1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和八年二月二十四日（金曜日）午前十時二十四分開議
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議事日程 第十八號
昭和八年二月二十四日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件（第五日）
第二 造幣局工場及其の附屬設備の新營費に關する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第三 昭和八年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第四 大阪帝國大學工學部設置に付帝國大學特別會計及官立大學特別會計の關渉に關する法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第五 朝鮮事業公債法中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第六 樺太事業公債法中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第七 貨幣法中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第八 六大都市に特別市制實施に關する法律案（衆議院提出） 第一讀會
第九 司法代書人法中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
第十 身元保證に關する法律案（衆議院提出） 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 書記官ヲシテ諸
般ノ報〓ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
昨二十三日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府
提出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セリ
昭和八年二月二十五日
貴族院議事速記錄第十八號
保險業法中改正法律案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
昭和七年度歲入歲出總豫算追加案(第二
號
昭和七年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案(特第二號)
同日衆議院ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
傷痍軍人及戰公傷病死者遺族等ノ鐵道船
舶等乘車船優遇ニ關スル法律案
同日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ
氏名左ノ如シ
議院法中改正法律案特別委員會
委員長侯爵佐佐木行忠君
副委員長伯爵二荒芳德君
醫師法中改正法律案特別委員會
委員長子爵東園基光君
副委員長男爵佐藤達次郞君
同日委員長ヨリ豫算委員第二分科擔當委員
子爵岡部長景君ヲ第三分科兼務委員ニ選定
シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
昭和五年度歲入歲出總決算、昭和五年度
各特別會計歲入歲出決算審査報告書
昭和五年度國有財產增減總計算書寮査報
〓書発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、此際議事日程變更ニ關スル
御意見ヲ伺ヒタイト存ジマス本日モ議事
ノ都合上、日程第一ヲ第十ノ後ニ廻シタイ
ト存ジマス、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト存
ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二ヨリ第
七マデ、第一讀會、大藏大臣高橋君
造幣局工場及其ノ附屬設備ノ新營費ニ
關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
造幣局工場及其ノ附屬設備ノ新營費ニ
關スル法律案
造幣局工場及其ノ附屬設備ノ新營ニ要ス
ル經費ニ充用スル爲造幣局資金ノ內百二
十萬圓ヲ限リ昭和八年度及昭和九年度ニ
亙リ一般會計ニ繰入ルルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ繰入ルベキ金額ノ每年
度歲出豫算ニ於ケル支出殘額ハ遞次之ヲ
翌年度ニ繰越シ使用スルコトヲ得
昭和八年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發百ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
昭和八年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
第一條政府ハ昭和八年度一般會計歲出
ノ財源ニ充ツル爲他ノ法律ニ依リ起債
シ得ル金額ノ外六億五千九百五十萬圓
ヲ限リ公債ヲ發行シ又ハ借入金ヲ爲ス
コトヲ得
第二條政府ハ昭和八年度一般會計歲出
豫算翌年度繰越額ノ財源ニ充ツル爲他
ノ法律ニ依リ起債シ得ル金額ノ外昭和
九年度ニ於テ公債ヲ發行シ又ハ借入金
ヲ爲スコトヲ得但シ前條ノ規定ニ依ル
公債又ハ借入金ト通ジテ前條ノ制限額
ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條前二條ノ規定ニ依ル公債ノ發行
價格差減額ヲ補塡スル爲必要アル場合
ニ於テハ前二條ノ制限以外ニ公債ヲ發
行シ又ハ借入金ヲ爲スコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
大阪帝國大學工學部設置ニ付帝國大學
特別會計及官立大學特別會計ノ關涉ニ
關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
大阪帝國大學工學部設置ニ付帝國大學
特別會計及官立大學特別會計ノ關涉ニ
關スル法律案
昭和七年度末現在ノ官立大學資金ニシテ
大阪工業大學ノ用ニ供スルモノ及昭和七
年度官立大學特別會計ノ歲入殘餘ニシテ
大阪工業大學ニ屬スルモノハ之ヲ帝國大
學資金ニ編入スベシ
前項ノ規定ニ依リ編入シタル資金ハ之ヲ
大阪帝國大學ノ資金トシテ區分整理スベ
シ
昭和七年度官立大學特別會計歲人歲出豫
算中翌年度ニ繰越ヲ要スルモノニシテ大
阪工業大學ニ關スルモノハ之ヲ帝國大學
特別會計ニ繰越使用スベシ
大阪工業大學長ニ經理ヲ委任シタル奬學
寄附金ノ支拂殘額ハ大學特別會計法第十
條ノ規定ニ依リ大阪帝國大學總長ニ經理
ヲ委任シタルモノト看做ス
附則
本法ハ昭和八年度ヨリ之ヲ施行ス
朝鮮事業公債法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
朝鮮事業公債法中改正法律案
朝鮮事業公債法中左ノ通改正ス
第一條中「事業費」ノ下ニ「又ハ事業費補
助ニ要スル經費」ヲ加フ
附則
本法ハ昭和八年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
樺太事業公債法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
樺太事業公債法中改正法律案
樺太事業公債法中左ノ通改正ス
第一條中「三千三百五十萬圓」ヲ「四千百
六十萬圓」ニ改ム
附則
本法ハ昭和八年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
貨幣法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
貨幣法中改正法律案
貨幣法中左ノ通改正ス
第二條中「二分」ヲ「七百五十ミリグラム」
三四人
第三條中「白銅貨幣」ヲ「ニッケル貨幣」ニ
改ム
第五條第三號ヲ左ノ如ク改ム
三ニッケル貨幣純ニッケル
第六條貨幣ノ量目ハ左ノ如シ
-二十圓金貨幣
一六·六六六六グラム
二十圓金貨幣八·三三三三グラム
三五圓金貨幣四一六六六グラム
四五十錢銀貨幣四·九五グラム
五二十錢銀貨幣一·九八グラム
六十錢ニッケル貨幣
四グラム
七五錢ニッケル貨幣
二·八グラム
八一錢靑銅貨幣三·七五グラム
九五厘靑銅貨幣二·一グラム
第七條中「白銅貨幣」ヲ「ニッケル貨幣」ニ
改ム
第十條金銀貨幣量目ノ公差ハ左ノ如シ
金貨幣二十圓ハ每片〇·〇三二四
グラム一千枚每ニ三·一一二五グラム
十圓ハ每片〇·〇二二六八グラム一
千枚每ニ二一三二五グラム五圓ハ每
片〇·〇一六二グラム一千枚每ニ一·
五三七五グラムトス
二銀貨幣五十錢ハ每片〇·〇六四一
二グラム一千枚每ニニ一·九九九七五
グラム二十錢ハ每片〇·〇四〇一二
グラム一千枚每ニ一·九九九八七グ
ラムトス
第十一條金貨幣ノ通用最輕量目ハ二十
圓金貨幣一六·五七五グラム十圓金貨
幣八·二八七五グラム五圓金貨幣四·一
四三七五グラムトス
第十二條中「白銅貨幣」ヲ「ニッケル貨幣」
三郎人
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
從來發行ノ白銅貨幣ハ從前ノ通通用スヘ
シ
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=4
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005・高橋是清
○國務大臣(高橋是清君) 只今議題トナリ
マシタ造幣局工場及其ノ附屬設備ノ新營費
ニ關スル法律案、提出ノ理由ヲ說明イタシ
マス造幣局ノ工場ハ大〓明治初年ノ建造
デアリマシテ、建造後數十年ヲ經過シテ居
リマスノデ改築ヲ要スルモノガ大部分ゴ
ザリマス就中熔解及壓延ノ此兩工場ニ付
テハ是ガ急施ノ必要ガアリマス、又勳章工
場ハ倉庫ノ一部ニ假設備ヲナシウツアルノ
デサウ云フ現狀デアリマスルカラ此際新
營ヲ爲スノ必要ガアルノデアリマス之ガ
爲メ昭和八年度及同九年度ニ亘リ是等工場
及其附屬設備ノ新營ノ計畫ヲ立テタノデア
リマス而シテ其財源ハ財政計畫上、造幣
局資金ノ一部ヲ一般會計ニ繰入レテ之ニ充
ツルコトト致シマス其爲メ本法律案ヲ提
出シタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上御
協贊ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス
其次ノ日程デ只今議題トナリマシタ昭和八
年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲公債發
行ニ關スル法律案、提出ノ理由ヲ說明イタ
シマス昭和八年度一般會計ニ於テ、旣
成立シテ居リマスル公債法ニ依リ公債ヲ募
集スル金額、竝ニ滿洲事件ニ關スル經費支
出ノ爲メ發行ヲ要スル公債金額ノ外ニ、歲
入ノ不足ヲ補塡スル爲メ、六億五千九百四
十餘萬圓ノ公債ノ發行ヲ必要トスルコト
ハ曩ニ昭和八年度總豫算ノ大要ヲ說明イ
タシマシタ際ニ申述ベテ置イタノデアリマ
スガ、其發行ノ爲ニハ新ニ起債ノ權能ヲ得
ルコトガ必要デアリマス、尙ホ昭和八年度
ノ歲出ニ於テモ、其中若干ノ金額ハ例年ノ
如ク翌年度ニ繰越サレル結果ニナルノデア
ラウト存ゼラレマスガ、其繰越額ノ財源ハ
必シモ八年度內ニ起債スルコトヲ必要ト致
シマセヌ爲メ翌年度ニ於テ募債シ得ルコ
トトナスヲ適當ト認メマス、右ノ理由ニ依
リ本法律案ヲ提出シタ次第デアリマス何
卒御審議ノ上御協贊ヲ與ヘラレムコトヲ希
望イタシマス次ノ議題トナッテ居リマス
大阪帝國大學工學部設置ニ付帝國大學特別
會計及官立大學特別會計ノ關涉ニ關スル法
律案、提出ノ理由ヲ說明イタシマス大
阪工業大學ハ昭和八年度以降大阪帝國大
學ニ移シ以テ同帝國大學ニ工學部ヲ設置
スルコトト致シマシタ結果、昭和七年度末
現在ノ官立大學資金ニシテ、大阪工業大學
ノ用ニ供スルモノハ之ヲ帝國大學資金ニ
編入シ、大阪帝國大學ノ資金トスル等帝
國大學特別會計ト官立大學特別會計トノ關
涉ニ關スル規定ヲ設クルノ必要ガゴザイマ
スノデ、本法律案ヲ提出シタ次第デアリマ
ス、何卒御審議ノ上御協贊アラムコトヲ希
望イタシマス、次ニ議題トナリマシタ朝鮮
事業公債法中改正法律案ニ付キ、提出ノ理
由ヲ說明イタシマス現行朝鮮事業公債法
ニ於キマシテハ朝鮮ニ於ケル事業費補助
ニ要スル經費ヲ支辨スル爲メ公債ヲ發行ス
ルコトガ出來ナイノデアリマスガ、昭和八
年度ニ於ケル事業者補助ニ要スル經費ニ付
テハ朝鮮總督府特別會計ノ歲計ノ情況ニ
徵シ之ヲ公債財源ニ依ルノ外アリマセヌ
カラ、事業費補助ニ要スル經費ニ付テモ公
債財源ニ依リ得ルコトトスル爲メ、玆ニ本
案ヲ提出シタ次第デアリマス、何卒御審議
ノ上御協賛ヲ願ヒマス、次ノ議題、卽チ樺
太事業公債法中改正法律案ニ付キ、提出ノ
理由ヲ說明イタシマス昭和八年度以降ニ
於テ樺太ニ於ケル電信電話擴張及改良道
路開鑿及改良、國有林事業經營、其他ノ繼
續事業ニ付キ合計八百七十五萬餘圓ノ經費
ヲ要スルノデアリマスガ其財源ハ樺太廳
特別會計ノ現狀ニ徵シ、之ヲ公債ニ俟ツノ
外アリマセヌ而シテ現行樺太事業公債法
ニ於ケル起債法定額三千三百五十萬圓ハ
昭和七年度末ニ於テ尙ホ六十九萬餘圓ノ起
債餘力ヲ存シマスカラ、之ヲ差引イテ八百
十餘萬圓ヲ現行法定額ニ追加スル爲メ、玆
ニ本案ヲ提出シタ次第デアリマス、何卒御
審議ノ上御協賛ヲ願ヒマス、次ノ議題、卽
チ貨幣法中改正法律案、提出ノ理由ヲ說明
イタシマス從來十錢及五錢ノ補助貨幣ハ
白銅ヲ以テ鑄造シテ居リマシタガ、此種ノ
補助貨幣トシテハ、純「ニッケル」貨幣ハ其
性能ニ於テ白銅貨ニ優リ、特ニ僞造ヲ困難
ナラシムルコトヲ得ルノ特長ヲ有シテ居リ
マシテ近年各國ニ於テ之ヲ採用スルモノ
次第ニ增加スル傾向ニアリマス、我ガ造幣
局ニ於キマシテモ造幣技術ノ進歩ニ依リ
之ヲ鑄造シ得ルニ至リマシタノデ、政府ハ
從來ノ白銅貨幣ニ代へ、新ニ「ニッケル」貨幣
ヲ制定スルコトニ決シマシタ、尙ホ是ト同
時ニ貨幣法中ノ量目ノ表示ハ之ヲ「メートル」
ニ改ムルヲ適當ト認メマシタノデ、本法律
案ヲ提出シタ次第デアリマス、何卒御審議
ノ上御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 只今大藏大臣ノ
說明セラレマシタ各案ニ對シテ、別ニ質疑
者モ無イト認メマスカラ、特別委員ノ氏名
ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔小林書記官朗讀〕
造幣局工場及其附屬設備ノ新營費ニ關ス
ル法律案外五件特別委員
公爵伊藤博精君子爵織田信恒君
子爵舟橋〓賢君男爵四條隆英君
橋本圭三郞君市來乙彥君
服部金太郞君田村新吉君
橋本辰二郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=6
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007・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 六大都市ニ特別
市制實施ニ關スル法律案、衆議院提出第一
讀會
六大都市ニ特別市制實施ニ關スル法律
案
右本院提出案及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
第一條本法ニ於テ市ト稱スルハ東京市、
京都市、大阪市、橫濱市、神戶市及名
古屋市ヲ謂フ
第二條市ハ從來ノ區域ニ依リ之ヲ府縣
ノ區域外トス但シ東京市ハ東京府ノ區
域ニ依ル
第三條市ハ法人トス官ノ監督ヲ承ケ法
令ノ範圍內ニ於テ其ノ公共事務竝從來
法令又ハ慣例ニ依リ府縣若ハ市ニ屬ス
ル事務及将來法律勅令ニ依リ市ニ屬ス
ル事務ヲ處理ス
第四條市ハ內務大臣之ヲ監督ス
第五條市制其ノ他ノ法令又ハ慣例ニ依
リ從來地方長官(東京市ニ在リテハ警
視總監ヲ含ム)竝府縣參事會ノ權限ニ
屬スル事項ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ主
務大臣又ハ市長之ヲ行フ
第六條市制其ノ他ノ法令ニ依リ從來府
縣參事會ニ訴願シ得ヘキ事項ハ直ニ之
ヲ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第七條市ハ市制其ノ他ノ法令ニ依ルモ
ノノ外從來ノ府縣稅及賦金ノ例ニ依リ
市稅及賦金ヲ賦課徵收スルコトヲ得
第八條市ハ府縣ト其ノ事務ノ一部ヲ共
同處理スル爲規約ヲ定メ內務大臣ノ許
可ヲ得テ府縣市組合ヲ設クルコトヲ得
府縣市組合ハ法人トス
府縣市組合ノ事務ハ內務大臣ノ指定シ
タル府縣知事又ハ市長之ヲ管理ス府縣
市組合ニ關シテハ府縣制第百二十六條
ノ二第一項及第百二十六條ノ四乃至第
百二十六條ノ七ノ規定ヲ準用ス
第九條市制第百七十條第一項ノ懲戒審
査會ノ組織ニ關シテハ別ニ刺令ヲ以テ
之ヲ定ム
第十條本法ニ規定スルモノノ外總テ市
制ノ定ムル所ニ依ル
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ爲府縣ニ屬スル財產、營造物
及事業ノ處分竝權利義務ノ歸屬ニ關シ必
要ナル事項ニ付テハ關係アル府縣會及市
會ノ意見ヲ徵シ主務大臣之ヲ定ム発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=7
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008・柳澤保惠
○伯爵枷澤保惠君 此案ハ衆議院ノ提出ニ
係ルモノデゴザイマスルガ此案ニ付テハ
隨分長イ間六大都市ノ有力者ガ運動シテ居,
タノデアリマス、內務省ニ於テモ相當之ニ付
テハ御考慮ガアッタト思ヒマス何卒此點
ニ付テ當局者ノ御說明ヲ願ヒタイノデアリ
V、、又御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
〔政府委員齋藤隆夫君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=8
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009・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 本日ハ內務大臣
ハ已ムヲ得ナイ事故ガ起リマシテ出席セラ
レマセヌカラシテ.私ガ代リマシテ大要御
答ヲ致シマス六大都市ノ特別市制、是ハ
隨分長イ間ノ問題トナッテ居リマス其中
デ東京ダケハ御承知ノ通リニ、昨年市域ヲ
擴張イタシマシタ等ノ事情ニ依リマシテ
都制ヲ施行スルト云フ問題ガ起ッテ居リマ
シテ內務省ニ於キマシテモ都制案ヲ作成
ノ調査ヲ遂ゲテ居
實ハ此議會ニモ提出ヲシタイト
8シソレゾレ立案ニ取掛,テ居。ツ
何分ニモ內容ガ極メ
條文ダケデモ數百
條ニ上ボルヤウナ次第デ、今日ノ有樣デハ
ドウモ此議會ニ提出スルコトハムヅカシイ
デアラウト思ヒマス其外ノ五大都市ノ特
別市制ニ付キマシテモ相當ニ調査〓究ハ
致シテ居リマスガ、何分ニモ都市ヲ中心ト
〓シマシテ周圍ニ郡部ガアッテ、之ヲ一 一
トシテ發達イタシマシタ地方團體デアリマ
スカラ其中カラシテ市ト云フモノヲ取除
イテシマッテ、周圍ノ郡ダケデ獨立スル資
格ガアルカナイカ或ハ特別市制ヲ施シマ
シタ結果、府ト郡部トノ財政關係ハドウナ
ルカ、警察關係ハドウナルカト云フヤウナコ
トニ付キマシテ色〓疑問ガ起リマシテ內
務省ト致シマシテハ實ハマダ最後ノ解決點
ニハ到達シテ居ラヌノデアリマス併シ斯
ウ云フ問題ハ何時迄モヤルデモナク、ヤラ
ヌデモナク未決ノ間ニ葬ッテ置クト云フ
コトハ、內務行政ト致シマシテモ誠ニ相濟
マヌ次第デアリマスカラシテ、ヤルナラヤ
ルヤルコトガ出來ヌナラ出來ヌト云フ理
由ヲ明カニ致シマシテ、此問題ハ出來得ル
限リ早ク解決シタイト考ヘテ居リマスサ
ウ云フ考ヲ以テ將來此問題ニ付テ取扱ヲ致
ス積リデアリマスルカラシテ、左樣御了承
ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=9
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010・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 私ノ申上ゲタコトハ、
之ニ對スル政府ノ所見如何
〔政府委員齋藤隆夫君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=10
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011・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 先程申シマシタ
ヤウニ都制案ニ付キマシテハ此議會ニハ
提出ハ致シマセヌガ、遲クトモ次ノ議會ニ
提出スル積リデアリマス其他ノ五大都市
ノ特別市制ニ付キマシテハマダ最後ノ解
決ニハ到達シテ居リマセヌ內務省ト致シ
マシテハ必ズ特別市制ヲヤルト云フコトハ
今日御答ヲシ兼ネルノデアリマス、十分ニ
〓究ヲ致シマシタ後ニ於テ可否ノ決定ヲス
ル積リデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=11
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012・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 然ラバ此衆議院案ニ對
シテハ政府ハ御不同意デアルト考ヘテ宜シ
イノデアリマスカ
〔政府委員齋藤隆夫君演壇ニ登ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=12
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013・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 衆議院ヨリ提出
セラレマシタ案其モノニ付キマシテハ政
府ハ贊成スルコトハ出來マセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 他ニ御質疑モナ
イト認メマスカラ、特別委員ノ氏名ヲ書記
官ヲシテ朗讀サセマス
〔小林書記官朗讀〕
六大都市ニ特別市制實施ニ關スル法律案
特別委員
侯爵西〓從德君侯爵大久保利武君
子爵大河內輝耕君岡喜七郞君
藤澤幾之輔君岡田文次君
松村義一君細田安兵衞君
大澤德太郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 司法代書人法中
改正法律案、身元保證ニ關スル法律案、衆
議院提出、第一讀會
司法代書人法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
司法代書人法中左ノ通改正ス
「司法代書人法」ヲ「律書士法」ニ改ム
第一條乃至第三條中「司法代書人」ヲ「律
書士」ニ改ム
第四條律書士タルニハ檢定委員ノ考試
ヲ受ケ所屬地方裁判所長ノ認可ヲ受ク
ルコトヲ要ス
檢定委員及考試ニ關スル事項ハ司法大
臣之ヲ定ム但シ公證人タル資格ヲ有ス
ル者ハ考試ヲ要セス
第五條乃至第九條中「司法代書人」ヲ「律
書士」ニ改メ第九條ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ非訟事件ニ付テハ書類ノ受理ニ至
ル迄ノ代理ヲ爲スコトヲ妨ケス
第十條中「司法代書人」ヲ「律書士」ニ改ム
第十條ノ二律書士ハ其ノ事務取扱ノ統
一及矯正ヲ圖ル爲其ノ所屬地方裁判所
每ニ律書士會ヲ設ケ地方裁判所長ノ認
可ヲ受クヘシ
第十條ノ三律書士ハ其ノ所屬地方裁判
所ノ律書士會ニ加入シタル後ニ非サレ
ハ業務ヲ行フコトヲ得ス
第十一條中「司法代書人」ヲ「律書士」ニ
改メ「又ハ品位ヲ失墜スヘキ行爲ヲ爲シ
タルトキ」ノ下ニ「若ハ會則ニ違反シタル
行爲ヲ爲シタルトキ」ヲ加フ
附則
本法施行ノ際從前ノ規定ニ依リ司法代書
人タル資格ヲ有スル者ハ本法施行後ト雖
律書士タル資格ヲ有ス
身元保證ニ關スル法律案
右本院提出案及送付候也
昭和八年二月二十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
第一條引受保證其ノ他名稱ノ如何ヲ
問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行爲
ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償ス
ルコトヲ約スル身元保證契約ハ其ノ成
立ノ日ヨリ三年間其ノ效力ヲ有ス但シ
商工業兒習者ノ身元保證契約ニ付テハ
之ヲ五年トス
第二條身元保證契約ノ期間ハ七年ヲ超
ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ
定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ七年ニ
短縮ス
身元保證契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得
但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ七年ヲ超
ユルコトヲ得ズ
第三條使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遲滯
ナク身元保證人ニ通知スベシ若シ此ノ
通知ヲ怠リタルトキハ其ノ以後ニ於ケ
ル被用者ノ行爲ニ付身元保證人ニ對ス
ル損害賠償請求ノ權利ヲ失フ
-被用者ニ業務上不適任又ハ不誠實
ナル事跡アリテ之ガ爲身元保證人ノ
責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタ
ルトキ
二被用者ノ任務又ハ任地ヲ變更シ之
ガ爲身元保證人ノ責任ヲ加重シ又ハ
其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ
第四條身元保證人前條ノ通知ヲ受ケタ
ルトキハ將來ニ向テ契約ノ解除ヲ爲ス
コトヲ得身元保證人自ラ前條第一號及
第二號ノ事實アリタルコトヲ知リタル
トキ亦同ジ
身元保證人ガ前條ノ通知ヲ受ケ又ハ前
條第一號及第二號ノ事實アリタルコト
ヲ知リタル後遲滯ナク契約ノ解除ヲ爲
サザルトキハ其ノ權利ヲ失フ
第五條本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ
身元保證人ニ不利益ナルモノハ總テ之
ヲ無效トス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行前ニ成立シタル身元保證
契約ニモ之ヲ適用ス但シ存續期間ノ定ナ
キ契約ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起
算シ第一條ノ規定ニ依ル期間其ノ效力ヲ
有ス存續期間ノ定アル契約ニ付テハ本法
施行當時ニ於ケル殘存期間ヲ約定期間ト
ス若シ此ノ期間ガ七年ヲ超ユルトキハ之
ヲ七年ニ短縮ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=15
-
016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御質疑モナ
イヤウデゴザイマスカラ、特別委員ノコト
ニ付テ申上ゲマス、此兩案ハ行政執行法中
改正法律案ノ特別委員ニ付託イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=16
-
017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ日程第一
ニ戾リマス、國務大臣ノ演說ニ關スル件、
第五日、通〓順ニ依リマシテ子爵岩城隆德
君ニ發言ヲ許シマス、同君ノ登壇ヲ望ミマ
ス
〔子爵岩城隆德君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=17
-
018・岩城隆徳
○子爵岩城隆德君 私ハ政府ノ財政計畫ニ
對スル所信ヲ質ス前ニ、各位ニ御諒承ヲ先
ヅ御願ヒシテ置キタイノデアリマス私ガ
總理大臣竝ニ各閣僚ニ私ノ蒙ヲ啓イテ戴キ
タイコトハ私ノミナラズ國民全體ガ共ニ
憂ヘテ居リマス事ト等シウスルコトデアリ
マシテ卽チ我國ノ將來ノ財政立直シニ關
スル點デアリマス、旣ニ此點ニ付マシテハ
貴衆兩院ヲ通ジマシテ·····殊ニ本院ニ於
キマシテモ過般來ヨリ此議場ニ於キマシテ
モ亦豫算總會ニ於キマシテモ先輩各位
ヨリ論議セラレマシタル點デアリマスル
カラ私ノ申上ゲル點ニ付キマシテモ、旣
ニ各位ノ申サレタコトト重複ヲスル嫌ヒガ
アルノデアリマシテ、私モ此際再ビ政府
ノ所信ヲ質スト云フコトハ止メヤウカト
思ッタノデアリマスルガ、今日マデノ政府
當局ノ答辯ヲ承ハッテ居リマス所ニ依リマ
スト、國民ノ期待ヲ裏切ルコトガ多クアリ
マスルノミナラズ、依然トシテ國民ヲシテ
其憂ヘト其不安ヲ一掃セシムルコトガ出來
ナイノデ已ムヲ得ズ私モ再ビ此處ニ立チ
マシテ、政府ニ質問ヲ致ス次第デアリマス
ルカラ、各位ニ於カレマシテモ質問ニ重複
スル點ガアルノト竝ニ多少數字ニ亙ル點
ガアルノデ、誠ニ御聽キヅライコトト存ズ
ルノデアリマスルガ、豫メ御許シヲ願ヒタ
イト思フノデアリマス、偖テ昭和八年度ノ
豫算案ヲ見マスルト云フト、旣ニ御承知ノ如
ク一般會計ノ本豫算ダケデ二十二億三千九
百餘萬圓ト云フ、我國ノ財政史以來空前ナル
所ノ、卽チ超巨大ナル豫算デアルト同時ニ
赤字公債或ハ事業公債、交付公債ヲ合セマ
シテ十億以上ノ公債ヲ發行シナケレバナラ
ヌト云フ、所謂非常時ノ大豫算デアリマス
ルガ、之ヲ審議スルニ當リマシテ、斯カル
厖大ナル所ノ豫算案ヲ編成シタ所ノ政府
ハ昭和九年度以後ノ財政計畫ニ付テ、如
何ナル所ノ確乎タル所信ヲ有スルカト云フ
コトニ付キマシテハ今議會ヲ通ジマシテ
國民ノ齊シク知ラムト欲スル重大問題デア
ルノデアリマス、果セル哉、貴衆兩院ニ於
テ此問題ガ論議セラレマシタ中デ、最モ緊
要ナル所ノ一ツノ重點ヲナシタト云フコト
ハ各位ノ御承知ノ通リデアリマス般
國民ハ此非常時ナル時代デアリマスカラシ
テ非常ナ決心ト竝ニ犧牲的ノ覺悟ヲシ
テ居レバコソ、斯カル空前絕後ノ厖大ナル
大豫算ハ必然生ムベキモノデアルトシテ
進ンデ之ヲ承認スル所ノ態度ヲ執ッタノデ
アリマスガ、併シ議會ノ審議ノ進ムニ連レ
マシテ、昭和九年度以降ノ財政計畫ニ對ス
ル將來ノ我財政ニ關シテ、如何ニモ政府ハ
樂觀的デアル又無責任ナル所ノ態度デア
ルガ爲ニ一般國民ハ此政府ノ樂觀的ナル
所ノ態度ニ信賴ヲシテ果シテ將來我國ノ
現在ノ財政ノ危機カラ遁レ出ルコトガ出來
ルカドウカ、頗ル心配ヲシテ居ル次第デア
リマスルカラ私ハ政府當局ニ其所信ヲ質
シタイノデアリマスルカラ政府ニ於カレ
マシテモ誠意アル、責任アル所ノ御答辯ヲ
煩シタイノデアリマス、其御答辯ニ依リマシ
テハ、°外我國ノ國際的經濟信用ト云フモノ
ガ高メラレルト同時ニ、尙ホ爲替ノ安定ト云
フコトヲ期スル上ニモ、亦一面ニハ內面的
ニ國民ヲ安堵セシメテ、此非常時ニ處スル
態度ヲ決定サセルコトガ出來ルノデアリマ
スルカラ、寧ロ此機會ニ於キマシテ、私ハ總
理大臣ヨリ進ンデ國民ノ不安ヲ一掃スルニ
足ル所ノ、我國將來ノ財政ニ對スル聲明ヲ
サレルト云フコトガ、私ハ望マシイコトダ
ト思フノデアリマス、ソコデ私ハ明年度以
降ノ我國ノ財政ハ、何處ニ底ガアルノカ分ラ
ナイ所ノ財政デアルト申シタラ適切デアラ
ウカト思フノデアリマスガ、之ニ對シマシ
テハドナタモ御異存ガナイダラウト私ハ思
ヒマス、私ガ申上ゲルマデモナク豫算ト云
フモノノ編成ト云フ仕事ハ次ノ年度ノ歲
入總額ニ〓略ノ目當ガアッテソレヲ如何
ニ經費ノ要否緩急ニ應ジマシテ按配ヲス
ルカト云フコトニアルノデハアルマイカ
ト思フノデアリマスソコデ豫算ノ編成難
ト云フコトモ起リ、又大藏大臣ノ財政的手
腕ト云フモノモ必要ナノデアリマシテ殊
ニ現在ノ如キ非常時ニ於キマシテハ大藏
大臣ノ御苦心ト云フモノハ並大抵ノコトデ
ハナイト云フコトハ實ニ御同情ヲ申シテ
御察シスル次第デアリマスケレドモ其不
足財源ト云フモノヲ、經常費デアラウガ臨
時費デアラウガ幾ラデモ赤字公債デ以テ
支辨ヲシテ行クト云フノデアッタナラバ、
體豫算ノ編成ナドト言へルモノデアラウカ
ト云フコトヲ、私ハ疑フ一人デアリマス
八年度ノ豫算ガ我國財政史上初メテ見ル、
驚クベキ所ノ「レコード」豫算デアルト云フ
コトハ、近年ノ一般歲計ヲ比較スレバ、是ハ一
目瞭然、明瞭ナルコトデアリマス、併シ私ハ
徒ニ豫算ノ總額ノ厖大デアルト云フコトヲ
驚ク者デハナイノデアリマス、卽チ財界ノ
景氣ガ囘復シ、國民ノ所得ガ殖エマシテ、
租稅ヤ其他ノ國家ノ歲入ト云フモノガ段々
增シテ、サウシテ國庫ニ餘裕ガ綽々ト出來
テサウシテ巨大ナル所ノ厖大ナル所ノ豫
算ガ組メルト云フノデアッタナラバソレ
ハ國運ノ降盛ト云フモノヲ示スモノデアリ
マスルカラ、誠ニ慶賀ニ堪ヘナイノデアリ
マス併シ明年度ノ昭和八年度ノ豫算ヲ
見マスニ付キマシテ、問題ハ此厖大ナル豫
算ノ歲入ハドウカト申シマスルニ、實ニ御
話ニナラナイ所ノ慘メナ歲入デアリマス
最初聞ク所ニ依リマスルト云フト、大藏事
務當局ノ經常部ノ歲入ノ見積リト云フモノ
ハ十二億八千餘萬圓デアッタノデアリマ
スルガソレヲ大藏省議ニ持出シテ見マス
ルト、歲出トノ振合上餘リニ見ットモナイ
ト云フ譯テ、見積リ替ヲ命ゼラレマシテ
結局景氣囘復ト云フコトヲ口實ニシテ三
千八百餘萬圓ノ增收ヲ見込ンダノデアリマ
ス加之各省カラ新規要求ノ財源トシテ見
積ラレタモノモアッタリシテ、ヤット十二億八
千九百餘萬圓ニ漕付ケタノデアリマス、而シ
テ本年度卽チ昭和七年度ノ實行豫算ニ比べ
テ見マスルト云フト、約六百餘萬圓ノ增收ト
ナッテ居ルノデアリマスルケレドモ、大正十年
來ココ十數年間ト云フモノハ、經常部歲入ガ
十二億臺ニ減少シタト云フコトハナイノデ
アリマス、又歲入中ノ根幹トモナルベキ租稅
ノ收入モ、六億九千餘萬圓ト云フ大正八年
來ノ最低「レコード」デアリマシテ、明年度
ノ豫算ノ大キナ是ガ最モ特質デアリマシ
テ、如何ニ此破產性ヲ帶ビテ居ッテ、最惡ノ
豫算デアルカト云フコトヲ如實ニ示スモ
ノデアルト私ハ思フノデアリマス其據リ
所ハ本年度ノ實蹟デ能ク明瞭ニ分ルコトデ
アリマス、昭和七年度、本年度モ漸ク昨年
ノ十月頃カラ少シバカリ見直シテ參リマ
シテ、營業收益稅、或ハ資本利子稅、或
酒稅等ハ幾分ノ增加ノ徵候ヲ示シテ參ッタ
ノデアリマスガソレニ反比例ヲ致シマシ
テ、減リ始メタノガ卽チ關稅收入デアリマ
ス、政府ハ昨年ノ七月頃カラ從量稅ト云フ
モノヲ一律三割五分ノ引上ゲヲシタノデア
リマスガ其引上ゲニ依リマシテ本年度ノ
關稅收入ト云フモノヲ千四百餘萬圓モノ
增加ヲ見込ンダノデアリマス所ガ見込ミ
違ヒガ生ジマシテ、ノミナラズ爲替ガ非常
ニ暴落ヲシ從テ昨年ノ上半期ノ見越輸入
ト云フモノガ非常ナ額ニ上ボッテ居ック反動
モ手傳ヒマシテ下半期ニ入ルヤ其途端ニ
收入ガ意外ニ減ッタノデアリマス、本年度ノ
關稅收入ハ豫算ニ比ベマシテ三千餘萬圓カ
ラノ減收ヲ免レナイデアラウト言ハレテ居
ル位デアリマスルカラ、明年度ハ所得稅其
他ニ於キマシテ相當ノ增收ヲ出來ルダケ
見込ンデモ關稅ノ減收ナドデ相殺ヲサレ
マシテ、前年度ニ較ベテ千六百餘萬圓ノ減
收トナリマシテ遂ニ租稅ノ收入ハ六億九
千餘萬圓ト云フ誠ニ貧弱ナ所ニ落著イタト
云フコトデアリマス、租稅收入ガソンナ譯
デアリマスルカラ、其他ノ財源タル所ノ官
業及官有財產收入ハドウカト申シマスニ、
是亦政府ハ財界ノ好轉ヲ見越シマシテ
增收ヲ見込ンデ居ルノデアリマスケレド
モ、誠ニ覺束カナイ節ガアルノデアリマ
ス、結局政府ハ苦心慘澹シタ結果、經常部
ノ收入總額ヲ十二億八千九百餘萬圓ト云フ
コトニ決定ヲシタノデアリマス、ソレニ臨
時部ノ歲入ヲ合算シマスルト云フト、十三
億四千三百餘萬圓トナルノデヽ政府ガ大キ
ナ顏ヲシテ使ヘル所ノ金ハ、實ニ是ダケシ
カナイノデアリマス、ソコデ政府ニ於キマ
シテハ、非常時デアルカラ無ケレバ借金ヲシ
ロト云フコトデ、各省大臣ノ强要ニ依リマシ
テ、大藏大臣ヲ說キ伏セテ、結果ハ遂ニ豫算
總額ガ二十二億三千九百餘萬圓トナッテ、從
テ差引キ八億九千五百萬圓ト云フ所ノ莫大
ナ歲入不足ヲ生ジタノデアリマス、卽チ此歲
入不足ノ八億九千五百餘萬圓ト云フモノガ、
今日上程サレタ所ノ公債デ埋メルコトニ
ナッタノデアリマス、而シテ只今マデ申上ゲ
タヤウナ次第デ、極度ノ歲入ノ萎靡ヲ無視
シテカラニドウシテ然ラバ歲出ヲ殖サナ
ケレバナラナカッタカ、膨脹ヲサセナケレバ
ナラナカッタカ、一體何ニソンナニ金ガ要ル
カト申シマスレバ所謂一口ニ申セバ
非常時ガ斯カル狀態ニサセタノデアリマ
ス一般國民モサウ見テ居ル次第デアリ
マスシ事實モ其通リデアリマス、併シ
政府ノ當局者ノ言ハレル如クニ、此非常
時歲出卽チ臨時的一時的ノ歲出ト云フ
モノガ永イ眼デ見テホンノ一時ノ「アブ
ノーマル」ノ財政ニ過ギナイトシタナラバ
ソレハ大シテ心配ハナイノカモ知レナイノ
デアリマスガ此我國ニ於ケル所ノ現時ノ
非常時ト云フモノハ斷ジテ私ハ臨時的
或ハ乃至突發的ナ非常時デハナイト少クモ
思フノデアリマス我國ノ財政ニ取リマシ
テ此非常時ハ恒久性ヲ帶ビテ居ルノデアリ
マ 、言換ヘレバ近年ノ歲出ノ膨脹ト云フ
モノハ今後一年ヤ二年デ元通リニ收縮ス
ルヤウナ、ソンナ生ヤサシイ所ノ膨脹デハ
ナイノデアリマシテ、却テ一層膨脹ヲスル
ト云フコトハ、是ハ私ガ申上ゲル迄モナク、
國民全體ガ認識ヲシテ居ル次第デアリマス、
私ハ恐ラク寧ロ今後ニ於キマシテハ財政
上ニ新タナル所ノ非常時ガ起リ得ナイト
御同樣誰ガ保證ガ出來ルデアリマセウ、恐
ラクココ數年間ト云フモノハ我國財政ノ
收支ノ均衡ト云フモノハ到底困難ナルト同
時ニ、赤字ノ增大ハ免レナイト思フノデア
リマス、其證據ハ過般來ヨリ兩院ニ於キマ
シテ本問題ヲ廻フテ連日論議ガ續ケラレ
マシテ政府當局トノ質問應答ニ依リマシ
テモ明カニサレタ所デアリマスルガ、ソレ
ヲ要約イタシマスルト云フト、現在稅制整
理準備委員會ヲ設置イタシマシテ、調査スル
コトニナッテ居ル所ノ增稅計畫モ、九年度豫
算編成ニ當フテハ全然考慮ヲサレズ、十年度
豫算編成ノ時ニ初メテ問題トスルト云フコ
トデアリマス第二ハ時局匡救費ハ一往九
年度ヲ以テ打切ル方針デアルガ其後何等
之ニ代ルベキ救濟策ハ要シナイト云フ確信
ハナイノデアリマス、第三ハ滿洲事變費
事件費ハ昭和十年度カ十一年度位カラハ
減少サセタイトノ希望ハ持ッテ居ルノデア
リマスルケレドモ、尙ホ相當ノ額ヲ經常的
ニ要スルト云フコトデアリマス、第四ハ兵
備改善費ハ國防充實繼續費ノ殘リ四億一
千百餘萬圓ノ中八年度ニ旣ニ計上サレタ
一億百餘萬圓ヲ除キ、九年度以降ノ分三億
一千餘萬圓ノ範圍內デ賄ヒタイ希望デアル
ガ此繼續費ハ昭和二十一年度迄モ續イテ
居ルノデ、之ヲ思切リ切上ゲテ少クトモ
昭和十年度カ十一年度迄ニ一往完成シ
其後ニハ彈力性アル所ノ國防計畫ヲ立
テルト云フコトデアリマス第五ハ海
軍ノ第二次補充計畫ハ八年度豫算ニ
ハ明カニサレテ居ナイノデアリマスルケレ
ドモ一年度限リノ經費トシテ計上サレ
テ居ル千五百餘萬圓ガ其實第二次補充計
畫ノ頭デアッテ九年度以降ニ其胴體ヲ現ハ
ス所ノ方針デアルト云フコトデアリマス
第六ハ公債ノ低利書替モ財政上ノ足シニナ
ルヤウナ效果ヲ擧ゲルコトハ困難デアルト
云フコトデアリマス、第七ハ統制アル所ノ
「インフレーシヨン」デアリマシテモ、其進
行ニ伴ヒマシテ物價ノ騰貴ニ依フテ、歲出
豫算ハ益〓膨脹ノ運命ニアルノデアリマス、
現ニ一閣僚ノ如キハ其爲ノ追加豫算ヲ提出
スルト云フコトヲ仄メカシテ居ルノデアリ
マス、是等ノ點カラ考ヘマシテモ、我國ノ
財政ト云フモノハココ數年ノ間ニハ其歲
計ノ收支ノ均衡ト云フコトヲ囘復スベキ所
ノ徵候ト云フモノハ極メテ少イノデアリマ
シテ、寧ロ歲出ノ如キト云フモノハ增大ノ
懸念コソアリマスルガ、ソレニ引替ヘテ歲
入ニ於キマシテハ益〓其赤字額ヲ增ス運命
ニアルコトガ暴露サレテ居ルノデアリマ
ス、故ニ衆議院ニ於キマシテモ豫算審査ノ
劈頭ニ於キマシテ、或一員カラ質問ヲ致シ
テ、歲入歲出ノ大ナル不均衡ト云フコトヲ
一面ニ示シテ居ナガラ、他ノ一面ニ於テハ
斯樣ナ不均衡ノ狀態ガ、凡ソドレ程ノ程度
デ凡ソドレ程ノ期間續クモノデアルカ
此財政ノ不均衡ハ將來ドウ云フ方法ニ依〃
テ之ヲ調整サレル見込デアルカト云フコト
ヲ質シテ居リマス、又此半面ニ財政ノ不均
衡ノ狀態ヲ見セラレタダケデ捨置キマスト
國民全體ガ方途ニ迷ヒ、玆ニ危惧ノ觀念ヲ懷
クニ至ルト云フコトハ、必シモ無理ナコト
デハナイ、政府ハ此機會ニ議會ヲ通ジテ
國民ニ對シテ其信念ノアル所ヲ披瀝セラ
レ、其計畫ノアル所ヲ十分ニ御說明ニナリ
國民ヲシテ能ク了解セシメルコトガ、最モ
肝要デアルト信ジマスト述ベテ居ルノデア
リマス、然ルニ政府ノ之ニ對スル答辯ハ
近キ將來ニ於テ財政ノ前途ハ好轉スベキ確
信ヲ少シモ與ヘテ居ナイノミナラズ、高橋
大藏大臣ノ答辯ニ至ッテハ、極メテ據ロノナ
イ樂觀的ナモノデアリマシテ政府ニ於キ
マシテハ歲入ノ不足ハ後年度マデ長ク繼續
スルモノトハ考ヘテ居ラヌト申サレテ居
ル又今後歲出ハ減ッテ行クコトハ明ラカ
デアル一方ニ於テ景氣ガ好クナッテ來ル
ト自然歲入ハ殖エルコトハ間違ヒナイト
述ベテ居ラレルノデアリマス而シテ昭和
十年度豫算ヲ編成スル時ニ當ッテ、歲計收支
ノ均衡ヲ得ル見込デアルト稱シテ居ラレル
ノデアリマスガ、此高橋大藏大臣ノ所見ニ
ハ私ハ甚大ナル所ノ疑惑ヲ懷カザルヲ得ナ
イノデアリマス先ヅ歲出ノ問題カラ考ヘ
テ見マシテモ、高橋大藏大臣ノ御言葉ヲ拜
借スル迄モナク、人間トシテ神様デナイ以
上ハ將來ノコトヲ的確ニ豫言ノ出來ル筈
ハナイノデアリマスケレドモ、今我ニガ豫
想シ得ル事實、或ハ其事情ノミヲ犠牲ニ致
シテ考ヘテ見マシテモ今日ノ財政方針ガ
是認サレル限リハ歲出豫算モ昭和九年度
以降ニ於テ容易ニ減少ハ望ミ難イト思フノ
デアリマス、寧ロ更ニ增加スベキコトヲ憂
ヘザルヲ得ナイノデアリマス卽チ滿洲事
件費ニシロヽ兵備改善費ニシロ明年度
限リデ是ヲ急減スルト云フコトハ豫想出來
ナイコトデアリマシテ)軍部當局ハ無論一
般識者モ之ヲ確信スル所デアリマス、又大
角海軍大臣ハ卒直ニ、明年度海軍豫算兵備
改善費中ニ、海軍ノ第二次補充計畫ノ頭ヲ
出シタモノデアルト申サレテ居ルノデアリ
マス、又時局匡救費ニ致シマシテモ、是ガ
明後年度以降ニアリマシテハ必ズ實質的
ニ是ガ消滅スルモノトハ私ハ考ヘラレナイ
ノデアリマス、而シテ今日ニアリマシテコ
ソ是等ノ巨大ナル所ノ經費ノ犠牲トナリマ
シテ、他ノ新事業ト云フモノハ殆ド全ク中
止ヲサレテ居ル狀態デアリマスルケレド
モ九年度モ亦其翌年ノ十年度モ、斯カル
狀態ガ畿續スルト云フコトハ許サレナイノ
デアリマス況ヤ突發事件デモ起,タナラ
バ、歲出ハ更ニ增加スルノデアリマスルカ
ラ決シテ大藏大臣或ハ總理大臣ノ言ハレ
マシタ如ク歲出ト云フモノハ九年度以後
ニ減少スルト云フ樂觀ヲ許サナイノデアリ
マス然ルニ大藏大臣ハ我ガ財界ノ前途ヲ
樂觀ヲ致シマシテ、決シテ失望スベキモノ
デハナイ歲入モ決シテ景氣ガ囘復シタ
ナラバ自然增加スルカラ、決シテ心配スル
ニ及バズト、誠ニ空漠タル所ノ樂觀ヲシテ、
何等赤字財政ノ根本的立直シヲ圖ラウトシ
テ居ラナイノデアリマス、過日菅原サンノ質
問ニ對シ、昨日ノ大藏大臣ノ御答辯ニ依リ
マシテモ、政府ハ今ハ財政ノ立直シノ時期
ニアラズト云フコトヲ答辯サレテ居リマス
ガ然ラバ何時財政ノ立直シヲヤラレル御
考ヘデアルノカ、大藏大臣ハ昭和十年度ニ
ナッタナラバ景氣モ回復シテ而シテ昭和
十年度ニハ收支ノ均衡ガ保タレルヤウニナ
ルデアラウ、誠ニ迂遠ナ氣ノ長イコトヲ言ッ
テ居ラレルノデアリマス、時局ハ多事多端
デアリマシテ、而モ非常時デアリマスカラ、
當分ハ歲入豫算ノ大體ノ見透シモ付カナイ
デアリマセウ又付クベキ筈ガナイト云フ
論モアルデアリマセウガソレガ付カナイ
トシタナラバ國家ノ財政ト云フモノハ全
ク暗闇ヲ行クヤウナモノデアリマシテ何
時其暗闇ニ突當ルカ分ラヌ、突當ッテカラハ
間ニ合ハヌノデアリマスルカラ、其處ガ我ミ
國民ハ非常ナ不安ナ點デアルノデアリマシ
テ、非常時デアレバ非常時ダケノ見透シヲ
付ケルト云フコトガ是ガ正ニ私ハ國家ノ
財政ヲ立直ス所ノ先決間題デアルト思フノ
デアリマス、殊ニ「インフレーシヨン」ノ政
策ニ依リマシテ、國庫ノ歲入ガ今後假令增
加スルコトガアリマシテモ他方巨額ノ公
債ヲ發行スル爲ニ、過度ノ通貨ノ膨脹ト爲
替ノ暴落ニ依リマシテ物價ガ暴騰スレバ
必然的ニ國庫ノ歲出ト云フモノヲ激增サセ
ルノミナラズ公債濫發ニ因ル所ノ利拂增
加ノ爲ニ國庫ノ支出增加ト云フモノハ膨
脹ヲ免レナイト云フコトモ見逃シテ居ラレ
ルノデアリマス從テ現狀ヨリスレバ九年
度以降ノ豫算ガ、歲計ノ收支ノ均衡ヲ得ル
ニ至ルガ如キコトハ到底只今申上ゲタ通
リ望マレナイモノデアルト言ハネバナラナ
イノデアリマス、殊ニ總理大臣竝ニ大藏
大臣ヨリ將來ノ我國ノ行財政計畫ニ付キ
マシテ、今迄トハ違ヲタ信念ノアル所
ノ國民ガ伺ヒマシテ首肯サレル所ノ明
快ナル御答辯ヲ煩ハシ、國民ノ疑惑ト云フ
モノヲ一掃スルト同時ニ、我國ノ國際經濟
信用ヲ高メルニ至ル所ノ聲明ヲサレタイノ
デアリマス、心アル人ニシテ果シテ首相竝
ニ大藏大臣ノ今日マデ述ベラレタヤウナ、
樂觀的ナ態度ニ共鳴スルコトガ出來ルデア
リマセウカ我ガ經濟社會ノ一大權威タル
經濟聯盟ヨリハ政府ニ對シマシテ可ナ
リ將來ノ財政行政計畫ニ對スル具體的ノ案
ヲ進言シタコトハ各位モ御承知ノ通リデ
アリマシテ實ニ玆ニ至ッタト云フコトハ
能ク〓〓ノコトデアルト私ハ思ヒマス若
シ我國ガ今日政府ノヤッテ居ルヤウナ不徹
底極マル財政政策或ハ經濟政策ニ依リマ
シテ財政上ノ此赤字ガ驅逐サレルト云フ
ナラバ、世ノ中ニ財政ノ立直シ程容易イモ
ノハナイト思ヒマス私ガ斯カルコトヲ申
上ゲマスト、恐ラク總理大臣モ或ハ大藏大
臣モ、決シテ心配スルナ、昭和十年度ニハ
自然ニ國家ノ財政ノ歲計收支ノ均衡ガ取レ
ルヤウニ······相變ラズ賴リノナイ據ロノ
ナイ御答辯ヲサレルト思ヒマスガ、心アル
所ノ國民ハ果シテ此空漠タル所ノ信念
ノナイ財政經濟政策ニ共鳴スルコトガ出來
ルデアリマセウカ又今議會ニ於キマシ
テ高橋大藏大臣ハ經濟界ノ眞ノ立直リ
ハ國民ノ過半數ヲ占メル農民ノ購買力ノ增
進ヨリ出發スルモノデアッテ、而シテ都市
農村ヲ通ジテ景氣ノ囘復シタ際ニ、稅制
其他財政ノ改革ヲ斷行スベキコトヲ述ベラ
レテ居ルコトハ是ハ私ハ全ク御同感デア
リマス、併シ農村ノ現狀ヲ見マスルニ前
囘ノ臨時議會ヲ通過イタシマシタ時局匡
救計畫ガ、旣ニ實行セラレテ居ルニモ拘ラ
ズ依然トシテ困リ拔イテ居ルノデアリマ
シテ農村ノ購買力ト云フモノハ一向增
進シテ居ナイノデアリマス、現ニ農村ノ購
買力ノ源泉ヲナス所ノ農產物價格ハ昨年
ノ夏頃ニ比ベマシテ米ヤ繭其他ヲ通ジテ
多少ハ上ッテ居ルノデアリマスルガ、其一般
的騰貴ニ至リマシテハ到底工業生產品ニ
及バナイノミナラズ、農村ノ必需品タル所
ノ肥料ノヤウナモノハ半箇年ニ約八割强
ノ騰貴ヲ示シテ居ル程デアリマシテ般
ノ購買品ノ暴騰ニ依リマシテ、却テ農村ハ
非常ナ苦痛ヲ受ケテ居ル狀態デアルコト
ハ當局ニ於キマシテモ、能ク御承知ノコ
トデアリマス、今日農村ノ景氣ガ囘復スル
ト云フコトハ容易ニ望メナイ、覺束ナイ
次第デアリマスルカラ昭和十年ヲ待タ
ズ、稅制ノ整理ノ如キハ、都市農村ノ景氣
囘復ヲ待タズトモ、此際ニ擔稅力アル階級
ヲ目標ト致シマシテ、社會政策的課稅ヲ行
フ、或ハ「インフレーシヨン」ニ依ッテ巨額
ノ利益ヲ得テ居ル所ノ階級ニ非常特別稅
ヲ課スルコトガ私ハ適當デアラウト思フ
ノデアリマス、此際大藏大臣ノ言ハレルヤ
ウニ國民ノ經濟力ヲ養ハズシテ增稅スル
ト云フコトハ本末顯倒デアル此御議論
ニ對シテハ大ニ傾聽スベキモノガアルト
思ヒマスルガ今日我國ハ非常時デアリマ
スガ故ニ、國民ハ數年間塗炭ノ苦ミニ遭ヒ
マシテ非常ナ飮マズ食ハズノ苦痛ニ、困
難ニ遭遇シテ居ルノデアリマスルケレド
モ此非常時ニ處スルニハ十分ノ覺悟ト
犧牲ノ決心トヲ持フテ居ルノデアリマスル
カラ九年度以降ノ政府ニ於キマシテ、信
念アル確乎タル所ノ、國民ヲシテ首肯
スルニ足ルベキ財政計畫ヲ明示サレタ
ナラバ忠誠ナル所ノ我ガ國民ハ擧
國一致非常時ニ處シテ必ズヤ喜ンデ増稅
ニ應ズルコトデアラウト私ハ思ヒマス
唯私ノ憂フル所ハ、政府當局ノ誠意ト其決
意トニアルノミデアラウト私ハ思フノデ
アリマス次ニ私ハ簡單ニ通貨統制ニ關シ
マシテ質問ヲ一二試ミタイト思フノデアリ
マス日本銀行ヲイタシマシテ政府ハ非常
政策ヲ爲サシメテ居ルノデアリマスガ今後
一年餘ノ間ニ更ニ十億以上ニモ近イ所ノ公
債ヲ發行セネバナラヌ結果、「インフレーシ
ヨン」ノ政策ナラズトモ、相當ニ通貨ハ膨
脹スルモノト看做サレマスルカラ、其弊ヲ
矯正スルガ爲ニハ日銀ヲシテ此通貨ノ統
制ニ當ラシメテ努メシムルト云フコトハ
是ハ寧ロ當然ナコトデアリマス、併シ日銀
ガ昨年末カラ此「マーケット·オペレーシヨ
ン」ニ依リマシテ賣出シタ公債額ト云フモ
ノハ四億三千餘萬公然大海鮮香
レドモ、其內容ハ北京市公安局海
ガ、總テ短期ノモノデアッテ
或ハ大藏證劵ガ三億五千萬圓モ占メテ居ル
始末デ此長期ノ公債ト云フモノニ對シテ
ハ市場ニ於テ餘リ好マナイ結果、日銀ハ
「マーケット·オペレーシヨン」ノ實效ヲ擧ゲ
ル爲ニ、尙ホ一般證劵業者ニモ賣却ヲ致シ
マシテ、其徹底ヲ期セムトスルモノノヤウ
デアリマスガ今後續々發行セラレル所ノ
巨額ノ公債ヲ「マーケット·オペレーシヨン」
ニ依リマシテ賣出スコトハ容易ナモノデ
ハナイト思ヒマスト同時ニ、時局ノ發展ス
ルニ連レマシテ、政府ノ財政計畫等ニ對シ
テ信賴スルコトノ出來ナイ見通シノ
付カナイヤウナ對策ヲ繼續シテ居リマシタ
ナラバ、此公債ノ信用ハ薄ラギマシテ、遂ニ
「マーケット·オペレーシヨン」ニ依ッテ通貨
ヲ統制スル其實績ヲ擧ゲル所期ノ目的ヲ
達スルコトハ頗ル困難デアラウト思フノ
デアリマスガ、之ニ對スル大藏大臣ノ對策
ト竝ニ御所見ガ伺ヒタイノデアリマス又
大藏大臣ガ過日モ本院ニ於キマシテ、橋本
サンカラノ御質問デ、我國デハ世間ニ所謂
「インフレーション」デモナク「デフレーシ
ヨン」デモナイ通貨統制ト云フコトハ是
ハ屢〓申上ゲテ居ル財政計畫ノ意見ヲ述
ベル上ニ付テモ申シタコトデアリマスガ云
云ト云フコトヲ述ベテ居ラレルノデアリマ
シー、今日ハ「インフレーシヨン」デモ「デ
フレーション」デモナイト言ハレテ居ルノ
デアリマスルガ、大藏大臣ガ「インフレー
シヨン」ヲ御好ミニナラウト御好ミニナル
マイトソレニ拘ラズ、十億以上ノ公債ヲ
發行スル結果ハ通貨膨脹トナルコトハ當
然デアリマスルカラ藏相モ其御演說中
ニ日本銀行ハ其「マーケット·オペレーシ
ヨン」ニ依リ、手持公債ヲ市場ニ賣放チ、通
貨ノ流通ヲ調節シ、「インフレーション」ノ
弊ヲ防止スルコトガ出來ルト述ベテ居ラレ
ルノデアリマスカラ「インフレーション」
ヲ認メテ居ラレル以上ハ、「デフレーショ
ン」デナイト云フコトハ判然シテ居ルト存
ジテ差支ナイト思ヒマス其結果ハ現政
府ノ方針ハ「インフレーシヨン」ノ政策デア
ル以上、物價ノ騰貴スルコトハ必然デアリ
マシテ、從ッテ之ヲ徹底セシムルニハ低
金利政策ナルコトモ當然デアリマス、而シテ
我國ノ財界ハ世界不況ノ影響ト數年間ノ緊
縮政策ニ依ル所ノ低物價政策ニ禍ヒサレマ
シテ國力ハ非常ニ衰弱ヲ致シマシタ、
國民ハ飮マズ食ハズノ苦ミニ喘ギマシテ
殆ド起ツコトノ出來ナイヤウナ狀態ニ立
至ッタノデアリマス、其非常時ニ活ヲ入レタ
ノガ、卽チ此「インフレーション」デアリマ
ス、併シ國民ハドコマデモ此高物價低金利
政策ガ徹底シ得ラレルカト云フコトヲ非
常ニ懸念ヲ致シマシタ結果、前々議會ニ於
キマシテモ、貴族院ニ於キマシテモ我ニ
同僚ヨリモ屢〓質質セラレタノデアリマス、
其懸念シタ所以ハ前ニモ申上ゲタ通り、
數年間ノ「デフレーション」ノ政策ノ爲ニ、
長イ間國民ハ苦ンダ結果其苦ミヨリ救ハ
九九六一ニ「インフレーション」ノ政策ニ賴
ルヨリ途ナシト之ヲ大イニ諷歌歡迎ヲ致
シマシテ景氣回復ト云フコトノ曙光ヲ認
メ財界モ稍ミ活氣ヲ呈シタノニモ拘ラズ
「デフレーション」ノ時代ヨリモ兌換劵ノ······
通貨ノ發行高ガ收縮ヲシテ、去ル十六日
ノ日銀ノ帳尻ヲ拜見イタシマスト云フト
十億百五十萬圓ト云フ、昨年十一月九日以
來ノ最低記錄デアリマス斯ル樣ニ通貨ガ
縮小シテハ再ビ「デフレーション」ノ時代
ニ逆行シテ、產業ハ振ハズ、景氣囘復ナド
ト云フコトハ思ヒモ寄ラザルコトト存ズル
ノデアリマス、是卽チ世間ニ於テ、政府ガ
日銀ニ通貨ノ統制ヲ行キ過ギサセタト非難
スル點デアラウト私ハ思ヒマス全ク斯ル
狀態デアッテハ、高物價政策ト相反スル現象
ヲ呈シマシテ政府ノ政策トハ全然矛盾シ
テ居ルト思フノデアリマスルガ、其政府ノ
現在行ハレテ居ル、我〓ノ同僚ヨリモ憂ヘタ
所ノ此景氣囘復ノ此經濟政策ヲ徹底サセル
コトハ、到底望メナイト私ハ思フノデアリ
マスガ、其點ニ對シテ大藏大臣ノ御所見ヲ
承ハリタイノデアリマス、次ニ私ハ陸海軍竝
ニ內務農林兩大臣ニ對シテ御尋ヲ致シタイ
ト思ヒマス、明年度ノ豫算ノ膨脹シタル所
ノ原因ハ申上ゲル迄モナク第一ハ陸海
軍費卽チ軍事費デアリマス、第二ガ內務農
林兩省費、卽チ時局匡救費デアッタコトハ
御承知ノ通デアリマス先ヅ第一ノ軍事費
デアリマスガ之ヲ分チマシテ滿洲事件費
ト兵備改善費デアルコトハ、御承知ノ通リ
デアリマスルガ滿洲事件費ハ陸海軍其他
ヲ合セテ一億八千六百餘萬圓デアリマスガ、
今ヤ我國ハ極東平和ノ爲、或ハ滿洲國ヲ承
認シ其國防ヤ治安維持ヲ一手ニ引受ケタ
ノデアリマスカラ此位ノ經費ノ掛ルノハ
私ハ當然デアルト思ヒマス政府ハ之ヲ臨
時的支出ト見テ、九年度以降ハ減ズルヤウ
ニ言ハルルノデアリマスルガ、事情コソ異ナ
レ未ダニ朝鮮ニ對シテハコチラヨリ經費ヲ
持出シテ居ルト云フヤウナ狀態デアリマシ
テ、况シテヤ何層倍モアラウ所ノ廣漠タル滿
洲ニ於テヲヤデアリマス、而モ行先ドンナニ
經費ガ掛ッテモ、是ダケハ削ル譯ニハ行カナ
イ性質ノ經費ナノデアルト思ヒマスルガ陸
相ノ之ニ對スル所ノ御所見ハ如何デアリマス
カ、陸軍大臣ハ昭和九年度ヨリ滿洲事件費ト
云フモノハ平年化スルト云フコトヲ仰セラ
レマスルガ、思フニ我ガ自衞權ヲ侵シ、我ガ權
益ヲ害シ、滿洲國ニ反逆ヲ試ミル者ハ一步モ
假借ヲ許サナイノデアリマスルカラ今ヤ熱
河問題ノ發展シヤウトスル矢先デモアリ、又
將來ニ於キマシテモ忠誠無比ナル皇軍ノ
駐兵ヲ半減スルト云フヤウナコトハ到底
私ハ出來難イト思フノデアリマス併シ此
經費ヲ滿洲國ノ現狀マデハ負擔ヲスルコト
モ到底困難ノコトデアリマスト思ヒマス
ガ、如何デアリマスカ、イヤ、サウデハナ
イ、軍部當局ニ於テハ必ズソレハ減ズル見
込ガアルノダト云フコトデアリマシタナラ
バ明快ニ御示シヲ願ヒタイノデアリマ
ス次ニ御尋ヲ申シタイコトハ兵備改善
費ト申サウカ、兵備充實費ノ問題デアリマ
ス國防ノ極メテ大事ナコトデアッテ-1
モ忽セニスルコトノ出來ナイト云フコトハ
勿論デアリマスルダケニ기其內容モ、祕密
デアル事柄ハ別ト致シマシテ出來ルダケ
十分ニ國民ニ諒解ヲサシテ其贊同ノ下ニ
之ヲ實行スルコトガ何ヨリモ重要デアルト
思ヒマス、從ッテ兵備充實費ノ問題モ、出來
ルダケ其內容ヲ公開ヲ致シマシテ、國民ニ
諮リ陸軍大臣ノ常ニ主張サレル如ク軍
民相一致イタシマシテ、內外ノ情勢ニ最モ
適切ナル所ノ方針ヲ立テルコトニ努メルコ
トガ現在ノ擧國一致內閣ノ名ニ副フ所以
ダト私ハ思ヒマス所ガ此分リ切ヶタコト
ガ、議會ニ於キマシテモ、眞ニ國民ガ知ラ
ムト欲スルコトガ葬リ去ラレルト云フヤウ
ナ傾向ニアルト云フコトハ頗ル遺憾トス
ルコトデアリマス宜シク軍部當局ハ進ン
デ國民ト共ニ議スル態度ニ出デラレタイノ
デアリマス八年度豫算ヲ中心トシテ齋
藤總理、高橋大藏大臣モ、將來ノ我ガ財政
ニ付テ、頻ニ據ロノナイ、悲觀シナイデモ
宜イト云フ樂觀論ヲ吐イテ居ラレマスガ
ドウモ十分ニ國民ヲ納得セシメ得ナイノデ
アリマス、ノミナラズ最モ國民ノ關心事ト
スル所ハ、兵備充實ニ關スル點デアリマス、
九年度以降ニ於テ果シテ如何ナルノデアリ
マスカ是ガ國民ノ不安ノ核心トナッテ居
ルノデアリマス此點ニ關シマシテ陸海軍
兩當局大臣ヨリ、十分ナル內容ヲ國民ニ御示
シヲ願ヒタイノデアリマス貴衆兩院ニ於
キマシテ荒木陸軍大臣ノ御答辯カラ推定イ
タシマスレバ九年度以降二年乃至三年ノ
中ニ、三億ニ上ル所ノ兵備改善費ヲ計上ス
ルト云フコトヲ言ハレテ居リマス今日科
學ノ進步ニ連レマシテ、時々刻々諸外國ニ
於テハ兵備ノ改善ヲサレテ居リマスノデ
此兵備改善ヲ要スルト云フコトハ是ハ當
然ナコトト思ヒマス、ツレニ關シマシテ
兵備改善ヲスルニ付テ、兵備改善ノ所謂
更新費ト云フモノヲ私ハ必要デアラウト
思ヒマス、其荒木陸軍大臣ノ理想トセラ
ルル兵備改善ニ對スル更新費ヲ如何ニ爲
サルノデアリマスルカ、之ヲ私ハ承リタイ
ノデアリマス、又大角海軍大臣ハ八年度
豫算ニ頭ヲ出シタ第二次補充計畫ハ、其度
如何ニ關シテハ篤ト〓究ノ上、廟議ヲ經テ
次ノ議會ニ協贊ヲ仰ギタイト思ウテ居ルモ
ノデアリマスト言ハレテ居ルニ過ギナイノ
デアリマス、然ルニ政府當局ハ、總額四億
六千餘萬圓ニモ上ル尨大ナル所ノ經費ダケ
ニ此第二次補充計畫ト云フモノヲ明カニ
スレバ將來ノ財政計畫ニ危惧ノ念ヲ懷カ
レルノヲ虞レテ、單ナル兵備改善費トシ
テ一年限リノ形式デ今期ノ議會ニ提出サ
レマシタガ、兎ニ角此第二次補充計畫ハ
向フ三年乃至四年ノ繼續事業タルコトハ明
瞭デアリマス寧ロ倫敦軍縮會議ノ結果ノ
缺陷ヲ補フ爲ニハ此位ノ經費デハ足リナ
イ位ニ我ミハ思ヒマシテ議會ヲ通ジテ我
ガ同僚ヨリモ再三御尋ヲシテ憂慮シタ次第
デアリマス、然ラバコヽ數年間ハ相當巨
額ノ要求ガ、此海軍ノ第二次補充計畫ニ依ソ
テ計上サレルト云フコトハ間違ナイコト
ダト思ヒマス、海軍大臣ノ之ニ對スル御答
辯ハ、問題ノ重要サニ比較イタシマシテ、
餘リニ簡ニ失スルノデアリマス、故ニ八年
度以降ノ年度割ト云フモノハ少シモ分ラナ
イノデアリマス、今後〓究ノ上廟議ヲ經テ
次ノ議會ニ提出スルト云フノデハ議會ニ
對シテ盲目デ居レト云フコトデハナイノデ
アラウトハ思ヒマスガ、頭ダケ承認ヲシタ
所ノ閣議其モノガ果シテ海軍ノ第二次計
畫ノ存在ヲ知ッテノ上デアッタカ、頗ル疑問
ナノデアリマスルガ、此點如何デアリマス
ルカ、明快ナル御答辯ヲ煩ハシタイノデア
リマス、次ニ私ハ時局匡救費ニ付キマシテ、
內務大臣竝ニ農林大臣ニ御尋ヲ致シタイト
思ヒマス明年度ノ時局匡救費ハ各省合
セテ二億七百餘萬圓、新規經費ノ七億四千餘
萬圓ノ三割六分ヲ占メテ居ルノデアリマス
ルカラ、明年度ノ新規經費ノ大部分ハ、軍事
費ニアラズンバ時局匡救費ト見テ差支ナイ
ノデアリマス其時局匡救費ノ中デ主ナ
ルモノハ內務、農林兩省デアルト云フコ
トハ、私ノ申ス迄モナイ所デアリマス、時
局ヲ匡救スルト云フ目的ハ何處ニアルカト
云フコトヲ申セバ、大ニ土木事業ヲ興シテ、
農民ニ賃銀ヲ支給スルニアルト云フコトデ
アラウト思ヒマス、然ルニ果シテ此莫大ナ
ル所ノ匡救費ニ依ッテ、極貧ノ貧農ガ救ハレ
タカト云フコトハ大ナル私ハ疑問ヲ持ツ
一人デアリマス、明年度內務省匡救事業費
トシテ、道路、治水、港灣各事業費合計
國費ダケデ九千百餘萬圓、之ニ地方費ノ負
擔ヲ加ヘルト、總額ガ一億四千餘萬圓トナ
ルノデアリマス、而シテ本年度ノ豫算ニ比較
イタシマセバ、國費ダケケ六百九十餘萬圓
總額デ一千八百餘萬圓ノ增額トナルノデア
リマス之ニ依フテドレダケノ農民ガ勞働
ニ從事スル機會ヲ與ヘラレタカト申シマセ
バ一人當リ賃銀ヲ約七十錢平均ト見マシ
テ、明年度卽チ昭和八年度ニ於キマシテハ
延人員ガ一億一千三百餘萬人デアリマシ
テ、チヨット聞クト非常ニ莫大ナル人數デ
アリマスガ全國ヲ通ジテ平均ヲ致シマセ
バ、僅ニ三十萬人程度ノモノデアルト思ヒ
やく、又明年度農林省匡救事業費ト致シマ
シテ、農業土木、農村經濟更生施設、米穀
貯藏奬勵費等ヲ合セテ五千六百餘萬圓デ
アッテ、此中農業土木費ハ低利資金其他
ヲ合セテ總工事費ガ四千八百餘萬圓トナ
リマシテ、本年度ニ比較イタシマセバ國
費ハ千四百餘萬圓、總工事費ハ千六百餘萬
圓ノ增額トナリマス、匡救人員ハ延ベデ九
千九十萬餘人ト云フ計算ニナルノデアリマ
ス、斯樣ニ時局匡救費ナルモノガ、我國財
政上ニ巨大ナル額ヲ現ハシテ來タ經緯ニ付
キマシテハ、私ハ玆ニ述べマセヌガ兎の
角政府ハ昭和七年下半期以降三箇年間ニ六
億圓ノ匡救費ヲ出スト言明シナガラ八年
度ニ於キマシテハ前ニ述べマシタ通リ
內務農林兩省ヲ合セマシテ二億七百餘萬
圓シカ計上サレテ居ラナイノデアリマス
是ハ世間ニ於キマシテモ、豫想ヲ裏切ラレ
タト云フ者モアリマスガ、兎モ角政府ノ辯
明スル所ニ依リマスレバ本年度ノ匡救事
業ノ實蹟ニ徵シ、又一方繭ヤ米ナドガ一時
大分騰貴シタカラ匡救共モノノ必要ガ幾
分緩和シタノダト云フノデアリマス併シ
實際此大鳴物入ノ匡救事業ナルモノガ、本
當ニ貧農大衆ガ救ハレテ居ルカドウカト云
フコトガ、私ハ非常ニ疑問ヲ持ツ者デアリ
マシテ、將來之ニ依ッテ貧農大衆ガ救ハレ
ル見込ガアルノカドウカト云フ所ノ內務
農林兩大臣ニ對シテ、本年度ノ實蹟上ニ付
テ御尋ヲシタイノデアリマス若シ實蹟ニ
徵シテ、他ニ貧農ノ大衆ヲ眞ニ救濟スル所
ノ對策ガアッタナラバ此國家財政危急ノ
此際ニ、斯カル莫大ナル所ノ經費ヲ使フ必
要ハナイト私ハ思フノデアリマス、併シ時
局匡救ニ對シテモ全然私ハ效果ノ無イト云
フコトヲ申シテ居ルノデハアリマセヌ、先
程モ申上ゲマシタ通リ、匡救事業ノ目的ハ
工事其モノニアルノデナク、賃銀ヲ支給
スルト云フコトニアルト言ヒナガラ土木
事業ノ六七割ハ木材鐵材、「セメント」
等ノ材料購入費ニアラズンバ技師其他
ニ對スル人件費デ、肝腎ノ農民ニハ碌ナ
賃銀モ支拂ハナイト云フ狀態デアリマス
ノミナラズ、甚シキニ至リマシテハ賃銀
サヘモ農民ヲ喰物ニスル所ノ組合長或ハ請
負業者等ノ中間搾取ガアリマシテ、不正
事件カ起リ、其累ヲ府縣ノ官吏ニ迄及ボ
シタ實例サヘモアルノデアリマシテ宮ハ
農民ノ手取ト云フモノハ、果シテ幾許デア
ルカト云フコトハ多大ノ疑問ナキヲ得ナ
イノデアリマス、斯カル狀態デアリマスル
カラ時局匡救費ハ三箇年之ヲ支出イタシ
マシタナラバ、所期ノ效果ヲ擧ゲ得ラレル
ト信ジテ居リマスト政府當局ハ言ハレテ居
リマスカト思ヒマスレバ又一方デハ來年
度卽チ昭和九年ニテ打切ルヤウニモ申サレ
ルノデ、國民ハ其眞意ノ何レニアルカヲ大
ニ疑問視シテ居リマシテ、迷ッテ居ル譯デア
リマス、故ニ現在ノ實蹟ヨリ見マジテ、內
務農林兩大臣ハ之ニ對スル所信ヲ明確ニ
御答辯ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、何
故私ガ斯ウ云フコトヲ伺フカト申シマスレ
バ先程申上ゲタ農林省ノ時局匡救費ノ內
ニ農村經濟更生施設ト云フモノガアリマ
ス農村經濟ノ更生ヲスル爲ニ莫大ナ經費
ヲ取ッテ居ラレルノデアリマスガ、其目標ヲ
何處ニ置イテ居ルカト云フコトヲ、私ハ非
常ニ疑問視シテ居ルノデアリマス、所謂更
生シカカッテ居ル所ノ現在ノ農村ヲ更生サ
セルノカ、或ハ全ク貧弱町村デアッテ殆ド
困リ拔イテ居ル所ノ貧弱ノ農村ヲ救濟スル
ノカ其目標ガ何レニアルノカ、少シモ分
ラナイノデアリマス、兎ニ角今日更生シカ
カッテ居ル農村ニ施設ヲ與ヘルト云フコト
ハ、是ハ容易イコトデアリマシテ、是ハ何モ
政府當局ノ手ヲ借ラナイデモ私ハ出來ルカ
ト思フノデアリマス、併シ政府ノ御役人ト
シテハ此方ガヤリ易イ、又其御役人ノ功ヲ
成ス爲ニモ其方ガ宜シイト云フコトデサ
ウ云フ所ニ目標ヲ置カレテ居ルノカモ知レ
マセヌ、併シ私ノ考ヘル所ニ依レバ是ハ
何レナリトモ論ガ立チマス、困リ拔イテ居
ル所ノ貧村ヲ更生サセルト云フコトデアッ
タナラバ是ハ時局匡救費ナルモノガ、玆
三年······三年間ノ內デ、明後年ニ於テ打切
ルト云フヤウナコトハ絕對ニ私ハ出來ナ
イト思フ、名目ハドウ變ルニシテモヽ實體
ハ此後二年ヤ三年ハ私ハ續クモノト思フノ
デアリマス之ニ對シテ農林大臣ヨリモ御
答辯ヲ煩ハシタイト思ヒマス以上ハ私ガ
長時間各位ノ御〓聽ヲ煩ハシテ政府當局
ニ對シ蒙ヲ啓イテ戴ク爲ニ質間ヲ致シタ
ノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ於テ御異
議カナケレバ本日ハ此程度ニ於テ延會ヲ
政シタイト考ヘマス····次ノ本會議ハ月
曜日、二十七日午前十時ヨリ開會イタシマ
ス議事日程ハ決定次第御通知ニ及ビマ
ス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午前十一時五十八分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01819330224&spkNum=19
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