1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年三月十九日(木曜日)午前十時二十八分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=0
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001・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) ソレデハ是ヨ
リ抵當證券法外九件ノ特別委員會ヲ開キマ
ス、全體ニ付テマダ御質問ガ御有リニナラ
ウカト思ヒマス、御質問ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=1
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002・名取忠愛
○名取忠愛君 分リマセヌ所ヲチヨット御
伺ヒ致シマス、抵當證劵ヲ發行イタシマシ
テ、ソレヲ此證劵ノ讓渡ヲ致シマシテ、他
ヘ入替ヲスル、詰リ移轉ヲ致シマス、造作
ナク申セバ普通銀行ガ持ッテ居ル抵當證劵
ヲ農工銀行ナリ、勸業銀行ナリヘ廻ハシマ
ス時ニ、最初ノ登記設定ノ債權額デ通用イ
タセバ世話ノナイ話デアリマスガ、若シ最
初ノ登記設定ノ債權額デハ困ル、時價モ下
落シテ居ルカラ七掛、八掛ナラバ宜シイト
云フヤウナ場合モアラウカト思ヒマス、サ
ウ云フヤウナコトガ絕對ニ出來ナイコトニ
ナルノデ、最初ノ登記ノ設定額デ通用イタ
スノデスカ、又ハ一万圓ノ抵當權設定ノ債
權額ニ對シテ第二ノ銀行ガ八千圓ナラ引受
ケテヤル、或ハ五千圓ナラ引受ケテヤルト
云フヤウナコトガ實際ニ於テアリサウニ思
ハレマスガ、若シサウ云フ場合ニ、一万圓
ノ抵當權設定ノ證劵ヲ五千圓デ引受ケタト
致シマスルト、其引受ケタ人ガ債務者ニ對
スル權利ハ五千圓シカナイ譯デアリマス、
後ノ五千圓ハドウ云フ所カラ債務者ニ向ッ
テ出來ルカト云フコトガ疑ガアリマス、
万圓ノ抵當權ヲ設定シテ、抵當證劵ヲ發行
ニナッテ居ルモノヲ、他ノ銀行ヘソレヲ移シ
タ場合ニ一万圓デ通用イタシテ居レバ問題
ハナイ、サウ云フ場合ニハドウナルモノデ
アリマセウカ、今一ツハサウ云フコトガ爲
シ得ルトスレバ此抵當證劵ヲ拵ヘル時ニ債
權者、債務者ノ間ニ利率ノ約束モ登記ニナッ
テ居ル、例ヘバ普通銀行カラ農工銀行ナリ、
勸業銀行ナリヘ移シマス時ニハ必ズヤ利率
ハ安クナッテ居ル、此參考ノ御調ベ書ニ依テ
モ利率ガ安イ、サウスルト其安イ利率ヲ第
一ノ債務者ニ及ボスノデアリマセウカ、ド
ウ云フ關係ニナルノデアリマセウカ、其邊
ヲ詳細ニ御尋ネ致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=2
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003・大久保偵次
○政府委員(大久保偵次君) 經濟關係ノ御
問ヒノヤウデゴザイマスノデ私ノ方カラ御
答ヲ申上ゲルコトニ致シマス、只今名取サ
ンノ仰七ノ第一問ノコトハ、最初ノ抵當證
劵ノ額面ヲ其次ヘ讓渡イタシマス場合、其
場合ニ其額面デ行ケバ問題ガナイ、其額面
ヲ割引シテ移轉スルト云フ風ノコトガアル
カドウカト云フ仰セノヤウニ伺ヒマシタ、
サウ云フヤウナコトハ無論ゴザイマスカラ
シテ、勸業銀行、農工銀行ナドニ賣買ト云
フコトヲ認メマシタ譯デゴザイマス、手形
ノ賣買ハ額面ニ於キマシテハ同一ニ行カナ
イ場合ガ常ニアリ得ルコトデゴザイマスカ
ラ、今仰セノヤウナ一万圓ノモノヲ何千圓
デ買フト云フヤウナコトハ無論アリ得ルコ
トデゴザイマスカラ、少シモ差支ヘナイ積
リデ居リマス、其次ニハ例ヘバ第二ニ移ッタ
場合ニ、最初ノモノガ一割トナッテ居ルノ
ニ、今度ハ普通銀行カラ勸業銀行ニ讓受ケ
タ場合ニハ、其利率ハ安イ率デ賣ルダラウ、
其利率ハ初メノ債務者ガ低利ノ利息ヲ受ケ
得ルカドウカ、斯ウ云フ御質問ノヤウデア
リマスガ、抵當證劵ノ發行ハ、第一ノ債務
者ノ地位ハ登記ヲシタ場合ト同ジヤウニ少
シモ變リマセヌノデアリマスカラシテ、此
利率ハ債務者ノ關係ニハチットモナラヌノ
デアリマス、第二ノ人ト第三ノ讓受人ト云
フ間ダケノ關係ハ、是ハ一万圓ノモノヲ八
千圓デ買ッタト致シマスレバ、其人ハ何處ニ
利息ヲ取リニ行クカト申シマスト、債務者
ノ所ニ行ク、或ハ證劵ニ債務ノ支拂場所ト
書イテアリマスカラ其處ニ利息ノ支拂請求
ニ行ク譯デアリマスカラ、其關係ハ轉々イ
タシマシテモ少シモ變リマセヌ次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=3
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004・水上長次郎
○水上長次郞君 チヨット後戾リヲスルヤ
ウデスガ、第六條ニ付テチヨット伺ヒタイ、
催告ヲ爲スベキモノニ付テノ御考······本條
ニ依ルト、「抵當證劵設定者、第三取得者、
債務者、抵當權又ハ其ノ順位ノ讓渡人及先
順位ヲ抛棄シタル者」云々トアリマス、ココ
デ第三取得者ト云フノハ、是ハ發行當時ニ
第三取得者トナッテ居ッタ者ニ限ル譯デ、ソ
レカラ債務者ハ宜シウゴザイマスガ、抵當
權又ハ其ノ順位ノ讓渡人、是ハドウ云フヤ
ウナコトニナルノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=4
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005・長島毅
○政府委員(長島毅君) 是ハ矢張抵當證劵
發行前ニ抵當權ヲ讓受ケテ居ルト云フヤウナ
コトガアッタ場合ニ、其讓渡ガ無效ダトカ何
トカ云フ問題ガ起リマスカラ、ソレデ矢張異
議ヲ言ハセルヤウニシテアリマス、卽チ抵
當證劵發行當時ニ既ニ讓渡ノ行ハレテ居ル
關係ニナッテ居ル場合ガアリマスカラ······発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=5
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006・水上長次郎
○水上長次郞君 ソレハモウ登記シテ居ル
ノデアリマスカ、ソレデモナ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=6
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007・長島毅
○政府委員(長島毅君) 其通リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=7
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008・水上長次郎
○水上長次郞君 サウスルト第七條ニ、卽
チ異議ヲ申立テル爲メノ理由、第七條ニ依
ルト云フト、一カラ四マデノ號ニ當ル理由
ガナケレバ異議ハ申立テラレナイト云フコ
トニナッテ居リマスネ、此中ニハ債權者又ハ
其順位ノ讓渡人ト云フヤウナモノノ異議ヲ
申立テベキ理由ト云フモノヲ發見シマセヌ
デスガ、ソコハドウ云フノデスカ、第七條
ノ異議ヲ申立テルニ付テノ理由ノ中ニハ、
此六條ニ規定シテアル抵當權又ハ其ノ順位
ノ讓渡人ト云フモノガ異議トシテ述ブル理
由ハナイ譯デスネ、若シモ其抵當權又ハ其
順位ノ讓渡人ガ、或ル理由ニ依ッテ異議ヲ申
立テ得ルナラバ、其理由トシテ第七條ニ揭
ゲラレナケレバナラヌモノダラウト思ヒマ
スガ、其點ハ如何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=8
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009・長島毅
○政府委員(長島毅君) 催告ニ記載シタ事
實ト符合シナイコトニナレバ矢張異議ガ言
ヘル譯デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=9
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010・水上長次郎
○水上長次郞君 登記簿ニ記載シテアルノ
デアリマスカラ、登記簿ト違フト云フコト
ナラ兎モ角モ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=10
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011・長島毅
○政府委員(長島毅君) 登記簿ト合ッテ居
リマシテモ事實ト合ヒマセヌケレバ矢張異
議ガ言ヘルノデアリマス、卽チ誤ッテ登記サ
レテ居ル場合ニハ異議ガ言ヘルコトニナツ
テ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=11
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012・水上長次郎
○水上長次郞君 分リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=12
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013・名取忠愛
○名取忠愛君 先程ノ御答ニ付キマシテハ
了解イタシマシタガ、斯ウ云フ場合、例
バ最初ノ抵當證劵ヲ所持シテ居ル人ガ、
万圓ノモノヲ農工銀行ナリ勸業銀行ニ移ス
時ニ五千圓デナケレバイケヌト云フコト
デ、賣買手續ニ依ッテ今ノ御說明ノヤウニ
致シマス、ソレヲ愈〓執行ト云フ場合ニ債務
者ノ、詰リ抵當物件ノ處分ヲ致シマシタ時
ニ債權額一万圓ダケノモノガ十分有リ得ル
トシマシタラ、其差額ハ最後ノ所持人ノ利
益ニナルノデアリマセウ、元ノ第一抵當權
者ハ一万圓ノモノヲ五千圓ニ賣"テ五千圓
ノ損害ニナルデアリマセウ、其邊ハドウ云
フ手續ニナルノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=13
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014・大久保偵次
○政府委員(大久保偵次君) 只今名取サン
ノ御問ニ對シテ御答申上ゲマス、例ヘバ資
金ノ必要ガ出マシテ、其一万圓ノモノヲ五
千圓ニ勸業銀行ニ出シタ、サウシテ其勸業
銀行ガ一万圓ノモノヲ債務者カラシテ取ル
コトガ出來ナカッタ、ソレデ競賣ノ實行ヲシ
タ、サウシマシクナラバ其結果一万圓ト云
フモノヲ勸業銀行ガ取入レタ、其場合ニ勸
業銀行ハ得ヲシタノデハナイカト、斯ウ云
フヤウナ御趣意ヲ以テ御尋ノコトダラウト
思ヒマス、是ハ賣買デゴザイマスカラシテ
損得ハモウ致シ方ガゴザイマセヌ、ソレデ
買ヒマシタラバソレダケノ債權ヲ取ルト云
フコトハ是ガ卽チ賣買ノ關係デアル、尤
モ果シテソレガ五千圓デ賣ルカドウカ、是
ハ疑間デアリマスケレドモ、今御立テニナッ
タヤウナ例デアリマスレバ、或ル品物ヲ買
ヒマシテドウモソレガ後デモッテ非常ニ宜ク
賣レテ倍額ニ賣レタト、ソレデ買手ハ儲カツ
タト云フ風ナモノト少シモ變リマセヌ、ソ
レガ爲ニ特ニ普通ノ手形ノ賣買、物品ノ賣
買ト違ッタヤウナ手扱ハ出來ヌ順序ダラウ
ト心得マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=14
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015・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) モウ御質問ハ
ゴザイマセヌデセウカ······ソレデハ是カラ
討論ニ移ラウト思ヒマスガ、御異議ガナケ
レバ議題トナッテ居リマス抵當證劵法案、
不動產登記法中改正法律案、民事訴訟法中
改正法律案、競賣法中改正法律案、民事訴
訟用印紙法中改正法律案、日本勸業銀行法
中改正法律案、農工銀行法中改正法律案、
北海道拓殖銀行法中改正法律案、國稅徵收
法中改正法律案、貯蓄銀行法中改正法律案、
之ヲ一括シテ議題ニ致シマシテ討論ニ移リ
タイト思ヒマスリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=15
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016・松本烝治
○松本烝治君 私ハ簡單ニ議題ニ上リマシ
タル法案ニ付テ贊成論ヲ述ベテ見タイト考
ヘマス、只今議題ニ供サレマシタル法案ハ、
貯蓄銀行法ヲ除キマシテハ總テ抵當證劵法
ヲ中心ト致シマシテ、之ニ關聯シテ居ルモ
ノト考ヘマス、依ッテ私ガ抵當證劵法ニ付
テ贊成ヲ致シマスル趣旨ヲ述べマシテ、他
ノ法律ニ付テノコトハ之ヲ略シテ然ルベキ
カト考ヘテ居リマス、政府當局カラノ御說
明ニ依リマスレバ、抵當證劵法案ニ依ル所
謂抵當證劵ナルモノハ、大體申セバ抵當權
ガ付イテ居リマス手形ノヤウナモノデア
ル、其特徴トモ言フベキ點ガ三ツアルト云
フ御說明デアッタノデアリマス、其第一點ハ
抵當證劵ガ出マスルト、抵當券付キノ債權
ガ抵當證劵ニ化體サレマシテ、裏書ニ依ッテ
轉々イタシマシテ、抵當權ノ移轉ニハ登記
ヲ要セナイト云フ點ガ第一ノ特徴デアルト
云フ御話デアリマス、此點ハ外國抵當證劵ノ
法律總テガ同ジヤウニ認メテ居ル所デアリ
マシテ、尤モ裏書ト云フコトハ必ズシモ同
ジテハナイノデアリマスガ、畢竟スルニ抵
當證劵ノ受授轉々ニ依リマシテ、抵當權ガ
當然移轉サレマシテ、敢テ登記ヲ要サヌト
云フ點ハ外國ノ抵當證劵ニ於テ皆認メラレ
テ居ル所デアリマシテ、是ガ卽チ抵當證劵
ノ一番ノ特徵デアラウト考ヘマス、此特徴
アルニ依リマシテ、抵當權ノ移轉ハ非常ニ
便利ニナラウト考ヘルノデアリマス、例
九州ノ果テトカ、或ハ北海道ノ果テニアル
地面ニ付テノ抵當權ト云フモノガ、東京ナ
リ大阪ナリニ於テ取引ヲサレマス場合ニ於
キマシテ、抵當權ノ移轉ニ付テ一々登記ヲ
要スルコトニナリマシテハ、到底繁雜デ其
取引ガ行ハレナイノデアリマス、最モ數百
万圓トカ云フ大キナモノデアレバ兎モ角、
僅カ何万圓デアルトカ、或ハ何千圓ナドト
云フヤウナ抵當權ノ場合ニ於キマシテ、大
阪ナリ東京ノ人ガ、態〓九州ナリ北海道ノ
果テト云フヤウナ所マデ人ヲ派スルナリ、
或ハ自分ガ出マシテ登記ヲスル、或ハ取引
先ニ賴ムナドシマシテモ、之ヲ安全ニ其登
記ヲ致シマスト云フコトハ、餘程ムヅカシ
イノデ、非常テ手數ト費用ガ掛カルノデア
リマス、斯ノ如キ費用ト手數トヲ省略イタ
シマシテ容易ニ抵當權ノ移轉ガサレルト云
フコトハ、其抵當證劵ノ最大特徵デアリマ
シテ、此法案ニ於キマシテハ、裏書キニ依。ツ
テ抵當證劵ヲ受授スルニ依リマシテ、抵當
權ノ移轉ガ當然第三者ニ對シテモ效力ヲ生
ズルト云フコトニナルノデアリマス、是人
抵當證劵ヲ認メル以上、當然認メラレナケ
レバナラナイ點デアリマスト同時ニ、此點
ヲ此法案ニ於テ認メテ居リマスコトハ至當
デアルコトト考ヘマス、第二ノ特徴トシテ
御說明ヲ得マシタ所ハ、抵當證劵ノ發行前
ニ於キマシテ、先ヅ異議ヲ徵シマシテ、其
異議ノ申立ガナイ、或ハ申出ガアリマシテ
モ理由ガナイト云フコトニナリマシテ、初
メテ證劵ヲ發行スルト云フコトデアリマス
此點ハ全然外國法ニハ其例ヲ見ナイヤウニ
考ヘマスルガ、御承知ノ如ク我法制ニ於キ
マシテハ登記ノ公信力ヲ認メテ居ラナイ
ノデアリマスカラ、ドウシテ斯ノ如キ制度
ヲ設ケマシテ、證劵ノ發行前ニ於テ先ヅ關
係者カラ異議ヲ問ヒマシテ、其異議ヲ申出
ナカッタ者ハ證劵ノ善意ノ所持人ニ對シテ
ハ其事由ヲ以テ抗辯ヲスルコトガ出來ナ
イト云フコトニ致シマズルコトニ依リマシ
テ、抵當證劵ニ化體サレテ居リマスル權利
ガ非常ナ確實ナモノトナリマシテ、抗辯ノ
附イテ居ラヌ所謂稍不要因的ノ權利ト云フ
ヤウナ形ニナリマシテ、或ハ證劵的ノ權利
ト云フモノニナリマシテ、大イニ强力デア
ル、證劵ノ記載ノミニ信賴シテ、其證劵ヲ
取得スルコトガ出來ルト云フコトニナリマ
ス、ソレデ我ガ法制ノ如ク登記ニ付テ公信
力ヲ認メテ居リマセヌ以上、此異議ノ申出
ノ制度ハドウシテモ之ヲ採ルベキモノト考
ヘルノデアリマス、此制度ニ依リマシテ登
記ニ公信力ガナイト云フコトノ缺點ハ抵
當證劵ノ關係ニ於テハ略ミ補ハレルト思ヒ
マス、而シテ此結果トシマシテ、通常ノ抵
當權ノ場合ニ於キマシテハ、登記ニ公信力
ナキ結果トシマシテ危險ガ多イノデアリマ
スルカラ、一旦此抵當證劵ニ致シテ置キマ
スルト其危險ガナクナルノデアリマスルカ
ラ、私ノ考デハ或ル場合ニ於キマシテハ
抵當證劵ヲ敢テ融通スルト云フ考ガナイ場
合ニ於キマシテモ、尙此抵當證劵ノ發行ヲ
求メマシテ、其權利ヲ確實ニスルト云フコ
トモ出テ來ハシナイカト考ヘルノデアリマ
ス、若シ斯ノ如キ場合ガ出來テ參ルト致シ
マスレバ、ソレハ此抵當證劵法ノ豫期シテ
居ッタトコロノモノデハナイノデアリマス
ルガ、副產物トシテハ極ハメテ結構ナル結果
デハナカラウカト考ヘルノデアリマス、第
三ノ特徴トシテ說明セラレテアルコトハ、
此抵當證劵ヲ裏書ニ依リマシテ授受イタシ
マス際ニ、裏書人ガ償還義務ヲ負フ所謂擔
保責任ヲ生ズルノデアルト云フ點デアリマ
ス、此點モ亦全然外國法ニ其例ノナイ新シ
イ考デアリマス、是ハ非常ニ私ハ宜イコト
デハナカラウカ、此結果トシマシテ登記ノ
公信力ノナイト云フコトノ缺點ヲ更ニ補ヒ
得ルノデアリマス、抵當證劵ノ取得者ハ裏
書人ノ信用ニ依賴シマシテ、之ニ依ッテ裏書
人ガ確カナル、例ヘバ勸業銀行ト云フヤウ
ナモノデアリマスルトシマスレバ、安心シ
テ抵當證劵ヲ取ルコトガ出來ルノデアリマ
ス、ソレデ此抵當劵其他ニ色ミノ缺點ガア
リマシタリ或ハ抵當物ガナクナルニ致シマ
シテモ又債務者ガ全然無資力ニナリマシテ
モ、其裏書人ノ責任ニ依賴シテ抵當證劵ヲ
取ルコトガ出來ルノデアリマス、故ニ此點
ニ於テ抵當證券ノ融通ト云フコトガ非常ニ
增大サレテ居リマスル、尙單ニ此法律的ニ
裏書人ガ擔保責任ヲ負フト云フコトダケノ
利益ニ止マリマセヌ、斯ノ如キ信賴スベキ
信用ノアルモノハ裏書ヲ致シマスル以上、
其裏書ヲシタ人ハ必ズヤ重大ナル責任ヲ
有"テ居ルノデアルカラ、十分ナル調査ヲ遂
ゲタノデアラウト云フコトモ考ヘ得ルノデ
アリマス、之ニ依ッテノ安心モ出來ヤウト思
フノデアリマス、例ヘバ勸業銀行ガ第一次
ノ裏書ヲシテ居ルト云フヤウナ場合ニ於キ
マシテハ、其勸業銀行ハ専門的ノ智識ヲ以
テ相當ノ調査ヲ遂ゲテ居ルニ違ヒナイカ
ラ、單ニ勸業銀行自體ノ人的信用ニ依賴
シ得ベキノミナラズ其抵當物ノ價格其他
ニ付テモ確實ナルコトヲ信ジ得ルト云フ
コトニナラウト思フノデアリマス、斯ノ
如クニシテ此裏書人ノ責任ト云フ制度ヲ
認メタナラバ、少ナクトモ登記ニ公信力
ノナイ缺點ハ之ニ依ッテ十分ニ補ハレルノ
デアリマシテ、非常ニ良イ考テアッタコ
トデハナイカト思ヒマス、而シテ裏書人ニ
常ニ責任ガアルト致シマスレバ、或ル場合
ニ於テハ此抵當證劵ヲ取リマシタモノガ、
更ニ他人ニ讓リ渡スニ當ッテドウモ責任ガ
アッテハ困ルト云フコトモ生シ得ヤセヌ
カト考ヘラレマスルガ、此場合ニ付キ
マシテハ所謂無擔保裏書ニ關シマスル
手形ノ規定ガ準用ニ確カナッテ居ッタト記憶
イタシマスルノデ、若シ例ヘバ旣ニ勸業銀
行ノ裏書ガアル抵當證劵ヲ私ガ取得シマ
ス、更ニ之ヲ他人ニ讓リ渡スニ當ッテ、私ハ
裏書人トシテノ責任ヲ負フト云フ煩雜ダケ
ハ少クトモ免レタイト考ヘマスレバ無擔保
ノ裏書ヲスレバ宜シイ、之ニ依リマシテ私
ハ擔保責任ハナクナリマス、必ズ其抵當證
劵ハ第一次ノ裏書人タル勸業銀行ノ裏書ガ
アリマスレバモウ十分ナ信用ガアルノデ、
間ニ立ッテ居ル私ノヤウナモノガ無擔保裏
書ニ依ッテ、何等其抵當證劵ノ値打ヲ減損サ
レルト云フコトハナイダラウト思ヒマス、
サウ云フヤウナコトデ此償還關係ヲ五月蠅
イト思フ人ガアルトシマスレバ、無擔保裏
書ノ方法モアラウト思フノデアリマス、仍ッ
テ考ヘテ見マスレバ、此裏書人ノ擔保責任
ニ關スル制度ハ何人ニモ不便ヲ與ヘズシ
テ、此證劵ノ流通ニハ非常ナ貢獻ヲスル所
ガアラウト思フノデアリマス、サウ云フ此
マア三ツノ大キナ特徴ガアルノデアリマシ
テ、此制度ニ依リマシテ不動產ノ金融ハ非
常ニ容易ニサレテ來ルコトトナラウ、從
テ、其金融ノ利息ト云フモノモ、此制度ガ
行ハレテ參リマスルニ從ヒマシテ必ズヤ下
ガルベキモノデアラウ、只今ハ抵當權ヲ設
定シマシテ、債權ヲ取得イタシマシテ、之
ヲ他ニ移轉スルコトハ甚ダ困難デアル爲
ニ、詰リ所謂再割引ト云フヤウナコトガ出
來ナイ、殆ド事實上出來ナイト云フコトガ
アルガ爲ニ此利率ガ非常ニ一般ニハ高イノ
デアリマス、ガ幸ニ此制度ガ出來マシタナ
ラバ抵當權ヲ設定セシメテ債權ヲ取得ス
ル、抵當證劵ヲ發行セシメマスレバ之ヲ容
易ニ再割引ガ出來ルコトニナルノデアリマ
スカラ、從ッテ其最初ノ融通ノ場合ノ利率
ハ、必ズヤ低下サルベキモノト思フノデア
リマス、ソレガ低下サレテ來ルト云フコト
ニナリマスレバ、卽チ不動產ノ融通力ハ强
クナルノデアリマシテ、不動產ノ價格ハ必
ズヤ上ガルベキモノト思フノデアリマス、
要スルニ此抵當證劵ノ制度ニ依リマシテ不
動產ノ融通ガ容易ニナリ、其利率ガ低下シ、
從ッテ不動產ノ値打ガ上ッテ來ヤウト思フノ
デアリマス、只今申述べマシタヤウニ三ツ
ノ特徴中第二ノ異議ノコト、第三ノ裏書人
ノ擔保責任ノコトハ全然外國ノ立法例ニモ
ナイ獨創的ノ考案カト思ヒマスルガ、之二
依リマシテ抵當證劵ノ機能ハ十分ニ發揮サ
レマシテ、只今述ベマシタヤウナ不動產ニ
對シテ非常ニ利益ヲ與ヘルコトニナリ得ベ
キモノト思フノデアリマス、是ハ勿論梢〓
机上ノ學者的ノ想像論デアリマスルガ、若
シ此制度ニ於キマシテ細末ノ點ニ實際ニ適
合シナイヤウナ所ガアリマシタナラバ、之
ヲ改メテ參ルト云フ途モアラウト考ヘマス
ルカラ、只今申シマシタ想像シテ居リマス
ヤウナ經濟上ノ働キハ、若シ其法案ニ多少
ノ疵ガアリマシタナラバ後日之ヲ補正ス
ルコトニ依リマシテ必ズ達セラレルコトカト
考ヘテ居ルノデアリマス、左樣ナ意味ニ於
キマシテ此抵當證劵法ノ成立ヲ私ハ切ニ希
望シテ居ルモノデアリマス、從ッテ他ノ是ニ
關聯スル諸法ノ成立モ希望スル次第デアリ
マス、尙ホ貯蓄銀行法ニ付キマシテモ、總
テ改正ハ妥當ナリト考ヘマスルノデ是ニ贊
成スルニ躊躇シナイ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=16
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017・前田利定
○子爵前田利定君 只今松本君カラ抵當證
劵法外八案ニ對シテ御贊成ノ御意見ガゴザ
イマシタ、特ニ抵當證券法案ニ付キマシテ
ハ縷々御贊成ノ理由ヲ御述ベニナリマシ
ク、本員ニ於キマシテモ全然此松本君ノ御
贊成ノ意思ト變リマセヌ、卽チ本案外八案
ヲ可決スヘキモノト贊成ノ意ヲ表シマス、
唯ソレニ付キマシテ二點程附帶ノ希望ヲ附
ケタイト考ヘマス、先ツ先ニ本文ヲ朗讀イ
タシマス、「現下不動產ニ對スル金融ノ涸渴
ニ苦シムハ啻ニ本法第一次ノ施行豫定地タ
ル市地方裁判所所在地及借地法施行地ニ止
マラズ、地方農村及ビ小都會ニ於テ最モ切
實ナルモノアリ、仍テ政府ニ於テハ成ルベ
ク速カニ本法ノ施行ヲ全國ヘ及ボサレムコ
トヲ望ム」先般來質疑應答ノ際ニモ政府委
員ノ御答ニハ追ッテ一般ニ及ボスト云フ御
考ガアルヤウニ承リ及ンデ居ル譯デアリマ
ス、デアリマスルカラ、斯樣ナ希望ヲ附帶
イタシマセヌデモ宜シイ譯デアリマスルケ
レドモ、事ヲ入念ニ致シテ置キタイト存ジ
マスルノデ、甚ダ愚念ノヤウデアリマスル
ケレドモ、此希望決議ヲ附帶イタシタイ
ト思フノデアリマス、第一一ハ「不動產所有者
ノ利益ヲ保護スル爲ニハ其者ニ於テモ抵當
證劵ノ交付ヲ申請スルコト得ルノ途ヲ講ズ
ルヲ適當ナリト思考ス、仍テ民法改正ノ際
此點ニ留意シ、右ノ趣旨ニ適應スル立法ニ
付キ考慮ヲ拂ハレムコトヲ望ム」此第二ノ
希望ハ今右カラ左ニ直グニ左樣ニ御願ヲ致
シタイト云フ希望デハナイノデゴザイマ
ス、事ハ民法ノ根本的改正ニ觸レル問題デ
アリマスルカラ、此前ニ中上ゲタヤウナ希
望トハ同樣ニ取扱フコトガ出來マセヌ次第
デアラウト考ヘマスカラ、軈テ民法ノ改正
ヲ企圖セラレル場合ニ於テハ此點ニ御留意
下サイマシテ、不動產所有者ノ利益ヲ保護
スルヤウナ意味合ニ於キマシテ、ソレ等ノ
モノニモ抵當證劵ノ交付ヲ申請スルヤウナ
コトガ出來ルヤウナ立法上ノ途ヲ請ジテ戴
キタイ、斯ウ云フ希望ヲ附帶イタシマシテ、
私ハ贊成イタシタイト存ジマス、付キマシテ、
此二ヶ條ノ附帶希望決議ニ付キマシテモ格
別ノ御異存ガアラッシヤイマセヌ限リニ於
キマシテハ何卒此委員會ニ於カレマシテモ
一ツ御認メヲ願ヒマシテ、而シテ追ッテ本議
場ニ於キマシテ特別委員長ノ御報告ノゴザ
イマス際ニ、委員會ノ希望トシテ述ベテ戴
クヤウニ願ヒタイト思フノデアリマス、此
段ヲ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=17
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018・松本烝治
○松本烝治君 私ハ只今前田子爵カラ御申
述べニナリマシタル希望條件ト申シマス
カ、或ハ希望決議ト申シマスカ、是ニ贊成
スルノデアリマス、第一ノ點ハ成ベク早ク
全國ニ此施行ヲ致シタイト云フコトデアリ
マシテ、只今私縷々述ベマシタヤウニ、此
抵當證劵ノ法制ハ、決シテ只今ノ一時的ノ
財界ノ救濟ノ意味デハナクシテ、永久ニ亙ッ
テ不動產金融ヲ圓滑ニスル爲ニ最モ宜イ制
度ト考ヘルノデアリマスカラ、其意味カラ
申シマスレバ成ルベク速ニ全國ニ施行サレ
ルト云フコトガ望マシイコトヽ考ヘマス、
大イニ之ニ贊成シタイノデアリマス、第二
ノ點ニ付キマシテハ是ハ實ハ相當ムヅカシ
イ考デアリマス、卽チ獨逸法ノ如ク抵當權
ト其債權トノ間ノ必シモ常ニ關聯ガアルモ
ノデナイト云フコトニ致サヌト、所有者ノ
方カラ申請ヲスルコトハムヅカシイノデハ
ナカラウカト考ヘマス、併シ此樣ナ意味デ
卽チ抵當權ト其擔保ヲシテ居リマスル債權
トノ間ニ必シモ關聯ノ無イコトハ、旣ニ日
本ニ於キマシテモ寢抵當ニ於テハ此制度ガ
アルト言"テモ宜シイノデアリマス、ソレカ
ラ考ヘマスレバ敢テ非常ナ根本的ノ抵當權
ニ關スル思想ヲ變更シマセヌデモ、民法改
正ノ際ニ相當ノ考ヲシマシタナラバ、只今
申シタヤウナ程度ノコトハ認メ得ルノデハ
ナカラウカト思フノデアリマス、而シテ是
ハ抵當權ノ作用ヲ大キク致シマシテ、以テ
不動產ノ融通力ヲ增スコトノ爲ニハ甚ダ宜
シイ制度ト考ヘルノデアリマスルカラ、民
法改正ノ際ニハ斯ウ云フヤウナ意味デ考慮
スルコトハ必要カト思ヒマス、尙ホ茲ニ加
ヘテ一言シテ置キタイコトハ、本會議ニ於
キマシテ登記ノ公信力ヲ認メルヤウナ制度
ヲ早クシタラドウカト云フヤウナ意味ニ聞
エタ御質疑モアッタヤウニ考ヘマスガ、此點
ニ付テハ實ハ私ハ甚ダムヅカシイコトヽ考
ヘテ居リマス、登記ノ公信力ヲ認メント欲
スレバ、先ヅ總テノ不動產ニ付テ職權的ニ
全部之ヲ登記シナケレバナラヌト云フコト
ニナリマス、卽チ保存ノ登記ヲ申請スルト
カ云フコトデナク、進ンデ職權的ニ全部ノ
不動產ヲ登記シナケレバナラヌ、調査ヲシ
テ登記ヲスル、斯ウ云フコトハ非常ニムヅ
カシイコトデアリマス、ノミナラズ、モット
ムヅカシイ難關ハ、私ノ考デハ日本ノ法律
ノヤウニ建物ヲ以テ獨立ノ不動產ト認メテ
居リマスル制度ト、登記ノ公信力ト云フコ
トトハ絕對ニ兩立シナイノデアル、若シ登
記ノ公信力ヲ認メント欲スレバ建物ノ獨立
不動產ト云フコトヲヤメマシテ、外國法ニ
於ケルガ如キ建物ヲ以テ土地又ハ地上權ノ
部分ト云フヤウナコトニシテシマウト云フ
コトニシマセヌケレバ、登記ノ公信力ト云
フモノヲ認メルコトハ出來マイ、此澤山ノ
建物一ツ〓〓ニ付テ大丈夫ナモノヲ獨立シ
テ拵ヘルト云フコトハ、日本ノヤウナ建物
ノ性質カラ考ヘルト絕對ニ私ハ出來ヌコト
デアル、故ニ建物ニ關スル登記ノ制度ヲ全
然變ヘマシテ、隨ッテ只今ノ借地法トカ何ト
カ云フヤウナモノヲ全然變ヘマシテ、建物
ヲ所有スル者ハ土地所有者デナケレバ地上
權者デアルト云フコトニ致シマシテ、之ヲ
一〓ニ登記スルト云フヤウナコトニ制度ガ
變フテ來ヌ以上ハ登記ノ公信力ヲ認メルコ
トハ絕對ニ出來ナイ、斯ノ如キ變革ヲ來シ
マスト云フコトハ、私ハドウモ少クトモ數
十年ヲ要サナケレバ出來ナイコトデアル、
是ヲ僅ニ一年二年ノ間ニシテシマッテ、然ル
後抵當證劵ヲヤッタラ宜カラウナドト云フ
御說ニ對シマシテハ、甚ダシク空中樓閣的
ノ考ヘデアルト實ハ考へタノデアリマス、
デ附加ヘテ此事ヲ申述ベマシテ、唯今ノ希
望ニナッテ居リマスル要件ノ如キハ左樣ニ
登記公信力ト直接ニ關係ハナイノデアリマ
ス、斯ウ云ヲ意味ノ改正ト云フロトハ民法改
正ノ際ニ考慮サレマシタナラバ相當ノ難關
ハアルカモ知レマセヌガ、左マデノコトマ
デナク出來ルモノデアリマシテ、又サウ變ノ
テ行クコトガ然ルベキコトヽ思フノデアリ
マスカラ、是ニ贊成シタイト考ヘルノデア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=18
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019・菅原通敬
○菅原通敬君 私モ抵當證劵外八件ニ付テ
政府原案ニ贊成イタシマス、ソレカラ前田
子爵ヨリノ御提議ノ二ツノ希望條件ノ第一
ノ方ニ付テハ無論私モ贊成イタシマス、第
二ノ條件ニ付テ考ヘマスト云フト、稍、民
法ノ根本ニモ觸レルヤウナ問題ノヤウデア
リマスガ、ソレニ關スル自分ノ贊否ヲ定メ
ル爲ニ政府ノ是ニ對スル御意見ヲ伺シテ見
タイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=19
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020・長島毅
○政府委員(長島毅君) 政府トシテハ此二
點トモ異存ハゴザイマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=20
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021・菅原通敬
○菅原通敬君 政府ニシテ御異存ガナイト
云フコトデアレバ、前田子爵ノ二ツノ條件
ニ私ハ同意イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=21
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022・名取忠愛
○名取忠愛君 私モ前田子爵ノ御意見ニ絕
對贊成ヲ表スルモノデアリマス、從ッテ原案
ニ同意ヲ表シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=22
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023・水上長次郎
○水上長次郞君 本案ノ提出ノ理由ニアリ
マシタ通リ、我ガ國現下ノ經濟及ビ金融ニ
鑑ミテ、不動產ノ融通ヲ圓滿ナラシムル爲
ニ證劵ヲ發行スルノ必要ヲ感ズルト云フコ
トハ書イテアリマスガ、此點ニ付テハ私共
至極ク同感デアリマシテ、寔ニ結構ナコト
ダラウト考ヘテ居ルノデアリマス、併ナガ
ラ其目的ヲ達スル上ニ付テハ、自ラ順序ガ
アリ又秩序ト云フモノモアッテ、サウ俄ニ其
一方ノミニ偏重スルト云フコトハドウデア
ラウカト云フ考ヲ以テ居ルノデアリマス、
デ申ス迄モナク本案ノ最モ骨子ト致ス所ハ
證劵ヲ發行スルト云フコトハ無論ノコトデ
アリマスガ、此發行シタル證劵ヲ讓渡スル
ニ當ノテ只一遍ノ裏書ヲ以テ爲スト云フコ
トガ骨子ノヤウデアリマス、是ハ我ガ國ノ
民法ニ於キマシテ、此物件ノ異動トカ得喪
トカ云フコトニ對スル一大原則ニ反スル譯
デアリマス、卽チ一大原則ハ一大例外ト見
ナケレバナラナイコトニナルノデアリマス、
裏書ヲ以テ證劵ヲ自由自在ニ轉々流通スル
ト云フコトハ、卽チ物件デアル所ノ抵當權
ヲ登記ヲセズシテ只一裏書ノミニ依テヤル
ト云フノデアリマスルカラ、物件ニ對スル
得喪ハ凡テ登記ニ據ラザレバ其效ナシト云
フコトノ原則ニ戾ルコトハ既ニ明カナノデ
アリマス、併シ又ソレガ一方カラ申セバ金
融ヲ······不動產ノ金融ヲ圓滑ナラシムル唯
一ノ方法デアルト云フノデアリマス、併ナ
ガラデス、必ズシモ此金融、不動產上ノ金
融ヲ圓滑ナラシムルニハ、裏書ノミニ依ッテ
讓渡ヲシナケレバ其目的ヲ達スルコトガ出
來ナイト云フコトハ、是ハ一〓ニハ言ハレ
マイト思ヒマス、デ凡テノ點ニ於テ登記ニ
依ルト云フコトハ或ハ繁雜ナルコトモアリ
マセウシ、或ハ證劵ヲ發行スル所ノ目的ニ
最モ大切ナル所ノ妨ゲヲ生ズルカモ知レマ
セヌケレドモ、若シ此裏書ノミニ依テ物件
ヲ轉々スルコトガ出來ルト云フコトニナル
ト云フト、第一不動產、卽チ文字ノ示ス如
ク動カスコトノ出來ナイ所ノモノニ對シテ
非常ニ輕ミシイヤウナ氣持ヲ生ズルノデス、
ソレカラ又第二ニハ其不動產ニ對シテハ色
色ノ權利ガ行使サレルデアリマス、證劵
ノコトモアルシ、地上權ノコトモアルシ、
賃借權ノコトモアリマス、其他種ミノ權利
ガ行使セラレルノデアリマス、所ガ共中ノ
或ル物件ノ移轉ニ付テ只一遍ノ裏書デ轉々
セラレルトシマスト、其轉々先ハ何人デア
ルカト云フコトモチットモ分ラナイト云フ
コトニナリマスルト云フト、不動產上ニ付
テ發行セラレタ所ノ後ノ其不動產ニ對シテ
權利ヲ取得セムト欲スルモノ、又其土地ニ
付テ物件上ノ關係ヲ有シテ居ルモノガ隨分
迷惑ヲ受ケルコトガアラウト思フ、ソレデ
私ノ考ヘデハ裏書デ讓渡スルコトヲ、登記
ヲ以テ讓リ渡シヲ爲スト云フコトニシタラ
ドウデアラウカト云フ考ヘヲ持ノテ居ルノ
デアリマス、併シ斯ウ申シマスト云フト、
サウ云フコトニスレバ證劵ヲ發行スル必要
ハナイデハナイカ、證劵ヲ發行スルト云フ
ノハ畢竟證劵ソノモノノ授受ニ依テ不動產
ノ融通ヲ圖ルノデアルカラシテ、若シ一々
ソレヲ登記スルト云フコトニナッテ來タナ
ラバ、ソレハ證劵ヲ發行スルノ效力ガナイ、
斯ウ云フコトモ言ハレルノデアリマセウ、
併ナガラソレハ程度論デ、只裏書一遍デ授
受ガ出來ルノハソレハ敏活デハアリマセ
ウ、登記ハ迅速ニ出來ルノデアリマセウガ、
併シ登記ヲシタカラト言ッテ必ズシモ其流
通ガ出來ヌト云フコトハナイ譯デ、是ハ多
少ノ手數ヲ要スル、多少ノ遲レヲ取ルト云
フヤウナコトハアリマセウケレドモ、證劵
ノ效能ト云フモノハ全クナクナルト云フコ
トハドウデアラウカト思ヒマス、ソレカラ
モウ一ツ其裏書ノミニ依テ授受セラレルコ
トニナルト、不都合、困ルコトハ此不動產ト
云フモノガ殆ド株劵カ債劵カ、又證劵ノ如ク
轉々シテ如何ニモ不動產ニ對スル愛著トカ、
或ハ執著トカ謂フ所ノ卽チ不動產ニ依ッテ
安心ヲ得ルト云フコトニ、卽チ安心カト云
フモノガ殆ドナクナリハシナイカト思ヒマ
ス、言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ不動產ハ殆
ド一遍ノ證劵債劵ヲ持ッテ居ルヤウナ感ジ
ヲ與ヘルヤウニナリハシナイカト思フ、ソ
レハ私ハドウモ甚ダ喜ブコトデハアルマイ
ト思フ、此人とハ此世ニ居ッテ最モ樂シムベ
キコト、最モ喜ブベキコトハ何カト云フ
ト、卽チ生活ノ安定ト云フコトデアラウト
思フ、如何ニ財產ヲ持ッテ居リマシテモ、其
財產ノ價値ト云フモノガ常ニ變動シテ一刻
モ安心スルコトガ出來ナイト云フコトデア
リマシタナラバ、生活ト云フモノハ決シテ
安樂ニ安定スルモノデハナイト思フノデア
リマス、ソコデ不動產ト云フモノハナカナ
カ容易ニ轉々セラレルモノデハナシ、容易
ニ手渡シスルモノデモナイ、又容易ニ人カ
ラ奪ハレルモノデハナイト云フコトデアツ
テコソ、始メテ不動產ニ對スル心理ト言ヒ
マセウカ、心持ト言ヒマセウカ、安定スル
コトガ出來ル、ソレハ利益ノ點カラ言ヒマ
シタナラバ、債劵トカ或ハ株式トカ云フモ
ノヲ有ッテ居リマシタナラバ、ソレハ或ハ意
外ナ利益ヲ得ルコトモアリマセウシ、マア
利益ヲ得ルコトガ多イデアリマセウガ、其
代リ又非常ニ損ヲスルヤウナコトガアル、
デアルカラ、生活ノ安定ヲ圖ルニハドウシ
テモ價格ノ不動ト云フコト、變動ト云フコ
トガ極メテ少ク、少イト申シマシテハ或ハ
チト言ヒ過ギカモ知レマセヌガ、財界ノ變
動ナドガアッテ其價格ニ著シイ變動ヲ及ボ
サヌト云フモノニ賴ッテコソ、初メテ生活ノ
安定ト云フモノガ出來ルノダラウト思フ、
所ガ此裏書ニ依ッテ不動產ノ轉々セラレル
ト云フコトニナリマスト云フト、此裏書人
ニ、所持人ガ裏書人ニ對スル償還ノ義務ヲ
負ハシムル爲ニハドウシテモ其不動產ト
云フモノヲ辨濟ヲ受ケナカッタ時ニハ成ル
タケ早ク拂ハナケレバナラヌト云フコトニ
ナル、本法ニ規定ガアリマス通リ抵當權、
抵當證權所持者ガ辨濟期ニ當,テ支拂ヲ受
ケナカッタ時ニハ其一ケ月內ニ支拂ヲ要求
シヤウト云フコトニナッテ居ル、ソレカラ一
ケ月過ギテ尙ホ支拂ハナカッタ時ニハ、辨濟
期カラ三ケ月內ニ不動產ノ競賣ヲ强制シナ
ケレバナラヌ、卽チ求メナケレバナラヌト
云フコトニナッテ居ルノデアリマス、自分一
個ノ考デ、其競賣要求ノ三ケ月間ト云フモ
ノハ特別ノ事情ノアル限リハ別トシマシ
テ、普通ナラバ延バスコトガ出來ナイ、デ
アリマスカラ此場合ニ於テ債務者ガ或ハ借
替ヲスルトカ或ハ他ニ金融シテ戾スト云フ
コトデ、サウ一ケ月ヤソコラデ急ニ埒ノ開
クモノデアリマセヌカラシテ、少クトモ二
ケ月三ケ月間ノ餘裕ト云フモノヲ定メナケ
レバナラヌ、所ガ辨濟期カラ三ケ月ト申シ
マスト云フト、辨濟期カラ一ケ月過去ッテカ
ラ支拂ノ要求ヲシテ、サウシテ支拂ヲシナ
カッタ時ニ三ケ月目ニ要求スルト云フコト
ニナルト云フト、要求シテカラ二ケ月目ニ
不動產競賣ノ請求ヲシナケレバナラヌト云
フ結果ニナルノデアリマス、私共實際斯ウ
云フ取引關係ニ付テハ相當經驗ヲ持チマセ
ヌカラ、詳シイコトヲ申上ゲルコトハ出來
マセヌガ、恐ラク此不動產ヲ抵當ニシテ金
ヲ借リタモノガ、期限到來一ケ月ヤ二ケ月
ノ間ニ借替ヲシテ、直グニ埒ヲ付ケルト云
フコトハ餘リ容易ナコトデアルマイト思
フ、借替ヲスルニ付テハ金主ヲ見付ケナケ
レバナラヌ、見付ケタ所ガ金主ガ不動產ノ
調査ヲスルトカ、何トカイロ〓〓ノコトガ
アッテ、サウ急ニハ借替ノコトヲ實行スルコ
トハ出來ナイト思フ、ソレデアルカラマア
普通ナラバイロ〓〓工面スルケレドモドウ
モ思ハシキ金主モナイ、ドウモ借替ヲシテ
辨濟スルコトモ出來ナイカラ、モウ暫ラク待ッ
テ吳レト云フコトデ哀訴スレバ、又債權者
ニ於テモ時ト場合ニ依"テハ要求スルコト
ガアリマセウケレドモ、此手形債劵證劵ニ
對シテハソレハ出來ナイ、ソレハ法文ニモ
アリマス通リ特別ノ事情ノアル時トアリマ
スガ、特別ノ事情ト云フノハ所謂特別デアッ
テ、只債務者ガ借替ヲシタイ、所ガ借替先
ハマダ見付カラヌカラ、其中ニ見付カルカ
ラ、ドウカ暫ラク延バシテ吳レト云フコト
ハ特別ナ事情ニ決シテナラナイト思フ、サ
ウスルト多クノ場合ニ於テハモウ其抵當證
劵ニ依ッテ發行セラレタ場合ニ於テハ、不動
產ハ辨濟期ノ三ケ月內ニハ必ズ取ラレルト
云フコトニ見ナケレバナラヌ、デ大藏省ノ
御方カラ承ハリマシタラ不動產競賣ト云フモ
ノハ勸業銀行、農工銀行、拓殖銀行ノ三銀
行ノ貸金ニ付シテ僅カニ百分ノ一ト云フ話
デアリマス、司法省ノ御方カラ承ハリマシ
タラ百件ノ中ニ二件、如何ニモ少イ、斯ノ
如ク統計上競賣ノ場合ト云フモノハ少イカ
ラ畢竟債務者ニ於テ不動產ノ愛著ノ念ガ多
クシテ、成ルタケ手放サヌト云フ考カラ著
著其辨濟期ガ到來シタナラバ、何トカ外ニ
工面ヲシテ辨濟スルガ爲デアラウ、デアル
カラ、縱令證劵發行ノ後ニ於テモ三ケ月間
アッタナラバ、是マデノ實驗ニ依ッテ普通ノ
場合ト同樣ニ、競賣ニ致サズトモ著々辨濟
ヲスルデアラウカラ、ソレ程心配ニナルマ
イト云フ考モ起ルカモ知レマセヌガ、ソレ
ハ全ク違ウ、ト云フノハ是マデデアッテ見ル
ト云フト、別ニ法律ニ於テモ又習慣ニ於テ
モ辨濟期到來シタ三ケ月トカ、二ヶ月間ニ
ハ必ズ競賣シナケレバナラヌト云フコトハ
ナイ、デアルカラ、債務者ノ事情又其時ノ
場合或ハ又貸金ノ金利トカ云フヤウナコト
ニ付テ、容易ニ債權者ニ於テ債務者ノ申出
ヲ入レテ競賣、不動產ヲ競賣スルヤウナ場
合ニ立至ラナイコトガ多イダラウト思フ、
ソレハ債務者ノ自由デアリマスカラシテ、
デアルノミナラズ時トシテハ債權者ノ利益
ニナルヤウナ場合モ幾ラモアラウト思ヒマ
スカラ、ソレデ、今日マデノ統計デハ、此
銀行ニ於テモ亦裁判所ノ調ベニ於テモ、此
不動產登記ト云フモノハ比較的少イ原因デ
アラウト思フケレドモ、此證劵ニ對シテハ
ドウシテモ三ケ月內ニシナケレバナラヌサ
ウデ、ソノ結果ニナルノハドウカト云フノ
二、一遍ノ裏書ヲ以テ證劵ヲ轉々スルカラ
サウ云フコトニナルノデ、何故ナラバ若シ
早ク辨濟ヲ受ケテ不動產ノ競賣ヲシナケレ
バ前裏書人ニ對シテ償還セラルヽカラ、
其裏書人ガ非常ナ迷惑ヲスルト云フコトカ
ラ、競賣ノ期間ト云フモノヲ極ク短カクシ
タモノデアラウト思フ、サウスレバ不動產
ヲ容易ニ手離サナケレバナラヌ、從ッテ不動
產ニ致シテ殆ド普通ノ債權若クハ株劵ト同
ジヤウナ考ヲ持ツヤウニ至ルト云フコトハ、
全ク此裏書轉々ト云フコトノ結果デアラウ
ト思フ、若シ裏書ヲセズニ唯登記ニ依ッテ轉
轉スルト云フコトニナレバ、裏書人ト云フ
モノガアリマセヌカラ、償還ヲ求ムルト云
フ先ガナクナル、ナクナルカラシテ、今日
手形所持人ノ自由デ、或ハ延バシテモ宜シ
イト思ヘバ延バシ、又賣ラナケレバナラヌ
ト思ヘバ賣ルコトモアラウ、ソレハ債權者
ノ自由ナンデス、ソレデアルカラ恐ラク證
劵ヲ發行セラレテ、唯其讓渡ハ抵當登記ニ
依ラザレバ出來ヌト云フコトニナリマシテ
モ、決シテ今マデノ統計デ示スヤウナ百分
ノ一厘トカ、百件ノ二件ト云フヤウナコトニ
行キマスマイケレドモ、大シタコトモ變動ハ
アリマスマイカト私ハ考ヘテ居ル者デアリ
マス、ソコデモウ一ツハ此登記ガ日本ノ登
記ニ於テハ公信力ト云フモノガナイ、公示
主義デアッテ、公信力ガナイ、成程或場合ニ
於テハサウ云フコトハアリマセウ、例ヘバ
人ノ不動產ヲ胡魔化シテ、サウシテ抵當ニ
入レテ金ヲ借リタ、登記上デハ立派ニ所有
者カラ抵當ニ取ッタト云フコトガ書イテア
ルケレドモ、實際ヲ見ルト云フト、其不動
產ハ全ク他人ガ證文ヲ僞造シテ、印鑑ヲ僞
造シテ好イ加減ナ登記ヲシタト云フコトガ
分ル、サウ云フ場合ニハ登記ハ無效ト言ハ
ナケレバナラヌ、若シモ是ガ獨逸ノヤウニ
公信力ガアルト云フコトニスレバ、サウ云
フ間違ノ場合デモ登記ニ記載シテアルコト
ヲ事實ト見テ、ソレガ爲ニ其登記ヲシタ者
ニ損害、迷惑ヲ與ヘルコトガナイト云フヤウ
ナコトデアレバ、或ハ日本ノ此證劵ノ讓渡ニ
付テモ登記ニ依ッテヤッテ或ハ差支ナイカモ
知レヌ、サモナケレバドウモ登記ニ依ッテ讓
渡ヲシタ所ガ、ソレ程ノ效能ガナイト云フヤ
ウナコトモアルカモ知レマセヌケレドモ、
私ハ日本ノ登記法ガ公信主義トカ、或ハ又
公示主義ト云フ、其主義トシテ見ルノハ、
其效能ノ如何ニ依ッテ見ル人ガサウ云フコ
トヲ言フノデアッテ、日本ノ登記ハ必ズシモ
公信力ト云フモノハナイト云フコトハ一〓
ニ言ハレナイト思ヒマス、成程登記法ニ反
シタ場合ニハ、例ヘバ登記シナケレバナラ
ヌモノヲ登記セズニ置イタトキニハ、其權
利者ト云フ者ハ第三者ニ對シテハ對抗スル
コトガ出來ナイ、卽チ登記シタ者ニ對シテ
ハ、登記ヲスベカリシ者ガシナカッタトキニ
ハ其權利ヲ主張スルコトガ出來ヌト云フコ
トガ、ソレハアリマスケレドモ、ソレハ多
少ノ物權得喪ノコトニ付テ或制度ヲバ改正
ヲ致シタナラバ、公信力ガナイカラシテ信
用ハ出來ナイト云フヤウナ弊害ハ幾分カ救
ハレヤシナイカト私ハ考ヘルノデアリマ
ス、ソレナラバ證劵讓渡ノ方法ハ一片ノ裏
書デ以テ讓渡スコトガ出來ナイ、登記ニ依
ラナケレバナラヌト云フコトナラバ、ソレ
ダケノ點ヲ修正スレバ宜イヂヤナイカ、斯
ウ云フコトガアルカモ知レマセヌガ、併シ
ナガラ若シ此讓渡ノ方法ガ變ルナラバ、總
テノ點ニ於テ本法ノ規定ヲドウニカ手ヲ入
レナケレバナラヌト思ヒマスカラシテ、修
正案モ出來ナイノデアリマス、ソレナラバ
抵當債劵發行ニ付テハ至極結構デアルト云
フ以上ハ、假令其裏書讓渡ガ氣ニ入ラヌト
言フタ所ガ、此案ニ對シテ不贊成ト云フコ
トニナルノハ甚ダオカシナコトデハナイカ
ト云フコトニモナリマスガ、併ナガラドウ
モ今ノ根本的ノ讓渡ノコトニ付テ意見ガ相
違ヲ致シマスト云フト、ドウモ到底其一ケ
條ノ修正ヲ以テ本案ヲドウシヤウト云フコ
トハ出來マセヌ、ノミナラズ、此會期モ極
ク迫ッテ居リマス時デアリマスシ、サウ云フ
コトヲシテ甚ダ面白カラヌト思ヒマスルノ
デ、餘儀ナク私ハ本案ニ付テハ贊成ヲスル
コトヲ躊躇イタス者デアリマス、然ラバ此
六十二億圓ノ不動產ニ對シテノ固定シテ居
ル所ノ資本ト云フモノハ殆ド固定シテシ
マッテ、今日ノ經濟及金融界ノ逼息ト云フ
モノヲドウシテモ救濟スルコトガ出來ナイ
ヂヤナイカ、ソレヲドウシテモ救濟スル爲
ニハシナケレバナラヌト云フ必要ヲ感ジテ
居ル以上ハ、何カ他ニ方法ガアリサウナモ
ノヂヤナイカト云フコトデアリマスガ、ソ
レハ私ノ考ヘデハ、今度農工銀行、ソレカ
ラ勸業銀行ノ條例ヲ改正セラレマスル中
ニ、是マデハ抵當權ノ債權ト云フモノニハ
一切手ヲ觸レラレナイ、今度ノ改正ニ依ッテ
抵當債權モ質ニ取ルト云フコトニナッタノ
デス、勿論抵當權債權證書モ取ル、抵當證
劵モ質ニ取ラレルノデス、ソコデ質入レト
云フコトデス、是ハ極メテ結構ナコトダラ
ウト思フ、又之ヲ爲スニ付テハ民法ニ觸レタ
所ノ制度ヲ作ルトカ、或ハ又斯ウ云フ面倒ナ
三十條モアルヤウナ法規ヲ作ル必要ハナイ、唯
農工銀行ノ條例ヲ改正スレバソレデ宜イ、
サウシテ其效果ハドウカト云ヘバ、ソレハ
證劵ヲ發行スル程ノ金融ノ圓滿ヲ圖ルコト
ハ出來マスマイケレドモ、是マデニ比ベ
テ見タラドレ程ノ固定資本ガ融通ガツ
クカソレハ分ラナイト『思フ、ソレデ提案
者······提案者ト言ヘバオカシイデスガ、
衆議院ニ於テ、本案ヲ提出サレマシタ所
ノ大藏大臣ニ於カレマシテ御演說モアリ
マシタガ、其中ニ或委員カラ、此證劵法ト
云フモノハ不動產ノ固定ヲ資本化シテ、不
動產上ニ於ケル金融ヲ圓滿ニスルト云フ
考ヘカラ出シタモノデアル、斯ウ云フ御答
ガアッタ、所ガ或議員カラソレナラバ第一番
ニ此不動產ノ抵當ニ付テハ農村ヲ先ニスレ
バ宜イデハアリマセヌカ、ソレヲ後ニシテ
置イテサウシテ市街ヲ先ニスルト云フコト
ハ御趣意ニハチット副ハナイヂヤナイカ、斯
ウ云フコトヲ尋ネタ所ガ之ニ答ヘラレルニ
ハ、ソレハ如何ニモサウダ、サウデアルガ
併ナガラドウモ一時ニ之ヲヤルト云フコト
ニナルト云フト、其方ニ關係スル所ノ事務
員卽チ登記所等ニ於テ非常ニ訓練ヲ要スル
ト云フコトデ、サウ遽カニ施行シタナラバ
法律ヲ施行スルノニ圓滿ナル結果ヲ見ルコ
トガ出來ナイト思フカラ、先ヅ假リニ市街
地ヲ先ニシテサウシテ十分其訓練ヲシ、且
ツ果シテ此證劵法ガ實際ニ旨ク弊害ナク施
行セラルヽヤ否ヤト云フコトヲヨク考ヘタ
上デ農村ノ地方ノ方ヘモ施行スル考ヘデア
ル、デ大臣ノ答ヘラレマシタ所ノ趣意ハ第
一ハ事務員ノ訓練ガ行屆カナイ、第二ハ證
劵ヲ發行シタ上實際之ヲ運用スル上ニ於
テ、果シテ良結果ヲ得ルカ否ヤト云フコト
ヲ考ヘタイ、斯ウ云フ二ツノ理由ヲ以テ答
ヘラレタヤウニ私ハ考へテ居リマス、デア
ルカラ當局ニ於カレマシテモ、此證劵發行
ト云フコトハ不動產金融上誠ニ結構デアル
ガ、扨テ之ヲ行ッタ上デ何カ弊害ガ起リハシ
ナイカ、何カ障碍ガ起リハシナイカト云フ
ヤウナ御考ヲ多少持ッテオ出デナサルコト
デアラウト私ハ思フ、一面ニサウ云フ案ジ
ガアル、多少ノ危險、多少ノ心配ガアルヤ
ウナコトニ付テハ餘程〓究シタ上デナサル
方ガ宜クハアルマイカ、其代リニ容易ニ又
安全ニ行ハレテ、サウシテ金融ヲ圓滿ニス
ル上ニ於テ、尠カラザル所ノ效果ノアル所
ノ債權質入ト云フコトヲ先ヅ以テ御許シニ
ナッタ方ガ、私共ハ極メテ順序ノ宜イコトデ
アラウト考ヘルノデアリマス、尤モ此勸業
銀行其他ノ銀行ノ條例ヲ改正セラレマスニ
當リマシテハ、唯質入······是迄此質取ヲス
ルコトガ出來ナイノヲ、質取ヲスルコトガ
出來ルト云フダケノ文句サヘ入レタラ宜イ
ノデスカラ極簡單デアリマス、サウシテ又
若シ出來ルコトナラバ債劵迄モ含ムト云フ
文句ガ其中ニアリマシタガ、是ハ債劵法ガ
實施サレナイト云フ債劵ト云フモノハ······
抵當證劵ト云フモノハナクナルカラシテ、
ドウシテモ其質入ト云フコトヲ許スト云フ
コトニナルト云フト唯ソレバカリデハイケ
ナイ、債劵ヲ含ムト云フコトヲ削ラナケレ
バナラヌト云フ議論ガ起ルカモ知レマセヌ、
サウスルト云フト衆議院ニ於テハ債劵ヲ含
ンダ所ノ改正條例ヲ可決シタノデアリマス
ルカラシテ、若シ質入バカリヲ許スト云フ
コトニナルト云フト、衆議院ノ議決ニ背ク
ヤウナコトニナリマスケレドモ、ソレハド
ウデアリマセウ、現在債劵ヲ······抵當證劵
ヲ發行シテ居リマセヌカラシテ其文句ガ
アッテハ蛇足ノミナラズ聊カ不穩當デアリ
マスガ、併ナガラ他日證劵ヲ發行スルト云
フコトノ確信ガアッタナラバ其儘ニシテ置
イテモ私ハ宜カラウカ知ラヌト思フ、サウ
スレバ勸業銀行其他ノ條例改正ヲバ其儘ニ
可決シタナラバ、質入ト云フ行爲ト云フモ
ノハ立派ニ出來得ルコトダラウト信ズルノ
デアリマス、是ダケ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=23
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024・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) 御意見ガナケ
レバ採決ニ移リタイト思ヒマス、只今議題
ニナッテ居リマスル抵當證劵法案外九件、原
案ニ御贊成ノ方ノ擧手ヲ願ヒマス
〔擧手者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=24
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025・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) 大多數ト認メ
マス、原案ヲ可決イタシマス、ソレカラ前
田子爵ノ希望決議ガ二件ゴザイマシタ、是
ハ委員會ノ希望決議トシテ委員長カラ本會
議ニ報告イタシマスコトニ御異議ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=25
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026・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) 御異議ナイモ
ノト認メマス、如何イタシマセウ、無盡業
法ノ說明ダケチヨット··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=26
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027・小川郷太郎
○政府委員(小川〓太郞君) 無盡業法改正
法律案ノ提出理由ニ付キマシテ、大體ノ御
說明ヲ申上ゲマス、無盡ハ最モ古イ沿革ヲ
有スル我國固有ノ金融方法デアリマシテ、
早クヨリ津〓浦ミマデ行ハレ、長イ間中小
產業者ノ產業及經濟ノ發達ニ多大ノ貢獻ヲ
爲シ來ッタモノデアリマス、現行無盡業法ハ
大正四年ニ初メテ制定セラレタモノデアリ
マシテ、爾來無盡業者ノ適從スベキ基準デ
アルト共ニ、其監督ノ規定トシテ今日マデ
斯業ノ發展ニ多大ノ貢獻ヲ爲シ來ッタモノ
デアリマス、卽チ業法施行ノ翌年デアリマ
ス大正五年末當時ト、昭和四年末現在トヲ
比較シテ見マスルト、無盡業者ノ數ハ百三
十六ヨリ二百六十トナリマシテ、其間公稱
資本金ハ七百四十餘万圓ヨリ三千四百餘万
圓トナリ、給附契約高ニ於キマシテ四千万
圓ヨリ十億八千万圓ト云フ非常ナ躍進ヲ示
シテ居リマシテ、實ニ二十五倍ニ上ッテ居ル
ノデアリマス、而シテ全國無盡業者ガ一年
間ニ給付融通イタシマスル金額ハ最近約二
億圓ニ及ンデ居ルノデアリマス、此數字ニ
依リマシテモ如何ニ無盡業者ナルモノガ、中
小產業者ノ金融ニ貢献シツヽアルカノ一班
ヲ窺フニ足ルト思ハレルノデアリマス、併
ナガラ其後時勢ノ進運ニ連レ、現行法ノ規
定ヲ以テシテハ庶民金融機關トシテノ活動
ニ稍、不便ヲ感ゼラレル點ノアリマスコト
ト、又一面數多キ無盡業者ノ中ニハ今尙ホ
其經營ヲ誤リ破綻ヲ曝露イタシマシテ、多
數ノ加入者ニ對シ不測ノ損害ヲ蒙ラシメ、
延イテハ斯業ニ對スル一般ノ社會的信用ヲ
損フモノガ往々ニシテアルノデアリマス、
政府ハ無盡業法施行以來ノ實績ニ鑑ミマシ
テ、斯業ヲシテ益、其庶民金融機關タル機
能ヲ發揮セシムルガ爲メ及無盡業者ノ基礎
ヲ健實ニスルコトニ依リ一般社會的信用ノ
向上ヲ期スルガ爲ニ、今囘ノ改正法律案ヲ
提出スルニ至ッタノデアリマス、今其主ナル
事項ニ付テ申上ゲマスレバ、無盡ハ營業ト
シテ之ヲ爲ス時ハ之ヲ商行爲トスルト云フ
旨ノ規定ヲ設ケマシタ、又無盡業ノ主體ヲ
バ株式會社ニ制限イタシ、且ツ無盡業者ノ
營業上ノ資金運用ノ範圍ヲ擴張シマシテ、
其投資シ得ル有價證券中ニ產業組合中央金
庫ノ發行イタシマス產業債劵ヲモ新タニ之
ヲ認メ、且ツ掛金者ニ對スル貸付金ノ中デ
貸付ノ當時既ニ掛金者ガ拂込ミタル金額ヲ
限度トスル貸付ハ、之ヲ無制限ニ爲シ得ル
コトトシタノデアリマス、更ニ自己ノ經營
スル無盡ニ加入スルコトヲ得ザルモノノ中
ニ代理店主ヲ追加スルコトニ依リマシテ、
現行法第十二條ノ趣旨ヲ徹底セシメ、又
無盡會社ノ監査役ヲシテ每營業年度一囘監
査書作成ノ義務ヲ負ハスコトニ依リマシ
テ、內部監督ノ充實ヲ圖,タノデアリマス、
更ニ現行法第十八條ノ現定ニ依ル無盡收支
計算簿ヲ廢止イタシマシテ、之ニ代フルニ
第十九條ノ規定ニ改正ヲ加へ、掛金者ハ無
盡會社ニ對シ、其加入シタル無盡ノ掛金者
五分ノ一以上ノ同意ヲ以テ、其加入シタル
無盡ニ關シ命令ノ定ムル事項ニ付キ、說明
書ノ交付ヲ求ムルコトヲ得ト爲スコトニ依
リマシテ、從來無盡業者ガ頒布シテ居リマ
シタ無盡收支計算簿ヲ廢止スルト同時ニ、
掛金者ノ利益ヲ保護スルニ遺憾ナキヲ期シ
タノデアリマス、此他銀行法、貯蓄銀行法
及信託業法等ニ規定サレタル事項ニシテ、
本法ニモ是ト同樣ノ規定ヲ置クコトヲ適當
ト認メタル事項、例ヘバ無盡會社ノ出張所、
若クハ代理店ノ設置及本店以外ノ營業所ノ
位置變更ニ付テハ主務大臣ノ認可ヲ要スル
コトヽシ、或ハ無盡會社ノ常務ニ從事スル
取締役、又ハ支配人ガ他ノ會社ノ業務ニ從
事セムトスル時ハ主務大臣ノ認可ヲ受クベ
キコトヽシ、其他無盡會社ノ〓算事務ヲ裁
判所ノ監督ニ屬セシメ、且ツ無盡會社ノ〓
算、破產、又ハ强制和議ノ場合ニ於ケル裁
判所ト無盡會社ノ檢査監督ニ從事スル官吏
トノ共助ニ關スル規定ヲ設ケタル等、種々
ノ新タナル規定ヲ設ケタノデアリマス、尙
ホ本案施行ノ結果之レ迄ノ無盡會社ニ急激
ナル變化ヲ與ヘルコトヲ緩和スル爲ニ、ソ
レゾレ必要ナル經過的規定ヲ設ケタノデア
リマス、本改正法律案提出ノ趣旨ハ大體右
樣ノ次第デアリマスカラ、何卒御審議アラ
ムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=27
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028・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) 如何デアリマ
セウカ、今日ハ此程度ニ致シテ置キマシテ、
次ハ明日デモ本會ガアレバ御質問ニ移ルコ
ト、ソレデ宜シウゴザイマスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=28
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029・伊東祐弘
○委員長(子爵伊東祐弘君) ソレデハ今日
ハ是デ延會イタシマス
午前十一時五十三分散會
出席者左ノ如シ
委員長子爵伊東祐弘君
副委員長松本烝治君
委員
子爵前田利定君
水上長次郞君
有吉忠一君
男爵渡邊修二君
菅原通敬君
名取忠愛君
政府委員
大藏政務次官小川〓太郞君
大藏省銀行局長大久保偵次君
司法省民事局長長島毅君
司法書記官森田豐次郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902564X00419310319&spkNum=29
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