1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月二日(火曜日)
午後一時十一分開議
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議事日程 第十六號
昭和十二年三月二日
午後一時開議
質問
一 衆議院解散に關する質問(尾崎行雄君提出)
二 尾去澤鑛山中の澤鑛滓沈澱池ダム決潰に關する第二質問(川俣清音君外一名提出)
三 犯罪搜査に關する質問(青木雷三郎君提出)
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第一 農地法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
第二 救護法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 母子保護法案(政府提出) 第一讀會
第四 輸出補償法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 漁船保險法案(政府提出) 第一讀會
第六 漁船再保險特別會計法案(政府提出) 第一讀會
第七 森林火災國營保險法案(政府提出) 第一讀會
第八 森林火災保險特別會計法案(政府提出) 第一讀會
第九 恩給法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十 恩給金庫法案(政府提出) 第一讀會
第十一 會計檢査院法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十二 國民健康保險法案(政府提出) 第一讀會
第十三 保健所法案(政府提出) 第一讀會
第十四 結核豫防法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十五 樺太市制案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
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001・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 〓般ノ報〓ヲ致サ
セマス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
衆議院議員尾崎行雄君提出衆議院解散ニ
關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員川俣〓音君外一名提出尾去澤
鑛山中ノ澤鑛滓沈澱池ダム決潰ニ關スル
第二質問ニ對スル答辯書
衆議院議員靑木雷三郎君提出犯罪捜査ニ
關スル質問ニ對スル答辯書
(以上三月二日受領)
衆議院解散ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十二年二月二日
提出者尾崎行雄
衆議院解散ニ關スル質問主意書
一新聞紙ノ報ズル所ニ據レバ、政府ハ
直ニ衆議院ノ解散ヲ奏請スル覺悟ナリ
ト云ヘリ。又內閣大臣中ニモ、其意向
ヲ漏ス者アリト聞ク。
首相ハ、果シテ此ノ如キ意見ヲ有スル
平、又閣僚中ニ此ノ如キ言說ヲ爲ス者
アルモ之ヲ制止セズシテ可ナリト信ズ
ル乎。
衆議院議員ノ職責ハ、毫モ拘束セラルル
所ナク、君國ノ爲ニ其評決權ヲ使用スル
ニ在リ。故ニ如何ナル場合ニ於テモ、解散
ヲ豫告シ以テ其自由意思ヲ拘束セントス
ルガ如キハ、非立憲的言行タルヲ免レナイ。
特ニ議員多數ノ意向モ、未ダ發セラレザ
ル今日ニ於テ、之ヲ豫〓スルガ如キハ、
苟モ常識アル者ノ爲スベキ所業デハナイ。
に解散スレバ、總選擧後ノ議會ニ於テ、
必ズ政府案ヲ通過シ得ベキ見込確立セ
ザル場合ト雖モ、首相ハ尙ホ解散ヲ奏
請シテ可ナリト考フル乎。
解散後ノ議會ニ於テ、政府案ヲ通過シ得
ベキ見込ガ確立スレバ、解散ハ憲政ノ本
旨ニ協合スル行爲ニシテ、解散ヲ奏請セ
ザル事ガ、却ッテ非立憲的行爲トナル故
ニ輔弼ノ大臣タルモノハ、此鑑定ヲ下ス
ニ方ツテハ、最モ愼重ニ考慮シナケレバナ
ラヌ。若シ其判斷ヲ誤レバ、陛下ヲシテ
解散大權ノ運用ヲ誤ラシメ奉リタル結果
ヲ招來スル。改選セラレタ議會ガ、依然
トシテ前議ヲ執持スレバ、只徒ラニ總選
擧トイフ煩累ヲ國民ニ與ヘタダケデ、毫
モ國務ノ進行ニ裨益スル所ガナイカラデ
アル。
右ノ鑑定ヲ下スニ方ツテ、其材料トナルベ
キモノガ、二ツアル一ハ、總選擧後既ニ
年所ヲ經過シ、世態民情ガ大ニ變化シタ
事實デアリ、他ノ一ハ、前ノ總選擧後ニ行
ハレタ幾囘カノ補關選擧ニ際シ、多數ノ
投票ガ、前ト反對ノ方向ニ移動シタ事實
デアル。此外ニモ、心眼ヲ開イテ、輿論ノ
趨向ヲ觀破シ得タ時、又ハ閣僚ノ信望ヲ
以テ一世ヲ風靡シ得ベシト確信スル時ハ、
解散ヲ奏請シテモ宜シイガ、是レハ稀世ノ
傑物ニシテ、始メテ能クスル所ノ事柄デ
アルカラ、普通ノ政治家ハ、前記ノ二件
ヲ以テ、解散奏請ニ關スル鑑定材料ト爲
スヲ可トス
而シテ今日ハ總選擧後未ダ一年モ經過セ
ザルノミナラズ、補關選擧モ、マダ一囘モ
ナイカラ、政治的風潮ノ大ニ變化シタ徴
候ハ、何所ヲ探シテモ、見ルコトハ出來
ナイ。サレバ、强テ非立憲的行動ヲ執テ、
解散ヲ奏請シテモ、只徒ラニ累ヲ陛下
ト人民ニ及ボスダケデ、政府案通過ノ目
的ヲ達スル能ハザルコトハ明白デアル
(三懲罰的解散ハ「萬機公論ニ決ス」ノ御
趣意ニ背キ、憲政ノ根柢ヲ破壞スベキ
非行ナルガ、首相ハ尙ホ之ヲ敢行セン
トスル乎。
憲政布カレテ、將ニ五十年ニ垂ントスル
モ、尙ホ封建思想ヲ洗除スル能ハザル我
ガ官民中ニハ、議會ガ政府ニ反對スレバ、
其結果ノ如何ヲ顧ミズ、懲罰的ニ之ヲ解
散シテモ善イト考ヘル者モ少ナクナイヤ
ウダガ、ソレハ非常ナ心得違ヒデアル。
正當ニ選擧サレタ議員ガ、正當ニ其職責ヲ
行フニ方ツテ、之ヲ懲罰スルノハ、取リモ
直サズ國民ヲ懲罰スル所以デアツテ、而モ
純然タル憲法破壞ノ行爲デアル。
加之ナラズ之ガタメ君意民心ノ融和一致
ヲ妨碍シ、君民ヲ阻隔シ、以テ累ヲ帝室
ニ及ボスコト淺少デハナイ。
明治政府ノ藩閥全盛時代ニハ、何等ノ成
算モ目的モナク、議會ノ解散ヲ奏請シ、
總選擧ノ結果ヲモ待タズシテ、辭職シタ
內閣モアルガ、昭和時代ノ內閣ハ、マサ
カニ此ノ如キ失態ニハ出デマイト信ズル。
(四)何レノ點ヨリ觀察シテモ今日ハ解散
ヲ奏請シ得ベキ理由モ事實モナイガ、
若シ理不盡ニ解散ヲ奏請スレバ、豫算
案モ增稅案モ、多分不成立トナルデア
ラウ。其結果、首相等ガ國家ノ安危盛衰
ニモ關スルガ如ク明言シタ所ノ重要國
策ハ、總テ實行不可能ニナルガ、首相
ハソウナツテモ、輔弼ノ職責ニ背カナイ
ト信ズル乎。
議會解散ノ場合ニ於テ、憲法第八條ヤ第
七十條ヲ適用スルノハ、元來無理ナ所行
デアルガ、從來ノ惡慣例モアルカラ、之
ヲ踏襲シテ、一時ヲ糊塗スル事ハ出來ヤ
ウ。然シ五ケ月以內ニ開カルベキ新議會ニ
於テハ、政府反對ノ議員ガ、多分大多數
ヲ占ムルデアラウ、政府ガ提出スル所ノ
事後承諾案ハ、多分否決セラレルデアラ
ウ。從ツテ無理ニ著手シタ緊急施設ハ悉
ク中止セザルヲ得ナイカラ、內閣ハ總辭
職スルヨリ外ハナカラウ。果シテ然ラバ、
解散ハ僅カ四五ケ月間内閣ノ壽命ヲ延長
シタダケデ、君國ノタメニハ百害アツテ、
一利モナイ事ニナル。
(五)總選擧ニ於テ、多數ヲ制シ得ベキ見
込ナクシテ、一度解散ヲ奏請スルスラ、
非立憲的行爲デアル況ンヤ同一問題
ニ就テ、再度ノ解散ヲ奏請スルニ於テ
ヲヤ。然シ獨裁政治ノ實行手段トシテ
ハ、ソレガ最好方便デアルヤウニモ見
エルカラ、世間ニハ之ヲ主張スル者ガ
アルカモ知レナイ。首相ハ此場合ニ於
テ、再解散ヲ奏請スルモ不可ナシト信
ズル乎。
新議會ガ前議ヲ執ツテ渝ハラナイ場合ニ於
テハ、內閣ノ執ルベキ正道ハ、總辭職ニ
在ルコトハ論ズルマデモナイガ、辭職ス
レバ國家ノ安危ニモ關スル國策ノ遂行ニ
支障ヲ生ズルト云フ名義ノ下ニ、再ビ議
會ノ解散ヲ奏請シ、再ビ緊急處分ヲ施セ
バ、更ニ四五ケ月間、其所謂國策ナルモ
ノヲ繼續スルヲ得ベシ。現在ノ如キ軍事
外交ヲ是認スル者ハ、止ムヲ得ザル事態
トシテ、之ヲ是認スルカモ知レナイ。故
ニ獨伊流ノ獨裁政治ヲ移入セント欲スル
者ニ於テハ、カクスル事ガ、最モ巧妙ナ
手段デアラウ。然シムツソリニナシノ伊
國流、ヒツトラーナシノ獨逸流ノ政治樣
式ハ、一旦成立シテモ、收拾ス可ラザル
モノニナツテ忽チ潰崩スルニ相違ナイ。
加之ナラズ、此ヤリ方ハ、君民ノ間ニ、
獨裁者ガ介立シ、上下ヲ阻隔スル事ニナ
ルカラ、君意民心ノ一致ヲ以テ、主要條
件トナス所ノ我ガ國柄ニ於テハ、上ハ皇室
ノ尊榮ヲ維持シ、下ハ萬民ノ幸福ヲ保障
スル所以ノ道デハナイ。
故ニ萬一内閣ガ、再度ノ解散ヲ奏請スル
如キ事アツテモ、陛下ハ當然御裁可ヲ與
へ給ハラナイダラウカト恐察シ奉ル。民
主國ト云ハレル所ノ英國ニ於テスラ、內
閣ガ多數ヲ制シ得ベキ見込ガナイ場合ニ
ハ解散ノ奏請ヲ拒否スルノガ、國王當然
ノ任務トナツテヰル(トツド著議會政治
第二卷第四章參看)
獨伊兩國ハ、世界大戰爭後非常ノ窮地ニ
陷ツタカラ、之ヲ救フタメ、ヒツトラーヤ
ムツソリニガ、出テ獨裁者トナルコトヲ
得タノデアルガ、日本ハ大戰後未曾有ノ
幸運ニ惠マレ、今尙ホ各方面ニ於テ飛躍
的發展ヲ爲シツツアル。若シ外交宜シキ
ヲ得テ、敵ヲ四方ニ作ルガ如キ過失サヘ
ナケレバ、國運ハ隆々トシテ進展スベキ
順境ニ在ル。故ニヒツトラー、ムツソリ
ニアリト雖モ、我ガ國ニ於テハ、斷ジテ
獨裁權ヲ獲得スルコトハ出來ナイ。況ン
ヤ其人ナクシテ、其事ヲ行ハントシテモ、
到底成功シヤウ筈ガナイ。
右及質問候也
昭和十二年三月二日
內閣總理大臣林銑十郞
衆議院議長富田幸次郞殿
衆議院議員尾崎行雄君提出衆議院解散ニ
關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員尾崎行雄君提出衆議院解散
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
質問ノ要旨ハ新內閣ガ議會ニ臨ミテ直ニ
解散ヲ奏請スル意思アルヤ否ヤニ關スル
モノト認メラルルモ今日ニ於テハ特ニ答
辯ノ要ナキモノト思料ス
右及答辯候也
昭和十二年三月二日
內閣總理大臣林銑十郞
尾去澤鑛山中ノ澤鑛滓沈澱池ダム決潰
ニ關スル第二質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十二年二月十五日
提出者川俣〓音
外一名
尾去澤鑛山中ノ澤鑛滓沈澱池ダム決
潰ニ關スル第二質問主意書
本員等ハ先ニ尾去澤鑛山中ノ澤鑛滓沈澱
池ダム決潰ニ關スル質問主意書ヲ提出未
ダ答辯ヲ得ザルモ二月十二日仙臺鑛山監
督局及商工省當局ハ決潰原因ニ關シ公表
スル所ガアツタ右發表ハ本員等ヲシテ更
ニ疑問ヲ起サシムルモノアルニ付前囘ノ
質問ニ追加シテ下記各項ニ付テ政府ノ答
辯ヲ求メルモノデアル
一漏水ニ關シテ
前記仙臺鑛山監督局發表ニ重要ナル原
因ノ一ツトシテ漏水問題ヲ擧ゲ「數囘
ノ漏水アリタルニ拘ラズ鑛山側ニ於テ
ハ之ヲ重大視セズ其ノ原因究明モ不十
分ニシテ彌縫的ノ應急處置ヲ講ジタル
ニ止リ」ト稱シテヰル而シテ「數囘ノ漏
水」ハ昭和十一年五月以降旣ニ世評ニ
上リヲリタル所ニシテ又決潰「ダム」ノ
傍ニハ花輪警察署ノ駐在所サヘ所在シ
其ノ危險ハ當然警察署ヲ通シ或ハ其ノ
他ノ方法ニテ政府當局ニ報〓セラレヲ
リタルモノト思料スルガ
イ花輪警察署、秋田縣警察部ヲ通シ
漏水ノ都度政府當局ハ其ノ報告ヲ受
ケタルカ受ケタリトセバ其ノ報〓書
提出年月日ヲ明示サレタシ
ロ鑛山ノ警察事務ハ商工省當局之ヲ
行フ所ナルガ仙臺鑛山監督局ハ昨年
夏水門破損等ノコトアツタ際技手二
名ヲ派遣シ詳細ニ視察セシメ右復命
書ハ提出サレヲルモノト思料スルガ
鑛山監督局長ハ鑛業警察規則第七十
六條ニ定メラレタル處置ヲ講ジタル
七十二
二施業案ニ關シテ
仙臺鑛山監督局發表ニ擧ゲラレタ鑛泥
堆積方法ノ背反及漏水原因ハ鑛業法施
行細則第四十四條竝樣式第十九號ニ照
合シテ鑛業法第四十四條施業案ニ關ス
ルモノナリト思料ス
イ右記各原因ガ施業案ニ關スルモノ
デアル以上此等ノ工事或ハ送泥方法
竝其ノ變更ニ付テ三菱鑛業株式會社
ハ其ノ都度施業案ヲ提出スベキモノ
ト思料スルガ其ノ事實如何
ロ堰堤建設竝增設ノ年月日ト之ガ工
事監督ニ付當局ノ執リタル處置例ヘ
バ工事監督官ヲ派遣スルガ如キ等々
ノ處置ヲ執リタルヤ否ヤ
ハ鑛泥堆積方法ノ背反ノ如キ行爲ニ
對シ政府當局ハ決潰前如何ナル監督
ヲ爲シタルコトアリヤ若シ爲サザリ
シトセバ其ノ理由如何
ニ政府ハ施業案ニ悖ル數箇ノ決潰原
因ヲ擧示シ鑛業法第四十四條違反ト
シテ同法第九十七條ヲ適用シ責任者
ニ對シ告發ノ處置ニ出デタルモ更ニ
第四十條ノ規定ニ依リ三菱鑛業株式
會社ニ對シ尾去澤鑛山ノ鑛業權取消
ノ處置ニ出ヅルヲ適當ト思料スルガ
政府ハ果シテ其ノ處置ニ出ヅルヤ否
ヤ
右及質問候也
昭和十二年三月二日
內閣總理大臣林銑十郞
衆議院議長富田幸次郞殿
衆議院議員川俣〓音君外一名提出尾去澤
鑛山中ノ澤鑛滓沈澱池ダム決潰ニ關スル
第二質問ニ對シ別紙答辯書差進候
別紙〕
衆議院議員川俣〓音君外一名提出尾去
澤鑛山中ノ澤鑛滓沈澱池ダム決潰ニ關
スル第二質問ニ對スル答辯書
一漏水ニ關シテ
イ中澤鑛滓堆積場扞止堤防ニ於テ決
潰前數囘ニ亘リ漏水アリタル事實ハ
災害後ノ調査ニ依リ初メテ知リ得タ
ル所ナリ
ロ昭和十一年九月排水管ニ故障アリ
タル事實ニ付テハ別ニ報〓ヲ受ケタ
ルコトナク從テ之ガ調査ノ爲仙臺鑛
山監督局ヨリ局員ヲ出張セシメタル
コトナシ同年十月局員ヲ出張セシメ
クルモ右ハ金鑛買鑛事情及坑內狀況
調査ノ爲派遣シタルモノナリ
二施業案ニ關シテ
イ三菱鑛業株式會社ハ當初中澤鑛滓
堆積場ニ關シ所定ノ施業案ヲ差出シ
タルモ之ガ變更ニ際シテハ其ノ手續
ヲ爲サザリシモノナリ
ロ中澤堆積場扞止堤防ノ築堤工事ハ
昭和六年四月著手シ爾後數回增高シ
同十一年九月之ヲ完成セリ
鑛業警察ノ目的ヲ以テ昭和七年、同
八年及同十年本鑛山ニ出張ノ際堤防
ニ付テモ實地調査ヲ爲シタリ
ハ右實地調査ノ際ニハ施業案記載ノ
通操業シ居リタルモノナリ
ニ政府ハ三菱鑛業株式會社ニ對シ鑛
業法第四十條ノ規定ニ依ル鑛業權ノ
取消ヲ爲ス意思ナシ
右及答辯候也
昭和十二年三月二日
商工大臣伍堂卓雄
內務大臣河原田稼吉
犯罪捜査ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和十二年二月十八日
提出者靑木雷三郞
犯罪捜査ニ關スル質問主意書
犯罪捜査ノ規準ニ付テハ刑事訴訟法
ノ明記スル所ナルニ近時其ノ取扱著シ
ク常軌ヲ逸シ人權蹂躙ノ非難各處ニ起
レリ之カ公正釐革ヲ期スルハ光輝アル
我カ司法權ノ爲焦眉ノ急務ナリト認ム
政府ノ所見如何
二特ニ選擧違反搜査ニ付テハ其ノ弊害
極ニ達シ無辜ヲ罰スルノ餘儀ナキニ至
ル獨立セル裁判所カ時ニ或ハ搜査記錄
ヲ偏重シ公判第一主義ヲ喪フノ虞アリ
ト認ム政府ノ所見如何
三裁判所構成法ニ「檢事ハ其ノ上官ノ
命令ニ從フ」トアリ果シテ其ノ精神ハ
統一セラレヲルヤ曩ニ神奈川地方裁判
所檢事ハ人權蹂躪問題ノ爲引責辭職ス
ルニ當リ思想犯ニ付テハ拷問ヲ爲スコ
トヲ許サルルニ選擧違反ニハ用フルコ
ト能ハストセハ捜査方法一定セストノ
意味ヲ新聞記者ニ語リタリト云フ果シ
テ然ラハ特種ノ犯罪容疑者ニハ拷問ヲ
用ヒテ可ナリトノ命令ヲ與ヘタル上官
アリヤ
右及質間候也
昭和十二年三月二日
內閣總理大臣林銑十郞
衆議院議長富田幸次郞殿
衆議院議員靑木雷三郞君提出犯罪捜査ニ
關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員靑木雷三郞君提出犯罪捜査
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
犯罪搜査ニ當リテ捜査官憲カ人權尊
重ヲ旨トスヘキコトハ言ヲ俟タサル所
ニシテ從來此ノ趣旨ヲ貫徹スヘク注意
シ來レルモノナル處最近往々人權蹂躙
ノ非難起リタルヲ以テ全國的ニ銳意調
査シタル處司法警察官カ數ケ所ニ於テ
職權濫用ヲ爲シタルノ事實アリ其ノ他
ノ個所ニ於テモ被疑者取調ノ方法穩當
ヲ缺キタル事例アリタルヲ認メ洵ニ遺
憾ニ堪ヘサル所ナリ仍テ不取敢夫々適
當ナル處置ヲ執リタル次第ナルカ將來
斯ル非難ノ絶無ヲ期スヘク十分ナル注
意ヲ致シ度シ
二裁判所ハ自由ナル心證ヲ以テ證據ノ
取拾判斷ヲ爲シ以テ實體的眞實ニ合ス
ル栽判ヲ爲シ居レル次第ナリ
三搜査官憲カ被疑者ノ取調ニ當リ懇切
叮嚀ヲ旨トスヘキコトハ機會アル每ニ
注意シ來レル所ナリ上官ニシテ犯罪ノ
種類ニ依リ其ノ取扱ヲ二三ニセシムル
カ如キ命令ヲ爲シタルモノ有ルコト無
シ
右及答辯候也
昭和十二年三月二日
司法大臣鹽野季彥
內務大臣河原田稼吉
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ参照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
帝國ノ滿洲國ニ於ケル治外法權ノ撤廢及
南滿洲鐵道附屬地行政權ノ調整乃至移讓
ニ伴ヒ退官退職シタル者等ニ交付スル公
債發行ニ關スル法律案
朝鮮事業公債法中改正法律案
朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案
(以上三月一日提出)
議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
私生子ノ名稱ニ關スル法律案
提出者
内藤正剛君中山福藏君
行政執行法中改正法律案
提出者
內藤正剛君中山福藏君
松定吉君
刑事訴訟法中改正法律案
提出者
內藤正剛君松定吉君
刑法中改正法律案
提出者
中山福藏君內藤正剛君
松定吉君
刑事判決宣告猶豫ニ關スル法律案
提出者
中山福藏君內藤正剛君
松定吉君
陪審法中改正法律案
提出者
中山福蔵君內藤正剛君
一松定吉君
產師法案
提出者山口久吉君
琵琶湖築堤竝淀川水系開發ニ關スル建議
案
提出者中山福藏君
相可吉野口間鐵道敷設促進ニ關スル建議
案
提出者
長井源君濱田國松君
角源泉君松田正一君
警察官吏ノ公務鐵道三等運賃割引復活ニ
關スル建議案
提出者鶴惣市君
恩給法中改正ニ關スル建議案
提出者中野治介君
(以上三月一日提出)
一昨一日林內閣總理大臣ヨリ左ノ通發令ア
リタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
社會局部長〓水玄
同成田郞
第七十囘帝國議會內務省所管事務政府委
員被仰付
陸軍少將後宮淳
陸軍輜重兵大佐柴山兼四郞
第七十囘帝國議會陸軍省所管事務政府委
員被仰付
陸軍中將磯谷廉介
陸軍騎兵大佐石本寅三
第七十囘帝國議會陸軍省所管事務政府委
員被免
農林書記官湯河元威
第七十囘帝國議會農林省所管事務政府委
員被仰付
一昨一日衆議院規則第十五條ニ依リ議長ニ
於テ議席ヲ左ノ通指定セリ
六五板谷順助君
一昨一日議長ニ於テ辭任ヲ許可シタル常任
委員左ノ如シ
第二部選出
豫算委員宮澤胤勇君
第四部選出
豫算委員西岡竹次郞君
一昨一日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
アルコール專賣法案(政府提出)委員
委員長平川松太郞君
理事
野田武夫君信太儀右衞門君
岩瀨亮君
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會計
ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案(政府提
出)外二件委員
委員長木暮武太夫君
理事
渡邊玉三郞君田村秀吉君
佐藤謙之輔君小谷節夫君
片山秀太郞君
鐵道敷設法中改正法律案(政府提出)委員
委員長〓瀨規矩雄君
理事
植村嘉三郞君本田英作君
林讓治君
議院法中改正法律案(政府提出)委員
委員長橫山金太郞君
理事
田村秀吉君古田喜三太君
小林錡君中井一夫君
一昨一日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會計
ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案(政府提
出)外二件委員
辭任馬場元治君補闘三浦虎雄君
辭任丹下茂十郞君補關中村嘉壽君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=1
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002・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ヨリ會議ヲ開キ
マス、此際新ニ議席ニ著カレマシタ議員ヲ
御紹介致シマス、第六十五番、北海道第四
區選出議員板谷順助君
〔板谷順助君起立〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=2
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003・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 本日ノ日程ニ揭ゲ
マシタ質問ノ一乃至三ハ、何レモ政府ヨリ
答辯書ヲ受領致シマシタ、仍テ日程ヨリ之
ヲ省キマス、尙ホ質問ノ答辯ニ對スル意見
ノ陳述ノ申出ガアリマス、是ハ適當ノ機會
ニ許可スルコトニ致シマス-是ヨリ法律
案ノ日程ニ入リマス、日程第一、農地法案
ノ第一讀會ノ續ヲ開キ、前會ノ議事ヲ繼續
致シマス、通告順ニ依リ質疑ヲ許シマ
ス-長野長廣君
第農地法案(政府提出)
第一讀會(前會ノ續)
〔長野長廣君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=3
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004・長野長廣
○長野長廣君 私ハ農地法案ニ付キマシテ、
第一ニ小作關係ノ事項、第二ニ自作農維持
創定ニ關スル事項、二ツニ分ケマシテ農林
大臣ノ御答辯ヲ求メタイト存ジマス
偖テ本法案ハ農業ノ根本基礎ヲ成シマス
ル土地ニ關スル法令ヲ規定シタモノデゴザ
イマスル、土地ニ關スル法令ハ、農民ヲシ
テ土地ニピッタリ結付ケテ、サウシテ土地ノ
上ニ農家ガ安ラカニ樂シク農業經營ノ出來
ルヤウナ法律デナクテハナラヌト存ジマス、
然ルニ本法案ヲ眺メテ見マスルニ、其重要
ナル點ニ於テ大ナル缺陷ガアルト存ズルノ
デゴザイマス、若シ本法案ニシテ其缺陷アリ
ト致シマスルナラバ、我國ノ農業者ハ本法
案實行ノ後ニ於テ土地ヨリ離レルト云フ狀
態ニナルノデアリマス、土地ノ上ニ泣キ、
土地ノ上ニ不安ヲ懷キ、土地ノ上ニ抗爭ヲ
演ズルト云フ結果ヲ招來セヌトモ限ラヌノ
デアリマス、此意味ニ於キマシテ私ガ第一
ニ御尋致シタイコトハ、第一條ニ於テ「互
讓相助ノ精神ニ則リ自作地ノ創設維持及農
地ノ使用收益關係ノ調整ヲ圖ルヲ以テ目的
トス」ト規定セラレテ居リマス點デゴザイ
やっ、實際內容ヲ見テ見マスルニ、本法案
ハ極メテ劃一的ノモノデアリマシテ、殊
地方々々ノ實情ニ能ク適合セシムルベキ慣
習ヲ忽諸ニ付シテ居ルノデゴザイマス、現
ニ明治初年ニ於キマシテ、我ガ日本ノ各地
ニ土地問題ニ付テ種々ノ抗爭ヲ起シマシ
タ、就中高知縣ニ於キマシテ、明治初年ニ於
キマシテハ、地方ノ永小作問題ニ關スル慣
習ヲ無視シマシテ、永小作權ト地主ノ所有
權之ヲ統一スベク指令ヲ發シマシタ、爲
ニ地方ノ農民ニ一大紛議ヲ起シ、民論勃發
ヲ致シマシテ、遂ニ時ノ內務卿木戶孝允、
又大藏卿ノ大隈ト、此兩卿ハ訓令ヲ發シマ
シテ、其政府ノ指令ヲ取消シタノデゴザイ
マス、斯ノ如ク土地法案ヲ地方ノ實情ニ合
致セシメ、地方ノ慣習ヲ尊重セシムルト云
フ點ニ注意ヲ怠リマシタナラバ、必ズ地方
ニ斯ル問題ヲ生ズルノデアリマス、本法案
ヲ眺メテ見マスルニ、慣習ヲ尊重シテナイ、
慣習ニ一向眼ヲ著ケテ居ラナイノデゴザイ
マス、嘗テ町田農林大臣ノ頃ニ於キマシテ
ハ、到ル處デ重要ナル諸點ニ慣習ヲ重ンジ
タル法案ヲ作リマシテ、衆議院ヲ通過セシ
メタコトガアルノデアリマス、此點ニ非常
ナ本法案ノ缺陷ヲ認メルノデアリマス、果
シテ斯ル法案ヲ以テ地方ノ小作關係ヲ調整
シ得ルヤト云フニ、私ハ斷ジテ出來ナイト
思ヒマス、之ニ對シテ農林大臣ハ如何ノ御
考ヲ持タルヽカ御答辯ヲ御願致シマス
第二ニ我ガ小作問題ノ中デ特ニ力ヲ注グ
ベキモノハ、私ハ永小作ノ問題デアルト思
ヒマス、從來永小作問題ニ於キマシテハ、
盡スベキヲ盡サズ、法令民法等ニ於キマシ
テモ極メテ缺陷ガアッタノデゴザイマス、必
ズヤ本法案ニハ此點ニハ力ヲ注ガレテ居ル
ト思ヒマシタガ、豈圖ランヤ、僅ニ二箇條、
三箇條ヲ以テ糊塗セント致シテ居ルノデゴ
ザイマス、高知縣下ノ一例ヲ取リマスルト
云フト、高知縣下ノ永小作權ハ有名ナル特
色ヲ有スルモノデゴザイマス、ソレハ土地
ノ永小作地ノ所有權、ソレカラ永小作人ノ
持ツ權利、此二ツヲ比較シテ見マスルト、
永小作權ハ所有權ノ移轉シタルモノト關聯
スベキ性質ノモノデゴザイマス、隨テ
此永小作權ノ解決ヲスルニ付キマシテハ、
相當愼重ナル態度ヲ執ラナクテハナラヌ、
永小作權ニ對シテハ殆ド永久的ノ權利ヲ與
ヘルコトガ必要デアルノデアリマス、然ル
ニ此法案ニ付テ見マスルニ、永小作權滿了
ノ後僅ニ二十年ノ猶豫ヲ與ヘテアルノデア
リマス、斯ル短期間ニ於テ認メルコトニナ
リマスナラバ、必ズヤ斯ル習慣ノアル地方
ニ於テハ大問題ヲ勃發スルコトヲ豫言スル
ニ難クナイノデアリマス、殊ニ農業經營ノ
何物ナルヤヲ認識スル人デアリマシタナラ
バ、斯ル二十年ナント云フヤウナ規則ハ作
ラヌ筈デアル、農業ノ中ニハ春播イテ秋穫
ル稻モアリマスケレドモ、本年植ヱテ二十
年、三十年、乃至ハ七十年ノ後ニ漸ク收穫
ヲ擧ゲ得ル所ノ、良イ品質ノモノヲ澤山穫
リ得ル作物、梨トカ、蜜柑トカ云フヤウナ
果樹類ガアルノデゴザイマス、是等ノ作物
ヲ永小作地ニ植ヱル場合ニ於キマシテ、二十
年、三十年ノ後ニ早クモ永小作權ガ消滅ス
ルト云フコトヲ想起スル時ニ於テ、我ガ日
本ノ永小作人ハ安心シテ果樹栽培ヲスルコ
トガ出來マセウカ、況ヤ我ガ日本ノ國ノ天
然地質ト云フモノハ、申ス迄モナク果樹栽
培ニ適當シテ居ル、此適當シテ居ル我ガ日
本ノ果樹園藝ニ依ッテ生產シタルモノヲ、大
陸地方ニ大イニ輸出セナケレバナラヌト云
フ意味ニ於テ、我ガ日本ノ國ノ農業ノ特色
ヲ發揮シナケレバナラナイノデアリマス、
然ルニモ拘ラズ、永小作權ニ於テ僅ニ二十
年ノ猶豫ノ期間ヲ置クト云フガ如キハ、此
本質ヲ誤ルモノデハアリマスマイカ、斯樣
ナ意味ニ於テ私ハ此永小作權ニ關スル規則
ト云フモノガ、極メテ不適正ナルモノデア
ルト云フコトヲ斷言スルニ憚ラナイノデゴ
ザイマス、果シテ農林大臣ハ之ニ對シテ如
何ノ御考ヲ持ッテ居ラルヽカ
更ニ凡ソ小作問題ニ認識ヲ持ツ人ガ此
農地法案ヲ見ルナラバ、啞然トシテ驚クデ
アリマセウ、何トナレバ此法案ノ內容ノ中
ニハ、最モ使用收益ノ調整ヲ圖ル上ニ必要
ナル問題ガ脫却サレテ居ルノデアリマス、
例ヘバ小作條件ノ變更デアルトカ、或ハ小
作地ヲ賣買スル場合ニ於テ、地主ガ先ヅ小
作人ニ一應ノ慫慂ヲ爲シテ、買取ラナイカ
ト慫慂ヲスル問題デアルトカ、或ハ水害其
他ノ不作ノ場合ニ於キマシテ、一時的ニ小
作料ヲ減免スル問題デアルトカ、所謂小作
爭議ノ原因ニナルベキ問題ニ付キマシテハ、
十分ナル規定ヲ爲サナクテハナラヌ筈デア
ル、然ルニモ拘ラズ是ガナイノデアリマス、
或ハ農林當局ハ左樣ナコトニ付テモ種々考
ガアルト申サルヽカモ知レマセヌケレドモ、
眞ニ之ヲ認識スルナラバ、モウ少シ明確ナ
ル規定ガナケレバナラヌ、殊ニ最近農林當
局ガ發表ヲセラレマシタ農地制度要綱ナル
モノヲ眺メテ見マスルニ、斯ウ云フコトガ
書イテアル「小作爭議ハ未曾有ノ多數ニ上リ、
就中小作地引上ニ關スル爭議ノ激增ヲ見ル
ハ、眞ニ憂慮ニ堪ヘザルナリ」トアルノデ
アリマス、或ハ無條件ニ自作ヲ爲スト稱シ
テ土地ヲ取上ゲタリ、或ハ又種々ノ言草ヲ
以テ、權力ヲ以テ取上ゲ、此爲ニ起ル爭議
ガ最近非常ニ多クナッテ居ル、所謂小作爭議
ハ勞資關係デ、小作人ガ共同シテ地主ニ當
ルト云フ時代ハ過去ノモノデアリマシテ、今
ヤ地主ノ權力ヲ以テ小作爭議ヲ起スト云フ
時代ニナッテ居ルノデゴザイマス、而モ農林
當局ハ之ヲ認メテ居ル、認メテ居ルニ拘ラ
ズ、何故ニ之ヲ忽諸ニ付セラレタノデアル
カ、是ガ私ノ御尋シタイ所デゴザイマス、更
ニ又旣ニ前ニ小作立法トシテ此衆議院ヲ通
過シタル法案ノアルニ拘ラズ、之ヲ十分ニ
參考トシ、之ヲ十分ニ尊重シテ居ラナイ、殊
ニ此法案ノ出來ル爲ニハ、啻ニ政府當局ノ
ミナラズ、全國ノ學者、實際家、有ユル人
ヲ網羅シテ長イ間〓究ヲ遂ゲタルモノデア
リマス、左樣ナコトヲ農林省ハ嘗テヤリナ
ガラ、今此法案ヲ見ル所ニ依ルト、ソレ等
ノ貴重ナル〓究ヲ忽諸ニ付シテ居ル何處ニ
誠意ヲ認メ得ルカ、私ハ當局ノ誠意ヲ疑フ
ノデアリマス、凡ソ世界ヲ擧ゲテ、又日本
ヲ取ッテ來マシテモ、土地制度ノ改革ハ一國
社會制度ノ大改革デアル、所謂我ガ日本ノ
國體ニ基キマシテ、サウシテ如何ニ我國ノ
土地制度ヲ改メルカト云フコトニ付テハ、
大化ノ革新ト云ハズ、明治初年ノ改革ト云
ハズ、大イニ〓究ニ〓究ヲ重ネテヤッテ居ル、
重大ナル社會ノ根本ニ關係アル經濟問題デ
アル、此經濟問題、政治問題ヲ扱フニ、斯
ノ如キ輕々シキ態度ヲ執ラレタト云フコト
ハ、私ノ尊敬スル山崎農林大臣トシテハド
ウモ合點ガ行カナイ、恐ラク何カ別ニ理由
ガアリハシナイカト思フ、其理由ヲ御伺致
シタイノデゴザイマス
第二ニ自作農問題ニ付テ少シク御伺ヲ致
シテ見タイノデゴザイマス、小作人ガ政府
カラ金ヲ借リテ、融資ヲ受ケテ土地ヲ買取
ル、玆ニ今マデハ地主小作人關係デアッタ
モノガ、其地主ノ立場ハ政府ニ移ッテ、政府
對作人ノ關係ニナルノデアリマスル、眞之
於テ二十五年ノ後ニハ四十一万何千町步ト
云フモノガ、政府ガ地主ニナル、ソレヲ創
設サレタル自作農ト云フモノガ、小作人ト
云フ立場ニナッテ來ルノデアリマス、斯ク
致シマスルト、玆ニ大キナ問題ガ起ッテ來
ル、所謂自作農創設ノ根本精神、指導精神
ト云フモノヲ今ヨリ〓究シナクテハナラヌ、
否確定シテ置カナケレバナラヌノデアリマ
スル、之ヲ農林大臣ニ御伺致シタイノデゴ
ザイマス、此小作問題ヲ見ルニモ二ツノ見
方ガアル、一ハ日本精神ニ立脚シタル見
方、一ハ唯物史觀ニ立脚シテ、勞資關係
トシテ見ルノ見方デアリマス、今マデ御
承知ノ通リ我ガ日本ノ勞資、地主、小作
人ノ關係ニ於キマシテハ、申ス迄モナク勞
資關係ノ觀念ヲ以テスル者ガ多カッタノデ
アリマス、然ルニ政府ニシテ若シ斯ル觀念
ノ下ニ小作問題ニ對スルトシタナラバ、如
何ナル結果ヲ呈スルデアリマセウカ、嘗テ
農業不況ノ場合ニ於キマシテ、御承知ノ如
ク農民ハ此自作農創定ニ關スル年賦償還ノ
金ヲ納メル力ガ無イコトニナッタ、此場合ニ
農民ハ泣イタノデアリマス、然ルニ之ヲ取
立テル側ノ關係ニ於キマシテハ、隨分强烈
ナル方法ヲ以テ取ッタノデアリマス、現ニ私
ガ農村ヲ經營シ、又全國農村ヲ〓ッテ、サウ
シテ圍爐裏ヲ挾ンデ農民ノ聲ヲ聽ク際ニ於
テ、隨分ト悲痛ノ叫ビヲ聽イタノデアリマ
ス、ソコデ問題ガ政府ニ移ッテ來ルノデア
リマス、若シ斯ル態度、斯ル物質的態度ガ
强烈ニ小作人ニ向フ際ニ於テ、明ニ地主ハ
政府ニ移リ、小作人ハ作人ニ移リマシテ、
農民對政府ノ抗爭トナルノデゴザイマス、
偖テ諸君、德川時代ニ於テサヘ農民ノ塗炭
ノ苦ミヲ見ルニ忍ビズ、地主階級ノ佐倉宗
五郞ハ斯ル農民ト一體トナリマシテ、政府
ニ上訴シタデハアリマセヌカ、洵ニ斯ル現
象ガ起ルト云フコトヲ、場合ニ依ッテハ否
定スルコトハ出來ナイノデアリマス、玆ニ
私ハ是非共我ガ日本ノ政府ノ自作農創定制
度ニ於キマシテハ、政府ガ斯ノ如キ物質主
義、所謂勞資關係ト云フコトヲ離レテ、日
本精神ニ立脚スベキモノナルコトヲ主張ス
ル者デゴザイマス、政府ハ親デアリ、農民
ハ子デアル、親ト子ノ關係、此關係ニ於テ
慈愛溢ルヽ精神ヲ以テ政府ガ農民ヲ啓導
シ、農民ガ不景氣ノ爲ニ困窮ス·ル時ニハ
或ハ各種ノ例ヘバ年賦償還ノ猶豫ヲ與ヘル
トカ、或ハ大イニ期限ヲ延長スル、二十五
年ト云フヤウナ短イ期間デハイカナイ、四
十年、五十年ノ期間ヲ與ヘテ、農民ヲ助ケ
ル慈愛溢ルヽ態度ヲ以テ行クト云フコトガ
必要デハナイカ、斯樣ニ考ヘマスルガ、農
林大臣ハ日本精神ニ立脚シテ之ヲ行フ考ナ
リヤ、又勞資關係、唯物史觀ニ立脚スルノ
考ナリヤ、之ヲ御尋シタイト存ジマス
次ニ私ハ此自作農創設運動ヲ愈〓政府ガ
展開スル時ニ於キマシテ、直チニ根本問題
トシテ私共ノ頭ニ入ッテ來ルモノガアリマ
ス、ソレハ果シテ農民ハ此土地ヲ買取ルダ
ケノ經濟力アリヤ否ヤト云フ問題デゴザイ
マく、申ス迄モナク此土地ヲ買取ルニハ、
或ハ三百五十圓ト云ヒ、六百圓ト云ヒ、
反步ニ付テ巨額ノ金ヲ拂ハナクテハナリマ
セヌ、農民ハ塗炭ノ苦ミヲシテ居リマス、
殊ニ今日ハ現ニ私ノ知リタル村デハ、鹽ヲ
副食物トシテ嘗メテ生活シテ居ル者ガゴザ
イマス、更ニ又甚シキハ魚肉ヲサヘ食フコ
トノ出來ナイ者ガアリマス、斯ル狀態ニ
於キマシテ一反步數百圓ヲ投ズルノ經濟能
力アリヤ、殊ニ又斯ル說明ガアッタ場合ニ
於テモ考ヘラレマス、併シソレハ政府カラ
金ヲ貸スノダ、貸シテモ是ハ拂ハナクチヤ
ナラヌ、他日ニ於テ全ク農民ヲ泣カシメ、
困窮ニ陷レシメルコトヲ想起シナケレバナ
リマセヌ、斯ル農村悲痛ノ場合ニ於キマシ
テハ、實ニ此制度ハ洵ニ危險ナルモノデア
ルト考ヘナクテハナリマセヌ、併ナガラ若
シ政府ニシテ農村ヲ能ク理解シ、農民ニ善
政ヲ布クナラバ、農民ハ出來ザル間ニモ努
力シテ、サウシテ此土地ヲ獲得スルノ仕事
ヲスルノデアリマセウ、偖テ然ラバ如何
ナル點ニ注意スベキヤ、私ハ第一ニ交
付金問題、又都市ト農村ノ負擔ノ均
衡問題ヲ解決ヲシテ、農民ガ現ニ悲憤
慷慨ノ狀態ニアルモノニ對シテ、オ前
等ヲ助ケルゾヨト云フ態度ヲ政府ガ執ルコ
トニナリマスレバ、成ラザル間ニモ之ヲ爲
シ遂ゲントスル感激ガ起ル、農民ハ感激ニ
生キテ居リマス、此感激ニ投ズルモノコ
ツ、正ニ今日政府ノ執ルベキ途デアルト考
ヘマスルガ、新聞紙等ニ現レル所ヲ見マシ
テモ、又色々政府ノ御答辯ニ依リマシテ
モ、此決意ヲ披瀝スルコト中々困難ナノデ
アリマス、若シ玆ニ山崎農林大臣ニシテ、
シッカリシタ御態度ヲ披瀝セラレルコトガ
アリマスナラバ、全國四千万ノ農民ハ必ズ
ヤ感激シテ、此法案ノ實施ヲ翹望スルデゴ
ザイマセウ、斯ク私ハ信ズル次第デゴザイ
やっ、山崎農林大臣ハ此農村疲弊ノドン底
ノ際ニ於キマシテ、農村政策ニ對シ、殊ニ
交付金問題等ニ對シテ如何ナル御態度ヲ示
サルヽカ、明確ナル御答辯ヲ御願致シタイ
ノデゴザイマス
最後ニ私ハ總理大臣ニ一言御尋ヲ致シタ
イノデゴザイマス、從來我ガ日本ノ政策ハ
商工業ニ偏シ、農村ニ對シテ稍〓力ヲ拔イテ
居ルカノ感ガアルト云フコトヲ、世間デ能
ク唱ヘラレテ居リマシタ、然ルニ先般大藏
大臣ハ施政演說ノ中ニ於キマシテ、商工ニ
偏セズ又農村ニ偏セズト云フ意味ノ御話ガ
アッタノデゴザイマス、是ハ明ニ商工ト農民
ヲ對立シタ關係ニ於テ考ヘラレテ居ルノデ
アリマス、是ガ抑、農村政策ノ輕ンゼラレル
根本原因デアル、私共ノ見解ヲ以テスルナ
ラバ、農ハ有ユル產業ノ根本デアル、大地
ノ中ヨリ出ヅル生命力、是ガ米トナリ、麥
トナリ、材木トナル所ニ、有ユル產業ガ起ッ
テ來ルノデアリマス、之ニ奉仕スル農民ノ
魂ノ中カラ日本魂ガ生レ出テ來ルノデゴザ
イマス、此精神、此物質ト云フコトヲ考ヘ
マスルナラバ、農ハ正ニ有ユル產業ノ根本
デアル、此有ユル產業ノ根本デアル農業ヲ
振興シテコソ、玆ニ物質的產業モ興隆セラ
v、精神的振興アリ、更ニ國防問題ノ解決
モ、殆ド大部分之ニ依ッテ解決爲シ得ルト
私ハ信ズルモノデゴザイマス、然ルニモ拘
ラズ從來ノ政策ハ農業ニ輕キニ過ギタト思
フノデス、此法案ヲ眺メテ見マシテモ、法
案自體ガ農民ヲ侮辱シテ居ル、私ハ斯ク信
ズルモノデゴザイマス、斯ル法案ヲ作ル觀
念デアレバコソ、從來ノ國家ノ產業政策ト云
フモノガ、常ニ農業ニ輕ク、農業ヲ輕ンズ
ルト云フコトニナッタノデアリマス、此法案
亦然リデアリマス、總理大臣ハ、此我ガ日
本ノ國ノ產業政策ト云ハズ、有ユル政策ヲ
執ル上ニ於テ、農業ニ對シテ如何ナル態度
ヲ持ッテ居ラレルカ、之ニ對シテ明確ナル御
答辯ヲ希望スル次第デゴザイマス
以上ハ私ノ此農地法案ニ對スル直接間接
ニ政府ニ向ッテ御尋ヲシタイト思フ要點デ
アリマス、何卒明確ニ、具體的ニ、極メテ
滿足ノ行クヤウナ御答辯ヲ願ヒタイ、殊大
是レ一長野ニ對スル答ニアラズ、全國四千
万ノ農民ニ對スル答デアルコトヲ認識セラ
v、何卒々々御親切ナル御說明ヲ御願スル
次第デゴザイマス(拍手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=4
-
005・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 長野君ニ御答
ヲ申上ゲマス、第一ハ小作立法ニ於テハ
慣行ヲ尊重シナケレバナラヌノデアルガ、
今囘ノ法案ニハ慣行ヲ尊重スルノ跡ガ少イ
ヂヤナイカト云フ御趣意ノヤウデアリマシ
タガ、是ハ能ク法案ヲ御覽ヲ願ヒマスル
ト、長野君ノ御疑ハ直チニ氷解スルト存ジ
マー、昨日來度々此席ヨリ申上ゲマシタヤ
ウニ、小作關係等ニ付キマシテハ飽マデ醇
風美俗ヲ保持致シマシテ、法律ノ規定ニ依ッ
テ定メマスルコトハ、出來ルダケ之ヲ簡單
ニスルコトガ適當デアルト考ヘテ居ルノデ
アリマシテ、其點ハ長野君ノ御精神ト合致
イタシテ居ルト存ジマス、御心配ノヤウナ
點ハナイト心得テ居ルノデアリマス
第二ハ永小作ノ整理ノ問題デアリマスル
ガ、永小作ノ關係ニ付キマシテハ、先年ノ
小作法ニ規定ヲ致シタノト同一程度ノ規定
ヲ、今囘ノ立法ニ於テモ置イテ居ルノデゴ
ザイマス、御承知ノヤウニ、民法施行法等
ノ關係ガゴザイマシテ、マダ相當ノ期間ガ
殘サレテ居リマスルガ、永小作ニ付テノ根
本的ノ整理ハ、是ハ別ニ考慮スルコトガ適
當デアルト考ヘテ居ルノデアリマス
第三ハ小作料ノ減免其他各種ノ事項ニ付
テノ規定ガ少イヂヤナイカト云フ御意見デ
アリマシタガ、此點ハ第一ノ點デ申上ゲマ
シタヤウニ、又長野君モ御指摘ニナリマシ
タヤウニ、小作關係ノ規定ハ餘リニ煩瑣デ
ナイ方ガ宜シイ、出來得ル限リ地方ノ慣行
ニ依ッテ、之ヲ社會正義ノ觀念ニ依ッテ處理
セラレルコトヲ希望スル譯デアリマスノデ、
寧ロ長野君ノ御精神ニ合致スル意味ニ於テ
規定ハ簡略ニナッテ居ルト、斯ウ御諒解ヲ願
ヒタウゴザイマス
其次ハ、此重大ナル法案ヲ取扱フニ付
テ用意ガ缺ケテ居ルノヂヤナイカト云フ
御懸念デアリマスガ、成程先年小作法ヲ
立案致シマシタ際ニハ、小作調査會等ノ
設置ガ出來マシテ、極メテ愼重ナ態度ヲ
以テ、アノ法案ガ出來タ譯デアリマス、
爾來農林省ニ於テハ數年ニ亙リマシテ、此
問題ハ〓究ヲ續ケテ來テ居ッタ譯デアリマ
シテ、謂ハバ今囘ノ法案ハ先年提出セラレ
マシタ小作法ヲ基礎トシマシテ、之ヲ土臺
トシテ長イ間農林省ノ事務當局ニ於テ〓究
ヲシテ、サウシテ今日ノ時勢ニ照シテ、此
程度ノ立法ガ適當デアラウト云フ結論ガ付
イテ初メテ提案シタ、斯ウナッテ居ル譯デア
リマシテ、決シテ突如トシテ今囘ノ農地法
ヲ立案シタト云フ譯デアリマセヌ、謂ハバ
先年ノ小作法ガ基礎トナッテ、其基礎ニ基イ
テ社會ノ各方面ノ情勢ニ適應スルヤウニ手
ヲ加ヘテ今囘提案ヲシタ、斯ウ云フ經過ニ
ナッテ居リマスカラ、唯〓度出マシタト云フ
コトダケヲ御取リニナッテ、如何ニモ突如ト
シテ提案サレタト云フヤウナ御觀測ハ、私
ハ御改メヲ願ヒタイト存ジマス
自作農ノ創設維持ニ付テ、小作ノ關係ヲ
飽マデ勞資ノ關係ト見ルコトハ適當デナイ
ト云フ御意見デアリマシテ、其點ハ昨日
モ此席デ申上ゲマシタヤウニ、私モ同樣ニ
考ヘテ居ル者デアリマス、唯自作農ノ創設
ニ付テ、二十五年ヲ期限ト致シマシタコト
ハ、餘リ是ガ長クナッテモイケマセヌシ、
餘リ短クテモ宜シクアリマセヌノデ、償還
能力等ヲ參照致シマシテ、此程度ナラバ適
當デアラウ、斯ウ考ヘテ居ル譯デアリマス、
尙ホ既往ニ於ケル自作農ノ實績カラ考ヘテ
見マシテモ、此程度ノ期限デアリマスレバ、
餘リ無理ガナク、又餘リ冗漫ニ流レナイデ、
適當ナ期限デアルト信ジテ居ルノデアリマ
ス
自作農創設ノ計畫ヲ立ッテモ、農民ニ土地
買收ノ資力ガアルカト云フ點デアリマスガ、
是ハ現在ノ自作農創設ニ對シマシテ、各方
面カラノ希望ノ申込ノ狀況等カラ考ヘマシ
テ、今囘立テマシタ一箇年一万六千町步ヲ
目標トスル自作農創設ハ、是ハ優ニ實行ガ
出來ルモノト考ヘテ居リマス、一般ノ農村
對策ニ付キマシテハ、是ハ昨日來度々此席
ニ於テ御質問ニ應ジテ申上ゲマシタカラ、
之ニ依ッテ御諒解ヲ願ヒタイノデアリマス
シ、尙ホ交付金問題ニ付キマシテハ、昨日
モ申上ゲマシタヤウニ、只今十分考慮ヲ致
シテ居ル所デアリマス
最後ニ總理大臣ニ對スル御質問デゴザリ
マシタガ、今日ハ總理大臣ハ此席ニ出席ヲ
致シテ居リマセヌノデ、何レ適當ノ機會ニ
總理カラ御答ヲ申上ゲルコトトハ思ヒマス
ケレドモ、念ノ爲ニ若シ其機會ガナクナッテ
モイケマセヌカラ、私カラ一言ヲ致シテ置
キマスガ、成程日本ノ明治以來ノ政治ノ傾
向ヲ考ヘマスト、長野君ノ御心配ニナリマ
シタヤウナ嫌ヒガナカッタトハ申サレヌト
思ヒマス、併ナガラ是ハ我國ノ維新後ニ於
ケル國是、我國ノ世界ニ於ケル地位、其
他ノ點カラ考ヘマシテ、或ル意味ニ於テハ
已ムヲ得ザル點モアルカト考ヘルノデアリ
マく、併ナガラ長野君ノ仰セノ通リ、農村
ハ國ノ組織ニ於テ、又國民ノ精神ニ於テ、
產業ニ於テ、總テ基礎トシテ之ヲ考ヘテ行
カナケレバナラヌト云フコトハ、是ハ政府
ニ於テ少シモ異存ノナイ點デアリマシテ、
飽マデ農村ニ對スル政策ハ愼重ヲ期シ、苟
モ農村尊重ノ精神ニ缺クル所ノナイヤウニ
留意ヲ致スベキコトハ、申ス迄モナイコト
デアリマシテ、此點ハ私共モ長野君ト全然
同一ノ意見ヲ有ッテ居リマスコトヲ、御諒解
ヲ願ッテ置キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=5
-
006・長野長廣
○長野長廣君 簡單デアリマスカラ此處カ
ラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=6
-
007・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=7
-
008・長野長廣
○長野長廣君 只今ノ御答辯ニ對シマシテ
ハ、遺憾ナガラ甚ダ不滿デゴザイマス、但
シ委員會ノ機會モアリマスルカラ、其機會
ニ於テ十分政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=8
-
009・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 天辰正守君
〔天辰正守君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=9
-
010・天辰正守
○天辰正守君 私ハ只今上程サレテ居リマ
ス農地法案ニ對シマシテ、極ク簡單ニ數點
ノ質疑ヲ試ミタイト思ッテ居リマス、先ヅ最
初ニ本法案ヲ御提案ニナリマスル農林大臣
ノ御信念ヲ伺ヒタイノデゴザイマス、本法案
ハ御提案ノ趣旨ヲ完ウシマスニ付キマシテ、
洵ニ不徹底デアルト思ヒマス、御承知ノ通
リ時代ノ趨勢ハ時々刻々ニ進展シ、今日ノ
法律ハ明日ノ法律トシテ時勢ニ適應セザル
ニ拘リマセズ、將來二十五年モ先ヲ見越シ
テ、而モ十億ノ國帑ヲ使ッテ自作農ヲ創定サ
レント爲サレル御努力ノ御親切ハ感謝ニ堪
ヘマセヌガ、斯ノ如キ不徹底ナ法案デハ、
農村ノ生活安定、農村ノ振興、共ニ達シ得
ラレナイト思フノデゴザイマス、政府ハ本
法案ニ依ッテ御提案ノ趣旨ノ農村ノ現狀ニ
鑑ミ、農村生活ノ安定及ビ農村ノ振興ヲ期
スルコトガ出來ルト云フ御信念ノ下ニ御提
案ニナッタノデアルカ、私ハ將來二十五年ノ
內ニハ非常ナル時勢ノ變遷ヲ見テ、或ハ法
律ノ力ニ依ッテ、地主ノ土地所有ノ最高限度
ヲ取極メルヤウナ法制ガ、確立ヲ見ナイト
モ限ラナイト思フノデゴザイマス、本法案
ノ如キハ後ニシテ、農村ノ生活ノ安定トカ、
農村ノ振興ト云フヤウナ事ナドニ對シマシ
テハ、マダ〓究スベキ問題ガ多々アルデハ
ナイカト思フノデゴザイマス、嘗テ政府ガ
普通選擧ノ叫ビニ對シテ、我國ニ於テ洵ニ
仕樣ノナイ所ノ陪審制度ヲバ設ケテ、普選
ノ聲ヲバ囘避シタコトガゴザイマス、ソレ
ト同樣ニ小作人ノ苦痛ヲ叫ブ所ノ小作立法
ヲ囘避センガ爲ニ、斯ノ如キ洵ニ要領ヲ得
ザル所ノ農地法案ヲ御提案ニナッタノデハ
ナイカト、疑ハザルヲ得ナイノデゴザイマ
ス(拍手)
私ハ第二點トシマシテ、本農地法ノ最モ
重要ナル機關ヲ成シテ居リマスル所ノ、農
地委員會ニ付キマシテ御尋シタイト思ヒマ
ス、農地法ニアル農地委員會ナルモノハ、
如何ナル人々ガ委員ニ選バレルカ、是ハ勅
令ニ依ラナケレバ分リマセヌガ、從來農業
者ノ利益ヲ增進スル爲ニ組織サレマシタ各
種團體、卽チ農會、產業組合、負債整理組
合等ノ役員又ハ委員ハ、悉ク地主又ハソレ
等地主ニ諒解ノアル者デアルノデゴザイマ
ス(拍手)今囘ノ農地委員モ恐ラクソレ等ノ
人々ガ委員ニ選バレルノデハナイカト心配
致スノデゴザイマス、サウデナクトモ、若
干ノ小作人ノ代表ガ加ハリマシタト致シマ
シテモ、利害相反スル、而モ地主ニ對シテ
平素頭ノ上ラナイ所ノ小作人デアリ、地主
ノ爲ニ抑ヘラレテ來テ居ル所ノ小作人ガ、地
主ト對等ニシテ協定ヲスルコトハ、頗ル困
難デハナイカト思ヒマス、其爲ニ却テ兩者
間ニ紛爭ヲ捲起ス所ノ原因ニナルノデハナ
イカト思フノデゴザイマス、當局ハ之ニ對
シマシテ如何ナル考ヲ御持チデゴザイマス
ルカ
次ニ小作人ノ絕叫シテ居リマスル所ノ、
小作法ノ立法ニ付テ御伺シタイノデゴザイ
マく、御承知ノ通リ地主ハ土地ヲ所有スル
所ノ、强力ナル所有權ヲ持ッテ居リマス、反
對ニ小作人ハ土地ヲ借地シテ耕作スル、至ッ
テ微力ナルモノデアリマス、此兩者ノ間ノ
契約ハ自由ト平等ノ望マレマセヌコトハ申
スマデモナイコトデゴザイマス、農地法ハ
自作農ヲ創定スルコトガ、其目的ノ一ツデ
アルヤウデアリマスガ、我國全部ノ農民ヲ
シテ自作農トナスコトハ頗ル困難ナコトデ
アリマス、是ハ昨日農林大臣モ申サレマシ
タ所デゴザイマシテ、現在ノ小作農ノ大部
分ハ、ヤハリ小作農トシテ殘サレナケレバ
ナラナイコトハ申スマデモナイコトデゴザ
イマス、然ラバ本法案ノ如キモノヨリモ以前
ニ、先ヅ小作人ノ地位ヲ法律上向上セシム
ルト云フコトガ、私ハ先決ノ問題デハナイ
カト思ヒマス(拍手)農林大臣ノ農村ノ麗ハ
シイ醇風美俗デアル所ノ相互妥協ノ精神ニ
俊をノ地主、小作人ガ一體トナッテ、自作
地ノ創設ヲ見ナケレバナラナイ旨ノ御答辯
ヲ、昨日來拜聽シタノデゴザイマス、農林
大臣ハ小作人ト云フモノハ地主ニ常ニ抑ヘ
ラレ、サウシテ小作人ハ地主ニ對シテ
常ニ奴隸的關係ニナケレバナラナイト云
フコトハ、小作人ノ宿命的デアルト云フ御
認識デハナイカト云フコトヲ疑ハザルヲ
得ナイノデゴザイマス(「ヒヤ〓〓」)實際
我國ニ於テ假ニ奴隸制度ノ遺物ガアリト
シマスルナラバ、私ハ地主ト小作人ノ制
度コソ其顯著ナルモノデアルト思フノデゴ
ザイマス、小作人ノ地主ニ對スル關係ハ、
主從ノ關係ヨリマダ以上ニ、精神的、物質
的ニ奴隸的關係ニアルノデゴザイマス、昔
德川幕府ノ封建政治ハ、百姓ノ上納搾取ヲ
唯一ノ財源トシテ、サウシテ搾レバ搾ル程
油ノ出ルモノダトシテ、頻リニ時ノ幕府ハ
百姓ヲ搾取シタノデアリマス、此昭和ノ有
難イ御代ニナリマシテモ、小作人ハ地主ヨ
リ搾取サレルト共ニ、政府ヨリ重壓サレテ
居ル有樣デアリマシテ、小作人ト地主トノ
關係モ、昔ト大シタ違ヒハナイノデアリマ
ス、此說明ヲ要スルマデモナキ顯著ナル事
實ニ對シテ、農林大臣ハ農村ハ互讓妥協ノ
精神ニ依リ云々、又ハ農村ハ地主小作人一
體トナリテ云々、如何ニモ小作人ノ法的地
位ノ向上ヲ囘避サレルガ如キ感ヲ深クスル
ノデゴザイマス、農林大臣ノ考ヘラルヽヤ
ウニ、地主ト小作人トノ間ニ於テノ互譲妥
協ハ、決シテ精神的ニ旨ク行クモノデハア
リマセヌ、唯形ノ上ノ妥協ニ過ギナイト思
ヒマス、左樣シマスレバ何レカノ機會ニ於
キマシテ直チニ勃發スルノハ、火ヲ睹ルヨ
リモ明カナコトデゴザイマシテ、彼等ニ若
シ妥協アリタリトシマシテモ、所謂心中ハ
不平滿々ノ妥協ニ過ギナイモノデアルト存
ズルノデゴザイマス(拍手)自作農ノ創設維
持モ、農地ノ使用收益モ、要スルニ法律上
ノ契約ニ過ギナイノデゴザイマス、然ラバ
契約ノ自由ノ原則カラ申シマシテモ、强大
ナル所有權ヲ有スル地主ト、何等ノ權利ヲ
有シテ居ナイ小作人トガ、公平自由ナ氣持
デ果シテ契約ガ出來マセウカ(「ヒヤ〓〓」
拍手)私ハ今日ハ昔ノ溫情主義カラ一步進
メテ、小作人ニモ小作權ヲ認ムル小作法制
ガ、先ヅ先決問題ダト思フノデアリマス、
斯ノ如キ不徹底極マル農地法ニ於テハ、却
テ小作爭議ヲ惹起サシムル機會ガ多分ニア
ルト思フノデゴザイマス、同時ニ前ニモ申
上ゲマシタヤウニ、提案ノ御趣旨ヲ達成ス
ルニハ不完全極マルト考フルノデゴザイマ
ス、政府ノ意ノアル所ヲ御伺シタイノデゴ
ザイマス
次ニ自作農創定維持ノ不利益ナル點ヲ
述ベマシテ、政府ノ御所見ヲ伺ヒタイノ
デゴザイマス、自作農創定ニ依ッテ創定サ
レマシタ自作農ハ、自ラ小作人デアリ
マシテ、小作人デアリマシタ時ヨリモ公
租公課ガ高クナリマシテ、經濟的ニ不利益
デアルト云フコトハ、農家經濟調査ニ依ッテ
明カナル事實デアリマス、加フルニ作物ガ
風水害又ハ病蟲害等ニ依ッテ殆ド無收穫ノ
場合ニモ、公租公課竝ニ地代ノ償還金ハ納付
セネバナラナイノデゴザイマス、假ニ其納付
方ガ次年度ニ繰越サレタトシマシテモ、二
箇年分ヲ一時ニ納付シナケレバナラナイト
云フコトニナリマシテ、却テ益〓小作人ハ困
難ニ陷ルコトハ申スマデモナイコトデアリ
マス(拍手)斯ル際ニ自作農ノ創設ヲ受ケタ
ル者ガ他カラ融資ヲ仰グトシテモ、別段他
ニ財產ガアラウ筈ガナイ、金目ニナルノハ
其自作地デアリマス、其田地ハ讓渡モ出來
ナケレバ、他ニ貸付モ出來ナイシ、又第三
者ニ抵當權ヲ設定スルコトモ出來マセヌ、
ソレデ非常ニ困ッテ、二進モ三進モ出來ズ、自
作農ハ元ノ苦シイ小作人ノ時ヨリモ悲慘ナ
ル境遇ニ〓落スル、是ハ自作農タラントシ
テ非常ナ苦境ノ種ヲ背負込ンダト云フ實例
ハ澤山アルノデゴザイマス(「ヒヤ〓〓」拍
手)又極メテ無智ナ農民ノ多イ、サウシテ
經濟的劣位ニアル農民ニ對シテ、相當費用
ヲ要スル所ノ農地委員會ニ願フトカ、行政
官廳ノ認可ヲ受ケナケレバナラヌトカ、非
常ニ面倒ナ煩瑣ナ手續ヲ果サナケレバナリ
マセヌ農地法ハ、農民ノ苦痛トスル所デア
リマス、是等ヲ綜合シテ考ヘマスルト、自
作農ノ創設維持ヲ擴充スルトシマシテモ、
却テ政府ノ趣旨ニ反スルヤウナ結果ヲ齎ス
ノデハナイカト思フノデゴザイマスガ、是
等ノ點ニ關シマシテ政府ノ御意見ヲ御伺シ
タイノデゴザイマス
次ニ自作農奬勵ノ爲ニ自作地ノ公租公課
ノ減稅ヲ說明シテ、御意見ヲ伺ヒタイノデ
ゴザイマス、自作農創設維持ヲ受ケタル者
ニ對シ、其土地ニ對シテ公租公課ハ、自作
農奬勵ノ爲メ輕減サレル御意思ハ、政府ニ
御持合セナイカヲ御伺シタイノデゴザイマ
ス、實ハ昨日モドナタカラカ、自作農ノ土
地ニ對シテ免稅點引上ノ意思ハナイカト云
フコトヲ御當局ニ御尋ニナリマシタガ、私
ハ更ニ進ンデ、自作地ノ公租公課ノ減稅ヲ
求メントスル者デゴザイマス、モウ一ツ當
事者ノ合意ガナケレバ、其農地委員會ニ於
テ、依然トシテ當事者ノ合意ト云フコトガ
ナケレバ、要求ガ出來ナイト云フコトニナッ
テ居リマスカラシテ、小作料ノ增額-小
作條件ノ改定ト云フコトガ出來ナイト云フ
コトニナッテ居リマスルカラシテ、隨テ合意
ガナケレバ政府ノ要求サレル所ノ農村ノ生
活安定ト云フコトガ、結局出來ナイト云フ
コトニナルノデゴザイマス、此點ヲ御尋シ
マシテ當局ノ御意見ヲ御伺シタイノデゴザ
イマス、本法案ニ依リマスレバ、小作條件
等ニ關シテハ「當事者ハ合意ヲ以テ農地委
員會ニ」云々トナッテ居リマス、地主ハ自己
ニ不利ナル時ハ、自作農ノ創設ヲ受ケタル
者ノ要求ニ對シテ、一々同意ヲ與ヘルトハ
思ハレナイノデゴザイマス、サウシマシタ
ナラバ、本農地法案ニ依ッテハ、當事者雙方
ノ合意ノ下ニ農地委員會ニ向ッテ將來ノ小
作料其他ノ小作條件ノ改定ヲ請求スルト云
フコトガ、絕對不可能トナルノデゴザイマ
ス、左樣シマシタナラバ、政府ノ考ヘテ居
ラルヽヤウナ農村生活安定トカ、又ハ農村
ノ振興ト云フコトハ、本農地法ニ依ッテハ依
然トシテ不安定ニナルト思フノデゴザイマ
ス、政府ノ本法御提案ノ理由ハ到底目的ヲ
達セラレナイト思フノデゴザイマス、其點
ニ對スル御意見ヲ承リタイノデゴザイマス
尙ホ最後ニ一點御尋申上ゲタイノデゴザ
イマス、申ス迄モナク我國ノ農村對策樹立
ハ、最モ急ヲ要スル問題デアリマシテ、今日
ノ儘之ヲ放置シマスルコトハ、是ハ疲弊ニ次
グ疲弊ニ陷リマシテ、農村ノ振興ハ決シテ望
マレナイト思ヒマス、而モ農家戶數ハ加速度的
ニ減少ノ一路ヲ迪リツヽアリマスコトハ、
政府當局勿論御承知ノ通リデゴザイマス、
明治四十三年ニ於キマシテ、我ガ農家戶數
ハ全國戶數ノ約六割三分デアッタノデゴザ
イマスルガ、今日デハソレガ四割四分ニ減
少シテ居ルノデゴザイマス、之ヲ放置シテ
置クト云フコトニナリマスト云フト、三割
或ハ二割ト段々ソレガ減少シテ行クコトハ
是ハ火ヲ睹ルヨリモ明カナルコトト思フノ
デゴザイマス、此農家戶數ノ減少ハ色々原
因モアリマセウ、事情ヲ申上ゲマスルナラ
バ、農村ノ最モ惡稅トセラレル所ノ戶數割、
是ハ標準モナイ所ノ一種ノ見込稅デゴザイ
マスルガ、農村ノ大キイ地主ナドハ、此惡
稅ノ戶數割ノ重壓カラ逃レル爲ニ、農村ヲ
去ッテ都市ニ移住ヲスル、後ニ殘ック多數ノ
農民ハ、地主カラ搾取サレ、公租公課ニハ
重壓サレテ居ル所ニ、今マデ大キナ戶數割
ヲ負擔シテ居タ地主ノ負擔額マデモ、分擔
額ヲ負擔シナケレバナラナイト云フ事情ニ
ナリマスルカラ、隨テ農村ノ疲弊ト云フモ
ノハ一層酷イモノニナルノデゴザイマス、
ソレ等ガ一ツノ原因ヲ成スノデハナイカト
思ヒマス、一例ヲ申上マスレバ、私ノ郡ノ
或村デ縣下デ一二ノ富裕ナ村ガゴザイマシ
タガ、其處ノ大地主ガ二人、マデモ市ニ轉住
シマシタノデゴザイマス、一人ノ大地主ガ村
ヲ去ッタ爲ニ、其村ノ農民ノ一人ノ頭數ニ三
十錢ノ割ノ戶數割ガ增加負擔サレタト云フ
實例ガアルノデアリマスルガ、斯ル例ハ到
ル處ニアルト思ヒマス、爲政者ハ大イニ考
ヘラレナケレバナラナイ點ト思ヒマス、農
村ハ收入ガ不確定ダシ、支出ハ增加シマシ
テ、迚モ農村ノ子弟ヲシテ遊學セシムルコ
トノ出來ル農家ハ、餘程ノ所デナイト出來
ナイノハ申ス迄モナイノデゴザイマス、斯
ル有樣デアリマスルカラ、農村ノ子弟ガ農
業ヲ捨テテ他ニ轉業シ、又ハ都會地へ流レ
行クノデアルト思フノデゴザイマス、古來
我國ハ富國デハナイガ、民ハ强健ナル者デ
アルト申シテ居リマシタガ、其强健ナル者
ノ表徴ト云フベキモノハ、國民ノ中デモ農
民デアッタト思フノデゴザイマス、此農民ノ
減退問題ハ、經濟上又ハ思想上、殊ニ國防
上看過スルコトノ出來ナイ重大ナル問題デ
アルト思フノデゴザイマス、殊ニ農村ノ著
シキ疲弊ハ、政治的ニモ、社會的ニモ、經
濟的ニモ、皆都會中心主義ニ偏シタルコトヲ、
旣ニ全國ノ農民ガ自覺シテ居ルノデゴザイ
マス、此際政府ハ今日マデノヤウニ、唯溫情主
義、溫情主義ト云フコトダケデ行クノデハ、
決シテソレハ圓滿ナル吾々ノ希望スルヤウ
ナ農村ノ振興トカ、農村ノ生活安定ト云フ
コトハ、私ハ望マレナイト思ヒマス、デアリ
マスルカラシテ、今日ノ農村ニ對シ、小作民
ニ對シ與フベキモノハ與ヘ、サウシテ認ム
ベキモノハ認メ、是正スベキモノハ是正シ
ナケレバナラナイト思ヒマス、政府ハ農家
戶數ノ過速度的減少ガ、ドウ云フ原因、又
ドウ云フ風ニシテ防止サルレバ宜イカト云
フコトニ付テノ御考ト、且ツ都市ト地方ト
ノ負擔ノ不均衡ヲ如何ニ是正サレントナサ
レルカノ御意思ヲ承リタイノデゴザイマス、
私是ダケ質疑ヲ申上ゲマシテ、山崎農林大
臣ノ御親切ナル御答辯ヲ希望致シマス(拍
手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=10
-
011・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 天辰君ニ御答
ヲ申上ゲマス、第一ハ此法案ハ不徹底デアッ
テ、是デ農村ノ安定ヲ期スルコトハ困難ヂ
ヤナイカト云フ御意見デアリマスガ、此點
ハ昨日來度々申上ゲマスヤウニ、農村ニ關
スル政策ト云フモノハ、或ル一ツノ政策ヲ
執ッテ、ソレデ以テ農村ノコトヲ總テヲ解決
スルト云フヤウナ名案ハアルモノヂヤアリ
マセヌ、是ハ各種ノ施設ヲ併セ講ジテ行ッ
テ、初メテ農村ノ安定ハ期シ得ル譯デアリ
マス、固ヨリ今囘ノ此法案ダケデ、農村ノ
コト萬事終レリト云フヤウナ考ヘ方ハ、當
局モ持ッテ居ラヌノデアリマス
第二ハ農地委員會ノ問題デアリマスガ、
農地委員會ノ組織ガ土地所有者ニ偏セナイ
ヤウニト云フ御意見ハ、當然ノ御意見デア
リマシテ、私共モ全ク左樣ナ考ヘ方ヲ持ッテ
居ルノデアリマス、隨テ是ガ組織ニ付キマ
シテハ、決シテ土地所有者ニ偏ルト云フヤ
ウナ弊ニ陷ラヌヤウニ、出來得ベクンバ公
平ナ立場ニアル人々ノ參加ヲ求メルコト
ガ、望マシイコトデアルト考ヘテ居ルノデ
アリマス
第三ハ、今囘ノ法律ハ小作立法トシテハ
缺陷ガ多イノヂヤナイカト云フ御疑念デア
リマシテ、此點ニ付キマシテハ或ハ天辰君
ノ御考へ方ト私共ノ考ノ間ニハ相當ノ開キ
ガアルカモ知レマセヌ、天辰君ハ法律家ノ
立場ニアラレマシテ、出來得ル限リ小作關
係ヲ詳細ニ立法スルコトガ適當デアルト云
フ御考ノヤウデアリマス、所謂溫情主義ト
云フモノハ、今後ニ於テハ行ハレルモノデ
ナイカラ、權利關係ハ詳細ニ法ニ依ッテ規
定スルガ宜シイ、斯ウ云フ御考ヘ方ノヤウ
デアリマスガ、其點ハ私共ハ左樣ニハ考ヘ
テ居リマセヌ、何ト申シマシテモ農村ノ基
礎ハ農村民ノ共同一體ニアルノデアリマス、
農村ノ尊キ所以モ亦其處ニアルト私共ハ考
ヘテ居ルノデアリマシテ、之ヲ相對シタル
二ツノ勢力ニ分ツト云フヤウナ考方ハ、決シ
テ私ハ適當デナイト信ズルノデアリマス
〔發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=11
-
012・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=12
-
013・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君)(續) 此點ハ私
ハ誤ッテ居ラヌト實ハ信ジテ居ルノデアリ
マシテ、無論私共ト違ッタ御意見ノアルコ
トモ是モ已ムヲ得マセヌ、已ムヲ得マセヌ
ガ、農村ガ對立シタル二ツノ階級ミタヤウ
ニナッタ場合ヲ考ヘテ見マシタ場合ニ、農村
ノ姿ハドウナルノデアリマスカ、私ハ農村
ヲ尊重スルガ故ニ、農村ヲ愛スルガ故ニコ
ソ、益、ミ此農村ノ一體主義ト云フモノハ、
固ク執ッテ進ミタイト思ノデアリマス
自作農ノ關係デアリマスガ、是ハ天辰君
ノ御心配ニナルヤウナコトモナイデハゴザ
イマセヌ、自作農ガ或ハ小作ニ顯落スルト
云フヤウナ現象モ相當ニアルノデアリマス
ガ、併ナガラ是マデ政府ノ奬勵ニ依リマシ
テ創設セラレマシタ自作農ニ付テ考ヘマス
ルト云フト、餘リ是ガ失敗ニ歸シタヤウナ
事例ハ少イノデアリマシテ、此點ハ決シテ
天辰君ノ御心配ニナル程ノコトハナイト思
ヒマス、大體今囘ノ計畫ヲ遂行シテ行クコ
トハ、サシテ心配ハナイト考ヘテ居リマス
其次ハ自作農ニ付テハ國稅ヲ一切免除シ
タラバドウカト云フ御意見デアリマスガ、
自作農奬勵ノ立場カラ申セバ、稅ノ課カラ
ヌ方ガ宜イニ違ヒアリマセヌケレドモ、昨
日モ申上ゲマシタヤウニ、稅ノ問題ハ國民
トシテノ負擔均衡ノ關係モ考ヘナケレバナ
リマセヌノデ、唯自作農ト云フダケノ立場
カラ、此問題ヲ取扱フコトハ適當デナイノ
デアリマスノデ、政府トシテハ現在行ハレ
テ居リマスル免稅點ヲ設ケルト云フ程度ノ
所ガ、妥當デアラウト考ヘテ居リマス
最後ハ結論的ニ御述ニナリマシタ農家戶
數ノ漸減ノ問題デアリマスガ、農家ノ人口
問題ハ昨日モ申上ゲマシタヤウニ、國ノ
組織トシテハ極メテ重大ナ問題デアリマ
ス、唯天辰君ノ御指摘ニナリマシタ計
數ハ、步合的ニ申セバ天辰君ノ仰セニナ
ルヤウナコトニナリマスガ、併ナガラ實
質ヲ採ッテ見マスト、無論年ニ依ッテ若干ノ
出入ハアリマスガ、最近ノ實情トシテ先ヅ
間違ノナイ所ハ、農村ノ戶數或ハ農村人口
ト云フモノノ絕對數ハ、大シタ移動ガナク
維持サレテ居ルト云フ點デアリマス、無論
全體ノ國民ノ人口ノ增加ガアリマスカラ、
ソレニ對スル比率カラ申シマスト、若干ノ
低下ヲ見マスケレドモ、絕對數トシテハ大
體ニ出入ガナク維持シテ居ルト云フ點デア
リマス、之ニ付キマシテハ農村政策ヲ考ヘ
テ居リマスル學者其他ノ方面ニ於テモ、色
色ノ考へ方ガアルコトハ事實デアリマスガ、
私ハ昨日申上ゲマシタヤウニ、此絕對數ガ
大體ニ於テ維持セラレルト云フ限度デ、先
ヅ考ヘテ行クコトガ適當デハアルマイカ、
一部ノ人々ノ言フヤウニ、餘リニ農村ノ戶
數ガ減ル方ガ宜イト云フヤウナ考ヘ方ハ私
ハ採リマセヌ、又同時ニ又農村デエライ多
數ノ戶數ヲ包容スルト云フコトモ、是モ中
中農村ノ經濟ノ實情カラ言ヘバ困難ナコト
デアリマシテ、此問題ニ付キマシテハ色々
ノ考ヘ方モアル譯デアリマスガ、私ハ昨日
來申上ゲマシタヤウナ考一ヘ方ヲ採ッテ居リ
マスト云フコトダケヲ、申上ゲテ置キタイ
ト思ヒマス
〔天辰正守君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=13
-
014・天辰正守
○天辰正守君 只今農林大臣ノ御答辯ノ中、
第一點ノ御答辯ハ、私農林大臣ガ少シク私
ノ質問ヲ履違ヘテ居ラレルノヂヤナイカト
思フノデゴザイマス、農林大臣ノ農村政策
ニ對スル御意見ハ、昨日來拜聽シマシテ能
ク分ッテ居リマス、私ガ此處デ先刻御尋シマ
シタノハ、玆ニ御提案ニナッテ居リマス所
ノ農地法案、此不徹底ナル農地法案ニ依ッテ
果シテ農村ノ振興、農民生活ノ安定ガ出來
ルカドウカト云フ點ヲ御尋シタノデゴザイ
マス
次ニ農林大臣ガ天辰君ト吾々トハ少シク
見解ガ違ッテ居ルト云フヤウナコトヲ申サ
レマシタガ、勿論私ハ昨日カラノ農林大臣
ノ各質疑者ニ對スル御答辯、竝ニ只今私ノ
質疑ニ對シマシテノ御答辯カラ考ヘマスル
ト云フト、農林大臣ト私トノ思想的見解ノ
相違ハ大變ナモノデゴザイマス、今後爲政
ノ任ニ立タルヽ御方ハ唯恩情、恩情恩情
ト云フ言葉ハ、ソレハロデ言ヒ易クシテ行ヒ
難イ所ノモノデゴザイマス、親切、親切ト
言ッテモ、其親切ハロデハ言ヒ易イガ、ソレ
ノ實行ハ中々ムヅカシイ、デアリマスルカ
ラシテ、私ハ其恩情モ、其親切モ惡イトハ
申上ゲマセヌ、併ナガラ法治國ニ於ケル所
ノ吾々國民ハ、出來ルダケ法律的ニ權衡ヲ
保タナケレバナラナイト云フコトハ、是八
當然ナコトデゴザイマス、弱者ガ當リ前ノ
位置ニ引上ゲラレルト云フコトハ、是ハ當
然ナコトデゴザイマス、法律ニ依ッテ地主
ノ如キ强力ナル所有權ヲ持ッテ居ル者ト、何
等ノ權利ヲ持タナイ所ノ小作人トガ、ッ
ノ契約ヲ締結スルニ當ッテ、法律ガ要求シテ
居ル所ノ自由ナ、公平ナ立場ニ於テノ契約
ガ出來マセウカ(拍手)私ハ斷ジテ不可能ダ
ト思ヒマス、ソコニ親切トカ、同情トカ云
フヤウナコトヲ持ッテ來マシテモ、私ハ法律
ノ上ニ於テハ親切モ同情モ現レテ來ナイト
思ヒマス、私ハ是ダケヲ申上ゲマシテ、マ
ダ質疑申上ゲタイ點ハゴザイマスルケレド
モ、追テ委員會其他ニ於キマシテ、又重ネ
テ質疑ヲ申上ゲタイト思ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=14
-
015・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 三宅正一君
〔三宅正一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=15
-
016・三宅正一
○三宅正一君 農地法案ハ現内閣ノ本議會
ニ提出サレマシタ法案ノ中ニ於キマシテ、
農村關係ノモノト致シマシテハ、最モ重要
ナルモノデアルト考ヘマスルガ故ニ、私ハ本
本法ニ對シマスル質疑ニ入リマスル前ニ、
大局的ナ見地カラ現内閣ノ農村政策ニ對ス
ル質問ヲ先ヅ試ミタイト考ヘルノデゴザイ
マス
前マデノ質問者ニ依ッテ申サレマシタル
通リ、日本ノ國ニ於テ農村問題ハ政治上ニ
於キマシテ、常ニ虐待サレテ參ッタノデア
ル、政治上ニ於テ農村問題ガ重要性ヲ帶ビ
テ參リマシタノハ、五·一五事件以後デア
ルト私ハ解釋シテ居ル(「ノー〓〓」)五·一
五事件ニ依リマシテ、初メテ救農臨時議會
ヲ開キ(「ノー〓〓」)漸ク政治上ニ於テ農村
問題ヲ重視シテ參ッタノデアリマスルガ
〔「ノー〓〓」其他發言スル者多シ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=16
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017・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=17
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018・三宅正一
○三宅正一君(續) 五·一五事件ハ軍ノ一
部ニ於ケル大陸政策ヲ斷行シヨウトスル人
人ノ憤激、之ヲ原因トシテ居ルコトハ明白
デアルケレドモ、其外ニ徵兵制度ノ我國ニ
於テ、農村ノ窮乏ガ靑年將校ニ反映シタ一
面ガ之ヲ起シタノハ、明白ナル事實デアル
ト私ハ考ヘル(拍手)彼等ガ農村ノ窮迫見ル
ニ忍ビズト叫ンデ起チマシタ所以モ其處ニ
アルト考ヘル、然ルニ五·一五事件以後俄
然トシテ政治的ニ重大性ヲ持ッテ參リマシ
タ農村問題ノ取扱ニ於テ、我國ノ政府ハ如
何ナル取扱ヲシタカ、五·一五事件以後救
農臨時議會ヲ開キ、農村問題ハ政界ノ花形
トナッタケレドモ、之ニ依ッテ行ハレマシタ
ル農村政策ト云フモノハ救農土木工事ノ如
キ應急對策ヲ別問題ト致シマシテ、產業組
合ヲ中心トスル農村更生運動、或ハ米穀自
治管理法其他ニ依ル農產物價格吊上ゲ政
策若クハ農林省ノ御得意ノ各種ノ所謂補
助政策、勸業政策等ガ總テ農村ニ於ケル少
數ナル地主ノ利益ハ擁護シタカモ知レナイ
ケレドモ(拍手)多數ノ貧農大衆利益ヲ擁護
スル點ニ於テハ、却テ不利益ニ陷レツツアッ
タト云フ事實ヲ、農林大臣ハ御認メニナル
カドウカト云フコトヲ第一點トシテ承リタ
イノデアル(拍手)諸君、產業組合運動ヲ中
心ニ致シマスル農村更生運動ノ如キモ、之
ヲ其內容ニ付テ批判致シマスルナラバ、產
業組合ヲ中心ニシテ多クハ增產計畫デアル、
增產計畫ヲ十分ニヤリ遂ゲマスル爲ニハ、
相當ナル耕地ヲ持チ、相當ナル資金ヲ持ッタ
中農以上ノ者ハ、之ヲ利用スルコトガ出來
ルケレドモ、貧農ハ繩ヲ均フ十五圓ノ繩
機械サヘ之ヲ買フコトガ出來ズシテ利用出
來ナイト云フ點ニ、所謂農村更生運動ノ限
界アリト私ハ考ヘル、又米穀自治管理法ノ
如キ高物價政策、高米價政策ガ、一體貧農
ニ對シテ如何ナル影響ヲ與ヘテ居ルカト云
フ點ニ對シテ、私ハ事實ヲ擧ゲテ農林大臣
ノ御所見ヲ承リタイト考ヘルノデアル、此
點ニ付テハ獨リ私ガ言フダケデハナイ、內
閣調査局ノ專門委員デアル勝間田〓一氏ガ、
農村ノ實際ヲ見テ來ラレマシテ、此點ヲ報
告書トシテ出シテ居ラレルノヲ私ハ承知シ
テ居ル、其報告書ヲ讀ミマスルト、幾ツモ
ノ點ガアルガ、其中デ純小作ノ、農村ニ於
ケル眞ノ小作農ノ聲トシテ書イテ居ラレマ
スルノガ諸點アル、之ヲ讀上ゲマスルト、
私達小作人ハ學問モナイ者デ、何トシテ十
分ナ說明モ亦苦痛ノ訴へモ出來マセヌガ、
村役場ノ方、縣廳ノ方、東京ノ御役人ノ方
ハ是非一生ニ一度ハ私達貧乏人ノ實情ヲ見
タリ、聞イタリシテ戴キクイ、凶作カラ是
非私達ヲ救ッテ下サイ、私ハ昨年凶作ノ爲ニ
四十四俵ノ米シカ穫レナカッタ、其中三十俵
地主ニ拂ヒマシタノデ、僅ニ十四俵手ニ殘ツ
タノデス、是デハ迚モ肥料代モ拂ヘズ、老
父母、子供モ養ッテ行ケナイノデ、或ル晩家
族皆集ッテ、「今晩此村ヲ逃ゲテ都會ヘ行ク
コトヲ許シテ貰ヒタイ、都會ヘ行ッタラキッ
ト一生懸命働クカラ」ト申シタ所、老父ハ
「此年齡ニナッテ住ミナレタ村ヲ離レルノガ
厭ダカラ御飯ヲ減ラシテモ宜イカラ此處ニ
置イテ吳レ」ト言ハレタ、其次ハ米穀自治管
理法ガ出來ルノデ、近頃村ノ者ガ集ッテ居
ルガ、私達小作人ノ生活トドンナ關係ガア
ルカト云フコトヲ聞イテ居ル、其次ニハ米價
ガ上ルト私達小作人ハ困ッテシマフ、而モソ
レニ連レテ物價ガ上ッテ尙ホ困ル、更ニ其次
ニハ納メガ遲イカラ土地ヲ返セ、納米ガ惡
イカラ土地ヲ返セ、土地ヲ賣ルカラ土地ヲ返
セデ、私達ハ浮草稼業デス、一生懸命働ケバ
直グ小作料ヲ引上ゲラレルト云フコトヲ言ッテ
居ル、自作農創設資金ヲ貸シテ吳レルコトハ宜
イガ、土地ガ高クテ困ル、又土地ヲ中々賣ッテ
呉レナイ地主ガアル、山ハ皆地主ガ持ッテ居テ、
炭ガ安イカラト言ウテ炭ヲ燒カシテ吳レナイ、
私達ハ炭ヲ燒キタクモ山ガナイ、私達ハ子
供ニ立派ナ學問ヲサセタイガ、金ト暇ガナ
イ、六年ノ義務〓育ガ八年ニナッタラ私達
ハドウシタラ宜イデセウカ、斯ノ如キコト
ヲ報〓シテ居ルノデゴザイマスガ、農林大
臣ハ、五·一五事件以後ニ於テ行ハレマシ
タ農村政策ト雖モ、我國農村政策ノ傳統ニ
外レズシテ、皆地主本位デアッテ、貧農本位
ノ政策デハナカッタト云フ事實ヲ御認メニ
ナルカト云フコトガ、私ノ第一ノ質問デア
リマス
第二ノ私ノ農林大臣ニ問ヒタイ點ハ、農
林大臣ハ我國ノ農村ヲ如何ニ認識シテ居ラ
レルカト云フ點デアル、我國ニ於ケル農村
ノ人口構成ヲ見ルナラバ、小作農竝ニ零細
農民ノ數ガ壓倒的多數デアル、昭和九年我
國農村ノ總戶數五百六十一万戶ノ中、其七
割デアル三百八十八万戶ハ小作農デアル
ト云フ事實ハ、是ハ統計ニ依ッテ明白デア
ル、而シテ此五百六十一万戶ノ農民ノ中ニ
於キマシテ、五反未滿ノ猫ノ額ノヤウナ土
地ヲ耕作シテ居ル農家戶數ハ、實ニ百九十
一万戶ニ及ンデ居ル、一町以下ノ耕作者ニ
至ッテハ三百八十四万戶ニ及ンデ居ルノデ
アル、斯ノ如キ小作農ノ壓倒的多數、竝ニ
我國農業ノ本質ガアリ、我國農業ガ零細農
業デアルト云フ點ニ付テハ、統計ガ之ヲ明
白ニシテ居ル、此認識ノ上ニ立タナケレバ、
我國ノ農業政策ハ痒イ所ニ手ガ屆クヤウニ
ハ行カヌ(「農業統計ハナイヂヤナイカ」ト
呼フ者アリ)統計ニアル-隨テ斯ル大多
數ノ零細農ハ、米ヲ作ッテ居ルケレドモ米ヲ
買ハナケレバナラナイノデアル、御承知ノ
通リ百姓デ米ヲ買ッテ食ッテ居リマスル農民
ハ、全農家ノ四〇%、二百三十万戶ニ及ンデ
居ルト云フコトハ、農林大臣ガ御承知デア
ラウト思フ、卽チ二百三十万戶ノ米ヲ買フ農
民ニ取ッテハ、米ノ値段ガ上ルコトハ、街ノ
勞働者ト同ジニ苦シマナケレバナラナイ問
題デアルト云フコトヲ、農林大臣ハドウ御考
ニナルカト私ハ聽キタイノデアル(拍手)而
シテ農村ニ於キマシテ耕作ヲシナイ耕地所
有者ガ六%アル、僅カ六%ノ農村ニ於ケル
米ヲ耕作シナイ農民ガ一五%ノ米ヲ賣ッテ
居ルノデアル、此諸君ハ米ノ値段ガ上ルコ
トヲ喜ブカモ知レナイケレドモ、大多數ノ
貧農ハ、米ノ値段ガ上ルコトハ却テ苦痛デ
アルト云フコトハ明白デアル、更ニ私ハ此
點ニ付テ重大ナル注意ヲ喚起シタイノデア
ルガ、中農層以下ノ農民ノ收入ハ、農業ノ
收入ヨリハ勞働收入ノ方ガ多イト云フ一點
デアル、農林省其他カラ出テ居リマスル統
計ヲ私共ハ集メマシタガ、中農以下ノ農民
ノ農業ニ依ル純收入ハ三割五分、其他ノ六
割五分ト云フモノハ賃銀勞働ノ收入デアル、
小作人ハ何處カラサウ云フ六割五分ノ賃銀
收入ヲ持ッテ來ルカ、農林省ノ調査ニ依レ
バ、或ル小作ノ家デハ長男ガ出稼ギシテ其
仕送リ、或ル小作人ノ家デハ、弟ガ家ニ居
ルノハ一箇月デ、他ノ十一箇月ハ年期奉公
ニ出テ居ル、或ル小作人ノ家デハ、次男二
十二歲ガ出稼ギ、次女二十歲ガ出稼ギニ行
キ、三女十八歲ガ奉公ニ出テ居リマシテ、
農家ノ收入ヨリハ此勞働收入ノ方ガ實ニ六
割五分ノ多數ヲ占メテ居ルト云フ事實ヲ農
林大臣ハ御認メニナルカドウカ、サウ云フ
點ヲ私ハ聽キタイノデアル(拍手)卽チ最近
ニ於テハ、我國ニ於ケル農民ハ農業규 고
レタリヤ」ニ落チタノデアル、農業「プロレ
タリヤ」ニ落チテ居ルガ、其農業「プロレタ
リヤ」ノ勞働賃銀ハドウナッテ居ルカ、物價
ト勞働賃銀トノ點ヲ私ハ申上ゲル、宮澤胤
勇君デアルトカ、或ハ結城大藏大臣ハ、農
村物價ノ値上リニ依ッテ、農村ハ潤ッテ居ル
ト言ハレテ居ルケレドモ、斯ノ如キ認識不
足ハ、私ハ農村ヲ知ラザルモ甚シイト考へ
テ居ルノデアル、諸君、昭和四年ノ農產物
ノ値段ハ百デアッタ、昭和四年ヲ百ト致シマ
スルト、昭和十年ニハ農產物ノ値段ハ九十
一ニ戾ッタ、ダカラ賣ル物ハ、兔ニ角百ノモ
ノガ九十一ニ戾ッタ位ダカラ宜シイケレド
モ、勞働者ノ日傭收入ハ、昭和四年ガ百ノ
モノガ六十三ニシカナッテ居ナイノデアル、
物ノ値段ハ九十一ニ上ッテ收入ハ六十三シ
カナイト云フ、此所謂差ガ卽チ農村ニ於ケ
ル「プロレタリヤ」ノ苦ミデアルト云フコ
トヲ、農林大臣ハ御認メニナルカドウカ(拍
手)斯ノ如キ狀態ニナッテ居リナガラ、而モ
御承知ノ通リ農村ニハ仕事ガナイ、失業狀
態ナノデアル、此過剩人口ハ、仕事ガナイ、
土地ガナイト云フコトデ以テ、土地ヲ得ル
爲ニ爭フノデアル、而モ今日ノ法律ハ、天
辰君ガ申サレマシタ通リ、所有權偏重デアッ
テ、小作人ノ耕作權ハ是バカシモ認メテ居
ラナイノデアル、隨テ地主ハ勝手ニ土地ヲ
取上ゲル、小作人ハ土地ガ足リヌカラ競
爭スル、此狀態ノ爲ニ、小作料ハ唯サヘ世
界デ一番高イ小作料ガ、年々歲々上リツヽ
アル現勢ニアルト云フコトヲ、農林大臣ハ
御認メニナルカドウカ、現ニ本年ニ於ケル
勸業銀行ノ調査ニ依リマスレバ、昭和十年
ニハ四百十五圓デアッタ普通田地ガ、一年シテ
昭和十一年ニハ四百三十五圓ニ上ッテ、地價
ハ二十圓上ッテ居ルノデアル、地價ガ二十圓
上ッテ居ルト云フコトハ、小作料ガ凶作ニモ
拘ラズ段々上リツヽアルト云フ、此狀態ヲ
認メナケレバ、地價ト云フモノハ上ラヌト
思フガ、農林大臣ハドウ御考ニナルカ、隨
テ最近ニ於ケル農村ノ現狀ト云フモノハ土
地飢饉デアル、仕事難デアル、而シテ不當
ニ高クナッタ小作料ト、而モ資本主義ノ壓迫
ニ依ッテ中小地主ガ沒落シツヽアル、此中小
地主ノ沒落ト、斯ノ如キ狀態ガ農村ヲ破局
的困難ニ陷レテ居ルノデアル、而モ土地問
題ノ關係ニ於キマシテ、負債ノ爲ニ、土地
抵當負債ノ償還困難ノ爲ニ、中小地主ガ沒
落シテ、其土地ガ銀行ヘ入リ、無盡會社ヘ
入リ、產業組合へ入リ、而シテ村內ニハ地
主ガ無クナッテ、不在地主ガ殖エル、村外地
主ガ殖エル、サウシテ土地ガ村外ヘ流レ出
ル、斯ノ如キ狀態ノ下ニ地主ガ土地ノ引上
ゲヲヤル、「ブローカー」ガ橫行スル、小作
料ガ上ルト云フノガ、土地ヲ中心ニシテ今
起ッテ居ル所ノ農村ノ實情デアルト私ハ考
ヘテ居ルノデアル、諸君、小作爭議ハ此結
果年ト共ニ激增致シマシテ、其大部分ガ土
地取上ノ爭議デアルト云フコトハ、農林省
ノ言ッテ居ラレル通リデアル、大正十二年ニ
ハ千九百十七件ノ爭議ノ中ニ於テ土地取上
ハ二十四件デアッタガ、昭和十年ニハ爭議件
數五千五百十二件ノ中土地取上ガ二千七百
十七件、五〇%ニ及ンデ居ルト云フコト
ハ、如何ニ農村ニ土地不安ガ迫ッテ居ルカト
云フコトヲ證據立テルモノデアルト私ハ考
ヘル(拍手)諸君、農業ハ土地ノ上ニ立ツ產
業デアル、而シテ農民ノ生命線ハ土地デア
ル、然ルニ土地ハ今日奪ハレ、明日奪ハレ
テ、實ニ不安極マリナキモノデアル、關東
ノ大震災ハ百年ニ一遍シカ來ナイケレド
モ、今日農村ニ於テハ、每日立ッテ居ル基礎
デアル土地ハ、每日震災ニ襲ハレテ居ルト
云フ危險ニアルト云フコトヲ、農林大臣ハ
御認メニナルカドウカヲ私ハ聽キタイノデ
アル
而モ私ガ尙ホ注意ヲ申上ゲタイ點ハ、今
日マデ斯ノ如キ事實ニ對シテ、政府モ、產
業組合モ、農會モ、何等無力爲ス所ヲ知ラ
ナカッタト云フコトデアル、此間ニ於テ農民
ノ利益ヲ少シデモ擁護シテ、農民ガ土地ヲ
取ラレルコトヲ防ギ、小作料ノ上ルコトヲ
防イデ參リマシタノハ、皆サンカラ彈壓ヲ
サレタケレドモ、實ニ小作人自ラノ團結デ
アル農民運動其モノデアルト云フコトヲ、
農林大臣ハ御認メニナルカドウカヲ聽キタ
イト思フ、私ハ新潟縣ニ於キマシテ、小作
農運動ノ尖端ニ立ッテ、選擧違反デハ刑務所
ニ行カナイガ、小作爭議デハ刑務所ヘモ入ッ
テ居ル、併ナガラ私ハ此農民運動ノ、所謂
生產力增加ニ及ボシタ影響ト云フコトニ付
テ、科學的ナ御考ヲ願ヒタイト思フ、或ル
時新潟縣警察部ニ於テ農民運動ヲ彈壓シ
タ、私ハ小作人ヲ引率致シマシテ新潟縣警
察部長ニ會ッタ、其時ニ小作人ガ斯ウ云フコ
トヲ言ッタ、今マデ農民運動ガ起ルマデハ、
土地ハ何時取ラレルカ分ラナカッタ、作ガ良
ケレバ小作料ヲ上ゲラレタ、デアルカラ自
作農ノ田地ハ、肥料ヲ入レテ、一反ニ付テ
二石五斗ナリ三石ナリ穫レマスル時ニ、小
作ノ田地ハ肥料ヲ入レナイカラ、一反一石
カ一石五斗シカ穫レナイ、農民運動ガ盛ン
ニナッテ參リマシテ、モウ土地ヲ取ラレル心
配ハナクナッタ、サウシテ小作料モ下ッタノ
デ、肥料ヲ入レラレルト云フコトニナリマ
シタ結果ハ、今マデ自作ノ田地ガ二石五斗
穫レテ、小作ノ田地ガ一石五斗シカ穫レナ
カッタノガ、今デハ自作農ノ土地モ小作農ノ
土地モ同ジニ穫レルヤウニナッタ、一反ニ付
テ二俵ヅツ生產ガ殖エレバ、新潟縣下十万
ノ小作人ガ一町ヅヽノ田地ヲ耕シテ居ルト
スレバ、百万石位ノ米ガ殖エルカラ、農民運
動ガ農會ヨリモ技術員ヨリモ米作增收ノ一
番良イ方法デアリマスト云フコトヲ、其警
察部長ニ申シマシタ、所ガ警察部長ハ此貧
農ノ聲ニ對シマシテ、頭ヲ垂レテ傾聽シテ
居ラレタ事實ガアルガ、農林大臣ハ此點ニ
付テ如何ニ考ヘテ居ルカヲ御伺シタイノデ
アル、隨テ私ハ今日我國ノ農業政策ハ一大
方向轉換ヲ遂グルベキ時機デアルト考ヘテ
居ル、卽チ今日マデノ所謂少數ノ爲ノ農業
デナクシテ、農村政策ハ一部地主ノ政策カ
ラ土地ヲ耕シテ米ヲ生產シツヽアル所ノ勤
勞農民ノ生活安定ノ爲ニ方向轉換ヲ遂ゲナ
ケレバナラナイ時機デアルト考ヘルガ、農
林大臣ハドウ思フカ、第二ノ點ハ今日マデ
明治以來日本ヲ支配シテ參リマシタ技術的
改良ノ政策、耕地整理ヲヤルトカ云フヤウ
ナ、或ハ新品種ヲ發明スルトカト云フヤウ
ナ技術的改良ノ政策カラシテ、土地制度、
小作制度ノ改革、生產ノ問題カラ分配ノ調
整ニ向ッテ農民政策ノ方向ヲ轉換シナケレ
バナラヌ時機デアルト考ヘルガ、農林大臣
ハ如何ニ御考ニナルカ
第三ノ點ニ付テハ、私ハ我國ノ農業ノ特
質ニ付テ考ヘネバイカヌト思フノデアル、
私ハ此點ニ付テ農林大臣ガ私ト相談スル積
リヲ以テ御聽キ願ヒタイト思フ、私ハ今申
シマシタ通リ、我國ノ農業ノ特質ガ零細農
デアル、此零細農ガソレヂヤ町ヘ來テ仕事
ガ出來ルカト云フニ、河野一郞君ガ言ハレ
タ如ク、移住ガ澤山出來ルカ、移住問題デ
モ、町ヘノ移轉問題デモ、植民問題デモ、
是ハ宜イカモ知レナイガ澤山ハ出來ナイ、
サウスレバ此零細農ノ農村ニ於ケル生活ヲ
安定サセルコトデアル、デアルカラ私ハ此
零細農ニ對スル特別保護法ヲ制定スルコト
ニ依ッテ、彼等ノ土地ト生活ト健康トヲ護ル
コトヲ、我國ノ農業政策トシテ、特別立法
ニ依ッテ爲スコトガ必要デアルト考ヘルガ、
農地法ナドハ此際撤囘サレテ、斯ウ云フ方
向ニ方向轉換ヲオヤリニナル御意思ガアル
カドウカト云フコトヲ伺ヒタイノデアル
偖テ私ハ斯ノ如キ前提ノ下ニ、今囘提案
サレマシタ農地法ノ批判ニ入リタイト考ヘ
ルノデアルガ、今囘提案ノ農地法ハ三點ヨ
リ成ルト考ヘテ居ル、第一ノ點ハ自作農創
設維持、第二ノ點ハ開墾奬勵ニ依ル內地植
民第三ノ點ハ小作關係ノ調整、此三ツノ
點ニ要約スルコトガ出來ルト思フ、而シテ
一番政府ノ目指シテ居ラレル重心點ハ自作
農創設維持デアル、是ハ島田農林大臣以來
ノ決ッタ政策デアルト私ハ考ヘテ居ル、小作
關係ノ調整ノ如キハ、ホンノ申譯的ニ、刺
身ノツマノヤウニチヨッピリ出サレタ形デ
アルト云フコトハ、否定スルコトノ出來ナ
イ事實デアルト私ハ考へルノデアル、然ル
ニ此自作農創設維持ノ政策ニ付テハ、大正
十五年ニ自作農創設維持トシテ出サレマシ
ク、アノ施設其儘ノ延長デアル、デアルカ
ラ農地法ガ良イカ惡イカハ、大正十五年ニ
出サレマシタ自作農創設維持施設、是ガ成
績ヲ擧ゲテ居ルカドウカノ批判ヲスレバ明
白デアルト私ハ考ヘル、然ルニ大正十五年
出サレマシタ所ノ自作農創設維持ハ、大體
ニ於テ全然失敗デアッタ、サウシテ種々有害
ナル反作用ヲ農村ニ起シマシテ、却テ逆效
果ノ方ガ多カッタト云フコトヲ、私ハ事實ヲ
擧ゲテ質問致シマスルガ、農林大臣ハ之ヲ
認メラレルカドウカヲ承リタイノデアル、
諸君、一體大正十五年ニ自作農創設維持ヲ
何故政府ガ出シタカ、私ノ觀ル所ヲ以テ言
ヘバ當時小作爭議ガズット起キタ、之ニ對
シテ小作爭議ヲ本當ニ無クスル根本法規ヲ
作ル誠意ナクシテ、應急的施設ヲ二ツヤッ
ク、卽チ自作農創設維持ト小作爭議調停法
ノ制定デアル、小作爭議ニ際シテ印紙ヲ貼
ラナクテモ裁判所ヲ利用出來ルヤウニシテ
地主ヲ助ケタノハ、小作爭議調停法デアル、
自作農創設ニ依ッテ小作爭議ヲ緩和シテ、小
作料ノ下ルノヲ助ケ、地主ノ土地賣逃ゲヲ
便利ニサシタノガ、大正十五年ニ出サレタ
自作農創設維持施設ノ中ニ隱サレタ姿デアッ
タト考ヘルガ、農林大臣ハドウ御考ニナル
カ、之ヲ私ハ統計ニ就テ申上ゲル、大正十
五年カラ昭和十年ニ亙リ一億四千有餘圓ノ
金ヲ御使ヒニナッテ、十七万四千三百戶、七
万六千六百餘町步ノ自作農ヲ創設維持サ
レタト云フ御報告ヲナサッテ居ラレルケレド
モ、大正十五年ト昭和九年ヲ比較シテ見ルト、
ソレヂヤ自作農ハ殖エタカ、殖エテ居ナイ、
我國ノ自作地ハ七万七千五百二十九町三段
減少シテ居ル、一億數千万圓モ使ッテ七万町
步ノ自作地ヲ減シタ所ノ自作創設維持政策
ト云フモノハ、是ハ「ドン·キホーテ」ノ國
ニ行カナケレバ見ルコトノ出來ナイコトデ
アルト私ハ考ヘル、而モ却テ小作地ハ逆ニ
三万五千百二十二町七段殖エテ居ル、而シ
テ戶數ニ付テ言ヘバ、自作農家ハ八千三十
九戶增シテ居ル、戶數ガ殖エテ反別ガ減ッタ
ノデアルカラ、我國農家ノ特質デアル零細
農化、益〓農民ガ小サクナッタト云フコトヲ
ヤッタダケデ、何ノ役モ爲シテ居ラナイト考
ヘルノデアル、而モ自作農零細化ト云フ不
健全ナル狀態ト共ニ、小作農家ハ斯ノ如キ
施設ニモ拘ラズ、五万四千三百九十戶モ增
シテ居ルトスレバ、アノ失敗ノヤツヲ其儘
持ッテ來タッテ、益〓失敗ノ擴大、再生產ニ終
ルダケデアラウト云フコトハ、私ハ明白ナ
ル事實デアルト考ヘルガ、一體斯ウ云フ點
ニ付テドウ云フ御信念ヲ持ッテ御提出ニナッ
タカヲ承リタイノデゴザイマス、私ハ此點
ニ於テ農林大臣ト所見ヲ異ニ致シマスルノ
デ、農地法ニ付テハ私ノ不審ト考ヘル點ヲ
承リタイノデゴザイマス
第一ノ點ハ我國現在ノ土地制度ハ、土地
私有ノ原則ト契約自由ノ原則ノ上ニ立ッテ
居ル所ノ、地主主義ノ制度デアルト私ハ考
ヘルガ、農林大臣ハドウ考ヘルカ、モウ一
遍申シマス、我國ノ現在ノ土地制度ハ、土地
私有ノ原則ト契約自由ノ原則ノ上ニ立ッタ
地主制度デアルト考ヘルガ、之ニ對シテ御
承認ニナルカナラヌカ、而シテ是ガ善イカ
惡イカハ別トシテ、之ヲ改革スル方法ハ三
ツアル、卽チ第一ハ土地國有ノ方向デアル
第二ハ自作農創定、第三ハ小作制度改革ノ
方向デアル、而シテ此自作農創定論ト云フ
モノハ、ドウ云フモノデアルカト言フナラ
バ、小作農ヲ自作農ニセシメルコトニ依リ
マシテ、小作ト稱スル企業形態ヲ絕滅シテ、
國ヲ擧ゲテ自作農化セントスルノガ卽チ自
作農創定政策デアル、土地國有論トハ正反
對ノ立場ニ立ッテ、土地私有ノ原則ヲ堅持シ、
其長所ヲ發揮セシムル政策デアルコトハ明
白デアル、ケレドモ自作農創定政策ハ今ノ
之ヲ徹底致シマスルト云フト、一ツノ重大
ナル點ガアル、不勞地主ノ土地所有ト云フ
コトヲ禁止スルト云フコトデアル、耕サザ
ル者ガ小作料ダケ懷手デ取ルモノヲ禁止ス
ルト云フ點ニ於キマシテ、此自作農創定政
策ノ一ツノ革命性ガアルト云フコトヲ認メ
テ居ルノデアッテ、ソコデ今囘ノ農地法ニ依
ル自作農創定ノ指導精神ガ何處ニアルカ、小
作爭議ガ激シクナッタカラ、其緩衝地帶ヲ作
ル爲ニ少シ自作農ヲ殖セト云フノガ、今囘
農地法制定ノ精神デアルカ、ソレトモ徹底
シタ自作農創定政策ニ依ッテ、小作制度ト云
フモノヲ全廢シヨウト云フ大キナ方向ニ向ッ
テオヤリニナルノガ、今囘ノ農地法ノ指導
精神デアルカ、ソレヲ承リタイト考ヘルノ
デアル、而シテ自作農創定政策ガ成功スル
爲ニハ、土地ノ價格ガ高イカ安イカト云フ
コトガ決定的問題デアル、第二ハ年賦金ノ
貸付ノ條件ガ寛イカ寛クナイカト云フコト
ガ決定的條件デアル、第三ハ金利ノ問題、
此點ガ旨ク行カナケレバ自作農創定ハ決シ
テ成功シナイ
ソコデ所謂農地法ニ於ケル年賦金ノ原則
ハドウデアルカト云フナラバ、私ノ考ヘル
所デハ年賦金償還金ハ少クトモ是レ以上デ
アッテハ失敗シテシマフ、卽チ其土地カラ生
ルベキ每年ノ總收益中ヨリ、小作人ノ生活
費ト、農業經營ノ經常費ト、稅金諸掛ト、
更ニ火事ガ起キタリ、病氣ガ起キタリ凶作
等ニ對スル保險ノ費用トヲ控除シテ、其殘
額ヲ以テ支拂フコトガ出來ル程度ニ止メナ
ケレバ、自作農創定ハ成功シナイト考ヘル、
然ルニ今囘ノ政府ノ考へテ居ラレル農地法
ハ、是ガ資金ヲ借受ケテ自作農地ノ購入又
ハ維持ヲ行フ所ノ者ノ年額負擔ハ、公租公
課及ビ償還金等ヲ含メテ、現在ノ小作料ヨ
リモ高カラシメザルコトニシ、若クハ近所
ノ普通土地ノ賣買價格平均ヨリモ高クシナ
イト云フコトヲ原則ニシテ、價格ヲ決定ス
ルト言ッテ居ラレルノデアルガ、今ノ日本
ノ小作料ハ相當ナル小作料ニアラズシテ、
殊ニ土地飢饉ト地主ノ權力ニ依ッテ、不當ニ
吊上ゲラレタル、不當高額ナル小作料デア
ルト云フコトヲ忘レテ居ル點ニ於テ、私ハ
此自作農創定ニ關シテ、價格決定ノ點ニ於
テ一大缺點ガアルト云フコトヲ言ハザ
ルヲ得ナイノデアリマスガ、山崎農林大臣
ハ如何ニ御考ヘニナルカ、而モ今囘ノ自作
農創定政策ハ、各質問者ニ依ッテ言ハレマ
シタ通リ、極メテ不徹底デアル、私ハ學者ノ
申シマスル通リ、自作農創定主義ニハ直接
自作農創定主義ト、間接自作農創定主義ト
アリ、直接自作農創定主義トハ、國家ガ土
地ヲ買上ゲテ、其土地ヲ小作人ニ分ケテヤ
ルノガ、直接自作農創定主義デアル、而モ之
ニ强制力ヲ加ヘルノガ直接强制自作農創定
主義デアル、然ルニ今囘ノ農地法ハ、國家
ハ農地委員員會ヲ通ジテ自作地ヲ斡旋シテ
ヤルダケデアル國家ハ土地ノ「ブローカー」
ノ役ヲスルダケデアル、而シテ自作農創定
ヲシヨウトシテモ、地主ガ厭ダト言ヘバ土
地ハ買ヘナイ、卽チ之ヲ學者ノ言葉ヲ以テ
スレバ、間接自由創定主義ト云フノガ、今
囘ノ自作農創定ノ方針デアルト思フ、コン
ナ方針ヲ以テヒヨロノ〓トオヤリニナッタ
ラ、結局ハ小作人ハ土地所有慾ニ依依テ地
價ガ段々上ッテ、小作料ガ段々上ッテ、サウ
シテ小作人ガ苦シムノミナラズ、借金ヲシ
テ土地ヲ買ックノガ、終ヒニハ償還金ガ拂へ
ナイデ、首吊リニ終ルコトガ、今マデノ經
驗カラ言ウテ當然デアルト思ヒマスガ、此
點ニ付テ農林大臣ハ如何ナル御所見ヲ持ッテ
居ラレルカ
一體世界各國ニ於ケル自作農創定ノ事例
ヲ吾々ガ調ベテ見マスルノニ、小作人ハ土
地所有慾ニ馳ラレテ高イ土地ヲ買ッタノデ
ハ駄目ダカラ、之ヲ非常ニ警戒シテ居ル、
ダカラ政府ノ政策ニ於テ、進ンデ土地ノ値
段ヲ段々引下ゲマシテ、安クシテ置イテ買
ハセルノガ、世界各國ニ於ケル自作農創定
ノ定石デアリマス、デアリマスカラシテ、
先ヅ第一ニ政府ハ自作農創定ヲ本當ニオヤ
リニナラウトスルナラバ、小作料ノ輕減ヲ
圖リ、之ニ依ッテ土地價格ヲ漸次ニ下落セ
シムルコトデアル、其爲ニハ、先刻天辰君
ガ言ハレマシタ通リ、自作農創定法ヲ出サ
レル前ニ、完全ナル小作法ヲ制定サレマシ
テ、小作制度ヲ改革シテ、小作關係ニ於ケ
ル地主ノ權利ヲ著シク縮小スル、サウシテ
相當ノ小作料ト云フモノヲ決定致シマシテ、
土地ヲ持ッタッテ損デアルト云フコトニシ
ナケレバ、自作農創定政策ハ私ハ出來ナイ
ト云フコトヲ、農林大臣ガ御認メニナルカ
ナラヌカト云フコトヲ御聽スル、卽チ自由
契約ノ埒外ニ於テ國家ガ一ツノ目的ヲ以テ
遊ンデ居ッテ小作料ヲ取ッテ居ルト云フ制度
ハ惡イカラシテ、働ク者ガ土地ヲ所有スル
ト云フ自作農制度ニ變ヘヨウトスルナラ
バ、今日ノ契約自由ノ形式ヲ破棄シテ、所
謂此契約自由ノ原則ノ外ニ於テ、公正ナル
値段ヲ以テ耕作地ヲ買上ゲルヤウニ致サレ
マスノガ、私ハ適當ナル態度デアルト考ヘ
マスガ、事茲ニ出デズシテ、再ビ三タビ重
大ナル失敗ヲ繰返サントスル農林大臣ノ政
治的責任ニ於テ、如何ナル御認識ヲ持ッテ
居ラレルカ、承リタイト考ヘルノデアリマ
ス(拍手)「アイルランド」ノ自作農創定法ニ
於テモ小作料ヲ標準トシテ土地ノ購入價格
ヲ制限スル、其購入價格ハ一體幾ラデアル
カト言フナラバ、土地委員會ノ定メマシタ
相當小作料ニ依ッテ居ルノデアル、卽チ從
來ノ競爭小作料ノ半分ニ引下ゲテ「アイル
ランド」ニ於テヤッテ居リマス事實ハ、皆サ
ンガ能ク御承知ノ所デアルト考ヘルノデア
リマス、デアリマスカラ今ノ法律ガ此儘
通ッタラドウ云フ結果ヲ來スカ、土地飢饉ト
土地不安デ惱ンデ居リマス小作人ノ土地ノ
所有慾ト云フモノハ、是ハ盲目的ナノデア
リマス、無批判的ナノデアリマス、ダカラ
土地ガ欲シクテ叶ハナイ小作人ニ、土地ヲ
買ヘト言ッテ「パン」ヲ御出シニナル、其つパ
ン」ノ中ニハ毒ガ入ッテ居ル、毒ガ入ッテ居
ルケレドモ、腹ガ減ッテ叶ハナイ、「子供ト同
ジダカラ、ソレニガブリトカブリ付ク、自
分ハ金ヲ持ッテ居ラヌケレドモ、低利デ長期
ノ年賦金ヲ貸シテヤルト云フコトダカラ、
嚙リ付イテ高イ値段デ土地ヲ買ヒマスト、
結局ニハ償還金ヲ拂ヘズシテ、終ヒニハ夜
逃ゲヲヤッタリ、差押ヲサレタリ、最後ニ首
ヲ吊ッタリシテ、土地ハ取ラレテシマッテ、
元ノ小作人ニナッタ時ハ借金バカリ殘ッタト
云フ結果ニナルコトハ明白デアリマスガ、
此點ニ付テ農林大臣ハ如何ナル見透シヲ御
持ニナッテ居ルカ承リタイノデゴザイマス
更ニ私ガ承リタイ點ハ、農地法後半ノ小
作關係ヲ調整サレル問題デアル、小作關係
ヲ調整サレル問題ハ、前年議會ヲ通過シタ
小作法ヲ其儘持ッテ來タト言ッテ居ラレマス
ガ、私共モ是ハ前ノ質問者ガ言ハレマシタ
通リ、後退的デ問題ニナラナイ、第一本法
ニハ小作期間ノ存續ガ定メテナイ、第二ニ
小作料ノ減免ニ付テ生活ヲ中心トシタ基準
ガ定メテナイ、第三ニハ相當小作料ヲ決定
スルニ付テノ規定ガナイ、第四ニハ作離料
ノ賠償ニ關スル規定ガナク、第五ニハ立毛
差押、立入禁止假處分等、强制執行制限ノ
規定ガナイノデアリマシテ、コンナフラ
フラノ法規ヲ以テ、政治的實力ナク、社會
的實力ナキ小作人ノ利益ハ守リ得ナイノミ
ナラズ、所謂知事任命ノ農地委員會ト云フ
モノガドンナ働ヲスルカ、天辰君ノ言ハレ
マシタ通リデアル、農地委員ヲ知事ガ任命
シテ、サウシテ地主ノ無料番頭ノ役目ヲ此
農地委員會ガスルト云フコトニナッタラ、ア
ナタ方ノ親切ナル御計ヒハ、結局小作人ノ
首ヲ締メルコトニナルト考ヘルノデアリマ
スガ、農林大臣ハドウ御考ニナルカ、私ハ
本當ノ農地法ヲ御作リニナルナラバ、社會
的ニ小作人ト地主ヲ對等ノ地位ニシナケレ
バナラヌ、角力ダッテ横綱ト「樽擔キデハ角
力ヲ取ッテモ見テ面白クナイ、地主ト小作人
トデハ獅子契約ト同ジデ「ライオン」ト羊デ
アル、「ライオン」ト羊ガ契約シタッテ、公
正ナル契約ガ成立タナイコトハ分ッテ居ル、
小作人組合ヲ認メナサイ、小作人組合ヲ作ッ
テ、小作人組合トノ團體契約ニ依ッテ、地主
ノ力ト同ジニシテ、第三者タル國家ガ加ッ
テ、之ヲ調整スル所ニ、私ハ本當ノ意味ノ
小作關係調整ガアルト思フガ、小作人組合
ヲ承認サレル意思ガアルカドウカト云フコ
トヲ農林大臣ニ承リタイノデアリマス
私ハ斯ウ云フ意味ニ於テ今囘ノ農地法ナ
ドハ、農民ノ爲ニハ何モナラヌモノデアル
ト考ヘルガ、ソレデハ今ノ農民ハ何ヲ要求
シテ居ルカト云フコトヲ、此際農林大臣ニ
言ッテ置キタイ、農民ハ飯米ガ窮乏シテ甚ダ
飯米ガ欲シイノデアル、米ハ作ッテ居ルガ、
小作料ニ取ラレテシマフカラ、日本ニ於ケ
ル中農以下ニハ飯米ガゴザイマセヌ、私ハ
不吉ナル豫言ヲスルヤウデアリマスガ、コ
コ暫ク後ニ於テ、若シ物價ノ〓騰ニ依ッテ、
米騒動ノ如キモノガ起ルト致シマスナラバ、
都會カラ起ラズシテ、米ヲ作ル農村カラ食
糧暴動ガ起ル形勢ガアルト云フコトヲ、私
ハ此機會ニ於テ農林大臣ニ警告ヲシテ置ク
ノデゴザイマス(拍手)第二ニ小作料ヲ下ゲ
ルコトヲ要求シテ居リマス、第三ニ小作
權ヲ確立スルコトヲ要求シテ居ル、第四ハ
團結ノ自由ヲ要求シテ居ル、組合法ヲ認メ
ラレルコトヲ要求シテ居ル、而シテ第五ハ
肥料ヲモット廉クシテ貰ヒタイト云フコト
ヲ要求シテ居ル、吾々ハ肥料統制法ガ出來
タ時ニ、今ノ農林省ノ構成ヲ以テシテハ、
結局資本家ニヤラレルカラ駄目ダト反對シ
タガ、果シテ硫安ノ値段ガ箆棒ニ上ッテ農
民ハ困ッテ居ル、農林省ノ之ニ對スル壓力ガ
甚ダ微弱ナルモノデアルト云フコトヲ、農
林大臣ハ自ラ御認メニナラザルヲ得ナイト
思フガ、此點ニ付テ農林大臣ハ如何ニ御考ニ
ナルカ、第六ハ借金ニ對スルモット徹底シタ
整理ヲ要求シテ居ルノデアル、斯ノ如キ爲ニ
ナルヤウナ政策ヲヤッテ貰ヒタイ、玩具ノヤ
ウナ事ヲヤッテ戴イテモ、此農村ノ深刻ナル
疲弊狀態ヲ緩和スルコトハ出來ヌト考ヘル
私ハ此意味ニ於テ農林大臣ニ承リタイノ
デアルガ、農政ハ斯ノ如キ方向ニ依ッテヤツ
テ貰ヒタイ、第一ニ徹底シタ小農保護法ヲ
作リナサイ、自作農ヲ幾ラ作ッタッテ今ノ制
度デハ駄目デス、農林大臣ハ舊慣行ヲ考ヘ
ナサイ、明治以前ノ慣行ヲ御考ニナルナラ
バ農村ニハ入會地ト云フモノガアッタ、三
反シカ持タヌ貧乏ナ農民モ、所謂入會地ニ
行ケバ薪炭ハ只持ッテ來ラレタ、有畜農業ニ
依ッテ馬ヲ飼フナラバ、其秣ト云フモノハ、
入會地へ行ケバ只持ッテ來ラレタノデアル、
四反位ノ自作農ガ、秣モナケレバ、炭モ買
ハナケレバナラヌト云フコトデハ、自作農
維持ナドハ出來ナイノデアル、私ハ庶政一
新ヲ政策トシテ居ラレル現內閣ガ、此事ヲ
考ヘラレルナラバ、日本ノ農村ニハ斯ノ如
キ立派ナ慣行ガ澤山アルト思フノデアリマ
ス、卽チ小農保護法ヲ作ッテ、部落ニ貧乏ナ
農民ガ行ッテ薪ヲ採レル所ヲ御作リナサイ、
秣ヲ採レル所ヲ御作リナサイ、サウシテ小
作人ノ僅ノ土地ヲ分ケテ遣ッテモ駄目ダカ
ラ、昔ノ割地制度ノ如ク、總有制度ノ如ク、
部落總體デ土地ヲ持ッテ居ッテ、耕サナイ者
ハ作レナイ、耕ス者ハ地主ト同ジ權利デ作
ル、而モ此處ニ一畝、彼處ニ二畝ト云フバ
ラバラノ耕地分配デナク、有利ニ協同的ニ
耕作シツヽ尙ホ立地農業ノ見地ニ立ッテ工
業ト關聯セシメルコトノ出來ルヤウナ地主
制度ヲ無クシタ共同的農業經營政策ヲ御採
リニナッテ、之ニ小農保護法ヲ御作リニナル
ナラバ、私ハ其時初メテ我國ニ於テハ不勞
地主ナシト云フ者ノ階級ガナクナルノデア
ラウト云フコトヲ考ヘルノデアッテ、農村ハ
ソレニ依ッテ立ツト考ヘルガ、農林大臣ハ如
何ニ御考ニナルカト云フコトヲ御伺ヒ致シ
タイノデゴザイマス
以上ノ點ニ付テ、私ハ今迄農林大臣ノ答
辯ヲ拜聽致シマスルト、非常ニ御親切デア
ルケレドモ親味ガナイ、モウ少シ答辯ズレ
ノシナイ眞劒味ノアル答辯ヲ願ヒタイト云
フコトヲ御願シテ、私ハ此壇ヲ降リマス(拍
手
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=18
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019・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 三宅君ノ御質
問ハ大分多岐ニ亙ッテ居ッタヤウデアリマシ
テ、中ニハ御意見トシテ十分伺ッテ置キタイ
ト思フ點モアリマスシ、强ヒテ御答ヲ御求メ
ニナル意味デハナカリサウニ考ヘラレマシタ
點モアリマスカラ、其點ハ省略ヲ致シマス
第一ハ政府ノ近頃ヤッテ居ル農村政策ハ、
地主ノ利益ヲ本位トシテヤッテ居ルノデハ
ナイカ、例ヘバ米價問題ノ如キモ其一ツデ
アルト云フ意味デアリマシタ、政府ノ執ッテ
居リマスル諸般ノ政策ヲ御點檢ヲ願ヒマス
ト、決シテ是ガ土地所有者ノ利益ヲ擁護ス
ルコトヲ本位トシテ居ルモノデナイ、農村
全體ヲ對象トシテ、言換ヘテ見レバ直接生
產者モ、土地所有者モ、總テノ利益ヲ擁護
スルト云フ精神カラ出發致シテ居ルコトハ
明瞭デアルト思ヒマス、例ヘバ米穀自治管
理案ニ於ケル米價問題ノ如キニ於テモ、三
宅君ノ御議論ノヤウナ御議論ハ數囘伺ッタ
ノデアリマスガ、私共ハ其然ラザル所以ヲ
是亦數囘ニ亙ッテ申上ゲテ居ル積リデアリマ
ス、此處デ此問題ヲアナタト議論ヲスルコ
トハ差控ヘタイト思ヒマス(「答辯スレバ宜
イ」ト呼フ者アリ)答辯ハ只今致シマス
第二ハ農村ニ對スル考へ方デアリマシテ、
三宅君ガ御覽ニナリマス所ハ、我國ノ農村
ハ零細農ガ基礎ニナッテ居ルト云フ點デアリ
やり、是ハ三宅君ノ御指摘ノ通リデアリマ
シテ、私モ此點ニ付テハ他ノ機會ニ於テ私
ノ意見ヲ或ル方法ヲ以テ發表致シテ居ルコ
トモアルノデアリマシテ、我國ノ農村ガ零
細農デアルト云フコトハ、是ハ好ムト好マ
ザルトヲ問ハズ、避ケルコトノ出來ナイ事
實デアル、隨テ農村政策ハ、我國ノ農村ガ
零細農デアルト云フ前提ニ於テ、諸般ノ農
村政策ヲ割出スベキモノデアルト云フコト
ハ三宅君同樣私モ左樣ニ考ヘテ居ルノデ
アリマス、其根本ノ考ヘ方ニ於テハ、別ニ
變ッテハ居ラヌ積リデアリマス、唯此農地法ノ
關係ヲ三宅君ノ御認識ノ問題ト結付ケテ御
考ニナリマシタ、其御考ノ筋道ニハ、ドウモ少
シ考ヘ方ガ違フノデアリマス、三宅君モ申サレ
マシタヤウニ、今日ノ小作爭議等ノ多クハ、
土地返還ガ原因トナッテ居ルコトハ、是ハ
三宅君ノ御說ノ通リデアリマス、土地ノ返
還ガドウシテ起ルカト申シマスト、固ヨリ
一部ハ從來ノヤウナ小作ノ滯納ト云フコト
ガ原因トナッテ居ル場合モ少クアリマセヌ
ガ、最近ニ增加致シマシタノハ、寧ロ土地
賣買ニ原因スル土地返還ガ大キナ原因ヲ成
シテ居ルト思ヒマス、而シテ其土地賣買ノ
傾向ヲ見マスト、三宅君ノ御覽ニナリマス
通リ、或ハ擔保流レデアル、或ハ銀行ノ手
ニ、或ハ町ノ人々ノ手ニ土地ガ流レ込ムト
云フヤウナ場合ガ少クナイノデアリマス、
私ハ昨日モ申上ゲマシタヤウニ、農村ノ安
固ヲ期スル爲ニハ、出來得ル限リ農耕地ヲ
農村人ノ手ニ收メルト云フコトガ一番大事
デアル、斯樣ナ考へ方ヲ持ッテ居リマス、ソ
コ迄ハ恐ラク三宅君モ御同感デアラウト私
ハ信ジマスガ、其前提カラ考ヘマスト、今
囘計畫致シマシタ自作農創設ノ計畫ヲ擴張
スルト云フヤウナコトハ、正ニ私共ノ憂ト
シテ居ル點ヲ除去スル爲ニ、相當ノ效果ガ
アルト私ハ信ズルノデアリマシテ、其結論
ノ付ケ工合ニ於テ、三宅君ノ御採リニナッタ
論法ハ、ドウモ私ハ腑ニ落チ兼ネルノデア
リマス
第三ハ農村對策ガ-是ハ第一ノ御質問
ト同樣デアッタヤウデアリマスガ、小作本位
ニ轉換ヲシナケレバナラヌト云フ御意向デ
アリマス、此點ハ第一ノ御答ニ依ッテ御諒解
ガ出來マスルガ、更ニ附加ヘテ申上ゲマス
レバ三宅君ノ御考ヘ方ニハ强ヒテ私ハ異
論ハ申上ゲマセヌ、殊ニ今後農林省トシテ
諸般ノ施設ヲヤッテ行ク場合ニ、恐ラク三宅
君ノ期待サレルヤウニ、主トシテ直接生產
ニ從事スル人々ノ、或ハ生產費ヲ低下スル、
或ハ生產條件ヲ改善スル、或ハ災害ヲ防除
スル施設ヲ講ズルト云フヤウナコトニ最
モ力ヲ入レナケレバナリマセヌガ、ソレ等
ノ政策ノ利澤ノ及ブ所ハ、寧口土地所有者
ヨリモ直接ノ農耕者ニアル譯デアリマシテ、
三宅君ノ唱ヘラレマス御精神ニハ、私共モ
決シテ異存ハナイノデアリマス
第四ハ自作農創設計畫ハ失敗デアッタト
云フ御言葉デアリマス、是ハ寧ロ事實ヲ擧
ゲマシテ、委員會等ニ於テ御考ノ材料ヲ差
上ゲタ方ガ宜カラウト思ヒマスガ、結論ヲ
申上ゲマスレバ、私共ハ第一次計畫ノ自作
農創設ハ、決シテ失敗ニ非ズト信ジテ居ル
ノデアリマス
第五ノ御質問ハ、農地法ノ制定ハ土地私
有ノ原則ノ上ニ立ッテ居ルヂヤナイカ、契約
自由ノ原則ノ上ニ立ッテ居ルヂヤナイカト
云フ御考デアリマスガ、其通リデアリマス、
私共ハ土地國有論ニハ贊成ヲ致シ兼ネル一
人デアリマス、隨テ又三宅君ノ御期待ニナ
リマスヤウニ、總テノ小作ヲ無クシテ、全
國ノ小作ヲ總テ自作農ニスルト云フ指導精
神ヲ採ッテ居ルカト云フ御言葉デアリマス
ガ、左樣ナ指導精神ヲ採ッテ居ル譯デハアリ
マセヌ、其事モ昨日申上ゲタ通リデアリマ
スガ、凡ソ斯樣ナ問題ハ-三宅君ノ御一
考ヲ願ヒタイト思フコトハ、斯樣ナ長イ間
ノ歷史ノ上ニ立チ、社會組織ノ一ツノ特徵
ヲ持ッテ居ル場合ニ於テ、此種ノ問題ヲ一ツ
ノ理論ニ依ッテ全部ノ變革ヲ考ヘルト云フ
コトハ、是ハ私共ノ採ラザル所デアリマス、
ソレカラ自作農創設ニ付テハ年賦金ノ關係
ガ困難デハナイカト云フ點デアリマスガ、
此點ハ三宅君ノ仰セノ通リ、出來ルダケ注
意ヲシナケレバナラヌ問題デアリマスケレ
ドモ、旣往ノ實績ニ徵シテ見マスレバ、今
囘ノ計畫ノ程度ノコトハ差支ハナイト考ヘ
テ居ルノデアリマス、自作農ノ創設ニ付テ
强制收用ヲスル必要ガアルノデハナイカト
云フコトデアリマスガ、昨日來申上ゲマス
ルヤウニ、年々土地賣買ハ約二十万町步ニ
及ンデ居ル譯デアリマスカラ、其中一万五
六千町步ノ自作農創設ニ付テ土地ヲ强制收
用スルト云フヤウナ、左樣ナ非常手段ヲ執
ルノ必要ハナイト考ヘマス
次ハ小作ニ關スル規定ガ不徹底デアルト
云フ御議論ハ、昨日來伺ッテ居ル所デアリマ
スガ、是ハ如何ナル規定ヲ何故ニ規定ニ加
ヘナカッタト云フコトヲ、各箇條ニ付テ具體
的ニ御說明ヲ申上ゲル方ガ宜カラウト思ヒ
マシテ、ソレハ詳細ヲ委員會ニ於テ申上ゲ
ルト云フコトニ致シタイト存ジマス
最後ニ農村ノ問題トシテ、或ハ小作料ノ
低下ヲ希望スルトカ、或ハ肥料ノ問題デア
ルトカ、負債整理ノ問題トカ云フコトニ付
テ、地方農民ノ聲トシテ御述ベニナリマシ
タコトハ、是ハ謹ンデ拜承致シテ置キタイ
ト思ヒマス
〔三宅正一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=19
-
020・三宅正一
○三宅正一君 只今農林大臣ノ御答辯ヲ承
リマシテ、私ハ結局農林大臣ノ如キ現狀維
持ノ立場ニ立ッテ居ラレル人ノ農業政策ニ
依ッテハ、日本ノ農村ハ救ハレナイト云フ確
信ヲ得タノデゴザイマス、山崎農林大臣ノ
如キ考ヲ持ッタ人ヲ農林大臣ノ位置カラ追ッ
テ、サウシテ吾々ガ其位置ニ坐ラナケレバ、
結局ハ農村問題ハ解決シナイト云フ感ジヲ
私ハ持ッタノデアリマス
唯併ナガラ農林大臣ノ御注意ヲ喚起シテ
置キタイ點ガ二三アルノデゴザイマス、ソ
レハ何デアルカト申上ゲマスルナラバ、自
作農創定政策ハ成功シタト云フコトヲ言ッ
テ居ラレマスケレドモ、ソレハ地主ノ立場
カラ見タナラバ成功シタカモ知レナイケレ
ドモ、小作人ノ立場カラハ全然大失敗デアッ
タト云フ點デアルノデゴザイマス、私ハ時
間ガアリマセヌカラ、玆ニ持ッテ居リマス
農民カラノ具體的ナ材料、新聞ニ出テ居リ
マスル農民ノ夜逃ヲシタ材料等ハ、今日ハ
此壇上カラ申上ゲマセヌケレドモ、此點ニ
付キマシテハ私ノ認識ノ方ガ、農村ニ居ル
ダケニ適當デアルト云フコトヲ、農林大臣
ニ御返シヲシテ置クノデアリマス(拍手)ソ
レト共ニ私ハ我國ノ土地制度ニ付テ、土地
國有ヲ必シモ宜イト言フノデハナイ、私共
バ土地國有モ所譯飜譯的ナ土地國有デハ駄
目ダシ、大化ノ革新ノ時ノ土地國有デモ駄
目ダ、土地國有ト自作農創設トヲ辨證法的
ニ統一シタ、今ノ時代ニ卽シタ新シイ土地
ノ總有制度ト云フモノヲ考ヘルコトガ、今
日ノ時代ニ適切デアルト云フコトヲ考ヘテ
居ルノデゴザイマス、山崎農林大臣ハ御記
憶ニナッテ居ルカドウカ知リマセヌケレド
モ、明治維新前ノ德川時代ニ於ケル農村ニ
於キマシテハ、懷ロ手デ食ッタ地主ト云フモ
ノハ一人モナカッタト云フコトヲ、私ハ御注
意ヲ申上ゲテ置キタイノデゴザイマス、御
承知ノ通リ德川時代ニ於キマシテハ、幕府
ガ農民カラ取上ゲマスル上納米ガ非常ニ多
カッタ爲ニ、德川時代ニ於ケル幕府ノ取分
ハ、國家ノ取分ハ、總收穫ノ三割七分、地
主ノ取分ガ二割四分、小作人ノ取分ハ三割
九分デアル、是ハ或ル學者ノ調デゴザイマ
ス、然ルニ明治維新ノ地租改正ノ際ニ於テ、
明治政府ハ當時租稅ノ八割ヲ地租デ以テ
賄ッタノデアリマス、外ニ產業ガナイカラ地
租ニ依ルノ外ハナカッタノデアル、今ノ租稅
ニ於イテハ、所得稅ニ於テモ、營業收益稅
ニ於テモ大キイモノデアルガ、明治初年ニ
於テハ、實ニ地租ガ全租稅ノ八割デアッタ
カラ、金納ヲ以テ納メサセル地主ノ地位ヲ
保護スルコトガ、當時ノ政府ノ政策トシテ
ハ必要デアル爲ニ、小作人ノ持ッテ居ッタ慣
行ヲ全部奪ッタノデアル、日本全國ニ於ケル
小作人ノ耕作權ヲ奪ッタノハ、明治維新ニ於
ケル政府ノ態度デアッタト云フコトヲ、アナ
タ方ハ御認メニナルカドウカ、其結果學者
ノ調ニ依リマスレバ、當時德川時代ニハ國
家ガ三割七分取ッテ居リマシタノガ、明治十
一年カラ二十年頃ニナルト政府ノ取ル地租
ハ金納デアリ、地主トナル小作料ハ物納デ
アリマス爲ニ、國家ノ取分ハ總收穫ノ中ノ
一割一分、地主ハ總收穫ノ中ノ五割六分五
厘卽チ德川時代ニハ地主ハ總收穫ノ二割
四分シカ取ラナカッタガ、明治二十年頃ニ
ハ、地主ガ五割六分五厘モ取レルヤウニナ
リマシタ結果ト云フモノハ、土地ヲ持ッテ居
ルノガ有利デアルカラ、大地主ヲ續發セシ
メタト云フ事實ヲ御考へ願ヒタイト思ヒマ
ス、其結果岐阜縣ニ起キマシタ小作爭議ニ
付テ私ハ知ッテ居ルノデスガ、昔ハ働イテ居ッ
タ地主ガ、小作料ノ收入ガ殖ヱタカラ、三
町位ノ猫ノ額程ノ土地ヲ持ッテ、懷ロ手デ遊
ンデ居ッタコトガ、卽チ小作爭議ヲ起シタ所
以デアル、日本ニ於ケル農村ト云フモノハ
五反百姓ガ絕對的ニ多數デアル、五反ノ
百姓ガ一反デ二石ノ收穫デアッタナ
ラバ、五反デハ十石デナイカ、石二十
五圓トシテ全部デ二百五十圓ノ收入ヲ、地
主ト小作人トデ分ケテ居タナラバ、小作
人ガ食ッテ行ケナイノハ明白ナ事實デアルト
私ハ考ヘマス、五反バカリノ猫ノ額ノ土地
ヲ、兩方デ分ケルコトガ間違デアッテ、土地
ノ上ノ利益ヲ分ケルコトヲ少クシテ、小作
人ダケニ與ヘル、作ル者ダケニ與ヘテ、働カ
ナイ者ニハヤラナイト云フ制度ニシナカッ
タナラバ、日本ニ於ケル零細農ハ維持出來
ナイ、是ガ農村政策ノ中心點デアルト云フ
コトヲ、私ハ强ク農林大臣ノ御注意ヲ喚起
シテ置キタイト考ヘルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=20
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021・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 小山亮君
〔小山亮君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=21
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022・小山亮
○小山亮君 質問ニ先ダチマシテ私ハ豫メ
要求シテ置キマシタル、陸軍大臣及ビ大藏
大臣ノ出席ヲ求メマスヤウニ、議長ヨリ御
注意ヲ御願致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=22
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023・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 要求中デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=23
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024・小山亮
○小山亮君 農村問題ノ解決ニ對シマスル
所ノ結論ハ、土地問題ノ解決ニアルト云フ
コトハ今日最早論議ノ必要ノナイ位明白
ナル事實デアリマス、卽チ多年虐ゲラレ、
蹂躪ラレタル所ノ、悲ミモ憤リモ、口ニ表
現シ能ハザル無〓ノ民ニ對シテ國家ノ恩惠
ヲ與ヘルト云フコトガ、政ノ妙諦デアルト
スルナラバ、虐ゲラレタル小作農民ニ對ス
ル所ノ最モ必要ナル小作法ヲ設定スルト云
フコトハ、何ノ論議ノ必要モナイ位明白ナ
ル事實デアリマス(拍手)然ルニ庶政一新ヲ
高調セラレル此議會ニ於テ、今更ニ小作法
ガ提出セラレテ、徒ラニ不徹底ナル所ノ今
囘ノ農地法ノ如キモノガ論議セラレルコト
ハ、私ハ最モ遺憾ニ考フル次第デアリマス、
申ス迄モナイ、土地ハ農民牧入ノ資源デア
リマス、又農村生活ノ基礎デアリマス、卽
チ土地ニ依ッテ生活ヲシ、土地ヲ耕スコトニ
依ッテ其收入ヲ得テ居リマスル所ノ農民ガ、
收入ノ最モ大切ナル資源デアル農地ノ、耕作
地ノ安定ナクシテハ、斷ジテ生活ノ安定ガ
ナイト云フコトハ、最早言フ必要ノナイ位
明白ナルコトダラウト思フ、現下ノ農村ノ
問題トシテ先程山崎農林大臣ガ御答辯ニナ
リマシタル御言葉ノ中ニ、現在ノ農村ニ於
テ最モ憂フベキ事態ハ小作對地主ノ爭鬪デ
アル、是ガ最モ憂フベキ問題デアルカラ、
此小作對地主ノ爭鬪ノ激化ヲ爲サシメザル
ヤウニ非常ニ心配ヲシテ居ル、カルガ故ニ
今囘ノ農地法ヲ制定シタノダト云フ風ナ意
味合ノ御答辯デゴザイマシタ、私ハ實ニ今
日農村問題ニ對シテ、農林大臣ガ最モ認識
不足デアラレルコトヲ甚ダ悲シム者デアリ
マス(「ヒヤ〓〓」)卽チ大正七八年頃ニ小作
爭議ノ件數ト云フモノハ、僅ニ百數十件ニ
過ギナカッタノデアリマスガ、昨年ノ統計ニ
依レバ、小作爭議ノ件數ハ七千件ヲ突破シ
テ居ルノデアリマス、年ト共ニ現在ノ農村
ニ於ケル所ノ地主對小作ノ關係ト云フモノ
ハ尖銳化致シテ參リマス、此尖銳化シタル
所ノ小作對地主ノ關係ヲ根絕セシメ、之ヲ
緩和セシムル爲ニ、小作法ノ制定ト云フコ
トガ必要ニナッテ來ルノデアリマス(拍手)
卽チ之ヲ緩和セシムルガ爲ニ、徹底シタル
所ノ小作法ノ制定ヲ行ハズシテ、不徹底ナ
ル今日ノ農地法ヲ提出シテ、之ヲ以テ地主
對小作ノ爭鬪ノ激化ヲ緩和スルヤウナコト
ヲ御考ニナルトスレバ、如何ニ農村ニ對ス
ル認識ガ不足デアルカト云フコトガ明瞭デ
アリマス、斯ノ如キ農林大臣ガ、今日ノ非
常時日本ノ農村ノ窮乏ヲ打開スルガ爲ニ、
農林省ノ樞要ナル地位ニ就カレルト云フコ
トヲ、私ハ悲マザルヲ得ナイノデアリマス
現在ノ農村ニ於ケル所ノ最モ憂フベキ現
象ハ何デアルカト申シマスレバ、農村ノ中
堅階級デアル所ノ自作農家ノ沒落デアリマ
ス、之ニ對シテ統計ヲ以テ申上ゲマスルト、
大正八年カラ昭和九年迄ノ間ニ、日本全國
ノ小作農家ガドノ位戶數ガ殖エタカト申シ
マスルト、總戶數ニ於テ二十万六千戶增加
致シテ居リマス、又十町步以上ノ地主ニ於
テハ日本全國ニ於テ約六千軒增加致シテ
居リマス、然ルニ五反步以上ノ土地ヲ有シ、
三町步以下ノ土地ヲ有スル所ノ自作階級ハ、
大正八年カラ昭和九年迄ノ間ニ、實ニ四万七
千戶沒落ヲシテ無クナッテ居ルノデアリマス、
卽チ農村ノ中堅階級デアリ、健實ナル階級デ
アル所ノ中農ガ、年ト共ニ沒落シテ行ッテ居
ルノデアリマス、サウシテ殖エマシタ所ノ地
主ノ中デ、最近顯著ナル實例ハ、所謂銀行
地主ト云フ地主デアリマス、長野縣ノ統
計ヲ例證致シマスルト、長野縣デハ昭和五
年ノ一月ノ統計ニ依リマスト、長野縣全縣
下ノ銀行ノ所有シテ居リマスル土地ノ總額
ハ、九百七十町步ニ過ギナカッタノデアリマ
スルガ
〔議長退席、副議長著席〕
昭和十年ノ一月ノ統計ニ依リマスルト、長
野縣全縣下ノ銀行ノ所有シテ居リマスル土
地ノ總額ハ、二千五百四十二町步ト云フ夥シ
イ數字ニ上ッテ居リマス、最近五箇年ノ間
ニ、農民ノ手カラ奪取ラレテ、銀行ノ所有
地トナリマシタル土地ノ總額ハ、五年ノ間
ニ千五百七十二町步ト云フ莫大ナル額ニ
上ッテ居ルノデアリマス、卽チ土地ヲ生命ト
シ、土地ヲ耕スコトニ依ッテ生活ヲ立テテ
居ル農民ノ手カラ、何等土地ヲ必要トセザ
ル、何等耕サザル銀行地主ノ手ニ、農民ノ
生命トモ賴ム所ノ土地ガドン〓〓ト奪取
ラレテ居ルノデアリマス(拍手)此狀態ヲ以
テ推移致シマスレバ、近イ將來ニ長野縣ノ
中堅階級デアル所ノ自作農ハ、悉ク沒落ノ
運命ニアルト云フコトハ明白デアリマス、
是ガ思想的ニドウ云フ影響ヲ招來スルカト
申シマスレバ、此點ハ內務省ノ調査ニ依ッテ
明白デアリマセウガ、數年以前ニ起リマシ
タル長野縣ノ共產運動、或ハ昨年起リマシ
タル「アナーキズム」運動等ノ實情ヲ見マシ
テモ、斯ル矯激ナル運動ノ先端ニ立チ、其
ノ尖銳的鬪士トナッテ居ル者ハ、決シテ一坪
ノ土地モ持タザル所ノ小作人ノ階級ニアラ
ズ、又數十町步ノ土地ヲ持ッテ居ル所ノ大
地主ノ中カラ其數ガ出ズシテ、農家ノ中堅
トシテ相當ノ生活ヲシ、相當ノ農家ノ指導
的立場ニアッテ、而モ打續ク不景氣ノ爲ニ此
搾取經濟ノ犠牲ニナリ、サウシテ生命ト賴
ム耕地ガ競賣ニ付セラレ、祖先傳來ノ家財
ガ競賣ニ付セラレルト云フ風ナ悲慘ナ事實
ニ立至リマシタ、其大ナル衝擊ヲ受ケタ所
ノ人々-此土地ヲ中心トシタル生活不安
定ヨリ生ジマシタル所ノ刺戟ニ依ッテ、純眞
ナルウラ若イ靑年ガ、其純眞ナル頭腦ヲ刺
戟サレマシテ、ソレ等ノ人々ガ矯激ナル所
ノ運動ノ中心人物ニ飛込ンデ居ル事實ハ、
内務省ノ統計ニ依ッテ明白ニ御分リニナル筈
デアリマス
又國防ノ見地ヨリ論ジマシテモ、今日ノ
農村問題ガ如何ニ重大デアルカト云フコト
ガ明瞭デナケレバナラヌノデアリマス、之
ニ對シテハ私ハ一ツノ實例ヲ御話申上ゲナ
ケレバナラヌノデアリマス、昭和ノ九年カラ
昭和ノ十年ニ掛ケマシテ、長野縣下ノ農村
ハ第十四師團ニ所屬シテ居リマシテ、十四
師團ノ兵土ハ滿洲ノ最前線ニ出征シテ居リ
マシタ、其滿洲最前線ニ出征シテ居リマシ
タ兵卒カラ、私ノ所ニ淚ノ出ルヤウナ手紙
ガ來テ居ルノデアリマス、其手紙ニハ斯ウ
云フコトガ書イテアル、自分ハ國家ノ爲ニ
滿洲第一線ニ於テ働イテ居ルケレドモ、今
日故〓カラ屆ケラレタル手紙ヲ見レバ、自
分ノ家ハ勸業銀行ノ爲ニ競賣ニ付セラレマ
シタ、家財ガ競賣ニ付セラレマシタ、サウ
シテ自分達一家ト云フモノハ、殆ド其住ン
デ居ル家ヲ追出サレナケレバナラヌ運命ニ
立至ッテ居ル、斯ウシタ哀レナ手紙ヲ故〓カ
ラ受取ッテ居ル、自分ハ晝間ハ國家ノ爲ニ劍
ヲ執ッテ前線ニ立ッテ我身ヲ忘レテ居ルケレ
ドモ、夜ニナッテ營舍ニ歸ッテ來テ、藁ノ中
ニ入リ込ンデ寢ヨウトスル時ニ、自分ハ此
藁ノ中ニ寢ラレルケレドモ、殘サレタル故
〓ノ自分達ノ兄弟ハ、此寒空ニ藁ノ中ニ寢
ラレナイデ、ドウシテ寢テ居ルカト云フコ
トヲ考ヘタナラバ、自分ハドウシテモ寢テ
居ラレナイノダ、サウシテ所屬ノ部隊長ニ
其由ヲ申〓シタケレドモ、尙ホ徹底シタ所
ノ方策ガ執ラレナイカラ、ドウカアナタ方
ノ力デ、自分達ノ家族ガセメテ自分ガ歸ル
マデハ、其家ヲ奪取ラレナイヤウニ心配シ
テ呉レト云フ手紙ヲ私ニ寄越シテ居リマ
ス、モウ一ツハ其北佐久郡下ノ或村ニ於テ
一人ノ兵士ガ出征シタ、其留守宅ニハ年老
ヒタル六十數歲ノ父親ト目ノ見エナイ母ガ
殘ッテ居ッタ、ソレガ爲ニ一番働キ人デアル所
ノ子供ガ滿洲ニ出兵シマシタ爲ニ、殘サレタ所
ノ年寄ガ、自分ノ借リテ居ル所ノ小作地ノ手入
レガ出來ナイ、其手入レガ出來ナイト云フコト
ヲ口實ニ、田ヲ荒シタト云フコトヲ口實ニ、
其出征兵士ノ田畑ヲ地主ガ奪取ッタノデア
ル、サウシテ年寄ノ生活ヲ食へナイヤウニ
シマシタガ爲ニ、其年寄ガ自分ノ窮境ヲ滿
洲ニ居ル所ノ兵隊ニ愬ヘタ、其兵隊ガ再ビ
私ノ所ニ手紙ヲ寄越シテ、ドウカ自分ガ歸
ルマデハ田畑ガ取上ゲラレナイヤウニ何ト
カ保護シテ吳レト云フ、哀レナ手紙ヲ寄越
シテ居リマス、是等ノコトハ私ハ松本憲兵
隊ノ司令部ニ申〓致シマシタカラ、憲兵隊
司令部ハ御承知ノ筈デアラウト思フノデア
リマス、今日陸軍ハ廣義國防ノ立前ニ於キ
マシテ、兵農一致ト云フコトヲ唱ヘマシタ、
併ナガラ現實ニ日本ノ農村ガ此窮境ニ在ル
時ニ、陸軍ハ之ニ對シテドウ云フ處置ヲ執
ラントスルノデアリマスカ、廣義國防ト云
フコトガ、陸軍ガ唯國民一般ノ人達ヲ欺ク
所ノ宣傳ニ過ギナイノデナイナラバ、恐ラ
クハ今囘ノ如キ此林內閣ノ稅制修正ニ對シ
テハ、閣議ニ於テ此修正案ヲ陸軍ガ御承知
ニナル筈ハナイト思ヒマス、然ルニ陸軍ハ
此林內閣ニ於ケル所ノ結城財政ノ修正案ニ
贊成シマシタ、農村ノ負擔ノ均衡ハ依然ト
シテ依然タル儘ニ、負擔ノ重壓ノ儘ニ放置
セラレマシタ、徒ラナル物價ノ昂騰、物價
ノ三割以上ノ昂騰ノ爲ニ、三四年ノ間苦シ
ミニ苦シミマシタ窮乏ノ中ニ、更生計畫ヲ
樹テテ參リマシタル農村ノ負擔整理、及ビ
各村々ノ經濟更生計畫ハ、此物價騰貴ノ爲
ニ全面的ナル崩壞ノ運命ニアルト云フコト
火ヲ睹ルヨリモ明カナルコトデアリマ
ス、卽チ此儘ニ放置スルナラバ、近イ將來
ニ長野縣或ハ其他ノ養蠶縣ヲ初メトシテ、
各縣ノ農家ノ經濟更生計畫ト云フモノハ、
全面的ニ崩壞ヲ致シマス
又負擔ノ不均衡デアルト云フコトハ、是
ハ私ガ議論スルマデモナク、內務省初メ明
瞭ニ其事實ヲ認メテ居ラレル、卽チ直接國
稅百圓ノ負擔ヲスル人ガ東京ニ居リマスレ
バ、地方稅總額ハ僅ニ五十六圓ニ過ギマセ
ヌ、大阪ニ居レバ七十六圓ニ過ギマセヌ、
然ルニ同ジク直接國稅百圓拂フ人ガ鹿兒島
縣ニ居レバ、四百二十四圓ノ地方稅ノ負擔
ヲシナケレバナラナイ、靑森縣ニ參リマス
レバ四百五十一圓ノ多額ナル所ノ負擔ヲシ
ナケレバナラナイ、卽チ都會ニ生活スル人
ト農村ニ生活スル人ガ、如何ニ負擔ノ不均
衡デアルト云フコトハ、私ガ申上ゲル迄モナ
イ、政府自身ガ發表シテ居ル所ニ依ッテ明
瞭デアリマス、是等ノコトヲ考慮ヲセズ、
如何ナル農村對策ヲ御立テニナラウトスル
ノデアリマスカ
山崎農林大臣ガ先程仰シヤイマシタ言葉
ニ、農村問題ハ一朝一タデハ解決出來ル間
題デハナイ、種々ナル政策ヲ竝行セシメ
テ、ソレニ依ッテ解決ヲ付ケルノデアルト
仰シヤイマシタ、種々ナル政策ヲ竝行セシ
メルト言フナラバドウ云フ具體的事實ガ
オアリデアリマスルカ、今囘ノ結城財政ニ
依ッテ馬場財政ガ修正セラレマスルト、農
林省ノ計畫シマシタル所ノ總テノ案ニ對ス
ル所ノ豫算、千八十一万圓ヲ削減サレテ居
リマス、負債整理等ニ對スル所ノ徹底的方
策ヲ講ズルナドト言ヒナガラ、不徹底ナル
政策ニ於テスラモ、尙ホ其費用ヲ減額サレ
テ居ル、經濟更生ノ特別助成金モ根コソギ
之ヲ切取ラレテ居リマス、總テノ政策ヲ竝
行サシテ農村ノ更生ヲ圖ルナドト仰シル
ガ、自分ノ管轄下ニ於ケル所ノ總テノ費用ヲ
悉ク打切ラレテ、サウシテ尙ホ口ニ農村ノ
經濟更生ヲ叫ブナドト云フコトハ、私ハ慮
外千萬ノコトデアルト言ハナケレバナラヌ
ト思フノデアリマス(拍手)
玆ニ農村ノ農民生活ノ徹底的安定ヲ圖ル
ガ爲ニハ、徹底シタル所ノ小作法ノ制定ノ
必要ナルコトガ第一デアリマス、第二ニハ、
是ト竝行致シマシテ、徹底シタル所ノ負債
整理ヲ斷行スルコトガ其第二デアリマス、
第三ニハ、直チニ負擔ノ均衡ヲ圖ルヤウナ
ル政治ヲ行フコトガ其第三デアリマス、是
ナクシテハ農村問題ナドト云フ所ノ問題ヲ
口ニスル所ノ資格ハ無イト、私ハ斷言シテ
憚ラナイノデアリマス(拍手)如何ニ忠勇ナ
ル所ノ國民ト雖モ、其生活ノ安定ナクシテ
ハ、內ニ規律ヲ守リ、外ニ秩序ヲ守ルコト
ハ出來ナイノデアリマス、過グル昭和八年
ノ八月ニ、米價ノ〓騰ニ連レマシテ、全國
ノ農民ハ米ヲ食ハセヨト云フ所ノ叫ビ聲ヲ
擧ゲテ、是ガ圖ラズモ全國ヲ通ズル所ノ大
キナ運動トナリマシタ、今日ノ物價ノ〓騰
負擔ノ不均衡、及ビ負債ノ償還ノ不可能ニ
ナッタコト、及ビ經濟更生ガ全面的ニ崩壞シ
マシテ、サウシテ農民ノ明日ニ對スル所ノ
希望ヲ失ヒマシタル時ニ、生キンガ爲ニ、食
ハンガ爲ニ、痛烈ナル叫ビヲ擧ゲナイトハ
誰ガ果シテ斷言スルコトガ出來ルデセウ(拍
手)少クモ私ハ若シ斯ノ如キ不祥事ガ突發
シタトスルナラバ、是ハ今日ノ農村ニ對ス
ル認識ヲ誤ッタ所ノ農林大臣、竝ニ大藏大臣
及ビ軍部大臣ノ責任デアルト、私ハ明瞭ニ
言ハザルヲ得ナイノデアリマス(拍手)悲シ
ミモ憤リモ口ニ表現シ得ズシテ、而モ虐ゲ
ラレ、蹂躪ラレタル所ノ生活ノ中ニ、尙ホ
己レノ〓里ヲ愛シ、己レノ隣人ヲ慈シム所
ノ、此素朴純情ナル所ノ農民ノ生活ヲ無視
シテハ、其生活ヲ洞察スルノ卓見ナクシテ
ハ、今日ハ輔弼ノ重任ヲ擔フ所ノ大臣タル
ノ資格ハナイト私ハ斷言スルノデアリマス
(拍手)明治大帝ノ御言葉ニ、億兆ノ民一人
トシテ其所ヲ得セシメザレバ是レ朕ガ罪ナ
リト仰セラレテ居リマス、今日多クノ農民
ガ其所ヲ得ズシテ怨嗟ノ聲ヲ擧ゲ、悲ミノ
聲ヲ擧ゲテ居リマス、其聲ヲ聞キ得ザル所
ノ大臣デアルナラバ、私ハ輔弼ノ重責ヲ擔
フ所ノ其資格ナシト斷言セザルヲ得ナイノデ
アリマス、負擔ヲ輕減スルガ如キ所ノ言葉
ヲ使ッテ、朝ニ農民ヲ歡喜ノ夢ニ醉ハセテ、
タニ其農民ヲ絞殺スルヤウナ政治ヲ行フ所
ノ大臣ガアッタトスルナラバ、其大臣ノ責任
ハ重大デアルト言ハナケレバナラヌノデア
リマス、今日ノ事態ハ爲政者ガ一度其處置
ヲ誤レバ、實ニ救フベカラザル所ノ危難ヲ
招來スルコトヲ惧レザルヲ得マセヌ、山雨
將ニ至ラントシテ風樓ニ滿ツト云フヤウ、險
惡ナル事態ヲ孕ンデ居リマス、此時ニ當ッテ
大臣ガ餘程愼重ナル考ヲ以テ、確固タル所
ノ信念ヲ以テ、此事態ヲ洞察スル所ノ先見
ヲ有シ、而モ正シキコトニ向ッテ斷乎トシテ
之ヲ遂行スル所ノ勇氣ヲ御持チニナラナケ
レバ、私ハ今日ノ此國難ヲ克服シテ行クコト
ハ出來得ナイコトダラウト考ヘルノデアリ
マス、此點ニ對シマシテ陸軍大臣及ビ大藏
大臣、竝ニ農林大臣等カラノ御說明ヲ願ヒ
タイト思フノデアリマス、以上ヲ以テ私ノ
質問ト致シマス(拍手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=24
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025・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 小山君ヨリ大
藏大臣、陸軍大臣等モ含メテノ御質問デア
リマシタガ、問題ハ一本ノ問題ノヤウデアリ
マスカラ、私カラ御答ヲ申上ゲタイト存ジマ
ス、小山君ノ農村ニ關シマシテ色々御心配
ニナッテ居リマス御精神ハ、十分諒ト致スノ
デアリマス、唯アナタガ御心配ノ餘リデア
ラウトハ思ヒマスケレドモ、御擧ゲニナリ
マシタ種々ノ政府ノ施設、或ハ之ニ對スル
御批評等ハ、一々事柄ヲ擧ゲテ申上ゲレバ
御納得ガ行クカト思ヒマスケレドモ、アナ
タノ下サレテ居リマス結論ハ、少シク獨斷
ニ過ギタルヤノ感ガ實ハアルノデアリマス、
唯左樣ナ點ニ付キマシテ、事細カニ、是ハ
斯ウ、ソレハサウト云フコトヲ、例ヘバ來
年度ノ農林省所管ノ豫算ノ各內容等ニ付テ
申上ゲマスコトハ非常ニ煩瑣ニ亙リマス
ノデ、遺憾ナガラ差控ヘマスガ、アナタノ
御心配ニナルヤウナコトデナイト云フコト
ダケ、一言申上ゲテ置クノデアリマス、唯
全體ニ付テノアナタノ農村ニ對スル御心配、
憂御考ヘ方、之ニハ私ハ別ニ異存ハ持チ
マセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=25
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026・小山亮
○小山亮君 農林大臣ノ御答辯ハ甚ダ不誠
意ナモノデアルト私ハ斷定ヲ致シマス、カ
ルガ故ニ再質問ヲ致シタイノデアリマスル
ガ、私ノ契約シマシタ時間ガ經過ヲ致シマ
シタ、是レ以上質問ヲスル時間ヲ持チマセ
ヌノデ、續イテ委員會ニ於テ更ニ改メテ伺
ヒタイト考ヘマスカラ、之ヲ以テ質問ヲ打
切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=26
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027・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 石坂繁君
〔石坂繁君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=27
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028・石坂繁
○石坂繁君 諸君、農地法案ニ對スル私ノ
質疑ノ要旨ハ、先ヅ第一ニ只今提案サレタ
ル法案ノ內容ヲ以テ致シマシテ、果シテ其
趣旨、目的ヲ達成シ得ルヤ否ヤト云フコト
デアリマス、卽チ之ヲ細カク區分致シマス
ルト、一ツニハ、政府ノ從來ノ自作農創設
維持ノ政策ハ、決シテ成功デハナカッタト思
フ、農地法案ガ從來ノ此規則ノ缺陷ヲ排除
シテ、法案ガ期待致シテ居ルガ如キ自作農
創設維持事業ノ擴充强化ニ十分ナリヤ否
ヤ、二ツニハ、農地委員會ノ組織、其選任
ノ方法及ビ權限如何、若シ是ガ適當デアリ
マセヌデシタナラバ、或ハ此委員會ハ地主
的ニ偏ル、或ハ政黨的ニ偏頗ニナル、其他
一方ノ勢力ニ偏シマスル結果ハ、其機能ヲ
十分ニ發揮スルコトガ出來ナイ憂ガアルカ
ト思フガ、果シテ如何、サウシテ三ツニハ、
農村ノ現狀カラ致シマスレバ、小作立法ノ
完備ハ極メテ重要ナリト考ヘルガ、法案ハ
其點ニ於テ頗ル不徹底デハナイカ、而シテ
更ニ私ハ第二ニ、農地ニ關シテ當局ハ他ニ
根本的國策ノ用意ハナイモノデアラウカト
云フ點ニ付テ、御伺ヲ致シタイノデアリマ
ス
偖テ本法案提出ノ理由ハ、其理由書及ビ
前日ノ山崎農林大臣ノ御說明ニ依リマシテ、
農村ノ現狀ニ鑑ミ、農村生活ノ安定及ビ農
村ノ振興ヲ期スル爲メ、自作農創設維持事
業ヲ擴充强化スルト共ニ、農地ノ使用及ビ
收益關係ヲ調整スル爲メデアルト云フコト
ヲ承知致シマシタ、而シテ又法案ノ目的ハ、
其第一條ニ明カデアリマスルガ如クニ、互
讓相助ノ精神ニ則ッテ、自作地ノ創設維持及
ビ農地ノ使用收益關係ヲ調整スル爲メデア
ルト云フコトモ承知致シタノデアリマス、
其提案ノ理由及ビ目的ハ、私共直チニ之ニ
贊成ヲ表スルニ吝ナルモノデハアリマセヌ、
私共豫テ國家ノ興隆ハ先ヅ農村ノ基礎ノ上
ニ立ッテ爲サナケレパナラナイ、廣義ノ國防、
廣義ノ產業、總テノ國家發展ハ先ヅ農村ヨ
リ立直スベキモノデアルト云フコトヲ考ヘ
テ居リマスガ、斯ノ如ク致シマスル爲ニハ、
農村ノ精神的指導、農村ノ精神的更生ヲ必
要トスルト同時ニ、是ガ經濟更生ヲ圖ラナ
ケレバナラヌ、此二ツノ方法ヲ選バナケレ
バナラヌト考ヘテ居ル者デアリマス、而シ
テ今日ノ農村生活ノ基調ヲ私共今少シク精
神的ノモノタラシメ、其生活ノ基礎ニ於テ、
鄰保扶助ノ間ニ傳統的ノ醇風美俗ヲ復活セ
ンコトヲ希望致シテ居ル者ト致シマシテハ、
本法案ハ其立法ノ精神ニ於テ適當ナリト考
ヘル者デアリマス、併シナガラ先程カラモ
段々議論ガアリマシタガ如クニ、此互讓相
助ノ精神ニ則ッテノ問題ノ解決ハ、今日ノ如
ク動モスレバ思想ガ偏ッテ參リマシテ、動モ
スレバ勢力ノ對立抗爭ヲ來サントシテ居ル
所ノ農村ニ於テ、果シテ爾ク容易ニ此事ヲ
實現シ得ルデアラウカドウカ、私共ハ互讓
相助ト云フコトハ洵ニ結構デアルケレドモ
此事ハ言フベクシテ中々困難デアルコトヲ
感ズルノデアリマス、果シテ然ラバ、當局
ハ此點ニ於テ如何ナル指導ノ方法ヲ以テ臨
マルヽデアラウカ、而シテ又此法案ノ內容
ガ期待シテ居ル所ノ自作農ノ創設、其擴充
强化ト云フ如キ事柄ニ對シマシテモ、此法
案ノ內容ヲ以テシテ、果シテ達シ得ルヤ否
ヤト云フコトガ問題デアルノデアリマス
抑〓日本ノ農業ノ最大要素ハ農地ト、之ヲ
使用收益シテ直接ニ農業生產ニ從事致シマ
スル所ノ耕作農トデアリマス、隨ヒマシテ
農地ヲ中軸トシテ、其所有者タル地主ト、
是ガ使用收益スル所ノ小作人トノ關係ニ於
テ、農地制度ノ改革ノ方策ガ樹立サレナケ
レバナラヌト考ヘテ居リマス、而シテ土地
私有ノ原則、契約自由ノ原則、此二大原則
ノ上ニ打立テラレテ居リマス所ノ、地主主義
ヲ基調トシタ、現在我國ノ農地制度ノ改革
ニ對シマシテハ、先程三宅君御所論ノ如ク、
私ハ先ヅ第一ニハ農地國有ノ問題ガアル、
第二ニハ自作農創設ノ問題ガアル、而シテ
第三ニハ小作制度改革ノ問題ガアルト、斯樣
ニ信ジテ居ルノデアリマス、政府ハ此農地
法案ニ依リマシテ、私ガ只今申上ゲマシタ
所ノ第二、第三ノ問題ノ整調ヲ目標トシテ
居ラルヽ如クデアリマスルガ、私ハ今日ノ
現狀ニ照シ、農村各般ノ事情ニ照シマシテ、
先以テ小作關係ノ問題ヲ第一トシナケレバ
ナラヌト考ヘル者デアリマス、然ルニ此法
案ニ現レマシタ所ノ農地對策ハ、自作農政
ガ主デアリ、小作關係ノ問題ハ、辛ウジテ
從屬的ニ之ニ附加サレタ如ク見エテ居リマ
スルコトハ、洵ニ私共ノ遺憾ニ考ヘル所デ
アリマス、是ハ後ニ述ベマスルコトニ依ッテ、
自ラ判明致スト思ヒマスルガ、洵ニ本末〓
倒ノ立法デアル、是ガ法案提出ノ趣旨ニ合
致スルモノナリト考へルナラバ、全ク農村
ノ現實ノ事情ニ對スル所ノ認識不足ノ結果
ナリト言ハナケレバナラヌノデアリマス
先程カラ段々此點モ議論ニナッタノデア
リマスルガ、大正十五年現行ノ自作農創設
維持補助規則ト云フモノガ施行セラレマシ
テカラ今日マデ約十年間、其間ノ成績ニ徵
シテ見マスルニ、其方策ハ結局ニ於テハ地
價ノ吊上ゲト云フコトニ作用致シ、地主ニ
取リマシテハ明ニ利益デアッタカモ知レマ
セヌガ、其半面ニ於テ自作農創設其モノハ
決シテ成功デハナカッタノデアリマス、此點
私共農林大臣ト其事實ノ觀察ヲ異ニ致シテ
居リマス、尤モ農林當局ノ御發表ニナッテ居
ル所ヲ見マスルト云フト、昭和十一年十一
月農務局發表ノ昭和九年度自作農創設維持
事業成績、此第八頁カラ九頁ニ掛ケマシテ、
貸付後ノ狀況ト云フ項目ガゴザイマスルガ、
ソレニハ自作農創設後ノ極メテ顯著ナル成
績ヲ謳歌サレテ居リマス、非常ニ農村ハ之
ニ依ッテ喜ンデ農民經濟ハ向上シタ、處理
依ッテハ記念碑マデモ建テタト云フヤウナ
コトガ謳ハレテ居ルノデアリマス、成程農
林當局御示シノ如クニ、左樣ナ事例モアル
ニハアッタノデアリマセウケレドモ、私共ノ
調査致シマスル所ニ依リマスト云フト、事
實ハ全ク此農林當局御發表ノ反對ノ結果ニ
ナッテ居ルノデアリマス、元來我國ノ農地ハ、
其價格ハ所謂土地飢饉ノ結果ニ依ッテ常ニ
吊上ゲラレントスル傾向ニアルコトハ御承
知ノ通リデアル、現行ノ自作農創設ニ於ケ
ル所ノ土地ノ購入價格ハ、同規則第六條ニ
依リマシテ、一定ノ算式ニ依ッテ算出セラ
レマシタ、標準價格ヲ超過シテハナラヌト
云フ規定ニハナッテ居リマスルガ、實際ニ於
テハ常ニ價格ノ吊上ゲヲ誘發シテ參ッタバ
カリデナク、恐慌ニ因ル所ノ米價ノ下落、
風水冷早害等ニ因ル所ノ農產物收穫ノ激
減是等ノ原因ニ依リマシテ、土地購入當
時ノ土地收益ト、現存ノソレトハ著シキ開
キヲ來シテ居リマス、每年ノ償還金額ハ土
地收益ニ比シマシテ甚シク高率デアル、現
ニ創設自作農ハ以前ニモ增シテ窺狀ヲ呈シ
テ居ルト云フヤウナ狀態ニ立至ッテ居ルノ
デアリマス、償還年賦額未納ガ全國的ニ巨
額ニ達シテ居リマスル事實モ、此窮狀ヲ物
語ルモノデアリマシテ、先ニ述ベマシタ農
林省發表ノ事例ニ反シマシテ、全國各地ノ
農村ニ於キマシテハ、年賦償還ニ絡マル所
ノ悲慘ナル實例ガ幾多アルノデアリマス、
現ニ農林當局モ昭和五年以來、或ハ農村不
況對策トシテ、災害應急對策ト云フヤウナ
名目ノ下ニ、年賦金償還ノ延期、輕減、補
助等ヲ實現シ來ッテ居ル、此事實ハ是等ノ農
村窮狀ヲ諒トセラレタ所ノ處置デアラウト
考ヘルノデアリマス、此點モ農林省發表ノ
モノニ詳細ニアルノデアリマスルカラ省略
致シマス
斯ノ如ク觀察ヲ致シテ參リマスト云フ
ト創設自作農ハ非常ニ現在ニ於テハ困ッ
テ居ル、而モ現行規則ニ依リマスル貸付
總額一億二千五百六十万圓、田畑其他六万
七千町步、貸付戶數十三万六千戶ト稱シテ
居リナガラ、果シテ自作農ハ增加シタデア
リマセウカト申シマスルト、結果ハサウデ
ハナイノデアリマス、農林省發表ニ依リマ
シテモ、自作農ハ却テ一万六千戶ノ減少ヲ
來シテ居ル、其半面ニ於テハ小作農一万三
千戶ノ增加ヲ見テ居ルノデアリマス、此點
ハ昨日山邊君ノ計數ノ御指示ガアリマシタ
カラ省略致シマスガ、斯樣ナル結果ニナッテ
居ルノデアリマシテ、農家ノ土地喪失ハ、
此自作農ノ減少、小作農ノ增加ト云フヤウ
十、是等ノ數字ニ依リ現レタモノバカリデ
ナク、農家ノ土地ノ喪失ハ部分的ニ徐々ニ
參ルノデアリマスルカラシテ、一擧ニ小作
人ニ〓落ハ致シマセヌマデモ、其〓落過程
ニアル所ノ者ハ、夥シイ數ニアルト見ナケ
レバナラヌノデアリマス、シテ見レバ自作
農ガ創設サレル所ノ地方ニハ、是ヨリモ以
上ノ速度ヲ以テ自作農ノ崩壞ト中農ノ沒落
ガ起リツヽアルト見ナケレバナラヌノデア
リマス、斯ル結果カラ致シマスレバ、自作
農創設維持ノ政策ハ事實上寧ロ失敗デアリ
マス、ソレハ唯地主擁護ノ作用シカナク、
且ツソレハ創設自作農ソレ自體ト、爾餘ノ
小作人ノ犠牲ニ於テ遂行サレタト申上ゲテ
モ過言デハナイト私ハ考ヘル、却テ中小農
民ニハ此制度ハ喜バレズニ、寧ロ怨嗟ノ聲
マデモ私共ハ聞クト云フ實情デアルノデア
リマス、政府ノ言明セラルヽ所ニ依リマス
ルト云フト、此農地法ノ施行ニ依ッテ二十
五年間ニ十億圓ノ金ヲ融資スル、サウシテ
小作農家ノ約四分ノ一ニ當ル所ノ百万戶、
小作地ノ約七分ノ一ニ當ル四十一万七千町
步ヲ、自作農創設維持ノ助成ヲ爲スト言ッテ
居ラレルケレドモ、過去ノ成績カラ見ルナ
ラバ、恐ラク其期間內ニソレ以上ノ自作農
地ガ實質的ニ小作農地化シ、其半面ニ自作
農ノ沒落ガアリ、又政府ノ助成金ハ農家ニ
對スル金融家ノ懷ニ入ッテ、自作農ヲ助成シ
タル結果ニナラズシテ、ソレ等ノ金融家ヲ
助成スルノ結果ニナリハシナイノデアラウ
カ、私共懸念ニ堪ヘザル次第デアリマス
政府ハ本法案ヲ以テ自作農創設維持事業
ヲ擴充强化スルト言ウテ居ラレル、然ラバ
本法案ヲ提案致サレマシタ所ノ政府ノ肚ハ、
從來ノ自作農創設ノ方法ガ、所謂間接自由
創設主義デアッタ、私共モ曩ニ申上ゲテ居リ
マス通リ、直接創設主義ト云フモノニハ贊
成スル者デハナイノデアリマス、ヤハリ是
ハ自作農ノ創設ハ間接創設主義ヲ適當ト考
ヘルノデアリマスルガ、間接自由創設主義
デアル結果ハ、從來ノ規則ト同樣ノコトヲ
是ハ繰返サナケレバナラヌ、サウ致シマス
ルト云フト、玆ニ所謂强制創設主義ヲ加味
シナケレバナラヌノデアリマスルガ、此法
案ニ依ッテ自作農創設維持ノ擴充强化ヲ圖
ラントスル所ノ政府ノ肚ハ、從來ノ態度ヲ
改メテ玆ニ間接强制主義ヲ加味サレントシ
テ居ルモノデアリマセウカドウデアリマセ
ウカ、私共外國ノ立法例ニ考ヘ及ビマスル
ノハ、彼ノ「アイルランド」ノ自作農創設法デ
アリマスガ、彼ノ國ノ自作農創設法ハ、御
承知ノ通リニ千八百七十年ノ地主及ビ小作
人法以來、幾多ノ立法ヲ經テ、政府ハ小作
法制定ノ制度、此方法ニ依ッテ土地ノ價格ヲ
相當自動的ニ下落セシメテ、サウシテ尙ホ
其上ニ資金貸付ノ場合ヲ制限致シマシテ、
同時ニ一面地主ガ小作人ニ對シテ賣却スル
小作地ノ價格ニ付テハ、相當ノ奬勵金ヲ交
付スルト云フヤウナ方法ヲ講ジマシテ、卽
チ斯ノ如キ間接ノ强制方法ヲ講ズルコトニ
依ッテ、非常ナ成績ヲ擧ゲ得テ居ルノデアリ
やく、而シテ彼ノ「アイルランド」ノ土地委
員會ヲ聯想致サシムルガ如キ本法案ノ農地
委員會ハ、其爲スベキ事柄ハ、法案第三條
ニ謂ウテ居リマスル如クニ、農地ニ關スル事
項ノ處理、第四條ノ謂ウテ居ル所ノ斡旋ト
云フコトデアリマスガ、其事柄ノ處理及ビ
斡旋ハ抑〓何ヲ指スモノデアラウカ、其組
織選任ノ方法ヲ誤ルナラバ、十分ニ機能
ヲ發揮セザル虞アリト私ハ先程申シマシタ
ガ、此農地委員會ノ所謂機能ヲ發揮スルコ
トニ依ッテ、「アイルランド」ノ創設法ニ髣髴
タルガ如キ、何モノカノ强制的方法ヲ講ゼ
ラレル御趣旨デアリマセウカ、此點ニ付テ
御伺致シタイノデアリマス、私共ノ見解カ
ラ致シマスレバ、此自由創設主義ニ加フル
ニ强制主義ヲ加味シナカッタナラバ、到底政
府ガ考ヘテ居ラレルガ如キ、自作農創設維
持ノ擴充强化ハ不可能ナリト考ヘテ居ルノデ
アリマスガ、本法案ハ實質ニ於テ、只今私ガ
申上ゲルヤウナ自由創設主義カラ强制創設
主義ヘノ轉向デアル、而シテ又當局ハ果シ
テ此法案ガ從來ノ規則ノ不合理ヲ排除シテ、
サウシテ農地問題ノ解決ニ副フニ十分ナリ
ト御考ニナッテ居ルカドウカ、此點ヲ御伺致
シタイノデアリマス
私ノ卑見ヲ以テ致シマスレバ、土地價格
ヲ下落セシメ得ルコトハ、自作農創設維持
政策ノ必要的前提デアノデアリマシテ、土
地價格ノ高イコトハ、獨リ小作人ヲ苦シメ
ル所以デアルバカリデハナク、延イテ是ガ
資金調達者デアル政府ノ財政負擔ヲ重カラ
シムル所以デアル、之ヲ制限致シマセヌナ
ラバ、此自作農創設政策ハ行詰ラザルヲ得
ナイノデアリマス、故ニ私ハ先以テ小作關
係ノ根本的改革ヲ斷行シ、特ニ小作權ヲ確
立シ、寡少農地ノ競合ニ依ル所ノ小作料ノ
吊上、隨ヒマシテ土地價格ノ〓騰ヲ抑ヘル
ト共ニ、土地收益ヲ無視シタル所ノ高率小
作料ヲ是正スルト云フコトガ、自作農創設
維持ノ前提的要件デアルト考ヘルノデアリ
マス、然ルニ小作立法ハ小作料、小作機關
及ビ小作地ニ對スル諸權利ニ付テ、適正ナ
ル考慮ヲ拂ハナケレバナラヌノデアリマス、
而シテ理想的小作法ハ、地主、小作人ノ雙
方ニ出來得ル限リノ滿足ヲ與ヘテ、之ニ依ツ
テ農業ノ隆盛ヲ來シ得ルモノデナケレバナ
ラヌノデアリマス、分配上ノ正義ヲ實現シ
ツヽ、之ニ依ッテ爭議ノ發生ヲ未然ニ防グモ
ノデナケレバナリマセヌ、少クトモ直接耕
作ニ從事スル所ノ小作人ニ向ッテ、耕作ニ對
スル所ノ十分ナ安心ト興味トヲ與ヘ、眞々
農民ヲシテ天ニ親ミ地ニ安ジテ、其天職ヲ
果サシムルモノデナケレバナラヌト考ヘル
ノデアリマス
實力ノ相違アル地主ト小作人トノ法律關
係ハ、契約自由ノ原則ニ放任シテ置イテハ
駄目デアル、政府ノ社會政策的見地カラス
ル所ノ干涉ガ必要デアラウト思ヒマス、玆
ニ私共ハ小作立法ノ確立ヲ要望スル所以デ
アルノデアリマスガ、法律ヲ以テ小作人ノ
權利ヲ確立スルト云フコトハ、決シテ地主、
小作人ノ日常關係ヲ法律的ニ冷酷ナラシム
ル趣旨デハナイノデアリマス、ソレハイザ
ト云フ場合ニ、惡イ地主ガ出タ時、冷酷ナ
地主ノ出現ニ脅サレタル所ノ、小作人ヲ保
護セントスルモノニ外ナラヌノデアル、斯
ル觀點カラ致シマシテ、私ハ本法案ヲ眺メ
マスルナラバ、法案第十一條ニ「賃貸借ハ
其ノ登記ナキモ小作地ノ引渡アリタルトキ
ハ爾後其ノ小作地ニ付物權ヲ取得シタル者
ニ對シ其ノ效力ヲ生ズ」ト云フ規定ガアリ、
玆ニ小作權ノ所謂物權化ニ進ミマシタコト
ハ、私ノ贊成致ス所デアリマス、併ナガラ
法案ハソレ等ノ點ニ付テモウ數歩ヲ進ムベ
キデアッタト思フノデアリマス、第五十九議
會ノ小作法案ヨリモ、少カラズ後退致シテ
居リマスルコトハ、私共ノ了解シ得ザル所
デアリマス、例ヘバ昨日西川君ヨリ御指摘
ニナリマシタ如ク、作離料ノ規定ヲ缺クガ
如ク、或ハ第三十一條ニ謂フガ如ク、小作
權ノ賣買或ハ作株、或ハ開墾權ト稱スル如
キ、其賣買ノ慣習ノアル地方ニ於キマシテ
ハ、小作地返還ノ場合ニ償金支拂ノ義務ヲ
認メテ居ル、此法案ガ小作權ノ賣買、其慣習
アル地方ニ於テ、小作人ヨリ小作人ヘノ賣
買讓渡ヲ認メザルハ何故デアリマセウカ、
又小作地賣買ノ場合ハ、出來ル限リ其小作
人ヲシテ買取ラシムルト云フコトガ、農業
經營ニ變動ヲ來サザラシムル點カラ申シマ
シテモ、小作農民間ノ土地爭奪ヲ囘避スル
點カラ申シマシテモ、適當デアラウト思フ
ノデアリマスルガ、此規定ヲ缺如致シテ居
ルノデアリマス、斯ル場合ニ於キマシテハ、
地主ヲシテ先ヅ小作人ニ、アノ土地ヲ俺ハ
賣ラウト思フガト云フコトノ通〓ヲ爲サシ
ムル必要ガアラウト思フ、其通知ノ義務ヲ
規定シテ居ラナイノハ、又ドウ云フ譯デア
リマセウカ
而シテ又小作爭議ノ激增ヲ眞ニ憂慮ニ堪
ヘザルト當局ガ御認メニナルナラバ、此小
作爭議增加ノ傾向、而シテ段々惡化ノ傾向
ヲ迪ッテ居ル所ノ現狀ニ鑑ミマシテ、土地假
差押、土地立入禁止ノ假處分等ニ付キマシ
テハ、是ガ制限ノ方法、少クトモ或ル程度
ノ緩和方法ヲ講ズベキ筈ト思フノデアリマ
スルガ、是等ニ付テ何等觸ルヽ所ガナイノ
デアリマス、凡ソ小作爭議ニ於テ立毛ノ假
差押、土地返還ノ爲ノ立入禁止ノ假處分ト
云フガ如キ、悲慘ナルコトハナイノデアル、
憐レナル小作人ガ是等ノ處分ヲ受ケマシタ
時ニ、殆ド茫然自失爲ス所ヲ知ラズ、甚シ
キニ至リマシテハ、是ガ爲ニ直接行動ニ訴
ヘントスル實例ハ、頻々トシテ私共指摘スル
ルコトガ出來ルノデアル、而モ終局ノ强制
執行ナラバマダ宜シイ、唯債權保全ノ爲ノ
假差押、執行保全ノ爲ノ假處分ト云フガ如
キコトハ、是ハ立法的方法ニ依ッテ緩和ス
ルカ、少クトモ之ヲ禁止ヲスルカ、少クトモ
是ガ緩和ノ方法ヲ講ズベキモノデアラウト
思フガ、今御提案ニナッテ居ル所ノ農地法ノ
小作關係ニ對スル部分ニ於キマシテモ、以
上申上ゲマシタヤウナ諸點ニハ何等觸ル
ル所ガナイノデアリマス、小作立法ニ付テ
當局ハ如何ナル御見解ヲ御持チニナッテ居
ルデアリマセウカ、重ネテ此點ニ付テ御伺
致シタイノデアリマス
以上ハ本法案ニ對スル所ノ直接關係ノ問
題デアルノデアリマスルガ、更ニ私ハ土地
政策ノ根本ニ付テ御尋致シタイノデアリマ
ス、抑〓土地問題ハ古來爲政者ノ最モ頭ヲ惱
マシタ所ノ重大ナル問題デアル、古キ歷史ヲ
考ヘテ見マスルト云フト、彼ノ大化ノ改新ノ
大眼目デアッテ、其當時斷行セラレタ所ノ班
田收授ノ法ハ、實ニ土地國有ト其公平ナル
分配ニ依ッテ、國民ノ富ノ平均ヲ圖リ、一部
豪族ニ依ル所ノ土地ノ獨占ヲ防ガントスル
モノニ外ナラナカッタノデアリマス、然ルニ
其實施ニ伴ヒマシテ、必然的ニ土地ノ不足
ヲ告ゲルヤウニナリマシテ、政府ハ種々ソ
レニ對スル所ノ對策ヲ考ヘ、又實行致シタ
ノデアリマスルガ、其中最モ必要ナルモノ
ハ、墾田、卽チ荒蕪地ノ開墾ノ方法デアツ
タノデアリマス、而シテソレハ元正天皇ノ
朝以來歷代ノ政策トシテ行ハレタノデア
リマスルガ、開墾ヲ奬勵スル爲ニハ、ド
ウシテモ開墾者ノ開墾地ニ對スル所ノ特
別ノ權利ヲ認メナケレバナラヌ、サウシ
テ其土地ヲシテ開墾者ノ永久的私有地
タラシメナケレバナラナカッタ結果、墾田
ソレ自身ノ政策ハ大イニ成功致シマシタケ
レドモ、今度ハ土地兼併ノ弊ヲ生ズルヤウ
ニ相成ッタノデアリマス、卽チ富豪乃至權勢
者ハ盛ニ人民ヲ使役シテ開墾ヲ爲シ、競ウ
テ土地ノ兼併ヲ圖ッタノデアリマス、ソコデ
其後ニ至リマシテ、此方法モ禁ゼラレルヤ
ウニ相成ッタノデアリマスルガ、以上ノヤウ
ニ我國ノ歷史上ノ土地兼併ノ一二ノ例ヲ
取ッテ見マシテモ、如何ニ土地制度ガ困難ナ
問題デアルカト云フコトハ御分リデアラウ
ト思ヒマス、限リアル土地ヲ如何ニ利用セ
バ、生產及ビ分配ノ政策上ノ最モ適當ナル
ベキカノ問題ガ、古今其揆ヲ一ニシテ我國
ノ爲政者ヲ苦シマシメタ所ノ大キナ問題デ
アルコトハ、前段申上ゲル通リデアル、明
治維新以來、明治維新ハ政治的ノ大變革デ
アリマシタガ、同時ニ土地制度ニモ大改革
ガ行ハレタノデアリマス、而シテ現代我國
ノ土地制度上、土地制度ノ改革ニ付テノ考
慮スベキ問題ハ、前述ノ土地國有ノ問題ノ
如キ、自作農創設ノ問題ノ如キ、而シテ小
作制度改革ノ問題ト考へテ居ルノデアリマ
スルガ、此法案ハ第二、第三ノ問題ニ付テ
ハ觸レテ居リマス、併ナガラ徒ラニ農地法
案ト云フガ如キ雄大ナル名稱ノ蔭ニ隱レ
テ、內容ノ貧弱ヲ「カムフラージュ」セント
スルガ如キ印象ヲ與へテ居ルノガ、全ク此
農地法案デアルノデアリマス、先程農林大
臣ハ、自分達ハ土地國有問題ノ如キモノハ
反對デアルト申サレマシタ、若シ農林大臣
ニシテ此土地國有ニ反對デアルナラバ、重
ネテ之ニ對シテノ御尋ハ致サヌノデアリマ
スルガ、農林大臣ハ此土地法案ニ依ッテ、終
局的ニ現在ノ日本ノ土地制度ノ問題ニ付テ
解決ヲ與ヘタモノト御考ニナッテ居ルデア
リマセウカ、ドウデアリマセウカ、但シハ
又是ハ一時的、經過的ノ立法デアル、モウ
少シク案ヲ練ッテ、根本的ニ土地制度ニ對ス
ル所ノ改革案ヲ立テテ居ラレルノデアリマ
セウカ、今日全面的ニ庶政一新ノ叫ビガ盛
ンデアリマス時ニ、農地問題ノ解決ニモ一
大革新ヲ斷行サルベキ時デアルト云フコト
ヲ考ヘマスルガ故ニ、併セテ此點ニ付テノ
御所見ヲ御伺致ス次第デアリマス、以上各
項ニ亙リマシテ、極メテ〓括的デハアリマ
スルガ、卑見ヲ開陳致シマシテ、山崎農林
大臣ノ御所見ヲ御伺致ス次第デアリマス(拍
手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=28
-
029・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 石坂君ノ段々
御熱心ナ御〓究ノ結果ヲ伺ッタ譯デアリマ
スガ、大分是マデモウ御答ヲ申シテ居ルコ
トモ多カッタヤウデアリマスカラ、御不滿カ
モ知レマセヌガ、答ハ極メテ簡單ニ致シマ
スカラ、ドウカ惡シカラズ御願致シマス、
第一ハ自作農創設ハ失敗デハナカッタカト
云フ點デアリマシテ、是モ度々御質問ガアッ
テ、度々御答ヲシタ點デアリマスガ、當局
トシマシテハ失敗トハ考ヘテ居リマセヌノ
デアリス、農地委員會ノ組織デアリマス
ガ、是モ石坂君ノ御主張ノヤウニ餘程注意
ヲシナケレバナリマセヌ、是ハ或ハ政黨關
係デアルトカ、或ハ地主ニ偏スルトカ云フ
ヤウナ、サウ云フ事情ガ伴ッテハ宜シクナイ
コトデアリマシテ、是ハモウアナタノ御懸
念ニナッテ居ラレルヤウナ、左樣ナ弊ニ陷ラ
ヌヤウニ、當局トシテハ極力注意ヲ致ス考
デアリマス、石坂君ハ大體農村對策トシテ
隣保相助ノ精神ヲ以テ臨ムト云フコトハ、
御贊成ノヤウデアリマシテ、洵ニ結構デア
リマス、私共モ農村ハドウシテモ其立前デ
行カナケレバナラヌト云フ考デアリマス
ガ、偖テ之ガ指導方法ト云フコトニナリマ
スト、是ハ石坂君ノ御懸念ノヤウニ、決シ
テ簡單ナコトヂヤアリマセヌ、多クハ精神
運動ニ屬スルコトガ多イ譯デアリマスノ
デ、餘程ソコハ簡單ニ參ラヌノハアナタノ
仰セノ通リデアリマス、農林省トシテハ、
從來ノ例ヘバ經濟更生計畫ト云フヤウナコ
トニシテモ、單純ナル經濟問題トシテノミ
ニ之ヲ考ヘテハ居リマセヌ、ヤハリ經濟ト
精神ト兩方面ノ運動トシテ考ヘテ居ル譯デ
アリマスガ、此事ハ決シテ容易デナイト云
フコトハ、モウ石坂君ノ御指摘ノ通リデア
リマス、併ナガラドウシテモ農村ハ其立前
ヲ以テ行カナケレバナラヌト云フ、私共ハ
所信ヲ懷イテ居ル譯デアリマス、自作農ノ
創設ニ强制主義ヲ加味スルノデアルカト云
フ、是ハ主トシテ御意見ノヤウデゴザイ
マシタガ、今囘ノ案ニハ別ニ强制ノ主義
ヲ加味シテ居ナイノデアリマス、ソレカラ
小作關係ノ規定ガ如何ニモ不徹底デハナイ
カト云フコトハ、是ハ昨日來多數ノ諸君カ
ラ御述ニナック點デアリマシテ、或ハ作離レ
ノ問題デアルトカ、或ハ賣却通知ノ問題デ
アルトカ、或ハ立毛差押ノ問題ト云フヤウ
ナ點デアリマシタガ、是等ハ昨日モ申上
ゲマシタヤウニ、各事項々々ニ涉リマシテ、
委員會等ニ於テ、何故ニ之ヲ農地法ト云フ
特別法ノ規定ニ入レナイデ、民法或ハ訴訟
法ニ委シテ置イタカト云フ點ハ、細カニ御
說明申上ゲタイト考へテ居リマス、大體ソ
レデ御答ハ盡キタカト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=29
-
030・石坂繁
○石坂繁君 簡單デアリマスカラ此席カラ
御許ヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=30
-
031・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=31
-
032・石坂繁
○石坂繁君 私ノ御尋致シマシタ最後ノ問
題卽チ當局ハ此法律案提案以外ニ、土地
問題ニ對スル根本的革新政策ノ御用意アリ
ヤ否ヤト云フコトニ付キマシテ、御答辯ガ
漏レタヤウデアリマス、重ネテ御尋致シマ
ス
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=32
-
033・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 大事ナ點ガ拔
ケテ居リマシテ相濟マヌ次第デアリマシタ、
石坂君ハ庶政一新ノ時代デアルカラ、拔本
的ノ制度ヲ樹立スルコトガ必要ヂヤナイ
カ、斯フ云フ御精神ノヤウデアリマス、其
御主張ハ抽象的ノ御議論トシテハ肯ケル御
議論デアリマス、唯土地制度ノ問題ノ如キハ、
昨日來申上ゲマシタヤウニ、一ツノ理論ヲ
以テ急激ナル變革ヲ加へルト云フコトハ、如
何ナモノデアラウカト思ヒマス、私共ハ日本
ノ今日ノ立前トシテ、ヤハリ從來ノ各地方ノ
慣行等ハ尊重スベキハ之ヲ尊重シテ、餘リニ
煩瑣ナ權利義務ノ關係ニ之ヲ委ネナイ方ガ、
適當デアラウト云フ考へ方ヲ持ッテ居ルノデ
アリマシテ、殊ニ此問題ハ單ニ法律關係ノ問
題デ解決スベキモノデナク、他ノ行政的ノ
施設ト併セテ、斯樣ナ問題ノ解決ニハ進ム
ベキモノデアル、斯樣ナ考ヲ持ッテ居リマス
カラ、或ハ皆サンガ御覽ニナレバ、農地法
ト云フ法律ガ如何ニモ何ダカ不徹底ヂヤナ
イカト云ッタヤウナ、御氣持ノ起ルノモ御無
理デハアリマセヌケレドモ、私共ハ法ハ寧
ロ簡約ナルコトヲ適當ト考ヘテ居ル次第デ
アリマシテ、隨テ今日ノ場合此程度ノ立法
ガ適當デアル、庶政一新、庶政一新ト申シ
マシテモ、實際ノ事情ニ適合スルコトハ、
是ハ同時ニ考ヘテ行カナケレバナラヌノデ
アル譯デアリマスカラ、私共ハ此程度ノ立
法ガ相當ノ意義ヲ有スルモノデアルト、斯
樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=33
-
034・石坂繁
○石坂繁君 重ネテ此席カラノ發言ヲ御許
願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=34
-
035・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=35
-
036・石坂繁
○石坂繁君 更ニ質疑應答ヲ重ネタイ希望
ヲ持ッテ居リマス、殊ニ法案ノ逐條的各細部
ノ點ニ付テ然リデアリマス、併ナガラソレ
ハ他ノ機會ニ讓ルコトヲ適當ト考ヘマスル
カラ、此程度デ私ノ質疑ハ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=36
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037・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 大石大君
〔大石大君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=37
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038・大石大
○大石大君 諸君、私ハ只今上程ニナッテ居
リマスル農地法案ニ對シマシテ、質問ヲ致
ス者デアリマス、昨日來十幾人ニ亙リマシ
テ、此法案ニ對シマスル質問應答ヲ重ネラ
レマシタ、私ノ問ハント欲スル所、聽カン
ト考ヘテ居リマシタ事柄ハ、殆ド論ジ盡サ
レタノデアリマス、故ニ二三ノ點ヲ指摘致
シマシテ、政府當局ノ所見ヲ質シタイト存
ジマスル、抑〓此農地法ハ自作農創定維持
ト小作制度ノ法律化ヲ兩翼トスルモノデア
リマシテ、特ニ小作制度ノ確立ハ、我國農
業政策ニ新紀元ヲ劃スルモノト致シマシテ、
其內容ハ各方面ヨリ注視セラレテ居ッタ譯
デアリマス、然ルニ只今本案ノ內容ヲ見ル
ニ、自作農創設維持施設ハ、從來ノ同施設
ノ擴充ニ過ギナイノデアリマス、一面農地
法案ノ一翼ヲ成シテ居リマス所ノ小作關係
ニ付キマシテモ、其內容ノ如何ヲ注視セラ
レテ居ッタノデアリマスルガ、此小作關係
ノ規定ハ、第六十五議會ニ齋藤內閣ニ依ッ
テ提案セラレタル小作法ニ比較致シマシ
テ、甚シキ後退ヲ見ルモノデアリマスル、
一一·二六事件ノ後ヲ承ケテ、庶政一新ガ全國
民ノ翹望ヲセラレマスル今日此際、現內閣
ニ於テ斯ノ如キ不徹底ナル提案ヲ見タルコ
トハ、洵ニ遺憾トスル所デアリマス、自作
農創設維持ノ從來ノ施設ガ悉ク失敗デアッ
タト云フコトハ、昨日來ノ本議場ニ於テ論
ジ盡サレマシタ、然ルニ山崎農相ハ決シテ
失敗デハナカッタ、斯樣ナ答辯ヲ只今石坂君
ニ致サレマシタ、抑ミ現行ノ自作農創定維
持ハ、大正十五年以來今日ニ至ル迄繼續シ
テ施行セラレテ居ル、約一億一千万圓、此
大キナ金ヲ約十二万戶ノ農民ニ融通致シマ
シテ、五万七千町步ノ田畑ヲ自作農ニ轉換
セラレ、或ハ維持セラレタコトニナッテ居
リマス、然ルニ昨年ノ十一月七日、農林省
發表ノ昭和十年度農業統計表ニ依ッテ見マ
スルト、昭和六年ヨリ十年ニ至ル五箇年間
ニ、小作地ハ三万一千町步、小作人戶數ハ
一万三千戶增加致シテ居リマス、而シテ此
半面ニ自作農ノ戶數ハ一万六千戶減ッテ居
リマス、長イ間本制度ヲ施行致サレマシテ、
斯ノ如キ數字ヲ見ルコトハ、過去ノ制度ガ
失敗ダッタト云フコトヲ十分ニ辯證スルモ
ノデアリマス、過去ニ於テ失敗ヲ重ネ來ッタ
モノガ、本案ノ成立ニ依リマシテ、將來恙ク
其目的ヲ達セラレルト何人ガ保證ガ出來マ
セウ、併シ唯情勢ノ變リマシタノハ、米價ノ
公定ガ出來タ、從來ハ米價ノ暴落ニ依リマ
シテ、折角小作ヨリ自作農ニ轉換致シマシ
タケレドモ、米價暴落ノ爲ニ其償還金ヲ支
拂フコトガ出來ズ、又再ビ小作人ニ落チタ
ト云フ關係モアリマセウ、併シ如何ニ米
價ガ公定セラレマシテモ、小作人ガ地主
ヨリ土地ヲ買ヒマシテ自作農ニ轉化致シ
マス者ハ、主トシテ小農デアリマス、洵
少イ田地ヲ耕作シテ居ル連中デアル、サウ
致シマスナラバ、其小農ハ賣ル米ヲ持ッテ居
ラナイ、先刻三宅君ヨリ論ゼラレマシタガ、
其通リデアル、其土地ヲ買ヒマシタ地代ノ
償還ハ、他ノ農業收入ニ依ッテ支辨シテ行ク
ヨリ外ナイ、サウ致シマスナラバ、米價ノ
公定ト云フコトガ、必シモ將來ノ此損失ヲ
保障スルトハ斷ゼラレマセヌ(「ヒヤ〓〓」)
私ハ本制度ヲ强化シ、其目的ヲ達成致シマ
スニ付キマシテハ、農村ニ對シマスル、農
村行詰リノ病根トナッテ居ル、其幾多ノ問題
ニ對シテ、徹底的ノ政策ヲ施サンケレバ、
其目的ヲ達セラレヌモノト信ジマス、固ヨ
リ農村行詰リノ原因ハ多種多樣デアリマセ
ウ、先ヅ主ナルモノヲ見マスレバ農ノ生
產品ト工業生產品トノ交換過程ニ於ケル矛
盾ノ增大デアリマス、卽チ其價格ノ鋏狀ノ
擴大デアル、次ハ負擔ノ偏重デアル、今
ツハ負擔ノ重壓デアル、此三ツノ問題ニ對
シマシテ、之ヲ根本ヨリ是正スル所ノ政策
ヲ實行スルニ非ズシテ、百ノ自作農創定、
千ノ自作農維持ノ制度モ、私ハ決シテ其效
果ガナイモノト信ズルノデアリマスガ、其
點ニ對シテ山崎農相ハ如何ナル考ヲ持ツカ、
先ヅ之ヲ承リタイノデアリマス
農產物ト一般工業商品トノ其價格ノ開キ
ハ、統計ヲ以テ申上ゲレバ判明致シマスガ、
制限セラレタ時間デハソレハ許シマセヌ、
要スルニ農業ナル產業ト輸出貿易ト云フモ
ノニ於テ、非常ナル矛盾ガアルノデハナイ
カ、政府ハ施政方針ノ演說ニ於カレマシテ
モ、輸出ノ促進ト云フコトヲ强調セラレマ
シタガ、大體我國ノ國際商品ガ世界市場ニ
壓倒的氾濫ヲ致シマシタノハ、要スルニ其
生產「コスト」ガ安イ爲メデアル、其生產「コス
トレノ安イノハ、勞働賃銀ガ安イ、安イ勞
働賃銀デ、而シテ勞働力ノ强化ヲヤッテ居ル、
勞働賃銀ヲ安クシ、勞働力ヲ强化致シマス
ニハ先以テ食料品ノ價格ヲ下ゲナケレバ
ナラヌ、卽チ我國ノ資本主義經濟ハ、農ノ
生產品ノ價格ヲ下ゲテ勞働賃銀ヲ安クシ、
農ノ生產賃銀ヲ下ゲテ原料ヲ安ク買フ、而
シテ生產「コスト」ヲ下ゲテ輸出貿易ヲヤル
ノデアリマスカラ、農業ナル產業ハ常ニ
輸出貿易ノ爲ニ、私ハ犠牲ニナッテ居リハ
セヌカト考ヘル、此點ニ於テ山崎農相ハ如
何ニ御考ニナルカ、此點ヲ伺ヒタイ、尤
モ輸出貿易ヲ盛ニ致シマシテ國際貸借
ヲ良化スルコトハ、國家ノ爲メ必要デア
リマス、若夫レサウ云フ考カラシテ、農ノ
生產品ガ一般工業生產品ノ水準ヲ保持スル
コトガ出來ナイト致シマスレバ、之ニ代ル
方法ヲ用ヒナケレバナラヌ、現ニ獨逸ノ如
キハ農業ナルモノハ食料ヲ生產シ、尙且ツ
對外貿易ノ上ニ於テハ、國際商品政策ノ爲
ニ犠牲ニナッテ居ルカラ、是程ノ公益事業ハ
ナイ、公益事業ハ引合ハナケレバナラヌ、
ソレニ補助スルコトガ當然デアルト云フ立
前ヨリ、農業ニ對シテハ補助シテ居ル、斯
ウ云フコトニ付キマシテモ農相ハ如何ニ考
ヘラレルカ、此點ヲ承リタイ
產業資本ノ獨占化ハ農村ニマデ氾濫致シ
マシテ、現ニ東京市附近ノ農村ニ於テ牛ヲ
飼ウテ居ル、乳ヲ搾ッテ賣ッテ居ル、此乳ヲ五
百石位ヅツ搾ッテ居リマスルガ、殆ド其半
分ハ三井系ノ森永ニ獨賣ヲサレテ居ル、其
半分ハ三菱系ノ明治牛乳ニ專賣サレテ居
ル、或ハ愛知縣ノ鶏卵モ皆三井ニ買取ラレ
テ居ル、靑森方面ノ林檎、皆其通リデアル、
斯ウ云フ風ニ資本家ハ農村ニ資金ヲ出シテ
乳牛ヲ購買セシメ、或ハ緬羊ヲ買ハシテ、
サウシテソレニ對スル食料ハ資本家ガ供給
シテ、先ヅ〓料デ儲ケテ、サウシテ又其生
產品ヲ買取ッテソレデ儲ケル、此處マデ資本
家ハ農村ニマデ進展シテ來テ居リマス、斯
ウ云フコトカラ見ルナラバ、殆ド養鶏小作、
或ハ乳牛小作、一種ノ小作ノ關係ニナッテ
居ル、政府ハ此農ノ生產品ノ販賣ニ付キマ
シテ、國家的ニ之ヲ統制スル所ノ御考ハナ
イカ、今日ノ如ク資本家ノ蹂躪ニ委シテ置
イタノデハ、徒ラニ自作農ノ創定ヲヤラレ
マシテモ、日ナラズシテ是ハ沒落スル、今
日各府縣ニ於テ或ハ販賣購買聯合會トカ云
フモノヲ作ッテ、自治的統制ハ執ッテ居リマ
スルケレドモガ、是ハ常ニ縣ト縣トノ競爭
ガ起リ、或ハ團體ト團體トノ摩擦ガ起ル、
サウシテオ互ニ競爭ヲ致シマスガ爲ニ、少
シモ農ノ生產品ノ價格統制ニ對シテハ貢獻
ヲ致シテ居リマセヌ、殊ニ又農會、產業組
合等ガ此問題ニ對シマシテ色々ノソコニ相
剌ガアリ、摩擦ガアリ、非常ナル弊害ヲ釀
シテ居ルコトハ、疾クニ農林當局ノ御承知
デアリマセウ、斯ウ云フ點ヨリ考ヘマシテ、
農ノ生產品ノ市場ノ統制ト云フコトニ對シ
テ何カ御考ハナイカ、之ヲ伺ヒタイ
次ハ負債ノ整理ニ付テ伺ヒタイノデアリ
マス、負債ノ整理ニ付キマシテハ、旣ニ負
債整理法ナルモノガアッテ、現在施行セラレ
テ居ル、此制度ニ依リマスルト、三箇年間
ニ六千ノ町村ニ二万五千ノ組合ヲ組織シ
テ、サウシテ預金部ヨリ二億圓ヲ融通致シ
マシテ、緊急整理ヲ要スル六億圓ヲ片付ケ
ルト云フコトガ、其目的デアッタヤウニ承ッ
テ居リマスル、然ルニ四年ヲ過ギタ今日、
組合ノ出來マシタル町村ガ千四百七十五箇
町村、組合數ハ僅ニ四千十六組合デアリマ
ス、融資セラレマシタル資金ハ三千百十一
万圓、是ハ三年間ニヤルコトニナッテ居ッタ、
其當初ノ豫定ニ比シマスルト、組合數ハ僅ニ
五分シカ出來テ居ラナイ、融資高ハ僅ニ七
分ニシカ達シテ居リマセヌ、斯ク此整理組
合法ナルモノガ效果ヲ擧ゲテ居ラナイノハ、
固ヨリ農民ニ利益ノ乏シイモノモゴザイマ
セウガ、法其モノニ本質的ニ非常ナル缺陷
ガアル、其手續ガ極メテ煩瑣デアリマス、
サウシテ其債務ニ對シテ減額ヲ交涉致シマ
スニ付キマシテモ、個人ノ債權者ノミニ對
シテ之ヲ强ユルノデゴザイマシテ、銀行、
信用組合ト云フヤウナ金融機關ヨリ借リテ
居リマスル金ニ對シマシテハ、其減額ヲ要
求スルコトガ出來ナイコトニナッテ居ル、此
コトハ先般本議場ニ於キマシテ、同僚中野
正剛君ヨリ一般施政方針ノ演說ニ對スル質
問ト致シマシテ質問ヲシタ時ニ、山崎農相
ハ銀行ニモ減額ヲ要求シテ居ル、交涉シテ
居ル、斯樣ニ御答辯ニナッタ、ケレドモガ決
シテ銀行ヤ信用組合ニハ交渉シテ居ラナ
イ、交涉致シテモ負ケマセヌ、ノミナラズ
是等ノ金融業者ニ對シマシテハ、此負債整
理法ヲ楯ニ取ッテ減額ヲ要求スナト云
フ、中央政府ヨリ通達ガ出テ居ル筈デア
リマス、斯樣ナコトガ此負債整理法ノ成績
ノ擧ラヌ所以デアリマス、斯ノ如キコト
ヲ繰返シテ居リマシタノデハ、何年經チ
マシテモ約四十億以上ノ農村ノ負債ハ片付
カナイ、此間農林省ノ發表スル所ニ依ル
ト、農村ノ負債ハ四十億九千万圓、其中二
十五億圓ガ擔保附デアッテ、十五億圓ガ無擔
保ノ惡質ノ債權デアルト御發表ニナッテ居
ル、サウ致シマスナラバ、十五億圓ノ無擔
保ノ惡質ノ負債ニ對シマシテハ、一層徹底
シタ負債整理ノ施設ヲ行ヒマシテ、サウシ
テ之ヲ整理サルヽト云フ御考ガアルカ、現
在ノモノヨリモモット强化シタ、擴大シタ、
力ノ强イ、金ノ大キイモノヲ拵ヘテ、速ニ
之ヲ整理ナサルヽ所ノ政府ニ御考ガアルカ
否ヤ、之ヲ伺ヒタイ、アトノ二十五億圓ガ
主トシテ勸業銀行、信用組合、或ハ其他ノ
銀行等デアラウト思ヒマスルガ、此負債ニ
對シテハ一先ヅ政府ガ肩替リヲシテ、サウ
シテ之ヲ整理スルト云フ、此飛躍的ナ御考
ハナイカ、今日只今ソレヲヤラナクトモ、
將來サウ云フコトヲ爲サンケレバナラヌト
云フ御考ハアリハシナイカ、之ヲ伺ヒタイ、
政府ノ肩替リト申シマスルト、如何ニモ突
飛ナ議論ノヤウニ聞エマスルガ、諸君モ御
記憶ガアルデアラウ、昭和二年ノ財界ノ動
亂ニ於キマシテ、臺灣銀行ヲ初メトシテ朝
鮮銀行、其他有力ナ金融業者、震災手形法
ト合セテ十數億ノ金ヲ投リ出シテ整理ヲシ
タノデハアリマセヌカ、彼等金融業者ハ好
景氣ノ時ニ、產業資本家ト馴レッコニナッテ
放漫ナル放資ヲシテ、其放資ノ結果財界ノ
反動ニ遭ウテ、サウシテ行詰ッタ時ニ於テ
ハ、皆國民ニ負擔セシメテ、ソレヲ整理シ
タノデハナイカ、農民ハ思惑ヲ致シマセヌ、
朝カラ晩マデ一生懸命働イテ居ル、粒々辛
苦ヲシテ農業ニ勵ンデ居ル、ケレドモ政治
ノヤリ方ガ惡イ爲ニ-私ハ從來ノ政治ノ
ヤリ方ノ惡カッタコトヲ、今日批判ヲスルニ
ハ時間ガ許サナイガ-其爲ニ此大キナ負
債ニ陷ッタ、アノ銀行ヲ救ッタ時ノ考ヲ以テ
ヤルナラバ、之ヲ肩替リヲシテ整理ヲスル
位ノコトハ、私ハ當然ト考ヘマス、之ニ對
シテ如何ナル考ヲ持ツカ·
ソレカラ肥料ノコトニ付テ一言伺ヒタイ、
重要肥料ニ對シマシテハ、昨年ノ特別議會
ニ於テ統制法ガ通過ヲシタ、サウシテ昨年
ノ十一月十五日ニ施行ニナッテ居リマスル
ガ、是等ノ重要肥料ノ製造業者ハ、去月十
一日ニ價格公定ニ對スル所ノ總會ヲ開イ
タ、サウシテ肥料ノ價格ヲ決メテ居ル、硫
安ハ二月限ガ三圓五十錢、三月限ガ三圓五
十五錢、四月限ガ三圓六十錢、五月限ガ三
圓六十五錢、六月限ガ三圓七十錢、斯ウ云
フ風ニ決メテ居ル、サウシテ農林、商工兩
大臣ニ是ガ認可ヲ申請中デアルト聞キマス
ル、所ガ此肥料法ノ施行ノ當時、昨年ノ十
一月ニハ僅ニ三圓二十錢デアル、ソレヲ斯
ウ云フ風ニ上ゲテ居ル、サウ致シマスナラ
バ、一箇年百六十万瓲ノ硫安ヲ使ヒマスル
カラ、二千三百八十九万圓ト云フモノノ大
增加ニナル、斯樣ナ問題ヲ片付ケテ行カン
ケレバ、自作農ヲ如何ニ作リマシテモ決シ
テ維持ハ出來ナイ、サウシテ生產費ハ水電
解法ニ依ル最低ハ三十五圓八錢、最高ハ四
十一圓四十錢、石灰法ガ最低ガ二十七圓三
十七錢、最高ガ四十三圓、之ニ間接ノ生產
費ヲ加ヘナケレバナラヌ、間接ノ生產費ニ
付キマシテハ、昨年ノ特別議會ニ於テ政府
ノ發表シタ所ノ最低價格ハ七圓六十五錢デ
アル、最高ガ十一圓八十五錢、此生產費ヲ合
算致シマスナラバ、最高デ四十一圓四十錢
位ニシカナラナイ、ソレガ今日生產業者ガ
決メタ價格ニ直シマスト殆ド百圓ニナル、
ソレデアルカラ重要肥料ノ會社ノ利潤ト云
フモノハ多クナッテ居ル、三菱經濟〓究所ノ
調査ニ依レバ、昭和七年ハ八分八厘デアッタ
ガ、昭和十一年ノ上半期ハ一割三分九厘ニ
利潤ガ殖エテ居ル、之ニ對シマシテ政府
ハドウ云フ風ニ御考ヘニナルカ、統制法ト
云フモノガ出來テ、サウシテ肥料ノ値ガ上ッ
テ居ル、上ゲントシテ居ル、固ヨリ全
フレ」景氣ノ關係モアリマセウケレドモ、
「インフレ」景氣ノ關係ガアルト云ウテ、此
値上ヲ認メルコトニナリマスレバ、只今私
ガ申上ゲタダケデモ、二千六百万圓ノ農民
ノ肥料代ノ負擔ガ增加スルノデアル、之三
對シテ農相ハドウ御考ヘニナルカ、若シ今
日ノ經濟組織ニ於キマシテ、モウ少シ安ク
スルコトヲ製造者ガ承知セヌナラバ、政府
ガ自ラ肥料ヲ生產シ之ヲ配給スル、卽チ生
產配給ヲ國家ガヤルト云フ御決心ハナイ
カ、之ヲ伺ヒタイ
最後ニ伺ヒマスノハ、此農地法ト地租法ノ
第七十條第二項トノ關係デアリマス、地租
法ノ第七十條ノ第二項ニハドウ云フ規定ガ
アルカト申シマスレバ、「民法施行前ヨ
リ引續キ存スル永小作權ニ付其ノ設定
ノ當時舊來ノ慣行ニ依リテ小作料支拂ノ
外當該田畑ノ地租ノ全額ヲ永小作權者ニ
於テ負擔スルコトヲ約シタル田畑ニ關シ
テハ命令ノ定ムル所ニ依リ永小作權者ヲ
所有者ト看做シテ前項ノ規定ヲ適用ス」前
項ノ規定ト云フノハ賃貸價格二百圓以下
ノ免稅ノ規定デアル、サウ致シマスナラバ、
賃貸價格二百圓以下ノ自作農ノ免稅ト云
フ、此租稅ノ制度ニ於キマシテハ、二項ニ
規定致シマスル只今私ガ讀上ゲマシタ永小
作權者ハ、自作農ト云フコトニナッテ居ル、
自作農ト看做サレテ居ル、然ルニ此永小作
權ガ民法施行法第四十七條ノ第三項ニ依リ
マシテ、來ル昭和二十三年七月十六日ニ消
滅スルノデアリマス、民法ノ規定ハ、從來
慣行ニ依ル所ノ永代小作權ハ、民法施行ノ
日ヨリ五十年ノ曉ニ、地主ニ於テ償金ヲ拂
ウテ其永小作權ヲ買取レ、若シ地主ガ買ハ
ヌ場合ハ、其權利ヲ抛棄シタル場合ニ於テ
ハ、爾後一年內ニ永小作權者ハ相當ノ代價
ヲ支拂ウテ、其土地ヲ買收スルコトヲ要ス
トナッテ居ル、若シソレヲ爲サナカッタ場合
ニハ消滅スルコトニナッテ居ル、所ガ農村
不況ノ今日、永小作權者ガ五十年ノ曉ニ地
主ニ高イ地代金ヲ拂ウテ、其所有權ヲ獲得
スベク準備ハ致シテ居リマセヌ、又其時ニ
地主ガ法外ナ所ノ價格ヲ吹ッ掛ケルカモ知
レマセヌ、サウスルナラバ遂ニハ永小作權
者ハソレヲ買取ルコトヲ得ズシテ、消滅ノ
悲運ニ陷ル譯デアリマス、此種永小作權ハ
高知縣ノ一角ニ止マルト云フヤウニ御考ニ
ナッテ居ルカモ知レマセヌガ、決シテサウデ
ナイ、此地租法ノ七十條ハ大正十五年第五
十一議會ニ於キマシテ、時ノ濱口大藏大臣
ガ稅制整理ノ改革ヲナサッタ、其時ニ地價二
百圓以下ノ自作農免稅ト云フ制度ガ出來
ク、ソレデハ自作農ニアラズト雖モ、租稅
ヲ負擔シテ居ル所ノ永小作權ニ對シテモ、
同ジク免稅ノ恩典ニ浴セナケレバナラヌノ
ヂヤナイカ、斯ウ云フ私ノ主張ニ依リマシ
テ、遂ニ政府ト衝突-ト云フコトハアリ
マセヌガ、色々論議ガ起ッタ、其時ニ、現在
ノ民政黨ノ總裁町田氏ガ、稅制整理委員ヲ
私共ト一〓ニヤッテ居リマシタ、町田氏ガ非
常ニ盡力ヲシテ下サイマシテ、ソレナラバ
其免稅ノ法案ヲ政府カラ出ス譯ニハ參ラナ
イ、政府ハ全國ニ永小作權ガドレ程アルカ
分ラナイ、稅金ヲ負擔ヲシテ居ル所ノ者ガ
全國ニ何ボアルカ分ラナイカラ、隨テ政府
ガ立法ヲシタ場合ニハ、ソレニ依ッテ生ズ
ル歲入ノ缺陷ニ對シテノ說明ヲシナケレバ
ナラヌ、數字ヲ出サナケレバナラヌガ、ソ
レハ政府ニ於テハ出來ナイ、故ニ私ニ立法
ヲ出セト云フコトデ、法案ハ法制局デ作ッテ
呉レマシタ、サウシテ此種永小作權ノ自
作農免稅ノ規定ヲ設ケタノデアリマスル
ガ、其時ニ熊本縣ノ阿蘇郡カラモ、富山縣
カラモ、長崎縣カラモ、佐賀縣カラモ、德
島縣カラモ、此法ノ趣旨ニ對シマシテ感謝
ノ電報ナリ手紙ガ來タ、サウ致シマスルナ
ラバ、斯ル土地制度ハ獨リ高知縣ノミデハ
ナイ、此民法ノ施行法ヲ改正致シマシテ、
サウシテ永久ニ存續ヲセシムルト云フコト
ガ、自作農創定ノ趣旨ニ適フ所以デアル、
又此種ノ永小作權ノ起源ナリ沿革ヲ申上ゲ
ル時間ガゴザイマセヌガ、是等ノ永小作權
者ハ決シテ人ノモノト思ッテ居ナイ、三百幾
十年ノ間自分ノ所有地デアル、卽チ祖先ニ
承ケテ子孫ニ之ヲ讓ル所ノ所有地ノ不動產
デアルト云フ觀念ヲ持ッテ居リマスルカラ、
土地ヲ改良スル意思ニ於テ、土地ヲ愛スル
意思ニ於テ、眞ノ所有者ト毫末モ違ヒマセ
又、殊ニ使用、收益、處分ノ權モ許シテ居
ル、然ラバ之ヲミス〓〓コヽ僅カ十幾年ノ
間ニ消滅セシムルト云フコトハ、是ハ自作
農創定ノ意思ニ非常ニ反スルモノデアリ、
其制度ニ逆行スルモノデアリマスルガ、此
整理ニ對シマシテ自作農創定法ニ規定ガゴ
ザイマスケレドモ、此規定ハ全然當嵌ラナ
イ、之ニ對シマシテ山崎農相ハ如何ナル御
考ヲ持タレルカ、此點ヲ伺ヒタイノデアリ
そく、私ノ質問ハ是デ終リマス(拍手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=38
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039・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 大石君ノ御尋
ハ、大分具體的ノ問題ニ付テノ御質問デア
リマシタガ、〓要ヲ御答ヲ申上ゲタイト思
ヒマス
第一ハ農產物ト工產品トノ所謂價格ノ鋏
狀差ノ開キノ問題デアリマスガ、此點ハ大
石君ノ御指摘ノヤウニ、農村ニ取ッテハ重大
ナ問題デアリマス、隨テ御承知ノヤウニ農
產物ニ對スル價格政策ト云フコトガ、農村
對策トシテハ避ケルコトノ出來ナイ重要ナ
政策ト相成リマスト同時ニ、農村ノ必需品
デアル、例ヘバ肥料ト云フヤウナ問題ニ付
テ、ヤハリ政府ガ或ル程度ノ價格統制ヲヤ
ルコトノ已ムヲ得ザル所以ノモノハ、ソコ
ニ在ルノデアリマス、此點ハ一方農產物ノ
價格ニ付テ相當ノ統制ヲ行フ方面ト、農村
ノ必需品ニ付テノ已ムヲ得ザルモノニ對ス
ル價格統制ト、兩方ノ方面カラ、御心配ノ
點ヲ成ベク少カラシメルヤウナ政策ヲ執ッ
テ行キタイト考ヘテ居リマス
第二ハ、農產品ハ貿易ノ犠牲トナッテ居
ルノデハナイカト云フ御意見デアリマスガ、
是ハ洵ニ難カシイ問題デアリマスケレドモ、
私共ハヤハリ農村ニ於テ生產ノ增加ヲ圖ル
コトモ、同時ニ考ヘテ行カナケレバナリ
マセヌガ、生產ノ增加ノ餘地ヲ何處ニ求メ
ルカト言ヘバ、ヤハリ貿易關係ノ農產ロ田ト
ナル次第デアリマス、隨テ貿易農產物ノ奬
勵ト云フコトハ、是ハ政府トシテモ常ニ努
力ヲ拂ッテ居ル所デアリマス、御質問ノアリ
マシタ農產物ノ輸出ニ付テ補助デモ出來ナイ
カト云フコトデアリマシタガ、此點ハ以前ニ
乳製品ニ付テ若干ノ補助ヲ致シタコトガア
ルヤニ記憶ヲ致シテ居リマスガ、一般ニ輸出
其モノニ補助金ヲ與ヘルト云フコトハ餘リ
致シテ居リマセヌ、明年度豫算ニ於テ、農
產物ノ輸出ニ付テ販路擴張ノ助成ヲスル、
斯ウ云フ施設ノ費用ヲ計上シテアル譯デア
リマス
次ハ乳牛トカ、或ハ緬羊、或ハ養鷄ト云
フヤウナコトニ、兎角資本家ノ手ガ入ッテ來
ルノデアルガ、ドウカト云フコトデアリマ
ス、此點ハ先日來問題トナッテ居リマスヤ
ウニ、出來ルダケ農村ノ人々ガ共同ノ組織
ニ依ッテ-共同ノ組織ニ依ッテ、農家ノ利
益ヲ擁護スルト云フ考へ方ヲ執ッテ貰ヒタ
イト思フノデアリマス
農產品ノ販賣ニ付テ統制ノ必要ガアルノ
デハナイカト云フ點デアリマスガ、是モ固
ヨリ必要デアリマス、隨テ農林省トシマシ
テハ、各農業團體ニ販賣統制ノ働キヲヤラ
セマスト共ニ、出來ルダケ政府ノ力モ貸シ
マシテ、サウシテ農產品ノ販賣統制ガ巧ク
行ハレルヤウニ努力致シテ居ル所デアリマ
ス
負債ノ整理ハ、此間中野君ノ御問ニ對シ
マシテ御答ヲ申上ゲマシタヤウニ、此議會
ニ成ベク間ニ合セル考デアリマスガ、只今
關係省ト協議ヲ進メテ居ル所デアリマス、
其計畫ガ成立致シマスレバ、負債整理ニ付
テハ從來ヨリモ數步ヲ進メルコトガ出來ル
コトト信ジテ居ルノデアリマス、農家ノ負
債ニ付テ政府ガ肩替リヲスル意思ガアルカ
ト云フ御問デアリマスガ、只今ノ所ハ左樣
ナ考ヲ持ッテ居ラヌノデアリマス
肥料ノ價格ノ問題デアリマスガ、是モ先
日ノ中野君ニ御答ヲ申上ゲマシタコトガ、
少シ簡單ニ過ギタ嫌ヒガアリマシタカラ、
補足ヲ致シテ置キマスガ、重要肥料統制法
ノ規定ニ依リマシテ、肥料製造業者ガ價格
ヲ取極メマシテ、之ヲ政府ニ申告スル仕組
ニ相成ッテ居リマス、其取極メマシタ價格ガ
適當デナイト認メマシタ場合ニハ、政府ハ
場合ニ依ッテ變更ヲ命ジ得ルノ權能ガアル
譯デアリマスガ、只今丁度肥料ノ價格ヲ取
極メル時期ニ相成ッテ居リマシテ、軈テ生產
者ヨリ申請ガ參ルコトト存ジテ居リマス、
隨テ政府ト致シマシテハ、其價格ノ適否ヲ
判定スベキ資料ヲ只今蒐集致シマシテ、關
係省ノ間ニソレ〓〓ノ協議ヲ進メツヽアル
所デアリマス
永小作權ノ問題ハ、法律關係ハ極メテ込
入ッテ居リマスコトハ、大石君能ク御承知ノ
通リデアリマス、此永小作ノ整理ニ付キマ
シテハ、是ハ別途ニ考究ヲ致シテ參ル積リ
デアリマスガ、詳細ハ委員會等ニ於テ申上
ゲル方ガ却テ御便宜デハナイカト存ジマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=39
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040・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 是ニテ質疑ハ終リ
マシタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選
擧ニ付テ御諮致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=40
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041・中山福藏
○中山福藏君 本案ハ議長指名二十七名ノ
委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=41
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042・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 中山君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=42
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043・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程
第二及ビ第三ハ便宜上一括議題ト爲スニ
御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=43
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044・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程第二、救護法中改正法律案、
日程第三、母子保護法案、右二案ヲ一括シ
テ第一讀會ヲ開キマス-內務大臣河原田
稼吉君
第二救護法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
第三母子保護法案(政府提出)
第一讀會
救護法中改正法律案
救護法中左ノ通改正ス
第四條方面委員令ニ依ル方面委員ハ命
令ノ定ムル所ニ依リ救護事務ニ關シ市
町村長ヲ補助ス
第五條削除
第二十三條第四條ノ規定ニ依リ方面委
員ガ職務ヲ行フ爲必要ナル費用ハ市町
村ノ負擔トス
第二十五條第一項中「二分ノ一以內」ヲ
「二分ノ一」ニ改メ同條同項ニ左ノ但書ヲ
加フ
但シ第一號及第二號ノ費用ニシテ町村
ノ負擔ニ係ルモノニ對シテハ其ノ十二
分ノ七ヲ補助ス
第二十七條ノ二救護ヲ受クル者ニ對シ
民法ニ依リ扶養ノ義務ヲ履行スベキ者
アルトキハ其ノ義務ノ範圍內ニ於テ救
護ニ要スル費用ヲ負擔シタル市町村又
ハ道府縣ハ其ノ費用ノ全部又ハ一部ヲ
其ノ者ヨリ徵收スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル費用ノ徵收ニ關シ爭
アルトキハ民事訴訟ニ依ルモノトス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
母子保護法案
母子保護法
第一條十三歲以下ノ子ヲ擁スル母貧困
ノ爲生活スルコト能ハズ又ハ其ノ子ヲ
養育スルコト能ハザルトキハ本法ニ依
リ之ヲ扶助ス但シ母ニ配偶者(屆出ヲ
爲サザルモ事實上婚姻關係ト同樣ノ事
情ニ在ル者ヲ含ム以下之ニ同ジ)アル
場合ハ此ノ限ニ在ラズ
母ニ配偶者アル場合ト雖モ其ノ者ガ左
ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ前項ノ規
定ノ適用ニ付テハ母ハ配偶者ナキモノ
ト看做ス
一精神又ハ身體ノ障碍ニ因リ勞務ヲ
行フコト能ハザルトキ
二行方不明ナルトキ
三法令ニ因リ拘禁セラレタルトキ
四母子ヲ遺棄シタルトキ
第二條本法ノ適用ニ付テハ十三歲以下
ノ孫ヲ擁スル祖母ニシテ命令ノ定ムル
モノハ十三歲以下ノ子ヲ擁スル母ト看
做シ其ノ孫ハ其ノ子ト看做ス
第三條第一條ノ規定ニ依リ扶助ヲ受ク
ベキ場合ト雖モ母ガ性行其ノ他ノ事由
ニ因リ子ヲ養育スルニ適セザルトキハ
之ヲ扶助セズ
第四條第一條ノ規定ニ依リ扶助ヲ受ク
ベキ場合ト雖モ母ノ扶養義務者及其ノ
子ノ扶養義務者共ニ扶養ヲ爲スコトヲ
得ルトキハ之ヲ扶助セズ但シ急迫ノ事
情アル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第五條扶助ハ母ノ居住地ノ市町村長之
ヲサワ
方面委員令ニ依ル方面委員ハ命令ノ定
ムル所ニ依リ扶助事務ニ關シ市町村長
ヲ補助ス
第六條扶助ノ種類ハ生活扶助、養育扶
助、生業扶助及醫療トス
扶助ハ母ノ生活及子ノ養育ニ必要ナル
限度ニ於テ之ヲ行フ
扶助ハ母ノ居宅ニ於テ之ヲ行フ但シ市
町村長必要アリト認ムルトキハ居宅以
外ノ場所ニ於テモ之ヲ行フコトヲ得
前三項ニ定ムルモノノ外扶助ノ範圍、
程度及方法ニ關シ必要ナル事項ハ勅令
ヲ以テ之ヲ定ム
第七條市町村長ハ扶助ヲ受クル母ニ對
シ其ノ子ノ養育上必要ナル注意ヲ與フ
ルコトヲ得
第八條扶助ヲ受クル母又ハ其ノ子死亡
シタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ
依リ埋葬ヲ行フ者ニ對シ埋葬費ヲ給ス
ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ埋葬ヲ行フ者ナキト
キハ扶助ヲ爲シタル市町村長ニ於テ埋
葬ヲ行フベシ
第九條扶助ヲ受クル母及其ノ子ヲ保護
スル爲必要ナル施設ノ設置、管理、廢
止其ノ他施設ニ關シ必要ナル事項ハ本
法ニ定ムルモノノ外命令ヲ以テ之ヲ定
ム
市町村又ハ私人前項ノ施設ヲ設ケント
スルトキハ地方長官ノ認可ヲ受クベシ
第十條扶助ヲ受クル母左ニ揭グル事由
ノ一ニ該當スルトキハ市町村長ハ扶助
ヲ爲サザルコトヲ得
一本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ
依ル處分ニ從ハザルトキ
二故ナク扶助ニ關スル調査ヲ拒ミタ
ルトキ
三第七條ノ規定ニ依ル市町村長ノ注
意ニ從ハザルトキ
第十一條救護法第十八條、第十九條及
第二十一條乃至第二十五條ノ規定ハ扶
助及埋葬ニ要スル費用、第五條ノ規定
ニ依リ方面委員ガ職務ヲ行フ爲必要ナ
ル費用竝ニ第九條ノ施設ノ費用ニ之ヲ
準用ス
第十二條救護法第二十六條乃至第二十
七條ノ二ノ規定ハ扶助ニ要スル費用ニ、
第二十八條ノ規定ハ扶助及埋葬ニ要ス
ル費用ニ之ヲ準用ス但シ救護ヲ受クル
者トアルハ扶助ヲ受クル母又ハ其ノ子
トシ救護ヲ受ケタル者トアルハ扶助ヲ
受ケタル母又ハ其ノ子トシ其ノ費用ト
アルハ其ノ者ノ爲ニ要シタル費用トス
第十三條救護法第三十條及第三十一條
ノ規定ハ第九條ノ施設ニ之ヲ準用ス
第十四條詐僞其ノ他不正ノ手段ニ依リ
扶助ヲ受ケ又ハ受ケシメタル者ハ三月
以下ノ懲役又ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十五條町村制ヲ施行セザル地ニ於テ
ハ本法中町村ニ關スル規定ハ町村ニ準
ズベキモノニ、町村長ニ關スル規定ハ
町村長ニ準ズベキモノニ之ヲ適用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=44
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045・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今議題トナ
リマシタ救護法中改正法律案ノ提案理由ヲ
御說明申上ゲタイト存ジマス、御承知ノ通
リ救護法ハ昭和四年四月ノ制定ニ係リマシ
テ、昭和七年一月カラ施行セラレタモノデ
アリマシテ、爾來我國救貧法制ノ根幹トシ
テ、國民生活ノ安定ニ寄與スル所ガ尠クナ
カッタノデアリマス、然ルニ近時要救護者ノ
增加ニ伴ヒマシテ、救護費支出額ノ增嵩ヲ
來シ、國庫補助率ハ漸次低下スルニ及ビ、
其結果ハ市町村財政ノ窮迫セル今日、本法
ノ圓滑ナル運用ガ妨ゲラレル虞ヲ生ジタノ
デアリマス、故ニ救護費ニ對スル現行ノ國
庫補助率「二分ノ一以内」トアリマスノヲ、道
府縣及ビ市ノ支出額ニ對シマシテハ二分ノ一、
町村ノ支出額ニ對シマシテハ十二分ノ七ノ確定
率ト致シマシテ、市町村ヲシテ安ンジテ救護費
ヲ支出シ得ルヤウニ本法ヲ改正致シマスコ
トハ、現下ノ社會ノ實情ニ鑑ミマシテ最モ緊要
ト認メラルヽノデゴザイマス、尙ホ施行法ノ實
績ニ徵シマシテ、他ニ若干改正ヲ要スル部
分モアリマスルノデ、是等ニ關シマシテモ、
此際併セテ是ガ改正ヲ致シタイト存ズルノ
デゴザイマス、何卒御審議ノ上速ニ御協賛
アランコトヲ御願致シマス
續イテ母子保護法案提案ノ理由ヲ御說明
申上ゲタイト存ジマス、近來社會情勢ハ愈〓、
複雜トナリマシテ、生活ノ困難ハ益〓增大ス
ルニ伴ヒマシテ、子女ヲ擁スル母ニシテ、
生計ノ中心タル夫ヲ喪ヒマシタガ爲ニ、或
ハ生活ニ追ハレテ子女ノ養育ヲ犧牲ニシ、
或ハ子女ノ養育ニ追ハレテ生活ニ困窮ヲ來
シ、遂ニ悲慘ナル結果ニ陷ル者ノ數モ決シ
テ尠クナイノデゴザイマス、仍テ是等不遇
ナル母ヲ保護シテ、子女ノ養育ヲ完カラシ
メマスコトハ、現下緊要ノ時務ト認メラレ
マスノデ、母子保護法ノ制定ヲ企圖致シ、
玆ニ本法案ヲ提出スルニ至リマシタ次第デ
ゴザイマス
今本法案ノ主要ナル點ニ付キマシテ申述
ベテ見マスレバ、第一ニ扶助ヲ受ケマス者
ノ資格デゴザイマスガ、十三歲以下ノ子ヲ
自己ノ膝下デ養育スル不遇ナル母ガ、貧困
ノ爲ニ生活スルコトノ出來ナイ場合ニ、扶
助スルコトニ致シテアルノデアリマス、併
シ此場合ニ於キマシテモ、母ガ子女養育ノ
資格ニ於テ缺クルガ如キ場合、又ハ扶助ヲ
受クル母及ビ子ニ扶養義務者ガアリマシテ、
其者ガ扶養ヲ爲シ得ル場合ニハ、扶助ハ致
サナイノデアリマス、第一一ニ扶助ヲ爲ス者ハ、
母ノ居住地ノ市町村長デアリマシテ、方面
委員ガ其補助者トナッテ居ルノデアリマス、
第三ニ扶助ノ種類ハ生活扶助、養育扶助、
生業扶助及ビ醫療デアリマシテ、又埋葬ヲ
モ行ヒ得ルコトト致シテアルノデアリマシ
テ、其程度ハ何レモ救護法ト均衡ヲ保タシ
メル方針デゴザイマス、第四ニ本法施行ニ
要シマスル經費ハ、救護法ト同樣母ノ居住地
ノ關係道府縣、又ハ市町村ガ之ヲ負擔致シ
マシテ、之ニ對シテ地方費-道府縣費デ
アリマスガ、及ビ國費ヲ補助スルコトト致
シテアルノデアリマス、而シテ本法實施ニ
要シマスル國ノ補助豫算ニ付キマシテハ、
別ニ豫算案ニ計上シテ、御審議ヲ願ッテ居リ
マス次第デゴザイマス、何卒御審議ノ上速
ニ御協贊ヲ與ヘラレンコトヲ切望致シマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=45
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046・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 質疑ノ通告ガアリ
やっ、之ヲ許シマス-伊藤東一郞君
〔伊藤東一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=46
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047・伊藤東一郎
○伊藤東一郞君 私ハ庶政一新ヲ標榜スル
現内閣ノ重要社會立法デアリマスル母子保
護法案ニ付キマシテ、主トシテ內務當局、
續イテ軍部、サウシテ文部當局ノ所見ヲ伺
ハントスル者デゴザイマス、暫クノ間御〓
聽ヲ願ヒマス
諸君、中央社會事業協會ノ調査ニ依リマ
スルト、我國ニ於ケル親子心中ノ悲慘事ガ、
昭和五年ノ七月カラシマシテ昭和六年ノ六
月ニ至ル迄ノ一箇年ニ二百五十四件、其次
ノ一箇年ニハ二百三十八件、其次ニハ二百
八十件、更ニ其次ニハ二百六十六件、而シ
テ昭和九年ノ七月カラ翌十年ノ六月マデニ
ハ三百八件ニ達シテ居ルノデゴザイマス、
斯樣ニ最近著シク增加致シテ居リマスルコ
トハ、洵ニ遺憾至極デアルノデゴザイマス、
而シテ此最後ノ調査ニ現レテ居リマス三百
八件ノ中デ、所謂死ヲ選ンダ親ノ數ガ三百
四十三人、道連レニサレマシタル子ノ數ガ
四百七十人ノ多數ニ上ッテ居ルノデゴザイ
マス、私ハ寡聞ニ致シマシテ、外國ニハ斯
ノ如ク親ガ最愛ノ子ヲ道連レニシテ、死ノ
旅路ヲ急イダト云フ哀レナ話ヲ聞イタコト
ハゴザイマセヌ、實ニ昭和ノ聖代ニ斯ノ如
ク同胞ノ中ニ於キマシテ、此悲シキ運命ヲ
選ビ行ク者ノアリマスルコトハ、オ互ニ深
ク省察センケレバナラナイコトト存ズルノ
デゴザイマス(拍手)若シ夫レ此悲慘事ノ原
因動機ガ那邊ニ在ルヤヲ討檢致シマスルニ、
或ハ道德的、或ハ身體的、或ハ經濟的、或ハ
精神的ト分類スルコトハ出來得マスカナレ
ドモ、結局廣イ意味ニ於キマシテ、親子心中
ノ原因動機ハ經濟的原因ガ主要ナリトノ結
論ニ到達スル者デゴザイマス(拍手)
諸君、以上ハ統計上ヨリ見マシタ親子心
中デアリマスルガ、縦シ心中ヲシナイトモ、
此セチ辛イ世ノ中ニアリマシテ、親子夫婦圓滿
ナル家庭ヲ營ンデ共稼デ働イテ居リマシテモ、
中々食フコトサヘモ容易ヂヤアリマセヌノ
ニ、幼少ナ子供ヲ抱ヘテ生活支持者ヲ持タヌ
母親ガ、一家ノ生計維持ノ爲ニ、子女養育ノ
責任ヲ果スコト出來ズシテ、悲慘極マル生活
ヲ爲シ、或ハ活キンガ爲ニ、或ハ子ヲ養ハ
ネバナラヌガ爲ニ、心ナクモ他ノ男性ノ世
話ニナッテ、悲シイ日蔭ノ運命ニ泣ク母ト子
ヲ到ル處ニ見出シ得ルノデゴザイマス、而
シテソレガ母子心中トナラナイ迄モ、或ハ
捨兒、或ハ貰子殺シト云フ、厭フベク、又
悲シムベキ所ノコトガ事實トナッテ現ハレ、
一日ノ新聞ノ三面ヲ賑ハシテ、心アル者ノ
胸ヲ痛メツヽアルノデアリマス、加之彼ノ
不良兒童ノ多クモ、斯ノ如キ溫床ニ於テ育
マレ、發生スルコトヲ想ヒマシタ時、我ガ
大日本帝國ノ將來ニ暗イ影ノ翳ス氣ガ致シ
マシテ、洵ニ寒心ノ至リニ堪ヘナイ次第デ
ゴザイマス、(拍手)諸君、我ガ國運ノ將來ハ
一ニ繫ッテ兒童ノ心身ガ健全ニ發達スルカ
否カニアルト申シテモ敢テ過言デアリマセ
又、惟ヒマスニ、今日國策ヲ定ムルニ當リ
マシテモ、現下ノ事情ヲ斟酌スルト同時
ニ、能ク國家百年ノ事ヲ計ッテ、其計ヲ樹テ
ネバナリマセヌ、隨ヒマシテ此國運進展ノ
鍵ヲ握ル兒童ガ、斯ノ如キ狀態ニ置カレテ
アリマスルコトハ、何ト致シマシテモ國家
的國民的ノ大問題デゴザイマス、惟フニ
槿花一朝ノ夢ハ醒メ、霏々トシテ降ル雪ノ
中ニ、母親常盤ノ乳房ヲ求メテ、諸君、泣
クアノ源家三人ノ子ノ泣聲ガ、軈テハ三軍
ヲ叱咤スル聲トナラウトハ、誰シモ想像
シ得ナカッタデアラウト思フノデアリマス、
私ハ玆ニ本案ガ提出サレマシタコトハ、洵
ニ聖代ノ慶事トシマシテ喜ビマスト同時
ニ、今日我ガ國防ガ充實サレマシテ、我ガ國
家ガ外敵ニ對シテ守ラレテ居ルヤウニ、是
等同情スベキ同胞ガ、セメテハ人竝ニ生活
シ、サウシテ〓養シ得ルヤウ、溫イ手ノ延ベ
ラレル時ノ、一刻モ速カナランコトヲ切望致
スモノデゴザイマス、此見地カラ致シマシテ、
私ハ次ノ五ツノ點、竝ニ關聯ヲシタル三點ニ
付キマシテ、政府ノ御所信ヲ伺ハントスルモ
ノデゴザイマス(拍手)餘リニ諄イ演說デアル
ト、狆ノ首ハ短イガ宜イト言ヒマスルカラ、
極ク簡單ニ申上ゲマス(「ヒヤ〓〓」)
第一ニハ本法案ハ纖弱イ子女ヲ抱ヘテ、
悲慘ナ運命ニ泣ク母ヲ護ルト共ニ、我國將
來ノ支持者タルベキ子女ノ〓養ニ、遺憾ナ
キヲ期スルモノノヤウニ考ヘマス、從來各
方面カラ致シマシテ、此法案ノ制定ヲ要望
サレマシタ趣旨モ、單ナル救貧デナク、豫
防的、扶助的デアッテ欲シイト、切實ナル要
望デアッタヤウニ私ハ聞及ンデ居リマスル
ガ、今囘政府ガ從來施行サレテ居リマスル
救護法ノ範圍ヲ擴張スルノデナクシテ、新
ニ獨立ヲシタル法制ヲ立テラレヨウト致シ
マスルニ至ッタ御意向モ、蓋シ亦玆ニアルモ
ノト推測ヲ致スモノデゴザイマス、然ルニ
御提出ノ原案ヲ拜見シマスルト、其立テ方
ニ於キマシテモ、其豫算ノ組ミ方ニシマシ
テモ、其御精神ハヤハリ救貧法制ノ一部デ
ハナイカト解セラレマス(拍手)洵ニ私ハ遺
憾至極デアルノデゴザイマス、是デハ折角
國家將來ノ支持者タルベキ女子ノ身體、竝
ニ精神ノ健全ナル發達ヲ期スル爲ニ、救護
法ト別ニ獨立ヲシタル本法ヲ御制定ニナラ
ウト云フ根本的御精神トノ間ニ、大ナル矛
盾ガアルヤウニ考ヘラレルノデアリマス、
一體政府ハ本法制定ノ根本精神ヲ何處ニ置
イテ居ラレルノデアラウカ、又常ニ壯丁ノ
體位低下ヲ憂慮サレテ居リマスル軍部當局
ハ、此點ニ付テ如何ナル御所見ガアルデア
ラウカ、御出席ガナイヤウデアリマスルカ
ラ、此點ハ甚ダ恐縮デアリマスルガ、內務
當局ヨリ伊藤東一郞ガ斯ノ如キ質問ヲシタ
カラ、他日機會ノアル時ニ答辯スベシト御
傳言ヲ願ヒマス(拍手)
第二ハ年齡ノ點デゴザイマス、若シ本法
ガ救貧法ト同樣ノモノデアリ、或ハ其延長
ニ過ギナイト云フコトデアリマシタナラバ
御提案ノ通リ十三歲以下ト云フコトハ、
應首肯出來ルノデアリマスルカナレドモ、
縱シソレニ致シマシテモ、救護法ニ於ケル
幼者ノ年齡ヲ、十五歲未滿ニ改正ヲシテ吳
レト云フ請願ナリ建議ナリガ、從來屢〓出
テ居ルコトニ鑑ミラレマシテ、斯ウシタ機
會ニ此年齡ノ延長方ヲ御考慮アルベキガ、
庶政一新ヲ標榜スル現内閣ノ至當ナル御處
置デアルト私ハ思フノデアリマス(拍手)况
ヤ本法ガ獨立シタル法律トシテ制定セラ
レ、而モ單ナル救助デナイ立前ヲ以テサレ
ルト云フニ於キマシテハ、彼ノ兒童虐待防
止法、工場勞働者最低年齡法、其他兒童救
護ノ法規ガ旣ニ十四歲未滿トナッテ居ルコ
トデアリ、殊ニ義務〓育ノ年限延長實現モ、
何レハ近キ將來ナラント推測サルヽ時ニ於
テヲヤデアリマス、斯樣ナ點カラ見マシテ
モ、政府ハ本法ニ於ケル此年齡ハ當然十五
歲未滿トナサルコトガ、御制定ノ御精神カ
ラ考ヘマシテモ、亦實際カラ申シマシテモ、
適當デナイカト私ハ確信ヲ致ス者デアリマス、
政府ハ此年齡ニ付テ今一應篤ト御再考ノ御
意見ガアリヤナシヤ
第三ハ、申上グル迄モナク本法ハ兒童〓
養ノ責任ハ國家ニアリト云フ御趣意デアル
ト思ハレマス、果シテ然ラバ其費用ハ、其
全額ヲ國庫ニ於テ負擔スルコトガ、私ハ至
當デアルト信ズルモノデアリマス(拍手)成
程町村ノ自治、隣保相扶等ノコトヲ考慮サ
レマシテ、救護法ト同樣ニ市町村及ビ道府縣
ニ其一部分ヲ分擔セシメラルヽ御心持ハ、
一應御尤デアリマスガナレドモ、前申上ゲ
マシタ如ク、苟且ニモ子女ノ〓養ヲ國家ガ
責任ヲ背負フ以上ハ、原則ト致シマシテ全額
國庫負擔ヲ妥當トスルノデハナイカト考フ
ルモノデゴザイマス、殊ニ又私共地方ニア
リマシテ、地方農村ノ實情ヲ能ク知ッテ居
リマスル者トシマシテハ、彼ノ救護法ガ其
費用ノ四分ノ一ヲ市町村ニ負ハシメテ居ル
關係上、就中貧弱町村デハ其費用負擔ノ關
係カラ、現ニ救護ヲ要スベキ者アルニモ拘
ラズ之ヲ救護シナイデ、ウッチッヤテ置ク
ト云フヤウナ實情ハ、軈テ直チニ本法ノ場
合ニモ當然起ッテ來ルコトト思フノデアリ
マス(拍手)斯樣ニ考ヘマスルト、總ジテ富
裕町村ニ住ム母ト子ハ本法ノ特典ヲ受ケ易
ク、貧弱町村ニ住ム母ト子ハ本法ノ特典ヲ、
或ハ受ケ得ナイト云フコトニ相成リマシテ、
ソコニ國民生活、或ハ國民〓育上差別待遇
ヲサレルモノデアリマス、尙ソレノミナラ
ズ其費用ノ幾分デモ町村デ負擔スルト云フ
コトニ相成リマスレバ、或ハ不心得ノ者ノ
中ニハ、扶助ヲ受ケマスル者ヲ侮辱シタリ、
或ハ白眼視スル所ノ傾向ガアリマスルノデ、
ソレガ爲ニ其兒童ノ精神的ニ受ケル所ノ影
響ト云フモノハ中々尠クハアリマセヌ、或
ハ妙ニ僻ンダ性格ノ持主トナリマシテ、成
長シタ將來ノコトヲ考へマシタ時ニハ、折
角ノ扶助ヲ致シマスルノ效果ヲ逸脫スルノ
虞ガアルノデゴザイマス(拍手)名藥モ匙加
減デ却テ毒藥トナルコトガアルト同ジ結論
ヲ見ルコトヲ、私ハ甚ダ憂フル者デゴザイ
やく、况ヤ斯ノ如キ結果ヲ見マスルコトハ、
本法制定ノ趣旨ニ全ク相反スルニ於テヲヤ
デアリマス、故ニ私ハ使用全額國庫負擔ト
スル御意思ハナイカドウカ、國民〓育上カ
ラ差別待遇ヲ受クルコトヲ、文部當局ハ如
何ニ見テ居ラレルカ、是モ宜シク御言傳ヲ
願ヒマス、軍部當局ハ廣義國防ノ上カラ、
此點ヲ如何ニ考ヘテ居ラレマスカト云フコ
トヲ承リタイノデアリマス
第四ニ給與金額ノ問題デアリマス、從來
親子心中ヲシマシタ者ノ實例ヲ見マスルト、
所謂細民階級ト稱セラレ居ル者ニハ、其數
ガ存外少イノデアリマシテ、寧ロ俄ニ生活
ノ途ヲ絕タレ、困窮ニ陷ッタト云フ場合ノ者
ガ多イノデアリマス、惟フニ永イ間-私
モサウデゴザイマスガ、貧乏ニ馴レマシタ
者ハ、有難イコトニハ之ニ堪へ得ル幾多ノ
試練ヲ經テ居リマスカラ、中々克己心ガ强
イケレドモ、俄ニ困窮ニ陷ッタ者ハ得テ忍耐
力ガ乏シイカト思ハレマスガ、ソレハ何レ
ニ致シマシテモ、之ヲ今日ノ救護法程度ノ、
唯〓ハセルダケト云フノデハ、本法制定ノ
價値ヲ疑ハザルヲ得ヌノデアリマス、宜シ
ク子女ノ身體竝ニ精神兩方面ノ發育ニ遺憾
ナカラシメテコソ、本法ノ效果ヲ發揮スル
コトヲ得ルモノナリト云フ其見地ニ立チマ
シタナラバ、相當ノ給與ヲ必要トスルノデ
ナイカト存ズルノデアリマス、此點ニ付キ
マシテ當局ノ御所見ヲ承リタイモノデアリ
マス
第五ハ、本法ハ其實施機關ヲ市町村長ト
シ、方面委員ヲ補助機關ト爲サルヤウニ見
受ケラレテ居リマスルガ、其實際ノ仕事ハ
結局方面委員ガスルコトニナリマセウ、私
ハ無論方面委員ノ今日ニ至ルマデノ努力ニ
對シマシテハ、心カラ敬意ヲ表シテ居ル者
デアリマス、併ナガラ本法ノヤウナ「デリ
ケート」ナ仕事ト云フモノハ、生活的、心
理的ノ溫イ理解ガ其基礎トナラナケレバ相
成リマセヌ、女ノ狭イ氣持、突キ詰メタ氣
持ハ、女ナラデハ十分ニ理解ヲスルコトガ
出來マセヌ、淚話ニハ共ニ泣イテヤリ、苦
勞ハ心カラ勞ッテヤルヤウニシタナラバ、必
ズヤ家庭悲劇ハ少クナルニ相違アリマセヌ、
尙ホソレノミナラズ、事ノ性質ト致シマシ
テモ、男性ノ方面委員ガ能ク果シ得ザル點
ガ多々アルト信ズルノデゴザイマス、故
本法獨自ノ婦人方面委員ヲ創設致シマシテ、
ソレヲ補助機關トシテ、婦人ノコトハ婦人
ノ手ニ依ッテ之ニ當ラシムルコトガ、實際效
果的デアリ、而モソレガ最上ノ方法デアル
ト信ズルノデアリマス(拍手)政府ハ母子保
護法獨自ノ婦人方面委員創設ノ意思ハナイ
カドウカ
尙ホ此法規ニ關聯ヲ致シマシテ、私ハ聲
ヲ高メテ諸君、絕叫致シタイ一ツノ事ガア
ルノデアリマス、由來我國ハ一家親族ガ互
ニ相助ケルト云フ、特殊ノ家族制度ノ發達
ヲ見テ來タノデゴザイマス、而シテ更ニ部
落部落ニハ隣保相扶ノ傳統ガ醇風美俗トシ
テ今日マデ傳ヘラレテ來タコトハ今更申上
グル迄モアリマセヌ、若シ夫レ此醇風美俗
ガ强ク維持サレテ居リマシタナラバ、決シ
テ不遇ナ人ヲ路頭ニ迷ハシメタリ、甚シキ
ハ思迫ッテ親子心中ヲスルヤウナコトハ、當
然未然ニ防ギ得ラレルコトダト思ハレルノ
デアリマス、然ルニ近時沼々トシテ個人主
義的傾向ガ此美風ヲ破壞シ、醇風ヲ傷ケ、
勢ヒ、國家ニ於キマシテ各種救貧的法制ノ
實施ヲシナケレバナラナイコトト相成ッタ
ノデアリマス、洵ニ遷リ變ル時勢トハ申シ
ナガラ、我國ノ將來ニ對シテ一入憂慮ニ堪
ヘナイモノガアルノデゴザイマス、諸君、
私ハ必要ナル法規ヲ整備スルコトニ贊成ス
ルニハ決シテ吝デハアリマセヌガ、更ニ是
等法規ヲ制定セネバナラナイ源泉ニ遡リマ
シテ、此醇風美俗ノ頽廢ヲ傍觀スルコトナ
ク、是ガ維持更生ニ付キマシテ、政府ハ如
何ナル考慮ヲ拂ハレテ居ルカト云フコトヲ
伺ヒタイノデアリマス、更ニ又同胞相愛、
隣人相扶ノ精神ヲ以チマシテ、救貧、防貧、
〓化ノ各種社會事業ニ、組織的ニ行フ立前
デアリマスル隣保事業等ヲ、此際大イニ政
府ハ御奬勵助長ナサル御意向ハナイカドウ
カ
尙ホ茲ニ私ハ申上ゲタイコトガアリマ
ス、年ヲ經ルコト二十年ノ間、隣保相扶ノ
醇風ニ則ッテ、互讓共濟ノ精神ニ基キマシ
テ、自發的ニ發達シテ參リマシタ救濟〓化
ノ機關デアリマスル所ノ方面委員ガ、昨年
末ニ於キマシテ國家ノ認ムル所トナッテ、勅
令ノ定ムル所ニ依ッテ、方面委員令ト云フモ
ノガ出來マシタノハ、洵ニ喜ブベキコトデ
ゴザイマス、諸君、全國各地ニ於キマスル
所ノ方面委員ノ數ハ、今ヤ約四万五千人ト
稱シテ居ルノデゴザイマス、是等ノ人ガ
奉公ノ至誠ヲ盡シマシテ、晝夜寝食ヲ忘レ
テ、有ユル方面ニ御世話ナサッテ下サイマ
スル、所謂「カード」階級ト云フモノハ、是
亦二百万ト稱シテ居ルノデゴザイマス、ソ
レノミナラズ、其他各種ノ社會事業ヲ取扱
ヒマスル其件數ハ、實ニ驚ク勿レ五百万以
上ト聞及ンデ居ルノデゴザイマス、無論是
ニハ、其活動ノ裏ニハ、其方面委員ノ妻女
ノ此事業ニ關スル深イ理解ト厚イ同情トニ
依ル、容易ナラザル內助ノ功ガアルコトヲ
忘レテハナリマセヌ、救護法ハ今日其費用
ガ僅少デアルニモ拘ラズ、相當ノ成績ヲ擧
ゲテ居リマスルコトハ、是等方面委員ノ自
發的活動ノ賜デアルト私ハ斷言シテ憚ラナ
イノデゴザイマス、政府ハ此顯著ナル活動
ヲ致シテ居リマスル委員ニ對シマシテ、國
家トシテ何カ奬勸助長ノ途ヲ講ゼラレテ居
ルカドウカ、若シ講ゼラレテ居ナカッタナ
レバ、此際講ゼラルル御意思ハナイカドウ
カ、若シ御意思ナシトスレバ、其理由如何
ト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス、私ガ
之ヲ力說スル所以ノモノハ、此際政府ガ出
來得ルダケ奬動助長ヲシテ、要スレバ相當
ノ豫算ヲ計上シテ、其活動ヲ十分ニ發揮セ
シムルノミナラズ、更ニ此制度ノ發達、此
精神ノ高揚ニ依リマシテ、我國傳統ノ醇風
ヲ維持更生セシメラレンコトヲ望ムカラデ
アルノデアリマス
以上要シマスルニ、私ガ御尋申上ゲマス
ルノモ、畢竟今日ノ時相ニ適應シタ此法案
ガ、最モ好キ效果ヲ收メンコトヲ熱望スル
カラニ外ナラナイノデアリマス、何卒政府
當局ハ眞ノ意ノ在ル所ヲ御答辯アランコト
ヲ御願ヲ致シマス(拍手)
〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=47
-
048・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今伊藤サン
カラ本法制定ニ付キマシテ、大變御同情ア
ル御言葉ヲ拜承シマシテ、吾々洵ニ感謝ニ
堪ヘマセヌ、御尋ノ第一ハ、本法制定ノ趣
旨ヲ何處ニ置クカ、卽チ救貧的ノ考ヘ方
ニ出テ居ルカ、或ハ更ニソレヨリモモット
高イ考ヘ方ニ出テ居ルカト云フコトニ諒
承ヲ致シマシタ、是ハ私ガ申スマデモナ
ク、所謂寡婦ノ救濟ト云フコトニ付キマシ
テハ、防貧的ノ考ヘ方ニ出テ居ルモノト、
救貧的ノ考へ方ニ出テ居ルモノトアリマス、
防貧的ノ考ニ出テ居リマスノハ、大抵保險
ノ制度ヲ用ヒテ居ルヤウデアリマス、例へ
バ獨逸トカ、英吉利アタリハ其樣デアリマ
ス、救貧的ノモノハ、例ヘバ加奈陀ダトカ、
其邊ノ所デアリマスガ、是ハ公費ヲ以テ一
方的ニ給付ヲ致ズノデアリマスカラ、成ベ
ク救濟ノ所謂生活ノ最低限度ニ止メテ置ク
ト云フ、斯ウ云フ趣旨ニ出テ居ルヤウデア
リマスガ、我國ノ今日ノ法案ハ、要スルニ
國家若クハ市町村、或ハ道府縣等ノ費用ヲ
以テ、一方的ニ給付ヲ爲シテ、ソレニ對ス
ル對價ヲ求メナイノデアリマスカラ、ヤハ
リ大體ニ於テ救貧的ノ施設トシテ、必要ノ
最低限度ニ止メテ置クノガ、種々ノ點ニ於
テ適當デアラウト、斯ウ云フコトニ考ヘラ
レルノデアリマス
ソレカラ第二ニハ、年齡ノ問題デアリマ
シテ、之ヲ原案ノ十三歲ト云フノヲ十五歲
位ニ上ゲタラドウカト云フ御意見ノヤウデ
アリマス、是ハヤハリ救護法ト同ジヤウニ、
大體十三歲ノ程度ニシテ置ク方ガ、今日ノ
狀況ニ於テ適當デハナイカ、斯ウ云フ風ナ
考ニ出デテ居ルノデアリマス
ソレカラ第三ニ、此費用ヲ全部國庫デ負
擔シタラドウカ、斯ウ云フ御意見ノヤウニ伺
ヒマシタガ、御話ノヤウニ現在ノ地方團體
ト云フモノハ、財政的ニ可ナリニ窮迫シテ
居ルコトハ、殊ニ農漁山村ニ於テ其事實ノ
著シイコトハ、御話ノ通リデアリマスガ、併
シ一方ニ於キマシテ、此氣ノ毒ナ人ヲ救濟
スルト云フヤウナコトハ、我國ノ美風デア
リマスル隣保相助ノ考ヲヤハリ維持スルコ
トガ必要デハナイカ、唯困ッタ場合ニハ總テ
國ガドウカシテ吳レル、斯ウ云フコトヨリ
モ、昔ノ五人組ノヤウニ、近所ノ人ガ出來
ルダケ世話ヲシテヤルト云フコトハ、我國
ノ固有ノ美風ヲ維持スル上ニ於テモ、根本
的ニ必要ナコトデハナイカト思フノデアリ
マス、是ガ一ツデアリマス、ソレカラ第二
ハ、之ヲ全部國デ致シマスト、實際ニ於テ
救助ノ適正ヲ缺クコトガアリマス、卽チ濫
救ノ弊ニ陷ルヤウナコトニナリハセヌカ、
間接ニ市町村長ガ致シマスコトハ、其費用
ガ全ク國庫カラ出ルト云フコトニナリマス
ト、市町村ノ負擔ニナラヌノデアリマスカ
ラ、自然ニ濫救ニ陷ルト云フヤウナコトガ
アリハセヌカ、是ハヤハリ國ノ財政ヲ經理
スル上ニ於テモ考ヘネバナラヌコトデハナ
イカト思フノデアリマス
ソレカラ第三ノ點ハ、救護法ニ於キマシ
テモ同樣ニヤハリ市町村、ソレニ對シテ國
庫ガ補助ヲスル、斯ウ云フコトニナッテ居リ
マスルカラ、ヤハリ救護法ト足竝ヲ揃ヘテ
然ルベキヂヤナイカト、斯ウ云フ風ニ考ヘ
タ次第デアリマス
ソレカラ第四ニ、原案ノヤウナ程度デハ
足リナクナイカ、モウ少シ十分ナ扶助ヲシ
タラドウカト云フ風ニ伺ヒマシタガ、先ヅ
先ヅ私ガ先程申述ベマシタヤウニ、大體ニ
於テ一種ノ救貧制度デアリマスカラ、救助
ハ生活其他養育ノ最低限度ニ止メテ置クト
云フコトガ必要デアル、何ガ最低限度カト
云フコトハ、是ハ其時ノ情勢ニ依リマスル
ガ、マア〓〓ヤハリ國家ノ御厄介ニナルノ
デアリマスカラ、其程度ニ止メテ置クコト
ガ適當デハナイカ、斯ウ云フ風ニ思フノデ
アリマス
ソレカラ第五ニ、婦人ノ方面委員ヲ用ヒ
ル考ガアルカドウカ、斯ウ云フ風ナ御尋ト
伺ヒマシタ、是ハ御意見ノ通リ、將來婦人
ノ活動ヲモット望ム、モット婦人ノ活動ヲ御
願シナケレバナラヌト思フノデアリマス、
隨ヒマシテ將來此法施行ノ曉ニハ、婦人方
面委員ヲ多數任用致シマシテ、其方面ノ活
動ニ期待致シタイト思ヒマス
ソレカラ第六ニ、我國固有ノ美風デアリ
マス家族主義、隣保相助、或ハ醇風美俗ヲ
維持奬勵スル考ガアルカ、斯ウ云フ御尋ニ
伺ヒマシタガ、是ハ洵ニ御尤ノコトデアリ
マシテ、從來段々入ッテ參リマシタ歐米流ノ
個人主義ト云フモノニ對シテ、更ニ反省ヲ
加ヘテ、我國固有ノ大家族主義、隣保相助
ノ美風ヲ發揮發達セシムル爲ニハ、十分政
府ニ於キマシテモ、有ユル機會、有ユル方
法ニ依ッテ、此制度ノ助長ニ盡シタイト思ヒ
マス
ソレカラ終リニ方面委員ノ功績ハ頗ル大
デアルガ、之ニ對シテ國家ハ何等カ其勞ニ
報ユルダケノ施設ヲ爲ス考ガアルカドウ
カ、斯ウ云フ風ナ御尋ニ伺ヒマシタ、是ハ
洵ニ御尤ノコトト考ヘマス、輕少デアリマ
スガ、來年度ノ豫算ニ計上致シマシテ、益〓、
此制度ノ强化發達ヲ期シタイト思フノデア
リマス、更ニ畏多イコトデアリマスガ、宮
中ニ於カセラレマシテモ、此方面委員ノ功
績ヲ御認メ下サイマシテ、昨年ノ暮大正天
皇十年式年祭ニ於キマシテ、皇太后樣ノ思
召ニ依ッテ八十數人ノ人ヲ表彰セラレ、或ハ
觀櫻、觀菊會ノ御宴ニ召サレ夕人モアルヤ
ウデアリマシテ、是ハ政府バカリデハナク、
有ユル方面ニ於キマシテモ、段々ト方面委
員ノ功績ヲ認メテ來ルヤウニナリマシタコ
トハ、洵ニ御同慶ニ堪ヘヌト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=48
-
049・伊藤東一郎
○伊藤東一郞君 簡單デアリマスカラ此席
カラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=49
-
050・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=50
-
051・伊藤東一郎
○伊藤東一郞君 只今ノ內務大臣ノ御答辯
ハ、私ハ滿足シタ點モアリマスルシ、又不
滿足ノ點モ多々アルノデゴザイマス、ソレ
ニ付キマシテハ他日ノ機會ニ於キマシテ、
緩リ御高說ヲ拜聽致シマスコトト致シマシ
テ、私ハ兎ニモ角ニモ斯ウシタ將來ニ於ケ
ル日本ヲ背負ッテ立ツベキ兒童ヲ保護スル
コトハ、全然國家ノ責任デアリ、義務デア
ルト云フ見地カラ致シマシテ御質問致シタ
ノデアリマス(拍手)今日本案ガ衆議院ニ上
程サレマシタラ、恐ラク斯ウシタ同情スベ
キ日本全國ノ人ハ、衆議院議事堂ニ向ッテ
手ヲ合シテ拜ンデ居ルデアラウト私ハ考ヘ
ルノデアリマス、ドウカ將來斯ウシタ同情
スベキ人ニ對シマシテハ、十分ノ御憐憫ヲ
賜ルコトヲ切ニ私ハ希望トシテ御願ヲ致シ
マシテ、私ノ質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=51
-
052・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 片山秀太郞君
〔片山秀太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=52
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053・片山秀太郎
○片山秀太郞君 私ハ只今提案ニナッテ居
リマス所ノ救護法ニ付テ質問ヲ致シタイト
思ヒマスルガ、現行救護法及ビ其改正法ノ
條文等ニ付テ御伺スルノデハアリマセ
ヌ、私ノ質問ヲ致シタイト存ジマスル所
ハ、救護法ノ內容ノ足ラザル所デアルト思
ハレル點ニ付テ、政府ノ御考ヲ御尋シタイ
ト存ズルノデアリマス
抑〓此社會政策ノ實施ニ付キマシテ、近年
我ガ政府ニ於キマシテモ相當ノ法令ヲ出
シ、是ガ實施ニ努力セラレテ居ルコトハ多
トスル所デアリマスルガ、大觀致シマスル
ト、此社會問題ト云フモノハ、先ヅ貧困、
疾病及ビ犯罪、此三ツノ項目ニ向ッテ是ガ
救濟ヲ圖ラネバナラヌト私ハ存ズル次第デ
アリマス、然ルニ貧困及ビ疾病ニ付キマシ
テハ、現在マデ、及ビ今日又此議場ニ於テ
モ、相當問題ニナル提案ガ爲サレテ居リマ
スルガ、犯罪ニ關スルコトニ付キマシテハ
未ダ之ヲ耳ニシマセヌ、私ノ寡聞デアルセ
イカハ知リマセヌガ、今マデ之ヲ耳ニシナ
イコトヲ頗ル遺憾トスル者デアリマス、私
ガ今玆ニ具體的ニ政府ニ御伺致シタイト思
ヒマスルノハ、刑事政策ノ上ニ於キマシテ、
法律制度ガ希望シテ居ルガ如キ結果ヲ齎シ
テ居ラナイ所ノ再犯ノ問題デアリマス、人
人ガ罪ヲ犯シテ一度〓圖ノ身トナリ、其務
メヲ了ヘテ再ビ社會ニ現レテ來マスル時
二、之ニ對スル國家ノ待遇ガ宜シキヲ得ザ
ル爲ニ、是等ノ人々ノ多クハ再ビ罪ヲ犯シ
テ〓固ノ境遇ニ落チテ行クト云フコトハ、
統計上明ニ示サレテ居ルノデアリマス、之
ヲ救濟スルコトハ當然今日國家ガ十分ノ〓
究ト努力ヲ拂ハネバナラヌ所デアルト、私
ハ信ジテ疑ハナイノデアリマス、然ルニ現
今ノ狀態ヲ以テ見マスルト、僅ニ民間篤志
家ガ是等ノ人々ノ爲ニ救濟團體ヲ作ッテ活
動ヲ致シテ居リマスルガ、到底大多數ノ人
人ヲ滿足セシムル程度ニ至ッテ居リマセヌ、
私ハ玆ニ實例ヲ申スコトヲ許シテ貰ヒタイ
ノデアリマスルガ、私ノ知ッタ者ノ所ニ雇ハ
レタ者ガアル、固ヨリ嘗テ罪ヲ犯シタト云
フコトハ申ス迄モアリマセヌ、併シ洵ニ忠
實ニ働キマスルカラ、雇主ハ喜ンデ之ヲ使ッ
テ居リマシタ、然ルニ或ル機會ニ於テ警察
官ガ參リマシテ其者ヲ取調ベタ、其結果彼
ガ嘗テ罪ヲ犯シテ、刑務所ニ生活ヲシタト
云フ事實ガ暴露スルニ至リマシテ、雇主ハ
遺憾ナガラ之ヲ解傭スルノ已ムナキニ至ッ
タノデアリマス、斯ノ如キ例ハ一々之ヲ擧
ゲマスレバ枚擧ニ遑ナイ程デアリマスルガ、
一面是等ノ人々ガ救濟團體ニ依ッテ救ハレ
タル場合ニ於キマシテ、統計ノ示ス所ニ
依リマスレバ、再ビ罪ヲ犯シタ人ガ非常ニ
少イコトヲ見マスルト、此再犯ノ罪ヲ重ネ
ル人ハ必シモ惡質ノ者デハナクシテ、導ク
ニ其法ヲ以テシ、訓育宜シキヲ得ル時ハ、
改過遷善ノ實ヲ擧グルコトガ困難デナイト
云フ例證ヲ示スモノデアリマス、然ルニ旣ニ
申シマシタ如ク、是等ノ人々ヲ國家的ニ救濟
スル方法ガ立ッテ居リマセズ、又確カナル親
戚故舊ノ之ヲ引受ケテ世話ヲスル者ガ無イ
爲ニ、刑事統計ノ示ス所ニ依レバ、犯罪人
ノ半數以上ガ、此再犯ノ罪ヲ犯スト云フ結
果ニ立至ッテ居ルデアリマス、而シテ是等ノ
人々ノ中デ、田舍ニ於テ罪ヲ犯シタ者ハ、
田舍ノ社會ニ生育ッタ關係上能ク人ガ知ッテ
居ル、其爲ニ交際上ニ於テモ、或ハ其他ノ
事業關係ニ於テモ、是等ノ地方ニ住ッテ居ルコ
トガ心苦シイト云フ點カラ、次第々々ニ都
會地ニ移住ヲスルト云フコトハ自然ノ傾向
デアリマス、此傾向ヲ放任シテ置キマスレ
バ、我ガ東京市ノ如キハ是等ノ人々ヲ以テ、
一ツノ隱レ場所トナサネバナラヌ結果ニ立
至ルデアラウト私ハ考ヘル者デアリマス、
我ガ東京市ハ輦糓ノ下デアリマスルノニ、
幾多ノ事件ガ發生ヲ致シマシテ、今囘吾々
東京市民トシテ平寧ナル、所謂安心ノ出來
ル起居ヲスルコトニ不足ナ點ガ多々アリマ
スル上ニ、搗テヽ加ヘテ斯樣ナ事情ガ漸次
重ッテ來マスト云フコトハ忍ビ得ザル所デ
アリマス、要スルニ吾々ハ此再犯ヲ犯ス所
ノ人々ノ其個人的境遇カラ、之ヲ救濟スル
ト云フノミデナク、延イテハ吾々ノ住フ所
ノ大都會、殊ニ東京市ノ如キ地方ノ安寧ト
幸福トヲ增進スルト云フ意味ニ於キマシテ
モ、更ニ又刑事政策ノ實行ヲ全カラシムル
點カラ考ヘマシテモ、何レノ方面カラ考ヘ
テモ、是等ノ人々ヲ社會政策ノ立脚點カラ
見マシテ、速ニ救護シナケレバナラヌト云
フ考ニ到達スルノデアリマス、併ナガラ如
何ニシテ之ヲ實行スルカト云フ問題ニナッテ
來マスト、頗ル困難ナル問題デハアリマス
ルガ、私ハ多年此點ニ付テ〓究ヲ致シマシ
テ、ドウシテモ是等ノ人ニ完全ナル住ヒ所
ト職業トヲ與ヘテヤラナケレバ解決ガ出來
ナイト、斯樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、
時間ガアリマセヌカラ極ク簡單ニ申述べマ
スルガ、私ノ腹案ト致シマシテハ、特殊ノ
工場ノ如キモノヲ造リマシア、政府デ適當
ナル人材ヲ此經營ニ充テテ、一度罪ヲ犯シテ
社會ニ出タ者ヲ之ニ收容シテ、一面ニ於テハ
十分ニ〓化ノ實ヲ擧ゲ、一面ニ於テハ彼等ノ
經濟生活ヲ補助シテヤル方法ヲ採ルヨリ外
ニ適當ナ方法ハナイデハナイカト、斯樣ニ考
ヘル者デアリマス、此點ニ付キマシテ政府
ニ如何ナル御意見ガアルノデアリマセウカ
玆ニ一言申上ゲテ置キマスルノハ、此問
題ハ旣ニ申シマシタ如ク、司法省ニ於キマ
シテモ相當ニ御考慮ニナッテ、御心配ヲ致シ
テ居ル點デアリマスルガ、刑務所ヲ出デテ
自由ノ身トナッタ者ノ行動ニ付キマシテハ、
內務省ガ直接其心配ヲ致サネバナラヌト云
フ關係ニ立ツト思ヒマスルカラ、玆ニ內務
大臣ニ向ッテ御質問ヲ致ス次第デアリマス、
御答辯ガアリマシタナラバ、更ニ御質問ヲ
致シマスルカ否カヲ考へテ見タイト思ヒマス
ガ、一應コヽデ此壇ヲ降ルモノデアリマス
〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=53
-
054・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 只今片山サン
ノ御尋デアリマシタガ、一般ノ所謂社會政
策ニ付キマシテハ、御話ノ通リ內務省ノ所
管デアリマスガ、釋放者ノ保護其他ニ付キ
マシテハ、是ハ主トシテ司法省ノ方面ニ於
テ擔當致シテ居リマス、併シ一般的ニ吾々
ノ方デモ無論十分ナ注意ヲ加ヘナケレバナ
リマセヌガ、當面ノ保護施設ハ司法省ノ所
管ニナッテ居リマスノデ、只今御話ニナリマ
シタコトニ付キマシテハ、吾々ノ參考ニナ
ルコトガ多々アルト思ヒマスルノデ、思召
ノ趣旨ハ司法省ノ當局ノ方ニ能ク傳ヘテ置
キマシテ、何等カノ機會ニ御答辯致スヤウ
ナコトニ取計ヒタイト思ヒマス
〔片山秀太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=54
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055・片山秀太郎
○片山秀太郞君 只今御答辯ニナリマシタ
所ハ、多分サウデアラウト私ガ豫想シテ居ッ
タ所ト符合シタノデアリマス、併ナガラ誰
ノ管轄デアルトカ、彼ノ管轄デアルトカ云
フヤウナコトヲ今日ハ言ハズニ、政府全體
トシテ御協議ニナッテ、所謂庶政一新ノ意味
ニ於テ、其事自身ガ爲スベキコトデアルナ
ラバ、速ニ之ヲ實行セラレンコトヲ私ハ切
望シ、同時ニ是ガ刻下ノ緊要事デアルト信
ズルモノデアリマス、願クハ其意味ニ於テ
內務大臣ニ於カレマシテハ、アナタノ權限
ノ範圍內ニ於テ政府ヲ督促シテ、其目的ヲ
貫徹セラレンコトヲ切望シテ此壇ヲ降ル次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=55
-
056・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 川村保太郞君
〔川村保太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=56
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057・川村保太郎
○川村保太郞君 私ハ只今上程サレテ居リ
マス母子保護法案ニ付テ、一二御質問ヲ試ミ
タイト考ヘルノデアリマス、申ス迄モゴザ
イマセヌガ、本案ハ私共ガ長年要望シテ參
リマシタモノデアリマシテ、現ニ昨年ノ議
會ニハ私共ガ議員提出ノ法律案トシテ提出
シタモノガ、今囘政府案トシテ上程サレタ
譯デアリマス、內務當局ニ於カレマシテモ
此觀點ニ鑑ミテ、今囘政府案トシテ御提出
ニナリマシタコトニ對シテハ、私共モ之ヲ
多トスルニ吝ナル者デハナイノデアリマ
ス、唯私ハ一二不滿トスル所ガゴザイマス
ノデ、ソレ等ノ點ニ付テ質問シテ見タイト
考ヘルノデアリマス、大體私共ノ申上ゲタ
イト思ッテ居リマシタ事柄ニ付キマシテハ、
前ノ伊藤議員カラモ段々御質問ガアリマシ
タノデ、ソレ等ノ點ハ省クコトニ致シマシ
テ、先ヅ第一番ニ私ハ此點ニ付テ御伺シタ
イト思フノデアリマスガ、我國ノ社會立法
ノ爾來不告不理ト云フコトヲ以テ原則トシ
テ居ル、告ゲザル者ハ救濟セズト云フ立場
ヲ執ッテ今日マデヤッテ來テ居ル譯デアリマ
ス、私ハ母子保護法案ニ致シマシテモ、ヤ
ハリ此〓ゲザル者ハ救濟セズト云フ立場デ
ヤッテオ居デニナルノデハナイカト思フノ
デアリマスガ、果シテサウ云フ風ナ方針デ
此法律ノ目的ヲ達スルコトガ出來ルカドウ
カ、先ノ辯士カラモ段々御話ガゴザイマシ
タヤウニ、本案ノ目的トスル所ハ親子心
中、或ハ夫婦心中ト云フヤウナ、所謂家庭
悲劇ヲ防止シヨウト云フ所ニ根本目的ガア
ルノデアル、サウシテ是等ノ家庭悲劇ガ非
常ナ莫大ナ數ニ上ッテ居ルコトハ、前ノ議員
カラモ御述ニナッタ通リデアル、私ハ是等ノ
點ニ付テ考ヘタ見タイト思フノデアリマス
ガ、此澤山ナ家庭悲劇、親子心中ト云フヤ
ウナモノノ行ハレテ居ルノハ、是等ノ人ハ
決シテ是ハ「ルンペン」ヂヤナイ、家庭ヲ持ッ
タ所ノ人達デアリマス、極貧者デハナクシ
テ、何トカヤッテ居ル人達ガ親子心中ヲ遂
ゲルト云フ風ナ結果ヲ示シテ居ルノデアリ
マス、私ハ是等ノ人ノ中ニハ或ハ失業者モ
アラウシ、或ハ中小商工業程ニシテ行詰ッタ
人達モアラウト思ヒマスガ、是等ノ人達ノ
中ニハ、斯ウ云フ風ナ法律ガ出來タトコロ
デ、或ハ知ラズシテ、之ニ賴ラウトスル所
ノコトヲシナイ人モアルダラウト思ヒマス
ガ、或ハ斯ウ云フモノガ出來テモ、公私ノ
扶助ヲ受ケルコトヲ潔シトシナイデ、是カ
ラ先ニモヤハリ斯ウ云フ風ナ家庭悲劇ガ起
ルデハナイカト私共ハ考ヘル、此點デアリ
マス、告ゲザル者ハ救濟セズト云フノデ
ハ、是等ノ人ヲ救濟スルコトガ出來ナイヂ
ヤナイカ、私ハ此點ニ付テハ特ニ是ハ考ヘ
テ戴ク必要ガアルノデハナイカト考ヘル、
公私ノ扶助ヲ受ケルコトヲ以テ潔シトシナ
イ、是ハ實ニ貴イ氣持デアル、此氣持ガナ
ケレバナラヌト私共ハ考ヘル、日本ヲ榮エ
シメテ行クノモ、實ニ此獨立自營ノ精神、
此精神ガ日本ヲ榮エシメテ行クノデアリマ
スガ、同時ニ又親子心中ヲヤルノモ、此獨
立自營ノ精神ガ親子心中ヲ惹起スルト云フ
風ナコトニモナルノデアリマス、ダカラ告
ゲザル者ハ救濟セズデハナシニ、モット積極
的ナ態度ヲ執ッテ、告ゲザル者ト雖モ、探シ
出シテデモ救濟スルト云フ所ノ、積極的態
度ニ出ル必要ガアルノデハナイカト私共ハ
考ヘル、ソレ等ノ點ニ付テ內務大臣ハ、果
シテ其處マデノ態度デ、此法律ヲ實行シテ
行カウト云フ所ノ御考ガアルカドウカト云
フコトヲ御伺シタイト考ヘル
次ニハ御承知ノ通リ此法律案ノ中ニハ、
夫ノアル者ト雖モ、精神的若クハ肉體的ナ
原因ニ依ッテ勞務ヲ行フコトノ出來ナイ所
ノ母子ニ對シテハ、ヤハリ此法律ヲ以テ救濟
スルト云フ風ナコトニナッテ居ルノデアリマ
スガ、肉體的原因或ハ精神的原因ニ依ッテ仕
事ヲスルコトノ出來ナイ者ハ救濟スルガ、社
會的原因ニ依ッテ仕事ヲスルコトノ出來ナ
イモノハ一體ドウスルカ、私ハ何故之ヲ御
加ヘニナラナカッタカト云フコトヲ內務大
臣ニ御尋シタイト考ヘル(拍手)申ス迄モゴ
ザイマセヌガ、失業者ハ懶ケ者デハナイノ
デアリマス、失業者ハ仕事ヲシタイ、仕事
ヲスベキ腕ヲ持ッテ居リ、仕事ヲスルダケ
ノ意思ヲ持ッテ居リマシテ、每日仕事ノロヲ
探シニ步イテ居ルニ拘ラズ、是等ノ人ハ仕
事口ヲ發見スルコトガ出來ナイ、是ハ本人
ノ責任デハナイノデアリマス、今日ノ資本
主義ノ社會ニ於キマシテハ、資本主義ノ缺
陷ト致シマシテ、ドウシテモ失業者ト云フ
モノガ出來テ來ルノダ(拍手)若シ精神的原
因、或ハ肉體的原因ト云フコトヲ以テ救濟
スルナラバ、何故社會的ナ原因ニ依ッテ仕
事ヲスルコトノ出來ナイ者ニ對シテ、此法
律ヲ適用シナイカ、何故此點ヲ御省キニ
ナッタカト云フコトヲ私ハ御尋シタイ、此前
ノ議會デ、廣田內閣總理大臣ハ日本ニ
歸ッテ來テ急ニ氣ノ付クコトハ親子心中ガ
多イ、夫婦心中ガ多イ、失業者ガ職ヲ得ル
コトガ出來ナイデ、生活ニ困ッテ、揚句ノ果
ニハ親子心中ヲヤル、斯ウ云フヤウナコト
ガ、或ハ今囘ノ二·二六事件ノヤウナ不祥
事件ヲ起シタ根本原因デハナイカト考ヘル
ト云フヤウナコトモ御述ニナッテ居ルノデ
アリマス、私ハ更ニ別ノ機會ニ、廣田總理
大臣ガ其處ニ御氣ガ付イテ居ルナラバ、何
故失業者ノ問題ヲモット根本的ニ解決シヨ
ウトハ爲サラヌカト云フヤウナコトモ、御
尋シタノデアリマスガ、前ノ內務大臣ハ、
其點ニ付テハ何等カノ成案ヲ得レバ議會ニ
提出サレタイト云フヤウナ御答辯モアッタ
ノデアリマス、私ハ前ノサウ云フヤウナ關
係カラ致シマシテ、若シ失業保險ヲ作ルト
云フナラバ別問題、別問題デアリマスガ、
失業保險ト云フモノガ急ニ出來ナイナラ
バ、是非共此中ニ所謂失業者ヲ加ヘル必要
ガアルノデハナイカト私共ハ考ヘル、試ミ
ニ親子心中ト失業者ノ關係ヲ見マスルト
全國ノ失業者ノ推定數ハ、昭和四年ニハ三
十一万五千人デアッタノデアリマスガ、是ガ
昭和七年ニハ四十六万三千人ト云フ風ナ非
常ナ激增ヲシテ居ル、丁度ソレト照應スル
ガ如ク親子心中ノ數ガ殖エテ居ル、昭和二
年カラ昭和五年ニ至ル所ノ三年間ニハ、件
數ニ致シマシテ三百八十九件、平均致シマ
スト、百三十七件ト云フ風ナ平均數ニナル
ノデアリマス、ソレガ失業者ノ殖エテ參リ
マシタ所ノ昭和六年ニハ、非常ニ失業者ガ
殖エマシテ四十七万人トナリ、丁度其年ニ
ハ親子心中ノ數ガ二百五十九件、丁度二倍
ニナルト云フヤウナ現象ヲ示シテ居ル、親
子心中ハ勿論失業者バカリデハナイト思ヒ
マスガ、併シ失業者ト云フモノト密接ナル
關係ガアルト云フコトハ、私此一例ヲ取ッテ
見マシテモ能ク分ルト考ヘマス、斯ウ云フ
ヤウナ點カラ致シマシテ、是非共此中ニ社
會的原因ノ爲ニ仕事ヲスルコトノ出來ナイ
者ニ對シテハ、ヤハリ此法律ヲ適用スルト
云フ風ニ御修正願ヒタイト考ヘルノデアリ
マスガ、內務大臣ハ果シテ此點ニ如何ナル
御考ヲ持ッテ居ラレルカ御尋シタイ(拍手)
方面委員ノ問題ニ付キマシテハ、前ニ段
段御話ガゴザイマシタノデ除クコトニ致シ
マシテ、子供ノ年齡ノコトニ付テ一言御
尋シテ置キタイト思ヒマス、只今文部大臣
ハオ居デニナリマセヌガ、一體今年ハ義務
〓育年限延長案ヲオ出シニナルノカドウ
カ、私共ハ實ハ之ニ對シテハ大キナ期待ヲ
持ッテ居ル、庶政一新ノヤカマシク叫バルヽ
ら
際ニ、多少トモ庶政一新ノ精神ヲ盛ラレタ
モノト致シマシテ、電力國營案ト義務〓育
ノ延長ト云ワ風ナモノニ對シテハ、大キ
ナ期待ヲ持ッテ居ッタノデアリマス(拍手)之
ヲ果シテオ出シニナルノカドウカ、若シ
オ出シニナルトスルト、此法案ノ十
三歲トハ非常ナ喰違ヒガ出來ルノデア
リマス、一體是ハドウスルノカ、若シ
義務〓育延長案ヲオ出シニナルト云フ
ト、一方デハ義務〓育ヲ義務トシテ要求
シテ居ルニ拘ラズ、一方デハ十三歲以上
ノ者ニハ扶助ヲシナイト云フ風ナ、大キナ
喰違ヒガ生ズルノデアリマス、私ハサウ云
フ風ナ點カラ致シマシテモ、是非共本案ハ
十五歲ニシテ戴ク必要ガアルト私ハ考ヘル
ノデアリマス、假ニ外國ノ方ニ例ヲ取ッテ
見マシテモ、亞米利加デ初メテ此法律ノ出
來タノハ千九百十一年デアリマスガ、ソレ
以來各州ニヤハリ是ガ施行サレマシテ、今
日デハヤッテ居ラナイ所ノ州ハ僅ニ二州デ、
其他ノ州ハ全部母子扶助法ガ出來テ居ルノ
デアリマス、ソレハ悉ク十六歲ニナッテ居
ル、亞米利加ニ於テハ十六歲、「ニユージー
ランド」トカ、或ハ諾威トカニ於キマシテ
ハ、十四歲ト云フコトニナッテ居リマス、私
ハ是等ノ點カラ致シマシテモ、ドウシテモ
是ハ十五歲ニシテ戴ク必要ガアルト考ヘル
ノデアリマスガ、此點ニ付テハ內務大臣ニ
重ネテ御意見ヲ伺ヒタイト考ヘル
次ニ是モ先程前ノ伊藤議員カラ御尋ガ
アッタヤウデアリマスガ、市町村ノ負擔金、
之ニ付キマシテハ、內務大臣カラ段々ト御
答辯ガアリマシタケレドモ、兎ニモ角ニモ
今日一方ニ於テハ町村ノ財政ト云フモノガ
非常ニ窮乏シテ居ッテ、地方財政調整交付金
ト云フ風ナモノヲ與ヘナケレバナラヌト云
フ風ナ狀態ノ所ヘ、更ニ斯ウ云フ新シイ負
擔ヲ掛ケルト云フコトニハ、ヤハリ一ツノ
矛盾ガアルノデハナイカト云フコトヲ考ヘ
ル、ノミナラズ今度ノ此率ハ、今マデノ救
護法ヨリハ多少率ガ輕クナッテ居ルヤウデ
アリマスガ、此處デ御願シテ置キタイコト
ハ、此金ガ中々吳レナイノデアリマス、市
町村デ立替ヘテモ、政府ノ補助金或ハ府縣
ノ補助金ト云フモノハ、中々容易ニ町村ニ
吳レナイ、私ハ大阪デアリマスガ、大阪市
ナドニ於キマシテハ、相當多額ノ金ヲ立替
ヘテ居ルガ、容易ニ貰フコトガ出來ナイデ
困ッテ居ル、大阪市ノヤウナ處デアリマスカ
ラ、多少トモ我慢スルコトガ出來ルノデア
リマスガ、財政ノ貧弱ナ町村ニナリマスト、
立替ヘタ其金ヲ容易ニ政府ナリ或ハ府縣ナ
リガ呉レナイト云フ風ナコトニナッテ參リマ
スト、勢ヒ之ニ依ッテ救濟シナケレバナラ
ヌモノノ方ヲ、サボラナケレバナラヌト云
フ風ナコトニナルノデアリマス(拍手)私ハ
サウ云フ風ナ點カラ致シマシテモ、是ハ是
非共全額國庫デ負擔シテ戴ク必要ガアルト
考ヘル、之ニ對シテ內務大臣ハサウ云フ
風ニスレバ濫給ニ陷ル虞ガアルト云フ風ナ
御心配ガアッタノデアリマスガ、今マデ一體
斯ウ云フ風ナ法律ノ執行ニ當ル人達ノ共通
シタ考ヘ方ハ、何時デモ是ハ濫給ニ陷ルト
云フ風ナ口實ヲ設ケテ、之ヲサボラウトス
ルヤウナ傾向ガアルノデアリマス、先程申
シマシタヤウニ、私ハ此法律ノ適用ニ付テ
ハ濫給ヲ恐レズニ、積極的ニ、探シ出シ
テデモ救濟スルト云フ所ノ、積極的態度ヲ
執ル必要ガアルノデハナイカト考ヘマスノ
デ、ソレ等ノ點カラ致シマシテモ、是非共
是ハ全額國庫負擔ニシテ戴ク必要ガアルト
考ヘマス、此點ニ付テ内務大臣ニ重ネテ御
意見ヲ伺ヒタイト私ハ考ヘル
其次ニモウ一ツ御尋シタイト思ヒマスコ
トハ、胎兒ハ是ハ一體子ト認メルカドウカ、
子供ヲ抱ヘテ居ル母親ハ、此法律ニ依ッテ救
濟スルケレドモ、姙婦ハドウスルカ、是モヤ
ハリ救濟スル必要ガアルノデハナイカト私ハ考
ヘル、此法律案デハ其點ガハッキリサレテ居ラ
ナイノデアリマスガ、今日大體救護ヲ與ヘナ
ケレバナラヌダラウト認メラレル所ノ姙婦
ガ約十万八千人アル、其中デ今日マデ救護
法ニ依ッテ、極メテ不徹底ナ救助ヲ受ケタ人
ガドレ位アルカト言ヒマスト、僅ニ二千五
百人ニ過ギナイ、私ハ若シ此法律ガ出來テ、
胎兒モヤハリ子ト認メルト云フコトニナレ
バ、此適用ヲ受ケル者ハ約十万八千人デア
ルノデアリマスガ、是非トモ是等ノ人ニモ
適用スル必要ガアルノデハナイカ(拍手)胎
兒モヤハリ子デアリマス、ノミナラズ是等
ノ人ニ對シテハオ產ノ時ニハヤハリ助產料
ヲ扶助スル必要ガアルノデハナイカト考ヘ
マスガ、此點ニ付テ內務大臣ハ如何ニ御考
デアリマスカ、其點ヲ御尋致シタイ
ソレカラモウ一ツハ、母親ニ代ッテ祖母ガ
子供ヲ育テル時ニハ、ヤハリ之ニ對シテ保
護ヲ與ヘルト云フコトニナッテ居リマスガ、
伯母ダトカ或ハ姉ナドガ、母親ニ代ッテ其子
ヲ育テテ行クヤウナ場合ニハ、此法ノ適用
ガ受ケラレナイヤウナコトニナッテ居リマス
ガ、是ハ如何ナルモノデアリマセウカ、是
モヤハリ救護ヲ與ヘル必要ガアルノヂヤナ
イカト私共ハ考ヘマスガ、此點ニ付テ內務
大臣ノ御考ヲ承リタイト考ヘマス
最後ニモウ一ツ私ノ御伺シタイコトハ此
法デハ扶養義務者ガ資力ノアル場合ニハ、
ソレ等ノ者ガ扶養シナケレバナラヌト云フ
コトニナッテ居ルガ、コヽデ扶養義務者ト云
フノハ、多分民法上ノ所謂扶養義務者ト云
フコトデアラウト思ヒマス、御承知ノヤウ
ニ精神病監護法ニ依リマシテハ、四等親マ
デ扶養義務者ト認メラレテ居ルガ、是ハ非
常ニ惡法ダト考ヘマス(拍手)全ク顏モ見ナ
イ人ガ病院ニ入ッテ居ッテ其金ヲ請求サレ、
而モ是ガ拂へナイト、其爲ニハ差押ヲシテ
取ルト云フヤウナコトヲヤッテ居リマス、ア
ノ四等親マデ請求スルト云フ法律ノ存在ノ
爲ニ、到ル處デ家庭ヲ破壞サレテ居ル事實
ガアリマス、私ハ此點ハ是非トモ併セテ御
考慮ヲ願ハナケレバナラヌト思ヒマス(拍
手)四等親ト云フコトニナルト、全ク顏モ
知ラナイヤウナ例ガ澤山アリマス、ソコマ
デ搜シ出シテ金ヲ請求スルト云フコトニナ
ルト、殊ニ夫婦ノ一方ニサウ云フヤウナ患
者ガアッテ、其爲ニ差押へラレタト云フコト
ニナルト、ソレガ原因ニナッテ家庭ヲ破壞ス
ルト云フ例モ隨分アルノデアリマス、是人
ソコマデ及バナイダラウトハ思ヒマスガ、
此點ニ付テモ民法上デ謂フ所ノ扶養義務者
カ、或ハ精神病監護法ナドニ依ル所ノ四等
親マデ遡ッテ行ク所ノ所謂扶養義務者ガ、其
點ヲ一ツ明ニシテ戴キタイト思ヒマス、尙
ホ細イ點ニ付テハ色々御尋シタイ點モアリ
マスガ、ソレ等ノ點ハ委員會デ重ネテ伺フ
コトニシタイト思ヒマス
〔國務大臣河原田稼吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=57
-
058・河原田稼吉
○國務大臣(河原田稼吉君) 第一ノ御意見
ハ不〓ノ者ハ救ハザルヤト云フ御趣旨デ
アリマスガ、是ハ思召ノヤウニ洵ニ御尤ノ
コトト考ヘマスノデ、將來益〓方面委員其他
ノ活動ヲ促シマシテ、出來ルダケサウ云フ
氣ノ毒ナ人ヲ搜シ出シテモ、十分ニ救助ノ
出來ルヤウニ努メタイト思ヒマス(拍手)第
二ニ配偶者ノ失業シテ居ル者ハ、ヤハリ考
ヘテヤッタラドウカ、斯ウ云フ御意見デアリ
マシタガ、實ハ此失業ト云フモノノ判定ガ
頗ル困難ナ問題デアリマス、隨ヒマシテ是
亦、或ハ御叱リヲ受ケルカモ知レヌトモ思
ヒマスガ、濫給ノ弊ニ陷ル虞ガアル、又夫
ガアッテ、而モソレガ失業シテ居ル場合ニ救
助スルト云フコトニナルト、ドウシテモヤ
ハリ夫ノ自主的精神ヲ失ハシメルコトニナ
リ、又母子扶助法ノ方デ救助シテ吳レルト
云フコトニナルト、ドウモ日本ノ美風デア
ル夫ヲ尊敬スルト云フ風ヲ傷ツケハシナイ
カト云フ氣モ致スノデアリマス(「ソレハ失
業救濟法デヤッテ吳レ」ト呼フ者アリ)ソレ
カラ收入ガ少イト云フ點カラ申スナラバ、
是ハ失業者バカリデハナイ、或ハ行商人デ
非常ニ不景氣デ何モ賣レナイト云フ人トカ、
或ハ夜店デ働イテ居ル人トカ、或ハ中小商
工業者ト云フヤウナ收入ノナイ者、若クハ
收入ガ乏シクテ生活困難デアルト云フヤウ
ナ人ハ色々アリマスノデ、是等マデ考ヘテ
行カナケレバナラヌコトニナルト可ナリ經
費ガ掛ル、卽チ濫給ニ陷ル虞ガアリマスノ
デ、夫ノ失業ノ場合ヲ直チニ入レルカド
ウカト云フコトニ付テハ、十分ナル考究ヲ
要サナケレバナラヌト思ヒマス、ソレ
カラ更ニ第三デアリマスガ、年齡ノ問題
ハ先程私ガ御答申上ゲタヤウニ、大體ニ於
テ救護法ハ十三歲ト云フコトデ,アリマ
スノデ、ヤハリ是ト步調ヲ一ニスルコトガ
必要デハナイカト思ヒマス、義務〓育年限
延長ノ場合ニハドウスルカト云フ御尋デア
リマスガ、義務〓育年限延長ノ内容如何ニ
依ッテハ、或ハ考慮シナケレバナラヌ、或ハ
救護法ト母子保護法ヲ共ニ改正シナケレバ
ナラヌト云フコトガ起ルカモ知レマセヌガ、
兎ニ角其內容如何ニ依ッテ決定シテ行カナ
ケレバナラヌ問題ト思ヒマス、ソレカラ市
町村デ負擔スル母子保護法ノ金額ヲ、全部
國デ負擔シタラドウカト云フ御意見ニ付キ
マシテハ、先程私ガ御答シタ所デ御諒承願
ヒマスガ、大變遲クナッテ御困リニナルト云
フコトニ付キマシテハ、是ハ御尤ト思ヒマ
スノデ、出來ルダケ係ヲ督勵シテ、扶助ノ
遲延ノナイヤウニ致シタイト思ヒマス、尙
ホ今囘ノ改正ニ依リマシテ救護法ガ定額二
分ノ一、市町村ニ付テハ十二分ノ七ト云フ
風ニ、何々以內ト云フコトデナク、定額デ
扶助スルト云フコトニナリマシタノデ、此
點ニ付キマシテハ色々査定トカ其他ノ手數
ガ省カレマスカラ、從來ヨリモ早ク扶助額
ノ支給ガ出來ルト考ヘマス、ソレカラ姙婦
ニ付テ、胎兒モ子供ト同樣デハナイカ、隨
テ姙婦モ母子保護法ニ依ッテ扶助シタラド
ウカト云フ御尋デアリマシタガ、ドウモ胎
兒ハ子供ト見ル譯ニハ參リマセヌ、ソコデ
姙婦ハ其必要ガアレバ、救護法ノ方デ救助
シタラ宜カラウト思フノデアリマス、ソレ
カラ祖母ハ母ト同ジヤウナ待遇ヲ受ケテ居
ルガ、伯母トカ姉ハドウモ一向規定ガナイ
デハナイカト云フ御話デアリマスガ、餘リ
範圍ヲ擴ゲルコトモ、是亦一方ニ於テ國庫
ノ負擔ヲ考ヘナケレバナリマセヌノデ、此
點ハ本法ニ規定シナカッタノデアリマスガ、
御心配ノ子ダケハ救護法ニ依ッテ救助ヲ受
ケマスカラ、此點ニ於テ聊カ御安心ガ得ラ
レルノデハナイカト云フ風ニ思ヒマス、ソ
レカラ次ニ扶養義務者ト云フコトハ、民法
上ノ扶養義務者カ、或ハ精神病保護法ニ依
ル扶養義務者カ、何レカト云フ御尋デアリ
マスガ、是ハ勿論民法上ノ扶養義務者デア
リマシテ、而モ扶養可能ノ者、扶養ノ力ア
ル者ト云フコトニナッテ居リマスカラ、餘程
範圍ハ縮小セラレルコトト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=58
-
059・川村保太郎
○川村保太郞君 不滿足ナ點モ多々ゴザイ
マスガ、私ハ之ヲ以テ質問ヲ終リタイト思
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=59
-
060・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 質疑ノ通〓者馬場
元治君ハ議席ニ居ラレマセヌ、質疑ハ抛棄
シタモノト認メマス、仍テ是ニテ質疑ハ終
局致シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委
員ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=60
-
061・中山福藏
○中山福藏君 日程第二及ビ第三ノ兩案ハ
一括シテ、政府提出、軍事救護法中改正法
律案外一件ノ委員ニ併セ付託セラレンコト
ヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=61
-
062・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=62
-
063・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マく、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=63
-
064・中山福藏
○中山福藏君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日
ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=64
-
065・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議御異議
アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=65
-
066・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ動議ノ如ク決定致シマシタ、次
會ノ議事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、
本日ハ是ニテ散會致シマス
午後六時二十九分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01519370302&spkNum=66
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