1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年二月二十一日(土曜日)
午後一時二十二分開議
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議事日程 第十六號
昭和六年二月二十一日
午後一時開議
第一 治安警察法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 寄生蟲病豫防法案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 明治四十年法律第十一號中改正法律案(癩豫防に關する件)(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第六 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第七 刑事補償法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 辯護士法中改正法律案(北浦圭太郎君外三名提出) 第一讀會
第九 中央卸賣市場法中改正法律案(藤田若水君外四名提出) 第一讀會
第十 違警罪即决例中改正法律案(一松定吉君外三名提出) 第一讀會
第十一 行政執行法中改正法律案(一松定吉君外三名提出) 第一讀會
第十二 家祿賞典祿給與未濟に關する法律案(末松偕一郎君外四名提出) 第一讀會
第十三 鑛業法中改正法律案(大里廣次郎君外三十七名提出) 第一讀會
第十四 鑛業法中改正法律案(坂井大輔君外二名提出) 第一讀會
第十五 鑛業法中改正法律案(丹下茂十郎君外一名提出) 第一讀會
第十六 度量衡法中改正法律案(一松定吉君提出) 第一讀會
第十七 計量士法案(一松定吉君提出) 第一讀會
第十八 未成年者飮酒禁止法中改正法律案(長尾半平君外二十四名提出) 第一讀會
第十九 恩給法中改正法律案(山下谷次君外一名提出) 第一讀會
第二十 刑事訴訟法中改正法律案(一松定吉君外四名提出) 第一讀會
第二十一 利息制限法中改正法律案(一松定吉君外四名提出) 第一讀會
第二十二 利息制限法中改正法律案(原夫次郎君外三名提出) 第一讀會
第二十三 民事訴訟法中改正法律案(村岡吾一君外三名提出) 第一讀會
第二十四 航空法中改正法律案(永田良吉君提出) 第一讀會
第二十五 河川法中改正法律案(山枡儀重君外五名提出) 第一讀會
第二十六 借地借家調停法中改正法律案(小久江美代吉君提出) 第一讀會
第二十七 借家法中改正法律案(小久江美代吉君外二名提出) 第一讀會
第二十八 六大都市に關する法律案(森田茂君外十八名提出) 第一讀會
第二十九 産業組合中央金庫法中改正法律案(由谷義治君外十四名提出) 第一讀會
第三十 癈兵優遇に關する法律案(一松定吉君外一名提出) 第一讀會
第三十一 司法代書人法中改正法律案(斯波貞吉君外一名提出) 第一讀會
第三十二 農會法中改正法律案(牛場清次郎君外三名提出) 第一讀會
第三十三 耕地整理法中改正法律案(牛場清次郎君外三名提出) 第一讀會
第三十四 酒造税法中改正法律案(古島義英君外一名提出) 第一讀會
第三十五 道路維持修繕費損傷者負擔法案(栗原彦三郎君提出) 第一讀會
第三十六 穀類搗精製粉取締法案(大竹貫一君外四名提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=0
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001・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 諸般ノ報告ヲ致サ
セマス
〔書記官朗讀〕
一昨二十日政府ヨリ昭和四年度國有財產增
減總計算書及之ニ添附スヘキ各省ノ同增
減報告書竝會計檢査院檢査報〓ヲ受領セ
リ
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
昭和四年度歲入歲出總決算
昭和四年度各特別會計歲入歲出決算
昭和四年度歲入歲出決算檢査報告
國立公園法案
(以上二月二十日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
刑事訴訟法中改正法律案
提出者
長谷川陸郞君安田正男君
松定吉君
民事訴訟法中改正法律案
提出者
長谷川陸郞君安田正男君
大日本帝國國旗法案
提出者石原善三郞君
北海道拓殖銀行法中改正法律案
提出者土井權大君
澱川低水工事改良ニ關スル建議案
提出者
田中祐四郞君武内作平君
森田茂君勝田永吉君
安田正男君佐竹庄七君
豪灣ニ地方自治制施行ニ關スル建議案
提出者
斯波貞吉君〓瀨一郞君
坂東幸太郞君佐藤正君
櫛部荒熊君田川大吉郞君
(以上二月十九日提出)
議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
區割整理ニ際シ東京市ノ小學校舍移轉補
償金ニ關スル質問主意書
提出者遠藤千元君
天皇ノ大權國體觀念軍人精神竝政治上ノ
原則ニ關スル質問主意書
提出者松實喜代太君
(以上二月十九日提出)
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一去十九日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ
如シ
抵當證劵法案(政府提出)外九件委員
荒川五郞君小峰滿男君
篠原陸朗君勝田永吉君
小村俊一君佐藤謙之輔君
藍川〓成君松尾四郞君
本多眞喜雄君關口志行君
大崎〓作君板谷順助君
山田又司君瀨川嘉助君
磯部〓吉君名川侃市君
石崎敏行君中田駿郞君
取引所稅法中改正法律案(政府提出)委員
山邊常重君高橋秀臣君
森達三君西村金三郞君
石原善三郞君中亥歲男君
津雲國利君門田新松君
難波〓人君
一去十九日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如
シ
米穀法中改正法律案(政府提出)外一件委
員
辭任土屋〓三郞君補闕篠田有德君
辭任武知勇記君補闘田中養達君
辭任高橋元四郞君補闕小村俊一君
地租法案(政府提出)外六件委員
辭任土井權大君補關加藤鐐五郞君
公娼制度廢止ニ關スル法律案(三宅磐君
外十名提出)委員
辭任深澤豐太郞君補闕久山知之君
一昨二十日委員長及理事万選ノ結果左ノ如
シ
抵當證劵法案(政府提出)外九件委員
委員長荒川五郞君
理事
小峰滿男君篠原陸朗君
勝田永吉君大崎〓作君
板谷順助君
取引所稅法中改正法律案(政府提出)委員
委員長山邊常重君
理事
森達三君難波〓人君
一昨二十日理事補鬪選擧ノ結果左ノ如シ
刑事補償法案(政府提出)委員
理事栗原彥三郞君(理事服部英明君
今二十日委員辭任ニ付其ノ補
闕
一昨二十日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如
シ
刑事補償法案(政府提出)委員
辭任飯村五郞君補闘丹下茂十郞君
辭任服部英明君補闘栗原彥三郞君
辭任丹下茂十郞君補關米田規矩馬君
地租法案(政府提出)外六件委員
辭任前田米藏君補闕內田信也君
市制中改正法律案(政府提出)外三件委員
辭任藤井達也君補闕中谷貞賴君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=1
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002・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 是ヨリ會議ヲ開キ
マス議事進行ニ付テ西尾末廣君カラ發言
ヲ求メテ居ラレマス-西尾君
〔西尾末廣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=2
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003・西尾末廣
○西尾末廣君 一昨日同志淺原健三君カ
ラ警官暴行事件ニ關スル緊急質問又議事
進行ニ關スル發言ガアッタノニ對シマシテ、
安達內務大臣、又藤澤議長ハ、極メテ不誠
意ナル、其場限リノ逃避的ナ答辯ガアッタ
ノデアリマス、其答辯ノ態度ヲ見マスルナ
ラバ、ソレハ立憲政治ノ本義ニ反スル所ノ、
卽チ官僚政治ノヤリ方デアッタノデアリマ
ス、官僚政治ハ其場ヲ糊塗シ、自分ハ斯ク
信ズルト云フ獨斷ニ依ッテ、政治ヲ行シテ來
タノデアリマスケレドーモ、立憲政治ノ本義
ハ自己ノ所信ヲ詳細ニ披瀝シ、自己ノ所信
ニ對スル反對側ノ意見ニ對シテハ十分ニ
之ヲ諒解セシメ、得心セシムルコトニ、立
憲ノ本義ガアルト思フノデアリマス、斯ウ
云フ點ニ於テ甚ダ妥當ヲ缺ク答辯デアッタ
ノデアリマス、而モ淺原君ノ質問致シマシ
タ問題ハ議員ノ權限、國民ノ權限ニ關ス
ル、重大ナル問題デアリマスルガ故ニ、之
ヲ此儘ニ不問ニ付シ、斯ウ云フ狀態ノ儘ニ、
吾々ハ虚心坦懷平靜ナ氣持ヲ以テ、議事ヲ
進行スルコトガ出來ナイノデアリマス此
問題ヲ明瞭ニ解決スルニアラザレバ、吾々
ハ平靜ナ心持ヲ以テ議事ヲ進行スルコトガ
出來ナイノデアリマスルガ故ニ、私ハ淺原
君ニ依ッテナサレタ質問ニ對シテ、マダ明瞭
ニナッテ居ナイ點ニ付テ議長ニ質問シ、議長
ノ聲明ヲ待チマシテ、圓滿ナル議事ノ進行
ヲ圖リタイト考ヘテ、玆ニ質問ヲ致ス次第
デアリマス
第一ニ議長ニ質問致シマス點ハ、龜井君
ノ負傷、卽チ吾々ノ同志龜井貫一郞君ガ負
傷シタト云フ事實ハ、是ハ否定スルコトガ
出來ナイノデアリマス、更ニ其負傷シタ時
間ハ、十八日ノ五時二十分カラ、五時五十
分ノ間デアルト云フコトハ、後ホド私ガ讀
上ゲマスル新聞記事ニ依リマシテモ是ハ
其間ニ負傷シタト云フ事實ヲ否定スルコト
ハ出來ナイノデアリマスヽ更ニ又其負傷致
シマシタ場所ハ衆議院ノ構內デアル通用
門ノ門內デ負傷シタト云フ事實モ、亦之ヲ
否定スルコトガ出來ナイノデアリマス卽
チ龜井君ハ衆議院ノ構內ニ於テ負傷セシメ
ラレタト云フコトガ明瞭ニナリマスナラ
バ、之ニ對スル議長ハ自己ノ責任ト致シテ、
此問題ヲ明瞭ニシナケレバナラヌノデアリ
やっ、所ガ東京日日新聞ノ記事ニ依リマス
ルト、斯ウ云フコトガ高野警務課長ノ談ト
シテ出テ居ルノデアリマス「萬一ニモ警官
ノ中ニ不都合ナ者ガアリハシナカト嚴重調
査シタガ、現在ノトコロ暴行警官ハ一人モ
判然シナイ、院內警戒ニ派遣サレタ警衞課
員ハ議長ノ權限下ニアリ、目下ノトコロ調
査依賴モ受ケテヰナイカラ、コレ以上進ン
デノ調査ハ困難デアル」更ニ又同ジ問題ニ
付テ都新聞ハ斯樣ニ報ジテ居ルノデアリマ
ス「前代議士龜井貫一郞氏ガ衆議院通用門
ニ於テ警官ノタメ毆打傷害ヲ受ケタ事件
ハ、果然各方面ニ論議ノ渦ヲ捲キ起スニ至ッ
タガ、コレニツイテ直接ノ責任者タル警視
廳首腦部ノ態度ヲ見ルニ、丸山警視總監ノ
言フ所ハ、當時現場附近ノ警備ニ當ッテヰタ
警官ニツイテハ、洩レナク取調ベヲ行ッタ
ガコレ等ノ警官ノウチニハ龜井氏ヲ毆打
シタ者ガ一人モ無ク、更ニ又龜井氏毆打ノ
事實ヲ目擊シタ者サヘナカッタト言ヒ切リ、
更ニ二十日ニ至ッテハ、警務部首腦者間ニ於
テコレ以上調査ノ要ナシト、取調ベヲ打切
ルガ如キ口吻ヲサヘ洩ラスニ至ッタ」ソコデ
「之ニ付テ警視廳ニ關係シテ居ル日比谷記
者會員デ、當時コノ事件ヲ目擊シタ記者連
ハ、此ノ當局ノ態度ハ事實ヲ蔽フモ甚シク、
且此聲明ヲ延長スル時ハ此事件ヲ扱ッタ
記者ガ虚構ノ事實ヲ報道シタ事ニモナリ、
新聞紙ノ立場ヨリシテモ、由々シキ問題ナ
リトシテ、記者會員一同ハ二十日午後五時
廳內總監室ニテ丸山警視總監ト會見シ、當
時龜井氏ガ通用門內ニ入ッタ際、警備ノ警官
ハ同氏ガ登院章ヲ示シテモ之ヲ肯ゼズ、遂
ニ小競合トナッテ多數ノ警官ハ同氏ヲ突ク、
毆ルノ暴狀ヲ演ジ、龜井氏ガ外套ノ襟ヲ立
テヽ地面ニ伏スヤ、更ニソノ上カラモ足蹴
ニシタ警官サヘアッタ實狀ヲ具サニ述ベテ、
當局ノ取調べ方ノ杜撰ト、ソノ誠意ナキ態
度ヲ難詰シタ」斯ウ云フ事實ガ載シテ居ルノ
デアリマス、流石ニ新聞記者ニ難詰サレマ
シタノデ、當局モソレデハ尙ホ一應調査シ
ヨウト云フコトヲ言ハザルヲ得ナイ狀態ニ
ナッテ居ルノデアリマス、デ此點ニ付テ吾々
ノ考ヘマス點ハ被害者ノ方カラ加害者ノ
氏名ヲ指摘スルノデナケレバ、是レ以上進
メルコトガ出來ナイト云フコトヲ言ッテ居
ルノデアリマスルケレドモ、言フマデモナ
ク
〔末松借一郞君「地方制度ノ委員會ヲ開
キマス」〕
吾々ハ訊問ノ權利ヲ持ッテ居ナイ、調査ノ機
構ヲ持ッテ居ナイ、デアリマスルカラ、斯ウ
云フコトハ吾々ガ出來ルコトデハナクシテ、
斯ウ云フ事件ガ起ッタ場合ニハ訊問權ヲ
持ヲテ居ル警察當局ガ爲スベキデアッテ是
レ以上ハ被害者ノ方カラ氏名ヲ指摘シナケ
レバ吾々ハ調査ガ出來ナイト云フヤウナ
コトハ、共職責ヲ知ラナイ所ノ放言デアル
ト言ハザルヲ得ナイノデアリマス、ソコデ
私ハ議長ニ尋ネタイノデアリマスガ、ソレ
ハ高野警務課長ガ言"テ居リマスガ「是以上
ハ調査ノ依賴モ受ケテ居ナイノダカラ、調
ベルコトガ出來ナイ」斯ウ言ッテ居ルノデア
リマスガ、議長ハ淺原君ノ質問ニ對シテモ
「是ハ只今ノ演說ヲ聽キマシタコトデアリマ
スカラ尙ホ取調ベルコトニモ致シマセウ」
ト、斯ウ云フコトヲ一昨日ノ議場ニ對シテ
約束ヲ致シテ居ルノデアリマス、此約束ヲ
果シ、又自己ノ責任ヲ果ス爲ニ、其後調査
ヲ依賴ナサッタカドウカ、サウシテ恐ラク調
査致シマシタナラバ、事實ハ嚴然トシテア
ルノデアルカラ、是ノ加害者ガ現レナイ譯
ハナイト思フガ、其加害者ガ現レテ居ルカ
ドウカ、將來更ニ此問題ニ付テ、徹底的ニ調
査ヲ進メテ加害者ヲ調ベル-加害者ヲ出
スト云フコトニ付テ、議長ハドウ云フ考ヘ
方ヲ持クテ居ラレルカ、此點ヲ一ツ御尋致
シタイノデアリマス
ソレカラ第二ハ、議長ノ一昨日ノ答辯ニ
依リマスト「其際警察官ノ執リタル所ノ行
爲ハ、固ヨリ警備ノ職務ニ當ル者ノ當然爲
スベキ任務ヲ果シタモノト思フノデアリマ
ス」卽チ此答辯ニ依リマスト、當時吾々無產
黨ノ議員五名、更ニ大會ノ決議ニ依ッテ選
バレマシタ二十名ノ實行委員ガ、政府當局
ニ面會スベク通用門カラ入ラウトシタ時分
ニ、政府當局ノ聲明ニ依リマシテモ、僅
百名シカナイ所ノ者ヲ、其入門ヲ拒絕スル
爲ニ、門ヲ鎖スト云フヤウナ暴擧ガ行ハレ
タト云フコト、此事ハ極メテ重大デアリマ
ス、國民ガ政府ニ、時ニハ又議長ニ向ッテ何
カヲ進言シタイト云フコトハ、ソレハ國民
ノ權利デアリマス、ソレガ一警官ノ爲ニ、
下僚警察官ノ爲ニ門ヲ鎖サレルコトニ依ッ
テ、其權利ガ阻止サレルト云フコトハ、是
ハ今日憲法治下ニ於ケル我國ニ於キマシテ
ハ、人民ノ權利ト云フ立場カラ考ヘマスナ
ラバ、極メテ重大ナ問題デアリマス、又淺
原君ガ言ヒマシタヤウニ其事ノ爲ニ、ソレ
ガ直接ノ原因トナリマシテ、吾々ガ豫算案
ノ採決ニ對シテ、吾々ハ投票權ヲ行使スル
コトガ出來ナカッタト云フ點カラ見マスナ
ラバ、是亦議員ノ權限ヲ阻害スル上ニ於キ
マシテ極メテ重大デアラウト思フノデア
リマス、斯ウ云フコトヲ議長ハ、勿論命令
ハシナカッタト云フコトハ明瞭ニナッテ居ル
ノデアリマスガ、下級警察官ガ適當ナル處
置ナリト考ヘテ一應實行シ、後ニ事後承諾
ヲ求メルト云フ程ニ、輕々シク取扱ッテ妥當
ナル問題デアルカドウカ、吾々ハ疑ハザル
ヲ得ナイノデアリマス、卽チ議長ニ御尋致
シマスノハ、アノ暴行ヲ妥當ナル當然ノ任
務ト議長ガ聲明致シマシタノハ如何ナル
法規ノ根據ニ據ルモノデアルカ、議院法ノ
第八十六條ニ於キマシテハ「各議院ニ於テ要
スル所ノ警察官吏ハ政府之ヲ派出シ議長ノ
指揮ヲ受ケシム」ト、議長ノ指揮ヲ受ケテ
ヤラナケレバナラヌト云フコトニナッテ居
ルノニ、獨斷的ニ下級官吏ガアヽ云フ暴行
ヲヤッタ、ソレヲ議長ガ事後ニ於テ承認シ
テ、ソレデ是ハ當然ノ任務デアルト云フヤ
ウナコトヲ言ヒマスコトハドウ云フ法規
ノ根據ニ據ルノデアルカト云フコトヲ一ツ
尋ネタイノデアリマス
モウ一ツハ、議長ガ此問題ニ對シテ遺憾
ノ意ヲ表シ、之ヲ是認スルト云フコトヲシ
ナイデ、寧ロ之ヲ否定スルト云フコトヲヤッ
テ置キマセヌナラバ、是ハ今後議會ノ前例
ニナルノデアリマス、議長ハ之ヲ唯當然ノ
任務デアッタト是認ヲ致シマス結果ハ、議會
ノ今後ニ於テ前例ニナルノデアリマス、サ
ウ致シマスト、若シ民政黨ガ在野黨ニナツ
タ時ニハ、時ノ政府與黨ニ推サレタル所ノ
議長ガ、サウ云フコトヲ暗默ノ間ニヤラ
ス、僅カ三名カ五名ノ差異ニ依ッテ議案ガ
通過スルカ、否決サルヽカト云フトキニ
ハ議員ノ登院ニ何カ文句ヲ付ケテ阻止ス
ルト、サウシタ事ガ後ニ問題ニナリマスト、
其處置ガ惡カッタナラバ、下級ノ二三ノ
警察官ヲ馘ルコトニ依シテ、自分ノ責任ヲ囘
避スルト云フコトガ行ハレ得ルノデアリ
そく、デアリマスカラ斯ウ云フ事ガ前例ニ
ナルト私ハ考ヘルノデアリマスガ、議長ハ
斯ウ云フコトガ前例ニナッテモ宜イ斯ウ
御考ヘニナリマスカ、此點モ御尋シタイノ
デアリマス
第三ニハ一昨日ノ議場ニ於ケル議長及安
達內務大臣、及ビ又民政黨ノ諸君ハヽ吾々
同志ヲ暴民扱ヲシテ居ルノデアリマス、是
ハ甚ダ不穩當デアリマスカラ、私ハ之ヲ取
消ヲシテ貰ヒタイト考ヘルノデアリマス
卽チ安達內務大臣ノ答辯ノ中ニハ「約百名ノ
群衆ガ業議院內ニ殺到セントスル形勢ヲ示
シ」群衆ガ殺到セントスル形勢ヲ示シタト
群衆ト云フ形容詞ヲ用ヒテ居ルノデアリマ
ス、又藤澤議長ハ「陳情ノ爲メト言ッテ」
陳情ノ爲ニト言ハナイデ「陳情ノ爲メト言ツ
テ百餘名本院ノ通用門ニ押寄セ、腕ヲ組ミ一
團トナリ、突進セントシテ、甚ダ不穩ノ情
勢ヲ示シマシタノデ」云々ト言ッテ居リマス
(「其通リト」ト呼フ者アリ)ソレ其通リト云
フヤウナ聲ガアル程ニ、暴民扱ヲ民政黨ノ
諸君ハ致シテ居ルノデアリマス、又一昨日
ニ於テモ議席カラ淺原君ノ演說中ニ、ソレ
ハ暴動ダ、暴動ダト云フ聲ガ屢〓起ッタノデア
リマス、所ガ當時ノ實際ノ事情ハドウデアル
カト申シマスト、吾々無產黨議員ガ五名、ソ
レニ實行委員ノ二十名ハ、各無產政黨ノ皆代
表的ナ幹部バカリデアッタノデアリマス、例
ヘバ我ガ社會民衆黨ノ赤松君、龜井君デア
ルトカ、或ハ日本大衆黨ノ麻生君、或ハ勞
農黨ノ田部井君ト云フヤウニ、皆黨ノ責任
アル幹部バカリデアッタノデアリマス、斯ウ
云フ黨ノ責任アル幹部バカリガヤッテ來タ
モノヲ、ソレニ少數ノ黨員ガ附イテ來タカ
ラト云ッテ、之ヲ暴民扱ヲスルト云フコト
ハ、穩カデナイト思フノデアリマス、殊ニ吾
吾ガ如何ニ自制心アルカ、如何ニ責任ヲ
重ンズルカト云フ點ニ於テハ、報知新聞ノ
「龜井君ノ眞劍、小山副議長語ル」ト云フ記事
ノ中ニモ、吾々ノ眞面目サガ現レテ居ルノ
デアリマス「警官暴行事件ノ犠牲者龜井貫
一郞氏其日ノ態度ニ付テ、衆議院副議長小
山松壽氏ガ十九日ノ午後記者ニ語ッタ感想
ハ、聞キ棄テニスルニハ惜シイ「エピソー
ド」デアル」ト云フ前提ノ下ニ、小山副議長
ノ言葉ガ紹介サレテ居ルノデアリマス「恰
モ通用門デアノ事件ノアッタ直後デアル、十
八日午後六時頃近クダッタラウ、私ハ藤澤議
長ト交代シテ議長席ノ背後ノ「ドアー」カラ
廊下ヘ出タ、ソコヘ全身ニ傷ヲ受ケタ龜井
君ガ通リ掛カリバックリト遭ッタ、意外ニ思ッ
テ私ハドウナサイマシタト尋ネタ、今吾々ノ
同志ガ三十名、警官隊ノ爲ニ不當ノ暴壓ニ
逢シテ居ル、吾々ガ議長ト會見スル爲ニアナ
タノ御盡力ヲ願ヒマスト、落付キ拂ッテ自
分ノ負傷ニハ一言モ觸レズ、事件ノ應急處
置ヲ相談サレタアノ瞬間私ハ眞ニ龜井君
ノ眞劍ナ態度ニ感服シタ」副議長自身ガ斯
ウ言ッテ居ルノデアリマス、龜井君ハ中デモ
治療一週間ニ亙ル所ノ傷ヲ負ハサレテ、最
モ其暴行ノ犧牲ニナッタノデアリマスガ、ソ
レガ暴行サレタ直後ニ於テ、尙ホ自分ノ傷
ヲ負ウタコトニ付テハ少シモ興奮シナイ
デ、落付キ拂ッテ議長ニ會エルヤウニシテ貰
ヒタイト言ッテ居ル、此事實ニ依リマシテ
モ、吾々ガ如何ニ冷靜ナ態度ヲ以テ、如何
ニ眞面目ニ問題ヲ取扱ッテ居ッタカト云フコ
トガ分ルノデアリマス
更ニ又其警官カラ暴行ヲ受ケマシタ吾々一
行ハ、實行委員二十名ト吾々五名ト合セマ
シテ二十數名ノ者ガ、其暴行ニ遭シタ直後ニ
於テ、貴族院ハ控室ニ於テ幣原首相代理ト
會見致シテ居ルノデアリマス、其會見ノ狀
況カラ見マシテモ、極メテ眞面目ニ、極メ
テ紳士的ナ態度ヲ以テ、何等興奮スルコト
ニ依ッテ幣原首相代理ニ惡罵ヲ浴セルト云
フヤウナコトナク、落付キ拂ッテ交渉ヲヤッ
テ居ルノデアリマス、斯ウ云フ點カラ見マ
シテモ吾々ハ其當時ノ狀況ハ、決シテ議
長及ビ內務大臣ガ言ッテ居リマスヤウニ、暴
民扱ニスベキモノデハナイ、幾分所謂殺氣
立ッタト云フヤウナ形勢ガアッタト致シマシ
テモ、ソレハ徒ニ代表者ノ議院ヘ來ルコト
ヲ阻止スル爲ニ、內務大臣モ言ッテ居リマス
ヤウニ、途中屢〓騎馬巡查ノ馬蹄ニ掛ケテ、
實行委員ノ議會ヘ來ルコトヲ阻止シヨウト
セルコトノ爲ニ、吾々ハ自分ニ課セラレタ
重大ナル任務ヲ果ス爲ニ議會ヘ行カウトシ
テ居ル、ソレガ途中デ蹴散ラサレ檢束サ
レルト云フヤウナコトガアッテハナラヌト
云フノデ、吾々ハガッチリト腕ヲ組ンデ議會
ヘ行進シテ來タノデアリマス、ソコニ幾分
緊張味ガアッタト致シマシテモ、ソレハ吾々
ノ責任デハナイシ暴民扱ニスベキ性質ノ
モノデハナイト思フノデアリマス、デアリ
マスカラ議長ハ一昨日ノ議長自身ノ此點ニ
關スル言葉ヲ取消シ、更ニ內務大臣ニ對シ
テ其取消ヲ要求スルコトニ依フテ、議事ノ
圓滿ナル進行ヲ圖ッテ貰ヒタイト思フノデ
アリマス、此點ニ對シテモ議長ハ如何ナル
考ヲ持ヲテ居ルカ、御伺致シタイ次第デアリ
マス(「警官暴行事件ハドウシタ」ト呼フ者
アリ)ソレハ一番最初ニ申シタガ、念ノ爲ニ
言フテ置キマス、卽チ龜井君ガ院內ニ於テ負
傷シテ居ルト云フ事實、之ニ對シテ當局ハ
サウ云フコトハ加害者ガナイ斯ウ辯明シ
テ居ルノデアリマスケレドモ、龜井君ガ負
傷シテ居ル、ソレハ院內デ負傷シテ居ル
是ハ警察官以外ニ龜井君ニ暴行ヲ加ヘル筈
ノ者ハナイノデアリマスカラ、吾々ハ勿論
サウダト思ッテ居ルノデアリマスガ、ソレニ
對シテ議長ハドウ考ヘテ居ラレルカ、東ノ
又共後實際調査シタカ、先ニ申シタコトニ
付キマシテモ、議長ノ所謂立憲的ナル吾
吾ヲ納得セシムルダケノ、內容ノアル御答
辯ヲ要求スル者デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=3
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004・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 西尾君ニ御答致シ
マス、大體ニ於キマシテハ一昨十九日議長
カラ淺原君ニ御答致シタノデ、殆ド盡キテ
居ルト考ヘルノデアリマスガ、尙ホ其後調
査致シタ所ニ依リマスト、通用門閉鎖ノ際、
前代議士龜井貫一郞君ガ構內ニ突入セラレ
ントスル狀態デアッタ場合、警察官ニ於テ固
ヨリ其何人タルカヲ知ル由モナカッタノデ、
强力ヲ以テ之ヲ阻止シタノデアッタト云フ
コトデアリマス、當時通用門內ニ於テハ
多數ノ傍聽者其他ノ者ガ居リマシタ際デア
リマシタカラ、多少ノ混雜ヲ致シタノデアッ
タト云フコトデアリマス
是ニ於テ西尾君ニ御答ヲ中上ゲナケレバ
ナリマセヌコトハ一體通用門ヲ閉鎖シタ
コトハ、如何ナル法規ニ據レルモノデアル
丸、斯ウ云フ御尋デアリマシテ、ソレハ只
今西尾君モ御達ベニナリマシタ通リ、議院
法ノ第八十六條、衆議院規則ノ第百七十一
條-第百七十二條ノ本文ニハ「守衞ハ議
事堂內警察官吏ハ議事堂外ノ警察ヲ爲ス」
卽チ此法規ニ依リマシテ、當然斯樣ナ場合
ニ不穩ナリト認メマシタ場合ハ取締ノ必
要上通用門ヲ閉ザスコトアルモ、亦已ムヲ
得ナイコトデアリマス、ソレカラ又議長ガ
一昨日御報告致シマシタコトモ、又只今御
答致スコトモ、ソレ〓〓ノ機關ニ依ッテ其報
〓ヲ求メタ結果ニ基イテ御答致シテ居ルノ
デアリマス
ソレカラ其次ハ、又一昨日ノ議長ノ言葉
ニ、非立憲トマデ御話ガナカッタヤウデアリ
マスガ、何ヤラ立憲的デナイ、暴民扱ヲシ
タト云フヤウナ言葉ガアリマシテ、彼ノ言
葉ヲ取消セト云フ御望デアッタヤウニ承リ
マシタガ、議長ハ事實ヲ言現シマシタニ過
ギマセヌノデアリマスカラ、之ヲ只今取消
ス必要ハナイト考ヘマス、ソレカラ又群衆
ガ議院ニ向ッテ假令多勢デ參リマシテモ、故
ナク之ヲ暴民扱ニ致スナドヽ云フヤウナ意
思ハ全然アリマセヌ、是ダケハ特ニ御諒解
ヲ願ッテ置キマス
尙ホ申上ゲマスレバ、此度ノ事ニ付テ議
長ニ於キマシテハ、斯ノ如キ場合ニ於ケル
警備ノ警察官ノ態度ニ對シマシテハ、將來
ノ爲メ相當ノ注意ヲ加ヘテ置キマシタ(「警
察官ノ暴行ヲ認メマスカ」ト呼フ者アリ)ソ
レハ一昨日ノ答辯ニ明カニ申上ゲテ置キマ
シタ、承レバ龜井前代議士ハ負傷セラレタ
ト云フコトデアリマシテ議長ニ於キマシ
テハ洵ニ遺憾ニ存ジマシテ、御同情ヲ申上
ゲテ居ル次第デアリマス
片山哲君カラ議事進行ニ關シテ發言ヲ求
メラレテ居リマス、之ヲ許可致シマス、片
山哲君
〔片山哲君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=4
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005・片山哲
○片山哲君 同志西尾君カラ龜井君ノ被害
問題ニ付テ議長ニ質間致シマシタ所、議長
ノ只今ノ答辯ハ少シモ要領ヲ得ナイノデア
リマス、將來ニ對シテ注意ヲスルトカ、サ
ウ云フヤウナ言葉ガアリマスケレドモ、現
實玆ニ現ハレテ居リマス此負傷十日間ニ亙
ル傷害、其責任ヲ明カニスル點ニ付テ、何
等觸レテ居ナイト云フコトヲ吾々ハ强ク
質問シナケレバナラナイノデアリマス、事
實ハ動カスコトガ出來ナイノデアリマス
龜井君ハ既ニ議院ノ入門章通過章ヲ
持ッテ居ルノデアリマス、自分ハ龜井貫一郞
デアッテ、此通過章ヲ持ヲテ居ルト云フコト
ヲ言ッテ居ルニモ拘ラズ、當時院內ニ居リマ
シタ警官ノ爲ニ、毆ル蹴ルノ暴行ヲ受ケマ
シテ、十日間ノ負傷ヲ受ケタノデアリマス、
此事實ニ付キマシテ責任ヲ明カニシナケレ
バナラナイ、前囘淺原君ノ質問ニ對ウマシ
テ議長ハ調査致スト云フヤウナ答辯ヲサ
レテ居ルノデアリマス、旣ニ十八日ヨリ今
日マデ四日間ヲ經過シテ居リマス四日間
ヲ經過致シマシタ只今ノ答辯ハ殆ド其中心
ニハ觸レテ居ナイノデアリマス、此現實ノ
事實ニ對シテ責任ヲ明カニスルト云フコト
ハ-事實ヲ明カニスルト云フコトハ、議
長ノ地位カラ申シマシテモ、議院內ニ於ケ
ル警察ノ全權ヲ持ヲテ居リマスル議長ノ立
場カラ申シマシテモ、最モ明瞭ニシナケレ
バナラナイ事柄デアラウト私ハ思フノデア
リマス、殊ニ先般來ノ暴行事件ノ結果、告
訴沙汰ガ-司法權ノ世話ニナルト云フ間
題ハ立法府ニ於テハ避ケナケレバナラナ
イト云フヤウナ話ガアッタト云フコトヲ聞
クノデアリマス、サウ致シマスルナラバ、議
長ハ今日ノ司法官ガ執ッテ居リマスル如
キ、極メテ細密ナル注意ト精細ナル方法トニ
依リマシテ、斯ル暴行事件ヲ糺明シ、其加
害者ヲ明カニシマシテ其刑事責任ノ處罰
ヲ致スベキガ當然ノコトデアルト共ニ各
般ノ事項ヲ極メテ明瞭ニ致シマシテ吾々
ガ圓滿ニ議事ノ進行ヲ爲シ得ルヤウニスベ
キコトガ、議長ノ職責デナケレバナラヌト
私ハ思フノデアリマス、就キマシテハ議長
ノ此地位ト權限ヲ十分ニ明確ナラシメル爲
ニ吾々ハ議長ノ此地位ニ信賴致スノデア
リマスルガ、只今ノヤウナ曖昧摸糊ノ裡ニ
之ヲ葬クテシマフト云フヤウナ立場ヲ執リ
マシタナラバ、安ンジテ吾々ハ此議事ノ進
行ヲ爲シ得ルコトガ出來ルデアラウカ、大
ニ疑ハザルヲ得ナイノデアリマス、就キマ
シテハ玆ニ現實現ハレテ居リマスル十日間
ノ被害-負傷問題ニ付テ、其何人ガ加害
者デアルカ、何人ガ共傷ヲ負ハシメタモノ
デアルカト云フコトヲ明カニシナケレバナ
ラナイ、明カニナッタトキニ議長ハ其加害者
ニ向ヲテ、如何ナル處置ヲ執ルモノデアル
カ、又先程ノ御言葉ノヤウニ、曖昧ニ之ヲ
葬リ去ル、加害者ガ結局分ラナイ、警官デ
害ヲ加へタ者ガナイト云フヤウナ事實ヲ以
テゝ答ヘルト云フコトニナッテ參リマシタ
ナラバ、サウスレバ其警察上ノ責任ハ一體
誰ガ之ヲ負フベキデアルカ、其責任ヲ明カ
ニスルト云フコトハ今日議長トシテ最モ
執ルベキ立場デハナイカ斯樣ニセナケレ
バ立法府ニ於ケル所ノ審議ハ、決シテ圓滿
ニ進ムベキモノデハナイ、告訴沙汰ヲ避ケ
ルト云フヤウナ問題ハ、到底實行サレルモ
ノデハナイ、ヤハリ每日檢事ガ出張致シマ
シテ、議院內ノ司法問題ヲ、色々考ヘテ行
カナケレバナラナイト云フヤウナ問題ガ、
ソコニ現レテ來ルト云フコトヲ私ハ思フノ
デアリマス、立法府ノ權威ノ爲メ、議長ノ
明瞭ナル地位ト權限ヲ明カニスル爲ニ、此
問題ハ何等曖昧ノ裡ニ葬ムルコトナク極
メテ明快ニ吾々ガ安ンジテ議事ヲ進行シ
得ルヤウニ、議長ハ其職責ヲ明カニシ、事
實ノ關係ヲ明瞭ニスベキ責任アリト云フコ
トヲ、私ハ玆ニ議長ニ更ニ質間致ス次第デ
アリマス、明快ニ御答辯アランコトヲ希望
致ス次第デアリマス
尙ホ西尾君モ質問サレタノデアリマスケ
レドモ、警察官ガ院內ニ於テ龜井君ニ暴行
ヲ加ヘタ事實ヲ否認スルコトハ、絕對ニ出
來ナイト思フノデアリマス、衆人環視ノ中
ニ於テ暴行ヲ加ヘテ居ル事實ハ極メテ明瞭
デアリマス、之ヲ議長ハ否認スルノデアリ
マセウカ、白ヲ黑ト言ヒクルメル結果ニナツ
テハ社會ニ非常ニ惡影響ヲ來スモノデア
ルト云フコトヲ憂フルノデアリマス、是等
ノ點ニ付キマシテ議長ニ更ニ質問スルノデ
アリマスカラ、其點ヲ明快ニ御答アランコ
トヲ求メル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=5
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006・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 片山君ニ御答ヲ致
シマス、龜井君ノ負傷セラレタルコトハ
是ハ私否認致スノデハ勿論ナイノデアリマ
ス、唯負傷セラレタル場所ガ門ノ內デアル
カ、外デアルカ、或ハ其時如何ト云フコト
ガ、不明デアルノデアリマス、其加害者ノ
明カナラヌコトハ、只今兩君ノ御述ベニナ
リマシタ通リノコトデアリマス、只今ノ所
デハハッキリ致シテ居リマセヌ、最後ニ御述
ベニナリマシタ若シ其事實ガ明カニナック
クラバ、卽チ加害ノ事實ガ明カニナッタナラ
バ議長ハ之ヲ如何ニナスカト云フ點ニ付
テハ是ハ固ヨリノコトデアリマシテ、左
樣ナ事實ガ明カニナリマシタナラバ、議長
ハ當然ノ處置ヲ致ス積リデアリマス
〔「進行々々」「議長」其他發言スル者多
シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=6
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007・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 淺原君カラ議事進
行ニ付テ發言ヲ求メラレテアリマスガ、只
今ノ問題ト違ヒマスカ、只今ノ事ヲ尙ホ御
述ベニナル御積リデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=7
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008・淺原健三
○淺原健三君 ソレハ關聯シテ足ラザル所
ヲ申上ゲテ、事實ヲ明カニスルノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=8
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009・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) ソレデハ簡潔ニ願
ヒマス淺原君
〔淺原健三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=9
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010・淺原健三
○淺原健三君 私ハ同一ノ問題ニ付キマシ
テ何ガ故ニ無產黨議員ガ三名モ登壇シテ
議長ニ御尋致シマスカト言ヒマスルニ、衆
議院ノ構內デ登院章ヲ佩シナガラ、警官ノ
爲ニ暴行ヲ受ケタルニモ拘ラズ、其犯人ガ
不明ナドヽ云フコトガ、若シ此議院デ通リ
マスルナラバ、每日議院ニ登院シテ居ル新
聞記者諸君、其他登院章ヲ佩セル一切ノ登
院者ノ身體保護ヲ全ウスル能ハズト思フノ
デアリマスガ故ニ、之ヲ再三御尋スル所以
デアリマス
先ヅ議長ニ御尋申上ゲマスルコトハ、院
內デアッタカ、院外デアッタカ、ソコガ不明
デアル、更ニ毆打シ、暴行シタル者ガ何人
デアッタカ、ソレモ不明デアル、今マデノ調
査ニ依レバ、議長ノ答辯ハ警官暴行ノ事實
無シ、斯ウ云フコトニナルノデアリマス
若シ議長ノ御答辯ガ眞實ナルモノト致シマ
スレバ、當日十九日付ノ朝刊ニ、東京ノ殆
ド全新聞紙ガ筆ヲ揃ヘテ、院內ニ於ケル警
官暴行ノ事件ヲ四段拔キ、三段拔キ初號
活字デ報道致シテ居リマシタコトハ、全部
虚僞ノ報道ヲ東京ノ新聞ハ日本ノ民衆ニ
向ッテ發シタト云フコトニナルノデアリマ
ス斯ノ如キコトハ日本ノ言論史上實ニ由
由シキ一大問題デアリマシテ、恐ラク左樣
ナ過ハ斷ジテナカラウト思フ、若シ新聞紙
ノ報道ガ事實目擊者ノ筆ニ成リ、又ソレ等
目擊者ノ報告ニ基イテ爲サレタ眞實ノ報道
デアルナラバ、今ノ議長ノ答辯ガ眞赤ノ嘘
ト云フコトニナル議長ノ答辯ガ事實ナラ
バ、東京全市ノ新聞紙ノ報道ハ全然虛報ト
云フコトニナル、私ハ當時事實ヲ目擊セラ
レタ新聞記者ガ、如何ニ明瞭ニ警官暴行ノ
事實ヲ指摘斷定セラレテ居ルカヲ當日ノ
新聞紙ヲ其見出シダケヲ讀上ゲテ、議長ノ
再思三考反省ヲ促シテ、其調査ヲ速ナラシ
メントスルノデアリマス、私ノ手許ニアリ
マスル新聞紙ハ約十通バカリデアリマスル
ガ之ヲ新聞社名イロハ順デ讀上ゲテ見マ
スレバ、東京日日新聞三段拔キ、初號見出
シデアリマス、曰ク「無產黨議員ニ對シ」「警
官登院ヲ阻止ス」「無產者大會ノ代表者ト共
ニ」「龜井前代議士負傷」、斯ウ云フ三段拔キ
四列ニ竝ベタ見出ノ下ニ、斯ノ如キ內容ガ
揭ゲラレテ居ルノデアリマス「漸ク五十餘
名ガ衆議院通用門ニ殺到シタトコロ議院
構內警戒ノ警官ハ門ヲ閉塞シ、騎馬巡查モ
出動シテ入レナイノデ、無產黨議員團ト警
官隊ト衝突シ、五代議士ハ漸クモマレ〓〓
テ入門出來タガ、ソノ際前代議士黴章ヲ胸
ニシテ登院證ヲ持ッテ入門シタ前代議士龜
井貰一郞氏ハ警官隊ノタメニ遂ニ負傷シ
タ」、第二ハ報知新聞ノ同ジク四段拔キ初號
見出シノ報道デアリマス(「議事進行ニ關係
ナイ」ト呼フ者アリ)現場ヲ目擊シタル新聞
記者ガ殆ド東京全市ノ新聞社ガ、筆ヲ揃
ヘテ院內警官ノ暴行ト明記シテ居ルニモ拘
ラズ、其事實無シト議長ガ言ハレマスガ故
ニ、此新聞記事ハ全部虛報ナルカ、是ハ重
大ナル事デアル、斯ノ如キ事實ヲ揭ゲテ居
ルコトニ對シテ、尙ホ議長ハ事實無根ト言
ハレテ居ルコトヲ質ス爲ニ申上ゲテ居ルノ
デアル、故ニ是程重要ナ議事進行ノ引例ハ
ナイノデアリマス--議會ノ通用門ヲ挾
ンデ」「今度ハ警官隊ガ大暴行」「無產大會代
表ニ對シ亂暴狼藉」「重大ナル政治問題化」
斯ウ云フ見出デアリマス(「サウ云フコトハ
分ッテ居ル」ト呼フ者アリ)皆分ッテ居ルコト
ヲ白々シク否認スルカラ、何遍モ登壇スル
ノダ、是程天下著名ナル事ヲ白々シク否認
スルガ爲ニ、何度デモ質問スルノダ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=10
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011・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 私話ヲ禁ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=11
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012・淺原健三
○淺原健三君(續) 「十八日午後一時カラ
芝協調會館デ開カレタ無產三黨協同鬪爭委
員會主催ノ醜惡議會解散要求演說大會デ決
議サレタ決議文ヲ携へ、無產五代議士初メ
實行委員三十名ガ議會ニ向フ途中、コレト
同行セントシテ會場カラナダレ出タ大衆
ハ市內各所ニオイテ警官隊ト大衝突ヲナ
シ多數檢束者ヲ出シタガ、午後五時二十分
右代表者ガ院通用門ニ入ラントシタ刹
那門內ニ隱レテ居ク多數警官隊ガ躍リ出
テコレヲ阻止セントシテ大亂鬪ヲ始メ、
遂ニ別項ノ如キ前代未聞ノ警官暴行事件ヲ
惹起スルニ至タタシシモソノ暴擧ガ院內警
權ニ對シテ絕對的權限ヲ有スル議長ノ意
思ニ依ッタモノデナク、全ク警官ノ獨斷的行
爲デアッテ、コレハ議會ニ向ッテ放タレル國
民大會ノ意思ヲ阻止セントシタモノデア
リ、議院ノ神聖ヲ冒瀆シクルモノトシテ、
重大ナル政治問題化セントシテヰル」、同ジ
ク中外商業新報(「十何本ノ新聞ヲ皆讀
マシテタマルモノカ」ト呼フ者アリ)要點ダ
ケ見出シダケグ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=12
-
013・藤澤幾之輔
○議長 (藤澤幾之輔君)淺原君、私語ヲシ
テハイケマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=13
-
014・淺原健三
○淺原健三君(續) 同ジク初號三段拔キ見
出シデ「無產黨員ト警官隊議院構內デ大亂
鬪」「大會ノ代表者阻止カラ龜井前代議士等
負傷ス」「流血ト亂闘ノ今議會ハ·
言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=14
-
015・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=15
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016・淺原健三
○淺原健三君(續) 見出ダケニスルカラガ
ヤガヤト言フナ十八日午後五時半又
マタ議會構內ニ於テ無產黨代議士及ビ無產
黨員ト警官隊トノ衝突ガ起リ、無產黨側ハ
前代議士龜井貫一郞氏ガ一週間ノ負傷ヲ負
ウタホカ數名ノ負傷者ヲ出スニ至ッタ」同ジ
ク中央新聞、初號三段拔キ「無產黨代表委
員警官隊ト大亂鬪」「大會ノ決議文ヲ携ヘテ
議會へ」「龜井前代議士重傷ス」同ジク讀賣
新聞、初號活字四段拔キノ見出シデアル
「無產代議士ノ登院ヲ阻止シ、警官隊大暴行
ヲ働ク」「龜井前代議士數ケ所ニ負傷」「衆議
院構內修羅ノ巷」何トイヽ見出デハナイカ、
「警察權ノ濫用、スパイ政治ノ暴露ニツイ
テ、此間ノ議會デ問題化サレ、未ダ旬日モ
經タナイニモ拘ラズ、警察官ガ多數デ衆議
院ノ門扉ヲ閉シ、議員ノ登院ヲ阻止シ、剩
サヘ暴行ヲ加ヘタトイフ、議會構內ニハ珍
シイ警察官暴行事件ガ又復惹起シタ、午後
五時十五分デアル、無產者大會ノ決議文ヲ
携ヘテ、無產黨ノ五代議士ヲ先頭ニ、實行
委員十八名ガ三十餘名ノ黨員ニ護ラレナガ
ラ衆議院通用門ニ差カヽッタトコロ、俄然
警官隊ノ猛襲ヲ受ケタ、所々ニ屯シテ待構
ヘテヰタ百五十餘名ノ制服警官ハコノ小
集團ヲ目蒐ケテ總檢束ヲ行フベク猛然ト襲
ヒカヽリ、皆ガガッチリ腕ヲ組ンデ離レナイ
所カラ、ヤレトバカリ警官ハ一人ニ對シテ
六七名宛シテ飛ビ付キ、全黨員ヲ泥靴デ蹴
ルヤラ、生意氣ナ野郞ダト怒鳴ッテ歐リツケ
ルヤラ、見ルニ忍ビザル暴力ヲ揮ッタ末、一
團ノ中心ヲナシテイタ實行委員ノ一人タル
社民黨ノ前代議士龜井貫一郞氏ヲ、二十餘
名ノ警官ガ通用門內ニ突飛バシテ··
〔發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=16
-
017・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 栗原君、御注意ヲ
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=17
-
018・淺原健三
○淺原健三君(續) 入レルト同時ニ、勝手
ニ通川門ヲ閉鎖シタ上、龜井氏ヲ踏ム、蹴
ル、毆ル、其上ニ「コンクリート」ノ上ニ叩
キツケ、頭髪ヲ鷲摑ミニシテ引摺リ〓シ、
果ハ實行委員ノ集團ニ騎馬ヲ乘リ入レル暴
狀ニ見兼ネタ既成政黨ノ各代議士ヤ院外
團ハ、一齊ニ警官橫暴ヲ叫ビツヅケ······」長
クナリマスカラ是デ切リマス、萬朝報同ジ
ク初號二段拔キ「警官隊ニ遮ラレ到ル處ニ
小競合、遂ニ龜井前代議士負傷ノ活劇ヲ
演ズ」発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=18
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019・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 淺原君、大〓ドウ
デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=19
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020・淺原健三
○淺原健三君(續) 見出シダケニシマス、
國民新聞初號四段拔キ「醜議會解散要求ノ
民衆ニ警官隊未曾有ノ暴行、議會通用門ヲ
閉ヂテ議員ノ登院阻止、淺原代議士、龜井
前代議士負傷」東京朝日新聞初號三段拔キ
「警官隊ト衝突シ龜井買一郞氏負傷、無產黨
議員ノ入場ヲ食止メ議院門前デ流血騒ギ」
都新聞-モウ一ツダ「無產者大會ノ群集遂
ニ警官隊ト衝突、議院門前デ又モ流血騒ギ、
龜井氏等數名負傷」同ジク時事新報、是モ
初號三段拔キ「龜井前代議士負傷、警官隊ニ
蹴ル、毆ラル、議院ノ門內デ打倒シテ暴行、
程經テ漸ク代議士、委員入門ス」東京ノ殆ド
全新聞紙ガ、斯ノ如ク斷定的ニ院內デ警官
ガ暴行シ、負傷セシメタコトヲ報道シテ居
ル、而モ其時アノ現場ニ在ッテ目擊セラレ
タ二十數名ノ新聞記者諸君ノ顏ト名前ヲ私
ハハッキリ知ッテ居ル、而モソレ等新聞記者
諸君ハ、何時デモ司法ノ府ニ於テ〓訴沙汰
等起リタルトキハ院內ニ於ケル警官暴行
ノ事實ヲ立證スルニ差支ナシトサヘ明言セ
ラレテ居ルノデアル、斯ノ如キ天下明白ナ
事實ヲ、議長ハヤハリ取調ベタガ、事實無
シト言ハレルカ、若シ議長ガ警官暴行事實
無シト言ハレルナラバ日本ノ新聞紙ハ全
部噓ヲ書イテ報道シタノデアル是程生々
シイ事件ヲ噓ヲ書イテ新聞紙ガ報道スルナ
ラバ、此狹イ議會ノ中デアンナ新聞記者倶
樂部ヲ建テヽアンナ澤山ノ新聞記者諸君
ヲ報道ノ任ニ當ラシムル必要ハ斷ジテナイ
筈デアル、新聞記者諸君ノ報道ガ事實デア
ルトスルナラバ是ハ卽チ議長ノ今ノ答辯
ガ、多數ヲ恃ンデ天下ニ白々シサヲ暴露ス
ルノ答辯ト結論スル以外ニ、ドウシテモ想
像スルコトハ出來ナイ、此問題ハ無產黨ノ
問題デハナイ、政友會諸君ナゾハ、ドウ御
考ヘニナッテ居ルカ知レナイケレドモ、無產
黨議員ノミノ問題デハナイ、衆議院議員ノ
身體保持ノ問題デアリ、衆議院ノ權威保持
ノ問題デアル民政黨ノ諸君ハ今無責任デ
ソンナコトヲ言ッテ居ルガ、是モ今日ハ人ノ
身、明日ハ自分ノ身ニ降リ掛ルコトデア
ル故ニ私ハ議長ニ對シテ、斯ノ如ク明瞭
ナ新聞記事ガアルニモ拘ラズ、議長ハ其事
實無シト言ハレルノハ、此新聞記事全體ヲ
否認セラレルコトニナリマスルガ、議長ハ
之ヲ御否認ニナルカドウカ、若シ是ガ權威
アル言論機關ノ報道ト見ラレルナラバ此
報道ニ依ッテ想像スルモ、議長ノ先刻答辯セ
ラレタルガ如キ、空々漠々タル結論ハ得ナ
イモノト思フ、其點ヲ議長ハ明カニセラレ
ナケレバナラナイト思フノデアリマス、私
ハ議長ガ若シ此問題ヲ不問ニ付シテ警官暴
行ノ事實ヲ否定シ、共責任者ヲ御出シニナ
ラナイナラバ、恐ラク議長ハ日本ノ政治ヲ
シテ暴力ヲ是認セシムルコトニナル、日本
ノ民衆ニ武裝セヨト宣言サレルト同ジコト
デアルト思フ、故ニ議長ノ明確ナル御答辯
ヲ御願ヒスルノデアルガ、議事進行ハ再質
問ガ出來ナイノデアルガ故ニ、議長ハ再質
間ノ出來ナイコトヲ好機トシテ、先刻ノ答
辯ノヤウナ、木デ鼻ヲ括タヤウナ無責任ノ
御答辯ナク、誠實ナル御答辯ヲ要求スル所
以デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=20
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021・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 淺原君ニ御答致シ
やっ、先刻西尾君、片山君兩君ニ對シテ御
答致シマシタ其御答ニ依テ御諒承ヲ願ヒ
マス(拍手)
是ヨリ日程ニ入リマス、日程第一、治安
警察法中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマ
ス-齋藤政務次官
第3治安警察法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
治安警察法中改正法律案
治安警察法中左ノ通改正ス
第五條第一項第五號ヲ左ノ如ク改ム
五年齡二十五年未滿ノ女子
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=21
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022・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 議題ニナッテ居
リマスル、治安警察法中改正法律案、右提
案ノ理由ヲ述べマス御承知ノ如ク輓近女
子ノ社會的地位竝ニ〓育程度ノ向上大ニ見
ルベキモノガアルノデアリマス、仍テ曩ニ
第四十五議會ニ於キマシテハ、女子ガ政談
集會ニ會同シ若クハ其發起人トナリ得ルコ
トヲ認メラレ、又先般提案致シマシタル地
方制度改正案ニ於キマシテモ、女子ハ市町
村公民トシテノ權利竝ニ義務ヲ享有シ得ル
旨ヲ規定シテ居ルノデアリマス、斯ノ如ク
最早今日ニ於キマシテハ、女子ノ政治結社
加入ノ禁止ヲ撤廢致シマシテモ、何等弊害
ヲ釀成スルコトナシト認メマスルカラ、將
來其途ヲ開カントスルノガ本案ノ目的デア
リマス、而シテ是ハ政社加入ノ自由ヲ認ム
ルニ付キマシテハ努メテ急激ナル變化ヲ
避ケマシテ、能ク社會ノ實情ニ迎合セシメ
ナケレバナリマセヌ、此趣旨ニ於キマシテ
今囘ノ改正ニ於キマシテハ年齡二十五年以
上ノ女子ニ對シ、政社加入ノ自由ヲ認メン
トスルモノデアリマス、何卒御審議ノ上、
御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ切ニ希望致マス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=22
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023・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 質疑ヲ許シマ
ス安藤正純君
〔安藤正純君登增〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=23
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024・安藤正純
○安藤正純君 只今議題トナッテ居リマス
ル政府提出ノ治安警察法中改正法律案ニ
付キマシテ、簡單ナ質問ヲ致シタイノデア
リマス、政府ハ時勢ノ進運ニ鑑ミテ、年齡
二十五歲以上ノ婦女子ヲ政治結社ニ加入ス
ルコトヲ許スト云フノガ本案ノ趣意デア
リマスルガ、時勢ノ進運ニ鑑ミテ之ヲ御提
出ニナルナラバ先ヅ何故ニ第一官公私
立ノ學校ノ〓師ニ對シマシテ、政治結社加
入ノ禁ヲ此際共ニ解カナイノデアルカ、現
ニ官公私立ノ學校〓員ニ致シマシテ、此制
限ガアルニモ拘ラズ、政治結社ニ加入シテ居
ル者ガ澤山アルノデアリマス、過去ニモア
リマスル、現在ニモ澤山アリマス、然ラバ
是モ此際其制限ヲ解クト云フノガ、最モ必
要ナコトデハナカラウカ、何故政府ハ此儘
ニ學校〓員ノ方ヲ捨置クノデアルカ、是ガ
第一問デアリマス
第二ハ此際神官神職僧侶諸宗〓師是モ
亦政治結社ニハ這入レナイコトニナッテ居ル
ノデアリマスガ、時勢ノ進運ニ鑑ミルノデ
アリマスナラバ此際此制限ヲ解クコトガ
必要デアラウト思フノデアリマス、從來是
等宗〓家ハ選擧權ノミア〃テ、被選擧權ハナ
カッタノデアリマスルガ、選擧法ノ改正ト共
ニ、是等宗〓家モ亦被選擧權ヲ得ルヤウニ
ナッタノデアリマスカラ、旣ニ選擧權被選擧
權アル以上ハ當然政治結社ニ加入セシム
ルト云フコトガ、必要デアラウト思フノデ
アリマス、現ニ此制限ガアルガ爲ニ非常ナ
ル不便ガ澤山アル是ハ此際議員ノ名ヲ指
シテハ宜シクナイヤウデアリマスガ、現ニ
此席ノ無所屬ニ居ラレル後藤亮一君ノ如キ、
內實ハ民政黨ノ人デアルケレドモ、此制限
ガアル爲ニ、表面ハ無所屬トシテ第一控室
ニ居ナケレバナラヌト云フ不便ガアリマ
ス民政黨ノ中ニモ-現在政府與黨ノ中
三〓、此處ニアルノデアリマスルカラ、此
點ヲ能ク考ヘレバ當然此際諸宗〓師ノ制
艱ヲ拔クト云フコトハ、最モ必要デハナカ
ラウカ、是ガ第二問デアリマス
最後ニ婦女子ニ政治結社加入ヲ許スナラ
バ何故二十五歲ト決マッタモノデアルカ、
此質問ニ對シテ.或ハ政府ハ地方議會ノ選
擧ニ對シテ、婦人公民權ヲ二十五歲以上ト
シタカラ、之ニ傚テタノデアルト云フ御答
ガアルカモ知レマセヌガ、併ナガラ今日時
勢ニ鑑ミテ、選擧法改正案ノ方デハ男子
ハ二十歲以上ト云フコトニ選擧權ガ擴張サ
レテ居リマス、又今日婦女子ハ十七歲ニナ
レバ一人前ノ女子ニナッテ、結婚スルコトモ
出來ル、二十歲以上ニナレバ女醫ニモナレ
バ產婆ニモナレル又學校ノ〓員ニモナレ
ルノデアリマスカラ、ドウセ擴張スルナラ
バ、此際ニ二十歲以上、或ハ年齡ニ制限ヲ
置カナイト云フコトガ必要デハナカラウ
カ、政府提出ノ理由ニ於テハ時勢ノ進運
ニ鑑ミトアルカラシテ、左樣ナラバ玆ニ年
齡制限ヲ置クト云フコトハ、間違ッテ居ルノ
デハナカラウカト思フ、是ガ私ノ第三間デ
アリマス、此三點ニ付キマシテ、私ハ又治
安警察法中改正法律案ノ提出者デアリマス
ルカラ、別個ノ提出者ノ立場ト致シマシ
テ、此質問ヲ起シマシテ、簡明ナル御答辯
ヲ願ヒタイノデアリマス
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=24
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025・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 安藤君ノ御質問
ニ對シマシテ簡單ニ御答ヲ致シマス、學校
ノ〓師竝ニ神官僧侶諸宗〓師、是等ノ者ニ
對シテ政社加入ノ自山ヲ認メントスルコト
ハ是マデ屢〓此議場ニ於テモ問題トナリ
マシテ、衆議院ニモ屢〓之ニ關スル議案ガ
提出サレテ居ルノデアリマス、又今期議會ニ
於キマシテモ、議員諸君カラ提出ヲセラレ
テ居ルノデゴザイマシテ、政府ニ於キマシ
テモ、現政府バカリデハゴザイマセヌ、歷
代ノ政府ニ於キマシテモ、此點ニ對シテハ
諸般ノ方面カラ相當ノ攻究ヲサレテ居ルノ
デアリマス、一方カラ見マスト、是等ノ
者ニ對シテ選擧權及ビ被選擧權ヲ與ヘテ居
リナガラ、他ノ一方ニ於テ政社ニ加入スル
コトヲ許サヌト云フコトハ如何ニモ事理
ニ矛盾ガアルヤウニモ認メラレルモノデア
リマス、併ナガラ是等ノ者ヲバ解放ヲシ
テ、無條件デ政社ニ加入スルト云フコトヲ
認メマスト、又ソレニ伴ヒマス所ノ種々ノ
弊害ノアルコトヲバ想像スルコトガ出來ル
ノデアリマス、故ニ政府ニ於キマシテハ、今
囘ノ治安警察法ノ改正ニ付キマシテハ、別
ニ提出致シテ居リマス所ノ市町村制ノ改
正卽チ新タニ婦人ニ公民權ヲ與ヘルト云
フ關係ニ於テ、或ル年齡ヲ制限シテ居ル所
ノ婦女子ニノミ止メマシテ、他ノ方面ニ付
テハ更ニ十分ニ攻究ヲ致シマス、又議員提
出ノ案ニ付キマシテモ、十分ナル考慮ヲ以
テ臨ンデ居ルノデアリマス委細ハ何レ特
別委員會ニ於テ其理山ヲ申述ベル積リデア
リマス
ソレカラシテ婦女子ニ政社加入ノ自由ヲ
與ヘルナラバ、何ガ故ニ二十五年ト云フ制
限ヲシタノデアルカ、男子ト同ジク二十歳
ト云フコトデ宜イノデハナイカ是モ一應
ノ理窟デアリマス、併ナガラ御承知ノ通リ
ニ婦女子ヲ解放シテ、而モ千三百五十万人
ト云フ婦女子ニ對シテ、新タニ公民權ヲ與
ヘマスト云フコトハ是ハ政治上ニ於キマ
シテノ極メテ大ナル變革デアリマス、成べ
ク斯ノ如キ場合ニ於キマシテハ急激ナ途
ヲ取ラズシテ、相當ノ制限ヲ設ケルト云フ
コトハ今日ノ社會、國家ノ實情ニ卽シテ
適當デアルト政府ハ考ヘタノデアリマス、
餘リ若イ婦人ガ政社ニ加入スル-二十歲
二十一歳ノ婦人ガ政社ニ加入シテ騒グト云
フコトハ今日ノ我國ニ於テハ餘リ宜シク
ナイ)斯ウ政府ハ考ヘマシタ結果、斯樣ナ
制限ヲ設ケマシタノデアリマスカラ、左樣
御承知ヲ願ッテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=25
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026・安藤正純
○安藤正純君 簡單デスカラ、チヨット此處
カラー只今ノ齋藤君ノ御答辯ハ承服ガ出
來ナイノデアリマス、是ハ何レ特別委員會
等デユックリ承ルコトニ致シマスガ、只今私
ガ三ツ質問ヲ提出シマシタ、學校〓師ノ問
題ト、婦女子ノ年齡ノ問題ハ、不滿足ナガ
ラ御答ハアッタガ、第二ノ宗〓家ノ問題ニ付
テハ御答ガナカッタヤウデアリマス、ソレヲ
チヨット御答ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=26
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027・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 此席カラシテ御
答ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=27
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028・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) コチラヘ
〔笑聲起ル〕
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=28
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029・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 學校〓師ノコト
モ神官僧侶諸宗〓師ノコトモ、〓括シテ
一〓ニ御答ヲ致シマシタノデアリマス(拍
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=29
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030・安藤正純
○安藤正純君 〓括シテト言ヒマスガ、私
ハ實例ヲ擧ゲテ尋ネタノデアル、後藤亮一
君ハ實際ハ民政黨員ナンデス、所ガ此法案
ノ爲ニ制限サレテ、ナレナイ所ノ非常ナ不
便ヲ感ジテ居ル、是ハ實際問題ニナッテ居ル
コトデアルカラ、共點ニ付テ實例ノ一ヲ擧
ゲテ私ハ質問致シタ、之ニ對シテ簡單ニモ
ウ一度御答ヲ願ヒマス
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=30
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031・齋藤隆夫
○政府委員(齋庵隆夫君) 御說ノ如ク後藤
君ハ民政黨ノ主張ニ贊成ヲシテ、代議士ニ
當選セラレマシタニモ拘ラズ、治安警察法
ノ關係カラシテ、民政黨ニ加入スルコトガ
出來ナイト云フコトハ洵ニ御同情申上ゲ
さく、併シ後藤君一人ヲ民政黨ニ加入セシ
ムルヨリモ、現在ノ治安警察法ニ於テ
般ニ僧侶諸宗〓師ヲ政社ニ加入スルコトヲ
バ許サナイト云フ、此現行法規ヲ維持致シ
マスルコトガ、國家ノ爲ニ最モ必要デアル
ト思フノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=31
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032・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 〓瀨一郞君-
寸御待チ下サイ、急グ用事ガアリマス、此
際一寸御諮リ致シマス、小作法案委員會、取
引所稅法中改正法律案委員會、各委員長ヨ
リ本日本會議中、委員會ヲ開キタイトノ申
出ガアリマシタ、之ヲ許可スルニ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=32
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033・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ許可スルニ決シマシタ-〓瀨
一郞君
〔〓瀨一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=33
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034・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 只今議案ト相成ッテ居リマ
スルモノハ廣キ意味ニ於テ我ガ國民ノ結
社權確保ノ問題デアルノデアリマス之二
牽聯致シマシテ至急政府ヨリ言明ヲ戴キタ
イ一件ガアリマス、ソレハ外デモアリマセ
ヌ、本月ノ十八日ニ、政府ハヤハリ此治安
警察法ノ第八條ニ依リマシテ、臺灣民衆黨
ノ結社ヲ禁止致シマシタノデアリマス、其
詳細ナ事實ハ私共今分リマセヌ、ソレ故ニ
第一ト致シマシテ、此禁止ノ理由如何、ド
ウ云フ譯デ禁止サレタモノカ、又此臺灣唯
一ノ政黨デアル結社ヲ禁止スルノ外ニ途ハ
ナカッタカ、何トカ之ニ善處スル方法ハナ
カッタカ、是等ノ事ヲ拓務大臣ヨリ此議場ニ
御言明ヲ戴キタイノデアリマス
此臺灣民衆黨ト申スモノハ、今申ス通リ
アノ土地ニ於ケル唯一ノ政黨デアリマシ
テ、約四年程前ニ創立サレタモノデアリマ
ス、創立ト致シマシテハ四年前デアリマス
ルガ是等ノ人々ノ系統ハ以前ヨリシテ
種々ナル名前デ政治運動ヲ致シテ居ッタノ
デアリマス、今其十八日ニ議決サレント致
シマシタ綱領ノ案、政策ノ案ヲ調ベテ見マ
スルノニ案自體ニ於テハ治安警察法ノ所
謂安寧秩序ヲ紊ス底ノモノハナイヤウニ思
ブノデアリマス、尤モ私ガ此綱領ニ贊成ス
ルト云フ意味デハアリマセヌ、贊否如何ニ
拘ラズ、此案自體ニ於テハ我國ニ於テ認メ
ナケレバナラヌ性質ノモノデハナイカト
私ハ斯樣ニ考ヘルノデアリマス、綱領ハ三
箇條ヨリ成ッテ居リマシテ、其一ツハ勞働
者農民、無產市民及ビ一切ノ被壓迫民衆
ノ政治的自由ヲ爭得ス、第二ハ勞働者、農
民、無產市民及ビ一切ノ被壓迫民衆ノ日常
的利益ヲ擁護ス、第三ハヤハリ勞働者、農
民無產市民及ビ一切ノ被壓迫民衆ノ組織
擴大化ニ努力スル其他ノ政策ト致シマシ
テハ政治政策ガ二十八、經濟政策三十六、
社會政策ト名前ヲ付ケタモノ八箇條、斯樣
ナモノガアリマス、議長ノ御許ヲ得ルナラ
バ、詳細ハ速記錄ニ留メテ議員諸君ノ御覽
ヲ戴キタイト存ジマス尤モ是等ノ人々ハ
臺灣ノ總督專制政治ニ反對ヲ致シテ居ルコ
トハ是ハ事實ナノデアリマス、アノ土地
ニ於テハ評議會ト申スモノハアリマスケレ
ドモ、無論民選デハナイ、官選ノ評議會ナ
ノデアル種々ナル壓迫法令ガ內地ニモ增
シテ雨ノ如ク降ッテ居リマスカラ、アノ土地
ノ人トシテハ、總督ノ專制政治ニ反對スル
コトハ無理カラヌコトナノデアル併ナガ
ラ是等ノ人々ノ申スコトニ冷靜ニ耳ヲ傾ケ
ルト云フコトモ、政治家トシテハ是ハ必要
ナコトデアル、吾々內地ニ居リマス者モ、
時々斯樣ナ政黨ノ決議、宣言等ヲ見テ、餘
程啓發サレルコトガ多カッタノデアリマス、
アノ土地ニ於テハ現ニ臺灣人經營ノ新聞ハ
許サレテ居ラヌ、民選ノ議院ハナイ唯一ノ
政黨ハ解散サセテシマフ、サウ云フコトデ
一體ドウシテ政治ヲ爲サルノカ、是ハ不思
議ナコトナノデアル、無論政黨ト申スモノ
ハ多數ノ者ガ入ッテ居リマスカラ、中ニ二
三急激矯激ナル者ガアルナラバ、之ニ對シ
テ善處スル途ハアラウト思ヒマス、前轍遠
カラズツイ先般モ彼ノ霧社事件ヲ惹起シ
テ居ル、私ハ國ノ爲ニ大變心配スベキコト
デアラウト思ヒマス、アナタ方ハ太田ト云
フ人ヲ臺灣總督ニシテ居ラレル、サウシテ
新聞ヲ一切禁止シ、政黨ヲ禁止シ、民選ノ
議院ヲ置カズ、地方自治制ヲ布カズコン
ナコトヲシテ植民地統治ノ出來ルモノデハ
アルマイト私ハ思ヒマス、ダガ是等ハ殼
ノ政治論デアリマスカラ、他ノ機會ヲ得テ
所見ヲ御伺致シタイト存ジマスルガ、取敢
ヘズ一昨々日、十八日此政黨ヲ禁止セラレ、
幹部十六名ノ者ハ例ノ豚箱ヘブチ込マレテ、
今ニ釋放サレテ居リマセヌ、左樣ナ狀態デ
アリマスガ、此經緯ハ如何デアリマセウカ、
ソレヲ詳細ニ拜聽致シテ置キタイト存ズル
ノデアリマス
〔國務大臣松田源治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=34
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035・松田源治
○國務大臣(松田源治君) 〓瀨君ノ御質問
ハ二ツアリマシタ一ツハ臺灣ノ民衆黨ヲ
禁止シタル理由如何、ソレカラ禁止シナク
テモ之ニ善處スル方法ハナカッタノデアル
カ斯ウ云フ二ツノ御質問デアッタト思ヒ
マス、是ハ一〓ニ答ヘタ方ガ便利ト思ヒマ
スカラ、總括シテ御答致シマス
子爵民衆黨ノ前身ニ臺灣民黨ト云フモノ
ガアリマシテ是ハ昭和二年五月二十九
日ニ結堂式ヲ擧ゲタノデアリス民
黨ノ綱領中ニ、臺灣人全體ノ政治的經濟的
社會的解放ト云フ標語ヲ用ヒマシテ著シ
ク民族的ノ反感ヲ唆リマシテ、內地人ト臺
灣人ノ融和ヲ妨ゲ、民族自決主義ヲ抱懷ス
ルモノデアルト云フコトデ、臺灣總督ハ同
年ノ六月三日ニ臺灣民衆黨ノ前身タル臺灣
民黨ヲ、治安警察法ニ依リマシテ結社ヲ禁
止シタノデアリマス、其後ニ穩健分子ガ臺
灣民衆黨ト云フモノヲ拵ヘマシテサウシ
テ民族自決團體デナイト云フコトヲ明カニ
宣言シマシタソレカラ綱領政策ヲ緩和シ
マシテ、臺灣民衆黨ト云フモノヲ造シテ、昭
和二年七月十日ニ結黨式ヲ擧ゲタノデアリ
やっ、然ルニ穩健分子ハ臺灣民衆黨ヲ導ク
ノニ臺灣在住民ノ政治的地位ノ向上、經
濟的基礎ヲ安固ニシテ社會的地位ヲ改善シ
テ、全島民ノ福利ヲ圖ラントスルト云フ、
極ク穩健ナ行動ヲ爲シテ居ッタノデアリマ
ス、然ルニ幾何モナクシテ黨ノ指導權ト云
フモノガ急進分子ノ握ル所トナリマシテ
依然トシテ曩ニ禁止サレタ所ノ臺灣民黨ノ
主義ヲ踏襲致シマシテ、共運動ガ日ト共ニ
急激トナリマシテ、反母國的民族自決主義
ニ傾キマシタカラ、穩健主義ノ林獻堂、蔡
培火ト云フ人ハ相踵イデ脫退シマシテサ
ウシテ昭和五年八月十八日ニ新ニ結社ヲ
造ッタノデアリマス、今唯一ツト申サレマシ
タガ、モウ一ツ政治結社ノ臺灣地方自治聯
盟ト云フモノヲ、穩健分子ガ組織シタノデ
アリマス、而シテ臺灣總督トシテ善處スル
途ハナカッタカト申サレマスガ、是ハ此團體
ヲ臺灣總督ノ方ニ於テハ善導シヨウト思ヒ
マシテ、屢〓反省ヲ促シタノデアリマスケ
レドモ、ソレニ應ジマセズシテ更ニ二月
十八日黨ノ大會ヲ開キマシテ、ソレカラ綱
領政策ヲ變更致シマシタ、其變更シタル所
ノ綱領政策ト黨ノ從來ノ行動ト綜合シテ
考ヘテ見マシテ、黨ノ本質トハ何デアルカ
ト申シマスレバ、其一貫セル所ノ指導精神
ハ總督政治ニ對スル絕對ノ反對ト民族自
決ニアルト云フコトガ明カニナリマシタ、
斯ルコトハ內地、臺灣ノ融和ヲ阻碍シマシ
テ、延テ本島統治ノ根本方針ニ背反スル結
社ト認メラレマシタカラ、巳ムヲ得ズ治安
警察法ノ第八條第二項ニ依テ臺灣民衆黨ヲ
禁止シタル次第デアリマス、以上御答申上
ゲマス
〔〓瀨一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=35
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036・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 討論ハ致シマセヌ、ガ只今
ノ御答ノ中、去ル十八日改正セラレントシ
タル綱領ガ、民族自決ノ主義ト總督政治ノ
反對是デアッタカラ禁止シテト仰シヤツ
タノデアリマスガ、總督政治ノ反對ハアッタ
ノデアリマス明カニ政策ノ中ニ總督專
制政治ノ反對、是ハ併シ私ハ臺灣ノ人ト
シテハ言ハナケレバナラヌ、總督專制政治
ヲ謳歌スレバ政黨ハ要ラナイ、唯民族自決
ノ主義ガ何處ニアルカ、此處ニ私ハ綱領ヲ
持クテ居リマス初カラ終リマデヲ搜查致シ
マシテモ、民族自決ノ主義ハナイ、全體臺
灣ハ、元カラ臺灣ヲ獨立シヨウト云フ考ハ
前〓朝時代カラ決シテアルモノデハナイ、
アノ小サイ島デ以テ、今日世界ニ國ヲ立テ
ルト云フコトハ出來サウナコトハナイ尤
モ臺灣ニ於テ獨立ノ議會ヲ設ケ、人情風俗
ニ相當シタル立法ヲ作リタイ、斯樣ナ考ハ
無論アルコトデアリマス是ハ民族自決デ
アリマセヌ、民族自治デアリマス、此點ハ
私ハ政府ニ於テ非常ニ誤解ガアラウト思ヒ
マス總督ノ專制政治ニ向ッテハ、時々其土
地ノ政黨ガ或ハ決議、或ハ宣言ニ依、ッテ反對
氣勢ヲ擧ゲルト云フコトハ當然ノコトデアツ
テ又或ル意味ニ於テハ有意義ナコトデア
ル、私ハ何ヲ以テ、如何ナル事實デ以テ、
彼等ガ民族自決主義本國カラノ分離主
義ヲ高調シツヽアルモノデアルカト云フコ
トヲ歸納結論セラレタカ、其事實ノ御言明
ヲ願ヒタイト存ジマス
〔國務大臣松田源治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=36
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037・松田源治
○國務大臣(松田源治君) 〓瀨君ニ御答致
シマスガ總督政治ニ反對スルト云フヤウ
ナコトハ、ソレハ臺灣〓ヲ統治スルニ付テ、
島民ノ言ヲ聞クコトモ相當デアリマセウ、
併シ綱領トカ政策ト云フモノヨリモ、今マ
デ過激ノ臺灣民衆黨ノ爲シタル行動ト周圍
ノ事情ヲ觀察シテ見マスト、其指導精神ハ
何處ニアルカト云フコトハ能ク分ルノデア
リマス、ツレデ臺灣總督ニ於テハ綱領ヲ綜
合シテ考ヘ、今マデノ過激分子ノ爲シタル
行動ヲ考ヘマシテ、其指導精、神ハ總督政治
ニ向。ッテ絕對反對スル、總督政治ヨリ他ノ政
治ヲ望ム、ソレカラ民族ノ自決ヲ望ムト云
フコトガ明カニナリマシタカラ、之ヲ解散
シタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=37
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038・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 總督政治ニハ反對シテ居ラ
ヌ總督ノ專制政治ニ反對致シテ居ルノデ
ス
〔後藤亮一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=38
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039・後藤亮一
○後藤亮一君 治安警察法ノ改正ニ付キマ
シー、少シク質問ヲ致シマス、本案ハ別段
ニ政黨政派ニ關係ノアル法律デアルトハ思
ヒマセヌ、旣ニ本案ハ幾年カノ間衆議院ニ
提出サレテ居リマス而シテ其都度之ニ對
シテ此法案ヲ阻止スルニ足ル程ノ重大ナル
理由ト云フモノハ一ツモナイノデアリマ
ス、殊ニ政友會、民政黨、無產黨、ヽ全ク全
院ノ一致シテ贊成ヲ致シテ居ルト云フコト
ハ是位國民ノ大ナル聲ハナイト思ウテ居
リマス、然ルニ拘ラズ、先程齋藤政務次官
ノ安藤君ニ對スル御答ニ依ッテ、私ハ非常ニ
不滿ヲ感ジタノデアリマス、私ハ別段之ニ
對シテ質問ヲシヤウトハ思ウテ居リマセヌ
デシタ、併ナガラ之ニ對シテハ旣ニ政
府案トシテ最近ニ出ルト云フコトヲ私モ仄
ニ聞イテ居リマスノデ、非常ニ安心ヲシテ
居リマシタ、所ガ今囘ノ治安警察法中改正
法律案ヲ見マスト云フト、今囘初メテ公民
權ダケガ賦與サレル所ノ婦人ニノミ限ラレ
テ居ルト云フコトニ於テ、實ニ一驚ヲ喫シ
タノデアリマス、此治安警察法中改正法律
案ニ付キマシテアノ第五條ヲ撤廢スル
ト云フコトニ付テ、如何ナル理由ガ之ヲ阻
止シテ居リマスノカ、先程政府委員ノ御答
辯ヲ承リマスト、之ヲ撤廢スルト相當ノ弊
害ガアルト云フ御話デアリマシタ、相當ノ
弊害ト云フ抽象的ノ御話デハ、吾々ハ承服
スルコトハ出來ナイノデアリマス、之ヲ撤
廢スルト云フドレダケノ理由ガアルカ、如
何ナル弊害ガアルカト云フコトヲ、具體的
ニ承リタイノデアリマス、旣ニ今日ニ於キ
マシテハ貴衆兩院議員ヲ初メ、府縣會議
員、市町村會議員ニ對シマシテ、僧侶ダケ
デモ百名以上ノ議員ガ居ルノデアリマス、
而シテ是等ノ人ハ僅ニ此法案ガアル爲ニ、
形式上ノ入黨ハ出來ナイケレドモ、事實ハ
政友會デアルトカ民政黨デアルトカ、其
何レカニ屬シテ居ルト云フコトガ實際デア
ル、然ルニ拘ラズ單ナル形式ニ囚ハレテ、
之ニ對シテ何等之ヲ阻止スル程ノ影響又損
害モナイニ拘ラズ、之ヲドウシテモ政府ガ
存置シナケレバナラヌト云フコトハ、ドウ
シテモ吾々承服スルコトハ出來マセヌ、先
程ノ御答ニ依リマスルト、例ヲ私ニ引イテノ
御話デアリマシタ、勿論後藤一人ヲ入黨セ
シムルヨリモ、此法案ヲ撤廢スルコトノ方
ガ、社會ノ爲ニ公安ヲ害スルモノデア
ルト云フ意味ノ御意見デアリマシタ、
固ヨリ私ハ私一人ノ入黨カ否カニ依。デン
斯ル議論ヲ致スノデハアリマセヌ、天下ノ
宗〓家、是等ノ者ガ入黨スルコトガ至當デ
アツテ、入黨ヲサセザルコトガ正シクナイト
云フコトニ依ッテ、私ハ全宗〓家ノ名ニ於テ
之ヲ要求シテ居ルノデアリマスヽ殊ニ選
擧法ノ如キガ改正サレマシタ所ノ精神カラ
申シマシテモ、亦我國ノ立憲政治ノ理想カ
ラ申シマシテモ、憲法上ニ於キマシテ國民
ニ與ヘテ居ル所ノ此重太ナル權利ヲ、何等
具體的ノ事實ナクシテ、何時マデモ拘束シ
テ居ルト云フコトハ、洵ニ時代錯誤ノ弊デ
アルト私ハ存ジテ居リマス是ガ一日モ早
ク撤廢サレルコトハ當然デアリマスガ、唯
彼ノ大正十四年ニ選擧法ガ改正ヲサレマシ
テ、其當時是ガ撤廢サレナカッタト云フコト
ハ何故カト申シマスト、其當時ハ此宗〓家
等ヨリ立候補スル者モナク、隨テ議員タル
者モサカッタノデ、一般社會ノ人ノソレダケ
ノ注意ヲ惹カナカッタト云フコトダケデア
リマス、卽チ其時同時ニ改正サルベキモノ
ガ、不幸ニシテ忘レラレテ居ッタ、玆ニ殘存
シテ居ルト云フ結果、今日殘ッテ居ルモノデ
アルト、私ハ斯樣ニ堅ク信ジテ居リマス、
一二ノ省內ニ於ケル反對スル人ノ議論ノ如
キコトヲ遠ク承ッテ居リマスト、僧侶トカ宗
〓家ト云フモノハ神聖ナル職業デアルカラ、
サウ云フ人ハ結社ニ入黨スルコトガ出來ナ
イト云フヤウナコトモ、本當カ嘘カ承ッテ居
リマスガ、職業ニハ神聖ナラザルモノガ一
ツデモアリマスカ、有ユル職業悉ク私ハ神
聖デアルト信ジテ居リマス、殊ニ宗〓家ナ
ルガ故ニ神聖ダト申シマシテモ、宗〓家ハ
何等國家カラ一ツノ特典ダモ受ケテ居ルノ
デアリマセヌ、其義務カラ申シマスレバ、
徴兵ノ義務、納稅ノ義務、一ツトシテ一般
國民ト何等違ッタ優待ヲ受ケテ居ルモノデ
ゴザイマセヌ、而モモウ一點進ンデ申シマ
スナラバ、我國ノ憲法政治ガ政黨政治ヲ理
想トシテ居ルト云フコトナレバ、吾々宗〓
家ハ進ンデ自分ノ信ズル所ノ信仰ニ向ッテ、
衆生ヲ指導スルト云フコトハ當然ノコトデ
アルト私ハ考ヘテ居リマス、然ルニ拘ラズ
何等ノ大ナル根據モナクシテ、何時マデモ
之ヲ阻止サレルト云フコトハ洵ニ遺憾ナ
コトデアリマスルガ、之ニ對シテ之ヲ拒否
サルヽ所ノ相當ナ根據、理由ガアリマシタ
ナレバ、具體的ニ御示ヲ願ヒタイト思フノ
デアリマス(拍手)
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=39
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040・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 御答致シマス、
御說ノ如ク立憲政治ノ下、殊ニ政黨內閣制
ガ確立シテ居リマスル現在ノ日本ニ於キマ
シテ、政黨ハ決シテ惡イモノデハナクシテ、
實ニ良イモノ立憲政治ノ下ニ於テハナク
テハナラヌモノデアリマス、併ナガラ政黨ノ
競爭ハ御承知ノ如ク非常ニ激烈ナルモノデ
ゴザイマシテ、其激烈ナル競爭ノ結果ニ付
テハ、御互ニ考ヘネバナラヌコトガアルノ
デアリマス、例ヘバ或寺ノ住職ガ假ニ民政
黨ニ入黨スルト斯ウ致シマスルト、其檀徒
ノ政友會ノ者ハ甚ダ面白ク思ハヌノデアリ
マイ、又或ル神官ガ政友會ニ入黨スルト斯
ウ假定致シマスルト、其氏子ノ中ノ民政黨
ノ者ハ甚ダ面白ク思ハヌノデアリマス此
處ガ御互ニ考ヘネバナラヌコトデアリマ
ス、是ガ因トナッテ或ハ氏子ヲ廢メル、或ハ
檀徒ヲ脫退スルト云ッタ如キコトハ、決シテ
起ラナイ事實デアルト斷言スルコトハ出來
マセヌ、斯ノ如キ點ニ付キマシテハ、政府
ニ於テモ相當ニ考慮スベキ値打ガアルノデ
アリマス、又學校ノ〓師デモサウデアリマ
ス、學校ノ〓師若クハ校長ガ民政黨ニ入黨
スト是ガ生徒ニ對シテドウ云フ影響ヲ及
ボスカ、政友會ニ入黨スル是ガ學生生徒
ニ對シテドウ云フ影響ヲ及ボスカ、斯ウ云
フ事ヲバ吾々ハ眞面目ニ考ヘテ見ナケレバ
ナラヌノデアリマス、故ニ遠キ將來ニ於キ
マシテハ兎ニ角、現在ノ我國ニ於キマシテ
ハ、神官僧侶若クハ學校ノ〓師ノ如キ者ガ、
政黨ニ加入シテ一黨一派ニ偏スルト云フコ
トハ、社會ノ爲ニ、〓育界ノ爲ニ、又宗〓
界ノ爲ニ甚ダ宜シクナイト云フ意味カラシ
テ、政府ハ今遽ニアナタ方ノ御說ニ贊成ス
ルコトガ出來ナイノデアリマス
〔後藤亮一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=40
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041・後藤亮一
○後藤亮一君 詳シイ事ハ特別委員會ニ於
デ質問致シマスルカラ、極ク簡單ニ殘ッテ居
ルコトヲ少シク御尋致シマス
第一ニ御聽キ致シタイコトハ僧侶神官
學校〓師ト、治安警察法ノ第五條ニハ分ケラ
レテ居ルヤウデアリマスルガ、私ハ此僧侶
神官〓師總テ是ハ撤廢スベキモノナリト信
ジテ居リマスルガ僧侶トソレカラ神官ト
〓師トハ、同一ノ性質ノモノデアルト考ヘ
テオイデニナリマスルカ、如何デアリマス
ルカ、是ガ一點デアリマス、私ハ神官〓師
ト云フ者ハ僧侶共他諸宗〓師ト云フ者ト
ハ、多少其性質ヲ異ニシテ居ルモノデアル
ト、斯樣ニ解釋シテ居リマス、併シ全般ニ
對シテ私ハ贊成デアリマスガ、之ヲ一括メ
ニシテ何時モ御話デアリマス、併シ神官ト
云フ者ハ名ノ如ク官吏デアリマス、是ハ國
家ノ月給ヲ取ッテ居ル所ノ官吏デアル、サウ
云フ者バカリヂヤアリマセヌケレドモ、官
吏乃至ハ之ニ準ズル者ガ多イノデアル、〓
師ハ勿論ノコトデアル、此僧侶其他諸宗〓
師ト神官及ビ〓師トハ、大ニ其性質ヲ異ニシ
テ居ルモノデアルト私ハ解釋シテ居リマス
ルガ、之ニ對スル政府ノ御解釋ハ如何デアリ
マスルカ、ソレカラ只今モ弊害ガアルト云
フヤウナコトヲ極ク抽象的ニ仰セラレタ
併シ現在此〓師ト云フコトハ-或ハ其定
義ノ如何ニ依ルカモ存ジマセヌケレドモ
實際ニ於テ現在ノ議員ノ中ニモ、政友會ニ
モ、民政黨ニモ、〓師ト云フ人デ入黨シテ
居ル人ガアルト私ハ考ヘテ居ル、是ハ所謂
衆議院便覽ヲ見マスト確ニアルケレドモ、
ソレ等ハ私ハ何等弊害ガアルト云フコトヲ
認メテ居リマセヌ、先程申上ゲマシタヤウ
ニ、現在僧侶ニシテ議員タル者ハ貴衆兩
院府縣會、市町村ヲ通ジテ百餘名モアツ
テ、事實ハドチラカニ入ッテ居ルノダケレド
モ、今日何等ノ弊モ認メラレテ居リマセヌ、
殊ニ若シ其寺ノ門徒或ハ氏子ト云フヤウナ
コトニ付テノ御懸念ニ至リマシテハ、ソレ
ハ各〓宗派ノ宗制ニ於テ規定スレバ十分デ
アリマス、原則トシテハ之ヲ許シテ、不都
合ナ事ガアレバ各宗派ノ宗制ニ於テ規定ス
レバ十分取締ルコトガ出來マシテ、何等只
今政府委員ノ言ハレタヤウナ御心配ハナイ
コトヽ私ハ信ズル者デアリマス、是ハ私ノ
意見デアリマスガ、僧侶ト神官、〓員トハ
其性質ヲ大ニ異ニシテ居ルカドウカ、此點
ニ關シテ政府委員ノ御答ヲ願ヒマス
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=41
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042・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 神官僧侶及學校
ノ〓師、是等ノモノハ各〓性質ヲ異ニシテ居
ルト思フガドウカ、御說ノ通リデアリマス、
神官ハ神官ノ性質アリ、儈侶ハ僧侶ノ性質
アリ、學校ノ〓師ニハ學校ノ〓師ノ性質ガ
アルノデアリマス、併ナガラ假令性質ハ異
ニシテ居リマシテモ、是等ノ者ヲバ政社ニ
加入ヲ許スト云フコトガ、今日ノ國家社會
ノ實情ニ卽シテ適當デナイト云フコトハ
同ジコトナンデアリマス、性質ヲ異ニシテ
居ルカト云ウテ一方ニ許シテ一方ニ許シ
テハナラヌト云フ結論ハ出テ來ナイノデア
リマス、ソコヲ一ツ御承知ヲ願ッテ置キマス
ソレカラシテ議員ノ中ニ〓師モアレバ僧侶
モアル、御說ノ通リデアリマス、併ナガラ
議員ニ僧侶アリ、又學校ノ〓師アリト云フ此
事實ヲ以テ、僧侶及ビ學校ノ〓師ハ政社
ニ加入スルコトヲ許サネバナラヌト云フ論
結モ、亦出テ來ルモノデハナイト思ヒマス、
要スルニ一利一害ハ免レマセヌガ、今日國
家社會ノ實情ヲバ大所高所ヨリ觀察致シマ
シテ、政府ハ今日遽ニ許スト云フコトニハ
贊成ガ出來兼ネル、斯ウ云フコトデアリマ
スカラ、此上ハ意見ノ相違デアリマスカラ、
左樣ニ御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=42
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043・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 質疑ハ終リマシタ
日程第二、右議案ノ審査ヲ付託スベキ委
員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=43
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044・作田高太郎
○作田高太郞君 本案ハ政府提出市制中改
正法律案外十一件ノ委員ニ併セ付託セラレ
ンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=44
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045・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=45
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046・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
マス仍テ動議ノ如ク決シマシタ
日程第三、寄生蟲病豫防法案ノ第一讀會
ヲ開キマス、齋藤政務次官
第三寄生蟲病豫防法案(政府提出)
第一讀會
寄生蟲病豫防法案
寄生蟲病豫防法
第一條本條ニ於テ寄生蟲病ト稱スルハ
蛔蟲病、十二指腸蟲病、住血吸蟲病、
肝臟「ヂストマ」病及主務大臣ノ指定ス
ル寄生蟲病ヲ謂フ
第二條地方長官ハ寄生蟲病ノ豫防上必
要ト認ムルトキハ健康診斷ヲ行ヒ又ハ
糞便檢査ヲ爲スコトヲ得
前項ノ健康診斷又ハ糞便檢査ノ費用ハ
北海道地方費又ハ府縣ノ負擔トス
第三條地方長官ハ糞便其ノ他寄生蟲病
傳播ノ媒介ト爲ルベキ物件ノ處置ニ付
寄生蟲病ノ豫防上必要ナル命令ヲ發シ
又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第四條市町村(町村制ヲ施行セザル地
ニ在リテハ之ニ準ズベキモノトス以下
之ニ同ジ)ハ地方長官ノ指示ニ從ヒ寄
生蟲病ノ豫防及治療ニ關スル施設ヲ爲
えん)
第五條北海道地方費又ハ府縣ハ命令ノ
定ムル所ニ依リ寄生蟲病ノ豫防及治療
ノ爲費用ノ支出ヲ爲ス市町村ニ對シ其
ノ費用ノ補助ヲ爲スベシ
第六條北海道地方費又ハ府縣ハ第三條
ノ規定ニ依ル地方長官ノ命令又ハ處分
ニ依リ糞便其ノ他ノ物件ノ處置ヲ爲ス
者ニ對シ共ノ費用ノ全部又ハ一部ヲ補
助スルコトヲ得
第七條國庫ハ前二條ノ補助ノ爲其ノ他
寄生蟲病ノ豫防及治療ノ爲費用ノ支出
ヲ爲ス北海道地方費又ハ府縣ニ對シ其
ノ支出額ノ六分ノ一ヲ補助ス
第八條第三條ノ規定ニ依ル地方長官ノ
命令又ハ處分ニ違反シタル者ハ五十圓
以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
附則
本法施行ノ期日ハ各條ニ付勅令ヲ以テ之
アルトゥ
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=46
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047・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 寄生蟲病豫防法
案右提案ノ理由ヲ大要說明致シマス
農村住民ノ間ニ廣ク蔓延シ、國民保健上
ノ一大障害デアリマスル人體寄生蟲ノ豫防
撲滅ニ關シマシテハ、從來中央及ビ地方ニ
於キマシテ各種ノ施設ヲ致シテ居リマスル
ガ、我國ノ如ク糞便ヲ其儘肥料ニ使用シ、
裸手跣足ニテ農耕ニ從事シ、或ハ疏菜及ビ
魚介類ノ生食ヲ好ム風習アル所ニ於キマシ
テハ、寄生蟲ノ撲滅ハ困難ナモノデアルト
謂ハナケレバナラナイノデアリマス、殊大
現在ニ於キマシテハ、本病豫防ニ關スル法
律ガアリマセヌ爲ニ、本病豫防上遺憾ノ點
ガ多々アルノデアリマス、ソレ故ニ寄生蟲
病豫防法ヲ制定致シマシテ、本病蔓延ノ根
幹ヲ絕チ、以テ寄生蟲病豫防ノ徹底ヲ期ス
ルノ必要アリト認メマシテ、之ニ關スル法
案ヲ提出致シタ次第デアリマス
本案ノ要旨ヲ簡單ニ說明致シマスル、第
一ハ本法ノ對象タルベキ寄生蟲病ノ種類
ヲ蛔蟲病、十二指腸蟲病、住血吸蟲病、肝
臟「ヂストマ」病ノ四ツニ限ッタコトデアリマ
ス、是ハ寄生蟲病ノ中ニ於キマシテ豫防ノ
必要多大デゴザイマシテ、而モ豫防ノ可能
ナルモノヲ先ヅ列擧シテ、本法ニ依ッテ豫防
セントスルノデアリマス、併シナガラ將來
或ハ此他ニモ豫防ノ必要ナル寄生蟲病ノ發
生ヲ見ル場合モアリマセウカラ、其際ハ主
務大臣ノ指定ニ依ッテ本法ヲ適用シ得ルコ
トニ致シマシタ
第二ハ患者ノ所在ト其症狀等ヲ明カニス
ル爲ニ、地方長官ヲシテ健康診斷ヲ行ヒ、
又ハ糞便ノ檢査ヲ爲スコトヲ得セシメルコ
トデアリマス、從來各地方ニ於キマシテ糞
便檢査ヲ實行シテ居リマシタガ、之ヲ强制
シテ行フコトヲ得ナカッタノデ、不徹底ナル
檢査トナリ易イ場合ガアリマス、地方長官
ハ必要ニ應ジテ糞便檢査、又ハ健康診斷ヲ
爲シ得ルヤウニ定メタノデアリマス
第三ハ地方長官ヲシテ糞便其他寄生蟲病
傳播メ媒介トナルベキ物件ノ處置ニ付テ
必要ナル命令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得セシ
メルコトデアリマス、糞便ノ處置ハ寄生蟲
病解決ノ根幹ヲ爲スベキモノデゴザイマシ
テ、糞便中ニ存スル寄生蟲卵ヲ死滅セシメ
ルコトヲ得マシタナラバ我國寄生蟲病ノ
大部分ハ之ヲ豫防スルコトガ出來マスカ
ラ、各地方ニ適當シタ糞便ノ處置ヲ命令シ、
或ハ處分ヲ爲シテ害毒ノ源泉ヲ杜絕セント
スルノデアリマス、且又寄生蟲病中ニハ糞
便以外ノ物件ニ依〃テ感染スルモノモアリ
マスカラ、苟モ物件ニシテ本病傳播ノ媒介
トナルベキモノガアリマシタナラバ、同樣
ニ處置スルコトヲ得ルヤウニ定メタノデア
リマス
第四ハ市町村ヲシテ地方長官ノ指示ニ
從クテ、寄生蟲病ノ豫防及ビ治療ニ關スル施
設ヲ爲サシムルコトデアリマス、本病ノ豫
防ハ個人ノ力ヨリモ、團體ノ協力ニ俟ツベ
キモノ多キガ故ニ、市町村ガ諸般ノ豫防施
設ニ付キ地方長官ノ指示ニ從ッテ、適當ナル
方法ヲ講ズル義務ヲ負フコトヽ定メタノデ
アリマス、最後ニ
第五ハ寄生蟲病豫防ニ關スル費用ノ補
助ヲ爲スコトヽ致シマシテ、寄生蟲病豫防
ノ爲メ費用ノ支出ヲ爲ス市町村ニ對シ、道
府縣ニ於テ補助ヲ爲シ、更ニ之ニ對シ國庫
補助ノ規定ヲ設ケタノデアリマス、且ツ地
方長官ノ命令又ハ處分ニ從ヒ、豫防ニ關ス
ル處置ヲ爲シタルモノニ對シテ、道府縣ガ
其費用ヲ補助スルコトヲ得ルヤウニシタノ
デアリマス
以上ノ外罰則ノ規定ヲ設ケテ、本法ノ厲
行ヲ圖リマシタノデアリマス、何卒愼重御
審議ノ上御贊成アランコトヲバ切望致シマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=47
-
048・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 質疑ハアリマセヌ
日程第四、右議案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第四右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=48
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049・作田高太郎
○作田高太郞君 本案ハ議長指名九名ノ委
員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=49
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050・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=50
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051・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
マー、仍テ動議ノ如ク決シマシタ
日程第五、明治四十年法律第十一號中改
正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス-齋藤政
務次官
第五明治四十年法律第十一號中改正
法律案(癩豫防ニ關スル件)(政府提
円貴族院送付)第一讀會
明治四十年法律第十一號中改正法律
案
明治四十年法律第十一號中左ノ通改正ス
本法ニ左ノ題名ヲ附ス
癲豫防法
第二條ノ二行政官廳ハ癩豫防上必要ト
認ムルトキハ左ノ事項ヲ行フコトヲ得
癩患者ニ對シ業態上病毒傳播ノ虞
アル職業ニ從事スルヲ禁止スルコト
二古著、古蒲團、古本、紙屑、襤褸、
飮食物其ノ他ノ物件ニシテ病毒ニ汚
染シ又ハ其ノ疑アルモノノ賣買若ハ授
受ヲ制限シ若ハ禁止シ、其ノ物件ノ
消毒若ハ廢棄ヲ爲サシメ又ハ其ノ物
件ノ消毒若ハ廢棄ヲ爲スコト
第三條行政官廳ハ癩豫防上必要ト認ム
ルトキハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ療患者
ニシテ病毒傳播ノ虞アルモノヲ國立癲
療養所又ハ第四條ノ規定ニ依リ設置ス
ル療養所ニ入所セシムベシ
必要ノ場合ニ於テハ行政官廳ハ命令ノ
定ムル所ニ從ヒ前項患者ノ同伴者又ハ
同居者ニ對シテモ一時相當ノ救護ヲ爲
スベシ
前二項ノ場合ニ於テ行政官廳ハ必要ト
認ムルトキハ市町村長又ハ之ニ準ズベ
キ者ヲシテ癩患者及其ノ同伴者又ハ同
居者ヲ一時救護セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ市町村長又ハ之ニ準
ズベキ者ニ於テ一時救護ヲ爲ス場合ニ
要スル費用ハ必要アルトキハ市町村又
ハ之ニ準ズベキモノニ於テ繰替支辨ス
ベシ
第四條第三項ヲ制ル
第四條ノ二中「被救護者」ヲ「入所患者」ニ
改ム
第五條私立ノ癩療養所ノ設置及管理ニ
關シ必要ナル事項ハ主務大臣之ヲ定ム
第六條北海道地方費又ハ府縣ハ命令ノ
定ムル所ニ從ヒ第二條ノ二第一號ノ規
定ニ依ル從業禁止又ハ第三條第一項ノ
規定ニ依ル入所ニ因リ生活スルコト能
ハザル者ニ對シ其ノ生活費ヲ補給スベ
シ
第七條第一項ヲ左ノ如ク改メ同條第三項
フル
左ノ諸費ハ北海道地方費又ハ府縣ノ負
擔トス
第二條ノ二第二號ノ規定ニ依リ行
政官廳ニ於テ物件ノ消毒又ハ廢棄ヲ
爲ス場合ニ要スル諸費、
二入所患者(國立癩療養所入所患者
ヲ除ク)及一時救護ニ關スル諸費
三檢診ニ關スル諸費
四其ノ他道府縣ニ於テ癩豫防上施設
スル事項ニ關スル諸費
第七條ノ二本法ニ依リ北海道地方費又
ハ府縣ニ於テ負擔スベキ費用ハ東京府
伊豆七島及小笠原島ニ於テハ國庫ノ負
擔トス
第八條中「前條」ヲ「第六條及第七條ノ規
定ニ依ル」ニ改ム
第九條中「扶養義務者」ヲ「親族」ニ改ム
第十條第一條ノ規定ニ違反シ又ハ第二
條ノ二ノ規定ニ依ル行政官廳ノ處分ニ
違反シタル者ハ百圓以下ノ罰金又ハ科
料ニ處ス
第十條ノ二第二條ノ規定ニ違反シタル
者ハ科料ニ處ス
第十一條醫師若ハ醫師タリシ者又ハ癩
豫防事務ニ關係アル公務員若ハ公務員
タリシ者故ナク業務上取扱ヒタル癩患
者又ハ其ノ死者ニ關シ氏名、住所ヽ本
籍血統關係又ハ病名其ノ他癩タルコ
トヲ推知シ得ベキ事項ヲ漏泄シタルト
キハ六月以下ノ懲役又ハ百圓以下ノ罰
金ニ處ス
第十二條中「行政官廳ニ於テ救護中」ヲ
「養療所ニ入所中又ハ第三條第二項及第
三項ノ規定ニ依ル一時救護中」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=51
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052・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 議題トナッテ居
リマス癩豫防ニ關スル法律中改正法律案、
右提案ノ理由ヲ簡單ニ說明致シマス
癩ノ豫防根絕ハ國民保健上ハ勿論、人道
上ヨリ見マシテモ忽諸ニ付スルコトヲ得ナ
イト云フコトハ今更申スマデモナイコト
デゴザイマシテ、當局ハ從來之ニ向シテ銳
意努力ヲ續ケテ參ッタノデアリマス、其結果
近年療養所モ漸次ニ擴張增設セラレマシテ、
患者ノ數モ逐年減少スルニ至リマシタコト
ハ洵ニ喜バシキ次第デアルト存ジマス、
併ナガラ國內ニハ尙ホ萬餘ヲ算スル患者ヲ
有シ、、容容設備ハ僅ニ三千ヲ出デナイト云
フ狀況デゴザイマシテ、今後更ニ一段ノ努
力ヲ要スルモノガアルノデアリマス、現在
施行セラレテ居リマスル癩豫防ニ關スル法
律ハ、明治四十年ノ制定ニ係リ、其主トス
ル目的ハ患者ノ救護、就中浮浪徘徊ノ徒タ
ル患者ノ救護ニゴザイマシテ、一般癩患者
ノ處置其他本法豫防上ニ必要トスル數多ノ
事項ニ付キマシテハ遺憾ノ點ガ少クナイ
ノデアリマス、昨秋畏クモ皇太后陛下ヨ
リ癩ニ關シ洵ニ有難キ思召ノアリマシタコ
トハ各位ノ御存ジノ通リデゴザイマスル
ガ、最近國立療養所ノ開設セラルヽコトニ
ナリ、又社會各方面ニモ癩救護豫防ヲ目的
トスル團體ノ活動ヲ見ルト云フ有樣デ、國
民ノ上下ヲ通ジテ癩豫防ニ關スル輿論ガ喚
起セラルヽニ至ッタ次第デアリマス、又之ヲ
對外關係ヨリ見マシテモ、國家ノ體面上ヨ
リ、本病豫防ノ徹底ヲ期スベキ必要ガ愈。こ
緊切デアルト存ジマスノデ、此機會ニ於キ
マシテ本法ヲ改正シ、癩豫防上遺憾ナキヲ
期シタイ趣旨ヲ以テ、玆ニ癩豫防法中改正
法律案ヲ提出致シタ次第デアリマス
本案ニ依ル改正條項ハ十數項ニ分シテ居
ルノゴザイマスルガ、其主要ナル事項ハ大
要次ノ諸點ニアルノデアリマス、卽チ
第一ハ、患者ノ療養所入所資格ヲ擴張シタ
コトデアリマス現行法ニ於キマシテハ患
者ノ入所資格ハ、癩患者ニシテ療養ノ途ヲ有
セズ且ツ救護ナキモノ、斯ウ限定セラレテ
居ルノデアリマスルガ、是デハ其範圍ガ狹
キニ過ギ、癩豫防上且ツ癩患者收容上不適
當デアリマスカラ、之ヲ改メマシテ病毒傳
播ノ虞アル患者、斯ウ致シマシテ之ニ該
當スル者ト認メラルヽ患者ニ對シマシテハ
其資力ノ有無、救護者ノ存否如何ヲ問ハ
ズ、總テ入所セシムルコトガ出來ルヤウニ
改メントスルモノデアリマス
第二ハ、患者ノ入所費及ビ患者竝其同伴
者、同居者ニ對スル一時ノ救護費ハ之ヲ國
家又ハ道府縣ノ負擔トスルコトニ改メタコ
トデアリマス、卽チ從來是等ノ費用ハ本人
又ハ其扶養義務者ノ負擔デゴザイマシタノ
デ、其結果ハ屢〓患者ノ入所ヲ妨ゲ、或ハ
思ハザル家庭上ノ悲劇ヲ惹起スル等、癩豫
防上却テ所期ノ目的ト背馳スルガ如キ事例
ニ乏シクナイノデアリマス、仍テ是ハ今後
總テ國家又ハ道府縣ニ於テ之ヲ負擔スルコ
トニ致シタノデアリマス
第三ハ、癩患者ニ對シ業態上病毒傳播ノ
虞アル職業ニ從事スルモノハ行政官廳ニ
於テ之ヲ禁止スルコトヲ認メ、其從業禁止
ニ依リマシテ又ハ療養所入所ニ依リマシ
テ生活スルコトガ出來ナイコトニナリマシ
タ者ニ對シマシテハ道府縣カラ其生活費
ヲ補給スルコトニ致シタ點デアリマス、現
ニ結核豫防法ニハ其規定ガアリマスルノ
デ癩ノ場合ニ於キマシテモ同樣ノ必要ガ
アルト考ヘラレルカラデアリマス、次ヘ
第四ハ、醫師又ハ癩豫防事務ニ關係アル
公務員ニ對シ、業務上取扱ニ係ル癩患者又
ハ其死者ニ對スル氏名、血統關係又ハ癩タ
ルコトヲ推定シ得ルガ如キ事項ノ漏泄ヲ禁
ズルコトニ致シタノデアリマス、是ハ癩病
ニ對スル今日ノ社會上ヲ考慮シテ最モ適當
ナコトヽ思ハレマス、其他病毒ニ汚染シ
又ハ汚染ノ疑アル物件ニ對スル處置ニ關ス
ル規定ノ追加、私立療養所、道府縣立療養
所代表規定ノ廢止、私立療養所ノ設置管理
ニ對スル監督規定ノ追加、癩ト診斷サレタ
ル場合ニ於ケル檢診請求權者ノ改正等ヲ致
シタノデアリマス
以上簡單ナガラ要旨ヲ御說明致シマシタ
ガ、何卒愼重御審議ノ上、御贊成アランコ
トヲバ切望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=52
-
053・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 質疑ハアリマセヌ
日程第六右議案ノ審査ヲ付託スベキ委
員ノ選擧ヲ議題ニ供シマス
第六右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=53
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054・作田高太郎
○作田高太郞君 本案ハ政府提出、寄生蟲
病豫防法案委員ニ併セ付託セラレンコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=54
-
055・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=55
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056・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
やっ、仍テ動議ノ如ク決シマシタ
日程第七、刑事補償法案ノ第一讀會ノ續
ヲ開キマス、委員長ノ報〓ヲ求メマス、委
員長横山金太郞君
第七刑事補償法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報告書
一刑事補償法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ別紙ノ通修正スヘキモノ
ト議決致候此段及報告候也
昭和六年二月二十日
委員長橫山金太郞
衆議院議長藤澤幾之輔殿
〔別紙〕
(小字及-ハ委員會修正)
刑事補償法
第一條刑事訴訟法ニ依ル通常手續又ハ
再審若ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者又ハ同法第三百十三
條ノ規定ニ依リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者
未決勾留ヲ受ケタル場合ニ於テハ國ハ
爲
其ノ者ニ對シ勾留ニ因ル補償ヲ給與ス
再審又ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者原判決ニ因リ既ニ刑
ノ執行ヲ受ケ又ハ刑法第十一條第二項
ノ規定ニ依ル拘置ヲ受ケタル場合ニ於
テハ國ハ其ノ者ニ對シ刑ノ執行又ハ拘
置ニ因ル補償ヲ給與ス
第二條前條ノ規定ニ依リ補償ノ給與ヲ
受クベキ者死亡シタル場合ニ於テハ前
對シ前條ノ
條ノ補償ハ之ヲ本人ノ遺族ニ給與ス死
補償ヲ爲
亡シタル者ニ付再審又ハ非常上告ノ手
續ニ於テ無罪ノ言渡アリタル場合亦同
ジ
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族死亡シタル
對シ其ノ補償ヲ爲
トキハ次順位ノ遺族ニ之ヲ給與ス
第三條本法ニ於テ遺族ト稱スルハ本人
ノ配偶者、子、孫父母、祖父及祖
母ニシテ本人死亡ノ當時之ト戶籍ヲ同ジ
ウシ引續キ其ノ戶籍內ニ在ル者ヲ調フ
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族ノ順位ハ前
項ニ記載スル順序ニ依ル父母及祖父母
ニ付テハ養方ヲ先ニシ實方ヲ後ニス
子及孫數人アルトキハ其ノ順位ハ本人
ヲ被相續人トシタル家督相續ノ順位ニ
準ジ之ヲ定ム
第四條無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル
爲サ
者ニ付左ノ事由アルトキハ補償ヲ給與
セズ
一刑法第三十九條乃至第四十一條ニ
規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴ノ
言渡アリタルトキ
二起訴セラレタル行爲ガ公ノ秩序又
ハ善良ノ風俗ニ反シ著シク非難スベ
キモノナルトキ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ起訴、勾留、公判ニ付スル處分又
ハ再審請求ノ原由ト爲リタルトキハ第
爲サ
一條第一項ノ補償ヲ給與セズ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ原有罪判決ノ憑據ト爲リタルトキ
爲サ
ハ第一條第二項ノ補償ヲ給與セズ
一個ノ裁判ニ依リ併合罪ノ一部ニ付無
罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受クルモ他ノ部分
ニ付有罪ノ言渡ヲ受クル者ニ對シテハ
爲サ
補償ヲ給與セザルコトヲ得
第五條勾留ニ因ル補償ニ於テハ勾引狀
又ハ勾留狀執行後ノ拘禁日數ニ對シテ
交付
一日五圓以內ノ補償金ヲ給與ス
懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行ニ因ル補償
ニ於テハ其ノ日數ニ對シテ一日五圓以
交付
內ノ補償金ヲ給與ス拘置ニ因ル補償ニ
付亦同ジ
死刑ノ執行ヲ受ケタル者ノ遺族ニ對ス
ル補償ニ於テハ拘置ニ因ル補償ノ外裁
交付
判所ノ相當ト認ムル補償金ヲ論與ス
罰金又ハ科料ノ執行ニ因ル補償ニ於テ
ハ既ニ徵收シタル罰金又ハ科料ニ等シ
キ金額ヲ還付ス勞役場留置ノ執行ヲ爲
シタルトキハ第二項ノ規定ニ準ジ補償
交付
金ヲ給與ス
沒收ノ執行ニ因ル補償ニ於テハ破壞若
ハ廢棄ニ係ラザル沒收物又ハ沒收物ノ
處分ニ因リテ得タル代價若ハ徵收シタ
ル追徴金ニ等シキ金額ヲ還付ス
第六條補償ノ給與ヲ受ケントスル者ハ
無罪ノ言渡ヲ爲シタル裁判所又ハ免訴
ノ言渡ヲ爲シタル豫審判事ノ屬スル裁
請求
判所ニ對シ補償給與ノ申立ヲ爲スベシ
請求
前項ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スベシ
請求
申立書ニハ戶籍謄本ヲ添附スベシ
請求
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ爲シタ
請求
ル後死亡シタルトキハ其ノ申立ハ順次
次順位ニ於テ補償ノ給與ヲ受クベキ者
ヨリ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第七條補償ノ給與ヲ受クベキ者ハ先順
位者ノ明示シタル意思ニ反シ補償給興
請求
ノ申立ヲ爲スコトヲ得ズ
請求
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ取消シ
タルトキハ其ノ取消ヲ爲シタル者及後
請求
順位者ニ於テ更ニ申立ヲ爲スコトヲ得
ズ
請求
第八條補償拾興ノ呻立ハ代理人ニ依リ
テモ之ヲ爲スコトヲ得
請求
第九條補償給興ノ申立ハ無罪又ハ免訴
ノ裁判確定ノ日ヨリ六十日內ニ之ヲ爲
スコトヲ要ス
請求
第十條補償給與ノ申立アリタルトキハ
請求
裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ申立ニ付決
請求
定ヲ爲スベシ決定ノ謄本ハ檢事及申立
人ニ送達スベシ
請求
中立理由アルトキハ補償給興ノ決定ヲ
請求
爲スベシ申立理由ナキトキ又ハ期間經
過後ニ係ルトキハ之ヲ棄却スベシ
請
刑ノ執行又ハ拘置ニ因ル補償給與ノ申
求請求
立ト同時ニ勾留ニ因ル補償給與ノ申立
アリタルトキハ主文ヲ區別シテ決定ヲ
爲スベシ
第十一條補償給與ノ決定ニ對シテハ不
服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
請求
補償給興ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シ
テハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第十二條補償給與ノ決定アリタル後之
ニ依リテ補償ノ給與ヲ受クベキ者其ノ
拂渡
交付ヲ受ケズシテ死亡シタルトキハ其
ノ決定ハ順次次順位ニ於テ補償ノ給興
ヲ受クベキ者ニ對シ之ヲ爲シタルモノ
ト看做ス補償ノ給與ヲ受クベキ遺族其
拂渡
ノ交付ヲ受ケズシテ其ノ家ヲ去リタル
トキ亦同ジ
拂渡
第十三條補償ノ交付ヲ受ケントスル者
ハ其ノ決定ヲ爲シタル裁判所ニ請求書
ヲ差出スベシ請求書ニハ戶籍謄本ヲ添
附スベシ
補償給與ノ決定ノ送達アリタル後一年
拂渡
內ニ補償交付ノ請求ヲ爲サザルトキハ
權利ヲ失フ
拂渡
第十四條補償交付ノ請求權ハ之ヲ讓渡
スルコトヲ得ズ
拂渡
第十五條補償給與ノ申立ニ關スル事件
繫屬中再審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三
百十七條ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリ
タルトキハ其ノ裁判確定ニ至ル迄決定
ノ手續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
請求
ノ判決アリタルトキハ補償論興ノ申立
ハ其ノ效力ヲ失フ
第十六條補償給與ノ決定アリタル後再
審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三百十七條
ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリタルトキ
拂渡
ハ其ノ裁判確定ニ至ル迄補償交付ノ手
續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
ノ判決アリタルトキハ補償給與ノ決定
ハ其ノ效力ヲ失フ
第十七條前條第二項ノ場合ニ於テ既ニ
拂渡
補償ノ交付アリタルトキハ有罪ノ判決
ヲ爲シタル裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ
決定ヲ以テ補償ノ返還ヲ命ズベシ此ノ
決定ノ執行ニ付テハ刑事訴訟法第五百
五十三條乃至第五百五十五條ノ規定ヲ
準用ス
第十八條本法ノ決定及之ニ對スル卽時
抗〓ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除
クノ外刑事訴訟法ヲ準用ス期間ニ付亦
同ジ
第十九條裁判所補償ノ決定ヲ爲シタルトキ
ハ其ノ決定ヲ受ケタル者ノ申立ニ因リ速ニ
無罪又ハ免訴ノ裁判ノ主文も要旨竝ニ補償
ヲ爲シタル旨ヲ官報ニ揭載スベシ
二十
第十九條本法ハ軍法會議ニ於テ無罪ノ
言渡アリタル場合ニ之ヲ準用ス但シ補
請求
償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シテ
ハ卽時抗〓ヲ爲スコトヲ得ズ
軍法會議ニ於テ補償ノ返還ヲ命ズル決
定ノ執行ニ付テハ陸軍軍法會議法第五
百十八條乃至第五百二十條又ハ海軍軍
法會議法第五百二十條乃至第五百二十
二條ノ規定ヲ準用ス
軍法會議ニ於テ補償ニ關スル決定ヲ爲
ス場合ノ判士ノ區別ニ付テハ陸軍軍法
會議法第五十九條第一項又ハ海軍軍法
會議法第五十九條第一項ノ規定ヲ準用
ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔橫山金太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=56
-
057・横山金太郎
○橫山金太郞君 諸君、私ハ刑事補償法案
ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマ
ス、委員會ハ本月五日ヨリ昨二十日マデノ
間ニ十一囘ニ亙リマシテ開會致シタノデア
リマス、其間ニ於キマスル委員各位ノ御精
勵振リハ誠ニ特筆ニ値スルノデアリマシ
テ、感謝措ク能ハザル所ノモノガアルノデ
アリマス、殊ニ委員各位ト國務大臣竝ニ政
府委員トノ間ニ於キマスル質問應答ハ、微
ニ入リ細ヲ極メテ餘蘊ナク、委曲ヲ盡サレ
タノデアリマス
私ハ先ヅ委員會ノ結果ヨリ申上ゲマス、
委員會ノ結果ハ修正可決デアリマス、委員
一松定吉君ノ提議ニ係リマスル修正案ヲ多
數ヲ以テ可決致シタノデアリマス、委員牧
野良三君ノ提議ニ係リマスル修正案ガ少數
ヲ以テ否決ヲセラレマシテ、共少數意見ハ
留保セラレテアルノデアリマス、可決セラ
レマシタル修正案ハ修正案トシテ、又否決
ヲセラレマシタル修正案ハ少數意見案ト致
シマシテ、何レモ印刷ヲセラレマシテ、諸
君ノ御手許ニ文書トシテ配付セラレテアル
筈デアリマス、之ニ就テ御高覽ヲ乞フコト
ニ致シマシテ、私ハ各修正案ノ事項ニ付テ
詳細ニ亙ッテ申述ブルコトヲ遠慮致シマス、
然レドモ可決セラレマシタ修正案ノ成立致
シマスマデノ、共過程ニ於ケル所ノ質問應
答ノ〓要ハ是ハ私ノ申スマデモナク、久
シイ間國家賠償法案トシテ江湖ニ喧傳セラ
V、且ツ多年ノ懸案トシテ新シイ試ミデア
ルノデアリマス、條文ハ僅ニ二十箇條內外
ノ小法律案デゴザイマスケレドモ、內容ハ
可ナリ國民ノ生活ノ安定ニ關シテ重大性ヲ
持ッテ居ルモノト思ヒマスカラ、玆ニ十五分
間バカリノ時間ヲ拜借致シマシテ、其經過
ノ大要ヲ申述ブルコトハ蓋シ徒爾デナイ
ト思フノデアリマス、本案ニ付テ質問ノ中
心トナリマシタモノハ、刑事補償法ト云フ
法案ノ名稱ト、本案立法ノ基礎理由トデ
アッタノデアリマス、而シテ質問ハ專ラ此
點ニ向ッテ集中ヲサレタノデアリマス、質
問ノ要旨ハ本案ガ國家賠償ノ本義ニ立脚
ヲ致シテ、第一條ノ場合ニ於ケル責任ヲ明
カニスルモノデアルカラ、名稱ヲ國家賠償
法トスルノガ適當デハナイノデアルカ、又單
ニ第一條ノ場合ニ於ケル所ノ精神的ノ慰藉
ヲ爲スニ過ギナイモノデアルト云フノデアレ
が、名稱ヲ慰藉法トスルノガ適當デハナイ
カ、又特ニ本案立法ノ基礎的理由ト申シマ
スカ、委員ノ御言葉ヲ藉リテ申シマスレ
バ基礎的思想、基本的觀念ハ一體ドノ點
ニ現レテ居ルノデアルカ、由來國家ガ其機
關ヲシテ公務ヲ執ラシムルニ當シテ、其行爲
ニ失態ノアク結果、無罪免訴者ヲ出シ、サ
ウシテ是等ノ各本人ニ對シ慰藉料ヲ拂フト
云フコトハ言換ヘテ見タナラバ損害ノ賠
償ヲ爲スモノデハナイカ、國家ガ其機關ニ
依ッテ行ハレタル行爲ニ付テ責任ヲ執ルト
云フ思想ニ基カネバ、此慰藉料ヲ支拂フト
云フ結論ニハ到達スルコトガ出來ヌノデア
ルカラ、本案ノ根本的思想ハドウシテモ
賠償デアラネバナラヌ、隨テ之ニ應ハシイ
所ノ各條文ノ用語竝ニ本法案ノ名稱ノ用語
ハ總テ玆ニ出デナケネバナラヌノデハナ
イカト云フコトニアッタノデアリマス、之ニ
對シテ政府ハ損害賠償ハ民法法規ノ支配
スル所デアッテ、其原則ハ民法ノ不法行爲ノ
條文ニ俟タナケレバナラヌモノデアルガ、
本案ノ補償ハ民法ノ不法行爲ニ原因スル財
產上ノ損害賠償ト云フモノハ一切認メテ
居ラヌノデアル、唯無辜ノ良民ニシテ起訴
又ハ刑ノ執行ヲ受ケ、不測ノ不名譽ト著シ
キ苦痛ヲ被リタル者ニシテ、第一條ノ場合
ニ相當ヲスルモノニ對シ、國家ハ之ニ同情
ヲ寄セ、之ニ對スル慰藉ノ途ヲ講ズルノニ
外ナラヌモノデアル現ニ不法行爲ノ條文
ノ中、民法第七百十條及ビ第七百十一條ニ
モ、財產上ノ損害以外ニ精神的慰藉ノ途ガ
開イテ居ノテ、其慰藉料ト云フノハ損害賠償
ト言ヒ得ルノデアルケレドモ、其賠償ノ原
因ハ常ニ故意過失ヲ基調トスルコトヽナッテ
居ル本案ノ補償トハ形式ハ甚タ似テ居ル
ケレドモ、其內容ニ至ッテハ異ナッテ居ッテ、
兩者ノ間自ラ差別アルモノト言ハナケレバ
ナラヌ卽チ本案ノ第一條ノ場合ニ補償ヲ
爲スノハ、判檢事ノ故意ニアラザルコトハ
勿論、過失ヲ原因トシテ居ルノデハナイノ
デアル、例ヘバ免訴ニナック、直チニ檢事ニ
過失ガアッタト卽斷ヲスルコトハ出來ヌ、無
罪ニナッタ、直チニ豫審判事、第一審、第二
審ノ判事ニ過失ガアッタト卽斷ヲスルコト
ハ出來ヌ、從來斯ノ如キ場合ニ於テ、判檢
事ニ對シテ過失ガアッタトシテ制裁ヲ加ヘ
タル例ハ一トシテナイノデアル、畢竟無過
失損害賠償ト云フヤウナ思想ガ頭ヲ擡ゲテ
來テ居ル今日デアルカラ、國家ハ感情的、
人情的ニ見テ、如何ニモ氣ノ毒デアルガ故
ニ、仁政ヲ布イテ國民ニ對シ同情慰藉ノ意
ヲ表スルノガ適當デアルト考ヘタカラシ
テ、卽チ是ガ此法案ノ骨子ノ精神トナッテ居
ルノデアル、敢テ判檢事ガ不法行爲ヲヤッタ
爲ニ、是ガ責任ヲ負フト云フガ如キ次第ノ
モノデハナイノデアルカラ、賠償法トモセ
ズ、又慰藉法トモセズ、事ハ刑事問題ニ胚
胎ヲシテ居ルノデアルカラ致シテ、刑事ノ
文字ヲ冠ラセテ、審議熟慮ノ末、刑事補償
法ト云フコトニ定メタノデアルト說明サレ
タノデアリマス、委員會ノ多數ハ、第一條
ノ場合ヲ現出致シマスルノニハ、判檢事中
一人ノ過失ナシトハ認メタモノデハナイノ
デアリマス、ナイノデアリマスルケレドモ、
大局カラ觀察ヲ致シマシテ、斯ノ如キ場合
三、先ヅ無過失ト認メルト云フコトガ頗
ル妥當デアル苟モ普通性ヲ必至ト致シマ
スル法律ノ制定ニ當ッテハ、此心ヲ心ト致シ
テ、政府ノ見解ニ與スルト云フコトヲ至當
ト認メマシテ、本案ノ名稱及ビ本案制定ノ
基礎觀念ヲ、啻ニ損害若クハ慰藉ノ一義ニ
ノミ限定セントセラレル其主張ニ反對ヲ致
シタノデアリマス、但シ本案第一條ノ「補
償ヲ給與ス」トアルヲ「給與」ノ二字ヲ削ッタ
ノデアリマスルガ、是ハ申スマデモナク此
二文字ハ自ラ恩惠ノ意味ガ包含ヲセラレテ
居リマス、過失ノ有無ハ別箇ノ間題ト致シ
マシテモ補償ヲ受クル者ハ寃枉ニ苦ミタ
ル無辜ノ良民デアリマス、罪ナクシテ官權
ノ作用ニ依ッテ、最モ不名譽ヲ被リタル所ノ
者デアリマス、之ニ對シテ政府ガ自ラ發奮
ヲ致シテ、慰藉ノ義務ヲ負フコトヲ適當ナ
リト認メテ、補償ヲ爲スベク立法行爲ヲ企
テマスル以上ハ、須ク時代ノ趨勢ニ鑑ミ
テ、上下ノ區別ヲ附スルヨリモ、寧ロ對等
ノ資格ニ於テ權利義務ノ觀念ヲ現ハスヲ以
テ、正鵠ヲ得タルモノト思料シタルガ爲デ
アリマス、隨テ此點ニ對シマスル政府ノ仁
政呼ハリハ甚ダ耳障リデアルノデアリマ
ス、ソレヨリモ司法大臣ハ委員會ニ於テ、
現ニ本案ハ我國社會道德ノ本義ニ顧ミ、之
ヲ提出シタモノデアルト云フ意味ヲ含ンダ
ル言葉ヲ以テ、提案理由ノ說明ニ供セラレ
テ居ル一節ガ、歷然トシテ存在ヲ致シテ居
ルデハアリマセヌカ、政府當局ハ宜シク此
點ヲ高調セラレンコトヲ希望スルモノデア
リマス、サスレバ其社會道德ハ取モ直サズ
社會意識デアル、其社會意識ハ旣ニ國家ヲ
成シテ居リマスル我國ノ國家意識トシテ
本案ハ是ガ具體化シタモノト見ルコトガ出
來ルノデアリマス、斯ノ如クシテ始メテ茲
ニ名實相伴ウテ說明ノ理由ガ盡サレ、斯ノ
如キ時代ト離レタル說明用語ハ自ラ不用ニ
歸スルモノデアルト、私ハ確信スルモノデ
アリマス、委員會ノ多數ハ本案制定ノ理由
ハ如上ノ趣旨ニ在ルト理解ヲシテ之ニ贊成
ヲシ、前述ノ理由ト此趣旨トニ依ッテ「補償
ヲ給與ス」トアルノヲ削除シテ「補償ヲ爲
ス」ト改メタノデアリマス、其他第十九條ヲ
新設挿入致シマシタ以外ノ各條文ノ修正
ハ是ハ悉ク第一條ノ補償ヲ爲スト改メマ
シタル其結果ノ修正デアリマシテ、趣旨精
神ニハ何等ノ變化影響ヲ及ボスベキモノデ
ハナイノデアリマス
第十九條ヲ新設致シマシタル理由ハ、本
案ノ補償バ元來精神慰藉ノ見地カラ出發シ
テ居ルモノデアリマスルカラ、官報揭載ニ依ツ
テ、政府自ラガ其無實ノ罪ニ苦ンダ良民ノ
被疑者トナリ、免訴又ハ無罪トナリ、補償
ヲ受クルニ至リマスルマデノ間ノ〓末ヲ公
告スルコトガ、如何ニ本人ノ爲ニ雪辱ト云
フモノヲ形式化シ、以テ世人ノ印象ヲ切ニ
スルニ與ッテ力ガアルカヲ察スルニ足ルノ
デアリマス、而モ其公〓ノ官報揭載ハ、是
ガ爲ニ國家財政上ニハ何等ノ痛痒ヲ感ゼズ
シテ、實行ノ可能性ガアルカラデアリマ
ス、可決セラレマシタル修正案ニ對シテ
ハ政府ハ無條件ニ同意ヲ表セラレマシ
ク、又少數意見トシテ保留サレマシタ牧野
氏ノ修正ニ對シマシテハ、全然不同意ヲ表
セラレタノデアリマス、其外本案適用ノ範
圍ニ關シ、第一此卽決例ニ依ル正式裁判ノ
場合ニ付テハ、國家ノ財政ノ點カラモ、之
ヲ埒外ニ置クノ已ムヲ得ザルコトノ理由ヲ
述ベラレマシタト同時ニ、本案ハ讀ンデ字
ノ如ク、刑事裁判ニ關スル補償立法デアル
カラ、本質ガ行政處分ニ屬スル所ノ卽決例
ノ場合ハ、之ヲ除外スルヲ至當トシタノデ
アル、但シ一度正式裁判ノ申立ガアッテ、裁
判所ノ所管ニ移リタル曉ニ於テハ無論本
案ノ適用ヲ受クベキモノデアルコトハ當然
デアル、加之卽決例ノ如キ規則ハ古イ時代
ノ遺物デアッテ、早晩、否既ニ近キ將來ニ於
テ改廢ヲセラルベキ運命ヲ持ッテ居ルモノ
デアルカラ、彼此混亂ヲ防グト云フ趣旨ニ
於テモ、是ハ今日除外ヲシテ置クト云フコト
ガ、適當デアルト說明ヲサレタノデアリマス
第二、單ニ起訴ヲセラレテ拘留ノナイ
者ニ對スル補償云々ノコト、新聞公〓揭載
ノ新條項ヲ設クルニ反對ヲセラレタコト、
此補償額ヲ五圓以下ニ限定シタコトニ對シ
テハ、主トシテ財政上今日ノ狀態ガ之ヲ許
サヌカラデアルト云フ說明デアリマシタ
就中補償額ニ關シテハ、本案制定ノ趣旨目
的デアル精神的慰藉ノ點カラ見テ、必ズシモ
多額ノ補償ヲシナケレバ、慰藉ノ趣意ヲ貫
徹スルコトガ出來ヌト云フ譯デハナイノデ
アル、要ハ名譽囘復、雪寃ノ點ハ、少額ナ
ガラモ公正ナル裁判ニ依ッテ之ヲ補償シ、以
テ形式化スル點ニ重要性ヲ有スルモノデア
ルトノ說明ヲ施サレタノデアリマス
第三ニ、補償額一日分五圓以下トアルノ
ミニテハ、僅ニ一錢ト云ヒ、一厘ト云フガ如
キ、少額ノ補償ヲ爲ス旨ノ裁判ヲ與ヘラレテ
モ、致方ガナイコトニナリハシナイカト云
フ質問ニ對シマシテ、政府者ハ斯樣ナ答ヲ
セラレマシタ、極メテ特殊ノ場合ヲ除クノ
外ハ、痛苦ニ對スル慰藉ト云フ、此點キマッ
テ居ルノデアルカラ、此點カラ出發ヲ致シ
テ、其補償ヲ受クベキ人ノ身分トカ、階級
トカ云フコトニ依ッテ、高下ハ付ケナイノデ
アル、自他平等的觀念ノ下ニ取扱ヲ爲ス積
リデアル、ノミナラズ一錢トカ一厘トカ云
フガ如キ、非常識極マル社會通念ニ悖ルヤ
ウナ裁判官ハ今日進步セル我國ニハ一人
モナイト云フ趣旨ノ答辯ヲセラレタノデア
リマス
尙ホ其他少數意見ヲ留保セラレタ修正案
中ニ含有ヲ致シマスル種々相ニ對シテモ、
質問應答ガゴザイマシタガ、是ハ最早時間
モ迫ッテ參リマシタカラ、速記錄ニ讓リマシ
テ此狀況ノ御紹介ヲスルコトハ省イテ置
キマス、唯最後ニ一言ヲ留メタイノハ
可決ヲセラレマシタル修正案ヲ維持致シマ
スル委員會ノ多數ノ者ト雖モ、決シテ本案
ヲ完璧十全ノモノトシテ、滿足ヲ致シテ迎
ヘテ居ルノデハナイノデアリマス、有體ニ
告白ヲ致シマスレバ、〓野良三君ノ御提出
ニナリマシタ修正案以上ニ、個人ト致シテハ
修正ヲ致シテモ見タイ點ハアルノデス(「ナ
ゼヤラヌカ」ト呼フ者アリ)唯本案ノ如キ時
代的法制ハ全然無キニ優リマスルト同時
ニ、我國ノ財政其他ノ環境ノ許スニ從ウ
テ、漸次大成ヲ期スルト云フコトガ秩序的
進歩デアッテ、是ガ國家民人ノ爲ニ幸福ナリ
ト考ヘマシタ結果、不徹底ナガラモ此條正
案ニ一時忍從ヲ致シタ次第デアリマス、此
段御報告ニ及ビマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=57
-
058・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 本案ニ對シテハ牧
野賤男君外五名ヨリ少數意見ガ提出サレテ
居リマス、此意見ハ修正デアリマスカラ、第
二讀會ニ於テ其報告ヲ許スコトニ致シマ
ス、尙ホ討論ハ便宜上第二讀會ニ於テ爲ス
コトニ致シタイト思ヒマス、左樣御了承ヲ
願ヒマス、本案ノ第二讀會ヲ開クニ御異議
アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=58
-
059・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
マス仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマ
シタ-作田君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=59
-
060・作田高太郎
○作田高太郞君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ
開カレンコトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=60
-
061・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=61
-
062・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
マス仍テ直チニ第二讀會ヲ開クニ決シマ
シタ
刑事補償法案第二讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=62
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063・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 此際少數意見ノ報
告ヲ求メマス-牧野良三君
少數者意見書
一刑事補償法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ表題ヲ「刑事賠償法案」ト
改メ別紙ノ通修正スヘキモノト認ムルニ
依リ少數者意見書及提出候也
昭和六年二月二十日
委員少數意見者
牧野賤男
外五名
〔別紙〕
(小字及-ハ少數意見)
賠償
刑事舖償法
第一條刑事訴訟法ニ依ル通常手續又ハ
再審若ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者又ハ同法第三百十三
條ノ規定ニ依リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル
ニ對シテハ
者未決勾留ヲ受ケタル場合ニ於テハ國
本法ニ依リ損害ヲ賠償ス
ハ其ノ者ニ對シ勾留ニ因ル補償ヲ給與
|ス
再審又ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者原判決ニ因リ既ニ刑
ノ執行ヲ受ケ又ハ刑法第十一條第二項
ノ規定ニ依ル拘置ヲ受ケタル場合ニ於
テハ國ハ其ノ者ニ對シ刑ノ執行又ハ拘
損害ヲ賠償
置ニ因ル補償ヲ給與ス
賠償
第二條前條ノ規定ニ依リ補償ノ給與ヲ
受クベキ者死亡シタル場合ニ於テハ前
賠償交付
條ノ補償ハ之ヲ本人ノ遺族ニ給與ス死
亡シタル者ニ付再審又ハ非常上告ノ手
續ニ於テ無罪ノ言渡アリタル場合亦同
賠償
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族死亡シタル
交付
トキハ次順位ノ遺族ニ之ヲ給與ス
第三條本法ニ於テ遺族ト稱スルハ本人
ノ配偶者、子、孫父、母、祖父及祖母
又ハ其ノ收入ニ依リ
ニシテ本人死亡ノ當時之ト戶籍ヲ同ジ
生計ヲ維持シタ
ウシ引續キ其ノ戶籍内ニ在ル者ヲ謂フ
賠償
補償ノ給與ヲ受クベキ遣族ノ順位ハ前
項ニ記載スル順序ニ依ル父母及祖父母
ニ付テハ養方ヲ先ニシ實方ヲ後ニス
子及孫數人アルトキハ其ノ順位ハ本人
遺產
ヲ被相續人トシタル家督相續ノ順位ニ
準ジ之ヲ定ム
第四條無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル
〓刑法第三十九條乃至第四十一條ニ規定
者ニ付左ノ事由アルトキハ補賞ヲ給
スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴ノ言渡アリタ
ルトキハ賠償ヲ爲サズ
與セズ
一刑法第三十九條乃至第川十一條ニ
規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴ノ
言渡アリタルトキ
仁起訴セラレタル行爲ガ公ノ〓序又
ハ善良ノ風俗ニ反シ著シク非難スベ
キモノナルトキ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ起訴、勾留、公判ニ付スル處分又ハ
再審請求ノ原由ト爲リタルトキハ第一
賠償ヲ爲ザ
條第一項ノヲ給與セズ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ原有罪判決ノ憑據ト爲リタルドキ
賠償ヲ爲サ
ハ第一條第二項ノ横ヲ給與セズ
一個ノ裁判ニ依リ併合罪ノ一部ニ付無
罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受クルモ他ノ部分
ニ付有罪ノ言渡ヲ受クル者ニ對シテハ
賠償
補償ヲ給與セザルコトヲ得
○留置又ハ賠償
第五條〓勾留ニ因ル補償ニ於テハ勾引
狀又ハ勾開狀執行後ノ拘禁日數ニ對シ
裁判所ノ相當ト認ムル損害ヲ賠償
テ日五圓以内ノ舗償金ヲ給與ス但シ
一日二圓ヲ下ルゴドヲ得ズ
賠償
懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行ニ因ル補償
裁判所ノ相當
ニ於テハ其ノ日數ニ對シテ日五圓以
ト認ムル損害ヲ賠償賠償
肉ノ補當金ヲ給與ス拘置ス因ル補ニ
付亦同ジ但シ一日二圓ヲ下ルコトヲ得ズ
死癇ノ執行ヲ受ケタル者ノ遺族ニ對ス
賠償賠償
ル補償ニ於テハ拘置ニ因ル確價ノ外裁
損害ヲ購償
判所ノ相當ト認ムル金ヲ給與ス
賠償
罰金又ハ科料ノ執行ニ因ル償ニ於テ
ハ旣ニ徵收シタル罰金又ハ科料ニ等シ
キ金額ヲ還付ス勞役場留置ノ執行ヲ爲
賠償
シタルトキハ第二項ノ規定ニ準ジャニ
金ヲ給與ス
掏禁ヲ受ケザル者ニ對シテハ裁判所ノ相當
ト認ムル損害ヲ賠償ス
賠償
沒收ノ執行ニ因ル帥蹟ニ於テハ破壞若
ハ廢棄ニ係ラザル沒收物又ハ沒收物ノ
處分ニ因リテ得タル代價若ハ徵收シタ
ル追徴金ニ等シキ金額ヲ還付ス
第六條無罪又ハ免訴ノ判決ハ職權ヲ以テ其
ノ主交及要旨竝購價ヲ爲シタル皆ヲ宮報ニ
揭載シ且本人又ハ遺族ノ申立アルトキハ其
ノ選擇スル一乃至三種ノ新聞ニ之ヲ一囘乃
至三囘揭載スベシ
七賠償
第六條補償ノ給與ヲ受ケントスル者ハ
ノ上級裁判
無罪ノ言渡ヲ爲シタル裁判所又ハ免訴
所若ハ大審院
ノ言渡ヲ爲シタル像審判事ノ屬スル裁
賠償請求
判所ニ對シ補償給與ノ申立ヲ爲スベシ
前項ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スベシ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=63
-
064・又ハ市町村長ノ證
○又ハ市町村長ノ證 明書
申立書ニハ戶籍謄本〓ヲ添附スベシ
賠償
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ爲シタ
ル後死亡シタルトキハ其ノ申立ハ順次
賠償
次順位ニ於テ補償ノ給與ヲ受クベキ者
ヨリ之ヲ爲シタルモノト看做ス
八.賠償
第七條補償ノ給與ヲ受クベキ者ハ先順
賠償請求
位者ノ明示シタル意思ニ反シ補償給與
ノ申立ヲ爲スコトヲ得ズ
賠償
離償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ取消シ
タルトキハ其ノ取消ヲ爲シタル者及後
順位者ニ於テ更ニ申立ヲ爲スコトヲ得ズ
九賠償請求
第し 森神漬給與ノ申立ハ代理人ニ依リ
テモ之ヲ爲スコトヲ得
十賠償請求
第九條補償給與ノ申立ハ無罪又ハ免訴
ノ裁判確定ノ日ヨリ六十日內ニ之ヲ爲
スコトヲ要ス
土賠償請求
第十條額償給與ノ申立アリタルトキハ
裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ申立ニ付決
定ヲ爲スベシ決定ノ謄本ハ檢事及申立
人ニ送達スベシ
賠償
申立理由アルトキハ補償給與ノ決定ヲ
爲スベシ申立理由ナキトキ又ハ期間経
過後ニ係ルトキハ之ヲ棄却スベシ
賠償請求
刑ノ執行又ハ拘置ニ因ル補償給與ノ申
賠償請求
立ト同時ニ勾留ニ因ル補償給與ノ中立
アリタルトキハ主文ヲ區別ジテ決定ヲ
爲スベシ
十二賠償竝賠償請求ノ申
第十一條補償給與ノ決定ニ對シテハ不
立ヲ棄却スル決定ニ對シテハ一週間以內ニ
服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
抗告ヲ爲スコトヲ得
補償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シ
テハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
十三賠償
第十二條補償給與ノ決定アリタル後之
賠償
ニ依リテ補償ノ給與ヲ受クベキ者其ノ
交付ヲ受ケズシテ死亡シタルトキハ其
賠償
ノ決定ハ順次次順位ニ於テ補償ノ給與
ヲ受クベキ者ニ對シ之ヲ爲シタルモノ
賠償
ト看做ス補償ノ給與ヲ受クベキ遺族其
ノ交付ヲ受ケズシテ其ノ家ヲ去リタル
トキ亦同ジ
十四賠償
第十三條舗償ノ交付ヲ受ケントスル者
ハ其ノ決定ヲ爲シタル裁判所ニ請求書
〓
ヲ差出スベシ講求書ニハ戶籍謄本〓ヲ
ハ市町村長ノ證明書
添附スベシ
賠償
補償給與ノ決定ノ送達アリタル後一年
賠償
內ニ補償交付ノ請求ヲ爲サザルトキハ
權利ヲ失フ
第十四條補償交付ノ請求權ハ之ヲ讓渡
スコトヲ得ズ
賠償請求
第十五條補償給與ノ申立ニ關スル事件
繫屬中再審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三
百十七條ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリ
タルトキハ其ノ裁判確定ニ至ル迄決定
ノ手續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
賠償請求
ノ判決アリタルトキハ締給與ノ申立
ハ其ノ效力ヲ失フ
賠償
第十六條補償給與ノ決定アリタル後再
審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三百十七條
ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリタルトキ
賠償ニ關スル
ハ其ノ裁判確定ニ至ル迄補償交付ノ手
續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
賠償
ノ判決アリケルトキハ補償給興ノ決定
ハ其ノ效力ヲ失フ
賠
第十七條前條第二項ノ場合ニ於テ既ニ補
償ヲ爲シ
價ノ交付アリタルトキハ有罪ノ判決ヲ
爲シタル裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ決
賠償
定ヲ以テ補償ノ返還ヲ命ズベシ此ノ決
定ノ執行ニ付テハ刑事訴訟法第五百五
十三條乃至第五百五十五條ノ規定ヲ準
用ス
第十八條本法ノ決定及之ニ對スル卽時
抗告ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除
クノ外刑事訴訟法ヲ準用ス期間ニ付亦
同ジ
第十九條本法ハ軍法會議ニ於テ無罪ノ
賠
言渡アリタル場合ニ之ヲ準用ス但シ補
償請求
價給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シテ
ハ即時抗〓ヲ爲スコトヲ得ズ
賠償
軍法會議ニ於テ補償ノ返還ヲ命ズル決
定ノ執行ニ付テハ陸軍軍法會議法第五
百十八條乃至第五百二十條又ハ海軍軍
法會議法第五百二十條乃至第五百二十
二條ノ規定ヲ準用ス
賠償
軍法會議ニ於テ補賞ニ關スル決定ヲ爲
ス場合ノ判士ノ區別ニ付テハ陸軍軍法
會議法第五十九條第一項又ハ海軍軍法
會議法第五十九條第一項ノ規定ヲ準用
ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔牧野良三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=64
-
065・牧野良三
○牧野良三君 私ハ只今委員長ヨリ報〓セ
ラレマシタ刑事補償法案ニ對シ、玆ニ委員會
ニ於ケル少數意見ヲ申述べ本案ニ對スル
修正ノ理由ヲ明カニ致シテ、此際本案ノ議
決ヲ爲サルヽニ先立チ、議員諸君ノ深甚ナ
ル御考慮ヲ煩シタイト思ヒマス
第一本立法ハ今期議會ニ於ケル最モ重
要ナルモノヽ一ツデアルト信ジマス、今現
ニ委員會ニ於テ審議ヲ進メラレツヽアル小
作立法ト相竝ンデ、恐クハ第五十九議會ニ
於ケル二大立法ト稱スルモ、敢テ過言デナ
イト確信致シマス
抑、本立法ノ重要ナル所以ハ、罪無クシテ
刑セラレマシタル無辜ノ人々ニ對シテ國
家ガ國家ノ名ニ於テ、其人々ニ對シテ其損
害ト、其痛苦ト、其汚辱トヲ囘復慰藉スル
ト云フ點ニアルノデアリマス、卽チ國家ハ
非ヲ非トスルト共ニ、是ヲ是トスベキ嚴
肅公正ナル態度ヲ明カニシテ、以テ國家モ
亦己レノ行爲ニ責任ヲ負フモノデアルト云
フコトヲ明カニセントスルモノデアリマ
ス、其點ニ於キマシテ、此立法ハ時代立法
トシテノ極メテ重要ナル性質ヲ有シ、又其
點ニ於テ此立法ハ社會立法トシテノ頗ル重
要ナル文化的價値ヲ有シテ居ルモノト思フ
ノデアリマス、私ハ此點ヲ以テ此立法ノ重
要性ノ第一トシテ指摘致シタイト存ジマ
ス
第二ニ此立法ノ重要ナル點ハ、無辜ノ民
ヲ國家ノ權力ニ依シテ傷ケテ、寃罪ニ泣カシ
メタト云フコトニ對シテ、檢事ニ、判事ニ國
家ノ名ニ於テ重要ナル責任ラ負ハセルト云
フ立法ヲ確立致シマスル事ハ、之ニ依ッテ濫
起訴ヲ戒シメル起訴ノ濫用ヲ愼シマシメ
ル仍テ以テ司法行政ノ監督ノ實ヲ擧グル
ノニ、頗ル重大ナル意義アル立法デアルト
云フ事ガ、卽チ本立法ノ重要ナル第二點デ
アルト云フコトヲ指摘致シタイノデアリマ
ス
抑、今日ノ社會ノ實情ニ於キマシテ、國家
機關中、國民ノ最モ信賴ヲ捧ゲントスルモ
ノハ司法權デアリマス、然ルニ其司法權ガ
近來動トモスレバ或種ノ勢力メ牽制ヲ受ケ
マシテ、國民ノ信賴ヲ裏切ラントスルノ事
實ガ少クナイ、而シテ其司法權ノ濫用ト云
フモノニ對シテ、國民ハ漸ク警戒ヲ爲サン
トスルノ事實ガアル、本立法ハ此事態ニ直
面致シマシテ、國家司法行政權ノ濫用ヲ戒
メ少クトモ國家ト國家ノ官吏トニ對シ
重キ責任ヲ負ハシムル事ニ依ッテ、濫用ノ事
端ヲ抑壓セントスル效果ヲ有スル點ニ於
テ、共重大性ヲ看取セザルヲ得ナイノデア
リマス、是ガ本立法ノ重大ナル點デアルト
思ヒマス
然ルニ此重大ナル期待ヲ以テ本案ヲ見マ
シタル時ニ、吾々ハ非常ナル失望ヲ感ジタ·
ルセー只今委員長ノ御報〓ノ最後ノ言葉ニ
依ッテモ、諸君ハ看取セラレル事ガ出來ルデ
アラウト信ジマス卽チ本案ハ名ヲ刑事補
償法案ト云ヒマシテ恰モ吾人ガ長ク期待
致シタ立法デアリ、是等期待ニ副フ所ノ內
容ヲ有スル文化立法デアルトシテ手ニ致シ
マシテ靜ニ其內容ヲ檢シマスルト、其處
ニ吾々ノ期待ニ副フベキ殆ド一箇條ノ條文
ヲモ發見スル事ガ出來ナカッタノデアリマ
ス、洵ニ此意味ニ於テ私ハ委員長報〓ノ言
葉ノ裏ニモアリシ如ク、本案ハ言フニ忍ビ
ザル時代錯誤ノ立法ニシテ、正ニ是レ第五
十九議會ノ權威ヲ傷クル所少ナカラザルモ
ノアル事ヲ遺憾トスルノデアリマス(拍手)
委員會ガ前後十一囘ニ亙ッテ開キ、委員諸君
ハ〓心ニ審議シ、質問應答ヲ重ネマシタル
所以ノモノハ、此恥ヅベキ立法ヲシテ、希
クバ最少限度ニ於ケル時代立法タラシメ
仍テ以テ修正ノ實ヲ擧ゲント云フコトノ誠
意ニ外ナラナカッタノデアリマス、隨テ私ハ
是ニ於テ特ニ申上ゲテ置キタイ、委員會ノ
審議、質問應答ノ內容カラ言ヒマスト吾
吾ノ意見モ、與黨カラ出テ居ラレル委員諸
君ノ意見モ、同憂同感デアリマシテ、ソレ
ガ、今日相分レテ、私ハ玆ニ私ノ口ニ於テ
其內容ヲ明カニシナケレバナラヌト云フコ
トハ、全ク餘儀ナイ事情ニ基ク苦衷ニ出デ
ラレタモノトシテ、委員長ノ御報〓ニハ御
同情セザルヲ得ナイノデアリマス、サレバ
今玆ニ私ノ述べマスコトハ、形ハ少數意見
デアリマスケレドモ、實ハ委員會ガ努メタ
ル最少限度ノ修正意見デアルト云フコト
ニ、委員會ノ誠意ヲ御認メ下サランコトヲ
豫メ希望致シテ置キマス
次ニ私ハ玆ニ第二トシテ、本法律案ノ缺
陷ヲ指摘シ、且ツ修正條項ヲ明カニシテ、其
理由ヲ申述べタイト思ヒマス、卽チ以上述
ベマスガ如ク、本立法ハ名ハ刑事補償法案
ト稱シ、恰モ無辜ノ民ニ與ヘタ不測ノ損害
ヲ、國家ガ總テ賠償スルガ如キ形ヲ持ッテ
居ルケレドモ其內容ヲ見マスレバ逐條
何レノ條項ニモ、其實ヲ示スモノガナイト
云フコトヲ中シマシタ、今之ヲ手ニシテ諸
君御覽下サレバ、唯僅ニ一箇條之ニ觸レタ
モノガアル、ソレガ卽チ第五條、其五條ニ
ハ何トアルカト云ヘバ、「一日五圓以內ノ補
償金ヲ給與ス」トアルノミデアリマス而
モ僅ニ一箇條、而モ其一箇條ニ於テ五圓以
內-五圓ニ充タザル範圍ニ於テ補償ヲ給
與スト言ハレル此立法ハ、如何ナル理由ニ
依ッテ提案サレタカト云フコトヲ、提案理由
書ニ於テ見マスト、斯樣ニアル、「無辜ノ良
民ニシテ起訴又ハ刑ノ執行ニ因リ不測ノ不
名譽ト著シキ苦痛トヲ被ムルモノ無キニ非
ザルヲ以テ國家ハ之ニ對シ相當ナル慰藉ノ
途ヲ講ズルノ必要アリ是レ本案ヲ提出スル
所以ナリ」ト書イテアリマス、卽チ無辜ノ良
民ガ寃罪ニ泣クノ事實アルコトハ、政府自
ラ之ヲ認メテ居ルノデアリマス、之ヲ認メ
テ而モ之ヲ提案致シテ居ナガラ、其寃罪ニ
泣ク國民ノ總テノ損害ヲ賠償スルノ誠意ハ
之ヲ示サズシテ、唯之ヲ五圓以內ノ範圍ニ
於テ慰藉セントスルト云フコトハ政
府ガ是ヲ是トスルニ上ニ於テ、洵ニ謙讓ノ
態度ガ缺ケテ居ルト謂ハナケレバナラヌノ
デアリマス、(拍手)斯ノ如ク解シマスト
本案ノ名前ト、本案ノ內容ト、而シテ本
案提出ノ理由トハ、各個各別ニ獨立致シテ
居リマシテ、其間ニ一貫シタル何等ノ思想
モ、何等ノ目的モ、何等ノ精神ヲモ、之ヲ發
見スルコトガ出來ナカッタノデアリマス、仍
テ本員等ハ本案立法ノ精神ニ對シマシテ、
政府當局ハ如何ナル見解ヲ有シテ居ラレル
カ、本案審議ニ際シテハドウ云フ思想上
ノ根據ニ依ッテ本案ヲ立案セラレタノデア
ルカ、其立法ノ精神如何ト云フコトヲ問ヒ
マシタ所ガ、司法大臣ハ本案立法ニ對シテ
ハ國家賠償責任ト云フモノヲ認メタノデ
ハナイ、唯國家ガ國民ニ對シテ行フ仁政-
唯國民ニ對スル仁政デアッテ、一ツノ恩惠立
法ニ過ギナイト云フコトヲ言明セラルヽニ
至リマシテ、今委員長ノ報告セラレタル如
ク、委員會ハ一同全ク其期待ヲ裏切ラレ、
遺憾ノ意ヲ表スルニ至ッタノデアリマス、而
モ之ヲ各成條ニ見マスト、果シテドノ條文
ヲ見マシテモ賠償ストハアリマセヌ、然ラ
バ補償ストアルカト見マスト、補償ストモ
アリマセヌ、皆「補償ヲ給與ス」トアリマス、
卽チ無實ニ泣イタ國民ニ對シテ、權利トシ
テ之ヲ與ヘルノデナイコトハ勿論、國家ガ
無實ノ國民ヲ苦シメタニ對シテ、義務トシ
テ之ヲ負フト云フ精神デモナイ、唯全ク國
家ガ特別ノ仁慈ノ心ヲ以テ下渡ス恩惠ニ過
ギナイゾト云フノガ、此刑事補償法案立法
ノ精神デアリマス
諸君、左樣ナ法案ガ第五十九議會ニ提出
サレルト云フコトガ、果シテ議會ヲ悔辱ス
ルモノニアラザルナキヤ、之ヲ私ハ諸君ニ
御問ヒ致シタイノデアリマス(拍手)而モ政
府ガ之ニ依ッテ爲サントスル補償ハ、一日五
圓ニ滿タザル所ノ金デアリマス、政府ニ向。ン
テ、然ラバ一年ノ豫算ハドレ位見積ラレル
ノデアルカト言ヘバ、答ヘテ曰ク、總額七
万二千圓、諸君、一日ニ五圓ニ滿タザル金、
而シテ無實ノ罪ニ泣ク無辜ノ良民ガ、一年
ドレダケヅヽ拵ヘラレルカ、然ルニ總額僅
ニ七方二千圓、如何ニ此立法ガ時代錯誤ノ
思想的根柢ニ在ルカト云フコトヲ御諒解
ヲ願フコトガ出來ルト思ヒマス(拍手)
次ニ今之ヲ世界ノ立法例ニ見マスト、何
レノ立法例モ總テ國家賠償責任ノ原理ニ
依ッテ此規定ヲ爲シテ居ルノデアリマス、而
モソレ等ノ立法例ハ最近ノモノデハアリマ
セヌ、古キハ千八百年代、新シキモノト雖
モキ九百年ノ當初ニ於ケル立法デアリマ
ヌ歐羅巴ニ於テハ千八百八年ヨリ千九百
年ノ初ノ間ニ於テ、旣ニ國家賠償責任ノ原
理ニ立ツ所ノ無罪者賠償ノ法規ガアルノデ
アリマス、而モ爾來法會界ニ於テハ內外ヲ
問ハズ、無過失損害賠償責任ノ理論ガ發達
シマシテ旣ニ今日國家賠償責任ノ原理ト
云フモノガ確立致シテ居ル然ルニ其確立
シタ現代ニ、而モ千九百三十一年ノ此年初
ニ方ッチ提出サレタ政府ノ刑事補償法案ガ、
斯ノ如キ時代錯誤ノ思想的根柢ニ據テ立案
サレタト云フコトハ、私共ノ深ク遺憾ヲ感
ジタ點デアリマス、本案ガ若モ明治年代ニ
立案サレタモノデアリマスナラバ、私共ハ
少シク寛容ヲ旨トシタイト思フ、少クトモ
明治年代ニ立法セラレタモノヲ、今日ニ於
テ其一部分ノ修正ニ止メルト云フナラバ
其修正案ニ對シテハ相當寛大デア,テモ宜
イ、ケレドモ是ガ新立法トシテ、昭和六年
ノ五十九議會ニ提出サレテ、而シテ此立法
ハ必ズヤ世界ノ法律ニ關スル世界年報ニ
ハ、日本ノ新立法トシテ紹介サレルニ相違
ナイ、然ラバ如何ニ其內容ニ依ッテ我ガ國家
ノ文化ガ低ク國民ノ思想ガ庸劣ナルモノ
デアルカト云フコトノ侮辱、其侮辱ヲ世界
ノ學界ニ送ルト同ジデアルト云フコトヲ考
ヘナケレバナラヌ(拍手)與黨ノ諸君、諸君
ニハ御苦衷ノ在ルコトハ察シマスケレド
モ斯ル立法ヲ我ガ國家ノ名ニ於テ世界ノ
學界ニ、法曹界ニ送ルト云フコトハ、如何
ニシテモ私共ハ殘念ニ堪ヘマセヌ、斯ノ如
クニシテ修正意見ノ根本理由ガ此處ニ存ス
ルコトヲ御諒承ヲ願ヒタイ、隨テ私共ノ修
正ノ第一ハ、本案ハ補償法案デアッテハナラ
又、何處マデモ國家賠償法案デナケレバナ
ラヌト云フコトヲ、此點ニ於キマシテ主張
スルノデアリマス
次ニ然ラバ暫ク政府ノ言フ所ニ從ッテ、此
法律案ハ恩惠案デアル、恩惠立法デアルト
スルナラバ、果シテ如何ナル目的ヲ之ニ依。ツ
テ達セントスルカト云フコトヲ政府ニ問ウ
テ見マシタ所ガ、政府ハ曰ク、本案ハ本案
ニ依ッテ無辜ノ良民ガ受ケタル所ノ財產上
ノ損害ヲ賠償セントスル意思ハナイ、唯精
神上ニ受ケタル所ノ損害ヲノミ補償セント
欲スルモノデアル、之ヲ稱シテ慰藉ト云フ、
卽チ慰メント欲スルモノデアルト言ッテ居
ラレルノデアリマス、卽チ本案ハ刑事補償
法ト言ヒマスケレドモ、政府ノ說明ニ依リ
マスレバ、只今委員長ガ御報告ニ相成シタ
ル如ク、刑事慰藉法デアル、卽チ本立法ハ
刑事慰藉法デアル點ニ於キマシテ、世界ノ
立法例中未ダ其例ヲ見ザル、我國獨自ノ新
立法デアルト云フ點ニ、私共ハ特別ノ注意
ヲ向ケテ審議ヲ進メタノデアリマス然ラ
バ政府ノ言明ニ從ッテ、慰藉立法トシテ果シ
テ此法案ガ寃ニ泣イタ國民ノ無實ヲ償ヒ、
ソレヲ慰藉スルニ足ル相當ナ用意ガ盛ラレ
テ居ルカ、相當ナ注意ガ此條文ニ拂ハレテ
居ルカト云フコトヲ質シマシタ所ガ唯ソ
レ先程申述ベタ第五條ヲ指スノ外ニハ一條
モ規定ガナイ、其第五條ニハ何ト規定シテ
アルカト言ヘバ今申上ゲタ通リ、一日五
圓以内ノ補償金ヲ給與ストアルノミデアリ
マス、諸君、一日五圓ノ金額ト云フモノハ
必ズシモ少額デアルトハ思ヒマセヌ、下層
ノ生活ヲ爲ス國民ニ向ッテ一日五圓ト云フ
金額ハ、時ニ或ハ財產、精神兩方面ノ損害
ヲ賠償スルニ足ル場合ヲモ作リ得ルト信ジ
そく、併ナガラ諸君、之ヲ諸君ト吾々ノ場
合ニ例ヲ取ッテ戴キタイ、吾々ガ六十日未決
勾留ニ打込マレタトスル、六十日未決勾留
ニ打込マレテ出テ來タトスル、其時ニ私共
ハ最高額デ三百圓ヲ要求スルノ權利ガ之ニ
アルトスル、然ラバ諸君ハ、裁判所ニ向ッテ
三百圓ヲ要求ニ御出デニナリマスカ、假期
諸君ガ三百圓ヲ要求ニ行カレタトシテ、三
百圓ヲ裁判所カラ要求シテ、之ヲ取ッテ、ソレ
デ六十日ノ間ニ得タル所ノ諸君ノ憤懣痛
苦、ソレガ之ニ依ッテ慰藉サレルコトガ出來
マスカ、出來ナイ、私ハ斷言スル、決シテ
是ハ出來ナイ、出來ナイ斯ル法規ヲ制定シ
テ、形式的ニ二百圓、三百圓ノ金ヲ其無實ノ
人々ニ贈ルト云フ規定ヲナス所ニ於テ、此
重大ナル法意ガ目的ノ爲ニ整ヘラレテ居ル
ト云フコトガ言ヘルカドウカト云フコトヲ
考ヘタイ、之ヲ私ハ貧シキ人々ニ付テ云フ
モ、罪ナクシテ獄ニ繫ガレル人々ノ無念ト
忿怒ノ情ト云フモノハ此場合百金ヲ積ム
ヨリモ寧ロ國民ノ面前デ、其無罪ヲ聲明シ、
其無實ヲ明カニシテ、罪無キ者ヲ罪シタト
云フコトヲ國家自ラガ心ヨリ詫ビルノ實ヲ
明カニシタナラバ、ドレ位慰藉ノ目的ヲ達
スルノニ有力デアルカト云フコトヲ考ヘザ
ルヲ得ナイノデアリマス、卽チ國家ハ國家
ノ名ト國家ノ費用トニ於テ、其無實ナリシ
コトヽ無實ナリシ所以トヲ、詳細ニ官報
ト新聞紙ニ廣告發表シテ、遺憾ノ意ヲ表ス
ルノ途ヲ取ルト云フコトガ、慰藉立法トシ
テ正ニ當然考ヘナケレバナラヌ條項デアル
ト信ジマス(拍手)然ルニ政府ハ此條項ヲ本
條ニ規定シテ居ナイ、知ラザルガ爲メカ、
知ラナイノデハナイ、知ッテ爲サナイノデ
アル、蓋シ是ハ列國ノ立法例ニ見マスルナ
ラバ既ニ先程指摘致シマシタ、今ヨリ百
二十年前ニ制定セラレタ千八百八年ノ佛蘭
西刑事訴訟法第四百四十六條ニ規定シテア
ル、卽チ無罪ノ判決ハ之ヲ被害者ノ住ッテ居
ル市町村ニ於テ發表セヨ、公〓セヨ、ソレ
バカリデハイカヌ是ハ宜シク政府自ラ官
報ニ公〓セヨ、更ニ又被害者ノ住所地ニ於
テ之ヲ公〓シ官報ニ之ヲ公示スルノミ
ナラズ、更ニ被〓自ラガ選擇スル所ノ數種
ノ新聞ニ之ヲ發表シテヤレト云フコトヲ、
今カラ百二十年前ノ佛蘭西ノ刑事訴訟法ニ
明カニ規定致シテ居ル(拍手)加之、匈牙利
ノ刑事訴訟法ノ五百八十條ニモ被害者ノ
住所地ニ於ケル地方廳ニ其無實ノ罪デアツ
タコトヲ公示セヨ、而シテ更ニ之ヲ新聞ニ
公〓シテ、其寃ヲ雪イデヤレト云フ規定ガ
アリマス、單リ外國ノ立法ノミデハアリマ
セヌ、日本ノ刑事訴訟法五百十五條ニ於キ
マシテモ、再審ニ依ッテ無罪ニナリマシタ場
合ニ於テハ、其被〓ノ名譽ノ爲ニ其判決ヲ
官報ニ公〓スルノ外、新聞紙ニモ亦之ヲ公
告セヨト云フ規定ガ確實ニアルデハナイカ
(拍手)更ニ之ニ止マリマセヌ、今ヤ政府當
局者ガ朝野法曹ノ有力者ヲ集メテ、熱心ニ
審議ヲ完成セント致シテ居ル所ノ、我ガ刑
法ノ改正草案ノ六十二條ニハ明カニ新聞
紙ニ揭載スベキコトガ規定シテアルノデア
リマス、政府ハ知ラザルニアラズ、爲サヾ
ルナリ、何ガ爲ニ爲サナイノカ、偏狹デ
アリマス、時代錯誤デアリマス、其外何ノ
理由ガアリマスカ(拍手)卽チ是ハ怠慢ニ因ッ
タモノトハ言ヘナイ、不親切ニ因シタモノト
斷ゼザルヲ得ナイ、否偏狹ノ結果、斯ル被
告ノ重要ナル名譽ノ爲ニスル所ノ一擧手一
投足ノ勞ヲ、此條文ニ吝マレタト云フ點ニ
於テ、私ハ是非諸君ニ之ヲ愬ヘタイ仍テ
私共ハ愼重審議ノ結果、本案ニ新ナル一箇
條ヲ設クルコトニ致シマシタ、是ガ只今諸
君ノ手許ニ配付致シマシタ少數黨意見ノ第
六條デアリマス、卽チ其第六條ニ新タニ斯
樣ナル規定ヲ入レタノデアリマス「無罪又
ハ免訴ノ判決ハ職權ヲ以テ其ノ主文及要旨
竝賠償ヲ爲シタル旨ヲ官報ニ揭載シ、且
本人又ハ遺族ノ申立アルトキハ其ノ選擇ス
ル一乃至三種ノ新聞ニ之ヲ一回乃至三囘揭
載スベシ」是デアリマス、是ハ私共ガ理想ノ
上カラ斯ル主張ヲ爲スノデナイト云フコト
ハ、旣ニ百二十年前ノ佛蘭西ノ立法ニアリ、
更ニ匈牙利ノ立法ニアリ、更ニ日本ノ刑事
訴訟法ニアリ、更ニ今ヤ朝野ノ法曹ガ心ヲ
罩メテ審議中ノ刑法草案中ニアルト云フコ
トヲ以テ、諸君ハ銘記シテ戴キタイ、而シ
テ此新第六條ノ規定ハ正ニ刑法草案中ニ
アル所ノ內容ヲ其儘玆ニ用ヒタニ過ギナイ
モノデアルコトヲ、私ハ此處ニ報告シテ置
キタイ、然ルニ私共ガ言葉ヲ盡シテ此改正
ヲ提議シタニ拘ラズ、政府ノ反對ヲ受ケマ
シタ、而モ與黨ノ諸君ハ吾々ノ志ト同ジ考
ヲ持ッテ吳レマシタノデ、政府ト折衝ヲ重ネ
ラレタ結果、他ノモノハ總テ之ヲ削除サレ
テ、今委員長報告ノ如ク、政府與黨ノ人々
ノ修正案、第十九條ノ官報ニ揭載スルコト
ダケガ認メラルヽニ至ッタノデアル、諸君、
之ヲ私ハ偏狹ダト云フ、何故カ、官報ト云
フモノハ官ノ公示機關デアリマシテ、之二
揭載スルト云フコトハ、單ナル一ツノ形式
デアリマス、卽チ多數ノ國民ハ-民衆ハ
之ニ與リマセヌ、國民ノ讀ムモノヂヤナイ、
民衆ノ讀ムモノヂヤナイ是ハ事實デアリ
マリ、ソレニ唯揭載スル、諸君、若モ揭
載スル必要ヲ認メルナラバ、國民ニ廣ク親
マレル新聞ニ揭ゲルト云フコトヲ挿入サレ
ナケレバ、玆ニ時代精神ヲ現ハシタ時代立
法デアルト云フコトハ出來ナイト思フ拍
手)是レ卽チ私ガ時代錯誤ノ根柢ヲ容易ニ
拔クコトノ出來ナイモノデアルト云フコトニ
對シテ、遺憾ヲ表明スル第一點デアリマス
更ニ注意シタイノハ第五條ノ點デアリマ
ス、私ハ第五條ノ五圓ト云フ金額、之ヲ論
ズルノ意思ハアリマセヌ、否、私共ハ金ハ之
ヲ與ヘテ欲シイ、ドレダケナリトモ無罪ノ
裁判ヲ得タル人、無實ニ泣イタ人々ニ、ド
レダケノ金ナリトモ、多ク與ヘテ欲シイト
思ヒマスケレドモ與ヘル物質ハ結局ハ
其人ガ受ケタル所ノ財產上ノ損害ヲ補塡ス
ルニ止マル精神慰藉ハ-必要ナ精神慰
藉ハ、卽チ本立法ガ政府案トシテ求メル所
ノ精神慰藉ハ、此五圓以內ノ金ヲ得ルコト
ニ於テ達スルコトハ出來ナイノデアリマ
ス、ドウシテモ此意思ヲ徹底セシメルナラ
が、政府自ラ社會公共ノ機關デアル所ノ新
聞ニ依ル所ノ慰藉ノ途ヲ選バナケレバナラ
又、是レ吾人ガ敢テ少數意見トシテ、只今
尙ホ此修正案ヲ固執スル所以ナルコトヲ御
承知願ヒタイノデアリマス(拍手)
次ニ私ハ本案ヲ總テ時代錯誤ノ立法デア
ルト申シマシタ、時代錯誤ノ思想的根柢ニ
成ッタ所ノ不祥立法デアルト云フコトヲ申
述ベテ來マシタ、是ハ單純ナ批評デハアリ
マセヌ、況ヤ惡罵デハゴザイマセヌ、事案
ヲ審議シツヽ私共委員全體ガ發見シタル所
ノ遺憾ナ事實デアリマス、而シテ此時代錯
誤ノ實證ハ之ヲ共立法ノ精神ニ於テ聞キ
得タルノミナラズ、此法律案各條各項ニ
總テ歷々トシテ之ヲ指摘スルコトヲ得ルノ
ハ實ニ遺憾ニ堪ヘナイ、今玆ニ私ヲシテ
ソレヲ指摘セシメテ戴キタイ
先ヅ第一ニ第一條ヲ御覽ヲ願ヒタイ、之
ニハ未決勾留ニ依ル補償マデモ認メテ置キ
ナガラ留置處分ハ除外サレテ居ル、同ジク
打込マレテモ未決勾留ハ補償シテアルガ、
留置處分ハ之ヲ認メナイ、何故之ヲ認メナ
イカト云フト政府當局、政府委員ノ答辯
ニ曰ク、金ガ掛ルト、幾ラ金ガ掛ルカ、〓
算額ノ豫算ハ幾ラカト云フト、曰ク一箇年
千數百圓掛ル、諸君、千數百圓ヲ惜ム爲ニ、
僅カ千數百圓ヲ惜ム爲ニ玆ニ留置處分ヲ
除外スルト云フヤウナナコトハ時代
ノ思想デアル(拍手)而モ其條文ヲ挿入スレバ
事案ハ無罪ニナルノガ多クナルト云フ、多
クナルコトハ慶バシイコトデハナイカ(拍
手)多クナレバ金ガ掛ッテ困ルト云フ、三倍
ニナッタカラト言ッテ四千圓デアル、四千圓ト
云フ金ハ全國ノ刑務所ノ典獄ガ乘廻シテ居
ル、自動車一臺ノ値段ニ如カナイト云フコ
トヲ御承知願ヒタイ(拍手)仍テ私共ハ先ヅ
本條ヲ改メナケレバナラヌト信ジマシテ、
本條ニ對シマシテハ「云々ノ者未決勾留ヲ
受ケタル場合ニ於テハ國ハ其者ニ對シ勾留
ニ因ル補償ヲ給與ス」トアリマスノヲ改メ
テ、如何ナル場合モ總テ含メル爲ニ「云々ノ
者ニ對シテハ本法ニ依リ損害ヲ賠償ス」ト
改メマシタ、卽チ國家ハ罪ナキ者ヲ罪ニシ
テ牢ニブチ込ンダ、假ニ牢ノ中ヘブチ込マ
ナイデモ、名譽アリ地位アル人ヲ無暗ニ起
訴シテ、汚名ヲ與ヘタト云フトキニハ總
テ其由テ來ル損害ハ之ヲ賠償スルノ實ヲ玆
ニ明カニシテ置ケバ、檢事ヤ豫審判事ハ容
易ニ國民ノ身體ニ手ヲ加ヘルコトハ出來ナ
イト云フ保障ニナルコトヲ御記憶ヲ願ヒタ
イノデアリマス
次ニ木案ガ時代錯誤ノ立法デアルコトヲ
指摘致シマス第二點ハ第三條ノ規定デア
リマス、第三條ハ被害者ガ死亡致シタトキ
ハ、其遺族ニ補償ヲ給與スル規定デアル
其遺族ノ場合ニ於テ遺族トハ戶籍上ノ家
族デナケレバナラヌト規定シテアルノデア
リマス、諸君、仍テ以テ實際上ノ夫婦、實
際上ノ親子ト云フモノヲ除外シテ居ル私
ハ此點ヲ指摘シテ、委員會ニ於テ實際上ノ
關係ニアル夫婦、卽チ內緣ノ夫、內緣ノ妻、
私生兒等之ヲ認ムルノ擧ニ政府ハ出ナイカ
ト質問シタケレドモ、是モ亦葬ラレマシタ、
葬ムル委員會ガ正シイカ、今尙ホ之ヲ主張
スル少數意見ガ正シイカ、諸君ノ御考慮ヲ
煩シタイ、何トナレバ我國ノ家族ヲ戶籍上
ノ家族ニ限ルト云フコトハ、時代錯誤ノ甚
シイモノデアル、寧ロ本條ハ時代創作.的精
神ノ「シムボル」トモ謂フベキ規定デアル
何トナレバ、旣ニ十數年前ニ立法サレテ居
ル所ノ工場法竝ニ鑛業法ヲ御覽ナサイ、工
場法ハ其十八條ニ、鑛業法ハ八十條ニ、何
レモ事實關係ノ家族ヲ認メテ居ル此立法
ガ樞密院ヘ懸シタ時ニ、樞密院ニ於キマシテ
ハ顧問官ハ之ニ異議ヲ唱ヘタ苟モ法律
ニ於テ戶籍上ノ夫婦ニ非ザル內緣ノモノヲ
認メルト云フコトハ、我ガ國民道德上ノ遺
憾ヲ法規ニ於テ認メルモノダト言ハレタ時
ニ、政府當局者ハロヲ極メテ我ガ國民生活
ノ實情ヲ說イテ以テ、十數年前ニ樞密顧問官
ノ頭ヲ動カシテ、此條文ノ挿入ガ出來タニ
拘ラズ、昭和六年千九百三十一年ノ立
法ニ於テ、此點ヲ指摘シテ之ヲ政府ニ要求
スレドモ政府容レズ、是レ如何ニ時代錯誤
ノ思想的根柢ニ立ツカト云フコトガ明カデ
アル而モ諸君、單ニ是ハ鑛業法ト工場法
ノ二ツガ認メテ居ルバカリデナイ、我國ノ
大審院ノ判例ヲ御覽ナサイ、家族遺族ノ中
ニハ事實上ノ關係ニ立ツ內緣ノ妻、內緣ノ
夫、私生兒ヲ認メテ居ル、ノミナラズ今ヤ
又民法改正案ニ於キマシテハ學者及ビ政
府當局者共ニ、民法ノ中ニ於テ此內緣關係
ヲ認メントスルコトヲ進メツヽアルコトハ
諸君御承知ノ通リデハアリマセヌカ、シテ
見レバ是等ノドノ點ヲ持ッテ行キマシテモ、
斯ル條文ヲ此儘維持シテ、世界年報ノ上ニ
揭載セシムルト云フコトハ、正ニ恥ヅベキ
擧デアルト斷ジテ差支ナイト思ヒマス、是
レ私共ガ第三條ニ「戶籍ヲ同ジウシ引續キ
其ノ戶籍內ニ在ル者ヲ謂フ」トアルノヲ、
「本人死亡ノ當時其ノ收入ニ依リ生計ヲ維
持シタル者ヲ謂フ」ト改メ、今尙ホ此修正意
見ヲ固執セントスル所以デアル
第三ハ第三條ノ三項デアリマス、ソレハ
簡單デアリマス、卽チ補償ヲ受クベキ者ガ
死亡致シタルトキニハ家督相續ノ順位ニ
依リ其權利ヲ與ヘルト云フノデアリマス
ガ、是ハ家督相續ト云フ唯長子一人ニ與ヘ
ルノ制度ヨリハ、寧ロ此場合ニハ遺產相續
ノ順位ニ依ルト改メテ、總テノ子供ニ與ヘ
ルコトガ-法律ノ規定ニ從フテ或ル程度
ノ分配ヲ受ケルノ途ヲ講ズルト云フコト
ガ、新シキ立法トシテ當然ノ注意デアルト
思フ、隨テ之ヲ家督相續トアルノヲ「遺產相
續」ト改メテ、之ヲ維持セントスルノモ亦、
諸君ノ御贊成ヲ得ルコトガ出來ルト思ヒマ
ス
第四ハ-時代錯誤ノ思想的根柢ヲ立證
スル第四點ハ、第四條ノ規定デアリマス
同條ノ第一項第二號ニハ斯樣ニ書イテアル
「起訴セラレタル行爲ガ公ノ秩序又ハ善良
ノ風俗ニ反シ著シク非難スベキモノナルト
キ」ニハ補償ヲ給與シナイコトガ出來ルヤ
ウニ規定シテアルノデアリマス、諸君、實
ニ是ハ奇怪至極ナ規定ニシテ、又濫用ノ端
ヲ繁クスル恐ルベキ規定デアル、何トナレ
バ第一ニ此規定ハ、我國ノ刑法ヲ維持スル
所ノ罪刑法定主義ノ原則ヲ根柢ヨリ破壞セ
ントスルモノデアル、罪刑法定主義トハ何
デアルカ、罪ヲ犯ス意思ナクシテ行ッタ行
爲デモ、苟モ法律ニ之ヲ罰スルノ正條ガア
ル以上ハ、吾々ハ處罰サレナケレバナラヌ、
諸君ト吾々ハ選擧法ノ規定ニ於テ屢〓之ヲ
見ルノデアリマスガ、斯ル行爲ハ選擧違反
ニハナラズト信ジテ爲シテモヽ選擧法ノ罰
則規定百十二條以下ニ該當スレバ吾々ハ
選擧違反ニナルノデアル、ソレト同時ニ如
何ニ警察官ガ、檢事ガ、裁判官ガ、司法當局
ガ之ヲ罰シタイ、罰シナケレバナラヌト言。ツ
テモ苟モ之ヲ罰スルノ法律ノ正條ガナ
ケレバ罰シテハナリマセヌ、然ルニ公ノ秩
序又ハ善良ナル風俗ヲ害スルモノガアルカ
ラト言ッテ、之ヲ自山ニ罰スルノ權利ヲ當局
ニ與ヘルト云フコトハ罪刑法定主義ノ原
則ヲ根本カラ破壞スルノミナラズ、之ニ依フ
テ檢事判事ノ濫用ノ端ヲ繁クスル重大ナル
缺陷ヲ作ルモノデアリマス、此點ニ付テ無
產黨ノ大山氏ノ如キハ之ヲ指摘シテ、是ハ
吾々ヲ苛メ付ケルカラクリ立法ダト言ハレ
タ、ソレニ對シテ政府當局ガソレハ僻ンダ
御見解ダト答ヘラレタコトハ一應正シイ
コトヽ考ヘマスケレドモ、斯ル規定ヲ存置
スルコトガ、如何ニ良民ニ對シテ迫害ノ意
思ヲ表示スルモノデアルカト云フコトヲ、
指摘セザルヲ得ナイノデアル(拍手)故ニ吾
吾ハ斷然之ヲ削除スル、是レ修正意見デア
リマス
次ニ第五ニ-時代錯誤ノ思想的根柢ヲ
示ス第五點ハ、同條ノ第三項、第四項ノ規
定デアリマス、同條ニハ本人ノ故意又ハ
重大ナル過失ニ因ル行爲ガ有罪ノ判決ノ憑
據トナッタトキハ補償シナイトアル、諸君、
故意ニ有罪ノ判決ヲ受ケントシタ者ニ付テ
ハ無罪ノ判決ヲ下シテモ、ソレ等ニ補償
ヲ與ヘル必要ハアリマセヌ、併シ重大ナル
過失トハ何デス、重大ナル過失ガ被害者ニ
アッタトスルナラバ、是ハ卽チ判事檢事ガ自
ラノ職責上之ヲ發見シナケレバナラヌ、自ラ
ガ發見セズシテ有罪ノ判決ヲ下シタ其責任
ヲ、重大ナル過失アル被害者ニ轉嫁セント
スルガ如キハ、正ニ時代錯誤ノ甚シイモノ
ト言ハナケレバナラヌ(拍手)サレバ私共ハ
此點ニ於テ此「重大ナル過失」ト云フ事項ヲ
削除致シマシテ、此時代錯誤ノ立法ヲ最小
限度ニ於テ修正セントスルモノデアリマ
ス、次ニ第六點ハ、最モ注意ヲ乞ヒタイ第五
條ノ規定デアリマス、卽チ本案ハ曩ニ指摘
シタル如ク、補償ニ關スル唯一ノ規定デア
リマス、一日五圓以內ノ範圍ニ於テ補償ヲ
スルト云フ規定デアリマス、此點ニ於テハ
既ニ先程申述ベマシタカラ多クハ申述ベマ
セヌガ、唯注意シタイノハ、自ラ最高額ヲ
五圓ニ限ッテアル、己ノ責任ニ關シテハ最高
額ノ限度ヲ示シテ置キナガラ、而モ被害者
ニハ最低ノ限度ヲ定メテ居ナイコトハ正
ニ當局官憲ヲシテ濫用ノ餘地アラシムルコ
トヲ推測セシムベキ、時代錯誤ノ立法デア
ルコトヲ指摘セザルヲ得ヌノデアリマス、
隨テ是ガ正シイ時代精神ヲ反映シタル所ノ
文化立法デアルナラバ、最低額ハ之ヲ規定
シナケレバナリマセヌ、併ナガラ金錢ニ關
シテ被害者ニ對スル事項ニ付テ最高額ヲ規
定スルコトハ、今日政府ノ爲スベキ態度デ
ハゴザイマセヌ、故ニ吾々共ハ賠償ニ付キ
マシテハ總テ裁判所ノ相當ト認ムル額ヲ
賠償スト云フ風ニ改メ「但シ一日二圓ヲ下
ルコトヲ得ズ」トシテ、最低額二圓ヲ下ルコ
トヲ得ザルコトヲ規定セント欲スル所以デ
アリマス次ニ第七點ハ、拘禁ヲ受ケナイケレ
ドモ、起訴ノ不名譽ヲ擔フタル人々ニ對シテハ、
同ジク國家ハ慰藉ノ方法ヲ講ズベキデア
ル、卽チ此場合ニ於テ損害ノ賠償ヲ爲スト
同時ニ、慰藉ノ方法ヲ講ズルト云フコトガ
適當デアル、其爲ニ新ニ第五條ノ第五項ヲ
設ケマシタ所以デアル
第八點ハ、官報及ビ新聞紙ノ揭載ニ關シ
テ先程申述ベタ條項デアリマス、大一
第九點ハ此賠償ノ請求ハ無罪ノ判決ヲ
言渡シタル裁判所ニ於テ取扱フト云フコト
ハトモスレバ弊害ヲ惹起スル虞アリト信
ジマスノデ、吾々ノ意見ト致シマシテハ、
上級裁判所ニ於テ管轄セシムルノ主義ヲ
採ッタノデアリマス、次ヘ
第十點ハ、本條第十一條ノ修正デアリマ
ス、卽チ本條ニ於キマシテハ賠償給與ノ
決定ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得
ズトアリマスルケレドモ、旣ニ賠償ニ關シ
テハ相當額ヲ裁判所ニ於テ認定シテ、賠償
スルノ方針ヲ採リマシタ以上ハ、賠償ノ給
與ノ決定ニ關シテモ、賠償給與ノ申立ヲ棄
却スル決定ト同ジク抗〓ノ途ヲ許シ、且ツ
抗〓ハ刑事訴訟法ニ於テハ三日ノ期間內ニ
シナケレバナラヌト云フコトニナッテ居リ
マスケレドモ、內容ガ國家ニ賠償金ヲ要求
スルコトデアリマスルカラ、民事訴訟法ノ
精神ヲ酌ミマシテ、七日間ノ期間ヲ與フル
ノ修正ヲ加ヘント欲スル者デアリマス、次
ニ
第十一點ハ、卽チ第十四條ノ規定デアリ
せい、本條ハ賠償請求權ノ讓渡ヲ禁止致シ
テ居リマスケレドモ、斯ノ如キハ徒ニ形式
ニ拘泥シテ、本人ノ利害關係ニ對シテ無關
心ナル結果ニ相成リマスカラ、此讓渡禁止
ノ條項ヲ削除致シタイト思ヒマス
以上ガ私共ノ同志ノ修正要項竝ニ修正理
由ノ大要デアリマス、其他之ニ關聯シタ事
項ハ總テ此修正案竝ニ委員會ノ速記錄ニ
依ッテ御承知願タイト存ジマス、卽チ之ヲ要
スルニ、私共ノ修正ハ徒ニ理想ヲ唱ヘテ、
政府ヲ責メントスルモノデナイト云フコト
ヲ御承知願タイト同時ニ、私共ノ修正ハ豫
算關係ニ對シテハ無關心デ、難キヲ政府當
局ニ求メルモノデナイト云フコトノ御承知
ヲ願ヒタイノデアル、要ハ唯時代ノ要求ス
ル所ノ賠償立法ヲ立案スルニ當リマシテ、
政府當局ト與黨諸君ト心ヲ協セテ、希クハ
國民ノ要求シ、時代精神ニ合致スル所ノ、
セメテハ最小限度ノ內容形式ヲ整ヘシムル
モノニシタイト云フノガ、私共修正案ノ要
旨デアリマス、蓋シ先程既ニ申シタ通リ、
國民ニ對シ非ヲ非トシテ之ヲ糺彈シ、糺明
スルコトハ司法權ノ本分デアリマス、若
シ非ヲ非トシテ之ヲ糺彈シ、糺明スルコト
ガ司法權ノ本分デアリマスルナラバ、是ヲ是
トシ、苟モ罪無クシテ寃ニ哭キ、泣イタ結
果一生ヲ過マル者ノ爲ニハ是ヲ是トスル
所ノ態度ヲ明カニスルニハ、宜シク政府ハ
謙讓ナル態度ヲ以テ立法シナケレバナラヌ
ト存ジマス、卽チ此點ニ於テ私共ハドウカ
與黨諸君ハ吾々ノ最小限度ニ於テ試ミタ
ル所ノ修正案ニ對シテ、尙ホ一度御考慮ヲ
煩シタイ、是レ司法立法ヲ爲ス上ノ重大ナ
ル責任デアルト信ジマス、然ルニ政府ハ頻
ニ豫算、豫算-豫算ヲ恐レ豫算ヲ楯ニ
取ッテ正シイ主張ヲ容レルコトヲ吝ンデ
ラレマス豫算ニ對シテ現內閣ハ極度ノ恐
ヲ懷クト云フコトハ現內閣ノ痼疾デアリ
やく、併ナガラ正シキ立法ニ對シテ正シイ
豫算ヲ協賛スルコトハ吾々議員ノ當然ナ
ル職責デアルト云フコトヲ考ヘナケレバナ
リマセヌ(拍手)而モ諸君、幾ラノ豫算ヲ要
スルカト申シマスレバ此案ヲ實行スルニ
七万二千圓ダト云フコトハ先程申上ゲタ
僅カ七万二千圓ノ金額ヲ支出スルコトニ
依ッテ、無辜ノ國民ヲ罪シテ苦シメタ責任ヨ
リ免脫サレントスル所ノ企ヲ爲スト云フコ
トハ餘リニ大膽不敵、厚顏無恥ナル立法
デアルト謂ハナケレバナラヌト思フ、私共
ハ如何ニ政府ノ提案ナレバトテ大膽不敵
厚顏無恥ナル立法ニ對シテハ、何處マデモ
警〓ヲ與ヘ、修正ノ實ヲ擧ゲナケレバナラ
ヌト信ジマス、本案ハ國民ニ賠償スルノ責
任ヲ明カニスルト謂フガ、金ニ依ッテー物
質ニ依ッテ、賠償ヲ約スルコトガ本法ノ能事
トスルモノデハナイ、政府ガ斯ル場合ニ於
テ重大ナ賠償ノ責任ヲ負フゾト云フコトヲ
法律ノ規定ニ現ハスコトニ於テ、判事、檢
事ヨリ司法權、司法行政權ヲ濫用スル弊ヲ
艾除セシメントスル所ニ、本立法ノ重大精
神ガ籠ノテ居ルト云フコトヲ御考ヲ願ヒタ
イ(拍手)
私ハ最後ニ誤解ヲ避ケル爲ニ二箇ノ點
ニ付テ繰返シ意見ヲ申殘シテ置キタイト思
ヒマス、ソレハ既ニ述ベマシタ通リニ、本
條ノ修正ハ委員會ニ於テ本員等ガ徒ニ理
想ニ依シテ爲シタル修正デハナイ、、現內閣ノ
時代錯誤ノ思想ヲ正ス最小限度ノ修正案デ
アルト云フコトヲ御承知願ヒタイ、是レ第
第二一ハ既ニ是モ申述べタ如ク、本案ハ
一年ノ豫算ガ七万二千圓デアル、來年ハ幾
ラ使ハレルノカト云フト多分豫算ニハ六
七千圓ト出テ居タト思フ、諸君、私共ハ僅
ニ七千圓ヤ、一万圓ノ金デ此重大ナル立法
フ實行セント云フコトノ、甚ダ不當ナルコ
トヲ思ハナケレバナリマセヌ、此機會ニ於
テ私ハ唯諸君ト吾々トガ本當ニ時代精神ニ
即シク所ノ賠償立法ヲ完成シ是ガ實施ハ本
法案ニ規定シテアル通リニ、之ヲ勅令ニ讓
ルノデアリマスカラ、勅令ニ讓ッテ、吾々ハ
豫算協贊ノ實ヲ與ヘテ、之ヲ實行シタイ、
従ニ之ヲ六千圓ヤ、七千圓ノ金デ爲セヨ
ト難キヲ求ムルノデナイ、現內閣ノ司法
當局ノ時代ニ於テ、斯ル立派ナ立法ガ出來
タト云フコトハ、後世ニ對シテモ實ニ面目
アルコトヽ謂ハナケレバナラヌ卽チ吾々
ハ此意味ニ於ケル修正案ハ現內閣ノ司法
當局ニ對スル誠意ノ現ハレデアルト云フコ
トヲ御諒解願ヒタイ、私ハ以上申述ベテ少
數意見ノ全部ヲ終ラント致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=65
-
066・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 此少數意見ニハ成
規ノ贊成アリト認メマス、仍テ少數意見ニ
ハ戒規ノ贊成アリト認メマス、仍テ少數意
見ハ修正案トシテ成立致シマシタ是ヨ
リ討論ニ入リマス通〓順ニ依ッテ發言ヲ許
シマス、一松定吉君
〔一松定吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=66
-
067・一松定吉
○一松定吉君 諸君、私ハ只今上程サレテ
居リマス刑事補償法案ニ對シマンテ吾々
ガ委員會ニ於テ修正ヲ致シタ其修正ノ理由
ヲ釋明致シマスルト同時ニ、少數意見デアツ
タ所ノ牧野君ノ御說明ニ相成リマシタ點ニ
對シテ、私ハ所感ヲ申土ゲマシテ同君ノ
修正意見ノ理由ノナイコトヲ明カニ致シタ
イノデアリマス
私共ハ本補償法案ニ對シマシテ、政府ノ
提出致シマシタル法案ノ基礎觀念ヲ沒却セ
ザル程度ニ於テ、尙ホ國家財政ノ基礎ヲ危
クセザル程度ニ於テ、修正スベキ所ヲ修正
シ更ニ補正スベキ所ヲ補正致シタイノデ
アリマス
御承知ノ如ク國家ガ權力ノ發動ニ依クテ、
國民ノ權利ヲ侵害致シタヤウナ場合ニ於キ
マシテモハ必ズシモ國家ガ之ニ對シテ損害
賠償ヲシナケレバナラナイトカ、或ハ補償
ヲシナケレバナラナイトカ云フ、當然ノ義
務アリトハ考ヘラレナイノデアリマスケレ
ドモ、苟モ近代文明國ニ於キマシテハ、國家
ガ經濟的損害ヲ國民ニ與ヘタ場合ニ於テハ
勿論、又權力ノ發動ニ依ッテ國民ノ權利ヲ
侵害致シタ場合ニ於キマツテモ、之ニ對シ
テ相當ノ損害若クハ慰藉等、相當救助ノ方法
ヲ講ジマスルコトハ最高道德ノ代表者ヲ
以テ任ズベキ近代ノ文明國家ニ在リテハ、
正ニ爲サネバナラナイ事デアルト吾々ハ考
ヘテ居ルノデアリマス、併ナガラ是ハ當然
國家ノ義務デハナイノデアリマシテ現行
法ノ解釋カラ致シマスルナラバ、ヤハリ此
點ニ對シマシテ特別ノ規定ヲ必要トシナケ
レバナラナイコトハ、今日何人ト雖モ異論
ナキ所デアルト私ハ考ヘルノデアリマス
然ルニ今日マデ我國ニ於テハ此意味ノ救
濟ノ方法ヲ講ゼラレテ居ナカッタノデアリ
マシテ吾々國ヲ憂フルノ士ハ常ニ此點
ニ對シマシテハ思ヲ潜メテ居ッタノデアリ
マスルガ(拍手)之ニ對シマシテ政友會ノ宮
古啓三郞君外九名ノ方ガ、昭和四年二月二
十三日ノ第五十六囘帝國議會ノ衆議院ニ
刑ノ執行又ハ勾留ニ因ル補償ニ關スル法律
案ト云フ案ヲ提出セラレタノデアリマシ
テ是ガ我國ノ法制史ノ上ニ初メテ國家賠
償、若クハ國家補償ニ關スル規定ヲ見ル〓
至ッタ嚆矢デアルコトハ、諸君ノ御存ジノ通
リデアリマス、此場合ニ於テノ提案者ト致シ
マシテハ宮古啓三郞君ハ勿論、只今政友
會ニ於テ重キヲ成シテ居ラレル所ノ秦豐助
君島田俊雄君、熊谷直太郞君外六名ノ方
ガ、此提案者トナッテ居ラレルノデアリマ
ス而シテ之ニ對シマシテハ、丁度今囘本案
ノ委員ニ選定セラレマシタ所ノ牧野賤男君
ガ、此法案ノ委員長ヲ勤メラレタノデアリ
マシテ其當時名川侃市君ヤ小野寺章君モ
委員トシテ此法案審議ノ任ニ當ラレタノ
デアリマス
〔議長退席、副議長著席〕
今其宮古君等ノ御提案ニナラレタル所ノ法
案ノ大體ノ趣旨ヲ玆ニ諸君ニ御披露ヲ致シ
テ見タイノデアリマスルガ、其提案セラレ
タル法案ニ依リマスルト、「刑ノ執行又ハ勾
留ニ因ル補償ニ關スル法律案」トナッテ居ル
ノデアリマス、而シテ少數意見ノ諸君ノ只
今主張セラレルヤウニ、賠償ト云フ文字ガ
使ハレテ居ナイ事ダケハ御諒承ヲ願ヲテ置
カナケレバナリマセヌ又、其第一條ニハ
「刑ノ執行ヲ受ケタル者再審又ハ非常上〓
ノ判决ニ因リ無罪ノ言渡ヲ受ケタルトキハ
國庫ハ之ニ對シ命令ノ定ムル金額ヲ補償
ス」ト規定セラレテアリマシテ所謂違警
罪卽決例ニ依ック所ノ拘留、若クハ刑事訴訟
法ノ强制處分ニ基ク所ノ勾置等ハ、此宮古
啓三郞君外九名御提出ノ法案中ニハ何等
謳ウテナイコトヲ御含ミヲ願ヲテカナケ
レバナラヌノデアリマス(拍手)又ソレバカ
リデハアリマセヌ、此第一條ノ法文カラ見
マスルト、所謂重大ナル過失ニ基イタ場合
ニ於テ、國家ガ責任ヲ負ハナイト云フ趣旨
ガ規定セラレテ居ルノデアリマス、又此法
律ニ於テ吾々ガ遺憾ト思,テ居リマスルユ
トハ、牧野良三君ガ只今此壇上カラロヲ極
メテ非難攻擊セラレマシタ補償金額ニ對ス
ル點デアリマスガ、此法案ニハ「國庫ハ之ニ
對之命令ノ定ムル金額ヲ補償ス」ト抽象的ニ
規定セラレテ居リマシテ、其ドノ位ノ金額
デアルカト云フ、其高率モ低額モ明確ニ示
シテナイト云フコトヲ御諒承ヲ願ヒタイノ
デアリマス、又牧野良三君ノ御主張相成
リマシタ所謂內緣ノ妻ト云フ者ガ、此權利
ヲ行使スルコトノ出來ルト云フ規定モナケ
レバ、又官報新聞ニ揭載ヲシテ慰藉ノ方法
ヲ講ズルト云フヤウナ規定モナカッタノデ
アリマスガ私共ハ此法案ヲ極端ニ惡イ法
案デアル、非難スベキ法案デアル、國家ノ
恥トシテ之ヲ認ムベキモノデナイト云フヤ
ウナ、過激ナ意見ヲ持タズシテ、今マデ我
ガ日本帝國ニ斯ノ如キ無實ニ泣キ、寃ヲ愬
フル途ノ無イ憐ムベキ人々ニ對シテ何等慰
藉ノ方法ガ無イノデアルカラ、是等ノ者ニ
對シテ何等カノ方法ニ依ッテ之ヲ慰藉シタ
イト考ヘテ居リマシタノデ、此法案ハ不完
全デハアルケレドモ、先ヅ第一著手トシテ
ハ斯樣ナ法案デモ之ヲ通過セシメテ、以テ
吾々永年ノ宿望ヲ達スルト云フコトハ必要
デアルト考ヘマシタ結果、私モ此案ノ委員
ト致シマシテ右ノ如キ意見ヲ述べタ上、委
員會ハ滿場一致之ヲ通過セシメ、尙ホ當衆
議院ニ於テモ一人ノ異論者ナク、滿場一致
之ヲ通過致シマシタコトハ、私ノ其當時最
モ痛快ヲ感ジタ一ツノ事實デアッタノデア
リマス(拍手)不幸ニシテ貴族院ニ於テ、
審議未了ニ終リマシタノデ、私共ハ非常
ニ殘念ニ思ッテ居ッタノデアリマス、諸君
私共ガ此宮古啓三郞君外九名ノ御提出
ニナッタ、此不完全ナ法律ヲ喜ンデ贊成
シタト云フ所以ノモノハ少クトモ斯ノ
如キ無辜ノ民ヲ一日デ早ク救護シヨウ
慰藉シテヤラウ、サウシテ此立派ナル文
化的立法ヲ、寃ニ泣ク憐レナル我ガ國民
ノ上ニ注ギタイト云フノガ、吾々ノ一念
デアッタノデアリマス(拍手)然ルニ不幸
ニシテ審議未了ニ終リマシタコトヲ遺憾
ニ思シテ居リマシタ私共ハ、昭和五年、卽チ昨
年ノ四月二十七日ノ第五十八議會ノ衆議院
ニ對シマシテ、小俣政一君、小久江美代吉
君、私ノ三名ガ、國家補償法ト云フ名目ノ下
ニ、此趣旨ノ提案ヲ致シタノデゴザイマシ
タガ、是ハ委員會ニ於テ審議ニ著手セズシ
テ、議會ノ期間ガ終了致シマシタコトヲ
私ハ非常ニ遺憾ニ思ウテ居シタノデアリマ
ス、然ルニ今囘司法省ガ是等ノ點ニ對シマ
シテ、之ヲ何トカシテ、此文化的ノ立法ヲ
拵ヘテ、斯ノ如キ無辜ノ民ヲ救ウテヤリタ
イト云ウヤウナ、極ク正シイ所ノ考ヲ以チ
マシテ、今囘此刑事補償法ト云フモノヲ提
案セラレマシクコトハ吾々ガ政黨政派ヲ
超越シテ、實ニ斯ノ如キ無辜ノ人ノ爲ニ、
大イニ祝福セザルヲ得ナイモノデアルト私
ハ考ヘテ居ルノデアリマス(拍手)ソコデ私
ハ此法案ノ提出セラレマシタ所ノ、刑事補償
法ニ付キ精査致シテ見マシタガ、旣ニ國家
ガ自カラ進ンデ、斯ノ如キ無辜ノ良民ヲ救
濟シテ、是等ノ人々ノ精神上ノ慰藉、若ク
ハ財產上ノ損害ノ幾分デモ賠償シヨウト云
フ心ヲ以テ、自分カラ進ンデ是ガ立法ニ
當ッテ、サウシテ補償ノ義務ヲ自ラ負擔ス
ルト云フコトニナリマスルナラバ、之ニ依ッ
テ此無辜ノ、寃ニ泣ク所ノ無〓ノ人ハ、此
法律ニ依ッテ自ラ其權利ヲ獲得シタコトニ
ナルノデアリマスカラシテ、委員長ノ報告
ニアリマシタヤウニ、國家ハ賠償ノ義務者
デアリ被害者ハ國家ニ對スル賠償ノ請求
權者デアル、卽チ權利義務ノ對立ノ地位ニ
居ルモノデアルト見ナケレバナラナイモノ
デアリマスルガ故ニ、左樣ナ精神カラ致
シマスルナラバ、此第一條ニ於テ所謂「勾
留ニ因ル補償ヲ給與ス」ト云フ文字ヲ
使フコトハ、是ハ避ケナケレバナラナイト
云フ意味ニ於テ、私共ハ此「給與」ト云フ文
字ヲ以テ言現ハスコトヲ止シテ、之ニ國家
ハ勾留ニ因ル補償ヲ爲スト云フ意味ニ於テ
修正致シマシタノデアリマス、此點ハ委
員長ガ詳細ニ報告致シマシタカラ、是レ以
上私ハ申上ゲルコトヲ省略致スノデアリマ
ス、併ナガラ國家ハ唯是等ノ被害者ニ向ク
テ、罪無クシテ自由ヲ拘束セラレタ人ニ對
シマシテ金ヲ與ヘルト云フコトダケデハ
其人ノ眞ノ精神上ノ慰藉ト云フコトニハナ
ラナイコトヲ、能ク味ハッテ居リマスル結
果、此原案通リデハ宜クナイ、之ニ對シテ
ハ少クトモ國家自ラ進ンデ、條三者ニ此無
實ノ罪デアッタト云フコトヲ知ラシムル方
法ヲ採ルコトガ必要デアルト云フ意味ニ於
キマシテ、但シ自分カラ進ンデ之ヲ希望シ
ナイ人ニ對シマシテマデモ國家ガ第三者
ニ知ラシメル必要ハナイト云フ趣旨ノ下ニ
於テ、所謂第十九條ニ、此場合ニ於テノ官報
廣告ト云フモノヲ請求ノアッタ時ニ限フテ
速ニ裁判所ガ職權ヲ以テ官報ニ揭載スルト
云フコトニ補正致シタノデアリマス、勿論
私共ハ以上申上ゲタ程度ノ修正ノミニテ
ハ委員長ノ報告ノ通リ決シテ完璧ノモノ
トハ考ヘテ居ナイノデアリマス、願クハ牧
野君ノ主張致サレマシタヤウニ、所謂少數
意見トシテ御發表ニナリマシタヤウニ、我
國ノ財政ガ少シモ窮乏ヲ告ゲテ居ナイノナ
ラバ、進ンデ是等寃罪者ノ精神上ノ慰藉ニ
對シテ、思フ存分ニ金錢其他ニ依ッテ慰藉ノ
方法ヲ講ジ、尙ホ財產上ノ損害迄モ之ヲ賠
償スルト云フコトニ致スコトガ、本當ニ理
想ト致ス所デアリマスケレドモ、國家ノ財
政ガソコマデ手ヲ延バスコトノ出來ナイヤ
ウナ今日ノ場合ニ於キマシテハ、俗ニ謂フ無
イ袖ハ振ラレナイト云フ意味ニ於テ、如何ト
モスルコトノ出來ナイコトハ、政友會ノ諸
君ト雖モ御諒承ヲ願ハナケレバナラヌコト
ト考ヘルノデアリマス(拍手)又違警罪ノ卽
决ニ因ル所ノ拘留、若クハ刑事訴訟法ノ所
謂起訴前ノ强制處分ニ因ル所ノ拘留等ニ對
シマシテモ、同ジク賠償ガ出來ルナラバ
致シタイコトハ牧野君ノ御意見ノ通リデア
リマスケレドモ、是モヤハリ財政上ノ觀念
ヲ離レテハ到底出來ナイト云フコトヲ考慮
ニ入レテ、此議案ニ對スル修正ヲ加ヘタノ
デアリマス、卽チ吾々ハ漸進主義ニ依ッテ、
先ヅ一步々々此基礎ヲ固メテ、サウシテ何
レノ時カ之ヲ吾々ノ理想通リニ改メルコト
ガ出來ル時期ガ來タナラバ、吾々ハ議員ノ
權能ニ依ノテ、何時デモ之ヲ修正スルコトガ
出來ルノデアリマスカラ、之ヲ斷行スルコ
トヽシ、非常ニ財政ノ困難ナル今日ニ於テ
ハ、此程度ニ於テ之ヲ通過セシメナケレバ
ナリマセヌ、金ハ幾ラ要ッテモ構ハヌカラ
完璧ノ法文ヲ作ッテ置カナケレバナラヌ、其
實施ハ何時デモ宜シイト云フヤウナ、マド
ロシイコトニハ吾々ハ贊成スルコトガ出來
ナイト云フコトヲ申上ゲテ置クノデアリマ
ス(拍手)
ソレデ以下牧野君ノ所謂少數意見ニ對シ
テ私ノ考ヲ申述ベテ見タイノデアリマス、
牧野君ハ先ヅ第一ニ「刑事補償法」トアル
ノヲ、「刑事賠償法」ト改メヨト云フ御主張
デアリマスガ、ナゼソレヲ改メナケレバナ
ラヌカト云フコトヲ伺ヒマスト、牧野君ノ
御意見デハ、所謂財產上ノ損害ヲ被ッタヤウ
ナ場合ニ於テモ、國家ハ之ニ損害ヲ賠償シ
テヤラナケレバ、此刑事補償法ノ眞ノ目的
ハ達成シナイノデアル、此意味ニ於テ、精
神上ノ慰藉方面ヲ主トシテ規定セラレタ所
)、所謂「補償」ト云フ文句ハ當ラナイノデ
アルカラ、之ヲ「賠償」ト云フ文字ニ改メタ
イノデアルト云フ御趣旨ノヤウニ承ッタノ
デアリマスガ是ハ私共カラ言ハシメマス
ルナラバ、補償ト賠償トニ於テ、言葉ハ違
ヒマスケレドモ、其精神ニ於テハ變リハナ
イト吾々ハ考ヘテ居ルノデアリマス、其證
據ハ現ニ宮古啓三郞君ノ御提出ニナリマシ
タ、先刻讀上ゲマシタ所ノ「刑ノ執行又ハ勾
留ニ因ル補償ニ關スル法律案」ト云フ意味
モ、同ジク主トシテ所謂精神上ノ慰藉、從
トシテ財產上ノ損害賠償ヲ爲スコトニナツ
テ居ルノデアリマスガ、之ニ對シマシテモ
ヤハリ「補償」ト云フ文字ヲ使ッテアルノデ
アリマスガ、其當時誰一人之ニ反對スル者
ハ無カッタノデアリマス、又吾々ハ或ル意味
カラ言ヒマスナラバ、寧ロ損害賠償ト云フ
ヨリモ、補償ト云フ意味ノ方ガ廣イヤウナ
感ジヲ持ッテ居ルノデアリマス、損害賠償ハ
御承知ノ如ク民法七百九條以下ニ於テ規定
セラレテ居リマスヤウニ、所謂不法行爲ニ
於ケル損害ヲ賠償スルト云フ意味ニ於テ
「損害賠償」ト云フ文字ガ使ハレテ居ル卽
チ權利ノ侵害ト云フヤウナ場合ニ限ラレテ
居ルヤウデアリマスケレドモ、「補償」ト
云フ意味ハ、損害賠償ヲ含ムコトハ勿論、
ソレ以上權利ノ侵害ト云フ場合ノミデナ
ク、卽チ國家ガ權力ノ發動ニ依ッテ、人ノ權
利ヲ侵害シタ場合ニ於テモ、ヤハリ補償ヲ
スルト云フ意味デアリマスカラ、寧ロ「損害
賠償」ノ「賠償」ト云フ意味ヨリモ、「補償」
ト云フ意味ノ方ガ廣ク響クコトニ依ッテ、此
儘ニ存置スルコトハ何ノ不都合ハナイト考
ヘルノデアリマス、此文字ヲ形式上整ヘル
爲ニ「補償法」デナク「賠償法」デナケレバイ
カヌト云フコトハ形式ニ囚ハレタ議論デ
アルト私ハ考ヘルノデアリマス、本法ハ主
トシテ牧野君御主張ノ如ク、精神上ノ方
面ノ慰藉ニ重キヲ置イテ居ルノデアリマシ
テ、財產上ノ損害ノ一部モ國家ガ補償シタ
イト云フ意味ヲ、從トシテ此中ニ包含セシ
メテアルノデアリマス、此事ハ法文ヲ見テ
モ感知スルコトガ出來ルバカリデハアリマ
セヌ、政府委員モ此點ヲ說明セラレタコト
ニ依ッテ、明カニ之ヲ承知スルコトガ出來ル
ノデアリマス、ソコデ此法案ヲ先刻讀上ゲ
マシタ宮古君外九名ガ御提出ニナリマシタ
法案ニ比較致シマスナラバ一大進步デア
ルト言ハナケレバナラヌノデアリマス
故ニ私共ハ補償トアルノヲ賠償トシナケ
レバナラヌト云フヤウナ必要ハナイト考へ
テ居ルノデアリマス、此意味ニ於テ牧野君
ノ補償ヲ賠償トナスベシトスル御意見ニ
ハ贊成ヲ表スルコトガ出來ナイノデアリ
やく、第二ニハ所謂牧野君ハ本案ハ恩惠
的立法デアッテ、時代錯誤ノ甚シキモノデア
ルト御批評ニ相成ッタノデアリマス、成程私
共モ此法案ノ第一條ニ補償ヲ給與スト云フ
文字ヲ用ヒラレテ居ル所カラ見レバ、如何
ニモ恩惠的立法デアルカノ如ク、想像セラ
ルヽコトナキニシモアラズデアリマスカ
ラ、此點ハ用語上妥當ヲ缺クモノナリトシ
テ、所謂給與ノ文字ヲ削リ「補償ヲナス」ト
改メタノデアリマス、併ナガラ本法ヲ以テ
必ズシモ恩惠的デナイト言フコトモ出來ナ
イノデアリマス、何トナレバ今マデ我國ニ
ハ斯ノ如キ〓罪者ニ對シテ慰藉ノ方法ヲ講
ジテナカッタノデアリマスカラ、從來ノ通リ
ニ之ヲ放任シテ置クコトハ宜クナイ、時代
ニ順應シナイ所ノ法制デアルガ故ニ、斯樣
ナモノニ對シテハ相當ノ慰藉ノ途ヲ講ジ
テヤルガ宜カラウト言ッテ、國家ガ此法案ヲ
提出シ此法律ヲ施行スルト云フコトニナ
リマスナラバ此意味ニ於テ所謂恩惠的デ
アルト云フコトモ、必ズシモ非難スベキモ
ノデハナイト思フノデアリマス、隨テ之ヲ
仁政ト稱スルコトモ、用語ハ妥當デハアリ
マセヌケレドモ、國家ガ新ニ斯ノ如キ法律
ヲ設ケルト云フ意味カラ申シマスナラバ
必ズシモ此仁政ト云フ司法當局ノ說明ヲ非
難攻擊スベキモノデハナイト私ハ考ヘルノ
デアリマス
要ハ唯此法律ノ目的ハ所謂寃罪者ヲ慰藉
スル、又附隨的目的ト致シマシテハ牧野
君ノ言ハレマシタヤウニ、檢事ヲシテ起訴
ヲ愼重ナラシメ、判事ヲシテ裁判ニ深甚ナ
ル注意ヲ拂ハシメルヤウナ效果アラシメル
モノデアルコトハ論ズルマデモナイノデア
リマスケレドモ、本法案ノ精神ヲ政府ガ說
明スル時ニ當ッテ用ヒタ思惠的立法デアル
ト云フヤウナ言辭ヲ捉ヘテ、之ガ時代錯誤
ノ甚シキモノデアルカラ、吾々ハ反對デア
ルト云フヤウナコトハ、言葉ノ末節ヲ捉ヘ
テ、本質ヲ破壞スルモノデアリマスカラ、
私共ハ此御意見ニハ贊成スルコトハ出來ナ
イノデアリマス
第三ニハ本法案ノ內容ガ財產上ノ損害賠
償制度ニマデ進マナカッタコトガ不可デア
ルト云フ御議論デアリマスガ、吾々モ理想
論トシテハ、所謂財產上ノ損害ガアッタ場合
三、國家ガソレヲ賠償シテヤルコトニハ
贊成デアリマス、ケレドモ是ハ先刻申シマ
シタヤウニ、今日我國ノ財政狀態デハ、到
底希望スルコトガ出來ナイノデアリマス
然ルニ强テ財產上ノ損害マデヲモ賠償スベ
シトノ制度ニマデ進マナケレバ不可デアル
ト云フコトヲ高調シマスルナラバ、此法案
ハ今日之ヲ實施シテ、無辜ノ良民、寃ニ泣
ク可憐ノ人々ヲ救フト云フコトハ出來ナ
イノデアリマス、ソレハ吾々ニ於テ到底忍
ベナイノデアリマスカラ、所謂漸進主義デ
アルト云フ政府ノ說明ニ、贊意ヲ表シテ、
此法案ガ速ニ實施セラレンコトヲ希望スル
ノデアリマス、今假ニ損害賠償ヲ財產ニ對
スル損害賠償ニマデ進メルトスルナラバ
今日ノ此財政狀態デハ出來ナイ、ソコデ私
共ハ今日ノ場合ニ於テハ此案ヲ維持シ、此
法律案ヲ通過セシメ、之ヲ實施スルヨリ外
ニハ採ルベキ道ガナイノデアリマス、何ト
ナレバ例ヘバ勾留セラレタル者ガ、非常ナ
ル實業家デアッテ、勾留セラレタコトニ依ツ
テ、自分ノ事業ガ、全ク破滅セラレテ了ッ
タト云フヤウナ場合ニ於ケル其財產上ノ損
害ト云フモノハ、莫大ナモノデアリマス、又
有力ナル商賣人ガ勾留セラレタガ爲ニ、新
聞紙上等ニ發表セラレタリ、人ノ噂ニ上ッ
タリシタ結果、信用ヲ失墜シ、顧客ハ註文
ヲ斷ハルト云フコトニナリ、ソレガ爲ニ全
ク商賣ガ出來ナイト云フヤウナ悲慘ナ事實
ハ枚擧ニ遑ナイノデアリマス、又有力ニシ
テ盛大ナル工業ニ從事シテ居ル主人ガ勾留
セラレタト假定シ、此事實ガ社會ニ發表セラ
レタト致シマスルナラバ此面白クナイ所
ノ事實ヲ見、此面白クナイ事柄ヲ聞イタ者
ハ、此工場ニ對シテハ注文ヲ取消シ、取引
ヲ斷ハリ、同工場ノ商品ハ賣レナイト云フ
ヤウナコトニナリマスコトモ決シテ偶然デ
ハアリマセヌ、斯樣ナ場合ニ於キマシテハ
是等ノ人々ノ財產上ノ損害ハ實ニ甚大ニシ
テ、驚クベキモノガアルノデアリマス、此
場合ニ於テ國家ガ之ヲ賠償スルト云フコト
ガ出來ルコトデアルナラバ、ソレハ實ニ結構
デアリマスガ、其所謂損害測ルベカラザル
所ノ多額ナル損害ヲ國家ガ賠償スルト云フ
コトハ今日我國ノ財政狀態ニ於テハ到底出
來得ナイコトデハアリマセヌカ、又精神方面
カラ見マシテモ金額ト云フコトニ拘泥セ
ズ、何處マデモ、其人ノ慰藉ノ途ヲ十分達
成シタイト云フコトデアルナラバ、人々ノ
身分地位境遇等ニ依リマシテ、少額ノ金額
ニテハ之ヲ補償スルコトハ出來ナイノデア
リマス、例ヘバ非常ナル榮譽ノ地位ニアッ
タ人ガ、一朝ニシテ犯罪嫌疑ノ爲ニ捕ハ
レ、勾禁セラレタリトスル場合ニ於テ審
理ノ結果無罪免訴ノ裁判ヲ受ケタリト致シ
マスルナラバ、些少ノ金額ヲ以テハ其人ノ
精神上ノ慰藉ヲシヨウトシテモ、ソレハ到
底出來ナイノデアリマシテ、牧野君ノ御話
ノ通リデアリマス、又吾々議員ノ地位ニ居
ル人ガ、若シ萬一何等カノ嫌疑ノ下ニ拘束
セラレ、審理ノ結果無罪免訴ノ言渡ヲ受ケ
タル時ハ、牧野君ノ御主張ノ如ク、五圓位
ノ金ハ取リニ行カナイデアリマセウ、又五
圓位ノ金ヲ貰"テモ、精神上ノ慰藉ハ出來ナ
イデアリマセウ、サウ云フ時ニ是等ノ地位
名譽相當ノ職責ヲ有ッテ居ル人ニ、眞ノ精神
上ノ慰藉ヲシヨウトスルノニハ些少ノ金
デハ此慰藉ノ目的ヲ達成スルコトハ出來ナ
イ、斯樣ナコトデアリマスガ故ニ、吾々ハ
何等カノ方法ニ依ッテ、慰藉ノ途ヲ講ジテヤ
リタイ、之ヲヤルノニハ金額ハ少額デアツ
テモ、國家ガオ前ヲ斯ノ如ク勾留シ、斯ノ
如ク自由ヲ束縛シタト云フコトハ惡カッタ
ト云フ意味ヲ表現スルコトガ出來ルナラ
バソレデ宜イノデアリマス、此方法トシ
テハ或ル金額ヲ提供スルト云フコトモ亦一
ノ方法デアルコトハ異存ハアリマスマ
イ左スレバ金額ノ多少ニ拘ハラズ是等
ノ嫌疑者ハ此金額ヲ受取ルコトニ依ッテ
相當ノ慰藉ヲ受ケタコトニナルカト考
ヘルノデアリマス、此點ニ對シテ牧野
君ハ非常ニ之ヲ貶サレマシテ、世界ニ
對シ一等國ヲ以テ任ズル我國ガ斯ノ如キ
立法ヲシテ世界ニ知ラシメルコトハ我國ノ
一大恥辱デアルト仰セニナリマシタ、成程其
意味ニ於テ恥辱デアルカモ知レマセヌガ、先
進國ニハ未ダ是等ノ立法ノ完成シテ居ナイ
國ノアルト云フコトヲ諸君ハ御承知ニナラネ
バナリマセヌ、現ニ英國デハ議會デ何囘モ問
題ニナッタケレドモ、未ダ一囘モ是ガ通過シ
テ居ナイノデアリマス、此場合ニ於テ諸國ハ
英國ハ文化低劣ナルガ故ニ、斯ノ如キ法律
案ガ制定セラレテ居ナイノデアルト非難ス
ルコトガ出來ルノデアリマスカ、其制定セ
ラレナイ所以ノモノハ他ニ色々事情ノアル
コトヲ考ヘナケレバナラヌノデアリマス
又外國ノ例ヲ御取リニナリマシタガ、如何
ニモ此法案ヨリモ立派ナル法律ガアルカノ
如ク御主張ニナラレマシタガ、伊太利ニシ
テモ、佛蘭西ニシテモ、牧野君等ノ主張スル
如ク違警罪卽决例ニ依ル拘留、若クハ起訴
前ノ留置ニ依ル處分ト云フコトニ對シテ、
何等補償ノ方法ヲ講ジテ居ナイノデアリマ
ス、ソレバカリデハアリマセヌ、此法案ニ明
定致シテアリマスヤウニ、無罪若クハ免訴
ノ言渡ヲ受ケタル場舍デモ、伊太利ヤ佛蘭
西デハ損害賠償ノ制度ヲ認メズシテ唯一度
判決ヲ受ケ、確定シタル後ニ於テ再ビ審理
ノヤリ直シヲ必要ト認メテ再審ノ訴ヲ起シ
テ、其結果無罪ニナッタ時ニノミ國家ハ賠償
スルト云フ規定ガ設ケラレテアルノデアリ
マスカラ、是等先進國ノ賠償法ヨリモ非常
ニ進ンデ居ル此刑事補償法ハ世界ニ向ッテ、
大ニ誇號スルコトガ出來ルトコソ思へ、是
ハ恥カシイ非文明的ノ法律デアルトハ考ヘ
ラレナイノデアリマス、牧野君モ思ヲ玆ニ
致サレマシタナラバ、非文明的ノ法案デア
ルトカ、時代錯誤ノ法律デアルトカ世界
ニ對シテ一大恥辱デアルトカ申サレルコト
ハ餘リニ不謹愼デ、餘リニ此法案ヲ侮辱
シタヤリ方デアルト私ハ考ヘルノデアリマ
ス(拍手)
第四ニハ精神上ノ損害賠償ヲ主旨トスル
本案ニ、其趣旨ガ少シモ認メラレナイト云
フ御主張デアッタノデアリマスガ、是ハ當ラ
ナイノデアリマス、卽チ外國ノ立法例ヲ見
マスルト、非常ニ嚴重ニ規定セラレテ居ル
クデアリマスガ、ソレニ比較致シマスルナ
ラバ、我國ノ此法案ハ、餘程寛大ニ寃罪者
ヲ遇シテ居ルノデアリマス、此事ハ此法案
ヲ精査スルロトニ依ッテ、明カニ看取スルコ
トガ出來ルノデアリマス、今例ヲ擧ゲテ見
マスルナラバ、外國ノ立法例ニ依リマスル
+、自分ガ起訴若クハ勾留セラレタコトニ
對シテハ、全ク責任ハナカッタノデアルト云
フコトヲ證明シタ場合デナケレバ、國家ハ
賠償シナイト云フ例モアルソデアリマス、
又先刻申シマシタヤウニ、佛蘭西、伊太利
ノ如ク、再審ノ場合ダケヲ補償スルノダト
云フ例モアリマス、又或ハ短期間ノ勾留ニ
對シテハ、假ニ其人ガ無罪免訴ノ言渡ヲ受
ケテモ、國家ハ賠償ヲシナイ、長期ノ勾留
デアル場合ニ限ッテ、無罪免訴ノ言渡ヲ受ケ
タ者ニ國家ガ賠償スルト云フ法律モアルノ
デス、又或ハ一定ノ前科ヲ持ッテ居ル者ニ
對シテハヽ國家ハ賠償シナイト云フ法律モ
アルノデアリマス、併ナガラ此刑事補償法
案ニ於キマシテハ、此無辜ノ人ニ、自分ニ
ハ責任ガナカッタト云フ立證ヲセヨト云フ
コトモ要求セズ、再審ノミニモ限ラズ、
刑事訴訟手續ニ依ル無罪免訴ノ場合ニ於テ
モ、國家ニ於テ補償ヲ與ヘルコトニ規定セ
ラレ、勾留ガ長期ニ亙ラナクテモ、短期デ
アッテモ無罪免訴ニナッタ場合ニハ、國家ハ
補償ノ責ニ任ズル、其者ガ前科者デアッテ
モ、國家ガ補償スルト云フヤウニ、寛大ナル
例ヲ幾ラデモ設ケテアルノデアリマス、是
ニ由ッテ之ヲ觀レバ、所謂精神上ノ損害賠
償ヲ旨トシテ居ルト云フヤウナコトモ外
國ノ是等ノ實例ニ比較致シマスルナラバ十
分看取スルコトガ出來ルノデアリマス、尤
モ此原案ニハ、所謂國家ハ進ンデ第三者ニ、
此人ハ全ク無罪免訴デアッタト云フコトヲ
知ラセルト云フ規定ガナカッタツデ、此點ニ
對シテハ私共ニ於テ修正意見ヲ提出シ國
家ハ進ンデ第三者ニ對シ此寃ニ泣ク人ノ爲
ニ無罪免訴ノ裁判ヲ官報ニ揭載スルコトニ
修正シタノデアリマス、尤モ斯ノ如キコト
ヲ揭載スルコトニ依ッテ、却テ迷惑ヲ感ズル
人モアリマスノデ、斯ウ云フ場合ニハ共
人ノ申立ニ依ッテ、官報ニ揭載ヲスルト云フ
コトニ致シタノデアリマス此點ヲ牧野君
ノ修正意見デアル第六條ニ比較シテ見マス
えい、牧野案ハ寃罪者ノ官報揭載ヲ請求ス
ルトセザルトニ拘ラズ、國家ハ進ンデ官報
ニ之ヲ揭載シナケレバナラナイト云フコト
ニナッテ居リマスガ、此方法ハ是等〓罪者ノ
爲ヲ思ヒ過ギテ、贔屓ノ引倒シニシタト同
樣ノ結果デ、本人ノ爲ニハ毫モ慰藉ニハナ
ラズシテ、寧ロ迷惑デアルト云フコトヲ考
ヘナケレバナラナイソデアリマス、又新聞
紙ニ廣〓ヲスルト云フコトハ、ソレハ結構
ナ話デス、ダカラサウ云フヤウナ場合ニ
ハ、本人ノ申出ニ依ッテ、一種、二種、三種
位ニハ限ラナイ、出來得ベクンバソレ以上
多クノ新聞ニ揭載ヲシテ、サウシテ是等ノ
人ヲ慰メルト云フコトハ理想論トシテ、結
構デアリマスケレドモ、新聞紙ニ斯ノ如キ廣
告ヲスルト云フコトハ、到底今日ノ我國ノ財
政デハ許サレナイノデアリマスカラ、殘念ナ
ガラ、今日ハ官報廣〓ノ程度ニ於テ止メナ
ケレバナラヌト考ヘテ居ルノデアリマス、
私ハ斯樣す目新シイ事實、卽チ國家ガ或ル
寃罪者ニ補償金ヲ與フル裁判ヲシタト云フ
樣ナ新シイ事實ガ現レタヤウナ場合ニハ
社會ニ對シテ成タケ敏速ニ報道ヲシヨウト
云フ職責ヲ持ッテ居ラレマ。ス所ノ新聞社ノ
人々ハ競フテ之ヲ新聞ノ雜報記事トシテ
取扱フテ居ラレル今日ニ於キマシテハ、法
文ニ新聞廣〓ノ規定ガナクトモ、此點ニ對
シテ心配スルコトハナイノデハナカラウカ
ト考ヘテ居ルノデアリマス(拍手)官報ニ出
シテモ、ソレハ普通一般ニハ屆カナイノデ
アルガ故ニ、意味ヲ爲サヌデハナイカト云
フ御議論モ御尤デス、官報ハ全國ノ各家庭
ニ配達サレテ居リマセヌ、併ナガラ其地方
地方ノ主ナル家庭ニハ今日ノ實際カラ見
レバ官報ガ配達サレテ居ルノデアリマスカ
ラ、國家補償ト云フヤウナコトハ次カラ次
ニ宣傳セラレマシテ、相當ノ效果ガアルノ
デスカラ、無辜ノ人ノ爲ニハ慰藉ノ方法ニ
ナルノデアリマス、サレバ何ノ效果モナイ
ト極論スルコトハ許サナイノデアリマス
故ニ今日デハ此程度ニ止メルヨリ已ムヲ得
ナイコトナリト考ヘテ居ルノデアリマス
(拍手)
其次ニ牧野君ハ此第四條ノ、所謂公序良
俗ニ反スル行爲云々ハ削除シナケレバナラ
文、斯ノ如キ規定ガアルガ故ニ檢事ヲシテ
此規定ヲ惡用セシメルヤウナコトナキニシ
モアラズ、又我國ノ所謂罪刑法定主義ノ原
則カラシテモ、法律ニ於テ罪トシテ罰スベ
キ者ハ雌是レノミデアルト云フコトガ法文
ニ明カニ規定セラレテ居ル故ニ、規定セラ
レテナイ場合ニ於テ、國家ガ其人ニ刑ノ宣
告ヲシタ場合ニ於テ、此者ガ起訴セラレテ
無罪免訴ニナッタ時ニハ、之ヲ不問ニシテ慰
藉ノ方法ヲ講ジナイト云フコトハ不都合
デハナイカト云フ御議論ガアッタノデアリ
W. A.併シ是モ外國ノ立法例ニ斯ウ云フヤ
ウナ例ガ幾ラモアルノデアリマス、卽チ重
大ナル不正直ガアッタ場合デアルトカ、或ハ
重大ナル不德義ヲ釀シタ場合デアルトカ、
或ハ重大ナル惡性ヲ包含スル行爲ヲ爲シタ
場合デアルトカ云フヤウナ場合ニハ、ヤハ
リ其國家ハ是等ノ人ニ對シテハ無罪免訴
ニナッテモ、賠償ノ責任ニ任ジナイト云フコ
トニナッテ居ルノデアリマスカラ、吾々ハ此
法文アルガ故ニ、是ハ時代錯誤デアル、是
ハ「トリック」デアルト云フヤウナ非難ハ、餘
リニ極端ナ言分デアルト云フコトヲ主張シ
テ置キタイト思フノデアリマス、又所謂罪
刑法定主義、法律ニ依テ罪トスル所ヲ明カ
三ヽヽ罪セラルヽ者ニ對シテ法律ガ刑罰ヲ
科スルト云フコトハ、無論ソレハ其通リデ
アリマスガ、必ズシモ所謂國家ガ刑事上ノ
責任ヲ負ハナクテモ、其人ノ行爲ガ此第四
條ノ第二號ニ規定セラレテ居リマスヤウニ、
公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反シ著シク非難
スベキ行爲ノアッタトキニハ、ヤハリソレハ
其者ガ責任ヲ負ハナケレバナラヌト考ヘテ
居ルノデアリマス、是ハ例ヲ擧ゲレバ能ク
分ルノデアリマス、例ヘバ强姦ノ場合、强
姦ノ〓訴ガアッタガ故ニ檢事ガ之ヲ起訴シ、
一審二審ニ於テ有罪ノ判決ヲ受ケタ場合
ニ、被害者ガ〓訴ヲ取下ゲタ時分ニハ、我
ガ法律ハ親〓罪ノ取下デアルガ故ニ、之ヲ
免責事由ト致シマシテ、此人ニ對シテハ
免責ノ言渡ヲスルノデアリマス、斯ウ云フ
場合ニ於テ諸君ハ此不倫ノ行動ヲシタ者ガ
告訴ヲ取下ゲラレタコトニ依ッテ、責任ヲ免
レタ場合ニ、此人ニ對シテモ國家ハ損害ノ
賠償ヲシテヤラナケレバナラヌト云フコト
ガ、果シテ認容セラルヽデアリマセウカ、
(拍手)諸君、是ハ如何デスカ、サウ云フ場合
デモヤハリソレハ罪ガナカッタノダカラシ
テ、其者ニ對シテハ國家ハ賠償ヲシナケレ
バナラヌト云フコトデアレバ如何デセウ
カ、サウ云フ場合ニハ國家ハ責任ヲ負ハナ
イトシタ方ガ、道德ノ上カラ致シマシテモ、
斯ノ如キ不都合ノ行動ヲシタ者ヲ戒メル上
カラ致シマシテモ、當然ノ措置デアルト私
ハ考ヘルノデアリマス(拍手)有夫姦ノ場合
ニ於テモ然リデアリマス、有夫姦ノ場合
ニ於キマシテモ、告訴取下ニナッダ時ニ、ヤ
ハリ國家ガ責任ヲ負ハナイト云フコトニシ
テ置ク方ガ宜シイノデ、又或特種ノ不能犯、
例ヘバ或人ヲ殺サウトスル、或人ヲ殺サン
ガ爲ニ之ニ毒ヲ盛ッタ場合ニ於テ其毒ガ人
ヲ殺スニ足ルダケノ分量デナカッタ、其時分
ニハ我ガ刑法ハ不能犯トシテ之ヲ罰セナイ、
不能犯トシテ罰シナイガ爲ニ是ハ刑法上ノ
責任ガナイ傷害ヲ受ケナイ場合ニハ所謂
無罪免訴ニナル、無罪免訴ニナッタカラト
テ、此人ハ人ヲ殺サウトシテ毒藥ヲ或人ノ
飮物ノ中ニ投ジタケレドモ、刑法上ノ不能
犯ナルガ故ニ罰セラレナイト云フ場合、オ
前ハ無罪デアルカラ國家ガ責任ヲ負フト云
フコトハ如何ナモノデアリマセウカ、國家
ハ斯ノ如キ場合ニモ損害ヲ補償シナケレバ
ナラヌト云フコトハ私共ハ贊成出來ナイノ
デアリマス
今一ツノ例ヲ擧ゲレバ、是ハ政府委員ノ
說明ニアッタカラ委員ノ方ハ御承知デアリ
マスガ、賭場ヲ開イテ盛ニ丁半ヲ爭ッテ居
ル、其時ニ警察官ガ踏込ンデ之ヲ逮捕シタ、
サウシテ之ヲ檢事ガ調ベテ起訴シ、段々調
ベタ所ガソレハ所謂賭博デハナク詐僞賭
博デアッタト云フヤウナ場合ニ於テハ賭
博デナイガ爲ニ賭博ニ事寄セテ欺罔セラ
レタ人ハ被害者デアル賭博ニ事寄セテ
相手方カラ財物ヲ騙取シタ者ハ詐欺罪ノ
旣遂者デアル刑法ハ斯ノ如キ場合ニ於
テハ所謂賭博罪トシテ起訴シタケレドモ
調ベタ結果ハ賭博罪デハナカッタノデ詐欺
罪トシテ其許欺犯人ノミヲ罰シ、詐欺ノ被
害者デアッタ者ニ對シテハ無罪免訴ノ言渡
ヲ爲スノデアリマス、併ナガラ諸君此無罪
免訴ニ爲ッタ人ハ盛ニ賭場ニ出入シテ丁半ヲ
爭ッテ、現行犯ヲ見付ケラレテ逮捕監禁セラ
レタノデアリマス、併ナガラ審理ノ結果法律
上罪ガナカッタ、國家ガ之ヲ拘束シタノハ不
都合デアッタカラ之ニ精神上ノ慰藉ヲシナ
ケレバナラヌト云フノハ如何デアリマセウ
カ、或ハ尙ホ例ヲ變ヘテ言フナラバ、或者
ガ或ル官吏若クハ公吏デアルト假定シテ
其人ニ賴メバ或ル事柄ガ出來ルト云フ考デ
賄賂ヲ提供シタ、ソレガ丁度其官吏任命ノ
一日前デアッタ、或ハ賄賂ヲ提供シタノハ其
官吏ガ辭職シタ一日後デアッタト云フヤウ
ナ場合ニ於テハ、刑法ハ官公吏ニ對シ其職
務ニ關シテ賄賂ヲ提供、約束、供與シタノ
デナケレバ罰シマセヌ、ソレガ爲メ既ニ公
務員デナイ處ノ卽チ、公務員ニ任命セラル
ル一日前、又ハ公務員ヲ罷メタ一日後ノコ
トデアッタト云フコトニ於テ、其者ガ所謂法
律上罪ヲ問ハレナイ、無罪免訴ノ言渡ヲ受
ケタト云フ時ニ、サウ云フコトヲシナケレ
バ自分ハ何モ瀆職罪ヲ犯シタモノトシテ
嫌疑ヲ受ケナイ、起訴收監セラレナイ、然
ルニ國法ヲ犯ス考ヲ以テヤッタトスレバ、是
ハ世間カラ見レバ著シク非難攻擊スベキコ
トデアル、斯ウ云フヤウナ場合ニ於テ是ガ
無罪免訴ニナッタカラトテ、之ニ國家ガ賠償
ヲ與ヘルト云フコトハ、餘リニ蟲ガ好過ギ
ルヤウニ私ハ思ヒマスガ如何デアリマセウ、
斯ウ云フヤウナ顯著ナ例ヲ擧ゲマスレバ
第四條第二號ノ「善良ノ風俗ニ反シ著シク
非難スベキモノナルトキ」斯ウ云フ特別ノ
條件ヲ備ヘタ場合ニハ國家ガ賠償若クハ
補償ノ責ニ任ゼナイト云フコトニ取扱フノ
ハ寧ロ當然デハアリマスマイカ、斯ウ云
フ場合ニ國家ガ補償ヲシテハ、國家ハ幾ラ
金ガアッテモ足リナイノデアリマス、サウ云
フ場合ニ、補償ヲ貰ハウト云フガ如キコト
ハ不都合デアルカラ、本項ハ之ヲ存置シテ
置カネバナラヌノデアリマス
ソレカラ第六ト致シマシテハ第四條ノ
中ノ所謂「重大ナル過失ニ困ル行爲ガ」云々、
斯ノ如キ文句ヲ用ヒテ居ルコトモ良クナ
イ、是モ一ツノ「トリック」デアル之ヲ檢事
ガ惡用スルトノ御非難デアリマスガ、左樣
ナ御非難ハ誤レルノ甚ダシキモノデアルト
思フノデアリマス、重大ナル過失ト云フコ
トハ、法曹界ノ諸君ハ能ク御存ジデアリマ
ス、御承知ノ如ク重大ナル過失デアルカ、
小過失デアルカ、中過失デアルカト云フコ
トハ刑法ニ限ラヌ、法律ヲ學習シタ人
ハ總テ之ヲ知ッテ居ルノデアリマス、所謂
一寸注意ヲ用ヒレバ斯ノ如キ事柄ハ惹起
サナカッタノデアルト云フコトガ所謂
重大ナル過失デアル、一寸ノ注意ヲ用ヒ
レバ宜カッタノデアル、一寸氣ヲ付ケレバ
宜カッタノデアルト云フヤウナ場合ニ、一
寸氣ヲ付ケナカッタ、僅カナ注意ヲ用ヒナ
カッタ、ソレガ爲ニ此人ハ檢事カラ起訴牧監
サレテ、豫審若クハ公判ニ於テ是ガ有罪ナ
リト認定セラレタ場合ニ於テハ、其所謂一
寸ノ注意ヲ用ヒザリシコトガ、此事端ヲ惹
起シタモノデアルガ故ニ、其責任ハ此事端
ヲ惹起セシムルニ至ラシメタ其人ガ負ハナ
ケレバナラヌト云フコトハ、是ハ此法案ダ
ケデハアリマセヌ、現ニ獨逸ニ於テモ、墺
太利ノ法律ニ於テモ、此規定ガ明記サレテ
居ルノデアリマシテ、是ガ爲ニ是等ノ文明先
進國ガ、是ハ「トリック」デアル、斯ノ如キモノ
ハ法文ニ要ラナイト議論シテ居ル者ハナイ
ノデアリマス、ケチヲ附ケテハイケマセヌ、
又檢事ガ此法文ヲ惡用スルカラト云フガ如
キハ餘リニ檢事局ノ內部ヲ知ラズシテ、
檢事ヲ信賴シナイト云フ結果生ズル間違,
タ議論デアリマスカラ、批判ノ價値ガナイ
ノデアリマス
第七ハ、第三條ノ所謂補償ヲ受ケル人々
ノ中ニ就テ、無罪若クハ免訴ノ言渡ヲ受ケ
タ人ノ收入ニ依リテ、生計ヲ維持シテ居ッタ
人ニ對シテモ、此補償ヲ與ヘルト云フコト
ニシナケレバ、是ハ時代ニ遲レタ立法デア
ルトノ御非難デアッタノデアリマス、成程出
來得ルコトナラバ、サウシタ方ガ宜イカモ
知レマセヌ、牧野君ノ言ハレルヤウニ、鑛
業法等ニ於テ、內緣ノ妻ヲ認メテ居リマス
併ナガラサウ云フ特別ノ法律トハ違テテ、本
件ハ無罪若クハ免訴ノ言渡ヲ受ケタ人ノ
一身ニ專屬スル所謂慰藉ノ方法デアル、卽
チ專屬權デアルサウ云フモノデアルト云
フコトガ一ツソレカラ內緣ノ妻ノ如キ者
ニ補償ヲ與ヘルニ於テハ何時內緣ノ夫ノ
尊族親ヲ捨テ、若クハ夫ノ子供ヲ振棄テヽ
他ニ良緣ヲ求メテ嫁グカ分ラヌト云フ不貞
ノ女ガ往々アルト云フコトハ、諸君御承知
ノ通リデアリマス、斯ウ云フ者ニマデ法律
ガ保護スル必要ハナイノデアリマス、又我
ガ國法ハ家族制度ヲ棄テヽ居ナイノデアリ
マスカラ、一家內ニ居ル者ニ對シテ法律ガ相
當ノ順位ヲ決メテ、補償金ヲ交付スルコト
ハ決シテ不都合デハナイ、牧野君カラ彼ノ
私生子ニ與ヘナイコトハ餘リ面白クナイデ
ハナイカト云フ御議論モアリマシタガ、私
生子其モノガ本當ノ實子デアル場合、或ハ
他ニ實子ガナイ場合、或ハ妻ガナイ場合、
サウ云フ場合ニ同居ノ私生子ニ補償ヲ與ヘ
ルコトハ必要デアル場合モアリマセウ、併
ナガラ若シソコマデ自分ノ子供ニ戀著ガア
ルナラバ私生子ニシテ置カナイデ、私生
子ノ認知ヲシテ、庶子トシテ自分ノ戶籍內
ニ入レテ置ケバ、斯ウ」云フ場合ニ補償ヲ受
ケルコトガ出來ルノデアリマスカラ、斯ノ
如キ僅カナ除外例アルコトヲ捉ヘテ、此法
律ノ精神ヲ滅却スルト云フヤウナ議論ニ
ハ吾々ハ贊成出來ナイノデアリマス
ソレカラ牧野君ハ斯ノ如キ補償ヲ受ケル
コトノ出來ル此權利ヲ讓渡スルコトヲ禁ジ
テアルノハイケナイ、是ハ讓渡出來ルヤウ
ニシナケレバイケナイト云フ御議論デアリ
マス、是ハ大變ナ間違デアル、補償ヲ受ケ
ル所ノ權利ハ一身ニ專屬スル權利デアルト
云フコトガ明カデアル以上ハ之ヲ讓渡ス
ルコトハ慰藉ノ目的ニ反スルノデアル又
讓渡ト云フコトヲ認メル場合ニ於テハ之
ヲ讓受ケタ人ニ對シテ、第三者ガ之ヲ差押
ヘルヤウナコトガアッタナラバ、其讓渡ヲ受
ケタ人ハ補償ヲ受クル權利ヲ喪失スルノ結
果自分ニ讓渡シタ人ニ對シテ求償權ヲ行
使スルト云フ場合ガ起ルコトハアリ得べ
キコトデアリマス、斯ウ云フ場合ニ於テハ、
却テ此人ハ讓渡シタガ爲ニ幾多ノ事端ヲ激
成シテ、折角慰藉ノ爲ニ國家ガ補償ヲ與ヘ
タニ拘ラズ、費用ノ爲メニ受取ルベキ金ハ
滅茶々々ニサレテシマウト云フヤウナ憂ガ
アルノデアリマス、故ニ法律ハ斯ノ如キ場
合ニ於テハ讓渡ヲ禁ズルト云フコトニス
ル方ガ、此法案ノ趣旨カラシテ正シキモノ
デアルトシテ、讓渡ヲ禁ズルコトニシタモ
ノデアリマス、此意味ニ於テ牧野君ノ讓渡
ヲ禁ズルト云フコトヲ削除スルト云フ修正
ニハ吾々ハ贊成出來ナイノデアリマス
ソレカラ其次ニハ補償ノ金額ノ低額ヲ示
サナカッタノハイケナイノダト、所謂第五
條、之ヲ非常ニ批難サレマシタガ、一日五
圓以內ノ補償金ヲ支拂フト云フヤウニシテ
置ケバ、無產黨ノ諸君ガ五錢デモ五圓以内
デアル、十錢デモ五圓以內デアル、サウ云
フヤウナコトヲサレテハイケナイカラ、少
クトモ低額ヲ決メル必要ガアルト云フノデ
アリマシテ、牧野君ハ最低二圓ヲ下ルコト
ヲ得ズト修正サレタノデアリマス、併ナガ
ラ五圓以內ノ補償金ヲ交付スルト云フコト
ニスレバ、苟モ常識ノアル裁判官ハ之二
對シマシテ五錢ダトカ、二十錢ダトカ云
フヤウナ少額ノ金ヲ支拂フト云フ裁判ヲ爲
スヤウナコトハ致シマセヌ、最低ヲ書カナ
ケレバ信用ガ出來ヌ、裁判官ヲ信ズルコト
ガ出來ヌカラト云フナラバ、今日ノ裁判官ニ
對シテ色々ナ職權ヲ以テ裁判ヲスルコトノ
權能、所謂職權主義ガ幾ラモ法律ノ中ニ織
込マレテ居リマスガサウ云フヤウナモノ
ヲ廢メテシマハナケレバナラヌト云フ極
端ナ議論ヲ生ジナケレバナラヌノデアリマ
スガ故ニ、是ハ其人、其時、其境遇、其場
所等ニ應ジテ、裁判官ガ善處妙用スルモノ
デアルト云フコトニ於テ、最低ノ金額ヲ定
メナクテモ此程度デ宜シイ、斯樣ニ私共ハ
考ヘテ居ルノデアリマス、又五圓ト決メタ
ノガイケナイノダ、左樣ナコトニスルト、折
角慰藉シヨウトシタコトガ慰藉ニハナラナ
イ、宜イ例ハ吾々議員デアルト、斯樣ニ牧野
君ハ例ヲ擧ゲラレマシタ、成程吾々ガ若シ
不幸ニシテ未決勾留ノ憂目ニ遭遇スルヤウ
ナ場合ガアッタト假定致シマスレバ、無罪免
訴ニナッタ後ニ於テ、此五圓ノ金ヲ貰ッテ精
神上ノ慰藉ガ出來タカト言ヘバ、ソレハ出
來ヌ、出來ヌ場合ガ多イ、其論法ヲ變ヘテ言
ヘバ、此金額ヲ決メナクテ、勝手ニ裁判所ガ
相當ト認メル金額ヲ決メタ場合ニ於テ、裁
判所ガ假ニ十圓ト決メタトスレバドウナル、
或ハ二十圓ト裁判所ガ決メタトスレバドウ
ナル、其時ニ裁判所ノ決メタ十圓、若クバ
二十圓ト云フ金ノ給付ヲ受ケルコトニ依〃
テ、共人ノ精神上ノ慰藉ガ出來ルカ、出來
ナイデハナイカ、ダカラ此金ノ支拂ト云フ
コトハ、金ニ依ッテ吾々ガ精神上ノ慰藉ヲ受
ケヨウト云フ趣旨デモナク、金ニ依ッテ財產
上ノ補償ヲシヨウト云フ趣旨デモナク、何
等カノ方法ニ依ッテ慰藉ヲシナケレバナラ
ヌガ、慰藉ヲスルノニハマア〓〓金ニ依
ラナケレバ仕方ガナイデハナイカ、ソレデ
金ノ支拂ヲ一ノ慰藉方法トシタノデアル、
金ニ依ルノニハ最高ノ金額ヲ決メテ置カナ
ケレバ、裁判所ノ職權ニ委セルト云フコト
ニナレバ、金ガ有リ餘ッテ財政上困難スル所
ガナケレバ宜イガ、金ニハ程度ガアル、豫
算ニハ制限ガアル、故ニ支拂フベキ最少ノ
金額ダケハ決メテ置ク必要ガアルノデアリ
マス、此意味ニ於テ第五條ヲ設ケタコトハ
宮古君ナドノ提案サレタ、金額ハ命令ノ定
ムル所ニ依ルト抽象的ニ規定セラレタモノ
ヨリモ、一步進ンダ立派ナ立法デアルト謂
ハナケレバナラヌト考ヘテ居ルノデアリマ
ス(拍手)ソレカラ又若シモ牧野君ノ言ハレ
ルヤウニ、金ヲ貰フノガ厭ダト思ッタラ申出
ナケレバ宜イノデアル、牧野君ノ修正案ノ
第七條ニ依ッテモ、補償給付ヲ受ケントス
ル者ハ、裁判所ニ申立ッルト云フ規定ニナッ
テ居ルノダカラ、俺ハ金デハ精神上ノ慰藉
ハ出來ヌト思フナラバ抛棄シタラ宜イダ
カラシテ此金ヲ決メテ居ッタカラト言ッテ、
必ズ貰ハナケレバナラヌト云フコトハナ
イ、金ニ依ッテ精神上ノ慰藉ハ出來ナイト思
フ人ハ貰ハヌデモ宜イ、又貰ハウト思フ者
ハ申出レバ宜イト云フノデアリマスカラ
此金額ヲ玆ニ決メテアルカラト言ッテ、是ガ
イケナイノダト言ウテ非難スルコトハ面白
クナイト考ヘル
其次ハ所謂正式裁判ノ申立ヲシタ後ニ於
テ無罪ニナッタ場合、或ハ强制處分ニ依テ
勾留セラレタ者ガ起訴セラレナカッタ場合
ニ於テ、之ヲ含マナイノハイケナイデハナ
イカト云フ御議論、吾々モ理想トシテハ贊
成デアリマス、併ナガラ是モ先程申上ゲマ
シタヤウニ、財政上ノ理由カラシテ、今日
其爲ニ國家ガ補償スルコトガ出來ナイ場
合、吾々ハ最小限度ニ於テ本法案ノ程度ニ
甘ンジナケレバナラヌデハアリマセヌカ、
斯樣ニ私共ハ考ヘルノデアリマス、唯僅ニ
七万二千圓デハ少ナイト云フ御議論ガアリ
マシタケレドモ、今マデ一ツモ出サナカッタ
時ニ比較スレバ、七万二千圓デモ之ニ依ッテ
無辜ノ民ガ幾分デモ精神上及ビ財產上ノ慰
藉ガ出來ルナラバ、是ハ大ニ祝福シナケレ
バナラヌト考ヘテ居リマスガ故ニ、此非難
モ採ルニ足ラナイモノデアリマス
之ヲ要スルニ少數意見ト致シマシテハ
理想論トシテハ立派デアリマス、吾々ハ必
ズシモ此少數意見ニハ反對デハアリマセヌ
ケレドモ、一時ニ立派ナ法律ヲ拵ヘヨウト
シテモ、財政上出來ナイ場合ニハ仕方ガナ
イデハアリマセヌカ、政友會ノ諸君ノヤウ
ニ借金ヲシテ、所謂積極政策ヲシテ國民ノ
負擔ヲ增加セシメテモ宜シイト云フコトデ
アルナラバ、ソレハ金ハ幾ラデモ出來マセ
ウ牧野君修正案ノ理想實現モ出來マセウ、
併ナガラ國民カラ稅金ヲ澤山取ラヌヤウニ
シ國民ノ負擔ヲ輕減スルコトヲ目的トシ
テ居ル我ガ民政黨ノ主義トシテハ此理想
案ハ行ハントシテ行フコトガ出來ナイノデ
アリマス、吾々ハ今日失業救濟間題ノヤカ
マシイ場合ニ於テ、救護法ノ問題ノヤカマ
シイ時期ニ於テ、此難局ヲ切拔ケ、政府ガ
本法案ヲ提出シテ未ダ曾テ保護セラレナ
カッタ、未グ曾テ救護セラレザリシ無辜ノ寃
ニ泣ク憐ムベキ人々ヲ、之ニ依ッテ救護シヨ
ウトスル此法案ニ對シマシテハ、所謂超黨
派的ノ考ヲ以テ贊意ヲ表シ、此法案ヲ一日
モ早ク實施シナケレバナラヌト考ヘテ居ル
ノデアリマス若シ此法案ガ缺點ガ多イナ
ラバ、是カラ金ガ澤山出來テ、相當ニ慰藉
ノ方法モ出來ル時期ガ來タトキニ、吾々ハ
議員トシテノ職權ヲ以テ、何時デモ之ヲ修
正ヲシ、之ヲ改正スルコトガ出來ルノデアリ
マスカラ、其時期ヲ待ッテ善處スベキデアリ
マス、本法施行時期ハ勅令ニ依ッテ、何時
カラ之ヲ實施スルカ分ラナイト云フヤウ
ナ、生溫イ牧野君ノ修正ヨリモ、一日モ早
ク之ヲ實施スルコトガ最モ機宜ニ適シタル
モノナリト信ズルノデアリマス、此意味ニ
於テ吾々ノ修正意見ニ甘ジナケレバナリマ
セヌ、願クハ諸君御贊成アランコトヲ御願
ヒシテ降壇致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=67
-
068・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 小林錡君
〔小林錡君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=68
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069・小林かなえ
○小林錡君 私ハ委員長報告ノ修正案ニ反
對シ、牧野君提出ノ修正意見ニ贊成スル者
デアリマス(拍手)本法案ハ此全部ヲ觀察致
シマスレバ、補償ノ實體、補償ノ主體ヲ定
メ、如何ナル補償方法ヲ執ルカ、又如何ナ
ル手續ニ依ッテ此補償ガ行ハレルカ、此四段
ヨリ組立テラレテ居ルノデアリマスガ、只
今一松君ノ意見ヲ伺ヒマシタガ、基本觀念
ガ違フ爲メ、其所說ハ近代ノ法學的構成ノ
上ヨリ見マシテ、極メテ非合理的デアリ、
又法的感情ノ上カラ言ヒマシテモ、極メテ
不人情ノモフデアル(拍手)其說カレル所ヲ
聽キマスルト、或ハ慰藉川崎政務次官
ノ言ハレル所ノ御見舞金デアルヤウナ意味
ニモ聽エ、或ハ賠償ノ意味ナルガ如クニモ
聽エ其縷々說カレル所ノ箇々總テヲ通ジ
テ見マスルト、如何ニモ理論ガ一貫シテ居
ラナイノデアリマス、(拍手)私ハ恰モ羅馬
法隆盛期ノ羅馬時代ニ於ケル、議會ノ議員
ノ演說ヲ聽クガ如キ感ナキヲ得ナカッタノ
デアリマス(拍手)渡邊司法大臣ハ本法案ヲ
出シタ理由ニ對シテ、國家ガ仁政ヲ行フモ
ノデアル憐レナル此無辜ノ人ニ對シテ同
情慰藉ヲ與ヘルモノデアル、斯ウ述ベラレ、
又川崎政務次官ハ御見舞金デアルト言ハ
V、泉二政府委員ハ吾々委員ヨリ次第ニ問
詰メラレルガ儘ニ、遂ニ賠償ナルガ如キ意
味ニモ述ベラレ、一松君ノ議論ヲ聽イテ見
レバ、ヤハリ一向其中心點ヲ知ルニ苦シム
ノデアリマス(拍手)唯纔ニ委員長ノ報〓ト
シテ、横山委員長ガ如何ニモ苦シサウニ、最
モ法理的ナ頭ヲ以テ述ベラレタト私ハ思フ
ノデアル、斯ク觀ジ來リマスルト云フト
此法律案ガ如何ニ近代ノ法學的構成ニ反ス
ル時代錯誤デアル所ノ(「ノー〓〓」)微溫的
ナモノデアルカト云フコトハ、直チニ其結
論ニ到達シ得ルノデアル(拍手)私ハ民政黨
ト云フ大ナル政黨ガ、其中ニ幾多ノ理論ニ
通ゼラレタ所ノ法曹家ヲ持チ、而モ自由主
義ヲ奉ゼラレル若キ人々ヲ持タレル此大ナ
ル民政黨ガ、此誤クタ時勢ニ逆轉セル、政府
ノ天降リ案ニ盲從スル所ヲ見ルト、如何ニ
其政黨ノ力ナキヤヲ憐マザルヲ得ヌノデア
ル(拍手)
私ハ是ヨリ私ノ意見ヲ述ベル爲ニ、少シ
ク法學的構成、竝ニ沿革ノ上ヨリ述べザル
ヲ得ヌノデアル、諸君、議論ハ極メテ地味
デアリマス、併ナガラ此法律案ハ人格尊重
ノ深刻ナル所ニ根ザス所ノ法案デアリマス
(拍手)諸君ハ眞面目ナ態度ヲ以テ聽カレル
義務ガアルノデアル(拍手)諸君、何故ニ私
ガ一松君ノ議論ヲ羅馬議會ノ議員ノ演說ヲ
聽ク如シト言ッタカ、是ハ明カニ羅馬法ニ
則ッタ意見ヲ述ベタカラデアリマス、諸君、
羅馬ハ實ニ個人主義的、資本主義的ノ基調
ニ立ッテ居タ國家デアリマス、卽チ個人ノ
存立ノミヲ見ルガ爲ニ、其不法行爲ニ因ル
故意過失或ハ國家賠償ト云フヤウナ考ヲ、
常ニ個人ノ故意過失ト云フ責任條件ニ根ザ
シテ居ッタノデアリマス、卽チ國家ト個人
トノ關係モ、國家ト云フ法人タル個人ト個
人トノ關係トシテノミ觀察シタノデアル、
故ニ國家ガ其機關タル官吏ニ依リ國民ニ與
ヘタル損害ヲ賠償スルト云フコトハ、ソコ
ニ合理的根據ガナイ、卽チ法人ハ合法的ナ
ル其機關ノ行爲ノミガ法人ノ行爲ナリト看
做サレテ考ヘテ居ッタノデアル、卽チ國家ハ
惡ヲ爲シ得ナイト見タ、併ナガラ此羅馬法觀
念ガ次第ニ「ゲルマン」ノ法律ニ移入サレ、
其創成時代ヨリ〓體生活--卽チ社會連帶
ノ觀念ノ强カリシ獨逸國ノ法學思想ニ作用
シ今日ノ國家賠償理論ヲ生ジタノデア
ル、總テノ成員ハ補足的ニ且ツ相互的ニ援ケ
合ハネバナラヌ、卽チ他ノ成員ニ對シテ爲
サレタ害惡ニハ苦痛ヲ感ジナケレバナラ
ヌトノ機能ノ原理、卽チ或ル團體ガ或ル義
務ヲ負フナラバ其義務ハ繋シテ個人ノ集
合シタル團體ガ負フハ勿論、統一體トシテ
ノ團體ガ負フト同時ニ、個人ノ多數體タル
所ノ國體、及ビ〓體ノ個人々々ガ、互ニ聯結
シテ責任ヲ負フ、團體ハ成員タル個人ノ幸福
ヲ喜ビ、其不幸ヲ悲ムト云フ所ニ、國家責任
ノ根據ヲ置イテ居ッタノデアリマス、機關ノ
行爲ニ依ル團體的責任問題モ、此機能ノ原
理、共同的社會的團體的性質ノ一表現ニ過
ギマセヌ、故ニ獨逸ニ於テハ千九百十九
年ノ獨逸憲法第百三十一條ニ於テ、諸君、
斯ウ云フコトヲ定メテ居ルノデアル「官吏
ガ其職務ニ屬スル公ノ權力ヲ行使スルニ當
リ其ノ第三者ニ對シテ負フ所ノ國務上ノ義
務ニ違反セル場合ニ於テハ其ノ賠償ノ責任
ハ原則トシテ其ノ官吏ヲ使用スル國又ハ公
共團體ニ屬ス」諸君、是ハ固ヨリ官吏ノ行
爲ガ違法ナル場合ノ規定デアリマスケレド
モ、我國ニハ斯ル官吏-國家ノ機關タル
官吏ガ、違法ニ個人ニ與ヘタル害惡ヲ償フ所
ノ何等ノ法律サヘナイノデアリマス、松
君ノ先程述ベラレタ所ノ獨逸ノ賠償法中ニ
ハ、牧野君ガ述ラレタ如キ方法ガ書イテナ
イト云フコトヲ以テ責メラレマシタガ、獨
逸ニハ既ニ一方ニハ官吏ノ義務違反ニ因ル
所ノ行爲ノ損害賠償ガ、此法律ニ依クテ根
本的ニ定ッテ居ルノデアル(拍手)獨逸ノ本
案ニ相當スル法律ハ、更ニ進ンデ官吏ノ形
式的違法ナラザルモ、實質的違法ナル卽チ
無過失賠償マデモ認メタノデアル、卽チ本
法案ハ此義務違反ヲ更ニ越シテ、國家ニ過
失ナキ場合ニ如何ナル責任ヲ負フカト云フ
コトノ根據ニ立ッタ法律案デナケレバナラ
又、故ニ私ハ如何ニモ此法律案ハ、今一松
君ノ言ハルヽガ如ク、眞ニ國家賠償ノ基本
的觀念ニ立ッタノデナクシテ、唯國家ガ其臣
民タル無辜ノ民ヲ處罰シテ如何ニモ可哀想
デアルカラ、御見舞金ヲヤラウ、斯ウ云フ
考ハ實ニ法學的ノ根據ガナイト思フノデア
ル(拍手)恰モ昔ノ大名ガ斬捨御免ニ、相手
ヲ斬捨テヽ御氣ノ毒デアッタト云ッテ香奠ヲ
出スノ類デ、立法ノ合理的根據ガ發見サレ
ヌノデアリマス(拍手)
諸君、今ヤ個人ガ發達シ、又團體生活ガ發
達シタル近世ニ於キマシテハ、國家ハ其官
吏ヲ通シテ行ッタ行爲-違法行爲ハ勿論、
適法行爲デスラ-之ニ因テ與ヘタル臣民
ノ損害ヲ拂フベキデアルト云フ觀念ハ今ヤ
法治國ノ總テニ於テ認メラルヽニ至ッタノ
デアリマス、然ルニ千九百三十一年ノ今日
ニ於キマシテ、斯ノ如キ封建時代ノ殿樣ガ
斬捨御免ヲヤッテ、其憐レナル自分ノ部下ニ
對シテ些少ナ香奠ヲ與ヘルト云フガ如キ、
根據ノナイ法律ガ出ルナラバ、眞ニ國ヲ思
ヒ、眞ニ國體ノ構成員タルコトヲ自覺スル
人々ハ如何ナル考ヲ以テ此法律ニ對スル
デアラウカ(拍手)若シ民政黨諸君ノ意見ハ、
此法案ハ非合理的デハアルガ、金ガナイカ
ラ出來ナイト云フノデアルナラバ私ハ合
理的又社會的正義ノ爲ニハ、金ノ如何ヲ問
フベキデナイト答ヘル、殊ニ人權ト云フ、
深刻ナル人格ノ權利ヲ重ンズル場合ニ於
テ、國家ガ先ヅ金ヲ豫定シテ置イテ、然ル
後ニ之ヲ侵害シテ宜イト云フ理由ガ何處ニ
アルカ、自動車ニ金ヲ積ンデ銀座街頭ヲ馳
驅シ、サウシテ通行人ヲ怪我サセテ、金ヲ
ヤレバ宜イト云フ理由ハナイノデアル金
ハ無クトモ其賠償ヲナサナケレバナラヌハ
當然デアル、諸君、是ハ僅ニ一年七万二千圓
ノ豫算デアリマス、而モ昭和七年ヨリ實施
スルト云フコトニ依ッテ、僅カ七千圓ノ豫算
ガ來年度ハ組ンデアルニ過ギヌ、政府委員
メ說カレル所ニ依ルト、恐ラク是ガ適用ヲ
受ケル人々ガ、一年ニ平均太百四十五人位
アルデアラウ、而シテ此人ガ平均一月位ノ
勾留ヲ受ケルモノトシテ此豫算ヲ組ンダメ
デアルト云フコトデアリマス、諸君、人ノ
尊キ權利ガ、實ニ一人前僅カ百十圓幾ラニ
見積ラレルノガ此法律ノ趣旨デアリマス、
聞タ所ニ依レバ彼ノ若槻內閣ノ當時ニ、九
段ノ坂ヲ造リ變ヘルノニ、百何十万圓ノ金
ガ出テ居ルト云フコトデアル、又民政黨ノ
諸君ノ中ニハ所謂各省ニ於ケル矚託トシ
テ、一年ニ數千圓ヲ貰シテ居ル人々ガ澤山
アルト云フコトデアル、斯ル種類ノ金ヲ節
約シタナラバ、十万ヤ二十万ノ金ハ直チニ
出テ來ベキデアル、眞ニ寃ニ泣イテ居ル
所ノ憐ムベキ人々ヲ救フノニ、僅カ七万二
千圓ノ豫算ヲ組ンデ得ネトシテ、此尊キ理
論ヲ曲ザントスル民政黨內閣ハ、如何ニ緊
縮內閣ト雖モ、人道ニ對シテ恥ヅベキデハ
ナイカ、私ハ斯ク信ズルノデアリマス、又
斯ル法律ガ出來レバ、適用サルヽ事案ガ少
タナリ、政府ノ心配スルヤウニ多額ヲ要サ
ヌト信ジマス、一松君ハ各條ニ亙リマシテ
幾多ノ議論ヲナサレマシタケレドモ、松
君ノ述ベラレタル議論ハ、牧野君ノ修正意
見トシテ述ベラレタル論據ヲ何等覆スモノ
ガナイノデアリマス、更ニ改メテ私ガ玆ニ
一々駁スルマデモナク、牧野君ク說カレタ
所ニ依ッテ既ニ盡キテ居ルノデアリマス、唯、
一松君竝ニ一松君ノ同僚諸君ハ、此最モ
意義アル所ノ補償法ヲ、眞ニ國家賠償ノ觀
〓近世法學的構成ノ上カラ見テ、合理的
ナル觀念ニ據ラズシテ、損害賠償ト慰藉ト
ノ間ヲ彷徨シテ居ル所ノ議論ノ下ニ立クレ
ルカラ、其結論ニ於テ吾々ノ主張スル所ト
違フノハ當然デアリマス恰モ三角形ノ二
邊ガ、其頂點ニ於テ同ジクトモ、永久ニ相
合スルコトハナイト同樣デアリマス、故ニ
玆ニ一々補償ノ主體、其手續、或ハ補償ノ
方法等ニ付テ、一松君ノ述ベラレタル點ニ
對シテ論議スルノ必要ヲ認メナイノデアリ
マス、諸君、本法案ハ諸君ガ眞ニ衷心ヨリ
考ヘラレルナラバ洵ニ意義深キ、又深刻
ナル意味ヲ持ツ所ノ重要ナル法案デアリマ
ス、聞ク所ニ依レバ民政黨ヲ諸君ノ中ニモ、
眞ニ理論的ニ之ニ贊成サレル方ハ少イヤ
ウデアリマス、唯政府ノ天降リ案ナルガ故
ニ、幹部ノ二三ノ人ノ意見ノ爲ニ政府ニ盲
從シテ、此不備ニシテ曖昧ナル法律ヲ通サ
レルノデアル、諸君ハ大政黨ノ名ニ對シテ、
此不謹愼ナル行爲ヲ恥ヅベキデアル、斯ノ如
キ生溫イ法律デハアルガ、民政黨ノ諸君ハ漸
次此法律ヲ改正スベキデアルト言ハルハケ
レドモ、凡ツ是マデノ例ニ依リマスト、
度出シタ法律ハ簡單ニ變ヘ得ルモノデハナ
イツデアル、恰モ燕尾服ヲ著タ今日ノ人ニ、
丁髷ヲ附ケルガ如キ、不體裁ナル法律ヲ一
度出スナラバ、將來永ク之ヲ覆ス立派ナ法
律ガ出來ナイカモ知レナイノデアル、此意味
ニ於テ今日ハ最モ重要ナル時機ニ際會シテ
居ルノデアリマス、諸君、玆ニ民政黨ノ委
員長ニ依ッテ、アノ修正案ガ發表サレマシタ
ケレドモ、最後ノ採決ヲスルニハマダ其時
ガアル、諸君ガ今日ニ於テ改心サレルナラ
が、マダ其誤リヲ直スニ決シテ遲クナイノ
デアル、ドウカ民政黨ノ諸君ハ、斯ノ如キ
政黨政派ニ拘ハルベカラザル重大問題ニ對
シマシテハ宜シク衷心ヨリ悔悟サレテ
サウシテ吾々ノ修正意見ニ快ク贊成サレ
テ、此誤レル立法ノ迷路ニ入ラレナイヤウ
二、引戾スコトニ努メラレンコトヲ切ニ御
願スルノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=69
-
070・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 大山郁夫君
〔大山都夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=70
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071・大山郁夫
○大山郁夫君 非常ニ時間ガ過ギタノデ、
諸君ノ方カラ簡單ニト云フ聲ガ掛ッテ居ル、
諸君ノ其氣持ハ能ク分リマス、諸君ガ言ハ
レルマデモナク、今日私ハ時間ノ協定ヲシタ
ノデ、私達ニ十分ニ時間ガ與ヘラテレ居ラ
ナイ、其時間ノ制限內ニ於テ、私ハ勞働者
農民ノ立場カラ、政府ノ刑事補償法案ニ對
シテ絕對反對ノ意思ヲ述ベヨウトシテ居ル
者デアリマス、政府ノ刑事補償法案竝ニ委
員長ノ報〓サレマシタ修正案ト云フモノ
ハ、是ハ人權擁護ノ趣旨力ラ出テ居ルモノ
デアルト云フ說明ガアッタノデアル、併ナガ
ラ吾々ハサウ思ハナイツデアル、是ハ人權
擁護ノ假面ヲ被ッテ居ル所ノ一ツノ欺瞞法
デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、今日濱
日內閣ハ金融資本家ノ利益ヲ擁護シテ、勞
働者、農民、無產市民ニ有ユル機牲ト負擔
トヲ課シテ居ルノデアリマス、其濱口內閣
ガ勞働者、農民、無產市民、或ハ植民地民
衆ト云フガ如キ、被壓迫大衆ノ人權ヲ擁護
スルト云フコトハ、吾々ハ毛頭信ズルコト
ガ出來ナイノデアリマスハソレデ此刑事補
償法ノ要旨ト云フクハ先刻來他ノ諸君カ
ラ說明ガアッタ通リニ、寃罪ヲ補償スルモノ
デアルト言ハレテ居ル、勿論寃罪ノ補償ト
云フコトニ對シテハ吾々ハ常ニ吾々ノ主
張ヲ述ベテ來タ、今日ドノ無產政黨ノ綱額
政策ヲ御覽ニナッテモ、其點ニ觸レタ項目ガ
アルノデアリマス、例へバ正式ノ裁判ニ依
ラザル監禁、逮捕、訊問、處罰ニ對シテ
絕對反對ト云フコトガ書イテアル又不當
檢束、不當勾留トカ、或ハ寃罪トカニ對シ
テハ國家ノ補償ヲ要求スルト云フ、斯ウ云
フ項目ガ揭ゲテアルノデアル、サウ云フ點
カラ見レバ政府ガ出シタ此刑事補償法案
ト云フモノハ、一見恰モ其要求ニ能ク合致
シテ居ルカノヤウニ見エルノデアリマス、
併ナガラソレハ單ニ表面上ノコトデアル、
其實質ヲ調ベル時ニハ、勞働者、農民、無
產市民ノ要求カラハ非常ニ遠退イタモノデ
アル其中ニ相容レルモノガ少シモナイノ
デアリマス、今日勞働者、農民、無產市民
ハ勿論旣ニ受ケタ〓罪ニ對シテハ國家ノ
補償ヲ要求シテ居ルト云フコトハ言フマデ
モナイコトデアル、併ナガラ唯ソレダケヲ
要求シテ居ルノデハナクテ更ニ一步ヲ進メ
テ、寃罪ヲ造ル手段ヲ絕對ニ禁止セヨト云
フ、其要求ヲ持ッテ居ルノデアリマス、寃罪
ヲ造ル手段ト云フノハ何デアルカト言ヘ
が今日日本ノ法律ニ禁止サレテアルニモ
拘ハラズ、實ハ公然ト行ハレテ居ル所ノ、
アノ誘導訊問ト拷問ト云フモノデアル、卽
チ寃罪ヲ造ル斯ル手段ヲ、絕對ニ禁止セヨ
ト云フ要求ヲ持ッテ居ルノデアリマス、併ナ
ガラ此刑事補償法案ノ中ニハ、勿論サウ云
ヲ誘導訊問乃至拷問ヲ禁ズル條文ハナイ〃
尤モ此刑事補償法案ノ性質トシテ、サウ云
フ條文ヲ入レルコトガ出來ナイト云フコト
ハ言ハレマセウガ、ワレナラバ此刑事補償
法案ヲ出ス時ニ、ソレニ附加ヘテ拷問ト誘
導迅問ト云フ、今日最モ無產階級ヲ苦メテ
居ル寃罪製造手段ヲ廢止スルコトヲ目的ト
スル所ノ別ノ法律ト、併セテ此刑事補償法
案ヲ出サレタモノナラバ、吾々ハ尙ホソレ
ニ對シテ一顧ヲ拂フ根據ヲ持ッテ居ルノデ
アルガ、併ナガラ此刑事補償法案ヲ中ニハ
勿論サウ云フ條文ハ挿入シテナイ、ノミナ
ラズ政府ハ別ニ拷問ト誘導訊問ヲ禁ズル法
律ト云フモノヲ出シテ、吾々ニ示シタノデ
モナイ、サウ云フ點カラ見テ、吾々ハ此刑
事補償法案ト云フモノヽ欺瞞性ヲ、先ヅ第
一ニ明カニ見ルコトガ出來ルノデアリマ
ス
其次ニハ此刑事補償法案ノ中ニハ、樣々
アノ法文ノカラクリガ設ケラレテ居ルサ
ウシテ勞働者、農民、無產市民大衆ガ、縱
シ無罪トカ免訴トカノ言渡シヲ受ケテモ、
此刑事補償法ニ規定サレテ居ル所ノ、其補
償スラモ受ケル機會ヲ奪ッテ居ルヤウナ、サ
ウ云フ法文ノカラタリガ、此補償法案ノ中
ニハ澤由設ケラレテアルノデアリマス、勞
働者農民ハ殊ニ自分達ノ實際經驗カラ、其
點ヲ證明スルコトガ出來ルノデアリマス、
其點ハ此法文ヲ見レバ到ル處ニアルガ、併
シ吾々ハ時間ノ關係上悉ク之ヲ言ッテシマ
フコトハ出來ナイ、ダガ其中ノ最モ顯著ナ
ルモノ、最モ目立ッテ居ルモノ、又最モ重大
ナル性質ヲ持ッテ居ルモノヲ、此處デ一二ヲ
指摘シタイト思フノデアリマス、ソレハ此
法案ノ條文ノ第四條ノ第二號ニ、第一ニ吾
吾ノ眼ニ見付カルモノガアル、ソレハ「起訴
セラレタル行爲ガ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗
ニ反シ著シク非難スベキモノナルトキ」ト
云フ、斯ウ云フ條文デアリマス、此條文ニ
對スル私ノ見解ハ私ハ曾テ委員會ニ於テ
之ヲ述ベタノデアル又今日牧野君ガ牧野
君等ノ修正案ヲ說明サレタ時ニ序ニ私ノ
意見ニモ一寸觸レラレタノデアリマスガ、
尙ホ私ハソレヲモット詳シク此處デ述ベテ
見タイト思フノデアリマス
今日勞働者、農民ガ、或ハ行政處分ニ於
テ或ハ刑事上ノ處分ニ於テ、何時モ犯罪
ニ突落サレテ居ルノハ法文ノ中ニ公ノ秩
序ヲ紊亂スルトカ、或ハ公安ヲ害スルトカ、
サウ云フヤウナ文句ガ忍込マサレテ居ルカ
ラデアル、何時モソレニ引ッ掛カッテサウ
シテ樣々ナ罪ニ陷レラレテ居ルノデアリマ
ス公ノ秩序ト云フ言葉ガアル時ニハ、普
通人ノ常識カラ考ヘクナラバ法律上當然
ノ文句デアルヤウニ見エルノデアル併ナ
ガラ此公ノ秩序デアルトカ、或ハ公安トカ、
斯ウ云フ文句ガ實際上ニ於テ、勞働者、農
民ノ上ニ、ドウ云フ風ニ適用サレテ居ルカ
ト云フコトヲ考ヘテ戴カナケレバナラナイ
ノデアル、是ハ勞働者、農民ノ經驗カラ言
ハナケレバナラナイ勞働者、農民ハ、嘗
テハ此公ノ秩序ト云フモノハ、勞働者、農
民ノ立場ト一致スルモノト考ヘタ時代モ
アッタノデアル、例ヘバ年々ノコトデアリマ
スルガ能ク政府ガ地方長官會議ヲ招集セ
ラレル其時ニハ必ズ內務大臣ノ訓示ト云フ
モノガアルノデアルガ、其場合ニ內務大臣
ハ殊ニ近年ニ於キマシテハ、勞働爭議ニ
關スル取締方針ト云フモノヲ述ベラレル、
サウシテ型デ捺シタヤウニ斯ウ云フコトヲ
言ハレル、政府ハ決シテ勞働爭議ト云フモ
ノニ對シテ暴壓ヲ加ヘル意思ハナイ、寧ロ
勞働爭議ノ取締ト云フモノハ、之ヲ寛大ニ
シナケレバナラナイモノデアル、併ナガラ
其勞働爭議ト云フモノガ公安ヲ害スルヤウ
ナ徴候ヲ見セル時ニハ、斷乎トシテ之ヲ取
締ラナケレバナラナイト斯ウ云フコトヲ
何時モ言ハレル、昨年ノ地方長官會議ノ時
二七ゝ安達內相ガ斯ウ云フ意味ノ訓示ヲ與
ヘテ居ラレタノデアリマス、所ガサウ云フ
コトガ新聞ニ載ルト云フト、勞働者ハ先ヅ
第一ニ公安ヲ害シナイ限リハ、俺達ノ爭議
ト云フモノハソレ程嚴重ニ取締ラレルノデ
ハナイト考ヘル、勞働者ノ頭ノ中ニ、公安
ト云フコトハ5개ドウ云フ風ニ響クカト言ヘ
バ今日日本ノ全人口中ニ於テ最モ多數ヲ
占メテ居ルノハ勞働者、農民デアル、サウ
スレバ勞働者、農民ノ生活ノ安固ヲ圖ルコ
ト其事ガ、公安ヲ維持スル所以デナケレバ
ナラナイト云フコトヲ考ヘテ居ルノデア
ル換言スレバ勞働者、農民ノ生活ガ脅カ
サレルコト其事ガ、公安ヲ害スルコトニナ
ルモノト考ヘテ居ルノデアリマス、所ガ近
年ニ至ッテ資本家、地主ハ、勞働者、農民ノ
生活ヲ益〓〓猛烈ニ壓迫スルヤウニナッテ來
タ、勞働者農民ガ爭議ヲ起スノハ、決シテ
好キヤ贅澤デ起シテ居ルノデナクテ、自分
達ノ生活ガドン底ニ突落サレテ、餓死ヲ擇
ブヨリ外ニ道ガナイヤウナ窮境ニ逐ヒヤラ
レタ時ニ、彼等ハ生命ヲ賭シテ爭議ラ起ス
コトニナルノデアリマス、卽チ勞働者、農
民ガ爭議ヲ起スト云フノハ自己ノ生活ヲ
擁護スル爲デアル勞働者、農民ノ生活ヲ
擁護スルコト程、此公安ヲ擁護スル途ニ適ッ
タモノハナイト、勞働者農民ハ考ヘテ居ル
ノデアリマス、所ガ此爭議ヲ起スヤウニナ
リマスト云フト、忽チ勞働者農民ハ彈壓サ
レル-初カラ彈壓サレル、內務大臣ノア
ノ訓示ヲ讀ンデ居ルト云フト、公安ヲ害シ
ナイ限リハ彈壓シナイト云フカラ、爭議ヲ
起シテ自分ノ生活ヲ擁護シテ居テ彈壓サレ
ル氣遣ヒハナイト思ッテ、一タビ爭議ヲ始メ
ルト云フト、忽チ手嚴シキ彈壓ヲ加ヘルノ
デアル、ドウ云フ理由デ彈壓ヲ加ヘルノデ
アルカ、ドウ云フ法律上ノ文句ヲ楯トシテ彈
壓ヲ加ヘルノカト言ヘバ、公安ヲ害スル、
ソレデヤラレルノデアリマス而モ公安ヲ
害スルト云フノハ、何時モ警察官ノ認定ナ
ノデ、ソレニ對シテ文何ハ言ヘナイ民政
黨ノ諸君ハ議會中心主義トカ、立憲主義ト
カ云フコトヲ頻ニ言ハレルケレドモ、此警
察官ノ意思ガ絕對デアルト云フコト程、專
制的ナ思想ハナイノデアリマス(拍手)之ニ
對シテ民政黨ノ諸君ガ、唯一言モ抗議ヲ言
ハレナイ、例ヘバ今朝ノ問題ニ致シマシテ
モ、無產黨議員ハ主張ト云フモノニ對シテ
議長モ、或ハ一昨日ハ安達內相モ、一座八
拂ハレナクテ、唯官吏ノ報〓ノミヲ基礎ト
シテ、サウシテ此問題ヲ解決サレヨウトシ
テ居ルノハ、サウ云フ警察官ナリ、其他ノ
官吏ノ意思ト云フモノガ絕對デアルト云
フ、其根據ノ上ニ立ッテ居レバコソナノデ
アリマスガ、是コソ封建的專制主義思想ノ
結晶ナノデアル、民政黨ノ諸君ガ議會中心
主義トカ、立憲主義トカ言ヒナガラ、今日
ノ制度ノ上ニ遺ヲテ居ル所ノ斯ル封建主義、
專制主義、絕對主義ニ對シテ、一言モ反對ヲ
唱ヘヤウトシナイノハ、諸君自ラ大衆ノ前
ニ恥ヂナケレバナラナイト云フコトヲ私
ハ此處デ宣言スルノデアリマス(拍手)兎モ
角此公安ヲ害スルト云フ文句ハ何時モサ
ウ云フ風ニ解釋サレテ居ルノデアルサ
ウシテ裁判ノ時ニ於テモ、行政處分ノ時ニ
於テモ、何時モサウ云フ風ニ認定サレテ、
ソレガ適用サレルノデアル、ソレ故ニ此第
四條ノ公ノ秩序ト云フ文句ガアル以上ハ、
勞働者、農民ハ、爭議ヲ起スト必ズ引掛ケ
ラレル、一タビ引掛ケラレルト必ズ犯罪
ニ問ハレテ、將來或ハドウ云フ風ノ吹廻シ
カ、免訴トカ、無罪トカノ言渡ヲ受ケテ
モ、決シテ此刑事補償法案ノ中ニ規定サレ
テ居ルヤウナ補償ヲ受ケル機會ト云フモノ
ハ少シモ持ツニ至ラナイト云フコトヲ
吾々ハ今カラ斷乎トシテ豫言スルコトガ出
來ルノデアリマス(拍手)
次ニ善良ノ風俗ト云フ點ニ於テモサウデ
アル一體斯ウ云フ漠然タル言葉、場合場
合ニ依ッテハ、ドウ云フ風ニデモ解釋ガ出來
ルヤウナ言葉ヲ法文ノ中ニ忍ビ込マセルト
云フコトハ是ハヤハリ専制政治ノ遺習デ
アルト云フコトヲ吾々ハ敢テ言フ、卽チ專
制政治ノ理想ノ中ニハ法三章ニシテ民ヲ
治メルト云フコトガアル法三章ト云フコ
トハ專制政治ノ思想ヲ代表シテ居ルモノ
デアルガ、此法文ノ中ニ斯ノ如キ公ノ秩序
トカ、或ハ善良ノ風俗ト云フ風ナ曖昧ナ解
釋ノ範圍ノ非常ニ廣汎ナ文句ヲ持ッテ來タ
ノハ法三章ト云フ專制政治ノ精神ヲ完全
ニ踏襲シタモノデアリマス、泉二政府委員
ハヤハリ諸君ト同ジヤウニ吾々ガ此公
ノ秩序ト云フ文句ヲ氣ニスルノハ僻ミ根
性カラ來テ居ル、階級的ナ僻ミ根性カラ來
テ居ルト云フコトヲ言ハレタノデアリマス
ガ、勞働者、農民ガ、今日サウ云フ言葉ガ
諸君ノロカラ洩レタト云フコトヲ聞ケバ
恐ラク憤激ノ焰ヲ燃ヤスデアラウ、ソレハ
決シテ僻ミ根性カラ出タモノデハナイ、ソ
レハ勞働者、農民ノ生々シイ現實ノ生活經
驗カラ出テ來タモノデアリマス、諸君ガソ
レハ勞働者、農民ノ僻デアルト云フコトヲ
言ハレル其言葉コソ、諸君ガ「ブルヂョア」ト
シテ持ッテ居ラレル僻ミ根性カラ出テ來タ
モノデアル、ソレカラ···
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=71
-
072・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=72
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073・大山郁夫
○大山都夫君(續) ソレカラ次ニ、ヤハリ
第四條中ニアル文句デアルガ「本人ノ故意
又ハ重大ナル過失ニ因ル行爲ガ起訴、勾留、
公判ニ付スル處分又ハ再審請求ノ原由トナ
リタルトキハ第一條第一項ノ補償ヲ給與セ
ズ」トアル、又其次ニハ本人ノ故意又ハ重大
ナル過失ニ因ル行爲ガ原有罪判決ノ憑據ト
爲リタルトキハ、第一條第二項ノ補償ヲシ
ナイト云フコトニナッテ居ルノデアリマス
ガ、是コソ私ガ初メ言ヒマシタアノ拷問或
ハ誘導訊問ニ關係スル規定ナノデアル卽
チ寃罪ヲ作ル手段其モノニ關係スル條文ナ
ノデアリマス、所謂犯罪ノ搜査取調ノ時ニ、
樣々ナ告白ヲシ、ソレニ依テ罪セラレタ、後
ニ無罪ノ言渡或ノ免訴ノ言渡ヲ受ケテモ、ヤ
ハリ其事ハ元々本人ノ故意若クハ過失カラ來
タ行爲ニ依ッテ出テ居ルノデアルト云フコ
トヲ言ッテ、補償ヲ受ケル權利ヲスッカリ失ッ
テシマフト云フコトガ考ヘラレル、必ズサ
ウナルニ違ヒナイ、拷問トカ或ハ誘導訊問
トカ云フモノガ、封建的遺制デアルト云フ
コトハ、是ハ諄々シク說明スルマデモナイ、
西歐羅巴諸國ニ於テハ曾テ「ブルヂヨア」
革命ガ起ッタ時ニ、封建的殘存勢力ト、封建
的遺制ト云フモノヲ殆ド完全ニ一掃シテ
シマッタノデ、最早サウ云フモノハ遺ヲテ居ラ
ナイ、共立憲主義ヲ日本ガ採ッタナドヽ斯ウ
言ッテ居ル、又私ノ聞ク所ニ依レバ、日本ノ
新刑事訴訟法ニ於テモ同ジヤウナ主義ヲ
採ッテ居ル、卽チ新刑事訴訟法ニ於テハ被
告ハ檢事ト對等ノ地位ニ置カレテ居ルノデ
アッテ、サウ云フ所カラ檢事ハ被〓ニ對シテ、
勿論自白ト云フモノヲ强要スルコトガ出來
ナイヨウニナッテ居ルト言ハレテ居ルノデ
アル、況ヤ自白ヲ强要スルダケデハナクテ、
アリモシナイ事實ヲ〓白セシムルガ爲ニ、拷
問トカ誘導說問ヲシテハナラナイト云フコト
ニナッテ居ル、斯ウ云フ風ニ私ハ聞イテ居ル
ノデアル、又刑法ノ中ニモ第百九十五條ニ、
裁判官、檢事、或ハ警察官ガ拷問ヲシテハ
ナラナイト云フ規定ガアルト云フコトハ事
實デアル、併ナガラサウ云フ法律上ノ規定
ガアルト云フコトヽ事實上サウ云フ拷問
ガ今日行ハレテ居ラナイト云フコトヽハ
全然別問題デアリマス、ソレハ吾々ノ現實
ノ經驗カラ言フコトガ出來ルノデアリマ
ス、私ハ玆ニ斯ウ云フ證據品ヲ非常ニ澤山
持ッテ來タノデアリマス、ダガ時間ノ協定ノ
結果、是ダケノ證據品ヲ一々此處デ讀上ゲ
ルコトガ出來ナクナッテシマッタノデアリマ
スガ、唯一ツ最近ノ例--私ハ過去ノ古イコ
トハ言ハナイ、濱口內閣ノ下ニ於テ行ハレク
幾多ノ拷問ノ中カラ、生々シイ實例ヲ此處
デ少シバカリ披瀝シテ見タイト思フノデア
リマス、ソレハ昨年中ニ新潟縣デ行ハレタ
大キナ爭議、王番田ノ爭議トカ、或ハ大蒲
原ノ爭議、共時ニ如何ナル拷問ガ行ハレタ
カ、吾々ノ友人デアル所ノ上村進ト云フ人
ガ、アノ事件ヲ取扱ッテ、サウシテ警察官ヲ
〓發シテ居ル、其〓發狀ノ中ニモ、例ヘバ
斯ウ云フ風ニナッテ居ルノデアリマス「中蒲
原郡大蒲原村大字青橋、關川寬一」云々、拷
問ヲ受ケタ人々ノ名前ガ澤山竝ベラレテア
ルノデアリマスガ、ソレハ飛バス、詰リ是
等ノ人々ハ「去ル八月二日夜、大蒲原村靑橋
ニ於テ起サレタ公務執行妨害傷害等ノ事件
ノ捜査取調ヲ受クル爲メ、昭和五年八月四
日ヨリ六日ニ亙リ村松警察署ニ呼出サレ、
其取調ヲ受クルニ當リ其取調所タル村松
小學校內其他ニ於テ、各其取調警察官タル
警部補及巡査ヨリ暴行ヲ加ヘラレ、甚シキ
ハ氣絕サヘサセラレタル次第ニテ、斯ノ如
キ警察官ノ態度ハ、其必要ナキニ故意ニ被
疑者タルモノヲ毆打暴行シタルモノニシ
テ、刑法第百九十五條ノ罪ニ該當スベク、
之ヲ指揮監督ノ任ニ當リタル署長モ亦同罪
ト思料スベキニ付、法ノ威嚴ノ爲ニ御處罰
相成度此段及告發候也、右上村進」是ガ〓發
狀ノ全文デアルガ、而モ此告發ノ對象トナッ
タ警察官ガ行ノタ拷問ノコトヲ言フト、實ニ
勞働者、農民ヲシテ毛髪ヲ逆立タシムルニ
足ルダケノ暴虐ガ行ハレテ居ルノデアリマ
ス、此事件以外ニモ、吾々ガ調査シタ拷問ノ
實例ハ無限ニアル、是ガ皆證據品デアル、今
日政府ノ人々ハ吾々ガ拷問或ハ誘導訊問
ガ實際ニ行ハレテ居ルト云フ事實ヲ指摘スル
ト、サウ云フコトハアリマセヌ取調ベタ
ケレドモサウ云フコトハナイト言ッテ、何時
モ否定セラレルノデアルガ、併ナガラ政府
ノ人々ガ千言萬語ヲ重ネテ否定セラレテ
モ、實在ノ事實ヲ如何トモスルコトガ出來
ナイノデアリマス、ソレニモ拘ラズ政府ノ
人々ハ能ク白々シクモ萬人ガ認メテ居ル
實在ノ事實ヲ單ナル一片ノ言葉デ否定サレ
ル一年二年前ノ事デナクテモ例ヘバ
昨日カラ今朝ノ事ニ掛ケマシテモ、吾々ノ
眼前ニ其一ツノ實例ガ展開サレテ居ル、新
聞記者諸君モ、ソレ以外ノ多クノ實見者モ、
實際アノ衆議院ノ通用門ニ於テ一昨日ノ
午後如何ナルコトガ行ハレタカト云フコト
ヲ皆知シテ居ル、十目ノ見ル所十指ノ指ス所
ト云フガ、百目ノ見ル所、或ハ二百目ノ見
ノッと、否ソレ以上ノ人ガ皆アノ警官ノ暴行
ノ事實ヲ認メテ居ル、內務大臣或ハ議長ハ
自分ノ言葉デソレヲ否定シヨウトサレテ居
ルノデアリマスガ、併ナガラ專制政治家ガ
ドレ程ノ言葉ヲ以テ否定セラレテモ、實際
ノ事實ヲ如何トモスルコトガ出來ナイト云
フコトヲ吾々ハ言フノデアリマス、ソレデ
當面ノ刑事補償法案ノ問題ニ還リマスガ、
寃罪ニ對スル補償ト云フコトハ、ソレハ勿
論必要デアルガ、併ナガラ寃罪ニ對スル補
償ノ規定ハ此處デハ十分デナイ、殊ニ勞働
者農民ニ對シテハ十分ニ補償ヲ爲シ得
ラレルヤウナ、サウ云フ條文ガ挿入サレテ
居ラナイガ、更ニモット大切ナコトハ寃罪ヲ
補償スルト云フ位ナラバ寃罪ヲ作ル手段ト云
フモノヲ絕滅シナケレバナラナイノデアル、
併ナガラ政府ニ其意思ガ毛頭ナイト云フコ
トハ、是ハ此法案ノ條文ニ付テモ言ヘルガ、
更ニ司法大臣ノ言葉カラモ言ヘルノデアリ
マス、先達テ委員會ノ時ニ私ハ司法大臣ニ此
點ヲ尋ネタノデアルガ、其時ニ司法大臣ハ
斯ウ言ハレタ、現在ノ日本ノ法律ノ條文ノ中
ニハ拷問ヲ禁ジテ居ルノガアル、唯ソレガ
行ハレテ居ラナイノハ人ガ宜シキヲ得ナイ、
或ハ其運用ガ宜シキヲ得ナイカラダト云フ
コトヲ、其時ニ告白サレタノデアリマス
其時ニ私ハ斯ウ言ッタ、勿論其人ガ宜シキヲ
得テ居ラナイ、運用モ宜シキヲ得テ居ラナ
イガ、併ナガラ拷問ヲ禁ズルト云フコト
ハ唯人ト運用ニ責任ヲ持タシテ恬然ト眺
メテ居ルト云フコトデハイケナイ、如何ナ
ル人ガドノヤウニ運用シテモ、拷問トカ誘
導訊問ガ出來ナイト云フヤウナ法律ヲ作ラ
ナケレバナラナイシ、又サウ云フ法律ヲ作
ルコトハ絕對ニ可能デアルト云フコトヲ
言ッタ、サウシテ政府ニ對シテ、サウ云フ法
律、如何ナル人ガ如何ニ運用シテモ、拷問
ト誘導訊問ガ出來ナイヤウナ、新シイ有效
ナル法律ヲ作ル意思ガナイカト尋ネタ時
二、渡邊司法大臣ハ、政府ニハサウ云フ意
思ガナイト云フコトヲ明言サレタノデアリ
マス、此事實ヲ見テモ濱日內閣ト云フモノ
ハ、如何ニ專制的ナ政府デアルカト云フコ
トガハッキリ分ルノデアリマス、更ニ又吾
々ハ殊ニ此刑事補償法案ニ規定シテアルヤ
ウナ補償ト云フモノハ、行政處分ニ於テ罰
セラレタ者ニ對シテモ其適用ヲ及ボサナケ
レン、勞働者、農民ハ之ニ對シテ何等ノ價
値モ認メルコトガ出來ナイト云フコトヲ、
明カニシナケレバナラナイノデアリマス
ガ、今日違警罪卽决例中改正法律案ガ玆ニ
上程サレル筈デ、其時ニ吾々ノ同志片山哲
君ガ、其點ニ對シテ十分ニ意見ヲ述ベラレ
ルコトデアルト考ヘテ居リマスカラ、私
其點ハ省クコトニスルガ、今日違警罪卽决
例ニ依ッテ勾留トカ、科料ニ處セラレル者ガ
非常ニ增加シテ昭和四年ニハ一年間デ七十
万六千三百人以上ニナッテ居ル、細カナ統計
ハ省クコトニスルガ、兎ニ角今日無拘束ニ
行ハレル行政處分ノ下ニ、勞働者、農民ガ
非常ナ苦痛ニ陷レラレテ居ルト云フノハ事
實デアル其方ニコソ、本當ニ補償スベキ
モノガ澤山アル、齋藤政府委員ハ行政執行
法ニ依ッテ檢束セラレル者ハ、檢束サレル方
ガ惡イノダ、不注意カラダトカ、過失カラ
ダト云フコトヲ言ハレルガ、決シテサウ云
フコトハナイ、私自身デモ自分ノ持。ツテ來タ
實例ニ依シテ、幾ラデモ證明スルコトガ出來
ル、例ヘバ一昨年ノ冬デアッタガ、私ハ米子
市ニ行ッテ演說會ヲ開イタノデアリマスガ、
其時ニ私ハ演壇ニ立ッテ「親愛ナル米子ノ市
民諸君」ト云フ言葉ヲ發シタ爲ニ、其時ニ警
察官ハ公安ヲ害スルト言テテヲヲヲ束
其時ニ檢束サレタ者ガ不注意デアッタトカ、
或ハ過失ヲ犯シタトカト云フコトヲ言ヘル
カドウカト云フコトヲ考ヘテ戴キタイノデ
アルガ、サウ云フコトガ現在濱口內閣ノ專
制政治ノ下ニ實際行ハレテ居ルノデアッテ、
決シテ檢束サレル者ノ不注意、過失カラ來
タモノデナイト云フコトハ誰デモ知ッテ居
ル、サウシテ其方面ニ無數ノ被害者ガア
ル、政府ハ其方面ニ此補償法ヲ適用シヤウ
ト云フ意思ヲ全然持ッテ居ラナイ、齋藤政
府委員ガ吾々ニ言ッタノハ、例ヘバ違警罪卽
決例ニ依ッテ勾留セラレタル者ガ、正式裁判
ヲ申立テヽ無罪ニナレバ、其者ヲ政府ハ補
償スル考ガアルガ、併シ今ハ補償出來ナイ、
將來其問題ヲ考ヘルト言ハレタガ、勞働者、
農民ニ取ッテハ、是コソ眞先ニ考ヘナケレバ
ナラナイ問題デアル、政府ハ將來考ヘルト
言ハレルガ、更ニ吾々ガ言ッテ居ルノハ、
違警罪卽決例ニ依ッテ勾留サレ、正式裁判ヲ
申立テ、無罪ニナッタ者ニ補償ヲシロト云フ
ダケデハナイ、檢束、勾留或ハ栲問ニ依ッテ
精神上、肉體上、物質上ニ損害ヲ與ヘタモ
ノニ對シテ、總テ皆國家ガ補償セヨト云フ
ノデアル、サウ云フ要求ノ貫徹サレナイ限
リハ、斯ウ云フ法律ガ百出ヤウガ、千出ヤ
ウガ、萬出ヤウガ、何等勞働者、農民ノ生
活ヲ利益スルモノデナイト云フコトヲ、吾々
ハ言フノデアリマス
尙ホ此問題ニ關聯シテ、濱口內閣ガドレ
程封建的專制思想ノ虜ニナッテ居ルカト云フ
コトハ現ニツイ先刻、吾々ニ一ツノ新タ
ナ例ガ示サレタ、卽チ今日此演壇デ〓瀨君
ガ問題ニサレタ所ノ、アノ最近ノ臺灣ニ於
ケル政治結社ノ禁止ノ事件ガソレデアル、
此刑事補償法ノ中ニ現レテ居ル所ノ專制思
想ト、臺灣ニ於テ、アノ臺灣ノ民衆ガ結成
シタ臺灣民衆黨ト云フモノヲ禁止シタ共精
神トハ二ツノモノデナイ、全然一ツノモノ
デアル、吾々ハ內地ニ於ケル全被壓迫大衆
ノ生活ト自由トノ爲ニ戰フト共ニ、植民地ニ
於ケル全民衆ノ生活ト自山トノ爲ニ戰ハナ
ケレバナラナイ使命ヲ擔テテッテ居ルモノ
デアル、其點カラアノ問題ヲ刑事補償法ト
結付ケテ、此處デ細論シナケレバナラナイ
必要ヲ感ズルノデアルガ、併シ吾々ハ時間
ノ協定ヲモ守ラナケレバナラナイ、故ニ遺
憾ナガラ臺灣民衆黨ノ結社禁止ニ對スル問
題ハ、他ノ機會ニ讓ルコトニ致シマシテ、
刑事補償法ト云フ羊頭狗肉ヲ懸ゲテ無產階
級ノ眼ヲ蔽ハウトシテ居ル所ノ欺瞞法ニ對
シテ、勞働者農民ノ情激ヲ投付ケテ、私ハ
今降壇スル者デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=73
-
074・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 通告ハ終リマシ
タ、是ニテ討論ハ終結致シマシタ、是ヨリ
採決ニ入リマスガ、之ニ先ッテ一言致シマ
ス委員長ノ報〓ハ修正デアリマスガ、共
修正ハ補償ニ基ク修正デアリマス、又牧野
君外五名提出ノ修正、卽チ少數意見ノ修正
ハ賠償ノ趣旨ニ基ク修正デアリマス、仍テ
此二ツノ修正ハ別箇ノモノデアリマスカ
ラ、各別ニ採決致シマス、左樣御了承ヲ願
ヒマス
先ヅ牧野良三君外五名提出ノ修正案ニ付
キ採決ヲ致シマス、此修正案ニ贊成ノ諸君
ノ起立ヲ望ミマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=74
-
075・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 起立少數デアリマ
ス、仍テ否決セラレマシタ-次ニ委員長
報〓ニ付キ採決ヲ致シマス、委員長報告ニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=75
-
076・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
マス委員長報告通リ可決致シマシタ(拍
手)是ニテ本案ノ第二讀會ハ終了致シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=76
-
077・作田高太郎
○作田高太郞君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ
開カレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=77
-
078・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=78
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079・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
マン、仍テ直チニ第三讀會ヲ開キマス
刑事補償法案第三讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=79
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080・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 別ニ御發議モアリ
マセヌカラ、本案ハ第二讀會決議ノ通リ可
決確定致シマシタ(拍手)
森本一雄君ヨリ成規ノ贊成ヲ得テ議事進
行ニ關スル緊急動議ガ提出セラレテ居リマ
久、卽チ本日ノ日程ヲ變更シ、一月二十八
日提出決議案、救護法實施ノ件ヲ上程シ、
共審議ヲ進ムベシトノ動議デアリマス、此
際趣旨辯明ヲ許シマス-森本一雄君
〔森本一雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=80
-
081・森本一雄
○森本一雄君 私ハ議事進行ニ關シテ緊急
動議ヲ提出致シマス、卽チ本日ノ日程ヲ變
更シテ、救護法實施ニ關スル決議案ヲ緊急
上程致シ、幸ヒ時間ガ延長サレテ居ルノデ
アリマスカラ、其審議ヲ進メラレンコトヲ
要求スル者デアリマス、一昨十九日ノ議場
ニ於キマシテ、我ガ武藤山治氏ヨリ議長ヲ
通ジテ救護法實施ニ關スル政府ノ意向ヲ質
シタノデアリマスケレドモ、議長ノ怠慢デ
アラレルカ、ソレトモ政府ノ御都合デアラ
レルカ、未ダ御答辯ヲ拜聽致サヌノデアリ
さく、衆議院ニハ其答辯ガゴザイマセヌケ
レドモ、昨日貴族院ニ於テ、大谷尊由氏ノ
質問ニ對シ、安達內務大臣ハ救護法ハ昭
和七年ノ一月カラ之ヲ實施スル考ヲ持ッテ
居ル、サウシテ其財源ハ目下捻出中デアル
カラ之ヲ明カニスルコトガ出來ナイ、斯ウ
云フヤウナ御答辯ヲ爲サッタト新聞ハ傳ヘ
テ居リマス、政府ハ昭和七年ノ一月カラ救
護法ヲ實施スル考ガアルト言ハレルガ、昭
和七年ノ一月ハ、是カラ十箇月先デアリマ
ス何ト云フ怠慢デアルカ、何ト云フ誠意
ナキ答辯デアルカ、全ク驚カザルヲ得ナイ
ノデアリマス、更ニ財源ヲ明示スルコトガ
出來ナイ、捻出中ダ、斯ウ云フコトデアリマ
シテハ若シ其財源ガ捻出セラレナカッタナ
ラバ提案セヌカモ分ラヌト云フコトニ、
ナルデハアリマセヌカ、私共ハ斯ウ云フヤ
ウナ曖味ナ、サウシテ怠慢極マル、政府ノ
救護法ニ對スル態度、之ヲ承知致シマシテ
ハ此決議案ヲ緊急上程シテ、十二時マデ
デモ論議ヲ續ケナケレバナラヌノデアリマ
ス、救護法ノ實施ヲ緊急トスルコトハ此
法律ガ五十六議會ヲ通過シタ當時ニ於ケ
ル民政黨議員諸君ノ院內ニ於ケル御行動
ニ依ッテ證據立テルコトガ出來ルノデアリ
やく、御承知ノ如ク此法律ハ第五十六議會
ニ貴業兩院ヲ通ジテ一人ノ反對者モナク
滿場一致デ通過シタモノデアリマス、其通
リデアリマセウ、此法律ヲ衆議院ニ於テ贊
成ヲ表シテ居ノタ民政黨ノ諸君モ、無條件デ
ハ贊成ヲセラレナカッタ、此案ハ現下ノ社會
狀勢ニ鑑ミテ、最モ緊急ナ法律デアルケレ
ドモ、併ナガラ何時カラ實施スルト云フ期
限ヲ明示シテ居ラナイ、實施期ガナイ、左
樣ナモノニハ贊成スルコトガ出來ヌト云フ
ノガ、民政黨ノ諸君ノ本會議及ビ委員會ヲ
通ジテノ御議論デアリマス、其結果遂ニ政
友會內閣當局者モ、此道理アル主張ニ服シ
テ、一時委員會ヲ休憩シテ、サウシテ昭和
五年度カラ本法ヲ實施スルト云フコトニ同
意ヲ表明シタノデアリマス、是ガ附帶條件
トナッテ衆議院ヲ通過シタコトハ御承知ノ
通リデアリマス、而モ委員會ニ於テ昭和五
年度ヨリ實施スベシト云フ條件ノ付イタ時
ニ、民政黨ノ諸君ハ自分達ノ要求ガ通ッタニ
モ拘ラズマダ其贊成ヲ保留セラレタノデ
アリマス、更ニモウ一度委員會ヲ休憩シテ、
黨議ヲ纒メテ來ルマデ待ッテ貰ヒタイト云
フ註文ガアッタ、サウシテ一時間休憩ヲシテ
黨議ヲ纒メ、然ル後此案ニ御贊成ニナッタノ
デアリマス、故ニ昭和五年度カラ救護法ヲ
實施スルト云フコトハ、民政黨ノ黨議ニ依ッ
テ決定シテ居ルノデアリマス(拍手)此經過
ニ照シマスルト、救護法ノ實施ガ如何ニ緊
急ナモノデアルカト云フコトハ、天下何人
ヨリモ民政黨ノ諸君ガ御承知ノ筈デアリマ
入、隨テ緊急上程ヲシテ、國家國民ノ爲ニ
此案ヲ議スルト云フコトハ、民政黨各位ノ
御贊成ヲ得ルト私ハ信ジテ疑ヒマセヌ、幣
原首相代理ハ知ラズ、安達、井上兩君ハ民
政黨員デアル以上、民政黨ノ公約黨議ヲ無
視スルコトハ出來ナイ筈デアル而モ安達
君ハ內務大臣デアリ、井上君ハ大藏大臣デ
アル、井上君ハ財源ヲ捻出スレバ宜イ、安
達君ハ之ヲ實施スレバ宜イ、二人ガ其考デ
サヘアレバ、昭和五年度ノ豫算ニ繰入レル
コトハ決シテ難事デハナカッタ筈デアリマ
ス、然ルニ昭和五年度ニハ之ヲ實行セズ、
昭和六年度ノ本豫算ニモ繰入レナイデ、サ
ウシテ今日ニ至ッテ昭和七年ノ一月カラ之
ヲ實施スル目算ダ、但シ財源ハ目下捻出中、
斯ウ云フヤウナ無責任極マル答辯ヲ爲サル
ノハ、井上準之助及ビ安達謙藏ト云フ二人
ノ御方ハ政治的ニ申セバ其良心ノ存在ヲ
自ラ否認シテ居ラレルト云フコトニナリマ
ス、救護法ガ今日マデ實施ノ遲レタコトハ
ドウ云フ結果ヲ招來シテ居ルカト云フコト
ヲ冷靜ニ諸君考ヘテ戴キタイ、病ンデ藥ヲ
攝ルコトモ出來ナイ、飢ヱテ食ヲ得ルコト
モ出來ナイ貧困、孤獨、不具、癈疾、サ
ウ云フヤウナ原因ノ爲ニ、生キナガラ地獄
ノ生活ヲシテ居ル、氣ノ毒ナ多數ノ同胞ヲ、
昭和五年度ニ之ヲ實行シナカッタ爲ニ、旣往
一箇年ノ間、之ヲ見殺シニ民政黨ノ內閣ハシ
タノデアル、更ニ昭和七年ノ一月ニ實行ガ
遲レヽバ又將來十箇月ノ間、是等ノ人達
ヲ見殺シニシテ宜イト考ヘテ居ルノデア
ル何ト云フ無情冷酷、殘忍刻薄ナヤリ方
ヲ爲サルノデアリマスカ、此ヤリ方ニ憤慨致
シタ、豫テカラ憐レナル人々ノ世話ヲ燒イ
テ居タ方面委員諸君ガ運動ヲ起シマシク、
非常ニ大キナ犠牲ヲ拂ヒマシテ、其中ノ
人ハ東京デ到頭憤死シタデハナイカ、ノミ
ナラズ遂ニハ畏多クモ天皇陛下ノ御聖慮
ヲ煩シ奉ル上奏トナッタ、何ト云フ畏多イ
コトデアルカ、院ノ內外ヲ通ジテ、救護法ノ
實施ハ囂々タル輿論トナフタ、此輿論ノ聲ニ
民政黨ノ諸君ハ耳ヲ掩フテ反對ヲセラレル
ノデアルカ(「誰ガ反對シタ」ト呼フ者アリ)
反對シテ居ルノデナイ····
〔「誰モ反對シナイ」ト呼ヒ其他發言ス
ル各多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=81
-
082・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=82
-
083・森本一雄
○森本一雄君(續) 民政黨ガ救護法ヲ何時
カラ實施スルカト云フコトニ、今ヤ天下ノ
耳目ガ集中シテ居リマス、然ルニ拘ラズ昭
和七年ノ一月カラ之ヲ實行スル、十箇月先
ニ之ヲ實行スル、而モ重ネテ申ス財源ハ捻
出中ダト云フ、捻出中ダト云フコトデハ
捻出出來ナカッタラ仕方ガナイト云フコト
ニナルデハナイカ、是デハ昨年十月吾々ガ
井上大藏大臣ヲ官邸ニ訪問シタ時ノ答辯
ト同シデアル、何ノ進步モナイ、耳カラ聞
ケバ如何ニモ實行スルガ如ク聞エルケレド
モ、速記錄デ讀ンデ見ルト、井上、安達兩君
ノ答辯ハ、常ニサウ云フ考ヲ持ッテ居ルト云
る、曖昧ナ拔ケ路ノアル答辯トナッテ居ル、
私共ハサウ云フヤウナ不誠實ナ答辯ヲ聽
イテ滿足シテ居ル譯ニハ參ラヌノデアリマ
ス(發言スル者多シ)下等ナコトヲ仰シヤラ
ヌ方ガ宜シイ、御人格ニ關ハル-私ガ救
護法實施促進ニ關スル決議案ヲ緊急上程政
シマスノハ固ヨリ吾々ガ主張スル、之ヲ
實行スルナラバ、公約通リ遲レタリト雖
モ昭和六年ノ年度初カラ實行セラレテ、其
豫算ハ四百万圓ヲ一文モ削ッテハナラヌノ
デアリマス之ヲ主張スルト共ニ、政府ガ
曖昧ナルコトヲ院外ニ宣傳ヲスルコトヲ止
又六、院內ニ於テ明確ニ其態度ヲ公式ニ發
表セシメル機會ヲ政府ニ與ヘル譯ニナリマ
スカラ、民政黨ノ諸君モ願クハ本案ニ御贊
成アランコトヲ希望致シマス動議ハ討論
ヲ用ヒズシテ採決セラレルノデアルカラ、
隨テ贊否ノ意見ハ述ベラレヌノダカラ分リ
マセヌケレドモ、此動議ダケハ御反對ニナ
ル方々ハ政府ノ昭和七年ノ一月カラ實行
スルト云フ極メテ曖昧ナル答辯ヲ支持ス
ルモノデアッテ、是ハ明カニ救護法ノ實施其
モノニモ反對スルト云フ結果ニナルト云フ
コトヲ御忘レナク、愼重ナル態度ヲ以テ贊
否ヲ決セラレンコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=83
-
084・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 採決致シマス、森
本君ノ動議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ望ミマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=84
-
085・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 起立少數デアリマ
ス動議ハ否決セラレマシタ-作田高太
郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=85
-
086・作田高太郎
○作田高太郞君 議事日程變更ノ動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際日程第九ノ審議ニ入
ラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=86
-
087・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=87
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088・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
きく、日程第九、中央卸賣市場法中改正法
律案ノ第一讀會ヲ開キマス、提出者ノ趣旨
辯明ヲ許シマス、提出者藤田若水君
第九中央卸賣市場法中改正法律案
(藤田若水君外四名提出)第一讀會
中央卸賣市場法中改正法律案
中央卸賣市場法中左ノ通改正ス
第三條第三號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
四生產者及荷主自ラ卸賣ノ業務ヲ爲
ス場合ニ關スル規定
第十條ノ二地方長官前條ノ許可ヲ爲ス
場合ニ於テハ開設者ノ意見ヲ聞キ其ノ
卸賣人ノ員數ヲ制限スルコトヲ得
第十條ノ三地方長官ハ中央卸賣市場ニ
於ケル取扱品ノ生產者及荷主ヨリ要求
アルトキハ其ノ取扱品ノ共同販賣ヲ許
可スヘシ
第十一條中「前條」ヲ「第十條」ニ改ム
〔藤田若水君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=88
-
089・藤田若水
○藤田若水君 私ノ外四君ト共ニ提案致シ
マシタル中央卸賣市場法中改正法律案ノ提
案ノ理由ヲ說明致シマス、時間ガ延ビマシ
テ、大變諸君ノ御迷惑ノヤウニ御見受ケ致
シマスルカラ、遠慮シタイト思ウタノデア
リマスケレドモ、議員提出ノ議案ハ何時モ
政府案ノ後デ議セラレルコトニナリマスル
カラ、遠慮致シテ居リマスルト遂ニハ提
案ノ理由ヲ說明スル機會ガナクナル關係ニ
ナリマスカラ、御迷惑デアリマシタケレド
モ、押シテ登壇ヲ致シマシタ次第デアリマ
ス、簡明ニ申上ゲテ置キマスルカラ、暫時
ノ間御辛棒ヲ願ヒタイノデアリマス
中央卸賣市場法ト中シマスルト、何ダカ
市場問題デ、全ク國民ノ生活ニハ交渉ノ薄
イ問題ノヤウナ風ニ見エテ居ルノデアリマ
ス併ナガラ御案内ノ如ク、大都市ニ中央
卸賣市場ヲ造リマシテ、サウシテ消費
者-市民ニ對シテ生產者ガ生產シタルモ
ノヲ持シテ參ッテ、是等ノ必需食品ノ配給ヲ
致シマスル所ノ、其配給機關ノ問題デアリ
マスルガ故ニ、生產者カラ申シマスト寧ロ
我國ノ農民、漁民、是等ノ全體ノ問題デ、
實ニ重要ナ問題デアリマス、申シマスルマ
デモナク、生產ノ目的ハ販賣上ノ效果ヲ收
メテ、始メテ其目的ヲ達成スルノデアリマ
スルガ故ニ、殊ニ今日ノ如ク生產原價ヲ割
ルガ如キ所ノ價格シカ得ラレナイヤウナ極
端ナ不況時代ニ於キマシテハ、斯ノ如キ間
題コソ、最モ緊急ニ〓究ヲ致サナケレバナ
ラヌ問題デアリマス、世人ハ此重要ナル中
央卸賣市場ノ問題ヲ、殆ド閑却シテ顧ミナ
イヤウニ思ハレマスコトハ遺憾ニ存ジマ
ス、私共ガ此問題ヲ提ゲテ議場ニ立チマシ
タル所以ノモノハ大正十二年ニ此中央卸
賣市場法ヲ制定セラレマシタル其當時ト、
現在此中央卸賣市場法ヲ實施サレテ居リマ
スル京都市、將ニ實施セントスル大阪、橫
濱、更ニ進ンデハ東京市ガ行ハントシテ居
リマスル其實際ニ於テ、此法案ノ運用ノ
上ニ於テ、全ク生產者ノ希望ヲ裏切ッテ居
ルノデアリマス、六大都市中ノ名古屋市ノ
如キハ、中央卸賣市場法ノ實施ニ反對ヲ致
シマシテ、是ハ害ガアルト云フノデ、現
決議ヲシテ反對ヲ致シテ居ルト云フ實狀デ
アリマス、諸君、中央卸賣市場ノ中樞機能
タル、卸賣人ヲ中央卸賣市場ニ收容サレル
ニ當リマシテ、在來ノ問屋卽チ卸賣人ノ業
務ヲ爲スモノニ單一ノ會社ヲ作ラシ
メテ、其單一ナル卸賣業ヲ爲ス會社ヲ收
容致シマシテ、卽チ單一ノ卸賣人ヲ
以テ之ヲ埋メテシマッテ居リマスカラ
生產者ガ消費都市ニ持ッテ來テ生產物
ヲ處分致シマスル上ニ於テ、其單一ノ卸賣
人タル會社ノ手ヲ經ナケレバ、消費者ニ之
ヲ配給スルコトガ出來ヌト云フコトスニナッ
テシマッテ參ッタノデアリマス、申上ゲマス
ルマデモナク、生產者カラ消費者ヘ生產
シタルモノヲ直接ニ配給致シマシテ、始メ
テ消費者タル所ノ多數ノ市民モ、新鮮善良
ナ、安價ナルモノヲ消費スルコトモ出來ル
シ生產者ハ又其販賣上ノ效果ヲ十分ニ收
メルコトガ出來ルノデアリマス、現在ノ中
央卸賣市場ハ其目的ニ遠ザカラシムルヤ
ウニ、單一ノ問屋タル中間商人ノ獨占スル
ヤウナ形ニナッテシマッテ居ルノデアリマ
ス、學者ノ間ニ於キマシテモ、中央卸賣市
場ニ於ケル卸賣人ハ、單數ニスベキカ、複
數ニスベキカト云フコトニ付キマシテハ論
議サレテ居リ、實際家ノ間ニモ議論ガ圖ハ
サレテ居ルノデアリマスガ、本法ヲ制定セ
ラレタル時ハ卸賣人複數制ヲ採用シ居リ
タルニ拘ラズ、實際ハ法律ヲ制定シタル時
ノ希望ヲ裏切ッテシマッテ居ルノデアリマ
ス、本法制定當時ノ本法審議ノ委員會、卽
チ貴族院ニ於テ大正十二年三月十二日ノ委
員會ニ於キマシテ委員伊澤多喜男君ノ質
問ニ對シテ、政府委員田島勝太郞君ノ答辯
ノ一節ヲ玆ニ引用致シテ置キタイノデアリ
マス、「一地區ニ對シテ其市場ノ營業者ガ單
數デアルカ複數デアルカト云フコトニ付テ
モ農商務省ニ於キマシテハ餘程昔カラ論議
サレテ居ルノデアリマス、殊ニ魚市場ト云
フモノノ以前其要項ガ調査委員會ニ付議セ
ラレマシタ際ニモ、其議論ガ非常ニ喧シカッ
タノデアリマス、ソレデ結局〓究ノ結果、
營業者ハ一營業者主義ヲ取ルト云フコト
ハ非常ニ荷物ヲ集メル上ニ困ルソレデ
數營業デナケレバナラヌ、數營業者主義デ
ナケレバナラヌト云フヤウナコトニ、略議
論ガ一致致シテ、其數營業主義ヲ條文ノ上
ニ書クノガ良カッタカモ知レマセヌガ、第十
條ニ於テ地方長官ノ許可ヲ受ケタル者ハ中
央卸賣市場ニ於テ卸賣ノ業務ヲ爲スコトヲ
得ト云フ規定ニ依リマシテ、其數營業主義
デアルコトガ明ニ條文ノ上ニ現ハルヽノデ
アルト云フコトヲ認メテ宜シイ、斯ウ云フ
ヤウニ考ヘテ第十條ガ出來タ、ソレデ一寸
表面カラ申シマスト、先刻來ノ答辯ガ十分
ニ現レテ居ナイヤウニ見エマスケレドモ
大體第一條ト第十條ト綜合致シマスレバ
其趣旨ハ明ニナル積リデゴザイマス」、斯樣
ニ中央市場法ヲ制定致シマシタ當時ニハ、
政府ハ此卸賣人ノ問題ニ付テハ複數制度ヲ
取ッテ法律ヲ立テタノデアリマス、然ルニ實
際ニ於キマシテハ、單數ノ制度ヲ取ッテ居リ
マス爲ニ、現ニ京都ノ如キモノハ弊害百出
デアリマス(「簡單々々」ト呼フ)簡單ト云フ
聲ヲ聞キマスケレドモ、生產者ノ實際ノ立
場カラ言ッテ、農民ノ實際ノ立場カラ言ッテ、
其生產物ノ處分ヲ致シマスル上ニ於テ非常
ニ不利不便ナコトニナッテ居リ、單一ノ卸賣
人ニ依リテ亂暴ナル取扱ヲ受ケテ居ルモノ
ハナイノデアリマスルガ故ニ、此弊害ヲ直
ス爲ニ私ハ本案ヲ提出シテ、議場ニ訴ヘル
必要ヲ痛感シテ居ルノデアリマス、暫時御
辛棒ヲ願ヒマス
諸君、中央卸賣市場法ハ都市ノ消費者
ト都市外ノ生產者ノ利益ヲ擁護スル目
的ノ爲ニ制定セラレタル所ノ法律デアリ
マスルニ拘ラズ、生產者消費者ノ中間ニ
介在スル所ノ卸賣人、其內容ハ在來ノ問
屋ガ集シテ自己ノ營業權ヲ評價シテ、所謂
權利株ニ依ッテ作ッタ所メ單一ノ法人會社、
卽チ法人問屋ト云フモノヽ利益ヲ擁護シ
テ、生產者ノ利益ヲ蹂躪シ、隨テ又消費者
タル市民ガ高價ナルモノヲ配給セラレナケ
レバナラヌト云フ、誠ニ迷惑千萬ナル結果
ヲ招來シテ居ルノデアリマス、衆議院ニ於
キマシテ此法案ヲ審議シタル委員會ニ於キ
マシテモ、鶴見政府委員ハ當時ノ特別委員
タル作間耕逸君ノ質問ニ對シマシテ、生產
者ノ市場進出、卽チ共同販賣ヲ許ス方針デ
アルト、斯樣ニ明言ヲ致シテ居ルノデアリ
マス、然ルニ實際ニ於テハ生產者ノ市場進
出ヲ認メラレズ、該法ノ條文ニ徵シマシテ
モ、左樣ナ途ヲ開ケテナイノデアリマス
斯樣ナ次第デアリマスル上ニ、元來此法律
ノ出來マシタ時分ハ歐洲大戰ノ後、好況時
代ノ惰力ヲ受ケテ居ッタ時デアリマスカラ、
或ハ買占賣惜ト云フヤウナ弊害ヲ制スル必
要モアッタノデアリマシタケレドモ、諸君御
承知ノ如ク、農村ノ現狀ガ極端ニ疲弊困態
ヲ致シテ居リマス漁業者ノ如キモノモ本
法制定當時ニ比シマスレバ鮮魚ハ甚シキハ
七割位モ價額ハ下落致シマシテ、價格ガ生
產原價ヲ償フ能ハザルヤウナ狀態ニ相成ッ
テ居ルノデアリマス、サウ云フ事情ニナッテ
居ルニ拘ラズ、本法實施ノ結果ハ單ニ生產
者荷主ヲシテ販賣ノ自由ヲ剝奪シ拘束シ
タニ止ッテ居ルノデアリマス、消費者モ利ス
ル所ガナケレバ、生產者モ頗ル迷惑ナ狀態
ニ置カレ居リマス、何ト申シマシテモ生產
品ノ價格ガ生產原價ヲ割ルヤウナ不況ナル
現時ニ於キマシテハ、販賣方法ノ改善ハ生產
者ノ死命ヲ制スル所ノ眞ニ重大ナル問題デ
アリマス、此問題ヲ解決スル爲ニハ中央市
場ニ對シマシテ、生產者自ラ進出シテ自己
ノ責任ヲ以テ、自己ノ信賴スル使用人ヲ以
テ、自ラ其生產品ヲ消費者ニ配給スルト云
フ所ノ方法ヲ許スヨリ外ニ、適當ナル途ハ
ナイト信ズルノデアリマス、故ニ私ハ此中
央卸賣市場法中ノ條文ヲ改正致シマシテ、
生產者荷主ガ共同販賣ヲ爲スコトヲ要求致
シタ時ハ之レガ許可セラルヽヤウニ本法
規ヲ改正シテ、サウシテ只今申述ベタル如
ク、立法當時ノ精神ヲ無視シテ、開設者ガ
勝手三味ニ此中央卸賣市場ニ於ケル中樞機
關デアル卸賣人ヲ單一ト爲シテ、之ニ中央
卸賣市場ヲ獨占セシメ、是ヨリ生ズル百般ノ
獨占橫暴ノ弊ヲ制セントスルノガ本法改
正ノ眞目的デアリマス、生產者ノ利益ヲ擁
護スル、生產者ノ利益ヲ擁護スルコトハ直
チニ以テ消費者全體ヲ利スル所以デアリマ
ス、斯樣ナ趣旨ニ依リマシテ此法案ヲ提出
致シタノデアリマス、提案ノ理由ヲ盡シマ
セヌガ、極ク大體ヲ申上ゲマシテ他ハ總テ
委員會ニ讓リマス、何卒御贊成ヲ希望致シ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=89
-
090・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 本案ニ質疑ハアリ
マセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=90
-
091・作田高太郎
○作田高太郞君 本案ハ議長指名九名ノ委
員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=91
-
092・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 作田君ノ動機ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=92
-
093・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナイト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=93
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094・作田高太郎
○作田高太郞君 議事日程變更ノ動議ヲ提
出致シマス、卽チ日程ノ順序ヲ變更シ、此
際日程第十三及ビ第十四ヲ繰上ゲ上程シ、
其審議ヲ進メラレムコトヲ希望シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=94
-
095・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=95
-
096・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク日程ハ變更サレマシ
ク、日程第十三、第十四ハ同種ノ議案デア
リマス、一括議題ト爲スニ御異議アリマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=96
-
097・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
マく、仍テ日程第十三、鑛業法中改正法律
案、第十四、鑛業法中改正法律案、二案ヲ
一括シテ第一讀會ヲ開キマス、順次提出者
ノ趣旨辯明ヲ許シマス、第十三、提出者大
里廣次郞君
第十三鑛業法中改正法律案(大里廣
次郞君外三十七名提出)第一讀會
鑛業法中改正法律案
鑛業法中左ノ通改正ス
第八十五條中「百分ノ一」ヲ「千分ノ五」ニ
改ム
第八十八條第一項ヲ左ノ如ク改ム
北海道、府縣及市町村ハ鑛業稅ニ對シ
各左ノ制限內ノ附加稅ヲ課スルコトヲ
得
一北海道、府縣
試掘鑛區稅千分ノ三十
採掘鑛區稅千分ノ七十
鑛產稅千分ノ二百
二市町村
試掘鑛區稅千分ノ三十
採掘鑛區稅千分ノ七十
鑛產稅千分ノ千二百
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四鑛業法中改正法律案(坂井大
輔君外二名提出)第一讀會
鑛業法中改正法律案
鑛業法中左ノ通改正ス
第八十二條削除
第八十五條中「百分ノ一」ヲ「千分ノ五」ニ
改ム
第八十八條第一項ヲ左ノ如ク改ム
北海道、府縣及市町村ハ鑛業稅ニ對シ
各左ノ制限以內ノ附加稅ヲ課スルコト
ヲ得
一北海道、府縣
試掘鑛區稅千分ノ三十
採掘鑛區稅千分ノ七十
鑛產稅千分ノ二百
二市町村
試掘鑛區稅千分ノ三十
採掘鑛區稅千分ノ七十
鑛產稅千分ノ千二百
同條第三項ヲ左ノ如ク改ム
前二項ノ規定ハ町村制ヲ施行セサル地
ニ於テハ町村ニ準スヘキモノニ之ヲ準
用ス
〔大里廣次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=97
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098・大里廣次郎
○大里廣次郞君 時間ガ切迫致シマシテ誠
ニ恐縮デアリマスケレドモ、折角提案ニナツ
タモノデアリマスカラ、暫ク御〓聽ヲ願ヒ
マリ。只今上程ニナリマシタル鑛業法中改
正法律案ニ付テハ、私ハ其提出者ノ一人ト致
シマシテ、極メテ率直ニ提案ノ理由ヲ申
述ベマス、誰シモ全國ノ鑛業所在地ノ市町
村ヲ一瞥ヲ致シマスルト、アノ盛ナル煙筒
ノ煙ヤ、或ハ人家ノ稠密、或ハ家屋ノ濫立、
其他頻繁ナ車馬ノ交通等ヲ見マスト、其
地方ハ如何ニモ繁榮デアルカノヤウニ思ハ
レルノデアリマスガ、隨テ是等ノ市町村ガ
其財政經濟ニ於キマシテモ、頗ル順調ノ
ヤウニ考ヘラレルノデアリマス、併ナガラ
其實狀ヲ親シク調査〓究致シマスルト、全
ク之ヲ裏切リマシテ、此考ハ正反對デアリ
マス、卽チ是等ノ市町村ノ財政ハ窮迫致シ、
財源ハ枯渴致シテ居ルノデアリマス、サウ
シテ私共ノ想像ダモ及バザル程此市町村ノ
疲弊困憊シテ居ルコトヲ遺憾ニ思フノデア
リマス、何トナレバ是等市町村ニ一度採鑛
事業ガ始メラレマスルト云フト、嘗テ農村、
山村、漁村デアリマシタ所ハ、此採鑛事業
ノ爲ニ累年發展致シマシテ、全國カラ多數
ノ勞働者ガ入ッテ參ルノデアリマス、此多數
ノ勞務者ヲ相手ト致シマシテ、薄弱ナル所
ノ資本ニ依ッテ居リマスル商工業者ガ、又多
數集合致シテ參ルノデアリマス、其結果ト
致シマシテ、是等ノ村落ハ一躍シテ其人口
戶數ガ激增スルノデアリマス隨テ其結果
ト致シマシテ、其町村ニハ多數ノ就學兒童
ガ殖エテ參ルノデアリマス、此增加致シマス
ル所ノ兒童ハ、先ヅ第一ニ〓育費ニ少カラ
ヌ經費ヲ喰フノデアリマス卽チ學級數ノ
增加、或ハ學校ノ新築或ハ增築等、莫大ノ
〓育費ヲ要スルノデアリマス、又衞生方面
カラ申シマシテモ多クノ人ガ入リ込ムノ
デアリマスカラ、非常ニ不衞生ニナリマシ
テ此方面ニモ少カラヌ費用ガ要ルノデア
リマス、或ハ社會事業、或ハ役場費、或ハ
土木費、幾多ノ方面ニ非常ナ金ガ要ルノデ
アリマス、其結果ハ鑛業所在地ノ市町村ノ
經費ガ著シク膨脹累加致シマシテ、到底昔
ノ貧弱ナル市町村トハ比較ニナラナイノデ
アリマス斯ノ如クシテ增加致シマシタル
所ノ住民ノ多數ハ、前申述ベマスルヤウニ
學童ヲ澤山增スノデアリマスガ、其主體ハ主
ニ勞働者デアリマス、或ハ薄弱ナル所ノ商
工業者デアリマス、隨テ是等ノ人々ハ公租
公課ニ對スル所ノ負擔力ト云フモノハ非常
ニ薄弱デアリマス、故ニ是等ノ市町村ハ益〓
其財政ニハ窮迫ヲ訴ヘテ來ルノデアリマ
ス、サウシテ財源ハ枯渴致シマシテ、是等
ノ財源ニ對シテハ他ニ求ムルノ方法ガナイ
ノデアリマス、故ニ從來カラ住居致シテ居
ル村民ガ其負擔ヲ擔ハナケレバナラヌ結果
ヲ見ルノデアリマス、其爲ニ從來ノ住民ノ
悲慘ナル狀態ハ、吾々到底筆舌ヲ以テ之ヲ
描寫スルコトハ出來ナイノデアリマス、洵
ニ此地方ニ居リマシテ實際ヲ目擊スル私共
トシテハ、氣ノ毒ニ堪ヘナイ次第デアリマ
ス
尙ホ衞生狀態ガ惡クナルバカリデナクシ
テ、此地方ノ折角善良ナル所ノ住民ハ數
多全國カラ集リマスル所ノ勞働者ニ依リマ
シテ、思想ノ上ニ非常ナ變化ヲ來スノデア
リマス、卽チ炭坑地方ノ人氣ノ惡イト云フ
コトハ皆樣御承知ノ通リデアリマス、斯
ノ如クシテ思想ノ上ニ大影響ヲ來シマスル
ト云フコトハ大ニ考ヘナケレバナラヌコ
トデアル、更ニ土地ノ陷落或ハ不毛、灌漑
用水ノ缺乏、或ハ飮料水ノ涸渴、或ハ河川
其他ノ毒物ノ爲ニ汚サレルト云フコトハ
實ニ氣ノ毒ナモノデアリマシテ、是等ノ損
害モ亦甚ダ甚大ナモノデアリマス、言葉ヲ
換ヘテ申シマスルト云フト、是等鑛業地ノ
町村ハ智育ノ上ニ於キマシテモ、又體育
ノ上ニ於キマシテモ、將タ德育ノ上ニ於キ
マシテモ、尠カラヌ所ノ損害ヲ見テ居ルノ
デアリマス
元來是等市町村ノ天惠ニ因ル所ノ產物ニ
對シマスル租稅ノ收入ニ至リマシテハ當
然國家ガ其多數ヲ徴收シ、更ニ市町村ニモ
其恩惠ヲ與ヘナケレバナラヌノデアリマス
ルガ、實際ニ於キマシテハ、國家ガ其收入
ヲ得ルコトモ少ク、隨テ市町村ニ與ヘル所
ノ附加稅モ非常ニ少ナイノデアリマス、此
點ガ最モ鑛業地ニ關係アル市町村トシテ苦
痛遺憾トスル所デアリマス隨テ鑛業關係
ノ市町村ハ、國家ニ對シマシテ是ガ救濟ヲ
仰ガナケレバナラヌト云フコトハ當然ノ歸
結デアルト、私ハ固ク信ジテ疑ハナイノデ
アリマス、御承知ノ通リ現行鑛業法ハ明治
三十八年ノ制定デアリマシテ、其當時ハ尙
ホ鑛業權者ヲ保護致シ、國家ト致シマシテ
ハ鑛業ヲ助長スルノ急務ヲ認メテ居ッタノ
デアリマス、其結果關係市町村、或ハ其住
民ノ利害ヲ輕視スルノ傾向ガアッタノデア
リマス、爾來是等鑛業地ハ其鑛業ニ起因ス
ル所ノ土地ノ陷落、或ハ用水ノ缺乏、飮料
水ノ涸渴、鑛毒ノ損害、民情ノ破壞、其他
公益上看過スルコトノ出來ナイ幾多ノ直接
間接ノ被害ヲ受ケテ居ルニモ拘ラズ、其解
決ニ方リマシテ頗ル困難ヲ感ジテ居ル現狀
デアリマス、特ニ此鑛業稅ニ關スル規定ト
云フモノハ、總テ鑛業法中ニアルノデアリ
マスルガ故ニ、他ノ諸稅法ハ時勢ノ變遷ニ
從ヒマシテ稅率ノ增加、其他必要ナル改正
ガ行ハレテ居ルニモ拘ラズ、此法律ノ稅率
及ビ規定ハ三十年間依然トシテ今日ニ及ン
デ居ルノデアリマス、今現行鑛業法ニ依ル規定
ノ〓要ヲ摘ンデ申述ベマスルト云フト、其
第八十二條ニ依リマスレバ、鑛業權者ニハ其
鑛業ニ付テ營業稅及ビ營業收益稅ヲ賦課シ
得ナイノデアリマス、而シテ鑛業ニ關スル國
稅ハ僅少ノ試掘稅、採掘稅ノ外ニ、年額
僅ニ三百十七万餘圓ノ鑛產稅、卽チ鑛業法
第八十五條ニ依リマシテ鑛產物價格ノ百分
ノ一ガ賦課スルコトヲ許サレテ居ルニ過ギ
ヌノデアリマス、又地方稅ニ付キマシテモ
其第八十八條ニ依リマシテ、北海道、府縣
及ビ市町村ハ、鑛產稅ニ對シテハ百分ノ二
+、試掘稅ニ對シテハ百分ノ三、ソレカラ
採掘稅ニハ百分ノ七以内ノ課稅シカ出來ナ
イノデアリマス、更ニ北海道或ハ府縣、市
町村ハ鑛業ニ對シマシテ、又ハ坑夫、鑛產
物鑛區若クハ鑛業用ノ工作物器具機械等
ヲ標準トシテハ課稅スルコトガ出來ナイノ
デアリマス、又鑛業ニ關スル家屋稅ト云フ
モノハ市町村ニ賦課スルコトハ許サレテ
居ラナイノデアリマス、更ニ昭和二年所得
稅法ノ改正ニ依リマシテ、鑛業所得ニ對シ
マシテハ、多少ノ除外例ハアリマスルケレド
モ、所得稅ノ附加稅ハ賦課スルコトガ出來
ナイノデアリマス、是等ヲ以テモ如何ニ國
家ガ國稅ニ付テノミナラズ、更ニ地方稅ニ
付テモ鑛業權者ノ保護ノ爲ニ、周到ナル制
限ヲ爲シタルカヲ窺知スルコトガ出來ルノ
デアリマス
是等ノ事情ハ直チニ關係市町村ノ公課公
租ニ關係致シマシテ、其收入ハ人口戶數ノ
增加ニ依ッテ却テ減少スルノ傾ガアルノデ
アリマス、此關係ヲ多クノ人ハ全國ノ一局
部デナイカト申サレマスルガ、非常ニ是ハ
間違ッテ居ルノデアリマシテ、共關係ハ一道
一府四十餘縣ニ亙ッテ居ルノデアリマス·····
〔「簡單々々」其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=98
-
099・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=99
-
100・大里廣次郎
○大里廣次郞君(續) 例ヘバ北海道、岩手、
秋田福島、茨城、栃木、新潟、靜岡、石
川、兵庫、岡山、愛媛、香川、山口、福岡、
佐賀長崎、熊本、大分、沖繩、斯樣ニ關
係ガアルノデアリマス、(「簡單々々」「委員
會デヤレ」其他發言スル者多シ)
今時間ヲ省略致シマスル爲ニ極ク簡單ニ
申シマスレバ、鑛業權者ハ鑛業用地トシテ、
其他大ナル耕地ヲ買收シテ之ヲ不毛地ナラ
シメル結果、其不毛地ニ對シテノ課稅ガ出
來ナクナルノデアリマス、又農產物ノ減收
ニ依リマシテ住民ノ被害ガ甚シイノデアリ
マスカラ、其結果課稅ノ上ニ少カラズ損害
ヲ來スノデアリマス、又鑛業權者ノ多クハ
都會地ニ住居シテ居リマス、例ヘバ三井、
二四、古河、住友ノ如キハ、悉ク都會地ニ
居ル、其爲ニ市町村ニ於テハ課稅ガ出來ナ
イノデアリマス、ソレカラ電柱稅ニ對シマ
シテモ··
〔「議長、定數ガアリマスカ」其他發言
スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=100
-
101・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 暫ク靜肅ニ願ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=101
-
102・大里廣次郎
○大里廣次郞君(續) 電柱稅ニ對シテモ、
市町村ハ他ノ會社ニハ一本ニ付キ二圓乃至
四圓五十錢ノ電柱稅ヲ課シテ居ルノデアリ
マスガ、鑛業用ノ電柱ニハ鑛業法ノ規定ニ
依ッテ課稅ガ禁止セラレテ居ルノデアリマ
ス、ソレカラ近頃世間ノ一般ノ不況カラ、
鑛業權者ハ各、其鑛業地ニ購買組合ヲ設ケ
テ漸次規模ヲ擴大シ、物品ノ種類ヲ增加
スル爲メ、從前ヨリ所謂賣勘場ト稱スル小
商工業者ハ殆ド共營業權ヲ奪ハレ、生活
上ノ危厄ニ遭ヒ、其反面ニハ市町村ノ財源
ニ大ナル影響ヲ及ボシテ居ル實情デアリマ
ス(「定足數ヲ缺イテ居ル」ト呼フ者アリ)簡
單ニヤリマス-福岡縣嘉穗郡穗波村ト北
海道ノタ張ニ付キマシテハ其詳シキ統計
ガアルノデアリマスケレドモ、是ハ時間ヲ
尊重致シマシテ、議長ノ御許シヲ得マシテ
速記錄ニ挿入スルコトニ致シマシテ省キマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=102
-
103・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 大里君、ドウデス
カ.発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=103
-
104・大里廣次郎
○大里廣次郞君(續) モウ直キ濟ミマス、
畢竟スルニ鑛業地ニ於キマシテハ天惠ノ
鑛產物ニ對スル稅收入ハ、其市町村ニ於テ
是ガ恩澤ニ均霑セラルベキ筈デアリナガ
ラ、現行法ハ國家ガ之ヲ徵收致シマシテ、
何等其市町村ヲ顧ミザルガ如キ實情ニアリ
マスコトハ、實ニ爲政者トシテハ大ニ考慮
センケレバナラヌト思フノデアリマス、此
因果關係ハ彼ノ吳、佐世保、八幡市ノ如キ、
官業勞働都市トシテ國家ガ相當ノ交付金、
卽チ助成金ヲ交付シテ居ルノデアル、例
バ八幡市ノ如キ每年五十万圓ヲ與ヘテ居ル
ノデアリマス、是ハ假令官業デアルト民業
デアルトノ差ハアリマスルガ、全ク同一ノ
關係デアリマスル所ノ是等市町村ノ經濟
上、速ニ救助セズシテ顧ミナイ如キハ、實
ニ矛盾撞著モ亦甚シイモノト言ハネバナラ
ヌノデアリマス、此點ハ從來鑛業地市町村
トシテ頗ル遺憾トスル所デアルノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=104
-
105・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 結論ヲ言ハレタラ
ドウデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=105
-
106・大里廣次郎
○大里廣次郞君(續) モウ直グ濟ミマ
ス-要スルニ現在全國四十二道府縣ニ於
ケル市町村ハ其經濟狀態ニ於キマシテ斯
ノ如キ塗炭ノ苦ミニアルノデアリマスカ
ラ、國家ニ對シマシテ數年來是ガ救濟ヲ仰
グベク〓望シテ居ルノハ當然デアリマス
(「定足數ヲ缺イテ居ル」其他發言スル者多
シ)今假ニ鑛產稅總額三百十六万餘圓ヲ全
部關係市町村ニ委讓シテ戴イテモ、採炭地
ノ被ムル負擔金ノ九割ヲ補充スルニ過ギナ
イノデアリマスカラ、今其半額百六十餘万
圓ヲ、此法律ノ改正ニ依リマシテ關係市町
村ニ助成交付セラルヽコトハ、當然ノ歸結
デアリマス、斯ノ如クシテ玆ニ初メテ是等
市町村ノ財政經濟ハ緩和セラレマシテ自
治體ノ體面ヲ維持シ、更ニ鑛業權者ノ融和
ヲ圖リ、以テ眞ニ共存共榮ノ實ヲ擧ゲ、我
國產業ノ發展ヲ見ルコトヲ得、初メテ圓滿
幸福ナル自治體ノ發達ヲ圖ルコトヲ得ルト
思フノデアリマス、而シテ此法律改正ノ主
要點ハ、鑛產稅ノ半額ダケヲ關係地方ニ委
讓交付シテ、其市町村ノ財政ヲ救助スルノ
デアリマシテ、是ガ實施ハ我國現在ノ財政
經濟ノ狀態ヲ考慮シマシテ、最モ近キ將來
ニ於テ勅令ヲ以テ實行セラルヽモノト固ク
信ジテ居ルノデアリマス、固ヨリ此點ニ付
テハ現政府トノ間ニ十分ナル諒解ヲ得テ居
ルノデアリマス
尙ホ此法案ハ既ニ昭和四年三月、卽チ第
五十六議會ニ於テ、田中內閣ヨリ政府案ト
シテ提出セラレマシテ、衆議院ハ多數ヲ以
テ通過致シマシタガ、貴族院ニ於テ審議未
了トナリマシタコトハ洵ニ遺憾デアリマシ
タ(「議長々々」其他發言スル者多シ)玆ニ我
ガ民政黨ハ殆ド黨議トシテ、私共三十八名
ノ者ガ提案者トナリ、更ニ二百數十名ノ贊
成者ヲ得マシテ、尙ホ政友會ニ於カセラレ
マシテモ同一ノ目的ノ爲ニ、先輩坂井大輔
君外二名ノ方ガ提案者トナリ、所謂超政黨
的ノ問題トシテ提案セラレテ居ルノデアリ
マス·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=106
-
107・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 定足數ヲ缺クノ虞
ガアリマスカラ、本日ハ是ニテ散會致シマ
ス
午後七時十三分散會
大里廣次郞君演說參照
北海道夕張町財政狀態調(昭和四年
度調)
一、人口五〇、一二三人
內譯
鑛業關係ノ者三八、三二五人
其ノ他ノ者一一、七九八人
ニ、學齡兒童總數九、二二〇人
內譯
鑛業關係者ノ子弟六、九五二人
其ノ他ノ子弟二、二六八人
三、特別稅戶數割賦課戶數九、九六六戶
內譯
鑛業從事者(社員鑛夫)七、八二八戶
其ノ他ノ者二、一三八戶
四、收入總額三五九、八三一圓
內譯
鑛業權者負擔二八、九〇八圓
鑛業從事者七、八二八戶ノ負
擔(一戶平均一三圓九九錢)
一〇九、五一五圓
三、其ノ他ノ者二、一三八戶ノ負
擔(一戶平均六四圓七〇錢)
三八、三五二圓
四、右以外ノ收入(財產收入國庫
下渡金補助金等々)八三、〇五六圓
五、支出總額ノ內鑛山所在スル爲メ
ニ要スル費用二六五、九二四圓
內譯
義務〓育費一六七、〇五七圓
衞生、土木、警備費等々九八、八六七圓
六鑛業關係者收支差引
收入不足額
第四項收入(一)(二)ノ負擔ト
比較シテ一二七、五〇一圓
第四項收入(一)(二)及(四)ヲ
戶數ニ割當シタル合計額ト比較
シテ六二、二五五圓
備考
右不足額六萬貳千餘圓ハ鑛業關係
者以外ノ小數ノ町住民ガ過重ニ負擔
スルモノナリ
ニ、若シ鑛產稅半額委讓セラルヽトキ
ハ(現在鑛產稅十六萬餘圓)約八萬圓
ノ增收トナリ鑛業從事者及其他ノ者
ノ負債總額貳拾四萬七千八百六拾七
圓ニ對シ約三分ノ一ニ該ル
此ノ割合ハ
鑛業從事者三五、三四〇圓
共ノ他ノ者四四、六六〇圓
三、右增收八萬圓ヲ全部負擔輕減ニ充
ツルトセハ現在鑛業從事者一戶平均
拾參圓九拾九錢ハ九圓四拾八錢ニ其
ノ他ノ者一戶平均六拾四圓七拾錢ハ
四拾參圓八拾參錢ニ輕減セラルベシ
然リト雖モ尙其ノ他ノ住民ハ壹萬七
千五百餘圓ヲ過重ニ負擔スルコトヽ
ナル
福岡縣嘉穂郡穂波村ノ實狀(昭和三
年度調)
一、人口參萬九千貳百拾參名
內譯
鑛業ニ從事スルモノ三〇、〇一一人
其以外ノモノ九、二〇二人
附記其ノ以外ノ人口中ニ副業トシテ
不定期鑛業ニ稼働ヲナスモノ相
當ノ數字ヲ算スルモ詳カナラズ
特別稅戶數割賦課戶數四、八三一戶
內譯
普通戶三、〇六八戶
納屋戶一、七六三戶
納屋戶數ハ總數四四〇八戶ナルモ筑
豐鑛山及關係町村トノ協定ニヨリ納
屋戶十分ノ四戶ヲ以テ普通戶一戶ニ
換算賦課スルモノナリ
一、義務〓育就學兒童數五、八九九人
內譯
鑛山關係者ノ子弟三、九二一人
其以外ノ者ノ子弟、九七八人
附記其ノ以外ノ人員中ニハ副業トシ
テ不定期鑛山稼働者相當ノ數字
ヲ算スルモ詳カナラズ
小學校費一二一、三一八圓八三〇
生徒一人當所要額
二〇圓五六錢六厘强
鑛山關係子弟所要額
八〇、六三九圓二八四
共ノ他ノ者ノ子弟所要額
四〇六七九圓五四六
一、納稅額一四二、〇一五圓三四〇
鑛山關係ニ依ル納稅額
四七、一九六圓一四〇
其他ノ納稅額九四、八一九圓二〇〇
昭和三年度支出決算額
二三四、九五一圓八〇〇
內譯
住民一人當所要額五圓九九一七弱
鑛山關係ニヨル所要費額
一七九、八一六圓五〇〇
其ノ他ノ所要費額
五五、一三五圓三〇〇
附記右所要費額ハ村費支出高ヲ總人
口ニヨリ按分シタルモノナリ
昭和三年度ニ於ケル鑛山ヨリ寄
附收入金貳萬參千圓也
如上ノ數字ヲ以テ按ズルニ炭坑關係
小學校兒童ニ要スル小學校費ト鑛山
ヨリ收入セル諸稅金トヲ對照スルニ
參萬參千四百四拾參圓餘ノ不足ヲ見
更ニ村費總支出額鑛山關係所要額拾
七萬九千八百拾六圓ト鑛山關係諸稅
收入額四萬七千百九拾六圓及同寄附
金貳萬參千圓合計七萬〇百九拾六圓
差引實ニ拾萬〇九百六拾貳圓ノ不足
ヲ表ハス所ナリ
衆議院議事速記錄第十四號中正誤
頁段行誤正
豫算審議延豫算審議延
二九九三三五期ニ關スル期ニ關スル
建議案決議案
三〇一三I lim其識意トヲ其誠意トヲ
衆議院議事速記錄第十六號中正誤
頁段行誤正
三六三四四山本厚三君ヲ削ル
三八〇一三〇蓄貯銀行法貯蓄銀行法
「第九號第「第九條第
同三一〇二項」ヲ「第二項」ヲ「第
九號第三九條第三
項項
三八六四二四昨年二月ノ昨二月ノ十
十八日八日発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01719310221&spkNum=107
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