1. 会議録本文
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000・会議録情報
會議
昭和十七年二月六日(金曜日)午後一時三十分開議
出席委員左の如し
委員長 野村嘉六君
理事 鹽川正藏君 理事 松木弘君
理事 原惣兵衞君 理事 山本粂吉君
池田七郎兵衞君 池田清秋君
伊禮肇君 岸田正記君
高橋義次君 立川平君
内藤正剛君 長井源君
服部英明君 馬場元治君
古島義英君 一松定吉君
佐竹晴記君 北浦圭太郎君
三田村武夫君
同月五日戰時に於ける領事官の裁判の特例に關する法律案(政府提出、貴族院送付)
戰時民事特別法案(政府提出、貴族院送付)
戰時刑事特別法案(政府提出、貴族院送付)
及裁判所構成法戰時特例案(政府提出、貴族院送付)の審査を本委員に付託せられたり
出席國務大臣左の如し
司法大臣 岩村通世君
出席政府委員左の如し
外務次官 西春彦君
外務省東亞局長兼外務省亞米利加局長 山本熊一君
外務省條約局長 松本俊一君
司法次官 大森洪太君
司法省民事局長 坂野千里君
司法省刑事局長 池田克君
司法省調査部長 齋藤直一君
本日の會議に上りたり議案左の如し
戰時に於ける領事官の裁判の特例に關する法律案(政府提出、貴族院送付)
戰時民事特別法案(政府提出、貴族院送付)
戰時刑事特別法案(政府提出、貴族院送付)
裁判所構成法戰時特例案(政府提出、貴族院送付)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=0
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001・野村嘉六
○野村委員長 是カラ開會ヲ致シマス-
西外務次官発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=1
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002・西春彦
○西政府委員 只今議題トナリマシタ戰時
ニ於ケル領事官ノ裁判ノ特例ニ關スル法律
案ノ理由ヲ御說明申上ゲマス
此ノ委員會ニ於テ御審議ニ相成ルコトトナ
ツテ居リマスル、戰時民事特別法、戰時刑
事特別法及ビ裁判所構成法戰時特例等ノ法
律案ハ、何レモ戰時ニ於ケル司法上ノ特別
措置ニ關スルモノデアリマシテ、其ノ成立
施行ノ曉ニハ原則トシテ領事裁判ニモ當
然適用セラルルコトト相成ルノデゴザイマ
ス、併シナガラ領事裁判ハ國內ノ裁判トハ
著シク趣ヲ異ニ致シテ居ル點ガアリマスル
爲メ、是等ノ特別措置ヲ以テシテモ尙ホ足
ラザル點ガアルノデゴザイマス、殊ニ近時
中華民國在留邦人ノ急激ナル增加ニ伴ヒマ
シテ、領事官ノ裁判事務モ年々急速ニ增加
シツツアルノデアリマスガ、大東亞戰爭勃
發以來、日華間ノ海路連絡ハ船腹ノ不
足戰爭ノ危險等ノ理由カラ致シマシテ、
著シク制限セラルル情勢ニ立至ツテ參ツ
タノデゴザイマス、然ルニ現行ノ領事
裁判制度ニ於キマシテハ、領事官ノ豫審ヲ
ナシタ罪ノ公判及ビ領事官ノナシタ裁判ニ
對スル上訴ハ、何レモ國內ノ裁判所ニ於テ
管轄スルコトト相成ツテ居リ、就中所謂重罪
ニ該ル罪ニ付テハ如何ニ簡單輕易ナル事
件ト雖モ、領事官ハ常ニ豫審ヲ行フニ止マ
リ、公判ヲナシ得ナイト云フ嚴格ナル制限
ガアリマスル爲メ、領事裁判ノ圓滑ナル運
營ハ頗ル困難トナル事態ニ直面スルニ至ツ
タノデゴザイマス
旣ニ御承知ノ通リ、領事裁判ノ行ハレテ
居リマスル地域ハ、現ニ戰鬪行爲ガ行ハレテ
居ル現地デアリマスル爲メ、何ト申シマシ
テモ刑政强化ノ必要ハ國內ノ場合ヨリ一層
切實ナモノガアルノデアリマスルガ、只今申
上ゲマシタヤウナ、戰時下ニ於キマスル領
事裁判運營ノ困難ナル事情ヲ併セ考慮致シ
マスルトキハ、所謂重罪ニ該ル罪ニ付テハ
領事官ハ如何ナル場合ト雖モ常ニ豫審ヲナ
スニ止マリ、公判ヲナスヲ得ズトスル現行
制度ノ制限ハ、餘リニモ窮屈ニ過ギ、聞エ
事件處理上非常ナル困難ヲ生ズルバカリデ
ハナク、戰時下ニ於ケル刑政强化ノ必要ニ
卽應スル所以デモナイト信ズルノデアリマ
ス、是ヲ以チマシテ所謂重罪ニ該ル罪ト
雖モ、比較的簡單輕易ナル事件ニ關スルモ
ノニ付キマシテハ國內ノ裁判ト同樣、直
接公判ヲナスノ途ヲ開ク趣旨カラ致シマシ
テ、本法律案ヲ提出スルニ至ツタノデアリ
マス
尙ホ本法律案ニ於キマシテハ、裁判所構
成法戰時特例ヲ領事裁判ニ適用スル上ニ於
キマシテ當然必要トスル規定ヲモ設ケン
トスルモノデアリマスガ、各條ニ付テノ詳
細ナル說明ハ、條約局長ヨリ申上グルコト
ト致シタイト存ジマス
何卒十分御審議アランコトヲ希望致ス次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=2
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003・野村嘉六
○野村委員長 次ニ岩村國務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=3
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004・岩村一木
○岩村國務大臣 先ヅ第一ニ只今議題ニナ
リマシタ戰時民事特別法案ニ付キマシテ、
提案ノ理由ヲ補足シテ御說明申上ゲマス
此ノ法案ハ戰時ニ於ケル民事關係ノ紛爭
ノ處理ニ資セントスルモノデアリマス、御
承知ノ如ク戰爭ノ私法關係ニ及ボス影響ハ
千態萬樣デアリ、之ニ適應スル個々ノ規定
ヲ設ケルコトニ致シマスト、實ニ複雜多岐
ニ亙リ、如何ニ規定ヲ致シマシテモヽ其ノ
全部ヲ蔽フコト殆ド不可能ニ近イト申シテ
モ過言デハナイト考へラレマスノデ、寧ロ
條理ニ依ル互讓妥協ヲ基調トスル調停制度
ヲ擴張致シマシテ、戰時下隣保相助ノ精神
ノ下ニ、圓滿ニ各個ノ事案ヲ敏速妥當ニ解
決スル方ガ適當デアルト存ジマシテ、大體
其ノ方針ニ則リ、之ニ加ヘテ民事實體法及
ビ手續法ニ臨時應急ノ若干ノ特例ヲ設ケン
トスルモノデアリマス
先ヅ第一章ノ通則ハ實體法、手續法ニ共
通スルモノデアリマシテ、本法案ガ戰時ニ
限リ民事關係ニ付キ特例ヲ設クルノ趣旨ヲ
明カニスルト共ニ、戰爭ノ影響ヲ受ケテ、
所定期間內ニ定メラレタ行爲ヲ實行スルコ
トガ出來ナイ場合ハ、其ノ期間ヲ伸長スル
モノトシ、尙ホ法律上裁判所ガ新聞紙ニ公
告スベキモノト定メラレテアル事項ハ甚ダ
多ク、其ノ量モ亦極メテ多クナリ、新聞紙
ニ公〓揭載紙面ヲ得ルコトガ不可能ノ狀態
ニナツテ參リマシタノデ、戰時中裁判所ハ
官報ダケニ公〓スルコトニ致シタノデアリ
マス
第二章ハ民事訴訟ニ關スル特例デゴザイ
マシテ、其ノ一ハ銃後國民ノ戰時下ニ於ケ
ル勤務ノ關係、交通機關ノ情況等ニ鑑ミ、
一般訴訟關係人ニ最モ便宜ノ地ニ於テ裁判
ヲナシ得ル爲ニ、土地ノ管轄ニ關スル規定
ヲ緩和シ、又證人、鑑定人ヲシテ裁判所ニ
出頭セシムルコトナク、書面ノ提出ヲ以テ
之ニ代ヘ得ルモノトスルコト、其ノ二ハ訴
訟ノ圓滑ナル進行ヲ圖ル爲ニ、裁判所ハ攻
擊又ハ防禦ノ方法ヲ提出スベキ期間ヲ定メ
得ルモノトシ、其ノ期間內ニ提出シナカツ
タモノハ、裁判所ノ許可ノアツタ場合ダケ
ニ主張出來ルコトニシ、又電話、葉書等簡
易ノ方法ヲ以テ期日ノ呼出ヲナシ得ルモノ
トスルコト、其ノ三ハ)訴訟書類ニハ機密
ニ亙ル事項モ現ハレテ參リマスノデ、防諜
其ノ他公益上ノ必要アル場合ニハ、訴訟書
類ノ謄寫等ヲ制限シ得ルモノトスルコト、
其ノ四ハ誠實ナ債務者デアリナガラ、戰爭
ノ影響ニ因リ債務ヲ履行スルコトガ出來ナ
イヤウナ場合ニハ、債權者ノ經濟ニ甚ダシ
イ影響ヲ與ヘナイコトノ明カナトキニ限
リ、强制執行ヲ緩和シ得ルモノトスルコト、
其ノ五ハ裁判所構成法戰時特例ニ依ル控訴
審省略ニ伴フ手續規定ヲ設ケルコト等ニ付
テ規定セントスルモノデアリマス
第三章ハ破產及ビ和議ニ關スルモノデア
リマシテ、强制執行ニ付テ述ベマシタ所ト
同樣ノ事情ノアル場合ハ、破產宣告ヲ猶豫
スルコトガ出來ルヤウニスルコト、ソレカ
ラ和議條件ハ平等ナルヲ原則トシ、之ニ反
スルモノハ認メナイコトニナツテ居リマス
ルガ、債權者間ニ多少ノ差等ヲ設ケテモ衡
平ヲ害シナイヤウナ場合ハ、之ヲ認メテモ
差支ヘナイモノトシ、成ベク破產手續ニ依
ラナイデ解決出來ルヤウニシヨウトスルモ
ノデアリマス
第四章ニハ調停ニ關スル規定ヲ揭ゲタノ
デゴザイマシテ、現行六種ノ調停法ニ規定
アルモノハ勿論之ニ依ルノデアリマスガ、
其ノ以外ノ民事ノ紛爭ニ付キマシテモ、冐
頭ニ述ベマシタヤウナ理由カラ、廣ク調停
ニ付シ得ルモノト致シマシタガ、性質上調
停ニ適シナイ事案ハ、自ラ除外セラレルモ
ノデアルコトハ申スマデモゴザイマセヌ、
此ノ調停ノ手續ハ大體借地借家調停法ト同
樣ニナルノデアリマスルガ、多少異ル點ハ
調停裁判所ノ管轄ニ相當ノ餘裕ヲ設ケマシ
テ、場合ニ依ツテハ受訴裁判所ガ自ラ調停
スルコトモ出來ルモノトシタコト、調停ハ
裁判所內一定ノ場所デ之ヲ行フノヲ原則ト
致シマスガ、必要ニ應ジ所謂現地調停ヲナ
シ得ルモノトシタコト、債權ノ存在其ノ他
基本ノ關係ニ付テ爭ヒガナク、些細ナ點ニ
付テ話ガ纏マラナイヤウナ場合ハ、金錢債
務臨時調停法第七條ニ於ケルト同樣、調停
ニ代ル裁判ヲナシ得ルモノトシタコト、及
ビ辯護士ガ代理人トシテ出頭スル場合ハ、
裁判所ノ許可ヲ要シナイモノトシタコト等
デアリマシテ、是等ノ點ハ他ノ調停モ之ニ
步調ヲ合ハセルヤウニ致シタノデゴザイマ
ス
此ノ法案ノ大要ハ以上ノ通リデ、現時ノ
體制下痛切ノ必要ヲ感ズル事項ニ付テ、應
急臨時ノ特例ヲ設ケントスルモノデアリマ
ス
次ニ戰時刑事特別法案ヲ提出致シマシタ
理由ニ付キマシテハ、本會議ニ於テ其ノ大
綱ヲ御說明申上ゲマシタガ、此ノ際更ニ其
ノ理由ヲ若干補足シテ申上ゲマスト共ニ、
本法案ノ內容ニ關スル御說明ヲ申上ゲマシ
テ、御審議ノ參考ニ供シタイト存ジマス
國家ノ總力ヲ擧ゲテ大東亞戰爭ノ完遂ニ
邁進シテ居リマスル際、國內ノ治安ヲ確保
致シマシテ、國民ヲシテ安ンジテ職域奉公
ノ誠ヲ盡サシメマスト同時ニ、國防上有害
ナル影響ヲ與フル犯罪ヲ芟除スル爲メ有效
適切ナル方策ヲ樹立致シマスコトハ、最モ
緊要ナルコトト存ズルノデアリマス、燈火
管制中、又ハ人心ニ不安動搖ヲ生ゼシムル
ガ如キ事態ノ生ジマシタ場合、其ノ他戰時
下一般ニ於キマシテ、特ニ社會生活ノ安全
ヲ害シ、又ハ國防上有害ナル犯罪ガ頻發ス
ルヤウナコトガアリマスレバ、治安上、洵ニ
由々シキ問題デアリマスルノミナラズ、總
力戰ノ遂行ニ影響スル所モ亦少カラザルモ
ノアリト存ズルノデアリマス、而シテ現行
ノ刑法ハ、主トシテ平時ヲ對象トシタル法規
デアルノミナラズ、其ノ制定ハ內外ノ情勢ガ
今日ト格段ノ差アル三十有餘年前ニ係リ、總
力戰下ニ於ケル刑罰法規トシテハ、其ノ定
ムル刑罰ノ程度ニ於テ、將又其ノ規定スル犯
罪ノ種類ニ於テ、到底不十分ナルヲ免レナイ
ノデアリマシテ、此ノ際速カニ刑法ノ定ム
ル犯罪ノ中、戰時下特ニ之ガ豫防、鎭壓ヲ
必要トスルモノニ付キマシテ、其ノ刑罰ヲ
加重致シマスルト共ニ、他面總力戰ノ遂行
ニ有害ナル影響ヲ及ボスベキ犯罪ニ關スル
規定ヲ整備致シマスコトハ最モ緊要ニシ
テ缺クベカラザル措置ナリト確信致ス次第
デアリマス、併シナガラ刑罰ニ關スル實體
規定ト、之ガ實現ヲ任務ト致シマス刑事手續
トハ、恰モ車ノ兩輪ノ如キモノデアリマシ
テ、兩者相俟ツニアラザレバ、犯罪ノ豫防
竝ニ鎭壓ノ目的達成ヲ期シマスル上ニ於テ、
十二分ノ效果ヲ發揮シ得ザルモノナルコト
ハ敢テ申上ゲルマデモナイト存ズルノデ
アリマス、如何ニ刑罰ヲ加重整備致シマシ
テモ、犯罪事件ノ處理ガ的確、且ツ迅速ニ
行ハレナイト致シマスナラバ、刑罰ハ到底
其ノ威力ヲ發揮スルニ由ナク、犯罪ノ豫防、
鎭壓ノ目的達成ハ、得テ望ムベカラザル所
ト存ズルノデアリマス、隨テ刑罰ニ關スル
實體法ニ於テ、戰時ニ相應ハシキ應急ノ措
置ヲ講ジマスル以上、刑事手續法ニ於キマ
シテモ亦之ニ照應スル應急ノ措置ヲ講ズル
コトニ依リマシテ、審判ノ迅速適正化ヲ圖
リマスルコトハ、蓋シ必要缺クベカラザル、
要務トスル所デアリマス、卽チ本法案ハ、
裁判所構成法戰時特例案ト相俟ツテ、刑事ニ
關スル實體法竝ニ手續ニ付キ、戰時下緊急
已ムベカラザル措置ヲ定メ、以テ總力戰下
ニ適應スル刑政ノ實ヲ擧ゲント致シタモノ
デアルノデアリマス
以下實體規定竝ニ手續規定ニ關シ、法案
ニ付テ其ノ〓要ヲ御說明申上ゲタイト存ジ
マス
實體規定ハ、本法案第一章ニ「罪」ト題シテ
一括セラレテ居リマス、此處ニ規定致シマシタ
犯罪ハ、孰レモ戰時下治安ヲ確保シ、國防目
的ヲ達成スル上ニ於テ、絕對ニ其ノ豫防竝ニ
鎭壓ヲ必要ナリト思料イタシタモノデアリマ
シテ、第一條乃至第三條ハ放火ノ罪、第四條ハ
猥褻及ビ姦淫ノ罪、第五條ハ竊盜及ビ强盗ノ
罪第六條ハ恐喝ノ罪、第七條ハ國政變亂ノ
目的ヲ以テスル殺人ノ罪、第八條ハ防空ノ實
施ニ從事スル公務員ノ職務執行妨害ノ罪、第
九條ハ騷擾ノ罪、第十條ハ公共防空及ビ氣
象觀測妨害ノ罪、第十一條ハ公共通信妨害ノ
罪、第十二條ハ瓦斯又ハ電氣ノ公共利用妨害
ノ罪、第十三條ハ國防上重要ナル生產事業遂
行妨害ノ罪、第十五條ハ生活必需品ノ買占
及ビ賣惜ノ罪、第十六條ハ往來妨害ノ罪、
第十七條ハ住居侵入ノ罪、第十八條ハ飮料
水ニ關スル罪ニ關スル規定デアリマス、而
シテ放火ノ罪乃至恐喝ノ罪、卽チ第一條乃
至第六條ニ規定セラレタル犯罪ニ對シテハ、
「戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其
ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場
合ニ於テ犯サレタル時ニ限リ刑罰ヲ加重
致スコトニ致シタノデアリマス、蓋シ此ノ種
犯罪ハ斯カル特殊ナル狀態ニ於テ犯サレタ
ルモノニアラザル限リ、刑法ノ定ムル刑罰
ヲ以テ其ノ豫防及ビ鎭壓ニ十分ナリト思料
致シタルガ故デアリマス、第七條ノ國政變
亂ノ目的ヲ以テスル殺人ノ罪ハ、刑法所定
ノ殺人罪ノ特別規定デアリマシテ、戰時下
殊ニ斯カル犯罪ヲ防遏スルノ必要アルニ鑑
ミ、本條ヲ以テ之ニ對シ重キ刑ヲ規定シ、
且ツ事ヲ未然ニ防止スルノ刑罰的措置ヲ講
ズルコトト致シタノデアリマス、第十條乃
至第十五條ノ規定ハ、本法案ニ依リ初メテ
設ケラレタモノデアリマシテ、孰レモ治安
ノ確保、及ビ國防經濟完遂ノ見地ヨリ致シ
マシテ、缺クベカラザル規定ト存ズルノデ
アリマス、殊ニ第十五條ニ規定致シマシタ
業務上不正ナル利益ヲ得ル目的ヲ以テスル、
生活必需品ノ買占及ビ賣惜行爲ノ如キハ、
物資ノ偏在ヲ招來シ、其ノ配給ノ圓滑ヲ阻
害致スコト甚ダシキ行爲デアリマシテ、
國民生活ノ安定ヲ期スル立場ヨリ致シマシ
テモ、之ガ防遏ヲ期サナケレバナラヌト存
ズル次第デアリマス、是等ノ規定ヲ通ジマ
シテ、刑罰ハ刑法ノ定ムル所ニ比シ著シク
加重セラレテ居リマスガ、斯ク致シマシタ
理由ハ、戰時下ニ於キマスル此ノ種犯行ノ
鎭壓、豫防ノ爲メ此ノ程度ノ刑罰ヲ以テ臨
ムモ亦已ムヲ得ザル所ト思料シタルニ因ル
ノデアリマス
手續規定ハ本法案第二章及ビ裁判所構成
法戰時特例案ノ兩者ニ其ノ事項ノ性質ニ從
ツテ分屬セシメラレテ居リマス、手續規定
ニ關スル特例ノ要點ハ、結局次ノ二ツノ事
項ニ歸着致スト存ズルノデアリマス、其ノ
一ハ裁判所構成法戰時特例案第四條ニ規定
致シマシタ、特殊ノ限ラレタル罪ニ關スル
控訴審ノ省略デアリ、其ノ二ハ本法案第二
十八條及ビ第二十九條ニ規定致シマシタ、
上告手續ニ關スル特例デアリマス、而シテ
控訴審ノ省略ニ付キマシテハ、裁判所構成
法戰時特例案ノ御審議ノ際ニ讓リタイト存
ジマス、本法案第二十八條及ビ第二十九條
ニ規定致シマシタ上〓手續ニ關スル特例ハ、
上告審ニ於ケル書面審理ノ手續ヲ規定シ、
戰時下ニ於ケル上告審ノ機能ヲ發揮セシメ
ントスル趣旨ニ出ヅルモノデアリマス、其
ノ他裁判所ノ證據調ベノ範圍及ビ判決書ノ
方式等ニ關スル特例ハ、孰レモ戰時下ニ於
ケル刑事手續ノ的確且ツ迅速ノ爲メ蓋シ已
ムヲ得ザル所デアリマシテ、裁判所構成法
戰時特別案ト相俟ツテ、戰時刑事司法ノ機
能ノ發揮ニ遺憾ナキヲ期シタ次第デアリマ
ス
次ニ裁判所構成法戰時特例案ヲ提出スル
ニ至リマシタ理由ノ要旨ヲ申上ゲマス
旣ニ本會議ニ於テ申上ゲマシタ如ク、今
囘ノ大東亞戰爭中ニ限リ適用致ス趣旨ノ下
ニ、裁判所及ビ檢事局ノ本來ノ機能ヲ〓メ、
裁判、檢察ノ運行ヲ迅速的確ニシ、以テ國
內治安ノ維持ト、國民權義ノ保全トニ付キ
司法本來ノ職責ノ遂行ニ遺憾ナカラシメン
トスルノデアリマシテ、特ニ戰時下第一線
竝ニ占領地域ニ相當多數ノ司法部職員ヲ、
進發セシムルノ必要ヲモ考慮シ、且ツ現在ニ
於テ既ニ豫想セラルル交通上ノ問題ヲモ參
酌シツツ、同ジク本委員會ニ付託セラレテ
居リマス戰時民事特別法案及ビ戰時特別法
案ト相俟ツテ、裁判所構成法ニモ、今次大
戰爭ノ現段階下ニ於テ是非共必要ナリト思
料スル最小限度ノ應急臨時ノ特例ヲ設ケタ
イト存ズルノデアリマス
而シテ其ノ特例ガ大體四項目デアルコト
ト、其ノ內容ノ大略ハ本會議デ申述ベマシ
タガ、尙ホ之ヲ敷衍シテ申シマスレバ、第
一ノ要點ハ、第三條及ビ第四條ニ規定スル
所デ、現在裁判所構成法ノ原則トシテ居ル
訴訟ノ三審制ノ一部ヲ改メ、或ル特殊ナル
民事、刑事ノ事件ニ限リ控訴審ヲ省略シテ
二審制トナサントスルモノデアリマス、卽チ
民事ニ付テハ裁判所構成法第十四條第二ノ
訴訟、例ヘバ賃貸借ニ基ク建物明渡ノ訴ノ
如キモノ、及ビ民事訴訟法第六編强制執行
編ニ定メテアル訴訟、例ヘバ執行判決ヲ求
ムル訴、請求異議ノ訴、假差押、假處分異
議ノ訴ノ如キモノノ第一審ノ判決ニ對シテ
ハ控訴ヲナスコトヲ得ズ、直チニ上告ヲナ
シ得ルモノト致シマシタ、前者ハ現在デモ
特ニ迅速ナル審判ヲ要スルモノトシテ、訴
訟物ノ價格ニ拘ラズ、之ヲ區裁判所ノ管轄
ニ屬セシメテ居ルモノデアリマスシ、後者
ハ債務名義ヲ有スル債權者ガ旣ニ强制執行
ニ著手シテ後ノ手續上ノ問題、假ノ權利保
全處分等ニ關スル事項デアリマスノデ、何
レモ戰時下特ニ迅速ナル處理ヲナスヲ相當
ト考ヘマス、尤モ民事訴訟法第六編中ニハ、
執行手續ニ關聯シテ生ジマスル配當加入者
ノ債權ノ確定ノ訴及ビ差押債權者カラ第三
債務者ニ對スル取立ノ訴ニ付規定スル所ガ
アリマスガ、是ハ性質上通常ノ訴訟デアリ
マスカラ除外致シマシタ
次ニ刑事ニ付キマシテハ、戰時下ニ於ケ
ル國內ノ治安ヲ確保シ、國防經濟ノ完遂ニ
資シ、併セテ防諜ノ完璧ヲ期スル爲ニ特ニ
事件處理ノ迅速ヲ圖ラネバナラヌ種類ノ犯
罪ヲ最小限度ニ取上ゲテ、之ニ關スル訴訟
ノ控訴審ヲ省略スルコトニ致シマシタ、卽
チ刑法系統ノ犯罪中安寧秩序ニ對スル罪、
一般ノ竊盜、强盗ノ罪、常習竊盜及ビ强盜
ノ罪等、竝ニ戰時刑事特別法第一章各條ニ
定ムル罪、例ヘバ戰時放火、戰時騷擾、戰
時國政變亂等ノ如キモノ、竝ニ言論、出版、
集會、結社等臨時取締法中ノ造言飛語等ノ
罪ノ如キハ、戰時下ニ於ケル公共ノ安寧ヲ
阻害スルコト甚ダシキモノガアリマスル
シ、國家總動員法、昭和十二年法律第九十
二號輸出入品等ニ關スル臨時措置ニ關スル
法律等ノ違反ノ罪ハ、經濟統制ヲ紊リ、國
防經濟ノ完遂ニ著シキ支障ヲ來スモノデア
リ、又軍機保護法、軍用資源祕密保護法等
ノ違反ノ罪ハ、主トシテ軍機ノ保持防諜ノ
立場カラ、訴訟審理途中ニ於テモ之ニ關シ
テ機密ノ漏洩ヲ極度ニ防止セネバナラヌモ
ノデアリマスノデ、是等犯罪ニ關スル事件
ノ第一審判決ニ對シテハ控訴ヲ許サズ、直
接上告ヲナシ得ルモノトシタノデアリマス、
尤モ以上ノ犯罪中、外國ト通謀シ、又ハ外
國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ犯シタルモノ
デ、現在國防保安法ニ規定シアルモノニ付
テハ同法ガ現ニ二審制ヲ採用シ居リマス
ル次第デ、總テ同法ヲ適用スル趣旨デアリ
マス、第二ハ第五條及ビ第六條ニ規定スル
所デ、現在上〓ハ總テ大審院ノミガ其ノ裁判
權ヲ有シテ居リマスガ、其ノ一部ヲ控訴院ノ管
轄トナスノ特例ヲ設ケ、且ツ此ノ場合ニ於ケル
法律解釋ノ統一ヲ圖ル爲ノ方策ヲ講ゼムトス
ルモノデアリマス、卽チ前述ノ民事刑事ニ付控
訴審ヲ省略スルコトトシタ事件中、第一審
ヲ區裁判所デ審理シタモノニ付テハ、其ノ
上告ヲ控訴院ニ管轄セシメムトスルノデア
リマス、蓋シ是等ノ事件ハ前述ノ如ク戰時
下特ニ處理ノ迅速ヲ圖ラネバナラヌモノデ
アリ、事案モ割合ニ複雜デナク、寧ロ輕微
ナルモノガ多イノデアリマスカラ、當然豫
想セラルル交通ノ障害等ヲモ考慮ニ入レ、
成ベク地元ニ近イ控訴院ニ於テ上告審ヲ處
理セシムルノヲ相當トスル次第デアリマス、
隨テ之ガ爲メ同一ノ法律點ニ付キ大審院及
ビ控訴院相互間ニ相牴觸スル判決ノナサレ
ル虞モアリマスノデ、之ガ統一ヲ圖ル爲メ
控訴院ガ上〓裁判所タル場合ニ、法律ノ同
一ノ點デ、曾テ大審院ヤ上告裁判所タル控訴
院ノナシタ判決ト相反スル意見ノアリマスト
キハ、決定ヲ以テ事件ヲ大審院ニ移送シ、大審
院ニ於テ之ガ判決ヲ爲スコトト致シマシタ
第三ハ第二條ノ規定スル所デ、區裁判所
ニ於ケル刑事事件ノ事物管轄ヲ必要ナル限
度ニ於テ擴張セムトスルモノデアリマス、
現在區裁判所デハ有期ノ懲役及ビ禁錮ニ該
ル罪ニ付テハ、短期一年未滿ノモノニ限リ
裁判權ヲ有シテ居ルノデアリマス、然ルニ
戰時刑事特別法案第五條第一項中ニアル戰
時非常狀態下ニ於ケル竊盜罪ト、昭和五
年法律第九號、盜犯等ノ防止及處分ニ關ス
ル法律、第二條及ビ第三條ノ常習竊盜罪ト
ノ短期ガ何レモ三年デアリマスノデ、地方
裁判所ノ管轄ニ屬スルモノデアリマスガ、
是等ハ法定刑コソ重イノデアリマスケレド
モ、罪質ハ竊盗ニ外ナラナイノデアリマス
カラ、豫審ヲ經ル必要ノナイモノニ限リ、
之ヲ區裁判所ノ管轄ニ屬セシメ、以テ其ノ
處理ノ迅速化ヲ圖ルコトト致シマシタ
第四ハ第七條ニ規定スル點デアリマスガ、
民事ニ付キ訴訟事件以外ノ決定事件ノミニ
付キマシテ、抗告裁判所ノナシタ裁判、卽
チ決定ニ對シテハ更ニ抗告ヲナシ得ザルコ
トトナサムトスルモノデアリマス、現在ハ
法令ニ違背シタコトヲ理由トスル場合ニ限
リ大審院ニ再抗〓ガ出來ルノデアリマスガ、
實例ハ抗告裁判所ノ決定ガ取消サルルコト
ハ極メテ僅少デアリ、且ツ手續上ノ問題ニ
關スルモノガ大多數デアリマスカラ、戰時
下大審院ノ機能ノ發揚ト云フ點ヲモ考慮シ
タ次第デアリマス
以上ガ本法案ノ大體ノ內容デアリマスガ、
本法施行前ニ裁判所ガ受理シタ訴訟ニ付テ
目
ハ適用致シマセヌ、又昭和十六年法律第九
十八號、戰時犯罪處罰ノ特例ニ關スル法律
律ハ、戰時刑事特別法ノ施行ト共ニ廢止サ
レマスガ、全ク同ジ規定ガ戰時刑事特別法
中ニ設ケラレマスノデ、同法廢止前ニ犯シ
タ同法ノ罪ニ關スル事件デ、本法施行後公
訴ヲ提起スルモノニ付テモ、本法中必要ナ
ル規定ヲ適用スルコトトシ、其ノ規定ヲ附
則第三項ニ設ケマシタ
以上三案ニ付キマシテ何卒御審議ノ程ヲ
御願ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=4
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005・野村嘉六
○野村委員長 此ノ際戰時ニ於ケル領事官
ノ裁判ノ特例ニ關スル法律案、此ノ案ノ各
條文ニ付テ大綱御說明ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=5
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006・松本俊一
○松本政府委員 御指圖ニ依リマシテ、簡
單ニ各條ニ付キマシテ御說明申上ゲマス
本法律案ノ第一條ハ戰時ニ於ケル領事官
ノ裁判ニ關スル特例ハ本法ノ定ムル所ニ依
ル旨ヲ定メタ規定デゴザイマス、之ニ付キ
マシテハ特ニ取立テテ御說明申上グルコト
モナイカト存ジマス
第二條ニ付キマシテハ第二條ガ本法律案
ノ最モ中心ヲ成ス條文デゴザイマス、卽チ
現在領事官ノ職務ニ關スル法律第八條ニ於
キマシテハ、「領事官ハ死刑又ハ無期若ハ短
期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル罪ノ公判
ヲ爲スコトヲ得ス」此ノ種ノ罪ニ付テハ豫
審ヲナスベキ旨ヲ規定シテ居ルノデアリマ
シテ、領事官ノ豫審ヲナシタ罪ノ公判ハ、
內地又ハ臺灣ノ裁判所ニ於テ管轄スルコト
ニ相成ツテ居ルノデゴザイマス、此ノ制度
ノ下ニ於キマシテハ重罪ニ該ル罪ニ付キマ
シテハ、如何ニソレガ簡單輕易ナル事件デ
ゴザイマシテモ、領事官ハ常ニ單ニ豫審ヲ
ナシ得ルニ止マリマシテ、其ノ公判ハ犯罪
ノ現地ヲ遠ク離レマシテ、是ト著シク事情
ヲ異ニシテ居リマスル國內デ行ハネバナラ
ナイ不便ガアルノデアリマス、豫審ヲ經テ
公判ニ付シタ場合、事件記錄及ビ證據物件
ノ送付、竝ニ被〓人ノ押送等、事件送致ノ
手續ニ付キマシテモ、相當ノ日子ト少カラ
ヌ人的物的ノ負擔ヲ要スルノデゴザイマス
然ルニ領事裁判ニ於テ取扱ハレマス、所謂
重罪ニ該ル犯罪事件ハ、年々增加ノ傾向ニア
ルノデアリマスガ、其ノ大部分ハ比較的簡
單輕易ナモノデ、內地デアリマシタナラバ、
當然豫審ノ手續ヲ省略シ、直接公判ヲ請求
スルヤウナ事件デゴザイマス、殊ニ今議會
ニ提出致サレテ居リマスル戰時刑事特別法
ノ法律案ニ於キマシテハ、戰時下ノ特殊ナ
ル狀態ニ於テ犯シタ或ル種ノ犯罪ニ付キマ
シテ、法定刑ノ加重ヲ企圖シテ居リマス
ル結果、從來所謂輕罪ニ該ル罪デアツタモ
ノガ、重罪ニ該ル罪トナルモノモ相當アル
ノデゴザイマシテ、將來領事裁判ニ於於テ取取
扱フ所謂重罪ニ該ル犯罪事件ノ中ニハ、簡
單輕易ナル事件ニシテ、實際上豫審ノ手續
ヲ經ルコトヲ要シナイヤウナモノガ益〓增加
スルコトト思ハレルノデアリマス、而モ大
東亞戰爭勃發以來、日華間ノ海路連絡ハ、
先程外務次官カラ御說明ガアリマシタ通
リ著シク制限セラレル情勢ト相成リマシ
タ爲ニ、領事官ノ豫審ヲナシタ事件ヲ國內
ノ公判裁判所ニ送致スル手續ガ頗ル困難ト
ナリマシテ、將來此ノ種ノ犯罪事件ノ處理
ガ著シク遲延スルコトガ慮ラレル次第デア
リマス、此ノ點何トカ致ス必要ガアルノデ
ゴザイマス、隨ヒマシテ此ノ際戰時ニ於キ
マシテハ、領事裁判ニ於ケル所謂重罪ニ該
ル犯罪處理ノ手續ニ付キマシテハ、先程申
上ゲマシタヤウナ理由ト相俟チマシテ、更
ニ特別ノ考慮ヲ致ス必要ガアルノデアリマ
ス、是ガ本條ニ於テ「領事官ハ明治三十二年
法律第七十號第八條ノ規定ニ拘ラズ死刑又
ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ
該ル罪ニ付公判ヲ爲スコトヲ得但シ豫審ヲ
經ザルモノニ限ル」トノ規定ヲ設ケントス
ル所以デアリマス、唯茲ニ特ニ御注意願ヒ
タイト思ヒマスルコトハ、本條ハ法文ノ建
前ト致シマシテハ、領事官ハ總テノ所謂重
罪ニ該ル罪ニ付キマシテ、公判ヲナシ得ル
コトト相成ツテ居ルノデアリマスルガ、是
ハ所謂重罪ニ該ル罪ニ付テハ、領事官ハ常
ニ公判ヲナスベシト云フ趣旨デハ決シテナ
イノデアリマシテ、此ノ種ノ罪ニ付キマシ
テハ、從前通リ豫審ヲナシ、國內ノ裁判所
ノ公制ニ付スルト云フ原則ハ其ノ儘ニ變リ
ハナイノデゴザイマス、本條ノ企圖致シマ
ス所ハ、主トシテ比較的簡單輕易デ、豫審
ヲ經ルコトヲ要セズ、而モ現地ニ於テ公判
ノ裁判ヲナスヲ相當ト認メラルル事件ニ付
キマシテ、直接公判ヲナスノ途ヲ開カウト
スル點ニアルノデゴザイマス、隨ヒマシテ
實際ノ運用ニ際シマシテハ、右ノ趣旨ヲ明
カニ致シ、公訴提起前ノ搜査ニ依リ、證據
蒐集ノ困難ナル事件ハ勿論ノコト、死刑又
ハ無期若シクハ特ニ重キ懲役若シクハ禁錮
ニ處スルヲ相當ト認ムル事件ノ如ク、特一
愼重審理ヲ要スル事件ニ付キマシテハ、從
前通リ豫審ヲナシタル上、國內裁判所ノ公
判ニ付スルヤウ取計ハシムル方針デゴザイ
マス
次ニ第三條ハ先程司法大臣カラ御說明ニ
ナリマシタ裁判所構成法戰時特例ノ法律案
ニ於キマシテ、或ル種ノ事項ニ付キマシテ
言渡シタル第一審ノ判決ニ對スル控訴ヲ禁
止致シマスルト同時ニ、直接上〓ヲナシ得
ルコトヲ認ムル規定ヲ設ケテ居ルノデゴザ
イマス、其ノ場合ノ上告審ハ內地ニ於テハ
控訴院ト云フコトニナツテ居リマスノデ、
ソレヲ領事裁判ニ當嵌メマシテ、必要ナル
措置ヲ執ラレタモノデアリマス、卽チ裁判
所構成法戰時特例第五條ノ控訴院ヲ、領事
裁判ニ付キマシテハ長崎控訴院、又ハ其ノ
地域ニ依リマシテハ臺灣總督府高等法院覆
審部ト云フコトニ致ス趣旨デ、此ノ條文ヲ
設ケタ次第デアリマス
以上極メテ簡單デゴザイマスガ、各條ニ
付テ御說明申上ゲマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=6
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007・野村嘉六
○野村委員長 戰時刑事特別法案、戰時民
事特別法案、裁判所構成法戰時特例案、此
ノ三案ノ各條文ニ付テ、其ノ大綱ニ對シテ
政府委員ノ御說明ヲ求メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=7
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008・坂野鉄次郎
○坂野政府委員 御指圖ニ依リマシテ戰時
民事特別法ノ大體ノ御說明ヲ申上ゲマス
第一章ハ是ハ實體法ト手續法ニ關係スル
次第デアリマス、其ノ第一條ニ是ハ戰時ノ
特則デアル、斯樣ニ規定致シマシテ、此ノ
規定以外ノコトハ總テ現行ノ法令ガ適用サ
レル、斯ウ云フコトニ致シテ居ル譯ナンデ
アリマス
第二條ガ期間ノ點デアリマスガ、戰爭ニ
起因スル避クベカラザル障碍ニ依ツテ期間
ヲ遵守スルコトガ出來ナカツタ場合ニ、其
ノ期間ヲ伸長スルコトニ致シタノデアリマ
ス、但シ現行ニ斯ウ云フ場合ノ保護ノ規定
モ設ケテアルノデアリマシテ、譬ヘテ見マ
スト、民法ノ百六十一條トカ、手形法ノ五
十六條ト云フヤウナモノニ特別ナ規定ガア
リマスノデ、此ノ特別ノ規定ガアルモノハ
其ノ規定ニ依ツテ保護スル、規定ノナイモ
ノニ限ツテ本條ヲ適用スル、斯ウ云フ趣旨
デ規定ヲ致シテアリマス、又法定期間、裁
定期間及ビ約定期間ニ適用ガアル譯デゴザ
イマス、第二項ハ唯伸長期間ガ一週間伸ビ
ル、斯ウ云フコトヲ明カニシタニ止マルノ
デアリマス
第三條ハ御承知ノコトデアリマシテ、裁
判所ノ公〓ハ官報ト新聞紙ニ出スコトニナ
ツテ居リマスガ、新聞紙ノ公〓ハ只今色々
ナコトデ不自由デアリマスノデ、戰時中官
報ニ限ツテ公〓スル、斯樣ニシテ行キタイ、
斯ウ云フ趣旨デアリマス、是ガ通則デアリ
マス
第二章ガ民事訴訟デアリマス、第四條ハ
土地ノ管轄ニ關スル規定ノ緩和デアリマス、
民事訴訟法第三十條、第三十一條ニ關係ガ
アル次第デアリマス
第五條、是ハ民事訴訟法ノ第百三十二條
ニ關係致ス譯デアリマスガ、裁判所構成法
ノ今度ノ戰時特例ノ第三條第一項ニ依リマ
スト、或ル事件ハ控訴ヲ拔キニシテ上告ヲ
スルト云フコトニナツタ譯デアリマスガ、
サウ致シマスト是レ以外ノ訴訟ハ三審制度
デヤツテ居ル、一方ハ二審制度デ行ク、斯ウ
云フ時ニ二ツノ訴訟ガ併合シテ一體トシテ
提起サレマスト、ドウモ都合ガ惡イコトニナ
ルノデアリマスカラ、此ノ場合ニハ必ズ口
頭辯論ヲ分離スル、斯樣ニ致シタ次第デア
リマス
第六條ハ民事訴訟法第百三十七條ト第百
三十九條ニ關係致ス譯デアリマスガ、要ス
ルニ現行ノ民事訴訟法ニ依リマスト、攻擊
及ビ防禦ノ方法ハ口頭辯論ノ終結マデサセ
テ行カウト云フノデアリマシテ、但シ故意
過失ニ依ツテ遲レテ訴訟ヲ遲延サセル虞ガ
アツタ時ニ却下スル、斯樣ニナツテ居ルノ
デアリマス、實際ノ適用ニ於キマシテハ、色
色ナ具體的事實デ制限ガアリマス關係上、
實際ノ適用ヲ殆ド見テ居ラナイヤウナ狀態
デアリマスノデ、戰時下ニ於キマシテ、訴
訟ヲ敏速ニ運ブ必要カラ、寧ロ期間ヲ裁判
所ガ定メテ、其ノ期間內ニ攻擊、防禦ノ方
法ヲ提出シナカツタナラバ、是ハ却下サレ
テシマフ、サウ云フヤウニ致シマス、但シ
其ノ期間內ニ色々ノ事由ガアツテ出セナイ
コトモアルダラウ、是ハ同情スベキ事由ガ
アルダラウト云フ場合ニハ裁判所ノ許可
ヲ求メ、許可ヲ得ラレレバ、是ハ出スコト
ガ出來ル、然ラザル限リハモウ提出スルコ
トハ出來ナイ、斯樣ニ致シタ譯デアリマス、
此ノ規定ヲ又第二審ニモ效力ガ及ブコトニ
致シマシテ、第一審デ此ノ期間ヲ定メラレ
テ主張スルコトガ出來ナイヤウニナリマシ
タ攻擊及ビ防禦ノ方法ハ、又裁判所ノ許可
ガ得ラレナケレバ控訴審ニ於テモ主張ガ出
來ナイ、斯樣ニ致シタ次第デアリマス
第七條ハ民事訴訟法第百五十一條ニ關係
致スノデアリマシテ、民事訴訟法第百五十
一條ニ依リマスト、訴訟記錄ノ謄寫等ハ自
由ニ請求ガ出來ルコトニナツテ居ルノデア
リマスガ、最近色々機密ノ保持上必要ナモ
ノガアリマシテ、之ヲ交付スルト云フコト
ハ相當デナイト云フ場合モ大分出テ參リマ
シタノデ、サウ云フ場合ニハ禁止スルコト
ガ出來ル、斯ウ云フ規定ヲ入レタ次第デア
リマス
第八條ハ民事訴訟法第百五十四條ニ關係
致スノデアリマス、要スルニ期日ノ呼出ヲ送達
ニ依ラズ簡單ナ方法デ呼出ガ出來ル、葉書
デ呼出シテモ宜イシ、或ハ電話デ呼出シテ
モ宜イ、斯ウ云フノデアリマス、但シ此ノ
場合ニ於テ、此ノ呼出ニ依リマシテ不利益
ヲ受ケサセナイヤウニスル、場合ニ依ルト
不確實デアリマスカラ、ソレニ依ツテ出頭
シナイ當事者、證人或ハ鑑定人ニ對シテ、
法律上ノ制裁トカ其ノ他不利益ヲ歸スルト
云フコトハ許サナイ、斯樣ニ致シタノデア
リマス
第九條デアリマスガ、是ハ一寸今マデト
違フ譯デアリマスガ、實際只今證人トシ
テ呼出サレル人ノ中ニ、戰時中其ノ職場ガ
重要デアリマシテ離ルルコトガ出來ナイ人
ガアル譯デアリマス、又其ノ人ガ相當ナ信
賴スベキ人デアリマスナラバ、此ノ人ニ直
チニ裁判所ニ出頭シテ陳述ヲサセル、斯樣
ニ致シマセヌデモ、場合ニ依ツテハ書面ヲ
出サセル、出サシタコトニ依ツテ訊問ヲ止
メテ置ク、斯樣ニ致シテ行ツタラバ、此ノ
特別ナ職場ヲ守レルコトニナルノデハナカ
ラウカ、但シ是ハ非常ナ例外デアリマスカ
ラ、宣誓ハ致サセマセヌ、宣誓致サナイ關
係上又之ニ依ツテ心證ヲ得ラレナイコトモ
非常ニ多イノデハナイカト思フノデアリマ
ス、此ノ適用サレル場合ハ、其ノ證人或ハ
鑑定人ガ非常ニ信賴スベキ人デアツテ、重
要ナ位置ヲ離レラレナカツタ場合ニ於テ初
メテ適用サレルノデハナイカト思ヒマス、
又是デ書面ガ出テ參リマシタ時ニモ、之二
依ツテ心證ヲ得ラレナイ時ニハ、何時デモ
呼出シテ普通手續ヲ用ヒルコトニ依ツテ訊
問ガ出來ル、斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマ
シテ、特殊ノ場合ニ此ノ活用ニ依ツテ重要
ナル職場ヲ離レラレナイ人ノ職分ヲ達成サ
セヨウ、斯樣ニ考ヘタ次第デアリマス
第十條ハ區裁判所ノ判決ガ只今簡單ニ出
來ルヤウニナツテ居リマスガ、今度ノ裁判
所構成法戰時特例ニ依リマスト、此ノ判決
ニ對シテ直接上告ガ出來ル、斯樣ニナツテ
居リマス、斯樣ナ場合ニ簡單ニ判決ヲ受ケ
ルト云フコトハ適當デアリマセヌカラ、是
ハ普通ノ手續ニ依ル判決ヲ受ケル、斯樣ニ
致シタ次第デアリマス
第十一條ハ民事訴訟法五百七十條ノ趣旨
ヲ入レタノデアリマスガ、戰爭ノ影響デ債
務者ガ債務ヲ履行スルコトガ困難ナ場合、
轉業ヲサセラレタ關係上困難ナ場合ニ於テ、
債務者ガ誠實デアリ、サウシテ其ノ利拂ノ
意思ハアル、債務者ニモ氣ノ毒ナ場合デア
ル而モ債權者ノ方ニモヒドイ影響ガナカ
ツタ場合、裁判所ハ申出ニ依ツテ暫ク强制
執行ヲ停メル、或ハ旣ニ爲シタ執行處分ヲ
取消スコトガ出來ル、斯樣ナ方法ニ依ツテ
双方ノ利害關係ヲ衡平ニシテ行ク、斯樣ニ
考ヘテ居リマス
第三章ガ破產及ビ和議デアリマスガ、第
十二條ハ曩ニ震災ノ當時一部法人ニ付テ此
ノ觀念ガアツタノデアリマスガ、要スルニ
只今强制執行ノ時ニ申上ゲマシタヤウニ、
破產者ニモ氣ノ毒デアリ、債權者ニモ左樣
ニヒドク利益ヲ害スルコトガナイ、斯樣ナ
場合ニ破產ノ宣〓ヲ一時猶豫シテ行ク、斯
樣ニ致シタノデアリマス
第十三條、是ハ和議ノ條件ガ平等デナケレ
バナラヌト云フコトガ嚴格ニ適用サレテ居
ル次第ナンデアリマスガ、是ハ場合ニ依リマ
スト、唯數學的ニ平等デナケレバナラヌモ
ノデモナイノデアリマス、例ヘテ見マスレバ、
一万圓ノ債權者ト百圓ノ債權者トノ間ニハ
幾分ノ差ガアツテモ却テ是ハ衡平ニ行クノ
デハナイカ、此ノ觀念ハ旣ニ改正商法ノ四
百四十八條デ會社整理ノ場合ニ入ツテ居
ルノデアリマシテ、裁判所ハ債權ノ額其ノ
他一切ノ事情ヲ斟酌シテ債權者間ニ幾分ノ
差等ヲ設ケテモ衡平ヲ害シナイト認メタ時
ニハ和議ノ認可ガ出來ル、斯樣ニ致シタノ
デアリマス、ソレハ和議法ニ依ル和議ニモ
準用スル、斯樣ナ譯デアリマス
第四章ハ調停デアリマスガ、要スルニ只
今マデノ調停ハ其ノ儘ノ調停トシテ働ク、
其ノ外ニ、只今ノ調停ガ及ビマセヌ範圍ニ
於テ、性質上和解ヲ許スモノニ於テ、總テ
民事上ノ紛爭ニ付テ調停ヲ認メル、斯樣ニ
致シタ譯デアリマス、要スルニ戰時下ニ於
キマシテ實體關係ト云フモノハ非常ニ複雜
多樣デアリマシテ、變化極マリナイノデア
リマシテ、色々ナ實體規定ヲ考ヘテ作リマ
シテモ、是ガ却テ逆ノ作用ヲ起ス場合モ相
當考ヘラレルノデアリマス、ソコデ此ノ調
停ノ働キニ依リマシテ其ノ間ノ圓滿ナル解
決ヲ遂ゲテ行カウ、斯樣ニ考ヘタ次第デア
リマス、此ノ點ハ「ドイツ」アタリデハ調停ガ
アリマセヌノデ、契約調整令ト譯シマスカ、
サウ云フモノヲ出シテ或ル程度裁判所ノ自
由裁量ニ依ツテ、債權者債務者間ノ利害ヲ
調整シテ居ルノデアリマスガ、私ガ國ニ於
テハ幸ニシテ調停ノ制度ガ用ヒラレテ居リ
マスカラ、此ノ制度ヲ應用致シマシテ、其
ノ間ノ利害關係ヲ調節シテ行カウ、斯樣ニ
考ヘタ次第デアリマス、此ノ內容ハ大體ニ
於テ借地借家調停法ノヤリ方ヲ基礎トシテ
居ル譯ナノデアリマスカラ、唯違フ所ヲ二、
三申上ゲテ置キタイト思ヒマス
第十五條デアリマスガ、此ノ第十五條ハ
臨時調停法ニ既ニ此ノ形ガ出テ居ル譯デア
リマシテ、要スルニ裁判ノ管轄ヲ相當緩和シ
テ調停ノ受理ガ出來ル、斯樣ニ致シタモノ
デアリマス
第十六條ハ是ハ只今マデノ調停ニハナカ
ツタ譯デアリマスガ、受訴裁判所デ事件ヲ
審理シテ居リマス中ニ、是ハ調停ヲヤル方
ガ宜イノヂヤナイカト考ヘル場合モ、現行
法ニ依ツテハ是ハ調停ヲ決定致シマシテ、
管轄調停裁判所ニ事件ガ廻ルノデアリマス
ガ、色々事件ヲ審理シテ居ル裁判所自ラガ
調停ヲ致シタ方ガ、最モ妥當ナ結果ヲ得ラ
レル場合モ相當アルト考ヘラレルノデアリ
マシテ、サウ云フ場合ニハ自ラ調停ヲスル、
而シテ地方裁判所デアリマスナラバ、受命
判事ヲ命ジマシテ事件ノ審理-判事ハ多
分受命判事ニナル譯デアリマスガ、ソレガ
調停受命判事トナツテ調停ヲ致ス、斯樣ニ
スル方ガ却テ妥當ナ結果ヲ得ラレル、斯ウ
考ヘタ次第デアリマス
第十七條ハ是ハ小作調停ニ一寸現ハレテ
居ル譯デアリマスガ、調停ハ原則トシテ裁
判所デ行フ、是ハ裁判所デ調停ヲ行フト云
フコトガ、强イ理由ガアル譯デアリマスケ
レドモ、已ムヲ得ナイ特殊ノ事情ノアリマ
ス時ニハ、出張致シマシテ現地デ調停ヲ行
フコトガ出來ル、斯樣ナ途ヲ開イタ次第デ
アリマス
第十八條ハ借地借家調停法ノ準用ヲ大體
現ハシタ譯デアリマスガ、其ノ他ニ金錢債
務臨時調停法五條乃至十條ヲ準用シテ居リ
マスガ、其ノ本當ノ意味ハ要スルニ普通ニ
言ハレマスル强制調停、些細ナコトデ當事
者間ニ爭ガアツテ調停ガ成立タヌ場合ニ於
テ、裁判所ガ裁判ヲ以テ調停ニ代ル裁判ヲ
スルコトガ出來ル、斯樣ニ致シテ居リマ
ス、此ノ規定ヲ準用致シタ次第デアリマス、
次ニ人事調停法ノ六條、十條ヲ準用致シ
マスノハ、是ハ辯護士ガ代理人トナル場合
ニ裁判所ノ許可ハ要ラナイ、此ノ規定ヲ準
用シテ來タ譯デアリマス、此ノヤウニ致シ
マシタカラシテ、他ノ調停卽チ借地借家調
停法、商事調停法、金錢債務臨時調停法ノ
所謂强制調停ノ規定ヲ準用致シタノデアリ
やく、又是ト金錢債務臨時調停法ニモ、要
スルニ人事調停法六條、十條、卽チ辯護士
ガ代理人トナル場合ハ裁判所ノ許可ハ要ラ
ナイ、此ノ規定ヲ準用致シマシテ、此ノ調
停人ノ間ニ釣合ヲ保タシメタ次第デアリマ
ス、是ハ十二條ノ準用規定デアリマス、是
デ大體ノ御說明ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=8
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009・池田克
○池田政府委員 私カラ戰時刑事特別法案
ニ關シマスル逐條的ナ御說明ヲ申上ゲマス
第一章ノ罪ニ關スル規定デゴザイマスガ、
是ハ第七十八臨時議會ニ於キマシテ御協賛
ヲ得マシテ、去ル十二月二十四日カラ施行
サレテ居リマスル戰時犯罪處罰ノ特例ニ
關スル法律ノ定メテ居リマスル罪、卽チ戰
時下特殊ノ狀態ノ下ニ於キマスル特殊ノ風
俗犯及ビ强竊盗ノ罪ト、其ノ制定ノ趣旨ヲ
同ジクスル譯デゴザイマシテ、此ノ戰時犯
罪處罰ノ特例ニ關シマスル法律ハ、取敢ズ只
今申上ゲマシタ一部ノ犯罪ニ付キマシテ、
刑法的ナ應急的ナ措置ヲナスコトト致シタ
ノデアリマスガ、此ノ案ニ於キマシテハ、
是等ノ犯罪ヲモ包括致シマシテ、更ニ他ノ犯
罪ト共ニ之ヲ第一章ノ罪ノ中ニ收メタ次第
デアリマス、隨ヒマシテ此ノ法案ノ附則ノ
末項ニ於テモ規定ノゴザイマスルヤウニ、
此ノ法案ノ制定ト共ニ曩ノ臨時的ナ戰時犯
罪處罰ノ特例ニ關シマスル法律ハ廢止サレ
ルコトニナツテ居ル次第デゴザイマス
此ノ第一條カラ第三條マデハ刑法ノ放火
罪ニ關シマスル特別ノ刑法的ノ措置デゴザ
イマス
第一條ハ刑法ノ第百八條、百九條、百十
二條、百十三條、是等ノ規定ニ相當スルモ
ノデアリマスルガ、特ニ申上ゲテ置ク必要ノ
アルト思ヒマスルノハ、現行刑法ノ下ニ於
キマシテハ、自動車ト航空機ハ刑法第百十
條デ賄ハレテ居ツタノデアリマスルケレド
モ、此ノ自動車、航空機ノ今日ニ於キマス
ル重要性ニ鑑ミマシテ、第一條ノ第一項、
第二項中ニ目的物トシテ特ニ加ヘタ次第デ
ゴザイマス、ソレカラ第一條ノ末項ニ於キ
マシテ、放大豫備行爲ノ外ニ通謀行爲ヲ新タ
ニ處罰スル規定ヲ設ケテ居リマスガ、其ノ
危險ナルコトニ於テ豫備ト何等軒輊ノナイ
點ヲ考慮致シマシテ、特ニ加ヘタ次第デゴ
ザイマス
第二條ハ現行刑法ノ百十條ニ相當スル規
定デゴザイマシテ、戰時下ニ於ケル特別ナ
ル刑法的ノ措置デゴザイマス
第三條ハ刑法ノ百十五條ト同趣旨デゴザ
イマシテ、此ノ規定ヲ設ケマシタノハ、
解釋上ノ疑問ガアリマスル爲ニ、特ニ第三
條ノ規定ヲ設ケタ次第デゴザイマス
第四條ハ先程申シマシタ戰時犯罪處罰ノ
特例ニ關シマスル法律ノ第一條ノ規定其ノ
モノヲ此處ニ移シ入レタ次第デアリマス
第五條ハヤハリ戰時犯罪處罰ノ特例ニ關
シマスル法律ノ第二條ヲ其ノ儘此處ニ移シ
入レタ次第デゴザイマス
ソレカラ第六條ハ戰時下ニ於テ此ノ本條
ニ規定シテアリマスルヤウナ特殊ノ狀態ノ下
ニ於テ行ハレマスル恐喝行爲ヲ特ニ重ク處
罰スルコトニ依ツテ治安ノ確保ニ資スル、
斯ウ云フ建前カラ第六條ニ於テ刑法ノ第二
百四十九條ニ對スル特別ノ刑法的ナ規定ヲ
設ケタ次第デアリマス
第七條ハ戰時ニ際シマシテ、國政ノ保護
ヲ厚ウスルト云フコトガ極メテ肝要ナコト
ニ考ヘマシテ、國政ヲ變亂スルコトヲ目的
トシテ人ヲ殺シタル者、更ニ其ノ豫備陰
謀ヲナシタル者及ビソレ等ノ行爲ヲ〓唆ス
ルトカ或ハ幫助スルト云フヤウナ者ニ付キ
マシテハ其ノ被〓唆者或ハ被幫助者ガ實
行行爲ヲナスニ至リマセヌデモ獨立罪トシ
テ相當ニ重ク處罰スル、尙ホ國政變亂ノ目
的ヲ以テスル殺人行爲ヲ煽動スルト云フ行
爲ニ付キマシテモ、特別的ナ手當ヲスル必
要ガアル、斯樣ニ考ヘマシテ、第七條ノ規
定ヲ設ケタ次第デアリマス、ソレデ玆ニ「國
政」ト申シマスノハ國家ノ基本的ナ政治ヲ指
スノデアリマシテ、其ノ國家ノ基本的ナル
政治ヲ不法ニ變更ヲ加ヘル、或ハ混亂ヲ生
ゼシムルト云フノガ、此ノ「國政ヲ變亂スル」
ト云フ意味デゴザイマス、次ニ「人ヲ殺シタ
ル者」トアリマスノハ、斯クノ如キ國政ニ重
大ナル關係ヲ有スル人ノ意味デゴザイマス、
尙ホ此ノ第七條ノ立法例ト致シマシテハ、
舊刑法ノ第百二十三條ニゴザイマス、更に
數年前司法省ニ於テ發表シテ居リマスル刑
法改正假案ノ第百六十七條乃至第百七十條
ニ、本條ト同趣旨ノ規定ガ設ケラレテ居ル
ノデゴザイマス
第八條ハ戰時下ニ於キマスル防空ノ職務
ノ重要性ニ鑑ミマシテ、刑法第九十五條ニ
對シマスル特別的ナル刑法的ノ措置ヲ致シ
タノデゴザイマス、航空機ノ來襲ニ依ツテ
生ズベキ危害ヲ防止スル、或ハ之ニ依ル被
害ヲ輕減スル爲ニ必要缺クベカラザル行爲
デゴザイマスノデ、其ノ職務ヲ執行スルニ
當ツテ、之ニ對シマシテ暴行、脅迫ヲ加ヘ
タル者ヲ特ニ重ク處罰セントスル趣旨ノ規
定デゴザイマス
第九條ハ刑法ノ第百六條卽チ騷擾罪ノ特
別的ナ措置デゴザイマス、第九條ノ第二項
ハ刑法第百七條ノ戰時下ニ於キマス特別ノ
措置デゴザイマス
第十條ハ一項ト二項トニナツテ居リマス
ガ、第一項ノ方ハ防空ノ國土防衞上ニ於
キマスル重要性ニ鑑ミマシテ、之ガ妨害行
爲ヲ嚴重ニ處罰スル、斯ウ云フ趣旨ノ規定
デゴザイマス、「公共ノ防空ノ妨害ヲ生ゼシ
メタル者」トアリマスノハ、玆ニ規定サレテ
アリマスルヤウナ方法ニ依リマシテ、公共
ノ防空ノ遂行ヲ阻害スベキ具體的ナル危險
ヲ生ゼシメタル意味デゴザイマス、第二項
ハ氣象觀測ノ軍事、航空、航海等ト密接重
要ナ關係ヲ有シマスルコトニ鑑ミマシテ、
之ガ妨害行爲ヲ嚴重處罰セントスル規定デ
ゴザイマス、第二項ニ於キマシテ「公共ノ氣
象ノ觀測」ト云フ風ニ「公共」ト云フ文字ヲ入レ
マセヌデシタノハ、第一項ニ依ツテ既ニ「公
共」ト云フコトガ書イテゴザイマスノデ、此。
ノ第二項ト第一項トノ關係ニ於テ公共ノモ
ノデアルト云フコトハ、解釋上疑ヒノ餘地
ナシト考ヘマシテ、單純ニ「氣象ノ觀測ノ爲」
云々ト云フヤウニ規定ヲ設ケマシタ次第デ
ゴザイマス
第十一條ハ通信ノ軍事上其ノ他ニ於キマ
スル重要性ニ鑑ミマシテ、之ガ妨害行爲ヲ
嚴重ニ處罰セントスル規定デゴザイマス、
玆ニ「電氣通信」トアリマスノハ、電信、電話、
無線電信、無線電話等ヲ包括シタ〓念デゴ
ザイマス
第十二條ハ瓦斯、電氣ノ軍事上、產業上
等ニ於キマスル重要性ニ鑑ミマシテ、之ガ
妨害行爲ニ對シマスル特別的ナル刑法的ノ
措置デゴザイマス
第十三條ハ戰時下ニ於キマシテ國防上重
要ナル生產事業ノ遂行ヲ確保センガ爲ノ規
定デゴザイマシテ、玆ニ「國防上重要ナル生
產事業」ト申シマスノハ、國防目的達成上重
要ナル生產事業ヲ申スノデアリマシテ、例
ヘバ重工業ノ如キモノガ之ニ當ルカト考へ
マス
第十四條ハ第十條、第十一條、第十二
條、第十三條ノ行爲ハ特ニ重大デゴザイマ
スノデ、是等ノ罪ニ對スル未遂犯ヲ罰スル
規定デゴザイマス
第十五條ハ戰時下ニ於キマスル國民ノ日
常生活ニ必要ナル物品ノ供給ヲ確保センガ
爲ニ、此ノ種物品ノ買占、賣惜行爲ヲ取締
ラウト云フ規定デゴザイマス、今日ニ於キ
マシテモ商工、農林省令トシテ暴利行爲等取
締規則ノ第一條ニ於テ規定サレテ居ル所デ
アリマスガ、其ノ規則ハ所謂行政犯トシテ
規定サレテ居リマシテ、刑罰制裁ニ於テモ
不十分デアリマスシ、本條ニ於テハ此ノ規則
ノ中デ特ニ生活必需品ノ賣惜、買占行爲、
而モソレガ業務ニ關シマスル場合、更ニ其
ノ業務者ガ不正ノ利益ヲ得ルト云フ目的ヲ
以テナサレタ場合ニ於テ、之ヲ特ニ刑法犯
トシテ取上ゲマシテ本條フ規定ヲ設ケタ次
第デアリマス、本條ニ於キマシテ業務上ノ
場合ニ限リマシタノハ、我ガ國ノ統制經濟
ノ根本方針ガ、一般消費者ヲ刑罰ノ對象ト
致シマセヌ爲ニ、本條ニ於キマシテモ之ニ
據ツタモノデゴザイマス、更ニ「不正ノ利
谷ト申シマスノハ、申スマデモナク不相
當ナル利益ト云フヤウナ意味デゴザイマス
第十六條ハ戰時下ニ於キマスル刑法往來
妨害罪ノ特別的ナ手當デゴザイマス
第十七條ハ刑法第百三十條、卽チ住居侵
入罪ノ戰時的ナ手當デゴザイマスガ、住居侵
入罪ノ法定刑ヲ加重スルコトニ依リマシテ、
軍務ニ應召サレテ居ラレマス皇軍將兵ノ方
方ヲシテ後顧ノ憂ナカラシムルト云フ意味
モ、本條ヲ設ケマシタ主タル理由ノ一ツニ
ナツテ居ル次第デゴザイマス
第十八條ハ刑法ノ飮料水ニ關スル罪ノ戰
時的ナ特別ノ手當デゴザイマス、以上ガ罪
ニ關スル規定ノ大體ノ說明デゴザイマス
第二章ハ戰時ニ於キマスル刑事手續ニ關
スル特例トシテ規定ヲ設ケテ居リマス、其
ノ趣旨ハ第十九條ニ於テ明カデゴザイマス、
今次ノ大東亞戰爭ニ於ケル刑事手續ニ關ス
ル特別ノ規定デゴザイマス
第二十條ハ辯護人ノ選任ノ數及ビ其ノ選
任ノ時期ニ關シマスル制限規定デアリマシ
テ、先例ト致シマシテハ國防保安法ノ第三
十條、更ニ軍法會議法ニ於キマシテモ同趣
旨ノ規定ガ設ケラレテ居ルノデゴザイマス
ガ、辯護人ノ數ヲ被〓人一人ニ付テ一一人ト
定メマシタ理由ハ、事實點及ビ法律點ニ付
キマシテ各一人ノ辯護人ヲ豫定スルナラ
バ、被〓人ノ保護ニ事缺カヌノデハナカラ
ウカ、戰時下ニ於キマシテ、殊ニ色々手不
足等ノ事情モ考ヘマシテ、此ノ程度ノコト
ハ已ムヲ得ザルコトトシテ、御勘辨ヲ願フ
ベキコトヂヤナカラウカ、斯樣ニ考ヘマシ
テ、第一項ノ規定ヲ設ケマシタ次第デゴザ
イマス、辯護人ノ選任期日ニ關シマスル十
日ノ日限ハ、公判期日ノ召喚狀ノ送達ヲ受
ケマシタ日カラ十日アリマスレバ、辯護人
ノ選任ノ手續ヲ執ルニ十分ノ餘裕ガアル、
斯樣ニ見タ次第デゴザイマス、隨ヒマシテ
特殊事情ニ依リマシテ、十日間ヲ以テシテ
ハ不十分ダト認メルコトガ出來マス場合ニ
ハ、但書ノ例外ノ許可ヲ受ケ得ルコトニ規定
シテ居ルノデゴザイマス、但書ニ「已ムコト
ヲ得ザル事由」ト言ツテ居リマスノハ、一旦
選任セラレマシタ辯護人ガ、例ヘバ亡クナ
ラレタトカ、或ハ登錄ノ取消ヲ受ケタト云
フヤウナ場合ヲ豫定シテ居ルノデアリマス
ケレドモ、其ノ他ニモドウモ十日間ノ猶豫期
日ヲ以テシテハ、到底辯護人ヲ選任シ得ラ
レナイト云フ特殊事情ノアツタヤウナ場合
モ亦之ニ含マレルモノト解釋スルコトガ出
來ルト思ヒマス、斯樣ナ辯護人選任期間ヲ
設ケマシタノハ、結局今申シマシタ理由ト、
更ニ過去ノ事例デハゴザイマスケレドモ、
折角訴訟記錄ヲ精讀シテ準備致シマシテ、
公判ヲ始メヨウト云フ場合ニ於テモ、辯護
人ガ新タニ選任セラレル、或ハ又訴訟記錄
ノ閱覽謄寫ヲシ得ナイト云フコトデ、公判
期日ノ延期ヲ求メラレル、隨テ稀有ナ例デ
ハゴザイマスガ、公判ノ進行ガ遲レルト云
フヤウナコトモゴザイマシテ、サウ云フ點ハ
戰時下ニ於テハオ互ヒノ協力ニ依リマシテ出
來ルダケ手續ノ敏速ナル運行ヲ圖リタイ、斯
樣ナ意味ニ於キマシテ、此ノ場合第二十條第
二項ノ規定ヲ設ケタ次第デアリマス、唯第
二十條ニ於テ申上ゲテ置ク必要ガアルト思
ヒマスノハ、此ノ第二十條ノ規定ハ總テノ
犯罪ニ適用セラレルノデハナイ點デゴザイ
マス、此ノ事ハ第十九條ノ但書ニモ規定ガ
ゴザイマス通リニ、裁判所構成法戰時特例
第四條第一項ニ揭グル罪、及ビ刑法第七十
三條、第七十五條竝ニ刑法第一一編第二章ノ
罪ニ關スル特殊ノ事件ニ限リマシテ、第二
十條ノ適用ヲ受ケル譯デゴザイマス、戰時
下ニ於キマシテ、此ノ程度ノコトハ御勘辨
ヲ願フコトハ已ムヲ得ナイ、斯樣ナ意味デ
ゴザイマス
第二十一條ハ國防保安法ノ第三十二條ニ
先例モゴザイマスルガ、御承知ノ通リニ各
種ノ事案ヲ通ジマシテ、訴訟記錄ノ中ニハ
重要ナル機密文書ガ編綴セラレル例ガ少ク
ゴザイマセヌ、本條ニ於キマシテハ是等ノ
機密保持ノ文場カラ訴訟記錄ノ謄寫ヲ制限
スルニ至ツタノデアリマス、例ヘバ國家總
動員法違反事件中ニ於キマスル物動計畫ノ
一端デアルトカ、或ハ軍機保護法、軍用資
源祕密保護法、要塞地帶法違反事件等ニ於
ケル、各種ノ軍機或ハ軍用資源祕密等ノ記
載更ニ陸軍刑法、海軍刑法違反事件ニ於
キマスル事件ノ內容ナド、兎ニ角機密ニ亙
リマス事項ガ、各自ノ私費ニ依リマスル自
由ノ謄寫ニ委セラレマスルコトハ、國家的
見地カラ見マシテ如何デアラウカ、左樣ナ
點ヲ考慮致シマシテ謄寫ヲ許可制トシテ置
ク必要ガアル、斯樣ニ考ヘマシタ次第デア
リマス、尙ホ本條ニ基キ制限ヲ設ケルコト
ニ依リマシテ、戰時下ニ於ケル刑事手續ノ
迅速ナル運用ニモ資シヨウ、斯樣ナ意味合
モ持ツテ居ルノデアリマス、併シ許可ヲ必
要ト致シマスコトニナリマスレバ、當然不
許可ト云フコトモ考へラレマスシ、許可ス
ルニ致シマシテモ一定ノ條件或ハ期限ヲ附
シマシテ、之ニ違反シタル時ニハ許可ガ效
力ヲ失フト云フコトモ出來ルカト思フノデ
アリマスガ、何レニ致シマシテモ直接ノ目
標トスル所ハ先程モ申述ベマシタ所ニアル
ノデアリマスカラ、原則ト致シマシテハ書
類ノ謄寫ハ許可セラルベキモノトノ建前ニ
立ツテ居ル譯デアリマス、唯ソレガ不當ニ濫
用セラレルト云フコトデアリマスレバ、望マ
シクナイコトデゴザイマスノデ、今度ノ如
ク許可制ニシタ譯デゴザイマスガ、實際ノ
運用ニ於キマシテハ、特別ノ場合ヲ除キマ
シテ許可セラルルコトトナルモノト豫測
スル次第デゴザイマス、本條ニ於ケル訴訟
書類ノ閱覽ノ問題デゴザイマスガ、是亦機
密程度如何ニ依リマシテハ、裁判所內ニ一
定ノ場所、例ヘバ閱覽室等ヲ設ケマシテ、
其ノ閱覽室ニ於テノミ閲覽ヲ許スコトガ必
要ダ、斯樣ナ意味ニ於キマシテ此ノ規定ヲ
設ケタノデアリマシテ、國防保安法ニ於テ
モ同樣ナ先例ガアル譯デゴザイマス
第二十二條ハ刑事訴訟法第五十三條ニ對
シマスル特別ノ規定デゴザイマス、第五十
三條ニ依リマスレバ、被〓人其ノ他ノ訴訟
關係人ハ其ノ費用ヲ以テ裁判書或ハ裁判ヲ
記載致シマシタ調書ノ謄本或ハ抄本ヲ自
由ニ求メラルルコトニナツテ居リマシテ、
之ヲ必要トスル理由ノ如何ト云フコトハ、
何等問ハナイコトニナツテ居リマスル爲
ニ、裁判所ニ於キマシテハ、公益上如何ナ
ル理由ガアル場合ニデモ之ヲ拒否シ得ナイ
ト云フコトニナツテ居リマス、然ルニ裁判
書ノ內容ニ依リマシテハ、或ハ機密ニ亙ル
モノガアリ、機密事項ヲ犯罪事實トシテ記
載スルモノモアリマス、不敬ニ亙ル事項ヲ
記載スルモノモアリマス、更ニ又猥褻其ノ
他風俗壞亂ノ虞アル事項ノ摘示セラレルモ
ノモアリマシテ、ソレガ謄本ナリ抄本ノ交
付ト云フコトハ差控ヘタイト思ハレル場合
ガ少クナイノデアリマス、特ニ思想事件ノ
如キモノニアリマシテバ從來ノ實績
ニ依リマスト、例ヘバ判決書ノ記載ヲ
一ツノ〓科書トシテ同志ノ啓蒙ニ利用シタ
ト云フヤウナ例モアルヤニ聽イテ居ルノデ
アリマスガ、本條ニ於キマシテハ其ノヤウ
ナ內容ニ對シマシテハ之ヲ放任スルコトガ
如何デアラウカ、左樣ナ見地ニ於キマシテ
戰時下ニ於キマスル國內治案ノ確保上、公
益上ノ事由カラスル裁判書ノ交付制限ノ規
定ヲ設クルコトモ、亦已ムヲ得ザルコトト
斯樣ニ考ヘマシタ次第デアリマス、尤モ交
付ヲ制限シマスル理由ハ今申シマシタ通リ
デアリマスルノデ、一般ノ場合ニ於キマシ
テハ從來通り自由ニ交付セラレマスルシ、
殊ニ上訴其ノ他ノ爲ノ必要カラ出シマスル
謄寫ノ要求ニハ十分答ヘ得ルト信ジマスル
次第デゴザイマス
第二十三條ハ刑事訴訟法第三百四條、三
百二十八條ニ對シマスル特別ノ規定デゴザ
イマス、是ハ現在ニ於キマシテハ豫審判事
或ハ裁判所ガ必要ナル事項ヲ公務所ニ對シ
テ報告ヲ求メルコトガ出來ルト云フコトニ
ナツテ居リマスガ、御承知ノ通リ最近ニ於
キマシテハ經濟統制法令ノ違反事件ヲ初メ
ト致シマシテ、事案ノ內容ガ或ハ複雜多岐
ニ亙リ、或ハ特殊技能ヲ藉ルノデナケレバ、
犯罪事件ノ內容ヲナス物件ナリ其ノ他ノ事
項ヲ能ク了解シ得ナイト云フヤウナモノガ
相當多キヲ加ヘルニ至ツタノデアリマス、左
樣ナ點ヲ考慮致シマシテ、公務所以外ノ團
體此ノ案ニ於キマシテハ商工會議所ヲ例
示シテ居リマスガ、商工會議所或ハ統制會、
其ノ他ノ團體ニ對シマシテ、必要ナル事項
ヲ指定致シマシテ報告ヲ求ムルコトガ出來
ルト云フ途ヲ開カントシタノデアリマス、勿
論裁判所ノナシマスル場合ニ於テハ公判期
日前、詰リ公判準備ノ爲デアリマシテ、隨
ヒマシテ其ノ徵シマシタ報〓書ハ必ズ公判
ニ於キマシテ證據調べノ手續ヲ執ラナケレ
バナラヌ、ソレハ本條ノ末項ニ其ノ點ヲ特
ニ規定シテ居リマス次第デゴザイマス
第二十四條ハ所謂戰時竊盜ノ罪、常習盜
犯ニ付キマシテ强制辯護ノ規定ヲ適用シナ
イトシタ規定デゴザイマス、裁判所構成法
ノ戰時特例案ニ於キマシテモ、此ノ犯罪ハ
重罪トナリマシタケレドモ、併シナガラ之
ヲ區裁判所ノ事物管轄ニ屬セシメテ居リマ
ス關係上、又其ノ犯罪ノ質カラ申シマシテ
モ、本條ノ如キ特例ヲ開キマスルコトモ
戰時下ニ於テハ已ムヲ得ナイノデハナイカ
ト、斯樣ニ考ヘマシタ次第デゴザイマス
第二十五條ハ所謂聽取書ノ證據力ノ制限
ニ關シマスル規定ニ對シマスル戰時ノ特例
ヲ開イタノデゴザイマス、戰時犯罪中ニハ
從來區裁判所ノ事件タリ得マシタモノガ、
地方裁判所ノ事件トナルニ至リマシタモノ
モアリマシテ、事件ノ圓滑ナル運用ヲ期シ
マスル爲ニ、本條ノ如キ戰時特例ヲ設クル
コトモ已ムヲ得ナイノデハナイカ、其ノ他
地方裁判所ノ事件ニ付キマシテモ、證據上
ノ制限ニ依リマスル取調ベノ重複、關係人
ノ煩勞、手續ノ澁滯ト云フヤウナコトヲ避
ケマスルコトガ必要デアリマ、スルノデ、本
條ノ如キ戰時特例ヲ設クルコトガ必要デハ
ナカラウカ、更ニ內容ノ簡單ナル事件ニ付
キマシテハ、例ヘバ直接地方裁判所ノ公判
ヲ請求スルコトヲ得ルノ途ヲ開クコトモ、
戰時下ニ於キマスル手續ノ的確且ツ迅速ナ
ル運行ニ資スル意味ニ於テ必要デハナカラ
ウカ、更ニ長期戰ヲ豫想セラレマスル此ノ
戰時下ノコトデアリマスルノデ、イツ何時
非常事態ガ發生スルヤモ測ラレナイ、左樣
ナ場合ノ手當ト致シマシテモ、最小限度ニ
於キマシテ本條ノ如キ訴訟法的ナ特例ヲ設
ケテ置クコトガ必要デハナカラウカ、左樣
ナ風ニ考ヘマシテ此ノ規定ヲ設ケマシタ次
第デアリマス
第二十六條ハ刑事訴訟法ノ第三百六十條
ノ第一項ニ對シマスル戰時的ナ特例デゴザ
イマス、所謂判決書ニ於キマスル證據說明
及ビ擬律ノ二點ニ關シマシテノ特例デゴザ
イマス、此ノ點ニ付キマシテハ從來裁判所ガ
一定シテ居リマシテ、有罪ノ判決ヲナスニ當リ
マシテハ證據ノ如何ナル部分ヲ採用シタル
カヲ少クトモ事實ト相俟ツテ明カニシ得ル
點ニ於テ內容的ニ示スコトヲ要スルノト、
法令ノ適用ニ付テモ精細ナル技術ヲナスコ
トニナツテ居リマス、兎ニ角刑事訴訟法ニ於
キマシテハ總テ證據ニ依ツテ事實ヲ認メマ
シタ理由ヲ說明スルコトニナツテ居リマス
ル爲ニ、色々ナ意味ニ於キマシテ鄭重ニ過
ギ、勞多クシテ實效ガナイノヂヤナイカト云
フ風ニ考ヘラレマスノト、戰時下ニ於キマシ
テハ成ベク無駄ノ省キ得ルモノハ省キマシ
テ、裁判官トシテ最モ力ヲ注グベキ審理、裁
判ノ方ニ其ノ主力ヲ集中セシムルコトニ依
リマシテ、的確ナル裁判ヲナシ得ルコトガ
必要デハナカラウカ、斯樣ニ考ヘマシテ本
條ノ規定ヲ設ケタ次第デアリマス
第二十七條カラハ此ノ案ニ於キマシテ新
タニ制定シマシタ上告審ニ於ケル戰時ノ特
例デゴザイマシテ、第二十七條ハ國防保安
法トノ關聯ニ於キマシテ特ニ規定シテアリ
マスルヤウナ手續ヲ規定スル必要ガアルト
考ヘタノデアリマス
ソレカラ第二十八條ハ丁度民事ニ於ケル
上〓手續ト同ジヤウニシタモノデゴザイマ
シテ、此ノ點ノ御說明ハ省略シタイト思ヒ
マス
第二十九條ハ上〓裁判所ガ上告趣意書其
ノ他ノ書類ニ依ツテ上告ノ理由ナキコト明
白ナリト認メマシタ場合ニハ、檢事ノ意向
ヲ聽イテ辯論ヲ經ズニ判決ヲ以テ上告ヲ棄
却スルコトガ出來ルト云フ、上告審ニ書面
審理ノ途ヲ戰時下ニ於ケル特例トシテ認メ
マシタ次第デアリマス
ソレカラ第三十條ハ御說明スル必要モア
リマセヌ
第三十一條モ御說明スル必要ガナイト思
ヒマス
第三十二條ハ軍法會議ニ付テノ準用條項
デゴザイマス
附則ニ於キマシテハ此ノ案ニ於ケル辯護
人ノ數竝ニ選任ノ時期ノ制限ニ關シマスル
第二十條ノ規定、强制辯護ヲ排除致シマシ
タ、第二十四條ノ規定、聽取書ノ效力ニ關シマ
スル第二十五條ノ規定、判決書ニ關シマス
ル第二十六條ノ規定、更ニ上告手續ニ付キ
マシテハ本法施行後公訴ヲ提起シタル事件
ニ之ヲ適用スル、施行前公訴ヲ提起シタ事
件ニ付テハ之ヲ適用セナイ趣旨ヲ規定シテ
居ル譯デアリマス、其ノ他ニ付キマシテハ
說明ヲ省略サセテ戴キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=9
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010・大森佳一
○大森政府委員 裁判所構成法戰時特例案
ノ御說明ハ御許シヲ得マシテ便宜私カラ申
上ゲタイト存ズルノデアリマス
第一條ハ申上ゲルマデモナク、此ノ法案
ハ今次ノ大東亞戰爭ヲ目標トシテ規定シタ
モノデアリマスルコトヲ明カニシタノデアリ
マス、卽チ此ノ特例ハ相當重要ナル變更ヲ現行
裁判所構成法ニ加ヘタモノデアリマシテ、今
次ノ大東亞戰爭ニ於キマシテ私共必要已ム
ヲ得ザル限度トシテ規定ヲ致シタモノデ
アリマス、我ガ日本ニ關シマスル限リ此ノ
大東亞戰爭ノ後ニ更ニ戰爭ト云フモノハア
リマスマイケレドモ、併シ將來ノコトデア
リマスルカラ分リマセヌ、更ニ戰爭ガアツ
タト致シマシテモ、其ノ戰爭タルヤ此ノ大
東亞戰爭ノ如キ大規模ノモノデアルト云フ
コトハ、固ヨリ豫測ハ出來ナイノデアリ
マスルガ、此ノ法案ニ規定シテ居リマス
ル重要ナル制限ハ此ノ大東亞戰爭ニ限ツ
テ之ヲ適用スル、斯ウ云フ積リデアリマ
シテ、此ノ事ハ附則ノ末項ト相照シテ自
ラ明カデハアルト思ヒマスルケレドモ、
尙ホ先程大臣ヨリ申述ベマシタ通リニ
大東亞戰爭終了後ニ於キマシテハ此ノ法
案ヲ廢止スル法律ヲ別ニ出ス積リデアリ
マス
第二條ハ區裁判所ノ管轄ヲ稍〓、擴張シタ
規定デアリマシテ、玆ニ戰時刑事特別法第
五條第一項ノ竊盜ノ罪ト申シマスモノハ、
ツイ先頃ノ臨時議會ニ於キマシテ御協賛ヲ
經マシタアノ所謂戰時竊盜、ソレト同樣ノ規
定ヲ戰時刑事特別法案ノ第五條第一項ニ挿
入ヲ致シタノデアリマス、其ノ戰時竊盜ノ
罪デアリマス、昭和五年法律第九號第一一條
及ビ第三條ノ竊盜ト申シマスルノハ、是ハ
御承知ノ所謂盗犯防止法ノ中ニアリマスル
常習竊盜デアリマス、是等ノ竊盜ノ罪ハ短
期三年ノ懲役ニナツテ居リマスルカラ、特
ニ規定ヲ設ケナケレバ、是ハ地方裁判所ノ
管轄ニ相成ル次第デアリマス、併シ成程是
等ノ竊盜ガ三年以上ノ刑ニハナルノデアリマ
スケレドモ、罪質ハ竊盜ニ外ナラナイノデア
リマスルカラ、是ハ他ノ竊盜事件ノ管轄ト
同樣區裁判所ノ管轄ニスルコトガ戰時下ニ
於テハ少クトモ必要デアリ適當デアル、
樣ニ考ヘタ次第デアリマス、豫審ヲ必要ト
スルモノハ勿論地方裁判所ニ參リマス
第三條ト第四條トハ重要ナル規定デアリ
マシテ、第三條ニ於キマシテハ民事事件ニ
於テ控訴審ヲ省略スルト云フ趣旨ノ規定デ
アリマス、今囘ノ人員不足ノ現狀ニ徵シマ
シテ、又交通不便ノ狀態ヲモ參酌致シマシ
テ、甚ダ好マシカラザルコトデハアリマスル
ケレドモ、此ノ狀態ノ下ニ於テハ此ノ種ノ
限定シタ範圍內ニ於テ控訴審ヲ省略セザル
ノ己ムヲ得ザル狀態ニアルト存ズルノデア
リマシテ、私共ト致シマシテハ、裁判所構
成法上ノ大原則デアリマスル三審制度ヲ破
リタクハアリマセヌケレドモ、必要已ムヲ
得ザルモノトシテ、最小限度ノ範圍内ニ於
テ此ノ戰時ノ特例ヲ開キタイト存ズルノデ
アリマス、卽チ第三條ニハ控訴審ヲ省略致
シマスル民事ノ事件ノ種類ヲ定メタノデア
リマス、第一項ノ第一號ハ御承知ノ通リニ價
額ノ如何ニ拘ラズ區裁判所ノ管轄ニナツテ
居リマスル民事ノ事件デアリマシテ、賃貸
人ト賃借人トノ間ニ於ケル家屋ノ明渡等ノ
訴訟、不動產ノ境界ノミノ訴訟、占有ノミ
ノ訴訟、ソレカラ旅人ト宿屋トノ間ノ或ル
種ノ訴訟ト云ツタヤウナモノデアリマシテ、
平時ニ於テモ相當迅速ノ處理ヲ要スル種類
ノ事件ニ限定シタ譯デアリマス、第二號ハ
御承知ノ强制執行法ニ定メテアル訴訟デア
リマシテ、主トシテ手續上カラ來ル所ノ訴
訟デアリマス、譬ヘテ申シマスルト、執行
判決ヲ求ムル訴デアリマスルトカ、或ル種ノ
異議ノ訴デアリマスルトカ、サウ云ツタ强
制執行ノ手續ニ關スル訴デアリマシテ、是
ハ相當錯雜ナ規定ノ仕方ニナツテ居リマス
ルカラ、寧ロ控訴審ヲ省略スル、是レ蓋シ
已ムヲ得ザルコトト存ズルノデアリマス、
但シ强制執行法ノ中ニ顏ヲ出シテ居リマス
ル訴デモ、中ニハ强制執行法特有ノ問題デ
ナイ訴モアルノデアリマス、左樣ナモノハ
之ヲ除ク、卽チ左樣ナ强制執行特有ノ訴デ
ナイ訴ハ、ヤハリ原則通リ三審級ト云フコ
トヲ明カニシタノデアリマス、詰リ第一項
第一號、第二號、是ハ極メテ限局セラレタ
範圍內ノ民事事件ノ或ル種ノモノニ付テ控
訴審ヲ省略シタイト云フ趣旨ノ規定デアリ
マス、第二項ハ控訴審ハ省略致シマスケレ
ドモ、勿論上告審ハ存置スルノデアリマシ
テ、第一審ノ判決ニ對シテ直接上告ガ出來
ルト云フコトヲ明カニシタ次第デアリマス、
末項ハ御承知ノ附帶訴訟ガドウナルカト云
フコトヲ規定シタモノデアリマス、御承知
ノ主タル訴ニ附帶シマシテ、或ル種ノ訴ヲ
起スコトガアルノデアリマス、此ノ末項ノ
文句ハ民事訴訟法ノ文句ヲ其ノ儘踏襲ヲ致
シマシタガ、「訴訟ノ請求ニ附帶シテ果實、
損害賠償、違約金又ハ費用ノ請求」ヲ爲スヤ
ウナ場合デアリマス、此ノ附帶スル訴ト附
帶セラルル方ノ訴トハ、丁度從タル訴又ハ
主タル訴ト云フヤウナ文句デ申上ゲテモ宜
イカト思フノデアリマスルガ、主タル訴ガ
旣ニ控訴審省略デアリマスナラバ、從タル
訴、卽チ附帶スル訴モ亦控訴審ヲ省略セラ
ルベキモノト致シマス、是ハ固ヨリ當然ノ
コトデアリマスカラ、其ノ趣旨ヲ玆ニ明カ
ニシタノデアリマス、デアリマスカラ、例
ヘテ申シマスト、賃貸人ト賃借人ノ間ニ家
屋明渡ノ訴訟ガ起リマシテ、之ニ附帶シテ
賃料ノ支拂ヲ求メル、御承知ノヨクアリマ
ス家屋明渡竝ニ賃料請求ノ訴、斯ウ云フ場
合ニハ、此ノ總テガヤハリ控訴審ノ省略、二
審級ト相成ル趣旨デアリマス、民事ノ方ハ
ソレデ宜イノデアリマスケレドモ、御承知
ノ通リ刑事ノ方ハ此ノ種ノ附帶訴訟ノ觀念
ガアリマセヌカラ、手續ガ稍〓錯綜スルノデ
アリマス、其ノコトハ第四條デ申述ベタイ
ト存ジマス
尙ホ此ノ控訴審省略ニ付テ申添ヘテ置キ
タイノデアリマスガ、斯樣ニ控訴審ヲ省略
致シマス結果、第一審ノ判決ハ、是ハ十分
〓
愼重ニ愼重ヲ旨トシナケレバナラナイコト
ハ言フマデモナイノデアリマシテ、其ノ點
ニ付キマシテハ、斯樣ナ法案ヲ以テ臨ミマス
ル以上、私共責任ヲ以テ第一審判決ニ些ノ
遺漏ナキヲ期スルト云フ精神デ、事ニ當リ
タイト思フノデアリマス、現ニ戰爭開始以
來、全國ノ裁判官ハ實ニ有難イコトニハ總
テ全ク緊張シタ氣持ニナツテ居リマシテ、
此ノ生キ甲斐ノアル、又働キ甲斐ノアル時
ニ、司法報國ノ方面ニ御奉公スルト云フコ
トハ洵ニ光榮デアル、斯ウ云フ氣分ガ橫溢
シテ參リマシタカラ、其ノ點ノ運用ニ付テ
ハ私共相當ノ用意ト決意トハアル積リデア
リマス、此ノ點御諒承ヲ願ヒタイノデアリ
マス
第四條ハ刑事事件ニ付テノ控訴審省略ノ
規定デアリマスルガ、其ノ第一項ノ書出シ
ノ文句デアリマス、「左ニ揭グル罪ニ付言渡
シタル第一審ノ判決ニ對シテハ」云々トナツ
テ居リマシテ、前條卽チ第三條ノ書キ方ト
ハ大分違フノデアリマス、其ノ趣旨ハ第三
條モ第四條モ、斯ウ云フ種類ノ事件ニ付テ
ハ控訴審ガ省略セラレルト云フュ過ギナイ
ノデアリマスケレドモ、特ニ刑事ニ付テハ
斯樣ナ書キ方ヲセザルヲ得ナイ次第デアリ
W N 、ト申シマスルノハ、刑事ニ付キマシ
テハ、起訴ノ罪名ガ其ノ事件ヲ表ハス土臺
ニ相成ル譯デアリマス、例ヘテ申シマスル
ト、竊盜デ起訴致シマスレバ、其ノ事件ハ
竊盗被〓事件デアリマス、然ルニ裁判所ガ
其ノ事件ハ竊盜デハナイ、横領デアルト判
斷シテ、橫領トシテ判決ヲ致シマシタ、横
領トシテ判決ヲ致シマシテモ、其ノ事件ハ
竊盜被〓事件デアリマス、サウシテ此ノ第
四條ノ第一項デ御覽ニナリマスル通リ、竊
盜事件ハ審級ガ省略サレマスケレドモ、横
領事件ハ審級ガ省略サレナイノデアリマス、
卽チ原則通リノ三審級制デアリマス、サウ云
フ場合ニ唯第三條ノヤウニ漫然ト左ニ揭グ
ル事件トカ、左ニ揭グル訴ト云フコトニ致
シマスルト、竊盜トシテ起訴サレマシタ事
件ハ、假令其ノ事件ガ橫領ニ當ルモノトシ
テ裁判官ガ裁判ヲ致シマシテモ、ヤハリ控
訴審ヲ省略スル、二審級ノモノトナルト讀
マレル虞ガアルノデアリマスカラ、是ハド
ウシテモ横領事件トシテ判決サレタモノガ
除カレルノデアル、竊盜事件トシテ判決サ
レタ事件ニ付ナハ、其ノ判決ハ假令有罪デ
アツテモ無罪デアツテモ、總テ竊盗問題ト
シテ之ヲ中心トシテ裁判シタモノナラバ審
級ハ省略セラレル、然ルニ横領トシテ判斷
サレタモノハ、ヤハリ原則通リノ三審級ダ
ト云フコトヲ明カニシタイガ爲ニ、多少〓
リ諄イ文句デアリマスケレドモ、斯樣ニ致
シタノデアリマス、斯樣ニ記載スレバ今申
上ゲタ點ハ明瞭ニナルト思フノデアリマス、
是ハ御承知デモゴザイマセウガ、國防保安
法ガヤハリ此ノ點ヲ苦心シタモノト見エマ
シテ、其ノ第三十三條第一項ニ、「何々ニ揭
グル罪ヲ犯シタルモノト認メタル第一審ノ
判決ニ對シテハ」云々トナツテ居リマス、
是ハ先例デハアリマスルケレドモ、實ハ私共
此ノ先例ハ餘リ好マシキモノデハナイト思
フノデアリマス、何トナレバ國防保安法第
三十三條第一項ノヤウナ書キ方ニ致シマス
ト、少クトモ、有罪判決ハ二審級ダガ、無
罪判決ハ三審級ナルカノ如キ疑ヒヲ起サセ
マス、少クトモ左樣ナ疑ヒヲ抱カセマス書
キ方ハ宜クナイノデアリマスカラ、此ノ案
ノ第四條第一項ノ書キ出シノヤウニ規定ヲ
致シマシテ、有罪判決、無罪判決共ニ控訴
審省略ノモノニナルト云フコトヲ明カニ致
シタ次第デアリマス、サウシテ控訴審省略
ニナリマス事件ノ種類ハ、ヤハリ民事事件
ト同樣ニ私共想像シ得ラレル限リ極度ニ之
ヲ制限シタノデアリマス、卽チ審級省略ハ
民事、刑事ヲ通ジ固ヨリ望マシカラザルコ
トデアリマスガ、戰時下到底已ムヲ得ヌト
云フ意味ニ於テ省略ヲスルノデアリマスカ
ラ、全ク必要ナ限度ニ止メタ次第デアリマ
ス、第一項第一號、第二號ニ其ノ種類ガ揭
ゲラレテアルノデアリマスガ、刑法ノ犯ダ
ケヲ申シマスト、第一號ニアリマス第二篇
第七章ノ二ト云フノガ安寧秩序ニ對スル罪
デアリマス、第三十六章ガ竊盗强盜ノ罪、
第三十九章カ臟物ニ關スル罪デアリマス、
又第二號ノ刑法ノ第七十四條、第七十六條
ト申シマスノハ不敬罪デアリマス、ソレ
カラ第二項デアリマス、是ハヤハリ前條
第二項ト同樣デアリマシテ、控訴ハ出來
ナイガ上告ガ出來ルト云フコトヲ明カニシ
タノデアリマス、次ニ第三項、第四項デア
リマス、是ハ前條、卽チ民事ニ於テハ此
ノ規定ハナイノデアリマス、是ハ刑事
ニ付テノミ必要ノアル規定デアリマス、御
承知ノヤウニ刑事訴訟法ノ第四百十六條ニ
第一審ノ判決ニ對シテ直グ上告ヲ爲シ得ル
場合ヲ規定シテ居ルノデアリマス、第一審
ノ判決ニ對シテ直接上告ヲ爲シ得ル理由ハ
極メテ局限サレテ居ルノデアリマス、卽チ
第二審ノ判決ニ對シテ上告スル場合ト第一
審ノ判決ニ對シテ上〓スル場合ト較ベマス
ト、第一審ノ判決ニ對シテ上告スル場合ノ方
ガ上告理由ガ極メテ狹イノデアリマス、併
シ私共玆ニ認メマス上〓ハ、廣イ方ノ上告
デナケレバイケナイノデアリマスカラ、其
ノ趣旨ヲ明カニシタノデアリマス、第二審
ノ判決ニ對シテ上〓ヲ爲スコトヲ得ル理由
アル場合ニ上告ガ出來ル、詰リ刑事訴訟法
第四百十六條ノ規定スル狹イ方ノ上告理由
デハナイノダト云フコトヲ明カニシタノデ
アリマス、末項ガソレニヤハリ牽聯スル問
題デアリマシテ、手續モヤハリ第二審ノ判
決ニ對スル上告事件ニ關スル手續ニ依ルト
云フコトヲ明カニ致シマシタ、ソコデ先程
前條ノ附帶訴訟ニ付テ申述ベタ問題デアリ
マスガ、刑事ニ於キマシテハ、御承知ノ併
合罪ト云フコトガ起リ得ルノデアリマス、
或ル同一ノ人間ガ竊盗モヤツタ、又横領モ
ヤツタト云フ場合デアリマス、所ガ竊盗ノ
方ハ二審級、横領ノ方ハ三審級デアリマス、
併合的關係ニアルカラト申シマシテ、橫領
ノ方モ二審級ノ方ヘ引込ンデ、之ヲ總テ二
審級ニスルコトハ固ヨリ不合理デアリマス、
サレバト云ツテ、橫領モアルカラト云ツテ
竊盜ヲ橫領ノ方ニ引込ンデ總テ一括シテ三
審級ニスルコトハ此ノ案ノ趣旨ニハ合致致
シマセヌ、ソコデ竊盜ト橫領トハ審級ヲ異
ニ致シマスカラ、已ムヲ得ズ之ヲ切離サナ
ケレバナラナイノデアリマス、竊盜ハ切離
シテ二審級、橫領ハ切離シテ三審級、斯樣
ニ致ス積リデアリマス、デアリマスカラ此
ノ點ニ於テハ多少手續ノ錯雜ニナルノハ免
レナイノデアリマスケレドモ、旣ニ控訴審省
略ヲ或ル種ノ事件ニ限ルト云フ方針ヲ執
リマスル以上、斯ク相成リマスルノハ蓋シ
已ムヲ得ナイノデアリマス、勿論總テノ事
件ニ付テ控訴審ヲ省略スルト云フコトニナ
ルト手續ハ簡明デアリマスケレドモ、先程
モ縷々申述ベマシタ通リ、控訴審省略ノ事
件ヲ限定シマシタ結果當然出テ來ル次第デ
アリマシテ、此ノ手續ノ多少ノ錯雜ハ固ヨ
リ忍バナケレバナラナイト存ズルノデアリ
マス
第五條ハ此ノ民事及ビ刑事ニ於テ控訴審
ヲ省略セラレマス事件デアリマスガ、申上
ゲルマデモナク第一審ガ區裁判所ノ場合モ
アリマスレバ、又地方裁判所ノ場合モゴザ
イマス、其ノ第一審ガ區裁判所デアリマス
場合ニハ、上〓審ヲ控訴院ニ致シタノデア
リマス、此ノ點ニ付テハ丁度御承知ノ大正
二年ノ裁判所構成法改正前ノ形ニ立戾ルヤ
ウナ結果ニ相成ルノデアリマス、ナゼ斯樣
ニ致シタカト申シマスト、戰時下ノ交通狀
態ノ下ニ於キマシテ、訴訟關係者ノ不便、
又書類、證據品ノ送付ニ付テノ不便、是等
ヲ多々考慮スルノ必要ガアリマシテ、區裁
判所事件ノ上告ハ控訴院デ之ヲ取扱フト云
フコトニ致シタノデアリマス、其ノ結果ト
致シマシテ第二項ガ當然ニ起ツテ來ルノ
デアリマスガ、是ハ刑事訴訟法第四百二
十條ノ場合ニ起ルダケノコトデアリマス、
御承知ノ刑事訴訟法第四百二十條ニ於キマ
タンハ區裁判所ガ上告棄却ノ決定ヲ爲
スコトガアル場合ヲ認メテ居リマス、所デ
區裁判所ガ上告棄却ノ決定ヲ致シマシタ場
合ニ、其ノ抗〓ガ大審院ニ參リマシテハ
其ノ結果ガ甚ダ妙ナモノニナリマシテ
第一項ト權衡ヲ失スル次第デアリマス、デ
アリマスカラ第二項モ第一項通リニ、控訴
院ガ其ノ管轄權ヲ持ツト云フコトヲ明カ
ニシタノデアリマス、第三項モヤハリ同樣
ノ問題デアリマシテ、控訴院ガ上告裁判所
デアリマス場合ニハ、其ノ控訴院ガ主ニ手
續上ノ問題デアリマスガ、決定ヲ爲スコト
ハ固ヨリアリ得ルノデアリマスが其ノ決定
ニ對シテ抗〓スルト云フコトニナリマス
下、其ノ決定ダケガ大審院ニ行クト云フ妙
ナ結果ニナリマスノデ、此ノ第三項ニ依リ
マシテ控訴院ガ上告裁判所タル場合ニ於
テ、其ノ控訴院ガ決定ヲ爲シマシタナラ
バ、其ノ決定ニ對シテハ抗〓ガ出來ナイト
云フコトヲ明カニシタノデアリマシテ、卽
チ控訴院ガ上告裁判所デアリマス場合、決
定ニ付テモ總テ最終審デアルト云フコトヲ
明白ニ致シタノデアリマス、末項ニ準用致
シマシタ御承知ノ裁判所構成法第四十八條
ハ、申上ゲルマデモナク大審院ノ裁判ハ下
級裁判所ヲ覊束スルト云フ有力ナ規定デア
リマス、此ノ案ニ於キマシテ控訴院ガ上〓
審トシテ裁判ヲ致シマシタナラバ、ソレハ
ヤハリ上〓審ノ裁判デアリマスカラ、少ク
トモ其ノ裁判ノ中ノ判決ニ付テハ、是ハヤ
ハリ下級裁判所ヲ覊束スルモノニシナケレ
バナリマセヌ、控訴院ノ判決ニ付テモ、之
ヲ上告判決ト致シタ以上、之ニ權威ヲ持タ
シメルコト固ヨリデアリマスカラ、此ノ裁
判所構成法第四十八條ノ規定ヲ控訴院ガ上
告審トシテ爲シタル判決ニ付テモ準用シタ
ル次第デアリマス
第六條ハ、先程申シマシタ通リニ、控訴
院ガ上告裁判所トナリマス結果、全國ニ御
承知ノ通リ七ツ控訴院ガアリマスカラ、隨
テ法律解釋ノ統一ヲ紊ルト云フコトヲ結果
トシテ招來スルノ虞ナシトシナイノデアリ
マス、デアリマスカラ是ハドウシテモ法律
解釋統一ノ途ヲ開イテ置カナケレバナラナ
イノデアリマシテ、其ノ爲ニ玆ニ新シイ規
定ヲ設ケタノデアリマス、卽チ控訴院ガ上
告裁判所デアリマス場合ニ、現ニ既ニ上告
判決ガアル、ソレト違ツタ裁判ヲシタイト
云フ場合、新判例ヲ出シタイト云フ場合デ
アリマス、ソレカラ又既ニ同ジ問題ニ付テ
相異レル二ツ以上ノ裁判ガアル、自分ノ方
ハ何レニ與スルカ、又ソレトハ違ツタ判決
ヲシタイカ、其ノ如何ニ拘ラズ、兎ニ角法
律解釋ヲ一定スルヲ要スル場合、此ノ場合
ヲモ含ムノデアリマス、例ヘテ申シマス
下、後ノ場合ハ、東京控訴院ガ或ル事件ニ
付テ法律上ノ判斷ヲショウト思ヒマス場
合其ノ同一ノ法律上ノ點ニ付テ既ニ大阪
控訴院ト長崎控訴院トガオ互ヒニ異レル裁
判ヲシテ居ル、卽チ既ニ甲說ト乙說トガ出
テ居ル、斯ウ云フ場合ニ、東京控訴院ノ方
デ甲說ニ贊成デアルカ、乙說ニ贊成デアル
カ、或ハ又甲乙共ニ反對デアツテ、新タニ
丙說ヲ立テントスルノデアルカ、其ノ如何
ナル場合ヲ問ハズ、左樣ナ場合ニハ法律解
釋ノ統一ヲ圖リマス爲ニ、事件ヲ逆ニ控訴
院カラ大審院ニ移送シテ、大審院デ判決シ
テ貰フ、斯樣ナ途ヲ開イタノデアリマス、
是ハ御承知ノ大正二年以前ニ於キマシテ、
控訴院ガ上告裁判所デアリマシタ場合デモ
斯樣ナ規定ハナカツタノデアリマス、ソレ
ハ甚ダ宜シクナイノデ、斯ウ云フヤウナ規
定ヲ設ケナイデ控訴院ヲ上告裁判所ニシテ
置キマスト、必ズヤ法律規定ノ解釋ガ紊レ
マス、デスカラソレヲ避ケマス爲ニ、新タ
ニ斯樣ナ立法ヲ致シタノデアリマス、尙ホ
私共ト致シマシテハ、此ノ法律案ガ幸ヒニ
御協賛ヲ得マシテ實施ノ運ビニ相成リマシ
タナラバ、各控訴院ニ對シ、此ノ第六條ノ移
送タルヤ是ハチツトモ遠慮セズニ大イニ活
用シテ貰ヒタイ、苟モ疑ヒガアレバ盛ンニ
之ヲ善用シテ貰ヒタイ趣旨デ立案シタモノ
ダト云フコトヲ强ク通牒スル積リデアリマ
ス
第七條ハ、御承知ノ民事ニ付テノ再抗〓
ヲ廢止シタ規定デアリマス、御承知ノ通リ
ニ、民事事件ニ付テノ再抗〓ト云フモノハ
相當多數アルノデアリマス、然ルニ其ノ大
多數ハ極メテ輕微ナ手續上ノ問題ニ終始ス
ルノデアリマシテ、而モ實蹟ニ徵シマスル
ト訴訟遲延ノ目的ニスルモノモ必ズシモ
少クナイヤニ存ズルノデアリマス、卽チ斯
ウ云フヤウナ些末ト申シマシテハ相濟ミマ
セヌケレドモ、兎ニ角餘リ重要ナラザル問
題ニ付キマシテ判事ガ非常ニ苦心ヲスル、
是ハ率直ニ申シマスト、無駄ニ近イヤウナ
努力デアリマシテ、非常ニ精力ヲ消耗スル
譯デアリマス、私自身ノコトヲ申述ベテハ
恐縮デアリマスガ、私ハ前後二囘ニ亙リマ
シテ六年程大審院ノ民事部ニ勤務シテ居リ
マシタ、所ガ此ノ再抗〓ニハ實ニ應接ニ遑
ノナイヤウナ氣持ガ致シマシテ、サウシテ
私自身ノ經驗ニ於テハ、少クトモ實ノアル
抗告ハ極メテ寥々タルモノデアツタト存ズ
ルノデアリマス、固ヨリ此ノ再抗〓ヲ廢メ
ルト云フコト、是亦決シテ望マシイコトデ
ハアリマセヌケレドモ、此ノ戰時下ニ於キ
マシテソレダケノ勞力ヲモ省キマシテ、サ
ウシテ其ノ力ヲ本當ノ生粹ノ裁判ノ方ニ向
ケ、其ノ機能ヲ〓揚シタイ、斯樣ナ趣旨カ
ラ致シマシテ、戰時中ハ再抗〓ヲ廢メタ
イ、斯樣ニ存ズルノデアリマス
附則ニ付キマシテハ、先程大臣ヨリモ申
述ベマシタシ、別ニ附加シテ御說明ヲ申スコ
トモナイト思フノデアリマス
兎ニ角此ノ案ニ於キマシテハ裁判所構成法
ニ相當重要ナ變更ヲ加へヨウトスルノデアリ
マスルケレドモ、諄クモ申シマスル通リ、私
共決シテ是ハ望ミマセヌケレドモ、已ムヲ得
ナイノデアリマス、今此ノ戰時狀態ニ於テ種
種ノ支障、故障ノアリマスル此ノ狀態ニ於キ
マシテ、是ダケハドウカ一ツ犠牲ヲ拂ツテ戴
キタイノデアリマス、ノ是ダケ御辛抱ガ願ヘ
マスルナラバ、今日ノ狀態ニ於テ相當苦勞デ
ハアリマスルケレドモ、吾々一同懸命ノ努力
ヲ以テ、齒ヲ食ヒシバツテデモ此ノ司法上ノ
難局ハ切拔ケタイト思フノデアリマス、又
必ズヤ切拔ケ得ル覺悟デアリマス、卽チ是
ダケハ何トカシテ御辛抱ヲ願ハナケレバナ
ラナイ、其ノ最小限度ノ特例ヲ戰時非常ノ
措置トシテ玆ニ揭ゲテ御審議ヲ願ツタ、斯
樣ナ趣旨デゴザイマス、甚ダ蕪雜デゴザイ
マスルガ、立案當時ノ心持ヲモ申添ヘマシ
テ一應ノ御說明ト致ス次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=10
-
011・高橋義次
○高橋(義)委員 適當ナル時機ニ資料ノ要
求ヲ致シタイト思ヒマスガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=11
-
012・野村嘉六
○野村委員長 ソレデハ高橋君ドウゾ······発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=12
-
013・高橋義次
○高橋(義)委員 旣ニ政府カラ資料ノ配付
セラレタモノガアリマシテ、實ハ之ヲ大雜把
ニ拜見致シマシタノデスガ、出來ルダケ牴觸
セヌ限度ニ於テ要求ヲ致シタイト存ジマス、
併シ此處ニ參リマシテカラ頂戴シタノデ、
或ハ精査ノ結果重複スルコトガナイトモ限
リマセヌガ、重複アル場合ハ避ケテ御願ヒ
スルト同時ニ、私ノ方デ重複ト感ジテ御求メ
シナカツタコトガ後ニ發見サレマシタラ、
又改メテ御願ヒスルコトニ致シマス、第
ハ我ガ國ニ於ケル法定陪審ノ事件數、辭退
數陪審ニ掛ツテ、陪審ノ裁判ヲ受ケタ其
ノ經過、卽チ上〓マデ行ツテ變更或ハ取消
等ノアツタ經過、其ノ統計ヲ御出シ願ヒタ
イト存ジマス、第二ト致シマシテ、諸外
國-諸外國ト申シマシテモ、勿論主ナ國
デ結構デゴザイマスガ、諸外國ノ審級調、
是ハ私ノ寡聞ヲ以テ致シマシテハ、現行法
トシテハ二級審ハナイ、ヤハリ三級審ト承
ツテ居リマスケレドモ、念ノ爲ニ要求致シ
テ置キマス、特ニ戰時ニ於ケル特別ノ措置
ヲ致シテ居ル國ノ有無狀況デゴザイマス、
第三ト致シマシテ、現在判事、檢事、書記
其ノ他雇傭員ノ各人員數、待遇狀況、ソレ
カラ願ハクハ他省同等官吏、雇傭員等トノ
待遇比較ヲ承レレバ結構ト思ヒマス、是ハ曾
テ議院ノ調査會ニ於テ三宅次官當時サウ云
フモクヲ頂戴シタヤウナ記憶ガアリマスガ、
今明確デアリマセヌソデ、サウ御手數デハ
ナイト實ハ想像サレルノデ御求メスルノデ
スガ、ソレトドウ云フ標準カラ致シタラ宜
シウゴザイマスカ、判事、檢事ノ取扱ノ事件
數要スルニ擔當件數ノ狀況ヲ知リタイノ
ガ目的デアリマス、裁判ノ方ハ部ト云フモ
ノヲ標準ニ統計ヲ頂戴シテモ宜シウゴザイ
マス、要スルニ趣旨ハ待遇方面、其ノ仕事ノ
負擔ノ狀況ヲ明カニシタイト云フノガ第三デ
アリマス、ソレカラ第四點ト致シマシテ、經濟
事犯ノ再犯者、通常犯罪ヲ前提トシテノ再犯
デナシニ、經濟事犯ダケノ再犯、累犯ノ件數、
ソレカラ經濟事犯ニ付テ近時特ニ控訴審ニ於
テ準備手續ヲ開始シテ居ルノガ相當アリヤニ
承ツテ居リマス、斯ウ云フモノニ付テドレ
ダケノ控訴件數ニ對シ、ドレダケノ準備手
續ガ行ハレテ居ルカト云フ狀況ヲ明カニ願
ヒタイト思ヒマス、ソレカラ通常犯罪ニ付
テハ取扱件數、以後上訴ニ於ケル取消變更
ノ經過ガ明確ニ統計サレテ居リマスガ、是
ハ經濟事犯デモ同樣ノヤウニ拜見致シマ
ス、實ハ御手數デ恐縮デアリマスガ、特ニ
思想犯ト少年犯ノ二ツニ付テヤハリ取扱件
數以後ノ經過ヲ統計シテ御願ヒ申上ゲマ
ス、ソレカラ第六ニ出征遺家族ニ對スル
訴訟事件ノ狀況ヲ知リタイノガ目的デアリ
マスカラ、其ノ數或ハ判決ヲ受ケタノハド
レ程カ、其ノ間ニ和解示談等ニ依ツテ取下
ゲラレタモノ、成ベク取下ゲノ事由ヲ具體
的ニ若シ統計ヲ得ラレルナラバ御願ヒ申上
ゲマス、統計ノ出來ナイモノハ御求メ致シ
マセヌ、其ノ次ニ辯護士ノ現在數トソレカ
ラ刑事事件ノ總數ニ對スル辯護人ヲ選任シ
タルモノ、官選ニ依ルモノ、辯護人ヲ附セ
ザルモノ、是等ノ事件ノ件數狀況ヲ知リタ
イノガ目的デアリマスガ、延人員デモアレ
バ-或ハ御分リニナラヌカトモ思ヒマス
ガ、御分リニナル方法ガアレバ御願ヒ申上
ゲマス、ソレカラ大森次官カラ詳細ニ御說
明ノアリマシタ裁判所構成法戰時特例案ヲ
斯樣ニ實施ナサルコトニ依ツテ、司法官ノ
異動豫想表ト申シマスカ、若シサウ云フヤ
ウナ具體的ナ計數ト云フモノガ旣ニ案トシ
テ出來上ツテ居リマスナラバ、サウ云フ表
ヲ一ツ御願ヒ致シマス、出來テ居ラナケレ
バ宜シウゴザイマス、以上デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=13
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014・大森佳一
○大森政府委員 只今ノ御要求ハ確カニ了
承致シマシタ、但シ御詑ビヲシテ置カナケ
レバナラヌ點ガ數點アルノデアリマス、例
ヘバ審級調ベニ關スル戰時下ニ於ケル各國
ノ立法狀態ニ付テノ資料デアリマス、御承
知ノヤウナ海外トノ交通狀態デ、書物ガト
ント參リマセヌカラ、私共非常ニ困ツテ居
ルノデアリマス、此ノ方ハ御滿足ノ結果ハ
得ラレナイコトト存ズルノデアリマス、ソ
レカラ出征家族ニ付テノ訴訟事件ノ數、經
過等ノ問題デアリマスガ、是ハ各地ノ裁判
所ニ照會ヲ致サナイト實際ハ分ラナイノデ
アリマシテ、俄カナ間ニ合ハナイカモ知レ
マセヌ、是亦豫メ御諒承ヲ願フノデアリマ
ス、ソレカラ其ノ次ノ辯護人ノ刑事事件ニ
附キマシタ實際ノ統計ノ問題デアリマスガ、
是亦左樣ナ意味ニ於テノ特殊ノ統計ヲ取ツ
テ居リマセヌカラ、一々照會ヲシナケレバ
ナラナイノデ、ヤハリ急速ノ間ニ合ハナイ
カト思ヒマス、出來得ル限リハ致シマスガ、
相當困難デアラウト思ヒマス、ソレカラ最
後ニ御要求ニナリマシタ、若シ此ノ裁判所
構成法、戰時特例案ガ御協賛ヲ得マシテ實
施ニナリマシタル曉ノ司法官ノ異動ノ豫想
表ト云フ御話デアリマシタガ、私共ノ方デ
ハ種々方針ヲ立テテ居リマス、併シ豫想ノ
表ハマダ作成ヲ致シテ居ナイノデアリマス、
是ハ公布ニ相成リマシタナラバ、公布ノ
直後ニ全國ノ監督官ヲ招集致シマシテ、是
等ノ法律ノ實施ニ付テ篤トオ互ニ打合セヲ
致シ、又運用ニ寸毫ノ誤リナキヤウ協議ヲ
致シマシテ、重要ナル相談ヲ遂ゲマシタ上
デ、其ノ配置ヲ種々相談ヲ致シテ決定ヲ致
シタイト思ツテ居リマス、デアリマスルカ
ラ、今日之ニ關スル豫想表ト云フモノハマ
ダ拵ヘテアリマセヌカラ、是亦左樣御諒承
ヲ願フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=14
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015・立川平
○立川委員 私モ資料デスガ、一ツハ、今
ノ裁判所構成法戰時特例案ガ實施サレマス
ルヤウニナツタ時ニ、事件數ガドノ位減ル
見込デアルカ、ソレカラモウ一ツハ、只今
高橋委員モ申サレマシタガ、待遇ノ狀況デ
アリマス、是ハ私ノ方デ他ニ持ツテ居ル資
料ト對照スル便宜ノ爲ニ、帝國大學出身者
者デ御示シヲ願ヒタイ、是ハ大正二年以降、
詰リ二年出身者ハ勅任一等ナラ一、二等ナ
ラ二ト云フ數字デ最近マデノ表ヲ作ツテ戴
キタイ、但シ全體ハ隨分多イコトト思ヒマ
スカラ、東京控訴院管內ノ判檢事ダケデ宜
シイ、本省ノ方ハ結構デゴザイマス、ソレ
カラモウ一ツハ、檢事及ビ警察官吏ノ〓訴
告發ヲ受ケタ件數、其ノ中起訴セラレタモ
ノノ件數及ビ人員數デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=15
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016・大森佳一
○大森政府委員 此ノ御要求亦確カニ了承
致シマシタ、中ニハ是亦幾ラカ時日ヲ要ス
ル問題モアリマセウガ、出來得ル限リ急速
名ニ調製ヲ致シマス、但シ最後ノ檢事及ビ警
察官吏ガ〓訴若シクハ〓發ヲ受ケタト云フ
事件デアリマスルガ、是ハ凡ユル罪ニ付テ
ノ問題デアリマスカ、暴行凌虐トカ職權濫
用トカ、サウ云フ趣旨デアリマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=16
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017・立川平
○立川委員 職權ニ關スル問題デ、最近十
年間デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=17
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018・一松定吉
○一松委員 高橋君、立川君ノ資料要求、
私ハ最モ贊成デアリマス、是非御願ヒシタ
イノデアリマスガ、ソレ以外ニ一一ツバカリ
私モ御願ヒシテ置キタイノデアリマス、事
件ノ數ト判檢事ノ擔當數ノ比例表ノヤウナ
モノヲ出シテ貰ヒタイノガ一ツ、ソレカラ
時局後判檢事ガ段々召集セラレマシテ、現
役ニ就イタ方ガ澤山アラウト思ヒマス、
其ノ數字ナドハ祕密デアレバ已ムヲ得マセ
ヌガ、ソレト、ソレヲ補充シタ方法、辯護
士カラ採ツルタトカドウシタトカ云フヤウナ
コト、結局判檢事ノ數ト事件トノ比較ヲ見
タイノデスカラ、サウ云フコトニ關スル表
ヲ出シテ戴キタイ、ソレカラ、今立川君ノ
御話ノ檢事、警察官-私ハ、檢事ノコト
ハ別デスガ、警察官ガ經濟事犯取締ノ際ニ
特ニ職權ヲ濫用シテ暴行脅迫ヲシタトカ云
フヤウナコトガ起リ、告訴〓發ヲ受ケタト
云フ其ノ數、ソレカラ其ノ中デ起訴、不起
訴ニナツタ〓、是ハ立川君ト同ジヤウナ意
味デアリマスガ、私ハ特ニ經濟事犯ニ付テ見
タイノデアリマス、其ノ次ハ、是ハ私ハ甚ダ
慨歎シテ居ルノデスガ、近頃、經濟事犯ノ
取調ニ當リマシテ、警察官ガ不法逮捕監禁
ヲシテ、令狀ナクシテ之ヲ留置場ニ留置置
シマシテ、サウシテ調ベノ終ルマデ之ヲ監
禁スルト云フコトガ殆ド皆然リ、是ハ現行
犯ニ對シマシテ警察官ガ拘束權ヲ持ツテ居
ラヌト云フコトデ、所謂行政執行法ノ濫用
問題トモ關係ガアルノデアリマスカラ、今
此處デ特ニソレヲ問題ニシタイノヂヤアリ
マセヌガ、斯ウ云フヤウナコトヲシテ調ベ
テサウシテ出來タ其ノ聽取書ガ證據力ヲ持
ツトカ持タヌトカ云フ早速之ニ影響シテ來
ルノデアリマスカラ、其ノ點ヲ明カニ知リ
タイ爲デス、是ハ裁判所及ビ檢事局ニアル
記錄デ御調ベ下サルト、警察ニ連レテ行カ
レテカラ起訴セラレマシタマデノ間ノコト
ガ記錄ニ於テ明瞭出來ルコトデアリマスカ
ラ、是ハ檢事局若シクハ裁判所デ取調ベレ
バ出來マス、其ノ以前記錄ニナツテ裁判所
ニ送ラレナイモノハ分リマセヌガ、是ハ分
ル筈デス、ソレハ唯警察官ガ報〓シテ、報
告書トソレカラ起訴シタ其ノ間拘留サレテ
居ル-ソレハ拘留サレタト云フコトハ書
類ノ上デハ見ラレマセヌケレドモ、實際ハサ
ウデスカラ、報〓ヲ受ケテカラ起訴シタマ
デノ期間拘束サレタカサレヌカハ私ノ方デ
判斷シマス、ソレヲ明カニシテ戴ク所ノ
表、詰リ何日ニ警察官ガ檢事ニ報告シタト
カ署長ニ報告シテ居ル、其ノ報〓ノ年月日
ト檢事ガ起訴シタ年月日ガ表ノ上ニ現ハレ
マスレバ、其ノ期間ハ是ハ十中九分九厘マ
デガ不當拘留ニナルノデスカラソレヲ知リ
タイノデス、此ノ要求ハ或ハ政府デモ困ル
カモ知レマセヌガ、ソレヲ明カニシヨウト
思ヘバ一々問合セナケレバナラヌ、ソレハ此
ノ短時日ニハ出來マセヌカラ、取敢ヘズ私
ノ要求スルノハ事件ヲ警察官ガ認知シテ
警察署長ニ報〓シタ報告書ノ末端ニ附イテ
居リマス、其ノ報〓ヲ受ケテカラ檢事ガ起
訴シタマデノ期間ダケデ宜イノデアリマス、
是ハ必ズシモ不當拘留ガアツタト云フコト
ハ今ハ言ヒマセヌ、是ハ私ハ御質問申上ゲ
ル時ノ參考資料ニナルノデアリマスカラ、サ
ウ云フヤウナ調査ハ各記錄ニ付テ出來ルコ
トデアリマス、ソレダケノコトヲ一ツ御願
ヒシテ置キタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=18
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019・大森佳一
○大森政府委員 只今ノ御要求ニ付キマシ
テモ了承致シマシタガ、第二ノ人員ノ問題デ
アリマスルガ、是ハ公表ヲ御遠慮申シタ方
ガ宜カラウト思ヒマスノデ、適當ナ機會ニ
口頭デ速記ヲ省イテ申上ゲルコトニシタイ
ト思ヒマス、尙ホ最後ノ御要求ニ付テ暫ク
御懇談ヲ願ヒタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=19
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020・野村嘉六
○野村委員長 ソレデハ速記ヲ止メテ·····
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=20
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021・野村嘉六
○野村委員長 速記ヲ始メテ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=21
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022・長井源
○長井委員 私モタツタ一ツ資料ヲ要求シ
マス、刑事補償ノ裁判所名、受理裁判所、被
〓罪名、申立數、補償決定數、金額、之ヲ
實施以來、出來マシタラ十六年マデ······ソ
レダケデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=22
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023・大森佳一
○大森政府委員 只今ノ御要求モ了承致シ
マシタガ、昭和十六年度ハ或ハ困難カト思
ヒマス、出來得ル限リ取揃ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=23
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024・内藤正剛
○內藤(正)委員 私ノ資料ノ要求ハ方面ヲ
變ヘテ斯ウ云フコトヲ要求シマス、出來ル範
圍デ、一箇月デモ結構デス、若シクハ出來
レバ二箇月、東京管內デ宜シウゴザイマス
ガ、保釋ノ申請ヲシタ時ニ、檢事ガ許可ス
ベキモノト同意シタル場合ト、許可スベカ
ラザルモノト意見ヲ附シタ場合トアルト思
ヒマス、ソレデ其ノ最近二箇月程ノモノヲ
戴キタイト思ヒマス、何故私ハソレヲ要求
スルカト云フト、殆ド全國的ニ、檢事ガ
保釋ニ同意ヲスル場合ハ闇夜ニ星、或ハ曉ノ
星デ、見ルコトガ出來ナイ、大底不相當ト
カ、許スベカラズトカ書イテ、判事ノ自由
裁量ニ依ツテ辛ウジテ保釋ノ大半ガ出來テ
居ルヤニ聞知致シマスガ、是亦大變ナ問題
ガ將來起ラヌトモ限リマセヌノデ、殊ニ又
斯ウ云フ重大法案ガ出テ居ル時デアリマス
カラ、ソレヲ東京區、地方裁判所ニ付テ二
箇月程ノモノ、是ナラ取レルデセウ、大シ
タ數ハナイデセウ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=24
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025・一松定吉
○一松委員 ソレニ牽聯シテ······、今ノ內藤
君ノ請求ハ結構デアリマスガ、公判第一審ノ第
一囘ノ開延ガアツテ保釋ヲ許シタノト、第一
囘ノ開廷前ニ保釋ヲ許シタノト分ケテ出シ
テ戴キタイ、ソレハ第一囘ノ公判ヲ開イテ
自白シナイト許サヌトカ、第一囘ノ公判ヲ
開クマデハ全ク保釋ヲ許サヌト云フヤウナ
コトヲヤル、サウナツテ來ルト今ノ警察官
トカ檢事ト云フモノニ對シテハ、是ハ餘程
考慮シナケレバナラヌカラ、ソレヘ是非此
ノ機會ニ吾々意見ヲ述ベ、又是正スル所ハ
是正シテ戴キタイ爲ニ是ダケノ資料ヲ要求
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=25
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026・大森佳一
○大森政府委員 只今內藤委員及ビ一松委
員ノ御要求ニ付テ、是亦暫時御懇談ヲ願ヒ
タイノデアリマスガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=26
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027・野村嘉六
○野村委員長 速記ヲ止メテ·····
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=27
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028・野村嘉六
○野村委員長 ソレデハ速記ヲ始メテ下サ
イ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=28
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029・山本粂吉
○山本(粂)委員 私ノ前ニ申シタ資料ヲ斯
ウ云フ風ニ一ツ御出シヲ願ヒタイト思ヒマ
ス、最近五箇年間ニ於ケル退職判檢事ノ數
及ビ書記ノ數、ソレノ補充狀況、ソレカラ
右期間內ニ於ケル採用シタ司法官ノ數、其
ノ數ヲ辯護士ヨリ採用シタルモノト、司法
官試補ヨリ採用シタルモノトヲ分ケテ御示
シ願ヒタイ、ソレカラ序ニ昭和十七年、十
八年、十九年三箇年位ノ司法官採用ノ見込
數其ノ豫定ガ御立チニナツテ居リマスレ
バ、其ノ豫定表ヲ御出シ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=29
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030・大森佳一
○大森政府委員 確カニ了承致シマシタ、
第二ノ點ニ付キマシテハ、私共ノ見込ハ立
チマス、是ハ勿論御目ニ掛ケルコトハ出來
マスケレドモ、實際ドレダケ採レルカト云
フ本當ノ結果、ハ全ク豫想ガ付キマセヌ
ガ、ソレダケ御諒承置キヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=30
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031・野村嘉六
○野村委員長 資料ノ點ニ付テハ宜シウゴ
ザイマスカ-ソレデハモウ四時ニナリマ
シタカラ、本日ハ此ノ程度デ散會致シマ
ス、明日ハ午前十時ヨリ開會致シマス
午後四時四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=007913301X00519420206&spkNum=31
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