1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十二年三月十三日(土曜日)
午後一時三十九分開議
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議事日程 第二十二號
昭和十二年三月十三日
午後一時開議
第一 小運送業法案(政府提出) 第一讀會
第二 日本通運株式會社法案(政府提出) 第一讀會
第三 帝國の滿洲國に於ける治外法權の撤廢及南滿洲鐵道附屬地行政權の調整乃至移譲に伴ひ退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第四 朝鮮事業公債法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第六 昭和十二年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第七 昭和七年法律第一號中改正法律案(滿洲事件に關する經費支辨の爲公債發行に關する件)(政府提出) 第一讀會
第八 船員法改正法律案(政府提出) 第一讀會
第九 揮發油及アルコール混用法案(政府提出) 第一讀會
第十 貿易組合法案(政府提出) 第一讀會
第十一 貿易調整法案(政府提出) 第一讀會
第十二 工業組合法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十三 昭和七年法律第十二號中改正法律案(造幣局資金拂出に關する件)(政府提出) 第一讀會
第十四 日本銀行條例中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十五 日本銀行參與會法廢止法律案(政府提出) 第一讀會
第十六 横莊鐵道株式會社所屬鐵道外三鐵道買收の爲公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十七 東京農業教育專門學校創設に伴ふ帝國大學特別會計及學校及圖書館特別會計の關渉に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第十八 製鐵事業法案(政府提出) 第一讀會
第十九 大正九年法律第五十三號中改正法律案(關税法及關税定率法等の朝鮮に於ける特例に關する件)(政府提出) 第一讀會
第二十 地方鐵道補助法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二十一 大正九年法律第五十六號中改正法律案(北海道拓殖鐵道補助に關する件)(政府提出) 第一讀會
第二十二 防空法案(政府提出) 第一讀會
第二十三 海外移住組合聯合會に對する政府貸付金の出資等に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第二十四 農村負債整理資金特別融通及損失補償法案(政府提出) 第一讀會
第二十五 帝國燃料興業株式會社法案(政府提出) 第一讀會
第二十六 人造石油製造事業法案(政府提出) 第一讀會
第二十七 商法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十八 肥料取締法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二十九 酒造組合法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十 日本無線電信株式會社法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十一 特許法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十二 商標法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十三 不正競爭防止法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十四 裁判所構成法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十五 大正十年法律第百二號中改正法律案(定年に因る退職判事檢事の恩給に關する件)(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十六 兵役法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十七 産業組合中央金庫法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十八 産業組合自治監査法案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三十九 軍機保護法改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四十 刑事訴訟法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四十一 外國裁判所の嘱託に因る共助法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四十二 軍事救護法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四十三 救護法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四十四 母子保護法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四十五 絲價安定施設法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四十六 絲價安定施設特別會計法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四十七 昭和十年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 昭和十年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 昭和十年度特別會計豫備費支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 昭和十年度滿洲事件第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 自昭和十一年一月至同年三月昭和十年度特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 昭和十一年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 昭和十一年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)
第四十七 昭和十一年度特別會計豫備金外に於て豫算外支出の件(承諾を求むる件)
〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一政府より提出せられたる議案左の如し
帝國燃料興業株式會社法案
人造石油製造事業法案
日本銀行金買入法中改正法律案
(以上三月十二日提出)
一議員より提出せられたる議案左の如し
由良川改修に關する建議案
提出者
芦田均君 村上國吉君
田中好君 津原武君
畜牛結核病豫防法改正に關する建議案
提出者
高橋熊次郎君 中野猛雄君
三善信房君
大牟田市に區裁判所設置に關する建議案
提出者 鶴惣市君
帝國在郷軍人會國庫補助金増額に關する建議案
提出者
松田喜三郎君 升田憲元君
漢那憲和君 山本厚三君
越前岬に燈臺設置に關する建議案
提出者 猪野毛利榮君
四ケ浦漁港修築に關する建議案
提出者 猪野毛利榮君
物部川ダム建設に關する建議案
提出者
長野長廣君 尾崎重美君
奥名田鶴ケ岡間鐵道建設に關する建議案
提出者 猪野毛利榮君
葉煙草賠償價格引上に關する建議案
提出者
山崎猛君 胎中楠右衞門君
寺田市正君 東郷實君
川島正次郎君 坪山徳彌君
宮澤裕君 宮脇長吉君
佐藤洋之助君 助川啓四郎君
肥田琢司君
(以上三月十日提出)
行政裁判所法案
提出者 宮古啓三郎君
行政訴訟法案
提出者 宮古啓三郎君
訴願法案
提出者 宮古啓三郎君
權限裁判法案
提出者 宮古啓三郎君
行政裁判官懲戒法案
提出者 宮古啓三郎君
電力國策調査機關設置に關する決議案
提出者
岡崎久次郎君 渡邊銕藏君
岡田喜久治君 三好榮次郎君
一松定吉君 村松久義君
山枡儀重君 内ヶ崎作三郎君
氏家清君 角源泉君
奧山亀藏君 木村小左衞門君
松尾四郎君
(以上三月十一日提出)
決議案(五箇條の御誓文渙發七十周年を記念するの件)
提出者
小泉又次郎君 土屋清三郎君
清水留三郎君 内ヶ崎作三郎君
澤田利吉君 濱野徹太郎君
小山谷藏君 松田正一君
三好榮次郎君 漢那憲和君
一宮房治郎君 加藤鯛一君
工藤鐵男君 八並武治君
松村謙三君 木檜三四郎君
櫻内幸雄君 齋藤隆夫君
一松定吉君 永井柳太郎君
牧野賤男君 工藤十三雄君
植原悦二郎君 大口喜六君
宮脇長吉君 金光庸夫君
堀切善兵衞君 濱田國松君
若宮貞夫君 松野鶴平君
安藤正純君 望月圭介君
藏園三四郎君 青木精一君
安部磯雄君 麻生久君
河上丈太郎君 田川大吉郎君
椎尾辨匡君 今井新造君
野中徹也君 伊禮肇君
清瀬一郎君 三浦虎雄君
岡田忠彦君
決議案(帝國議會圖書館竝議員事務室建設の件)
提出者
小泉又次郎君 土屋清三郎君
清水留三郎君 内ヶ崎作三郎君
澤田利吉君 濱野徹太郎君
小山谷藏君 松田正一君
三好榮次郎君 漢那憲和君
一宮房治郎君 加藤鯛一君
工藤鐵男君 八並武治君
松村謙三君 木檜三四郎君
櫻内幸雄君 齋藤隆夫君
一松定吉君 永井柳太郎君
牧野賤男君 工藤十三雄君
植原悦二郎君 大口喜六君
宮脇長吉君 金光庸夫君
堀切善兵衞君 濱田國松君
若宮貞夫君 松野鶴平君
安藤正純君 望月圭介君
藏園三四郎君 青木精一君
安部磯雄君 麻生久君
河上丈太郎君 田川大吉郎君
椎尾辨匡君 今井新造君
野中徹也君 伊禮肇君
清瀬一郎君 三浦虎雄君
岡田忠彦君
(以上三月十三日提出)
一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
帝國陸海軍に於ける齒科衞生に關する質問主意書
提出者 杉山元治郎君
林内閣の政綱政策竝文教上の諸問題に關する質問主意書
提出者 佐藤與一君
(以上三月十一日提出)
一去十一日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第一部選出
請願委員 福井甚三君(蔭山貞吉君補闕)
一去十一日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
郵便法中改正法律案(政府提出)委員
理事 眞鍋儀十君(理事清寛君十一日委員辭任に付其の補闕)
一去十一日議長に於て選定したる委員左の如し
國民健康保險法案(政府提出)外二件委員
添田敬一郎君 青木亮貫君
喜多壯一郎君 寺島權藏君
武知勇記君 小林三郎君
土屋清三郎君 川橋豊治郎君
渡邊銕藏君 鏑木忠正君
岡田喜久治君 中崎俊秀君
門田新松君 石坂豐一君
小笠原八十美君 加藤鐐五郎君
田中好君 肥田琢司君
犬養健君 沖藏君
立川太郎君 三善信房君
山口久吉君 三宅正一君
北勝太郎君 藏原敏捷君
田中養達君
一去十一日に於ける特別委員の異動左の如し
一般會計歳出の財源に充つる爲特別會計より爲す繰入金に關する法律案(政府提出)外二件委員
辭任 川俣清音君 補闕 塚本重藏君
辭任 池田秀雄君 補闕 尾崎重美君
辭任 平野光雄君 補闕 中村又一君
辭任 田川大吉郎君 補闕 今井新造君
郵便法中改正法律案(政府提出)委員
辭任 清寛君 補闕 牧山耕藏君
關税定率法中改正法律案(政府提出)外四件委員
辭任 馬場元治君 補闕 渡邊泰邦君
一昨十二日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第一部選出豫算委員 坂東幸太郎君
第三部選出豫算委員 渡邊銕藏君
第九部選出決算委員 中原謹司君
第二部選出請願委員 湊季松君
第五部選出請願委員 高野喜六君
第一部選出懲罰委員 馬場元治君
一昨十二日委員長及理事互選の結果左の如し
國民健康保險法案(政府提出)外二件委員
委員長 添田敬一郎君
理事
武知勇記君 青木亮貫君
喜多壯一郎君 立川太郎君
三善信房君
一昨十二日に於ける特別委員の異動左の如し
鐵道敷設法中改正法律案(政府提出)委員
辭任 東條貞君 補闕 南條徳男君
絲價安定施設法案(政府提出)外一件委員
辭任 青木精一君 補闕 今給黎誠吾君
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001・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ヨリ會議ヲ開キ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=1
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002・松永東
○松永東君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際日程第四十二乃至第
四十四ヲ繰上ゲ上程シ、其審議ヲ進メラレ
ンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=2
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003・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=3
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004・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシ
ク、日程第四十二乃至第四十四ハ、同一委
員ニ付託シタル議案デアリマスカラ、一括
議題ト爲スニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=4
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005・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ日程第四十二、軍事救護法中改
正法律案、日程第四十三、救護法中改正法
律案、日程第四十四、母子保護法案、右三
案ヲ一括シテ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委
員長ノ報告ヲ求メマス-委員長川島正次
郞君
第四十二軍事救護法中改正法律案
(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
第四十三救護法中改正法律案(政府
提出)第一讀會ノ續(委員長報〓)
第四十四母子保護法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報告書
一軍事救護法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月十一日
委員長川島正次郞
衆議院議長富田幸次郞殿
報告書
一救護法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十二年三月十一日
委員長川島正次郞
衆議院議長富田幸次郞殿
報〓書
一母子保護法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月十一日
委員長川島正次郞
衆議院議長富田幸次郞殿
〔川島正次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=5
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006・川島正次郎
○川島正次郞君 只今上程セラレマシタ軍
事救護法中改正法律案外二件ニ對シマスル
委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告致シマス、
以上三案ハ社會施設的法律デアリマシテ、
現在ノ國情ニ鑑ミマシテ、極メテ緊切且ツ
重要ナル點アルヲ認メマシテ、委員會ニ於
キマシテハ極メテ熱心ニ、卽チ二月二十六
日以來七日間ニ亙リマシテ、內務、大藏、
司法、陸軍、海軍ノ各省大臣、若クハ政府
委員ノ出席ヲ求メテ、質疑應答竝ニ意見ノ
交換ヲ致シタノデアリマス、委員會大體ノ
意向ハ、本案ノ內容ハ廣義國防ノ意味カラ
見テモ、亦救貧政策ノ上ヨリ見テモ、極メ
テ不徹底デアッテ、更ニ一層擴大充實スルノ
必要アリト云フニアリマシタ、委員中ニハ
本案ノ各條ニ付テ改正ノ意向ヲ有ッテ居ル
者少クナイノデアリマス、社會政策ノ立場
ヨリ考ヘテ、極メテ重大ナリト考ヘマスル
ガ故ニ、其中主ナル點二三ニ付キマシテ、
茲ニ御報告申上ゲタイト思フノデアリマス
軍事救護法ハ法律ヲ軍事扶助法ト改メマ
シテ、其內容ニ於キマシテハ、扶助ヲ受ク
ベキ傷病兵竝ニ家族遺族ノ範圍ヲ擴張シ、
同時ニ扶助條件ヲ緩和スルノデアリマス、
其第五條ニ於テ、從來ハ生活不能ノ者ノミ
ヲ救助シテ居ッタノデアリマスルガ、之ヲ生
活困難ト云フコトニ改メル法案ニナッテ居
リマス、然ラバ生活不能ト生活困難トノ差
ハ、ドウ云フ方法ニシテ之ヲ定メルノカト
云フ委員ノ質問ニ對シテ、政府ノ答辯ハ、
從來一日ノ收入三十錢以下ヲ生活不能者ト
認メテ來タガ、今囘ノ改正ニ依ッテ三十五
錢ニ改メタンダ、言換ヘレバ、生活困難ト
生活不能トノ差ハ、僅カニ金ニ積ッテ五錢
ダト、斯樣ナ御答辯デアッテ、之ニ對シテ
ハ、委員悉ク不滿足ノ意ヲ表シタノデアリ
マス、而モ本法ノ改正ニ依リマシテ、將來扶
助スベキ人員ガ當然增加サレルノデアリマ
スルガ、此增加人員竝ニ之ニ要スル費用ノ
見積ニ付テモ、政府ノ見積ハ甚シク過小ニ
失シテ、本案改正ノ曉ニ於テハ、政府ノ御
發表ノ人員竝ニ豫算デハ極メテ不足デアル、
尙ホ一層經費ヲ增額スル必要ナキカト云フ
質問ニ對シマシテ、政府ノ御答辯ハ、本法
ハ補充課目デアルカラシテ、費用ガ足リナ
クナレバ、當然豫備金ヨリ支出スルノダト
云フ御答辯デアリマス、併ナガラ此點ニ付
テモ豫メ豫算ヲ決メテアルノダカラシテ、
大體ハ是デ濟ム積リダト云フ御答辯ノ半面
ニ於テハ、此豫算ノ範圍內デ行カナケレバナ
ラヌト云フノデアリマスルカラシテ、豫算
ニ制限サレテ、折角法律ハ改正シテモ、救
濟スベキ人ヲ救濟シ得ナイ結果ニナルノデ
ハナイカト云フ、强キ委員間ノ意見ガゴザ
イマス、更ニ軍事救護法ニ付テ最モ問題ト
ナッタノハ、本法ニ於テハ內緣關係ニアル妻
ハ救濟サレナイ、併ナガラ農村一般ノ實際
的ノ情勢ハ、正式ニ婚姻シタモノデモ入籍
シ得ザルモノガ幾多アルノデアッテ、內緣關
係ニアルモノヲ救濟サレナイノデハ、實際ノ
庶民生活ニ當嵌ラナイ、宜シク本法ニ依ッテ
內緣關係ノ者マデモ救濟スベシト云フ意見
デアリマスケレドモ、之ニ對スル政府ノ御
答辯ハ、元來本法ハ軍人ノ名譽ヲ重ズル法
律デアル、隨テ法律的ニ認メラレナイ婚姻
者ヲ、此法律ニ依ッテ救濟スルコトハ避ケタ
イ、サウ云フ人々ニ對シテハ、他ノ扶助團
體ノ救濟ニ俟ツコトニシタイノダト云フ御
答辯ガアリマシタ、之ニ對シテモ委員會ト
シテハ不滿足ノ意ヲ表シタノデアリマス
又母子保護法案ニ付キマシテハ、本法ハ
夫ヲ喪ッタ母ガ貧困デアリマシテ、子供ヲ養
育スル任務ヲ盡シ得ナイ者ニ對シテ、之ヲ
救濟ヲシテ、次代國民ノ健全ナル發達ヲ圖
ルト云フ趣意デアルノデアリマスガ、其第
一條ニ「貧困ノ爲生活スルコト能ハズ」ト斯ウ
ナッテ居ル、同ジク軍事救護法デハ、今囘特
ニ條文ヲ改メテ生活困難トシタノデアリマ
スカラシテ、軍事救護法ト均衡ヲ取ル爲ニ、
此母子保護法モ生活不能者ノミナラズ、生
活困難ナル者ヲモ救ッテハドウカト云フ意
見ガアリマシタケレドモ、之ニ對スル政府
ノ御答辯ハ、軍事救護法ト母子法ト、立法
ノ根本ノ精神ガ違フ、母子保護法ハ救貧政
策ニ立脚シテ居ルノダカラシテ、先ヅ貧困
ノ爲メ生活スルコト能ハズト云フ程度ノ者
ヲ救フガ宜イト云フ御意見デアリマシ
ク、モウ一ツ本法ニ依ルト、年齡十三
歲以下ノ子供ヲ擁シテ居ル者ヲ救フト
云フコトニナッテ居リマスガ、之ニ對
シテ工場法ト同ジク十五歲以下トシタ
ラドウカト云フ御意見ガアリマシタガ、政
府ノ御答辯ハ、現行ノ救護法第一條ト均衡
ヲ保ツ爲ニ、十三歲以下トシタト云フコト
デアリマシタ、而シテ此法律ガ新シク發布
サレマシテ、救助サルベキ人員ノ見込ハ、
九万五千五百二十三人デ、其豫算ハ十二年
度ニ於テハ六十四万八千圓、平年度ニ於テ
ハ二百五十九万二千圓ト云フコトニ相成ッテ
居リマス
更ニ救護法ニ付キマシテハ、本法ノ改正
ノ要旨ハ、現行ノ補助率ガ等シク二分ノ一
以内トナッテ居ルノヲ、道府縣市及ビ私人ノ
負擔ニ係ルモノニ付テハ二分ノ一、町村ノ
負擔ニ係ルモノニ付テハ十二分ノ七トスト
云フ改正デアリマシテ、本案ニ付キマシテ
モ、從來ノ救護費ハ其單價ガ低イノデアル
カラシテ、相當ニ高メル必要ガアルノヂヤ
ナイカト云フ質疑ガアリマシテ、質疑ノ內
容重要ナモノハ以上ノ通リデアリマシテ、
委員會ニ溢レテ居ル所ノ空氣ト云フモノハ、
政府ノ社會政策ニ對スル熱意ガ極メテ不足
デアッテ、折角改正ヲサレルナラバ、何故ニ
モツト擴充シタ、モツト充實シタ提案ヲナ
サラヌカト云フノニアッタノデアリマス
討論ニ入リマシテ、松本治一郞君ヨリ母
子保護法ニ付キマシテハ
一、第十三條ノ年齡十三歲以下トアルヲ
工場法ニ於ケル幼年工ノ保護規定ト同
ジク滿十五歲以下トスルコト
二、第一條ノ一號中「精神又ハ身體ノ障
碍」トアル次ニ「失業」ヲ加フルコト
三、第二條中母ノ地位ニ代ッテ子ヲ養育
スルモノトシテ祖母ノ外ニ姉及伯叔母
ヲ加フルコト
四、第三條中「性行其ノ他ノ事由ニ因リ」
トアル制限ヲ削除スルコト
五、第四條ノ全文ヲ削除スルコト
六、第五條ノ方面委員ヲ市町村長ノ補助
機關トスルノ規定ハ本法ニ限リ別箇ノ
母子保護委員ヲ設置スルコト
七、第六條ノ扶助ノ限度ヲ定メタル內
「子ノ養育」ノ次ニ「〓育」ヲ加フルコト
八、第六條第四項ニ依ル勅令發布ノ場合
ニハ扶助ノ種類、方法、金額等ニ付充
分社會的事情及母子ノ立場ヲ理解スル
社會事業家、學識經驗アル女性ヲ加へ
タル委員會ヲ設置シ之ニ諮問スルコト
九、妊婦ヲ本法ニ依ッテ保護スル規定ヲ設
ケ第六條ノ扶助ノ種類ノ中ニ「助產」ヲ
加フルコト
+、扶助費ハ之ヲ全額國庫負擔トスルコ
ト
又救護法ニ付キマシテハ
一、第一條ノ「六十五歲以上」ヲ「六十歲
以上」トシ「十三歲以下」ヲ「十五歲以
下」トスルコト
二、第一條第四項ノ「精神又ハ身體ノ障
碍」ノ次ヘ「失業」ヲ加フルコト
三、第二條ハ全文削除スルコト
四、第二十五條ノ救護費ハ之ヲ全額國庫
負擔トスルコト
軍事救護法ニ付テハ
一、本法ノ名稱ヲ「軍事補償法」トシ以下
各條ノ「扶助」ヲ「補償」トスルコト
二、第五條ノ「扶助ハ生活ニ必要ナル限
度ヲ超ユルコトヲ得ス」トアルヲ「補償
ハ生活ニ必要ナル限度ヲ下ルコトヲ得
ス」トスルコト
三、第十三條ノ二ノ「二十日以內」ヲ「三
月以内」トスルコト
四、第十四條ノ「三月內」ヲ「六月內」トス
ルコト
五、第十五條ノ「三月內」ヲ「六月內」トス
ルコト
六、入營又ハ出征兵士一家族當年額百八
十圓ヲ兵士家族生活補償金トシテ國庫
ヨリ支出シ之ヲ月割ニテ每月末各家族
ニ現金ヲ以テ交付スルノ兵士家族生活
補償ニ關スル法律案ヲ次期議會ニ提出
セラレタキコト
以上ヲ修正案トシテ提出シタイノデアルケ
レドモ、此際ハ之ヲ修正案トシテ出サズニ、
將來政府ニ於テ此點ヲ考慮シテ、適當ニ改
正シテ貰ヒタイト云フ意見ヲ附シテ贊成ス
ルト云フ御演說ガアリマシタ、又升田憲元
君ヨリ、本法ニ對スル修正動議トシテ
一、軍事救護法ノ名稱ヲ「軍事保障法」ニ
改メ以下「救護」ヲ「保障」ニ改ムルコト
二、第一條ヲ「傷病兵、其ノ家族若ハ遺族
又ハ下士官兵ノ家族若ハ遺族ハ本法ノ
定ムル所ニ依リ保障ヲ受クルノ權利ヲ
有ス」ニ改ムルコト
三、第二條ニ「保障ハ保障ヲ受クベキ者
ノ居住地ノ市町村長之ヲ行フ」ト規定
スルコト、以下順次條文ヲ繰下ルコト
四、第三條第一項第二號中「傷病兵ノ兵
役ヲ免ゼラレタル時」ヲ「傷病兵ノ轉役
又ハ兵役ヲ免ゼラレタル時」ニ改メ以
下各條ニ於テモ同ジクスルコト
五、第三條第一項第三號中「傷病兵ニ依
リ扶養ヲ受クベキ者」ノ次ニ「又ハ其生
活ヲ維持シタル者」ヲ加ヘ第四條第三
號ニ於テモ同趣旨ニ改ムルコト
六、第四條第三號中「下士官兵ノ入營若
ハ應召シタル時又ハ傷病兵ノ兵役ヲ免
ゼラレタル時」トアルヲ「下士官兵又
ハ傷病兵ノ死亡ノ時」ニ改ムルコト
七、第十三條ノ二中「二十日」ヲ「一月」
ト云フ修正動議デアリマス、更ニ石坂豐一
君ヨリ
一、社會政策立法ノ擴充ヲ期スルコト
二、內緣ノ妻及私生兒ヲ扶助スルノ要ア
リト認ムルヲ以テ將來此點ニ關シ〓究
ヲ進メラレタキコト
三、母子法第一條ノ「貧困ノ爲生活スル
コト能ハズ」トアルヲ「生活困難」ト
スル點ニ付テ將來訂正サレタキコト
ノ三點ノ希望ヲ附シマシテ贊成ノ御意見ガ
アリマシタ、更ニ岡田春夫君ヨリ、「各案ニ
對シテ扶助ノ實際ニ當ッテハ各府縣區々ノ
點ガアルカラ、將來統一ヲ圖ルヤウ注意ヲ
シ、不公平ニ互ルガ如キコトノナイヤウニ
愼重留意サレタシ」トノ條件ヲ附シテ贊成
ノ御意見ガアリマシタ
委員會ハ採決ニ當リマシテ、先ヅ母子保
護法案ト救護法中改正法律案ノ可否ヲ諮ヒ
マシタ所ガ、滿場一致原案ニ贊成ヲ致シマ
シテ、更ニ軍事救護法中改正法律案ニ付キ
マシテ、先ヅ升田憲元君ノ修正意見ヲ諮リ
マシタ所、起立者升田君一人デ、否決ヲ致サ
レマシタ、原案ハ大多數ヲ以テ可決サレタ
ノデアリマス、以上御報告申上ゲマス(拍
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=6
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007・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 討論ノ通〓ガアリ
やっ、之ヲ許可致シマス-岡田春夫君
〔岡田春夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=7
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008・岡田春夫
○岡田春夫君 只今上程ニ相成リマシタ軍
事救護法中改正法案律、母子保護法、救護
法中改正法律案、此三案ニ對シマシテ委員
長ノ報告ニ贊意ヲ表シ、簡單ニ意見ヲ申述
ベタイト存ジマス
先ヅ母子保護法ニ付テ一言ヲ致シタイト
存ジマス、世ノ進步ニ伴レマシテ社會情勢ガ
複雜多岐ニ亙リ生活苦ノ增大致シマスルコ
トヲ已ムヲ得ザル實情ト存ジマス、殊ニ今日
ノ如ク自由主義經濟機構ニ堕セル時代ニ於
キマシテハ、一層其感深キヲ覺エル者デア
リマス、昨今此自由主義ニ對シテ或ル程度
ノ修正ヲ加ヘ、國家ノ權力ヲ以テ富ノ分配
ヲ公正ニ致シ、出來得ル限リ貧富ノ懸隔ヲ縮
小シナケレバナラスト云フ議論ガ起ッテ居リ
マスコトモ、或ル程度之ヲ認メナケレバナラ
ヌト存ズル者デアリマス、洵ニ此場合畏キ
例話ヲ致シマスルガ、明治大帝陛下ガ登極
ノ初メニ於カセラレテ、億兆一人ニテモ其
處ヲ得ザル者アルハ朕ノ罪ナリト仰セラレ
テ居リマスガ、國民ト致シマシテハ洵ニ恐
懼感激ニ堪ヘナイ次第デアリマス、此思召
ニ副ヒ奉ルノニハ、政治ノ局ニ當リマス者
ガ、須ク善政ヲ施シマスルト共ニ、徹底的
ニ防貧、救貧ノ政策ヲ立テル以外ニ途ナシ
ト存ジマス、然ルニ今日國家ノ現狀ハ遺憾
ナガラ之ヲ許シマセヌ、而シテ已ムヲ得ズ
今日ノ救護法ニ依存ヲ致シテ居ル次第デゴ
ザイマスガ、而モ斯ノ如キ施設ハ、諸外國
ニ比較致シマスト、後レタル感ノアリマス
ルコトハ、諸君ト共ニ洵ニ遺憾トスル次第
デアリマス
偖テ今囘提案ヲ致サレマシタル母子保護
法ハ、實施ノ曉ニ於キマシテ、果シテ幾何
ノ無辜ノ母子ヲ救ヒ得マスルカ、今日未知
數デゴザイマスガ、現代ノ社會情勢カラ致
シマシテ、本案ガ立法セラレマシタ點ニ付
キマシテハ、極メテ時宜ニ適シタルモノト
贊意ヲ表スル次第デアリマス、殊ニ此案ガ
我國ノ美風デアリマスル所ノ家族制度ニ立
脚致シマシテ、母ガ子供ヲ育テルコトハ人
道ノ大倫デアルト云フ點ヲ、明ニ致シマシ
タル點ニ對シマシテハ、特ニ本員ハ本立法
ニ贊意ヲ表スル次第デアリマス、此意味カ
ラ致シマスナラバ、本法實施ニ伴ヒマスル
經費ノ如キハ、總テ之ヲ國費ヲ以テ負擔ヲ
致シ、本法第三條ノ如キハ削除スベキヲ適
當ダト認メマスルガ、此點ニ對シマシテ
ハ、本法實施ノ成績ニ鑑ミマシテ、論ズベ
キ機會ガアラウト存ジマス、唯此場合本法
運用ノ衝ニ當リマスル政府當局ニ對シ、特
ニ注意ヲ喚起致シタイコトハ、本案ガ一般
救護法ト離レテ獨立セシメラレマシタル、
現在ノ社會情勢ニ深甚ノ注意ヲ拂ハレ、特
ニ此精神ヲ織込ンデ運用セラレンコトヲ希
望スル次第デアリマス
次ニ救護法中改正法律案ニ對シマシテ
モ、私之ニ贊意ヲ表スル次第デアリマス、
抑〓本改正ノ目的ハ、救護機關ノ擴充ト國庫
補助ノ增額デアリマシテ、本員ハ尙ホ其足
ラザルヲ憂フル者デゴザイマスルガ、國家
ノ財政之ヲ許シマセヌノデ、已ムヲ得ズ此
程度ニ於テ承認ヲスル次第デアリマス
最後ニ軍事救護法ニ付キマシテ一言申述
ベマスルガ、其扶助ノ範圍ガ若干擴メラレ
マシタルコトハ、洵ニ結構デゴザイマスル
ガ、此程度ニ於テハ十分其目的ヲ達スルコ
トハ不可能デアラウト存ジマス、唯其經費
ノ費目ハ、補充費目ト相成ッテ居リマスル
關係ニ於キマシテ、運用ノ如何ニ於テハ、
大體ニ於テ本法改正ノ目的ヲ達シ得ルコト
ト信ジマスルガ故ニ、之ニ對シマシテ贊意
ヲ表スル次第デアリマス、唯其適用範圍
ガ、先程モ委員長ノ報〓ニアリマシタ通
リ、内緣關係ニ及バナイコトヲ甚ダ遺憾ト
スルモノデゴザイマス、本員固ヨリ我國ノ
良風美俗ニ反シマスル內緣關係ヲ奬勵スル
意味デハゴザイマセヌケレドモ、世ノ複雜
化ニ伴ヒマシテ、内緣關係ハ今日以上ニ增
大スルコトヲ覺悟シナケレバナラヌト存ジ
マス、此內緣關係ト云フ唯形式一片ニ囚ハ
レテ、無辜ノ憐ムベキ軍人ノ遺家族ガ、若
シ救ハレヌト致シマシタナラバ、全ク本改
正ノ其趣旨ニ反スルコトト相成リマスルノ
デ、本法適用ニ對シマシテモ、政府當路ハ深
甚ナル考慮ヲ拂ハレンコトヲ希望スル次第
デアリマス、尙ホ是亦委員長カラ御報告ガゴ
ザイマシタガ、本法運用ニ際シマシテハ、道
府縣ヲ統一致シ、救助竝ニ扶助ニ當リ不公平
ナキヲ期セラレンコトヲ希望致シマシテ、委
員長報告通リ贊成ヲスル次第デアリマス(拍
手)諸君ノ御贊成ヲ望ム次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=8
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009・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 伊東岩男君
〔伊東岩男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=9
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010・伊東岩男
○伊東岩男君 本員ハ先程委員長報告ノ通
リ、尙ホ只今民政黨ノ岡田議員ヨリ原案ノ
御贊成ニ對スル意見ノ御開陳ガアリマシ
ク、本員モ同樣ノ贊意ヲ有スル者デアリマ
シテ、玆ニ唯簡單ニ希望ヲ附加シテ原案ニ
贊成致シマス
抑〓社會政策ノ徹底强化ハ、我國現狀ノ
社會相ニ鑑ミマシテ、最モ緊急且ツ急務デ
アリマス、庶政一新モ、生活安定モ、先ヅ
此點カラ出發シナケレバナラヌト思ヒマス、
明朗政治ノ重點ハ、社會ノ各階級ヲ通ジテ、
全面的ニ明ルク朗カニ、其人生ヲ光輝アラ
シムルコトデアリマス、就中從來放任サレ
テ居リマシタ、惠マレザル下層階級ノ救濟、
生活ノ安定ヲ圖リマシテ、憂ヲ共ニスル共
存共榮ノ對策ガ最モ肝要デアリマス、然ル
ニ每日ノ如ク新聞紙上ヲ賑ハシテ居リマス
ル彼ノ親子心中ヤ、其他ノ變死等ヲ見テ、
下層社會ガ如何ニ行詰リ、其生活ガ如何ニ
逼迫シ、暗黑デアルカト云フコトガ裏書サ
レルデアラウト思ヒマス、是等ノ事相ハ洵
ニ人生ノ不幸ノ極致デアリ、國ノ一大恥辱
デアリマス、更ニ資本主義萬能ノ政治ヨリ
來レル一大缺陷ダト謂ハネバナリマセヌ、
然ルニ議會人中ニハ、早クカラ此點ニ著眼
致シマシテ社會政策ノ各般ニ亙ッテ、或ハ
建議ニ、或ハ請願ニ、或ハ質問ニ於テ、大
イニ主張シ、大イニ要望シテ來タノデアリ
マスルガ、政府モ此點ニ目覺メラレテ、此
三案ノ外ニ、國民健康保險法ヲ提案サレ、
本議會ニ此四ツノ社會立法ヲ見マスルコト
ハ、夙ニ私ノ欣ビトスル所デアリマス
先ヅ只今提案中ノ三案ノ內容ヲ具サニ見
マスルニ、何レモ不徹底デアリマス、庶政
一新ヲ强調セラルヽ現內閣ガ、折角此大切
ナ社會立法ヲ御改正ニナリ、更ニ新法ヲ制
定サルヽナラバ、今少シ徹底的ニ、何故ニ
現實ニ卽シタ思切ッタ立法ヲセナカッタノデ
アルカ、委員會ニ於テハ、特ニ此點ニ付テ
追究討議シタノデアリマスルガ、議會ノ熱
意ニ反シマシテ、政府ノ誠意ガナイノニ、
私共ハ洵ニ遺憾デアッタノデアリマス
殊ニ軍事保護法ニ至リマシテハ、救護適
用ヲ擴充シ、特ニ第五條ノ從來生活不能者
ニ限リ給與シタモノヲ、生活困難ナ者ニ給
與スル如ク改正サレタコトハ、本改正案ノ
重要ナル點デアリマス、然ルニ實際徴兵ニ
應ジマスル者ハ、多クハ農村ノ子弟デアリ、
特ニ貧乏人ガ多イノデ、私ノ見ル所ヲ以テ
スルナラバ、改正サレタ第五條ニ該當スル
者ハ、入營兵ノ少クトモ六七割ヲ占ムルモ
ノト思ヒマスルノデ、是等ノ人員ヲ救濟ス
ルニハ、豫算ガ全ク足リナイノデアリマス、
卽チ結論トシテ豫算問題デアリマスルガ、
之ニ對シテ政府モ誠意アル御答辯ヲナサレ、
豫算ハ補充費目デアルカラ、不足額ハ他ヨ
リ流用シ得ルトノ大藏省當局ノ御聲明モアッ
タノデ、遺憾ナガラ先ヅ此言質ヲ一應信賴
シタノデアリマス、仍テ玆ニ簡單ニ希望ス
ルコトハ、第一、本法運用ニ付テハ公平適
正殊ニ第五條ニ注意シテ嚴選主義ニ偏セザ
ルコト、第二、內緣ノ妻及ビ其子ニ對シテ
救助ノ適用範圍ヲ擴張スルコト、三、本法ノ
扶助ノ決定權ヲ市町村長ニ付與シ其手續煩
瑣ヲ避ケ迅速徹底ヲ期スルコト、四、次年
度ニ於テ更ニ豫算ノ增額經費ノ十全ヲ圖リ
本法ノ扶助ノ徹底ヲ期スルコト、軍事保護
法ニ對シマシテハ、大體以上ノ諸點ニ注意
ヲ喚起セラレ、國防上銃後ノ憂ナカラシメ、
以テ士氣ノ鼓舞ニ寄與セラレンコトヲ望ム
者デアリマス
更ニ農村救濟、社會政策ノ見地カラ、ド
ウシテモ在營兵ノ待遇改善、入營兵家族ニ
對スル保障法ニ對シテハ、國策ノ立場ヨリ、
別途ノ方法ニ依ッテ徹底セル、之ニ對スル對
策ヲ講ゼネバナリマセヌ、併シ是ハ非常ナ
ル經費ヲ要スル大キナ問題デアリマスルカ
ラ、只今ハ此點ニハ言及致シマセヌ、他ノ
機會ニ十分ニ檢討シタイト存ジマス
次ニ救護法ノ改正法律案モ、私共ノ意見
トシテハ、今一段ト徹底强化ヲ必要トスル
モノデアリマス、新シク制定サルベキ母子
保護法モ、具サニ其內容ヲ檢討致シマスル
時ハ、洵ニ不十分デ、滿足スルモノデハア
リマセヌ、卽チ是ガ適用條件ノ擴充、救護
年齡ノ擴張、或ハ姙婦ニ適用スル如キ、或
ハ給與額ヲ引上グルガ如キ、幾多擴充ヲ要
スル點ガアルノデ、將來大ニ御考慮ヲ仰ギ
タイト存ジマス
要ハ三案共此法律ノ範圍ニ於テ、豫算サ
ヘ十分デアリマスルナラバ、之ヲ廣義ニ善
意ニ解釋シタナラバ、十分ニ救濟扶助ノ目
的ヲ達スルコトガ出來ルノデアリマス、政
府當局ハ本案實施ニ當リ、委員會ニ於ケル
委員ノ熱意アル質問ノ本質ト、積極的ノ態
度ニ鑑ミラレテ、十全ヲ期セラレンコトヲ
希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=10
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011・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ニテ討論ハ終局
致シマシタ、三案ノ第二讀會ヲ開クニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=11
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012・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ三案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=12
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013・松永東
○松永東君 直チニ三案ノ第二讀會ヲ開キ
第三讀會ヲ省略シテ、委員長報〓ノ通リ可
決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=13
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014・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=14
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015・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マツ、仍テ直チニ三案ノ第二讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
軍事救護法中改正法律案
第二讀會(確定議)
救護法中改正法律案第二讀會(確定議)
母子保護法案第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=15
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016・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 別ニ御發議モアリ
マセヌ、第三讀會ヲ省略シテ、三案トモ委
員長報告通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=16
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017・松永東
○松永東君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際日程第四十五及ビ第
四十六ヲ繰上ゲ上程シ、其審議ヲ進メラレ
ンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=17
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018・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=18
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019・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシタ、
日程第四十五及ビ第四十六ハ、同一委員ニ
付託シタル議案デアリマスカラ、一括議題
ト爲スニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=19
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020・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程第四十五、絲價安定施設法
案日程第四十六、絲價安定施設特別會計
法案、右兩案ヲ一括シテ第一讀會ノ續ヲ開
キマス、委員長ノ報〓ヲ求メマス-委員
長紫安新九郞君
第四十五絲價安定施設法案(政府提
出)第一讀會ノ續(委員長報〓)
第四十六絲價安定施設特別會計法案
(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一絲價安定施設法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月十二日
委員長紫安新九郞
衆議院議長富田幸次郞殿
附帶決議
-絲價低落ヨリ來ルベキ損失ヲ養蠶家
ノミニ轉嫁セシメザル爲絲價安定委員
會及繭價協定委員會ノ運用竝產繭處理
統制組合ノ機能ヲ發揮セシムルニ遺憾
ナキヲ期スベシ
-政府ハ速ニ普通蠶種ノ國家管理竝桑
園ノ調整ニ關スル適切ナル方策ヲ樹立
スペン
-國用生絲需要增進ノ爲品位ノ向上ト
取引ノ公正ヲ期スルハ極メテ緊要ナリ
仍テ政府ハ國用生絲檢査所ノ普及ニ對
シ助成ノ途ヲ講ズベシ
報告書
一絲價安定施設特別會計法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和十二年三月十二日
委員長紫安新九郞
衆議院議長富田幸次郞殿
〔紫安新九郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=20
-
021・紫安新九郎
○紫安新九郞君 諸君、只今上程セラレマ
シタル絲價安定施設法案及ビ絲價安定施設
特別會計法案ノ委員會ニ於ケル經過竝ニ結
果ヲ一括御報告致シマス
本案ハ我ガ蠶絲對策ノ核心ヲ成ス絲價安
定ニ關スル施設デアリマシテ、其手段トシ
テハ、製絲業者ヲシテ絲價安定施設組合ヲ
作ラセ、其組合ヲシテ生絲ノ賣買又ハ共同
保管ヲ行ハシメル、而シテ政府ハ其組合ノ
施設ヲ援助スル爲ニ、政府ガ現在持ッテ居
ル所ノ五万俵ノ生絲ト、更ニ七千万圓ノ資
金融通ノ途ヲ講ジテ、絲價ノ異常ナル高値
ヲ抑ヘテ、需要ノ減退ヲ防ギ、他方ニ於テ
ハ異常ナル安値ヲ喰止メテ、生產機構ノ破
壞ヲ防止セントスルノデアリマス、隨テ頗
ル廣汎且ツ强力ナル統制ガ企圖サレテ居リ
マス、委員會ニ於テハ熱心ニ且ツ愼重ニ審
議致シマシタ、其中ニ於テ議論ノ焦點トナ
リマシタルモノハ施設法案第十一條デアリ
マス、第十一條ニ依レバ、生絲ノ買入價格
ヲ決定スルニ當リテ、生絲ノ生產費ハ全額
入レテ居ルノニ、繭ノ生產費ノミハ、現金
支出ハ全額ナルモ、勞力ナドノ自給費ハ之
ヲ一定割合ニ止メテ居ルノハドウ云フ譯デ
アルカ、是ハ製絲業者ニ厚クシ、養蠶家ニ
薄クシテ居ルノデハナイカト云フノデアリ
やく、之ニ對スル政府ノ答辯ハ、金錢支出
ハ養蠶家ト致シマシテハ現實ニ出シタ金デ
アルカラ、セメテ是ダケ補償シテ貰ヘバ、
非常ニ自分等ハ安心ダト云フコトガ、各方
面デ盛ニ唱ヘラレテ居タノデ、金錢支出ハ
是非補償シタイ、併シ自給費ト云フモノ
ハ、養蠶經營ノ相當ノ部分ヲ占メテ居ルモ
ノデアリマスルカラ、其或ル部分ヲ補償セ
ヌト、養蠶經營ト云フモノノ眞ノ安定ガ期
シ難イト云フノデ、ソレニ一定ノ割合ヲ加
ヘタノデアル、隨テドノ程度ニ致セバ養蠶
農家トシテ十分ニ補償サレルカト云フト、
此一定割合ノ加へ方如何ニアルノデアル、
本案ノ構成自體ハ決シテ製絲家ヲ保護スル
意味デ、養蠶家ヲ輕クスルト云フモノデハ
ナイ、元々繭ノ買上デハナク絲ノ買上デア
ルカラ、絲ノ値段ノ買入價格ヲ構成スル以
上ハ、斯ウ云フ立テ方デナイト所期ノ目的
ヲ達セラレナイト云フノデアリマス、又政
府ハ此施設ダケデ總テガ養蠶農家ノ保護ニ
ナルト云フ風ニハ考ヘテ居ラヌ、養蠶農家ト
シテ非常時ノ場合ニ一ツノ安全瓣ガアレバ、
或ル程度ノ安心ヲ與ヘルト云フ所カラ、此
施設ガ出來テ居ルノデアルト云フノデアリ
マス
而シテ兩案ヲ採決スルニ當リマシテ、民
政黨ノ百瀨君、政友會ノ橫川君、昭和會ノ
靑木君ヨリ、斯樣ノ附帶決議ガ提出セラレ
タノデアリマス
一絲價低落ヨリ來ルベキ損失ヲ養蠶家
ノミニ轉嫁セシメザル爲絲價安定委員
會及繭價協定委員會ノ運用竝產繭處理
統制組合ノ機能ヲ發揮セシムルニ遺憾
ナキヲ期スベシ
-政府ハ速ニ普通〓種ノ國家管理竝桑
園ノ調整ニ關スル適切ナル方策ヲ樹立
スパン
一國用生絲需要增進ノ爲品位ノ向上ト
取引ノ公正ヲ期スルハ極メテ緊要ナリ
仍テ政府ハ國用生絲檢査所ノ普及ニ對
シ助成ノ途ヲ講ズベシ
而シテ本案及ビ附帶決議共ニ大多數ヲ以テ
可決セラレタノデアリマス、何卒委員會ノ
決定通リ御贊成アランコトヲ希望致シマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=21
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022・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 討論ノ通告ガアリ
マス、順次之ヲ許可致シマスー-佐竹晴記
君
〔佐竹晴記君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=22
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023・佐竹晴記
○佐竹晴記君 私ハ本法案ニ反對ヲ致シマ
ス、其要旨ハ第一、養蠶農民ノ立場ニ立チ
マシテ反對ヲ致シマス、農民ノ最小限度ニ
於ケル繭生產費スラ補償サレナイ、本法案
ハ結局養蠶農民ヲ犠牲トシテ絲價ノ安定ヲ
策スル結果トナリ、歸著スル所、製絲業者
保護政策ニ墮スルヲ以テ反對セザルヲ得ナ
イノデアリマス、第二ハ、本法案ガ企圖致
シマスル價格統制ノ方法ニ依リマシテ、絲
價安定ハ斷ジテ期シ得ラレナイト考ヘルノ
デアリマス、第三ニハ、本法案ニ依リマシ
テ期セント致シマス絲價ノ統制ニハ、ソレ
自體行詰リヲ來ス虞ガアルノミナラズ、諸
種ノ弊害ヲ伴フ危險ガアリマスノデ、以上
三點ノ理由ニ依リマシテ反對ヲ致シマス、
以下第一ヨリ其內容ヲ說明致シタイト存ズ
ルノデアリマス
第一、本法案ノ第十一條ニ於テハ賣渡價
格卽チ最高價格、及ビ買入價格卽チ最低價
格決定ノ方法ヲ規定致シテ居リマス、所謂
制高制低價格ヲ公定致シマシテ、絲價安定
操作ノ基準トナサント致シテ居ルノデアリ
マス、所ガ此規定中、養蠶農民ニ取リマシ
テ極メテ重大ナ關係ヲ持ッテ居リマスル繭
ノ生產費ニ付テハ、「生產費中ニ於ケル
現金支出額ニ自給費ノ一定割合ノ金額ヲ
加ヘタルモノ」ト明記致シマシテ、生產
費全部ノ加算ハ、之ヲシナイト云フコト
ガ明定サレテ居ルノデアリマス、若シ左
ニ相成リマスレバ、此規定ハ養蠶農民ノ
最少限度ノ生產費スラ、之ヲ顧慮サレナ
イコトニナルノデアリマス、更ニ一步進
ンデ之ヲ考ヘマスルノニ、繭ノ生產費ガ
一體ドレダケ掛ルカト云フコトハ、實際問
題トシテ極メテ困難デアリマス、地理的ニ
モ違ヒマセウシ、養蠶家一人々々ノ經營方
法ニ付テモ相違ヲ來スデアリマセウ、或ハ
自作農ト小作農、或ハ桑園ノ工合等ニ依リ
マシテモ、色々ノ相違ヲ來スデアリマセウ、
全國養蠶聯合會調査ニ依リマスレバ、昭和
十一年ノ春繭ニ於テ、最低沖繩ニ於テノ二
圓一錢ニ對シテ、最高長野ノ五圓三十五錢
ト云フ、驚クベキ開キヲ示シテ居リマス、農
林省ノ實態調査ニ依リマスレバ、昭和九年ノ
春秋繭ヲ通ジマシテ、最高愛媛ノ中川村ノ
四圓五十四錢四厘ニ對シマシテ、最低埼玉
縣中川村ノ一圓九十六錢五厘、其差額實ニ
二圓五十七錢九厘ト云フ狀態ヲ示シテ居ル
ノデアリマス、一縣一村ノ相違ニ於テスラ
斯ノ如キ大ナル開キガアルト致シマスナラ
バ、個々ノ養蠶家ノ間ニ於ケル生產費ノ相
違ハ測リ知ルベカラザルモノガアルト言ハ
ナクチヤナラヌノデアリマス、ソコデ本案
ノ制高制低價格ハ、一體ドノ生產費ヲ基準
トシテ之ヲ定メヤウトスルノカ、米ノ生產
費ノ如キハ、一石十七圓位カラ四十三圓マ
デノ間、其中ノ異常ナモノヲ除外致シマシ
タ平均ヲ取ッテ定メルト云フコトニナッテ居
リマスガ、一體ドノ邊ガ異常デアルカト云
フコトニ付テハ、之ヲ決メル人ノ心持ニ依ッ
テ變ルノデアッテ、確固タル基準ト云フモノ
ハアリ得ナイノデアリマス、斯ク致シマシ
テ、先ヅ中間ノ平均價格程度デ、其生產費
ヲ定メマシテ、之ヲ基準ト致シマスナラバ、
ソレハ以上ノ生產費ヲ要シマシタ農民ニ取
リマシテハ、全ク損害ヲ蒙ラザルヲ得ナイ
ノデアリマス、詰リ公定價格ノ基準トナリ
タル生產費ヨリモ、尙ホ高イ生產費ヲ出シ
マシタ養蠶農民ハ、其農民ダケガ損ヲスル
コトニ依ッテ、大製絲家ノ爲ノ絲價安定ヲナ
サシメル結果トナリ、結局一部養蠶農民ヲ
犠牲ニ供スルコトニ依ッテ、製絲業者ノ生活
安定ヲ得セシムルト云フ結果ニナラザルヲ
得ナイノデアリマス(拍手)
更ニ一步進ンデ考ヘンケレバナラヌノハ、
本法案第三十一條ノ生產制限ノ問題デアリ
やく、政府ハ蠶絲業組合法ニ依ル養蠶團體
ニ於ケル自治的生產調節ノミニ期待シテ居
ルデアリマセウガ、是ハ恐ラク期待ガ外レ
ルノデハナイカト思フノデアリマス、養蠶
農民ノ殆ド大部分ガ一定ノ桑園ノ上ニ、長
キニ亙ッテ耕作ヲ致シマシテ、家族ノ勞力ヲ
以テ營マレテ居ル所ノ、所謂家族的經營方
法デアルノデアリマス、繭ノ値段ガ引合ハ
ウト引合ハナイトニ拘リマセズ、養蠶家ハ
其養蠶ヲ止メラレナイノガ實情デアルノデ
アリマス、而モ他ニ之ニ代ルベキ適當ナ仕
事ガナイト致シマシタナラバ、繭ガ農民ニ
取ッテ最大ノ現金收入デアリマスル限リ、繭
ノ値ガ下ッタカラト云ッテ、養蠶ヲ止メラレ
ナイノミカ、却テ餘計ニ飼育致シマシテ、
其損害ヲ埋合セヤウト致シマスノハ、農民
通常ノ心理デアルノデアリマス、隨ヒマシ
テ本法案ニ於ケル、最低價格決定ノ基準タ
ル生產費ヨリモ、尙ホ高イ生產費ヲ支出致
シタ農民、或ハ生產制限ニ伴ヒマシテ、其
仕事ヨリ離レナケレバナラヌ農民ノ損失ヲ
補償スルノ制度ヲ立テ、最小限度ノ農民生
活ヲ安定セシムルノデナケレバ、農民ハ徒
ニ本法案ノ犠牲者トナルモノト言ハナケレ
バナラナイノデアリマス、獨逸ノ「ナチスL
ニ於テハ、農業ハ全然公益事業デアル、
營利事業デナイ、隨テ農民ノ生活維持ハ、
國家ガ義務トシテ之ヲ負擔スベキモノデ
アルト云フ、確固タル「イデオロギー」
ノ上ニ立ッテ居ルト云フコトデアリマス、
洵ニ私共ハ左樣アルベキモノデアルト思
フ、然ルニ我國養蠶農民ハドウデゴザイ
マセウ、曩ニ產繭處理統制法ガ制定サレ
マスルヤ、相當救ハレルモノト思ッテ居リマ
シタガ、却チ逆ニ苦シメラレツヽアルノ狀
態デアリマス、乾繭貯藏ノ便ハ、徒ニ製絲
家經營ノミノ安定ニ寄與スル所アルノミナ
ラズ、却テ之ニ依ッテ製絲家ノ負擔致シテ參
リマシタ莫大ナル危險ガ、農民ニ轉嫁サレ
ルコトトナッテ、甚シキ苦痛ヲ農民ガ嘗メナ
クチヤナラヌト云フ狀態ニアリマス、今又
玆ニ絲價安定施設法ヲ提出致シマシテ、農
民ノ犠牲ニ依ッテ絲價安定ヲ期シヨウト致
シマスコトハ、一體農民ニ對シテ政府當局
ガ如何ナル認識ヲ持ッテ居ルノカ、養蠶農民
ノ生存權確立ト云フコトニ付テ、果シテ正
シキ認識ヲ持ッテ居ルノカドウカ、寧ロ私共
ハ之ヲ憂ヘザルヲ得ナイノデアリマス、而
モ大製絲家ノ經營困難ヲ見マスルヤ、政府
ハ曩ニ絲價安定融資補償法ヲ發動セシメマ
シテ、莫大ナル國費ヲ費シマシテ、之
ヲ救ッタノデアル、滿洲ノ曠野ニ赤キ
血潮ヲ流シテ第一線ヲ護リタル者ハ誰カ、
其大半ハ農民ノ子弟デハナカッタカ、此農民
ノ最小限度ノ生活費ヲ保障セザル所ノ本法
案ニ對シマシテハ、眞向カラ反對セザルヲ
得ナイノデアリマス(拍手)
第二ニ、本法案ノ實施ニ依リマシテハ、
絲價安定ハ斷ジテ望マレ得ナイト考ヘルノ
デアリマス、絲價ノ統制ハ、學者ノ中ニハ
絲價ヲ統制サヘスルナラバ、直チニ絲價ガ
安定スルモノト卽斷ヲ致シマス向キガアル
ヤウデアリマス、本法案モ正シク其精神ヲ
承ケテ居ルデヤナイカト見ル、併シ私ハ是
ハ絕對ニ誤リデアルト思フ、絲價ノ安定ハ、
之ヲ長期ニ亙ルモノト、短期ニ現レルモノ
トノ、二ツノ方面ヨリ觀察ヲスルコトヲ要ス
ルト思フノデアリマス、先ヅ長期ニ亙ルモ
ノニ付テ之ヲ考ヘマスルノニ、我國蠶絲業
其モノニ基因スルモノト、人絹トノ關係ニ
於ケルモノ、及ビ貨幣價値ノ異常ナル騰貴
ニ關係致シマスモノトヲ指摘セザルヲ得ナ
イノデアリマス、御承知ノ如ク我國蠶絲業
ハ、先ヅ養蠶農民ニ於テ永久的設備ヲ致シ
マシタ桑園ノ上ニ立ッテ居リ、損得ニ拘ラズ
他ニ轉業ヲスルコトヲ許サナイ運命付ケラ
レタ下ニアリマスル爲ニ、更ニ其生產致シ
マシタ生絲ハ、殆ド其全部ガ米國一箇國ニ
對スル宿命的輸出ニ依ラナケレバナラナイ
狀態ニ置カレテ居リマス關係上、此生絲ノ
不安ガ是ヨリ發スルモノト言ハザルヲ得ナ
イノデアリマス、若シ繭ニ代作物ガアッテ、
安イ時ニハ他ノ仕事ニ轉ジ、高イ時ニハ何
時デモ增產スルコトガ出來、又生絲モ米國ガ
安ケレバ他ノ國ニ向ッテ、何時デモ輸出ガ出
來ルト云フコトデゴザイマスナラバ、絲價
ハ必ズヤ安定スルデアリマセウ、此自由ナ
キ所ニ絲價ノ不安ガアルト思フノデアリマ
ス(「然リ〓〓」ト呼フ者アリ)此根本的蠶絲
機構ノ改善ガ行ハレナイ限リ、斷ジテ絲價
ノ安定ハ期シ得ラレナイト思フ、若シ無統
制ガ幾分ナリト絲價不安ニ影響スルモノガ
アリト致シマスナラバ、ソレハホンノ枝葉
末節ノコトデアルト思フノデアリマス
次ニ人絹ノ關係デアリマス、人絹ハ最近
目覺シキ進出ヲ致シテ居リマスコト、實ニ
驚クバカリデアリマシテ、其量的ノ膨脹ハ、
大正十一年ニ比シテ昭和七年ニハ五倍ニ達
シ、其價格ハ又次第ニ低落ヲ致シマシテ、
驚クベキ狀態ヲ示シテ居ル、卽チ恐慌以前
ニ於ケル百封度ニ對シ百圓ノモノガ、最近
五十圓程度デ生產サレル有樣デアル、雨ノ
品質ハ非常ナ改良ヲ來シマシテ、天然絹絲
ヲ摩スル所ノ高級ノモノモ、次第ニ生產サ
レツヽアル狀態デアリマス、此人絹ニ壓セ
ラレマシテ、今日ノ絲價不安ヲ來シテ居リ
マスコトハ、餘リニモ明白ナ事實デアッテ、
此不安ハ決シテ蠶絲家ノ統制ニ依ッテ防ギ
得ラルベキ性質ノモノデハナイノデアリマ
ス、敍上ノ原因ノ外、貨幣價値ノ異常ナル
騰貴、繭生絲生產ノ增加等々、相俟ッテ絲
價不安ノ狀態ヲ惹起シテ居ルモノト致シマ
スナラバ、本法案ノ如キ統制方法ニ依ッテ、
其窮狀ヲ救ヒ得ルモノトハ斷ジテ考ヘ得ナ
イノデアリマス
次ニ短期ノ絲價變動ノ關係ヨリ之ヲ觀察
致シマスノニ、絲價構成ノ波動ハ、其道ノ
人ノ深キ〓究ノ結果ヲ發表セラレタ所ニ依
リマスレバ、次ノ通リニナッテ居ルノデア
リマス、卽チ月別變動ヲ統計學ニ言フ多元
相關係數ノ公式ニ依ッテ之ヲ示シマスナラ
バ、內地絲價ハ、「イクオール」一·〇八九内
地一般物價、「プラス」〇·二八五九紐育
對日物價、「プラス」〇·二三二四生絲
需要指數ト云フコトニナッテ居ルノデ
アリマス、要スルニ絲價ノ變動ハ、其
八割五分マデガ內地物價、對日爲替、
紐育物價、生絲ノ內外市場各月ノ供給高及
ビ賣行高ニ依ッテ決定サレマシテ、無統制
ガ絲價不安ノ原因ト見マスナラバ、是ハ全
ク机上ノ空論デアリマシテ、無統制ガ絲價
不安ニ影響アルト致シマスナラバ、ソレハ
一割五分ノ中、マダ其幾分ノ一ニモ當ラナ
イト云フコトガ實證サレテ居ルノデアリマ
ス、果シテ然リト致シマスルナラバ、絲價
ノ安定ハ敍上ノ諸原因ノ中ノ惡イ條件ヲ取
除クト云フコトガ、極メテ必要デアリマ
ス、此中內地物價卽チ圓ノ對內價値、紐育
物價卽チ弗ノ對內價値、爲替卽チ圓ノ對外
價値ノ安定ガ、容易ニ之ヲ得ラレナイモノ
ト致シマシテモ、需給ノ數量的變化ダケデ
モ安定サセル工作ガ、急務中ノ急務デアル
ト思フノデアリマス、然ルニ何ゾヤ本法案
ニ於キマシテハ、販賣統制ヲ除外シテ居ル
デハアリマセヌカ、本法案ノ第九條ニ於キ
マシテ、輸出生絲問屋及ビ生絲輸出業者ハ
任意加入トスルコトニ相成ッテ居ルノデア
リマス、所ガ此問屋、輸出業者ノ加入ハ望
マレナイノデアリマス、曩ニ政府ガ輸出生
絲ノ販賣給制機關ト致シマシテ、輸出生絲
ノ共同金庫ヲ設置致シマシテ、輸出生絲取
引ニ於ケル制高制低價格ノ設定ヲ目論ミマ
シタガ、當業者ヨリ絕對反對ノ聲ガ起リマ
シテ、遂ニ名稱モ輸出生絲取引法ト改メ、
共同金庫ノ制度ヲ削除シタデハアリマセヌ
カ、又岡田內閣當時ニ於テ、二千六百万圓
ト云フ經費ヲ豫算ニ計上致シマシテ、蠶絲
業更生計畫ヲ樹立セント致シマシタ時ニ、
輸出商、問屋、取引所ハ此價格安定施設タ
ル販賣統制ノ制度ニ、强烈ナル反對ヲ唱ヘ
タデハアリマセヌカ、今日問屋、輸出業者
ハ生絲取引ノ重要ナル機關デアリマシテ、
殊ニ生絲輸出商ハ日本蠶絲業ノ最高ノ支配
者デアルト言ッテ差支ナイノデアリマス、彼
等ノ一擧手一投足ハ忽チニシテ絲價ノ變動
ニ、生絲ノ價格ノ變動ニ影響ガアルノデア
リマス、日本輸出ノ七割以上ヲ占メテ居リ
マスル三菱系ノ日本生絲、三井物產及ビ旭
「シルク」、是等財閥ノ行動ヲ規律スルコト
ナクシテ絲價安定ヲ、生絲ノ價格安定ヲ期
セントスルガ如キハ全ク木ニ緣ッテ魚ヲ求
ムルニ等シイモノナリト論斷セザルヲ得ナ
イノデアリマス、敍上有ユル方面ヨリ觀察
致シマシテ、本法案ガ企圖致シマスル所ノ
絲價安定ノ如キハ、全ク机上ノ空論トシテ
斷乎反對ヲセザルヲ得ナイノデアリマス、
更ニ第三、進ンデ本法案ノ實施ハ早晩行詰
リヲ來ス虞ガアリマス、又其期セントスル
所ノ絲價統制ハ、種々ノ弊害ヲ惹起スル危
險ガ多分ニアリマスノデ、以下之ヲ申上ゲ
マシテ反對セントスル者デアル、先ヅ其一
ツハ、本案ノ眼目デゴザイマス所ノ第十三
條、第十四條、第十五條ノ所謂「ストック」政
策ニ依リマシテ、制高制低絲價操作ヲシヨ
ウト致シテ居リマスガ、果シテ是ガ行詰リ
ナクシテ遂行サレルデアリマセウカ、政府
ガ或量ノ生絲ヲ買上ゲマシテ、一定價格ニ
達スル時ハ、直チニ賣出ヲシヨウト云フ姿
勢ノ下ニ、市場ヲ監視致シテ居リマス時ニ
ハ、生絲ノ市價ハ到底賣出價格ヲ拔クコト
ノ出來ナイト云フコトハ、是ハ事實ガ證明
シテ餘リアルノデアリマス、サウナルト致
シマスト、生絲ヲ買上ゲル機會ハゴザイマ
シテモ、之ヲ賣出ス機會ト云フモノハ、容
易ニ〓ッテ來ナイノデアリマス、過去ノ共
同保管ヤ滯貨生絲ノ苦キ經驗ガ、イヤニナ
ル程此事實ヲ證明シテ餘リアルノデハアリ
マセヌカ、其結果政府ガ買上資金ニ行詰リ
マシテ、又價格ノ壓迫ノ點デ以テ蹉跌ヲ來
シマシテ、必ズヤ重大ナル難關ニブッツカ
ルノデハナカラウカト、私共ハ憂ヘザルヲ
得ナイノデアリマス、其一一ハ、政府ガ手持生
絲ヲ何時デモ賣出スゾト云フ姿勢ヲ以テ市
場ヲ睨ンデ居リマス時ニハ、結局低値政策、
絲價引下政策ニ陷ルノ結果ニナルデアラウ
ト私共ハ憂ヘル者デアリマス、其三ハ、其
結果ハ更ニ進ンデ生產制限ニ依リマシテ、
絲價ノ騰貴ヲ目論ムコトニナルカモ分リ
マセヌガ、若シサウデモナリマセウモノナ
ラバ、農民ノ立場ヲ如何ニスベキカ、冒頭
申上ゲマシタ農民福利ノ爲ニ、又考へ及バ
ザルヲ得ナイノデアリマス、養蠶農民ニ對シ
マシテ生產制限ニ依ル損失補償ヲ爲シマセ
ヌ限リ、之ヲ實行スルコトハ不可能デアル、
之ヲ斷行シヨウト致シマスコトハ、ソレハ
農民ノ血ヲ啜リ、骨ヲシヤブッテ、生絲安定
ニ資スルノ結果ニ外ナラヌト私ハ思フノデ
アル、玆ニ本案ノ第三十一條、生產制限ノ規
定ガ、若シモ完全ニ行ハレマシタナラバ、
ソレハ啻ニ農民ニ對スル關係ノミヂヤゴザ
イマセヌ、我國蠶絲業ニ全面的ニ重大ナル
問題ガ惹キ起ルノヂヤナイカト思フ、先ヅ
護謨ノ制限ハ蘭領印度其他ノ護謨生產ニ、
或ハ米國ノ護謨再製品ノ發達ニ、甚シキ影
響ヲ與ヘマシタト同ジク、又米國ノ棉花統
制等ノ失敗ニ鑑ミマシテモ、若シモ我國ノ
農業政策ヤ蠶絲業政策ノ都合ニ依リマシテ、
任意ニ生產制限ヲヤッタ時ニハ、支那、伊太
利露西亞ノ生絲ノ進出ヲ促シ、重大ナル
結果ヲ生ズルデハナイカト私ハ思フノデ
アリマス、現ニ私ノ手許ヘ屆イテ居リマス
蠶絲學報一月號、木暮農學博士ノ支那蠶絲
業發達ノ狀況ニ關スル論說ヲ精讀致シマス
ル時ニ、一層其感ヲ深ウセザルヲ得ナイノ
デアリマス
以上各方面ヨリ觀察致シマシテ、本法案
ハ之ヲ制定スルコトニ依ッテ、農民ノ生活
ヲシテ却テ不安定タラシムルデハナイカ、
又害ガナケレバ宜イノデアリマスガ、將來
ヘノ害毒ニ付テ甚シキ危險ヲ伴ヒマスコト
敍上ノ通リデアリマスノデ、私ハ本法案ニ
對シマシテ、絕對反對ノ意思ヲ表示スル者
デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=23
-
024・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 最上政三君
〔最上政三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=24
-
025・最上政三
○最上政三君 私ハ只今上程ノ絲價安定施
設法案竝ニ同特別法案ニ對シ、委員長ノ報
〓ヲ認メ、之ニ贊成ノ意ヲ表スル者デアリ
マス、以下聊カ其趣旨ヲ述べタイト思ヒマ
ス、最近我國ノ製絲界ハ人絹ノ進出ト海外
ニ於ケル經濟關係、竝ニ問屋筋ノ思惑等ニ
依ッテ、絲價ハ屢〓動搖シテ居ルノデアリ
マス、其結果製絲家竝ニ養蠶家ノ打擊ヲ蒙
ルコトハ甚大デアリマス、昨年本議場ニ於
テモ輸出生絲販賣統制ニ關聯シテ、重大ナ
ル附帶決議ヲ付議シタコトハ御承知ノ通リ
デアリマス、是ガ爲カ政府ハ今囘此絲價安
定施設法案ヲ提出シ、平時ニ於テ豫メ暴騰
落ニ對スル對策ヲ講ジヨウトスルコトニ相
成ッタノデアリマス、絲價ノ安定ニ關スル
政府ノ施設ハ、之ヲ遠ク彼ノ第一次帝蠶會
社ノ設立ヲ初メトシ、其後生絲共同保管資
金ノ融通デアルトカ、或ハ絲價安定融資補
償法竝ニ同擔保生絲買收法等ガ公布サレ、
又最近ニ於テハ原蠶種ノ國家管理法案又ハ
產繭處理統制法案ガ當議場ニ於テ可決シタ
コトハ御承知ノ如クデアリマス
元來絲價ノ變動ハ國內的ノ事情ヨリカ、
對外的ノ經濟關係ニ負フコトガ多イノデア
リマス、第一次帝〓會社ノ設立當時ニ於テ
ハ、彼ノ歐洲大戰勃發前後ノ米國ニ於ケル
經濟界ノ不況ガ、其因ヲ成シテ居ルノデア
リマス、又第二次帝蠶會社ノ設立當時ハ、
歐洲大戰後ノ世界的不況ガ其因ヲ成シテ居
ルノデアル、其後ニ於ケル絲價ノ變動ハ、
何レモ外國ニ於ケル經濟事情ガ其因ヲ成シ
テ居ルコトハ明デアルノデアリマス、之ヲ
昭和五年當時ノ情勢ヲ見レバ如何デアリマ
セウ、昭和五年五月ニ於テハ、絲價ハ千二百
圓內外ヲ傳ヘラレテ居ッタノデアル、然ルニ其
後政府ハ絲價安定融資補償法ヲ布キ、三千
万圓ノ融資補償ヲ爲スト共ニ、關係銀行ヨ
リ多額ナル資金ノ融通ヲ爲シ、其他種々ナル
對策ヲ講ジタニモ拘ラズ、昭和六年ニ於テ
ハ絲價ハ七百圓トナリ、或ハ六百圓トナリ、
越エテ昭和七年春ニハ四百圓ヲ割リ、又繭
價モ之ニ追從シテ、二圓臺ニナッタト云フ
コトハ、皆サンモ御承知デアリマセウ、是ニ
於テ政府ハ議會ニ擔保生絲ノ買收法案ヲ提
出シ、是ガ議會ノ決定ヲ見ルヤ、直チニ滯
貨生絲十万俵ヲ一括買收シテ、サウシテ絲
價ノ安定ヲ期シタト云フコトハ、當時ノ狀
況ヲ見レバ詳カデアリマス、斯ノ如ク絲價
ハ米價トハ異リ、國內的事情ニ依リ動搖ス
ルコトハ少イノデアリマス、米ハ國內ニ於
テ產シ、又國內ニ於テ消費スルモノデアル
カラ、其調節モ自由デアリ、又可能デアリ
マセウ、然ルニ絲價ハサウ云フヤウナ關係
ハ甚ダ薄イノデアリマス、隨テ歷代政府ノ
苦心スル所ハ此點デアリマス
偖テ本施設法案ノ內容ヲ見マスルニ、政
府ハ製絲業者ヲシテ强制的ニ絲價安定施設
組合ヲ組織セシメ、又輸出生絲業者竝ニ本
法施行地以外ノ製絲業者ヲモ、組合員タル
コトガ出來ルト云フ規定ヲ立案シタノデア
リマス又此組合ハ豫メ政府ノ定メタ最高最
低ノ値段ノ範圍ニ於テ、有事ノ際ニ生絲ノ
賣渡又ハ買入ヲ爲ス機關ヲ成スモノデアリ
マス、其他組合員ノ製絲ノ共同保管デアル
トカ、組合ノ事業ニ關スル統制デアルト
カ、組合員ノ斯業改善ニ關スル施設等ヲ兼
ネ行フノ機關デアリマス、玆ニ多少ノ問題
トスベキハ、只今社會大衆黨ノ佐竹君モ其
點ニ付テ述ベラレタノデアリマスガ、此賣
渡又ハ買入價格ノ點デアリマス、本案ニ依
レバ、主務大臣ハ第十一條ノ規定ニ依リ價
格ヲ定メ、絲價委員會ニ諮問スルコトニナッ
テ居リマス、卽チ第十一條ニハ「勅令ノ定
ムル所ニ依リ競爭纖維ノ價格、繭生產費中
ニ於ケル現金支出額ニ自給費ノ一定割合ノ
金額ヲ加ヘタルモノ及生絲ノ製造販賣ニ要
スル費用竝ニ物價其他ノ經濟事情ヲ參酌シ
テ主務大臣之ヲ定ム」トアリマス、本條文
ハ用語甚ダ煩瑣デアリ、隨テ多少誤解サレ
易キ點ガアルノデアリマス、委員會ニ於テ
モ此點ニ付テ種々ナル質問ガアリマシタ、
特ニ篠原委員ノ如キハ、此問題ニ付テハ相
當政府ニ力說シタノデアリマス、吾々モ此
問題ニ付テ大イニ政府ノ所信ニ付テ質ス所
ガアッタガ、政府當局ニ於テハ之ニ對シテ種
種辯明シタ結果、其事情ヲ諒トシ之ヲ認メ
ルコトト致シタノデアリマス、唯繭ノ生產
費ノ算出方法ニ付テハ、後段ニ於テ多少述
ベタイト考ヘルノデアリマス
尙ホ組合ノ理事及ビ副理事ノ選任、竝ニ
絲價安定委員會ノ委員ノ任命ニ付テデアリ
マス、從來此種ノ選任又ハ任命ハ、兎角官僚
主義ニ依リ人選スル嫌ヒガアッタノデアリマ
ス、今囘ハ此弊風ヲ矯メ、各方面ノ有爲ナ
ル人材ヲ網羅スルコトガ必要デアル、例
バ理事長、副理事長ノ如キモ官僚出身者バ
カリヲ選バズ、時代ニ適應シタル新鮮味ヲ
帶ビタ人選ヲ爲スコトガ適當デアルト思フ、
又絲價委員會ノ如キモ、官吏トカ學識經驗
者バカリデナク、製絲業者ハ勿論デアリマ
スガ、吾々ノ要望スル所ハ、養蠶農民ノ代
表ヲ是非トモ加ヘナケレバナラヌト强ク主
張スルノデアリマス、次ニ政府ハ是ガ達成
ノ爲メ、絲價安定ノ施設特別法案ヲ玆ニ提
出致シマシタ、其內容ハ運用資金最高七千
万圓ト共ニ、買收法ニ依ッテ買入レタル滯荷
生絲ノ殘リノ五万俵ヲ、同會計ニ引繼グコ
トトナッタノデアリマス、吾々ハ此金額ヲ以
テ、我國蠶絲對策トシテハ、甚ダ其金額ノ
少イコトヲ憾ムノデアリマス、併ナガラ一
面我國ノ財政狀態ヲ見ルニ、今ヤ非常ニ行
詰ッテ居ルノデアリマス、故ニ已ムヲ得ズ此
額ヲ承認スルノデアリマスガ、政府ハ其運
用ニ當ッテハ、此範圍內ニ於テ適切有效ナル
施設ヲナサレンコトヲ、此際特ニ政府ニ
要求スル者デアリマス、同時ニ養蠶家ノ爲
三〓、私ハ政府ノ一考ヲ煩ハシタイト思フ
ノデアリマス、最近政府ノ施設ヲ見ルト、
ドウモ製絲家ニ厚クシテ養蠶家ニ輕キ感ヲ
懷クノデアリマス
斯ク申シタトテ私ハ本案ニ決シテ反對ス
ルノデハアリマセヌ、唯十二年度豫算案ノ
內容ヲ見マスト、產繭處理統制施設費ニ於テ
モ相當削減サレテ居リマス、又桑園ノ整理改
植助成費ニ付テモ相當削減サレテ居リマス、
是等ヲ以テシテモ、政府ノ養蠶農民ニ對ス
ル態度ハ、甚ダ冷淡デアルコトヲ、窺フニ足
ルノデアリマス(拍手)此點ニ付テハ、吾黨ヨ
リノ希望條件トシテ委員會ニ於テ之ヲ決定
致シマシタガ、卽チ絲價ノ下落ニ依ッテ養蠶
家ニ損害ヲ與ヘザルヤウ最善ノ努力ヲナス
ベク、玆ニ改メテ政府ニ警告ヲ致スモノ
デアリマス、尙ホ絲價安定策トシテハ色々
アリマス、其一ハ、生產ノ統制デアリマス、
是ハ先ヅ桑園ノ整理調整ガ目下ノ場合急務
デアルト考ヘルノデアリマス、一部ニ於テ
ハ、生絲又ハ蠶種ニ依リ調整スベシトノ意
見モアリマスガ、勿論其方法モ一ツデア
リマセウ、併ナガラ我國ノ桑園ヲ全國的ニ
之ヲ整理スルニ於テハ、現在ノ養蠶農民ノ
蒙ル損失ハ相當輕減サレルノデアリマス、
唯其ヤリ方ニ付テ私ハ一言シタイ、政府ハ
宜シク主要養蠶地ト然ラザル土地ニ付テ相
當考慮ヲ拂ッテ、適切ナル對策ヲ講ゼラレン
コトヲ希望シタイノデアリマス、更ニ生絲
ノ需要增進ヲ圖ル爲メ積極、的手段ヲ執ッテ
貰ヒタイコトデアリマス、聞ク所ニ依レバ
政府ハ、最近當業者ヲシテ米國其他ニ對シ
テ販路擴張ヲ爲シツヽアルト云フコトデア
リマス、勿論現在供給シテ居ル米國方面ニ
對シテ、是ガ販路擴張ヲスルノハ當然デア
リマスガ、私ハ更ニ新販路開拓ニ付テ善處
セラレンコトヲ要望スルノデアリマス、卽
チ彼ノ歐洲方面トカ、或ハ南米方面ニ對シ
相當宣傳ヲ爲シ、益〓我國ノ生絲ヲ各方面ニ
輸出スルヤウ對策ヲ執ラレンコトヲ政府ニ
希望スルノデアリマス
ソレト同時ニ國內ノ需要ニ對シテモ、
段ノ考慮ヲ拂ッテ戴キタイト思フノデアリ
マツ、今日國內ニ於テハ僅ニ生絲ヲ織物ニ
シテ居ル位デスガ、更ニ多クノ織物ヲ產出
シ、サウシテ內地ノ需要ニ供スルト共ニ、
海外ニモ其織物ノ輸出ヲ奬勵スベキデアリ
マス、ソレニハ國內ノ生絲需要者ニ對シ製
絲ノ品位ト重量ニ付テ安心ヲ與ヘナケレバ
ナラヌノデアリマス、卽チ國用生絲ニ對シ
テモ、輸出生絲同樣ニ檢査ヲスルコトガ必
要デアル、現在國用生絲ノ檢査所ハ福井、
石川、京都ノ三縣シカアリマセヌ、而モ其
規模ハ小サク、又費用モ不十分デアリマス、
故ニ私ハ此設備ヲ改善スルト共ニ、他ノ主
要織物地ニ對シテハ、是非共此檢査所ヲ新
設スベキデアルト思フノデアリマス、例へ
テ申シマスレバ、群馬縣ノ如キハ其最モ必
要ヲ感ジテ居ル縣デアリマス、又昨今問題
トナッテ居ルノハ、大製絲家ノ兼營スル所ノ
蠶種製造ト、中小蠶種業者ノ對立デアリマ
ス、此事ハ自由經濟主義ノ今日ニ於テハ巳
ムヲ得ナイトハ言ヘ、我國ノ中小蠶種業者
ガ我ガ蠶絲界ニ貢獻シタコトハ多大ナルモ
ノガアリマス、我國ノ生絲ガ其品質ニ於テ
世界ニ誇リ得ルモノハ、彼ノ四千五百人ノ
蠶種業者ニ與ッテカガアルモノト申シテ差
支ナイノデアリマス、而シテ彼等ハ今日ノ
如キ優良蠶種ヲ得ルマデニハ、有ユル苦心
慘憺ヲシ、大キナ犠牲ヲ拂ハレタコトハ事
實デアリマス、然ルニ昨今是等蠶種業者ハ
ドウデアリマセウカ、大製絲家ノ〓種製造
ニ壓迫サレ、其生活權ガ奪ハレントスル情
勢ニアルノデアリマス、其結果勢ヒ販賣上
ノ競爭トナリ、過剩蠶種ノ製造トナリ、品
種ノ下落ヲモ來シテ居ルコトハ政府ノ能ク
知ラルヽ所デアリマス、此見地カラシテモ、
普通蠶種ノ國家管理ヲ必要トスルモノデ、
輿論モ亦茲ニ一致シテ居ルノデアリマス、
政府ハ宜シク速ニ此對策ヲ講ゼラルベキデ
アリマス、我黨ニ於テハ此點ヲ留意シテ、
委員會ニ於テソレヲ希望條件トシテ附シタ
次第デアリマス
以上ハ大體我黨ノ本案ニ對スル贊成ノ趣
旨デアリマスガ、私ハ此場合以下聊カ大衆
黨ノ本案ニ對スル反對意見ニ付テ、其所信
ヲ述べテ見タイト思フノデアリマス、只今
大衆黨ヲ代表シテ此處ニ登壇セラレタ佐竹
君ガ種々反對說ヲ述べラレタガ、此案ニ於
ケル十一條ニ付テ申上ゲルナラバ、生產費
ヲ補償シテ居ラナイカノ如キ說ガアルノデ
アリマス
〔議長退席、副議長著席〕
私ハ此問題ハ先ニ申シタ如ク、多少條文
ガ煩瑣デアッテ、吾々ガ誤解シ易キ點モア
ルノデアリマス、卽チ繭ノ生產費中ニ於ケ
ル現金支出ニ自給費ノ一定割合ヲ云々トシ
テアルナドソレデアリマス、之ヲ見ルト繭
ノ生產費ハ、其中ノ一定割合ノ金額ヲ差引
イテ計算シ、又製絲家ノ生產費ハ、此差引
ヲ見込マザルト云フヤウナ點デアルノデア
リマス、此點ニ付テハ私モ先申ス如ク、養
蠶家ニ對シ甚ダ薄イ所ノ政策デアルト思フ
ノデアリマスガ、併ナガラ是ハ養蠶家ト製
絲家トノ間ニ於ケル繭ノ取引キ關係スル所
デハナイノデアリマス、政府ハ之ニ依ッテ豫
メ、十一條ニ依ッテ豫メ最高最低値段ヲ作
リ、生絲ノ暴落スルト云フヤウナ場合ニ於
テ、是ガ發動スルト云フ意味デアリマスカ
ラ、之ヲ以テ直チニ製絲家ガ養蠶家カラ繭
ヲ買入レル金額ト見ルコトハ、甚ダ間違ッテ
居ル見解ト思ハレマス、殊ニ此絲價ハ先ニ
モ申シタ如ク、外國ノ經濟事情ニ依ッテ左
右サレルノデアリマスシ、又人絹ノ發達ニ
依ッテモ影響スルノデアルカラ、此問題ニ付
テ吾々ハ相當〓究シナケレバナラヌノデア
リマス、然ルニ政府委員ノ答辯ニ依ッテ見
マスルト、此十一條中ノ卽チ現金支出ト自
給費ノ一定割合ト云フ項ヲ除クニ於テハ、
或ハ恐ル、此法ノ發動ニ依ッテ絲價ヲ安定ス
ルコトガ出來ナイト云フ虞ガアルノデアリ
やっく、吾々ハ此政府ノ言明ヲ是認シテ、サ
ウシテ此案ニ贊成シタノデアリマスガ、例
ヘテ申シマスレバ、此案ガ假ニ佐竹君ノ言
フガ如ク、現在我國ノ〓絲業ニ取ッテ宜クナ
イ案デアル、宜クナイ案デアルト申シテモ、
之ヲ立法化スルコトニ依ッテ、多少デモ地方
ノ養蠶家竝ニ製絲家ガ、是ノ恩典ニ與ルト
云フ場合ニ於テ、此法案ヲ否決スルヨリモ
マシデアルト私ハ考ヘルノデアリマス、之
ヲ具體的ニ申セバ、此案ニ關係ナク申上ゲ
ルノデスガ、往年普通選擧案ガ此議場ニ付
議サレタ、ソレハ大正十四年ノ、第五十議
會デアリマス、此普選案ニ對シテハ私ハ今
尙ホ滿足ハ致シテ居リマセヌ、或ハ比例代
表制デアルトカ、或ハ年齡ノ低下デアルト
云フ點ニ於テ、今日デサヘ私ハ之ニ贊成シ
テ居ラナイノデアリマス、然ルニ其當時ノ
事情ニ於テハ、斯ル不徹底ノ普選案デアル
ガ、之ヲ通過セシメナケレバナラヌト云フ
ヤウナ事情ニ立至ッタノデアリマス、其結果
我ガ議會ハドウデアルカ、今日反對スル所
ノ大衆黨ノ諸君モ、此普選案ガ通過シタカ
ラ堂々ト當選シテ來テ、サウシテ自己ノ所
信ヲ天下ニ發表シ得ル機會ガ與ヘラレタデ
ハナイカ、本案ニ對スル態度モ是ト同ジデ
アリマス、吾々ハ此法案ハ餘リ理想的デハ
ナイガ、併シ第一步トシテ此案ニ贊成スル
ト云フ次第デアリマス、其他佐竹君ノ御意
見等モアリマシタガ、私ハ以上ヲ以テ佐竹
君ニ對スル反對ノ意思ヲ表スルモノデアリ
マス
最後ニ一言シタイノハ、今議會ニ政府ノ
提案セル農村關係法律案ハ、本案ヲ初メト
シ、漁船保險法案、森林保險法案等ガアル
ガ、是等ハ何レモ部分的ノモノデアリマス、
又負債整理組合法ニ關聯スル法律案モ提出
サレマシタガ、之ニ依ッテ能ク四十餘億ノ
農村ノ負債ガ整理サレルト云フコトヲ、考
ヘラレナイノデアリマス、故ニ私ハ庶政一
新ヲ標榜スル林內閣ノ治下ニ於テハ、今一
段農村問題ニ對シテ眞劍味ガアッテ欲シイ
ノデアリマス、此時偶〓外電ハ米國ニ於ケ
ル新農村政策ノ事實ト、全米農村會議ノ開
催ヲ報道シテ居リマス、又曩ニハ農業調整
法ヲ實施シ、農村ノ負債ヲ整理スルト共ニ、
生產統制、價格ノ吊上策ヲ執ッタコトハ御
承知ノ如クデアリマス、其成績ノ如何ハ別
トシテ、此「ルーズベルト」氏ノ農村對策ハ、
全米農民ニ多大ナル衝動ヲ與ヘタコトハ事
實デアリマス、故ニ私ハ山崎農相ニ一言セ
ントスルノハ、來議會ニ於テハ全國民ノ爲
メ、一大革新農業政策ヲ提出セラレンコト
ヲ希望シ、本案ニ贊成ヲスルモノデアリマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=25
-
026・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 橫川重次君
〔橫川重次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=26
-
027・横川重次
○橫川重次君 私ハ只今議題ニナッテ居リ
マスル絲價安定施設法案、竝ニ絲價安定施
設特別會計法案ニ對シマシテ、委員長報告
ノ如ク附帶決議三項ヲ附シテ贊成ヲ致スモ
ノデアリマス、尙ホ此法案中ニハ多少不滿
ノ點ガアルノデアリマスルガ、是等ヲ檢討
致シマシテ、贊成ノ理由ヲ簡單ニ申述ベタ
イト思ヒマス、生絲ノ價格ノ安定ハ長年朝
野ノ熱望デアリマシテ、昭和六七年來ノ蠶
絲恐慌以來、我黨政友會ニ於キマシテモ、熱
心ニ是ガ達成ヲ努メテ居リマシタノデ、是
ガ爲ニ夙ニ我黨ニ於キマシテハ、原蠶種國
家管理、產繭處理統制案及ビ輸出生絲販賣
統制ノ蠶絲對策、根本對策ヲ樹立致シマシ
テ、常ニ議會ニ於キマシテ是ガ達成ニ努力
ヲ致シ、政府ヲ指導シ來ッタノデゴザイマ
ス、曩ニ前二案ハ既往ノ議會ニ於キマシテ
旣ニ成立ヲ致シマシテ、第三ノ輸出生絲販
賣統制案ニ付キマシテ、前議會ニ於テ院議
トシテ其提出ヲ政府ニ要望シテ居ッタノデ
アリマスルガ、此販賣統制案ハ、名前ハ統
制ト云フ點ニゴザイマスルガ、其內容ハ絲
價ノ安定ニアッタノデアリマシテ、今囘政府
ガ提出致シマシタル絲價安定施設法案ノ目
的ト、全ク其趣旨ニ於キマシテ一致スル所
デアルノデゴザイマス、併ナガラ本案ノ成
敗ハ、其運用ノ如何ニ依リマシテ決セラレ
ルモノデアリマシテ、而モ具體的ノ決定ハ、
殆ド勅令ノ事項ニ委ネラレテアルノデアリ
マスカラ、其運用ノ宜シキヲ得ザル時ハ、
所期ノ目的ヲ達スルコトガ出來ナイノミナ
ラズ、或ハ暴騰ヲ激成シ、成ハ暴落ニ救急
ノ用ヲ爲サザルノ憂ガ多分ニアルノデアリ
マス
本案ノ要點ハ大體二ツノ點ニ要約セラレ
ルト思フノデアリマス、卽チ政府ガ上値
ト下値トヲ定メマシテ、此上値ガ出マシタ
場合ニハ、政府手持ノ五万梱ノ生絲ヲ、申
込ニ應ジマシテ生絲安定施設組合ニ賣渡ヲ
爲シテ、上値ヲ超ユル所ノ暴騰ヲ防ギ、又
下値ガ出タ場合ニ於キマシテハ、其定メラ
レタル値段ニ於テ、絲價安定施設組合カラ
絲ノ買入ヲ爲シマシテ、下値以下ノ暴落ヲ
防グト云フ仕組ニナッテ居ルノデアリマス、
此爲ニ七千万圓ノ特別會計ヲ立テヽ居ルノ
デアリマス、他ノ一ツノ要點ハ、下値ニ近
イ値段ニ於テ絲價安定施設組合ニ於テ生絲
ノ共同保管ヲ爲シ、或ハ爲サシメマシテ、
下値豫防ノ働キヲ爲スト云フ、以上二點ニ
要約セラレルノデアリマス、此定メラレマ
スル上値、卽チ賣渡價格、及ビ下値、卽チ
買入價格ノ定メ方ニ依ッテ、本案ノ生命ガ左
右セラルヽノデアリマシテ、是ガ法案ノ第
十一條ニ規定シテアルノデアリマス、法案
ノ朗讀ハ省略致シマスルガ、凡ソ物價ノ騰
落ハ、經濟界全體ノ情勢ニ依ッテ支配セラレ
ル場合ト、商品ソレ自體ノ理由ニ依ッテ左右
セラレル場合ト、大體二ツニ大別サレルノ
デアリマス、第一ノ場合ハ是ハ大體ニ於テ
不可抗力的ナモノデアリマシテ、經濟全般
ノ對策ニ俟ツ以外ニハ其對策ハナイノデア
リマス
玆ニ考ヘラレル問題ト致シマシテハ第二
ノ場合デアリマス、此需給關係ニ於テ、大
體市場價格ガ定マルノデアリマスルガ、本
案ニ於キマシテハ、生絲ノ市場價格ハ上値、
下値ノ算定ノ基礎トナッテ居ラナイノデア
リマス、米穀統制法ニ於キマシテハ、米價
指數ト云フモノガ其計算ノ基礎ヲ成シテ居
ルノデアリマスルガ、本案ニ於テハ絲價指
數ト云フモノガ全ク取入レテナイノデアリ
マス、卽チ政府ノ謂フ所ノ異常ナル高値ト
申シマスノハ、現行絲價カラノ異常ナル高
値ト云フモノヲ意味スルノデハナクシテ、
別ニ定メラレマシタ人絹價格ノ三倍乃至四
倍ノ點ニ於テ、定メラレマスル所ノ價格ヲ
超エルト云フコトニナルノデアリマス、此
點ハ全ク人絹ノ價格一本ニ支配セラレル譯
ニ相成ッテ居リマシテ、絲價ノ變動ノ他ノ重
大ナル要因ハ全ク閑却セラレテ居ルノデア
リマス、是ハ洵ニ遺憾、不十分ナ點デアリ
マシテ、政府ガ政治的考慮ニ或ハ囚ハレマ
シテ、經濟ノ實際ト論理ノ徹底トヲ缺ク憾
ミガ多分ニアルノデアリマス、若シ天然絹
絲ガ人絹ノ制約ノ下ニアッテ、全ク獨立性ガ
ナイモノデアルナラバ、下値ヲ定ムル場合
ニ於テモ、人絹トノ對比ニ於テ定メラルベ
キデアリマスルガ、併シテサウ云フコトニ
ナリマスト、更ニソレハ矛盾ヲ重ネル所以
トナルノデアリマスルカラ、左樣ナコトハ
爲シ得ナイノデアリマシテ、サウ云フ意味
カラ申シマスルナラバ、上値ヲ人絹ノミニ
依ッテ定メマスルト云フコトガ、卽チ矛盾デ
アルト云フコトニナルノデゴザイマス
更ニ下値ヲ定メマスル場合ハ、繭ノ生產
費中ニ於ケル現金支出ハ、是ハ全額計算ノ
基礎トスルノデアリマスルガ、其自給費ニ
付キマシテハ、其一部ノミヲ採用シテ、全
部ヲ取入レテ居ラナイノデアリマス、前段
ノ論者モ此點ニ付テ言ウテ居リマスルガ、
然ルニ製絲業者ニ對シマシテハ、製造販賣
ノ費用ノ全額ヲ計算ノ基礎トシテ取入レテ
アルノデアリマス、此點法ノ立前ト致シマ
シテ、洵ニ不公正ノ感ガアルノデアリマシ
テ、政府ガ常ニ養蠶家ヲ根幹トシテ蠶絲對
策ヲ樹立スルト云フ主張ト背馳スルバカリ
デハアリマセヌ、論理上許サレザル所ノ重大
ナル矛盾デアルト思フノデアリマス、而モ
此法文中ニ於キマシテハ、總テノ要因ヲ參
酌スルト云フ文字ガ加ヘラレテアリマスル
カラ、必シモ現在ニ於テ政府ノ所信ガ、所
謂生產費全額ヲ計算ノ基礎ニ入レルコトニ
依リマシテ、制低値段ガ高イ所ニ落著クト
云フコトカラ、或ハ增產ヲ誘致スルヤウナ
虞ガアルノヂヤナイカト云フ御意見ニアル
ノデアラウナラバ、ソレハ參酌ト云フ文字ニ
依リマシテ、寧ロ其下値ニモ決メ得ルノデ
アリマスルカラシテ、斯樣ナ立前カラ致シ
マスルナラバ、養蠶家ト製絲家トヲ異ナル
取扱ニ致シマスル所ノ不公正ハ、ドウ致シ
マシテモ許シ得ナイコトト思フノデアリマ
ス、要スルニ此法律ニハ不滿ノ點ヲ多々含
ムノデアリマス、而モ是ガ運用ノ如何ニ依
リマシテハ、實際絲價ガ旣ニ暴落ヲシテカ
ラ後ニ發動致シマシテ、六日ノ菖蒲、十日
ノ菊ト云フヤウナ、遺憾ナル結果ヲ現ハス
虞ガ多々アルノデアリマス、而モ上値ハ人
絹價格ニ依ッテ制約セラレテ居ルノデアリ
マスルカラ、他ノ經濟的要因ノ變化ニ依ッテ
ハ、却テ急激ナル騰貴ヲ誘致スルノ虞モア
ルノデアリマス、曩ニ絲價安定融資補償法
ノ發動ノ場合ニ於キマシテハ、當路者ハ其
以前ノ高値ノ記錄ニ囚ハレマシテ、國庫ニ
多大ノ損失ヲ與ヘタコトニナッテ居リマス
ガ、今ヤ此法案ニ於キマシテハ、低値ノ記
錄ニ囚ハレマシテ、十分ナル安定ニ資シ得
ナイ憾ミヲ、ソコニ藏スルノデハナイカト
私ハ憂フルモノデアリマス
以上、遺憾ノ點ハ多々アルノデアリマスル
ガ、是等ハ其運用ニ依ッテ或ハ補足シ得ル
ルモノト考ヘマシテ、又此法案以外ノ新シ
キ施設ノ加味增設ニ依リマシテ、其全キヲ
得ルコトヲ期待致シマシテ、此案ニ贊成ヲ
致スモノデアリマスルガ、其爲メ附帶決議
三項ヲ附シテ、本案ノ擴充補塡ニ充テルベ
ク吾々委員ノ意思ヲ表明シタ次第デゴザイ
マス
殊ニ附帶決議第二項ニアリマスル「政府
ハ速ニ普通蠶種ノ國家管理竝桑園ノ調整ニ
關スル適切ナル方策ヲ樹立スベシ」此第二
項ニ付キマシテハ、所謂生產調節ヲ意味ス
ルモノデアリマス、絲價安定ニドウシテモナ
クテハナラヌ一ツノ要因デアリマシテ、最
モ重大ナル關係ガアルノデアリマス、而モ
此第二項ノ實現ニ依リマシテ、養蠶農家ノ
經濟ヲ向上セシメ、蠶種業ヲ安定スルコト
ノ、重大ナル約束ヲ含ムモノト思ヒマスノデ、
此點ニ付キマシテハ政府ハ特ニ深キ注意ヲ
拂ハレテ、速ニ實現ノ方途ヲ立テラレンコ
トヲ希望致シマシテ、贊成ノ意思ヲ表示ヲ
致ス次第デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=27
-
028・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 靑木精一君
〔靑木精一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=28
-
029・青木精一
○靑木精一君 私ハ只今議題トナッテ居リ
マスル絲價安定施設法案外一件ニ付キマシ
テハ、民政黨、政友會、昭和會、三派ノ一
致協定ノ下ニ成案シマシタ所ノ附帶決議ヲ
附シテ可決スルト云フ、委員長ノ報告ニ贊
成ヲ致ス者デアリマス
只今橫川君ノ述ベラレマシタ通リ、絲價
安定策ノ確立ノ要望ハ、多年來ノ重要ナル懸
案デゴザイマシテ、蠶絲業關係官民ノ間ニ、
久シク論議〓究サレテ來ッタ所ノ問題デアル
コトハ御承知ノ通リデアリマス、又最上君
ノ述べラレタ通リ、今日マデ幾多ノ蠶絲業
關係ノ立法ガ制定セラレテ參リマシタガ、
是等ノ蠶絲業立法モ、畢竟スルニ絲價安定問
題解決へノ段階的基礎工事ニ過ギナカッタ
ト云フコトガ言ヘルト思フノデアリマス、
玆ニ絲價安定施設法案ノ成立ヲ見ントスル
ニ當ッテ、初メテ一聯ノ脈絡アル蠶絲業對策
ノ大體ノ機構ガ出來上ルノデアルト言フテ
モ宜シイノデアリマス、サレバト言ッテ、本
案ヲ以テ必シモ蠶絲業對策ノ最終的ノ立法
デアルト申スコトハ勿論出來マセヌガ、少
クトモ重要ナル結論的立法ノ一デアルト云
フコトダケハ言ヒ得ルト考ヘルノデゴザイ
マス
而シテ本案ノ狙フ所ハ、今マデ討論セラ
レタル所ノ諸君ノ述ベラルヽ通リ、單ニ今
マデ唱ヘラレテ居ッタル所ノ絲價安定ト云
フ〓念トハ、少シ其內容ト趣ヲ異ニ致シテ
居ルノデアリマス、卽チ生絲ノ有力ナル競
爭纖維トシテ、世界的ニ進出シツヽアル所ノ人
造絹絲ニ對シテ、將來生絲ノ消費分野ヲ確保
シ、且ツ是ガ發展ヲ圖ラントスル所ノ、所謂
人絹對策ト云フ所ニ、大キナ國策的ノ特色
ヲ把持スルモノデアリマシテ、本案ノ實施
ニ依ッテ齎サントスル所ノ效果ニ付テハ、相
當大キナ期待ヲ約束付ケルモノトサレテ居
ルノデアリマス
近年纖維工業ノ花形デアル所ノ人造絹絲
ノ目覺シキ發展ニ伴ヒマシテ、我ガ朝野ノ
間ニハ、生絲ノ將來性ニ付テ一種ノ悲觀說
ヲ唱ヘル者ガアルノデアリマスルガ、私ハ
左樣ニ悲觀スル必要ハナイト考ヘル者デア
リマス、卽チ我國ノ輸出生絲五十万俵ノ中、
米國向ケノ生絲四十五万俵ノ消費分野ヲ檢
討シテ見マスルニ、其中約二十五万俵ハ靴
下トカ、「シャツ」手袋、其他肌著類ノ原料
トシテ消費セラレテ居ルノデアリマシテ、
是ダケハ他ノ何物ニモ奪ハレザル所ノ不動
ノ地盤ヲ確保シテ居ルノデアリマス、唯殘
リ二十万俵ノ需給關係ニ於キマシテ、人絹
トノ競爭ニ依ッテ、其消費分野ガ爭奪戰線ニ
曝サレテ居ルト云フノガ其實情デアリマス
斯樣ナ次第デアリマスルカラシテ、生絲
ノ將來性ニ付キマシテハ、唯徒ニ悲觀スル
必要ハゴザイマセヌ、併ナガラ大イニ警戒
的態度ヲ以チマシテ、今後官民協力ヲ致シ
テ、蠶絲業ノ有ユル角度カラ益〓調査〓究ヲ
進メテ、斯業ノ全面的更生刷新ニ銳意努力
ヲ拂ッテ行キマスレバ、人造絹絲トノ競爭ニ
拮抗シテ、生絲ノ世界的消費分野ヲ維持確
保シ、且ツ新販路ノ開拓ヲ期スルコトハ、
相當ニ可能性ガアルモノト私ハ信ズル者デ
アリマス
唯人造絹絲工業ハ、他ノ諸君カラモ言ハ
レタ通リ、文字通リニ日進月步ノ勢ヲ以
テ發展シ、著々品質改善ノ實績ヲ擧ゲテ
居リマシテ、其利用價値ヲ高メテ參ッテ
居ルノデゴザイマス、サウシテ市場價格ノ
統制モ、實ニ能ク保タレテ居リマシテ、且
ツ生產費ノ低廉ナル點ニ於テモ、一大特異
性ヲ發揮シテ居リマスガ故ニ、生絲ヲシテ
之ニ對抗セシメテ行クノニハ、蠶絲業ノ狀
態ヲ從來ノ如ク投機的經營ニ放任シテ、市
場相場ノ異動常ナキガ儘ニ致シテ置イタノ
デハ、到底人造絹絲ニ對抗シ得ベクモナイ
ノデアリマス、其結果ハ好ムト好マザルト
ニ拘ラズ、遂ニハ蠶絲業ノ沒落ヲ見ルコト
ハ、火ヲ睹ルヨリモ明カデアリマス、本案
ノ狙ヒ所ハ、卽チ此處ニアルノデアリマシ
テ、私ガ本案ニ於テ大キナ國策的特色ヲ指
摘スル所以モ、亦此點ニ存スルノデアリマ
ス
ソコデ本案ノ核心トモ言フベキ點ハ、他
ノ諸君カラモ述ベラレマシタガ、生絲ノ賣
渡價格及ビ買入價格ノ公定制度ノ下ニ、生
絲價格ノ異常ナル騰落ヲ抑制調節シテ、如
實ニ價格ノ統制ヲ斷行セントスル所ニアル
ノデアリマス、此點ハ正ニ斯業ノ最大缺陷
ニ向ッテ一大鐵案ヲ下シタモノト言フベキデ
アリマセウ、吾々ガ本案ニ對シ、昨年制定
セラレマシタ所ノ產繭處理法ト相俟ッテ、所
謂車ノ兩輪ノ如キ關聯ニ於テ贊意ヲ表スル
理由モ、此點ニアルノデゴザイマス
併シ具サニ本案ノ內容ヲ檢討シマスルニ、
本案ノ骨子タル所謂制高制低ヲ規定スル第
十一條ノ條項中、買入價格決定ノ基準ニ付
テ、繭ノ生產費ノ全額保障ノ立前ガ採ラレ
ナカッタ爲ニ、繭絲價ノ低落ヲ誘發シ、養蠶
農民保護ノ點ニ於テ、大イニ缺クル所ガア
ルデハナイカト云フ點ニ付キマシテハ、
他ノ諸君ノ熱心ニ論難セラルヽ通リ、相當
ノ異論ガアルノデアリマス、此點ニ對シテ
ハ私モ他ノ諸君ト共ニ憂ヲ同ジクシ、頗ル
遺憾ニ思フ次第デゴザイマス、今又佐竹君
ハ、本案ノ施行ノ結果ハ、却テ生絲ノ値段
引下政策ニ墮スルノデハナイカト御懸念ヲ
サレテ居リマス、是モ頗ル養蠶農民ニ對ス
ル所ノ御親切ナル御考方デアルトハ思ヒマ
スルガ、此點ニ付キ、又前段述ベマシタ所
ノ生產費ノ問題ト共ニ政府ノ辯明ヲ聽キマ
スルト云フト、是ハ競爭纖維トノ關係モアッ
テ、今後ノ蠶絲業ノ安定ト發達トヲ圖ッテ
行クガ爲ニハ、繭絲價ノ高クナルコトバカ
リヲ望ムノハ、頗ル困難ナル情勢ニアルノ
デアル、隨テ現下ノ實情ニ卽シテ考ヘレバ、
繭ノ生產費ノ全額ヲ保障スル制度ヲ樹立ス
ルコトハ、實際上ノ問題トシテハ、目下ノ
所デハ不可能ノコトデアル、且ツ本案ハ繭
絲價暴落ノ非常時ニ於テ、養蠶農民ノ經營
上、耐ヘ難キ事態ノ發生スルコトヲ防止セン
トスル趣旨ニ出デタルモノデアッテ、平常時
ニ於ケル所ノ繭價ヲ適正ナラシムル對策ト
シテハ別ニ其途ガアル、卽チ之ニ付テハ養蠶團
體ノ强化、竝ニ產繭處理統制ニ關スル所ノ
運用等ニ依ッテ、所期ノ目的ヲ達スル考デア
ルト云フノデアリマス、併シナガラ率直ニ
申シマスレバ、養蠶農民ハ〓絲形態ノ重大
要素ヲ成スモノデアルコトハ御承知ノ通リ
デアル、其養蠶農民ガ依然トシテ犧牲的ノ
立場ニ押込メラレテ居ルト云フコトニ付キ
マシテハ、何トシテモ不滿ヲ感ゼザルヲ得
ナイノデアリマス、相變ラズ養蠶農民ニ對
シテ無理解デアル、不親切デアルト云フ所
ノ非難ヲ政府當局ガ受ケルノハ、大體論ト
シテハ當然デアラウト考ヘルノデアリマス
飜ッテ考ヘマスルニ、本案ノ目指ス所ハ、
蠶絲業ノ全面的更生刷新ニアルノデアル、
又蠶絲業ノ世界的躍進ノ姿ヲ强化スルニア
ルノデアル、旣ニ此狙ヒ所ヲ承認スル以上
ハ、右申上ゲタ點ニ於テ遺憾デハアリマス
ルガ、是モ過渡時代ノ一時的變則ト致シマ
シテ、暫ク之ヲ忍ブノモ亦已ムヲ得ザルモ
ノガアルノデハナイカトモ考ヘラレマス、
何トナレバ、斯ノ如ク養蠶農民ヲ打チノメ
ス所ノ笞ノ下ニモ、少クトモ二ツノ指導精
神ガ躍動シテ居ルト云フコトヲ見遁シテハ
ナラナイノデアリマス、卽チ其一ツハ、コ
コデ繭ノ生產費ヲ完全ニ保障スルトスレバ、
自然ニ繭ノ增產ヲ誘發スルコトニナルト云
フコトガ懸念サレテ居ルノデアル、其二ハ、
蠶絲業ノ維持發展ヲ圖ル爲ニハ、生產費ヲ
低下スルコトガ必然條件トサレテ居ルノデ
アルカラシテ、之ヲ玆ニ示唆スルノデアル
ト云フノガ、當局ノ考ヘ方デアッタラシイノ
デアリマス、ソコデ當局ハ此二ツノ指導精
神ヲ一種ノ謎トシテ、此條文ノ中ニ隱シテ
置クモノト私ハ解スルノ外ナイノデアリマ
ス、果シテ然ラバ曾テ吾々ノ大先輩ノ言ハ
レタ通リ、謎デハ政治ハ行ヘナイノデアリ
マス、當局ハ其指導精神ヲ具現化シ、總テ
ノ機關制度ヲ運用動員致シテ、之ヲ實際ニ
活カシテ行ッテ、蠶絲業ノ實際的更生健全化
ニ向ッテ、更ニ一段ノ眞劍味ヲ以テ努力セラ
レナケレバナラヌノデアリマス、サウシテ
一日モ早ク斯ノ如キ養蠶農民ニ對スル所ノ
無理解ナル差別待遇的條項ヲ撤廢スルヤウ
ニ心掛ケテ貰ヒタイノデアリマス(拍手)
更ニ人造絹絲ノ躍進ニ對抗シテ、生絲ノ
發展ヲ圖ッテ行カウト云フコトニ付キマシ
テハ、生絲ノ利用增進ニ關スル所ノ試驗〓
究ヲモット盛ナラシムルコトガ必要デアラウ
ト考ヘルノデアリマス、元來植物性ノ人造
絹絲ト動物性ノ天然絹絲トハ、其纖維ノ性
情ニ於テ自ラ異ルモノガアルノデアリマス
ルカラシテ、此兩纖維ノ競爭途上ニ於キマ
シテ、兩者ノ摩擦關係ヲ維持シテ行ク間ニ
モ、自ラ其消費分野ノ歸趨ガ定マッテ行クベ
キ筈デアルト考ヘマス、隨テ是ガ利用增進
ノ方途ニ付テハ、費用ナドハ吝ム必要ハナ
イ、吝ンデ居ル時デハアリマセヌ、十分ニ
是ガ機關ノ擴充動員ヲ圖ラレンコトヲ要望
致シテ置キマス、其他ノ點ニ付テハ、附帶
決議ニ依ッテ吾々ノ意思ハ表明セラレテ居
リマスルカラシテ、重複ヲ避ケル爲ニ省略
致シマス
最後ニ一言致シマス、囘顧スレバ昭和四
年、蠶絲業ノ非常時ニ落込ンデ以來、今日
ニ至ル迄我ガ蠶絲業ハ幾多ノ困難危機ヲ切
拔ケテ參リマシタガ、其當時ハ我ガ蠶絲業
ハ全然無方針無統制ノ狀態デ、唯成行任セ
ニ放任セラレテ居ッタノデアリマス、此苦キ
試練時代ヲ經テカラ、漸ク官民協力ノ步調
ガ整ッテ參リマシテ、昭和八年頃カラシテ當
局ニ於テモ蠶絲業ノ更生刷新ニ關スル所ノ
施設計畫ニ乘出シ始メタノデアリマス
先ヅ其對策方針ト致シマシテハ、蠶絲類
ノ優良品ノ廉價生產、生產販賣ノ統制、需
要ノ增進等ノ三大目標ヲ確立セラレマシテ、
著々其方策ヲ施設化サレテ來タノデアリマ
ス、而シテ今期議會ニ至リマシテ、漸ク玆
ニ蠶絲業ノ中心機構トナルベキ所ノ本案ガ、
此議政壇上ヨリ產聲ヲ擧ゲントスルニ至ッ
タノデアリマス、私ハ國民經濟ノ動脈タル
蠶絲業ノ前途ノ爲ニモ、將又久シク不安ニ
鎖サレテ居リマシタ所ノ內外生絲市場ノ爲
三、七、眞ニ祝福ヲ禁ジ得ナイノデアリマス
最近歷代內閣ヲ通ジマシテ、蠶絲業ニ關
スル施設ダケハ、兎ニモ角ニモ官民協調ノ
實ヲ示シテ參リマシテ、稍、一貫セル方針ノ
下ニ、著々建設的施設ヲ進メテ參リマシ
テ、漸ク〓絲業對策ノ機構的屋臺骨ダケハ
組立テラレントスルニ至リマシタコトヲ喜
ブト共ニ、玆ニ農林當局ノ不斷ノ努力ト、
議會ノ協調トニ對シテ、聊カ多トスルニ足
ルベキモノガアルコトヲ確信致スノデアリ
マス、重ネテ政府當局ハ本案ノ運用其宜シ
キヲ得テ蠶絲業更生ノ實績ヲ擧ゲラレンコ
トヲ切ニ要望致シマシテ、本案ニ對スル所
ノ贊成ノ意思ヲ表明致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=29
-
030・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 平野力三君
〔平野力三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=30
-
031・平野力三
○平野力三君 私ハ本案ニ關シマシテ、三
ツノ希望條項ヲ附シテ贊成ヲセントスル者
デアリマス、社會大衆黨ノ本案ニ對スル反
對ノ御意見ニ對シマシテハ、其議論ノ中ニ
於キマシテハ、大イニ傾聽スベキモノアリ
ト信ズル者デアリマスルガ、本案ガ我國千
五百万人ノ養蠶農民ノ爲ニ、今日現實ノ經
濟上ノ問題ニ對シマシテ、其利益ヲ擁護ス
ルト云フ點ニ付キマシテハ、私ハ本案ハ相
當ニ有益ナルモノデアルト云フコトヲ信ズ
ル一人デアリマス、併ナガラ本案ニ對スル
政友會、民政黨、昭和會ノ三派ニ依リマス
ル所ノ附帶決議ノ中ニ於キマシテ、其附帶
決議ノ精神其モノニ對シマシテハ、十分吾
吾ハ諒解致シマスノデアリマスルガ、繭ノ
生產費ヲ保障スベシト云フ點ニ關スル所ノ
御主張ト云フモノニ對シマシテ、稍、薄弱ノヒ
點ナキカト云フコトヲ考ヘマスルガ故ニ、
私ハ獨自ノ希望條項ヲ附シマシテ、本案ニ
對スル所ノ贊成ヲシタイト思フノデアリマ
ス
議論ヲ進メマスル上ニ於キマシテ、先ヅ
私ノ希望致シマスル所ノ條項ヲ讀上ゲマシ
テ、其上ニ於テ私ハ議論ヲ進メタイト思フ
ノデアリマス
一、本法案運用ニ當リ常ニ養蠶農民ノ立
場ヲ留意シ繭ノ生產費ヲ保障スベシ
ニ、絲價安定委員會ニハ必ズ養蠶農民ノ
代表ヲ入ルベシ
三、政府ハ蠶絲業對策ヲ樹ツルニ當リ養
〓業ヲ以テ主タル產業トスル府縣ト然
ラザル府縣トヲ劃一的ニ取扱フコトナ
ク前者ニ對シテハ特ニ考慮ヲ拂フベシ
以上三項デアリマス、第一ノ私ノ希望條
項ノ一ツデアリマスル所ノ、繭ノ生產費ヲ
保障スベシト云フ點ニ對シテ、山崎農林大
臣ハ、本案ノ特別委員會ニ於テ屢〓吾々ニ對
シマシテ、其心持ト云フモノハ十分之ヲ諒
トスルト云フコトヲ繰返シ答辯サレテ居リ
マス、又蠶絲局長ハ此點ニ於キマシテ、繭
ノ生產費ヲ必シモ本案ハ擁護スベキモノ
デハナイト雖モ、本案運用ニ當ッテ養蠶農民
ノ立前ト云フモノヲ、吾々ハ十分考慮スベ
キモノデアルト云フコトヲ、附言サレテ居
ルト思フノデアリマス、私ハ此點ニ於キマ
シテ農林大臣ニ希望ヲ申シマスルコトハ、
常ニ農業政策ガ議會ニ提案サレマスル時
ニ、其所管農林大臣ガ、其案ニ對シテセラ
レマスル答辯ト云フモノハ、何時モ農民階
級救護ト云フコトニ對シマシテ、洵ニ言葉
ノ上ニ於テハ誠意ガアルヤウデアリマス
ガ、愈〓是ガ運用サレマスト、甚ダ農民ノ期
待ヲ裏切ルト云フコトガアリマスルガ故
ニ、本案ニ關シマシテハ、斷ジテ其點ナキ
ヤウト云フコトヲ、農林大臣ニ篤ト私ハ希
望スル者デアリマス
次ニ本案ニ對シテ吾々ガ質問ヲ致シマシ
タ重點ノ中ニ、本案運用ノ途上ニ當リマシ
テ、製絲業者ト養蠶業者ノ利害ガ相反スル
コトガ起ラナイカト云フ問ニ對シマシテ、
當局ハ本案運用ノ途上ニ當ッテハ、製絲業者
ト養蠶業者ノ利害ハ〓ネ相一致スルト云フ
答辯ヲサレテ居リマス、併ナガラ私ハ本案
運用ノ途上ニ於キマスル所ノ、製絲業者對
養蠶業者ノ利害ニ對シマシテ、必ズ是ガ一
致スルト云フ見解ヲ持ッテ居ラレル點ニ付
キマシテハ、私ハ必シモ贊成出來ナイノデ
アリマス、何トナレバ本案ノ第十一條ニ於
テ、本日此處ニ於テ委員長モ說明サレマシ
タ通リ、十一條ノ運用ニ依リマシテ、製絲業
者ハ其製造販賣ニ關スル費用ト云フモノガ、
完全ニ擁護サルヽト云フコトハ、法ノ明記
スル所デアリマスガ、併シ生絲ノ値段ガ決
定致シマシテモ、繭ガ出來上リマシテ一擧ニ
市場ニ繭ガ殺到シマシタ時ニ於テ、其繭ヲ
成ベク安ク買取ラウトスルコトハ、是レ製
絲業者ノ當然ノ心理デアリマスガ故ニ、其
場合前議會ニ於テ通過致シマシタ產繭處理
統制法ト云フモノヲ以テ、十分是ガ統制ヲ
爲シ得ルモノデアルト云フ、蠶絲局長竝ニ
農林大臣ノ御答辯デアリマスケレドモ、此
點ニ關シマシテハ、特ニ十二分ノ注意ヲ以
テ、其運用アランコトヲ私ハ希望シテ已マ
ナイ者デアリマス
次ニ私ハ本案ノ運用ニ當リマシテ、生產
費ヲ保障スベシト云フ言葉ニ對シテ、稍〓當
局ニ難點ガアルヤウニ考ヘラレマスケレド
モ、是ハ私ノ見解ヲ以テ致シマスナラバ、
繭ノ生產費ト云フモノノ內容ヲ仔細ニ點檢
致シテ見マス時ニ、其生產費ノ大部分ヲ占
メルモノハ桑デアルト云フコトハ、何人モ
御承知デアリマセウ、繭ノ原料ハ卽チ桑デ
アル、其桑ノ原料ハ何デアルカト申シマス
ト、是ハ肥料デアリマス、今日全國ノ統計
ニ依ッテ、蠶絲局カラ發表サレマシタ、繭一
貫目ニ對スル所ノ生產費ト云フモノヲ見マ
スト、一貫目四圓四十四錢一厘ト發表サレ
テ居リマス、其四圓四十四錢一厘ノ中ニハ、
桑ノ代金ガ二圓十二錢九厘含マレテ居リマ
ス、卽チ約半分デアリマス、是ハ帝國農會
ノ調ニ依リマシテモ、全國蠶絲業聯合會ノ
調ニ依リマシテモ、略〓同一ノ統計ニナッテ
居ルコトヲ見マスレバ、要スルニ繭ノ生產
費ノ五割ガ桑代デアルト云フコトハ明瞭デ
アリマス、然ラバ其桑ノ生產費ト云フモノ
ハ、如何ナル狀態ニアルカト申シマスト、
玆ニ私ハ山梨縣松里村ニ於キマスル養蠶實
行組合ガ調ベテ居ル實際ノ調査ヲ見マス
ト、一反步ノ畑ヨリ生產サレマス所ノ桑ガ
約四百束、其四百束ノ中ニ於テ、繭一貫目
作ルニ要シマスル桑ヲ十三束ト致シマシテ、
一反步カラ三十貫ノ繭ヲ取ルノデアリマス、
三十貫ノ繭ヲ一貫目五圓ニ賣ッタト致シマ
スト、其收入ハ百五十圓、併シ此調査ノ中
ニ於キマシテハ、一反歩ニ對スル所ノ小作
料ト云フモノガ三十圓、肥料代金ガ二十五
圓含マレテ居リマス、卽チ小作料ト肥料代
金ガ合計五十五圓デアリマシテ、百五十圓
ノ繭ヲ作ル中ニ、肥料代ト小作料ト云フモ
ノガ、約三分ノ一以上アルト云フコトハ、
如何ニ養蠶農民ガ繭ノ生產費ヲ低下シヨウ
ト思ヘバ、肥料代金ト小作料ト云フモノニ
重點ガアルカト云フコトハ、一見明瞭デア
ラウト思フノデアリマス、此意味ニ於キマ
シテ、私ハ農林大臣ニ希望ガアリマス、農
業政策ト云フモノハ、肥料統制法ハ肥料ダ
ケノコト、繭ノ統制法ハ繭ダケノコト、米
ノ統制法ハ米ダケノコトト云フヤウニ、總
テノ法案ヲ縱ニノミ解釋サレテ、米ノコ
トハ是デ宜イ、繭ノコトハ是デ宜イト云フ
見解ノ下ニ、農業政策ヲ樹テラルベキモノ
デハナイ、何トナレバ總テノ政策ト云フモ
ノハ米ノ問題デアル、繭ノ問題デアル、肥
料ノ問題デアルニアラズシテ、其背後ニア
ル農民ノ生活ト云フコトニ、如何ナル影響
ガアルカト云フコトガ重點デナクテハナラ
又、斯ウ考ヘマスル時ニ、繭ノ生產費ヲ低
下セントスルナラバ、先ヅ昨年ノ議會ニ於
テ通過致シマシタ重要肥料統制法ナル法律
ニ依ッテ、肥料ノ値段ト云フモノヲ、今日相
當ニ低下セシムルト云フコトハ、是レ農林
大臣ガ本案ノ施行ニ當リマシテ、當然考慮
ニ入レラレナケレバナラヌ問題デアルト私
ハ確信スル者デアリマス、卽チ此意味ニ於
キマシテ、私ハ本案ト昨年通過致シマシタ
重要肥料統制法ト云フ二ツノ法律案ヲ見ル
時ニ、若シモ今囘出來ル絲價安定法案ノ中
ニ於ケル所ノ、絲價安定委員會ニ於キマシ
テ、養蠶農民ノ生產費ト云フモノヲ、農民
階級ガ犠牲ニシナケレバナラヌト云フ時ガ、
アルナラバ、一方ニ於テハ肥料統制委員
會ニ於テ、肥料會社ハ肥料ノ生產費ヲ
割ッテモ、之ヲ農民ニ供給スルト云フ考ガ
ナクテハナラヌト云フコトヲ斷言シテ憚ラ
ナイ者デアリマス、斯ウ云フ風ナ考カラ致
シマシテ、本法案ハ啻ニ繭ノ問題、生絲
ノ問題デアルバカリデナク、是ハ我國ノ農
業政策ノ根幹ニ當ル所ノ、千五百万ノ農民
ニ對シテ重大ナル影響アル法案デアルト云
フコトヲ考ヘマスル時ニ、其他ノ法律案ト
之ヲ相併用致シマシテ、少クトモ私ノ第一
ノ希望條件デアル、繭ノ生產費ヲ絕對ニ農
民ニ保障スベシト云フ一點ニ對シマシテ
ハ、私ハ此演壇ヨリ確カト山崎農林大臣ニ
希望スル次第デアリマス
第二ノ希望條件デアリマスル所ノ、「絲價
安定委員會ニハ必ズ養蠶農民ノ代表ヲ入ル
ベシ」、此點ニ付キマシテ農林大臣ハ屢〓委
員會ニ於テ說明ヲサレタ所ニ依リマスルト、
アナタ方ノ之ニ對スル希望ト云フモノハ十
分ニ分ッテ居ル、絲價安定委員會ニ農民ノ意
見ヲ反映スベシト云フコトハ、十分ニ考慮
スルト云フコトヲ、幾タビカ約束ヲサレテ
居リマスルノデ、私ハ此點ニ關シマシテ
ハ、暫ク農林大臣ノ言明ヲ信用致シマシ
テ、私ハ本問題ニ對シマシテハ是レ以上論
及ヲ致シマセヌ
第三ノ政府ハ蠶絲業對策ヲ樹ツルニ當リ、
養蠶業ヲ以テ主タル產業トスル府縣ト、然
ラザル府縣ト云フモノヲ、別箇ニ扱ヘト云
フ議論ニ付テ、若干ノ說明ヲシタイト思フ
ノデアリマスルガ、全國ノ繭ノ生產費ト云
フモノヲ見マスルト、言フ迄モナク相當ニ
是ハ全國ニ於テ開キガアリマス、而シテ養
蠶ヲ以テ主タル使命ト致シテ居リマスル長
野縣、愛知縣、群馬縣、埼玉縣、山梨縣、
茨城縣、岐阜縣等ニ於キマシテハ、其受ケ
ル打擊ト云フモノハ、繭價ノ低下ニ依ッテ
莫大ナル損害ヲ受ケルノデアリマスガ、故ニ
苟モ農民ヲ救濟スルト云フ見地ニ立ッテ蠶
絲業政策ヲ立ツルナラバ、是等ノ養蠶ヲ以
テ主タル產業ト爲ス縣ト、然ラザル縣ニ對
スル區別ヲ立テラレルト云フコトハ、是レ
豈ニ蠶絲業ノ問題ノミニ非ズシテ、我國ノ
農業、副業ニ對スル政府ノ方針ト致シマシ
テ、絕對ニ考ヘラルベキ理由ガアルト私ハ
信ズル者デアリマス、此意味ニ於キマシテ、
私ハ此三ツノ希望條件ヲ山崎農林大臣ニ篤
ト希望シ、而モ委員會ニ於ケル答辯ヲシテ
單ナル議會ニ於ケル答辯ニアラズ、之ヲ全
農民ノ前ニ眞實ナル所ノ答辯ト致シマシテ、
本案運用ニ關シテ萬遺憾ナキヲ期セラレタ
イト云フ希望ヲ附シマシテ、以テ本案ニ贊
成ヲ致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=31
-
032・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 是ニテ討論ハ終局
致シマシタ、兩案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤ
ヲ御諮リ致シマス、兩案ノ第二讀會ヲ開ク
ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=32
-
033・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 起立多數、仍テ兩
案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=33
-
034・松永東
○松永東君 直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開カ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=34
-
035・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=35
-
036・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
そく、仍テ直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
絲價安定施設法案第二讀會
絲價安定施設特別會計法案第二讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=36
-
037・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリ
マセヌカラ委員長報告通リ決シマシタ、是
ニテ兩案ノ第二讀會ハ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=37
-
038・松永東
○松永東君 直チニ兩案ノ第三讀會ヲ開カ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=38
-
039・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=39
-
040・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
やっ、仍テ直チニ兩案ノ第三讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
絲價安定施設法案第三讀會
絲價安定施設特別會計法案第三讀會
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=40
-
041・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリ
マセヌカラ、兩案トモ第二讀會議決ノ通リ
可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=41
-
042・松永東
○松永東君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際政府提出、一般會計
歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會計ヨリ爲ス繰
入金ニ關スル法律案、對支文化事業特別會
計法中改正法律案及ビ一般會計歲出ノ財源
ニ充ツル爲大藏省預金部特別會計ヨリ爲ス
繰入金ニ關スル法律案ノ三案ヲ一括議題ト
爲シ、委員長ノ報告ヲ求メ、其審議ヲ進メラ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=42
-
043・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=43
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044・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、特別
會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會計ヨリ爲
ス繰入金ニ關スル法律案、對支文化事業特
別會計法中改正法律案、一般會計歲出ノ財
源ニ充ツル爲大藏省預金部特別會計ヨリ爲
ス繰入金ニ關スル法律案、右三案ヲ一括シ
テ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告
ヲ求メマス-委員長木暮武太夫君
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別
會計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案
(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
對支文化事業特別會計法中改正法律
案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲大藏
省預金部特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ
關スル法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會
計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案(政
府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月十三日
委員長木暮武太夫
衆議院議長富田幸次郞殿
報告書
一對支文化事業特別會計法中改正法律案
(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月十三日
委員長木暮武太夫
衆議院議長富田幸次郞殿
報告書
一一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲大藏省
預金部特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關ス
ル法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
昭和十二年三月十三日
委員長木暮武太夫
衆議院議長富田幸次郞殿
〔木暮武太夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=44
-
045・木暮武太夫
○木暮武太夫君 只今議題ニ相成リマシタ
法律案三案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ簡單
ニ御報告申上ゲマス、先ヅ順序ト致シマシ
テ、最初各法律案ノ趣旨ヲ御說明申上ゲル
コトガ適當カト存ジマス
第一ハ、今日ノ財政狀況竝ニ各特別會計
ノ餘裕アル狀況ニ鑑ミマシテ、每年豫算ノ
定ムル所ニ依ッテ、應分ノ金額ヲ各特別會計
カラ一般會計ノ歲出ノ財源ニ充ツル爲ニ繰
入レルト云フ案デゴザイマシテ、而シテ將
來一般會計ニ於キマシテ餘裕金ガ出來マシ
タ場合ニハ、特別會計ノ方ニ之ヲ返還スル
ト云フ案デアルノデゴザイマス、而シテ其
金額ノ合計ハ六千百八十九万圓デアリマ
シテ、鐵道會計カラ入レマスニ一千万圓ヲ最
大ナルモノトシテ、通信事業費特別會計カ
ラ千二百六十四万圓、朝鮮總督府特別會計
カラ九百四十五万圓、臺灣總督府特別會計
カラ五百二十五万圓、樺太廳特別會計カラ
百九十五万圓、關東局特別會計カラ百五十
万圓、南洋廳特別會計カラ百十万圓、合セ
テ六千百八十九万圓ヲ一般會計ノ歲出ノ財
源ニ充ツル爲ニ繰入レルト云フ案デアリマ
ス
二番目ノ法律案ハ、對支文化事業特別會
計法中改正法律案デアリマシテ、現行法ニ
依リマスト、此特別會計ノ資金ハ國債或ハ
大藏省預金部ニ之ヲ預入レテ置キマシテ、
之ヲ運用スルト云フ規定ニナッテ居ルノデ
アリマスガ、此特別會計ノ使命ノ重大ナル
ニ鑑ミマシテ、此運用ノ方法ヲ擴張シテ、
由テ以テ從來ハ文化的ノ日支間ノ提携ニノ
ミ從事シテ居ッタモノヲ進メテ、經濟的ノ提
携ヲモ促進セシムルコトニ必要ナル資金ヲ
運用シタラ宜カラウ、斯ウ云フ案デゴザイ
マス、又御承知ノ通リ山東問題ガ解決致シ
マストキニ、條約竝ニ細目ノ協定ニ依リマ
シテ、支那カラ受取ッタ四千万圓ノ膠濟鐵道
ノ債權ト云フモノガ我國ニアリマス、是ハ
對支文化事業ノ方ノ特別會計ニ於テハ一千
四百五十万圓ヲ保管シ、殘リノ二千五百十
万圓ト云フモノハ、一般會計ニ於テ保管シ
テ居ル實情デアルノデアリマスガ、今囘ハ
此一般會計ニ保管スル所ノ二千五百五十万
圓ヲ、此對支文化事業特別會計ノ方ニ移ス
コトガ穩當デアルト云フ趣旨ニ依ッテ移サ
ウ、斯ウ云フコトニ相成ッテ居ルノガ第二
ノ法律案デアリマス
モウ一ツ第三ノ法律案ハ、御承知ノ通リ
今年ノ四月一日カラ郵便貯金利子二厘四毛
ヲ引下ゲマス結果トシテ、大藏省預金部デ
約八百万圓ノ餘裕金ヲ生ズルノデアリマス、
此生ズル八百万圓ノ餘裕金ノ本質ニ鑑ミマ
シテ、是ハ社會政策ノ施設ニ使フベキモノ
デアルト政府デ之ヲ御認メニナッテ、此中
六百万圓ヲ一般會計ノ歲出ノ財源ニ充當ス
ル爲ニ繰入レマシテ、社會政策的ノ施設費
トシテ、殘リノ二百万圓ハ郵便貯金事務改
善ノ方ニ使ハウ、是ガ第三案デアルノデア
リマス
斯ノ如キ三案ノ委員會ハ、二月二十七日
以來數囘ニ亙リマシテ開キマシテ、本日モ
マダ繼續シテ開イテ居ルヤウナ譯デ、洵
御熱心ニ質疑應答ガ行ハレタノデアリマシ
テ、質問者ノ御名前ヲ擧ゲレバ、小谷節夫
君、氏家〓君、川俣〓音君、綾川武治君、片山
秀太郞君、中村嘉壽君、松岡俊三君、渡邊銕
藏君、牧山耕藏君、田川大吉郞君ト云フヤウ
ナ御方々カラ、熱心ニ各特別會計ノ內容ニ
付キマシテ切實ナル所ノ御質問ガアリ、政
府モ亦之ニ對シ極メテ周到懇切ナル御答辯
ガアッタノデアリマス、此處デ此質問竝ニ議
論ノ中ニ現レマシタル委員會ノ空氣ヲ、
二申上ゲテ置ク必要ガアルト思ヒマス
ソレデ第一案ニ付キマシテハ、各特別會
計カラ一般會計ノ歲出ノ財源ニ充ツル爲メ、
六千万圓以上ノモノヲ繰入レルト云フ案デ
ゴザイマス爲ニ、各特別會計各〓其設定ノ趣
旨ニ鑑ミマシテ、マダ爲スベキ仕事ガ非常
ニ多イヂヤナイカ、其仕事ヲマダヤラヌデ
居テ、無理ナコトヲシテ、繰入金ヲ爲スト
云フコトハ、愼マナクテハイカヌヂヤナイ
カト云フヤウナ御議論ガ頗ル多カッタ、殊ニ
朝鮮總督府特別會計ニ關シマシテハ、北鮮
國境ノ「ソ」聯ニ接壤スル地帶ノ警備施設
充實、竝ニ其地方ノ移民開拓ト云フヤウナ
問題ハ、朝鮮總督府ト致シマシテハ十分ニ
努メナケレバナラナイ問題デアルノニ拘ラ
ズ、ソレ等ノコトヲ等閑ニ附シテ置イテ、
此千万圓以上ノ金ヲ一般會計ニ繰入レルト
云フヤウナコトハドウカ、大ニ今後ハ此點
ヲ注意シナケレバナラヌト云フヤウナ御意
見ガ多カッタ、又臺灣ニ付テハ河川ノ整理改
修、或ハ南方へノ通商貿易關係ノ充實ト云
フヤウナ、大キナ仕事ガヤハリアルノデア
リマスカラ、斯ウ云フコトニ努メルコトガ、
先ヅ第一義デアラウト云フヤウナ御議論モ
アッタ、殊ニ遞信省卽チ通信事業ニ付キマシ
テハ、遞信省關係ノ下級ノ從業員ノ人々ノ
待遇ト云フモノガ、鐵道省ノソレ等ノ人々
ニ比較致シマシテ、甚シイ懸隔ガアル今日、
此待遇ヲ改善シナケレバナラナイト云フコ
トハ焦眉ノ急デハナイカ、又我國ニ於ケル
通信施設ト云フモノガ、未ダ完璧ヲ得タモ
ノトハ言ヒ難イ、ドウシテモ郵便局ヤ電信
局ト云フモノヲ、地方ニ充實スル必要ガア
ルノデハナイカ、ソレダノニ年々八千百万
圓ノ納付金ヲシテ、更ニ又澤山ノ金ヲ此處
ヘ出スト云フコトハ、先ヅ自ラノ方ノ仕事
ヲ十分ヤッテカラ、一般會計ニ繰入シタラ宜
クハナイカト云フヤウナ御議論ガアッテ、無
理ヲシテ今後繰入ヲスルト云フコトハ愼マ
ナケレバナラヌト云フヤウナ御意見ガアッタ、
政府モ大體ニ於テ質問者ノ趣旨ヲ諒ト致シ
マシテ、明年カラ御注意下サルヤウナ御答
辯ガアリマシタ、第二ノ對支文化事業特別
會計法中改正法律案ニ關聯致シマシテハ、
對支交渉ノ不手際ニ付テ、殊ニ川越大使ノ
身上ニ關シマシテハ、可ナリ痛烈ナル反對
的ノ御發言ガ多カッタガ、本會議ニ於テ之ヲ
御紹介スルコトハ私ハ差控ヘマス、詳細ハ
ドウゾ委員會ノ速記錄ニ讓リマスカヲ、御
覽ヲ願ヒタイト思フノデゴザイマス、而シ
テ對支文化事業ト云フモノガ、從來動トモ
スルト引込ミ思案デアッテ、洵ニ國民ノ期待
ニ副ハザルモノ甚シキモノガアルカラ、今
囘此資金運用ヲ擴張シタルヲ好機會ニ、積
極的ニ活動致シマシテ、日支間ノ友誼的提
携ノ基礎ニナルヤウナ働キヲ致シタラドウ
ダト云フヤウナ御意見ガ盛ニアッタノデア
リマス
斯ク致シマシテ本日午後各案ヲ別々ニ採
決ヲ致シマシタ結果、第一案、卽チ一般會
計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會計ヨリ爲ス
繰入金ニ關スル法律案、此案ニ付キマシテ
ハ多數決ヲ以テ可決ヲ致シマシタ、第二案
ノ對支文化事業特別會計法中改正法律案及
ビ一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲大藏省預
金部特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律
案、此二、三ノ兩案ニ對シマシテハ、全會
一致ヲ以テ可決確定ヲ致シタヤウナ次第デ
アリマス、此點御報告ヲ申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=45
-
046・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 討論ノ通〓ハアリ
マセヌ、三案中第一及ビ第三ノ兩案ニハ反
對ガアリマスカラ、先ヅ此兩案ヲ一括シテ審
議ヲ爲シ、次ニ第二案ヲ審議スルコトニ致
シマス、是ヨリ一般會計歲出ノ財源ニ充ツ,
ル爲特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律
案、及ビ一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲大
藏省預金部特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關ス
ル法律案ノ審議ニ入リマス、兩案ノ第二讀
會ヲ開クヤ否ヤヲ御諮リ致シマス、兩案ノ
第二讀會ヲ開クニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メ
マス
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=46
-
047・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 起立多數、仍テ兩
案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=47
-
048・松永東
○松永東君 直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開カ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=48
-
049・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=49
-
050・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
ママ、仍テ直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會
計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案
第二讀會
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲大藏省
預金部特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關ス
ル法律案第二讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=50
-
051・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリ
マセヌカラ、委員長報告通リ決シマシタ、
是ニテ兩案ノ第二讀會ハ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=51
-
052・松永東
○松永東君 直チニ兩案ノ第三讀會ヲ開カ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=52
-
053・岡田忠彦
○副議長(岡田忠君彥) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=53
-
054・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ直チニ兩案ノ第三讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲特別會
計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法律案
第三讀會
一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲大藏省
預金部特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關ス
ル法律案第三讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=54
-
055・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリ
マセヌカラ、兩案トモ第二讀會議決ノ通リ
可決確定致シマシタ(拍手)次ニ對支文化事
業特別會計法中改正法律案ノ審議ニ入リマ
ス、本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ア
リマゼヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=55
-
056・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
やっ、仍テ本案ノ第二讀會ヲ開クニ決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=56
-
057・松永東
○松永東君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ
可決セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=57
-
058・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 只今ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=58
-
059・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、
議案全部ヲ議題ト致シマス
對支文化事業特別會計法中改正法律案
第二讀會(確定議)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=59
-
060・岡田忠彦
○副議長(岡田忠彥君) 別ニ御發議モアリ
マセヌ、第三讀會ヲ省略シテ、本案ハ委員
長報告通リ可決確定致シマシタ(拍手)
〔副議長退席、議長著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=60
-
061・松永東
○松永東君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際日程第四及ビ第五ヲ
繰上ゲ上程シ、其審議ヲ進メラレンコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=61
-
062・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=62
-
063・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
やっ、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシタ、
日程第四、第五ハ便宜上一括議題ト爲スニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=63
-
064・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程第四、朝鮮事業公債法中改
正法律案、日程第五、朝鮮鐵道用品資金會
計法中改正法律案、右兩案ヲ一括シテ第一
讀會ヲ開キマス-拓務大臣結城豊太郞君
第四朝鮮事業公債法中改正法律案
(政府提出)第一讀會
第五朝鮮鐵道用品資金會計法中改正
法律案(政府提出)第一讀會
朝鮮事業公債法中改正法律案
朝鮮事業公債法中左ノ通改正ス
第一條中「六億九千六百一一十萬圓」ヲ「八
億四千百五十萬圓」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律案
朝鮮鐵道用品資金會計法中左ノ通改正ス
第一條鐵道及自動車交通事業ノ用品ヲ
購入貯藏及製作修理シ朝鮮鐵道ノ運輸
營業及建設事業竝鐵道ニ關聯シ經營ス
ル自動車交通事業ノ需用ニ應スル爲朝
鮮鐵道用品資金ヲ置キ特別ノ會計ヲ立
テシム
第三條中「鐵道用品」ヲ「鐵道及自動車交
通事業ノ用品」ニ改ム
附則
本法ハ昭和十二度ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=64
-
065・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 只今議題トナ
リマシタ朝鮮事業公債法中改正法律案提出
ノ理由ヲ說明致シマス、朝鮮總督府特別會
計ニ於テ、昭和十二年度以降ノ繼續費トシ
テ計上致シマシタル、鐵道建設及改良費ノ追
加額一億二千九百五十餘万圓、竝ニ港灣修
築改良費追加額ノ一部千九百五十万圓ハ、
同特別會計歲計ノ現狀ニ顧ミマシテ、是ガ
財源ヲ公債ニ依ルコトト致シマシタコト等
ニ依リ、現行朝鮮事業公債法ノ公債發行限
度ヲ改訂スルノ必要ガアリマスルノデ、本
法律案ヲ提出シタ次第デアリマス、何卒御
審議ノ上速ニ御協贊ヲ與ヘラレンコトヲ希
望スル次第デアリマス
次ニ朝鮮鐵道用品資金會計法中改正法律
案提出ノ理由ヲ說明致シマス、朝鮮ニ於テ
國有鐵道ニ關聯シテ經營スル自動車交通事
業ノ用品ノ購入貯藏等ハ、之ヲ朝鮮鐵道用
品資金會計ニ於テ經理スルヲ適當ト存ジマ
スノデ、本法律案ヲ提出致シタ次第デアリ
マス、何卒御審議ノ上御協贊ヲ與ヘラレン
コトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=65
-
066・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 質疑ノ通〓ガアリ
マス、之ヲ許可致シマス-信太儀右衞門
君
〔信太儀右衞門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=66
-
067・信太儀右衞門
○信太儀右衛門君 只今上程ニナリマシタ
朝鮮ニ關スル二ツノ法案ニ付キマシテ、質
疑ヲ致サント欲スル者デアリマス、御承知
ノ通リ朝鮮ハ、統治既ニ二十七年ノ星霜ヲ
經過シテ居リマス、隨テ內鮮融和ノ實ヲ完
全ニ擧ゲマシテ、今ヤ雞林八道ニ於キマシ
テ、皇風ガ全ク普ネカラントシテ居リ、又
普クコトヲ私共モ確信シテ居リマス、洵ニ
國家ノ爲ニ御同慶ニ堪ヘナイ次第デアリマ
ス、植民政策ノ至難中ノ至難デアルト云フ
コトハ、是ハ諸君モ既ニ御承知ノ通リデア
リマス、一朝ニシテ是ガ過チヲ致シタ時ニ
於キマシテハ、折角ノ努力モ亦犠牲モ、何
等爲ス所ナクシテ、延イテハ內政問題ニ波
及スル由々シイ問題ヲ惹起スルコトハ、是ハ東
西植民ノ歷史ニ徵シテ見マシテモ、旣ニ明瞭ナル
事實デアリマス、此度ノ朝鮮ニ關スル二ツ
ノ法律案ニ付キマシテ、私ハ檢討致シタイ
ト思ヒマスルガ、本年度卽チ昭和十二年度
ニ於キマシテハ、其事業ノ公債ハ六億九千
六百二十万圓デアリマス、是ガ明年度、昭
和十三年度ニ於テハ、一躍八億四千百五十
万圓ト云フ所ノ、大ナル數字ヲ示シテ居リ
マス、驚ク勿レ、其累進額ハ一億四千五百三
十万圓デアリマス、之ヲ比較スルノハ如何
デアリマスルガ、此度各派ヲ通ジテ滿場一
致、所謂血ミドロニナッテ吾々ノ主張シタ地
方農村ノ交付金ノ問題ハ三千万圓デアリマ
ス、斯ノ如ク一絲亂レザル議員ノ主張ヲ以
テ叫ンデ居ッタ所ノ問題ハ、僅ニ三千万圓デ
アリマス、勿論此朝鮮ノ事業年度計畫ニ付
キマシテハ、今更主ヲ變ヘル譯ニハ行キマ
セヌケレドモ、如何ニ此植民ノ爲ニ我ガ國
帑ガ消費セラレルカト云フコトニ付キマシ
テ、吾々ハ之ニ對スル關心ヲ更ニ新シクス
ル次第デアリマス
私ハ〓要產業問題ト交通問題ノ二點ニノ
ミ止メマシテ、質疑ヲ打切ラウト思フノデア
リマスガ、先ヅ第一ニ人口問題カラ論及シ
タイト思ヒマス、朝鮮ノ人口ノ躍進ハ、我ガ
內地ニ殆ド匹敵シテ居リマス、殊ニ南部六
道ニ於キマスル所ノ人口ノ增加ト云フモノ
ハ、非常ニ激甚ヲ極メテ居リマス、隨テ內
地ニ是等ノ過剩人口、ソレハ主トシテ勞働者
デアリマスガ、其勞働者ガ內地ニ參リマシ
テ、ソレガ爲ニ內地ハ勞働者ノ過剩トナリ
マシテ、色々ノ社會問題ガ勃發シテ居ルコト
ハ、諸君モ御承知デアリマセウ、是ハ洵ニ
悲シムベキ事態デアリマス、朝鮮ノ圖ヲ繙
イテ見レバ直チニ分リマスガ、南部六道ハ
人口稠密デアリマスガ、人口ヲ單ニ一地方
ニノミ抑ヘテ居ルト云フコトハ、植民政策
ノ上カラ中シマシテモ、本意デハナイノデ
アリマス、之ヲ北鮮ノ天然資源ノ豐富デア
ル所ノ、而シテ土地ノ廣大デアル所一帶ニ
之ヲ移住セシメ、延イテハ之ヲ滿洲ヘ、日
本內地ト滿洲ト連繫スル所ノ第一線ニ朝鮮
ノ方々ヲ立タセルト云フコトハ、植民政策
トシテモ實ニ意義深甚デアルコトト私ハ考
ヘテ居リマス、次ニ朝鮮ノ產業ノ主タルモ
ノハ產米デアリマス、今ヤ朝鮮ノ米ハ、吾
吾內地ノ米ト殆ド其差別ハアリマセヌ、價
格ニ於キマシテモ、亦質其モノニ付キマ
シテモ、完全ナル米トシテ世間ノ稱讚ヲ博
シテ居ルノデアリマス、是ガ幸ニシテ天
惠ニ浴シ、五穀豐穰ト云フコトニナッタ時ニ
當リマシテハ、文字通リ生產過剩トナリマ
シテ、折角收穫ヲ得テ喜ビニ堪ヘナイ所ノ
鮮人ハ、價格ノ暴落ニ依リマシテ、喜ビガ
變ジテ災ヒニナルコトハ、諸君モ御承知デ
アリマセウ、併シ是ハ獨リ朝鮮米ニ限ラズ、
經濟的カラ申シマシテモ、生產過剩ト云ッタ、
ヤウナコトハ、又値段ノ暴落或ハ暴騰ト
云フヤウナコトハ、一片ノ法律ヤ制度ニ依
リマシテ、之ヲ抑ヘ付ケルコトハ出來マセ
又、或ル程度ニハ之ヲ抑制スルコトガ出來
マセウガ、之ヲ若シモ無理ニ抑へントスレ
バ、玆ニ由々シイ所ノ國家的ノ社會問題ガ
惹起スルノデアリマス、諸君モ御承知ノ通
リ、此度比律賓ガ獨立ヲ聲明シテ居ルト云
フ裏面ヲ考ヘテ御覽ナサイ、比律賓ニ於キ
マシテハ、非常ニ安イ勞力ヲ以チマシテ、
彼ノ特產物デアル所ノ製糖業ガ非常ニ進步
發達ヲシテ居リマス、是ガ一朝輸出ヲ致シ
マシテ、亞米利加內地ニ行ク時ニ當ッテ、亞
米利加內地ノ製糖業等ハ大ナル脅威ヲ感
ジ、ドウシテモ是ト角逐スルコトハ
出來ナイト云ッタヤウナ、一種ノ經濟的觀念
カラシテ、遂ニ比律賓ヲ獨立セシメテモ宜
シイト云フヤウナ空氣ヲ釀成シタト云フコ
トハ、是ハ旣ニ賢明ナル諸君ハ御承知ノ通
リデアリマセウ、斯ウ云フヤウニ頗ル重大
性ヲ帶ビテ居ルノデアリマス、獨リ又此產
米ノミニ限ラズ、農產物ニ付キマシテモ、
內地へ參ル時ニ當リマシテハ、種々ナル植
物檢査、所謂病毒ノ檢査ト稱シマシテ、其
內地ニ進出スルコトヲ阻止シテ居リマス、
是デハ折角朝鮮總督府ガ非常ナル犠牲ヲ拂
ヒ、努力ヲ以テ指導奬勵ヲ致シマシテモ、
其結果ハ洵ニ悲シムベキ所ノ現狀ニアルノ
デアリマス、是等ニ對シマシテ政府當局ノ
或ル程度マデノ確信ヲ私ハ聽カント欲スル
者デアリマス
次ニ又交通問題ニ付キマシテ御尋シタイ
ト思ヒマス、足一タビ朝鮮ノ釜山ニ上陸致
シマス時ニ、見ル一山、一六、一貫、近來
ハ稍〓生色、綠色ヲ呈シテ居リマスガ、全
ク是ハ荒凉無趣味ナ風光デアリマス、日〓
戰爭ニ當リマシテ、釜山ト京城ヲ結ブ所ノ
線ハ一ノ軍用線ト致シマシテ、何等經濟的
ノ觀念ナク、何等鐵道ノ技術ヲ考慮セズシ
テ、急速ニ之ヲ敷設致シタノガ彼ノ京釜鐵
道デアリマス、又ソレニ稍〓幾ラカノ科學
的技能ヲ加味シテ居リマスノガ、日露戰爭
直後ニ於テ出來タ京城ト新義州ヲ結ンデ居
ル所ノアノ線デアリマスルガ、是モヤハリ
京釜鐵道ト殆ド同一軌道ヲ步ンデ居ルヤウ
ニ考ヘマス、隨テ朝鮮總督府自ラ聲明シテ
居ル所ニ依リマスト、朝鮮ノ資源ヲ見ント
欲セバ、此幹線ニ依ルノハ非常ニ不便デア
ルト云フコトヲ、朝鮮總督府自ラ申シテ居
リマス、申スマデモナク、此鐵道ハ都會ト
都會ヲ結ビマシテ、サウシテ交通ノ利便ニ
貢獻スルコトガ、鐵道敷設ノ目的デアリマ
スルケレドモ、敍上ノ如キ事情ニ依リマシ
テ、朝鮮鐵道ノ大半ハ軍用鐵道ト云フヤウ
ナ空氣ニ依リマシテ、是ガ蔽ハレテ居ルヤ
ウニ私等モ考ヘ、又諸君モ御同感デアラウ
ト思ヒマス、是等ノ幹線ニ慊ラズシテ、更
ニ釜山ト京城ヲ結ブ所ノ主要貫通線ヲ開通
セントシタノハ最近ノコトデアリマス、其
貫通スル所ノ鐵道ノ區域ト云フモノハ山又
山、ソレハ九十九折デアリマス、文字通リ
ニ何等經濟的ノ價値ノナイ處デアルニモ拘
ラズ、之ヲ貫通致サントスルコトハ、ヤハリ
軍事的方面カラト云フヤウナコトヲ承ッテ
居リマスガ、吾々ハ朝鮮ノ鐵道ノ大半ハ、
此軍事鐵道ニ依リマシテ、經濟的ヲ全ク打
破考慮ナクシテ之ヲ敷設スルト云フコト
ニ對シマシテハ、大ナル遺憾ノ意ヲ表スル
次第デアリマス、勿論軍事的其モノハ、吾
吾ハ之ヲ協贊スルニ、決シテ吝カナルモノ
デハアリマセヌ、朝鮮ノ內外共ニ生產的ニ、
或ハ交通ノ完成ヲ圖リマシテ、一旦有事ノ
際ニハ東西相應ジテ、內地ノ自給自足ニ若
シ缺陷ガアッタナラバ、朝鮮ノ物資ヲ內地ニ
移入シテ、以テ吾々東亞大帝國ノ建設ヲ期
待スルコトハ、皆サンモ御異論ハナカラウ
ト思ヒマス、此點カラ見マスルト、今度ノ
事業公債ノ發行ト云フモノハ、主トシテソ
レニ一貫シテ居ルト云フコトハ、吾々ハド
ウシテモ此點ニ付キマシテハ、檢討ヲ更ニ
新シクシナケレバナラヌト思ヒマス(拍手)
殊ニ今ノ拓務大臣ハ、拓務大臣デアリ又大
藏大臣デアリマス、最近アナタハ金ノ直送
ヲヤッテ居リマス、一千五百万圓ノ金ノ直送
ヲヤッテ居リマシテ、日本ノ經濟價値ノ信用
ヲ高メントシテ居ルコトハ、是ハ吾々モ共
鳴シテ居リマス、併ナガラ此金ハ如何ナル
方法ニ依ッテ、如何ナル地ニ之ヲ求メルカト
云フコトハ、現在デハナクシテ將來性ヲモ
私ハ考ヘテ戴キタイト思フノデアリマス、
唯徒ニ早急ノ應急手段トシテ之ヲ行フト云
フノデハナク、永久的ノアナタノ御考ヲ以
テ致サレタイノハ、私等ノ切ナル希望デア
リマス、此點ヲ考ヘテ見マスト云フト、朝
鮮ニハ今ヤ鑛業トシテ一億万圓ノ產出ヲ致
シテ居リマス、殊ニ此產金、金ノ產額ハ朝鮮
總督府ガ相當ナル保護助長ヲ致シタナラバ、
更ニ數倍ノ累進率ヲ出スコトト私ハ確信致
シテ居リマス(拍手)何卒此點ハ唯鐵道、道
路ニノミ支出シナイデ、多岐多樣、所謂多
角的ニ、立體的ニ朝鮮ノ產業開發ノ爲ニ、
又交通ノ完成ノ爲ニ、吾々ハ切ナル要求ヲ
致サントシテ居ルモノデアリマス、此點ニ
付キマシテ當局ノ御懇切ナル御答辯ヲ御願
シタイト思ヒマス(拍手)
〔政府委員大野綠一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=67
-
068・大野緑一郎
○政府委員(大野綠一郞君) 只今信太サン
カラノ御質問ニ對シマシテ御答辯ヲ申上ゲ
やく、鐵道及ビ港灣ノ追加ノ費用ガ一億四
千餘万圓デアリマシテ、隨分莫大ノヤウデ
アルガト云フ御話デアリマシタガ、今日ノ
朝鮮ノ狀況カラ申シマシテ、鐵道ノ整備ガ
產業、國防各方面カラ極メテ重大デアリマ
スノデ、サウ云フヤウナ費用ガ追加サレタ
譯デアリマス、尤モ此費用ハ昭和十二年度
以降九箇年ニ亙ル繼續費デゴザイマシテ、
一年ノ追加額ト致シマシテハ二千餘万圓位
ノ見當ニナッテ居リマス、是ハ今日ノ朝鮮ノ
情勢トシテハ、發達ノ必要上當然左樣ナ金
額ガ要ルコトト考ヘテ居リマス
ソレカラ人口問題ニ付キマシテ、朝鮮六
道ノ人ロガ隨分稠密ノ狀態ニナッテ居ル、之
ニ付テ御承知ノヤウニ內地ニ渡航スルコト
ニ付キマシテハ、色々ト調節ヲ致シテ居ル
ノデアリマスルガ、之ヲ更ニ北部ノ朝鮮、
又滿洲ノ方ニ移住セシメル方策ニ付テ、考
慮シタラドウカト云フ御話デゴザイマスル
ガ、此點ニ付キマシテハ、旣ニ計畫ヲ立テ
マシテ、北鮮ノ可ナリ人口ノ疎ラナ土地ニ
付キマシテハ、ソレ〓〓計畫ヲ立テマシテ、
北鮮移民ノ費用モ豫算ノ中ニ組入レテ居リマ
シテ、逐次其計畫ヲヤッテ行クコトニナッテ居
リマス、ソレカラ滿洲移民ニ付キマシテハ、
昨年鮮滿拓殖會社ヲ創立致シマシテ、ソレ
ソレ滿洲國ノ官憲トモ連絡ヲ致シマシテ、
移住ノ奬勵ヲ致シテ居リマシテ、段々其手
順ガ整ッテ居リマスル次第デアリマス
ソレカラ產業ニ付テ、米ノ生產ニ付テ、
米價ガ著シク上ッタリ、或ハ下ッタリスル
ト云フヤウナコトガ、非常ニ朝鮮農民ニ不
安ヲ與ヘル虞ガアルデハナイカト云フ御懸
念デゴザイマシタガ、此點ニ付キマシテハ
幸ニ米穀統制法、又自治管理法ノ施行ニ依
リマシテ、大體ノ見當ガ付キマシタノデ、管
理法ハ未ダ發動ハ致サレマセヌケレドモ、
左樣ノ點ニ付テハ比較的私ハ安心ガ出來ル
コトト考ヘテ居リマス
尙ホ交通ノ問題ニ付テ、國防上重要ナル
點モ述ベラレマシテ、尙ホ其他ニモ產業上
十分鐵道ノ收支ノ採レルヤウニ考慮シタラ
ドウカト云フ御話デゴザイマスガ、此點ニ付
キマシテモ、沿道ニ可ナリノ物資ガゴザイ
マスルシ、是ハ農產物モゴザイマスルシ、
又鑛產物モ只今御示シノヤウニ澤山ゴザイ
マスノデ、是等ノ開發ニ付テハ十分ノ力
ヲ入レマシテ、產業ノ方面ニ於テモ十分ノ
效果ヲ擧ゲルヤウニ致シタイト考ヘテ居リ
マス、大體ノ御答辯ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=68
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069・信太儀右衞門
○信太儀右衞門君 簡單デアリマスルカラ
此席カラ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=69
-
070・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=70
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071・信太儀右衞門
○信太儀右衞門君 此問題ニ付キマシテハ、
私モ相當ノ成案ヲ持ッテ居リマスルカラシ
テ、他日或ル機會ニ於キマシテ相見エルコ
トガ出來マセウカラ、私ノ質問ハ之ヲ以テ
終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=71
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072・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ニテ質疑ハ終局
致シマシタ、兩案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=72
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073・松永東
○松永東君 日程第四及ビ第五ノ兩案ハ、
一括シテ政府提出、樺太市制案委員ニ併セ
付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=73
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074・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=74
-
075・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
ママ、仍テ動議ノ如タ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=75
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076・松永東
○松永東君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ提
出致シマス、卽チ此際日程第六及ビ第七ヲ
繰上ゲ上程シ、其審議ヲ進メラレンコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=76
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077・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=77
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078・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程ノ順序ハ變更セラレマシ
タ-日程第六及ビ第七ハ同種ノ議案デア
リマスカラ、一括議題ト爲スニ御異議アリ
マセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=78
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079・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ日程第六、昭和十二年度一般會計
歲出ノ財源ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法
律案、日程第七、昭和七年法律第一號中改
正法律案、右兩案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開
キマス-大藏大臣結城豊太郞君
第六昭和十二年度一般會計歲出ノ財
源ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法律
案(政府提出)第一讀會
第七昭和七年法律第一號中改正法律
案(滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲
公債發行ニ關スル件)(政府提出)
第一讀會
昭和十二年度一般會計歲出ノ財源ニ充
ツル爲公債發行ニ關スル法律案
第一條政府ハ昭和十二年度一般會計歲
出ノ財源ニ充ツル爲他ノ法律ニ依リ起
債シ得ル金額ノ外四億八千七百五十萬
圓ヲ限リ公債ヲ發行シ又ハ借入金ヲ爲
スコトヲ得
第二條政府ハ昭和十二年度一般會計歲
出豫算翌年度繰越額ノ財源ニ充ツル爲
他ノ法律ニ依リ起債シ得ル金額ノ外昭
和十三年度ニ於テ公債ヲ發行シ又ハ借
入金ヲ爲スコトヲ得但シ前條ノ規定ニ
依ル公債又ハ借入金ト通ジテ前條ノ制
限額ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條前二條ノ規定ニ依ル公債ノ發行
價格差減額ヲ補塡スル爲必要アル場合
ニ於テハ前二條ノ制限以外ニ公債ヲ發
行シ又ハ借入金ヲ爲スコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
昭和七年法律第一號中改正法律案
昭和七年法律第一號中左ノ通改正ス
「九億九千四百五十萬圓」ヲ「十二億六千
萬圓」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=79
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080・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 只今議題トナ
リマシタ昭和十二年度一般會計歲出ノ財源
ニ充ツル爲公債發行ニ關スル法律案提出ノ
理由ヲ御說明申上ゲマス、昭和十二年度一
般會計ニ於キマシテ、旣ニ成立致シテ居リ
マスル公債法ニ依リ發行スル公債金額、竝
ニ滿洲事件ニ關スル經費支辨ノ爲メ發行ス
ル公債金額ノ外ニ、歲入ノ不足ヲ補塡スル
爲メ四億八千七百五十万圓ノ公債發行ヲ必
要トスルノデアリマスルガ、是ガ爲ニハ別
ニ起債ノ權能ヲ得ルコトガ必要デアリマス、
尙ホ昭和十二年度ノ歲出ニ於キマシテモ、
其中若干ノ金額ハ例年ノ如ク翌年度ニ繰越
サレル結果ニナルデアラウト存ゼラレマス
ガ、其繰越額ノ財源ハ必シモ十二年度內ニ
起債スルコトヲ必要ト致シマセヌ爲メ、翌
年度ニ於テ發行シ得ルコトト爲スヲ適當ト
認メマス、右ノ理由ニ依リ本法律案ヲ提出
致シタ次第デアリマス
次ニ昭和七年法律第一號中改正法律案提
出ノ理由ヲ御說明申上ゲマス、滿洲事件
ニ關スル經費ニ關シマシテハ、去ル第六十
一四、第六十二囘、第六十四囘、第六十五
囘、第六十七囘、及ビ第六十九囘帝國議會ノ
協贊ヲ經、其財源ニ充ツル爲メ公債ヲ發行
スルコトヲ得ルノ法律ノ制定ヲ見タノデア
リマシテ、之ニ依ッテ昭和十一年度マデノ經
費ヲ支辨シ得ル次第デアリマスルガ、昭和
十二年度分ノ經費トシテ、更ニ二億八千七
百三十餘万圓ヲ必要トスルノデアリマス、
右ノ中特別會計ノ分ハ、全部普通財源ヲ以
テ支辨致シマスルガ、一般會計ノ分ニ付キ
マシテハ、滿洲國國防費分擔金受入等ニ相
當スル金額ヲ加減致シマシテ、二億六千五
百四十餘万圓ハ、今日ノ財政狀況竝ニ本經
費ノ性質ニ顧ミマシテ、從來ノ如ク公債財
源ニ依ルコトト致シマシタ爲メ、現行滿洲
事件ニ關スル經費支辨ノ爲公債發行ニ關ス
ル法律ニ依ル發行限度ヲ改正增加スルノ必
要ガアリマスノデ、本法律案ヲ提出致シマ
シタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上御協
贊ヲ與ヘラレンコトヲ希望スル次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=80
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081・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 質疑ノ通告ガアリ
マス、順次之ヲ許可致シマス-松田正一
君
〔松田正一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=81
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082・松田正一
○松田正一君 私ハ上程ニナッテ居リマス
ル昭和十二年度歲出補塡ノ爲ノ、世ニ所謂
赤字公債、及ビ滿洲事件費ニ基ク赤字公債、
是等ノ赤字公債ヲ消化スルト云フ其見透シ
ニ付テ、大藏大臣ノ意見ヲ承リタイノデア
ル、御承知ノ如ク公債ノ消化ハ、國民ノ蓄
積餘力ニ俟ツト云フコトハ論ヲ俟タヌコト
デアルガ、唯ソレノミニ依ッテ公債ガ消化出
來ルカドウカ、此公債ノ消化ト云フモノ
ハ、少クトモ國民ノ愛國心ト義務ノ觀念ガ
ナケレバ、公債ノ消化ト云フモノハ圓滑ニ
圖ルコトハ出來ナイ、元々高橋大藏大臣當
時ニ、所謂赤字公債ト云フモノガ曲リナリ
ニ消化ヲシテ來タト云フ、ソレハヤハリ高
橋大藏大臣ニ對スル國民ノ信賴、其公債ヲ
發行スルト云フ理由ヲ、國民ガ理解ヲ致シ
テ居ッタカラ、此赤字公債ト云フモノハ消
化ガ出來テ來タノデアル、何故高橋元大藏
大臣ニ對シテ信賴ヲ致シテ居ッタカト云フ
ト、其財政ノ立テ方及ビ豫算ノ査定ニ付テ
ハ、事ニ譬ヘレバ、主人ガ家族ヲ伴レテ百
貨店ニ物ヲ買ヒニ行ク、斯ウ云フ事ガアル
トシマシテ、所デオ前達幾ラモ欲シイ物
ガアルダラウガ、懷ロニ一万圓シカ金ハ無
イノダカラ、此一万圓デ買ヘルダケニシテ
置ケヨト云フノガ、高橋大藏大臣ノ豫算査
定ノ方針デアッタ、所ガ明年度發行スル、此
公債ノ高ヲ出シタ原因デアル所ノ、前ノ馬
場大藏大臣ハ豫算竝ニ財政方針ト云フモノ
ハ、結城大藏大臣ガ其根幹ヲ踏襲致シテ居
ル、其前馬場大藏大臣ノ豫算ノ査定ト云フ
モノハ、主人ガ家族ヲ伴レテ百貨店へ物ヲ
買ヒニ行ッテ、今日ハオ前達ノ好キナ物ヲ買
ウテヤル、金ハ俺ノ懷ロニアル金デ足リル
カ足リヌカ分ラヌガ、足ラナカッタラ借金ヲ
シテ來テヤル、借金ガ出來ナカッタラ、人ノ
懷ロニ手ヲ突込ンデモ取ッテ來テヤルカラ
買ヘ、斯ウ云フ風ナヤリ方ノ豫算ノ査定ノ
仕方デアル、ソレガ爲ニ財界竝ニ市場ト云
フモノト政府ノ對立ガ起ッテ、昨年ノ十月ノ
下旬ニ至ッテ、政府ガ發行致シタ昭和二十四
年償還ノ三分五厘ノ公債ト云フモノハ、發
行價格ヲ三十錢割ッタコトニナル、其時ニハ
驚イタ、日本銀行モ驚イタ、是カラドレダ
ケ公債ヲ發行シナケレバナラヌカ分ラヌノ
ニ、モウ今ニシテ發行價格ヲ三十錢割ッタ、
其時ニ今ノ結城大藏大臣モ、日本興業銀行
ノ總裁ヲ致シテ居リマシタ、其當時ノ結城
總裁モ、預金部カラ二千万圓ノ金ヲ出シテ
來テ、市場工作ニ掛ッタコトガアル、アノ狼
狽ノ仕方ハドウデアルカ、結局國民ト政府
トノ對立ガ起ッタ、ソレデ大藏大臣ニ承リタ
イノデスガ、日本銀行ノ元ノ總裁深井サン
ガ御辭メニナルト云フコトヲ言出シテ、今
デハ辭メテ居ラレル、アレハドウ云フ譯デ
深井サンガ辭メルト言出シタカ、ソコナン
デス、一方ニ增稅ヲヤルワ、一方ニ公債ヲ
出スワ、市場ト政府ハ對立シテ來タワ、到
底此公債ノ圓滿ナル消化ハ圖ルコトハ出來
又、此市場ト政府トノ對立ヲ、日本銀行ノ
總裁トシテ圓滿ナル解決ヲ圖ル譯ニハ行ク
イ、寧口足下ノ明ルイ內ニ辭メタ方ガ賢
明ノ策ダト云フヤウナ考デ、辭表ヲ出シタ
ト云フヤウナコトヲ聞イテ居ルガ、是等ノ
點ニ付テ大藏大臣ガ御承知ナラバ承リタ
イ、斯ウ云フ風ナ譯デ、今ヤ赤字公債ノ發
行ニ付テハ、國民ハ之ヲ果シテ消化スルダ
ケノ理解ヲ持ッテ居ルカドウカ、何處ヲ摑ン
デ大藏大臣ハ之ヲ消化サスト云フ考ガアル
カ(拍手)ソレヲ承リタイノデアリマス
ソレカラ元ノ大藏大臣ガ增稅案ヲ發表致
シマシテカラ以來ト云フモノハ、昨年ノ秋
カラ本年ノ一月ノ末ニ掛ケテ、社債ノ發行
ト云フモノハチョトモ出來ナカッタ、地方債ノ
發行モチヨトモ出來ナカッタ、是ハ大藏大臣御
承知ノ通リデアリマス、何故ソンナニナッタ
カ、綜合課稅ニスルトカ云フ稅率カラ見ル
ト利廻ガ安定シナイ、ソレガ爲ニヤレナカッ
ク、ケレドモ事業ハ擴ゲテ居ル、金ハ社債
ヲ發行シテ集メラレヌ、仕方ガナイカラ銀
行ヘ金ヲ借リニ行ッテ、サウシテ事業ヲ繼續
致シテ居ッタ、ソレガ爲ニ御承知デアリマセ
ウガ、銀行ノ收入ガ殖エタ、預金ハ減ッテ、
貸出ハ多クナッテ、ソレカラ低金利政策デ支
拂ノ利息ハ少イワ、一方貸出ノ利息ハ餘計
取レルワト云フコトデ、丁度六大銀行ハ昨
年ノ下半期ニ千百八十三万四千圓ト云フ利
益ガ前期ヨリ多カッタ、是ハニコ〓〓致シテ
居ル、斯ウ云フ結果ニナッテ來テ居ルケレド
モ、銀行ハヤハリ手持金ヲ餘計ニシテ居ッ
テ公債消化ヲヤッテ居ラヌ、昨年ノ一月ニ赤
字公債ハ一億二千万圓賣レテ居ル、今年ノ
一月ハ僅ニ二千万圓シカ賣レテ居ラナイ、
一月二月ヲ合計シテ見マシテ、昨年ノ二月
ノ末ノ計算デハ二億七千万圓バカリ賣レテ
居ッタ、本年ハ只ノ六千六百万圓シカ賣レテ
居ラナイ、昨年ト比較スレバ二億圓少イ、
コンナ形勢デスガ、此形勢ヲ眺メテ、アナ
タハ何處ヲ摑ンデ此赤字公債ヲ消化ササウ
ト云フノカ、其理由ヲ承リタイ、成程アナ
タニナッテカラ、綜合課稅ガ源泉課稅ニナッ
タト云フノデ、漸ク鐘淵紡績ノ社債トカ、
或ハ東邦電力、宇治電、ソレカラ東橫電錢、
或ハ京城電軌トカ、滿鐵等ノ社債ガ發行サ
レ掛ッテ居ルケレドモ、兎ニ角銀行ハ手持金
ヲ殖ヤシテ居ッテ、三月カラ後ノ金ノ動キヲ
見越シテ、其手持金ヲ以テ公債ヲ買ハウト
ハシテ居ラヌ、此見透シヲドウ云フ風ニ付
ケテ居ラレルカ、之ヲ承リタイノデアリマ
ス
ソレト結城大藏大臣ノ聲明カラ考ヘテ見
マスルト、軍備ノ充實、產業ノ擴充、ソレ
カラ大陸政策ト云フモノガアル、此大陸政
策ノ方針ニ基イテ、年々アノ滿洲ニ流レ出
テ居ル金ハドレダケアルカ、滿洲事件費及
ビ事業資金ト云フモノヲ合計致マスレバ、
四億八千万圓カラノ金ガ滿洲ニ流レテ行ッ
テ居ル、ザット五億万圓ノ金ガ年ニ今デモ
流レテ行ッテ居ルノデアリマス、ソレニ又今
度ハ滿洲產業五箇年計畫ト云フモノヲ樹テ
テ、五箇年ノ間ニ、二十三億圓ノ金ヲ滿洲
ニ流レササウト云フ計畫ガアル、其內譯ヲ
申シマスト、滿洲國ハ二十三億圓ノ中六億
圓日本政府ガ一億圓、日本興業銀行ガ一
億圓、ソレカラ財界人ガ直接投資スルノガ
六億圓、滿鐵ヲ經テ出資スル金ガ九億圓ト
云フコトニナッテ居リマスルガ、是レ及ビ北
支ノ經濟ノ工作ノ爲ニ、內地カラ流レテ行
ク金ト云フモノガ斯ノ如ク殖エテ來ルナラ
バ、ソレガ爲ニ日本ノ貨幣ノ動キガ頻繁ニ
ナッテ來ル、斯クナッテ來ルト、ヤハリ預金
モ減ッテ來ル、貸出ハ殖エテ來ル、是デ公債
ノ消化ガドウシテ圖ラレルカ、國民ガ之ヲ
心配致シテ居ルノデアル、之ニ對スル大藏
大臣ノ御考ハドウ云フ考ヲ有ッテ居ラレル
カ
ソレカラ近頃保險會社ヲ大藏省ガ共管ス
ルト云フ話ガアル、是ハドウ云フ譯デサウ
云フコトヲ爲サルノカ、何モ理由サヘ分レ
バ私ハ反對スルノヂヤナイ、其理由ガ少シ
モ分ラヌ、何十年ノ間保險會社ハ大藏省ノ
監督ヲ受ケナカッタ、今度大藏省デ共管ヲヤ
ルト云フヤウナコトヲ承ッタガ、ソレハ
體ドンナ理由デ共管ヲサレヨウト云フノ
カ、保險會社ハ玆ニ申シマスル三十三社ノ
運用資金カラ申シマスト、丁度證劵擔保以
外ノ公債消化ハ、二十五億圓消化致シテ居
リマス、ソレデ其保險會社ノ資金ハ四分ニ
ナッテ居リマス、保險會社ハ四分利ノ利息
ヲ拂ッテ居リマス、ソコデ三分五厘ノ公債
ヲ持テト言ッテモ、是ガ持テマスカ、ソレデ
モ忍ンデ大藏省ヤ日本銀行カラ保險協會ニ
話ガアッタカラ、淚ヲ呑ンデ二十五億圓マデ
公債ヲ消化致シテ居リマス、今年々保險會社
ハ三億圓ノ運用資金ガ殖エテ居ル、其內デ
一億圓ダケハ公債ノ消化ニ充テヽ居リマ
ス、ソレヲ今度共管ニデモシテ、殘リ二億
圓モ共ニ公債ヲ消化サシタイト、斯ウ言ハ
レルノカ、外ニ又理由デモアルノカ、假
此殘リ二億圓ヲ消化サセルト言ヘバ、此二
億圓ハ產業資金ニ出テ行ッテ居ル金デアリ
マスカラ、之ヲ公債ニ〓シテ來レバ、產業
資金ガ涸渴シテ來ル、アナタノ政策ニ產業
擴充ト云フコトガアリマスガ、サウスルト
產業ガ萎靡沈滯シテ來マス、少クトモ產業
資金ノ金ガ利息ガ高クナッテ來ル、之ヲドウ
ナサル御考デアルカ、若シ共管サレヨウト
スルノナラバ、ドウ云フ意思デ共管サレル
ト云フノカ、愈、共管スレバ、サウ云フ風ナ
考ヲ持タレテ居ルノヂヤナカラウカ、ソレ
ハ今マデ大藏省ハ銀行ノ監督ヲ致シテ居
ル、ソレデ今度保險會社ヲ共管シテ、ヤハ
リ銀行ヲ監督スルヤウニ監督シヨウト云フ
ノカ、一體アノ銀行ノ監督ヲ爲サルノニ、
檢査員ガ銀行ヘ來タ時ニドウデセウ、前ノ
馬場大藏大臣ガ日本勸業銀行ノ總裁ヲ致シ
テ居ル時ニ、大藏省ノ檢査官ガ銀行ヲ檢査
シタ、アノ時ニ馬場サンガ言ウタト云フコ
トガ新聞ニ載ッテ居ッタ、大藏省ノ銀行檢査
官ハ重箱ノ隅ヲ穿クルヤウナコトヲシテ、大
局ヲ失ウテ、人ヲイヂメントスルヤウナ方法
ヲ執ッテ居ル、アレヂヤイカヌト云フコト
ヲ、馬場サンガ日本勸業銀行總裁ノ當時ニ
言ッテ居ッタ、今ノ大藏大臣ハ日本興業銀行
ノ總裁ヲ致シテ居ッタノデスガ、大藏省ノ役
人ガ銀行ヲ檢査スルコトハ、御經驗ガアル
ダラウト思ハレル、此銀行ノ檢査ト云フモ
ノハ、一體騷々シイバカリデ、チットモ事實
ノ檢査ニナッテ居ラヌ、兎ニ角「ドアー」ヲ
明ケテ銀行ヘ入ッテ來テ金庫ヲ明ケヨ、有金
ヲ出セ、斯ウ云フ態度デアル(拍手)ソレデ
給仕ガ驚イテ警察へ電話ヲ掛ケヨウトス
ル、サウスルト待テ〓〓、俺ハ大藏省ノ銀
行檢査官ダ、「ピストル」持ッテ居ラヌカラ
安心セイト言ッタト云フ(笑聲)斯ウ云フヤ
リ方デ檢査ヲ爲サル、檢査ヲヤッタ其結果
ノ答申書ヲ御覽ナサイ、大藏省ノ銀行局ニ
アリマスカラ、金ヲ預ッテ貸シテ居ル、貸シ
テ居ッテモ金ハ殘ッテ來タ、殘ッテ來タ金デ株
ヲ持ッタ、是ハ法律デ許シテ居ル權利デア
ル、其株ヲ持ツナト言ハンバカリニ、成べ
ク貸付ケヨト斯ウ言フ、貸付ケヨト云ッテ
モ、擔保モナシ、信用モナイ者ニハ貸付ハ
出來ナイ、貸付ケテ取レナンダラソレマデ
デアル、大藏省ハ別段ソレヲ償ウテ吳レル
譯ヂヤナイ、貸スニモ貸セヌ金ガ其處ニア
ルカラ、ソレヲ遊バシテ置イテハイカヌカ
ラ、法律ガ許シタ株ヲ持ッテ居ル、其株ヲ持
ツナト、斯ウ言フ、サウスルトドウセイト
言フノカ、詰リ公債ヲ持テト云フコトニナ
ル、ソンナラソレデ膝詰デハッキリ其譯ヲ
言フガ宜イ、公債ヲ持テナラ持テト言フガ
宜シイ、廻リ廻ッテ嚇シ廻ル、是ハドウモ銀
行ト政府ノ對立關係ニナッテ來マスカラ、赤
字公債消化ノ上ニ非常ナ支障ヲ來シマス、
此保險會社ヲ愈〓共管スルト云フコトニナ
ルナラバ、其理由ハドウカ、果シテ共管シ
テドウシヨウト言フノカト云フ意見ヲ簡單
ニ承リタイ
ソレカラ公債ヲ郵便局デ賣ルト云フコト
ガ近頃新聞ニ出テ居ル、成程是ハ好イ考
デ、吾々ハ反對ハ致サヌ、反對ハ致サヌケ
レドモ、今日本ノ國民ノ蓄積餘力ノ資金ニ
對スル利息ハドレダケカト言フト、國民ノ
貰ッテ居ル利息ハ、郵便貯金ガ今度利下ニ
ナッテ、四月一日カラ二分七厘六毛ニナル、
ソレカ、但シハ銀行ノ定期預金ニ入レテ置
イテ、サウシテ利息ヲ貰フトスレバ三分三
厘是デ稅金ヲ引クト丁度二分八厘チヨツ
ト上ニナル、サウスルト郵便貯金卜定期預金
トヲ平均スルト、國民ノ金ヲ吸收スル其利息
ト云フノガ、先ヅ二分八厘デ國民ノ金ト云フ
モノハ吸收サレテ居ル、ソレダカラ今度公債
ヲ郵便局ノ窓ロデ賣ルコトニナッタナラバ、三
分五厘公債デ、發行價格カラ單利ニ〓セバ三
六厘三毛位ニナリマセウ、サウスルトソレ
ハ稅金ヲ引イテモ三分三厘位ニナリマス、
ザットノ計算ガ、國民ハ公債ヲ郵便局デ買ヘ
バ、普通ノ預金若クハ貫金致シテ居ルノカ
ラ、五厘ダケ餘計ノ利息ヲ貰ヘルコトニナ
ルカラ、是ハ宜シイ、是ハ宜シイト致シマシ
テモ、サウスルト銀行ノ定期預金ハ減ッテ來
マス、銀行ノ定期預金ハ減ッテ來ルコトニナ
リマス、ソレカラ政府ノ預金部ノ金ハ減ッテ
來マス、一方二分七厘六毛デ預ケテ居ル郵
便貯金ヲ引ッ張リ出シテ、三分三厘ノ公債ヲ
持タウト云フコトニナルノハ、是ハ當然デ
アリマスカラ、キット預金部ノ金ガ涸渴シテ
來マス、銀行ノ定期預金ガ減ッテ來マス、銀
行カラ考ヘテ見マスト、今マデノ預金ノ總
高カラ申シマスト、預金ノ殘ッタ金ノ四割ハ
公債ノ消化ニ充テヽ居ッタ、六割ハ產業資金
ニ充テヽ居ッタ、ソレガ郵便局ノ窓ロデ公債
ヲ賣ルヤウニナッテ來テ、定期預金ノ期限ガ
來タラ、皆引摺出シテ公債ヲ買フヤウニナッ
タラバ、今マデ銀行ノ預金ノ四割ヲ以テ公
債ヲ消化シテ居ッタモノハ、皆出シテシマ
ヒ、ソレ以上ニ產業資金ニ廻ッテ居ッタ六割
ノ預金ト云フモノモ、ヤハリ引ッ張リ出シ
テ公債ヲ買フコトニナリマスカラ、サウス
ルト銀行ノ產業資金ニ廻ル金ハ少クナッテ
來マス、サウスルト親銀行ガ日本銀行カラ
金ヲ借リテ來テ、其金ヲ又普通銀行ガ借リ
テ、ソレヲ產業資金ニ貸シタナラバ、二重
ノ天引利息ヲ引カレマスカラ、產業資金ガ
高クナッテ來マス、サウスルトアナタノ言フ
產業ノ擴充トカ云フコトハ、果シテ望マレ
マスルカドウカ、之ヲ承リタイ
ソレトモウ一ツ、公債ヲ國民直接ニ買フ
結果ニ付テ御尋致シタイノデアルガ、國民
ガ公債ヲ郵便局カラ買ウテ、其公債ヲ賣ル
時ニハドウナサル、郵便局ノ窓カラ時價デ
買ウテ吳レマスカドウカ、之ヲ承ッテ置キタ
イ、サウ云フコトデ郵便局ノ窓カラ時價デ
買ウテ吳レヽバ宜シイ、呉レナカッタナラバ
證劵會社ヘ持ッテ賣リニ行ク、足下ヲ見ルカ
ラ安ク買フ、銀行ニ擔保ニ入レル、是ハ利
ガ高イ、結局國民ハ公債ヲ持ッテ路頭ニ迷フ
コトニナリマスガ、サウスルト又國民ノ經
濟ヲ破壞シテ來ルコトニナリマス、是ハド
ウデス、サウ云フコトニナッタトシタラドウ
ナルカ、郵便局デ果シテ賣ルト云フコトニ
ナッタラドウナルカ、之ヲ承リタイ
ソレカラモウ一ツ、低金利政策ヲヤッテ居
ル、是ハ公債消化ノ一便法トシテヤッテ居ル
ガ、是ハ何モ惡イコトヂヤナイ、惡イコトヂヤ
ナイガ、低金利政策ガ下國民ニ徹底ヲ致シ
テ居ルカト云フコトヲ承リタイ、唯大資本家
トカ、大會社トカ、政府ノ半官半民ノ銀行ダト
カト云フノダケガ、低金利デ暴利ヲ貪ッテ居
ルガ、下國民ニ對シテ低金利ガ平等ニ行渡ッ
テ居ルカドウカト云フコトヲ承リタイ、大
藏大臣ハ斯ウ云フコトハ是ハ御承知ダラウ
ト思フ、農工銀行ガ元低金利政策ノ行ハレ
ヌ前ニハ七分五厘、年ニ七分五厘カラ七分
ノ農工債劵ヲ發行シテ居ッタ、假ニ七分ノ農
工債劵ヲ發行シテ居ッテ、國民ノ金ヲ七分デ
吸收シテ居ル、サウシテ貸スノハ八朱八厘
デ貸シテ居ッタ、サウスルト一朱八厘ダケ利
鞘ヲ取ッテ農工銀行ガ生キテ居ッタ、ソレガ
低金利政策ニナッタカラ、近頃農工債劵ヲ發
行スルノハ、先ヅ三分八厘カラ四分、マダ
高イモノモ多少アリマスカラ、平均四分ト
見マシテモ、其金ヲソンナラ一朱八厘ノ利
鞘デ貸シテ居ルカト云フト、決シテ貸シテ
居ラヌ、ソレデ一番安イノデ六分六厘、マ
ダズット高イモノモアリマス、七分、七分二
厘、七分三厘ト云フモノガアリマス、平均
致シマスルト云フト、今ノ所デハ農工銀行
ノ貸付ノ平均利率ト云フモノハ七分一厘ニ
ナッテ居ル、サウスルト元ハ七分デ金ヲ吸收
シテ、一分八厘ノ利鞘ヲ取ッテ生キテ居ッタ
農工銀行ガ、今度ハ低金利政策ヲヤッタ爲
ニ、三分一厘ノ利鞘ヲ取ッテ居ル、暴利ヲ貪ッ
テ居ル、其踏臺ニ誰ガナッテ居ルカト云フ
ト、農民ガ其踏臺ニナッテ居ル、農民ノ借金
シテ居ル者ガ此踏臺ニナッテ居ル、ソレデス
カラ今農工銀行ハマア大體一割ノ配當ヲシ
テ居ル、日本銀行ハ一割ノ配當ヲシテ居ル、
日本勸業銀行ガ一割ノ配當ヲシテ居ル、正
金銀行ガ一割ノ配當ヲシテ居ル、ソロリト
此半官半民ノ銀行ハ一割ノ配當ヲシテ居ル
ノデアリマスガ、而モ普通ノ銀行ハドレダ
ケニナッテ居ルカト云フト、平均六分三厘五
毛位シカ配當ハシテ居リマセヌ、是ハドウ
ナリマセウカ、低金利政策ダト言ッテ、如何
ニモ國民ノ爲ニ低金利政策ヲヤッテ居ルヤ
ウニ見ラレマスルケレドモ、大資本家、大
銀行、政府ノ銀行等ガ此低金利政策ニ依ッ
テ暴利ヲ貪ッテ、下國民ヲ踏臺ニシテ居ルト
言ハレテモ仕方ガナイデセウ(拍手)結城大
藏大臣、アナタハコンナコトヲ御承知デセ
ウカ、澤山ノ資本ヲ持ッタ者ハ、斯ノ如ク低
金利政策デ利益ヲ得テ居ル、所デ三万ヤ二
万持ッタ所ノ、ソレ〓〓預金ノ利息デ食ッテ
居ッタ者ハ、其外ニ殆ドアリマセヌ、半分以
下ノ利息ニナッテ居ル、元ハ六分五厘ノ定期
預金デアッタモノガ、今デハ先ニ申シタ如ク
稅金ヲ引カレルト二分八厘シカアリマセ
又、ソレデハ飯ガ食へヌカラ、何處カニ此
金ヲ廻ス所ハナイカ、高利ニ廻ス所ハナイ
カト言ッテ見付ケタノガ勞働者ニ對スル貸
付、是ガ益〓殖エテ來ル、今日デハ東北カラ
中都市、又ハ小都市ヘモポツノ〓ヤッテ來
ク、ソレカラ工場、ソレカラ滿洲、朝鮮、
此處ニ金ヲ持ッテ行ッテ勞働者ニ貸付ケル途
ヲ開イテ、之ニ高利貸連中ガ段々ト手ヲ擴
ゲテ來タ、勞働者ハ日々計算デ、一日ノ日
給ヲ貰ッテ來レバソレデ宜シイガ、ソレハ手
數ダカラト云ッテ、先ヅ月ニ二囘位ノ計算
デ、十五日ニ一遍位シカ賃銀ハ拂ッテ吳レ
又、ケレドモ勞働者ハ十五日間待テヌ、米
ヲ買フ金ガナイ、待テヌ、ソレヲ見付ケテ
金ヲ貸シテヤラウト云ッテ金ヲ貸シニ行ク、
其金ハ一圓ニ付テ十五日ノ間ノ利息ガ二
錢サウスルト十五日デ二錢ダカラ一箇月
四錢デス、サウスルト一年經ッタラ利息ガ
一圓ニ對シテ四十八錢、コンナ利息ヲ取ッテ
勞働者ニ金ヲ貸シテ居ル、サウスルト一万
圓ノ金ヲ是デ廻セバ年ニ四千八百圓ノ利息
ガ擧ガル、一万圓ノ金デ四千八百圓ノ利息
ガ取レル、同ジ一万圓デ赤字公債ヲ持ッタ
ナラバ、三分三厘カ四厘シカ取レヌ、ソレ
ニ稅ヲ引カレルノデアルカラ、一万圓ノ金
ハ僅ニ三百三四十圓位モ取レナイノニ、
方ハ四千八百圓取レルト云フノデハ、此開
キハ餘リニ廣過ギマス、サウスルト此貸シ
方ガ流行ッテ來ルト、預金ヲ引摺リ出シテ貸
ス、終ヒニハ財產ヲ擔保ニ入レテ銀行カラ
借リタ金ヲ之ニ貸ス、斯ウ云フコトニナッテ
來ルト結局預金ガ減ル、貸付ハ殖エル、サ
ウシテ而モ勞働者ハ是ガ爲ニ高イ利息ヲ拂
フ、斯ウ云フ風ナ事實ガ今アリマスガ、大
藏大臣ハ御承知カ、高利貸ヲ取締ルニアラ
ザレバ、赤字公債ト云フモノノ消化ニ支障
ヲ來シハセヌカ、餘リ事實ガ荒ッポイ事實
デアルカラ、松田ハ噓ヲ言ッテ居ルノヂヤ
ナイカト思ハレルカモ知レナイ、今內務大
臣ハ居ラレナイガ、內務省ノ土木局ノ河川
ノ係リノ直轄工事ノ人夫ヲ調ベテ貰ヒタ
イ、現在モシテ居ル、サウ云フ風ナコトニ
ちゃん、低金利政策ノ爲ニ、上ノ者ハ宜イケ
レドモ、下勞働者、農民ト云フモノハ、斯
ノ如ク犧牲ニナッテ踏臺ニサレテ居ルト云
フ事實ガアル、ダカラナゼ此高利貸ヲ取締
ラナイカ、アナタハ御承知ナイカモ知レマ
セヌガ、恩給ヲ擔保ニシテ貸スコトハナラ
ヌト言ッテモ止メサセルコトハ出來ナイ、ア
レデモマダ法網ヲ潜ッテ二億二千万圓モ貸
シテ居ル、所ガ今ノハチットモ法律デハ禁ジ
テ居ラヌ、成程訴訟ガ起ッテ、之ヲ法定利率カ
ラ云フト違反ニナルカモ知レヌガ、是ハ分
ラヌ、而モコンナ高利貸ハ稅金ヲ免レテ居
ル、斯ウナッテ來テ、是ガ段々低金利政策デ
イヂメラレルト、其金ヲ利息ニ〓スコトニ
苦ンデ、其爲ニ勞働者ヲ脅シ、農民ヲ脅カス
貸スノハ宜イ、宜イケレドモ、モット利息ヲ
安クシテヤラナケレバ、結局此勞働者、農民
ト云フモノハ、低金利政策ノ犠牲ニナッテ居
ル、斯ウ云フヤウナ點ハ御承知ヂヤナイカ、
若シ御承知デナクテモ、コンナコトガ世
ノ中ニアルトスルナラバ、此高利貸ヲ取締
ル御考ガナイカト云フコトヲ承ッテ置キタ
イノデアリマス、尙ホ物價騰貴ト赤字公債
ノ關係、「オープン·マーケット·オペレーショ
ン」ガ賣ニモ買ニモ發動スルト云フヤウ
ナ件、其他七八件アリト雖モ、餘リ時間ヲ
費シテハ何デアリマスカラ、簡單デアリマ
スガ、以上ノコトダケ大藏大臣ニ承ッテ、其
御意見ヲ聽キタイノデアリマス(拍手)
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=82
-
083・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 松田君ノ御質
問ニ御答ヲ致シマス、今後中々公債ノ發行
ガ多イダラウガ、ソレ等ニ付テ見透シガア
ルカト云フ御尋デアリマシタガ、是ハ御話
ノ通リ、根本ハ資金ノ蓄積ニアリマス、ソ
レカラ一面ハ公債ニ對スル信用、詰リ御話
ノヤウニ、高橋サンノヤウナ方ニ對スル信
賴國ノ財政ニ對スル信賴ト云フモノガ、
公債ヲ消化致サセマスルノデ、資金ノ蓄積
ト同時ニ、國ノ財政ニ對スル信賴ト云フコ
トニ付テ十分ニ意ヲ用ヒテ、公債ノ消化ヲ
滑カニスルヤウニ努メタイト思ッテ居リマ
ス、ソレカラ保險會社ヲ大藏省ノ共管ニス
ルト云フコトハ、ドウ云フ理由カト云フ御
尋デアリマシタガ、保險會社ハ御承知ノ通
リ、非常ニ大キクナリマシテ、金融機關ト
シテモ、投資機關トシテモ、絕大ナル力ヲ
持ツヤウニナッタノデアリマス、是ハサウ云
フ點カラ大藏省ノ方デモ商工省ト一〓ニ、
其邊ノ投資ニ付テ間違ヒナイヤウニ、見テ
行キタイト云フ考カラ起リマシタ次第デア
リマス、ソレカラ公債ノ郵便局賣出ハ、銀
行ノ定期預金ノ減少ヲ來ス虞ハナイカト云
フコトデアリマスルガ、從來公衆ハ公債ヲ
持ツコトノ習慣ガ餘リ付イテ居リマセヌ、
公債ノ民衆化ト云フコトハ、是非圖ラネバ
ナラヌノデアリマシテ、其爲ニハ今囘ノヤ
ウニ郵便局ヲ通シテ賣出スヤウナ方法ヲ
採ッテ、徐々ニ民衆化ヲ圖ッテ見タイト思フ
ノデアリマス、併シ賣ル時ダケ賣ッテ、買ハ
ナケレバ困ルヂヤナイカト云フコトデアリ
マスルガ、是ハ預金部ノ方デ郵便局ヲ通シ
テ買上ゲルヤウナ方法ヲ講ズル積リデアリ
マス、ソレカラ低金利ハ平等ニ浸潤シテ居
ルモノト見ルカ、中々小資本家ノ高利貸、
其他ニ高イ金利ヲ拂ッテ居リ、勞働者其他モ
困ッテ居ル、ソレ等ヲ取締ル意思ガナイカト
云フ御尋デアッタト思ヒマスルガ、是ハ十分
ニ其邊ノ取締ヲ關係當局ト共ニ致ス考デア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=83
-
084・松田正一
○松田正一君 大陸政策ニ對スル金ノ流レ
ガ、赤字公債ノ消化ニ支障ヲ來サヌカト云
フコトニ付テノ答辯ガナカッタヤウデアリ
マス
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=84
-
085・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 御答ヲ申上ゲ
やく、大陸政策ト云フコトデアリマスガ、
是ハ多分滿洲其他ニ日本ノ資金ガ流レテ行
クコトニ對シテ、公債ノ消化ノ懸念ガナイ
カト云フ御尋デアラウト思ヒマスガ、其邊
ハ十分ニ當局ト致シマシテハ考ヘテ、處理
ヲ致ス積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=85
-
086・松田正一
○松田正一君 簡單デアリマスカラ此席
カラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=86
-
087・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=87
-
088・松田正一
○松田正一君 只今ノ御答辯ニ依ッテ一向
要領ヲ得マセヌ、一口ニ御答辯ヲサレマス
カラ、ドウシテモ了解スルコトガ出來兼ネ
マス、併シ是ハ私ハ赤字公債ノ消化ニ對ス
ル、ホンノ露拂ヒノ質問ヲ致シタノデアリ
マシテ、何レ他ノ機會ニ於テ徹底的ニ質問
スルコトト致シマシテ、私ノ質問ヲ打切リ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=88
-
089・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 大本貞太郞君
〔大本貞太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=89
-
090・大本貞太郎
○大本貞太郞君 私モ公債政策ニ對シマシ
テ、簡單ニ四五ノ事柄ニ付テ大藏大臣ニ質
問シタイト思フノデアリマス
第一ニ公債消化ノ問題デアリマスガ、是
ハ只今松田君カラモ御質問ガアリマシテ、
大藏大臣ノ御答辯ガアリマシタガ、大藏大
臣ノ御答辯ハ餘リニ廣漠デアリマシタカラ、
私ハ今少シク具體的ニ御答辯ガ願ヒタイノ
デアリマスガ、御承知ノ通リニ我國ノ金融
事情ハ、昨年一昨年ニ比較致シマシテ、著
シク情勢ガ異ナッテ居ルノデアリマス、政府
ハ急激ナル通貨ノ膨脹ヲ招來セズシテ、少
クトモ現在ノ利率ヲ引上ゲズニ、又發行價
格ヲ引下ゲズシテ、十億圓ニ垂ントスル所
ノ昭和十二年度ノ公債ノ消化ニ確信ガアリ
マスルカドウカ、之ヲ具體的ニ承リタイト
思フノデアリマス
第二ハ、大藏大臣ノ屢〓聲明サレテ居ル
所ノ生產能力ノ擴充政策ト、低金利ノ維持
促進政策ハ、少クトモ惡性「インフレーシ■
ン」ノ招來ヲ防止セントスル財政政策ノ
上ニ於テハ、相當ノ相剋ガアルモノト思ヒ
マスルガ、大藏大臣ハ如何ナル政策方法ヲ
以テ、是ガ相剋ヲ避ケントスルモノデアリ
マスカ、又生產能力ノ擴充ノ爲ニハ、或ル
程度マデノ金利ノ昂騰、或ハ「インフレー
ション」ノ發生ハ、免レザルモノト御考ニナッ
テ居ルノデアリマスルカ、御所信ヲ伺ヒタ
イト思フノデアリマス
第三ハ、五分利公債、四分利半公債ノ低
利公債ヘノ借換ハ、金利調整ノ意味カラ申
シマシテモ、亦國家財政ノ上カラ申シマシ
テモ、緊切ナル事柄デアルノデアリマスル
ガ、大藏大臣ハ近ク借換ヲ行フ御意思ガア
ルノデアリマスルカドウカ、伺ヒタイト思
フノデアリマス
第四ハ、我國ニ現存シテ居リマスル所ノ外貨
債ニ對シマスル課稅ニ付キマシテハ、現內閣ノ
方針ハ、前內閣ノ馬場藏相案ニ比較致シマシ
テ、著シク緩和ノ方針ヲ採ッテ居ラレルノデ
アリマス、元來我國ニ現存致シテ居リマスル
所ノ外貨債ノ多クハ、御承知ノ通リ昭和六年
ノ金再禁止ノ直前ニ、所謂弗買ノ手段トシテ
輸入サレタモノデアリマシテ、是ガ爲ニ莫大
ノ正貨ガ流出シ、國民思想ノ上ニ非常ナル惡
影響ヲ及ボシテ居ルノデアリマス、五·一五事
件ノ如キハ、是ガ原因ノ一ツトナッテ居ルト傳
ヘラレテ居ルノデアリマスルガ、此外貨債ニ
對シマシテ、何ガ故ニ現在ノ如キ好利廻ニ
放置シテ優遇セネバナラヌ理由ガアルノデ
アリマスルカ、承リタイト思フノデアリマ
ス
第五ニ、昨年末カラ御案內ノ通リニ、各種
商品ヲ初メ有價證劵ノ思惑熱、投機熱ガ頗
ル昂進致シテ居ルノデアリマス、固ヨリ是
ハ我國ダケノ現象デハゴザイマセヌノデ、
見樣ニ依ッテハ世界的ノ趨勢デアリマスル
ガ、此過當トモ見ルベキ思惑熱、投機熱ハ、
勢ヒ資金ノ偏在ヲ來シマシテ、公債消化ニ
支障ヲ與ヘ、又公債市價ニ惡影響ヲ及ボス
モノト思フノデアリマスルガ、之ニ對スル
大藏大臣ノ御所信ヲ伺ヒタイト思フノデア
リマス、又過當ノ騰貴ノ後ニハ、必ズ深刻
ナル反動ガ附物デゴザイマシテ、其曉ニハ
往々財界ノ恐慌ヲ來ス虞ガアルノデアリマ
スルガ、大藏大臣ハ現在ノ如キ思惑熱、投
機熱ノ旺盛ニ對シマシテ、此反動ヲ未然ニ
防グ所ノ、何カノ政策ノ發動ヲサレル意思ガ
アリヤ否ヤト云フコトヲ伺ヒタイト思フノ
デアリマス、私ノ質問ハ洵ニ簡單デアリマ
スルガ、併シ大藏大臣ノ之ニ對スル御答辯
ノ一言一句ハ、財界ニ非常ナル衝動ヲ與ヘ
ルモノト考ヘマスルカラ、出來得ル限リ具
體的ニ愼重ニ御答辯アランコトヲ御願致シ
マス(拍手)
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=90
-
091・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 御答ヲ申上ゲ
マス、公債ノ消化ニ關シテ具體的ノ方針ヲ
示セト云フコトデアリマスルガ、其一ツ
トシテ、今後發行價格ヲ維持シテ行ク積リ
カト云フ御話デアリマスルガ、是ハ其時ノ
情勢ニ依ッテ考ヘネバナリマセヌノデ、豫
メ申上ゲル譯ニハ參リマセヌガ、併ナガラ
發行價格ヲ引下ゲテ發行致シマスルコトニ
ナルト、發行ノ時ニハ極メテ消化ガ容易デ
アリマスルガ、既發ノ公債ノ市價ニ非常ナ
影響ヲ來スト云フコトヲ御考置キヲ願ヒタ
イト思ヒマス、其邊ノ所ハ十分ニ其時々ニ
〓究ヲシテ、愼重ニ處理致シタイト考ヘテ
居リマス
第二ニ生產能力ノ擴充ト云フコトト、低
金利ノ促進ト云フコトニ、相刺狀態ヲ來ス
コトガナイカト云フコトデアリマス、事實
生產能力ガ擴充サレマシテ、其方ニ資金ヲ
多分ニ要スルコトニナリマスルト、自然ニ
低金利ノ促進ヲ阻止サルヽ結果ニナラウト
思ヒマス、其邊ノ調和ガ金融業者トシテ、
殊ニ中央銀行ノ當局者トシテ苦心ノ存スル
所ダラウト思ヒマス
ソレカラ第三ノ公債ノ借換ヲ行ハントス
ル考ガアルカト云フ御尋デアリマスルガ、
是ハ情勢ガ許シマスルナラバ、ソレヲ致シ
タイト存ジマス、併シ何時ソレヲ致シマスト
カ、ドウ云フ條件デ致シマスルトカト云フ
コトハ、其時ニナッテ見ナイト御答ノ致シ
ヤウガナイノデアリマス
ソレカラ外貨債ニ對シテ課稅ノ緩和スル
必要ガナイヂヤナイカト云フ御話デアリマ
ス、必シモ是ハ弗買ノ所產ト云フ風ニモ考
ヘテ居リマセヌ、又外貨債ニ對シマシテ
ハ、最初ニ買入レタ人カラ段々ニ其時ノ市
價デ轉々致シマシテ、今持ッテ居ル人ガ非
常ナル利益ヲ受ケテ居ルト云フ風ニモ考ヘ
ラレマセヌノデ、其所有者ニ對シテ不當ナ
ル課稅ヲスルト云フコトモ出來ニクイノデ
アリマス、其邊ノ所ヲ考ヘマシテ、適當ナ
ル課稅率ヲ定メマシタヤウナ次第デアリマ
ス
最後ニ最近ニ思惑、投機熱ガ非常ニ激シ
イヤウデアルガ、ソレヲ抑制スル考ガナイ
カト云フコトデアリマスガ、是ハ日本ダケ
ノ事情ニ因ルノデハゴザイマセヌ、世界的
ノ影響ヲ受ケテ居ルコトガ中々多イノデア
リマス、隨テ此方ダケデ直チニ之ヲ行政手
段其他ニ依ッテ抑制スルト云フヤウナコト
ハ、如何カト考ヘテ居リマス、併ナガラ其
邊ノコトニ付キマシテハ、金融業者其他各
種ノ方面ニ於テ行過ギノナイヤウニ、又ソ
レガ反動ノ結果惡影響ヲ來スヤウナコトガ
ナイヤウニ、其邊銘々ニ自重スルコトヲ望
ンデ居ルヤウナ次第デアリマス、以上御答
ヲ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=91
-
092・大本貞太郎
○大本貞太郞君 簡單デゴザイマスカラ、
此席ヨリ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=92
-
093・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=93
-
094・大本貞太郎
○大本貞太郞君 大藏大臣ノ御答辯ハ、頗
ル抽象的デ要領ヲ得ナイト考ヘマスガ、何
レ委員會ニ於テ御質問スルコトニ致シマシ
テ、私ノ質問ハ是デ打切リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=94
-
095・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 加藤鯛一君
〔加藤鯛一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=95
-
096・加藤鯛一
○加藤鯛一君 私ハ現內閣ノ公債政策ニ付
キマシテ疑ヲ懷イテ居ル一人デアリマス、
故ニ之ヲ質シマシテ、政府ノ明確ナル御答
辯ヲ承リマシテ、本案ノ贊否ヲ決スル資材
ニ致シタイト存ズルノデゴザイマス、公債
政策ハ申ス迄モナイコトデアリマスガ、
度之ヲ過チマスルナラバ、恐シイ「インフ
レーション」ヲ惹起致シマシテ、經濟機構
ノ根本ヲ破壞スル虞ナシトシナイノデアリ
やっ、故ニ公債政策ハ愼重ノ上ニモ愼重ニ
之ヲ行ハナケレバナラヌト思フノデアリマ
スルガ、此公債政策ニ對ツマシテ、前ノ大
藏大臣デアリマシタ馬場氏ハ、何ノ根據ニ
依ラレタカ存ジマセヌガ、我國ノ國民經濟
力ニ應ジマシテ、約ソ十億圓位ノ公債ナラ
バ消化スルコトガ出來ルト云フ意味ノコト
ヲ、色々ノ機會ニ於キマシテ、度々聲明セ
ラレタノデアリマス、然ルニ吾々ハ其根
據信念ニ對シマシテ御伺スル機會ガナ
カッタコトヲ、洵ニ遺憾ニ存ジテ居ルノデ
アリマス、然ルニ現內閣ノ結城大藏大臣
ハ、先般議員ノ質問ニ對シマシテ、ヤリヤ
ウニ依ッテハ公債ノ消化ハ十三億、十五億
デモ出來ルト云フ意味ノ御陳述ガ、此議場
デアッタノデアリマス、私ハ十億ノ公債消
化力ガアルト云フコトニ對シマシテモ、若
干ノ疑問ヲ持ッテ居リマシタガ、結城大藏
大臣ハ如何ナル信念ニ依ッテ、如何ナル根
據ニ基イテ、十三億デモ、十五億デモ、
ヤリヤウニ依ッテハ消化スルト云フコトヲ
仰シヤイマシタガ其ヤリヤウト云フノハ、ド
ンナヤリヤウヲ爲サル御考デアリマスルカ、
之ヲ第一ニ承リタイノデアリマス(拍手)諸
君此ヤリヤウト云フコトハ、其時ニヤルン
ダカラ言ヘナイト仰シヤルカモ知レマセヌ
ガ、ソレデハ國民ハ安心スルコトハ出來マ
セヌ、一度公債政策ヲヤリ損ヒマシテ、恐
ロシイ「インフレーション」ヲ起シテ、其時
ニ大藏大臣ガ假令責任ヲ執リマシテモ、國
民ノ迷惑ハソレデハ救ハレマセヌ、ヤリヤ
ウニ依ッテ出來ルト云フコトヲ言ハレマシ
タ以上ハ、凡ソ斯ウ云フヤリ方ヲ考ヘテ居
ルト云フコトノ、大筋ダケノコトハ國民ニ
御說明下サイマシテ、國民ガ此問題ニ付テ
安心スルコトガ出來ルヤウニシテ戴キタイ
ト思フノデアリマス
第二ハ、大藏大臣ハ度々產業ノ擴充ト云
フ言葉ヲ使ッテオ居デニナリマスガ、此產
業ノ擴充モ無條件デゴザイマシタナラバ、
產業ハ跛行的ニ擴充セラレマシテ、著シク
財界ヲ不安ナラシムルコトガナイトハ言ヘ
ヌノデアリマスガ、此產業擴充ニ對シマシ
テ、如何ナル方法ニ依ッテ之ヲ爲サントシテ
オ居デニナルノデアリマセウカ、之ヲ御伺
致シタイノデアリマス、又第三ニハ大藏大臣
ノ貨幣制度ニ對スル御信念ヲ承リタイノデ
アリマス、此三ツノ問題ニ對シマシテ、大
藏大臣ノ御答辯ヲ求メマスルガ、最後ニ總
理大臣ニ對シマシテ御伺ヲ致シマスガ、ソ
レハ現内閣ノ政綱ト公債政策トノ關聯ニ付
テデアリマス
先ヅ第一ニ其方法ニ付テ御伺ヲ致シマス
ガ、大藏大臣ノヤリヤウニ依ッテハト云
フ、其ヤリヤウニ依ッテハノ、ヤリヤウヲ
承リタイノデアリマスガ、大藏大臣ハ今後
ノ公債ノ發行ハ、ヤハリ從來ノヤウニ日本
銀行ニ引受セシメルノ方法ニ依ラレルノ御
考デアリマセウカ、如何デアリマスカ、先程
モ郵便局カラモ賣出スト云フ意味ノ御話ガ
アリマシタガ、郵便局ノ窻カラ賣出シ得ル
公債ノ額ト云フモノハ、凡ソ限度ガアルト
思ヒマスガ、此郵便局ノ窻ヨリ賣出ス外
ニ、一般財界カラ公募スルヤウナ方法ヲ御
執リニナル御考ハ考へテオ居デニナラヌノ
デアリマセウカ、如何デアリマスカ、大藏
大臣ハ事モナク十三億、十五億デモ、ヤリ
ヤウニ依ッテハ消化シ得ルト云フ意味ノ御
話ヲナサイマシタガ、今日ノ金融情勢カラ
考ヘテ見マスルト、國際的ニハ金ノ現送ヲ
セナケレバナラナイ情勢ニナッテ居リマス、
國內的ニハ非常ニ公債ノ賣行ガ惡イ、金融
情勢ガ昨年ノ十一月頃ヨリ非常ニ變ッテ來
テ居ルノデアリマス、先程モ松田君ガ申述
ベラレマシタガ、公債ノ賣レ方ガ非常ニ惡
イ、昨年ノ一月ハ一億四千三百万圓、二月ハ
一億一千三百万圓賣レテ居リマスガ、本年
ノ一月ハ僅ニ二千三百万圓、二月ハ四千三
百万圓、合計本年ノ一月、二月デハ六千六
百万圓デアリマスガ、昨年ノ一月二月ニ於
テハ二億五千九百万圓賣レテ居ルノデアリ
マス、所ガ昨年ノ七八月頃ノ金融情勢ハ、
何人ト雖モ昨年末ノヤウニ、金融ガ逼迫ス
ルコトヲ豫想シタ人ハ、恐ラク私ハ一人モ
ナカッタデアラウト思フノデアリマス、是
ガドウシテ斯ウ云フ風ニナッタカト云フコ
トハ色々アリマセウガ、馬場財政ノ國民經
濟ニ適應セザル政策ガ色々發表サレタコト
ガ、重大ナル原因ト相成ッテ居ルト思フノ
デアリマス、卽チ此馬場財政ガ色々ノ關係
デ、物價ノ騰貴ヲ豫想セシメマシタガ爲
ニ、著シク輸入ハ增大シタノデアリマス、
正金銀行ハ此輸入ノ資金ヲ決濟スル爲ニ、
市中ノ短資ヲ非常ニ吸收シタコトハ事實デ
アリマス、之ニ政府ハ驚キマシテ、遂ニ
興業銀行ヲ通ジテ、一億一千六百万圓ノ資
金ヲ正金銀行ニ貸與ヘテ、正金銀行ハ市
中銀行ニ其金ヲ以テ短資ヲ償還シテ、是
デ年末ノ金融ヲ切拔ケル一助ニナサイマ
シタコトモ、私ハ其通リダト思フノデアリ
マス、斯ウ云フ情勢デアリマシテ、叉
方銀行預金ノ增加率ト云フモノモ、昨年頃
カラ停頓ノ狀態ニナッテ居リマス、昨年ノ
十一月下旬頃ノ銀行預金ノ殘高ハ、前年
ニ比シマシテ約二億圓位ノ預金ガ殖エテ
居ルト思ッテ居リマスガ、貸出ノ方ハ五億數
千万圓ニナッテ居リマシテ、產業資金ノ貸出
ノ方ガ著シキ增加率ヲ示シテ居ルニ反シ
マシテ、銀行預金ノ增加率ハ稍〓停頓ノ狀態ニ
相成ッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ內外ノ
情勢ニアル時ニ當リマシテ、何ノ根據ニ依ッ
テ-十三億、十五億ノ公債ガヤリヤウニ
依ッテハ消化シ得ルト云フ言明ヲ此處デナ
サイマシタル其御信念、其根據ニ付テ、吾
吾國民ノ安心スルコトガ出來ルヤウナ、御
親切ナル御說明ヲ願ヒタイト存ズルノデア
リマス(拍手)
又產業ノ擴充ト云フコトヲ時々仰セニ
ナッテ居リマスガ、產業ヲ無條件デ擴充致
シマシタナラバ、或ハ產業ハ旺盛ニナリ
マスル結果ハ、其處ニ退職貨幣ガ銀行預
金ニ變化シテ參リマシテ、一方カラ參リ
マスルナラバ、公債消化ノ一助ニナルカモ
知レマセヌガ、併シナガラ此產業ノ擴充
ハ、ヤリ方ニ依リマシテハ非常ナ惡イ結果
ニナルト云フコトヲ恐レルノデアリマス、
卽チ無條件デ產業ノ擴充ヲ致シマスナラ
バ、從來度々經濟恐慌ヲ經テ參リマシタル
平和產業、例ヘバ纖維工業ノ如キモノハ資
金ヲ得ルコトハ容易デアリマシテ、何處マ
デデモ比較的容易ク產業ノ擴充ヲスルコト
ガ出來ルノデアリマス、之ニ反シマシテ軍需
工業、新興工業ハ信用ノ程度ガ淺イノデア
リマスルカラ、資金ヲ得ル途ガ困難デアラ
ウト考ヘラレルノデアリマス、其結果紡績
業ノ如キ、今日ドシ〓〓ト擴充サレテ參リ
マスガ、而モ三割ノ操短ハ其儘維持セラレ
テ居ルノデアリマス、所ガ此跛行的ノ產業
擴充ノ結果ハ、ドウナルカト云フコトニナ
リマスト、平和產業ノ方ガ著シク擴張サレ
ルニ反シマシテ、軍需工業及ビ新興工業ハ
資金ヲ得ル途ガ困難デアリマスカラ、十分
ニ擴充サレテ行クコトガ普通ノ儘デハ困難
デアルト思フノデアリマス、其結果ハドウ
ナルカト言ヘバ、莫大ナ軍需品ガ必要デア
リマスルガ、是ハ勢ヒ輸入ニ仰ガナケレバ
實際ノ用ヲ足サナイト云フ結果ニナルト思
フノデアリマス、其結果ハ卽チ輸入ノ增大
トナリ、輸出ノ減少トナラザルヲ得ナイト
思フノデアリマスガ、サウ云フ風ニナリマ
スト、國際貸借ハ惡化セザルヲ得ナイノデ
アリマス、斯ウ云フ輸入ノ增大、輸出ノ減
少旣ニ其徵候ハ今日現ハレテ居ルノデア
リマス、此國際貸借ガ惡化致シマシタ時
ニ、大藏大臣ハ如何ナル對策ヲ持ッテオ居
デニナルノデアリマスカ、吾々國民ノ安心
ノ出來ルヤウナ御親切ナル御說明ヲ願ヒタ
イノデアリマス
最近聞ク所ニ依リマスト、金ノ現送ヲシ
テオ居デニナルラシイノデアリマスガ、是
ハ一體金ノ保有政策ガ根本的ニ改變セラレ
タノデアリマスカ、又今日ノ貿易情勢ニ於
テ先ノコトハ考ヘテ居レヌノデアリマスカ
ラ、兎ニ角之ヲヤラナケレバナラヌト云フ
當面ヲ糊塗スル爲ニ、金ヲ現送サレルモノ
デアリマスカ、此金保有政策ニ對シマシテ
大藏大臣ハドウ云フ風ニ考ヘテオ居デニナ
リマスカ、之ヲ御伺致シタイノデアリマ
ス
諸君、今日ノ貿易情勢ハ私ハドウシテモ
輸入ノ增大スルコトヲ免レヌト思フノデア
リマス、斯ウ云フ風ニナッテ參リマスト、
一體內地ノ物價ハ騰貴セザルヲ得ナイ、
此物價ノ騰貴ニ對シマシテ大藏大臣ハド
ウ云フ風ニ考ヘテオ居デニナルノデアリ
マセウカ、此年々殖エテ參リマスル公債
ヲ適當ニ消化シテ行クニ付キマシテハ、
ドウシテモ此公債消化ニ對シマシテ併セテ
考ヘナケレバナラヌコトハ、金融統制、貿
易統制ト、物價統制ト云フコトヲ考ヘナケ
レバナラヌト思フノデアリマスガ、貿易ハ
調整法案ガ出テ居リマシテ、不日上程サレ
マシタナラバ、其時ニ御意見ヲ承リタイト
思ッテ居リマスガ、今日金融統制ハオヤリ
:サウ云フ議案
ニナルヤウナ風ニ見エナイ、
ガ出テ居ラヌヤウデアリマス、物價ノ統制
ニ對シマシテモ、サウ云フ具體的ノ議案ハ
出テ居ラヌヤウニ思フノデアリマスガ、今
後ドウ云フ御考ヲ持ッテオ居デニナルノデア
リマセウカ、又國內ニ於キマシテモ非常ニ資
金ハ各方面ニ澤山要ルノデアリマス、承ル所
ニ依リマスト、對滿投資ニ致シマシテモ、滿
鐵ノ社債ニ致シマシテモ、昭和十二年度ノ滿
鐵ノ社債ハ一億八千万圓ヲ要スルト云フ話
デアリマシタガ、ドウシテモ此話ガ出來ナ
イガ爲ニ、一億二千万圓デ話ガ付イタトカ、
付キサウダトカ云フコトヲ聞イテ居リマス
ルガ、尙又滿洲五箇年計畫ニ依リマスルト、
二十三億五千万圓ノ資金ヲ要スルト云フ話
デアリマス、北支那ノ經濟開發ニモ三億圓
前後ノ資金ヲ要スルト云フ話デアリマスガ、
斯ウ云フ資金ハ迚モ調達ガ困難デアラウト
云フ見込ノ下ニ、其五箇年計畫ガ改變セラ
レタルヤノ噂ヲ聞クノデアリマスガ、眞相
ハ果シテドウナッテ居リマスカ、又國內ニ於
キマシテモ此軍事豫算ガ相當ノ年限ガ繼續
サレマスル結果ハ、非常ニ茲ニ產業ガ擴張
セラレツヽアルノデアリマシテ、此產業資
金ヲ相當ニ必要トスルト思ヒマス(「簡單ニ
願ヒマス」ト呼フ者アリ)此產業資金ノ問題
ニ對シマシテモ日本銀行ノ總裁ノ池田サン
ハ、就任當日日本銀行ハ產業資金ヲ大イニ出
スノデアルト云フヤウナ意味ノ御聲明ヲ爲
サレマシテ、其後之ヲ取消スヤウナ御聲明
ハアリマセヌ、此日本銀行ノ池田總裁ノ聲
明ト、結城大藏大臣ノ產業擴充ト云フコト
ノ御話トヲ併セテ考へテ見マスト、產業資
金ヲ、興業債劵ヲ發行セシメテ之ヲ日本銀
行ガ引受ケテ、相當ニ出スヤウナ風ニ受取
レタノデアリマスガ、之ヲ致シマスニ付テ
ハ、或ハ日本銀行條例ノ改正ヲ必要トスル
モノガアルカモ知レマセヌ、併ナガラ内規
デ出來ルモノハ澤山アルカモ知レマセヌガ、
此日本銀行條例ノ改正案ノ御提案ニナリマ
シタノヲ見マスルト、斯ウ云フコトニハ觸
レテ居リマセヌ、僅ニ參與會ヲ廢シテ參與
理事ヲ置クト云フヤウナ有名無實ノ改正案
ニ過ギナイト思ヒマスガ、此日本銀行ノ產
業資金投資ノ方法ハ、新總裁ノ聲明サレタ
通リニ御行ヒニナル御考デアリマスカ、サ
ウ云フ風デハナイノデアリマスカ、如何ナ
ル御考ヲシテオ居デニナリマスカ、之ヲ承
リタイノデアリマス
又最近ノ貿易情勢カラ考ヘテ見マシテ、
輸入ノ增大、輸出ノ減少ノ結果ハ、先程申
上ゲマシタヤウニ、國際貸借ハ惡化セザル
ヲ得ナイト思フノデアリマス、茲ニ於テ金
ノ現送ヲナサレマスガ、其金ノ現送ヲナサ
レマスル結果ハ、一體ドウナルノデアリマ
ス、此我國ノ貨幣制度ニ對シマシテ、大藏
大臣ハ如何ナル信念ヲ持ッテオ居デニナルノ
デアリマセウカ、或ハ將來平價ノ切下ナド
ヲ行フヤウナ考ハ持ッテオ居デニナルノデ
アリマスカ、如何デアリマスカ、若シサウ
云フコトガアリト致シマスルナラバ、金ノ
保有量ト云フモノガ重大ナ關係ヲ持ッテ來
ルノデアリマスガ、斯ウ云フコトニ對シマ
シテ如何ナル御見透シヲ持ッテオ居デニナル
ノデアリマセウカ、軍事費ナドノ將來ハ相
手ノアルコトデアリマスルカラ、見透シガ
付カヌト云フコトデ無理ハナイカモ知レマ
セヌガ、此貨幣制度ニ對スル御信念ニ對シ
マシテハ、將來ノコトハ分ラヌデハ國民ハ
安心スルコトガ出來ナイト思フノデアリマ
ス、大體此三項目ニ付キマシテ、御親切ナ
ル御答辯ヲ承リタイト思フノデアリマス
又最後ニ私ハ總理大臣ニ御伺ヲ致シマス
ガ、林內閣ハ政綱ノ第一ニ國體明徴ト云フ
コトヲ揭ゲテオ居デニナリマス、國體明徵
ト云フコトハ近頃各方面デ叫バレテ居リマ
スル日本精神ヲ盛ニスルコトデアラウト思
ヒマスルガ、果シテ然ラバ日本精神トハ一
體ドンナモノデアリマセウカ、諸君、吾々
日本ノ國民ガ今日世界ノ三大强國ノ一ニ數
ヘラレマシテ、此幸福ヲ味ヒ、此世界萬邦
無比ノ國民トシテノ名譽ト矜ヲ誇リ得ル生
活ヲ爲スコトガ出來マシタノハ、固ヨリ上
御皇室ノ御稜威ノ然ラシムル所デハアリマ
セウガ、又吾々ノ先祖ガ三千年間粒々苦心
シテ、國家ノ經營ニ當ッタコトモ感謝セナ
ケレバナラヌト思フノデアリマス、然ルニ
此幸福ヲ味ヒ、名譽ヲ感ジ、矜ヲ誇ト致シ
マシテ、而モ此經濟上ノ負擔ダケハ後世ノ
子孫ニ之ヲ負擔セシメルト云フコトガ、果
シテ日本精神ニ適フノデアリマセウカ、此
問題ニ付キマシテ總理大臣ノ御考ヲ伺ヒタ
イノデアリマス、自分ガ言ヒタイコトヲ言
ヒ、ヤリタイコトヲヤリ、幸福ヲ味ヒ、而
シテ其經濟上ノ負擔ダケハ後世ノ子孫ニ負
ハシメテヤッテ行クト云フコトハ、日本精神
ノ精神ニ反スルト思フノデアリマスガ、總
理大臣ハドウ云フ風ニ考ヘテオ居デニナル
ノデアリマセウカ、先ヅ之ヲ承リマシテ、
第二次ノ質疑ニ入リタイト思フノデアリマ
ス(拍手)
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=96
-
097・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 加藤君ノ御質
問ニ對シテ御答ヲ申上ゲマス、第一ハ公債
ノ消化ニ付テノ御質問デアリマシタガ、是
ハ市場ノ狀況ガ惡イ時ニハ二億三億ノ公債
モ發行ガ出來ナイ、其狀況ガ好ケレバ十億
以上ノ公債モ發行出來ヌコトハナイ、斯ウ
云フコトヲ申上ゲタコトデアラウト思フノ
デアリマスガ、ヤリヤウニ依ッテハト云フ
ヤウナ、サウ手品師ノヤウナ意味デハナ
イ、ドウシテモ是ハ公債ノ消化ニ付キマ
シテハ根本ハ資金ノ蓄積デアリマス、一面
ニハ國ニ對スル信用デアリマス、財政ニ對
スル信用ト申上ゲマシタ方ガ宜イト思ヒマ
ス、其二ツガ揃ヒマシテ、サウシテ市場ノ
狀況ガ消化ニ便利デアルヤウニ出來テ居リ
マスルコトニナルト、日本ノ經濟力カラ申
シマシテ、必シモ悲觀スベキモノデハナ
イ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居ル次第デアリ
マス
第二ニ生產ノ擴充ト云フコト、其實現方
法ヲドルスルカト云フ御尋デアリマシタ
ガ、是ハ將來ノコトヲ考ヘマシテ、物資ノ
需給關係ヲ能ク究メマシテ、サウシテソレ
ニ相應スルヤウニ、成ベクハ外國カラノ輸
入ヲ仰ガヌヤウニ、國內デ需給ノ調節ガ取
レマスヤウニ、必要ナ產業ヲ育テヽ行クヨ
リ外ナイト思フノデアリマス、其爲ニハ一
時機械類ノ輸入デアリマストカ、或ハ原料
ノ輸入デアリマストカ、輸入ノ增加ハ又已
ムヲ得ヌト思ヒマスガ、ソレガ一應濟ミマ
スルト、今度ハ本當ニ國內デ以テ物資ノ需
給ノ調節ガ出來ルヤウニナルダラウト考ヘ
マスルノデ、サウ云フ域ニ達スルマデ生產
ノ擴充ヲスルコトガ必要デアラウト思フノ
デアリマス
第三ニ貨幣制度ニ對スル信念ト云フコト
ノ御質問ガアリマシタガ、是ハ將來金ノ保
有政策ヲ抛擲シテ、ドシ〓〓正貨ヲ海外ニ
出シテ、平價ノ切下デモナイカト云フヤウ
十、御話ヲ承ッテ居リマスルト、サウ云フ御
考ノヤウデアリマスガ、私ニハ全クソンナ
考ハナイノデアリマス、唯日本ノ國際貸借
ノ關係カラ申シマスト、或ル時代ニ於テ或
ル程度ノ國際貸借尻ヲ正貨ニ依ッテ賄フト
云フコトハ、已ムヲ得ヌコトデアリマス
ノデ、ソレヲ必シモ決濟ヲ怠ツテ居ッテ、徒ニ
正貨ヲ握ッテ居ルト云フヤウナコトヲスル
必要ガナカラウ、ヤハリ必要ナ時ニハ正貨
ヲ送ッテ其邊ノ決濟ヲスルコトガ差支ナ
イ、又其程度ノ正貨ヲ送リマシタ所ガ、ソ
レニ依ッテ非常ナ動搖ヲ來スヤウナ日本ノ經
濟界ガ幼稚ナ薄弱ナ經濟界デナイ、斯ウ考
ヘマシテ、先達テ金ノ現送ヲ致シタヤウナ
次第デアリマスルガ、其爲ニ將來平價ノ切
下ヲスルトカ云フヤウナ考ハ私ハ毛頭持ッ
テ居リマセヌ
ソレカラ公債ヲ發行スルニ付テ從來ノヤ
ウニ日本銀行其他「シンジケート」ト申シマ
スカ、サウ云フ風ナモノニ依ッテ發行-
賣出ヲスルヤウナコトヲ考ヘテ居ルカト云
フコトデアリマスガ、是等ハ何レ日本銀行
當局者ノ考ニ依ルコトデアリマスルガ、大
體ハ變リナカラウト思ヒマス、唯郵便局カ
ラ賣出スコトニ致シマシタノハ、先刻御答
ヲ致シマシタヤウニ、公債ノ民衆化、國民
ニ公債ト云フモノヲ持ッテ戴ク習慣ヲ付ケ
タイ、斯ウ云フコトカラ段々ニ公債ノ賣出
ヲ致シマスヤウナ次第デアリマシテ、之ニ
依ッテ大量ノ公債ヲ消化シヨウト云フコト
ハ考ヘテ居リマセヌ次第デアリマス、御答
ヲ申上ゲマス
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=97
-
098・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今ノ加藤君ノ
私ニ御尋ニナリマシタ點ハ、政綱ノ最初ニ
國體觀念ノ明徴ト云フコトヲ言ッテ居ルガ、
然ラバソレハ日本精神ヲ昂揚スル意味デア
ラウガ、公債ヲ澤山募ッテ將來ノ國民ノ負
擔ヲ大ニスルノハ日本精神ニ合スルカドウ
カ、自分ノヤリタイ事ダケヲヤッテ、他日
迷惑ヲ掛ケルノデハナイカ、斯ウ云フ御質
疑ノヤウデアリマス、其政綱ノ第四項ニ帝
國ヲ安泰ニシ其興隆ヲ擁護ス、是ガ爲ニ國
防軍備ヲ增大シナケレバナラヌト云フコト
ヲ述ベテ居リマスガ、國防軍備ヲ增大スル
爲ニ已ムヲ得ズ巨額ノ費用ガ要ル、其爲ニ
此公債ヲ募ルノデアリマス、隨テ私ハ此公
債ヲ募ッテ此國家ヲ維持シ、國家ノ興隆ヲ
圖ルト云フコトハ、所謂祖宗ニ對シ、子孫
ニ對シ、洵ニ必要デアル、現代人ノ爲スベ
キコトト考テ居リマス(拍手)
〔加藤鯛一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=98
-
099・加藤鯛一
○加藤鯛一君 只今大藏大臣ノ御答辯ヲ伺
ヒマシタガ、先般大藏大臣ハ本議場ニ於テ
確ニヤリヤウニ依ッテハ十三億十五億デモ
消化スルト云フ言葉ヲ仰シヤッタニ違ヒナ
イト私ハ感ジテ居リマス、サウシテ周圍
ノ色々ナ條件ガ好ケレバ十三億デモ十五億
デモ出來ル、惡ケレバ十億以内デモ出來ナ
イ、斯ウ云フコトハ子供デモ知ッテ居ルコ
トデアリマシテ、斯ウ云フ抽象論ヲ承リマ
シタダケデハ、國民ハ安心スルコトガ出來
ナイト思フノデアリマスガ、斯ウ云フ議論
ヲ繰返シハ致シマセス、結局公債ノ消化力
ト云フモノハ國民經濟力ニ適應シタモノデ
ナケラネバ、當面ニ糊塗スルコトハ出來マ
シテモ、結局ハ行詰ラザルヲ得ナイト思フ
ノデアリマス、其國民經濟力ハ一體ドノ位
アルト云フ御見込デアリマセウカ、我ガ國民
ノ所得ハ最近一年ニドノ位アル御見込デア
リマスカ、正確ナル調査ハ最近ナイヤウデ
アリマスガ、相當前ノコトデアリマシタ
ガ、國勢調査ノ時ニ依リマスト、百億ト勘
定サレテ居ル、今日ハ景氣モ好クナッテ居
リマスカラ、專門ノ學者ハ百二十億圓位ト
勘定シテ居ル人モアリマスシ、或ハ百五十
億アルト云フ人モアリマスガ、先ヅ百二三十
億ト云フモノガ國民所得ノ、大〓其邊デハナ
カラウカト考ヘラレルノデアリマス、果シ
テ然ラバ此國民所得ノ何割迄ガ公債ヲ消化
シ得ルト云フ御見込ヲ持ッテオ居デニナリ
マスカ、サウ云フ御〓究ハ致シテオ居デニ
ナラヌノデアリマスカ、之ヲ承ッテ置キタ
イノデアリマス
又此公債ノ發行ニ對シマシテモ、利率、
條件等ハ大體今日ノ三分五厘ヲ維持セラレ
ル御考デアリマセウカ、結局ハ國民經濟ニ依
ラナケレバナリマセヌガ、當面ヲ糊塗スル、
當面ノ消化方法ナラバ、ソレハ幾ラデモアル
ノデアリマス、郵便局ノ窻カラ賣出スダケ
デハ、私ハ一年ニ一億圓以上ハ困難ヂヤナ
イカト思ヒマス、ソレハヤリ樣ニ依ッテ違ヒ
マセウケレドモ、サウ云フコトヲ致シマス
外ニ、消化方法ノ手段トシテ、或ハ日本銀行
ガ公債ヲ普通ノ銀行カラ買入レマシテ、又
時價ニ依ッテ賣下ゲルト云フコトヲヤッテ居
リマスガ、之ヲ改メマシテ普通銀行其他カ
ラ、公債ヲ日本銀行ガ買受ケマスケレドモ、
或ル一定ノ期間ダケナラバ買入レタ價格ニ
依ッテ賣渡シテヤル、サウシテ其經過利子ヲ
計算スル、斯ウ云フコトヲ執リマスルト、
金融業者ハ非常ニ公債ガ持チ良クナルノデ
アリマス、又公債ノ消化方法ノ一ツトシテ
ハ、從來ノヤウナ期限ノミデナクシテ、短
期ノ五年トカ、六年トカ云フヤウナ短期ノ
公債ヲ發行セラレルコトモ、一ツノ方法デ
アリマセウ、或ハ現在ノ大藏省證劵制度ノ
改革ヲ致シマシテ、此一年以內ト云フ年度
內ト云フコトヲ多少延長スルコトモ、一ツ
ノ方法ノヤウニ考ヘラレマスガ、是ハ結局
ハ國民ノ經濟力ニ副ハナケレバ歲入ガ駄目
デアリマセウガ、一時ハ之ニ依ッテ餘程公債
ノ消化ヲ助ケルコトガ出來ルト思ヒマス、
サウ云フヤウナコトハ考ヘテオイデニナラ
ヌノデアリマセウカ、如何デアリマスカ、
又此公債ノ問題ハ、今大藏大臣ガ仰シヤッタ
ノデアリマスガ、成程今色々ノ點カラ考へ
マシテ、具體的ニ仰シヤルコトハ困難デア
リマセウガ、モウ少シ具體的ニ仰シヤッテ
戴カナイト、國民ハ安心ガ出來ヌト思フノ
デアリマス
ソレカラ總理大臣ハ、只今國家ヲ興隆ニ
スルコトハ祖先ニ對シテモ、子孫ニ對シテ
モ必要ダト仰シヤルガ、ソレニ異議ヲ言フ
國民ハ一人モアリマセヌガ、國家ヲ興隆ニ
スルト思ヒマシテモ、其結果ガ反對ニ行ク
ヤウナ場合ガナイトハ言ヘナイ、ソコデド
ウ云フ方法デソレヲオヤリニナルカ、斯ウ
云フコトヲ聽イテ置キマセヌト、ソレナラ
バ宜シイ、是ナラバ成程國家ヲ興隆ニスル
コトガ出來ルダラウト云フヤウニ、國民
ガ安心シテ林內閣ヲ後援スルコトガ出來ル
ヤウナ御說明ガ願ヘレバ、極メテ幸ヒダト
思フノデアリマス(拍手)
〔國務大臣結城豊太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=99
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100・結城豊太郎
○國務大臣(結城豊太郞君) 加藤君ニ御答
ヲ申上ゲマス、公債消化ニ付テ國民所得ト
ノ數字的關係ヲ御聽キニナッタヤウデアリ
マスルガ、是ハ數字的ニ出シマスコトハ中
中ムヅカシイノデアリマス、出シ樣ガ幾通
リモゴザイマセウシ、出シテ見タ所ガ本當
ニソレデ實情ガ分ルノデハナカラウト思ヒ
マス、私ハサウ云フ數字ニ依ッテドノ位ト云
フヤウナコトノ檢討ヲ致シタコトハナイノ
デアリマス、ソレカラ三分五厘公債ヲ維持
スル考ガアルカト云フ御尋ハ、成ベクソレ
ヲ維持シテ行キタイト田心ッテ居リマス、ソレ
カラ郵便局カラ賣ッテモ高々五千万、一億程
度ニ過ギナイデハナイカト云フ御話デアリ
マスルガ、御尤デアリマス、是ハ大量ノ公
債ヲ郵便局カラ賣ルト云フ考デハナシニ、
先刻モ申上ゲマシタヤウニ公債ノ民衆化、
幾ラカ公衆ニ公債ヲ持ッテ貰フト云フ意味
ニ過ギナイノデアリマスルカラ、大部分ハ
ヤハリ銀行、保險會社、信託會社其他ノ方
面ニ消化シテ戴クヨリ外ナカラウト思ヒマ
ス、只今ノ短期ノ公債ヲ出シタラ宜カラウ
ト云フ御話、又一年ノ大藏省證劵ニ類似シ
タモノヲ出シタラ宜カラウト云フ、ソレ等
ノコトニ付キマシテハ、色々ナ關係カラ考
慮シナケレバナリマセヌノデ、具體的ノコ
トヲ私カラ申上ゲル譯ニハ參リ兼ネルノデ
アリマス
〔國務大臣林銑十郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=100
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101・林銑十郎
○國務大臣(林銑十郞君) 只今ノ御尋ハ、
國家興隆ノ爲ニ盡ス積リデモ、サウ行カヌ
カモ知レヌガ、果シテ行ク見込ガアルカ、
斯ウ云フ御質疑ノヤウデアリマスガ、此豫
算ガ通過シマシテ、之ヲ諸般ノ施設ノ上ニ
現シテ行キマスレバ、國家興隆ノ上ニ於テ
必ズ若干ノ進步ヲ見ルコトト信ジマス拍
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=101
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102・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 加藤君、宜シイデ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=102
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103・加藤鯛一
○加藤鯛一君 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=103
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104・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 是ニテ質疑ハ終局
致シマシタ、兩案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ニ付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=104
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105・松永東
○松永東君 日程第六及ビ第七ノ兩案ハ一
括シテ、政府提出一般會計歲出ノ財源ニ充
ツル爲特別會計ヨリ爲ス繰入金ニ關スル法
律案外二件委員ニ併セ付託セラレンコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=105
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106・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君ノ動議ニ御
異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=106
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107・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=107
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108・松永東
○松永東君 殘餘ノ日程ヲ延期シ、本日ハ
是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=108
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109・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 松永君提出ノ動議
ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=109
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110・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-明十四
日ハ午前十時ヨリ特ニ本會議ヲ開キマス、
書記官ヲシテ議事日程ヲ報〓致サセマス
〔書記官朗讀〕
衆議院議事日程第二十三號
昭和十二年三月十四日(日曜日)
午前十時開議
第決議案(五箇條御誓文渙發七十
周年記念ノ件)(小泉又次郞君外四十
四名提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=110
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111・富田幸次郎
○議長(富田幸次郞君) 本日ハ是ニテ散會
致シマス
午後六時二十八分散會
衆議院議事速記錄第一八號中
正誤
頁段行誤正
四二六一二二一億四千万圓十四億萬圓
四二七四二四原因理由
四二九二二四反對判斷発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007013242X02119370313&spkNum=111
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