1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和十七年二月二日(月曜日)午前十時五十四分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=0
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001・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 只今ヨリ委員
會ヲ開催致シマス、前會ニ引續キマシテ戰
時刑事特別法案ノ質疑ヲ繼續致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=1
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002・舟橋清賢
○子爵舟橋〓賢君 此ノ際多少自分ノ所見
ヲ述ベテ、政府ノ御意見ナリ御方針ナリヲ
承ッテ置キタイト思フコトガゴザイマス、卽
チ第七十六議會ニ於ケル治安維持法ノ委員
會ニ於テ爲サレマシタ柳川前司法大臣ノ言
明ハ、只今此ノ席デ其ノ儘繰返シ再ビ述べ
ルコトハ差控ヘマスルガ、要スルニ憲法ノ
定ムル統治組織ノ機能ヲ不法ニ變改セムト
スル者竝ニ私有財產制度ノ否認ノ宣傳ヲ取
締ル爲ニ、之ガ立法手續ヲ遲クトモ次ノ議
會迄ニハ政府ニ於テ必ズ執ルト云フ政府ガ
議會ニ對シ爲サレマシタ公約デアリマス、
公ノ約束デアリマス、而モ前司法大臣ハ議
會ニ提出ノ以前ニモ必要ヲ痛感シ、且適當
ナル法案ヲ得レバ緊急勅令ニ於テモ手續ヲ
致シタイト申サレ、誠ニ虛心坦懷ニシテ誠
意ノ籠ッタ言明デアリマス、然ルニ其ノ後國
際情勢ノ變化ハ我ガ國ニモ波及致シマシテ、
玆ニ政變ヲ見、更ニ大展開ヲ致シマシテ大
東亞戰爭ト相成リマシテ、二囘ノ臨時議會
ヲ經テ今日ニ至ッタノデアリマス、併シナガ
ラ國內ニ於ケル社會ノ情勢ハ依然トシテ此
ノ種ノ立法ノ必要性ヲ持續シツヽアルコト
ハ何人モ否定セザル所デアリマスノミナラ
ズ、益〓其ノ必要性ヲ增加致シテ參ルノデハ
ナイカト私ハ推察スル者デアリマス、不幸
ニシテ內閣ノ更迭ニ依リ司法大臣モ迭ラレ
タノデアリマスルガ、政府ノ爲サレマシタ
此ノ公約ハ其ノ性質ノ上ニ於テ政變ニ依リ
變改セラルベキモノデナイノデアリマスル
ガ故ニ、必ズ實行セラルヽモノト信ジ、非
常ナル期待ヲ持ッテ今議會ニ臨ンダノデアリ
マス、然ルニ今議會ハ戰時ニ關係アル法案
ノ提出ノミニ止メルトノ閣內ノ申合ヲ理由
ト致サレマシテ立法手續ノ執ラレナカッタ
コトハ我々議員ニ取リマシテ甚ダ意外千
萬デアリ、誠ニ了解ノ出來ザル所デアリマ
ス、司法大臣ハ過般本議場ニ於テ本問題ニ
關スル質問ニ對スル答辯中、前司法大臣ノ
言明ヲ尊重シ、治安保持ノ上ニ於テ必要ナ
ル程度ノ何モノカヲシナケレバナラヌデハ
ナイカ云々ト申サレ、更ニ戰時刑事特別法
ニ前司法大臣ノ言明セラルヽモノノ若干デ
モ取容レタイ考ヲ以テ、國勢變亂ヲ目的ト
スル殺人以外ニ、案トシテ更ニ一條規定セ
ムトシテ〓究ヲセラレマシタガ、適案ヲ得
ナカッタ意味ノコトヲ縷々御述ニナッテ居ラ
レルノデアリマス、是カラ見マシテモ大臣
ハ立案ノ誠意ナクシテ今議會ニ臨マレタト
ハ私ハ思ハナイノデアリマスルガ、必ズ公
約ヲ實行シテ信義ヲ守リ拔クト云フ十分ノ
熱意ニ缺クル所ガ果シテナカリシヤ否ヤ、
且又法文作成ニ付テ適案ガ得ラレナカッタ
ト申サレテ居ルコトハ、苟モ司法當局ノ御答
辯トシテ甚ダ意外ニ思フノデアリマス、尤モ
政變ニ次グニ國際情勢ノ激變等、政府モ內外
頗ル多事ヲ極メタ過グル一年ノ間、此ノ種法
規ノ立案ハ或ハ十分〓究ノ餘裕ノナカッタコト
モアッタコトカト推察致サレマスガ、要ハ既
往ノコトヲ追究シ政府ヲ責メルノガ吾々ノ
本意デハ決シテナイノデアリマス、吾々ノ
望ム所、政府ニ期待スル所ハ遲クトモ次
ノ議會ニハ否寧ロ一日モ速カナ事ノ實行
ニ在ルノデアリマス、此ノ際篤ト政府ノ御
所存ヲ承ッテ置キタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=2
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003・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 舟橋委員ノ御質
問ニ對シテ御答ヲ申上ゲマス、第七十六議
會ニ於キマシテ前司法大臣ノ爲シタル言明
ノ趣旨ヲ私ニ於テモ之ヲ尊重致シテ居リマ
ス、卽チ戰時刑事特別法案第七條ノ規定ヲ
設ケマシタノモ亦此ノ趣旨ニ外ナラナイノ
デゴザイマス、只今ノ此ノ問題ニ付テノ御
意見ノ次第ハ能ク了承致シマシタ、是以外
ノ必要ナル規定ニ付キマシテハ速カニ〓究
ヲ遂ゲマシテ、必ズ御期待ニ應ズル所存デ
ゴザイマス、御答ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=3
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004・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 御質疑ゴザイ
マセヌカ·······御質疑ナイモノト認メマス、
之ヲ以テ各案ニ關スル御質疑ハナイモノト
認メテ御異存ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=4
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005・山川端夫
○山川端夫君 各案トナリマスト、戰時民
事特別法案ノ第二條ニ付テノ政府ノ御趣意
ヲ御說明戴キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=5
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006・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 山川委員ノ御
要求ニ依リマシテ、戰時民事特別法案ニ關
シマシテ政府ヨリ御答辯ヲ願ヒタイト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=6
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007・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 御指圖ニ依リマ
シテ戰時民事特別法案ノ第二條ノ趣旨ヲ申
述ベタイト存ズルノデアリマス、此ノ第二
條ノ規定ニ付キマシテハ、前囘私共ヨリ申
上ゲマシタ趣旨ガ不十分デアリマシタノデ
種々御心配ヲ掛ケタノデアリマシテ、誠
恐縮ニ存ズルノデアリマス、第二條ノ第一
項、是ハ「戰爭ニ起因スル避クベカラザル
障碍ニ因リ期間ヲ遵守スルコト能ハザル場
合ニ於テハ其ノ期間ヲ伸長」スルト云フコ
トヲ明カニシタノデアリマス、此ノ期間ハ
法定期間及約定期間モ包含シテノ積リデア
リマス、併シ御承知ノ通リ熟語ニ關スル規
定デアリマスノデ、或ハ手形ノ種々ノ手續
期間等ニ付テ、他ノ法令ニソレ〓〓同趣旨
ノ定メノゴザイマスモノハ其ノ定メニ從
フノデアリマス、要スルニ本案第二條第
一項ニ規定セムトスルモノハ他ノ法令ニ
此ノ趣旨ノ規定ノナイ場合ニ對スルモノデ
アリマス、サウシテ此ノ第一項ニ付キマシ
テ此ノ前ニ疑問ニナリマシタノハ、約定
期間ニ付テ、ソレガ不都合デハナイカト
云フヤウナ御趣旨ノ御質問モアッタヤウ
ニ存ズルノデアリマス、卽チ第二項ニ依
リマシテ、第一項デ伸長セラレマシタ期
間ハ障碍ノ止ミタル時ヨリ一週間ノ經過ニ
依ッテ滿了スルコトニナッテ居ルノデアリマ
ス、ソレデアリマスカラ約定期間ノ或種ノ
モノニ付テハ、此ノ一週間ダケデハ足ラナ
イダラウト云フノガ御質問ノ本旨ディアッタ
ヤウニ拜察ヲ致シタノデアリマス、併シ約
定期間ニ付テ申シマスルト、御承知ノ通リ
民法上デ若シ約定期間ヲ履行スルコトガ出
來マセヌデシタ場合ニ、債務者ガ果シテソ
レガ責ニ歸スベキ事實デアルカナイカト云
フコトニ依ッテ遲滯ニナルカナラナイカガ
分レルノデアリマス、卽チ債務者ノ責ニ歸
スベキ事由ニ依リマシテ期間ヲ遵守シナケ
レバ、是ハ遲滯ノ責ヲ負ツテ損害賠償ト云フ
コトニ相成ルノデアリマス、サウシテ債務者
ニ責ヲ負フベキ事由ガナケレバ、遲滯ノ責
ヲ負ハナイ、是亦當然ノ話デアリマスルガ、
此ノ民法上ノ大原則ハ決シテ本案ノ第二條
デ之ヲ左右スル積リデハナイノデアリマス、
卽チ本案第二條ガ此ノ民法上ノ大原則ノ支
配ヲ受ケテ居ルノデアリマスルガ、唯空
襲等ガアリマシタ場合ニ、總テノ約定期間
ニ付キマシテ、之ガ責ニ歸スベキモノデア
ルカナイカト云フヤウナコトガ爭ニナリマ
スルト事ガ頗ル面倒ニナリマスルカラ、
セメテ法律上一週間ダケハ其ノ約定期限ヲ
伸バシタト同樣ナ結果ヲ持タセヨウ、卽
チ此ノ一週間ノ期間內ハ法律上何等ノ主張
ナク又立證ナクトモ債務者ニ責ナキモノト
シテシマハウト云フノガ本案ノ趣旨デアリ
やく、デアリマスカラ、一般ノ契約ノ約定
期限ニ付一種ノ「モラトリアム」ヲ認メタノト
同ジコトニナルノデアリマス、デアリマス
カラ、例ヘテ申シマスレバ、一月ノ末日ガ
約定期限ノ最後ニナツテ居リマシテ、丁度
ソコデ空襲等ガアリマスルナラバ、二月七
日ニ當然其ノ約定期限ガナッテシマッタト云
フコトニ致スノデアリマス、デアリマスル
カラ、二月ノ八日以後尙履行ガ出來マセヌ
場合ニ、此ノ八日以後ノ履行ガ遲レテ居ル
コトノ責ニ歸スベキモノデアルカナイカト
云フコトハ、依然民法上ノ問題トシテ民法
上デ決セラレルノデアリマシテ、一週間ダ
ケハ免除スル、一週間ヲ限ッテ免除スルノデ
ハナイト云フ趣旨デハ全クナイノデアリマ
ス、成程第二條ノ第二項ニ「一週間ノ經過
ニ依リテ滿了ス」トアリマスルケレドモ、
是ハ第一項ノ「其ノ期間ヲ伸長ス」ト云フ文
字ヲ承ケタノデアリマシテ、詰リ「モラト
リアム」式ノ期間ハ一週間デアルト云フコ
トヲ定メタニ過ギナイノデアリマス、デア
リマスルカラ、百般ノ契約、其ノ約定期限
ニ付キマシテ種々ノ問題ハ起リマセウガ、
先ヅ一週間ダケヲ法定的ニ、「モラトリア
ムレ式ニ延期致シマスルナラバ、大抵ノモ
ノハソレデ片ガ附クノデハナイカト思ヒマ
ス、勿論其ノ外ニ相當遲レルモノハアリマ
セウ、其ノ相當遲レルモノハ一週間經チ
マシタ後ノ部分ニ付キマシテ民法上ノ大
原則ニ據ルノデアリマシテ、民法上ノ大原
則ニ對シテ何等ノ變動ヲ加フル趣旨デナイ
ト先程申述ベタ通リデアリマス、前囘ノ私
共ノ御答ガ不十分デアッタヤウニ存ジマス
ルカラ、此ノ機會ニ於テ補足ヲ致シテ置ク
次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=7
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008・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 議題トナッテ
居リマスル特別法案ニ付テ他ニ御質問ハゴ
ザイマセヌカ、御質疑ナイモノト認メマス、
之ヲ以テ質疑ヲ終リマシテ、只今ヨリ戰時
民事特別法案ノ討論ニ移リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=8
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009・岩田宙造
○岩田宙造君 私ハ此ノ戰時民事特別法案
ノ第二條ニ關シマシテ修正案ヲ提出シタイ
ノデアリマス、ソレハ同條ノ第二項ニ左ノ
但書ヲ加ヘルコトデアリマス、卽チ「但特別
ノ事情アル場合ニ於テハ更ニ相當ノ期間ヲ
經過シタルトキ滿了ス」、斯ウ云フ但書ヲ加
ヘルノデアリマス、從ッテ此ノ修正ヲ致シ
マシタ結果ノ第二條第二項ハ斯ウ云フコト
ニナリマス、「前項ノ規定ニ依リテ伸長セ
ラレタル期間ハ障碍ノ止ミタル時ヨリ一週
間ノ經過ニ依リテ滿了ス、但シ特別ノ事情
アル場合ニ於テハ更ニ相當ナル期間ヲ經過
シタルトキ滿了ス」、斯ウナルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=9
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010・次田大三郎
○次田大三郞君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=10
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011・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 只今岩田委員
カラノ修正動議ニ對シマシテ贊成者ガゴザ
イマシタ、之ニ依リマシテ岩田委員ノ修正
動議ガ成立致シマシタカラ、之ヲ議題ニ供
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=11
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012・岩田宙造
○岩田宙造君 只今提案致シマシタ修正ノ
動議ガ成立致シマシタカラ其ノ理由ヲ申上
ゲマス、之ニ付キマシテハ先日來質疑ノ際
ニ屢〓質質應答ヲ繰返シマシタノデ、大體ノ
趣旨ハ委員各位ニ於カセラレテ御了承下
サッタコトト考ヘマスルカラ、成ルベク簡單
ニ申上ゲタイト考ヘマス、此ノ第二條ハ先
程大森次官カラ御說明ノゴザイマシタヤウ
ニ、戰爭ニ起因スル障碍ニ基ク期間ノ伸長
ヲ企圖シタモノデアリマシテ、其ノ期間ハ
法定期間竝ニ約定期間一切ヲ包含スルモノ
デアリマス、デ本規定ノ目的トスル所ハ、
約定期間ニ付テ申シマスルナラバ、戰爭ノ
爲ニ約定期間ヲ遵守スルコトノ出來ナクナ
リマシタ場合ニ、其ノ期間不遵守ノ責任ヲ
或程度免除シヨウト云フコトニナルノデア
リマス、ソレハ障碍ノ繼續中ハ勿論デアリ
マシテ、繼續シテ居ル間ハ勿論履行致シ
マセヌデモ不履行ノ責任ハナイコトニナル
ノデアリマス、併シ其ノ障碍ガ止ミマスル
ト云フト、ソレカラ一週間經テバ其ノ時
ニ契約ヲ履行スベキ期間ハ滿了スルト云フ
コトニ相成リマスルカラ、障碍ガ止ンデカ
ラ一週間ノ內ニハ契約ヲ履行シナケレバナ
ラヌト云フコトニナルノデアリマス、デ
週間ダケハ責任ヲ免除サレマスルガ、其ノ
後ニ付テハ責任免除ガナイノデアリマス
ルカラ、若シ尙契約ヲ履行シナケレバ責任
ヲ負ハナケレバナラヌト云フコトニナリ
マスルノデ、若シ一週間內ニ契約ヲ履行ス
ルコトノ出來ナイヤウナ種類ノモノニ付
テ、此ノ契約デハ保護ガ不十分デアル、例
ヘバ契約滿了ノ際ニ損害ヲ受ケル、其ノ爲
ニ受ケマシタ損害ヲ恢復シテ契約ヲ履行
スルニハ、アト三週間掛カルト云フヤウナ
際ニ、漸ク一週間ダケ延期ヲシテ貰ッタノ
デハ不十分デアリマスルカラ、サウ云フ場
合ニハ卽チ一週間デ不十分デアルト云フ特
別ナ事情ガアル場合デアリマスルノデ、其
ノ際ニハ更ニ相當ナル期間ヲ、三週間デア
リマスルカラモウアト二週間、此ノ二週
間經過シタ時滿了スルト云フコトニシタイ
ト云フノガ修正ノ趣旨デアリマス、先刻ノ
大森次官ノ御說明ヲ聽キマスルト、サウシ
ナクテモ宜イヂヤナカ、サウ云フ時ニハ
成ル程此ノ原案デハ一週間シカ期間ハ伸長
シナイケレドモ、アト若シ二週間必要ガア
ルナラバ、ソレハ其ノ事ヲ證明スレバ、是
ハ不可抗力ニ因ルノデアルカラシテ、債務
者ハ遲滯ノ責ヲ負ハナイノデアルカラ强ヒ
テモウ二週間延バス必要ハナイ、斯ウ云フ
ヤウナ御說明デアッタノデアリマスルガ、
私ハ此ノ本案ノ原案ガ通レバサウハナラナ
イト思フノデアリマス、是ハ本案ニ依リマ
スルト、戰爭ニ起因スル障碍ノ爲ニ期間ヲ
遵守スルコトノ出來ナカッタ場合ニ付テハ、
其ノ障碍ガ止ンダ時カラ一週間ダケデ期間
ハ滿了スルト云フノデアリマスカラ、週
間以上ニ付テ戰爭ニ起因スル障碍ヲ主張ス
ルコトハ出來ナクナルト思フノデアリマス、
一週間ダケハ特別ノ立證其ノ他ヲスル責任
ハナイノデアッテ、唯戰爭ノ爲ニ起ッタモノ
デアルト云フコトサヘ言ヒマスルナラバ
戰爭ノ原因ガドレダケ働イテ居ッタカ、戰
爭ニ起因スル障碍ダケデナクシテ、モウ少
シ努力スレバ其ノ戰爭ノ危害ハ免レ得タモ
ノデアルカドウカト云フコトヲ穿鑿スルコ
トナシニ、兎ニ角戰爭デ起ッタト云フコト
サヘ證明スレバ當然一週間ダケハ延長サレ
ル、其ノ點ハ普通ノ不可抗力ヲ證明スル場
合ト少シ違フノデアリマシテ、普通ノ場合
ナラバ、戰爭ニ原因シタト云スコトヲ一應
申シマシテ、併シ尙相當ノ注意ヲスレバ
其ノ戰爭ニ因ッテ生ジタ損害ハ半分デ濟
ム、或ハ全然免レ得タト云フコトヲ相手
ガ證明サレレバ矢張リ戰爭ニ原因シタト
云フコトヲ言ッテモ責任ハ免レナイノデア
リマスルケレドモ、本法ガ出來レバ戰爭ニ
原因シタト云フコトヲ言ヘバ、モウ相手ハ
其ノ戰爭ノ影響ハ避ケ得タノデアルト云フ
ヤウナコトノ反對ノ主張ヲ債權者ノ方デハ
スル餘地ガナクナッテ來テ當然責ヲ免レル、
是ハ丁度火災保險ノヤウナ場合ニ、火災デ
燒ケタト云フコトサヘ言ヘバ、少々過失ガ
アラウトモ、過失ガナカッタラ火災ハ防ギ
得タト云フコトヲ保險會社ガ證明シマシテ
モ矢張リ保險金ヲ拂ハナケレバナリマセ
又、普通ノ民法上ノ責任ニ基クノデアリマ
スルナラバ、假令火事デ燒ケテモ、ソレハ
相當ノ努力デ防ギ得タト云フコトヲ言ヘバ
拂ハヌデ宜イ場合デアリマシテモ、火災保
險等ハ拂ハナケレバナラヌト云フノト同ジ
ヤウニ、此ノ規定ガアリマスルナラバ、戰
爭ノ爲ニ起因シタト言ヘバ、モウソレデ宜
イコトニナルノデアリマス、從ッテソレト
同時ニ此ノ規定ガアレバ、戰爭ニ起因シタ
コトニ依ル遲滯ノ責任問題ト云フモノハ
是デモウ片付イテシマフコトニナリマシ
テ、ソレガ障碍ガ止ンデカラ一週間經テバ、
ソレダケノ猶豫ハアルガ、ソレ以上ノ猶豫
ヲ得ルコトハ出來ナイ、アトハモウ爭ノ餘
地ガナクナル、ドウシテモ斯ウ云フコトニ
ナルト思フノデアリマス、デアリマスカラ、
只今ノヤウニ三週間掛カラナケレバ、契約
ハ完全ニ履行スルコトガ出來ナイト云フヤ
ウナ場合ハ非常ナ羞支ヲ生ズルコトニナ
リマスルカラ、従ッテ斯ウ云フ場合ニハ但書
■
ヲ設ケテ、尙期間ヲ仲長スルコトガ必要ニ
〓
ナルト考ヘルノデアリマス、假ニ政府ノ御
說明ノヤウニ、一週間ダケハ是デ宜イガ、
アトノ二週間伸ベルコトニ付テモ、其ノ事
情ヲ證明ヲスレバ此ノ遲滯ノ責任ハ免レ
ルコトガ出來ル餘地ハアルノダ、此ノ原案
ノ通リニシテモサウ云フ餘地ハアルノダト
假ニ致シマシテモ、一週間ダケナラバ簡單
ナ立證デ其ノ責任ガ免レラレルシ、アトノ
二週間ダケハ原則ニ依ッテ、唯戰爭ノ爲ニ
起ッタト云フコトデナシニ相手ガ爭フナラ
バ、是ハ相當ノ注意ヲシテモ尙免ルルコト
ガ出來ナカッタト云フ所迄證明ヲシナケレ
バ、アトノ二週間ニ付テノ責任ハ免レナイ
ト云フコトニナリマスルカラ、假ニ政府ノ
御說明ノ通リニ致シマシテモ、尙偶、〓一週間
デ仕事ガ完了スルヤウナ場合ト、三週間掛
カラナケレバ完了シナイト云フヤウナ場合
〓300円
デハ此ノ規定ニ依ル保護ガ非常ニ不公平
ニナルノデアリマス、一週間ダケナラバ、懷
手ヲシテ居ッテ、戰爭デヤラレタト言ヘバ宜
イノガ、三週間掛カラナケレバイケナイヤ
ウナ場合ニハ、相手ノ主張如何ニ依ッテハ更
ニ進ンダ立證ヲシナケレバ責任ガ免レヌト
云フコトニナリマスルカラ、大變不公平ナ
結果ニナルト考ヘルノデアリマス、ソミナ
ラズ今一ツノ理由ハ、先日來政府ノ御說明
ニ依リマスルト、戰爭ニ起因スル障碍ハ其
ノ期間ノ滿了ノ時ニ當ッテ、其ノ障碍ガアッ
タ時ニノミ適用ガアルノダ、サウ云フ御說
明デアルノデアリマス、例ヘバ、一月末ガ
期間滿了ノ時ニナッテ居ルナラバ、一月三十
一日ニ例ヘバ飛行機デモ來テ爆彈ヲ落シタ
ト云フ時ニ、始メテ之ガ適用ガアルノデアッ
テ假ニ其ノ一日前ノ三十日ニ爆彈ヲ落シ
タト云フ時ニハ此ノ規定ノ適用ハナイノデ
アル、斯ウ云フ御說明デアルノデアリマス、
ケレドモソレハ私ハサウハナラヌト思フ
ノデアリマス、其ノ期間ノ滿了スル最終
ノ時ニ起ッタ時ニノミ此ノ規定ノ適用ガ
アルト云フノデゴザイマスナラバ、他ノ
場合ニ、例ヘバ民法ノ百六十一條等ニア
リマスルヤウニ、「期間滿了ノ時ニ當リ」
トサウ云フ文句ガナケバ、サウ云フコ
トニ私ハナラヌト思フノデアリマス、現
ニ民法デハサウ云フ場合ニハ、「期間滿了ノ
時ニ當リ」云々ト云フ文句ニナッテ居ルノデ
アリマス、然ルニ本法ニハサウ云フ文句ハ
ナイノデアリマスルカラ、例ヘバ一箇月掛カ
ル請負仕事ヲ約束シマシタヤウナ場合ニハ、
其ノ障碍ガ、例ヘバ一月一杯ニ仕上ゲルト
云フヤウナ時ニ、一月十五日ニ其ノ障碍ガ
アッテ、十五日迄ヤッタノガ全然壞サレテシ
マヽ、サウ云フ場合デモ、ソレカラ一月三
十一日ニ飛行機ガ來テ壞シタト云フ場合デ
千、何レデモ、矢張リ戰爭ニ起因スル避ク
ベカラザル障碍ニ因リ期間ヲ遵守スルコト
能ハザル點ニ於テハ同ジコトデアリマスカ
ラ、一月三十一日ニ來タ時ノミ適用ガアッ
テ、一月十五日ニ其ノ障碍ガ起ッタ場合ニハ
適用ナイノダ、斯ウ云フ御說明ハ、假ニサウ
云フ肚デ起案サレタモノト致シマシテモ、
是ガ法律ニナレバ、サウ云フコトニハナラ
ヌト私ハ思フノデアリマス、文理解釋上サ
ウナラヌノミナラズ、又實際ニ於テソレハ
非常ニ不都合ダト思フノデアリマス、又
月十五日ナラ宜イノデアリマスガ、一月三
十一日ニ爆彈ニ見舞ハレタモノガ、此ノ規
定ノ保護ヲ受ケテ一週間期間ガ伸ビル、
月三十日ニ爆擊サレタモノハ、此ノ保護ヲ
受ケルコトガ出來ナクテ、一月三十一日デ責
任ヲ負ハナケレバナラヌ、ソンナ不條理ナコ
トハナイト私ハ考ヘルノデアリマスカラ、是ガ
法律ニナッタ場合ニハ、ソレハ一月三十日ニ
爆彈ガ落チタ場合デモ、一月三十一日ニ爆
擊サレタ場合デモ、同ジヤウニ此ノ規定ノ
適用ガアルト云フコトニナルダラウト思フ
ノデアリマス、從ッテ最終日以前ニ、假
一月十五日ニ爆擊ヲ受ケタヤウナ場合ヲ考
ヘテ見マスルト、一月十五日ニ爆擊ヲ受ケ
テ、十六日ニハモウ既ニ其ノ障碍ガ止ンデ
居ルノデアリマスカラ、ソレカラ一週間經ッ
テ、二十二日ニハ其ノ期間ガ滿了スルト
云フ奇怪ヲル結果ニナルノデアリマス、サ
ウ云フコトモ想像サレルノデアリマスカ
ラ、旁〓此ノ障碍ノ止ンダ時カラ一週間デ滿
了スルト云フコトニ、一本デ書キ流スト云
フコトハ、非常ニ不都合ナ結果ヲ生ズルコト
ハ極メテ明瞭デアルト考ヘルノデ、私ハ是非
只今提案致シマシタヤウナ但書ヲ入レルコ
トニ御同意ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、
此ノ法案ニ付キマシテハ、實ハ他ニモ修正
致シタイト思フ點ガ少クナイノデアリマス
ガ、マア他ノ點ハ忍ビ難キヲ忍ブト致シマ
シテモ、此ノ點ダケハ如何ニモ實際直グ困
ル問題デアルト考ヘマスノデ、已ムヲ得ズ
實ハ修正ノ動議ヲ提出シタ次第デアリマス、
是非御考ヘノ上デ御贊成ヲ得タイト熱望ス
ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=12
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013・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 只今ノ修正ノ御
案ニ對シマシテ、司法大臣ヨリ固ヨリ贊否ノ
意見ヲ申述ベル筈デアリマスケレドモ、唯
御述ベニナリマシタ中ニ、本案ノ解釋ニ付
キマシテ、私共ノ考ヘテ居リマス所ト相違
ノ點モアリマスカラ、贊否ノ意見デハナシ
ニ、ソレニ先立チマシテ、事務的立場デ御說
明ヲ御許ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、
ソレハ只今御意見トシテ御陳述ニナリマシ
タ最後ノ點デアリマスガ、本案ノ第二條ハ
期間ノ滿了ニ當ッテ故障ノ生ジマシタ場合
ヲ豫想シテ居ルノデアリマス、卽チ期間中
ニ故障ガ生ジマシテ、期間中ニ故障ガ既ニ
終ッテ居リマシタ場合ハ含マナイ積リデア
リマス、御設例ノ場合ニ於キマシテ、一月
末日ガ期限デアリマシタ時分ニ空襲ガアリ
マシテ、一月ノ二十日カラ二十五日迄續イ
タ場合デアリマス、サウスルト空襲ハ期間
ノ滿了當時卽チ一月末日當時デハナイノデ
アリマスカラ、此ノ案ニハ入ラナイノデア
リマス、ソレデアリマスケレドモ、債務者
ト致シマシテハ兎ニ角數日間空襲ニ曝サ
レテ居ッタノデアリマスカラ、遲滯スルコ
トハ蓋シ已ムヲ得ナイノデアリマシテ、是
ハ普通ノ民法上果シテ責アリヤ否ヤト云フ
點デ解決セラルベキ筋合ニナルノデアリマ
ス、先程モ申述ベマシタ通リニ、此ノ案ハ
最後ノ期限ヲ「モラトリアム」式ニ一週間
延バス、其ノ後ノ分ニ付テハ民法上責アリ
ヤ否ヤ、普通ノ立證ナリ主張デヤッテ行カ
ウト云フニ外ナラヌノデアリマス、サウ致
シマスルト期間中ニ故障ガアッテ故障ガ終ッ
タ場合之ヲ除クノハ甚ダ不都合デハナイカ
ト云フ御意見デアリマシテ、是ハ水掛論ニ
終ルノデアリマシテ甚ダ恐縮デアリマス、
御承知ノ民事訴訟法ノ第百五十九條ニハ此
ノ通リノ文字ヲ使ヒマシテ、サウシテ私共ノ
解釋通リニ法律ノ解釋ハ一定シテ居ルノ
デアリマス、少クトモ裁判ニ關スル問題ト
致シマシテハ、誤解ハ生ジナイヤウニ存ズ
ルノデアリマス、民事訴訟法ノ第百五十九
條ノ文字ヲ蹈襲シタ、斯ウ云フヤウニ御解
釋ヲ願ヒタイト思ヒマス、尙言葉ガ分ラナ
イデハナイカ、斯ウ云フ非難ノ御申出ガア
リマシタガ、裁判ニ付キマシテ、私共ハ若
シ之ガ幸ヒ御協賛ヲ得マシテ公布サレルヤ
ウナ運ビニナリマスレバ、公布直後全國ノ監
督官ヲ合同致シマシテ、此ノ案ノミナラズ
他ノ案ニ付キマシテモ周到ナル說明ヲ加ヘ
テ、其ノ運用ニ些ノ遺漏ナイコトヲ期シタイ
ノデアリマシテ、其ノ監督官ノ會同ニ引續キ
マシテ、判檢事ノ第一線ニ働イテ居リマス者
ヲ數囘ニ亙ッテ招集致シマシテ、篤ト解釋適
用ニ誤ナキヤウ十分ナ措置ヲ致シタイト存
ジテ居リマス、是ハ全ク蛇足デアリマスケレ
ドモ、序デナガラ申述ベタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=13
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014・岩田宙造
○岩田宙造君 只今民事訴訟法ノ百五十九
條ヲ引用サレマシタ點ニ付テダケ申上ゲテ
置キマス、民事訴訟法ノ百五十九條ハ仰セ
ノヤウナ形ニナッテ居リマスルガ、是ハ裁
判所ニ對シテ爲スベキ手續ニ關スルコトデ
アリマシテ、先ヅ一日モ掛ラズニ其ノ手續
ガ出來ル事柄ヲ目的トシテ居ルノデアリマ
ス、ソレデアリマスカラ、或障碍ガアリマ
シテモ、最終日デナシニ早クアッタ場合ニ
ハ最終日サヘ障碍ガナケレバ大抵出來ル
事柄ヲ規定シテ居ルノデアリマス、處ガ本
件ノハサウデナイ、三十日ナラ三十日間掛
カラナケレバ出來ナイ事柄ヲ目的トシテ居
ルノデアリマスカラ、デアリマスルカラ其
ノ一日ノ中ニ直グ出來ル場合ト同ジヤウニ
論ズルコトハ出來ナイノデアリマシテ、從ッ
テ其ノ三十日掛カル最終日ニ故障ガアッタ
場合ト、最終日以前ニ故障ガアッタ場合ヲ
別々ニ取扱フト云フコトハ全然理由ガナ
イ、若シ何カ、先刻御述ニナリマシタヤウ
ニ、三十日間繼續シテヤラナケレバナラヌ
仕事ノ時ニ、二十日カラ二十五日ニ空襲ガ
アッタ場合ニ於テハ本案ハ知ラナイゾ、三十
日ニアッタ場合ダケヲ取上ゲテ救濟スルト
云フナラ、是ハ實ニ不都合ト謂ヒマスカ、
不深切極マル規定ト謂ハナケレバナラヌ、
何等三十日ニ空襲ヲ受ケタ者モ、二十日
ニ空襲ヲ受ケタ者モ、其ノ債務者ガ困ルコ
トニ於テハ同ジコトデアリマスカラ、ドウ
モ只今民事訴訟法ノ百五十九條ヲ援用シテ
云々サレルコトハ全然此ノ場合ニハ理由
ガナイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=14
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015・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 岩田委員ヨリ御
提案ニナリマシタ修正案ニ對スル事務上ノ
意見ハ只今司法次官ヨリ申述ベタ通リデア
リマス、左樣ナ次第デアリマスノデ、色々
理由ハ伺ヒマシタケレドモ、此ノ際政府ト
致シマシテハ御修正案ニハ遺憾ナガラ贊成
ヲ表シ難イノデアリマス、御了承願ヒタイ
ト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=15
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016・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德)君) 外ニ御質疑ハ
ゴザイマセヌカ、御質疑ナイモノト認メマ
ス、修正案ニ對スル討論ニ入リマス、別
御發言モナイヤウデアリマスカラ、修正案
ニ對シマス採決ヲ致シマス、修正案ヲ可ト
スル方ノ擧手ヲ御願ヒ致シマス
〔擧手者少數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=16
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017・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 少數ト認メマ
ス、修正案ハ否定サレマシタ、修正案ガ否
決サレマシタノデ原案ニ復歸致シマシタ、
原案ニ對スル討論ヲ保留致シマシテ、次ニ
戰時刑事特別法案ノ討論ニ入リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=17
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018・次田大三郎
○次田大三郞君 チヨット議事進行ニ付
テ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=18
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019・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=19
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020・次田大三郎
○次田大三郞君 モウ直グ晝ニナリマスガ、
續イテオヤリニナリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=20
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021・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) マダ三十分程
アリマスカラ、續イテ御願ヒシタイト思ヒ
マスガ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=21
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022・次田大三郎
○次田大三郞君 私ノハ修正意見ノ說明モ
相當掛カリマスガ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=22
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023・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 凡ソドノ位掛
リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=23
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024・次田大三郎
○次田大三郞君 相當掛カリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=24
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025・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 別ニ御異議ガ
ナケレバ續イテ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=25
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026・次田大三郎
○次田大三郞君 私ハ本案ニ對シテ修正動
議ヲ提出スルモノデアリマス、修正ノ箇條
ハ只今委員長ノ御手許迄文書デ差出シマシ
タガ、念ノ爲一讀致シマス、「政府原案第十
四條ノ次ニ左ノ三條ヲ加ヘ第十五條ヲ第十
八條トシテ以下順次繰下グ、第十五條、戰
時ニ際シ經濟統制ノ事務ニ從事スル公務員
其統制事務ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要
求若クハ約束シタルトキハ七年以下ノ懲役
ニ處ス、請託ヲ受ケタル場合ニ於テハ十
年以下ノ懲役ニ處ス、戰時ニ際シ經濟統制
ノ事務ニ從事スル公務員タラントスル者其
ノ統制事務ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要
求若ハ約束シタルトキハ其ノ公務員ト爲リ
タル場合ニ於テ七年以下ノ懲役ニ處ス、第
十六條、戰時ニ際シ經濟統制ノ事務ニ從事ス
ル公務員、其ノ統制事務ニ關シ請託ヲ受ケ
テ第三者ニ賄賂ヲ供與セシメ、又ハ其ノ供
與ヲ要求若クハ約束シタルトキハ七年以下
ノ懲役ニ處ス、第十七條、戰時ニ際シ經濟統
制ノ事務ニ從事スル公務員、前二條ノ罪ヲ
犯シ因テ不正ノ行爲ヲ爲シ又ハ相當ノ行爲
ヲ爲ササルトキハ三年以上ノ有期懲役ニ處
ス、戰時ニ際シ經濟統制ノ事務ニ從事スル
公務員其ノ統制事務ニ關シ不正ノ行爲ヲ爲
シ又ハ相當ノ行爲ヲ爲ササリシコトニ關
シ賄賂ヲ收受、要求若クハ約束シ又ハ第三
者ニ之ヲ供與セシメ其供與ヲ要求若クハ約
東シタルトキ亦同シ、戰時ニ際シ經濟統制
ノ事務ニ從事スル公務員其在職中請託ヲ受
ケテ其統制事務ニ關シ不正ノ行爲ヲ爲シ、
又ハ相當ノ行爲ヲ爲ササリシコトニ關シ賄
賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シタル
トキハ七年以下ノ懲役ニ處ス」、右ノ通リ原
案ニ對シテ修正ヲ加ヘムトスル動議ヲ提出
致シマス、チヨット訂正致シマス、最後ノ
項デアリマスガ、「戰時ニ際シ經濟統制ノ事
務ニ從事スル公務員」ト言ヒマシタガソレ
ハ「公務員タリシ者」ノ間違デアリマスカラ
サウ御訂正ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=26
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027・岩田宙造
○岩田寅造君 只今ノ修正動議ニ贊成致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=27
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028・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 只今贊成ノ御
發言ガアリマシタカラ此ノ動議ハ成立ヲ致
シマシタ、仍テ議題ニ供シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=28
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029・次田大三郎
○次田大三郞君 是ヨリ修正動議提出ノ理
由ヲ說明致シマス、今日我國ハ大東亞戰爭
ヲヤッテ居リマス、此ノ戰爭ハ實ニ我帝國ノ
存亡ヲ決スル大戰爭デアリマシテ、我國民
ハ前線ニ立テル者ト銃後ノ者トヲ問ハズ、
各〓其其職々々ニ於テ奮勵努力有ラユル困
苦缺乏ニ堪へ、有ラユル艱難ニ打克ッテ此ノ:
戰ヲ戰ヒ拔キ、以テ征戰目的ノ完遂ヲ期シ
テ居ル次第デアリマス、從ッテ所謂經濟統制
ニ付キマシテモ國民ハ努メテ法令ノ命ズル
所、當局ノ指示サルヽ所ヲ遵奉シ因ッテ生ズ
ル不利不便ノ如キハ大事ノ前ノ小事トシテ
之ヲ甘受シテ居ルノデアリマス、然ルニ所
謂自由主義ト申シマスカ、個人主義ト申シ
マスカ、サウ云フ思想ノ滓ガ尙幾ラカ殘存
シテ居リマシテ、統制ノ法規ノ網ヲ潜ッテ私
利私慾ヲ營ム者ガ迹ヲ斷ツニ至ラナイコト
ハ誠ニ遺憾千萬デアリマス、中デモ業務上
不正ノ利益ヲ得ルノ目的ヲ以テ買占、賣惜
ヲ爲ス者ノ如キハ實ニ怪シカラヌト申サナ
ケレバナリマセヌ、政府ガ今囘戰時刑事特
別法案中ニ斯カル犯罪ニ對シテ刑ヲ加重ス
ルノ規定ヲ設ケムトセラルルコトハ誠ニ機
宜ヲ得タル措置トシテ、私共双手ヲ擧ゲテ
贊成スル者デアリマス、殊ニ其ノ刑ハ從來
ノ法律ニ依リマスレバ三箇月以下ノ懲役、
五百圓以下ノ罰金トアルノヲ一躍五年以下
ノ懲役、一万圓以下ノ罰金ト云フコトニ改メ
ムトスルモノデアリマシテ、相當思切ッタ加
重デハアリマスルガ、私共ハ右買占、賣惜
等ノ罪ヲ敢ヘテスル者共ニ對スル刑罰トシ
テハ決シテ重キニ失スルモノデハナイト考
ヘテ居ルノデアリマス、然ルニ一方此ノ經
濟統制ノ行政事務ヲ擔當スル行政官吏其ノ
他ノ公務員ニシテ其ノ職務タル統制事務ヲ
掌ッテ居ル間ニ於テ賄賂ヲ受ケテ最モ不公
平ナル處置ヲ致シ、經濟統制ヲ紊ル者ノ出ル
コトガ一、二ニシテ止ラナイノハ私共ノ更ニ
更ニ大イナル遺憾トスル所デアリマス、本委
員會ニ於ケル政府當局ノ御說明ニ依リマス
レバ、昭和十五年、十六年ノ二箇年間ニ於テ
經濟統制ノ事務ニ從事スル官吏ニシテ其ノ
職務ニ關シ瀆職ノ罪アリトシテ起訴セラレ
タ者ガ實ニ百人ニ上ッテ居ル、其ノ中ノ二十
二人ガ奏任官以上デアリマス、而シテ又其
ノ中ノ何人カガ勅任官デアルト云フコトデ
アリマス、私ハ斯クノ如キ犯罪ハ今日ノ時
局下ニ於テ最モ憎ムベキモノノ一ツデアリ
マシテ、道義上カラ申シマシテ其ノ罪萬死
ニ値スルモノト申シテモ過言デナイト信ズ
ル者デアリマス、前ニ述ベマシタ如ク、
般國民ハ經濟統制ニ關スル相當面倒ナ法令
ノ規定、當局ノ指示ヲ遵奉致シマシテ、之
ガ爲ニハ幾多ノ苦痛ヲ我慢致シテ居ルノデ
アリマス、私ガ數日前ニ登院致シマスル際ニ
「バス」ニ乘ラウト思ヒマシテ「バス」ノ停留
場デ待ッテ居ッタ、丁度ソコニ御菓子屋ガア
リマシテ、例ニ依ッテ行列ヲ作ツテ、皆ソレ
ヲ買ハウトシテ居ル、七ツ八ツノ子供ノ手
ヲ引イタ婦人ガ順番ノ來ルノヲ待ツテ居リ
マシタ處ガ、丁度其ノ順番ノ四、五人前デ菓
子ガ賣切レテシマツタ、子供ハ菓子ガ買ヘ
ナイト言ッテ泣キ出サウトシテ居タ處、母親
ハ其ノ子供ニ對シテ、是ハ戰爭ニ勝ツガ爲
已ムヲ得ナイノデアルカラ我慢シロ、斯
ウ云ッテ言ヒ聽カセタ、子供モ戰爭ニ勝ツ
爲ニ必要デアルナラバ已ムヲ得ナイノダカ
ラト云フコトデ、納得シタト見エマシテ、將
ニ泣カウトシテ居ツタノガ、態度ヲ改メテ、
母親ニ連レラレテ家ニ歸ッテ行ッタ、此ノ有
樣ヲ私面リ見タノデアリマス、誠ニ可愛相ダ
ト思ッタ、頑是ナイ七ツ八ツノ子供ガデス、詰
リ不自由ヲ忍ンデ居ルフハ大人バカリデナ
イ、七ツ八ツノ子供マデ國策ニ協力スルガ爲
ニ自分ノ慾ヲ棄テテ居ルノデアリマス、又
近頃赤ン坊迄、オ母サンガ榮養不良ニナリマ
シテ、オ乳ガ出ヌデ困ルト云フ話ヲ能ク聞
クノデアリマス、卽チ無心ナル赤ン坊迄モ
國策遂行ノ爲ニ大ナル犠牲ヲ拂ッテ居ルノ
デアリマス、然ルニ何ゾヤ、經濟統制ノ
局ニ當ル者ガ、身ハ行政府高官ノ地位ヲ
辱ウシ、相當餘裕アル生活ヲスルニ十分
ナル俸祿ヲ頂戴シテ居ツテ、而モ尙一身ノ
私利私慾ノ爲ニ其ノ地位ヲ濫用シテ經濟統
制事務ノ公正ヲ破壞スル行爲ヲ致シタト
云フノデアリマス、私共ハ何トシテモ憤慨
セズニハ居ラレナイ、一而シテ是ハ決シ
テ私一個ノ憤リデハアリマセヌ、國民全體
ノ感情デアルト信ズル者デアリマス、費
斯クノ如キ官吏ノ、斯クノ如キ犯罪コソ此
ノ際特ニ重ク處罰スルコトガ、此ノ種公務
員ノ將來ヲ戒飭スルガ爲ニ、又國民ノ正シ
イ感情ヲ尊重スル爲ニ、又苟モ經濟統制ニ
對シテ國民ノ間ニ怨嗟ノ聲ナカラシメテ以
テ經濟統制ノ圓滑ナル施行ヲ期スル爲ニモ
必要事デアルト考ヘルノデアリマスガ、政
府提出ノ戰時刑事特別法ノ原案中ニハ其ノ
規定ガ漏レテ居ルノデアリマス、是ハ純理
カラ申シマシテモ又原案第十五條ノ買占、
賣惜ヲ爲ス者ノ刑ヲ加重スル規定トノ釣合
カラ申シマシテモ、然ルベカラザルモノデ
アルト考ヘマスルガ故ニ、本修正動議ヲ提
出シテ聊カ其ノ缺漏ヲ補正セムトスル次第
デアリマス、次ニ修正ノ案文ハ前ニ朗讀致
シタ通リデアリマスルガ、其ノ文句ハ主ト
シテ刑法第百九十七條、第百九十七條ノ一一、
第百九十七條ノ三ノ規定ノ文句ヲ踏襲致シマ
シテ、其ノ戰時ニ於ケル特別法タルコトヲ
示ス爲ニ、「戰時ニ際シ」ト云フ一句ヲ各項
ニ加ヘマシタ、又其ノ經濟統制事務ニ從事
スル公務員ガ其ノ擔當スル統制事務ニ關シ
テ犯セル瀆職罪ニ限ッテ適用アル旨ヲ示ス
爲ニ、必要ナル文句ニ改メマシタ、刑罰ユ
付キマシテハ刑法ノ「三年以下ノ懲役」トア
ルノヲ「七年以下ノ懲役」、「五年以下ノ
懲役」トアルノヲ「十年以下ノ懲役」、「一年
以上ノ有期懲役」トアルノヲ「三年以上ノ有
期懲役」ト改メタノデアリマス、此ノ刑ノ
加重ノ程度ハ政府原案ノ他ノ法條ニ於ケル
刑ノ加重ノ程度ヲ參酌シテ定メタモノデ、
大體權衡ヲ得テ居ル積リデアリマス、右ノ
修正意見ニ付キマシテハ、數次ノ懇談會中
ニ於ケル御懇談ノ經過ニ徵シ、其ノ趣旨ノア
ル所ハ委員各位ノ御贊成ヲ得テ居ルコトト
信ズルモノデアリマス、各位ノ中ニハ、此ノ席
上ニ於テ其ノ趣旨ニ贊成デアルト云フコト
ヲ明言セラレタ方モアリマスシ、又他ノ席ニ
於テ私ニ向ツテ修正案ノ提出ヲ慫慂セラレ
タ方モアルコトデアリマスルカラ、此ノ點
ハ毫モ疑ナシト信ジマスルノデ、敢テ反對論
ヲ豫想シテ議論ヲ申上ゲルコトハ見合セタ
イノデアリマスルガ、唯只今迄ニ議論ノ種
ニナリ得ルトシテ片鱗ヲ示サレマシタ一、二
ノ事項ニ付キマシテ、念ノ爲所見ヲ申添へ
タイト思フノデアリマス、其ノ一ハ、昨年
第七十六議會ニ於テ兩院ヲ通過シタ刑法改
正ニ依ッテ官吏ノ瀆職ニ對スル刑ハ加重シ
テアルカラ、此ノ際更ニ之ヲ加重スルニ及
バズトノ政府ノ意見ガアリマシタ、是ハ政
府原案中ニ修正案ノ如キ規定ヲ加ヘラレナ
カッタ理由ハドノ邊ニアリマスルカト云フ
コトヲ私ガ質問致シマシタモノニ對スル、
政府委員ノ御答辯ノ一節デモアリ、又懇談
中本修正案ニ對スル政府不同意ノ理由ノ
ツトシテ司法大臣ノ述べラレタ所デアリマ
ス、併シナガラ昨年ノ刑法改正ハ、是ハ平時
法、永久法トシテノ必要カラ行ハレタ改正
デアリマス、只今ノ問題ハ此ノ戰時下ニ於
ケル特定ノ公務員ノ濱職ニ關スルモノデア
リマスルカラ、昨年ノ刑法ノ改正ヲ以テシ
テ只今ノ必要ニ應ズルノニハ足リナイノデ
アリマス、司法大臣ハ昨年ノ刑法改正ノ際
既ニ幾分戰時下ニ起リ得ベキ必要ヲ考慮シ
テ提案シ議決セラレタモノデアルカノ如キ
御說明ガアリマシタガ、第七十六議會ニ於
テ、詰リ一年前ニ於テ今日ノ如キ規模ノ大
東亞戰爭ヲ豫期シテ刑法改正ヲ行ッタノデ
ナイコトハ、爭フベカラザル事實デアルノ
ミナラズ、懇談中岩田委員ノ爲サレマシタ
質問、卽チ若シ昨年ノ刑法改正ガ大東亞戰
爭ヲ豫想シ其ノ戰時下ニ於ケル特別ノ必要
ニ應ズルガ爲ニ爲サレタトスレバ、戰後此
ノ戰時刑事特別法ノ廢止ト同時ニ、昨年ノ
刑法改正モ亦之ヲ元ヘ戾サナケレバナラナ
イ筋合デアル、今問題ニナッテ居リマスル此
ノ戰時刑事特別法ハ戰爭ガ濟メバ政府ハ廢
スル考デアルト云フコトヲ明言シテ居ラレ
マス、是ハ御廢止ニナルモノト思ヒマス、
然ラバソレト同時ニ昨年ノ刑法改正モ亦之
ヲ還元シナケレバナラナイ筋合デアルガ、
政府ハ果シテ之ヲ行フ意向デアルカト云フ
質問ヲ爲サレタノニ對シテ、司法大臣ハ遂
ニ之ヲ肯定スル御答辯ヲナサレナカッタノ
デアリマス、政府ハ刑法ノ改正ヲ元ヘ戾ス
ト云フ御答辯ヲナサレナカッタノデアリマ
ス、成ル程昨年ノ刑法改正ハ官吏瀆職罪ノ
刑ニ加重ヲ致シテ居リマス、併シ其ノ內容
ヲ調ベテ見マスルト一般瀆職罪ノ罪
ニハ何等改正ガ加ヘラレテ居リマセヌヽ卽
チ是ハ從前通リ三年以下ノ懲役デアリ
マシテ、少シモ加重サレテ居ナイノデアリ
やっと、唯其ノ中デ請託ヲ受ケタル者ノ刑
ガ、從來昨年ノ刑法改正前迄ハ三年以下ノ
懲役デアッタノガ五年以下ノ懲役ニ改正サ
レ、又因ッテ不正ノ行爲ヲ爲シ、又ハ正當
ノ行爲サザル者ノ刑ガ一年以上十年以下ノ
懲役カラ一年以上ノ有期懲役、卽チ一年以
上十五年以下ノ懲役ト改正サレタニ過ギマ
セヌ、之ヲ本法案ノ原案第十五條ノ「買占
又ハ賣惜ヲ爲シタル者」ノ刑ガ、三箇月以下
ノ懲役ガ五年以上ノ懲役ニナリ、五百圓以
下ノ罰金ガ一萬圓以下ノ罰金ニ改正サレマ
シテ、懲役ノ刑期ニ於テモ、罰金ノ金額ニ
於テモ、何レモ二十倍ニ加重セラレタノニ
比較致シマスレバ、殆ド物ノ數デナイノデ
アリマス、其ノ外本法案各條ニ於テ刑罰ガ
加重セラレマシタ總テノ例ヲ取ッテ比較
シテ見マシテモ、權衡上戰時下ニ於テ經濟
統制事務ニ從事スル公務員ノ憎ムベキ瀆職
罪ニ對スル刑罰トシテハ、昨年ノ改正ノ刑
法ノ刑ヲ以テシテハ輕キニ失スルト謂ハザ
ルヲ得ナイノデアリマス、是卽チ昨年ノ刑
法改正アリタルニ拘ラズ修正案ノ如キ立法
ヲ必要トスル所以デアリマス、第二ハ本修
正案ガ成立致シマスルト、此ノ戰時刑事特
別法案ニ揭ゲラレマシタ罪ニ付テハ裁判所
構成法戰時特例案第四條ニ依ッテ其ノ裁判
手續上控訴審ヲ省略スルコトニナッテ居ル、
ソコデ、若シ修正案ノ如キ立法ヲ致シマス
ルト一般公務員ノ瀆職罪ハ三一審ヲ認メテ
居ルニ拘ラズ、經濟統制事務ニ從事スル公
務員ノ瀆職罪ハ二審ニナル、是ハ不公平デ
モアリ、又裁判ノ進行上支障ヲ生ズルガ故
ニ、政府ハ本修正案ニ同意シナイト云フノ
デアリマス、是ハ懇談中司法大臣ノ御發言
デアリマシタ、私ハ是ハ本末ヲ〓倒シタ議
論デアルト思ヒマス、戰時下經濟統制事務
ニ從事スル公務員ノ瀆職罪ヲ重ク罰スベキ
ヤ否ヤト云フコトガ根本ノ問題デアリマス、
若シモ其ノ必要ナシト云フナラバソレ迄ノ
話デアリマス、若シ其ノ必要アリト致シマ
スレバ、其ノ裁判審級ノ問題ノ如キハドノ
ヤウニモ定メ得ルノデアリマス、司法大臣
ハ一般公務員ノ瀆職罪ハ三審、經濟統制事
務ニ從事スル公務員ノ瀆職罪ガ二審トナル
ノハ不公平デアルトノ御說ノヤウデアリマ
スガ、是ハ後者ノ罪ガ戰時下特ニ重イト云
フ所カラ生ズル當然ノ結果デアリマシテ、
決シテ後者ニ對シテ特ニ苛酷デアルトハ謂
ヘナイノデアリマス、裁判所構成法戰時特
例案第四條ニ依リマスルト、食糧管理法ノ
罪ハ矢張リ控訴ヲ許サナイコトニナッテ居
リマス、從ッテ〓糧營團ノ總裁、副總裁、
理事長、理事等ノ役員ノ瀆職罪ハ控訴審ヲ
許サナイコトニナッテ居リマス、〓糧營團ノ
役員ノ瀆職罪ガ二審ヲ適當トスルナラバ
之ト同樣ノ職務ニ從事スル所ノ統制經濟事
務ニ從事スル公務員ノ濱職罪ニ付テ裁判上
同ジ取扱ヲスルノガ何故ニ苛酷デアリマセ
ウカ、若シ又一歩ヲ讓ッテ經濟統制事務ニ
從事スル公務員ノ瀆職罪ノ裁判ヲドウシテ
モ三審ニセネバナラヌト云フ特別ノ事情ガ
アルノデアリマスレバ、裁判所構成法戰時
特例第四條ニアリマスル「戰時刑事特別法」ト
云フ文句ノ下ニ括弧ヲ入レテ、「第十五條乃
至第十八條ヲ除ク」ト云フ文句ヲ加ヘレバ事
足ルノデアリマス、裁判所構成法戰時特例
案ハ本委員會ニ付託セラレマシテ、目下審
議中デアリマスカラ、私ハ若シ本修正案ニ
揭ゲタル罪ノ裁判ガドウシテモ三審タルコ
トヲ必要トスルト云フコトガ本委員會ノ多
數ノ御意見デアルナラバ、適當ノ機會ニ於
テ裁判所構成法戰時特例中ニ右述ベマシタ
如キ修正動議ヲ提出致ス用意ヲ持ッテ居ル
者デアリマス、其ノ三、私ノ只今提出致シ
マシタ程度ノ修正動議ハ委員會ニ提出スル
コトヲ許サレナイモノデハナイカ、其ノ點
疑ガアルト云フ一委員ノ御意見ヲ懇談中ニ
承リマシタ、是ハ唯疑ガアルトダケノ御話
デアツタノデアリマスガ、是ハ隨分大キナ
問題デアリマス、貴族院ノ審議權、貴族院
ノ委員會ノ審議權ニ關スル極メテ重大ナル
事項デアリマスルカラ、此ノ際特ニ所信ヲ開
陳致シテ置キタイノデアリマス、私ハ其ノ
節申上ゲマシタ通リ、私ノ修正動議程度ノ
モノハ、之ヲ委員會ニ提出スルコトヲ得ル
モノデアル、委員會ハ必ズ之ヲ取上ゲテ審
議シ、決議シ、之ヲ本會ニ報告セネバナラ
ヌト考ヘテ居ルモノデアリマス、此ノ事ハ之
ヲ貴族院令、貴族院議事規則ノ條文ニ照
シ、又貴族院及委員會ノ先例ニ徵シテ極メ
テ明白デアルト信ズルモノデアリマス、先
ヅ貴族院ノ審議權ニ付テ考ヘテ見マスル
ト、豫算ハ貴族院ニハ款項又ハ其ノ金額ヲ
削除スルコトハ出來ルガ、款項ヲ加ヘルコ
トハ出來ナイト云フコトニナッテ居ルヤウ
デアリマス、是ハ貴族院ニ豫算ノ發案權ガ
ナイ當然ノ結果デアリマス、次ニ貴族院令
ニ付テハドウカ、政府ガ貴族院令ノ改正案
ヲ提出シタ場合ニ、貴族院ガ其ノ提案セラ
レタ條項ニ付テ審議權ヲ有スルコトハ勿論
デアリマスルガ、其ノ提案以外ニ新條項ヲ
加ヘルコトガ出來ルカドウカ、是ハ貴族院
ガ貴族院令ノ發案權ヲ持ッテ居リマセヌカ
ラ、曾テ之ニ付テ或ハ出來ルト言ヒ、或ハ
出來ナイト言フ積極消極ノ爭ガアッタノデ
アリマスガ、是ハ其ノ際ニ積極說ニ決シテ
居リマス、貴族院ハ政府提案ノ條項以外ニ
新條項ヲ加ヘテ決議スルコトガ出來ル、サ
ウ云フ審議權ガアルト云フコトニ決ッテ居
リマス、貴族院令ニ付テハ、貴族院ハ發案
權ヲ有シテ居ナイニ拘ラズ、政府提案以
外ニ新條項ヲ加ヘテ審議スルコトガ出來ル
ト云フコトニ決シテ居リマス、次ニ法律
案ニ付テハドウカ、卽チ政府又ハ衆議院
ガ提出シタ法律案ニ付テ之ヲ修正シテ、提
案以外ノ新條項ヲ加ヘルコトガ出來ルカ
ドウカ、法律案ニ付テハ貴族院ニ發案權ガ
アルノデアリマスルカラ、提案外ニ必要ト
認メル新條項ヲ加へ得ルト云フノガ通說デ
アリマシテ、是ガ出來ナイト云フ消極說ハ
私ハ寡聞ニシテ聞イタコトガアリマセヌ、
又先例ヲ調ベテ見マシテモ、原案ノ條項以
外ニ貴族院ガ獨自ノ立場ニ於テ、必要ト認
ムル新條項ヲ加ヘテ之ヲ議決シタ先例ハ澤
山アリマスルガ、之ニ反シテ貴族院ニ斯ク
ノ如キ權限ナシトシタ先例ハ一ツモナイノ
デアリマス、次ニ委員會デハドウカ、委員
會ハ付託セラレタ法律案ニ付テノミ審議權
ヲ有スルモノデアル、其ノ法律案ノ條項ニ
付テノミ審議スベキデアッテ、原案ニナイ
條項ヲ加ヘルコトハ出來ナイノデハナイカ
ト云フヤウナコトガ問題ニナッタコトハア
ルヤウデアリマス、而シテ色々問題ガアリマ
シタ結果、「委員會ニ於ケル法律案ノ修正範
ゝ圍ニ關シテハ屢〓、疑義ヲ生ジ左ノ如キ例ア
リト雖」、-色々ノ例ガアルガ、「要スルニ
當然影響ヲ受クベキ事項外ニ渉ルコトヲ避ク
ルヲ例トス」、斯ウ云フコトニナッテ居リマ
ス、而シテ問題ハ「當然影響ヲ受クベキ事
項」ト云フモノノ範圍如何ト云フコトニナッ
テ居ルノデアリマスガ、是ハ嘗テ兩院協
議會ノ修正意見ノ範圍ニ付テ議論ガアリマ
シテ、大正十四年ノ第五十議會ニ於キマシ
テ、兩院協議會ニ於テ同ジ問題ガアリマシ
タ際ニ、其ノ當時ノ花井卓藏氏ガ「兩院協
議會ノ議事ハ兩院議決ノ一致セサル事項及
當然影響ラ受クヘキ事項ノ外ニ涉ルヲ得サ
ルコト」ト斯ウ云フコトニナッテ居ル、而シ
テ果シテ當然影響ヲ受クベキ事項ナリヤ否
ヤト云フコトハ解釋ノ仕樣ニ依ッテハ相
當ノ問題ト相成ルコトデアラウト思フノデ
アリマス、廣ク解スレバ勿論今問題ニナッテ
居ルコトガ影響ヲ受クベキモノデアル、狹
ク解スレバ議論ガアリマスト、併シナガラ
廣イ法律的見地ニ立チマシテ協議會ニ於テ
ハ此ノ範圍ヲ廣ク解スルト云フコトニナッ
タノデアリマスト云フコトヲ本會議ニ報〓
致シマシテ、而シテ其ノ當時ノ議長德川公
爵ガ、「兩院協議會ニ於テ昨日廣イ解釋ヲ取
ラレタコトト議長ハ認メテ居リマス、而シ
テ議長モ之ニ同意ヲシテ居ル次第デアリマ
ス」ト云フコトヲ議場ニ宣告シテ、此ノ當
然影響ヲ受クベキ事項ノ外ニ涉ルコトヲ得
ザルト云フコトハ非常ニ廣イ解釋ヲ取ル、
ソレニ依ッテ兩院協議會ノ審議權ヲ强クハ
拘束シナイト云フ先例ガ兩院協議會ノ審議
權ニ付テ出テ居リマス、丁度同ジ文句ヲ用
ヒテ居ルノデアリマスカラ、其ノ當然影
響ヲ蒙ルコト以外ニ涉ルコトヲ得ズト
云フ文句ハ、相當廣ク解釋スベキモノト
思フノデアリマス、是ハ理論カラ申シマシ
テモ、委員會ヲ設ケタ趣旨ハ、貴族院ノ審
議スベキコトヲ愼重ニ下調ベセヨト云フ爲
デアリマスルカラ、ソレカラ當然出テ來ル
結論デアリマシテ、先例ヲ調ベマスレバ
マア非常ニ澤山ノ先例ガアリマス、其ノ最
モ顯著ナルモノハ、當委員會ニ於テ問題ト
ナリマシタ關係上、委員各位ノ能ク御承知
ニナッテ居ル所ノ、昭和九年第六十五議會ニ
於ケル治安維持法改正案委員會ノ先例デア
リマス、其ノ際ノ政府ノ原案ハ、昨年ノ第
七十六議會ニ通過致シマシタモノト同ジモ
ノデアリマシテ、國體變革ノ罪、國體ノ否
定、神宮、皇室ノ尊嚴冒瀆ノ罪、私有財產
制度否認ノ罪ニ關スル規定ハアリマシタ
ガ、政體變亂ノ罪ニ付テハ原案ニハ何等規
定スル所ガナカッタノデアリマス、然ルニ委
員會ハ「憲法ノ定ムル統治組織ノ權能ヲ不
法ニ變壞スルコトヲ目的トスル結社竝ニ其
ノ目的遂行ノ爲ニスル行爲」ヲ罰スル規定
ヲ加ヘマシテ之ヲ可決致シタノデアリマズ、
而シテ本會議ニ於テモ委員會決定ノ通リ決
議ニナッテ居リマス、此ノ委員會ニ於テ加ヘ
ラレマシタ條項ハ原案ニナイ所ノモノデア
リマシテ、政府ハ之ヲ治安維持法中ニ規定
スルコトノ筋違ヒデアルト云フコトヲ述べ
タ程デアリマスガ、委員會本會議共ニ之ヲ
可決致シマシテ、斯クノ如キ條項ヲ加フル
コトガ委員會ノ權限デアルトカナイトカ、
貴族院ノ審議權ノ範圍內デアルトカ範圍外
デアルトカ云フヤウナ說ハ、委員會ニ於テ
モ本會議ニ於テモツイゾ出ナカッタコトハ
此處ニ御出席ノ、其ノ當時委員トシテ之ニ關
係セレラマシタ山岡委員、岩田委員ノ能ク御
記憶ニ相成ッテ居ルコトト存ジマス、尙參考ノ
爲ニ貴族院ノ委員會ト同ジ規定ニ基イテ設
ケラレマシタ衆議院委員會ノ先例ヲ調査シ
テ見マスルト、「議案ノ分割、併合又ハ其ノ
事項ノ擴張、其ノ種別、性質、內容及表題ノ
變更ハ總テ之ヲ修正ト認ムルノ例ナリ」ト、
詰リ委員會ノ修正權ノ範圍ニ屬スルト云フ
コトニナッテ居ルノデアリマス、右ノ次第デ
アリマスルカラ、私ガ只今提出致シマシタ
修正動議ニ付テ、本委員會ガ審議スル權能
ガナイト云フ疑問ハ之ヲ生ズル餘地ナイ
モノト考ヘテ居ル次第デアリマス、最後ニ
本修正動議ニ關シテ私ノ執ラムトスル態度
ニ付テ一言附加ヘテ申述ベルコトノ御許
ヲ願ヒタイノデアリマス、私ハ私ノ修正動
議ハ必ズヤ委員各位ノ御贊成ヲ得ルコトト
信ズル者デアリマスルガ併シ萬一ニモ之
ガ否決セラルヽコトニナリマシタ場合ニ、
私ハ本會議ニ於テハ修正動議ヲ出サナイ積
リデアリマス、本委員會モ既ニ數囘ニ亙ッテ
開カレ、私モ大體論議ヲ盡シタト思ヒマス、
本委員會ニ於テ否決セラレタト致シマスレ
バ本會議ノ態勢モ之ニ依ッテ略〓推推サレ
ルノデアリマスルカラ、戰時下ノ議場ニ於
テ議論ノ爲ニ議論ヲスルト云フコトハ、之
ヲ避クルコトニ致シタイト存ジマス、唯私
ガ前申シマシタ第三ノ論點、卽チ當委員會
ニ於テ私ノ提出シマシタ修正動議ヲ、議ス
ル權限ナシトノ理由ヲ以ッテ之ヲ一蹴サル
ル場合ニ於キマシテハ、事實ニ貴族院ノ審
議權、貴族院ノ委員會ノ審議權ニ關スル恆
久的ナ重大問題デアリマスルカラ、私ハ本
會議ニ於テ飽ク迄モ爭フ決心デアリマス、
是ダケノコトヲ申添へテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=29
-
030・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德)君) ソレデハ時間
モ過ギマシタカラ暫ク休憩ヲ致シマス、午
後ハ一時半カラ再開ヲ致シタイト思ヒマス
午後零時二十三分休憩
午後一時三十六分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=30
-
031・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 午前ニ引續キ
マシテ委員會ヲ再開致シマス、御質疑ハゴ
ザイマセヌカ······御質疑ハナイモノト認メ
マス、修正案ニ對スル討論ニ入リマス、別ニ
御發言モナイト存ジマスノデ、修正案ニ對
シテ採決ヲ致シマス、修正ヲ可トスル委員
ノ擧手ヲ求メマス
〔擧手者少數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=31
-
032・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 少數ト認メマ
ス仍テ修正案ハ否決サレマシタ、修正案
否決ニ依リマシテ原案ニ復歸ヲ致シマシタ
ガ、原案ノ討論ヲ留保致シマス、戰時民事
特別法案、竝ニ戰時刑事特別法案ニ對シ修正
ノ御意見ガ何レモ否決トナリマシタノデ、
此ノ際原四案、卽チ戰時ニ於ケル領事官ノ
裁判ノ特例ニ關スル法律案、戰時民事特別
法案、戰時刑事特別法案、裁判所構成法戰時
特例案ヲ一括致シマシテ討論ニ移リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=32
-
033・山岡萬之助
○山岡萬之助君 私ハ只今議題トナリマシ
タル法案ニ對シマシテ贊成スル者デアリマ
スガ、以下少シク其ノ理由ヲ申述ベテ見タ
イト思フノデアリマス、政府ハ戰時下ニ於
キマスル司法對策トシテ、民法刑法ノ改正
及裁判所構成法等手續法ノ改正案ヲ計畫
セラレタノデアリマス、其ノ中主ナル改正
點ハ裁判手續ニ於キマシテ、民事刑事ニ亙
リ一定ノ事件ニ付キマシテ、控訴審ヲ省略
シ、且其ノ事件ニ關スル範圍ニ於テ上告審
ヲ控訴院ニナシマシタコト、民事ニ付キマ
シテ、攻擊防禦ノ方法、提出ノ時期ヲ限定
シ、喚出シノ方法及證據採集ヲ簡便ニシ、
調停手續ニ於キマシテハ非常ニ擴大セラレ
タノデアリマス、又刑事ニ付キマシテハ、
辯護人ノ數ヲ制限シ、證據方法ヲ擴張シ及
ビ判決作成ニ付キマシテ、證據ノ說明及法
令ノ適用ヲ簡便ニシ、上〓審ニ於キマシテ
書面審理ヲ認メマシタル等、要スルニ裁判
手續ノ簡易化ヲ圖ラレ、其ノ他領事裁判ノ
規定ヲ改メ、又實體法ニ於キマシテ、刑法
ヲ修正シテ刑罰ヲ過重シ、犯罪ヲ整備セラ
レタノデアリマス、是等ニ依リマシテ時局
ノ必要ニ應ゼムトスル措置ハ、大體ニ於キ
マシテ之ヲ是認スベキモノデアルト思フノ
デアリマスサリナガラ之ヲ仔細ニ檢討致
シマスレバ、各條章ニ於テ其ノ可否必ズシ
モ論議スベキモノナシトハシナイノデアリ
やっ、然レドモ戰時下ニ於ケル一時ノ非常
立法デアリマスルカラ、之ヲ協賛スルコト
ニ躊躇セザル次第デアリマス、然レドモ時
局ハ極メテ重大デアリマシテ、且相當長期
ニ亙ルコトト覺悟シナクテハナラヌト思ヒ
さっ、從ッテ現下ノ情勢ニ於キマシテ、其ノ
運用ニ付キマシテハ最大ノ注意ヲ以テ是ニ
臨ミ、萬遺算ナキヲ期シマシテ、司法ノ傳
統ヲ苟モ障碍スルヤウナコトノナイヤウニ
努メナケレバナラヌコトハ申ス迄モナイ次
第デアリマス、尙之ヲ詳シク申セバ、手續
ヲ簡易ニ致シマシタル爲ニ、裁判ノ本質デア
ル正義ノ具體化ニ些カノ影響ナカラムコト
ヲ深ク望ム次第デアリマス、國民ハ從來ノ個人
主義或ハ自由主義ニ基キマシタ煩瑣デアリ、
非常ニ鄭重デアル規定、之ヲ私ハ國民ガ望
マナイトハ申サナイ、鄭重ノ手續ヲ受ケル
コトハ勿論國民ノ希望スル所デアルト思ヒ
マスケレドモ、併シ國民ガ裁判ニ對スル眼
目トスル所ハ、何ト申シテモ、裁判手續自
體ヨリモ、訴フル所ノ目的ノ正義化デアル
デアラウト思フノデアリマス、卽チ正シキ
裁判ヲ得フト云フコト、是ガ國民ノ要望デア
ルト考ヘルノデアリマス、デアリマスルカ
ラシテ、手續ヲ簡易ニシタガ爲ニ、此ノ要
望ニ苟且ニモ副ハヌヤウナコトガアリマス
ナラバ、是ハ誠ニ重大ナル結果ヲ生ズルコ
トト考ヘマス、今日迄我ガ司法ハ、當局ノ
努力ニ依リマシテ、其ノ威嚴ヲ保持セラレ
タコトヲ私ハ信ズルモノデアリマス、デ、各案
ヲ實行ニ移シマシタル場合ニ於キマシテ、可
否若シクハ便否、ソレ等ニ付キマシテ、立
案セラレマシタル際ニ豫想シナイ事態ノ生
ズルコト、卽チソレ等ノ事態ニ逢著致シマ
スコトハ誠ニ見易イ道理ダト思ヒマス、
條文ノ數コソ誠ニ少イノデアリマスケレド
モ、ソレニ包括致シマス內容ハ誠ニ廣汎デア
リマシテ、其ノ影響スル所誠ニ多ク、一口ニ
申上ゲレバ、司法ノ大改革、大變革デアル、
斯ウ申シテ宜カラウト思フノデアリマス、
司法當局ハ此ノ際常ニ實際ヲ視察セラレマ
シテ、且之ヲ統督シテ、其ノ成果ヲ擧ゲラ
レルヤウナ方途ヲ講ゼラレタイノデアリマ
ス、私ハ思フノデアリマス、明治以來西洋
依存ノ舊套ヲ打破シテ、我ガ國獨自ノ文化
ヲ基調ト致シマシタル政治、經濟、其ノ他
諸般ノ方面ニ亙リマシテ改革ヲ斷行シナケ
レバナラヌ時期デアルト云フコトハ、東亞
新秩序ヲ樹立スルト云フ我ガ國是カラ當然
ニ矢張リ來ルモノデアリマシテ、卽チ今日ハ
其ノ潮流ノ中ニアルモノト思フノデアリマ
ス、故ニ司法ニ於キマシテモ、此ノ流レニ
從ヒマシテ根本的ノ改革ヲ要スルコトハ論
ズル迄モナイト私ハ思フノデアリマス、ソ
レ故ニ今次ノ改正案ガ現行法ノ關係ヨリ非常
ニ異リマシテ卽チ此ノ立法ヲ運用スルト
云フコトハ、形式カラ申セバ一時的ナコト
デアリマスルケレドモ、併シ右述ベマシタ
ル意味ニ於キマシテ、冀ハクハ司法ノ當局
ノ方々ハ、今日迄、日本精神ニ基ク法制ノ
方面ニ於キマシテモ相當御〓究ニナッタト
承知致シテ居ルノデアリマスルガ、此ノ上
此ノ〓究ハ益〓進メラレマシテ、此ノ改正案
ニ於ケル實際ノ運用ニ於テ其ノ根本精神ヲ
徹底具現セラレマスコトヲ望ミ、而シテソレ
ニ依リマシテ將來司法改革ノ方向ト云フモ
ノヲ裁判慣例ノ上ニ現スヤウニ願ヒタイト
思フノデアリマス、此ノ度ノ改革ハ可ナリ
廣イ範圍ニ亙ツテ居ルノデアリマシテ、今
日迄控訴審ガアリマシテ、能ク世間デ申ス
經濟事犯ニ付キマシテハ、一審ノ裁判ガ相
當數ニ於テ控訴審ニ於テ是正セラレテ居ル
コトハ事實デアリマス、ソレガ控訴審ガ廢
セラレルノデアリマスルカラ、在來兎ニモ
角ニモ是正サレタ其ノ事ガ、審級ヲ失フ結
果、ナクナルノデアリマス、ドウゾ、審級
ハナクナリマシテモ有ラユル努力ニ依ッ
テ斯クノ如キ結果ヲ、一審限リニ於キマシ
テモ正シク進メラレマシテ、以テ一面ニハ
國家非常ノ時局ニ善處シ、他面ニ於テハ國
民ノ要望スル所ニ副ハレムコトヲ深ク望ム
ノデアリマス、是ハ旣ニ此ノ審級ノ廢止ガ
前ノ議會ニ於テ一部ノ犯罪ニ付テハ行ハレ
テ居ルノデアリマスルケレドモ、此ノ度ノ
ハ民刑ニ亙ッテ居ルコトデアリマス、裁判全
體ニ關スルノデアリマスカラ、若シ之ニ依ツ
テ裁判事件ノ眞相ト云フモノヲ假ニモ阻害
スルヤウナコトガアリ、從來ノ傳統ヨリ來
ル司法ノ正義具現化ト云フコトニ障害ヲ與
ヘマスルナラバ根本的改革ヲ爲スニ付キマ
シテモ非常ナ障害トナルコトト考ヘマス、
時局ガ重大デアリマスルカラ、一時的法律
ダカラ是ハ進メテ行カニヤナラヌ、其ノ方
ニ急ニシテ其ノ根本ヲ誤リマスルナラバ、
今日ノ流ニ沿フ所ノ改革ト云フモノニ非當
ナ支障ヲ生ズルト私ハ思フノデアリマス、
何卒是等ノ意味ヲ御了承下サレテ、此ノ法
規自體ニ於テハ論議スベキモノハ相當アル
ト思ヒマス、併シ法ハソレ自體直チニ働ク
モノデナク、運用スル人ニ在リマスカラ、
何卒其ノ人ヲ、裁判所其ノ他ノ一審判事ヲ
十分ニ立派ナ人ニセラレマシテ、サウシテ
練達堪能ナ人ヲソレニ充テテ實績ヲ御擧ゲ
下サルコトヲ此ノ際私ハ吳々モ希望スル者
デアリマス、此ノ考ヲ以テ此ノ法律案ニ贊
成ノ意ヲ表スル者デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=33
-
034・伊江朝助
○男爵伊江朝助君 私モ全法案ニ對シテ贊
成デアリマス、先程次田君ノ修正意見ニ對
シマシテ、遺憾ナガラ反對致シマシタノハ、
司法大臣ガ吏道刷新ニ對シテ今後深甚ナ注
意ヲ拂ヒ、サウシテ善處スルト云フ從來ノ
御言葉ガアッタカラコソデアリマス、尙本議
場ニ於キマシテ總理大臣ヨリ吏道刷新ニ對
シテ飽ク迄モ善處スルト云フ御聲明ヲシテ
戴クコトヲ委員長ヲ通シテ希望スル次第デ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=34
-
035・舟橋清賢
○子爵舟橋〓賢君 私此ノ際自分ノ希望竝
ニ意見ヲ述ベテ當局ノ御所信ノ在ル所ヲ伺
ヒタイト思ヒマス、御差支アリマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=35
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036・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) ドウゾ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=36
-
037・舟橋清賢
○子爵舟橋〓賢君 日支事變以來、更ニ大
東亞戰爭以來經濟統制ガ强化致サレマシテ、
工場、會社ノ整理統合、民間營業ノ廢合等、
經濟組織ノ整理統制ニ連レマシテ、國民ノ
中ニハ業ヲ失ヒ、又多數ノ轉業者ヲ出シテ
參ッタノデアリマス、併シナガラ國民ハ聖戰
貫徹ノ目的遂行上必要ナラバ如何ナル忍苦
ニモ堪ヘ、一億一心政府ノ政策ニ協力セム
トスル熱意ト決心ヲ致シテ居ルノデアリマ
スルガ、何分今囘ガ初メテノ經驗デアリ、
不自然デアルノデアリマスノデ、中ニハ知
ラズ識ラズ法規ニ違反スル者モ出デ、又中
ニハ不心得ノ者モ生ズルコトハ甚ダ遺憾ト
存ズル次第デアリマス、卽チ近來經濟事犯
ノ激增ガ其ノ間ノ消息ヲ物語ルモノデアリ
マス、國民ノ一部ニハ政府ハ人民ニ此ノ
種ノ非違ガ一度アレバ、法ヲ以テ之ニ臨ム
ニ極メテ峻烈、苟モ容赦スル所ガナキニモ
拘ラズ、之ニ反シ官公吏ノ非違ニ對シテハ
頗ル寛容デアルトノ聲ヲ聞クノデアリマス、
事實若シ果シテ斯クノ如クデアリマスルナ
ラバ、之ガ人心ニ及ボス影響ハ申スニ及バ
ズ、國策遂行上甚ダ遺憾千萬ト存ズルノデ
アリマス、官公吏ノ瀆職事犯ガ相當ニ增加
ノ傾向ニ在ルコトハ事實ト認ムルノデアリ
マスルガ、國民ガ今日政府ニ對シ望ム所ハ、
苟モ官公吏ニシテ此ノ種ノ非違ガアリマス
ルナラバ、峻嚴ナル處斷ヲ以テ臨ンデ欲シ
イト云フ點デアリマス、又所謂右翼ノ取締
ニ付キマシテモ、是迄遺憾ナル點ガ果シテナ
カリシヤ否ヤ、法ヲ掌ル者ガ法ヲ掌ル自信
ヲ失ヒマスコトガ若シアリマスルナラバ、
法ガ代ッテ人ヲ支配シ、人ガ法ニ捉ハレル結
果トナリ、其ノ結果ハ呑舟ノ大魚ハ常ニ空シ
ク逸シ去ッテ、網ニ掛カルモノハ細鱗ノミトナ
ルノデアリマス、數年ノ審理ノ後、昨年漸
ク結審致シマシタ有名ナル某右翼團體ノ事
件ノ如キハ、私ニハ甚ダ其ノ感ガ深イノデ
アリマス、當局トシテ斯クノ如キ事犯ニ對
シテハ斷乎タル信念ヲ以テ處置セラレムコ
トヲ希望スルト共ニ、此ノ機會ニ於テ當局
ノ御方針ナリ、御信念ノ在ル所ヲ伺フコト
ガ出來レバ誠ニ幸ヒト存ズル次第デアリマ
ス、私ハ此ノ際只今提出セラレマシタ各案
ニ對シテ贊成ノ意ヲ表スルト共ニ、聊カ所
見ヲ述ベテ當局ノ御所信ノ在ル所ヲ伺ヒタ
ク存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=37
-
038・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今ノ御尋ニ付
キマシテ御答ヘ申上ゲマス、官公吏ガ經濟
統制ノ强化セラレタ今日瀆職ノ罪ヲ犯スト
云フコトニ付テ誠ニ遺憾デアルト云フコト
ハ此ノ間私カラ縷〓申上ゲマシタ通リデ
アリマス、國民一般ハ慣レナイ經濟統制ノ爲
ニ、非常ニ此ノ數年ノ間苦シミ、能ク此ノ程
度迄辛抱シテ、時局ニ當面シテ苦シミヲ忍
ンデ此ノ程度迄能ク參ッタモノト私ハ考ヘ
六、國民ニハ感謝ヲ致シテ居リマス、併シ
中ニハ犯罪ヲ數囘重ネタト云フヤウナ不心
得ノ者モゴザイマス、斯ウ云フ者ハ嚴罰ニ
處サナケレバナラヌ者モアラウカト思ヒマ
ス、中ニハ法律ヲ知ラナイトカ或ハ慣レナ
イト云フヤウナコトデ、極ク輕微ナモノモ
アラウカト思ヒマス、サウ云フ點ハ能ク檢
別致シマシテ、經濟統制違反ニ付テハ處置
ヲ致シテ居ル積リデゴザイマス、官公吏
ノ殊ニ官吏ノ統制經濟等ニ關シテ瀆職ヲ
犯スト云フヤウナコトニ付キマシテハ、嚴
重ニ私ハ取締、檢擧モ致シテ行ク考デゴザ
イマス、其ノ點ハ御話ノ通リデ、全ク同感
デアリマス、ソレカラ次ニ右翼ノ取締ニ付
テ色々御話、御意見ガゴザイマシタガ、是
モ此ノ委員會ニ於テ度々申上ゲマシタ通
リ、今囘ノ戰時刑事特別法第七條ニ新シイ
規定ヲ設ケマシタノモ、全ク御趣意ノ點ヲ
斟酌致シマシテ、斯樣ナ規定ヲ設ケタノデ
ゴザイマス、無論此ノ七條デ從來議論ニナッ
テ居ル點ガ全部蔽ハレテ居ルカドウカト云
フコトハ尙〓究ノ餘地ガアラウト思ヒマス
カラ、十分〓究致シタイト思ヒマス、右翼
ノ取締ト云フ言葉ガ當ッテ居ルカドウカ分
リマセヌガ、現在ノ政治等ニ對シテ、或
政策等ニ對シテ反對ヲ唱ヘ、暴力ニ出ヅル
ト云フ者ガ相當アルノデアリマス、斯樣ナ動
議ニ依ッテ、例ヘバ殺人行爲ヲスルトカト云
フヤウナ事柄ガゴザイマシタナラバ、是 A
嚴重ニ取締ラナケレバナラヌト私ハ考ヘテ
居リマス、從來モ左樣ニ考ヘテ居リマス、
將來モ同ジデアリマス、但シ此ノ際、チヨット
先程ノ御質問ニ對シテ御答ヘスルコトニ付
テ特ニ御注意ヲ願ハナケレバナラヌト思ヒ
マスルノハ檢察ト裁判ノ關係デゴザイマ
ス、檢察ニ於テハ今私ガ申上ゲル通リ、
嚴重ニ取締、檢擧ヲ致ス積リデアリマス、
是ハ私ガ責任ヲ以テ申上ゲマス、唯私カラ
申上ゲルノハ、裁判ハ法令ニ依ッテ天皇ノ
御名ニ於テ裁判ヲ致スノデアリマス、是ハ他
ノ官廳ノ掣肘ヲ受ケルベキモノデハナイ、
所謂裁判ノ獨立ト云フコトハ、是ハ私カラ
申上ゲル迄モナイノデアリマス、御指摘ニ
ナリマシタ事件ハ、恐ラク神兵隊事件ヲ指
シテノ御話デハナイカト思ヒマス、ソレニ
對シテハ民間カラ私モ色々說ハ聽イテ居リ
やっく、併シ裁判ダケハ矢張リ裁判ノ手續デ
之ヲ攻撃スベキ方法ガ出來テ居リマスカラ、
私共司法部ノ者ト致シマシテハ裁判ニ付
テ之ガ批評ヲスルト云フコトハ避ケタイト
思ヒマス、裁判ガ或ハ輕イトカ、或ハ重過
ギルトカト云フコトハ矢張リ裁判ノ攻擊
スル方ノ途ヲ通シテデゴザイマセヌト、私
共司法部ノ者ト致シマシテハ、現在ノ裁判
ガドウデアルト云フヤウナコトニ、事後デ
ハゴザイマスケレドモ、裁判ヲ直チニ批判
スルト云フコトハ、矢張リ將來ノ裁判ニ影
響ヲ與ヘルコトガアッテハナラヌト思ヒマ
ス、是ハ裁判官ハ無論法令ニ依ッテ天皇ノ
御名ニ於テ裁判ヲ致スモノデアリマスカラ、
其ノ責任ハ頗ル重イノデアリマス、十分法
律ノ規定スル所、法ノ精神ニ從ツテサウシ
テ正當ナル裁判ヲ致スベキデアリマス、是
ハ裁判官ノ修養ニ俟ツベキモノト私ハ考ヘ
テ居リマス、其ノ點ハ左樣ナ次第デゴザイ
マスカラ、裁判ニ關シテノ意見ハ私ハ差
控ヘタイト存ジマス、檢察方面ニ於キマシ
テハ、只今御述ニナリマシタ通リ、殊ニ長
期戰下ニ於キマシテ國政ヲ變亂スル目的
ヲ以テ殺人スルト云フヤウナ事柄ハ、殊一
秩序カラ考ヘマシテモ、寒心スベキコトデ
アリマス、十分御趣旨ニ副ウテ取締ヲ致ス
考デゴザイマス、簡單デゴザイマスガ、御答
ヘ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=38
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039・舟橋清賢
○子爵舟橋〓賢君 私モ裁判ニ對シテ只今
批評ヲ致シタ次第デハ決シテナイ、唯當
局ノ是等事犯ニ對スル將來ノ御信念、斷乎
タル御信念ト申シマスルカ、善處ヲ希望致
シタ次第デアリマス、誤解ノナイヤウニ願
ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=39
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040・岩田宙造
○岩田宙造君 私ハ只今議題ニナッテ居リ
マスル四ツノ法律案ニ付キマシテハ、最善ノ
策トシテハ、午前ニ此處ニ現ハレマシタ修
正ヲシテ可決セラレルコトダト確信シテ
居ッタノデアリマスガ、修正案ハ不幸ニシテ
否決セラレマシタカラ、是ハ斷念スル外ハ
ナイノデアリマシテ、其ノ次善ノ策ト致シ
マシテハ矢張リ此ノ四ツノ原案ヲ通過スル
コトニ在リト考ヘマスノデ、贊成ヲ致ス者
デアリマス、併シナガラ同時ニ一一、三ノ希望
ヲ申上ゲテ置キタイノデアリマス、ソレハ
マア何シロ此ノ法案ハ當局ニ於カレマシテ
モ短カイ時期ニ咄嗟ニ御立案ニナッタコト
ト考ヘマスルカラ、愈〓之ヲ實施シマシタ曉
二、或ハ豫想ニ反シタヤウナ事柄モ發見
セラレルコトナイトハ限ルマイト思フノデ
アリマス、又豫想外ノ事柄ガ現ハレルト云フ
コトヲ別ニ致シマシテモ、更ニ時ヲ藉シ
テ愼重ニ御〓究ニナリマスレバ、ヨリ斯
ウシタ方ガ宜イト云フヤウナ點モ發見サ
レルコトモナイデモナカラウカト考ヘルノ
デアリマス、斯樣ナ場合ニハ臨時立法ト
ハ申シナガラ何人モ長期戰ヲ豫想シテ居ル
ノデアリマスカラ、相當戰時狀態モ繼續ス
ルコトト思ヒマスカラ、サウ云フ時ニハ
ドウカマア、サウ云フコトガナイトハ考へ
マスガ、行掛カリニ拘泥セズ、虚心坦懷ニ
速カニ一ツ修正案ヲ提出セラレルヤウニ希
望シテ置キタイ、特ニドウ云フ點ニ付テ御
考ヲ願ヒタイカ、是ハマア色々アリマスケ
ドモ、唯一、二ノ點ダケヲチヨット凡ソノ意見
ヲ由上ゲテ置キタイノデアリマスガ、其
ノ一ツハ裁判所構成法ニ關スル審級ノ點デ
アリマスガ、是ハ控訴審ガ廢セラレテ居ル
ノデアリマス、斯ウ云フ際デアリマスカラ
或審級ヲ省略スルコトモ已ムヲ得ヌコトト
考ヘマシタ上デ、是ハ控訴ト云フコトハ實ハ
大變大事ナコトダト私共考ヘルノデアリ
マークハー此ノ裁判、司法ニ依ッテ正義ヲ維持ス
ルト云フコトハ上〓審デ法律ノ適用ヲ誤ラ
ナイヤウニスルト云フコトモ固ヨリ大切ナ
コトデハゴザイマスガ、實ハ是ハ法律家ガ
主トシテ考ヘルコトデアリマシテ、國民ノ
大衆カラ申シマスト、實ハ法律適用問題ヨ
リモ事實ノ判斷、正シキ裁判ヲ受ケルト云
フ點ノ方ガ幾層倍關心ノ多イモノト考ヘル
ノデアリマス、ドウセ金ヲ拂ハセラレルナ
ラバ、法律、民法第何條ト云フ適用ガ誤リ
マシテモ、不法行爲デアラウト不當利得デ
アラウト、法律家ニハ大變ナ問題デアリマ
スガ、國民ノ方カラ言ヘバソレハ大シタ問
題デハナイ、併シナガラ實際借リテ居ラヌ
モノヲ借リタモノト認定サレテ支拂ハシメ
ラレルト云フコトハ、是ハ其ノ當事者ニ取ッ
テハ大變ナコトデアルノデアリマス、裁判
ノ事實ノ認定ガ間違ッタ場合ニハ、局外者ニ
ハ分リマセヌガ、其ノ裁判ガ正シイカ間違ッ
タカト云フコトハ分リマセヌガ、裁判ヲ受
ケル本人ニハ多クノ場合、明瞭ニ分ッテ居ル
ノデアリマス、デアリマスカラ、民事ノ事
件デ言ヒマスナラバ、事實ノ爭ノアル場合
ニ、先ヅ十中ノ九分迄ハ當事者ハドッチノ言
フコトガ本當デ、ドッチノ言フコトガ間違ッ
テ居ルト云フコトハ、肚ノ中デハ知ッテ居ル
ノデアリマスカラ、其ノ場合ニ、事實ニ間
違ッタ裁判ヲ受ケタト云フコトハ、其ノ本人
ニ取ッテハ非常ニ不滿ニ考ヘルノハ想像ニ
難クナイノデアリマス、刑事デハ固ヨリ一層
其ノコトハ强イト思フノデアリマス、然ルニ
御示ニナリマシタ統計等ヲ見マシテモ、控訴
ニ依ッテ事實ノ認定ガ或程度變更サレルト云
フコトハ、控訴サレタ事件ノ約半數ニ及ンデ
居ルノデアリマスルカラ、此ノ控訴ガナクナ
ルト云フコトニナリマスト、相當是正サルベ
キモノガ是正サレズニ判決サレルト云フコト
ニナル、況ヤ一審ハ控訴ガアルト云フコトニ
ナリマスト、是ハ人情デアリマスガ、愼重ニ
審理サレルノデアリマスガ、控訴ガナイト云
フコトニナリマスト、兎角好イ加減ニ認定サ
レテシマフト云フ虞ガ多分ニアルノデアリ
マスカラ、若シ此ノ控訴ガ廢セラレマ
シタナラバ、現在ニ於テ一審ノ判決ガ半分
是正サレルトシマスナラバ、控訴ガ廢セラ
レルナラバ、或ハ三分ノ二是正サルベキヤ
ウナ一審ノ判決ガアルト云フコトモ想像サ
レルノデアリマス、デアリマスカラ、辯護
士會等ノ意見ヲ見マストドウシテモ三審
ガイカナイナラバ、寧ロ控訴ハ其ノ儘ニシ
テ置イテ、上告審ヲ廢シテ貰ヒタイト云フ
ヤウナ意見モアルノデアリマシテ、是ハ實
行上可能デアルカドウカ、ソレハ愼重ナ
〓究ヲ要シマスケレドモ、實際ノ事務ニ當ッ
テ居ル者ノ意見トシテハ私ハ無理カラヌ
希望ダト考ヘマスカラ、控訴ヲ省略スルト
云フ點ニ付キマシテハ、之ヲ實施サレタ曉
ニ於テ、十分政府ニ於テモ能ク審査御〓究
アラムコトヲ希望スルノデアリマス、今一ツ
ハ、證人、鑑定人ノ取調ヲ簡略ニシテ、書
面デ出サセルコト、是ハ御承知ノ通リ、裁
判デ一番困ルノハ、證人ガ噓ヲツクト云フ
コトデアルノデアリマス、裁判ガ誤ラレル
原因ノ最モ主ナノハ證人ガ不正直デアル
ト云フ點ニアッテ、之ニドウシテ本當ノ事
ヲ言ハセルカト云フコトハ、日本バカリデ
ナク、世界各國、古今東西ヲ問ハズ、裁判
ニ關係シテ居ル者ノ苦心シテ居ル問題デア
リマス、ソレデモ法廷ニ喚出サレテ色々反
對訊問等ヲ受ケマスト、初メ噓ヲツイテ居ツ
タノモ色々尻ガ割レテ來テ、言葉ノ上デ
ハ改メナイニシマシテモ、裁判所カラ見マ
スト、是ハ噓デアラウトカ、本當デアラウ
トカト云フ見當ガ大抵附ク、殊ニ老練ナ
裁判官ニナレバ尙更デアリマス、其ノ御
心證ハ得ラレルノデアリマス、書面デ出ス
ト云フコトニナッテ、制裁モナイト云フコ
トニナリマスト、是ハドウモ無責任極マル
モノデ、私ハソレヲ證據ニ使フト云フコト
ハ非常ニ危險ナモノデハナイカト思フ、サウ
致シマスト、惡質ノ當事者、證人ヲ買收シタ
リナンカ敢ヘテスルヤウナ不德義ノ者ガ訴
訟ニ勝ッテ、證人ニ賴ミ込ンダリ買收スル
ヤウナコトヲ潔シトシナイヤウナ正直ナ者
ガ負ケル、サウ云フヤウナ結果ニナッテハ
大變デアリマスカラ、私ハ此ノ證人、鑑定
人ヲ書面デ陳述ヲサセルト云フ點ハ是ハ
最モ考ヘナケレバナラヌ點ト考ヘマス、從ッ
テ此ノ點モドウカ一ツ十分御考慮願ヒタ
イト思フノデアリマス、最後ニ今一ツ、是
ハ少シ死ンダ兒ノ齡ヲ數ヘルヤウナコトデ
アリマスガ、刑事ノ修正案ガ不幸ニシテ否
決サレタノデアリマスガ、是ハ考ヘ方デ、
此ノ點ニ付テモ私ハ御注意ヲ願ッテ置キタ
イト思フノハ、私ガ此ノ修正案ニ贊成致シ
マシタノハ、必ズシモ官公吏ノ犯罪ヲ、犯
罪人ガ澤山出來タカラ重ク罰スル、又重ク
罰シナケレバドウモ官公吏ノ官紀ガ振肅出
來ヌ、一サウ云フ立場カラノミ私ハ見テ居ラ
ヌノデアリマス、今日非常時局ニ於テ一億
一心デヤラナケレバナラヌト云フ際ニ、國
民ニ向ッテ大ナル犧牲ヲ求メテサウシテ重
刑ヲ以テ之ヲ臨ムト云フ場合ニ、是ハ殊ニ
經濟事象等ニ付キマシテハ、是ハ國民ノ、良
イ惡イハ別ト致シマシテ、ドウシテモ不滿
ヲ買フ場合ガ多々アルノデアリマスカラ、
之ニ重刑ヲ以テ臨ム場合、之ニ從ハナケレ
バナラヌゾト言ッテ國民ニ戒〓シテ之ヲ率
ヰテ行ク上ニ於キマシテハ、其ノ代リニ政府
ノ方ノ公務員モ斯ウスルノダゾ、オ前等バカ
リヲ責メルノヂヤナイ、公務員ニモ斯ウ云フ
重刑ヲ以テ臨ンデ居ルノダカラ、國民モ能
ク我慢シテ間違ヒナイヤウニシナケレバナ
ラヌ、此ノ重刑ヲ不平ニ思ッテハイカヌト云
フ意味デ、其ノ心構ヘヲ國民ニ知ラスト云フ
意味ニ於テ重大ナ意義ヲ持ッテ居ルト思ッテ
私ハ贊成シテ居ルノデアリマス、デアリマ
スカラ、其ノ公務員ノ刑ヲ加重スルト云フ
必要ハ何時アルカト言ヘバ、今日國民ノ刑
ヲ加重スル時ニアルノデアル、國民ダケヲ
責メルノヂヤナイ、其ノ職ニ在ル公務員ノ
方モ斯ウ云フ風ニシテアルノダカラ、君等
モソレニ滿足シナケレバナラヌト云フ、國民
ヲ率ヰル政府ノ心構ヘヲ國民ニ知ラスト云
フコトニ於テ重大ナ意義ガアルノデアリマ
シテ、必ズシモ斯ウ云フ風ニシナケレバ官
公吏ノ非違ヲ糺スコトガ出來ナイト云フ點
ノミ見テ私ハ贊成スルト云フ積リデハナ
カッタノデアリマス、デアリマスカラ、サウ
云フ點モ一ッ御考慮ヲ願ヒマシテ、併シ是ハ
否決ニナッタノデアリマスカラ、又相當ノ時
期ニ於テ、サウ云フ點モ御考慮ノ上デ、又
適當ナル立法方法ガゴザイマスナラバ、其
ノ時期ニ於テ誤ラヌヤウニ實行サレムコト
ヲ希望致シマス、サウシテ私ハ此ノ四ツノ法
案ニ贊成シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=40
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041・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 他ニ御發言ハ
ゴザイマセヌカ御發言ナイモノト認メマス、
討論ハ終結致シマシタ、仍テ議題ニ上ッテ居
リマス四案、卽チ戰時ニ於ケル領事官ノ裁
判ノ特例ニ關スル法律案、戰時民事特別法
案、戰時刑事特別法案及裁判所構成法戰時
特例案、之ヲ一括致シマシテ採決ヲ致シマ
ス、以上四案ヲ可決スルコトニ御異議ゴザ
イマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=41
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042・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳德君) 御異議ナイモ
ノト認メマス、仍テ右四案ハ本委員會ニ於
テハ可決ト決定ヲ致シマシタ、之ヲ以チマ
シテ散會ヲ致シマス
午後二時二十分散會
出席者左ノ如シ
委員長伯爵二荒芳德君
副委員長男爵伊江朝助君
委員
侯爵淺野長武君
子爵秋月種英君
子爵舟橋〓賢君
宮城長五郞君
山川端夫君
男爵島律忠彥君
男爵村田保定君
山岡萬之助君
次田大三郞君
澁澤金藏君
岩田宙造君
二瓶泰次郞君
國務大臣
司法大臣岩村通世君
政府委員
外務省條約局長松本俊一君
司法次官大森洪太君
司法省民事局長坂野千里君
司法省刑事局長池田克君
司法省調査部長齋藤直一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007902027X00719420202&spkNum=42
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