1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○自作農創設特別措置法案
○農地調整法の一部を改正する法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=0
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001・会議録情報2
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昭和二十一年十月八日(火曜日)午前十時十五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=1
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002・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) それでは是から開會致します、竹下君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=2
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003・竹下豐次
○竹下豐次君 農地調整法の第一條でございますが、現行法には大變穩かな文句が使つてあるのでございますね、「本法は互讓相助の精神に則り」とか、「農村の經濟更生及農村平和の保持を期する爲」、斯う云ふ文句があつたのでありますが、今度の改正案ではそれは削つてありますですね、是はどうも私など察しまするに、互讓相助の精神に則る必要はないのだとか、農村平和の保持を期する必要もないのだと云ふやうな御考でもないと云ふことは想像は出來ますけれども、既に斯う云ふ風にして出來て居りまする條文の内から御削りになる、而もそれが此の前の議會で決つた法律を、今度の議會で御削りになると云ふことになると云ふと、何だか末梢の方では妙な感じをしまする心配がありはしないか、斯樣に思ふのでありますが、其の點は政府はどう云ふ御考で御削りになるのでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=3
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004・山添利作
○政府委員(山添利作君) 此の農地調整法は、確か昭和十三年に出來ました法制でありまして、丁度其の當時農村經濟更生が稍稍其の成果を結びました後の時代であつた譯であります、之を削りましたのはもつと簡潔にすると云ふ趣旨でございまして、只今仰せになりましたやうな風に、別に法の精神其のものが變ると云ふものではないことは勿論でございます、此の前の臨時議會に於きましても、此の第一條を此の儘に置くのはをかしいぢやないかと云ふ議論が衆議院で隨分ございましたので、そこでさう云ふ經緯もございまするし、又此の法案の内容自體を讀んで見ますると、勿論互讓相助の精神に則つてやる譯でありますけれども、其の主として目的と致しまする所は、耕作者の地位の安定、此の耕地の取上の制限でありますとか、土地價格、小作料の統制でありまするとか、さう云ふやうなことが主になつて居る譯でありまして、勿論調停に關する規定もございます、さう云ふやうなことで法案の内容自體は此の改正法の第一條に掲げました所になつて居りますので、其の事柄を簡潔にすると云ふ趣旨で直したのでございます、併しながら本來互讓相助の精神に則り、又農村の平和の保持を期すると云ふことは當然此の法律の根柢と云ひますか、法律以前に、寧ろ社會生活の事實に於てさう云ふ「プリンシプル」が基礎を成して居ると云ふことは是は當然であるから、斯う云ふやうな意味で直したのでありまして、此の前の衆議院の方の審議に於きましても、臨時議會に寧ろ直せと云ふ意見があつた譯なのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=4
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005・竹下豐次
○竹下豐次君 御説明一應分りましたが、昭和十三年に出來ても、去年の議會で更に本法を澤山改正されてありますので、まあ去年出來た法律であるのと實質的にちつとも變りないのですが、餘り變り方が近過ぎますと云ふ關係上、それから昨日三島委員からも御話がありましたやうに、如何にも地主と云ふものを惡い者扱ひにされるやうな社會一般の風潮がありませう、さう云ふ際でもありまするから、特に斯う云ふ穩かな規定は削らなければならない必要があるなら別だが、是があつても邪魔になる譯はないので、御削りにならない方が宜いと思ふのでありますが、併し強ひて此の條文を元通りに生かさなくてはならないと云ふことを今主張する譯ではありませぬ、唯、今の御話の筋道互讓相助の精神とか、平和の保持とか云ふやうなことは、其の狙ひは從來とちつとも變らないのだと云ふことを末梢の小作官とか、農地委員とか、農業會の人とか云ふやうな人達の氣持にしつかり入れて貰ふやうに特別の御努力をなさつたら如何か、斯樣に思つて居る次第であります、此の前、又此の議會で改正案が出るらしい、さうして地主には不利益になるらしいと云ふ噂が餘程前から地方にも傳はつて居ります、さう云ふ點を考へ合せますと、出來るだけ斯う云ふ穩かな點は皆に能く分るやうに、滲み込ませるやうに御努力願つたらどうかと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=5
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006・山添利作
○政府委員(山添利作君) 御尤もな點でございます、私共もさう云ふ方向に於きまして、指導して參りたいと存じて居ります、此の對立關係がございますことは、無論事實であり、其の對立關係を通してものが進んで行く、而もそれは互讓相助の精神に則り、農村平和と云ふ統一的な状況を目指して進んで行く譯でありますから、さう云ふ精神で參るやうに指導を致したいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=6
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007・竹下豐次
○竹下豐次君 是から御尋ね致しますることは極く簡單なことでございまして、主に法律の解釋と言ひますか、運營の問題に付て御尋ねしたいと思ひます、實は田舍に歸りました際に度々農地委員會の委員の諸君なり、農業會の諸君の集りの席に出席を求められまして、色々此の問題に關する意見の交換、研究などを拜聽致したことがあるのであります、具體的の問題に付きまして、末梢に於きまして非常に細かい疑問が起ります、小作官に伺つてもどうもはつきりしないと云ふやうな場面が相當にあるやうであります、私の聞きました疑問、私自身にも亦疑問を持つて居ります點に付て、細かく御尋ねしたいと思つて居ります、別に成るべく私の意見と云ふものを加へることは出來るだけ差控へ、時間を節約致したいと思つて居ります、先づ最初に御伺ひ致したいのは地主が所有し得る小作地は都府縣に於きましては一町歩以下であつて、それは住所のある市町村の區域内に於て所有することに限るのでありますか、隣接市町村には絶對に小作地を持たぬと云ふことになりますか、此の點法律を能く研究すれば分る筈と思ひますけれども……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=7
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008・山添利作
○政府委員(山添利作君) 是は第三條に規定してあるのでありますが、隣接市町村でございましても、其の隣接市町村の區域内の或地域を、隣の農地委員、元の住所のございます農地委員會に於きまして、其の市町村のある區域に準ずるものとして指定する場合に於きましては、其の指定した地域にも、住所地の市町村の區域と同樣に扱はれる譯であります、其の場合に於きましては、隣の市町村の區域に小作地を持つて居りましても、一町歩の限度に於ては、保有が出來るのでありまして、是は第三條第一號に、括弧書がしてありまして、「以下同じ」と云ふやうに書いてありますが、第二號に於きましても、同樣に適用になる譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=8
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009・竹下豐次
○竹下豐次君 次は隣接市町村に於ける土地所有の問題であります、自作地として耕作する場合には、隣接市町村でも、無制限に土地を所有することが許されませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=9
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010・山添利作
○政府委員(山添利作君) 自作地に付きましては、市町村の區域と云ふやうな、何等制限はありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=10
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011・竹下豐次
○竹下豐次君 次に隣接市町村に於て、現に自作して居る地主が、自作地を増加する目的を以て、其の市町村内にある小作地の返還を求めることが出來ますか、第九條第一項の但書の解釋の問題になる譯であります、さうして其の小作人の承諾のある場合と、ない場合があります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=11
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012・山添利作
○政府委員(山添利作君) 是は昨日も申上げたのでありますが、客觀的に見て第一に返還を受けようとする地主の方で、耕作した方が、寧ろ生産の能率が擧がると云ふ條件があり、且又小作人に於ても、其の土地を返しても生活等に困難を來さない、從つて簡單に同意すると、斯う云ふ兩面の條件が揃つて參りませぬければいけない譯であります、さう云ふことさへなければそれは差支ありませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=12
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013・竹下豐次
○竹下豐次君 大臣が御見えになつたやうでありますから、私は後で又致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=13
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014・多久龍三郎
○男爵多久龍三郎君 私は昨日午後から據ろないことで缺席さして戴きまして、其の間或は同趣旨の御質問があつたかも存じませぬが、重複した點は御許し願ひます、我が國に於ける農業の形態が健全でなかつたことは、もう十年も二十年も前から盛に言はれたことでありまして、之に付きましての改善策は、色々の方々から唱へられて居りましたが、遂に餘り大した具體的なことなくして戰爭に突入しました、或は是が多少成功して居れば戰爭を阻止することが出來なかつた迄も、幾らかそこに變化があつたではないか、今此の敗戰を見て甚だ殘念に考へる次第であります、只今此の兩法案が出まして、此の改正があると云ふことは、是は御趣旨に於ては、誠に結構なことと御贊成申上げる次第でございますが、此の法案に付きましては、度々新聞にも出ましたし致しますので、相當地方のものも理解して居ることと存じますけれども、併し尚且今日に於きまして、相當に地主が何等かの形に於て、農地を保有したいと云ふ、色々の合法的の方法を考へ、或は又もう少し此の制限を緩和して貰ひたいと云ふやうな陳情も相當行はれて居るやうであります、又地方に於きましても、此の意味に於きまする相當動搖もあることと存じますが、之に付きましては農林大臣の描いて居られます將來の日本の農業の在り方、農業の姿と云ふことに付きまして、私共も亦自分としては色々考へて居りますが、併しながら大臣よりはつきりした御抱負を承つて居りませぬので、此の機會に、其の點に付きまして隔意のない御意見を承れましたら、甚だ仕合せと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=14
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015・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 御答へ致します、此の將來に於きまする日本の農業の在り方の問題でありますが、是はなかなか厄介な色々な條件に制約されまするので、困難な問題とは思ひまするが、私は一應斯樣に考へて居ります、日本の農業は矢張り一面に於きましては、今度の土地改革と云ふものに依りまして、自作農と言ひますか、それが村の主流をなして行く、其の自作農の經營と云ふものは、日本の農業が、どうしても是は或意味に於ては、尚一層集約化されて行かなければならない部分が相當あると思ふのでありまして、其の集約化されて行く方向を辿りまする點に於きまして、從來のやうな唯單に勞力的に集約化して行く、斯う云ふ面だけでなくて、矢張り土地と、資本と、勞力との此の三つの生産要素の結び付き方を今迄とは違つた意味で、もう少し謂はば資本的に集約化して行く、斯う云ふ方向に一つは辿つて行くのではないかと思ふのであります、其の集約化の辿り方が、成る程個個の農家と云ふものが基本でありまするが、其の個々の農家が唯ばらばらではなくして、矢張り將來は其の集約化の方向を辿るに付て、何等かそこに耕作者の共同的な組織に依りまして、それを助長して行く、斯う云ふことになつて行くのではないかと思ひます、それから今一つは、私は將來日本の農業と云ふものに付て、是非やつて行きたいと思ひまするのは、是はどうしても日本の農業と云ふものが、世界の經濟と接觸致しまして、或場合には競爭の立場に立ち、又或場合には、是はこちらから向ふの大きな競爭人として現れて出て來るものもある譯でありまして、之には何としましても、日本の農業が國全體として多角形化して行く、個々の經營が多角形化して行くと云ふよりは寧ろ國全體として多角形化して行く、言ひ換へれば、適地適産と言ひますか、日本の農業も、日本の自然的な條件が、北は北海道から南は九州の南端に至ります迄、又それぞれの地帶を取つて見ましても、平地から山とあつて可なり立體的に考へまするのが必要であり、又可能でありますので、さう云つた意味で國全體が多角形化的な農業を取つて行く、斯う云ふ形で、日本の農業が全體としての、どう言ひますか、生産力を高め、強い逞しいものになつて行く、斯う云ふ方向に持つて行かなければならないものぢやないかと思ふのであります、之には勿論唯單に原始生産としての農業と云ふ部面だけに止まるのでなくして、其の出來た商品の加工部面迄も含めて、言ひ換へれば、農業と云ふものを基礎にして、農村の工業と云ふものを取入れた意味に於て、さう云ふ考へ方を持つのが宜いのではないかと、斯樣に考へます、それから是は今度の農地改革に依りましても、私はどうしても日本の今の状態、それから人口の状態を見ますると、是は過小農は矢張り殘らうと思ひます、此の過小農の問題は、日本の農村に取つては、丁度謂はば一種の重荷とも言へるのでありますが、農業だけでは成立つて行かない、さう云ふ過小農の解決をする問題としましては、是はどうしても農業だけで之を解決しようと云ふことは私は考へられないし、又考へてはならないのだと思つて居ります、是はどうしてもそれ等の人達が丁度農業と外の産業から來まする所得とを併せて相當の所得額を得られるやうな事柄をやつて行きまするのと、今一つは、是は日本の國の全體の經濟の復興の結付くのでありますが、矢張り工業面を復興して貰ひまして、其の方面への流入と云ふことを考へて行くと云ふこと、それから農業内部に於きましては、是は何としても開拓に依つてそれ等の面の人達をも吸收して行くと云ふ色々な、丁度「アメリカ」に於てもさう云ふ問題が戰後に於て起つて來て居るのでありますが、此の解決の仕方は、經營のやり方に付ては、自然的の條件、其の他の色々の勞力關係、資本の關係等外國と日本とは非常に違ひまするが、併しそれを解決して行く經濟上の方向としては、私は同じやうな方向に矢張りあるのぢやないか、斯う考へてまあ居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=15
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016・多久龍三郎
○男爵多久龍三郎君 御懇篤な御説明で大變了解致しましたが、然らば今度の農地改革に於きまして、北海道を除く内地平均は、勿論北海道も含めても宜しうございますが、それに付きまして、各都道府縣に於きまする關墾は、都道府縣の農地委員會に於きまして決定されることと存じます、謂はば自主的に行はれることと存じますけれども、之に付きまして凡そ農林大臣としては、どう云ふ風な點に御考を持つていらつしやいますか、又日本の健全農家を作ると云ふことは、結局平和日本の建設には最も重大な役割をなして居りませうと存じますが、之に付きましては、「アメリカ」に比較することは出來ませぬけれども、併しながら多少とも將來は機械化もして參りませうし、さう云ふ點も考慮致しますと、此の基準に付きましては何か御考がありますかどうか、さう云ふ點を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=16
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017・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 此の全國内地で地主の保有として許されまする一町歩の決め方に付きましては、是は地方農地委員會で決定して戴かうと思つて居ります、此の際問題になりますのは、其の縣々に於きまする田畑の配分の状態、それから人口と土地との比例でありますとか、それから其の土地に於きまする謂はば小作料と云ひますか、さう云つたもの、それから其の縣に於きまする經營のやり方と云つたやうな、それ等の色々の要素を考へまして、是は地方農地委員會で適當に決定して戴かう、斯う考へて居ります、それから今度の此の農地改革に於きましては、是は私冒頭に御説明致しましたやうに、現状に於て、自作經營と云ふ面には何等手を觸れないのであります、現在原則としまして、十分自作農として良くやつて居りまするものは、家族勞力を中心にしまして、多少家畜も或は使ひ、相當やつて居りまするものは、假令それは三町歩を越えて居りましても、切らずしてそれは其の儘やつて行く、斯う云ふ態度を執りまして是等の面に於ては、可なり今度の案は自由なる態度を執つて居るのであります、と申しまするのは、私は矢張り日本の農業は、今の段階に於きましては、どうしても自作農と云ふものを主にしまして經營の面積に於ては、又經營のやり方に於ては、色々のやり方のものが或程度謂はば混在して行く、斯う云ふことの方が、一律に、單に平均してしまふと云ふことよりも、日本の農業の生産力を高め、又農業の發達をなす上から言つても宜いのだらう、斯う考へて居ります、自作農家の經營に付ては何等制限を致して居りませぬ、殊に自作農の經營を制限をすると云ふことは極めて不合理であつて、果樹の栽培をやつて居る者、又は非常な畑地を經營して居ると云ふ者と、水田の而も二毛作の香川や岡山と言つたやうな、ああ云ふ非常に集約的に農業をやつて居る所の經營と、單に面積だけで統合して行くと云ふことは是は恐らく「ナンセンス」でありますので、自作農經營に付てはさう云ふ自由な態度を執つて居る譯であります、大體さう云ふやうな行き方で行きたいと斯う思つて居るのでありまして、十分に現在の日本の技術の水準と、それから現在日本の農業として將來への發展性を含んで居るものは、それは寧ろ其の儘に助長さして行く、斯う云ふやうな考へ方に立つて居るのであります、勿論私が描いて居る將來の農村の夢を實現するのには、何としても今後は農機具の問題となり、又家畜の導入の問題となり、或は電化、其の他のさう言つた近代的な科學と云ふものを何等かの形で入れて行くと云ふことが、寧ろ將來の農業の問題として中心の問題になつて來るのではないかと斯う考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=17
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018・多久龍三郎
○男爵多久龍三郎君 自作農の發展性を御認めになりましたことは甚だ喜ばしいことと存じて居ります、現在の小作が幸ひにして自作農になりまして、多年の目的を達しました上に於きましても、過小なる自作農と云ふことでは健全なる農家と云ふ譯には參らないのでございますが、勿論先程の御説明に依りまして過小農は或程度殘る、それは又外の方面から收入を得て貰はなくちやならぬ、或はもつと機械化すると云ふ風な加工方面にも望むと云ふ風な御説明でございましたけれども、此の點に付きましては矢張り一應過小農と云ふものに付きましては御檢討になつて戴く必要があるのぢやなからうか、又此の農地の配分と云ふことも、各都道府縣に於きまして人口の配分と云ふもののみならず、其の經營と云ふ面に於きましても亦基礎を考へて配分する必要があるのぢやなからうか、又不幸にして其の地方に於て收容力のない場合は國内に於て廣く配分する必要があるのぢやなからうか、斯う云ふ風なことを考へて居るのでありますが、之に付きましては或は第二次の改革も出來るのぢやなからうかと云ふ風な點も考へて居りますので、此の點に付きまして大臣の御考へを伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=18
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019・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 御話のやうに過小農で縣内に於てそれが包容されない部分は、是は具體的な例としましては復員者、外地の引揚者でありますとか、或は滿洲の開拓民が歸つて來て居る、さう言つたやうな人達が其の出生の村、又は出生の縣内で是が十分に包容出來ないと云ふ場合には、昨日も御話があつた譯でありますが、是は農林省の方と致しまして、他の府縣の餘裕のありまする所へ矢張り開拓なら開拓の方へ向けまして、謂はば内地植民でありますが、さう云ふことをやりまして包容して行かうと斯う考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=19
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020・多久龍三郎
○男爵多久龍三郎君 御話は能く分りまして私の考にも合致致す譯でございますが、只今一應府縣に於きまする状態を見ますと、そこ迄御考が出て居りませぬやうで、例へば或家に未復員の人があると、當然近き將來歸つて來ると云ふことは分つて居ながら、矢張りそこに多少の餘裕があればそれを何とか開拓方面に廻して貰ひたいと云ふ風な縣の御方針もあるやうな風でありまして、殊に開墾地に於きまして、部落に於きましては目先にさう云ふ目的があり、且成るべくは自家に於て共に生活したいと云ふのが日本人の人情でございますから、さう云ふ豫備を考へて居りますに拘らず、縣の方からはそれだけ餘つて居れば、斯う云ふ風に廻して呉れと云ふ風なことを再三御強要になる譯でありまして、此の點は地方に於きまして甚だ困る事情が起る譯でありますが、斯う云ふ所はもつと規模、計畫を大きくして、或は干拓事業方面、色々な方面にさう云ふものを最初から配分すると云ふやうには出來ないものでございませうか、御意見を伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=20
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021・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 多少それ等の問題に付きましては具體的な場合場合に依りませぬと、或は適切な御答は出來にくいかと思ひますが、考へ方としましては是は部落の中で本當に收容出來まするものでありまするならば、將來そこへ歸つて來る人をも同時に含めた、部落の中で實際收容出來ますものならばやつて貰ふのが一番手つ取り早いのでありますが、併しさう云ふ所ばかりもありませぬので、大きな開拓事業をやり、又干拓をやりまするには、さう云ふ個々の部落や縣だけの立場に立つては居りませぬので、全體としての計畫を睨み合して居る譯でありますから、政府の方と致しましては、是は他縣の者が他縣の餘裕のある所へ行き得れば行くと云ふことには十分是は計畫的にやつて居ると斯う考へて居ります、大きな集團の開墾に於てはさう云ふ形を取るのが多いのぢやないか、斯う考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=21
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022・多久龍三郎
○男爵多久龍三郎君 色々御懇篤な御返答を得まして、尚又私と致しましては若干の點を申上げたい點も殘つて居るやうに思ひますけれども、次の機會に讓りまして私の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=22
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023・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 牧野委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=23
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024・牧野英一
○牧野英一君 御許しを受けまして四つばかり農林大臣に心持を伺つて置きたいことがあります、私としては此の法案を檢討致しまして、政府の御苦心の存する所を大分理解し得たやうに思ひますけれども、矢張りまだ誤解をして居る點が少くないと思はれまするので、少しばかりの疑ひを申上げて見るのでございます、昨日午後私は財政の懇談會の方の時間をつい過しまして、こちらへ遲刻致しました、他の方々から既に質問が御濟みになつて居るかも知れませぬので、重ねて伺つたやうなことがありますれば、どうぞ適宜御取計ひを願ひます、既に皆さんの質問が大分具體的な、實踐的な所迄御進みになつて居りますのでございますから、私のやうな極く空漠たる思想問題のやうなものを伺ふと云ふのは恐縮でございまするけれども、少しばかり御聽取りを願ひたいと思ひます、斯樣に土地改革の政策が進みまするのに付て私が特に心配して居りまする點、第一點は土地保有に對して、即ち新に取得する所の所有權、又は耕作權として持つて居る其の權利、併せて土地の保有と申しますれば、其の土地の保有に對する農民の自重心、本當に其の土地を此の法律の趣旨のやうに利用するかと云ふ其の農民の自重心に對して、當局の御見透しがどう云ふことになつて居るかと云ふことを伺ひたいのであります、此の法案では先程御質問がありました通り、最早從來の農地調整法とは趣を異にして、第一條が書き替へられて居ります、趣旨に於て大した違ひがないと云ふ政府委員の御説明であつたかと承りましたけれども、少くとも文字に現れて居る所では、土地改革の精神が更に一段と一種の傾を鮮かにして居るやうに考へられる、所有權本位から耕作權本位に、ずつと「バランス」が傾いて居る譯と心得ます、曩に昭和十三年に於ける此の法律制定の時の、衆議院及び貴族院の討議の模樣から第一條が出來上りましたことと、今日此の第一條が斯樣に御書き替へになつたと云ふこととの間には、相當に私は思想として大きな意味が現れて居ると、斯う云ふ風に考へまするのです、即ち是は所有權の社會的運命と云ふものが其處に現れて居りまするので、是は相當に我我としては研究を要する問題であると思ひます、それには何と言つても農民の自重心本當に此の第一條の趣旨に見えて居りまする通り、土地を十分使つて農業生産力の増進と云ふことに、精神を打込んで呉れると云ふことが必要であり、それでなければ此の法律の精神が通らぬ譯と思ひます、そこで此の法案を見ますと云ふと、新たに權利の移轉なり設定をすると云ふことに付ては、特に承認、許可と云ふやうな手續が必要である、尚罰則のことは細かいことは政府委員の方から御伺ひ致したいと思ひますが、それに背いた時には相當の刑事制裁もあると云ふことになつて居ります、是は誠に御尤もな規定でありまするが、それだけで農民の自重心と云ふものが十分維持出來ませうか、と云ふことに付ての御見透しでございまする、所有權は今御話申上げました通り、社會的の一つの運命に際會して居ると云ふ譯でございませうが、同時に浮び上つた所の耕作權と云ふものは、矢張り是は又一つの財産權でございまして、假令是が所有權の運命と反對の立場で、片方の釣瓶が下れば片方の釣瓶が上ると云ふやうなことになつたと致しましても、矢張り財産權として新しい憲法の趣旨に基き、公共の福祉の爲に行使せられねばならぬ權利でありまするので、其處に矢張り其の財産權に伴ふ義務と云ふものが餘程重大である、所有權は義務を伴ふと云ふ原則が、單り所有權其のものに付てのみならず、耕作權にも強く是が主張されなければならぬ譯合だらうと思ひます、さう云ふ譯で農民が此の法律に依つて十分勤勉でなかつた場合、どう云ふ風な方法を御取りになる御豫定が御ありになりませうか、もう資本主義的な社會機構に乘じて、耕作權なり農地なりを賣つた方が儲かると云ふ、斯う云ふやうな考で處分しようと思ふ者だけは、新第四條で巧く阻止されることになつて居りますが、其處迄行かなくても農地の使用に付て、農地の利用に付て十分働かないと云ふことがあつては、折角の法律の趣旨の通らぬ譯になりませう、それには二つの場合があらうと思ひます、第一は單純に働かない、農地の利用に對して懶けて居る、斯う云ふことになりませうが、第二は適當な進歩をしない、農業も段段の進歩がある譯で、なかなか農民の一派は、一部の人は自己の經驗を主張して頑な者が多いのであります、良い所もありますが、又頑固な所もあるのであります、そこでさう云ふ一種の懶けと申しませうか、單純な懶けの外に、頑固な爲に土地の利用が集約的に行はるべき農業の趣旨に、どうも副はないと云ふやうなことがあり得ようかと思ひます、さう云ふやうな結局農民を是だけ、耕作の實際に從事する人を保護すると云ふ規定があるに拘らず、耕作者の耕作權に伴ふ義務と云ふものが、其の意味に於て十分發揮されない時には、どう云ふ風になすつたならば宜い、どう云ふ風にして戴いたら宜いと云ふ譯になりませうか、第四條に示されて居る所の趣旨を、もつと擴充した政策と云ふものが、そこに御豫定になつて居るかと心得るのでありますが、先づ其の點に付て御見透しを伺ふことが出來れば幸福と存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=24
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025・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 御答へ致します、甚だ御尤もな御質問でございまして、我々としましても此の點は非常に重要と考へて居るのでございます、從ひまして今囘の農地改革に於きまして、自作農を創定致すに致しましても、是は誰でも自作農にすると云ふ態度は取つて居ないのであります、農業に精進する見込のある者、それは立派な農民として將來農業を勤しんで行く、さう云ふ見込のある者を、自作農の創定をやりまする場合に、矢張り謂はば原則として取つて居る譯であります、從つて唯單に飯米農家として今小作をして居るとか、それか惰農のやうな者に迄、之を直ぐ自作農にすると斯う云ふことでは實はないのであります、是は農林省の方の從來の自作農創定をやりまする場合に於きましても、其の態度は取つて來て居つたのでありまして、農業に精進し得る見込のある者と云ふことに付ては、今囘と雖も變りはないのでございます、唯さう云ふ農民としては、是は本來でありまするならば、十分農業に精進するだけの氣構へも持ち、又それをやると思ふのでありまするが、其の人の實は能力と言ひますか、さう云ふもので精一杯やつても一般の進歩から多少遲れると云ふやうなものに付きましては、是は法律では如何やうとも規定の仕樣がないのでありまするが、唯我々としましてはさう云ふ農民の謂はば耕作權に伴ふ義務と言ひますか、さう云ふものの履行と云ふ面に付きましては、寧ろ農業の謂はば教育の面と、それから農業の指導、斯う云ふ面に持つて來て居りまして、法律の上に特にさう云ふ規定は其の點に付てはないのであります、併し我々が其の點に付て考へて居りまするのは、農業の指導に付きましては今囘も相當の豫算を計上致しまして、農業の技術の滲透と云ふ施設を行ふことに致しまして、各地方に五箇町村に一つの指導農場を設けまして、其處に有らゆる技術者及び農村の實行組合長等を呼びまして、そこで技術の檢討を致して、それ等の人達が又農村へ歸つて行つて農業の實際的な指導をやつて行く、斯う云ふ面に於て御互ひに農業に勵んで行く、さうして生産力も上げて行く、斯う云ふことをやる考へで居るのであります、それから私共が此の法案の中に現れました今牧野先生の仰つしやつた、謂はば耕作權等に付ての義務と云ふやうな考へと云ふものを大きな見地から取上げて居りますのは、例へば第九條等で自作を相當とする、斯う云ふ事柄の解釋と致しましても、其處に矢張り客觀的にも國家的な見地を取りまして、どちらか、此の地主か小作をする方か、農業の生産力も上り増産にも寄與出來、又小作人の側に於ても其の土地を返へしたが故に生活に困らない、斯う云ふ場合には地主が自作を相當とすると云ふことを認められると云ふやうな、何處迄も耕作權利の上に眠ると云ふよりも、耕作其のものの權利を何處迄も義務と結び付けて活かして行く、斯う云ふ立場を、僅かながらも片鱗を其處に表はして居る譯であります、それからもう一つ農民が農業に精進しまする其の心構へと言ひますか、さう云ふものに付きましては、是は私は實際農業教育に依りましての、農民に自分の職業に對しまする謂はば公共性、農業と云ふものが是は一面に於て國民の食糧と云ふものを供給するものであり、又多少是は「ナチス」張りになつて恐縮でありますが、矢張り日本の民族の長い將來を考へますると、農村民に於ける健康な、而して新しい血液と云ふものが矢張り民族の維持の上からは必要であるのでありまして、さう云ふ使命を農業と云ふものが持つて居るんだと云ふことに付ては、是は何としましても農業の教育を通じまして、殊に若い農民の諸君に十分自覺して貰ふと云ふことに致すことが必要ではないかと、斯樣に考へて居るのであります、それ等の點に付ては昨日も井上さんから御質問があつた譯でありますが、從來は農民道場を持ちまして農林省としましては、十分それ等の點に付ての教育はやつて來た譯でありまするが、それが唯形式的に流れた憾みがあつたのでありまするが、併し是はさう云ふ形式に流れることなく本當に農民自身の其の農業の持つて居る公な使命に對する自覺を御互ひに錬磨し促して行くと云ふ意味に於て、農民道場と云ふものを新たに農業經營の指導改善と結び付けて働かして行くと云ふことに依つて可なり私は目的は達せられて來るのではないかと思ふのであります、それは現在方々に於て我々の方で農業開係の團體で農事の講習會等を開いて居るのでありまするが、其處に集りまする農村の若い層に於きまする熱意と研究心と言ひますか、それ等のものを見ますると云ふと、此の點に關する日本の農民の將來と云ふものに付ては、是は隨分希望が持てるのではないか、斯う考へて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=25
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026・牧野英一
○牧野英一君 結局私が政府に御伺ひ致しましたことは、法律を超越する問題、寧ろ一般の教育問題と云ふことになるかも知れぬと思ふのであります、法律問題と致しましては、普通の財産權でありますると云ふと、財産權に租税を課すると云ふことに依つて、財産を是非利用しなければならぬやうに責めて行くと云ふのが一つの原則でございませうが、其の程度以上に農民に精進、農業精神とでも申しませうか、それを發揮するのには大臣の御説明致した通りと思ひます、それで別に私は此の法律に對する修正案を提出する積りはござりませぬけれども、此の法律案にもさう云ふ耕作と云ふことが一つの義務であると云ふやうな、所謂倫理的の規定と云ふものがあつたならばもつとはつきりしやしないかと思ふやうな場合がありますのです、どうも此の法律、昨年の農地調整法の改正に付てもさうでありますが、地主を征伐するのだ、斯う云ふやうな一種の考へ方が世の中にありまして、民主的と云ふことをさう云ふ風に考へて居る一部の青年があるのであります、是は誠に殘念なことでございまして、何とかさう云ふ行き過ぎた、軌道を外れたと思はれるやうな民主的な精神と云ふものは適當に引緊めて行かねばならぬと斯う思つて居るのでありまするが、此の外に於きましても、耕作者を保護すると云ふことも誠に結構でございまする、それがどうも農業的精神と云ふものを中心にして居ると云ふことよりも、何か一種の世の中の傾に乘じて、一種の人が威張り出すと云ふやうな風な誤解を生ずる虞がないか、此の法律がさう云ふ趣旨のものでないことは明白であります、我々はさう思ひまするけれども、どうもそんな風に一部の青年等の氣分を聞いて居りますと云ふと、或は少し荒つぽいなと思ふやうな點がありまするので、それが此の法律を素直に讀んだ時に現れるやうにして戴く途がもつとなかつたものであらうかともまあ思つて居るのであります、結局それでは今牧野よ、どう云ふ風に書直すかと仰しやつて戴きましても、それぢや直ぐ斯う云ふ風に致しませうと云ふ案もございませぬが、併し此の法律、此の法律ばかりではございませぬ、憲法初めさうでございますが、兎角今誤解を招き易い形勢にありますので、當局の御心持がどう云ふ風で、當局の方針がどう云ふ風であらうかと云ふことを御伺ひ致した次第であります、それに關聯を致しまして、質疑の第二でありますが、是は私が不斷中産階級問題と唱へて今……私が唱へてと言つては相濟みませぬ、中産階級問題と云ふ名目の下にまあ私も絶えず研究を致して居りまする事柄でありますが、農村中産階級と云ふものの政策が、此の法案にどう云ふ風に現れて居ると承知したら宜しいものでございませうか、斯う云ふ點でございます、結局農民の精神と云ふものを發揮するには農村の中産階級と云ふものが健實でなければならぬ、斯う云ふ風に考へるのであります、此の新らしい日本を新らしく經營するに於ても、中産階級と云ふものがしつかりせねばならぬのではないか、それが憲法の上に新らしく示されて欲しいと云ふことを主張致しましたけれども、是は不幸にして御採上げを願ふと云ふことが出來ませぬでした、固より憲法にそれがなくても各種の法律にそれを段々に明かにして欲しいと思ふ次第でありまするが、此の法案を見ますると云ふと、どうも土地が徒らに自作農に付ては制限がないと云ふ今の御話でございましたのでありますけれども、農村の模樣が平均化する爲に、平均化と云ふことは宜いことでございまするけれども、其の平均化の爲に土地が甚しく零細化され、さうして皆貧乏人になつてしまふ虞がありはしないか、極端な言葉を申しますると……それは恐らく私の誤解であらうと思ひますが、結局一戸當り平均の耕地が日本としてどの位あり得るかと云ふことが問題でありませう、外國の統計に現れて居る數字を見ると云ふと、餘程小さいと云ふことが言はれて居ります、又片方では一體一戸どの位な耕地を持つて居れば適當な生活が營めるものでございませうか、新しい憲法には「建康で文化的な最低限度の生活」と云ふ言葉が用ひられました、最低生活でも健康で文化的と云ふことになつて居りまするが、中流階級と云ふぼんやりした考でございますけれども、中流階級として健康で文化的な生活と云ふものが、此の法案に依つて農村にどう云ふ風に保持出來るやうに御考を戴いて居るかと、斯う云ふことが私の疑とする所であります、何と申しても、暇のない、朝から晩迄働いて居ると云ふだけの、農家だけの社會になつてしまひましては、健康とか、文化的とか、從つて農地の此の上とも改良進歩して行くと云ふ積極的な氣分が、そこに現れると云ふことが困難と思ひます、今迄の或地主には、色々昨日來御話の通り非難もありましたけれども、私の承知して居る地主には、此の點に於て實に尊敬すべき地主が、又私の存じて居る限りに於ても相當にありまするのです、本當に農民を率ひ、農民を教へ、農民を保護し、萬事の世話をする、それはもう耕作する人では出來ませぬ、地主さんにして初めて出來ることであり、現に私共の承知して居る者で、何百年來ついぞ小作の問題が爭ひになつたことは此處の家ではないと云ふやうな家も隨分承知致して居ります、さう云ふ家が不幸にして此の法案では、今迄通りの地位を保持出來ない譯でありまする、それを是非保持して戴きたいと云ふ譯ではございませぬが、少くとも健全なる中流階級が朝から晩迄働くばかりでなし、そこに時間と資産と心とに裕りを持つて世の中の世話をして行くと云ふ者が、農村に矢張り十分な基礎を置いて保持されたいと斯う思ひますのです、是は當局としてはどう云ふ風に御考になつて居りませうか、土地の零細化と云ふことが免れぬと思ひ、それに依つて結局皆が貧乏することになりはしないかと云ふことは、議會でも質問の中に申上げて置いたのでありますが、此の點に付て農林大臣から御示を願へれば有難いと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=26
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027・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 農村の中産階級の問題でありまするが、第一に此の日本の農村と云ひまするものは、それぞれの地帶に依つて相當耕作反別にも廣狹がある譯でありまして、平均を以ては律し得ないのであります、例へば東北と關西に於きましては、是は東北で二町歩耕して居りましても、關西の一町歩に或は及ばない場所もある譯でございまして、唯平均面積からは參りませぬが、此の農地法に於きましても、新たな一つの農村の中堅階級と云ふものは十分に維持し、それを育成して行くと云ふ考は採つて居るのであります、それは第一番に、現在に於て既に自作經營を爲して、相當村での中堅として働いて居る者は何等そこに觸れて居りませぬ、それから此の自作農を創定致しまするに付きましても、一つには耕地の集團化と云ふことを行ひまして、農業經營其のものが合理的に行はれまするやうな形に於て自作農を創定して行くと云ふことに依つて、新たに出來まする自作農其のものの經濟的な基礎を鞏固にすると云ふ考を採入れて居りまするのと、それから何も彼もが小さな小作農となるのではありませぬ、今度の場合は多くの小作農に平等の機會は與へられまするが、併し出來まする限度に於きましては、是は十分そこに合理的な自作農の創設をも行つて行くのでありまして、唯今度の法案に依つて總てが零細化すると云ふことには是はならないと思ふのであります、それからもう一つは、此の日本の現在と云ひますか、實情に於きまして、農村に於て實際上の色々の世話を致して居りまするものに付きまして、勿論立派な地主もありまするが、現實に於きましても、村に存しまする中流の耕作農民と云ふものが又相當の働きを致して居るのであります、是は農林省で昭和十九年でありましたか、調べました農事實行組合長と云ふものの調べがあります、農事實行組合長と申しまするのは、御承知のやうに部落を單位にしました組合でありまして、働く農家の組合でありまして、色々の農事のことを主としてやる譯でありますが、或は場合に依りましては農家の生活の面迄入つて世話を致す團體であります、其の組合長を調べて見ますると、是は一番多いのは矢張り自作兼小作をやつて居る者、斯う云ふものが一番多いのであります、是は日本の農村の構成を矢張り反映して居ると言へるのでありまして、それ等のものは其の當時の調査に依りますと、資産は大體一萬圓から二萬圓位のものを持つて居るものが多うございまして、それから高等小學校を出た程度のものが多かつた譯であります、地主は比較的さう云ふものは矢張り少いのでありまして、小作農も割合少なかつた譯であります、是はどうしても此の農村のさう云ふ中堅の人達を維持して行きまするのには、農地の改革だけを以て滿足だとは私は毛頭思つて居ないのでありまして、矢張り農地の改革に依りまして自作農を創定しますると共に、是は農業のやり方を今少しく……流行りの言葉を使ひますれば、近代化すると言ひますか、合理化しまして、矢張り暇を與へる自作と云ふことになると思ふのであります、是は今は色々の資材が乏しいので、思ふやうなことは出來ませぬが、矢張り村の中での目醒めた人達は相當其の方面で動いて來て居ると思ふのであります、殊に農村の電化等を致しますれば、是は勞力が省けますことは、言はなくても分つて居るのでありまして、さう云ふ形に於て段々働き方を變へて行つて、農民に暇を與へて教養を高める機會と言ひますか、暇を作つて行くと云ふことを矢張り我々としてはやりたいと思つて居ります、それが個々の經濟に於て、個人の農民に於て可能な部分と、是はどうしても協同の力に依つて、協同組合か何かを作りまして、さう云ふ施設を採入れ、合理化して行く方面と兩方あるのであります、さう云ふやうな協同の力と云ふものに依るのと、個々の農家其のものが實行する面と二つありますので、さう云ふやり方をしまして實際上働く耕作者と云ふ者が新しい時代の中堅として村に出て來る、而も其の村に於てそれ等の人が中心となつて色々なことをやつて行く、斯う云ふやうに將來は、此の制度の布かれました後に於ては、私はなつて行くのではないかと思ひますし、又其のやうに今後指導して行きたいと考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=27
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028・牧野英一
○牧野英一君 農村中産階級政策と、自作農との關係に付て農林大臣としては餘程特別な關心を持つて居られるやうに承りましたので、私としても幸福に存じます、結局自作農が中産階級にならねばならぬ、それには自作農がもつと暇を持たねばならぬ、それには農業を近代化し、合理化せねばならぬ、斯う云ふことの御話でありまして、其の近代化し、合理化する爲に中産階級を必要とし、又合理化と中産階級とが御互に因となり果となつて農村の健全性を保持することが出來るのであらうと思ひまする、結局自作農と云ふことは單に自ら耕すと云ふこと以上に非常に大きなそこに思想的な意味を持つて居ると云ふことの御示しに與つたものと心得て大いに期待申上げます、そこで質疑の第三と致しまして、是は稍稍小さな細かい法律論になりますが御質問致して置きたいと思ひます、それは此の農地調整法、自作農の此の法律でも同じことでありますが、今度の憲法の第二十九條第三項であります、公共の爲に財産權と云ふものが用ひられると云ふあの規定でありますが、私本會議に於きましても亦憲法の委員會に於きましても、財産權が公共の爲に用ひられると云ふ言葉が書いてある、是が甚だ氣になりますので、若し此の儘になさいますと、將來農地調整法憲法違反と云ふ問題が起りはしないか、斯う云ふことを屡屡申上げて見たのでありますが、御心配に及ばぬ、是で宜いと斯う云ふことでございました、英譯の方にはもう少し廣く理解出來るやうな言葉が用ひてありますが、もう兩院を通過しましたけれども、憲法の成文としては少し狹いやうに思ひます、併し憲法の精神として居る所はどうもさう云ふ狹い意味のものではないと考へますので、どうも今日となりましては解釋問題として私共が努力しなければならぬ問題になりました、沿革から申しますれば、例へば現行憲法に於きましても必要な處分は法律を以て定めるとあります、處分と云ふ文字の方は相當に廣く理解出來ますが、必要と云ふ言葉は非常に窮窟な言葉でありますに拘らず、是は日本の、日本ばかりではございませぬ、外國の立法例に於きましても「ネセサリー」と云ふ言葉が實際には「ユースフル」と云ふ意味に取扱はれて居る、是が十九世紀に於ける所の立法の一般的な趨向でありまして、此の比較法學的な事實を捉へて私共は十分解釋を施す餘地があらうと今日では考へて居りますが、併し兎に角私は懸念に堪へませぬので金森國務大臣にも、又司法大臣にも伺ひを立てたのでありますが、心配には及ばぬと云ふことでありました、言葉それ自體の問題としては今日は心配をしても追つ著きませぬが、尚此の點に付て農林當局としては差支ないと云ふ確信でいらつしやるだらうと思ひますけれども、尚一つ念を押すと申しましては失禮でありませうが、私としては問題に致して居ります、法律家には隨分質の惡い人もある譯でありますから、最高裁判所の問題に出來ぬことはないと私は思つて居りますので心配をして居る、老婆心でございますが、それだけを申上げると同時に農林大臣の御心持を伺ふことが出來れば幸福に存じます、同時にもう一つ、それに關聯致しますが、今の二十九條の第三項でありますが、「正當な補償の下に、これを公共のために用ひることが出來る。」とありまして、「正當」と云ふ文字がありますので、そこで私は憲法委員會では「公平な」と云ふ、「エクイタブル」と云ふやうな言葉を御用ひになる方が其の意思を表はすのではありますまいか、此の憲法は矢張り財産權を尊重すると云ふ大原則を認めて居りますので、從つてそれを公共の福祉の爲に制限をする場合には公平な補償をすると云ふことがあつて欲しいものと思ひます、社會黨の修正案では已むを得ざる場合に於ては無償で兎に角制限處置することが出來ると云ふことになつて居りましたけれども、衆議院ではそれは排斥された次第であります、さう致しますれば假令此の農地調整法の死んだ一條に於て耕作者本位の規定になつて居りましても、現行法の第一條のやうに所有權の立場も矢張り十分考慮してやらなければ世の中の秩序と云ふものは全うされるものではございませぬ、それで公平な補償と云ふやうに爲さることが御趣旨でもあり、又適當でもありますまいかと言ひましたけれども、御採上げになりませぬ、さうして社會黨の修正案に關聯して、そこに正當と云ふことに含蓄があると云ふやうな説明であつたかに承りまして、成る程そこに一種の含蓄があるもので、正當必ずしも公平ならず、斯う云ふものになるかと思つて、其の儘で私の修正意見を委員會に於ては採用になりませぬでした次第であります、之に關聯しまして農地調整法の是から實施事項の實際に於て補償の關係がどうなりますか、正當の補償と云ふことが全うされませぬと矢張り最高裁判所の問題になりまする、是も私懸念に致して居ります、政府委員が先程調整法案が死んだ第一條に特に耕作權と云ふものが嚴存致したにしても、矢張り現行法の第一條の精神を捨てたものでないと云ふ其の御言葉に矢張り信頼を懸けて居りますので、それでさう云ふ御趣旨と、さうして此の法案の實施に於ける補償との關係、實情のことは私心得ませぬが、無理が出來て、世の中に隱れたる怨嗟の聲が聞えると云ふことになつては殘念なことと思ひますから、正當の補償と云ふことが果して全うされるやうな仕組になつて居りまするかどうか、正當と云ふ言葉の解釋及び實際の運用の心持に付て伺つて置きたいと思ひます、即ち是が新憲法の第二十九條の第三項の關係でございます、「用ひる」と云ふ言葉、又「正當」と云ふ言葉に付ての農林大臣の御心持を伺つて置きたいと思ふ次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=28
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029・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 憲法との關係に於きましては衆議院でも色々質問があつた譯でございまするが、私の氣持は只今牧野先生が仰つしやいましたやうに、是は精神に於て公共の用に供すると云ふのを我々としては矢張り廣く解釋致して居りまして、是で是は差支へないのではないかと斯う考へて居る譯であります、それから正當の補償と申しますか、此の點に付きましては矢張り唯個人的な地主の立場でありまするとか、それから唯單に自作農創設者の、例へば小作の立場、斯う云ふ個々の立場を寧ろ離れまして、此の自作農の創設の仕事、其のものが持つて居りまする意味と言ひますが、それに含まれました精神と言ひますか、さう云ふ一つの社會的な、國家的な立場に立つて、謂はば正當と言ひますか、公平と言ひますか、さう云ふものでなければならぬと斯う考へて居る譯であります、そこで實際の運營と致しましては、是は農地改革に於きまして無償で沒收すると云ふ立場を執つて居ないのでありまして、國が一定の對價を拂ひまして、土地の所有者から強制的に買ふことになつて居るのであります、其の土地價格に付きましては、是は法律に決めてありまするやうに、田に於きましては賃貸價格の四十倍、畑に於ては四十八倍と云ふ其の範圍内で決めることになつて居るのでありまするが、併し出來るだけ之を農地其のものの生産力の實状と併せまする途をも講じて居るのでありまして、賃貸價格のないものでありまするとか、或は特別の事情のありまする場合に於ては、矢張り前の特別の額を決めることが出來るやうに致して居りまするのと、それから此の實際上買收を行ひまする場合に於きまして、農地の價格に付きまして異議のありまする場合には、是は民事訴訟も出來る途が開かれて居るのでありまして、其の點に付きましては、是は一つには自作農創設、此の農地改革と云ふものの持つて居りまする社會的な意味の遂行、それから兩當事者との間に於きまする立場と云ふものを公平に、政府も考へまして實際上の運營を致すと云ふ建前になつて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=29
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030・牧野英一
○牧野英一君 尚憲法の規定との關係に付て農林大臣の氣持を伺ひたい點がもう一つあります、所有權、財産權の問題に立ち歸りますれば、財産權は義務を伴ふと云ふことになるのでございますので、此の法律の運用としては出來るだけ公平な補償が、土地の所有權に與へられる譯でございませうけれども、それでも矢張り公共の福祉の爲でありまするから、餘程な犧牲を地主さんは拂はなければならぬ譯で、是はどうしても或程度迄は十分覺悟して貰はなければならぬ今日の情勢だらうと思ひます、併しながら覺悟はしながらも、矢張り此の位ならば無理もないと思はれるやうな風に、段々と運營されることを希望する次第でありまするが、それと同時に、覺悟をする、犧牲を拂ふと云ふ言葉では穩かでないかも知れませぬが、義務と云ふことから申しますれば、所有權に義務が伴ふばかりではなく、勞働にも私は義務が伴ふものと思ひます、是は質問の第一として申上げた農業的精神の發揮と云ふことがそれになる譯でありまするが、此の通過致しました憲法の二十七條に、「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」と云ふことがありまするので、「義務を負ふ」と云ふことはどう云ふ趣旨のものでございまするかと伺を立てました處が、「權利を有」すとあるのに付て、輕く加へた趣旨だらう、衆議院の修正であるが、權利がある、其の權利が義務を伴ふと云ふ位の極く輕い説明であつたやうに記憶致して居ります、併しながらそれに對して、私は是は勤勞の權利と云ふことも重い意味のものであると解しまするが、同時に勤勞の義務と云ふものも重いものであらうと思ひます、從つて衆議院はどう云ふ積りで斯う云ふ規定を設けたのかも知れませぬけれども、我々が獨立な解釋をして見ると云ふか、私個人だけの考で申しますれば、所有權の方に非常に大きな覺悟はせねばならぬと同じやうに、勤勞をする方面にも餘程の覺悟はせねばならぬ、自分は勤勞の自由を持つて居るから働かうと働くまいとは自分の勝手だと云ふやうなことは、言つて貰へない世の中の事情が段々發生して來るかも知れぬ、それだけは國民全體として矢張り考へて置かなければならぬことでありますまいかと、申しました處が、片方の委員からは、飛んでもない話だ、又昔の徴用のやうなことがあつてはたまらぬと、斯う云ふやうなことでありましたが、成る程曾ての徴用を聯想されると云ふことも無理もないことでございませうが、併しながら皆が本當に精神を籠めて働かねばならぬに付ては、其の働かざる者に對しては、勤勞の義務違反として法律上適當な方法を講ずると云ふことが考へられるんではないか、それが矢張り工場勞働に付てのみならず、農村勞働に付ても考へられると思ふのであります、自作農が設定されまして、土地の所有者としては、其の所有權に伴ふ義務でありまするか、それを耕作する勤勞者としては勤勞に伴ふ義務がありまするので、若し其の勤勞と云ふものが全うされない時には、相當に是は將來立法をする覺悟と云ふものがあつて然るべきではありますまいか、此の農地調整法が地主征伐の法律であると今言はれて居るならば、將來今度は怠けて居る所の農民を征伐する法律としても働き得るやうなものにされると云ふことを私としては希望致して居るのであります、固より憲法の規定と致しましては、假令片一方に働かざる者は食ふべからずと言ひましても、尚特別な規定がございまして、「その意に反する苦役」を強ひられることがない、斯う云ふことが設けられて居るから、昔のやうな徴用と云ふやうなことを直ちに思ひ出すと云ふ必要はないかも知れませぬけれども、憲法の精神として働かざる農民からは其の所有權、其の耕作權でも今度は取上げても宜いと云ふ位な所迄行つても宜いのではないか、斯うなりますと、農民的精神の教育の問題を越えて、矢張りそれに對する國家的施設、法律問題と云ふものを考へて宜いのではないか、其の邊迄私は思つて居るのでございますが、どう云ふものでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=30
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031・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) なかなかむづかしい問題だと思ふのでありまして、矢張り農民が働く、而も働くと云ふことに依つて、是は農民だけではありませぬが、憲法の精神は働くと云ふことが義務であると云ふことは、結局日本の再建の爲には國民が本當にそれぞれの勞働の尊さを知つて、寧ろ義務的な觀念に徹して働く、斯う云ふことが必要だと、斯うも考へられるのでありまして、御話のやうに農民が懶けました時にそれを強制的に買取ると云ふ所迄は實に考へては居りませぬが、併し事實懶ける農民でありますれば、是は經濟的にもう既に落伍者となつて、そこに實際的な制裁を現實に受けてしまふことに私なると思ふのでありまして、寧ろ我々と致しましては、農民と云ふものが今迄色々働いて居りましたが、其の働き方がもう少し合理的に働いて、農民自身の生活なり知識なりがもつと高まるやうな方向に指導して行きたいと思つて居るのでありまして、法律でそれをやりますよりも、寧ろ農民自身が本當に心から働くと云ふ方向に向けて行くことに力を注いで見たらどうか、斯う考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=31
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032・牧野英一
○牧野英一君 誠に御心持は私も了解仕る次第であります、勤勞の義務と云ふことに付て私が特に厚生大臣と三囘ばかり問答を繰返しました次第は、寧ろ工場勞働者に關することでありまするし、殊に最近の「ストライキ」と云ふものが果して國家の現在の情勢を理解しての行動と見て宜いかどうかと云ふので、勞働關係調整法の問題としたのでありますが、併し農民に付ても同じことが考へられると云ふことは理論的に思つて居ります、併し農民の方は「ストライキ」をした日には、農林大臣の御話の通り、自然がそれを許しませぬので、經濟的に自ら沒落をすることになりまするから、私の申上げたことが杞憂に過ぎないと云ふことになるのかも知れぬと思ひます、さうして問題の要點は矢張り指導教育の方にある、斯う云ふ風に仰しやられることは十分理由のあることと思ひまするけれども、理論的に私が考へて居ること、將來或場合に必要があつて、特別な農業勞働の必要な時に、それが本當に公共の福祉の爲に必要であるならば、此の憲法の勞働の義務と云ふ規定から矢張り立法上適當な措置をすることが出來る餘地があり得るものではなからうかと思つて居る私の心持だけを一應御推察置き願へれば有難うございます、さうして質疑の第四に移りまするが、是は稍稍經濟的の問題になりまするので、私の法律學的研究の領域を稍稍離れまするが、最後に附加として御聽取を願ひたう存じます、質疑の要點が二つになります、第一は何と申しましても、土地所有權の零細化と云ふことが免れぬことになり、そこに我々は心配を持つて居ります、是は或程度迄農林大臣に於ても私共の心持を御了解下すつて居ることと豫々承りますが、それに付ては先程から農林大臣も御説明になつた通り農村の合理化と云ふことが必要になりまするので、農村に此の上とも先づ第一には科學を持込むと云ふこと、例へば電力化と云ふやうなことが直ぐ想起されることでございますが、其の外に協同組合の組織をどう云ふ風にするかと云ふことで、各自自分が自分の土地を持つて居ると云ふ風に偉張らないで、村全體としてどうすれば村全體としての土地の利用が最高度に發揮出來るかと云ふ問題に段々移らねばならぬ譯であります、是は先程からも既に問題になつたのでございませう、農林大臣も御話の通りで、もう繰返して申しませぬ、學問を利用する、學問的の技術と協同組合化すると云ふ法律的經濟的の技術、即ちもつと農業を合理化する、利巧にする、單に勤勉すると云ふだけではない、もつと賢明に仕事をすると云ふことに付ては、もう既に農林大臣も御心配のことを御説明下さいましたから繰返しませぬ、兎に角私共の考では經濟上企業それ自體の原則と云ふことを始終申して居りますので、農業に付ても農業それ自體の原則、農業其のものが圓滿に發達するやうに有らゆる方面が覺悟する、先づ第一に互讓相助の精神、現行法の第一條に見えて居ります互讓相助の精神を發揮すると同時に、單り消極的に相讓るばかりではなく積極的に相取つ組合つてさうして仕事をするやうにならねばならぬと思ふのでありますが、此の農地調整法の運營の將來として、此の點に付て、何と申すか、さうありたいと思ひましたけれども、是は既に御話の次第で私は了解を致しました、どうも一時所有權がまあ分解されるやうな形になりませう、其の分解されたものが新たなる機構の下に又すつかり結び付き、一つのものとして働くやうに段々の政策を御進めになることを希望致します、それに關聯してもう一つ伺つて置きたい經濟上の問題があります、農業の將來に對する御見透しの問題であります、農業の生産能率が此の改革に依つて相當に増進することでございませう、に致しましても、我が國の食糧は自給自足では解決が出來ないと云ふことに承つて居り、一時は米が餘つて困ると云ふやうな時代もありましたが、結局の處、食糧は海外からの輸入を俟たねば解決が出來ないと云ふのが我が國の農業の常態である、斯う云ふ風に承つて居ります、さう致しますると、まあ其の爲に今山のてつぺん迄も耕して食糧を求めて居る譯でございますが、山のてつぺん迄耕すと云ふことになりますと、輸入食糧と自國食糧との生産費の關係と云ふものをどうしても考へて置かねばならぬ譯であります、輸入食糧の爲に我が國の農業が折角此の法律に依つて或程度迄發達したにも拘らず、農業其のものが成立たないと云ふやうなことになると云ふと、是は相當に大きな問題になる譯であります、十九世紀の「イギリス」の事例などと云ふやうな大雜把なことを申して相濟みませぬけれども、要するに穀物條例の經緯に付て考へて見ましても、「イギリス」は斷然農業を抛つて海外植民地から食物を取寄せると云ふ方針にした譯でありますが、既に輸入食糧と云ふものを必要とする、輸入食糧は生産費に於て安いものであると斯う云ふ風になつて參りますと、將來海外貿易が自由になつた曉に於て折角骨を折つて我々がやつて居る農業政策の運命がどうなるかと云ふやうな、先のことではございますけれども、私は心配するのであります、一時は關税の方法を以て解決すると云ふことも出來ませうが、結局は國家全體として海外から食糧を入れることが出來れば、其の方が公共の福祉になる譯であります、併しながら從來は國防論と云ふものがありまして、國防の爲に矢張り自國生産と云ふものを、保全せねばならぬと云ふことは、誠に尤もな議論でありました、國防論と云ふものが最早なくなるに致しましても、自國生産は保護せねばならぬ、そこに安い輸入食糧を「チエック」して、態々山のてつぺんの米を食べなければならぬものか、或は其の時は其の時として、どうなるものか、是が私は我が國の農業國としての、日本の將來に付て從來懸念を致して居る次第であります、差當りの問題は簡單でありますが、併し將來の見透しはどうでございませうか、是は見方に依つては農林大臣の御所管と稍稍離れる問題でございますが、此の頃屡屡各方面の青年から、我が國の將來の産業と云ふものが、どう云ふ風になるものでございませうかと云ふことを聽かれるのであります、折角我が國に發達した所の工業、此の工業と云ふものは今大きな打撃を受ける譯でありますが、それでも食糧を大いに輸入する爲に、見返り品の生産と云ふことで之を解決せねばならぬ、此の見返り品の生産と云ふことを更に一歩進めると云ふと、又昔の工業立國になる、工業立國と云ふことになれば、此の狹い國で農地を爭ふよりも其の方が宜いのではないか、さうすると今日山のてつぺん迄耕さなければならぬ、我々の庭にも菜つ葉を植ヱなければならぬのですけれども、是は永久の政策ではない、將來は將來としての別なことを、國民としては全體を考へて行かなければならぬと云ふことにならなければならぬ、そこに日本の産業全體としての我々の覺悟、其の全體の間に於ての農業の地位如何と云ふことを問題として居るのでございますが、此の法律の運用に付てそんなこと迄問題として伺ふことはぼんやりもして居ります、何か少し縁遠いことになるかも知れませぬけれども、農業の問題を非常に大切に思ひながらも、そこに私は一抹の懸念を持たざるを得ないのでありまして、現に青年の會合などに臨みますと、農業本位の青年と、工業本位の青年と、同等の喧嘩を致して居ります、喧嘩で決める譯にいかぬ、是は農村の人と、工場の勞働者との關係がもつと調和して行く道を付けなければならぬ、斯う云ふ風に私は言つては宥めて雙方の話を聽いて來るのでありますが、農業問題を重要視して議論を致しまするにしても、此の點に付ての御見透し、從つて農村の今過剩の人口と云ふものは農村で解決しないで、矢張り將來日本の産業を興して、其の方に向けて、總ての人が仕事に安んじて、生活するやうにしなければならぬと云ふことになる譯のものではありますまいか、そこで農業の重要性と云ふことには何と申しますか、言葉が惡いかも知れませぬが、自ら限界があるとでも申しませうか、何か國家全體で考へて置かねばならない、將來の見透しがそこにあると云ふやうに思ふ次第であります、此の點に付ての農林大臣の御所見を伺ふのは、或は少し的を外れたことになつて居るかも知れませぬけれども、尚心持を伺つて置くことが出來ますれば幸福に存ずる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=32
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033・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 第一の農地改革後に於きまする農村の協同體としての問題に付きましては、既に御答へした譯でありますが、勿論我々と致しましても從來農村に存して居りました良い意味の隣保相助と申しますか、御互に助け合ふと云ふ此の點は十分新しい農村に於ても生かして行く、斯う云ふ考で居ることには變りはありませぬ、それから農業の將來でありますが、是は御話の中に一部分御答が出て居つたやうに拜聽致したのでありますが、私も日本の農業が、農業だけで今のやうな人口問題を解決出來るとは毛頭考へて居ないのでありまして、寧ろ農業が從來の日本に於きまするやうに、失業者の掃溜となるやうなことは、是は日本全體の爲にも、寧ろ避くべきではないかと斯樣に考へて居るのであります、是は何としましても農業問題其のものを重要視しますればしまする程、私と致しましては日本の農業界に於ける工業の問題を非常に重要視致して居るのでありまして、寧ろ農業の問題は日本の經濟全體の謂はば工業の將來の發達と云ふものを俟つて、本當に解決される面が非常に多いと云ふことを考へて居るのであります、唯我々が今の日本の現状に於て、日本が是から恢復して行きまするに付ては、是は工業其のものが恢復致しますると云ふ點だけを考へて見ましても、農村と農業と云ふものがそれ等の日本の工業に矢張り従來とは違つた廣い國内事情を與へますることが、恢復の緒を早める事柄になる譯でありまして、其の意味に於て我々は日本の農業を合理化しまして、農業其のものに力を持たせて行くと云ふことが、同時に工業の恢復の是は原因と言ひますか、礎になると斯う考へて、色々な農業の問題を考へて居るのであります、從ひまして御話のやうに此の今の日本に於て食糧を日本の農業で自給自足すると云ふことは、是は假に出來たとしましても、それが國民經濟的に「エコノミカル」かどうかと云ふことは、殘るのでありまして、是は國全體としましては、矢張り國民經濟から見て、それが經濟的である方途を私は採るべきだと考へて居ります、勿論さうかと云つて非常に多額の食糧を何時迄も今のやうな形で輸入して行くと云ふことは、是は日本の工業が恢復して行きまする爲には、何と言ひましても相當の資材の輸入を必要と致しますので、日本の農業の方向としては、出來るだけ是は世界農業との接觸を考へながら生産費の低い、而も國全體としての對應性を持つた強力さを以て、日本經濟恢復の爲の輸入餘力を、一面に於ては輸出の資源となると同時に、輸入の餘力を作つて行く、斯う云ふことを矢張りやらなければならぬのだと斯う考へて居ります、從つて開拓の問題も我々として考へて居りますのは、「コスト」の問題等を考へまする時には、唯そこに從來のやうな食糧生産だけを目的にした開拓と云ふものは考へて居ないのであります、是はまだ日本の農業が本當言ひますと、初めてぶつつかつた問題とも言へるのでありまして、新しい形として色々な形の農業經營と云ふものを植付けて行くことが必要なのではないかと思ふのでありまして、それ等の點に付ての色々な指導なり研究等は進めて行きたいと思つて居るのであります、唯斯う云ふ點だけは御了解を御願ひ致して置きたいのですが、農業と言ひますものは、是はどんな形體の農業でも或程度の、謂はば自給性と言ひますか、經濟の方で言ひますれば、再生産の基礎と云ふものを矢張り自分の經營内に持つて居るものであります、例へば種子とか、それから勞働力は家族勞働であります、肥料でありますれば、自給肥料の問題、兎に角農業内部で一應循環出來得るものがあるのであります、さう云ふ特質を持つて居りまするので、矢張り農業と云ふものは、開拓なんかの農業を考へまする場合にも、幾分そこに自給の面と云ふものを持つて居ります、さう云ふことは其の他の面の活躍をしまする時の大きな一つの基礎にもなると考へまするので、そこらの組合はせと云ふものは矢張り相當研究すべき點ではないかと思ふのであります、と申しますのは、是は恐慌の時に、日本が今迄に受けました一番大きな打撃であつた農業恐慌の時に、何故一體ああ云ふ恐慌を受けながら日本の農業の中で、あの時代に於て尚且相當の抵抗力を示した、而も經營自體を擴大迄した農業があつたかと云ふことを考へて見ますと、それは矢張り農業自身が持つて居る自給性と云ふものを最も合理的に、うまく他の部面と結び付けた所にあつたんだと私共は考へた譯であります、さう云ふやうな意味で指導して行くことが農業内部の點に於ては矢張り必要だと思ふのであります、勿論將來日本としては工業と云ふものを十分興しますることが國としては絶對に必要だと斯う考へて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=33
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034・牧野英一
○牧野英一君 段々御示しに與かりまして有難うございます、昨今の經濟民主主義と云ふ問題に付きまして、私共法律家、法律の研究に從事致して居りまする者も特別の關心を持つて居る譯でございまして、第一は農村問題、第二は勞働問題、さうして第三は企業の問題、此の三つのものが相關聯して今日の經濟民主主義をなしまするので、之を平等に公平に見渡して考へて行かなければならぬことと思ひます、一方には是は非常な技術的な問題でございまするが、又大きな思想上の問題であると考へまするので、此の改革が柔かに順序を追うて進捗すると云ふことを期しつつ研究を致して居る次第であります、今段々の御示しを受けまして、尚其の意味でもう一度此の法案を讀み直しまして、十分審議の上御奉公を致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=34
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035・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 休憩を致します、午後は一時半から開會を致します
午後零時四分休憩発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=35
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036・会議録情報3
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午後一時四十分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=36
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037・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 午前に引續き開會を致します、竹下君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=37
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038・竹下豐次
○竹下豐次君 午前中の政府委員の御説明に依りますると、自作の場合には所有土地の面積の制限はないやうでありまするが、御伺ひ致したいのは、地主が自分の所有の山林原野を開墾する場合、無制限に開墾してそれを農地として耕作する、是が自作であれば宜いと云ふことになる譯でありませうが、一方農林省の方に於きまして農地開拓の爲に山林を開墾させ原野を開墾させると云ふことを集團的におやりになつて居ると云ふやうに承つて居りますが、それとの關係はどう云ふことになるのでありませうか、地主が自分のものだつたらそれと關係なしに自由に開墾して自作することは許される譯でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=38
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039・山添利作
○政府委員(山添利作君) 是は開墾を進める譯でございまするから、どう云ふ方法でありましても進めば宜い譯でありまして、土地を持つて居られる方が自分で開墾して下されば、是はまあ結構な譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=39
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040・竹下豐次
○竹下豐次君 それから此の前の議會で承つた所に依りますと、苗木を作る苗圃でございます、是は土地買收の對象の畑の中には入らないと云ふことでありましたが、其の點は今度の改正でも別に變つたことはございませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=40
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041・山添利作
○政府委員(山添利作君) 此の農地の中には凡そ肥培管理をする一切のものを含んで居りまするので、從つて苗木を作つて居る畑でありましても、又蜜柑等を作つて居る果樹園に致しましても、一應皆此の農地の中に含まれる譯であります、從つて小作地の上にさう云ふ事業を營んで居りますれば、それが自作地になる譯でありまするし、又自作をやつて居りまする土地の所有者が其の上で今の苗圃或は果樹園等をやつて居ります場合は、是は恐らく相當面積になると思ふのですが、是は面積の如何に拘らず認めて行く、斯う云ふ關係になつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=41
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042・竹下豐次
○竹下豐次君 自分で土地の所有者が經營して居る場合には買上げられないで濟むと云ふことになるのですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=42
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043・山添利作
○政府委員(山添利作君) さう云ふ譯でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=43
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044・竹下豐次
○竹下豐次君 それから第九條の但書の「正當の事由」、先程來御説明のありましたあれでございますが、其の中で能く地方で問題になりますのは、中小地主が土地の返還を小作人に請求すると云ふ場合であります、是は色々状況を見ますと、返還の問題に付きまして紛糾を來して居りますのは、大地主と小作人の間の關係でありませぬで、中小地主と小作人の間の關係が多いのであります、と申しまするのは、大地主は澤山小作させて居りますので、全部取上げなくても、貸して居る分から少しづつ數人から取上げて、さうして纏つた一町歩とか二町歩とか云ふものはし易い、無理せずに行けるのですが、中小地主の場合には、半分返して呉れとか、或は全部返して呉れと云ふやうなのがありまして、其の關係の紛議と云ふものは相當に多いやうであります、それで私二三囘小作官の説明を聽いて居りますると、土地の返還は、現在馬一頭持たぬ、又農具すら十分揃へて居ない者に返す必要はないと言はれて居ります、成る程眼の前に見えた所から申しますると、増産と云ふ點に反するやうなことになりませうから、それだけ考へると好ましからぬ返還の請求だと云ふ風にも考へられまするけれども、地方の中小地主と云ふのは、自分で田舍に居つて、それだけやつて居つてはなかなか生活が困難だ、それで東京とか大阪とか都に出て月給を取り、月給と小作米の收入と兩方合せて一家を立てて行かうと云ふやうな考へ方で外に出て居つた人が大分ありますが、それが近頃大分歸りまして、或は罹災者として歸ると云ふやうな者も相當多いのであります、もう月給生活は出來ない、都の生活は出來ない、どうしても田舍に歸らなければならない、處が歸つても土地の返還の請求は出來ないと云ふことになりますと、どうしても身動きの出來ないと云ふやうな者が澤山あるやうであります、そんな場合に一二年の間は耕作の成績が元からやつて居つた者から見れば劣ると云ふことになりませうが、奮發すれば、二年經ち三年經ちすれば、立派な耕作者になると云ふこともあると思ひますが、何とか其の間の取扱ひの緩和の方策は講ぜられないものでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=44
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045・山添利作
○政府委員(山添利作君) 此の問題は現在の農村で一番深刻な問題で、方々で問題が起つて居ります、併し大體論と致しましては、小作料が金納になりましたとか或は農地改革が行はれるとか云ふ關係に乘じまして、此の九條の目的から見れば理由がないのに拘らず取上げて居ると云ふやうな事例が實は非常に多いのでありまして、從つて此の九條の運用方針に付きましても、是は出來るだけ嚴格にやつて行くと云ふことに致しませぬければ、今の事情にそぐはない譯であります、併し一面から見ると、戰災者等或は外地から引揚げた人等に付きましては、御話のやうに非常に氣の毒な場合もございます、是はさう云ふやうな場合に於きまして小作人の方で返しても生活上も困らないのだと云ふやうな事情がございますれば、直ちに優秀な成績を擧げると云ふことが出來ませぬ場合に於きましても、將來十分見込があると云ふ場合に於きましては、是は關係者の話合で圓滿に事を運ぶべきだと考へて居るのであります、併し一般論としましての現在の事情は、地主の方から土地取上げの所謂攻勢に出て居ると云ふ状況でありますから、其の邊の間違を起さないやうに嚴格に指導する必要があると考へて居る譯であります、從ひまして此の農地調整法の改正に於きましても、當分の間は土地取上げの問題は地方長官の許可を要すると云ふことに致して居る譯であります、併し澤山の場合であり、又其の場合の中には、色々な事情がある譯でありますから、是は具體的に其の村々で一つ關係者で打合して貰ふと云ふより外はないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=45
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046・竹下豐次
○竹下豐次君 私の之を御尋ねしましたのは、私が先申上げましたやうに、今日迄數囘此の方の關係の人達の集つて居る所で小作官あたりの話を聽きますと、兎に角能率が下るやうな者にはいかないのだと云ふことをはつきり言つて居られる、全國各地の小作官がさう言つて居られるのかどうか其處迄存じませぬが、私の其の時の直感としましては、ひよつとしたら農林省あたりで、小作官の集りでもあつた時に、農林省のお役人がさう云ふ風に強く言つて聽かして居られるのぢやないか、さうすると是は全國的の問題でありまして、唯地方的の問題でないのだらう、何とか少し緩和な取扱をして戴かなきやならない、斯う思ひましたので御尋ねした譯であります、今の御説明に依りますと絶對にいけない譯ぢやありませぬので、農地委員會の方で十分に其の事實を調査して、無理がないと云ふやうな場合には宜いのだと云ふ風に承つたのでありますが、左樣に了解して宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=46
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047・山添利作
○政府委員(山添利作君) 此の九條の目的は、結局耕作權の保護にある譯でありまして、此の自作をする正當な場合と云ふことに付きましては、司法省、農林省、協議致しまして、地主の方が自作をした場合が能率が上がると云ふことを要件に致して居る、從つて原則論と致しましては、其の小作官の申しますことが農林省、司法省を通じての公定の解釋でありまして、是は此の九條の立法趣旨から見まして當然なことなのであります、私が今申しましたのは、是は世の中のことでございますから、色々な場合がある、色々な場合があればさう云ふ戰災者とか何とか云ふ場合、如何にも是は他に生活の手段がないと云ふやうな時に於きましては、其の耕作能力と云ふやうなことに付きましては、其の實體に即するやうにと申しまするか、其處は同情を持つて扱ふ方が宜い、尤も小作人に於ても、其のことに依つて特に困難を來すと云ふ場合でなければ、さう云ふ風に扱つた方が宜からうと、斯う云ふことを申したのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=47
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048・竹下豐次
○竹下豐次君 其の能率が上るとか、下るとか云う問題が二通りあるだらうと思ひます、今年引繼いだ、返還させたと云ふことだつたら、其の年に下るのは當然だらうと思ひます、併し又二年後か、三年後のことを考へますと、其の人の努力如何に依りましては、從來の惰農がやつて居るよりも却て能率が上ると云ふことも、是は考へられ得ることでありますから、それは廣く考へて宜いのだらうと思つて居りますが、其の點は如何でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=48
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049・山添利作
○政府委員(山添利作君) 御話になるやうな事情もございます、從つて是は或程度裕りを持つて考へると云ふことは、それは差支ないと思ひます、唯其の小作官のさう云ふ風に言つて居りますのも、私が先に申しましたやうに、一般的情勢としては是は極力強く致して置きませぬと、是は弊害が多いのでありますから、其の邊の事情は又御含みを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=49
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050・竹下豐次
○竹下豐次君 御話分りましたですが、此の引揚人、海外から引揚げて來た人々及び罹災者で歸郷した人なども、集團の開墾の方に廻すと云ふことを非常に努力して居られまして、今御尋ねしましたやうな場合に、相當に無理が行つて居る場合があるやうに思ひますので、其の邊の所で十分御考慮の中に置いて、まあ將來指導して戴きたいと思つて居ります、それから是も矢張り同じ問題でありますのですが、能く問題になりまするのは、地主の次男坊、三男坊と云ふのが出征して居る、それが歸つて來ると、ちよつと誰方かからも御話が出たやうですが、それが歸つて來たら家も分けてやらなきやならない、既にもう貰つて居る者もあるが、さう云ふ者に幾らか土地を分けてやりたいと云ふのは、是は人情だらうと思つて居ります、嚴格に法の解釋をしますると云ふと、今御説明のやうな通りでありまして、能率が下る、尠くとも一時的に下ると云ふやうな場合にはいけないと云ふことになりますが、此の場合にも幾らか緩和の方法はない譯でせうか、途がない譯でせうか、將來しつかり自分でやる覺悟もあるし、其の見込もある者に對しましては、能く是は問題になる譯でありますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=50
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051・山添利作
○政府委員(山添利作君) 此の場合も矢張り具體的の場合に付て見ないと、一概に申上げる譯には行かない譯でありますが、併し今の大體土地と人間との關係から見ますると、全く耕地には餘裕がないと云ふのが實情でありまして、從つて戰爭から歸つた次男、三男、之に耕作地を引上げて相當程度渡さうと云ふことは、一般的な場合としては是は非常に無理ぢやないかと思ひますのですが、具體的にさう云ふことが出來るやうな事情でございますれば別でありますけれども、一般論としてはなかなか困難だと思はざるを得ないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=51
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052・竹下豐次
○竹下豐次君 其の場合に小作人の方に無理が行かない、快く返してやるのだと云ふやうな場合には絶對にいけないのぢやない、斯う云ふ風に承つて置いて宜しいのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=52
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053・山添利作
○政府委員(山添利作君) それは勿論であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=53
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054・竹下豐次
○竹下豐次君 それから政府で二箇年計畫で土地を買收されます、それから交換分合と云ふものの御計畫があるやうに承つて居りまするが、是から農地委員が選擧され、各筆毎に土地の調査を始め、もう出來て居る所もありませうけれども、それからそれを買上げ、それを分配すると云ふ所に迄行きますのには、相當の時日が要りやしないかと思つて居ります、それだけでも大變な仕事でありますが、それを理想的に交換分合すると云ふことになりますると、ちよつとの間では困難ぢやないかと思ひますが、此の交換分合と云ふのはどの程度までおやりになる御計畫でありませうか、もう少し具體的に申しますると、今度買上げられてそれを配置すると云ふことでなくして、今小さい自作農邊りが持つて居るそれなども一括して御進めになると云ふことになる譯でありませうか、さうするとまあ大變なことだらうと思ひますが、御計畫を承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=54
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055・山添利作
○政府委員(山添利作君) 交換分合は出來るだけやると云ふ趣旨でありまして、二箇年の短期間に決定しますことは出來ませぬし、又理想的な交換分合を致します爲には、獨り今囘の法律に依りまして、政府が買上げます土地だけを對象にするのでは又不可能でありまして、是は村全體の土地を對象にして考へなければなりませぬ、此の際の交換分合と致しましては、例へば自作と小作とやつて居ります人が、本來土地を持つて居る自分の所有地の隣りを小作して居る、又飛離れた所にも小作地を致して居る、其の場合に其の小作者に對しては自分の所有地に接續して居る土地を政府が買つて賣渡せば宜いのでありまして、飛離れた小作地の方は地主の手許に殘して置くと云ふことに致しますれば、出來るだけの範圍の……此の法律を施行致します範圍に於て交換分合を圖つて行く、斯う云ふ趣旨である譯であります、全體的の交換分合は尚此の法律を施行致しまして、二年後に於きましても固より引續きまして、新しい計畫として進めて行きたいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=55
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056・竹下豐次
○竹下豐次君 先程農林大臣の御答の中に、農民道場を設けて、それで農民をよく指導して行きたいと云ふ御話でありました、誠に結構なことと思つて居ります、それに付きましては、相當の土地が必要な場合があるだらうと思ふのでありますが、それから農民道場關係以外の例へば農業補習學校とか、或は又此の頃青年學校の改造と申しますか、良くなつて行かなければならぬ譯でありますが、農地に於ては青年學校あたりでも相當に廣い面積の土地を必要とすると云ふやうなことも起つて來るだらうと思つて居ります、從來學校用地を欲しいと云ふやうな場合に於きましては、今日迄の所大きな地主などがあつて、氣の利いた地主であつたら、全部自分の土地を寄附しませうと云ふやうなものもあつた、そこ迄行かなくても大變色々な便宜があつた譯であります、今度細分されますと、新に纏つた學校用地が欲しいと云ふやうな場合に、小さい所有者から取上げると云ふことは買收と云ふやうなことは、なかなか困難があると思ひます、就きましては、さう云ふ方面の準備として御買上になる土地の幾分でも留保して置かれる必要があるぢやないか、斯う云ふ風にも考へられますが、其の點は何か御考がありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=56
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057・山添利作
○政府委員(山添利作君) 農民道場でございますと、現にやつて居るもので必ずしも十分ではないかも知れませぬが、概ね六七町歩位でやつて居りまして、大體規状で行くものと考へて居ります、又機械化等を致します際に、更に土地が欲しいと云ふ場合もあると思ひますが、必ずしも道場の土地として、機械等の農具を使つて練習する譯ではなく、寧ろさう云ふ場合には、近所の百姓の耕地を借りてやると云ふことの方が、御互に宜いぢやないかと思つて居るのでありまして、唯青年學校等で今後實習地を設けるとすれば、御話のやうに、土地を得るのに困難を感ずることと思ひますけれども、併し其の爲に買つた土地を用意して置く、而も必ずしも賣る立場の人からすれば、斯角喜んで賣る譯ではありませぬから、其の爲に用意して置くと云ふ所迄は考へても居りませぬし、又考ふべきではないぢやないか、買ふ立場からして、さう考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=57
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058・竹下豐次
○竹下豐次君 農林省の立場としてはさうだらうと思ひます、併し用意して置くのは唯遊ばして置くのではありませぬ、其の間の利用方法は幾らでもある譯であります、文部省とは何にも御相談はありませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=58
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059・山添利作
○政府委員(山添利作君) 是は文部省から御相談がなくても、私の方でも本當にそこ迄考へなければならぬと云ふことであれば、考ふべきであらうと思ひます、實は文部省からは別にさう云ふ話は承つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=59
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060・竹下豐次
○竹下豐次君 次は土地の買上價格ですが、田は大體賃貸價格の四十倍、畑は四十八倍で御買上になる譯でありますが、税務署で聞いた所に依りますと、財産税の課税標準額として、假賃貸價格を標準として課税すると云ふことを言つて居られる、假賃貸價格と云ふのは、御承知の通り此の六十年間の耕地整理減租年期中の土地と云ふのがありますが、耕地整理關係の土地でありますが、それは假賃貸價格として、其の當時か知りませぬが、相當の相場に當る賃貸價格を決めて居られる、處が今表向きに出て居るのは、減租の方から見て非常に安くなつて居る、表に現れて居る賃貸價格と税務署及び耕地整理組合以外には分つて居ない賃貸價格、即ち假賃貸價格と二通りになつて居りますが、財産税課税標準には、假賃貸價格を標準として調べをする、それで課税すると云ふ譯で其の積りで居られ、其の準備調査を市町村に委囑して居られる所もあるやうであります、處が政府で今度農地を買上げる價格は、表に出て居る賃貸價格の四十倍、四十八倍と云ふことになると、課税標準になる土地の價格と、買上げられる土地の價格が違ふことになつて來る、其の邊は大藏省と農林省との打合せがあつたか、それとも或は大藏省の方針でなく、或一部の税務署だけで何か考へ違ひをして、さう云ふ調査を進めて居るかも知れないと思ひますが、其の邊の事情は如何になつて居りますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=60
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061・山添利作
○政府委員(山添利作君) 財産税のかかります評價額は、原則的には自作農創設特別措置法案第六條に規定して居ります公定價格に依ることになつて居ります、併し今御話になつた場合は、今の賃貸價格が安過ぎる譯でありまして、此の法律に依つて買上げる價格も是は現に行はれて居る賃貸價格には其の場合は依りませぬ、土地の價格は新しく實質上増加して居りますから、其の増加して居る、現に持つて居る價値に相當する價格で買ふ譯でありまして、現に付いて居る賃貸價格の四十倍ではないのであります、實際の價格でやりますから、其の間矛盾はないと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=61
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062・竹下豐次
○竹下豐次君 私の質問は終りました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=62
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063・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 毛利男爵は大臣への御質問のやうに承知して居りますが、大臣は間もなく御見えになると思ひますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=63
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064・毛利元良
○男爵毛利元良君 どなたか外の方へ御廻し願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=64
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065・菅澤重雄
○菅澤重雄君 今度の農地法で、分家の見込のある子供のある農家、それは法律には分家は出來ないと云ふことは規定してありませぬが、農地委員會や、或は本廳の許可があれば出來ますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=65
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066・山添利作
○政府委員(山添利作君) 無論分家其のものは出來るのでありますが、分家した人に小作地を持つて行くことは新しく改革をやつて居る期間中は認めないことになつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=66
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067・菅澤重雄
○菅澤重雄君 現在小作人の作つて居るものも許さないのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=67
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068・山添利作
○政府委員(山添利作君) さう云ふ譯であります、是は細かく申しますと、色々ある譯でありますが、假に在村地主、是が不在地主の土地を持つて居りましても、不在地主と云ふことであれば、是は持つて行つたとたんに、矢張り政府で強制買收になりますから、是はさう云ふ場合は許しても宜しいと思ひまするが、是は本當に土地を持たせるだけの目的は達せられない譯であります、結局在村の地主と云ふ場合でございまするが、之を無制限に宜しいと云ふことでありますれば、今の保有の制限を一町歩にすると云ふ趣旨を全く沒却することになりますので、原則論と致しましては、もう既に咋年の十一月二十三日の状況に依ることが相當と認めれば、其の時の状態に依つて買收計畫を立てることが出來ると云ふ規定も設けて居ります通りに、此の規定を逃がれるやうな土地の讓渡等は認めないと云ふ方針で居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=68
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069・菅澤重雄
○菅澤重雄君 もう一つ伺ひたいのですが、最近二十年位の間に開墾をした土地ですね、其の土地が防風林と云ふやうなものがあつて、まだ木が畠にえらい害をなして居りませぬけれども、今度畠を賣ると云ふことになつて、地主が山林と畠と兩方持つて居た場合に、畠を小作人に賣つて山の方を殘すと云ふことになると、軈て其の木が大きくなつて畠に害をなす、斯う云ふやうなことで遂に爭ひになつたり、若くは禍根を貽すと云ふやうなことになるが、其の點で緩衝地帶と云ふやうなものを設けて、それを小作人に賣らないで殘して置くと云ふやうなことも實際問題として是はなければならぬと私は思ふのでありますが、私の地方には昔からの慣行例で日裏九間、日表五間と云ふやうな、山の場合と田畑の場合に、木を植えないで山の方に土地が屬して居つて、田や畠の害をなさないやうに保護をする慣例があるのであります、それは多く地主が山と畠と兩方持つて居る場合にはそれで濟むけれども、今度田なら田、畠なら畠を單純に賣ると云ふと山だけが殘つて來まして、其の間に木を植えると云ふやうな問題が起つて來やしないかと思ひます、さう云ふやうな場合に政府はどう云ふ風に考へて居りますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=69
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070・山添利作
○政府委員(山添利作君) 善意で殘しました防風林が後になつて爭ひの種になりやしないか、是は非常な考へさせられる問題であります、此の場合開墾地でありましても既に熟畑になつて、或は熟田になつて居ると云ふものに付きましては當然此の法律の中に入れまして強制買收の對象になるのでありまするが、今のやうな場合に於きまして、或細い地面だけを、それでは殘して置いて、さうしてそれは小作の條件に依つて安くなるなりなんなりして爭ひが起らぬやうに將來運用して行く、是も考へ方の一つでございますけれども、さう云ふやり方が果してうまく當事者間に出來るものですか、どうですか、今害がなければ、恐らく地主と致しましては、さう云ふ方であれば他に小作地もあることでありませうし、さう云ふものを保有面積として殘されても困ると云ふ關係もございませう、結局さう云ふ土地も是は自作地に致しまして、同時に防風林の目的は達するが、扨て日蔭に付てはどうだと云ふやうなことは、是は同時に又了解を遂げて置くと云ふやうな方法を採るより外ないのぢやないかと思ふのでありまするが、併しさう云ふ特別な事情の場合でございますれば、是は關係者間で能く話合の上で、適切な解決を付けるなり、或は將來のことも慮つた取決めを致して置くのが宜いだらうと思ひまするが、今具體的にどうしたが宜いだらうと云ふことは、まあ私も茲で申上げてどうと云ふ譯にはいかない問題のやうに考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=70
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071・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 宜しうございますか、それでは大臣が御見えになりましたから、毛利委員、御質問願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=71
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072・毛利元良
○男爵毛利元良君 私は三つ程御伺ひ致したいと思ひます、第一は自作農創設に關しまして、耕地の量と質の問題に付て御伺ひを致したいのであります、大體今度の自作農が創設されますには、地主の耕地を一定の保有量を除き、其の他のものを政府が買上げて自作農をする者に賣渡される建前になつて居りますが、其の耕地の面積と云ふものが茲で重大な問題になつて參ります、大多數の地主は先祖代々傳承して來た地面を持つて居ります、又さうでなくても他人の耕地を讓渡を受けまして、現在自分が持つて居る地主も澤山ございますが、此の耕地の面積と云ふものは、實際に實地檢證されて登記所に登録されて居るのは少いのではないか、極端に言へば徳川時代からあつた面積を其の儘登記をされて居る舊家も多數あることと思ひます、それで其の際一定の面積を地主が自分の自作地として保有し、他を手放すと云ふ場合には、單に地籍の上、圖面の上だけでは問題が解決しないので、どうしても是は實地測量、檢地と云ふことが行はれて居りますが、僅か二年間に全國に在る此の耕地を檢地すると云ふことは非常にむづかしいと私は思ふのです、從來のやうに、唯耕地を賣買する場合に地籍の上に書かれた面積、或は其の圖面を以て登記すると云ふことで直き出來ますが、斯う云ふ農民全體の生活問題に關係しますと、其の面積の問題が重要だと思ひまして、此の實測檢地と云ふことに付きまして御伺をしたいのであります、もう一つは耕地の質であります、田地、田畑でありますが、所謂良田とか惡用とか、是は相對的のことでありますが、非常に能く作物の出來る田畑とさうでない耕地がある譯であります、それで今日の地主から買收して自作農に賣り渡すと云ふ時には、現在持つて居る地主は矢張り一番良い耕地を取るだらうと思ひます、是も相對的の問題でありますが、受けられる方は比較的生産量の少い耕地を受ける、唯面積から言ひますとさう云ふ問題が起きまして、實際問題と致しましては例へば今日の地主が自分が自作する爲に保有する耕地が非常に農作物が能く出來る土地であつて、それに依つて生活する家族の人數が少い、反對に今度は分けられて自作農となる所の耕地がそれ程作物が能く出來ない所で非常に家族が多い、それだけでは生活が出來ないと云ふやうな場合も出て來ると思ひます、斯う云ふ耕地の分配或は收用に付きまして、耕地の質に關係して何か當局では御考がありませうか、御伺ひしたいと思ひます、第二點は損害の保障に付て御伺ひ致したいと思ひます、是から自作農となつて耕地を與へられて耕作をしようと云ふ人々は大概地主の小作人だらうと思ひます、從來迄は所謂封建的と言ひますか、色々なことを地主に面倒を見て貰つた人々が多いのであります、今度は地主の手から離れまして、獨立して農業を營むことになりますと、一番大きい問題は天災を蒙つた時には生活の根據は一瞬の中に奪はれる、斯う云ふ天災を受けました時に、是迄は地主から色々な援助を受けたり或は金融も受けて居つたらうと思ひますが、斯う云ふ關係が今度なくなるので、天災でも受けた時には生活の根據が失はれるのであります、之を救濟する爲に農業保險と云ふやうな一つの保險制度を御考になつて居られますかどうか伺ひたいのであります、もう一つの損害保障と致しまして、政府當局から前に御答辯もございましたが、農作物の自然低下と言ひますか、非常に農作物が安くなつた時に、政府に返還する讓渡金を減免すると云ふことはして戴けますか、自分の生活に故障を生ずるやうな場合には、矢張り何か損害の保障の方法がなければならぬと思ひますが、斯う云ふことに付きまして御考がありませうか、天災とか、或は天災以外の經濟上の問題から來る損害の保障と云ふことに付きましての政府の御考を伺ひたいと思ひます、第三點は地上で行はれる農業に付ては地主が所謂工業で言へば資本家に相當する地主の者をそれに隸屬されて居つた小作人と云ふやうな者に對抗されまして分けられるのでありますが、漁業をする人々は所謂漁師の人々でありますが、是は大體が漁業するのに二通りありまして、自分個人で小さくても船一隻持つて漁どりをして居る人もありますが、大きな網元に隸屬して漁業に依つて生活して居る者も譯山あるのであります、是は地主に相當すると思ひますが、一方地上の農作物に付ては斯う云ふ處置が講ぜられますが、古くから網元に隸屬されて居る漁業家に對して斯う云ふ風に一定の割合のものを網元が持つて、あとを自作農にするやうに船を分けて漁業をすると云ふやうなことを御考になつて居られませうか、それを御伺ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=72
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073・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 今囘の自作農の創定を致しまする場合に於きまして基礎となる土地の面積等に付きましては、是は第十條に規定を設けて居りまして、土地臺帳に依ることになつて居ります、併し土地臺帳に依りますることが必ずしも常に相當とは考へられませぬので、土地臺帳に依りますることが著しく不相當だと農地委員會が認めました時には、農地委員會で別段の面積を決めることが出來るやうになつて居ります、其の場合には農地委員會の決めた面積に付て自作農の創定をやることに致して居るのであります、それから第二點の土地の質の問題でありますが、今囘は此の前の農地調整法の場合と異りまして、地主が保有し得まする所の面積に付て地主の方に選擇權を認めて居りませぬ、是は農地委員會に於て買收の計畫を立てることになつて居りまして、農地委員會が其の村の耕地の分布状況、其の他色々小作人側の希望なり、又地主側の希望なり、色々なものを十分斟酌致しまして、農地委員會が決定致すことに相成つて居るのであります、併し此の農地委員會の決定に對しては異議の申立が出來るやうになつて居るのであります、それから第三點の天然の災害、其の他のことに關する保障の問題でありますが、「ギャランティー」の問題でありますが、是は御話のやうに農林省としましては何等かそこにさう云ふ天災から農家を保障することを必要と考へまして農業保險の制度を考へて居る次第であります、是は今でも農業保險制度がある譯でありますが、現在の保險制度は甚だ貧弱なものでありまして、殊に災害事項等は可なり局限されて居りますし、保險の對象になるものも極めて狹いことに限られて居るのでありますし、又金額そのものとしましても今の事情には合はないやうな状態になつて居りまするので、是はもう少し農家の再生産を確保すると云ふ見地に立ちまして、もつと保險と言ひますか、寧ろ救濟と云つたやうな色彩を強くした一つの制度を作らうと思つて居ります、是は大體民間の側の團體とも相談しまして、或程度の案は出來て居る譯でありますが、相當國庫の負擔を要するやうなことになりましたので、それ等の點に付て今少しくここで檢討して見たいと思ひまして、まだ提案の運びに至らないのでありますが、是は出來るだけ早い機會に成案を得まして、保險制度は是非實施致したいと、斯樣に考へて居ります、それから最後の點は漁業の點でありますが、是は漁業は農業と違ひまして色々の漁業權を中心にしまして、又漁業の種類に依りまして、其の經營の形式と云ふものが色々各種に分れて居るのでありまして、農地と同じやうには必ずしも行はれない點が多分にあると思ふのでありまして、漁業權の問題及び漁業に付ての経營の問題等に付きましては、只今實は研究中でありまして、具體的な成案をまだ得て居ないのでありますが、是は何としても漁業方面に於きましても、將來の日本の水産業の發達の爲から行きますれば、漁業權の問題を十分整理致し適當な此の漁業經營の形を與へますることが必要と考へまして、只今研究中であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=73
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074・菅澤重雄
○菅澤重雄君 私は大臣に……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=74
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075・稻田昌植
○委員長(稻田昌植君) 大臣はまだゆつくり居られますから後程どうぞ、順番で、安藤子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=75
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076・安藤信昭
○子爵安藤信昭君 私は種苗問題に付て少しく自分の考へて居ることを申上げまして大臣の御答辯を戴きたいと思ふのでございます、少し此の問題は細かになりますので恐縮でございますが、御許を願ひたいと思ひます、御承知の通り種苗は農業生産の根源でありまして、其の生産確保と、素質の向上は農業増産上緊要缺くべからざるものと存ずるのでございます、今や國家再建に當りまして、農業部門に於きまする重要問題として急速なる解決を要するものが少なからずと存じますが、就中種苗問題は食糧問題の解決上根本的事項でございまして、最も緊急を要することと存じますので、ここに少し細かくなりますが、御質問を致したいと存じます、其の一は單行種苗法又は勅令の制定に關する件でございまして、現行蔬菜種苗等統制規則其の他種苗に關する法令は國家總動員法に基きまして公布されて居りまするが、該法は近く廢止さるべき運命を有して居りますので、豫て輿論の存して居りまする所及び業界の現状に鑑みまして、之に代はるべき單行種苗法とか、又は勅令を速かに制定せられ、國家百年の大計を樹立されたいと存じて居りますが、此の點の御意見を先づ第一に伺ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=76
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077・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) ちよつと大臣は今豫算總會の方から借りに來られたのですが、或は其の點だけで……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=77
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078・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 種の點でありますが、是は御話のやうに非常に重要な問題でありますが、戰爭中からの經緯を見ますと、種の點に付ては極めて行政面に於ても實際面に於ても、相當亂れた状態に今なつて居る譯であります、殊に蔬菜なんかは御話のやうに、非常に良い種が減つて來た形になつて來まして、蔬菜の問題を解決する上にも困つて居る譯であります、是は何とか種の點に付きましては一貫しました一つの制度を設けまして、御話のやうな點に付て改善を致して行きたいと斯う考へて居ります、農林省と致しましても只今色々さう云ふ方面に於て案を練って居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=78
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079・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 大臣ちよつと中座をなさいましたが、さう長い時間でなく、再び御出でになります、其の間政府委員への御質疑がおありならば此の際願つて置けば結構と思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=79
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080・寺尾博
○寺尾博君 政府委員にちよつと御伺ひしたいと思ひますが、大臣の御話でも小作農に其の小作地を與へると云ふ場合に、農業に精進すると云ふことが非常に大切な條件となつて居るやうであります、それで非常に結構だと思ふのでありますが、實際になりますと、一部落の中にも極く小面積に、僅か一反歩か二反歩かの土地を小作して居る者、それは農業以外の他の收入を勤勞に求め、それで自活して居る、謂はば俗に謂ふ飯米百姓と言つて居るのでありますが、普通の場合に於ては斯う云ふ者は概して少いのでありますけれども、地方に參りますと、其の地方にも依りませうが、相當多い地方も少くないのであります、併し此の人あたりに取つて、假に小面積でも、今日の食糧事情の下に於ては非常に大事な、命の綱と考へられても宜い場合が多いのでありまして、併し是が自作所有地になつたからと言つて、蓋し小作料を拂はないと云ふことに於て其の勤勞の效果を享受すると云ふ點に於ては結構でありませうけれども、生産を増進すると云ふことに於ては、頗る疑はしい點であると思ひます、先程大臣が農業に精進する者に土地を與へると云ふのが主だと、斯う云ふことと、此の若し耕作權と云ふものを農地の小作者が強く固執し得る場合と、兩者矛盾するやうな風に見える、先程大臣の仰せになつたやうなことが行はれにくいぢあないかと、斯う云ふ懸念があ考りますが、此の點はどう云ふ風に御考になつて居りますかと云ふことを御伺ひ致したいと思ひます、それから序でに地主が政府に賣渡すべき即ち政府が地主から買收すべき土地と云ふものが此の法律の面に明かに規定された譯であります、併し一方其の土地買收に付きましては、市町村の農地委員會が買收計畫を定める、斯う云ふことになつて居る譯でありますが、此の買收計畫は前に規定してある地主が政府に賣るべき土地としてあるものの全部を含んで買收計畫を立てるのであるか、或は市町村農地委員會は此の部分は買はない、さう云ふやうな概して條件の惡いやうな小作地、さう云ふことも屡屡起り得るかと思ふのであります、さうするとそれが地主に殘るのである、さう云ふ二つの點を一つ御伺ひ致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=80
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081・山添利作
○政府委員(山添利作君) 第一の、自作農となる資格のない人、即ち農業に精進する見込のない人に付ての問題でございまするが、是は兼業農家と雖も眞面目に農業をやつて行く見込のあります者に對しては勿論土地を賣る譯でありまして、相當幅を廣く考へて居る譯でありまするが、併し只今の食糧事情等に依つて農業をやつて居る、斯う云ふ一時的な腰の定らない者又餘りに過小で話にならない、斯う云ふ農家には勿論土地を賣らない譯であります、此の自作農創設の關係とそれ等の農家との關係の調整に付きましては、先づ市町村農地委員會が土地の買收計畫を立てます時に、それ等の賣れないやうな人の作つて居る耕地は極力買はないことが先づ第一であります、問題は望ましくなくてもさう云ふ土地を買つたと云ふ時であります、此の場合に第一の手段と致しましては、是は簡單に行はれませぬけれども、耕作權の交換と云ふことも規定を設けて居ります、又政府の買ひました土地とそれから政府が買はない小作地との交換と云ふ點も規定を致して居ります、それ等の處置に依りまして他の健全なる自作農となる見込の人に、政府が買ひました土地、即ち耕作權同士の交換分合でありましたら、政府の買ひました土地、さうでない場合に於きましては政府が交換に依つて得た土地を謂はば賣渡す、斯う云ふ途も開いてございます、又暫くさう云ふ農家を直ちに排除する譯には參らない譯でありますから、氣長に自作農に賣渡すことを考へる、一つは農業協同組合等にさう云ふ土地を賣渡して置きまして、其の手に依つて將來適當な機會が參りました時に、健全な自作農となるべき人に其の土地を賣る、小作者の方に於きましても無理なく離れて行くと云ふ時を待つ、或は政府自身が所有權を留保致して置きまして、必要な期間其の小作者に小作をさして置く、で自然に時を待ちまして、他の農家に賣渡す、斯う云ふことも處置として考へて居る譯であります、先づ農地買收計畫を立てる時に極力さう云ふやうな土地に付きましては避けて行つた方が宜い譯であります、それから農地買收計畫を立てますのは、此の法律の規定に依りまして政府が強制買收を爲し、又爲すことが出來る全部の土地に付て定めるかと云ふ點でございます、是は勿論計畫其のものは全部の土地に付て一時に立てる必要はありませぬ、地域に依り或は又部分的に數囘に分つて立てると云ふことが實際的であらうと思ひます、併し終局的には是は全部の土地に付て立てる譯であります、併しながら此の法律で買收致します土地は小作地一町歩と云ふことの外に、第五條の七號に掲げて居りまするが、自作地とするのに適當でない土地、著しく値打のないやうな土地は買收を致さない譯でありまして、前の三條等の規定から申せば、保有地は小作地一町歩に限られて居りましても、第五條の七に該當するやうな土地は又是は別格に取扱つて居ります、其の土地は新開墾地とか、燒畑、切替畑、收穫の著しく不定な農地、又炭鑛等の影響で土地が陷沒して居る、又陷沒の虞のあるやうな土地、其の外命令で以て規定する譯でございますが、色々な農地自身に關する事情、又農地に關しなくても、其の農地の在り方と云ふやうな事情から、此の自作農創設には適當でないと云ふものがある譯でありますが、さう云ふものは勿論除かれることになつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=81
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082・寺尾博
○寺尾博君 もう一つそれに矢張り關聯して伺ひたいのですが、只今の御話の第五條の七號、斯う云ふやうな程の自作地とするに値しないと云ふ特別な土地でありませぬでも、今日小作人が小作して稻なり麥なりをやつて居る土地に於ても、土地柄として幾分不十分な、多少收穫の少い、或は時折災害のあると云ふやうな土地がある、あすこであらば、自分は購入を希望しないと云ふやうな土地も發生することもあるかと思ふ、又其の他の關係で土地を購入するよりも小作料を金納で納めて置いた方が宜い、寧ろ自作農になりたくないと云ふやうな結果として、相當廣い面積が、さう云ふ場合には、自然買收計畫に入つて來ないのぢやないかと思ひますが、此の種の土地はどう云ふことになりませうか、其の點を伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=82
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083・山添利作
○政府委員(山添利作君) 場合に依りましては、小作をして居ります人に於て買ひたくないと云ふやうな氣分を持つて居る場合が絶無とは申せない譯であります、或はあるかも存じませぬ、唯私共と致しましての考は、さう云ふ場合が多いとは考へて居ない譯であります、又經濟的に色々考へて見ましても、是は自作農になつた方が確かに有利な譯でありまして、さう云ふ點は能く理解をせしめる必要があると存じて居りまするが、それはそれとして、今御質問になりましたやうに、買ひたくない土地はどう處置するかと云ふことであります、是は此の法案に於きましては、政府の強制的な買收が小作者の主觀的な意思には依らないと云ふのでありまして、從つて其の小作人が買ひたくなくても、全體としての小作人から言へば矢張り自作農になりたいので、其の人以外の人に土地を與へるとか、其の人には先程申しましたやうな方法で、代りの耕作すべき土地を充行ふ、斯う云ふやうな方法を執るなり、或は暫く國有にして置くなり、或は農業會の所有にして置くなり致しまして、兎も角、個々の場合の主觀的な意思には依らない、客觀的に皆が欲しがらないと云ふものであれば、是は七號に該當する、斯う云ふ關係になつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=83
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084・寺尾博
○寺尾博君 尚續いて御質問申上げたいと思ひます、そこで地主、殊に比較的面積を多く持つて居る地主と小作農との間のことは、先程も他の委員の方から出ましたが、比較的話が樂に進むかも知れないと云ふ御意見もありました、私も同樣の感じを致すのでありますが、今度は現在の小作と自作の間、或は其の中には小さな地主、或は自小作の人も算へられるかと思ひますが、さう云ふ人々の間に今政府委員の御話になつたやうな折衝がうまく付くと云ふことは、農地委員がどう云ふ風にして其の折衝をうまく付けて行き得るだらうかと云ふことをちよつと疑問に挾む譯であります、と云ふのは、例へば一つの町村としても、十數箇の、或は二十位の部落がある、農村に於ては、實際生活に於ては部落が一つの固まりになつて居る、單位になつて居る、村は一種の行政區劃のやうなものである、實際的には部落が單位になつて居る、それで一町村に於ける農地委員が十人であるとして、さう云ふ部落内の細かいことの折衝や其の事情等、之を農地委員が適切に處理し決定すると云ふのには、實際どう云ふ順序を踏んで其のことが實現されて行くだらうかと云ふことが疑問になる譯であります、其の點に付ての御考を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=84
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085・山添利作
○政府委員(山添利作君) 先程申しました耕作者同士の交換分合、或は政府が買收しました土地と買收しない小作地との交換分合、是は此の法律に規定を致して居りまするが、或は事情に依りましては、急場には間に合はないと云ふ場合もあらうかと存じます、結局交換分合を廣範團にやると云ふことでないと成功しないと云ふ場合もあるかと思ひますが、さう云ふ場合には、自然其の土地に關する處分が遲れると云ふ事態があらうと考へて居ります、一般的に此の農地の買收乃至賣渡しに關する仕事は、相當複雜であり、又面倒でありまして、關係者が非常に多い譯であります、おまけに土地でございますから、それぞれの執著が非常に強いのでありまして、此の仕事を取運びます機關と致しましては、農地委員會が其の衝に當るとして、農地委員會には三名の書記を置くことに致して居ります、同時に、三名の專任の書記の外にも、町村の役場の人達、又農業會に居ります專門家等も、兼任書記と云ふ形で此の仕事を手傳つて貰ふと云ふことを考へて居ります、尚又部落々々に付きましては、委員補助と云ふものを設けまして、實際の土地の調査なり、又話合ひの間の手助けなりと云ふことに働いて貰ふ積りで居る譯でありまして、全體的な事務的な機構と致しましては、さう云ふ風に考へて居りまするが、何しろ仕事が仕事でございますので、村長さん、又農業會の役職員、又實行組合の幹部の人達、斯う云ふ人にそれぞれ立場々々に於て十分協力をして貰ふと云ふことが必要だと考へて居る譯であります、農地委員會の經費と致しましては、是は法律的に申せば市町村に設置すると云ふことになつて居りますが、大體不足の費用は國から支辨する建前に致して居りまして、初年度に於きまして、仕事の非常に進む所には、豫算面から申して一市町村四萬圓を交付をすると云ふことに致して居るのでありまして、矢張り大勢の人の協力を得まして、圓滑に仕事を進めて行きたいと云ふことを希望致して居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=85
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086・寺尾博
○寺尾博君 尚一つ伺ひます、自作を全然しない地主は、一町歩の單位に於て小作地を持つても宜しい、斯う云ふ政府の御説明でありますが、此の場合、金納小作料であります、それに此の耕作權と云ふものが鞏固に確立されて居るとすると、到底一町歩位の金納小作料を以てしては生活上に相當困難を感ずることになりはしないかと思ひます、此の耕作權は矢張り他の一般の土地と當然同じやうに認むべきものである、さうすると一町歩持つて居ると云ふことがどれ程重大な意義になるかと云ふことが解し兼ねるやうな氣が致しますが、此の點に付ての御説明を御願ひ致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=86
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087・山添利作
○政府委員(山添利作君) 金納小作料になりますと、現になつて居る譯でありますが、一反歩當り現在先づ六十圓見當でございませう、從つて一町歩保有致しましても六百圓でございまして、之に依りまして到底生活を支へると云ふことが出來ないのは勿論、其の足し前としてもまあ大したものではないやうであります、從つて此の保有致します地主の側から見ますると、先づさ程の意味合がないと云ふことになる譯であります、此の法案全體と致しまして一町歩を限度として、小作地の存置を認めました理由は、此の自作農主義で參ります限り農家に於ける家族の勞働力に付きましても、將來ともに變化あり、消長がある譯でありまして、從つて自作地の面積を殖やす場合もあれば、又減らす場合もあると思ひます、從つて斯う云ふやうな若干の裕りを取つて置く方が、全體としての農業經營の上から至當ではないか、さう云ふ關係から全體として殘るもの、小作地が五十萬町歩見當と云ふ所、さう云ふ所が一町歩に相當する、斯う云ふ所から來て居るのでありまして、地主の爲に小作料收入でどうするとか、或は又地主が將來手作りを始めるやうにとかと云ふ考を以て起したと云ふ譯ではございませぬのです発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=87
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088・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 安藤子爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=88
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089・安藤信昭
○子爵安藤信昭君 先程に續きまして種苗の關係に付きまして御尋ね致したいと存じます、其の二は種苗政策の一元化に關する件でございます、蔬菜、果樹等は勿論馬鈴薯、纖維作物、緑肥及び飼料作物其の他特用作物の種苗は其の性質上販賣種苗に依存して居りますものが多くございまして、從來是等種苗の生産竝に配給には相互關聯を有するもの尠くないと存じます、其の取扱は複雜多岐に亙つて動とも致しますと相互間に摩擦を來し、圓滑なる運營を阻害することもございますので、之が圓滑なる運營を期する爲、此の際販賣種苗全般に亙りまして、綜合且一元的統一を期せらるべき方策の確立を願ひたいと存ずるのでありますけれども、どう云ふ考でいらつしやいますか伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=89
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090・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 御答へ致します、此の種苗の點は御話のやうに生産の方は日本種苗協會がありまして、販賣の方は統制の組合がありまして、販賣と生産とが別々になつて、二元的に統制致して居る譯でありますが、是は戰爭中一應まあ理論はそれでも通る譯でありまするが、矢張り下部の方へ行つて見ますると、生産をする人も、それから又販賣の方の主になつて居るものも一部は矢張り生産者でありまするし、是はどうも矢張り一元化した方が宜いぢやないかと云ふ結論に私も達した譯でありまして、何れ何等かの形で是は一元化したいと斯う思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=90
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091・安藤信昭
○子爵安藤信昭君 次に果樹苗木取締法規制定に關する件でございますが、果樹は農業經營上は勿論、國民保健上必要缺くべからざる作物でございまして、是が支那事變勃發以來主要食糧確保の爲に漸次整理減反せられ、地方に依りましては、指導者の無理解に基き必要以上壓迫を受け、其の生産は加速度に減退萎縮することに至つたことは御承知の通りだと存じます、而して我が國農業の將來を達觀致しまするに、傾斜地利用に依る未開墾地開發及び貿易作物振興上、乃至農家經濟安定性保持上、果樹園藝業發達と云ふものは極めて緊要のことと存じます、而して從來果樹の栽植に供用された販賣苗木は概ね系統が雜駁で、且不良のものを混じて、眞に優秀なる系統を求めることが非常に困難である實情でございますので、現時果樹栽植の興勃期に際しまして、之を現状の儘に放任致して置きまする時には、苗木不足に依る不良品の横行は火を睹るより明かなことと存じます、國家生産力増強上、誠に寒心に堪へない次第と存じます、此の際業界の多年の懸案となつて居ります果樹苗木取締法規を制定せられ、之が適切なる運營に依り、斯業振興上萬遺漏なきを期せられたいと存じまするが、此の點に付きまして大臣の御所見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=91
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092・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 果樹の點に付きましては、御意見御尤もでありまして、是は私共と致しましても、何とかしてさう云ふ園藝方面、果樹の方は今後の日本の農業として是非助長して行きたいと斯う思つて居ります、更に日本の國民の食生活の點から言ひましても、是は「ビタミン」の補給源としまして、非常に重要なものでもありまするし、又果樹は色々のものがありまして、輸出品と致しましても必要でありまするので、今迄は是は食糧生産の方の窮屈さから已むを得ず色々な點に於て自然に窮屈になつて來たと思ふのでありますが、土地の利用其の他色々な點から考へましても、どうしても今後はさう云ふものが必要だと思ふのでありますが、幸ひ民間で果樹の方で業者が自治的な團體を作つて、愈愈やりかけて來て居る面もありますので、御話のやうな果樹の苗木に付ても、取締規則と云ふものが今必要であるかどうか、是は至急研究して居る譯でありまするが、何と致しましても、さう云つた點に於て是非良い苗木を配付されますやうに致したいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=92
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093・安藤信昭
○子爵安藤信昭君 もう少し御伺ひ致したいのです、次に價格問題でございますが、農産種子配給の要點と云ふものは良き種を時期に遲れずに其の絶對量を配給すると云ふことでございまして、政府は之が目的を達成する爲に、採種配給を一貫した機構に依りまして、極力之が運營に當つて居られますが、一方蔬菜の最近のやうな狂的とも申すべき暴騰や主食作物面積の増大、肥料の不足等の惡條件に依り、逐年減産の一途を辿り、一方配給の面にありましては末端配給量の減少と、公定價格無視の現象、及び業者以外の濫賣等に依りまして、末端配給の混亂は特に注目すべき状況でございます、以上の情勢に依りまして、政府は山揚價格及び卸賣價格の大幅引上げや、其の他報奬方法を以て鋭意増産の途を講じ、生産確保に邁進して居られる現状でございますが、一般需要者の困惑と横流しと闇賣買横行し、折角の政府の施策も、遂に十分なる效果も擧げることを得ざる状況でございます、曩に政府は昭和二十一年六月十七日大藏省告示第四百五十三號を以て、蔬菜種子販賣價格を指定されましたが、此の價格にては、一合以下の價格と、小袋詰價格も、一合價格を基準とし、袋詰に限り、一袋に付き袋代金及び袋詰費として十錢加算となつて居りますが、是では零細なる都市菜園を對象とする販賣は、到底小賣業者としては採算不可能で、茲に何等かの卸賣價格に對して價格を設定せられる御意思はございませぬか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=93
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094・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 種子の價格でありますが、種子は私等の希望から言ひますと、是は檢査と云ふものを矢張り統一して、出來るだけ檢査をやりまして、良い種子が配られると云ふことが根本だと思ふのでありまして、實は今の種子は是は甚だ殘念でありますが、必ずしも良いものばかりではない、殊に末端に行きますると色々なものを混ぜると云ふと語弊がありますが、或は播いて出ないやうなものも中にはあつたやうな實情でありまして、檢査の點を相當やかましくやりたいと思つて居りますが、小賣價格の點は是は私今御話を承りまして、どう云ふことになつて居りますが、能く分りませぬが、何れ研究致しまして、不合理な點がありましたら改めまして、其の點は是正して行きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=94
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095・安藤信昭
○子爵安藤信昭君 只今大臣が仰せられた通り生えない種子を賣ると云ふやうなことが、露店商に澤山ごさいますことは、勿論家庭菜園をやつていらつしやる方々は能く御分りだと思ひます、それに付きまして次に伺ひたいのは蔬菜種子取扱業者を許可制とし、業界の改善を圖ると云ふことに願ひたいと思ふのでありますが、近來都鄙を通じて季節的の種子屋とか、就中露店商が激増し、無暗に亂賣するものは概ね品種系統不明確のみならず、價格に於ても亂調子で、寧ろ食糧生産を阻害して居る弊害があり、一面又生産種子の横流しや、闇値取引の禍根をも助長して居ります、仍て此の際是等業者以外の販賣に依る弊害を除去する爲蔬菜種子の取扱業者を許可制とするか、又は之に代るべき方法に依りまして、業者と非業者とを區別し、業界の改善を圖りたいと存じます、此の點大臣の御意見を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=95
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096・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 其の聲は大分聞くのでありますが、御承知の通り種子屋さんは、それぞれ昔から特殊の技能を持つて居つて、大根なら何の誰兵衞と云ふやうな、非常に良い種子を作つて居つて、又それが非常に世間の信用があつた種苗業者があつた譯でありまして、さう云ふ人達が結局今言つたやうな惡い種が配布されると其の人達の信用にも係つて來ると云ふことにもなる譯でありまして、一面から言ふと許可制度と云ふものが、非常に必要なやうにも思はれますが、是はなかなか困難な點があると思ふのでありまして、寧ろそれよりも檢査を十分吟味して買ひまして、さう云ふ良い品質の、優良な信用のある種子屋の種子は、其の信用が丁度反映するやうな、何か販賣のやり方をする方が寧ろ合理的ぢやないかと思つて居ります、何れさう云ふ點に付ては尚研究したいと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=96
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097・安藤信昭
○子爵(安藤信昭君) 私が種苗に關係して居ります關係上、もう一點今迄經驗したことを申上げて、御參考にしたいと存じますが、配給統制組合で配給致します春種、或は秋種の割當に付きましては、其の都度協議を開きまして、東京に生産會社が五社ございますが、それに割當させるのでありますけれども、協議を致しました時は、可なり良い返辭をして居りますけれども、結局いざとなると、それが出て來ない、それを調べて見ますと、矢張り公定では安いので横流しをして居る、例へば一反歩で「トマト」を作ると五萬圓の利益を得るとか、茄子ならば二萬五千圓、三萬圓と云ふやうなことを度度實際面に於て見て居りますので、種子が相當高く横流しをしても、それが捌けてしまふと云ふが爲に、折角東京都に統制組合がありましても、之が農業會或は小賣業者に十分に渡らない爲に、小賣業者は到底それではやつて行けない爲に近縣、或は北海道、九州迄行つて相當高い種子を買つて參ります、結局高い種子を買つて來るから、安く、公定で賣れないことは明かなことであります、さう云ふことから私今日思ひますのに、先程一元化と云ふことに付て御伺ひしましたが、大臣も大變それに付て贊成をして居られるやうでありますが、結局矢張り確實な茲に生産會社を一つ作りまして、それに依りまして統一をして生産も、配給も一元化して行くと云ふことが、一番宜いことぢやないかと、最近自分の經驗に於て痛切に感じた次第であります、統制種苗に付きましては、今後食糧生産上に非常に大切なことでありますから、十分な御考慮を願ひたいと思ひます、是で私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=97
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098・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 寺尾さんに御伺ひしますが、今度は正式の順序になつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=98
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099・寺尾博
○寺尾博君 此の自作農創設に依りまして、今迄小作人であつたものがどちらも土地を持つ、先程も其の土地に於ける作物に對する災害に對しての保險と云ふやうな御話がありましたが、私も此の點に付て特に御伺ひして見たいと思ふのであります、耕地の旱魃、水不足に依る旱魃の問題、特に水田の場合のことであります、今年は御承知の如く、稀有の豐作天候だと言つて宜しいと思ひます、豐作で皆大變に心を明るくして居る譯であります、昔から諺に「旱魃に不作なし」と云ふことがある譯でありますが、豐作の年の裏には旱魃がある、「旱魃に不作なし」と云ふのは、旱魃と云ふのは局部的だから、旱魃即ち日照り、日が照つて温度も高く、温度も豐富でありますから、一般の土地は當然豐作になります、「旱魃に不作なし」と云ふことの裏には、豐作に旱魃あり、局部的には旱魃があると思ふのであります、靜岡附近から東海道方面は殊にさうでありますが、七月四日に相當降雨がありまして、又九月十五日に降雨がありましたが、其の間の約七十日間は殆ど驟雨もなく、又七月四日と云ふと、丁度其の時迄矢張り雨がなくてやうやう七月四日に雨が降つて、辛うじて田植が出來た、其の田植をする迄にも、部分に依りまして非常に困難な思ひをして、さう云ふ所は用水がありましても、用水を其處迄持つて來るのに、唯用水路を切つただけでは水が揚らない、高い「ガソリン」を買つて水を揚げる、やうやう溜池の水をやる、さう云ふやうにして辛うじて植ヱたのでありますが、其の後續いて旱魃があつた 斯う云ふ地帶が當然ある譯であります、從來此の農業水利と云ふことは相當發達をして居りまして、政府の施設も今日迄色々と行はれて居ります、水田が何百町歩、何千町歩と展開して居る土地、さう云ふ土地には、大河川からの揚水も比較的容易であるしするが、さう云ふ揚水の届かない所、さう云ふ所はどうして居るかと云ふと、從來概して溜池がある譯であります、谷間に溜池がある、さう云ふ所でありますからして、幾分廣々とした水田地帶より地面の少し上つた所であります、其の溜池地帶と云ふ所は即ち揚水も困難である、さう云ふのは全國から言つて局部的でありますけれども、さう云ふ地帶が相當ある、此の地帶の水利は、勿論普通の低い所の水利よりも困難であるし、比較的小面積であるが爲に、水利事業から取殘されて今日迄來て居る、尚それが近年二毛作を奬勵された結果、以前には、さう云ふ所は概して一毛作で、冬の間は水を湛へて、春田植をする頃には田は濕めつて居つた譯でありますが、二毛作百「パーセント」になつて居る結果、一段と其の用水の危險率はある、本年の如きも、さう云ふ地帶は九月頃には殆ど稻が枯れ掛つて居る、或は半作以下になつて居ると云ふやうな譯であります、相當それは廣くあります、是はあちらこちらの丘陵地帶にある水田には、到る所にさう云ふ所がある、是が從來の水利事業の對象から置去りにされて居るのであります、是等の土地が今度小作農が其の自作の所有地になる場合に於て、さう云ふ旱魃地の被害を全面的に受けなければならぬ、此の自作農創設と共に、さう云ふ技術面のことを十分に考慮する必要があるのではないか、從來此の自作農創設と云ふことは、農業政策上の重要な一つの事項でありますが、それに當局としても骨を御折りになつて今日迄來て居るのでありますが、之には勿論種々の困難があるので、其の點比較的緩漫であつたと思ふのでありますが、今囘急速に全國的に之を實現するとすれば、其の種の技術的方面のことも、今日の場合整つたことをなすことは困難でありますけれども、極力此の自作農創設に伴うての技術方面のことに從來より一層の力と技術を加へて戴くことが必要であらうかと思ふのであります、先づ此の點に關しての農林大臣の御所見を御伺ひ致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=99
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100・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 自作農創設に伴ひまして、又創設の後に於きまして、御話のやうに、色々の土地の改良上なすべき事柄は多いと思ふのでありまして、それらの點は從來の是は地主の負擔に於て行はれて居つたのでありますが、今後は耕作者が、それらの者が大部分は是は負擔してやることになる譯であります、さう云ふ所に於きましては、國家としまして、矢張り相當のものを、資本を投下致しまして、其處の人達の力では出來ない、さう云ふ土地改良などに付ても、是は從來通り繼續してやつて行く考で居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=100
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101・寺尾博
○寺尾博君 尚もう一つ指導農場のことに付て御伺ひ致してたいと思ひます、指導農場と云ふものは、即ち所謂技術滲透と云ふことを目的として指導農場が出來た譯であるやうであります、從來技術的研究を相當力を入れてやり、又研究業績と云ふものも相當擧つて居るのだと思ひますが、それが農家に活用されない、即ち技術が滲透しない、是は指導が宜しきを得ない、從つて其の技術を指導すべき指導農場を作ると云ふやうな考から出來たかと思ふのでありまするが、勿論さう云ふ筋合で技術の滲透しない面もあらうと思ひます、併しながら尚農家が、我々技術者、私も技術關係で今日迄來つたのでありますが、此の技術者の云ふことに從つて來ないことを能く詮索して見ますと、それには尤もな譯がある場合が少くない、例へば殊に戰時下に於て硫酸「アムモニア」等の肥料が少いので、之をもつと合理的に、從つて經濟的に使用する方法として、是は又肥料の少い場合でも合理的經濟的な方法でありまして、即ち全層施肥の方法、土壤の上面だけに硫安を撒くのでなしに……土壤の上面に撒きますと、其の一部が酸化されて硝酸になり、更にそれから還元されて硫酸「アムモニア」の窒素が「ガス」體の窒素に遊離してしまつて、所謂脱窒現象を起す、それを耕起する、初めに表面に振つて、耕起して水を張れば公層に肥料が行渡るので、それに依つて「アムモニア」の窒素分の損失が遙かに避けられるやうなこと、是は非常に農家に普及すべき技術であるが、それが存外行はれない場合が少くない、と云ふのは是は水利の關係が整つて居らなければ却て害がある、即ち水が自由である、水田に水が或程度ある場合に其の操作をやれば有效になりますけれども、先程のやうに乾いて居る所に硫酸「アムモニア」を撒けば、其の窒素損失現象が非常に起り易い譯であります、處がさう云ふ水利に關しては、所謂水利は技術者の、即ちさう云ふ肥料の技術者の專門ではない、さう云ふ水利上の缺陷がある場合に於て、何ぼ技術者が其の理論を農家に對して説明しても、存外農家は理窟は知らないですけれども、さう云ふ場合に有效でないと云ふやうなことは、經驗に依つてか、思ひの外能く農家は知つて居る、又さう云ふ場合に實行しても、其の效果は現れないと云ふ風なことになる譯であります、斯う云ふ風に土地の條件と云ふものが伴つて初めて其の技術が役立つ譯でありますが、多く技術的研究の場合に於ては、其の種の土地條件と云ふやうなものは、何處でも完備して居るかの如き潛在意識を持つてやつて居るのぢやないか、之に限りませぬが、殆ど萬事のこと、例へば、最近馬鈴薯が非常に大切である、所謂秋馬鈴薯を生産することも大切である、之をやるには馬鈴薯の皮を剥くとか、色々な方法に依つて芽出しをやる、馬鈴薯の專門家は何を言ふかと云ふと、秋馬鈴薯には必ず芽出しの方法、是が馬鈴薯技術家として常に芽出しのことに熱中して居る譯であります、處が東海道方面の農家に聽きますと、芽出しはいかぬ、熱心に研究して居るのは芽出しはいかぬと云ふ、何故いかぬかと云ふと、芽出しをすれば、例へば八月の末頃に芽出しをすると二週間位經つて芽が出る、芽が出たら間もなく植ヱなければならぬ、處が先程御話したやうな旱魃に逢ふ場合がありまして、丁度植ヱる時期に芽が出て居ると云ふやうなことが屡屡ある、芽が出て居なければ薯は腐りませぬ、芽が出て居るからして芽が萎れたり、又腐つたりして大失敗をする、さう云ふ地方はどうして居るかと云ふと、六月に麥を刈ると、間もなく其の後に芽の出て居ない薯を植ヱる、それが自然に其の後の、八月末頃から九月頃の氣象に依つて土壤水分を吸つて芽が出て來る、それを待つて芽を出す、斯う云ふやうなことは其の土地に關したことである、馬鈴薯の研究者は研究材料が馬鈴薯である譯で、決して土地ではないのである、茲に專門家が……、害蟲の研究家は蟲其のものが研究材料である、植物の病氣の專門家は植物の病害が研究材料である、斯う云ふやうな關係で、其の技術が土地條件と組み合つて始めて行はれるやうな場合に於きましては、唯指導ではなしに、其の土地と云ふものの條件に依つて、即ち此の土地ではどう云ふ風にすべきかと云ふ見地で行かなければならないのですが、專門家と云ふものは、今申しましたやうに殆ど其の土地を專門にして居らぬ譯であります、指導農場が若しさう云ふやうな土地に關係した條件に關して從來のやうな、所謂專門的の考のみから之をやつてしまふと、斯う云ふ機會に非常な困難をして指導農場のやうに矢張り技術は滲透し難い場合がある、それで此の指導農場には、從來は唯指導しよう、指導しようで、唯技術を持つた側からの考へ方で、技術を押賣するやうな向きがあつたから、それだけではいけない、技術を受入れる人々の方のことも考へて、其の人達には矢張り農場で一緒に働いてやらせると云ふ受入側のことも考へて、先程大臣からも御話がありましたが、實行組合長と云ふやうな人々にも參加して貰つて、一種の或試驗場のやうな所謂技術的な栽培をする場所に參加して貰ふ、さう云ふ方針でありまするけれども、地方に依り、所に依つては其の實行組合長のやうな人々もそれに能く共鳴されるかも知れませぬが、私は實際家の從來の技術に關する感想、心持等からしますと、さう云ふ實行組合長等を通して技術を滲透さして行かうと云ふやうなことは、殊に今言つたやうな考へ方ではむづかしいのぢやなからうか、寧ろ技術を滲透させようと云ふことよりも、茲にさう云ふ指導農場と云ふやうな一つの據點が出來た、之を據點として其の地方に於て今申しましたやうな土地條件其の他の所謂專門家の研究對象でない、而して農業成立の基礎條件として幾多の大事なものがある、土地に關係したもの、經營上に關係したもの、斯う云ふことに著眼して、此の土地では如何なる技術上の方策を採るべきか、例へば水利が惡い爲に新技術の適用を入れて其の技術を教へるよりも、水利問題に對して如何に之を處理し得るか、斯う云ふことに努力をする必要があると思ふのであります、試驗場を水利の便の良い所に選んで、そこで其の技術をやりましても、依然として其の種のことは滲透しないで、此の本省に於て大きな經費を以て五箇町村に一箇所の指導農場と云ふやうなものを設けたと云ふに當つては、十分それが其の土地と又其の土地の人とぴつたり合ふやうに、單なる技術者が持つて居る技術を指導する、滲透させる、斯う云ふだけでなしに、寧ろそれから脱却してさう云ふ實際に其の土地の農業を確立する、それとしては先づ第一に何をなすべきかと云ふやうな見地から云へば指導農場と云ふけれども、まあさう云ふ意味での指導と云ふことにはなると思ふ、農家に依つては今迄のやうなやり方であると云ふと、必ずしも、我々を指導するに適しては居ないと云ふやうな感想を持つて居る者もないかも知れませぬが、變な話ですが、農事試驗場がありますと、農事試驗場に參觀に來るのは遠方からの者でありまして、近くの者は殆ど參觀の便があるにも拘らず參觀に來ないやうな譯であります、此の指導農場を折角設けますに付てはさう云ふやうな點に相當御注意を用ひて戴くことが必要ではないかと思ふのであります、此の問題に關係しての本省の御方針を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=101
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102・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 結局は押し詰めて見ると、技術の「アプリケーション」の問題になつて來るのでありまして、私は技術官が單に技術を持つて居つて、農民に臨んで直ちに技術が滲透すると云ふやうな考を持つて居りまする技術者でありまするならば、それは本當の技術者ではないと斯う考へて居るのでありまして、矢張り技術が本當に滲透しまする爲には、具體的な其の土地々々の條件と云ふもの、是はどうしても技術の面からの「アプリケーション」と云ふ點から言つても考へなければならないのであつて、さう云ふ心構へで是は民間の聲を、技術の指導に當りまする今囘の施設にありましては、十分に謙虚な氣持で官廳の技術陣營が聞いて行く、さうしてそれを十分考へて、實際上農家共々に其の技術と云ふものを實地に移して行く、斯う云ふ氣持で今囘の技術指導と云ふものをやらせる積りで、左樣に致して居るのであります、それからあとの問題は多少それは技術の面を離れて、技術がそこに「アプリケート」されまする經濟の場面に移つて來るのでありまして、其の經濟の面に於きましては、是は農家の實行組合でありまするとか、或は村の協同組合とかが、其の村全體の立場に於て、例へば水を共同に管理するとか、或は此の水利を直すとかさう云つたやうな經濟の問題は、さう云ふ人達に依つて具體的に解決して行つて戴きたいと思つて居ります、それから御話のやうに、指導農場に於きましては當然其の地帶に於きまする普通の經營樣式と云ふものを考へての上でのそこに於ける技術の採擇竝に指導なのでございまして、其の土地土地の條件と云ふものを無視したものでは決してない、又さうあつてはならないと、斯樣に私も考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=102
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103・寺尾博
○寺尾博君 尚もう一つ御伺ひしたいのですが、今囘の自作農創設に依りまして、各農家が耕作し得るものが一應面積的にも固定するやうなことになると思ふのであります、さうしてまあ北海道は別でありますが、各府縣の農家は一町歩前後の耕地を持つて居る者が多いのでありますが、從來は動勉の農家は今一町歩の土地を持つて居るが、非常に勤勉にして段々蓄積をして、自分の耕地を、幸にして賣物が出た時に之を買取つて、其の經營を擴大して行くと云ふことを最も重要なこととし、所謂樂みにして非常な勤勞を重ねて來たのでありますが、今後に於てはさう云ふ面に於ての個々の農家の發展と云ふことはむづかしくなると思はれます、從つて他の面に於て先程農林大臣も此の農業の集約化、又自然將來社會經濟と接觸した所の生産物の生産と云ふやうなことに注目して行かなければならぬと云ふことになるかも知れませぬ、御尤もなことと思つて居るのであります、之に付きましては既に大臣としてさう云ふ御抱負を述べられまして、私共も非常に結構だと思ひますが、尚茲に農具の進歩に依りまして耕作に關する能率の増進と云ふことがあり得るのでありますが、先程の農業電化と云ふことで農家がまるで暇がないのが裕りが出て來ると云ふやうなことを豫想する、斯う云ふ御話もありましたが、それと同じやうなことで、農具、苅取機其の他の機械の進歩に依つて作業の能率が増進される、從來ならば二町か三町で手一杯であつたのが、其の機械の進歩に依つて三町以上五町でもと云ふ、さう云ふ能率の増進があり得る場合もあらうと思ひます、最もさう云ふことは總ての農家が必ずしもやり得る譯ぢやないかも知れない、が一つの部落等の多少さう云ふ點に於て傑出した農家があり、從つて其の耕地面積も普通の農家よりも非常に大きいと云ふやうな場合には、まだ他にも色々な改良事項を採入れて、色々研究を進め、其の成績を擧げて行くことが他の一般の農家に影響を與へて、自然農業技術の進歩がさう云ふ所から實際に實現して行く場合が非常に多いと思ふのであります、さう云ふ傑出した農家が一部落に一つ位あると云ふことは望ましいことであると思ふのでありますが、此の農地法の制定に依りますと、さう云ふ能率を高める農具の研究とか、又さう云ふことの使用の研究と云ふことに注目を向けにくくなる、さう云ふことをやつても、是はどうも面積を殖やす譯に行かないのだから、さう云ふことはどうも當分駄目だ、又農具の研究方面も多少さう云ふ面に付ては控へると云ふやうなことになりますと、さう云ふことの進歩を遲らすやうになる虞があると思ふのであります、尤もさう云ふ能率の好い農具を使ふやうになりまして、一個の耕地面積を今より擴げると云ふことが實現されるやうな場合に於ては、當然農家戸數が或程度減らにやなりますまい、それには又將來工業方面の發展と云ふものが起れば、現在過小農の如きが是も既に大臣が御話になりましたが、其の方面に轉業する、從つて殘る農家の經營が以前よりも一段と大きくなり、從つて所謂逞ましい農家と云ふものの成立と云ふ風に移行して行く場合があるかと思ひます、今日の此の制度が一應實施されるとなると、當分今云つたやうな面の進歩、或は研究と云ふものに付て「ブレーキ」を掛けるやうな虞がある、ないではなからうか知らぬと思ふのでありますが、此の點に付ての御考はどう云ふやうなものでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=103
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104・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 其の點は實は斯樣に御考を御願ひ致したいと思ふのでありまして、此の農地の改革をやりましても、後出來ました自作農が經營面積を殖やして行くと云ふことは、何も制限は致して居ないのであります、今囘の改革に依りましても、後まだ六十萬町歩の小作地は殘って居る譯でありまするけれども、是が殘つて居りますると云ふことは、是は御話のやうに農具の發達、それから家族勞働の變化等に依りまして個々の經營に於てそれぞれの經營面積の増大縮小の必要と云ふことが出て來ることは、是は發達しまする農業に於ては考へられることでありますからして、其の裕りと云ふものは十分ある譯であります、例へば自作農が今迄地主が保有して居つた一町歩の面積の中から、それを買ふなり借り換へるなりして經營を殖して行くと云ふことは出來る譯でありまして、將來に於ける經營の増大と云ふことを阻む法律では決してないのであります、唯自作農が今度の法律に依りまして自作農になりました者が自作地を廢めますることは、是は勝手に方々へ賣れる譯ではないのであつて、さう云ふ場合に國家が先づ買ひ取つて、國家が必要な者、經營の擴大を欲して居る者其の他の者に渡すと、斯う云ふ形になると思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=104
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105・寺尾博
○寺尾博君 有難うございました、大臣からさう云ふことを仰つしやつて戴くと大變能く分りました、尚私ばかり伺つても如何かと思ひますが、もう一つ二つ御伺ひしたいと思ひます、開拓事業の問題に付きまして、此の開拓耕地となつて居る所には、それが捨てられてあるだけには、それだけの何等かの缺陷がある譯でございまして、既に開墾されて居る所も樂には出來ませぬ、相當困難もあるのであります、例へば非常に交通が不便であるとか、或は水がないとか、之を有效な耕地に變化さすには、其の基礎として其の種の缺陷を補はなければならぬが、是は概して大事業でありまして、國家的の相當大きな計畫に依らなければならぬ、唯氣合を掛けて鍬を取つて土地を耕して開墾して行くと云ふやうな式でなしに、技術的、科學的、殊に土木或は機械等を十分に使つて行かなければならぬと思ふのでありますが、現在色々開拓地の入植の樣子を見ますると云ふと、是は眼の前の焦眉の急であるので、已むを得ないこともあるかも知れませぬが、さう云ふことを構はずに、兎に角さう云ふ指定された所に入つて行つて開墾することは實際に於ては食糧其の他の事情で非常に困難をして居ると云ふことが少くないと思ひます、即ち此の開拓と云ふものがさう右から端に急速に進行が樂々とは出來るものではないと思ふのであります、此の開拓地の入植と云ふものに付ては、目下さう云ふことを考慮に加へまして、目下どう云ふやうな方針で事業を御進めになつて居るか、極く概略を御説明を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=105
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106・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 開拓に付きましては御話のやうな考へ方も一應出來る譯でありますが、我々と致しましては是は矢張り開拓と云ふことは遠い日本の長い將來を見ますると、又現在の必要から見ましても、是非やつて行きたいと思つて居りまするので、先づ開拓地の選定と云ふものを、是は非常に嚴密にやらうと先づ考へて居ります、それには開拓委員會のやうなものを作りまして、地方に於きましてそれぞれの專門家に集つて戴きまして、さうして實際上有らゆる見地から檢討して戴いて、適地と云ふものの選定を致して行きたい、斯う考へて居ります、尤も從來開墾に殘されて居つた土地が必ずしも全部が全部惡い所とは言へないのでありまして、それは實際上此の自然のなにから言ひますれば、寧ろ開拓地として、農地として使ふ方が宜い所もある、さう云ふ所が、或は土地の所有權の問題でありまするとか、其の他の事柄で放置されて居る所も矢張りあるのでありまして、又其處へ植ヱ付けまする農業の經營を平地に於けるやうな農業を其の儘入れると云ふことになりますれば、是は不適當であるかも知れませぬが、さうでない別個の見地から土地利用を考へますれば、是は十分立派な農業が成り立つことも考へられ得るのでありまして、さう云つたやうな點を、是は十分勘案致しまして、適地の選定と云ふことを致す考で居る譯でございます、勿論此の適地の選定を致しまして、開拓を致しましても、其の儘それを放つて置く譯には行かないのでありまして、入植に付きましては先般も或は井上さんからですか御尋がありましたやうに營農の面に於て、今迄は缺ける所が事實あつたと思ふのでありまして、それ等の點に付きましては是は今迄は地元の農業會等と連絡を取つて主としてやつて居つた譯でありますが、營團の機構と云ふものを、さう云ふ方面にも十分活躍致させまするやうに、充實するなり改めるなり致しまして、又地元の農業會とも、是は又十分連絡を取り、技術的な指導等もやつては行かうと斯う考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=106
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107・寺尾博
○寺尾博君 只今大臣から御話がありまして、開拓地も所に依つては大變良い所があると云ふやうな御話、是は私も一部聞いて居りまして、全く御同感を申上げるのであります、さう云ふ所で、例へば標高千「メートル」前後の所で、既に數百年來立派な村が出來、最近の稻作の改良等に依つて、さう云ふ八百「メートル」、千「メートル」と云ふ所に一反歩當り米が三石、四石も取れて居ると云ふやうな實況、或は一村平均で三石以上の平均收量を擧げたと云ふやうな所もありますので、さう云ふ所は特に力を入れて農耕地の擴張と云ふ面に其の目的を實現して戴きたいのですが、そこに行くには軍に入植であるとか、農耕地を擴張すると云ふことだけでなしに、必ずしもそれだけでなくても、今大臣も仰しやいました特殊のさう云ふ天然環境の所、即ち平坦部とは違つた環境の所、それを、其の環境を利用すると云ふやうな御話でありまして、非常に結構なことだと思ひます、私も其の點を是非實現して戴きたいと思ひます、最近開拓研究所と云ふやうなものが豫算に依つて成立つて居ると云ふことであります、さう云ふ開拓研究所などの性質として、特にさう云ふ標高の高い凉冷な氣象を持つて居る所、其の凉冷な氣象を活用する、特殊の自然科學的の技術、或は酵母類を活用する所の技術、或は高級の蔬菜果樹等種々の冷凉氣象の下に於て初めて出來る、即ち言ひ換へれば平坦部に於ては出來ない所のもの、是は從來の農業技術の研究の面に於ても、必ずしもさう云ふ面の進歩は十分でない、寧ろ是からの研究の發展に俟つべきものである、で、謂はば冷凉地の農業に、單り農業生産だけでなしに種々の食品或は生活物資等に關する新方面の活動と云ふものが成り立つと思ひます、さう云ふことに關する具體的の施設を、さう云ふ地點に實現さす一つの或は見本的の事業として……從來研究所の研究と云ふものは或る一般法則とか理論を見出すことが即ち科學研究として行はれて居りまして、それも勿論重大でありますが、さう云ふ所に新らしい冷凉地を特に利用したさう云ふ特殊な環境に適したこと、それは必ずしも根本的の科學的研究でなくて、既に分つて居ることでも、さう云ふ所に之を實現すると云ふ一つのことが、現實的の研究だと言つても宜しいかと思ふのであります、さう云ふものの實現を見て、それが又冷凉地の開拓、入植、經營、生活にそれも皆影響されて行く、斯う云ふことは矢張り實際さう云ふものを實現すると云ふことが必要でありますので、其の方面の專門家、必ずしも新研究でなくても、さう云ふ施設を設けて、さう云ふ方面の科學的技術的なものをそこに出現せしめる、斯う云ふことを研究所の事業の上に十分加へて、其の見本を見せて戴く、さう云ふやうなことをやつて戴いたら、今迄十分發展して居なかつたさう云ふ地帶に於ける新技術の展開が出來、それだけでも單獨に非常に深い意義があるやうに思ひます、開拓研究所が新たに出來ると云ふことでありますが、そこにはさう云ふやうな御計畫が加へられてあるのでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=107
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108・和田博雄
○國務大臣(和田博雄君) 御話のやうに實際今迄は農事試驗場の研究方法と言ひますか、是が平地農業に、實際上已むを得なかつたとは言へ、偏つて居たことがあつたのではないかと私も率直に思ふのであります、日本の高冷地農業に付ては、まだ寧ろ未開拓ではないかと思ひます、例へば飼料作物一つを取りましても、それが十分經營経と結付かれた研究がなかなかなされて居らぬのぢやないかと思ふのであります、端緒に着いて居るものはありましても、實を結んで居るものがないのぢやないかと思ひます、そこで御話のやうに今度開拓研究所が出來ましたに付きましては、我々と致しましても從來のやうな土木的な考は捨ててしまはうと思って居ります、寧ろ高冷地農業と申しますか、經營技術と申しますか、高冷地農業に付きましての必要な作物、飼料、さう言つたやうなものの自主的な研究に主力を置くのが宜いのぢやないかと思つて居ります、具體的に言へば八ケ嶽に農民道場がありますが、ああいふ所で大體實地にやつて見たらどうかと思ひます、是はもう寺尾さんには釋迦に説法のやうなことになるのでございますが、日本の作物としてはまだまだ色色な物を十分考へ得るのでありまして、高冷地の作物を一つ取つて見ましても、恐らく日本で高冷地を利用した作物は研究されて居らぬのぢやないかと思ひます、而も世界の需要は非常に澤山あるので、文化が進めば進む程あるのでありまして、色々な意味で研究をなさるべきものだと思ひます、左樣に是非致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=108
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109・寺尾博
○寺尾博君 一々御懇切な御意見を戴きまして有難うございました、どうか御抱負だけでなしに、一遍に何もかも實現すると云ふことは出來ませぬが、是非農地法の急速な實現に伴つても、それ等のものが著々實現するやうなことを勿論考へて居るとは思ひますけれども、我々としても非常に熱望する次第であります、どうか我々も非常に期待致して居りまするので、十分な御計畫を實現せられむことを希望致します、是で私の質問は終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=109
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110・稻田昌植
○委員長(男爵稻田昌植君) 本日は此の程度で散會致します、明日は午前十時から開會致します
午後四時十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=110
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111・会議録情報4
出席者左の如し
委員長 男爵 稻田昌植君
副委員長 子爵 北條雋八君
委員
公爵 島津忠承君
侯爵 細川護立君
侯爵 中山輔親君
伯爵 久松定武君
子爵 安藤信昭君
子爵 三島通陽君
子爵 土屋尹直君
予爵 井上勝英君
牧野英一君
松村眞一郎君
寺尾博君
男爵 内海勝二君
男爵 岩村一木君
男爵 毛利元良君
男爵 多久龍三郎君
赤木正雄君
竹下豐次君
我妻榮君
松尾國松君
菅澤重雄君
原田讓二君
長島銀藏君
國務大臣
農林大臣 和田博雄君
政府委員
大藏事務官 前尾繁三郎君
農林次官 楠見義男君
農林事務官 山添利作君
同 笹山繁太郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009001384X00219461008&spkNum=111
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