1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月四日(木曜日)
午後一時十九分開議
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議事日程 第十七號
昭和十二年三月四日
午後一時開議
第一 輸出補償法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 漁船保險法案(政府提出) 第一讀會
第三 漁船再保險特別會計法案(政府提出) 第一讀會
第四 森林火災國營保險法案(政府提出) 第一讀會
第五 森林火災保險特別會計法案(政府提出) 第一讀會
第六 恩給法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第七 恩給金庫法案(政府提出) 第一讀會
第八 會計檢査院法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第九 國民健康保險法案(政府提出) 第一讀會
第十 保健所法案(政府提出) 第一讀會
第十一 結核豫防法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十二 帝國の滿洲國に於ける治外法權の撤廢及南滿洲鐵道附屬地行政權の調整乃至移讓に伴ひ退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十三 朝鮮事業公債法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十四 朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十五 小運送業法案(政府提出) 第一讀會
第十六 日本通運株式會社法案(政府提出) 第一讀會
第十七 樺太市制案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十八 肥料取締法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十九 酒造組合法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十 日本無線電信株式會社法中改正法律案(政府提出、貴族院送付)
第一讀會
第二十一 特許法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十二 商標法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十三 不正競爭防止法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十四 裁判所構成法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十五 大正十年法律第百二號中改正法律案(定年に因る退職判事檢事の恩給に關する件)(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十六 商法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十七 兵役法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十八 北海道舊土人保護法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=0
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001・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 諸般ノ報〓ヲ致サ
セマス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
貿易組合法案
工業組合法中改正法律案
(以上三月四日提出)
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一議員ノ異動左ノ如シ
愛知縣第四區選出議員武富濟君死去セラ
レタリ
一昨三日貴族院ヨリ受領シタル政府提出案
左ノ如シ
商法中改正法律案
兵役法中改正法律案
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
昭和十二年度歲入歲出總豫算案竝昭和十
二年度各特別會計歲入歲出豫算案中修正
(以上三月三日提出)
小運送業法案
日本通運株式會社法案
(以上三月二日提出)
昭和十二年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツ
ル爲公債發行ニ關スル法律案
昭和七年法律第一號中改正法律案(滿洲
事件ニ關スル經費支辨ノ爲公債發行ニ關
スル件)
揮發油及アルコール混用法案
(以上三月三日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
交通機關調整法案
提出者
田中好君綾部健太郞君
樺太ニ衆議院議員選擧法施行ニ關スル法
律案
提出者
石坂豐一君加藤久米四郞君
鵜澤字八君手代木隆吉君
靑木雷三郞君
(以上三月二日提出)
民法施行法中改正法律案
提出者
大石大君尾崎重美君
佐竹晴記君長野長廣君
航空事業奬勵法案
提出者中村嘉壽君
(以上三月三日提出)
長崎鐵道ホテル建設ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎市ニ高等水產専門學校設置ニ關スル
建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎市附近ニ飛行場設置ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
神武天皇肇國御聖蹟闡明ニ關スル建議案
提出者松尾四郞君
櫻井奧津間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者松尾四郞君
有明、海沖ノ島ニ燈臺建設ニ關スル建議案
提出者
愛野時一郞君池田秀雄君
中村不二男君富田等平君
田島勝太郞君
肥前山口ヨリ秀津ヲ經テ長崎ニ至ル道路
國道編入ニ關スル建議案
提出者
愛野時一郞君富田等平君
中村不二男君中村又一君
池田秀雄君
後藤寺上山田間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
勝正憲君末松偕一郞君
田島勝太郞君高野喜六君
片山秀太郞君石井德久次君
末次虎太郞君田尻生五君
澱川低水工事ヲ年度割繼續事業ト爲スノ
建議案
提出者
川崎末五郞君池本甚四郞君
(以上三月二日提出)
長崎上海間航路改善ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎藥學專門學校設置ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎市ヲ起點トスル彼杵半島一周國營自
動車運輸ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎市ニ鐵道運輸事務所及保線事務所新
設ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎中央電信局設置ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
喜々津浦上間鐵道敷設速成ニ關スル建議
案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎佐世保間縣道ヲ軍事用國道ニ編入ニ
關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
長崎本線ノ復線及長崎門司間鐵道電化ニ
關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
對馬島振興ニ關スル建議案
提出者
倉成庄八郞君佐保畢雄君
西岡竹次郞君
帝國在〓軍人會國庫補助金增額ニ關スル
建議案
提出者
服部米次郞君原口初太郞君
八角三郞君宮脇長吉君
町村吏員互助會ニ對シ國庫補助金下付ニ
關スル建議案
提出者
宮本雄一郞君助川啓四郞君
山口忠五郞君島田七郞右衞門君
高橋守平君津原武君
(以上三月四日提出)
一去二日林內閣總理大臣ヨリ左ノ通發令ア
リタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
專賣局部長花田政春
第七十囘帝國議會大藏省所管事務政府委
員被仰付
一去二十八日部長補關選擧ノ結果左ノ如シ
第四部
部長鈴木条太郞君(部長本多貞次郞
君補關)
一去二日常任委員補關選擧ノ結果左ノ如シ
第二部選出
豫算委員平川松太郞君(宮澤胤勇君
補闕)
第四部選出
豫算委員中村嘉壽君(西岡竹次郞君
補闕)
一去二日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如
シ
農地法案(政府提出)委員
小西和君村松久義君
伊藤東一郞君小畑虎之助君
川合直次君土屋寛君
林平馬君愛野時一郞君
長野長廣君小野寅吉君
土田莊助君西村丹治郞君
吉植庄亮君山崎猛君
西方利馬君小山田義孝君
松木弘君加藤賢司君
服部岩吉君西川貞一君
石井德久次君田中亮一君
陣軍吉君杉山元治郞君
北勝太郞君高岡大輔君
木村武雄君
一昨三日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
農地法案(政府提出)委員
委員長小西和君
理事
村松久義君伊藤東一郞君
西方利馬君松木弘君
一昨三日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
農地法案(政府提出)委員
辭任田中亮一君補關助川啓四郞君
辭任北勝太郞君補闕小山亮君
辭任小山亮君補關平野力三君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=1
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002・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ヨリ會議ヲ開キ
マス、御諮リ致シマス、第七部選出豫算委
員角源泉君常任委員辭任ノ申出ガアリマス、
之ヲ許可スルニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=2
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003・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ許可スルニ決シマシタ、其部ノ
諸君ハ速ニ補關選擧ヲ行ヒ、御屆アランコ
トヲ望ミマス
諸君議員武富濟君一昨二日逝去セラレマ
シタコトハ、洵ニ痛惜哀悼ノ至ニ堪ヘマセ
又、此際小林錡君ヨリ發言ヲ求メラレテ居
リマス、之ヲ許可致シマス-小林錡君
〔小林錡君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=3
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004・小林かなえ
○小林錡君 只今御報告ニ相成リマシタル
故武富濟君ニ對シ、院議ヲ以テ弔詞ヲ贈呈
致シ、其弔詞ハ之ヲ議長ニ一任スルノ動議
ヲ提出致シマス、諸君、此際私ハ諸君ノ御
許シヲ得マシテ、議員一同ヲ代表シ、故武富
濟君ニ對シ哀悼ノ微意ヲ表シタイト存ズル
ノデアリマス(拍手)
故武富濟君ハ明治十二年四月愛知縣碧海
郡刈谷町ニ於テ生レラレ、長ジテ東京帝國
大學法科大學ニ入學セラレ、明治三十七年
七月同大學ヲ卒業セラルヽヤ、司法官試補
ニ補セラレ、次イデ檢事ニ任ゼラレ、千葉
地方裁判所檢事、東京地方裁判所檢事等ニ
歷任セラレタノデアリマス、在職中彼ノ日
糖事件若クハ幸德等ノ大逆事件ニ付檢察ノ
衝ニ當リ、其敏腕ヲ揮ハレタルコトハ世人
ノ能ク知ル所デアリマス、大正元年官界ヲ
去ッテ辯護士トナラレ、翌二年ニハ東京辯護
士會常議員會議長ニ擧ゲラレ、甘粕憲兵大
尉ノ辯護人ニ官選セラレタル等、君ガ法曹
界ニ於テ人權擁護ノ爲ニ盡サレタル功績ハ
洵ニ甚大ナルモノガアリマス(拍手)
斯クテ大正十三年五月第十五囘總選擧ニ
際シ、〓里ナル愛知縣ヨリ衆望ヲ負ウテ當
選セラレテ、衆議院議員トナリ、爾來前後
通ジテ五回當選セラレ、長ク本院ニ其議席
ヲ占メラレタノデアリマス、其間拓務參與
官トシテ拓務行政ニ參與セラレ、阿片委員
會委員及ビ選擧制度調査會委員ヲ仰付ケラ
レ、又懲罰委員長ニ當選セラルヽ等、國家
憲政ノ爲メ奮勵努力セラレツヽアリマシタ
コトハ、諸君御承知ノ通リデゴザイマス(拍
千ノ
君ハ資性豪放ニシテ義氣ニ富ミ、私ヲ捨
テヽ公ニ報ズルノ士デアラレマシタ、近來
益〓練達堪能ノ域ニ入ラレ、世上モ亦君ニ俟
ツモノ極メテ多カリシニ、昨夏以來二豎ノ
冒ス所トナリ、吾々ハ其快癒ノ一日モ速カ
ナランコトヲ祈リツヽアリマシタノニ、今
溘焉トシテ幽明界ヲ異ニセラレタルコトハ、
洵ニ痛惜哀悼ニ堪ヘザル次第デアリマス、
玆ニ謹ンデ衷心ヨリ哀悼ノ微意ヲ表スル次
第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=4
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005・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 小林君提出ノ動議
ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=5
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006・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ハ可決セラレマシタ、玆
議長ノ手許ニ於テ起草シタル弔詞ヲ朗讀致
シマス
衆議院ハ議員正五位勳三等武富濟君ノ長
逝ヲ哀悼シ恭シク弔詞ヲ呈ス
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=6
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007・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 此弔詞ノ贈呈方ハ
議長ニ於テ取計ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=7
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008・松永東
○松永東君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際日程第二十八ヲ繰上
ゲ上程シ、其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=8
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009・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君提出ノ動議
ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=9
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010・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシタ、
日程第二十八、北海道舊土人保護法中改正
法律案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長
ノ報〓ヲ求メマス-委員長川島正次郞君
第二十八北海道舊土人保護法中改正
法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報生ロ)
報告書
一北海道舊土人保護法中改正法律案(政
府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月二日
委員長川島正次郞
衆議院議長富田幸次郞殿
〔川島正次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=10
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011・川島正次郎
○川島正次郞君 只今上程セラレマシタ北
海道舊土人保護法中改正法律案ノ委員會ニ
於キマスル審議ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓致
シマス、委員會ハ去ル二月二十六日以來三
日間ニ亙リマシテ愼重審議ヲ致シマシタ、
委員ト政府委員トノ間ニ於キマシテ、熱心
ニシテ而モ適切ナル質問應答竝ニ意見ノ交
換ガアリマシタ、質問ヲ終了致シマシテ討
論ニ入リマシテ、民政黨ノ手代木君竝ニ政
友會ノ南條君ヨリ、何レモ本案ニ贊成ノ意
味ノ御演說ガアリマシテ、採決ノ結果、委
員會ハ大多數ヲ以テ可決ヲ致シマシタ、此
段御報〓ヲ申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=11
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012・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 討論ノ通〓ガアリ
マス-淺川浩君
〔淺川浩君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=12
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013・淺川浩
○淺川浩君 只今ノ委員長ノ報告ニ對シマ
シテ贊成ノ意思ヲ表シタイト思フノデアリ
マス、御承知ノ通リ「アイヌ」民族、文〓ナ
カリシ、原始的ナル、經濟知識ナカリシ同
種族ハ、最初海岸ニ於テ撈漁ニ依リ生活ヲ
營ミ、自然河川ヲ遡上致シマシテ、奥部陸
地ニ入ッテ生活ヲナシ居ル其狀態ハ、恰モ太
古時代ノ生活狀態其儘デアッタノデアリマ
ス、然ルニ順次開拓ノ爲ニ北海道ニ移住ス
ル移民ノ「シヨック」ヲ受ケマスルノデ、各地
ニ集團的部落ヲ作ラシムル爲ニ、又一面ニ
ハ地方長官ハ之ニ勸農ノ趣旨ヲ以チマシテ、
土地ヲ附與スベク、明治二十五年ニ於キマ
シテ、舊土人給與豫定地ナルモノヲ所々ニ
作リマシテ、其豫定地ノ附近ニ集團的住居
ヲ營マシタモノデアリマスルガ、前段申シ
マスルヤウニ、海岸カラ段々遡上致シマシタ
ノデスガ、北海道ノ高原ト稱シマスル、旭
川地方ノ附近ニ於キマスル一ツノ實例ニ付テ
申上ゲマスレバ、明治三十二年土人保護法
ガ制定セラレマシテ、旭川市附近ニ於キマ
シテハ、舊土人ニ與フル豫定地ト致シマシ
テ、一百五十町步ノ給與豫定地ヲ定メテ居ツ
タノデアリマス、而シテ土人ニハ先ヅ一町
步ノ開拓地ヲ與ヘマシテ、其他ノモノハ道
廳長官ガ之ヲ管理ヲ致シ、サウシテ旭川市
ガ管理ノ代務ヲ致シマシテ、此土人ニ一町
步ヅツ割當テマシタ所ノ殘地ノ管理ハ旭川
市ガ之ヲ行ヒ、之ヲ轉貸致シマシテ、此收
益ヲ以テ一般ノ土人ニ對スル行政ノ費用ニ
充テテ居ッタノデアリマス、然ルニ一般移民
ノ增加スルニ從ヒマシテ、土人ノ生活ノ上ニ
「シヨック」ヲ與フルヤウナ狀況ガ差起リマシテ、
旭川市ハ是等ノ土人ニ對シテ一定ノ家屋ヲ
造リ、サウシテ衞生上ノ設備、其他授產上ノ
設備、農事指導ノ設備ト云フヤウナモノヲ
致シマシタガ、元來疊ノ上ノ生活ニ慣レテ居ラ
ナイ舊土人ハ、先ヅ疊ヲ剝ガシ、床板ヲ剝
ガシ、床根太ヲ剝ガシ、サウシテ土間ニ枯
草ヲ敷イテ、其中ニ潜ッテ居ルト云フヤウナ
狀態ニアリマシタノデアリマス、然ルニ〓
育ノ方面ニ於キマシテハ、特殊ノ土人ノミ
ノ小學〓育ヲ施シテ居リマシタ學校ガアリ
マシタガ、最初土人ノミノ學校デアリマシ
テハ、競爭心ナキ爲ニ〓育ノ成績ヲ擧グル
コトヲ得ズ、大正八年ニ至リマシテ學制ヲ
變ヘテ、內地ヨリ移住セル子弟ト共ニ自由
〓育ヲ施シタノデアリマシタガ、頗ル優良
ナル成績ヲ擧ゲテ參リマシテ、現在ニ於テ
ハ壯丁ノ義務、就中砲兵ニ徵募セラレマシ
タ人ナドハ、非常ニ優良ナル砲兵トシテ勤
務ヲ爲スヤウナコトニ相成リ、其他女學校
等ヲ出マシテ宗〓學校ニ入リ、或ハ宣〓師
ト共ニ家庭ヲ成スト云フヤウナ、一部ニハ
左樣ナ程度マデ進展ヲ致シテ居リマスル
ガ、本法ヲ改正ニナリマシタ要旨ハ、土人
ニ給與致シマシタル土地、元來內務大臣ノ
許可ヲ得テ長官ガ之ヲ處理致シテ居リマシ
タモノヲ、此度ノ改正ニ依リマスルト、土
地ニ關スル權利ノ移動等ニ付キマシテハ、
道廳長官ガ之ヲ許可致スト云フヤウニ相成
リマシテ、此點ハ此改正法ニ依リマシテ大
ニ緩和セラレルコトニ相成リマス、其他法
律改正ノ內容ニ依リマシテ、土人ノ爲ニ諸
般ノ施設ヲナシ與ヘル爲ニ政府ニ於テモ四
万圓內外ノ豫算ヲ要求セラレテ.居ルヤウデ
アリマスルガ、併セテ土人生活其他向上發
展ヲ致シマスル爲ニ、本法ハ大ニ考慮セラレ
テアルモノデアルコトヲ信ジマス、委員會
ノ時代ニ於キマシテ、北海道土人ハ同化政
策ヲ採ルノデアルカ、或ハ種族ノ保存ノミ
ニ考ヘテ居ルカト云フヤウナ御議論モアッ
タヤウニ拜聽致シテ居リマスルガ、自然ノ
趨勢ハ同化ヲシツヽアルノデアリマス、明
治十三年明治天皇陛下ガ北海道御巡幸ノ際
ニ、初メテ戶籍ヲ作ラレマシテ、其時ノ人
ロハ一万九千何ガシデアッタト思フノデア
リマス、現在ハ一万六千餘、三千七百竈
デ、殖エテ居ラヌデハナイカト云フヤウナ
疑ガアリマスルガ、順次同化致シマシテ、現
ニ東京市ニ於キマシテモ、五十人餘ノ北海
道土人ガ東京市民トナッテ居ル筈デアリマ
ス、是ハ最初ハ土人ノ狀態ヲ宣傳スル爲ニ
ト云フヤウナコトデ上京致シマシタモノ
ガ、順次殖エテ參リマシテ、現在ハ五十ノ
東京市民ガ確ニ居ル筈デアリマス、其他小
都市ニ出テ參リマスル者、或ハ府縣ノ者ト結
婚ヲ爲スト云フヤウナ者ガ、四五千餘ノモ
ノガ確ニ同化融合シテ向上致シテ居ル筈デ
アリマス、本法ノ改正ニ依リマシテ、更ニ彼
等ノ社會常念ヲ向上セシムルニ大ナル裨益
アルコトヲ信ズルノデアリマス、現在ノ三
千七百世帶、一万六千ノ北海道舊土人ノ爲
ニ、本法ノ改正ハ洵ニ福音ヲ與ヘラレタル
モノト信ズルノデアリマシテ、玆ニ贊成ノ
意ヲ表シマス、サウシテ滿場ノ皆樣ノ御贊
成ニ依ッテ、成文トセラレンコトヲ希望致ス
次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=13
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014・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 討論ハ淺川君ノ演
說ダケデ終局致シマシタ、本案ノ第二讀會
ヲ開クニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=14
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015・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=15
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016・松永東
○松永東君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=16
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017・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=17
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018・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
北海道舊土人保護法中改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=18
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019・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 別ニ御發議モアリ
マセヌ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通
リ可決確定致シマシタ(拍手)日程第一、輸
出補償法中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマ
ス-商工大臣伍堂卓雄君
第一輸出補償法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
輸出補償法中改正法律案
輸出補償法中左ノ通改正ス
第一條中「百分ノ七十」ヲ「百分ノ八十」ニ
改ム
第三條中「滿期日」ヲ「滿期」ニ、「償還又ハ
支拂」ヲ「支拂」ニ改メ同條ニ左ノ一項ヲ
加フ
特別ノ事情アル場合ニ於テハ命令ノ定
ムル所ニ依リ前項ノ損失ノ計算ニ付前
項第一號ニ揭グル金額ヲ控除セザルコ
トヲ得
第四條中「償還請求權」ヲ「遡求權」ニ、「滿
期日」ヲ「滿期」ニ改メ同條第一項但書ヲ
左ノ如ク改ム
但シ其ノ權利ノ行使ニ要スル費用ガ其
ノ行使ニ依リテ得ベキ金額ヲ超ユルモ
ノト認メラルル場合其ノ他特別ノ事情
アル場合ニ於テ主務大臣ノ認可ヲ受ケ
タルトキハ其ノ權利ノ全部又ハ一部ヲ
行使セズ又ハ一時行使セザルコトヲ得
第五條中「償還請求權」ヲ「遡求權」ニ、「百
分ノ六十」ヲ「百分ノ七十」ニ、「償還ノ請
求ヲ爲サザルコト」ヲ「遡求權ヲ行ハザル
コト」ニ改ム
第七條第一項中「商品ヲ輸出シタル爲受
取リタル約束手形」ヲ「命令ノ定ムル所ニ
依リ商品ノ輸出ノ爲受取リタル約束手形
又ハ振出シタル荷爲替手形以外ノ爲替手
形」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行前ニ銀行ガ買取リタル手形ニ付
テハ仍從前ノ例ニ依ル
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=19
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020・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 輸出補償法中改
正法律案提案ノ理由ヲ御說明申上ゲマス、政
府ハ昭和五年ヨリ輸出補償法ヲ制定施行シ、
輸出手形ニ對スル金融ノ便ヲ圖リ、本邦商
品ノ販路開拓ヲ促シ、輸出貿易增進上相當
ノ效果ヲ收メテ參ッタノデアリマス、併ナガ
ラ最近ノ通商情勢ノ變化ニ對應シマシテ、
輸出補償制度ヲ積極的ニ活用スルガ爲ニ
ハ、尙ホ本制度ヲ擴充スルノ必要ヲ認メマ
スノデ、玆ニ輸出補償法ヲ改正シ、補償限
度ノ引上ヲ行フト共ニ、他面外國ノ施行ス
ル爲替管理等ニ依リ、手形ガ不渡トナリタ
ル場合ノ損失ヲモ補償シ得ルコトトシ、又
長期信用ニ依ル重工業品等ノ輸出ニ對シマ
シテモ、本制度ヲ適用スル途ヲ開キ、愈
輸出貿易金融ノ圓滑ヲ圖リ、本邦商品ノ販
路ノ維持開拓ニ努メ、以テ輸出貿易ノ伸張
ヲ期セントスル次第デアリマス、何卒十分
御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ希望
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=20
-
021・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 質疑ノ通告ガアリ
マス、順次之ヲ許可致シマス-加藤鯛一
君
〔加藤鯛一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=21
-
022・加藤鯛一
○加藤鯛一君 諸君、只今議題ニナリマシ
タル輸出補償法中ノ改正案ニ對シマシテ、
二三ノ御尋ヲ致シタイト思フノデアリマス、
先ヅ第一ニ現在ノ輸出法ガ如何ニ運用セラ
V、如何ナル效果ヲ擧ゲテ居ルカト云フコ
トニ對シマシテ御尋ヲ致シタイト存ジマス、
第二ニハ最近ノ國際通商情勢ノ變化ニ對
シマシテ、政府ハ如何ナル對策ヲ持ッテ居ル
カト云フコトデアリマス、第三ニ、日支經
濟提携ニ對シマシテ、如何ナル方策ヲ持ッテ
居ルカト云フコトヲ御尋致シタイト存ジマ
スガ、是ハ皆ソレ〓〓所管大臣ヨリ責任ア
ル明快ナル御答辯ヲ要求致シタイノデアリ
マス
我國ノ財政經濟ノ上カラ考ヘマシテ、貿
易ガ重要ナル役割ヲ持ッテ居リマスルコト
ハ言フ迄モナイコトデアリマス、我國ノ財
政經濟ガ比較的良好ナル狀態ヲ續ケルコト
ガ出來マシタルコトハ、色々ノ原因ハアリ
マセウガ、最近ノ輸出貿易ガ相當ノ成績ヲ
擧ゲテ居リマシタコトモ、重要ナル原因ノ
一ツデアルト思フノデアリマス、我國ノ輸
出貿易ハ如何ナル理由ガアッテ、相當ノ成績
ヲ擧ゲルコトガ出來タノデアリマスカ、固
ヨリ色々ノ理由ハアリマセウガ、爲替關係
ト低物價政策ト云フモノガ、相當ニ輸出貿
易ニ便宜ヲ與ヘタコトハ、間違ノナイ事實
デアラウト思フノデアリマス、然ルニ最近
ノ政府ノ政策ノ各方面カラ考ヘテ見マスル
ト、此低物價政策ニ依リマシテ、輸出貿易
ニ便益ヲ與ヘテ居リマシタルコトハ、最早
期待ヲスルコトガ出來ナイ情勢ニナッテ居
ルト思フノデアリマス、最近ノ我國ノ國內
物價ハ段々騰勢ヲ辿ッテ居ルノデアリマス
ガ、固ヨリ國內物價ガ直チニ國際物價ニ其
通リニ影響スルモノトハ考ヘマセヌケレド
モ、最近傳フル所ニ依リマスルト、政府ハ
金ノ現送ヲナサレルト云フ話デアリマスガ、
是ハ取モ直サズ現在ノ爲替相場ヲ維持シタ
イト云フ御考カラデアラウト思フノデアリ
マスガ、果シテ然ラバ、爲替相場ヲ現在ノ
狀態デ維持致シタイト云フ政策ヲ御執リニ
ナリマスルナラバ、現在騰勢ヲ辿リツヽア
リマスル我國ノ物價ハ、當然國際物價ニモ
影響シテ來ラザルヲ得ナイト云フコトニ相
成ルノデアリマス、果シテ然ラバ低物價政
策ニ依リマシテ便益ヲ與ヘラレテ居リマシ
タル所ノ輸出貿易ハ、反對ノ立場ヲ辿ラザ
ルヲ得ナイ結果ニナリマスガ、之ニ對シマ
シテ政府ハ如何ナル御考ヲ持ッテオ居デニ
ナルノデアリマセウカ、私ハ此際政府當局
ノ此問題ニ對スル御考ヲ承ッテ置キタイノ
デアリマス
今度ノ輸出補償法ノ改正案ノ骨子ハ、主
トシテ從來六十四万圓位ノ補償額デアリマ
シタモノガ、百十九万八千圓ニ殖エタ、五
十六七万圓ノ金額ガ殖エタト云フコトト、
地域ヲ擴大ナサルサウデアリマスガ、其他
ニ補償率ヲ御上ゲニナルト云フヤウナコト
ガ、主ナル問題ノヤウニ考ヘラレマスルガ
此世界ノ貿易思想ノ變化トデモ言ヒマセウ
カ、國際通商上ノ非常ナル變化ニ對シマシ
テ、斯ノ如キ微々タル政策ヲ以テ、我國ノ輸
出貿易ヲ振興セシメルコトハ困難デアラウ
ト思フノデアリマスガ、政府ハ如何樣ニ御
考ニナルノデアリマセウカ、此輸出補償法ガ
制定サレマシタノハ昭和五年デアリマシテ、
昭和五年ト言ヘバ、自由通商時代ノ末期ノ
產物デアリマス、今日ハ非常ニ世界ノ貿易
ニ對スル政策ガ變ッテ來テ居ルノデアル、此
昭和五年ノ產物デアリマスル此輸出補償法
ガ、旣ニ私ハ今日ノ時勢ニ適當ナモノトハ
考ヘナイノデアリマスガ、此根本的ノ改正
ヲ考ヘラレズニ、之ヲ少シヅツ變へテ行カ
レルト云フ所ニ、私ハ貿易ニ對スル認識
ガ不足デハナイカト思フノデアリマスガ、
政府ハ如何樣ニ考ヘテオ居デニナルノデ
アリマスカ、昭和五年ト言ヘバ丁度金
ノ再禁止ニ先ダツコトガ一年半程前デアリ
マシテ、所謂滿洲事變ノ直前デアリマシ
テ、今日ノ非常時ト言ハレテ居リマスル其
前ノ產物デアリマス、卽チ金解禁ノ爲ニ
爲替ガ高クナリマシテ、ソレト世界ノ恐慌
トノ、此二ツノ影響ヲ蒙リマシタル我ガ輸
出貿易ガ、非常ニ頽勢ヲ辿ラントシタ時
ニ方リマシテ、之ニ對應スル爲ニ此法律ハ
出來タモノト私ハ考ヘテ居ルノデアリマ
ス、其出來マシタ法律ハ、輸出貿易ノ金融
ノ便益ヲ講ズルコトト、我ガ商品ノ新販路
ヲ開拓シ、輸出貿易ノ振興ヲ圖ラウト云フ
目的ノ爲ニ出來タモノデアリマセウガ、今
日果シテ此目的ヲ達スルコトガ出來ルノデ
アリマセウカ、私ハ多大ノ疑ヲ懷カザルヲ
得ナイノデアリマス、其後ノ貿易ハ先程申
シマシタ通リニ、相當ノ成績ヲ擧ゲマシ
テ、最近ニ於キマシテハ、我國ノ貿易ハ世
界各國ノ脅威ノ的トナルヤウナ、飛躍的大
發展ヲシテ來タノデアリマスガ、是ハ決シ
テ輸出補償法ノ爲デハナイト私ハ考ヘル、
此輸出補償法ハ屢次改正ヲ加ヘラレマシ
テ、其適用地域モ漸次擴大サレテ來タノデ
アリマスガ、此輸出貿易ノ斯ウ云フヤウニ
成績ヲ擧ゲテ來マシタコトハ、只今言ヒマ
シタ通リニ、金ノ再禁止ニ伴フ所ノ爲替ノ
低落ト、產業經營ノ合理化ノ結果ニ俟ツモ
ノガ、非常ニ多イト私ハ考ヘルノデアリマ
ス、此兩方共ガ輸出貿易ノ振興ノ動因ヲ成
シテ居ルト云フコトハ、爭ハレナイ事實ト
思フノデアリマスガ、斯ウ云フ大キナ問題
ニ對シマシテ、此小サナ法律ノ力デ貿易ヲ
振興セシムルコトハ、私ハ餘程難カシイト
思フノデアリマス、成程政府ノ補償手形ノ
買取額ハ、昭和六年カラ比ベマスト非常ニ
殖エテ居リマス、昭和六年ニハ五百万圓前
後デアリマシタモノガ、今日デハ、ザット五
六倍ニナッテ居ルコトモ事實デアリマス、補
償額ニ至リマシテモ、二十倍位ニ達シテ居
ルコトヲ聞イテ居リマスガ、併ナガラ此輸
出補償法ノ根本的ノ目的ハ、補償手形ヲ買
取ッタリ、損失ヲ補償スル事ノミデハナカラ
ウト思フノデアリマス、前ニモ申述ベマシ
タ通リ、本法ノ運用ニ依リマシテ、我ガ商
品ノ新販路ヲ開拓スルコトガ、主要ナル目
的デナケレバナラヌト思フノデアリマス、
然ルニ大藏省カラ御出シニナッテ居リマス
外國貿易月報ヲ見マスルト、是ガ全然裏切
ラレテ居ルノデアリマス、卽チ昨年ノ我國
ノ輸出貿易ノ數字ヲ調べテ見マスルト、南
米諸國ニ對スル輸出貿易額ハ、約六千八百
七十六万圓デアリマシテ、之ヲ一昨年ニ比
ベテ見マスルト、凡ソ四百六十餘万圓、卽
チ六分三厘ノ減退ヲ致シテ居ルノデアリマ
ス、此南米ハ殆ド全部輸出補償ノ行ハレテ
居ル範圍デアリマス、此輸出補償法ガ適用
サレテ居ル處ハ、其他ニモ「ペルー」デアリ
マストカ、「アルゼンチン」デアリマスト
カ、「コロンビヤ」等ニ於キマシテモ、我ガ
輸出貿易ガ非常ニ減ッテ居リマス、此外本法
ノ適用サレテ居リマスル「エジプト」ヲ初メ
亞弗利加ノ諸地方、和蘭、「イラク」, ,
スタイン」等ノ十餘箇國ニ亙ッテ調ベテ見マ
シテモ、我ガ輸出貿易ハ衰退ヲ致シテ居ル
ノデアリマス、增加シタ國モアリマスガ、
之ヲ總平均ニ調ベテ見マスト、特ニ甚シイ
增大ヲ昨年ハ示シテハ居リマセヌ、此事實
カラ考ヘマシテ、果シテ本法ガ此法律ノ目
的ヲ達シテ居ルカドウカト云フコトハ、當
然ニ疑ヲ生ジテ來ルノデアリマスガ、政府
當局ハ如何樣ニ御考ニナッテオ居デニナル
ノデアリマセウカ、之ヲ御尋致シタイノデ
アリマス
次ニ政府ハ此提案理由ニモ述ベテ居ラレ
ルヤウニ、國際通商情勢ノ變化シタ今日ニ
於テ云々ト言ハレテ居ルノデアリマスガ、
此國際通商情勢ノ著シク變化致シマシタコ
トハ、今更私ガ申上ゲル迄モアリマセヌ、
自由通商時代ニ於キマシテハ、廉價良質デ
アレバ、何處ヘデモ販路ヲ擴張スルコトガ
出來タノデアリマスガ、今日ノ世界ノ貿易
政策ハ、如何ニ廉價良質デアリマシテモ、
自國ノ產業ヲ脅カスヤウナモノハ、極力輸
入ヲ防遏致シテ居ルノデアリマス、自分ノ
國ノ正貨ノ海外ニ流出スルコトヲ防グコト
ノ一ツノ方法デアリマセウガ、極端ニ國內
ノ產業ヲ保護致シテ居リマスル關係上、如
何ニ廉價良質ノモノデアリマシテモ、中々
高率ナル關稅ヲ課シマシテ、之ヲ輸入ヲサ
セナイ、其結果ハ、言葉ニ弊ガアルカモ知
レマセヌガ、恰モ古ノ物々交換時代ニ還ラ
ントシテ居ルカニモ見エルノデアリマス、
卽チ如何ニ廉價良質ノモノヲ賣ラウト思ヒ
マシテモ、一方的ニ輸出ヲスルダケデハ相
手ガ承知ヲシナイ、求償時代トデモ言ヒマ
セウカ、コチラノ品物ヲ賣ルナラバ、先方
ノ品物モ買ッテヤラナケレバ、話ガ纏ラナイ
ト云フヤウナコトハ、度々色々ノ會商或ハ
協約等ニ現レテ居ルノデアリマス、最近ノ
現レタル問題ニ付テ考ヘテ見マシテモ、日
印協約ノ如キモ既ニサウデアル、日本カラ
綿織物ヲドレダケ輸出スルニ對シテ、向フ
カラハ棉花ヲドレダケ買ッテ吳レト云フ
コトデアル、此日印協約モ旣ニ期限ガ
滿期ニ近カラントシテ居ルト聞イテ居リマ
スガ、其後ノ交涉ハ一體ドウ云フ風ニ進ミ
ツヽアルノデアリマセウカ、昨年末ニ約束
サレマシタル日濠ノ問題デモ、最近ノ日
緬-日本ト「ビルマ」トノ話合ニ致シマシテモ
サウデアリマス、日蘭會商ハ決裂ヲ致シマ
シテ、其後ドウナッテ居ルノカ、吾々ハ聞カ
ナイノデアリマスガ、唯纔ニ民間ノ船會社
ノ間ニハ、多少協定ガ付イタヤウニ聞イテ
居リマスガ、其後ノ模樣ハ一體ドウナッテ居
ルノデアリマスカ、又最近日米間ニ於キマ
シテモ、綿業者ガ民間同志ノ間ニ於キマシ
テ、棉花ト綿布トノ輸出輸入ニ對シマシテ
話合ガアック筈デアリマス、最近ニ於テハ滿
洲ト獨逸ニ於キマシテモ協定ハ成立致シテ
居リマスガ、悉ク世界ノ各國ガ、一方的
ニ買フダケデハ承知ヲシナイ、是ダケノモ
ノヲ買フ以上ハ、是ダケノモノヲソチラデ
モ買ッテ吳レト云フコトガ、最近ノ貿易ノ大
勢ノヤウニ考ヘラレルノデアリマスルカラ、
如何ニ廉價良質ノモノヲ造リマシテ、外國
ニ輸出ヲ致サウト思ヒマシテモ、向フガ買ッ
テ貰ヒタイモノトノ、卽チ交換的ニシナケ
レバ話ハ纏ラナイノデアリマス、果シテ然
ラバ此國際通商上ノ變化ニ對シマシテハ、
斯ウ云フ法律ノ小サナ事ヲ考ヘルヨリモ、
世界ノ各國ニ於テ、何ト何トヲ需要シ、必
要トシテ居ルカト云フコトノ、不斷ノ調査
ヲスルト同時ニ、其物ヲ買ッタ所へ、日本ノ
如何ナル物ヲ向ケタラ宜イカ、日本ノ物ヲ
賣ル代リニ何ヲ買ッタラ宜イカト云フコトノ
〓究調査ガ、非常ニ必要デアラウト思ヒマ
スガ、斯ウ云フ點ニ付テ政府ハ何力考ヘテ
オ居デニナリマスカ、ドウデアリマスカ、
私ハ是ガ最近ノ國際通商上ノ變化ニ對シマ
シテ、必要ナル對策デアルト考ヘルノデア
リマスガ、政府ノ御考ハ如何デアリマセウ
カ、若シ斯ウ云フコトヲ輕ンゼラレマシテ、
此輸出補償法ノ改正ニ依ッテ、輸出貿易ノ振
興ヲ圖ラントシテオ居デニナリマスルナラ
バ是ハ政府ノ考ヲ根本的ニ檢討ヲセナケ
レバナラヌト思フノデアリマス
又昨日ノ關稅委員會ニ於キマシテ、商工省
ノ政府委員ハ、此輸出補償額ノ五十七万圓
ノ增加ニ依リマシテ、新ニ四千万圓ノ輸出
ヲ增加セシムルコトガ出來ル見込デアルト
云フ意味ノ御答辯ヲシテオ居デニナリマス
ガ、果シテ左樣ナ確信ガ御有リニナルノデ
アリマセウカ、如何ナル論據ニ依リマシテ、
ドウ云フ品物ヲ何處ノ國ニ賣ルト云フ御見
込ガアリマスカ、承ルコトガ出來レバ仕合
セデアリマス、假ニ此四千万圓ノ輸出ヲ增
加セシムルコトガ出來ルト致シマシテモ、
昨年ノ輸出貿易額カラ云ヘバ、僅ニ是ハ一
分五厘ニ過ギナイノデアリマス、此位ノ增
加率デハ、輸出貿易ヲ振興セシメル對策ト
シテハ、是ダケデハ私ハナラヌト思フノデ
アリマスガ、之ニ對シマシテ政府ハ如何樣
ニ御考ニナルノデアリマセウカ、若シ是デ
滿足シテ居ルト云フヤウナ御話デアルナラ
バ、恰モ是ハ子供騙シノ話デアリマシテ、
今日ノ重要ナル貿易ノ役割ヲ知ラナイモノ
ト言ハナケレバナラヌト思フノデアリマス、
此輸出補償額ニ致シマシテモ、僅ニ百十九
万圓デアリマスガ、英吉利ハ支那ダケニ對
シマシテ、一千万磅ノ輸出補償ヲシテ居ルト
云フ話デアリマス、尙ホ其他ニ半民半官ノ
特殊會社ヲ作リマシテ、之ニ依ッテ補償ノ方
法ヲ行ハシテ居ルノデアリマス、我國ニ於
キマシテモ、名古屋市ノ如キハ輸出補償規
程ト云フモノヲ作リマシテ、此政府ノ地域
ニ入ッテ居ナイ處ニ對シマシテ之ヲ行ッテ居
リマスガ、相當ノ成績ヲ擧ゲテ居ルト云フ
コトデアリマス、此輸出補償額ヲ、政府ノ
財政上ノ都合等ニ依ッテ、額ヲモット增加ス
ルコトガ出來ナイト云フ御考デアリマスル
ナラバ、斯ウ云フ自治體等ニヤラシムル御
考ハナイカドウカ、又特殊ノ會社ヲ作ッテ、
斯ウ云フコトヲヤラセヨウト云フコトハ考
ヘテオ居デニナラヌノデアリマセウカ如何
デアリマスカ、又獨逸ノ如キハ昨年十億馬
克ノ補償制度ヲ樹テテ居ルノデアリマス、
色々ノ爲替關係ヤ何カデ、直チニ日本ノ圓
ニ換算スル必要ハアリマスマイガ、十億馬
克ト云フ莫大ナル補償ノ制度ヲ以テ、世界
ノ各國ニ輸出貿易ヲ振興セシメント致シテ
居ルノデアリマス
其次ニ御伺致シタイノハ、日支ノ經濟提
携ニ關シテデアリマスガ、林總理大臣ハ日
支ノ親善ハ經濟提携カラ入リタイト云フコ
トヲ述ベテオ居デニナリマスガ、政府ハ一
體ドウ云フ經濟上ノ方策ニ依リマシテ、親善關
係ヲ結バントシテオ居デニナルノデアリマセ
ウカ、今度此支那ヲ輸出補償ノ地域ニ御編入
ニナリ、全體ノ金ガ百十九万圓、殖サレタ金ガ
五十七万圓、ソレヲ世界各國ニバラ撒ク、
其仲間ニ支那ヲ入レタダケデ、是ガ日支ノ
經濟提携ノヤリ方デアルト云フニ至リマシ
テハ、餘リニ問題ガ小サ過ギルノデアリマ
ス、之ニ對シマシテ政府ハ如何ナル考ヲ御
持チニナッテ居ルノデアリマセウカ、英吉利
デモ、獨逸デモ、今言ヒマシタヤウニ、英
吉利ハ支那ダケニ對シテ一千万磅ノ輸出補
償ヲ爲シ、半官半民ノ特殊會社デ、モット大
キナ補償ヲセシメテ居ル、其結果デハアリ
マスマイガ、支那ニ對スル貿易ハ、英吉利
ガ第一位ヲ占メテ居リマス、最近マデ第四
位デアリマシタル獨逸ガ、第二位ヲ占メテ
居リマス、是ハ最近武器ヲ賣ッタリ、色々ノ
關係モアッタデアリマセウガ、此獨逸ノ大キ
ナ計畫デ輸出補償ヲシテ居ルト云フコトモ、
或ハ一ツノ原因デハナカラウカト思フノデ
アリマス、此支那ニ對シマスル所ノ經濟上
ノ提携ハ、外ノ國トノ關係ト違ヒマシテ、政
治外交ノ推移ニ俟ッモノガ非常ニ多イト思
フノデアリマスガ、政府ハドウ云フ風ニ考
ヘテオ居デニナルノデアリマセウカ、私ハ
斯ウ云フコトヲ聞イテ居リマスガ、政府ハ
之ヲ御認メニナルカ如何デアルカ、卽チ昨
日ノ新聞ニ依リマスト、北平ノ市長ノ秦德
純ト云フ人ガ三中全會議ニ出席致シマシテ、
其模樣ヲ新聞記事ニ話ヲ致シテ居リマス、
此新聞記事ニ依リマスト、日支ノ經濟提携
ハ先ヅ冀東問題、察北問題ノ解決ニ日本ガ
應ズルコトガ先決問題デアルト云フ意味ノ
談話ヲ發表致シテ居ルノデアリマス、此北
支那ニ對シマシテモ、聞ク所ニ依リマスト、
最近產業五箇年計畫トカ云フモノガ樹テラ
レマシテ、凡ソ三億圓位ノ日支合辨ノ經濟
開發ニ要スル資金ヲ必要トスルト云フコト
ヲ聞イテ居リマスガ、一體斯ウ云フ計畫ガ
アルノデアリマスカ、若シアルト致シマス
ルナラバ、其資金ハドウシテ御作リニナル
御考デアリマスカ、興中公司トカ云フモノ
ガ、ナンカヤッテ居ルヤウデアリマスガ、迚
モ此力デハ此莫大ナル資本ヲ集メルコトハ
困難デアラウト思フノデアリマス、ソコデ
政府ニ一ツ御尋ヲ致シマスガ、此輸出補償
法ノ斯ウ云フ小サナ改正ナドト云フコトト
別ニ、支那ダケニ對シマシテ、特殊ノ補償
法ヲ一ツ御考ヘニナル御考ハナイノデアリ
マセウカ、卽チ一定ノ年度ヲ限リマシテ、
支那ニ對シマシテ五億圓位ノ金額ノ範圍ニ
於キマシテ、五箇年間位ノ年限ヲ定メマシ
テ、之ニ輸出補償ヲ爲サルト云フヤウナ、
大キナ國策ヲ御樹テニナル御考ハナイノデ
アリマセウカ、如何デアリマス、日支ノ親
善ハ經濟提携ヨリ始マルト云フ林總理大臣
ノ御考カラスレバ、此位ノコトハ御考ニナ
リマセヌト、到底經濟提携ト云フコトノ實
現ヲ見ルコトハ困難ナリト思フノデアリマ
スガ、政府ハ如何樣ニ御考ニナルノデアリ
マセウカ、ソコデ五箇年間ノ年度ヲ限ッテ五
億圓位ノ金額ヲ補償スルコトニ致シマシタ
ナラバ、今北支那ノミデハアリマセヌガ、
色々ノ經濟開發ヲ行ハントスル時ニ當リマ
シテ、必要ナル資金ハ之ヲ金デ持ッテ行カズ
ニ、品物デ之ヲ輸出致シマシテ、其支拂ヲ
政府ガ補償致シマスレバ、內地ニ於テ其手
形ハ、政府ノ補償ガアリマスルカラ、當然融
通性ヲ持ツノデアリマス、其五年經チマシ
タ時ニ、幸ニ長期ニ應ズル經濟上ノ力ガア
リマスレバ、之ニ應ジテモ宜シイ、他國ノ
借款ガ出來マスルナラバ、日本ハ進ンデ斡
旋ノ態度ヲ執ルト云フコトモ、一ツノ方法
デアラウト思ヒマスガ、斯ウ云フコトニ對
シテ、政府ハ是等ノ御考ハ持ッテオ居デニナ
ラヌノデアリマセウカ、如何デアリマスカ、
大要申述ベマシタル三ツノ點ニ對シマシテ、
政府ノ明快ナル、責任アル御答辯ヲ要求致
シマス(拍手)
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=22
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023・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 輸出補償制度ノ
今日ノ效果ハドウデアルカト云フ御尋デア
リマス、現在行ハレテ居リマスル制度ハ、
比較的信用狀態ノ明確デナイ、所謂新市場
ノ開拓ヲ目的トシタノデアリマシテ、施行
以來相當ノ效果ヲ收メテ居リマス、今囘提
案シマシタノハ、其新市場ノ方ハ措キマシ
テ、舊市場ニ於テモ、今日益〓激化シツヽ
アリマス通商上ノ迫害ニ備ヘマス爲ニ、
舊市場ノ維持竝ニ確立ヲ圖ル目的ヲ以
チマシテ、差當リ英、米獨佛伊太
利是等ノ如ク本邦爲替銀行及ビ各商社ノ
支店ガ存在シテ居リマシテ、取引系統ノ確
立シテ居ル市場ハ姑ク見合セマシテ、第一
ニハ東洋市場、卽チ支那、滿洲、關東州、
「マレー」半島、英領印度、「ビルマ」等、次ニ
南洋市場ハ比律賓群島、蘭領印度、濠洲等、
次ハ歐洲市場デ「アイルランド」、瑞西、「グ
リーンランド」、次ハ北米市場デ加奈陀、是
等ノ舊市場デ本邦ノ爲替銀行又ハ各商社ノ
支店ガ存在シテ居ナイ、或ハシテ居ッテモ十
分デナイト認メマスル、舊市場ニ對スル補
償制度ヲ行ハントスルノデアリマス
輸出補償制度ヲ擴大スル位デ、貿易ノ改
善ヲ行フト云フコトハ、ムヅカシイヂヤナ
イカト云フ御尋デアリマス、御尤ナコトデ
アリマシテ、是ハ唯貿易改善ノ一部ノ政策ニ
過ギナイノデアリマス、是ト伴ヒマシテ、
最モ日本ニ影響ノ大ナル、卽チ原料政策ニ
關係致シマスル輸入品、其輸入品ニ對シマ
シテモ、補償制度ヲ新ニ設ケントスルノデ
アリマス、其外海外市場ノ調査、又我國ノ
產業ノ貿易化、輸出化、卽チ今日最モ迫害
ヲ受ケテ居リマス繊維工業デアリマスガ、
其外ニモット輸出化シ得ル產業ノ奬勵等ヲ
行ヒマストカ、其他貿易調査トカ、色々ノ
新シイ施設ヲ行ヒマス爲ニ、別ニ提出致シ
マスル法案等ガアルノデアリマシテ、又相
當ノ豫算ヲ要求致シテ居ルノデアリマス、
補償制度擴充ノ爲ニ、是バカリノ金デハ仕
方ガナイデハナイカ、モット大キナ豫算ヲ
要求シテハドウカト云フ御意見デゴザイマ
スガ、勿論是ハ多イ程宜イノデアリマスル
ガ、先ヅ此位ノ程度ニ十二年度ハ止メテ置
キマシテ、時勢ノ推移ニ依ッテ之ヲ增額致
シタイト思ヒマス
最後ニ支那ニ對シテ特殊ノ補償制度ヲ設
ケルコトニ對シテ考ヘテ居ナイカト云フ御
意見デゴザイマスガ、今度提出シマシタノ
ハ、主ニ支那ヲ考ヘテ居ルノデアリマシテ、
卽チ輸出補償法ノ適用地域ヲ、舊市場タル
支那ヲ重要視シテ考へテ居リマスルコトト、
ソレカラ新ニ外國ノ政府、公共團體等ニ對ス
ル重工業品ノ輸出ニ付テ、補償ヲ爲スノ途
ヲ開クコトト致シマシタガ、是ハ支那ヲ主
ナル目的地トシデ居ルノデアリマス、併ナ
ガラ將來其結果ニ鑑ミマシテ、必要ニ應ジ
テ特ニ對支輸出補償制度ヲ設ケルコトニナ
ルカモ知レマセヌガ、今度提出シマシタ豫
算ハ、此舊市場ト云フ中ニ、特ニ支那ヲ重
視シテ入レタノデアリマス
〔政府委員堀內謙介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=23
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024・堀内謙介
○政府委員(堀內謙介君) 只今通商上ノ事
ニ付テ色々ノ問題ヲ御尋デゴザイマシタカ
ラ、ソレ等ノ中ノ主ナ點ニ付テ御答申上ゲ
マス
第一ニ印度、「ビルマ」、蘭領印度、濠洲等
ニ對スル通商交涉ハ、ドウ云フ經過ニナッテ
居ルカト云フ御尋デゴザイマシタ、其中濠
洲トノ間ニハ、昨年ノ十二月旣ニ協定ガ出
來マシテ、旣ニ實施サレテ居ルノデアリマ
ス、尙ホソレニ引續イテ濠洲トノ間ノ通商
條約ノ締結ニ付キマシテ、目下交涉ヲ開始
スル段取トナッテ居スリマス、又「ビルマ」
トノ間ノ通商交涉ハ最近ニ纒リマシテ、旣
ニ假調印ヲ見タノデアリマス、更ニ引續キ
マシテ印度トノ間ニモ目下交涉中デアリマ
ス、今日マデ相當兩方ノ意見ガ接近致シマ
シタケレドモ、尙ホ今後話合ヲ要スル點ガ
殘ッテ居ルノデ、目下其交涉ヲ繼續致
シテ居ル次第デアリマス、又蘭領印度ト
ノ交涉ニ付キマシテハ、昨年ノ春、民間
ノ海運ニ關スル交涉ガ行ハレマシタ際ニハ
「バタビヤ」ノ總領事ガ蘭印ノ官憲トノ間ニ
折衝致シマシテ、側面ヨリ此交渉ノ成立ヲ
援ケマシテ、旣ニ協定ガ成立ッテ實施ヲ見テ
居ル次第デアリマスガ、此海運ニ關スル交
涉ノ纒リマシタコトニ依ッテ、一般ノ通商ニ
關スル交渉ニモ、相當都合ノ好イ空氣ガ出來
マシタノデ、爾來「バタビヤ」ノ總領事ガ其交
涉ノ局ニ當リマシテ、今日マデ相當具體的
ナ話ヲ進メテ參ッタノデアリマス、本年ノ
一月ニナリマシテ、蘭領印度側ヨリ具體的
ノ提議ガゴザイマシタノデ、ソレニ基イテ
目下對案ヲ考究中デゴザイマス
尙ホ此通商交涉ニ關聯シテ、今日何レノ
國モ大體ニ於テ求償主義ヲ執ッテ居ルヤウ
デアル、隨テ唯廉價良質ノ商品ヲ製造シテ
輸出スルト云フコトノミデハ、貿易關係ヲ
良好ニ導クコトハ困難デアラウ、其點ニ付
テ政府ハ如何ナル對策ヲ持ッテ居ルカト云
フ御尋ガゴザイマシタガ、此點ニ付キマシ
テハ、政府ハ海外ニ於ケル原料品其他ノ供
給地、所謂給源ニ付テノ諸般ノ調査ヲ致シ
マシテ、所謂給源ノ分散主義ニ依リマシテ、
日本ト主ナル貿易國トノ間ノ輸出入ノ調整
ヲ、出來得ル限リ有利ニ展開セシメルヤウ
ニ努力致シテ居ルノデアリマス、殊ニ我ガ
產業上最モ重要ナル原料デアリマスル棉花、
羊毛ノ如キ、重要品ニ付テノ供給地ハ、今
日日本側ニ於テ種々努力致シマシタ結果、
或ル程度マデ此分散主義ノ目的ニ副フヤウ
ニナリマシテ、例ヘバ棉花ノ如キモ、昨年
以來「ブラジル」ノ棉花ハ相當多量ニ日本ニ
輸入サレテ居ルノデアリマシテ、又羊毛ノ
如キモ、日濠間ノ關係ガ御承知ノ如キ事態
ニナリマシタ際ニハ、或ハ南阿或ハ南米ノ
「アルゼンチン」等ニ、其供給ヲ求メルト云
フヤウナ工合ニ、漸次此給源分散主義ノ趣
旨ニ副フヤウナ、輸出入ノ調整ヲ講ジテ來
タ次第デゴザイマス
其次ニハ對支經濟政策ニ付テハ、如何ナ
ル具體策ヲ政府ハ持ッテ居ルカト云フ御尋
デゴザイマシタガ、之ニ付キマシテハ、一
方ニ於テハ先以テ政治的ニ兩國ノ關係ヲ好
轉セシムルト云フコトガ必要デアリマスル
ノデ、其爲ニハオ互ニ兩國ノ立場ヲ能ク理
解スル、又日本ノ主義或ハ政策ト云フモノ
ヲ、十分支那側ニ徹底セシメルト云フコト
ニ付テ、種々努力ヲ致シマスルト共ニ、一
方民間ニ於ケル兩國ノ接觸ヲ繁ク致シマシ
テ、例ヘバ最近ニ中日貿易協會ノ總會ガ上
海デ開カレマスルニ際シテ、我國ヨリ有力
ナル實業家ガ多數出席サレルヤウナコトニ
相成ッテ居リマスルガ、斯ノ如キ兩國ノ實業
家ノ接觸ヲ一層繁ク致シマシテ、日支兩國
ノ理解竝ニ相互相援ケルト云フ所ノ機運ヲ
釀成スルコトガ、其根本デアラウト考ヘテ
居ルノデアリマス、併ナガラ更ニ進ンデ經
濟的ニ如何ナル施設ヲスルカト云フコトニ
付テハ、是ハ對支投資其他ノ企業ヲ、出來
得ル限リ奬勵助成スルコトニ努力致シタイ
考デアリマス、殊ニ先程御尋デアリマシタ
北支方面ニ於テハ、鐵道、鑛山、或ハ電氣
事業、紡績、是等ノ事業ノ開發、或ハ經營
ト云フコトニ付キシマテ、政府ハ有ユル便
宜ヲ講ジ、又之ニ要スル所ノ資金ノ調達ニ
付キマシテモ、政府ト致シマシテ出來得ル
限リノ援助ヲ致シタイト思ッテ居ルノデア
リマス、現ニ援助ヲ致シツヽアル次第デ
ゴザイマス、以上ヲ以テ御答ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=24
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025・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 加藤君、外ニ答辯
ガアリマセヌカ
〔加藤鯛一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=25
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026・加藤鯛一
○加藤鯛一君 商工大臣ノ御答辯ハ色々承
リマシタガ、ドウモ國務大臣トシテノ見識
ガ現レテ居ラヌヤウニ思ヒマス、其位ノ答
辯デシタラ凡ソ分ッテ居ッタ、今商工大臣ハ
綿織物ノヤウナ特殊ナ物ニ付テモ、出來得
ル限リノ輸出奬勵ノ制度ヲ考ヘテ居ルト云
フ御話デアリマシタガ、一體何ヲ考ヘテ居
ルノデアリマスカ、綿織物ノ輸出ハ最近非
常ニ惡イノデアリマス、昭和八年度ニ比べ
マスト昭和九年度ハ生地、晒加工ヲ合セ
マシテ、二割三分三厘ノ輸出增加デアリマ
シテ、相當ノ增加率ハ示シテ居リマスガ、
昭和十年度ニナリマスト、九年度ニ比シテ
僅ニ五分七厘シカ殖エテ居ラナイ、所ガ昭
和十一年度ニナリマスト、五分何厘十年度
カラ見テ減額シテ居ル、此一事ニ付テ考ヘ
テ見マシテモ、一體ドウ云フコトヲ考ヘテ
居ラレルノカ、惡クナルヤウニ考へラレチ
ヤ困ル、又斯ウ云フ工合ニ日本ノ低物價政
策ト云フモノガ行詰ッテ、段々ト國內ノ物價
ガ上ッテ參リマスル關係上、爲替ノ値段モ大
體今日ノ所位デ維持シヨウトナサレマスル
ナラバ、當然是ハ國際物價ニ影響シテ行カ
ザルヲ得ナイ、サウナリマスルナラバ、ド
ウシテモ低物價ニ依ッテ輸出ニ便宜ヲ與ヘ
ルト云フコトハナクナル、之ニ對スル大キ
ナ對策ヲ御考ニナラナケレバナラヌダラウ
ト思フト、斯ウ云フコトヲ聽イテ居ル、現
在ノ輸出補償法ノ此位ノ改正デ、ソレハ難
カシクナイカト云フコトヲ申上ゲテ居ルノ
デアリマス、又支那ニ對シマシテモ、特殊
ノ輸出補償ヲ作ルカモ知レナイガ、分ラヌ
ト云フヤウナ御話デゴザイマスガ、サウ云
フ抽象的ノ答辯デハ、甚ダ滿足スルコトガ
出來ナイノデアリマス、國策トシテ、國務
大臣トシテノ見識アル御答辯ヲ御伺致シタ
イノデアリマス、又外務省ノ政府委員ノ御
答辯モ色々ト御述ベニナリマシタガ、非常
ニ抽象的ノコトガ多イ、出來得ル限リヤ
ルトカ、世話ヲスルトカ、サウ云フ抽象的ノ
コトデハ分ラナイ、私ガ此處デ支那ニ對シ
マシテ特ニ御考ヲ願ヒタイト申上ゲタコト
ハ、支那ノ經濟提携ヲヤルト云ヒマシテモ、
是ハ經濟上ノコトハ、卽チ政治上ノコトト
密接ニ關聯シテ居ルコトガ多イノデアリマ
スルカラ、經濟提携バカリヤルト言ッテモ
是ハ出來ナイ、ソコデ昨日ノ朝日新聞ニモ
出テ居リマスヤウニ、北京ノ市長ノ秦德純
ガ語ッテ居リマス、冀東問題及ビ察北問題ノ
解決ガ、日支國交調整ノ先決問題デアルト
云フコトヲ言ッテ居リマスガ、之ニ對シテ外
務省ノ政府委員ハドウ云フ風ニ考ヘテオ居
デニナリマスカ、又北支那ニ對シテ、產業
五箇年計畫トシテ三億圓使フト云フコトハ
本當デスカ、噓デスカ、今色々項目ヲ擧ゲ
マシタ其內容ハ、私ノ得タル情報ニ依リマ
マレバ、此數字ハ分ッテ居リマスルガ、ソレ
ハ色々ナ差障リガアリマスルカラ、態ト申
上ゲナイ、サウ云フ資金ヲ作リ得ル確信ガ
アリマスカ、又ドウ云フ方法デ之ヲ爲サン
トシテオ居デニナルノデアリマスカ、サウ
云フ問題ノミヲ言フノデハアリマセヌガ、
玆ニ新ニ一ツノ支那ニ對スル國策トシテ、
特別ニ輸出補償法ヲ作ッテ五箇年位ニ年度
ヲ限ッテ、五億圓位ノ金額ヲ限ッタル補償制
度ヲ設ケル御考ハナイカ、斯ウ云フコトニ對
シマシテ、政府ノ御考ヲ御伺申上ゲタイト
云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、併セテ
御答辯ガ出來ルナラバ御願致シタイト思ヒ
マス
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=26
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027・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 輸出品種ニ付テ
私ガ御答申シマシタノハ、今日最モ國際的ニ
迫害ヲ受ケテ居リマスルノハ纖維工業デアリマ
ス、ソコデ纖維工業以外ノ、例ヘバ機械工業
品デアルトカ、又現今日本ノ工業ノ中デ最モ
躍進シツヽアリマスル化學工業品デアリマ
ス、其他日本人ノ最モ得意ト致シテ居リマ
ス、主トシテ中小工業ニ屬シマス雜貨類、
是等ノ物ヲ今一層輸出化スルヤウニ誘導シ
テ行キタイ、斯樣ナ考ヲ以テ色々ノ施設ヲ
十二年度ニ於テ行フコトニナッテ居ルノデ
アリマス、ソレハ豫算面ニ載セテアル所ニ
依ッテ御諒解ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
ソレカラ對支問題ニ付キマシテハ、是ハ
中々重要デアリ、又微妙ナ關係ガアリマス
ノデ、私カラ申上ゲルコトハ致シ得ナイノ
デアリマス、併ナガラ此輸出補償制度ニ關
スル限リハ、今日ノ所デハ先ヅ今囘ノ擴張
ニ依ッテ其運用ヲ有利ニ致シタイト思フノ
ノデアリマス、將來ノ對支關係ノ推移ニ鑑
ミマシテ、或ハ仰セニナルヤウナ施設ヲシ
ナケレバナラナイ時ガ來ルカモ知レヌト思
フノデアリマス、非常ニ複雜ナ關係ニアリ
マス日支今日ノ關係ニ鑑ミマシテ、是レ以
上私トシテハ申上ゲルコトハ控ヘタイト思
フノデアリマス
〔政府委員堀内謙介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=27
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028・堀内謙介
○政府委員(堀内謙介君) 先程對支經濟關
係ニ付キマシテ御答申上ゲマシタコトニ關
聯シテ、再ビ御尋ガゴザイマシタ、其御趣
旨ハ支那ニ對シテ經濟工作ヲスルニハ、政
治的ノ工作モ必要デアラウ、其爲ニハ例へ
バ冀東、冀察ノ政權ニ關スル問題ハ、政府
ハ先以テ之ヲ解決スルコトガ必要デアルノ
デハナイカト、斯ウ云フ御尋ガゴザイマシ
タノデアリマス、此冀東政權竝ニ冀察政權
ガ生レマシタノハ、北支ニ於ケル現實ノ情
勢ニ應ジテ、自然ニ發生シタ現象デアリマ
ス、卽チ北支ノ地タルヤ、日滿支三國ノ利
害ノ相接觸シテ居ル處デアリマスルノデ、
我國ト致シマシテモ、同地方ニ、日滿兩國
ニ對シテ友好親善ナル關係ヲ持續シ得ルガ
如キ政權ノ常ニ存在スルコトハ極メテ必要
デアリマス、斯ノ如キ政權ノ存在ヲ以テシ
テ、初メテ北支ニ於テ日支兩國ノ經濟合作
ガ可能トナルノデアリマス、幸ヒ今日ニ至
リマス迄、此冀東政府竝ニ冀察政權ガ、大
體ニ於テ日本ノ期待シテ居リマスル如キ態
度ヲ執ッテ居ルヤウデアリマスルカラ、日本
ト致シマシテハ之ニ對シテ同情的ノ態度ヲ
執ッテ參ッテ居ルノデアリマス、デ此兩方ノ
政權ガ今後如何樣ニ相成ルカト云フコトハ、
無論支那ノ國內情勢ノ如何ニモ依ルコトデ
アリマスルガ、又日支兩國ノ一般ノ貿易關
係ガ、如何樣ニ相成ルカト云フコトニ依ッ
テ決定サルベキ問題デアリマスルノデ、今
日只今之ニ對シテ私ヨリ豫斷ヲスルコトハ
差控ヘタイト思フノデアリマス
次ニ五箇年計畫ト云フモノガアルカドウ
カト云フ御尋デゴザイマシタガ、先刻モ申上
ゲマシタル如ク、北支ニ於テハ日支兩國ノ
經濟合作ヲ實現スル爲ニ、種々ノ計畫ヲ致
シテ居ルノデアリマス、デ之ニハ勿論相當
ノ年限ヲ要スルノデアリマスルト共ニ、又
相當多額ノ資金ヲ要スルノデアリマスルケ
レドモ、今一々ソレ等ノ具體的ノ問題ヲ申
上ゲマスルコトハ、是ハ支那側トノ共力合
作ト云フコトヲ期待致シテ居リマスル關係
上、極メテ機微ニ亙リマスル點モアリマス
カラ、是亦今玆ニ微細ニ亙ッテ申上ゲルコト
ハ差控ヘタイト思フノデアリマス、又是等
ノ北支ニ於ケル經濟工作ニ要スル資金ハ、
之ヲ調達スル所ノ確信ガアリヤ否ヤト云フ
御尋モゴザイマシタガ、此點ニ付テハ現ニ
急ナルモノヨリ之ヲ實行致シタイト云フ考
デアリマシテ、ソレニ要シマスル所ノ資金
ノ調達ニ付テ、目下政府トシテ種々便宜ヲ
與ヘテ居ルノデアリマス、今後我國ノ財政
狀態竝ニ一般ノ經濟界ノ情勢ニ依リマシテ
ハ、此調達ト云フコトハ必シモ困難デナイ
ト私共ハ考ヘテ居ルノデアリマス、以上ヲ
以テ御答ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=28
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029・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 加藤君宜シイデス
カ-然ラバ深澤豐太郞君
〔深澤豐太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=29
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030・深澤豐太郎
○深澤豐太郞君 私ハ本案ニ關聯シテ四五
ノ質問ヲ致シタイト思フノデアリマス
第一ニ、先程來商工大臣ニ依ッテ御說明ア
リマシタ通リ、國際通商情勢ノ變化ニ依ッテ、
本案ヲ改正スルト云フ御話ガアッタノデア
リマス、國際通商情勢ノ變化ト、此變化ニ
對應スベキ我ガ國策トシテハ、如何ナルモ
ノヲ選バナケレバナラナイカト云フコト
ハ、先程加藤君ヨリ御演說ガアッタノデアリ
マス、私ハ此國際通商情勢ノ變化ニ對シテ、
又其變化ノ實質ヲ檢討シテ、我ガ日本トシ
テ執ルベキ途ハ、一輸出補償法ノ改正ナド
ヲ以テシテハ、到底及バナイト思フノデア
リマス、國際通商情勢ノ變化ハ、國內事情
ニ於テハ、各國トモ經濟統制ノ傾向ニ流レ
テ來テ居リマス、又通商方面デハ輸出貿易
ノ統制トナリ、或ハ爲替ノ統制管理トナッ
テ、非常ニ窮屈ナル事情ニ置カレテ來タ、
此各國共ニ非常ナル窮屈ナ狀態ニ置カレテ、
各〓城壁ヲ高ウ致シテ居リマスル際ニ、我ガ
外務省ノ官制ノ狀態ヲ見マシテモ、到底此
情勢ニ對應スルコトハ出來ナイノデアリマ
ス、卽チ英國ノ「オッタワ」會議以後ノ政策ト云
ヒ、或ハ獨逸ノ統制經濟及ビ貿易ニ關スル
統制等ヨリ考へ、又英米佛以外ノ國々ハ、多
ク此傾向ヲ帶ビテ今日進ミツヽアルノニ對
應シテ、我ガ政府トシテハ先ヅ第一ニ何ヲ
爲スベキカト言ヘバ、現在ノ外務省ナリ、
商工省ナリノ貿易ニ關スル機關ニ一大改革
ヲ企テテ之ヲ充實シ擴張シテ、一ノ系
統アル官廳ヲ作ラナケレバ、到底之ニ對應
致スコトハ出來ナイノデアリマス、現ニ我
ガ遺外使臣ノ中デ商務官ノ制度ガアリマス
ルガ、商務官制度ノ如キハ、今日マデ吾々
ハ是ハ無用ノモノデアル、少クトモ三井、
三菱ノ支店長ノ情報ノ方ガ、遙ニ商務官ヨ
リモ敏速デアリ、正確デアルト考ヘテ居ッタ
ノデアリマス、然ルニ今ヤ此傾向ハ一變シ
テ、總テノコトハ商務官ヲ通ジテ、其國ノ
政府ニ交涉スルニアラザレバ、輸出輸入共
ニ殆ド手ノ著ケラレナイ狀態ニナッテ參ッタ
ノデアリマス、此商務官制度ノ擴張ト、其
機關ノ活用ハ今日ノ急務デアリマス、現ニ
私ハ獨逸ノ統制經濟ニ對シテ、一ツノ品物
ヲ賣ルノニモ買フノニモ、商務官ノ手ヲ通
ジテ獨逸政府ノ許可ヲ得ナケレバナラナ
イ、此制度ガ獨逸ニ確立シタニ拘ラズ、我
ガ外務省ノ獨逸駐在ノ商務官制度ノ如キ
ハ、十年一日ノ如クデアリマス、長井商務
官ノ役所ヘ行ッテ見レバ、一人デ殆ド見ルモ
氣ノ毒ナ有樣ノ活動ヲシテ、百八十何部門
ノ部門ヲ設ケテ、各、ノ專門的〓究ヲシテ、
寸時モ政府トノ交渉ヲ怠ルコトノ出來ナイ
窮狀ニ陷ッテ居ル、英國ノ松山商務官ノ活動
モ、亦到底前日ノ比デハナイノデアリマ
ス、是等ノ商務官制度ニ對シテ、其費用モ
十年一日ノ如ク、其人員モ十年一日ノ如
ク斯ノ如クシテ如何ニシテ商務官ガ活躍
ヲ致スコトガ出來ルデアリマセウカ(拍手)
商務官ノ活躍ヲ俟ツニアラザレバ、此障壁
ヲ高ウ致シテ居ル輸出入貿易ノ圓滑ヲ期ス
ルコトノ出來ナイ國際情勢ノ今日、全ク政
府ハ手ヲ拱イデ居ル、若シ私ハ此處ニ佐藤
外務大臣ガ居ラレルナラバ、佐藤外務大臣
ニ言ヒタイノデアリマス、佐藤サント同窻
デアラレル松山商務官ハ、倫敦デ何ト唱ヘ
テ居ルカ、今日ハ外務省トカ、商工省トカ
言ッテ居ル時代ヂヤナイ、日本ニハ貿易省ヲ
作ラナケレバナラナイ時代ダ、是ハ其通リ
デアリマス、貿易省ヲ作ッテ、貿易省ノ下ニ
外國航路ノ汽船、或ハ外國トノ保險契約ノ
問題、或ハ其他輸出組合、輸入組合、輸出
專門ノ工業組合等、外國ニ關スルモノヲ其
下ニ統一セシメテ、命令系統ヲ統一セシメ
テ、組織アル官廳ヲ樹立シテ、此貿易戰ニ臨
マナケレバ、日本ハ必ズヤ貿易戰線ニ於テ
一敗地ニ塗レルデアラウ、是ハ先覺者ノ言
デハナイカト思フ、商工省ト農林省ト合併
シテ、ドッチヲ無クスルノカ知リマセヌガ、
吾々其歷史ニ於テ、十數年漸ク全國民ノ希
望ガ叶ウテ、農民ノ希望ガ叶ッテ農林省ガ
獨立シタ、ソレヲ今度又行政改革トカ庶政
一新トカデ、商工、農林ヲ一緒ニシテ產業
省ヲ作ルナドト云フ議モアル、ソレガ實現
シテモ私共ハ已ムヲ得ナイガ、サウ云フ消
極的ナ整理方針バカリデナシニ、積極的ニ
一ツ國富ヲ增進スル爲ニ貿易省ヲ新設シ
テ、大イニ海外發展ヲ企テル、外務省ト商
工省ガ衝突ヲシテ、通商局ノ獨立スラモ危
ブマレルト云フヤウナ、今日ノ感情ヲ一掃
シテ、機關ノ充實セル貿易省ヲ作ル位ノ考
ガナケレバ、今日ノ貿易戰線ニ臨ミ得ナイ
ノデアリマス、生ヤサシイ輸出補償法等ヲ
以テシテ、到底戰ヒ得ルモノデハアリマセ
ヌ、此點ニ付テハ敢テ答辯ヲ要シマセヌ
ガ、政府當局ノ考慮ヲ促シテ置キマス
第二ニ伺ヒタイコトハ、勞働條件ト大衆
生活トノ關係デアリマス、私ハ日本ノ貿易
ニ關スル、輸出入ニ關スル政府ノ措置ガ、
强チニ資本家ヲ利スル爲バカリデアルトハ
申上ゲマセヌ、今後政府ガ斯ノ如キ國策ヲ
立ツルニ當ッテハ、大衆ヲ目標トシテ政策ヲ
立テテ戴キタイ、英國ノ「オッタワ」會議以
後ノ情勢ガ、全ク英國內ニ於ケル資本主義
ノ擁護ニ立脚シテ居ルガ如クニ見受ケラレ
マスケレドモ、英國內ニ於テハ斯ク解釋セ
ラレテ居ナイ、是ハ英國內ニ於ケル勞働者
ノ勞働條件ノ維持改善ト、大衆ノ生活ヲ保
障スル爲ニ、斯クナケレバナラナイトシ
テ、支持ヲ受ケテ居ルノデアリマス、事實
「オッタワ」會議以後ノ英國政府ノ政策ハ、ソ
レニ向ヒツヽアル、資本家ヲ利スルノデハ
ナイ、資本主義ニ依ッテ斯ノ如キ「ブロック」
政策ヲ採ッテ居ルノデハナイ、國民大衆ノ爲
ニ是デナケレバナラナイトシテ採ッテ居ル、
獨逸ガ輸出貿易ニ對シテ一割ノ補助ヲ與ヘ
テ居ル、一割ノ補助ヲ與ヘテ獨逸ノ資本家
ヲ利シテ居ルノデハアリマセヌ、一割ノ補
助ヲ與ヘテ獨逸ノ勞働條件ノ維持改善ヲ企
テテ又其爲ニ之ヲ爲シ、其方針ガ實現シツ
ツアルノデアリマス、我日本ニ於テ斯ノ如キ政
策ヲ採ルニ當リマシテモ、常ニ國民大衆ノ
生活ノ維持改善、之ヲ目標トシテ今後ノ政
策ヲ樹テテ戴キタイ、是ダケノ大局的ナ質
問ヲ致シマス
是ハ加藤君ノ質問ニナリマシタルヤウ
ニ、此改正ニ依ッテ新市場ノミガ補償セラ
レタモノガ、舊市場モ補償セラルヽコトニ
ナッタ、商工大臣ハ英、米、獨、佛、伊ヲ除
ク其他ノ國々ニハ、此法案ガ適用サレルト
云フ御說明デアリマス、ソコデ最モ問題ト
ナルノハ對支貿易、支那ヲ此補償法ノ中ニ
含メルト云フコトノ爲ニ、ドレダケノ影響
ガアルカ、又此補償法ノ中ニ含メルダケデ、
對支貿易ノ伸張ヲ期スルコトガ出來ルカ、
ドウカト云フコトデアリマス、私ハ此中ニ
支那ヲ入レタカラト云ウテ、是デ對支貿易
ガ改善セラルヽモノトハ、到底考へ及ブコ
トガ出來ナイノデアリマス、卽チ斯ノ如キ
補償ヲ致スヨリモ、先決問題トシテ、又大
所高所ヨリ見テ、何トカ致サナケレバナラ
ヌコトハ、大キナ三大原則ノ解決トカ何ト
カ云フコトハ兎ニ角トシテ、支那ノ排日的
關稅ヲ改革セシムルニアラザレバ、眞ノ日
支經濟修好ハ出來ナイ、日支貿易ノ振興ハ
出來ナイノデアリマス、外務當局ハ此切實
ノ問題タル支那ノ排日關稅改革ニ對シテ、
如何ナル處置ヲ執ラントスルノデアルカ、
是ガ解決ヲ致サナケレバ、到底日支貿易ノ
振興ハ出來マセヌ、英國ハ一億七千餘万圓
ノ補償ヲ以テ對支貿易ヲ振興セシメテ居
ル、獨逸ハ一割ノ輸出補助ヲ致シテ居ル、
是ハ表面ニ現レタ所ダケナノデアリマス、
支那ニ於ケル英國及ビ獨逸ノ活躍ハ、此一
割ノ補助ヤ一千万磅ノ補償ダケデハナイ、
眞實英獨ガ支那ニ今日ノ地步ヲ確立致シテ
居ルノハ、金融機關ノ整備デアリマス、支
那各地ニ於ケル英國及ビ之ニ次イデ獨逸ノ
活躍ハ、「クレヂット」ノ活動トデモ申シテ
宜シイ、輸出手形ノ割引ナドノ問題デハナ
イノデアル、英國商人ハ「クレヂット」-掛
賣ヲ以テ支那ニ輸出ヲ致シテ居ル、在支ノ
銀行ハ其掛賣ヲ承認シテ金融ノ途ヲ與ヘテ
居ル、是ガ一番大キナ問題ナノデアル、私
ハ日本ノ支那ニ於ケル、上海ニ於ケル、或
ハ天津ニ於ケル金融ヲ申スノデアリマセヌ、
モット支那各地ニ日本ヲ相手トスル金融機
關ガ整備致サナケレバ、到底英國ヲ敵トシ
テ鬪フコトハ出來ナイ、此金融機關ニ對シ
テ、日本ト密接ナル提携ヲ持ツ金融機關ヲ、
北支及ビ揚子江以北ノ地ニ之ヲ設クルノ考
ガナイカ、是ガナケレバ到底此競爭ニ勝チ
得ルコトハ出來マセヌ、其他米國ト支那ト
ノ問題デアリマスルガ、私ハ本法ニ支那ヲ
含メマスル以上ハ、何故米國ヲ之ニ含メナ
イカ、日本ノ最モ重大ナル市場デアル支那
ヲ含メテ、而シテ又最モ重大ナル取引國デ
アル米國ヲ之ニ含メナイ理由ト、是ハ英、
米、佛、獨、伊ハ金融機關ガ整備シテ居ル
ト申シマスケレドモ、金融機關ノ整備ニ
依ッテ本法ノ御厄介ニナルノデハアリマセヌ、
是ハ三井デアルトカ、三菱デアルトカ、大
機關ニ依ッテ取引致サレテ居ルモノハ、本
法ノ御厄介ニハナラナイ、一般中小以下ノ
輸出貿易ニ從事致シテ居ル者ガ本法ノ御厄
介ニナル、サウ致シマスルト、米國ノ今日
ノ情勢ハ、非常ナル貿易上ノ變化ヲ來シマ
シタ、生絲ヲ以テ大宗ト致シタ我ガ輸出貿
易ハ、勿論生絲ガ重位ニ居ルコトハ申スマ
デモアリマセヌケレドモ、茶デアルトカ、
蜜柑デアルトカ、鑵詰トカ、農產物、其他
綿織物、雜貨類ノ進出ハ非常ナ勢ヒデアリ
やっ、是等ノモノコソ本法ノ厄介ニナルベ
キデアル、私ハ商工省內ニ於テモ、本法
ニ亞米利加ヲ加フベシト云フ議論ノアル
コトヲ拜聽致シテ、洵ニ心强ク思ッテ居リ
マく、商工大臣ハドウゾ省内ノ意向ヲ斟酌
セラレテ、本法ニ亞米利加ヲ加フルノ決心
ヲシテ戴キタイ、先程來金額ガ少イト云フ
話ガアリマシタガ、本法ノ運用ニ依ッテハ
二千一百万圓モノ金ガ使ヘルノデスカラ、
遠慮ナク亞米利加ヲ入レテ、對米貿易ノ仲
張ヲ圖ッテ戴キタイノデアリマス
本法ニ直接關係アルコトデ御伺致シタイ
コトハ、補償限度ノ擴張デアリマス、甲種
ノ七割ヲ八割トシ、乙種ヲ六割カラ七割ト
シタ、斯樣ニ甲乙ヲ一割ヅツ擴大シタル根
據ハ何處ニアルカ、是ガ一點、其次ハ補償
料ノ問題デアリマス、今日マデノ本法ノ運
用ヲ見ルニ、假ニ十万圓ノ補償ヲシテ貰ヒ
マスレバ、十万圓ダケノ補償料ヲ取ラレタ、
是ハ實ニ不都合デアリマス、政府ハ七割シ
カ補償ヲシテ居ラナカッタ、七万圓ノ補償ガ
本法ニ據ッテ補償セラレテ居ッタ、補償ト云
フ以上ハ、其補償ヲシタル實額ノ七万圓ニ
對シテ補償料ヲ取ルベキモノナノデアル、
ソレヲ手形全額ニ對シテ補償料ヲ取ルコト
ハ、今日マデガ間違ッテ居ッタ、故ニ一ツ補
償料ヲ政府補償實額マデ下ゲル意思ハナイ
カ、又下ゲナケレバナラナイモノト考ヘマ
ス、政府ハ之ヲ引下ゲルノ意思ガアルガ如
クニ御伺致シマシタガ、明瞭ニ一ツ此補償
料ノ實額マデ引下ゲルト云フコトニ改正シ
テ戴キタイ、此點ニ付テノ辯明ヲ得タイノ
デアリマス
尙ホ補償契約ノ銀行ノ增加デアリマス、
此補償銀行ガ少イ爲ニ、當事者ハ非常ナル
迷惑ヲ致シテ居ルノデアリマスルガ、此補
償契約銀行ヲ增加スルノ意思ハナイカ、同
時ニ是等ノ手續ヲスルニハ非常ナル煩雜
ノ手續ヲ要スルノデアルガ、此手續ヲ簡易
化スル御考ハナイカ、是等ハ省令ノ改正ニ
依ッテ出來得ルコトデアリマスルカラシテ、
是非是等ノ省令ノ改正ニ付テ御意見ヲ承リ
タイノデアリマス
最後ニ御伺致シタイコトハ、輸出統制稅
トノ關係デアリマス、大藏大臣モ、商工大
臣モ、輸出統制稅ノ說明ニ於テ、輸出統制
稅ハ目的稅デアルト云フコトヲ言明致シマ
ク、其輸出統制稅ニ依ッテ得ル金ノ中五十
七万圓ガ本法ノ改正ニ充當セラレル、シテ
見マスルト、四百餘万圓上リマスル輸出統
制稅ガ、是ガ新設セラレルコトヲ前提トシ
テ本法ハ生レテ來ルヤウデアリマス、是ガ
私共ニハ實ニ不可解ナノデアル、本法ト輸
出統制稅トハ如何ナル因果關係ヲ持ッテ居
ルカ、輸出統制稅ノ制定ナクトモ、本法ハ當
然制定セラレナケレバナラナイ法律デアリ
マス、故ニ輸出統制稅ノ如何ニ拘ラズ、本
法ニ必要デアルダケノ金ハ、政府ハ之ヲ支
出致サナケレバナラナイ筈ナノデアル、故
ニ政府ト致シマシテハ、輸出統制稅ヲ目的
稅トシテ、其輸出統制稅ノ金ヲ本法ニ充當ス
ルト云フ此態度ヲ改メテ、輸出統制稅ノ如
何ニ拘ラズ、本法ニハ是ダケノ支出ヲスル
ト云フコトヲ、此場合言明致シテ戴キタイ、
ソレデナケレバ政府ノ輸出振興ニ對スル態
度ヲ一貫シタルモノガアルトハ見ラレナイ
ノデス(拍手)現ニ今囘大藏大臣ノ說明シテ
居ル修正豫算ニ於テモ、輸出振興ノ爲ノ十
九万幾ラノ費用ヲ之ヲ削減致シ、又之ヲ削
減スルコトヲ當局者ハ認メタデハアリマセ
ヌカ、口ニ於テ貿易國策第一主義ヲ唱ヘテ、
ロデコソ貿易振興ヲ唱ヘテ居ッテモ、豫算面
ニ於テ其重要ナル費目ヲ削除スルト云フヤ
ウナ態度デハ、本法ニ對シテモ亦此金ノ支
出ノ點ニ付テ疑問ヲ懷カザルヲ得マセヌカ
ラ、特ニ之ヲ言フノデアリマス、國有財產
ヲ拂下ゲテ、其拂下ゲタ金ノ使途ヲ指定シ
タル決議ト云フヤウナモノハ、其金ガ入ラ
ナケレバ其事業ハ行ハレマセヌ、是ハ今日
マデノ私共ノ〓念ナノデス、併シ目的稅ト
稱セラレタル輸出統制稅ハ、此輸出補償ノ
爲ノ目的稅ダトハ書イテナイ、唯一般輸出
振興ノ經費トシテ、理由書ニハ示サレテ居
ルニ過ギナイノデアリマスカラシテ、嚴格
ナル意味ノ目的稅ト申スコトハ出來ナイ、故
ニ輸出統制稅ノ運命ハ、私ハ之ヲ豫斷致スノ
デハアリマセヌケレドモ、未ダ法案ノ提出セ
ラレザルニ先ダッテ、一般國務大臣ニ對ス
ル質疑ヲ通ジテ、本案ノ輸出統制稅ニ對ス
ル輿論ハ如何ナル點ニアルカ、之ヲ窺知
ルコトガ出來ルノデアリマス(拍手)輸出統
制稅ノ運命ガ案ジラレテ居ル今日デアリマ
スルカラ、私ハ敢テ商工大臣ニ對シテ、輸
出統制稅ノ運命ノ如何ニ拘ラズ、此輸出振
興ノ意味ニ於テ、本法ニ關スル經費ハ之ヲ
支出スルモノデアルト云フコトヲ、明瞭ニ
此壇上ヨリ御答ヲ願ヒタイノデアリマス、
以上ガ私ノ本案ニ對スル質問デアリマス、
何卒懇切ナル御答辯アランコトヲ希望致シ
マス(拍手)
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=30
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031・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 此輸出補償法改
正ノミニ依ッテ、對支貿易ヲ改善スルト云フ
コトハ出來ナイデハナイカト云フ御意見デ
アリマシテ、私ト雖モ此改正ノミニ依ッテ對
支貿易ヲ改善シ得ルモノトハ思ヒマセヌガ、
併シ必ズ效果ハアルト思フノデアリマス、
北支ノ狀況、更ニ南支方面ノ狀況ヲ考ヘテ
見マシテモ、今日甚ダ不安定ナ狀況ニアリ
マスノデ、是ガ投資ニ對シマシテハ、可ナ
リ資本家モ考ヘルダラウト思ヒマスガ、併
シ之ヲ政府ノ手ニ依ッテヤリマスルカ、或ハ
他ノ特別ナ機關ヲ通ジテヤリマスルカト云
フコトニ付キマシテハ、其實情ニ應ジテ考
究シナケレバナラヌモノト私ハ考ヘテ居リ
マス
ソレカラ米國ヲ適用範圍外ニ置クノハ宜
シクナイデハナイカト云フ御意見デアリマ
ス、是ハ將來必要ニ應ジテ全世界ニ及ボシ
タイト考ヘテ居リマスガ、從來ノ新市場ニ
對シテ行ヒマシタノヲ、今囘ハ先ヅ爲替銀
行各商社ノ支店ノ所在地ヲ除キマシテ、
先程申シマシタヤウナ東洋、南洋、歐洲、
北米等ノ市場ニ試ミルコトニ致シタノデア
リマス、將來必要ニ應ジテ是ハ擴張スル考
デ居リマス
ソレカラ補償制度ノ引上ヲ、甲乙兩種トモ
一割ト爲シタル理由ハドウデアルカ、是
ハ本制度ノ實行ノ成績、又業者ノ希望等ヲ
參酌致シマシテ、尙第六十五囘帝國議會、
第六十七囘帝國議會ニ於テ、補償限度ヲ一
割方引上ゲル旨ノ衆議院ノ建議ガゴザイマ
シタ、ソレヲ考慮ニ置キマシテ、今囘之ヲ
一割方引上ゲルコトニ致シタノデアリマ
ス
ソレカラ次ニハ補償料ハ之ヲ引上ゲル餘
地ハナイカト云フ御尋デゴザイマスガ、是
ハ施行細則ヲ改正致シマシテ、甲種補償ニ
付テハ二割、乙種補償ニ付キマシテハ三割
方、之ヲ引上ゲル筈ニ致シテ居リマス
最後ノ輸出統制稅ガ成立タナカッタ場合
ニ、貿易改善ノ施設ヲドウスルカ、斯ウ云
フ御質問デゴザイマスルガ、貿易改善ニ關
スル施設ハ絕對ニ必要デアルト私ハ考ヘテ
居リマス、是非是ハ御協贊ヲ願ハナケレバ
ナラヌト思ッテ居ルノデアリマス、是ガ若シ
輸出稅ガ成立タヌ場合ニドウナルカト云フ
コトニ對シマシテハ、大藏大臣カラ御答辯
ヲ願フ積リデゴザイマス
〔政府委員堀內謙介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=31
-
032・堀内謙介
○政府委員(堀内謙介君) 只今御尋ノ中、
直接外務省ニ關係致シマスルモノニ付テ御
答申上ゲマス、第一ニハ、商務官制度ヲ如
何ニ見ルカ、之ヲ擴張スル所ノ考ハナイカ
ト云フ御尋ニ付キマシテハ、勿論外務省ト
致シマシテハ、商務官制度ノ重要性ヲ十分
認メテ居リマシテ、從來ト雖モ財政ノ許ス
限リ出來ルダケ之ヲ增員擴張シテ參ッタノ
デアリマス、尙ホ商務書記官、商務參事官、
又ハ商務領事ト名ヲ付ケマスル職員ハ、豫
算等ノ關係デ十分行渡ラナイ場合モアリマ
スルノデ、世界ノ各方面ニ於ケル新市場ノ
開拓ノ急務ニ應ジマスル爲ニ、別ノ名義ヲ
以チマシテ、例ヘバ普通ノ領事又ハ副領事
ノ如キ名稱ノ下ニ、實質ニ於テ專ラ商務ニ
從事スル職員ヲ增加致シマシテ、出來得ル
限リ貿易ノ伸張、海外販路ノ擴張、其他ノ
通商上ノ事務ニ從事致サセテ居ル次第デア
リマス
第二ニ、支那ノ關稅改正ニ付テハ如何ナ
ル措置ヲ執ラントスルカト云フ御尋ガゴザ
イマシタガ、此問題ニ付キマシテハ、昨年
ノ秋南京ニ於テ行ハレマシタル日支交涉ノ
際ニモ、重要ナル一問題トシテ之ヲ交涉致
シタノデアリマス、幸ニシテ關稅改正ノ主
義ニ付テハ、支那側モ之ヲ認メタノデゴザ
イマスルケレドモ、之ヲ具體的ニ如何ナル
稅率ニ定ムルカト云フコトニ付キマシテ
ハ、マダ兩者ノ間ノ意見ガ十分合致スルニ
至ラナカッタノデアリマス、併ナガラ支那側
ニ於キマシテハ、旣ニ專門家ヲシテ具體的
ニ稅率ノ改正案ヲ〓究セシメテ居ルト云フ
コトハ、先方カラ言明シテ居ッタ所デアリ
マス、仍テ今後モ日支貿易ノ上ニ障碍トナ
ルガ如キ現行稅率ノ適正ナル改正ニ付キマ
シテ、引續キ交渉ヲ致ス考デ居ルノデアリ
マス
第三ニハ、對支金融機關ヲ新ニ設置スル
所ノ考ガアルカナイカト云フ御尋ガゴザイ
マシタガ、此點ニ付キマシテモ、斯ノ如キ
必要ノアルコトハ全然御同感デゴザイマ
ス、今日マデアリマスル所ノ我國ノ銀行、
又ハ興中公司ノ如キ機關ヲ、益〓利用致シ
マシテ、我國ノ對支貿易ノ上ニ必要ナル金
融ノ便益ヲ圖ラシメルコトハ勿論デゴザイ
マスルガ、更ニ進ンデ日支合辦ノ「シンヂ
ケート」ノ如キモノモ作ルノガ、時代ノ必
要ニ應ズル所以デアルト云フヤウナ意見モ
ゴザイマシテ、是等ハ相當考究ニ値スル考
案デアラウト考ヘマスノデ、目下ソレ等ノ
點ニ付テモ種々〓究致シテ居ル次第デアリ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=32
-
033・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 大藏大臣ハ只今席
ニ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=33
-
034・深澤豐太郎
○深澤豐太郞君 議長、簡單デアリマスカ
ラ、此席カラ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=34
-
035・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=35
-
036・深澤豐太郎
○深澤豐太郞君 商工大臣ハ此改正ニ依ッ
テ新市場、舊市場ヲ加ヘルガ、亞米利加ヲ
除クト云フ趣意ノ御話ガアリマシタガ、是
ハ省令ノ改正ニ依ッテ出來ルコトデアリマ
スルカラ、何卒米國ヲモ之ニ加へルコトヲ
御考慮煩ハシタイト思フノデアリマス、ソ
レカラ第二ノ點ノ、商工大臣ガ答辯シナ
イ、大藏大臣カラ答辯ヲ得タイト云フ御話デ
アリマシタガ、是ハ商工大臣ノ責任トシ
テ、必ズ本法通過ノ上ハ、其要スル五十七
万圓ノ資金ハ、之ヲ政府ニ於テ責任ヲ負フ
旨ノ言明ヲ戴キタイ、若シ商工大臣トシテ
其言明ガ出來ナイノデアルナラバ、法制
上法制局長官ヨリ答辯ヲ得テ差支アリマ
セヌ、一方ハ目的稅トシテ制定セラレテ居
ル、其金ニ依ッテ本法ガ提案サレタモノデア
ルナラバ、其一方ガ成立セザル場合ニ於テ
ハ、本法ノ適用モ亦不可能トナルノカドウ
カト云フコトニ付テハ、必要アレバ法制局
長官ヨリ御答辯ヲ得テ宜シイノデスガ、ソ
レヨリ先ニ私ハ商工大臣ノ其言明ガ得タ
イ、法律ガ成立致シタル以上ハ、法律ニ依
ル必然ノ事實トシテ、政府ハ之ヲ支出スベ
キモノデアルト云フ答辯ヲ商工大臣ヨリ得
レバ、法制局長官ノ答辯ヲ必要ト致シマセ
又、法制通ノ山崎農林大臣モオ居デニナル
ノデアリマスカラ、此點ニ付テ明確ナル政
府ノ御答辯ヲ御伺致シタイノデアリマス
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=36
-
037・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 私カラハ御答辯
致スコトハ出來マセヌデゴザイマス
〔「確信ナシニ提案シタノカ」「ソンナコ
トヂヤ駄目ヂヤナイカ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=37
-
038・深澤豐太郎
○深澤豐太郞君 最モ重大ナル質疑ノ點デ
アリマスルカラシテ、政府ノ一致セル意見
ヲ國務大臣ナリ、法制局ナリ、大藏省ナリ、何
レデモ宜シイノデス、本法成立ノ上ハ之ニ
要スル費用ハ、國家ノ支出スベキモノデア
ルト云フコトニ關スル法制上ノ意見ヲ、此場
合明確ニ致シテ戴キタイノデアリマス、然
ラザレバ本案ノ審議ヲ致スコトハ到底不可
能デアリマスカラ、其點ニ付テ此場合明確
ナル御答辯ヲ要求致シマス(拍手)
〔國務大臣伍堂卓雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=38
-
039・伍堂卓雄
○國務大臣(伍堂卓雄君) 私ト致シマシテ
ハ、是非共此統制稅ハ御協賛ヲ得ルモノト
信ジマシテ、實行ヲ致シタイト思ヒマス、
併シ是レ以上ハ只今法制局長官モ居リマセ
ヌカラ、私トシテハ答辯ガ出來マセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=39
-
040・深澤豐太郎
○深澤豐太郞君 三度ヨリ發言スルコトハ
許サレナイノデアリマスガ、議長ニ對シテ
議事進行デ發言致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=40
-
041・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 議事進行デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=41
-
042・深澤豐太郎
○深澤豐太郞君 ヘイ議長ハ只今ノ質疑
應答ヲ御聽取ニナッテ、此質疑應答ニ對ス
ル政府ノ答辯ヲ、必ズ責任アル當局ヨリ答
辯ヲ爲サシムベク手續アランコトヲ希望致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=42
-
043・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ニテ質疑ハ終局
致シマシタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ニ付キ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=43
-
044・中山福藏
○中山福藏君 本案ハ議長指名二十七名ノ
委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=44
-
045・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 中山君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=45
-
046・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程
第二乃至第五ハ便宜上一括議題ト爲スニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=46
-
047・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程第二、漁船保險法案、日程
第三、漁船再保險特別會計法案、日程第四、
森林火災國營保險法案、日程第五、森林火災
保險特別會計法案、右四案ヲ一括シテ第一
讀會ヲ開キマス-農林大臣山崎達之輔君
第二漁船保險法案(政府提出)
第一讀會
第三漁船再保險特別會計法案(政府
提出)第一讀會
第四森林火災國營保險法案(政府提
出第一讀會
第五森林火災保險特別會計法案政
府提出)第一讀會
漁船保險法案
漁船保險法
第一章漁船保險組合
第一條漁船ノ所有者ハ其ノ所有スル漁
船(漁具ヲ含ム)ニ付相互保險ヲ爲ス目
的ヲ以テ漁船保險組合ヲ設立スルコト
ヲ得
保險ノ目的タルベキ漁船ハ勅令ヲ以テ
之ヲ定ム
第二條漁船保險組合ハ法人トス
第三條組合ハ其ノ名稱中ニ漁船保險組
合ナル文字ヲ用フベシ
漁船保險組合ニ非ザルモノハ其ノ名稱
中ニ漁船保險組合ナル文字ヲ用フルコ
トヲ得ズ
第四條本法ニ依リ登記スベキ事項ハ其
ノ事實ノ生ジタル後二週間以內ニ之ヲ
各事務所ノ所在地ニ於テ登記スベシ
登記スベキ事項ニシテ行政官廳ノ認可
ヲ要スルモノハ其ノ認可書ノ到達シタ
ル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス
本法ニ依リ登記スベキ事項ハ登記前ニ
在リテハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコ
トヲ得ズ
第五條組合ヲ設立セントスルトキハ命
令ノ定ムル所ニ依リ豫メ區域ヲ定メ其
ノ區域內ニ於テ組合員タルベキ資格ヲ
有スル者ノ同意ヲ得テ創立總會ヲ開キ
定款其ノ他必要ナル事項ヲ定メ理事及
監事ヲ選任シ主務大臣ノ認可ヲ受クベ
第六條組合ノ定款ニハ左ノ事項ヲ記載
スベシ
一目的
二名稱
三區域
四事務所ノ所在地
五保險ノ目的及保險料率
六準備金ノ積立及管理ノ方法
七剩餘金處分及不足金塡補ノ方法
八組合員タル資格ニ關スル規定
九組合員ノ加入及脫退ニ關スル規定
十事業執行ニ關スル規定
十一役員ニ關スル規定
十二組合ガ公〓ヲ爲ス方法
十三存立時期又ハ解散ノ事由ヲ定メ
タルトキハ其ノ時期又ハ事由
第七條組合ハ第五條ノ認可ヲ受ケタル
トキハ設立ノ登記ヲ爲スベシ
登記スベキ事項左ノ如シ
一前條第一號乃至第三號、第十二號
及第十三號ニ揭ゲタル事項
二事務所
三設立認可ノ年月日
四理事及監事ノ氏名及住所
前項ニ揭ゲタル事項中ニ變更ヲ生ジタ
ルトキハ其ノ登記ヲ爲スベシ
第八條組合ハ組合員ヲシテ一定ノ保險
料ヲ醵出セシムルノ外定款ノ定ムル所
ニ依リ追徴金ヲ醵出セシムルコトヲ得
前項ノ保險料及追徵金ニ關スル制限ハ
命令ヲ以テ之ヲ定ム
第九條組合ハ定款ノ定ムル所ニ依リ保
險金額ヲ削減スルコトヲ得
第十條組合員ハ組合ニ醵出スベキ保險
料及追徵金ニ付相殺ヲ以テ組合ニ對抗
スルコトヲ得ズ
第十一條保險ノ目的ノ讓受人ハ組合ノ
承諾ヲ得テ讓受人ノ權利義務ヲ承繼ス
ルコトヲ得
組合ハ正當ノ事由ナクシテ前項ノ承諾
ヲ拒ムコトヲ得ズ
前二項ノ規定ハ保險ノ目的ニ付相續其
ノ他ノ包括承繼アリタル場合ニ之ヲ準
用ス
第十二條組合ハ保險ノ目的タル漁船ニ
付滅失、沈沒、損傷其ノ他ノ事故ニ因リ
テ生ジタル損害ヲ塡補スルモノトス
前項ノ事故及塡補スベキ損害ノ範圍ニ關
シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三條組合ノ責任ハ定款ニ別段ノ定
アル場合ヲ除クノ外組合ガ保險料ヲ受
領シタル日ノ翌日ニ始マル
第十四條組合員ハ損害ノ防止輕減ヲ力
ムルコトヲ要ス但シ之ガ爲必要又ハ有
益ナリシ費用ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
組合之ヲ塡補ス
第十五條組合員ハ定款ノ定ムル所ニ依
リ保險ノ目的タル漁船ノ構造、設備、漁
業ノ種類等ニ付重大ナル變更ヲ加ヘン
トスルトキハ豫メ組合ニ通知スベシ
保險ノ目的タル漁船ノ危險ガ其ノ構
造設備、漁業ノ種類等ノ重大ナル變
更ニ因リ著シク增加スル場合ニ於テハ
組合ハ組合員ニ對シ其ノ變更ヲ制限シ
其ノ他必要ナル處置ヲ爲サシムルコト
ヲ得
第十六條組合ハ保險ノ目的タル漁船ニ
關シ調査ヲ爲シ又ハ組合員ヲシテ通常
ノ修繕其ノ他必要ナル處置ヲ爲サシム
ルコトヲ得
第十七條左ノ場合ニ於テハ組合ハ塡補
額ノ全部又ハ一部ニ付塡補ノ責ヲ免ル
ルコトヲ得
一組合員保險ノ目的タル漁船ニ付損
害ノ防止輕減ヲ怠リタルトキ
二組合員第十五條第一項ノ規定ニ依
ル通知ヲ怠リ又ハ同條第二項ノ規定
ニ依ル組合ノ指示ニ從ハザルトキ
三組合員前條ノ規定ニ依ル組合ノ調
査ヲ拒ミ又ハ組合ノ指示ニ從ハザル
トキ
第十八條組合ハ組合員ノ故意又ハ重大
ナル過失ニ因リテ生ジタル損害ヲ塡補
スル責ニ任ゼズ船長其ノ他漁船ヲ指揮
スル者ノ故意ニ因リテ生ジタル損害ニ
付亦同ジ
第十九條組合ニハ理事及監事ヲ置クベ
理事及監事ハ總會ニ於テ組合員中ヨリ
之ヲ選任ス但シ特別ノ事由アルトキハ
組合員ニ非ザル者ヨリ之ヲ選任スルコ
トヲ得
前項但書ノ規定ニ依ル選任ハ行政官廳
ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ
生ゼズ
第二十條組合員ハ總會ニ於テ各一箇ノ
議決權ヲ有ス但シ定款ノ定ムル所ニ依
リ一人ニ付議決權總數ノ十分ノ一ヲ超
エザル範圍內ニ於テ二箇以上ノ議決權
ヲ有セシムルコトヲ得
第二十一條總會ノ決議ハ本法又ハ定款
ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外出席シ
タル組合員ノ議決權ノ過半數ヲ以テ之
ヲ爲ス
組合員ハ定款ノ定ムル所ニ依リ書面又
ハ代理人ヲ以テ議決權ヲ行フコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ之ヲ出席者ト看做ス
但シ同居ノ成年者又ハ組合員ニ非ザレ
バ代理人タルコトヲ得ズ
第二十二條組合員ハ總組合員五分ノ一
以上ノ同意ヲ得テ會議ノ目的及招集ノ
事由ヲ記載シタル書面ヲ理事ニ提出シ
テ總會ノ招集ヲ請求スルコトヲ得
理事ガ前項ノ規定ニ依ル請求アリタル
後二週間以內ニ正當ノ事由ナクシテ總
會招集ノ手續ヲ爲サザルトキハ監事其
ノ總會ヲ招集スベシ
第二十三條組合員ハ三月前ニ豫〓ヲ爲
スニ非ザレバ脫退スルコトヲ得ズ
第二十四條組合員ハ左ノ事由ニ因リテ
脫退ス但シ第一號ノ場合ニ付テハ定款
ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
一保險關係ノ消滅
二死亡
三破產
四除名
第二十五條組合員ハ組合ヲ脫退シタル
トキト雖モ脫退ノ日ノ屬スル事業年度
ノ追徵金及保險金額ノ削減ニ對シテハ
其ノ義務ヲ免ルルコトヲ得ズ
第二十六條行政官廳必要ト認ムルトキ
ハ理事ヲシテ組合ノ事業又ハ財產ニ關
スル報〓ヲ爲サシメ、組合ノ事業又ハ
財產ノ狀況ヲ檢査シ、定款ノ變更ヲ命
ジ其ノ他監督上必要ナル命令又ハ處分
ヲ爲スコトヲ得
第二十七條組合ノ事業若ハ財產ノ狀況
ニ依リ其ノ事業ノ繼續ヲ困難ナリト認
ムルトキ又ハ組合ノ行爲若ハ決議ガ法
令、定款若ハ行政官廳ノ命令ニ違反シ
其ノ他公益ヲ害スルノ虞アルトキハ行
政官廳ハ決議ヲ取消シ、理事若ハ監事
ヲ解任シ、組合ノ事業ヲ停止シ又ハ組
合ノ解散ヲ命ズルコトヲ得
第二十八條民法第四十四條第一項、第
四十五條第二項第三項、第四十八條、第
五十條、第五十二條第二項、第五十三
條乃至第五十五條、第五十九條、第六
十條、第六十一條第一項、第六十二條、
第六十四條、第六十六條、第七十條及
第七十三條乃至第八十三條、非訟事件
手續法第三十五條第二項、第三十六條、
第三十七條ノ二、第百二十二條、第百
三十六條乃至第百三十八條、第百四十
二條乃至第百五十一條ノ六、第百五十
四條乃至第百五十七條、第百七十五條、
第百七十六條、第百七十八條及第百九
十五條ノ二竝ニ家畜保險法第八條乃至
第十條、第十二條第二項、第十四條、
第十八條第二項、第三十五條乃至第四
十條、第四十二條、第四十四條、第四
十七條、第五十一條乃至第五十七條、
第六十條、第六十二條乃至第七十二條、
第七十四條、第七十九條及第八十一條
乃至第八十六條ノ規定ハ漁船保險組合
ニ之ヲ準用ス但シ民法第四十五條第三
項第四十八條第一項及第七十七條ノ
規定中一週間トアルハ二週間トシ家畜
保險法第六十二條乃至第七十條、第七
十二條及第八十三條乃至第八十五條ノ
規定中組合ノ分割ニ關スル規定ヲ除ク
商法第三百八十六條乃至第三百九十五
條、第三百九十七條、第三百九十九條
乃至第四百條、第四百三條第一項、第
四百十二條、第四百十三條、第四百十
五條乃至第四百十七條、第六百七十一
條第一號乃至第三號、第六百七十二條
第一項、第六百七十四條第一項第二項
及第六百七十五條乃至第六百七十九條
ノ規定ハ本法ニ依ル漁船保險ニ之ヲ準
用ス但シ第六百七十二條第一項ノ規定
中六箇月間及第六百七十四條第一項ノ
規定中三箇月トアルハ命令ヲ以テ定ム
ル期間トス
第二章漁船再保險
第二十九條本法ニ依ル漁船保險ノ再保
險事業ハ政府之ヲ管掌ス
第三十條組合ガ漁船保險ノ引受ヲ爲シ
タルトキハ之ニ因リテ政府ト組合トノ
間ニ再保險關係成立スルモノトス
第三十一條再保險金額及再保險料ニ關
スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十二條組合ハ漁船保險ノ引受ヲ爲
シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政
府ニ對シテ其ノ旨ヲ通知スベシ
第三十三條左ノ場合ニ於テハ政府ハ命
令ノ定ムル所ニ依リ再保險金額ノ全部
又ハ一部ノ支拂ノ責ニ任ゼズ
一組合ガ法令又ハ定款ニ違反シテ塡
補ヲ爲シタルトキ
二組合ガ塡補額ヲ不當ニ認定シテ塡
補ヲ爲シタルトキ
三組合ガ不正ノ目的ヲ以テ前條ノ規
定ニ依ル通知ヲ怠リ又ハ不實ノ通知
ヲ爲シタルトキ
第三十四條組合ハ命令ノ定ムル所ニ依
リ委付ニ因リテ取得シタル一切ノ權利
ノ行使又ハ處分ニ關スル事項ヲ定メ政
府ノ承認ヲ受クベシ
政府ハ前項ノ承認ヲ爲シタルトキハ組
合ニ對シ其ノ再保險金額ノ支拂ヲ爲ス
モノトス
前項ノ規定ニ依リ再保險金額ノ支拂ヲ受
ケタル組合ハ委付ニ因リテ取得シタル一
切ノ權利ヲ行使シ又ハ處分シテ得タル金
額ヨリ之ガ行使又ハ處分ニ要シタル費
用ヲ控除シタル殘額ノ中再保險金額ノ
保險金額ニ對スル割合ニ依リテ算出シ
タル金額ヲ遲滯ナク政府ニ還付スベシ
前三項ノ規定ハ第二十八條ノ規定ニ依
リ準用シタル商法第四百十五條及第四
百十六條ノ規定ニ依リ組合ガ權利ヲ取
得シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三十五條組合ガ再保險ニ關スル事項
ニ付政府ニ對シテ民事訴訟ヲ提起スル
ニハ漁船再保險審査會ノ審査ヲ經ルコ
トヲ要ス
前項ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シ
テハ之ヲ裁判上ノ請求ト看做ス
漁船再保險審査會ニ關スル事項ハ勅令
ヲ以テ之ヲ定ム
第三十六條商法第三百九十一條、第三
百九十二條、第三百九十九條、第四百
條、第四百十二條及第四百十七條竝ニ
家畜保險法第九十九條ノ規定ハ本法ニ
依ル漁船再保險ニ之ヲ準用ス
第三章罰則
第三十七條左ノ場合ニ於テハ漁船保險
組合ノ理事、監事又ハ〓算人ヲ五圓以
上五百圓以下ノ過料ニ處ス
-本法ニ依リ行政官廳ノ認可ヲ受ク
ベキ場合ニ於テ其ノ認可ヲ受ケザル
トキ
二本法ニ依ル登記ヲ爲スコトヲ怠リ
タルトキ
三行政官廳又ハ總會若ハ總代會ニ對
シテ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱
蔽シタルトキ
四本法ニ依リ行政官廳ノ徵スル報〓
ヲ差出サズ又ハ其ノ檢査ヲ拒ミ其ノ
他行政官廳ノ命令若ハ處分ニ從ハザ
ルトキ
五本法ニ依ル總會又ハ總代會ノ招集
ヲ怠リタルトキ
六組合ノ目的ニ非ザル事業ヲ爲シタ
ルトキ
七本法ニ依リ事務所ニ備ヘ置クベキ
書類ヲ備ヘズ其ノ書類ニ記載スベキ
事項ヲ記載セズ若ハ不正ノ記載ヲ爲
シ又ハ正當ノ理由ナクシテ其ノ閱覽
ヲ拒ミタルトキ
八本法ニ違反シテ破產ノ宣〓ヲ請求
セザルトキ
九第二十八條ノ規定ニ依リ準用シタ
ル家畜保險法第五十四條、第六十四
條又ハ第六十五條第二項ノ規定ニ違
反シタルトキ
十本法ニ依ル公〓ヲ爲スコトヲ怠リ
又ハ不正ノ公〓ヲ爲シタルトキ
十一〓算ノ場合ニ於テ本法ニ違反シ
テ辨濟ヲ爲シ又ハ組合財產ノ處分ヲ
爲シタルトキ
十二法令又ハ定款ニ違反シテ剩餘金
ヲ處分シ又ハ追徵金ヲ取立テ若ハ保
險金額ヲ削減シタルトキ
第三十八條第三條第二項ノ規定ニ違反
シタル者ハ十圓以上二百圓以下ノ過料
三段夫人
第三十九條非訟事件手續法第二百六條
乃至第二百八條ノ規定ハ前二條ノ過料
ニ之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
漁船再保險特別會計法案
漁船再保險特別會計法
第一條漁船保險法ニ依ル漁船再保險事
業ヲ經營スル爲特別會計ヲ設置シ其ノ
歲入ヲ以テ其ノ歲出ニ充ツ
第二條本會計ニ於テハ再保險料、積立
金ヨリ生ズル收入、借入金及附屬雜收
入ヲ以テ其ノ歲入トシ再保險金、再保
險料ノ還付金、借入金ノ償還金及其ノ
利子、一時借入金ノ利子、事業取扱費
其ノ他ノ諸費ヲ以テ其ノ歲出トス
第三條本會計ニ於テ決算上剩餘金ヲ生
ズルトキハ之ヲ積立ツベシ
本會計ノ歲計ニ不足アルトキハ積立金
ヨリ之ヲ補足スベシ
第四條本會計ニ屬スル經費ヲ支辨スル
爲必要アルトキハ政府ハ本會計ノ負擔
ニ於テ借入ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ借入ヲ爲スコトヲ得
ル金額ハ純再保險料ヲ以テ再保險金及
再保險料ノ還付金ヲ支辨スルニ不足ス
ル金額ヲ限度トス
第五條本會計ニ於テ支拂上現金ニ餘裕
アルトキハ之ヲ大藏省預金部ニ預入ル
ベシ
第六條本會計ニ於テ支拂上現金ニ不足
アルトキハ本會計ノ負擔ニ於テ一時借
入ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル一時借入金ハ當該年
度內ニ之ヲ返還スベシ
第七條本會計ノ積立金ハ國債ヲ以テ保
有シ又ハ大藏省預金部ニ預入レ之ヲ運
用スルコトヲ得
第八條政府ハ每年本會計ノ歲入歲出豫
算ヲ調製シ歲入歲出ノ總豫算ト共ニ之
ヲ帝國議會ニ提出スベシ
第九條本會計ノ每年度歲出豫算ニ於ケ
ル事業費ノ支出殘額ハ之ヲ翌年度ニ繰
越使用スルコトヲ得
第十條本會計ノ收入支出ニ關スル規程
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ昭和十二年度ヨリ之ヲ施行ス
一般會計ハ當分ノ内每年度豫算ノ定ムル
金額ヲ本會計ニ繰入ルルコトヲ得
森林火災國營保險法案
森林火災國營保險法
第一條政府ハ本法ニ依リ森林火災保險
ヲ行フ
第二條森林火災保險ニ於テハ政府ガ森
林ニ付火災ニ因リテ生ズルコトアルベ
キ損害ヲ塡補スルコトヲ約シ保險契約
者ガ對償トシテ政府ニ保險料ヲ支拂フ
コトヲ約スルモノトス
保險料ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ
定ム
第三條保險ノ目的ハ勅令ノ定ムル所ニ
依リ林齢二十年以下ノ森林トス
第四條被保險者ハ保險ノ目的ノ所有者
一応ノルン
第五條保險料ハ保險契約ノ申込ト同時
ニ保險期間ノ全部ニ對シ之ヲ拂込ムベ
シ但シ保險期間ガ一年ヲ超ユル場合ニ
在リテハ之ヲ分割シテ拂込ムコトヲ
得
前項但書ノ規定ニ依リ保險料ヲ分割シ
テ拂込ム場合ニ在リテハ當該保險料期
間ノ開始ニ至ル迄ニ之ヲ拂込ムベシ其
ノ拂込ヲ怠リタルトキハ保險契約ハ爾
後其ノ效力ヲ失フ
第六條政府保險契約ノ申込ヲ承諾シタ
ルトキハ保險證書ヲ作成シ之ヲ保險契
約者ニ交付ス
保險證書ニ記載スベキ事項ハ命令ヲ以
テ之ヲ定ム
第七條保險契約ニ因ル政府ノ責任ハ特
約アル場合ヲ除クノ外保險證書作成ノ
日ノ翌日ニ始マル
第八條保險契約者又ハ被保險者ノ詐欺
ニ因ル保險契約ハ之ヲ無效トス
第九條同一ノ目的ノ全部又ハ一部ニ付
保險契約ノ申込ノ當時他ノ保險契約存
スルトキ又ハ保險契約ノ申込後他ノ保
險契約ヲ締結シタルトキ若ハ他ノ保險
契約ヲ變更シタルトキハ之ヲ政府ニ申
告スベシ同一ノ目的ノ全部又ハ一部ニ
付第三者ノ締結シタル保險契約ノ存ス
ルコト又ハ其ノ變更アリタルコトヲ知
リタルトキ亦同ジ
前項ノ申告ヲ怠リタルトキハ政府ハ損
害ヲ塡補スル責ニ任ゼザルコトヲ得
第十條保險金額ハ勅令ヲ以テ定ムル標
準ニ依リ算出シタル金額(標準金額)ヲ
超ユルコトヲ得ズ
保險金額ガ標準金額ヲ超過シタルトキ
ハ其ノ超過シタル部分ニ付テハ保險契
約ハ之ヲ無效トス
第十一條同一ノ目的ニ付本法ニ依ル保
險契約ノ外他ノ保險契約存スル場合ニ
於テ保險金額ノ總額ガ保險價額ヲ超過
シタルトキハ政府ノ負擔額ハ本法ニ依
ル保險契約ノ保險金額ト他ノ保險契約
ノ保險金額トノ割合ニ依リテ之ヲ定ム
但シ其ノ政府ノ負擔額ガ損害額ヨリ他
ノ保險者ノ負擔額ヲ控除シタル殘額ヲ
超ユル場合ニ於テハ其ノ殘額ヲ以テ政
府ノ負擔額トス
第十二條保險證書ニ記載シタル事項ト
異リタル事實アル爲保險料トシテ拂込
ミタル金額ガ正當ニ拂込ムベキ保險料
ニ達セザルトキハ拂込ミタル保險料ノ
正當ニ拂込ムベキ保險料ニ對スル割合
ニ依リ保險金額ヲ減額ス
第十三條保險價額ガ標準金額ヲ超過シ
タルトキハ保險金額ノ標準金額ニ對ス
ル割合ニ依リテ損害ヲ塡補ス但シ其ノ
塡補額ハ損害ガ生ジタル區域內ニ於ケ
ル保險ノ目的ノ價額ノ保險價額ニ對ス
ル割合ヲ保險金額ニ乘ジタル額ヲ超エ
ザルモノトス
保險價額ガ標準金額以下ナルトキハ保
險金額ノ保險價額ニ對スル割合ニ依リ
テ損害ヲ塡補ス
第十四條保險ノ目的ノ一部ニ付損害ヲ
塡補シタル場合ニ於テハ爾後其ノ保險
料期間內ノ損害塡補ニ付テハ前ニ損害
ガ生ジタル區域ト其ノ他ノ區域トニ依
リ各別ニ計算ス
第十五條左ノ場合ニ於テハ政府ハ損害
ヲ塡補スル責ニ任ゼズ
一損害ガ保險契約者又ハ被保險者ノ
故意又ハ重大ナル過失ニ因リテ生ジ
タルトキ
二保險契約者又ハ被保險者ガ損害ノ
生ジタルコトヲ知リテ其ノ通知ヲ怠
リタルトキ
三損害ガ戰爭其ノ他ノ變亂、地震又
ハ噴火ニ因リテ生ジタルトキ
第十六條被保險者ハ其ノ負擔ニ於テ損
害ノ防止ニ力ムルコトヲ要ス
第十七條保險契約ハ他人ノ爲ニモ之ヲ
締結スルコトヲ得此此場場合ニ於テハ被
保險者ハ當然其ノ契約ノ利益ヲ享受ス
第十八條保險ノ目的ヲ取得シタル者ハ
保險契約ニ因リテ生ジタル權利義務ヲ
承繼ス
第十九條保險期間中危險ガ著シク增加
シタルトキハ政府ハ命令ノ定ムル所ニ
依り保險契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得但
シ其ノ解除ハ將來ニ向テノミ效力ヲ生
ズ
保險期間中危險ガ著シク增加シタルト
キハ保險契約者又ハ被保險者ハ命令ノ
定ムル所ニ依リ遲滯ナク之ヲ通知スベ
シ若シ其ノ通知ヲ怠リタルトキハ政府
ハ危險增加ノ時ヨリ保險契約ガ其ノ效
力ヲ失ヒタルモノト看做スコトヲ得
政府ニ於テ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ危險
ノ增加ヲ知リタル後遲滯ナク契約ノ解
除ヲ爲サザルトキハ其ノ契約ヲ承認シ
タルモノトス
第二十條保險契約ノ全部又ハ一部ガ無
效ナルトキ、其ノ效力ヲ失ヒタルトキ
又ハ解除セラレタルトキト雖モ保險料
ハ之ヲ返還セズ但シ左ノ各號ノ一ニ該
當スル場合ニ於テハ政府ハ命令ノ定ム
ル所ニ依リ保險料ヲ返還ス
-保險契約ノ全部又ハ一部ガ無效ナ
ル場合ニ於テ保險契約者及被保險者
ガ善意ニシテ且重大ナル過失ナキト
キ
二保險契約者又ハ被保險者ノ行爲ニ
因ラズシテ保險契約ノ全部又ハ一部
ガ其效力ヲ失ヒタル場合ニ於テ殘存
保險期間ガ一年以上ナルトキ
三政府ノ責任ガ始マル前ニ於テ保險
契約者ガ契約ノ全部又ハ一部ノ解除
ヲ爲シタルトキ
四政府ガ保險契約ノ解除ヲ承諾シタ
ル場合又ハ保險契約者若ハ被保險者
ノ責ニ歸スベカラザル事由ニ因リテ
危險ガ著シク增加シタル爲政府ガ前
條第一項ノ規定ニ依リ保險契約ノ解
除ヲ爲シタル場合ニ於テ殘存保險期
間ガ一年以上ナルトキ
第二十一條同一ノ目的ニ付引續キ五年
間政府ノ負擔ニ歸スベキ損害ノ發生ナ
クシテ保險契約ガ存續シタル場合ニ於
テ更ニ契約ガ存續スルトキハ政府ノ命
令ノ定ムル所ニ依リ保險料ノ一部ヲ拂
戾スコトヲ得保險ノ目的ガ林齡十五年
ヲ超ユル場合ニ於テ其ノ目的ニ付林齡
二十一年ニ達スル迄政府ノ負擔ニ歸ス
ベキ損害ノ發生ナクシテ契約ガ存續シ
タルトキ亦同ジ
前項ノ規定ニ依ル拂戾ノ義務ハ二年ヲ
經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第二十二條保險契約者被保險者又ハ保
險金ニ付權利ヲ有スル者ガ森林火災
保險ニ關スル事項ニ付政府ニ對シテ
民事訴訟ヲ提起スルニハ森林火災國
營保險審査會ノ審査ヲ經ルコトヲ要
ス
前項ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シ
テハ之ヲ裁判上ノ請求ト看做ス
森林火災國營保險審査會ニ關スル事項
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十三條本法ニ依ル森林火災保險ニ
關スル書類ニハ印紙稅ヲ課セズ
第二十四條政府ハ命令ノ定ムル所ニ依
リ保險事務ノ一部ヲ市町村ヲシテ取扱
ハシムルコトヲ得
政府保險料受取ノ事務ヲ市町村ヲシテ
取扱ハシムル場合ニ於テハ其ノ受取リ
タル保險料ノ百分ノ五ニ相當スル金額
ヲ其ノ市町村ニ交付ス
前二項中町村トアルハ町村制ヲ施行セ
ザル地ニ在リテハ之ニ準ズベキモノトス
第二十五條本法ニ依ル森林火災保險ニ
關シ本法及本法ニ基キテ發スル命令ニ
規定セザル事項ハ商法中損害保險ニ關
スル規定ニ從フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ勅令ヲ以テ指定スル地區ニ之ヲ施
行セズ
森林火災保險特別會計法案
森林火災保險特別會計法
第一條森林火災保險事業ヲ經營スル爲
特別會計ヲ設置シ其ノ歲入ヲ以テ其ノ
歲出ニ充ツ
第二條本會計ニ於テハ保險料、積立金
ヨリ生ズル收入、借入金及附屬雜收入
ヲ以テ其ノ歲入トシ保險金、保險料ノ
還付金、無事戾金、借入金ノ償還金及其
ノ利子、一時借入金ノ利子、事業取扱
費其ノ他ノ諸費ヲ以テ其ノ歲出トス
第三條本會計ニ於テ決算上剩餘金ヲ生
ズルトキハ之ヲ積立ツベシ
本會計ノ歲計ニ不足アルトキハ積立金
ヨリ之ヲ補足スベシ
第四條本會計ニ屬スル經費ヲ支辨スル
爲必要アルトキハ政府ハ本會計ノ負擔
ニ於テ借入ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ借入ヲ爲スコトヲ得
ル金額ハ純保險料ヲ以テ保險金及保險
料ノ還付金ヲ支辨スルニ不足スル金額
竝ニ保險料中無事戾金ニ充ツル金額ヲ
以テ無事戾金ヲ支辨スルニ不足スル金
額ヲ限度トス
第五條本會計ニ於テ支拂上現金ニ餘裕
アルトキハ之ヲ大藏省預金部ニ預入ル
ベシ
第六條本會計ニ於テ支拂上現金ニ不足
アルトキハ本會計ノ負擔ニ於テ一時借
入ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル一時借入金ハ當該年
度內ニ之ヲ返還スベシ
第七條本會計ノ積立金ハ國債ヲ以テ保
有シ又ハ大藏省預金部ニ預入レ之ヲ運
用スルコトヲ得
第八條政府ハ每年本會計ノ歲入歲出豫
算ヲ調製シ歲入歲出ノ總豫算ト共ニ之
ヲ帝國議會ニ提出スベシ
第九條本會計ノ每年度歲出豫算ニ於ケ
ル事業費ノ支出殘額ハ之ヲ翌年度ニ繰
越使用スルコトヲ得
第十條本會計ノ收入支出ニ關スル規程
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ昭和十二年度ヨリ之ヲ施行ス
一般會計ハ當分ノ內每年度豫算ノ定ムル
金額ヲ本會計ニ繰入ルルコトヲ得
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=47
-
048・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 先ヅ漁船保險
法案ノ理由ヲ先ニ御說明申上ゲマス
漁船ハ漁業者ノ最モ重要ナル資產ノ一ツ
デアリマシテ、同時ニ又漁業經營上缺クベ
カラザル生產ノ要具デアリマス、然ルニ年
年不測ノ災害ニ因ル漁船ノ被害ハ、相當ニ
上ッテ居リマスノデ、是ガ爲メ漁業經營ノ安
固ヲ害シ、漁業ノ發展改善ヲ阻碍スルコト
尠クナイノデアリマス、故ニ適切ナル保險
制度ヲ確立致シマシテ、漁船ノ損害ヲ塡補
致シマスルト共ニ、漁船ノ資金化ヲ容易ナ
ラシメテ、漁業經營ノ改善ヲ期シタイト存
ズルノデアリマス、仍テ政府ハ新ニ漁船保
險法ヲ制定致シマシテ、漁船所有者ヲシテ
漁船保險組合ヲ組織致サセマシテ、漁船ノ
損害ニ付テ相互保險ヲ行ハシムルコトト致
シマシテ、尙ホ其再保險ニ付キマシテハ、
政府ニ於キマシテ之ヲ管掌スルコトト致シ
タノデアリマス、尙ホ此保險法ニ關聯致シ
マシテ、特別會計法制定ノ必要ガアルノデ
アリマス、卽チ漁船保險法ニ基キマシテ、
政府ノ經營致シマス漁船再保險事業ニ關ス
ル歲入歲出ハ、之ヲ一般會計ト區分致シマ
シテ經理スルコトヲ適當ト認メマスノデ、
特別會計ヲ設置致シタイト存ズルノデアリ
マス
尙ホ森林火災保險ノ提案理由ニ付テ一言
致シマス、森林ガ公益上竝ニ經濟上重要ナ
ル關係ヲ有スルモノデアルコトハ申ス迄モ
ナイコトデアリマスガ、森林ノ成育ガ種々
ノ被害ノ爲メ阻碍サレテ居ルコトガ尠クナ
イノデアリマス、殊ニ火災ニ因ル森林ノ被
害ハ甚ダ顯著デアリマシテ、府縣民有林ノ
被害ニ付テ見マシテモ、每年平均約一万町
步ヲ超エテ居ルノデアリマス、殊ニ幼齡林
ハ其性質上火災ノ危險ガ甚ダ多イノデアリ
マシテ、若シ一旦火災ニ罹リマスル時ニハ
全ク無價値トナリマシテ、多大ノ投資ト努
力トハ一朝ニシテ烏有ニ歸スル次第デアリ
マック其結果跡地ノ荒廢ヲ招キ、又森林資
源ノ保續ニモ支障ヲ來スノデゴザイマス、
是ニ於テ特ニ幼齡林ニ付キマシテ、火災保
險ノ制度ヲ樹テタイト存ズルノデアリマス、
而シテ此保險制度ニ關聯致シマシテ、之二
關シマスル歲入歲出ハ、一般會計ト區分致
シマシテ經理スルコトガ適當デアルト認メ
マスノデ、特別會計ヲ設置致シタイト存ズ
ル次第デアリマス、何卒右四案ヲ御審議ノ
上御協贊ヲ與ヘラレマスコトヲ希望致スノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=48
-
049・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 質疑ノ通〓ガアリ
マス、順次之ヲ許可致シマス-高木条太
郞君
〔高木粂太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=49
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050・高木粂太郎
○高木粂太郞君 只今上程サレマシタ漁船
保險法案ハ、漁業者多年ノ要望デアリマシ
テ、政府當局モ其必要ヲ認メマシテ、玆ニ
成案ヲ得テ御提出ニ相成リマシタコトハ、
政府ニ對シマシテ私ハ其勞ヲ多トスル者デ
アリマスルガ、本案ニ關聯致シマシテ、本
員ハ玆ニ數箇ノ御質問ヲ試ミタイト存ズル
ノデアリマス
申ス迄モナク我國ハ四面環海ニシテ陸上
ハ狭小デアリマス、故ニ陸上ニ於ケル所ノ
天然資源ハ、遺憾ナガラ不十分デアルコト
ハ免レナイノデアリマス、併ナガラ其四面
環ラス所ノ海ニハ、水產物ガ最モ豐富デア
リマシテ、尙且ツ幾多ノ富源ガ其水中ニハ
藏サレテ居ルノデアリマス、蓋シ海ハ吾々
人類ヲ益スルコト、決シテ陸地ニハ劣ラナ
イデハナイカト本員ハ考ヘラレルノデアリ
てく、明治天皇ガ明治ノ初年初メテ京都
カラ江戶、卽チ今ノ此東京ニ行幸遊バサル
ル時ニ、靜岡縣遠州ノ汐見坂ニ駕ヲ駐メサ
セラレマシテ、渺々タル太平洋ヲ臠ハセラ
レテ、近侍ノ木戶侯ヲ顧ミテ、我國ハ將來
海ヲ以テ國富ヲ增進セヨ、重ネテ申上ゲマ
ス、我國ハ將來海ヲ以テ國富ヲ增進セヨト
宣ハセラレタト云フコトヲ、私共幼少ノ時
カラ拜承致シテ居ルノデアリマス、明治
天皇ノ高遠ナル御理想ト御識見ニハ、唯々
敬服感激スルノ外ハナイノデアリマスガ、
爾來我國ノ水產業者ハ一屓感奮激勵、以テ
斯業ノ開發進展ニ努力致シマシタノデ、兎
ニ角今日ニ於キマシテハ、年產額內地外地
ヲ合シ約五億圓ニ達シマシテ、我ガ同胞九
千万國民ノ榮養食料ヲ十分ニ供給致シマシ
テ、尙且ツ一億圓ノ海外輸出ヲシテ、國際
經濟ノ一助トモナッテ居ルヤウナ現狀デア
リマス、然ルニモ拘ラズ、政府ノ水產業ニ
關スル所ノ施設ハ、從來甚ダ貧弱デアリマ
スルコトハ、私共ノ常ニ遺憾トスル所デア
リマス(拍手)
最近ニ於ケル所ノ例ヲ一一一申上ゲマシテモ、
我ガ國民中最モ生活程度ノ低イ漁業者ノ爲
ニ與ヘラレタル所ノ、大正九年以來長キ間
ノ特典デアリマシタ所ノ礦油輸入稅免除ノ
如キモ、今將ニ廢サレントスル所ノ運命ニ
アルノデアリマス、漁業者ノ使用スル油ハ、
農家ニ於ケル肥料ト其經濟上同一關係ニア
リマスルガ、庶政一新ヲ唱ヘラレル所ノ現
政府ガ、礦油輸入免稅ヲ廢止シテ、漁業者
ヲ苦シメルガ如キハ、私ハ其意ヲ得ナイト
思フノデアリマス(拍手)併シ國策トシテ燃
料問題ノ解決ヲ爲サントスルコトニ、敢テ
私ハ異議ヲ挾ム者デハアリマセヌガ、是ガ
爲ニ漁業者ノ受クル損害ハ洵ニ甚大デアリ
マスルノデ、國策ノ爲トハ云ヒナガラ、漁
業者ノ爲ニ今少シ農林大臣ハ同情ヲ持ッテ
貰ヒタイト私ハ思フノデアリマス(拍手)
尙且ツ申上ゲマスレバ、近來南洋方面カ
ラ鰹節ガ非常ニ入ッテ來ル、南洋開發ノ爲ニ
ハ、南洋ノ水產物モ必要デアリマスルケレ
ドモ、ソレガ爲ニ內地ノ業者ハ非常ニ壓迫
ヲ受ケテ居ルノデアリマス、現在總テノ物
價ハ一割、二割昂騰シテ居ルニ拘ラズ、本
年ニ至リマシテモ、此鰹節ハ二割以上下落
シテ居ルノデアリマス、是ハ鰹節製造業者
ノ受ケル損害ノミデハナイ、隨テ小サイ漁業
者ノ生活ヲ脅威スルコトニナルノデアリマ
ス、政府ハ此南洋開發ノ爲ニ、南洋ノ水產
奬勵ハ洵ニ結構デハアルケレドモ、其鰹節
輸入ノ如キハ、何トカ之ヲ統制シテ、內地
沿岸漁業者ヲ困ラセナイヤウナ方法ハナイ
ノデアリマセウカ、考ヘテ貰ヒタイト思フ
ノデアリマス
以上申上ゲマシタ如ク、政府ノ水產ニ關
スル所ノ施設及ビ指導方法ハ、從來甚ダ貧弱
デアリマシタケレドモ、併シ我ガ漁業者ノ
勇氣ト技倆ニ於テハ、世界何レノ國モ及バ
ナイ、全ク世界的ニ優秀デアリマスルノデ、
其產額ニ於テハ世界第一位デアリマス、併
ナガラ飜ッテ我國水產業ノ現狀ニ付テ考ヘ
マスルナラバ、約三十六万隻ノ漁船ト百六
十万人ノ從業者ヲ擁シテ居ルノデアリマシ
テ、現在ノ營業狀態ハ決シテ樂觀ヲ許サナ
イノデアリマス、政府ハ今少シ積極的ニ水
產ノ振興策ヲ計畫實施ナサレマシテ、海國
日本ノ面目ヲ瀆サヌヤウニ御考慮ヲ煩ハシ
タイト思フノデアリマスルガ、如何デアリ
マセウカ
昭和十年中ニ於ケル所ノ遭難漁船ハ、私
ノ調査ニ依レバ、沈沒船ニ一百三十七隻、破壞
船二千六百六十一隻デアリマシタガ、要ス
ルニ漁船ハ先ニ農林大臣モ言ハレタ如ク、
漁業者ノ主要財產デアリマスルノデ、之ヲ
保險ノ方法ニ依リマシテ、漁船ノ資本化ヲ
圖ルコトハ、漁業界ノ金融改善ノ一助トモ
相成ルノデ、洵ニ結構ナコトト存ズルノデ
アリマス、併ナガラ其遭難ニ依ッテ命ヲ捨テ
タ所ノ漁業者、從業者其人ニ對シマシテ、
何等ノ救濟ノ方法ヲモ、特典ノ途モナイト
云フコトハ、私ハ甚ダ遺憾ニ思フノデアリ
マッ、漁業者ハ板一枚下ハ地獄ト謂ハレル
海洋ニ出テ、國民ノ榮養食料ヲ求メンガ爲
ニ、日夜風波ノ間ニ活動中ニ、萬一難船致
シマシタナラバ、船主ハ本法ニ依リマシテ
保險金ヲ得ラレルノデアリマスルケレドモ、
從業者ノ遺族ハ何物モ與ヘラレナイト云フ
コトハ、全ク私ハ同情ニ堪ヘナイ所デアリ
マス、社會政策上ノ見地カラ申シマシテモ、
何トカ之ヲ致サナケレバナラヌト本員ハ思
フガ、大臣ハ如何ニ考ヘテ居ルカ、漁業法
第四十條ニ、漁業從事者ノ遺族扶助ニ關ス
ル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ムコトニ相成ッ
テ居リマスルガ、其勅令ハ漁業法實施後旣
ニ二十年ヲ經過致シテ居リマスルガ、今日
尙ホ未ダ發布サレテ居ラナイ現狀デアリマ
ス、農林大臣ハ是等ニ對シテ如何ニ御考ニ
ナッテ居ルカト云フコトヲ伺ヒタイノデア
リマス、若シ政府ニ於テ其勅令ヲ御發布ナ
サルノ御意思ガ近クニナイト致シマシタナ
ラバ、私ハ一步百步ヲ讓リマシテ、若シモ水
產會等ニ於テ遭難救濟ノ事業ヲ經營實施ス
ル場合ニハ、之ニ補助金ヲ與フルトカシテ
助成シテ欲シナイト思フガ、政府ハソレ等
ノ考マデモ持ッテ居ラナイノデアリマスル
カヲ伺ヒタイノデアリマス
次ニ本法ノ適用範圍ニ付テ伺ヒマス、本
法ハ漁船ノ大小ニ拘ラズ、其全部ニ適用ス
ルモノト解シテ宜イノデアリマセウカ、本
員ハ小漁業者保護ノ爲ニ、成ベク小型漁船ニ
重點ヲ置イテ欲シイト考ヘテ居ル者デアリ
マスルガ、其大小漁船ノ範圍ハ、ドウデア
ルカトト云フコトヲ伺ヒマス、次ニ漁船保
險組合ト漁業組合トノ關係ニ付テデアリ
マスルガ、本法ニ於テハ漁船所有者ヲシテ
保險組合ヲ設立セシムルコトトナッテ居ル
ノデアリマスルケレドモ、何故ニ旣存ノ漁
業組合ヲ利用スルコトヲ致サナカッタノデ
アルカ、其理由ヲ承リタイト存ジマス、次
ニ漁船保險組合ノ地區ニ付テハ、本法中
別段ノ制限ハナイヤウデアリマスルガ、其
限界ハドウスルノデアリマスルカ、又ハ地
區ニ拘ラズ業種別ノ組合ヲ認メル御方針デ
アリマスルカ、若シサウト致シマシタナラ
バ、其標準ヲ聽キタイト思フノデアリマス、
次ニ本法實施ニ關スル施設ニ付テ御尋致シ
マス、漁業保險制度ハ大局ニ於テ本員ハ適
切ナルモノト信ジテハ居リマスルガ、保險
組合ノ設立ヲ普及致シマシテ、之ヲ十分ニ
利用セシムルニハ、非常ノ努力ヲ要スルコ
トト思ハレルノデアリマス、政府ノ之ニ對
スル施設方法如何ヲ伺ヒタイト思フノデア
リマス
最後ニ伺ヒマスガ、先年漁業法ヲ改正シ
テ、漁業組合ガ經濟行爲ヲ爲シ得ルヤウニ
ナリ得マシタコトハ、漁業組合制度ノ刷新
デハアリマスルガ、併ナガラ最モ漁業組合
ニ必要ナル所ノ信用事業ヲ營ムコトガ出來
ナイノデ、漁業組合ハ、其資金ヲ得ル途ガ
ナク、十分ナル活動ガ出來得ナイノデアリ
マス、全ク畫龍點晴ヲ缺クノ憾ガアル如ク
本員ハ感ズルノデアリマス、政府ハ速ニ漁
業法ヲ改正シテ、漁業組合ガ信用事業ヲ營
ムコトノ出來ルヤウニスルコトガ、漁業組
合ノ經濟活動ヲ促スニ最モ必要ナル所爲ダ
ト本員ハ考ヘルガ、農林大臣ハ如何ニ御考
ニナリマスカ、尙ホ望ムラクハ進ンデ漁業
組合中央金庫ヲ設立シテ、サウシテ漁村ノ
金融改善ヲ圖ルコトガ全ク必要デアルト痛
感スル者デアルガ、之ニ對シテ如何ナル御
考ヲ持ッテ居ラレマスルカ、以上質問ハ甚ダ
簡單デアリマスルガ、御丁寧ナル御答辯ヲ
戴キタイト存ジマス(拍手)
(國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=50
-
051・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 高木君ノ御質
問ニ御答ヲ申上ゲマス、漁業用ノ燃油免稅
廢止ノ件ハ、高木君御承知ノヤウニ、一方
燃料國策ノ關係カラ、止ムヲ得ズアヽ云フ
コトニナッタ次第デアリマスガ、是ガ對策ト
致シマシテハ、御承知ノヤウニ來年度豫算
ニ二百万圓ヲ計上致シマシテ、漁業者ノ燃
料節約ノ施設ヲ講ズルコトト致シテ居ル次
第デアリマス、是ハ漁業者ニ對シマシテ
ハ、洵ニ御氣ノ毒ニモ考ヘマスケレドモ、
一方燃料國策ノ見地カラ致シマシテ、已ムヲ
得ザルコトト御諒承ヲ願ヒタイノデアリマ
ス、南洋漁業ノ發達ニ伴ッテ、鰹漁業ニ種々
ノ影響ヲ受ケテ居ルガ、是等ニ對スル統制
ノ方法ヲ考ヘタラバドウカト云フ問題デア
リマスルガ、此種ノ自由漁業ニ對シマシテ、
如何ナル統制ヲ加ヘルコトガ適當デアルカ
ト云フコトハ、是ハヤリ樣ニ依リマスト、
漁業ノ發展ヲ阻碍スルノ憂モアリマスノ
デ、餘程愼重ナル考究ヲ遂ゲタイト考ヘル
ノデアリマス、一體ニ水產業ガ世界第一ノ
地位ヲ占メテ居ルニ拘ラズ、水產政策ノ振
興上、マダ遺憾ノ點ガアルノデハナイカト
云フ御意見デアリマスガ、仰セノ如ク我國
ノ水產業ガ、全ク世界第一ノ地位ヲ占メテ
居ルコトハ、高木君ノ仰セノ通リデアリマ
シテ、此點ハ洵ニ私共喜ンデ居ル次第デア
リマスガ、尙ホ此水產業ノ重要性ニ鑑ミマ
シテ、政府ノ施設ニ於テモ出來得ルダケノ
力ヲ拂フベキモノデアルト信ジテ居ルノデ
アリマス、遭難者ノ遺族扶助ノ關係ニ付テ、
マダ附屬勅令ノ發布ガナイガト云フ御意
見デアリマスガ、如何ニモ其通リデアリマ
シテ、此問題ニ付キマシテハ、只今種々〓
究ヲ重ネテ居ル所デアリマス、次ハ漁船適
用ノ範圍デアリマスガ、是ハ高木君ノ御希
望ノヤウニ、小漁船ヲ主トシテ取扱ヒタイ
ト考ヘテ居ルノデアリマス、大漁船ニ付キマシ
テハ、必シモ此保險ニ依リマセヌデモ、
般ノ民營保險ニ依ッテ其途ガアル譯デアリ
マスカラ、今囘ノ計畫ハ主トシテ小漁船ニ
重キヲ置キタイト云フ考デアリマス、漁業
組合トノ關係ハ、漁業組合ハ保險組合ト
同樣ニ一ツノ法人デアリマスケレドモ、何
分ニモ保險事業ト云フ特殊事業ノ性質ニ鑑
ミマシテ、別種ノ組合ト致スコトガ適當デ
アルト考ヘマシテ、法制上ハ獨立ノ組合ト
致シマシタガ、實際ノ運用ニ於テハ、無論
漁業組合ト保險組合トハ脈絡相通ズベキモ
ノデアルコトハ申ス迄モナイコトデアリマ
ス、今囘ノ漁船保險ニ付テ業種別ヲ認メル
カト云フ御質疑デアリマシタガ、是ハ業種
別組合ヲ認メル考デアリマス、漁業金融ノ
問題ハ多年ノ宿題デゴザイマシテ、私トシ
テモ何等カノ解決ヲ致シタイト云フコトヲ
苦慮致シテ居ル問題デアリマス、今期議會
マデニハ遂ニ間ニ合ハナカッタ譯デアリマ
スガ、此問題ニハ相當ノ解決ヲ見ルヤウニ
努力ヲ致シタイト云フコトダケヲ、此處デ
ハッキリ申上ゲテ宜シイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=51
-
052・高木粂太郎
○高木粂太郞君 簡單デアリマスカラ此席
カラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=52
-
053・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=53
-
054・高木粂太郎
○高木粂太郞君 尙ホ御尋シタイ點モアリ
マスルガ、委員會ニ讓ルコトニ致シマシ
テ、私ノ質問ハ是デ打切ルコトト致シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=54
-
055・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 中村嘉壽君
〔中村嘉壽君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=55
-
056・中村嘉壽
○中村嘉壽君 漁業保險法案ノ提出ニ當リ
マシテ、私ハ政府當局ニ此案ニ關スルコ
ト、竝ニ水產業一般ニ付テ質問ヲ試ミタイ
ト思フノデアリマス、此法案ガ出來ルニ至
リマシタ徑路ハ、隨分長イ間ノ歷史ガアリ
マスノデ、コヽマデ揑チ上ゲタコトニ對シ
マシテハ、私ハ政府當局ニ感謝スル次第デ
ゴザイマスガ、尙ホ此案ヲ以テ滿足スルコ
トガ出來ナイノデアリマス、是ハ損失保險
ノ形ニナッテ居リマシテ、年々掛金ヲ出シテ
行ッテ、又新シクヤリ換へナケレバナラヌ、
斯ウ云フヤウナ風ニナッテ居リマスカラ、金
融ノ途ト致シマシテハ、效果ガ極メテ薄イ
ノデアリマス、私ハ之ヲ恰モ生命保險ノ如
〃、假ニ漁船ガ十箇年ノ存續期間ガアルト
スルナラバ、十箇年ノ間ニ總價額ノ一割ナ
リ八分ナリノ掛金ヲ出サセテ置イテ、丁度
養老保險ノ如ク、十箇年ノ後ニ若シ掛ケ通ッ
タナラバ、其八割ナリ或ハ全額ナリヲバ返
シテヤルト云フ方法ニスル御考ハナイカ、
斯クノ如ク致シマスト、是ガ擔保ニナッテ金
融ノ途モ付イテ行クノデアリマス、隨テ此
保險業ガ發達スルコトニモ非常ニ都合ガ好
イノデアリマス、サウ云フ御考ハナイカド
ウカ、今ナイト致シマシタナラバ、左樣ナ
方法ヲ御執リニナル御考ハナイカドウカト
云フコトデアリマス、今一ツハ、之ヲ民營
ニ爲サル御考ハナイカ、斯樣ナ仕事ハ民營
ニシタ方ガ、却テ發達スルノデハナイカト
私ハ考ヘテ居リマス、又斯ノ如キ組合ヲ
バ、アチラコチラ全國ニ何百モ作ルト云フ
コトハ、咄嗟ノ間ニハ中々困難ナコトデゴ
ザイマスルシ、相當ナ年限ヲ取ルコトデゴ
ザイマスカラ、先ヅ東京ニ一ツノ斯樣ナ組
合ヲ拵ヘテ、其東京ノ組合ニ對シマシテ
ハ、何レノ方面ノ人々モ參加ガ出來ルヤウ
ナ風ニナサル御考ハナイカドウカ、サウ云
フ風ニサレルコトヲ私ハ希望スルヤウナ次
第デアリマス、尙ホ只今高木君ノ質問ニ對
シマシテ、農林大臣ハ小サナ船ニマデ之ヲ
バ適用スル積リダト云フ御話デゴザイマシ
タ、日本ニハ約三十六万艘ノ船舶ガゴザイ
マス、其中ノ九割以上ト云フモノハ、十噸
以下ノ船デゴザイマシテ、是等ガ金融ノ途
ニ最モ困難ヲ感ジテ居ルノデアリマスル
ガ、往々ニシテ斯樣ナ金融ノ途ヲ講ズルノ
三、登簿シタモノデナケレバイカヌ
ト云フヤウナ、制限ガ置カレテ居ルノ
デアリマス、十噸以上デモ小サナ漁船ト
言ヘバ言ヒ得ルノデアリマスガ、不登簿ノ
船ニ對シマシテモ、之ヲ適用ナサル積リデ
アルカドウカ、其點ヲ明ニシテ戴キタイト
思フノデアリマス
漁船保險ニ付テハソレダケニ致シマシテ、
更ニ私ガ御伺致シタイト思ヒマスコトハ、近
來沿岸漁業ガ頻ニ荒廢サレマシテ、漁民ハ泣
イテ居ルノデアリマス、是ガ更生ノ爲ニハ、
政府モ多年御〓究ニ相成ッテ居ルコトデゴザ
イマスルガ、マダ其實ガ擧ッテ來ナイ、第一ニ
此途ヲ開カントスルノニハ、先程高木君ノ御
話ガアリマシタ通リニ、ドウシテモ金融ノ途
ヲ講ジテヤラナケレバナラヌ、農村モ勿論金
融ノ途ニ不自由ヲ感ジテ居リマスルガ、農
村ヨリモ更ニ一層不自由ヲ感ジテ居ルノガ
漁村デアリマス、唯彼等ハ沈默ノ抗議ヲシ
テ居ルダケデアッテ、外ノ人々ノヤウニ政府
ニ愬ヘルコトガ少イト云フガ爲ニ、之ヲ默ッ
テ見テ居ルト云フコトハ、極メテ不親切ナ
コトダト私ハ考ヘマス、昭和八年ニ漁業組
合法ガ改正サレマシテ、是ガ經濟活動ヲス
ルコトガ出來ルヤウニハ相成リマシタケレ
ドモ、先程高木君ノ言ハレタコトニモ含ン
デ居ッタト思ヒマスルガ、信用行爲ガ餘リ多
ク行ハレナイ、例ヘバ外ノ信用組合ハ貯金
ヲ預カルコトガ出來ルヤウニナッテ居リマス
ケレドモ、漁業組合ハ左樣ナコトガ出來ナ
イ、隨テ融通スベキ財源ヲ持タナイト云フ
コトニ相成ッテ居ルノデゴザイマスルガ、之
ニ對シテ適切ナ改正ヲ御加ヘニナル御考ハ
ナイカドウカ、之ヲ御伺シタイノデアリマ
ス
是ト關聯致シマシテ、過日モ豫算分科會
デ私ハ質問致シマシタガ、吾々ハ多年ノ間
中央金庫ノ設立ヲ要望シテ居ルノデアリマ
ス、併ナガラマダ政府ハ之ヲ設立ナサルマ
デノ運ビニ行ッテ居ナイヤウデアリマス、外
ニ何力之ニ代ルヤウナ金融機關ヲ作ルト云
フ御考ガアッテ、左樣ナ案モ御立テニナッタ
ヤウデアリマスケレドモ、是ハ吾々カラ考
ヘマスト云フト、適切ナ方法デゴザイマセ
ヌカラ、吾々ハ之ニ參加スルコトヲ止メマ
シタ、モット完全ナ金融ノ途ヲ作ッテ戴キタ
イト云フコトヲ要望シテ居ルノデゴザイマ
スルガ、此議場ニ於テ明確ナル御答辯ヲ私
ハ御願スル次第デアリマス
ソレカラ更ニ御尋申上ゲタイト思ヒマス
コトハ、近來日本ノ遠洋漁業ト云フモノハ、
非常ナ發達ヲ致シマシタ、北ニ、東ニ、南
ニ、非常ナ發達ヲシテ居リマス、北ニ於テ
ハ御承知ノ通リ鮭鱒ノ漁業ハ勿論ノコト、
捕鯨業ノ如キ、其他色々ナ漁業ニ於テ北ノ
方面ニ進出ヲシ、南ノ方面ニ於キマシテハ
貝類ヲ採リ、魚類ヲ獲リ、又最近長足ノ進
步ヲ致シマシタ捕鯨船ノ如キハ、非常ニ大
キナ船ヲ拵ヘマシテ、世界ノ水產國ト競爭
シテ居ル、南氷洋ニ於テ此數年ノ間少カラ
ズ努力ヲシテ居ルコトハ御承知ノ通リデゴ
ザイマスルガ、斯樣ナ南進ヲシ、北進ヲスル
ニ付キマシテハ、ソレ相當ノ機關ガ必要デ
アリマス、又ソレ相當ノ根據地ガ必要デゴ
ザイマスルガ、政府ハ斯樣ナ根據地ヲ御設
ケニナル御考ガアルカドウカ、若シ無イト
スルナラバ、之ヲバ作ルコトニ考ヲ致シテ、
促進シテ戴キタイト云フコトヲ私ハ希望ス
ルノデアリマス
ソレカラモウ一ツハ、水產物ノ輸出增進
ニ付テ、政府ハモット力ヲ御用ヒヲ願ヒタイ
ト云フコトデゴザイマス、日本ノ水產物ハ
近來有ユル國々ニ進出致シテ居リマス、今
カラ三十年以前ニハ僅ニ二三百万圓デアッ
タモノガ、今日デハ約三億圓ニ達シテ居リ
マシテ、是ガ進出ハ殆ド限リナク爲シ得ル
ノデアリマス、亞弗利加ニ、南亞米利加ニ、
南洋ニ、或ハ歐羅巴ノ方面ニ、容易ナラヌ
進出ヲシテ居リマスルガ、マダ此進出ハ之
ヲ以テ止リト致サズシテ、恐ラク之ヲ五倍
十倍ニ爲スコトハ、決シテ至難ナコトデハ
ゴザイマセヌ、農業、林業ニ至リマシテハ、
其開拓スベキ財源ガ、我ガ日本ニ於テハ限
ラレテ居リマスルガ、海洋ト云フモノハ、
殆ド限リナキモノデアリマシテ、玆ニ吾々
日本人ガ横行闊步スルコトハ極メテ自由デ
アル、而モ我ガ日本人ハ、海國男子ト致シマ
シテハ、稀ニ見ル勇敢ナル國民デアリ、而
シテ彼等ハ漁業ノ術ニ於テ、製造ノ術ニ於
テ、外ノ何人ニモ劣ラナイ技術ヲ持ッテ居ル
ノデアリマス、世界ノ水產額ヲズット擧ゲ
テ見マスト云フト、其數量ニ於テ統計ニ現
レタ所デハ、約二千万瓲ノモノガゴザイマ
スガ、其中ノ一千万瓲ト云フモノハ日本ガ
產出ヲシテ居ル、更ニ統計ニ現レタ所ノ水
產漁獲物ノ總額ト云フモノハ、約十六七億
圓デゴザイマスルガ、其中ノ統計ニ現レタ
日本ノ分ケ前ハ約三億四千万圓デゴザイマ
ス、併シ我ガ日本ノ如ク統計ノ不明瞭ナ處
デハ、僅ニ三億四五千万圓ニナッテ居リマス
ケレドモ、實際ノ數字ヲ考ヘテ見マスト云
フト、約十億ノモノガアルト私ハ信ジテ居
リマス、十億ノ產額ヲ持ッタモノハ、我ガ日
本ニ於キマシテハ米ニ次グモノダト私ハ信
ジテ居リマス、然ルニモ拘ハリマセズ、之
ニ對スル施設奬勵ト云フコトガ、極メテ〓
微タルモノデゴザイマシテ、吾々水產家ハ
非常ナ不滿ヲ感ジテ居ルノデゴザイマス
(拍手)限リアル領土ニ於テコンナ仕事ヲス
ルコトモ、一ツノ仕事デハゴザイマスルケ
レドモ、世界ノ何レノ國ニモ競爭相手ガナ
クシテ、サウシテ制限ヲ多ク受ケナイヤウ
ナ、詰リ弱イ處ニ盛ニ突進シテ行クコトガ、
戰ガ上手デアルト同時ニ、商賣ガ上手デア
ルノデアリマスカラ、ドウカ斯樣ナ攻擊シ
易イ處ニ、而モ平和的ニシテ、世界ノ色々
ナ人々ガ喜ンデ吳レル所ノ水產業ノヤウナ
モノニ、力ヲ盡シテ戴キタイト云フコトヲ
切ニ御願致シマスルガ、政府ハ左樣ナコト
ニ目醒メテオ居デデアルカ、而シテ之ニ對
シマシテハ相當ナ御努力ヲナサル御決心ガ
アリマスカドウデアリマスカ、之ヲ御伺致
シタイノデアリマス、ソレヲ爲スニ付キマ
シテハ、ドウシテモ外務當局トノ連絡ヲ能
ク取リ、商工當局トノ連絡ヲ能ク取リ、各
地ニ置カレテアリマス大使館、公使館、領
事館アタリニハ、水產ノ貿易事務官トデモ
申スベキ者ヲ置クコトガ適切デアルト私ハ
信ズルノデアリマス(拍手)斯樣ナコトニ政
府ハ考ヲ及ボシテオ居デデアルカドウカ、
此事ヲ御伺致シタイノデアリマス
更ニ私ガ政府ニ御伺致シタイト思ヒマス
コトハ-拓務大臣ハオ居デデアリマセヌ
ガ、次官ガオ居デデアリマスカラ伺ヒマス
ガ、先程高木君カラノ御話ニモゴザイマシ
タケレドモ、近來南洋方面カラ鰹節ガ我ガ
內地ニ盛ニ進出シテ來ル、一面カラ申シマ
スト云フト、大イニ歡迎シナケレバナラヌ
事デゴザイマスルガ、其爲ニ內地ノ漁業者
ハ非常ニ困難ヲ感ジテ居ルノデアリマス、
初メハ斯ノ如キ漁業ハ、盛ニ政府ガ奬勵ヲ
シタコトデゴザイマスルガ、今日デハ丁度
滿洲方面ニ、或ハ朝鮮ノ方面ニ、產米計畫
ヲ樹テタト同ジヤウナ風ニシテ、奬勵ヲシ
タ結果ハ、餘リニ多ク獲ッテ參リマシテ、サ
ウシテ濫賣ヲ試ミルヤウニナッタ、一體日本
內地ノ鰹漁業ノ產額ト云フモノハ、鰹節ニ
致シマシテ約十五万樽アル、此十五万樽ノ
モノガ產出サレマシテ、漸ク其漁業者達ノ
生活標準ト云フモノガ維持サレテ居ルノデ
アリマス、然ルニ今南洋カラ約是ガ三割四
割ニ相當スル所ノ四五万樽ノモノガ、年々
輸入サレ、移入サレルヤウナコトニ相成リ
マシタ、南洋節ト申シマスト云フト、元ハ
六掛カ五掛位デ賣レタモノデゴザイマスケ
レドモ、今日ハ恰好カラ申シマスト云フト、
南洋節ガドレデアルカ、土佐節ガドレデア
ルカ、靜岡節ガドレデアルカト云フコトハ
分ラナクナッテ來タ、味ニ於テ、品質ニ於テ
ハ、相當ナ懸隔ハアルノデアリマスケレド
モ、見テクレニ於テハ餘リ相違ガナイコト
ニナッタノデアリマス、故ニ場合ニ依ッテハ
南洋ノ鰹節ガ靜岡ニ來、鹿兒島ニ來、或
土佐ニ來マシテ、ソレ等ノモノト同ジヤウ
ニナッテ來ルガ、一方ニ於テハ此南洋節ハ
安ク賣ッテモ宜イト云フ傾向ガアリマスノ
デ、低イ安イモノニサレテシマヒマシテ、
內地ノ漁業者ハ遂ニ競爭ニ堪ヘラレナクナ
リマス、而モ一面ニ於テ南洋ノ鰹漁業者ガ、
ソンナラ儲カッテ居ルカト云フト中々儲カラ
ナイ、最初品物ガ違フノデ賣レナカッタモノ
ガ、是ト競爭スルニハ非常ナ努力ヲ必要トシ
マスカラ、其爲ニ非常ナ困憊ヲ來シテ居ルヤウ
ナ狀態デアリマス、今ニシテ是ガ統制ヲ圖ッテ、
日本ノ需要供給ヲ相一致セシメナケレバ、私
ハ內地ニ於ケル漁業者ト云フモノハ、悉ク倒
產シナケレバナラヌ狀態ニアルト信ズルノ
デアリマス(拍手)私ハ嘗テ樺太ニ蟹ガ獲レ
マシタ時ニ、其當時ノ當局ニ對シテ色々ナ
警告ヲ致シマシタ、何等統制ノ方法ヲ講ジ
ナイデ、何デモカンデモ漁業ヲ許スト云フ
コトニナレバ、濫獲ニ陷リ、遂ニ悉ク倒產
ヲ來ス結果ニナルデアラウト云フコトヲ警
〓致シマシタケレドモ、當時ノ政府ハ耳ヲ
之ニ藉サナカッタ、幾許モナク樺太ノ蟹漁業
ト云フモノハ、殆ド全滅ニ近イマデニ沒落
シタノデアリマス、又今問題ニナッテ居リマ
スル機船底曳漁業ニ致シマシテモ其通リデ
アル、奬勵ヲ致シマスル時ニ、適當ナ統制ヲ
加ヘテ置ケバ宜カッタノデゴザイマスルケ
レドモ、適當ナ統制ヲ加ヘナカッタ、許可ヲ
欲スル者ガアルナラバ、悉ク之ヲ許可ヲス
ルト云フヤウナコトデアリマシタカラ、遂
ニ今日デハ如何ニモドウニモ仕樣ガナクシ
テ、統制ヲシナケレバナラヌ羽目ニナッテ
來タ、統制ヲシヨウトスルト云フト、失業
者ヲ生ズル、之ニ國家ガ補償ヲシナケレバ
ナラヌト云フヤウナ面倒ニ直面シテ來ルノ
デアリマス、外ノコトニ對シテモ悉クサウ
云フヤウナコトガアルノデアリマスルカラ
〔議長退席、副議長著席〕
今ノ中ニ統制ヲシナケレバナラヌ、聞クガ
如クンバ、此南洋ノ鰹漁業ニ對シマシテハ
丁度近頃出來マシタ南洋拓殖會社ガ、某々
ノ會社ヲ買收致シマシテ、サウシテ是ガ統
制ヲ圖ラウト云フ計畫デアルト云フコトモ
聞キマスルガ、ソレガ事實デアルカ、事實
デナイカハ別問題ト致シマシテ、洵ニ是ガ
救濟ノ爲ニハ結構ナコトデゴザイマスルガ、
左樣ナコトヲ爲サルナラバ、某々ノ會社ニ
止マラズシテ、悉ク南洋方面ニアル所ノ鰹
漁業者ト云フモノ併合スルニアラズンバ、
更ニ之ヲ繰返シテ、將ニ倒レントスル所ノ
或ル會社ハ利益ヲ蒙ルコトガ出來ルケレド
モ、或ル會社ト云フモノハ是ガ恩典ニ加ハ
ラナイノミナラズ、遂ニ衰滅ヲ早カラシム
ルト云フ結果ニ相成ルノデゴザイマス、故
ニ私ハ此點ニ於テハ、拓務省ノ當局竝ニ農
林省ノ當局ハ特ニ注意ヲ御拂ヒニナリマシ
テ、後日噬臍ヲセナイヤウニ、良イ結果ヲ
齎スヤウニ御圖リ下サルヤウニ、切ニ御願
スル次第デゴザイマス
更ニ又私ハ玆ニ御願致シタイト思ヒマス
コトハ、近來我國ト比律賓トノ關係ハ益〓親
シク相成リマシテ、洵ニ比律賓ト云フ所ハ
我國ニ取リマシテハ、產業ノ上カラ申シマ
シテモ、其他色々ノ上カラ申シマシテモ、
重要ナル所デアリマス、吾々ハ數年後ニ至
リマシテ、比律賓ガ獨立シタ場合ニ於キマ
シテハ、今日ヨリモヨリ以上親善ノ實ガ擧
ラナケレバナラヌ、又是トハ今ノ中ニ交涉
ヲ始メナケレバナラヌト存ズルノデアリマ
スルガ、私昨年比律賓ニ行ッテ見マシテ、彼
等ノ間カラ聞ク苦情ノ最モ大キナモノノ一
ツハ斯樣ナコトデアル、臺灣ノ漁業者ガ比
律賓ノ沿岸ニ進出シテ來ル、領海外ニアッテ
彼等ガ漁獲ヲスルコト、若クハ平和的ニ入
リ込ンデ水ヲ取リ、食料ヲ取ルト云フコト
ハ差支ナイケレドモ、是等ノ漁業者ガ亂暴狼
藉ヲ働イテ、或ハ土人ヲ打擲シ、彼等ニ暴
行ヲ加ヘ、若クハ木ヲ伐ルト云フヤウナコ
トガアル、是ガ日比兩國ノ親善ヲ傷ツケル
コトハ少カラザルモノガアルト云フコトヲ
知ッタノデアリマス、之ニ對シテハ政府當局
ハ相當ノ考慮ヲ爲サルト云フ必要ガアルト
考ヘマスガ、ドウ云フヤウナ御考デアリマ
スカ、御伺致シタイノデアリマス
最後ニ私ハ政府ニ御伺致シタイト思ヒマ
ス、私ハ只今申上ゲマシタヤウニ、我ガ日
本ノ水產ハ全ク世界ニ冠絕スルモノガア
ル、其數量ニ於テ、世界ノ全產額ノ半バヲ占
メ、之ニ從事スル漁業者ノ數モ亦半バヲ占
メテ居ルノデアル、サウシテ漁業ニ限ッテハ
世界ノドノ國ニ對シマシテモ、吾々ガ先進
國ト誇ルコトガ出來、又水產物ノ販路ト云
フモノハ、何レノ國ニモ何等ノ排斥ヲ受ケ
ルコトナクシテ、進入スルコトガ出來ルト
云フ、斯樣ナ大キナ立場ヲ持ッテ居ル、此
大キナ立場ヲ持ッテ居ル者ガ、我ガ日本ノ當
局者ニ於テ、ソレ相當ノ施設ヲ施サレテ居
ナイコトハ、私ハ常ニ遺憾ト信ジテ居ル次
第デアリマス、私ハ常ニ水產省ト云フモノ
ハ、一ツ獨立シナケレバナラヌト云フノガ、
私ノ多年ノ理想デアリマス、併ナガラマダ政
府當局ハ勿論ノコト、國民全體ト雖モ、ソコ
ニ考ヲ及ボスマデニ進ンデ居ナイノハ、非
常ニ遺憾千萬ニ存ジテ居リマスガ、セメテ
私ハ今ノ農林省ト云フモノヲ農林水產省ト
爲サル御考ガナイカ、之ヲ御伺致シタイノ
デアリマス、我ガ日本ヨリモ產額モ遙ニ少
イ、社會的、經濟的ニ非常ニ少イ所ノ各國
ニ於テハ、旣ニ水產省トカ、或ハ漁業省ト
カ、獨立ノ省ガアルノデアリマス、英國ノ
如キ國ニ於キマシテモ、農林水產省ト云フ
モノガ一ツ出來テ居ルノデアリマス、我ガ
日本ガ斯樣ナル重要ナル產業ヲバ、本當ニ
認メテ居ナイト云フコトヲ、非常ニ私ハ遺
憾千萬ニ存ジテ居ルノデゴザイマスガ、山
崎農林大臣初メ-特ニ私ハ林總理大臣ニ
モ御伺シタイト思ッテ居ルノデゴザイマ
スケレドモ、林總理大臣ガ居ラレマセヌ
ノデ、已ムヲ得マセヌカラ、山崎農林大臣
ガ代ッテ御答ヲ下サッテモ宜イト思フノデア
リマス、卽チ農林水產省ト爲サル御考ガア
ルカドウカ、御考ガナイトスルナラバ、
ツ考慮シテ戴イテ、是非左樣ナ日ガ一日モ
近クナッテ、現實ニ日本ノ水產ト云フモノヲ
世界ニ知ラシムルノミナラズ、之ヲ立國ノ
基本ノ一ツトシテ戴カンコトヲ切ニ御願致
ス次第デアリマス(拍手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=56
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057・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 中村君ニ御答
ヲ上申ゲマス、保險期間ヲ一箇年トセズシ
テ長期ニシタラバドウカト云フ御意見デア
リマスガ、是ハヤハリ一箇年ガ相當デア
ル、普通ノ火災保險ト同樣ナ意味合ニ於キ
マシテ一箇年、斯ウ云フコトニ致シタ譯デ
アリマシテ、之ヲ長期ト致スコトハ、色々
ノ不便ガアリハセヌカト云フコトヲ恐レル
ノデアリマス
第二ハ、民營ニスルノ意思ガナイカト云
フ御問デアリマスガ、無論此法律ニ依ッテ民
營ヲ除斥致シテ居ル譯デハナイノデアリマ
スガ、實際問題トシテハ、小漁船等ニ付テ
民營保險、ハ事實行ヒ難イノデ、ソコデ之ニ
付テ國營ヲ立案ヲ致シタ譯デアリマシテ、
謂ハバ一種ノ簡易保險ミタイナ性質ノモノ
デアル譯デアリマス、次ノ御尋ガ一寸ハッキ
リ致シマセヌデゴザイマシタガ、高木君ニ
御答申上ゲマシタヤウニ、此制度ハ小漁船
ヲ主トシテ考ヘテ居ル、大漁船ハ、是ハ民
營保險デ宜イノヂヤナイカ、斯ウ考ヘテ居
ル譯デアリマスガ、或ハ御問ト少シ喰違ヒ
ガアルカモ知レマセヌガ、間違ッテ居リマシ
タラバ御訂正ヲ願ヒタイト思ヒマス
ソレカラ水產金融ノ問題ハ、中村君多年
御熱心ノ問題デアリマシテ、私共ハ此問題
ハ成ベク早ク相當ノ解決ヲ得タイト考ヘテ
居ルノデアリマシテ、出來ルタゲノ努力ヲ
拂ヒタイト存ジテ居リマス、ソレカラ北洋
漁業ナドノ根據地ヲ建設スル考ガナイカト
云フ問題デアリマスガ、是ハ御承知ノヤウ
ニ、從來カラ農林省トシテハ一ツノ案ヲ持ッ
テ居ルノデアリマス、アリマスガ、之ニハ
可ナリ多額ノ經費ヲ要スル關係モアリマシ
テ、マダ實現ノ〓ニ就イテ居リマセヌガ、何
等カノ方法ヲ以テ、少クトモ北洋漁業ノ根
據地問題ヲ解決スルノ途ハナイカト考ヘテ、
色々ノ苦心ヲ致シテ居ルノデアリマス
ソレカラ水產物ノ輸出增進ノ問題デアリ
マスルガ、是ハ中村君ノ仰セニナリマシタ
ヤウニ、我國トシテハ最モ發展ノ餘地ノア
ル問題デアリマシテ、殊ニ最近數年或ハ亞
弗利加デアルトカ、南米デアルトカ、或ハ
南洋海峽植民地其他ニ對シマシテ、水產物
ノ輸出ガ非常ニ增進ヲ見マシタコトハ、國
家ノ爲ニ幸慶ニ考ヘテ居ルノデアリマス、
是ハ益〓是ガ增進ニ政府トシテモ努力ヲ致シ
タイト考ヘテ居リマシテ、甚ダ小サイ施設
デアリマスガ、來年度ニ於テ多少斯樣ナ點
ニ役立チタイト云フ意味ヲ以テ、或ル計畫
ヲ致シテ居ルヤウナ次第デアリマス、ソ
レカラ南洋漁業ノ統制ト比律賓トノ關係ハ、
是ハ拓務省側カラ御答ヲ願ヒタイト存ジマ
ス、最後ノ農林水產省ト云フ名前ニ改メル
考ハナイカト云フコトデゴザイマスガ、是
ハ篤ト考究ヲ致シテ見タイト在ジマス(拍
手)
〔政府委員入江海平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=57
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058・入江海平
○政府委員(入江海平君) 拓務省關係ノ事
項ニ付キマシテ御答辯申上ゲマス、第一ニ、
遠洋漁業ノ發達ガ最近非常ニ目覺シクナリ
マシタノデ、之ヲ助成スル爲ニ根據地ヲ作
成スル必要ガアルト思フガ、政府ノ之ニ對
スル考ハドウカ、斯ウ云フ御質問ノヤウデ
アリマシタガ、北洋漁業ト云フコトニ付キ
マシテハ、只今農林大臣カラ御答ニナリマ
シタガ、南洋方面ニ於キマシテモ、御說ノ
通リ此方面ニ日本ノ漁業根據地ヲ作ルト云
フコトハ、最モ必要ナコトデアリマシテ、
最近各地ニ此漁業根據地ヲ作ルコトニ、拓
務省トシテハ盡力シテ居リマスノデ、現
ソレ等ノ方面ニ付テ相當ノ今成績ヲ擧ゲツ
ツアルト思ヒマス、次ニ南洋ニ於ケル漁業
ノ統制ニ對スル方針ハドウカ、斯ウ云フ御
質問デアリマシタガ、是ハ中村君ノ御說ノ
通リ全ク同感デアリマス、今日南洋方面ニ
於ケル漁業ガ非常ニ發達シマシテ、其結果
鰹漁業ノ如キモノハ、之ヲ節ニシテ內地ニ
移入スル、斯ウ云フ爲ニ內地當業者トノ間
ノ、ソコニ競爭モ起ルト云フヤウナ現象ガ
現レテ居リマスノデ、此點ニ付キマシテハ
十分注意ヲシマシテ、成ベク之ヲ加エシテ、
サウシテ罐詰ナリ何カニシマシテ、歐羅巴
ノ市場ニ出スト云フコトニ努メテ居リマス
シ、尙ホ此方面ニ付テハ、將來ニ於キマシ
テ色々考慮ヲ廻ラシテ居リマシテ、中村君
ノ御話ノヤウナ將來ノ統制ニ付キマシテハ、
出來ルダケノ考慮ヲ拂フ考ヲ持ッテ居リマ
ス、次ニ臺灣ノ漁業者ガ比律賓沿岸ニ出漁
シテ、ソレ等ノ者ガ偶〓-ヂヤアリマセヌ、
往々亂暴ヲ働イテ居ルト云フヤウナ噂ヲ聞
クガ、政府ハ之ニ對スル取締ノ方針ハドウ
カ、斯ウ云フ御質問ノヤウデアリマシタガ、
此事ニ付キマシテハ政府ノ方デモ斯ウ云フ
話ヲ聞クコトガアリマス、併シ是ハ色々取調
ベマシタ結果、詰リ公海ト領海ノ境ニ於キ
マシテ、往々紛擾ヲ來シクト云フヤウナコト
ガアルノデアリマシテ、此點ニ付キマシテ
ハ斯ル紛擾ガアルト云フコトハ、兎ニモ角
ニモ面白クナイコトデアリマスカラ、出來
ルダケ其方面ノ取締ヲ嚴ニシテ、斯ルコト
ノナイヤウニ注意ヲシテ居リマス、最近臺
灣總督府方面ニ於キマシテハ、成ベク漁業
組合トカ、同業組合トカ、斯ウ云フモノヲ
組織サセマシテ、サウシテ相互ノ統制、自
制ニ依ッテ、斯ル紛擾ハ避ケルコトニ努メ
テ居ルヤウナ次第デアリマス、以上ヲ以テ
私ノ答辯ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=58
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059・中村嘉壽
○中村嘉壽君 簡單デゴザイマスカラ、此
席カラ發言ヲ御許シ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=59
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060・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=60
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061・中村嘉壽
○中村嘉壽君 只今兩當局ノ御答辯ハ承リ
マシタガ、何レ他ノ機會ニ於テ詳細ハ論議
スルコトト致シマシテ、一ツ山崎農林大臣ニ
對シマシテ御答辯ヲ求メタイノデアリマス、
ソレハ漁港、船溜ノ復舊竝ニ是ガ完成ト云
フコトニ對シマシテ、特ニ御考慮ヲ願ヒタ
イノデアリマス、卽チアノ時局匡救ノ時代
ニ於キマシテ、漁港トカ、船溜ト云フヤウ
ナモノガ、ドン〓〓施設サレルヤウニ相成
リマシタケレドモ、其當時ハ總花的トデモ
申シマスカ、完成セナイデモ、半分トカ、
三分ノ一ダケ金ヲ出シテヤッテ、少シバカ
リ拵ヘテ居ルト云フ所ガアルノデアリマス、
是等ハ幾ラカ修築ヲサレタ爲ニ、其當時一
年カ二年カハ宜カッタガ、餘リヲ完了セナイ
ガ爲ニ、却テ害ヲナスト云フコトデ以テ、
漁業者モ困ッテ居ル所ガアルノデアリマス、
斯樣ナモノヲ成ベク速ニ、新シク作ルモノ
ハ別ニシテデモ、完成サレルコトヲ私ハ希
望スルノデアリマスルガ、政府ハ之ヲ完成
スルト云フコトヲ、只今此處デ御言明ヲ願
ヒタイト思ヒマスガ、如何デアリマス
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=61
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062・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 漁港、船溜ノ
問題ハ、大切ナ問題デアリマシテ、農林省
トシマシテハ、一兩年前カラ全國ニ亙ッテ相
當ノ調査ヲシテ居ルノデアリマス、私共ハ
出來レバ全體ヲ纏メタ一ツノ計畫トシテ、或
ル期間ヲ期シテ相當ノ完成ヲ圖リタイト考
ヘテ居リマスガ、其場合ニハ無論中村君ノ
仰セノ如ク、全ク新規ノモノバカリデナク、
旣設ノモノデ極メテ不完備ナモノヲ完成ス
ルト云フ計畫モ、當然包含シテ進メタイト
考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=62
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063・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 村岡吾一君
〔村岡吾一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=63
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064・村岡吾一
○村岡吾一君 私モ只今提案ニナッテ居リ
マスル漁船保險法案ニ付キマシテ、其內容
竝ニ政府ノ漁村ニ對スル認識、及ビ是ガ對
策ニ關シテ、一、二御尋ヲ致シタイト思フ
ノデアリマス、此法案ニ現レマシタ所ニ依ッ
テ、政府當局ノ漁村ニ對スル認識ヲ伺ヒマ
スルト云フト、如何ニモ其態度ガ冷淡デア
ル、恐ラク漁村ノ今日ノ窮狀ヲ、現內閣ハ
御承知デハナイノカトサへ思ハザルヲ得ナ
イノデアリマス(拍手)故ニ私ハ此案ヲ通ジ
テ現レタル當局ノ御意思ニ依リマシテ、果
シテ如何ナル根本對策ガアルカト云フコト
ヲ御尋致シタイノデゴザイマス、此法案ニ
依リマスルト云フト、成程此漁船保險法案
ハ多年ノ懸案デアリ、吾々政黨ニ於キマシ
テモ特ニ〓究ヲ致シ、又御承知ノ如ク本會議
ヲ通過シタコトモアル所ノ此事柄デアル、
デアリマスルカラシテ、此保險法案ヲ此度
現内閣ガ玆ニ御提案ニナッタト云フコトハ、
吾々ハ結構ニ存ズルノデアリマス、併ナガ
ラ之ヲ實施致シマシテ、此案ノ內容ニ依リ
マスルト、單ニ是ハ漁業家ニ對シテ相互保
險ヲヤラセルト云フコトニ止ッテ居ルノデ
アル、此事ニ關シテ政府卽チ國庫ハ何等出
捐ヲスルノデハナイノデアリマス、金ヲ出
シテ之ヲ助成サレルト云フヤウナコトニハ
ナッテ居ナイノデアリマス、諸君、今日ノ我
國ノ漁村ノ窮狀ト云フモノハ、實ニ申上ゲ
ヤウノナイ悲慘ナ狀態ニ陷ッテ居ルノデア
リマス、之ニハ色々原因ガアリマシテ、今
更之ヲ申上ゲル迄モアリマセヌガ、元々漁
業者、殊ニ此小漁業者デ申シマスレバ、船
ガ一艘アッテ丈夫ナ腕ヲ持ッテ居レバ、櫓ヲ
漕ギ、帆ヲ操ッテ生活ガ出來タノデアリマ
ス、所ガ近年ニナリマシテハ、小サイ漁船
デモ、之ニ對シテ發動機ヲ備ヘナケレバヤッ
テ行ケナイト云フコトニナッテ、發動機ヲ附
ケル、其金ガ少イカラ借金ヲ致ストカ、賴
母子ヲ取ッテ、辛ウジテ之ヲ附ケテ、他ノ者
ニ遲レザルヤウニ漁業ニ從事スルト云フヤ
ウナ有樣デアルノデアリマス、而シテ斯樣
ニシテ漁業ニ從事シテ、漁獲致シマシタ鮮
魚卽チ漁獲物ハ、ドウ云フ風ニ賣レルカト
申シマスルト、是ガ非常ニ安イノデアル、
是ハ近時地方ガ非常ニ疲弊ヲ致シマシテ、
殊ニ農村ガ疲弊ヲ致シマシタ結果トシテ、
魚ヲ買フ人ガ少イ、魚ガ賣レナイ、市場ニ
持ッテ參リマスルト、殆ド買主ノ方ノ意見デ
叩キ賣リデ買取ラレテシマフ、斯ウ云フノ
ガ實情デアリマスルカラシテ、益〓漁村ガ貧
乏ニナッタモノト私ハ思フ、又政治的ニ見マ
スルト、近時農村問題ハヤカマシイ、而シ
テ話ノ序ニハ農山漁村トカ、或ハ農漁山村
トカ言ウテ、農村ノ附合ヒニ漁村ト云フ名
前ヤ話ハ出マスケレドモ、實際ニ於テ行ハ
レルノハ、農村ノ味方ガ多數デアリマシテ、
漁村ノ味方ヲスル人々ハ少イ、其勢力ガ微
弱デゴザイマスルカラシテ、彼等ノ叫ビハ
政治ノ實際ニハ現レナイノデアリマス、只
今中村サンノ御話ノ中ニ、沈默ノ悲憤ト云
フ御言葉ガアリマシタガ、如何ニモ其通リ
デアリマシテ、比較的無學ナル彼等漁業者
ハ、愬ヘルニ所ノナイト云フヤウナ考ヲ以
チマシテ、悲憤ノ中ニ暮シテ居ルト云フノ
ガ、漁村ノ有樣デアルト私ハ思フノデア
リマス、只今モ御話ガゴザイマシタ如ク、
金融機關ニ付テ見マシテモ、外ノ方ニハ產
業組合中央金庫ノ如キハ早ク設ケラレ、又
昨年ハ中小商工業者ノ金庫モ作ラレタ、又
此議會ニ於テモ、恩給取リノ爲ニ恩給金庫
ト云フヤウナモノガ出來タケレドモ、漁村
ハ多年要求シテ居ルニ拘ラズ是ガ出來ナイ、
只今農林大臣ノ言明ニ依リマスルト、是ハ
近クヤルト云フヤウニ仰シヤッタト私ハ聽
イタノデアリマシテ、此點意ヲ强ク致シマ
シタガ、斯樣ニ多年唱ヘラレタコトガ今日
マデ實現シテ居ナイ、助成ノ方カラ申シマ
シテモ、農村ニハ各町村ニ技術員ノ補助ト
云フモノガ僅カナガラモアッテ、農業ノ指
導奬勵ノ一助ニナッテ居リマスルガ、漁村ニ
ハ左樣ナモノハ全然ナイ、又〓育ノ方カラ
見マシテモ、農村ニハ小學校〓員ヲ養成ス
ル師範學校ニモ農業ガ正科ニナッテ居ル、又
靑年學校ニハ〓員ノ養成機關ガアリマシテ、
各〓農業ノ指導ニ當ッテ居ルノデアリマス
ガ、漁業、水產ノ方面ニハ斯樣ナモノハ全
然ナイノデアリマス、更ニ經濟更生ノ方面、
近時地方農漁村ノ經濟更生ガ喧シク唱ヘラ
レマシテ、政府モ相當ナル力ヲ入レテ居ラ
レマス、ソレハ農村ノ方ニハ多少アリマス
ケレドモ、漁村ノ方ニ付テハ殆ドナイ、
本省ニ經濟更生部ト云フノガアルサウデア
リマスガ、此處ニ居ルノハ漁業方面デハ唯
囑託ガアルダケデ、專任者ハナイト云フヤ
ウニ私ハ聞イテ居ルノデアリマス、實ニ此
漁村ノ窮狀、漁民ノ生活ガ慘メデアルト云
フ有樣ハ、洵ニ氣ノ毒ナ狀態デアルノデア
リマス、隨テ國民生活安定ノ立前カラ申シ
マスナラバ、先以テ救濟ノ手ヲ伸べ、更生
ノ施設ヲ必要トスルノハ、此漁村デアリ、
小漁業者デアルト私ハ思フノデアリマス、
此度小漁業者ノ救濟ノ一助ト致シマシテ、
此法案ガ提案セラレマシタコトハ、只今申
シマシタ如ク、先ヅ結構ト申シテ差支ナイ
ノデアリマスルガ、中味ヲ見マスルト、唯
漁船ガ遭難ヲ致シタ場合ニ、其保險金ガ取
レル、斯ウ云フ一ツノ共濟組合ヲ作ラセ
ル、オ互ニ金ヲ出シ合セテ自家保險ヲヤラ
セルノト同ジコトデアリマシテ、ソレ以上
ニハ出ナイノデアリマス、一面ニハ又之ニ
對シテハ、政府ガ再保險ヲヤルト云フコト
デアリマスカラシテ、定メシ政府ガ何カ金
デモ御出シニナッテ、救濟デモサレルノカト
思ッテ、法案ヲ能ク調ベテ見マスルト何モナ
イ、政府ノ方デハ殆ド之ニ對シテハ金ヲ出
シテ居ラレナイ、ナイ所デハナイ、却テ組
合員ノ方ガ政府ヲ補助スルト云フヤウナ仕
組ニナッテ居ルノデアリマス、何故カト申シ
マスト、政府ガ管理スル所ノ再保險料ハ、
純保險料ノ外ニ附加保險料ト致シマシテ、
政府ノ再保險ニ要スル事務費マデモ加へ
テ、關係者カラ取ルコトニナッテ居ルノデア
リマス、セメテ此保險制度デ以テ漁村ヲ救
濟シテヤラウト云フ思召デアリマスルナラ
バ、其保險料ノ額ハ、所謂保險金ヲ支拂フ
所ノ出捐ヲ、所有者全體ガ負擔スルト云フ
意味ノ純保險料ダケハ出サセルニ致シマシ
テモ、之ニ要スル事務費、少クモ政府ガヤル
再保險ノ經費位ハ、國ガ持ツノガ當然デナケ
レバナラヌト私ハ思フ、然ルニ之ヲシモ組合
員カラ取ルト云フヤウナコトデハ、マルデ是
デハ恩惠ラシキ恩惠ニハナラヌト私ハ考ヘ
ルノデアリマス、私ハソコデ政府ニ御尋致シ
マス要點ハ、政府ハ一體現下ノ漁村ノ窮狀
ヲドウ御存ジデアルカ、又御存ジデアルト
致シマスルナラバ、是ガ對策トシテ如何ナ
ル方針ヲ御持チニナッテ居ルノデアルカト
云フコトヲ御尋シテ見タイノデアリマス、
尙ホ政府ハ此際此漁船保險法案ノ成立ニ付
キマシテハ、國庫ノ支出ヲ增額スルト云フ
カ、或ハ其他ノ低利資金ノ融通ト云フカ、
何カ方法ヲ設ケラレマシテ、漁船保險制度
ヲ通ジテ漁村ヲ救濟シ、其更生ノ〓ニ就カ
シムル御意思ハナイカト云フコトヲ、私ハ
第一ニ御尋シタイト思フノデアリマス
第二ハ、ヤハリ此漁村對策ニ關係ヲ致シ
マスル所ノ、漁業用燃料油ニ對シマスル所
ノ、輸入稅ノ賦課ノ對策ニ付テ、政府ノ御
所見ヲ御伺シタイノデアリマス、先刻高木
君カラモ一言御尋ガアリマシテ、政府ノ御
答モ承リマシタガ、私ハ今少シ此點ニ付テ
詳シク申上ゲマシテ、深ク政府ノ御留意ヲ
煩ハシ、且ツ適當ナル對策ヲ樹テテ下サル
御考ハナイカト云フコトニ付テ、御尋シテ
見タイト思フノデアリマス、政府ハ今囘關
稅定率法ヲ改正セラレマシテ、從來ハ無稅
デアッタ、無稅デ輸入セラレテ居リマシタ所
ノ燃料原油ニ對シ、新ニ一噸ニ付テ十圓三
十錢ノ課稅ヲシヨウ、斯ウ云フコトニセラ
レテ居ルノデアリマス、是ハ實ニ漁業者ニ
取リマシテハ、重大ナル負擔トナルノデア
リマス、此關係ヲ取調ベテ見マスルニ、昭
和十年度ノ漁業用ノ重油ノ消費量ト云フモ
ノハ、大凡四千八万噸ト云フコトニナッテ居
リマス、其中デ三十三万噸ト云フモノハ、
今迄無稅デ外國カラ輸入ヲセラレテ居ッタ
ノデアル、サウシテ殘リノ十五万噸ト云フ
モノハ、所謂內地カラ產出セラレル所ノ重
油ト、他ニ輸入重油ヲ原料トシテ精製セラ
レタ、其滓トデモ云ヒマスルモノガアルノ
デアリマシテ、斯樣ニ三十三万噸ト十五万
噸ト合セテ、四十八万噸ト云フコトニナッテ
居ルノデアリマス、今此輸入セラレマス所
ノ重油ニ、一噸約十圓ノ稅ガ課セラレルト
云フコトニナリマスルト、之ニ依リマシテ
三百三十万圓ト云フ重油ノ値段ガ高クナル
勘定ニナルノハ、是ハ當然デアリマス、輸
入稅ガ一噸ニ付テ十圓上ガレバ、油ノ値段
ガソレダケ高クナリマスルカラシテ、漁
ガ買フ此油ガ一噸十圓高クナル、隨テ三百
三十万圓ト云フ負擔ガ增ス、ソレノミデナ
イ、外ニ只今申シマシタ國產油其他ノ十五
万噸、此十五万噸ガ又輸入サレル重油ノ値
ガ上ルニ連レテ、同率ニ市價ガ高クナ
リマスカラ、此金額ダケデモヤハリ一噸
十圓トスレバ、十五万噸デ百五十万圓ニナ
ルノデアリマス、故ニ結局漁業者ノ負
擔ノ增加致シマスル金高ハ、約四百八十
万圓ノ巨額ニ達スルノデアリマス、卽チ政
府ノ收入ハ三百三十万圓ノ關稅ノ增加ニ依
ル收入ニ止マリマスケレドモ、內地ノ石油
業者ガ、所謂寢テ居ッテ、百五十万圓ノ利
益ヲ被ルト云フコトニナルト私ハ考ヘル
ノデゴザイマス、是ハ我國ノ漁業者ノ全體
カラ見マシタ〓數デゴザイマスルガ、更に
之ヲ漁業者各自ノ負擔關係ニ付テ調ベテ見
マスルト、昭和十年末ノ現在ニ於ケル所ノ
我國ノ發動機附漁船ト云フモノハ、其隻數
ガ五万七千五百六十四隻トナッテ居リマシ
テ、其總馬力ハ六十八万三千二百七十馬力
ト云フコトニナッテ居ルヤウデゴザイマス、
其中デ重油機關ヲ使ッテ居リマスル所ノ漁
船ノ馬力ハ五十四万八千四百三十馬力、全
體ノ約八割ニナッテ居ルノデアリマス、而モ
又此發動機附漁船ノ大キサヲ見マスト、只
今申シマシタ數字ノ中ノ約九割五分ニ當ル
所ノモノハ、實ニ二十噸未滿ノ細カイ漁船
デアルノデアリマス、所謂不登簿船ト言ハ
レマスル所ノ二十噸未滿ノ小サイ漁船デア
リマシテ、此小漁船ノ持主、ソレガ之ニ依ツ
テ一家ノ生計ヲ辛ウジテ立テテ居リマスル
所ノ貧乏漁師デアルノデアリマス、此漁船
一艘ノ重油消費量ハ、平均一箇年間ニ八噸
餘リト云フコトニナッテ居リマス、是ハ極メ
テ小サク見積ッタノデアリマスルガ、一噸ニ
付テ約十圓ノ油代ガ上ガリマスト、卽チ年
間ニ八十圓ノ負擔增加ニナル勘定デアリマ
ス、是ハ極メテ低ク見積ッタノデアリマス、
斯樣ニ小船一艘持ッテ漁ヲシテ、辛ウジテ生
活ヲ爲シ得ル所ノ小漁業者ノ負擔ニ、年額
八十圓ハ極メテ大ナル負擔ノ激增デアリマ
ス、而モ此負擔ノ激增ハ之ヲ他ノ方ニ轉嫁
スルト云フ途ガナイノデアリマス、今日ヤ
カマシク言ハレテ居リマスアノ乘合自動車
業者モ、非常ナ悲痛ナ叫ビヲ擧ゲテ居リマ
スガ、漁業者ニ於キマシテハ、此負擔ノ增
加ヲ他ノ需要者ニ轉嫁スルト云フ途ハ絕對
ニナイノデアリマス、又先刻申シマシタ漁
獲物ノ値段ハ買手次第デ決リマシテ、漁民
ノ方ハ唯買手ノ付ケル値段ニ盲從シテ賣捨
テルヨリ外ハナイ、殆ド朝ノ魚ガ晩マデ置
ケナイ、其場限リデ賣ッテシマハナケレバナ
ラナイ鮮魚ノコトデアリマスカラ、斯ウ云
フコトニナルノデアリマス、隨テ漁獲ニ要
スル油ガ高イカラト云ッテ、値段ヲ高ク賣ル
譯ニ行カナイ、ソコデ此負擔ノ增加ト云フ
モノガ、全ク漁業者ノ負擔ニ歸スルト云フ
關係ニナルノデアリマス、只今申上ゲマシ
タ如ク、今日我ガ國民ノ中デ一番貧乏シテ
居リマシテ、最モ悲慘ナル生活ヲシテ居リ
マスルモノハ小漁業者デアリ、漁村デアル
ト私ハ思フ、國民生活ノ安定ヲ期スル國策
ノ立前カラシマスナラバ、漁村ノ救濟、小
漁業者ノ救濟ト云フコトハ、眞先キニ著手
セラルベキモノデアルニ拘ラズ、現內閣ノ
今議會ニ提出シタル所ノ政策ノ結果、只今
ノヤウナ有樣デアリマスト致シマスナラバ、
實ニ疲弊困憊ニ陷リマシテ、僅ニ露命ヲ繋
イデ居ル所ノ漁民ノ懷中カラ、更ニ年額百
圓ニ近イ大金ヲ出サセルト云フコトニ相成
ルノデアリマシテ、サナキダニ生活不安ニ陷ッ
テ居リマス漁民ノ生命ヲ奪フガ如キモノデ
アルト言フモ過言デハナイト私ハ信ズル、
實ニ亂暴ト申シマセウカ、或ハ冷酷ト言ヒ
マセウカ、沙汰ノ限リデアルト言ハザルヲ
得ナイノデアリマス、假ニ他ノ生活ノ人ニ
考ヘテ見マシテモ、此漁業者ノ一年間ノ收
入ト云フモノハ四百圓カ五百圓、假ニ四百
圓トシテ、百圓近イ負擔ノ增加ハ一一割ノ減
收デアリマス、月給取ニ付テ考ヘテ見マス
ト、月四十圓、五十圓ノ月給ヲ取ル人ハ殆
ド問題デナイ、月給取ト云フ仲間ニ入ラナ
イヤウナ部類ニ屬スル人デアリマスガ、其
月給カラ年間百圓近イ所ノ減俸ヲスルト云
フコトデアリマス、果シテ之ガ言ヒ出セル
コトデアラウカドウカト云フコトヲ私ハ考
^^私ハ斯樣ナ亂暴ナ政治ヲ平然トシテ
行ハントセラレマスル所ノ現內閣ノ眞意ヲ
解スルニ苦シムモノデアリマス(拍手)政府
ハ此點ニ付テハ、是ハ國防上ノ必要カラ燃
料國策ノ爲メデアルト、斯ウ云フ風ニ言ハ
レルノデアリマス、國防ノ爲メ、殊ニ海軍
ノ問題ノ爲ニ、燃料ヲ保有スル爲ニ、此燃
料政策ヲ樹テルコトハ固ヨリ必要デゴザイ
マセウガ、ソレガ爲ニ生ズル所ノ此負擔デ
アリマスナラバ、是ハ全國民ガ負擔スベキ
モノデアル、國民全體ガ各〓其分ニ應ジテ
捧ゲルト云フノガ、國防費ノ本質デアルト
私ハ考ヘマス、然ルニ貧乏漁師ノミカラ大
金ヲ取ルト云フノハ、斷ジテ宜シクナイト
考ヘマス、或ハ是ハ燃料國策ノ關係ガアッテ、
農林大臣ニ直接御關係ガナイト云フ御考ガ
アルカ知レマセヌガ、私ハ左樣ニハ考ヘナ
イノデアリマス、燃料國策ノ爲ニ此輸入稅ノ
免稅ガ出來ヌ、新ニ此稅ヲ賦課シナケレバナ
ラヌト云フコトニナルトシテモ、漁業家ノ負
擔增加ヲ防グ所ノ方法ハ自ラ又アルデハナ
イカト思フ、差當リ先刻モ申シマシタヤウ
ニ、此輸入關稅ノ增加ニ依ッテ、輸入セラレ
ザル油ノ値上リニ依ル所ノ、所謂不勞所得
トデモ申シマセウカ、其金ダケデモ百五十
万圓モアルト云フ道理ニナルヂヤアリマセ
ヌカ、政府ガ燃料國策ノ立前カラ關稅ヲ上
ゲル、關稅ヲ課ケルト、其反射作用トシテ、
一面ニ斯樣ナル不合理ナル結果ガ生ズルト
致シマシタナラバ、之ヲ政府ノ力ヲ以チマ
シテ、漁業者ノ救濟ニ振向ケルト云フコト
モ、其親切ガアレバ出來ナイコトハナイト私
ハ思フ、近時所謂流行ノ產業統制トカ、統制
經濟トカ言ハレマスガ、國防上ノ必要カラ、
國家ガ其權力ヲ以テ適當ノ統制ヲ加ヘテ、
燃料國策ノ爲ニ今後立テントスル方策ニ對
シテノ色々ノ施設ハ宜シイガ、其爲ニ既ニ
アル所ノ製油業者、石油業者ガ此餘波ニ依ッ
テ、不當ニ假ニ百五十万圓モ收入ヲ增スト
致シマシタナラバ、其反面ニ於キマシテ、
非常ニ苦シム所ノ哀レムベキ漁業者ノ生ズ
ルコトヲ考ヘ、之ニ對シテ之ヲ振向ケルト
云フコトハ、私ハ眞ニ出來ナイコトデハナ
イト考ヘマス、殊ニ此新タナル林內閣ハ經
濟問題ニ付キマシテモ、急激ナル變化ハ防
ガナケレバナラヌト云フ御方針ノ下ニ、例
ヘバ稅制ノ如キニ於テモ、前內閣ノ急激ナ
苛酷ナ部分ヲ御除キニナッタ、是ハ私個人ト
シテハ結構デアルト思フ、經濟界ノコトハ
中々一朝一夕ニ机ノ上デ變革スベキデナイ
カラシテ、急激ナコトヤ、苛酷ナコトハシ
ナイガ宜イ、無理ハシナイガ宜イト云フノ
ガ原則デアルト私ハ思フノデアリマシテ、
其點ニハ我々ハ同感デアリマスガ、サウ云
フ原則ノ下ニ立ッテ居ル現內閣ガ、一面ニ於
テ斯樣ナル急激モ急激、實ニ悲慘ナル結果
ヲ生ズル政策ヲ平然トシテヤラレルト云フ
コトハ、現內閣ノ御方針ニモ反スルコトデ
アルト思フノデアリマス、或ハ農林當局ノ
說明ニ依リマスト、成程其點ハ氣ノ毒ダ、
ソコデ此點ニ付テハ本年ノ豫算ニモ二百万
圓程漁村振興ニ對スル經費ヲ計上シテ居ル
積リデアルカラ、多少ノ埋合セヲ付ケテヤッ
テ居ルデハナイカ、斯樣ナ御話ガアルノデ
アリマス、只今モ大臣ヨリサウ云フ御話ガ
アリマシタガ、ドウ云フコトガアルカト私
ハ承ッテ見マスト、農林省ノ豫算ニハ成程前
內閣ノ二百五十万圓ノ豫算ガアル、ソレガ
五十万圓削ラレテ、二百万圓ト云フモノガ
アルノデアル、其二百万圓ノ使途ヲ見マス
ト、漁業用ノ發動機ノ改善ノ費用、卽チ「デー
ゼル」化、或ハ燒玉化、約百四十六万圓ノ
經費ヲ之ニ充テルト云フ御方針ダサウデア
リマスガ、是ハ我國ノ所謂燃料國策ノ立前
カラ致シマシテ、機械ヲ改善シテ油ヲ餘リ
澤山食ハナイヤウニ、燃料ノ節約ガ出來ル
ヤウニ機械ヲ改善シテ行クト云フコトデ、
是カラ先キ十年モ掛ッテボツ〓〓ト漁業用
ノ發動機ヲ改良シテヤラウ、ソレニ要スル
費用トシテ之ヲ計上致シテ居ルノデアリマ
ス、ソレモ結構デアリマセウ、之ヲ眞ノ燃
料國策ノ立前カラオヤリニナルノモ結構デ
ゴザイマセウケレドモ、之ヲヤラレルト云
フコトニ依テ、目ノアタリ增加致シマス所
ノ漁業者ノ負擔ノ助成ニハ全然ナラナイノ
デアリマス、私ハ將來ノ燃料油ノ節約問題
ヲ論ズルニアラズシテ、刻下ノ急務デアリ
マス所ノ、漁業者ノ負擔加重ニ對スル問題
ニ付キマシテ、如何ニモ憂ヘテ居ル者デア
ルノデアリマス、而モ此發動機ヲ改善スル
ト申シマシテモ、其費用ノ僅ニ三分ノ一ダ
ケヲ政府ガ補助シヨウト云フノデアッテ、ア
トノ三分ノ二ハ漁業者自ラ負擔シナケレ
バナラヌガ、今日ノ漁村ニ於テ、ヤレ油ガ
澤山消費サレルカラト云ッテ、一時ニ此機械
ヲ改善シテ、消耗品ヲ節約スルト云フヤウ
ナ、改善ノ資金ガアリマセウカ、是ハ洵ニ
不可能ナルコトデアルト私ハ思フノデアリ
マス、出來ルト致シマシテモ、其實施ハ洵
ニ徐々ニヤラナケレバナラヌ、今日機械ヲ
製造スル鐵工場ハ仕事ガ一パイデ、餘リ儲
カリモシナイ漁業用ノ發動機ナドヲ造ルヤ
ウナ暇ハナイト云フ風ニ、吾々ハ聞カサレ
テ居ルノデアリマス、私ハ現內閣ト致シマ
シテ、斯樣ナ結果ニ依ル所ノ、此漁船ノ不
當ナル壓迫ヲ排除スル爲ニ、適當ナ御方針
ヲ御立テニナル必要ガアルト思フノデアリ
マスガ、御所見ヲ御伺シタイノデアリマス
尙ホ法案ノ內容ニ付キマシテ、或ハ此保
險會社ノ監督ノ方針トカ、所管トカ云フコ
ト、及ビ再保險料ノ金額等ニ付テ、詳シク
御尋致シタイト考ヘタノデアリマスガ、斯
樣ナル微細ナル點ハ、何レ又他ノ機會ニ讓
リマシテ、只今申上ゲタ二ツノ重要ナル點
ニ付テ、政府ノ御所見ヲ御尋スル次第デア
リマス(拍手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=64
-
065・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 今囘ノ漁船保
險ノ經營方法ニ付テ、國ノ負擔ガナイデハ
ナイカト云フコトヲ仰セニナッテ居ルヤウ
デアリマスガ、是ハ豫算ニ能ク目ヲ御通シ
願ヘバ分リマスガ、特別會計、卽チ此再保
險ノ特別會計ニ對シマシテモ、一般會計ヨ
リ若干ノ繰入ヲ爲ス仕組ニナッテ居リマス
シ、更ニ又一般會計ニ於キマシテ、漁業保
險組合ニ對シテ、設立ノ費用、或ハ事務遂
行ニ要スル費用ニ對シ、若干ノ補助ヲ出ス
ト云フコトニナッテ居ルノデアリマス、無論
此漁村ノ狀態ニ付テ認識ガナイト云フ御話
デアリマシタガ、私共ハ認識ハ持ッテ居ル積
リデアリマス、今日我國ノ漁村ノ狀態ニ對
シマシテハ、政府トシテ種々考ヘタイ點ハ
アルノデアリマス、唯斯樣ナ保險ノ制度ト
云フヤウナモノニ付テ、之ヲ國ガ當然負擔
セナケレバナラヌト云フ御考へ方ハ、ドウ
デアラウカト思ヒマス、大災害トカ、其他
ノ場合ニ於テハ、是ハモウ當然國ガ負擔ヲ
致シマシテ救濟ノ任ニ當リマスガ、セメテ
ハ普通ノ場合ニ於ケル小災害等ニ付キマシ
テハ、是ハ相互保險ヲ立前トシテ、サウシ
テ國ガ之ヲ或ル程度ニ支援スル、此程度デ
參リマスト云フコトハ、是ハ私ハ決シテ理
解ノナイヤリ方トハ考ヘナイノデアリマ
ス、尙ホ農村ニ比較シテ、或ハ技術員ノ問
題或ハ經濟更生ノ問題等ニ付テ、漁村ヲ
非常ニ冷遇シテ居ルノヂヤナイカト云フ
御意見デアリマシタガ、今囘技術員設置ニ
關スル三百万圓ノ計上ヲ致シテ居リマスル
ガ、其中ニハ無論漁村關係モ包含致シテ居
ルノデアリマス、更ニ經濟更生ニ付キマシ
テハ是ハ漁村ヲ決シテ除外ハ致シテ居リ
マセヌ、特別更生施設ニ於キマシテモ、昨
年指定シタ中ニハ若干漁村ガ入ッテ居ル筈
デアリマス、現ニ私共ノ承知シテ居ル村デ
入ッテ居ル村モアルノデアリマシテ、是ハ決
シテ漁村ヲ除外スルトカ、或ハ冷淡ニ取扱ッ
テ居ルトカ云フ譯デハアリマセヌ、又燃料
問題カラ起リマスル稅ノ改正ノ問題ハ、是
ハ前內閣ニ於キマシテ、燃料國策ノ見地カ
ラ樹テラレマシタ關係デアリマシテ、只今
ノ內閣トシマシテモ、是ハ燃料國策ノ大キ
ナ見地カラ、已ムヲ得ザルコトデアルト認
メテ居ル譯デアリマシテ、サリトテ漁業者
ノ蒙リマスル不利益ハ、是ハ村岡君ノ御心
配ニナリマスヤウニ、甚ダ氣ノ毒ニ考ヘル
ノデアリマスカラ、セメテハ其損害ヲ輕減
スルガ爲ノ一ツノ對策トシテ、當分年々二
百万圓餘ノ金ヲ政府カラ支出ヲシテ行カ
ウ、斯ウ云フ考ヲ持ッテ居ル譯デアリマス
ガ、無論是デハ十分デナイト云フ御疑ハ、
是ハ御無理デナイト思ヒマスガ、此問題ハ
直接保險ノ問題ト關係ノアル問題モゴザリ
マセヌカラ、尙ホ又今日ハマグ三人バカリ
御通〓ガアル譯デアリマシテ、私共ハ漁村
ノ爲ニ成ベク早ク此法律案ノ成立ヲ希望致
シマスカラ、只今ノ燃料問題ニ關スル應答
ハ、他ノ機會ニ御讓リヲ願ヒタイト存ジマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=65
-
066・村岡吾一
○村岡吾一君 此席ヨリ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=66
-
067・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=67
-
068・村岡吾一
○村岡吾一君 大臣ノ御答辯デ大體諒承ヲ
致シマシタガ、燃料問題ニ關スル點ニ付キ
マシテハ、何卒政府トシテ一段ノ御考慮ヲ
願ヒタイ、卽チ燃料問題ノ爲ニ、一面ニ於
テ得ヲスル者ガアリ、一面ニ於テハ本件ノ
漁業者ノ如キ損ヲスル者ガアル、之ヲ政府
ノ力デ調節ヲシテ戴キタイト云フコトヲ、
私ハ强ク希望ヲ致シマシテ私ノ質問ヲ終リ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=68
-
069・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 松尾四郞君
〔松尾四郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=69
-
070・松尾四郎
○松尾四郞君 私ハ只今上程ニナッテ居リ
マスル、日程第四ニ揭ゲラレテアル森林火
災國營保險法案ニ付テ質問ヲ致シタイノデ
ゴザリマス、歷代ノ內閣ニ於キマシテハ、其
政治上ノ恩惠ヲ受クルコトハ、常ニ都會ニ
厚ク農村ニ薄イノデゴザリマス、更ニ山村
ニ對シマシテハ稀薄ナ程度デアリマス、殊
ニ現內閣結城財政ニ於キマシテハ、此不公
平ガ最モ露骨ニナッテ居ルノデゴザリマス、
卽チ前內閣馬場財政ニ於テ、此都會ニ厚ク
農村ニ薄キ秕政ヲ一新セントシテ、地方財
政交付金二億二千万圓ヲ計上セラレタモノ
ヲ、七千万圓ニ減額サレマシタ、而モ一
億五千万圓ヲ地方ヨリ取戾スト云フ、正
ニ庶政一新ノ逆行ヲ圖リ、庶政一新ノ方向
轉換ヲヤリ掛ケタ、最近ニナリマシテ議會
ノ要求ニ依ッテ、相當額ノ增額ヲ見ル話
合ヒガ付イタヤウデアリマスガ、此問題
ニ付キマシテハ今ヤ輿論ハ囂々トシテ沸騰
シテ、地方ノ農山村ニハ激昂忿懣ノ聲ガ
滿チテ居ルノデゴザイマス、此都會內閣ノ
下ニ、吾々山村民ノ最モ要望致シテ居リ
マシタ、森林保護政策ノ一ツデアリマス
本案ヲ御提出ニナル迄ニ、山村經濟ニ認識
ヲ持タレ、關心ヲ拂ハレマシタコトニ付キ
マシテハ、私ハ質問ニ入ルニ先ダチマシテ、
山村民ニ代ッテ農林當局ニ對シ敬意ヲ表シ、
且ツ感謝ヲ致スモノデゴザリマス、數年前
ヨリ深刻ナル不況ニ遭ハレマシタ山村ハ、
負債ノ償還ト生活ノ資金ニ窮シマシテ、森
林ノ伐採ガ相繼イデ起ッテ居ルノデゴザリ
マく、荒野ガ各所ニ增シテ行クノ慘狀ヲ呈
シテ居リマス、是ハ固ヨリ我國一般經濟界
ノ不況ヨリ蒙ッタ影響デアルコトハ勿論デ
アリマスガ、此不況ヨリシテ大林業家ノ倒
產シタルモノガ澤山出テ參ッタコトモ、一ツ
ノ原因デアリマス、又近頃相續稅及ビ所得
稅等ノ租稅ノ增徴ノ爲ニ、稅金調達上已ム
ヲ得ズ伐採ヲ致シタコトモ、大ナル原因デ
アルノデアリマス、隨テ此木材ノ伐採ガ多
クナリマシテ、木材ノ供給過剩トナリ、價
格ガ段々暴落致シマス、價格ガ暴落シ、稅
金調達ノ爲ニハ、一定ノ金額ニ達スル迄ハ、
其木材ヲ賣却セナケレバナラヌノデアリマ
ス、段々容量ヲ多ク伐採スル、スレバスル
程價格ハ暴落スル、斯ウ云フ狀態デ、今日
ハ山村ハ非常ニ困難ヲ致シテ居ル狀態デア
ルノデアリマス、今日ニナリマシテモ他ノ
物價ハ騰貴致シマシタガ、木材ノ價ハ他ノ
物價ニ比較シマシテ餘リ騰貴ハ致シテ居リ
マセヌ、過般ノ彼ノ急激ナル物價騰貴ヲ見
タ時ニモ、勿論軍需工業トハ全然緣遠イモ
ノデアルコトモ原因デアリマスガ、僅少ノ
騰貴ヨリ致シマシテ居リマセヌ、ソレガ爲
ニ負債ノ償却ハ意ノ如クナラズ、山村民ノ
窮乏困憊ハ益〓甚シイ狀態ヲ續ケテ居ルノデ
ゴザリマス、此狀態ガ續キマスニ於キマシ
テハ、植林スル者ガ無クナリ、造林者ガ無
クナッテ參リマシテ、何十年カ向フデ需要ガ
增シテ參ッタ時ニハ、今度ハ大不足ヲ告ゲル
ト云フコトノ心配ガ起ルヤウナ狀態デアル
ノデアリマス、森林ハ御承知ノ通リ其成育
ニ數十年ノ年月ヲ要シマス、大抵ハ其植林
家ノ孫子ノ代ニナッテ伐採ガ出來ルト云フ、
長イ年月ヲ要スルモノデアリマスカラ、不
足ヲ〓ゲタカラト言ッテ急ニハ間ニ合ハナ
イノデゴザリマス、是ニ於テ森林政策ト云
フモノハ、遠キ慮ヲ以テ其政策ヲ樹立シナ
ケレバナラヌノデゴザリマス、此點ヨリ考
ヘマシテ造林ヲ容易ナラシメ、且ツ林業ノ
振興ニ資セントスル本案ヲ御提出ニナリマ
シタ其趣旨ニハ、頗ル贊成ヲ致スノデアリ
マス、私ハ本案ニ贊成ヲ致シマスガ、次ノ
三點ニ付テ極簡單ニ、重要ナル點デアリマ
スカラ御質問ヲ致シタイノデゴザリマス
其第一點ハ保險料ノコトニ付テデアリマ
スガ、本案ノ保險ノ目的物ハ、二十年生以
下ノ幼齡林デアルコトガ、此案ノ特徴ト
ナッテ居ルノデゴザイマス、森林火災ハ農林
大臣ノ御說明ニモアリマシタ通リ、二十年
生以下ノ幼齡林ニ最モ多イコトハ統計ノ示
ス所デアリマス、危險率ガ多イ爲ニ民間ノ
保險會社ハ、十年生以下ノモノニハ全ク契
約ヲ致シマセヌノデス、契約ヲシテ吳レナ
イ、ソコデ此危險率ノ多イ造林家ノ惱ミヲ
助ケテ、林業ヲ發達セシメヨウト云フノガ
本案ノ狙ヒ所デアリマシテ、私ハ此最モ造
林家ノ惱ミヲ助ケテ下サルト云フ點ニ對シ
マシテハ、實ニ狙ヒ所ガ宜イト考ヘテ居ル
ノデアリマスルガ、危險率ガ多イト云フコ
トハ、保險料ニ大關係ヲ持ッテ來ルノデゴ
ザイマス、自然保險料ガ高率ニ決メラレル
ノデナイカト云フコトヲ憂慮致スノデゴザ
イマス、植林家ノ此造林事業ト云フモノハ、
實ニ切リ詰メラレタ採算ニ依ッテヤルノデ
ゴザイマシテ、植林後二十年位マデハ修理
經營ニ費用ガ要スルノミデ、收入ハ殆ド全
クナイノデアリマス、而モ資金ノ涸渴シテ
居ル山村ニ於キマシテハ、現金ヲ支出スル
コトハ非常ニ困ルノデアリマス、保險料ガ
高ケレバ申込ム者ガ困難スルノデアリマス
カラ、殆ド申込者ハナイト云フヤウナ狀態
ニナルノデハナイカト云フコトヲ心配致ス
ノデアリマス、然ルニ此法案ハ特別會計ニ
依ッテヤルト云フコトデアリマスカラ、政府
ニ於テ負擔ヲセザルヤウナ立前ノヤウデア
ルノデアリマスガ、其點ニ對シテ如何ナル
御考ヲ持ッテ居ラレルノデアリマスカ是
ハ相當額ノ補給ヲセナケレバ、ドウシテ
モ保險料ヲ高クセナケレバナラヌ、保險
料ガ高クナレバ申込者ハナクナル、遂ニ本
案ノ趣旨ニ副ハナイ結果ニナルト云フコト
ヲ惧レルノデアリマス、ソコデ私ハ此保險
料ノ決定ニ當リマシテハ、危險率ト云フコ
トヲ考ヘズニ、山村造林者ノ經濟狀態ニ卽
スルヤウニ、極メテ低廉ナル料率ニシテ貰
ハナケレバナラヌト云フコトヲ念願致ス者
デアリマスガ、之ニ對シマシテ政府ニ於キ
マシテハ、相當補充金ノ負擔ヲセナケレバ
到底不可能ノコトト相成リマスルカラ、此
點ニ對シマシテ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイノ
ガ第一點デゴザリマス
第二點ニハ保險金額ノコトニ付テ御伺致
シタイト思フノデゴザリマス、是ハ第十條
ニ定メテアリマシテ、勅令ヲ以テ定メルト
云フコトニナッテ居リマスガ、是ハ大變本案
ニ對シテ關係ヲ持ッテ居リマスカラ、特ニ御
尋ヲ致シテ置キタイ、又希望モ申上ゲテ置
キタイノデスガ、保險金額ハ低イ標準ニ決
メテ置クコトハ、保險ノ點カラ申シマスト、
至極安全デアルノデアリマスガ、本案ノ目
的ハ再造林ヲ容易ナラシメル、再ビ植林ヲ
出來ルヤウニシテヤル、斯ウ云フコトガ其
目的デアリマスカラ、少クトモ再造林、再
ビ植林ノ出來ルト云フコトノ費用ヲ見積ル、
卽チ實費ヲ見積ルコトガ最小限度トナッテ、
其上ニ若干ノ金額ヲ加算セラレルモノト思
フノデアリマス、然ルニ一面幼齡林ノ賣買
價實際ノ値ト云フコトニ付テ考ヘテ見マ
スルノニ、植林ノ實費ト云フモノヨリ低廉
ナ場合ガ多イ、實際植林ヲシタ本當ノ植林
ノ實費ヲ要シタ値ヨリモ、相當ナ年數ガ經ッ
テカラ賣買ヲスル時ニ、其實費ヨリモ安イ、
是ハ山村民ノ非常ナ惱ミデゴザイマシテ(拍
手)折角長イ苦心ヲシテ、節約ニ節約ヲシテ、
サウシテ造上ゲタ植林ガ愈〓賣買ヲスルト云
フ時ニナルト、勞力ノ如キハ殆ド値ニ見ラ
レナイノデス、サウ云フ場合ガ多ク實際問
題トシテアルノデゴザリマシテ、此幼齡林
ト云フモノヲ資金ニ換ヘル、卽チ換金スル
ト云フコトハ非常ニ困難ナ仕事デアリマス
カラ、ソコデ若シ幼齡林ヲ以テ保險ヲ掛ケ
テ居ルモノガ惡心ヲ起シマシテ、其保險ヲ
掛ケテ居ル幼齡林ヲ燒イテシマフト云フヤウ
ナコトガ出來タナラバ、其時是ハ罪ヲ犯シ
テ惡イコトデハアリマスケレドモ、確ナ金
ガ手ニ入ルコトガ出來ル、保險金ヲ詐取ス
ルヤウナコトハ考フベキデハアリマセヌガ、
ヨク借家人ガ自己ノ動產ダケヲ火災保險ニ
掛ケテ置イテ、サウシテ故意ニ火ノ始末ヲ
惡クシテ、保險金ヲ取ルト云フヤウナ場合
モ往々ニシテ見受ケルコトデアルノデアリ
マス、ソコデ幼齡林ヲ以テ資金調達ノ爲ニ
ハ、或ハ火始末ヲ故意ニ怠ルト云フヤウナ
コトガ起リ得ルト云フコトハ、今日ニ豫想
シテ置カナケレバナラヌノデアリマスガ、
而モ何分ニモ人里ニ遠ク離レタ番人ノ居ラ
ナイ所デ、何等ノ證跡ヲ突止メルコトノ出
來ナイ所ニ、保險物ガ存在シテ居ルノデアリ
マスカラ、若シ保險金ガ早ク欲シイ、早ク
幼齡林ヲ金ニシタイト云フヤウナ場合ニハ、
ドウモ惡心ガ起リ易イノデゴザリマス、此惡
心ヲ起シテ金ヲ取ル人ハ宜シイガ、迷惑ナ
ノハ近所隣リノ山林所有者デゴザリマス、
是ハ大イニ山林家ノ今度ノ火災保險法案ヲ
見テ、非常ニ心配セラレテ居ル點デアルノ
デゴザリマス、山林ガ一度出火致シマシテ
〓、消防ノ力ト云フモノハ殆ド及バナイ、
其被害ノ範圍ト云フモノハ段々擴大サレテ
行キマシテ、數日ニ亙ルト云フヤウナ大キ
ナ火災ガアル、數里ノ廣範圍ニ亙ルヤウナ
場合ガ往々アルノデゴザリマス、洵ニ斯樣
ナコトハ不吉ナコトデアリマスケレドモ、
斯ウ云フ國營火災ノ保險制度ガ出來タカラ、
各所ニ燒野原ガ澤山出來ルト云フヤウナコ
トガアッテハ、洵ニ善良ナル山林所有者ガ非
常ニ心配ニ堪ヘナイノデゴザリマス、勿論
之ニ對シテ政府ニハ何等カノ對策ガアラル
ルコトト存ジマスケレドモ、又嚴重ナル取
締ヲセラルヽトモ考ヘマス、併ナガラ斯樣ナ
コトハ取締ノミヲ以テ、安心シテ居ル譯ニ行
カナイノデス、何等カノ絕滅スベキ、殆ド安
心スルヤウナ何等カノ對策ヲ講ジテ貰ハナケ
レバナラヌト考ヘルノデアリマスガ、ソコデ私
ト致シマシテハ一ツノ案ヲ持ッテ居ル、其
案ハ是ハ保險金ヲ少額ニシテ置ケバ、マア
ソンナ事ハアリマセヌケレドモ、保險金
額ト云フモノハ何處マデモ再造林ノ出來ル、
再ビ植林ノ出來ルト云フ實費ヲ最低限度ニ
セナケレバナラヌノデアリマスカラ、相當
ナ金額ニナルト思フ、又相當ナ金額ニアラ
ザレバ、到底此法ノ目的ヲ達スルコトハ出
來ナイノデアリマスカラ、相當ナ金額ニ達
スル、ソコデ私ハ再造林ヲ必ズセシメルト
云フコトヲ法文ニ規定シテ置ク、法文化シ
テ置ク必要ガアルト考ヘル、是ニ於テ此心
配ナ點ガ取除カレル、斯ウ私ハ考ヘマスル
ノデ、之ニ對スル何等カノ對策ヲ持ッテ居
ラレマスカ、御伺致シタイノガ第二點デゴ
ザイマス
第三點ニハ、森林金融ノ圓滑ヲ期スル爲
ニ、二十年生以上ノ山林ニモ、此法案ノ範
圍ヲ擴大シテ貰フコトガ出來ナイノデアル
カ、是ハ森林ノ金融ハ、金融ノ對象物トシ
テハ、擔保價格ノ點ヨリ致シマシテモ、實
ニ安全理想的ナモノデゴザイマスガ、何分
民間ノ火災保險會社ニ於キマシテハ保險料
ガ高率デアリマス、尙ホ其上ニ種々ナ費用
ヲ要求サレル、場所ガ遠方ニアリ、山間ニ
アリマシテ、調査ニモ費用ヲ要スル、色々
ナ點カラ非常ニ不便ヲ感ジテ居リマスル爲
ニ、保險ヲ附スルコトニハ非常ナ困難ヲ致
シテ居リマス、仍テ此森林火災國營保險法
案ノ中ニ、之ヲ入レテ貰フコトニナリマシ
タナラバ、金融ノ途ガ非常ニ容易ニ付クヤ
ウニナリマシテ、山村金融ノ梗塞セル經濟
狀態ニ多大ナル效果ヲ得ル次第デアリマス
ルカラ、今日ノ山村民トシテハ熱烈ナル之
ニ對スル要求ガ起ルト考ヘルノデアリマス
ルノデ、二十年生以上ノ山林ニモ、此法案
ノ範圍ヲ擴大シテ貰フコトノ要求ガアッタ
場合、農林當局トシテハ、ドウ云フ御考ヲ
持ッテ居ルカ伺ヒタイ、是ガ第三點デゴザイ
やく、私ノ質問申上ゲマスル點ハ以上ノ三
點デゴザイマス
之ヲ要約シテ申上ゲマスト、第一、山村
ノ經濟振興上重大ナ關係ガアルノデアリマ
スカラ、第一點ノ保險料ハ何處マデモ低廉
ニシテ貰ハナケレバナラヌ、低廉ニスル爲
ニハ、政府ヨリ相當ナル補充金ヲ支出スル
意思アリヤ否ヤ、第二點ハ、保險金額ハ相
當高イ所ニ決メナケレバ其目的ハ達セラレ
ナイノデアリマスカラ、高イ所ニ決メテ貰
ハナケレバナラヌ、併ナガラ高イ所ニ決メ
ルト、故意ニ保險金ヲ詐取スルヤウナ惡イ
人情ガ起ルノデハナイカ、而モ惡イ人情ガ
起ッタ場合ニ、近所隣リニ山林ヲ持ッテ居ル
者ガ非常ナ迷惑ヲ致シマスカラ、之ニ對ス
ル對策ガアルカドウカ、更ニ私ノ考ヲ申上
ゲマスルト、少クトモ其保險金ヲ渡ス時ニ
ハ、再造林ヲ條件トスルト云フコトヲ、法
文化シテ戴ク必要ガアルト考ヘマスルノデ、
此點ニ對スル御所見ヲ伺ヒタイノガ第二點
デアリマス、第三點ハ、今日ノ此農村經濟
ノ梗塞セル金融ヲ圓滑ナラシムル爲ニ、本
案ノ目的ニナッテ居リマスルノハ二十年生
以下デアリマスガ、二十年生以上ノ山林ヲ
モ本案ノ恩惠ニ浴スルヤウニ、範圍ヲ擴大
シテ貰ヒタイ、其意思アリヤ否ヤ、以上三
點ガ私ノ質問デアリマス
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=70
-
071・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 御答ヲ申上ゲ
マく、保險料ヲ成ベク低廉ニ致シマスルコ
トハ、松尾君ノ御希望ノヤウニ大切ナ點デ
アリマス、デ政府ニ於テ或ル年間ハ一般會
計ヨリ繰入ヲ致ス考デアリマスガ、併ナガ
ラ漁船保險ノ場合ニモ申上ゲマシタヤウニ、
斯樣ナモノハ飽マデ獨立經理ヲ本體トスベ
キモノデアリマスカラ、一通リ保險加入者
ノ數ガ或ル程度ニ達シマスマデ、政府ガ年
年若干ノ繰入ヲシテ行カウ、相當ノ保險加
入者ガ出來マシタ以後ハ、成ベク獨立經理
デヤッテ行クヤウニシタイ、斯ウ云フ考デア
リマス
第二ハ保險金額デアリマスガ、是モ松尾
君ノ仰セニナリマシタ通リニ、一方カラ言
ヘバ保險金額ハ高イ方ガ宜シイト云フコト
モ言ヘマスガ、サリトテ或ル程度ヲ越シマ
スト云フト、第一保險料ガ高ク相成ル譯デ
アルノミナラズ、或ハ松尾君ノ御懸念ニナ
リマス通リニ、放火其他ノ不正ナ手段モ隨
伴スル譯デアリマスカラ、之ヲ餘リ高率ニ
定メルト云フコトハ宜シクナイト思ヒマス、
本案ニ於キマシテハ、大體再造林ノ實費ヲ
得セシメルト云フコトヲ目標トシテ、保險
金額ハ考ヘテ居ルノデアリマスガ、唯松尾
君ノ仰シヤッタヤウニ、植林ノ實費ヨリモ時
價ノ方ガ却テ安イ場合モアルト云フ御話デ
アリマスガ、左樣ナ場合ニハ-火災ニ罹
リマシタ場合ニハ、時價ニ依テ損害額ヲ算
定スル、斯ウ云フコトニナル譯デアリマス、
再造林ヲ條件トスル旨ヲ、法ニ於テ規定シ
タラバト云フ御意見デアリマスガ、之ヲ强
制致シマスコトハ如何カト考ヘラレマスノ
デ、再造林ヲ督勵スルト云フ方針ヲ以テ行
キタイ、但シ保險金額ハ前申上ゲマシタヤ
ウナ、再造林ノ實費ヲ目標トシテ居ル、斯
ウ云フコトニ御諒解ヲ願ヒタイノデアリマ
ス
ソレカラ二十年生以上ニ擴大スル考ガア
ルカト云フ點デアリマスガ、松尾君モ御承
知ノヤウニ、幼齡林ニ付テ國ガ保險制度ヲ
設ケマスコトノ急務ヲ認メテ、此制度ヲ設
ケタ譯デアリマスノデ、二十年生以上ノ森
林ニ付テハ、現在モ若干ハ民間ノ保險會社
デ取扱ッテ居ルヤウデアリマスガ、政府ノ國
營ニ之ヲ取入レルヤ否ヤト云フコトハ、是
ハ一ツ將來ノ問題トシテ考究ヲ致シタイト
考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=71
-
072・松尾四郎
○松尾四郞君 簡單デアリマスカラ、此席
ヨリ發言ノ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=72
-
073・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=73
-
074・松尾四郎
○松尾四郞君 只今ノ農林大臣ノ御答辯ニ
付キマシテハ、マダ承服出來ヌ點ガ多々ア
リマスガ、私ハ此點ハ他ノ機會ニ再質問ヲ
致スコトニ致シマシテ、私ノ質問ハ是デ終
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=74
-
075・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 黑田壽男君
〔黑田壽男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=75
-
076・黒田壽男
○黑田壽男君 私ハ漁船保險法案ト森林火
災國營保險法案トニ付テ質問シタイト思フ
ノデアリマスガ、日程ノ順序ニ從ヒマシテ、
先ヅ漁船法案ニ關スル所頁問ヨリ始メタイト
思ヒマス、此法案ニ關シマシテハ、私ハ唯
一點ダケ質問ヲ提出致シマス、是カラ質問
ノ要旨ヲ申述ベテ見タイト思フノデアリマ
ス、私ノ質問ノ要旨ハ、政府ハ漁業勞働者ノ
業務上ノ死亡、災害等ニ備ヘル爲ニ、漁業
主、漁業組合ガ保險金全額ヲ負擔スル所ノ、
漁業勞働者災害保險法ヲ實施スル意思ハナ
イカト云フ點ニアルノデアリマス、此度提
案サレマシタ所ノ漁船保險ノ施行ハ、成程
本法案理由書ニ記載サレマシテアル如ク、
漁業ノ改良發達ノ上ニ必要ナコトデアルト
私ハ思フノデアリマス、併ナガラソレハ直
接ニハ漁船所有者ヲ利スルニ止マルノデア
リマス、然ルニ漁船ノ遭難ニ當リマシテ、
是等ノ漁船ニ乘組ンデ居リマス所ノ漁夫、
是等ハ多クハ自ラ船舶ヲ有シナイ所ノ勞働
者デアリマスガ、此漁業勞働者ガ漁船ノ遭
難ニ當リマシテ、其貴重ナル生命ヲ多數ニ失ッ
テ居ルト云フ事實ヲ、私ハ指摘セザルヲ得
ナイノデアリマス(拍手)今最近一年間ノ數
字ヲ擧ゲテ見マスト、遭難漁船ノ乘組員ノ
死亡又ハ行方不明ノ數ハ、昭和元年ニ六百
六人、二年ニ五百二十人、三年ニ四百七十
二人、四年ニ四百十九人、五年ニ四百七十
九人、六年ニ千百七十四人、七年ニ五百六
十九人、八年ニハ七百十四人、九年ニハ五
百九十六人ト云フ工合ニナッテ居ルノデア
リマシテ、此九年間ノ合計ガ五千五百四十
九人ニ上ッテ居ルノデアリマス、此統計ノ示
ス如ク、多キ年ハ千人ヲ越エ、少イ年モ四
百人ヲ下ラザル數ニ於キマシテ、平均一年
ニ六百十六人ノ漁業勞働者ガ遭難ノ爲ニ、
其貴重ナル生命ヲ失ッテ居ルノデアリマス、
此外ニ負傷者ガ如何ニ多數ニ上ッテ居ルカ
ト云フコトハ、申上ゲル必要ハナイト思フ
ノデアリマス、此中ノ大多數ハ、甚ダ低イ
賃銀デ、危險ナ業務ニ從事シテ居ルノデア
リマシテ、此者ガ死亡或ハ負傷致シマスレ
バ、忽チ其家族又ハ遺族ガ生活ノ窮乏ニ陷
レラレルノデアリマス、然ルコ斯ル場合ニ
對シマシテ、今日ハ全國的ナ救濟ノ制度ガ
殆ドナイト言ッテ宜シイ、全然皆無デアルト
ハ申シマセヌケレドモ、斯ノ如キ場合ニ對
スル施設ガ甚ダ不備デアリマシテ、此點ヲ
從來ノ儘ニ放置シテ置キマシテハ、私ノ考
ヘル所ニ依レバ、眞ニ漁村ノ更生ヲ爲シ、
或ハ漁業ノ經濟施設ガ備ハレリトハ申シ得
ナイト考ヘルノデアリマス(拍手)
今日勞働者ノ業務上ノ負傷竝ニ死亡ニ付
テハ、或ハ工場法アリ、或ハ勞働者災害扶
助法アリ、或ハ鑛山法等ガ施行セラレテ居
リマシテ、斯ル場合ニ關スル規定ガ設ケラ
レテ居ルノデアリマス、工場勞働者、屋外
勞働者、鑛山勞働者ニ對シマシテハ、甚ダ
不十分デハゴザイマスガ、幾分カノ對策ガ
講ゼラレテ居ルノデアリマス、然ルニ漁業
勞働者ニ對シマシテハ、斯樣ナ場合ノ對策
ガ全然ナイノデアリマス、僅ニ漁業組合デ
遭難救恤ノ事業ヲヤッテ居ルモノモアリマ
スケレドモ、其數ヲ調査致シテ見マスト、
昭和八年ニ於キマシテ全實行組合數二千百
十九ノ中、僅ニ三百十四ニ過ギナイノデア
リマス、之ニ依リマシテ全漁業從業者ノ遭
難救恤ニマデ及ブト云フコトハ到底不可能
デアリマシテ、斯ル制度ガ自然ニ增加シテ、
遭難救恤制度ガ全國的ニ實現セラレルノヲ
待ツト云フガ如キ方法ニ依ッテハ、到底ソレ
ニ依リマシテ此對策ノ完成ヲ見透スコトハ
出來ナイノデアリマス(拍手)今日資本主
義ノ社會ニ於キマシテハ、形ニ現レ、或
形ニ現レナクトモ、財產トシテ價値ノアル
モノト認メラレルモノガ、國家ニ依リマシ
テ厚ク保護セラレテ居リマシテ、尊イ人ノ
命モソレガ財產ト結ビ付カナイ限リ、其生
命ハ物ヨリモ輕視セラレルト云フ傾向ガ
アルノデアリマス(拍手)私ハ船ノ災
害ソレ自身ヨリモ、漁夫ノ生命ニ關スルコト
ガ、先ニ問題ニナラナケレバナラヌト考ヘテ
居リマス(拍手)私ハ斯ウ云フ人生觀ヲ持ッ
テ居ルノデアリマス、隨テ漁業勞働者ノ生
命ニ對スル施設ガ急務デアルト云フノガ私
ノ見解デアリマス、此無保護ノ、而モ危險
ノ多イ漁業勞働者ニ對シマシテ、死亡傷害
ニ備ヘル爲ニ業主、漁業組合ガ保險金全額ヲ
負擔スル所ノ漁業勞働者災害保險ヲ實施ス
ルノガ當然デアルト考ヘルノデアリマス(拍
手)政府ハ六十万ノ多數ヲ算ヘル漁撈被傭
者ニ對シマシテ、此保險法ノ實施スベキ意
思アリヤ否ヤ、私ハ此點ヲ御尋致スノデア
リマス、漁村ノ窮乏狀態、其眞ノ更生ノ爲
ニ何ヲ爲スベキカト云フコトニ付キマシテ
ハ、私モ多クノ質問事項ヲ持ッテ居リマスケ
レドモ、是ハ今日申述べナイコトニ致シマシ
テ、保險法タル本法案ノ性質ニ鑑ミマシテ、
此保險ニ對スル問題ヲ一點ダケ取上ゲ、本法
案ニ對シマスル質問ト致スノデアリマス
次ニ私ハ森林火災國營保險法案ニ對シマ
シテ、若干ノ質問ヲ提起致シタイト思ヒマ
ス、第一ニ、政府ハ何故ニ本議會ニ農作物
保險法案ヲ提出シナカッタノデアルカ(拍
手)其法案ヲ提出セザリシ理由ハ、或ハ農
作物保險ノ急速ナル實施ヲ必要トシナイト
云フヤウナ見解ニ立タレタノデアリマセウ
カ、或ハ法案作成ノ準備ガ完了シナイカラ
ト云フノデアリマセウカ、或ハ保險實施ノ
爲ノ財源ガ得ラレナイト云フコトニ、其理
由ガ求メラレルノデアリマセウカ、或ハ其
他ニ理由ガアルノカ、私ハ之ヲ明ニシテ置
キタイト思フノデアリマス(拍手)
次ニ此質問ヲ爲ス理由ヲ申述ベマス、政
府ガ農業保險ノ一部トシテ、森林火災保險
ヲ實施シヨウトスル意圖ハ、私ハ決シテ反
對致シマセヌ、是ハ甚ダ宜イコトデアルト
考ヘテ居リマス、併ナガラ吾々ノ見解ヲ以
テ致シマスルナラバ、現在ノ我國ノ農村ノ
狀態ヨリ見マシテ、農業保險トシテハ、先
ヅ何ヨリモ農作物保險ヲ行フコトガ、當面
緊急ニ必要トサレテ居ル所デハナイカト考
ヘルノデアリマス(拍手)元來政府ノ近來ノ
農村政策ヲ通觀致シマスルト、或ハ自力更
生運動ノヤリ方ニ致シマシテモ、或ハ救濟
金補助金ノ支出ニ致シマシテモ、租稅ノ
負擔ノ輕減ト云フ問題ニ致シマシテモ、其方
法ニ於テ、又事實ノ上ニ結果トシテ現レタ
所ヲ見マシテ、農村ノ勤勞農民、特ニ零細
ニシテ且ツ最多數ヲ占メマス所ノ、此農家
ノ救濟乃至更生ニ資スル所ガ甚ダ少イ、卽
チ主トシテ中以上ノ富有農竝ニ地主ノ救濟
ニ終ッテ居ルト云フコトハ、事實ガ明ニ之ヲ
證明シテ居ルト私ハ考ヘルノデアリマス(拍
手)農村救濟ト云フコトガ、數年間ニ亙リマ
シテ朝野ヲ擧ゲテ叫バレテ居ルニ拘ラズ、
今ニ至ルモ尙ホ農村ニ不安ノ氣ガ充チ滿チ
テ居リマシテ、眞ニ農村ガ救濟セラレナイ
ト云フ此現狀ハ、當ニ私ハ農村救濟ノ手ガ、
最モ救濟ヲ要スルモノニ仲ビナカッタ所ニ
アルト思フノデアリマス(拍手)
此度ノ農業保險ノ實施ニ付テ見マシテモ、
森林ニ關スルモノヲ先ニ致シマシテ、全勤勞農
家ニ最モ必要ナ農作物、養蠶等ニ關スル保
險ガ後〓シニサレテ居ルノデアリマス、然ル
ニ農村ニ於ケル所有者關係ヲ調ベテ見マス
ト、森林ノ所有者ヲ見ルニ、ソレ等ノ所有者
ハ主トシテ地主デアリ、或ハ其地方ノ比較的
富裕ナ階級ニ屬スル者デアリマス、斯樣ナ者
ノ爲ニ先ヅ保險ヲ行ッテ、農作物保險ノ實施
ヲ後週シニスルト云フコトハ、此處ニモ亦
保險法體系ノ完成方法ニ關シマシテノ不公
平ガ現レテ居ルノデアリマス、救濟ノ程度
ノ最モ多イ勤勞農民ニ關スル保險ヲ後ニ致
シテ居ルノデアリマシテ、農村救濟ノ立場
カラ見ルトキ、何故ニ斯樣ナ方法ヲ執ル
ノカト云フコトノ理解ニ苦シムノデアリマ
ス、尙ホ森林保險ニ付キマシテハ、民間會
社ニ於キマシテモ、旣ニ之ヲ行ッテ居ル位
デアリマシテ、農作物ニ付テ行ハレテ居ナ
イノヲ見マスルト、此事ハ危險率ガ森林保
險ニ於キマシテハ、後者ニ比シテ非常ニ少
イト云フコトヲ示シテ居リマス、又被害ノ
程度ニ於キマシテモ、農作物ノ被害ハ森林
ノ火災ニ因ル被害ノ比デハナイノデアリマ
シテ、例ヘバ昭和十年度ニ於キマシテ、農
林省及ビ帝國農會ノ調査ニ依リマスレバ、
風水害、雹害、冷害、凍害、雪害及ビ早害
豫想ヲ合セマシテ、四億六千九百七十九万
五千圓ト推定セラレテ居ルノデアリマス、
然ルニ山林局ノ統計ニ依リマスレバ、森林
被害總額ハ千七百万圓、約四%ニ過ギナイ
ノデアリマシテ、而モ火災ニ因ルモノノ如
キハ頗ル少ク、二百三十万圓ニ過ギナイノ
デアリマス、農作物被害ハ五百六十万戶ノ
全體ニ及ブ問題デアルト思ウテ居リマス、
然ルニ山林經營者、コヽデハ林業ヲ主トシ
テ居ル者ヲ指スノデアリマスガ、其數ハ昭
和十一年七月一日現在ニ於キマシテ、十二
万千四百戶ニ過ギナイノデアル、私ハ斯樣
ナ點ハ吾々トシテ深ク考ヘテ見ナケレバナ
ラナイ事デアラウト考ヘルノデアリマス
元來農業保險ニ關シマシテハ、今カラ旣
ニ約五十年以前大藏省ノ傭トシテ日本ニ參
リマシテ、日本ノ農業問題ニ關シマシテ、
初メテ之ヲ科學的ニ〓究スルノ端〓ヲ開キ
マシタ所ノ「マイエット」博士等ニ依リマシ
テ、旣ニ其必要ガ唱ヘラレ、同博士ノ如キ
ハ農業保險論ト云フ書物スラ著シテ居ル、
此頃古本屋ニ行ッテモ中々見付カリマセヌ
ケレドモ、時々古本市等ニ於テ、蟲ノ喰ッタ
ヤウナ本ニナッテ陳列サレテ居ルノヲ見出
スノデアリマスガ、其樣ナ著書ヲ五十年以
前ニ著シマシテ、社會ニ對シ農業保險ニ關
スル注意ヲ喚起シ、當局ヲシテ之ヲ行ハシ
ムベク鞭撻サレテ居ッタノデアリマス、又明
治三十二年ニ施行サレマシタ舊商法ノ中ニ
モ「土地ノ果實其他ノ天然物ノ保險ハ强雨、
洪水、早魃、暴風雨ノ如キ人力ヲ以テ防キ
能ハサル非常ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得」
ト云フ條文ガ明記シテアリマシテ、斯ル保
險ニ對スル途ガ開カレテ居ッタノデアリマ
ス、又議會ニ於キマシテハ、是ハ諸君ノ御
承知ノ如ク、第四十六議會ニ齋藤宇一郞氏
ニ依リマシテ小作保險法ガ提案セラレマシ
タシ、第五十二議會ニ於キマシテハ、小西、
村上兩氏ニ依リマシテ、農業保險ニ關スル
建議案ガ提出セラレテ、通過シテ居ルノデ
アリマス、斯樣ニ早クヨリ日本ニ於キマシ
テ、農業保險ノ思想ガ政府ノ顧問ニ依リマ
シテ唱道セラレ、或ハ議會ニ提出セラレサ
ヘシタノデアリマス、然ルニ今日政府ニ依
リマシテ何等顧ミラレテ居ナイ、若シモ斯
ノ如キ保險ガ既ニ今日實施セラレテ居タト
致シマスナラバ、彼ノ昭和六年、昭和九年、
及ビ十年ニ全國ヲ襲ヒマシタ所ノ冷害、風
水害、早害等ニ因リマシテ農家ガ苦シメ
ラレ、窮乏ガ激化シ、文字通リノ飢餓ノ狀
態ニ陷リマシテ、幾多ノ農村哀話ヲ生ミ、
此世ナガラノ地獄ヲ展開シタヤウナ、深刻
ナ世相ハ幾分カ緩和セラレテ居ッタノデハ
ナカラウカト思フノデアリマス(拍手)又政
府ガ其度每ニ周章狼狽致シテ、其對策ニ狂
奔スルノ醜態ヲ曝サズニ濟ンダコトデアラ
ウト私ハ考ヘル、斯ル見地カラ見マスルナ
ラバ、農作物保險ノ實施コソハ、私カラ申
シマスナラバ、森林保險ヨリ以上ノ急務デ
アルト考ヘルノデアリマス
政府ハ旣ニ昭和三年頃カラ農業保險ノ制
度ノ爲ニ、必要ナル調査ヲ開始サレマシテ
昭和六年ニハ農作物保險ノ要綱ガ發表セラ
レテ居リマス、聞ク所ニ依リマスト、單一五
要綱ガ作成セラレタト云フダケデナクテ、
法案ノ成文化サヘ行ハレテ居ッタト云フコ
トデアリマス、然ルニ昭和六年以降ノ災害
ノ頻發ニ拘ラズ、尙ホ法案ノ制定ヲ見ルコ
トガ出來ナイノハ、如何樣ナル理由ニ依ル
カ、私ハ之ヲ尋ネテ見タイ、政府作成ノ要
綱乃至法案ニ不備ノ點ガアリマシテ、其爲
ニ今日マデ提出スルコトガ出來ナイノデア
ルカ、併シ私ハサウデアラウトハ思ヒマセ
又、萬一サウデアルト致シマスレバ、私ハ
政府ハ甚ダ怠慢デアルト思ヒマス、併シ私
ノ推察スル所ニ依リマスレバ、左樣ナ理由
デハナイト思フ、不提出ノ最大ノ理由ハ、
農作物保險施行ノ爲ニ政府ノ支出ガ增大シ、
之ニ充ツベキ財源ガナイト云フ理由ニ依ル
モノデハナイカト、私ハ推察スルノデアリ
マス、近來軍備ガ擴張致サレマシテ、軍需
工業以外ノ產業ガ壓迫セラレテ居ルノデア
リマス、殊ニ農村ノ振興ノ如キハ掛聲バカ
リアリマシテ、何等其實ヲ擧ゲテ居ナイ、
農作物保險施行ノ費用ガナイ、若シ軍事費
增大ノ爲ニ犧牲ニサレテ居ルモノデアルト
スルナラバ、軍事費ノ增大其モノガ農村ノ
疲弊ニ拍車ヲ掛ケルモノデアルト非難サレ
マシテモ、辯解ノ餘地ハナカラウト考ヘ
ル、私ハ昨日ノ、卽チ三月三日ノ東京朝日
新聞デ、次ノヤウナ記事ヲ讀ンダノデアリ
マス、其記事ニ依リマスレバ、日本經濟聯
盟、「ブルジョア」ノ團體デアリマス所ノ日
本經濟聯盟デハ、「十三年度以降ニ於テハ、
政府ニ於テ確乎タル財政計畫ヲ樹立スルト
共ニ、一般行政費ノ如キハ可及的ニ其膨脹
ヲ避ケ、國防費ノ中心ノ豫算編成ヲ行フベ
キデアルト云フコトニ意見ノ一致ヲ見テ、
其旨ヲ政府當局ニ建議スルコトトナッタ、卽
チ最近ニ於ケル內外ノ情勢ハ、軍事費ヲ中心
トスル國費ノ膨脹ノ不可避ノ狀態トシテ居
ルガ、而モ急激ナ財政膨脹ノ矛盾ガ、國內
生產力ノ不足ト、ソレニ關聯セル物價騰貴
トナッテ現レテ來テ居ル以上、其矛盾ヲ避ク
ル爲ニハ、歲出ヲ當面必要缺クベカラザル
經費ノミニ限定スル以外ニ方法ガナク、其
意味ニ於テ軍事費以外ノ行政費ノ增大ハ出
來得ル限リ抑制スルト共ニ、今後二三年間
ハ、國防費一本鎗ノ方針ノ下ニ豫算編成ヲ
行フベシ」ト云フノデアル、斯樣ナ記事ガ
出テ居ルノデアリマス、斯樣ニ資本家階級
ハ軍備費ノ增大ニ應ズル爲ニ、一般行政費、
產業費ノ抑壓ヲ要求シテ居ルノデアリマ
ス、又政府側ニ於キマシテモ、結城大藏大
臣ノ所謂「軍部トノ抱合財政」ノ方針ニ依リ
マシテ、斯樣ナ「ブルジョア」階級ノ要求ニ
其儘應ズルガ如キ形勢ヲ示シテ居リマス、
現ニ十二年度豫算案ニ關スル馬場財政案ノ
修正ノ際ニ於キマシテモ、軍事費ノ見合セ
額ハ僅ニ三·二%ニ過ギナイ、然ルニ農林省
豫算中ニハ、多クノ費目ガ削減サレテ居リ
マシテ、ソレハ全豫算中ノ七·九%ニ當ル
ト云フヤウナ狀況デアリマス、山崎農林大
臣ハ旣ニ先日農業保險、農作物保險ハ、次
ノ議會ニ提出スルトハ申サレテ居リマス、
隨テ是ダケノ言明デ安心シテモ宜イト考ヘ
ル者モアルカモ分リマセヌケレドモ、最近
ニ於ケル國家ノ財政ノ方針ガ斯樣ナモノデ
アルト致シマスナラバ、斯ノ如キ軍部偏重
ノ財政方針ノ下ニ於キマシテ、山崎農林大
臣ハ農作物保險ヲ實施スル爲ノ豫算ヲ計上
シテ、之ヲ貫徹スル爲ニ鬪フダケノ決心ガ
アルカドウカト云フコトヲ、玆ニ更メテ言
明シテ戴キタイト思フノデアリマス(拍手)
其爲ニ私ハ敢テ今日此問題ヲ提起シタノデ
アリマス
時間ガ迫リマシタノデ、私ハ第二ノ質問
ヲ致シマスニ際シ、簡單ニ質問ノ要旨ノミ
ヲ申述ベマス、昭和六年ノ政府ノ發表致シ
マシタ農業保險要綱ヲ見マスト、保險ノ目
的ト云フ項目ノ中ニ、當分ノ中ハ保險ノ目
的タル農作物ハ水稻及ビ桑トスト云フ規定
ガアリマシテ、水稻ト桑ノミニ限ラレテ居
ルト云フヤウニ見ラレルノデアリマスガ、
私ハ是デハ不十分デアル、更ニ麥、果實等
ニモ適用スル必要ガアリハシナイカト思フ
ノデアリマス、單ニ私達ハ農產物保險法ヲ
出スト云フダケノ言明デハ、滿足スルコト
ガ出來マセヌ、如何ナル農作物ガ保險ノ目
的ニナルノデアルカト云フコトノ成案ガ、
政府ニ於テハ既ニアルト思ヒマス、恐ラク
豫算ガ取レナイノデ出サナカッタニ過ギナ
イト思フノデアリマスカラ、此場合私ハ知
ラシテ戴キタイト思ヒマス、單ニ農作物保
險ヲ行フト云フダケデハ、吾々ハ滿足スル
コトハ出來ナイ、私ハ此農作物保險ノ目的
物ノ種類ニ付キマシテ、農林大臣ノ御方針
ヲ御伺シタイト思フノデアリマス
私ハ本法案ニ付キマシテハ、時間ノ關係
上以上ノ二點ダケニ止メテ置キタイト思ヒ
マス、森林ノ問題ニ付キマシテ、吾々ノ立
場カラ山村農民ノ生活ニ關シ、或ハ飯米缺
乏ノ問題、負債ノ問題、山村勞働者ノ勞働
條件ノ問題、東北地方ヲ主トシタモノトシ
テハ、入會地囘復ノ問題等、幾多質問シタ
イ事項ガアルノデアリマスケレドモ、今日
ハ是ハ省略致シマシテ、一括サレタル法案
ノ中、最初ノ法案ニ付キマシテハ一點、第
二ノ法案ニ付キマシテハ二點、是ダケ明確
ナル御答辯ヲ得タイト思フノデアリマス(拍
手ノ
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=76
-
077・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 黑田君ニ御答
ヲ申上ゲマス、漁業勞働者ノ災害保險法ヲ
別ニ制定スル考ガアルカト云フ點デアリマ
スガ、此問題ハ別ニ當然考慮スベキ問題デ
アルト考ヘテ居リマス、第二ハ、農作物保
險ヲ提出セナカッタノハドウカ、是ハ數囘
ニ亙リマシテ、此議會ニ於テ私ハ申上ゲタ
筈デアリマス、卽チ農作物保險ニ付キマシ
テハ、マダ考究シナケレバナラヌ點ガ多々
殘ッテ居ルノデアリマス、例ヘバ黑田君ハ昭
和九年、十年ノ冷害、或ハアノ風水害ノ場
合ニ、前ニアッタ保險法ガ實施サレテ居ッタ
ナラバ、農村ハ助カッタヂヤナイカト云フ御
話デアリマスガ、是ハ能ク法案ノ內容ヲ御
考ニナレバ分リマス、冷害ナドモ入ッテ居
ラヌノデアリマス、ソレカラアヽ云フ程度
ノ災害ノ場合ニハ保險ノ範圍外ニナッテ居
ルノデアリマス、左樣ナ點ガ餘程モウ少シ
考ヘテ見ナケレバナラヌ點デアルノデアリ
マシテ、私共ハ決シテ之ヲ遷延シテ居ル譯
ヂヤアアリマセヌ、唯前回私ガ農林省ニ在
任ノ當時ニ、何故アレヲ解決セナカッタカ
ト云フ事情ハ、是ハ先般申上ゲマシタヤウ
ニ、アノ案ニ依リマシテモ、例ヘバ農作物
ニ付テ反當リノ保險料ガ一圓五十錢トナッテ
居リマス、此半額ヲ國ガ補助シテ、半額ハ
耕作者ガ負擔ヲスル、斯ウ云フ立前ニナッテ
居リマスガ、反當リ七十五錢ノ負擔ト云フ
コトガ、アノ當時ノ農村悲況ノ際ニ、果シ
テ負擔ニ堪ヘ得ルカドウカト云フコトヲ、
私ハ深ク懸念ヲ致シマシタカラ、隨テアノ
問題ノ解決ヲ遲ラシテ置イタ譯デアリマス
ガ、尙ホ只今申上ゲマスヤウニ、案ノ內容
ニ付テハ相當マダ〓究セナケレバナラヌト
思フ、現ニ黑田君御自身スラ、本當ニ御〓
究ガマダ屆イテ居ラヌヤウニ御察シヲスル
ノデアリマス、ソレデ森林保險ヨリモ農作
物保險ノ方ガ重要デアルカラト云フ御意見
デアリマシタガ、無論重要ノ程度ハ、農作
物ノ方ガ關係ガ大キイト云フコトハ、モウ
仰セマデモナイコトデアリマス、併ナガラ
物ハ一方ガ大キイカラト云ッテ、大キイモノ
ガ出來ルマデハ、ヨリ小サイモノヲ爲スベ
カラズト云フ考へ方ハ、私ハイカヌト思フ、
總テノ行政ハヤハリ片付ケ得ルモノカラ片
付ケテ行ク、是ハ行政ノ實際ニ於テハ守ッテ
行カナケレバナラヌ點デアリマス、其點ハ
ドウカ一ツ御諒承ヲ願ヒタイト思ヒマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=77
-
078・黒田壽男
○黑田壽男君 農林大臣ノ御見解ハ、私ノ
質問ノ趣旨ヲ諒解サレテ居ナイ點ガ多々ア
ルヤウニ思フノデアリマスガ、私ハ總テヲ
委員會ニ讓リマシテ、今日ハ是デ質問ヲ打
切ルコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=78
-
079・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 石坂繁君
〔石坂繁君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=79
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080・石坂繁
○石坂繁君 諸君、今囘御提案ニ相成ッテ
居リマスル漁船保險法案及ビ森林火災國營
保險法案ハ、其內容ニ付キマシテハ、意見
皆無ト申上ゲル譯デハナイノデアリマスケ
レドモ、兎ニ角全面的ニ廣イ意味ニ於テ、
農業關係ノ保險制度確立ヲ長イ間要望致シ
テ居ル私共ト致シマシテハ、農林當局ガ兎
ニ角此法案ヲ今期議會ニ御提出ニ相成リマ
シタコトニ付キマシテハ、私共敬意ヲ表ス
ルモノデアリマス、而シテ私ハ此法案ニ關
聯致シマシテ、極メテ簡單ニ一二ノ間題ニ
付テ御質疑ヲ致シタイト存ズルノデアリマ
ス
時間ノ關係モアリマスノデ、極メテ簡單
ニ申上ゲタイト存ジマスルガ、第一問題ハ農
產物保險法ノ問題デアリマス、此問題ニ付
キマシテハ、只今黑田君ガ縷々其必要緊切
ナル所以ヲ力說セラレマシテ、山崎農林大
臣ノ所見ヲ叩カレタノデアリマス、私モ農
業保險ノ必要性、其重大ナル點ヲ認メマス
點ニ於キマシテ、全ク黑田君ノ御所論ト同
樣デアルノデアリマス、元來農業ハ其業務
ノ性質上、主トシテ野外ニ於テ營マナケレ
バナラナイコトト、而モ動植物自體ノ有機
的性質ニ依存シナケレバナラヌ關係上、自
然力ノ支配ヲ受ケルコト洵ニ大キナノデア
リマス、人間意思ノ支配下ニアル機械生產
ト、其點ニ於テ同日ニ論ズスルコトガ出來
ナイノデアリマス、農業生產ニ對シマシテ
殆ド不可避的ナ、殆ド不可抗的ナ各種ノ自
然的災害ガ起ッテ參リマシテ、是ガ爲ニ蒙ル
所ノ農產物ノ被害ハ、全國ニ非常ニ多イノ
デアリマス、年々其損害ハ頗ル莫大ノ額
ニ上ッテ居ルノデアリマス、大正七年ヨリ
昭和四年ニ至ル十二年間ノ水稻ノ風水害ニ
因ル平均被害面積ハ二十八万二千餘町步、
其被害額ハ四千五百餘万圓ニ達シテ居ルノ
デアリマス、又桑ノ風水害、旱害、電害、
斯樣ナル原因ニ因ル所ノ被害面積ハ六万四
千餘町步、其被害額ハ實ニ七百五十七万圓
ニ達シテ居ルノデアリマス、是等合計被害
金額ハ實ニ年々五千二百餘万圓ノ多額ニ上
ルノ狀態デアルノデアリマス、斯樣ナル天
然ノ災害ニ因ル所ノ被害ニ對シマシテ、從
來其被害アル度每ニ、農民ハ其被害ニ因ッ
テ受ケル所ノ損害-日本ノ農業經營ガ
極メテ小規模デアリマス關係カラ申シマシ
テ、此被害ニ對スル損失ヲ償フダケノ彈力
性、其餘裕ガナイノデアリマス、隨テ黑田
君申サレマシタ如クニ、斯ノ如キ災害ガ起
リマス度每ニ、農民ハ此爲ニ洵ニ寢食ヲ忘
レテ、當局ノ補助ヲ求メルト云フヤウナ方
法ヲ講ジテ居ッタノデアル、是等災害ニ對シ
マシテハ、府縣ニ僅ニ五十万圓ノ災害救助
基金ガアルダケデアリマス、災害ノアル度
每ニ國庫カラ從來多額ノ費用ガ投ゼラレテ
居ッタト云フヤウナ狀態デアリマス、私共事
每ニ政府當局ニ縋リマシテ、其補助ヲ求メ、
救濟ヲ求メルト云フヤウナコトハ、無論從
來已ムヲ得ナカッタト致シマシテモ、農民本
來ノ姿デハ斷ジテナイト思フノデアリマス、
卽チ政府ハ玆ニ農民ガ自發的ニ自ラ保障ス
ルコトニ依ッテ、是等災害ニ對スル危險ノ保
障ヲ爲スベキ制度ヲ樹立スル必要ヲ認メル
ノデアリマス、是レ私共農業保險制度實施
ノ急務ヲ痛感致シテ居ル所以デアリマス
而シテ日本ニ於ケル收穫保險ノ歷史ハ、
先程黑田君申サレマシタ如クニ、明治二十
三年、時ノ傭顧問「パウル·マイエット」博士
ノ農業保險論以來、今日マデ幾多ノ著書、
又議會ニ提案サレタ所ノ法案モアルノデア
リマス、既ニ此問題ニ於テハ相當ノ〓究ハ
積マレテ居ル筈デアリマス、政府ニ於テモ、
昭和三年カラデアリマシタカ、ソレ以來年
年二万圓程度ノ豫算ヲ計上致シマシテ、サ
ウシテ此制度ニ關スル所ノ調査〓究ヲ致シ
テ、大體其成案ハ出來テ居ル筈デアル、而
シテ昭和十二年度ノ豫算ヲ見テ見マスルト
云フト、更ニ此調査費トシテ三万圓ノ計上
ヲ見テ居ルヤウデアリマスガ、私共ハ何ト
シテモ此保險制度ノ成案ヲ得テ、是非トモ
御提案ガ願ヒタイノデアリマス、而シテ其
保險ノ目的デアル所ノ農產物ハ、單ニ水稻
ニ限ラズ、麥、桑、煙草、私ハ此正月田舍ヲ
廻リマシテ、此保險制度ニ關シテ御話ヲ致
シマスルト云フト、農民ハ非常ニ之ニ共鳴
ヲ致シテ參ルノデアリマス、隨テ其農產物
ノ種類モ今少シク擴張シテ、サウシテ速ニ
成案ヲ得テ、今期議會ニ若シ間ニ合ハナカッ
タナラバ、是非トモ次ノ議會ニハ御提案ア
ランコトヲ要望シテ已マナイノデアリマス
ルガ、此點ニ關スル黑田君ニ對スル御答辯
ハ、私明確ニ聽取ルコトガ出來ナカッタノデ
アリマス、隨テ重ネテ此保險制度ノ必要ナ
ル所以ヲ力說シテ、山崎農林大臣ニ對シテ、
次期帝國議會ニ必ズ御提出アランコトヲ要
望スルノデアリマスルガ、其意思アリヤナ
シヤ、重ネテ此處デ御伺致ス次第デアリマ
ス
第二ハ、黑田君モ一寸引用サレタヤウニ
聞エタノデアリマスルガ、私ハ部落有民野
ノ解放ノ問題ニ付テ、當局ノ御所見ヲ御伺
致シタイノデアリマス、元來農村生活ハ、現
在ノ社會制度ニ於キマシテモ、マダ實物的
經濟ノ色彩ガ頗ル濃厚デアリマス、隨テ農
家ハ其生活スル所ノ食物、是ハ主トシテ自
ラノ耕作ニ依ッテ之ヲ得テ居ルノデアリマ
ス、ソコデ極ク狹イ土地ヲ耕作致シ、金錢
的ニ收入ヲ計算致シマスルト云フト、極メ
テ僅少ナル收入ヲ擧ゲルニ過ギナイ所ノ農
家ガ、兎ニ角ニモ辛ウジテ生活ヲヤッテ來ル
コトガ出來マシタノハ、是ハ其地方ノ食物ハ
自分ノ耕作ニ依ッテ自ラ得ル、サウシテ或ハ
炊事用ノ薪炭デアルトカ、或ハ屋根ヲ葺ク
所ノ茅、或ハ牛馬ノ飼料デアル所ノ牧草、或
ハ田地ノ肥料ニ供スル所ノ草、斯ウ云フヤ
ウナモノヲ、從來其地方ニ在ル所ノ原野ニ
部落民ガ共同シテ、所謂入會ヲ致シマシテ、
サウシテ其土地ヨリソレ等ノモノヲ採取シ
テ居ッタノデアリマス、斯ノ如ク自分ノ所有
地デナクテモ、其原野ニ部落共有ノ權利ガ
アリマシタ爲ニ、ソレニ依ッテ得ル所ノモノ
ガ、農家ノ生活ヲ助ケテ參ッテ居ッタノガ、過
去ノ農山村ニ於ケル所ノ下層農民階級ノ生活
ノ狀態デアッタノデアリマス、然ルニ明治ノ
維新後、是等ノ入會地ニ對スル所ノ所有權
ガ確立セラレ、從來自由ニ入會ッテ薪炭、柴
草ノ採取ヲ爲スコトガ出來タ其地方ノ部落
民ハ、所有權ニ對シテ一步モ觸ルルコトノ
出來ナイト云フヤウナ、部落ノ生活ニ取ッテ
極メテ不自由ナ、不都合ナ狀態ト相成ッタノ
デアリマス、從來部落民ノ共同ノ採取場所
デアッタノガ、明治政府ノ地方林野ニ對スル
政策ノ結果トシテ、次第ニ是等ノ入會地或
ハ入會山、立會山、入付場、斯樣ナ名稱ヲ
以テ呼バレタ所ノモノガ、次第ニ廢止整理
サレテ參リマシタ結果ハ、地方山村ノ細民
階級ニ對シマシテ、著シク不利益ト不便ト
ヲ與ヘルヤウナ狀態ニ相成ッタノデアリマ
ス、ソコデ斯ウ云フ土地ハ從來長イ間ノ慣
習ニ從ウテ、元ノヤウニ部落民ニ解放スル
必要ガ出テ參ッテ居ルノデアリマス、私共此
點ヲ非常ヲ痛感致シテ居ル、然ルニ政府ノ
部落有林野ニ對スル政策ハ、ドウ云フ狀態デ
アルカト申シマスルト云フト、政府ハ是等
ノモノヲ次第ニ整理統一ヲスル方法ヲ長イ
間執ッテ居ラレタノデアリマス、卽チ町村ニ
向ッテハ公有林野造林補助金ヲ交付スル、或
ハ又大字其他ノ部落有林野ヲ町村ニ寄附、
讓渡ヲサセル方法ニ依ッテ、其所有權ノ讓渡
ヲ勸誘シテ、而シテ大正九年以來公有林野
官行造林法ト云フヤウナモノマデ政府ニ於
テ制定セラレマシテ、段々此入會原野ハ整
理サレテ參ッタノデアル、現ニ明年度ノ豫算
ヲ見マスルト云フト、此公有林野官行造林
費ト致シマシテ、二百四十一万二千三百六
十七圓ノ計上ヲ見テ居ルヤウデアル、隨テ
政府現在ノ御方針ハ、依然トシテ是等ノ部
落有ノ原野ヲ整理シ、之ヲ部落民、下層農
民ヨリ取上ゲルト云フヤウナ御方針デアル
ヤウニ、私共承知セザルヲ得ナイノデアリ
マス、併ナガラ今日ノ狀態ニ於テ、斯樣ニ
シテ部落民ノ入會地ヲ取上ゲルコトハ、部
落民ニ解放サルベキ是等ノ入會地ヲ取上ゲ
マスルト云フコトハ、今日逼迫セル部落山
村ノ下層農民ノ生活ニ對スル所ノ非常ナル
壓迫デアルノデアリマス、私ノ〓里ハ熊本
縣デアルノデアリマスルガ、熊本縣下ノ或
ル地方デハ、山林原野組合ト云フモノガ所
有シテ居ル原野ヲ、其組合ノ條例ヲ改正致
シマシテ、造林組合ト云フモノヲ作ッテ、而
モ其組合員ヲ政黨的ニ左右スルコトニ依ッ
テ、實際其地方ノ農民デナイ、隨テ其原野
カラ薪炭或ハ柴草等ヲ刈ル必要ノナイ者マ
デモ組合員ニ加ヘテ、サウシテ其反對ノ立
場ニアル所ノ部落民ノ從來ノ入會權マデモ
取上ゲントシテ居ル處ガアルノデアリマス、
斯ノ如キ例ハ極メテ稀ナル例デアリマセウ
ケレドモ、農山村下層農民ニ取リマシテ、
此入會原野ノ必要ナル所以ハ十分御諒承ヲ
願ヒタイノデアリマス、隨ヒマシテ當局ニ
御尋致シタイコトハ、從來ノ農林省ガ此部
落有入會原野ノ整理統一ニ向ッテ進ンデ居
ラレタ所ノ政策ヲ改メテ、玆ニ山村部落民
ニ對シテ、是等ノ原野ヲ開放サレル政策ヲ
御執リニナルベキデアラウト思ヒマスルガ、
此點ニ關シテ其御意思アリヤ否ヤヲ御承リ
致シタイノデアリマス(拍手)
〔國務大臣山崎達之輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=80
-
081・山崎達之輔
○國務大臣(山崎達之輔君) 農業保險ニ付
キマシテハ、再三申上ゲマシタヤウニ、來
年度ノ豫算ニ調査費三万圓ヲ計上致シテア
リマス、案ノ內容ガ先刻來申上ゲルヤウニ、
再檢討ヲ要スル部分ガ少クナイト思ヒマス
ノデ、成ベク取急ギ成案ヲ得マシテ、次ノ
議會ニハ提案ヲシタイ希望ヲ持ッテ居リマ
ス、第二ハ、部落有ノ入會林野ヲ開放ノ問
題デアリマスガ、部落有林ニ付キマシテ
ハ、從來御承知ノヤウニ整理統一ノ方針ヲ
執リマシテ、サウシテソレ〓〓ノ地區
ノ特性ニ應ジテ、利用ヲ集約ナラシメ
ル方針ヲ執ッテ參ッテ居ルノデアリマス、
之ヲ開放スルト云フコトハ、只今ノ所
考ヘテ居リマセヌガ、大體從來ノ方針ニ
依ッテ整理統一ヲ圖ッテ、地方民ノ生活ニ資
シ得ルヤウナ風ニ、利用ヲ集約ナラシメテ
行クト云フコトデ宜シイノデハナイカト考
ヘマスガ、只今伺フ所ニ依レバ、·石坂君ノ
御〓里ノ地方ニ於テ、或ハ政治的ノ關係デ
好マシカラザル現象モアッタヤニ伺ッタノデ
アリマスガ、ソレ等ハ願クハ地方々々ノ御
自省ニ依リマシテ、左樣ナ弊ハ自ラ一ツ芟
除スルト云フ風ニ御盡力ヲ願ヒタイト存ジ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=81
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082・石坂繁
○石坂繁君 簡單デアリマスカラ此席カラ
一言··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=82
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083・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御許シ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=83
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084・石坂繁
○石坂繁君 農業保險實施ノ必要デアルコ
トハ縷々申上ゲタ通リデアリマス、速ニ地
方ノ熱烈ナル要望ノアルコトニ鑑ミラレマ
シテ、成案ヲ得ラレンコトヲ希望致シマ
ス、尙ホ部落有林野ノ解放ノ問題ハ、從來
ノ通リ整理統一ノ方法ヲ以テ進マレマスル
ナラバ、其地方ノ部落民ノ其林野ニ對スル
所ノ權利ヲ失ハサシムルコトニナルノデア
リマス、私ガ例トシテ申上ゲマシタノハ、稀
ニ見ル一ツノ例デアリマスルガ、此事ヲ主
トシテ申上ゲタノデハナイノデアリマス、
其地方ノ部落民ニ利益ニナルヤウニスル爲
ニハ、整理統一ノ方法ヲ改メナケレバ出來
ナイト考ヘマス、是等ノ點モ地方山村部落
民ノ生活ノ實情ニ照シマシテ、更ニ再檢討
サレンコトヲ希望致シマス、是デ私ノ質問
ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=84
-
085・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 是ニテ質疑ハ終局
致シマシタ、各案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=85
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086・中山福藏
○中山福藏君 日程第二乃至第五ノ四案
ハ、一括シテ政府提出、絲價安定施設法案
外一件委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望ミ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=86
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087・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=87
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088・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=88
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089・中山福藏
○中山福藏君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日
ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=89
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090・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=90
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091・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ
議事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日
ハ是ニテ散會致シマス
午後六時六分散會
衆議院議事速記錄第十五號中
正誤
頁段行誤正
三二〇二三八第一讀會ノ續第一讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X01619370304&spkNum=91
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