1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和十八年十月二十七日(水曜日)午前十時五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=0
-
001・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 開會致シマス、
議案三案ハ何レモ關聯ヲ致シテ居ルヤウニ
考ヘマスルカラ、質疑應答ハ一括シテ進メ
テ行ッテ戴キタイト存ジマス、御質問ガゴ
ザイマスレバ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=1
-
002・山岡萬之助
○山岡萬之助君 私ハ二、三簡單ニ御質問
ヲ申上ゲタイト思ヒマス、委員長チヨット
速記ヲ止メテ下サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=2
-
003・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 速記ヲ止メテ
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=3
-
004・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 速記ヲ始メテ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=4
-
005・山岡萬之助
○山岡萬之助君 民事ノ統計ガ御提出ニ
ナッテ居リマスガ、其ノ三條ノ事件數ノ說
明ニ於テ、裁判ニ對シテハ不服ヲ言フ數ガ
割合ナイヤウデアリマシテ、是ハマア結構
ナコトダト考ヘマスルガ、之ニ牽聯シタ意
味ニ於テ、控訴審ニ於テ裁判ノ變更サレ
タ、卽チ原審ト變ッタ裁判ヲサレタト云フ
數ハドノ位ノ比數デアリマスルカ、御說明
ヲ煩ハシタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=5
-
006・齋藤直一
○政府委員(齋藤直一君) 控訴審ニ於キマ
シテ、原審ノ判決ガ取消サレタリ變更致シ
マシタリシタ數ニ付テ、申上ゲタイト思ヒ
マスガ、先ヅ區裁判所事件ニ付キマシテ、
其ノ控訴審タル地方裁判所ニ於テ、只今申
上ゲマシタヤウナ取消變更セラレマシタモ
ノハ、昭和十七年度カラ過去五年ニ遡リマ
シタ其ノ平均ヲ取ッテ見マシタ處ガ、控訴ノ
新受總件數四千九百四十五件中、判決迄ス
ルニ至リマシタモノガ二千二百四十九件、
其ノ判決ノ中デ取消サレ或ハ變更ヲ受ケマ
シタモノガ七百九件デ、之ヲ控訴判決ノア
リマシタ件數ニ比率ヲ取ッテ見マスト、三
割一分ト相成リマス、次ニ地方裁判所第一
審事件ガ、控訴院ニ於キマシテ、其ノ控訴
審デ取消又ハ變更セラレマシタモノハ、只
今ノ同ジ五年間ノ平均ヲ取ッテ見マシタ處
ガ、控訴院ニ控訴セラレマシタ總數ガ二千
七百五十七件ノ中、判決迄參リマシタモノ
ガ千三百九十件、其ノ中取消又ハ變更ニナリ
マシタモノガ三百七十六件、之ヲ判決ノア
リマシタモノニ對シテ比率ヲ取ッテ見マス
ト、二割七分ニ相成ッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=6
-
007・次田大三郎
○次田大三郞君 チヨット只今ノ數字ニ牽
聯シテ······只今ノハ民事デスカ刑事デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=7
-
008・齋藤直一
○政府委員(齋藤直一君) 只今ノハ民事訴
訟デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=8
-
009・山岡萬之助
○山岡萬之助君 次ニ御尋ネシタイコト
ハ、訴訟物ノ價格ヲ二千圓ニ引上ゲマシテ、
卽チ千圓ヨリ二千圓ニ變ヘラレタノデアリ
マスガ、今日ノ物價ハ相當高クナッテ居リ
マシテ、其ノ比數カラ考ヘルトモット高イ
モノニナルノヂヤナイカト思ヒマスルガ、
ドウ云フ標準ヲ以テ此ノ二千圓迄ニ上ゲラ
レタノデアリマスカ、何カ其ノ標準ガアッタラ
承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=9
-
010・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 御承知ノヤウニ
今日ノ標準價格ハ千圓ニナッテ居リマス、
是ハ大正十四年ノ改正デアリマシテ、當時
ノ經濟價値カラ較ベマスト、御說ノヤウニ
此ノ二千圓ハ更ニ增額シテモ宜イヤウニ存
ズルノデアリマス、併シナガラ此ノ案ニ於
キマシテハ、民事ニ付キマシテモ控訴審ノ
省略ヲ致スト云フコトニ相成ッテ居リマス
ルカラ、控訴審ハ全般的ニ省略ヲ致シマシ
テ、而モ尙且區裁判所ノ權限ヲ餘リニ擴大
致シマスルコトハ如何デアラウカト存ジマ
シテ、旁〓以テ二千圓ノ程度ガ今日先ヅ結
構デハナイカト、斯樣ニ考ヘタ次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=10
-
011・山岡萬之助
○山岡萬之助君 上級審ノ事件ヲ下級審ニ
委讓シタコトハ、今御說明ニナッタ民事バ
カリデナク、刑事ニ於テモ相當委讓サレテ
來タノデアリマスガ、是ハ勿論司法ノ簡素
ヲ圖ル爲デ、時局柄必要ニ出デタコトト考
ヘマスルガ、其處ニ結附イタ問題トシテ起
キテ參リマスルノハ、司法官ハ一定ノ資格
ガナケレバ職務ニ就キ得ナイ素質ヲ持ッテ
居リマスルノデ、手不足ヲ生ジタ場合ニ
ハ、非常ニ困難ヲ來スノデアリマス、玆ニ
於テ戰時下內政ノ根本改革ト云フコトカ
う、定年制等ハ廢メルト云ウタヤウナコト
ガ唱ヘラレテ、耳ニ致シタノデアリマスル
ガ、司法官ノ定年制ト云フモノハ、明治ノ
最初ニハ若キ裁判官、檢察官ガ其ノ職ニ就
イタノデアリマスルガ、ソレヨリ一一、三十
年ヲ經テ、全ク裁判ノ運用ト云フモノニ困
難ヲ來シテ、終身官ノ保障ガアリマスルガ
故ニ、如何トモ仕樣ガナイ譯デアリマス、
非常ナ困難アルニ拘ラズ、定年制ヲ制定
シ、ソレガ成立シテ行ヒ來ッタコト既ニ久
シイノデアリマスガ、是ハマア法律ニ依ル
コトハ勿論デアリマシテ、法律ニ依ッテ居
ルノデアリマスルカラ、單純ニ政府ノ都合
デ變ヘルコトノ出來ナイモノデアルコトハ、
申ス迄モナイノデ、從ッテ之ヲ彼此動カス
ト云フコトハ容易ニ、卽チ輕卒ニハ出來ナ
イコトデアリマスルケレドモ、今之ヲ伺フ
必要モナイカモ知ラヌノデアリマスルガ、
何サマ、社會總テノ事態ヲ改革スルト云フ
時デアリマスルノデ、玆ニ此ノ點ハ私ハ司
法部組織トシテハ非常ニ重大ナモノデアル
カラシテ、私ノ考トシテハ、是ハ今日ノ事
態ニ於テ動カスベキモノデナイヤウニ思フ
ノデスガ、司法當局ノ御考ハドノ邊ニアリ
マスカ、又目前ノ問題デナシニ、相當向フ
ヲ見タル考ヘ方ヨリ、司法大臣ノ御說明ヲ
承ッテ置キタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=11
-
012・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) チヨット事務的
ニナル點モアリマスカラ、次官カラ先ヅ御
答ヲシテ、ソレカラ私カラ補足致シタイト
思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=12
-
013・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 只今御示ノ點
ハ、御說全ク御同感デアリマス、司法官ノ
定年制度ノ問題ニ付キマシテハ、事極メテ
重大デアリマシテ、司法部ニアリマシテ
ハ、其ノ職掌ノ性質、又司法ノ人事行政ノ運
用ノ點カラ申シマシテ、極メテ根本的ナ重
要ナ問題デアリマス、左樣ナ點ニ鑑ミマシ
テ、私共ハ今日定年制度ハ、司法部ニ關ス
ル限リ、現行制度ノ儘之ヲ存置シテ貰ヒタ
イ積リデアリマス、又今後ノ事情ノ激變ト
云フヤウナコトモ考ヘラレマスルケレド
モ、相成ルベクハ今後ト雖モ此ノ儘存置シ
テ行キタイ、斯樣ニ存ジテ居リマス、卽チ
定年制度ハ、我々ノ先輩······大先輩ノ、多
年ノ〓究ノ結果、創設セラレタル問題デア
リマスルカラ、勿論今日戰時ニ於キマシテ、
相當種々ノ事情ガ變更ニナッテ居リマスル
ケレドモ、是ハ持續シテ行クベキモノ、又
持續シテ差支ナイモノ、斯樣ニ考ヘテ居ル
次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=13
-
014・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今次官カラ答
ヘラレタ趣旨デ盡キテ居ルト思ヒマスガ、
番考ヘナケレバナラヌノハ、此ノ人員ノ補充
ガ附クカ附カヌカト云フ點ガ問題ニナラウ
ト思ヒマスガ、現在ニ於テハ此ノ點ハナイ
ト思ヒマス、ト云フノハ、只今此ノ前ノ行
政簡素化ノ整理ニ依リマシテ相當司法部ハ
過員ヲ持ッテ居ルノデアリマス、司法部ノ職
員ハ御承知ノ通リ身分保障ガアルモノデア
リマスカラ、勅令ニ依ッテ過員ハ矢張リ其ノ
儘職員トシテ其ノ職ニ就イテ居ルコトガ出
來ルト云フ特例ヲ特ニ設ケテ居ルノデアリ
マス、相當ノ過員ガゴザイマスカラ、非常
ナ事情ノ變更ガ今後生ズレバ特別デアリマ
スガ、只今ノ處デハ停年法ハ存置ヲシテ、
職員ノ補充等ニハ差支ナイト云フコトノ見
透シヲ付ケテ居リマス、左樣御承知ヲ願ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=14
-
015・山岡萬之助
○山岡萬之助君 只今御說明デ能ク諒承致
シマシタ、御話ノ通リ定年制ハ司法部ノ相
當ナ根本制度デアリマスノデ、私ハ將來ノコ
トハ今カラ無論豫測ノナラヌコトデアリマ
スガ、結局事件數ト司法官ノ數トノ關係ニ
ナリマス、手續ヲ簡素ニスル點モ、此ノ
度ハ略式手續ニ及ンデ居ルノデアリマスガ、
尙其ノ他今日裁判官ガヤッテ居ルヤウナコ
トモ、其ノ他ノモノニ委讓出來ルコトモ、
考ヘレバ相當ニ出ルト思フノデアリマス、必
要トアレバサウ云ッタ簡素ヲ圖リ、而シテ若
シ足リナケレバ民間人ガ相當居リマスカラ、
民間ヨリ相當數採用セラレ、斯クノ如キ根
本ノ制度ハ今御話ノ通リ堅持セラルヽコト
ヲ希望致シマシテ、其ノ問題ハ其ノ程度ニ
致シタイト思ヒマス、次ハ民事特別法ニ關
シマシテ一點御尋ヲ致シタイト思ヒマス、
事實ノ重大ナル誤認ニ付テ上告ヲ許サレル
新制度ヲ立テラレタノデアリマス、是ハ誠
ニ結構ノヤウナ規定デアリマスガ、新制度
ノ上カラ申シ、運營ノ上カラ申セバ可ナ
リ重大ナ結果ガ生ズルト思ヒマス、元來利
事訴訟法ニ於テ上告裁判所ハ事實ノ重大ナ
誤認ニ付テ審判ガ出來ルコトノ規定ガ現行
法ニ於テ立テラレタノデアリマス、此ノコ
トハ一體立法ノ際ノ行過ギデアッテ、上〓審
ニ於テ法律問題ヲ審理スル、審査シマシタ
時ニ、其ノ審査ニ伴ウテ原裁判所ハ非常ナ
誤リヲシテ居ルト云フコトヲ發見シタトキ
ニ、其ノ以前ノ制度ニ於テハ如何トモ仕方
ガナカッタ、斯クノ如キコトヲ見出シタ時ニ
ハ、取ッテ以テ原審ヲ是正シ、正義ヲ確立ス
ルト云フコトガ望マシイト云フノデ、段々
ト調査ガ進ンデ、遂ニ上告理由ニ迄ナッテ
シマック、事實ノ誤認ヲ上告審ニ訴ヘルト云
フコトハ、是ハ本質的ニハドウモ適當ナ審
級デナイ、サウ思ハレルノデアリマス、ソ
レハ勿論上告審ト雖モ、非常ニ誤ッタ裁判ヲ
其ノ儘看遁スベキモノデハナイ、是レ故ニ
上告審ニ於テ自ラ不適當ト考ヘタ時ニハ是
正スルコトハ、是ハドチラカラ見テモ尤モ
ト思フノデアリマスガ、事實ノ誤認ヲ上〓
理由ニシテ、其ノ上〓理由ニ對シテ上告審
ハ一々······事實ノ誤認ト云フコトデアレバ
幾ラデモ上告理由ガ書ケル、ソレニ對シテ上
〓審ハ說明ヲ與ヘルト云フガ如キコトハ是
ハドウモ徒ニ上告審ニ適當ナラザル負荷ヲ與
ヘ、サウシテ本質的ナ法律ノ違法ヲ正スト云
フコトガ、疎カニナリマスノデ、非常ニ面白ク
ナイコトト思ヒマス、私ハ刑訴法ニ於テハ
ソンナ風ナ考ヲ持ッテ居リマス、刑訴法ハ寧
ロモウ少シ正スベキ部分ガアルノデハナイ
カト思ッテ居ルノデアリマスガ、其ノ矢先ニ
民事ニ於テ斯クノ如キコトヲ許サレルト云
フコトハ、果シテ適當ナリヤ否ヤ、今控訴
ノ手續ヲ是正サレタ御說明モアリマシタガ、
相當部分迄ハ原審ヲ變へテ居ルノデアリマ
ス、サウ云フコトモアッテ重大ナ誤認ハ上〓
審ニ於テ見ルノデ、斯クノ如クナッタト思ヒ
マスガ、ドウモ上告審ノ趣旨トシテサウ云フ
風ニ行クト云フコトハ適當ナモノデナイト
考ヘマス、私ハ寧ロサウ云フ場合ニハ、
度審理ハ終結シテ、上告審ハ上〓審トシテ
ノ職能ヲ發揮シテ、若シソレニ非常ナ間違
ヒガアルト云フヤウナ場合、上告審ガ取ッテ
以テ正スト云フコトハ、是ハ認メテ宜イト
思フ、ダカラ原案ノ如キデナク、サウ云フ
程度ニハ是認サレル、其ノヤウナコトデア
ルナラバ、再審制度、ドウモ非常ニ間違ッテ
居ッタラ再審ヲ以テ、其ノ方ヲ擴大シテ行ッ
タラ、ソレデ行ケルノヂヤナイカ、ソンナ
風ナコトヲ考ヘマスガ、政府ノ御考ハドウ
デアリマセウカ、一應御說明ヲ承ッテ置キタ
イト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=15
-
016・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 御示ノ通リ上〓
審ハ原則トシテ法律審デアルベキコトハ、
是ハ其ノ通リデアルト思ヒマス、然ルニ刑
事訴訟法ニ於キマシテ重大ナル事實ノ誤認
ヲ上〓ノ理由ニシテ、謂ハヾ其ノ當時トシ
テハ破天荒ノ立法ガアリマシタ、然ルニ其
ノ後其ノ實績ヲ見テ參リマスルト、是ハ相
當良好ナル成果ヲ擧ゲテ居ルヤニ存ズルノ
デアリマス、勿論裁判ニ法律ノ點トシテモ
又事實ノ點トシテモ間違ヒガアルナラバ、
是ハ甚ダ宜シクナイコトデアリマスケレド
モ、凡ソ裁判ハ事實ノ認定ガ根本デアリマ
スカラ、其ノ事實ノ認定ノ重大ナル誤認ニ
付テ上〓ノ途ヲ拓クト云フコトハ、是ハ强
チ惡クハナイヤウニ存ジテ居ルノデアリマ
ス、而モ今囘民事ニ於キマシテ二審制度ヲ
採リマシテ、第一審ダケデ事實ヲ審理スル
ト云フコトニナリマシタカラ、矢張リ事實
審理ニ重キヲ置キマスル趣旨カラ致シマシ
テ、同樣ニ刑事訴訟ト步調ヲ合セマシテ、
民事ニ付テモ此ノ途ヲ拓クコト蓋シ已ムヲ
得ザルコトト考ヘタノデアリマス、卽チ是
ハ民事ニ付テ二審ノ途ヲ採リマシタ結果ト
御了承ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、成
ル程御說ノ通リ上〓裁判所ニ於キマシテ事
實ノ審理ヲスルト云フコトハ、相當困難ヲ
生ズル場合モアルヤニ存ジマス、デアリマ
スルカラ此ノ案ニ於キマシテ第十條ノ三ノ第
一項ニ於キマシテハ、上告裁判所自ラ事實
ノ審理ヲ爲スコト、此ノ途ヲ拓イテアリマ
スケレドモ、現行法ノ第四百七條ノ規定ニ依
リマシテ、原判決ヲ破毀シ事件ヲ差戾シ又
ハ移送スルト云フ途モ拓イテ居ルノデアリ
やく、自ラ實際ノ運用トシテ此ノ活用ノ方
ガ多クアラウカト存ズル次第デアリマス、
サウシテ只今御話ニナリマシタ再審ノ問題
モ私共トシテハ調査ヲ致シマシタ、成ル程御
說ノ通リ再審ニスルト云フコトモ確カニ一
方法ダトハ存ジマシタケレドモ、刑事ニ於
テ既ニ此ノ事實ノ重大ナル誤認ト云フコト
ガ上〓理由ニナッテ居ルノデアリマスカラ、
矢張リ是ハ步調ヲ合セテ同ジコトニシタ方
ガ宜イト考ヘタノデアリマス、再審ト云フ
途ハ採ラナカッタノデアリマス、又モウ一
ツハ再審ニ致シマスト、ドウ云フ理由ニナ
リマスカ、是ト同ジヤウナ理由ニナリマシ
テモ事自ラ面倒ニナリマシテ、此ノ再審ニ
依ッテ不服ノ申立ヲスルト云フコトハ相當
窮屈ニナルト云フ虞ハナイカ、斯樣ナ點モ
考慮致シマシテ刑事訴訟法竝ミニ致シタ次
第デアリマス、右ノ事情ヲ御了承ヲ願ヒタ
イノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=16
-
017・山岡萬之助
○山岡萬之助君 次ハ刑事特別法ニ關シテ
一二御尋ネシタイト思ヒマス、刑事特別法
中改正ノ重點ハ賄賂ノ罪ノ刑罰ヲ加重シタ
點ニアルト思フノデアリマス、茲ニ最高無
期刑ヲ以テ臨ンデ居ルノデアリマス、從ツ
テ短期ノ相當高イ有期懲役以下ソレ〓〓規
定シテアル譯デアリマス、ソレダケノ刑罰
ヲ量定シタト云フコトニ關シマシテ、貴族
院トシテハ官公吏ノ瀆職罪ハ戰時立法トシ
テ一般ノ犯罪ヲ加重シタカラシテ加重スベ
キモノデアルト云フコトガ委員會ニ於テ段
段述ベラレテ居ッタノデアリマス、其ノ刑
ヲ加重スルコトニ付テハ何等特段ノ考ヘヲ
スル者デハナイノデアリマス、唯之ヲドウ
云フ標準ニ依ッテ斯ク規定シタカト云フコ
トハ、此ノ際明カニシテ置クコトガ裁判官
ノ將來ノ此ノ條規ノ運用ノ上ニ相當ナ參考
ニナルト思フノデアリマス、前ニ御說明ガ、
五年ト云フ懲役刑ヲ科シタト云フ事例ガ
アルト云フ御話ガアリマシタ、サウ云ッタ
關係デ如何ナル事實、如何ナル關係ガアル
ガ故ニ斯クノ如クシタノカト云フ風ナ、是
ハ御答ガ相當困難デアルト思ヒマスガ、
應立法ナサッタ經過等ニ徵シテ御說明ヲ願
ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=17
-
018・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 此ノ案ニ於キマ
シテハ、御承知ノヤウニ第十八條ノ二ニ於
キマシテ單純ナル收賄又ハ之ニ準ズル者、
是ガ十年以下ノ懲役ニナッテ居リマス、御
承知ノ通リ是ハ現行法デハ三年以下デアリ
マス、卽チ三年ヲ十年ニ高メタノデアリマ
ス、第二項ハ稍〓重イ方ノ場合、卽チ御承知
ノ請託ヲ受ケタ場合デアリマシテ、一年以
上ノ有期懲役トナッテ居リマス、現行法ガ
五年以下デアリマス、卽チ之ニ付キマシテ
ハ五年ヲ十五年ニ高メマスルト同時ニ、短
期ヲ一年ト定メマシタ、第三項ハ最モ重イ
場合デアリマシテ、仍テ以テ不正ノ行爲ヲ
爲シ、又ハ相當ノ行爲ヲ爲サザリシ場合デ
アリマシテ、此ノ案ニ依リマスルト、無期
又ハ二年以上ノ懲役ニナッテ居リマス、是
ガ現行法ハ一年以上ノ有期懲役デアリマシ
テ、此ノ案ハ餘程高クナッテ居ル次第デア
リマス、是ガ收賄ノ方デアリマスガ、贈賄
ノ方ハ第十八條ノ五デアリマス、是ガ此ノ
案デハ五年以下ノ懲役又ハ一萬圓以下ノ罰
金ト云フヤウニナッテ居リマス、御承知ノ
ヤウニ現行法デハ三年以下ノ懲役又ハ五千
圓以下ノ罰金デアリマス、卽チ贈賄ニ於キ
マシテハ三年ガ五年ニナリ、五千圓ガ一萬
圓ニナッタ程度デアリマス、ソコデ私共ノ
立案ノ時ノ考ヘカラ致シマスルト贈賄、收
賄共ニ重クシナケレバナラナイト云フコ
トヲ考ヘタノデアリマスルガ、其ノ中
ニ就テモ、特ニ收賄ニ重キヲ置カナケレバ
ナラナイト存ジタノデアリマス、今日多數
ノ事例カラ申シマスルト、贈賄者側ニモ確
カニ惡質ノ者ガアリマス、甚ダ面白カラザ
ル現象ノ贈賄ト云フモノモ實ハ少クハナイ
ノデアリマス、併シ如何ニ贈賄者側ガ惡質
デアリマシテモ、公務員ガ賄賂ヲ取ルト云
フコト、是ハ地位ヲ汚スノデアリマシテ、
其ノ地位ヲ汚スト云フコトハ最モ憎ムベク、
又最モ戒シムベシ、斯ウ云フ觀念カラ致シ
マシテ罰ヲ上ゲマシタ割合ハ收賄ノ方ヲ特
ニ重クシタノデアリマス、然ラバ收賄ヲ斯
樣ニ、第一項ニ付テハ十年、第二項ニ付テ
ハ一年以上ノ有期刑、第三項ニ付テハ無期
迄ニ上ゲル、其ノ割合ヲドウ決メタカト云
フコトデアリマスルガ、是ハナカ〓〓一言
ニシテ申上ゲニクイ問題デアリマスルガ、前
囘刑事局長ヨリ申上ゲマシタヤウニ、相當
現行法ノ下ニ於キマシテモ收賄者ニ付テ重
刑ヲ科シタ事例ガアリマス、又科セナケレ
バナラナカツタノデモアリマス、是ガ今後
若シ殖エテ參リマスルナラバ由々シキ大事
デアリマスカラ、此ノ點十分ニ考ヘナケレ
バナラナイト存ジマシタシ、御承知ノ戰時
刑事特別法ニ於キマシテ、戰時下最モ警戒
ヲ要スル罪ニ付キマシテ刑ヲ著シク重クシ
タコトガアリマシタ、ソレ等ノ相當重イ罪
ト比較致シマシテ、ソレ等ノ罪種ト、收賄、
贈賄ノ罪種ヲ考ヘマシテ先ヅ似タ所ニ上ゲ
テ行クノガ宜クハナイカ、斯ウ考ヘマシテ、
收賄、贈賄ニ相當戒シムベキモノアリト云
フ見地カラ致シマシテ、是ト似タモノデハ
アリマセヌケレドモ、同等ト目シテモ宜イ
ヤウナ罪、ソレ等ノ刑トヲ比較致シマシテ、
先ヅココイラガ適當デハナイカト考ヘタ次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=18
-
019・山岡萬之助
○山岡萬之助君 只今御說明ヲ承リマシテ
諒承致シマシタ、賄賂罪ノ罪ヲ重クスルト
云フコトハ、現下其ノ必要ニ迫ッタコトハ明
カナコトデアリマシテ、此ノ立法ハ我々ハ
大イニ迎ヘルモノデアリマス、唯併シ茲ニ
特ニ司法大臣ニ伺ッテ、御意見ヲ承ッテ置キ
タイコトガアリマス、賄賂ノ罪ト云フモノ
ハ從前カラアリ來ッタモノデアッテ、是ハ大
體憎ムベキモノニ過ギナイノデアリマス、
ソレカラ又近時稅務面ノ賄賂罪ト云フモノ
ハ非常ニ多イ、是亦脫稅其ノ他ノ事柄デア
リマシテ、是モ相當良クナイ、卽チ惡質ノ
モノデアリマス、別ニソレ等ニ付テ一々伺
フ積リハナイガ、唯經濟ノ統制ニ伴ヒマシ
タ罪ニ付キマシテハ、是ハ今後ノ運營上ニ
十分ナ御留意ヲ煩ハス必要ガアルト思フノ
デアリマス、私ハ重ク科シテイケナイト云
フノヂヤナイ、刑ノ效果ヲ十二分ニ發揮シ、
又現在迄ノ刑事政策ニ於テモ犯罪ハ之ヲ豫
防スベシト云フコトデアリマスカラ、其ノ
見地ニ立ッテ伺フ次第デアルガ、統制ニ關ス
ル犯罪ト云フモノハ、大體事業其ノ他サウ
云ッタコトニ牽聯シテ、許可認可或ハ資金ノ
貸出、資材ノ配給等事業ヲ遂行スルニ伴ッテ
生ズルモノデアリマス、例ヘバ或種ノ生產
ヲ爲シタ、大體材料ガ整ッタガ、或部分ガ整
ハナイ、ソコデ工程ヲ進メルコトガ出來ナ
イデ居ル、斯ウ云フ場合ニハ背ニ腹ハ替ヘ
ラレナイ、工場ヲ休マセテ置ク譯ニイカナ
イ、玆ニ於テ或請託ヲ爲シテ、ドウカ速カ
ニ之ヲ運ンデ貰ヒタイト云フ風ナコトガ出
テ來ルノデアリマス、一體經濟ヲ統制シ、
總テノ關係ヲ整ヘテ置クト云フ以上ハ、サ
ウ云ッタコトハアルベキ筈ハナイノデアリ
マスケレドモ、現在迄ノ事態ハ相當部分サ
ウ云ッタ困ッタ場面ガアッテ生產擴充ヲ阻害
スル、今度ハ軍需省ガ出來テ、其ノ他行政
ノ非常ナ改革ガアリマシタノデ、之ニ依ッテ
左樣ナ辻褄ノ合ハナイコトナドハ段々ナク
ナルコトト私ハ確信致スノデアリマス、又
政府ニ於テモサウ云フ考ヲ御持チノコトト
思ヒマスケレドモ、此ノ點ニ付テハ、司法
トスレバ惡イ犯罪ガ出テ來レバ之ヲ檢擧ス
ル、サウシテ處罰ヲスレバソレデ一應任務
ハ盡キテ居ルノデアリマスガ、時局重大ノ
場合ニ唯檢擧ヲシテ處罰スレバソレデ宜イ
ト云フヤウナ譯ニ參ラヌト思ヒマス、其ノ
根柢ニ向ッテ行政ノ簡素化ヲ圖リ、業者ヲシ
テ背ニ腹ハ替ヘラレヌヤウナ事態ニ置カナ
イヤウニ、又統制ノ圓滑ヲ期シテ互ニ所謂
本當ニ官民一體トナッテ、生產ノ增强ヲスル
ト云フコトニ向ハヌケレバナラヌ、又政府
ハ正ニ左様ナ考ヲ致シテ居ルト思ヒマスル
ガ、此ノ點ヲ具體的ニ左樣ニスル必要ガ私
ハアルト考ヘマスル、是レ故ニ司法省トシ
テノ御考ヘ方ヨリモ、丁度司法大臣ガ國務
大臣トシテ是等ノコトニ付テノ御考ヘ方ヲ
伺ッテ置キタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=19
-
020・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今ノ御質問誠
ニ御尤モト存ジマス、司法省ト致シマシテモ、
刑罰ハ何モ國家ガ好ンデ犯罪者ヲ罰スルコ
トヲ目的トシテ居ルモノデハナイト私ハ思
ヒマス、刑罰ニ依ッテ一般ヲ警戒ヲスル、刑
罰アルガ故ニ犯罪ガ全ク絕滅スルト云フコ
トニナレバ、是ハ全ク理想ノ境地ダト思ヒ
マスガ、遺憾ナガラ今日迄左樣ナコトニ至ッ
テ居ラヌノデアリマス、今囘特ニ綱紀ノ肅
正ヲ期スル爲ニ刑罰ヲ重クシタ所以モ、斯
カル刑罰ヲ重クシタコトニ依ッテ一般ヲ警
戒スル、之ニ依ッテ出來ルダケ犯罪ガ減少ス
ルト云フコトガアリマシタナラバ、立法ノ
目的ヲ達スルコトニナルダラウト思ヒマ
ス、刑ノ量定ハ私カラ申上ゲル迄モナク、
相當ニ我ガ國ノ刑法ハ法定刑ノ幅ガ廣イノ
デアリマシテ、裁判ニ當ッテハ諸種ノ事情
ヲ能ク斟酌シマシテ、其ノ廣イ法定ノ範圍
內ニ於テ適當ナ裁判ガ出來ルヤウニナッテ
居ル譯デアリマス、只今御話ノヤウナ具體
的ノ事件ニ付キマシテハ十分ニソレ等ノ事
情ヲ精査致シマシテ、重キモノハ重ク、輕
キモノハ輕ク處斷スルト云フコトニナラウ
ト思ヒマス、今囘法定刑ガ非常ニ高マリマシ
ク、法定刑ガ非常ニ重クナッタカラト申シ
テ、總テガ大體ニ於テ事案ヲ重ク見ルト云フ
コトニハナリマスルケレドモ、實際今度ノ
事案ヲ裁判スルニ當ッテハ、此ノ法定ノ刑ノ
範圍內ニ於テ適當ニ裁判ヲスル、ソレニ依ッ
テ刑政ノ途ヲ正シテ行クト云フコトニナル
ノデハナイカト思ヒマス、ソレカラ私ハ特
ニ統制經濟ノコトニ付テ色々御話ガゴザイ
マシタガ、統制經濟ハ戰爭目的ヲ完遂スル
三、ドウシテモ是ハ必要ナ制度デアラウ
ト私ハ確信シテ居リマス、ソコデ統制經濟
ニ關係アル官吏ガ、收賄ヲシタト云フヤウ
ナ事件ガ起ッタ場合ニ、ドウ云フモノヲ非常
ニ重ク見ルカト云フコトハ只今色々御話ノ
中ニモアッタト思ヒマスガ、大キナ物動ノ關
係ヲ紊スト云フコトハ非常ニ重大ナ事柄ガ
起ッテ來ルモノデハナイカ、ソレデ物動關係
ヲ紊スヤウナ事柄ガ假ニアリト致シマスル
ナラバ、左樣ナコトニ關聯シタ瀆職罪ト云
フモノハ非常ニ重イト思フ、又ソレカラ方
面ハ違ヒマスガ、國民ノ生活問題、斯ウ云
フコトニ關係致シマシテ、此ノ瀆職ガ行ハ
レルト云フコトデアレバ、是モ私ハ相當ニ
重ク視テ宜イノデハナイカト思ヒマス、從
來漬職事件ノ發生シタ場合ニ、能ク注意ヲ
シテ居ルノデアリマスガ、大體私ハ此ノ二
點ニ付テ相當重ク考ヘナケレバナラヌ、是ハ
漬職事件ニ限ラズ統制經濟事犯ニ付テモ、
此ノ二點ト云フモノハ最モ注意ヲシナケレ
バナラヌ點デハナイカト私ハ考ヘテ居リマ
ス、ソレカラ左樣ナマア觀點デ、色々事件
ノ取締ヲ考ヘテ居リマスルガ、マア外ノ方
面カラ見テ、此ノ統制經濟ノ運用ト云フモノ
ガ圓滑ニ行ハレルト云フ、殊ニ物動關係等
ニ關係シタ事件ニナリマスルト、サウ云フヤ
ウナ點ガ極ク圓滑ニ行ハレルト云フコトガ、
戰爭目的遂行ニ非常ニ關係ヲ持ッテ來ルト
考ヘテ居リマス、今囘政府ニ於キマシテ
色々軍需省其ノ他行政機構等ヲ改革致シマ
シテ、決戰態勢ニ順應スベク、諸般ノ制度
ヲ建直シテ居ル譯デアリマスカラ、勿論今御
話ノヤウナ點ガ重要ナ事柄ト考ヘテ居ルコ
トハ申上ゲル迄モナイノデアリマス、今後
御話ノヤウナ點ハ政府トシテ十分注意シナ
ケレバナラヌ點デアリ、又司法省方面カラ、
檢擧ノ方面カラ考ヘマシテモ、十分ニ是等
ハ考慮致シマシテ、處置ヲシナケレバナラ
ヌモノダト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=20
-
021・山岡萬之助
○山岡萬之助君 今ノ御說明デ了承致シマ
シタ、要スルニ此ノ統制經濟ノ問題ニ付キ
マシテハ、官民一體圓滑ニ其ノ行政ヲ行ヒ、
極メテ簡素ニシテ實績ヲ擧ゲルト云フ風ニ
行キマスルナラバ、其ノ犯罪ト云フモノハ
其ノ場面ニ起キテ來ナイ迄ニ行ケルト考フ
ルノデアリマス、其處ニ無理ガアルカラ贈
賄ト云フコトニ依ッテ、目的ヲ達シナケレバ
ナラヌト云フコトニナルト云フノガ今ノ御
說明中ニモアッタノデアリマス、ドウカ十分
ソレ等ノ點ハ御考慮下サイマシテ、政府ニ
於テハ此ノ重大ナ時局ニ於テ、犯罪行爲ヲ
目的ニシテ居ルヤウナ行キ方デハイカヌト
考ヘマス、何卒十分ナ御盡力ヲ願ヒタイト
思ヒマス、速記ヲチヨット止メテ頂キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=21
-
022・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 速記ヲ止メテ
〔速記中止〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=22
-
023・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 速記ヲ始メテ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=23
-
024・仁井田益太郎
○仁井田益太郞君 一二點伺ヒタイノデス
ガ、申ス迄モナク此ノ度ノ改正ハ控訴廢止
ト云フコト及ビ民事訴訟ニ付テハ、上告ス
ルニ當ッテハ事實ノ誤認ト云フコトヲ控訴
ノ理由ト爲スコトガ出來ルト考フルコトガ
出來ルノデアリマスガ、此ノ改正法律ガ圓
滿ニ行ハレルト云フコトニ付テハ、之ニ對
シテ裏付ケガナケレバナラヌト云フコトハ
申ス迄モナイノデアリマシテ、人員ノ配置ト
カ、部ノ增加ト云フコトハ勿論アルベキコト
デ、勿論是ハ考ノアルコトデアリマスガ、此
ノ機會ニ於テ政府ガドウ云フ用意ガアルカト
云フコトヲ伺ッテ置クコトガ、必要デアラウト
思フノデアリマスガ、單獨判事ニ付テ申ス
ナラバ是ハドウモ從來ノ例ニモ見テ居ル所
デアリマスガ、相當ニ熟練ヲシタ者ヲ配置
シタ御方針ノヤウニ聞イテ居リマス、是等
ノ點ニ付テモ更ニ一層ノ考ヲ必要トスルト
思フノデアリマスガ、控訴ガナクナルト云フ
ノデスカラ、今ヨリハ一層其ノ點ニ付テ注
意ヲスル必要ガアルト思ヒマス、此ノ點ニ
付テドウ云フ御用意ガアリマセウカ、ソレ
カラ又大審院ニ付テ申スナラバ、從來トテ
モ相當ニ事件ガ長引イテ一年以上モ掛ルト
云フコトハ決シテ珍シクナイノデアリマ
スガ、今度事實ノ誤認ヲ理由トシテ上〓ガ
出來ルト云フコトニナルノデアリマス、而
シテ事實ノ審理ヲ爲スコトガ出來ルト云フ
コトニナルト一層煩雜ト云フコトニモナ
ル、ソレカラ刑事訴訟ニ付テモ民事訴訟ニ
付テモ控訴ガナクナルト云フコトニナレ
バ、詰リ上告ガ控訴ニ變ルヤウナ形ニナラ
ナケレバ、一層上告ノ數ガ多クナルト思フ
ノデアリマスガ、サウスレバ言フ迄モナク
大審院ニ於ケル所ノ人ノ增加ガ必要デアル
ト思フノデアリマス、ソレハ必ズ其ノ點ニ
付テモ御用意ガアルト思フノデスガ、此ノ
際此ノ點ヲ明カニシテ置クコトガ必要デア
ラウト考ヘマシテ、其ノ點ニ付テ一ッ伺ヒタ
イノデス、ソレカラ第二點ハ、御承知ノ通リ
是迄ノ法律デ控訴ノ出來ナイト云フモノガ
アップ、上告ダケガ出來ルト云フコトニナッ
テ居ル訴訟ガ可ナリ多イノデアリマス、
處ガ從來ノ法律デハ上告ヲスルニ當ツテハ
事實ノ誤認ヲ理由トスルコトガ出來ナイト
云フコトニナッテ居ル、處ガ今度ノ法律ニ
依ルト、從來ノ判決ニ對シテハ矢張リ事實
ノ誤認ヲモ上〓ノ理由トスルコトガ出來
ル、是ハ民事訴訟ニ付テ申スコトデアリマ
スガ、是ハ刑事訴訟ト均衡ヲ得ル爲ト云フ
御考ニ外ナラヌト思フノデアリマスガ、從
來ハ相當多クノ訴訟ニ付テ上〓ヲスルニ當ッ
テ、法律ノ違背ノミヲ理由トスルト云フ
コトヲ認メテ事實ノ誤認ヲ上告ノ理由トセ
ズニ居ッタノデアリマスルガ、此ノ際之ヲ
逆戾シニシテ事實ノ誤認ヲモ上告ノ理由ニ
スルコトガ出來ル、斯ウナルコトニ付テハ
單リ刑事訴訟トノ均衡ヲ得ルト云フ理由ダ
ケデハドウデアラウカ、何カ事實ノ誤認ヲ
モ上〓ノ理由トセネバナラヌト云フ、從來
控訴ノ出來ナイ訴訟ニアッテモ、サウ云フ
ノデアレバ、當時既ニ事實ノ誤認ヲモ上〓
ノ理由トセネバナラヌト云フコトニナルノ
一デアリマスカラ、此ノ際詰リ從來ノ法律ニ
於テ控訴ヲ許サヌ事件ニ付テモ上告ヲスル
ニ當ッテハ事實ノ誤認ヲ上告ノ理由トスル
コトガ出來ルト云フコトニスベキ何カ積極
的ナ理由ガナケレバ、ドウモ刑事訴訟ト同
ジニスルト云フダケデハ不十分デハナイ
カ、寧ロ從來ノ法律ニ於テ控訴ヲ許サナカッ
タ事件、而シテ上〓ヲスルニ當ッテハ法律
ノ違背ノミヲ理由トスルコトガ出來、事實
ノ誤認ヲ上告ノ理由ニスルコトガ出來ナイ
事件ト云フモノヲ規定ノ例外ニセラレテモ
宜クハナイカ、戰時關係デ事件ヲ成ルベク
簡略ニスルト云フ意味デ、或訴訟ニ付テハ
控訴ヲスルコトガ出來ナイ、上告ノミハ出
來ル、而モ其ノ上〓ハ法律ノ違背ノミヲ理
由トスルコトガ出來テ事實ノ誤認ヲ理由ト
スルコトガ出來ナイトシテ居ッタノデ、ソ
レヲ此ノ際逆戾シヲスルト云フコトニ付テ
ハ、何カ從來ノ法律ノ施行ノ上ニ於テ、相
當改ムベキ理由ガアルトカ何トカト云フコ
トデナケレバ、ドウモ政府ガ刑事訴訟トノ
均衡ノ爲デアルト云フダケデ問題ヲ片付ケ
ルト云フコトハ、元々民事訴訟ト刑事訴訟
トハ全然性質ガ違フモノデアリマスカラ、
ドウモ均衡ヲ得ルト云フダケデハ甚ダ不十
分デアルト思フ、何カ相當ノ理由ガオアリ
デアラウト思ヒマスガ、若シアルナラバソ
レヲ一ツ伺ッテ置キタイト思ヒマス、此ノ
二點ダケヲ先ヅ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=24
-
025・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 御答ヲ致シマ
ス、先ヅ第一點デアリマス、斯樣ナ重大ナ
ル變更ノ案ヲ以テ臨ムノデアリマスカラ、
若シ是ガ幸ニ御協賛ヲ得ルコトニナリマシ
テ實施スルコトニ相成リマスルト、其ノ運
用ニ付キマシテハ私共ハ十分ノ努力ヲ傾注
致シマシテ司法ノ運用ニ萬遺憾ナキヲ期シ
タイ、斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、而
シテ之ガ人員ノ配置ニ付テハ全ク御說ノ通
リデアリマス、先ヅ第一ニ考ヘテ居リマス
ルノハ、區裁判所ノ事物管轄ガ擴張サレマ
シタ、サウシテ申ス迄モナク區裁判所ハ單
獨判事デアリマスルカラ、其ノ人選ニ十分
ノ注意ヲシナケレバナラナイコトハ申ス迄
モナイノデアリマス、既ニ先般御協賛ヲ得
マシテ實施ニナッテ居リマスル戰時三法律ニ
付キマシテハ、其ノ御審議ノ際、區裁判所
ニ練達堪能ノ士ヲ配置スルト云フコトヲ申
述ベテ居リマス、爾來其ノ事ニ努力ヲシテ
居ルノデアリマスガ、唯現情ヲ以テ完璧ナリ
ヤ否ヤト云フコトヲ申シマスニハマダ〓〓
十分デハナイノデアリマシテ、私共ハ今後一
層ノ努力ヲシナケレバナラヌコトハ勿論デア
リマス、唯區裁判所ノ判事ニ付キマシテ今日
ノ實情ヲ申述べマスルト、區裁判所ノ判事ハ
全國ヲ通ジマシテ五百十六人アリマス、此ノ
五百十六人ノ全國ノ區裁判所ノ判事ニ付
キマシテ、六級以上ト申シマスルト、昇
進ノ遲イ司法部ニ於キマシテハ先ヅ十年
以上ノ在職者デアリマス、卽チ六級以上デ
在職十年以上ニナリマスル者ニ付キマシテ
ハ八十六「。パーセント」ヲ占メテ居リマス、
又四級以上ニナリマスルト大體在職ガ十五
年以上デアリマスルガ、此ノ四級以上ノ者
ガ五十「パーセント」ヲ占メテ居リマス、サ
ウ致シマシテ戰時三法律ノ施行前ト施行後
トヲ較ベマスルト、平均年齡ニ於キマシテ
滿一年乃至滿一年半多クナッテ居リマス、ソ
レデアリマスカラ戰時三法律施行後ニ於キ
マシテハ、區裁判所ノ判事ニ經驗者ガ多少
殖エテ居ルト云フコトガ申サレヤウト思フ
ノデアリマス、併シ先程モ申シマスル如ク、
之ヲ以テ私共ハ決シテ滿足ヲスルモノデハ
ナイノデアリマシテ、區裁判所ノ充實ト云
フコトニハ今後更ニ多大ノ努力ヲ致シタイ
ト思フノデアリマス、ソレニ付キマシテハ
御承知ノヤウニ判事ハ地位ノ保障ガアリマ
スルカラ其ノ人ヲ中々動カシニクイノデア
リマス、唯同ジ地方デアリマスト大抵其ノ
地方ノ區裁判所ヲ兼ネル所謂兼區ノ辭令ガ
出テ居ルノデアリマスカラ、其ノ地方デ區
ニ移シマスルコトハ容易デアリマスケレド
モ、他地方ニナリマスルト中々困難ヲ伴フモ
ノデアリマス、併シ幸ニ戰爭前ト戰爭後ト
ヲ較ベマスルト、判事全體ノ意氣込ミハ確
カニ變ツテ參リマシテ、戰爭前ニ較ベマスル
ト人事ノ配置移動ハ大變樂ニナリマシタ、
ソレデ此ノ人事ノ配置ニ付テ十分努力ヲシ
ナケレバナラナイト云フコトニナルト、法
制上或ハ地位ノ保障ニ付テノ規定ヲ變更シ
ナケレバナラナイト云フ議論モ一部ニハアッ
タヤウデアリマスケレドモ、勿論左樣ナコ
トヲ致サズ、地位ノ保障ニ手ヲ觸レマスル
ト、是ハ判事ノ制度トシテハ由々シキ問題
デアリマスカラ、之ニ手ヲ觸レナイデ我々
ガ努力ヲシテ參リマスレバ、區裁判所ノ判
事ノ充實ハ必ズシモ不可能デハナイ、斯樣
ニ存ジテ居ルノデアリマス、次ニ御指摘ニ
相成リマシタ大審院ノ問題デアリマスルガ、
御承知ノヤウニ今日大審院デ事件ノ遲レテ
居ルモノモアリマスルコトハ確カニ事實デ
アリマスガ、大審院ノ人員ノ增減ニ付キマ
シテハ、今御話ニナリマシタヤウニ民事ニ
付キマシテモ重大ナル事實ノ誤認ヲ上告ノ
理由ト致スノデアリマスカラ相當其ノ點ニ
付テ事件ノ增加ヲ見ルコトハ當然デアリマ
スケレドモ、大審院へ參リマスノハ地方裁
判所ノ上告事件ダケデアリマシテ、而モ地
方裁判所ノ事物ノ管轄ハ、今囘ノ變更デ多
少減少スル譯デアリマスカラ、先ヅ大審院
ニ付キマシテハ人員ノ增減ナクテ濟ムノヂ
ヤナイカ、斯樣ニ存ジテ居リマス、結局全
體的ニ人員ノ配置ノ變動ヲ考ヘテ見マスト、
地方ガ多少減リマシテ、區裁判所ガ幾ラカ
殖エル、控訴院、大審院ニハ先ヅ增減ガナ
クテ濟ミハシナイカ、斯樣ニ存ジテ居リ
マス、サウシテ總テノ合算カラ申シマスル
ト、判事ニ幾ラカ手ガ空クヤウニ思ヒマス、
卽チ若干ノ人員ノ捻出ガ出來ルト斯樣ニ考
ヘテ居ル次第デアリマス、尙此ノ人員ノ問
題ニ付キマシテ、折角ノ御示シモアリマシ
タカラ、私共十分ニ努力ヲ致ス積リデアリ
マスルガ、何ヲ申シマスルニモ、人間ノ素
質ガ根本ノ問題デアリマス、幸ニ玆三四年
ノ所、司法官試補ヲ志願シマスル者ノ素質
ガ大變良クナッテ參リマシテ、卽チ各種ノ
學校ノ優秀者ガ司法部ヲ志願スルト云フ傾
向ヲ示シテ居リマス、是ハ大變私共樂シミ
ニシテ居ルノデアリマシテ、今後モ斯ウ云
フ傾向ノ持續スルコトヲ望ンデ居ル次第デ
アリマス、第二點デアリマスルガ、民事訴
訟ニ付キマシテ上告審ニ重大ナル事實ノ誤
認ヲ入レマシタ、是ハ勿論大變革デアリマ
ス、之ニ付テハ色々ノ御議論モアルカト存
ズルノデアリマスルガ、先ヅ第一點ハ民
事訴訟全般ニ付テ控訴審ヲナクシマス、デ
アリマスルカラ、事實審ハ第一審ダケニ限
ルノデアリマスルケレドモ、裁判ノ根本ノ
事實ノ問題ガ間違ッテ居ルト云フコト、是
亦由々シキ問題デアリマスカラ、少クトモ
上告審ニ事實ノ誤認、而モ之ガ重大ナルモ
ノナレバ之ヲ採入レタイ、斯ウ云フ考デア
リマシテ、先ヅ最初根本ノ問題ハ控訴審ヲ
無クシタカラデアリマス、次ニ御示ノヤウニ、
現在旣ニ戰時特別法ノ施行ノ結果ト致シマ
シテ、民事ニ付テモ二審級ノ事件ガアルノデ
アリマスケレドモ、是ハ種類ガ極メテ少イ
ノデアリマシテ、或種ノ明渡、占有ニ關ス
ル訴訟、若シクハ經界ニ關スル訴訟、サウ
多クノ事件デハアリマセヌ、民事デ今日二
審級ニナッテ居ル事件ノ多クハ執行關係ノ
事件デアリマシテ、之ニ付テハ相當ノ數ガ
アルノデアリマス、是等ノ事件ヲ通覽致シ
マシテ、事實ノ重大ナル誤認ト云フコトガ
アレバ結構ダト思ヒマス、アレバアル方ガ
宜イト思ヒマス、併シソレガナカッタカラ
過去一年半ノ實績ニ於テ非常ニ困ッタ事例
ガアルカドウカト言ハレマスト、私共ノ
知ッテ居ル範圍デハ、左程ソレガ爲ニ支障
ヲ生ジタト云フコトハ見當ラナイヤウデア
リマス、デアリマスルカラ現在此ノ二審級
ニナッテ居リマスル民事訴訟ニ付キマシテ
ハ、是ハ別ニ重大ナル事實ノ誤認ト云フコ
トヲ入レナイデ、其ノ儘見送ッテモ宜イヂ
ヤナイカト云フ考モ立チ得ルノデアリマス
ルケレドモ、旣ニ民事ニ付テ控訴審ヲ無ク
シテ、總テニ付テ左樣ニ致シテ、總テニ付
テ重大ナル事實ノ誤認ヲ上告ノ理由ニス
ル、斯ウ云フコトニナリマスト、特ニ現在
二審級ニナッテ居リマスル比較的少數ノ種類
ニ付テ、ソレダケ除クト云フコトハ如何デ
アリマセウカ、斯樣ニ考ヘダノデアリマス、
卽チ私共ノ考ト致シマシテハ、控訴審ヲ
無クシタナラバ、重大ナル事實ノ誤認ニ付
テハ上告ノ理由トスルコトハ、是ハ必要デ
アル、斯樣ニ考ヘタノデアリマシテ、此ノ
必要性カラ今日二審級ニナッテ居リマスル
或種ノ少數ノ民事事件ヲ特ニ除外スルコト
モ宜クナイト斯樣ニ存ジタ次第デアリマス、
尙御承知ノヤウニ今日總テノ民事事件ニ付
テ上〓ノ理由トシテハ申ス迄モナク法令ノ
違反デアリマスガ、此ノ法令違反ノ中ニ採
證原則ノ違反若クハ經驗律ノ違反或ル意味
ニ於テハ事實審ニ引掛ッテ來ルヤウナ問題
ガ上告理由ニ隨分出テ來ルノデアリマシ
テ、又ソレヲ採リ上ゲテ上告ニ於テ原判決
ヲ破毀シテ居ル事例モ少クナイノデアリマ
ス、是ダケデモ宜クハナイカト云フ考モ一
應ハ立ッタノデアリマスケレドモ、併シ控訴
審ヲ無クシタ以上、ドウシテモ事實ノ重大
ナル誤認ニ付テハ事實審ヲ爲スト云フコト
ヲ一方ニ揭ゲ、之ヲ適當ニ活用スルコトガ
必要デアラウト斯樣ニ考ヘタ次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=25
-
026・仁井田益太郎
○仁井田益太郞君 私ハ從來控訴ヲ認メ
ズ、上告ノミヲ認メテ居ル事件ニ付テ、事
實ノ誤認ヲ上告ノ理由トスルト云フコトニ
付テハ、私ノ意見トシテハ實ハ贊成ナノデ
アリマスケレドモ、斯ウ云フコトヲスルニ
至ッタニ付テハ、當局ニ於テ一般ニ事實ノ誤
認ト云フコトヲ上告ノ理由トスルコトガ、
適當デアルト云フ言明ヲ實ハ得タイノデ質
問ヲ致シタ譯デ、外ニ理由ガアルカト云フ
コトヲ伺ッタノハ其ノ次第デアリマス、ソ
レカラ次ニ人員ノ配置等ノコト或ハ人員ノ
補充モ同樣ノコトト思ヒマスガ、今更區裁
判所ニ老練ナ判事ヲ配置スルト云フ爲ニ、
隨意ニ轉所ガ出來ルト云フ風ニ法律ヲ改メ
ルト云フヤウナコトハ、無論イカナイコト
ハ疑ナイコトデアリマスガ、唯此ノ停年制
デスナ、之ニ付テハ相當考慮シテ宜シイノ
ヂヤナイカ、政府ノ意嚮デ或時期ニ達シテ
辭メサセルト云フコトニスルノハ無論イカ
ヌノデアリマスケレドモ、定年ニ達シタ人
デ矢張相當ニ働ケル人ガアッタナラバ、其ノ
在職ヲ延バスト云フコトハ一向差支ナイコ
トデアリマスガ、サウ云フ人ニ付テハ定年
ニ拘ラズ矢張在職ヲ延バシテ行クト云フ、
斯ウ云フ風ナコトニ付テハ御考ガアルカド
ウカ、殊ニ判事ノ補充ナドモ相當ニ困難ニ
ナッテ來テ居ルコトト思ヒマスカラ、政府ノ
意嚮デ、司法省ノ意嚮デ、在職ヲ延バスト
云フ方ヲ一ツ考ヘテ見テハドウカト思フノ
デスガ、サウ云フコトモ一ツノ方法ヂヤナ
イカト思ヒマス、老練ノ人ヲ裁判所ノ部內
ニ止メテ置クト云フコトニ付テハ、御提案
ガナイノデアリマスカラ、無論此ノ際御考
ニナッテ居ラヌト云フコトハ確カデアリマ
スガ、是ハ此ノ際考慮シテ宜イト思フノデ
スガ、單リ此ノ臨時議會ノミニ止マラヌコ
トデアリマスガ、其ノ點ニ付テノ御考ハ如
何デアリマセウカ、チヨット伺ッテ置キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=26
-
027・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今司法部ノ將
來ニ付テ色々御心配ノ點デ御意見ヲ伺ッタ
ノデアリマスガ、只今ノ所デハ····永イ
將來ノコトハ別問題デ、只今ノ所デハ特ニ
定年制ヲ廢止致シマセヌデモ、人員ノ點ハ
十分ニ賄ヘルト云フ考ヲ持ッテ居リマス、或
ハ數年後ニデス、色々ノ狀況ノ變化デドウ
シテモ定年制、現在ノ定年制デ退職スル人
デモ、引續イテ是非定年制ヲ撤廢シテ用ヒ
ナケレバナラヌト云フヤウナコトハ、將來
特別ノ事情ガ發生スレバ別デアリマスガ、
只今ノ見透シデハ其ノ必要ハナカラウカト
云フ考デ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=27
-
028・次田大三郎
○次田大三郞君 今度提案ニナリマシタ裁
判所構成法、戰時特例中改正案ハ民事刑事
ヲ通ジテ從來ノ三審制度ヲ全面的ニ撤廢シ
テ、二審制度ニシヨウト云フ案デアリマス、
我國ノ司法制度ノ劃期的變更ト申シテモ過
言デナイト思フ、三審制度ハ國ガ人民ヲ裁
ク上ニ於テ苟モ間違ノナイコトヲ期シテ、
念ニハ念ヲ入レロト云フ趣旨デ作ラレタ有
難イ制度デアリマシテ、明治ノ御代ニ創設
セラレテ以來既ニ數十年、我國民ハ此ノ權
利利益ノ上ニ國ノ與ヘル有難イ保護ヲ享
受シテ今日ニ參ッテ來タノデアリマス、ソレ
ヲ一朝ニシテ二審制度ニスル、是ハマア非
常ニ重大ナ事柄デアルト言ヒ得ルト思フノ
デアリマス、簡單ナ一ツノ例ヲ擧ゲテ見マ
シテモ、昨日御配付ニナリマシタ參考書類
ヲ見マスト、是ハ刑事ノ方デスガ、刑事ノ
控訴審ノ判決ガ、昭和十三年カラ十七年迄
ノ平均一年ニ二千六百三十一人、其ノ中デ
無罪ニナリ、免訴ニナッタ者ガ九十六人、刑
ヲ輕クサレタ者ガ千九百九十三人ト云フ統
計ガ出テ居リマス、詰リ第一審ノ判決ニ不
服デ控訴ヲ申立テタ者ノ四十「パーセント〓
餘ガ或ハ無罪ニナリ、或ハ刑ヲ輕クサレテ居
ルノデアリマス、サウシマスト、今度ノ三審
制度ヲ廢シテ二審制度ニスルコトニ依ッテ、
第一審ノ判決ニ不服ナ者ノ百人ノ中デ四十
幾人ガ無罪ニナリ、若クハ刑ガ輕クナルト云フ
機會ヲ奪ハルヽコトニナルノデアリマス、是
ハ非常ニ重大ナコトデアルコトハ、本案ニ
贊成スル者モ本案ニ對シテ反對ノ態度ヲ執
ル者モ等シク認メナケレバナラナイコトト
思フノデアリマス、議會ト致シマシテハ、
此ノ重大ナル案件ヲ審議スルニ當リマシテ
ハ、各方面カラ十分檢討ヲ加ヘテ、愼重ノ
上ニモ愼重ニ審議シテ可否ヲ決定スルコト
ガ、我々議員ノ職責デアルト考ヘルノデア
リマス、ソコデ私伺ヒタイノハ、斯クノ如キ
重大ナル法律案ヲ此ノ會期三日ニ過ギザル
臨時議會ニ御提出ニナラナケレバナラナカッ
タト云フノハドウ云フ譯デアリマセウカ、
モウ六十日スレバ通常議會ガ開カレル、此
ノ六十日ヲ待ツコトガ出來ナイト云フ事
由ハ何處ニアルノデアリマセウカ、言葉
ヲ換ヘテ申シマスレバ、斯ウ云フ重大ナ
ル案デアルカラ通常議會迄待ッテモ宜イ
ノヂヤナイカ、サウシテ十分議員ニ審議
ヲ盡サセルト云フコトガ政治運用ノ上カ
ラ適當デハナイカト考ヘルノデアリマスガ、
ソレヲナサレナカッタノハドウ云フ理由デ
アリマセウカ、又何カ重大ナル理由ガアッ
テ、ドウシテモ通常議會ヲ待ツコトガ出來
ナイ、ドウシテモ此ノ臨時議會デ此ノ問題ヲ
決シナケレバナラヌト致シマスルナラバ、
三日ノ會期ト云フモノハ短カキニ失スルノ
デハナカラウカ、或ハ五日トカ或ハ七日ト
カト云フ風ニ會期ヲ御定メニナッテ、サウ云
フ會期デ臨時議會ヲ開クコトヲ御奏請ニナッ
テ然ルベキモノデハナイカト斯ウ思フノデ
アリマスガ、此ノ二點ニ付テ國民一般ガ納
得スルヤウナ御說明ヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=28
-
029・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今二審制度ヲ
全般ニ採用スルト云フコトハ非常ニ重大ナ
コトデアルト云フ點ノ御意見デアリマスガ、
是ハ私共全ク同感デアリマス、司法部ニ取
リマシテハ非常ナ劃期的ノ制度ノ改革デア
ルト考ヘテ居リマス、何故ニ之ヲ臨時議會ニ
提案シタカト云フコトニ付キマシテハ、私
共種々ノ考ヘ方ヲシテ居リマス、戰爭ハ御
承知ノ通リ相當熾烈ヲ極メテ參リマス、斯
樣ナコトガアッテハナラヌノデアリマスガ、
或ハ空襲等ノ危險ト云フヤウナコトニ付テ
モ防空上種々〓究ヲ致シテ居ル通リデアリ
ママ、此ノ際司法部ト致シマシテモ、萬.
ノコトガアッテモ司法裁判ト云フモノガ行
ヘルヤウニシテ置カナケレバナラヌト云
フ考ヲ持ッテ居ル譯デアリマス、ソコデ空襲
等ガゴザイマシテ交通、通信ト云フヤウナ
モノノ杜絕スルト云フ不幸ナ場合等ヲ豫想
致シマスト、上告事件ガ東京ノ大審院一箇
所ニ集マルト云フヤウナ建前デハ到底司法
裁判ト云フモノヲ行フコトガ出來ナイ
デアラウ、ソコデ二審制ヲ採ルト同時ニ、
區裁判所ノ事件ハ其ノ上告ヲ全國七箇所
ノ控訴院デ管轄スルコトニ致シマシタ、控
訴院ハ現在東京、大阪、名古屋、廣島、長
崎、仙臺、札幌ノ七箇所ニアリマス、ソレカ
ラ又區裁判所ノ事物管轄ヲ擴張シダト云フ
點デアリマスガ現在民事、刑事ヲ取扱ッテ居
ル地方裁判所ガ全國ニ五十一アリマス、東
京ダケニハ刑事地方裁判所ト民事地方裁判
所ガ特ニ一箇所ヅツアリマス、處ガ區裁判
所ハ其ノ約四倍位ノ數ガアリマス、例ヘバ
北海道デ言ヘバ札幌地方裁判所管內ノ區裁
判所ガ數箇所アリマスカラ、其ノ數箇所ノ
區裁判所デ大體刑事事件等ノ相當大キナ事
件ヲ處理ヲシヨウ、全國的ニ見テ申シマス
ト、北海道ニ例ヲ取レバ、區裁判所カラ起ッ
タ事件ハ上告ガ北海道デ大體片付イテシマ
フ、サウ云フコトニナリマスト、現在ノヤウ
ニ東京ノ大審院迄上〓シナケレバナラヌト
云フヤウナコトガ其處デ省略セラレル譯デ
アリマス、假ニ空襲ガアリマシテ札幌ト東
京ノ通信或ハ交通ガ杜絕セラレマシテモ、
裁判ハ行ヒ得ル、最終審ガ行ヒ得ルト云フ
コトニナル、又ソレガモウ一步、北海道内
ノ例デ言ヒマシタナラバ、大體地方裁判所
デ裁判シナケレバナラヌト云フモノハ、各
地ノ區裁判所デ處理ガ出來ルト云フヤウナ
コトニモナル譯デアリマス、要スルニ萬一
ノ場合ヲ十分考慮ニ入レマシテ、左樣ナ場
合ニモ司法裁判ト云フモノガ十分ニ行ヒ得
ルモノデアルト云フ用意ヲシテ置クト云フ
コトガ現在司法部トシテ必要デアラウト云
フ考ヘ方ヲ以チマシテ、今囘ノ臨時議會ニ、
期間ハ甚ダ短イノデアリマスガ、司法部ト
致シマシテハ、是ダケノ準備ダケハシテ置
クト云フコトガ責任上當然ノコトデハナカ
ラウカト云フコトカラ、全體ニ二審制、事務
モ簡捷致シマシテ、一審ガ省略セラレマス
カラ、無論三分ノ一事務ガ短クナルト私共
ハ考ヘテ居リマセヌ、無論二審ト云フコト
ニナレバ、一層二審ノ裁判官ハ非常ナ責任
ヲ感ジマスルカラ、本當ニ綿密ニ事柄ヲ調べ
ルト考ヘマス、無論サウナクチヤナラヌト
考ヘテ居リマスカラ、丁度三審制度ガ二審
制度ニナルカラ、事務ガ三分ノ二ニ短クナ
ルト云フコトハ私ハ考ヘテ居リマセヌ、十
分二審制度ニナリマシタラ力ヲ盡シ、事實
ノ認定等ニ付テ相當ニ愼重ニ證據ノ調ベヲ
スルトカ、相當ニ時ハ取ルトハ思ヒマスガ、
取ルニシテモ、何ト言ッテモ一審ノ省略ニナ
リマスカラ、總テノ刑事民事ニ亙リマシテ、
事務ノ處理ガ早クナル、是ハ矢張リ色々戰
時ノ增產ノ方面ニモ關係ガゴザイマスシ、
事件ヲ速カニ處理スルト云フコトハ平素
デモ必要ナコトデアリマス、况ンヤ斯ウ云
フ非常ノ時ニ、人手ノ非常ニ欲シイ時デア
リマスカラ、サウ云フヤウナ點カラ考ヘマ
シテモ、二審制度ニシテ置クコトハ、現在ノ
態勢上必要デアルト云フヤウナ考へ、旁〓サ
ウ云フヤウナ點ヲ心配致シマシテ、此ノ案
ヲ提案シタ譯デゴザイマス、無論日ニチガ
三日間ト云フノハ、非常ニ短イヂヤナイカ
ト云フ御話デアリマシテ、其ノ點ハ、政府
全體ニ於テ大體三日ト云フ會期ヲ決メタ譯
デ、短イト言ヘバ短イノデアリマスケレド
千、又堪能ナ皆樣ノ御力ニ依ッテ御審議ヲ
願ヘバ、此ノ非常ナ場合デアリ、又私共モ
出來ルダケノ御說明ヲ申上ゲマシタナラバ、
御納得ノ行クコトデハナイカト斯ウ考ヘテ
居ル譯デアリマス、一應是デ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=29
-
030・次田大三郎
○次田大三郞君 本案ヲ此ノ次ノ通常議會
迄待テナイト云フ理由ハ、兎ニ角分リマシ
タガ、唯斯クノ如キ重大ナル案件ヲ處理ス
ル臨時議會ノ會期ヲ三日トシテ奏請セラレ
マシタ理由ニ付テハ、マダ分ラナイノデゴ
ザイマス、或ハ若シ必要デアレバ、總理大
臣ノ御出席ヲ仰イデ、其ノ說明ヲ伺ッテ置キ
タイト思ヒマス、是ハ議會トシテハ、自分
ノ議會ノ審議權ヲ實行スル上ニ於テ非常ニ
大キナ事柄デアルノデアリマス、ドウモ兩
院ヲ三日デト云フコトニナルト、結局昨日
モ委員長カラ御話ガアリマシタヤウニ、午
後ノ三時頃迄ニハ此ノ法案ヲ終ラナケレバ
ナラヌ、ドウモ事柄ノ重大ナノニ比ベテ、
與ヘラレタ時間ハ短カ過ギルト云フ感ジヲ
持タザルヲ得ナイノデアリマス、是ハ司法
大臣カラ御答辯ヲ下サレバ伺ヒマスシ、サ
ウデナケレバ政府ノ說明ヲ伺ヒタイト思フ
ノデアリマス、ソレカラ第二點ニ移リマス、
戰時刑事特別法ノ改正案デアリマスガ、其
ノ主要ノ點ハ公務員ノ瀆職罪ニ關スル刑ヲ
加重スルト云フ事柄デアリマシテ、私共モ
双手ヲ擧ゲテ贊成ヲスルモノデアリマス、
併シナガラ瀆職罪ニ對スル刑ヲ重クサレマ
シテモ、檢擧ヲシナケレバ是ハ何ニモナラヌ
コトデアリマス、昨日政府委員ノ御說明ニ依
リマスト、公務員ノ漬職罪ノ檢擧ノ數ハ、今年
ニ至ッテ非常ニ增加シタサウデアリマス、而
シテソレガ又本案ヲ提出セラレマシタ理由
ノ一ツノヤウニ伺ッタノデアリマス、併シナガ
ラ私共若クハモウ少シ大キク申上ゲテモ宜
イト思ヒマスガ、國民ノ大多數ノ間デ贈收
賄ノ行ハレテ居ルノデハナイカト云フ疑惑
ヲ多分ニ持ツテ居リマスル事柄ハ、昨日御
話ノ下級警察官ノ一部トカ、小學校ノ〓員
ノ內申ニ絡マル事件、稅務署ノ官吏ノ脫稅
ニ關スル事件トカ云フヤウナコトガアリマ
スガ、ソレヨリモツト大キイ役人ガ瀆職ヲ
シテ居ルノヂヤナイカト云フ疑ヲ持ッテ居
ルノデアリマス、統制經濟ニ關係シテ居ル
所ノ御役人ト當業者トノ間ニ、若シクハ軍
需事業ヲ監督ヲシテ居ル官吏ト其ノ當業者
トノ間ニ瀆職ノ事實ガアルノデハナイカト
云フ疑惑ヲ、國民ノ相當廣イ範圍ニ於テ持ッ
テ居ルヤウニ私共ハ感ズルノデアリマス、
無論瀆職ノ行爲ハ隱微ノ間ニ行ハレルモノデ
アリマスカラ、大ピラニヤルモノデアリマ
セヌカラ、警察デモナイ、司法官デモナイ
國民ガ、適確ナル證據ヲ持ッテサウ云フコト
ヲ話ス譯デハアリマセヌ、併シナガラ今申
シマシタヤウナ職ニ官吏ガ就キマスト、間
モナク其ノ生活ガ非常ニ豪奢ニナル、例
バ豪莊ナル邸宅ヲ構ヘ、別莊ヲ買取ル、或
ハ連日連夜ノ如ク新橋、赤坂アタリノ一流
ノ料理店、待合デ豪遊ヲスルト云フヤウナ事
實ヲ見マスト、ドウモ國カラ支給セラレタ定
マッタ俸給デ、斯クノ如キ生活ガ出來ル筈ガ
ナイノデアル、何カアルノヂヤナイカト云
フ疑惑ヲ生ズルコトハ、是亦無理ガナイコト
ダト存ズルノデアリマス、何故警察ハ彼ヲ
調ベナイノダ、裁判所ハ、檢事局ハ何故ア
レヲ檢擧シナイノダラウカト云フ沙上偶語
ヲ私共屢〓耳ニシテ居ルノデアリマス、先
頃山岡委員ガ述ベラレマシタ如ク、民間側
デハ今日ノ場合、一日ノ急ヲ爭フ仕事ヲ遂
行シテ行ク上ニ於テ、已ムヲ得ズ擔當官吏
ノ御機嫌ヲ伺ハナケレバナラヌト云フ事實
ハ隨所ニアルノデアリマス、私此ノ夏貴族
院カラ派遣サレマシテ、北九州ノ木造船建
造ノ狀況ヲ視察ニ參ッタコトガアリマス、
是ハ木造船ヲ建設スルコトガ刻下喫緊ノ急
務デアル、ソレガウマク行ッテ居ルカドウ
カト云フコトヲ見ニ參ッタノデアリマス、
其ノ北九州ノ某縣デ聞イタ話デアリマスガ、
造船所ヲ經營シテ居ル者ガ、是ハ非常ニ有
力ナ造船所デアリマシテ、木造船建造奬勵
ノ思召ヲ以テ宮內省カラ御下賜ニナリマシ
タ帆柱材ヲ一本頂戴シテ居ル造船所デアリ
マス、其ノ造船所ノ主人ガ木造船ヲ造ルノ
ニ色々物ガ足リナイ、殊ニ釘ガ非常ニ足リナ
イ、釘ヲドウニカシテ手ニ入レタイ、處ガ
縣廳ニ釘ノ配給ガアッタト云フ話ヲ聞キマシ
テ、縣廳ニ行ッテドウカ釘ノ配給ヲ早クシ
テ欲シイト云フコトヲ賴ンダ、サウシマシ
タラ、係ノ技師ガ、イヤ御前ノ所ヘヤルダ
ケノ釘デナイノダ、何處ヘ幾ラ、何處ヘ幾ラ
ト云フ配給先ガ全部決ッテデナイト御前ノ
所ニ釘ヲヤル譯ニイカヌ、ト言ッテ斷ッタ、
ソコデ其ノ造船所ノ主人ハ御尤モダ、併シ
ナガラ如何ナル標準デ配當セラレマシテ
モ、私ノ所ニハ最少限度是レダケノ釘ハ配
給サルヽ筈ダト思フ、實ハ木造船ノ建造ハ
モウ各方面カラ督促サレテ居ルノデ、- 日
モ早ク仕上ゲタイノニ釘ガナクテ困ッテ居
ルノダカラ、切メテ私共ノ考ヘテ居ル量ノ
半分ダケデモ宜イカラ配給シテ吳レヌカ、
ト言ッテ賴ンダノデスガ、處ガサウ云フコ
トハ出來ナイ、ト言ッテ斷ッタ、而シテ其ノ
後デアノ男ハ頭ヲ下ゲテ來ナイカラ配給シ
テヤラヌノダ、斯ウ云フコトヲ其ノ造船業
者ニ分ルヤウナ方法デ、或人ニ話ヲシタト
云フコトデアリマス、造船業者ハ頭ヲ下ゲ
テ來ルト云フコトガ、何ヲ意味スルカト云
フコトハ自分ハ能ク知ッテ居ル、併シナガ
ラ畏クモ宮內省御下渡ノ帆柱材ヲ頂戴シテ
居ッテ惡イコトハ出來ナイ、マア仕方ガナ
イト言ッテ我慢シテ居ッタ所ヘ丁度私達ガ參
リマシテ、縣廳デ造船業ニ關係シテ居ル人
達ノ座談會ヲ開イテ貰ッタ、私共モ其ノ座
談會ニ出席ヲシテ色々話ヲ聽イタノデアリ
マスガ、其ノ座談會ヲ開ク朝ニナリマシテ、
其ノ何某技師ガ造船所ニ來マシテ、今日座
談會ガ開カレル、御前ノ方デ希望シテ居ッタ
釘ハ希望通リ配給シテヤルカラ、今日ハ默ッ
テ居ツテ吳レ、斯ウ云フ御話デアッタ、アナタ
方ガイラッシヤッタ御蔭デ、私ハ惡イコトヲ
シナイデ釘ノ配給ヲ受ケルコトガ出來マシ
タト言ッテ非常ニ喜ンデ話シタコトガアリ
さく、丁度山岡委員ガ今述ベラレタト同ジ
ヤウナコトデ、モウ犯罪ノ一步手前迄押付
ケラレテ居ルノデアリマス、之ニ類スル話
ハ非常ニ能ク聞クノデアリマシテ、是ハ昨
日聞イタ話、或軍需會社ノ當業者ガ資材ヲ
貰フ關係デ、或役所へ認可デスカ許可デス
カ、兎ニ角書類ヲ出シタ、處ガ何時迄經ッテ
モソレヲヤッテ吳レナイ、認可、許可シテ
吳レナイ、軍ノ方ノ指令モアルノダカラ、
直グニヤッテ貰ヘル筈ダト思フノダガ、何
時迄經ッテモヤッテ貰ヘナイ、ソコデ每日ノ
ヤウニ催促ニ行クガ、何時行ッテモ調ベテ置
クト云フ譯デ、其ノ書類ハドウモ其ノ係官
ノ机ノ中ニ藏ヒ込マレテ居ルラシイ、軍需
工業ハ申迄モナク時ト云フ問題ガ實ニ重大
ナル關係ヲ持ッテ居ルノデアリマシテ、其ノ
業者ハ非常ニ焦慮シテ居ッタ際ニ、其ノ役所
デ是ハ役人デアリマセヌ、民間ノ人ラシイ
ノデスガ、第三者ガ御前ハ何故役所ニコンナ
ニ來テ居ルノカト聞カレル、斯ウ云フ事情
ダト云フコトヲ話シタ、處ガソレハ極メテ
簡單ダ、直グ認可ヲ取ッテヤル、斯ウ云フ話
ナンデス、實ニ困ッテ居ッタ際デアリマスル
カラ、所謂溺ルヽ者ハ藁ヲ摑ムノ譬デ、出
來ルコトナラ賴ミマスト言ッテ賴ンダラ、卽
日其ノ認可ガ得ラレタ、非常ニ喜ンデ歸ッタ
ノデアリマスガ、其ノ場ハ喜ンデ歸ッタノデ
アリマスガ、數日ヲ經マシテ是ハ役人デナイ、
第三者ガ來マシテ、アノ事件ハ評價何十萬
圓ニ相當スルト思フ、シテ見レバ御禮ヲヨ
コセ、何萬圓カ巨額ノ御禮ヲヨコセト云フ
コトヲ言ハレタ、モウ否應ナイ、巨額ノ金
ヲ取リ上ゲラレタト云フ話デス、是ハ第三
者デ公務員デアリマセヌ、從ッテ收賄罪ハ成
立シナイノデアリマスガ、ソレダケデハナ
イ、併シナガラ其ノ第三者ノ懷ニ入ッタ數萬
圓ノ金ノ全部若シクハ一部ガ、其ノ當該公
務員ノ懷ニ間接若シケハ直接ニ入ラナカッ
タト、誰ガ保證スルコトガ出來マセウカ、私共
ハ寧ロ其ノ一部分ハ其ノ官吏ノ懷ニ入ルノ
ダ、若シクハ入ッタノダト想像スル方ガ當ッ
テ居ルノヂヤナイカト思フノデアリマス、
ソレカラ是モ昨日聞イタ話デアリマスガ、
某軍需會社ノ話デアリマス、ドウモ色々ヤッ
テ貰フノダケレドモ、役所ノ方デ手續ガ引
掛ッテ困ル、デ官廳ヘ行ッテ陳情シテ居ッテ時
間ガ經ッテタ飯頃ニナルト、役人ノ方カラ一ツ
飯デモ食ッテユックリ話サウヂヤナイカ、ト
斯ウ云フ話ダ、ソコデ慌テテ新橋デスカ、
赤坂デスカ、一流ノ待合ヘ電話ヲカケテ場
所ヲ準備サシテ、サウシテ其ノ役人ノ御伴
ヲシテ其處ヘ行ッテ一〓ニ飯ヲ食フ、マア御
馳走ダケデ濟ムト宜イノダケレドモ、其ノ
後デ更ニ第二ノ要求ガ出テ來ルノデ實ニイ
ヤダト云フコトヲ零シテ居ル人ノ話ヲ聞イ
タコトガアルノデアリマス、マア斯ウ云フ
ヤウナ事柄ガアッテ、其ノ儘ニナッテ居ルト
云フコトハ國民ノ間ニ沙上偶語ヲ生ズルコ
トハ巳ムヲ得ナイノヂヤナイカト云フ風ニ
私ハ思フノデアリマス、現行制度ノ下ニ於
テ瀆職罪ノ檢擧ガ非常ニ困難デアルト云フ
事柄ヲ、此ノ前ノ議會デアリマシタカ、前ノ
前ノ議會デアリマシタカ、豫算總會デ司法
大臣カラ色々伺セマシタ、ソレハサウカモ
知レマセヌ、私共ハ司法當局ガ本當ニヤル
氣デオヤリニナルノナラバ、現行制度ノ下
ニ於テモ搜査ヲヤリ、檢擧ヲスル、國民ノ
疑惑ヲ一掃スルコトガ不可能デハナイト信
ズルノデアリマスガ、是ハ水掛論デスカラ
强ヒテ申シマセヌ、併シナガラ現行制度ノ
下ニ於テ收賄罪ノ檢擧ガ困難デアルト云フ
コトナラバ、斯クノ如キ戰時刑事特別法ノ改
正ヲナサルト同時ニ、檢事ノ捜査ニ關スル
現行制度ヲ御直シニナッテ然ルベキモノデ
ハナイカ、十日間シカ身分ヲ拘束スルコト
ガ出來ナイ、十日間デハ到底調ガツカヌト
云フノナラバ、二週間ニスルトカ三週間ニス
ルトカ、兎ニ角現行制度ノ下ニ於テハドウ
モ檢擧ガ困難デアルト云フ言譯ヲナサル代
リ、ドウシテモ困難デアルナラバ、其ノ困
難ヲ打開スル何カノ策ヲ講ジテ下サルベキ
モノヂヤナイカト私ハ思フノデアリマス、
戰時刑事特別法改正ハ私ハ贊成デアリマス、
是ト同時ニ司法當局ノ搜査檢擧ニ、モウ少
シ努力シテ戴キタイト云フコトヲ切望スル
ノ餘リニ、何カ御考ガアルカ、其ノ點ヲ司
法大臣カラ御伺ヒ致シタイト思フノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=30
-
031・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 總テ犯罪ハ一般
的ニ檢擧スルコトハナカ〓〓ムヅカシイコ
トデアルノデスガ、殊ニ陰密ノ間ニ行ハレ
ル犯罪ト云フモノハ非常ニ檢擧ノムヅカシ
イト云フコトハ、是ハ御了解願ッテ居ルコト
ト思ヒマス、例ヲ申シマスト私共ノ檢事時
代ノ經驗ト致シマシテモ、瀆職罪ノ檢擧ト
選擧違反ノ檢擧ト云フモノハ一番ムツカシ
イ、其ノ他ノ犯罪ニナルト、多クハ被害者
ト云フモノガアル譯デス、被害者カラ告訴
ヲシタリ、或ハ關係者カラ〓發ヲスルト云
フコトデ、犯罪ノ端〓ガ相當ニ得ラレル場
合ガアル、ドウモ瀆職罪ノ如キハ、贈賄者
モ收賄者モ一番之ヲ隱サムトシテ、色々工
夫ヲスル者スラアルト云フ事件デアリマス、
非常ニ檢擧ノ困難ナ事件デアリマス、併シ
犯罪ハ幾ラ刑罰ヲ設ケマシテモ、犯罪ガア
ル場合ニ之ヲ檢擧シナケレバ、何ノ威力モ
ナイ譯デアリマスカラ、檢察當局ニ於テハ
非常ニ其ノ點ニ努力ハ致シテ居ル譯デアリ
マス、昨日刑事局長カラ檢擧ノ計數等ヲ申
上ゲマシタガ、相當ノ數ノ檢擧ヲ致シテ居
ル譯デアリマス、御話ノ官吏ガ色々饗應ヲ
受ケルト云フヤウナ事實デアリマスガ是
ハ相當ニ擧ッテ居ル事實ハゴザイマス、今
日檢擧シタ瀆職事件ニ付テ、法外ナ饗應ヲ
受ケタト云フヤウナ事件ハ、實ハ段々起訴
シタヤウナ事實ガ多クナッテ參リマシタ、
唯困リマスノハ、宴席デ酒食ヲ共ニシタト
云フヤウナ事實ダケデ、今日直チニ犯罪ノ
嫌疑アリトシテ調ベルト云フコトニハ相
當ニ困難ナ點ガアラウカト思ヒマス、殊
先程御話ガゴザイマシタ通リ、一體檢事ノ搜
査ノ力ガ弱ケレバ、强クシタラ宜イヂヤナ
イカト云フ御注意モアッタノデスガ、長い
非常ニ古イ問題デアリマシテ、前々カラ
總テノ犯罪ニ付テ檢事ノ搜査力ト云フモノ
ヲ强メナケレバナラヌト云フ議論ガ、一部
ニ非常ニ强カッタケレドモ、亦一面ニ於テ
議會等ニ於キマシテモ、ドウモ檢事ニ强イ
權力ヲ與ヘルト云フコトハイケナイノダト
云フ說モ隨分アリマシタ、是ハ議會ニ於テ
論爭セラレマシタコトハ、私共ガ申上ゲル
迄モナク、皆サン能ク御承知ノ點デアリマ
ス、先ヅ重大ナ犯罪ニ付テハ、ドウシテモ
檢事ニ强イ捜査力ヲ與へナケレバ、法律ノ
立法ヲシタ目的ガ達セラレナイト云フコトデ
議會ノ御協賛ヲ得マシタノガ、御承知ノ國
防保安法ト治安維持法デアリマス、是ハ非
常ニ重要ナ犯罪デアリマス、之ガ爲ニ、法
律デ檢事ニ强制ノ捜査力ヲ與ヘテ戴イタノ
デアリマス、此ノ二ツノ犯罪ハ非常ニ今日
捜査ノ手ガ伸ビテ居ル譯デアリマス、實ハ
程度ハ違ヒマシテモ、一般ノ犯罪ニ付テモ
檢事ニ强制搜査力ヲ付與シタイト云フ私共、
希望ハ持ッテ居ルノデアリマス、ケレドモ、
今迄是ガ遺憾ナガラ、實現ガ出來ナカッタ
ノデアリマス、併シ愈〓斯ウ云フヤウナ戰
時下デ、單リ國防保安法、治安維持法ノミ
ナラズ、其ノ他ノ犯罪ニ付テモ、今御話ガ
アリマシタ瀆職罪ニ付キマシテモ、斯樣ニ
刑罰ガ非常ニ加重セラレマシタ以上ハ、之
ガ搜査ニ付キマシテ、檢事ニ强制力ヲ付與
スルト云フコトハ、私ハ必要ダト考ヘテ居
リマス、併シ之ニ付テハ今迄ノ色々ナ沿革
モアリマス、〓究シナケレバナラヌ點モア
ラウカト考ヘマシテ、本年、此ノ前ノ議會
デアリマシタカ、豫算ヲ御認ヲ願ヒマシテ、
刑事法典ヲ再建設致シマシテ、之ヲ改正
スル準備委員會ト云フモノガ司法省ニ設ケ
ラレマシテ、實ハ其ノ委員會ニ只今御話ノ
アリマシタ點等ヲ附議致シマシテ、サウシ
テ十分ニ案ヲ練リマシテ、從來議會等ニ於
テ反對ノ御意見ノアッタコト等モ十分斟酌
致シテ、又如何ナル程度ニ於テ强制ノ力ヲ
與ヘルカト云フヤウナ妥當ナ點ニ落着クヤ
ウナ案ガ欲シイト思ヒマシテ、是ハ研究ヲ
致シテ居ル譯デアリマス、ソレカラ現在ハ
左樣ナ、特ニ治安維持法、國防保安法ニ於ケル
如ク檢事ニ强制ノ力ハゴザイマセヌガ、瀆
職罪ノ檢擧ト云フコトニハ出來ルダケ力ヲ
用ヒナケレバナラヌト云フコトハ御說ノ通
リデアリマス、瀆職罪ハ收賄者贈賄者ノ間
ニ隱密ナ關係ニ於テ行ハレ、之ヲ否認セム
トスル事件デアリマスガ、假ニ統制經濟ニ關
スル官吏ノ瀆職ガアリマスト、唯現ハレタ
事實ダケデハ事件ヲ終了サシテ居リマセヌ、
必ズ惡質ノ犯罪ニナッテ來マスト「エー」ト云
フ收賄者ノ官吏ガアリマスルト「エー」ト云フ
者ト「ビ〓」ト云フ者ノクッ附キガ出來テ
來ル「エー」ヲ調ベマスト、「ビー」ノ外ニ、
「シー」カラ貰ツテ居ル、「デー」カラ貰ツ
テ居ル、一人ノ官吏ニ澤山ノ贈賄ノ者ガ出
テ來ル、ソレヲ嚴重ニ調ベル、一人發覺シ
タ場合ニ、他ノ者カラ段々貫ッタコトガ、偶
ニハ數十人ニナル場合ガアル、學校事件
デハ數十人ニナッタ、サウ云フヤウニ贈ツ
タ者ガ段々殖エテ來ル、サウ致シマス
ト、贈ッタ方ヲ段々調ベル、贈ッタ方、
例ヘバ「エー」ト「ビー」ト云フ者ガ初メニ現
ハレテ來ルト、「エイ」ニ付テ其ノ他カラ貰ッ
タ者ガナイカ、「ビー」「シー」ト云フ者ガ出
テ來ル、今度「ビー」ニ付テ調ベルト、今度甲
乙丙ト云フ者ノ贈賄シタト云フ事實ガ分ッテ
來ル譯デス、サウ云フ關係ヲ迪リ迪ッテ今日
迄瀆職罪ト云フモノハ搜査ヲシテ居ルノデア
リマス、ナカ〓〓端〓ヲ得難イノデアリマ
スガ、マア色々ナコトカラ端〓ト云フモノ
モ現ハレテ參リマスノデ、一旦端〓ヲ握リ
マシタ以上ハ徹底的ニ檢擧致シテ居ル譯デ
アリマス、今日ノ現在ノ狀態ト致シマシテ
ハ、只今申上ゲマシタヤウナ搜査ハ、今日
ノ法制ノ下ニ出來ルダケノ努力ヲシテ居ル
ト云フダケハ一應御認メヲ願ヒタイト思ヒ
マス、尙先程申上ゲマシタ通リ、檢事ノ一
般犯罪ニ付キマシテ强制搜査力ヲドノ程度
迄付與スルノガ妥當デアルカト云フコトニ
付キマシテハ十分〓究シテ成案ヲ得タイト
思ッテ居リマス、左樣ナ考ヲ持ッテ居ルト云
フコトダケ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=31
-
032・次田大三郎
○次田大三郞君 私ハ此ノ官吏ノ瀆職罪ニ
付テ、先年來非常ニヤカマシイコトヲ申上
ゲマシタガ、實際官紀ガ紊レテハモウ國ノ
政治ガ駄目ダト云フ風ニ考ヘルカラナノデ
アリマス、東西ノ偉イ皇帝、政治家ノヤッテ
居ルコトヲ調ベテ見マスルト、大抵刑ハ輕
クスル、併シナガラ瀆職罪ハ非常ニ重ク罰
スルト云フノガ、例ヘバ宋ノ大祖ニ致シマ
シテモ、明ノ大祖ニ致シマシテモ、ミンナ
贓罪ト云フモノハ非常ニヤカマシク極刑ヲ
以テ處斷シテ居ルノデアリマス、是ハ官吏
ノ信用ヲ維持スル爲ニ絕對ニ必要ナ、官憲
ノ信用ヲ維持スル爲ニ絕對ニ必要ナコトデ
アリマス、處デ今日ノ世相ヲ見マスルト、
例ヘバ新聞、雜誌ハ役人ノ惡口ヲチットモ書
カナイ、是ハ役人ノ惡口ヲ言フ種ガナクナ
ツタ譯デハナイノデ、所謂記事ノ統制ヲサ
レマシテ、官吏ノ惡口ヲ書クト印刷用紙ヲ
減ラサレルト云フヤウナコトガアルノダサ
ウデスガ、兎ニ角輿論ノ制裁ト云フモノガ
今日殆ド全クナイト言ッテモ宜イノデアリマ
ス、官吏ノ不正行爲ニ對スル輿論ノ制裁ハ殆
ドナイ、ソレカラ以前ハ議會デ非常ニ官吏
ノ紀律ニ付テ、所謂官紀肅正ト云フコトヲ
ヤカマシク言ッタ時代ガアル、今日ハモウ政
黨ノ迫力ガスッカリ無クナッテ、議會デモサ
ウ云フ問題ニ付テ論議スル者ガ非常ニ少ク
ナッタ、サウスルト此ノ官吏ノ瀆職ヲ咎メル、
官紀、ノ維持ヲ檢討スルト云フノハ、行政官
廳ノ監督ノ作用ガ其ノ一ツ、ソレカラ司法
權ノ發動、モウ是レ二ツシカ殘ッテ居ナイ、
處ガ行政官廳内部ノ監督ニナリマスルト云
フト、近頃ハドウモ何々局長トカ何々部長
トカ云フ上ノ役人ガ惡イコトヲナサル場合
ガアル、下ノ官吏ノ取締ガ出來ル筈ガナイ、
マア非常ニ不十分ダト言ハナケレバナラヌ、
私共ガ國民トシテ官紀ヲ嚴肅ニ維持シテ貰
ヒタイト云フ其ノ事柄ハ、今日デハ一ニ司
法權ニ賴ルヨリ外ナイノヂヤナイカト云フ
風ニ感ジテ居ルノデアリマス、ソコデ私共
ハ司法當局ガ漬職罪ニ對スル刑ヲ加重サレ
ルノハ甚ダ結構デアリマスガ、ソレト同時
ニ搜査トカ檢擧トカ云フコトニ、一ツ國民
ノ輿望ニ應ヘテ眞劍ニ御當リヲ願ヒタイ、
斯ウ云フ希望ヲ申添ヘテ私ノ質問ヲ終リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=32
-
033・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今瀆職罪ト云
フモノハ、現在ノ情勢ニ於テ十分司法權ノ
發動ノ下ニ檢擧取締ヲシナケレバナラヌト
云フ御考ニ付テハ私モ同感デアリマス、殊
ニ今囘ハ刑モ加重セラレルコトニナリマシ
タノデ、此ノ點、特ニ意ヲ用ヒナケレバナラ
ヌ事柄デアリマス、十分瀆職罪ノ檢擧ニ努
メテ見タイト思ッテ居リマス、ソレダケ御答
ヘ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=33
-
034・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) ソレデハ午前
ハ此ノ程度ニ致シテ休憩致シタイト思ヒマ
ス、午後ハ一時半開會致シマス
午前十一時五十四分休憩
午後一時三十七分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=34
-
035・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 午前ニ引續イ
テ委員會ヲ開會致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=35
-
036・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 午前ニ次田サン
ヨリ會期ノ點ニ付テ御尋ネガアリマシテ私
カラ御答ヲ申上ゲマシタガ、政府ノ考トシテ
ドウ云フ事情デ三日間ノ奏請ニ及ンダカト
云フコトニ付テ、モウ少シ說明ヲスルヤウ
ニト云フヤウナ御話ガアリマシタノデ、私
共三日間ノ奏請ニ及ンダ事情ニ付テ、更に
政府トモ其ノ當時ノ事情ニ付テ色々話シ合ッ
テ見タノデアリマスガ、結局其ノ理由ハ、
今囘ノ臨時議會ハ御承知ノ通リ緊迫セル決
戰態勢ノ下ニ於テ、特ニ御召集ヲ仰イダモ
ノデゴザイマス、左樣ナ情勢ニ鑑ミマシ
テ、會期ハ短イコトヲ要スルモノト考ヘマ
シテ三日間ノ奏請ニ及ビマシタ次第デゴザ
イマス、ドウゾ此ノ點ヲ御了承ヲ願ヒタイ
ト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=36
-
037・次田大三郎
○次田大三郞君 私ハモウソレデ宜シウゴ
ザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=37
-
038・小山松吉
○小山松吉君 略式命令ノ點ニ付テ御尋ネ
致シマスガ、現行法デハ、區裁判所ニ於テ
發スル略式命令ハ、罰金又ハ科料ト云フコ
トニ限定シテアリマスガ、今囘ノ改正案ニ
依リマスルト、二十九條ノ二ニ一年以下ノ
懲役若ハ禁錮又ハ拘留ヲ科スルコトガ出來
ルト云フコトニ擴張サレテアルノデアリマ
スガ、是ハ事案ノ內容ガ單純デアッテ、犯
罪ノ成立ガ明白ナリト認ムル事件ニ付テ略
式命令ヲ發スルト云フノデアリマスカラ、
此ノ位ノ程度ノ擴張ハ宜イト思ヒマスル
ガ、第二項ニ揭ゲテアリマス昭和五年法律
第九號、第二條及第三條ノ窃盜ノ罪其ノ他
ノ罪ニハ、可ナリ內容ノ單純デナイモノガ
アルト思フノデアリマス、殊ニ昭和五年法
律第九號ノ常習犯罪、兇器ヲ携帶シテ犯シ
タト云フヤウナモノニ付テハ、ドウモ一見
明瞭デナイト思ハレルノデアリマスガ、斯
ウ云フモノヲ現行法ノ略式命令ノ規定ノ精
神ニ依ッテ加ヘマスト云フト、、略式命令ガ立
法ノ當時考ヘタヤウナ簡單ニ濟マナイノデ
ハナイカト思フノデアリマス、殊ニ第二項
デハ三年以下ノ刑迄刑期ヲ高メテ居リマス
ガ、之ニ付テノ司法當局ノ御考ヲ伺ヒタイ、
チヨット分ラナイ所ガアリマスノデ疑ヲ
持ッテ居ルノデアリマス、御尋ネ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=38
-
039・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 御指摘ノヤウニ
現行ノ略式手續ハ金刑ノ事件ニ限ッテ居ル
コト申上ゲル迄モナイノデアリマス、之
ヲ今般體刑ノ或程度ニ迄及ボサウト云フノ
デアリマシテ、ソレハ勿論矢張リ御示シニ
ナリマシタヤウナ二ツノ要件、事案ノ內容
單純デアルモノ及ビ犯罪ノ成立明白ナリト
認メラレルモノ、之ニ限ルコトハ言フ迄モ
ナイノデアリマスルケレドモ、今現レテ居
リマスル事案ヲ見マスルニ、體刑ニ當リマ
スル事案デモ斯樣ナ條件ニ該當致シマスル
モノガ相當アルヤウニ思フノデアリマス、
サウシテ内容ガ單純デアル、犯罪ノ成立ガ
明白デアッテ、而モ第一審限リデ確定スル
ト云フ事件モ相當多數アルノデアリマス、
デアリマスルカラ、左樣ナ實際ノ狀態ニ照
シマシテ、若シソレ等ガ區裁判所ニ於テ略
式命令デ宜シイト云フ見極メガ付イタ時
ニ、略式命令デ濟ミマスルナラバ、事甚ダ
簡素ニ取運ビマスルカラ、ソレデ宜カラウ
ト思ッタノデアリマス、固ヨリ今日略式命
令デ正式裁判ノ申立テヲ爲スモノハ極メテ
比率ガ少イノデアリマス、是ハ要スルニ金
刑デアリマスルカラ左樣ニ相成リマセウ
ガ、體刑ニ及ビマスルト少クトモ體刑ニ
該當シマスル部分ハ今日ノヤウナ比率デナ
ク、正式裁判ノ申立テハ、今日ヨリモ多イ
コトハ是ハ豫想ガ出來ルノデアリマス、ソ
レニ致シマシテモ口今申シマシタヤウナ實
情カラ申シマシテ、矢張リ第一審限リデ確
定スルト云フモノモ相當アリマスカラ、相
當ノ效果ハアルト思フノデアリマス、卽チ
今日ノ金刑ニ於ケル時代程ノ效果ハアリマ
スマイケレドモ、ソレデモ尙且若干ノ效果
ガアリマシテ、サウシテ我々ノ方ノ手ニ餘
裕ヲ生ズルコトハ間違ヒガナイ、斯樣ニ思
ヒマシテ立案ヲシタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=39
-
040・小山松吉
○小山松吉君、 今ノコトニ關係ガアリマス
ルカラ、モウ一ツ御尋ネ致シマスルガ、略
式命令ヲ檢事ガ請求シマスル場合ニハ刑期
ヲ指定シテ、何月トカ、何年ノ刑ニ處スベ
キモノダト云フ趣旨デ、檢事ノ方カラソレ
ヲ明カニ示スノデゴザイマスカ、或ハ唯ボ
ンヤリ、略式命令ヲ請求スルノデ、區裁判
所ノ方デハ其ノ請求ニ依ッテ刑ヲ自分デ盛ッ
テ宜イノデゴザイマスカ、其ノ點ヲ一ツ御
尋ネ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=40
-
041・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 實際ノ運用ト致
シマシテハ檢事ノ見ル所ノ刑、或ハ金額ト
云フモノヲ記載スルノハ私ハ宜イノヂヤナ
イカト思ヒマス、ソレハ通常ノ公判ニ於
キマシテモ檢事ハ求刑ヲスルノデアリマ
スカラ、檢事ノ見ル所ヲ示スコトハ私ハ
宜イノヂヤナイカト思ッテ居リマス、併
シ裁判長ノ獨自ノ考ヲ以テ判斷スルノデ
アリマスカラ、或ハ略式命令ハ不相當デ
アレバ公判ヲ開クト云フヤウナコトニナッ
テ行クヤウナ運用ニナラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=41
-
042・小山松吉
○小山松吉君 モウ一ツ小サイコトデスガ、
今度ノ改正案ニ依ッテ略式命令ニ於テ、刑ノ
執行猶豫ヲ言渡スコトニナッタノデアリマ
スガ、此ノ刑ノ執行猶豫ヲ言渡シテ貰ハウ
ト云フ時ニハ、檢事ガ矢張リ請求シナケレ
バイケナイノデセウカ、默ッテ居ッテモ區裁
判所ハ職權ヲ以テ執行猶豫ノ言渡ガ出來ル
ノデアリマセウカ、其ノ點ヲ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=42
-
043・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 執行猶豫ハ檢事
カラ請求スルコトモアラウカト思ヒマスガ、
請求致サナクテモ、裁判所ノ見ル所ヲ以テ
執行猶豫致シテ構ハナイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=43
-
044・小山松吉
○小山松吉君 了承致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=44
-
045・小原直
○小原直君 昨年成立シマシタ裁判所構成
法戰時特例ノ第一條ニ於テ、「戰時ニ於ケル
裁判所構成法ノ特例ハ本法ノ定ムル所ニ依
ル」ト云フ特例ガ出タノデアリマスガ、今
囘出タ戰時特例改正案ハ其ノ前年ノ分ニ對
スル改正案デアリマスルカラ、昨年ノ同法
ノ審議ノ時ニハ勿論質問應答ニ出タコトト
思フノデアリマスルケレドモ、モウ一度御
尋ネ申シテ置キタイコトハ、要スルニ裁判
所構成法戰時特例ノ第一條ニ規定シテアル
コトハ、此ノ度ノ大東亞戰爭ニ於テ、特上
此ノ例ヲ用フルト云フコトニナルベキ筈デ、
從ッテ大東亞戰爭ガ終了シマシタ後、適當ナ
時ニ於テ、此ノ裁判所構成法戰時特例ト云
フモノハ、廢止セラルベキモノデアルト云
フコトニ考ヘテ居リマス、其ノ點ハ如何デ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=45
-
046・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 御尋ノ通リデゴ
ザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=46
-
047・小原直
○小原直君 所デ今度ノ改正案ノ第四條ヲ
以テ從來ノ司法ノ原則ノ三審制度ヲ變更セ
ラレテ、第一審ノ判決ニ對シテハ、民事、
刑事ヲ問ハズ全般的ニ控訴ヲ爲スコトヲ得
ズト云フ規定ニ改マルノデアリマス、裁判
所ノ三審制度ハ我國ノ司法權ノ確立以來、
司法ノ大原則トシテ定ッテ居ル所デアリマ
シテ、要スルニ是ハ民事刑事ヲ問ハズ、民
人ノ權利義務ニ重大ノ影響ヲ持チ、生命身
體自由竝ニ財產ニ關スル重大ノ影響ヲ及ボ
スノデアリマスカラ間違ヒノナイヤウニ念
ニモ念ヲ入レテ、三審ヲ許シ、控訴ヲ許シ、
上告ヲ許ス、サウシテ其ノ間ニ於ケル誤ヲ正
シテ、苟クモ民人ノ權利義務ニ間違ヒノナ
イヤウニショウト云フ趣旨デ、制定セラレ
タモノデアルコトハ申ス迄モナイノデアリ
マス、一般行政法ノ監督、或ハ行政權ノ執
行ノ處分等ニ關スル誤ヲ正ス上ニモ、勿論
種々ノ手續ガ規定セラレテ居ルノデアリマ
スルガ、特ニ司法ニ於テ、行政ニ比シテ尙一
層念ヲ入レテ、裁判ノ三審制度ヲ採リ、又
司法行政ノ監督ノ上ニ於キマシテモ、行政
權ノ監督ヨリハ一層段階ヲヨタクシテ、誤
ヲ正スヤウニ規定サレテ居ルノデアリマス、
是ハ單リ日本ノミナラズ、外國ノ文明諸國
ニ於テモ亦同樣ナ前例ヲ有ッテ居ルノデア
リマスルガ、今囘ノ戰爭ニ於テ特ニ我國ニ
於キマシテハ此ノ司法ノ大原則ヲ變更シテ
民事、刑事ヲ問ハズ、第一審ノ判決ニ對シ
テハ控訴ヲ爲スコトヲ得ザルヤウニ改メル
ト云フコトハ、極メテ重大ナコトデアルト
思フノデアリマス、然ルニ一面ニ於テ、司法
裁判ノ成績ヲ表ニ依ッテ拜見致シマスルト、
先程質疑應答ノ中ニモアリマシタヤウデ、
民事ニ於テハ、第一審ノ判決ニ對シテ、控
訴審ニ於テ原判決ヲ變更シ、又ハ取消ヲ致
スモノガ三割何分、又刑事ニ於テモ同樣ニ
相當多數ノ原判決ト異ナル判決ヲ言渡ス實
績ガ出テ居リマス、斯樣ナコトヲ見マスル
ト、ドウシテモ民事ニ於テモ、刑事ニ於テ
モ、矢張リ二審ヲ終ヘテ控訴ヲ許スト同時
ニ、更ニ法律上ノ誤リヲ正ス意味ニ於ケル
上告ヲ許スト云フ制度ハ、ドコ迄モ之ヲ繼
續シテ行クコトガ大切デアルト思フノデア
リマス、唯昨年國防保安法ガ出マシタ時ニ、
治安維持法ノ改正案ガ出マシタ時ニ、初メ
テ一審ノ判決ニ對スル控訴ヲ許サナイト云
フ規定ガ設ケラレタノデアリマス、當時私
共ハ此ノ司法ノ三審ノ大原則ヲ變更スルコ
トハ、時期ヲ得ザルモノトシテ修正ヲ主張
シタノデアリマスケレドモ、其ノ希望ハ容
レラレナカッタノデアリマス、當時考ヘテ
居タコトハ、要スルニ一度司法ノ大原則ガ
變更セラレル場合ニハ、詰リ堤防ノ一角
ハ決潰シテ、遂ニ全部全ク決潰スル結果ヲ
生ズルデアラウト云フコトヲ憂ヘタガ爲
ニ、此ノ國防保安法等ニ於ケル三審制度ノ
變更ヲ改メルガ宜シイ、三審制ヲ變更スル
コトヲヤラナイガ宜シイト云フコトヲ主張
シタノデアリマス、ソレハ只今申上ゲタヤ
ウナ、第一審ノ判決ニ對スル控訴審ニ於ケ
ル判決ガ、原判決ト異ッタ判決ヲ爲ス比率
ガ相當多イノデアリマス、此ノ多イノハ、
卽チ裁判ノ第一審ニ誤リノアルコトヲ示ス
ノデアリマスカラ、今囘ノ裁判所構成法戰
時特例ニ於テ全般的ニ控訴ヲ許サナイヤウ
ニ爲サルト云フコトハ餘程重大ナ變革デア
ルト思フノデアリマス、從ッテ苟クモ戰爭
ガ終リマシタナラバ、此ノ制度ハ改メラレ
テ、又再ビ從來ノ裁判ノ三審制ヲ執ラレル
ヤウニ改正サレルコトガ適當デアラウト思
フノデアリマスガ、ソレハ今御答辯ニアリ
マシタヤウニ、戰爭ガ濟メバ當然サウスル
ノデアルト云フ御話ガアリマシタガ、其ノ
他ノ治安維持法ニモアリ、殊ニ國防保安法
三、第十六條ノ規定ニ於テ、國防保安法
ノ罪ノミナラズ、同條ノ第二項デハ、其ノ
他廣イ範圍ニ於テ通謀犯等ノ罪ニ至ル迄控
訴ヲ許サナイト云フコトニナッテ居ルノデ
アリマス、此ノ國防保安法ノ如キモ戰時ニ
於ケル一ツノ特殊ノ法律デアリマスルカラ、
戰爭ガ止ミマシタナラバ、是等ノ罪ニ付テ
ノ三審制度ノ變更、卽チ控訴ヲ許サザル制
度ヲモ併セテ改メラルヽ御意向ガアリマス
カドウカト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマ
ス、恐クハソレハ又其ノ時ニ考ヘルノデア
ルト云フ御答辯ニナルカモ知レマセヌガ、
併シ此ノ三審制度ノ大原則ヲ戰時ニ於テ特
ニ用ヒルト云フ以上ハ、戰爭ガ熄ンダナラ
バ、矢張リ司法ノ大原則ニ立戾ル方ニナサ
ル方ガ宜シイノヂヤナイカト云フ考ヲ持ッテ
居リマスカラ、其ノ點ニ關スル司法當局ノ
御意見ヲ承ッテ置キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=47
-
048・岩村通世
○國務大臣(岩村通世君) 只今御尋ノ通
リ、三審制度ハ、大體今日迄ノ司法制度ノ
原則デアリマス、ソレヲ今囘全般的ニ二審
制度ニシヨウト云フノデアリマスカラ、非
常ニ重大ナル變革デアルト云フコトハ、只
今御述べノ通リデゴザイマス、尙此ノ事ハ、
非常ナ變革デアリマスガ、戰爭目的遂行ノ
爲メ執ルベキ處置デアリマシテ、大東亞戰
爭ガ終リマシタラ元ノ制度ニ復スルト云フ
コトハ此處デ申上ゲテ置キタイト思ヒマス、
唯國防保安法ト治安維持法ヲ如何ニスベキ
カト云フコトハ先程モ御話ガアリマシタ通
リ直チニ今囘ノ二審制度ノモノト同ジヤウ
ニ考ヘルカドウカ、ト云フコトニ付テハ實
ハマダハッキリ決定致シテ居リマセヌ、併
シ治安維持法ト云フモノモ是モ矢張リ時勢
ノ產物デアリマスシ、治安維持法ノ事件ハ
殆ドナクナルトカ、或ハ國防保安法ノ如キ
重要機密ト云フヤウナモノガ戰爭デモ濟ン
ダラ殆ド其ノ心配モナイモノダト云フコト
ニナリマシタナラバ、是ハマア制度ヲ通常
ノ制度ニシテ宜イカドウカト云フヤウナ問
題ガ議セラレルコトニナルンヂヤナイカト
思ヒマス、只今ノ所デハマダハッキリ決メ
テ居リマセヌ、マア極端ナコトニハナリマ
スガ、一審制度ト云フモノガアル譯デアリ
マス、是ハ結局其ノ三審制度、二審制度、
一審制度ト云フモノハ今日內亂罪ニハ御承
知ノ通リアル譯デアリマス、一度調ベル
カ二度調ベルカ三度調ベルカト云フコト
ハ、調ベルモノノ責任ト云フコトモ非常ニ
關係ガアルンヂヤナイカ、內亂罪ハ一審罪
デアリマスガ、老練ナル判事ガ今日デハ五
名デ部ヲ組織シテ判斷ヲスル、マア之ニ依ッ
テ內亂罪等國家ノ重大ナ事案ハ處理セラ
レルト云フコトニナル、然ルニ一審制度、
二審制度、三審制度ト云フ三ツノ制度ガ今
日實際行ハレテ居ル、今囘ハ戰爭中ハ特ニ
事件ノ適正ヲ期スルコトハ勿論デアリマス
ガ、此ノ戰時下ニ事件ノ遲延ト云フコトヲ
出來ルダケ避ケタイト云フ考ガゴザイマス、
又是ハ司法部ノ方カラ考ヘルノミヂヤナク
實際民刑トモデス、裁判ヲ受ケル方カラモ
實ハモツト早ク、何トカ決マリヲ付ケテ貰
ヒタイト云フ氣持モ隨分私共一般カラ聽イ
テ居リマス、是ハマアナントカシテ、サウ
云フヤウナ一般ノ希望ヲモ達シタイト云フ
コトヲ考ヘテ居リマスガ、ナカ〓〓名案モ
ナイ譯デアリマス、マア極端ナ刑事事件ナ
ドノ例デ見マスルト、日本ハ三審制度デア
ルガ、六遍調ベラレル、マア大概ノ事件デハ、
司法警察デ一遍、檢事デ一遍、豫審デ一遍、
一番二審、三審ト六囘モ調ベラレル、
ドウモ同ジコトヲモ六囘モ調ベラレル
ト、後ニハ記憶ガ無クナッタリ、薄クナッ
タリシテ間違ヲ言ッタリスル、關係人ノ
重要ナモノハ六囘モ······關係人ガサウ云
フ六囘モ調ベラレルコトハ少イカモ知レ
マセヌガ、ドウ云フヤウナ關係カ數囘調ベラ
レルト云フヤウナ、隨分迷惑ヲスルト云フ
ヤウナコトモ伺フコトモアリマス、要スル
ニ私ハ一般ノ原則トシテハ戰爭デモ濟ミマシ
タナラバ三審制度ニ戾ル、是ハ宜イト思ヒ
マスガ、戰時中二審制度ニスレバ出來ルダ
ケ深切ニ事實ノ調、證據ノ取調トカト云フ
モノニ付テ、責任ヲ以テ從來ノ事實ハ二度
調ベラレルト云フヤウナ考ヲ無論持ツテハ
イケナイノデアリマスカラ、一審ノ判事ハ
非常ニ重イ責任ヲ負擔シマスカラ、出來ル
ダケモウ全力ヲ擧ゲテ事實ノ審理ヲスルト
云フコトニ私ハナルノヂヤナカラウカ、又
サウアッテ欲シイト私ハ考ヘテ居リマス、
ソレニ致シマシテモ矢張リ制度ノ擔保ト云
フコトガアリマスカラ二度ヨリモ三度ノ方
ガ宜イ、同ジ熱心ニ調ベルノデモ一座六
リモ二度調ベル方ガ宜イト云フ根本論ハゴ
ザイマス、ソレハ三審制度ト云フモノガ現
在採用セラレテ居ル所以デアルト考ヘマス
ガ、何ト申シマシテモ實ハ今囘ノ戰爭モ相當
熾烈ニナッテ參リマスシ、實ハ判檢事ノ人
數ニ於キマシテモ、近頃應召モ非常ニ多イ譯
デアリマス、恐ラク戰爭ノ模樣デアリマス
ケレドモ、來年ハ相當數ノ判檢事ノ應召ト云
フコトガ、アリハシナイカト考ヘテ居リマ
ス、斯樣ナ場合ニ、少イ人數ヲ以テ責任ヲ
法使、出來ルダケ努力ヲシテ、事實ノ認定
ニ基イテ正シク法律ヲ適用スル、サウシテ成
ルベク訴訟ノ遲延ト云フ弊ヲ、戰時中ダケ
ハ、是非無イヤウニシタイト云フヤウナコ
トカラ、今囘ノハ非常ナ變革デアリマスガ、
斯樣ナ案ヲ出シタ次第デアリマス、ドウカ
其ノ事情ヲ御了承賜ハリタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=48
-
049・小原直
○小原直君 今當局ノ御意見ニ依ッテ、戰
爭ガ濟メバ、原則トシテハ三審ニ戾ス意向
デアル、ト云フコトヲ伺ヒマシタノデ、私
ノ考ハ當局ノ意向ト同ジコトニナル、ト云
フ風ニ思ッテ居リマス、御答辯デ了承致シ
マシタ、モウ一ツ、是ハ法文ノ解釋ノヤウ
ニナルノデアリマスガ、今度ノ改正法デ、
裁判所構成法戰時特例ノ第四條デ、「第一審
ノ判決ニ對シテハ控訴ヲ爲スコトヲ得ズ」、
斯ウ云フ風ナ原則ヲ決メマスト、從來ノ治
安維持法及國防保安法ニ於テ、「第一審ノ判
決ニ對シテハ控訴ヲ爲スコトヲ得ズ」ト云
フコトガアリマスガ、ソレハ今度ドチラノ
方ニ依ッテ定マルノデアルカ、要スルニ此
ノ二法ニアル條文ハ、今度ノ裁判所構成法
戰時特例ノ第四條ニ吸收サレテシマフノデ
スカ、ソレハドウ云フ風ニ御解釋ニナリマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=49
-
050・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 只今御指摘ノ治
安維持法及國防保安法ノ審級ノ問題デアリ
マスガ、國防保安法及治安維持法ニ於キマ
シテハ、御承知ノ通リ第一審ニ對スル上告
ハ常ニ上告裁判所卽チ大審院トナッテ居
リマス、併シ今囘ノ此ノ案ノ第四條ニ依リ
マシテ、二審級ニナリマス、サウシテ此ノ
案ニ依ッテ矢張リ區ノ事件ハ控訴院、地方
裁判所ノ事件ハ大審院、一律ニスル積リデ
アリマス、御承知ノヤウニ現行裁判所構成
法戰時特例ニ於キマシテ、二審級ニナッテ
居ル事件ガアリマスケレドモ、是ハ現行法
ノ第四條ニ依リマシテ、各種ノ罪ヲ列揭致
シマシテ、此ノ種ノ罪ニ當ル事件ハ云々、
斯樣ニ規定致シテ居リマスカラ、現ニ二審
級ニナッテ居リマス事件ハ、此ノ現行法ノ
第四條ニ依リマス、サウシテ治安維持法及
國防保安法ノモノハ、各二種ノ法律ニ依リ
マシテ、其ノ儘ニナッテ居ル譯デアリマス
ガ、今囘ハソレヲ一丸ト致シマシテ、卽チ
此ノ案ニ依ッテ、一審級及二審級ト云フコト
ガ決ル譯デアリマス、併シ形式的ニ申シマ
スト、國防保安法及治安維持法ハ永久法デ
アリマスシ、今囘ノ案ハ戰時法デアリマシ
テ、戰時特例トシテ、戰時特例ノ適用ヲ受
ケルモノ、斯樣ニ心得テ立案ヲシタ次第デ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=50
-
051・松井貞太郎
○松井貞太郞君 二審制ヲ採用セラレマシ
夕場合ニ、二ツ以上ノ控訴院ガ、同ジ種類
ノ事件ノ上告審ニ於テ、異ッタ判決ヲ致シ
マシタ場合ニハ、自然各控訴院ノ間ニ、異ッ
タ判例ガ出來テ行クト思ハレルノデアリ
やく、之ヲ統一サレル方法如何ト云フコト
ト、ソレガ統一サレル迄ノ間ニ行ハレル判
決ニ對シテ、何カ御手當ガアリマスカ、ソ
レヲ承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=51
-
052・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 御示ノ通リニ控
訴院ガ上告裁判所ニナリマスレバ、而シテ
全國ニ七ツノ控訴院ガアリマスルカラ、從ッ
テ判例ガ區々ニナルト云フコトハ、起リ得ル
ノデアリマス、是ハ併シ勿論法律解釋ノ統
一トシテ、望マシカラザルコトデアリマスカ
ラ、現行裁判所構成法戰時特例ノ第六條ニ
依リマシテ、左樣ナ場合ニ控訴院ハ、旣
牴觸シタ判例ガアル、又自分ノ方デ新タナ
ル判例ヲ作リタイ、斯樣ニ思ヒマシタナラ
バ、事件ヲ逆ニ、控訴院カラ大審院ニ移送
ヲ致シマシテ、大審院デ裁判ヲシテ貰フト云
フ途ヲ拓イテ置キマシタ、此ノ第六條ノ規
定ハ、此ノ案ニ於テモ踏襲サレルノデアリ
マスカラ、事件ヲ大審院ニ移送スルト云フ
コトニ依ッテ、法律解釋ノ一致ヲ期シテ行キ
タイト存ジテ居リマス、是ガ第一點デアリ
マス、次ニ御質問ニ相成リマシタ此ノ法律
解釋ノ統一ヲ此ノ規定ニ依ッテヤリマスル前
ニ、旣ニ現ニ牴觸シタ判決ガ一一ツアルト云フ
コトガアル、牴觸シテ居ルコト、甚ダ宜シ
クナイノデアリマスケレドモ、何レモ有效
ナル判決デアリマス、當該事件ニ付テハ、
ソレ〓〓其ノ判決ガ效力ヲ生ズルト、斯樣
ニ御了承ヲ願ヒタイト思ヒマス、尙序デデア
リマスルカラ、只今申述ベタ第六條ノ移送
ノ事件デアリマス、過去一年半實施ヲ致シ
マシタ其ノ間ニ於キマシテ、刑事ニ付キマ
シテ僅カニ一件移送ガアリマシタ、民事ニ
付テハマダ一件モナイヤウデアリマス、卽チ
其ノ途ハ旣ニ拓カレテ居リマスルケレドモ、
左樣ナ事件ニ該當シタト云フコトハ、右申
シタ極メテ稀有ノ例デアルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=52
-
053・秋月種英
○子爵秋月種英君 私、或ハ事務的ノコトニ
ナルカモ知レマセヌガ、二、三御尋ネ致シタイ
ト思ヒマス、區裁所ノ權限ガ發表サレマシタ
結果、自然ドウシテモ區裁判所ニ事件ガ多
クナルコトト思ヒマス、ソレニ付キマシテ
仁井田博士ノ御質問ニナリマシタ通リ、監
督判事ト云フモノニ付テハ、十分老練ナ監
督判事ヲ御選ビニナルト云フヤウナコトナ
ドモ、御尋ネシタイト思ッテ居リマシタ、幸
ヒ御質問ガアリマシテ了解致シマシタ、ソ
レニ付キマシテ私ガ御尋ネ致シタイノハ、
現在區裁判所デ事務停止ニナッテ居ル所ガ
相當アルダラウト思ッテ居リマスガ、サウ云
フ所ハ多少復活サレルト云フヤウナ、御準
備ガアリマシタノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=53
-
054・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 現在事務停止ニ
ナッテ居リマスルノハ此ノ戰爭下、巳ムヲ
得ザル必要ニ基キマシテ、卽チ交通ノ關係、
又ハ人員ノ配置ノ關係、或ハ判檢事ニ餘裕
ヲ生ゼシメタイ關係、ソレ等種々考慮ノ上
デアリマシテ、先ヅ今日ノ現狀ニ於テ、事
務停止ノ復活ハ致サナイ積デアリマス、併
シ事情激變スルト云フコトモアリマセウカ
ラ、此ノ入替等ニ付テモ、考ヘナケレバナ
ラヌコトガ起ッテ來ルカモ知レマセヌ、併シ
現在ノ處、成ルベク事務停止ノ復活ト云フ
コトハ差控ヘタイ、斯樣ナ方針デ臨ミタイ
ト存ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=54
-
055・秋月種英
○子爵秋月種英君 モウ一ツ是ハ直接案ト
關係ガナイカモ知レマセヌケレドモ、折角
斯ウ云フ戰時特例ノ裁判制度トシテハ、大
キナ改革ヲサレマシタ、法律ガ出マス以上ハ、
是ハ十分徹底スルヤウニシナケレバナラヌ
ト思ツテ居ルノデアリマス、又サウナラナ
ケレバ、折角法律ガ出來テモ其ノ效ガナイ
ノデアル、ソレニ付キマシテ私ガ特ニ感ジ
テ居リマスノガ、裁判所ノ管轄區域ト云フモ
ノガ、現在ノ社會情勢カラ考ヘマシテ、交
通其ノ他ノ點ニ於テ、非常ニ不便ナ所ガ多
多アルダラウト思ヒマス、サウ云フ點ニ付
テ何カ御考ガアリマスカ、是ハマア裁カレ
ル方カラ言ヒマシテモ、亦裁ク方ノ御方カ
ラ見マシテモ、非常ニ御不便ガアルト思ヒ
やっ、何カソレニ付テ御考ガアリマシタナ
ラバ御伺ヒ致シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=55
-
056・大森洪太
○政府委員(大森洪太君) 現在ノ裁判ノ管
轄ガ定マリマシテカラ、後ニ人口ノ異動、
交通系統ノ變更等モアリマシテ、果シテ現
在ノ管轄ガ良イカ惡イカト云フコトハ確カ
ニ明言ハ出來ナイヤウデアリマス、場合ニ
依リマシテハ、相當ノ不便ヲ民間ニ及ボシ
テ居ル所モアルヤニ恐察致スノデアリマス、
デアリマスカラ私共ハ地元ノ監督官ト常ニ
連絡ヲ執リマシテ、是等ノ點ニ付テ調査ヲ
怠ラズヤッテ居リマス積リデアリマス、サウ
シテ必要ニ應ジマシテ、管轄區域ヲ變ヘル
コトハ固ヨリ差支ヘナイノデアリマシテ、
常ニ其ノ準備ヲ怠ラズニ居ルト云フ程度ノ
コトニ御了承ヲ願ヒタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=56
-
057・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 他ニ御質問ハ
ゴザイマセヌカ······御質問ガナケレバ質問
ハ之ヲ以テ終了致シタイト思ヒマス、是ヨ
リ討論ニ入リマス、三案ヲ一括致シマシテ
議題ニ供シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=57
-
058・山岡萬之助
○山岡萬之助君 私ハ此ノ法案全部ヲ、原
案ノ通リ贊成スル者デアリマス、唯一言付
加ヘテ置キタイコトハ裁判ノ簡素化ト云フ
コトデ、二審制度ヲ全部廢メマシテ、事實
上ノ關係ハ一審制度ニ止マルト云フコトニ
ナリマシタコトハ、段々質問應答ノ重ネラ
レタ間ニ御述ニナリマシタヤウニ、刑事ニ
於テモ四十何「パーセント」輕クナッテ居ル、
民事ノ方ハ相當裁判ガ變ヘラレテ居ル、此
ノ救濟ハ上告審ニ於ケル重大ナル事實ノ誤
認ト云フコトニ依ッテ救ハレルダケニナリ
マス、然ラバ本案ヲ實施致シマスル際ニハ、
ドウゾ司法當局ガ一審ト云フモノガ如何ニ
重大デアルカト云フコトヲ劃期的ニ考ヘ方
ヲ變ヘマシテ、今迄ノヤウデナク、本當ニ
徹底シタル一審裁判ヲナサルヤウニ、慣習
付ケラレルコトヲ望ミマス、而シテ犯罪統
計ノ面カラ御說明ニナリマシタ治安ノ問題
デアリマス、現下決戰態勢ニ於テ國內問題
ハ治安ノ維持ト云フコト程重大ナコトハ
ナイト思ヒマス、然ルニ昭和十二年支那事
變勃發ヨリ次第ニ事件ハ減ジマシテ、是ハ
國民ノ緊張ト云フコトカラ來テ居ルト思ヒ
マスガ、サウ云フ事態デ經過致シマシテ、
段々減ツテ誠ニ幸ヒナコトデ、國民ガ此ノ大
國難ニ際シテ左樣デアッタコトハ誠ニ喜ブ
ベキ事態デアリマス、然ルニ其ノ曲線ハ次第
ニ增加致シマシテ、本年ニ入リマシテハ非
常ナ數ニ上ッデ、此ノ歲末迄ニハ可ナリノ
數ニナルダラウト云フ御報〓デアリマス、
私ハ此ノ犯罪ノ統計ノ變化ト云フモノカ
ラ見マシテ、社會ノ不安狀態ト云フモノハ
兎ニ角、外ノ面カラモ考ヘネバナリマセヌ
ケレドモ、此ノ面カラ見テ相當注意シナケ
レバナラヌ事態ニアルコトヲ事實トシテ考
ヘザルヲ得ナイノデアリマス、從ッテ司法當
局ハ此ノ任ニ當ラレテ、內務當局ト共ニ此
ノ非常時下ニ於ケル治安ヲ保持サレル次第
デアリマス、何卒總テノ意味ニ於テ、假リ
ニモ國內ノ治安ガ、マア言葉ヲ强ク致シテ
紊亂ト云フヤウナコトヲ申シマスガ、サウ
云フヤウナコトノ事態ノ惹起セラレザラム
コトヲ、私ハ衷心ヨリ御盡力ヲ御願ヒ致シ
マシテ、本案ノ施行ニ付テハ違算ナキヲ期
セラレムコトヲ望ミマシテ贊成ノ意ヲ表シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=58
-
059・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 他ニ御發言ゴ
ザイマセヌカ······ソレデハ採決ニ入リマシ
テ御異存ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=59
-
060・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 三案ヲ一括シ
テ議題ニ供シマス、三案共原案通リデ御異
議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=60
-
061・酒井忠正
○委員長(伯爵酒井忠正君) 御異議ナイト
認メマス、可決スベキモノト決定致シマシ
ク、之ヲ以テ散會致シマス
午後二時十六分散會
出席者左ノ如シ
委員長伯爵酒井忠正君
副委員長男爵伊江朝助君
委員
公爵岩倉具榮君
侯爵筑波藤麿君
子爵秋月種英君
子爵大岡忠綱君
子爵舟橋〓賢君
小山松吉君
小原直君
仁井田益太郞君
黑崎定三君
男爵奧田剛郞君
男爵倉富鈞君
山岡萬之助君
次田大三郞君
太田耕造君
菅澤重雄君
松井貞太郞君
奧主一郞君
國務大臣
司法大臣岩村通世君
政府委員
陸軍法務中將大山文雄君
海軍中將岡敬純君
司法次官大森洪太君
司法省民事局長齋藤直一君
司法省刑事局長池田克君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008301126X00219431027&spkNum=61
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。