルモノ
デハナイ、獎勵金、補助金又ハ助成金ト云
フモノヲ與ヘテ、相當ニ產業ノ振興發達ヲ
圖シテ居ル斯ウ云フコトヲ言ハレテ居ル、
卽チ第一ニ政府ハ助長方針トデモ申シマセ
ウカ、或ハ助長方策トデモ申シマセウカ、
ソレニ第一基礎ヲ置カレテ居ルト私ハ考へ
タノデアル、第二ニ如何ナルコトヲ言ハレ
タカト申シマスレバ、輸出入ノ關係ニ於テ
輸入輸出ノ均衡ヲ圖ラウ、兎ニ角逆調ト云
フガ如キコトハ甚ダ宜シクナイカラ、少ク
トモ輸出入ノ均衡ヲ圖ルベク努メテ居ルノ
デアル、言葉ヲ換ヘテ言フナラバ、輸出入
均衡方針トデモ申シマセウカ、其處ニ第二
ノ基礎ヲ置カレテ居ルト私ハ考ヘタノデア
リマス、ソレカラ第三ノ基礎ハ何レニ置カ
レテ居ルカト云フコトヲ段々綜合致シマス
ルニ、大キナル事業、資本家ナドガ仕事ヲ
致シタ場合ニ、若シ失敗スルナラバ相當ノ
救濟ヲシテヤラウ、例ヘバ昨年ニ於テ日本
製粉會社ガ困ッタ場合ニハ、八百万圓以上
ノ資金供給ノ方法ヲ執ラレ、救濟サレタノ
モ一例デアリマス、又現在震災手形等ノ法
案ヲ出サレテ居ルノモ、是亦救濟方針トデ
モ申シマセウカ、救濟方策トデモ見ラレル
ノデアリマス、要スルニ政府ガ產業政策卜
シテ現在御執リニナッテ居ルノハ第一ニ助
長政策、第二ニ輸出入ノ均衡政策、第三ニ
救濟政策、此三ツニ基礎ヲ置カレテ居ルモ
ノナリト私ハ考ヘルノデアリマス、所ガ果
シテ此方策ト云フモノガ、產業政策ノ根本
ニ觸レテ居ルカ否カト云フコトニ付テ御尋
致シタイノデアリマス、助長政策ノ弊害ト
云フモノハ、帶ニ短シ豫ニ長シ、何等ノ效
能ガ無イ、絕對ニ無イトハ申シマセヌケレ
ドモ、帶ニ短カシ〓ニ長シ、餘リ其效果ノ
無イト云フコトハ、實際ノ狀態ニ照シテ明
ナル所デアリマス、況ヤ眞ニ奬勵、補助、
或ハ助成ヲスルト云フナラバ、豫算ノ範圍
內ニ於テト云フガ如ク、卽チ逃ゲ文句ヲ造
ラレテ、イザ助成ナラ助成ヲヤラナケレバ
ナラヌト云フ場合ニ於テ豫算ガ許サナイト
逃ゲラレル、一例ヲ擧ゲテ言フナラバ、開
墾デアルトガ干拓トカ云フガ如キ方面ニ對
シテ、開墾助成ト云フ法律ガアル、是ニ於
テ開墾ヲナル者ガアル、或ハ干拓ヲヤル者
ガアル、イザ助成金ト云フ場合ニ於テハ豫
算ガ許サナイガ故ニ指令ヲ出スコトガ出來
ナイ、甘酒進上此處マデ來イト云フヤウナ
遣方ヲヤッテ居ラレル、卽チ今日ノ助長方
針トシテハ、斯ノ如キ弊害ガアルト同時
ニ、斯ノ如キ現狀デアル、更ニ此輸出入ノ均
衡ト申シマシテモ、少クトモ輸出ノ奬勵ヲ
シナケレバナラヌガ、同時ニ我國ニ於テ輸
入ヲ防遏シ得ラルヽ所ノ方策ヲ立テヽ、其方
策ヲ講ジナケレバナラナイ、然ルニソレ等
ノ點ニ付テハ何等ノ考慮ヲ拂ハレテ居ラナ
イ、一例ヲ擧ゲテ言フナラバ、窒素肥料ノ
如キモノハ我國ニ於テ完全ニ出來ルモノデ
アル、ソレ等ニ付テ政府ハ何等手ヲ御著ケ
ニナッテ居ラヌ、或ハ〓究トカ調査トカ云
フガ如キコトハ爲サルデアリマセウガ、實
際ニ於テ之ヲヤルト云フ御精神ガ無イノデ
アル、其他或ハ小麥耕作ノ點ニ於キマシテ
モ、或ハ製鐵業ニ於テモ、例ヲ擧ゲレバ枚
擧ニ遑アラズ、十分我國ニ於テ輸入ヲ防遏
シ、我國ニ於テ自給自足ノ方策ヲ立テ得ラ
ルヽニ拘ラズ、何等ソレ等ニ著手ガ出來テ
居ラナイノデアリマス、卽チ輸出入均衡政
策ニ對シテハ只今申上ゲタガ如キ狀態デア
ル、更ニ第三ノ救濟政策、孰レデモ助ケテ
ヤレバ宜イ、斯ウ云フヤウナコトヲ爲サッ
タナラバ、ドウ云フ事ニナルカト云ヘバ、
國民ハ自主獨往ノ精神ヲ失ッテシマッテ他力
本願、政府ニサヘ賴ッテ仕事ヲスレバ宜イ
ト云フ氣ニナリ、所謂御用商人ト云フモノ
ハ益〓發達ヲ致ン、向上ヲスルデアリマセ
ウ、又資本家ハソレニ依ッテ利益ヲ得ルデ
アリマセウガ、其資本家モ自主獨往ノ精神
ト云フモノヲ無クシテシマッテ、唯〓御他力
本願、政府ニ賴ラウ、ヤリ損ッタナラバ政府
ノ御助ケヲ願ハウ、斯ウ云フヤウナ結果ト
又現象ヲ現在呈シテ居ルノデアリマス、故
ニ今ロノ政府ガ御執ニナッテ居ル產業政策
ハ私ヲシテ忌憚ナク言ハシムルナラバ、
根本ニ培ハズシテ、唯、單ニ枝葉ヲ繁茂セ
シメヤウト云フガ如キコトノミニ御考ニ
ナッテ居ルノデハナイカト考ヘルノデアリ尹
マス、此點ニ付テ政府ノ所見ハ私ノ考ト違ッ
テ居ルカ、違テテラライイ、第一ニ是ガ
御尋シタイノデアリマス、卽チ產業政策ノ
根本方針ハドウデアルカ、是ガ第一問デア
リマス、抑、產業政策ノ根本方針ヲ樹立致
サウトスルニ付テハ、私ガ縷々申上ゲズト
モ御承知ノ通リ、產業革命ト云フコト二心
ヲ注ギ、眼ヲ著ケル必要ガアルト私ハ思
フ、是ハ私ガ縷々申サズトモ政府ハ御承知
デアリマセウ、產業革命ニ順應スル所ノ政
策ヲ立テルニ非ズンバ、眞ノ產業發達ト云
フモノハ今日ニ於テハ企テ圖ルコトハ出來
ナイノデアル、產業革命ハ私ガ講釋ヲ致サ
ズトモ御承知ノ通リ、十八世紀ノ後半英國
ニ於テ起シタ、所謂電氣、鐵或ハ蒸氣ノ
應用ニ依リ、總テ大仕掛ニヤラナケレバナ
ラヌト云フ時代ニナッタ、ソレニ付テハ資
本モ要ル、其資本ヲ集メ大仕掛ニ仕事ヲヤ
ルヤウニ相成ッタコトハ御承知ノ通リデア
リマス、現在ノ產業組織ハ卽チ此ニ至ッテ
居ル、故ニドウシテモ此產業ノ根本的發展
政策ヲ考ヘヤウトスルニ付テハ、產業革命
ナルモノニ著眼シナケレバナラヌコトハ御
承知ノ通リデアリマス、然ラバ產業ノ組
織組立ト云フモノヲ如何ヤウニ改善ヲ圖
ルカ、又資本卜云フモノヲ如何ニ活用サシ
テ行クカ、更ニ技術ト云フモノヲ如何ニ改善
ヲ圖ルカ、言葉ヲ換ヘテ言フナラバ組織
ト資本、技術、此三方面ニ著眼ヲシ、玆ニ
根柢ヲ置イテ產業ノ根本政策ナルモノヲ打
立テナケレバナラヌコトハ、取リモ直サズ
產業革命ニ順應スル所ノ政策デアルト私ハ
考ヘルノデアル、是ニ於テ第二問ト致シテ
產業組織ノ改善ニ關シテ御尋ガ致シタイノ
デアリマス、御承知ノ通リ我國モ明治維新
以來歐米ノ文物制度ガ輸入セラレ、產業革
命ノ風モ吹來ッタノデアリマス、所謂資本
文明、機械文明ノ世ノ中トナッタ、大事業、
大資本ヲ以テ事業ヲ起スト云フ時代ニ相
成ッテ居ル、是ニ於テ色ミナ工場モ出來テ
居ル、色ミノ會社モ出來テ居ル、所ガ果シ
テ今日我國ニ於テ行ウテ居ル所ノ工場經
黄又資本ノ活用ト云フモノハ、近時ノ世
界文明國ノ產業組織ト對シ、後レテ居ラナ
イカ同一デアルカ、其點ヲ御考ヲ願ヒタイ
ノデアリマス、近時世界ノ文明國ハ產業革命
ノ結果更ニ新ナル企ヲ致シテ居ルノデアリ
マス、如何ナル企ヲ致シテ居ルカト云フナ
ラバ、同ジ事業ハ群雄割據ヲ致サズシテ、
成ベク大資本ノ合同ト云フコトニカヲ盡シ
テ居ル、例ヘバ獨逸ノ窒素肥料製造會社ノ
如キハ、五十億万圓ノ資本ヲ持ッテ居ル、同業
者ガ合同ヲ致シテ居ル、更ニ組織ノ上ニ於
テハ如何ナル仕組ヲ致シテ居ルカト云フナ
ラバ御承知ノ通リ「カルテル」デアルト
カ、或ハ「トラスト」デアルトカ、或バ「シ
ンヂケート」デアルトカ云フガ如キ合同カ、
然ラザレバ聯盟ノ仕組ニ依リマシテ、絖
的、節制的ノ陣容ヲ張ッテ產業界ニ臨ンデ居
ルノデアリマス、而シテ要ラザル所ノ生產
費ヲ輕メ、更ニ詰ラナイ所ノ無益ノ競爭ト
云フモノヲ避ケテ、生產者ノ利益モ圖ルト
同時ニ、消費者ノ利益モ圖ル仕組ニ致シテ
居ルノデアリマス、更ニ進シデハ國際的ノ
爭ト致シテハ「ダンピング」デアルトカ、或
ハ不當廉賣デアルトカ、色ニノ仕組ヲ以テ
統一的、節制的ノ戰ヲ開始致シテ居ルノデ
アリマス、現ニ我國ニ於テハ燐寸業ノ如キ
ハ我ガ國產ト稱ヘラレテ居ッタニ拘ラズ、白
耳義ト云フ國ガ所謂仕組ノ改善ヲシテ、我
ガ燐寸ノ得意地ト云フモノヲ奪ヒ取ッテシ
マッタト云フ如キ狀態ニナッテ居ル、卽チ近
時世界ノ產業組織ハ大資本ノ合同カ、同時
ニ仕組ノ改善「トラスト」、「カルテル」、
「シンヂケート」、左樣ナ仕組ヲヤッテ居ル、
所ガ我國ノ經濟界ノ現狀ハドウデアルカト
云フナラバ、如何ニモ產業革命ト一云フ點ニ
氣付イテ、株式會社モ出來テ居レバ、大キ
ナ機械工場モ出來テ居ルガ、悲イ哉群雄割
據デアル、何等同業者ノ大資本ノ合同デア
ルトカ、或ハ仕組ノ改善デアルトカ、「カル
テル」化ストカ「トラスト」、化ストカ、ジ
ンヂケート」化ストカ云フ點ニ著眼シテ居
ル人ハ少イノデアリマス、政府ニ於テモ其
點ニ餘リ留意ナサッテ居ラヌ有様デアル、漸
クニシテ、砂糖業者ノ聯盟、或ハ新聞紙用紙
ノ所謂製紙會社ノ同盟、或ハ此頃漸クニシテ
製粉會社ノ聯盟ト云フガ如キコーヲ見ルニ至ッ
テ居リマスケレドモ、其他多數ノ有益ナル
產業ガアリマスケレドモ、未ダ此合同或ハ
聯盟ト云フ域ニマデ達シテ居ラナイ所ノ今
日狀態ニ在リマス、特ニ此小サナ產業、所
謂小中產業ガアリマス、ソレ等ノ點ニナル
ト聯盟、同盟、若クハ資本ノ合同、斯ウ云
フヤウナ域ニ進マザルノミナラズ、產業革
命ノ影響ヲ受ケテ家庭工業ハ打倒レ、小サ
ナ工業ハ打倒レ、農村ナドノ疲弊困憊ニ陷
ルト云フノハ、取リモ直サズ產業革命ノ結
果、產業革命ノ風ニ襲ハシタガ爲ニ今日苦
ンデ居ル狀態デアリマス、卽チ我國ノ產業
組織ヲ眺メマスレバ、一トシテ組織的統一
的ニナッテ居ラナイ、所ガ世界ノ文明國ハ
統一的節制的ニ堂々タル陣ヲ張ッテヤッテ居
ルト云フガ如キ狀態デアル、卽チ將來ハド
ウシテモ同業者トシテノ大資本ノ合同、更
ニ大事業ノ合同又ハ聯盟、中小資本家ハ仕
事ノ聯盟、卽チ資本ノ合同ト、更ニ進ンデ
仕組ノ改善ト云フ事ヲヤルニ非ザレバ根
本ニ於テ我國ノ產業ノ進步發達ヲ圖ルコト
ハ出來ナイノデアリマス、斯ク私ハ考ヘル
ノデアル、政府ハ此產業組織改善ニ關シテ
如何ナル考ヲ御持ニナッテ居リマスカ、特ニ
御伺致シタイノハ、此際產業組織改善ニ關
スル調査機關ヲ設置サレテ、時代ニ後レナ
イダケノ遣方ヲヤル必要ハナイカト御尋ヲ
致シタイノデアリマス、幸ヒ金融制度ナド
ハ改善ノ爲ニ調査機關ヲ設ケラレ、稍〓改
善サレマシタガ、アレト同ジ事ニ產業組織
ノ改善サレマシタガ、アレト同ジ事ニ產業
組織ノ改善ニ關スル調査機關ヲ設ケテ、時
代ノ進運ニ後レナイダケノ方法ヲ執ル意思
ナキヤ否ヤ、是ガ第二問デアル、第二問ハ
產業組織ノ改善ニ關シテ御尋ヲ致シタイノ
デアリマス、第三問ハ產業資金ノ充實卜大
事業ノ經營方針ニ關シテ御尋ガ致シタイ、
今ヤ資本ヲ合同シ大事業ヲ起サナケレバナ
ラヌ時代デアルト云フコトハ、前段申上ゲ
タ通リデアリマス、例ヘバ肥料ノ大會社ヲ
造ルデアルトカ、製鐵業ノ統一デアルト
カ、或ハ開墾、干拓、又ハ水力電氣ノ統
一、色〓ト爲スベキ仕事ガアル、所ガ要ス
ル所資金ガ無イノニ苦シンデ居ル、イザ此
仕事ヲ致サウトスル場合ニ當ッテ、先ダツ
モノハ金デアル、此金ガ無イ、是ガ問題デ
アル、是ニ於テ或ハ公債ヲ募集シテ事業ヲ
起シタラ宜カラウト云フ論者モアル、或
公債ハ宜シクナイ、借錢政策ハ宜シクナ
イ、斯ウ云フ論モ立テラレテ居ル方モアリマ
スルガ、私ガ考ヘルノニ、其公債ニ據ラズ、非公
債論ナドニモ據ラズシテ、一ツノ半官半民ノ
事業ヲ起スト云フコトヲ御考ナサッタラドウ
デアルカ、例ヘバ開墾ナラ開墾ヲ致ストシテ
モ、固ヨリ本年ノ豫算ニハ大規模開墾計畫ト
云フ費目ガ出テ居リマスガ、到底斯樣ナコト
デハ眞ニ開墾ト云フ事ハ出來ナイ、內地ニ於キ
マシテモ百二十万町歩、北海道ニ於テモ七十
八万町步開墾シ得ラルベキ土地ガアルノデ
アル、然ルニ小サナ金デ名前ダケハ開墾大
規模計畫ト名ヲ附ケテ居リマスケレドモ、
到底行フコトハ出來ナイ、ソレヨリモ寧ロ
玆ニ半官半民ノ開墾會社ヲ造ル、或ハ肥料
ナラ肥料ヲ官營ニシタラバ宜イト云フ論ガ
出テ居ルガ、ソレ等ニシテモ玆ニ一ツノ半
官半民ノ肥料會社ヲ造ル、製鐵モ其通リ、
水力モ其通リ、色こナ事業ヲサウ云フコト
ニスレバ、卽チ資金ヲ集メル點ニ於テ非常
ニ容易イ事ハナカラウカト私ハ考ヘルノデ
アル、ソレハ如何ヤウナル所カラ左樣ナコ
トヲ考ヘタカト云フナラバ、我ガ國民性ハ
悲シイ哉今尙ホ官尊民卑ノ風ガアルノデア
リマス、此所デ國ガ事業ヲ起ス、政府ガ事
業ヲ起スト云フコトニナルト、兎角後家婆
サンノ臍繰金デモ其方ニ放資ヲスルト云フ
ヤウナ傾向ガアル、現ニ先年產業組合中央
金庫卜云フモノガ出來マシタガ、其時ハ總
資本額三千万圓デアリマス、內一千五百万
圓ハ政府ガ持チ、後ノ一千五百万圓ハ民間
ヨリ募ル、而モ此產業組合中央金庫ハ、御
承知ノ通リ十箇年間配當ヲシナイト云フ條
件ニ相成シテ居ルニ拘ラズ、民間ヨリ募集
致シタル一千五百万圓ニ對シ、其十倍ノ應
募者、一億五千万圓ノ金ガ集ッタ、應募ガ
アッタト云フ狀態デアリマス、ソレカラ極ク
最近デアリマスガ、無線電信株式會社、斯
ンナモノニ致シタ所ガ左程利益ノアルモノ
デハナイ、是モ莫大ナル應募ガアッタ、卽
チ株式應募ニ對シ、十倍モ十五倍モ應募者
ガアッタト云フ如キ狀態デアル、是等ノ事
實ハ確ニ我ガ國民性ヲ明ニ現シテ居ル、而
モ政府或ハ國家ガ仕事ヲスルト云フ場合ニ
於テハ、後家婆ノ臍繰金デモ引出シ得ラレ
ルモノデアルト云フコトヲ物語ッテ居ルモ
ノデアルト私ハ考ヘルノデアリマス、故
若シ輸入防遏ナラ防遏ト致シテ、肥料ノ大
事業ヲ起ストカ、或ハ製鐵ノ統一、或ハ開
墾干拓、其他各種ノ事業ヲ起サウト思ッ
テモ金ガ無イ、公債、非公債ノ爭ハ止メテ、
半官半民ノ事業ト云フコトニ著眼ヲ致シタ
ナラバ速ニ此輸入ノ防遏モ出來ルト同時
ニ、我國ノ產業ノ進步發達ガ出來ルモノナ
リ、斯ウ私ハ考ヘルノデアリマス、卽チ產
業資金ノ充實ノ方策、大事業經營ノ方策ニ
對シテ、只今申述ベタ所ノ意見ヲ持ッテ居
ルノデアリマスガ、之ニ對シテ政府ハ如何
ナル御所見ヲ持シテ居ルカト云フコトヲ御
伺致シタイノデアリマス、第四問ハ產業技
術ノ進步、改善ノ方策ニ關シテ御尋ヲ致シ
タイノデアリマス、技術デアル、斯ク言へ
バ政府ニ於テハ農事上ノ試驗場モアル、或
ハ工業ノ試驗場モアル、水產ノ試驗場モア
ル、斷ジテ此技術ノ進步改善ニハ怠ッテ居
ルモノデナイ、斯ウ言ハレルデアリマセ
ウ、所ガ是モ悲シイ哉極メテ小規模ニシテ
其名前ノミ存シ、其實卜云フモノハ擧ッテ
居ラナイ、一例ヲ擧ゲテ言フナラバ、本年
ノ米ガ少イ不作デアル、外米ノ關稅ヲ撤廢シ
ナケレバナラナイト云フ如ク、米ノ取レナ
カッタト云フノハ何デアルカ、風害ニアラ
ズ、水害ニアラズ、蟲害デアル、蟲ガ食シ
タガ爲ニ米ガ取レナカッタノデアリマス、所
ガ其蟲ヲ豫防スルノニ、如何ニシタナラバ
其蟲ヲ豫防スルコトガ出來ルカト云フ點ナ
ドモ、餘リ〓究ガ出來テ居ラナイ、之ヲ獨
逸ナドニ見ルト、各種ノ理化學ヲ應用シ、
否科學ヲ應用シ、蟲ノ食ハナイ所ノ相當ノ
經驗ト〓究ト云フモノガ積マレテ居ル、現
ニ小麥ナドハ從來黑穗ト云フモノガ澤山出
テ居リマシタガ、獨逸ノ發見致シマシタル
藥ヲ用ヒタナラバ、黑穗ダケハ豫防シ得ラ
レルコトニナッテ居ル、米ニ於テモ何等カ
ノ方法ヲ〓究シタナラバ、今年ノ如ク蟲害
ニ苦ミ、米ガ高クナリ、或ハ外米ヲ入レナ
ケレバナラヌト云フヤウナコトヲ見ズトモ
濟ムノデアル、是ハ一例デアリマス、又蠶
ノ上デ申シマシテモ、色ニト伊太利ナドニ
於テハ〓究ヲ致シテ居ル、人造絹絲ニアラ
ズシテ天然ノ絹絲ヲ早ク作ルガ如キ方法ヲ
考へ、生產費ヲ大ニ輕メ、多量ニ生產ヲス
ルト云フコトヲ考ヘテ居ルコトハ政府モ御
承知ノ通リデアリマス、何故ニ我國ニ於テ
モ現在ノ玩具ノ如キ、マヽ事ノ如キ研究所
ト云フモノヲ打棄テヽ、大規模ノ理化學〓
究所、植物ノ〓究所、動物ノ〓究所、總テ
ノ產業ノ基礎トナル所ノ〓究ヲ爲スト云フ
コトニ出デナイノデアルカ、此點ニ付テ政
府ハ如何ナル御考ヲ御持ニナッテ居ルカト
云フコトヲ御尋致スノデアリマス、第五間
ハ產業ト〓育トノ關係デアリマス、產業ノ
振興發達ヲ圖ラウトスルニ付テハ、最モ其
基礎ト致シテ產業〓育ト云フコトヲ施サナ
ケレバナラヌ、是ハ私ガ申サズトモ政府モ
御承知ノ通リデアリマセウ、然ルニ今日果
シテ產業〓育ト云フコトニ重キヲ置イテ居
ルカト云ヘバ然ラズ、尋常小學校ヲ卒業ス
レバ中學校へ入ル、中學校カラ高等學校、
或ハ大學、其他ノ專門學校へ入ルト云フ仕
組ニ相成シテ居ル、總テ高等ノ學校ニ入ル、
所ガ果シテ其高等ノ學校ニ於テ、工業學校
デアルトカ或ハ商業学校ト云フ方面ハ率知
ラズ、法律ヲ〓ヘル學校デアルトカ、或、
經濟、或ハ政治ヲ〓ヘルト云フ方面ニ於テ、
眞ニ產業知識ト云フガ如キコトヲ授ケテ居
ルカト云ヘバ〓ヘテ居ラヌ、中學校ニ於
テモ〓ヘテ居ラヌ、一例ヲ擧ゲテ言フナラ
バ、中學ナラバ中學ヲ卒業シター中學
ヲ卒業シタ者ヲ商店、或ハ會社、銀行へ直
ニ使ハウトシタナラバ使フコトガ出來ナ
イ帳面ヲ付ケル術ヲ知ラナイ、大福帳ト
カ、或ハ當座帳トカ、金錢出入帳位ハ付ケ
ラレルデアリマセウ、併ナガラ今日ノ複式
簿記デアル所ノ日記帳、仕譯帳トカ、貸借對
照表、其他各科勘定、科目ノ帳面ナドハ一切
付ケルコトガ出來ナイ、然ラバ之ヲ農業方面
ニ使ハウト致シタナラバドウデアル、肥料ノ窒
素、燐酸加里、其名前サヘ知ラヌ、假ニ名前ハ
知ッテ居ルトシタ所ガ、之ヲドウ云フ風ニ
作物ニ應用スルノデアルカト云フ如キコト
ヲ知ッテ居ラナイト云フ狀態デアル、左樣
ナ〓育ヲ施シテ、中學ナラ中學ヲ卒業シ
テ、其儘家庭ノ事情ニ依ッテ或ハ農業ニ從
事シ、或ハ商工業ニ從事ヲ致サ一ウトシテ
モ、役ニ立タヌト云フ如キ狀態デアル、進
ンデ大學ヲ卒業スルト雖モ、或ハ辯護士ト
ナリ、或ハ判檢事トナル、是等ノ人ハ簿記
學ヲ知ラナイ、ソレ故ニ此頃ノ裁判ト云フ
モノハ、少シムヅカシイ商事裁判ニナッタ
ラ、五年モ、十年モ掛ラナケレバ分ラヌト云
フ狀態デアル、是等ハ一切產業ト云フコト
ニ著眼ヲセザル所ノ〓育ヲ施シテ居ル結果
ナリト私ハ言ヒタイノデアル、此點ニ付テ
如何ナル御考ヲ御持ニナリマスカ、以上ハ
一般產業政策ニ付テ御尋ヲ致シタノデアリ
マスガ、次ニ極メテ簡單ニ農業政策ニ付テ骨
子ノミヲ御尋致シマス、第一問ハ土地ニ對
シ累進稅ヲ課スルノ必要ヲ認メルヤ否ヤ、
此事ヲ御尋致シタイノデアリマス、政府ニ
於テハ自作農ノ維持ヲヤラナケレバナラ
又、創設ヲヤラナケレバナラヌ、斯ウ云フ
コトヲ考ヘラレテ居ル、所ガ一方貴族院ノ
多額納稅議員ナドハ、土地ヲ國有トシテ
國ニ買上ゲテ貰ハウデナイカ、斯ウ云フコ
トヲ言ウテ居ル、所ガ此土地ト云フモノハ
御承知ノ通リ土地トシテ働クノデアル、大
地主ナドハ土地ヲ見ルコト尙ホ資本ノ如ク
見テ居ル、株式會社ノ株劵カ何カヲ持ツガ
如ク持シテ居ル、所ガ此頃小作爭議ナドガ
流行シ出シタ、是デハ敵ハヌ、ドウカ國ニ
相當ナ値段デ買上ゲテ貰ヒタイ、斯ウ云フ
考ヲ持ッテ居ラレルヤウデアリマス、所ガ
愈、此土地全部ヲ國ニ於テ買フト致シマシ
タナラバ餘程ノ金ガ掛ル、迚モ自作農ノ維
持創設ニ付テ金ガ少イトカ、多イトカ云フ
議論所ノ騒ギデハアリマセヌ、而モ此大地
主ナドハ多クトハ申シマセヌケレドモ、土
地兼併ニ依ッテ得タル所ノ土地モ多イデア
リマセウ、或ハ安ク之ヲ買取ッタ人モアル
デアリマセウ、故ニ此際土地ニ對シ累進稅
ヲ課シテ、成ベク早ク手離スト云フコトニ
シタナラバ取リモ直サズ自作農ヲ維持ト
ハ申シマセヌガ、創定スルノニ非常ニ便利
デナイカト私ハ考ヘル、更ニ此土地分配ヲ
公平ナラシムル所ノ方法デナイカト考ヘル
ノデアリマス、此點ニ付テ政府ハ如何ナル
御考ヲ御持ニナッテ居ルカ、是ガ一問デア
リマス、第二問ハ副業奬勵デアリマス、元
來政府ニ於テ副業奬勵ヲナサルノハ、單ニ
生產方面ノミニ重キヲ置カレ、イヤ蒟蒻玉
ノ栽培ガ宜イ、イヤ斯ウ云フ物ヲ作ッタラ
宜イ、「サフラン」ヲ作ッタラ宜イトカ、色々
ノ製造生產ト云フコトニ重キヲ置カレテ居
リマスルガ、愈〓此得タル所ノ品物ヲ如何
ニ消費セシムルカ、如何ニ販賣セシムルカ
ト云フコトニ付テ、餘リ御留意ヲ爲サッテ
居ラヌノデアリマス、其結果副業ハ或ル程
度マデ奬勵ヲサレマスルガ、生產過剩ト云
フコトニ相成リ、農家ナドハ副業ノ爲ニ損
失ヲ致ス、寧ロ働カナイ方ガ宜イ、斯ウ云
フ思想ガ往々今日起キテ居ルノデアリマ
ス、所謂產業ノ發達セザル原因モ、一ハ此
ニ在ルデアラウト思フ、故ニ將來此副業其
他小中ノ產業ク振興發達ヲ圖ラウトスルニ
付テハ、生產方面ニ重キヲ置クト同時ニ、
一方ニ此販路、販賣ト云フコトニ氣ヲ付ケ
ナケレバ眞ニ副業ノ発達、小中產業ノ發達
ト云フコトハ期スコトハ出來ナイノデアリ
マス、然ラバ如何ニスルカ、如何ナル具體
案ヲ持シテ居ルカト一ムフナラバ、幸ヒ我國
ニハ御承知ノ通リ產業組合ノ數ガ一万四千
アリマス、ソレカラ更ニ重要物產同業組合
ガ一千五百アル、之ヲ旨ク適用シ運用致シ
タナラバ、副業ノ奬勵ガ出來ルデアラウト
思フ、重要物產同業組合ハ如何ナル事ヲヤッ
テ居ルカト云ヘバ、唯こ單ニ製造、生產、左
樣ナ方面ニ重キヲ置イテ、販賣販路下云フ
ガ如キコトニハ何等著眼致シテ居ラナイ、
產業組合ハ如何ナル方面ニ重キヲ置イテ居
ルカト云フナラバ、御承知ノ通リ信用組合
ニ於テハ資金ノ充實ノ方ナリ、其他利用組
合、販賣組合ナリ、所謂販賣資金ト云フ方
面ノ仕事ガ出來得ルコトニナッテ居ル、是
等ヲ合體シタル所ノ、生產ニ重キヲ置ク所
ノ同業組合、資本、販賣、原料ノ協同購
入、更ニ機械設備ノ共同利用、左樣ナ此產
業組合ト同業組合トヲ合致シタル、玆ニ一
ツノ組合ヲ作ルカ、若クハ重要物產同業組
合ハ、產業組合法ヲ適用スルコトヲ得ト、
斯ク改正ヲ致シテ、生產、更ニ金融、販賣、
斯ウ云フコトニ致シテ、取リモ直サズ今日
デ言フ所ノ、產業ノ仕組ニ改善ヲ施スト云フ
コトニ致シタナラバ、副業ノ發達ハ日ヲ期
セズシテ盛ニナルト思フノデアリマス、獨
リ副業ノミナラズ、小中ノ產業モ發達スル
モノナリト私ハ考ヘルノデアリマス、政府
ハ果シテ如何ナル御考ヲ御持ニナッテ居ル
カ、其他第三問ト致シマシテハ、農業保險
ノ件デアリマスルガ、是ハ我ガ先輩齋藤宇
一郞君ヨリ法律案ヲ提案サレタコトモア
ル、卽チ農業者ニ對シテ保險ヲ付ケル、不
作ノ場合ニハ相當ノ補償ヲヤル、保險金ヲ
ヤル、斯ウ云フコトニスレバ、餘程安全ナ
ル仕事トナリマシテ、農業ニ從事スル所ノ
者ガ眞劔ニ相成リ、又農業ノ振興發達トナ
ルモノナリト考ヘルノデアリマス、其他山
林ノ保險、牧畜ノ保險、尤モ保險〓究調査
費ト云フモノヲ極ク僅カ置カレテ居リマス
ケレドモ、調査〓究ト云フヨリモ、早ク之
ヲ實行スルト云フコトヲ私ハ望ムノデアリ
さく、斯樣ナ事ニ付テハ、齋藤宇一郎君ハ
五年程前ニ此壇上ニ於テ法律案ヲ出サレテ
居ル、又畜產保險、森林保險ノ如キニ付テ
ハ、私モ七八年前ニ本壇上ニ於テ演說ヲ致
シテ居ル、ソレ等ニ付テ如何ナル御考ヲ御
持ニナッテ居ルカ、何時マデモ僅ナ金デ〓
究調査ト云フコトノミヲ御續ケニナルノデ
アルカドウデアルカ、是ガ第三デアリマス
第四ハ肥料政策デアリマス、元來今日ノ肥
料ト云フモノハ、ドウ云フコトニナッテ居
ルカト云フト、御承知ノ通リ獨逸ヨリ致シ
テ年々莫大ナル硫安、所謂空氣中ヨリ採リ
マシタ所ノ窒素肥料ガ輸入サレテ居ル、ソ
レカラ又南洋ヨリ致シマシテハ、燐礦石ガ
來テ居ル、其他智利硝石、其他色ミノ肥料
ガ來テ居ル、ソレ等ノ原料ハ誰ガ抑〓取シテ〓
居ルカト云フト、多クノ富豪ガ一旦之ヲ手
ニ收メテ、而シテ相當ノ利益ヲ獲得致シ
テ、之ヲ農家ニ供給致シテ居ルト云フ現狀
デアル、是等ノ事實ヲ宮豪ノ仕事ト致サズ
シテ、之ヲ政府ニ於テ管理スルカ、若クハ
前段申上ゲマスル所ノ半官半民ノ事業ヲ起
シテ、飽迄モ安キ所ノ肥料ト云フモノヲ農
村ニ供給スルト云フコトハ、農村振興ノ一
大要件デアルト、私ハ考ヘルノデアリマ
ス、所ガ獨逸ヨリ來ル所ノ窒素肥料ノ如キ
ハ人ノ名前ハ申シマセヌガ、大キナ富豪
ガ二三聯盟ヲ致シテ、一噸ニ付テ如何ナル
不景氣ナリト雖モ二圓ヅヽノ利益ヲ取ラウ
ト云フ協約ヲヤッテ居ル、事業ノ協約聯盟
ハ宜イ、併ナガラ農家ノ生產費ヲ輕メナケ
レバナラヌト云フ時代ニ於テ、左樣ナ仕事
ハ成ベク政府ニ於テ管理ヲ致シテ、安キ所ノ
肥料ヲ供給スルト云フ方策ニ出ル必要アリ
ト私ハ考ヘル、特ニ此窒素肥料ト致シマシ
テハ「ハーバー」式ノ立派ナ特許權ヲ政府
ハ持タレテ居ル、之ヲ東洋窒素肥料株式會
社ニ御貸シニナッテ居ル、斯樣ナモノヲ貸
サズ、政府自ラ何故ニ之ヲヤラナイノカ、
資本ガ無ケレバ前段申シタ所ノ半官半民
ノ事業ニ俟テナイノデアルカ、此點ニ付テ
御尋ヲスルノデアリマス、第五ニハ米穀法
ノ運用ニ付テ御尋ヲ致シタイ、如何ニモ米
ガ安クナッタナラバ政府ガ買フ、高クナッタ
ラ賣ル、斯ウ云フ趣意ニナッテ居リマスガ、
莫大ナル損ヲ爲サレテ居ル、卽チ本年ノ豫
算ヲ見マシテモ、大正十五年デアリマセ
ウ、年度ハ忘レマシタガ六百万圓、ソレカ
ラ通計二千二百万ノ損失トナッテ居ル安
イ時ニ米ヲ買ヒ、高イ時ニ賣ル、所謂商賣
上ノ言葉ヲ以テ言フナラバ底デ買ウテ天井
ヲ賣ルノデ、損ノシヤウガナイノデアル、
然ルニ拘ラズ左樣ナ損ニナッテ居ル、或、
米穀法ト云フモノハ米ヲ買上ゲテ居ルカ
ラ、農民ハ、歡ンデ居ルデアリマセウ、或
ハ安イ米ヲ拂下ゲテ居ルカラ、消費者ハ喜
ンデ居ルカ、何ゾ知ラン大キナ穴ガ明イテ
居ルノデアル、卽チ十年經ッタラ六千万圓、
利息ヲ寄セタラ一億圓以上ノ損ニナルデア
リマセウ、是ハドウ云フ譯デアルカ、之ニハ
色こノ原因モアルデアリマセウガ、底ヲ買
ウテ天井ヲ賣ル場合ニ於テ、如何ナル理由
ニ依クテ損ヲスルノデアルカ、此點ニ付テ
御伺ヲ致シタイノデアリマス、其他各種ニ
三リ御尋シタイ點ガアリマスケレドモ、ソ
レハ他ノ方ミヨリ御質問ニナリ、又政府カ
ラモ御答ニナッテ居ル點デアリマスガ故ニ、
ソレ等ハ省略ヲ致シマスガ、要スルニ國家
ヲ維持スル上ニ於キマシテハ、國防ノ必要
モアルノデアリマセウ、又國民思想ノ善導
モ必要デアリマセウガ、要ハ國家生存ノ大
要素タル所ノ產業ノ振興發達ト云フコト
ガ、今日ニ於テ最モ急務ナリト私ハ考ヘル
ノデアリマス、然ルニ徒ニ產業政策ガ枝葉
末節ニ走リ、根本ニ觸レズシテ此所マデ來
レ、甘酒進上デアルトカ、或ハ帶ニ短シ釋
ニ長シ、若クハ徒ニ大資本家ノミヲ擁護ス
ルト云フガ如キ政策ヲ執ラレテ居ッタナラ
バ、遂ニ國家ノ基礎ヲ危クスルニ至ルモノ
ナリト云フコトヲ恐レマシテ本質問ヲ致シ
タノデアリマス、何卒誠意アル御答辯ヲ要
求シテ、此壇ヲ降リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=10
-
011・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 町田農林大臣
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=11
-
012・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 産業政策ニ關ス
ル質問書ハ、豫テ土井君ヨリ御提出ニナッテ
居ルコトハ承知シテ居リマス、只今質問ノ
御趣意ヲ此所デ詳細御述ニ相成ッテ、御趣意
ノアル所ハ了解致シマシタ、唯〓問題ガ頗
ル重大ナルト同時ニ、極メテ廣汎デアリマ
ス、或ハ商工行政ニ關スル事アリ、或ハ財政
ニ關スル事モアリ、或ハ〓育ニ關スル事モ
アリ、又私ガ扱ッテ居リマスル農林行政ニ關
スル事モアリ、頗ル廣汎デアリマス、先例
モアリマスカラ、御質問ニ答辯スベキ立場
ニ在ル各大臣協議ノ上、書面ヲ以テ一括御
答辯ヲ致スコトニ致シマス、殊ニ玆ニ甚ダ
失禮デアルガ、一言附加ヘテ置キタイノ
ハ、私ニ關スル御答辯致スベキ問題ノ中ニ、
土地ニ對スル累進稅ヲ課スル意思アリヤ否
ヤト云フ問題、自作ニ關スル問題、竝ニ最
後ニ御尋ニナッタ米穀法運用ニ關スル御尋
ハ一寸承ルト土井君ノ御趣意ハ、至極御
尤ニ聞エル次第モアリマス、併シ是ハ改メ
テ書面ヲ以テ申上ゲルコトハ勿論デアリ、マ
スガ、米穀法運用ノ爲ニ相當ナ損失ヲ國家
ニ與ヘテ居ルコトハ勿論デアリマス、併シ
土井君ノ御話ノ如ク安イ時ニ買ッテ、高イ時
ニ賣レバ損ガナイヂヤナイカト云フ、此根
本問題ニ對シテ、一言申シテ置イタ方ガ宜
カラウト思フノハ吾々ノ見ル所、竝ニ米
穀法ヲ改正セラルヽ際ニ御協賛ニナッタ此
席ノ諸君ハ、米ノ一年ノ價格ノ安イ高イノ
間ノ幅ヲ出來ルダケ少クスルト云フノガ、米
穀法ノ趣意デアリマス、此趣意カラ申シマ
スト、安イ時ニ買シテ高イ時ニ賣レバ經費
ガツレデ取レルヂヤナイカト云フノハ、米
穀法ノ趣意デハアリマセヌ、米穀法ノ趣意
ハ成タケ米價ヲ安定サセテ、生産者消費
者ノ利害ヲ調和シテ、生活ノ安定ヲ圖ル爲
ニハ此重大ナル食糧ノ價格ノ變動ヲ少ク
スルト云フコトガ、趣意デアリマスルガ故
ニ、安イ時ニ買シテ高イ時ニ賣レバ損失ガ
ナイト云フコトハ吾々ノ考トハ違フノミ
ナラズ、其米穀法ノ今日ノ損失ハ、各諸君
ガ御承知ノ通リ、初メカラ基金ヲ持シテ居
リマセヌ、是ハ早晩改正シナケレバナラヌ
ト考ヘテ居リマス、一切基金ハ無クシテ、
倉庫ヲ造リ米ヲ買フ資金ヲバ借入金ニ依ッ
テヤッテ居ルト云フ、今日ノ特別會計法ニ於
キマシテハ、勢ヒ米ノ賣買ノ間ニ損失ハ無
クトモ、倉庫ノ固定資本、其他ニ向シテ年々
少カラヌ損失ヲ重ネテ行クコトハ、申ス
マデモアリマセヌ、是ハ諸君ト御協議ノ上
ニ、何等カノ方法ニ依シテ此根本カラ特別
會計ヲ整理致シタイト斯樣ニ考ヘテ居リマ
ス、委細ノ事ハ書面ヲ以テ申上ゲルコトニ
致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=12
-
013・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 質問第三ニ對シテ
ハ政府ヨリ答辯書ヲ受領致シマシタ、仍
テ之ヲ日程ヨリ省キマス、是ニテ質問ヲ終
リマシタカラ、議案ノ日程ニ入リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=13
-
014・井本常作
○井本常作君 日程變更ノ動議ヲ提出致シ
マツ、此際政府ノ同意ヲ得テ、日程第八十
三、望月小太郞君外十八名提出、部落問題
ノ國策確立ニ關スル建議案ヲ繰上ゲ議題ト
爲シ、其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=14
-
015・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニハ御
異議ナシト認メマス-政府モ日程變更ニ
同意セラレマシタ、仍テ日程ヲ變吏シテ部
落問題ノ國策確立ニ關スル建議案ヲ議題ト
爲シ、提出者ノ趣旨辯明ヲ求メマス、有馬
賴寧君
第八十三部落問題ノ國策確立ニ關ス
ル建議案(望月小太郞君外十八名提
出)
部落問題ノ國策確立ニ關スル建議案
部落問題ノ國策確立ニ關スル建議
政府ハ近時ノ社會情勢ニ鑑ミ我カ同胞間
ノ因襲的差別觀念ニ基ク所謂部落問題ノ
解決ニ關シテハ舊來ノ陋習ヲ打破シ同胞
融和ノ實ヲ擧ヶ以テ國民生活ノ安定ヲ期
スヘク速ニ確乎タル國策ヲ樹立シ益積極
的施設ヲ講セラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔有馬賴寧君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=15
-
016・有馬頼寧
○有馬賴寧君 私ハ只今上程サレマシタ部
落問題ニ對スル國策確立ニ關スル建議案ニ
付キマシテ、其提案ノ理由ヲ說明致シタイ
ト思フノデアリマス、第一ニ部落問題トハ
何デアルカト云フコト、管ニシク申上ゲル
必要ハナイト思フノデアリマスガ、順序ト
致シマシテ極ク簡單ニ部落問題其モノニ付
テ申上ゲタイト思フノデアリマス、現在部落ノ
人とト申シマスノハ、政府當局ノ調査ニ依リマ
スルト、其數ハ約九十万上云フコトニナッテ居
ルノデアリマス、又水平社ノ人〓ノ主張スル
所ニ依リマスト、其ノ數ハ三百万ト言ハレ
テ居ルノデアリマス、私共ハ約百五十万位
ノ部落ノ人とガアルノデハナカラウカト想
像致シテ居ルノデアリマス、部落問題ト申
シマスノハ是等ノ部落ノ人〓ガ、一般ノ人
人カラ侮辱的言辭ヲ以テ取扱ハレルト云フ
コトニ因リマシテ受ケル所ノ、精神上ノ苦
惱ト云フノガ其一ツデアリマス、モウ一ツ
ハ社會上、經濟上、有ユル方面ニ於キマシ
テ、此部落ノ人〓ガ差別的ノ取扱ヲ受ケマ
ス爲ニ被ル所ノ物質上ノ苦痛、生活上ノ不安、
此精神的竝ニ物質的二ツノ方面ニ於キマシ
テ、部落ノ人〓ガ極メテ不幸ナ狀態ニ置カ
レテ居ルト云フコトガ、卽チ此部落問題デ
アルノデアリマス、一般社會ノ人ミガ、部
落ノ人ニ對シテ侮辱的言辭ヲ弄シマスト云
フコトハ多クノ場合ニ於テンレハ無意識
デアル、因習ニ因ハレテ居ル爲ニ、是ハ無
意識ニ發セラレタモノデアルト言ハレル方
ガアリマス、併ナガラ斯ノ如キ侮辱的言辭
ヲ弄シマスト云フコトガ、意識アッテ致シ
マシタ場合デアッテモ、又無意味ニ發セラレ
マシタ場合ニ於キマシテモ、ソレニ依ッテ受
クル部落ノ人之ノ苦痛ニ何等ノ相違ハナイ
ノデアリマス、一例ヲ申上ゲマスルナラバ、
中國ノ或ル地方ニ於キマシテ、年僅ニ十三
歲ニナル所ノ少年ガ、何等ノ原因ナクシテ
鐵道線路ニ立チマシテ、汽車ノ來ルノヲ待シ
テ、サウシテ僅カ十三歲ヲ一期ト致シマシ
テ、鐵路ノ露ト消エタト云フ事實ガアルノ
デアリマス、是ハ別ニ他ニ何等ノ原因ガアッ
タノデモナイ、唯〓其幼心ニ色ミナ梅辱ヲ
受クル爲ニ、自分ガ長ク生キテ居ッテモ、將
來吾々ハ決シテ幸福ニナレナイト云フコト
ノ爲ニ、其十三ノ少年ガ鐵道ニ觸レテ命ヲ
棄テタト云フ事實ガアルノデアリマス、是
等カラ考ヘテ見マシテモ、單ニ無意識ニ發
セラレル言葉デアッテモ、ツレガ生命ニマデ
替ヘナケレバナラヌ程ノ苦痛ヲ與ヘルモノ
デアルト云フコトヲ考ヘマス時ニ、ソレハ
決シテ輕ミシキモノデナイト私ハ考ヘルノ
デアリマス(拍手)又形ノ上ノ差別ト云フモ
ノハ、今日ハ非常ニ減少シテ居ル、サウ云
フモノハ無イト云フコトヲ言ハレル方ガ屢〓
アルノデアリマス、併ナガラ不幸ニシテ
私共ハ斯ノ如キ事實ガ全國到ル所ニ於テ、
今尙ホ存スルト云フコトヲ申上ゲマスル
コトヲ甚ダ悲ム者デアリマス、一、二ノ
例ヲ申上ゲマスルナラバ、中學校以上若ク
ハ專門學校ニ入學ヲ致シマス際ニ、學術試
驗ハ通過致シマシテモ、其身元ヲ調査致シ
マシタ場合ニ、偶〓ソレガ部落ノ人デアル
ト云フコトノ爲ニ、入學ヲ取消サレタト云
フ例ガアルノデアリマス、又或ル地方ニ於
キマシテ、入營兵士ガ入營ヲ致シマス際
ニ、在〓軍人會ニ於キマシテ軍服ヲ給與致
シマス、其時ニ他ノ一般ノ人ニニ對シテハ
軍服ヲ貸シテヤッタニ拘ラズ、部落出身ノ
入營者ニ對シテハ軍服ヲ貸サナカッタト云
フ事實ガアルノデアリマス、其他軍隊ニ於
キマシテ、將校ガ部落出身ノ爲ニ、兵卒ガ
言フ事ヲ聽カナカッタ、或ハ警察官ニ於テ
或ル警部ガ部落ノ出身デアルト云フコトガ
分ッタ爲ニ、其警察署ノ巡査ガ擧ッテ之ヲ排
斥シタト云フ例モアルノデアリマス、其他
官廳ニ於キマシテモ、又會社商店ニ於キマ
シテモ、相當ノ地位ニ達シマシ夕人ガ、部
落出身デアルト云フコトガ分ッタ爲ニ、其職
ヲ去ラナケレバナラナクナッタト云フ例ハ、
決シテ少クナイノデアリマス、德川時代ニ
於キマシテハ、今日ヨリモ差別ハ更ニ甚シ
イモノガアリマシタケレドモ、其時代ニ於
キマシテハ一方ニ於テ生活ノ安定ト云フ
モノガアッタノデアリマス、卽チ或ル特殊
ノ仕事ト云フモノガ部落ノ獨占ニナッテ居
リマシタガ爲ニ、社會的ニハ非常ニ差別ヲ
受ケ、侮辱ハ蒙リマシタケレドモ、生活上
ニ於キマシテ一ツノ安定ヲ持シテ居シタノデ
アリマス、然ルニ近來資本主義ノ生產組織
ガ發達致シマシテ以來、例ヘバ皮ノ業デア
ルトカ、或ハ膠ノ業デアルトカ、從來部落
ノ人〓ガ獨占シテ居ッタ所ノ仕事ヲ、近代
ノ資本家ガ之ヲ取土ゲテシマッタ、所謂資
本ノ力ニ依シテ大々的ニ之ヲ經營致シマス
ル爲ニ、部落ノ人ニハ從來持,テ居ッタ所ノ
ソレ等ノ獨占事業ヲ、總テ奪ハレテシマッ
タト云フ事ニナッタノデアリマス、而シテ一
方ニ於テ物質的生活、物質上ノサウシタ獨
占事業ハ奪ハレテ、而シテ後ニ殘ルモノハ
何デアルカト申シマスルナラバ、ソレハ單
ナル因習的ナ差別、唯ヘソレノミガ後ニ殘ッ
タト云フコトハ、實ニ悲慘ナ事デアルト思
フノデアリマス、斯ノ如キ部落問題ガ發生
致シマシテ、其結果國家社會ニ及ボシタル
所ノ影響ハ、果シテ如何ナルモノガアッタ
カト云フコトヲ、私共ハ先ヅ考ヘテ見ナケ
レバナラナイノデアリマス、部落民ノ多數
ノ人ニハ、今日モ尙ホ斯ノ如キ不幸ナル所
ノ狀態ニ置カレテ居リツヽ、唯〓ヂットン
レヲ耐エ忍ンデ居ルト云フ有樣ニ在ルノデ
アリマス、人間ガ人間トシテ尊敬ヲサレナ
イ、國民ガ國民トシテ平等ニ取扱ハレナイ
ト云フヤウナ、サウ云フ待遇ヲ受ケテ居ル
ニ拘ラズ、尙ホ目ヲ瞑クデヂットンレヲ我慢
シテ居ナケレバナラナイト云フコトハ、何
ト悲慘ナ事デハアリマセヌカ(拍手)是ニ於
キマシテカ一部ノ目覺メタル所ノ若キ部落
ノ人ニハ、自分等ヲ繫グ所ノ鐵ノ鎖ハ、自
分ノ力デ斷タナケレバナラヌト云フコトニ
依リマシテ、所謂部落解放ノ水平運動ト云
フモノヲ起シテ參ッタノデアリマス、然ル
ニ其運動ハ一般社會ノ誤解ヲ招キ、一般社
會カラ不安ヲ以テ迎ヘラレマシタ結果、到
ル所ニ於テ色ミナ所ノ不祥事件ヲ惹起シテ
シマッタノデアリマス、御承知ノ如ク其事件
ノ中最モ大ナルモノハ、彼ノ奈良縣ニ於ケ
ル所ノ水平社ト國粹會ノ衝突事件デアリマ
ス、次ニハ彼ノ群馬縣世良田村ニ起リマシ
タ所ノ事件デアリマスルガ、尙ホ最近ニ於
キマシテ、諸君ノ御承知ノ如ク、福岡二十
四聯隊ト、水平社ノ衝突事件ガアッタノデ
アリマス、私ハ是等ノ事件ニ對シマシテ、
今玆ニ是非曲直ヲ述べヤウトスルノデハア
リマセヌ、併ナガラ其何レニ是ガアリ、何
レガ非デアルニ致シマシテモ、日本ノ國內
ニ於テ、同ジ日本ノ國民ノ間ニ於キマシ
テ、斯ノ如キ事件ガ起ルト云フコトハ、國
家ノ不祥事デアルト云フ點ニ於キマシテ
ハ何人モ御異存ノ無イ事デアルト私ハ考
ヘルノデアリマス(拍手)然ラバ從來政府ハ
此問題ニ對シテ、如何ナル態度ヲ執リ、如
何ナル事ヲ爲シ來ッタノデアルカ、一 四川五〇
シテ之ヲ申シマスルナラバ、私ハ政府ノ行
フ所、多クソレハ一時的デアリ、サウシテ
彌縫的デアッタト私ハ考ヘルノデアリマス、
ソコニ何等根本的ナル所ノ國策ガアッテ爲
シタノデハナイ、唯一、時的ニ之ヲ彌縫ス
ルガ爲ニ行ハレタ所ノ方策ガ多カッタト思
フノデアリマス、何故ナラバ此部落問題ト
云フモノガ所謂政府當路ノ注意ヲ引キマシ
タノハ、何時デアッタカト申シマスルト云
フト、彼ノ幸德秋水ノ大逆事件ト云フモノ
ガ此動機ニナッテ居ルノデアリマス、幸德
秋水ノ大逆事件ノ際ニ、其中ニ部落出身者
ガ居ッタト云フコトガ、所謂當局者ヲシテ、
部落ト云フモノニ注意ヲ向ケサシメタ第一
デアリマス、其次ニ部落問題ガ多少政府ノ
注意ヲ惹キ、政界ノ注意ヲ惹キマシテ第二
囘目ハ卽チ米騷動デアリマス、米騒動ニ於
キマシテ、部落之ニ參加スル人ガ比較的多
カッタト云フコトガ、部落ヲ何トカシナケレ
バナラヌト云フコトノ注意ヲ惹キマシテ、
第二回目デアリマス、而シテ第三囘ハ卽チ
水平運動ノ勃興デアリマス、之ヲ考ヘテ見
マスト云フト政府ノ爲ス所ハ常ニサウシ
夕大キナ事件ガ起リマシタ時ニノミ、之ニ
對シテ深甚ノ注意ヲ拂タ如ク見エルノデ
アリマス、卽チソレハ一時的デアリ、彌縫
的デアルト云フコトヲ申シテモ過言デハナ
カラウト思フ、而シテ政府ノ行ヒマシタ所
ノ施設ヲ見マスルト、ソレハ大部分物質的
ノ改善デアッタ、詰リ表面的ナ形ノ上ノ改善
デアッタノデアリマス、卽チ部落ノ人ミガ一
般ノ人とカラ差別ヲサレ、侮辱ヲサレルト
云フ原因ハ、形ノ上ニ於テ劣シテ居ルガ爲
メト云フコトカラ出發シテ居ルノデアリマ
ス、併ナガラ私ハソレハ必シモ無益デアル
トハ申シマセヌ、ケレドモ此部落問題、部
落ノ人とガ一般ノ社會ノ人ニカラ排斥ヲサ
レ非難ヲサレルト云フコトハ、形ノ上ニ
於テ劣ッテ居ルガ爲メデハナイノデアリマ
ス、〓日部落ノ人ミガ一般ノ人ニ較ベテ、
劣ッテ居ル所ノ生活狀態ヤ何カニ置カレテ
居ルト云フコトハ、是ハ差別ヲサレマシタ
爲ニ起ッタ所ノ結果デアッテ、決シテ原因デ
ハナイノデアリマス、而シテ其原因ハ果シ
テ何處ニ在ルノカト申シマスナラバ、ソレ
ハ一般社會ノ差別的觀念、一般ノ側ニアル
所ノ因襲的差別觀念ト云フモノニ基イテ、
今日部落ハ期ノ如キ窮狀ニ陷ッタノデアリ
マス、隨テ此問題ヲ解決致シマス爲ニハ、
所謂一般人ノ誤レル所ノ差別觀念ヲ除去ス
ルニ非ズンバ此問題ヲ解決スル途ハ決シ
テ無イノデアリマス、水平運動ハ時ニ過激
ニ渉ルコトガアリマス、近頃ハ一般社會ノ
人〓ガ、部落ト云フコトヲ言フ代リニ、水平
社ト云フコトヲ言ハレマスケレドモ、水平
社ト云フノハ、部落ノ人ミノ間ノ極ク一部
分ノ人ニ依シテ組織サレテ居ル所ノ團體デ
アリマス、而モ此水平社ノ中ニ於キマシテ
モ、過激ナ行動ノ爲ニ、百五十万乃至二百
万ト云フ所ノ多數ノ部落ノ人とガ、一人一、
社會ノ人とカラ不安ヲ以テ見ラレ、恐怖ヲ
以テ迎ヘラレルト云フコトハ、私ハ甚ダ嘆
カハシイコトヽ考ヘルノデアリマス(拍手)
而シテ政府ハ徒ニ之ヲ取締リ、或ハ之ヲ抑
壓スルト云フ所ノ方法ヲ執ラレタノデアリ
マく、吾々ハ水平運動ト云フコトニ對シ
テ、一般社會ノ人ミノ正當ナル理解ヲ促シ、
而シテ、水平運動ヲシテ正シキ運動タラ
シメルト云フコトハ是ハ政府ノ責任デハ
ナカラウカト私ハ考ヘルノデアリマス、最
後ニ何ガ故ニ國策ヲ確立スル必要ガア
ルカ、勿論全國ノ融和問題ニ關係ヲ致
シマス所ノ多數ノ人ミガ、此部落問題
ニ對シテ、政府ハ國策ヲ樹立シテ貰ヒタイ
ト云フ要求ガアル爲メデアルト云フコトハ
申スマデモアリマセヌ、併ナガラ私共ガ考
ヘマス時ニ、此部落問題ニ對シテ、國策ヲ
確立シナケレバナラヌ必要ハ十分ニアルト
思フノデアリマス、何故ナラバ、第一ニ是
ハ人道上ノ大問題ダト私ハ考ヘルノデア
ル人間ガ人間ヲ侮辱スル人間ガ人間ヲ
尊敬セヌト云フコトハ是ハ神ニ對スル所
ノ冒瀆デアルト私ハ思フノデアリマス、政
治ノ理想ト云フコトハ國民ヲシテ所謂社
會的自由ヲ得セシメルト云フコトガ、政治
ノ理想デアリマセウ、而シテ其社會的自由
ト云フモノヲ國民ニ有セシメル爲ニハ所
謂人格ノ平等ト云フコトヲ確立スルコトガ
其根本デナケレバナラナイ、卽チ人格的平
等-人格的平等ト云フモノヲ確立スルノ
デナケレバ、是ハ眞ノ政治デハナイト思フ
ノデアリマス(拍手)私共ハ斯ノ如キ國民ガ
國民ヲ侮辱シ、人間ガ人間ヲ冒瀆スルト云
フヤウナコトハ眞理ノ上カラ申シマシテ
モ、又實際ノ政治ノ上カラ申シマシテモ、
是非トモ此日本ノ國內カラ除去シナケレバ
ナラヌ事デアルト思ヒマス、更ニ彼ノ歐洲
大戰爭ノ後ニ、平和會議ノ席上ニ於キマシ
テ私共ノ代表ハ-我ガ日本ノ代表ハ
列國ノ前ニ人種差別撤廢ト云フ所ノ案ヲ提
出致シタノデアリマス、是ハ私共日本ノ國
民ト致シマシテ、世界人類ノ前ニ斯ノ如キ
立派ナル所ノ提案ヲ爲シタコトヲ密ニ誇リ
トスル者デアリマスガ、併シ顧ミテ自分ノ
國內ヲ見テ、我ガ日本ノ國内ニ於キマシ
テ、此部落問題ト云フガ如キ忌ハシキ問題
ガ假リニアリトシテ、吾々ガ之ヲ解決スル
コトガ出來ナイト致シマスナラバ、世界人
類ノ前ニ人種差別撤廢ノ案ヲ出シタト云フ
コトニ對シテ、吾々ハ忸怩タルモノガアリ
ハシナイカト思フノデアリマス(拍手)私ハ
我ガ日本ノ國ニ取リマシテ、將來政治上ノ
最モ大キナ問題トナルモノハ彼ノ朝鮮間
題デアルト私ハ信ズルノデアリマス、英吉
利帝國ニ於ケル所ノ愛蘭問題ト云フモノ
英吉利ノ政治上ニ於テ、最モ重大ナ困
難ナ問題デアッタ如ク、我ガ日本ノ政治上
ニ於テハ。將來此問題ト云フモノハ極メ
テ重大ナ問題デアルト思フノデアリマス
此部落問題ニ對スル所ノ吾々ノ態度、此部
落問題、今日ノ國内ニ於ケル所ノ部落問題
ト云フモノヲ、吾々ハ如何ニ取扱ヒ、之ヲ
如何ニ處斷スルト云フコトガ、將來朝鮮問
題ニ對スル吾々ノ態度ヲ窺フ所ノ一ツノ資
料ニナルモノデハナカラウカト、私ハ考へ
テ居ルノデアリマス、同ジ國民デアル、同
ジ日本ノ國内ニ於テ、何等違フ所ノ無イ其
國民ニ對シテ、差別的取扱ヲシ、之ニ對シ
テ平等ノ取扱ヲスルコトガ出來ナイヤウナ
我ガ日本デアルナラバ、將來此民族ノ違フ
所ノ朝鮮ニ對シテ、恐クハ完全ナル所ノ政
策ヲ執ルコトハ、極メテ困難デハナカラウ
カト思フノデアリマス、部落問題ハ所謂人
道上ノ問題トシテモ、極メテ重大デアリマ
スガ、又社會問題ト致シマシテモ極メテ重
大ナモノデアルト考ヘルノデアリマス、諸
君ニ於カレマシテハ、彼ノ勞働問題、或
小作問題ト云フモノニ付テ、極メテ熱心ニ
之ヲ〓究サレルノデアリマス、願クハ社會
問題中、勞働問題及小作問題ニ比ベテ、其
重大サニ於テ必シモ劣ラナイ所ノ此部落問
題ニ對シテ、願クハ十分ノ〓究ヲサレ、サ
ウシテ此問題ヲ一日モ早ク解決サレンコト
ヲ望ンデ已マナイ者デアリマス、私ハ政府
ニ對シテ此問題解決ノ爲ニ、確乎タル所ノ
國策ヲ確立シテ貰ヒタイ、サウシテ一日モ
早ク此忌ハシキ問題ヲ、我ガ光輝アル所ノ
日本ノ歷史カラ除去シタイト願フ者デアリ
マイ、諸君ニ於カレマシテモ、ドウゾ私ノ
申上ゲタ所ニ御賛成ヲ戴キマシテ、政府ヲ
シテ此問題ニ對スル所ノ方策ヲ誤ラザルヤ
ウ、御援助ヲ切ニ願フ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=16
-
017・議長(粕谷義三君)
○議長(粕谷義三君) 之ニ對シテハ賛成演
說ノ通告ガアリマス、順次之ヲ許シマス、
荒川五郞君
〔荒川五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=17
-
018・荒川五郞君
○荒川五郞君 諸君、人道ノ最モ大切ナル
コトハ平等ノ尊重ト一云フコトデアリマス、
民族ノ進步モ、社會ノ幸福モ、將夕國運ノ
發展モ、此人道ノ尊重カラ出發シナケレバナ
ラヌコトハ、今更私ガ申上ゲルマデモナイ
ノデアリマス、然ルニ封建階級ノ制度カラ、
茲ニ謂レナキ差別的因襲ヲ馴致シテ參リマ
シタガ、幸ニ維新ノ改革ト共ニ一視同仁ノ
大精神ヲ以テ、制度ノ上ニハ此陋習ヲ打破
シタノデアリマス、然ルニ實際ニ於テハ昭
和ノ今日ニ至ッテ、尙ホ全國到ル所ニ此陋
習ノ餘弊ヲ存シマス爲ニ、社會ノ平和ヲ害
シ、人文ノ進步ヲ妨ゲツヽアリマシテ我ガ
社會ノ最モ深刻ニ且ツ最モ慘酷ナル狀態ヲ
見ツヽアルコト、只今有馬君ノ一二例元セ
ラレタガ如キコトガアリマスルコトハ、我
ガ聖世ノ今日ニ於テ衷心遺憾ニ堪ヘナイ次
第デアリマス、此問題ハ實ニ差別セラレル
一部ノ人ノ問題デハアリマセヌ、民族總體
ノ問題デアリマス、我ガ光輝アル帝國ノ地
位民族ノ光榮ニ關スル我ガ全民族ノ重大
ナル問題デアリマシテ、我ガ國民ハ何人モ
各自個々ノ人々ノ問題トシテ、誰人モ決シ
テ傍觀的態度ヲ執ルベキモノデハ斷ジテナ
イト信ジマスル、隨テ決シテ一時的姑息、
糊塗ノ小仁ヲ行ウテ、漫然時日ヲ看過スル
コトヲ許サナイ問題デアリマスカラ、政府
ハ深ク此問題ノ眞相實際ヲ明ニ致シテ、大
々的ノ施設方法ヲ確立致シ、一日モ早ク我
ガ帝國ノ社會カラ、此忌ムベキ陋習ヲ一掃
シテ、民生全般ヲシテ、一視平等ノ幸福仁
政ヲ享受セシムルヤウ其日ヲ見ンコトハ、
洵ニ私共ノ日夜痛感致シテ居ル所デアリマ
ス、此度私共提出ノ本建議ガ幸ヒ建議案提
出ノ順序ニ依ラズシテ、特ニ日ヲ早メテ本
日ノ日程ニ載セラレ、更ニ本日ハ政府ノ重
要ナル議案ガ多キニ拘ラズ、其同意ヲ得テ
緊急動議ヲ以テ、本日日程ノ劈頭第一ノ議
ニ上サルヤウ滿場一致ノ贊成ヲ得マシタコ
トハ、如何ニ此問題ノ精神ヲ重大ニ取扱ハ
ルヽカノ、滿場諸君ノ誠意ノ顯レトシテ、深
ク敬意ヲ表スル次第デアリマス、冀クハ政
府ニ於テモ全幅ノ努力ヲ拂ヒ、速ニ御趣旨
ノ實行セラレ、精神ノ徹底センコトヲ衷心
深ク切望シテ已マナイ次第デアリマス、以
上玆ニ希望ノ要旨ヲ一言致シタ次第デアリ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=18
-
019・議長(粕谷義三君)
○議長(粕谷義三君) 次ハ原惣兵衞君
〔原惣兵衛君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=19
-
020・原惣兵衛君
○原惣兵衛君 本員ハ玆ニ部落問題國策確
立ニ關スル建議案ニ贊成ノ意ヲ表スル爲
ニ、此壇上ニ立ツノ光榮ヲ有スル次第デア
リマス、建議ノ理由ニ付キマシテハ、最早
有馬議員ヨリ完膚ナキマデノ御說明ガアッ
タノデアリマスカラ、唯、滿腔ノ賛意ヲ表
シテ足リルノデアリマスルガ、少シク一二
ノ御希望ヲ申シテ、私ノ其贊成ノ意ヲ表シ
テ見タイト思フノデアリマス、先ヅ內政ニ
於テ吾々此問題ハ一文化思想問題デアルト
カ、一感情ノ問題デナクシテ、我ガ國內ニ
於テ國民ノ前ニ橫ハレル所ノ重大ナル現實
ノ社會問題デアルノデアリマス、此問題ハ
全ク吾々同ジ同胞デアリ、全ク同ジ血ノ流
レテ居ルニ拘ラズ、單ナル所ノ因襲的一ツ
ノ慣習カラ來ル此差別ニ對シテハ、吾々明
治大帝ノ御懿旨ノ如クニ此弊ヲ打破シテ、
本當ノ新シキ吾々新帝國ノ民族的ノ結合シ
タル國家ノ建設ニ向ハナケレバナラナイト
思ウテ居ルノデアリマス、此時ニ於キマシ
テ此內政ニ於ケル現實ノ重大ナル問題デア
ルト共ニ、果シテ國外カラ此問題ヲ如何ニ
觀察致シテ居ルカト云フ點ニ付キマシテ、
少シク述べテ見タイト思フノデアリマス、
時恰モ千九百二十二年ノ四月、所謂水平社
運動ガ起シテ、奈良縣下ニ於ケル所ノ一ツ
ノ爭ガ起リマシテ、我ガ司法權ノ前ニ其爭
ヲ惹起シタル問題ハ、當時獨逸ノ伯林ニ於
キマシテ、其當時ノ國外カラ見タル所ノ宣
傳ハ、大新聞ニ如何ナル論說ガ揭ゲラレタ
カト云ヘバ、當時ノ「ナハリヒテン」「ター
ゲプラッツ」ニ於キマシテハ、我ガ日本國家
ニ於ケル此人種的鬪爭ト題シテ、日本國内
ニ所謂國內的ニ一ツノ爭ガ起ッテ來ルデア
ラウ、此大キイ問題ハ國內カラ自ラ破壞ノ
端ヲ招クデアラウト云フ、大論文デアリマシ
タ、當時露西亞ノ宣傳ニ依ルコトハ勿論デ
アリマスケレドモ、所謂日本ノ特派スル露
西亞系ノ「アナーキズム」ノ連中カラ此報道
ガサレタノデアリマス、此時吾等伯林ニ在ッ
タル所ノ同胞ハ、此大論說ヲ見タ時ニ於キ
マシテ、洵ニ吾々國内ニ於テ斯ル事ガアル
マジキコトデアリ、我ガ此同ジ血ノ兄弟間
ニ於テ、斯樣ナ宣傳ガ國外カラ宣傳サレル
ト云フコトハ、實ニ心外デアリ、私等ノ同
胞トシテ斯様ナ事ハ斷ジテナイノデアリマ
ス、國外的ノ一ツノ宣傳ニ乘ゼラレルト云
フコトハ全ク遺憾ニ感ジタ次第デアリマ
ス斯樣ニ國外的カラ見テモ斯ノ通リデア
ルノデアリマスカラ、吾々內政問題ヲ國際
的ノ上カラ見テモ、誤解ヲサレ易イ點ニ於
テ、吾々ハ大ニ注意ヲセナケレバナラヌ所
ノ大問題デアルノデアリマス、此問題ハ一
法律ノ力ニ依ッテ、制裁ヲ加ヘテ足リル問
題デハナイノデアリマス、有ユル方面ヨリ
其施設ヲ政府ニ對シテ建議ヲ致スノデアリ
さく、私ハ單ナル法律ノ制裁ヲ求メルト云
フヤウナ問題デナク、國民全體ノ精神上ノ
理解ニ基カナケレバナラナイト思ウテ居ル
ノデアリマス、此精神上ノ理解ハ、全ク國
民全體ガ之ニ據ラナケレバナラヌコトハ勿
論デアリマスルケレドモ、進ンデ政府ハ、
所謂此國家ノ中心タル政府ハ、之ニ對シテ
本當ノ施設ヲ爲シテ、此誤解ヲ解キ融和ヲ
圖ル爲ニ此建議ヲ爲スノデアリマス、願ク
ハ政府ニ於テハ有ユル施設ヲ施シテ、十分
ニ此建議ノ意思ヲ貫徹セラレンコトヲ願フ
ト共ニ、私等ハ此建議案ト云フモノガ、
法律案デアルトカ、個々的ノ問題デナク、
又他ノ我ガ議會ニ於ケル所ノ諸君ノ國家ノ
個々的施設ニ關スル建議デナクテ、正ニ我
ガ國民全體ノ上ニ橫ハレル大ナル建議デア
ルト私ハ思ウテ居ルノデアリマス、其意味
ニ於キマシテ願クハ滿場一致ノ御賛成ト共
ニ、此議會終了後ニ於テハ、宜シク、國民
理解ノ前ニ於ケル所ノ一ツノ材料トセラ
レ、此議會中ニ於ケル所ノ一ツノ大建議デ
アルコトヲ國民全體ノ理解ノ爲メ、報告セ
ラレル材料ニ供セラレンコトヲ切ニ望ンデ、
私ノ演說ハ止メル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=20
-
021・議長(粕谷義三君)
○議長(粕谷義三君) 中村啓次郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=21
-
022・中村啓次郞君
○中村啓次郞君 簡單デアリマスカラ、當
席ヨリ發言ヲ御許シヲ願ヒタイト思ヒマ
ス、此案ハ今日ノ日程八十三デアリマシテ、他
ノ極メテ重要ナル八十一一ノ日程ヲ變更シテ、
緊急上程サレタノデアリマス、右樣ナル次
第デアリマスカラ、他ノ重要ナル案ノ提出
者ニ對スル遠慮モアリマスカラ、私ノ賛成
意見ハ委員會ニ於キマシテ開陳致スコトニ
致シマシテ、此場合溢ルヽ同情ト、燃ユル
熱ヲ以テ、此案ヲ支持スル者デアルト云フ
コトヲ申上ゲルダケニ止メタイト思フノデ
アリマス、何卒滿場諸君ニ於キマシテモ、
一致可決、政府ニ於キマシテモ此意思ノ存
スル所ヲ體用シテ、速ニ相當ノ施設ヲセラ
レンコトヲ切ニ希望スル者デアリマス拍
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=22
-
023・井本常作君
○井本常作君 本案ハ議長指名、特ニ十八
名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=23
-
024・議長(粕谷義三君)
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者フリ〕
議長(粕谷義三君)御異議ナシト認メマ
ス、仍テ委員付託ニ決シマシタ-日程第
花柳病豫防法案ノ第一讀會ノ前會ノ續
ヲ開キマス、質疑ヲ繼續致シマス、宮島幹
之助君
第花柳病豫防法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
〔宮崎幹之助登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=24
-
025・宮島幹之助
○宮島幹之助君 今囘政府ヨリ御提出ニナ
リマシタ花柳病豫防法案ニ付キマシテハ、
前回吉良君カラ政府當局ニ御質問ガアリマ
シテ、大體其內容ヲ窺フコトガ出來タノデ
アリマス、花柳病ハ年ト共ニ益、蔓延致シ
マシテ、我ガ國民ノ衛生ハ勿論ノコト、經
濟竝ニ國防ニモ影響致ス所ノ重大ナル問題
デアリマス、故ニ吾々ハ一日モ早ク花柳病
豫防法案ノ出ルコトヲ待ッテ居ッタ者デアリ
マスガ、幸ニ今囘ノ議會ニ政府ハ提案致サレ
マシテ、吾々ハ大ニ之ヲ喜ンダノデアリマ
ス、併ナガラ其内容ヲ詳細ニ拜見スルニ及
ビマシテ、先キノ喜ビハ一大失望ヲ吾々ニ
感ゼシメタノデアリマス(拍手)故ニ私ハ此
花柳病豫防法案ニ付テ懷ク所ノ數項ノ疑點
ヲ玆ニ開陳致シテ、政府當局ノ御答辯ヲ煩
シタイト思フノデアリマス、第一、此法案
ヲ全部通ジテ拜見致シマスルト、何處ニモ
男女ノ區別ト云フヤウナコトハ擧ゲテアリ
マセヌ、ケレドモ其內容ヨリ判斷ヲ致シマ
スルト、是ハ吉良君ノ仰セニナッタ通リ、女
ヲ目當テニシタ所ノ一ツノ法案デアリマ
ス、且又其婦人モ特殊ノ業態ニ服スル所ノ
婦人、卽チ換言致シマスレバ、所謂淫賣婦
ナル者ニ限ッタ所ノ法案デアリマシテ、此
點ハ如何ニ政府當局ガ强辯致サレテモ、動
カスコトノ出來ナイ內容デアルト私ハ判斷
スル者デアリマス、然ルニ此花柳病ノ流行
致シマスル狀態ヲ精細ニ觀察致シ、又外國
ニ於ケル所ノ狀況ナドヲ調ベテ見マスル
ト、常ニ病毒ヲ持ッテ居ル者ハ女ニ限ルト
ハ言ヘナイノデアリマス、ノミナラズ之ヲ
統計ニ取シテ調ベテ見マスルト、花柳病患者
ノ四分ノ三ハ男子デアリ、四分ノ一ガ女デア
ルト云フコトハ、是ハ世界共通ノ一ツノ現象デ
アルノミナラズ、我國ノ最モ大切ナル中堅
デアル壯丁ノ檢査成績カラ見マスルト、
每年々々壯丁千人ニ對シテ約二十二人ノ割
合デ花柳病患者ガアルハデアリマス、故ニ本案
ガ婦人ノミヲ對象ト致シテ設ケラレタルコ
トハ、如何ナル御考ニ基クモノデアルカ、
此點ヲ伺ヒタイ、又消極的ニ病毒ヲ媒介ス
ル所ノ者ニ、體刑マデ加ヘテ制裁ヲ致シナ
ガラ、積極的ニ病毒ヲ蔓延セシムル所ノ男
子ニ向ッテ何等ノ制裁ヲ加ヘナイト云フコ
トハ、是ハ不公平千萬ナ法律ト見ルノ外ハナ
イト私ハ思フノデアリマス、(拍手)諸君、立法ハ
公平デナケレバナラヌ、公正デナケレバナラ
ヌノデアリマス、然ルニ此法案ハ、男女ノ別
ニ因リ、或ハ職業ノ如何ニ因リ、或者ニハ
法ガ行ハレ、或者ニハ法ガ行ハレナイト云
フコトハ、如何ナル次第デアリマスカ、立
法ノ土ヨリ申シマシテ、此點ヲ御說明願ヒ
タイノデアリマス、第二ニ伺ヒタイコト
ハ、主トシテ本案ノ第二條、第五條ニ關ス
ル事項デアリマス、此案デ見マスルト、賣
淫ノ行爲ガアッタ場合、殊ニ病毒ヲ持ッテ居ッ
タノト云フコトガ分ッタナラバ、ソレハ罰セ
ラレル、所ガ御承知ノ通リ花柳病ナドハ普
通ノ醫者デモ中々診斷ガムヅカシイモノデ
アリマシテ、或ル種類ノ疾病ニナリマスル
ト、其道ノ専門家デナケレバ立派ナ診斷ノ
下セナイモノガ多イノデアリマス、然ルニ
此賣淫ノ行爲ヲ致ス所ノ〓育ノ無イ、又低
能ナ婦人ニ於テ、果シテ是等ノ疾患ヲ自ラ
判斷シ得ルヤ否ヤ、是ハ常識カラ考ヘマシ
テモ極メテ困難ナ事デアリマシテ、私ハ第
五條ニ於テ斯ルコトヲ規定サレタコトハ
一體ドウ云フ譯デアルカ、是ハ恐ラク獨逸
ナドニ於テ行ハレテ居ル所ノ條文ニナラツ
テ作ラレタモノト私ハ想像スル、併ナガラ
獨逸ニ於ケル花柳病豫防法中、此條項位困,
タモノハナイト聞イテ居ルノデアリマス、
非常ニ困難ヲ感ジテ、今更如何トモスルコ
トガ出來ナイ、然ルニ我國デ新ニ立法セラ
レル場合ニ當ッテ、斯ル困難ナ條項ヲ如何
ニシテ御採用ニナッタノデアルカ、此點ヲ
一ツ伺ヒタイノデアリマス、更ニ御伺致シ
タイ事ハ本法案ノ第二條、第三條、第四
條ニ亙ッテ拜見致シマスルト云フト、花柳
病豫防ノ爲ニ、政府ハ市又ハ公共團體ニ命
ジテ診療機關ヲ設ケシムルト云フコトガ推
察サレルノデアリマス、一體斯樣ナ機關ヲ
或ハ市ニ命ジテ設ケサセラレルナラバ、單
リ一部分ノ淫賣行爲ヲ致シタ所ノ如何ガハ
シイ婦人ニ對シテバカリデハナク、多數ニ存
在スル所ノ公衆ニ向ッテモ、解放シナケレバ
ナラヌ性質ノモノデアラウト私ハ信ズルノ
デアリマス、然ルニ之ヲ極メテ限局シタ範
圍ニ應用セシメテ、之ヲ廣ク利用セシメナ
イ理由ハ何處ニ在ルノデアリマスカ、此點
ヲ御伺致シタイ、恐ラク政府ハ唯〓賣淫ダ
ケニ重キヲ置カレテ、病毒ヲ不知不識他ニ
媒介スル者ノアルコトヲ御承知ガナイノデ
ハナイカト私ハ考ヘルノデアリマス、其第
一ハ何デアルカ、卽チ子供ニ病毒ヲ傳ヘル
所ノ危險ノアル乳母デアリマス、此乳母ナ
ル者ガ若シ不幸ニシテ徵毒ニ罹ッテ居ツタト
スルト、其乳ニ依シテ病毒ハ憐ムベキ嬰兒
ニ傳ハルノデアリマス、サウシテ遂ニハ数
フベカラザル所ノ危害ヲ醸スノデアリマ
ス、若シ診療機關ヲ新ニ設ケルナラバ、斯
ル乳母ノ如キ重要ナ職業ヲ致ス所ノ人間
ニ向。ワハ、無料デモッテ檢査ヲシテ、治療シ
テヤルト云フコトガ最モ必要ナコトデハナ
イカ、此點ヲ一ツ御伺致シタイノデアリマ
ス、又第二ニハ、私ノ同僚デアル有名ナ黴
毒ノ特效藥デアル、六百六號ノ發見者ノ一
人デアル秦佐八郞博士ナドノ研究セラレタ
所ニ依リマスルト云フト、日本ニ於テモ外
國ニ於ケルガ如ク、多數ノ婦人ノ中ニハ知
ラヌ間ニ黴毒ナドニ感染シテ、ソレガ何等
ノ症狀ヲ呈セズ、所謂潜在性ノ徵毒トナッ
テ居ルモノヽ中々多イコトヲ報告シテ居ラ
レルノデアリマス、此潜在性ノ黴毒ハ極メ
テ危險ナモノデアリマシテ、之ヲ治療致サ
ナイト云フト、其病毒ハ子ニ傳ハリマス、
或ハ姙娠ヲ致シタ場合流產ヲスル、或ハ早
產ヲ致シ、若クハ子供ガ生レマシテモ早ク
死ヌノデアリマス、其割合等ハ一々統計ガ
取ッテアルノデ、決シテ疑フ餘地ノ無イ事
實デアル、且又我國ノ統計ヲ見マシテモ、
死產ノ多イコトハ世界文明國ノ中デ最モ甚
ダシイモノデアリマシテ、且又生レタ後二
歲以內ニ死ヌ所ノ小兒ノ數ト云フモノハ、
夥シイ數ニナッテ居ルノデアリマス、然ルニ
是等ノ潜在性ノ黴毒、最モ恐ルベキ、最モ子
孫ニ累ヲ及ボス所ノ、是等ノ知ラヌ間ニ病毒
ヲ持クテ居ル人達ニ對スル施設ト致シマシテ
ハ早期ニ之ヲ診斷シ、妊娠シタ場合一々
之ヲ檢査シテ、サウシテ若シ黴毒ガアッタ
ナラバ之ヲ治療シテヤルト云フコトハ、
小兒ノ死亡率ヲ減ズル上ニ於テモ、又其人
ノ幸福ノミナラズ、其家庭ニ於ケル所ノ關
係ヲ立派ニ致ス上ニ於テモ、最モ必要ナル
モノデアル、斯樣ナ事實ガアルニ拘ラズ、
市或ハ公共團體ノ設ケタ所ノ診療機關ヲ、
僅ニ一局部ノ淫賣者、卽チ法律ヲ犯シテ淫
賣行爲ヲ爲ス者ニ付テダケ設ケテ居ルノ
ハドウ云フ理由デアリマスカ、其理由ヲ
伺ヒタイ、其次ニ伺ヒタイノハ、現內閣ハ
賣藥卜云フモノハ無產階級ニ缺クベカラザ
ル所ノ必需品ナリトシテ、稅金マデモ御
廢シニナッタ、故ニ私ハ第一ニ疑ヲ起シタ、
ソレハドウ云フ點デアルカト申シマスト云
フト、第五條ニ「傳染防止ニ付相當ノ方法」
ト云フコトガ書イテアリマス、卽チ此「相
當ノ方法」ト云フ極メテ明瞭ナラザル言葉
ノ中ニ、賣藥好キノ現內閣ハ、賣藥ノ奬勵
ヲサレルノデハナイカト云フコトヲ私ハ心
配致シタノデアリマス、諸君、私ノ知ッテ
居リマス範圍ダケニ於キマシテモ、花柳病
ニ罹ッタ或ハ黴毒、或ハ淋病ニ罹シタ人ノ使
用スル賣藥ハ中々多額ニ達シテ居ルノデ
アリマス、一例ヲ申上ゲマスト云フト、富
山縣下デ賣出シテ居ル黴毒藥ハ年額百六
万圓賣レテ居ルノデアリマス、尙ホ淋病藥
ノ如キ、一方劑デ以テ一年ノ賣高ハ六十三
万餘圓ニナッテ居リマス、斯樣ニ賣藥ガ花
柳病ニ廣ク使ハレテ居ルケレドモ、賣藥ノ
性質ト致シマシテ、決シテ有效ナルモノデ
ハナイ、唯〓單ニ一時ノ苦痛ヲ免レシムル
ダケデアッテ、決シテ根治スルモノデハナイ
ノデアリマス、斯ル場合賣藥ヲ用フルト云フコ
トハ、花柳病ノ蔓延ヲ致ス一大原因デアリ
マシテ、歐羅巴ノ文明國デハ賣藥ノ取締ト
云フコトヲ、極メテ嚴重ニヤッテ居ル、然ルニ
政府ハ昨年賣藥稅ヲ廢止シテ、賣藥ノ濫出
ヲ促シテ居ル、之ニ對シテマダ何等ノ方法
ヲ講ジテ居ナイノデアリマス、昨年ノ稅整
委員會ニ於テ、當時ノ内務大臣若槻首相ハ
國民ニ向ッテ賣藥ノ弊害ノ起ラヌヤウニ相
當ノ施設ヲスルト云フコトヲ言明サレタニ
拘ラズ、今日マデ唯〓考へ放シニシテ抛ッ
テ置クト云フコトハ、ドウ云フ理由デアル
カ、私ハ其理由ヲ御聽キ致シタイノデアリ
マス、更ニ御聽致シタイコトハ澤山アリマ
スケレドモ、此所ニハ次官ト參與官ダケデ、
恐ラク吾輩ノ質問ニ對シテハ、答辯ニ窮ス
ルコトガアルダラウト思ヒマス、ソレデア
ルカラ、委員會ニ讓シテ、餘リ細カイ事ニ
ハ這入ラヌ積リデアリマスカラ御安心下サ
イ、更ニ轉ジテ文部當局ニ御尋致シタイ事
柄ガアルノデアリマス、第一ハ、何ノ國ニ
於テモ此花柳病ノ蔓延ハ、主トシテ性ニ關
スル〓育ノ不完全ナルコトニ基クコトハ何
人モ認ムル所デアリマス、此性〓育ト云フ
モノハ、我國ニ於テハ兎角或ル一種ノ間違ッ
タ愼ミカラ致シテ、何等ノ方法ガ講ジテナ
イヤウニ私ハ觀察シテ居ルノデアリマスル
ガ、文部當局ハ性〓育ト云フコトニ付テ、
如何ナル御考ヲ御持チニナッテ居ルカ、之
ヲ一ツ伺ヒタイ、旣ニ他ノ文明國ニ於テハ、
性〓育ニ付テ色ニナ〓究ヲ致シ、又相當ノ
施設ヲ致シテ居ルノデアリマス、之ニ對シ
テ我國ノ文部當局ハ如何ナル方法ヲ御講ジ
ニナッテ居ルノデアルカ、之ヲ第一ニ伺ヒ
タイ、第二ニハ現内閣ハ頻ニ社會政策ト稱
シテ、色ミナ方法ヲ御講ジニナル、此花拂
病法案ノ如キモノハ、又一ツノ社會政策ノ
一端デアリマセウ、其他現在實行サレテ居
ル所ノ健康保險法、或ハ先年カラ實施サレ
テ居ル所ノ結核豫防法、或ハ「トラホーム」
豫防法、是等ノ法案ノ實行ニハ悉ク全國ニ
分布シテ居ル所ノ五万ノ開業醫ノ協力ヲ藉
ラナケレバ、決シテ實效ノ擧ガルモノデハ
ナイノデアル、然ルニ醫學ハ月ト共ニ進
日ト共ニ新シイ事ガ加テ來ルノデア
リマス、隨テ民間ニ居ル所ノ開業醫ニ對シ
テ、日進ノ醫學、新シイ所ノ技術ヲ講習サ
セルト云フコトハ、最モ必要ナコトデアリ
マスルガ、今日政府ハ、何等カ此開業醫ヲ
向上發達セシムベキ、講習機關ヲ御設ケニ
ナッテ居ルカドウカ、若シ今日マデマダナイ
トスレバ、將來講習會ト云フヤウナコトヲ
御實行ニナル御意思ガアルカドウカ、此機
會ニ於テ私ハ伺シテ置キタイト思フノデア
リマス、最後ニ私ハ再ビ内務當局者ニ向ッテ
御尋ヲ致スコトガアル、ソレハ何デアルカ、
卽チ此法案ハ花柳病豫防法ト銘打ッテ出タ
ケレドモ、事實之ヲ內容ヨリ審査致シマス
レバ、淫賣行爲ノ取締法ニ過ギナイノデア
リマス、所謂羊頭狗肉ノ法案ノ世間デハ批
評ヲ致シテ居ルノデアリマス(拍手)現政府
ハ兎角衞生問題ニ對シテハ非常ニ考慮ヲス
ルコトハ御好キデアル、常ニ考慮々々ト
言ッテ居ラレル、考慮ノ好キナ現内閣ハ、斯
ル不完全ナル法律ヲ出スニ當ッテ、モウ一
年位之ヲ考慮スルノ意思ナキヤ否ヤ、之ヲ
御聞キシタイノデアリマス(拍手)
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=25
-
026・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 宮島博士ノ御熱心
ナル御質問ノ御趣旨ヲ傾聽致シマシタ、私
ヨリ一々各條ニ依シテ御答ヲ致シタイト思
ヒマス、先ヅ第一ノ御質問ハ、此法案全體
ヲ通ジテ女性ヲ目標トシテ居ル、男性ヲ全
ク不問ニ置イテ居ルデハナイカ、斯ウ云フ
コトデアリマスガ、此點ニ付キマシテハ、
元日吉良君ノ御質問ニ對シテ御答シタト思
ヒマスルガ、宮島博士モ申サルヽガ如ク、
此法案中ノ何處ニモ、別ニ男女ノ區別ヲシ
テ居ルモノハナイノデアリマス、殊ニ第五
條ノ如キモノハ、申上ダマスルマデモナク
矢張是ハ男性ニモ女性ニモ、一樣ニ適用サ
ルヽモノデアル、唯、第二條ノ特殊ノ事態
ヲ營ム者ハ女性ニ限ル場合デアリマス、デ
アリマスガ是ハ自己ノ病毒ヲ診療スル爲ニ
任意ニ診療ヲセシムルト云フ、寧口病者其
者ヲ保護スル規定デアルノデアリマス、ソ
レ故ニ別ニ女性ノミニ對シテ、特別ナル又
特殊ナル取扱ヲシタト云フコトハ當ラヌノ
デゴザイマス、問題ハ吉良君ノ御質問ニ御
答シタ如ク、唯〓賣ルト云フ者ダケデナク
シテ、買フト云フ者ヲ何故罰セヌカト云フ
コトニ當ルデアラウト思フ、是ハ此前モ御
答申シタ通リニ、マダ其時期デナイト御答
スルノ外ハアリマセヌ、第二ノ御質問ハ第
五條ニ花柳病ニ罹リタルコトヲ知リテ云々
トアル、此知ルト云フコトハ餘程ムヅカシ
イ、隨テ知ルト云フコトヲ前提ニシテ、此犯
罪ニ係カルガ如キ行爲ガアルノデアルカ、
是ハ餘程實際ニ困難デハナイカト云フ意味
ノ御質問デアッタヤウデアリマス、是ハ宮島
君ハ能ク此條文ニ付キマシテ、尙ホ御一讀
ヲ願ヒタイノデアリマス、是ハ「花柳病ニ
罹レルコトヲ知リテ」一云々デアル、若モ宮
島君ノ仰セノ如ク、其知ルコトガ困難デア
ルト云フナラバ、知ラナイト云フ證明ガア
ルナラバ、隨テ此條文ノ適用ヲ免ルヽノデ
アリマス、知ッテ云々ト云フコトデアリマ
スカラ、隨テ其御非難ハナカラウヤウニ考
ヘルノデアリマス、第三ニ診療所ノ問題デ
アル、折角政府ガ補助ヲシテ診療所マデ設
ケ、診療機關ヲ設ケタナラバ、之ヲモウ少
シ手廣ケ利用シタラドウカ、此趣旨ハ洵ニ
贊成デアリマス、唯、茲ニ今囘ノ計畫ニ付
テ政府ノ趣意ヲ申上グレバ、今回ハ此花柳
病ニ付テハ宮島君ノ申サレル如ク、最モ恐
ルベキ病毒デアリ、子孫ニマデ惡影響ヲ與
ヘル病毒デアリマスカラ、之ヲ如何ニシテ
モ豫防シナケレバイカヌ、卽チ豫防ト云フ
コトガ最モ必要デアルト云フ點ヨリシテ、
所謂傳染若クハ傳播ノ虞ノアルモノ、其者
ニ付キ先ヅ第一著手ニ是ガ取締若クハ防
過防止ヲスル計畫ヲ立ッタ、成程宮島博士
モ言ハレル如ク或ハ乳母、或ハ潜在性患
者、斯ウ云フ恐ルベキモノデ十分ナル豫防
ヲシナケレバナラヌモノガ澤山アルノデア
リマスガ、是等ヲ悉ク無料診療デモスルト
カ、或ハ有料ニシテモ容易ニ診療セシムル
ト云フコトニ付テ致シマスレバ、モットモッ
ト大キナ規模、モット大キナ設備ヲシナケ
レバナラヌト云フコトニナルノデアリマス
カラ、先ヅ第一ニ最モ恐ルベキ、最モ傳播ノ
虞ノ多イ業態、若クハ行爲其モノニ對シテ
十分ニ之ヲ取締ルト云フコトヲ以テ、先ヅ
第一著手ノ施設ト致シマシタ譯デアリマス
ノデアリマス、第四ニハ第五條ノ第二項、
卽チ「傳染防止ニ付相當ノ方法ヲ講ジタル」
此相當ノ方法ノ中ニハ所謂賣藥ナルモノガ
アリハセヌカ、斯ウ云フコトノ御尋デアリ
マスガ、是ハ相當ノ方法トハ茲デドウ云フ
モノデアルト云フコトヲ一々例〓スルコト
ハ餘程困難デアリマス、又或ハ例示セヌコ
トガ必要デアルカモ知レマセヌ、卽チ是ハ
法ノ適用者若クハ實際其各人ノ見ル所ニ
依ッテ、所謂相當ノ方法デアル、是ハ一々
ドウ云フモノデアルト云フコトヲ例兩スル
コトハ困難デアリマスガ、併シ賣藥其モノ
ヲ以テ一時其病毒ノ傳播ノ防止ヲシタコト
其モノガ若モ有效デアレバ、ソレハ決シテ
相當ノ方法デナイトハ言ヘヌト思フノデア
リマス、賣藥其モノヲ全然非認スルト解ス
ル能ハザルモノデアリマス、卽チ相當ノ方
法デアリマス、但シ宮島君ノ御言葉ノ中ニ
アリマシタノデアリマスガ、決シテ此規
定ハ傳染病ノ根治的方法ヲ意味スルモノデ
アリマセヌ、一時的デアッテモ病毒ノ傳播
ヲ防止スルニ付テノ相當ノ方法ガアルナラ
バヤリタイ、卽チ第五條ノ第二項ニ該當ス
ルモノデアリマス、最後ニ此規定ハ甚ダ不
十分ノヤウデアル、隨テ尙モウ一段ト考慮
シタラバドウカト云フ御尋デアリマスガ、
是ハ宮嶋君モ能ク御承知ノ通リ、現在此本
案ノ意味スル所ノ其精神、其趣意ハ宮嶋君
ノ仰セノ如ク極メテ必要デアル、當局ガ考
ヘル所デハ、卽チ先ヅ第一著トシテハ不十ノ
分デアルカモ知ラヌガ、少クトモ此程度ノ
取締ハ最モ緊要デアル、斯ウ云フコトヲ考
ヘマスルカラ、諸君ニ於テ十分御審議ノ上協
贊アランコトヲ重ネテ希望シテ置キマス、
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=26
-
027・粕谷義三
○議長(柏谷義三君) 田中政府委員
〔政府委員田中善立君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=27
-
028・田中善立
○政府委員(田中善立君) 宮嶋君ノ第一ノ
御質問ハ性〓育ニ關スル事柄ガアリマス
ガ、性問題ハ人生ニ大切ナル事柄デハアリ
マスルガ、併シ之ヲ〓育上ニ實施スルニ付
キマシテハ、餘程慎重ナル考慮ヲ要スルノ
デアリマス、西洋ニ於テ行ヲテ居ルカラ、
直ニ我國ニ於テモ之ヲ眞似ナケレバナラヌ
トハ卽斷ハ出來ヌノデアリマス、當局ニ於
テハ篤ト考慮ヲ致シマス、第二ノ御質問ノ
民問開業醫ニ對シ、花柳病豫防ニ關スル講
習會ハ大切ナルコトデアルガ、從來文部省
ニ於テ行シテ居ラヌガ、將來ドウスルカト
云フ御尋デアリマスガ、是ハ從來ハ內務省
ニ一任シテ足レリト考ヘテ居ッタノデアリ
マスカラ、別段支部省ニ於テ考慮ヲ拂ハナ
カッタノデアリマスルガ、今後ハ御說ニ依
リマシテ是モ考慮致ス考デアリマス(拍手)
〔宮嶋幹之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=28
-
029・宮島幹之助
○宮嶋幹之助君 只〓內內次官ヨリ御答辯
ガアリマシタガ、花柳病ノ如キハ之ヲ徹底
的ニナサラズ、姑息ナル療治ヲ致スト云フ
!、所謂病毒携帶者トナッテ常ニ病毒ヲ蔓
延セシムルモノデアリマス、此點ノ御考違
ヒガアルモノダカラ、何カ一寸デモ禁厭デ
モシテ置ケバ宜カラウト考ヘラレルケレド
モ、是ハ大ナル誤リデアリマス(拍手)此點
ヲ御考慮ニナラヌト云フト、折角斯ウ云フ
法案ヲ出シテ花柳病ノ豫防ヲシヤウト云ウ
テモ、却テ花柳病ノ蔓延ヲ來スヤウナ虞ガ
アルノデアリマス、(拍手)私ハ尙ホ精細ニ
亙ッテ御質問ヲシタイノデアリマスケレド
モ、委員會ニ讓リマシテ是ダケデ止メテ置
キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=29
-
030・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 山谷德次郞君
〔山谷德次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=30
-
031・山谷徳治郎
○山谷德次郞君 私ハ只今付議サレテ居リ
マスル花柳病豫防法案ニ付キマシテ政府ニ
ニ、三ノ質問ヲ致シタイト存ジマス、花柳
病豫防法ハ既ニ我國ニ於キマシテハ多年ノ
懸案デアリマシテ、色ミナル學術團體、又
ハ其他ノ社會的團體カラ此制定ノ必要ヲ叫
バレマシテ、本院ニ於キマシテモ既ニ先年
議員ノ方カラシテ建議ガ出マシテ、此議會
ヲ通過致シテ居リマスル、卽チ此花柳病豫
防法ナルモノハ、我國ニ於キマシテ既ニ多
年其必要ヲ叫バレテ居ル問題デアリマスル
ケレドモ、政府ニ於キマシテハ、從來此案
ヲ制定シテ議會ニ提出サレルコトヲ何故カ
躊躇サレテ居ッタノデアリマス、然ルニ今
囘此案ヲ制定シテ、本議會ニ御提出ニナリ
マシタコトハ、吾々モ滿足致ス所デアリマ
ス、併ナガラ其法案ヲ見マスナラバ、頗ル
遺憾ノ點ガ多イノデアリマス、花柳病豫防
法ノ骨子タルベキモノ、又其根據タルモノ
ハ、徹底的ニ國民間ニ蔓延シテ居ル所ノ花
柳病ヲ豫防スルト云フコトガ何ヨリモ必要
ノコトデアリマス、花柳病ハ單リ賣春婦ノ
占有物デハナイ、廣ク國民全般ニ亙ッテ居
ルモノデアリマスルカラ、若シ此國民病ヲ
眞ニ完全ニ取締ラウト云フナラバ、一般國
民ニ對シテ、總テノ階級ニ向シテ是ガ取締
法ヲ設ケテ、徹底的ニ取締ラナケレバ何等
ノ效ヲ奏スルモノデハナイノデアリマス、今
此法案ヲ見マスルト、唯此賣淫ニ從事スル
所ノ僅ノ社會ノ者ヲ取締ルト云フ、而モ是
等ニ對シマシテ治療ヲ與ヘルト云フニ過ギ
ヌノデアリマス、其名ハ花柳病豫防法ト云
フ立派ナモノデアリマスケレドモ、其規定
シ取締ラントスル者ハ、僅ニ其一部分ニ過
ギヌノデアリマス、洵ニ是ハ先刻同僚宮嶋
君ガ、羊頭ヲ揭ゲテ狗肉ヲ售ルモノダト言
ハレマシタガ、聊カ其感ガナイコトハナイ
ノデアリマス、デ私ハ此案ニ付キマシテ、
大體的ニ二三ノ點ヲ舉ゲマシテ當局者ノ明
快ナル御答辯ヲ求メタイト思ヒマス、第
政府ハ花柳病豫防ニ付キマシテ、如何ナル
意見ヲ抱懷サレテ居ルカ、決シテ花柳病豫
防ト云フモノハ、僅ニ一部分ノ賤業者ノ病
ヲ治療スルニ依シテ目的ヲ達スルモノデハ
ナイノデアリマス、卽チ國家ト致シマシテ
此國民病ヲ豫防シ絕滅サセルノニハ、相當
ナル所ノ設備モ要リマセウ、是ハ中々重大
ナ問題デアリマスルガ、政府ハ之ニ對シマ
シテ如何ナル御意見ヲ御持ニナッテ居ルカ
ト云フコトヲ先ヅ伺ヒタイノデアリマス、
次ニ花柳病豫防ト賣笑婦ノ制度トノ關係デ
アリマス、日本ハ昔ヨリ特別ナル公娼ノ制
度ヲ持〓テ居リマス、今日世界各國デ日本
ノ如キ公娼ノ制度ヲ持。テ居ル所ハ外ニハ
ナイノデアリマス、此公娼ニ付キマシテ
ハ多年我國ニ於キマシテ廢止論ガ盛ニナ
リ、既ニ今議會ニ於テモ議員ノ方カラシテ
廢娼ノ建議が出テ居ル位デアリマス、此公
娼ノ利益ニ付キマシテハ要スルニ僅ニ花柳
病豫防ニ對シテ、此公娼ナルモノガ最モ宜
イ制度デアルト云フ外ニ理由ハ餘リナイノ
デアリマス、〓併シ日本ノ此現狀ヲ見マス
ルト、年々公娼卽チ娼妓ノ數ハ減少シテ參
リマスルガ、密賣ノ業務ヲ窃ニ營ンデ居ル
所ノ藝者ノ數ハ年々曾加シテ居ルノデアリ
マス、其他酌婦或ハ料理屋宿屋、「カフェー」
斯ウ云フ所ニ使ハレテ居ル所ノ客ニ接シテ
窃ニ春ヲ賣ルト云フ業態ノ者ガ幾ラノ割ヲ
以テ增加シテ居ルト云フコトハ、完全ナル
統計ガアリマセヌカラ明カデアリマセヌケ
レドモ、現在非常ナ勢ヲ以テ曾加シテ居ル
モノト斷定ヲスルコトガ出來ルノデアリマ
ス、今此公娼ヲ廢スルト云フコトハ無論世
界ノ大勢デアリ、又日本デモ段々事實ハン
レニ向ッテ居ルノデアリマスカラ、追々ニ
ハ日本デモ公娼ヲ制限スルカ、或ハ廢止ス
ルカト云フ氣運ガ必ズ參ルコトハ疑ノ無イ
所デアリマスルガ、其場合ニハ此花柳病
ノ豫防ト云フモノガ、公娼ト私娼トノ關係
ニ於キマシテ如何ナル利害關係ガアル
カ、之ニ關シマシテ當局者ノ抱懷サレマシ
タ所ノ御意見ヲ拜聽シタイノデアリマス、
シレカラ第三ニ、花柳病豫防ノ目的ヲ達シマ
スルノニハ、此病ニ罹リマシタ澤山ノ貧
民-治療、診察ヲ受ケル資ノ無イ所ノ貧
民ノ病ヲ治療スルト云フコトガ最モ必要デ
アリマス、然ルニ此花柳病豫防法ニハ、ソレ
等ノ事ニ付キマシテハ、何等ノ規定ガ無イ
ノデアリマス、政府ハ之ニ對シマシテ、何
等カ御考慮ニナッタコトガアリマスルカ、
或ハ如何ナル御意見ヲ御持ニナッテ居ルカ、
又近クソレニ付キマシテ、何等カノ設備或
ハ法律デモ御作リニナル御積リデアリマス
ルカ、其點ニ付テ伺ヒタイノデアリマス、
又本案ノ各條ニ付キマシテハ、色と意見モ
ゴザリマスルガ、其中ニ此法律ノ主ナル目
的ハ、病ニ罹シテ居ル所ノ賣淫者ヲ治療ス
ルト云フコトデアリマス、併シ其治療ノ規
定ハ、此花柳病豫防法デ見マスルト、殆ド
任意ニ之ヲ治療スルト一云フコトニ止ッテ居
ル、卽チ患者ガ自ラ治療ヲ受ケヤウト言フ
者ハ受ケルコトガ出來ルケレドモ、何等之
ニ對シテ拘束强制ヲ致シテ居ラヌノデアリ
マス、强制力ノ無イ所ノ此法案デハ、決シ
テ彼等放縱ナル所ノ花柳病傳染傳播ノ虞
ヲ持シテ居ル所ノ業態ノ者ヲシテ、進ンデ
自ラ是ガ治療ニ當ラシメルト云フコトハ困
難デアル、必ズ之ニハ强制力ガナケレバナラ
ヌ、然ルニ此法案ニハ强制力ガアリマセヌ
カラ、此點ニ於テ私ハ此法ノ目的ヲ達スル
コトハ十分デナイト考ヘルノデアリマス
ガ、之ニ對シテ政府ノ御意見ハ如何デアリ
マスカ、又花柳病豫防ノ上ニ於テ、最モ必
要ナ事ハ檢微デアリマス、檢徵下申スハ
黴毒ヲ檢査スルヲ檢黴ト云ヒマスガ、總テ
ノ花柳病者ヲ檢診スルト云フコトデアリマ
ス、此檢診ノ方法ハ今後私娼ガ盛ニナル
ニ從ヒマシテ益〓必要デアリマスルガ、此
花柳病豫防法ニハ、何等其事ニ關シマシテ
規定ガ無イ、政府ハ之ニ付キマシテハ如何ナ
ル御考ヲ御持ニナッテ居ルカ、之ニ付テ御
答辯ヲ願ヒタイ、最後ニ第五條ニ於キマシ
テ、此取締ヲ受ケル所ノ者ガ、先刻宮島博
士ナリ、先日吉良君カラモ御尋ガアリマシ
タガ、唯、女子ニバカリ偏シテ、男子ノ事
ガ之ニ規定シテナイノハ、甚ダ不公平デア
ルト云フ質問ニ對シテ、慶〓當局者ハ別段
ニ是ハ女子ニ限ルト云フコトハナイ、男子
モ女子モ同ジヤウニ取綿ル積リデアルト云
フ御答辯デアリマシタ、是ハ御答辯ハ洵ニ
結構デアルケレドモ、別段ニ花柳病ヲ傳播
スル虞アル者ノ賣淫云々ト云フコトガアリ
マス、然ラパ政府ノ御答辯ニ依リマスル
ト、今日日本ノ現狀ニ於キマシテ、男子ニ
シテ淫賣、賣淫ヲ爲ス所ノ者ガアルノデア
リマスカ、私ノ存ジテ居ル所デハ、古キ書
キ物ニハ陰間ト云フモノガアッタト云フコ
トデアリマスガ、今日デハ別段男子ニシテ
淫賣ヲ業トスル者ハ殆ド私ノ寡聞ナル所デ
ハ無イト考ヘルノデアリマス、之ニ付キマ
シテ、强テ政府ガ男女同ク取締ヲスル意思
デアルト云フ御答辯ハ餘リ牽强附會、別
段ニサウ云フ御答辯ニナル必要ハナイト思
フノデアリマスガ、併ナガラ私ハ社會ノ事
ニハ迂濶デアリマスルカラ、政府ノ取調ニ
ナッテ居ル所デハ、日本ニ於キマシテモ、
男子ニシテ淫賣ニ從事スル者ガアルノデア
リマスルカ、是モ後學ノ爲ニ承シテ置キタ
イノデアリマス、以上數點ニ付キマシテ明
快ナル御答辯ヲ望ミマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=31
-
032・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 俵政府委員
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=32
-
033・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 山谷君ノ御質問ニ
御答致シマス、第一ノ御問ハ一般國民ノ
花柳病豫防ニ對シテハドウ云フ意見ヲ持っ
テ居ルカ、之ニ對スル對策ハドウカト云フ
御趣意ノヤウデアリマシタ、一般國民ノ花
柳病豫防ニ付キマシテハ、特ニ法令ヲ以テ
之ニ對スル對策ヲ設ケルコトハ餘程困難デ
アリマス、唯、一般的ニ其病毒ニ對スル自
覺及其思想ノ普及、斯ウ云フ事ヲ講ジマシ
テ、國民自ラガ之ニ對シテ十分ナル豫防防
遏ノ方法ヲ講ズルト云フコトヲ執ルノ外ハ
ナイノデアリマス、更ニ-、併ナガラ之
ニ對シテ十分ナル方法ヲ考慮ハ致シマスル
ガ、唯茲デ本案ヲ提案致シマスル所以ノモ
ノハサウ云フ一般ノ國民花柳病ノ豫防方
法ヨリハ、現ニ傳播ノ虞ノアル最モ其危險
率ノ多イ業態、若クハ其階級ニ對シマシテ
ハ、如何ニ致シマシテモ此儘デ抛ッテ置ケ
ナイカラ、之ニ對シテ特別ナル法令ヲ以テ、
其病毒ノ傳播ヲ防遏スルト云フ意味ニ止マ
ルノデアリマス、第二ニハ此花柳病豫防法
案ガ、或ハ一般公娼制度ト何等カノ連絡連
鎖ガアルカト云フ御尋ノヤウデアリマシタ
ガ、是ハ全ク一般公娼制度ノ問題トハ何等ノ
關係、何等ノ交通ハアリマセヌ、一般公娼制
度ハ此問題ニ付テ何等影響ヲ蒙ルモノデハ
アリマセヌ、一般公娼ノ問題ハソレハ別ト
致シマシテ、唯〓其公娼制度以外ニ於テ、實
際ニ此法案ガ非常ニ憂慮シテ居ルガ如ク、
花柳病傳播ノ行動行爲ノアル者ガ澤山アリ
マスルカラ、之ヲ防遏禁遏スルニ付テハ、
玆ニ此法案ノ必要ガアルト云フコトヲ以テ
提案致シマシタ次第デアリマス、ソレカラ
單リ或ハ特殊ノ業者ノミナラズ、廣ク一般
貧民階級ノ此病者-貧民階級ノ病者ニ對
シテ、何等カ容易ニ診療ヲ受ケル所ノ方法
ヲ講ジナケレバ、未ダ完全ナルモノト云フ
コトハ出來ヌデハナイカ、斯ウ云フコドデ
アリマスガ、如何ニモ御尤千萬ナ事デアリ
マス、併ナガラ是ハ宮島君ノ御問ニ對シテ
御答致シマシタ如ク、未ダ斯ノ如ク一般ノ
貧民者全體ニ涉シテ、無料診療カ乃至極安
ク診療ヲ受ケルト云フコトヲ設備スルニ付
テハ、是ハ財政上亦大ニ關係スル所ガ廣イ
ノデアリマスルカラ、先ツ是ハ第一著手ニ
此法案ノ如ク、其特別業者或ハ特殊ノ行爲
ヲ爲シタ者ニ對スル所ノ診療ニ止メマシ
テ、更ニ第二段第三段トシテ御話ノ如キ事
ニ進ム外ハナイト考へマスノデアリマス、
ソレカラ次ニハ本案ノ如ク全ク任意診療デ
アルナラバ、其實效ガ無イデハナイカト云
フコトデアリマスルガ、是ハ山谷君モ御承
知ノ通リニ、此任意診療ト云フコトハ、是
ハ餘程實行ガ困難デアルカモ知ラヌケレド
モ、併ナガラ今日ノ場合ニ於テ此方法シカ
他ニ方法ハ無イト思フノデアリマス、唯
是ハ御承知ノ通リニ第五條ノ如ク、矢張病
者デアルト云フコトヲ知ッテ、或ル行爲ヲ爲
シタ者ニ對シマシテハ、普通ノ者ヨリモ重
キ刑ヲ以テ之ニ科スルト云フコトヲ以テ、
其病毒其モノヲ自分自ラガ注意ヲ致シテ治
療スルト云ッタ如キ事ニセシムル目的デア
リマスノデアリマス、第五ニ唯、診療デハ
餘リ效ガ薄クハナイカ、モウ一步進ンデ檢
診ヲシタラドウカ、斯ウ云フ事ノ御意見デ
アッタヤウデアリマスルガ、是ハ更ニ或ハ
目的ヲ達スルニ於テハ、檢診ノ方ガ有利カ
モ知レマセヌケレドモ、更ニ他ノ大ナル問
題ヲ惹起スト思フノデアリマス、卽チ人權問
題ノ如キモノガ起ルノデアリマスルカラ、
是ハ此所謂診療ノ程度ニ止ムル外ハナイト
考ヘマスノデアリマス、先ヅ大體御尋ノ事
ニ對シマシテハ御答致シマシタト考ヘマス
ノデアリマス
〔山谷德次郞君「最後ノ一點ガ殘"テ居
リマス」ト呼フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=33
-
034・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ土屋〓三郞君
〔土屋〓三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=34
-
035・土屋清三郎
○土屋〓三郞君 花柳病ハ人類社會ニ於ケ
ル寔ニ痛マシイ存在デアリマシテ、是ガ豫
防撲滅ハ實ニ人道上ノ重大ナル問題デアリ
マイ、此意味ニ於キマシテ政府ガ此豫防撲
滅ノ目的ヲ達センガ爲ニ、本法案ヲ提出セ
ラレタト云フ其御精神ニ對シテハ、私ハ滿
腔ノ謝意ヲ表スル者デアリマス、併ナガラ
仔細ニ案ノ內容ヲ點檢致シマスルト云フ
ト、實ニ重大ナル缺點ヲ見出スノデアリマ
ス、ソレ等ノ一々ノ事ニ付キマシテハ、先
日來、又先刻來、同僚諸君カラ色〓御質問
ガアリマシタカラ、ソレ等ノ點ハ成ベク省
略致シマシテ、唯〓私ハ次ノ點ニ對シマシ
テノミ御尋ヲ致サウト思フノデアリマス、
此點ハ前辯士竝ニ前々辯士諸君カラ、質問
ノアッタコトデハアリマスルケレドモ、蓋シ
本法案ノ中心ヲ爲スモノデアリマスカラ、
重複ヲ顧ミズ御尋ヲ致スノデアリマス、政
府委員ハ本法案ハ業態上花柳病傳染ノ虞ア
ル者ヲ取締ル、ソレハ男女何レトモ書イテ
ナイカラ、女子デアッテモ男子デアッテモ、
苟モ病毒感染ノ虞アル業態ニ從事スル者
之ヲ取締ルト云フコトデアリマシタ
ガ、業態上花柳病傳染ノ虞アル者ハ、恐ラ
ク今日我國ニ於テハ、女子ノミデアルト思
フノデアリマス、卽チ本法案ハ憐レナル淫
ヲ鬻グ所ノ或種ノ婦人ノミヲ取締ルモノデ
アル、而シテ其相手方タル男子ニハ及ビマ
セヌ、彼等ガ斯ノ如キ業態ニ從事スル動機
ニ付キマシテハ、自ラノ不都合ナ事モアル
デアリマセウ、併ナガラ家計上已ムヲ得ズ
此ニ陷クタ者ノ少クナイト云フコトヲ吾々
ハ考ヘナケレバナラヌ、而シテ是等ノ者ハ
初ヨリ其病毒ヲ持ッテ居ルノデハアリマセ
又、彼等ニ其病毒ヲ與ヘタ者ハ何人デアリ
マスカ、申ス迄モナク男子デアル、此點ニ
對シテハ、何等取締ノ法ヲ考ヘテ居ラレナ
イヤウデアリマス、面モ花柳病ハ今日ニ於
キマシテハ殆ド貴賤貧富、社會ノ上下ニ蔓
延致シテ居リマシテ、或種ノ道德家ノ論ズ
ルガ如ク、決シテ不正ナル性交ノミニ依ッテ
感染スルモノデハアリマセヌ、正當ナル性
交ニ依ッテモ、亦同一ニ感染ノ機會ヲ持シテ
居ルノデアリマス、斯樣ナ意味カラ致シマ
シテ、曩ニ內務省保健講査會ニ於キマシテ
ハ、此花柳病豫防法ノ骨子トシテ、斯ウ云フ
案ヲ制定致シタノデアリマス、卽チ「花柳
病患者傳染ノ虞アルコトヲ知リ性交ヲ爲シ
タル者ハ何箇月以下ノ禁錮又ハ何百圓以下
ノ罰金ニ處ス、前項ノ罪ハ夫婦ノ間ニ於ケ
ル性交ノ場合ニ於テハ告訴ヲ待テ之ヲ論
ス」ソレカラ次ニ斯ウー云フコトヲ規定シテ
居リマス「花柳病患者傳染ノ虞アルコトヲ
知リ其事實ヲ相手方ニ告知セスシテ結婚シ
タルトキハ何箇月以下ノ禁錮又ハ何百圓以
下ノ罰金ニ處ス、前項ノ罪ハ告訴ヲ待ッテ
之ヲ論ス」此問題ハ保健調査會ニ於テモ多
年ノ〓究デアリマシテ、如何ニシテモ是ダ
ケノ事ヲシナイト云フト、花柳病ノ豫防撲
滅ヲ徹底スルコトガ出來ナイト云フノデ、
決定的ノ案デアッタト承知致スノデアリマ
ス、然ルニ政府ハ是等ノ點ヲ全ク抛棄致シ
マシテ、唯〓憐レナル賣ラレ行ク女ノ群ノミ
ヲ捉ヘテ、之ニ制裁ヲ科シ、而モ其制裁ハ
警察犯處罰令ノ場合ニ於キマシテハ、窃ニ
賣淫ヲ爲シタル者ハ、僅カニ三十日以下ノ
制裁デアルニ拘ラズ、此法案ニ於テハ三箇
月以下牢獄ニ投ズルト云フ規定ヲ設ケテ居
ル、而シテ彼等ニ病毒ヲ與ヘタル者、若ハ
其他ノ場合ニ於キマシテ、病アルコトヲ相
手方ニ告知セズシテ病毒ヲ傳ヘタ所ノ者ニ
對シテ、何等ノ制裁ヲ設ケナイト云フコト
ハ、之ヲ一部ノ女權論者ノ言葉ヲ藉ヲテ申
シマスナラバ、全ク男子專制ノ立法デアル
ト申サナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、此點ニ付テ政府ハ如何ナル考ヲ持ッテ
居ルノデアリマスルカ、其他ノ詳細ナル點
ニ付テハ、何レ委員會ニ讓リマス、明白ナ
ル御答辯ヲ得タイト思フノデアリマス拍
手)
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=35
-
036・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 土屋君ノ只今ノ御
尋ハ、最モ重要ナル點デアリマス、唯〓只今
御話ノ如ク、唯〓特殊ノ業者ノミナラズ、
或ハ夫婦間トカ又ハ其他ノ場合ニ於テ、總
テノ場合ニ、病毒ノ傳播ノ虞アル者ニ對シ
テ、相當制裁ヲ加ヘテ、是ガ防遏ヲ圖ルコ
トニシタラドウカト云フ意見ハ、無論現行
保健調査會ニ於テモアッタノデアリマス、併
ナガラ之ヲソレマデ取締ルト云フコトニ付
キマシテハ、餘程重大ナル問題デアリマス
ノデアリマス、殊ニ只今丁度御話ノ問題
ハ、獨逸ノ千九百十八年ノ緊急勅令ニ依ッ
テ立法サレタ所ノ法案ノ中ニハ、夫婦間若
クハ許婚者間ノ問題モ亦タ矢張制裁ヲ加へ
テ居ルノデアリマスガ、是等ノ問題ハ最モ
重大ナル關係ヲ喚起シマスカラ、先ヅ現時
ノ狀況ニ於キマシテハ、現立法案ノ如ク特
殊ノ業者ノミニ限リ、而モソレハ或ル特殊ノ
行爲ヲ爲シタ場合ニ限ッテ、病毒者ナラバ
刑罰ヲ重クスルト云フ程度ニシテ、先ヅ大
體病毒ノ豫防ヲスルコトニシタラ宜カラウ
ト云フコトデ、斯ノ如ク立案シタ所以デア
リマス、而シテ之ヲ以テ冒頭申上ゲマシタ
如ク、決シテ完全無缺ナルモノトハ政府モ
信ジテ居リマセヌ、併ナガラ現狀ニ於テ先
ヅ此程度デナケレバ
〔粕谷議長、議長席ヲ退キ小泉副議長
代リ著席〕
仕方ガナカラウト云フ譯ヲ以テ此立法ヲシ
タ譯デアリマス、之ヲ以テ十分御諒承アラ
ンコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=36
-
037・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 日程第二、右議
案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト
致シマス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=37
-
038・井本常作
○井本常作君 本案ハ竹原樸一君外十六名
提出未成年者飮酒禁止法中改正法律案外二
件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミ
マス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=38
-
039・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
御異議ナイト認メマス、仍テ動議ノ如ク決
シマシタ、日程第三、兌換銀行劵整理法案
ノ第一讀會ヲ開キマス、片岡大藏大臣
第三兌換銀行劵整理法案(政府提出)
第一讀會
兌換銀行券整理法案
兌換銀行劵整理法
第一條日本銀行ガ發行シタル左記種類
ノ兌換銀行劵ハ昭和十七年三月三十一
日限リ强制通用ノ效力ヲ失フモノトス
但シ政府又ハ日本銀行ニ於テ受入ルル
場合ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第五圓劵
明治十八年十二月大藏省告第
百六十六號ノ分
二明治二十一年十一月大藏省告示
第百四十號ノ分
三明治三十二年三月大藏省告示第
十號ノ分
四明治四十三年八月大藏省告示第
百七號ノ分
五大正五年十二月大藏省告〓第百
六十三號ノ分
第二拾圓劵
ー明治十八年一月大藏省生三第第
二號ノ分
二明治二十三年七月大藏省告示第
三十三號ノ分
三明治三十二年九月大藏省告〓第
五十一號ノ分
四大正四年四月大藏省告示第四十
四號ノ分
第三貳拾圓劵
一大正六年十一月大藏省生〓第百
七十六號ノ分
第四百圓劵
ー明治十八年八月大藏省告示第百
十九號ノ分
二明治二十四年十一月大藏省告示
第三十六號ノ分
三明治三十三年十二月大藏省告示
第五十五號ノ分
四大正六年八月大藏省告〓第百三
十六號ノ分
第二條日本銀行ハ昭和十七年三月三十
一日ニ於ケル前條ノ兌換銀行券ノ發行
高ヲ同年四月一日ニ於ケル兌換銀行券
發行高ヨリ除去シ且其ノ除去シタル發
行高ニ相當スル金額ヲ卽日國庫ニ納付
スベシ
第三條第一條ノ期限經過後政府ハ同條
ノ兌換銀行劵ノ引換義務ヲ承繼ス
前項ノ承繼後ニ於ケル引換ハ日本銀行
本支店ニ於テ之ヲ取扱フ
第四條第二條ノ規定ニ依リ日本銀行ノ
納付スル金額中滅失ノ爲前條ノ引換ノ
請求ナシト認ムル兌換銀行劵ノ額ニ相
當スル金額ハ國債整理基金特別會計法
第二條ノ規定ニ依ル繰入ノ外之ヲ國債
償還ニ充ツル爲漸次一般會計ヨリ國債
整理基金特別會計ニ繰入レ其ノ殘餘ニ
相當スル金額ハ前條ノ規定ニ依ル引換
ノ準備金トシテ日本銀行ヲシテ之ヲ保
管セシムベシ
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=39
-
040・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今上程ニナリ
マシタ兌換銀行券整理法案ニ付キ御說明ヲ
申上ゲマス、日本銀行ガ兌換銀行券條例ニ
依シテ初メテ兌換銀行券ヲ發行致シマシタ
ノハ、明治十八年五月デアリマスガ、爾來
既ニ四十有餘年ノ長年月ヲ經マシテ、其間
ニ發行セラレマシク兌換銀行劵ノ樣式ハ十
七種ノ多キニ上リ、新劵發行高ノ累計ハ五·
十七億圓以上ニ達シテ居リマス、然ルニ此
兌換銀行劵ノ中、彼ノ大正十二年關東地方
ニ於ケル大震火災ノ如キ場合ハ匁論ノコト
デゴザイマスルガ、其外年々歲々全國各地
ニ發生スル天災事故ニ依リ、又個人ガ亡失
紛失シタル等ノ事由ニ依ッテ滅失致シマシ
タ兌換銀行劵ハ、今其數額ヲ明カニスルコ
トハ出來マセヌガ、蓋シ相當巨額ニ達シテ
居ルコトヽ思フノデゴザイマス、而シテ現
在日本銀行ガ發表致シテ居リマスル同行ノ
兌換銀行券發行高ノ中ニハ、是等ノ滅失ニ
歸シマシタ兌換銀行劵ノ數額ヲ含ンデ居ル
ノデアリマス、隨テ日本銀行ノ發表シマス
ル兌換銀行券發行高ハ、其實際ノ流通額ト
一致シテ居ナイ譯デアリマス、而シテ此不
一致ハ年數ヲ重ヌルニ連レテ、兌換銀行券
ノ滅失ノ高ノ僧加スルニ從ヒ、益〓大トナ
ルノデアリマス、然ルニ兌換銀行劵ノ流通
額ハ、經濟界ノ實勢ヲ知ル上ニ於テ最モ重
要ナル事項ノ一デアリマシテ、同時ニ一國
ノ金融政策ヲ決定スル上ニ於テモ、大切ナ
ル基礎數字デアリマスルガ故ニ、兌換銀行
劵ヲ整理シ、其發行高ノ數字ヲ兌換銀行劵
ノ實際ノ流通額ニ一致セシムルコトハ最
モ緊要ノコトデアルト信ズルノデゴザイマ
ス、加之滅失兌換銀行券ノ總額ヲ明白ニ之
ヲ日本銀行ノ兌換銀行券高ヨリ除去致シマ
スルトキハ、日本銀行ノ保有シテ居ル正貨
準備ノ中カラ實際上從來過當デアリマシタ部
分ヲ解放シ、之ヲ適切有效ニ利用スルコトガ
出來ルノデアリマスルカラ、我國財政經濟
ノ現狀ヨリ見マシテモ、兌換銀行劵ノ整理
ハ此際必要ナル施設ト考ヘラレルノデアリ
マス、但シ政府ハ以上ノ整理ヲ爲スニ方リ
マシテ、一擧ニシテ之ヲ斷行スルコトハ印
刷局ノ兌換銀行券製造能力其他ニ鑑ミ、實
行上困難ナル關係ガアリマスノデ、政府ハ
諸種ノ事情ヲ斟酌致シマシテ、之ガ整理期限
ヲ定メタ次第デアリマス、以上ノ整理ニ依
リマスル利得ハ、其性質上一般國民ノ損失
ニ於テ發生シタルモノデアリマスルカラ、
全部之ヲ國庫ニ歸屬セシムルコトヽ致シマ
シタ、而シテ此國庫ニ歸屬シマシタ利得ハ
之ヲ國債整理基金特別會計法ニ依ル法定繰
入額ノ外、同會計ニ之ヲ繰入レ、國債ノ償
還ニ充テルヤウ法律ヲ以テ定メテ置クコト
ガ最モ適當デアルト考ヘマス、右繰入ニ依
リ償還スル國債ハ主トシテ震災手形整理ノ
爲メ發行セル國債ト爲ス方針デアリマス、
終リニ日本銀行ノ從來發行致シマシタ一圓
兌換銀行劵ニ付テハ、從來種々ノ議論ガア
リマスノデ、之ガ整理ニ付テハ愼重ニ考慮
ヲ要スルモノガアリマス、而シテ此問題ハ
兌換銀行條例ノ改正問題ト併セテ、金融制
度調査會ニ於テ尙ホ攻究ヲ遂ゲルコトヽ
ナッテ居リマス、隨テ一圓兌換銀行券ノ滅
失ニ歸シタルモノヽ整理ニ付テモ、其際之
ガ方策ヲ講ズルコトヲ適當デアルト考ヘマ
シテ、本案ヨリハ之ヲ除外致シタ次第デア
リマス、尙ホ本法案ハ兌換銀行劵整理ニ關
〃、曩ニ金融制度調査會ニ於テ調査決定ヲ
致シマシタ趣旨ニ基キ、立案ヲ致シタモノ
デアルコトヲ附言致シテ置キマス、何卒御審
議ノ上速ニ御協賛アランコトヲ希望致シマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=40
-
041・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 本案ニ對シテ質
疑ノ通告ガアリマス、順次之ヲ許可致シマ
ス、星島一郞君
〔星島二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=41
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042・星島二郎
○星島二郞君 本員ハ曩ニ日本銀行改造案
ヲ提出致シマシタ際ニモ、嘗テ此問題ニ觸
レタコトガアルノデアリマス、又先般震災手
形處理法案ガ出マシタトキニモ、私ハ此紙
幣整理ニ付キマシテ大藏大臣ニ質問致シタ
コトモアルノデアリマスルが、此案ガ出マ
シタ其事ニ付キマシテハ私ハ非常ナ賛意ヲ
表スルモノデアリマス、但シ私ガ甚ダ遺憾
トシマスル點ハ、曩ニ加藤友三郎內閣ノ時
代ト記憶致シテ居リマスガ、銀貨ノ改鑄益
金ノ問題ガアリマシタ際ニ、アノ當時最初
ノ案ニ於キマシテハ、是ハドウモ所謂偶然
儲カル一ツノ金高デアルカラ、斯ウ云フモ
ノコソ社會事業ニ使っタラドウダト云フノ
デ、サウ云フ案ガ最初ニハ覗イタノデアリ
マスガ、途中カラ其金ヲ到頭岡田サンニ取
ラレテ、師範〓育費ノ方ニ大部分廻ヲタヤ
ウナコトニナッテ居リマス、今囘ノ此紙幣
ノ整理ハ、長年ノ間使ッテ居ッタ金デアリマス
カラ、隨分ノ額ニ上ルト思ヒマス、而モ其
多ク滅失シタル人ハドウ云フ人デアルカト
言ヒマスルレバ、私ハ金持階級ヨリモ寧ロ
紙幣ヲ皺苦茶ニシテ僅カバカリ懷中ニ持シ
テ居ル人達ノ方ガ、卽チ無產階級ノ方ガ多
ク喪失シタト私ハ睨ンデ居ルノデアリマ
ス、特ニ震災、或ハ悲慘極マル彼ノ被服廠
ノ跡ナドデ燒ケタノハ、サウ云フ者ガ多々
アルノデアリマシテ、寧口有產階級ハ小切
手ヤ其他ヲ利用致シテ居リマスカラ、割合
少イ、大部分ハ私ハ是ハ所謂一般庶民階級
ノ失ッタ紙幣ガ多イダラウト思フノデアリ
さく、又性質カラシマシテモ、一體無クナッ
タリ燒ケタリシタ金、斯ウ云フモノヽ儲ケ
ガアッタ場合ニハ、此使途ハ多少社會政策
的ノ考ヲ持タナケレバナラヌト私ハ考ヘル
ノデアリマス、ソコデ此前ニモ銀貨ノ改鑄
益金ハ社會事業ニ使フト云フノデ、是ハ私
ノ洵ニ喜ンデ居ッタ、アレダケノ金ガアリ
マスレバ、可ナリ社會事業ガ出來ル、或ハ
公益質庫法案ガ通過シマシテ質屋ヲ造ルニ
致シマシテモ、相當ノ金ヲ融通スルコトガ
出來ル、私ハ勿論其數ガ非常ニ上リマスレ
バ、ソレヲ國債ノ償還資金ニ充テルト云フ
コトモ洵ニ結構デ、先般モ其事ニ一寸言ヲ
觸レタノデアリマスガ、大部分ハ是ハ一ツ
庶民階級ノ爲ニ使フヤウナ風ニ、初カラ法
律ヲ作ッテ置カンケレバナラヌト唱ヘタ、
今此處デ十五年先ノ事ヲ決メルノニ、其使
途マデ此處デ決メテ、是ハ借金ノ返シニ充
テルト云フコトハ、餘リ是ハ考ヘ過ギテハ
居ナイカ、丁度十五年立チマスレバ震災
手形ノ法案モ向フ十年デ以テ公債ノ償還期
ガ來ルノデアリマスカラ、片岡大藏大臣ノ
頭ニハ、此震災手形ガ結局ハ取レナイカ
ヲ、斯ウ云フモノヲ向ケタラ宜イト云フヤ
ウナ御考ガアルノカモ知レマセヌガ、ソレ
ハ私ハ少シ吝チ臭イト思フ、兎ニ角無クナッ
タ金デアルシ、燒ケタ金デアルカラ、之ヲ
庶民階級、殊ニ貧民階級ノ爲ニ使フ、マア
一家ノ私共ノ經濟ニシマシテモ、矢張サウ
云フ氣ガ起ルノハ當然ノ話デアリマス、ソ
コデ私ハ此法案ハ十五年先ノ使途マデモ考
ヘナイデ、兎モ角モ整理シテ見ル、斯ウ云
フコトダケニシテ一ツ決メタラドウデアル
カ、殊ニ私ガ御尋シタイノハ、小額紙幣ハ
既ニ殆ド整理サレマシテ、モウ殆ド日本銀
行ニ換ヘニ來ル人ハナイダラウト私ハ想像
致シテ居リマス、アレモ能ク數字ハ覺エマ
セヌガ、少クトモ一千万圓、一千四百万圓
以上ニ上ッテ居ルヤウニ思フノデアリマス、
是ハ何時頃小額紙幣ノ方ハ決定ナサレテ、
アノ使途ハ矢張國債ノ償還ニ充テラレルノ
デアルカ、イッソノコトアノ金ダケデモ早
ク整理サレマシテ、之ヲ社會事業ニ使シテ
貰ヒタイト思フノデアリマスガ、政府ニ於
キマシテハ斯ウ云フ方面ノ御考ハナイカ、
小額紙幣ハ總發行高四億圓程度ノモノデ、
一千万圓以上僅ナ間ニ出來ルトシマスレ
バ、此五十四億ノ大キナ數字ガ長年ニ於テ
使ハレマシテ、私ハ屹度相當-若シ小額
紙幣ノ四億圓ニシテ一千万圓トナリマスレ
バ屹度一億圓以上ハアルダラウト私ハ睨
ンデ居ル、ソコデ吾々ノ氣持デハ、少シデ
モ早ク數字ヲ見テ、一ツ良イ社會事業ヲヤッ
テ見タイト云フ希望ガ切デアリマスガ、十
五年ハ餘リ長過ギハシナイカ、ソコデ十箇
年位デ一ツ之ヲ締切ヲ付ケマシテ、早ク一
ツ良イ社會事業ヲ行ウテ見タイト云フヤウ
ニ思フノデアリマスガ、十箇年デハ出來マ
セヌモノデセウカ、斯ウ云フ點ニ付キマシ
テ御尋シテ見タイト思フ、殊ニ其使途ヲ今
カラ決メテ、サウシテソレヲ國債償還ニ充
テルト云フノハ、震災手形ガ實際取レナイ
カラ、之ヲ充テルト云フヤウナ御意思デモ
アルノデセウカ、サウ云フ點ニ付キマシテ
御答辯ヲ得タイト思フノデアリマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=42
-
043・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今ノ御尋ニ御
答致シマス、第一ニ此滅失紙幣ニ對スル部
分ヲ、社會事業ノ資ニ充ツル方ガ宜イト云
フ御趣旨ノ下ニ、今直ニ其使途ヲ決メテ置
カヌデモ宜イデハナイカ、之ヲ決メルノバ
震災手形ガ取レヌコトニナルノデアラウト
思フカラシテ、ソレデ玆ニ決メルノデナイ
カ、斯ウ云フ御質疑ト存ジマス、其内此滅
失ヲ致シタ部分ハ、主ニ庶民階級ニ屬スル
モノデアル、斯ウ御斷定ノヤウデアリマス
ガ、是ハ庶民階級ノモノモゴザイマセウ、
又大ニ金ヲ纏メテ居シテ燒ケタト云フガ如
キモノモゴザイマセウ、一〓ニ庶民階級ノ
モノナリト云フ斷定ハ付カヌト存ジマス、
ソレト同時ニ大資本家ノモノデアルトモ斷
定ハ付カヌト存ジマス、兎ニ角國民ノ持シ
テ居ルモノガ滅失致シタノデアリマスカ
ラ、其滅失シタ所ノモノハ國ノ所得ニス
ル、是ガ當リ前デアラウト云フコトガ法案
ノ骨子デアリマス、社會事業ニ放資スルガ
善イトカ、惡イトカト云フコトハ、是ハ人
人ノ御意見ト見テ宜イコトデアリマス、必
ズ其御意見ガ惡イトモ、善イトモ申上ゲマ
セヌ、唯〓震災手形ガ取レヌコトニナルノ
デアラウカラ、ソレニ充テルト云フコトニ
シタノデナイカト云フ御尋ニ對シマシテ
ハ、是ハ一億圓ハ國ガ補償スルト云フコトガ
決ッテ居リマシテ、其一億圓ノ國ノ補償ス
ル方法ヲ法律案トシテ提出致シテ居ルノデ
アリマス、是ハ取リモ直サズ國ノ損ニナル
ノデアリマス、其部分ニ充テヤウト云フ積
リデアリマス、星島君ハ或ハ一億圓以上モ
アルト之ヲ御覽ニナッテ居ルカモ知レマセ
又、是モヤッテ見ナケレバ分リマセヌガ、
目下流通シテ居ル兌換劵ノ數量ハ約十二
億カラ十三億ノモノト存ジマス、サウ云フ
モノデゴザイマスカラ、必ズ是ガ一億圓モア
ラウトハ私ハ信ジテ居リマセヌ、殊ニ金ト
云フモノハ相當大切ニ取扱フモノデゴザイ
マスカラ、大震大火ノ場合ト雖モ、身體ヲ
以テ遁レル時ニ大〓ソレダケハ携帶致シタ
カト思フ、携帶シテ居ル者ハ途中デ火災、
遭難等ノ爲ニ身體ト共ニ滅失シタト云フモ
ノモソレハアルデアリマセウ、其數量ニ
至リマシテハ、是ハ誰シモ確ニ幾ラデアル
ト云フ見當ハ付キマスマイ、私ハソレ程多
クハナイト思シテ居リマス、然ラバ國ガ負
擔ヲスル所ノ彼ノ震災手形ノ一億圓ノ中ニ
之ヲ充當スルト云フコトハ、震災手形其物
ハ、〓回ノ大震大火ヨリ生ジテ來タモノデ
アリマスカラ、是ガ一番妥當ナリト信ジタ
ニ過ギマセヌ、ソレカラモウ一ツノ御尋
ハ、十五年デハ長過ギル、モット短ク行カ
又々、斯ウ云フ御尋、是ハ大體ニ於テ私モ
最初ハ御同感デアッタノデアリマス、大抵
世ノ中ノ事ハ十年ガ先ヅ一期ト立テヽアル
モノト私ハ平常心得テ居ル、ソレ故ニ成べ
クサウシタイト存ジマスガ、實ハ是ガ準備
ニ-卽チ新シイ兌換劵ヲ拵ヘマスル準備
ニ約五年以上掛ルヤウデス、サウシテ之ヲ
漸次取換ヘテ行キマスト云フコトノ期日ヲ
餘リニ短縮スルト云フコトハ、實際上適當
デナイト云フ所ヨリシテ、金融制度調査會
ノ委員會ニ於テ、十五年ガ適當ナリト極ッ
夕次第デアリマス、準備ハ五年ソコ〓〓デ
出來ヤウト存ジマス、唯〓見様ハ、其後ニ
十年ヲ置クカ五年ヲ置クカト云フコトガ實
際問題ニナリマスガ、金融調査會ノ意見
ハ之ヲ十五年ニスルガ相當ナリト答申ヲ
致シマシタカラ、之ニ基イテ提案シタ次第
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=43
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044・星島二郎
○星島二郞君 簡單デアリマスカラ自席カ
ラ-尙ホ私ノ尋ネマシタ中ニ、小額紙幣
ガ多額ニ達シテ居リマスルガ、之ニ付テ何
カ外ニ使途ヲ考ヘテ居リマセヌカト云フ
事、是ガ一ツ落チテ居ルノデアリマス、サ
ウシテ會テ加藤友三郞内閣ノ時代ニモ、既
ニ政府案トシテ、社會事業ノ爲ニ使フト云
フコトガ、一旦出タノデアリマス、是ハ社
會ノ輿論ガ非常ニ歡迎シタノデアリマスカ
ラ、何カ使途ヲ考ヘナケレバナラヌト思
フ、一體香奠ニ貰シタモノヲ、自分ノ借金ニ
使フヨリ慈書事業ニ使フト云フノガ人情
ノ自然デアリマスカラ、是ハ政府ハ一ツ社
會事業ニ使フト云フ根本方針ニ御同感デア
ラウト思フノデアリマスガ、此點ニ付キマ
シテ今一ツ御答ヲ願ヒタイ、今一ツハ、先
程御尋シヤウト思シテ居ッタノデアリマスル
ガ、震災ニ於キマシテ多クノ公債ガ燒ケタ
ラウト思ヒマス、是モ大部分整理ハ付イタ
ラウト思ヒマスガ、此公債ニ依リマシテ、
政府ハ多分儲ケラレタト思シテ居リマスガ、
其儲ケタ金ハ何カ使途デモ極メラレテ居リ
マスカ、此機會ニ於テ御尋致シテ見タイト
思フノデアリマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=44
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045・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 小額紙幣ノ問題
ニ對シテ御答ヲ落シマシタ、今殘テテリ
マスルモノガ千四百二十万圓バカリアリマ
ス、是ハ補助貨幣ト引換へヲ進メテ居ルノ
デアリマシテ、是ガ通用ヲ禁止シテ居ル譯
デナイノデアリマスカラ、今此引換フベキ
モノヲ他ノ事業ニ使フカト云フガ如キコト
ヲ、此際極メル譯ニハ參ルマイト思ヒマ
スソレカラ今一ツノ御導ノ公債、公債ハ
或ハ燒ケタモノモゴザイマセウ、併ナガラ
是ハ別ニ政府ガ得ヲスルコトモ損ヲスルコ
トモナイ、利拂ガ減ルト云フダケデ、利ヲ
拂フニ及バヌヤウニナル、斯ウ云フ譯デ何
モ得モナケレバ損モナイ譯テアリマス
〔「利ヲ拂ハナケレバ得デハナイカ」ト
呼フ者アリ〕
〔增田義一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=45
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046・増田義一
○曾田義一君 本案ニ付キマシテ私ハ三ツ
ノ質問ヲ致シタイノデアリマス、其中ノ一
ツハ只今星島君ヨリ御質問ニナッタガ、ソレ
ニ對スル大藏大臣ノ答辯ヲ聞キマスルト、
金融制度調査會ノ意見ヲ聞イテ、兌換劵ノ
引換期限ガ十五年デ丁度宜イト思フト云フ
ダケノ御答デアリマス、私ハ星島君同樣ニ
此兌換劵ノ引換期限、所謂通用期限ヲ前途
十五年トスルノハ長クハナイカト思フ、ソ
レニ付テ大藏大臣ハ、最近進歩シタル紙幣
印刷機械ニ關スル調査ガアッタノデアルカ、
近來機械ト技術ノ進步ニ對シ、恐クハ金融
制度調査會委員ガ其知識ガ乏シカラウト思
フノデアリマス、最新ノ機械ヲ輸入シテ、
最新ノ技術ヲ以テ紙幣ヲ印刷スレバ、以前
ヨリハ餘程早ク印刷出來ルノデアリマス、
故ニ私ハ是ハモット早クスルコトニ付テノ
十分ナ調査〓究ヲ遂ゲラレタノデアルカレ
ウカ伺ヒタイ、斯ク申シマスルノハ、大藏
大臣ハ滅失兌換劵ハサウ多額デハナイト言
ハレルケレドモ、誰ガ考ヘテモ五千万圓ヤ
六千万圓以上ノ兌換劵ハ滅失シテ居ルト思
7何分十七億圓モ發行シテ居ル兌換劵
ガ、通用シテ居ルノハ十三四億圓デアリマ
スカラ、其差引イタ餘分ノ紙幣中ニ祕藏サ
レテ居ルノモアリマセウケレドモ、燒ケタ
リ無タナッテ居ルモノモ相當アルト云フコ
トハ、常識判斷デ出來ルノデアル、其滅失
シタモノハ國家ノ所得ニナルノデアリマ
ス、而モ其金額ヲ以テ公債償還ニ充ツルト
云フノデアルカラ、一年早ケレバ一年早イ
ダケ國家モ國民モ利益スルノデアリマス、
故ニ私ハ前途十年、長クテ十二年ニ短縮シ
タイト思フ、今日ノ進ンダ機械ト技術ト、
且ツ宣傳ガ十分行渡ル時代ニ於テ、出來ル
ダケ期限ヲ短縮シタイ、ソレニ對シ、大藏
大臣ノ確カナ御意見ヲ承リタイ、シレカラ
第二ニ、新兌換劵ハ何日頃カラ發行シテ、
世上ニ流通セシムル見込ナリヤ之ガ早ケ
レバ早イ程便利デアリ、亦引換モ早クナル
ノデアリマス、第三點ハ、兌換劵統一ノ意
思ガアルカナイカト云フコトデアリマス、
丁度兌換劵整理ノ良イ機會デアリマスカ
ラ、日本國內ニ目下流通シテ居ル三種ノ兌
換劵ヲ整理統一スル事ガ得策デハナイカ、
卽チ日本銀行發行ノ兌換劵ノ外、朝鮮銀行
ハ一億圓マデ銀行参トシテ發行スル權利ヲ
有シテ、現ニ發行シテ居ル、又臺灣銀行ハ五
千万圓マデ銀行劵ヲ發行スル權利ヲ有シ
テ、現ニ發行シテ居ル、日本國民ニ三種ノ
兌換券ガ流通シテ居ルト云フコトハ、國家
ノ體面カラ言ッテモ、又經濟上ノ點カラ考
ヘテモ、褒ムベキ事デハナイ、是ハ過去ニ
於テ一時ノ便宜法カラ出タモノデアル、朝
鮮ニ或ハ內亂ガ起キヤシナイカ、臺灣ノ領
土ニ不穩ナ事ガ勃發セヌカ、サウ云フ場合
ニ朝鮮及臺灣兩銀行ニ兌換劵發行ノ權利ヲ
與ヘテ置クコトガ便利デアルト云フヤウ
十、一時ノ便宜法カラ出來タコトデアル、
所ガ今日デハ左樣ナ心配ハナイノデアリマ
スカラ、寧口日本銀行兌換劵ニ統一シタ方
ガ宜クハナイカ、殊ニ右ノ二ツノ銀行ガ銀
行劵ヲ發行スル所ノ準備ノ中ニハ、日本銀
行ノ兌換劵ヲ準備トシテ加ヘテ居ル、兌換
劵ノ準備中ニ兌換劵ヲ加フルト云フコトハ
妙ナモノデ、制度ノ上ニ置イテ決シテ褒
ムベキ事デナイ、更ニ又日本ノ金融政策カ
ラ考ヘテモ、日本全體ノ流通紙幣ガ幾ラア
ルカト云フ場合ニ、誰シモ日本銀行ノ兌換
劵ノミヲ標準ニシテ居ルガ、何ゾ圖ラン朝
鮮ニハ朝鮮銀行ガ發行シタ兌換券ガアリ、
臺灣ニハ臺灣銀行ノ發行シタ兌換劵ガア
ル、此總額ヲ合セテ見テ始メテ兌換劵流通
ノ總額ガ分ルノデアル、兌換劵統一ト云フ
コトハ、金融調節上極メテ必要デアルシ、
又一國內ニ流通スル紙幣ノ高ガ直グ分ルノ
デアリマスルカラ、是ハ統一シタ方ガ得策
ト思フガ、其點ニ付テ大藏大臣ハ〓究サレ
タカ、又統一サレル意思アリヤ否ヤ、尤モ
此兩銀行ノ既得權ヲ取上ゲル時ニハ、相當
ナ辨償ヲシナケレバナリマスマイ、又日本
銀行トシテ特別ナ便利ヲ與ヘルコトモ必要デ
アリマセウ、サウ云フコトハ幾ラモ遣方ガ
アルノデアリマス、故ニ私ハ此際兌換劵ノ
整理ヲ機會トシテ、朝鮮、臺灣、兩銀行ノ
銀行劵ヲ日本銀行兌換劵ニ統一スルノ御意
思ハナイカ、以上三點ヲ質問致シマス拍
手)
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=46
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047・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 第一ノ增田君ノ
御質問ハ、今技術ハ進步シテ居ルノデ、
此兌換劵ヲ拵ヘル期日ニ至ッテモ、モット早
ク出來ル、金融制度ノ調査委員會ハ恐ラク
其技術ノ進歩ヲ知ラナイデアラウ、斯ウ
云フ御趣旨ノ下ニ調査ヲシテ見タカドウカ
ト云フ御尋ガアッタト存ジマス、是ハ印刷
局、日本銀行、大藏省關係ノアリマスル所
ニ於テ、調査ヲ致シタ結果デアリマス、中
中サウ容易ク出來ナイサウデアリマス、五
年ハドウシテモ掛ルト云フコトデアリマス、
五年掛シテ後五年ノ間ニ印刷ヲスルト云フ
コトハ、少々印刷ノ間ガ氣長過ギル嫌ハア
ルト存ジマス、併ナガラ大事ヲ履ンデ五年
ニ土臺ヲ拵ヘテ、次ノ五年ニ印刷シ、印刷
ノ出來ル部分カラ通用ヲセシメタイ、サウ
シテ後ニ五年ノ餘裕ヲ置イテ、完全ナラシ
メヤウト云フ、此趣旨ニ外ナラヌノデアリ
マッ、其次ノ御質問ハ何時發行スルカ、兌
換劵ハ何時カラ通用スルヤウニスルカ、斯
ウ云フコトデアリマスルケレドモ、是ハ實
ハ百圓劵ダケハ今出來テ居ルノデス、百圓
劵ダケハ是ガ極リサヘスレバ、早ク引換ニ
著手ガ出來マスガ、其他ノ方ハ今申上ゲタ通
リデアリマス、ソレカラ第三ノ質疑ハ朝鮮銀
行等ヲ始メトシテ、總テ統一スル考ハ無イカ
ト云フコトデアリマス、是ハ今日ノ制度ガ御
承知ノ通リニナッテ居リマスルカラ、日本
銀行鬼換劵ダケハ、法律ノ定ムル所ニ依ッ
テ行ケマスルガ、朝鮮、臺灣、總テヲ統一
スルト云フコトハ、此際ニハチトムヅカシ
イト思フ、私ハ今朝鮮臺灣等ニ於ケル物マ
デモ統一スルト云フ考ヲ持シテ居リマセヌ
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=47
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048・増田義一
○贈田義一君 簡單デスカラ此席カラ發言
ヲ御許ヲ願ヒマス-只今御答ノ最初ノ部
分ハ感違ヒデハアリマスマイカ、準備ニ五
年ヲ要スルト伸シヤッタノデアリマスガ、準
備ニ五年掛シテ、印刷ニ五年掛ル、十年經,
テ後ノ五年デ通用セシメルトハ少シク意外
デアル、準備ニ五年ト云フノハ何ヲ意味ス
ルノカ、意匠ト製版トニ五年ヲ要スルノデ
アリマスカ、意匠ト製版ガ出來テシマヘバ、
印刷機械ニソレヲ掛ケルノハ何デモナイ、
ダカラ五年間ニ意匠製版カラ印刷マデ出來
上ルト云ヘバソレハ聞エマスケレドモ、
單ニ準備ニ五年掛リ、印刷ニ五年掛リ、十
年ノ歲月ガ掛ルト云フコトハ、何カ御間違
デハナイカト思ヒマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=48
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049・片岡直温
○國務大臣(片岡直濫君) 曾田君ノ御尋ノ
通リニ早ク是ガ出來ヌコトハ寔ニ殘念ニ
存ジマス、係ナガラ實際其土臺ヲ造リマ
ス、卽チ原版ヲ造リマスニハ、サウ容易ク
出來ヌサウデアリマス、何トモ御互デ拵へ
ルト云フヤウナ早途デ行カズコトデアリマ
スカラ、是ハ已ムヲ得マセヌ
〔坂東幸太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=49
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050・坂東幸太郎
○坂東幸太郞君 私モ本案ニ關聯スル事項
ニ付テ簡單ニ三點ダケヲ御伺シテ見タイノ
デアリマス、聞ク所ニ依リマスト現在銀
行中ニ於テ認可ノ取消、或ハ營業ノ全部若
クハ一部停止ヲシタ銀行ガ二十六モアルサ
ウデアリマス、其預金額ハ恐ラク數億圓ニ
上ルデアリマセウガ、吾々ハ此間ノ銀行法
案ノ提案中ニ於テモ、其內容ヲ知ルコトハ
出來ナカッタノデアリマス、故ニ關聯事項
トシテ、此際其二十六行ノ預金高竝ニ預金
者ノ數ト云フコトヲ御伺シタイノデゴザイ
さく、又今一ツハ現在以來ニ於テ支拂ガ不
可能ナルノ故ヲ以テ休業ヲシテ居ル所ノ銀
行モ、相當アルト承知シテ居リマス、ソレ
等ノ預金額竝ニ預金者ノ數ニ付テモ御伺シ
タイノデゴザイマス、第二ハ以上ノ如キ銀
行ヲ政府ガ唯〓傍觀シテ然ルベキモノデア、
ルカドウカヲ伺ヒマス、卽チ預金者ガ銀行
ニ預金スルト云フコトハ、其半ハ政府ノ監
督ガ嚴重デアルカラト云フ理由ヲ以テ、言
換マスレバ半バ政府ヲ信用シテ之ヲ預金シ
テ居ルモノト私ハ考ヘル、然ラバ銀行ガ以
上ノ如キ不始末ヲスルニ付テハ、政府モ多
少ノ責任ガアルヤウニ吾々ハ考ヘルノデア
ル、然ルニ從來政府ハ斯ル銀行ニ對シテ殆
ド傍觀的ノ態度ヲ執ッテ居ルヤウニ思ヒマ
スガ、尤モ昨年北海道ノ絲屋銀行ハ、政府
ト日本銀行トノ協力ニ依ヲテ直接ニ金ハ出
サナイガ、間接ニ救濟ノ方法ヲ講ジマシタ
ユトハ、吾々ハ大ニ感謝ヲシテ居ルノデア
ル、故ニ以上ノ各種ノ銀行ニ對シテ政府ト
日本銀行ト協力シテ、直接ニ金ヲ出サナイ
迄モ之ヲ救濟スル方法ヲ講ズルト云フコト
ハ、非常ニ必要デアラウト本員ハ考ヘル、
之ニ對シテ政府ハ如何ナル考ヲ有スルカト
云フコトヲ御伺シタイノデアリマス、第三
ニハ從來銀行ガ不始末ヲ爲ズ原因ハ少クト
モ二ツゴザイマス、卽チ重役が他ノ會社ノ
重役タル地位ヲ濫用シテ、サウシテ銀行ニ
金ヲ貸出スト云フコトガ一ツノ原因トナッテ
居ルヤウデアリマス、第二ハ重役或ハ銀行
員ガ所謂「コンミッシヨン」ト云フモノヲ公
然取ッテ、サウシテ不良ナル貸付ヲスルト
云フコトガアルヤウニ思ヒマスルノデ、隨
テ此二ツノ原因ヲ除去スル爲ニハ、彼ノ銀
行法案或ハ其他ニ於テモ相當ノ規定ヲ設ケナ
ケレバ、如何ニ法案ガ完備シマシテモ、又
矢張リ不良ナル銀行ガ出來ナイトモ限ラ
ヌ、ゾレ等ニ對シテハ銀行法バカリデハナ
"、政府ノ方針トシテ、ドウ云フ御考デア
ルカト云フコトヲ御伺シタイノデス、今
ツハ新聞雜誌ノ記事ニ付テ、銀行ニ對シテ
重大ナル影響ガ生ズルコトガゴザイマス、
卽チ過日ノ彼ノ廣部銀行ノ如キハ、小新聞
ガ金ヲ强要シテ、金ヲ貸サナイカラト言ヶ
テ、卽チ廣部銀行ハ危イト云フ所ノ號外ヲ
撒イダノガ原因ヲ爲シテ、内容ハ比較的堅
實デハアルガ、休業ヲシテ居ルト云フ狀態
デアル、隨テ是ハ銀行ヲ擁護シ、又預金者
ヲ擁護スル意味ニ於テ、斯ノ如キ記事ハ嚴
重ニ特別ナ規定ヲ設ケテ取締ル必要ガア
ルサウ本員ハ考ヘテ居リマスルガ、政府
ハ之ニ對シテ如何ナル御意見ヲ有スルカト
云フコトヲ御伺スルノデアリマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=50
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051・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫若) 只今ノ御質問ニ
御答ヲ申上ゲマス、第一ノ御質疑ハ銀行ノ
營業停止ノモノガアリ、又休業致シテ居ル
所ノ數モ多イヤウデアル、是等ノ銀行ノ預
金ノ統計表ガアルデアラウカテ、之ヲ示ス
ヤウニト云フコトデゴザイマス、是等ノ銀
行ノ財產狀態ニ於テ、分リ得テ居リマスル
部分ハ御而ヲスルコトハ出來ヤウト存ジマ
ズ、内容ヲ精シク申上ダル譯ニハ參リマス
マイガ、預金ノ總額位ヲ申上ゲルコトハ一
向差支ナイト存ジマス、併ナガラ本案ト是
ハ直接ノ關係ガゴザイマセヌ爲ニ、今私ノ
手許ニハアリマセヌ、後デ或ハ委員會ト云
フヤウナ時ニ差上ゲルコトニ致シタイト存
ジマス、ソレカラ此銀行が停止或ハ休業、
斯樣ニ相成ルト云フコトハ、是ハ重役ノ經
營振リノ宜シカラザル所モアルガ、元來預
金者ナドハ政府ノ檢査ト云フコトニ信賴シ
テ、サウシテ預金ヲ致シテ居ル譯デアルカ
う、營業停止、或ハ休業ノ結果、損失ヲ受
クルト云フコトニナレバ、政府モ幾分ノ貴
任ガアルデハナイカ、斯ウ云フ御趣旨デアッ
タト存ジマスガ、是ハ海ニ遺憾ノコトニ思
フノデアリマス、元來政府ノ是マデノ檢査
ハ、僅ナ事務官、僅ナ屬官、漸ク七八年目
ニ全國ノ銀行ニ行屆クカ否ヤト云フ位ノ程
度デ以テ實行シ來ッタノデアリマシテ、實
際檢査ガサウ行屆キハシナイノデアリマ
ス、併ナガラ多クノ人とガ鍛行ガ旣ニ公認
セラレテ居ル、檢査ヲシテ居ル、斯ウ思ク
テ預金者ガ預金ヲスルト云フガ如キコトモ
事實デアルデアラウト思フ、ソレ故ニ本年
ノ豫算ニ於キマシテハ、此檢査事務官ヲ增加
シ、之ニ附隨スル所ノ屬官モ增加スルコト
ニナッタノデアリマスガ、是トテモ約三年
ニシテ全國中ノ金融機關ヲ一通リ調査ガ行
屆クト云フ位ノモノデアリマス、其中ニ種
種ノ風評モ起リマセウガ、又時々書面檢
査ヲ行ブ積リデアリマスカラ、今後ハ多少
行届クトハ思ヒマスケレドモ、元と預金ヲ
スルト云フガ如キ事柄ハ、一般預金者其人
人ガ十分ニ其重殺ノ性行、銀行ノ信不信等
ニ注意ヲシテ、預金ヲスルカセヌカト云フ
コトヲ決メテ貰ハナイト、政府ガ是ナレバ
預金ヲシタラ宜カラウト指圈スル譯ニ行カ
ズ、又ツレカト申シテ改善シテ居ルモノ
ニ、之ニハ預ケテハイケヌゾト云フガ如キ
貼紙ヲスルコトモ、是モ一寸イカヌコトデ
アリマス、シレ故ニ政府トシテ檢査上十分
ニ注意ノ出來ル點ハ、今後ニ於テモ十分ス
ル積リデアリマスガ、是ハ御互ニ十分ニ注
意ヲ拂ハナケレバ致方ナイデアラウト思ヒ
マス、是ハ理窟デハナイ、實際ソレヨリ仕
方ノアルモノデアリマセヌ、而シテモウ一
ツノ質問ハ、斯樣ニ停止ニナッタ、或ハ休
業致シテ居ル銀行ニ對シテ、政府ハ絲屋銀
行ニ對シテ盡シタ如キ〓濟ノ途ヲ講ズル意
思ヲ持ノテ居ルカ、斯ウ云フ御導デアリマ
スガ、政府ト致シマシテハ成ベク銀行ノ破
綻ヲ來サナイヤウニト云フコトヲ萬々期ス
ルモノデアル、又是ガ生ジマシタ場合ニ於
テ政府自ラ手ヲ下シテ、是ノ救濟ヲスルト
云フガ如キコトハ、是ハ實際ニ於テ出來マ
セヌ、只一ノ支拂停止ノモノガ生ジマシタ
ラバ、他ノ近傍ノ支店若クハ本店ヲ有スル
銀行ヲシテ、是ガ救濟ノ衝ニ當ラシメル、
其救濟ヲスル方法ガ付キマシタラバ、金融
上ノ都合ハ成ベク日本銀行其他ノ方面ニ於
テ之ヲ付ケサセルヤウニ、出來ルダケノ援
助ハ致シマス、現在生ジテ居ルモノニ向シ
テモ、相當心配ヲ致シテ居リマス、今後ニ
於テモ絲屋銀行ノ場合ト同ジヤウナ心持
ハ-心掛ハシテ居ルノデアリマス、只ツ
レノ上結果ヲ得ルト否トハ、何レカノ銀行
ガ是ノ後楯トナッテ援助スルト云フ者ヲ見
出サヌ限リハ、赦騎ノシヤウガナイノデア
リマス、之ヲ見出スコトハ其銀行ノ當局
者、或ハ地方官、其他有志ノ人ミガ粗當心
配サレルト同時ニ、政府當局トシテモ出來
ルダケノ心配ヲ致シ、サウシテシレガ出
來マスルト、ンコデ其整理ガ出來ルカ
出來ヌカ、整理スルニハドウ云フ方法ヲ
講ジタラ宜イカト云フコトガ決リマスル
!、ソレヨリシテ實行ニ移ルコトガ出來ル
ト存ジマス、此點ニ於テハ及ブ限リノ援助
ハ致ス積リデ居ルノデアリマス、次ノ御質
問ハ不始末ノ原因ニ付テデアリマス、此不
始末ノ原因ヲ杜絕スルガ爲ニ銀行法ノ如キ
モノニ相當ノ規定ヲ設ナケレバイクマイ、
斯ウ云フコトデアリマス、是ハ規定ヲ設ケ
テ行ケル部分ト、規定ヲ設ケテ實行スルコ
トノムジカシイモノトアリマス、詰リ規定
ノナイ所ノモノハ、行政上ノ處分ヲ以テ、
相當ノ改善ヲ指導シ、實行セシムルト云ア
コトヨリ外ニナイト考ヘテ居リマス、其次
ノ御質疑ハ新聞ノ記事ガ往々銀行ノ取付騷
等ヲ惹起スル原因トナル、之ヲ何トカ取締
ラナケレバイカヌデサイカト云フ御話デア
リマス、誠ニ御尤デ、事實ソレガ最モ多イ
ノデアリマス、大〓ハ斯ウ云フ新聞雜誌等
ノ記事ガ一番原因ヲ爲スノデアリマス、是
ハ實際取締上中ミ面倒デアリマス、行政上
ノ注意ト取締ニ於テハ相當致シテ居リマ
ス、併シ法規ノ土ニ於テ此取締マデ届クヤ
ウニスルコトガ出來ルカドウカト云フコト
ハ、是ハ實際〓究ヲ要スル事柄デアリマ
ス、詰リ言ヘバ諸君ガサウ云フ法律ヲ作ラウ
ト云フ思召デ御提案ニデモナレバ、當局者
トシテハ勿論賛成ヲシマスガ、政府トシテ
此繁ヲ作シテドウシテ行カフト云フコトニ
付テハ、周圍ノ事情モ考ヘナケレバナリマ
セヌカラ、直ニ從來弊害ガアルカラト云ッ
テ法規ヲ改正シテ、サウ云フ新〓ノ取締ヲ
嚴重ニスルト云フガ如キコトハ、容ニ出
來ナイノデアリマス、唯、行政上ノ取締ニ
於テ出來ルダケノ事ヲ講ジテ居ル、又將來
モ講ズル積リデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=51
-
052・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 是ニテ質疑ハ終
了致シマシタ、日程第四、本案ノ審査ヲ付
託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第四右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=52
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053・井本常作
○井本當作君 本案ハ政府提出、銀行法案
外四件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ
望ミマス
〔「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=53
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054・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
御異議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決
シマス-日程第五、家富傳染病豫防法中
改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、町田農
林大臣
第五家畜傳染病豫防法中改正法律案
(政府提出)第一讀會
家畜傳染病法、中改正法律案
家畜傳染病豫防法中左ノ通改正ス
「家禽虎列刺」ヲ「家禽コレラ」ニ、「獸醫」
ヲ「獸醫師」ニ改ム
第一條第一項中「牛ノ傳染性肋膜炎」ヲ「牛
肺疫」ニ、「流行性驚口瘡」ヲ「口蹄疫」ニ
「豚虎列剌」ヲ「豚コレラ」ニ改ム
第二條中「牛疫」ノ下ニ「、牛肺疫、口蹄
疫」ヲ加ア
第四條第一項ヲ左ノ如ク攻ム
左ニ揭グル家畜ハ所有者又ハ保管者ニ
於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮
ニ從ヒ之ヲ殺スベシ
牛疫、牛肺疫又ハ狂犬病ニ罹リタ
ル家畜
二牛疫ニ感染シタル虞アル家畜但シ
第七條ノ親定ニ球リ免疫血〓ノ注射
ヲ行フモノヲ除タ
第五條第一項ヲ左ノ如ク改ム
地方長官傳染病豫防上必要アリト認ム
ルトキハ左ニ揭グル家畜ニ付其ノ所有
者又ハ保管者ニ對シ之ヲ殺スコトヲ命
ズルコトヲ得
ー炭疽、氣腫痘、鼻疽、假性皮疽、
口蹄疫、羊痘、豚コレラ、豚疫、豚
丹毒、緬羊山羊ノ疥癬又ハ加奈陀馬
痘ニ罹リタル家畜
二牛肺疫又ハ口蹄疫ニ盛染シタル虞
アル家畜
三牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ニシ
テ第七條ノ規定ニ軟リ免疫血〓ノ注
射ヲ行ヒタルモノ
第八條左ニ揭グル屍體ハ所有者又ハ程
管者ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員
ノ指揮ニ從土直ニ之ヲ燒却又ハ埋却ス
ベシ但シ鷄及驚ノ屍體ニ付テハ指揮ヲ
待タズシテ之ヲ燒却又ハ埋却スルコト
ヲ得
一傳染病ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル
家畜ノ屍體
二牛疫、牛肺疫又ハ口蹄疫ニ感染シ
タル虞アル家畜ノ屍體
前項ノ規定ハ左ニ揭グル屍體ニ之ヲ適
用セズ
牛ノ傳染性流產又ハ馬緬羊山羊ノ
疥癬ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜
ノ殺屍體
二前號ニ揭グル家畜ノ斃屍體ニシテ
警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ
從ヒ化製スルモノ
三假性皮疽又ハ加奈陀馬痘ニ罹リ又
ハ罹リタル疑アル家畜ノ屍體ニシテ
警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ
從ヒ化製スルモノ
四病性鑑定又ハ學術〓究ノ爲地方長
官ノ許可ヲ受ケタル家畜ノ屍體
五前各號ニ揭グルモノヲ除クノ外傳
染病ニ罹リタル疑アル家畜及前項第
二號ニ揭グル家畜ノ殺屍體ニシテ命
令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ニ於テ
病毒傳播ノ虞ナシト認メタルモノ
第十條前二條ノ規定ニ依リ屍體又ハ物
品ヲ埋却シタル土地ハ之ヲ發掘スルコ
トヲ得ズ但シ地方長官ノ許可ヲ受ケタ
ル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十一條中「牛疫」ノ下ニ「、牛肺疫若ハ
口蹄疫」ヲ加フ
第十四條第二項ヲ削ル
第十六條第二項中「牛疫」ノ下ニ「、牛肺疫
若ハ口蹄疫」ヲ加フ
第十九條中「農商務大臣」ヲ「農林大臣」ニ
改ム
第二十二條ノ二第五條第二項又ハ第十
四條ノ場合ニ於テハ其ノ費用ハ北海道
地方費又ハ府縣費ヲ以テ之ヲ支辨スベ
シ但シ前條ノ規定ニ依リ檢疫官吏第十
四條ノ事項ヲ行フ場合ニ於テハ國費ヲ
以テ之ヲ支辨スベシ
前項ノ費用ヲ支辨シタル者ハ第二十三
條ノ規定ニ基キテ發スル勅令ノ定ムル
所ニ依リ個人ノ負擔ニ屬スル費用ヲ其
ノ個人ヨリ徵收スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ第一項但書ノ規定ニ
依ル費用ヲ徴收スル場合ニ於テハ國稅
徵收法ヲ準用ス
前項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ順
位ハ國稅ニ次グモノトス
第二十二條ノ三地方長官ハ第三條第一
項ノ處置又ハ第十六條第一項ノ命令ニ
因リ自活スルコト能ハザルニ至リタル
者ニ對シ其ノ生活費ニ充ツル爲手當金
ヲ交付スベシ
前項ノ手當金ハ北海道地方費又ハ府縣
費ヲ以テ之ヲ支辨スベシ
第二十四條第一項第三號中「牛疫」ノ下ニ
「、牛肺疫又ハ口蹄疫」ヲ加ヘ同項第四號
中「警察官吏又ハ家畜防疫委員カ」ヲ削
ル
同條第二項及第三項ヲ左ノ如ク改ム
前項ノ手當金ハ輸入又ハ移入ニ付檢疫
ヲ施行スル場合ニ於テハ前項第一號ニ
規定スル家畜ニ付テハ之ヲ交付セズ前
項第二號乃至第四號ニ規定スル家畜又
ハ物品ニ付テハ其ノ額ハ前項第二號乃
至第四號ニ揭グルモノノ二分ノ一トス
第八條第二項第五號ニ規定スル屍體ノ
評價額ト前二項ノ家畜ノ手當金ノ額ト
ノ合算額ガ第一項ノ家畜ノ評價額ヲ超
ユルトキハ其ノ差額ハ之ヲ手當金ヨリ
控除ス
第一項ノ評價額及前項ノ屍體ノ評價額
ハ地方長官三人以上ノ評價人ヲ選定シ
テ之ヲ定メシム地方長官其ノ評價額ヲ
不當ト認ムルトキハ更ニ他ノ三人以上
ノ評價人ヲ選定シテ之ヲ定メシムルコ
トヲ得
第一項ノ評價額ハ發病前又ハ病毒汚染
前ノ價格ニ依リ之ヲ定ムベシ
第二十四條ノ二第五條乃至第八條及前
條ノ規定ニ於テ地方長官トアルハ輸入
又ハ移入ニ付檢疫ヲ施行スル場合ニ於
テハ稅關長トス
第二十六條第四號中「第十四條第一項」ヲ
「第十四條」ニ改ム
第三十二條第二項中「市町村」ヲ「町村」ニ
改メ「市制又ハ」ヲ削ル
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
大正十四年勅令第二百四十五號ハ之ヲ廢
止ス
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=54
-
055・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 只今上程ニナリ
マシタ家畜傳染病豫防法中改正法律案ノ大
要ヲ茲ニ御說明申上ゲマス、牛ノ傳染性肋
膜肺炎ノ防遏ニ關シマシテハ、一昨年七月
緊急勅令ノ發布ヲ仰ギマシテ、昨年ノ五十
一議會ニ於キマシテ、諸君ノ御承諾ヲ得タ
ノデアリマスガ、其後ノ經過ニ徵シマスト、
此緊急勅令ヲバ本法ニ統一スルノ必要ヲ認
メタノデアリマス、又流行性鵞口瘡ニ付キ
マシテハ、最近歐米ニ於ケル流行ノ狀態竝
ニ其病勢ニ鑑ミマシテ、本病ニ感染スル虞
アリト認メマスル家畜ハ、牛ノ傳染性肋膜
肺炎ニ感染スル虞アリト認メタル場合ニ處
置スルト同様ノ處置ヲ講ズル必要ヲ認メタ
ノデアリマス、又傳染病豫防ノ爲ニ家畜ノ
出入往來ヲ禁止シ、又ハ隔離シタ等ニ依リ
マシテ、自活スルノ困難ナル者ガ生ジタル
場合ニ於キマシテハ、其者ニ對シテ生活費
トシテ手當ヲ支給スルノ規定ヲ設ケタノデ
アリマス、其他檢疫ノ場合ニ於キマシテモ、
殺シマシタ家畜或ハ毀却致シマシタ物品ニ
付キマシテモ、相當ノ手當金ヲ交付スル事
ト致シ、家畜ノ屍體ノ利用ノ範圍ニ付キマ
シテモ、是ガ擴張ヲ圖ッタノデアリマス、右
ハ本案ノ大體デアリマスルガ、其他或ハ病
名、或ハ法令ノ改廢ニ伴フ字句ノ整理等モ
ゴザイマスガ、何卒御審議ノ上御協賛アラ
ンコトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=55
-
056・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 本案ニ對シテ質
疑ノ通告ガアリマス、高橋熊次郞君
〔高橋熊次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=56
-
057・高橋熊次郎
○高橋熊次郞君 畜產ノ發展ノ上カラ家畜
ノ傳染豫防ノ必要ナルコトハ、申ス迄モナ
イノデアリマス、併ナガラ私ハ此改正ニ方ッ
テ、尙ホ幾多看遁サレタル事實ガアルノデ
ハナイカト云フ事ヲ考ヘマスルト同時ニ、
家畜ノ傳染病豫防ニ對シテハ、徹底的ノ方
策ヲ從來講ゼラレナカッタ、是ガ爲ニ社會
竝ニ畜產業者ハ非常ナル脅威ニ陷ッテ居ル、
而シテ簡單ニヤリ得ベキモノモ等閑ニ付シ
テ居ルト云フ傾ガ認メ得ラレルノデアリマ
ス、是等ニ付テ逐次質問ヲ致シタイト思フ
ノデアリマス、素人ノ言フ事デアルカラ、
ハッキリシナイ事モアルダラウカラ、氣ヲ付
ケテ御聽取ノ程ヲ願ヒタイト思フノデアリ
マス、先ヅ狂犬病デアリマスルガ、御承知ノ
通リ狂犬病トハ、犬ガ氣違染ミタコトヲヤ
ルノデアリマス、病毒ヲ持ッテ居ル犬ガ人
間ニ嚙ミ附ケバ、人間ハ恐水病ト云フコト
ニ相成ル、又牛馬或ハ羊豚ナドニモ喰附キ
マスルト、ソレ〓〓同ジヤウナ病氣ニナル
恐ロシイモノデアリマス、然ルニ政府ハ之
ニ對シテ從來執ッタ方策ト云フモノハ、野犬
撲殺ト云フ事ヲ從來奬勵ナサリ昨年カラ金
六万圓ヲ各府縣ニ御分布ニナッテ、野犬ヲ
撲殺シヤウト云フノデス、ソレデ野犬ハ見
付カッタモノヲ撲殺スル、政府ノ人とノ說
明スル所ニ依ルト云フト、從來犬ヲ撲殺ス
ルト云フ事ヲ嫌フノハ、間違タ夕デアル、
デアルカラ犬ヲ過度ニ保護セズシテ、成ベ
ク無用ナル犬ハ隱蔽セズシテ、之ヲ手傳ッ
テ殺シテシマハナケレバナルマイ、斯ウ云
フコトニナル、併ナガラ野犬ト申シマシテ
モ、畜犬ト申シマシテモ、其區別バ法律デ定メ
テアルケレドモ、實際ニ於テ頸環ニ何カ標
章ガ附ケテアルカナイカト云フ事ナンデス
人間ダト云フト行儀ノ良イ者ハ-惡イ者
ハ仕方ガナイガ、行儀ノ良イ者ダト、何カ
頸ニ附ケテ貰ヘバ、生涯持ッテ居ヤウト云
フ精神ガアルケレドモ、犬ハサウ行カヌ、
斯ウ云フ邪魔ノ物ハ何トカシテ取シテシマ
フト云フコトニナルト、實際野犬デアル
カ、畜犬デアルカト云フ區別ガナイノデア
ル、殊ニ人口增殖ト云ッテ、大分人日問題
ガ今日我國ニ於テハヤカマシイガ、人間ハ
マア二ツ子モ產ム、三ツ子モ偶ニ產ミマス
ケレドモ、大〓一ツ子デアル、併ナガラ犬
ト云フ奴ハ大〓十以上產ム、而シテ其蕃殖
モ亦中ニ旺盛デアリマシテ、生レテ六箇月
ニナルト、大〓ノ犬ハ受胎ヲスルト云フコ
トニナル、馬鹿ニ早熟ナノデアリマス、而
モ四箇月デー人間ハ十二箇月約一年ヲ費
スガ、犬ノ方ハ四箇月位デドン〓〓產ンデ
シマフ、斯ウ云フコトニナルノデアリマス
カラ、此方面ノ事ヲ考慮致シテ、犬ヲ蕃殖
セシメナイト云フ事ヲ何故御考ニナラナイ
カト云フコトヲ吾々ハ聞カナケレバナラヌ
(拍手)幾ラ撲殺ヲ奬勵シテモ、片方デ拵ヘ
テハ撲殺スルト云フコトニナッテ居ル、總
テ政府ノヤル事ハ斯ウ云フ風ナンデス、「ペ
スト」ガ流行シテ來ルト鼠ヲ買上ゲル、鼠卜
云フ奴ハ「ペスト」ノ時バカリ蕃殖スルモノ
デハナイ、每日々々鼠算ト唱ヘテ、一番ノ-
モノハ一箇年ニ百四十万匹ニモナラウト云
フノデス(笑聲)犬モ其通リデス、野犬ダト
云ッテ撲殺シテモ、後カラ後カラ野犬ガ製
造サレルト云フコトニナル、何故之ヲヤラ
ナイカ、ソコデ此犬ノ蕃殖ヲ林ズルニハド
ウスルカト云フト二通リアル、一方デハ役
ニ立タナイ牡犬ヲ皆去勢シテシマッテ睾丸
拔ヲスル、ソレヲヤッテシマヘバ子孫ノ蕃
殖ヲヤラヌコトニナル、ソレデナケレバ牝
犬ノ卯巢ヲ取シテシマフト云フ方法モアル、
斯ウ云フ事ハ我國ニ於テヤラナイダケデ、
歐米先進國ニ於テハ皆ヤッテ居ル、何ガ故ニ
我國ノミ之ヲヤラナイカト云フコトガ、私
ノ第一ノ疑問ナンデス(「熊ノ暴レル時ハド
ウスル」ト呼フ者アリ)熊ダノ虎ダノト云云
ノハ問題ニナラヌ(笑聲)ソレカラ犬ニ致シ
マシテモ、外國デハ犬ニ對シテ往來ニ野放
シニシタリ、或ハ往來ヲ步クヤウナ時分ニ
ハ、必ズ何カロヲ覆フ所ノ被覆物ヲ掛ケテ
居ルノデアル、ソレデナケレバソレヲ繫留
シテ、人家カラ放サナイト云フコトニナル、
斯ウ云フ禁ヲ破ッタ者ハ、非常ナル重重ニ
處セラレルト云フコトニナルノデアル、重
刑ト云フト三月以下ノ徵役ト云フヤウナコ
トヲ聯想サレルガ、ソンナ事ハシナイ、十
圓以下ノ罰金ニ處スルト云フ位ノ所デアリ
マスケレドモ、兎モ角モ相當重イ科料ニ處
セラレルノデアル、斯ウ云フコトヲ諸國デ
ヤッテ居ル、殊ニ恐水病ノ本場ト唱ヘラレ
タ英吉利邊リハ、今日ハ殆ド恐水病カラ「リ
ース」サレマシテ、解放サレタト云フコト
ニ相成シテ居ルノデアリマス、斯ウ云フヤ
ウナコトガ一方ニアリ、又我國ニ於テハ學者
諸君ノ〓究ニ依シテ、此恐水病ニ對スル所
ノ豫防液ト云フモノ、或ハ血〓ト云フモノ
ハ世界ニ冠タルモノガ獸疫調査所ヤ北里
傳染病〓究所デ製造サレテ居ルノデアル、
從來ハ十八囘モ注射シナケレバ完全ナ豫防
力ガナカッタ、ソレガ一回注射シタヾケデ
一年ダケハ安全デアルト云フコトニ相成シ
テ居ル、斯ウ云フ立派ナ豫防液ヲ、我ガ設
備ノ貧弱ナル獸疫調査所ヤ民間ノ北〓カラ
出シテ居ルト云フコトハ、所謂我國ノ一大
誇リデアル、汎太平洋會議ノ時ニ於テモ、
此處デモソレガ立派ニ報告サレ、近藤ト云
フ技師ニ依シテ發表サレテ、世界ノ稱讃ヲ
得タト云フコトハ、吾々ハ名譽ト致シタ所
デアル、斯ウ云フ物ガアッテ世界ニ冠タル
モノデアル、日本ノヤウナ完全シタ豫防液
ハ世界ニ無イノデアル、亞米利加ニ僅ニアル
ケレドモ、矢張リ日本邊リノ指導ヲ俟タ
ナケレバ完全シタモノハ出來ナイ、斯ウ
云フコトデアル、而シテ此病毒タルヤ
人間ニ感染スル、年々日本デ行ッテ居ル
ノハ約二万人位ニ對シテ、豫防注射ヲ
ヤッテ居ルノデアル、サウスルト人間ハ十
八日ヤラナケレバ相成ラヌ、其爲ニ職工ノ
如キハ、一年ニ十八日休マナケレバナラヌ
ト云フコトニナルノデアル、是ハ獸ノ病氣
バカリデナク、實ニ吾々ノ活動ヲ阻害スル
所ノ脅威スベキ一ツノ病源デアリマス、左
樣デアリマスルカラ、私ハ斯ノ如キコトニ
對シテハ、政府ハ出來ルダケノ施設ヲヤラ
ナケレバナラヌ下思フノデアル、然ルニモ
拘ラズ、從來微溫的ノコトヲヤッテ居ラレ
ルノハドウ云フ譯デアルカ、斯ウ云フヤウ
十、ヤレバ出來ルコトヲ何故ヤラナイノデ
アルカ、サウ云フコトヲ六万圓ノ金ヲ以テ
野犬ヲ撲殺スルニ使フナラバ、別ニ法律ヲ
拵ヘテ、犬ノ去勢ヲヤルト云フヤウナコト
ノ法律ヲ設ケルトカ、或ハ飼主ニ向シテ、犬
ト云フモノハ野放シニシテハイケナイト云
フヤウナ法律ヲ拵ヘタナラバ、直ニ是ハ實
行出來ルト思フノデアリマス、一方ニ於テ
ハ、犬ト云フモノハ泥棒ノ用心ニナルト云
フケレドモ、泥棒ノ用心ニナルト一云フ犬ハ
何處ニ在ルカ、泥棒ノ用心ニナルト云フヤ
ウナ犬ハ特殊ノ犬デアル、「ブルドック」ト
云フヤウナ特殊ノ犬デアル、或ハ「シープ
ハンド」ト云フ羊ノ番ナドヲヤル、斯ウ云
フ犬ニ限ル、斯ウ云フモノハ野放シニシテ
置イテハ其效力ガ無イ、夜分ダケ放スコト
ニシナケレバ何等其效力ハ無イノデアル、
犬ガ邪魔ニナッテ泥棒ガ家ニ忍ビ込メナイ
ト云フヤウナ犬ハ、恐ラク世ノ中ニ存在致
スマイト思フ、泥棒ノヤウナ人ハ、諸君ナ
ド傍聽者ニモ無イカラ私ハ安心シテ言フノ
デアルケレドモ、馬ノ肉ヲ油煎リニシテチ
ヤント「ポケット」ニ入レテ居ル、ソレヲ遣
ル、サウシテ敏感ナル犬ヲ馴ラスニハ、
週間モ前カラチヤント自分ノ唾ヲ附ケテ犬
ノ好ミサウナ物ヲ與ヘル、唾ニ依シテ其人ノ
自分ニ好意ヲ表スル者ヲ覺エル、サウスル
ト其人ノ足音ガ其人ノ臭ヒガスレバ、犬ハ
戶ヲ開ケテ待シテ居ルト云フヤウナ工合デ
アル、ソレガ矢張內閣アタリデハ、人間ヲ
犬ノ代リニ使フナドト云フ大臣モ居ルカ
ラ、ソンナ事カラ犬ト云フモノハ役ニ立ツ
ト云フヤウナ間違ヲタ考デハイケマイト私
ハ考ヘテ居ルノデアル、斯ウ云フコトデア
ルカラ、此野犬ノ掃蕩ト云フコトニ付テ
ハ、更ニ一段ノ考慮ヲ費サレタイ、私ノ申
上ゲマスルコトハ、私ノ獨創ノ意見ヂヤナ
イ、畜產家ハ皆之ヲ唱ヘテ居ルノデアリマ
ス野犬ノ爲ニ恐水病ノ豫防ヲスルバカリ
デナク、是ガ爲ニ緬羊ノ防疫モ、我國デハ
强要サレテ居ル、鷄ニモ是ガ强要サレテ居
ルノデアル、犬ハ農村ニ於テ厄介物デア
ル、犬ノ效力ノ無イモノニ對シテ唯〓之ヲ
養ッテ居ル、其食糧ハ殆ド人間ノ一人前ノ
食糧ダケハ之ヲ授與スルノデアル、左樣デ
アリマスカラ、食糧ガ動モスルト不足スル
我國ニ於テハ、特ニ此犬ト云フモノハ大キ
チ問題デアル、ソレデアリマスカラ、農林
大臣ハ私ノ申上ゲルヤウナコトハ既ニ御考
デアラウト思フカラ、將來ドウ云フ工合ニ
其理想ノ實現ヲ爲サルヽ御積リデアルカト
云フコトヲ私ハ伺シテ見タイト、斯ウ思フノ
デアリマス、又鷄ニ付テハ、鷄「コレラ」ト
云フモノガアル、鷄「コレラ」ト云フモノハ
恐ルベキモノデアル、ソレニ罹レバ忽チ一
時間カ二時間見テ居ル間ニ發熱ヲ致シ、ソ
レガ頓死ヲ致ス、恐ルベキモノデアルガ、
是ハ淘ニ例ガ少イ、我國ニ於テ中々例ガ少
イモノデアル、ソレヨリ一番恐ロシイノハ
雛ノ下痢症デアル鷄ノ「ヂフテリア」デア
ル、「ヂフテリア」ノ如キモ是ハ今迄ハ感冒
デアル、「ループ」デアルト云ッテ非常ニ蔑
ロニサレタメデアリマスケレドモ、是モ亦
世界ニ冠タル我國ニ於テ大發見ヲ致シタ、
例ノ設備ノ貧弱ナル所ノ西ケ原ニ在ル獸疫
調査所ノ技師中村博士ガ之ニ付テ〓究ヲ致
シ、其病菌ヲ見付ケ、更ニ是ノ血〓ヲ見付
ケ、豫防液モ製造致シテ、世界ニ冠タル成
蹟ヲ舉ゲテ居ルノデアル、ソレデアルカラ
何ガ故ニ是ガ普及ヲ圖リ、豫防注射ヲ致シ
テ、天下ノ養鷄業者ヲシテ安心シテ其養鷄
業ニ從事セシムルト云フ方法ヲ執ラナイカ
ト云フコトハ、私ノ一ツノ疑問デアルノデ
アリマス、而シテ又一方ニ於テハ、政府ハ
七十万圓モ金ヲ掛ケテ種鷄場(「簡單」ト呼
フ者アリ)種鷄場ノコトヲ言ハレルト思ッ
テ、簡單ト云フ聲ガ憲政會アタリデ聞エル
ヤウデアリマスケレドモ、斯ウ云フ種鷄場
ト云フヤウナモノヲ拵ヘテ、斯ウ云ア澤山
ナ金ヲ費サレル、而シテ伺フ所ニ依ルト、
三日カ四日過ギタ所ノ小サナ雛ヲ、養鷄業
者ニ送ッテヤル、之ニ依シテ品種ノ改良ヲ致
スノダナドト云フ、笑ハサレルヤウナコト
ヲ言ハレルノデアル、マルデ子供騙シ見タ
ヤウナモノダ、ソレヨリ一番困シテ居ル所
ノモノハ何カ、雛ノ下痢症デアル、生レテ
カラ二日カ三日、アナタ方ガ種鷄場ヲ拵へ
テ、是カラソレニ雛ヲ送リ出スト云フ時
ニ、既ニ其雛ノ中ニ死ニカヽル、此下痢
症ハ殊ニ愛知縣ニ最モ多イ、出雛ノ三割四
割ハ之ニ依シテ斃サレツヽアル、何故之ニ付
テ徹底的ニヤラナイカ、何故斯ウ云フ下痢
症ト云フヤウナモノヲ此豫防法ニ入レナイ
カ、是ハ世界ヲ擧ゲテノ問題デアル、我國
ノ問題バカリヂヤナイ、重大ナル世界的國
題デアル、而シテ亞米利加邊リデハ、之ニ付テ
ハソレ〓〓ノ方法ヲ用キテ居ル、卽チ獸疫
調査所ノヤウナ所ガアッテヤッテ居ル、此鷄
ノ下痢症ハ親鷄ニモアル、親鷄ニ下痢症ノ
黴菌ガアッテ、ソレヲ鷄ノ子ニ傳ヘル、卵
ノ中ニ產ミ落ス際ニ、ソレガ傳ハルコトモ
アリマス、或ハ卵ノ殻ニ傳ハルコトモア
ル、或ハ牡ニアルト、牡ト牝トガ一緒ニナル
時分ニ、肛門ノ端ヘヒリ付ケテアルト云フコ
トモアル、斯ウ云フヤウナ色こナ厄介ナコ
トガアル、斯ウ云フコトハ、先程花柳病傳
染豫防法ニ付テ、諸君ハ豫備知識ヲ持ッテ
居ラルルカラ、大體ヲ話シテモ分ルダラウ
ト思フ、斯ウ云フヤウナ事ガ行ハレル、サ
ウスルト親ニ其病氣ヲ持テ居ルト、其病氣
ト云フモノハ、完全ニ雛ニ遺傳サレルト云
フコトニ相成ルノデアリマス、左樣デアリ
マスカラ、亞米利加邊リデ現今ヤッテ居リ
マスノハ、當業者ヨリ其一ツノ種鷄、親鷄
ト云フモノヽ血液ヲ何ボデスカ、僅ナモノ
デセウ、一寸五分ヤンコラノ試驗管ノ中ニ、
僅カ半分位デスカラ、一「グラム」位ト云フ
位ノモノデアリマス、私ハ專門家デナイカ
ラ分ラヌガ、血液ヲ取リマシテシレヲ一ツ
ノ箱ニ入レテ、ソレヲ獸疫調査所ト云ッタ
ヤウナ所、サウ云フ設備ノ所ニ持ッテ行ク、
サウシテ是ハサウ云フ血液ガ有ルカ無イ
カ、卽チ下痢症ト云フヤウナモノニ羅ッテ
居ルカ、罹シテ居ラナイカト云フコトヲ撰
リ分ケテ、罹ッタト云フ通知ガアレバ皆之
ヲ撲殺シテシマフ、サウ云フコトヲ致シテ
此下痢症ト云フモノヲ無クシテシマフ、撲
滅シテシマフト云フコトニ努メテ居ル、サ
ウ云フコトヲ抛ッテ、サウシテ一方ニ於テ
種鷄場ナドノ設備バカリサレテ、之ニ依ッ
テ我國ノ此鷄卵ノ自給自足ガ出來得ルナド
ト考ヘラレルノハ、大變十間違デハナイカ
ト考ヘテ居ル、ソレデアリマスカラ斯ウ云
フ家畜傳染病豫防法ヲ設ケル場合ニ當ッテ、
何故是等ノ事ヲ此中ニ加ヘラレナカッタカ
ト云フコトニ付テ伺シテ見タイ、是ハ今度
ハ出來ヌガ、來年アタリデモヤル積リデアッ
タト云フヤウナコトヲ答ヘラレルカ、或ハ
現內閣ノ專賣特許デアル所ノ調査〓究中デ
アルト云フ御言葉カ、其邊ヲハッキリ申シ
テ貰ヒタイ、斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマ
ス(拍手)ソレカラマダ色こアルノデアリマ
スガ、諸君ガ騒ガレルト云アト、本員ハ逆
セ上ッテ、サウシテ質問ヲ簡單ニヤルコト
ハ出來ヌヤウニナリマスカラ、ドウカ御靜
ニ願ヒタイト思ヒマス(拍手)又一方ニ於キ
マシテハ、此法案ニハ無イノデアリマスケ
レドモ家畜、殊ニ牛ノ結核ト云フモノニ對
シテハ、非常ニ當業者ガ困ッテ居ル、昔ハ
結核ト云フモノハ牛ニハ無カッタケレドモ、
外國カラ殊ニ和蘭、亞米利加邊リカラ來マ
シタ所ノ「ホルスタイン」種ト云フヤウナモ
ノガ、日本ニ入ッテ來テ以來、人ノ知ラザル
間ニ結核ノ黴菌ガ滿チ々々テ居ル今日畜業
家ガ困シテ居ルノハ結核デアル、其外ニ此豫
防法案ニ揭ゲテアルヤウナ幾多ノ病氣ハ、ン
レハ罹レバ恐ロシイ、人間ニモ感染スルヤウ
ナ病氣モ澤山アル、併ナガラソレハ豚「コ
レラ」、或ハ豚「ロース」ト云フヤウナモノ
ヲ除イテ、又狂犬病ヲ除ゲバソレハ微々タ
ルモノデアル、一年ニ出ルカ出ナイカト云
フ位ノモノデアリマス、牛ノ炭疽病ト云フ
モノハ、年百五六十頭乃至二百頭位近頃ハ
出テ居リマスケレドモ、其外ハ微々タルモ
ノデアル、斯ウ云フコトニノミカヲ用ヒ
テ、普遍的ニ在ル所ノ結核ト云フモノヲ撲
滅スル方法ヲ執ラナイカト云フコトヲ、私
ハ不思議ニ思ヒマス、而シテ是ハ人間ノ肺
結核ト牛ノ結核トハ病菌ガ違フノデアルト
云フ、サウ云フヤウナコトモアリマセウケ
レドモ、併ナガラ五歳以下ノ小兒ノ腸結核
デアルトカ、或ハ腦膜炎ト云フモノハ、主
ニ牛乳ノ中ニ在ル所ノ結核菌ノ作用デアル
ト云フコトハ、是ハ學者ノ認メテ居ル所デ
アル、實際家ノ普通ノ人ハ皆ソレヲ知ッテ
居ル、ソレデアルカラ牛乳ニ熱ヲ掛ケテ百
度近クニ熱スル、法律ハ八十度以上ニ之ヲ
熱シテハイカヌト云フノデ禁ジテアル筈デ
アリマス、左樣デアリマスカラ、百度近ク
ナレバ最モ大切ナ「ヴイタミン」ノ成分ガ破
攘サレテシマフ、サウ云フ危險ヲ冒シテモ
此牛乳ヲ溫メテ用ユルト云フモノハ、小兒
ノ衞生ト云フコトヲ、考ヘテ居ルノデアリ
ママ、左樣デアリマスガ故ニ、何故ニ此結
核ト云フモノヲ撲滅スル方法ヲ、モウ少シ
徹底的ニ執ラレナイカ、家畜傳染病豫防法
ノ中ニ何故徹底的ノ方法ヲ執ラレナイカト
云フコトガ、私ノ疑問ノ一ツデアル、之ヲ
改正ナサル時分ニ、此家畜傳染病豫防法ヨ
リモ早ク出來タ所ノ、牛ノ結核豫防法ト云
フモノヲ何故是ト同一ニ致シテ、サウシテ
モウ少シ徹底的ナ撲滅方策ヲ講ゼラレナ
カッタト云フコトハ、是ハ畜產家トシテ非
常ニ疑問トシテ居ル所デアル、斯樣ナ議論
ト云フモノハ旣ニ省内ニハ滿チ々々テ居ル
筈デアリマス、左樣デアリマスカラ、大臣
ノ御耳ニハ度ミ入ッテ居ルト思フ、然ルニ
今囘ソレニ何故手ヲ御著ケニナラナカッタ
カト云フコトヲ私ハ此際承リタイ、吾々畜
產家ノ心配致シテ居ル所ノ此結核病ト云フ
モノヲ、將來驅逐シ、撲滅スル方策ハ他ニ
在ルカドウカト云フコトヲ、此際承ッテ置
キタイ、斯ウ思フノデアリマス、尙ホ私ハ
此場合馬ノコトニ付テ承ッテ見タイ、馬ノ
コトニ付テハ八田先輩カラ度〓此壇上ニ於
テ絕叫サレタヤウデアルケンドモ、私ハ馬
ト云フ物ノ進步シナイ一ツノ原因ハ、馬ト
云フ物ガ非常ニ飼養シ惡イ、殊ニ西洋カラ
改良サレタ馬ノ種類ガ我國ニ入ッテ來テカ
ラ以來、馬格ト云フモノハ大變進步致シマ
シタ、馬ノ形ト云フモノハ立派ニナリ素質モ
向上致シマシタ、ソレト共ニ體質ハ弱ク
ナッタト云フコトハ爭ハレナイ、弱クナッタ
バカリデナク、我國ニ於テハ夢ニモ見ラレ
ナカッタ所ノ病氣ヲ外國カラ持シテ來タ、卽
チ傳染性貧血症、骨軟症ト云フヤウナ症狀
ガ出來テ居ル、此傳染性貧血症ト云フモノ
ニ向ッテハ、政府モ氣付カレタト見エマシ
テ、是ハ放任シテハイケナイト云フノデ、
之ヲ撲滅スル爲ニ一頭ニ十五圓、十二圓ヲ
給スル、之ヲ千五百頭ニ對シテ幾ラト云フ
モノガ、今年ノ豫算ニ現ハレタヤウデアリ
マス、之ニ氣付カレタト云フコトハ宜シイ
ガ、其位ノ事デドウシテ是ガ防ギ得ラルヽ
カ、何故ニ此家畜傳染病豫防法ノ中ニ規定
ヲ設ケテ、徹底的ニ之ヲ取締ラナイカト云
フコトヲ、私ハ此場合承ラナケレバナラ
又、又一方ニ於テハ骨軟症ト云フモノガ非
常ニアル、大臣ハ幸ニ秋田縣ノ御出身デア
ル、秋田縣ハ馬產地デアルカラ馬ニ付テハ
能ク御承知ノ筈デアル、秋田縣ハ六千頭ヲ
產スル中、他ニ行クノハ四千頭、其中二千
頭ハ山形縣ニ出テ行ク、ソレガ皆骨軟症ニ
罹ッテ居ルカラ二歲デ入ッテ來テ四歲五歳ニ
ナルト斃レテシマフ、斯ウ云フヤウナ馬鹿
奧イコトハナイト山形ノ畜產家ハ叫ンデ居
ルノデアル、而シテ是等ニ對シテ(「買ハナ
ケレバ宜イヂヤナイカ」ト呼フ者アリ)買ハ
ナケレバ百姓ガ出來ヌト云フコトニ相成
ル、農事ヲ知ラナイ者ハサウ云フヤウナコ
トヲ叫ブノデアル、吾々ハ買ハナケレバ百
姓ガ出來ヌ、又收支計算ガ合ハナイ、自給
肥料ヲ得ルコトガ出來ナイカラ金肥ヲ入レ
ナケレバナラヌ、殊ニ東北ノ地方ハ地面ガ
痩セテ居ルノデアル、又日光ノ放射ガ少イ
ノデアル、是ニ於テ是非トモ成熟シタル畜
產ニ依シテ拵ヘタル堆肥ト云フモノヲ使ハ
ナケレバナラヌノデアリマス、ソレデアリ
マスカラ危險ヲ冒シテ吾々ハ馬ヲ飼ヒ、牛
ヲ飼シテ居ルノデアリマス、ソレニモ拘ラ
ズ斯ウ云フ危險ガ後カラ後カラ伴ッテ來ル
ノデアリマス、殊ニ秋田縣ノ如キハ「ペル
シロン」ト云フ重格輓馬ヲ入レテ居ル、サ
ウ云フヤウナ見ルカラニ恐ロシ氣ナ馬デア
ルガ、此頃ハ陸軍デハ御買上ニナラナイ、
何故カト云フト、骨ガ細クテ使役ニ堪ヘナ
イト云フヤウナ色〓缺點ヲ擧ゲラレテ居
ル、何故斯ウ云フモノヲ奬勵シタカト云フ
コトニ付テ吾々ハ聞キタイ、而シテ此「ペ
ルシロン」ト云フヤウナ馬ヲ產スル佛蘭西
ノ「ペルシエーン」、「ノルマンデイー」ト云
フヤウナ所ハ肥沃ナ所デ、殊ニ世界ニ冠夕
ル「アルフアルフアー」ト云フヤウナ牧草ガ
繁茂シテ居ルト云フコトヲ吾々ハ聞イテ居
ル、サウ云フヤウナ立派ナ草デ改良サレタ
モノガ、更ニ亞米利加ニ行ッテ改良サレテ、
ソレガ我國ニ來テ貧弱ナル草ヲ食シテ居ル、
現ニ秋田縣ノ御物川ノ近邊ニ行シテ御覽ナ
サイ、私モ一日行シテ見タガ、藁ヲ四五寸ニ
切ッテ振撤イテ居ル、何ヲシテ居ルノカト
云フト、藁ヲ振撒イテ草ヲ刈ラナケレバ短
クテ草ヲ集メルコトガ出來ナイ、斯ウ云フ
ヤウナ草デ「ペルシロン」ノヤウナ馬ヲ飼フ
コトガ出來ルカドウカ、是ハ農林大臣ノ地
元ノ秋田縣下ニ於ケル所ノ一ツノ事實デア
ルノデアリマス、斯ウ云フコトヲヤッテ幾
ラ奬勵ヲ致シテモ、馬產ノ進歩スル道理ハ
無イダラウト思フ、又其拂下價格モ、陸軍
ノ軍馬補充部邊リデヤッテ居ル馬ノ買上ゲ
ヲ御覽ナサイ、四五年前ト今日トドンサ率
ニナッテ居ルカ、斯ウ云フ事ヲ考ヘマスト、
洵ニ馬產家ナドト云フモノハ困ッタモノダ、
ソレニ政府ハ一定ノ標準ヲ立テラレテ、或
ハ三十年計畫ノ中十八年過ギテ、十五年度
ヨリ十箇年計畫ニ入ッタト言ハレル、併ナ
ガラ計畫ハ立ッテ圖面ハ出來上ッタガ、偖實
地取掛ルト何ヲシテ居ラレルノカ、今年ハ
漸クニシテ七万カソコ等ノ金ヲ出シテ種牡
馬ヲ御買上ニナルヤウデアル、併ナガラ斯
ンナ事ヲシタ位デドウナルモノカト吾々ハ
考ヘテ居ルノヂアリマス、左樣デアリマス
カラ百五十万頭ヲ維持スルト云フ大計畫ノ
下ニ、此樣ナ不徹底ナコトデ政府ハ滿足シ
テ居ラレルノカ、斯ウ云フコトヲ私共ハ伺
ハナケレバナラヌ、家畜傳染病豫防法ヲ御提
出ニナルニ付テハ、此議會ニ色ニナ法案ガ
山積シテ居ル間ニ、是ガ提出サレルト云フ
コトニ付テハ餘程ノ必要ヲ感ゼラレルコト
ト思フノデアル、斯ウ云フコトヲ段々言ッ
テ居ル間ニ、私ハ非常ナ疑問ヲ持タナケレ
バナラヌ、斯ウ云フ傳染病ダトカ或ハ漏レ
夕所ノ脅威スベキ傳染病、流行病ト云フモ
ノハ畜產界ニ澤山アルノデアル、而シテ之
ヲ撲滅シ之ヲ少クスル、或ハ罹シタモノヲ
治療スルト云フニハ、獸醫ノ向上發展ヲ圖
ラナケレバナラヌ、ソレデアルカラ獸醫師
法案ト云フモノヲ曩ノ五十一議會ニ提出シ
テ、議會閉會ノ間際デアッタケレドモ、非
常ナ努力デ以テ之ヲ御通シニナッタ、而シ
テ議員モ愼重ニ審議ヲ致シテ、之ニ付テ修
正モ致シタノデアル、而シテ是ガ法律ト相
成ッテ十五年四月七日ニ御裁可ヲ經テ御公
布ニナッタ、然ルニ未ダ施行期日ト云フモ
ノヲ定メラレナイ、重要ナ法案トシテ委員
會ニ於テモ、本會議ニ於テモ、貴衆兩院ヲ
通ジテ問題トナッタ所ノ、家畜トハ何ゾヤ
ト云フ定義ヲ勅令デ定メルコトニナッテ居
ルソレヲマダ御定メニナラナイ、政府當
局ノ言ハレルニハ、家畜ノ定義ナドハ常識
デ判斷出來ルデハナイカト、委員會デ絕叫
サレタコトハ吾々ノ耳朶ニ新ナル所デア
ル、常識デ判斷サレルヤウナ朝飯前ノ仕事
ヲ、前ノ議會デ決議サレタコトヲ、後ノ議
會ノ半バヲ過ギタ今日ニナッテモ、マダ御
出シニナラヌト云フノハ政府ノ怠慢ナノデ
アルカ、畜產業ニ冷淡ナノデアルカ、何
方デアルカト云フコトヲ改メテ此壇上ヨ
リ御聞申シタイト思フノデアリマス、
是ハ委員會デ伺ッタケレドモ徹底シナカッ
タ、之ニ似タヤウナコトヲ-尤モ聲ヲ低
クシテ申上ゲタカラ徹底シナカッタカモ知
レマセヌガ、サウ云フコトヲ申上ゲタコ
トニ付テ、何等御答ガ無カッタノデア
リマスルカラ、序ニ此所デ御伺ヲ致スノ
デアリマス、左様デアリマシテ畜產ノ
事ニ關シテハマダ〓〓幾多ノ事ガアルノ
デアリマス、殊ニ此農村ニ於テ畜產ト云フ
モノハ非常ニ必要ナノデアル、肥料ノ自給
自足ト云フモノガ必要デアル、食糧計畫ト
云フモノヽ中ニハ畜產ト云フモノガ必要デ
アル、殊ニ農村ニ於テ米バカリ食ッテ居ル、
米ノ糠ヲ去ッタ白米ト云フモノハ大部分ハ
澱粉ダ、吾々ノ體格ヲ維持スル所ノ骨ヤ肉
ニナル蛋白質ト云フモノハ澤山ハナイ、殆
ド痕跡見タヤウナ物デアル、ソレデアルカ
ラ體格ヲ維持シヤウト云フノデ、米ヲ澤山
食フカラ胃擴張ニナッタリ何カシテ、農村
ノ者ガ死亡率ガ多イト云フコトニナルノデ
アリマス、ソレデアルカラ之ヲ補充スルニ
ハ畜產ニ依ラナケレバナラヌ、ソレニハ是
非共蛋白質ノアル牛肉ヤ、豚肉ニ依ラナケ
レバナラヌコトニナル、所ガ又都會ニ於テ
モ牛肉ヤ豚ハ非常ニ高イ、ソレデアルカラ
安イ馬肉ヲ買フト云フノデ、馬肉ガ非常ニ
賣レル、隨テ日本ノ馬ト云フ物ハ、是ハ使
ハレルヨリ皆馬肉ニナッテ鍋ノ中ニ飛込ム
ト云フコトニナル、是デハ何十年掛ッテモ、
三十年計畫デモ五十年計畫デモ、到底百五
十万頭ハ維持出來ナイト吾々ハ考ヘテ居ル
ノデアル、ソレデアルカラ斯ウ一云フコトニ
付テハ、餘程徹底的ニ政府ハ御考ニナラナ
ケレバナラヌ、ソレデ最後ノ質問ト致シテ
私ハ二ツノ點ヲ御伺ヲ致シタイ、斯ウ云フ
ヤウニ幾多ノ家畜ノ產業ニ付テハ、所謂畜
產業ニ付テハ農村ニ於テ當業者ガ苦ンデ居
ル問題ガアル、就中最モ苦シイノハ家畜ニ
對スル金融ノ問題デアルノデアリマス、大
藏大臣モ之ニ付テハ餘程御考デ、農村ノ金
融ハ一日モ忘レタコトガナイ、忘レタコト
ハナイカモ知レナイケレドモ、思出シタコ
トモナイト思フ(笑聲)サウ云フヤウナコト
デアルカラ私共ハ餘程考ヘテ居ル、併ナガ
ラ斯ノ如キ家畜ニ付テハ洵ニ不安心デア
ル、死ヌルカ生キルカト云フコトモ分ラナ
イ不安定ナ物件デアルカラシテ、之ヲ擔保
トシテ金融ノ途ヲ講ズルト云フコトハ、金
融業者ノ頗ル嫌フ所デアルノデアリマス、
左樣デアリマスルカラ、之ヲ安全ニスルニ
ハ歐米各國ニ於テ、殊ニ歐洲戰爭以來非常
ニ進ンダル所ノ家畜保險ト云フモノヲ、何
故實施サレナイカト私ハ考ヘル、農村ニ於
テ最モ大切ナル家畜ノ金融ノ途ヲ付ケル家
畜保險ト云フモノヲ、何故御出シニナラナ
イカ、大藏大臣ハ左程ニ農村ノ金融ト云フ
コトヲ心懸ケテ居ラレルナラバ、農林大臣
ガ大ニツヽ突イテ、斯ノ如キコトヲヤラセ
ルガ宜イ、既ニ斯ウ云フコトハソレ〓〓當
業者モ調査〓究ヲシテ居ルト同時ニ、政府
ノ方デハ立派ナ御役人ヲ二人モ海外ニ派遣
ニナッテ、是等ヲ徹底的ニ御調ニナリ、ソ
レ〓〓報告書ヲ大臣ノ手許ニ出テ居ル筈ダ、
歐米各國ニ於ケル墺洪ノ二ツノ敗殘國ノミ
ガ之ニ付テヤッテ居ラナイケレドモ、其他ノ
諸國ニ於テ家畜保險ニ意ヲ用ヒザル所ガ何
處ニ在ルカト云フコトヲ私ハ承リタイト思
フノデアル、斯ウ云フコトニ對シテ何等徹
底的ナル考案モナクシテ、俺ハ農村振興ヲ
ヤル、次官ノ如キハ我ガ同僚植原悅三郞君
ノ土地賃貸價格調査委員會法案ノ委員會ニ
於テ(笑聲)中々長イ-俺ハ歷代ノ内閣ノ
出來ナカッタ所ノ水源涵養ト云フモノヲ、十
八万圓モ掛ケテヤッタトカ言ッテ大ニ威張ラ
レタガ、ソレ程ニ農村ノコトニ關係ヲ持シ
テ、大ニ農村ノコトヲ考慮サレルナラバ、
何故斯ウ云フ大切ナ問題ヲ御〓究ニナラナ
カッタカ、斯ウ云フコトガ一ツデアリマス、
而シテ政府ガ言ハレル通リ、是ハ養鷄ノコ
トニ致シマシテモ其通リデアリマス、單ニ
是ハ畜產關係ノコトハ、獨リ政府ダトカ府
縣ダトカ云フ、サウ云フ自治體ノミナラズ
是ハ當業者ノ自覺又自助ニ俟ツ、斯ウ云フ
コトヲ言ハレテ居ルノデアリマス、サウス
ルニハ團體ノ力モ相當ニ御認ニナッテ居ル
ノデアリマスカラ、何故畜產組合ノ發展ヲ
積極的ニ御圖リニナラナイカ、而シテ今日
農業界ノ團體ト云フモノハ、ソレ〓〓中心
機關ヲ持シテ居ル、畜產組合ノミガ中央ニ
何等系統的ノ中心ト云フモノヲ持タナイ、
中樞無クシテ各箇〓練ヲヤッテ居ル有樣デ
アル、全國五百ノ畜產組合ガアリマスルケ
レドモ、何等統一的系統ヲ取〃テ居ナイト
云フノハ、玆ニ因スルト思フノデアリマ
ス今ヤ全國ノ畜產組合ノ豫算ハ六百五十
万圓ニ達シテ居ル、各府縣ハ漸ク二百五十
万デ、政府ノ農林省ノ豫算ナドヲ見マシテ
モ、合計シテモソンナ所ニ使ッテ居ル金ハ
五六十万圓位デアル、畜產關係ノモノヲ、
全部集メテモ三百四五十万圓位シカナイ、
是ハマダ色と見テ居ル暇ハナイガ、ソンナ
ヤウナ數字ガ現レテ參ルヤウデアリマス、
斯ウ云フヤウナコトヲ列擧致シマスト、此
內閣ハ幾ラ御威張ニナッテモ畜產ト云フコ
トニ付テハ餘リ御考ガ薄イヤウデアル、サ
ウシテ七十万圓ヲ掛ケテ鷄ノ雛ヲ配付スル
ト云フヤウナ、所謂種鷄場ト云フヤウナモ
ノヲ御造リニナッタト云フノハ、私ハ不思
議中ノ不思議ノヤウニ思ハレテ居ルノデア
ル、況ヤ此種鷄場ノ如キニ於テハ當業者ガ
言ッテ居ル所ノ、先程ノ下痢症ノコトヲ考
ヘラレナイト同時ニ、牡ヲ買シテ卵ヲ產ム
コトハナイノデ、牡ハ卵ヲ產マナイ、人間
ト同シデアル(「ソンナコトハ誰モ知ッテ居
ル」ト呼フ者アリ)所ガ當局ハ知ラナイ、ソ
レデアルカラ農家デ鷄ニ卵ヲ產マセルト云
フ計畫ノ筈デアルノニ、何故牡ヲ買ハセル
計畫ヲスルカ、雛ヲ配付スル時分ニハ牝牡
ノ區別ヲシテ、牡ハ取シテ除ケテ、卵ヲ產マ
ヌ牝バカリ配付シダラドウカト言ッタ所ガ、
政府委員ハソンナコトハ出來ヌト言フ、是
ハ情ケナイコトデアル、世界ニ冠タル農科
大學ノ曾井博士ガ發見シタデハナイカ、今
迄ハ嘴ガ大キイトカ、頭ガ扁平デアルト
カ、足ガ太イトカ、或ハ摑ンデ見テ彈力ガ
アルトカナイトカ云フコトニ依シテ雛ノ牝
牡ヲ區別シタ、今度ハ曾井博士ガ肛門ヲ開
イテ見テ、微弱ナガラ突起物ガアルト云フ
コトヲ發見シテ、是デ完全ニ牝牡ガ分ルト
云フコトデアル、斯ウ云フ世界的ノ發見ヲ
シタコトハ日本ノ大イナル名譽デアル、斯
ウ云フ世界的發見ヲシタト云フ事實ヲ活用
セラレナイト云フ內閣ガアッタナラバ、其
無責任極マレリト吾々ハ斷ゼナケレバナラ
ヌノデアリマス、斯ウ云フヤウナ事ヲヤル
ト云フコトヲ考ヘナイデ、唯、是ハ流行物
ダカラヤッタンダ、俺ノ選擧區デ騒グカラヤッ
タンダト云フ位デ御茶ヲ濁サレテハ、當業
者ハ甚ダ迷惑ヲ致スノデアル、又將來是等
ノ點ニ付テモ大ニ留意ツレテ、吾々ノ-
當業者ノ當業者ノ希望ト云フモノハ、實現
サレ得ル可能性ガアリヤ否ヤト云フコトヲ
最後ニ承ッテ、私ハ其答辯ニ依ッテハ又此壇
上ニ現ハレル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=57
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058・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 町田國務大臣
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=58
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059・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 高橋君ガ只今御
質問ノ初ニ當リマシテ、大體本案ノ改正ノ
趣意ニ對シテ御贊成下サッタノハ、私ノ感謝
スル所デゴザイマス、唯、高橋君ハ此改正
ハ必要デアラウガ、マダ其他ニモ必要ナ事
ガ澤山アルニ拘ラズ、之ヲ閑却シタノハ遺
憾デアルト云フ意味ノコトニ付キマシテ、
御高見ヲ吾々ハ承ッタノデアリマス、高橋
君ハ農業界、經濟界ニ長ク從事サレテ居ル
上ニ、高產界ノ事ニ付キマシテハ十數年ノ
間指導ノ責任ヲ執ッテ居ラレタ方デアルト
承知シテ居リマス、殆ド專門家ヲ凌グ御高
見ヲ承ッタノデアリマスガ、私カラ之ニ對
シテ御答ヲ致シテモ、御滿足ヲ得ヌコトヽ
確信致シマスルガ故ニ、委細ハ委員會デ專
門家カラ御答致スコトヽ致シマス、唯〓私
トシテ一言申シテ置キタイノハ、昨年ノ議
會デ皆サンノ御協贊ヲ得マシタ、獸醫師法
ノ施行期日ヲ定メルコトノ、マダ決定シテ
居ナイノハ只今御非難ノ通リデアリマス、
御話ノ如ク家畜ノ定義ナドニ對シマシテ
モ、多少審議ヲ要スルコトアリト私ハ斯樣
ニ考ヘテ、當局カラ出シマシタ原案ニ對シ
テ、私ノ手許デ此二箇月バカリ〓究シテ居
ルコトモアルノデアリマス、併シ昨年ノ議
會デ御協賛ヲ得マシテ、是ガ急グト云フ意
味デ御協賛ヲ得マシタモノヲ長ク此儘ニ置
クノハ相成ラヌノデアリマス、遠カラズ中
央衛生會等ノ意見ヲ聞イテ、近ク之ヲ發布
シテ、初メ御協賛ヲ得タ趣意ニ副フ積リデ
アリマス、尙ホ農村振興等ニ於キマシテモ、
畜產方面ニ對スル施設ガ少イト云フヤウナ
コトガアリマシタガ、或ル適當ナ機會ニ於
キマシテ御說明申上ゲルコトガ出來ヤウト
思ヒマス、私共トシテハ今年ノ豫算ニ於キ
マシテ、畜產方面ニ對シテモ相當ナ施設ヲ
致シタ積リデアリマス、現內閣ガ畜產ノ爲
ニ何等盡サヌヤウナ御非難デアリマシタ
ガ、私ハ數代ノ內閣ノ中ニ、此度ノ內閣ニ
至ッテ畜產方面ニ餘程留意スル傾向ヲ生ジ
テ居ルト、斯樣ニ御了解ヲ得タイト、思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=59
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060・高橋熊次郎
○高橋熊次郞君 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=60
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061・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 高橋君マダ繼續
デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=61
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062・高橋熊次郎
○高橋熊次郞君 繼續デス、簡單デスカラ
此所デ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=62
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063・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=63
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064・高橋熊次郎
○高橋熊次郞君 大藏大臣ノ御答辯ガ無イ
ヤウデアリマスカラ、大藏大臣ノ御各辯ヲ
促スト同時ニ、町田農林大臣ハ稱讃ノ辭ヲ
以テ私ノ氣勢ヲ殺ガレタ形ガアリマス、ソ
レデアリマスカラ詳細ハ委員會ニ讓リマシ
テ、農林大臣ニ對スル質問ハ是デ打切リマ
スルガ、大藏大臣ニ對スル質問ガ殘ヲテ居
リマスカラ、一言大藏大臣ヨリ明快ナル御
答辯ヲ煩シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=64
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065・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 片岡大藏大臣
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=65
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066・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 私ヘモ御尋デ
アッタ趣デアリマスガ、多分御意見トシテ
御述ニナッテ居ルコトダト思ッテ居リマシ
タ、保險ノコトハ聊カ私ハ〓究シテ居リマ
ス、併ナガラ家畜保險ノコトハヤッタコト
ハアリマセヌガ、此事ニ付テハ商工省ニ於
テ調査機關ガ出來テ今調査中デアリマス、
其決定ヲ待ノテ實行ニ移ルノ外アリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=66
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067・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 吉良元夫君
〔吉良元夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=67
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068・吉良元夫
○吉良元夫君 只今議題ニナッテ居リマス
ル家畜傳染病豫防法中改正法律案ニ付テ私
ハ極メテ簡單デアリマスガ、御尋致シタイ
ト思フ事ガアルノデアリマス、是ハ多分現
在ノ家畜傳染病豫防法ニ於テモ、斯ノ如キ
規定ガアッタト私ハ考ヘテ居リマスルノデ
アリマスルガ、此度吾〓ニ御提出ニナリマ
シタ第五條第一項ヲ左ノ如ク改ムトアル、
「地方長官傳染病豫防上必要アリト認ムル
トキハ左ニ揭グル家畜ニ付其ノ所有者又ハ
其ノ保管者ニ對シ之ヲ殺スコトヲ命ズルコ
トヲ得」トアリマシテ、項二項、三項
ゴザイマスガ、之ニ付テ私ハ御尋致シタイ
ノデアリマス、動物ノ傳染病ノ傳染、感染
ヲ恐レル所ノ豫防ト云フモノヲ講ジナケレ
バ非常ニ危險ナコトガアル、又國家ノ損害
ニナルト云フコトハ私共認メル所デアリマ
ス、然ルニ此第五條第二項ニアルガ如キ
「牛肺疫又ハ口蹄疫ニ感染シタル虞アル家
畜」ト云フモノヲ、直ニ撲殺ヲ命ズルコト
ニナルノデアル、是ハ勿論獸醫師ガ診斷ヲ
致シマシテ、ドウシテモ是ハ牛肺疫又ハ口
蹄疫ニ感染シタル虞ガアルト認メタル家畜
ヲ撲殺ヲ命ゼラルヽモノデアリマセウト思
ヒマスケレドモ、若シ唯〓單ニ獸醫師法ニ
於テ免許ヲ受ケタ所ノ中ニモ、案外藪醫者
ガアルノデアル、其上又人間ノ診斷ヨリカ
獸類ノ診斷ハ非常ニムヅカシイノデアル、
何トナレバ人間ニ於テハ既往症、經過及現
在ノ症候ヲ其人ニ尋ネテ答辯ヲスルノデア
ルケレドモ、牛馬ハ發言機關ハ持シテ居ル
ガ言葉ガナイノデ、答へルコトガ出來ヌノデ
アリマスカラ、人間ノ御醫者樣以上ニ獸醫
師ハムヅカシイモノデアルト聞イテ居ルノ
デアル、又サウデアラウト推察スルノデア
水、然ルニ藪醫者カラ是ハ傳染ノ虞アル病
氣デアルト診斷ヲ受ケテ直ニ殺サレテ堪
リマスカ、是ハ獸類デアルカラ發言スルコ
トガ出來ヌカラ、淚ヲ呑ンデ撲殺サレルカ
モ知レマセヌガ、是ハ人間デアッタラ如何
デアリマセウカ、是ハ容易ナラヌ人道問題
デアルト思フノデアル、現ニアナタ方ハ御
笑デナクテ能ク御考ニナラナケレバイケヌ
ノデアル、一昨年ニ於テ、大阪市ニ於テ此
適例ガ非常ニアッタコトヲ私ハ確實ニ獸醫
ヨリ承ッタノデアル、甲ノ獸醫ニ於テハ、是
ハマゲ大丈夫デアルト信ズルニモ拘ラズ、
全部撲殺ヲ命ジタルコトニ付テ非常ナル物
議ヲ惹起シタノデアリマスケレドモガ、牛
乳營業者ナドハ、淘ニ其筋ニ對シテハ弱イ
營業狀態デアルカラシテ、若シ之ニ應ジナ
イ時ニハ、直ニ其筋ノ非常ニ忌憚ニ觸レマシ
テ、營業ヲ停止サレルトカ、思ヒ知ラサレ
ル爲ニ、泣ター〓立派ナルモノヲ撲殺ヲシ
夕實例ガアルノデアリマス、私共人道ノ上
カラ考ヘマシテモ、斯ウ云フ點ハ獸醫學ノ
進步發達ノ方ヲモウ少シ積極的ニヤルベキ
モノデハナイカト私ハ思フノデアル、今日
ノ獸醫學ハ、勿論封建時代ノ伯樂ト云フタ
時ヨリカ餘程進步シテ居ルト云フコトモ吾
吾ハ存ジテ居リマスガ、不幸ニシテ人間ノ
醫學程ニハ進歩致シテ居ナイト云フ事實ガ
アルノデアリマス、ンレデアリマスカラ
若シ獸醫ヨリ間違ヲタ斷ヲ受ケタモノヲ
悉ク撲殺ヲスルト云フヤウナコトガ出來マ
シタナラバ、實ニ動物ニ對シテ可愛想ナ事
デアルト私ハ深ク氣ノ毒ニ感ズルノデアリ
マッ、殊ニ第三項ニ於テハ又酷イ御規定ガ
アルノデアル、「牛疫ニ感染シタル虞アル家
畜ニシテ第七條ノ規定ニ依リ免疫血〓ノ注
射ヲ行ヒタルモノ」ヲ直ニ撲殺スルノデア
ル、是ハ甚ダ私ハ不完全ナル立法デハナイ
カト思フノデアリマス、私共ノ考フル所ニ
依レバ「免疫血〓ノ注射ヲ行ヒタルモノ
ニシテ治癒ノ見込ナキモノ」ト云フ文字ハ
少クトモ加ヘナケレバ實ニ無殘デアリマ
セヌカ、血〓ノ效ガアッテ、免疫ニナッテ
治癒スルモノカモ知レヌノデアル、斯樣
ナ病氣ト云フモノハ絕對ニ治癒ノ見込ノ無
イモノデハナイノデアル、治癒ノ見込ガア
ルカモ知レヌケレドモガ、ソレヲ人間ガ直
ニ動物ヲ撲殺シテシマウト云フヤウナル事
ハ、人間トシテ非常ニ愼ムベキ事デアルト
私ハサウ云フヤウニ思フノデアル、現在我
國ニ於テモ、殺生ト云フヤウナ事ヲ餘リ罪
惡ト認メテ居ラヌ世ノ中ニナッタカラシテ、
人間ノ日々ヤル事ガ非常ニ殘忍酷薄ナル行
爲ヲナス時代ニナッテ來テ居ルノデアリマ
シテ、吾々ト致シテハ餘程ニ診察ヲ致シマ
シテ、愈〓治癒ノ見込ナキモノト鑑定セザ
ル以上ハ、之ヲ直ニ撲殺スルト云フヤウナル
立法ヲ爲スト云フコトハ、動物ニ對シテ非
常ニ私ハ遺憾ヲ感ズル者デアリマスルガ、
是非共免疫血〓ヲシテ、マダ治癒ノ見込ア
ルモノデモ、此立法ニ依レバ御ヤリニナル
ト云フノデアルガ、是非左樣ニヤランケレ
バナラヌト云フハ如何ナル理由ニ依シテ是
ハ立法ナサッタモノデアルカ伺ヒタイノデ
アリマス、尙又此第二項ノ口蹄疫ニ感染シ
タル家畜ト云フコトニ至ッテハ、是ハ診斷
上非常ニムヅカシイノデアル、獸醫師ニ於
テ餘程實驗ニ長ジタル醫師ニアラザレバ、
ソレガ感染シタカ感染シナイカ、實ニ此診
斷ト云フモノハ今日現在ニ於ケル我ガ帝國
ノ獸醫デハ、特別ナル獸醫學博士ハ存ジマ
セヌケレドモ、一般ノ開業セル獸醫師ニ於
テハ、非常ニ是ハ困難デアルト云フコトヲ
獸醫師其人カラ私共ハ承ッテ居ル、サウ云
フヤウナモノデアッテ、唯、「虞アル」是ハ怪
シイト云フモノガ、ドン〓〓此法律ニ依シ
テ撲殺サレルト云フコトハ、吾々ハ動物ノ
爲ニ深キ同情ヲ拂ハナケレバナラヌノデア
ル、動物ト雖モ命ハ一ツシカ無イノデ、惜
シイ命ハ人間デモ同ジ事デアル、私ハ此點
ニ於テ御尋ヲ致スノデアリマス、大正天皇
ノ如キ明天子モ御獵ヲ爲サッタガ「面白クウ
チハシツレドナク鹿ノ聲キクトキハ哀レナ
リケリ」ト云フ御歌ガアルデハアリマセヌ
カ、實ニ仁慈ノ至レルモノデアルト思フ、
獵ヲシテ面白イト思ウテ鹿ヲ射タケレド
モ、鹿ノ鳴ク聲ヲ聞クト實ニ哀レデアル、
ソレデ決シテ獵ハ妄リニスベキモノニアラ
ズト云フ私ハ御訓誠ノ御歌デアルト思
フ、-君等ノヤウニ人ヲ冷ヤカスモノデ
ハナイ(發言スル者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=68
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069・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=69
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070・吉良元夫
○吉良元夫君(續) 何モ彼モ戯ニ彌次ッタ
リ何カ君達ハシテ居ルケレドモ、君達ハ能
ク精神ニ正シテ考ヘテ御覽ナサイ
〔政府委員高田耘平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=70
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071・高田耘平
○政府委員(高田耘平君) 只今ノ吉良君ノ
御質問ニ御答シマス、御質問ノ趣旨ハ、傳
染病ト未ダ確定セザルモノ、卽チ傳染病ノ
疑アルモノヲ殺スト云フコトハ、洵ニ同情
ニ堪ヘナイ話デアル、而シテ現在ノ獸醫師
ノ程度デハ、其診療ニ對スル所ノ知識ガ缺
乏シテアッテ、甚ダ危險デアルト一云フコト
ノ意味ノ御質問ト思ヒマス、是ハ見樣ニ依ッ
テハ洵ニドウモ無理カラヌ事ト存ジマス、
殊ニ吉良君ノ如キ人道上ニ付キマシテ常ニ
深キ御憂慮ニナッテ居ル方カラ見ルト云フ
ト、洵ニドウモマダ病氣ニナッタカナラヌ
カハッキリ分ラナイモノヲ殺スト云フコト
ハ、是ガ人間ナラバ大變ナ事デゴザイマ
ス、併ナガラ感染ノ虞ガアッタ場合ニ於テ、
多少氣ノ毒デハアルガ、之ヲ殺サナイガ爲
ニ、他方ニ傳染シテ、ソレガ爲ニ畜產上非
常ナル障害ヲ及ボスト云フ場合ニ於キマシ
テハ、殺サレル牛ニ對シテハ洵ニ御氣ノ毒
デアルケレドモ、畜產界ノ爲ニ、殊ニ其病
氣ノ種類ニ依ッテハ、人間ニ迄感染スルモ
ノモアルノデゴザイマスカラシテ、吉良君
ノ御同情ニ付テハ私モ勿論同樣デゴザイマ
スガ、畜產界ノ保護奬勵ノ爲ニ、已ムヲ得
ザルモノデアルト御諒解ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=71
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072・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 是ニテ質疑ハ終
了致シマシタ、日程第六、右議案ノ審査ヲ
付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第六右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=72
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073・井本常作
○井本常作君 本案ハ人田宗吉君提出ノ牧
野法案ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ
望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=73
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074・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
御異議ナイト認メマス、仍テ動議ノ如ク決
シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=74
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075・井本常作
○井本常作君 議事日程變更ノ動議ヲ提出
致シマス、此際日程第二十二、第二十三、
第二十四及政府ノ同意ヲ得テ日程第三十
七、第三十八ヲ繰上ゲ、逐次議題ト爲シ、
各委員長ノ報告ヲ求メ、其審議ヲ進メラレ
ンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=75
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076・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郎君) 井本君ノ動議ニ
御異議ナイト認メマス日程變更ニハ政府モ
同意ヲセラレマシタ、仍テ動議ノ如ク日程
ハ變更サレマシタ····日程第二十二、不良
住宅地區改良法案ノ第一讀會ノ續ヲ開キ、
委員長ノ報告ヲ求メマス、委員長太田信治
郞君
第二十二不良住宅地區改良法案(政
府提出)第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一不良住宅地區改良法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和二年二月二十八日
委員長太田信治郞
衆議院議長粕谷義三殿
〔太田信治郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=76
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077・太田信治郎
○太田信治郞君 簡單ニ委員會ノ經過ヲ御
報告申上ゲマス、本委員會ハ前後五回ニ亙
リマシテ、各委員ニ於テ愼重審議ヲセラレ
マシタ、殊ニ嶋居君、兒玉君、內ヶ崎君、
中島君等カラ、緊要ナ件ニ付テ御質問ガア
リマシテゴザイマス、大體此法案ハ六大都
市ニ於ケル所ノ不良住宅ヲ、十箇年間ニ約
一万四千戶ノ改善ヲ爲シ、而シテ其後ニ於
テ、地方ニ於ケル所ノ其他ノ不良住宅ヲ漸
次十箇年間ニ改善ヲ爲ス、斯ウ云フ案デア
リマシテ、而シテ昭和二年度ニ於テハ、六
十七万九千百十圓ノ豫算ガ旣ニ此議場ニ於
テ決議サレテ居リマス、併ナガラ是ハ繼續
豫算ト云フ譯デアリマセヌ、要スルニ豫算
ノ許ス範圍ニ於テ、出來得ル限リ地方ニモ
及ボス譯デアリマス、順次是ガ改善ヲ爲ス
ト云フ案デアリマス、更ニ此國庫補助ノ基
礎ニ付テノ御質問等ガアリマシタガ、是、
要スルニ此公共團體ニ於テ事業ヲ經營執行
スル場合ニ、國庫ハ之ニ向ッテ補給ヲ致シ
テ、資金ニ於テハ大藏省ノ預金部ノ低利資
金ノ運用ヲ爲サシメル、然レバ此少ナリト
雖モ、收益ト國庫ノ補助ヲ以テ之ヲ支辨ス
ル場合ニハ、地方ノ負擔ヲ重カラシメズシ
テ、此改善ガ出來得ル、ソシニハ木造ニ於
テハ二十年、鐵筋混凝土ニ於テハ三十五年
ノ期限ヲ以テ償還方法ヲスルト云フコトデ
アレバ、十分ノ成算ガアッテ、格別地方費ヲ
負擔セズシテ此改善ガ出來ル、但シ其三十
五箇年ト云フコトニ付テハ、無論大藏省ノ
預金部ノ運用規程ニ依リ其承認ヲ得ナケレ
バナラヌノデアルケレドモ、是モ亦政府ニ
於テ見込ガアルト云フコトデアリマス、依ッ
テ本案ハ滿場一致可決致シマシタ次第デゴ
ザイマス、左樣御承知ヲ願ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=77
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078・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 本案ノ第二讀會
ヲ開クニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=78
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079・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=79
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080・井本常作
○井本常作君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ
可決セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=80
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081・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
御異議ナイト認メマス、仍テ直ニ第二讀會
ヲ開キ、議案全部ヲ議題ト致シマス
不良住宅地區改良法案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=81
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082・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 第三讀會ヲ省略
シテ、委員長報告ノ通リ可決確定致シマシ
タ、日程第二十三、國債整理基金特別會計
法中改正法律案ノ第一讀會ノ續ヲ開キ、委
員長ノ報告ヲ求メマス-松田三德君
第二十三國債整理基金特別會計法中
改正法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一國債整理基金特別會計法中改正法律案
(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和二年二月二十八日
委員長松田三德
衆議院議長粕谷義三殿
〔松田三德君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=82
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083・松田三徳
○松田三德君 國債整理基金特別會計法中
改正法律案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報
告申上ゲマス、委員會ハ前後六回開キマシ
ク、此六回ノ中ノ質疑應各ノ內容ニ付キマ
シテハ、私カラ申上ゲマセヌカラ、委員會
ノ速記錄ヲ御通讀願ヒタイノデアリマス、
原案ニ對シマシテハ滿場一致可決サレタノ
デアリマス、唯、小川〓太郞君カラ希望條
件ガ出タノデアリマス、其希望條件ハ「政
府ハ昭和二年度ニ於テ國債償還方法決定ニ
際シテハ金融市場國債市場ノ狀況ニ鑑ミ且
國家ノ利害ヲ十分ニ考慮セラレ償還方法ヲ
定メ萬遺憾ナキコトヲ期セラレタシ」斯ウ
云フ希望條件ガ出タノデアリマスガ、政府
モ之ニ同意セラレタノデアリマス、以上御
報〓申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=83
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084・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 本案ノ第二讀會
ヲ開クニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=84
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085・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=85
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086・井本常作
○井本常作君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ
可決確定セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=86
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087・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
御異議ナイト認メマス、仍テ直ニ第二讀會
ヲ開キ、議案全部ヲ議題ト致シマス
國積整理基金特別會計法中改正法律案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ}発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=87
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088・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 第三讀會ヲ省略
シテ委員長報告ノ通リ可決確定致シマシ
タ、日程第二十四、第三十七及第三十八ハ
同一ノ委員ニ付託サレタル議案デアリ
マスルカラ、一括議題ト爲スニ御異議アリ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=88
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089・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ日程第二十四、海外移住組合
法案、日程第三十七、移住組合法案、日程
第三十八、產業組合中央金庫法中改正法律
案ヲ一括シテ其第一讀會ノ續ヲ開キ、委員
長ノ報告ヲ求メマス、池田泰親君
第二十四海外移住組合法案(政府提
出第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一海外移住組合法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和二年二月二十八日
委員長池田泰親
衆議院議長粕谷義三殿
第三十七移住組合法案(津崎尙武君
外九名提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一移住組合法案(津崎尙武君外九名提出)
右ハ本院ニ於テ議決ヲ要セサルモノト議
決致候此段及報告候也
昭和二年二月二十八日
委員長池田泰親
衆議院議長粕谷義三殿
第三十八產業組合中央金庫法中改正
法律案(由谷義治君外五名提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一產業組合中央金庫法中改正法律案(由
谷義治君外五名提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和二年二月二十八日
委員長池田泰親
衆議院議長粕谷義三殿
〔池田泰親君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=89
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090・池田泰親
○池田泰親君 私ハ只今日程ニ上リマシタ
此三案、卽チ政府提出ノ海外移住組合法案
及津崎尙武君外九名提出ノ移住組合法案ノ
委員會ノ經過及結果ヲ御報告致シマス、本
案ニ付キマシテハ、二月二十一日以來四回
ニ亙リマシテ十分ニ審議ノ結果、政府提出
ノ海外移住組合法案ヲ滿場一致ヲ以テ可決
致シマシタ、津崎君外九名提出ノ移住組合
法案ハ、政府案ト唯、文字ヲ異ニスルノミデ
其内容精神ニ於テハ全ク同一デアルト云フ
コトヲ以テ、決議ヲ要セヌコトニ決定ヲ致
シマシタノデアリマス、唯〓津崎君ハ希望
トシテ本法律案ハ、我國ノ人口及食糧ノ問
題ノ解決ニ對スル唯一ノ方規デアルカラ、
其缺陷ヲ補ヒ、我ガ民族ノ資本、勞力、知
識等ヲ海外ニ進出セシメント欲スル趣旨デ
アルカラシテ、十分ニ立法ノ精神ヲ尊重シ
テ、相互扶助ノ根本精神ニ鑑ミ、有無相通
ズル所ノ目的ヲ達成セシメテ、以テ海外ニ
我ガ運命ヲ新ニ開拓セント志ス者ヲ善導シ
テ、誤リナカラシムルヤウニ致シタイト云
フコトデアリマス、サウシテ爲ニ國家ノ各
機能ヲ十分ニ運用シテ、我ガ國民ノ幸福ヲ
曾進スルニ努力スルヤウニ注意アランコト
ヲ望ムト云フヤウナ趣意デアリマシタ、尙
ホ產業組合中央金庫法中改正法律案ニ付キ
マシテハ、同樣ニ四回ニ亙リマシテ審議ヲ
盡シマシタ、當局ニ對シテ質問應答ノ結果、
原案ヲ滿場一致ヲ以テ可決スベキモノト決
議致シマシタ、唯、長期ノ貸付ニ付テハ、
色こノ非難ガアリマス、寧口本案ノ如キ
ハ、中央金庫ソレ自身ヲシテ進歩發達セシ
ムル所ノモノデアッテ、非常ニ必要デアル、
唯、第一ニ未ダ時機ガ尙早デハナイカト云
フヤウナコトモアリマシタ、詰リ今日ハ未
ダ資金ノ運用ガ十分デナイト云フヤウナ非
難モアリマスケレドモ、是ハ當局者ノ手腕
ニ俟ツノデアルカラシテ、其機能ヲ十分發
揮セシメテ、能率ヲ增進セシムルヤウニ致
シタイト云フヤウナ意見デアリマシタ、第
二ノ長期ノ貸付モ、是ハ或ハ勸業銀行或ハ
農工銀行ノ仕事デハナイカト云フヤウナ議
論モアリマスケレドモ、是ハ寧ロ中央金庫
ノ系統上サウスベキモノデアッテ、別ニ現
在ノ慣行ガ惡イノデアルト云フヤウナ意見
ニ歸著シタノデアリマス、次ニ第三ニハ長
期貸付ニハ擔保ヲ必要トハスルガ、ソレハ
有產者階級ニハ便利デアッテモ、庶民階級
ニハ格別ノ利益ガ無イ、社會政策上必要デ
ナイト云フ議論モアリマスケレドモ、是一
漸次小作農ハ自作農ニ變ルベキモノデアッ
テ、其擔保物モンコニ出テ來ルヤウナ次第
デアルカラ、本法ノ改正法律案ト云フモノ
ハ、中央金庫ヲシテ最モ健全ニ發達セシム
ル所以デアルト云フコトニ一致シタノデア
リマス、斯樣ナ譯ニ於テ、委員會ハ滿場一
致ヲ以テ原案ヲ可決シタ次第デアリマス、
此段御報告致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=90
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091・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 各案每ニ採決ヲ
致シマス、海外移住組合法案ノ委員長報告
ハ可決デアリマス、先ヅ本案ノ第二讀會ヲ
開クヤ否ヤヲ御諮リ致シマス、第二讀會ヲ
開クニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=91
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092・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ第二讀會ヲ開クコトニ決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=92
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093・井本常作
○井本常作君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シ委員長報告ノ通リ可
決セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=93
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094・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
ハ御異議ナイト認メマス、仍テ直ニ本案ノ
第二讀會ヲ開キ議案全部ヲ議題ニ供シマス
海外移住組合法案第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=94
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095・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ第三讀會ヲ省略シテ委員長ノ
報告通リ可決確定致シマシタ-次ニ津崎
尙武君外九名提出ノ移住組合法案ハ委員長
報〓ハ議決ヲ要セザルモノデアリマス、委
員長報告ノ通リニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=95
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096・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ本案ハ委員長報告ノ通リ議決
ヲ要セザルモノト決シマシタ、次ハ產業組
合中央金庫法中改正法律案ノ委員長報告ハ
可決デアリマス、本案ノ第二讀會ヲ開クヤ
否ヤヲ御諮リ致シマス、第二讀會ヲ開クニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=96
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097・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シ
マシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=97
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098・井本常作
○井本常作君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ
可決セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「異議ナシト」呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=98
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099・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
ハ御異議ナイト認メマス、仍テ直ニ第二讀
會ヲ開キ、議案全部ヲ議題ニ供シマス
產業組合中央金庫法中改正法律案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=99
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100・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナイト認
メマス仍テ第三讀會ヲ省略シテ委員長報告
通リ可決確定致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=100
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101・井本常作
○井本常作君 殘餘ノ日程ハ延期セラレン
コトヲ望ミマス
t〔「賛成」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=101
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102・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 井本君ノ動議ニ
ハ御異議ナイト認メマス、仍テ動議ノ如ク
決シマシタ、尙ホ御諮リ致スコトガゴザイ
マス、第六部選出、決算委員禱苗代君ヨリ、
常任委員辭任ノ申出ガアリマス、許可スル
ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=102
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103・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ガナケレ
バ許可致シマス、仍テ其部ノ諸君ハ速ニ補
闕選擧ヲ行ヒ、御屆出アランコトヲ望ミマ
ス、尙ホ梅田寛一君ハ三月一日ヨリ三月十
日マデ、吉田眞策君ハ三月一日ヨリ三月二
十一日マデ請暇ノ申出ガアリマス、之ヲ許
可スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=103
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104・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ガナケレ
バ許可致シマス-次回ノ日程ハ公報ヲ以
テ御通知致シマス、本日ハ散會致シマス
午後六時五分散會
衆議院議事速記錄第十二號中正誤
頁段行誤正
二一一四三七裏切ッタ詐ッタ
同同三九裏切ル詐ル
衆議院議事速記錄第十七號中正誤
頁段行誤正
三四七三六九月二十一十一月十二
日日
三四八一四補助艦計畫補助艦建造
衆議院議事速記錄第十八號中正誤
頁段行誤正
三五四三三三質問質疑
三六〇三八質問發言
三六一一二〇同同
三六三四二修澹慘澹
三六五一三質議質疑発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01919270301&spkNum=104
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