1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
食糧緊急措置令(承諾を求める件)
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昭和二十一年七月四日(木曜日)午前十時二十三分開議
出席委員
委員長 成島勇君
理事 岩本信行君 理事 坂本實君
理事 森幸太郎君 理事 馬越晃君
理事 松岡運君 理事 細野三千雄君
大井直之助君 坂田道太君
廣川弘禪君 神戸眞君
苫米地義三君 保利茂君
堀川恭平君 叶凸君
清澤俊英君 田中健吉君
堂森芳夫君 北政清君
林興一郎君 山木武夫君
井出一太郎君 志賀義雄君
出席國務大臣
農林大臣 和田博雄君
出席政府委員
農林次官 楠見義男君
食糧管理局長官 片柳眞吉君
商工事務官 鈴木重郎君
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本日の會議に付した議案
食糧緊急措置令(承諾を求める件)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=0
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001・成島勇
○成島委員長 それでは是より委員會を開會致します――農林大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=1
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002・和田博雄
○和田國務大臣 私から食糧緊急措置令に付きまして、其の制定の經過と理由と其の主要な内容に付きまして御説明申上げます
本會議に於きまして申上げましたやうに、昭和二十年産米の政府買入數量は、本年の一月三十一日現在に於きまして約千九十六萬石でございましたが、是は政府から農家に對しまして供出割當を致しました約二千六百五十萬石に對して四割一分餘りに當るのでございます、而して此の成績は、昨年度及び一昨年度に比較致しますれば、極めて不良でございまして、即ち同一時期までの昨年の買入數量は約二千六百萬石でございますが、割當量に對する比率は六割九分八厘になつて居ります、又一昨年の買入數量は約三千三百八十萬石でございまして、割當量に對する比率は八割六分でございます、本年は米の生産が御承知のやうに風水害其の他の原因に依りまして、實收の見込が四千萬石を割らんとするやうな異常な減收を見ました爲め、供出割當自體に於きましても、昨年及び一昨年に比べまして、千百萬石乃至千三百萬石程度の減少を見て居りまする爲め、供出數量自體其の絶對數量に於きまして減少致して居りまするのみならず、買入の進捗率に於きましても不振で、甚だ憂慮せられたのでございます、其の不振の原因に付きましては、例へば一般的に作柄が遲れまして、隨て農家の脱穀調製が遲れましたこと等の事情もございまするが、最も根本的な原因と致しましては、戰爭終結に伴ひまして、農村方面に於きまする供出の熱意が低下致しましたことと、食糧に關しまする現在の窮屈感及び先行不安の爲に闇行爲其の他の賣惜み、買溜等の不正行爲が行はれて居ることの二つを擧げることが出来るのでございます、之を基と致しまして、色々な派生的な現象が現はれて參つたのでございまするが、其の最も大きなものは、農家の一部に於きまして、供出に對しまして日和見的な態度にあつたことでございます、此のことは戰時中に於きましても、供出に關しましては信賞必罰がれい行されませぬで、隨ひまして俗に申しますれば、正直者が損を見たと云ふ幾多の事例がありまして、是が善良な農民に少からぬ惡影響を與へて居ることは事實でございまして、惡質不良な者の數は、日本の農村に於きましては極めて少數ではございまするが、其の存在は全國到る處に於て善良な農民の喞つ所でございまして、供出確保の爲には是非とも此の弊風を一掃する必要があつたのでございます
次に都市消費部面に於ても、食糧不安を繞つて種々の問題がありまして、就中配給上の不正行爲に付きましては、所謂幽霊人口、或は職種詐稱に依りまする不正受配等の行爲は、從來よりも是が防遏に付きましては取締を致して居つたのでありますが、まだ其の跡を絶つて居らぬ有樣でありまして、是等のことが、假に極く少數でありましても存在致しますことは、食糧配分に關しまする公平感の上から見まして、一般に惡影響がありまするのみならず、農家の供出意欲にも惡影響を與へる結果となりまするので、是等不正行爲の取締を嚴重にする必要が痛感せられたのであります
本勅令案の骨子と致しまする所は、第一條、第九條、第十條及び第十一條に規定致してありますが、先づ第一條に於きましては、政府に對しまして賣渡を命じましたる主要食料を賣渡すべき期限までに賣渡さない惡質農家等に對しましては、政府に於きまして賣渡さざる主要食糧を強制的に收用することを規定致して居るのでございます、本條は前に申上げましたやうに、極く少數の惡質不良なる者の存在が善良なる一般農家に惡影響を及ぼすのでありまして、元來是等の惡質者に對しましては、現在の食糧管理法に於きましては刑罰を科し得ることになつては居りますが、要は刑に存するのではありませぬで、物を確保すると云ふ點にある次第でございますから、今囘の措置に依り收用することと致したのであります、併しながら事柄は極めて重要でございますので、是が運用には特に留意致しまして、具體的發動前に、各方面の意向を徴し、且つ豫め本人に警告を發しまする等手續も愼重に致しますると共に、出來得る限り所謂傳家の寶刀としての效果を期待致しまして、發動するが如き事例の少なからんことを念願致したやうな次第でございます
次に第九條に付て申上げますると、曩に生鮮食料品の統制を撤廢致しました結果、市場に出廻りました數量は、統制撤廢前に比しまして相當増加を見たのでございますが、價格の點に於きまして著しく騰貴致しまして、其の爲に一般消費者は是が入手に付て多大の困難を感じて居りまして、國民の生活安定上憂慮すべき状況でございました、本條は青果物、魚介類、其の他の食料品に付きまして、其の配給の適正と必要なる統制とを實施致しまして價格の安定を圖りまする爲に、是等の食糧品の配給、讓渡價格等に關し必要な命令を發動するの道を開くことと致したのでございます
第十條は、不正な手段に依りまして主要食糧の配給を受け、又は他人をして之を受けしめた者に對しまする處罰の規定、第十一條は供出阻害に關する煽動行為を封ずる規定でございます、主要食糧の管理の強化竝に食料品の配給の適正及び價格の安定に關しまする以上の措置は國民生活の安定上、延いては公共の安全保持上一日の遲延をも許さざるものでありますので、本緊急勅令の制定を仰いだ次第でございます
以上が本令の制定に至りまするまでの經過及び其の内容でございまするが、特に其の中心をなしまする所謂強權發動の點に付きましては、其の收用状況は六月十五日現在に於きまして各府縣からの報告を取纒めました結果は、數量に於きましては二千四百六十一石、件數にしまして千百八十九件でありまして、數量的には左程多くはございませぬが、先程申上げましたやうに、寧ろ傳家の寶刀的な役割は十分果したものと存ずるのでありまして、此のことは爾後の供出數量の實際面に於て如實に現はれて居りまして、結局供出の促進、延いて食糧事情の緩和には少からぬ效果を挙げ得たものと確信致して居る次第でございます、尚ほ今後に於きましても、供出制度に隨伴致しまして強權發動の規定は存續せしめる考へでありますが、其の運營に付きましては一層愼重且つ適正ならしめる必要があると考へますので、民主的な組織に改組致しまして、市町村食糧調査委員會の申請を俟つて發動することを原則と致したいと考へて居ります、尚ほ生鮮食料品關係に付きまして、第九條の規定に基きまして水産物に付ては三月十六日附を以て水産物統制令(勅令第百四十五號)を、又青果物等に付きましては四月三十日附で青果物統制令(勅令第二百四十七號)をそれぞれ公布致しまして、現に著々再統制を軌道に上すべく努力を致して居る次第であります、何卒宜しく御審議の上御可決あらんことを御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=2
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003・森幸太郎
○森(幸)委員 二、三農林大臣に御尋ね致したいと思ひます、此の勅令の發布は、只今御述べになりました當時の我が食糧事情より考へて見まして、已むを得ない最後の手段であつたと言ひ得ますけれども、我々國民から考へますれば、政府が今日まで食糧に對する政策が殆ど確定して居らなかつた、即ち政府自身が全く無力であつた、其の自分の無力を此の權力を以て補はんとされたものと、斯樣に考へられるのでありますが、此の點に付て農林大臣の御所見を承りたい、又農林大臣は、一昨日の本會議に於て、供出方法が不合理であつたと云ふことを御認めになつたやうに承つたのであります、然らば、此の不合理であると御認めになつた供出方法を、依然として今日まで繼續された其の御所見如何、此の二點に付て承りたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=3
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004・和田博雄
○和田國務大臣 御答へ致します、此の食糧緊急措置令、所謂強權發動は、當時の事情と致しましては已むを得ないと云ふことは、御認めを願へたと思ふのでありますが、政府としまして食糧對策に付きまして必ずしも無能であつたとは私は考へて居りませぬ、政府としましては、前内閣に於きましても松村農相以後、食糧の輸入に付き、或は其の供出に付き、それぞれ色々と苦勞を致し努力致して參つたと思ふのであります、併し各種の事情がありましたし、殊に終戰後のあの混亂期に際しましたので、それ程效果が擧らない面もあつたと思ひますが、私は公平に見まして、政府としましては十分努力致したのだと考へて居ります、それから、供出方法に付きまして不合理があつたと云ふことは、是は私共も認めるのであります、併し其の不合理な點を直ぐに是正すると云ふことが、あの時代に於て果して出來たかどうかと云ふことは、是は御考へを願はねばならぬと思ひます、隨て此の點に付きましては、今囘の麥の供出等に付きましては綜合的に考へまして、市町村の食糧調整委員會と云ふ一つの組織を作りまして、今後は之を民主的に合理化して行かう、斯樣に考へた次第であります、今後の食糧政策に付きましては、今までの經驗を十分に活かして、さうして合理的な割當方法をやつて行きたいと考へて、我々としましては準備を致して居りますし、又さう云ふ考へで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=4
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005・森幸太郎
○森(幸)委員 只今、今後は大いに是正して行きたいと云ふ農林大臣の御答辯を得たことを感謝するのでありますが、今囘の食糧危機に對しましては、關係方面の格別なる厚意に依りまして、一時的救濟はされましたけれども、今日のやうな食糧政策に於きましては、私は將來とても安心をし得ないと考へるのであります、一體政府は、どれだけの食糧を政府の手に確保すれば宜いのであるか、どれだけの主要食糧、或は其の他の代替物でも宜しい、兎も角是だけの食糧は是非とも年々確保しなければ、日本國土の住民が――勿論贅澤は許しませぬ、敗戰の場合、國家の再建の爲でありますから、世界的に食糧危機を唱へて居る今日、我々は滿足に此の食糧を得ようとは考へられないのであります、併し最小限度の食糧だけは、國家と致しましても之を確保しなければなりませぬ、此の見地から政府はどれだけの食糧を確保すると云ふことを理想と考へて居られるか、又それを御考へになるに付きましては、食糧の生産計畫と云ふものを立てなければならない、食糧の生産計畫を立てるに付きましては、國土的立地的なる所の基盤に依らなければならぬと思ひますが、今日日本の各方面――是は此の方面だけではありませぬが、各方面に對して正確なる數字を把握することが絶對出來ない、是は戰爭當時、物動計畫の爲に色々の統計が秘密に付せられまして、國民は我が國の國勢状態を知らうとしても知り得ませぬ、一切秘密にされて居つたのではありまするが、今日農林當局に於てどれだけの正確なる統計を御持ちになつて居るか、私の見る所では洵に杜撰なる統計であると思ひます、其の杜撰なる統計に依つて此の食糧生産計畫を立てると云ふことは、洵に砂上に宮殿を建築するやうな状態でありまするが、先程申上げました通りに、今後我が國に是だけの食糧はどうしても確保しなければ、國民の最小限度の食生活は維持出來ないと云ふ、其の數字を如何なる方法に依つて獲得されんとなさるのであるか、此の御所見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=5
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006・和田博雄
○和田國務大臣 食糧の政策に付きましては、やはり生産からきちんと計畫を立てまして、消費も見、人口も見て需給の推算をはつきりとやることが必要だと考へます、それから特に統計の問題でございまするが、是は農林省と致しましては、統計に付ては、市町村に十分統計員を置きまして、手足を持つて統計の正確を期して居るのでございまするが、御意見のやうに、戰時中の色々の關係で兎角統計が正確さを缺いて居るのであります、此の點に對しては統計に付て尚ほ一層今後科學性を持たせそれを正確にして行くと云ふことは必要でありまして、是等の事柄に付ては、我々と致しましても今後十分改善して行きたい、斯樣に考へて居ります
それからどれだけの數量を持てば宜いのかと云ふことに付きましては、私は輸入食糧は別と致しまして、政府の操作用と致しましては五千萬石を持てば大體の賄ひは付いて行くのではないか、斯樣に考へて居ります、勿論五千萬石と云ひまするのは、凡ゆるものを綜合してのことであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=6
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007・森幸太郎
○森(幸)委員 我が國の農村が惡條件の爲に、小作農民生活は非常に貧困である、借金に苦しんで居るとの見方がされて居るのであります、又現在小作農民の負債のことに付きまして、我が農村に對する國家財政政策は、商工業者に比し非常に重課され、不利の立場にあつたが、我が國家の負擔は一體誰が之を負擔して居ると御考へになるのであるか、又政府は、現在高率なる現物小作料と遺制的小作關係に支配せられて、小作農民の所得は常に低位となつて居ると認めて居られる、此のことが一方に農民の貧窮を齎すと共に、他方地主的土地所有者を有利ならしめて、農民の寄生地主化を齎して居ると認めて居られまするが、是は農林當局としては此の通り御認めになつて居ると承知して宜いのでありますか、御認めになつて居るとするならば、此の小作料と云ふものに付ては、高率なる現物小作料を御認めになる以上は、一體今日小作料と云ふものを實際どう云ふ風に小作者が拂つて居つたか、此の統計を御示しを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=7
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008・和田博雄
○和田國務大臣 農家の負債に付きましては、是は日本が遭遇しました所謂農村恐慌の時代と、それから戰時中からずつと今日までの時期とははつきり分けて私は考へなければならぬと思つて居ります、恐慌中は、農家の負債が四十億乃至五十億と言はれましたやうに、農村は非常な負債を帶びて居りました、併し其の後戰爭中及び戰後の「インフレーション」に依りまして、農家の負債と云ふものに付て正確な調査はございませぬ、ございませぬが、部分的な調査を見ますると、それから又一面市町村農業會なり、其の他郵便局なりに集まつて來て居りまする貯金なり預金なりの状況を見ますれば、農家としての負債と云ふものは相當輕減されたのではないか、斯樣に考へられます、併し農家負債に付ての全國的の調査と云ふものは今の所ございませぬ、唯村に付き、或は部落に付て戸別的に調査したものがあるだけでございまして、農家の經濟調査と云ふ農林省のやつて居るものから推定が出來るだけでございますが、此の點に付きましては私は可なり改善された點が認められるのではないかと思ひます
それから小作料の點でありまするが、日本の小作料が高率なる現物小作料であつたと云ふことは、是は私やはり認めなければならぬのではないかと思ひます、日本の農民の大部分が一町以下の耕作者であり、而も小作人を取つて見ましてもさう云ふ者が多く、又小作料に於きましても、收穫量の半分或はそれ以上のものを納めて居つたやうな者もあつたやうな工合でございまして、小作料が可なり高率であつた、さうしてそれが現物であつたと云ふ點に於て、日本の農業の發達が或る程度それに依つて制約されたと云ふことは私はあつたと思ひます、現在小作料がどの位になつて居るかと云ふことに付きましては、是は數字で表を差上げました方が御理解し易いと思ひますので、後刻取揃へまして提出致したいと思ひます、大體私が前の議會に農地調整法案を提出致しました時は、永作田に付ては慥か物納に於て四四%位になつて居つたやうに記憶致しまするが、正確なことは又數字で御示し致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=8
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009・森幸太郎
○森(幸)委員 昨年、前の議會でありましたか、金納化する場合に、小作料は慥か七十五圓であつたかに決定されたと思ひますが、是が地主小作双方から考へて妥當と農林大臣は御認めになつて居られますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=9
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010・和田博雄
○和田國務大臣 此の前小作料の物納を金納に致しましたのは、其の時に於ける現實の物納小作料を金納に致したのでございまして、あの當時は地主米價と云ふものがございまして、地主米價は五十五圓であつた譯でございます、地主は小作料として、事實金納として五十五圓貰つて居つた譯であります、それを議會の御話に依りまして、七十五圓と云ふことに致したのでございまして、現事の小作料を其の儘金納に致したのが七十五圓、斯う云ふことになつて居るのでありまして、小作料の全般の議論に付きましては、それぞれの御議論がやはりあると私は思ひますが、其の時の物納小作料を金納小作料に致しましたのは、現實の物納小作料を時の地主米價五十五圓でありましたのを、二十圓事實上は上つたことになつて居りますが、七十五圓と云ふものに依つて事實的に金納化した、斯う云ふことになつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=10
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011・森幸太郎
○森(幸)委員 私は供出が非常に不振であつて、政府は緊急勅令まで發布せなければならぬやうになつたと云ふことに付て、今後政府は凡ゆる角度から、ああ云ふ風なことをせなくとも、五千萬石の要求する數量が供出されるやうに考へたい、善處したいと云ふ御氣持は能く分つたのでありますが、政府の御考へになつて居りますこと、それを實現するに付ては政府の見方も色々ありませう、斯う云ふ所に供出の隘路があつたと云ふことも御考へになるでありませうが、私の考へて居りまする點を申上げて、御意見を承つて見たいと思ふのであります
第一に供出割當の根據がはつきりしない、各府縣に割當てられました數字を見ましても、最近の實收平均額と云ふものは分つて居りませぬから、基礎を求めることは出來ませぬが、大體過去の米産實收額と云ふものの統計に比較して見ましても、府縣に依つて非常な不公正がある、是が生産者が供出割當に疑義を持ち、協力をしなかつた點と思ふのでありますが、政府は、あの供出量割當と云ふものは、はつきりした根據があつて、其の根據に依つて割當てたのであるから、何れからも非難のない公正なものと御認めになつて居るか、殊に供出割當の時期が、未だ實收額のはつきりしない前以ての割當でありまするから、そこに無理がある、是は神樣でなければ出來ない仕事だとは思ひますが、此の時期にあの割當をするのは多少の不公正も免れないと云ふ御言葉があるかも知れませぬが、然らば實收額がはつきり致した上に於て、當初の割當を是正せなければならないと云ふことになつて來ると考へます、昨年、當初三千萬石を割當てられて、それを二千六百五十萬石に訂正されたのでありまするが、それを各府縣に割當てられた基礎はどこにあつたか、之を私は是正せなければならぬと思ふのでありまするが、政府は公正なる割當をしたと斯樣に御考へになつて居るか、又供出する總ての物の價格が不適正である、是は農林當局も御認めになつて居らうと思ひまするが、洵に不公正な價格になつて居る、私は之を急いで解決して戴かなければならぬと思ひますことは、今現に麥を供出しなければならぬ――馬鈴薯を今現に出して居ります――麥を出さなければならぬが、麥と云ふものを一體どの位の價格に於て政府は買上げられる方針であるか、又来年の米の價格に致しましても、どの位な程度で買ふのだと云ふことは植付けるまでにもう既にはつきりしないと農民の生産意慾は起つて來ない、現に我々農村に於て、農業會の取扱つて居りまする品物でありまするから價格は無論丸公であります、公定價格で比較して見ますると、脱穀機を買ひますのに二石八斗三升米を持つて行かなければなりませぬ、製繩機を持つて行きますのに二石五斗の米を要するのであります、價格の比較でありまするが、農家の最も希望して居りまする鐵製の「リヤカー」を買ひますのには八石の米を持つて行かなければ買へない、除草機に於て五斗、三つ鍬の如きも一斗七升、田鋤鍬に於て七斗、足付の鍬に於て五斗、鎌一挺買ふにも六升の米を持つて行かなければ買へないのであります、殊に野鍛冶に於てやり得たものが、今統制に依つて鍛冶屋がして呉れないのであります、三つ鍬、備中鍬や平鍬の先がけを致しますに付きましても、一斗乃至七升の米を持つて行かなければ鍬の先がけがして貰へない、農機具の上に於ても、斯くの如く米の價格と農機具の價格に非常な食違ひが出來て居るのであります、殊に農村の最も希望致して居りまする自轉車の「タイヤ」「チューブ」、是等の如きは五石の米を持つて行かなければ一臺の自轉車が手に入らない、「ゴム」の長靴一足を買ひましても、是は農業會の方へ日用雜貨品として廻つて來るのでありますが、是でも六斗の米、一俵半の米を持つて行かなければ買へない、下駄一足でも一斗三升の米を持つて行かなければならない、此の頃農村に於きましては、雨が降ると國民學校へ通つて居る子供は缺席致して居ります、下駄がなく、傘がないのであります、傘一本買ふに付ても七升以上の米を持つて行かなければ賣つて呉れない、田の草を取る時の麥藁帽子を買ふのにさへも、六升の米を持つて行かなければ買へないやうな事情であります、殊に軍隊から配給される品物に於きましては、割合に安いのでありますが、統制方面から廻されます衣料品――供出に對して見返り物資だと云ふので非常に政府は御好意を以て配給されて居る所の品物も、綾の木棉一反買ふに付ても一斗一升五合の米が要る、巻脚絆一つ買ふに付ても三升の米が要る、地下足袋一足六升の米が要る、斯う云ふ風な情勢であるのであります、斯う云ふ風な情勢では、農民が供出に對して協力する氣持も起きなければ、生産意慾も起つて來ない、政府の豫期されるやうな供出量には容易に達することが出來ないのではないかと思ひます、隨て闇取引或は物々交換と云ふものが自然に起らざるを得ないのではないかと思ふ、是が今日供出を不振ならしめた所の隘路の最も大なるものと思ふのであります
次に此の供出の隘路に付て、都市と農村との精神的結合が消失致して居る、是は農村は幾らでも食糧があつて贅澤をして居るのだと云ふ都市の人の考へ、又都市の人の本當の生活状態を農村は理解せずして、表面に現はれたる所の奢侈的な生活をのみ考へて、都市生活者は常に農村を搾取して居つたと云ふやうな過去の氣持が殘つて居ります所に、新聞紙等に於てあの東京都に於ける「メーデー」の如きものを寫眞に見せられ、我々は粒々辛苦して汗を流して田打ちをやつて居る、それに食糧の危急とは云ひながら堂々と列をなして暇さうにやつて居られると云ふやうな、本當の都市の人の氣持を知らずして、農民は非常に妙な氣持に侵されるのであります、殊に私の方に遊覽設備があります、是は汽船に依つて琵琶湖を遊覽するのであります、戰爭當時此の遊覽設備は停止されてありましたが、近頃是が復活致しますると、京阪方面より押掛ける所の遊覽者と云ふものは洵に夥しい、一艘の船に二百人乃至三百人を收容し得られるのであります、而も遊覽の運賃と云ふものは四十圓出さなければならぬ、二等は二十圓と聞いて居りますが、何れも來る人來る人が一等の切符を買つてしまふ、さうして一艘の定期、定めて居る所の船に乘り切れず、又二艘目を出す、二艘目でも乗り切れないから三艘目を出す、三艘でも乗り切れなくてあとに殘つて居る、さうして其の人が酒も持つて居る、白い辯當、お壽司を持つて騒いで居る、此の姿を農村民が見た時に、自分の食ふものも割いて都會の人を助けたいと云ふやうな氣持にはならない、此の都會に於ける人も農村の苦しいことを能く考へて自重せなければならない、又農村も本當に都會の人の生活に苦しい、食糧に苦しいことを考へて、さうして共に苦しむ所の氣持にならなければならぬと思ひます、是がぴつたり行かなければ、如何に凡ゆる政策を講じましても、政府の考へて居られるやうな供出は完全に行かないと私は考へるのであります、此の今擧げました三つが隘路であります、其の外細かい點の隘路を探せば幾つもあります、是等に付て、割當の公正であつたかどうだかと云ふこと、それから供出する價格が妥当であるかどうか、今後供出を完全ならしむるに付きましては相當に是正しなければならぬと私は考へるのでありますが、此の點に付ての後所見如何、又都市と農村とを精神的に繋ぎ合はす所の農林省としての考へ方、此の三つの點に付て御所見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=11
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012・和田博雄
○和田國務大臣 森さんから御尤もな御意見でありまして、私も同感する所が多々あるのでありますが、二十年産米其の他の割當に付きましては、政府と致しまして、私は一應の根據はあつたのだと思ひます、何と云ひましても食糧の生産が非常に減退し、而も需要は復員其の他の關係で殖え、又一般の日本の經濟が戰爭に因つて破壞されまして、其の再建が殊に工業部面に於ては遲々として進まない、謂はば日本經濟全體が混亂の時期にありまするので、政府としましては、食糧に付てはやはり全體の關係を睨み合せまして、合理的な基礎に基いて一應の計畫を立てまして、それで割當てて來たのだと思ひます、唯其の割當の基準に付きまして色々の御議論があることと考へるのでありまするが、それに付きましても、政府と致しましては一應の理論は持つて居るのでございます、詳しいことは政府委員から御説明して宜いのでありますが、それ等の點に付て、やはり農家に納得の行くやうに十分其の知悉方が徹底しなかつたと云ふ點もあつたと思ひまするし、又全體のやり方が、謂はば民主的にやつて行くと云ふ方向に餘り進んで居なかつたと云ふ點はあると思ひまするが、此の供出割當の根據に付きましては、是は何としましても、一應の一種の計畫的な經濟でありますから、計畫に依つて經濟を動かして行つて居るのでありますから、根據はあるのであります、唯今後の此の供出割當に付ての基準と云ふものは、先般前の内閣の時に食糧對策審議會を作つて貰ひまして、其の食糧對策審議會の特別委員として各方面の權威に寄つて戴きまして、凡ゆる點から是が吟味を致したのでありまして、我々と致しましては此の基準と云ふものは今後は明示致しまして、合理的な基準に依つて是非やつて行きたいと、斯う考へて居ります、是は何と言ひましても早期に割當致しませぬと、實收高が出來上つてから割當をすると云ふことでは意味がないと思ひますので、御説のやうに實收高が謂はば今日の割當の見込と非常に異なつた場合には、是は今度の麥なんかに於きましても是正することを考へて居るのでありまして、どうしても農作物と云ふものは收穫されて消費されるまで時間が掛かるのでありまして、それで政府が割當をしまするには、どうしても大體の見込でやつて行かざるを得ないのであります、隨ひまして其の見込と結果とが違つた場合は、是は何等かの形で是正する必要がある、唯見込に依つて割當をするにしても、其の割當の根據をなすものは、やはり學問的に考へても合理性を持ち、又實際上の割當を受ける方から言つても、或る程度の合理性を持つたものであることは申すまでもないのであります、それ等の從來の割當の點に付ては、適當な機會に政府委員から御説明した方が宜いと考へて居ります、私は左樣に考へて居ります
それから價格の點でありますが、麥の價格に付ては、此の間出荷獎勵金の形で發表致した譯でありまして、あの程度のことを考へまして、今年の麥はあれと全額新圓、其の他に危機突破對策に掲げました褒奬物資の大量放出と云つたやうな形で今度の新麥は確保したいと、斯樣に考へて居ります、それから來年の米價の問題は、是は私が本會議でお答へ致しましたやうに、其の他の基本的な物資と綜合的に一つの物價體系にして、不均衡を是正し、又合理的な案を得るやうにする考へで居ります
それから資材の獲得に農家が米を使ふ、米が謂はば經營資金となつたと云ふ點が、供出阻碍の原因ではなかつたかと云ふことでありまするが、それは確かに一つの現象として現はれて來たと思ひます、全體の食糧が非常に窮屈になつて參りまして、食糧に對する不安がありまする以上は、一面にはさう云ふことをやる商人の道義心と云ふ問題でもありまするが、又そこに物交と云ふ形が現象として出て來る、それが延いては供出の方にも響いて來ると云ふ關係はあつたと思ふのでありまするが、是は何としましても、根本的には經濟其のものが圓滑に行きまするやうに、單に此の農業生産のみならず、工業の生産に於ても一日も速く復興をして行く、斯う云ふことに俟たざるを得ないのでありますが、又反面農村の必要なる物資を取扱ひまする商人竝に農業團體の高い道義心に俟つ所も多いのではないかと思ひます、農家に道義心を要求する以上に、商人にも亦此の經濟の危機を突破する爲に高い道義心を必要とするのではないか、斯樣に考へるのであります、都市と農村との精神的な結合の點が遲緩して居る、それが一つの供出不振の原因ではないかと云ふ點でありますが、私は都市と農村と云ふものは、本來對立すべきものではなくして、やはり國民經濟の二つの車としまして、相共に相互依存して行くものだと考へて居ります、唯今まで經濟が圓滑に循環して居りましたものが、現在では食糧其の他の物資に付きましても、經濟面から非常に不圓滑でありますので、恰も食糧生産者の立場に立つ農村と、それから其の消費者の立場に立つ都市とが、感情的に相互の理解なくして對立して居るが如く言ふ人があるのでありますが、私をして言はしむれば、是は一つの單なる現象でありまして、農村と都市との理解と云ふことは私は十分なし得ることであり、又其の理解の上に立つてのみ食糧の危機を突破出來るのだと考へて居ります、其の點に付きましては森さんの御意見に私も大いに同感の點が多いのであります、日本の都市の住民は大部分が農村に根を持つて居る人でありまして、謂はば心の故郷として農村を各都會の住民は持つて居るのであります、隨ひまして都會の人が靜かに反省するならば、農村を理解することが容易であり、又農村の人達は多くの子弟なり又兄弟なりを都市に送つて居るのでありまして、都市を理解することも亦日本に於ては容易なのでありまして、此の點は一部のものの現象だけを見まして都市と農村との對立を云々することは、私は出來ないのではないかと思つて居りますし、是非都市、農村と云ふものは一體となつて此の危機を突破して行くと云ふやうにやつて行きたいと思ひます、大體以上御答へ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=12
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013・森幸太郎
○森(幸)委員 供出の割當に付ては今後出來るだけ公正にやりたい、又實收と割當と食違つた場合には、適當に是正したいと云ふ御意見のやうに伺つたのでありますが、是は供出方法の根本だと考へますから、後程又私の所見を申上げて御意見を承りたいと思ひます、既に過去の問題でありますが、私出荷奬勵金と云ふものは氣に入らないのであります、なぜ之をはつきり一石當りなんぼと云ふ價格になさらないか、奬勵金で奬勵をしなければ出せない、そこに私は無理があると思ふ、奬勵しなくても、喜んで生産者が之を供出する、滿足して生産し喜んで之を出すと云ふことにする、奬勵金を以てやると云ふことは私はどうかと思ふ、價格に之を含めて差支へないぢやないか、之をなぜ價格にするといけないのか、馬鈴薯が二十四圓だ、同額の奬勵金を出して四十八圓と云ふことになつて居りますが、なぜ價格を四十八圓とすることがいけないか、此の點我々は甚だ遺憾に思ふのでありますが、此の點に付て尚ほ御所見を承りたいのであります
それから先程五千萬石欲しい、少くとも五千萬石は確保しなければならないと仰しやつたのでありますが、日本の國民生活が今日のやうでありましては、到底八千萬の國民を滿足に養ふことは出來まいと思ひます、或は專門家の話では、日本的な民主主義政治の生活をするにあらずんば、どうしても四割と云ふものは日本から人口が過剩になる、日本獨特の生活樣式に改めなければ、如何に科學力を以て生産力を殖やしても、朝鮮、臺灣、滿洲を失つた日本としては七千五百萬の人口を包容することは困難である、斯ふ云ふことを論じられて居りまするが、是は一面の眞理とは考へて宜いと思ふのであります、然らば此の狹隘なる國土に對しては、出來るだけ耕土の價値を高めると云ふことでなければならぬと思ふ、耕土を利用する場合に於きましては、平面的に利用する場合もありませうし、立體的に利用する場合もありませうが、限られたる耕土に於て無限大とは申しませぬが、能力以上の食糧生産を要求する場合に於て、非常なる考へ方がなければならぬと思ひます、茲で政府は直ちに開墾、或は干拓、或は土質の改良と云ふことを仰しやると思ひますが、此の干拓に付て一言申上げたいと思ひます、先般農林大臣は特に琵琶湖の干拓を例示されて、干拓の將來性を御話になりましたが、琵琶湖の干拓は三年前より著手して居ります、併しどれだけの米が穫れましたか、農林省は本當のことを御承知になつて居るか、又當時土地開發營團が一部手を著けましたが、遂に其の事業執行の困難なるを認めて之を抛棄致しまして、縣が縣の事業として之をなさんと致したのでありまするが、到底微力なる地方費に於て支辨出來るものではありませぬ、今囘國家が之に向つて經費を負擔して、此の事業を遂行するやうに伺つたのでありまするが、あの干拓事業に付てはどう將來の御見込みを立てて居られるか、實際を御承知になつて居るのかと云ふことを承りたい、是は戰爭中一粒でも米を穫らなければならないと云ふ、あの戰爭勝拔き理念に追ひ廻はされて、可憐なる所の國民學校の兒童、或は中等學校の學生が、無理やりに強ひられて使用されたのであります、其の結果たるや、更に酬いられたものはありませぬ、今一粒の米も大事な場合であります、何時本當の米が上るか分らないやうな干拓に、而も特配をして勞力を使用することは、全く食糧事情から言へば損失を致して居るのであります、是は悠々閑々と呑氣な時代にやる仕事であるのではないか、失業救済の意味から言へば或は一つのやり方とも考へるのでありますが、干拓事業と云ふことは、埋立と違つて、天然の形を、天然自然の力を、小さい人間の力に依つて一時的に之を利用する、洵に自然に對する冒涜であります、殊に彼等の技術は過去の氣象記録を根據と致して居るやうであります、所謂近畿地方の雨水降水量がどれだけあるか、早魃がどう云ふ風になつて居るかと云ふ過去の記録を辿つて計畫を進めて居るのであります、此の五日に風あり、十日に雨ありと云ふ順調なる氣候は、自然に育つた姿に於て初めて五日の風も十日の雨も來るのである、所が戰爭の爲に國土はすつかり荒されて居るのであります、山林は濫伐せられて、雨降れども之を貯水する力なく、遊水地もなく、全く過去の記録を打破る所の出水が起つて來るのであります、土木の災害が年々繰迄されることは御承知の通りであります、此の不自然なる結果に因つて起る所の天然氣象を記録として干拓をやる爲に、其の計畫は齟齬してしまふのであります、殊に是は官僚と言つては御叱りを蒙るかも知れませぬけれども、長い間地方の者の體驗を聽かない、例を擧げて申上げますれば曾根沼と云ふ干拓地であります、此の曾根沼地は僅か七、八町歩の干拓地でありますが、其の地方の人は此の池は駄目です、あの山の下から水が湧いて來るのであるから、如何にやつても駄目ですぞと言ふのを敢てやつたのであります、御承知の通り干拓するに付きましては、干拓する爲に湖邊の良い熟田を集水渠の爲に犠牲に供されなければなりませぬ、八町歩かそこらの干拓をする爲に、一町三段からの熟田を犠牲に供して、集水渠を作つたのであります、さうしてそれを實行致しました所、汲めども汲めども盡きせぬ水であります、遂に是は抛棄せざるを得なくなりまして中止致しました、中止致しましたが、偖て一町三段歩から潰した此の熟田をどうして呉れるか、やはり經費を掛けて之を元通りの熟田にして返さなければならぬ、之に從事した勞力は他に使はれても食はれるでありませうが、それが爲に非常に勞力を使つて、さうして其の爲に特別に食糧補給をしてやつた仕事が、御破算で「ゼロ」であります、此の干拓地は過去に於てどれだけの成績が上つて居りますか、數字上御示しを願ひたい、又琵琶湖にも成功したとは申上げられませぬが、成功しさうな干拓もあります、又今後色々な方面に此の干拓を數多く擴めて行くのでありますと思ひますが、京都の巨椋ケ池のやうな理想的な干拓は、恐らく空前絶後と我々は考へて居る、過去の我々の先祖に於きまして、耕地になり得るものは耕地にした、何を苦しんで耕地になるものを耕地にせずして、之に水を溜め或は雜木林にして之を放つて居つたか、そんなことはない筈なんである、之を誤つた思付きに依つてやり出す、やつた以上は面目に掛けてでも之をなし遂げなければならない、茲に行政の無理が出て來る、それでありますから、地方民は其のことに付てでも、他のことに付てでも信頼を缺く、斯う云ふ風に私は考へるのであります、國土を私は最も能く利用する上に於て、開墾も或は干拓も土地改良も考へるでありませうが、それよりも、今日ある所の土地の地力を、其の最高限度まで發揮せしむると云ふことでなければならぬと私は思ふ、私は戰爭中あなた方の農業行政の下に、自ら農業をやつたものでありまして、斯う云ふ無理を強ひられたから、私は能く體驗して居る、私は其の當時言つた、こんな干拓に、臍の上まで浸くやうな所に子供を入れて、肋膜炎や胸膜炎を起した學生も澤山あります、死んだ學生も澤山あります、さう云ふ尊い犠牲を供してやるよりも、今戰爭で勞力が不足して居る、農村は今こそ復員や何かで勞力が増加して居りますが、戰爭中は非常に勞力が缺乏して居つた、五囘の除草が三囘となり、三囘の除草が二囘となると云ふやうなことになつて居るから、そこに非常な減産になつて居る、故にせめて其の方を補つて、二囘の除草を三囘とし、三囘の除草を五囘とすることが、如何に増産に寄與して行くか分らない、さう云ふことで可哀さうに子供を使つて苦しめるよりも、其の子供の勞力を熟田の方に提供されて戴いた方が宜いではないかと云ふことを、私は言つたことがあります、併しやはり其の面目に囚はれて、今日までさう云ふことをしないで來たやうであります、此の干拓は將來何處までも科學的に考へて、出來ることならやつた方が宜しい、宜しいが、今一合の米、一升の米も欲しい時に、さう云ふ事業に――失業者救濟と云ふなら別でありますが、さう云ふ所に特配してまでもやらせると云ふことは、是は「マイナス」に「マイナス」を加へて居ることになると私は思ふのであります、でありまするが、五千萬石の食糧を確保しなければならぬ、それには耕地が狹隘である、所謂國民の食生活を根本的に考へて行かなければならぬと思ひまするけれども、此の五千萬石を確保するに付ては、耕地の能力を十二分に發揮せしめなければならぬ、併し耕地の能力には限度があります、限度がありまするが、之をどう云ふ風にして行くかと云ふことを、農林當局として御考へにならなければならぬ、其の場合に開墾して殖やして行く、干拓して殖やして行く、土地改良で殖やして行く、こんなまどろい、何時のことか分らぬやうなことに依つては、此の五千萬石確保と云ふことは到底私は無理ではないか、斯樣に考へるのであります
又序であるから申上げて、一括して御答辯を得たいと思ひまするが、五千萬石を供出せしめることに付て全然米を以てとは御考へにならぬことと思ひます、勿論米では出ませぬ、或は其の一部分は麥、馬鈴薯、豆、さう云ふ雜穀、又其の外に未利用資源と云ふものも加味されることと思ひます、此の頃慥か三十八種と思ひますが、未利用資源の確保を農村に御支援になつて居るのでありす、あの未利用資源を私先般見たのでありまするが、如何にも戰爭には敗けたとは言ひながら、草根木皮を食はなければ命が繋げない――勿論關係方面から格別なる同情を仰いで居るのでありまするから、草根木皮を食つてでも、自分の力を擧げて、聯合國の關係方面の好意に報いて行かなければならぬことは勿論でありまするが、何と云ふ是は情ないことになつたかと思ひます、あの中に成程甘藷の蔓、葉、是は宜しい、極端なものに於きましては、山野の雜草があるのであります、是れ是れの毒草は除いて、草を刈つて乾燥して出せと云ふことになつて居りまして、特に有毒なる草の名稱が擧げられて居りましたが、其の當時私は名古屋の新聞に出て居つたのを見ましたが、雜草を食つて一家族六人奇妙なる病氣になつた、是は蓬と藜の葉を主として刈つて食べて居つたさうでありまするが、或る日のこと、氣違ひみたいになつて、病院に擔ぎ込んだ所が、病院をうろうろ飛歩いて、殆ど原因が不明である、中毒のやうでもなし、どうも原因が不明である、是は斯う云ふものを食べた結果ではなからうかと、疑問を附して考へて居られましたが、斯程にしなければ五千萬石の米が出ないのでありませうか、又戰爭當時からでありまするけれども、團栗と云ふことを喧しく言はれます、我々先祖は曾ては非常なる饑饉に遭遇致して居ります、併しながら橡の實や椎の實は食ひましたけれども團栗の實を食つた過去の例はない筈であります、團栗の成分は、科學者の言ふ所を聽きまするのに、榮養には絶對にならない、のみならず、あれを食べると體内の榮養を持つて逃げる所の性質があるのであります、團栗の粉を食べて榮養失調に更に を掛けると云ふ結論になる、此の團栗が盛んに戰爭當時より言はれて居るのでありまするが、さう云ふ點も考へなくてはならない、丁度私日曜で田舍に歸つた時でありまするが、團栗を食べるのだから食べられやうと、批把の種を燒いて、子供が六人食べて、二人死んだことがあります、如何に食へると言ひながらさう云ふ風な科學的研究もなさないやうなものを、之を食糧の代替物として利用さすと云ふことはどうかと私は考へます、又馬鈴薯の莖、葉を乾燥して出すと云ふことがありましたが、農村は今梅雨の時であつて、到底出ませぬ、又桑の葉は色々今日まで利用されて居ります、殘桑は色色利用されて居りますが、昨年採つた殘桑がまだ農業倉庫に殘つて居る所があるのを御承知でありますか、昨年採つた桑の葉が學童の手に依つて集められて、それが其の村の農業倉庫に入つて居るさうである、米を收容するのに邪魔になつてしやうがないけれども、取上げて呉れないから其處に積んであると云ふ或る農業倉庫の實際を私は聞いて居ります、まだあります、さう云ふ風なことで、農村に對して政府が食糧危機だ、食糧危機だと警鐘を亂打されましても耳に來ない、是は農林當局として能く考へて戴かなければならぬことであると私は思ふ、さう云ふ風なことをして居つて、さうして今に國民は一千萬人餓死者が出る、五百萬人が飢え死ぬと仰しやつたつて、何を言ふと云つて一つも問題にしない、此の點は私は農林當局としてどう御考へになつて居るかと云ふことを一つ伺ひたい
又供出の甚だ鈍る點は、供出率を新聞に發表することであります、私の方でも百「パーセント」出せと云つて、私は百姓をして居りましたけれども、私はすつかり出して、配給を受けて居るのでありますが、百「パーセント」を出した地方事務所關係があるのに、或る地方事務所關係ではまだ出ない所がある、縣下平均八五%しか出ないと、斯う言へば、六五%しか出ない所がなければならぬ、何だ俺の方は眞面目に食糧を出して居る、警察署長まで連れてぎやんぎやん言つて出させたが、まだ餘處の方に出せる所がある、縣を平均するとまだ八五%しか出てない、さうすると六五%か七〇%の所があるに違ひない、さうすれば慌てて出さなくても宜かつたぢやないか、斯う云ふ気持が起る、此の農民心理が政治の上に最も取入れられて考へられなければならぬことだと思ふ、是は生産者だけに付てのことであるが、殊に政府は、消費の方面に於て國民に食糧に關して不安の念を持たすことが一番いけない、二月には食糧危機來ると云ふやうなことを内閣が發表致しますから、買出が始まつて來る、賣惜が出來て來る、醤油がさうです、醤油がもう缺乏する、鹽は缺乏する、さうすると鹽の闇が出來、鹽の持溜めが出來、醤油の買溜めが出來て來る、日本人の性格として反對の行動を執ります、此の癖があります、それでありますから、國民宜しく安心して居れ、此の和田が農林大臣で居る間、八千萬の國民に饑じい思ひはさせないのだ、此の信頼感をあながた全國民から持たれて、初めて食糧政策と云ふものは行はれて行く、此の不安が國民にある以上は、本當のことをおやりになつても其の逆效果が現はれて來る、さうして國民を益益苦しめる所に持つて行くのではないかと私は思ふ、又、細かい點は色々ありまするが、見返り物資として肥料をやらう、非常に農村は肥料を望んで居ります、望んで居りますけれども、米の供出者に對して督勵の意味に於て肥料を配給することは、考へものである、其の實情を申上げたいと思ひまするが、是れ以上出せと言うて、それ以上出し得るのは、相當の耕作段別を持つて居る好い農家であります、牛も飼つて居る、堆肥も積んで居る、兎に角農業經營に於て缺陷のない組織にある所の農家が供出に盛んに應じ得られるのであります、惰農式な農家――惰農と言はなくても、色色の事情にある所の農家は、出したがつても出せない、さう云ふ事情の下に肥料が供出見返りとして特配されると、皆好い農家が貰ふのであります、私先般、こちらに來るまででありますが、麥畑と苗代方面を歩きますと、一見して分る、此の家は篤農家だ、此の家は肥料を貰つた農家だと云ふことが分る、麥が完全に穫れて居ります、苗代が立派に育つて居ります、それは硫安の特配があつたからであります、他の農民は欲しくつても米を出し得ないから肥料が取れないのであります、肥料が取れないから、肥料をやりたくてもやれない、それで仕方がないと泣止んで居る、所が立派なる麥を作り、立派なる苗代を作り得る農家は何「パーセント」あるかと云へば、部落から言へば極く少數であります、でありますから、私は此の肥料と云ふものは總ての農民に最も公平に分配するやうにしてやることが、生産を高める上に於て妥當でないかと考へる、又殊に農民の心を心とせずしてやつて居る所の肥料の生産があります、慥か此の七月までの窒素肥料の生産計畫は三十二萬「トン」と承つたのでありますが、其の中には石灰窒素が入つて居ります、あの石灰窒素は今急いで七月までに生産して戴いても何の價値がありますか、普通で言へば、來年の二月でないと用ひられない肥料であります、其の肥料よりも、今望んで居るのは、此の出穗二、三週間前に欲しい硫安「アンモニヤ」であります、石灰窒素など貰つたつてどうしようもない、幾ら研究したつて今の間に合ひませぬ、そんな窒素肥料を三十二萬「トン」生産して農村にやるのだと表向き仰しやつても、農村はちつとも喜んで居りませぬ、肥料をやるのでありますれば、肥料をやる時期と肥料の種類を、農村の實情に合ふやうにして、其の生産を商工關係にせしめて、さうして之をやつて戴かなければならない、此の農林省の當然御考へになるべきことが、商工省の肥料生産の方面に能く連絡が執れて居るや否や、私は石灰窒素を今どんどん御貰ひして、窒素肥料をやつた、窒素肥料をやつたと御考へになりましても、農民は少しも之を利用することの出來得ないことを申上げて置きたいと思ふのであります
殊に又食糧營團であります是は國家の仕事を營團の力に依つてやるやうに組織されて居るのでありますが、此の食糧營團と云ふものはどの程度に政府が監督されて居るか、之を能く私は承りたいと思ふのであります、さうして、是は養蠶の方面でもありますが、農村方面では殊にであります、所謂尺貫法と「キロ」の併用であります、茲に所謂からくりがあるやうに生産者は考へて居る、例へば滋賀縣の二十年度の米穀の割當は八十五萬石となつて居ります、此の八十五萬石を各地方事務所に何萬石、何萬石と分けて來るのであります、それはそれで宜しい、さうして一俵四斗と云ふことは昔から決まつて居る、此の四斗入り二俵半を以て一石として供出が出來得られるならば、八十五萬石ちやんと出る、所が生産者が之を供出する時は「キロ」で行くのであります、一俵六十「キロ」で行きますと四斗二升、惡い米は三升、良い米でも四斗一升入れなければならぬ、お前の所は三俵出すのだ、お前の所は十俵出すのだと云ふ割當を受ける、それで十俵出せば四石でありますが、それではいけない、もう二斗持つて來なければお前の所は四石にはならない、をかしい話ぢやないか、十俵は十俵だ、いや「キロ」で行くと六十「キロ」なければ檢査が通らぬから、もう二斗なり三斗持つて來て呉れ、それでないとお前の所は十俵の供出は濟まぬ、そうすると八十五萬石と云ふのは八十六萬石にも七萬石にもなつて來るのであります、此の「キロ」と石の食違ひ、之を生産者は、何だか生産者をぺてんに掛けるやうに考へて居る、斯う云ふ細かいことでも所謂行政に當る人は考へて貰はなければならない、殊に奬勵金なり米代の遲配であります、米を買上げて、何時其の米代が來るのが分らない、又十九年度に於ては色々の奬勵金が出されたが、其の奬勵金の如きは九月頃になつて漸く渡つて居ります、私は催促してやつた、二月十一日に全郡擧つて供出致したのであるが、それが七月になつても、八月になつても金が來ない私は其の當時の、稻田知事でありますが、稻田知事に御話したらびつくりして居た、大變です、そんなことをして置いて農村に膝詰めで、好意的にどうか供出して呉れと言つたつて、そんなことは出來ない、早速本省の方へ交渉しまして、責任を以て御拂ひ致すと云ふことで、八月十日頃に漸く奬勵金が渡つたやうな状況であります、斯う云ふことでありますから、もう農村では殆ど相手にして居ない、どうなつても宜いと云ふやうな棄てやりな氣持になつて居るのであります、そこへ強權發動と來た、さうして各地の出荷状況を見ると、中々經つても出て來ない、茲に所謂正直な者は馬鹿を見る、慌て者は馬鹿を見るぞと云ふことになつて控へ目になつて來る、さうしてこつちは益益遲配欠配に依つて生活難を愬へる人が出て來る、是は全く中間の供出、配給を操作する所の政府行政當局の責任だと思ふ、斯う云ふ點は小さいことでありますが、相手は小さい生産者であります、此の氣持を酌み取つて行かなければならぬのではないかと私は思ひます、殊に田舍から東京に參りまして、大阪でも、神戸でも同じでありますが、此の荒れに荒らされた戰災地であります、あの戰災地を見ると、なぜ政府は手を入れて、地主に向つて強權借上でも宜しい、當分家は建てられないから、耕地になる所は耕地にして、蔬菜或は雜穀の栽培をやらないのかそれをするにしても、もつと指導をしなければならない、我々が見ても何であるが、街の人はお大名の田作りでありますから、折角努力をしてどうかして麥を作りたい、大根を作りたいと骨折つた此の東京の人の努力が完全に酬いられて居りませぬ、酬いられない筈であります、何も知らない、人から聞き、田舍から來た人から聞いた位でやられるから完全な栽培は出來ない、勿體ない話である、三本の胡瓜を十圓で買つて居る時に、胡瓜位は何本でも作れる、此の危機に迫つて居るならば、危機が迫つて居るらしくもつと國土を利用して、國土の天惠を彌が上にも私は上げて行かなければならぬと思ふ、さう云ふ零細な所に氣を付けて始めて國民が精神的に此の危機突破に協力することになつて來る、農村から來た時に惜しいことだ、こんなことをしないでもつと何とかやつたら出來やうが、指導したら宜からうと誰も言ふ、さう云ふ氣持で農村に歸つて蔬菜を供出しろ何を供出しろと言つても、何だああ云ふことをして居つてと云ふ氣持が自然起つて來ることは私は尤もだと思ふのであります、色々申上げたいのでありますが、農林大臣大分御急ぎのやうでありますから、肝腎なことは又農林大臣の御出席を求めて、明日にでも御尋ねをすることに致しまして、以上の此の根本的な考へ方に對して、農林大臣の本當の肝からの御意見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=13
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014・和田博雄
○和田國務大臣 御答へ致します、馬鈴薯と麥の價格を價格別引上で行かずに、唯奬勵金で行ひましたのは、一つには價格體糸との關係がありまして、價格体系を紊すと云ふことがありませぬやうに、暫定的な考へ方でやつたのであります、もう一つには、馬鈴薯を本年度の食糧の操作上、期限付の奬勵金であることを要しましたので、左樣に致しましたのでございます
それから開拓の問題でありますが、開拓の問題とそれに關係しまして政府が操作用として必要な米、麥其の他の雜穀、又甘藷、馬鈴薯と云つたやうな食糧を取纒めて五千萬石を得るのには、單に干拓だけではなく、現在の既耕地の生産力を上げて行くのが近道ではないかと云ふことでありますが、其の點は私も左樣に考へます、面積から言ひましても、現在既耕地の方が多いのでありますから、其の既耕地の生産力が段に付て假に二%なり三%なり上つても、總量は非常に多いことになるのでありまして、此の點に付きましては我々としましては、技術の滲透であるとか、其の他經營の改善であるとか、色々な事柄をやつて行つて居るのであります、さう云ふ方法の事柄は我我としても十分努力致して居るのであります、唯茲で考へなければなりませぬのは、政策と云ふものは、唯眼前のことだけに沒頭されてはならないのでありまして、將來のこともやはり考へて現實の政策を立てて行くことが必要なのであります、開拓、干拓、開墾と云ふことは成程、直ぐには效果は上りませぬが、是は將來に於て、それが實つて結果として出て來るのでありまして、丁度今農機具を造り、肥料を造る方へ資材を廻すのは、是は直ぐ食糧にはなりませぬが、次の生産の段階に於ては、それが食糧として出て來る、是と丁度同じやうに考へなければならぬのでございまして、干拓、開墾の問題も、一つには現在ありまする所の失業者の對策としますると同時に、將來の農業政策としても是は續行して行くと云ふ考へでございます、開拓のやり方に付きましては、御説のやうに十分科學的に調査し檢討致しまして、そこに齟齬のないやうに膳立を拵へてやつて行くべきことと思つて居ります、今後農林省と致しましては、唯單に功を焦らずに、十分好い結果が出て來ますやうに、豫め十分調査檢討を致しまして、又地方の古老の意見も能く聽き、又それを學理的にも十分吟味致しましてやつて行く積りであります、殊に二十一年度の開拓に付きましては、琵琶湖外十三箇所もやるのでありますが、今年は事業計畫の實地調査、資材の調達と云ふ準備が主としてやられるのではないか、斯樣に考へて居る次第であります
それから肥料生産に付きましては、硫安の生産に付きましても今の所出來るだけ全力を盡して居ります、石灰窒素も同樣でありまして、肥料全體として政府としては乏しい資材も優先的に配給し、石炭なんかも鐵道と同じやうに考へる位にして、現在の既存の設備を十全に利用して生産を上げるやうに全力を盡して居るのでございます、それ等の點に付て農林省と商工省とは十分な連絡を執つて居るのでありまして、兩省の間に其の點に關する齟齬はございませぬ
それから食糧營團其の他未利用資源の問題等を引括めて御答へ致しますが、私も若い頃から農村の人達と會つて話すのは非常に好きでありまして、よく農村の人達と話すのであります、其の時に私は一官僚としまして、行政が農村の末端に於て一體どう云ふやうに施行されて居るかと云ふことは、常に注意して聽いて居つたのでございますが、御説のやうに、私もやはり末端に於ける平凡なことが結局確實にやられて行くと云ふことが、政策の效果を上げる一番の途だと考へて居ります、其の點に付ては、中央に居る者が十分に注意を致しますと同時に、末端の者もそこの所は十分自覺して、自分の行つて居る仕事は非常に部分的な小さな仕事ではあるが、是は農家に對する關係其の他から見て、結果は非常に大きな效果を持つものだと云ふことを十分自覺されて、末端の所謂行政官がさう云ふ心構へで政府の大きく決めました政策を行政に移すと同時に、農家に於ても色々此の事情を十分理解されて、お互ひに此の行政を善くやつて行くと云ふことになりますれば、效果が非常に上つて來ると私は思ふのであります、只今言はれましたやうな點に付ての行政上の末端に於ける色々の不備に付きましては、私共として十分注意を致しまするし、又皆樣方に於ても十分注意されて鞭撻されんことを御願ひ致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=14
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015・森幸太郎
○森(幸)委員 色々澤山を申上げて御答辯を得なかつた點もありますが、今の御答辯に依りますと、干拓が十三箇所あると云ふ御話で、是が調査準備と考へて居ると云ふ御話がありますが、是はとんでもないことでありまして、既にあなたの方へ御報告になつてある筈でありますが、中の湖と入江湖、是は捕虜を使つてまでやつたこともあるのでありまして、三年も前からやつて居つて碌に仕上らない、今植ゑられない、昨年やられてもまだ仕上らぬが、さう云ふことを又調査研究をやると言つて居る、調査研究に日を費やして――國家の力でおやりになるのだから、十年掛つても二十年掛つてもおやりになるなら出來上るでありませうが、さう云ふことが生産意欲に障碍になつて居る、今間に合はぬでも、將來の生産の基礎になると仰しやる、それは分つて居る、減配になつて居る今日貴い米を失業救濟の方に廻す、さう云ふ所に貴い米を廻すと云ふことは、「マイナス」になるばかりではないか、と言つても干拓に全然私は反對するのではない、今の場合やつて宜いかと云ふことを考慮して戴きたいと云ふことを申上げたのであります
それから地主と云ふものが非常に惡黨のやうに言はれる、搾取階級であるとか、いやどうとか斯うとか、地主がまるで遊んで暮して居るやうに言はれるのであります、地主と言ひましても、ぴんからきりまで隨分ある、何十町歩、何百町歩と云ふ地主もありませうし一町歩、二町歩の地主もありませう、此の十町歩以下の地主と云ふものは一體今日どんな農生活をして居るか、是は實例を申上げて御意見を承りたい、農林大臣は御忙しいやうでありますから、是で今日の質問は打切つて置きますが、是は二十等級の場合であります、此の一等を占めて居る人の實際であります、是は貸付けた田が七町三段歩あります、七町三段歩で是の耕作料の收入が四千四百二十二圓です、それから公課や總てを差引致しますと、千九百二十二圓七十錢殘る、是が私の調べた村の一等級の人であります、千九百二十二圓七十錢殘ります、其の村で二十等の中の十四等に屬して居る自作兼小作農、是は自作が四段歩、小作が一町歩であります、此の收入は裏作、間作は刎ねて居ります、唯米だけの收入と御承知を願ひたいのでありますが、此の收入が七千六百八十圓でありまして、公租其の他を引きますと六千九百八十八圓九十二錢殘ります、次に純小作者、是は十九等の末端に近い純小作者でありまするが、一町四段歩小作して居りまして、此の收支差引が六千七百三十三圓六十五錢、是が十九等の小作者の純益であります、農業收入一等の地主の收入が、今申しました千九百二十二圓、今日斯う云ふやうな状態です、是は丸公で賣つて居る、闇ではありませぬ、丸公で賣つた米の收入であります、斯う云ふ實状で、是は七貸町して居る、約十町歩の地主階級でありますが、地主階級と申しましても今申しましたやうにぴんからきりまであるのであります、十町や十五町の地主と云ふものは、世の中が言はれるやうな有閑階級であり、搾取階級でありませうか、是等が農村と云ふものを非常に封建化さして居るやうに考へる人があるやうでありますが、農林大臣、果してどう御考へになつて居りますか、又地方に於きましては、是等の人が七町まで行かないでも、三町、五町持つて居る地主があつて初めて、農村と云ふものは總ての施設が出來、文化的の進歩が出來て行く、斯う云ふやうに私は考へて居るのでありますが、此の點の御所見を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=15
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016・和田博雄
○和田國務大臣 干拓のことに付きましては、具體的のことは私一寸分りませぬから御答へ致し兼ねますが、琵琶湖外十三箇所に付ては、やはり資材の調達とか、其の他場所に依つては今言ひましたやうに十分な檢討をしてやるべきである、斯う云ふことを申上げた譯であります
それから地主の點でありますが、地主は、個人的に見ますれば善い地主さんもあり、惡い地主さんもあると思ひます、唯日本が今斯う云ふ戰後の變革期にある場合でありますので一つの制度として見ますと、やはり農村の民主化と云ふことを行はざるを得ないのでありまして、其の點に於て、個人的に見ますれば立派な地主さんもあり、又惡い地主さんもあるのでありますが、個人の問題と制度全般の問題とは別箇に考へなければならないのではないか、斯樣に私達は考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=16
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017・成島勇
○成島委員長 本日午後は地方制度改正等の本會議がありまして、御關係の方も多いやうでありますので、森君の質問は明日も繼續して、本日は是で散會致します
午前十一時五十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=17
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018・会議録情報2
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〔參照〕
食糧緊急措置令委員會要求資料
北委員要求資料
一、主要農産物價格指數調
一、全國土地賃貸價格別面積調右の内北海道は特に詳細明記のこと
苫米地委員要求資料
一、本勅令施行以後、強權發動の適用を受けたる主要食糧の收用状況調
森(幸)委員要求資料
一、昭和十八、十九、二十年度各府縣別米、大麥、小麥、雜穀、未利用資源の實收量及び供出量調
一、耕地所有別農家戸数
一、耕作段別に依る農家戸数
一、米、麥、其の他農作物作付段別及び收量調
一、昭和十八年以來、干拓地の實績及び其の所要經費
一、昭和十八年以來開墾地の實績と將來の見込
一、干拓及び開墾の平均所要經費発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00219460704&spkNum=18
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