1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十年二月八日（木曜日）午前十時十一分開議
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議事日程 第十號
昭和二十年二月八日
午前十時開議
第一 昭和二十年度歳入歳出總豫算案竝昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算案 會議（委員長報告）
第二 豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件 會議（委員長報告）
第三 特殊財産資金豫算追加案（特産第一號） 會議（委員長報告）
第四 昭和十九年度歳入歳出總豫算追加案（第一號） 會議（委員長報告）
第五 昭和十九年度特別會計歳入歳出豫算追加案（特第一號） 會議（委員長報告）
第六 昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案（第一號） 會議（委員長報告）
第七 昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算追加案（特第一號） 會議（委員長報告）
第八 豫算外國庫の負擔となるべき契約を爲すを要する件（追第一號） 會議（委員長報告）
第九 昭和二十年度歳入歳出總豫算追加案（第二號） 會議（委員長報告）
第十 昭和二十年度特別會計歳入歳出豫算追加案（特第二號） 會議（委員長報告）
第十一 昭和十八年度第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付） 會議
第十二 昭和十八年度特別會計第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付） 會議
第十三 昭和十八年度特別會計豫備費支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付） 會議
第十四 昭和十九年度第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付） 會議
第十五 昭和十九年度特別會計第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付） 會議
第十六 昭和十九年度特別會計豫備金外豫算外支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付） 會議
第十七 所得税法外十六法律中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十八 地方税法及地方分與税法中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第十九 軍需金融等特別措置法案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第二十 刑法中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=0
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001・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 諸般ノ報告
ハ、御異議ガナケレバ、朗讀ヲ省略致
シマス
〔參照〕
一昨六日本院ニ於テ可決シタル左ノ政
府提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ
旨ヲ衆議院ニ通知セリ
船員保險法中改正法律案
臨時資金調整法中改正法律案
戰時金融金庫法中改正法律案
生命保險中央會法案
損害保險中央會法案
臺灣銀行法中改正法律案
會計法戰時特例中改正法律案
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
所得稅法外十六法律中改正法律案可
決報告書
地方稅法及地方分與稅法中改正法律
案可決報告書
軍需金融等特別措置法案可決報告書
同日特別委員侯爵德川賴貞君外七名ヨ
リ外資金庫法案特別委員會ノ報〓ニ對
スル少數考意見ヲ提出セリ
同日政府ヨリ左ノ決算及同檢査報告ヲ
提出セリ
昭和十八年度歲入歲出總決算
昭和十八年度各特別會計歳入歲出決
算
昭和十八年度歳入歳出決算檢査報告
昨七日委員會ニ於テ當選シタル正副委
員長ノ氏名左ノ如シ
戰時森林資源造成法案特別委員會
委員長侯爵池田宣政君
副委員長子爵北條雋八君
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
昭和二十年度歲入歳出總豫算案、昭
和二十年度特別會計歲入歳出豫算
案豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契
約ヲ爲スヲ要スル件、特殊財產資金
豫算追加案(特產第一號)、昭和十九
年度歲入歲出總豫算追加案255
號)、昭和十九年度特別會計歳入歳出
豫算追加案(特第一號)、昭和二十年
度歲入歳出總豫算追加案(第一號)、
昭和二十年度特別會計歳入歲出豫算
追加案(特第一號)、豫算外國庫ノ負
擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件
(追第一號)、昭和二十年度歲入歲出
總豫算追加案(第二號)、昭和二十年
度特別會計歲入歳出豫算追加案(特
第二號)可決報告書
請願文書表(第三囘報告)
同日議員松本烝治君ヨリ三十五名ノ贊
成ヲ以テ軍需金融等特別措置法案ニ對
スル修正案ヲ提出セリ
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領
セリ
昭和十八年度第一豫備
金支出ノ件
昭和十八年度特別會計
第一豫備金支出ノ件
昭和十八年度特別會計
豫備費支出ノ件(承諾ヲ
昭和十九年度第二豫備求ムル
金支出ノ件件
昭和十九年度特別會計
第二豫備金支出ノ件
昭和十九年度特別會計
豫備金外豫算外支出ノ
件
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通第八十六
囘帝國議會政府委員仰付ケラレタル旨
ノ通牒ヲ受領セリ
外務省所管事務政府委員
外務書記官倭島英二君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=1
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002・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 是ヨリ本日
ノ會議ヲ開キマス、侯爵細川護立君、
子爵〓岡長言君、子爵立花種忠君、子
爵秋月種英君ハ本院議員トシテ既ニ
在職三十年ニ達セラレ、常ニ精勵恪
勤克ク議員タルノ職責ヲ盡サレマシ
タ、就キマシテハ、先例ニ依リマシテ、
此ノ際院議ヲ以テ同君等多年ノ功勞ヲ
表彰致シタイト存ジマス、尙表彰文案
ノ起草ハ、之ヲ議長ニ御委セヲ願ヒタ
イト存ジマス、以上議長ノ發議ニ贊成
ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマス
〔起立者多數〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=2
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003・徳川圀順
○議長(公爵徳川圏順君) 表彰ヲ受ケ
ラレマス方々ヲ除キマシテ、全會一致
ト認メマス、就キマシテハ、議長ノ手
許ニ於キマシテ起草致シマシタ表彰文
案ヲ、是ヨリ朗讀致シマシテ、御諮リ
ヲ致シマス
從二位勳二等侯爵細川護立君貴族院
議員ノ任ニ在ルコト三十年精勵格勤
力ヲ憲政ノ濟美ニ效セリ貴族院ハ君
カ積年ノ功勞ヲ憶ヒ玆ニ院議ヲ以テ
之ヲ表彰ス
正三位勳二等子爵〓岡長言君貴族院
議員ノ任ニ在ルコト三十年精勵恪勤
力ヲ憲政ノ濟美ニ效セリ貴族院ハ君
カ積年ノ功勞ヲ憶ヒ玆ニ院議ヲ以テ
之ヲ表彰ス
正三位勳二等子爵立花種忠君貴族院
議員ノ任ニ在ルコト三十年精勵恪勤
力ヲ憲政ノ齊美ニ效セリ貴族院ハ君
カ積年ノ功勞ヲ憶ヒ玆ニ院議ヲ以テ
之ヲ表彰ス
正三位勳二等子爵秋月種英君貴族院
議員ノ任ニ在ルコト三十年精働恪勤
力ヲ憲政ノ濟美ニ效セリ貴族院ハ君
カ積年ノ功勞ヲ憶ヒ玆ニ院議ヲ以テ
之ヲ表彰ス
只今朗讀致シマシタ各表彰文案ニ、御
異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=3
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004・議長(公爵徳川閱順君)
○議長(公爵徳川閱順君) 御異議ナイ
ト認メマス、表彰文ノ贈呈方ハ議長ニ
於テ取計ラヒマス、此ノ際〓岡子爵ヨ
リ發言ヲ求メラレテ居リマス、〓岡子
爵ノ登壇ヲ願ヒマス
〔子爵〓岡長言君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=4
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005・子爵〓岡長言君
○子爵〓岡長言君 只今院議ヲ以チマ
シテ、私共四名ニ對シ、永年勤續ノ廉
ヲ以チマシテ、大東亞決戰下此ノ緊迫
セル非常時局ニモ拘リマセズ、御懇篤
ナル表彰ヲ戴キマシタコトハ、誠ニ身
ニ餘ル光榮デアリマスト同時ニ、甚ダ
恐縮ニ堪ヘナイノデゴザイマス、私共
ハ、本院ニ議席ヲ汚シマシテモ、微力ニ
シテ何等ノ功勞ナク、徒ニ永年議席ヲ
汚シマシタニ過ギマセヌノニ拘ラズ、
本日斯クノ如キ表彰ノ光榮ニ浴シマシ
タコトハ、衷心忸怩タルモノガアルノ
デゴザイマス、幸ヒ大過ナク今日ニ至
リマシタコトハ、偏ニ先輩同僚各位ノ
御懇篤ナル御指導ト御援助ノ賜ト、深ク
感謝ノ意ヲ表スル次第デゴザイマス、
今ヤ時局ハ實ニ重大デアリマス、私
共ハ一層駑馬ニ鞭チ、益、國家ノ爲御
奉公ノ誠ヲ效シ、憲政ノ爲ニ微力ヲ致
シタイト存ジマス、玆ニ只今ノ御決議
ニ對シマシテ、僭越ナガラ表彰者一同
ニ代リマシテ、深甚ナル謝意ヲ表スル
第デゴザイマス(拍手)
Shein長(公爵德川〓順君)弔辭贈呈ノ
件ヲ御諸リ致シマス、去ル五日、正三位
勳二等男爵渡邊汀君薨去セラレマシ
タ、又一昨六日、正四位勳四等子爵上原
七之助君卒去セラレマシタ、誠ニ哀悼
ノ至リニ堪ヘマセヌ、就キマシテハ
何レモ弔辭ヲ贈ルコトニ御異議ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=5
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006・議長(公爵德川閑順君)
○議長(公爵德川閑順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=6
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007・議長(公爵德川関順君)
○議長(公爵德川関順君) 是ヨリ議事
日程ニ移リマス、日程第一昭和二十
年度歲入歳出總豫算案竝昭和二十年度
特別會計歳入歲出豫算案、日程第二、
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲
スヲ要スル件、日程第三、特殊財產資
金豫算追加案、特產第一號、日程第四、
昭和十九年度歲入歳出總豫算追加案、
第一號、日程第五、昭和十九年度特別
會計歲入歲出豫算追加案、特第一號、
日程第六、昭和二十年度歲入歲出總豫
算追加案、第一號、日程第七、昭和二
十年度特別會計歲入歳出豫算追加案、
特第一號、日程第八、豫算外國庫ノ負
擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件、
追第一號、日程第九、昭和二十年度歲
入歳出總豫算追加案、第二號、日程第
十昭和二十年度特別會計歳入歲出豫
算追加案、特第二號、會議、委員長報
〓是等十件ヲ一括シテ議題ニ爲スコ
トニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=7
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008・議長(公爵徳川関順君)
○議長(公爵徳川関順君) 御異議ナイ
ト認メマス、豫算委員長八條子爵
一昭和二十年度歳入歳出總豫算案
一昭和二十年度特別會計歲入歳出豫
算案
一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約
ヲ爲スヲ要スル件
一特殊財產資金豫算追加案(特產第
一部
一昭和十九年度歲入歲出總豫算迫加
案(第一號)
一昭和十九年度特別會計歳入歳出豫
算追加案(特第一號)
一昭和二十年度歲入歳出總豫算追加
案(第一號)
一昭和二十年度特別會計歳入歳出豫
算追加案(特第一號)
一豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約
ヲ爲スヲ要スル件(追第一號)
一昭和二十年度歳入歳出總豫算追加
案(第二號)
一昭和二十年度特別會計歲入歳出豫
算追加案(特第二號)
右衆議院ヨリ亭領シタル各案ヲ審査
シ總テ衆議院議決案ノ通可決スヘキ
モノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十年二月七日
委員、長子爵八條隆正
貴族院議長公爵德川圀順殿
〔子爵八條隆正君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=8
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009・子爵八條隆正君
○子爵八條隆正君 只今議題トナリマ
シタ昭和二十年度歲入歳出總豫算案外
十件ノ豫算委員會ノ審査ノ經過竝ニ結
果ヲ御報告申上ゲマス、豫算委員會ハ、
去ル一月三十一日ヨリ二月四日迄五日
問開會致シマシテ、次デ之ヲ分科ニ付
託シ、二月五日及六日ノ二日間分科會
ニ於テ審査致シ、分科ノ審査終了ヲ俟
ツテ、二月七日、再ビ豫算委員會ヲ開
キ質疑ヲ繼續致シ、各分科主査ノ報告
ヲ經テ、討論ニ入リ、次デ採決ヲ爲シ、
全會一致豫算各案ヲ可決致シタノデア
リマス、豫算ノ內容ニ付キマシテハ、
過般本議場ニ於キマシテ大藏大臣ヨリ
說明ノアツタコトデアリマスカラ、其
ノ說明ヲ省略致シマシテ、其ノ外貌ヲ
一見致スニ止メタイト存ジマス、昭和
二十年度一般會計豫算ハ、本豫算及第
一號及第二號ノ追加豫算ノ三本ヨリ成
ツテ居リマシテ、本豫算ハ、歲入歳出
共二百二十四億餘萬圓、追加第一號ハ
同ジク四十一億八千餘萬圓、追加第三
號ハ三億三千餘萬圓、此ノ追加第三號
ト申スノハ、臨時軍事費ノ公債金利拂
ヲ一般會計ヨリ國債整理基金ニ繰入レ
ル爲ノモノデアリマス、以上三件ヲ合
計致シマスルト、歲入歲出共二百六十
九億三千餘萬圓ト相成リマシテ、前年
度ニ比シマシテ五十一億四千餘萬圓ノ
增加デアリマス、之ニ臨時軍事費ノ追
加額八百五十億圓ヲ加ヘマスルト、其
ノ合計額一千百十九億三千餘萬圓デア
リマシテ、是ヨリ兩會計ノ重複額ヲ差
引キマスルト、一千十八億一千餘葛圓
トナルト云フコトハ、渦般臨時電事費
ノ追加豫算案上程ノ際ニ申述ベタ通リ
デアリマス、尤モ此ノ臨時軍事費、中ノ
三百一億圓ト云フモノハ、現地ニ於テ
借入レラレ、理地ニ於テ支出セラルヽ
モノデアリマスノデ、內地ニ於ケル財政金
融ニ関係ナイモノデアリマスルカラ、
之ヲ控除スルト致シマシテモ、國內支
出ハ七百十七億餘萬圓ト云フ巨額ナ歲
計ト相成ルノデアリマス、又昭和十九
年度歲入歳出納商算迫加第一號ハ、歲
入ハ六億八千餘屯圓、歳出ハ十二億二
千餘草圓デアリマシテ、歳入歳出差引
歳出ノ超過額ハ五億四千餘萬圓デアリ
マス、此ノ歲出超過額ハ、豫算實行上ノ
歲入超過額ヲ以テ支辨スル計畫デア
リマス、而シテ此ノ豫算ノ歲入中ニハ
前年度ノ到餘金受入ノ增加六億二千餘
萬圓ガアルノデアリマシテ、之ガ爲ニ
剰餘金ハ皆無トナリマス、從ツテ二十
年度豫算ニハ剩餘金ノ繰入ハナイコト
ニナツテ居リマス、各特別會計ノ追加
豫算及豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契
約ニ關スル件、是等ニ付テハ省略致シ
マス、委員會ニ於キマシテハ、質疑應
答ニ先チマシテ、大藏大臣ヨリ、豫算
各案ニ對シ更ニ詳細ナル說明ガアリマ
シタ、又外務大臣ヨリ、祕密會ニ於キ
マシテ外交一般ニ關シテ說明ガアツタ
ノデアリマスルえ、事祕密會ニ屬スル
コトデアリマスルカラ、玆ニ御報〓ノ自由
ヲ持タナイ次第デアリマス、是ヨリ委員
會ニ於ケル質疑應答ノ若干ヲ御紹介致
シマスルガ、決戰中ノ決戰タル時局ノ現
段階ニ於キマシテ、最モ國民ノ重點ヲ置
ク所ノモノハ、申ス迄モナク戰力ノ增加、
殊ニ軍需生產ノ增强デアル、又國民生
活ノ確保、殊ニ食糧ノ增產、又防空ノ
問題、竝ニ是等ノ諸施策ヲ强力ニ推進
スベキ國內ノ能勢デアリマス、從ツテ
委員會ニ於ケル討議モ、自ラ是等ノ諸
點ニ電點ヲ置カレタコトハ申ス迄モナ
イノデアリマス、以下其ノ主ナルモノ
ニ付キマシテ若干玆ニ御披露ヲ致スコ
トニ致シマス、第一ハ軍需生產增强ニ
付テデアリマス、軍需品ノ中ニ付キマ
シテモ、〓烈ナル戰爭ノ現段階ニ於テ、
第一線ヨリノ要求モ、將又內地ニ對ス
ル近時ノ敵棒來襲ノ壯況ニ鑑ミマシテ
モ、航空機ノ增產ハ國民ノ熾烈ナル念
願デアリマス、委員會ニ於テノ質問モ、
劈頭ニ先ヅ航空機ノ增產方策ヨリ始マ
ツタノデアリマス、卽チ一委員ヨリ、軍
需生產企業ハ國家性最モ大ナルモノデ
アルガ、特ニ航空機ノ生產ハ國家性ノ
最大ナルモノデアル、故ニ國家權力ヲ發
動スルコトガ極メテ必要デアル、親子
會社間ノ關係ヲ調整スル土ニ於テモ、
材料、器具、部分品等ノ簡易化、又ハ規
格ノ統一ノ上ニ於テモ、又機械、設備、
資材、塔務等ノ彼此融通ノ上ニ於テ
モ、將又空襲ニ對スル工場疎開ノ實施
ノ關係ヨリ致シマシテモ、是等ノ諸點
ヲ考ヘテモ、企業ヲ民有國營ト爲スヲ
最モ適當トスル、ト云フ御意見ニ對シ
マシテ、政府ノ意見ハ、右ノ各項ハ何
レモ大切ナコトデアツテ、其ノ改善ニ
付テハ政府モ同樣ニ考へテ居ルノデア
ルガ、然來民營トシテ進ンダモノデア
ルカラシテ、如何ナル部分、如何ナルモ
ノヲ國營トスベキカハ、十分調査ヲ要ス
ルコトデアル、民營タルト國營タルト
ニ依リ、其ノ全力ヲ盡ス志ニ於テ變リ
ハナイノデアル、其ノ志ヲ活カシ、迅速
ニ生產ノ昂揚スルヤウ措置スルトノコ
トデアリマシタ、次ニ勞務行政ニ付キ
マシテ、勞務ノ不足、能率ノ低下ノ現
狀ニ鑑ミ、能率ノ增進、要員制ノ確立、
軍動員ト生產動員トノ調整等、勞務行
政ノ一元化ノ爲ニ、厚生省ヲ廢シテ戰
時勞務省ヲ創設スルノ意思ナキヤ、又
生產條件ノ現狀ニ鑑ミルニ、官營ハ民有
ニ優ツテ居ル、故ニ戰時中ニ限ツテ民營
工場ヲ軍隊化シテ、其ノ首腦部ノ身分
ヲ軍人トシ、勞務者ヲ軍屬ト爲スノ意
思ハナイカ、トノ問ニ對シマシテ、勞
務行政ニ十分ナラザル點ハ少クナイ、
軍動員ト產業動員トノ調整、勤勞行政
ノ動員、配置、管理ヲ通ゼル一元化ヲ
必要ト思フ、之ガ爲ニ戰時勤勞省ヲ置
クガ宜イカ、他ノ强力ナル行政的措置
ガ宜イカハ〓究中デアル、又軍需會社
ノ職員、從業員ヲ軍人又ハ軍屬ニスル
ト云フ點ニ付テハ、是等ノ人達ヲ軍隊
的規律ノ下ニ、國家的立場ニ立ツテ生
產ニ從事セシムルト共ニ、殉職ノ場合
ニ、國家トシテ處遇シ、萬全ヲ盡スコ
トニ依リ、生產能率ヲ發揮セシムベキ
必要ヲ認メテ居ル、之ガ具體案ハ檢討
中デアルト云フコトデアリマス、次ヘ
勞務對策ドシテハ、能率增進ヲ以テ第
一義ト爲スベキハ勿論デアリ、能率向
上ニ依ツテ勞務給源ノ不足ハ補ヒ得ベ
キモノデアル、故ニ通勤勞務者ノ交通
交錯ニ因ル時間ノ浪費等ニ鑑ミ、工場
寄宿舍、企業整備又ハ國家管理等ニ付考
究スルノ必要ガアル、又勞務者ノ賃金
制度ニ付、孰練職工ト日傭勞務者トノ
賃金ノ不均衡ノ事情モアリ、生活保障
ト技能、勤勉等トヲ加味シタル合理的
賃金制度ヲ確立スルノ必要ガアルトノ
御意見ニ對シ、厚生大臣ハ、能率ノ增
進ハ〓要ノ問題デアル、先ノ步率ノ向
上ヲ圖リ、尙勞務ノ不足ニ對シテ動員
ヲスルモノトシナケレバナラヌ、之ガ
爲ニハ工場ノ設備、資材、勤勞適正配
置、通勤ノ問題、寄宿舍生活、生活管
理賃金問題等ニ付軍需省、厚生省間
ニ於テ〓究シタガ、未ダ不十分ノ點ア
リ、十分〓究ヲスル、尙又交通交錯ノ
對策トシテハ、今囘ノ工場疎開ノ機會
ニ於テ、勞務配置ハ企業整備トモ併セ
考ヘ、陸海軍ト共ニ協議シテ〓究スル
ト云フコトデアリマス、又賃金ニ付テ、
一部ハ生活面、一部ハ能率ニ依ルコト
ハ從來厚生省、軍需省ニ於テ賃金認
可ノ際ニ採用セル所デアルガ、唯實際
ハ工場ノ事情、沿革ニ依ツテ、全體ト
シテ合理的ナラザル所ガアルケレド
モ、大體其ノ方向ニ向ツテ居ル、又月
給制、奬勵賃金ニ付テ〓究ヲ進メ、出
來ル限リ合理的ニ行キタイト思フ、ト
ノ答辯ガアツタノデアリマス、次ニハ
科學技術ノ戰力化ニ關シテデアリマス、
現代ノ戰爭ハ科學戰デアリマス、戰局ノ
重大性ニ鑑ミ、益〓科學技術ノ戰力化ヲ
必要トスルコト論ヲ俟チマセヌ、從ツ
テ之ニ對スル討議ハ相當活潑ニ行ハレ
タノデアリマス、先ヅ科學技術ノ行政
ヲ强化スルニハ、內閣ニ責任者ヲ必要
トスルガ、現在內閣ニハ技術ノ責任者
ガナイ、科學技術ハ技術院ガ統轄セラ
レルモノト考ヘラレタノニ、何等統制
ノ實ガナイ、各省ニ各存立セラレテ居
ル技術官衙ノ一元化ヲ必要トスルデハ
ナイカ、又戰爭科學技術ノ指導ハ陸
海軍ノ技術者ヲ中心トシテ居リ、之ノ
民間人ヲ加フルモ、之ヲ陸海軍ノ軍人
トシテ、兵器ノ祕密ヲ知ラシメ、責任ヲ
負ハシメテ、其ノ力ヲ發揮セシメナケ
レバナラヌ、之ト同時ニ、民間技術機關
ノ監督官廳モ一元化スルヲ適當ト思フ、
更ニ科學者ヲ傷遇シテ、其ノ保護、給
與表彰等ノ途ヲ講ゼナケレバナラヌ
ト、斯樣ナ意見ニ對シマシテ、總理大
臣ハ、現在ノ機構ハ理想的トハ思ハレ
ヌケレドモ、技術院ニ於テ各方面ノ技
術ヲ統合シタモノデアル、又戰爭技術
ハ陸海軍ノ技術面ヲ調整スル爲、陸海
軍技術運用委員會ヲ設ケ、陸海軍技術
ノ綜合運營ヲ行フト共ニ、部外委員ト
シテ民間人ヲ加へ協力セシメテ居ルノ
デアル、尙不足ノ時ニハ技術院ノ技術
動員會議ヨリモ入レ、又文部省ノ學術
〓究會議ヨリモ會議ニ參加セシメルコ
トニナツテ居ル、又兵器ノ祕密ニ付テ
ハ絕對的ニ祕密保持ヲ要スルモノハ
別トシテ、ソレ以外ノモノハ科學者ト
陸海軍トノ連絡ヲ取リ、部外者ト雖モ
必要ニ應ジ〓究ハ軍ト密接ナル聯繫ヲ
取ツテ居ル、尙科學者ノ傳週ニ付テハ
同感デアツテ、後顧ノ憂ナク〓究ニ沒
頭セシムル必要ガアルト思ツテ居ルト
云フコトデアリマス、次ニ空襲ニ對シ
テ、生產防空ノ措置トシテ、速カニ工
場疎開、地下工場ヲ一日モ早ク用意周
到ニ措置セラルベシトノ意見ニ對シマ
シテハ、內務大臣ハ、現在ニ於テハ十
分ナル防空熊、勢ハ出來居ルトハ言ヘナ
イガ、最近急速ニ工場ノ分散疎開、地
下移轉ノ必要ヲ痛切ニ感ジテ居ルノデ
アル、軍部ト謀ツテ努力實行中デアル
トノコトデアリマシタ、又決戰增產ノ
爲ニハ、陸海軍ニ於テ軍需品ノ徹底的
規格統一ヲ斷行スルノ必要アリトノ意
見ニ對シマシテハ、陸軍大臣ヨリ、全
ク同感デアル、陸海軍省間ニ各種ノ委
員會ヲ設ケ、規格ノ統一ニ努力シツヽ
アルノデアル、陸海軍ニ於テ共通ノ部
分品ガ出來レバ、更ニ國家ノ規格トス
ルヲ適當トシテ技術院ニ移シ、國家ノ
規格トスル考デアル、唯實情トシテハ、
作戰ノ推移ニ依ツテ別々ノ需要ガ來
テ、之ニ依ラザレバ不都合ヲ生ズルコ
トガアルガ故ニ、統一ノ案ハ出來テモ
直チニ實用シ雜キモノガアルトノコト
デアリマシタ、此ノ點ニ付キマシテハ
海軍大臣ヨリモ、陸海軍共通規格ノ兵
器ヲ擧ゲマシテ說明ガアリマシタ、又
軍需大臣そ、陸海軍ト共ニ規格統一具
現ニ格段ノ努力ヲ爲シテ居ルトノ說明
ガアリマシタ、第二ニハ國民生活ノ問
題デアリマス、國民生活、時ニ食糧ノ
問題ハ戰力增强上、軍需生產ト共ニ戰
時下最モ重要ノ問題デアリマス、故ニ
其ノ增產、配給ヲ中心トシテ、活發ナ
ル意見ラ灣表セラレタノデアリマス、
卽チ其ノ根本問題ト致シマシテハ、食
糧ノ現在ノ統制ハ、綱對ノ統制トモ謂
フベク、食糧ノ殆ド末梢迄ニ至ツテ居
ル、之ガ爲ニ到底行渡ラヌ品ハ却テ愈〓
拙底ヲ來スノデアル、故ニ〓糧ノ結制
ハ其ノ主ナルモノニ止メ、不必要ナル
統制ハ廢スベキデアルトノ說ニ對シマ
シテ、農商大臣ハ、其ノ趣旨ハ同感デ
アル、全部ノモノノ統制ノ弊ハ認メル
ノデアル、食糧トシテ比重ノ小ナルモ
ノノ統制ヲ外スト云フコトハ差支ナシ
ト思フケレドモ、統制ヲ外シテハ公定
價格ノ維持ガ困難トナリ、又統制ニ殘
サレタモノニ影響セムコトヲ惧レルノ
デアル、故ニ其ノ影響大ナラザルモノ
ニ付テ之ヲ試ミテ、所期ニ反シタ時ハ
逆戾リヲシテモ宜シトシテ〓究スルト
ノコトデアリマシタ、尙各種ノ統制會、
配給會社、統制法規等ノ煩瑣ナルモノ
ハ必要ノ最小限度ニ簡素化スルノ必
要アリトノ意見ニ對シテハ、總理大臣
ヨリ、生產增强上不必要ナル法規ガア
ル爲ニ生ズル弊害ニ付テハ、極力法令
ヲ外スヤウニ心懸ケテ居ル、生產安定
ノ爲ノ配給ニ付テハ更ニ施策ヲ進メ善
處スルトノ趣意ノ答辯ガアリマシタ、
又農村、農民ニ對スル施策ハ、常ニ農
民ノ心理ヲ把握セナケレバナラヌ、戰
局ノ苛烈化ニ伴ヒ、國家國民ノ農民ニ
對スル要請ハ愈〓增大スル、農民ハ一意
專心此ノ要請ニ向ツテ生產ニ邁進セム
トスルモノデアル、此ノ時ニ〓テ、爲
政者トシテハ此ノ農民ノ心理狀態ヲ洞
察シナケレバナラス、卽チ農民ニ同情
シ、役人本位ヲ止メ、農民ト相談シ、
農民本位デ進マナケレバナラヌ、信濃
村農民ニ關スルコトハ、農民自體ノ
組織力ヲ活用スルコトガ、農民ノ職域
責任ヲ感ゼシメ、又政府ニ對スル信賴
ヲ高ムル所以デアルトノ意見ニ對シマ
シン、農商大臣ハ、農家ニ對シテハ十
分理解シテヤルベキハ常然デアツテ、日
夜農民ノ狀態、心理ハ考ヘテ居ル、又
農民ノ團體ノ力ヲ通シテ之ヲ信賴シ之
ヲ活用スベキハ同感デアル、政府トシ
テハ各般ノ施策ハ、系統農會ノ力ヲ賴
ミ其ノ協力ヲ求メテ居ルノデアルト、誠
意ヲ披瀝セラレマシタ、又從來農商省ニ
於ケル中央ノ計畫ハ、地方ノ實情ニ卽
應セザルコトガ多イガ、、地方行政協議會
長ノ權限ガ續張セラレタコトデモアリ、
食糧問題ニ付テモ地方ノ權限ヲ擴張シ
テハ如何カトノ意見ニ付キマシテハ、
農商大臣ハ、地方行〓協議會長又ハ地
方長官ノ戰哇下强力活川ハ肝要ト思フ
ガ、雌今煽門題ニ門シテハ、農業ノ特
殊性ニ鑑ミ之ヲ地方々々ニ分團シテヤ
ラセルノハ適當デナイト思フ、食糧ハ
中央ニ於テ全國的ニ其ノ過不足ヲ見テ
綜合的計畫ヲ立テナケレバナラヌ、ト
ノ答辯ガアリマシタ、又增產ノ問題ニ
關シマシテハ、米麥ノ報奬金、奬勵金
ハ、農民ニ取ツテハ複雜デアツテモ自
己ノ收入ヲ豫知スルコトガ出來ニクイ、
ソレガ爲ニ農民ノ生產音欲ヲ阻害スル
モノデアル、故ニ單純ナル米價ヲ定ム
ルコトニ改訂シ、速カニ實行スベキデ
アル、甘藷ノ增產ヲ成功セシメルニハ、
價格ノ引上、輸送、干藷ノ價格ノ引上
ヲ斷行セネバナラヌトノ意見ニ對シマ
シテ、農商大臣ハ米ノ報奬金、奬勵
金ハ檢討ヲ加ヘ、米價改訂ノ必要ハア
ルト思フ、併シ一面消費者ニ與フル影
ガル響モ考ヘナケレバナラヌ、苗代前ニハ
之ガ決定ヲ要スト思ウテ居ルト云フコ
トデアリマシタ、又芋ノ値段ハ他ノ農
作物同樣ニ低キニ失シテ居ルト思ツデ
居ル、但シ其ノ改訂ハ、米麥其ノ他ノ
農產物以外、一般物價トノ均衡ヲ考へ
テ决定ヲ要スルノデアル、早掘ノ甘藷
ノ値段ハ高クセネバナラヌ、干藷ノ値
段モ改訂セネバナラヌ、輸送ノコトハ
運輸通信省ト〓究シテ行クトノコトデ
アリマシタ、又米價ノ引上實行ハ、期
待スル所デアルケレドモ、其ノ引上ト
共ニ、農民ノ生產意欲昂揚ノ爲ニ、其
ノ必要トスル綿製品、「ゴム」製品、農具
等ノ特配ヲナスベシトノ要望ニ對シマ
シテハ、總理大臣ヨリ、是等ノ生產資
材ノ配給ニ付テハ意ヲ用フルノ必要ガ
アル、但シ軍需、民需ノ調整ヲ取ルヤ
ウ努力シテ居ル、併シ動トモスレバ餘
計ニ廻リ兼ネルコトモアラウト思ハレ
ルノデ十分注意シテ行キタイトノコト
デアリマシタ、又茶ハ單ナル嗜好品デ
ハナイ、重要ナル食糧デアリ、殊ニ戰
時〓糧トシテ重要デアルノデアル、又
軍需用トシテモ、保健衞生上、更ニ又
藥劑トシテモ緊要ナルモノデアルガ、
時局以來誤ツテ滅產トナツテ居ルガ、
是ガ增產方策ヲ立テネバナラヌ、トシ
テ政府ノ所見ヲ質サレタノニ對シマシ
テ、農商大臣ヨリ、茶ノ生產ハ近時主
要〓糧增產ノ爲ニ減退シツヽアルガ、
戰時食糧トシテノ重要性ガ認メラレタ
ノチ、肥料燃料等ノ點ニ隘路ハアルガ、
政府トシテハ生產ヲ維持シテ更ニ之ヲ
上昇シタキ方針デアルトノ答辯デアリ
マシタ、又物價ノ問題ニ付キマシテハ、
最近ニ於ケル闇相場ハ大會社ノ大口買
付ガ一原因デアル、此ノ際配給物資ノ
公定價格ノ外ニ、自由市場ヲ立テテ二
重價格制ヲ執ツテハドウカ、トノ質問
ニ對シテ、農商大臣ノ答辯ハ、大口買
付パ、食糧品ニ付テハ相當取締リ、地
方長官、配給者、大日需要者ノ間ニ連絡
ヲ取リ、相當量ヲ配給機關ヲ經テ配給
スルコトトナツテ居ル、二重價格制ハ、
其ノ實施ノ反動ニ付考フル時ハ、愼重
ナル熊度ヲ執ラネバナラヌトノコトデ
アリマシタ、尙又物價ノ形成ニ付テハ、
其ノ前提タル九·一八價格ノ是正ヲセネ
バナラヌ、當時ノ價格ニ不公平ガアツ
タ、之ヲ是正セナケレバ良品ハ出テ來
ナイ、生產ノ妨ゲトナル、トノ意見ニ
對シテ、九·一八價格ニ不公平ノアルコ
トハ同感デアル、物價ハ物價審議會ニ
於テ大綱ヲ作リ、之ニ基キ各省ニ於テ
價格ヲ作ルコトデアル、其ノ際大體御
論旨ニ依ルデアラウトノ意ヲ述べラレ
マシタ、第三ハ文政ニ關スル間題デア
リマス、一昨年各大學ニ、優秀ナル學
生ノ爲ニ、特別〓究生ノ制度ヲ設ケテ、
國庫ヨリ學資金ヲ與ヘ、〓究中徵兵猶
豫ノ特典ヲ與ヘタノデアルガ、此ノ制
度ハ、決戰下學術向上、〓授ノ後繼者
ヲ養成ノ爲ニ稱讚スベキコトデアルガ、
昨年ニ至ツテ、特ニ戰力增强上必要ナ
モノニ限ルトノ理由ヲ以テ、人文科學
特別〓究生ハ之ヲ全廢セラレタ、併シ
人文科學ト雖モ戰力增强ニ關係ナシト
斷言シ得ナイ、殊ニ戰後大東亞共榮圈
指導上緊要ナルモノデアル、之ニ對ス
ル政府ノ所信ヲ質サレタノニ對シマシ
テ、總理大臣ヨリ、最近ノ戰局ニ於テ
動員兵數著シク增加シ、優秀ナル幹部
ヲ要求スルコト大ナルモノガアルカラ
已ムヲ得ナイノデアル、今後戰局ノ推
移ト睨ミ合セテ考ヘネバナラヌト云フ
コトデアリマシタ、又中等學校卒業生
ヲ、補習科トシテ三箇月間從來ノ勤勞
工場ニ引續イテ勤勞セシムルノハ、其
ノ目的學業デハナク勤勞ニアリ、學生
ノ心理ニ及ボス影響ガ如何アルベキカ
トノ說ニ對シマシテ、是ハ戰局上已ム
ヲ得ザル處置デアツテ、學徒ガ勤勞ニ
從事シ、稍〓熟練シタル時ニ直チニ之ヲ
外スノハ生產上缺陷ヲ生ズルノデアル、
其ノ善後處置ニ付テハ、成ルベク學徒
ニ迷惑ヲ掛ケヌ方針デアルト、文部大
臣代理ヨリ答辯ガアツタノデアリマス、
學徒ノ勤勞ハ學校工場ヲ適當ト思フ、
工場疎開ニ當リ、學校校舍ヲ工場ニ利
用サルヽ際ニ、勤勞學徒ヲ當該學校ニ
配置轉換スルヲ適當ト思フガ、軍需省
ニ於テハ能率低下ヲ理由トシテ同意セ
ヌト聞クガドウカ、トノ問ニ對シマシ
テ、文部大臣代理ハ、學校工場ハ望ム
所デアル、故ニ工場ノ疎開ノ際ニ、當
該學校ニ配置轉換スルコトト致シタイ、
能率低下ニ於テハ軍需省ト連絡ヲ取ル
考ヘデアルト答ヘラレマシタガ、軍需大
Fr.學校工場ニ付テハ文相ト同感デ
アルガ、唯航空機生產ノ如キ場合ニハ、
生產低下ノ虞ガアル、故ニ兩省ノ間ニ
打合セ致シテ矛盾ナキヤウ具體的ニ考
ヘナケレバナラヌ、誤リナキヲ期スル
積リデアルトノコトデアリマシタ、
更ニ勤勞學徒ノ健康管理ノ不十分ナ
ルコトヲ指摘サレマシタノニ對シテ、
厚生大臣ヨリ、健康管理ニ付テハ醫師
ヲ徵用シテ工場ニ配置シ、藥品ヲ補給
シ、又學徒ノ心理ヲ把握シ得ル人ヲ得
ルコト等ニ努力セル所デアルガ、受入
工場ノ學徒ニ對スル態勢尙ホ不十分ナ
ルモノアルハ遺憾デアル、當局トシテ
ハ十分注意シ監督スル、トノコトデア
リマシタ、尙又學童ノ集團疎開ハ、今囘
一年延期セラレタガ、集團疎開ハ國民
學校〓育上好成績ヲ擧ゲタモノト思フ
ガ、寧ロ戰時中ノ長期計畫トシテハ如
何力、ト政府ノ所見ヲ質ササレマシタ
ノニ對シテ、學童疎開ハ漸ク軌道ニ乘
リツヽアルノデ、取敢ズ一年延長シタ
ノデアルガ、之ヲ以テ一年ニテ打切ル
モノデハナイ、戰爭長期ニ亙レバ更ニ
〓究シテ、自然長期ニ對スル工夫ヲ要
スルコトト思フ、新事態ニ卽應シテ方
針ヲ樹テル考ヘデアル、トノ文相代理ノ
答辯デアリマシタ、第四ハ防空ノ問題
デアリマス、防空ニ付テハ、人員疎開
ノ今後ノ方針、建物疎開今後ノ方針、
工場疎開ノ方針等ニ對シマシテ質問セ
ラレタノニ對シテ、內務大臣ヨリ人員疎
開ハ老幼、妊產婦、病人等防空活動ノ
出來ナイモノヲ對象トシ、輸送力ノ許
ス範圍デ勸奬スル、防空要員タルベキ
モノハ極力確保スル積リデアル、建物
疎開ハ防空都市トシテノ計畫ヲ樹テ、
此ノ線ニ沿ウテ實行スル、又一擧ニ實施
スルト、空家ガ出來テ大火災トナルノ
心配ガアルガ故ニ漸進的ニ實施スル、
之ガ爲ニ都市計畫委員會ノ如キ委員會
ハ設置シナイカトノコトデアルガ、是
ハ尙〓究ノ上デ決メル工場疎開ハ、政
府ノ指導ニ依リ從來實施中デアル、軍
需省內ニ陸海軍各省委員會ヲ作リ、生
產ト國防ノ兩面ヨリ見テ決定スル、費
用ハ當該工場ニ損害ヲ掛ケヌ方針デア
ルトノ說明デアリマシタ、第五ハ大東
亞共榮圈內ニ關スル間題デアリマス、
委員會ニ於テ發表セラレタル御意見
ハ北支ニ於ケル戰力增强ニ關スルモ
ノデアリマシテ、卽チ對支新政策ハ立
派ナル大理想デアル、併シチガラ折角
ノ理想モ其ノ運用宜シキヲ得ナケレバ
其ノ效果ハナイ、戰爭ヲ勝チ拔ク爲ニ
ハ增產ハ絕對必要デアル、然ルニ北支
ニ於ケル食糧ノ價格暴騰ハ深刻デアツ
テ、戰力物資ノ生產ニ影響スルコト大
デアル、物資當局ハ一體トナリ協力シ
デ其ノ運用ニ愼重デナケレバナラヌ、
又北支ニ於ケル發注調辨ハ一元的一貫
運營ヲ要スル、又內地ノ現地ニ對スル
物資ノ要求ハ大ナルモノガアルガ、現
地トシテハ可能ナル範圍デ引受ケネバ
ナラヌ、卽チ內地ノ要求ト現地取得ト
ノ調整ヲ要スルノデアル、又現地ニ於
ケル收買ハ、各機關一本トナリ迅速機
敏ニ機動性ヲ要スル、割據主義ヲ排サ
ナケレバナラヌ、尙又北支ニ於ケル日
支文化人、特ニ〓育家ハ生活難ニアル、
之ガ待遇ヲ改善シナケレバナラヌ、是
等ノ意見ニ對シマシテ、大東亞大臣ハ、
對支新政策ハ、物的戰力增强ノ爲ニ日
支關係ニ協力関係ヲ築キ上ゲテ行クニ
アル、大理想デアルト共ニ具體的ナル
政策デアル、飽ク迄具體化シ徹底シナ
ケレバナラヌ、發注調辨取得ニ付テハ、
中央ニ於テハ軍官密接ナル連絡ヲ取
リ、現地ニ於テハ大使陸海軍長官ノ三
者ガ全責任ヲ持ツテ行クノデアル、併
シ物資ノ取得ニハ專門的ノコトガ多イ
ガ故ニ、各地ニ巨大ナル權限ヲ持ツ松
關ヲ置キ、連絡協議ヲ遂ゲ、物價戰力
ニ對シ十分ナル處置ヲ執ツテ居ルノデ
アル、內地ノ要求ト支那ニ於ケル取得
トノ調整ニ付テハ、計畫的ニ圖ラナケ
レバナラヌ、綜合的計畫ノ方針ヲ以テ
進ンデ居ル、又日支文化關係者ニ對ス
ル待遇ニ付テハソレ〓〓配慮シテ居
リ、今後モ物價騰貴ニ對シテハ更ニ考
究ヲ要スルモノト思ヒ、ソレ〓〓ノ機
關ニ於テ手當ヲシタトノ答辯デアリマ
シック、第六ハ決戰態勢ニ關スル問題デ
アリマス、戰局ハ愈〓重大、今ヤ皇國興
廢ノ關頭ニ立テルノ秋デアリマス、
億國民ハ正ニ戰線ノ皇軍ノ敢鬪ト照應
シテ大イニ戰意ヲ昂揚シ、其ノ總力
ヲ發揮スベキノ秋デアリマス、從ツテ
委員會ニ於テモ、政治力ノ强化、又是
ガ方策トシテ官界ノ刷新政治行政ノ機
構ノ改革等ニ關シマシテ、數多ノ諸君
ヨリ意見ノ發表ヲ見タノデアリマス、
先ヅ强力政治ノ運營ニ關スル意見ト致
シマシテハ、決戰行政ノ要諦ハ、政治
ノ施策ノ迅速ニ末端ニ滲透スルニア
リ、然ルニ今日ハ緩慢ニシテ、又動モ
スレバ末端ニ於テ歪曲セラルヽノデア
ル、之ニ對スル政府ノ方策如何、又政
府諸施策ノ强力實行ハ、政府直接ニ國
民ニ接觸シ、官僚政治ノ繁文縟禮ヲ排
シ、少數精銳主義ヲ以テ、恩威併セ行
ヒ國民ヲ指導スルニアル、劃期的英
斷ヲ以テ實行ヲ希望スル、又時局ノ正
シキ認識ヲ得セシメ國民ヲシテ奮起
セシムルヲ要スル、尙之ト關聯致シマ
シテ、敵國側ノ日本ノ處分ニ對スル意
圖ハ、之ヲ國民ニ知ラシメテ戰爭ニ對ス
ル覺悟ヲナサシメル必要ガアル、是等ノ
意見ニ對シマシテ、總理大臣ノ御答辯ハ、
政府施策ノ末端ニ迅速ニ滲透セシムル
ノ必要アリト云フ點ハ同感デアル、政府
ハ行政協議會長ト陸海軍トノ關係聯繫
ヲ密ニシ、地方行政協議會長ノ權限ヲ
强化シテ、之ヲ以テ末端ニ迅速ナル滲
透ヲ期シテ居ルノデアル、又諸種ノ計
畫ガ實情ニ卽シテ誤リナク實施セラレ
ルガ爲ニハ、常時監査監督ニ意ヲ用ヒ
ルト共ニ、一面行政査察ニ付テ考慮中
デアル、又少數精銳主義ヲ以テ國民ニ
精神的ニ直結スベシト云フハ同感デア
ツテ、政府トシテハ其ノ方向ニ卽シツ
ツ行政ノ思ヒ切ツタ刷新ヲ圖リタイト
思ツテ居ル、尙國民ヲシテ時局ヲ認識
セシムルト云フコトハ、政府ニ於テモ
同感デアツテ、之ニ依ツテ國體護持ノ
精神モ起ルモノデアル、尙不十分ノ點
ハ努力スル、トノコトデアリマシタ、
又敵國側ノ意圖ヲ國民ニ知ラシムルコ
トニ付キマシテハ、外務大臣ヨリモ所
見ヲ述ベラレマシタガ、戰爭ノ意義ニ
付テ國民ニ徹底セシメ、敵側ノ計畫ニ
付テモ誤解セシメヌコトハ出來ルダケ
努メテ居ル、尤モ敵側ノ發表聲明スル
所ノモノハ世界的宣傳モアルコトデア
ルカラ、其ノ儘取次グ譯ニハイカヌ、
正確ニ周知セシムルヤウ努メテ居ル
ガ、更ニ努力シヨウトノコトデアリマ
シタ、次ニ官界ノ刷新ニ付テデアリマス
ガ、種々ノ御意見ガアリマシタ、卽チ
官吏ノ選任ハ人格識見ニ依リ、情實因
緣ヲ排シ、又責任ヲ重ンゼシメネバナ
ラヌ、又統制機關ノ整理ト共ニ、統制
經濟關係ノ官吏ガ多キニ過グ、減員ヲ
セヨ、又民間專門家ヲ官吏ニ登庸スベ
シ、又責任ノ地位ニ在ル官吏ニ廣汎ナ
ル權限ヲ附與シ、事務ノ各省連帶ヲ止
メテ一省ニ於テ專行セシメヨ、又官吏
ノ行跡ヲ査察シ、信賞必罰ヲ明カニセ
ヨ、官吏ノ異動ハ適材適所主義ニ依
リ、又頻繁ナル異動ハ遊クベシ、官吏
ノ俸給改善ハ、官吏ノ生活ヨリスルモ
綱紀ヲ維持スル上ヨリスルモ、必要デ
アル、是等ノ意見ニ對シマシテ、總理
大臣ヨリ、官吏又ハ指導者ノ選任ニ付
テハ、自ラバ責任ヲ以テ事ニ當リ、部
下ニ對シテハ信賞必罰ヲ以テ臨ミ、出
所進退ヲ良心的ニ律スルガ如キ人ニシ
テ、始メテ綱紀ハ維持セラレ正シキ政
治ハ行ハルヽモノデアル、政府ハ指導
者ノ選任ニ付テハ、此ノ點ニ付テ留意
セル所デアルガ、未ダ徹底セザル憾ミ
ナキニシモアラズ、今後努力スル考デ
アル、官吏ノ數ノ減員ニ付テハ今日
戰力增强ニ必要以上ノ統制行キ過ギノ
憾ミガアルガ故ニ、之ヲ簡素化スルニ當
リ、一部行政事務ノ廢止縮小ニ伴ヒ自
然減員シ得ル見込デアル、交民間人ノ
官吏登庸ニ付テハ、現行任用令ニ於テ
モ其ノ途ガ開カレテ居リ、從來トテモ
登庸ニ意ヲ用ヒテ居ル、將來モ其ノ考
デアル、又上級官吏ノ權限ヲ擴張スル
コトハ、其ノ方向ニ進ミタイガ、各省
間ノ會議ハ、綜合連絡ノ爲ニ開催ヲ要
スル場合ガアル、併シ其ノ決定ハ各省
ニ於テ決定シ實行ニ邁進スベキデアル、
官吏ノ行跡査察ハ、從來モ行ツテ來タ
ガ、今後モ更ニ廣ク實行ノ積リデアル、
內閣ニ其ノ機構ハナイガ、今囘行政決
戰化ノ爲、地方行政協議會地域ニ依リ
嚴肅ナル監査ヲ行フ考デアル、官吏ノ
異動ハ愼重ニセネバナラヌ、從來トテ
モ左樣デアツタガ、將來モ愼重ヲ期シ
各大官吏ノ給與ハ十分デハナイガ、
昨年末下級官吏ノ給與改善ヲ講ジタ、
之ニ依リ差當リ御奉公ニハ差支ナイト
考ヘルトノ言明ガアリマシタ、又政治
行政機構ニ關シマシテハ、大施策ヲ强
力實行ノ爲ニ行政機構ノ大變革ヲ爲
シ、中央各省ノ大々的分合整備ヲ爲ス
考ナキヤ、又朝鮮及臺灣在住民ノ政治
上ノ處週問題ノ解決ハ、時期ヲ失シテ
ハ不可ナルノミナラズ寧ロ逆效果ヲ生
ズルト思フ、今期議會ニ提案サレルコ
トヲ希望スル次期議會ニ延ビルコト
ナキヲ保セナイガ、考ハドウデアルカ、
今囘地方行政協議會長ト陸海軍部トヲ
吻合調整シ、會長ノ權限ヲ强化シタル
ハ必要ナル措置デアルガ、更ニ之ヲ法
的ニ大「ブロック」ニ鑄直スハ今日ヲ措
イテ他ナシ、而シテ其ノ下ニ、府縣ヨリ
小ニシテ、町村ヨリ大ナル行政區劃ヲ置
クベシトノ意見ガアルガ如何、又朝鮮
臺灣ノ地方行政機構ヲ內地同樣ニスベ
シトノ議論モアリマシタ、又朝鮮モ臺
灣同樣ニ總督ト軍司令官トヲ一元化セ
ヨト云フヤウナ御意見ガアツタノデア
リマスガ、是等ノ意見ニ付シマシテハ、
總理大臣ヨリ、各省ノ分合整備ノ如キ
大變革ハ只今ノ所出來ルダケ愼ミ、行
政運營ニ依リ進ム考デアル、又朝鮮臺
灣ノ外地同胞ノ政治處遇ニ關シテハ
特ニ重大ナル戰局下、一億結集ヲ必要
トスル時、之ガ實現ヲ念願スル、幸一
各方面ノ協力ヲ得テ本委員會ヲ開イテ
居ルノデアルガ、急グ考デアル、又地
方行政機構ニ付テハ地方行政協議會
ノ權限ヲ擴充シ、陸海軍トノ吻合調整
ヲ圖リ、軍官民一體トナリ强力ニ推進
セムトスル以上、之デ行ケルト思フ、
更ニ道州制ニ迄强化擴大スルヤ否ヤハ
〓究中デアル、如何ニ落付クカハ此ノ
際言明出來ヌ、又朝鮮臺灣ノ地方行政
機構ヲ內地同樣ニスルコトハ未ダ其
ノ時機ニアラズト思フ、朝鮮ニ於テ總
督ト軍司令官トヲ同一人ニスルコトハ、
戰局ノ現段階ニ於テ未ダ其ノ必要ナシ
ト思フ、トノ答辯ガアリマシタ、總力結
集ノ爲ニハ、軍需工場ノ職員工員ヲ軍人
軍屬トシ、又信賞必罰ヲ厲行スルト共
ニ、人事ヲ刷新シ、若キ者ヲ拔擢シ、
其ノ力ヲ結集スルニアル、最近問題ト
ナツテ居ル必勝國内體制ノ確立ニ付テ
モ、機構、「スローガン」ヨリハ、人事ノ
構成ニアル、如何ニ人事ヲ刷新スルカ
ニアル人材拔擢ニアル、トシテ總理ノ所
信ヲ質サレタノニ對シマシテ、總理大臣
ハ要スルニ政黨ノミナラズ軍官民共
ニ、人事刷新ニアリト思ハレル、同時
ニ總テノ人ガ發剌タル精神氣魄ヲ以テ
事ニ當ルコトガ、强力ニ事ヲ推進スル
モノデアル、政府部內ニ於テモ人事ノ
刷新ニ力ムルト共ニ、其ノ他ノ方面ニ
於テモ人事ノ刷新ニ協力ヲ惜シマヌ積
リデアル、ト所信ヲ披瀝セラレタノデ
アリマス、最後ニ南洋群島ニ於ケル玉
碎邦人ノ處遇、及昨年ノ大震災ノ復舊
事業、罹災者ニ對スル救濟ニ付テ、深
キ同情ヲ寄セテ其ノ取扱ニ付テノ質問
ガアリマシタ、南洋群島ノ玉碎邦人ノ
取扱ニ付テハ、大東亞大臣ヨリ詳細ナ
ル說明ガアリ、又震災復舊及罹災者ノ
救護ニ付キマシテハ、農商大臣、內務
大臣、厚生大臣ヨリ詳細ナル說明ガア
リマシタガ、具體的細密ナルコトデア
リマスルガ故ニ、玆ニ之ヲ申上ゲルコ
トハ省略致シマス、質疑應答ノ御紹介
ハ此ノ程度ニ止メマスルガ、政府ノ所
見ハ、大體ニ於テ委員側ノ意見ト甚ダ
シキ縣隔ハナク、多クノ場合ニ於テ或
ハ同感ノ意ヲ表セラレテ居リ、現ニ政
府ハ施策ハ其ノ方向ニ向ツテ進メラレ
テ居ルモノモアリ、是等ニ付テハ政府
ハ更ニ一段ノ努力ヲ爲スベキ旨ヲ述べ
ラレテ居リマス、又實行セラレテ居ナ
イモノニ付キマシテ、或ハ考慮スル
又ハ〓究スルト答ヘラレテアルモノモ
アルノデアリマス、是等ニ付キマシテ
ハ、政府ニ於テ一層ノ努力ヲ拂ハレ、
又速カニ攻究ヲ遂ゲテ、其ノ採ルベキ
ハ時局下急速ニ實行ニ移サレムコトヲ
希望スルモノデアリマス、此ノ際特ニ
御報告申上グベキコトハ、豫算委員會
ニ於テ質疑ノ大體終了セル際ニ於キマ
シテ、一委員ヨリ、前期議會ニ於テ政
府ガ言明セラレタル事項ノ取扱ニ付テ
ハ豫算委員會ニ於ケル質疑應答ノ間
ニ大體說明セラレ、最早說明漏レノモ
ノハナイカ、若シアルナラバ此ノ際
ニ說明セラレタイトノ要求ガアリマシ
タノニ對シマシテ、總理大臣ヨリ、前
議會ニ於テ言明シタ事項ニ關シテハ、
本委員會ナドニ於テ、自分及ビ其ノ他
ノ大臣カラ御答ヘ致シテ居リ、委曲ヲ
盡クシテ居ルト思フト云フ御答ガアリ
マシタ、ソレニ關聯致シマシテ、其ノ委
員ヨリ左ノ動議ガ提出セラレタノデア
リマス、卽チ其ノ動議ハ、政府ニ於カ
レマシテ一ノ議會ニ於テ公約サレタ事
項ニ關シテハ必ズ次ノ議會ノ豫算委員
會ノ劈頭ニ於テ、政府ヨリ進ンデ、議
員ノ質疑ヲ俟ツコトナク、一應ノ御說
明ヲ承ルコトヲ得マスルナラバ、政府
トシテ責任ヲ明カニスルノミナラズ、
爾後ノ質疑應答ノ時間ヲ節約シ得ルコ
トトモナルト信ズルノデアル、仍テ自
分ハ、今後進ンデ慣例トシテ斯カル處
置ヲ執ラレルコトヲ希望スルト共ニ、
尙將來ノ慣例ト爲スベク、假令內閣ガ
更ツテモ、斯カル慣例ヲ踏襲セラル
ヤウニ願ヒタイ、斯樣ノ動議ヲ提出致
サレタノデアリマス、委員會ニ於キマ
シテハ、全員異議ナク之ヲ可決致シマ
シタノデ、委員長ヨリ、本件動議ノ成立
ニ關シ政府ノ所見ヲ質シマシタル處、
總理大臣ヨリ、只今ノ動議ノ趣旨ヲ尊
重シ考慮ヲ重ネタイ、トノ答辯ヲ得マ
シタノデアリマス、討論ニ入リマシタ
ル處、三委員ヨリ贊成意見ノ陳述ガア
リマシタ、卽チ一委員ノ贊成論ノ要旨
ハ政府ハ現下ノ重大決戰下ニ於テ、
必勝不敗ノ態勢ヲ確立シ、諸般ノ施策
ヲ擧ゲテ戰力化ノ一點ニ集中セムトシ、〃
昭和二十年度ノ豫算編成ニ際シテモ
此ノ方針ヲ堅持シ、苟モ軍國緊要ナラ
ザル經費ハ悉ク抑制シテ、支出ノ厖大
ヲ防ギタルモ、戰力發展ノ關係上、臨
時軍事費追加豫算ヲ合シテ厖大ナル豫
算トナリタルハ、是レ實ニ國家總力ノ戰
列參加ヲ完ウスル爲、眞ニ已ムヲ得ザ
ル經費ナリト信ズ、而シテ戰局ノ危急
ハ日ニ大ヲ加ヘ、刻ヲ爭フ此ノ決戰下
ニ於テ、國務ノ遂行ハ聊カノ澁滯ヲ許
サズ、故ニ豫算上決定シタル重點施策
ハ勇往果敢ニ斷行シ、生產陣ノ隘路、
其ノ他ノ障碍ヲ排除シ、過日來本委員
會ニ於テ要請シタル所ニシテ、政府亦
共鳴シ若シクハ公約セラレタルコトハ
速カニ實行シ、以テ眞ニ軍官民協力一
致物心兩面ヨリ國力ヲ擧ゲテ皇國護
持ノ大任ヲ果サレムコトヲ望ム、尙厖
大ナル資金ノ放出ニ依リ生ジ易キ通貨
ノ膨脹ヲ抑制シ、惡性「インフレーショ
ン」防止ニ萬全ノ策ヲ講ゼラレムコ
トヲ望ミ、本豫算全體ニ對シ贊意ヲ表
スル者ガアルト開陳セラレマシタ、又
一委員ノ贊成意見ニハ、太豫算ハ日本
ノ興廢ヲ擔フ重大ナル豫算デアル、是
ガ迅速果敢ニ戰力化セラルヽト否ト
ハ我ガ國ノ存亡ニ關スルモノデアル、
昨今ノ南方ノ情勢ヲ見ルニ、局面極メテ
大デアリ、前線ニ於ケル忠勇無双ノ
我ガ同胸將兵ノ要望スル所ノ物ノ調達
ハ、到底企及シ得ザルモノニアラザル
コトヲ、自分ハ斷ジテ信ズルノデアル、
而シテ其ノ要望セラルヽ所ノモノガ適
時適所ニ送達セラレナイノハ、全ク到
ル處ニ横ハル大小ノ隘路ノ爲デアル、
卽チ此ノ陰路打開コソ急務中ノ急務デ
アル、政府ハ之ニ對シ最善ノ方途ヲ講
ジ、渾身ノ努力ヲ致サルヽコトト信ズ
ルモ、一方囚ハレザル立場ニ在ル者ノ、
政府施策ノ實施ニ參與シ、之ガ推進ニ
協力スルコトモ、時局下極メテ必要ナ
ルコトト思フ、貴族院ハ此ノ重大ナル
豫算ニ協賛シ、最大ノ關心ヲ有セルモ
ノデアリ、又其ノ不偏不黨ノ立場ハ、
前述ノ任務ヲ遂行シ得ルモノト確信ス
ル、仍テ政府ハ時局ノ現段階ニ鑑ミ、
本目的遂行ニ副フヤウ、議會閉會後ニ
於テ政府ニ協力セシムルガ如キ措置ヲ
執ラシムコトヲ希望スル、トノ希望ヲ
述ベテ本豫算ニ贊成セラレマシタ、更
ニ又他ノ一委員ハ希望トシテ、時局ノ
解決ニハ一部官吏ノ專權ヲ以テ成功ス
ルモノデハナイ、國民ノ協力ニ俟タネ
バナラヌ、議會ノ如キハ常時開會シテ
廣ク其ノ意見ヲ聽クベキデアル、又次
ニ外地ノ問題ハ極メテ大切デアル、誤
リナキヲ望ム、又政治ト經濟トニ付テ、
政治ハ漸次刷新セラレタガ、更ニ簡素
化ヲ圖リ、經濟ハ、現在ノ統制ハ再檢
討ヲ要ス、ト簡單ニ希望ヲ附シテ贊成ノ
意ヲ表セラレマシタ、之ヲ以テ討論ヲ
終リ、直チニ採決ヲ致シマシタル處、
全員起立、全會一致ヲ以テ豫算各案全
部ヲ可決致シタ次第デアリマス、以上
御報告申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=9
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010・徳川圀順
○議長(公爵德川閱順君) 質疑ノ通告
ガゴザイマス、通告順ニ依リマシテ發
言ヲ許シマス、二荒伯爵
〔伯爵二荒芳德君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=10
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011・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 私ハ只今豫算委員
長カラノ御報告ヲ伺ヒマシテ、益、只今
カラ私ガ致シマス質問ノ重要デアルコ
トヲ感ジマシタ譯デアリマス、私ノ總
理大臣ニ伺ヒタイト存ジマスノハ、國
體ノ根本義ニ關シテデゴザイマス、而
シテ其ノ動機ハ、先般本議會ニ於キマ
シテ姊崎議員カラ、天佑ト天譴ニ關ス
ル御質疑ガゴザイマシテ、之ニ對シテ
總理大臣カラ御答辯ガアツタノデアリ
マス、本來此ノ御答辯ニ對シマシテハ
私全面的ニ御同感ヲ表シテ居ルノデ
アリマシテ、所謂質疑ト云フ意味ノ疑
問ハ持タナイノデアリマス、併シナガ
ラ其ノ御言葉ノ足リナイ爲ニ、是ガ或
ハ國體ノ本義ト云フモノヲ誤解スル虞
ハナイカト存ジマシテ、玆ニ率直ニ私
ノ憂ヘテ居リマス所ヲ申上ゲタイト存
ズル次第デアリマス、卽チ過日ノ姉崎
議員ノ御質問ニ對シマシテハ、總理大
臣御自身天譴ニ直面セラレテ居ルト
云フコトヲ仰セラレマシタ、更ニ第二
ニ於キマシテ、今日迄斯クノ如キ境地
ニ在ルコトノ御認識ノ足リナカツタコ
トヲ明言セラレマシタ、第三番目ニ、
嚴肅眞摯ナル信念ニ立歸ラナケレバナ
ラナイト云フ御決意ヲ御披瀝ニナツタ
ノデアリマス、此ノ御答辯ノ重點ト云
フモノガ、若シ聽ク者ガ輕ク解釋致シ
マスナラバ、ソレハ重大ナル國體ノ根
本ニ觸レマシテ疑惑ヲ殘スモノダト存
ズルノデアリマス、申ス迄モナク、天
佑ヲ保有シ給フノハ天皇ノ御本質ニ
在シマシテ、天業恢弘ノ事ハ、固ヨリ
天佑ニ信倚スル億兆一心ノ純忠無私ノ
翼賛奉行ニ依ツテ達成セラルヽノデア
リマス、此ノ點斷ジテ間違ガナイコト
ハ誰シモ認メル所デアルト思フノデア
リマス、然ラバ此ノ天譴ヲ感得セシ者、
卽チ感ジタ者ハ、何人ト雖モ自ラノ心
身ヲ祓ヒ淨メマシテ、內省ニ內省ヲ重
ネマシテ、直チニ天譴ヲ變ジテ天佑ヲ
享受スルノ境地ヲ拓キマシテ、一路臣
節ノ實踐ニ邁進スベキコトハ、日本精
神ノ根本義デゴザイマス、卽チ直チニ
天譴ヲ變ズルコト、是ハ古神道ノ命ズ
ル所、又民族精神ノ常ニ要求シテ居ル
所デアリマシテ、寸時ノ逡巡遲滯ヲ許
サナイノデアリマス、此ノ點ニ付キマ
シテ、總理大臣ノ御答辯ガ稍〓簡單ニ過
ギマシタノデ、此ノ點ヲ只今ヨリ聊カ
敷衍ヲ致シマシテ、私ノ疑問ノ點ヲ申
上ゲタイト存ズルノデアリマス、姊崎
議員ノ御言葉ヲ速記錄ニ依リマシテ詳
細拜見ヲ致シマスト、現内閣ノ使命ハ
人心ヲ一新ズルニ在ル、其ノ一新ト云
フコトハ、言フ迄モナク眞ニ心ノ底カ
ラ人心ヲシテ新シイ心持ニスルト云フ
コトデアル、其ノ底カラ、詰リ心ノ底
カラノ一新ニハ、今申シタヤウナ信念
ノ根本ヲ衝イテ、ソレニ基イタ方策ヲ
施シテ行クベキデアル、政府ノ所信ハ
ドウデアルカト云フ御質疑デアリマシ
タ、實ニ重大ナル戰局ニ處スル方策ト
シマシテ、歸結スル所、戰爭ノ正義ハ
我ニ在リ、從ツテ天佑我ニ加ハルト云
フ最後ノ信念ヲ申サレテ居リマスシ、
又人心ノ嚮導ニハ、嚴肅、眞面目ナル
覺悟ト、實質アル方針トヲ準備シナケ
レバナラヌト云フコトヲ言ハレテ居リ
やっく、又浮華輕佻ノ宣傳ヲ戒メ、至誠
ナキ虛僞ノ信念ニ付テハ、色々ト古歌
ヲ引カレマシテ說明ヲセラレ、又畏ク
モ明治天皇ノ御製ヲモ仰セラレテ御
說明ニナツタノデアリマス、私ハ此ノ
姊崎議員ノ御質問ハ、內容カラ申シマ
スレバ、總理大臣ニ對スル直諫デアル
ト存ジテ居リマス、諫メノ言葉デアル
ト思ヒマス、又諫爭ノ言デモアルト存
ズルデアリマシテ、此ノ姊崎議員ノ
學者トシテノ切々タル憂ニ滿チタ此ノ
御言葉ニ對シテ、答ヘラレマシタ點ガ
甚ダ簡單ニ失シテ居ツタ感ガアルノデ
アリマス、卽チ行政ト〓育、二方面ニ
向ツテ人心ヲ嚮導セムトスルト仰セラ
レタノデアリマス、私ノ只今申上ゲタ
イト存ジマスノハ、天譴ト云フ支那ノ
文字ヲ以テ用ヒラレテ居リマスケレド
モ、天佑ト表裏ニ在ル天譴ナルモノハ
支那デ申スヤウナ必ズシモ罪惡若シク
ハ犯罪ト云フヤウナ意味デハゴザイマ
セヌ、姊崎議員カラモ細カク御說明ガ
ゴザイマシタガ、ソレハ天ノ警メデア
リ、天ノ諭シデアル、斯ウ云プコト
デゴザイマシテ、此ノ意味ヨリ致シ
マスレバ、大和言葉ノ罪ト云フ字ガ能
ク當ルノデアリリスス、「ツミ」ト云フコト
ハ「ツツム」ト云フ意味デゴザイマシテ、
公ナラザル人ノ行ヒ、卽チ務メヲ怠ツタ
リ或ハ心持ニ油斷ガアルカラ、ソコニ
罪ガ生ズルノデアリマス、天ツ罪、國
ツ罪ト昔カラ申シテ居リマス罪ハ、實
ニ日本民族ガ純眞ナル良心ノ頗ル銳イ
コトヲ申シテ居ルノデアリマス、他ノ
民族ハ罪トシナイコトモ、我ガ日本民
族ハ、苟モ大御心ニ背キ、或ハ神ノ御
心ニ背イタ時ニハ、罪ヲ感ズルト云フ
コトガゴザイマスノデ、此ノ感ズル所
ヲ何時モ祓ヒ淨メテ、正シキ道ニ歸ル
ト云フコトガ根本デゴザイマス、六月
ノ末日ト十二月ノ末日ニ大祓ノ詞ヲ宣
リマシテ、神社ニ、諸々ノ人々ノ犯シ
ケム罪アラムヲバ祓ヒ給ヘト申上ゲテ
居ルノデアリマス、犯シケム罪ト云フ
意味ハ、犯シタト自覺シナイデモ、犯シ
タカモ知レナイト云フ罪ヲ、神ノ御裁
斷ニ依ツテ被ヒ淨メヨウトスルノデア
リマシテ、是ハ上總理大臣ヨリ下億兆
ガ皆此ノ罪ヲ感ジテ、新タニ悔ヒ改メ
ヲスルト云フ御儀式デアルノミナラ
ズ、又行デアルノデアリマス、ソコデ
私ノ伺ヒタイト存ジマスコトハ先程來、
豫算委員會ニ於テ、總理大臣ノ御答辯
ニナリマシタ所カラ拜察致シマシテ
モ、今ヤ我々ハ實ニ前古未曾有ノ國難
ニ直面ヲ致シテ居リマス、此ノ國難ノ
打開ト云フコトハ、固ヨリ信賞必罰、
臧否陟罰ト云フコトニモ依ルノデアリ
そう、ソレヨリモウ一ツ深ク入リマス
レド。御互ガ大御心ニ副ヒ奉ラザル罪
ヲ深ク感ジマシテ、相戒メテ御互ガ其
ノ足ザルヲ補ヒ、サウシテ眞ニ神ノ御
佑ケヲ得ルト云フコトガ第一義デアル
ト思フノデアリマス、私ハ只今生產ノ
隘路ニ付テノ委員長ノ御報告ヲ伺ツタ
ノデアリマスガ、其ノ裏ニハ、魂ノ隘
路ガアルト思フノデアリマス、魂ノ隘
路アルガ故ニ、物質ノ隘路ガ到ル處ニ
現レテ居ルト思フノデアリマス、此ノ
魂ノ隘路ノ打開ト云フコトガ、私ハ此
ノ內閣ニ與ヘラレタ所ノ大キナ使命デ
アルト存ズルノデアリマス、畏クモ前
後二囘ニ亙リマシテ、此ノ議場ニ於テ
勅語ヲ拜戴致シマシテ、其ノ御思召ニ
我々ハ如何ニシテ副ヒ奉ルカト云フコ
トヲ日夜憂ヘテ居リマスノデゴザイマ
ス、若シモ此ノ魂ノ隘路ガ打開セラル
ル時ニハ、億兆總テガ感憤興起シテ熱
淚ヲ揮ツテ其ノ後ニ續イテ行クト云フ
コトハ一點ノ疑モナイコトデアルト
思フノデアリマス、而モ先程申シマシ
タヤウニ、罪ノ嚴肅サト云フコトニ付
テノ十分ナル反省ガ若シ無イトスルナ
ラバ所謂信賞必罰モ臧否陟罰モ、是
ハ皆小手先ノコトニナリマシテ、決シ
テ精神ノ維新ハ來ナイト思フノデアリ
マック、息順デナイ若シ臣民ガアルナラ
バ官民ヲ問ハズソレハ正ニ祓ヒ淨
メ、或ハ重キ者ハ之ヲ嚴罰ニ處シ、輕
キ者ハ深キ反省ヲ促シマシテ、我ガ日
本ノ根本ノ行キ道ヲ立テルコトガ大切
ダト存ズルノデアリマス、悠久ノ大義
ニ生キル確信ヲ以テ、從容トシテ死ニ
就キマシタ所ノ幾多ノ忠勇ノ英靈ニ對
シン、此ノ魂ノ維新コソ、正ニ今內閣
ノ採ツテ進ムベキ所デアルト思フノデ
アリマス、闇深クシテ曉近シト云フコ
トガゴザイマス、維新ハ何モ明治維新
ノミガ維新デハゴザイマセヌデ、日本
ノ國柄ハ何時モ皇祖皇宗ノ思召ニ立
歸ル其ノ精神的ノ覺醒、是ガ維新ノ根
太義デゴザイマス、御十代ノ崇神天皇ノ
御宇ニモ維新ト申シマスコトハゴザイ
マシタシ、時ノ人、「ハツクニシラスス
メラミコト」ト仰ギ奉ツタノデアリマ
ス、更ニ大化ノ改新、明治ノ維新、何
レモ日本精神ノ根本ニ立歸ル民族總テ
ノ自覺ノ結果デアルト存ズルノデアリ
R 〓、質問ノ要旨ト致シマシテ更ニ述
ベマスナラバ、斯クノ如キ時代ニ對シ
テ、總理大臣ハ、此ノ問題ヲ、此ノ精
神ノ問題ヲ如何ニ御解決ニナルカ
又之ニ附帶致シマシテ、本當ノ日本精
神ノ〓究ハ〓究ト申スヨリモ究明探
索ハ、ソレハ唯內閣諸公ノ御考ノミデ
御決メニナルベキモノデナクテ、本當
ニ此ノ日本ニ於テノサウ云フ方面ノ學
者、或ハ碩學鴻需ヲ御集メニナツテ、何
ガ本當ノ日本精神デアルカ、·何ガ此ノ
日本精神ニ於テ今新シク日本ガ行クベ
キ時デアルカ、之ヲハツキリト御決メ
ニナルコトノ頭腦機關ガ必要デアルト
思フノデアリマス、聊カ抽象ニナリマ
シタカラ、モツトハツキリ例ヲ申シマ
スレバ、國體ノ尊嚴ハ誰シモ皆胸ニ深
ク藏シテ居リマス、併シナガラ時ニハ國
體ノ尊嚴ヲ說ク者ニシテ、說明ヲスル
者ニシテ、全ク此ノ根本精神ノ探究ヲ
致スコトナク、口舌ノ上ニ於テ、口頭
ノ上ニ於テ、尊嚴ヲ說キナガラ而モ心
ノ中ニハ眞ニ天ヲ畏ルヽ心持ノナイ所
謂國體宣布者ト云フモノ、誤レル國體
宣布者ガアルノデアリマス、モツトハ
ツキリ申シマスナラバ、姊崎議員ハ
御幣擔ギガアツテハイケナイ、眞ノ信
念ガナケレバイケナイト仰セラレマシ
タガ、御幣ヲ擔グウチハマダ許スペキ
デアリマス、御幣ヲ持ツテ人ノ頭ヲ毆
ツテ置イテ、サウシテ其ノ御幣ニ手ヲ
掛ケルト、神ニ向ツテ何ヲスルカト云
フコトガアル、日本精神ノ眞乎ノ基礎
ガ決ラナイ爲ニ、恰モ外國ニ於テ宗〓
ガ墮落シタ時ニ、其ノ宗〓ヲ利用シテ
免罪符ヲ、贖罪ノ札ヲ賣ツテ、サウシ
テ良民ヲ苦シメタヤウナ隨落シタ僧侶
ガアツタ如キ、或ハ又佛〓ノ墮落シタ
場合ニ、我ガ國ニ於テハ是等ノ事柄ヲ
救濟スル爲ニ有ラユル瓦礫刀仗ノ間ニ
立ツテ之ヲ是正スルト云フ勇敢ナル儈
侶モアツタノデアリマス、魂ノ問題ハ
決シテ輕イ問題デナイ、實ニ今コソ決
メルベキ秋デアルト確信シテ居ルノデ
アリマス、此ノ點ニ付テ總理ノ御明快
ナル御答辯ヲ希望シテ已マナイ次第デ
アリマス
〔國務大臣小磯國昭君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=11
-
012・小磯國昭
○國務大臣(小磯國昭君) 二荒伯爵ノ
御發言ニ御答ヲ申上ゲマス、天佑ト天
譴トハ、同一信念ノ表裏デアルト云フ
コトニ付キマシテハ姉崎議員ノ御說
ニ同感デアルト云フ表現ヲ以チマシテ
過日申上ゲタ通リデゴザイマス、天讀、
卽チ天ツ神ノ御譴リハ、天佑ノ一環
一翼デアルト信ジマス、此ノ天ツ神ノ
聲ナキ御譴リハ、神ノ試鍊トシテ現ハ
ルヽモノデアルト存ジマス、卽チ今日
我々ガ戰線ニ、銃後ニ、幾多打開スベ
キ困難ニ直面シテ居リマスコトハ、神
ノ試鍊デアラウカト考ヘルノデアリマ
シテ、此ノ試鍊ニ耐エ拔キ、乘リ越ヘ
テ適進致シマシテコソ始メテ天佑ニ
€
浴シ得ルモノト信ズル。ノデアリマス、
以上ノ意味ニ於キマシテ過日姊崎議員
ノ御質問ニ對シ、私ハ、今ヤ我々ハ眞
ニ天譴ニ直面シテ居ル、ト申シマシタ
ノデアリマスガ、是ハ、今ヤ我々ハ眞
ニ神ノ試鍊ニ直面シテ居ル、ト申スノ
ガ妥當デアツタカト存ジマス、言葉ガ
不十分デアリマシタ爲ニ、御配慮ヲ煩
ハシマシタ段ハ申シ譯ゴザイマセヌ、
玆ニ私ノ信ジマスル意義ヲ明確ニ致シ
マシテ、字句ヲ訂正シテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=12
-
013・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 田中館愛橘
君
〔田中館愛橘君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=13
-
014・田中館愛橘
○田中館愛橘君 目下戰局高潮ニ當リ
マシテ、敵味方共ニ各方面ニ於テ人員
ノ補給ガ最モ迫ツテ居ル時代デアリマ
ス、從ヒマシテ其ノ後備トモ言フベキ
兒童ノ養成ハ、愼重ニ考フベキ問題ト
存ジマス、勿論差當リノ問題トシマシ
テハ兵器、軍需品ノ多量生產等ノ問
題ガアリマスケレドモ、是等苟モ作戰
ニ多少ノ關係ノアルヤウナコトハ、公
ノ席ニ於テ論議スベキモノデナイト存
ジマス、依ツテ是等ノ物ヲ作リマス所
ノ人間ヲ作ルコトノ問題ニ付テ、之ヲ
改善スル途ハナイカ、之ヲ伺ヒマス、
今日ノ兒童ハ五年先ノ青年デアリア岐、五
十年先ノ壯年デアリマス今日働イテ
居リマス所ノ壯年ハ、日〓事變ノ時ノ
兒童デアリマス、時ノ經ツコト誠ニ早
イ、只今ハ多數ノ兒童ガ疎開サレテ居
リマス、是等兒童ノ〓育、其ノ手始メ
ハ先ヅ文字ヲ習フコトデアリマス、此
ノ文字〓習フコトガ兒童〓育中ノ主ナ
ル負擔デアリマス、殊ニ我ガ國字ノ複
雜ナルコトニ鑑ミマシテ、此ノ文字〓
育ニ費ス時間ヲ、他ノ中味ノ〓育ニ切
換ヘマシテ、少壯氣銳ノ智能ヲ働カス
途コソハ、明治以來識者ノ定論デアリ
せっ、勿論文字ノ如キ傳統習慣ノ惰性
ニ富ンダモノハ如何ニ理論上理想的
ナモノガアリマシテモ、一足飛ビニ之
ニ切換ヘルコトハ出來マセヌ、其ノ中
間ノ策ト致シマシテ、三ツノモノガ唱
ヘラレテ居リマス、第一ハ漢字節約、
或ハ制限トモ言ヒマス、第二ハ字劃ノ
簡易化、第三ハ假名遣ノ改良、此ノ三
ツノコトニ依ツテ少カラザル〓育時間
ヲ短縮スルコトガ出來ル、音素文字、
卽チ子音母音ノ表音文字ノ中ノ一種ナ
ル「ローマ」字ヲ使ツテ居リマス國々ニ
於キマシテハ、我ガ國ノ兒童ニ較ベマ
シテ、尠クモ三年位ハ短イ時間デ同ジ
知識ヲ得ルコトニナツテ居リマス是
ハ専門家ノ視察シテ、統計ヲシタ結果
デアリマス、先ヅ第一ノ漢字ヲチヨツ
ト申シマスレバ其ノ構成ハ御承知ノ
如ク形象、形象デハ間ニ合ハヌカラ指
事、ソレデモ足ラズ、今度ハ會意、此
ノ會意ト云フ漢字ノ造リ方ハ色々ノ
意味ノ文字ヲ上下左右ニ書キ集メタ文
句デアリマス、デアリマスルカラ、字
劃ノ數モ多クナリマス、纏メテ書キマ
スカラ表意上簡潔デスガ、其ノ數ハ限
リナク增シテ來ルノデアリマスカラ、
數萬ノ漢字ガ出テ來ルノデアリマス、
是デ間ニ合ハナクナリマシテ、遂ニ偕
聲卽チ音ヲ借リタ文字、ソレカラ假
借、轉注等ガ出テ、所謂六義ノ後ノ方
ハ表音ニ傾イテ居リマス、是等漢字ノ
制限ニ付キマシテ、屢〓委員等ヲ設
ケテ調査ヲサレマシタガ、未ダ是
ダケノ文字ト云フ政府ノ意見ガ言明サ
レテアリマセヌ、第二ノ此ノ字劃
簡易化、現代使ハレテ居ル所ノ七千字
餘リノ漢字ノ辭書ニ依ツテ調ベマスト
云フト、先ヅ一劃ノ字ガ六ツアリ
やっ、二劃ノ字ハ三十ト云フ工合デ、
段々行キマスト、三十一劃ノ字ガ一ツ、
是デ終リニナツテ居リマス、ソレデド
レ位ノ劃ノ字ガ最モ多イカト申シマス
ト、十二劃ノ字ガ六百二十九、是ガ一
番多ク使ハレテ居ル、十劃カラ十五劃
迄ガ最モ多イ所デアリマシテ、ソレカ
ラ二十劃アタリカラ段々下リマシテ、
三十一劃デ終ツテ居リマス、此ノ簡易
化モ、最早新聞等ニ於テ幾分カ使ハレ
テ居リマス、此ノ節盛ンニ使ハレマス
驕敵ノ驕ノ字、アレナドハマア二十劃
餘デアリマス、アヽ云フ字ガ、新聞雜誌
等ニ於キマシテモ此ノ節ノ「インキ」ノ
惡イノデ刷ツタノヲ見マスト、判斷ガ
附キマセヌ、「インキ」ガ少シ滲ミマスト、
ドウ云フ字ダカ分ラナクナリマス、之ヲ
簡易化スルモノハ民間ニ行ハレテハ
居リマス、ケレドモ未ダ公式ニ認メラ
レテハ居ラヌヤウデアリマス、此ノ簡
易化ヲ極端ニ行ツタモノハ假名デアリ
マス、是ハ我々ノ先輩ノ一大功績デアリ
やっく。唯是ハ音節ダケ表ハシテ居リマ
ス、然ルニ言葉ノ活用卽チ働キハ、音
節デナクテ子音母音ノ音素ニ依ツテ動
キマス、ソレニ音節文字ヲ使ヒマスカ
ラ、此處ニ假名遣ノ困難ガ原因スルノ
デアリマス、我ガ言語ノ歷史ヲ見マス
ト、文法學者ノ議論シテ居リマス所ハ、
悉ク此ノ音節ト音素ノ喰ヒ違ヒニ依ツ
テ苦勞シテ居リマス、大槻文彥氏、彼ノ
大言海ノ著者ガ申シマシタコトニハ
自分ノ編纂シタ辭書ヲ見ナケレバ本當
ノ假名遣ハ書ケナイ、ト云フノデアリ
マシ、其ノ筈デアリマス、「ヨー」ト云
フ、日曜日ノ「ニチエウビ」、「ヨウ」ト
「ヤウ」、是ガ八通リアリマス、東京ノ
「キャウ」ト云フ〓ハ十五通リアリマス、
之ヲ悉ク正シク書カウト云フ人ハ、
失禮ナガラ御同僚中ニモ指ヲ以テ數ヘ
ル程ノモノダラウト思ヒマス之ノ改
良モ何囘トナク〓究サレマシタガ、未
ダ政府ガ之ヲ簡易化スル意思ヲ發表サ
レテ居リマセヌ、委員ノ意見デアルト
云フコトデ使ハレテ居リマス、故ニ假
名遣モ斯ウ云フ風ニ見マスト、全ク區
區デアリマス、以上三ツノコトハ旣ニ
屢〓〓究サレマシタケレドモ、何ノ方
針デ行クト云フ所見ハマダ出テ居リマ
セヌ、唯玆ニ一ツノ取除ケガアリマスコ
トハ、「ローマ」字デアリマス、「ローマ」
字ハ子音、母音ノ音素文字デアリマス
カラ、之ニ依ツテ國語ヲ書キマスレバ、
國語ノ活用ガ簡單明瞭ニ行キマス、サ
ツキ申シマシタ大槻氏ノ言ヒマシタコ
トデモ、明治六年ト思ヒマス、洋字「ロー
マ」字ヲ用ヒズンバ日本文法遂ニ成
ルコトアルベカラズ、ト嘆息シテ居リマ
ス、意見ノアル者ハ來テ議論シロ、斯
ウ云ノコトヲ書イテ居リマス、實際高
等學校アタリノ〓員デ、日本文法ヲ〓
ヘルニ「ローマ」字ヲ以テ說明シテ居ル
モノガアリマス併シ是等ハ勿諭急速
ニハ行キマセヌガ、近衞內閣ガ、此ノ
「ローマ」字ノ使ヒ方ハ區々デイケナイ、
仍テ政府ハ左ノ方式ニ依ツテ之ヲ続一
セムトスルカラ、各廳ニ於テモソレヲ
〓メロト云フ訓令ヲれ{シマシタ、是
昭和十二年九月ト覺エテ居リマス、詰
リ是ガ文字ニ對スル所ノ政府ノ意思ヲ
發表シタル唯一ノモノト心得マスド
ウカ此ノ漢字節約、字割簡易化、及ビ
假名遣改良ニ付キマシテモ、政府ノ意
ノアル所ヲ言明セラレムコトヲ希望致
シマス、文字ハ言語ト共ニ活キ〓デア
リマスカラ、時代ニ依ツテ進ミマス、
從ツテ將來ニ於テ改良スベキコトハ勿
論デアリマス、何處ノ國ヲ見マシテモ、
時代ニ依ツテ各變ツテ居リマスルカ
ラ、今日ノヤウナ時節ニハ舊來ノ行
掛リトカ經緯トカ云フコトハ一切洗
ヒ流シテ、是デ統一ヲ圖ルト云フ意見
ヲ言明下サツタナラバ、民間ニ於テモ
大イニ進步ガ捗ルダラウト存ジマス、
終リニ兒童致育ノ內容ニ付テ一言申上
ゲタイト思ヒマス、〓育ニ付キマシテ
ハ〓員ノ素質ガ最モ大切デアルト思
ヒマス、自分ノ力デ消化シタ知識ヲ兒
童ニ授ケルコトト、唯充テ行ハレタ指
;令ニ依ツテ西艦ギ式ニ〓ユルコトトハ
其ノ效果非常ニ違フノデアリマス、〓
員ノ知識ニシテモ、今日ハ科學知識ト
云フコトガ盛ンニ唱ヘラレマスガ、殊
ニ此ノ科學ニ對シマシテ、E進月步ノ
知識ヲ一ト通リ呑ミ込マナケレバナリ
マセヌ、之ニ對シテハ新閣雜誌等一應
見テハ居リマセウガ、此ノ新聞離誌等
ニアリマスモノハ、多クハ新シイコト
ヲ速ク知ラセルコトヲ競ヒマシテ、
事實ヲ誤ツタモノハ尠クアリマセヌ、
然ラバ何處ニ之ヲ求メルカト言ヒマス
レバ先ヅ私ノ考ヘマス所デハ信用
スベキ百科辭典ナドハ立派ナモノガ出
來テ居リマス、是ハ昨年ノ四月ニ新版
ノ出來ル豫定デ居リマシタガ、色々ノ
紙ノ配給等ニ依ツテマダ四來マセヌ
其ノ他現在ノ紙ト印刷ノ切迫シテ居ル
時代ニ、是ガ〓ツテ居リマスコトハ誠
ニ遺憾ト存ジマス、本院ノ閱覽室ニ行
ツテ見マシテモ、重複シテ居ルモノヤ
如何ハシイモノデ、是等ハ救理シテモ
宜カラウト思フモノガ目ニツキマス
何トカシテ此ノ百科辭典、殊ニ科學辭ケ
典ノ如キモノヲ、融通ヲシテ出版ヲ爲
シ、以テ科學知識ノ〓育ヲ進メタイ、
叉斤段致育モ進メタイト存ジマスガ、
是ハ情報局ノ御係リト思ヒマスケレド
モ要スレバ文部省ノ御方針ニ依ツテ
ハ何トカ工夫ガツクコトカト存ジマス、
我我國ノ明議ニ〓テハ、先津テ八木博士ノ
放送ヲ伺ヒマスト、決シテ諸國ニ劣ル所ハ
ナイ、是ハ利モ屢〓、同樣ナ諸演ヲ致シマシ
久、線、テノモノニ於テトハ中シマセヌガ、先
ヴ科學方面ト申シマシテモ、簡單ナ例ヲ
言ヒマシタナラバ、今日使ハレテ居リ
マス短波ノ問題ナドモ、日本ニ於テハ
疾ウニ出來テ外國デ使ツテアルモノ
ヲ、道輸入ヲシテ日本デヤルト云フヤ
ウナコトニナル、又今盛ンニ出來マス
齒車ノ造リ方、素人考ニハ極メテ簡單
ナ齒車デアリマスガ、ナカ〓〓理論上
ムツカシイ問題デアリマス、是モ旣ニ
「ドイツ」アタリデ盛ンニ使ツテ居ルノ
ヲ、日本人ガ見テビツクリシテ、コツ
チニ歸ツテ來テ實行サレマシタ、6合
優秀ナル方ガアリマシテモ、一般知識
ガ弘マリ、國民全體ノ知識ガ昂マラナ
クテハ、如何ニ科學昂揚ヲ盛ンニ唱ヘ
マシテモ實用カラ遠ザカルノデアリマ
ス、斯樣ナコトデハドウシテモナラヌ
ト思ヒマス、每日諸君ノ御聽キニナル
「ラジオ」、アノ調子ヲ合セル機械、アレ
ニ依ツテ「ラジオ」ガ非常ニ進ミマシ
タ、アレナドハ「セルビヤ」ノ百姓ノ子供、
父モ母モ文字ヲ知ラナイ、讀ムコトモ
書クコトモ出來ナイ者ノ子供ガ發明シ
マシタ、ソレガ、學校ニ於テ「フラン
クリン」ト云フ者ガ雲カラ電氣ヲ取出
シテ、是ガ電氣ダト云フコトヲ、子供
ノ時ニ習ツタコトカラ知識欲ヲ發シマ
シテ、學校ニ入リ遂ニ高等ノ學ヲ修メ、
サウシテ、是ハ高等數學デナケレバ解
ケナイ問題デアリマス、高等数學迄モ
ヤルコトヲシマシテ、到頭アノ發明ヲ
シント、皆樣ガ御使ヒニナツテ居ルアノ
棧械ガ出來タノデアリマス、三ツ子ノ
魂百迄モト云フコトガアリマスガ、此
ノ子供ニ眞ノ知識ノ種子ヲ授ケルコト
ヲ希望致シテ已ミマセヌ、ドウゾ政府
ノ御意見ヲ伺ヒタウゴサイマス
〔 務大臣小磯國昭君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=14
-
015・小磯國昭
○國務大臣(小磯國昭君) 只今田中館
博士ノ御質問ハ戰局ノ進展ニ伴フ兒
童ノ〓育ニ關スル問題ト承リマシタ、
國家興隆ノ爲ニ、次ノ時代ヲ背負ツテ
參リマスル兒童ノ〓育ニハ時段ノ注
意ヲ加ヘテ行カネバナラヌコトハ今
更申ス迄モゴザイマセス、是ハ平戰時
ノ何レタルヲ問ハザル問題ダト存ジマ
ダイク、第一ニ申述ベラレマシタ文學ノ統
一簡易化ト云フヤウナ點ニ付キマシテ
ハ是ハ文部大臣カラ答ヘテ貰フコト
ニ致シマス、最後ニ申述ベラレマシタ
〓養ヲ進ムル上ニ付テノ御注意デアリ
マスガ、是ハ全然御同感デゴザイマ
スルノデヽ戰爭ガ長期ニ亙ルト云フコ
トヲ覺悟シテ居リマセネバナラス現戰
局下ニ處シマシテノ兒童〓育ト致シマ
シテハ、御說ノ如ク、此ノ〓育ノ衝ニ當
ルベキ〓員ノ〓育、人選竝ニ〓材ノ選
擇ト云フコトニ意ヲ用ヒマシテ三ツ子
ノ魂百迄モト仰セニナリマシタガ、是
等兒童ニ對シ、飽ク迄モ國體ノ太美ヲ基
調ト致シマスル皇國護持ノ精神ヲ深刻
ニ植ヱ付ケルト云フコトト同時ニ、御
話ニナリマシタ或ハ發明考案デアルト
カ、或ハ技術的素質ノ基礎的〓養ノ水
準ヲ高メテ行クト云フコトニ致スコト
ガ特ニ必要デアラウト存ジテ居リマス
〔國務大臣伯爵兒玉秀雄君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=15
-
016・兒玉秀雄
○國務大臣(伯爵兒玉秀雄君) 總理大
臣ヨリノ御說明デ大體盡キテ居ルト思
ヒマスルガ、幾ラカ足リナイ所ヲ補充
シテ置キタイト思ツテ居リマス、只今
述べラレマシタル通リニ、今日兒童〓育
ノ改善ハ最モ必要ナルコトト考ヘテ居
ルノデアリマス、只今述ベラレマシ
タル通リニ、將來ノ日本ヲ背負ツテ立
ツベキ者ハ此ノ兒童デアリマスルノデ、
此ノ〓育ノ如何ハ、將來我ガ國ノ發展
ニ非常ナル影響ヲ持チマスルノデ、文
部省ト致シマシテハ特ニ其ノ點ニ對シ
テ留意ヲ致シテ居ル所デアルノデアリ
やっ、處デ此ノ兒童〓育ノ一ツノ隘路
ニナツテ居リマスル所ノモノハ只今
博七ガ述べラレマシタル如ク、國語ノ
問題デアルノデアリマス、併シナガラ
此ノ國語ナルモノハ、國民ノ精神ヲ表
現スルモノデアリマスルノデ、之ヲ輕
輕シク是非ヲ決メル譯ニハ參ラヌト思
ツテ居ルノデアリマス、現ニ國語審議
曾ニ於キマシテモ此ノ點ニ付テ愼重ニ
考慮ヲ致シテ居リマスルノデ、其ノ〓
究ヲモ十分ニ尊重致シマシテ、此ノ國語
ニ對シマスル根本ノ方針ヲ定メテ行カ
ナケレバナラヌト考ヘテ居ルノデアリ
マスガ、取敢ズ漢字ニ付キマシテハ、國
民學校ノ〓育ニ用フベキ所ノ言葉ヲ制
限ヲ致シマシテ、現ニ三千字程度ニ止
メテ居ルヤウナコトデアリマス、御質
問ノ御趣旨ハ誠ニ御尤モト思ヒマスル
ノデ、其ノ點ニ付テハ今後文部省ト致
シマシテ一層ノ注意ヲ致シタイト思ツ
テ居リマス、次ニ科學〓育ノ問題デア
リマスルガ、是モ御話ノ通リノ事柄デア
リマスルノデ、殊ニ兒童ニ對シマスル
科學的知識ヲ與ヘマスルノニハ師範
〓育ニ於キマシテ、此ノ科學的〓育ノ
向上ヲ圖ルコトガ非常ニ必要デアリマ
スルノデ、文部省ニ於キマシテモ、特
ニ其ノ點ニ留意ヲ致シテ居ルノデアリ
マス、斯クシテコソ、將來我ガ國ヲ背
負ツテ立ツベキ科學的知識ヲ持チマシ
タル靑年ガ生レ出ヅルコトト期待シテ
已マナイノデアリマス、次ニ百科辭典
ノコトデアリマスルガ、是モ殊ニ理科
系ニ關シマスル百科辭典ノ完成ト云フ
コトハ、文部省トシテハ非常ニ望マシ
イコトデアリマスルガ、只今御話ノア
リマシタル通リ、今日ノ事情ガ、出版
其ノモノニ對シテ色々ノ困難ナル事情
ガアリマスノデ、思フヤウニ參ラナイ
ノデアリマスルガ、文部省ト致シマシ
テモ、此ノ完成ニ付キマシテハ出來ル
ダケノ心配ヲシテ見タイト考ヘテ居リ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=16
-
017・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓順石) 宮田君
〔宮田光雄君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=17
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018・宮田光雄
○宮田光雄君 私ガ此ノ場合ニ總理大
臣ニ御尋ヲ致シテ置キタイト思ヒマス
コトハ皆サンハ或ハ御氣付ニナリマ
セヌカツタカモ知レマセヌガ、今カラ
十日カ二週間バカリ前ノ新聞ノ敍任辭
令欄ノ所ニ、大東亞省ノ一事務官ト外務
省ノ一課長ガ、文官分限令ノ規定ニ依リ
マシテ体職ヲ命ゼラレタ其ノ事項ガ揭
ゲラレテ居リマシタ、其ノ中ニ私ノ知
ツタ者ガ居リマシタカラ、呼ビ寄セテ、
何ガ故ニ今頃突然ト体職ヲ命ゼラレタ
ノデアルカト云フコトヲ尋ネテ見マシ
タ處ガ、我等課長級若シクハ事務官級
ノ二十数名ノ者ガ、國家ノ現狀ヲ憂ウ
ルノ餘リ、陳情書ト申シマスカ建言
書ト申シマスカ、ソレヲ作成シテ、サウ
シテ內閣總理大臣ニ捧呈ヲシタノダ、
呈上ヲシタノダ、其ノ使ニナツタ考ガ、
二十數名ノ者ノ代表者トシテ之ヲ內閣
ニ持ツテ參ツテ、總理大臣ニハ會ヘナ
カツタガ、祕書官カ誰人カニ會ツテ、
之ヲ總理大臣ニ差上ゲタ處ガ、其ノ後
我等二人ニ向ツテ辭表ヲ出セ、斯ウ云
フコトヲ言ハレマシタケレドモ、辭表
ヲ出スベキ筋合ノモノデハナイト斯ウ
考ヘタカラシテ、其ノ儘默殺シテ居ツ
タ處ガ斯ウ云フヤウナコトニナツテ參
リマシタノデアリマス、斯ウ云フコト
ヲ言ツタノデアリマス、ソレナラバ如
何ナルコトヲ總理大臣ニ對シテ建言ヲ
シタノデアルカ、其ノ趣意書ヲ見セテ
吳レ、斯ウ言ツテ私ハソレノ提出ヲ求
メマシタノデアリマスガ、其ノ後手數
ガ掛カリマシテ昨晩漸ク受取リマシテ、
二度バカリ繰リ返シテ讀ンダノデアリ
々 ハ恐ラク總理大臣モ此ノ建言書ハ
十分ニ御讀ミニナツタコトト思フノデ
アリマス、私ハ其ノ建言書ノ誠意溢ル
、言葉ニ動カサレマシタカラ、斯ウ云
フ場合ヲ顧ミマセズ、此ノ席ニ罷リ出
テサウシテ御尋ヲシタイノデス、此ノ內
閣ガ成立シテカラ以來、皆サンガ最モ
多ク耳ニセラレタコトハ何デアルカト
申シマスト、政治力ノ强化、或ハ政治體
制ノ强化、斯ウ云フコトガ頻リニ叫バ
レタノデアリマス、其ノ一ツノ現レト
或シマシテ、此ノ議會前後カラ頻リニ翼
贊會、翼贊政治會、翌贊壯年團ノ一元化
ト云フコトガ叫バレタコトハ、今更申
ス迄モナイコトデアリマス、能ク御存
ジノコトデアリマセウ、其ノ言フ所ノ
心ハ色々アリマセウガ、併シナガラ
編テノ此ノ三者ヲ一體トシテ强イ力ヲ
作リ上ゲヨウト云フ所ニ在ル、中ニハ
クダラヌ野心ヲ以テ彼此シテ居ル者モ
アリマセウケレドモ、ソンナ者ハ取上
ゲテ言フベキ筋合ノモノデハナイ、併
シナガラ私ハ、此ノ點ニ付テモ豫算ノ總
會デ色々御話ガアツタヤウニ承ツテ居
リマスガ、政府ハ、此ノ翼贊政治會ガ
縫ラウガ繼ルマイガ、二ツニナラウガ
三ツニナラウガ、ソンナコトニ苦勞ス
必要ハナイ、斯ウ云フモノノ離合聚
ムト云フヤウナコトハ、決シテ政府ガ
自分ノ事ノヤウニ取上ゲデ御心配ナサ
ルニハ及バナイ、彼等ノ思フガ儘ニサ
セテ置イテモ、ドレモ是モ厚薄ノ相異
ハアラウガ、日本人デアリ忠誠心ヲ持
ツテ居ル者デアル以上ハ、此ノ翼贊政
治會ガ二ツノ團體トナリ三ツノ團體ト
ナツテモ、チツトモ國家ノ政治ノ運用
ノ上ニハ差支ナイト、私ハ信ズルノデ
アル、寧ロ其ノ方ガ獨自ノ性格ヲ持ツ
テ、サウシテ三本ノ繩トナリ四本ノ繩
トナツテ、其ノ四本トナリ三本トナツ
タ所ノモノヲ固ク捩ヂ合セテサウシ
テ一本ノ强イ綱ニシタナラバ、寧ロ一
本ノ何ダカ譯ノ分ラヌ得體ノ知レナイ
編ヨリハ、如何ニ强イ力ヲ以テ此ノ國
家ノ推進力トナルカ、ト云フコトヲ私
ハ考ヘルカラシテ、サウ云フコトハ
政府ガドウ云フ考ヲ持ツテ居ルカラ斯
ウシテ貰ヒタイト云フヤウナ註文ハシ
テ戴キタクナイ、寧ロ自由奔放ニ彼等
ノ欲スル所ニ任ス、若シ其ノ中ニ不都
合ナ者ガアツタナテバ强權ヲ發動シ
テ之ヲ叩キ潰ス、中ニ不都合ナ者ガア
ツタナラバ之ヲ牢獄ニ追ヒヤツテデ
モ、國論ノ統一ヲ妨ゲサセナイヤウニ
シタナラバ、ソレデ私ハ千分ダト田心
テ居ルノデス、唯國民多數ノ者ガ憂ヘ
テ居ル所ノモノハ何デアルカト云フト、
甚ダ斯ウ云フ席デ總理大臣ニ失禮デハ
アリマスガ、如何ニモ此ノ內閣ガ弱イ
ト云フコトナンデス、此ノ內閣ガ强ク
ナイ、斯ウ云フヤウテ超非常時局下ニ
追ヒ詰メラレタ日本ノ戸家ヲ背負ツテ
居ル內閣トシテ、我々ガ强味ヲ感ジ得ル
ヤウナ內閣デアルカ否ヤト云フコトガ、
是ガ國民ノ一番心配シテ居ル、一番重大
ナル関心事デアルノデアリマス、此ノ內閣
ノ成立ノ其ノ初メニ遡ツテ彼此云零ス
ルコトハ誠ニ畏レ多イコトデハアリマス
ケレドモ、併シナガラ此ノ內閣ハ一本デ
出來タンヂヤナイ、今私ガ翼政會ニ對
シテ批判シタヤウナ言葉ヲ內閣ノ上ニ
持チ來スコトハ許サレナイ、併シナガ
ラ、サウ云フコトハ彼此批判スル限リ
デナイガ、恐ラク小磯總理大臣ハ肚
ノ中デハ誠ニ困ツタ、右セムト欲スレ
バ左カラ引張ル、左セムト欲スレバ右
カラ引張ル、二階ヘ上ラウト思ヘバ足
ヲ引張ルト云フヤウナ、サウ云フ露骨
ナ感ジハナクテモ、絕エズサウ云フ氣
持ニ支配サレツヽ國家ノ政治ヲ憂ヘテ
居ラレルノヂヤナイカト云フコトソレ
自身ガ、我々ガ想像ズルコトガ矢張リ
此ノ內閣ノ一ツノ弱イ所以デアルノデ
アリマス、私ハ小磯內閣總理大臣ノ其
ノ方ノ力ヲ云々スルノデハアリマセヌ
ケレドモ、併シナガラ今日ノ情勢、又
組閣以來ノ成リ行キヲ見マスト云フト、
其ノ結果ニ於テ私ノ申上ゲルヤウナコ
トガ示サレテ居ルカラ已ムヲ得ナイノ
デアリマス、ソコデ私共ハ、此ノ國民
ノ憂ヲ憂トシタモノガ、二十數名ノ此
ノ若イ事務官級ノ聲トナツテ、サウシ
テ玆ニ進言ヲサレタモノデアルト斯ウ
思フノデアリマス、私ハ其ノ文書ヲ此
處ヘ持ツテ參リマセヌ、ダカラ讀ミ上
ゲルコトモ出來マセヌシ、又讀ミ上ゲ
ルヤウナ時間モゴザイマセヌト私ハ思
フノデアリマスガ、併シナガラ是ハ後
日、總理大臣ガ御許シニナレバ、皆サン
方ニガリ版ニシテデモ差上ゲタイト思
ツテ居リマスカラ、能ク御讀ミ願ヒタ
イ、兎ニ角小磯總理大臣ノ下ニ、モツ
ト强イ內閣ヲ作ツテ貰ヒタイ、モツト
强力ナ組織ヲ以テ國政ヲ運用シテ貰ヒ
タイ、而シテ從來使ツテ居ツタヤウナ
サウ云フヤウナ人デナシニ、モツト新
シイ未知數ノ人ヲ採円ヲシテ、サウシ
テ斷乎タル處置ニ出テ國政ヲ料理シテ
貫ヒタイ、モウ今迄ノヤウナ使ヒ古シ
タ人間デ、而モ新シ味ノナイヤウナ人
間ハ此ノ際使フコトハ止メテ、サウ
シテ新人物ヲ登用シテ貰ヒタイ、其ノ
言葉ノ中ニハ書イテハゴザイマセヌ
ガ併シナガラ意味ハ、令、日獨兩國
ガ同盟ヲシテ殆ド世界ヲ相手ニシテ戰
ツテ居ルノハ世界ノ新體制ヲ作ラウ
ト云フノデアル、世界ノ新秩序ヲ建テ
直サウトシテ居ルノニ、日本ノ國ノ中
ハ何ダ、一ツモ新體制ニハナツテ居ナ
イヂヤナイカ、舊體制其ノ儘ノ此ノ國
家ノ構ヘ方ヲシテ置イテ、世界ニ向ツ
テ、大東亞ニ向ツテ、サウシテ新體制
ヲ叫ンデモ、誰モ雖イテ來ル者ハアリ
ヤシナイヂヤナイカト云フヤウナ心持
ガ、脈々トシテ其文書ノ中ニ現レテ居
ルクデアリマス、私ハ尤モダト思フ、
其ノ一言一句、總テニ贊同セザルヲ得
ナイヤウナ心持ガ致シマシタノデアリ
やっと、餘計ナ事デハアリマスガ、此ノ
貴族院ノ同僚諸君ニ對シテモ、私ハ
種ノ改革案ヲ提出シタカツタノデアリ
マズ貴族院ナドハ皆サン自分自身
ニモ分ツテ居ルヤウニ、舊熊依然タル
モノデアルノデアリマス色々ト〓究
會ヲ拵ヘタリ或ハ調査會ヲ拵ヘテ、政
府ノ忙シイ役人ヲ引張ツテ來テ色々ノ
說明ハ聽イテイラツシヤルガ、明けてみ
結果ガドウナツタンダカト云フコトハ
私共ハ餘リ寡聞ニシテ聞カナイ、說明
ノ聽キツ放シ、〓究ノシツ放シト云フ
ヤウナ點ガアリハシナイカト思フノデ
アリマスガ、私ハ同僚諸君ニ對シテ、
今彼此レ此ノ質問演說ニ於テ申スコト
ハ致シマセヌガ併シナガラ私ハ、大
キナ改革案ヲ持ツテ居ルノデアリマス
ケレドモ、今ハモウサウ云フヤウナ改
革案ヲ云爲シテ居ル以上ニ世ノ中ガ切
迫ヲシ急迫シテ居ルト思ヒマスカラ、
私ハ案ヲ自分ノ机ノ中ニ引込メテ、唯
默々トシテ居ルノデアリマス、私ハソ
レデ此處カラ質問ニナルノデアリマス
ガ、小磯內閣總理大臣閣下ハ、アノ建白
書ヲ御覽ニナリマシテ如何ナル御考デ
アリマスカ、アノ建白書ニ書イテアル
コトハ尤モナコトダ、アヽ云フ風ニヤ
ラナケレバナラナイト御考ニナルノデ
アリマスカ、或ハ又アヽ云フコトハ若
氣ノ至リデアル、アンナ事ハ取上ゲル
ベキ筋合ノモノデナイ、斯ウ云フ風ニ
御考ニナツテ居ルノデアリマスカ、又
アノ建白書ノ中ニ書イテアル事ソレ自
身ハ、成ル程尤モナコトデアル、此ノ
時代ニ於テアレ位ノコトヲヤツテ退ケ
ナケレバ、ナカ〓〓國家ノ此ノ切迫シ
タ運命ヲ打開スルコトハ出來ナイ、ト
御考ニナツテ居ルノデアリマスカ、私
ハ彼此ト理由ヲ承ルコトハ致シマセ
ヌ、唯アノ建白書ニ書イテアルコトニ
對スル殆ド然リ、否、ト云フ位ニ近イ言
葉ヲ以テ簡單ニ併シ率直ニ答ヘテ戴キ
タイ、斯ウ云フ席デアリマスカラシテ
御說明ノ出來ナイコトハアリマセウ
ガ、併シナガラ或程度迄バブチマケタ
御話ヲシテ戴イテ、我々同僚ハ倶ニ力
ヲ協セテ、サウシテ國家ノ此ノ重大ナ
局面ニ邁進ヲシタイト思ヒマスカラ、
此ノ事ヲ實ハ伺フノデアリマス、デア
リマスカラ其ノ意味ニ於テ御答ヲ願ヒ
タイ、ソレカラモウ一ツ御伺ヒシタイ
コトハ、近來ハ重工業、殊ニ大切ナル
所ノ此ノ時局工業ノ都市集中ト云フコ
トカラ、更ニ又適當ナル所謂適地
ニ分散スルト云フコトガ、是ガ叫バ
レテ居ルノデアリマス、又ソレヲ實
行セラレナケレバナラナイノデアリマ
セウガ、ソレニ付キマシテ、今迄ハ各
地方ニ於キマシテモ、、或ハ工場誘致ト
云フヤウナコトノ意味ニ於キマシテ、
ソレ〓〓皆歡迎ヲ致シテ居ツタノデア
リマス、併シナガラ現今ノ情勢カラ致
シマスルト云フト、稍〓其ノ點ニ於テ鈍
ツタ感ガアルヤウニ感ズルノハ、最近
私ノ知ツタ重大ナ會社ノ一ツガ、地方
ヘ分散シヨウト致シマシテ、地方官憲
ノ阻止ニ遭ツタト云フコトハ申シマ
セヌガ、併シナガラ其ノ結果ニ於テハ
之ヲ阻止スルガ如キ傾向ノアルノヲ認
メマシタ、是ハ私ハ此ノ時局柄重大ナ
コトデアルト思ヒマス、動カヌデ濟ム
モノナラバ、其處テヤレバソレダヶ能
率ハ發揮サレマセウガ、多少デモ之ヲ
動カストナレバ、其ノ能率ヲ落サズシ
テ、而シテ之ヲ安全ナ地帶ニ移動シロ
ト云フムツカシイ命令ガ出テ居ツテ、
其ノムヅカシイ命令ヲ受ケテサウシテ
仕事ヲシヨウトシテ居ル者ニ對シテ、
地方ノ官憲ガ、前ノ態度トハ打ツテ變
ツタヤウナ處置ニ、或ハ態度ニ出ルト
云フヤウナコトハ、此ノ重大ナル時局下
ニ於テ是ハ大變ナ惡イ結果ヲ生ズルノ
デハナイカト思ヒマスルカラ、工場ヲ
御移シニナル時ニハ、軍需大臣ニ於テ
ハ十分ニ地方ニ對シテ急速ニ其ノ意
味ノ徹底スルヤウニサレ、而シテ更ニ
內務大臣ニ於キマシテハ、其ノ命令ガ
達セラレタナレバ、寧ロ向フノ者ハ手
ヲ空ケテ待ツテ居ツテ、サウシテ宜シ
イ直グ今日カラ仕事ニ掛ツテ貰ヒタ
イ、ト云フヤウナコトガ出來ルヤウ
ニシナイト云フトコチラノ係ノ者ガ
行ツテ一週間モ十日モ色々ト說明ヲシ
タリ、協議ヲシナケレバ仕事ニ掛レ
ナイヤウナコトヲシテ居ツタナラバ、
其ノ結果ハ果シテドウナルンデアルカ
ト云フコトヲ、我々ハ憂ヘザルヲ得ナ
イノデアリマスカラ、此ノ點ニ付テ一
體ドウ云フ處置ヲ執ツテ居ラレルノデ
アリマスカ、地方へ移動スルノニ付テ
ノ處置ヲ簡單ニ說明ヲシテ戴キタイ、
內務大臣ハ此ノ席ニ居ラレナイヤウデ
アリマスガ、是ハ書記官長カラ内務大
臣ニ御傳ヘニナツテ、此ノ點ノ御話ヲ
願ヒタイト思ヒマス、是ダケノコトヲ
申上ゲテ御答ヲ求メマス
〔國務大臣小磯國昭君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=18
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019・小磯國昭
○國務大臣(小磯國昭君) 宮田議員ノ
御質問ニ御答ヘ致シマス、外務省カ大
東亞省カ存ジマセヌガ、私ニ意見書カ
陳情書ヲ提出シタト云フコトハ聞イテ
居リマス、ケレドモ其ノ書類ハ私ノ手
許ニ到達シテ居リマセヌ、從ツテ私ハ
內容ヲ承知致シマセヌ、ケレドモ報告
ヲ受ケタ所ニ依リマスト、宮田議員御
說明ノ如ク、內容ハ純眞ナル謂ハバ忠
誠心カラ發露致シタモノデアリマシテ、
何等不穩ノ點ハナイモノデアルト云フ
コトデアリマス、元々此ノ前ノ臨時議
會ノ際ニモ申上ゲマシタ如ク、公正ナ
ル輿論ニハ欣ンデ耳ヲ傾ケルト言ウテ
居ルノデアリマスカラ、左樣ナ事情カ
ラ發露シタ書キ物ト云フヤウナモノデ
アルナラバサウシテ私ノ手許ニ到達
シタモノナラバ、欣ンデ之ヲ受ケ容レ
ル雅量ヲ有シテ居リマス、唯報告ニ依
ツテ私ノ承知致シマシタ所デハ其ノ
手續ガ宜クナカツタト云フノデ、主務
大臣カラ一同ガ戒飭ヲ受ケタト聞イテ
居リマス、戒節ヲ受ケタニモ拘ラズ、其
ノ後ニ於ケル言動宜シカラザリシモノ
ガアルカラ處分セラレタト云フ報告ニ
接シテ居リマス、以上ガ私ノ承知シテ
居ル全部デアリマス、宮田議員ノ之ニ
關聯シテ種々述ベラレタル所ノ御意見
ニ付キマシテハ別ニ私ヨリ御答ヲ申
上グベキ限リデナイト存ジマスカラ、承
リ置ク程度ニ致シテ置キタイト思ヒマ
ス、第二ノ御質問ニ對シマシテハ主務
大臣カラ御答ヲスルコトニ致シタイト
思ヒマス
〔國務大臣𠮷田茂君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=19
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020・吉田茂
○國務大臣(音田茂君) 戰局フ必要カ
ラ參リマシタ重要工場ノ地方ヘノ分散
疎開ト云フコトニ付キマシテ、以前ノ
ヤウニ地方側デ工場ヲ誘致スルト云フ
ヤウナ氣分デナク、寧ロ之ヲ迷惑ト
シ、阻止スルヤウナコトカラ、此ノ大
切ナ仕事ノ圓滑ナ執行ニ障碍ヲ來スヤ
ウナコトガアルノデハナイカ、ト云フ御
質疑ニ對シマシテ御答ヲ申上ゲマス、
工場疎開ノ計畫ニ付キマシテハ其ノ
詳細ハ此處デ申上ゲルコトヲ差控ヘマ
スルガ、今日ノ緊迫シタ時局下ニ於キ
マシテ、能ク安全ニ、サウシテ能率良
ク軍需生產ノ實ヲ擧ゲマスル爲ニ、關
係各省トモ緊密ナ連絡ヲ保チマシテ、
一定ノ計畫ノ下ニ、其ノ仕事ヲ執リ進メ
テ居ルノデアリマシテ、之ヲ執行スル
上ニ於キマシテハ、固ヨリ地方官憲
ノ十分ナル協力ニ依ツテ之ヲ圓滑ニ遂
行スルコトガ出來ル次第デゴザイマス、
此ノ事ニ付キマシテハ、地方廳ニモ能
ク能ク其ノ旨ヲ申シ傳ヘ、連絡ヲ緊密
ニシテ其ノ實施ニ當ルコトニナツテ居
リマスノデ、萬々御心配ニナリマスル
ガ如キ支障ハアルマイトハ存ジマスル
ガ或ハ連絡ノ十分ナラザルガ爲ニ、
左樣ナ事態ヲ釀スコトガアツテハ相成
ラナイノデアリマズカラ、御注意ノ點
十分ニ留意致シマシテ、萬々左樣ナ滯
リノナイヤウニ努メタイト存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=20
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021・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 是ニテ質疑
ハ終了致シマシタ、休憩ヲ致シマス、
午後ハ一時三十分ヨリ開會致シマス
午後零時三十一分休憩
午後一時三十六分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=21
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022・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 休憩前ニ引
續イテ午後ノ會議ヲ開キマス、是ヨリ
討論ニ移リマス、下村安君
〔下村宏君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=22
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023・下村宏
○下村宏君 私ハ昭和二十年度ノ豫算
案ニ贊成ノ意見ヲ述べル者デアリマス、
旣ニ入條委員長ヨリ詳細御報告ガア
リマシタカラ、此ノ上私ガ言葉ヲ添へ
ル要ハナイノデアリマスガ、二十年度
ハ一般會計又臨時軍事費、是等通計
シテ實ニ千億ヲ超エルノデアリマス
日露戰後ノ當時ハ、直接ノ戰費ガ十五
億圓、一箇月一億圓ニ滿タナカツタノ
デアリマス、而モ其ノ大部ハ外債ニ仰
イダノデアリマス、今日迄戰費ハ旣ニ
二千億ヲ超エテ居リマスルガ、金ノ相
場物ノ相場ガ變ツタトハ申セ、而モ
其ノ總テガ我々國民ニ依ツテ賄ハレテ來
タト云フコトハ今更我ガ國力ノ異常
ナル增進ニ對シテ驚クト共ニ、此ノ千
億ヲ超エルト云フ數字ハ、如何ニ大東
亞戰ノ苛烈ナルカヲ物語ルモノデアリ
やっと、私ハ昨年此ノ壇上デ十九年度ノ
豫算案ニ贊成演說ヲ致シマシタ時ニ、
豫算ノ各項目ニ亙ツテ仔細ニ檢討スル
時ニハソコニ幾多論議ノ餘地ハアル、
併シナガラ無修正デ貴衆兩院ヲ通過ス
ルト云フノハ實ニ忠勇義烈ナル皇軍
ニ全幅ノ信賴ヲ捧ゲ、同時ニ政府ハ縱
橫ニ其ノ經綸ヲ遂行サレタイ、サウ云
フ國民ノ氣持ノ反映デアルト云フコト
ヲ申シタノデアリマス、今囘モ私ハ同
ジ言葉ヲ繰返リシマスガ、唯此處ヘ立
ツタ私ノ心境ニハ相當開キガアルノデ
アリマス、申ス迄モナク此ノ一年ノ間ニ
「マリアナ」群島ハ敵ノ手ニ委ネラレ、
本土ノ重要都市ハ所在空襲ヲ受ケテ居
リマス、又總理ノ天王山ト言ハレル比
島ノ戰ヒハ、敵ハ「ルソン」島ニ上陸シ
テ、今ヤ敵兵ハ「マニラ」ノ街ニ闖入シテ
居ルノデアリマス、從ツテ私ハ此ノ席
カラ單リ政府ト限ラズ、帝國議會ニ、
又一般大衆ニ對シテ聊カ所見ヲ申シタ
イノデアリマス、上叡慮ヲ安ンジ奉リ、
又前線ノ將士ノ健闘ニ應フル爲、如何
ニ軍営局、又政府ニ於カレテハ夙夜苦
心ヲ重ネラレテ居ルカハ、私共想像ノ
外ニアリト信ジマス、併シナガラ何ト
言ツテモ戰局ハ不利デアリマス、從ツ
テ新聞ト言ハズ又一般公衆ノ聲ハ、是
デハ一體ドウナルノカ、ドウモ議會ノ
樣子ヲ見テモ、政府モ、議會モ、何レ
モドウモ一ツ活氣ガ足ラヌ熱ガ足リ
又、モウ一ツ斷乎トシテシツカリヤツ
テ欲シイ、ト云フ聲ヲ私共到ル處耳ニ
スルノデアリマス、サウシタ聲ノ一端
ハ衆議院ニ於テ必勝國内體制確立特
別委員會ト云フ委員會ニ依ツテ又現レ
テ來タノデアリマス、此ノ委員會ノ經
過ハ、諸君ノ大部ハ矢張リ會員デアリ
マスカラ、新聞其ノ他ニ依ツテモ大體
ノ消息ハ御承知ト思ヒマスルガ、之二
對シテハ議會ト言ハズ又議會外ニ於
テモ色々ナ批判ガアリマス、翌贊政治
會ハ貴族院ト衆議院ト、ソレカラ少
數ノ各會ガ集ツテ、國民ノ足ハ取ラレ
テ居ツテ、浮イテ居ルノダ、支部ヲ作
リタイノダ、或ハ大政翼贊會、翼贊壯
年團ト重複シテ居ル、摩擦ヲシテ居ル、
是等ヲ解消シテ一ツニナリタイノダ、
元々政友ト言ハズ民政ト言ハズ、幾多
ノ政黨ノ會派ガ此處デ寄木細工デ寄ツ
タノデアルカラ、力ガ弱イ、モウ斯ウ
云フ時局ニ對シテハ、所謂同志相集ツ
テ强イ熱ノアル力デ活動シナケレバナ
ラヌノダ、他ノ結社モ許シテ宜イノヂ
ヤナイカ、イヤ許シチヤイカヌノダ、
ト色々ト所謂沙上ノ偶語ヲ耳ニスルノ
デアリマス、私ハ矢張リ翼贊政治會ノ會
員ノ一員トシテ、此ノ委員會ニモ列席
シマシタ、又其ノ後翼贊政治會ノ總務
會ニモ參リマシテ、又私ノ私見モ申シ
タノデアリマス、勿論多數ノ衆議院議
員ノ諸君ノ中ニハソレ〓〓ノ考ガアリマ
セウ、併シナガラ翼贊政治會ト言ハズ、
大政翼贊會ト言ハズ、翼贊壯年國ト言
から、現狀ノ儘デ果シテ是ガ宜イカト
言ヘバ誰モ滿足ハ表シテ居ラナイノ
デアリマス、此ノ現狀ヲ打破シテ、生
氣潑剌トシテ此ノ時局ニ、ヨリ熱ノア
ル活動ヲ展開シナケレバナラナイト云
フ點ニ於テハ、私ハ共通シテ居ルト思
フノデアリマス、一部ノ友人ハ、我々
ハ新タニ支部ヲ欲シイトサウ云フ考ハ
持ツテ居ラヌ、他方ニ大政翼贊會ノ
支部アリ、翼贊壯年團ノ支部アリ、
更ニ又翼贊政治會ノ支部ガ出來
マシテ、徒ニ鼎立摩擦ヲ重ネテドウス
ルンダ、今日ノ時代ハサウ云フ時デハ
ナイ、我々ハ眞ニ革新ノ意氣ヲ以テ此
ノ苛烈ナル時局ニ當ラムトスルノデア
ル、斯樣ニ申シテ居リマス、又一員ハ、
今日ハ國內デ翼贊會トカ翼贊政治會ト
カ輩贊、壯年團トカ云ツテ彼此文句ヲ言
ツテ居ル時代ヂヤナイノダ、我々ハ大
東亞ト云フモノニ眼ヲ放ツテ、臺灣朝
鮮ハ固ヨリ、滿洲支那ニ迄、更ニ南方
ニ·シ〓、同志拈奇リ玆ニ活潑ナル大東
亞ノ思想運動ヲヤラナケレバナラヌノ
デアル法シテ〓々タル利害、行掛リ
ニ囚ハレルモノデハナイ、斯樣ニ切言
シテ居リマス、是等翼贊政治曾ガドウ
云フヤウニナリマスカ、其ノ後ヲ見ル
外ハアリマセヌガ、私ハ必ズヤ此ノ時
局ニ對應スル爲ニ、私心ヲ去リ、反〓,
新シキ陣容ニ依ツテ、所謂其ノ聲明ニ
背カナイヤウニ必ズヤ善處ヲセラルヽ
コトト信ジマス、又我々モ會員ノ一員
トシテ、之ニ出來ルダケ力ヲ致サナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、併シ
問題ハ私ハ是ハ一衆議院ノ問題ダケデ
ナイト思ツテ居リマス、今日ノヤウナ
苛烈ナ時局ニナルト、私ハ貴族院自體
モ大イニ考慮シナケレバナラヌト思フ
ノデアリマス、貴族院ノ機構ナリ運營
ヲ、是カラドウスベキカト云フコトハ
是ハ古イ問題デアリマス、嘗テ二·二六
事件ノ直後デアリマシタカ、貴族院自
體ガ是等ニ對スル決議ヲサレタヤウニ
承知シテ居リマス、近衞內閣ノ時代ニ、
貴族院衆議院ノ機構改正ニ付テ調査ノ
委員會ガ出來マシタ、私モ其ノ委員ノ
末席ニ列シタノデアリマスガ、ソコニ
幾多ノ改良ノ。意見ガ提案サレタノデア
リマス、又論議サレタノデアリマス、
唯何レモ未解決ノ儘今日ニ及ンデ居ル
ノデアリマス、今日ノヤウナ時局ニナ
ルト、更ニ一層革新ノ要アリト考ヘテ、
貴族院モ衆議院モ政府モ國民モ、斯ウ
シタ時局ニ對面シテ〓態依然タルコト
ハ許サレナイノデアリマス、私ハ大東
亞ノ共榮圈ノ指導者トシテ、更ニ大所
高所ニ立ツテ、悠久タル大日本帝國ノ
將來ヲ考ヘテ、斯カル機會ニ幾多ノ國
策ハ斷行サレナケレバナラヌト信ジテ
居リマス、此ノ大東亞戰ニ、米英ニ對
シテ、日本ノ利トシ特色トスル點ハ、
申ス迄モナク人デアリマス、日本人ノ
質日本人ノ精神、更ニ日本人ノ數、
其ノ人口、是ハ米英ニ比シテ斷ジテ優
ツテ居ルノデアリマス、唯其ノ優ツテ居
ル質、精神ヲ如何ニ發揮スベキヤ、又
如何ニ數ガ多イトハ謂ヘ、ソレ等ノ人
人ノ能率ヲ十分ニ發揮シ得ベキヤ否ヤ
ト云フコトニ、總テノ重點ガ繋ツテ居
ルノデアリマス、此ノ時局ノ生產增强、
或ハ勞務ノ統制、或ハ此ノ闇取引ニ關
シ物價ノ問題、幾多ノ點ニ付テモ申ス
ベキ點ハ多々アリマスルガ、是等ハ衆
議院ニ付テモ貴族院ニ付テモ、旣ニ屢〓く
政府トノ間ニ質疑應答ガ重ネラレテア
リマス、私モ豫算總會デ言及シテアリ
マスノデ、是ハ總テ省略シマスルガ
唯私ハ、今ノ人ノ質、精神ト云フ問題
ニ付テ聊カ申上ゲタイノデアリマス、
是モ貴衆兩院デ旣ニ論ジラレテ居リマ
スルガ、一面必賞必罰、此ノ必罰ト云
フコトガ私ハ徹底シテ居ラヌト思フノ
デアリマス、「ドイツ」デモ、中華民國
デモ、闇相場ヲヤツタトカ時局ノ軍需
生產ニ阻碍ヲシタ者ニハ其ノ惡質
ナル者ハ極刑ニ處シテ居リマス、私
ソレヲ何モ眞似ヲセヨト云フ譯デハア
リマセヌガ、我ガ國ニアツテモ、唯闇
取引ヲシタ、或ハ軍需生產ノ上ニ惡質
ノ犯罪ヲシタト云フヤウナ者ハ相當ア
リマス、私ハ矢張リ法ノ範圍ニ於テ少
シハ極刑ニ處スルト云フコトガ一般ノ
民心ヲ緊張セシメル所以デアリ、又國
民ノ節義、廉恥心ヲ保持スル途デアラ
ウト思フノデアリマス、同時ニ私共昨
今常ニ耳ニシ、又自ラ考ヘラレルコト
ハ、人才出デヨト云フコトデアリマス、
言葉ヲ換ヘルト、日露戰役或ハ日〓戰
役、或ハ明治維新ニ遡ツテ、今日ト較ベ
テ、人口ハ增シテ居リ、〓育ハ普及シ、
而モ今日ハ人材ナシト云フ聲ヲ屢〓、
耳ニスルノデアリマス、一體人ガ時代
ヲ造ルノカ時代ガ人ヲ造ルノカ能ク存
ジマセヌガ、是ハ非常ニムヅカシイ問
題デアリマセウ、併シ私共歷史ヲ遡ル
ト、或時局ニ直面スルト其處カラ人材ガ
出テ來ルノデアリマス、源平相戰フ時、
或ハ吉野朝ノ時、或ハ元龜、天正ノ時、
或ハ幕末、サウ云フ或時代ニ來ルト到
ル處カラ人材ガ輩出スルノデアリマス、
ソレヲ思ヘバ、今日ノヤウナ大東亞戰、
H本帝國ノ興亡ノ懸ル此ノ際ニ、人才
ハ無シ、出ナイトハ言ハサナイノデアリ
やっ、近ク幕末ヲ顯ミテモ、黑船ガ來
テ日本ノ四邊ヲ脅カスノデ、到ル處ニ
憂國ノ士ガ群ガリ起ツテ來タ、當時ノ朝
ニ於テハ或ハ三條、岩倉ノ諸公モ出マシ
タ大名ニハ薩長土肥、或ハ宇和島ノ
伊達、福井ノ松平、其ノ他ソレ〓〓英
主モ出マシタ、併シアノ維新ノ大業ハ
御承知ノ通リ極メテ皆〓賤微祿ノ人
達、ソレモ殆ド二十代、三十代ノ人デ
仕上ゲラレタノデアリマス、ソレモモ
ウ一ツ極言スレバ、殆ド長州萩ノ松下
村塾デ、高杉、久坂、伊藤、品川、野村、入
江、サウ云フ人々ガ出マシタ、薩摩ノ鹿
兒島ノアノ小サイ加治屋町カラ大久保
或ハ兩西〓、大山、黑木、吉井、柴山、東
〓山本、サウ云フ人達ガアノ加治屋
町ノ一角カラ出テ來タノデアリマス
今日ハモウ〓育ガ普及シ、サウ云フ狹
イ或一部ニ限ラレズニ、全國カラ人才
ガ出テ來ベキデアリ、又今日迄ノ支那
事變、大東亞戰ヲ見マシテモ、悠久ノ
大義ニ生キテ居ル英靈ハ全國ニ擴ツテ
居ルノデアリマス、唯其ノ中カラ此ノ
時局ヲ救フ若イ人ガ出ナケレバナラ
又、人才ガ出ナケレバナラヌ、何故一
體出ナイノカ、或人ハ畫一〓育ヲヤル
ノダ、大量生產ヲスルノダ、ダカラ數
ハ多クナツテ居ルノダ、平均シタ水準
ハ高マツテ居ルノダ、併シ眞ニ一國ノ
社稷ヲ背負ツテ起ツ人才ト云フモノ
ハ、ソレデハ出ナイノダト云フ說ヲ爲ス
者モアリマス、又一方デハ人才ハアル
ノダ、出タイノダケレドモ、何ト言ツ
テモ近頃ハ事々物々法律規則デアリマ
ス、先例デアリマズ、更ニ其ノ出身ノ
學校ガドウダ、何年ニ卒業シタノダ、
イヤアレハ士官學校ノ何期生ダ、江田
島ノ何期生ダ、總テガサウシタ經歷ニ
縛ラレ、更ニ經過年月ニ依ツテ縛ラレ
テ行ク、斯クノ如クニシテ人材出デムト
スルモ出デナイ、出デルダケノ素質ガ
アツテモソレガ發揚サレナイノダ、斯
樣ニ言フ論者モアリマス、最近文部
省デ英才〓育ト云ブコトヲ始メルヤウ
デアリマスガ、併シ是ハ矢張リ頭ノ良
イ人ヲ什上ゲテ行クト云フ〓育ガドウ
シテモ主ニナリマセウ、大體私共ノ若
イ時分カラ仰イデ居ツタ、又多少型外
レト言ヒマスカ、熱ヲ以テ立ツ、意氣
ヲ以テ立ツ、所謂風格ヲ以テ率ユルト
云フヤウナ人ハ、私ハ段々少クナツテ
來タト云フノデアリマス、併シ之ヲド
ウシタナラバ此ノ際ニ人才ヲ出シ得ル
カ、ドウシテモ出ナイノカト言ヘバ
私ハ出シ得ルト思フノデアリマス、外
交ノ畑ニシテモ、特ニ此ノ對支外交ハ
此ノ戰ノ起ツタ所以デアリ、戰ガ終ツ
テモ、漢民族ト大和民族ノ間ニ眞ノ握
手ガナケレバ東洋ノ平和ハナイノデア
リマス、今日唯机ノ上デ、斯ウ云フ利
害ガアル、斯ウ云フ計數ガ出テ來ル、
斯ウ云フ理窟ガアルト云フコトデ唯論
議シテモ、私ハ果テナイト思フノデア
リマス、若シ率直ニ言ヘバ幕末ノ西
〓隆盛、勝安房、山岡鐵太郞、斯ウ云
フ人達ハ所謂外交官試驗ニ及第シタノ
デハナイノデアリマス、今日ハ有ラユ
ル方面ニ於テ私ハモウ一ツ熱ト意氣ガ
ナケレバナラヌト思フノデアリマス、
ソレハ我々ノ胸ナリ心ニ皆アルノデア
リマス、唯ソレガ發揮出來ナイ狀態ニ
アル、殊ニ若イ人達ハ現ニ新タニ學
徒ガ若鷲ニナツテモ、皆ソレ〓〓特攻
隊ニナリ、悠久ノ大義ニ生キテ居ルノ
デアリマス、戰線ニハ到ル處我々眞ニ
情熱ノ結晶シタ新人ヲ見テ居ルノデア
リマス、私ハドウシテモ斯ウシタ大東
亞戰ニナツタノダカラ、斯カル機會ニ
一般ノ民心ヲ作興スベク、又斯カル機
會ニ政府ハ、必ズヤ來ルベキ問題デアリ
而モソレハ不斷ノ時ニハ解決極メテ難
イモノモ、斯カル時ニ斷乎トシテ決行
シ、以テ悠久ナル日本ノ後ヘ續イテ來
ル人ニ其ノ道ヲ拓クベキデアリマス、
斯樣ニ信ジマス、デ其處ニ幾多ノ國策
ガアラウト思ヒマスルガ、私ハ豫算
總會デ、朝鮮臺灣ノ政治處遇ノ問題
トソレカラ地方ノ行政權構ノ擴大ノ
問題ヲ質疑シタノデアリマス、總理大
臣ニ於テハ、其ノ趣旨ニハ贊成サレタ、
〓究シ又卽決ヲ望ムト云フ御返事デア
リマシタ、是等ハ速記ニ出テ居リマス
ルカラ、私玆デ重複ヲ遊ケマスルガ、
唯極メデ簡單ニ其ノ一ツ書キダケハ申
シテ置キタイノデアリマス、臺灣朝鮮
ノ徵兵ノ問題、或ハ參政權ヲ與ヘルト
云フ問題ハ是ハ時ノ問題デアツテ、
臺灣ガ領臺サレ、朝鮮ガ合併サレタ時
カラノ大御心ニ、又詔勅ニ依ツテ明ラ
カデアリマシテ、我々ハ內地ト全然同
ジヤウニナル時ノ一日モ早カラムコト
ヲ祈ツテ居ル、問題ハ其ノ時機デアツ
タノデアリマス、今日ハ大東亞戰ニ依
ツテ、徵兵ノ制モ實現サレルノミナラ
ズ、ソレ〓〓出征ヲシテ或ハ靖國、薰、
勤皇、其ノ他ノ特攻隊ノ中ニ入リ、或
ハ個人デ感狀ヲ受ケ、ソレ〓〓皆內地
人ニ劣ラヌ功績ヲ擧ゲテ居リマス、臺
灣ナリ朝鮮ニ於ケル人的物的ノ資源
ガ、如何ニ此ノ大東亞戰ニ寄與シテ居
ルカト云フコトモ、是モ言明ヲ俟チマ
セヌ、又半島ノ約二百萬ノ人々ガ今內
地ニ居リマス、其ノ約三分ノ二ハ正ニ
戰時ノ生產增强ニ活動ヲ續ケテ居ルノ
デアリマス、私ハ大正ノ始メニ臺灣ニ
在職シテ居リマシタ、丁度「イギリス」
デ「アイルランド」問題ノ起ツタ時デア
リマシテ、私ハ、自分ガ恐ラクハ死ン
ダ後ニ此ノ問題ガ帝國議會ニ論議サレ
ルノデハナカラウカ、サウシテ論議サ
レル時ハ、「イギリス」ノ如クニ相當行
惱ンデ、永イ間黐ニ著クノデハナカラ
ウカト云フコトヲ懸念シテ居ツタノデ
アリマス、「イギリス」デハ御承知ノ
通リ「アイルランド」問題ヲ中心ニシテ
自由黨ト保守黨ハ永ク相鬪ツタノデア
リマス、數次ノ「グラッドストン」內閣、
最後ニ「アスキス」ノ內閣デ漸ク解決
ノ端〓ヲ見マシタガ、此ノ前ノ、御承
知ノ歐洲大戰ノ第一次戰デ、戰局益〓急
ヲ告ゲ、遂ニ「イギリス」ハ「アイルラ
ンド」ニ徵兵ヲ布カウ、徵兵ヲ布カウ
ト云フ聲ガ掛カルト、ソレガ切掛ケデ
「アイルランド」ガ反抗シテ獨立シタノ
デアリマス、正ニ我ガ朝鮮半島、臺灣
ノ場合ト全然道デアリマス、今ヤ政府
ハ其ノ調査會ヲ作ツテ之ノ解決ニ急イ
デ居リマスガ、私ハ此ノ大キナ問題ガ
斯クノ如クニシテ滑カニ卽決サレテ行
クト云フコトハ正ニ大東亞戰ノ賜、
否大御稜威ノ廣大無邊ナル賜ト信ズル
者デアリマス、又此ノ內地ノ機構デア
リマスルガ、世界何處ノ國ヲ探シテ
モ、日本ノヤウニ、此ノ狹イ島ノ中ニ
大小取混ゼテ餘リニモ細カイ府縣制ヲ
布イテ一々之ヲ絲デ引張ツテ居ル國ハ
ナイノデアリマス、交通ガ段々頻繁ニ
ナリ、世界ハ皆狹クナツテ來ル時ニ、
銀行ト言ハズ會社ト言ハズ、市町村ト
言ハズ、總テガ皆合同サレテ來ル際ニ、
府縣ノ區劃ダケハ舊ニ依ツテ動カナイ、
偶く又此ノ大東亞戰ガ起ツテ見ルト、
是デハイカヌ、府縣割據デハ宜クナイ、
生產ニ配給ニ有ラユル〓相ニ於テ宜クナ
イカラ、此處ニ協議會ト云フ先ヅ制ヲ
布イテ、「ブロック」ガ出來テ來タノデア
リマス、其ノ後或ハ鳥取ノ地震、或ハ九
州中國ノ風水害、サウ云フ時ニモ、
此ノ協議會制ニナツテアル爲ニ相當效
果ヲ擧ゲタノデアリマス、私共ガマダ
日露戰役ノ直後ニ、滋賀ト京都ト大阪
ニ跨ツテ居ル爲ニ、宇治川水力ノ成立
ニドレダケ時ヲ要シタカ、コダワツタ
カト云フコトト、近ク河原田長官ノ下
デ、此ノ水力問題ト言ハズ、琵琶湖ノ
水位ヲ低メテ新地ヲ造ル有ラユル問題
ガ、ドン〓〓解決サレタノヲ見テ、今
更ニ何故此ノ割據サレテ居ル府縣ガ早
ク法的ニモ合同サレヌカト云フコトヲ
思ハザルヲ得ナイノデアリマス、私ハ、
大日本帝國ガ一段高クナツテ大東亞ヲ
指導シテ行クノダ、其ノ時ニ、一九九
ハ臺灣アリ朝鮮アリ樺太アリ、サウシ
テ內地ニハ一道三府四十三縣ガアル
其ノ縣ノ狹イモノニ至ツテハ東北
ノ縣ノ一ツノ郡ノ中ニ入ルノデアリマ
ス、北海道ノ五十分ノ一ニモ足リナイ
ノデアリマス、サウ云フ區々マチノ
ノ大小取混ゼタモノヲ本土トシテ、內
地トシテ、一面デ臺灣朝鮮又樺太ヲ統
治シテ行ク、コヽニ尺度ガ皆狂ツテ來
ルノデアリマス、今囘ノ外地處遇ノ問
題ニモ、或一部ニハ、朝鮮モ臺灣モ內地ト
同ジヤウナ制度ニナツテ處遇サルベ
シト云フ論者モアリマシタ、ケレドモ
是ハ誰ガ考ヘテモ、內地ト同ジヤウニ
ナツテ、臺灣モ朝鮮モ亦內地ノ府縣ノ
ヤウナ小サイモノニ仕切ラレ、ソレヲ
一々又東京カラ絲デ引ツ張ルト云フヤ
ウナコトハ、想像モ出來ナイノデアリ
やっ、內地ハ內地デソレ〓〓大キナ
「ブロック」ニナリ、ソレガ臺灣ヤ朝鮮
ト皆竝ンデ、玆ニ等シク同ジ尺度デ竝
ンデ行ク、同時ニ私ノ一番重點ヲ置ク
ノハ日本人ノ氣宇ヲ大ニスル、其ノ
襟度ヲ大キクスル、大東亞ノ指導者ノ
大國民タルニ相應シイ氣持ニスル、此
ノ國民性ヲ陶冶スルト云フコトハ永
遠不朽ノ大日本民族ノ我々ノ後繼者ニ
殘スベキ我々ノ大キナ差務デアリマス、
私ハ嘗テ平和ノ時代ニ、又民政政友
相鬪ツテ居ル時代ニ、政友會內閣ガ府
縣ノ合同ヲ問題トシテ、時ノ松田正久
翁ガ之ニ敢然贊成サレタト云フコトヲ
耳ニシテ居リマス、申ス迄モナク、府縣ガ
合同サレレバ小縣デアル佐賀縣ハ長崎
ナリ福岡ニ合併サレレルノデアリマス、
其ノ佐賀縣ノ出身ノ松田正久翁ガ其ノ
斷行ヲ主張サレタト聞イテ居リマス、
今日ハドウセ御互ノ壽命ハ先ガ知レテ
居ルノデアリマスカラ、悠久ナル國家
ノ將來ヲ考ヘテ、所謂國家百年ノ大策
ヲ、斯ウ云フ時ニ決行セネバスル時ハ
ナイノデアリマス、是等ハ曩ニ現內閣
ハ、更ニ協議會長ニ指揮權ヲ與へ、所
在軍司令官、鎭守府司令長官ト連絡協
議ノ途ヲ拓キ、更ニ最近ハ軍管區ト又協
議會ノ管內ト其ノ區劃ノ統一ヲ圖リマ
シタ、固ヨリ平和ノ時代ト言ハズ、此ノ
大東亞戰ノ完遂ノ爲ニ是等ノ問題ガ
等シク必要デアルト云フコトハ軍
ノ當局ニ於カレテモ認メテ居ルコト
ト私ハ確信致シマス、若シ下村ノ言
フコトガ誤ツテ居レバ是ハ御指摘ヲ
願ヒタイノデアリマス、更ニ私ガ此
ノ機會ニ申シテ置キタイコトハ、此
ノ議會ヲ通ジテ、國民ノ一般ノ氣持ガ
矢張リ緊張ヲ缺イテ居ルコトヲ、玆
ハツキリ申スノデアリマス、恐ラクハ
今後時局ハ益〓苛烈トナリ、我々ノ生活
モ一層緊迫シマセウ、又空襲ノ危害モ
增シテ參リマセウ、ケレドモ之ヲ「ヨー
ロッパ」ノ各國、「イギリス」「ドイ
ツ」ハ固ヨリ、殊ニ現時ノ其ノ態度ヲ
一一三ニシタ「バルカン」ノ諸國、或ハ「イ
タリー」「フランス」等ノ現狀ニ見タ
ナラバ、我々ノ生活ニハ未ダ大キナ彈
力ヲ持ツテ居リマス、我々ハアノ近イ
「ヨーロッパ」ノ各國ノ間ニ、互ニ絕エズ
空襲ヲ續ケテ居ルソレニ較ベタナラ
バ是レ亦我々ハ此ノ上ノ覺悟ヲ要ス
ルノデアリマス、此ノ大キナ戰ヒノ勝
敗ヲ決スルノハ雙方ガ血ミドロニナツ
テ最後ノ五分間迄戰ツテ、玆ニ頑張リ
拔イタ者ガ勝ツノデアリマス、從ツテ
私ハ此ノ前モ此ノ壇上ニ於テ、自分達ノ
明治初期、更ニ江戶時代ノ過去ヲ鑑ミ
テモ、又當時ノ「ヨーロツパ」ノ現狀ニ
鑑ミテモ、我々ハ不平ヤ愚癡ヲ言フ
代リニ、感謝感激デ戰ハナケレバナラ
ヌ持チ堪ヘナケレバナラヌ、頑張ラ
ナケレバナラヌト申シタノデアリマス、
恐ラクハ大東亞ノ民衆ニアツテモ、斯
ウシテ戰爭ガ續イテ行ケバ相當皆苦シ
イデアリマセウ、併シ是ハ敵モ味方モ
同ジコトデアリマス、將來東亞十億ノ
民族ガ解放サレル爲ニ、眞ニ世界ノ平
和ヲ確保スル爲ニ、今戰ツテ居ルノデ
アリマス、是ハ過般日比谷デ「フイリツ
ピン」ノ「バルガス」大使モ話サレテ居リ
マスガ、我等日本國民ノミナラズ、大東
亞ノ民衆ハ、共ニ倶ニ大和一致、更に
團結ヲ固クシテ、頑張リ拔カナケレバ
ナラナイノデアリマス、同時ニ此ノ大
衆ノ中カラ、何ト言ツテモ我々ノ後ヲ繼
グ、イヤ後デナイ、現在ニ於テモ我々ト
共ニ起ツベキ若イ人ガ、新人ガドン〓〓
ト蹶起シテ吳レナケレバナラナイノデ
アリマス、新人ノ蹶起ヲ望ムモノデアリマス、
昨年ノ議會デ、此ノ議場ニ於キマシテ、
天皇陛下ノ下サレタ詔勅ニハ、
反抗愈、熾烈ニシテ戰局日ニ危急ヲ加
フ」「卿等宜シク衆ニ先ンジテ憤激ヲ新
ニシ團結ヲ鞏クシ奮テ敵國ノ非望ヲ破
碎シ以テ皇運ヲ無窮ニ扶翼スヘシ」、斯
樣ニ仰セラレテアリマス、偖テ私自ラ
顧ミテ、一體衆ニ先ンジテ憤激ヲ新タ
ニシテ居ルノカ、團結ヲ鞏固ニシテ居
ルノカ、私ハ恥ヅカシナガラ、マダ力
足リマセヌ、至ラナイ、甚ダ申譯ナイ
ト存ジテ居リマス、其ノ私ガ自ラ揣ラ
ズ玆ニ所信ヲ披瀝スル所以ハ、餘リニ
モ時局ガ危急デアルカラデアリマス、
私ハ尊嚴ナル我ガ國ノ國體ヲ考ヘ、又
前線總特攻ノ健鬪振リヲ見マシテ、神
州不滅、必勝ノ信念ニハ微動モ來シテ
居リマセヌ、老イタリト雖モ、此ノ大
東亞戰ノ完遂ヲ見ル迄生キ拔キ、頑張
リ拔キタイト思ツテ居リマス、併シ事
實トシテ昨年ト今日ヲ比ベテモ、此ノ
議場ノ中ダケデモ少カラヌ人ガ亡クナ
ツテ居ルノデアリマス、來ルベキ議會
ニ於テ我々ガ又相見エルノカ、今日在
ツテ明日ガ測ラレヌ時デアルト云フコ
トハ是ハ不斷デモ然リデアリマス
況ヤ此ノ苛烈ナ戰局ノ下ニ於テヲヤデ
アリマス、私ハ日々自分等ノ關係シデ
居ル仕事ヲ見マシテモ、ドウシテモ手
續ヲ思切ツテ簡素化シ、人ヲ思切ツテ
減ス、ソシテ總テガ卽決主義デ、力ヲ
比島ノ戰ニ向ツテ凝集シナケレバナラ
ヌ、御互ノヤツテ居ル仕事ハ何レモ
皆此ノ大東亞戰ノ完遂ノ爲ニ努メテ
居ルコトハ事實デアリマス、併シ其ノ
間ニ自ラ輕重緩急ガアルノデアリマス、
今日ハ何トシテモ比島ノ戰ニ總力ヲ結
集スベキ秋デアリマス、現內閣ハ小磯
首相ニ依ツテ大和一致ト云フコトヲ唱
ヘラレテ居リマス、今迄ノ歷代ノ內閣
ハ、或ハ滅私奉公ト言ヒ、或ハ一億一心
ト言ヒ或ハ一億總親和ト言フ、何レ
モ其ノ心持ニ於テハ違ヒハナイト思ヒ
マンク、今日ハモウ國民ハ擧ゲテ、斷乎
トシテグン〓〓ヤツテ欲シイ、我々ハ
モウ覺悟ハ決メテ居ルノダ、ピシノ
ヤツテ吳レ、サウ云フ氣持ニ私ハ張リ
切ツテ居ルト思フノデアリマス、從ツ
テ總テ事柄ハ、先手ヲ打ツテヤルト云
フコトハ、啻ニ用兵ノ妙デアルノミナ
ラズ又政治ノ要諦デアルト信ジマス、
政府モ議會モ國民モ、擧ゲテ大御稜威
イ、忠勇義烈ナル皇軍ノ將士ノ健圖
ニ應フルニ、我々一層衆ニ先ンジテ奮
激ヲ新タニシ團結ヲ鞏クセネバナラヌ
ト思ヒマス、總理大臣始メ閣僚ノ各位
ニハドウカ一層ノ私御健在ヲ祈ルト
共ニ、ドウカ此ノ大和一致ノ範ヲ示シ、
信賞必罰、節義廉恥ノ氣風ヲ作興シ、
人材ヲ簡拔シテ其ノ所ヲ得セシメ、ソコ
ニ〓新潑刺ナル生氣ノ横溢スルヤウ、
此ノ時局下ニ於テコソ始メテ解決サレ
得ベキ、例ヘバ前ニ私ガ擧ゲマシタル
ヤウナサウシタ國策ヲ玆ニ斷行シテ、
以テ一意豫算ノ運行宜シキヲ得、大東
亞戰ノ完遂ニ萬違算ナカラムコトヲ
心カラ切望致シマシテ、私ノ豫算ニ贊
成ノ意見ヲ終ル者デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=23
-
024・徳川圀順
○議長(公爵德川閣順君) 他ニ御發言
ガナケレバ討論ハ終結致シタモノト
認メマス、是ヨリ採決ヲ致シマス、御
異議ガナケレバ、各案全部ヲ問題ニ供
シマス、各豫算案ニ贊成ノ諸君ノ起立
ヲ願ヒマス
〔總員起立〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=24
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025・徳川圀順
○議長(公爵徳川圏順君) 總員起立デ
アリマス、仍テ各豫算案ハ全會一致ヲ
以テ可決セラレマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=25
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026・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 日程第十
昭和十八年度第一豫備金支出ノ
件、日程第十二、昭和十八年度特別會計
第一豫備金支出ノ件、日程第十三、昭和
十八年度特別會計豫備費支出ノ件、日
程第十四、昭和十九年度第二豫備金支
出ノ件、日程第十五、昭和十九年度特別
會計第二豫、備金支出ノ件、日程第十六、
昭和十九年度特別會計豫備金外豫算外
支出ノ件、承諾ヲ求ムル件、衆議院送
付會議、是等ノ六件ヲ一括シテ議題
ト爲スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=26
-
027・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 御異議ナイ
ト認メマス、石渡大藏大臣
昭和十八年度第一豫備金支出ノ件
昭和十八年度特別會計第一豫備金
支出ノ件
昭和十八年度特別會計豫備費支出
ノ件
昭和十九年度第二豫備金支出ノ件
昭和十九年度特別會計第一一豫備金
支出ノ件
昭和十九年度特別會計豫備金外豫
算外支出ノ件
右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決
セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及
送付候也
昭和二十年二月七日
衆議院議長岡田忠彥
貴族院議長公爵德川〓順殿
〔各案ハ揭載ヲ略ス〕
〔國務大臣石渡莊太郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=27
-
028・石渡莊太郎
○國務大臣(石渡莊太郞君) 只今議題
トナリマシタ、昭和十八年度第一豫備
金支出ノ件外事後承諾ヲ求ムル件五件
ニ付大體ノ說明ヲ致シマス、昭和十八
年度一般會計第一豫備金ノ豫算額ハ八
千萬圓デアリマシテ、內支出致シマシ
タ金額ハ七千百九十餘萬圓デアリマス、
今其ノ重要ナル事項ヲ申述ベマスレ
バ警察費連帶支辨金、軍事扶助費、
諸拂戾金、義務〓育費國庫負擔金等デ
アリマス、次ニ昭和十八年度ニ於テ其
ノ第一豫備金ヨリ豫算超過支出ヲ致シ
マシタ特別會計ハ朝鮮總督府外二十
八ノ特別會計デアリマス、又其ノ豫備
費ヨリ豫算超過支出ヲ致シマシタモノ
ハ、臺、米米穀移出管理、食糧管理、通
信事業ノ三特別會計デアリマス、次ニ
昭和十九年度一般會計第二豫備金ノ豫
算額ハ二十億圓デアリマスガ、內昭和
十九年四月十五日ヨリ同年十二月二十
三日ニ至ル間ニ於テ支出致シマシタ金
額ハ、十七億四千五百五十餘萬圓デア
リマシテ、其ノ重要ナル事項ハ防空
緊急施設諸費四億三千餘萬圓、石炭價
格調整補給金補足二億餘萬圓、學童集
團疎開補助一億餘萬圓、食糧增產應急
諸費八千餘萬圓、船舶運營會損失補償
金八千餘萬圓、鐵鋼特別增產對策費七
千餘萬圓、國民勤勞援護事業補助六千
餘萬圓、災害費四千餘萬圓等デアリマ
ス、次ニ昭和十九年度ニ於テ其ノ第二
豫備金ヲ以テ豫算外支出ヲ數シマシタ
特別會計ハ朝鮮總督府、臺灣總督府、
樺太廳、關東局、南洋廳、涌信事業ノ
六特別會計デアリマス、又豫備金外ニ
於テ其ノ國庫剰餘金又ハ歳入金ヲ以
テ、豫算外ノ支出ヲ致シマシタモノハ
臺灣總督府及南洋廳ノ二特別會計デア
リマス、何卒御審議ノ上速カニ御承諾
アラムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=28
-
029・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題トナリマ
シタ昭和十八年度第一豫備金支出ノ件
外五件ノ特別委員ノ數ヲ十二名トシ
其ノ委員ノ指名ヲ議長ニ一任スルノ動
議ヲ提出致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=29
-
030・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=30
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031・徳川圀順
○議長(公爵德川〓順君) 戶澤子爵ノ
動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=31
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032・徳川圀順
○議長(公爵德川関順君) 御異議ナイ
ト認メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致
サセマス
〔宮坂書記官朗讀〕
昭和十八年度第一豫備金支出ノ件
(承諾ヲ求ムル件)特別委員
侯爵井上三郞君伯爵久松定武君
子爵今城定政君子爵仙石久英君
男爵今園國貞君小泉親彥君
男爵周布兼道君黑田英雄君
兒玉謙次君田部長右衞門君
塩田團平君永瀨寅吉君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=32
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033・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 日程第十
七、所得稅法外十六法律中改正法律案、
日程第十八、地方稅法及地方分與稅法
中改正法律案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會ノ續、委員長報告、是等ノ兩
案ヲ一括シテ議題ト爲スコトニ御異議
ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=33
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034・徳川圀順
○議長(公爵德川園順君) 御異議ナイ
ト認メマス林伯爵
所得稅法外十六法律中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依
テ及報告候也
昭和二十年二月六日
委員、長伯爵林博大郞
貴族院議長公爵德川圀順殿
地方稅法及地方分與稅法中改正法
律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依
テ及報告候也
昭和二十年二月六日
委員、長伯爵林博太郞
貴族院議長公爵德川圀順殿
〔伯爵林博太郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=34
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035・林博太郎
○伯爵林博太郞君 只今議題ニ上リマ
シタ所得稅法外十六法律中改正法律
案地方稅法及地方分與稅法中改正法
律案ノ、特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ
御報告申上ゲマス、此ノ西案ノ特別委
員會ハ二月一日ヨリ開會致シマシテ
質問ニ入リ、二月六日午後討論、採決
ヲ致シマシタル處、全會一致ヲ以テ可
決ニ相成リマシタ、先ヅ所得稅法外十
六法律中改正法律案ニ付テ、出來ルダ
ヶ簡明ニ御報告ヲ致シタイト思ヒマス、
提案ノ目的及ビ內容ノ細カイコトハ速
記錄ニ讓リマス、是ハ詰リ戰局ハ愈こ
苛烈トナリ、多額ノ經費ヲ要スルヤウ
ニナリマシテ、國庫ノ增收ヲ圖ルコト
益其ノ必要ヲ感ジマス、購買力ノ吸
收ヲ爲ス爲ニドウシテモ增稅ヲシナケ
レバナラナイト共ニ、併セテ稅制ノ簡
素化、租稅ノ減免ニ關シテ其ノ規定ヲ
整備セムトスル所ニアリマス、增稅ト
云フコトニ付キマシテハ、大體六稅目
ニ於テノ稅率ノ引上デアリマス、卽チ
所得稅、特ニ所得稅ノ中ノ分類所得稅
デアリマス、第二ハ法人稅、第三特別
法人稅、第四通行稅、第五酒稅、第六
入場稅デアリマシテ、其ノ合計ガ七十
四億三千六百萬圓ニナリマス、而シテ
今囘ノ增收見込額ヲ申シマスレバ初
年度ニ於テ十九億二千三百萬圓、平年
度ニ於テ十八億五百萬圓ト相成ルノデ
アリマス、是ガ大體ニ於ケル增稅ノ骨
子ナノデアリマスガ、尙分類所得稅率
ハ、大體百分ノ三引上ゲルト云フコトニ
ナツテ居リマシテ、平年度ニ於テ八億
四千萬圓ノ增收ニナリマス、法人ノ所
得ニ對スル稅率ハ百分ノ三引上ゲルノ
デアリマシテ、又特別法人船率ハ百分
ノ二引上ゲルコトニナツテ、是ガ兩者
平年度ニ於テ一億二千九百萬圓ニナル
譯デアリマス、其ノ他ノ方面ハ總テ速
記錄ニ讓ツテ置キマス、ソコデ質問ニ
入リマスガ、第一增稅ノ根本問題ニ關ス
ルコトデアリマス、今囘ノ一八億乃至
十九億ナント云フモノハ、誠ニ厖大ナル
經費カラ申シマスト九生ーノ一毛トモ謂
フベキモノデアルノダ、寧ロ全體ハ公
債ニ依ツタラバドウダ、ト云フ質問デ
アリマス、戰時財政ノ理論上、租稅ノ
收入ハドウシテモ主トシナケレバナラ
ナイ、浮動購買力ノ吸收ニ資スル爲ニ
モ增稅ハ必要デアル、元來前世界戰爭
ニ於テ「ドイツ」ガ非常ニ「インフレー
ション」ニ惱ンダノハ、公債ノミノ政
策ヲ執ツタカラデアル、公債ヲ發行シ
テソレ以外ノモノニ依ラナカツタ爲ニ、
非常ナ「インフレーション」ニナツテ、
「マーク」ノ價格ガ下ツテ來タト云フコ
トハ、是ハ事實ニ於テ公債ノミニ依ツ
テ支辨スルト云フコトハ甚ダ面白クナ
イト云フコトノ證據デアルノダドウシ
テモ實收入ト云フコトノ方面モ見テ行
カナケレバナラヌ、ソレデ少額ト言ハ
レルケレドモ、此ノ六稅目合セテ十九
億圓、煙草ガ七億圓、鐵道及印紙收入
ガ四億圓等ヲ加ヘマスト三十億ニナル
ノダ、三十億圓ト言ヘバ千億圓ノ丁度
利息ニ當ルノデアルカラ、決シテ少額
ト言フノハ當ラナイト云フ答辯デアリ
マス、增稅ノ目標ト、戰時財政ニ於ケル
公債收入ト租稅收入トノ割合ニ、何カ
的確ナル標準ガアルカ、其ノ割合ヲ定
メテ行クト云フコトニハ標準ハナ
イ、其ノ當時ノ情勢カラ考慮シテ適當
ト認メル額ヲ課稅シ、出來ルダケ其
ノ課稅モ多イコトガ望ミタイノデア
ル、其ノ他戰時財政ノ大部分ハ公債
ニ依ラナケレバナラヌ、第二ニ增稅
ノ基本的內容ニ關スル事項ノ質問應答
デアリマス、綜合所得稅ニ今囘增稅シ
ナカツタ理由ハドウデアルカ、是ハ昭
和十二年以來累次相當ノ增稅ガ点率ニ
行ハレタノデアルカラ、其ノ爲ニ今囘
ハ見合ハシタノデアル、併シ全然增稅
ノ餘地ナシトハシナイノデアル、今後
ノ經濟、豫算各般ノ狀況デ決メルモノデ
アル、中產階級、此ノ言葉ハ寧ロ中層階
級カ中等階級ト言フ方ガ適當デアルガ、
此ノ中等階級ノ維持ト云フコトガ極メ
テ必要ナコトデアルガ、此ノ租稅ノ方
面カラモ考ヘタノカ、特ニ收入ガ餘リ
殖エテ居ラナイ勤勞者ノ方面ニ於テノ
增稅ハ餘リ苛酷デハナイカ、之ニ對シ
マシテ答ヘルノニハ、中產階級卽チ中
等階級ヲ維持シ、之ヲ保護シテ行クト
云フコトハソレハ國家ノ爲必要ナコ
トデアル、併シ稅法以外ニモ別途ニ是
ハ考慮スル途ガアル、稅ハ公平ニ一般ニ
掛ケナケレバナラナイモノデアルカラ、
中等階級ノミニ限ツテ特例ヲ設ケルト
云フコトハ是ハ實際上困難ナコトデア
ル勤勞者ニ對スル增稅ハ、是ハ今日
寧ロ少額デアツテ、現在大戰時下ニ於
テ決シテ堪へ得ザルモノデハナイ、國
民ノ納稅思想ヲモツト〓揚シテ行ク上
ニ於テ根本的涵養ノ具體案ガアルカ、
是ハ極力苛斂誅求ニ陷ラナイヤウニ注
意スルト云フ所ニ其ノ途ガアル日本
稅務協會等ニ於キマシテ十分其ノ點ノ
協力ヲ期待シテ居ル次第デアル、第三、
新興所得階級ノ課稅、購買力吸收ニ關
スルコトデアリマス、是ハ他ノ委員會
ト同ジク、本委員會ニ於キマシテモ非
常ニ論議サレタノデアリマス、購買力
吸收ノ對策ハドウデアルカ、課稅ノ充
實徹底、極力貯蓄ノ增强、富籖、今度
政府ガ之ヲ勝札ト言フノデアリマスガ、
勝札ノ發行ト云フコトナドニ依リマシ
テ吸收ヲ緩和シヨウト云フノデアリマス、
ソレナラバ此ノ勝札ヲ一年六億圓トシ
タノハ何ニ依ツタノデアルカ、是原線
據ノナイコトデハナイ、今囘福劵ヲ發
行シテ見タ處ガ第一囘ノ五千萬圓ノ福
劵ハ皆賣レマシタ、第二囘ハ一億圓デ
ヤツテ見タ處ガ、其ノ中千七百萬圓ハ
賣レ殘ツテ居ルト云フヤウナ狀況デア
ル、ソコデ丁度一億五千萬圓ト云フ所
ガ一囘ニハ宜シイノデアルカラ、之ヲ
四囘ニ六億ト云フコトヲ考ヘダノデア
ルト云フユトデアリマス、ソレカラ一
般國民ト新興所得階級トノ納稅上非常
ナ不公平、不權衡ガアルガ、是ハドウ
デアルカ、併シ新興所得階級ノ者ニ納
稅ヲサセナイト云フヤウナコトハナイ、
是ハ課稅ノ對象ニチヤントナツテ居ル
ノダ、併シ運營上ニ於テドウモ行屆カ
ナイ爲ニ之ガ稅ヲ拂ハナイト云フコト
ハ自然起ツテ來テ居ルノデアル、此處
ニ遺憾ノ點ガアル、兎ニ角近時稅務署
ニ於テハ女子ガ多ク雇ハレテ居ル、ド
ウモ事務ノ上ニモ慣レナイシ行屆カナ
イ點ガアリマス、今後ハ大イニ是ハ努
力スル積リデアル、昨年ノ統計デ自由
勞務者ニ對シマシテ丙種ノ事業所得ノ
源泉課稅ヲ起シテヤツテ見マシタノデ
アルガ、是ハ五千萬圓ノ豫想デアツタ
處ガ實際ハ一億圓、倍取レテ居ルノデ
アルカラ、マア是等ヲ擴充シテ行クト
云フコトノ上ニ於テソレヲ調整スルコ
トガ出來ルト思フ、次ニ課稅充實ヘノ
具體的ナ措置ハドウデアルカ、新興所
得階級ノ上カラ的確ニ浮動購買力ヲ捕
捉シテ行ク方法ノコトニナリマスガ、
是ハ稅務機構ノ簡捷ト强化ヲ圖ツテ、
人員ノヤリ繰リ、警察署、地方事務所
トノ連絡ヲ密ニシマシテ、勞報、產
報統制組合、農業會等其ノ方面ノ
精通者ノ組織ノアル納稅者ノ調査ヲ
十分ニスル、又「ブローカー」ノヤウナ
組織ノナイ納稅者ニ對シテモ、町內
會部落會、隣組等ノ精通者ヲ煩ハシ
テ此ノ方面ヲ捕捉スルヤウニ努メルノ
デアル、第四、今後ノ增稅ニ關スル件
デアリマス、今後ハ增稅ハドウ云フ
風ニヤツテ行クカ、又明年度アタリハ
負擔力一パイニ增稅ヲスル時代ガ來ル
ノヂヤナイカ、其ノ問題ハ戰爭ノ遂行
ト見合セテ愼重ニ考慮ヲ要スルコトデ
アル、今後ノ增稅ハドウ云フ稅種ニ重
キヲ置クカ、是ハ分類所得稅ニ重キヲ
置クノデアル、國民ノ擔稅力ハ國民所
得ニ依ツテ見ルヨリ外ハナイ、國民所
得ハ方百億圓トナツタノデアリマス、
此ノ國民所得ト國民生活ト結付ケテ考
ヘルノデアルガ機稅力ニハソレカラ
見ルト餘裕ガアル、綜合所得稅ノ方ハ
相當上ツタノデアルカラ、今ハ之ニ止
メテ置ク、從ツテ分類所得稅ト云フモ
ノニハ彈力性ヲ認メルカラ、之ヲ中心
トシナケレバナラナイ、之ニ加フルニ
賣上稅、物品稅ト云フモノヲ持ツテ行
ツタラドウデアルカト云フコトモアリ
マシタガ、此ノ方面ハデス、ドウモ食
糧ニ掛ケルト云フヤウナ虞ガドウシテ
モ出テ來ル、物品ト言ヘバ、食糧ニ掛ケ
レバ、今後益、食糧ガ高クナツテ、是
ハ掛ケラレナイ、其ノ外ノモノハ何デ
アルカト云フト、奢侈ニ關スルモノ
デ、是ハ奢侈品ハ作レモシナイシ、賣
レモシナイ、ダカラ物品稅ノ問題ハ餘
リ期待ガ出來ナイ、結局分類所得稅ニ
歸スル次第デアル、前々カラ話ガアル
如ク、相續稅ハ惡稅デアル、家族制度
ノ維持ノ上カラ面白クナイモノデアル
ガ之ヲ廢止スル意思ナキヤト云フ問
題デアリマス、世界各國ニ於キマシ
テ、稅ノ取リ方ハ兩建ニナツテ居ル、
ソレハ何デアルカト云フト、財產全體
ニ對シテ称ヲ課スルコトト、財產カラ
生レル所得ニ課スルコトト、此ノ二ツ
ノモノヲ皆ヤツテ居ルノダ、然ルニ日
本デハ、財產ノ所得ニ關スル方面ノミ
ニ課稅ヲシテ居ツテ、財產全體ニ對ス
ル課稅ハナイ、ダカラ相續稅ト云フモ
ノハ其ノ一種ノモノトシテドウシテモ
我ガ國ニモ實行シナケレバナラヌモノ
デアルカラ、其ノ必要ヲ感ズル、從ツ
テ廢止シナイ、斯ウ云フコトデアリマ
ス第五、增稅案ノ具體的內容ニ關ス
ルコトデアリマス、綜合所得稅ト分類
所得稅トハ二重ニナツテ居ル、全體ノ
所得カラシテ先ヅ分類所得稅ヲ引イ
テ、更ニ分類所得稅ヲ引カナイ前ノ全
體ニ對シテ綜合所得稅ガ掛ツテ居ルノ
デ、二重デアル、此ノ點ハ如何デアル
カト云フノデアリマス、政府ハ、サウ
云フヤウニ二重ニ此ノ點ニ對シテ見テ
居ルノヂヤナイ、財產ニ對スル所得
ガ、此處ニ一定ノモノガ出來テ居ル、
其ノ一定ノモノガ出テ居ルモノヘ、
方分類稅トシテ課スルコトト、他方面
ニ於テ綜合所得稅トシテ、兩面カラ所
得ニ對シテ課シテ居ルノデアツテ、差
引クトカ何トカ云フ考ハチツトモ持ツ
テ居ナイ、兩面カラ見テ課稅シテ居ル
譯デ、決シテ二重デハナイト言フノデ
アル、相續稅ニ付テ、不動產ノ評價ガ
ドウモ適正ニ行ツテ居ラナイ、從ツテ
物納ト云フモノガ行ハレテ居ラナイ、
併シ是ハ必要ナコトデアルガ其ノ點ハ
ドウデアルカ、相續稅ノ評價ハ、御承
知ノ如ク、相續開始當時ノ時價デ決メ
ルノデアル、物納ニ何カ無理ガアレ
バソレハ將來大イニ法規ノ改正ニ努
メルコトニ躊躇シナイ、ソレカラ兌換
劵ノ著シイ增加分ト云フモノガ今日ア
ル、此ノダブ付イタ金ガ、時局關係ノ
中小工業方面ニ集中シテ居ル、殊ニ下
請工業デハ資金運轉ハ放漫ニナツテ居
ル、此ノ故ニ、法人ノ申告納稅制度ヲ
モツト廣ク一般法人ニ適用シタラドウ
デアルカ、政府ハ之ニ答ヘマスノニ、
公稱資本金五百萬圓以上ノ大キナ會社
ニ申告制ヲ取ツテ居ルノデアル、ソレ
デスカラ今ノ御話ガ出ルノデアルガ、
ドウモ小サナ會社ニナルト云フト人手
ガ足リマセヌ、サウシテ此ノ申〓ヲス
ルノニハ相當煩雜ナモノデアリマスカ
ラ、無理ダ、無理デアルカラ五百萬圓
以上ノ會社ニサセテ居ルノデアルガ、
其ノ理由ノモウ一ツトシテハ、全體ノ
納稅額ニ對シテ八十五「パーセント」ト
云フモノハ、公稱資本金ノ五百萬圓以
上ノ會社ガ皆納メテ居ル、僅カ十五
「パーセント」ト云フモノガ小サイ會社
ガヤルノデアルカラ、マア大部分ノ成
績ハ是デ擧ゲテ居ルノデアル、併シナ
ガラ御話ノコトモ必要デアルカラ今後
ハデス稅務相談所トカ商工經濟會等
ノ指導ヲ加ヘマシテ、成ルベク適用ノ
範圍ヲ擴ゲルヤウニ努メル、第六、財政
金融ノ一般ニ關スル事項デアリマス、先
ヅ「インフレーション」防止策ニ付テノ
質問應答デアリマス、是ハナカ〓〓ム
ヅカシイコトデアルガ、內閣總理大臣
ヲ會長トシテ居ル所ノ物價審議會ト云
フモノヲ設ケテ、通貨、生產、配給、
物價、賃金、運賃其ノ他ノ色々ノ問題
ヲ綜合的ニ〓究ヲシ、又之ヲ强力ナル
機關トシテ、十分ニ「インフレ」ノ防止
ニ努メル積リデアル、强制貯蓄ノ實行
ノ意思ハナイカ、從來ハ强制ト云フコ
トヲ主トシナイデ、大體國民ノ愛國心
ニ依ツテ自由貯蓄ヲ主眼トシテ居ルノ
デアル、其ノ意味ニ於テ貯蓄ガ非常ニ
大キクナツタノデアルカラ、斯ウ云フ
方面デ寧ロヤツテ行キタイト思フ、又
ソコニ妙味ガアルト思フ、國民貯蓄ノ
割當ヲ適正ニスルコトガ必要デアルガ
其ノ點ハ如何デアルカ、貯蓄目標ハ四
百十億萬圓カラ六百億圓ニナツタ割
當ハ相當今後强クナリマス、臨時資金
調整法ヲ改正シマシテ、國民貯蓄運營
委員會ヲ設ケテ、今後益〓適正ナル割
當ノ決定ヲスルコトニ致シマス、次、
闇取引ノコトデアリマス、「インフレー
ション」ハ〓糧不足カラ來ルノデアツ
テ、是ハ通貨ノ面ノミカラ見ルコトハ
出來ナイ、食糧、運賃、務等ノ色々
ノ方面ヲ諒合シテ見ナケレバ容易ニ出
來ルコトデハナイノデアル、增稅デハ
唯其ノ一端ヲ抑ヘルニ止マルモノデア
ル物價審議會ガ各方面カラ〓究シ
テ、此ノ「インフレ」問題ヲ中心ニ、財
界ノ秩序安寧維持ニ付テ審議ヲサセル
コトニシマス、又所得稅ノ納稅期ヲ、
從來四囘デアリマシタノヲ、今囘ハ八
月ト一月トノ二囘ニスルコトニナリマ
ス、其ノ理由ハ簡素化ト云フモノガ第
一デアリ第二ハ「ボーナス」ヲ貰フノ
ガ盆ト暮デアリマスカラ、丁度八月ト
正月ト云フコトガ適切デアルト云フコ
トノ一ツノ理由モ加ツテ居ルト云フコ
トデアリマス大體其ノ邊ニ增稅ノ問
題ハ止メテ置キマス、次ニハ地方稅法
及地方分與稅法中改正法律案ニ付キマ
シン、御報告ヲ致シマス、昭和十五年
稅制改正以後時局ノ進展ニ伴ヒマシ
テ、地方財政ノ變化、財政需要ノ增大
ニ對處シテ經費ガ非常ニ多クナツテ
來ルノデアリマシテ、經費ノ抑制節減
ヲ一方ニ圖ツテ居リマシタガ最近デ
/ 23.地方負擔ガ激增シテ來タ、地方
分與稅制度ノ經過年度終了ノ結果トシ
テ、地方財政調整上ニ支障ヲ來シタモ
ノガアル、此ノ機會ニ地方財政需要ニ
卽應スルヤウニ、財源ノ擴充ト財源ノ
配分ノ適正ヲ岡ル爲ニ此ノ改正案ヲ出
シタト云フコトデアリマス、此ノ地方
稅竝ニ地方分與稅中改正法律案ノ質問
應答ヲ簡單ニ申上ゲマス、一番問題ニ
ナリマシタノガ市町村民稅ノコトデア
リマス、市町村民稅ヲ五割引上ゲマシ
テ、其ノ增收ガ四千萬圓ト見積ツタノ
デアルガ、其ノ規據ハ何處ニアルカ、
是ハ市町村民母〓設設本旨ニ鑑ミマシ
三、國民所得ト地方經費ノ膨脹ノ狀況
ニ照ラシ五割トシタノデアル卽チ三
收益稅ノ增稅ガ先ニアリマシタガ、其
ノ三收益稅ト云フモノハ事實的ニハ地
方稅デアル、其ノ引上程度ニ丁度準ジ
マシテ、此ノ市町村民稅そ五割ニ止メ
タノデアル、從來ハ八千萬圓ノ收入ガ
アリマシタカラ、其ノ五割、卽チ四千萬
圓ト云フモノガ增收ヲ日込ンデア、ルノ
デアリマス、其ノ內譯ハ大都市千三百
萬圓、都市千百萬圓、町村ノ方面ガ千
七百萬圓ノ〓收ニナツテ、五大都市デ
申シマスト七百三十萬圓トナル〓リデ
アリマス實際ノ賦課額ハ、市町村ノ
歳出上必要ノ限度デ市町村ガ任意デ定
メルモノデアルケレドモ、法制上此ノ
限度トシタノデアル、此ノ限度ニ賦課
シ得ルコトトシタノデアル、市町村民
稅ガ五割增スノデアルカラ、貯蓄ヤ
公債ノ割常モ矢張リ五割增スト云フヤ
ウナコトハ考ヘテ居ラナイノデアル
ソンナコトハ基礎ニナラナイ、隣保消
化ノ割當ノ增加ハ公債發行額ノ如何ニ
依ルノデ、大藏省ノ仕事デアル昨年
度國民貯蓄ノ增加ト、明年度ノ國民貯
蓄ノ增加シテ行ク關係ハ何モナイノデ
アル四千萬圓ガ地方財政ノ大ナル需
要ノ一部ヲ充足シテ行クト云フコトニ
是モ役立ツコトガ最モ重要ナコトデア
ル、此ノ稅ガ資六家ニ厚ク、新興所得階
級ニ何笑門係ガナイヤウニ今日、ナツテ
居ルガ、此ノ方西ニ自然ニ浸潤スルヤウ
ニ斯導シタイト二、フコトデアリマス、
卽チ此ノ市町村民稅ト云フノハ御承
知ノ通リ最高ガ二千圓ニナツテ居リマ
ス、此ノ二千圓ガ五割增スカラ三千圓
ニナルト云フノデハナイ、二千圓ノ最
高額ハ此ノ限度ニ止メテ置キマシテ、
サウシテ四千萬圓ノ增收ハ此ノ下層ノ
方面ニ橫ニ適ガツテ行クノデアリマ
ス、其ノ擴ガツテ行ク影書トシテ新興
所得階級ニ及スヤウニ自然ナルノデア
ル、ソレガ卽チ時局ニ能ク適合シタ點
デアルト云フ說明デアリマス、而シテ
市町村民稅ト云フノハ、元來一般ニ大
衆的ニ掛ケル稅デアリマシテ、今度大
都市ニ於テハ一人當平均八圓ヲ十二圓
ニスルト云フヤウナモノデアツテ、是デ
各公衆ノ所得ニ依リマシテ、其ノ資產
ニ應ジテ之ヲ掛ケテ行クト云フヤウナ
性質ノモノデナイノデアリマス、從ツテ
今日便宜上ヤツテ居ルヤウナ、此ノ市町
村民稅ヲ基礎ニシテ國債ヲ買ハセタリ、
或ハ貯蓄ヲサセタリスルト云フコトハ
此ノ稅法ノ精神ニ適ツタモノデナイ、
併シマア便宜上今日隣組ナドデ斯ウ云
フコトヲヤツテ居ルノデアル、而シテ
之ガ新興所得階級ニ及スヤウニ自然ナ
ルカラ大變其ノ點ハ宜イト思フト云フ
意味デアリマス、其ノ他學童〓開、負
擔區分改正等ニ伴フ繰入率、分け率改
正ノ、色々細カイ數字的細目ニ亙ツタ
質問應答ガアリマシタ、ソレ等ハ總テ
速記ニ讓リマス、ソレカラ此ノ稅ハ、
地方稅分與稅其ノ他ノ問題ハ、內務省ト
大藏省ト兩方デヤツテ居ルガ、之ヲ
元的ニ管理スルヤウニシタラドウカ、
詰リ內務省ダケデ宜イノデハナイカ、
複雜ニナツテ困ルノデハナイカト云フ
ヤウナ議論モ出タノデアルガ、是ハ政
府ハ兩股ニナツテ居ルケレドモ、大藏
省ハ計算ノ方面ニ於テヤツテ貰フノ
デ、受取レバ內務省ガ之ヲ各地方ニ分
與スルノデアルカラ、決シテ其ノ間ニ
何等ノ矛盾モ衝突モ摩擦モ起ラナイ、
今日ノ共管ガ最モ宜イノデアル、還付
稅配付稅ト云フモノハ地方團體ニ直接課
セシムルト云フヤウナコトニシタラド
ウデアルカ、ドウモ國ガ取ツテモウ一
遍潰付スルヤウナ妙ナコトヲヤラナイ
デ、初メカラ地方ハ地方稅トシテ取ツ
タラ宜イヂヤナイカト云フ議論デアリ
やっ、大體大キナ根木問題ハ此ノ際ニ
於テ考ヘルコトハ寧ロ至當デナイ、是
ハ大キナ問題ニナルノダト云フ意味デ
アリマスソレ等ノ質問應答ガアツ
テ、二月六日午後開會、二三ノ質問ノ
後デ、兩案ヲ一括シテ討論ニ入リマシ
タ、三委員カラ意見ノ開陳ガアリマシ
タカラソレヲ申上ゲマス、一委員カラ
次ノ贊成意見ガ出マシタ、增稅ニ六稅目
ヲ選ンダト云フコトハ至極適當デアル、
特ニ綜合所得稅ハ增徵シナカツタ、分
類所得稅ノミニ增率シタト云フコトハ
大イニ贊成ヲ表スル所デアル、綜合所
得稅ハ累次ノ增稅デ、其ノ餘地ノ乏シ
イ爲デアルコトハ當局モ認メテ居ル、
是ハ負擔力ノ害情ニ適シタ適切ナル施
策デ、世ノ中ニハ、外國ニ於ケル一般
歳入總額ト租稅額トノ比率、殊ニ公債
トノ割合カラ推シマシテ、我ガ國デモ
更ニ大イニ租稅增徵ヲシナケレバナラ
ナイト云フ說ガアルケレドモ、是ハ誤
ツタ見解デアル、厖大ナル戰時豫算ト
ナツテハ、其ノ大部分ガ公債ニ依ル外
ハナイ、故ニ今囘增稅ヲ十八億ニ止メ
タト云フコトハ賢明ナ策デアル、增稅
ト共ニ時宜ニ適シタ改正ヲ加ヘタコト
モ適切ナ處置デアル就中公稱資本五
百萬圓以上ノ法人及大藏大臣ノ指定シ
タ法人ニ申告納稅制度ヲ開イタコトハ
一ノ進步デアリ創意デアル、從來ハ數
年モ掛ツテ査定ガ遲レテ居ツタノガ事
實デアツタ、是ガ査定ヲ俟タズニ申告
ニ依ツテ一應納稅ガ出來ルコトハ結構
ナコトデアル、大イニ贊意ヲ表スル
唯此ノ制度デ一應納稅シテモ、査定ガ
遲レテ餘理後ニナツテ相當多額ノ追徵
ラ命ゼラレルヤウナコトガアツタナラ
バ、常業者ニハ大イニ迷惑デアル、人
手不足ノ利務署ノコト故、殊ニ懸念サ
レル故ニ、半年又ハ一箇年ノ期限ヲ定
メテ其ノ間ニ査定スルコトニ改メ、當
業者ヲ困ラセヌヤウニ措置セラレムコ
トヲ希望スル、租稅證劵ノヤウナモノ
ヲ此ノ際考ヘテ見タラドウデアルカ、
良イコトヲ考ヘタラ直チニ實行シテ、
法律ノ改正バカリデナク、稅務行政ノ
運用上ニ於テモ左樣ナ處置ヲ執ツテ貰
ヒタイコトヲ希望スル、此ノ意味ニ於
テ所得稅法外十六法中改正法律案ハ原
案通リニ白分ハ贊成スルノデアル、尙
地方稅及地方分與稅法中改正法律案ニ
付テ自分ノ意見ヲ述ベル、市町村民稅
ノ賦課總額ノ限度ノ引上、配付稅ノ繰
入率及其ノ分與率ノ改正ニ關スルコト
ハ政府ノ說明ヲ聽イテ其ノ必要ヲ十
分了解シタ、市町村民稅五割ノ增加
ハ實情ニ適シタ賦課ガ行ハレルヤウ
ニ常局ノ監督ヲ望ム、地方分與稅決定
ニ當ツテハ國家ノ要請ニ基ク專業、
例ヘバ防空、山林伐採ノ専務ニ付テハ、
必要ナ財源ヲ分與シテ時局ノ必要ニ應
ズルヤウ當局ノ措置ヲ望ミマス、是等
ノ財源ハ帝國議會ノ協實ニ俟ツテ居ル
ガ、其ノ支出卽チ地方費ニ付テハ我
我ハ直接監督スル機會ガナイ、內務省
及ビ他ノ關係省ニ於テ其ノ支出ヲ監
督サレマシテ、其ノ支出ガ濫リニ流
レナイヤウニ切望スル次第デアル、
サウ云フ意味ニ於キマシテ自分ハ此
ノ両案ニ贊成ヲ表スル次第デアル、
又一委員カラ次ノ贊成意見ガ出マシ
タ、戰費ノ一部ニ充當スル增稅ノコ
トデアルカラ、白分ハ進ンデ贊成ス
ル、唯意見ヲ述べテ見タイ、新興所
得階級ガ勃興シテ來マシタ、就中自
由勞務者ニアリマシテハ其ノ收益ガ
著シイノデアル、處ガ其ノ吸收策ヲ見
ルト、實ニ不徹底、〓盟的デアルガ、之
ニ適切ナル對策ヲ直チニ廻ラサレムコ
トヲ望ムモノデアル、外ノ租稅デハ天災
又ハ色々ノコトニ對シテ減免ノ恩典ガ
アルガ、相續稅ヲ見ルト云フト、誠ニ同
情ガナイ點ガ片手落デアル、相續開始
以後ニ大ナル財產收入ノ減ジタヤウ
ナ時ガアツタナラバ、大イニ考慮シ
テ貰ヒタイノデアル、闇ノ原因ハ物ノ缺
乏ニ因ル、必需品ニ最モ多キコトハ憂
慮ニ堪ヘナイノデアル、其ノ原因ハ結
局色々ノ點モアルケレドモ、小運送ノ
不足ニ歸スルヤウデアル、當局ハ十分
ニ
此ノ點ヲ改善シテ貰ヒタイ、生活ノ
安定ニ一層ノ努力ヲスルヤウ、此ノ方面
カラ十分ニ願ヒタイモノデアルガ、此
ノ點ニ付テハ大臣カラ內閣諸公ニ取
次ガレルヤウニ取計ラハレタイ、又納
稅施設法中ノ第一章第六條ノ追加トシ
テアリマスル納粉團體ガ納稅資金ヲ亡
失シタ時ニ於テハ被害ヲ受ケタ團體
員ニ責任ガ及バナイヤウニシタト云フ
コトハ、本員ノ満足スル所デアルゝ他
ノ一委員ハ又次ノ意見ヲ述ベラレマシ
タ新興所得階級ノ浮動購買力ノ吸收
ハ至難ノ事業デアル之ヲ捕捉スルニ
ハ格段ノ〓究ヲ廻ラサナケレバナラナ
イカラ、之ヲ能ク十分ニ〓究調査サレ
テ日的ヲ達成シテ戴キタイ、第二ニ、
近時通貨ヲ輕視スル傾向ガ起ツテ來
タ、是ハ由々シキ事デアリマスカラ、
其ノ對策ニハ特ニ努力セラレムコトヲ
希望スル、第三、分類所得稅、酒稅等
今囘ノ增稅ハ大衆ニ對スルモノデアリ
マシー、從ツテ其ノ末端ニ於テ大衆納稅
者ト摩擦ノ起ラナイヤウニ十分丁寧懇
切ヲ盡シテ貰ヒタイモノデアル、此ノ點
ニ於キマシテ不平ノ生ジナイヤウニ注
意セラレムコトヲ望ム、其ノ他兩案ヲ
見ルト、何レモ時宜ニ適シタル提案デ
アリマスカラ替成ヲ表スルノデアル、
ト云フコトデアリマス、是ヨリ採決ニ
移リマシタル處、全會一致ヲ以テ所得
稅法外十六法律中改正法律案竝地方稅
法及地方分與稅法中改正法律案、此ノ
全部ヲ一括シテ採決ニ移リマシタル
處全部原案通リ可決ト相成リマシ
タ、卽チ全會一致ヲ以テ可決ト相成リ
マシタノデアリマス、此ノ段御報告ヲ
致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=35
-
036・徳川圀順
○議長(公爵德川開順君) 別ニ御發言
モナケレバ、兩案ノ採決ヲ致シマス、
兩案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異議ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=36
-
037・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ兩案ノ第
二讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=37
-
038・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=38
-
039・徳川圀順
○議長(公爵徳川開順君) 西大路子爵
ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=39
-
040・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=40
-
041・徳川圀順
○議長(公爵德川開順君) 兩案ノ第二
讀會ヲ開キマス、御異議ガナケレバ
全部ヲ問題ニ供シマス兩案全部、委
員長ノ報告通リデ御異議ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=41
-
042・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=42
-
043・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ兩案ノ第
三讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=43
-
044・植村家治
○子爵植村家治君 賛成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=44
-
045・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 西大路子爵
ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=45
-
046・徳川圀順
○議長(公爵徳川岡順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=46
-
047・徳川圀順
○議長(公爵德川開順君) 兩案ノ第三
讀會ヲ開キマス、兩案全部、第一讀會
ノ決議通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=47
-
048・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=48
-
049・徳川圀順
○議長(公爵德川〓順君) 日程第十
力、軍需金融等特別措置法案、政府提
円衆議障溪付、第一讀會ノ續、委員長
報告、委員長吏〓男爵
軍需金融等特別措置法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依
テ及報告候也
昭和二十年二月六日
委員長男爵東〓安
貴族院議長公爵德川〓順殿
左ノ小數者意見書ハ朗讀ヲ經
サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス
外資金庫法案特別委員會ノ報告ニ
對スル少數者意見
右貴族院規則第五十六條及第四十八
條ニ依リ提出候也
昭和二十年二月六日
侯爵德川賴貞侯爵中山輔親
侯爵西〓吉之助松本烝治
瀧正雄竹下豐次
磯貝浩岩田三史
貴族院議長公爵德川圀順殿
外資金庫法案特別委員會ノ報〓
ニ對スル少數者意見
軍需金融等特別措置法案第十五條第
二項ハ左ノ如ク修正スヘキモノナリ
ト信ス
工場抵當法第五條ノ規定ハ前項ノ
規定ニ依リ同項ノ財團目錄ニ一括
表示セラレタル物件ニ付之ヲ準用ス
〔男爵東〓安君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=49
-
050・東郷安
○男爵東郷安君 軍需金融等特別措置
法案ニ關シマスル特別委員會ノ經過竝
ニ結果ニ付テ御報告申上ゲマス、ビチニ
御承知ノ通リ、本案ノ審議ノ中ニ、法文
ノ解釋ニ付キマシテ面倒ナル議論ガ戰
ハサレマシテ、ソレニ付テ後段詳細ニ
御了解ヲ得ナケレバナリマセヌノデ、
甚ダ不本意デアリマスケレドモ、仝毁
ノ質疑ニ付テハ大部分ヲ速記錄ニ讓リ
マシテ、其ノ二三ニ付テ御紹介スルニ
止メマスコトヲ豫メ御了承ヲ願ツテ置
キマス、太案ニ付キマシテ最初起リマ
シタ質問ハ、政府ハ旣ニ軍需會社ニ對
シ指定金融機關ヲ設クルノ制度ヲ布イ
テ居ルガ、今囘更ニ之ヲ法制化スルノ
ハドウ云フ理由ニ基クカト云フ質問デ
アリマス、政府ハ之ヲ答ヘマシテ、本
法適用ノ對象トナルベキモノノ範圍ガ
マダ十分デハナイト云フ見地カラ、單
リ軍需會社ニ止リマセズ、特別ノ法令
ニ基キ設立セラレタル法人、統制會
社ソレカラ多額ノ借入金ヲ持ツテ居
ル會社等ヘモ之ヲ適用スル積リデアル
ト云フノガ理由ノ一ツ、更ニ軍需資金
調達ノ面カラ預貯金ノ集中等ノ措置ヲ
講ズルノ要ガアルコトガ一ツ指定金
融機關ガ擔常軍需會社ノ經理狀況ヲ常
時是正監督スル爲、會社ノ出納事務ニ
參與セシムルノ要ガアルコトガ一ツ、
軍需事業會社ノ經理ヲ監査スル必要カ
ラ、檢査ニ關スル事務ヲ日本銀行トカ
軍需金融機關トカ又ハ金融統制會ノ職
員ヲシテ之ニ當ラシメルト云フ必要ノ
アルコト等々ノ理由ニ依リマシテ從
來ノ特定金融機關ノ制度ヲ法制化スル
次第デアル、斯ウ云フ答辯デアリマシ
タ、次ハ本法ヲ適用スル地域ニ關スル
質問デアリマス、是ハ內地ニ金融機關
ガアリ、外地ニ工場、事業場ガアル場
合若シクハ外地ニ金融機關ガアリ、
内地ニ金融ヲスル場合、其ノ他種々ナ
場合ノ例ヲ擧ゲテ質問ガアリマシタノ
デアリマスルガ、結局色々ノ問答ノ末、
軍需會社ニ付テハ朝鮮ニ於テ既ニ其
ノ指定ガアルニ拘ラズ、此ノ法ガ適用
セラレナイト云フノハ何處ニ理由ガア
ルノカ、今ノヤウナ各種ノ例カラ考ヘ
テ見テ、尙ソコニ若干ノ思ヒ至ラナイ
點ガアルノデハナカラウカト云フコト
ニ對シマシテハ、政府ハソレ等ノコト
ニ付テ、左程外地ニ澤山ノ適用ノ例ガ
アルトモ考ヘテ居ラナカツタカラ、此
ノ點ニ付テハ本法施行後尙臺灣、朝鮮
ノ當局ト協議ヲ遂ゲ、其ノ間指定ノ重
複トカ其ノ他ノ不都合ガ起ラナイヤウ
ニ注意スル積リデアルト云フ答辯デア
リマシタ、次ハ第十二條ノ積立金ニ關
スルモノ、此ノ條項ニ於キマシテ金融
機關ハ其ノ金融ニ因ル收入ノ一部ヲ積
立ツベシト云フコトガ書イテアルノデ
スガ、其ノ第四項ニ於キマシテ、大東
亞戰爭終了後其ノ一部ヲ納付セシムル
ト云フコトガ書イテアルノデアリマス
ガ、此ノ外資金庫ノ法文ノ定ムル所ニ
依リマスト、ソレニ更ニ損失ガアツタ
場合ニ於ケル補償金ニ關スル制度ガ定
メラレテ居リマス、然ルニ本法ニ於テ
ハソレガナイノハドウ云フ理由デアル
カト云フ質問ニ對シマシテ、其ノ點ハ
政府ノ考ヘ方ハ、一社一指定金融機關
トスル結果ハ、却テ然來ヨリモ利益ガ
多クナラウトモ損失ガ起ルトハ考ヘテ
居ラナイノデ、若シ不幸ニシテ損失ガ
起ツタ場合ニ於テハ一應其ノ金融機
關ヲシテ自己ノ負擔ニ於テ處理セシメ
ル、更ニ餘リ無理ヲサセタヤウナ結
果、損失ヲ生ジタヤウナ場合ニ於テ
ハ、相當ノ考慮ヲスルト云フ說明デア
リマシタ、次ハ指定金融機關制度ガ布
カレタ場合ニ於テ、徑來ノ「シンヂケー
ト」ト云フモノハドウ云フコトニナ
ルノデアルカト云フ尋ニ對シマシテ、
從來ノ「シンジケート」ノ働クノハ二ツ
ノ面ガアル、一ツノ面ハ金ヲ貸ス方、
卽チ前貸ヲスル融資團デアルガ、其ノ
働キハ此ノ法ニ依ツテ解消スルケレド
モ、尙協力關係トシテ殘存スルコトニ
考ヘテ居ル、今一ツノ面デアル社債引
受團、卽チ「アンダーライター」ノ仕事
ハ其ノ儘殘ルノデアル、然ラバ本法十
入條ニ謂フ社債引受團ノ構成員ト、其
ノ協力團ノ構成員トハ同ジデアルカ
ドウデアルカ、ト云フ質問ニ對シマ
シテ、ソレハ同ジデアル場合モアレ
バ、異ナル場合モアルト考ヘルト云フ
答辯デアリマシタ、次ハ貯蓄銀行ノ集
中合併ニ關スル質問デアリマス、最近
政府ハ大都市ニ於ケル大組織ノ貯蓄銀
行ノ合併ヲサレタ模樣デアルガ、マダ
地方ニハ相當中小ノ貯蓄銀行ガ殘存シ
テ居ル、是等ニ、對スル合併ニ關シテハ
ドウ考ヘテ居ルノデアルカ、ト云フ質
問ニ對シマシテ、ソレ等ノ銀行ハ殆ド
總テガ普通銀行ヲ背景トシテ居ルモノデ
アルカラ、其ノ資本系統ヲ追ウテ逐次
合同ノ機運ニ導クコトガ最モ自然ト思
ハレル、而シテ其ノ時期ハ無理デナイ
程度、卽チ相當ノ時期ヲ俟ツテ、逐次
統合ヲ圖ル積リデアル、ソコデ一委員
カラ、一體今囘ノ大貯蓄銀行ノ合同ニ
關シテ、自分トシテハ、此ノ戰爭苛烈
ノ時期ニ際シテ、國民ヲシテ各職域ニ
於テ各〓其ノ全力ヲ盡サスベキ秋デア
ルニ拘ラズ、今更合同ナドヲシテ居ル
時期デアルトハ覺エナイ、敵前ニアツ
テ、財界ノ有力ナル諸機關ガ其ノ陣容ヲ
轉換スルコトハ、何レノ觀點カラ考ヘ
テモ甚ダ不利不益デアルト思ハレルノ
デアル、著シク其ノ能率ヲ低下スルコ
トモ爭ハレナイ事實デアル→之ニ依ツ
テ從業員ノ整理ガ出來ルト言ハレルケ
レドモ、ソレハ先ノ話デアル彼等ノ
不安ハ頗ル大イナルモノガアルト思ハ
レル、自分トシテハ是ハ採ラザル政策
デアル、政府ニ於テハ今後是等ノ點ニ
付テ篤ト反省セラレムコトヲ希望スル
ト云フヤウナ意味デアリマシタ、以上
ヲ以チマシテ先程申上ゲマシタ通リニ
大體ニ關スル質問ヲ終ヘマシテ、更に
本法案ノ第十五條ノ第二項ニ關スル論
議ニ付キマシテ御紹介申上ゲマス、念
ノ爲第十五條ノ本文ヲ此處デ卽讀致シ
やっく、「第十五條、軍需金融機關ニ對シ
擔當事業者ガ設定スル工場財團其ノ他
ノ財團ノ抵當權ニ付財團目錄ヲ調製ス
ル場合ニ於テハ其ノ財〓ヲ組成スベキ
機械、器具、電柱、雷線其ノ他ノ物件
ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ一括シテ
表示スルヲ以テ足ル、民法第百九十二
條乃至第百九十四條ノ規定ハ前項ノ規
定ニ依リ同項ノ財團目錄ニ一括表示セ
ラレタル物件ガ第三者ニ引渡サレタル
場合ニ之ヲ準用ス」ト斯ウ云フノデア
リマス、此ノ點ニ關シマシテ一委員ヨ
リ、本法案第十五條第二項ノ規定ノ趣
旨ニ付テハ自分モ決シテ異存ハナイノ
デアル、現在工場財團組成物件ニ付
テ、民法第百九十二條、卽チ動產ノ卽
時取得ノ規定ノ適用ノ有無ニ付テハ
別段ノ規定ハナイケレドモ、民法第百
九十二條ノ適用ガアルト思フノデア
ル、然ルニ今囘本法案第十五條第二項
ノ規定ヲ置クコトニ依ツテ、工場財團
組成物件ニ付テハ民法第百九十二條
ノ適用ガナイコトヲ態〓、明白ナラシム
ル結果ニナルト思ハレル、若シ果シテ
斯カル解釋ヲ採ルナラバ、財團ニ屬ス
ル機械、器具等ガ、工場カラ外ニ紛レ
出タ場合ニ、之ヲ讓リ受ケタ者ハ、假
令善意デアツテモソレガ幾人ノ手ヲ
經テ居ツテモ、又時效期間ニ相當スル
長イ年月ヲ經過シタ後デアツテモ、何
時デモ原所有者カラ無條件デ取返サレ
ルコトトナル、然ラバ甚ダシク動產取
引ノ安全ヲ害シナ變ナ結果ニナルガ、
政府ハ果シテ如何ナル根據ニ基イテ斯
カル解釋ヲ採ラレルノデアルカ、百人じ
現行工場抵常汰立法當時ノ記錄ニ依ツ
テモ、必ズシモ右ノヤウナ解釋トハナ
ラヌト思ハレル、假ニ四十年前ノ立法
者ノ解釋ガ右ノ通リデアツタトシテ
モ、現在デハ之ニ從フ必要ハナイシ、
實際ニ現在斯樣ナ解釋ハ一般ニ行ハレ
テ居ラナイ所デアルソレヲ此ノ際態
態本條第二項ヲ設ケテ、政府ガ右解釋
ヲ有權的ニ確定スルノハ果シテ如何ナ
ル必要ニ基クモノデアルカ、若シ財團
抵當權者ノ保護ヲ缺クコトヲ懸念スル
ノデアレバ財團組成物件ニモ民法第
百九十二條ノ適用ガアルト解シテモ
同條ニ依リ卽時取得セラレタ動產ノ上
三·更ニ財團抵當權ノ效力ガ及ブノ
デアルカラ、其ノ懸念ハ當ラナイガ、
他ニ何カ實質上ノ理由ガアルノデアル
カ、斯ウ云フ質問ノ趣意デアリマシ
タ、之ニ對シマシテ司法省ノ政府委員
ノ答辯ハ次ノ如クデアリマシタ、第十
五條第二項ハ本法以外ノ一般ノ財團
組成物件ニ付テハ、民法第百九十二條
ノ適用ガナイトノ解釋ヲ前提トスルノ
デアル、斯カル解釋ヲ採ル結果、財團
ニ屬スル物件ガ他ニ讓渡サレタ場合
ニ、善意取得者ノ保護ヲ缺キ、動產取
引ノ安全ヲ害スルコトトナルガ、有、
財團組成物件ノ散逸ヲ防イデ、其ノ擔
保價値ノ維持ヲ圖ル財團抵當制度ノ本
質上已ムヲ得ナイモノト考ヘテ居ル、
此ノ解釋ハ工場抵當法ノ規定ノ形式
カラモ窺ヒ得ルノミナラズ、同法制定
當時ノ速記錄ニ依レバ、現行法ガ此ノ
見解ノ下ニ立案サレタコトハ明白デア
ル、其ノ後今日迄此ノ點ニ關シテハ別
段ノ判例モナク、何等問題ナク經過シ
テ來タノデアルカラ、右解釋ハ現在
モ尙行ハレテ居ルモノト確信スル、而
シン、財團ノ散逸ヲ防ギ、其ノ效用ヲ
發揮サセルコトハ、立法當時ニ比シ、
現在ニ於テハ特ニ必要ト考ヘルカラ、
右解釋ハ現在ニ於テモ之ヲ强ク維持ス
ベキモノデアルト思フ、從ツテ第十五
條第二項ヲ設クルコトニ依ツテ右解釋
ガ確定スルコトハ、何等差支ナイモノ
ト信ズル、斯ウ云フ意見デアリマス、
ソコデ種々質問應答ガアリマシタ後
二、其ノ委員ヨリ、然ラバ大藏省ノ意
見ハドウデアルカト云フ御尋ガアリマ
シタ、之ニ對シテ大藏大臣ヨリ、次ノ
如キ答辯ガアリマシタ、司法省政府、
員ヨリ答辯ガアツタ通り、工場財團ノ
組成物件ニ付テハ、民法第百九十二修
ノ適用ガナイト云フ解釋ニ付テハ大
藏省トシテモ同意見デアツテ、工場抵
當法立法以來四十年間、之ニ付テ特ニ
問題モナク經過シテ居ルノミナラズ、
現在ノ機械器具類ノ取引ノ實情ニ照ス
モ、司法省ノ見解ノ通リ解スルヲ以
テ適當ト存ゼラレルカラ、工場財團制
度創設ノ趣意ヨリ老ヘテモ、今日此ノ
解釋ヲ變更スルハ不適當デアル、從ツ
テ本法第十五條第二項ノ規定ヲ修正ス
ル考ハナイ、トノ答辯ガアツタノデア
リマス、斯クシテ質問應答ヲ終了致シ
マシテ、討論ニ入リマシタ、ソコデ先
ノ一委員ヨリ修正意見ノ陳述ガアツタ
ノデアリマス、ソレハ旣ニ御手許ニ書
類トシテ配付サレテアリマスル運リ、
本法案第十五條第二項ヲ次ノ如ク修正
スル、ソレハ、「工場抵當法第五條ノ
規定ハ前項ノ規定ニ依リ同項ノ財團目
錄ニ一括表示セラレタル物件ニ付之ヲ
準用ス」ト云フ案デアリマス、尙之
ニ付テ、前段申述ベマシタヤウニ、其
ノ委員ヨリ御說明ガアリマシタ、之h
對シテ他ノ一委員ヨリ反對意見ノ陳述
ガアツタノデアリマス、凡ソ六點ニ亙
ツテ理由ヲ揭ゲテ反對意見ヲ述ベラレ
マシタ、其ノ第一點ハ、工場抵當法ハ、
第五條ニ於テ簡易工場抵當ニ付民法第
百九十二條乃至百九十四條、卽チ卽時
取得ノ規定ヲ適用スルトノ明文ヲ置イ
タニ拘ラズ、財團ヲ構成スル場合ニ付
ハー斯カル明文ガナイノヲ對照スレ
反對解釋トシテ、卽時取得ノ規定
ノ適用ナキコトハ自ラ明カデアル、第
一點明治三十八年現行工場抵當法制
定當時ノ沿革ヲ見ルト、當時ノ貴族院
委員會ハ、特ニ小委員迄設ケテ政府案
ヲ修正シテ居ルノデアリマス、其ノ要
點ハ工場抵當權者ノ保護ト動產ノ第
三取得者ノ保護トノ調和ハ到底ムヅカ
シイカラ、簡易抵當ノ場合ニハ第三
者ノ保護ヲ重シトシテ卽時取得ノ規定
ノ適用ヲ認メルガ、財團ヲ構成シタ場
合ニハ、抵當權者保護ノ爲ニ第三者ノ
利益ヲ犠牲ニスル外ハナイトシテ居ル
ノデアリマス、又財團ニ入ツテ居ル財
產ノ處分ハ無效デアルカラ、斯カル場
合ニ對スル罰則ハ、必要ハナイトシ
テ之ヲ削除シテ居ル、之ニ徵シテ見
レバ、此ノ條文ノ解釋ガ、今日迄一度
モ裁判事件ニモナラナイノハ畢竟適
用ガナイトノ前提ノ下ニ法律生活ガ經
過シテ居ルカラデアルト思フ第三點
ハ工場抵當法ハ工場財產ノ散逸防
止ニ大キナ效果ガアツタ假ニ立法當
時ノ解釋ガ、論者ノ言フガ如クデアツ
タトシテモ、今日軍需工場ノ機械器具
等ガ持チ出サレルト云フコトハ如何
ナル見地カラ見テモ國家的損害デア
ル、之ヲ防止スル必要ハ本法制定當時
ノ何層倍ニモ當ツテ居ル、從ツテ斯カ
ル工場抵當法ノ規定ガナイナラバ工
場財產ノ散逸保護ノ爲ノミニモ、特
法律ヲ制定スル必要ガアルトサヘ考ヘ
テ居ル位デアル、第四點、工場財團ニ
入ツテ居ル各種財產ガ、一體トシテ運
營サレ管理サレテ、始メテ特殊ノ經濟
價値ヲ生ジ、債權者モ特殊ノ保護ヲ受
ケルノデアルカラ、論者ノ如ク、財團
ニ入ツテ居ル動產ガ第三者ノ手ニ移ツ
タ場合ニハ、第三者ハ所有權ヲ取得ス
ルガ、抵當權ノ效力ハ尙及ブト云フ考
一カ、財團制定ノ趣旨ト相容レナイ
所デアルト思フ、又民法第百九十二條
ノ規定ハ、瑕疵ヲ伴ハナイ完全ナル權
利ノ取得ヲ豫想シタ規定デアルカラ、
抵當權ガ附イテ行クト解釋スルコト
ハ民法第百九十二條ノ解釋、卽チ動
產取引ノ安全保護トハ相隔ルモノガア
ル、卽チ工場財團側カラ見テモ、第三
取得者側カラ見テモ不徹底ノ結果ニ終
ルモノデアルト信ズル、第五點、若シ
論者ノ言フガ如ク修正シテモ工場財
團ニ屬スル財產ガ、第三者ノ手ニ渡ツ
タ場合ノ法律的效果ハ依然トシテ論
者ノ心配サレル影響ヲ除去スルニ不十
分デアルト思ハレル、第六點、修正案
ノ如キモノガ、政府ノ原案トシテ提案
サレテ居ツタナラバ兎モ角デアルガ、
是ガ論者ノ如キ根據ニ基イテ修正シタ
コトニナルト、工場財團ニ關スル現行
ノ解釋ニ及ス影響ハ決シテ少カラザル
モノガアルト信ズル、ト云フヤウナ意
味ノ反駁論デアリマシタ、之ニ對シマ
シン、先ノ提案者デアル一委員ハ修
正案ノ理由ノ補足トシテ次ノ三點ラ申
述ベラレマシタ、第一、抵當權ノ保護
ト卽時取得トハ兩立シナイモノデハナ
ク兩方ヲ適當ニ保護シ得ベキモノデ
アルト信ズル、工場抵當法第五條ハ
簡易抵當ノ規定デアツテ、是ハ工場抵
當法以外ニハ例ガナイ、大作、卽時
取得ノ規定ガ全面的ニ適用サレテ、抵
當權ハ全ク及ビ得ナイトノ意味デア
ル財團抵當ノ場合ニハ、財團ニ屬ス
ル物ニ抵當權ガ存スルノデハナクテ、財
國自體ヲ一ツノ不動產或ハ物ト見テ其
ノ上ニ抵當權ガ存スル結果、財團ニ屬
スル物ニ抵営權ノ拘束ガ及ブニ過ギナ
イノデアル、斯カル拘束ノ存スルコト
ト卽時取得ガ完全ニ行ハルヽコトト
ハ決シテ矛盾スルモノデハナイノデ
アル此ノ場合、抵営權ノ拘束ハアル
ガ、所有權ハ完全ニ取得スル其ノ結
果卽時取得者ハ物上保證人ノ地位ニ
立チ、抵當權ノ實行ニ依ツテ其ノ財產
ヲ處分サレルガ、求償權ハアルカラ保
護ハセラレルノデアル、而モ實際ニハ抵
當權ノ實行サレルコトハ殆ド其ノ例ガ
ナイ、又抵當權設定契約ニ依ツテ、抵
當權者ニハ財團財產ノ檢査ヲ爲シ得ル
シ、財團財產ノ無クナツタ場合ニハ代
リニ新シイモノヲ入レ足ストノ條項モ
アルカラ、抵當權者ノ保護モ十分デア
ル、ソレデアルカラ今日迄問題ガ出ナイ
デ濟ンデ居ルノデアル、第二點、工場抵
當法制定當時ノ貴族院ノ修正報〓ハ、實
ハドツチニモ讀メルヤウニナツテ居ル
ノデアル、抵當權ハ保護セネバナラヌ
ト云フコトハ言ツテ居ルケレドモ、其
ノ結果、卽時取得ヲ全然排斥シテシマ
フトハ言ツテ居ナイノデアル、ノミナ
ラズ、其ノ當時ノ政府委員ハ、卽時取
得ト抵當權ノ存在トハ相妨ゲナイ、財
團ニ入ツテ居ル財產ニ付テモ卽時取得
ノ規定ノ適用ガアルトノ頭デ答辯シテ
居ルノデアル、第三ニ現在各工場トモ
財產ヲ盜ミ出サレルト抵當權者カラ補
足ヲ命ゼラレテ大變ダカラ、盗ミ出サ
レナイヤウニ、出來ルダケ注意シテ居
ルガ、若シ善意ノ第三取得者ノ權利ガ
マルデ認メラレズニ、苟モ動產ガ財團
目錄ニ載ツテ居ル以上、盜マレテモ何
時デモ取返セルコトニナルト、却テ工
場側ハサウ嚴重ニ注意シナクテモ宜イ
コトニナツテ、財團財產ハ却テ散逸ス
ル虞ガアルノデアル、斯ウ云フコトデア
リマシタ、玆デ討論ノ終結ヲ見マシテ、
先ヅ採決ニ入リマシテ、ソコデ此ノ修
正案ニ對シテ委員會ノ贊否ノ意見ヲ諮
ヒマシタ處ガ、修正案ハ少數ヲ以テ否
決セラレマシタソコデ今度ハ本法案
ノ原案全部ニ付テ、採決ヲ致シマシタ
處ガ、多數ヲ以テ可決セラレタノデア
リマス、最後ニ一委員ヨリ、先ニ否決
セラレタ少數意見ハ追テ本議場ニ於テ
陳述スル機會ヲ得タイカラト云フ申出
ガアリマシタ、以上複雜ナル法理ニ關
スル疑義ニ付テ、御報告ハ甚ダ簡略ニ
過ギマシテ恐縮デアリマスガ、之ヲ以
テ私ノ報告ヲ終リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=50
-
051・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓順君) 本案ニ對シ
マシテ、特別委員ヨリ少數者意見ガ提
出セラレテ居リマス、此ノ際其ノ趣旨
說明ノ發言ヲ求メラレテ居リマスカ
ラ、許可ヲ致シマス、松本烝治君
〔松本烝治君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=51
-
052・松本烝治
○松本烝治君 私ハ是カラ本法案ノ委
員會ニ於ケル少數意見提出者ノ代表者
トシマシテ、其ノ意見ノ趣旨ノ說明ヲ
致シタイト思ヒマス、只今委員長ノ委
員會ニ於ケル議事ノ經過ニ付テ御說明
ガアリマシタ所ヲ伺ヒマスト、相當複
雜ナルコトヲ極メテ明快ニ御紹介ガア
ツタノデアリマス、餘リ其ノ御紹介サ
レタ點ハ、私ノ當時少數意見トシテ申
述ベタ所ト違フ所ハ勿論ナイノミナラ
ズ、漏ラシテアル所モ餘リナイヤウニ
思ヒマス、唯委員長ノ御紹介ハ、勿論
經過ヲ極メテ簡單ニ御紹介ニナツタノ
デアリマシテ、少數意見提出者ノ意見
ノ趣旨ハ十分ニ徹底スルコトノ出來ナ
イコトハ、是ハ御報告ノ性質上然ルベ
キ所ト考ヘマス、私ト致シマシテハ、
少數意見提出者ノ代表者トシマシテ、
此ノ問題ハ非常ニ重大ナコトニ結果ガ
ナリ得ルノデアリマスカラ、相當詳細
ニ少數意見ノ存スル所、及ビ其ノ理由
ヲ述ベサシテ戴キタイト考ヘルノデア
リマス、尤モ相當詳細ニト申シマシタ
ガ、之ヲ私ガ考ヘテ居リマスル全部ノ
コトヲ申述ベルヤウニ致シマスト、工
場抵當其ノ他ノ財團抵當ノ性質論、其
ノ他〓論カラ、總論カラ各論ト云フヤ
ウナコトニナリマスルト、數時間講義
ガマシイコトヲ申上ゲナケレバナラヌ
ノデアル、斯クノ如キコトハ本議場
ノ性質カラ申シマシテモ勿論避クベキ
コトト考ヘマスノデ、私ト致シマシテ
ハ出來得ル限リ簡單ニ少數意見ノ存
シテ居リマシタ所ヲ述ベタイト思フノ
デアリマス、或ハ多少講義ガマシイコ
トニ亙ルヤウナコトガアリマシテモ、ド
ウゾ其ノ點ハ御容赦ヲ願ヒタイノデ、
豫メ御斷リヲ申上ゲマス、只今委員長
カラ御話ニナリマシタヤウニ、私ノ委
員會ニ於キマシテ提出致シマシタノ
ハ本法案ノ第十五條ノ第一一項ノ字句
ヲ少シバカリ變ヘタイト云フ趣意ノ修
正案デアツタノデアリマス、デ何レ此
ノ修正案ハ、更ニ若シ此ノ法案ガ第二
讀會ニ入リマシタナラバ之ヲ提出ス
ル積リデアリマシテ、旣ニ豫メ提出シ
テアルヤウナ次第デアリマス、其ノ際
ハ成ルベク簡單ニ提案ノミノ說明ヲ致
スコトニ致シマシテ、此ノ少數意見ノ
主旨說明ニ於キマシテ、寧ロ多少細カ
イ說明ヲ申上ゲタ方ガ宜シイカト思ヒ
ママハ左樣ナ趣旨デ申上ゲタイト思ヒ
せつ、此ノ法案ノ第十五條ハ、只今委
員長カラ簡明ニ御說明ノアリマシタヤ
ウニ、第一項ニ於キマシテ、軍需金融
機關ニ對シテ設定サレル所ノ工場財團
其ノ他ノ財團ノ抵當權ニ付キマシテ、
財團目錄ヲ調製スル場合ニハ、其ノ財
團ヲ組成シテ居ル機械其ノ他ノ物件
ハ、勅令ノ規定ノ定ムル所ニ依リマシ
テ一括シテ表示スルコトガ出來ルト云
フコトヲ規定シテ居リマス、第二項ニ
於キマシテ、其ノ一括シテ表示シタ場
合ニハ其ノ場合ニ限ツテ民法ノ卽時
取得ニ關スル規定ノ進用ガアルト云フ
コトヲ定メテ居ルノデアリマス、御承
知ノ如ク財團抵當ニ關シマスル法律ハ
澤山ゴザイマス、工場財團ガ一番代表
的ナモノデアリマセウガ、其ノ以外ニ
鐵道抵當法ニ依ル鐵道財團アリ、或、
鑛業財團アリ、或ハ其ノ他軌道財團ト
カ、運河財團トカ、色々ナモノガアリ
そう、詰リ或事業者ガ、多クノ財產、
種々ノ物件ヲ集メマシテ、サウシテ工
場トカ鑛山トカ云フヤウナモノヲ組成
致シマシテ、サウシテ其ノ事業ガ行ハ
レテ居ルト云フ場合ニ於キマシテ、抵
當權ヲ設定シテ以テ他カラ借財ヲスル
大キナ財國抵當ニ於キマシテハ〓ネ
擔保附社債、永年ニ亙リマスル擔保附
社債ニ依ツテ借財ヲスルノデアリマ
スガ、又一時的ノ場合モアリ得ル、サ
ウ云フヤウナ借財ヲスルニ當リマ
シテ、個々的ニ財產ヲ入レタノデハ
値打ガアリマセヌ、例ヘバ工場ノ建
物トカ工場ノ土地ダケヲ抵當ニ入レ
ル、ソレニ對シテハ債權者ノ方デハ
多クノ金ヲ貸ス譯ニハイカヌノデ
建物トカ土地ト云フヤウナモノダケ
離シテ見マシタナラバ、サ迄ノ大キナ
擔保價値ハ出テ來ナイノデアリマス、
玆ニ於キマシテカ、工場トカ鑛山ニ於
キマシテハ、其ノ事業全體ノ營業關係
ノ財產ヲ一括シテ一ツノ財團ト云フモ
ノニシマシテ、此ノ財團ノ上ニ抵當權
ヲ設定シテサウシテ借財ヲスル、サ
ウ云フコトニシテ居ルノデアリマス、
法律ト致シマシテハサウ云ア場合ニ
ハ例ヘバ一ツノ工場デ申セバ、一ツノ
工場ノ殆ド有ラユル財產、ソレヲ皆財
團ニ屬スル財產ト致シマシテ、サウシ
テ一ツノ財團ト云フモノヲ組成シマ
ス、法律ハ其ノ場合ニ、其ノ財團ナル
無形ノ觀念ヲ一ツノ物ト見マシテ、其
ノ一ツノ物ノ上ニ一ツノ抵當權ガ設定
サレル、其ノ組成ラシテ居リマスル
一ツ〓〓ノ物ハ是ハ非常ニ數ハ多イ譯
デアリマスルガ、是ハ組成サレル分子ニ
過ギナイノデ、其ノ組成分子タル各個
ノ物件ノ上ニハ直接ニバ抵當權ハ存ス
ル譯デハナイ、各個ノ物件ガ集ツテ一
ツノ物ト法律上看做サレテ居ル所ノ
財團ガ川來マシテ、其ノ財團ノ上ニ抵
當權ガ設定サレル、サウ云フ觀念デア
リマス、サウ云フ觀念デアリマスルカ
ラ、一ツノ財國中ニ包容セラルヽ所ノ
物件ハ、非常ニ其ノ數ハ多イノデアリ
マス、詰リ其ノ財團自體ガ一ツノ値打ヲ
持ツ、其ノ財團ヲ抵當權ノ行使ニ依ツ
テ他ニ讓リ渡セバ十分ナ金ニナリ、
借財ヲ拂ハスコトガ出來ルト云フヤウ
ナ意味ニ於キマシテ、假ニ工場ダケニ
付テ御話ヲ簡單ニスル爲ニ申述ベマス
レバ一ツノ工場ノ全部ノ物ヲ入レル
ノデアリマス、勿論其ノ物ト申シマシ
テモ、硯箱迄入レルト云フヤウナコト
ハ是ハ致シマセヌガ、併シナガラ其ノ
工場ヲ工場トシテ働カス爲ニハ必要ダ
ト考ヘラルヽ物ハ全部其ノ財團ニ入レ
ルノガ、實際ノ例デアリマス、加之、
多クノ場合ニ於キマシテハ、殊ニ外國
ノ實例ナドカラ申シマスルト一ツノ
工場ダケデハナク、或事業者ノ持ツテ
居ル總テノ工場ヲ、或ハ何カ其ノ間ニ
連絡ガアリマスルト、一ツノ工場財團
トシ、或ハ數箇ノ工場財團トシテ、サ
ウシテ一ツノ債權ノ擔保ニ供セシムル
ト云フコトニシテ居リマス、其ノ理由
ハ、或一ツダケノ工場ヲ抵當ニ取ツテ
居リマスルト、其ノ工場ノ働キヲ餘リ
サセナイデ、他ノ工場ノ方ニ働カシ
テ、其ノ工場ノ値打ヲ下ゲテシマフ
サウ云フコトニナリマスルト、債權者
ハ折角良イ工場ヲ取ツタト思ツテ居ル
ト、必ズシモサウデナクナルト云フヤ
ウナコトガアリマス、殊ニ鐵道ナドノ
場合ニハ、或線ダケヲ取ツタト云フヤ
ウナコトデハ工合ガ惡イノデ、成ルベ
ク或鐵道會社ノ全部ノ鐵道ヲ一ツノ財
團トシテ、此ノ上ニ抵當權ヲ設定セシ
ムル、サウデナイト、或線路ダケハ非
常ニ働カシテ、他ノ線路ハ働カサヌト
云フヤウナコトモ起リマス、マアソン
ナヤウナコトノ實際ノ門念カラ致シマ
シント工場財團其ノ他ノ財團ハ、非常
ナ大キナモノデアリマス、勿論稀ニサ
迄大キクナイ工場ガ一ツノ財團ニナツ
テ居ルト云フコトモゴザイマスガ、通
當ハ非常ナ大キナモノデアル、從ツテ
其ノ財團ヲ組成シテ居ル所ノ物件、其
ノ物件ハ所謂財團目錄ニ總テ掲ゲテア
ルノデアリマスルガ、其ノ物件ノ數ハ
非常ニ多イノデアリマス、或ハ數千、
或ハ其ノ以上ニモナルト云フヤウナ數
ニナリマシテ、其ノ財團日錄ナルモノ
ハ人ノ背ノ高サヨリモ高イヤウナ財
團目錄ガアルノデアリマス、現ニ我ガ
國ニモアツタ、尠クトモアツタト云フ
ヤウニ私ハ記憶シテ居リマス、サウ云
フ非常ニ多クノ財產ヲ一々書キ上ゲル
所ノ財團目錄ノ調製ト云フコトニナリ
マスルト、ナ變ナ暇ガ要ルノデアリマ
ス、玆ニ於テカ此ノ法案ノ第十五條ノ
第一項ハ々書クノハ面倒ダカラ、
此ノ勅令ノ定ムル所ノ種類ノ物件ニ付
テハ一括表示スルドウ云フ表示ニ爲
サルカ、此ノコトニ付テハ委員會ニ於
テ餘リ說明ヲ伺ヒマセヌデシタガ、恐
ラクハ勅令デ色々御定メニナルコトト
思ヒマス、例ヘバ發動機ガ幾ラトカ、
或ハ旋盤ガ幾ツトカ云フヤウナ書キ方
ニナルノカト思ヒマスガサウ云フヤ
ウニ一々書カナイデ、一括シテ書クト
云フコトデ宜シイト云フコトニシヨ
ウ、是ハ大變便利デアリマス、軍需金
融ノ速カニ爲サレルト云フコトガ必要
ニナツテ參ツテ居ル今日ニ於キマシ
テ、此ノ第十五條第一項ノ立法ノ趣旨
ハ至極結構デ、私共雙手ヲ擧ゲテ贊成
スル所デアリマス、而シテ第二項ニ至
リマシテ、斯クノ如ク一括表示ヲシテ
居ル場合ニハ是ハ第三者ノ保護ヲ强
クシナケレバ行クマイ、細カク書イテ
アレバ先ヅ紛レ出ルコトガ少イ譯ダ
ガ、一括表示ト云フコトニナルト、第
三者ノ保護ヲ少シ强タシナケレバナラ
ヌト云フヤウナ意味デ、民法ノ卽時取
得ニ關スル担定ヲ、此ノ一括表示セラ
レタル物件ガ第三者ニ引渡サレタル場
合ニ之ヲ準用スト云フコトヲ書カレ
テ居ル、其ノ意味ヲ能ク伺ヒマスト
詰リ全面的ニ所聞卽時取得ノ規定ヲ適
用シテ、以テ第三者ノ手ニ入リマシタ
時ニハ、其ノ者ガ善意デアル限リ、抵
當權ノ拘束ハ全クナイコトニシテ、第
三者ノ保護ノ方ヲ主トシテ圖ラウト云
フ御考デ出來テ居ルト云フコトデアリ
マス、此ノ第二項ノ立法ノ趣旨モ亦私
ハ極メテ適當ナリトシテ之ヲ贊成シテ
居ル者デアリマス、卽時取得ト申シマ
スルコトハ、是ハ今更何モ申上ゲル必
要ハゴザイマセヌガ、要スルニ善意無
過失デ、平穩且公然ニ物ノ占有ヲ始メ
マスルト、直チニ其ノ權利ヲ取得シテ
シマフ、假令前ノ人ハ權利者デナカツ
タ、讓渡契約ガ無效デアツタ爲ニ前ノ
人パ權利者デナカツタト云フ場合ニ於
キマシテモ、其ノ者カラ讓受ケタ·····法
律上申スト、讓渡シタ人ハ權利者デア
リマセヌカラ、其ノ人ガ讓渡シテ、ソ
レヲ讓受ケタノデハ、權利ノ取得ハ出
來マセヌ譯デアリマスガ、此ノ善意取
得者ノ利益ヲ保護スル爲ニ、サウ云
フ場合ニハ當然權利ヲ取得スルノダ
ト云フコトヲ決メテ居ルノガ、所謂
卽時取得ノ規定デアリマス、又其ノ
卽時取得ヲサレマスル物ガ、盗品デ
アルト云フヤウナ場合ニ於キマシテ
モ、若シ盗品デアリマシタナラバ、
二年間ニハ取戾サレ得ルノデアリマス
ルガ、併シ其ノ間支拂ツタ代金ナンゾ
ハ提供シテ戴カナケレバ取戾スコトガ
出來ナイガ二年經テバ完全ニ取戾シモ
許サヌト云フヤウナコトニ確カ致シテ
居ルノデアリマス、之ニ依ツテ動產ノ
善意取得者ノ利益ヲ保護シマス、以テ動
產ノ取引ヲ容易ナラシメテ居ルノデア
リマス、若シ此ノ規定ノ適用ガナイト
云フコトニナリマスト、折角權利ガ取
得出來タト思ツテ居リマスルト、豈圖
ラムヤ、是ハ誰カガ盜ンダモノダ、オ
前ハ大變ナ金ヲ出シテ買ツタカモ知レ
又は、氣ノ毒ナガラ權利ノ取得ハナイ
カラ、只デ以テ讓レト言ツテ、所有者
ガ來テ取ツテ參ル、ソレ切リデアリマ
ス、左樣ナコトニナリマスト、動產ノ
取引ト云フコトハ安心シテ出來マセ
ヌ、動產ト云フモノハ御承知ノ通リ
何處ヘデモ飛ンデ參ルモノデアリマ
スルカラ、何處カラ來タ動產カ多ク
ノ場合分ラヌ、相當ノ商賣人カラソ
レヲ買ヒマシタ以上、大丈夫ダト思
ツテ居リマスト、豈圖ラムヤ、何處
カカラ盜ミ出シタモノデアル、或、
何處カカラ紛レ出タモノデアルト云フ
コトニナリマスト、唯持ツテ來タ切リ
デ取上ゲラレテシマフト云フコトデ
ハ、動產ハ危クテウツカリ買フコトガ
出來ナイト云フコトニナルノデアリマ
ス、サウ云フコトニナルノデアリマス
ルカラ、私ハ政府ニ對シテ伺ツタノ
ハ先程委員長ノ御說明ニナリマシタ
通リ、此ノ規定ノ趣旨ダケハ第一項、モ
第二項モ至極結構デ贊成デハアルガ、
ドウモ第二項ヲ拜見スルト、財團目錄
ニ記載ノアツタ從來ノ當リ前ノ物〓ニ
付テハ卽時取得ノ規定ノ適用ガナイト
云フヤウニナルノデヤアリマセヌカ、
卽時取得ノ規定ノ適用ガナイカラ、是
デ特ニ準用ヲスルト云フコトヲ定メラ
レタヤウニシカ見エヌヤウニ考ヘラレ
ルガ、果シテサウデアルカ、ト云フコ
トヲ伺ツタノデアリマス、之ニ對シテ
ハ政府委員ハ、勿論卽時取得ノ規定ノ
適用ハナイノダ、此ノ一括表示ノ場合
ダケハ第三者ノ保護ヲ完全ニスル爲
ニ、特ニ準用シテ、抵當權ノ效力ヲ斷
チ切ツテシマフト云フコトニシヨウ
然ラザル場合ニハ卽時取得ノ適用ハナ
イノダ、何時取戾サレテモソレハ致方
ナイコトデアル、ト云フ話デアツタノデ
アリマス、併シソレハドウモ取引上實
ニ由々シキ大事デアリマス、ソレハ何
カ御間違デハナイカト云フノデ、色々伺
ツテ見タ處ガ、確カニサウダ、後デ理由
トシテ御說明ニナツタ所ヲ申上ゲテ、
且之ヲ反駁シタイノデアルガ、確カニサ
ウデアルト云フ御說明デアリマス、卽チ
此ノ御說明ノヤウナコトニナリマス
ト、此ノ第二項ノ立法サレマス結果トシ
マシテ、財團目錄ニ記載ノアル從來ノ工
場財團其ノ他ノ財國ノ場合ノ物件、又
將來ト雖モ軍需金融以外デ、例ヘバ紡
績會社ガ工場財團ヲ作ルト云フヤウナ
時ハ勿論一括表示ハ是ハ出來ナイノ
デアリマセウカラ、財團目錄ニ一々記
載ヲシナケレバナラヌノデアリマス
サウ云フヤウナ場合ニハ假令其ノ財
團カラ紛レ出マシテ善意ノ第三者ノ手
ニ渡リマシテモ、是ハ何モ權利ヲ取得
出來ナイノダカラ、何時デモ取戾シガ
出來ルノダト云フコトヲ、此ノ立法ス
ルコトニ依ツテ、及ビ此ノ立法ニ付テノ
政府ノ極メテ明瞭ニ仰シヤツタ御說明
ニ依ツテ、是ガ明カニナルノデアリマ
ス、今委員長ハ此ノ立法ニ依ツテ有
權解釋ヲスルト云ラコトヲ仰セラレタ
ノデアリマス、從來ハ何モ此ノ點ニ付
テ規定ガナカツタノデアリマス、仍テ
財團目錄ニ記載ノアル財產ガ紛レ出タ
ヤウナ場合ニ於キマシテハ、第三者ガ
卽時取得ニ依ツテ占有權取得ガ出來ル
カドウカト云フコトニ付テハ何モ明文
ガナイ、出來ナイトモ出來ルトモ何モ
書イテアリマセヌ、仍テ私共ハ後ニ許
シク述ベマスヤウニ、是ハ勿論適用ガ
アルノダ、唯財團ニ屬シテ居ルト云フ
コトノ事實ハ抹殺ハ出來ナイカラ、其
ノ結果トシテ、卽時取得者ノ權利ハ多
少ノ障碍ヲ蒙ムルケレドモ、併シナガ
ラ勿論權利ハ取得スル、只モンメデ返
セト云フコトハ言ハルベキ筋合ノモノ
デハナイト云フヤウニ、私共ハ昔カラ
考ヘテ居ツタノデアリマス、若シ此ノ
政府ノ此ノ案ガ此ノ儘通ルト云フコト
ニナリマスト、政府ノ御說明ト相俟ツ
テ.原則ノ場合、卽テ財團目錄ニ記載
ノアル場合ニハ、卽時取得ノ規定ノ適
用ガナイト云フコトニナルノデアリマ
スカラ、ソレヲ善意デ取得シテモ直グ
取戾サレル、幾ラ代金ヲ支拂ツテモ毫
モ賠償サレルコトハナイト云フヤウナ、
危險千萬ナルコトニナルノデアリマ
ス、果シテソンナ事ガ常識上考ヘラレ
マセウカ、成ル程財團目錄ト云フモノ
ニ記載ハアルト云フ話デアルガ、全國
ノ財團ガ幾ツアルカ存ジマセヌガ、非
常ナ數ノ工場財團等ノ財產ガアル譯デ
アリマス、之ニ先程謂フ所ノ各個ノ物
件ト云フモノハ、又一ツノ財團每ニ何
千トカ何萬トカアリ得ルノデス、先程
モ述ベマシタヤウニ人ノ頭ヨリ高イ程
ノ財團目錄ト云フモノガアル、動產ヲ
何處カデ買ヒマス場合ニ、一々全國デ
幾ツアルカ知ラヌ財團ヲ駈ケ廻ハリマ
シテ、其ノ財團目錄ヲ調べテ見テ、
是ハ番號ガ合フカドウカト調ベテ買
フトナツタラバ、恐ラクハ一ツノ機
械ヲ買フ爲ニ何年間ヲ費スダラウト
思フ、左樣ナコトハ出來ルモノデハ
ナイ、財團目錄ノ記載ガアル財產デア
ルカラト言ツテ、其ノ動產ノ場合ニ何
モ印ガツイテ居ル譯デモ何デモナイ、
又印ヲツケルコトモ出來ナイ、サウス
ルト第三者トシテハドウモ是ハ工場
デ何處カデ使ツテ居タカモ知レヌト云
フヤウナ機械、中ニハソレ等ノウチニ
ハ賣ツテハ非常ニ高イモノガアル、中
古品ガ澤山出テ居ル、例ヘバ旋盤トカ、
或ハ「フライス」盤トカ、計算機トカ
何トカ云フモノ、或ハ發動機ト云フヤ
ウナ、惡クスルト十萬圓以上モスルヤ
ウナ機械ヲ買フ、ウツカリ買ヘナイデ
ス、非常ナ高イ代金ヲ拂ツテ買ヒマシ
テ、良イ氣ニナツテ工場へ据ヱ付ケテ
置クト、何處ヤラカ別ノ人ガ來テ、イ
ヤ、是ハ私ノ所デ拵ヘタ工場財團ノ財團
目錄ニ記載ノアルモノダ、オ前サンハ
善意取得者トシテ之ヲ取得スルコト
ハ出來ナイノダカラ、幾ラ御代ヲ出サ
レタカソンナコトハ知リマセヌガ御
返シナサイ、ト言ツテ只持ツテ行ツテ
シマフ、斯クノ如キコトガ常識上出來
テハ到底ウツカリ動產ハ買ヘナイ、先
ヅ各種ノ財團、卽チ工場財團トカ、鑛
業財團トカ、鐵道財團トカ色々ナ財團
ガアツテ、其ノ財團ノ種類ニ應ジテ屬
シテ居ルモノノ種類モ非常ニ多イ、現
ニ在ルダケノ財團デ見マシテモ、於
幾ツサウ云フモノガアルカ存ジマセヌ
ガ、恐ラク數十萬トカ或ハモツト餘計モ、
サウ云フ機械トカ色々ナ財團目錄ニ記
載ノアルモノガアラウト思フ、若シサ
ウ云フモノデアツテ、其ノコトヲ知ラ
ズニ、其ノ筋ノ商賣人カラ是ハ大丈夫
ナノダト思ツテ買ツテ居ルト、豈圖ラ
ンヤ只デ取戾サレテシマフ、其ノ賣ツ
タ商人ノ所ヘ行ツテ談判シテモ、ソレ
ハ大シタ資力モ無イ者ナノデ、ドウモ
仕方ガナイト云フコトニナリマシテ
ハ、其ノ動產ヲ取得シタ者ノ保護ハ餘リ
ニモ無イコトニナル、ソンナ事ガ常識
上考ヘラレルコトデアルカ、殆ド考ヘ
ラレナイコトダト私ハ考ヘルノデアリ
せっ、加之、サウ云フ取戾シヲ食フト
云フヤウナコトハ實際ハ是ハ滅多ニ
アリマスマイ、サウ無暗ニ盗ミ出サレ
タモノトカ、紛レ出シタモノトカガ、
ソコラニアル譯デハアリマセヌガ、サ
ウ云フ物ハ少イデアリマセウガ、只今
中シタヤウニ、何時取戾サレルカ分ラ
スト非常ナ注意ヲ拂ハナケレバナラヌ
コトニナリマシタナラバ、サウ云フ物
ヲ買ヒマス際ニハ、相當而倒ナ注意ヲ
シナケレバナラヌ、注意ヲシテモ尙且
取戾サレルヤウナコトモアリ得ル、少
クトモ非常ニ怖ガツテ、怖々、非常ナ
時間ヲ掛ケ手數ヲ掛ケ、調査ヲシテ始
メテ買ヘルト云フコトニナルノデアリ
マン、動產ノ卽時取得ノ規定ハ、左樣
ナ面倒ナコトヲシナイデ、自分デ善意
デ公然ト其ノ筋ノ商人ナドカラ買ツタ
場合ニハ大丈夫ダト云フ保護ヲ、民法
ガ與ヘテ居ル、其ノ民法ノ保護ガアル
カラ安心ヲシテ取引ガ出來ルノデス、
取引ガ迅速ニ出來、安全ニ出來ルノデ
ス、然ルニ其ノ規定ハ、偶こ何處カノ
財團目錄ニ記載ノアル財產ニハ適用ガ
ナイト云フコトニナリマシテハドノ
財產ガ果シテ財團目錄ニ記載ノアルモ
ノカ、何ニモ印モナイシ分リツコハナ
イノデス、ソンナ物ヲ一々買フ時ニ非
常ニ危イノデ、マア安イ物ナラバ、取
戾サレテモ宜カラウト云フ位デ度胸ヲ
据エテモ居ヨウガ、少シ高イ物、餘リ
大キクナイヤウナ此ノ頃ノサウ云フ中
小工場ナンゾガアリマスガ、ソンナ工
場ナドデ、一ツ數萬圓モスルヤウナ旋
盤トカ云フヤウナモノヲ、中古ダガ大
丈夫ラシイト、商人ガ持ツテ來タモノ
ヲ買ハフトシテモ、是ハ餘程躊躇シテ考
ヘタリ色々シナケレバ買ヘナクナル、
サウ云フコトニ依ツテ動產ノ取引ハ圓
滑ヲ缺キ、迅速ヲ缺キ、民法ガ折角保
護シテ居ルコトガ全部無クナツテシマ
フ、左樣ナコトガ常識上考ヘラレマセ
ウカ、私ハ是ハ考ヘラレナイコトデア
ル、左樣ニ考ヘナケレバナラヌ立法ヲ
特ニシテ居ルナラバ兎モ角、明文モ何
ニモナイ、ドウシテサウナルノカ、加
之今度ノ此ノ案ガ通リマスト、一括
表示ノ場合ニハ全面的ニ卽時取得ノ規
定ノ適用ガアルト思フガ、財團目錄ニ
一ツ〓〓書イテアル方ニハ適用ガ全然
ナイト云フコトニナル、其ノ間ノ餘リ
ノ縣隔ガ、實ニ我々トシテハ到底考ヘ
ラレナイノデス、偶く財團目錄ニ一ツ
一ツ書イテアツタカラ是ハ適用ガナ
イ、一括ノ方デ書イテアツタカラ卽時
取得者ノ方ノ規定ノ適用ガアル、サウ
云フコトハ殆ド考へラレナイ、機械ヲ
見テモ、一括表示ノ機械カ、財團目錄
ニ記載ノアル機械カ、將又財團ノ關係
ノナイ機械カ、何處ニモソンナコトハ
書イテモ何ニモナイ、分リハシナイ、
サウ云フコトニナツテ、此ノ機械類ヤ
ナンカノ取引ガ出來ルト御考ニナルノ
ハ餘リニモ實際ニ反シタ考デハナカ
ラウカ、先程モ申述べマシタヤウニ、
サウ云フヤウナ怪シゲナモノハサウ澤
山アル譯デハアリマスマイ、何千ト云
フ機械ノ中ニ、偶ミ一ツノ機械ガ盗ミ
出サレタモノデアツタ、財團日錄ニ書
イテアツテ盜ミ出サレタモノデアツ
タ、ト云フヤウナコトカモ知レマセヌ
ガ、併シサウ云フヤウナ場合ニハ只
取上ゲラレルト云フコトガアル結果ト
致シマシテ、サウ云フ機械類ノ取引ハ
非常ナ阻碍ヲ受ケテ、減多ニハ買ヘナ
イト云フコトニナルノデアリマス、例
ヘバ近頃相當頻々ト東京等ニ空襲ガゴ
ザイマスガ、空襲ニ依ツテ燒夷彈ナン
ゾヲ落サレル家ハ極メテ少イノデアリ
やっ、併シナガラ空翼ガアルオ〓デ我
我ハナカ〓〓夜ハ寢ラレナイ晩ガ相當
アル實ニ米惑千萬ニ考ヘテ居リマ
ス斯ウ云フ立法ヲナサルトサウナ
ル、成程損ヲシテシマツテ只取戾サレ
ルト云フ具體的ノ事件ハ、是ハサウ滅
多ニハナイカモ知レヌガ、是ハ何時取
戾サレルカ分ラヌ、マア度胸ヲ決メテ
買ハフカトカ、イヤドウシヨウト云フ
ヤウナコトヲ考ヘナケレバナラヌ、サ
ウナツテハ機械類ヤナンカノ賣買取引
ト云フモノハ非常チ阻碍ヲ受ケル、サ
ウ云フコトノナイ爲ニ、民法ハ卽時取
得ノ規定ヲ設ケテ、卽時取得ノ用。完ハ
如何ナル場合ニモ適用ガアル動產デ
アル限リ適用ガアルトシテ居ルノデア
ル、然ルニ偶、く財團目錄ニ記載ガアツ
タ、ソレハ全國ニ數十萬モサウ云フ記
載ノアルモノガアラウト思ヒマス
偶くサウ云フモノデアツタト云フガ故
ニ取戾サレル、サウ云フコトノ例外ヲ
設クベキ立法上ノ理由ハ何所ニ在ル
カ、私ハナイト思フ、玆ニ於テカ私ハ、
其ノ解釋ハ問違デアラウ、何處ニモ卽
時取得ノ規定ノ滴用ガナイト言フ、勿
論適用ハアルダラウ、併シナガラ財團
ノ構成カラ離レルト云フ規定モ、古接
ニハナイカラ、財團ノ組成分子タルコ
トモ矢張リ同時ニ存スルダラウ、サウ
云フ偶〓財團目錄ニ記載ノアル物件ヲ
善意デ取得シタモノハ勿論其ノ所有
權ヲ取得スルノデハアルガ、併シナガ
ラ一方ニ於テ抵當權ノ效力ガソコニ間
接ニ及ンデ居ツタ所以ノ拘束ト云フモ
ノハソレアルガ故ニ解ケルベキ道理
ハナイ、是ハ解ケルト云フコトガ書イ
テアル、卽チ此ノ十五條ノ二項ノヤウナ
ノハ解カス爲ニ書イテ居ルノデス、
サウ云フ特別ノ明定ノナイ限リハ解
ケル理由ハナイノデアルカラ、從ツテ
財團ノ組成分子デアルト云フコトハ抹
殺サレナイ、併シナガラ其ノ所有權
ハ善意取得者ハ之ヲ取得スルト云フ
ヤウニ解スベキモノト思フノデアリマ
ス其ノ結果ガドウナルカト申シマス
ト、若シ此ノ財團ガ抵當權ノ行使ニ依リ
マシテ處分ラサレマス時ニハ、其ノ處
分ニハ喰ツ付イテ行カナケレバナラ
又、財團ノ組成分子タルコト自體ハ
卽時取得ヲシテモ別ニ無クナル譯デハ
ナイカラ、若シ財團ガ抵當權ノ行使ニ
依ツテ他ニ賣ラレタト云フ時ニハ其
ノ白分ノ財產ガ賣ラレテ行ツチマフト
云フコトニハ是ハ財團ノ組成分子タ
ルコトガ解ケナイコトノ結果サウナ
ル、然ラバソレデモ隋分危クハナイカ
ト申サレルコトガアリ得ルト思フノデ
スガ、是ハ決シテ左樣デハナイノデ
ス若シサウ云フヤウナ抵當權ノ行使
ガアツテ、財團ト共ニ其ノ物件ガ他ノ
所有ニ賣ラレテシマフト云フヤウナコ
トガアツタナラバ、恰モ白分ノ財產ヲ
第三者ノ〓務ノ擔保ニ供シテ居ツタ人
ト同ジ地位ニ其ノ人ハ立ツ、成ル程自
分ノ財產ヲ仙ノ人ノ〓務ノ擔保ニ供シ
テ居リマスカラ、若シ此ノ擔保權ガ行
使サレテ賣ラレテシマヘバ是ハ仕方
ガアリマセヌ、仕方ハナイガ、併シナ
ガラ求償權ヲ持ツテ居リマス、自分ノ
物ヲオ前ノ爲ニ擔保ニシテ置イテヤツ
タ、處ガ賣ラレテシマツタカラ、其ノ
アレヲ寄越セ、代金ニ相當スルモノヲ
寄越セト云フコトガ言ヘル譯デアリマ
ス若シ其ノ抵當權ヲ行使サレタヤウ
古墳)サウ云フコトニ依ツテ十分ナ
相當ノ保護ガ少クトモアルノデス、此
ノ卽時取得ノ理定ガ適用ガナイト云フ
政府ノヤウナ考デ其ノ場合ニ處シタナ
ラバ、只取上ゲラレルノデアリマス
ガ、其ノ場合ニハ白分ノモノヲ賣ラレ
レバ其ノ代償ハ求償シテ取レル譯デア
リマス、加之抵當權ノ其ノ行使ガ行
ハレルト云フコトハ殆ド實際ニ於テ
ハ無イト云ツテモ宜シイノデアリマ
ス、日本ノ實際ニ於キマシテ、恐ラクハ
小サナ工場抵當等デ抵當擂ガ行使サレ
タコトハアルカモ知レマセヌ、併シ私共
ハソレハ餘リ聞イテ居リマセヌ、何故其
ノ行使ガ減多ニナイカト申シマスト、莫
大ナ財產ニ對シテ債權額ハ極メテ小ナ
ルコトヲ常トスルノデス、例ヘバ三千
萬圓ナラ三千萬圓ノ社債ニ對シテ、擔
保ニ入レラレタ工場ト云フヤウナモノ
ハ何億ト云フ値打ノアルモノガ入レラ
レルト云フノガ實際デアリマス、
先程チヨツト申述ベタヤウニ、成ルベ
ク總テノ會社ノ營業財產ヲ皆擔保ニ入
レサスト云フコトガ實際ニ行ハレテ居
ルカラ、ダカラシテ、抵當權ガ行使サ
レルト云フヤウナコトハ殆ド無イ、而
シテ此ノ抵當權ノ設定契約ニハ必ズ條
項ガアリマシテ、抵當權者タル債權者ハ
何時デモ財團目錄ト實物トヲ照シ合セ
ラレル、檢査ニ行クト云フコトガ出來
ルヤウニナツテ居リマス、是ハサウシ
テ置カヌト、知ラヌ間ニ他へ賣ツテシ
マフトカ、或ハ他ヘハ賣ラヌケレドモ自
分ノ家へ持ツテ歸ツテ使ツテ居ルト云
フヤウナコトニナツテ、工場ニハ置イ
テナイト云フヤウナコトニナツテハ
困リマスカラ、抵當權設定契約ニ於
キマシテハ嚴重ナ規定ガアツテ、其
ノ財團組成ノ物件ヲ常ニ監視シテ、
サウシテ有ルカ無イカヲ調べ得ルト云
フコトニシテ居リマス、サウシテ若シ
其ノ組成ノ財產ノ一ツナリトモ缺ケテ
居ツタナラバ其ノ設定契約ニ依リマ
シント、代リノ物ヲ入レサセル、而シテ
ソレト同時ニ前カラノ物ハ其ノ財團カ
ラ除イテシマフ、財團目錄ヲ變更シ
テ、前ニ入ツテ居ツタ物ハ何處ニ在ル
カ分ラヌ、或ハ社長ノ家へ持ツテ歸ツ
タノカモ知レヌシ、或ハ誰カ盜ミ出シ
テ何處カヘ行ツテ居ルカモ知レヌ、ソ
ンナコトヲ穿鑿スル必要ハナイノデ、
マアソレハ除ケ、無イノダカラ除ケ、
其ノ代リノ品ヲ入レロト云フコトニナ
ツテ居ル、若シソレヲ入レルヤウナコ
トヲ怠レバソレハ契約違反ニナル、
必ズ其ノ場合ニハ、全部ノ債權ガ直チ
ニ期限ニ至ルト云フヤウナコトニナル
ヤウニ、契約ハナツテ居リマス、デア
リマスカラ、ウツカリ外ヘ其ノ財產ガ
出テハ大變ナンデス、抵當權設定者タ
ル債務者ハ、始終餘程氣ヲ付ケテ居ナ
イト、若シソレガ紛レ出テデモ居レ
バ、是ハイカヌカラ之ヲ直グニ除イテ
代リノ品ヲ入レロト言ハレマスカラ、
非常ナ注意ヲ要スル、若シ抵當權者ガ
此ノ契約上ノ權利ヲ行使シナイ、モウ
信用ヲシチヤツテ檢査モ何モシナイト
云フコトニナレバ、或ハ其ノ工場主ガ
惡イ人間ナドデアル場合ニハ何カノ事
ガ起ルカモ知レマセヌ、併シソレハ抵
當權者ガ自己ノ權利ノ上ニ眠ツテ居ル
ノデ、左樣ナ者ヲ保護スル必要ハ何モ
アリマセヌ、之ニ反シテ善意ノ取得者
ノ方ハ、先程述ベマシタヤウニ財團目
錄ニ記載ノアル財產ダカラト云ツテモ
何モ印ハナイノデスカラ、ソレデ宜イ
モノト思ツテ買フト、取戾サレテシマ
フ、スツカリ損ニナル、サウナツテハ
到底ウツカリ機械ヤ何カノヤウナ物ハ
買ヘナイト云フコトニナルノデアリマ
ス、此ノ頃ハ殊ニ御承知ノ如ク、機
械旋盤トカ「フライス」盤トカ其ノ他
ノ色々ナ櫞械トカ、或ハ發動機トカ
計算器トカ云フヤウナ色々ナ物ハ非常
ニ缺乏シテ居リマス、仍テ新タニ工場
ヲ擴張スルトカ或ハ新タニ工場ヲ作ル
ト云フヤウナ場合ニハナカ〓〓新品
ヲ揃ヘルコトハ勿論出來ナイ、先ヅ其ノ
向ノ商人カラ古機械ヲ買ハナケレバナ
ラヌ、此ノ場合ガ此ノ頃ハ非常ニ多
イ、此ノ古機械ヲ安心シテ買ヘルト云
フコトニシナケレバ、ウツカリ買ヘナ
イト云フコトニシタナラバ、工場ノ擴
張トカ工場ノ新設ト云フコトハ甚ダム
ツカシクナルノデアリマス、處ガ政府
案ハ、苟モ財團目錄ニ記載ノアル財產
ナラバ幾ラ高イ金ヲ出シテ買ツタノ
デモ只取上ゲテシマフト云フコトニス
ルンダ、サウ云フ從來解釋デアツタ、
將來ハ其ノ事ヲ明文ヲ以テ明カニスル
ノデアルト仰シヤル、サウ云フコトデ
是カラ先ノ產業ノ發展ヲ圖ルコトガ出
來マセウカ、是ハマア由々シキ大事デ
アルト私ハ考ヘルノデアリマス、尙私
ノヤウナ考デ、抵當權ノ效力ガ間接ニ
及ンデハ參ル、併シナガラ其ノ事ハ善
意取得ト云フコトト相妨ゲルモノデナ
イ、兩々相存スルノダト云フコトニ付キ
マシテハ後ニモ或ハ修正案ノ說明等
ニ於テ申述ベルカモ知レマセヌ、先ヅ
其ノ位ニシテ置キマスガ、ソコデ政府
ハ一體何故、從來ノ財團目錄ニ記載ノ
アル財產ニハ卽時取得ノ規定ノ適用ガ
ナイト云フ解釋ヲ、ドウシテモ一體御採
リニナツテ居ツタノカト云フコトヲ伺
ツテ見マスト、政府委員其ノ他ノ政府
當局ノ理由トシテ御答ニナルコトハ
先ヅ二ツデアリマス、其ノ一ツハ委
員長ノ仰セラレマシタヤウニ、四十年
前ノ當院ノ委員會ノ速記錄ヲ見ルト、
卽時取得ノ規定ハ適用ガナイト云フヤ
ウニドウモ讀メルト云フ御話デアリマ
スドウモヲカシイト思ツテ私モソレ
ヲ見セテ戴クト、其ノ事ヲ直接ノ問題
トシテ餘リ論ジテ居リマセヌ結果、其
ノ速記錄ニ書イテアル所ヲ拜見スルト
チヨツト分リニクイ、左樣ニ誤讀ヲ若
シナサレタトスレバ、ソレモ無理カラ
ヌ點モアリマス、併シナガラ又他ノ
方ニ於キマシテハ、當時ノ政府委員ナ
ドノ御答ハ、ドウシテモ私ノ解シテ居
ルヤウニ矢張リ適用ガアルンダト見ナ
ケレバ讀メナイヤウナコトモ言ツテ居
ラルヽ所ガアルヤウデアリマス、要ス
ルニ此ノ速記錄ノ記載ト云フモノデハ
當時ドツチノ說ヲ採ツテ居ラレタカ私
ハ分ラヌト云フノガ公平ナ所ダト思ヒ
そう、政府ノ方ノ方々ハ、イヤソレハ
適用ナシト云フ說ヲ採ツテ居ツタコト
ハ明瞭ダト、或場合ニハ或ハ言ハレタ
カモ知レマセヌガ、私ハ公平ニ申ス
ト、曖昧デアルト思ヒマス、デ或委員
會ノ場合ニ於キマシテ、私ハ若シ其ノ
速記錄ノ記載ガ、明瞭ニ適用ナシト云
フコトニ言ツテ居ルノナラ、其ノ場所
ヲ一ツ示セルノナラ示シテ御覽ナサ
イソレヲ示サレレバ、私モ速記錄ヲ
取寄セテ、サウデナケレバ解釋ノ出來
ヌヤウナコトガ書イテアル所ヲ示シ
テ、一ツ論ジテ見テモ宜シイ、併シ四
十年前ノサウ云フコトヲ今論ズルノハ
餘リサウ必要モナイト思フガ、若シサ
ウ云フコトヲ速記錄ニ付テ論爭ヲサレ
ヨウト言フノナラ、ヤツテ下サイマ
シト云フコトヲ申シマシタ處ガ、政
府委員ハオヤリニナラナカツタ、オ
ヤリニナツタラ非常ニ細カイ色々ナ
詰ラナイ議論ヲ恐ラクシタノダラウ
ト思フ、ソンナコトハ私ニ言ハスト詰
ラヌ議論デス、四十年前ノ立法當時ニ
ソレニ與ツタ人ガドンナ考ヲ持ツテ居
ツタカ、其ノ速記錄ニ記載ノアル當時
ノ發言者ノ方々ハ、不幸ニシテ今ハ一
人モ私ノ見タ所デハ居ラレヌヤウデア
リマス、此ノ方々ノ御意見ハ當時ドウ
デアツタト云ブコトヲ伺フノハ不幸
ニシテ絕對ニ出來ナイコトデアルノデ
アリマス一體サウ云フモノヲ色々探
シ出シテサウシテ議論ヲスルト云フコ
トハ、是程愚ナコトハアリマセヌ、凡
ソ法律ヲ解釋スルニ當リマシテハ常
識ト條理ニ照シテドウアルベキダト云
令フコトヲ、先ヅ大體ノ見當ヲ付ケマシ
テ、サウシテ今度法律ノ明文ヲ見テ、
其ノ明文上ニサウ云フコトガ言ヘルカ
言ヘヌカ、サウ云フ解釋ガ出來ルカ出
來ナイカト云フコトヲ見ル、而シテド
ウモマダドツチデモ宜ササウダト云フ
ヤウナ時ニ、多少ノ重ミヲ附ケル爲
ニ、立法當時ノ速記錄ナント云フモノ
ヲ引出スノデアリマス、昔ハ「ドイツ」
アタリデモ立法當時ノ速記錄或ハ政府
ノ出シタ理由書ト云フヤウナモノニ相
當重キヲ置クヤウナ解釋ノ學說ガアリ
マシタ、併シ其ノ學說ハモウ非常ナ間
違ツタモノトシテ疾ニ先ヅ大多數ノ學
者ニ依ツテ排斥サレテ居リマス、何ト
ナレバ立法當時、例ヘバ「フランス」民
"
法ノ如キハ、百何十年前ノ立法殆ド其
ノ儘ガ大部分行ハレテ居ル、百何十年
前ノ立法ノ當時ニドウ云フ趣意デ論ジ
テ居ツタカナドト云フコトヲ取ツテ言
ヒマシテモ、今日ノ解釋ニ何ノ役ニモ
立チマセヌ、仍テ其ノ速記錄ノ如キモ
ノニ重キヲ置クノハ間違ヒダ、理由書
ナドニモ重キヲ置イテハイケナイト云
フコトガ、法律解釋ノ學說ノ通說デア
ルト言ツテ宜シイト私ハ考ヘテ居リマ
ス、ソンナヤウナコトデ、此ノ速記錄
ニ當時アツタナドト云フヤウナコト
ハ理由ニナラヌ、齒牙ニ懸クルニ足
リナイ理由ダト私ハ思ツテ居ル、而シ
テ政府委員ノ御說明ニ依ルト、當時サ
ウ云フ考デ、常ニ左樣ニ解釋ヲシテ來
タガ、今迄一週モ裁判事件ナドハナイ
ト云フコトヲ言ハレテ居ル、ダカラソ
レデ宜シイト言ハレテ居ルガ、此ノ位
獨斷說ハナイ、第一當時ソンナ考デア
ツタカドウカト云フコトハ、何モ發據
ガナイ、サウ云フ意見ガ四十年間モ續
イテアツタナドト云フコトハ何處ニ
證據ガアリマスカト伺フト、ソレハチ
ヨツト意見ニ窮シテ、證據ヲ御出シニ
ナル譯ニ行カヌヤウデス、是ハ當リ前
ノコトデス、若シ財〓目錄ニ記載アル
事項ニ付テハ卽時取得ノ規定ノ適用ガ
ナイト云フヤウナコトガ、若シ私
ハセルト、常識ニ反シタコトデアツタ
ナラ、又サウ云フ解釋ガアツテソレガ
行ハレテ居ツタトシマシタラ、事件ハ
澤山出來ル譯デス、何トナレバ、財國
目錄ニ記載アル財產ガ何處カニ紛レ出
シテ居ル、唯カガ持ツテ居ル、是ガ只
取ツテ戾レルト云フコトナラ、取ツテ
來ル、向フハ之ヲ只取ラレ。ル理由ガナ
イ、自分ハ善意デ取得スベキモノダカ
ラト云フノデ必ズ爭フダラウ、玆ニ
於テ事件ガ出來ルダラウ、若シソンナ
變挺子ナ說ガ四十年來行ハレテ居ツタ
トスルナラバ、ソンナ事件ガ無シニ濟
ム譯ハアリマセヌ、事件ガ無シニ濟ン
デ居ツタト云フコトハ卽チ私ノ解ス
ルガ如ク、適用ガアツタカ、適用アリ
ト少クトモ皆ガ信ジテ居ツタカラダ、
ト言ハザルヲ得ナイノデアリマス、デ
卽時取得ノ規定ノ細カイコトハ、是八
素人ノ方ハ承知ハサレテ居リマスマ
イ、併シナガラ凡ソ動產ニ付テ、何處カ
ラ來タカ、唯ガ持ツテ居ツタカト云フ
コトノ分リニクイ轉々サレル所ノ動產
ニ付テハ、是ハ善意デ、無過失デ之ヲ
取得スレバ極ク公然平穩ニ取得スル
以上、誰カラモ苦情ガ言ハレヌモノデ
アル、盜品デアツタ場合デモ、拂ツタ
代金ハ戾シテ貰ヘルモノデアルコト位
ハ是ハモウ一般生活ノ通則デアリマ
スルカラ、誰デモ左樣ニ考ヘテ居リマ
ス、而シテ先程申シタヤウニ、財團目
錄ニ記載ノアルモノデアルカドウカハ
見タツテ分ラヌデスカラ、ソンナ變ナ
コトデ、財團目錄ニ記載ノアツタモノ
ニ付テハ適用ガナイノダト云フヤウナ
コトハ、法律家ノムツカシイコトヲ考
ヘル方ハ或ハ色々ノ理窟ヲ附ケテ御考
ヘニナルカモ知レマセヌガ、先ヅ通常
ノ人ハ考ヘマセヌト私ハ思ヒマス、從
ツテ四十年間何モ問題ハナイ、私ハ多
少斯ウ云フコトハ注意ヲシテ居リマス
ガ、一遍モ裁判ナドトナツタヤウナコ
トハナイヤウデス、當リ前ダト思フ、
而シテ皆ガサウ云フコトヲ考ヘテ居ツ
タカラサウ云フ變ナコトハ起ラナイ、
之ニ反シテ、適用ガナイト云フコトガ
本當デアルト斯ウ云フ說ガ行ハレテ居
ツタトシタラ、誰カ取ツタ奴ノ所ニ直
グ行ツテ取戾シテ來ルト云フコトハ、
屢く行ハレナケレバナラヌコトデアリ
やっ、必ズヤ事件ガアツタラウト思
フ、ソレデ政府ノ御說明ノ理由ノ一ツ
ハドウモサウモ讀メルシ、假ニサウ
讀メタトシテモ何ノ役ニモ立タヌ話デ
アル、モウ一ツノ方ハ、四十年間左
樣ナ說ガ行ハレテ一向差支ナカツタ
ナドト言フコトハ、是ハ私ノ考ヘデハ
餘リニ常識ニ反シタコトデ、サウ云
フコトハ考ヘラレマセヌ、ドウカサ
ウ云フコトガアルナラ、行ハレテ居
ツタト云フ證據ヲ見セテ戴キタイト
中スト、別ニ御見セ下サラヌ、政府
ガ其ノ適用ノナイト云フ說ヲ支持ナ
サル所ノ理由ハ、只今ノ二ツ位シカ
ドウモナイヤウデス、御述ニナツテ居
ラレマセヌ、若シ色々御述ニナツダナ
ラ私モ質問ヲ重ネテ其ノ誤リデアルコ
トヲ示シ得タカト思ヒマス、處ガ御述ニ
ナツテ居ラヌ、然ルニ此ノ私ノ修正案
ノ討論ヲ爲スニ當ツテ、只今委員長カ
ラ御報〓ノアツタ通リ、一委員カラ討
論ニ於テ反對意見ヲ述べラレマシタ
此ノ反對意見中ニハ色々ノ理窟ヲ竝ベ
立テラレマシタ、今委員長ハ何デモ幾
ツトカ仰シヤイマシテ、七ツトカ何ト
カ仰シヤツタヤウデスガ、私モ能ク記
憶シナイ、色々ト言ハレタヤウデアリ
やく、若シ斯ウ云フコトガ政府委員ニ
依ツテ言ハレタナラ、私ハ質疑應答ヲ
重ネテ、其ノ誤リデアルコトヲ明カニ
シ得タカト思フノデアリマスガ、不幸
ニシテ討論ニ當ツテサウ云フ御說ガ出
タノデアリマス、反駁ヲスルヤウナコ
トハ先ヅ出來ナイ、ヽ私ノ修正案ノ說明
ハ之ヲ以テ一ツノ討論ト見ルカラ、
討論ニ對シテ更ニ討論スルコトハイケ
ナイト云フ御話デアリマシテ、是ハ御
尤ト思ツテ、私ハ討論ヲ控ヘマシタ、
唯多少此ノ說明ノ補充ヲ致シマシタ、
ソレダケデアリマス、其ノコトハ委員
長カラ御報告ヲ伺ツタ通リデアリマ
スデ、此ノ一委員ノ御擧ゲニナツタ
コト、多少委員長ノ仰シヤルコトト違
ツテ來ルカモ存ジマセヌガ、マア主ナ
モノヲ見マスト、矢張リ四十年前ノ速
記錄、四十年間サウ云フ解釋デアツタ
ト政府ノ言ハレルコトガ主ナヤウデア
リマス、是ハモウ旣ニ駁撃シマシタノ
デ申ス必要ハアリマセヌ、次ニ第五條
ト云フ規定、是ハ私ノ修正案ニ於キマ
シテ今度第二項デ準用シヨウト思ツテ
居ル此ノ規定、此ノ規定ガアツテ、工
場抵當法中ニ斯ウ云フ規定ガアツテ
サウシテ「民法第百九十二條乃至第百
九十四條ノ適用ヲ妨ケス」ト云フコト
ヲ第五條第二項デ書イテ居ル、然ルニ
財團目錄ニ記載ノアル場合ニ付テハサ
ウ云フ規定ガナイ、サウシテ見ルト、
第五條ノ時ハ規定ノ適用ガアルカモ知
レヌ、反對解釋トシテ、財團目錄ニ記
載ノアル場合ニ付テハ適用ガナイノダ
ト云フ御議論デス、是ハ實ニ驚クベキ
御議論デアツテ、第一ニ第五條ノ規定
シテ居ルノハ、財國目錄ニ·····財團ト
關係ノアル規定デモ何デモナイ、具尺
我々ガ所謂簡易工場抵當ト申スモノデ
アツテ、何モ財團ヲ作ルノデモ何デモ
ナイ、工場ノ建物ト云フヤウナモノヲ
抵當ニ入レマスト、當然建物ノ中ニア
ル器具機械ヤ何カガ、當然抵當權ノ效
力ガソレニ及ンデ參ルト云フコトヲ定
メテ居ル、財團ヲ作ルナント云フ面倒
ナコトヲヤラナイ、小サイ工場ト云フ
ヤウナ所デサウ云フコトハヤツテ居
ル、其ノ場合ニハ民法ノ卽時取得ノ
規定ガ全面的ニ適用ガアツテ、サウシ
テ第三者ハ保護サレルト云フコトヲ書
イテアル、處ガ財團目錄ニ記載ノア
ル、卽チ財團ヲ構成シテ居ル場合ニハ
サウ云フ規定ガナイ、片方ニアツテ
片方ニナイカラト言ハレルノデスガ、
コツチノ方ハ、今ノ所謂簡易工場抵當
ノ場合ニサウ、云フ規定ヲ置イタ理由
ハ此ノ場合ニハ卽時取得ノ規定ガ全
面的ニ效力ガアツテ、抵當權ノ效力ガ
及ブトシテ居ル、第一項ノ規定ヲ全部
排斥スルト云フ意味デサウ云フ規定ガ
サレテ居ル、處ガ財團目錄ニ記載ノア
ル場合ニ付テハ先程述べマシタヤウ
ニ全面的ニハ排斥出來ナイ、抵當權
ハ抵當權トシテノ働キハ矢張リ間接
ニ及ンデ來ルノデス、仍テサウ云フ規
定ガナイ、サウシテ是ハ物ガ違フノデ
ス、全ク物ガ違フノデ、何カ同ジ物ニ
付テ、或場合ニ付テハ規定ガアルガ他
ノ場合ニハ規定ガナイト云フナラ、ソ
レハ反對解釋モ出來ルカモ知レマセ
ヌ然ルニ物ガ全ク違フ、ソンナコト
ヲ言フト、マルデ別ノ法律カ何カニサ
ウ云フモノガアル、此方ニハナイカ
ラ、サウスレバドウモ適用ガナイ、ト
云フコトニナルノデ、殆ド了解ニ苦シ
ム論據ノヤウデアリマス、ソレカラ私
ノ第二トシタモノハ、卽チ抵當權者ノ
保護ガ甚ダ足リナイ、若シ適用ガアル
ト云フ論ヲ採ツタナラバ抵當權者タ
ルモノハ十分ナ保護ヲ受ケ得ナイ、ソ
レヂヤイカヌヂヤナイカト云フ御議論
デアリマス、併シ是ハ先程私述ベタヤ
ウニ、抵當權者ハ相當ノ保護ヲ受ケル
ノダト云フコトハ先程述べマシタカ
ラ餘リ長クナリマスカラ、此ノ點ハ
先程述ベタ所ニ讓リマス、卽チ抵當權
者ハ抵當權ヲ若シ實行スル場合ニ
ハ其ノ財產ヲ矢張リ他所ニ賣リ得ル
ノダサウ云フ保護ハアル、又抵當權
者ハ、先程述ベタヤウナ抵當權設定契
約ヲ終始調ベルト云フ權利ヲチヤント
持ツテ居ルノデスカラ、ソレデ十分保
護サレル、ソレヲヤラナイ奴ハ保護サ
レナイデモ是ハ仕方ガナイダラウト思
フ、ソレカラ次ニハ先程委員長モチ
ヨツト御紹介ニナリマシタヤウニ、工
場抵當法ノ第四十九條ニ罰則ガ書イテ
アリマス、原案デハ、今チヨツト述ベマ
シタ所謂簡易工場抵當ノ時デモ、又財
團目錄ニ記載ノアル物件ノ時デモ、此
ノ所有者、抵當權設定者ガ若シソレ
ヲ他人ニ讓渡シタナラ、斯ク〓〓ノ罰
ガアルト云ツテ刑罰ヲ科スル規定ガ、
原案ニハサウナツテ居ツタ、ソレヲ修
正ガアリマシテ、財團目錄ニ記載ノア
ルヤウナ場合ニ付テハ罰則ヲ取ツテシマ
ツタ、ソレデ罰則ノ適用ハ、先程述ベタ
簡易工場抵當ノ場合、卽チ第五條ノヤ
ウナ時ノ場合ダケニ殘シテアル、是ハ片
方ニハ卽時取得ノ規定ノ適用ガナイカ
ラダト云フ意味デ言ハレタヤウニ思ヒ
マス、併シ是モ亦非常ニヲカシナ話デ、
簡易工場抵當ノ時ハ其ノ工場ノ中ニ
在リマシテ抵當權ノ效力ヲ受ケル所ノ
モノハ工場主ハ之ヲ讓渡ス權能ヲ認メ
ラレテ居ル、ダカラソレヲ、併シ讓渡
スノハ抵當權者ヲ害スル所以ダカラ、
讓渡シタナラバ罰則デ刑罰ニ科スルト
云フコトニシテ居ル、併シナガラ、財
團目錄ニ記載ノアル財產ニ付テハ讓渡
スルコトヲ得ナイト法律ハ規定シテ居
リマス、ダカラ若シ讓渡シテモ法律上
無效デスデアルカラ、其ノ無效デアルト云
フコトデ宜イカラ、罰則ヲ敢テ其ノ場
合ニ適用シナイデ宜イト云フ趣意デ
其ノ原案ガ直サレタモノト私ハ解シ
テ居ル、其ノ直シタコトガ、善イカ惡
イカノ立法論ハ別トシテ、區別ガアル、
〓片方ハ讓渡ノ出來ルモノデアルカラ、
罰則デ、讓渡セバ罰スルゾ、片方ハ法
律デ讓渡ヲ禁ジテ居ルノデアルカラ
ソレヲ讓渡シテモ無效ナンダカラ罰則
ハナイ、而シテ或ハ其ノ一委員ノ御話
ハ讓渡ノ出來ナイモノダカラ卽時取
得ノ效力ハ及バナイノダ、詰リ卽時取
得ノ規定ノ適用ハナカルペキモノダト
云フヤウナコトヲ言ハレタノカモ知レ
ナイト云フヤウニ聞エマシタ、若シサウ
デアルトスルト、ソレ程變ナ話ハナイ、
讓渡ハ出來ナイ、讓渡シマシテモソレハ
無效ダ、デアルカラコソ卽時取得ニ依
ツテ是ハ取得サセルト云フコトガ必要
ナノダ、偶:讓渡ガ出來ナイガ故ニ寧
ロ卽時取得ノ規定ノ保護ヲ强ク與ヘナ
ケレバナラヌ筈デアリマス、其ノ場合
ニハ讓渡ガ出來ナイモノデアルカラ、卽
時取得ノ規定ノ適用ガナイナント云フ
コトハ何處カラサウ云フ論理ガ出ル
カ、何處カラサウ云フ論ヲ吐カナケレ
バナラヌコトニナルカ、私ニハ了解出
來ナイノデアリマス、ソレカラ、色々
アリマシテ一々申スノハナンデアリマ
スガ、工場財團ノ散逸防止ノ必要ガ多
イ今日ノ如キ時ニ於テハ殊ニ散逸ヲ
防止シナケレバナラヌ、サウスレバ工
場財團ノ目錄ニ書イテアルヤウナモノ
ハ第三者ガ取得出來ナイト云フコト
ニシナイトイカヌト云フ御話デアリマ
スガ、是ハ私ハ寧口逆ダト思フ、若シ
散逸シマシテモ、只モンメデ持歸ル、
取返シガ出來ルト云フコトニナレバ、
餘リ散逸ヲ氣ニスル必要ハナイ、工場
主ハ自己ノ工場所屬ノ財產ニ付キマ
シテ其ノ管理保全ノ爲ニソレ程注意
ヲ拂ハナイデモ、若シ誰カ盜ンデ行ツ
テモ、行ツタラ直グ追驅ケテ行ツテ、只
モンデ取ツテ歸レバ宜イト云フコト
ニナル、併シナガラ私ノ考ノヤウニナ
レバ善意ノ人ノ手ニ入ツタラモウ取
戾シハ出來ナイノデスカラ、盗品デア
ル場合ニハ金ヲ拂ハナキヤ取戾シガ出
來ナイ譯デス、ソレデハ工場主ハ堪ラ
ヌカラ、一生懸命ニ管理保全ニ注意ス
ベキ譯ダ、今日工場ノ財團ノ散逸防止
ノ必要ガ特ニ多イカラト仰シヤルナ
ラ、サウ云フコトノ適用ノナイナンテ
云フ御議論ハ寧ロナサラヌ方ガ宜イノ
ヂヤナイカト云フヤウニ考ヘルノデア
リマス、其ノ他色々ナコトガアリマス
ガ根本的ノ法律的ノ觀念ハ、抵當權
ノ存在ト卽時取得トハ相容レナイト云
フ頭カラ來テ居ルヤウデス、卽時取得
ト云フ方ハ、綺麗サツパリトシタ全部
ノ財產ヲ取ルノダ、其處へ何カ疵ノア
シヤウナモノデハ、卽時取得ニハ相
成ラヌ、卽時取得ト抵當權ガ何カ附イ
テ居ルト云フヤウナコトハ矛盾シタ
觀念ダト云フコトガ、一番根本ノ頭ノ
ヤウデアリマス、併シソレハサウ云フ
勝手ニ拵ヘラレタ〓念デ、ソンナ〓念
ガ何デ必要ナノカ、卽時取得ハ所有權
ヲ取得スル、所有權ハ完全ニ取得サレ
ル、唯偶〓財團ニ屬シテ居ルガ、結果
トシテ、財團ノ上ニ存スル抵當權ノ
働キヲ受ケテ參ルト云フコトハアル、
サウ云フコトト、所有權ヲ完全ニ取得
スルト云フコトハ一ツモ矛盾ハアリ
マセヌ、若シサウ云フコトガ矛盾ガア
ルト、詰リ抵當權ガ附イテ居ル時ニハ
所有權ガナイノダト云フヤウナコトニ
ナレバ、白分ノ財產ヲ人ノ爲ニ抵當ニ
附ケテ、先程申シタ所謂物上保證ト云
フヤウナ場合ニハ所有權白體ガ成立
チ得ナイヤウナ觀念デ、詰リ自ラ勝手
ニ作ツタ所ノ、抵當權ガ存在シテ居ルト
云フコトト卽時取得ノ規定ハ相容レナ
イノダト云フ勝手ナ〓念ヲ作ツテ、ソ
レニ依ツテ拘束サレル、斯クノ如キ論
ヲ稱シテ自繩自縛ノ〓調ト謂フ、理由ニ
ハ私ハナラヌヤウニ考ヘマス、マア其ノ
他委員長ノ御話デハ七ツ位アツダヤウ
デアリマスルガ、要スルニ大同小異ノ
考ノヤウデアリマシテ、私ハ餘リ採ル
ニハ足ラヌヤウニ思フノデアリマス
凡ソ法律ヲ解釋スルニ當リマシテハ
先程チヨツト申シマシタヤウニ、先ヅ
條理、常識ニ照シ、實際ノ便宜ヲ考ヘ
テ、斯ク解釋スルコトガ宜ササウダ、
斯ウアルベキモノデアラウト云フ所ニ
考ヲ附ケマシテ明文ヲ見テ、明文ガ
幸ニシテ其ノ考ト衝突シナケレバ其
處へ參ルト云フコトガ宜シイ譯デス、
實際ノ便宜トカ、條理ト云フ觀念ハ、
時代ニ依ツテモ變リマス、色々時世デ
變ツテ參ル、サウナルカラコソ百何十
年モ前ノ「フランス」民法ガ其ノ儘働キ
得ル、若シサウ云フ風ナコトヲ一ツモ
顧慮ニ入レナイデ、イヤ反對解釋ガド
ウダトカ、論理ガドウダトカ、何ダト
カ言ツテ居ツテ、或ハ字句ガドウダト
云フヤウナコトニ拘泥シテ居ツタナラ
バ實ニ不便極ル自繩自縛ノ解釋ニ陷
ツテシマフノデアリマス法律家ハ
動モスレバサウ云フコトニ陷ル弊ガ
アル、甚ダ殘念ニ思フノデアリマス、
私ハサウ云フヤウナ解釋ヲスル人ノ議
論ヲ稱シテ提灯論ト言ツテ居リマス、
非常ニ理窟ヲ言フ權助ガ居ツテ、ソレ
ニ其ノ主人ガ、權助提灯ヲ持ツテ來
イ、其ノ提灯ニ火ヲ點ケロト言ツタ
所ガ、權助曰ク、提灯ヲ持ツテ來イ、
其ノ提灯ニ火ヲ點ケロト云フコトニナ
ツタラ、提灯ガ澆ケテシマヒマス提
灯ノ中ノ〓燭ノ中ノ芯ニ火ヲ點ケロト
云フ意味デセウ、ト云フ理窟ヲ言ツ
タト云フコトヲ落語家ガ申シマス、法
律家ハ動モスルトサウ云フ提灯論ヲヤ
ル虞ガアル、是ハ止メテ貰ヒタイ、自
ラ何カ妙ナ形式論ニ囚ヘラレテ、或、
白ラ何カ〓念ヲ作ツテシマフ、抵當權
ノ存在ガ何カ片ツ方ニアル、片ツ方ニ
ハ卽時取得ガアル、是ハ相妨ゲルモ
ノデアツテ相容レナイト云フコトハ、
一ツノ〓念デアツテ、何モソンナコト
ハ考ヘラレマセヌ、加之、抵當權ガ直
接ニ存在スルノデモ何デモナイ、總テ
色々ナ反對論ガ是カラ出ルカモ知レマ
セヌガ、私ハ提灯論以外ニ、殆ド適用ナ
シトスルヤウナ議論ヲ支持スベキ論據
ハナイダラウト想像シテ居ルノデアリ
マン、何トナレバ、實際カラ申シテ機
械トカ器具トカ云フヤウナモノヲ買フ
時ニ、是ハイツ取戻サレルカ分ラヌ
ト云フヤウナ、危惧ガアツタナラ、到
底安ンジテ買フコトハ出來ナイノデア
ル、左樣ニ奇々怪々ナルコトハ、法律
家ハ或ハ考ヘルカモ知レマセヌガ、素
人ハ考ヘナイ、常識ノアル人ハ先ヅ考
ヘマイ、其ノ常識ノアル人ガ考ヘル所
ガ正當ナ解釋デアルト私ハ思フノデア
リマス、其ノ解釋ニ理由ヲ附ケ、其ノ
解釋ニ或規範ヲ與ヘルコトガ、法律解
釋家ノ任務デアルト信ジテ居ル、私人
少クトモサウ云フ流儀デ解釋致シテ居
リマス、ソコデ私ハ政府ノ採ラレタ前
提ハ、ドウシテモ誤リデアル、適用ナ
シト云フ議論ハドウ見タツテ誤リデア
ル、若シソンナ議諭ヲ取ツタラ、動產
取引ノ安全ハ缺ケテシマツテ、大變ナ
コトニナルト云フヤウニ解シマシテ、
仍テソレヲ直シタイ、一體政府ハ何故
適用ガナイト云フコトヲ明確ニスルヤ
ウナ、準用トカ云フヤウナ規定ヲ今度
拵ヘナケレバナラヌノカト云フコトヲ
伺ツテ見ルト、政府委員ハ少クトモソ
レニ對シテ御答蝉ガナカツタ、唯適用
ガナイト思ツテ書イタモノデ、偶然其
ノ適用ノナイト云フコトガ、法文ニ依
ツテ明確ニナツテシマツタ、飛ンデモ
ナイ話デ、詰リ政府ノ欲シテ居ツタ所
ハ此ノ一括表示ノ場合ニハ財團目
錄ニ記載ノアル場合ヨリハ、モウ少シ
强ク第三者ノ利益ヲ保護シヨウ、詰リ
卽時取得ニ關スル規定ヲ全面的ニ適
用シテ置カウト、卽チ言葉ヲ換ヘテ言
フト、抵當權ノ方ハ全ク物ヲ言ヘイナ
ヤウニシヨウト云フ趣意ニ外ナラヌト
云フコトハ、質問ヲシテサウ伺ツテ居
ル、其ノ事ダケヲ直接ニ三ロツテ置ケバ
澤山ナノデアル、後、トンデモナイ動
產取引ノ安全ヲ全面的ニ妨ゲルヤウナ
コトニスル必要ハ何處ニアルノデス、
ト云フコトヲ政府委員ニ伺フト御答
辯ハナカツタ、或ハ討論者ハ何カサウ
云フ必要ガアルト仰セラレルカドウカ
存ジマセヌガドウ考ヘテモ左樣ナ非
常識ノコトハ考ヘラレマセヌ、私ノ修
正案ハ、是ハ後若シ此ノ法案ガ第二讀
會ニ移リマシタナラバ、私ハ修正動議
ヲ發議シテ置キマシタガ、發議者トシ
テ其ノ修正案ノ相當詳細ナル御說明ヲ
申上ゲル方ガ、或ハ適切カモ知レナ
イ、只今之ヲ申上ゲタナラバ後ノ說明
ヲ簡略ニ出來マスガ、或ハ後デ補足ヲ
致スコトニ致シマシテ、只今ハ極ク大
體ノ觀念ダケヲ述べマス、私ノ委員會
ニ提出致シマシタル修正案ハ、今日修
正案トシテ第二讀會ニ於テ或ハ議論サ
レルベキモノトシテ、旣ニ何カ印刷ノ
配付ガアツタト云フコトヲ先程委員長
ガ仰セラレマシタ、ソレニ書イテアル
通リデ、確カ委員長ニハ其ノ文書迄讀
上ゲテ戴キマシタノデ、ソレヲ再ビ致
シマセヌガ、要スルニ此ノ第一項ハ此
ノ儘ニシテ、第二項デ、工場抵當法第
五條ノ規定ヲ此ノ場合ニ準用スルト云
フコトニシヨウト云フノデ、工場抵當
法第五條ノ規定ノ書キ方ハ、必ズシモ
論理的デハアリマセヌ、若シ之ニ對シ
テ提灯論ヲヤレバ色々アルカモ知レマ
セヌ、併シナガラ是ハ明瞭ニ速記錄等
デモ明カニナツテ居ルシ、又常識上モ
ソレデ宜シイ、畢竟スルニ此ノ善意取
得ノ規定ガ全面的ニ適用サレテ、其ノ結
果トシテ、抵當權ノ效力ハ全ク排除サレル
ト云フコトヲ書イテ居ル甲定デス、是ハ財
團ノ場合デナイ、所謂簡易工場抵當ノ場
合ノサウ云フ規定デアリマス、其ノ規
定ヲ此處ニ準用スレバ宜シイ、政府ノ
考ヘテ居ツタ通リノ結果ニナルト思
フ、政府ノ御考ハ、詰リ此ノ一括表示
ノ場合ニ限ツテハ善意取得者ノ權利ヲ
全面的ニ保護シテ、サウシテ抵當權ノ
方ノ煩ヒハ全部除イテシマフト云フ考
デ出テ居ルト云フ御說明デアリマス
ガ、サウ云フコトヲ書イテ居ル簡易工
場抵當法第五條ノ規定ヲ準用スレバ、
サウ云フコトニナル、ソレデ宜シイト
思フ、サウナレバソレデ宜シイノダト
思フ、而シテサウシタナラバ政府ノ
御解釋ハ私ハ間違ツテ居ルト思フ卽
チ適用ノナイト云フ御解釋ガドウナル
カト云フト、サウシテデモ別ニ適用ノ
ナイト云フ御解釋ヲ若シ强ヒテナサラ
ウト云フノナラ、其ノ解釋モ全ク非斥
ハサレマセヌ、ダカラ私ノ提案ノ如
ク、修正ガ出來マシタナラ、政府ノヤ
ウナ解釋ヲ若シ固執サレルナラバ、敢
テ固執サレテモ、ソレモ容レ得ル、但
シ左樣ナ解釋ハ恐ラクハ裁判所等デハ
通用ハシマイト考ヘルダケデアリマ
ス例ヘバ此ノ政府ノ御考ハ、十五條
デ一ツノオイシイ魚料理ヲ拵ヘタ、サ
ウシテ國民ニ之ヲ食ハサウト云フノ
デ、非常ニ結構デアリマス、其ノ魚料
理ハ河豚料理、其ノ河豚料理ハ毒サヘ
ナケレバ非常ニ結構ダ、私ハ此ノ毒ノ
ナイ場合ナラ、此ノ規定ハ非常ニ結構
デ贊成ヲスルノデアリマス、併シ不幸
ニシテ財團目錄ニ記載ノアル場合ニハ
適用ガナイト云フ、何カ知ラヌ、根據
-其
ノナイ間違ツタ考デ書カレタ爲ニ、
ノ適用ノナイト云フコトヲ觀面ニ明カ
ニシタ、是ハ河豚ノ毒デス、私ハ河豚
料理ハ食ヒタイガ、毒ノアルモノハ〓
ヒタクナイ、其ノ毒ヲ除キ去ツタヤウ
ナモノニシテ代ヘテ上ゲタイト思ツ
テ、私ハ提案ヲ致シタ、然ルニ不幸ニ
シテ其ノ提案ハ御採用ヲ得ナカツタ、
ドウ云フ譯デ、ソレハソレヂヤイケマ
セヌカ、毒ノ恐レノナイヤウニシチヤ
何故イケマセヌカ、ドウシテモ適用ノ
ナイト云フコトヲ明瞭ニ示サナケレバ
ドウ云フ譯デイケマセヌカ、ト云フ
ト、少クトモ政府委員カラハ御答辯ハ何
モナカツタ、左樣ナコトハ私ハドウ考
ヘテモ答辯ハ出來ナイコトダラウト思
フ、左樣ナヤウナコトガ大體委員會ニ
於ケル小數意見トシテ、私ノ當時述べ
マシタ處ノ大體デゴザイマス、若シ此
ノ議案ガ第二讀會ニ入リマシタナラ
バ、私ハ修正動議ノ提案理由ノ說明ヲ
致シマス、其ノ時ニハ併シ只今申シタ
コトトハ決シテ重複シナイヤウニ、或
ハ何カ話ノ爲ニチヨツト同ジヤウナコ
トガ出來マシテモ、ソレハ重複サセナ
イデ、專ラ提案ノ細カイ點ニ付テ若シ
說明ヲ要スルコトガ他ニアレバ說明ヲ
致スト云フコトニ致シタイト思ヒマ
ス、非常ニ長イ時間ヲ私取ツテシマヒ
マシテ、此ノ會期ハマダ一向切迫シナ
イヤウデアリマスガ、併シ甚ダ遲クナ
リマシテ恐縮ヲ致シマス、又重ネテ提
案ノ理由ヲ出スコトニ多分ナルノカト
思ヒマスノデ、其ノ時ハ成ルベク簡單
ニ致シマシテ償ヒヲ致シマスカラ、御
許ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=52
-
053・徳川圀順
○議長(公爵德川關順君) 本案ノ第二
讀會ヲ開クコトニ御異議ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=53
-
054・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=54
-
055・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第
二讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=55
-
056・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=56
-
057・徳川圀順
○議長(公爵德川〓順君) 西大路子爵
ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=57
-
058・徳川圀順
○議長(公爵徳川圈順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=58
-
059・徳川圀順
○議長(公爵德川圏順君) 本案ノ第二
讀會ヲ開キマスゝ本条ニハ松本烝治君
ヨリ、宋規ノ賛成者ヲ具ヘテ修正案ガ提
出セラレテ居リマス、仍テ先ヅ修正案
ヲ議題ニ供シマス、發議者ニ對シ趣旨
說明ノ發言ヲ許シマス、松本烝治君
〓左ノ修正案ハ卽讀ヲ經サル
〔參參照ノタメ玆ニ載錄ス
軍需金融等特別措置法案ニ對スル
修正案
右議院法第二十九條ニ依リ提出候也
昭和二十年二月七日
發議者松本烝治
贊成者
公司德川家正公爵山縣有道
侯爵中御門經恭侯爵東〓彪
侯爵井上三郞侯爵池田官政
侯曾西〓吉之助山田三良
安藤紀三郞入江貫、
市郷茂德村上巷
下條東麿大阪府綠一郞
安井英二· 氏や公望
中川望黑田英雄
富田健治赤池濃
次田大三郞松村美佐、
長岡隆一郞瀧正雄
竹下四大大太田耕造
千石興太郞橋本〓之助
三塲四郞次當間重民
磯貝浩岩田宙造
塩田團平大谷五平
佐藤助九郞
貴族、院議長公爵德川圀順殿
(小字及-ハ修正)
軍需金融等特別措置法案中左ノ通修
正ス
第十五條重需金融機關ニ對シ擔當
事業者ガ設定スル工場財團其ノ他
ノ財團ノ抵當權ニ付財團目錄ヲ調
製スル場合ニ於テハ其ノ財團ヲ組
成スベキ機械、器具、雷柱、雷線
其ノ他ノ物件ハ勅令ノ定ムル所ニ
依リ之ヲ一括シテ表示スルヲ以テ
足ル
工場抵當法第五條
民法第百九十二條乃至第百九十四
膝ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ同項
ノ財團目錄ニ一括表示セラレタル
ニ付
物件ガ第三者ニ引渡サレタル場合
二之ヲ準用ス
〔松本烝治君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=59
-
060・松本烝治
○松本烝治君 只今御約束ヲ申上ゲマ
シタヤウニ、此ノ修正案ノ說明ハ極メ
テ簡單ニ短イ時間デ申上ゲタイト思ヒ
やっく、若シ何カ中シ殘シテ居ツタコト
デモアツタラ、後デ或ハ說明補足ノ必
要ガアレバ行フト云フコトニ致シマシ
テ、簡單ニ申述ベマス、修正案ハ印刷
物トシテ配付セラレテ居ルサウデアリ
マス其ノ朗讀ヲ省略シテ宜シイカト
思ヒマスガ、要スルニ第十五條ノ第二
項ヲ改メマシテニ工場抵當法第五條ノ
規定ヲ此ノ場合ニ準用シヨウト云フノ
デアリマス是ハ準用デ宜シイ、工場
抵當法第五條ノ規定ハ、先程述べマシ
タヤウニ工場財團ノ場合ノ規定デハナ
イ、所謂簡易工場抵當ノ場合ノ規定デ
アリマスカラ、ソレヲ準用スルト云フ
コトデアリマス、而シテ其ノ準用サレ
マス規定ハドウ云フ趣意カト申シマス
ルト太則ニ依リマシテ工場ノ建物ナ
リ或ハ土地ト云フヤウナモノヲ抵當ニ
入レマスト、當然其ノ建物ノ中ニアル
色々ナ財產ハ抵當權ガ其ノ財產ニ及
ンデ來ルト云フコトヲ、本則トシテ書
イテ居ル、ソレニ對シテ第二項デ及
ンデハ來ルケレドモ卽時取得ノ規定ノ
適用ハ妨ゲラレナイ、妨害ハ出來ナイ
ト書イテアル、ダカラ民法ノ第百九十
二條乃至第百九十四條ノ卽時取得ノ規
定ガ全面的ニ適用セラレテ、抵當權ノ
效力ガ及ブトハ書イテ居ルガ、其ノ妨
害ニハナルコトガ出來ナイト書イテア
ル其ノ書キ方ニ付テ形式論理ヲ言フ
ト非難ハアリ得マス、併シ其ノ意味
ハ、何人モ當識ヲ以テ讀メバ、卽時取
得ノ坦定ガ全ク全面的ニ適甲ガアツ
テ其ノ結果抵當權ノ效力ハ全ク退却
シテシマフト云フコトヲ書イテ居ルコ
トハ明瞭デアリマス、又ソレコソ速記
錄ニモウ明カニ其ノコトガ書イテア
ル、政府案ノ趣旨ヲ伺フト、此ノ第二
項デハサウ云フコトヲ書キタイノダ
ト云フ御話デアリマスカラ、丁度工場
抵當法ニサウ云フ担定ガアルンダカ
ラソレヲ進用シタラ宜インヂヤナイ
カト云フノデ、準用シヨウト云フノガ
私ノ案ノ理由デアリマス、而シテ先程
一言シマシタヤウニ、一體政府ノ言フ
ヤウナ解釋ハサウ云フヤウニナツタ
ラ全面的ニ排斥サレルダラウカト申シ
マスト、必ズシモサウデナイ、サウナ
ツテモ、政府ノヤウナ解釋ヲ若シサレ
ヨウト思ヘバ入ラヌコトモナイ、唯
サウ云フ解釋ハ河豚ノ毒デ、是ダケハ
解釋トシテモ止メテ戴キタイト思フダ
ケデアルノデス、先程モ申シマシタヤ
ウニ、斯ウ云フ提案ヲ致シマシテ、政
府ノ、何ガ故ニ此ノ提案ノヤウナ修正
デハイケナイト佃セラレルノカ、卽チ
何處迄モ吋團目錄ニ記載ノアル財產ニ
付テハ卽時取得ノ規定ノ適用ガナイト
云フコトヲ明示シナケレバナラヌノデ
アルカ、其ノ理由如何ト申シマスト
ソレハ政府委員ハ御答ニナリマセヌ、
サウ云フコトヲ明示シナケレバナラヌ
ト云フコトハ、何處ニ理由ガアルカト
云フコトニ付テハドウシテモ御答ヲ
得ナカツタト私ハ記憶シテ居ル、ドウシ
テモ詰リサウ云フ河豚ノ毒ダケハ殘
ス、殘スガ、何故殘スノカト伺フト、
ソレハドウモ御說明ハナイ、私ハ斯ウ
云フヤウニ直セバ八方圓ク治マル、政
府ノ言ハレルヤウナ解釋ダツテ入ラナ
イコトニハナラヌ、而シテ卽時取得ノ
規定ガ全然適用ガナイナドト云フトン
デモナイ結果ヲ生ズルコトハナクナル
ノチ、ドウカ一ツ斯ウ直シテ戴キタイ
ト云フコトヲ主張致シマシタガ、不幸
ニシテ此ノ提案ハ委員會ニ於テ敗レ去
リマシタ、併シ私ハ此ノ事ハ非常ニ重大
ナコトデアル、一體民法ノ規定ナント
云フモノハ、ドウモ重大サガ分ラナ
1、恰モ民法ノ規定ト申スモノハ水ト
カ空氣ミタイナモノデアル、其ノ有難サ
ハチヨツト分ラヌノデス、感ジナイ、
ソンナモノハドウデモ宜イト云フヤウ
ニ考ヘラレルカドウカ知ラヌガ、是ガ
一番本ニナル必要ナモノデ、例ヘバ卽
時取得ノ規定ニ依リマシテ動產取引ノ
安全ガ保護サレル、此ノ規定ノ適用ハ
ナイナント云フコトガ、何處カ一小部
分タリトモ出來タラ、「ビー」二十九デ
アリマス、其ノ空襲擊報ガ出タヤウナ
モノデアル、誰カノ頭ニ來ルカモ知レ
ヌト云フノデ、危ナクテ動產ノ取引ハ迅
速日圓滑ニハ行キ兼ネルト云フコトニ
ナル、其ノ結果ハ非常ニ取引ヲ阻碍ス
ルコトニナルサウ云フモノガ燒夷、彈
ヲ落シテ家ヲ燒クト云フコトハゝ足ノ、
稀デアリマセウ、併シ偶々家ヲ燒カレ
テハ其ノ人間ハ非常ニ迷惑ヲスルマ
アサウ云フコトニハナラヌヤウニ一ツ
立法シテ貰ヒタイト云フノガ、私ノ提
案ノ理由デアリマス、私ハドウシテモ、
斯ウシナイトイケナイ、斯ウシナクテ
ハ大變ナコトニナル、人ノ呼吸スル空
氣トカ或ハ水ノ中ニ毒ヲ入レルヤウナ
モノデ、ソレデハ困ルカラ、ドウカシ
テ是ハ止メテ戴キタイト云フコトヲ
非常ニ强ク考ヘテ居ルノデアリマス
又私ハ二十數年來民法改正ノ仕事ニ與
リマシテ、公ノ職務ヲ今尙帶ビテ居ル
ヤウナカ第第アリマスガ、民法ノ最モ
重要ナル動產取引保護ノ担定ガ、或場
合ニ全然、適用ノナイコトニナツテ蹂
躪シ去ラレルト云フヤウナコトニナル
コトハ私トシテハ非常ニ心外千萬ニ
考ヘマス、玆ニ於テカ此ノ修正ニ付テ
ハ相當熱心ニ今迄モ主張致シマシタ
又是カラモ是非サウ主張シタイ、此ノ
法案自身ハ惡イモノトハ私ハ思ヒマセ
ヌ、全體トシテ警成シテ宜イモノト思
ヒマスガ、斯ウ云フエライ毒ガアツテ
ハ私ハ直サナイ以上ハ、此ノ法案全
部ニ矢張リ反對セザルヲ得ナイト云フ
ヤウニ今考ヘテ居ルノデアリマス、玆
デ私一言申シタイノデアリマスガ、ソ
ンナコトハ申ス必要ハナイカモ知レマ
セヌガ、立法ト云フコトハ議會ノ最
モ重イ職責デアルト思フノデアリマ
ス、立法ノ協賛ニ議會ガ與ツテ居ル、
法律ニ付テ審議スルト云フコトハ議
會トシテ最モ重イ標能デアリマス、玆
ニ於テカ、議院法モ御承知ノ左樣二三二
讀會ナドヲ要求ジテ居リマシテ、法律
ノ審議ニ付テハ劑重ノ上ニモ鄭重ヲ重
ヌベク要求シテ居ルト私ハ思ツテ居リ
やっく、私ハ此ノ重大ナル立法ニ付テハ
豌重ニ御考ヲ願ヒタイト云フコトヲ切
望スル者デアリマス、世間ノ人ハ、或
ハ斯ウ云フ內容ヲ承知シナイト變ナ誤
解ヲ起スカモ知レマセヌ、卽チ此ノ法
律中ノ僅カニ何文字カヲ直〓カ直サヌ
ト云フコトニエライ議論ヲスル、今ヤ
戰局類ル苛烈ニシテ殊ニ海ヲ隔テテ
我ガ忠勇ナル將士ガ生命ヲ鴻毛ノ輕キ
ニ比シテ奮戰サレテ居ルガ、斯クノ如
ク切迫シタ時期ニ於キマシテ、何カ法
文ノ何字カノコトヲ議論シテ居ルト
ハ、如何ニモ貴族院デアツテ、是ハ遊戲
的デアルト、閑日月ガアルトデモ誤解
スルヤウナ人ガ若シアリマシタラ、是
ハ左樣ナ誤解ハ、少シ此ノ法律ノ關係
スル所ノ重大ナルコトノ分ル方ナラ
が、左樣ナ誤、解ハナイト思ヒマス、私
ハサウ云フ詔、解ガアツテハ困ルト思ヒノ
やっと、此ノ點ヲ殊更ニ一言スルノデア
リマス、詰リ此ノ規定ノ修正ナクシ
テ、其ノ健原案通リニ通ルト云フコト
ノ結果トシマシテハ、民法ノ最モ重要
ナル原則ガ、或部分ニ於テ、卽チ財團
ニ屬シサウナ財產ト云フモノノ部分ニ
於テハ、非常ニ機能ヲ阻碍サレテシマ
1、安心シテ物ハ買ヘナイト云フコト
ニナル、是ハ是非共サウデナイヤウニ
シテ戴キタイ、私ハ、私ノ發議シマシ
タ修正案ニ對シマシテハ十分ニ御審
議ノ上、何卒多數ノ方ノ御同意ヲ得ム
コトヲ偏ニ强ク希望スル者デアリマ
ス、デ私ハ實ハ此ノ法案ノ關係ノ政府
當局ノ方ノ中ニハ非常ニ御心安クシ
テ居ル平生畏敬シテ居ル所ノ、或八
敬愛シテ居友人ガ多數居ラレル
ノデ、是等ノ方々ハ相當迷惑ヲ旣ニ感
ゼラレ、今尙或ハ感ゼラレツヽアルヤ
ウニモ思フノデ、之ニ對シテハ實ニ相
濟マヌヤウニ考ヘテ居リマス、心ノ中
デハ拜ミナガラ斯クノ如キコトヲシテ
居ルノデアリマス、ドウゾ私ノ衷情ヲ
御察シヲ願ヒタイノデアリマス、小サ
イ此ノ文字ヲ、斯ウシタ方ガ宜イト
カ、斯ウシナイト多少困ルダラウト云
フヤウナコトニ付テハ今迄出タ色々
ナ法案中ニモ幾ラデモアリマス見方
ニ依ツテハ幾ラデモアリマス、修正案
ヲ出シテ、色々捻ラウト思ヘバ幾ラモ
アリマスガ、私ハサウ云フコトハ致シ
マセヌ、サウ云フコトノ議論モ今迄殆
ド致シマセヌ、併シ斯ウ云フ重大ナル
コトニナリマシテハ是ハ相當申サナ
ケレバナラヌト云フノデ申シタノデ
決シテ私ハ自說ヲ固執シヨウ、行キ懸
リニ囚ハレテ無理押シヲシヨウト云フ
ヤウナ考ハ一ツモゴザイマセヌ、唯私
ノ衷情ヲ述ベテ諸君ノ御同意ヲ仰ギタ
イノミデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=60
-
061・徳川圀順
○趣長(公爵德川園順岩) 是ヨリ討論
ニ移リマス、靑木一男君
〔靑木一男君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=61
-
062・青木一男
○靑木一男君 私ハ只今提出サレマシ
タ、本法案ニ對スル修正說ニ對シテ
反對ノ意見ヲ有スル者デアリマス、以
下成ルベク簡略ニ其ノ論旨ヲ申上ゲマ
ス、松本博士モ只今述ベラレマシタ通
リ、今囘政府カラ提案サレマシタ軍需
金融等特別指置法案ノ第十五條第二項
ノ內容ニハ御異存ガナイモノノヤウデ
アリマス、唯今囘ノ如キ形ノ立法ヲ爲
ス結果トシテ、工場財團ノ目錄ヲ成規
ニ依ツテ調製シタル場合、其ノ財團組
成物件ガ轉々シタ際ニ於テ、民法第百
九十二條ノ適用ガナイト云フ反對ノ解
釋ノ根據ヲ與ヘルカラ不都合デアルト
云フノガ、反對論ノ御趣旨デアツタヤ
ウニ伺フノデアリマス、卽チ斯クノ如
キ結果動產ノ取引ノ安全ヲ害スルカラ
イケナイ、ト云フノガ唯一ノ論據デア
ラレルヤウデアリマス、此ノ點ニ付キ
マシテ、私ノ解スル所ニ依レバ、工場
財團ヲ構成致シマシタル場合ニ、其ノ
財團組成物件ガ第三者ノ手ニ移ツタ場
合民法第百九十二條ノ適用ナキコト
ハ、現行法ニ於テ旣ニ定メラレテアル
規定ノ法理デアルト考ヘルノデアリマ
ス、今囘ノ立法ニ依ツテ其ノ法理ヲ再
確認シ、或ハ裏書スルト云フコトニハ
ナラウカト思ヒマスガ、之ニ依ツテ新
タニサウ云フ關係ヲ律スルモノデハナ
イト思フノデアリマス、先程松本博士
ノ述ベラレマシタ通リ、現行工場抵當
法中ニハ工場財團組成物件ガ第三取
得者ノ手ニ歸シタル場合ノ法律的效果
ニ付テハ明文的ノ規定ハアリマセス、
併シ先程委員長ノ報告ニモアリマシタ
通リ、私ハ現行工場抵當法ヲ讀ンデ見
マシテ、簡易抵當ノ場合ニハ第五條
第二項ニ於テ、民法第百九十二條以下
ノ適用アルコトヲ明文ヲ以テ定メテア
ルニ拘ラズ、第八條以下ニ於テ、工場
財團ヲ構成シタル場合ニ付テノ法律
的效果、卽チ民法第百九十二條トノ關
係ニ付テ何等ノ規定ガナイト云フ點カ
ラ、反對解釋トシテ、工場財團ノ場合
ニハ民法第百九十二條ノ適用ナシト解
スルモノデアリマス先程松本博士
ハ第五條ノ場合ト工場財國ヲ構成シ
タル場合トハ場合ガ違フカラ反對解
釋ノ根據トナラナイト云フ御說明ガア
リマシタ、私ハ其ノ點ニ付テハ違ツタ
意見ヲ持ツテ居リマス、問題ハ、抵當
權ノ效力ト尺法第百九十二條トノ關係
ニ付テデアリマス、其ノ限リニ於キマ
シテハ、簡易抵當ノ場合ト工場財團ヲ
構成シタル場合トノ間ニ於テ何等ノ差
ハナイノデアリマス、卽チ簡易抵當ノ
場合ニ、抵當權ノ效力ニ付テ民法第百
九十二條トノ間ニ明文ヲ置イタナラバ、
工場財團ヲ構成シタ場合ニモ同時ニ其
ノ明文ヲ置クベキデアリマス、若シ兩
者同ジ原則ヲ採ルナラバ一括シテ規
定スベキデアリマス、若シ違ツタ規定
ヲシタナラバ反對ノ解釋ヲ採ルト云
フコトハ営然デアリマス、此ノコトハ
單ニ現在出來テ居ル工場抵當法ヲ讀ン
ダダケデナシニ、此ノ工場抵當法ガ如
何ナル經過ニ依ツテ出來タカト云フ沿
革ヲ見マスレバ極メテ明瞭トナルノデ
アリマス
〔議長退席、副議長著席〕
明治三十八年、工場抵常法提案當時ニ
於キマシテ、政府ガ原案ヲ出シマシタ
當時、工場財團組成物件ガ第一二者ノ手
ニ渡ツタ場合ニ、法律關係ハドウナル
カト云フコトニ付キマシテ、當時ノ政
府ニ於テモ確タル信念ガナカツタヤウニ
速記錄デ窺ハレマス、從ツテ博士ノ指
摘サレタル如ク、初メ政府委員ハ、工
場財團組成物件ニ付テモ民法第百九十
二條ノ適用アルカノ如キ答辯ヲ致シテ
居リマス、又第四十九條ノ罰則ノ規定
ニ於キマシテモ、第三者ノ手ニ財產ガ
渡ル點ハ、簡易抵當ノ場合モ、工場財
團ヲ構成シタ場合モアリ得ル、卽チ工
場財國抵當權者ノ利益ガ害サレル場合
ガアルカモ知レナイト云フ前提デ、工
場主等ガ不當ニ所屬財產ヲ第三者ニ引
渡シタル場合ニハ、簡易抵當ノ場合ト
工場財團設定ノ場各トノ何レニモ適用
アル如キ原案ヲ出サレタノデアリマ
ス、然ルニ貴族院特別委員會ニ於キマ
シテハ、委員タル富井博土其ノ他ノ方
方ガ、此ノ政府ノ法律觀念ニ非常ナル
疑惑ヲ懷カレマシテ、再三質問ヲサレ
テ居リマス、サウシテ只今ノ工場財團
組成物件ノ第三者ニ渡ツタ場合ノ法律
的效果ノ問題其ノ他ノ間題ヲ審議セシ
ムル爲ニ、特別委員會ハ小委員會ヲ設
ケタノデアリマス、サウシテ小委員會
ハ此ノ問題ヲ中心ニ孰議ヲ遂ゲマシ
タ處ガ、結論トシテ工場財團組成物件
ト民法第百九十二條トノ關係ニ付テノ
政府原案ノ趣旨ハ不都合デアル、適當
デナイト云フ特別委員會小委員會ノ結
論デアリマシテ、卽チ簡易抵當ノ場合
ニ於キマシテハ飽ク迄モ第三取得者ノ
利益ヲ保護シテ宜シイ、併シ工場財團
ヲ作ツタ場合ニハ違フ、此ノ場合ニ
ハ折角工場財團ナル制度ヲ作ツタ必
然ノ效果トシテ、第三取得者ノ利益ヲ
犠牲トスルモ已ムヲ得ナイ、從ツテ此
ノコトヲ明カニスル爲ニ、第五條ノ第
二項ノ如キ規定ハ、工場財團ヲ作ツタ
場合ニハ規定ヲ置カナイ方ガ宜シイ、
又罰則ニ於キマシテモ、工場財團組成
物件ガ合法的ニ第三者ノ手ニ渡ルコト
ハナイノダカラ、所有者ガ其ノ財產ヲ
處分シテモ之ヲ處罰スル必要ハナイト
云フノデ、罰則ヲ修正サレタノデアリ
マス、此ノ點ハ先程來松本博士ノ指摘
サレタル如ク、此ノ修正案ノ適否ヲ決
スル根本デアリマス然ルガ故ニ私ハ
少シク時間ヲ戴キマシテ、當時ノ特別
委員會ニ於ケル小委員會首班富井政章
博士ノ報〓ヲ速記錄ニ依ツテ朗讀シタ
イト思ヒマス、松本博士ハ、私ノ此ノ
點ノ意見ニ付テ速記錄ノ讀ミ方ガ惡イ
ノデアルト云フ御意見ガアリマシタ、
從ツテ私ハ速記錄ヲ關係ノ部分一字一
句殘サズニ朗讀スル積リデアリマスル
カラ、御聽ヲ願ヒタイノデアリマス、
第二十一議會貴族院工場抵當法案特
別委員會速記錄、明治三十八年二月十
七日、委員長ノ發言ハ略シマス、「富井
政章君、ソレデハ僭越ナガラ私ガ協議
ノ結果ヲ御報〓致シマス······第五條ハ
最モ喧マシイ條文デアリマシテ、之ノ
付テハ今朝ニ亙ツテ尙他ノ委員諸君ノ
御意見モ伺ツテ、假ニ御目ニ掛ケタ如
クニ極メタノデアリマス、先ヅ第一項ノ
修正ハ文字ノ修正ニ過ギマセヌ·····第
二項ヲ置キマシタ······是ハ原文第一
項ノ但書ト殆ド同一ノ主意デアリマシ
テ、政府委員ノ說明ニ依レバ原文ニハ
單ニ「善意ナリシトキ」トアリマスケレ
ドモ、善意ニシテ且過失ナキトキト云
フ主意デアルサウデアリマス、果シテ
然ラバ直ニ民法第百九十二條ヲ引用シ
タ方ガ至當デアラウ、且第百九十三條
及第百九十四條ノ規定モ夫レト同時ニ
引用スルガ當然デアラウト考ヘマス、ソ
レデ此ノ三筒條ヲ引クコトニ致シタノ
デアリマス、此ノ條文ニ付テ起リマシ
タ大問題ハ若シ出來ルコトナラバ太條
ノ趣旨ヲ極メテ例ヘバ第三取得者ガ善
意ニシテ且過失ナキ場合デアツテモ抵、
當權カ實行ヲ受ケネバナラヌト云フ方
ニスル方ガ宜イノデハナカラウカ、我
我ハ皆然ウナルノヲ希望シタノデアリ
マン、唯如何セン第三取得者ニ取ツテ
ハ實ニ酷ナ結果トナル譯デアリマス、
殊ニ初メノ第三取得者ヨリ借受ケルト
カ質ニ取ルトカ致シタ轉得者ニ取ツテ
ハ最モ迷惑ヲ感ズル場合ガ多カラウト
思ヒマス、夫レ故ニ政府委員トモ段々
交涉シテ何カ策ガ無カラウカ、施行細
則ニ於テ何カ方法ヲ設ケテ抵當權ノ效
力ヲ完ウスル仕方ガ無カラウト云フコ
トヲ談ジタノデアリマスケレドモ、機
械器具等ニ一々燒印ヲ押スト云フ譯ニ
モ行カヌ、同ジ樣ナ物ガ澤山有ルー呼デ
アリマスカラ、何ウシテモ占有者ニ損
害ガ生ズルト云フコトヲ防グト云フ譯
ニハ參ラナイ、夫レ故ニ、遂ニ此ノ第
二項ヲ置クト云フコトニ致シマシタ、
併シ之ニ付デ最モ諸君ノ御注意ヲ乞ヒ
タイコトハ、此ノ條ハ初メ政府委員ヨリ
說明モアリマシタ通リ、工場財團ヲ作ツ
タ場合ニ適用セラレル規定デハナイノデ
アリマス、單獨ニ土地又ハ建物ヲ抵當ト
シタ其ノ抵當權ノ效力ガ、機械、器具ニ
及ブト謂フ其ノ場合ニ於ケル抵當權ノ
效力ヲ定メタモノデアリマス、夫レ故ニ
此ノ場合ニ於テハ左マデ抵當權ノ保護
ヲ極端ニ迄全ウスル必要ハ無カラウ、
之ニ反シテ工場財團ヲ作ツタ場合ニ
ハ此ノ中ノ一部分ヲ處分スレバ、初
ヨリ抵當權ノ目的トナツタ物ヲ減スノ
デアリマスカラ、擔保ノ效力ヲ全ウス
ル爲ニハ、寧ロ財團ノ中デ占有者ノ利
益ヲ犠牲ニ供スル方ガ至當ト考ヘタノ
デアリマス、是ニ付テモ餘程利害ノ判
斷ニ迷ツタノデアリマスケレドモ、既
ニ第十三條ニ於キマシテハ本條第二項
ノ如キ規定ヲ置カナイコトニ致シタ、
夫レ故ニ財團ノ上ニ抵當權ヲ設定シタ場
合ニハ第三取得者ハ假令抵當權者ヨリ
其ノ取得シタ物ヲ取上ゲラレテモ致方
ガナイ、唯工場ノ所有者ニ對シテ損害
賠償ノ請求權ヲ有スルコトニナルノデ
アリマス、是ハ第三取得者ニ取ツテハ
如何ニモ酷ニ感ズル場合ガアリマスケ
レドモ、何ウシテモ雙方ノ利益ヲ調和
スルコトハ出來ナイノデアリマスカ
ラ、折角斯クノ如キ注律案ヲ設ケタ以
上ハ抵當權考ノ利益ヲ保護スル。方ガ至
常デアラウト云フ者デ、遂ニ第五條ト
違ツタ仕組ニスルコトニ决シタノデア
リマス、其ノ解釋ニナルデアラウト云
フコトハ第五條ニ置イタ燒ナ第二項
ノ担定ガ無イ、夫レカラ第四十カ條ノ
第項ヲ削ル積リデアリマス、卽チ財
ニ馬スル物ヲ處分シタ者ニ河甲スベ
モ罰則ガ無クナル、然ウシテ單ニ第四
條ノ第一項ニ於テ第五條ニ捍ゲタ
レシヲヲ分分タタ合ミニ適用スベキ
〓ヲ捍ゲル譯デアリマス、夫レデア
リマスルカラ、自ラ吋園ガ抵當權ノ目
的トナツタ場合ニハ算王條第二項ノ如
キ結果ニナラナイト言フモノデアリマ
ス、斯クノ如クニ財圍ガザ當トナツタ
場合ニハ第三取得者ノ利益ヲ犢牲ニ供
スルト云フコトニ致シタノデアリマ
スガ、如何ニモ忍ビザルコトヲ忍ンダ
ノデアリマスカラ、我々ハ充分政府委
昌ニ秀望ヲ表シテ置イタノデアリマス、
卽チ後ニ此ノ法律ノ施行如則ヲ定メ
ラレルニ當ツテハ、登記ノ仕方、或ハ
抵営權ノ目的ト爲ルベキ物ノ示シ方等
ニ付テ爲シ、得ル丈ケノ制限方法ヲ設ケ
テ、抵営權ノ物ニ不測ノ場害ヲ蒙ル者
無キ横ニシテ欲シイト云フ音見ヲ述べ
タノデアリマス、夫レハ政府委員ニ於
テモ爲シ得ル丈ケノ途ヲ講ジヤウト言
フコトデアリマシタ····夫レカラ第四
十九條第二項ヲ削ルコトニ致シマシタ、
是ハ先刻第五條ノ修正ヲ說明致シマ
シタ時ニ中上ゲマシダ通リ、工場財國
ニ屬スル物ヲ處分シタ場合ニハ常ニ抵
當權者ヲ保護スルト言フ主義ヲ採ツタ
結果デアリマス、抵當權考ガ如何ナル
場合ニ於テモ損害ヲ被ラナイト言クコ
トデアル以上ハ、抵當權者ニ損害ヲ蒙
ラシムルヲ目的トシテ爲シタ行爲ヲ罰
スル必要ハ無イ譯デアリマス、本條ノ
主意ハ抵當權者ヲ害スル行爲ヲ、間接
ニ其ノ事實ノ生ズルコトヲ豫防シヤウ
ト言フ主意デアルト解スルノデアリマ
ス、果シテ然ラバ此ノ項ハ寧ロ削除シ
タガ至當デアラウト言フ老デアリマ
ス、是デ關係ノ部分ノ報告ヲ終ツテ居
ルノデアリマス、此ノ富井博士ノ小委
員會ノ報告中、我々ノ特ニ注意シテ置
カナケレバナラヌ點ガ數點アルノデア
リマス、卽チ工場財國ノ安全ヲ期スル、
其ノ抵當摸者ノ利益ヲ保護スルト云フ
御念ト第三取得者ノ利益ヲ保護スル
ト云フ卿念ハ兩立シナイ、、調和ノ途ガナ
イト云フ結論ヲ與ヘテ居ル點ガ第一點
デアリマス、兩立シナイトスレバ何方
ノ權利ヲ主トシテ考ヘルカト云フコト
ニナルト、折角工場財團ト云フモノヲ
設ケタ場合デアルカラ、簡易抵當ノ場
合ト違ツテ、第三取得者ノ利谷ヲ犠牲
トスル方ガ至営デアルサウシテ其ノ
コトヲ現ス爲ニ曰易抵営ノ塲合ニア
ツタ第五條第二項ノヤウナ規定ヲ、工
場財国ノ場合ニハ置カナイコトニ依ツ
テ、其ノ意味ヲ現フノデアル、斯ウ說
明サレテ居リマス、第三〓得者ノ利益ヲ
特性ニスル以上ハ成ルベク第三者ノ
殘性ノ範圍ヲ局唄スル爲ニ、財團日錄
構成方法、其ノ目錄ノ謂製ノ仕方等ニ
付テ政府ハ十分注意シテ善處セヨ、斯
ウ云フ希望ヲ附加ヘラレテ居ル點ガ第
三點デアリマス、ソレカラ罰則ノ規定
ニ修正ヲ加ヘマシタノハ抵當權ハ如
何ナル場合ニモ注律ト損害ヲ蒙ルコト
ガナイカラ、假ニ所有者ガ其ノ財產ヲ
處分シタ場合ニモ、注律的ニハ抵當權
者ノ損害トナラナイカラ、其ノ處分行
爲ヲ罰スル必要ハナイ、斯ウ云フ趣旨
デ修正サレテ居ルコトハ只今ノ速記錄
ニ依ツテ明カデアリマス、斯クノ如ク
私ハ法文ノ讀ミ方カラ致シマシテモ、
又關係法律ノ制定ノ沿革カラ見マシテ
モ、工場財團ヲ作ツタ場合ニハ其ノ
財團組成物件ニ付テ民法第百九十二條
ノ適用ガナイト云フコトハ明カデアラ
ウト思フノデアリマス、貴族院ノ特別
委員會ハ只今申上ゲマシタ小委員會
ノ意見ニ基イテ、政府ノ原案ヲ修正シ
タノデアリマス、政府ハ初メカラ工場
財團ニ關スル法案ノ內容ニ付テ確信ガ
ナカツタ位デアリマスルカラ、貴族院
特別委員會ノ修正ニ直チニ應ジテ現行
法トナツテ居ルノデアリマス、斯クノ如キ
沿革ハ現行工場抵當法ヲ讀ム場合ニ、
決シテ輕視シテハナラナイ立法ノ沿革
デアルト存ジマス、單ナル速記錄デハ
アリマセヌ、從ヒマシテ、今囘政府ノ
坦案シタルガ如キ形ニ於テ、工場財團
成約件ト民法第百九十二條トノ決律
関係ニ付テ若シ松太博士ノ御所見ノ
如キ結果ヲ齎サウト致サレルナラバ、
今囘ノ井律ヲ修正シタダケデハ足リナ
イノデアリマシテ、工場抵當法自體ノ
修正ヲ御者慮ニナラナケレバイケナイ
ト私ハ考ヘマス、次ニ松本博士ハ、工
埋抵當法ト云フヤウナモノハ四十年モ
前ニ出來タ注律デアル、陸勢ハ變ツテ
居ル假ニ営時ノ沿革ガドウデアラウ
ト今日営識ニ合ハナイヤウナ解釋ヲ
スベキデハナイト云フ御主張ヲ、只今
モサレテ居ルノデアリマス、是ハ寧ロ
立法論的ノ御見解カト思フノデアリマ
スルガ、私モ時勢ノ變化ニ應ジテ法律ノ
解俚モ鬱潔アツテ差支ナイト考ヘル者
デアリマス、併シナガラ木案ノノ〓仝口ニ
於キマシテハ、博士ノ如キ解釋ニ還ル
コトハ誠ニ由々シキ大事デアリサウ
アツテハナラナイモノト私ハ考ヘルノ
デアリマス、博士ハ、民法第百九十二
條ノ規定ハ實ニ金科玉條デアルト云フ
前提ノ下ニ所論ヲ進メラレテ居リマ
ス、併シ動產取引ノ安全ヲ害スル、工
場財團ヲ作ツタ場合、其ノ組成物件ノ
轉々サレタ場合ニ、第三取得者ノ利益
ヲ害スルカモ知レナイト云フコトハ、
四十年前工場抵當法ノ制定ニ當ツテ旣
ニ豫期セル所デアリ、其ノ弊害ト云フ
コトヲ呑ミ込ンダ上デノ立法ガ行ハレ
タコトハ只今ノ速記錄ニ依ツテモ明
カデアリマス、財團目錄ト云フヤウナ
モノハ當テニナラナイト云フ御批判ガ
先程アリマシタガ、是ハサウ云フ制度
ヲ貴族院モ贊成シテ居ル今日ノ國家ノ
制度デアリマス、博士ノ御所論ハ、民
法第百九十二條ハドウシテモ動カスコ
トノ出來ナイ大原則デアルカノ如ク、
サウ云フ前提ノ下ニ議論ヲサレテ居リ
マスガ、私ハ是モ立法ノ手段ニ依ツテ
ハ變更シテ差支ナイモノデアルト考ヘ
ルノデアリマス、例ヘバ民法第百九十
二條ニ次イデ第百九十三條ガアリマ
ス、卽チ盜品ニ關スル期定デアリマス、
若シ第百九十二條ガ絕對ニ少シモ餘裕1;
ノナイ規定デアルナラバ、ドウシテ民
法第百カ十三條ガ有リ得ルデアリマセ
ウカ、我々ハ買ツタ品物ガ是ハ盗品デ
アルカモ知レナイト云フコトヲ心配シ
タラ限リガナイ、我々ハ從ツテ賣主ニ
對シテ警戒ヲ加ヘレバ宜シイノデア
ル、今日工場ニ所屬スル機械器具等ノ
青、買ニ付テモ、同ジ警戒ヲ拂ヘバ少
シモ取引ノ弊害ニナラナイノデアリマ
ス法律ノ效力ト云フモノハ昨年出
來タ法律デモ四十年前ニ出來タ法律デ
モ、私ハ區別ガナイト思ヒマス唯解
澤ヲ變更スベキ前提トシテ、世ノ中ニ
絆化ガアツタト云フコトガ私ハ問題ニ
ナルダラウト思フ、申上ゲル迄モナ
ク、明治三十八年ト申シマスレバ、民
法制定後間モナキ時デアリマス、卽チ
法律上ノ自由主義ノ全盛時代デアリマ
ス、個人ノ權利、利益ヲ最モ重シト
シ、取引契約ノ自由ヲ貧重スペシト云
フ思想ガ、我ガ國ノ私法ヲ通ズル原則
トシテ支配シテ居ツタ當時デアリマ
ス、其ノ時代ニ於テ既ニ、我ガ國民法
ノ泰斗デアラルヽ富井博士ハ工場財
團ト云フヤウナ特殊ノ制度ヲ作ツタ以
上ハ、第三取得者ノ利益ヲ犠牲ニシテ
モ仕方ガナイ、民法第百九十二條ノ適
用ヲ排除シテモ仕方ガナイト云フ結論
ヲ與ヘラレテ居ルノデアリマス、又其
ノ御意見ニ基イテ貴族院モ修正ヲシ、
法律案ガ出來テ居ルノデアリマス、其
ノ後ノ世ノ中ナ變化ハ如何デアリマセ
ウカ、法律界ニ於キマシテハ、殊ニ事
變以來個人ノ權利、利益ハ、國家公益
ノ爲犠牲トナルコトハ已ムヲ得ナイ、
又個入ノ經濟取引契約等ノ自由モ、極
端ニ迄拘束サレテ居ル今日ノ世ノ中デ
アリマス、又我々ノ經濟生活ノ實情ヲ
見マシテモ、我々ノ生活物資ト云フモ
ノハ、殆ド全部ト申シテ宜シイ位配給
デアリマス、何處ニ自由取引ノ餘地ガ
ドノ位殘ツテ居リマセウカ、是ハ下町
ヘ行キマシテ店舗ノ狀況ヲ一見スレバ
分ルノデアリマス、又問題トナル工場
ノ機械、器具等ニ付キマシテモ、今日ハ
總テガ統制物資デアリマス、何處ニ自
由取引ノ餘地ガアルデアリマセウカ、
若シ我々ノ生活物資ナリ或ハ機械、器具
等ノヤウナモノニ付テ、玆ニ自由取引ガ
アルトスレバソレハ私ハ大部分ガ不
幸ナル非合法的取引ノ產物デナイカト
考フルモノデアリマス、私ハ此ノ我ガ
國ノ法律思想ノ變化、又經濟生活ノ變
化ニ付テ、其ノ善イ惡イト云フコトヲ
申上ゲルモノデハアリマセヌ、唯四十
年間ニ變化シタトスレバ、民法第百九
十二條ノ適用ニ依ツテ、動產取引ノ安
固ヲ圖ル法律上ノ實益必要ハ、大イ
ニ、大イニ減少シテ居ルト云フ事實ヲ
指摘スレバ私ハ足ルノデアリマス、玆
ニ私ガドウシテモ輕視スルコトノ出來
ナイ一點ハ、先程委員長ノ報告ニモア
リ、松本博士ノ御所論中ニモ出テ來マ
シタ工場財團ニ屬スル機械、器具類ノ
散逸ノ問題デアリマス、新聞ニモ、工
場ノ大事ナ機械ガ盜ミ出サレタソレガ
爲ニ工場ガ休ンダト云フヤウナコトガ
出タコトガアリマシタ、私ハ此ノ記事
ヲ見タ時ニ、實ニ不都合ナル國家ニ對
スル反逆行爲デアル、憎ミテモ餘リア
ル行爲デアルト云フ義憤ヲ感ジタモノ
デアリマス、今日軍需工業ヲ盛ンニ
シ、軍需品ヲ造ラナケレバナラヌ場合
ニ、國民ノ間ニサウ云フ不都合ヲヤル
奴ガアルト云フコトハ、實ニ〓嘆ニ堪
ヘナイノデアリマス、從ツテドウシテ
モ斯ウ云フ行爲ノ起ルコトヲ防止セネ
バナリマセヌ、此ノ工場財團組成物件
ノ散逸ヲ妨止スル爲ニ、今日ノ工場財
團ナル制度ガ非常ニ貢獻シテ居ル事實
ヲ無視スルコトハ出来マセヌ、卽チ工場財
團ハ第十四條ニ依ツテ一箇ノ不動產ト看
做サレル、第十三條ノ規定ニ依ツテ所屬物
件ノ讓渡ヲ禁ゼラレテ居ル、又先程來問
顕ニナツテ居ル民法第百九十三條ノ適
用ノ排除ニ依ツテ、完全ニ其ノ財產ノ
散逸ヲ防イデ居ル、斯ウ云フ仕組ガ、
今日工場財產ノ散逸防止ニ非常ニ役ニ
立ツテ居ルト思フノデアリマス、勿論
工場抵當法ト云フモノハ、抵當權者ノ
利益ヲ擁護シ、ソレニ依ツテ金融ノ途
ヲ拓クコトヲ目的トシテ立テラレタ立
法デハアリマスガ、其ノ副作用トシテ
今ノヤウナ效果ガアルノデアリマス、
從ツテ苟モ工場ニ屬スル財產ガ散逸ヲ
防止スルニ役ニ立ツヤウナ法律ノ解釋
ニ付テ、反對トナルベキ結果ヲ來スヤ
ウナコトガアツテハナラナイト思フノ
デアリマス、此ノ點ニ付テ、先程松本
博士ハ我々トハ非常ニ違ツタ見解ヲ述
ベラレテ居リマス、卽チ工場財團組成
物件ニ付テ民法第百九十二條ノ適用ガ
ナイト云フコトニスレバ、工場主ヤ債
權者ハ安心ダカラ警戒ヲスル要ガナク
ナル、之ニ反シテ民法第百九十二條ノ
適用アリト云フコトニナレバ、危ナイ
カラ注意スルガ爲ニ盜難ガ減ル斯ウ
云フ御所論デアリマス、是ハ私共ノ常
識トハ非常ニ縣隔ガアルノデアリマス、
盗ミ出シタ物デモ、其ノ他ノ非合法的
手段ニ依ツテ轉々シタ場合デモ、ソレ
ヲ善意ニ依ツテ第三者ガ得タ場合ハ
完全ナ所有權ヲ認メルト云フ制度ノ方
ガドノ位害惡ヲ助長スルカト云フコト
ハ常識デ分ルデアラウト思フノデアリ
マス又實際問題トシマシテ、工場ノ
經營主等ハ今日國家ノオ役ニ立ツガ
爲ニ、又同時ニ自分ノ財產ヲ保護スル爲
ニ一生懸命ニ工場ノ財產ヲ私ハ守ツテ
居ルト思ヒマス全國何萬ノ工場主ノ
中ニ松本博士ノ仰セラレタ如ク、民法
第百九十二條ノ適用ヲ排除スル法律ノ
制度ガアルカラ安心ダト言ツテ居眠リ
ヲシテ居ル如キ不用意、不注意ノ工場
主ハ私ハ一人モナイコトヲ確信シマ
ス、唯如何ニ注意シテモナカ〓〓夜ノ
番ハムツカシイ、或ハ番人ガ居眠リヲ
スルコトモアラウ、其ノ他色々ノ豫期
セザル手落ノ爲ニ、ソレニモ拘ラズ物
ガ無クナルト云フノガ實相デハナカラ
ウカト私ハ考ヘルノデアリマス、之一
反シテ工場カラ物ヲ盜リ出シタ人、或
ハ其ノ人カラ其ノ物ヲ買ツタ人、此ノ
人ノ立場ヲ見レバ、只今ノ法律解釋ノ
如何ハ重大ナル影響ヲ與ヘルノデアリ
せい、卽チ法律ガサウ云フ物ヲ買ツテ
モ駄目ダ、何時取戾サレルカモ知レナ
イト云フコトヲハツキリト致シマスレ
バサウ云フ物ヲ買フ人ハ大イニ警戒
ヲスル、確カナ人デナケレバ危ナクテ
買ヘナイト云フコトガ常識ナノデアリ
ママ、然ラバ盜難防止ニ役ニ立ツコト
ハ自明ノ理デアルト考ヘルノデアリマ
ス今日此ノ大事ナ軍需工場ノ運營ヲ
守ル爲ニ、不正ナ經路ニ依ツテ轉々シタ
ル物ノ取得者ヲ保護スル必要ハ私ハナ
イト考ヘルノデアリマス、要スルニ自
由主義全盛時代ニ於テ、我ガ國ノ民法
ノ先覺者ガ民法第百九十二條ハ大切ナ
規定デアルケレドモ、工場財園ト云フ
制度ヲ作ツタ以上ハ、其ノ第百九十二
條ノ適用ヲ排除シナケレバ、第三取得
者ノ利益ハ誠ニ氣ノ毒ナ蟻牲ニシナケ
レバナラヌト云フ斷定ヲ下サレタ問題
デアリマス、其ノ問題ニ付テ四十年後
ノ今日、法律思想ハ先程中シタ通リ
國家公益中心主義ニ變ツテ來テ居ル、
又經濟取引ノ害情ハ第百九十二條ノ適
用ノ實益ヲ著シク減ラシテ居ル工場
財產棒護ノ必要ハ日ニ〓〓强マツテ來
テ居ル今日ニ於テ、當時ノ解釋ヲ變更
シ、或ハ曖昧ニシ、之ニ依ツテ第百九S
十二條ヒトリヲ擁護シヨウト云フ思想
ハ失禮ナガラ時代ニ逆行スル黒相デ
アルト私ハ考ヘマス、松本博士モ抵當
權者保護ノ必要ヲ認メラレル、否認サ
レテ居リマセヌ、然ルガ故ニ工場抵當
法ノ解釋ニ當リマシテ、民法第百九十
二條ノ適用ガアルノデアル、併シ抵當
權ノ效力モ之ニ及ブノデアル、卽チ兩
方ノ利益ガ擁護サレルカラ、自分ノ解
釋ニ從ヘバ宜シイデハナイカト云フ御
說明ガ只今モアツタノデアリマス、博
士ハ之ニ依ツテ兩方ノ利益ガ擁護サレ
ルカラ宜シイト云フ結論ヲ下サレテ居
リマスガ、私ハ之ニ反シテ、兩方トモ
權利利益ヲ保護サレナイカラ駄目デア
ルト斯ウ斷定ヲ致スモノデアリマス、
先ヅ工場財團抵當權者ノ立場ニ付テ申
上ゲマス、工場財團ハ、先程モ博士ノ
指摘サレタ如ク、土地、建物、器具、
機械其ノ他ノ物件ヲ一括シテ一ツノ不
動產ト看做シ、之ヲ一ツノ管理ニ置イ
テ、之ヲ運營スルコトニ依ツテ特殊ノ
經濟的價値ヲ生ジ、之ヲ擔保トシテ金
融ノ途ヲ拓クト云フノガ財團構成ノ根
本理由デアリマス、卽チ財團所屬物件
ト云フモノハ一括シテ運營サレナケレ
バナリマセヌ、然ルニ其ノ所屬物件ノ
一部ガ、知ラナイ間ニ第三者ノ手ニ入
ツテ居ツタ、斯クノ如キコトガ認メラレ
テハ工場財團ヲ作ツタ意味ハナイノデ
アリマス、抵當權者ハ、其ノ財團ト云
フ特殊機能ガ維持サレテ、初メテ其ノ
工場財團ノ生命ガアルノデアリマス
其ノ一部ノ財產ガ外ニ行ツテシマツテ
ハソレガ如何ニ法律上ハ依然トシテ
工場財團ノ擔保權ヲ權成シテ居リマシ
テモ、經濟問題トシテハ實益ガナイ、
卽チ其ノ品物ノ限度ニ於テハ工場財團
ガ崩レタデアリマス、斯ウ云フコトデ
アリマシテハ工場財團ヲ作ツタ趣旨ハ
成リ立チマセヌ、從ツテサウ云フ場合
ニモ、唯金ヲ貰ツタノデハイケナイ、
ドウシテモ物ヲ取返サナケレバナラヌ
ト思ヒマス是ガ幾ラデモ世ノ中ニ賣
ツテ居ル品物デアレバ金ヲ貰ヘバ宜シ
イカモ知レマセヌガ、假ニ玆ニ一ツダ
ケシカナイ非常ニ大事ナ機械ガアツタ
トシタ場合ニドウシマスカ:其ノ場合
ニ、善意ノ取得者ガ取ツテシマツタト
云フノデハ、工場財團ノ機能ハ潰レテ
シマフデハアリマセヌカ、又第三取得
者モ、先程松本博士ノ指摘サレタ如
キ、擔俣權ノ效力ノ及ブ所有權ノ取
得デアツテハ、民法第百九十二條ノ
適用サレタ有難味ハナイノデアリマ
ス民法。第百九十二條ニ依ル卽時
取得ノ效果ハ原始取得デアル、卽チ
抵営權其ノ他ノ價値ノ伴ハザル權利ノ
取得デアルト云フコトハ、私ハ我ガ國
學說、判例等ノ一致セル見解デアツ
テ違ツタ意見ノアルコトヲ承知シマ
セヌ、松本博士ノ本日ノ御說明ハ、此
ノ問題ニ付テ、私ハ爆彈的新說ヲ提唱
サレタモノト拜承致シマス、此ノ新シ
キ學說ノ適否ヲ私ハ此處ニ論ズル考ハ
アリマセヌ、是ハユツクリ我ガ學界ニ
於テ〓究サレテ宜シカラウト思フノデ
アリマス、唯此ノ際私ガ指摘シタイコ
トハ、サウ云フ考デ果シテ松本博士ガ
此ノ法案ヲ改正シテモ、守ラウトサレ
ル第百九十二條立法ノ趣旨ハ通ルデア
リマセウガ、我々ガ物ヲ買ツタ場合
ニ、所有權ヲ得ルト云フ場合、其ノ所
有權ハ完全ナル所有權デナケレバナリ
マセヌ、何時抵當權ガ追ツテ來ルカモ
知レヌト云フ所有權デハ、先程御話ノ
ヤウナ取引ノ安全ノ確保サレナイモノ
ト私ハ信ズル者デアリマス、又立法當
時ノ沿革ヲ見マシテモ、先程速記錄ノ
朗讀ニ依ツテ御了解ヲ得マシタ通リ、
議會ノ委員諸君モ、政府モ、此ノ問題
ノ調和ニハ苦心慘憺ヲサレタ、小委員
會迄モ設ケラレタ、若シ博士ノ言ハル
如ク、兩方折衷スル爲ニハ兩方ノ
權利ヲ認メレバ宜イ、サウ云フ簡單ナ
コトデ此ノ解決ガ付クナラバ當時ノ
政府委員、委員諸君ハ何ヲ苦ンデアノ
大騷ギヲ致シマセウ、只今松本博士ノ
仰セラレタ如キ觀念ハ、法律常識トシ
テ問題ニナラナイカラ、當時委員會ニ
於テモ、小委員會ニ於テモ問題ニナラ
ナカツタモノト私ハ考ヘルモノデアリ
やっ、博士ハ修正ニ依ツテ此ノ法案ノ
毒ヲ取ツテヤルノデアル、毒ト云フコ
トハ民法第百九十二條ノ適用ヲ排除ス
ルコトヲ意味サレルノデアリマス、併
シ博士ノ毒ト仰セラレタノハ、私共カ
ラ見レバ今日ハ必要ナル薬デアリマ
ス尠クモ工場財團ノ散逸ヲ防グト云
フ一點カラ見テモ是ハ妙藥デアリマ
ス之ヲ削除サレテハ困ルノデアリマ
ス、私ハ當初、博士ノ修正案ハ政府原
案ト違フ所ハナイ、何故政府ハ自分ノ
修正ニ依然反對スルカ、云フコトヲ强
ク仰セラレテ居ツタ、私モ始リハドウ
モ政府ノ原案ト松本委員ノ修正案ハ餘
リ違ハナイヤウニ思ツタ、·其ノ違フ根
據ハ、先程ノ御說明ニ依ツテ私ハ初
メテ松本博士ノ意ノ在ル所ハ分リマシ
タ、卽チ工場抵當法第五條第二項ノ
規定ハ、工場財團トハ爾ク解釋スベキ
モノデハナイト云フ法律的見解ガ前提
デアルコトヲ、私ハ初メテ了解シタノ
デアリマス、併シ其ノ點ノ見解ノ違フ
コトハ先程縷〓私ガ申上ゲタ通リデ
アリマス、從ヒマシテ私ハ、始リハ內容
ガ同ジナラバ、政府ニ修正同意ヲ求メ
ラレルヨリモ、修正案ヲ引込メラレタ
方ガ宜イデハナイカト云フ考ヲ持ツ
テ居リマシタガ、今日ニ於キマシテ
ハ私ハ此ノ修正案ハ同ジデナイ、政
府ノ原案トハ同ジデナイト云フコトヲ
私ハ確信スル者デアリマス、成ル程政
府ノ原案トシテ松木博士御提案ノ如キ
修正案ガ玆ニ出タナラバ其ノ法律的
效果ハ、今囘ノ提案ト私ハ同ジデアラ
ウト思フノデアリマス、併シ一旦今囘
ノ形デ政府ノ原案ガ出、之ニ對シテ松
太博士ノ御所見ニ基イテ、其ノ思想ニ
基イテ修正サレタトナルト、事ハ容易デ
アリマセヌ、卽チ工場抵當法ノ工場財團
組成物件ト、民法第百九十二條トノ關係
ニ於テ、今迄トハ違ツタ解釋ヲ玆ニ生
ゼシメル、立法ニ依ツテ與ヘルト云フ
結果ニナルコトヲ私ハ惧レル者デアリ
ママ、從ツテ私ハ此ノ問題ハ、當初ハ
非常ニ輕ク考ヘテ居リマシタガ、今日
ニ於テハ、此ノ修正ハ絕對ニ不可ナリ
ト云フ考ヲ持ツニ至ツタ次第デアリーマ
ス、以上ハ私ガ本修正案ニ反對スル法
律的根據デアリマス、加フルニ、此ノ軍
需金融等特別措置法案ハ、戰時金融立
法トシテ實ニ重大ナル使命ヲ負フ法案
デアリマス、此ノ法案ハ旣ニ衆議院ヲ
通過シテ居リマス、私ハ此ノ法案ノ一
日モ速カナル成立ヲ希望スル政治的考
慮デモ併セ考ヘマシテ、此ノ修正案ニ
反對ヲ〓ス者デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=62
-
063・酒井忠正
○副議長(偵爵酒井忠正君) 岩田宙造
君
〔岩田宙造君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=63
-
064・岩田宙造
○岩田宙造君 私ハ松木君ノ修正案ニ
贊成ヲ致ス者デゴザイマス、簡單ニ其
ノ理由ヲ中述べヨウト思ヒマス、此ノ
問題ハ純然タル法律問題デアルト考ヘ
マスルカラ、極メテ冷靜ニ檢討スベキ
モノデアラウト思ヒマス、而シテ其ノ
問題ノ焦點ハ二ツアルト思フノデアリ
マハ其ノ一ツハ、現在ノ工場抵當法
ノ上カラ申シマシテ、其ノ工場財團ニ
屬シテ居ル物ニ付テ民法ノ卽時取得ノ
規定ノ適用ガアルカナイカト云フコト
ガ一ツノ問題デアリマス、今一ツハ、
是ハ或ハ私ダケノ問題デアルカモ知リ
マセヌガ、假ニ政府竝ニ原案替成者ノ
言ハレルヤウニ、現行ノ工塲抵當法ノ
上カラハ、其ノ工場財團ニ屬シタモノ
ニ付テハ民法ノ卽時取得ノ適用ハナイ
モノト致シマシテモ、此ノ政府ノ原案
ハ果シテ適當デアツテ、政府ノ考ヘテ
居ラレルヤウナ目的ガ、此ノ規定ニ依
ツテ達セラレルカドウカト云フコトガ
問題デアラウト思フノデアリマス、第
一ニ此ノ現行ノ工場抵當法ニ依レバ
工場財團ニ屬シタ物ニ付テハ、卽時取
得ノ適用ハナイノデアル、斯ウ云フ論
旨ニ對シマシテハ、其ノ論旨ノ一ツト
シテ沿革ヲ主張サレマシテ、只今靑木
君カラ其ノ立法ノ當時ニ於ケル本院ニ
於テノ記錄ヲ御讀ミニナリマシタ、私
ハ實ハ其ノ記錄ハ只今讀ミ聽ケラレマ
シテ例メテ承知致シタノデアリマス
ガ、今讀ミ聽ケラレタ通リデアリマス
レバ、其ノ當時ノ特別委員ノ方ノ考ヘ
方ハ、只今靑木君ノ言ハレタヤウナ趣
旨デアツタカトモ思ハレマス、併シ私
ハ其ノ當時ノ特別委員ノ方々ハ甚ダ
失禮ナ申シ分デアリマスガ、此ノ工場
財團ト云フモノガ新シイ制度デアル爲
ニ、一ツノ錯覺ニカヽラレタノデハナ
イカト私ハ思フノデアリマス、工場財
團ニ屬スル物ニ付テハ、特別ノ規定ヲ
設ケナクトモ、民法ノ卽時取得ノ規定
ト云フモノハ適用ガナイモノデアルト
云フ一ツノ··ドウ云フ理由デアリマ
スカ、錯覺ニカヽラレタノデハナイカ
ト思フノデアリマス、ト言フノハ少
シモ法律上理由ガナイノデアリマス
工場財團ト雖モ、普通ノ抵當ト雖モ、法
律上ノ效力ニ於テ何等ノ差異ハナイ、
普通ノ家屋ナリ土地ナリヲ抵當ニ入レ
マシテ、其ノ家屋ノ一部分ヲ取毀シテ
外ヘ持ツテ行ツタヤウナ場合ト、工
場財團ニ屬シテ居ル其ノ一ツノ物件ヲ
分離シテ外ヘ持ツテ行ツタヤウナ場合
ト、法律カラ見マスレバ少シモ差異ハ
ナイノデアリマス、然ルニ普通ノ家屋ノ
一部ヲ取毀シテ一ツノ木材トシテ賣ツ
タヤウナ時ニハ卽時取得ノ適用ガアルケ
レドモ、工場財團ト云フ一ツノ不動產ニ
屬シテ居ル一部ノ物ヲ持ツテ行ツタ時
ニハ、ソレニ付テハ卽時取得ノ適用ハナ
イトハ、何處カラサウ云フ區別ガ來ル
カ全然私ニハ分リマセヌ、恐ラクハ工
場財團ト云フモノガ其ノ時ノ新シイ制
度デアリ、工場財團ト云フモノニ依ル
ト、非常ニ澤山ノ金額ヲソレヲ擔保ニ
シテ借レルト云フヤウナコトノ爲ニ、
何カソコニ其ノ當時ノ色々審議ノ際ノ
模樣デ、工場財團ト云フ抵當權ハ外ノ
抵當權ト違ツタモノデアルト云フヤウ
ナ、恐ラクハ何カ私ハ錯覺ニカヽラレ
タノデハナイカト思フノデアリマス、
サウヂヤナカツタナラバ、何等カソン
ナ積リナラバ、工場財團ニ屬スル物ニ
付テハ、民法ノ卽時取得ノ規定ハ適用
シナイト云フ規定ヲ設ケラレタ筈ダト
思フ、ソコデ何處カラ、サウ云フヤウ
ナ工場財團ニ屬シテ居ル物ニ付テハ卽
時取得ノ適用ガナイト云フコトヲ考ヘ
ラレタノデアルカト考ヘテ見マスト云
フト、或ハ工場財團ニ屬スル物ニ付テ
ハ、ソレヲ賣買トカ讓渡トカ出來ナイ
ヤウナ、禁止スルヤウナ規定ガアリマ
スカラ、サウ云フ規定ガアレバ、默ツ
テ居ツテモ、賣買ヲシテモ讓渡ヲシテ
モ無效ナンダカラ、特ニ卽時取得ノ規
定ヲ適用スルト言ハナケレバ、適用ハ
除外サレテ居ルンダト云フヤウナコト
ヲ考ヘルヨリ、考へ方ハナイノデアリ
やっ、併シ先刻松本君モ言ハレマシタ
ヤウニ、卽時取得ノ規定ト云フモノ
ハ、元々賣ルベカラザル物ヲ賣ツタリ、
權限ノナイ者ガ人ノ物ヲ賣ツタリ、サ
ウ云フ其ノ權利ガ取得者ニ移ルコトノ
出來ナイヤウナ場合ニ付テノ規定デア
ルノデアリマスカラ、工場抵當法ノ中
デ、工場財團ニ屬スル物ハ賣ルコトモ
出來ナイ、處分スルコトモ出來ナイト
云フドンナ規定ヲ設ケテ置キマシテ
モ、ソレニ依ツテ卽時取得ノ働キヲ排
斥スル譯ニハ行カナイ、ソコデ其ノ理
由ガ何處ニアルカト云フコトヲ考ヘマ
シン、先刻靑木君ノ御說明ニ依リマス
ルト、ソレハ工場抵當ノ中ノ所謂簡易
抵當、工場財團ヲ作ラナイ場合ノ抵當
ニ付イテ、其ノ場合ニ付テハ民法ノ卽
時取得ノ適用ガアルト云フコトヲ言ツ
テ居ルカラ、ソレダカラ、ソレト異ル
財團ヲ作ツタ場合ニハ適用ガナイト云
フコトニナルノダ、斯ウ云フ御說明デ
アルノデアリマス、然ラバ私ハ伺ヒタ
イノデアリマスルガ、今ノ靑木君ノ御
說明ノ趣旨ニ依リマシテモ、何等カ卽
時取得ノ適用ヲ排斥スル規定ガナケレ
バソレニ掛カルンダト云フコトヲ前
提トシテ居ラレル、居ラレテ、其ノ法
律デ禁止シテ居ルンダト斯ウ言ハレ
ル、然ラバ其ノ禁止ノ規定ハ何カト
言ヘバ簡易抵當ノ場合ニ付テ卽時
取得ノ規定ヲ適用シテ居ルト云フコ
トガ、工場財團ノ時ニハ適用ヲ禁止
シテ居ルコトニナルノダ、斯ウ言ハレ
ル、サウ云フ一體解釋ハ出來ルデアリ
マセウカ、禁止シナケレバ出來ルコト
デアル、禁止シナケレバ出來ルコトニ
付テ、外ノ規定デソレヲ適用シテ居ル
カラト言ツテ、適用スルト云フコトヲ
言ツタカラト言ツテ、ソンナラ外ノ場
合ニハ適用スルト言ハヌ以上ハ適用ガ
ナイノダ、サウ云フコトハ出テ來ナイ
ト思フノデアリマス、ソレハ何處カ外
ノ規定デ禁止シテ居ルンダ、禁止シテ
居ルト云フコトガ只今ノ簡易抵當ノ場
合ト照ラシテ見ルト、ソレガ裏付ケヲ
シテ解釋ヲ援ケルト云フ意味ナラ分リ
マスケレドモ、其ノ簡易抵當ノ場合ニ
許シテ居ルト云フコトガ、工場財團ノ
場合ニ其ノ規定ニ依ツテ禁止シタコト
ニナルノノト云フ解釋ハ、是ハ餘程無
理ダラウト思フ、況ヤデス、況ヤ簡易
抵當ノ場合ニ、本來ナラバ默ツテ居ツ
テモ、簡易抵當ノ場合ト雖モ、默ツテ
居ツテモ卽時取得ノ規定ノ適用ハアル
ノデアリマスルガ、然ラバ何故ニ簡易
抵當ノ場合ニ態〓、其ノ適用ガアルト云
フコトヲ書イタカト、斯ウ考ヘテ見マ
スト、ゾレハ簡易抵當ノ場合ノ第一項
ニ、其ノ抵當ノ目的ニナツテ居ル物ニ
付テハ、第三者ガ引渡ヲ受ケタ後デ
モ抵當權ヲ行フコトガ出來ルト云フコ
トヲ、第一項ニ書イテ居ル、第一項ニ
サウ云フコトヲ書キマシタカラ、其ノ
書キ放シデ置クト云フト、サウスル
ト第三者ノ手ニ渡ツテモ、尙ソレヲ追
ツ駈ケテ取戾スコトガ出來ルト云フ規
定ダケヲ置イテ默ツテ居リマスト、是
ハ卽時取得ノ規定ノ適用ヲ除外スルノ
デハナイカト云フ疑ヒヲ生ズル、疑ヒ
ヲ生ジマスカラ、ソレデ其ノ場合ニハ
サウデハナイ、追ツ駈ケテ行クコトハ
行ケルケレドモ、併シ善意無過失ノ第
三者ノ手ニ渡レバ仕方ガナイゾ、ト云
フコトヲ設ケル必要ガアツテ設ケタノ
デアリマス、若シ第一項ノ規定ガナケ
レバ、第一項ノヤウナ規定ガナケレバ
第二項ノ規定ヲ置ク必要ハナカツタノ
デアリマス、處ガ工場財團法ニ付キマ
シテハ、第一項ノ如キ規定ガナイノデ
アリマスカラ、從ツテ卽時取得ノ規定
ノ適用ヲ妨ゲルト云フ必要ガナイト思
フ從ツテソレヲ言ハナイカラ卽時取
得ノ規定ノ適用ハナイト云フ理由ニハ
ナラナイノデアリマス、或ハサウ申シ
マスルト云フト、成ル程其ノ工場財
團ノ方ニハ、第三者ノ手ニ渡ツテモソレ
ヲ追求シテ抵當權ヲ行フコトガ出來ル
ト云フ規定ハナイガ、規定ハナクテモ
其ノ結果ニナツテ居ルノダカラ、其ノ
規定ガアルト同ジダ、斯ウ云フ說明ガ
アルカモ分リマセヌ、併シソレハ言ヒ
換ヘレバ、工場財團ニ屬シテ居ル物ニ
付テハ、是ハ普通ノ處分方法ニ依ツテ
ハ、賣買トカ讓渡トカ云フヤウナ普通
ノ處分方法ニ依ツテハ、第三者ハ權利
韓
ヲ取得スルコトガ出來ヌト云フニ過ギ
ナイノデアリマス、ト云フニ過ギナイ
ノデアリマスカラ、最初申述ベマシタ
所ニ歸ツテ、ソレダケデハ卽時取得ノ
適用ヲ排斥スルト云フコトニハナラヌ
ノデアリマス、要スルニ私ハ、現行法
ノ上デハ工場財團ニ屬スル物ニ付キ
マシテモ、當然民法ノ卽時取得ニ關ス
ル規定ノ適用ハアルモノト信ズル、無
イト云フ根據ハドウシテモ見出サレナ
イノデアリマス、從ツテ沿革ガドウデ
アリマセウトモ、其ノ當時ノ光輩ノ委
員、議員諸君ガ、ドウ云フ考デ議論ヲサ
レテ居ツタカ知リマセヌガ、出來上ツ
タ法律ノ條文ノ上カラ言ヘバドウシ
テモ民法ノ卽時取得ノ規定ノ適用ヲ排
除スル理由ト云フモノハ、解釋ト云フ
モノハ何處カラモ出テ來ナイト思フノ
デアリマス、併シナガラ假ニ其ノ點ニ
付キマシテ、原案、政府竝ニ靑木君ノ
言ハレマシタヤヤニ、現行ノ抵當法
ニ依レバ、工場抵當法ニ依レバ、工場
財團ニ屬シタ物ニ付テハ、民法ノ卽時
取得ノ規定ノ適用ハナイト云フ解釋ヲ
正シイト致シマシテモ、私ハ本案ノ、
此ノ民法云々ノ規定ヲ準用スルト云フ
コトデハ、折角政府ノ企圖サレテ居リ
マスル目的ハ達シナイト思フノデアリ
そく、ソレハ何故カト申シマスルト云
フト、是ハ適用ト云フコトト準用ト二一
フコトノ用例ガ、申ス迄モナク法律
デ決ツテ居リマスカラ、デアリマスカ
ラ、若シ原案ノ政府ノ考ヘテ居ラレル
ヤウナ趣旨ト致シマスナラバ矢張リ
民法ノ是レ〓〓ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
ト云フヤウナ意味デ、適用ト云フコト
ニシナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、民法ノ卽時取得ニ關シマスル規定
ノ效力ヲ工場財團ニ付テハ排斥シテ居
ルノデアルガ、其ノ排斥シテ居ルノヲ
解イテ、サウシテ其ノ效力ヲ之ニ及ボ
サウト云フノデアリマスルカラ、當然
適用ニナルベキデアルト思フノデアリ
やく、準用ト云フコトニナリマスルト
云フト、是ハ本來法律ノ規定ガ目的ト
シテ居ル場合ト違フ場合ニ、併シ場合
ハ違フケレドモ似寄ツタ所ガアル似
寄ツタ所ガアルカラ、ソレデ違フ場合
ニ付テノ規定ノ效力ヲ、其ノ場合ニ及
ボサウト云フノガ準用デアリマスルカ
ラ、準用ト云フ時ニハ、其ノ兩方ノ場
合ヲ比較シテ見ルト、共通ナ範圍ニ於
テノミ其ノ規定ガ效力ヲ及ボスノデア
ツテ、其ノ違フ特殊ノ點ニ付テハ效力
ヲ及ボスコトハ出來ナイ、是ハ私ガ申
上ゲル迄モナイ所デアリマス、ソコデ
準用ト云フコトニナリマスルト云フ
上サウスルトドウ云フ結果ニナルカ
ト言ヒマスレバ、工場財團ノ場合ト丁
度簡易抵當ノ場合トヲ假ニ比較シテ見
マスルト云フト······今ノハ間違ヒマシ
タ、工場抵當ノ場合ト普通ノ民法ガ卽
時取得ヲ規定シテ居ル場合トヲ比較シ
テ見マスルト云フト、一體何處ガ違
フ、實ハ本當ハ違フ所ハナイノデアリ
やく、違フ所ガナイカラ、私ハ卽時取
得ニ關スル規定ノ適用ガアルト云フコ
トデアリマスルカラ、違フ所ガナイノデ
アリマスルガ、若シ原案ノ政府ノ御趣
意ノヤウニ致シマスルト、違フ所ガ出
テ來ル、其ノ違フ所ハ何カト言ヘバ、
此ノ抵當權者ハ、工場財團ノ抵當權者
ハ、工場財團ニ屬スル物ガ何人ノ手ニ
渡ツテモ、之ヲ追ツ駈ケテ行ツテ其ノ
抵當權ヲ行フコトガ出來ルト云フ點ガ
特異ノ點ニナルノデアリマス、デアリ
マスルカラ、準用ト云フコトニシマス
ルト云フト、其ノ特異ノ點ノ效力ヲ無
視スルコトハ出來マセヌカラ、卽時取
得ニ關スル規定ノ效力ヲ及ボサウトシ
テモ及ボサレナイコトニナル、其ノ工
場財團ノ方ノ特異ノ點ハ、何處迄モ追
ツ駈ケテ行クト云フノガソレガ特色ナ
ンデアリマスカラ、準用ナラバ、其ノ
特色ノ點ダケハ活カシテ置カナケレバ
ナラヌ、デアリマスルカラ、折角其ノ
場合ニ、矢張リ卽時取得ノ規定ヲ適用
シヨウトシテモ、準用デハ、其ノ場合
ハ其ノ效力ヲ及ボスコトガ出來ナイト
云フコトニナリマス、是ハ矢張リ適用
ニシテ、他ノ場合ト同ジヤウニ、其ノ
規定ヲ適用スルト云フコトニシナケレ
バ、準用ト云フコトデハ私ハ目的ヲ達
シナイ、若シサウ云フ差異ハナイノ
ダ、サウ云フ差異ハナイノダト云フナ
ラバ、ソレナラバ矢張リ元ニ歸シマシ
テ、當然適用ガアルト云フコトニナル
ノデアリマス、當然適用ガナイカラ、
此ノ規定ニ依ツテ其ノ效力ヲ及ボサウ
ト云フナラバ、適用ト云フコトニシナ
ケレバ、準用デハ私ハ目的ガ達シナイト
思フノデアリマス、若シ强イテ此ノ儘ニ
シテ置キマシタ時ニハドウナル、正當
ナ解釋ト致シマシテハ、原案ノ通リデ
ハ正當ナ解釋トシテハ卽時取得ノ規定
ヲ適用スルコトハ出來ナイコトニナル
ト思ヒマスガ、併シソレデハ如何ニモ
無意味ノコトニナリマスカラ、此ノ儘
デ通ツタ場合ニ、或ハ問題デモ起キテ
裁判所ニデモ參リマシタナラバ、ツ
ハ裁判所デハ、準用ト言ツテモ立法ノ目
的ハ此處ニアルノダカラ、此ノ場合ニ
ハ矢張リ卽時取得ノ效力ハ及ブノダト
云フ判決ハスルダラウト思ヒマス、サ
ウデナケレバ此ノ規定ヲ全然殺スコト
ニナリマスカラ、ソレハサウナルデア
リマセウガ、是ハ全ク適用或ハ準用ト
云フ立法上ノ慣例ノ文句ヲ全ク殺スコ
トニナルノデアリマスカラ、斯樣ナ立
法上、ドノ法律デモ確定的ニ決ツテ居
ル適用ヤ準用ト云フヤウナ言葉ヲ曖昧
ニスルヤウナ文句ヲ用フルト云フコト
ハ、是ハ大イニ愼シマナケレバナラヌ
コトト考ヘルノデアリマス、之ヲ要ス
ルニ私ハ、現行ノ工場抵當法ノ上カラ
申シマシテモ、工場財團ニ屬スル物ニ
ノ付テハ矢張リ民法ノ卽時取得ノ規定ハ
當然適用ガアルモノデアル、假ニサウ
デナイトシテモ、サウデナイト云フ立
場カラ致シマシテモ、此ノ政府ノ原案
ノ通リデハ却テ其ノ目的ヲ達シナイ、
政府ノ御說明ニ依リマスレバ、工場財
團ノ場合モ簡易抵當ノ場合ト同ジヤウ
ニシヨウト云フノガ本當ノ目的デアリ
マスカラ、ソレナラバ此ノ修正案ノヤ
ウニ簡易抵當ニ屬スル工場抵當法第五
條ノ規定ヲ準用スルト云フコトニスル
ノガ最モ簡明デアリ當然ノコトデアリ
せっ、サウシテ工場抵當法ノ第五條ニ
依リマスレバ、只今私ガ申シマシタヤ
ウナ準用ト云フヤウナ言葉ハ使ツテア
リマセヌ、民法ノ是レ〓〓ノ規定ノ適
用ヲ妨ゲズト云フコトデ、適用スルト
云フコトニナツテ居ルノデアリマスカ
ラ、今申述ベマシタヤウナ不都合モ生
ジナイノデアリマス、サウシテ政府ノ
此ノ原案ノ企圖シテ居ル場合ニピツタ
リ合フノデアリマスカラ、此ノ修正案
ノ如クスルコトハ最モ適當デアラウト
考ヘルノデアリマス、之ガ私ノ贊成ノ
理由デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=64
-
065・酒井忠正
○副議長(伯爵酒井忠正君) 男爵穗積
重遠君
〔男爵穗積重遠君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=65
-
066・穂積重遠
○男爵總積重遠君 私ハ、只今岩田先
生ノ申サレマシタ純法律的ナ問題ガ、
此ノ貴族院本會議ノ壇上ニ上ボセラレ
テ甲論乙駁ヲ致シマスコトヲ、時ニ取
ツテ誠ニ愉快ナコトト存ズルノデアリ
さく、先程松本先生モ仰セラレマシタ
通リ、法律審議ハ議會ノ最モ重要ナ仕
事デアリマス、議會ハ所謂立法府デア
リマシテ、通法府デハナイノデアリマ
ス、法律ヲ通スダケガ議會ノ能デハナ
イ、十分審議シタ上デ、通スベキハ通
シ、通スベカラザルハ通サヌ、之ガ議
會ノ權能デアルコト又職責デアルコト
申ス迄モナイコトデアリマス、然ルニ
私實ハ此ノ前ノ臨時議會カラノ新參者
デアリマスガ、ドウモ世間ノ近頃ノ議
會ニ對スル態度ヲ見マスト、初メカラ
政府案ハ通ルモノト決メ込ンデ、例
バ「ラジオ」ノ放送デ、今日ノ議會ノ日
程ヲ報告スルニモ、日程ダケ報告スルナ
ラバ兎モ角、委員長報告通リ可決シテ
散會、斯ウ云フコトヲチヤント言フノ
デアリマス、現ニ今朝ノ朝日新聞ヲ見
マスト、是ハ朝日新聞ダケト云フノデ
アリマセヌガ、偶〓朝日新聞ガ手許ニ
アツタカラ持ツテ參ツタノデアリマス
ガ、今ノ此ノ問題ニ付テ「次イデ軍需
金融等特別措置法案ヲ上程、委員長報
告ニ對シ松本烝治氏ヨリ修正案提出、
修正案ニ對スル討論ヲ行フ、靑木一男
氏穗積重遠男ヨリ修正反對、次田大
三郞、岩田宙造兩氏ヨリ修正贊成ノ討
論アリ採決ノ上政府原案可決ノ豫定」
トチヤント書イテアル、是ハ實ニ怪シ
カラヌコトト思フ、提案者タル松本先
生ニ對シテモ失禮千萬ナ話ト斯ウ思フ
ノデアリマス、斯ウ云フ世間ノ考ヲ一
ツ破リタイモノダト、其ノ絕好ノ機會
ヲ松本先生ガ玆ニ與ヘテ下サツタ、此
ノ點ニ於テ私ハ松本先生ニ絕大ノ敬意
ヲ表スルノデアリマス、而シテ此ノ最
モ有意義ナ討論ニ參加シ得マシタコト
ヲ、法律家ノ末席ヲ汚シマス者トシテ
非常ニ光榮ト致スノデアリマス、但シ
相手ガ私ノ平素尊敬スル松本、岩田
兩先生デアリマスノデ、甚ダ勇氣ノ鼓舞
ヲ要スルコトデアリマスガ、敢然トシ
テ體當リヲスルトハ申シマセヌガ、試
ミタイト思フノデアリマス、扠此ノ
問題ハ、純法律問題デアリマスケレド
モ、決シテ法律技術問題ヂヤナイノデ
アリマス、先程松本先生モ言ハレタヤ
ウニ一字一句ヲ彼此スルト世間ハ言フ
カモ知レナイ、斯ウ云フ御懸念デアリ
マシタ、或ハサウ云フ誤解ガアルカモ
知レマセヌガ、是ハ決シテ法律技術ノ
問題デナイノデアリマス、法律的根本
觀念ノ問題デアリマス、而シテ法律的
根本觀念カラ考ヘマスト、松本先生ガ
詳細且ツ明快ニ御述ニナリマシタヤウ
ナ根本觀念ヲ採ラレル以上、松本先生
ノ結論ニ至リ、又松本先生ノ修正案ガ
提出セラレルノハ私ハ當然ダト思フノ
デアリマス、併シ私ハ甚ダ僭越ナガ
ラ、此ノ根本觀念ニ付テ松本博士ト正
反對ノ考ヲ持ツテ居ルノデアリマシ
テ、從ツテ結論モ正反對ニナリ、玆
原案支持ト云フコトヲ申スコトニモナ
ル次第デアリマス、結局ハ法律解釋ノ
問題デアリマスガ、其ノ解釋ト云フモ
ノハ如何ニシテナスベキモノカト云フ
コトニ付テ段々ト御議論モアリマス、
一ツハ立法經過ナリ立法當時ノ議會ノ
速記錄、委員會ノ記錄等ノ價値如何ト
云フコトデアリマス、松本先生ハ是ハ
何等ノ價値ナシト迄ト言ハレタカドウ
カ、非常ニ之ヲ輕ク言ハレタ、私ハ決
シテ是ハ絕對ノモノトハ思ハナイノデ
アリマス、立法ノ經過ガ法文ノ解釋ヲ
決定スルトハ思ヒマセヌガ、併シ是
ハ重要ナ參考デアルト云フコトハ、
是ハ言ツテ宜シイノデハナイカト思フ
ノデアリマス、私ガ始終勉强シテ居
リマス民法ニ付キマシテモ、先輩諸
先生ノ著書論文ニ〓へラレル所最モ
多イノデアリマスガ、特ニ其ノ中
繰返シ〓〓拜見シテ始終〓ヘラレマ
スノハ、梅謙次郞先生ノ民法要義デ
アリマス、アノ書物ハ非常ニ古イ書
物デアリマスガ、詰リ梅先生其ノ人
ノ御學識、御見識ト同時ニ、梅先生ガ
民法起草者ノ一人デアラレタト云フコ
ト、ソコデ民法要義ノ中ニ、斯ウ云
フ積リデ書イタノデアル、或ハ自分ハ
斯ウ云フ積リデ御議論ヲ主張シタガ、
サウデナイ結果ニナツタンダト云フコ
トヲ言ツテ居ラレル、是ガ非常ニ今ノ民法
ノ解釋ヲ助ケルノデアリマスカラ、立
法ノ經過ト云フモノハ、絕對デハ勿論
アリマセヌガ、非常ニ大キナ參考ニナ
ルモノデアルト云フコトモ言ヘルノデ
アリマシテ、先程靑木君ノ朗讀サレマ
シタ立法經過、是ハ尙全委員會ノ記錄
ヲ續マナケレバ、ナカ〓〓本當ノコト
ハ分ラナイコトデアリマスケレドモ、
是ハ確カニ一ツノ資料ニナル、斯ウ思
フノデアリマス、併シ又立法ノ經過ガ
結局ノ決定デハナイノデアリマス、又司
法省ノ方デハ四十年來其ノ見解ヲ採ツ
テ居タト云フコトデアツタト云フコト
デアリマスガ、北ノ司法省ノ見解ト云
フモノガ、是亦絕對デハナイノデアリ
やっく、要スルニ法律解釋ノ鍵ハ裁判所
ノ握ル所デアリ、而シテ其ノ鍵ヲ供給スル
ノハ學者ノ學說デアリマス、サウ云フ
立場カラ考ヘテ見マシテ、丁度先程松
本先生ガ言ハレタヤウニ、一方ニ於テ
ハ法文ノ字句、兎ニ角成文法デ、勿論
字ニ書イタモノデアリマスカラ、其ノ
立法ノ字句、一方ニ於テハ松本先生ハ
條理ト仰セラレマシタ、確カニ根本ハ
條理デアリマスガ、モウ一ツ直接ニ申
スト其ノ立法ノ目的デアリマス、何
爲ニ出來テ居ルカト云フ其ノ立法ノ目
的立法ノ目的ニ基イテ條文ヲ讀ム、
條文カラ立法ノ目的ニ遡ル、是ガ法律
ノ解釋デアラウカト、斯ウ考ヘルノデ
アリマス、ソコデ此ノ立法目的ナルモ
ノデアリマスガ、以前ノ決律、度々話
ノ出マス明治三十八年頃ノ法律ニハ立
法目的ガ書イテナイノデアリマス、或
ハ其ノ當時ノ考ヘ方トシテハ、立法目
的ト云フヤウナコトヲ條文ノ上ニ書ク
コトハ、甚ダ〓科書的デアルト云フヤ
ウナコトデモアリマシタラウカ、立法
目的トカ、定義トカ云フコトハ頻リニ
避ケタヤウデアリマス、處ガ是ハ昭和
十二年頃カラト思ヒマス、私ノ記憶デ
ハアノ臨時資金調整法アタリカラガ始
リヂヤナカツタカ、是ハ私ノ記憶違ヒ
ガアルカモ知レマセヌガ、多分アノ邊
カラデアリマスガ、此ノ法律ノ第一條
ニ本法ハ何々ヲ目的トスルト云フ〓ト
ヲ書クヤウニナリマシタ、是ハ私ハ實
ニ結構ナコトダト思フノデアリマス、
是アルガ故ニ、後ノ條文ニ多少ノ不備
ガアリ缺陷ガアツテモ、常ニ第一條ニ
遡ツテ之ヲ解釋スルコトニナルノデ、
非常ナ法律解釋及運用ノ指針デアルト
斯ウ思フ、ソコデ此ノ軍需金融等特別
措置法ニ付キマシテモ、先ヅ以テ重ン
ズベキハ第一條デアリマシテ、「本法ハ
軍需金融其ノ他ノ金融ノ圓滑適正ヲ圖
ルト共ニ資金ノ效率的使用ヲ促進スル
コトヲ目的トス」斯ウ云フ大目的ノ
爲殊ニ決戰下ニ必要デアルト政府ガ
認メラレタ此ノ大目的ノ爲ニ、此ノ法
律ガ出來タンダト云フコトヲ我々ハ先
ヅ頭ニ銘ジナケレバナラヌ、而シテ是
ハ特別措置法デアリマスガ、此ノ內容
ニ色々外ノ法律ガ引張ラテレモ來テ居ル
ノデアリマシテ、其ノ中ニ工場抵當法
其ノ他ノ財團抵當法ガ出テ居ル、今日
ノ問題トシテハ、此ノ工場抵當法、明
治三十八年ノ工場抵當法ニハ第一條云
云ハ書イテアリマセヌケレドモ、今日
工場抵當法ヲ適用スルニハ、矢張リ此
ノ特別措置法第一條ヲ頭ニ被ヤテ、此
ノ意味デ解釋シ、適用スル、斯ウ云フ
コトデアル、其ノ爲ニハ或ハ前ノ解釋
適用トハ違ツテ來ルコトモ起リ得ルカ
トモ考ヘルノデアリマスガ
〔副議長退席、議長著席〕
兎ニ角此ノ意味デ以テ金融關係ノ制度
ヲ取扱フト云フノガ、今度ノ此ノ御趣
意デアラウカト、斯ウ考ヘルノデアリ
やっ、サウ云フ考デ工場抵當法及本特
別措置法ヲ跨ル根本觀念ヲ考ヘテ見マ
スト、玆ニ二ツノ根本觀念ガアル、先
程カラ、靑木君ハ頻リニ細カイ法律問
題ヲ御採上ゲニナリマシタガ、其ノ點
ニハモウ私ハ觸レマセヌデ、根本問題
ヲ申シマスガ、二ツノ根本觀念ガ出テ
來ル、ソレニ依ツテ問題ガ決スルンヂ
ヤナイカ、斯ウ思フノデアリマス、第
一ハ工場財團ノ法律的ノ性質デアリマ
ス、工場財團ト云フモノハ如何ナル財
產カ、之ガ一ツデアリマス、先程カラ
段々ト工場抵當法ノ條文モ引用サレタ
ノデアリマスガ、私ハ今一ツ最モ大事
ナ條文ノ引用ガ、忘レラレテ居ルト云
フカ爲サレズニ居ルヤウニ思フノデア
リマス、ソレハ第十四條第一項デアリ
マシテ、「工場財團ハ之ヲ一箇ノ不動產
ト看做ス」斯ウアルノデアリマス、松
本先生ハ條文ハ御引用ニナラナカツタ
ヤウデアリマスガ、御言葉ノ中ニ工場
財團ハ之ヲ一箇ノ物ト看做スノダト、
斯ウ仰セラレタヤウニ承リマシタガ、
確カニ物デアリマスガ、唯ノ物デハナ
イ、不動產デアリマス、工場財團ノ中
ニハ色々ノモノガ含マレテ居ル、權利
迄モ含マレテ居ルガ、併シ之ヲ含メテ
一ツノ不動產ト見ル、ソコガ此ノ問題
解決ノ一ツノ鍵ヂヤナイカト思フノデ
アリマス、此ノ卽時取得ノ規定ナルモ
ノハ、是ハ動產ノ規定デアリマス、卽
時取得ハ動產ノ規定デアリマス、卽時
取得ハ動產ニ限ツテノ規定、不動產ニ
付テハ卽時取得ト云フコトハナイノデ
アリマス、其ノ爲ニ、場合ニ依ツテハ
不動產關係ニ於テハ甚ダ變ナ問題··
其ノ問題ダケヲ考ヘルト變ナ問題ガ起
ルコトモアルノデアリマス、例ヘバ斯
ウ云フ事件ガアリマシタ、或マア怪シ
カラヌ息子デアリマスガ、親父ガ死ン
ダラ相續シヨウト思ツテ待構ヘテ居ル
ガ、親父ナカ〓〓死ナナイ、待チ切レ
ナクナツテ親父ヲ毒殺シタノデアリマ
ス、巧ミニヤツタノデ、證跡ガ分ラ
ズ、親父ハ病死ト云フコトニナツテ、
其ノ息子ガ相續ヲシタ、從ツテ戶籍ニ
モチヤント相續シタコトガ載リマス
シ、登記簿ニモ相續デ以テ、大キナ土
地ヲ持ツテ居ルノデアリマスガ、其ノ
土地ヲ相續ニ依ツテ取得シタコトガチ
ヤント載ツテ居ル、誰ガ見テモ、モウ
アレガ跡取デ、此ノ土地ハアノ人ノモ
ノニナツタノダト云フコトハ疑ノナイ
コトデアリマス、ソコデ其ノ土地ヲ分
讓シタ、大勢ノ人ニ分讓シタノデアリ
マツ、買ツタ者ハ是コソ全ク善意、
無過失、平穩、公然デアリマス、是
ハ永久ニ自分ノモノニナルト思ツテ
居タ、處ガ天網恢々疎ニシテ漏ラサ
ズ、其ノ親殺シノ惡事ガ露見致シマシ
夕、其ノ儘捕マツテ是ハ恐ラク勿論死
刑ニナツタト思ヒマス、ソコデ跡取ガ
無クナツタカラ、親族會議ヲ開イテ他
ノ相續人ヲ選ンダ、今度新ナル相續人
カラ、其ノ土地ヲ買ツタ皆ニ對シテ、
ソレハオ前等ハ前ノ人カラ買ツタト云
マル、アレハ相續人ヂヤナイカラ、ア
ノ人ノモノニナツタコトハ一度モナイ
ノダカラ、オ前ノモノヂヤナイ、何人
3
ト雖モ自己ノ有セザル物ヲ他人ニ與フ
ルコト能ハズ、是ハ法律ノ大原則デア
ル、サア返セト訴ガ起ツタ、ソンナ筈
ハナイト爭ツタガ、ソレハ駄目デ、見
事ニ負ケテ、皆取返サレタ、サアソン
ナラ何處ニ苦情ヲ持ツテ行クカ、相手
ハ地獄ニ行ツテ居ル、地獄ニ書キ出シ
テモヤラレズ、泣寢入ト云フコトデアリ
マン、誠ニ其ノ人々ニ取ツテハ氣ノ毒
デアリマス、ケレドモ民法カラ見レバ
不動產ニ付テハソレハ已ムヲ得ナイ、
不動產所有權ノ安固ヲ圖ル爲ニハドウ
テ是モ已ムヲ得ナイ、動產ト不動產ノ
物理的ノ違モソコニアリマセウガ、兎
ニ角不動產ニハ卽時取得ハ適用ガナイ
ト、斯ウ云フコトニナツテ居ルノデア
リマス、ソコデ工場財團ハ不動產ト看
做スト云フ以上ハ、寧ロ其ノ根本原理
カラ言ヒマスト、不動產ナルガ故ニ卽
時取得ハ適用ガナイノダト云フコト
ニ、寧ロナルンヂヤナカラウカ、岩田
先生ハ、サウ云フ理窟ガアルナラ其ノ
根據ヲ示セト仰セラレマシタガ、其ノ
根據ヲ示セト仰セラレルナラ、是ハ如
角テゴザイマセウカ、不動產デアルカ
ラ卽時取得ハ當嵌マラヌノガ本當ヂヤ
ゴザイマセヌカ、若シソレガイカヌト言
フノナラ、ソコハ不動產ニ付テハ卽時
取得ヲ認メナカツタ民法ノ根本ノ問題
ニナル、ソレカラ改メテ掛レバ兎ニ
角、不動產ニ卽時取得ヲ認メナイナラ
バ、不動產ト看做サレル此ノ工場財團
ニモ卽時取得ハナイ筈ダ、斯ウ云フコ
トニナルンヂヤナカラウカ、斯ウ思フノ
デアリマス、處ガ段々話ノ出マス工場
抵當法第二條ノ所謂簡易工場抵當ナル
モノ、是ハ財團ニナツテ居ラヌノデア
リマス、卽チ同條ニ所謂「土地ニ附加
シテ是ト一體ヲ成シタル物及其ノ土地
ニ備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ
用ニ供スル物」、ソレ等ハモウ其處ニ
置イテアル其ノ儘デ、或ハ土地ヲ離レ
タ時ニソレ〓〓〓ツノ動產ニナル、ソ
レゾレ一ツノ動產ニナツテ人手ニ渡ル
ノデアリマスガ、卽時取得ノ規定ノ適
用ガアルコトハ當然デアリマス、例ノ
第五條ノ「妨ケス」ト云ツテ居ルノハ詰
リ其ノ意味デアリマス、分ロ切ツタコ
トダガ、併シ一旦土地ニ喰ツ付イテ居
タ物、ソレガ人ニ行ツタト云フコトニ
ナツタノデアルカラ、其ノ點ノ關係ヲ
明カニスル爲ニ妨ゲズト言ツタノダト
私ハ斯ウ云フ風ニ思ツテ居ルノデアリ
さく、卽チ此ノ善意、無過失、平穩、公
然ノ第三者ヲ此ノ時ニ保護シヨウ、元
來ガ動產ナノデアル、卽時取得ノ規定
ニ依ツテ保護シヨウト、斯ウ云フ考ダ
ト思フノデアリマス、處ガ此ノ法案ノ
第十五條ニ所謂「其ノ財團ヲ組成スベ
キ機械、器具、電柱、電線、其ノ他
ノ物件」ト云フノハ、先程モ段々御話
ガアリマシタヤウニ、是ハ所謂簡易工
場抵當カラ離レタ品物トハ違フノデア
リマシテ、假令離レテモ又不動產ト看
做ス、映ノノノノ箇ノ不動產ト看做
ス、一箇ノ不動產ノ中ノ一部分デアル
ト云フ性質ハ失ハレナイノデアリマス
カラ、從ツテ其ノ儘デハ第百九十二條
ハ滴用サレナイト、斯ウ云フ解釋ニナ
ルト思フ、ソレ故ニ今度ノ第十五條ノ
第二項ニ、第百九十二條以下ノ規定ヲ
準用スト斯ウ言ツタノダト私ハ思フノ
デアリマス、性質ガ違フノデス、不動
產ニ當嵌メルノデアリマスカラ、準用
ナノデアリマス、卽時取得、ナルモノ
ハ元來動產ニ關スル規定デアルガ
不動產ニ當嵌メル、唯其ノ狀態ガ、現
在ニ於テ觀念上ハ不動產デアルケレド
モ、一ツ〓〓離レテ人手ニ渡ツテ居ル
ト云フ點ニ於テ動產ニ似テ居ルカラ、
ソレデ卽時取得ノ規定ガ其處ニ行クト
云フノデ、從ツテ適用デハナクシテ準
用ダト斯ウ云フ說明ガ出來ルノヂヤナ
イカ、起草シタ當局ガドウ云フ御考デ
準用ト云フ言葉ヲ使ハレタカ、私ハ伺
ツタ譯デハアリマセヌガ、私ニ言ハセ
レバサウ說明ガ出來ルノヂヤナイカト
斯ウ云フ風ニ考ヘルノデアリマス、サ
ウ云フ風ニ考ヘマスト、其ノ事ノ利害
得失ノ如何ハ姑ク別トシテ、根本ノ觀
念上カラ言ツテ、工場財團ニ屬スル物
ハ、假令離レテモ第百九十二條ハ適用
ナイノダト云フ方ガ、寧ロ根本ノ解釋
ニナル、適用ガアルト云フナラ其ノコ
トヲ言ハナケレバナラヌ、斯ウ云フ風
ニ考ヘラレル、ソレガ私ノ第一點デア
リマス、第二ノ根本問題ハ、是亦段々
ト御話モ出マシタガ、一體此ノ財產法
ニ於テ何ニ重キヲ置クカ、何ヲ保護ス
ルカ、權利ヲ保護スル、權利ヲ動カナ
イ狀態、今此處ニ權利ガチヤシトア
ル、動カナイ狀態ニ於テ保護スルカ、
權利ヲコツチカラアツチニ動ク、權利
ノ動キヲ保護スルカ、斯ウ云フ問題ニ
ナル、學者ハ之ヲ靜的安全、動的安全
ト云フヤウナコトモ申シマス、或ハ動
ク方ヲ取引安全ノ保護ト斯ウ云フヤウ
ナコトモ申シマズ、此ノドツチヲ保護
スルカト云フコトガ、是ガ財產法ノ一
ツノ大問題デアリマス、財產法ヲ立法
スルニ付テノ大問題デアリマス、所謂
「ヂレンマ」デアリマシテ、アチラヲ立
テレバコチラガ立タズ、斯ウ云フコト
ニナリマス、法律ナルモノハ、事柄ヲ
ハツキリ決メマス關係上、サウ云フ問
題ガ折々起ルノデアリマス、財產法ニ
於テハ今ノ點ガ一ツノ「ヂレンマ」デア
リマスシ、身分法ニ於キマシテハ大
キナ「ヂレンマ」ガ一ツアルノデア
リマス、ソレハ一夫一婦ノ婚姻ト云
フコトト、婚姻外ニ生レタ子供、其
ノ關係デアリマス、以前ニ私生子ト
申シマシタガ、私生子ト云フ言葉ハ
使ハヌト云フコトニ先年ノ法律デナ
リマシタガ、假ニ此處ニ婚姻外ノ子
供ト斯ウ申シマセウ、ソコデ一夫一
婦ノ婚姻ニ重キヲ置ケバ、婚姻外ノ
子供ノ地位ヲ認メル譯ニ行カナイノデ
アリマス、併シナガラソレデハ其ノ生
レタ子ガ實ニ可哀相ダ、又我ガ國ノ家
族制度ノ上カラモソレハ困ルト云フコ
上ノ、一方ニ於テハ婚姻外ノ子ニモ或
地位ヲ認メテ居ル、例ヘバ現行民法デ
是ハ問題ニナリ得ルコトデアリマス
ガ、本妻ニハ女ノ子シカナクテ妾ニ男
ノ子ガアレバ、其ノ戶主ガ死ネバ、本妻
ノ女ノ子ヨリ妾ノ男ノ子ガ先ニ相續ス
ル、是ハドウダト議論ノ種ニナリマス
ガ、兎ニ角サウ云フ事ガアルノデアリ
マン、其ノ婚姻外ノ子ノ利益ヲ重ンズ
レバ婚姻ガ整ハズ、婚姻ヲ重ンズレバ婚
姻外ノ子ガ慘メナコトニナル、斯ウ云
フノデアリマス、ソコデ民法ノ規定ヲ
見マシテモ、ドウモ兩方ガ混ツテ居
ル、一貫シテハ居ラヌ、或場合ニハ婚
姻ニ重キヲ置イテ居リ、或場合ニハ婚
姻外ノ子ニ重キヲ置イテ居ルノデアリマ
ス、必ズシモ一貫シテ居ナイノデアリ
せっ、松本先生ノ御指導ノ下ニ私共モ
長年關係シテ居リマス今度ノ民法改正
案ナドデモ、矢張リ其ノ點ハ非常ナ惱
ミデアリマス、例ヘバチヨツト先程申
シマシタ私生子ト云フ名前ヲ廢スルト
云フヤウナコトハ、私生子ノ利益保護
ノ一ツノ現ハレデアリマスガ、ソレナ
ラ外ノハドウカト云フト、サツキノ妾
ノ子ノ方ガ先ダト云フコトハ止メニシ
三ツ、女デモ本妻ノ子ヲ先ニシヨウト
云フコトニシヨウ、ソコニ於テハ婚姻
外ノ子ノ利益ハ後廻シニナツテ居ルト
云フ風ニ、ナカ〓〓チヤント揃フ譯ニ
行カナイ、又私ニ言ハセレバ揃ハナイ
ノガ太當デヤナイカ、場合ニ依ツテハ
コツチヲ立テルコトモアレバ、アツチ
ヲ立テルコトモアル、要ハ婚姻ヲ保護
スルトカ、或ハ一人々々ノ子供ノ利益
ヲ保護スルト云フ問題デハナイ、如何
ニシテ我ガ國ノ家族制度、又現在ノ家
庭生活ヲ適正圓滿ナモクニシヨウカト
云フコトガ目的デアリマス、從ツテソ
レト同ジ意味デ、財產法ニ於ケル「デレ
ンマ」モ、ドツチヲ立テル、コツチヲ
立テルト云フコトハ、ナカ〓〓兼合ノ
ムツカシイ問題デアリマスガ、要ハ抵
當權者ヲ保護スルデモナシ、第三取得
者ヲ保護スルデモナシ、如何ニシテ此
ノ制度ノ目的ヲ達スルカ、制度ノ全體
ノ目的、又現時ノ目的、ソレヲ如何ニ
シテ達成スルカト云フコトガ此ノ法律
ノ狙ヒ所デナクチヤナラヌト斯ウ思フ
ノデアリマス、抵當權者ト第三取得者
トドチラヲ保護スルカト云フコトガ問
題デハナクシテ、要スルニ工場抵當法
及其ノ特別措置ノ決戰下ニ於ケル目的
達成ヲ何處へ持ツテ行クノガ宜イカ、
斯ウ云マコトガ結局ノ問題ニナル、ソ
レヲ現ハシテ居ルノガ今度ノ法案ノ第
一夜ソレニ基イテ此ノ間題ヲ解決ス
ベキダト思フノデアリマス、私ニ少シ
大膽率直ナコトヲ言ハセテ戴キマス
ト、私ガ若シ此ノ法案ノ特別委員ノ中
ニ加ツテ居リマシタナラバ、私ハ或ハ
斯ウ云フコトヲ提案シタカモ知レナイ
ノデアリマス、此ノ第十五條ノ第二項
ハ之ヲ削除スル、ナイ方ガ宜イノヂヤ
ナイカ、是ガアツテハ折角ノ此ノ特別
措置ガ甚ダ不徹底ニナルノヂヤナイ
カ、特別措置ハ、玆ニ工場財國ニ付テ
安心シテ金ガ貸セルヤウニ、サウシテ
其ノ軍需品生產其ノ他ノ目的ヲ十分速
スルヤウナ措置ヲ執ラウ、其ノ爲ニハ
各方面ニ又色々困ルコトモアラウガ、
兎ニ角今囘ノ重點ハソコニアルノダカ
ラ、ト云フノデアリマスカラ、折角ノ
規定ニ第十五條ノ第二項ガアツテハ
先ガ拔ケテシマフノヂヤナイカト云フ
ヤウナ氣持モスルノデアリマシテ、寧
ロ修正スルト云フナラ、ソコヲ修正ス
ベキヂヤナイカト云フ氣持モスルノデ
アリマスガ、併シ是ハ立案者ノ趣意デ
ハ、先程モ御話ノ出マシタ一括表示ト
云フ所ヲ考ヘテ、一方ハ一々書イテア
ル、一方ハ一括表示ダ、ソレヲ同ジニ
取扱フ譯ニイカヌト云フノデ、ソコノ
間ニ境界線ヲ引イタンダ、是モ成ル程
一應尤モナコトデアリマシテ、實際問
題トシテドノ位ナ響キガアルカ、是香
私ニハ分ラヌコトデアリマスケレド
モ、兎ニ角現在ノ此ノ法案ノ第一條ノ
目的カラ言フト、現行法ガ結局意味ガ
アルノヂヤナカラウカ、斯ウ思フノデ
アリマス、私斯ウ云フ壇上ノ演說ニ慣
レマセヌシ、ツイドウモ松本先生、岩
田先生ヲ前ニ置キマスト、大學ノ講堂
ニ於ケル計論會ノヤウナ氣持ニナリマ
どう、法律論ガシタクナリマスガ、併
シソレハモウ止メニ致シマセウ、例
ハ、是ハ松木先生ハ玆デハ仰セラレナ
カツタノデアリマスガ、委員長ノ御報
告ニ、卽時取得ヲ認メナイコトニナレ
バ、取得時效ニモ掛カラヌヂヤナイ
カ、斯ウ云フ御意見ダツタト思ヒマ
ス、是ハ私一ツ松本先生ノ御〓ヲ受ケ
タイト思フ點デアリマスガ、ソレ等
ノ點ハ總テ省略スルコトニ致シマセ
ウ、私ハ今度ノ法案ノ此ノ文句ガ、
必ズシモ萬全トハ思ハナイノデアリ
やっ、私ハ是亦甚ダ失禮ナコトヲ申ス
ヤウデアリマスガ、近頃、何シロ事ガ
忙シイ爲ニ、法律ノ立案ナドニ付テモ
十分念ノ入ラナイ所ガアルノヂヤナイ
カト云フヤウナ氣持モ致スノデアリマ
ス(拍手)、今度ノ此ノ法案ニ付テ、決
シテ念ガ入ラナカツタト申スノデハア
リマセヌ、念ノ入レ方ガ足リナカツタ
ノヂヤナイカト云フヤウナ氣持モ致ス
ノデアリマス、何シロ此ノ法案ハ偶々
第十五條ガ問題ニナリマシタケレド
モ、今ノ是ハ法律論デアリマシテ、根
本ノ經濟論トシテソレハ大問題デア
ル、戰時法ノ中デモ特ニ重大ナ問題デ
アルト思フ、今迄ノ金融ノヤリ方ヲ非
常ナ角度轉囘ヲサセルノデアリマスカ
ラ大問題デアルト思フ、之ヲ立案サ
レルニハ餘程ノ責任ヲ持ツテ、十分
ナ用意ガナケレバナラヌト思フノデア
リマス、恐ラクサウ云フコトガアツタ
ノダラウト思フ、ソレヲ立案サレルニ
ハ大藏省又ハ司法省ノ机ノ上ダケデ
掛カルベキモノヂヤナイ、一方實業方
面金融方面ノ各方面トモ十分渡リヲ
付ケラルベキデアリマス、殊ニ又法律
問題ニ付キマシテハ、大藏省ニモ司法
省、ニモ顧問モ居ラレマセウ、囑託モア
ラレマセウ、或ハ顯問、囑託、委員ト云
フヤウナ名前ハ附イテ居ナイニシテ
モ、斯道ノ權威デ、兩省或ハ法制局ニ
關係ノ深イ先生方ガ居ラレルノデアリ
マスカラ、十分其ノ意見ヲモ問ハレ、
萬遺憾ナキヲ期シテ、秀昌會デ斯ウ二、
フ問題ガ起ラヌヤウナモノニシテ御出
シニナレバ宜カツタノヂヤナイカ、斯
ウ云フ風ニモ考ヘルノデアリマス、併
シ偶〓ソレハ實際事情ガドウカ存ジマ
セヌケレドモ、缺點ト目指サレルモノ
ガアリマシタ爲ニ、此ノ法律問題ガ此
ノ壇上ニ持チ出サレマシテ、玆デ本當
ニ眞面目ナ議論ヲ取交シテ、愼重審議
ノ實ヲ天下ニ示スコトニナリマスコト
ハ是亦實ニ論快ナコトデアルト思
フ、近頃ノ大出來ト言ツテハ少シ言葉
ガ如何デアリマスガ、欣快事デアツタ、
斯ウ思フノデアリマス、ソレデ是ガ今
迄通ツテ來タモノダカラ、是亦卷キ戾
スコトハ面白クナイト云フヤウナ、サ
ウ云フ政治的ノ意味ハ私ハ決シテ持ツ
テ居ラヌノデアリマス、若シ惡イモノ
ナラバ、モウ一度卷キ戾シテ兩院協議
會ナリ何ナリニ行クノガ本當ダト思
フ、偶ニハサウ云フコトガアツテ宜イ
ト思フノデアリマスガ、併シ私ノ今信
ジマス所デハ、此ノ問題ハ、今ノ根本
觀念上、又立法目的上、原案デ說明ガ
ツクコトダト思ヒマスシ、松本先生ノ
修正案トスルト、ソコニ又、私ハ詳シ
イコトハ存ジマセヌガ、議論ノ起リ得ル
點モアルト考ヘマスノデ、ソコデ私ハ
敢テ兩先生ノ面ヲ冒シテ原案支持ノ意
見ヲ申述ベタ次第デゴザイマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=66
-
067・徳川圀順
○議長(公爵德川間順君) 次田大三郞
君
〔次田大三郎君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=67
-
068・次田大三郎
○次田大三郞君 私ハ松本博士ノ修正
意見ニ贊成スルモノデアリマス、本案
ニ付キマシテハ、先刻來、我ガ國法曹界
ノ權威者ノ方々ガ詳細ナル検討ヲ加ヘ
ラレタノデアリマス、私如キ素人ガ口
ヲ挾ムコトハナイノデアリマス、併シ
私ハ、素人ハ素人ナリニ能ク考ヘ、判
斷致シマシテ修正意見ニ贊成スルニ至
リマシタ其ノ理由ヲ此ノ際陳述致シタ
イト思ヒマス、其ノ理由ト申シマスル
ノハ極メテ簡單ナコトナノデアリマ
ス、卽チ特別委員會ニ於ケル質疑應答
ノ模樣ヲ承リ、又只今賀否兩樣ノ御演
說ヲ拜聽シテ見マスルト、理論上、政
府ノ原案ニ付テ正反對ナ御議論ヲ伺ツ
タノデアリマスルガ、ソレハ私姑ク措
イテ、私ノ考ハ、此ノ原案ガ此ノ儘法
律ニナリマシタ場合ニ、實際上ドウ云
フコトニナルノデアラウカト云フ其ノ
結果ノコトヲ考ヘテ見ルノデアリマス、
實際上ノ運用ニ於テハ、原案ノ通リデ
少シモ差支ハナイノダト云フ御說モア
リマス、假ニ何カ支障ガ起ツタラバ
其ノ時ニナツテ考ヘテ見タラソレデ宜
イノダ、サウ云フコトヲ委員會ニ於テ
政府當局ハ述ベテ居ラレマス、是ハ、
アルカモ知レナイト云フコトヲ前提ト
シテノ御說明ダラウト思ヒマス、ソレ
カラ又斯ウ云フモノガ本當ノ法律トシ
テ行ハルヽヤウニナツタラバ、ソレハ
由々シキ大事デアル、大變ナ結果ガ生
ズルノダト云フノガ、松本先生始メ修
正論者ノ御說ノヤウデアリマス、此ノ
場合ニ我々ハドウ云フ態度ヲ執ツタラ
宜イカ、實際上此ノ法案ガ法律ニナツ
タ場合ニ、其ノ運用上或人ハ支障ナシ
ト言ヒ、或人ハ支障アリト言ヒ、又或
人ハ支障ガアツテモ大シタコトハナイ
ト言ヒ、イヤ、s
ソレハ大變ナ支障ガア
ルノダト斯ウ言フノデアリマス、言葉
ヲ換ヘテ言ヘバ、支障ノアル、差支ノア
ル虞ノアル法案ダト考ヘザルヲ得ナイ
ノデアリマス、斯クノ如キ場合ニハ貴
族院ハ如何ナル態度ヲ執ルベキデアルカ、
私ハ實際上運用シテ、是ナラバ支障ガ
ナイ、支障ノ起ル虞ガナイト云フ風ニ
相當ノ修正ヲ加ヘテ然ルベキモノデア
ラウト思フノデアリマス、松本先生
ノ修正案ノ通リニ致シマスルナラバ、
何ヘバ、政府ノ所期シテ居ラレルコトモ
ソレデ達セラレル、斯ウ云フノデス、而
シテ松本博士其ノ他ノ方ノ御心配ニナル
色々ナ差支モ起ラナイ、斯ウ云フノナ
ラバ、其ノ方ニ贊成シテ然ルベキデハ
ナイカト思フノデアリマス、由來貴族
院ハ、伊藤公ノ憲法義解ニ所謂愼重、
練熟、耐久ノ風デナケレバナラナイ、
愼重トハ何ヲ意味スルノデアルカ、有
ラユル場合ヲ能ク考ヘテ、茴モ不都合
ナ事ノ生ズル虞ガアルモノニ付テハ
之ヲ是正シテ、必ズヤ不都合ナカラシム
ルコトヲ期スル心構ヘヲ指スモノト思
フノデアリマス、私ハ貴族院ノ諸公
ガ、常ニ斯クノ如キ心構ヘヲ以テ議案
ノ審査ニ當ツテ居ラルヽコトヲ承知致
ジテ居リマス、今日此ノ場合ニ於テ
モ、此ノ法案ガ法律トジテ施行セラレ
マシタ曉ニ於テ、不當ニ權利ヲ侵害セ
ラレ、損害ヲ蒙ムル者ガ一人デモアツ
テハナラヌト云フ態度ヲ以テ、贊否ノ
意見ヲ決セラルヽコトヲ期待シ且
切望シテ已ミマセヌ、唯世上往々ニシ
テ間違ツタ愼重論ヲ致ス者ガアルノデ
アリマス、例ヘバ若シ貴族院ニ於テ、
衆議院ヲ通過シタ法律案ニ修正ヲ加ヘ
ルナラバ、延イテ兩〓協議會ニナルカ
モ知レヌ、場合ニ依ツテハ法律案ノ不
成立ト云フヤウナコニナルカモ知レ
ヌ、故ニ貴族院ハ愼重ニ考ヘナケレバ
ナラヌト云フ說ヲスル者ガアリマス、
是ハ所謂愼重ト云フ意味ノ履シ違ヘデ
アリマス、是ハ臆病ト云フコトダト思
ヒマス、昨日ノ豫算委員會デ大河內子
爵ハ、我々ハ·····我々ト仰シヤツタカ
ドウデスカ、大勢順應ト云フヤウナコ
トハ宜シクナイト云フコトヲ仰セラレ
マシタ、私モ全クサウ云フ風ニ思ヒマ
ス、貴族院ハ大勢順應デアツテハイケ
ナイ、臆病デアツテハイケナイ、愼重
ニ物ヲ考ヘテ、而シテ之ヲ實行スルノ
ニ右顧左眄シテハナラナイ、サウ思フ
ノデアリマス、此ノ事ハ誠ニ當然過ギ
ル程當然ノ事デアリマスルガ、世上往々
ニシテ斯クノ如キゴマカシノ愼重調
ヲ以テ、貴族院ヲ掣肘シ若シクハ威嚇
セムトスルモノガアルノデアリマスカ
ラ、私敢テ一言ヲ申シ添へル次、第デア
リマス、之ヲ以テ私ノ賛成演訴ト致シ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=68
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069・徳川圀順
○議長(公爵徳川園順君) 松本君ヨリ
修正案ノ趣旨說明ヲ補足シタキ旨ノ申
出デガアリマシタカラ、之ヲ許シマ
ス、成ルベク簡單ニ御願ヒ致シマス
〔松木烝治君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=69
-
070・松本烝治
○松本烝治君 此ノ修正案ノ趣旨ヲ御
說明申上ゲマシタ際ニヘ非常ニ簡單ニ
ヤリタイ、就テハ若シモ漏レガアツタ
ラ補充ヲ御願ヒシテ、出來ルダケ簡單
ニ致シタイト云フコトヲ中上ゲマシ
タ、最初ニ申上ゲマシタヤウニ、詳シ
ク申シマスルト數時間ヲ要スルモノト
思ツテ居リマス、只今色々御討論ノ模
樣ヲ伺ヒマスト、私ノ說明ガ少シ足リ
ナカツタ爲ニ、色々工合ノ惡イコトニ
ナツテ居ルヤウニ思ヒマスノデ、僅カ
ニ數分間補充致シタイ、決シテ討論ガ
マシイコトハ中シマセヌ、若シ討論ス
レバ色々御問違ニナツテ居ルト思ハレ
ル點モアリマスケレドモ、サウ云フコ
トハ申シマセヌ、唯補充ヲ致サヌケレ
バナラヌノハ、此ノ第十五條ニハ軍
需金融機〓ニ對シ擔當專業者ガ設定ス
ル工場財圍其ノ他ノ財團ノ抵営權ニ付
云々トアル、詰リ此ノ特別規定ハ工
場財國ダケデハナイ、其ノ他ノ財國有
ラユル財圍ヲ告含ムノデアリマス、其
ノ財團ト云フノハ澤山アルト云フコト
ダケハ一言致シマシタ、鐵道財團ア
リ、軌道財團アリ、自動車財團ガアル
トゥ、色々ナモノガアルト云フコトダ
ケハ中上ゲマシタガ、其ノ法律ト工場
財團ノ工場抵當法トノ門係ニ付說明ヲ
致サナカツダ爲ニ、誤解ガ出來タヤウ
ニ思ヒマス、是等ノ此ノ澤山ノ財國抵
當法ハ皆相竝ソデ並存シテ居ルモノデ
アル、一ツノ法律ガ一般法デ、他ノ法
律ガ特別法デアルト云フヤウナ觀念念
アリマセヌ、卽チ工場抵當法ハ唯其ノ
竝ンデ居ルモノノ一ツニ過ギナイ、唯
實際ニ適用スル工場抵當法ガ一番適用
ガ多イト思ヒマス、仍テ先ヅ御了解ノ
便宜ヲ圖ツテ、專ラ工場抵當法ニ付テ
私ハ說明ヲ致シマシタ、是ガー變ニ誤
解コ來シタヤウニ思フ、卽チ只今色々
御論議ヲ伺フト、工場抵當法ノ規定ダ
ケヲ捉ヘテ色々御論議ガアル例ヘバ
工場抵當法第五條ト云フモノヲ摑ヘテ
其ノ反對解釋トカ云フコトガアツタヤ
ウデアリマス、又或ハ工場抵當法ニア
ル財團ハ一箇ノ不動產ト看做ス、ト云
フヤウナ言葉ヲ捉ヘテノ御議論モアツ
タヤウニ思フ、其ノ可否等ニ付テハ討
論ハ決シテ致シマセヌ、併シソレデハ
私ノ趣意ガ少シ通ラナカツタ、私ハ唯
便宜······工場抵當法ダケニ付テ了解ノ
便宜ノ爲ニ述ベタノデアリマス、他
抵當法全部ニ付テ一應私ハ眼ヲ通シマ
シタガ、工場抵當法ノ第五條ト同ジヤ
ウナ規定ハ他ノ財團抵常法ニハ一ツモ。
ゴザイマセヌ、一ツモナイ、ダカラシ
テ工塲抵當注第五條ガ、此處デ反對解
釋云々ト云フコトハ、工埋抵當法ダケ
デ言ヘルコトカモ知レマセヌガ、財團
抵當ニ關スル全部ノ法律トシテハ何ダ
信値ガナイ、唯一ツノ〓ノモノダケヲ
取ツテノ議論ニナル、サウ思ヒマスノ
デ、是ハ私ガ其ノコトヲ申スノデハア
リマセヌガ、サウ云フコトノ心配ノ爲
ニ補充ヲシタイ、ソレカラ「工場財園
ハ一箇ノ不動產ト看做ス」、ト確カ書イ
テアル、是ガマア御議論ノ種ニナツタ
ヤウデアリマス、外ノ財團デ決シテサ
ウ書イテ居ルノデハナイ、例ヘバ鐵道
抵當ノ如キハ確カ一箇ノ物ト看做スト
書イテアル、ソレカラ軌道財團ナドハ
其ノ規定ガ準用シテアツタカト記憶シ
テ居リマス、必要ナラバ能ク調ベテ中
上ゲテモ宜イケレドモ·····要スルニ
此ノ工場抵當法ノ五條ト云フヤウナ規
定ハ全部ノ財團抵當ニ關スル法規ニ
アルモノデモ何デモナイ、唯一ツノ法
規ニアルダケデアル、ソレカラ不動產
ト云フヤウナ言葉ハ、工場抵當法ニハ
アルケレドモ、鐵道抵當ヤ軌道抵當ナ
ドニハナイ、玆ニ於テ私ハマア誤解ヲ
避ケル爲ニ態ト一箇ノ物ト申シタ、不
動產ト云フ字ヲ態ト避ケテ使ハナカツ
タソコラニ付テ何ダカ工場抵當法ダ
ケヲ對象ニシテノ御議論ニナツタノ
ハ是ハ私ノ說明ガ足リナカツタ爲デ
アル、卽チ他ノ法律ト竝立シテ居ルモ
ノデアル、他ノ法律ハ違ツテ居ルノ
ダ、ダカラサウ言フ字句ヲ捉ヘテダケ
ノ御議論デハ先ヅ私ニ言ハセルト、
此ノ今度ノ規定ノ解釋、或ハ立法論ト
シテハ先ヅ役ニ立タナイト言フコトニ
ナルノダ、此ノコトヲ申上ゲテ置クト
宜カツタト思ヒマスガ、言ヒタカツタ
ノデアリマスガ、成ルベク簡單ト思ヒ
マシテ申シマセヌデシタ、是ダケヲ補
充サシテ戴キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=70
-
071・徳川圀順
○議長(公爵德川〓順君) 是ニテ通告
者ハ終リマシタ、討論ハ終局ヲ〓ゲタ
モノト認メマス、是ヨリ採決ヲ致シマ
ス、先ヅ修正意見ノアリマス第十五條
ヲ問題ニ供シマス、修正案ニ贊成ノ諸
君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者少數〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=71
-
072・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 少數ト認メ
マス
〔「異議アリ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=72
-
073・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 異議アリト
云フ聲ヲ聽キマシタカラ、規則ニ依リ
マシテ反對ノ決ヲ採リマス、修正案ニ
反對ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
〔起立者多數〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=73
-
074・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 過半數ト認
メマス
〔「異議アリ」ト呼フ者アリ、次田大
三郞君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=74
-
075・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 次田君ハ、
ドウ云フコトデスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=75
-
076・次田大三郎
○次田大三郞君 只今問題ニナツテ居
リマス修正案ノ表決ハ、無名投票ヲ以
テセラレムコトノ動議ヲ提出致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=76
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077・中御門經恭
○侯爵中御門經恭君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=77
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078・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 無名投票ノ
要求ハ、二十名カラ爲サレルコトニナ
ツテ居リマス
〔「贊成」「贊成」ト呼ヒ起立スル者
多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=78
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079・徳川圀順
○議長(公爵徳川園〓君) 二十名ノ贊
成者ガアツタト認メマス、仍テ本院規
則第百二十條ノ無名投票ノ要求ト認メ
やっ、就キマシテハ、改メテ是ヨリ修
正案ノ表決ヲ、無名投票ヲ以テ行ヒマ
ス、條正案ニ贊成ノ諸君ハ白球ヲ、修
正案ニ反對ノ諸君ハ黑球ヲ投票函ニ投
入セラレムコトヲ望ミマス、尙議席ニ
備ヘテアリマス名刺ヲ持參ノ上、德川
公爵ヨリ順次御登壇、御投票ヲ願ヒマ
ス
〔投票執行〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=79
-
080・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 投票漏レハ
ゴザイマセヌカ······投票漏レナシト
認メマス、是ヨリ開票シテ投票ヲ計算
致サセマス
〔書記官投票ヲ計算ス〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=80
-
081・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓〓君) 投票ノ結果
ヲ報告致シマス、修正案ヲ可トセラル
ル者、卽チ白球五十二、修正案ヲ否ト
セラルヽ者、卽チ黑球百二十一、仍テ
修正案ハ否決セラレマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=81
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082・徳川圀順
○議長(公爵德川閉順君) 次ニ原案ニ
付採決致シマス、原案通リデ御異議ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=82
-
083・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀〓君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=83
-
084・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第
三讀會ヲ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=84
-
085・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) チヨツト御
待チ下サイ·····御異議ガナケレバ、全
部ヲ問題ニ供シマス、第十五條以外ノ
殘リ全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案
通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=85
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086・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=86
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087・西大路吉光
○子爵西大路言光君 直チニ本案ノ第
三讀會ヲ開カレムコトヲ希望致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=87
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088・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=88
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089・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 西大路子爵
ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=89
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090・徳川圀順
○議長(公爵徳川〓順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=90
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091・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 本案ノ第三
讀會ヲ開キマス、本案全部、第二讀會
ノ決議通リデ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=91
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092・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 御異議ナイ
ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=92
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093・徳川圀順
○議長(公爵徳川圀順君) 日程第二
+刑法中改正法律案、衆議院提出、
第一讀會
刑法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
昭和二十年二月七日
衆議院議長岡田忠彥
貴族院議長公爵德川圀順殿
刑法中左ノ通改正ス
第四章刑ノ執行猶豫ノ下ニ元々ノ
宣告猶豫」フルフ
第二十五條中「二年以下」ヲ「三年以
下」ニ改ム
第二十五條ニ左ノ二項ヲ加フ
五千圓以下ノ罰金ノ言渡ヲ爲スヘ
キ場合ニ於テハ情狀ニ因リ六月以
上二年以下ノ期間其ノ刑ノ執行ヲ
猶豫スルコトヲ得
拘留又ハ科料ノ言渡ヲ爲スヘキ場
合ニ於テハ情狀ニ因リ六月以上一
年以下ノ期間其ノ刑ノ執行ヲ猶豫
スルコトヲ得
第二十六條ニ左ノ一項ヲ加フ
罰金以下ノ刑ノ執行ヲ猶豫セラレ
タル者其ノ猶豫中罪ヲ犯シ罰金以
上ノ刑ニ處セラレタルトキハ執行
猶豫ノ言渡ヲ取消スコトヲ得
第二十七條ノ次ニ左ノ四條ヲ加フ
第二十七條ノ二三年以下ノ懲役若
ハ禁錮五千圓以下ノ罰金拘留又ハ
科料ヲ言渡スヘキ場合ニ於テ情狀
特ニ憫諒スヘキモノ又ハ犯罪後贖
罪シテ改悛ノ實ヲ示シタリト認ム
ルトキハ判決ノ宣告ヲ猶豫スルコ
トヲ得
第二十七條ノ三判決ノ宣〓ヲ猶豫
スル場合ニ於テ犯人ノ性格年齡及
境遇竝犯罪ノ情狀及犯罪後ノ情況
ニ因リ勤勞處分ニ付スル旨ノ言渡
ヲ爲スコトヲ得
勤勞處分ニ付セラレタル者ハ檢事
ノ指揮ニ依リ官設公設又ハ私設ノ
工場農場其ノ他ノ作業場ニ於テ就
業セシム
就業期間ハ一年以下トス
第二十七條ノ四宣告ヲ猶豫セラレ
タル者猶豫中罪ヲ犯シ禁錮以上ノ
刑ニ處セラレタルトキハ判決ノ宣
告ヲ爲スコトヲ得
第二十七條ノ五判決ノ宣告ヲ受ク
ルコトナク二年ヲ經過シタルトキ
ハ免訴ノ言渡アリタルモノト看做
ス
勤勞處分ニ付セラレタル者其ノ就
業ヲ終リタルトキハ其ノ時ニ於テ
免訴ノ言渡アリタルモノト看做
ス
第二十八條中「三分ノ一」ヲ「四分ノ
一」ニ改ム
第六章時效ノ下ニ「及ヒ刑ノ消滅」
アタタ
第三十四條ノ次ニ左ノ三條ヲ加フ
第三十四條ノ二刑ノ執行ヲ終リ又
ハ刑ノ執行ノ免除ヲ得タル者禁錮
以上ノ刑ニ處セラルルコトナク十
年ヲ經過シタルトキハ刑ノ言渡ハ
其ノ效力ヲ失フ
第三十四條ノ三刑ノ執行ヲ終リ又
ハ刑ノ執行ノ免除ヲ得タル者善行ヲ
保持シ禁錮以上ノ刑ニ處セラルル
コトナク五年ヲ經過シタルトキハ
檢事又ハ其ノ者ノ請求ニ因リ裁判
所ハ刑ノ言渡其ノ效力ヲ失フ旨ノ
言渡ヲ爲スコトヲ得
第三十四條ノ四刑ノ言渡其ノ效力
ヲ失ヒタルトキハ命令ノ定ムル所
ニ依リ其ノ登錄ヲ除去ス
第三十八條第三項但書ノ「其ノ刑
ヲ減輕」ノ下ニ「又ハ免除」ヲ加
フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定
ム発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=93
-
094・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今上程セラレマ
シタ刑法中改正法律案ノ特別委員ノ數
ヲ十二名トシ、其ノ委員ノ指名ヲ議長
ニ一任スルノ動議ヲ提出致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=94
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095・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=95
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096・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 戶澤子爵ノ
動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=96
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097・徳川圀順
○議長(公爵徳川園願君) 御異議ナイ
ト認メマス、特別委員ノ氏名ヲ朗讀致
サセマス
〔宮坂書記官朗讀〕
刑法中改正法律案特別委員
公爵山縣有道君伯雷堀田正恒君
子爵〓岡長言君子爵米田國臣君
小山松吉君小原直君
男爵關義壽君男爵奧田剛郞君
山岡萬之助君次田大三郞君
長岡隆一郞君齋藤万壽雄君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=97
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098・徳川圀順
○議長(公爵德川圀順君) 次會ノ議事
日程ハ、決定次第、彙報ヲ以テ御通知ニ
及ビマス、本日ハ是ニテ散會致シマス
午後七時二十九分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=008603242X01019450208&spkNum=98
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