1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和七年六月十日(金曜日)午前十時七分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第六號
昭和七年六月十日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第五日)
第二 請願委員長報告
第三 柳河軌道株式會社所屬軌道補償の爲公債發行に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 兌換銀行券條例中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第五 日本銀行納付金法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第六 日本銀行參與會法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第七 資本逃避防止法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第八 昭和七年法律第一號中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第九 昭和七年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十 行政整理又は軍備整理に際し退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十一 昭和七年度以降國債償還資金の繰入一部停止に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十二 國債の價額計算に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十三 恩給の減額補給及停止に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十四 絲價安定融資擔保生絲買收法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十五 絲價安定融資損失善後處理法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十六 大正十二年法律第五十二號中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第十七 國幣小社度津神社の改築に關する請願 會議
第十八 鮮魚の鐵道運賃低減に關する請願 會議
第十九 東海、黄海の機船底曳網漁業に關する請願 會議
第二十 山陽線鐵道倉敷、茶屋町兩驛間に省營自動車運轉の請願 會議
第二十一 佐賀縣肥前山口、長崎縣諫早間鐵道速成の請願 會議
第二十二 北陸線鐵道長濱驛改築の請願 會議
第二十三 葉煙草の賠償價格引上の請願 會議
第二十四 宮崎縣三財郵便局に集配事務開始の請願 會議
第二十五 廣島縣豐松郵便局、岡山縣平川郵便局間の通信施設に關する請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=0
-
001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ諸般ノ報
告ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
一昨八日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提
出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セリ
手形法案
昨九日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セ
リ
昭和七年度歲入歲出總豫算追加案(分)
號
昭和七年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案(特第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件
柳河軌道株式會社所屬軌道補償ノ爲公債
發行ニ關スル法律案
兌換銀行劵條例中改正法律案
日本銀行納付金法案
日本銀行參與會法案
資本逃避防止法案
昭和七年法律第一號中改正法律案
昭和七年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル
爲公債發行ニ關スル建議案
行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職シ
タル者等ニ交付スル公債發行ニ關スル法
律案
昭和七年度以降國債償還資金ノ繰入一部
停止ニ關スル法律案
國債ノ價額計算ニ關スル建議案
恩給ノ減額補給及停止ニ關スル法律案
絲價安定融資擔保生絲買收法案
絲價安定融資損失善後處理法案
同日衆議院ヨリ左ノ議案ヲ堤出セリ
大正十二年法律第五十二號中改正法律案
同日市町村義務〓育費國庫負擔法第三條ノ
特例ニ關スル法律案特別委員會ニ於テ當選
シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
委員長侯爵中御門經恭君
副委員長子爵東園基光君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=1
-
002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、大藏大臣高橋是〓君
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=2
-
003・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 諸君、今般內閣
ノ成立ニ際シ、不肖引續キ財政變理ノ重任
ニ膺ルコトトナリマシタ玆ニ昭和七年度
追加豫算ヲ說明イタシマスルコトハ、私ノ
最モ光榮トスル所デアリマス、昭和七年度
歲入歲出總豫算ハ衆議院解散ノ爲メ不成
立トナリマシタノデ、憲法ノ條章ニ基キ前
年度豫算ヲ施行セラルルコトトナリマシタ
ガ、前內閣ハ此施行豫算ノ範圍內ニ於テ實
行豫算ヲ編成シ、不成立豫算ニ計上シタル
事項竝ニ緊急ヲ要スル事項ニシテ施行豫算
ノ範圍內ニ於テ實行シ得べキモノハ成ルベ
ク之ヲ實行豫算ニ計上スルコトト致シマシ
タ、右ノ方針ニ依シテ作成イタシマシタ昭和
七年度ノ實行豫算ノ總額ハ歲入十三億七
千四百七十餘万圓、歲出十四億六千五十餘
万圓、歲入歲出差引八千五百八十餘万圓ノ
歲入不足トナッテ居リマス、此不足額ハ次ニ
述ベル追加豫算ノ歲入ヲ以テ補塡シ、施行豫
算ノ範圍內ニ於テ實行スルコトノ出來ナイ事
項ハ昭和七年度追加豫算トシテ議會ニ提
出スルコトトシ、共準備ヲ致シテ居フタノ
デアリマス、然ルニ今般內閣ノ更迭ヲ見ル
ニ至ッタ次第デアリマスガ、現內閣ニ於テモ前
內閣ノ作成シマシタ追加豫算ノ計畫ヲ以テ、
何レモ緊急措キ難キモノト認メマシテ、之ヲ
今議會ニ提出イタシタノデアリマス、而シテ
昭和七年度ノ歲入歲出總豫算追加トシテ計
上イタシマシタ金額ハ歲入四億百八十餘万
圓歲出三億百餘万圓、歲入歲出差引一億
七十餘万圓ノ歲入過剩ニナッテ居リマスガ、
此過剩額ハ前ニ述べマシタ實行豫算ニ於ケ
ル歲入不足額、竝ニ次ニ述べマスル實行豫
算增加ノ歲入不足額ヲ補塡スルモノデアリ
やく、此追加豫算ト共ニ實行豫算ノ增加ヲ
必要トスルモノガアリマシテ、其金額ハ歲
入ノ三百七十餘万圓、歲出千八百七十餘万
圓、歲入歲出差引千四百九十餘万圓ノ歲入
不足デアリマス、右三者ヲ通計シマシタ昭
和七年度實行豫算ノ總額ハ歲入歲出共ニ十
七億八千四十餘万圓トナリマス、昭和七年
度ノ實行豫算歲入ニ付テハ不成立豫算編
成後財界ノ事情ノ變化ニ伴ヒマシテ、歲入
豫算全部ニ亙リマシテ新ニ見積リヲ樹テ直
シマシタ外、別途提案イタシマシタ關稅ノ
改正ニ依ル增收等モアリマシテ、結局歲入
實行豫算ハ不成立豫算ニ比シテ、經常部ニ
於テ四千三百五十餘万圓ヲ增加シテ居リマ
ス、又歲入ノ臨時部ニ於テハ公共團體工事
費ノ納付金及分擔金ノ增加、竝ニ公債金ノ
增加、其他ノ增減ガアリマシテ、結局不成
立豫算ニ比シテ三億三千九百七十餘万圓ノ
增加トナッテ居リマス、次ニ歲出ニ付キマシ
テハ、前述ノ如ク實行豫算竝ニ追加豫算ノ總
額ハ、經常部ニ於テ十二億五百六十餘万圓、
臨時部ニ於テ五億七千四百七十餘万圓、合計
十七億八千四十万餘圓デアリマシテ、不成
立豫算ニ比較シテ三億八千三百三十餘万圓
ノ增加デアリマス、而シテ追加豫算中重モナ
ル事項ニ付テ略說シマスレバ滿洲事件ニ
要スル經費ニ付テハ第六十一議會ニ於テ
本年四月五月ノ兩月分ノ所要經費ニ付キ協
贊ヲ得タノデアリマスガ、今囘六月以降明
年一月マデニ要スル經費トシテ、陸軍省所
管ニ於テ六百五十餘万圓ヲ實行豫算ニ計上
シタル外ニ、外務省所管ニ於テ五百五十餘
万圓、陸軍省所管ニ於テ一億千七百七十餘
万圓、海軍省所管ニ於テ三千九百七十餘万
圓、大藏省所管ニ於テ豫備費トシテ二千万
圓、合計一億八千二百九十餘万圓ヲ一般會
計ノ追加豫算ニ計上イタシマシタ、尙ホ特
別會計ノ分トシテ朝鮮總督府ニ於テ三十餘
万圓、關東廳ニ於テ二百六十餘万圓、計二
百九十餘万圓ヲ特別會計ノ追加豫算ニ計上
イタシマシタ、以上一般會計、特別會計ヲ
合計シテ、六月以降滿洲事件費ノ總額ハ一
億九千二百五十餘万圓デアリマスガ、其財
源支辨ノ爲メ滿洲事件公債發行ノ限度ヲ增
額スルノ法律案ヲ別途ニ提案イタシマシタ、
失業ノ救濟竝ニ防止ニ付テハ、政府ハ產
業ヲ振興シ、土木事業ヲ興スヲ適當ト信ジ
マシテ、之ニ必要ナル計畫ヲ立テタノデア
リマス、卽チ河川改修、港灣修築及道路改
良等ノ大土木事業ヲ增加施行スルト同時
二、小麥ノ增殖奬勵其他農山漁村振興ノ爲
ニ、適切ナル各種ノ施設ヲ行フコトトシ、
之ニ要スル經費ヲ追加豫算ニ計上イタシマ
シタ、昭和七年度歲入ハ財界不況ノ爲メ著
シク減少スルニ拘ラズ、國務ノ運行ニ必要
ナル經費ノ支出ハ已ムベカラザルモノデア
リマスカラ、昭和七年度一般會計實行豫
算ニ於テハ多額ノ財源不足ヲ來シマスノ
デ、減債基金繰入ノ一部停止ヲ實行スル
ト同時ニ、現行ノ公債法ニ依ル事業公
債竝ニ滿洲事件公債ヲ發行スルノ外、
新ニ歲入補塡公債ヲ發行スルノ已ムヲ
得ザルニ至リマシタ、依テ是等ニ關スル法
律案ヲ別途提案イタシタ次第デアリマス、
而シテ昭和七年度ニ於テ歲出豫算ノ財源ト
シテ發行スル公債ノ額ハ、一般會計ニ於テ
電話事業公債、電信事業公債、震災善後公
債及道路公債ヲ合セマシテ、此事業公債ガ
四千三百七十餘万圓、滿洲事件公債二億四
千九百餘万圓、歲入補塡公債一億六千五十
餘万圓、一般會計合計四億五千三百三十餘
万圓トナリマス、特別會計ニ於テ朝鮮、臺
灣關東州及樺太ノ事業公債二千三百八十
餘万圓、帝國鐵道公債四千九百万圓、事業
公債合計ガ七千二百八十餘万圓トナリマ
ス、朝鮮總督府及關東廳ノ分トシテ、滿洲
事件公債ガ三百三十餘万圓、特別會計合計
七千六百十餘万圓、以上一般會計及特別會
計ヲ通ジテ、公債ノ發行總額ハ五億二千九
百五十餘万圓デアリマス右公債ノ發行方
法ハ日本銀行竝ニ預金部其他政府部內ノ資
金ヲ以テ之ヲ引受ケシメ、一般市場ニ於ケ
ル公募ハ之ヲ避クル方針デアリマス、以上
政府提出ノ豫算ニ付テ衆議院ニ於テハ全部
政府提案ノ通リ可決セラレタノデアリマ
ス、尙ホ政府ハ今囘絲價安定融資擔保生絲
買收法案ヲ提出イタシマシタガ、同法律案
ニ依リ昭和七年度ニ於テ交付ヲ豫定シテ居
ル生絲買收公債額ハ七百五十万圓デアリマ
スノデ、之ニ對スル公債利子ノ歲出ガ新ニ
增加スル譯デアリマスガ、同時ニ提出イタ
シマシタ絲價安定融資損失善後處理法案ハ、
追加豫算提出當時ニ於テハ其補塡ノ限度ヲ
二千三百三十七万圓トシテ、其全額ヲ昭和
七年度ニ於テ發行交付スル豫定ヲ以テ計上
イタシテ居タノデアリマス、然ルニ今囘提
案ニ際シマシテハ右補塡ノ限度ヲ千五百
八十七万圓トシ、當初ニ比較シテ七百五十
万圓ヲ減額イタシマシタ、依テ兩者ノ間ニ
同額ノ增減ヲ生ジマスノデ、結局本年度ノ
歲出ニ關スル限リ當初提出ノ追加豫算ニ影
響ヲ生ゼザル計算トナルノデアリマス、次
ニ我國經濟界ノ情勢ヲ觀マスルニ、今日ノ
如ク通貨ガ不足シ信用ガ收縮シテ居ッテハ
產業發展ノ手段ヲ缺ク次第デアリマシテ、
到底其振興ヲ期スルコトガ出來マセヌ、従ッ
テ金融ノ緩和ヲ圖リ、產業ノ正當ナル取引
ニ必要ナル數量ノ通貨ヲ圓滑ニ供給スルノ
途ヲ講ズルコトガ、最モ必要デアルト思ヒ
マス、然ルニ我國通貨ノ基本タル兌換銀行
劵發行制度ハ制定後旣ニ相當ノ年月ヲ閱
シ、其間國民經濟ノ膨脹顯著ナルモノガアッ
タニ拘ラズ、久シキニ亙リ之ニ伴フ適當ナ
ル改正ヲ見ナカッタ爲ニ、今日ノ事態ニ適應
スル機能ヲ缺ク憾ミガアリマス、依テ政府
ハ此際保證發行限度額ヲ十億圓ニ擴張シ、
且ツ制限外發行稅率ノ限度ヲ引下グル等、
兌換銀行劵發行制度ヲ改革スルコトトシ、
尙ホ之ニ關聯シテ現行ノ制限內發行稅制度
ヲ廢止シテ、納付金制度ヲ採用スルコトト
シ、更ニ進ンデ中央銀行ノ行務ノ運行ヲシ
テ一層時宜ニ適ハシメ、目ツ金融界等トノ
聯繫協力ヲ緊密ナラシムル爲メ、日本銀行
ニ參與會ヲ設置シテ、以テ制度運用上ノ完
備ヲ期スルコトト致シタイト存ジマシテ、
是等ニ必要ナル法律案ヲ今期議會ニ提出ス
ルコトト致シマシタ、發劵制度改革ノ結果、
通貨ノ供給ガ便利トナルコトハ明カデアリ
マスガ、健全ナル通貨ノ增加ヲ實現セムガ
爲ニハ之ヲ產業ノ正當ナル取引ニ向ケシ
ムルコトニ留意シ投機思惑ノ資金ニ流用
セラルルガ如キコトハ努メテ之ヲ抑制シ
ナケレバナリマセヌ、而シテ近時對外爲替
相場ノ下落及外貨證劵ノ値下リ等ノ事實ガ
アル爲メ、民衆ノ投機心ヲ唆リ、少額ナガ
ラ資本ノ海外流出ヲ見ツツアルノハ最モ遺
憾トスル所デアリマス斯ノ如キ事態ガ繼
續スルニ於テハ將來我國財界ニ及ボスベ
キ影響ノ憂フベキモノガアリマスカラ、今
後ノ推移ニ應ジ資本ノ逃避ニ對シテ、適切
ナル取締ヲ行フノ必要ガアルト思ヒマス
依テ之ニ關シ必要ナル法律案ヲモ今期議會
ニ提出スルコトト致シマシタ、近年地方金
融界ガ兎角苦境ニアルノハ勿論一般不況
ノ影響ニ依ルコトデモアリマスガ、其主タ
ル原因ハ地方銀行ガ不動產ヲ抵當トシテ
貸付ケタル資金ガ、固定シタルコトニアル
ト言ハナケレバナリマセヌ、故ニ地方金融
界ノ改善ヲ圖ルガ爲ニハ是等ノ固定セル
不動產抵當債權ヲ資金化スルノ方策ヲ講ズ
ルコトガ緊要デアリマス依テ政府ハ差當
リ預金部資金二億圓ヲ日本勸業銀行其他ノ
不動產銀行ニ融通シ、是等、銀行ヲシテ地方
銀行ニ對シテ出來得ル限リ寛大ナル條件ヲ
以テ、其不動產抵當債權ノ肩代リ、又ハ之
ヲ質トスル貸付ヲナサシムルノ計畫ヲ樹
テ、既ニ實行上必要ナル手續ヲ執ッテ居ル次
第デアリマス、世界經濟ノ大勢ヲ見マスル
ニ、不況ノ深刻ナルニ從ヒ、各國何レモ先
ヅ內ヲ整ヘルコトヲ根本トシ輸入ヲ防遏
シテ國內產業ノ發達ヲ圖ラムトスル傾向ガ
顯著デアリマシテ、各國擧ッテ外國物資ニ
對シ、高率ノ關稅ヲ賦課スルノミナラズ、
國ニ依クテハ更ニ進ンデ貿易ノ管理、又ハ特
定商品ノ輸入禁止ヲ行フモノサヘモアルノ
デアマリス、各國ノ情勢ガ斯ノ如クデアル
ノミナラズ、我國ノ現狀ヨリスルモ此際出
來得ル限リ、輸入ヲ防遏スルト共ニ、國內
產業ヲ保護助長スルコトハ最モ必要デアリ
マスカラ、政府ハ緊急必要アリト認ムル輸入
品ニ付キ關稅率ノ引上ゲヲ行フコトトシ尙
ホ爲替相場ノ下落ニ伴ヒ、從量稅率ハ從價稅
率トノ關係上、適當ノ考慮ヲ拂フノ必要ヲ生
ズルニ至リマシタ、依テ當分ノ中從量稅率
ヲ一定割合ダケ增率スルコトトシソレゾ
レ之ニ關スル法律案ヲ今期議會ニ提出スル
コトト致シマシタ、今日ノ不況ハ世界各國
共通ノ現象デアッテ、我國獨リ是ガ例外タル
コトヲ得ナイコトハ勿論デアリマスガ、均
シク不況ニ遭遇シテ居ルト申シマシテモ、
國ニ依リ自ラ其事情ヲ異ニシテ居ル所ガア
リマス歐洲諸國ハ何レモ大戰後、對外債
務ノ激增ニ苦ンデ居リマスガ、特ニ獨逸ナ
ドニ於テハ巨額ノ賠償債務ノ重壓ノ下ニ
産り、國民努力ノ結晶ノ大部分ハ、賠償債
權國ニ引渡サネバナラヌト云フ悲境ニアリ
やで、又英、米、佛ノ如キ債權國モ、債務
國ガ支拂不能ニ陷ルガ如キ場合ニ於テハ直
ニ自國ノ財政及經濟ニ苦痛ヲ感ゼネバナラ
ヌ立場ニアルノデアリマス、然ルニ我國ハ
大戰ニ基ク對外債務ヲ存シナイノミナラ
ズ、賠償債權モ極メテ少額ニ止ッテ居ルコ
トハ寧ロ好都合ナ次第デアリマシテ、此
點ヲ考慮スルナラバ同ク不況ニ當面シテ
居ルト申シマシテモ、我國ノ之ニ對スル反
撥力ハ各國ニ比シ却ッテ優レルコトガア
ルト申シテモ差支ナイノデアリマス、我國
民ハ過去ニ於キマシテ、屢、幾多ノ難關ヲ突
破シテ來タ、誇ルベキ經驗ヲ有スルノデア
リマスガ、現下ノ經濟界ノ非常時ニ際シマ
シテモ、朝野一致ノ努力ヲ以テ、必ズヤ之
ヲ克復シ得ルコトヽ確信シテ居ル次第デア
リマス、終リニ臨ミ政府提出ノ豫算案ニ付
テハ何卒速ニ御協贊ヲ與ヘラレムコトヲ
希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=3
-
004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第一
國務大臣ノ演說ニ關スル件、第五日、通〓
順ニ依リマシテ嘉納治五郞君ニ發言ヲ許シ
マス、同君ノ登壇ヲ望ミマス
〔嘉納治五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=4
-
005・嘉納治五郎
○嘉納治五郞君 〓育ノコトノ大切ナルコ
トハ論ヲ俟タヌコトデアリマス、又特ニ取
立テヽ總理大臣ノ施政ノ御方針ノ演說ノ中
ニ〓育ノ事ヲ承ハリマセナンダケレドモ
無論〓育ニ重キヲ置クト云フコトハ當然ノ
コトヽ看做シテ居ラレタコトヽ信ジマスル、
然ルニ今日ノ我國ノ〓育狀態ヲ以テ滿足シ
テ宜イカト考ヘマスルノニ、甚ダ遺憾ナル
點ガ多イノデアリマス、各方面ノコトヲ悉
ク述ベルト云フコトハ甚ダ煩雜ニ亙リマス
ガ私ハ思想問題ニ付テ特ニ一言イタシタ
イト思ヒマス、今日ノ農村ノ疲弊トカ、今
日ノ經濟上ノ行詰ッタ狀態トカ、是ハ世界一
般ノ不景氣ノ影響ヲ受ケタト云フコトハ事
實デアリマスケレドモ、國民ノ考へ次第ニ
依ッテハ、此難關ヲ切拔ケルト云フコトハ强
チムヅカシイ事トハ私ハ存ジマセヌ、今日
ハ國民ガ悉ク儉約ヲシテ、生活ノ費用ヲ少
クシテ、有效ニ働イテサウシテ國ノ生產力
ヲ殖ヤスト云フコトガ何ヨリ大事ナコトト
思ヒマスルガ、生產力ヲ殖ヤスト云フコト
ニ付テハ、第一安心シテ其業ニ從事スルト
云フコトガ出來ナケレバナリマセヌ、今日
ノ如ク資本ト勞働ガ始終反對ノ位置ニ立,
テ互ニ鬪ッテ居ルトカ、地主ト小作人ガ反對
ノ位置ニ立ッテ互ニ鬪ァテ居ルトカ云フヤウ
ナ狀態ノ下ニ、產業ノ起リヤウハゴザリマ
セヌドウシテモ此勞資ノ協調、融和、地
主小作人ノ協調、融和ト云フコトガ何
リ大事ナコトデアルト思フ、何故今日其融
和ガ出來ヌカト云フコトハ本當ノ道德ト
云フモノノ基礎ガ十分ニ立ッテ居ラヌカラ
デアラウト思フ、實際幾ラ働イテモ必要ナ
ル收入ガ得ラレヌト云フヤウナ者ヲ目ノ前
ニ見テ置イテ、富裕ナ者ガ安閑トシテ自分
ダケノ快樂ヲ貧"テ居ルト云フヤウナコト
ハ、道德ガ確立シテ居レバアリ得ベカラザ
ルコトデアル、ソレト同時ニ又、唯自分ガ
努力サヘスレバ相當ノ生活ガ得ラルルニ拘
ラズ、徒ニ騒動ヲ起シ反抗シテ、サウシテ
自分ノ收入ヲ殖ヤサウト云フヤウナコトヲ
試ムル者ハ是ハ道德ノ根柢ガ無イカラデ
アルソレ故ニ今日ノ日本ノ狀態ニ於テ、
裕カナ者ハ貧シキ者ニ對シテ己ノ力ヲ殺ギ、
又貧シキ者モ出來ル限リ努力シテ自分ノ分
ヲ盡スト云フコトニナレバ、私ハ今日ノ現
狀ニ於テ、必ズシモ國民ガ生活ニ困難ヲス
ルト云フヤウナコトハアルマイト思フ、然
ルニ明治維新此方、知識ヲ練達シ學問ヲ〓
究スルト云フヤウナ意味ニ於ケル〓育ハ
年ト共ニ進ンデ參リマシタケレドモ、道德
ノ根柢ヲ固メルト云フ方面ノ〓育ニ於テハ
甚ダ等閑ニ付セラレテ居タト考ヘルノデ
アリマス、今日ハ人智ガ進ミ海外ノ事モ
日本ニ分ッテ來、昔ノ通リノ〓へ方デハ國民
ハ滿足シナイト云フコトハ當然デアリマ
ス、然ルニ道德ノ〓ト云ヘバ干篇一律、昔
說イタト同ジ形式ヲ以テ臨ンデ居ルノデア
リマスカラ、學校ニ於テモ道德〓育ト云フ
モノハ、何カツライ、イヤナ事ヲ聽ク場所
デアルト云フヤウナ感ヲ起ス者ガ少カラヌ
ノデアリマス、最近思想問題デ檢擧サレタ
高等學校ノ優秀ノ學生ガ、赦サレテ家庭ニ
歸ッテ、其父兄カラ私ニ、ドウカ心得間違ヒ
ノナイヤウニ能ク言フテ聞カシテ吳レロト
言フテ寄越シタ場合ガ幾人モアリマス、其
多クノ場合ハドウ云フ譯デサウ云フ考ニ
ナッタノカ聽イテ見マスルト、學校ニ於ケル
修身〓育ニ滿足ガ得ラレマセナンダソレ
故ニ何カ己ノ身ヲ護ルニ付テ、學校デ習ッタ
ヨリハモット滿足ナ〓ヘガアリハスマイカ
ト示フコトヲ色ミ考ヘテ居ノタ際ニ、彼ノ
「マルキシズム」ノ本ヲ讀ミ話ヲ聽イテ、是ナ
ラバト云フ考ヘデ其方ニ入リ込ンダノデア
リマス、其中ニ段々トサウ云フ方面ノ者ガ
近寄ッテ來テ、今ハ「マルキシズム」ニモ缺陷
ノアルト云フコトハ能ク分リマシタ、一時
ノ考ヘハ間違デアルト信ズルニ至リマシタ
ケレドモ、當時ハ其良イ事バカリガ分ッテ、
其缺陷ガ分ラナカッタガ爲ニ、一圖ニ其方ニ
向フタノデアリマス、斯ウ云フ說明ガ多カ,
タノデアリマス、ソレ等ノ事カラ考ヘテ見
テモ、今日ノ中等學校ニ於ケル道德〓育ハ
十分ノ成績ガ得ラレテ居ラヌト私ハ考ヘマ
スル、又今日ノ學校ニハ或ハ生徒主事トカ
學生主事ト云フ生徒ノ指導取締ニ當ル所ノ
役員ガ出來テ居リマス、ソレ等ノ人ノ中ニ
相當ノ値打ノ有ル人ノアルコトヲ私ハ認メ
テ居リマス、ケレドモソレ等ノ人ノ人選ヲ
スルニ付テ、當局者ハ甚ダ愼重ナル態度ヲ
執ッテ居ラレヌト思フノデアリマス、少シバ
カリ私ノ聞イタ所ニ依ルトサウ云フ必要
ガアルト、極ク狹イ範圍ニ於テ、誰カ適當
ナ人ハアルマイカ、誰ガ宜クハアリマセヌ
カ、或ハ一方カラ此人ヲ用ヰテ下サイト云フ
ト、先ヅ宜カラウカト思フト、ソレヲ採用ス
ル斯ウ云フヤウナコトニナッテ居ルヤウデ
アリマス、此大切ナル職責ヲ與ヘルニ付イテ
ハ私ハ餘程愼重ニ考慮ヲシテ戴キタイト
思フ、廣ク人材ヲ集メ、値打ノアル人、殊
ニ其職務ニ適當ナ人ヲ能ク選ンデ其任ニ充
テルト云フコトデナケレバ、到底其大切ナ
ル任務ヲ盡サレナイノデアリマス、私ノ調
ベタ範圍ニ於テハ多クノ學校ノ、サウ云
フ位地ニ居ル人ハ、唯生徒ガ反抗シハシナイ
カト云フヤウナコトヲ恐レテ、生徒ノ機嫌
ヲ取ルト云フヤウナコトヲヤッテ居ル者ガ
多イノデアル、ソンナコトデハ迚モ此大切
ナ任務ヲ盡サレマセヌ、成程今日ハ學生生
徒モ中と知識ガ進ンデ來テ、下手ナコトヲ
言ウテハ或ハ生徒ニ却ッテ負ケルト云フヤ
ウナコトガアッテ、遠慮ヲシテ居ルト云フヤ
ウナ場合モナイデハアリマセヌ、併ナガラ學
生生徒ハ高ノ知レタ年限ノ間〓育ヲ受ケタ
者デアリマス、學生主事トカ生徒主事トカ
云フヤウナ位地ニ當ル人ハ、同等ノ學校ヲ
卒業シタ後ニ相當ノ年月學問モスレバ又經
驗モ積ンダ人デアリマス、ソレ故ニ適當ナ
人ヲ選ビサヘスレバ必シモ學生生徒ニ追捲
クラレル、言ヒ詰メラルルト云フヤウナ心
配ノアル譯ノモノデハアリマセヌ、私ハ人
選其宜シキヲ得テ居ラヌノガ多クノ原因デ
ハナカラウカト思フ、最モ分リ易イ例ヲ一
ツ申上ゲテ見マスルト。彼ノ危險思想ナド
ニ這入リ込ンデ間違ッタコトヲ爲サムトシ
タ若イ者ナドニ對シテ、母親ノ勸〓、母親
カラ色々ノコトヲ說カレルト云フコトガ一
番彼等ヲ矯正スルニ效力ガアルト云フコト
ハ、色々ノ方面カラ聞イテ居リマスガ、母
親ハ學問ニ於テハ必シモ自分ノ子ヨリハ優
レタ者デハゴザイマスマイ、併ナガラ間違〃
タコトヲサセマイ、良イコトヲサセヤウト
云フ眞情ヲ以テ臨ム時ニハ是ハ言フコト
ヲ聽クノデアリマスサウ云フ譯デアリマ
スカラ、學生主事、生徒主事ノ如キハ慈母
ノ心ヲ以テ生徒ニ接スル、偶、理窟上生徒
ニ及バヌコトヲ言ッタ所ガ、眞心ヲ以テ其自
分ノ立場カラ生徒ヲ導キ誠メルナラバ私
ハ今日ノ學校〓育ニ於テ今程不心得ノ者ヲ
多勢出サナイデ濟ムデアラウカト思フノデ
アリマス、ソレ故ニ〓育當事者ノ人選ト言
フコトニ、今一層局ニ當。シテ居ル人々ガ心ヲ
用ヰラレタナラバ、今日ノ困難ハ餘程減ズ
ルデアラウカト思フノデス又校長ヲ人選
シ〓員ヲ人選スルニ付テモ同樣デアリマス、
唯學校ニ於テ試驗ノ點數ガ良カッタ、學問ガ
良ク出來ルトカ云フコトノミヲ以テ〓員ヲ
採用スルト云フコトニナッテハ是デハ到
底訓育ハ行ハレマセヌモウ少シ人物、品
性、人格ト云フヤウナ方面ニ考慮シテ、〓
員ノ御採用ガアルト云フコトガ必要デアラ
ウト思フ、今日〓員ノ養成ノ學校ニ於テモ、
矢張リ知識ヲ授ケルト云フコトニハ汲々ト
シテ居ルガ、其割ニ品性ヲ磨キ道德ヲ養フ
ト云フヤウナ方面ニ付テハ甚ダ等閑ニ付セ
ラレテ居ルト思フノデアリマス、其〓員選
擇ト云フコトハ、ドウシテモ文部省ガ進ン
デ此衝ニ當ラナケレバナラナイ、文部省ガ
始終ソレラノコトニ付テノ調ガ十分ニアレ
バ、文部省自身ガ任命スル校長〓員ハ勿論、
私立ノ學校ニ於テモ文部省ニ相談ニ來テ、
サウシテ文部省ノ考ヲ參考ニシテ決メルト
云フコトニナラウト思フ、然ルニ文部省ガ
ソレラノ事ヲスルノニ適當ナ今日組織ニ
ナッテ居ルカドウカト云フコトヲ考ヘテ見
ルト甚ダ不適當ト申シテモ憚カラヌノデ
アリマスドウ云フ譯カト云フト、文部大
臣ハ是ハ今日ノ制度カラ云フト、必シモ
〓育ニ精通シタ人デナケレバナラヌト云フ
譯デハナカラウト思フノデアリマス、併ナ
ガラ次官トカ局長トカ、願クバ參事官、書
記官モ、督學官ハ勿論、〓育ノコトニ精通
シ、〓育ヲ自分ノ生命ト考へテ居ルヤウナ
人ヲ集メナケレバナラヌノデアル、私ハ八
年程前ニ丁度戰爭ノ直後デアリマシタガ、
〓羅巴ヲ旅行シテ居ル際ニ、「プロイセン」
ニ參リマシタ、其時ニ日本ノ大使館デ、「プ
ロイセン」ノ一番〓育ノ首腦者ト意見ヲ交
換シテ見タイガト云フコトヲ申シマシタ所
ガ、首腦者ト云ヘバ「プロイセン」ノ文部大
臣ダガ、ソレヨリハ〓育總長ト云フヤウナ
位置ニ居ル「ベッカー」ト云フ博士ガアル、此
人ハ〓育ノ畑デ叩キ上ゲタ人デ、ナカ〓〓
學問モアレバ經驗モアル、立派ナ人デアル、
共人ノ方ガ宜シイト云フノデ、其「ベッカー」
博士ニ會ッテ、色々意見ノ交換ヲ致シマシ
タガ、ドノ問題ヲ出シテモ實ニ滿足スルヤ
ウナ答ヲ得テ、唯一日ノ會見デアリマシタ
ケレドモ、大ニ得ル所ガアッタノデアリマ
ス、若シ外國人ガ來テ日本ノ文部省デ自分
ノ質問シタヤウナコトヲ質問シテ、文部ノ次
官ガ答ヘラレルデアラウカト云フコトヲ飜ッ
テ考ヘテ見テ、甚ダ遺憾ニ感ジマシタ、何
故ソレデハ日本ノ文部ノ當局者ハソレ程〓
育ニ精通シテ居ラヌノカト云フト、是ハ〓
育ト云フコトヲ本當テ自分ノ生命ト考ヘテ
居ラナイ、ソレラノ人ノ多クハ所謂役人デ
アル、役人ハ眼前ノコトヲ差支ナク處理シ
テ行クト云フコトハ上手カハ知ラヌケレド
モ、日本ノ國ヲ〓育ノ上カラシテ背負ッテ立
タウト云フ其意氣込ガ無イノデアルソレ
デドウシテ日本ノ〓育ヲ託シテ置クコトガ
出來マセウカ、御覽ナサイ、是マデ〓育ノ
要路ニ居ノタ人ハ、其職ヲ罷メテ引續イテ〓
育ノコトニ心配シテ居ル人ガ幾人アリマス
カ、皆外ノ職業ニ轉ジテシマヒ〓育ノコ
トニ付テ本當ニ〓究シ、又努力シテ居ル人
ハ無イトハ申サレマセヌガ、甚ダ少ナイデ
ハアリマセヌカ、何ガ然ラシムルノカ、ソ
レ等ノ人ハ皆相當ナ値打ノアル人デアル、
相當ナ値打ノアル人デアルカラシテ、其人
ヲ或ハ國務大臣ニシテモ相當ニ勤マル或
ハ會社銀行ノ頭取社長ニシテモ相當ニ勤マ
ル、ソレ等ノ人ハ皆値打ノアル人デアル
ト云フコトヲ私ハ言フニ憚ラヌノデアル
ケレドモ一國ノ文政ヲ預ケテ置イテ宜イ人
デアルカト云フコトニ付テハ大ニ疑問ヲ
有シテ居ルノデアリマス、ソレハ其譯デア
ル一體〓育ト云フ魂ガ這入ッテ居ラヌノ
デアル、今ノ文部省ノ役人ノ督學官以外ハ、
殆ド皆大學ノ法科出ノ人デアル、法科出ノ
人ハ大學ニ這入ル時カラ〓育家ニナラウ
ト云フヤウナ考デ這入ッタ人.ハ恐ラクハ無
カラウト思フ、有ック所ガ極メテ少數デセ
ウ、ソレデ自分ハ他日、出タ後ニハ政界ニ
或ハ財界ニ、色々ノ社會ノ〓育以外ノ方面
ニ活躍シヤウト云フヤウナ考ヲ以テ、大學
ニ這入ッテ來タ人ガ多カラウト思フ、サウ云
フ人ハ在學中ニモ色々ノコトヲ考ヘテ居ル
ダラウケレドモ、〓育ト云フコトニ付テハ
恐ラクハ餘リ考ヘテ居ラナカッタラウト思フ、
サウ云フ人ガ或ル〓リ合セデ文部省ノ督學
官ニナリ、書記官ニナリ、參事官ニナリ、
局長ニナルノデアリマセウガ、役人トシテ
値打ノアル人デアリマセウガ、一國ノ文政
ヲ司ル其主要ナル役人トシテハ、甚ダ其資
格ガ有ルカ無イカト云フコトヲ私ハ疑フノ
デアル、是ハ文部省バカリデハアリマセヌ、
是ハ農商務省ニ於テモ、其他ノ省ニ於テモ
同ジデアリマス値打アル人デアル、値打
アル役人デアル、ケレドモ自分ノ司ッテ居ル
仕事ニ付テハ本當ノ精神ガ籠ッテ居ラナ
イ、サウ云フ譯デ今日ハ總テノ日本ノ役
人組織ハ唯法科萬能ト云フ一語ヲ以テ蔽
ウテ居ル、ソレデアルカラシテ法科出ノ人
ハ〓シテ常識モアリ又一般ノ制度ノコ
トニハ通ジテ居ルカラ、サウ云フ意味ニ於
テハ値打ハアルケレドモ、其自分ノシテ居
ル仕事ヲ自分ノ生命トシテ緻密ニ〓究ヲシ
テ、サウシテ何處マデモ責任ヲ以テソレニ
當ルト云フヤウナコトハ甚ダ望ミニクイ
ノデアル、デ私ハ文部省ハ盡クトハ申シ
マセヌガ、法科ノ人ニモ中〓値打ノアル人
ガアッテ、長年〓育ノコトニ携ハァテ居レバ
相當ニ〓育ニ理解ノアル人モ出來マセウ
ガ、ソレ故ニ一〓ニ法科ノ人ヲ文部省ノ役
人ニシテハナラヌト云フ意味デハ無論アリ
マセヌ、ケレドモ少クモ半分カ或ハ三分ノ
二位ハ〓育ノ內容ニ付テ長年ノ間〓究モ
シ、又サウ云フ方面ニ長所ノアル人ヲ用ヰ
ナケレバイカヌト思フノデアル、現ニ御覽
ナサイ、今ノ文部省ノ局長以上ノ人ニ、實
際〓鞭ヲ執ヲタ人ガ一人デモアリマスカ、學
校デ生徒ヲ〓ヘ、或ハ校長ヲシタ人ハ或ハ
無イカモ知ラヌ、參事官、書記官ニモ或ハ
無イカモ知ラヌ、僅ニ督學官ダケガ學校ノ
〓育ヲ知ッテ居ル、其督學官ト云フモノハ
局長、次長ノ命令一下、何デモ其言フコト
ニ從ハナケレバナラヌ位置ナンデアル、意
見ヲ持ッテ居ッタ所ガ、ドウシテ其意見ガ行
ハレマセウカ、而モ値打ノアル督學官ハ順
繰リニ皆學校へ出テシマフ、先般モ西川ト
云フ督學官ガ高等學校長ニナリマシタ、最
近モ稻葉ト云フ比較的長ク〓育ニ從事シテ
居ッテ、〓育ノ內容ニ精通シテ居ル人ガ、亦
奈良ノ女子高等師範學校長ニナリマシタ、
サウスルト云フト、今居ル督學官ヲ決シテ
私ハ惡イト申スノヂヤアリマセヌ、能ク私
ハ知リマセヌ、知リマセヌカラ中ニハ値打
ノアル人モアルダラウト思ヒマス、ケレド
モ外カラ考ヘテ見テモ、〓育ノ成績ニ於
テ令名ノアッタ人ガ幾人アルカ、實際〓育
ニ付テ人ノ傾聽スベキ所ノ意見ヲ述べ或
ハ書イタ人ガ幾人アルカ、何處デドウ云フ
風ニ薰陶シテ其薰陶ノ下ニ立派ナ人間ガ澤
山出タト云フヤウナ人ガ何處ニアルカ、ダ
カラ督學官ノ採用デスラモ私ハ人選宜シキ
ヲ得テ居ラヌダラウト思フ、矢張二三ノ人
ガ、丁ノ人ガ宜クハアリマセヌカ、宜カラ
ウ、ソレヂヤ採用シヤウト云フ位ナコトニ
過ギヌノヂヤナイカ、廣ク人材ヲ天下ニ物
色シ、サウシテ愼重ナル銓衡ノ上ニ督學官
ガ選バレタモノトハ私ハ考ヘラレナイ、
昨年デアッタト思ヒマシタガ、矢張リ此議場
ニ於テ文部大臣ニ質問ヲシタ、其後ニ文部
大臣ニ會見シテ、モット眞面目ニ督學官ナド
ノ人選ヲナサラナケレバナリマセヌ、ソレ
ハ御尤デス、ドウモ併シ誰ガ宜イカ分ラヌ、
分ラヌノハ是ハ誰モ分ラヌ、ダカラシテソ
レハ調ベテ見ナケレバイケナイ、ソレデ私
ハ幸ニ今中等〓育會長ヲシテ居リマス關係
デ、全國ノ中等學校長トハ先ヅ近イ緣故ガ
アリマス、左樣ナ關係デ全國ノ中等學校長ニ、
私ノ個人ノ資格デ、若シ今文部省ニ最モ優
良ナル督學官ヲ推薦スルト云フヤウナコト
ガアッタ時ニハ、ドンナ人ガ宜カラウカ、參
考ニ聽カシテ貰ヒタイト云ウテ、全國ノ中
等學校長ニ手紙ヲ發シマシタ、澤山返事ガ
參リマシタ、併シソレニハ私ハ失望シタ、
多クハ自分ノ附近ノ、或ハ同窓ト云フヤウ
ナ人ノ中カラ人ヲ選ンデ出シタノデ、私ガ
直ニソレヲ參考ニシテ、文部大臣ニ斯ウ云
フ人ヲ御採用ニナッタラ宜カラウト云フコ
トヲ申上ゲルダケノ材料ハ得ラレマセナン
グ、併ナガラ其儘參考ノ爲ニ當時ノ文部大
臣ニソレヲ寫シ直シテ上ゲタコトヲ記憶シ
テ居ル、私ノ中等學校長ニ意見ヲ聽イタコ
トハ、是ハ餘リ成功デハナカッタケレドモ、
サウ云フ意味ニ於テ文部大臣ハ色ミノ機關
ヲ持ッテ居ラレマスカラ、必シモ直接ニ文部
省トシテサウ云フコトヲ御尋ネニナラナク
テモ、色々ノ方法手段ヲ盡シテ、人材ヲ天
下ニ求メルト云フコトニ爲サッタナラバ、私
ハ必シモ其時〓ノ、今トハ申シマセヌガ、
其時〓ノ文部省ノ次官、局長、督學官ト云
フヤウナ人ノ少クトモ半バ以上ハ或ハ値
打ノアル人ヲ得ルコトハ難クナイト思フ、
ソレ位ニシテ優良ナル人ヲ文部省ニ集メル
ト云フ御方針デナケレバ、日本ノ〓育ハ本
當ニハ活キテ來ナイドノ文部大臣ト云
フコトハ今私ハ申上ゲマセヌガ、或ル文部
大臣ハソレ等ノ點ニ考慮セラレテ、人材ヲ
集メタイト幾人カノ人ガ表面サウ云フ書
付ヲ貰ッタカ貰ハナカッタカハ忘レマシタ
ガ私モ其相談人ノ一人トナクテ適當ノ人
ガアッタナラバ知ラシテ貰ヒタイト云フヤ
ウナ態度デ、色々ノ人ニ御相談ニナッタコト
ガアリマス、私ハ文部大臣ニハ其態度ガ望
マシイ、唯自分ノ周圍ニ居ル幾人カノ人ニ
意見ヲ聽イテ、ソレデ輕率ニ決メテシマフ
ト云フヤウナコトハ往々遺漏缺陷ガアル、
ソレ故ニ此大事ナ、成ルベクハ代ラナイデ
長ク居ッテ貰ハナケレバナラヌ所ノ此文部
省ノ次官局長ハ多數ノ人ノ推スヤウナ人
ヲ其位置ニ据ヱテ戴キタイ、又督學官ノ如
キモ少シ經驗ガ出來、人カラ認メラレルト
云フヤウニナッタナラバ直グ學校長ニシテ
シマッテ、サウシテ新シイ經驗ノナイ、人カ
ラモ認メラレナイヤウナ者ガ督學官トシテ
殘ッテ居ル、其ノ督學官ガ地方ニ行ッタ所ガ
權威ガアラウ筈ガナイ、私ハ地方ノ老校長
ニ幾ラモ會ノテ、直接ニ意見ヲ聞イテ居リマ
スガ、何ダ、文部ノ督學官カト言ッテ、鼻ノ
先デアシラッテ居ル、ソレハ表面ニ出スト何
カ災ガ來ルカラ、表面ニハ出サヌガ、私等
ガ遠慮ノナイ意見ヲ聞クト、鼻デアシラッテ
居ル、サウ云フコトデ〓育ノ指導、〓育ノ
監督ガ出來マセウカ、私ハ文部ノ督學官ト
云フモノハ、今ヨリ遙ニ位置ヲ高クシテ、
サウシテ長イ經驗ノアル、大勢ノ學校長カ
ラ尊重セラレテ居ルヤウナ人ヲ集メナケレ
バナラヌト思フノデアリマス、今日ハ文政
審議會ト云フモノガアリマス、是ハ私ガ考
ヘテモ値打ノアル人ガ大勢オ集リノ權威ア
ル團體デアリマス、併ナガラ文政審議會ノ
人々ハ皆色ミノ方面デ忙ガシイ人デアル、
大體論ハ隨分分ル人デアリマスケレドモ、
細カイ〓育ノ內容ハ分ラヌ人デアル少數
ヲ除イテハ其文政審議會ニ色ミノ案
ヲ出シタ所ガ、大體論ハ是ハ常識ヲ以テ、
又長イ間ノ色ミノ方面ニ於ケル經驗學識ニ
基イテ、立派ナ御答ガ出來マセウガ〓育
ノ內容ニ涉ッタコトハ、文政審議會ノ人々ニハ
先ヅ分ラナイサウスルト云フト文部省デ
出ス案ダカラ先ヅ是デ宜カラウト云フコト
ニナリ易イ、ソレヂヤ文部省ハ其案ヲドウ
シテ出スカト云フト、誠ニ簡單ナ調査デ出
ス、〓育界ニ廣ク問ウテ見タナラバ隨分異
論ノアルヤウナコトヲ、平氣デ御出シニナ
ルヤウデアル、ソレデハドコデ本當ノ〓育
ノ內容ノ有ル〓究ガ出來マスカ、文部省ノ
役人ハ曩ニ申ス通リ相當値打ノアル人デア
ルケレドモ、〓育ノ內容ニハ精通シテ居ナ
イ、ソレダカラソレ等ノ人ノ意見ハ餘リ値
打ハナイ、ソレヂヤ學校ノ〓員ハドウカ、
幾人カノ學校ノ〓員ガ相談相手ニナッテ居
ル、ソレハドウカト云フト、文部省ニ御覺
エ目出タイ、始終文部省ノ當局者ノ所ニ接
近スルヤウナ人ガソコニ集メラレテ、ソレ
ダケノ人デ出來タ案ガ文政審議會ニ出テ行
〃、ソレガ實際ノ狀況デアル、此決議ニド
レダケノ信用ガ出束ルカ、私ハ東京帝國大
學······今ノ文理科大學、當時ノ高等師範學
校、奈良ノ女子高等師範學校、東京ノ女子
高等師範學校、廣島ノ高等師範學校、京都
ノ大學、其〓授ガ集リ、民間ノ人モ大分居
リマシタガ、ドウシテモ〓育ノ一ツ〓究機
關ヲ作ラナケレバナラヌ、色ミノ外ノモノ
ハ〓究機關ガアル、傳染病ニモ〓究所ガア
ル、榮養〓究所モアル、飛行機ノモアル、
其他色ミノモノニモアル理化學〓究所モ
アル、然ルニ〓育ノ方ハ何處ニモ本當ノ〓
究ヲスル場所ガナイ、此大事ナ〓育ノ〓究
所ガ無イ、〓究所ガナイカラ此〓究所、卽
チ〓育〓究所ト云フモノヲ起サナケレバナ
ラヌト云フコトデ、多數ノ學者ガ屢〓會合
ヲ致シマシタ、其決議デ······表面ニハマダ
持出シマセナンダガ、當時ノ文部大臣ニサ
ウ云フモノヲ拵ヘル考ハナイカト云フコト
ヲ聽イタコトガアリマス、コチラノ〓究モ
何分諸方ノ人ガ集マッテ來ルノデアリマスカ
ラ十分ノ〓究ガ出來ズニ居ル場合デモアリ
マシタシ、當時ノ文部大臣ガマア考ヘテ置
カウト云フヤウナ態度デアッタノデ、其儘ニ
ナッテ居リマスガ、私ハ現文部大臣ハサウ云
フヤウナ〓究所ヲ作ル御考ハオ有リデアル
カナイカト云フコトヲ伺ヒタイト云フノガ一
箇條デアリマス、ソレカラ又次ニ今申上ゲ
タ通リ、是迄文部省ノ役人ト云ヘバ〓育
ノ素人ニ相場ガモウ決,テ居ル、サウ云フ
コトデ國民ガ文部省ノ方針ニ信賴スルカド
ウカト云フコトハ甚ダ疑ハシイ、文部省ハ
全國ノ〓育ヲ率ヰテ行カナケレバナラヌ、ソ
レニハ文部省ノ役人ニアヽ云フ人ガ居ッテ決
メタコトナラ、我々ハソレニ從ハナケレバ
ナラヌト云フヤウナ態度ニナラナケレバナ
ラヌガ、私ハ遺憾ナガラ今日ノ人々ダケデ
ハ滿足ガ出來ヌト思フ、サウ云フ事實ガア
ルニ拘ラズ、今日ノ狀態ヲ以テ滿足シテ居
ラレルカ、又督學官ノ如キモ今日ノヤウナ
コトデ宜イト御考ヘニナッテ居ルカト云フコ
トヲ一ツ伺ヒタイト思フ、ソレカラマダ澤
山ゴザイマスケレドモ、餘リ時間ヲ要シマ
スカラ、最モ大事ナ一箇條ヲ申上ゲテ質疑
ヲ終ラウト思ヒマス、先般東京高等師範學
校滿六十年ノ記念ノ際ニ、陛下ノ御臨幸
ガアリマシタ、其時ニ勅語ヲ賜リマシタ、
「健全ナル國民ノ養成ハ一ニ師表タルモノノ
德化ニ竢ツ事ニ〓育ニ從フモノ其レ奮勵努
力セヨ」、斯ウ云フ御沙法、實ニ有難イ、斯
クアラネバナラヌコトデアル然ルニ德化
ト云フモノハドウシタラ出來ルノデアルカ
ト云フト、文部省ノ當局者ハ百モ承知シテ
居ラナケレバナラヌ、承知シテ居ラレマセ
ウ、ケレドモ實行ハソレニ伴ハナイドウ
云フ譯カト云フト、今日ノ文部省ハ相變ラ
ズ知識万能ナンダ、學校ニ於テハ知識ヲ〓
授スル、高等ノ學校ニ於テハ知識ヲ〓究ス
ル學問ヲ〓究スル、斯ウ云フヤウナコト
ガ立前、ダカラ帝國大學ハ、私ハ日本ノ文
化ノ發達ノ上ニ大ナル貢獻ヲシタト考ヘ
ルソレ等ノコトニ當。ッタ人ノ功勞ハ大ナ
ルモノデアルト思フ、併ナガラソレハ學問
ヲ〓究シ知識ヲ〓授シ、サウ云フ方面カラ
日本ノ文化ヲ進メタト云フコトニ主トシテ
在ルノデアル、道德上、思想上、健全ナル國民
ヲ造ルト云フ意味ニ於テハ十分ニ其效果
ハ擧ガッテ居ラナイ、ドウカスルト妙ナ、今
日我〓ノ忌ムヤウナ思想ノ人ガアッチカラ
モコッチカラモ輩出スル又其譯デアル、大
學ト云フモノハ自由〓究ヲ尊ブノデアル、
ダカラ〓究トシテドウ云フコトヲ〓究シテ
モ是ハ決シテ差支ナイ、ソレデアルカラ
自由ニ色々ノ方面ニ考ヲ廻ラス、〓究ヲス
レバ色々ノ考ハソレカラ發生シテ來ル、サ
ウ云フ自由〓究ノ場所ガ國民道德ノ淵源デ
アルト云フコトハ、實際論トシテハ甚ダ望ミ
ニクイ、大學ノドノ專門ヲヤッテ居ル人モ、
皆今日ノ國民道德、我ニガ希望スルヤウニ
主張シ說イテクレルカト云フト、是ハ私ハ
望ミニクイ、サウ云フコトヲスル人ハス
ル、シナイ人ハシナイ、又大學ハ德化ノ〓
育所デアッテ欲シイコトハ欲シイケレドモ、
是ハ望ムコトハ甚ダムツカシイ、抑〓大學
ノ歷史ヲ考ヘテ見ルト、是ハ蕃書取調所ノ
流ヲ汲ンデ今日迄發達シテ來タモノデア
ル、ダカラ外國ノ知識ヲ輸入スル、ソレニ
基イテ新シイ〓究ヲスル、マアソノ中ニ日
本ノ古典ヲ〓究スルト云フコトモ自然生ジ
テハ來マセウガ、併ナガラ之ヲ〓究スル
日本ニ無イ外國ノモノヲ取入レテ、サウシ
テ日本ノ學問ヲ進メヤウ、斯ウ云フ意味ニ
大イナル力ヲ有ッテ居ルト思フ、ソレデアル
カラ國民道德ヲ此處デ養テ、ソレヲ全國ニ
擴ゲヤウト云フヤウナコトハ、必シモ最モ
適當ナル機關デハナイノデアル、ソレハ德
化デヤラナケレバナラヌ、ドウスルカト云
フ問題、先キ申ス通リ道德〓育ト云フヤウ
ナコトハ今日ノ〓育上最モ〓究ガ進ンデ
居ラナイ一ツデアル今度モ思想上ノコト
ニ付テノ〓究機關ヲ造ラウト云フヤウナ、
文部省ニ御企テノアルコトヲ承知シテ、私
誠ニ喜ンデ居ル、是ハ大ニ〓究シテ今日ノ
知識ノ程度、今日ノ周圍ノ事情ニ結ビ付ケ
テ國民道德ハドウ云フ風ニシテ說イタラ
宜イカ、國體ヲ擁護シ、皇室ヲ中心ト仰イ
デ、國家ヲ統一シテ行ク、其〓育ト云フモ
ノハドウ云フ風ニ〓ヘラレテ宜イカト云フ
ヤウナコトハ是ハ大ニ〓究シナケレバナ
ラヌ問題デアルソコデ此前ノ寺內內閣ノ
時分デアリマシタガ平田子爵久保田男爵
ガ總裁副總裁トナッテ臨時〓育會議ト云フ
モノガ設ケラレマシタ、此會議ニ於テ私モ
其一員デアッテ、會員ノ一員デアッテ、私ノ
主張ガ或ル程度マデ通ッテ、當時ノ高等師範
學校ヲ大學ニシテ、サウシテ權威アル〓育
ノ中心機關ニシヤウト云フコトヲ私ガ持出
シタ其趣旨ニ於テハ大體御同意ヲ得マシ
タガ、大學ト云フ名前ヲ付ケルト云フコト
ニ反對ガアッテ、併ナガラ內容ハ殆ド私ノ主
張シタ通リノコトガ認メラレテ、臨時〓育
會議ノ決議トシテハ高等師範學校ノ上ニ
專攻科ト云フモノヲ置イテ、色々ナ學科ニ
皆專攻科ヲ置イテ、年限モ大學ト同ジヤウ
ニシテ、設備モ十分ニシ、又〓授ノ待遇モ、
上ノ方ノ人ハ大學ト同ジ待遇ニスルト云フ
ヤウナコトデ決定ヲ致シマシタ、然ルニサ
ウ決定シタニ拘ラズ、文部省ハイツ迄經。ソ
テモ之ヲ實行サレナイ、ト云フ所カラシテ
遂ニ、諸君モ當時新聞紙面ヲ賑ハシタノデ
御記憶デアリマセウガ所謂昇格問題ト云
フモノガ起ッテヤカマシイ議論ニナリマシ
タ、其消息ハ略シテ置キマスルガ、其結論
ヲ申上ゲマスルト云フト、結局ハ大學ト云
フモノヲ設ケル、斯ウ云フコトニ··高等
師範學校ヲ大學ニ昇格セシムルト云フコト
ニナッタ、所ガ其高等師範學校ガ大學ニナリ
ハナッタケレドモ、全ク東京帝國大學文學
部理學部ノ出店ノヤウナ大學ガ出來テシ
マッタ、高等師範學校ニ高イ課程ノ〓育ヲ
スル機關ヲ置クト云フコトハ是迄ノ高等
師範學校ノヤリ方ヲ延長シテ、卽チ〓育者
ノ養成機關デアッテ、是迄ノ仕方デハ年限モ
短シ〓授ノ待遇モ低シ、設備モ不十分デ
アルカラ、之ヲ其意味ニ於ケル力ノアル學
校ヲ拵ヘルト云フノガ······〓育會議ノ決議
モ亦本來斯クアラネバナラヌ、立派ナ帝國
大學ガ東京ニアリ地方ニハ幾ツモ立派ナ帝
國大學ガアルノニ、同ジヤウナ型ノ出店ノ
ヤウナ學校ヲ同ジ帝都ニ二ツ拵ヘルト云フ
コトハ今日此國費多端ノ時ニ何ノ必要ガ
アリマセウ、全ク是ハ間違ッタ施設デアル、
何處迄モ〓員養成ノ最高學府デナケレバナ
ラヌノデアル斯クシテ始メテ國民道德ノ
〓究、ドウ云フ風ニシテ之ヲ〓ヘル、訓育
ハドウ云フ風ニスルト云フヤウナ、今日ノ
帝國大學デハ出來ナイ、〓育ノ最高學府デ
ハ出來ナイヤウナ諸問題ヲ取扱ッテサウ
云フコトヲ〓究シ、サウ云フコトニ適當ナ
ル人間ヲ集メテ、サウシテ普通〓育ノ源泉
ヲ造ルト云フコトデナケレバ意味ヲ爲サヌ
ノデアリマス、ソレデハ或ハ人ハ難ジテ言
ヒマセウ、貴樣ハ永年高等師範學校長デ居フ
タヂヤナイカ、何故ソレデハモットサウ云フ
精神ニ適フヤウニ其學校ヲシナカッタカ、斯
ウ云フ質問ガアルカモ知レマセヌガソレ
ニ私ハ答ヘテ言フノニ、自分ノ力ノ及ブ限
リハヤック積リデアル、ソレダカラ年限ハ短
ク、〓授ノ待遇ハ惡ク、設備ガ不十分デア
ルニモ拘ラズ、高等師範學校ヲ出ク者ガ地
方ノ中等學校ニ行ッテ、〓鞭ヲ執ッテ居ル場
合ニハ帝國大學ヲ卒業シタ者ト殆ド優劣
ハナイ、或ル點ニ付テハ劣ルトモ、或ル點
ニ付テハ優ノテ居ル、其證據ニハ私ガ學校ニ
就職シタ當時ハ殆ド中等學校ノ校長ト云
フモノハ、師範學校ニ相當アッタ切リデ、中
學校高等女學校ニハ殆ド高等師範ノ卒業生
ハ校長トシテ居ラナカッタ、今日御覽ナサ
イ、恐ラクハ半バ······半バト數字ハハッキ
リ覺エマセヌガ、帝國大學ヲ卒業シタ者ト
高等師範學校ヲ卒業シタ者トハ似寄ッタ數
デアル又高等女學校ニ於テハ、遙ニ高等師
範ヲ卒業シタ者ガ多イ、ダカラソレダケ年
限ガ短ク不十分ナル〓育ヲ受ケテモ、師範
〓育ト云フ其仕方デ〓育ヲ受ケレバ、モット
長イ年限ノ〓育ヲ受ケタ人ト同ジヤウニ任
務ニ就クコトガ出來ル、何ヨリ證據ハサ
ウ云フ重要ナ位置ニ澤山用ヰラレテ居ルト
云フコトガ成績ヲ現ハシタ證據デハアリマ
セヌカ、併ナガラ何分〓授ノ待遇ガ惡イ、
年限モ短イ、是デハ本當ノモノガ出來ナイ
ト云フノデ、所謂昇格ト云フコトヲ主張シ
タ譯デアル自分ガ値打ノアル〓授ヲ集メ
ヤウト思ッテモ、何分待遇ガ低イカラ良イ人
ガ得ラレナイ、人格品性等ニ於テモ値打ガ
アリ、〓育ノ技術ニ於テモ値打ガアリ、又
學識モアルト云フ人デナケレバ本當ニ良
イ〓育者ヲ造ルコトガ出來ナイガ、ソレハ
是迄ノ高等師範學校ノ如キ貧弱ナ學校デハ
出來ナイト云フノガ、其昇格問題ノ理由デ
アル、其昇格問題ガ漸ク解決サレテ出來タ
學校ガ何カト云フト、最初ノ魂ハ失ッテシ
マッテ、帝國大學ノ出張所ノヤウナモノニ
ナッテシマッタ、是デドウシテ國民〓育ノ源泉
タル所ノ實ヲ擧ゲルコトガ出來マセウカ
ソコデ私ハ文部大臣ニ伺ヒタイト思フノハ、
同ジ帝都ニ同ジヤウナ學校ガ二ツアルト云
フコトハ、今日此國費多端ノ時ニ、是ハ甚
ダ不利益ナ話デアル之ヲ本當ニ師範〓育
ノ源泉、卽チ陛下ノ思召ニ適ッタ、卽チ德
化ヲスル、德化ヲスルト云フコトノ出來ル
一ツノ〓育施設ニ之ヲナサル御考ハオ有リ
デナイカ、マア當然アルト思ヒマスケレド
モ、併ナガラオ尋ヲスル以上ハオ有リヂ
ヤナイカト、斯ウ申上ゲルヨリ仕方ガナイ、
若シオ有リデナイト云フコトナラバ、ソレ
ハ私ハ容易ナラヌコトデアラウト思フ、此
三點ニ付テ明確ナル御答辯ヲ得タイト思フ
(拍手)
〔國務大臣鳩山一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=5
-
006・鳩山一郎
○國務大臣(〓山一郞君) 嘉納先生カラ非
常ニ御誠意ノアル御忠告ヲ數多戴キマシテ、
誠ニ有難ク存ジマス、今日〓育ガ特ニ尊重
スペキモノデアルト云フ觀念ハ國民一般
ガ認識シテ來タト思ッテ居リマス、此頃社會
上、政治上或ハ經濟上ノ幾多ノ難問題ガ生
ジテ參リマシテ、人心ノ動搖ヲ來シテ居リマス、
今日我ミハ〓育ニ最モ力ヲ費サナクテハナ
ラナイ問題デアルト云フコトヲ一般ガ自覺
ヲシテ參ッタト私ハ思ッテ居リマス色々ノ
問題ニ遭遇ヲ致シマシテ、ソレニ適應スル
健全ナル考ヲ持ツト云フコトハ誠ニ〓育
ノ力デナクテハナラナイト思ヒマス最近
ニ色々行詰ッタ結果、社會ノ急激ナ變革ヲ來
サウト云フヤウナ思想ガ横溢シテ居ルヤウ
ニ考ヘラレマスルガ、斯ウ云フヤウナ場合
ニ處シマシテ、國民ノ多數ガ健全ナ思想ヲ
持ッテ居ラナケレバ、ドノ位危險ヲ及ボスモ
ノデアルダラウト云フヤウナ事柄ヲ、人々
ハ大變考ヘルヤウニナッテ參リマシテ、ドウ
ニカシテ國民ニ健全ナ思想ヲ植付ケタイ、
急激ナ變革ト云フヤウナ問題ニ對シテハ、
社會ト云フモノハ、一步々々踏ミ占メテ進
步ヲサセナクテハナラナイモノデアルト云
フヤウナ考ヲ、澤山ノ人ニ持タシタイ、或
ハ又非常ニ輕佻浮薄ナ思想ヲ持ッテ居ル人
達ニ對シマシテハ、勤儉力行ノ思想ヲ植付ケ
タイ、是レ總テ皆〓育ノ力ニ依ラナクテハ
ナラナイト云フヤウニ、識者ハ考ヘ出シテ
來タト私ハ思ッテ居リマス、此意味ニ於キマ
シテ、思想問題、是ハ〓育ニ依ヲテメメ解
決セラルルモノデアルト云フヤウナ考ニ
ナッテ參ッタト私ハ思ッテ居リマスノデ、此際
ニ文部省ノ連中ハ固ヨリ、學校ノ〓職員ハ
固ヨリ社會總テノ人ガ一致結束シテ、此
〓育ノ目的ヲ達成スルヤウニ努力シナクテ
ハナラナイト思ッテ居ルノデス、先刻政治家
ニ對シテ我〓大ニ反省シナクテハナラナイ
ト云フコトノ〓ヲ賜ハリマシテ、私共固ヨ
リ自ラ反省イタサナクテハナリマセヌ、ケ
レドモ政治ハ政治家バカシデハ出來ナイ、
〓育モ〓育家バカシデハ出來ナイト思ッテ
居リマス、ドウカ斯ウ云フヤウナ國家ノ重
要ナ問題ニ對シマシテハ朝ニ在ルト野ニ
在ルト〓育家タルト〓育家タラザルトヲ
問ハズ、全部ガ結束シテ最善ノ目的ヲ達スル
ヤウニ私共働キカケナクテハナラナイト
考ヘテ居リマス、智育ノ尊重ニ對シマシ
テ智育ノ尊重ト云フヨリハ、智育ノ偏
重ニ對シマシテ御注意ヲ賜ハリマシテ誠
ニ私ハ服膺シナクテハナラナイト思ッテ居
リマス、知識ノ詰込ミ、サウシテ其知識ノ
詰込ミ方ガ全ク型ニ嵌フタヤウナ知識ノ注
入ノ仕方デアリマシテ、人間ヲ造ルト云フ
方ノ知識ノ詰込ミガ誠ニ缺ケテ居ル點ガア
リハシナイカト考へテ居リマス、此點ニ付
キマシテハ、先生ノ御意思ノアル所ヲ尊重
イタシマシテ、出來ルダケ人格陶冶ト云フ
コトニ力ヲ盡シタイト田心ッテ居リマス、學生
主事、或ハ生徒主事、或ハ督學官、其他ノ
文部省ノ役入ノ人選ノ仕方ニ付キマシテ御
忠告ヲ賜ハリマシテ、全ク此頃ハ唯物史觀
ト申シマスカ、何ト言フ思想デアリマス
カ、斯ウ云フヤウナ考ヘガ總テノ社會ヲ通
ジテ瀰漫シテ參リマシテ、學閥ト云フモノ
ガ矢張リ〓員仲間ニ於テモ出テ來ルヤウニ
ナリマシテ、或ハ帝國大學ノ卒業生、或ハ
東京高等師範學校ノ卒業生、或ハ廣島高等
師範學校ノ卒業生ガ各、閥ヲ造ッテ、互ニ相
排斥スルヤウナ醜惡ナ場面ガ〓員ノ中ニ出
テ來タヤウナ始末デアリマス此際ニ〓職
員ノ人選ニ付キマシテ非常ニ注意ヲ要スベ
キハ固ヨリデアルト考ヘテ居リマス能ク
多數ノ公平ナル意見ヲ尊重イタシマシテ、
萬遺漏ナイヤウニ致シタイト考ヘマス、〓
育ノ〓究所ノ設置、竝ニ文政審議會ニ付テ
ノ御意見モ、之ニ對シマシテハ前大臣ニ於
キマシテ御答ヲシテアルト同樣ナ考ヲ私ハ
持ッテ居リマス、若シ〓育〓究所ニ付テ良イ
組織ガ考ヘラレ良イ人選ガ考ヘラレ、其
目的ヲ達成シ得ルヤウナ案ガ浮ビマシタナ
ラバ是非〓育〓究所ヲ造リタイト考ヘテ
居リマス、今日〓育界ニ於キマシテ、〓育
方法ニ於キマシテ、色〓ノ方面ニ於キマシ
テ、改革ヲシナクテハナラナイト云フコト
ハ澤山ゴザイマスノデ、是等ノ問題ヲ解決
スルノニハ到底文部省ダケノ力ヲ以テ致
シ能ハザルト云フコトハ千萬承知ヲ致シテ
居リマスノデ、ドウニカ此目的ヲ達成スル上
ニ良キ方法ハナイモノカト常ニ考ヘテ居ル
次第デアリマスルカラ、方法竝ニ組織ニ付
テ案ガ浮ビマシタナラバ、御注意ノ如クニ
取計ヒタイト思ッテ居リマス、師範大學、文
理科大學ノ事ニ付テ御質問ガゴザイマシタ
ガ、文理科大學ヲ造リマシタ其目的ニ副ハ
ナイヤウナ傾向ガ若シアリマシタナラバ
卽チ〓育大學、師範大學トシテノ其目的ニ
副ハナイヤウナ點ガアリマシタナラバ改.
メテ參ラナクテハナラナイノハ固ヨリ當然
ナ事柄ト考ヘテ居リマス、其內ニ先生ノ御
示〓ヲ得テ、師範、文理科大學ガ師範大學
ノ目的ヲ達スルヤウニ努力ヲ致シマス、之
ヲ以テ私ノ答ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=6
-
007・嘉納治五郎
○嘉納治五郞君 簡單デゴザイマスカラ此
席カラ述ベルコトヲ御許ヲ願ヒタウゴザイ
やっ、只今ノ文部大臣ノ御答辯ニ對シテハ
私ハ滿足イタシマス、只今ノ御話モゴザイ
マシタヤウニ、〓育〓究所ノコトハ旣ニ前
數囘京都大學、東京大學、又男女高等師範學
校ノ〓授、民間ノ人モ加ハッテ〓究ガ大方
完結シテ、マダ完成セズニ居リマスカラ、
只今ノヤウナ文部當局ノ思召デゴザイマス
ナラバ又サウ云フ人ミノ會合ヲ催シマシ
テ案ヲ作ッテ御參考ニ供シヤウト存ジマス、
ソレガ若シ文部當局ノ思召ニ適ヘバドウカ
御採用願ヒタウゴザイマス、次ノ師範大學、
文理大學ト云フヤウナコトニ關係シタ問題
ハ是ハ只今御話ノ通リ相當ナ具體的ノ案
ヲ作ッテ御覽ニ入レナケレバ確乎タル御答
ノ出來ヌコトハ尤モト思ヒマスル、ソレ故
是ハ相當ナ、適當ナ人ヲ集メテ能ク〓究シ
テ、是モ御參考ニ供シヤウト存ジマスソ
レダケノコトヲ申上ゲテ置イテ、只今ノ御
答辯デ滿足ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=7
-
008・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第二、請願
委員長報告、〓岡子爵
〔子爵〓岡長言君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=8
-
009・清岡長言
○子爵〓岡長言君 第一囘ノ請願委員會ノ
御報告ヲ致シマス、去ル六月三日ニ委員會
ヲ開キマシテ、正副委員長ノ選擧ヲ行ヒ
引續キ會議ヲ開キマシタ、而シテ今議會ハ
會期モ短イ爲メ分科會ヲバ開カズ、委員會
ヲ六月七日ト六月十日ノ二囘開クコト、及
ビ其他ヲ決議イタシマシタ、右ニ依リ請願
委員會ハ六月三日及六月七日ノ二囘開會イ
タシマシタ、請願文書表報告ハ六月三日、
六月六日ノ二囘、請願委員特別報〓ハ六月
七日ニ一囘イタシマシタ而シテ請願書受
領件數ハ九十七件デ、之ガ連署イタシテ居
リマスル、人名數ハ百六十三万七千七百六
十名デゴザイマス、次ニ審査ノ經過及結果
ニ付テ御報告申上ゲマス、請願文書表掲載
件數ハ六十四件デ、審査ノ結果院議ニ付ス
ベシトスルモノガ九件、院議ニ付スルヲ要
セズトスルモノガ一件、卽チ請願文書表第
五號、審査未了ノモノガ五十四件デゴザイ
マス、尙ホ請願文書表ニ未ダ揭載イタシテ
居ラナイモノハ三十三件デゴザイマス、以
上ハ昭和七年六月一日ヨリ六月九日午後四
時締切迄ノ御報告デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=9
-
010・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第三柳河軌
道株式會社所屬軌道補償ノ爲公債發行ニ關
スル法律案、政府提出、衆議院送付、第
讀會、三土鐵道大臣
柳河軌道株式會社所屬軌道補償ノ爲公
債發行ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
柳河軌道株式會社所屬軌道補償ノ爲
公債發行ニ關スル法律案
政府ハ柳河軌道株式會社所屬軌道ノ經營
廢止ニ對スル補償ノ爲額面二十二萬九千
四百圓ヲ限リ公債ヲ發行スルコトヲ得
〔國務大臣三土忠造君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=10
-
011・三土忠造
○國務大臣(三土忠造君) 只今上程サレマ
シタル法律案ニ付キマシテ、提案ノ理由ヲ
簡單ニ申上ゲマス、門司カラ鹿兒島へ通ジ
テ居リマスル九州本線中ノ、矢部川驛カラ
筑後ノ柳河ニ參リマスル柳河軌道株式會
社ノ經營ニ屬スル鐵道ガアルノデアリマ
ス、然ルニ矢部川カラ此線ニ併行イタシマ
シテ、政府ノ鐵道ガ開通イタシマシテ、其
結果トシテ此柳河軌道株式會社ノ併行線ニ
屬スル部分ガ營業成績ガ非常ニ不良ニナッ
タノデアリマス、卽チ昨年九月二十四日ニ
省線ガ開通イタシマシテ以來、急ニ營業成
績ガ惡クナリマシタ、此會社ハ大體一割二
三分ノ配當ヲ致シテ居リマシタガ、ソレガ
殆ド無配當ニナッテシマッタノデアリマス、
左樣ナ狀況ニナッテ參リマシタノデ、地方鐵
道法及軌道法ニ依リマシテ、賠償ヲシテヤ
ラナケレバナラヌノデアリマシテ、其爲ニ
公債ヲ發行イタサナケレバナリマセヌ、サ
ウ云フ意味ノ法律案デアリマスノデ、ドウ
カ御審議ノ上協賛ヲ與へラレムコトヲ希望
イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=11
-
012・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 別ニ御質疑モナ
イト認メマスカラ、本案ノ特別委員ノ氏名
ヲ書記官ヲシテ報告ヲ致サセマス
〔山本書記官朗讀〕
柳河軌道株式會社所屬軌道補償ノ爲公債
發行ニ關スル法律案特別委員
侯爵德川賴貞君伯爵酒井忠克君
子爵新庄直知君子爵綾小路護君
男爵中村謙一君靑木周三君
阿部房次郞君芳賀茂元君
八馬兼介君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=12
-
013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四、兌換
銀行劵條例中改正法律案、第五、日本銀行
納付金法案、第六、日本銀行參與會法案、
第七、資本逃避防止法案、政府提出、衆議
院送付、第一讀會、堀切政務次官
兌換銀行劵條例中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
兌換銀行劵條例中改正法律案
兌換銀行劵條例中左ノ通改正ス
第二條第二項及第三項ヲ左ノ如ク改メ同
條第四項ヲ第五項トシ第五項ヲ第六項ト
ス
日本銀行ハ前項ノ規定ニ依ル準備發行
高ノ外十億圓ヲ限リ政府發行ノ公債證
書大藏省證劵其ノ他確實ナル證劵又ハ
商業手形ヲ保證トシ兌換銀行劵ヲ發行
スルコトヲ得
日本銀行ハ必要アリト認ムルトキハ前
二項ノ規定ニ依ル發行高ノ外更ニ前項
ニ規定スル物件ヲ保證トシ兌換銀行劵
ヲ發行スルコトヲ得但シ十五日ヲ超エ
仍其ノ發行ヲ繼續セントスルトキハ大
藏大臣ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
日本銀行ハ前項但書ノ場合ニ於テ十六
日以後ハ十億圓ヲ超過スル保證發行額
ニ對シ大藏大臣ノ定ムル割合ヲ以テ發
行稅ヲ納ムベシ但シ其ノ割合ハ年三分
ヲ下ルコトヲ得ズ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
日本銀行納付金法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院義長公爵德川家達殿
日本銀行納付金法案
日本銀行納付金法
日本銀行ハ事業年度每ニ純益金ヨリ左ニ
揭グル金額ヲ控除シタル殘額ノ二分ノ一
ヲ政府ニ納付スベシ
一拂込資本金額ニ對スル年六分ニ相
當スル金額
二日本銀行條例第十條ノ規定ニ依リ
積立ツベキ金額ノ最少額ニ相當スル
金額
純益金ヨリ前項第一號及第二號ノ金額及
前項ノ規定ニ依ル納付金額ヲ控除シタル
殘額ガ拂込資本金額ニ對シ年四分ノ割合
ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ノ四分ノ
三ヲ更ニ政府ニ納付スベシ
本法ニ依ル納付金額ハ所得稅法ニ依ル所
得及營業收益稅法ニ依ル純益ノ計算上之
ヲ損金ニ算入ス
本法ニ依ル納付金ハ前事業年度分ヲ八月
末日、後事業年度分ヲ翌年二月末日限政
府ニ納付スベシ
附則
本法ハ日本銀行昭和七年後事業年度分ヨ
リ之ヲ適用ス
明治三十二年法律第五十六號ハ昭和七
年七月一日限之ヲ廢止ス但シ同日前ノ發
行稅ニ關シテハ仍舊法ニ依ル
日本銀行條例第十條中「十分ノ一」ヲ「二
十分ノ一」ニ改ム
日本銀行參與會法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
日本銀行參與會法案
日本銀行參與會法
第一條日本銀行ニ日本銀行參與會ヲ置
キ日本銀行ノ重要ナル業務ニ關シ日本
銀行總裁ノ諮問ニ應ゼシム
第二條H本銀行參與會ハ會長及日本銀
行參與五人以內ヲ以テ之ヲ組織ス
第三條會長ハ日本銀行總裁ヲ以テ之ニ
充ツ
第四條日本銀行參與ハ金融業若ハ產業
ニ從事シ又ハ學識經驗アル者ノ中ヨリ
大藏大臣之ヲ命ジ其ノ任期ヲ三年ト
ス
日本銀行參與ハ無給トス
第五條日本銀行總裁ハ少クトモ每月一
囘日本銀行參與會ヲ招集スベシ
第六條日本銀行參與會ハ日本銀行ノ業
務ニ關シ日本銀行總裁ニ意見ヲ述ブル
コトヲ得
日本銀行參與ハ必要ト認ムルトキハ日
本銀行參與二人以上ノ同意ヲ得テ日本
銀行參與會ノ招集ヲ會長ニ請求スルコ
トヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
資本逃避防止法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
資本逃避防止法案
資本逃避防止法
第一條政府ハ內外ノ情勢ニ依リ資本ノ
內外移動ヲ取締ル爲必要ト認ムルトキ
ハ命令ヲ以テ外國通貨及外國爲替ノ賣
買、外國ニ對スル送金、外國通貨ヲ以
テスル預金取引及貸借、外國通貨表示
ノ證劵其ノ他ノ債權ノ賣買及輸入竝ニ
外國居住者ニ對シ信用ヲ與フル行爲ヲ
禁止又ハ制限スルコトヲ得
第二條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ前
條ノ禁止又ハ制限ニ關係アル事項ニ付
報〓ヲ徵シ又ハ帳簿其ノ他ノ檢査ヲ行
フコトヲ得
第三條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ外
國通貨、外國爲替又ハ外國通貨表示ノ
證劵其ノ他ノ債權ヲ有スル者ニ對シ之
ヲ日本銀行其ノ他政府ノ指定スル者ニ
賣却スベキコトヲ命ズルコトヲ得
前項ノ賣却價額ハ外貨評價委員會ノ定
ムル所ニ依ル
外貨評價委員會ノ組織及權限ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ム
第四條本法ニ基キテ發スル命令ヲ以テ
規定スル取引又ハ行爲ノ禁示又ハ制限
ニ違反シタル者ハ三年以下ノ懲役若ハ
禁錮又ハ一萬圓以下(若シ當該取引
價額ノ三倍ガ一萬圓ヲ超ユルトキハ當
該取引價額ノ三倍以下)ノ罰金ニ處ス
本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル外國通
貨其ノ他ヲ賣却スベキ旨ノ政府ノ命ニ
從ハザル者ハ一年以下ノ禁錮又ハ當該
外國通貨其ノ他ノ價額ノ二倍以下ノ罰
金ニ處ス
本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シ報〓
ヲ爲サズ、虛僞ノ報告ヲ爲シ又ハ帳薄其
ノ他ノ檢査ヲ拒ミタル者ハ六月以下ノ
禁錮又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五條法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ
代理人、使用人其ノ他ノ從業者ガ其ノ
法人又ハ人ノ業務ニ關シテ前條ノ違反
行爲ヲ爲シタルトキハ行爲者ヲ罰スル
ノ外其ノ法人又ハ人ニ對シ亦前條ノ罰
金刑ヲ科ス
第六條本法ノ罰則ハ本法施行地ニ本店
又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ノ代表
者、代理人、使用人其ノ他ノ從業者ガ本
法施行地外ニ於テ爲シタル行爲ニモ之
ヲ適用ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員堀切善兵衛君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=13
-
014・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衛君) 只今議題トナ
リマシタ兌換銀行劵條例中改正法律案、日
本銀行納付金法案及日本銀行參與會法案ヲ
一括シテ提案ノ理由ヲ先ヅ說明イタシマ
ス、我ガ財界ノ現狀ヲ見マスノニ、其最モ
憂フベキ點ハ通貨ノ循環流通ガ圓滑ナラザ
ルコトデアリマシテ、今日ノ如クニ通貨ガ
不足シ信用ガ收縮シテ居ッテハ到底產業
ノ振興ヲ望ムコトハ困難デアリマス、之二
付キマシテハ我國ノ兌換銀行劵發行制度
ガ、我ガ經濟力ノ進展著シキモノガアルニ
拘ラズ、明治三十二年以來一度モ改正セ
ラレズ、今日ノ時代ニ適合スルノ機能ヲ缺
イテ居ルコトガ最大ノ理由デアルト考ヘラ
レマス、卽チ現行ノ、兌換銀行劵條例ニ依
リマスレバ、保證發行限度ハ一億二千万圓
デアリマスル所、此限度ヲ以テシテハ我國
產業ノ正當ナル取引ニ必要ナル通貨ヲ圓滑
ニ供給スル上ニ不便尠カラズ、加之正貨保
有高ハ一時ニ比ベテ著シク減少シテ居リマ
スノデ、適當ニ保證發行限度ヲ擴張スルコ
トハ當面ノ急務デアリマス而シテ近年ノ
通貨發行ノ狀況ヲ觀マスルニ、通常ノ通貨
需要量ハ約十二億圓デアリマスガ、將來ニ
於テハ通貨ノ需要量ハ自ラ增大スルコトア
ルベキヲ考慮スルト共ニ、正貨保有高ノ現
狀ヲモ參酌イタシマシテ、保證發行限度ハ
之ヲ十億圓ニ擴張スルコトヲ以テ適當ナリ
ト認メタノデアリマス、次ニ我國ニ於テハ
月末、季末等ニ際シ、一時的ニ決濟資金需
要ノ爲メ通貨ノ增發ヲ見ルノガ常デアリマ
スルガ、斯ノ如キ一時決濟用ノ通貨ハ過去
ノ實績ニ依リマスレバ、通常十五日以內ニ
收縮スルノデアリマシテ、特ニ之ヲ抑制ス
ルノ必要ナシト認メタノデアリマス、唯十
六日以後ニ於テ尙ホ制限外發行ヲ繼續セム
トスル場合ニハ大藏大臣ノ許可ヲ受クル
コトヲ要スルコトトシ、目ツ之ニ對シテハ
適當ノ稅率ヲ以テ課稅シ、通貨ノ供給ガ適
當ニ保持セラルルヤウニスルコトトシタイ
ト考ヘマス、而シテ將來金利ノ低下アル場
合ニ於テ、必要ナル通貨ノ供給ニ支障ナカ
ラシムル爲メ、制限外發行稅ノ稅率ノ最低
限度ニ付キ、現行年五分ヲ年三分ニ改メ
其限度ヲ下ラザル範圍ニ於テ大藏大臣ガ時々
ノ情勢ニ應ジ、相當ノ課稅ヲ爲シ得ルヤウ
配慮イタシタノデアリマス、第二ニ日本銀
行納付金法案デアリマスルガ、之ニ付キマ
シテハ日本銀行ガ國家的機關デアリ、其利
益タルヤ、國家ヨリ賦與セラレタル特權及
特權的地位ト離ルベカラザル關係アルニ鑑
ミマシテ、其全利益ヲ基準トシテ、其一定
部分ヲ國家ニ納付セシメ、日本銀行ノ利益
分配ヲシテ衡平ノ原則ニ從ハシメ、且ツ上
納額ヲシテ日本銀行ノ利益ノ增減ニ順應セ
シムルコトヲ以テ目的ト致シマシタ、卽チ
現在ノ制限外發行稅制度及政府當座預金利
子上納ノ制度ハ、共ニ一定率ヲ以テ發行稅
又ハ利子ヲ徵收スルモノデアリマシテ、日
本銀行ノ受クル利益ト權衝ヲ得ザルノミデ
ナク、日本銀行ノ利益ノ增減ニ順應スルノ、
伸縮性ヲ缺キマスルガ故ニ、此兩制度ヲ廢
シテ、納付金制度ヲ採用スルコトヲ滴當ト
認メタノデアリマス、殊ニ今囘兌換銀行劵
發行制度ガ改正セラレマスレバ日本銀行
ノ純益ハ著シク增大スベキハ明カデアリマ
スルガ故ニ、此關係カラシマシテモ本制度
ヲ採用スルコトニ致シタノデアリマス、唯
本制度ノ採用ニ依リ、日本銀行ノ負擔ヲシテ
從前ニ比シ過度ナラシメザルヤウ、納付金
ノ率ヲ適當ニ定メタノデアリマス、第三ニ
日本銀行參與會法案デアリマスルガ、今囘
兌換銀行劵條例ニ改正ヲ加ヘマス結果、
通貨ノ供給ハ從來ニ比シ容易トナリ、圓滑
ヲ期シ得ルノデアリマスルガ、他面ニ於テ
ハ通貨ノ供給ヲシテ眞ニ正當ナル取引ニ必
要ナル需要ニ、合致セシメムトスル認定ハ
極メテ困難ナルモノガアリ、又之ガ運用ハ
最モ肝要トスル所デアリマス、而シテ一般
ニ日本銀行ノ機能ヲ發揚シ、我國ノ經濟狀
態ニ適應セシムル爲ニハ日本銀行ト金融界
竝ニ產業界等トノ聯繫ヲ緊密ナラシメ、以
テ日本銀行ヲシテ金融統制ノ實ヲ擧ゲシム
ルコトガ極メテ肝要デアルト考ヘマス依
テ日本銀行ニ日本銀行參與會ヲ設ケ、金融
界、產業界ノ代表者竝ニ學識經驗アル者ヲ
選ンデ日本銀行參與トナシ、日本銀行總裁
ハ重要事項ニ關シ之ニ諮問シテ其意見ヲ徵
シ、又ハ總裁ニ對シ意見ヲ陳述スルヲ得
セシムルコトハ時宜ニ適フモノデアルト
認メタノデアリマス、以上三箇ノ法律案ニ
付キマシテ、大綱ニ付キマシテハ既ニ特
別金融制度調査會ニ於テモ、審議可決セラ
レタル所デアリマス、何卒愼重御審議ノ上
速ニ御協賛ヲ願ヒマス、次ニ資本逃避防
止法案提出ノ理由ヲ說明イタシマス、昨
年以來我國ニ於テハ、或ハ圓價格ノ低落
ヲ見越シ、或ハ內外證劵ノ運用、利廻リ
ノ開キニ基キマシテ、本邦資本ノ海外ニ流
出スルモノ多ク、此傾向ハ昨年九月英國ノ
金本位制度離脫後ニ於テ、特ニ顯著ナルモ
ノガアリマシタ、最近ニ於キマシテハ、本
邦外債ノ市價ガ低落シマシタ爲メ、之ニ對
スル投資今尙ホ其跡ヲ絕タザル狀況ニアリ
マス將來ニ於キマシテモ、通貨ノ發行ガ
增加スル場合ニ於テ、資本ノ海外逃避ヲ計
畫スル者續出スルコトナキヲ保セヌノデア
リマス、元來資本ノ國際的移動ハ平時ニ
於テハ自由タルベキコト勿論デアリマスル
ガ、今日ノ如キ國際經濟ノ非常時ニ際シ、
我ガ資本ノ海外流出ヲ防止スルコトハ國
民經濟ノ安全ヲ保持スル爲メ必要ノ措置デ
アリマシテ、旣ニ多數ノ國ノ實例ノ存スル
所デアリマス、然ルニ現在ニ於キマシテハ
資本ノ逃避ヲ取締ルベキ何等法規上ノ根據
ガアリマセヌカラ、今囘之ニ關スル法律案
ヲ提出スル次第デアリマス、而シテ法律ニ
於キマシテハ取締ノ基本ヲ定メ、實行上
ノ細目ハ命令ニ委任スルヲ以テ機宜ニ適ス
ルモノト認メマシタ、又外債ノ發行、其他
資本ノ流入ニ付キマシテモ、之ガ元利拂等
ノ關係モアリ、其他資本ノ流出ト密接ナ關
係ガアリマスカラ、此際之ニ付テモ政府ニ
監督權ヲ有セシムル必要ガアルト考ヘマ
ス、何卒速ニ協贊ヲ與ヘラレムコトヲ希望
イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=14
-
015・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 質問ヲ致ツテ宜シウ
ゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=15
-
016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=16
-
017・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 簡單デゴザイマスカ
ラ此方デ申述ベマス此案ニ關聯イタシマ
シテ大藏大臣ニ質問ヲ致シタイト存ジマス
ガ、御出席ガナイヤウデゴザイマスカラ、
政務次官カラノ御答デ一向差支ヘゴザイマ
セヌ、此改正案ハナカナカ大キナ影響ヲ及
ボス改正ト存ジマス、經濟界ノ一ツノ革命
デアリマス、之ヲ實際ニ運用スルコトニ付
テ一タビ方法ヲ誤シタナラバ、非常ナル結果
ヲ財界ニ起シテ來ヤウト存ジマス、此點ニ
付キマシテハ政府ノ方針ハ最モ堅實ナル方
針ニ依ッテ之ヲ運用サルルコトト存ジマス
ルガ、世間ニハ隨分之ヲ濫用シテ、妙ナ結
果ヲ生ゼシムルト云フヤウナコトモ聞イテ
居リマスルガ、此運用ニ付テハ十分御注意
ガアルコトト存ジマス、是ハマア申ス迄モ
ナイコトデゴザイマスルガ、一應念ノ爲メ
申上ゲテ置キマス、ソレデ此十億ノ兌換劵
ノ擴張ニ付キマシテハ其用途ニ付キマシ
テ新聞紙上ニ散見シテ居ル所ガゴザイマ
ス、ソレニ依リマスルト云フト、政府ハ此
十億ノ擴張ノ中、五億ヲ以テ公債ノ今度
ノ······昭和七年度ノ豫算ニ計上シテアリマ
スル所ノ公債ノ應募ノ財源ニ充テル、其餘
ノ五億ヲ以テ預金部ニアル所ノ公債ヲ買上
ゲマシテ、此餘裕ノ金ヲ以テ農村振興其他
ニ充テル、斯ウ云フヤウナコトガ書イテゴ
ザイマスノデゴザイマスルガ、政府ノ御方
針ハサウ云フコトト承知イタシテ宜シイノ
デアリマスカ其事ヲ伺ヒマス、ソレカラ
尙ホ是ハ斯ウ云フコトヲ申上ゲルノハ如何
カト存ジマスルガ、御迷惑ニナラヌ程度デ
御答ヲ下サレバソレデ宜シイノデゴザイマ
スルガ、之ニ關聯シテ平價切下ト云フヤウ
ナ問題ガ此頃聞エテ居リマスル、是ハ勿論
政府ニ於テハサウ云フヤウナ御考ハ決シテ
ナイコトト存ジマスルガ、是モ念ノ爲メ伺ソ
テ置キタイト存ジマスドウゾ御迷惑ニナラ
ヌ程度デ御答ヲ得レバソレデ宜シイ、ソレ
カラ最後ニ伺ヒタイノハ此日本銀行、兌換
銀行劵條例ヲ改正サレルノハ、日本銀行ニ
限ルト存ジテ居リマスルガ、同樣ノ必要ハ
朝鮮銀行竝ニ臺灣銀行ニ於テモ認メラレヤ
ウト存ジマスルガ、之ニ付キマシテ政府ハ
何カ改正ノ······是ト同ジヤウナ趣意ノ改正
ヲナサルト云フ御考ヘガアルヤ否ヤ、若シ
アルノダトスレバ大體ノ腹案ヲ御示シヲ願
ヒタイ、若シ無イトスレバ、ドウモ私ガチ
ヨット考ヘタ所ニ依リマスルト、矢張リ同一
趣意ノ改正ガアッテ然ルベキコトノヤウニ
存ジマスルガ、ソレヲシナイト云フ理由ハ
何處ニアルカ、其事ヲ伺ヒタイト存ジマス
〔政府委員堀切善兵衞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=17
-
018・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 只今大河內子
爵ノ御質問ニ對シ御答へ申上ゲマス、本改
正ノ結果、運用ヲ極メテ愼重ニ致サナケレ
バナラヌト云フ御說、誠ニ御尤モデアリマ
ス、特ニソレ等ノ點ハ注意イタシマシテ、
今囘參與制度等ヲ設ケマシテ、學識經驗ニ
富ンダ人、或ハ金融界、實業界等ノ相當ノ
權威者ヲ此中ニ入レマシテ、サウシテ是等
ノ協力ニ依ッテ運用ヲ遺憾ナカラシメタク、
左樣ナ考ヘヨリ此參與制度ヲ設ケマシタヤ
ウナ譯デ、特ニ十二分ノ注意ヲ致ス積リデ
アリマス、又今囘保證發行限度ヲ十億圓ニ
致シタ中、其中ノ五億圓ハ七年度ノ公債ニ
使ヒ、殘リ五億圓ハ公債ノ買入レニ應ズル
ト云フコトヲ新聞等ニ於テ記載シテ居ル
ガ左樣ナ計算カラ出タモノカト云フ御間
ヒデアリマスルガ、左樣ナ根據カラ出タモ
ノデハナイノデアリマス、保證限度ヲ十億
ニ擴張イタシ、同時ニ現在四億三千万圓足
ラズノ正貨ガアリマスカラ、合計十四億位
ノ限度ニ致シテ置キマスレバ日本ノ經濟
界ノ現在及今後相當ノ年月ノ間、日本ノ經
濟界ニ金融上ノ不便或ハ不足ナカラシムル
コトガ出來ヤウ、斯樣ナ考ヘカラ此案ヲ出
シマシタノデ、五億圓ハ七年度ノ公債、五
億圓ハ公債ノ買入レサウ云フコトヲ初メ
カラ豫算イタシテ、此十億ト致シタモノデ
ハ全然ナイコトヲ御答ヘ申上ゲテ置キマ
ス、次ニ平價切下ト云フ聲ガアルガドウ云
フ考ヲ有ッテ居ルカ、只今ノ所大藏當局ト致
シマシテ、平價切下ト云フ如キ考ハ有ッテ
居リマセヌコトヲ申上ゲテ置キマス、尙ホ
臺灣銀行、朝鮮銀行等ニ付テモ何故同ジ改
正案ヲ今囘出サナカッタカト云フ御質問デ
アリマスガ、朝鮮、臺灣ノ經濟事情ハ日本
內地ノ經濟事情ト違ヲタ點モアリマス、又發
劵制度等ノ點ニ於キマシテモ多少違ヒガソ
コニアリマスルカラ、是等ノ點ハ尙ホ今後
篤ト考慮イタシマシテ、適當ノ方法ヲ今後
講ジタイト考ヘテ居リマス、以上御答辯申
上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=18
-
019・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 只今ノ十億ノコトニ
付キマシテハ、算出ノ根據ヲ伺クタノデハナ
イノデアリマス、ドウ云フヤウナ用途ニ御
使ヒニナルト云フ御考ガ、政府ニオアリニ
ナルカト云フコトヲ伺,タノデアリマス、今
一應御答ヲ願ヒタイト存ジマス、ソレカラ
植民地ノ事情ハ內地ト違フト云フ御話デゴ
ザイマスガ、ソコヲモウ少シ具體的ニ伺ヒ
タイ、違フナラバ何處ガ違フ、或ハ內地ハ
非常ニ行詰ッテ居ルガ、植民地ハソレ程行
詰ッテ居ラヌ、何カソコニ具體的ノ事情ガア
ラウト思ヒマス、今少シクソコヲ具體的ニ
伺ヒタイ
〔政府委員堀切善兵衞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=19
-
020・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 朝鮮臺灣等ノ
經濟事情ト內地ノ經濟事情ノ大體違ヒノア
リマスルコトハ詳シク申上ゲナクテモ宜カ
ラウト存ジマスガ尙ホ此兩銀行ノ正貨準
備ハ日本銀行ノ正貨準備ノ如ク近年非常
ニ激減シタト云フ事實モナイノデアリマ
ス是等ノ點ヲ考慮イタシマシテ、サウシ
テ今後尙ホ愼重ニ調査〓究イタシマシテ
適當ノ機會ニ此改正案ヲ出シタイ考ヘデア
リマス、ソレカラ十億圓ヲ、半分ハ七年度
ノ公債ニ充テ、殘リノ半分ハ公債ノ買入ニ
充テル考ヘカト云フ譯デアリマスガ、今年
度ノ公債ノ中日本銀行引受ノ分ハ丁度五億
ト數字ガ極ッテ居ル譯デアリマセヌノデア
リマス又公債ノ買入ヲ致スコトガアルカ
モ知レマセヌケレドモ、是モ五億ダケノモ
ノヲ買入レルト何モ極ッテ居ル筈デハナイ
ノデアリマス、左樣御了承ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=20
-
021・東園基光
○子爵東園基光君 只今上程サレテ居リマ
スル日程第四ヨリ第七ニ至リマス法案ハ、
何レモ重要ナル案ト認メマスルニ依リマシ
テ、其特別委員ノ數ハ特ニ十八名ニ致シマ
シテ其選擧ハ議長ニ御一任イタシタイト存
ジマス、右動議ヲ提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=21
-
022・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=22
-
023・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 東園子爵ノ動議
ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ乞ヒマス
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=23
-
024・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 過半數ト認メマ
ス、本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ
朗讀イタサセマス
〔山本書記官朗讀〕
兌換銀行劵條例中改正法律案外三件特別
委員
公爵山縣有道君侯爵松平康昌君
伯爵林博太郞君子爵渡邊千冬君
子爵八條隆正君子爵舟橋〓賢君
石塚英藏君男爵〓
男爵矢吹省三君片岡自由
倉知鐵吉君西野元君
馬場鍈一君澤山精八郞君
下出民義君三木與吉郞君
岩田三史君男爵四條隆英君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=24
-
025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第八、昭和
七年法律第一號中改正法律案、第九、昭
和七年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公
債發行ニ關スル法律案、第十、行政整理又
ハ軍備整理ニ際シ退官退職シタル者等ニ交
付スル公債發行ニ關スル法律案、第十一
昭和七年度以降國債償還資金ノ繰入一部停
止ニ關スル法律案、第十二、國債ノ價額計
算ニ關スル法律案、第十三、恩給ノ減額補
給及停止ニ關スル法律案、政府提出、衆議
院送付、第一讀會、堀切大藏政務次官
昭和七年法律第一號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
昭和七年法律第一號中改正法律案
昭和七年法律第一號中左ノ通改正ス
「六千七百五十萬圓」ヲ「一一億六千萬圓」ニ
改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
參照
昭和七年法律第一號ハ滿洲事件ニ關スル
經費支辨ノ爲公債發行ニ關スル法律ナリ
昭和七年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
昭和七年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
第一條政府ハ昭和七年度一般會計歲出
ノ財源ニ充ツル爲他ノ法律ニ依リ起債
シ得ル金額ノ外一億六千六十萬圓ヲ限
リ公債ヲ發行シ又ハ借入金ヲ爲スコト
ヲ得
第二條政府ハ昭和七年度一般會計歲出
豫算翌年度繰越額ノ財源ニ充ツル爲他
ノ法律ニ依リ起債シ得ル金額ノ外昭和
八年度ニ於テ公債ヲ發行シ又ハ借入金
ヲ爲スコトヲ得但シ前條ノ規定ニ依ル
公債又ハ借入金ト通ジテ前條ノ制限額
ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條前二條ノ規定ニ依ル公債ノ發行
價格差減額ヲ補塡スル爲必要アル場合
ニ於テハ前二條ノ制限以外ニ公債ヲ發
行シ又ハ借入金ヲ爲スコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職
シタル者等ニ交付スル公債發行ニ關ス
ル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職
シタル者等ニ交付スル公債發行ニ關ス
ル法律案
今囘ノ行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官
若ハ退職シタル者、休職ヲ命ゼラレタル
者、現役ヲ退カシメラレタル者、解職若
ハ解傭セラレタル者等ニ特別ノ賜金又ハ
手當トシテ交付スル爲政府ハ額面二千五
百四十萬圓ヲ限リ公債ヲ發行スルコトヲ
得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
昭和七年度以降國債償還資金ノ繰入一
部停止ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
昭和七年度以降國債償還資金ノ繰入一
部停止ニ關スル法律案
昭和七年度以降當分ノ内國債整理基金特
別會計法第二條ノ規定ニ依リ繰入ルベキ
元金償還資金ハ前年度首ニ於ケル國債總
額ノ萬分ノ百十六ニ相當スル金額ノ三分
ノ一以上トシ同法第二條ノ二ノ規定ニ依
ル元金償還資金ノ繰入ハ之ヲ爲サザルコ
トヲ得
前項ノ規定ニ依リ國債償還資金ノ繰入一
部停止ヲ爲シタル年度ニ於テハ震災手形
善後處理法第八條但書ノ規定ニ依リ繰入
ヲ要セザル金額ハ同法ニ依リ發行シタル
公債ノ前年度首ニ於ケル未償還額ノ萬分
ノ百十六ニ相當スル金額ノ三分ノ一ト
ス
附則
本法ハ昭和七年度ヨリ之ヲ施行ス
國債ノ價額計算ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵徳川家達殿
國債ノ價額計算ニ關スル法律案
國債ノ價額ヲ財產目錄ニ記載スルニハ商
法第二十六條第二項ノ規定ニ拘ラズ大藏
大臣ノ〓示スル標準發行價格ニ依ルコト
ヲ得但シ其ノ取得ノ際ニ於ケル時價ヲ超
ユルコトヲ得ズ
前項ノ規定ハ外國ニ於テ發行シタル國債
ニハ之ヲ適用セズ
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
明治三十八年法律第二十號ハ之ヲ廢止
ス
本法施行ノ際所有スル國債ニシテ最終ノ
財產目錄調製前ニ取得シタルモノハ第一
項但書ノ規定ノ適用ニ付テハ之ヲ最終ノ
財產目錄調製ノ時ニ於テ取得シタルモノ
ト看做ス
恩給ノ減額補給及停止ニ關スル法律
案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
恩給ノ減額補給及停止ニ關スル法律案
第一條昭和六年六月一日以降減俸ノ爲
改正シタル俸給ニ關スル規程ニ依リ俸給
ヲ給セラレ勅令ヲ以テ指定スル時期迄
ニ退職シ若ハ死亡シタル軍人以外ノ公務
員若ハ之ニ準ズベキ者又ハ其ノ遺族ニ
ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ恩給額ト改
正前ノ俸給ニ關スル規程ニ依レバ受ク
ベカリシ俸給ヲ基礎トスル恩給額トノ差
額ヲ年金タル恩給ニ在リテハ退職又ハ
死亡ノ翌月ヨリ增給シ一時金タル恩給
ニ在リテハ追給ス
前項ノ規定ハ昭和六年六月一日以降勅
令ヲ以テ指定スル時期迄ニ新ニ制定セ
ラルル俸給ニ關スル規程ニ依リ俸給ヲ
給セラレテ退職シ若ハ死亡シタル軍人
以外ノ公務員若ハ之ニ準ズベキ者又ハ
其ノ遺族ニ付之ヲ準用ス
第二條恩給法第九十九條第一項ノ規定
ニ依リ從前ノ例ニ依リ普通恩給ト其ノ
基礎ト爲リタル在職年ニ通算スルコト
ヲ得ル官職ニ就キ受クル俸給トノ合算
額ノ退職當時ノ俸給ヲ超過スル差額ダ
ケ普通恩給ヲ停止スル場合ニ於ケル其
ノ退職當時ノ俸給ハ本法施行後ニ在リ
テハ勅令ヲ以テ指定スル時期迄昭和六
年六月一日以降減俸ノ爲改正シタル俸
給ニ關スル規程ニ依ル其ノ俸給ニ相當
スル俸給トス
前項俸給額ノ算定ニ關シテハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員堀切善兵衞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=25
-
026・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 只今議題トナ
リマシタ滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲メ
公債發行ニ關スル法律案提出ノ理由ヲ說明
イタシマス、去ル第六十一囘帝國議會ニ於
キマシテ、滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲
メ六千七百五十万圓ヲ限リ公債ヲ發行スル
コトヲ得ル法律ノ成立ヲ見、之ニ依リ大體
本年度五月分迄ノ經費ヲ支辨スルコトヲ得
ル次第デアリマスルガ今後明年一月迄ニ
更ニ滿洲事件費トシテ約一億七千二百五十
万圓ヲ必要トシ、又別ニ二千万圓ノ豫備費
ヲ設クル必要ヲ認メマシタコトハ先程昭
和七年度追加豫算ノ大要ヲ說明イタシタ際
ニ申述ベテ置キマシタ通リデアリマス、
而シテ是等經費ノ財源ハ普通財源支辨ト致
スコトガ困難デアルノミナラズ、尙ホ本經
費ノ性質ニ鑑ミ之ヲ公債ニ依ルコトト致
シマシタ爲メ、前議會ニ於テ御協贊ヲ經マ
シタ滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲メ公債
發行ニ關スル法律中ノ發行限度ヲ改正增加
スルノ必要ガアリマスノデ、本案ヲ提出ィ
タシタノデアリマス、何卒御審議ノ上御協
贊ヲ與ヘラレムコトヲ希望スル次第デアリ
マス次ニ只今議題トナリマシタ昭和七年
度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公債發行
ニ關スル法律案提出ノ理由ヲ說明イタシマ
ス、昭和七年度一般會計ニ於キマシテ、
旣ニ成立シテ居リマスル公債法ニ依リ公債
ヲ募集スル金額竝ニ滿洲事件ニ關スル經費
支辨ノ爲メ發行ヲ要スル公債金額ノ外、歲
入ノ不足ヲ補塡スル爲メ、一億六千五十餘
万圓ノ公債ノ發行ヲ必要トスルコトハ曩
ニ昭和七年度追加豫算ノ大要ヲ說明イタシ
マシタ際ニ申述べテ置キマシタノデアリマ
スガ、其發行ノ爲ニハ新ニ起債ノ權能ヲ得
ルコトガ必要デアリマス、尙ホ昭和七年度
ノ歲出ニ於キマシテモ、共中若干ノ金額ハ
例年ノ如ク翌年度ニ繰越サルル結果ニナル
デアラウト存ゼラレマスガ、其繰越額ノ財源
ハ必ズシモ七年度內ニ起債スルコトヲ必要
ト致シマセヌ爲メ翌年度ニ於テ募債シ得
ルコトト爲スヲ適當ト認メマス、右ノ理由
ニ依リ本法律案ヲ提出シタ次第デアリマス、
何卒御審議ノ上御協贊ヲ與ヘラレムコトヲ
希望イタシマス次ニ只今議題トナリマシ
タ行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職シ
タル者等ニ交付スル公債發行ニ關スル法律
案提出ノ理由ヲ說明イタシマス、政府ニ於
テ昨年ヨリ引續キ實行イタシテ居リマスル、
行政整理等ニ依ル官吏其他雇傭人等ノ人員
整理ハ、旣ニ其大部分ヲ終了イタシタノデ
アリマシテ、之ニ依リ退官退職イタシマス
ル人員ハ、一般特別各會計ヲ通ジマシテ約二
万人ニ上ボルノデアリマス、而シテ今日一
般經濟界不況ノ時機ニ際會イタシマシテ、
是等多數ノ人ミガ一時ニ其職ヲ去リマスニ
付キマシテハ之ニ適當ノ待遇ヲ與フルコ
トノ必要ナルコトハ申ス迄モナイコトト考
ヘマシテ、先例ニモ鑑ミ離職者ニ對シソ
レソレ特別ノ賜金又ハ手當ヲ支給スルコト
ニ計畫イタシマシタ、是等特別ノ賜金又ハ
手當ハ公債ヲ以テ交付スルノ必要ガアリマ
ス、依テ此公債發行ニ關スル法律案ヲ提出
イタシタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上
御協贊ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマ
ス、······次ニ只今議題トナリマシタ昭和七年
度國債償還資金ノ繰入一部停止ニ關スル法
律案ニ付テ提案ノ趣旨ヲ說明イタシマス
現行法制ニ於テハ國債償還資金トシテ每年
度、前年度初メ現在ノ國債總額ノ万分ノ百
十六以上ニ相當スル金額ノ繰入ヲ要スルノ
デアリマスガ、目下ノ我國ノ財政ハ歲入ノ
激减ヲ來シ、之ガ爲メ各會計ニ於テ多額ノ
公債發行ヲ必要トスルニ立至リマシタ斯
カル狀況デアリマスカラ、一方ニ於テ多額
ノ公債ヲ募集シ、他方ニ於テ相當多額ノ公
債償還ヲ行フヨリモ、寧ロ國債償還資金繰
入ノ一部ヲ停止シテ、其金額ダケ起債額ノ
減少ヲ計ルコトヲ必要ト認メマシテ、當分
ノ間國債總額ノ万分ノ百十六ニ相當スル金
額ノ繰入ハ、其三分ノ二以內ヲ減少シ又
一般會計ニ於ケル前々年度剩餘金ノ四分ノ
一ニ相當スル金額繰入ハ全部之ヲ停止
シ得ルコトトシタ次第デアリマス、尙ホ震
災手形善後處理法第二條、ニ依ル貸付ノ瓣濟
金ハ當該年度ニ於テ收入ニ該ルモノノ全
部ヲ國借償還資金ニ充當スル從來ノ方針ヲ
持續スルコトトシ、之ガ爲メ本法律案ニ第
二項ヲ設ケタノデアリマス、何卒速ニ御協
贊アラムコトヲ願ヒマス、今一ツ議題ニナ
リマシタ國債ノ價格計算ニ關スル法律案ノ
提案ノ趣旨ヲ說明イタシマス國債ノ時價
ハ一般經濟界ニ於ケル金利ノ高低、政府財
政上ノ必要ヨリ生ズル新規國債發行額ノ多
少等ノ關係カラ、常ニ變動スルコトヲ免レ
ヌノデアリマスガ、他ノ社債劵、株劵等ノ
有價證劵ニ比ベマスレバ、其價格變動ノ程
度ハ極メテ少ク、假令一時特殊ノ事情カラ
相當價格ガ低落スルコトガアリマシテモ、
間モナク其囘復ヲ見ルノデアリマス、從テ
少シ長イ期間ヲ見マスレバ、國債ニ付テ一
定ノ標準ノ價額ヲ以テ之ヲ財產目錄ニ記載
スルコトヲ得ルコトト致シマシテモ、大ナ
ル不都合ヲ生ゼザルノミナラズ、之ガ爲ニ
國債所有者ニ大ナル利便ヲ與ヘ、國債ノ發
行ヲ容易ニシ、且ツ其價格維持ニ資スル所
ガ多イノデアリマス、依テ國債ノ價額ヲ財
產目錄ニ記載スル場合ニ、商法ノ財產評價
ニ關スル規定ニ特例ヲ設クルコトヲ適當ト
認メ、本案ヲ提出シタ次第デアリマス、何
卒御審議ノ上御協贊ヲ願ヒマス
〔男爵阪谷芳郞君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=26
-
027・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 法制局長官堀切
善次郞君
〔政府委員堀切善次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=27
-
028・堀切善次郎
○政府委員(堀切善次郞君) 只今講題トナ
リマシタ最後ノ恩給ノ減額補給及停止ニ關
スル法律案ニ付キマシテ申上ゲマス、昨年
六月ヨリ七月ニ亙リマシテ一般官公吏ノ
減俸ヲ行ヒマシタ結果、俸給ヲ基礎トシテ
算出セラレテ居リマス恩給ハ恩給法上定
額ヲ給スルモノトハ違ヒマシテ、自然減額
セラレルコトトナッタノデアリマスガ、此減
俸ハ臨時的措置デアリマスル關係上、其結
果ヲ直ニ恩給ニマデ及ボスノハ適當デナイ
ト考ヘラレルノデアリマス、之ニ依リマシ
テ、減俸カラ生ジマス恩給ノ減額ヲ補給ス
ルノ途ヲ講ズルノ必要ガアルノデアリマ
ス、又或種ノ公務員卽チ〓育職員ニ於キマ
シテハ恩給ノ受給者ガ再任イタシマシタ
ル時ニハ他ノ公務員ニ於キマスルガ如ク
恩給ノ全部ヲ停止イタシマセヌデ、再度ノ
俸給額ガ前ノ俸給額ニ及バナイ部分ヲ恩給
デ補足シテヤルコトノ制度トナッテ居ルノ
デアリマス、此種類ノ公務員ニ於キマシテ
ハ昨年ノ減俸ニ依リマシテ、恩給ハ法規
上自動的ニ減俸額ダケ增給サレル結果トナ
リマシテ、他ノ者トノ間ニ權衡ヲ失スルコ
トトナルノデアリマス、故ニ此自然的ニ增
給サレル分ヲ元ノ儘ニ止メテ置ク必要ガア
ルノデアリマス、此二ツノコトヲ主ナル
目的ト致シマシテ、本法律案ヲ提出イタシ
マシタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上、
御協賛アラムコトヲ希望イタシマス次第デ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=28
-
029・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郎君 總理大臣ニ質問イタシ
マスガ今日ノ日程ノ第九ニ上ボッテ居リ
マス歲入補塡ノコトデゴザイマス、是ハ我
國憲法アッテ以來曾テ無イ惡例デアルト思
フ事玆ニ至リマシタノハ誠ニ殘念至極ニ
存ジマス本員等ガ席ヲ汚シテ居リマスノ
モ斯ウ云フコトガナイヤウニト云フ爲ニ席
ヲ汚シテ居リマスルノニ、斯カル事態ニ立
至リマシタコトハ本員ノ誠ニ遺憾ニ存ジマ
ス、次ノ年度ニ於キマシテハ總理大臣ハ必
ズ歲計ヲ平均セシムルト云フ御決心ガアリ
マセウカ、又斯ウ云フ法案ガ出マシテハ
誠ニ國家ノ不祥事ト考ヘマス、モウ一ツ伺
ヒマスノハ此度ノ公債計畫ト云フモノハ殆
ド六億ヲ超過スルヤウナ計算ニナルト思ヒ
マスガ、サウ致シマスルト、利子バカリデ
モ三千万圓カラノ利子ニナルノデアリマス
ルカラ、苟モ公債ノ計畫ヲ御樹テニナル以
上ハ、其償還財源ノ計畫ガナクチヤナラナ
イ、日露戰役ノ時ニハ戰爭ガ始マルト、直
ニ政府ハ一億五千万圓乃至二億ノ增稅ヲ致
シマシテ、豫メ公債ノ償還ニ應ズルノ財源
ヲ作ッタノハ閣下モ御承知デアラウト思ヒ
マス苟モ六億カラノ公債ノ發行ニ付テ、
既ニ歲計ガ不足シテ赤字ノ補塡ノ公債法案
ヲ御出シニナルヤウナコトデアッテハ、ドウ
ナルカト云フコトヲ本員等ハ懸念イタシマ
ス是ハ國家ノ爲ニ大事ナコトデゴザイマ
スルノデ、償還財源ハドウナッテ居ルカト云
フコトヲ御示シヲ願ヒタイノデアリマス
次ニ此第八ノ日程ニ屬スル軍事費ノ問題デ
ゴザイマスルガ、此滿洲ノ新國家ヲ承認ス
ルトカ承認セヌトカ云フ問題ハモウナイ、是
ハ當然ノ問題デ、單ニ形式ヲ待ッテ居ルノミ
デアラウト本員ハ考ヘルノデアリマスル
ガ、此豫算ヲ見マスルト滿洲ニ於ケル滿鐵、
關東廳其他色ミナ政治機關ト云フモノハ
是モ閣下御承知デモアリマセウガ、本員等
ガ二十七年前ニ內閣ニ居リマシタ時ノ制度
ガ其儘ニナッテ居リマシテ、今日ノ狀態ニ適
應セヌト云フコトハ當然以上ノ當然デアラ
ウト思ヒマスガ、一向豫算ノ上ニ其變更ノ
形跡ガ見エマセヌノハドウナッテ居ルノデ
アリマスカ、又第二ニ滿洲ニ於ケル事變デ
ゴザイマスルガ、三月三十一日ノ以前ト以
後トデハ、大變ニ此性質ガ變ッテ居ルヤウニ
本員ハ考ヘマスルガ三月三十一日以前ノ
土匪ノ討伐其他ト云フモノハ、帝國政府ノ自
衞權ニ出デタモノデアラウト思ヒマスル
ガ、其以後、新國家ノ成立シタ以後ノ討伐
ト云フモノハ新政府ノ依賴ニ依ッテ居ルノ
デアリマセウカ、若シサウナルト云フト財
源按配ノ上ニ於テ自ラ考慮シナケレバナラ
ヌト思ヒマスガ、此邊ハ如何ナモノデアリ
マセウカ、此五點ヲ伺ヒマス
〔國務大臣子爵齋藤實君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=29
-
030・齋藤實
○國務大臣(子爵齋藤實君) 御答ヲ致シマ
スルガ、赤字公債ノ問題ニ付キマシテハ
次年度ニ於キマシテハ十分ナ〓究、注意ヲ
拂ヒマシテ、再ビ斯ウ云フコトノナイヤウ
ニ致シタイト考ヘテ居リマス、今玆ニ具體
的ニ數字ヲ以テ御答スル場合デモゴザイマ
セヌガ、心持ヲ申上ゲマス、ソレカラ公債
ニ對シマスル、多數ノ公債募集ニ對シマス
ル利子ノコトニ付キマシテハ大藏當局ヨ
リ御答ヲ致サセタイト思ヒマス、ソレカラ
滿洲國承認問題ニ付キマシテハ、唯、今日
ノ狀況、一方カラバカリ決定スルコトガ出
來マセヌノデ、國際的ニモマダ取極メヲ要
スルコトモアリマス、ソレカラ實際ノ上ニ
於キマシテ色ミノ狀況カラ之ヲ整理シテ行
カナケレバナラヌコトモアリマス、サウ云
フコトガ今少シ整ヒマスレバ、成ルベク速
ニ承認シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、ソ
レダケデ御答ハ濟ムカト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=30
-
031・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 尙ホ本員ハ其承認問題
ヲ聽イタノデハナイノデアリマス、滿洲ニ
於ケル行政機關ト云フモノハ當然直サナ
ケレバナラナイモノデアラウト思ヒマス、
ソレガ豫算ノ上ニ見エテ居ラナイガ差支ナ
イカ、承認ト云フコトハ時ノ問題デ、是一
直グ來ルカモ知レヌ、然ルニ現在ノ行政機
關デ以テハ役ニ立タナイト思ヒマス、御同
樣ガ二十七年時代ニ於キマシテ內閣ニ居,
タ時分ノ、時代後レノモノデアリマスカラ、
ソレヲ直サナケレバナラヌ、其點ハドウカ
今ノ三月以降ノ陸軍ノ軍事行動ト云フモノ
ハ新政府ノ意ヲ受ケヲ居リマスカドウカ
ソレニ依ッテ財源ノ按配ヲ考慮セネバナル
マイト云フコトデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=31
-
032・齋藤實
○國務大臣(子爵齋藤實君) 此組織問題ニ
付キマシテハ目下〓究中デアリマシテ、
內閣組織以來マダ日子モ淺イ爲ニ、マダ成
案ヲ玆ニ御示シ致スマデニ至ッテ居ナイノ
ヲ遺憾ト致シマス、是ハ最近ノ機會ニ於テ
決定ヲ致シタイト思ッテ居リマス、ソレカラ
此治安維持ノ問題ニ付キマシテハ只今ノ
所矢張リ三月マデノ狀況ノ延長デアリマス
ルガ、此費用其他ノコトニ付キマシテハ
色々內定イタシテ居ルコトモアリマスルケ
レドモ此處ニ於テマダ發表イタス譯ニモ
行キマセヌノデアリマス、左樣御承知ヲ願
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=32
-
033・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郎君 其公債ノ償還財源ノ御
答ガ無イヤウデアリマスガ···
〔政府委員堀切善兵衞君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=33
-
034・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衛君) 御答辯申上ゲ
マく、成ル稈多額ノ公債增發ニナリマスル
ニ拘ラズ、一面ニ於テ償還財源トシテ增稅
其他ノ計畫ヲ伴ハナカッタコトハ事實デア
リマス、何分昨今ノ日本ノ經濟狀態ハ增
稅ヲ實行シマスルニ於テ餘程愼重ニ是ハ考
慮イタシ調査イタサナクテハナラヌ必要ガ
アルト考ヘマスノデ、是等ノ點ニ付キマシ
テハ今後政府ニ於テモ十二分ニ調査〓究ヲ
遂ゲマシテ、サウシテ然ルベキ適當ノ方法
ヲ講ジタイ考デ居リマス、左樣ニ御了承ヲ
願フ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=34
-
035・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 了承ガ少シ出來兼ネル
次第デゴザイマスガ、苟モ公債ノ計畫ヲ立
テルカラニハ其償還財源ト云フモノヲ必
ズ計畫シテ置カナケレバナラヌコトハ、財
政上ノ原則ダラウト思ヒマス、ソレデ來年
度ハ總理大臣ガ非常ナ決心ヲ以テ歲入出ノ
平均ヲ充タスト云フ考デアルト云フコトデ
ゴザイマスカラ、同時ニ償還財源ノコトハ
最早御考慮ニナッテ置カナケレバナラヌコ
トデハナイカ、無イト云フコトデアレバ是
ハモウ致シ方ハナイノデアリマスガ、モウ
一遍其點ニ付テ御考ノ餘地ハナイカ御答辯
ヲ願ヒタイト思ヒマス······御答ガナケレバ
宜シウゴザイマスケレドモ、モウ一ツ御答
ガ殘シテ居リマス、總理大臣ノ御答辯ニ依リ
マスルト、滿洲ニ於ケル帝國政府ノ行政機
關ノ改造ノコトハ、今ヤッテ居ルト云フコト
デアリマスガ、是ハ明日ニモ其改造ノ必要
ナコトガ來ハシナイカ、然ルニ今ノ豫算デ
ハ此儘デハイカナイデハアリマセヌカ、ソ
レデ差支ナク此豫算ヲ此儘用ヰテモ、此改
造シタ機關ニ應用出來ルノデアリマスカ、
ドウデアリマスカ、更ニ新規ノ豫算ガ御提
出ニデモナルノデゴザイマスカ、ソレヲ御
伺ヒ致シタイ
〔國務大臣子爵齋藤實君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=35
-
036・齋藤實
○國務大臣(子爵齋藤實君) 只今御答イタ
シマシタ編成ノコトニ付キマシテ、關係ノ豫
算ハドウカト云フ御尋ノヤウデアリマス、
此一事ニ付キマシテハ折角〓究中デアリマ
シテ、遺憾ナキヤウニ致シタイト思ッテ居
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=36
-
037・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 御答ハドウモ本員ハ滿
足トハ思ヒマセヌガ、是デ宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=37
-
038・東園基光
○子爵東園基光君 只今上程サレテ居リマ
スル日程第八ヨリ第十三ニ至リマスル諸案
ハ是亦重要ナル案ト認メマスルノデ、十
八名ノ委員ニ付託セラレムコトヲ希望イタ
シマス、尙選擧ハ議長ニ御一任イタシタイ
ト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=38
-
039・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=39
-
040・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 東園子爵ノ動議
ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=40
-
041・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ
朗讀ヲ致サセマス
〔山本書記官朗讀〕
昭和七年法律第一號中改正法律案外五件
特別委員
侯爵大隈信常君侯爵細川護立君
伯爵奧平昌恭君子爵梅小路定行君
子爵前田利定君大島健一君
栃内曾次郞君男爵菊池武夫君
男爵井田磐楠君男爵小畑大太郞君
加藤政之助君古島一雄君
木村〓四郞君大橋新太郞君
金杉英五郞君五十嵐甚藏君
見目〓君本間千代吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=41
-
042・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第十四、絲
價安定融資擔保生絲買收法案、竝ニ日程第
十五、絲價安定融資損失善後處理法案、政
府提出、衆議院送付、第一讀會
絲價安定融資擔保生絲買收法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
絲價安定融資擔保生絲買收法案
絲價安定融資擔保生絲質收法
第一條政府ハ生絲ノ價格ノ安定ヲ圖ル
爲左ニ揭グル生絲ヲ一括シテ買入ルル
コトヲ得
一銀行ガ絲價安定融資補償法第一條
ノ規定ニ依リ本法施行前ニ政府ト爲
シタル損失補償ノ契約ニ基キ生絲ノ
製造又ハ加工ヲ爲ス者ニ對シテ爲シ
タル資金融通ノ擔保タル生絲七千四
百四十一荷口
二銀行ガ帝國蠶絲株式會社ニ對シ同
社ガ絲價安定ノ爲昭和四年十一月ヨ
リ昭和五年六月迄ノ間ニ於テ行ヒタ
ル生絲共同保管事業ノ資金トシテ爲
シタル資金融通ノ擔保タル生絲二千
三百九十荷口
第二條生絲ノ買入代價ハ一荷口四千五
百二十二圓二十五錢トス
政府ノ買入レタル生絲中檢査ノ結果品
質著シク不良ナリト認ムルモノアルト
キハ政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ買入
代價ノ一部ヲ返還セシム
第三條政府ハ其ノ買入レタル生絲ヲ命
令ノ定ムル所ニ依リ第一條ノ銀行ヲシ
テ保管セシムルコトヲ得
前項ノ保管ニ要スル經費ハ銀行ノ負擔
トス
第四條生絲ノ買入代價ハ命令ノ定ムル
所ニ依リ其ノ買入ノ日ヨリ五年間ニ之
ヲ分割シテ支拂フコトヲ得
第二條第二項ノ返還金ハ前項ノ支拂金
額ヨリ之ヲ控除スルコトヲ得
第五條生絲ノ買入代價ハ五分利附國債
證劵ヲ以テ之ヲ交付スルコトヲ得
第六條政府ハ前條ノ規定ニ依リ交付ス
ル爲必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ發行
スルコトヲ得
第七條本法ニ依リ交付スル國債證劵ノ
交付價格ハ時價ヲ參酌シテ主務大臣之
君が出て
第八條政府ノ買入レタル生絲ノ處分ハ
命令ノ定ムル所ニ依リ新規ノ用途又ハ
販路ニ向ケラルベキ場合ニ限リ之ヲ爲
スコトヲ得
第九條前條ノ規定ニ依ル生絲ノ處分ニ
依ル收入金ニ相當スル金額ハ國債整理
基金特別會計法第二條ノ規定ニ依ル繰
入ノ外國債ノ元金償還ニ充ツル爲之ヲ
一般會計ヨリ國債整理基金特別會計ニ
繰入ルベシ但シ本法ニ依リ發行シタル
公債ノ前年度首ニ於ケル未償還額ノ萬
分ノ百十六ニ相當スル金額ニ付テハ此
ノ限ニ在ラズ
第十條本法ノ適用ニ付テハ產業組合中
央金庫ハ之ヲ銀行ト看做ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
第九條但書ノ規定ニ依リ繰入ヲ要セザル
金額ハ當分ノ內本法ニ依リ發行シタル公
債ノ前年度首ニ於ケル未償還額ノ萬分ノ
百十六ニ相當スル金額ノ三分ノ一トス
絲價安定融資損失善後處理法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
絲價安定融資損失善後處理法案
絲價安定融資損失善後處理法
第一條政府ハ銀行ニ對シ左ノ各號ノ一
ニ該當スル銀行ノ損失ニ付千五百八十
七萬圓ヲ限リ之ヲ補塡スルノ契約ヲ爲
スコトヲ得
一銀行ガ絲價安定融資補償法第一條
ノ規定ニ依リ本法施行前ニ政府ト爲
シタル損失補償ノ契約ニ基キ損失ノ
補償ヲ受ケタル場合ニ於テ尙補償ヲ
受ケザル損失アルトキハ其ノ損失
二銀行ガ帝國蠶絲株式會社ニ對シ同
社ガ絲價安定ノ爲昭和四年十一月ヨ
リ昭和五年六月迄ノ間ニ於テ行ヒタ
ル生絲共同保管事業ノ資金トシテ生
絲ヲ擔保トシテ爲シタル資金ノ融通
ニ付受ケタル損失
前項第二號ノ損失ハ銀行ガ擔保トシテ
受取リタル生絲ニ付債權ノ辨濟ヲ受ケ
尙不足アルトキ其ノ不足分トス
第二條政府ノ補塡スベキ額ハ損失補塡
ノ契約ニ定ムル條件ニ從ヒ絲價安定融
資補償法ニ依ル絲價安定融資補償審査
會之ヲ決定ス
第三條政府ガ銀行ニ對シテ交付スベキ
損失補塡金ハ五分利附國債證劵ヲ以テ
之ヲ交付スルコトヲ得
第四條政府ハ前條ノ規定ニ依リ交付ス
ル爲必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ發行。
スルコトヲ得
第五條本法ニ依リ交付スル國債證劵ノ
交付價格ハ時價ヲ參酌シテ主務大臣之
ヲルム
第六條絲價安定融資補償法第九條ノ規
定ハ同法第一條ノ規定ニ依リ本法施行
前銀行ガ政府ト爲シタル損失補償ノ契
約ニ付テハ之ヲ適用セズ
第七條損失ノ補塡ヲ受クルノ契約ヲ爲
シタル銀行ガ本法ニ基キテ發スル命令
又ハ損失補塡ノ契約ニ違反シタルトキ
ハ政府ハ契約ヲ解除シ、損失ノ全部若ハ
一部ニ付補塡ヲ爲サズ又ハ損失補塡金
ノ全部若ハ一部ノ償還ヲ命ズルコトヲ得
第八條本法ノ適用ニ付テハ產業組合中
央金庫ハ之ヲ銀行ト看做ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=42
-
043・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 絲價安定融資擔
保生絲質收法案ノ提案理由カラ御說明ヲ申
上ゲマス、昭和四年及ビ五年ニ於キマシテ、
絲價ノ安定ヲ圖ラウト致シマシタ結果、
本邦生絲市場ニ生ジマシタ、所謂滯貨生絲ノ
處理ニ付キマシテハ是マデ政府ニ於キマ
シテ愼重ニ考究ヲ重ネテ參ッテ居フタノデア
リマスルガ、今年ノ四月此滯貨ヲ一掃イタ
シマシテ蠶絲業ノ所謂癌ヲ除ク趣旨ヲ以
テ一括賣却ノ斷行ガ行ハレタノデアリマ
シタ、然ルニ其後諸般ノ事情ノ變化ノ爲ニ
右一括ノ賣買ハ其契約ノ本旨ニ從ッテ、完全
ナル履行ヲ致スコトガ困難ナル狀態ニ陷リ
マシテ、賣買兩當事者ハ合意ノ上右賣買契
約ヲ解約スルコトトシマシテ、政府ニ其認可
ヲ申請シテ參ッタノデアリマス、政府ハ繭ノ
價、絲ノ價ノ狀況其他ニ付テ深甚ノ考慮ヲ拂
ヒマシタ結果、絲價委員會ノ議ヲ經マシテ、
右申請ニ對シテ認可ヲ致シマシタ、然ル所目
下春繭出廻期ニ際シテ居リマシテ、繭絲價
低落ノ趨勢ハ極メテ著シクアリマス蠶絲
業全般ガ重大ナル危機ニ當面シテ居ル實情
ニ鑑ミマシテ、右解約後滯貨生絲ヲ再ビ從
前ノ狀態ニ復歸シタ儘ニ推移スルコトハ
斯業ノ基礎ヲ動搖セシメ、延イテハ疲弊セ
ル農村經濟ニ對シテ一大打擊ヲ與フルノ惧
レガアルト考ヘラレマシテ、事態誠ニ棄テ
置キ難イモノガアルト存ジタノデアリマ
ス玆ニ於キマシテ殘存滯貨生絲ニ對シ根
本的ナル處理方策ヲ講ジ適當ニ其壓迫ヲ
排除シ、蠶絲業ノ不安ヲ一掃スルヲ以テ刻
下焦眉ノ急務ト考ヘマシテ、之ガ爲ニハ
現下ノ實情ニ於テハ政府ガ之ヲ一括買收シ
タル上、從來ノ消費領域ヲ侵スコトナク、
新規用途ノ開拓等ニ努メ、適當ニ消化スル
コトトスルノ外ハナイト存ジタノデアリマ
ス、本法律案ハ上述ノ趣旨ニ依リマシテ
本邦重要產業デアリマス蠶絲業ノ維持發
展、農村經濟ノ打開等ノ爲、緊急誠ニ已ム
ヲ得ザル事情ニ卽シテ提出シタ次第デアリ
マス、何卒十分御審議ノ上、速ニ御協贊ヲ
與ヘラレムコトヲ望ミマス、次ニ絲價安定
融資損失善後處理法案提出ノ理由ヲ御說明
申上ゲマス、絲價安定ノ爲ニ生ジマシタ所
謂滯貨生絲ノ處理ニ付キマシテハ、其殘存
滯貨ヲ政府ニ於テ買收スル爲、先ニ說明申
上ゲマシタ法律案トシテ御協贊ヲ願フ次
第デアリマスルガ、此滯貨生絲ハ銀行ガ之
ヲ擔保トシテ金融ヲシタ當時ニ比シマシ
テ、絲ノ價ガ著シク低落シテ居リマスコト
ト、保管期間ガ長期ニ亙ッタ關係上、擔保生
絲ノ賣却代金ヲ以テシテハ、製絲家ノ債務ヲ
返濟シ得ル額ハ割合ニ少額デアリマシテ、
銀行ニ對シテ尙巨額ノ債務ヲ殘スコトトナ
ルノデアリマス、然ルニ製絲家ノ現狀ハ連
年ノ不景氣ニ禍セラレマシテ、此巨額ノ債
務全部ヲ負擔スルコトハ殆ド不可能ノ狀態
デアリマス、從ッテ銀行ガ其殘債權ヲ其儘行
使スルニ於キマシテハ債務者ニ致命傷ヲ
與ヘ、爲ニ本邦重要產業デアリマス蠶絲業
全般ノ基礎ヲ破壞スルノ虞ガアリマスノ
デ、製絲家ニ於テハ、其負擔ノ能力ニ應ジ
テ負擔ヲサセルコトハ勿論デアリマスル
ガ、銀行ニ於キマシテモ相當ノ犠牲ヲ拂ヒ、
サウシテ尙ホ殘存スル損失ニ付キマシテ
ハ政府ニ於テ之ヲ負擔シ製絲業及養蠶業
ノ危機ヲ救濟スルコトハ誠ニ已ムヲ得ナイ
事情ニアルノデアリマス、斯ノ如ク國家ニ
對シテ負擔ノ餘儀ナキニ至ラシメマシタコ
トハ誠ニ遺憾ニ堪ヘマセヌ次第デアリマ
スガ將來再ビ斯ノ如キ負擔ヲ國家國民ニ掛
ケマセヌヤウニスルコトハ、當業者ハ勿論、
政府ニ於テモ固ヨリ必要ノコトデアリマシ
テ、當業者ニ對シテモ其覺悟ヲ促シマスト共
ニ政府ニ於テモ速ニ斯業ノ根本的安定策
ノ樹立實行ヲ期シタイト考ヘテ居リマス次
第デ、成案ヲ得ルモノニ付キマシテハ次
ノ議會ニ提案イタシテデモ御協賛ヲ願ヒタ
イト云フヤウナ心持デ居リマス本法律案
ハ上述ノ如ク本邦重要產業デアリマスル蠶
絲業ノ維持更生ノ爲メ已ムヲ得ザル事情ニ
依ッテ提出シタ次第デアリマスノデ、何卒十
分ニ御審議ノ上速ニ御協贊ヲ與ヘラレムコ
トヲ切望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=43
-
044・東園基光
○子爵東園基光君 只今上程サレマシタ日
程第十四第十五ハ是亦重要ナル案ト認メマ
スルニ依リマシテ特別委員ノ數ヲ十八名
トシテ、此選擧ハ議長ニ御一任イタシタイ
ト存ジマス右提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=44
-
045・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=45
-
046・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 東園子爵ノ動議
ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=46
-
047・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス、特別委員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ
朗讀ヲ致サセマス
〔山本書記官朗讀〕
絲價安定融資擔保生絲買收法案外一件特
別委員
公爵德川圀順君侯爵佐佐木行忠君
子爵大河內輝耕君子爵保科正昭君
子爵西尾忠方君小松謙次郞君
上山滿之進君男爵藤村義朗君
男爵稻田昌植君男爵園田武彥君
藤田四郞君室田義文君
次田大三郞君藤山雷太君
高橋源次郞君佐藤信古君
小林暢君絲原武太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=47
-
048・徳川家達
○議長(公爵徳川家遠君) 日程第十六、大
正十二年法律第五十二號中改正法律案、衆
議院提出、第一讀會
大正十二年法律第五十二號中改正法律
案
右本院提出案及送付候也
昭和七年六月九日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
大正十二年法律第五十二號中左ノ通改正
ス
第一項中「昭和七年十二月三十一日迄」ヲ
「昭和十二年十二月三十一日迄」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=48
-
049・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員
ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔山本書記官朗讀〕
大正十二年法律第五十二號中改正法律案
特別委員
公爵鷹司信輔君子爵牧野一成君
子爵渡邊七郞君子爵鍋島直繩君
富谷鉎太郞君男爵北大路實信君
藤澤幾之輔君石渡敏一君
岩田宙造君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=49
-
050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十七ヨリ
第二十五マデ請願、會議
〔左ノ意見書案ハ朗讀ヲ經サルモ參照
ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ做フ〕
意見書案
國幣小社度津神社ノ改築ニ關スル件
新潟縣佐渡郡羽茂村長本間瀨平外四
百八十八名呈出
右ノ請願ハ新潟縣佐渡郡羽茂村ニ鎭座セ
ラルル國幣小社度津神社ハ古來由〓アル
靈社ナルニ拘ラス早霜久シキニ亙リ社
殿荒廢シ今ヤ一ノ小村祠ノ如キ現狀ニ在
ルハ洵ニ恐懼ニ堪ヘサルニ依リ境內ノ擴
張ト社殿ノ改築トヲ企劃スルモ地方民ノ
資力ニテハ到底完全ヲ期シ難キニ依リ速
ニ臨時國費ヲ以テ之ヲ施行セラレタシト
ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
五條ニ依リ別册及送付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
鮮魚ノ鐵道運賃低減ニ關スル件
山口縣下關市日本トロール水產組合
組長子爵野村益三呈出
右ノ請願ハ輓近一般ノ不況ニ伴ヒ魚價ノ
低落殊ニ著シク斯クテハ現今ノ魚價ニ比
シ鐵道運賃ノ負擔過重トナリ斯業者ノ苦
痛甚シキニ依リ貨物特別等級表ニ記載セ
ル、鮮魚及ヒ冷凍魚ノ賃金ニ對シ三割方ヲ
低減セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ
願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候
因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
東海、黄海ノ機船底曳網漁業ニ關スル件
山口縣下關市日本トロール水產組合
長子爵野村益三呈出
右ノ請願ハ東海、黄海ニ於ケル魚族ノ蕃
殖保護ヲ旨トシ曩ニ當局ハトロール漁船
ノ數ヲ限定シ其ノ取締ヲ厲行セラルルニ
拘ラス近時機船底曳網漁業ノ濫興ニ伴ヒ
有望ナル該漁區モ將ニ荒廢ニ歸セムトス
ルノ狀態ナルハ水產業ニ影響スル所甚大
ナルニ依リ同海ニ出漁スル機船底曳網漁
船ノ許可ハ之ヲ地方廳ニ委ネストロール
漁船ト同シク主務省ニ於テ之ヲ統制許可ス
ルヤウセラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院
ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致
候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送
付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵齋藤貫殿
意見書案
山陽線鐵道倉敷、茶屋町兩驛間ニ省營
自動車運轉ノ件
岡山縣倉敷市長平松俊太郞外三名呈
出
右ノ請願ハ山陽線鐵道倉敷、茶屋町ノ兩
驛間ハ近時交通益、劇甚ナルニ拘ラス僅
ニ私營自動車ノ往來スルニ過キス從ツテ
南海山陰相互間ノ旅客貨物等ハ悉ク岡山
ヲ迂囘シ不利不便亦多大ナルニ依リ今ヤ
兩驛間ニ在ル縣道ノ改修モ近ク竣エスル
ヲ以テ速ニ省營自動車ノ運轉ヲ開始セラ
レタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院
法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
佐賀縣肥前山口、長崎縣諫早間鐵道速
成ノ件
長崎縣北高來郡諫早町長土橋滿平外
十八名呈出
右ノ請願ハ未成線鐵道有明線鐵道ノ敷設
速成ヲ圖ルハ沿線地方ニ於ケル豐富ナル
物資ノ集散竝ニ四時來遊スル賽客等ノ爲
メ至便ナルノミナラス之カ完成ノ遲速ハ
直ニ同地方ノ消長ニ影響スル所甚大ナル
ニ拘ラス未タ之カ實現ヲ見サルハ甚タ遺
憾ナルニ依リ速ニ未著手工區ノ工事ニ著
手セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候
也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
北陸線鐵道長濱驛改築ノ件
滋賀縣坂田郡長濱町長笹原司馬太郞
呈出
右ノ請願ハ北陸線鐵道長濱驛ノ所在地ナ
ル滋賀縣長濱町ハ同縣ノ湖北地方ニ於ケ
ル中樞地點ニシテ殊ニ近時諸種ノ產業頓
ニ發達シ貨客ノ來往激增セルニ拘ラス未
タ同驛ノ施設之ニ伴ハス不利不便尠カラ
サルハ運輸交通竝ニ產業上甚タ遺憾ナル
ニ依リ速ニ適當ニ改築擴張セラレタシト
ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
五條ニ依リ別册及送付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
葉煙草ノ賠償價格引上ノ件
廣島縣神石郡農會長平岡林悟呈出
右ノ請願ハ廣島縣神石郡ニ生產スル葉姻
草「備後葉」ハ古來農家經濟ノ大半ヲ支持ス
ル重要作物ナルモ當局ヨリ支給セラルル
賠償價格ハ昭和四年以來連年低下シ尙本
年度ハ更ニ低下セラルルヤニ聞ク斯クテ
ハ肥料勞銀等ニ對シ收支償ハサルノ苦境
ニ陷リ本郡經濟界ニ影響スル甚タ大ナル
ヲ以テ昭和七年作ヨリ四年作卽チ低下前
ノ賠償價格ニ復活セラレタシトノ旨趣ニ
シテ貴族院ハ崩意ノ大體ハ採擇スヘキモ
ノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依
リ別册及送付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
宮崎縣三財郵便局ニ集配事務開始ノ件
宮崎縣兒湯郡三財村農松田藤助外六
百四十四名呈出
右ノ請願ハ宮崎縣兒湯郡三財村ハ面積廣
ク人口亦多ク從テ通信事務夥多ナルニ拘
ラス三財郵便局ハ無集配局ナルニ依リ信
書ノ遲著等住民ノ不利不便甚シキヲ以テ
同局ニ於テ集配事務ヲ開始セラレタシト
ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
五條ニ依リ別册及送付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵齋藤實殿
意見書案
廣島縣豐松郵便局、岡山縣平川郵便局
間ノ通信施設ニ關スル件
廣島縣神石郡豐松村長井上源槌呈出
右ノ請願ハ廣島縣神石郡豐松村ハ夙ニ縣
道ノ要衝ニ位シ從テ東部ニ鄰接スル岡山
縣川上郡平川村トハ相互ノ通信頻繁ナル
ニ拘ラス信書ノ遲著甚シク住民ノ不利不
便多大ナルニ依リ豐松、平川兩郵便局間
ノ遞送線ヲ開始セラレタシトノ旨趣ニシ
テ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノ
ト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
別冊及送付候也
昭和七年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵齋藤實殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=50
-
051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是等ノ請願ハ請
願委員長ノ報告通リテ御異存ゴサイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=51
-
052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス次ノ議事日程ハ決定次第御通知ニ
及ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後零時三十九分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00619320610&spkNum=52
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。