1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年二月十八日(木曜日)
午後一時二十七分開議
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議事日程 第九號
昭和十二年二月十八日
午後一時開議
一 國務大臣の演説に對する質疑 (前會の續)
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第一 臨時租税増徴法案(政府提出) 第一讀會
第二 法人資本税法案(政府提出) 第一讀會
第三 外貨債特別税法案(政府提出) 第一讀會
第四 揮發油税法案(政府提出) 第一讀會
第五 有價證劵移轉税法案(政府提出) 第一讀會
第六 明治四十年法律第二十一號中改正法律案(樺太に於ける租税に關する件)(政府提出) 第一讀會
第七 關税定率法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 昭和七年法律第四號中改正法律案(輸入税の從量税率に關する件)(政府提出) 第一讀會
第九 大正十四年法律第五十一號中改正法律案(關東州の生産に係る物品の輸入税免除等に關する件)(政府提出) 第一讀會
第十 鐵の輸入税免除に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十一 輸出統制税法案(政府提出) 第一讀會
第十二 軍事救護法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十三 北海道舊土人保護法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲竝に掲載す〕
一議員より提出せられたる議案左の如し
狩獵法改正に關する建議案
提出者
川崎克君 山本粂吉君
仲西三良君
(以上二月十七日提出)
一昨十七日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を左の通變更せり
四〇四 原夫次郎君
四〇五 堤康次郎君
一昨十七日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第二部選出
請願委員 小林三郎君(高島兵吉君補闕)
第三部選出
豫算委員 櫻井兵五郎君(宮澤胤勇君補闕)
第九部選出
豫算委員 尾崎重美君(山道襄一君補闕)
一昨十七日辭任したる常任委員左の如し
第一部選出豫算委員 岸田正記君
第七部選出豫算委員 岡崎久次郎君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=0
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001・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、御諮リ致スコトガアリマス、第五部選出豫算
委員高田耘平君、右常任委員辭任ノ申出ガ
アリマス、之ヲ許可スルニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=1
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002・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ許可スルニ決シマシタ、其部ノ
諸君ハ速ニ補闕選擧ヲ行ヒ御屆アランコト
ヲ望ミマス-國務大臣ノ演說ニ對スル質
疑ヲ繼續致シマス、通〓順ニ依リ發言ヲ許
シマス、此際御參考迄ニ申上ゲルコトガア
リマス、林內閣總理大臣ハ只今宮中ニ參內
中デアリマシテ、午後二時迄ニ本院ニ出席
スルコトニナッテ居ルサウデアリマス-
鈴木正吾君
國務大臣ノ演說ニ對スル質疑
(前會ノ續)
〔鈴木正吾君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=2
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003・鈴木正吾
○鈴木正吾君 私ハ國民同盟ヲ代表シテ主
トシテ林總理大臣、大藏大臣、陸海軍大臣
ニ御質問申上ゲタイト思フノデアリマス、
甚ダ殘念ナコトニハ目下林總理ハ宮中ニ參
內中デ、二時デナケレバ此議席ニ來ラレナ
イト云フ話、總理大臣ノ質問ノ部分ハ適當
ノ方法ニ於テ之ヲ總理大臣ニ傳ヘテ、是非
トモ當議場ニ於テ總理大臣カラ其御返答ヲ
承リタイト云フコトヲ、豫メ申上ゲテ置ク
ノデアリマス、率直ニ申セバ私ハ現段階ニ
於ケル林內閣ニ對シテハ、期待ヲ裏切ラレ
タト云フ感ナキヲ得ナイノデアリマス、林
大將ガアヽ云フ經緯ノ後大命ヲ拜セラレタ
時私ハ林內閣ハ現狀打破ノ趨勢ニ、進
步ノ柏車ヲ掛ケル性能ヲ具備シテ誕生スル
デアラウト云フコトヲ期待致シマシタ、
然ルニ幾蹉跌ノ後漸ク出來上ッタ林內閣ノ
現前ノ姿ハ寧ロ退一步シテ、現狀彌縫ニ墮
スルノデハナイカト疑ハシムル節ガ多々窺
ハレルノデアリマス、尤モ去ル八日發表セ
ラレタ現內閣ノ政綱ハ、例ニ依ッテ抽象的
文字ノ羅列デアッテ、其實體ヲ捕捉スルコト
ニ苦ミマスガ、見方ニ依ッテハ現狀打破ノ意
氣込ガ尙ホ存シテ居ルヤウデモアルシ、見
方ニ依ッテハ其意氣込ヲ看板ニ、最小限度ニ
現狀ヲ改メテ、最大限度ニ現狀ヲ維持シヨ
ウトスル魂膽モアルヤウニ見エルノデアリ
マス、之ヲ要スルニ、現段階ニ於ケル林內
閣ハ現狀維持ノ勢力ト、現狀打破ノ主張ト
ノ相剋ヲ、其儘反映シタ兩頭ノ蛇ノヤウナ
氣ガスルノデアリマス、此兩頭ノ蛇タル所
ニ林內閣ノ存在價値ガアルト云フナラ、又
何ヲカ云ハンヤデアリマスケレドモ、此事
ガ現内閣ノ弱體視セラレル理由ニモナルノ
デアリマス、但シ私ハ必シモ今直チニ林內
閣ヲ弱體視スル世評ニ與スル者デハアリマ
セヌ、嚴格ニ言ヘバ林內閣ハ法律的ニハ成立
致シマシタガ、政治的ニハ未完成デアルト
云フノガ適當デハナイダラウカ、組閣當初
世間カラ、弱體内閣、二流、三流內閣ト貶
サレタモノガ、必シモサウデナカッタト云フ
事例ハ、第一次桂內閣ニ依ッテ立證セラレテ
居リマス、私ハ林大將ガ速ニ其陣容ヲ整備
シ、其內藏スル二頭ノ蛇ヲ〓算シテ、非常
時打開ノ重任ヲ完ウスル强力政府トシテ再
誕生スルコトヲ、衷心ヨリ念願シツヽ國政
ノ根本問題ニ付テ、二三ノ質問ヲ致シタイ
ト思フノデアリマス
第一ニ御尋致シタイノハ、國民精神作興
ト云フ問題デアリマス、林首相ハ先日本議
場ニ於テ、國力發展ノ基礎ハ剛健ナル國民
精神デアリ、旺盛ナル生產力デアルト喝破セ
ラレマシタ、眞ニ然リト思ヒマス、果シテ然
ラバ首相ハ、如何ニシテ其所謂剛健ナル國民
精神ノ作興ヲセラレントスルノデアリマス
カ、此事ヲ十分伺ヒタイト思ヒマス、私ガ
林首相ニ特ニ期待ヲ掛ケタク思ッテ居リマ
スコトハ、林總理大臣ハ過去三代ノ所謂非
常時內閣ノドノ首相ヨリモ、精神的人格者
デアルラシク見エル點デアリマス、現內閣
ガ其政綱ノ第一ニ「國體觀念ヲ明徵ニシテ
敬神尊皇ノ大義ヲ益〓闡明シ、祭政一致ノ
精神ヲ發揚シテ國運進暢ノ源流ヲ深カラシ
メンコトヲ期ス」ト言ハレタコトハ誰モ異
存ノナイ所、誰ガ內閣ヲ作ッテモ言ヒサウナ
コト、平凡ナコトヲ平凡ニ言ウタニ過ギヌト
云フヤウナ批評モアリマスガ、私ハ此誰デ
モ言ヒサウナコトデ、而モ今マデ誰モ言ハ
ナカッタ、而モ林サンニシテ始メテ言ハレタ
コト、隨テ又林內閣ノ政治ノ動向ヲ指シ示
ス一ツノ指針ガ、ソコニアルト云フ意味デ
其中ニアル「祭政一致ノ精神ヲ發揚シテ」ト
云フ一節ヲ、深ク玩味シタイト思フノデア
リマス、先日ノ議場ニ於テハ此一節ヲ捉ヘ
テ、古典的色彩云々ト批評シタ人ガアリマシ
ク、私ハサウ言ッタ人ノ心境ハ知リマセヌ
ガ、世間往々ニシテ之ヲ時代錯誤ノ復古主
義ト解スル者ガナイデハアリマセヌ、ナイド
コロデハナイ、寧ロサウ解スル者ノ方ガ多イ
カモ知レナイト思ヒマスコト程左樣ニ此精
神ハ我國ノ近代思想カラハ無視セラレテ來
タノデアリマスガ、果シテ是デ宜イノデアラ
ウカ、諸君モ既ニ御承知ノ通リ、每年一月四日
宮中ニ於テ執リ行ハセラレル政治始ノ御儀
ハ、陛下ノ御前ニ於テ總理大臣ガ一ツノ文書
ヲ讀上ゲテ、御奉告スル儀式ダト承リマス、卽チ
其文書ハ「神宮祭主申昨昭和十一年中神宮
恒例臨時諸祭典總而無御滯被爲遂行候事」
此伊勢神宮ヨリノ御奉告ヲ-滯リナク先
祖ノ御祭ガ濟ミマシタト御奉〓スルコトガ、
日本ノ政治始デアルト云フコトハ、日本ノ
國體觀念ノ上カラ言ウテ實ニ意味深長ナコ
トデアル、實ニ此祭政一致ノ精神コソハ古
典デモナケレバ、復古主義デモナク、建國
ノ昔ヨリ久遠ノ未來ヲ貫ク最モ古クシテ常
ニ最モ新シキ日本ノ政治ノ指導哲理デナケ
レバナラヌト、吾々ハ信ズルノデアリマス
(拍手)私ハ若シ比哲理ガ今マデノ政治家ニ
依ッテ、過去ノ我ガ憲政ノ運用ノ上ニ活カサ
レテ居ッタナラバ、幾多ノ忌ハシイ政治的ノ
疑獄ヤ、所謂政治家ノ腐敗墮落ナドハ起ラ
ナカッタダラウトサヘ思ッテ居ルノデアリマ
ス(拍手)私ハ林首相ガ剛健ナル國民精神ノ
淵源トシテ、此精神ノ發揚ヲ政綱ノ第一條
ニ示シタコトニ對シテ、深ク敬意ヲ拂フ者
デアリマス、併シナガラ私ガ首相ニ向ッテ
問ヒタイノハ、敬神崇祖ノ念ヲ高メルト云
フコトハ、ソレダケデ實ニ重大ナ意義ノア
ルモノト思ヒマス、ケレドモ苟モ眞ニ國民
精神ノ作興ヲ御圖リニナル積リデアリマス
ナラバ、敬神崇祖ノ念ヲ高メルト云フソコ
ニ止マラズ、更ニ進一步ノ工夫ガナケレバ
ナルマイト思フノデアリマス、國民精神ノ
作興トカ、思想ノ善導ト云フコトハ、是マ
デモ屢〓言ハレタコトデアリマスガ、ソレガ
一向實效ヲ現ハサナカッタト思ヒマスノハ、
在來ノ爲政者ノ精神作興運動ガ、多クハ無
味乾燥ノ精神講話トカ、勇壯活潑ナ軍事訓
練的ノ範圍ヲ出ナカッタカラデアルト私ハ
思フノデアリマス、眞ノ國民精神ノ作興ハ
端的ニ政治的、經濟的、社會的ニ現ニ存シ
テ居ル所ノ種々ナル不正義ヲ撲滅シテ政治
經濟社會ノ各部面ニ亙ッテ、全面的ノ正義ヲ
確立スル現狀打破ノ實踐運動ヲ伴ハナケレ
バ、眞ニ國民精神ヲ作興スルコトハ出來ナ
イト思ッテ居ル者デアリマス(拍手)今日國
民精神ガ弛緩スル原因ハ多々アルト思ヒマ
スケレドモ、其重大ナル點ハ今日ノ〓育デ
〓フル所ト社會ノ實際トノ違ヒ、玆ニ日本
ノ國民精神ヲ萎靡沈滯セシムル重大ナ理由
ガアルト信ジテ居ル、學校〓育デハ所謂自
由主義ノ〓育、腕サヘアレバ、力サヘア
レバ俗ナ言葉デ立身出世ハ思ノ儘ト〓ヘマ
スケレドモ、實際ノ經濟社會ニ於テハソレハ
全ク噓デアリマス、實際ノ經濟生活ニ於テ
ハ機會均等ハアリマセヌ、實際ノ經濟社會
ニ於テハ自由競爭ハアリマセヌ、貧乏人ノ
子供ハ何時マデ經ッテモ貧乏人デ、此經濟機
構ノ重壓ノ下ニ喘ガナケレバナラヌ、學問
ガアッテモ腕ガアッテモ、ソレガ伸ビル機會
ハナイ、是ガ伸ビナイ所ニ國民精神ノ萎靡沈
滯ガ起リマス、西洋デ作ック危險思想デナイ
「メイド·イン·ジヤパン」ノ危險思想モ、斯
ウ云フ所カラ出テ來ルモノト私ハ信ジテ居
ル、此經濟機構、此不正ヲ革メズシテ國民
精神ヲ作興出來ルカ、私ハ疑問ト思フ、正
直ニ稅金ヲ納メロト言ヒマスケレドモ、正
直ニ稅金ヲ納メテ居ッテハ〓フニ困ル、ソコ
デ餘儀ナク所得ノ金額ヲ噓ヲツク、儲ケノ
金額ヲ噓ヲツク、此苛斂誅求ヲ除カズシテ、
國民ニ正直ナル納稅義務觀念ヲ普及スルト
云フコトハ、甚ダ困難デハナイカト私ハ思ッ
テ居ルノデアリマス、此國民ノ正義觀念ト
實社會ノ間ニ橫ハル矛盾撞著、之ヲ一掃ス
ルコトガ、此上國民ニ〓育費ノ重壓ヲ加ヘ
ル年限延長ノ問題ヨリモ、日本ノ〓學刷新
ノ上ニ於テハ重大ナ意義ガアルモノダト私
ハ信ジテ居ル、幸ニモ林首相ハ今日ノ時
局ノ病弊ノ由ッテ來ル根本ヲ、正シク突
イテ居ルト思ッテ居リマス、ソレハ林總理
大臣ガ天下ニ聲明シタ政綱ノ中ニ、斯ウ云
フ一節ガアリマス「顧フニ內外世相ノ錯綜
シテ世或ハ適歸スル所ヲ知ラザルモノ、其
淵源實ニ協同ヲ疎ジテ個我ニ執著シ利害ヲ
追ウテ對立抗爭スルニ存ス、故ニ和ヲ以テ貴
シト爲ス」云々トアリマス、今日ノ世相ノ險
惡ト云フカ、世ノ適歸スル所ヲ迷ハシムル
モノハ、實ニ此個我ニ執著シテ利害ヲ追ッ
テ對立抗爭スルト云フ點ニアル、而モ是ハ
資本主義制度ノ下ニ於テハ當然起リ來ルコ
トデアリマス、隨テ此世相ヲ改メヨウトス
ルナラバ、現在ノ資本主義ニ向ッテ修正ヲ加
ヘルト云フ覺悟ガナケレバ、此一言ハ出ル
筈ハナイト私ハ信ジテ居ル、私ハ總理大臣
ガ斯ル認識ノ下ニ、今日ノ世相ノ上ニ橫ハッ
テ居ル各種ノ不合理ヲ矯正シテ、社會正義、
經濟正義、政治正義ヲ樹立スルコトニ依ッテ、
國民精神ノ作興ニ資セントスル意氣アリヤ、
覺悟アリヤ、又其具體的經綸アリヤヲ承リタ
イト思フノデアリマス
第二ニ御尋致シタイノハ、外交ノ立直シ
ニ付テデアリマス、廣田内閣瓦解ノ形式ハ
第七十議會ヲ解散スル、シナイニ付テ閣內
ノ統一ヲ缺イタト云フ風ニ見エテ居リマス
ガ、實際ハ昨年來度重ナレル外交ノ失敗ガ、
遂ニ廣田內閣ニ對スル全面的非難ヲ誘發シ
タ結果倒レタモノト見ルノガ適當デアラウ
ト思フノデアリマス、隨テ其後ヲ承ケタ林
內閣ハ、當然帝國ノ外交ヲ全面的ニ一新ス
ル使命ヲ持ッテ居ル、就中對支外交ハ速ニ之
ヲ立直サナケレバナリマセヌ、廣田内閣ノ
外交失敗ハ其原因固ヨリ單一デハアリマス
テイ其原因ノ中ニハ旣ニ世間一般ガ指摘
シテ居リマス如ク、外務當局ガ依然舊式ナ
秘密外交ノ殼ヲ脫シ得ズシテ、國民ノ精神
的支援ヲ無視シタコトモ、其失敗ノ一因デ
アラウ、當局者ガ區々タル功名心ニ驅ラレ
テ功ヲ急イダコトモ失敗ノ一因デアラウ、
或ハ當局者ノ極端ナ不用意カラ、日本國民
ニハ極秘ニシテ居ル外交上ノ機密ヲ、却テ
相手國又ハ相手國ト關係深キ方面ニ漏洩シ
タナドノ失態ヲ重ネタコトモ其ノ一因デア
ヲウト思ヒマス、更ニ又彼等ガ世界ノ情勢、
殊ニ支那ノ現狀ヲ誤認シ、其擧措ガ事每ニ
抗日侮日ヲ挑發スルニ過ギナカッタコトモ、
失敗ノ一因デアリマセウ、併ナガラソレ等
ノ諸原因ノ中デ最モ大ナル失敗原因ガ、我
ガ外交ノ一元的ナラザル點ニアッタト云フ
コトハ、先日來屢〓本議場ニ於テモ指摘セラ
レタコトデ、此事ハ好ムト好マザルトニ拘
ラズ、我ガ朝野共ニ此ヲ率直ニ認メテ、深
ク反省シナケレバナラヌ所デアラウト思フ
ノデアリマス(拍手)併ナガラ私ハ是等ノ外
交失敗ノ諸原因ノ外ニ、ヨリ重大ナ一箇條
ヲ加フベキモノガアルノデハナイカト思ッ
テ居リマス、ソレハ我國ノ國軍ノ現勢、現
在ノ勢力ガ東亞ノ安定勢力トシテノ權威ニ
於テ、缺クル所ガアッタト云フ、此現前ノ事
實ガ對支外交失敗ノ大ナル原因ダト信ジテ
居ル、隨テ我ガ外交ノ立直シ、殊ニ對支外
交ノ立直シノ方針トシテハ、速ニ東亞ノ安
定勢力トシテノ國軍ノ內容ヲ充實シ、整備
スルコトガ、第一義デアルト信ジテ居ルノ
デアリマス、日支親善ハ對支外交ノ常套語
デアリマスガ、私ハ此日支親善ト云フコト
程今日滑稽ノ感ヲ懷カセル言葉ハナイヤ
ウニ私ハ思ッテ居ル(拍手)支那ニ於テハ既
ニ十數年ニ亙ッテ、小學校ノ〓育カラ排日ヲ
鼓吹シテ來ル、日本ガ日支親善ヲ叫ブ程度
ニ正比例シテ、支那ニ於テハ侮日、抗日ガ
益〓進展シテ居ルト云フコトハ現前ノ事實
デアリマス、此事實ヲ前ニ徒ニ日支親善ヲ
唱ヘルガ如キハ、最早無用ノコトト吾々ハ
信ジテ居ル、此際ニ於テハ寧ロ充實スベキ
モノヲ充實シ、整備スベキモノヲ整備シ
テ、所謂維摩ノ一默雷ノ如シ、默ッテ毅然
タル態度ヲ堅持シ、相手方ガ改メ來ルノヲ
待ツノガ、我ガ對支外交立直シノ根本デナ
ケレバナラヌト吾々ハ思フノデアリマス
(拍手)無論當面ニ起ッテ來ル彼等ノ違法行
爲其他ノ當面ノ事務的問題ニ對シテハ、
迅速且ツ嚴重ニ是ガ處置ヲ講ズベキコト
ハ當リ前デアリマス、唯是等ノ事務ヲ外
ニシテ、我ヨリ進ンデ親善トカ提携トカ
云フヤウナコトヲ申出テ、徒ニ口舌ヲ以
テ應酬ヲ重ネルガ如キハ、今日ノ場合其當
ヲ得タモノトハ思ハナイノデアリマス、首
相ノ御所見ハ如何デアリマスカ、吾々ハ此
方針ヲ獨リ政府ニ向ッテ要求スルバカリデ
ハナイ、我國ノ言論機關、民間ノ言論モ之
ニ步調ヲ一致シテ、最早日本側カラ日支親
善ナント云フコトヲ言ハナクナルヤウナ、
一ツノ毅然タル精神ヲ作上ゲルコトガ、
對支外交解決ノ根本問題デアルト私ハ信ジ
テ居ル(拍手)若シ夫レ外交一元化ノ問題ニ
於ケル當議場ノ言議ハ、唯其弊害ヲ指摘シ、
責メルコトニノミ急デアッテ、未ダ如何ニシ
テ一元外交ノ實ヲ期スベキカノ積極的救濟
策ニ付テ聞クコトヲ得ナカッタノハ、吾々ノ
甚ダ物足ラズ感ズル所デアリマス(拍手)吾
吾ハ單ニ外交一元化ノ機構トシテノミデハ
ナク、有ユル國策ノ一元的達成ヲ期スル爲
二ハ各省割據的ノ現在ノ內閣制度ヲ根本
的ニ變革シテ、各省ノ事務ニ囚ハレザル少
數ノ國務大臣ヲ以テ組織スル國務院制度ヲ、
創設セナケレバナラヌト提唱致シマス、此
國務院ハ其構成ノ方法ニ依ッテハ、軍部ニ
モ、外務ニモ、又ハ本國ニモ、出先ニモ、
同時ニ押ヘノ利ク機能ヲ發揮スルコトガ出
來マス、今日ノ場合外交ノ一元化ヲ成就ス
ル途ハ、此方法ガ一番良イト信ズルノデア
リマス
ソコデ私ハ第三ノ質疑ト致シマシテ、行
政機構改革問題ニ關スル林總理ノ認識ヲ、問
ヒタイト思フノデアリマス、行政機構ノ改
革ト云フヤウナコトハ、組閣ノ初メニ於テ
之ヲ實行スベキモノデアッテ、旣ニ大臣ノ顏
ヲ揃ヘテシマッタ後ニ之ヲ行フコトノ甚ダ
困難デアルコトハ、旣ニ吾々ガ指摘シテ居ッ
タ所、廣田內閣ノ經驗シタ所デアリマス、
林內閣ハ其意ヲ藏シテ組閣ノ當初、數箇ノ
空席ヲ留保シタルヤニ傳ヘラレマシタガ、
其後ノ推移ヲ見レバ結局精々拓務省ノ廢止
位ガ、關ノ山デハナイカト見ラレルニ至リマ
シタ、是ニ於テ吾々ハ林首相ハ果シテ行政
機構改革ノ本義ニ透徹シタ認識ヲ、把持シ
テ居ラレナイノデハナイカト疑ハザルヲ得
ナイノデアリマス、現在ノ行政機構ノ中デ
最モ大イナル缺陷ハ、今日ノ內閣制度ガ單
ナル事務長官ノ集合ニ過ギズシテ、隨テ豫
算分捕ノ功ヲ爭フニ急ニシテ、國政ノ全局
ヲ綜合シ、大觀シテ、一貫シタル國策ヲ樹
立シ、之ヲ遂行スルコトガ出來ナイト云フ
機構上ノ缺陷ガ、日本ノ國政ノ進運ヲ妨ゲ
ルモノ大ナリト私ハ信ジテ居ル、日本ノ國
策ガ矛盾シ、撞著シ、國政全般ノ綜合的大
觀ナクシテ、分裂ニ急ニシテ、綜合ノ缺
ケテ居ルカト云フコトガ、今日ノ日本ノ政
治ノ最大缺陷デアルト思ヒマス、此事實ハ
枚擧ニ遑ナキ程デアルガ、一例ヲ申セバ、
農林省ニ於テハ自作農ノ維持創設ト云フ
コトニ力ヲ注イデ施設シテ居ル、一カノー
於テ大藏省デハ、僅ナ稅金ヲ增收センガ爲.
ニ、相續稅ノ增徵ヲ强調シテ居リマス、自
作農ノ創設維持ト云フ大精神カラ言ヘバ、
自作農ノ相續稅ノ如キハ、之ヲ免除スルト
云フ位ノ綜合的ナ國策ガナケレバ、到底國
政ノ一元ヲ期スルコトハ出來ナイト思フノ
デアル、今日ノ日本ノ政治ハ單ニ外交ノ一
元化ヲ必要トスルバカリデハナイ、國政全
般ノ一元的發露ヲ必要トスル時代デアルト
吾々ハ信ズル、試ミニ之ヲ前廣田內閣ノ國策
決定ノ實情ニ御覽ナサイ、當時新聞紙ニハ
國策ノ氾濫ト云フ嘲弄的ノ言葉ガ用ヒラレ
テ居リマシタガ、是ハ各省ノ屬僚ガ其所管
事務小主觀ニ因ハレタ葭ノ髓カラ天井ヲ覗
クヤウナ眼界ヲ根據トシテ、机上ニ立テタ空
想ヤ理想ヲ法文化シタ欄曝シ案ヲ、國策ノ
名ニ於テ内閣ニ持込ミ、各省大臣モ亦、自
分ノ省カラ出タ案ヲ國策ノ如クニ力說シ
テ、豫算ノ分捕リヲ强調致シマシタ結
果、遂ニ國策ノ名ニ於テ豫算ノ總花主
義ガ行ハレタト云フノガ、廣田內閣ノ
厖大豫算ノ原因デアッタコトハ、何人モ
異存ノナイ所デアルト思フノデアリマス、
斯ル弊風ヲ改メル拔本塞源ノ對策ハ、各省
ノ事務ニ囚ハレナイ少數ノ有力ナ國務大臣
ヲ以テ組織スル基本國策遂行ノ强力機關ヲ
設置スル外ニハナイト思ヒマス、是ガ當面
ニ要求セラレル行政機構改革ノ骨子、眼目
デナケレバナリマセヌ、旣ニ國策遂行ノ中
心機關ガ制定セラレマシタ以上ハ、事業施
行ノ官廳ノ如キハ、必シモ減ラサナケレバ
ナラヌト云フガ如キモノデハナイト思フ、
寧ロ國運ノ發展ニ連レテ益〓之ヲ擴張スル必
要モ起リマセウ、現ニ國民ノ保健衞生施設
ノ爲ニハ、保健省ノ建設モ必要デアル、
朝有事ノ際ニハ有力ナ空軍補充ノ使命ヲ持
ツ航空事業發達ノ爲ニ、航空省ノ新設モセ
ラルベキデアリマセウ、林總理大臣ガ現ニ
意圖シツヽアル行政機構改革ハ、斯ル意味ヲ
包含シテノ改革デアリマスカ、或ハ單ニ道
途傳フルガ如キ省ノ廢合ヲ意味スルニ過ギ
ナイモノデアリマスカ、若シ後者ダトスレ
バ、其廢合スベキ省ハ何々デアルカ、ソレ
ヲ明示セラレタイト思フノデアリマス
第四ニ國民生活ノ安定ノ方策ニ付テ御尋
ヲ致シタイ、惟フニ國防ノ充實ト國民生活·
ノ安定トハ、當面ニ要望セラレツヽアル庶
政一新ノ內容ノ雙璧デアリマス、而シテ國
民生活安定ノ問題ハ、旣ニ本議場ニ於テ繰
返シ論議セラレテ居リマスカラ、私ハ成べ
ク重複ヲ避ケ、角度ヲ變ヘテ簡單ニ二三ノ
項目ニ付テ、政府ノ所信ヲ質スニ止メ、現
內閣ノ財政經濟ニ關スル質疑ハ、擧ゲテ之
ヲ豫算委員會ニ讓リタイト思フノデアリマ
ス、先ヅ問ヒタイノハ、結城藏相ノ農村疲
弊ノ深度ニ對スル認識ノ問題デアリマス、
大藏大臣ハ八日ノ當議場ニ於ケル演說ノ中
デ、農山漁村ノ狀况ニ付テハ、近來ノ推移
稍〓順調ナルモノアルヤウ認メラレルト述べ
テ居リマス、此認識ガドダイ間違ッテ居
ル、一昨日モ宮澤君ガ此議場ニ於テ數字ヲ
擧ゲテ立證サレマシタ通リ、成程今ノ農村
ハ數年前ノ最惡ノ時代ニ較ベテ、稍〓囘復シ
タコトハ事實デアリマスガ、他ノ產業人ノ
ソレニ比スレバ、マダ〓〓順調ドコロノ騷
ギデハナイノデアリマス、苟モ一國ノ大藏
大臣ガ、其國民生活ニ甚大ナル影響ノアル
豫算ヲ切盛リスル場合ニ、旣ニ久シク一汁
三菜ニ飽食シテ居ル者ノ食膳カラ一菜ヲ取
上ゲル、其取上ゲ序デニ、ヤット一菜ニアリ
付イタ者ノ食膳カラモ、一菜ヲ取上ゲルヤ
ウナ惡平等ヲヤラレテハ、堪ッタモノデハナ
イ(拍手)若シ其一菜ハマダ箸ヲ著ケタモ
ノデハナイ、唯見セタダケノモノダカラ、
之ヲ取上ゲテモ左程ノ苦痛デハアルマイト
アナタガ御考ニナッテ居ルナラ、ソレコソ饑
ジサノ味ヲ知ラナイ坊チヤン心理デアルト
言ハネバナラヌ、旣ニ見タダケニ其饑ジサ
ハ見ナイ先ヨリモ、モット深刻デアル、見セ
タダケデ取リ上ゲルノハ、見セナイデ放ッテ
置クヨリモ一層慘酷ダト云フノガ、今日ノ
農村ノ氣持デアリマス、私ガ結城サンニ切
ニ反省シテ戴キタイト思ヒマスコトハ、ア
ナタノ就任ヲ祝賀シタ帝都ノ商工業者ノ、
アノ盛ンナ提燈行列ノ一ツ〓〓ノ提燈ノ中
ニ燃エテ居ル明リハ、此交付金ヲ削ラレタ
農民ノ恨ノ焰デアルト考ヘテ、交付金問題
ノ再吟味ヲシテ戴キタイト思フノデアリマ
ス、若シ理窟ヲ言フナラバ、私ニハ物價ノ
騰貴ヲ抑制スル意味デ、交付金ヲ削ルト云
フ理由ハ、ドウシテモ諒解ガ出來ナイノデ
アリマス、交付金ノ何處ニ物價ノ騰勢ヲ刺
戟スルヤウナ性質ガアリマスカ、若シ二億
二千万圓ノ交付金ヲ交付スレバ、ソレダケ
農村ノ購買力ヲ增シテ、物價騰貴ヲ刺戟ス
ル虞ガアルト云フナラ、私ハ其意味ノ騰貴
ナラバ寧ロ願ウテモナイ事、歡迎スベキ事
デアッテ、決シテ之ヲ抑制スル必要ハナイト
思フノデアリマス、若シ物價ノ騰勢ヲ抑制
スル意味デノ使用見合セデアリマスナラ
バ、物價騰貴ヲ刺戟スル性質ノ支出ニ斧鉞
ヲ加フルノガ當然デハナイカ、ソレハ結局
軍備費ニ手ヲ著ケナケレバナラヌト云フ
コトニナル、現下ノ情勢ソレガ出來ナイ
カラ、最モ抵抗力ノ弱イ農民イヂメニ著目
シタモノナラ、ソレハ八ツ當リト云フ
モノデアル、農村ニ取ッテハ是程迷惑ナ事ハ
ナイト思フノデアリマス、結城サンハ現狀
打破ヲ急進的ニヤルノハ易イガ中庸ノ道ヲ
以テ行クノハ難イ、サウシテ自分ハ其難キ
ヲ採ラント云フ意氣込ヲ、此議場デ示サレ
マシタケレドモ、今度ノ豫算修正ノ藏相ノ
熊度ヲ見レバ、易キニ就イテ難キヲ棄テタ
ト云フ譏リヲ免レルコトハ出來ナイト思フ
ノデアリマス、國防ノ充實ヲ最モ熱心ニ希
望スル私ハ、コンナコトガ知ラズ識ラズノ
中ニ、軍民離反ノ契機ニナリハシナイカト
云フコトヲ、衷心憂慮スル者デアリマス(拍
手)一體常ニ廣義國防ノ達成ヲ念願セラレ
ル軍ガ、コンナ無理ナ修正ニ同意セラレタ
理由ガ、私ニハドウシテモ理解ガ出來ナイ
(拍手)若シ差支ガナケレバ此機會ニ於テ、
アナタ方ガ此削除ニ同意セラレタ心事ヲ承リ
タイト思フ、併ナガラ率直ニ言ヘバ、私ハ其
心事ヲ聽クヨリモ、此際軍部兩大臣ガ相協力
シテ、今カラデモ遲クハナイノダカラ、廣
義國防ノ見地ニ於テ、此費目ノ復活ニ御盡
力ヲ願ヒタイト思フノデアル(拍手)御盡力
ガ願ヘルダラウカ、或ハ此儘抛ッテ置クト
云フ御意思デアリマスカ、御答ガ願ヘレバ
幸ダト思フノデアリマス、若シ結城サンノ
資本主義的「イデオロギー」ニ執著サヘシナ
ケレバ、コンナ胡麻化シノ物價對策ニ依ラ
ズトモ、物價ノ騰勢ヲ抑ヘル途ハアル筈ト
思フ、現ニ今ノ物價ノ騰勢ガ單ニ厖大豫算
ノ故ノミデハナク、先高見越ノ思惑ニ依ル
假需要ガ、之ニ柏車ヲ掛ケテ居ルト云フコ
トハ、大藏大臣自身モ認メテ居ルコトデア
リマス、此ノ人爲的ノ物價吊上ゲニ對シテ、人
爲的ニ之ヲ抑制スルコトガ何故惡イノデア
ルカ、何故出來ナイノデアルカ、ソレヲ聽キ
タイノデアル、國民ノ血ト膏ノ結晶デアル
軍事費ガ、少數財界人ノ思惑一ツデ忽チ二
割三割ノ價値ヲ減ジテ、國家最大ノ國策
タル軍備充實案サヘ豫定通リノ遂行ガ出來
ナイヤウナ、ソンナ薄弱ナ機構ノ下デ、此非
常時ガ乘切レルト思ッテ居ルノカ、私ハ此
非常時ヲ乘切ル爲ニハ、此際サウ云フ思惑
ニ依ッテ、物ノ値段ヲ吊上ゲルヤウナ者ニ對
シテ、大鐵槌ヲ加ヘル位ノ用意ト覺悟ガナ
ケレバ、本當ノ國策遂行ハ出來ナイノダト
思ッテ居ルノデアリマス、昔カラ富ト享樂ハ
都會ノモノデ、田舍ニハ生活ノ安定ト健康
ガアッタト見ラレテ居リマシタケレドモ、今
ヤ其生活ノ安定ト健康サヘガ、農村カラ奪
ハレツヽアルノデアリマス、近年徵兵檢査
ノ際農村壯丁ノ體格ガ年々ニ劣下シツヽア
ルコトハ、誰ヨリモ軍ガ熟知シテ、最モ憂
慮シテ居ル所デアルト思フ、農村ノ健康狀
態ガ都市ノソレニ比シテ甚ダ不良デアルコ
トハ、統計ノ明示スル所デアリマス、斯ク
テ眉目好キ婦人ト餘裕ノアル者ハ、村ヲ離
レテ都會ニ出ル、農村ノ前途ハ實ニ荒涼タ
ルモノガアルト思フノデアリマス、而モ其
由ッテ來ル所以ハ、現在ノ經濟機構ノ餘弊デ
アリ、斯ル經濟機構ノ發達ヲ助成シテ來タ
政治ノオ荷物トシテ農村ニ持込マシタ、公
租公課ノ重壓ニ依ル所ガ多イノデアリマス、
結城藏相ハ或ハ言フカモ知レヌ、此費目ハ
最初ハ之ヲ全廢スル積リデアッタガ、君等ノ
警告ヲ聽イテ本年度ハ暫定的措置トシテ、七
千万圓ノ金ヲ臨時補給金ヲ交付スルコトニシ
タカラ、是デ宜イデハナイカ、吾々ハ言フ、
斷ジテソンナコトハイケナイ、私共ハ飽マ
デ執念深ク、此費目ノ卽時全額復活ヲ要求
スル者デアリマス、政府ハ此問題ニ付テハ
最早考慮ノ餘地ナシト言フノカ、此澎湃タ
ル農村ノ聲ニ聽イテ、モウ一遍考ヘテ見ヨ
ウト云フ氣持ヲ持ッテ居ルノカドウカ、ソレ
ヲハッキリ伺ヒタイト思フノデアリマス
次ニ伺ヒタイト思ヒマスコトハ失業者ノ
問題デアル、宮澤君ハ國民ノ生活問題ト言
ハハ先ヅ勤勞階級ノ生活問題ダト言ハレ
タヤウニ私ハ聽イタ、併ナガラ私ハモウ一
步掘下ゲタ所ニ、失業者ノ問題ガアルト思
ヒマス、或ハ未ダ失業者ト云フ資格サヘ、
機會サヘ惠マレナイ未就職者ノ生活問題ガ
アルコトヲ、指摘シタイト思フノデアリマ
ス、苟モ我ガ立憲政治ニ奉行スル程ノ者ハ、
何人ト雖モ造次ニモ〓沛ニモ、億兆ノ中一
人ト雖モ其所ヲ得ザル者アラバ、朕ノ罪ナ
リト仰セラレタ此大御心ヲ奉體シテ、過チ
ナカランコトヲ期スベキガ當然デアリマス、
私ハ當代ニ於テ最モ其所ヲ得ナイ者ハ、働
ク意思ガアリ、働ク力ガアリナガラ、働ク機
會職場ニ惠マレナイ所謂失業者階級デア
ラウト思フ、而モ其數ハ一人ヤ二人ドコロデ
ハナイ、登錄セラレタ失業者ノ數ダケデモ、
三十六万ノ多キニナッテ居ルト言ハレテ居
リマス、況ヤ未ダ失業者ト稱スル資格サヘ
ナイ未就職者、職場ガナイカラ餘儀ナク農
村ニ追込マレテ、農村疲弊ニ柏車ヲ掛ケ
テ居ル半失業的農村ノ過剩勞力ヲ計算ス
レバ、其數ハ優ニ二百万ヲ超エルト言フ人
ガアリマス、若シ是等ノ失業者ノ群ニ適當
ナ職場ヲ與ヘサヘスレバ、彼等ハ直チニ總
理大臣ノ所謂國家發展ノ基礎タル、旺盛ナ
生產力トナリ得ルノデアリマス、失業者ノ
數ハ直チニ其國家盛衰ノ「バロメーター」デ
アリト言フモ、私ハ決シテ過言デハナカ
ラウト信ジテ居ル、働ク力ノアル國民ヲ遊
バセテ、放ッタラカシテ置クヤウナ國ガ榮
エル道理ハナイノデアリマス、私ハ庶政一
新ノ題目トシテハ、眞先ニ是ガ取上ゲラレテ
然ルベキ筈ダト思ッテ居リマシタガ、アノ
雜駁ナ前內閣ノ所謂庶政一新ノ國策ノ中ニ
モ、此失業問題ガ見ルニ足ール登場ヲシナ
カッタト云フコトヲ、甚ダ不滿ニ感ジテ居ル
一人デアリマス、私ハ戰後ノ英吉利ガ社
會革命ヲ防止スル保險料ダト云フ考カラ、
莫大ナル國費ヲ投ジテ、失業者ニ職業ヲ與
ヘル代リニ豐富ナ生活費ヲ給與シテ、皮肉
ナ批評家ヲシテ、英國ニハ失業者ト云フ新
シイ職業ガ出來タト叫バシメタ流儀ノヤリ
方ハ感服致シマセヌ、同意致シマセヌ、失
業者ヲ無爲ニ徒食セシメズシテ職場ヲ與ヘ
之ニ相當ナ賃銀ヲ拂フト云フ方法デ、國家
ハ此際至急ニ大規模ナ失業對策ニ乘リ出ス
ベキダト思フノデアリマス、假ニ百万ノ失
業者ガ新ニ職場ヲ得テ一日一圓デ稼グトシ
テ、一年三百日働ケバ三億圓ノ國富ノ生產
ガ出來ル譯デハナイカ、況ヤ我國ノ人口ハ年
年九十万乃至百万ノ增加ヲスルト云フコト
ハ、統計ガ明ニ之ヲ示シテ居ル、是等激增
スル人口ニ相應スル職業ノ增加ト、其職業ノ
適當ナル分配ヲ庶幾スルコトハ、根本國策
ノ一環トシテ眞劍ニ考究シ、施設セネバナ
ラヌ重大問題ナリト信ジマスガ、政府ハ此
問題ニ付テ何等カノ施設ヲ爲サントスル意
向ガアルカドウカ、此點ヲ承ッテ置キタイノ
デアリマス、其他增稅、就中各種ノ消費稅
ガ國民生活ニ及ボス惡影響ニ付テハ、旣
屢、論議セラレタ所デアリマスガ、私ハ玆ニ
大衆生活トハ餘リ深イ關係ガナイヤウニ思
ハレテ居ル所謂直接稅モ、亦其大半ハ大衆
ニ轉嫁セラレ、結局大衆生活ヲ壓迫スル責
メ道具ニナル虞ノアルコトヲ指摘シタイノ
デアリマス、名前ハ姑ク申シマセヌガ、曾テ
我ガ國家財政變理ノ大任ニ當ッタ其道ノ權
威者ニ向ッテ、私ハ斯ウ云フ話ヲシタ、大阪
方面ノ實業家ナドニ會ッテ見テモ、今度ノ增
稅ノ中ニハ二三ノ點ニ付テ非難ハアルガ、
所得稅トカ或ハ法人ニ對スル可成リ重イ課
稅ニ對シテ餘リ文句ハ言ハヌ、流石ニ彼等
モ非常時局ヲ認識シテ、愛國心ヲ發揮シタ
モノダ、金持ノ愛國心モ餘リ輕蔑スルモノ
デハナイト言ウタ時ニ、其人ガ、君ソレハ
金持ノ愛國心ト解釋スルヨリモ、金持ハ如
何ニスレバ其自分ノ背中ニ掛ッテ來タ稅金
ヲ、大衆ニ轉嫁スルコトガ出來ルカト云フ
コツヲ知ッテ居ルカラダヨ、直接稅或ハ法人
ニ對スル稅金ガ重クナルナドト云フコト位
ハ大シテ驚キハセヌ、卽チ製品ノ素質ヲ惡
クスル、同等ナ物ナラ値段ヲ上ゲル、ソレ
ガイケナケレバ勞働强化ノ方策ヲ執ル、色
色ナ方法ニ依ッテ、私ノ見ル所デハ直接稅ノ
七割位マデハ、大衆ニ轉嫁サレルデアラウ
ト言ッテ居ル、私ハ是ハ實ニ重大ナ問題ダ
ト思フ、隨テ政府ハ今囘ノ如キ大增稅計畫
ヲ立テマス場合ニハ、間接稅ハ勿論直接稅ノ
大衆轉嫁ヲ防止スル何等カノ用意ト方策ガ伴
ハナケレバ、法人ニ課スル直接稅ノ大部分ガ
大衆生活壓迫ノ材料トナッテ來ルコトヲ私ハ
慮ヘマス、其用意ガアリマスカ、例ヘバ配當
ノ制限ヲスルトカ、或ハ勞働强化ヲ防止ス
ルトカ、或ハ稅金ヲ生產費ノ中ニ盛込マセ
ナイト云フヤウナ、何等カノ方策ガアッテ然
ルベキダト思フ、物價ノ騰勢ニ對シテハ、
唯人爲ノ方策ハイケナイト云フヤウナコト
ヲ言ウテ之ヲ放任シ、豫算ガ大キイ〓〓
ト言ウテ、其豫算ノ厖大サヘ防ゲバ、
物價ハ國民生活ヲ脅威シナイ程度ニ
收マルヤウニ考ヘル考ヘ方ハ、果シ
テ當ヲ得タモノデアラウカ、殊ニ今日
豫算ハ大キイ〓〓ト言ヒマスケレド、日本
ノ國力ノ發展ヲ以テシテ、三十億ヤ四十億
ノ豫算ヲ厖大豫算ト言ウテ、周章狼狽スル
ノハ意氣地ガナサ過ギル、此位ノ豫算ニ平
氣デ堪ヘ得ル位ノ國ノ意氣込ヲ持ツコト
ガ-國ヲ其處ニ持ッテ行クコトガ、國政變
理ノ任ニ在ル者ノ當然ノ責任ナリト私ハ信
ジテ居ルノデアリマス
最後ニ私ガ伺ヒタイノハ、此議會ノ解散
ナク、今ノ內閣ノ提出シタ暫定的ナ稅法ガ
成立シタ曉ニ於テ、內閣ハ直チニ獨自ノ庶
政一新政策ヲ具體化シテ、之ニ要スル經費
ノ協贊ヲ求メル爲、一日モ速ニ臨時議會ヲ
召集スル意思ガアルカドウカト云フ問題デ
アリマス、林內閣ガ現ニ議會ニ提出シテ居
ル稅法ハ、其形式手續ニ於テ違法ノ疑ガ十
分アルト思ヒマスガ、百步ヲ讓ッテ之ヲ不
問ニ付スルトシテモ、其實質ハ悉ク前內閣
ノ借物デアリマス、一體豫算改編ノ暇ガナ
イコトニロヲ藉リテ、議員ノ質問ニ對シテ
ハ、アレモ〓究、是モ調査ト稱シテ逃〓
リ、甚シキハ財政ノ前途ノ見透シガ付カヌ
ト、恥カシ氣ナク議場カラ放言スルコトハ
如何ナモノデアラウカ、責任感ヲ生命トス
ル政治家ナラ、斯ルコトヲ言フノハ恥辱デ
アルト感ゼネバナラヌ筈ダ、ソレヲ如何ニ
モ率直ダ、其率直ガ宜イト言ッテ拍手ヲ送
ル議員モ相當アル世ノ中デアリマスカラ、
天下ハ洵ニ泰平ト思ハレマスケレドモ、苟
モ大命ヲ拜シテ施政ヲ奉行スルニ當リ、赤
誠ヲ披瀝シテ一意革新ノ方途ヲ講ジ、以テ皇
猷翼贊ノ道ヲ全ウセンコトヲ期シテ居ル林總
理大臣ハ、今期議會ノ直後、速ニ大規模ナル
政務調査ニ著手シテ、國民生活ノ安定、產業
ノ發達、或ハ國民負擔ノ均衡ト云フヤウナ
問題ヲ、具體的ニ盛込ンダ政策ヲ立テ、之
ニ必要ナル經費ヲ計上シテ、一日モ早ク臨時
議會ヲ開イテ、協贊ヲ求メル意思ガアルカ
ドウカ、之ヲハッキリ承リタイノデアリマ
ス、總理大臣モ其他ノ人々モ、口ヲ開ケバ
頻リニ今日ノ時局ノ重大ヲ說キ、擧國一致
ヲ要求シテ居リマスケレドモ、アナタ方ハ
如何ナル形式ニ依ッテ、擧國一致ヲ求メント
スルノデアルカ、擧國一致ノ必要ヲ眞先ニ
認識シ、此必要ヲ眞先ニ提唱シタ吾々トシ
テハ、擧國一致ノ必要ナルコトハ勿論信ジ
テ居ル、ケレドモ吾々ハ今マデノ三代ノ內
闇ガ、擧國一致ト稱シタルガ如キ形式的ノ
方法ハ、決シテ眞ノ擧國一致ニアラズト思
フ、政黨カラ何人カノ代表者ヲ入レテ內閣
ヲ造レバ、ソレデ擧國一致ト言ヘルカ、吾々
ハソンナ形式的ナ擧國一致ハ贋物ダ、眞實
ノ擧國一致ト云フノハ全國民ヲシテ感奮セ
シムルガ如キ正義社會ノ建設ニ相應シイ政
策ヲ立テ、議會ノ支持協贊ヲ得ルコトデナ
ケレバナラヌ、此手續ヲ通シテノミ今日
ノ時代ニ於ケル眞ノ所謂擧國一致ヲ要求
スルコトガ出來ルノデアルト、吾々ハ考
ヘテ居ルノデアリマス(拍手)何等獨自
ノ政策モ提示セズシテ、漫然トシテ擧國
一致ヲ求メルコトハ思ハザルモ甚シイモ
ノデアルト思フ、若シ眞ニ擧國一致ノ力ヲ
以テ此難局ヲ突破シヨウトナサルナラバ、
此際一日モ速ニ此時局匡救ニ必要ナ具體案
ヲ提ゲテ、臨時議會ヲ開イテ、林內閣自身
ノ政策ヲ以テ信ヲ國民ニ問フベキガ、當然
ナヤリ方ト存ジマスガ、政府ニ其意志アリ
ヤ、其信念アリヤヲ承リタイト思フノデア
リマス(拍手)
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=3
-
004・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 鈴木君ノ御尋
ニ對シテ御答ヲ致シマス、去ル十五日本院
ニ於テ演說ヲ致シマシタ中ニ「農山漁村ノ
狀況ニ付キマシテハ、近來ノ推移稍〓順調ナ
ルモノアルヤウニ認メラレル」ト云フコトヲ
申上ゲマシタノニ對シテ、御非難ガアリマ
シタガ、鈴木サンノ御演說ニアル通リ、數
年前ノ農山漁村ノ最惡ノ狀況ニ比ベテ、幾
ラカ好クナッタト云フコトヲ申上ゲタノニ
過ギナイノデアリマス、昨年ハ繭モ高ウゴ
ザイマシタ、米モ豐作デアリマシタ、旁、幾
ラカ好クナッタガ、マダ〓〓農山漁村ノ窮
狀ト云フモノハ、容易ナコトデナイカラト
云フコトヲ申上グル前提トシテ申シマシタ
ヤウナ次第デアリマス、地方財政交付金ノ
コトニ付キマシテハ、是ハ物價騰貴ヲ抑制
スルト云フ意味カラ、其事ヲ今囘見合セタ
ノデハアリマセヌデ、地方財政ノ事ニ付キ
マシテハ、私考ヘテ居ルコトモアリマス、
世間ノ議論モ中々アルヤウニ存ゼラレマ
ス、ソレデ必シモ前內閣ノ案通リデ宜シイ
カ、或ハ他ニ方法ガナイカ、其邊ノ所ヲ
モット檢討スル必要ガアルト斯ウ存ジマシ
テ、今囘ハ取敢ヘズ地方財政交付金ヲ七千
万圓ニ致シマシテ、此次マデニ極力努力ヲ
シテ、中央竝ニ地方ノ財政改革ニ關スル議
ヲ纏メタイ、斯ウ考ヘテ居ルヤウナ次第デ
アリマス、端的ニ二億二千万圓カラ七千万
圓ニ減ジタ、一億五千万圓ダケ御馳走ヲ出
シテ奪ヒ取ッタヤウニ御考ニナリマスガ、是
ハ附加稅デアリマストカ、消費稅デアルト
カ、色々ナ負擔ノ關係ヲ考慮致シマスト、
決シテソンナ風ニ一億五千万圓ダケ取上ゲ
タヤウナ結果デハナイノデアリマス、其邊
ノ所ハ、詳シイ事ハ豫算委員會ノ方ニ申上
ゲル積リデアリマスガ、ドウゾ誤解ノナイ
ヤウニ願ヒマス
モウ一ツ失業者ノコトニ付テノ御心配、
洵ニ御尤デアリマス、併シ近來ハ幸ニ失業
者ハ段々ニ減少シツヽアル有樣デアリマシ
テ、是ハ御同慶ニ堪ヘナイノデアリマス、
政府モソレ等ノコトニ付テハ種々ノ施設ヲ
講ジテ居リマス、又今囘ノ豫算ニモソレ等
ニ關スル經費ヲ計上シテ居リマスヤウナ次
第デ、政府トシテハソレ等ノコトニ付テ、
少シモ忽セニシテ居ラヌト云フコトヲ加ヘ
テ御答申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=4
-
005・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 總理大臣ハ只今出
席致シマシタ、能ク速記錄ヲ調ベタ上デ答
辯ヲシタイト云フコトデアリマス、鈴木君
ニ其事ヲ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=5
-
006・鈴木正吾
○鈴木正吾君 陸海軍大臣ニ聽イタコトニ
對シテ、御答ナイノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=6
-
007・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 陸海軍大臣カラ答
辯ガナイヤウデアリマス(「進行々々」ト呼
フ者アリ)-中野正剛君
〔中野正剛君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=7
-
008・中野正剛
○中野正剛君 諸君、私ハ政變ノ後ニ生レ
タル此林內閣ニ對シテ、第一大局ノ政治的
立場カラ質問ヲシテ見タイト思ヒマス、廣
田内閣ハ突如トシテ崩壞シク、其次ニ林內
閣ガ現レテ來タ、凡ソ政變ニハ意義ガナケ
レバナラヌ、政變後ニ生レタル內閣ハ前內
閣ト異レル視野ヨリ國政ヲ變理スルノ決心
ガナケレバナラヌ、私ハ林總理大臣ノ誠實
ナル人格ニハ多年推服シテ居リマスガ、總
理大臣トシテ此席上ニ立チテ爲サレタル演
說總理大臣ヲ輔佐スル大藏大臣ノ質問應
答ソレ等ヲ承ッテ見ルト云フト、外交モ內
政モ總テ大シテ前內閣ト相違ハナイ、同ジ
ヤウナコトヲ言ッテ居ラレル、若シ相違ガア
レバ、三十億三千數百万ノ豫算ヲ削減シテ、
二十七億七千万弱ノ豫算トサレタコトダケ
ダ、此間ノ政變ハ結果ヨリ見マスレバ、此
豫算削減ダケシカ齎サヌヤウニ私ニハ見エ
ル、サウスルト云フト前內閣ノ倒壞ハ色々
込ミ入ック事情モアリマスガ、三十億數千万
圓ノ豫算ノ重壓ニ依ルモノト、斯ウ見ナケ
レバナラヌヤウナコトニナル、現內閣ハ前
內閣ノ豫算ヲ削減シタダケダ、日本トシテ
此三十億數千万圓ノ豫算ガ一體堪ヘラレナ
イデセウカ、堪ヘラレナイト見ラレルカラ、
全農村ノ期待ヲ裏切ッテ農村交付金一億五千
万圓ヲ切捨テラレル、軍ハ國防一日ヲ急グト
云フ、一錢ノ懸値モナイト云フ豫算ヲ四千六
百万圓是亦繰延、特別繰延ダサウデスガ、事
實ハ繰延ダラウト思フ、ソンナニ私ハ數字
ニ拘泥シナケレバナラヌコトダラウカト斯
ウ考ヘテ居ル、大藏大臣ハ其上此席上ニ於
テ、財政ノ前途ニハ見透シガ付カヌト斯ウ
言ハレル、政變後ニ現レタル內閣ノ爲ス所、
大藏大臣ノ聲明、相俟ッテ日本ハ此非常時ニ
於テ、三十億何千万圓ノ豫算ニ堪ヘナイト云
フコトヲ天下ニ發表シテ居ラレル、私ハ是
ガ世界ニ對スル影響ヲ憂慮セザルヲ得ナイ、
ソロ〓〓支那ヤ「ソビエト」露西亞ヤ各方面
ニ此影響ガ現レ始メテ居ルヤウニ見エル、
日本ハ今ニ財政デ參ルゾ、滿洲工作モ放ッテ
見テ置ケ、深入リシテイケナクナッタ時ニ、
根コソギ叩キ出シテヤルト云フノガ、彼ノ
滿洲事變以來日本ト對立シタル列國ノ議論
デアッタガ、丁度此議場ニ現レタル內閣ノ言
動ハ、覇氣モナケレバ意氣込モナイ、甚ダ殘
念デアル、而シテ豫算ニ堪ヘナカッタ、將來ハ
ドウナルカ分ラヌト言ウタコトニ歸著スル
ヤウニ見エル、私ハ勃興日本ノ爲ニ之ヲ悲
シム者デアル、而シテ私共ノ視野カラハ
斷ジテ我ガ日本ハ左樣ナ劣弱ナルモノニ非
ズト確信スル、政府ガ意氣込ヲ以テ此信念ヲ
四海ニ之ヲ宜布スル能ハザレバ眇タル代議
士ト雖モ日本國民ノ意氣込ヲ代表シ、林內
閣ニ代リテ日本ハ是位ノ豫算ニヘコタレル
モノニ非ズ、政治ノ執リ方ニ依ッテハ多々益≧
辨ズルモノナリト云フコトヲ聲明スル、此
認識ノ下ニ、私ハ少シ本質的ノ質問ヲシテ
見タイト思フ
此豫算ノ中心ハ軍事費ニアリマス、十四
億ノ軍事費ニアリマス、豫算ガ大キ過ギル
ト言フ、何ガ大キ過ギルカト言ヘバ、軍事
費ガ尨大ダト云フコトニナリマス、此議場
ニ於テハ同時ニ大衆生活ノ安定ヲ犠牲ニ供
シタト云フコトガ、議員殆ド全般ノ主張ト
シテ內閣ト對立シテ居リマス、國民生活ヲ
不安ニ陷レク、國民生活ノ爲ニ金ハ使ハヌ、
而シテ豫算ガ大キイ、政府モ亦豫算ガ大キ
イ、斯ウ言ッテ議論サレヽバ、之ヲ觀ル者ハ
軍事費ガ膨レタカラ國民生活ハ安定セナイ
ト感ズルコトニナル、豫算ノ總額ヲ固定的
ナモノニ見テ居ル、軍事費ガ膨レヽバ大衆
生活安定費ハ削減サレル、大衆負擔ニハ重
壓ヲ加ヘル、斯ウ云フ理論ノ下ニ內閣諸公
ガ應對セラレヽバ、私ハ所謂其內閣ノ態度、
其內閣ノ豫算ニ對スル認識、ソレガ私ハ由
由シキ軍民離間ノ中心トナリハセヌカト云
フコトヲ憂慮スルモノデアル、私ハ諸君ノ
御氣ニ適ハヌカモ知レマセヌガ、豫算ハ今
後益〓膨脹スルト見テ居ル、セザルヲ得ヌ
ト見テ居ル、是ハ私ハ昭和六年ニ井上財
政崩壞ノ當時カラ、ドウモ此國際的環境ノ
中ニ乘出シタ以上ハ公債ハ倍ニナル、豫算
ハ膨レル、膨レテモ日本ハ倒レナイト主張
シタ、其時ニハ私ノ議論ハ何カ滅茶苦茶ノ
膨脹論ヲ言フ者ナルガ如キ印象ヲ受ケタノ
デアル、當時財政金融ノ專門家デアル井上
大藏大臣ハ、アノ上ニモウ百万圓デモ公債
ガ殖エレバ日本ハ參ル、金融界ハ保タヌト
言ヒ、ソレガサモ專門家ノ議論ノ如ク聞エ
テ居ッタ、然ルニ今日ノ如ク厖大ニナッテ來
ク、私ハ今後モ、モット〓〓膨レテ行ク、此
膨レテ行クノガ必然デアルガ、無理デアル、
此無理ヲドウシテ克服スルカ、此無理ノ克
服ニ日本非常時ノ姿ガアルト私ハ信ジテ居
リマス、ソコデ軍事費其モノノ使ヒ方ニ付キ
マシテハ、又ハ我ガ海軍ノ軍艦、潜航艇、
飛行機、ソレ等ニ對スル金ノ使ヒ方ノ割合
ニ付キマシテモ、陸軍ノ金ノ使ヒ方ニ付キ
マシテモ、私共素人小雖モ多少ノ主張ヲ持
ツ、是ハ遠慮ナク吾々ノ同志ヨリ豫算總會
ニ於テ質問スルダラウト思ヒマスガ、大體
ニ於テ私ハ軍事費ハ、今年アレダケ直チニ
使フガ善イカ惡イカハ問題トシテ、海陸ニ
於テ計畫サレテ居ルダケノ軍事費ハ、已ムヲ
得ナイト見テ居ル、或ハ虞ル、今頭ヲ出シ
テ居ルモノヨリハ、モット大キクナルノガ
必然デハナイカト私ハ見テ居ル、之ヲ私ハ
極ク素人ノ常識カラ御話シテ見タイト思
フ、此私ノ信念ヲ前提トシテ總理大臣ノ御
決心、此無理ヲ有理ニ展開セネバナラヌ重
責ヲ帶ビラレタル大藏大臣ノ御決意ト御經
綸專門的御知識トヲ叩カンコトヲ欲スル
者デアリマス
日本ハ前內閣頃カラ內閣諸公、外務大臣、
陸軍モサウデセウ、東亞ノ安定勢力デアル
ト云フコトヲ言ヒ出シテ居ル、東亞ノ安定
勢力ト云フコトハ、ドウ云フコトヲ意味ス
ルカ、東亞トハドコラヲ言フノカ、少クト
モ滿蒙、支那、海ニ於テ南洋、此線ヲ描イ
タ一ツノ塊リヲ安定スルダケノ勢力ハナク
チヤナラヌダラウト斯ウ思フ、ソレガ同時
ニ日本ノ國防線デアル、安定勢力圈デアル、
私ハ軍事上列國ノ主張ニ付キマシテハ、色
色ノ宣傳モアリ、誇張モアルダラウト思ヒ
やっ、ソレ故ニ靜ニ世界ノー-私餘計見聞
モアリマセヌガ、凡ソ軍事記者ト云フ名ノ
通ッタ人々ノ議論ハ見テ居ルノデアル、彼等
ノ見ル所ニ依ルト、此頃ハ此日本ノ安定勢
力圏、國防外線ニ向ッテ、世界ノ新銳武器、
飛行機「タンク」潜航艇、大艦巨砲、ソレガ
磁石ニ吸ヒ寄セラルヽガ如ク、其安定線ヲ
壓縮シテ、日本ノ此國防安定線ヲ壓迫シテ
居ル、其勢ヒ日ニ縮マルモノガアル、此安
定圈ヲ日本ガ死守シテ居ッテモ、新銳武器、
飛行機ハ距離ヲ縮メ、潜航艇ハ海ヲ池トナ
シ、段々ト押詰メテ來ル、斯ウ言ッテ居リマ
ス、私ハ是ハ公平ナ見方デアラウト思フ、
併シ日本ハ東亞ヲ安定セナケレバ自滅ダラ
ウト思フ、支那問題ハ支那問題ニアラズシ
テ、日本ノ問題ダト思フ、海上ニ於ケル防
備ハ、單ニ南洋ノ問題ニアラズシテ、日本
ノ存亡問題ダト思フ、玆ニ日本ハ力以上ノ
重責ヲ國際ノ役割ノ上ニ背負ッテ居ル、洵ニ
大キナモノデアル、彼ノ日沒ヲ見ザル大領
土ヲ擁スル英國ハ、可ナリ大キナ範圍ノ安
定責任ヲ背負ッテ居ル「ソビエト」露西亞モ、
亞米利加モ、獨逸モ、佛蘭西モ、世界ノ强
大國ト稱スル國ハ、相當大キナ安定責任線
ヲ有ッテ居リマスガ、我ガ日本モ、是等ノ大國
ト優リハスルトモ劣ラザル責任安定圈ヲ有ッ
テ居ルコトヲ、私ハ自覺セナケレバナラヌ、
斯ウ思フ、ソレガ脅サルヽ、脅サルヽコト
ハ餘所ノコトヂヤナイ、日本ノ存亡デアル、
斯ウ云フ考ニ立ツ時ニ、何トシテモ護ラナ
ケレバナラヌ、其日本ノ國防線ノ周圍ニ押
寄セテ居ル國々ノ豫算ハ洵ニ大キイ、英國
ノ豫算ハ八億磅、日本ニ引較ベルト云フト、
ズット大キイデセウ、昨日ノ新聞ニモ十五億
磅五箇年計畫ノ軍擴ヲ政府ハ聲明シタト
云フ、是ハ邦貨二百五十五億、年額五十數
億圓ノ軍事費ヲ英國ハ有ッテ居ルコトニナ
ル、可ナリ大キナモノダ、米國モ豫算ガ九
十一億弗、軍事費ハ十一億弗、其外ニ追加
シ追加シ追加セラルヽ所ノ軍備擴張費ガア
ル、「ソビエト」露西亞ニ至リマシテハ、色
色其發表ニ矛盾モアリマスガ、不肖素人ノ
窺ヒ得タル所ニ依リマスルト、千九百三十
七年度ニ於テ九百八十億留ノ豫算、軍事費
ハ二百一億留、此外ニ軍事ニ直接關係アル八
十億留ガアル、是モ邦貨ニ換算スルト、略〓五ニ
割ッテ日本ノ邦貨ト同ジ購買力ヲ見セルト言
ヒマスカラシテ、ヤハリ五十億內外ノ軍事費
ヲ有ッテ居ル、此外ニ三百万ノ强制勞働ヲ有ッ
テ居ル、而シテ露西亞ノ產業計畫全部ガ廣義
ノ軍事費デアル、ソレガ雪崩レ掛ッテ來テ居
ル、現ニ國境ニ於テハ對立狀態ニ在ル我ガ
忠勇ナル軍隊、卽チ農家ノ子弟、町ノ若者
ハ、滿蒙ノ氷雪ノ裡ニ此重壓ト對抗シテ居
ル、私ハ滿洲ニ行クタビニ話ヲ聞カサレル、
アノ國境線ニ於テモ衝突ガアッタ、此處デモ
アッタ、ソレガ負ケタ、勝ッタト云フコトガ、
一々支那人、滿洲人ニハ電氣ノ如ク傳ハル、
日本ノ飛行機ガ一臺墜チレバ滿洲ノ人心ガ
ザワツク、少シ露西。亞ガ無謀ナコトヲヤッ
テ、大兵ヲ動カシ來ッテ日本ノ少數ノ兵士
ヲ壓迫シ、死傷ヲ出サセルト云フト、直
グソレガ朝鮮ニマデ影響スル、私ハ朝鮮總
督府ノ大官カラ聞カサレタノデスガ、滿洲
國境線ノ動キガ、負ケタトカ、勝ッタトカ云
フ大袈裟ナ風評トナッテ、朝鮮ノ人心ニ影響
スル、滿洲國ノ人心ニ影響シ、北支那ノ人心
ニ影響シ、國際陰謀家ノ淵叢トナラントス
ル上海ノ風說ニ影響スル卽チ國防線ガ外
力ノ壓迫ヲ蒙ルコトハ、洵ニ日本ノ大陸政
策ノ上ニ重大ナル關係ガアル、國家ハ經濟
發展ガ必要デアル、是ハ尾崎サンノ言ハル
ル通リデアル、共經濟發展ガ「ソ」滿國境ニ
於ケル我ガ兵隊ノ僅カノ死傷、ソレニ依ッテ
東亞ノ人心ガ動搖スルトナレバ、經濟政策
モ莫大ナル打撃ヲ受ケルト云フノガ今日ノ
情勢デアルハ是ハ小競合デモ負ケチヤイカ
又、大局ノ爭ニ於テハ睨ミ返サナケレバ、
ドウシテモ日本ノ極東ニ於ケル立場ハ保持
出來ナイト私ハ考ヘテ居ル、決シテ戰ノ爲
ニ戰ヲ好ムモノニアラズ、國防ノ爲ニ國防
ヲ說クモノニアラズ、日本ノ國民生活ヲ安
定シ、日本國家ノ存在ヲ正確ニ安固ニスル、
此國際環境ニ善處スル爲ニモ、今日ハ軍備
ニ於テ外カラ脅サレテハナラヌト云フ情勢
ニ在ルコトヲ私ハ信ジテ居ル(「百億デモ
千億デモ使へ」ト呼フ者アリ)御聽キナサ
イ-佛蘭西ハ「デフレ」政策ヲ執ッテ居ル、
ワレデモ豫算ハ四百七十億法、ヤハリ邦貨ニ
換算スレバ百何十億ダラウト思フ、軍事費
ハ邦貨ニ換算シテ二十二億位ヲ、千九百三十
一年以來連年使ヒ來ッテ居ル、斯ノ如ク列國
ヲ調ベテ見ルト、マルデ百億トカ、五十億ト
カ、桁違ヒノ軍事費ヲ使ッテ居ル、併ナガラ
ソレヲ豫算ノ全面ト比較スレバ成程日本
ノ方ガ割高デセウ、割高ダケレドモ必要ダ、
之ヲ唯平面幾何ヲ解釋スルヤウニ、日本ノ
豫算ハ是ダケシカナイノニ軍事費ノ割合ハ
多過ギル、劣弱ナル我ガ國力ヲ以テコンナ
大キナ軍事費ヲ背負フコトハ、日本ヲ亡ボ
ス所以ダト云フノハ、是ハ平面幾何ノ解キ
方ダ、モウ少シ立體的ニ見ナケレバナラヌ、
立體幾何ダケデハイカヌ、モウ少シ有機的
ニ見ナケレバナラヌ、血液ヲ通ハシ、神經
ヲ通ハシ、立體ノ上ニ有機性ヲ加ヘテ、吾
吾ハ數字デハ解ケザル問題ヲ、ソコニ日本
國民ノ努力、所謂日本精神、而シテ又日本
男子ノ魂ヲ以テ探ネ入リタル科學ノ力、之
ヲ總動員シテ、此無理ナ軍事豫算、總豫算
ノ中ニ於テハ比較的高率ヲ占ムル、或ハ列
國ト比較シテ遙ニ高率ヲ占ムル所ノ軍事費
ヲ捻出シナガラ、尙ホ日本國家生成ノ元氣
ヲ、上ヨリ下ニ充實サセナガラ進ンデ行カ
ナケレバナラス所ニ、日本非常時ノ相ハア
ルノデアリマス、誰モ國ヲ建テル以上ハ安
樂ガ望マシイ、併ナガラ歐洲大戰ノ最初ニ
於テ、私ハ英吉利ニ居リマシタ時ニ國ノ
安樂觀ヲ變ヘナケレバナラヌト云フ議論ヲ
頻ニ聞カサレタ、安樂ナル國必シモ安固デ
ナイ、安樂ト安固トハ違フ、安全トモ違フ、
安樂ニシテ安全ナラ結構ダガ、ドウモ安全
ノ爲ニハ、安樂ナル國民ノ立場ヲ或ル程度
マデ犠牲ニシテモ、已ムヲ得ナイト云フ議
論ヲ屢〓、聞イタ、私ハ實ニ無理ナ軍事費ヲ
捻出シナガラモ、遮二無二日本自衞ノ力ダ
ケ具ハ、ヘナケレバナラヌト云フ所ニ、日
本非常時ノ姿ガアルト思ヒマス、此見方ニ
付キマシテハ昨日此議場ヲ壓セシ先輩尾崎
君ノ見方トハ、私ハ對立的ニ反對デアリマ
ス、結城大藏大臣ハ天下ノ期待ヲ擔ッテ居ラ
ルヽ何ヲ天下ガ期待シテ居ルカト言ヘバ、
アナタニ此無理ナ豫算ノ中デ軍事費ヲ充實
サセナガラ、ソレト同時ニ國民生活ノ安定
ヲ、或ル程度マデ保障シナガラ、アナタ方
ノ專門的知識、經驗、ソレニ誠實味ヲ加ヘ
テ、之ヲ善處スルデアラウト云フコトニ人
人ハ期待シテ居ルノデアル、私ハ此考ヘ方
ニ立脚シテ、林內閣ニ對シテ多々質問シタ
イト思ッテ居ル
林內閣ノ所信ヲ質ス前ニ、私ハ前內閣ノ
倒壞セシ所以、前內閣ノ方針ノ行詰マレル
所以ヲハッキリシタイト思フ、其行詰リシ所
以ヲハッキリ認識セラレテ、ソコニ新タナル
出發ヲナサルコトガ林內閣ノ責任デアル、
斯ウ思ッテ居ル、廣田內閣ハ國際情勢ニ對シ
テ大分認識ガ違ッテ居ッタ、列國トノ對立ノ
情勢ニ對シ我ガ責任上ノ安全圈ヲ保持シナ
ケレバナラヌト云フ此重責ガ、外交上ノ辭
令ヤオ辭儀ヲスルコトニ依ッテ確保セラレ
ルト思ッテ居ッタコトガ、外交上ノ間違ノ本
デアッタ、併シナガラ馬場財政ハ何ニ强要サ
レタカ、軍事費ダケハ出サナケレバナラヌ
ト云フ決心ヲシタヤウデアル軍事費ヲ出
サナケレバナラヌト云フ決心ハシタ、然ラ
バ軍事費ヲ使ッテ行ク、軍事費ヲ使ッテ行ク
ナラバ是ノ準備工作ガ要ル、併ナガラ此金
融資本家出身ノ大藏大臣ハ、軍事費ノ必要
ヲ强要セラレテ認メテ居ッタノデアリマス
ガ、心カラ此軍事費ヲ使ヒコナスノニ、ド
ウスレバ宜イト云フ大藏大臣當然ノ責任ヲ
閑却シテ居ッタ、又其點ニ對シテ感覺ガナ
カッタト見ナケレバナラヌ、軍事費ハ壓迫ニ
依リテ出サウ、併ナガラ此軍事費ノ背後ニ
要ル、豫算ノ膨脹ニ伴フベキ生產力ノ擴張
政策ト云フモノハ全然閑却シテ居ッタ、或ル
意味ニ於テ豫算ヲ出ス馬場藏相ト、金ノ總
元締トシテ、產業關係各省ヲ締轄シテ、生
產政策ニ對シテ頭ヲ用ヒナケレバナラヌ馬
場藏相トハ別物デアッタ、附燒刃ノ軍備擴張
論者ニ過ギナカック、眞ノ强兵ノ其礎ヲ富國
ニ置カントスル、富國ノ要點ヲ生產力ノ擴
大ニ置カネバナラヌト云フ認識ヲ有スルモ
ノデナカック、是ガ馬場藏相ノ大缺陷ト思
フ、モウ一ツハ其指導原理ノ誤デアル、此
指導原理ハ私ハハッキリ變ヘナケレバナラ
ヌト思フガ、私ノ變ヘントスル所ヲ誤ッテ、
アナタ方ガ又當年ノ金融資本家ノ立場ニ
持ッテ行カレルナラバ、今度ハ又逆ノ方向ニ
捩ヂ返サナケレバナラヌト思フ、是ダケヲ
申上ゲテ私ハ指導原理ノ間違ッテ居ッタコト
ヲ解剖シタイト思フ
廣田內閣ニ於テ缺ケタルモノハ政治的要
素デアリマス、政治家的要素デアリマス、
政治家ト云フノハ最近日本ノ政治家ハ茶
飮ミ話ノ物嗤ヒノ種ニサレテ居ル、私ノ政
治家ト謂フノハ、眞ノ經世家、經世的眼光
ヲ有スル政治人、ソレガ廣田內閣ニ無カッ
タ、總理大臣モ其人デ無カッタ、又斯ノ如キ
人ハ首相ノ左右ニモ無カッタ、ソコデ經世家
ヲ有セザル廣田內閣ハ馬場君ヲ賴リニ、金
融事務家ヲ賴リニ此經世ノ政策ヲヤラウト
シタ、金融事務家ナドト云フモノハ、私ハ
モウ少シ偉イモノダト田心ッテ居ッタガ、ヤハ
リ是ハ眼光極メテ狭小ナルモノ自分ノ慣
レザル問題ニブッツカルト云フトマルデ
自分ノ立ツ所ガハッキリシテナイカラ何處
ニデモ飛ンデ行ク、ドウデモナル、若シ經
世的眼光ヲ有スル人ガ內閣ヲ指導シテ居ッタ
ナラバ、此事務家ハ經世的眼光ニ指導セラ
レテ、日本ノ財政政策ヲ執ッタデアラウ、併.
シ經世ノ事ヲ相談スル相手ガ無イ、誰ト倶
ニ相談シタカト云ヘバ、官僚ト倶ニシタ、
卽チ金融專門家ト官僚トノ合作、其官僚ト
ノ合作ノ上ニ妙ナ「イデオロギー」ヲ宣傳シ
テ廻ッタノガ、前內閣ニ對シ滿天下ガ呆レ
返ッタ根本原因デアル、私ハ斯ウ考ヘテ居リ
マス、私ハ官僚ニ對シテ何モ感情的ニ惡口
ヲ言フノデハナイ、併ナガラ我ガ日本ノ
官僚ニハ今日ハ通弊ガアル、御承知ノ通リ
大正十一二年頃ハ、我ガ學界ニ於テ左翼思
想ガ燃エ盛ッタ其時代デアル、其時代ニ於テ
學生モ其思想ニ動カサレ、元氣ノアル者ハ
社會運動ニ飛出シ勇敢ニ鬪ヒ、或ル意味ニ
於テ殉難ノ士トナリ、或者ハ牢獄ノ中ニ呻
吟シタ、併ナガラ其時ニ元氣ヲ出シテ飛
出シタ者ハ、實生活ノ試煉ニ叩カレ、鬪ヒ
ナガラ世界ヲ觀、鬪ヒナガラ環境ヲ觀ルカ
ラ、今日ノ官僚ノ如ク「プリミティーブ」ナ
初期ノ左翼小兒病的思想ニ動サレル者ハ殆
ドナクナッテ居ル唯官僚ハ社會ニ飛出ス元
氣ガナイ、頭ダケハ左翼ニカブレタ、試驗
ヲ受ケタラ優等生デ合格シタ、合格シテシ
マフト云フト身分保障令ガアル、チヤント
鰻上リニ行ケル、併シ官僚ニハ色々ノ制限
ガアッテ、其思想ヲ外ニ出スコトハ出來
又、ソコデ左翼思想ヲ箱入リニシ、自ラ箱
入娘トナッテ來タ、ソレガ此頃ニナッテ政黨
無力化シ、政治無力化シ、軍部ガ革新政策ノ
尖端ヲ切ルニ及ンデ、今ハ吾々ガ言ウテモ宜
シイト云フノデ動キ出シタノガ日本ノ所謂
新官僚、新々官僚群、斯ウ私ハ見テ居ル、其
指導原理ニ馬場サンガ引張ッテ行カレタ、其
指導原理ハ極ク初期ノ社會主義デアル、尤
モ日本デ社會主義ヲ過ッテ唱ヘルト云フト、
何カ國家ニ對スル反逆ノヤウニ思ハレルカ
ラ、國家社會主義トカ何トカ言フガ、ドウ
シテモ押シ詰メレバ「マルキシズム」ニナル、
サウ云フ考ヘ方ヲ縛ラレナイ程度ニ言ウテ
行カウト云フ極メテ卑屈ナヤリ方、ソレガ
官僚ノ革新思想デアル、其ヤリ方ハ皆最後
ニ於テ集產主義トナル、彼等ハ國家ガヤレバ
何デモ宜シイ、國家ガヤルコトハ官吏ガヤ
ルコトダ、サウ云フ間違ッタ考ヲ持ッテ居ル、
サウ云フ考ヘ方ト云フモノハ、是ハ日本デ言
ヘバ滿洲事變マデノ考ヘ方、露西亞デ言ヘ
バアノ革命ヲヤルマデノ考へ方、ヤッタ翌
日カラ之ヲ如何ニ實務化スルカト云フコト
ハ「レーニン」「スターリン」皆考ヘテ居ル、
實際ノ試煉ニ觸レザル極ク初期ノ考ヘ方、
ソレガ官僚ノ革新「イデオロギー」デアル、然
ルニ今日ニ於キマシテハ社會主義者ト雖モ
實際ヲ見テ居ル人々ハ、事業經營ノ主體ガ國
家デアルト、公共團體デアルト、個人デア
ルト、ソンナコトヲ問フモノヂヤナイ、全
產業、全經濟、全金融ノ運用ヲ社會的ニス
ルト云フコトガ、社會主義者ト雖モ「プラク
ティカル」ナ人ノ狙ヒ所デアル、然ルニドウ
デス、新官僚群ガ自分ノ職場意識ト一〓ニ
シテ、國家ガヤレバ宜シイ、國家ガ保護ス
レバ宜シイ、官吏ガ經營スレバ宜シイ、國
有ガ宜シイト考ヘタ、其尖端ヲ切ッテ現レタ
モノガ電力民有國營案、聽イテ見ルト云フ
ト「メカニズム」ダケハ整ッテ居ル、國家ガ統
一スル、送電線ヲ統一スル、無駄ヲ省ク、電
力ハ一擧ニシテ一千万「キロ」モ增加スル、
コンナコトヲ宣傳シテ、描ケル美人ヲ揭ゲ
テ見セル、ドウシテソンナ旨イコトガ行ク、
株主ニハ旨イコト配當スル、仕事ハ旨ク
スル、電力ハ豐富デ低廉、何故ニ宜イカ、
役人ガヤルカラ、斯ウ云フ考ヘ方ト云フモ
ノハ、是ハ大間違デアル、、社會主義者ト雖モ、
官僚群ガデスヨ、事業經營ノ主體ニナッテ能
率ガ擧ルナゾト考ヘテ居ルモノハナイ、堪
能ナル官僚ト雖モ、實務ニ鞅掌セルモノニ
ハ敵ハヌ、實務ノ洗煉ヲ經來ッタルモノヲシ
テ經營ニ當ラシムルニアラザレバ不可ナリ、
イヤ、ソレバカリデハナイ、實務ノモット下
ノ方ノ、勞働者ヲシテ事業經營ニ參畫セシ
ムルニアラザレバ、眞ノ事業經營ヲ能率化
スルコトハ不可能ト見テ居ル、資本家ヨリ
奪ヒテ官僚ガ事業ノ經營權ヲ取リ、勞働者ニ
對シテハ絕對ノ權威ヲ以テ之ヲ押付ケルト
云フヤウナ頭、サウ云フモノノ考ヘ方デ、何
モ彼モ國有、甚シキハ民有國營、人ノ財產ヲ
自分ガ取ッテ、經營ダケハ俺ガシヨウト云フ
ヤウナコトマデ發展シテ來タ、此調子ナラ其
次ハ石炭國營、其ノ次ハ船舶國營、何ヲヤルカ
分ラヌ、豐富ニシテ低廉ナル電力ヲ宣傳シタ
ガ、アヽ云フ官僚ノ底ノ心ガ天下ニ分ッテ
ヨリ以來、ピタリト生產活動ハ一時止ッタ、
豐富ニシテ低廉ナル生產活動ハ逆ニ止ッタ、
而モ一方ニ於テ國費ハ膨脹スル、軍事費ハ
遮二無二出サナケレバナラヌ、民間ノ創造
力、企業心ヲ壓迫シテ、机上ノ空論ヲ强行
シヨウトスル、社會主義者ノ鬪士ト雖モ斯
ウ云フコトハ言ハナイ筈デアル、社會主義
ト異レル他ノ獨逸邊リノ「イデオロギー」モ
之ニ反對シテ居ル、左翼デモ右翼デモデス
ヨ、實務ヲ經來ッタ者ノ肯定シ得ザル所ノ、
極ク原始的ナ、人ノモノヲ自分ガ取ッテ、俺
ガヤレバ宜シイト云フノガ官僚ノ意圖デ
アノリ。其口吻ハマルデ革命家ノ言フヤウ
ナ話デアル、革命ト云フモノハドウ云フコ
トヲ意味スルカ、社會勢力ノ變化ニ應ジテ、
之ヲ反映シテ人間ノ立場ヲ變ヘルコトガ一
種ノ革命ダ、然ルニ官僚ハ自分ノ地位ニ居
据リナガラ、月給ハ取リナガラ、恩給ハ付
キナガラ、絕對安全ノ立場ニ居リナガラ、
ドウデス革命ミタヤウナコトヲ言フ、居直
リ、革命主義、官僚資本主義、能率撲滅主
義ソレト一〓ニ躍ッタモノガ馬場財政ダ、
軍部ノ一部ノ人々モ餘リニ調査局ニ利用サ
レタノダ、是ハ軍部ガ贊成ト云フノガ流行
語デアッタ、大抵ノ未熟ナル新官僚「イデオロ
ギー」ガ軍部ノ贊成ナル名ノ下ニ天下ニ强
要セラレタ、軍部ハ大ナル損失ヲシタト私
ハ思フ、而シテ軍部ヲ利用シ、軍部モ乘込
ンダカドウカ知ラナイガ、其一〓ニナッタ非
常ノ强キ壓力ハ、財界其モノニ向ッテ非常
ノ衝擊ヲ與ヘ、其非常ニ强キ壓力ニ依ッテ前
内閣ガ〓覆シタト私ハ見テ居ル、ソコデ林
サンガ出テ來ラレタ、私ハ此林內閣出現ノ
際ニ當ッテ、ハッキリコヽヲ認識シテ、自己
獨自ノ立場ヲハッキリセラルヽデアラウト
云フコトヲ期待スルモノデアリ、切望スル
モノデアリ、要求スルモノデアル
林サンハ誠實ノ士デアルト皆言ヒマス、
私モ數十年ヨク存ジテ居ル、滿洲事變ニ於
テハ······(笑聲)數十年知ッテ居リマス、佐
官時代カラ知ッテ居ル、滿洲事變ニ於テハ越
境將軍デアル、斷モアル、誠意モアル、斯樣
ニ人々ハ見テ居ル、內閣ヲ組織セラルヽ時
三、謙遜ナル林サンガ決心シテ出ラルヽ
三、餘程ノ御抱負ガ-覺悟經綸ガナケ
レバナラヌト思フ、組閣ノ最初ニ於テ林總
理大臣ハ國防ガ一ツ、革新政策ガ一ツ、經
濟界ノ安定、更ニ振興、是ガ一ツ、之ヲ調
和スルニ全責任ヲ以テ起タレタヤウニ見受
ケラレタ、ソレニ依ッテアナタハ、陸海軍ニ
向ッテモ軍部大臣ノ人選ヲ要求セラレタ、ア
ナタ指定ノ人ガアル、陸軍ニ於テ三長官會
議ノ容ルヽ所トナラザリシト云フノハ、表面
ニ現レタ現象デアルガ、私ハアナタノ組閣
方針ヲ阻ム一ツノ見ヱザル力ガアッタデア
ラウト、斯ウ思フ、ソコデ軍部大臣ハアナ
タノ要求通リニ行カナカッタ、併シアナタノ
見當ハ惡クナカッタ、一面ニ於テ財界ハ專門
家ニ委セル、併シ革新意識ヲ衰ヘサシチヤ
イカヌ、日滿ヲ打ッテ一丸トナス所ノ一ツノ
國防政策ガ要ル、ソレニ適當ナル人ヲ選ン
デ來ル、是デ押出サレタノダ、アナタノ意
見ガ軍部ト衝突スルニアラズシテ、見エザ
ル力ノ阻ム所トナリテ、此組閣方針ガ圓滑
ニ行カナイ、私ハ一國ノ政治ニ任ズル者ハ、
定石カラ申セバ第一次的ノ、第一善ガ行ハ
レザル時ニハ、大命ヲ拜辭シテ退クノガ定
石ダト私ハ思フ、軍部大臣ヲ指名シテアナ
タノ意中ノ人ハ棚曝シニナッテ居ル、ソレヂ
ヤイケナイ、ソレト同時ニ組閣ノ動向ガ急
角度ニ變化シタ、此時ニハ責任執レズトシ
テ退クノガ普通ノ定石、私ハアナタノ平常
ニ察シテ林總理大臣ハ退カルヽノデアラウ
ト見テ居ッタ、ソレガ退カレナカッタノハ不思
議デアル、併ナガラ人ノ功罪ハ棺ヲ蓋ウテ
後定マル、退カレナイニモヨク〓〓ノ御決
心ガアッタラウト善意ニ解釋シテ、私ハ棺ヲ
蓋ウ迄、內閣ノ使命ヲ終ラレル迄、第一善
ヲ行ヒ得ズシテ、第二善ニ落來リシ林氏ノ
心事ヲ諒トスル、併ナガラ玆ニ大ナル危險
ガ伏在スルト云フコトヲ警告シテ置キタイ
ト、斯樣ニ思フノデアル
ドウモ日本ノ國民ハ此非常時ニ當ッテ、本
當ニ見透シノ付ク、本當ニ强イ、已ムヲ得
ザル變革ナラバ責任ヲ以テ之ヲ斷行スル政
府ノ出現ヲ要望シテ居ル、併シ政界ヲ支配
スル一部上層ノ空氣ノ中ニハ、此險惡ナル
情勢ダカラ餘リヤリ過ギテハイカヌ、奔馬
ヲ輪乘リスル、サウシテ段々鎭メヨウ、停
頓シテ日數ヲ經タセルコト、其事ガ非常時
ヲ平常時化スル所以ダ、斯ウ云フ力ガアル、
ソレヲ多量ニ反映シテ現內閣ハ出來上リハ
シナカッタカト思フ、「アルプス」ノ嶮路ヲ
越スノニハ駿馬ニ鞭タナケレバナラヌ「ナ
ポレオン」「アルプス」越エノ繪ヲ見ルト云
フト、純血ナ「アラビヤ」馬ニ跨ッテ居ル、アナ
タハ併シ嶮路ヲ越エナケレバナラヌ、非常
時ヲ乘越エナケレバナラヌ、然ルニ險惡ナ
ル道ヲ躍リ越スニハ駿馬ハ危イカラト云ウ
テ、ドウモ駄馬ヲ傭ハレタヤウナ氣ガスル、
ソコデ段々難路ニ差掛ルニ及ンデ、吾遲レ
タルニアラズ、馬進マザルナリ、ドウニモ
出來ナイト云フコトニナリハセヌカト思フ、
ソコデ私ハ批評ヲ止メマス、林總理大臣ノ
責任益〓重大、組閣意ノ如クナラズ、私ハ軍
部大臣ノ進退ニ付テハ、代リニ立派ナ人ガ
出レバソレデ宜カラウガ、組閣方針ガ一轉
シテ、革新ト經濟ト國防トノ調和ガ破レタ、
ドウモアナタハ革新ヲ棄テタ顏觸ノ組閣ヲ
ナサッタ以上ハ、人ヲ革新的ニ動員致サレナ
カッタ以上ハ、アナタ一身ニ此革新政策ノ責
任ガアルト、斯ウ思フ、ソコデ私ハ先般申
上ゲタ日本ノ環境、國際的情勢、之ニ立脚
シテ林總理大臣ノ決意抱負ヲ二三先ヅ承リ
タイト思フ、結城大藏大臣ハ先般財界ノ見
透シハ付カヌト言ハレタ、是ハ後ハドウナ
ルカ分ラヌト云フ言葉ヂヤ斷ジテナイト思ッ
テ居ル、大體ノ見透シハ付イテ居ルダラウ、
此非常時ノ財務ヲ擔任スル者ガ、日本財政
ノ前途ノ見透シガ付カヌト云フコトハナイ、
付クノデセウ、明確ナル數字ハ分ラヌト云
フコトデアリマセウ、凡ソ其數字ヲドノ位
ニコナシ、其順序ヲ如何ニ付ケ、如何ニシ
テ摩擦ヲ緩和シナガラ責任ヲ遂行スルカ、
大體ノ御考へ方ハアルダラウト私ハ思
フ、此御言葉ハ率直ニ、數字ハ擧ゲ
ラレナイト云フ御言葉ダラウト思フ、併シ
ソレガ非常ニ世ノ中ニ疑惑ヲ生ジテ居ル、
財界ノ前途ハドウナルカ分ラヌト大藏大臣
ガ言ック、外國ニモ既ニ影響シテ居ル、ソコ
デ林總理大臣ニ御尋スルガ、結城藏相ノ見
透シ付カズト云フコトハ、數字ノコトデア
リ、アナタハ日本ガ東亞ノ安定勢力トシテ、
名實ヲ備フルニ足ルダケノ自信ヲ持ッテ居
ラルヽカドウカ、健全ナル財政方針、併ナ
ガラ積極的財政方針健全財政ト言ヘバ
消極ニ限ッテ居ルナラバ、最前言ック平面幾
何ノ問題ノ解キ方デアル、積極的ニシテ健
全ナル方針、ソレハ一面ニ於テ生產力ノ增
大、日本滿蒙ヲ連ネル資源ノ總動員、日本
國民ノ人的元氣ノ總動員、科學ノ總動員、
卽チアナタハデスヨ、積極健全政策ヲ執リ、
日本ノ東亞安定勢力タル使命ヲ遂行スルニ
對シテ、根柢ニ於テ動カザル自信ヲ有シテ
居ラルヽカドウカ、希クハ此自信アルコト
ヲ、ハッキリ第一ニ申シテ戴キタイ、斯樣ニ
思フノデアル
第二ニハ經濟指導原理、經濟指導原理ニ
關スル總理大臣ノ演說及聲明ヲ讀ンデ見マ
スト云フト、保護ト共ニ統制ヲヤル、創造
力ヲ增シ、企業心ヲ旺盛ナラシメル、是ハ
私共曾テ言ウタ如ク-自分ノ著書ニ書イ
タコトヲ今言ハレテ居ルヤウナ氣ガスル、
讀ンデ見テ、俺ガ書イタノデハナイカト思
ハレルヤウナ所ガアル、大分指導原理ガ吾
吾ノ平生ノ主張ト近付イテ來タヤウニ見マス
ガ、是モ解說實行ノ仕方ニ依リテハ大ナル
危險ガアル、保護ト共ニ統制ヲ加へルト言
ハレマスガ、保護統制政策ヲ誤ルト云フト
潑刺タル競爭心ヲ避ケ、保護ノ杖ニ賴リ、
統制ノ綱ニ縛ラレテ、タド〓〓步クヤウナ
コトニナッテ、能率ハ增サヌ、保護シ、統制
シ、企業心ヲ增シ、創造力ヲ增スト云フコト
ハ、自由主義發展時代ニハ極メテ樂デアリ
マスガ、其自由主義ガ獨占資本主義トナッ
タ時ニハ、ヤハリ創造力モ、企業心モ衰へ
テシマッテ居ル、之ニ創造力ト企業心ヲ與ヘ
ルト云フコトハ、私ハ餘程ノシッカリシタ
革新意識ガ其處ニナクチヤナラヌト思ヒマ
ス、保護統制ガ餘リ巧ク行カナカックモノ
ハ、恐ラク行カナイダラウト見ラルヽモノ
ハ、現ニ結城大藏大臣ノ在野時代ニ御世話
ニナック東北振興會社ノ如キガ、其一例デア
ル、電力會社ト、モウ一ツノ振興會社ト兩
方デ六千万圓ノ金デス、莫大ナル金ヲ政府
ノ力デ强制的ニ集メテ、何モ仕事ヲ始メテ
居ナイ、發電事業ノ如キハ、タッタ五万「キ
ロ」ノ計畫デアル、此位ノ仕事ナラ民間ノ今
日ノダレ切ッタ營利會社デスラモ、五万「キ
ロㄴ位ノ發電所ナラバ、月給二百圓位取ル
社員ガ會計ト技師ヲ連レテ行ケバ一箇月
位デ叩上ゲテヤッテ見セル、ソレヲ國家ガア
ノ大キナ會社ヲ保護統制ノ下ニ造ルト仰セ
ラレ、民間ノ金ヲ集メテ、ドウデス、始メ
テ一年ニモ及バントシ、マダ何ニモ出來ヤ
シナイ、發電設備ハ一「キロ」百九十圓デ出
來ルト、議會デ報告シテ居ッタガ、何デモ此
間議論シテ見タ末、ドウシテモ五百圓ハ掛
ルソンナ事ヲ外ニ漏シテハ議會ノ問題ニ
ナルカラ、當分計畫ハ出スマイト言ハレル、
保護統制ノ出來損ヒハ、斯ウ云フコトニナ
ル、私ハ林總理大臣ガ小兒病的社會主義ノ
弊ヲ馬場サンガ持ッテ居ッタトスレバ、ソレ
ヲ揚棄シテ、實際家動員ニ出ラレタノハ宜
シイガ、ソコニハッキリシタ革新意識ヲ
注ギ込マルヽニアラザレバ、其保護統制ハ
創造力ト企業心トヲ却テ鈍ラセルモノトナ
ル虞ガアル、同時ニ惡ク墮落スルト云フト
傳統資本主義擁護ニナル此指導原理ニ對
シ、ハッキリシタ認識ヲ此議場ニ於テ明白ニ
セラレンコトヲ私ハ希望スル者デアル
第三ニハ庶政一新ニ付テ伺ヒタイト思フ、庶
政一新ハ理論遊〓ヲシテ居ル時代デハナイ、
一面ニ於テ國力ノ急速ナル發展ヲヤル、之
ニ伴フ社會的摩擦ガ出ル、此社會的摩擦ヲ
緩和シ、勤勞階級ヘノ重壓ヲ除去シ、而シテ
國力ノ急速ナル發展ヲ爲スト云フコトガ、私
ハ庶政一新ノ目的デアラウト思フ、斯ノ如ク
シテ資本家ニモ、事業家ニモ、勞働者ニモ、自
發的ノ犠牲ヲ呼掛ケル、皆犧牲デアル、旨イコ
トハ何處ニモナイ、苦シイコトハ皆苦シイ、其自
發的犧牲ヲ呼掛ケテ、此犧牲ヲ拂ハシメネ
バナラヌ、ソレガ爲ニハ犧牲ノ合理性ヲ確
立シナケレバナラヌ、是ニ於テカ此犠牲ノ
合理性ヲ確立スル爲ニ、シッカリシタ根本ノ
考ヲ有タナケレバ駄目ダト思フ、結城大藏
大臣ガ林內閣ノ下ニヤラレタ主タルヤリ方
ハ產業經濟ノ動搖ヲ阻止スル應急的ノ手
當ニ過ギナイ、其應急的ノ手當、是ハ堪能
ナル頭ヲ以テヤラレタデセウガ吾々カラ觀
テミレバ「シテー」ノ「テクニックス」デス、常識
ナンデス、ソレカラヤラレタダケナンデス、
併シ同時ニ、ドウデス、交付金ハ削除セラレ
タ、交付金一億五千万圓ヲ削除セラレタコ
トハ、他ノ物價政策、他ノ財政政策ト關聯
シテ一億五千万圓ヤルベキモノヲ、ソックリ
取上ゲラレタコトハ違フト言ハレルガ、ソ
レニシテモ一億五千万圓ヲ與ヘラレナイコ
トニ依ル所ノ實際農民ノ重壓、農村ノ期待
ヲ裏切ルト云フコトハ、可ナリ大キナモノ
デアル、是ハ議論スル必要ハナイト思ッテ
居ル、サウスルト應急手當ハヤル、應急手
當ヲヤルト同時ニ、一般天下ノ聲デアル農
村交付金一億五千万圓ヲ犠牲ニスル、斯ウ
云フヤリ方ガ段々發展シテ行クト、私ハ軍
部ニ對スル資本家ノ請負政治ニナッテシマ
ヒハシナイカト思フ、軍部ト抱合ッテト云フ
コトガデス、軍部ハ其財源ノ捻出ヲ資本家
ニ請負サセルト云フコトニナッテシマヒハ
セヌカト思ハレル、今ナッタトハ言ヒマセヌ
ヨ、厘毫ノ差遂ニ千里ノ開キヲ生ズルガ、
餘程考ヘラレナイト斯ウ云フコトニナル、
サウスレバ軍事費ヲ資本家ニ請負デ出サセ
ルト云フコトニナレバ、ソレハ庶政一新ド
コロデハナイ、政治ノ最惡ナル形態ヘノ墮
落デアラウト思ッテ居ル(拍手)餘程注意セラ
ルヽ必要ガアルト思フ、私ハ庶政一新ニ對シ、
國力ノ急速ナル發展、社會摩擦ノ緩和、勤勞
階級ヘノ重壓ノ除去、是等ニ對スル林總理
大臣ノ考ト計畫トヲ、ハッキリ此場ニ明白ニ
セラレンコトヲ希望スル次第デアリマス
私ハ次ニ軍部大臣ニ御伺致シタイ、軍部
ハ海陸合セテ十四億ノ豫算ヲ要求セラレル
時ニ、此豫算ニハ一錢一厘掛値ハナイ、斷
ジテ引ケヌ、旣ニ削ラレタダケガ非常ノ痛
手デアル、是ハ有效適切ニ使用シ得ベキモ
ノデアルト、斯ウ言ッテ居ラレル、然ルニ今
度ハ四千六百万圓ノ繰延ニ同意セラレタ、
定メテ不本意デアラウト思フ、不本意デア
ラウガ同意セラレタ、同意セラレタノハハッ
キリシタ事實ダ、其繰延ハ普通ノ繰延デナ
イト言ハレルガ、繰延ニ同意セネバナラヌ
コトニナッタノハ事實デアル、我國ノ軍事費
ノ要求ハ今年ニ於テ十四億、來年以後引續
イテ十八億バカリニナル計算ニナッテ居
リマスガ、是ハ最小限ダト言ッテ要求シテ居
ラレル、而モ之ガ繰延ヲ認メラルヽト云フ
コトニ付テハ、私ハソコニ已ムヲ得ザル事情ガ
アルト思フ、前內閣ガ軍事費ハ認メタ馬場
財政ハ是ト總花的ニ一切ノ國費ノ濫費ヲ認
メタ、關係各省ハ大喜ビシテ居ッタ其ノ眞最
中ニ物價暴騰、殊ニ軍需原料品ニ對スル物
價暴騰ガ起ッタ、ソコデ豫算ヲアノ通リ取ッ
テモ、此物價暴騰ニ直面シテハ豫算ノ執行
サヘ不可能トナッタ、斯ウ云フ情勢ノ下ニ結
城大藏大臣ガ出テ來ラレテ、應急手當トシ
テ、巳ムヲ得ヌト言ハルヽカラ、此物價デ
ハ取ッタ軍事費ヲ、目的ヲ達成スル程有效ニ
使フコトハ出來ナイ、斯ウ云フ認識ノ下ニ、
已ムヲ得ナイカラト言ッテ、此削除繰廻ニ應
ジラレタノダラウト思ッテ居ル、私ハ大藏省
及軍部當局ヨリ屢〓承ッテ居ル、此豫算ニ對
スル工業ノ消化能力ハ十分デアルト云フ話
ヲ承ッテ居ル、大藏省資源局アクリノ調査デ
十分デアルト承ッテ居ルガ、ドウモ十分デナ
カッタノヂヤナイカト思フ、成程砲兵工廠ハ
モウ少シ餘力ガアッタ、造船所ハモウ少シ餘
力ガアッタ、繰合セテヤレバヤレヌコトハナ
イ、此程度ノコトデアッタラウト思フ、併ナ
ガラ軍需品ノ基礎トナル器材、重金屬、輕
金屬、鐵、其根柢ノ銑、其根柢ノ鑛石、是等
ノ供給、生產ニ付テハ私ハ手遠ヒガアッタノ
ヂヤナイカト斯ウ思フ、最近ニ於テ露西亞
ノ國防計畫ガ進ンデ參リ、彼自ラ日本ニ對シ
テ優秀ナリト自惚レルカシテ、頻ニ日本ニ對
スル「ゼスチュア」ヲ「ソ」滿國境ノ上ニ於テ、
實行ノ上ニ於テ示シテ居ル、之ニ對シテ日
本ハ警戒スル、何時始マルカ分ラヌト云フ
ヤウナ空氣サヘモ、アノ國境デハ感ゼラレ
ル程デアル、ドウデス、ソレ程「ソビエト」
露西亞ヲ對立的ノ地位ニ置イテ、假想的ニ
敵國トシテ考ヘナガラ、露西亞カラ銑ガ來
ナクナッタ、銑鐵ガ來ナクナッタト言ヘバ、
鐵饑饉ノ重大ナル一ツノ原因ヲ、之ニ由リ
テ持來スルト云フヤウナコトデハ、全ク驚
キ入ッタコトデアルト思フ、海軍ハ亞米利加
ノ海軍、英國ノ海軍、或ル場合ニハ是ガ假
想敵國トナル、然ルニ燃料石油ハ何處カラ來
ルカ、亞米利加カラ來ル、有時ノ際ニハ不安
ナル南洋カラ來ル、其石油ニ代ルベキ石炭
液化ハドウヤルカ、中々急ニハ行カヌ、千
數百万圓ヲ掛ケテ五年後ニ、七年後ニ二百
万瓲造ルトカ云フヤウナ計畫ハ、机上ノ空
論ダト言ハレル程ノ危フサヲ持ッテ居ル、危
ブナイ話デアル、私ハ此點ニ於テドウモー
軍部當局モ產業關係諸省ヲ鞭撻シ、此調査
ヲ緊密ニシ-軍擴ニ伴フベキ基礎的產業
ノ擴大政策ニ付テハ、怠慢ト言ハレナイ
ナラバ、目零シ、分ラナカッタ點、無理解ノ
點ガアッタト云フコトヲ認識ナサラネバナ
ラヌト、斯樣ニ考ヘテ居ル私ハ軍事ハ素
人デス、併シ子供ノ時ニ意味ハ分ラヌナリ
ニ孫子ナドヲ讀ンデ「始計第一」ト云フコ
トヲ覺エテ居ル、今讀ンデ繰披ゲテ見テ始
計第一ト云フコトハ、計畫ヲ立テルコトガ
第一デアル、兵ヲ送ルヨリ糧食軍需、是ガ
先デアルト云フコトガ成程ト首肯カレル、
東洋人ノ當識的兵法ノ本ニモ書イテアル、
此始計ニ於テ軍部當局者ニ目ノ行屆カザル
所ガアリシコトヲ私ハ遺憾ニ思フ、サウデ
ナカッタカト思フ、併シ斯ウ云フコトハ餘
リ苛酷ニ責ムルコトモ無理カモ知レヌ、私
ハ歐洲大戰爭中ニ英吉利ニ參ッテ居リマシ
タガ、ドウシテモ軍國ノ事ハ「キチネル」元
帥ガ出テ陸軍大臣ニナラナケレバ駄目ダト
云フコトデ「キチネル」ガ陸軍大臣ニ推サレ
テ働イタ、「マルヌ」ノ戰線ニ英國軍ガ出テ
何つ 、兎ニ角獨軍ヲ防ギ止メタガ、英國
ノ戰ヒ振リハ餘リ見事デハナカッタ、ソコ
デ天下ニ聲ガ起ッテ、英兵ハ一以テ十ニ當ル
ノ決心ヲ持ッテ居ルガ軍需品ガナイ、彈ガ
ナイ、「キチネル」ハ彈ナシニ、彈ヲ持タセ
ナイデ、吾々ノ子弟ヲ戰場ニ驅リ出シタ
「キチネル」怪シカラヌ、陸軍大臣「キチネ
ル」ノ机ノ中ニハ彈藥ノ請求ニ對スル書類
ガ山ホド積ンデアルノヲ見モシナイデ、
抛ッテ置イテ、此失態ヲ釀シタ、「キチネル」
ハ成ッテ居ナイト一齊ニ叫ビ出シ、アノ誠
實ナル、或點ニ於テ西〓南洲ヲ想見セシム
ルヤウナ「キチネル」ガ天下攻擊ノ中心ト
ナッタ、ソコデ彼ハ軍需ノ不足ニ依ッテ得タ
ル失敗ヲ外交的ニ補ハントシ、「バルカン」
半島援助ノ兵ヲ送リ得ザルコトニ因リテ生
ジタル「バルカン」諸國ノ不平ヲ鎭撫センガ
爲ニ、自ラ「バルカン」ニ乘込ミ、ソレデ使
命ヲ果スヤ、今度ハ海波ヲ蹴ッテ露西亞ニ
乘込ミ、彼個人ノ信用ヲ以テ、露西亞ノ單
獨講和ヲ防ギ止メントシク、サウシテ北海
ヲ渡ラントシ、潜航艇ノ難ニ罹ッテ斃レタ、
私ハ其時ノ光景ヲマザノ〓今日思出シマス
ガ、人誰カ過チナカラン、行屆カザル所ナ
カラン、人ハ如何ナル人モ萬能デハナイ、
日本ハ歐洲大戰爭ヲ經ザル一ツノ國デア
ル、戰爭ヲ經過シタ國ハ皆此困難ヲ嘗メ來ッ
テ居ル、未ダ大戰ノ經驗ヲ嘗メザル我ガ軍事
當局者ガ「キチネル」ニ等シキ攻擊ヲ、或ル
一面カラ浴セ掛ケラレテモ致方ハアルマ
イ、併ナガラ「キチネル」ノ人間的武將的
品位ハ、決シテ彼ガ武器彈藥ノ不足ヲ豫知
セザルコトニ依リテ動カサレルモノデハナ
イ、彼ノ誠意ハ英國ノ歷史ノ上ニ遺ッテ居
ル、私ハ今日ニ於テ軍事當局者ハアノ軍擴
豫算ヲ閣議ニ要求セラレタ際、其根柢トナ
ルベキ基礎的產業ノ充實擴大ニ、何故力ヲ
盡サレナカッタカト云フコトヲ、遺憾千萬
ニ思フ者デアル、最近ニ於テハ露西亞ガ
「ゼスチュア」ヲ使ヒ過ギル、其前ニ於テハ
日本ノ軍部一部ノ首腦者ガ、此「ゼスチュ
ア」ヲ使ヒ過ギタ、竹槍ヲ以ッテ露西亞ノ
軍ニ當ルベシト云フ宣傳モアッタ、竹槍デ
ハイカヌ「エチオピヤ」ノ勇敢ヲ以テシテ
モ、伊太利ノ武器ニハ及バナカッタ、私ハ
軍擴豫算ヲ要求セラレタ其軍部ガ、其背後
ニ於ケル產業ノ擴大政策、之ニ對シテ不用
意デアッタト云フコトノ非難ハ免レザルモ
ノデアルト、斯ウ考ヘテ居ル、併シ是ハ軍
部大臣バカリヲ責メル譯ニハ行カヌ、一 四
ニ於テハ閣內ガ常ニ分裂シテ居ル、大
藏大臣初メ軍事費ノ要求ハ已ムヲ得ナ
イ、已ムヲ得ナイカラ出スンダト云フ氣ガ
アル、其軍事費ヲ如何ニシテ消化スルカニ
付テハ、積極的ニ頭ガ動イテ居ナイ、頭ガ
動カナイモ道理、ソンナモノニハ興味ヲ
持タヌノデアル、一介ノ金融業者ニ過ギ
ナカッタカラ-關係各省モ官僚デス、吏務
ハ知ッテ居ル、併シ此國際變局ニ善處スベキ
日本ノ根本的立場ニハ理解ガナイ、ソレ故
ニ自主的ニ、積極的ニ此軍備擴張ニ伴フ生
產力ノ擴大ニ對シテ、本當ノ努力ヲシナイ、
是ガ今日ニ於テ軍事費ヲ繰延ベナケレバ軍
需關係ノ物價ガ暴騰スルト云フ、洵ニ「デツ
トロック」ニ乘上ゲタル原因デアルト思フ、
私ハ軍部ハ要求シタラウ、併ナガラ關係產
業各大臣ガ怠慢デアッタラウ、怠慢デアルノ
三カ、國際問題ニ對シテ理解ト興味ヲ有ク
ナカッタデアラウト、斯樣ニ信ズル、ソコデ
過ギタコトハ言フニ及バヌ、廣義國防ト云
フ意味ガアリマスカラシテ、私ハ軍部ニ於
テハ軍事費ノ使ヒ方モ、廣義軍事費ニ注意
ヲ拂ハルヽコトガ當然デハナイカ、四千六
百万圓繰延ベタカラ惡イト言フノデハナイ、
繰延ベベクンバ一億デモ繰延ベテ宜シイ、
ドウデス、一億繰延ベタ代リニ廣義軍事費
トシテ、基礎的產業ノ振興ニ向ッテ突進セラ
レタナラバ、後年ニ於テヨリ大ナル軍事
費ヲ、經濟界トノ摩擦ナクシテ消化スルコ
トガ出來ル狀態ニナリハセヌカト私ハ考ヘ
ル者デアル、基礎的〓究ガヤッテ欲シイ、
飛行機ハ今日最モ日本デ必要デアル、併ナ
ガラ飛行機ノ話ヲ素人トシテ聽イテ見マス
ト云フト、同ジ位ノ飛行機ハ獨逸デ作レバ
値段ハ半分ダト云フ、耐久力ハ三倍ダト云
フ、飛行機一臺ニ獨逸ニ較ベレバ日本ハ六
倍金ガ掛ル計算ニナル、ソレハ飛行機製作
所ガ儲ケ過ギルナドト云フソンナ小兒病的
攻擊ヲシヨウトハ思ハヌ、或ハ飛行機製作
所ガ儲ケ過ギルヤウニナッタカモ知レヌガ、
ソレヨリモ根本的ニ飛行機製作ノ「コストㄴ
ヲ高クスルノハ、飛行機ノ器材ガ惡イ、勞
働者ノ熟練ガ足ラヌ、器材工業ノ確立ガナ
イ、原料ガ高イノダ、手間ガ掛ルノダ、又
當局者ガ天下ノ軍需工業者ノ爲ニ、單ナル
大資本家ノミナラズ、凡ソ國家ノ軍需製造
ニ貢獻シ得ベキ總テノ工業家ノ爲ニ、全面
的ニ支持ヲ與ヘテ資金ノ援助、原料ノ供給、
總テノコトニ力ヲ注ガザルガ故ニ、飛行機
ハ値段ハ倍モ掛ッテ耐久力ハ三分ノ一モナ
イヤウナコトニナル、其爲ニ國庫ニハ六倍
ノ負擔ヲ負ハセルコトニナルノダト思フ、
今日日本ハ實ニ已ムヲ得ザル環境ニ在リテ、
國防ハドウシテモ充實シナケレバナラヌ、
併シ金ハ本當ニ足リナイ、金ノ足リナイ所
ハ人間ノ誠意、其誠意ハ口先ダケノ誠意ヂ
ヤナイ、具體化スル、精神ト物質ガ一致シ
ナケレバ、所謂論語讀ミノ論語知ラズデア
ル、誠意ハ形ニ現ハレテ徹底セザレバ駄目
デアル、此際ニ於テ私ハ四千六百万圓ノ繰
延ハ小サイ問題デアリマセウガ、此「デッド
ロック」ニ鑑ミテ、科學的〓究其他ノ基礎工作
ニ向ッテ、軍部ハ乘出サレル必要ガアルト思
フ、私ノ承ッテ居ル所ニ依ルト、獨逸ノ如キ
ハ〓究動員ヲヤル、各工場ニ附屬シテ皆〓
究所ヲ持タセル、ソレニ基礎的ニ〓究ヲヤ
ラセル、ソレ等ノ成績ヲ統制シテ政府ガ報
告ヲ受ケル、若シ或ル工場ガ七分マデ立派
ナ〓究ヲ完成シタトスレバ、政府ハ更ニ十
迄完成サセル爲ニハ大ニ金モ出ス、而シテ
此〓究ノ結果ヲ互ニ報告サセ、其報〓ヲ交
換シナガラ、眞ニ完全ナル〓究ニ到達シタ
ル時ニハ、之ヲ公開シテ、請負トシテ全國
ノ軍需工業者ニ向ッテ註文ヲ發スル、斯ウ云
フヤリ方モアルト云フ、私ハ日本ノ軍部ガ
此際ニ於テ基礎工業ノ確立ニ、更ニ其基礎
ヲ成ス所ノ〓究ニ、十分ノ力ヲ注ガレンコ
トヲ希望スル、私寡聞ニシテ我ガ當局ニ其
十分ナル施設アルヲ聞カナイガ、恐ラク其
計畫ガアルダラウト思フ、アルナラバ國民
ヲ安心セシムルニ足ルダケノ、其御計畫ヲ
此議場ニ漏ラサレンコトヲ、私ハ軍部大臣
ニ切望スル者デアル
私ハ結城大藏及產業各大臣ニ向ッテ一二
質問ヲ致シタイ、此一二ノ質問ハ他ノ總テ
ノ問題ニ對スル例トナルノデアリマス、
二例證シテ之ヲ質問致シ、御決心、御考ヲ
承リタイ、結城大藏大臣ハ日銀總裁ト協同
工作ニ依リ、金融ヲ積極化シ、生產ノ增大、
ソレニ向ッテ力ヲ注ガレルト云フコトヲ
承ッテ居ル、洵ニ結構デアリマスガ、單ニ
金融ノ積極的出動ダケデハ不十分ダラウ、
其大藏大臣ガ帝國燃料工業株式會社、タッタ
一千二百万圓ノ豫算ヲドウ云フ譯デ御削リ
ニナッタカ、モウ一ツ貧鑛處理〓究費、是ハ
僅カ百万圓位ノモノヲ、之ヲドウシテ御削
リニナッタカ、燃料自給ト云フコトヲ突キ詰
メテ行ケバ、石炭液化ヨリ外日本ハ致シ方
ガナイ、其石炭液化ノ眞ノ端〓ヲ啓カウト
云フ燃料工業株式會社ノ創立費ヲ、何故御
削リニナッタ、鐵ノ自給自足ヲヤラウト言ヘ
バ其極致=於テ、日本ノ經濟「ブロック」內
ニ於テ鐵ノ自給自足ヲヤラウトスレバド
ウシテモ貧鑛處理ヨリ外ナイ、滿洲朝鮮ニ
於ケル貧鑛ヲ如何ニ處理スルカ、歐洲列國、
富鑛ノミヲ以テ製鐵業ヲ爲シテ居ル國ハナ
イ、獨逸ノ如キハ貧鑛ヲ大ニ利用シテ居ル、
是ハ專門家ノ御承知ノ通リデアル、然ラバ貧
鑛處理ニ對スル僅カ百万圓バカリノ費用ノ
如キハ、復活サレタラ宜カラウ、是ハ軍事
豫算ヨリモモット急ナル廣義ノ軍事豫算、
斯ウ云フモノヲ何故活カサレヌカ、勿論商
工大臣或ハ大藏大臣ノ變ッタ考ガアルカモ
知レヌ、帝國燃料株式會社ナドノヤウナモ
ノ、又東北振興會社ノヤウナモノヲ作ルヨ
リハ、別ノ考ガアルト云フナラバ、別ノ考
ヲ聽キタイ、貧鑛處理〓究ノ問題ナドハ別
ノ考ハナイデセウ、別ノ御考ガナケレバ
タッタ百万圓デハイカヌ、モット御使ヒニ
ナッテ、本當ノ基礎的ノ鐵ノ〓究ヲヤラレタ
ラドウカ、私ハ日本ハ非常時ニ直面シテ、
一面ニ於テ國防ニ多大ノ金ヲ使ハナケレバ
ナラヌ、ソレニハ金ガ要ル、其金ヲ有效ニ
使フニハ、日本ノ資源ヲ科學的ニ善用スル
コトガ基礎トナラナケレバナラヌ、ソレ等
ノ最モ基礎的ナ事ニ對シテ、僅カ百万、二
百万ノ金ヲ吝シムト云フガ如キコトハ意
ニ解セザルコトデアル、斯ウ云フコトニコ
ソ特ニ力ヲ用ヒテ戴キタイ、一事ハ萬事デ
アリマスガ、總テノ基礎的ノ〓究、此基礎
的〓究ノ發展、是ノ效果ヲ收メルト云フヤ
ウナコトニ、政府當局者ハ卽刻著手シテ戴
キタイ、著手シテ居ラレルナラバハッキリ
其内容ヲ明白ニシテ戴キタイ、斯樣ニ私ハ
申上ゲマス、ドウモ役人ノ人達ハ吾々ト
異ッタ道德ノ標準ヲ持ッテ居ラレルヤウデア
ル、吾々ハヤリ損ヒガアッテ突込マレヽバ、
ソレハ惡カッタト言フ、ドウスレバ宜イダ
ラウ、助ケテ吳レ、協力シヨウト申出ル、
役所ノ方ハ、オ前達ノヤッタコトハ效果ガ
擧ラナイ、結果ガ惡カッタ、サウ言ハレル
ト實ハ斯ウダ······ト直チニ辯解スル言譯
ヲ先ニ作ッテ居ル、役所ノ人々ニ聞イテ見ル
ト云フト、何カヤル時ニハ、ヤリ損ッタラド
ウ言ハウカト云フ言譯ヲ同時ニ考ヘテ居ル、
斯ウ云フコトデアル、私ハデスヨ、先般來
重大ナル問題トナッタ鐵饑饉、其鐵饑饉ニ於
テ、軍需工業ガ困ッタト云フヤウナコトハ、
アナタ方皆御承知デアルガ、私ハ最モ小サイ
人カラ困ッタコトヲ聞カサレテ、斯ウ云フ
所マデ及ブカト思ッタ、川口アタリノ鑄物工
場ニ原料ガ來ナイト云ッテ、小サイ鑄物屋
ノ主人ガ破產スル、勞働者ガ飢エル、原料
ガナイカラロヲ開ケテ待ッテ居ルト言ッテ泣
イテ居ル、サウ云フ所マデ及ンデ來ル、ア
ノ鐵饑饉ニ對シテドウスルンダト突込ムト
云フト、役人ノ人達ハ直グ辯解スル、アレ
ハ思惑ダ、鐵饑饉ナンカ實質ハナイト云フ
ヤウナコトヲ言ッテ居ル、然ラバ如何ナル數
字ノ下ニ鐵饑饉ガナイカト言ッテ、私ハ聽イ
テ見タ、サウスルト云フト、當局者ノ統
計表ト云フモノガ極メテインチキ極マ
ルモノデアル、ドウデス、商工省ノ鐵
饑饉ノ辯解ノ爲ニ發表セラレタ其豫定表ニ
依ルト云フト、來年度ハ銑鐵ノ需要ガ四百
六十五万瓲ニナル、今年四百十五万瓲-
銑鐵ヂヤナイ、鐵材五十万瓲ノ增加デアル、
鋼材ノ增加ハ五十万瓲ノ增加デアル、銑鐵
ノ方ハ今年三百三十万瓲、來年ハ三百六十
万瓲、是ハ三十万瓲ノ增加デアル、銑鐵三
十万瓲ノ增加、鋼鐵、鋼材五十万瓲ノ增加、
是ダケノ計畫ヲ立テテ居ルカラ大丈夫ダト
云フヤウナ話デアル、併ナガラ斯ウ云フコ
トデ巧ク行クト云フ計算ノ裏面ニハ極メ
テインチキ彌縫的ノ政策ガ見込マレテ居
ル、銑鐵ハアンナコトデ足リハシナイ、鋼
材ハアンナコトデ足リハシナイ、足ラサウ
ト思フナラバ、極端ナル需要制限ヲヤラナ
クチヤナラヌ、然ルニ需要制限ハ民間ノ方
ニヤラセヨウトシテ居ル、官憲ハ不急ノ役
所ナド相變ラズ建テテ居ル、自分カラ制限
セズシテ、人ノ生命ニ對シテ制限ヲ加ヘル
ヤウナコトバカリ考ヘテ居ル、此無理ナル
需要ノ制限ガ一ツ、モウ一ツハ海外市場カ
ラモウ鐵ハ脫退スベシ、海外市場ヨリノ强
制的ノ脫退ヲ豫想シテ居ル、鐵ヲ世界ニ輸
出スル國ハ、世界ニ於ケル武力ノ富强ナル
モノデアル、然ルニホンノ僅カノ鐵ノ輸出
ヲ止メテシマフト云フヤウナコトヲ前提ト
シテ居ルノガ政府ノ鐵政策デアル、モウ一
ツハ、相變ラズ屑鐵ノ使用、亞米利加ヨリ
ノ輸入ヲ豫想シテ居ル、百六十万瓲モ亞米
利加カラ屑鐵ヲ買ハウト云フ、亞米利加モ
最近ニ至ッテ軍擴工作ガ進ミ、社會政策ノ諸
工作ガ進ミテ、「スクラツプ」モ中々暴騰シ
テ居ル、ソンナ亞米利加ノ層鐵デ日本ノ鐵
ヲ造ラウト云フヤウナ吝ナ考-私ハ潔癖デ
アッテ、亞米利加ノ層鐵ハ日本ノ大砲トナ
ラヌヤウナ氣ガスル(笑聲)鐵ノ自給政策ヲ
高調シテ居ラレル此大臣ノ下ニ、サウ云フ
層鐵使用ヲ依然トシテ認可セントスル所ノ
商工省官僚ガアル、私ハ是等ノ點ヲ見テ非
常ニ遺憾ニ思フ、私ノ觀ル所ニ依ルト云フ
ト、屑鐵ノ輸入ヲ制限シテ、本當ニ鐵ノ自
給自足ヲヤラウト思フナラバ、學者ノ統計、
其他ノモノヲ參考シテ見ルト云フト、少ク
トモ今年度ハ七十万瓲位銑ハ餘計要ル、鋼
材モ今年度ハ七八十万瓲位餘計要ル、三十
万瓲ノ增加、五十万瓲ノ增加ト云フモノハ、
稍〓半分シカ見込マレテ居ラヌ、是ハ足リナ
イト私ハ考ヘル
ソコデ私ハ商工大臣ニ御尋致シタイガ、
先ヅ製鐵奬勵法ヲ根柢的ニ改正サレナケ
レバナリマセヌ、商工省ノ方針トシテハ
銑鋼一貫作業、鑛石カラ銑鐵ヲ造ル、銑
鐵カラ鋼鐵ヲ造ル、ソレヲ一貫作業トシ
テヤラナケレバナラヌ、一貫作業ヲヤル
者ニ政府ガ特別ノ保護ヲ加ヘル、斯ウ云
フ方針ノヤウデスガ、一貫作業ヲ方針ト
シナガラ、相變ラズ屑鐵ノ輸入ヲ見込マレ
テ居ル、此層鐵ノ輸入ヲ制限スル考ハナイ
カ、斯ウ云フ矛盾ヲ一ツ除去スル考ハナイ
カ、此矛盾ヲ除去スルニ付テ、私ハ鐵ノ自給
自足、商工大臣ノ言ハレル「ブロック」內ノ鐵
ノ自給自足ヲ眞ニヤル爲ニ、滿洲、朝鮮ヨリ
ノ銑鐵ノ輸入稅ヲ撤廢シ、運賃ヲ輕減スルノ
考ハナイカ、鞍山ニモ鐵ガアル、其熔鑛爐擴
張ハ多年問題トナッテ居ルガ、商工省ハ今迄
ハ中々之ヲ承知シナイデ、阻止シテ來テ居ル、
朝鮮ノ茂山ノ鐵ハ非常ニ良イト云ヒマス、朝
鮮總督府ノ官吏モオ居デデセウガ、朝鮮總督
府ハ其茂山ノ鐵鑛ヲ開キタイ茂山ノ鐵鑛ヲ
開キタイガ、日鐡中心主義ノ商工省ハ、此茂
山ノ鐵鑛ヲ銑鐵ト爲サントスル所ノ事業ヲ
阻止シテ來テ居ル、最近ニ至ッテ日鐵ハ〓津
ニ熔鑛爐ヲ造リ、製鐵業ヲ起サウトシテ居
ル、サウスルト朝鮮側カラ同ジヤウナコト
ヲヤラウトスルト、是モ亦阻止シテ居ル、
ドウデス、朝鮮ノ銑鐵、滿洲ノ銑鐵、之ヲ
大ニ造ラシテ、大ニ輸入スル方法ハナイカ、
鑛石ノ儘輸入シテ來テ、所謂一貫作業ト云
フモノヲヤラセヨウトスレバ運賃ガ掛ル、
其貧鑛ヲ彼ノ地ニ於テ處理シテ銑鐵ト爲
シ、其銑鐵ヲ持ッテ來テ日本ノ製鋼業ト爲
ス時ニハ-屑鐵ヲスラ一貫作業ニ準ジテ
保護シテ居ルナラバ、此銑鐵ニ對シテ特別ノ
保護ヲ與ヘテ、眞ニ鐵ノ自給自足ヲヤル考ハ
ナイカト私ハ御尋シタイ、モウ一ツ前ニ申シ
タ貧鑛處理〓究奬勵、是ハ徹底的ニヤッテ貰
ヒタイ、之ヲヤル考ガアルカナイカ、是等ノ
諸點ニ對シテ大藏大臣及商工大臣ノ明白ナル
答辯ヲ私ハ要求スル、私ハ日本ノ統制經濟ハ
官僚ノ机上計畫デ、形ダケ整ヘテ畫一シタダ
ケヂヤ駄目ダラウト思フ、今マデ航空輸送
會社ガアッタカラシテ、民間飛行業ガ却テ阻
止サレテ居ッタ、日鐵中心主義ガ確立シタカ
ラ「アウトサイダー」ガ抑ヘ付ケラレテ居ッ
ク、軍擴ノ氣勢ヲ見テ當業者ノ方ガ餘計
知ッテ居ル、鐵ハ足リナクナル、足リナクナ
ルト云ッテ、「アウトサイダー」ガ熔鑛爐ノ擴
張設定ヲシヨウトスルト、商工省ハ常ニ之
ヲ抑ヘテ來タ、抑ヘザルマデモ、大藏省ト
一〓ニナッテ資金ノ融通、其他ニハ便宜ヲ圖
ラナイ、圖ラナイノミカ、間接ニ壓迫スル、
斯ノ如クニシテ、形式上ノ統制ヲ日鐵中心
トシテ何ヲヤッタカト言ヘバ、一種ノ生產制
限ヲヤッタ、而シテ今日、鐵ハ不足トナッタ、
私ハ日本ノ統制經濟ハ、其產業ニ於ケル資
金パカリデハナイ、能力、智力、經驗、總テ
ノ動員ヲ爲シテ、之ヲ國家ノ目的ニ合致セ
シムルコトガ必要ダト思フ、卽チ日鐡ノミ
デナク「アウトサイダー」ヲモ一〓ト爲シテ、
全面的ナ動員ヲ爲シ、原料ノ供給、資金ノ
助成、之ニ伴フ大乘的ノ製鐵國策ヲ商工大
臣ハ確立スル意思ナキヤ、大藏大臣ハ之ヲ
助成スル考アリヤ否ヤ、是ハアナク方ニ課
セラレタル重大ナル責任デアル、鐵ガ思惑
デ騰ルノニハ騰ルベキ理由ガアル、足リナ
イコトヲ豫見スルカラ思惑ガ起ッテ來ル、而
モ豫定計畫計畫デスラ缺乏シテ居ル、
アナタ方ハ一ツ本氣ニナッテ重大使命、製鐵
國策ニ向ッテ金融モ、產業モ眞ノ動員、總
テノ能力、總テノ工場ヲ國家目的ノ爲ニ動
員シテ、新シキ意義ニ於ケル眞ノ統制經濟
ヲ確立サレル誠意ハナイカ、私ハ之ヲ要望
シ、同時ニ其決意ヲ承リタイモノデアリマス
私ガ斯ウ申シマスト、今ノ商工大臣ハ民
間出身ノ人デアリ、强ヒテ官僚ノ答辯ヲ眞
似ラレナイデアラウガ、普通ノ商工大臣ナ
ラ、君ノ鐵ノ需要ノ見積リハ多過ギル、政
府ト致シマシテハ、左樣ナ大キナ鐵ノ需要
ノ見積リヲ見ナイ、斯ウ言ハレルノガ定石
デアル、併シアナタハサウ云フコトヲ言フ
必要ハナイ、鐵ハ多過ギル位造ラナクチヤ
駄目デアル、鐵產國ハ皆鐵ノ輸出國デスヨ、
獨逸ノ如キ、亞米利加ノ如キ、ズン〓〓鐵
ヲ輸出シテ居ル、英國モ其通リ、國內市場
ニ匹敵スル國外市場ヲ持チ、更ニ國內ニハ
餘剩能力ヲ持ツ、ソレデ初メテ非常時ニ應
ズルコトガ出來ル、又私ハ日本產業ノ再編
成ノ需要ニモ應ズルコトガ出來ル、斯ウ思
フ、私ノ見積リハ寧ロ過小ナリト思フ、大
藏大臣商工大臣ハ經世的眼光ニ依リテ鐵ノ
需要ガ增加スベキ必然ニアルヲ認メラレ、
官僚的强辯ヲ眞似ズシテ、此鐵饑饉ヲ嚴肅
ニ承認シテ、而シテ後ニ對策ヲ樹立セラレ
ンコトヲ切望スル、軍部モ亦之ニ對シテ同
樣ノ意見ヲ有セラレルコトヲ私ハ推察致
ス、國策上ノ刺戟ナラ幾ラ與ヘラレテモ宜
シイ、軍部大臣モ大ニ產業大臣ヲ刺戟シ、
鞭撻セラレンコトヲ私ハ要望スル
鐵ガイケナイト同樣ニ、石炭モ亦足リナ
クナリマス、官僚統制經濟ノ結果ハ、豐富
ニシテ低廉ナル電力ドコロカ、不足シテ高
價ナル石炭、不足ニシテ髙價ナル鐵ヲ國民
ニ押付ケントスルノ虞ガアルト私ハ思フ、
我國ノ石炭ノ需要ハ昭和八年三千三百万瓲、
以來每年三百万瓲ノ增加ヲ來シテ、十一年
ニハ四千二百万瓲ニ達シテ居ル、然ルニ石
炭需要ノ增加ニ對スル昭和石炭及當局者ノ
見積リト云フモノハ過小デアル、今年度ノ
石炭需要ノ增加ハ二百万瓲ダラウト見積ラ
レテ居ル、五年後ニハ石炭ノ需要ヲ一千万
瓲增セバ宜イ、斯ウ言ッテ居ラレル、ソコデ
日本本國デ五年後ニ一千万瓲增ス、滿洲
ニ一千万瓲ノ石炭ガ增產セラレル計畫デア
レバ五年後ニ日滿ヲ通ズル石炭ノ增加ハ
二千万瓲デアル、併ナガラ年額三百万瓲ダ
ケ今迄增シテ來タ石炭ノ需要ガ、此軍擴工
作ノ急速ナル進展ト共ニ少クナル理由ハナ
イ、假ニ三百万瓲ダケ年々增シテ行クトシ
テ、五年後ニハ千五百万瓲ノ需要ガ增ス、
滿洲デ一千万瓲ノ增產ヲヤッテモ、滿洲デ
五百万瓲ダケ使フ、サウデスカラ內地ニハ
五百万瓲シカ入ッテ來ナイ、其外ニ液化原
料トシテノ石炭ノ計畫ハ急速ニ增サザ
ルヲ得ヌ、五年後ニハ日本ノ石油ノ
需要ハ、ドウシテモ民間ノ產業ヲ軍ノ
必要ニ應ゼシメル爲ニ五百万瓲位ハ要ルデ
セウ、其中少クトモ三百万瓲ハ液化石油ニ俟
タザルヲ得ナイ、三百万瓲ノ液化石油ヲ造
ラントスレバ、一千五百万瓲ノ石炭ガ要ル、
之ヲ通計スルト云フト、三千五百万瓲ダケ
ハ餘計要ルコトニナル、ソレヲ二千万瓲位
增セバ宜カラウ位ノ計畫デ、石炭ニ對スル
統制政策ヲヤッテ居ラレルト云フト、政府ノ
統制政策ハ又生產制限政策トナリ、一千五
百万瓲ノ石炭ノ不足ヲ來ス、私ハ國防ノ根
本トシテ、石炭ノ液化ト云フコトヲ見落シ
テハナラヌトスレバ、此液化石炭、液化原
料トシテノ石炭供給ヲ考ヘル時、又遠カラ
ズシテ日本ニ石炭饑饉ノ來ランコトヲ憂慮
スル、製鐵問題ノ轍ヲ履マザルヤウ、今カラ
警戒セラレンコトヲ希望シテ置ク
政府ノ統制政策ハ皆生產不足ヲ來ス、電力
民有國營ヲ當局者ガ宣傳シタ時ニハ、私共
ハ豐富ニシテ低廉ナル電力ガ必要ダト云フ
宣傳ニハ同感デアッタ、軍部モ豐富ニシテ低
廉ナルト云フ言葉ニ飛付イテ、之ニハ希望
ヲ持タレタヤウデアル、定メテ超特急的發
電力ノ開發ヲ計畫セラレテ居ルカト思ッテ
居ックガ、其頃宣傳シテ居ッタノニハ、五年間
ニ關東及中部ダケデモ二百万「キロ」位ノ發
電ヲ增ス、全國的ニ見レバ三百万「キロ」位ノ
發電力ヲ增設スルト云フ、サウ云フ宣傳ダッ
タ、然ルニ遞信省ノ發電水力增設豫定表ナ
ルモノガ去年ノ末ニ出テ居ルガ、之ヲ見ル
トマルデ宣傳ヲ裏切ッテ居ル、五年間ニ百三
十七万「キロ」增スノダ、日疋ガ計畫デスヨ、其
計畫ニ依ルト年額二十七万「キロ」シカ增サ
ヌ割合トナル、五年間ニ三百万「キロ」增ス
ナラバ一年ニ六十万「キロ」發電力ノ增設
ヲセネバナラヌ、然ルニ豫定表デハ半分ニ
モ足ラナイ、一年間ニ二十七万「キロ」ソレ
ガ遞信省ノ計畫デスヨ、是レ以上ハ電力ハ
要ラナイト云ッテ、發電裝置ヲ禁止シテ居ル
ンデスヨ、ドウデス、豐富ニシテ低廉ナル
電力、軈テ一千万「キロ」デモ增スト云フ宣
傳デアッタ、軍部ハ之ニ飛付イタ、私共モ飛
付キタイ程ニ考ヘマシタガ、其內容ハドウ
デス、此ザマダ、昭和九年カラ十年マデハ
放ッテ置イタトテ三十万「キロ」增シタ、十一年
カラ十二年マデハ放ッテ置ケバモット增シタ
ノガ、國有民營案ノ宣傳ノ爲ニ增設計畫ガ
攪亂サレタ、ドウデス、サウ云フコトヲヤッ
テ居レバ、放ットクヨリ尙ホ惡イ、統制經濟
ハ增產計畫ヲ伴フ統制經濟デナケレバ、軍
國日本ノ要求ニ應ズルコトハ出來ナイ、然
ルニ今日ノ官僚統制經濟ハ生產制限統制經
濟ニ墮シテ居ルヂヤナイカ、旣成資本ノ擁
護ニ堕シテ居ルヂヤナイカ、今ニ電力饑饉
ガ來マスヨ、電力民有國營案ハモウ熱ガナ
クナッタヤウデス、熱ガナクナッタトテ、私
共ハ豐富ニシテ低廉ナル電力ヲ要スルコト
ハ、當時ノ當局者ノ宣傳ニ依ッテ一層其必要
ヲ感ジテ居ル、止メテ貰ッテハドウモナラ
又、政府當局官僚ニ腕ガアルナラ、亞米利
加ノ「テネシー」ニ於ケル發電計畫ノヤウ
ニ一ツ一定地區ヲ限ッテ政府ノ手ニ依ッテ、
大ニ發電ノ開發ヲヤッタラドウダ、五年間ニ
五百万「キロ」デモ宜カラウ、宣傳通リ、果
シテ合理的ニ經濟的ニ出來ルナラバ之ヲ
作ッテ民間ニ範ヲ示シ、政府發電力ノ基準ニ
應ジテ民間ノ電力供給價格ヲ引下ゲサスル
ト云フ位ノ統制計畫ガナクテハナラヌ、電
力民有國營ガ評判ガ惡カッタ、ソレダカラト
テ引込メタダケデハ手柄ヂヤナイ、代ルモ
ノヲ持タナケレバナラヌ、然ルニ政府ニハ
何モ無イ、オヤリナサイ、民有國營ガ宜イ
ナラ御出シナサイ、修正シテ通シテ上ゲマ
ス、惡ケレバ考ヘ直シテオ出デナサイ、放ッ
テ置イテハイカヌ、政府ハ皆成ッテナイ、何
ヲスル氣持モナイ、私ハ之ヲ遺憾トスル
私ハ最後ニ結城大藏大臣ニ御尋致シマス
ガ、ドウシテモ滿洲ノ開發ニ金ガ要ル、滿
洲ノ第二次五箇年計畫ト云フモノニハ
二十八億圓ノ金ガ要ルヤウニナッテ居ル、
此滿洲、卽チ日本經濟「ブロック」內ノ滿洲
ノ資源ヲ開發シ生產力ヲ確立シナケレバ、
昭和六年以後ノ日本ク形態ニ相應スル
經濟機構ハ出來ナイト云フコトニナル、
是ハ大問題ダ、然ルニ傳統經濟論者ハ出來
ヤシナイダラウト皆言ッテ居ル、私共ハソレ
ヲデカシテ貰ヒタイノデス、私ハ滿鐵其他
滿洲國政府竝ニ當局者ノ間ノ意見ニ多少ノ
齟齬ガアルコトヲ承ッテ居リマスガ、堪能ナ
ル結城大藏大臣、之ニ向ッテハ、アナタノ專
門ノ頭ヲ搾ッテ何トカオヤリニナルダラウ
ト思フ、子孫ニ借金ヲ遺スコトハ惡イト云
フ議論ガ公債ヲ恐ルヽ人カラ言ハレテ居
ル、併ナガラ建設セラレタル滿蒙ヲデスヨ、
眞ニシッカリ子孫ニ遺セバ-借金ト同時
ニ日本三倍ノ國土ヲ經濟化シテ、子孫ニ遺
スコトニナレバ、借金ニ數十倍スル所ノ資
源ヲ遺スコトニナル、此運營コソアナタノ
專門ノ知識ヲ御絞リニナルベキ、最モ重要ナ
ル對象物デアルト私ハ考ヘテ居ル(拍手)滿
洲ノ開發計畫、之ヲ爲サヾレバ尾崎サンノ
ヤウナ平和主義者サヘ、滿洲カラ退カヌト
仰ッシヤッタガ、其最小限ノ滿洲カラ退カヌ
ト云フ聲明スラモアヤフヤニナル、無理デ
セウガ、此無理ヲ繰合セテ行フ所ニ、財政
家ノ堪能ナル腕ガアルト私ハ思フ、私ハ結
城大藏大臣ニ幾多ノ認識ノ相違アルコトヲ
許シマセウガ、此問題ニ對シテハ確乎タル
方針ヲ御立テニナリ、其凡ソノ決意ダケデ
モ天下ニ聲明シテ滿洲ヲ安心セシメ、我ガ
日本國民ヲシテ大陸政策ノ前途ニ對スル不
安ヲ除去セラレンコトヲ、切ニ希望スル次
第デアリマス、滿洲ト日本トノ間ノ產業界
ノ調節工作ハ澤山アル、朝鮮トノ間ノ問題
モアル、朝鮮ニ於ケル茂山ノ如キハ其實例、
朝鮮總督ハ此頃政府委員ニナラナイデ、政
務總監アタリガオ出デニナッテ居ルガ、アナ
タノ後ニ背負ッテ居ル問題ハ大キイ、日本國
策ノ爲ニ政務總監デモ宜シイガ、大ニ政府
ニ向ッテ經綸ヲ叩込マレルコトヲ、私ハ切ニ
希望シテ置ク、私ハ物價問題其他ニ對シテ
(「モウ止メロ」ト呼フ者アリ)止メロト
仰ッシヤレバモウ一遍ヤリマス、省略スルコ
トヲ止シマス-大藏大臣ハ物價騰貴ノ對
策トシテ無理ナ事ハヤレヌ、間接ニ物價ヲ下
ゲル爲ニハ消費ヲ節約スルコトニアル、ソ
レデ先ヅ豫算ノ縮小カラ手ヲ着ケタト言ハ
レタ、併シ是ダケナラバ私ハ誤テバ往年ノ井
上財政ニ墮ツルト思フ、是ノミデハイカヌ、
消費ヲ減ジテ物價ヲ下ゲルト云フコトハ、
傳統資本主義經濟ノ「テクニックス」デス、ア
ナタハソレダケヲ以テ此時局ヲ救濟セラレ
ルノヂヤナイ、モット進ンダ「テクニックス」
ヲ持ッテ居ラレル、頭ヲ持ッテ居ラレルト私
ハ信ジテ居ル、卽チ物價問題ニ對シテハ、
モウ少シ實務ニ卽シタル統制政策ガナクチ
ヤナラヌ、第一國防費ノ「コスト」ヲ引下
ゲ、生產力ヲ發揮スル爲ニ、原料購入ノ國
策的統一及國策的配給ヲ爲ス考ガアルカナ
イカ、オヤリニナル必要ガアルダラウト思
フ、例ヘバ製鐵業ノ如キ銑「スクラップ」鑛
石等ハ統制的購入、統制的配給、斯ウ云フ
コトヲオヤリニナル必要ガアルト私ハ思
フ、是ハ資本主義列國ニ於テモ、少シ頭ノ
進ンダ國デハ皆考ヘテ居ル、消費節約ノミ
デハイケナイ、之ヲ一ツオヤリニナッタラ宜
カラウト思フ、モウ一ツ基本工業品及生活必
需品ニ對シテ、國策的共同組合ヲ設ケル、其
一手配給ヲヤル、原價ニ準ジテ其價格ヲ
決定スルガ如ク誘導スル、是ハ言ヒ換ヘレ
バ「カルテル」ノ國策化、今マデ日本ノ「カル
テル」ハ重要產業統制法ノ裏面ニ於テ生產
制限、ソレバカリヲヤッテ居ッタ、資本家
ノ利潤ヲ生產制限ニ於テ貪ラントスル
「カルテル」ヲ國策化シテ、國策ノ爲ニ運用
シテ積極的生產增大「コスト」ノ引下ニ運營
スル、此政策ハ御考ニナルベキダト思フ、
ヤラレル考ガアルカナイカ
第三、重要產業統制法ノ改革ヲ思立ッテ居
ラレルサウデスガ、私ハ其中ニ一步ヲ進メ
テ、低能率工場ヲ「スクラップ」スル、新シイエ
場へ轉換セシメル、ソレヲ命令シ、勸告シ、或
ハ助成スル方法ヲ立テル、詰リ「スクラップ」
スル、其代リ新シクスルナラ助ケテヤル、サ
ウ云フ方法ヲヤッテ、限界「コスト」ヲ引下
ゲナケレバナラヌ、今ノ日本ノ重要產業統
制法デハ、資本主義ノ中ノ最低能率ヲ保護
センガ爲ニ、ソレニ準ジテ價格ヲ決定スル
カラ、能率ノ高イモノハ暴利ヲ貪ル、ヨタ
ヨタデモ行ケル、是ハ宜シクナイ、最低能
率工場、低能率工場ヲ「スクラップ」シテ、
之ヲ嶄新ナル機構ノ、嶄新ナル工場へ進展
セシムル政策ガ私ハ必要ダト思フ
第四ニ、工業品ト農作物トノ鋏狀差格匡
正、之ニ對シテ御考ガアルカドウカ、農村
ハ大抵ノ事ヲヤッテモ助カリハシナイ、租稅
ガ輕クナル、米ノ値ガ上ル、上ラナイ先、
租稅ガ輕クナラナイ先ニ、工業製品ノ値ガ
先ニ上ル、少シ餘裕ガ出來レバスッカリ吸取
紙ヲ持ッテ行ッテ吸上ゲテシマフ、ドウシテ
モ此鋏狀差格ヲ匡正セザレバ、農村生活ハ
安定シナイト思ッテ居ル(「ヒヤ〓〓」)私ハ
此意味ニ於テ農產物ノ價格ヲ何處マデモ引
上ゲルコトヲ、日本國民ノ生活問題トシテ
考ヘナケレバナラヌトスルナラバ、農村必
需品ノ價格抑制、之ヲ考ヘナケレバナラ
又、肥料ノ如キ最モ必要デアル、之ニ對シ
テ確乎タル對策ヲ御立テニナッテ居ルダラ
ウト思フ、其〓念ダケデモ私ハ承リタイト
思ッテ居ル
モウ一ツハ爲替管理、是ガ最後、爲替管
理ニ付キマシテ質問シマスガ、輸入制限ハ
是ハイケマセヌ、成ベク避ケナケレバイカ
ヌノデス、日本ノ生產財ヲ擴大シテ行カ
ナケレバナラヌ時ニ、輸入制限ハイカヌ、
寧ロ國家的輸出促進ヲ一面ニ於テヤラナケ
レバナラヌ、ソレデ尙ホ輸出入ノ均衡ガ取
レナイナラバ、日本ノ正貨ハ十七億モアル
ヂヤナイカ、日本ノ產金額ハ年額二億圓近
クアル、少シ力ヲ入レテ買上値ヲ上ゲレバ、
モット餘計出ル、サウスルト年額二億圓位ノ
正貨ヲ現送シテモ宜イヂヤナイカ、其正貨
現送モ中々玄人ノ手心ガアルト云フガ、素樸
ナル形ニ於テ現送スルコトガイケナイナラバ、
所謂爲替資金運用ヲ滑カニシナガラ、正貨ノ
現送ヲ確保シテ行カレルコトガ必要ダト思
フ、私ハ此位ノ決心ヲ御立テニナッテモ、決シテ
間違ヒナイト思フ、素人ガヤッタラ財界ガ恐
慌ヲ起ス、結城サンノ後口ニ池田サンガ附
イテ居ル、アナタ方ナラ間違ヒナイダラウ
ト人ガ思ヘバ、財界モ動搖シナイ、オヤリ
ニナッテ宜シイ、獨逸ノ如キハ正貨ハ數千万
圓シカ持ッテ居ナイ、信用デ行ッテ居ル、黃
金ヲ抱イテ生產力ノ擴大ニ惱ムト云フガ如
キハ、傳統經濟ノ亡靈ニ因ハレタ者ノ考ヘ
方デアル、私ハ此爲替ノ運用、正貨ノ輸送
等ニ付テ御考ガアルカナイカ、之ヲ伺ヒタ
イモノデアリマス
私ハ種々質問致シタル末ニ、ドウシテモ
言ハザルヲ得ナイコトハ農村問題、同時ニ
勞働問題デアル、國防力ノ擴大ガ要ルト言
ヒ、國家ノ發展ガ必要デアルト言ヒ、產業
生產力ノ擴大强化ガ必要デアルト云フヤウ
ナ時代ニハ、農村問題及勞働問題ハ傳統的
ノ考ヘ方カラ言ヘバドウシテモ是ハ犠牲
ニサレ易イノデアル、私ハ之ヲ犧牲ニスル
コトハ國家ノ爲ニ危險デアルト、斯ウ考ヘ
テ居ル、軍事ノミヲ考ヘテ國家ヲ滅亡ニ導
イタモノハ、帝政露西亞デアル、私ハ大戰
爭中英國ニ居リマシタガ、當時軍需品ガ
足リナイ、丁度日本ノ今日ト同ジヤウニ
「ロイド·ジョーヂ」ト「タイムス」ノ「ノー
スクリフ」ガ一緒ニナッテ工場ノ動員、軍需
工場ノ擴大ヲ宣傳シテ廻ッテ居ル眞最中ニ、
勞働者ガ賃銀問題、其他デドンノ「スト
ライキ」ヲヤル、私ハ素朴ナ頭デ、此大戰爭
中ニ勞働者ガ「ストライキ」ヲヤルナドト云
フコトハ、頗ル非愛國ダト考ヘテ居ッタ、
然ルニ段々經ッテ來テ「ツエッペリン」ガ倫敦
ヲ襲擊シ、爆彈ヲ投下シテ破壞ヲ逞シウス
ル度每ニ、是等ノ勞働者ハ「ストライキ」ヲ
ヤルガ、一面ニ於テ義勇勞働ニハドン〓〓
出テ行ク「ボランタリーウォーク」ヲヤル、
到頭戰爭ノ難局ヲ切拔ケルマデ英國ノ勤勞
階級、勞働階級ハ微動ダモセズシテ濟ンダ
ト云フ所ニ、私ハ相當ナル彈力ノ根柢トナ
ル合理性ガアッタト考ヘル、此際ニ於テドウ
シテモ農村問題ト勞働問題ヲ閑却シテハ駄
目デス、獨逸ガ大戰ニ負ケタノハ、戰ノ罪
デハナイ、食糧ノ缺乏ト、物價騰貴ト、勤
勞階級ノ收入ノ缺乏、不足、是ガ獨逸ノ崩
壞ヲ導イタ、ダカラ「ナチス」ハドウデス、
對外的發展-アノ軍事的威嚇ヲ列國ニ加
ヘテ居ル、此「ナチス」ニ於テ農村生產力ノ
更生、農村ノ擁護ニ最モ力ヲ入レテ居ル、
有名ナル農地擁護法ヲ出シ、農村統制法ヲ
出シテ居ル、日本ナドノ農林大臣ノ考ニモ
及バヌヤウナ負債整理ヲ大規模ニ斷行シテ
居ル、彼等ノ考方デアッテ見レバ、農村ノ
窮乏ハ農民ノ罪ニアラズシテ、社會ノ罪デ
アル、社會ガ其負債ヲ分擔シナケレバナラ
ヌト云フ原理ノ上ニ立ッテ居ル(拍手)ドウ
デス、對外的ニハ大ニ發展シテ居ル其獨逸
ハ流石ニ全體主義トシテ農村ヲ忘レナイ、
勞働者ヲ忘レナイ、私ハ肅軍工作カラ言ッテ
モ農村問題、勞働問題ハ閑却スベキコトデ
ハナイト思ッテ居ル、肅軍ハ形式的ニ劍ヲ
按ジテ國事ヲ談ズルヤウナ、勇敢多血ナラ
年少ノ者ヲ叩キ出スダケデハ徹底シナイ、
人々ノ動クニハ動クベキ背景ガアル、尾崎
行雄サンハ軍ガ動クニハ軍ノ內ニ誰カ偉
イ者ガ居ルダラウト言ハレル、是ハ頗ル認
識不足デス、匹夫、懦夫ヲシテ勇ナラシム
ル所ノ一ツノ力ガ動キツヽアル、將校ハ兵
營ニ於テ壯丁ヲ預ッテ居ル、壯丁ヲ通ジテ農
村ヲ知ッテ居ル、兵士ノ家庭訪問ヲヤル、其
人々ガ是デハイカヌト云フ考ヲ續々下カラ
持ッテ來ル、此實感ニ刺戟サレテ動ク人々
ノ、其形ハ矯激ナリト雖モ、其由ッテ來ル根
柢ヲ正スニアラザレバ、軍人劍ヲ按ジテ國
事ヲ談ズル所ノ、此狀勢ヲ緩和スルコトハ
不可能ナリト、私ハ信ジテ居ル(拍手)
〔議長退席、副議長著席〕
ソコデ私ハ議論ヲ止メテ結城サンニ御相
談シタイ、一億五千万圓ヲ復活ナスッタラ
宜イデセウ、大シタコトハナイ(拍手)唯議論
ハ決ッテ居ル、是位ノコトヲオヤリニナッタッ
テ決シテ間違ハナイ、アナタノ堪能ナル頭
ト、其老練ナル手腕ヲ以テオヤリニナレバ
間違ハナイ、又私共ガ素人トシテ考ヘテモ、
之ヲ以テ物價騰貴ヲ激成スベキ根本原因ト
ハナラナイト見テ居ル、農村ニ一億五千万
圓ノ交付金ヲ餘計ヤル、負擔ガヤレ〓〓輕
クナル、負債ヲ返ス、又中央金融機關ニ半
分ハ還ッテ來ル、モウ一ツハ農村購買力ガ幾
ラカ增ス、增セバ增スダケ物ヲ買フ、必需
品製產工業者及商賣人ガ儲カル、儲カッタノ
ハ民間ノ潤ヒ、民間ノ潤ヒハ公債ノ資源ニ
モナル、此必需品ノ方ハ軍需品トハ違フ
軍需工業能力ガ軍事費ヲコナスニ堪ヘズシ
テ、物價騰貴ヲ誘ッタガ、日常必需品ノ方ハ
遊休工場ガ非常ニ多イ、遊ンデ居ル工場ガ
非常ニ多イ、マダ生產能力ガ餘ッテ居ル、是
等ヲ働カシメルコトハ、日本ノ產業ニ於テ
必需品產業ト軍需工業トノ「バランス」ヲ取
ルコトニナル、之ニ依ッテ物價騰貴ノ原因ニ
モナラズ、ナリサウナ小サイ事情ガアルナ
ルバ、堪能ナル諸君ノ力ニ依ッテ押ヘルガ宜
シイ、オヤリナサイ、アナタハ之ヲオヤリ
ニナラナイト禍根ヲ貽ス、之ヲオヤリニナ
ルコトハ是ハ私ハ日本農村ノ全部ノ要望
デアリ、同時ニ軍部ノ要望デアラネバナラ
ヌト思フ、率直ニ申シマスガ、理窟ハ拔キ
ニシテ、決リ切ッタ議論ノ末ニ、一ツ一億五
千万圓ノ復活ヲナサランコトヲ要求シ、篤
ト御考ヘアランコトヲ御願スル、私ノ此御
願ヲ餘リ一遍ニ御斷リニナルコトハアナタ
方ノ爲ニ宜シクナイ、私ハ大體形勢ノ推移
ヲ見テ、吾々ノ態度ヲ決シナケレバナラヌ
ト思フ、之ヲスラナサラヌト云フコトニナ
ルト、微力ト雖モ此議會ヲ只デ通セナイカ
モ知レナイ(笑聲)諸君ノ決心ハドウダ、笑
ハヌデモ宜イヂヤナイカ
モウ一ツ結城サンノ一擧手一投足デ直グ
出來ル問題ガ一ツアル、ソレハ負債整理ノ
一部分デス、負債整理組合ガ出來テ、整理
法ガ運用サレテ、個人的負債ガ段々示談ガ
出來テ、償却セラレテハ行キマスガ、肯カ
ナイノハ政府ノ息ノ掛ッタ機關ガ一番肯カ
ナイ、勸業銀行ハ公ノ機關ダカラト言ッテ、
決シテ債務ノ調停ニ應ジナイ、外ノ方デ負
ケタノハ勸業銀行ガ取ッテ行ク、其他政府關
係ノ中央金庫、信用組合ノ如キ、政府ノ管
轄スル公ノ機關ガドン〓〓取ッテ行クカラ
駄目ダ、負債整理ニ對シテハ、私ハ結城サン
ガ少シ頭ヲ用ヒラレテ、此大債權者タル國家機
關ニ向ッテ一ツ手心ヲ要求サレル必要ガアル、
ソレデハ金融機關ガ壞ハレルト云フ說ガア
ルガ、ソレデ壞ハレサウニナッタナラバ、其
金融機關ヲ保護スル、保護ダケデハイケナ
イ、國家ノ保護ヲ受ケテ其使命ヲ完ウスル
金融機關ニハ、林サンノ言ハレル保護ト同
時ニ統制ヲ加ヘル、金融機關ノ國家統制ト
云フコトハ、小兒病的ナ藪カラ棒ヲ突出シ
タヤウニ出來ルモノデハナイ、獨逸其他デ
モ金融機關ニ對シテ國家ノ統制ガ段々進展
シテ行クノハ、金融機關ガ自分デ困ッテ來
タ時、國家ガ之ヲ保護スルト同時ニ統制ス
ルト云フ順序ニナッテ居ル、私ハ金融機關ニ
對スル保護統制ト同時ニ、農村負債ノ卽時
解決セラレンコトヲ要望スル
モウ一ツ小作立法、是ハモウ今日ノ世ノ中
ニ必要デス、耕作權ノ安定ナクシテハ總テノ
農村ニ對スル對策ハ、皆地主擁護ニナッテシ
マフ、自作農創定法ガ失敗シテシマック、其經
驗ヲ忘レタルガ如ク、同ジヤウナ農地法ガ考
ヘラレテ居ル、是ハ地主ノ土地賣逃ゲニナッテ
シマフ、農地法ノ中ニ小作問題ヲ同時ニ考ヘ
ルヤウニスル、是ガ政府ノ考ラシイ、ソン
ナコトハ駄目デス、私ハ斯ウ云フ姑息ナコ
トヨリハ、小作立法ニ邁進シナケレバナラ
ヌト思フ、モウ一ツハ農作物保險ヲヤラナ
ケレバナラヌ、山林保險ダケデハ足ラヌ、
米ト蠶ヲオヤリナサイ、是等ノコトハ農林
省ト大藏省トガ頭ヲ少シ御用ヒニナレバ、
ズン〓〓促進サレルコトデアル、オヤリニ
ナランコトヲ要求シ、其御考ガアルカナイ
カヲ御伺致シテ置タ次第デアリマス
私ハ勞働問題ニ對スル河原田內務大臣ノ
御考ヲ聽キタイ、軍部ガ勞働組合ノ解散ヲ
命ジタ、ソレハ社會民主々義的考ヘ方ニ對
シテ、軍部ニ異存ガアッタダラウト思フ、ソ
レナラ全體主義ニ出デナケレバナラヌ、全
體主義トハドウ云フコトヲ意味スルカ、勞働
者ヲシテ經營ニ參畫セシメルコトガ其ノ眼
目デアリ基調デアル、「イデオロギー」ノ
違ヒナラバ、軍部ハ須ラク全體主義ニ立脚
シ、勞働者經營參畫權ヲ軍部ノ力ニ依ッテ
確立セシメヨナドトハ私ハ言ハヌ、軍部ヨ
リハ內務大臣ガ此點ニ於テ御考ニナルコト
ガ必要ダ、軍部ハ解散シタナラシタダケデ、
アト御用組合ヲ作ル必要ハナイ、ドウシテモ
勞働者ノ協力ヲ產業ノ上ニ要求シ、其待遇
ヲ合理的ニ改善シ、其福利施設ヲ增進スル
ノニハ、全體主義的ノ考ヘ方モ一ツダラウ
ト思フ、アナタハ勞資協調會ニ於テ「ナチス」
張リノ勞働論ヲヤッテ居ラレタ、獨逸流ノ新
福利施設ガ-アナタノ所謂新福利施設ガ
資本家ノ恩惠主義ノ燒直シデハ駄目ダ、ド
ノ「イデオロギー」デモ宜イカラ、ハッキリシ
タ所ノ勞働組合、勞働問題ニ對スルアナタ
ノ考ヘ方ノ根柢ダケハ、遠慮ナクオヤリナ
サイ、發表シテ戴キタイ
私ハ斯ノ如ク諸般ノ問題ニ向ッテ、增產計
畫ヲ基礎トシタル統制經濟ノ完成ヲ說イタ
ソレガ今日ノ國際還境ニ處スル唯一ノ途デ
アルト、私ハ考テ居ル、豫算ガ大キ過ギル
ノデハナイ、之ニ伴フベキ生產力ガ足ラナ
カッタノダト云フコトハ、天下ノ認識トナッ
テ居ル、併シナガラ豫算ノ方ガ大キ過ギタ
ノデ豫算ヲ削ッタガ、生產力ノ擴大ニ力ヲ
盡サヌトアレバ、生產力ノ擴大ハ何時マデ
モ來ナイ、生產力ノ擴大ガ來ナイカラ豫算
ハ增サレヌ、豫算ヲ削ッタカラ生產力ノ擴
大ガ來ナイト斯ウ言ッテ居レバ、鼬ゴッコ
ダ、其内ニ又傳統的ノ考ヘ方ニ戾ル
ト云フト、一種ノ消極政策ニ堕スル
虞ガアル、私ハ增產統制經濟ノ伸展ヲ要求
スル、サウ云フ生產力ヲ增大シテ、其市場
ガ何處ニアルカト云フコトガ、世ノ中ノ問
題トナッテ來マスガ、私ハアルト思ッテ居ル、
當分ハ軍擴工作ノ事業、其次ハ北支那、滿洲
ノ建設的事業、其次ハ支那、南洋各方面ニ
向ッテノ輸出的事業斯ウ云フ風ニ進展スルコ
トガ出來ル、最近大ナル軍國ハ最モ大イナル
軍需輸出國デアル、私ハ重工業部面ニ於テ、
世界輸出ノ一割ダケ日本ガ取ルニシテモ、
我ガ輸出貿易ハ多大ノ伸展ヲ爲スコトヲ確
信スル、私ハ增產計畫ニ依ル統制經濟ノ擴
大、其統制經濟ノ擴大ト金融ノ調節、是コ
ソ結城大臣ニ與ヘラレタル使命デアル、唯
儉約シテ應急手當ダケヲ考ヘテ居ルト云フ
ノデハイカヌ、進ンデ如何ナルコトヲ爲ス
カニ付テ其輪郭ダケデモ御示シアランコト
ヲ希望スルノデアリマス
最後ニ林總理大臣兼外務大臣ニ外交上ノ
認識ヲ質シタイト思フ、昨日尾崎行雄氏ガ
アレダケノ外交論ヲナサラナイナラバ私
ハ默ッテ居ヨウカト思ッタ、併シアナタハア
レニ對シテ唯答辯ナサッタダケヂヤイカヌ、
信念ヲ高調セラルヽコトガ必要デアルト斯
ウ考ヘル、總テ外交ハ亂脈出鱈目デ、前內
閣デ踊リ崩シタ後ダカラ、控目ニシテ居ラ
ルヽノモ宜カラウ、併シアナタノ外務大臣
トシテノ演說ハ至極平々凡々、露西亞トモ
仲好クシヨウ、英吉利トモ宜シカラウ、支
那トモ日支親善、是デハ八面叩頭デス、八
面ニ頭ヲ下ゲルコトデス、ソレダケヂヤ私
ハ大イナル誤解ヲ招クダラウト思フ、日本
帝國ノ外務大臣ガ、ソレ位デ外交問題ノ主
張ヲ止メルカラシテ、一面ニ於テ尾崎サン
ノヤウナ議論ガ出テ來ル、天下ハソレニ惑
フ、私ハ八面叩頭ハ軈テ八面正眼ニ變ラナ
ケレバナラヌト思ウテ居ル、オ辭儀スルノ
ハ宜シイガ、今後ハ一ツ正眼ニ立直ラルヽ
必要ガアルト思ウテ居ル、ドウモ外交ヲ此
議場ニ於テ論ゼラレテ居ル模樣ヲ見マスト
云フト、感情上ノ對立ヨリハ二ツノ認識ノ
對立ガアルト私ハ見テ居リマス(拍手)私ハ
昨年末カラ色々ノ政治家及學者ノ座談會ナ
ドニ出マシテ、外交論ニ對スル相當有名ナ
人ノ見解ヲ聽イテ見タガ、ドウモ考ガオカ
シイ、相モ變ラズ日英ハ親善ナルベシ、ヽ日
露ハ爭フノ理由ナシ、日支モ固ヨリ親善、
斯クシテ親善工作ヲ完成スレバ斯ウ軍備ニ
金ヲ使ハヌデモ宜シイ、斯ウ云フ考へ方ガ
非常ニ彌漫シテ居ル、尾崎サンモ昨日サウ
云フ御話ヲサレマシタガ、私ハ認識ヲ異ニ
シテ居ル、林總理大臣ハアヽ云フ傾向ガ天
下ニ彌漫シテ居ル、アヽ云フ考ヘ方ガ充チ
滿チテ居ルト云フコトヲ御諒解ニナッタ以
上、モウ少シハッキリ積極的ナル外交ノ主張
ヲ、此議場ヲ通ジテ天下ニ放送セラルヽ
コトガ、私ハアナタノ貴キ責任デアルト斯
ウ考ヘル、大體國際間ノ對立ハ、英雄主義
ノ對立デモナケレバ、侵略主義ノ對立デモ
ナイ、必然ノ對立ガ今日來タノダ、歐洲大
戰爭ガ濟ンダ時ニハ、ドノ國モ戰爭ノ慘禍
ニ惱ンデ、ヤレ〓〓ト思ッタ、ソコデ取敢ヘ
ズ國際聯盟ヲ造リ、土地ニ、資源ニ、旣
飽滿シテ居ル、大國ハ、現狀維持ヲヤッテ見
タ、現狀維持ヲヤッタ後ニ、モウ是レカラ平
和ダ、動員ノ逆ヲ行ク所ノ復員、兵隊サ
ンヲ勞働者ヘ、兵隊ヲ農村ヘ、軍需工場ヲ
必需品工場へ、工場ノ「モビリゼーションㄴ
ヲ逆ニ「モビライズ」スル、動員ヲ逆ニ復
員スル此ノ工作デ大騷ギシタ、併シヤツ
テ見テ生活ノ安定ヲ圖ラントスレバ急
速ナル生產ノ增大ヲ圖ラナケレバナラヌ、
急速ナル生產ノ增大ヲ圖レバ、ドウシテモ
海外市場ヲ獲得シナケレバナラヌ、海外市
場獲得ノ競爭ヲスル其極致ニ達スレバ、自
分ノ武力ノ屆ク限リヲ自己ノ市場トシテ確
保スル、此〓念ガ生レテ來テ所謂「ブロックㄴ
經濟ハ此處カラ生レテ來タ、ドノ國ニ
モ-日本ニハ「ファッショ」ヲ好マザル人
ガ非常ニ多ク、共產主義ヲ好マザル者ガ非
常ニ多イ、其「ファッショ」ト共產主義ト-
獨逸ト露西亞ト、西班牙デ喧嘩シテ居ルノ
ハ、物好キデヤッテ居ルノデハアリマセヌ、
獨逸ハ露西亞ノ脅威、又佛蘭西ノ脅威ニ對
シ、或ル場合ニハ英吉利ヘノ威信ヲ保ツ爲
ニ、軍擴工作ガ要ル、ソレニ鐵ガ要ル、其ノ鐵
ハ瑞典ダケデハ足ラヌ、西班牙、「モロッコ」
ニ求メナケレバナラヌ、西班牙、「モロッコ」ニ
鐵ヲ求メテ獨逸ニ軍備擴張ヲサレテハ敵ハ
ヌカラ、「ソビエト」露西亞ガ西班牙ニ出テ
來ル、是ハ戰爭ヲ好ム戰爭ヲ好マナイヂヤ
ナイ、私ハサウ云フ議論ヲシテ居ルノデハ
ナイ、戰爭ヲ好ムト好マザルトニ拘ラズ、此
今日ノ經濟機構發動ノ重力ノ必然ガ、今日
ノ國際對立ヲ促進シテ居ルコトハ明白ナル
事實デアル
ソコデドウデス、林外務大臣ハ傳統的霞ケ
關外交ヲ繼承セラレナイデアラウト思フ、ア
ナタノ前任者モ前々任者モ常ニ言ッテ居ッ
ク、英國トハ親類筋ニナリタイ、吉田大使
ガ英吉利ニ行ッテハ隨分親英的ノ「サーヴィ
ス」ヲヤッタ、併ナガラ其親類筋ニナリタイ
英國、私共モ感情的ニ英國ニ對立スル理由
ハアリハシナイ、倫敦ニ於テ學生々活ヲス
レバ、實ニ英國ハ住ミ宜イ、個人的ノ感情
ハ結構ヲ極メタ國デアル、其親善的ナ英國
ト、最近數年間ニ印度ニ於テ摩擦シタヂヤナ
イカ、日本ノ輸出品ハ印度カラ叩キ出サレ
タデハナイカ、濠洲デ又摩擦シタヂヤナイ
カ、英國ノ手ノ及ブ所ノ蘭領南洋ニ於テ、
日本ハ叩カレタヂヤナイカ、「エジプト」ニ
於テモサウヂヤナイカ、南阿ニ於テモサウ
ヂヤナイカ、ソレダケハ致方ガナイト觀念
シテ居ルト、彼ハ支那ニモ進出シテ來ル、
英國ハ侵略主義ヂヤナイデセウ、併シ英吉
利ノ「リース·ロス」借款以來支那ヲ助ケ起ス
政策ト共ニ、政治的働キガ必然的ニ始ッテ
來タ、英國ガ支那ニ對シテ資本輸出、軍需
品輸出ヲ盛ニスルト云フト、此經濟ノ結バ
レト共ニドウデス、支那ニハ親英、排日ノ
空氣ガ釀成サレテ來タデナイカ、ドウデス、
「ソビエト」露西亞モ同樣「ソビエト」露西亞
ノ武力ヲ英國ハ過重視シテ居ル、是ハ西洋
人ノ「メカニズム」的考ニ依ッテ仕方ガナイ、
露西亞ノ飛行機ガ何臺「タンク」ガ何臺、金
ヲ幾ラ使ッタ、西洋人ノ計數的考カラ言ヘ
バ露西亞ヲ日本ヨリ强イモノト考ヘルノ
ハ當然デアル、英國ハ强イモノガ友達デアル、
嘗テハ日本ノ精神力ヲ强イト見テ、日英同盟
ヲ結ンダ、然ルニ今デハ英國ガ大分老朽シ
タモノダカラ、形ヲ尊重スルコトニナッテ、
露西亞ノ國力ヲ日本以上ナリト見タ、强イ
者ト共ニナッテ東洋ノコトニ當ラウ、是ガ英
國ノ考ヘ方デ、「ソビエト」露西亞ト英國ト
ハ或ル意味ニ於テ「バッテリー·ウワーク」ヲ
七〇六、共ニ日本ニ當ッテ來テ居ル(拍手)其
蘇聯ト日本トハ國境デ現ニ火花ヲ散シテ居
ル陰慘ナル空氣ノ下ニ、吾々ノ兄弟ハ今
日只今モ雪ノ中デ、或ハ矢彈ノ餌食トナリ
掛ッテ居ルデハナイカ、是ハ現狀ナンデアリ
やっ、誰モ戰ヲ好ムモノハナイ、戰ヲ好マ
ザル英國ガ支那ニマデヤッテ來ル、支那ニ
ヤッテ來テ、支那ノ內政干與ハヤリタクナ
イデセウ、ソレヲ此間ヤッタデハアリマセヌ
カ、張學良ノ「クウデター」ニ於テ、今マデ
ノ日本ナラバ、アノ張學良ヲ說キ落シテ、
支那ノ和平統一ノ爲ニ大過ナキニ至ラシム
ル位ノ藝當ハ日本ノ先輩浪人ハ皆ヤッテ居ッ
タ、頭山滿翁デモ、政友會ノ前總裁犬養先生
デモ、大ニ心ヲ配ラレタ、其眼ノ掛ッタ人間
ガ、アノ位ノ內面工作ノ中ニハ何時デモ飛込ン
デ行ッタ、然ルニ今デハ支那ニ於ケル經濟的活
動ヲ英國ガ「リード」スルヤウニナッタカラ、
其經濟的活動ト共ニ外交マデモ「リード」サ
ラレルヤウニナッタ、此間ノ蔣介石救出シニ
於テハ英國ノ浪人、英國ノ商賣人、英國ノ
金融業者ハ全面的ニ働イタヂヤナイカ、ド
ウデス、東亞ノ安定勢力ナドト言ッテ居ル
日本ハ、戰ヲ欲セザル英國ノ爲ニ、支那ノ
內政マデモ「リード」サレテ、高見ノ見物ヲ
シテ居ルト云フノガ今日ノ情勢、其英吉利
ガ邊境ニ現ニ血ミドロニナッテ衝突セント
シテ居ル露西亞ト手ヲ握ッテ居ル、此情勢ヲ
ハッキリ認識シテ、之ニ對應スルダケノ迫力
ヲ外務大臣ハ御示シニナラナケレバナラヌ
ト信ジテ居ル、廣田內閣ノ下ニ於ケル外交
ノ失敗ハ、私ハアナタガ先般此議會ニ於テ
爲サレタ外交演說ヲ地デ行ッタ所ニアルト
思フ、アナタハ大キナ決心ガアルデセウ、
初カラ喧嘩腰ニハ行カヌ、一應御辭儀ヲサ
レタデセウ、多少ノ決心モホノ見エヌデハ
ナイ、併シ墮落スルト廣田、有田外交ニナッ
テシマフ、廣田、有田外交ハ經濟的必然、
產業發展ノ必然、其結果ガ國際對立トナ
リ國防競爭トナリ、戰爭ノ危機トナッテ居
ル、此現實的問題ヲ甘ク見タノダ、蔣介石
デモ「サラリー·マン」デハナイ、張學良ト雖
モ「サラリー·マン」ヂヤナイ、「ヒットラー」
「ムッソリニ」亞米利加ノ大統領、皆ソンナ月
給取根性ヂヤナイ、難儀ヲシテ居ルカラ、物
ノ本質ヲ知ッテ居ル、然ルニ日本ノ外務當局
ハ、本質ヲ知ラヌ、此本質的對立ヲ御辭儀デ
緩和出來ルト思ッテ居ル、ソコデ英吉利ニ對
シテハ親英「サービス」ヲヤッテ居ル、是ハ日
英同盟ガ破棄セラルヽ時ニ、日本ノ先輩政治
家ガヤッタ失敗ノ後ヲ繰返スノデアル、畏ク
モ今上陛下ニハ未ダ皇太子デアラセラレ
タ時ニ、英國ニ御渡リニナッタ、英國ハ左ノ手
デ之ヲ歡迎申上ゲタ、日本ノ皇室ニ對スル
滿腔ノ敬意ト、親善デシタラウ、併シ感情
ノ融合ハ別トシテ、殿下未ダ英國ニ滯在マ
シマス時ニ、大英帝國會議ヲ開イテ、謂ハヾ
殿下ノ面前ニ於テ、日英同盟ノ草案ヲ引破ッ
テ棄テタ、日英同盟破棄スベシト云フコト
ハ其時ニ決ッタ、次イデ華盛頓會議、感情
ト實際ハ別デスヨ、廣田內閣ノ最モ大ナル
弊害ハ、眼ニ見エザル力ニ動カサレタコ
ト-軍部ニ動カサレタコトヨリハ、モット見
エザル力ニ動カサレタ、モット見エザル老人
連ノ力ニ動カサレク、老人連ノ世迷言ハ過
去ノ外國生活ヲ顧ミテ、外國人ヲ絕對ニ信
用スル、サウ云フコトカラ出發シテ來テ居
ル、ソコデドウデス、老人連ト聯絡アル吉
田君ガ大使トナッテ向フニ行ッタ、特別ノ形
式、畏多クモ特別ノ形式ノ下ニ、其尊嚴ヲ添
ヘ、彼ノ地ニ於テ頻リニ日英親善ヲ宣傳シ
ク、日英同盟ノ復活、日英國交ノ改善、同
盟以上ノ何物カヾ生レル、ナドト宣傳シタ
カラ、議會ニ於テ質問演說ガ起リ、其質問
演說ニ對シテ英政府ノ當局者ハ、明ニ之ヲ
否定スルト共ニ、日本ニ對スル侮辱ノ言辭
サヘモ弄シテ居ル、ドウデス、其親英媚態ガ
デスヨ、英國トハ近頃頗ル親善ノ關係ニア
ル支那ニ直グ傳ッテ來ル、蔣介石ニ傳ハリ、
蔣介石ノ幕僚ニ傳ハリ、蔣介石ノ信賴ヲ受
ケテ新聞ヲ發行シテ居ル連中ニ傳ハル、大
公報ノ記者張熾章ト云ヘバ相當ノ人格者デ
アル、其人ノ筆ハ日本ガ英國ニ媚ビタコト
ヲ揶揄シテ居ル、其醜態ガ支那ニ筒拔ケニ
來ル、支那デハ何ダト言ッテ居ル、支那ニ
向ッテハ歐米依存ヲ止メヨト言ッタ日本ガ、
英國ニシテハ英國ノ前ニ叩頭シテ依存ヲ
請願シテ居ル、何ノ態ダ、自分ノ方カラ歐
米依存ヲヤッテルヂヤナイカト冷カシテ居
ル、ドウデス、親英媚態ヲ示シ、屁ツピリ
腰ヲ示シ、現實ノ問題ヲ現實デ處分セズシ
テ、御辭儀ト辭令トデ處分ガ出來ルト思ッタ、
其弱腰ガ忽チニ支那ニ傳ッテ、支那ノ侮日ヲ
招キ、成都事件ニハ可憐ナル、悲壯ナル
日本ノ少壯記者モ殺サレマシタガ、殺スヤ
ウナ空氣ヲ作ッタノハ、支那ニ向ッテハ傲然
ト强サウナ顏ヲシテ臨ミナガラ、所謂二重
外交、支那ノ內輪話ニ參畫シテ居ル英國ニ
ハ媚態ヲ逞ウシ、決シテ支那ニハ亂暴ヲ致
シマセヌナド云フ證文ヲ入レルカラシテ、
支那ノ抗日ヲ益〓激化セシメタノデアル、
成都事件ニ對シテハ、日本人ヲ殺害セヨト
云フ招待狀ヲ日本ガ出シタモ同ジコトナン
デアル、此處ハハッキリ御認メ願ハナケレバ
ナラヌ、尾崎先生モ英國ヲ非常ニ「ハーム
レス」ナモノノヤウニ言ハレタ、日本ノ老
人ハ皆アヽ云フヤウニ考ヘテ居ル、廣田君
モ其老人連ノ說ニ聽キ、其老人連ノ援助ヲ
受ケテ、親英、サービス」ヲヤック、廣田君ハ
現ニ言ウテ居ル、英國ノ物ノ分ッタ上ノ方ノ
人ハ、日英同盟ノ復活ニ大體多大ノ期待ヲ
持ッテ居ルガ、何樣若イ奴ガ分ラヌデ困ルト、
成程若イ奴ノ方デハ溫和シイ「イーデン」デ
モ、之ニハ同意シナカック、現實ヲ把握シテ
居ル若イ者ハ、日本ノ御辭儀ニ依ッテ緩和セ
ラレルヤウナ英國ノ內情デナイコトヲ知ッ
テ居ルカラデアル、況ヤ國民生活ニ立脚セ
ル外交ハ彼ハ知ッテ居ル、日本ノ外交ノミハ
國民生活ヨリ遊離シテ居ル、此點ヲシッカリ
矯正ナサラヌト宜シクナイ、日英親善宜シ
カラウ、日支親善宜シカラウ、日「ソ」國交
ノ改善宜シカラウ、一應ノ辭令ナラ宜シイ
ガ、重ネテ再ビ三タビ此議場ニ於テ左樣ナ
コトヲ御言ヒニナラヌデモ宜カラウト思
フ、是ハ警告致ス、ドウモ現實ト實際ノ開
キガ二重外交ノ原因トナル
私ハ昨年ノ末滿洲ニ行ッテ居ッタ、滿洲ニ
行キマスト云フト、所謂蒙古ノ德王ノ察哈
爾カラ綏遠へ侵入ガ大問題トナッテ居ル際デ
シタ、ドウデス、察哈爾ニ於ケル內蒙民族ハ、
多年支那人ノ非行ノ壓迫ニ遭ウテ居ル、金貸
カライヂメラレ、惡代官カライヂメラレ、武
力デイヂメラレル、何トカシテ起チ上ラナ
ケレバナラヌ、此內蒙ニ於ケル蒙古人ニ對
スル滿洲國ノ對策トシテ、彼等ニ同情ヲ表
スルコトガ、外蒙ニ手ヲ入レタル露亞西ニ
對スル一種ノ牽制策トナッテ居ル、同情シテ
居ル、同情シテ居ルト云フト察哈爾カラ綏
遠ニ出テ、蒙古人獨立生活ノ基礎ヲ獲得シ
ヨウト云フ運動ガ起ッテ來タ、我ガ日本人ハ
蒙古人ニ同情ヲ有スルガ故ニ、見方ニ依ッテ
ハ綏遠侵入ヲヤルナト言ッテ止メルノモ、私
ハ一ツノ考へ方ダト思フ、併シ其力ハ及バ
ズシテ既ニ綏遠ニ侵入シテ行ッタ、支那ハ
ドウスルカ「ゼスチュア」ヲ逞シウシテ之ヲ
叩潰ス、其叩潰ス工作ガ並大抵デハナイ、
內蒙民族ノ民族的撲滅ヲヤルヤウナ意氣
込ヲ以テ、多大ノ武力ヲ動員シテ、此民族
撲滅ニ踏出シサウナ勢ニナッテ來タ、ドウデ
ス、日本ハ之ヲ對岸ノ火災視スルコトガ出
來マセウカ、私ハ綏遠問題ニ關聯シテ、支
那ト日本ガ戰フベキ理由ハ知リマセヌガ、
內蒙ニ於ケル蒙古民族ニ對スル日本ノ好
意其好意ノ下ニ育チタル蒙古人ガ、綏遠
ニ渡ルコトガ惡イナラバ、別ニ話ノ仕方モ
アラウガ、重大關心ナクシテ是ガ見ラレマ
スカ、支那兵ハ民族撲滅戰ヲヤッテ綏遠ヲ
叩イテ察哈爾ニ入リマスヨ、內蒙民族ガ叩
潰サレ、支那ガ直チニ此處ニ出テ來テ、其
處ニ蔣介石傳統ノ共產主義政策ガ發展シテ
來ルト云フト、內蒙ト外蒙ノ勢力ガ相結ン
デ、誰ガ北支ヲ脅カサズト言ヘマセウ、
誰ガ冀東政府ヲ脅カサズト言へマセウ、
何人ガ滿洲ヲ脅カサズト言ヘマセウカ、
然ルニ滑稽千萬ニモ日本ノ政府ハ何人モ問
ハザルニ、蒙古人ノ綏遠侵入ニハ日本關係
ナシ、日本ハ之ニ對シテ何等ノ關係ヲ持タ
ナイト聲明シタ、餘計ナ事ヂヤナイカ、默ツ
テ居レバ宜シイ、然ルニ日本ハ關係持タヌ
ト言ッタ、ソレニ依ッテ今マデ躊躇シテ居ツ
タ支那ノ軍隊ガ、安心シテウント入ッテ來
タ、サア見テ居ラレマスカ、一個ノ無辜ノ
者ヲ殺シテモ、日本ノ皇道精神ハ立チ行カ
ナイノニ、蒙古民族ニ對スル彼等ノ信賴ヲ
裏切ラレマスカ、關東軍是ニ於テカ已ムヲ
得ズ綏遠事件ニ對シ、其發展ニ付テハ重大
關心ヲ有スルト、斯ウ云フ聲明ヲ發シタ、
此關東軍ノ聲明ニ依ッテ日本モ關心ガアル
カト、支那ノ足竝ハ大ニ亂レタ、其中ニ張
學良事件ガ起ッタ、斯ウ云フ關係デスヨ、ド
ウデス、ドウモ此方ガヤリサヘセネバ、向
フハ平和ダナント云フ考ヘ方ハドウシテモ
イカヌ、此方ガ罷リ下ッテ向フガ罷リ下ル、サ
ウ云フコトガ出來ナイコトハ、華盛頓會議以
來分リ切ッテ居ルヂヤナイカ(「ピヤ〓〓」)
歐洲大戰爭ガ濟ンダ時ニ列國ハ疲レテ居ル、
老練ナル「ビスマルク」流ノ政策ヲ有スル
政治家ガ日本ニ居ッタナラバ、歐米列國ガ戰
爭ニ依ッテ疲レタル際ニ、日本ハ何等カノ
對外行動ヲ起シタデセウ、正直ナル日本ハ
有リ餘ック武力、蓄積サレタル富ヲ持チナガ
ラ、アノ華盛頓會議ニ同意シ、アノ巴里
講和會議ニ贊同ヲ表シ、軍艦ヲ壞ハシ、山
東ヲ還シタ、ソレニ依ッテ日本ノ威力ガ減ジ
マシタノデ、列國ノ力ハ忽チニシテ支那ニ
加ハリ、支那ノ人心ヲ動カスヤウニナッタ、
ソノ全支那ノ排日ハ其尖端ヲ滿洲ニ現ハシ
テ、昭和六年九月十八日事件トナッタ、頭ヲ
下ゲテモ向フガ下ルモノデハナイ、下ラレ
ザル內面必然ノ力ニ動カサレテ居ルコトガ、
今日ノ國際情勢デアルト云フコトヲ、ハッ
キリ認識シナケレバイカヌ(拍手)外交ヲ以
テ軍人ノ武力ノ足ラザル所ヲ補フト云フコ
トハ、ドウ云フコトデアルカ、蒙古問題ガ起ッ
ク、察哈爾カラ綏遠ニ侵入スル、支那ハ之ニ
對シ民族撲滅戰ヲヤル、日本ハ武力ヲ以テ內
蒙ヲ援ケルコトガイカヌナラバ、外交ヲ以
テ補フベシ、政府ハ關係ナシト云フ聲明ヲ發
スル代リニ、内蒙綏遠問題ノ發展ハ其環境ノ
情勢ト思ヒ合セテ、坐視スル能ハザルモノ
デアル、此發展ノ如何ニ依ッテハ、帝國ハ相
當ノ決意ヲ爲サナケレバナラヌト言ヘバ宜
シイ、必シモ之ヲ以テ支那ト一戰シヨウ
ト云フノデハナイ、其決意ノ下ニ合理的ニ
蒙古問題ヲ解決シ、合理的ニ蒙古民族ノ「ア
スピレーション」ニ同情シ、蒙古ト支那、支
那ト日本、滿洲ト支那トノ國交ヲ整調スル
コトハ、此根本ノ決意ト、此外交ノ援助ア
リテ私ハ可能デアルト思ッテ居ル、外交デオ
辭儀スレバ武力ハ潰シテモ宜イト云フヤウ
十、ソンナ外交ヲ以テ國防ヲ補フナドト云
フ物ノ見方ハ、絕對ニ間違デアルト思フ
ソコデ今日ノ問題デス、日獨協定ノ手續、
取扱ノ態度ニ付テハ、私ハ多々批判ヲ持ッ
テ居ル、併シ前內閣ノ日獨協定ハ別ニ惡意
ガアッタノデハナイ、アノ人達ハヤハリ八方
叩頭主義デアッタノダ、八面玲瓏ナラ宜イガ、
八方ニ頭ヲ下ゲタイノデアッタ、日英同盟ノ
復活モヤリタカッタ、吉田君ガ倫敦デ「サー
ヴィス」シテ笑ハレタダケデアル、日米親
善モヤッテ見タカッタ、具體案ヲ持タナカッ
ク、日支親善モヤリタカッタ、案ガナカッタ、
日獨ダケハ向フガヤッテ呉レタ、ドウデス、
日獨親善的ニ協定ヲ結ンダコトハ、英國
ヲ敵ニスル、米國ヲ敵ニスルト云フヤウ
ナ觀點カラ批判スルノハ駄目デスヨ、英
國ニ頭ヲ下ゲタラ向フガ厭ダト言ッタ、獨
逸ニハ思召ガアッテ、一ツオ互ニ「コミンテ
ルン」ニ對スル共同防衞ヲヤラウ、斯ウ云
フコトニナッタ、政府當局者ハナゼアヽ云
フ問題ヲ、アヽコソ〓〓スルカ、漁業條
約ハ一年以上掛ッテ新條約案ヲ協定シ、昨
年末ニ效力ヲ失フ舊條約ニ代リ、新シク出
來上ル條約ノ調印ガ出來ルコトニナッテ居ッ
タ、是ハ日露國交ヲ調整スル非常ニ好イ條
約デアル、ソレガ日獨協定ガ出來タト云フ
名ノ下ニ、向フカラ破棄サレテシマッタ、ド
ウ云フ譯デスカ、一體「コミンテルン」ガ
「ファッショ」ニ向ッテ宣戰スルト稱シ、日本ヲ東
洋ノ「ファッショ」ト稱シ、侵略國ト稱シ、獨
逸ヲ歐羅巴ノ一ツノ目標ト稱シ、公々然ト
ㄱコミンテルン」ハ世界ニ向ッテ其工作ヲ築
キ上ゲントシツヽアル、卽チ一面ニ於テ
「ファッショ」陣營ヲ擊破スルノニハ、第二「イ
ンターナショナル」トモ握手シヨウ、自由主
義者トモ握手シヨウ、平和論者トモ握手シヨ
ウ、サウシテ獨逸ト日本ヲ叩クト云フノデセ
ウ、支那ニ其手ヲ延バシテ來テ、其工作ガ
動キ出シテ來テ居ルデセウ彼ハ「コミンテ
ルン」ノヤリ方ハ、蘇聯ノ關スル所ニ非ズ
ト言ヒマスガ、ソンナ馬鹿ナコトガ言ヘル
カ、露西亞ニハ徹底的獨裁權ガアル、アノ
露西亞ノ政權ガ「コミンテルン」ヲ默認スル
コトハ、卽チ之ヲ援助シテ居ルコトデアル、
併シ彼等ガ「コミンテルン」ノヤルコトデ、
俺ハ知ラヌト言フナラ、宜シイ、オ前ガ知
ラヌト云フナラバ、其「コミンテルン」ノ脅
威ニ對シ獨逸ト日本ガ共同防衞ノ策ヲ講ジ、
情報ヲ交換シ、事務局ヲ作リ、共同防衞工
作ヲヤラウ、斯ウ云フコトヲ協定スルノハ
何デモナイヂヤナイカ、私ハモット皮肉ナ物
ノ見方ヲスレバ、「コミンテルン」卽チ「ソ
ビエト」露西亞、此「ソビエト」露西亞ニ對
シテ日獨ガ相當ノ自衞策ヲ考ヘルト言ッタ
所ガ、無理ノナイコトデアルト思フ、併シ
彼ノ言フ通リ關係ガナイト云フナラバ「コ
ミンテルン」ニ向ッテ共同防衞ヲヤル、何デ
モナイヂヤナイカ、ソレガ爲ニ日露漁業條
約ガ出來上ッタモノガ破棄サレテシマッタ、
サアサウスルト樞密院ノ會議ニ於テ御前ヲ
モ憚ラズ、今度ハ自由出漁ヲ斷行スルナド
ト外務大臣ハ勝手ニ言ッテ居ル、ソンナニ
イキリ立タヌデモ宜シイ、何デ自由出漁ス
ル必要ガアル、帝國ノ海軍ハ非常時日本ノ
貴重ナル防壁デアル、ソンナ自由出漁デ防
禦的體勢ヲ執リナガラ、浦鹽斯德ノ潜航艇
ニ脅カサレルヤウナ馬鹿ナコトハシタクナ
イ、萬已ムヲ得ザレバヤルガ、直グ自由出
漁トハ何ダ、ソンナコトハ必要ハナイノデ
ス、日獨協定、何ノ差支ナイ、而モ新漁業
條約締結ノ約束ガ破棄サレタ、ソコデ當局
ハ狼狽シタ、其際露西亞側カラ一年間、舊
條約ヲ延期シテヤラウト云フト、日本側ハ
鬼ノ首デモ取ッタヤウニ喜ンダ、一年間延期
シタコトハ、日露ノ國交ノ危機ヲ一年後ニ
延バシタコトデスヨ、露西亞側ハ折角新タニ
出來上ッタアノ成案ノ基礎ニ於テ協議ヲ進
メ一年後ニ條約ニ調印スルノカト言ヘバサ
ウデナイ、彼ハソンナコトハヤラヌト言ッテ
居ル、ソレハ新タニ御相談シマセウ、前
出來テ居ッタ新條約ハ「スクラップ」シタト言ツ
テ居リマスヨ、ソレニ隨喜渴仰スルトハ實
ニ意氣地ノナイコトデス、私ハ自由出漁ナ
ドト云フ腰モナイ癖ニ放言スル當局者ノ態
度ヲ憎ムト雖モ、日獨協定ガ出來タルガ故
ニ、折角出來上ック條約ハ調印ヲ拒絕サレ、
批准奏請サレタ條約ハ拒絕サレ、其上ニ舊
條約ヲ一年延バシテヤルト言ハレテ、ソレ
デ鬼ノ首ヲ取ッタヤウナ態度ヲ執ル我ガ當
局者ノ態度ハ如何ニモ殘念ダ、私ハ外交ヲ
以テ國防力ノ不足ヲ補フニ足ル一ツノ工作
ガアルトスルナラバ、此日獨協定ヲ活用ス
レバ或種ノ工作トナルト思ッテ居ル、「ソ」聯
ニ對シテ日本ハ日獨協定ヲヤッタノデハナ
イ、「コミンテルン」ニ對シテヤッタンダ、併シ
八方正眼ニナルカモ知レナイ、「ソ」聯ノ出樣
ニ依ッテハ、此日獨協定ノ發展性ガ私ハ多
少アルダラウト思フ、決シテ日露ノ親善ヲ
破ラウト言フノヂヤナイ、「コミンテルン」
ハ日本ニ挑戰シタ、ソレデ、「コミンテルン」
防衞ダケヲ日本ハヤッタ、「ソ」聯ニハ遠慮シ
テ居ル、ソレヲ口實ニ「ソ」聯ガ日本ニ對シ
テ條約ノ締結ヲ拒絕シ、此頃ハ浦鹽斯德デ
モ惡戯ヲスル、ソレガ嵩ジテ來ルナラバ日本
ハ考ヘナケレバナラヌト思ッテ居ル、林首相
ノ外交演說、穩健ハ結構ダ、併ナガラ形
勢險惡ナル時ノ穩健ハ、一種ノ卑屈トナル
虞ガアル、林外相ノ部下ニハ霞ケ關ノ前々
カラノ幕僚ガ充滿シテ居ル、一ツ御決意ヲ
有タレナイト宜シクナイト思ッテ居リマス
私ハ斯ノ如ク唱ヘ來ッテ、日本ノ立場ヲ
深刻ニ、明確ニ認識ヲ進メテ行クト云フト、
ドウモ危險ガアルヤウニ人々ハ感ズルデセ
ウケレドモ、國ヲ建テヽ居ル以上、危險ナ
キ國ハナイ、況ヤ國際的ニ大イナル立場ヲ
保持シテ居ル國ニハ大ナル危險ガアル、併
ナガラデスヨ、英、米、露、支一〓ニナッテ掛ツ
テ來レバ、日本ハ敵ハヌナドト云フ馬鹿ナ
議論ヲスル必要ハナイ、英國ハ伊太利トノ問
題、地中海トノ問題デモ惱ンデ居ルヂヤナイ
カ、佛蘭西ガ味方デアルカ、獨逸ガ英國ノ味
方デアルカ、ドッチモ其通リニ行カヌ、「ヘリ
ゴランド」ニ於ケル獨逸ノ設備ニハ英吉利
モ心配シテ居ル、ドウデス、英吉利ガ地中
海ノ問題ニ惱ンデ居ル時ニ、ドウシテサウ
急速ニ東洋ニ來マスカ、南米ニ向ッテ發展ス
ルヲ第一ノ使命トシテ居ル亞米利加ガ、サ
ウ急速ニ東洋ニドウシテ來マスカ、露西亞
ガ日本ニ向ッテ挑ム時ニハ、其背後ノ露西亞
ト對立的關係ニ在ル獨逸ノ危險ヲ感ゼズシ
テドウシテ來マスカ、サウ簡單ニ四國協同
ハ出來ヌ、支那ガ英、米、露ノ後援ノ下ニ、
日本ニ向ッテ戰ヲ挑ムト云フヤウナ馬鹿氣
タコトヲヤッタナラバ、最後ノ勝負ハ別トシ
テ、取敢ヘズ支那ハ西班牙ノ二ノ舞ヲ踏ム、
世界新銳武器ノ試驗場、實驗場トナッテ蹂躪
セラルヽコトハ分ッテ居ル、滅多ニハ來ナ
イ、來ナイガ、日本ノ安全責任外線ハ押詰
メラレテ來テ居ル、之ニ對處スル途ヲ講ジ
ナケレバナラヌ、私ハ此時ニ於テ日獨協定
ト雖モ、多少ノ外交上ノ補ヒニハナルト感
ジテ居ル、日本ハ地形上ニモ此天嶮ヲ持ッテ
居ルカラ、サウ恐レルコトハ要ラヌ、併シ
天嶮ヲ克服スベキ新銳武器ノ發達ニハ備ヘ
ナケレバナラヌ、備ヘルノハ無限カト云へ
バ、自ラ限度ガアル、世界列國ハ叩頭ニ依
リテ-頭ヲ下ゲルコトニ依ッテ日本ノ味
方トナラザルモ、故ナクシテ日本ヲ脅カシ、
此日本ノ虎ノ尾ヲ進ンデ踏ム者ハ又稀ナリ
ト斯ウ考ヘテ居ル、私ハ日本ハ世界ニ向ツ
テ起ツ時ニハ世界的門戶開放ヲ要求スベ
シ、世界的門戶開放ガ出來ナケレバ、手ノ
屆ク所ニ「ブロツク」化ヲ實踐躬行スベシ、
ソレニハ國防費ガ要リ過ギルト言ヒマスガ、
何レモ勃興的ノ國民ハ皆苦難ヲ嘗メ來ッテ
居ル、大英帝國ノ勃興時代ニハ和蘭ト戰ヒ、
西班牙ト戰ヒ、具サニ苦難ヲ嘗メタ、英國
ノ學者ハ勃興時代ノ英國ハ貧乏デアッタガ
覇氣ニ富ンデ居ッタ、「プアー·バット·アンビ
シヤス」デアッタト言ッテ居ル、豐富ナ資源
ヲ有シ、豐富ナ富ヲ有シテ安閑トシテ居ル
國ガ、貧乏ニシテ自衞ノ爲ニ、存立ヲ脅カ
サルヽガ爲ニ、奮發スル國カラ動モスレバ
追付カレ凌ガルノハ世界ノ歷史デアル、私
ハ大和民族ノ使命ヲ信ジ、我ガ日本、朝鮮、
臺灣ノ此土ト、其三倍アル所ノ滿蒙ノ土、
此上ニアル所ノ我ガ大和民族、此天才、此
精神力、此體力ヲ信ズルガ故ニ恐ルヽコト
ハナイト思フ、ナイガ、考ヘナケレバナ
ラヌ、國際對立ハ面倒ダガ、外交デ切拔ケ
ラレル切拔ケラレルガ、其外交ノ背後ニ
ハ一定ノ武力ガ必要デアル、是ガ私ノ認識
デアル、ソコデ林サンハ外交ヲ一新セラレ
ント欲スレバ、先ツ外務省ノ外交陣カラ一
新サレナケレバナラヌ、今ノ外務當局ナド、
大體外交ナンカヤッテ居リマセヌヨ、能ク外
務省ヲ御調ベナサイ、ヤッテ居ラヌ、私ハ驚
イタ、廣田外務大臣ノ時ニ對支外交ノ三大
原則ト云フコトハ每日ノヤウニ新聞ニ出タ、
三相會議ノ結果之ヲ後援シタト書イテア
ル、對支外交ノ三大原則、ドノ位日本ノ遣
外使臣ガ三大原則ヲ蔣介石ニブッ付ケテ居
ルカ、調ベテ見タ、蔣介石ハ私ガ昨年ノ初
南京ニ遊ンダ頃殆ド日本人ニ會ハナイ、日
本ノ大使ガ來ルナラ張群ト會ヘ、俺ハ會ハ
又、領事ガ來ルナラ課長ト會ヘ、斯ウ云フ
態度デアッタ、アンマリ無禮ヂヤナイカト私
ハ思ッタノデ、張群君ニ會ウテ日本ノ大使
ト會ハヌトハ何ノコトダト詰ッタラ、先方デ
ハ苦笑シナガラ、イヤ本當ノ話ヲスル方ニ
ナラ會ヒマスケレドモ、ナッテ居ラヌノデス
ヨ、私ノ方デ大使ダラウガ讀書人ダラウ
ガ、代議士ダラウガ、差別ハ立テヌ、本當
ノ話ナラ誰トデモ致シマス、アナタナラ會
ヒマス、ト云フノデ、私ハ蔣介石氏ト數時
間モ會談シタ、其後デ聞イテ見タ、何故大
使ヲ拒絕スルカ、日本ノ對支外交三大原則
ハ支那ニ徹底シテ居ル筈ダガ、何故ソレヲ
ヤラナイノカト聽イテ見タ所ガ、張群君ハ
聲ヲ潜メテ、大キナ聲デハ言ハレマセヌケレ
ドモ、三原則ナンテ能ク知リマセヌヨ、ア
レハ此間何カ日本ノ遺外大使ガヤッテ來テ、
無理ニ蔣介石ニ會ハウト云フノデ會ハセテ
見タ所ガ、何カ罫紙ニ書イタモノヲ讀ンダ、
ソレガヤカマシイ三箇條ラシイ、其內容ニ
付テ、本質ニ付テ質問ヲ開始スルト云フト、
本國ヨリ之ニ對スル何等ノ訓令ヲ受ケテナ
イカラ、本大使ノ權限ノ外デアルト言ッテ
歸ッテシマッタノデス、サウスルト翌日ノ日
本ノ新聞ニハ、日本ノ大使蔣介石ニ面會
シ、對支外交三大原則ヲ揭ゲテ、懇々彼ニ
說諭セシモ、彼誠意ヲ示サザルガ故ニ、佛
然トシテ引揚ゲタ、支那ノ態度斯ノ如クナ
ルニ於テハ、帝國ハ重大決意ヲ爲スノ巳ム
ヲ得ザルニ至ルベシナド大宣傳ヲヤル、斯
ウ云フ馬鹿ナ宣傳ヲヤラルヽナラバ、學生
モ騷ギマス、黨部モ騷ギマス、愛國心ハ支
那人ニモアリマスゾ、ソレガ激發シテ日支ノ
國交ヲ破ル、アレハ大方日本ノ國民ニ對スル
「サービス」デ、アヽ云フ事ヲ宣傳スルノダラ
ウ、陸軍ニ對スル「サービス」ダラウ、ダカラ會
ハナイコトニシタノダト云フノデス、私ハ日本
ノ使臣ハ餘所ニ於テモ同ジヤウナ事ヲヤッテ
居ルデアラウト思フ、支那ニ對シテ是デス
カラ、マアテンデ十目モ置イテ居ル英吉利
ニ對シテ、何ヲ言ウテ居ルカ分リマセヌヨ
(笑聲)ドウデス、アレダケハ日本ハ露西亞
ヲ目ノ上ノ敵トシテ、輿論モ露西亞ニ對シテ
ノ强硬政策ヲ要望シテ居ルノニ、日獨防共
協定前後ノ日本ノ外務省ノ狼狽振ハドウデ
スカ、魂ガアリマスカ、「テクニック」ヂヤ
ナイ、魂デス、林サンノ魂ヲ打込ム爲ニ
干、外務省ノ外交陣ヲ徹底的ニ一新スル要
アルコトヲ論斷シ、林總理大臣ノ決意ヲ促
シテ私ハ今日ノ質問ノ壇ヲ降ル(拍手)
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=8
-
009・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 只今ノ御質問ニ
對シテ簡單ニ答辯ヲ致シマス、帝國燃料株
式會社案ニ對シマシテハ、只今再檢討中デ
アリマシテ、結論ヲ得次第本議會ニ提案ス
ル積リデアリマス
又貧鑛處理法ニ關シマシテハ、是モ昨
日松村君ノ御質問ニ答ヘマシタ通リ、決
シテアレヲ引下ゲタノデハアリマセ
又、唯他ノ方法ニ依リマシテ、アノ位ノ
金ハ捻出シ得ル見込ガ確實ニ付キマシタ
ノデ外シタノデアリマス、鐵饑饉ニ對シ
マシテハ最善ノ努力ヲ以テ善處スル積リ
デアリマス、ソレカラ日鐵中心主義ト云フ
コトヲ申サレマシタガ、是ハ日鐵ガ最大ノ
製鐵會社デアリマスカラ、之ヲ中心トシマ
シテ、他ノ「アウトサイダー」ヲ一〓ニシ
テ商工省ガ之ヲ適當ニ指導シテ行ク積リ
デアリマス、卽チ「アウトサイダー」ノ熔鑛
爐等モ迅速ニ決定スル積リデアリマス、製
鐵事業法ノ改正ニ付キマシテハ、略〓御趣意
ノ通リノ改正ニ目下準備中デアリマス
〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=9
-
010・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 勞働者問題解
決ノ基調ハ私ハ斯ウ考ヘルノデアリマス、
所謂勞働者ハ從來ノヤウニ唯一個人、若クハ
一階級ノ利害ニ囚ハレズシテ、產業全體ノ爲
ニ其職務ニ盡シテ行ク、是ト共ニ事業主側ニ
於キマシテモ、所謂私利或ハ私益ニ囚ハレヌ
デ、國家ノ爲メ、社會全體ノ爲ニ事業ノ經營
ニ當リマスト共ニ、一面ニ於キマシテ其事業
ニ從事スル勞働者ノ幸福ヲ十分ニ考ヘテ行ク
ト云フコトガ最モ必要デアリマシテ、是ガ
卽チ勞資ノ完全ナル精神的結合ヲ得テ、所
謂勞働者ノ幸福ヲ增進シマスト共ニ、產業
ノ興隆ヲ期スルコトガ出來ルノデハナイカ
ト思フノデアリマス、是ガ今日ノ時勢ニ最
モ適應シタル所謂勞働問題解決ノ方策デハ
ナイカト考ヘマス、私共ハ此考ノ下ニ勞働
政策ノ實行ニ當リタイト思フノデアリマス
〔國務大臣杉山元君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=10
-
011・杉山元
○國務大臣(杉山元君) 國務ニ關シマスル
中野君ノ所見ニ付テハ、全ク同感デゴザイ
やく、又軍事費ノ繰越ニ關スル御意見モ亦
同感デアリマス、併ナガラ新シキ豫算ニ於
キマシテ、軍事費ノ一部ヲ繰越致シマシタ
ノハ、財務當局ノ物價對策ニ協同致シマシ
テ、已ムヲ得ズ之ヲ認メナケレバナラヌ事
情ニアリマシタノデ、斯ク處置シタノデア
リマスコトヲ御諒承ヲ願ヒマス、次ハ陸軍
大臣ノ懷イテ居ル國政一新ニ付テ御尋ガゴ
ザイマシタ、是ハ曩ニ政府ノ發表致シマシ
タ信念ト全ク符合スルモノデアリマシテ、
而モ私ハ帝國現下ノ時局ニ於キマシテハ、
一切ノ情實障碍ヲ排シテ、之ヲ斷行セネバ
ナラヌモノト存ジテ居リマス、右政策ノ具
體案ハ各〓各主務省ノ所管事項ニ屬シテ居
リマスルノデ、玆ニ私カラ申上ゲルコトヲ
控ヘマシテ、他ノ時機ニ於テ御承知ガアル
ダラウト存ジマス
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=11
-
012・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 中野君ノ農村
問題ノ重要性ニ付テノ御意見ハ謹ンデ拜聽
致シテ置キマス、別ニ御答辯申上ゲル必要
ハナイカトモ考ヘマシタケレドモ、御質問
ノヤウナ形ニナッテ居リマシタカラ、二三ノ
事項ニ付テ御答ヲ申上ゲマス、農村ノ必需
品デアル肥料價格ノ統制ノ問題ニ付キマシ
テハ、御承知ノヤウニ前囘ノ議會ニ於キマ
シテ、肥料統制法ノ御協贊ヲ得タ譯デアリ
マシテ、尤モアノ際ハ法律ノ問題ダケガ解
決サレテ居リマシテ、之ニ伴フ豫算上ノ施
設ガ未解決ニナッテ居ッタノデアリマスガ、
是ハ幸ニ只今御協贊ヲ願ッテ居リマスル來
年度豫算ニ計上致シテアリマスカラ、是ガ
成立致シマスレバ、肥料價格ノ統制ニハ相
當ノ效果ガアルカト信ジテ居ルノデアリマス
更ニ負債整理ノ問題ニ付テ御言及ガアッ
タヤウデアリマスルガ、御話ノ通リニ或ハ
勸業銀行、其他ノ貸付金ノ取扱ヒ方ニ付キ
マシテハ、私共モ從來カラ種々心配ヲシテ
居ル點ガアルノデアリマス、銀行當局ニ於
テモ、外部デ御覽ニナル程サウ冷淡ニ扱ッテ
居ラレル譯デハナイノデアリマスケレドモ、
(「ノー〓〓」)併ナガラ其問題ニ付キマシテ
ハ、尙ホ考慮スベキ餘地ハ澤山アルト思ヒ
マス、尙ホ負債整理ノ問題ニ付キマシテハ、
更ニモウ少シ大規模ノ案ヲ立テタイト考ヘ
テ居リマシテ、成ベク今期議會ニ間ニ合ヒ
マスヤウニ〓究ヲ只今致シテ居ル所デアリ
マス、ソレカラ農地法ニ付テノ御意見デア
リマシタガ、是ハ農地法ヲ提案ノ上デ十分
ノ御意見ヲ伺ヒタイト考ヘマスカラ、此場
合ハ之ニ付テノ辯明ハ致シマセヌ
最後ニ農作物保險ノ問題デアリマスガ、
農作物保險ノ問題ハ私前囘農林省ニ居リマ
シタ當時ニ於テモ、色々考究ヲ致シタ問題
デアリマスガ、御承知ノヤウニ、此問題ハ
結局土地負擔ノ問題ヲ伴フ問題デアリマス、
其關係上是マデ解決未濟ニナッテ居ッタヤウ
ナ次第デアリマスガ、幸ニ來年度ニハ是ガ
調査費ヲ計上致シテアリマスカラ、其御協
贊ヲ願ヒマスレバ、相當ノ解決ヲ得ルモノ
ト考ヘテ居ルノデアリマス、是ダケ御答ヲ
申上ゲテ置キマス
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=12
-
013・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 中野君ノ御質
問ニ御答致シマス、先ヅ我ガ國民ガ三十億
ノ負擔ニ堪ヘナイヤウナ印象ヲ世界ニ與ヘ
ルコトハ、不利ヂヤナイカト云フ御話デア
リマス、我國ノ財政ハ只今ノ所悲觀スベキ.
何モノモゴザイマセヌ、私ガ財政計畫ノ見
透シガ付カヌト申シマシタコトハ、將來ニ亙ツ
テ計數的ニ玆ニ申上グルコトガ出來ナイト、
斯ウ云フ意味ニ過ギナイノデアリマシテ、
之ヲ以テ直チニ日本ノ財政經濟ガ見透シガ
付カヌ、悲觀的デアルト云フ風ニ考ヘル者
ガアリマシタナラバ、寧ロ其短見ニ驚クノ
デアリマス(笑聲)敢テ申シマス、私ガ財政
燮理ノ任ニアル間ハ、我國ノ信用ヲ損フヤ
ウナコトハ斷ジテ致サヌ積デアリマス
次ニ滿洲ノ產業計畫ニ付テノ御質問デア
リマシタガ、滿洲ノ資源開發ト生產ノ確立
トニ付キマシテハ、最モ必要ヲ感ジテ居ル
者デアリマシテ、是ガ計畫ハ各方面ト十分
ナル檢討ヲ致シマシテ、速ニ其方策ヲ樹ツ
ル考デアリマス
物價問題ニ付キマシテ御質問ガアリマシ
タガ、是ハ單ニ消費ノ節約ト云フコトノミ
ヲ考ヘテ居ルノヂヤアリマセヌ、私ハ單純
ナル緊縮政策ヲ執ル者デハナイノデアリマ
ス、產業ノ或ルモノニ對シテハ統制ヲ行フ
コトモ必要デアリマセウ、又物資ノ配給機
關ノ調節ト云フコトニ意ヲ注グコトモ必要
デアリマセウ、其他種々ナル施設ヲ要スル
コトデアリマスルガ、併シ根本ハ急激ニ膨
脹シタ豫算ニアッタト云フコトデ、取敢ズ此
點各位ノ協賛ニ俟ツ次第デアルノデアリマス
次ニ爲替管理ニ付テ御話ガアリマシテ、
必要デアルナラバ正貨ヲ現送シテモ宜イヂ
ヤナイカト云フコト、至極私モ同感デアリ
やっ、今日本カラ必要ナ國際貸借ヲ決濟ス
ル上ニ於テ、多少ノ正貨ヲ送リマシテモ、
何等ノ不安ガナイト云フコトヲ私ハ確言致
シマス、之ヲ以テ御答ト致シマス
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=13
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014・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 中野君ノ御尋ニ
御答シマス、私ハ大命ヲ拜シマシテ、此重大ナ
ル時局ニ直面ヲシテ、先ヅ考ヘタコトガ次
ノ三點デアリマス、今日ノ國際諸情勢、其他
ニ於テ我國ノ國防ノ充實ヲ第一ニ圖ラナケ
レバナラヌ、是ガ一ツ、其國防ノ充實ニ伴ッテ
國力ノ大ナル進展ヲ企圖シナケレバナラヌ、
卽チ經濟上ノ力ヲ十分ニ發展向上サセナケ
レバナラヌ、是ガ第二デアリマス、此國防
ノ充實、經濟ノ發展ト云フヤウナコトニ伴ッ
テ、諸般ノ革新ヲ行ハナケレバナラヌ、殊
私ノ考ヘマシタノハ、此五六十年ノ間ニ日
本ノ眞ノ姿ガ歪曲サレテ居ルモノガ多イ、
此機會ニ於テ此日本ノ眞ノ姿ヲ顯現スルト
云フ所ノ革新、是ガ最モ必要デアル、此三
點ヲ考ヘタノデアリマス、ソコデ國防ノ充
實ト云フコトニ付キマシテハ、數度ノ發表
ニ於キマシテ、所謂東亞ノ安定勢力タルコ
トノ抱負ヲ示シマシタ、此事ハ言葉ハ簡單
デアリマスガ、此抱負ヲ實現スル爲ニハ
十分ノ國防力ノ充實ヲシナケレバナラヌト
考ヘマス、其次ニ經濟ノ發展ト云フコト
ニ付キマシテハ、所謂產業ノ綜合的發
達ト云フコトト適切ナル統制ト云
フコトヲ申シマシタ此適切ナル、
統制ト云フコトハ必シモ退嬰的ナ東縛的ナ
統制ヲ意味シテハ居ラヌ考デアリマス、卽
チ中野君ノ言ハレタヤウナ積極的ノ、或ル
モノニ對シテハ助長的ノ意味ノ統制ヲ行フ
考デアリマス、次ニ革新ノ政策ニ付キマシ
テハ、所謂時勢ニ適合シテ諸種ノ革新ヲ斷
行スルト云フコトヲ誓ッテ居リマス、其細部
分ノ一々ノ成案ニ付キマシテハ、何分突如
トシテ大命ヲ拜シタノデアリマシテ、平素
ニ於テ十分ノ〓究ヲ致シテ居リマセヌカラ、
今此處デ明確ナル箇條ヲ擧ゲテ御約束ヲス
ルコトハ稍ミ困難デアリマス
次ニ外交ノ問題ニ付キマシテ、私ノ過日
來申シテ居ル所ヲ、諸方面ニ對シテ頭ヲ下
ゲル外交ト若シ御取リデアッタナラバ、ソレ
ハ大ナル誤リデアリマス、私ハ最初ニ國際
正義ヲ叫ンデ居リマス、國際正義ヲ以テ
成ベク諸邦トハ親交的態度ヲ執ッテ行クノ
デアル、初メカラ喧嘩外交ヲスルノデハナ
イ、併ナガラ正義ノ前ニハ如何ナル態度ヲ
執ルカ分ラナイ、必シモ叩頭政策ノミヲ執
ルモノト誤解ヲサレテハ困ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=14
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015・中野正剛
○中野正剛君 自席ヨリ簡單ニ申シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=15
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016・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=16
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017・中野正剛
○中野正剛君 私ノ質問モ可ナリ長カツタ
ノデアリマスガ、只今ノ答辯ハ、大部分君
ノ意見ニハ同意ダガ、例ニ依ッテマダ考慮
中、モウ少シヤレバ相當ノ效果ヲ收メル、斯
ウ云フ御話デアル、商工大臣モ貧鑛處理法、
モウ一ツノ石炭液化ノ問題、豫算ヲ撤囘シ
タガ、別ニ考ヲ有ッテ居ル、具體的ニハ成ッ
テ居ナイ、具體的ノ豫算ヲ撤囘シタナラバ、
具體的ノモノヲ指示シテ戴キタイノデアリ
マスガ、是モ考慮中トアレバ、追究シテモ
無用ニ考ヘマス、モウ少シ議場ヲ一ツ恐レ
ズニ、抱負經綸ヲ併セテ此議場ニ放送セラ
レルコトガ、國務大臣ノ態度デハナイカト
思フ、其意味ニ於テ、唯考慮中、代案ガア
ルト云フダケデ遁レラレルノハ、非常時國
務ヲ處理スル上ニ於テ私ハ足ラザルモノデ
ハナイカト思フ(「ヒヤ〓〓」)他ノ機會ニ於
テモウ少シ御話ヲナスッテ欲シイ
ソレカラ結城大藏大臣ガ先日來財政ノ見
透シ付カズト云フ言葉ヲ用ヒラレタ、是ハ
私ガ見透シ付カヌト云フコトデ怯エタノデ
ハナイ、私ハ見透シガ付クカラト云フ立場
デ縷々トシテ論ジタ、併シ世ニ斯ノ如キコ
トガ疑惑ヲ招クノデス、現ニ對外的反響ナ
ドモ多少アルヤウデス、ダカラ私ハ之ヲ是
正セラレンコトヲ望ンダガ、私ノ言フ通リ
ニ計數ヲ示ス能ハザルモ、日本ノ前途洋々
トシテ之ヲ切拔ケルノ自信ガアルト言ハレ
タコトハ結構ナ御話デアリマス、之ヲ誤解
スル者ハ短見ダト言ハレマシタガ、私ヲ短
見ダト仰シヤッタナラバソレハ認識ノ間違
ヒデアルト思フ、私ハサウ云フコトヲ言ッテ
居ナイ、天下ノ疑惑ヲ招ク、天下ノ疑惑ヲ
爲ス者ヲ短見ナリトスレバ、其短見ナル者
ガ天下ニ充滿スル虞ガアルナラバ、斯ノ如
キ短見ヲ懷カシメザルガ如キ明晰ナル御話
ガアルコトガ、アナタノ責任デアルト、斯ウ
思ヒマス、率直ナル御是正ヲ私ハ認メマス
一ツノ收穫トナッタコトハ、正貨ノ現送モ恐
レズ、ト云ハレタコトデス、是ハ初メテハッ
キリ致シマシタ、唯一ノ本質的答辯デアル
ト、斯ウ思ッテ居リマス
農林大臣ノ說明、肥料ノ法律ハ通過シタガ、
マダ本當ノ働キハ付イテナイノダ、是カラ付ケ
ルト言フガ、私ハ法律ガ出來ナクテモ、國務大
臣ノ立場トシテ肥料問題ニ對シテハモウ少シ働
キヲセラレテモ宜イト思フ(拍手)法律ヲ作
ラナケレバ何ニモ出來ナイト云フノハ官僚的デ
アル、農林大臣ハ日本ノ農政ヲ總攬シテ居
ル、農村ノ最モ重大ナル問題タル肥料問題
ニ對シテ法律ノ有無ニ拘ラズ、政府ノ働キ
ハ玆ニ見エテ宜シイト私ハ思ッテ居ル(拍手)
交付金ノ問題ニ付テ農林大臣ニ質問シタ
ノデハアリマセヌガ、大藏大臣モ農林大臣モ
一言ノ御答ヲナサラナイ、大藏大臣ニ對シ
テハ、是ハ私ハ他ノ問題ハ嚴正ニ批判シタ
ガ、私ハ交付金一億五千万圓ノ復活ハ日本
農村ノ全部ノ要望ナルガ故ニ、農民ノ爲ニ
懇願的ニ頭ヲ下ゲテ御考直シニナッテ復活
セラレタナラバ如何デアルカト云フタノデ
ス、私ノ農村ノ爲ニスル懇願的ノ質問ニ對
シテ、一言答ヘラレザルコトハ私ハ不滿足デア
ル、同時ニ大藏大臣ガ答ヘラレナイ時ニ、
農林大臣ガ何等カ之ニ代ル所ノ答辯ヲ與ヘ
ラレザルコトハ、同時ニ農林大臣ニ對シテ
モ不滿足デアリマス、銀行ノ取立ハ外カラ
想像スル程酷クナイト云フ農林大臣ノ認識
ハ間違ッテ居リマス、農村ニ何處カラ電報ガ
來ルカト云ヘバ、大抵銀行カラデアル、差
押處分、ソンナ事バカリデアル、葉書ガ來
ルト云ヘバ大抵ソンナ事デアル、是ハ人心
ガ怯エテ居ル、國家ノ公器タル金融機關ハ
高利貸デハナイ、ドウデス、此金融
機關ハ、其權能ヲ完ウセシメル爲ニハ
國家ガ補助シテ宜イ、已ムヲ得ズンバ統
制-補助ヲ同時ニヤルガ宜シイ、積極的ニ
出動セヨ、斯ウ言ッタノデアリマス、大藏大·
臣ハドウヤラソレニ對シテ御考ガアルカノ
如ク言ハレテ居リマシタガ、山崎君ハサウ
デモナイ、甚ダ間違ッテ居ル、アナタハ金融
業者ノ立場カラモノヲ言ハレルノハ慮外千
萬デアル、農林大臣ノ立場カラアナタハ斯ウ
云フ認識ヲ持タレルコトハ大ナル間違ダト
思ヒマス、農業保險ノコトモ山林ニ限ルカ
ノヤウデアリマス、ソレモマア調査費ヲ出
シテ居ルカラ後ハ言ハヌ、一ツ斯ウ云フコ
トヲ仰シヤッテ居リマス、是レ以上尋ネテモ
御話ガナカラウト思ヒマス
ソレカラ林總理大臣ノ外務大臣トシテノ
發言、私ハ叩頭外交ヲヤッテ居ルト言フノデ
ハナイ、過ギルト云フト叩頭外交ニ墮スル
一應ノ辭令ハ宜シイ、又ソレハ當然デアル、
八方ニ向ッテオ辭儀ヲシテモ宜シイ、軈テ八
方正眼ニナラナケレバナラヌデアラウト、斯
ウ言ウタノデアリマス、私ハ總理大臣ニ對
シテ喧嘩外交ヲ要求シタノデハナイ、冷靜
ニ步ミ出サンコトヲ要求シタ、アナタノ外
務幕僚ハ、前外相、前々外相カラノ幕僚デ
アリ、今マデノ外交ガ支離滅裂デアッタ、其
上ニ乘ッカッテ居ラレルカラ前外交ノ轍ヲ履
ムガ如キコトニ堕スルナキヲ私ハ警告シタ、
同時ニ外交陣ノ刷新ヲ要求スル、是モ刷新
スルマデ、此議場ニ於テ如何ニカ刷新スル
ト云フコトハ聲明出來ナイデアラウガ、實
ニダラシノナイモノデアルト云フコトダケ
ヲ、ハッキリ一ツ御記憶願ッテアナタノ無言
ノ行動ヲ靜ニ私ハ拜見シタイト思ヒマス、
斯ウ思ッテ居リマス
今日ハ色々質問致シマシテモ、進ンデ議
場ニ誠意ヲ披瀝シテ、有ユル機會ヲ捉ヘテ
非常時內閣ノ經綸ヲ國民ノ前ニ公開シ、吹
込ミ、全國民ヲ同意セシメ、鼓舞シヨウト
云フ意氣込ハドウヤラナイヨウデアル、否
其考ガナイ、無準備デアルト云ヘバ致シ方
ガナイガ、私ハ今後國務大臣諸君ガモウ少
シ積極的ニ國民ト共ニ政治ヲスルノ意氣込
ヲ示サレンコトヲ切ニ希望スル、私ノ質問
ハ是デ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=17
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018・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 是ニテ國務大臣ノ
演說ニ對スル質疑ハ終局致シマシタ、仍テ
是ヨリ法律案ノ審議ニ入リマス、日程第一
乃至第六ハ便宜上一括議題ト爲スニ御異議
アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=18
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019・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
そく、仍テ日程第一臨時租稅增徵法案、日
程第二法人資本稅法案、日程第三外貨債特
別稅法案、日程第四揮發油稅法案、日程第
五有價證劵移轉稅法案、日程第六明治四十
年法律第二十一號中改正法律案、右六案ヲ
一括シテ第一讀會ヲ開キマス-大藏大臣
兼拓務大臣結城豊太郞君
第一臨時租稅增徵法案(政府提出)
第一讀會
第二法人資本稅法案(政府提出)
第一讀會
第三外貨債特別稅法案(政府提出)
第一讀會
第四揮發油稅法案(政府提出)
第一讀會
第五有價證劵移轉稅法案(政府提出)
第一讀會
第六明治四十年法律第二十一號中改
正法律案(樺太ニ於ケル租稅ニ關ス
ル件)(政府提出)第一讀會
臨時租稅增徵法案
臨時租稅增徵法
第一條當分ノ內本法ニ依リ所得稅、法
人ノ營業收益稅、資本利子稅、相續稅、
鑛產稅、酒稅、砂糖稅、消費稅、取引
所稅及臨時利得稅ヲ增徵シ金鑛及銀鑛
ニ特別鑛產稅ヲ課ス
第二條所得稅中法人ノ普通所得及〓算
所得ニ對スル所得稅ニ付テハ所得稅法
第二十一條ニ規定スル稅率百分ノ五ヲ
百分ノ十、百分ノ十ヲ百分ノ二十トシ
タル場合ノ差增額ニ相當スル稅額ヲ增
徵ス
第三條所得稅法第四條ノ規定ニ依リ法
人ノ普通所得ヲ計算スル場合ニ於テハ
國債ノ利子額中其ノ國債ヲ所有シタル
期間ノ利子額百分ノ七十ニ相當スル金額
ヲ申請ニ依リ其ノ普通所得ヨリ控除ス
前項ノ申請ハ所得稅法第二十四條ノ申
告ト同時ニ控除ニ關スル明細書ヲ添附
シテ之ヲ爲スベシ
前二項ノ規定ハ法人ノ〓算所得ノ計算
ニ付之ヲ準用ス
第四條所得稅中同族會社ノ普通所得ニ
對スル所得稅ニ加算スル稅額ニ付テハ
所得稅法第二十一條ノ二ノ規定ニ依リ
算出シタル稅額ノ百分ノ五十ニ相當ス
ル稅額ヲ增徵ス
前項ノ規定ニ依ル增徵稅額ハ普通所得
ノ百分ノ四十ニ相當スル金額ヨリ普通
所得及超過所得ニ對スル所得稅額所
得稅法第二十一條ノ二ノ規定ニ依リ普
通所得ニ對スル所得稅ニ加算スル稅額
ヲ含ム)ト第二條ノ規定ニ依ル增徵稅
額トノ合計金額ヲ控除シタル殘額ヲ超
ユルコトヲ得ズ
第五條所得稅中第二種ノ所得ニ對スル
所得稅ニ付テハ所得稅法第二十二條第
一項ノ規定ニ拘ラズ左ノ稅率ニ依リ之
ヲ賦課ス
甲國債ノ利子百分ノ二
國債以外ノ公債ノ
利子百分ノ六
其ノ他百分ノ七·五
乙百分ノ十
第六條所得稅中第三種ノ所得ニ對スル
所得稅ニ付テハ所得金額ノ階級ニ從ヒ
左ノ割合ノ稅額ヲ增徵ス
所得金額二千圓以
下ナル所得所得稅額ノ百分
ノ二十
同三千圓以下ナル
所得所得稅額ノ百分
ノ三十
同七千圓以下ナル
所得所得稅額ノ百分
ノ三十五
同一萬五千圓以下
ナル所得所得稅額ノ百分
ノ四十
同十萬圓以下ナル
所得所得稅額ノ百分
ノ四十五
同百萬圓以下ナル
所得所得稅額ノ百分
ノ六十
同百萬圓ヲ超ユル
所得所得稅額ノ百分
ノ七十
所得金額ガ二千圓ヲ超エ三千圓以下ナ
ル所得ニ付テハ之ニ對スル所得稅額及
增徵稅額ノ合計金額ヨリ所得金額二千
圓ノ所得ニ對スル所得稅額及增徵稅額
ノ合計金額ヲ控除シタル殘額ガ所得金
額中二千圓ヲ超ユル金額ヲ超過スルト
キハ該超過額ニ相當スル金額ヲ其ノ增
徴稅額ヨリ控除ス
前項ノ規定ハ所得金額ガ三千圓ヲ超エ
七千圓以下ナル所得、同七千圓ヲ超エ
一萬五千圓以下ナル所得、同一萬五千
圓ヲ超エ十萬圓以下ナル所得、同十萬
圓ヲ超エ百萬圓以下ナル所得及同百萬
圓ヲ超ユル所得ノ各同樣ノ場合ニ付之
ヲ準用ス
山林ノ所得ト山林以外ノ所得トハ之ヲ
區分シ各別ニ前三項ノ規定ヲ適用ス
戶主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算
シ其ノ總額ニ付前四項ノ規定ヲ適用ス
戶主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ
所得ニ付亦同ジ
第七條法人ヨリ受クル利益若ハ利息ノ
配當又ハ剩餘金ノ分配ニ付テハ所得稅
法第十四條第一項第四號ノ規定ニ拘ラ
ズ前年三月一日ヨリ其ノ年二月末日迄
ノ收入金額(無記名株式ノ配當ニ付テ
ハ支拂ヲ受ケタル金額)ヨリ其ノ十分
ノ二ヲ控除シタル金額ニ依リ第三種ノ
所得ヲ算出ス
第八條法人ノ營業收益稅ニ付テハ營業
收益稅法第十條ニ規定スル稅率百分ノ
三·四ヲ百分ノ四トシタル場合ノ差增
額ニ相當スル稅額ヲ增徵ス
第九條資本利子稅ニ付テハ資本利子稅
法第六條ニ規定スル稅率百分ノ二ヲ百
分ノ四トシタル場合ノ差增額ニ相當ス
ル稅額ヲ增徵ス但シ貯蓄銀行ノ所有ス
ル國債ノ利子ニ對スル資本利子稅ニ付
テハ此ノ限ニ在ラズ
第十條相續稅ニ付テハ課稅價格ノ階級
ニ從ヒ左ノ割合ノ稅額ヲ增徵ス
課稅價格一萬圓以
下ナルトキ相續稅額ノ百分
ノ二十
同三萬圓以下ナル
トキ相續稅額ノ百分
ノ三十
同五萬圓以下ナル
トキ相續稅額ノ百分
ノ五十
同十萬圓以下ナル
トキ相續稅額ノ百分
ノ八十
同十萬圓ヲ超ユル
トキ相續稅額ノ百分
ノ百
第六條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ付
之ヲ準用ス
第十一條相續稅ヲ課スベキ相續財產ノ
價額中不動產及不動產ノ上ニ存スル權
利竝ニ信託財產タル不動產ノ元本ノ利益
ヲ受クベキ權利ノ價額ノ合計ガ相續財
產ノ價額ノ二分ノ一ヲ超ユルトキハ相續
稅法第十七條第一項但書ノ期間ハ之ヲ
十年內トス
第十二條鑛產稅ニ付テハ鑛業法第八十
五條ニ規定スル稅率千分ノ五ヲ千分ノ
六トシタル場合ノ差增額ニ相當スル稅
額ヲ增徵ス
第十三條金鑛及銀鑛ニハ鑛產物ノ價格
ノ千分ノ十三ヲ稅率ニ依リ特別鑛產稅
ヲルチノ
鑛業法中鑛產稅ニ關スル規定ハ第八十
八條ノ規定ヲ除クノ外前項ノ特別鑛產
稅ニ付之ヲ準用ス
第十四條酒稅中〓酒、白酒、味淋及燒
酎ノ造石稅ハ酒造稅法第四條ノ規定ニ
拘ラズ左ノ稅率ニ依ル
酒精分二十三度以下ノ〓酒及白酒
竝ニ酒精分三十度以下ノ味淋及燒酎
一石ニ付四十五圓但シ
連續式蒸餾機
ニ依リ製造シ
タル燒酎ニ付
テハ一石ニ付
二圓ヲ加ヘタ
ル金額
二酒精分三十度ヲ超エ四十五度以下
ノ燒酎
一石ニ付四十五圓ニ酒
精分三十度ヲ
超ユル一度每
ニ一圓七十錢
ヲ加ヘタル金
額但シ連續式
蒸餾機ニ依リ
製造シタルモ
ノニ付テハ四
十七圓ニ酒精
分三十度ヲ超
ユル一度每ニ
一圓八十錢ヲ
加ヘタル金額
三酒精分二十三度ヲ超ユル〓酒及白
須、酒精分三十度ヲ超ユル味淋竝ニ
酒精分四十五度ヲ超ユル燒酎
一石ニ付酒精分一度每
ニ二圓十五錢
第十五條酒稅中麥酒稅ニ付テハ麥酒稅
法第三條ニ規定スル稅率一石ニ付二十
五圓ヲ三十五圓トシタル場合ノ差增額
ニ相當スル稅額ヲ增徵ス
第十六條酒稅中酒精及酒精ヲ含有スル
飮料ノ造石稅ニ付テハ酒精及酒精含有
飮料稅法第二條ニ規定スル稅率中一圓
八十錢ヲ二圓十五錢、四十二圓ヲ五十
圓トシタル場合ノ差增額ニ相當スル稅
額ヲ增徵ス
第十七條砂糖消費稅ハ砂糖消費稅法第
三條ノ規定ニ拘ラズ左ノ稅率ニ依ル
一砂糖
第一種砂糖色相和蘭標本第十一號
未滿ノ砂糖
甲樽入黑糖及樽入白下糖但シ分
蜜シタルモノ、黑糖及白下糖以
外ノ砂糖ニ加工シテ製造シタル
モノ竝ニ全部又ハ一部ノ新式機
械ニ依リ製造シタルモノヲ除ク
百斤ニ付一圓
乙其ノ他
ノモノ百斤ニ付二圓七十
錢
第二種砂糖色相和蘭標本第二十二
號未滿ノ砂糖
百斤ニ付六圓五十
錢
第三種砂糖色相和蘭標本第二十二
號以上ノ砂糖
百斤ニ付八圓
第四種氷砂糖、角砂糖、棒砂糖其ノ
他類似ノモノ
百斤ニ付十圓
二糖蜜
第一種氷砂糖ヲ製造スルトキニ生
ズル糖蜜
甲糖分ヲ蔗糖トシテ計算シタル
重量全重量ノ百分ノ七十ヲ超エ
ザルモノ
百斤ニ付三圓五十
錢
乙其ノ他
ノモノ糖分ヲ蔗
町
ドンドゥ
ル重量百
斤ニ付八圓
第二種其ノ他ノ糖蜜
甲糖分ヲ蔗糖トシテ計算シタル
重量全重量ノ百分ノ六十ヲ超エ
ザルモノ
百斤ニ付圓
乙其ノ他
ノモノ百斤ニ付二圓七十
錢
三糖水百斤ニ付六圓五十
錢
第十八條取引所稅ニ付テハ左ノ各號ニ
定ムル稅額ヲ增徵ス
取引所營業稅ニ付テハ取引所稅法
第一條ニ規定スル稅率百分ノ十五ヲ
百分ノ十六·五トシタル場合ノ差增
額ニ相當スル稅額
二第二種有價證劵ノ賣買取引ニ對ス
ル取引稅ニ付テハ取引所稅法第五條
ニ規定スル稅率萬分ノ一·五ヲ萬分ノ
二·七、萬分ノ二·五ヲ萬分ノ四·五ト
シタル場合ノ差增額ニ相當スル稅額
第十九條臨時利得稅ニ付テハ臨時利得
稅法第十四條ニ規定スル稅率百分ノ十
ヲ百分ノ十五、百分ノ八ヲ百分ノ十ト
シタル場合ノ差增額ニ相當スル稅額ヲ
增徵ス
第二十條北海道、府縣、市町村其ノ他
ノ公共團體ハ本法ニ依リ增徵スル稅額
(第七條及第二十二條ノ規定ニ依リ增
額ト爲ル部分ヲ含マズ)又ハ本法ニ依
リ課スル特別鑛產稅ニ付附加稅ヲ課ス
ルコトヲ得ズ
附則
第二十一條本法ハ昭和十二年四月一日
ヨリ之ヲ施行ス
第二十二條左ノ法律ハ之ヲ廢止ス
一明治三十八年法律第十九號
明治四十二年法律第七號
第二十三條所得稅中第一種ノ所得稅ニ
付テハ普通所得ニ對スル所得稅ハ本法
施行後ニ終了スル事業年度分、〓算所
得ニ對スル所得稅ハ本法施行後ニ於ケ
ル解散又ハ合併ニ因ル分ヨリ、第三種
ノ所得稅ニ付テハ昭和十一一年分ヨリ本
法ヲ適用ス
第七條ノ規定ニ依リ第三種ノ所得ニ付
新ニ納稅義務ヲ有スルニ至リタル者ハ
昭和十二年四月十五日迄ニ其ノ所得金
額ヲ申〓スベシ
前項ノ場合ニ於テハ所得金額ノ申〓ト同
時ニ所得稅法第十六條又ハ第十六條ノ
三ノ規定ニ依ル控除ヲ申請スルコトヲ得
第二十四條法人ノ營業收益稅ニ付テハ
本法施行後ニ終了スル事業年度分ヨリ
本法ヲ適用ス
第二十五條資本利子稅中乙種ノ資本利
子稅ニ付テハ昭和十二年分ヨリ本法ヲ
適用ス
第二十三條第二項ノ規定ハ乙種ノ資本
利子稅ニ付之ヲ準用ス
第二十六條本法施行前ニ開始シタル相
續ニ付テハ本法ヲ適用セズ
第二十七條鑛產稅ニ付テハ昭和十二年
分ヨリ本法ヲ適用ス
第二十八條本法施行前ニ產出シタル金
鑛及銀鑛ニハ本法ヲ適用セズ
第二十九條沖繩縣ニ於テ製造シタル濁
酒以外ノ酒類ヲ帝國內ノ他ノ地方へ移
出スルトキハ大正十五年法律第十四號
附則第三項ノ規定ニ拘ラズ其ノ造石稅
ト第十四條ニ規定スル造石稅トノ差額
ノ稅率ニ依リ出港稅ヲ課ス
第三十條臨時利得稅ニ付テハ法人ノ臨
時利得稅ハ本法施行後ニ終了スル事業
年度分ヨリ、個人ノ臨時利得稅ハ昭和
十二年分ヨリ本法ヲ適用ス
第三十一條臨時利得稅法附則第二項中
「昭和十二年十二月三十一日」ヲ「昭和
十三年十二月三十一日」ニ、「昭和十二
年分」ヲ「昭和十三年分」ニ改ム
第三十二條大正九年法律第十二號第三
條ノ二乃至第六條中「臺灣」ノ下ニ
「、關東州」ヲ、第八條乃至第十條中「朝
鮮」ノ下ニ「、臺灣又ハ樺太」ヲ加フ
法人資本稅法案
法人資本稅法
第一條本法施行地ニ本店又ハ主タル事
務所ヲ有スル法人ハ本法ニ依リ法人資
本稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第二條前條ノ規定ニ該當セザル法人本
法施行地ニ資本ヲ有スルトキハ其ノ資
本ニ付テノミ法人資本稅ヲ納ムル義務
アルモノトス
第三條法人資本稅ハ法人ノ資本ニ付之
ヲ賦課ス
第四條第一條ノ規定ニ該當スル法人ノ
資本ハ各事業年度ノ各月末ニ於ケル拂
込株式金額、出資金額又ハ基金及積立
金額ヨリ各月末ニ於ケル繰越缺損金額
ヲ控除シタル金額ノ月割平均額ニ當該
事業年度ノ月數ヲ乘ジタルモノヲ十二
分シテ計算シタル金額ニ依ル
第二條ノ規定ニ該當スル法人ノ本法施行
地ニ於ケル資本ハ前項ノ規定ニ準ジ命令
ノ定ムル所ニ依リ計算シタル金額ニ依ル
法人ガ事業年度中ニ解散シ又ハ合併ニ
因リテ消滅シタル場合ニ於テハ其ノ事
業年度ノ始ヨリ解散又ハ合併ニ至ル迄
ノ期間ヲ以テ一事業年度ト看做ス
第五條本法ニ於テ積立金額トハ積立金
其ノ他名義ノ何タルヲ問ハズ所得稅法
第四條第一項ノ規定ニ依ル法人ノ普通
所得中其ノ留保シタル金額ヲ謂フ
第六條合併後存續スル法人又ハ合併ニ
因リテ設立シタル法人ハ合併ニ因リテ
消滅シタル法人ノ資本ニ付法人資本稅
ヲ納ムル義務アルモノトス
第七條營利ヲ目的トセザル法人ニシテ
所得稅法其ノ他ノ法律ニ依リ所得稅ヲ課
セラレザル者ニハ法人資本稅ヲ課セズ
第八條法人資本稅ノ稅率ハ千分ノ一ト
ス
前項ノ規定ニ依リ算出シタル稅額ガ年
十圓ニ滿タザルトキハ年十圓トス
所得及積立金額ナキ法人ノ法人資本稅
ハ之ヲ免除ス前二項ノ規定ニ依リ算出
シタル稅額ガ其ノ事業年度ノ所得金額
及其ノ事業年度末ニ於ケル積立金額ヲ
超過スルトキハ其ノ超過額ニ相當スル
法人資本稅ニ付亦同ジ
所得稅法第四條ノ規定ハ前項ノ所得金
額ノ計算ニ付之ヲ準用ス
第九條納稅義務者ハ命令ノ定ムル所ニ
依リ資本額ヲ政府ニ申告スベシ
第十條資本額ハ前條ノ申〓ニ依リ、申
告ナキトキ又ハ申〓ヲ不相當ト認ムル
トキハ政府ノ調査ニ依リ政府ニ於テ之
ヲ決定ス
第十一條稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調
査上必要アルトキハ納稅義務者又ハ納
稅義務アリト認ムル者ニ質問ヲ爲シ又
ハ其ノ帳簿物件ヲ檢査スルコトヲ得
第十二條第十條ノ規定ニ依リ資本額ヲ
決定シタルトキハ政府ハ之ヲ納稅義務
者ニ通知スベシ
第十三條納稅義務者前條ノ規定ニ依リ
政府ノ通知シタル資本額ニ對シ異議ア
ルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日
內ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ審査ノ請
求ヲ爲スコトヲ得
前項ノ請求アリタル場合ト雖モ政府ハ
稅金ノ徴收ヲ猶豫セズ
第十四條前條第一項ノ請求アリタルト
キハ所得稅法ノ所得審査委員會ノ決議
ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得稅法第五十二條及第六十一條第二
項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十五條前條第一項ノ決定ニ對シ不服
アル者ハ訴願ヲ爲シ又ハ行政裁判法ニ
依リ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十六條法人資本稅ハ事業年度每ニ之
ヲ徵收ス
第十七條同族會社ノ行爲又ハ計算ニシ
テ法人資本稅通脫ノ目的アリト認メラ
ルルモノアル場合ニ於テハ其ノ行爲又
ハ計算ニ拘ラズ政府ハ其ノ認ムル所ニ
依リ資本額ヲ計算スルコトヲ得
前項ニ於テ同族會社トハ所得稅法ニ規
定スル同族會社ヲ謂フ
第十八條詐僞其ノ他不正ノ行爲ニ依リ
法人資本稅ヲ逋脫シタル者ハ其ノ逋脫
シタル稅金ノ三倍ニ相當スル罰金又ハ
科料ニ處シ直ニ其ノ稅金ヲ徵收ス但シ
自首シタル者又ハ稅務署長ニ申出デタ
ル者ハ其ノ罪ヲ問ハズ
第十九條第十一條ノ規定ニ依ル帳簿物
件ノ檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ
虚僞ノ記載ヲ爲シタル帳簿書類ヲ呈示
シタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十條資本ノ調査又ハ審査ノ事務ニ
從事シ又ハ從事シタル者其ノ調査又ハ
審査ニ關シ知得タル祕密ヲ正當ノ事由
ナクシテ漏洩シタルトキハ五百圓以下
ノ罰金ニ處ス
第二十一條第十八條ノ罪ヲ犯シタル者
ニハ刑法第三十八條第三項但書、第三
十九條第二項、第四十條、第四十一條、
第四十八條第二項、第六十三條及第六
十六條ノ規定ヲ適用セズ
外貨債特別稅法案
外貨債特別稅法
第一條本法施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一年
以上居所ヲ有スル者ニシテ外貨債ヲ所有ス
ル者ニハ本法ニ依リ外貨債特別稅ヲ課ス
本法ニ於テ外貨債ト稱スルハ外國通貨
ヲ以テ表示スル國債及地方債竝ニ日本
法人ノ發行シタル社債ヲ謂フ
第二條外貨債特別稅ハ外貨債利子ニ付
之ヲ賦課ス
所得稅法第三條ノ二第一項(但書ヲ除
ク及第二項ノ規定ハ信託財產タル外
貨債ノ利子ニ付之ヲ準用ス
第三條外貨債利子ハ一月一日ヨリ六月
三十日迄及七月一日ヨリ十二月三十一
日迄ノ各期間中ニ於テ收入シタル外貨
債ノ利子金額ニ依ル被相續人ノ收入シ
タル外貨債ノ利子金額ハ之ヲ相續人ノ
收入シタル外貨債ノ利子金額ト看做ス
外貨債ニ付元本ノ所有者ニ非ザル者ガ。
利子ノ支拂ヲ受クルトキハ元本ノ所有
者ガ支拂ヲ受クルモノト看做ス但シ利
子ノ生ズル期間中ニ元本ノ所有者ニ異
動アリタルトキハ最後ノ所有者ヲ以テ
利子ノ支拂ヲ受クル者ト看做ス
第四條左ニ揭グル利子ニハ外貨債特別
稅ヲ課セズ
ー所得稅法其ノ他ノ法律ニ依リ第二
種所得稅ヲ課セラレザル者ノ所有ニ
屬スル外貨債ノ利子
二證劵ガ本邦(關東洲及南洋群島ヲ
含ム)內ニ在ラザル外貨債ノ利子
三利率年五分以下ノ外貨國債ノ利子
四利率年五分五厘以下ノ外貨國債以
外ノ外貨債ノ利子
五起債者ガ外貨債利子ニ對スル租稅
ヲ負擔スベキ旨ノ約款アル外貨債
ノ利子但シ其ノ約款ガ昭和十二年
一月一日前定メラレタルモノニ限
ル
第五條外貨債特別稅ハ外貨債利子金額
中外貨國債ニ在リテハ利率年五分、外
貨國債以外ノ外貨債ニ在リテハ利率年
五分五厘ニ相當スル金額ヲ超ユル金額
ニ十分ノ七ヲ乘ジタル金額ヲ以テ其ノ
稅額トス
第六條外貨債特別稅ニ付納稅義務アル
者ハ外貨債利子金額ヲ政府ニ申告スベシ
第七條外貨債利子金額ハ前條ノ申告ニ
依リ、申〓ナキトキ又ハ申〓ヲ不相當
ト認ムルトキハ政府ノ調査ニ依リ政府
ニ於テ之ヲ決定ス
第八條前條ノ規定ニ依リ外貨債利子金
額ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ納稅
義務者ニ通知スベシ
第九條外貨債特別稅ハ左ノ納期ニ於テ
之ヲ徵收ス
一月一日ヨリ六月
三十日迄ニ收入シ
タル利子ニ對スル
分其ノ年七月三十
一日限
七月一日ヨリ十二
月三十一日迄ニ收
入シタル利子ニ對
スル分翌年一月三十一
日限
納稅義務者納稅管理人ノ申〓ヲ爲サズ
シテ本法施行地外ニ住所若ハ居所ヲ移
ストキ又ハ法人解散シ〓算結了セント
スルトキハ前項ノ納期ニ拘ラズ直ニ其
ノ外貨債特別稅ヲ徵收スルコトヲ得
第十條收稅官吏ハ調査上必要アルトキ
ハ外貨債ノ利子ノ支拂ヲ受ケ若ハ支拂
ヲ爲スト認ムル者又ハ外貨債ノ利札ノ
賣却若ハ買入ヲ爲スト認ムル者ニ質問
ヲ爲シ又ハ其ノ帳簿物件ヲ檢査スルコ
トヲ得
第十一條前條ノ規定ニ依ル帳簿物件ノ
檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ虛僞
ノ記載ヲ爲シタル帳簿書類ヲ呈示シタ
ル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第十二條詐僞其ノ他不正ノ行意ニ依リ
外貨債特別稅ヲ通脫シタル者ハ其ノ通
脫シタル稅金ノ三倍ニ相當スル罰金又
ハ科料ニ處シ直ニ其ノ稅金ヲ徴收ス但
シ自首シタル者又ハ稅務署長ニ申出デ
タル者ハ其ノ罪ヲ問ハズ
第十三條外貨債特別稅ノ調査ノ事務ニ
從事シ又ハ從事シタル者其ノ調査ニ關
シ知得タル祕密ヲ正當ノ事由ナクシテ漏
洩シタルトキハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十四條第十二條ノ罪ヲ犯シタル者ニ
ハ刑法第三十八條第三項但書、第三十
九條第二項、第四十條、第四十一條、
第四十八條第二項、第六十三條及第六
十六條ノ規定ヲ適用セズ
第十五條所得稅法第十二條、第七十二
條第一項及第七十三條ノ規定ハ外貨債
特別稅ニ付之ヲ準用ス
第十六條大正九年法律第十二號第三條
ノ規定ハ外貨債特別稅ニ付之ヲ準用ス
朝鮮、臺灣、關東州又ハ樺太ニ住所ヲ有
シ又ハ一年以上居所ヲ有スル者ニハ命令
ノ定ムル所ニ依リ外貨債特別稅ヲ課セズ
第十七條北海道、府縣、市町村其ノ他
ノ公共團體ハ外貨債特別稅ノ附加稅ヲ
課スルコトヲ得ズ
第十八條外貨債特別稅ヲ課セラルル外
貨債ノ利子ニ付所得稅(第一種所得稅ヲ
除ク)又ハ資本利子稅ヲ課スル場合ニ於
テハ其ノ利子金額ヨリ外貨債特別稅相
當額ヲ控除シタル殘額ヲ以テ其ノ利子
金額ト看做ス
附則
本法ハ支拂期ガ昭和十二年一月一日以後
ニ在ル外貨債ノ利子ニ付之ヲ適用ス
揮發油稅法案
揮發油稅法
第一條揮發油ニハ本法ニ依リ揮發油稅
ヲ課ス但シ石炭、亞炭、油母頁岩又ハ
天然瓦斯ヲ原料トシテ製造シタル揮發
油ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二條本法ニ於テ揮發油トハ攝氏十五
度ニ於ケル比重〇·八〇一七ヲ超エザ
ル礦油ヲ謂フ
第三條揮發油稅ノ稅率ハ一キロリット
ルニ付十三圓二十錢トス
第四條揮發油ヲ製造セントスル者ハ製
造場一個所每ニ政府ニ申告スベシ其ノ
製造ヲ廢止セントスルトキ亦同ジ
第五條揮發油ノ販賣業ヲ營マントスル
者ハ販賣場一個所每ニ政府ニ申〓スベシ
其ノ販賣業ヲ廢止セントスルトキ亦同ジ
第六條揮發油稅ハ製造場又ハ保稅地域
ヨリ揮發油ヲ引取ルトキ引取人ヨリ之
ヲ徴收ス但シ命令ノ定ムル所ニ依リ揮發
油稅額ニ相當スル擔保ヲ提供シタルトキ
ハ二月內其ノ徴收ヲ猶豫スルコトヲ得
前項但書ノ規定ニ依リ擔保ヲ提供シタ
ル者期限內ニ稅金ヲ納付セザルトキハ
擔保ヲ以テ之ニ充ツ但シ金錢以外ノ擔
保ハ之ヲ公賣ニ付シ稅金及公賣ノ費用
ニ充テ不足金アルトキハ之ヲ追徵シ殘
金アルトキハ之ヲ還付ス
第七條政府ノ承認ヲ受ケ他ノ製造場又
ハ藏置場ニ移入スル目的ヲ以テ製造場
又ハ保稅地域ヨリ引取ル揮發油ニ付テ
ハ前條ノ規定ヲ適用セズ
前項ノ場合ニ於テハ引取先ヲ以テ製造場
ト看做シ引取人ヲ以テ製造者ト看做ス
第一項ノ揮發油ニシテ政府ノ指定シタ
ル期間內ニ引取先ニ移入セラレザルモ
ノニ付テハ引取人ヨリ直ニ其ノ揮發油稅
ヲ徵收ス但シ災害其ノ他已ムコトヲ得ザ
ル事由ニ因リ亡失シタルモノニ付政府ノ
承認ヲ受ケタルトキハ揮發油稅ヲ免除ス
第八條政府ノ承認ヲ受ケ輸出ノ目的ヲ
以テ製造場ヨリ引取ル揮發油ニ付テハ命
令ノ定ムル所ニ依リ揮發油稅ヲ免除ス
前項ノ揮發油ニシテ引取後六月內ニ輸
出セラレタルコトノ證明ナキモノニ付
テハ引取人ヨリ直ニ其ノ揮發油稅ヲ徵
收ス但シ災害其ノ他已ムコトヲ得ザル
事由ニ因リ亡失シタルモノニ付政府ノ
承認ヲ受ケタルトキハ揮發油稅ヲ免除ス
第九條前條第一項ノ揮發油ハ之ヲ本法
施行地ニ於テ消費シ又ハ本法施行地ニ
於テ消費スル目的ヲ以テ讓渡スコトヲ
得ズ但シ政府ノ承認ヲ受ケタルトキハ
此ノ限ニ在ラズ
前項ノ承認ヲ受ケタル揮發油ニ付テハ
直ニ其ノ揮發油稅ヲ徴收ス
第十條政府ハ第七條第一項又ハ第八條
第一項ノ揮發油ニ付必要アリト認ムル
トキハ命令ノ定ムル所ニ依リ引取人ヲ
シテ其ノ揮發油稅額ニ相當スル擔保ヲ
提供セシムルコトヲ得
第六條第二項ノ規定ハ前項ノ擔保ニ付
之ヲ準用ス
第十一條揮發油稅ヲ納付シ又ハ其ノ徵
收ノ猶豫ヲ受ケ製造場ヨリ引取リタル
揮發油ヲ同一製造場ニ戾入シタル場合
ニ於テ豫メ政府ノ承認ヲ受ケタルトキ
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ揮發油ヲ
製造場ヨリ引取ルモ更ニ揮發油稅ノ徵
收ヲ爲サズ
第十二條揮發油ハ第六條第一項但書、
第七條第一項、第八條第一項又ハ前條
ノ場合ヲ除クノ外揮發油稅納付前之ヲ製
造場又ハ保稅地域ヨリ引取ルコトヲ得ズ
第十三條揮發油ハ第六條第一項但書ノ
場合ヲ除クノ外揮發油稅納付前之ヲ消
費スルコトヲ得ズ
第十四條第六條第一項但書ノ場合ヲ除
クノ外揮發油稅納付前ニ於テ揮發油ニ
鑛油以外ノ物ヲ混和シタルトキハ第二
條ノ規定ニ拘ラズ其ノ混和ニ因リ製成
シタル物ヲ以テ揮發油ト看做ス
前項ノ場合ニ於テ政府ノ指定スル物ヲ
混和シタルトキハ其ノ混和ニ因リ增量
シタル分ニ對スル揮發油稅ヲ免除ス
第十五條揮發油稅ヲ納付シ又ハ其ノ徵
收ノ猶豫ヲ受ケタル揮發油ニハ揮發油以
外ノ鑛油ヲ混和スルコトヲ得ズ但シ混和
ニ依リ攝氏十五度ニ於ケル比重〇·八
〇一七ヲ超ユル礦油ヲ製成スルハ此ノ
限ニ在ラズ
第十六條揮發油ノ製造者又ハ販賣業者
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ揮發油ノ製造、
貯藏又ハ販賣ニ關スル事實ヲ帳簿ニ記
載スベシ
第十七條收稅官吏ハ揮發油ノ製造者
若ハ販賣業者ニ對シテ質問ヲ爲シ又ハ
左ニ揭グル物件ニ付檢査ヲ爲シ若ハ監
督上必要ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一製造者又ハ販賣業者ノ所持スル揮
發油
二揮發油ノ製造、貯藏又ハ販賣ニ關
スル一切ノ帳簿書類
三揮發油ノ製造、貯藏又ハ販賣上必
要ナル建設物、機械、器具、容器、
原料其ノ他ノ物件
第十八條前二條ノ規定ハ揮發油以外ノ
礦油ノ製造者又ハ販賣業者ニ付之ヲ準
用ス
第十九條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ
揮發油稅五倍ニ相當スル罰金ニ處シ直
ニ其ノ揮發油稅ヲ徵收ス但シ罰金額
ガ二十圓ニ滿タザルトキハ之ヲ二十圓
トス
政府ニ申告セズシテ第一條但書以
外ノ揮發油ヲ製造シタル者
二第九條第一項ノ規定ニ違反シ揮發
油ヲ消費シ又ハ消費ノ目的ヲ以テ讓
渡シタル者
三第十二條ノ規定ニ違反シ揮發油ヲ
引取リタル者
四第十三條ノ規定ニ違反シ揮發油ヲ
消費シタル者
五第十五條ノ規定ニ違反シ揮發油ニ
揮發油以外ノ鑛油ヲ混和シタル者
六前各號ノ外詐僞其ノ他不正ノ行爲
ヲ以テ揮發油稅ヲ逋脫シ又ハ逋脫セ
ントシタル者
前項第五號ニ該當スル者ニ付テハ其ノ
揮發油稅額ハ混和ニ因リ製成セラレタ
ル物ノ數量ニ依リ之ヲ計算ス
第二十條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ
百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
ー第十六條ノ規定ニ依ル帳簿ノ記載ヲ
怠リ若ハ詐リ又ハ帳簿ヲ隱匿シタル者
二政府ニ申〓セズシテ第一條但書ノ
揮發油ヲ製造シタル者
三第十七條ノ規定ニ依ル收稅官吏ノ
質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ〓僞ノ
陳述ヲ爲シ又ハ其ノ職務ノ執行ヲ拒
ミ、妨ゲ若ハ忌避シタル者
第二十一條第十九條ノ罪ヲ犯シタル者
ニハ刑法第三十八條第三項但書條、第
三十九條第二項、第四十條、第四十一
條、第四十八條第二項、第六十三條及
第六十六條ノ規定ヲ適用セズ
第二十二條揮發油ノ製造者又ハ販賣業
者ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其
ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ本法ヲ犯
シタルトキハ其ノ製造者又ハ販賣業者ヲ處
罰ス
第二十三條本法ニ於テ保稅地域ト稱スル
ハ關稅法ノ定ムル所ニ依ル
附則
本法ハ昭和十二年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
本法施行前ヨリ引續キ揮發油ヲ製造シ
又ハ其ノ販賣業ヲ營ム者本法施行後一月
內ニ其ノ旨ヲ政府ニ申告スルトキハ本法
施行ノ日ニ於テ本法ニ依リ申〓シタルモ
ノト看做ス
前項ノ揮發油製造者又ハ販賣業者ガ本法
施行ノ際製造場又ハ保稅地域以外ノ場所ニ
於テ十キロリットル以上ノ揮發油ヲ所持ス
ル場合ニ於テハ其ノ者ニ於テ本法施行ノ
日ニ之ヲ製造場ヨリ引取リタルモノト看
做シ昭和十二年五月三十一日限其ノ揮發
油稅ヲ徵收ス
前項ノ揮發油ニ付テハ其ノ數量及貯藏ノ
場所ヲ第二項ノ申告ト同時ニ政府ニ申〓
スベシ
明治四十四年法律第四十五號第一條中
「砂糖消費稅法、」及「、石油消費稅法」ヲ削
リ同法第二條中「石油消費稅法」ラ「揮發油
稅法」ニ、同法第三條中「石油消費稅法」ヲ
「揮發油稅法」ニ、「石油」ヲ「揮發油」ニ改
ム
大正九年法律第五十一號中「織物製品、」
ノ下ニ「揮發油、」ヲ加フ
有價證劵移轉稅法案
有價證劵移轉稅法
第一條有價證劵ノ賣買、交換、贈與、
遺贈其ノ他ノ原因ニ因ル移轉アリタル
トキハ本法ニ依リ有價證劵移轉稅ヲ課ス
第二條本法ニ於テ有價證劵トハ國債證
劵、地方債證劵、社債劵、產業債劵、商工
債劵及株劵竝ニ外國又ハ外國法人ノ發
行スル此等ノ性質ヲ有スル證劵ヲ謂フ
第三條甲種國債登錄簿ニ登錄シタル國
債ニ付テノ名儀變更及會社ノ社員ノ持分
ノ移轉ハ之ヲ有價證劵ノ移轉ト看做ス
第四條有價證劵移轉稅ハ有價證劵ノ取
得者之ヲ納ムベシ
第五條有價證劵移轉稅ハ左ノ區別ニ從
ヒ之ヲ納ムベシ
第一種有價證劵仲買人ヲ買受人トス
ル賣買取引ニ因ル移轉
國債證劵取得價
額萬分ノ
一
其ノ他ノ
有價證劵取得價
額萬分ノ
二
第二種第一種以外ノ移轉
甲取引所ノ實物市場ニ於ケル賣
買取引ニ因ル移轉
國債證劵取得價
額萬分ノ
二
其ノ他ノ
有價證劵取得價
額萬分ノ
四
乙其ノ他
國債證劵取得價
額萬分ノ
四
其ノ他ノ
有價證劵取得價
額萬分ノ
八
第六條前條ノ取得價額ハ賣買ニ因ル移
轉ニ付テハ賣買價額ニ依リ其ノ他ノ原
因ニ因ルモノニ付テハ移轉ノ時ノ價格
· 氏九
第七條有價證劵移轉稅ハ總テ一錢以上
トス一錢未滿ノ端數ハ一錢トシテ之ヲ
計算ス
第八條國、北海道、府縣、市町村其ノ
他命令ヲ以テ指定スル公共〓體ハ有價
證劵移轉稅ヲ納ムルコトヲ要セズ
第九條左ニ揭グル有價證劵ニ付テハ有
價證券移轉稅ヲ納ムルコトヲ要セズ
一一年內ノ期限ヲ以テ發行スル國債
證劵
二地方債證劵、勸業債劵及命令ヲ以
テ指定スル社債劵ニシテ額面金額二
十圓以下ノモノ
第十條左ノ各號ノ一ニ該當スル有價證
劵ノ移轉ニ付テハ有價證劵移轉稅ヲ納
ムルコトヲ要セズ
相續、法人ノ合併又ハ保險業法第
十三條ノ五ノ規定ニ依ル保險契約ノ
全部ノ移轉ニ因ル有價證劵ノ移轉
二日本銀行ヲ賣買ノ當事者トスル國
債證劵ノ移轉
三信託ノ場合ニ於ケル委託者ヨリ受
託者ヘノ有價證券ノ移轉
四信託終了ノ場合ニ於ケル受託者ヨ
リ委託者又ハ其ノ相續人ヘノ有價證
劵ノ移轉
五消費貸借及其ノ終了ノ場合ニ於ケ
ル無記名有價證劵ノ移轉
六短期〓算取引ニ於ケル受渡調節ノ
爲ノ賣買取引ヲ業トスル會員又ハ取
引員ノ代引ニ因ル有價證劵ノ移轉
七第一號及第三號ノ場合ノ外會社ガ
自己ノ株式ヲ取得スル場合ニ於ケル
有價證劵ノ移轉
八賣出ノ方法ニ依リ發行スル場合ノ
有價證劵ノ移轉
第十一條國債、地方債又ハ社債ノ總額
ヲ契約ニ依リ引受ケタル者又ハ募集ノ
委託ヲ受ケ自ラ其ノ一部ヲ引受ケタル
者ヨリノ引受ケタル有價證劵ノ移轉ニ
付テハ發行ノ日ヨリ一年內ニ限リ有價
證劵移轉稅ヲ納ムルコトヲ要セズ下引
受ヲ爲シタル者ヨリノ下引受ヲ爲シタ
ル有價證劵ノ移轉ニ付亦同ジ
第十二條有價證劵移轉稅ハ有價證劵ノ
移轉每ニ移轉當事者ガ命令ノ定ムル所
ニ依リ作成スル有價證劵移轉書ニ印紙
ヲ貼用シテ之ヲ納ムベシ
有價證劵仲買人ノ取扱ニ依ル有價證劵
ノ移轉ニ付テハ前項ノ規定ニ依ラズ移
轉ノ際有價證券仲買人其ノ稅金ヲ徵收
シ翌月十日迄ニ之ヲ政府ニ納ムベシ有
價證劵仲買人ヲ移轉當事者トスル有價
證劵ノ移轉ニ付亦同ジ
第十三條前條第二項ノ規定ニ依リ徵收
スベキ有價證劵移轉稅ヲ徵收セザルト
キ又ハ其ノ徵收シタル稅金ヲ納付セザ
ルトキハ國稅徵收ノ例ニ依リ之ヲ有價
證劵仲買人ヨリ徵收ス
第十四條本法ニ於テ有價證劵仲買人ト
ハ有價證劵ノ賣買又ハ其ノ媒介ヲ爲ス
ヲ業トスル者ヲ謂フ
第十五條有價證劵仲買人ノ業ヲ營マン
トスル者ハ每營業所ニ付豫メ政府ニ申
告スベシ其ノ營業ヲ廢止セントスルト
キ亦同ジ
第十六條有價證劵仲買人ハ營業ニ關ス
ル帳簿ヲ備ヘ命令ノ定ムル事項ヲ之ニ
記載スベシ
第十七條納稅義務者ハ有價證劵移轉書
ニ印紙ヲ貼用スルトキハ移轉書ノ紙面
ト印紙ノ彩紋トニカケテ自己ノ印章又
ハ署名ヲ以テ判明ニ之ヲ消スベシ
第十八條第十二條第一項ニ規定スル有
價證劵移轉書ニ付テハ印紙稅法ニ依ル
印紙稅ヲ納ムルコトヲ要セズ
第十九條收稅官吏ハ有價證劵仲買人ニ
對シ有價證劵ノ移轉ニ關スル事項ニ付
質問シ又ハ其ノ帳簿書類ヲ檢査スルコ
トヲ得
第二十條有價證劵移轉書ニ有價證劵ノ
取得價額ニ應ズル相當印紙ヲ貼用セザ
ル者ハ其ノ脫稅高五倍ノ罰金又ハ科料
ニ處ス但シ科料額ガ三圓ニ滿タザルト
キハ之ヲ三圓トス
有價證劵移轉書ヲ作成セズ因テ有價證
劵移轉稅ヲ逋脫シタル者亦前項ニ同ジ
第二十一條詐僞其ノ他不正ノ行爲ニ因
リ有價證劵移轉稅ヲ通脫シタル有價證
劵仲買人ハ其ノ脫稅高五倍ノ罰金ニ處
シ直ニ其ノ有價證劵移轉稅ヲ徵收ス但
シ罰金額ガ二十圓ニ滿タザルトキハ之
ヲ二十圓トス
第二十二條第十五條ノ規定ニ違反シ政
府ニ申〓セズシテ有價證劵仲買人ノ業
ヲ營ミタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十三條第十七條ノ規定ニ違反シ有
價證劵移轉書ニ貼用シタル印紙ヲ消サ
ザル者ハ有價證劵移轉書每ニ消サザル
貼用印紙額ノ二倍ニ相當スル罰金又ハ
科料ニ處ス但シ科料額ガ一圓ニ滿タザ
ルトキハ之ヲ一圓トス
第二十四條左ノ各號ノ一ニ該當スル者
ハ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第十六條ノ規定ニ違反シ帳簿ヲ備
ヘズ又ハ之ニ虛僞ノ記載ヲ爲シタル者
二第十九條ノ規定ニ依ル收稅官吏ノ
質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ
陳述ヲ爲シ又ハ其ノ職務ノ執行ヲ拒
ミ、妨ゲ若ハ忌避シタル者
第二十五條第二十條又ハ第二十三條ノ
罪ヲ犯シタル者ニハ刑法第三十八條第
一項ノ規定ヲ適用セズ
第二十條、第二十一條又ハ第二十三條
ノ罪ヲ犯シタル者ニハ刑法第三十八條第
三項但書、第三十九條第二項、第四十
候、第四十一條、第四十八條第二項、第
六十三條及第六十六條ノ規定ヲ適用セ
ズ
第二十六條有價證劵ノ移轉當事者又ハ
有價證劵仲買人ノ代理人、戶主、家族、
同居人、雇人其ノ他ノ從業者ガ有價證
劵ノ移轉ニ關シ本法ヲ犯シタルトキハ
其ノ有價證劵ノ移轉當事者又ハ有價證
劵仲買人ヲ處罰ス
附則
本法ハ昭和十二年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス
本法施行前ヨリ引續キ有價證劵ノ賣買又
ハ其ノ媒介ヲ爲スヲ業トスル者本法施行
後一月內ニ其ノ旨ヲ政府ニ申告スルトキ
ハ本法施行ノ日ニ於テ本法ニ依リ申告シ
タルモノト看做ス
明治四十年法律第二十一號中改正法律
案
明治四十年法律第二十一號中左ノ通改正
ス
第一條第一項ニ左ノ四號ヲ加フ
七相續稅
八資本利子稅
九外貨債特別稅
十法人資本稅
附則
本法ハ昭和十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=19
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020・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 只今議題トナ
リマシタ臨時租稅增徵法案竝ニ法人資本稅
法案外三件ノ政府提出ノ法律案ニ付テ說明
致シタイト存ジマス、御承知ノ如ク、前內
閣ハ我國ノ財政ノ狀況ニ照シマシテ、增稅
ノ必要已ムベカラザルヲ信ジ、增稅計畫ヲ
立テ、關係法律案ヲ本議會ニ提出致シタノ
デアリマス、幾多重要ナル國策ヲ遂行スル
必要アル、現下內外ノ情勢ヨリ致シマシテ、
遽ニ歲出ノ減少ヲ期シ難キコトハ明カデア
リマスルカラ、增稅ニ依リ相當多額ノ歲入
ノ增加ヲ圖ルコトノ緊要ナルコトハ、此機
會ニ於テ私ヨリ更メテ申述ブルノ要ハナイ
ト存ジマス
前內閣ニ於テ立案セラレマシタ增稅案
ハ、範圍極メテ廣汎ニ亙ッテ居リマスノデ、
現內閣成立〓々ノ際、十分之ガ審議ヲ遂グ
ルノ遑ガナク、隨テ右增稅案ヲ其儘本議會
ニ提出スルヲ得難キ事情ニアルノデアリマ
ス、併ナガラ我國財政ノ現況ニ照シ、增稅
ノ必要已ムベカラザルコトハ申スマデモナ
イコトデアリマスカラ、政府ハ差當リ臨時
應急ノ措置ト致シマシテ、大體ニ於テ現行
法ヲ基礎トスル臨時租稅增徵法案ヲ立案ス
ルト共ニ、前內閣ノ計畫致シマシタ新稅中、
此際實施スルヲ通當ト認メタルモノヲ取入レ
マシテ、玆ニ增稅案ヲ作成致シタノデアリマス
玆ニ提案致シマシタ臨時租稅增徵法案
ハ臨時應急ノ措置トシテ立案シタノデア
リマスルガ、增稅ヲ行フニ當リマシテハ、
相當多額ノ收入ヲ得ルト共ニ、又國民負擔
ノ現狀ニ顧ミ、其擔稅力ニ適應スルニ努メ、
直接稅殊ニ所得稅ノ增徵ニ重キヲ置キ、間
接稅ノ增徵ハ成ベク之ヲ少ナカラシムル
ヤウ意ヲ用ヒタノデアリマス、租稅ノ臨時
增徵ニ當リマシテハ、所得稅ニ付テハ比較
的負擔力アリト認メラルヽ第一種所得、卽
チ法人ノ所得ニ對シ、其普通所得ノ稅率ヲ
十割引上グルコトト致シマシタ、第三種所
得卽チ個人ノ所得ニ對シテハ、所得金額ノ
多少ニ應ジ增徵割合ヲ異ニ致シマシテ、
割乃至七割、平均五割程度ノ增徵ヲ行フコ
トニ致シマシタ、第二種所得稅ニ付テハ右
トノ權衡上、是亦五割ノ增徵ヲ爲スコトト
致シマシタ、尙ホ國債利子ノミヲ課稅外ニ
置クコトハ、適當ナラズト認メマシテ、百
分ノ二ノ稅率ニ依リ新ニ課稅スルコトト致
シマシタ、又配當所得ニ付キマシテハ、個
人所得ノ綜合ニ當ッテ、四割控除ヲ二割控
除ニ改ムルコトニ致シタノデアリマス、營
業收益稅ニ付キマシテハ、法人ニ對シテノ
ミ若干其稅率ヲ引上グルコトト致シ、資本
利子稅ニ付テハ他ノ收益稅トノ權衡ヲ圖
リ、十割ノ增徵ヲ行フコトト致シタノデア
リマス、相續稅ニ付テモ其稅率ヲ相當引上
グルノ餘地アルモノト認メマシテ、相續財
產ノ價格ニ應ジ、二割乃至十割程度ヲ增徵
スルコトトシタノデアリマスルガ、相續財
產中不動產ノ占ムル割合ノ多イモノニ對シマ
シテハ、年賦延納ノ期間ヲ延長致シマシテ、納
稅上ノ便宜ヲ與フルコトニ致シテ居リマス、
鑛業稅ニ付テハ、鑛產稅ノ稅率ヲ二割引上
グルト共ニ、現下ノ經濟狀態ニ照シ金鑛、
銀鑛ニ對シテモ、新ニ右ト同樣ノ割合ヲ以
テ、特別鑛產稅ヲ課スルコトト致シタノデ
アリマス、時局ノ影響ヲ受クル產業ハ、尙
ホ伸展ノ傾向ニ在ルニ顧ミマシテ、臨時利
得稅ヲ增徵スルコトト致シ、利得金額ニ對
シ法人ノ稅率百分ノ十ヲ百分ノ十五ニ、個
人ノ稅率百分ノ八ヲ百分ノ十ニ引上ゲ、尙
ホ同法ノ施行期間ヲ、此際一箇年延長スル
コトト致シタ次第デアリマス
次ニ酒稅デアリマスガ、酒造界ノ現狀竝
ニ酒類消費ノ趨勢ニ留意致シマシテ、酒造
稅ハ一割程度、麥酒稅ハ四割程度、酒精及
酒精含有飲料稅ハ二割程度、ソレ〓〓增徵
ヲ行フコトトシタノデアリマス、砂糖消費
稅ニ付テハ、各種砂糖ノ生產及消費ノ實情
ヲ考慮致シマシテ、一割五分程度ノ增徵ヲ
行フコトト致シタノデアリマス、取引所稅
中取引所營業稅ニ付キマシテハ、一割ノ增
徵ヲ行フコトト致シマシテ、取引稅ニ付テ
ハ物品ノ販賣取引ニ對スル稅率ハ之ヲ据置
キ、株式ノ賣買取引ニ對スル稅率ハ、之ヲ
相當引上グルノ餘地アルモノト認メマシテ、
八割ノ引上ヲ行フコトト致シタノデアリマ
ス、以上ハ臨時租稅增徵法案ノ說明ノ〓要
デアリマス
次ニ法人資本稅法案外三件ニ付キ說明ヲ
致シタイト存ジマス、先ヅ法人資本稅ハ法
人企業ノ發展ニ伴フ資本ノ集積ニ、擔稅力
アリト認メマシテ課稅スルコトト致シタ次
第デアリマシテ、法人ノ拂込資本金及積立
金ノ合計額ニ對シ、千分ノ一ノ比例稅ヲ課
スルノデアリマスガ、所得及積立金ナキ法
人ニ對シテハ、本稅ヲ免除スルコトト致シ
テ居リマス
外貨債特別稅ヲ創設致シマシテ、內地ニ
居住スル者ガ、本邦內ニ於テ外貨債ヲ所有
スルトキニ、之ニ對シテ課稅スルコトト致
シマシタ、外貨債ノ所有者ニハ相當ノ擔稅
力アリト認メラレマスノデ、本稅ヲ課スル
コトヲ適當ト認メタ次第デアリマス、而シ
テ本稅ノ稅率ハ外貨國債ニ付テハ利率年五
分ヲ超ユル金額ノ十分ノ七、其他ノ外貨債
ニ付テハ年五分五厘ヲ超ユル金額ノ十分ノ
七ト定メテ居リマス
又燃料政策ノ見地ヨリ致シマシテ揮發油
稅ヲ創設シ、製造場又ハ保稅地域ヨリ揮發
油ヲ引取ル際、其引取人ヨリ本稅ヲ徵牧ス
ルコトト致シマシテ、其稅率ハ一「キロリッ
トル」ニ付キ十三圓二十錢、卽チ一3 分
ン」ニ付キ五錢ト致シタノデアリマス、而
シテ石炭、油母頁岩等ヲ原料トシテ製造セ
ラルヽ所謂人造揮發油ニ付キマシテハ、特
ニ本稅ヲ賦課セザルコトト致シマシテ、又
揮發油ニ酒精等ヲ混用致シマシタ場合ニ於
テ、其增量分ニ付テモ本稅ヲ免除スルコト
ト致シテ居ルノデアリマス
有價證劵移轉稅ハ國債證劵、地方債證
劵、社債劵、株劵等有價證劵ノ賣買、交
換贈與等ニ依ル移轉ノ場合ニ課稅スルノ
デアリマシテ、有價證劵ノ取得者ヲ納稅義
務者ト致シ、其稅率ハ取得價格ノ萬分ノ一
乃至八ト定メテ居リマス、尙ホ地方稅ニ付
テハ其負擔過重ナルモノアル現狀ニ照シ、
此際暫定措置トシテ七千万圓程度ノ交付金
ヲ支出シ地方稅中負擔特ニ過重ト認メラ
ルヽ地租附加稅、戶數割、雜種稅等ノ輕減
ヲ圖ルコトト致シタノデアリマス
以上ニ依リマシテ所得稅ノ增加一億六千
三百十餘万圓、營業收益稅ノ增加三百九十
餘万圓、資本利子稅ノ增加千三百七十餘万
圓相續稅ノ增加百六十餘万圓、鑛業稅ノ
增加九十餘万圓、臨時利得稅ノ增加千五百
三十餘万圓、酒稅ノ增加千八百十餘万圓、
砂糖消費稅ノ增加七百四十万餘圓、取引所
稅ノ增加六百餘万圓、法人資本稅ノ創設ニ
依ル增收千五百四十餘万圓、外貨債特別稅
ノ創設ニ依ル增收二百七十餘万圓、揮發油稅
ノ創設ニ依ル增收千四百九十餘万圓、有價證
劵移轉稅ノ創設ニ依ル增收六百餘万圓ト相成
リマスルノデ、結局今囘提案致シマシタ增
稅案ニ依リマスレバ、二億六千九百五十餘
万圓ノ增收トナルノデアリマスルガ、事實
上ノ見合セトシテ地方稅輕減ノ爲ニ支出セ
ラルヽ七千万圓ヲ差引キマスレバ、國庫收
入ノ增加ハ一億九千九百五十餘万圓トナル
譯デアリマス、以上ハ今囘ノ增稅ニ關スル
諸法案ノ〓略ノ說明デアリマシテ、更ニ詳
細ノ點ニ付キマシテハ、適當ノ機會ニ於テ
說明ヲ致シタイト存ジマス
次ニ明治四十年法律第二十一號、樺太ニ
於ケル租稅ニ關スル法律中改正法律案ニ付
テ簡單ニ御說明ヲ申上ゲマス、今囘內地ニ於
ケル內國稅制ノ改正ニ伴ヒマシテ、樺太ニ於
テモ之ニ對應シテ、必要ナル稅制ノ改正整
備ヲ行フ方針デアリマシテ、新ニ相續稅、資本利
子稅、外貨債特別稅、法人資本稅等ヲ設クル
豫定デアリマスガ、稅率ヲ內地ト異ニスル等
ノ關係上、內地ノ稅法ヲ其儘樺太ニ施行シ
難キ事情ガアリマスノデ、命令ヲ以テ樺太
ニ對スル別段ノ規定ヲ設ケマス爲メ、是等
ノ諸稅ニ關スル規定ヲ、明治四十年法律第
二十一號樺太ニ於ケル租稅ニ關スル法律中
ニ、追加セントスル次第デアリマス、何卒
御審議ノ上御協贊ヲ與ヘラレンコトヲ、切
望シテ已マナイ次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=20
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021・松永東
○松永東君 議案ニ對スル質疑ハ他ノ日程
ト共ニ延期シ、明十九日定刻ヨリ特ニ本會
議ヲ開キ、之ヲ繼續スルコトトシ、本日ハ
是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=21
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022・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=22
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023・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會議事日
程ハ公報ヲ以テ御知ラセ致シマス、本日ハ
是ニテ散會致シマス
午後五時三十九分散會
衆議院議事速記錄第七號中正誤
頁段行誤正
九八二八スルカスル力
九八三二一物僚物價
一〇五三八補强保甲
一〇七三二三十一日、越十一日越エテ
エテ
一〇八四三御ザイマスゴザイマス
一〇八四六願イ願ヒ
一五三八引操返ル引繰返ル
一一五四一五相像想像
一一六一三四ヒンデルブヒンデンブル
ルググ
一一八一二外相海相発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X00819370218&spkNum=23
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