1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
食糧緊急措置令(承諾を求める件)
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昭和二十一年七月六日(土曜日)午前十時十四分開議
出席委員
委員長 成島勇君
理事 岩本信行君 理事 坂本實君
理事 森幸太郎君 理事 馬越晃君
理事 松岡運君 理事 須永好君
理事 細野三千雄君
大井直之助君 坂田道太君
廣川弘禪君 淵田長一郎君
本多花子君 八重樫利康君
苫米地義三君 堀川恭平君
叶凸君 清澤俊英君
田中健吉君 堂森芳夫君
北政清君 林興一郎君
的場金右衞門君 柏原義則君
山木武夫君 井出一太郎君
野本品吉君 志賀義雄君
出席國務大臣
内務大臣 大村清一君
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
大藏事務官 池田勇人君
農林次官 楠見義男君
農林事務官 三堀參郎君
農林事務官 坂田英一君
食糧管理局長官 片柳眞吉君
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本日の會議に付した議案
食糧緊急措置令(承諾を求める件)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=0
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001・成島勇
○成島委員長 開會致します、通告順に依つて質問を許しますが、其の前に、農林大臣は午前中「マッカーサー」司令部の方に打合せに行きまして見えられないさうであります——岩本君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=1
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002・岩本信行
○岩本委員 極めて簡單に二、三の事項を御尋ね致します、私は自分自身が農業であり、同時に周圍悉くが農業でありますから、本當の農民の心理と云ふものを掴んで居る積りでありますが、此の農民の心持を肥料問題に付て例へて見ますと、農民と致しましては、國營でやらうと、民營でやらうと、或は國家管理でやらうと、さう云ふ機構に付てはちよつとも關心を持つて居らぬのであります、要するに、何でも増配して呉れれば宜いのだ、斯う云ふことが本當の農民の要望なのであります、併しながら我々としてはどう云ふ機構に依れば増産が出來るかと云ふことは、農民の心理はさうでありましても、別に此の點は御尋ねしなければならぬのであります、昨日の質問に對しまして、國家管理をおやりになると云ふやうな風に受取れたのでありますが、其の場合に付て國家管理が宜いかどうかは理論を別にして、私は然らば國營でやれば、どう云ふ長所があり、どう云ふ短所があるか、それから民營でやれば、どう云ふ長所があつて短所がある、國家管理でやるのだと云ふことであれば、どの程度突き進んだ所の國家管理をやられるか、所謂國家管理にも程度がございませうが、どの程度まで眞劍におやりになるのであるか、斯う云ふ點を先づ御聽きしたいのであります
そこで此の間私共神奈川縣の代議士が主催致しまして、生産縣の十何縣かの代議士諸君を昭和電工へ案内致しましたが、彼處へ行つて見ますと、努力に依つて生産が相當に出來て居ります、而して本當に出來上つた「アンモニア」の上に雨がどんどん漏つて居ると云ふ姿でありまして、其の當局者の説明に依りますと、雨の降る日が一番心配だ、是が溶けはしないかと云ふことで全く心配して居る、併しながら屋根の資材はどう騷いでも廻つて來ない、出來た肥料が溶けて流れると云ふのに、其の上を防ぐ所の屋根材さへ廻つて來ないと云ふ話を聽きまして、國家管理にしても、民營も國營もさう云ふことは別に致しましても、さう云ふ點だけは何れの途にするにせよ手を加へなければならぬと思ひますが、現在さう云ふ點に付てどう云ふ風に愼重にやつておいでになるか、其の點を先づ一寸聽いて置きます
それから二、三點でありますから續けて御聽き申上げますが、私は大勢に依つて唱へられて居ります所の、繭の綜合供出制と云ふものに重大な關心を持つて居るのであります、今日所謂養蠶と云ふものが段々減つてしまふ、減つてしまふのはどう云ふ理由であるかと云ふことを調べて見なければなりませぬが、此の減る理由は、結局今の七百掛と云ふ相場は、相場の上から言へば私共は決して安いものではないと思ふのであります、相場が安くないのにどうして減るのだらう、斯う云ふことになれば、結局繭と云ふものは出來上りまして、それが殘りを生じましても闇賣は出來ない、物々交換の材料にはならぬ
〔委員長退席、坂本委員長代理著席〕
斯う云ふことが、相場が或る程度維持して居りながら、頼まれても頼まれないでも桑をどんどん拔いてしまふと云ふことに歸著して居ると思ふのであります、そこで繭一貫二百匁ありますと丁度米一俵と交換出來る比率になつて居りますから、實際問題としては見返り物資の最重要な品として養蠶を相當復活すると云ふことは、將來の國策上絶對必要だと思ふのでありますが、さう云ふ理由に依つて養蠶が段々減つて行つてしまふ、所が此の養蠶の問題を考へて見ますと、丁度百二十貫の繭で生絲一俵が出來る譯であります、所で其の百二十貫の繭が出來る中には、約二十貫に垂んとする窒素、燐酸、加里と云ふやうな肥料が所謂蠶下の中に含まれて居る、其の點非常に此の肥料不足に對して救はれる譯である、而して又薪炭不足に對しまして、百二十貫の繭を穫りますと、丁度焚木が五、六人の家族で一年間燃せる、斯う云ふ所謂一石三鳥と云ふことに確かになると思ふのであります、さう云ふ理由でありますから、どうしても養蠶と云ふものを復活して、見返り物資を作つて行くと云ふことに付きましては、何と致しましても綜合供出の中に繭を入れてやる、斯う云ふことより外途はないと私は確信致して居りますが、此の繭を綜合供出の中に入れられると云ふ御考へはないかどうか、又ないまでもやつて貰ひたいと云ふことを強く要望するのでありますが、其の點に對する所の見解はどうであるか、此の點が一つ
それから今一つは餌の問題であります、何に致しましても、餌がなくては牛が飼へない、有畜農業絶對であるけれども、馬も牛も段々に減るのであります、此の分で行くと絶對に減つて行くのであります、そこで餌の對策と致しましては、滿洲からも望めず、何處からも望めませぬから、私は是はどうしても餌畑を公認してやる、併しながらこんな風に畑が少い時に餌畑を認めてやると云ふことは相當困難であります、幸ひにして百萬町歩か百五十萬町歩か増段と云ふ計畫があるのでありますから、此の増段計畫の中から相當所要の餌畑を公認してやる、供出しないで宜いと云ふ餌畑を公認してやる、併しながら増段の箇所は一地方に局限せられますから、其の増段した畑から餌畑を認めると云ふことでは、全國的に輸送關係其の他から惱みがある、隨ひまして其の増段の中から何十町歩、何百町歩を餌畑にやるのだと云ふ建前を執つて、それの按分比例で全國の耕地に對して分配してやる、斯う云ふ方法を執られるかどうかと云ふことを御尋ね申上げるのであります
而して昨日御話になりました五千萬石の最低限度が確保出來ると云ふ御話の中には、味噌や、醤油、酒などが其の五千萬石の中に含まれて居つて、尚且つそれで最低が保證出來るのか、其の最低と云ふのは二合一勺であるかと云ふこと、それから復員或は在外同胞が歸ります、其の人口増加をどの程度に見込んで、今の五千萬石が最低なのだ、斯う云ふ時に今の人口の殖える關係はどうなつて居るか、此の四つだけを御尋ね致して置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=2
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003・楠見義男
○楠見政府委員 御答へ申上げます、先づ第一點の肥料の問題でございますが、岩本さんから御述べになりましたやうに、農民としましては一叺でも多くの肥料が出來、又一貫目でも多くの肥料が増配せられると云ふことを欲するのが農民の眞の聲であります、併し又御話になりましたやうに、其の増産をどう云ふ方法を以てして行くかと云ふ、機構的な、又組織的な事柄も併せて考へなければならぬと云ふので、茲に經營形態として民營が良いか、或は國營が良いか、或は其の中間に於ける管理形態が良いかと云ふことが問題になる譯であります、純然たる自由奔放にした民營に付きましては、是は現在の情勢の下に於きましては中々困難である、或る程度之に所要の統制なり、或は管理、更に進んでは國營と云ふ問題が論議の對象になることは御承知の通りであります、そこで國營の問題に付きましては、是は先般農林大臣から本會議で御説明申上げました通りでありまして、經濟安定本部が發足致しました場合に、國營準備調査會等に於きまして、國營が良いか惡いか、又假に國營でなければならぬと云ふ結論に達したと致しますれば、其の方法をどうするか、斯う云ふことを愼重に御檢討願ひたいと思つて居るものであります、隨て國營の問題に付きましては、其の方に移したいと存ずるのでありますが、然らば現在の形態はどうかと申しますと、是は或る意味に於きましては、買取專賣のやうな形態で今やつて居るのであります
〔坂本委員長代理退席、委員長著席〕
此のことは御承知のやうに、各肥料の製造會社が生産致しました肥料は、總て之を統制機關である日本肥料株式會社に必ず賣らなければならぬと云ふことになつて居りまして、其の賣りました肥料は、國の意見に基きまして公正な配分を今致して居るのでありますが、此の場合に、生産した業者に對しまする増強の方策であります、此の生産増強の方策に付きましては、是も御承知のやうに、戰爭中は軍需會社法がございまして、之に對して生産命令を發し、又生産責任者を設けしめまして生産の推進を致して參つたのでありますが、軍需會社法が廢止されました結果、其の方面が今全然缺けて居るのであります、そこで是等の點に付きまして、生産増強に付て何等かの措置を講ずる必要があらうかと思ひます、同時に幾ら生産命令を出しましても——是は戰爭中でもよくあつたのでありますが、生産命令を出しましても、それを裏打ちするだけの資材の手當其の他のものが出來なければ、結局机上「プラン」であり、又机上「プラン」に基いた命令になる譯であります、生産増強の裏打ちになる資材、斯う云ふ面に付ても同樣の強力な措置を講じて、生産が出來るやうに尻から押して行くやうな措置が講じられなければならぬと思ふのであります、先程雨漏りの問題で資材の點に付きましても御話がございましたが、全くさう云ふやうな状態に放置致して置きますると、折角の此の貴重な物が、農家の手に移るまでに溶けてしまふと云ふことになりますので、具體的に各工場毎に見まして、工場毎にそれ等の點を十分計畫を立て、さうして今申しますやうな色々な尻押しの手段を講じてやつて行きたい、斯う云ふのが現在私共と致しましては考へたいと存じて居る所であります、唯内容に付きましては、まだ政府と致しましては決定を致して居りませぬので、大體方向は今申上げましたやうなことでございますけれども、具體的な内容はまだ申上げるまでには至つて居らないのであります、其の點御諒承を願ひたいと存ずるのであります
それから第二點の繭の綜合供出制の問題でありますが、御話にありましたやうに、繭は見返り物資として、又將來の我が國の在り方等に付きまして想像致して見ましても、貿易品としてどうしても蠶絲と云ふものは保持して行かなければならぬ問題であるのであります、隨て私共も繭は食糧なりと云ふことを只今言つて居るのであります、と云ふことは、現在の食糧事情の非常に苦しい現状況に於きまして、最も國家が欲する所の食糧を得る爲の見返り物資として、今申しますやうに繭は食糧なりと云ふことを申すのでありますが、假に食糧事情が緩和致しました場合に然らばどうなるかと申せば、やはり其の場合に於きましては、其の當時に於ける我が國の經濟、産業状況から見て、最も必要なものを輸入する爲には、どうしても繭と云ふものが必要になつて來る次第であります、其の場合には最も必要なものを得る爲に、繭が見返りの役をなすと云ふことになる譯でありまして、何れに致しましても、繭は私共と致しましては是非確保して行かなければならぬと考へて居るのであります、そこで綜合供出の問題でございますが、從來私共が食糧の綜合供出と云ふことを申して居りますのは、同じ食べ物、即ち米麥或は甘藷、馬鈴薯、又は牛乳等も考へられるのでありますが、さう云ふ食糧に付ての彼此融通性を見まして、それを全體として其の間に綜合性を持たせ、代替供出を認めて居つたのであります、隨て繭の問題に致しましても、御話にはございませぬでしたが、木炭、薪或は亞炭に至るまでさう云ふ問題があるのでありますが、斯う云ふやうなものの點に付きましては、實は綜合供出と云ふことではなくして、結局其の狙ふ所は、生産の減退致しまする理由が食糧にある譯でありますから、隨て繭の生産者が、他の生産者と同じやうに食糧にこと缺かないやうにと云ふ點を政府としては考へると云ふ方向に向つて進んで參りたいと考へまして、例へば本年に於きましても、一つ一貫目に付て一升特配をしよう、尤も是は食糧事情も斯う云ふ状況でありますから、半分は取敢ず出し、あとの半分は食糧事情が少し緩和し次第出さう、斯う云ふことで結論としましては、養蠶農家に食糧不安なく養蠶に專念出來るやうに努めて行きたい、斯う云ふことを實は考へて居るのであります、併し全體と致しまして、先程申上げましたやうに、繭の重要性は全く御話の通りであります、結局養蠶をどう云ふ風にして建直して行くかと云ふことに付きましては、相當はつきりとした、がつちりとした再建方策、例へば此の養蠶に付て具體的に——實は食糧あたりでは各各農家々々毎に生産段別、生産數量或は家族構成と云ふやうなものをはつきり致しました米穀管理臺帳と云ふやうなものを作つて、合理的にやつて居るやうな府縣もあるのでありますが、養蠶に付きましても、之を再建致します場合には、此の基礎の養蠶農家からはつきりとした體制を一つ作りまして、さうして今申しますやうに、食糧に不安なからしめると云ふやうな方法を併せて考へたいと思ひまして、現在私共の方の蠶絲局に於きましても色々案を練つて居るやうな次第であります、是等の點に付きましては、尚ほ色々御推進も御願ひ致したいと存じて居るのであります
それから第三番目の飼料問題でありますが、飼料問題に付きましても、御話になりましたやうに、是は從來のやうなやり方で參つて居りますと、食糧と飼料と云ふものが食合ひの恰好になりまして、結局是が家畜、延いては堆廐肥の原材料を減少せしめ、土地の生産力をそれだけ落す譯でありまして、結局是はぢり貧のことをやることになる譯であります、此のことは能く承知を致して居るのでありますが、結局急場の急を賄ふ爲に色々無理なこともやつて居るのであります、隨て此の點に付きましては、やはり此のぢり貧の方策と云ふものは、漸次さう云ふことでないやうに變へて行かなければならぬことは申すまでもないのであります、そこで例へば乳牛に付きましても、實は乳製品の供出に對しましては、それを麥として、麥を還元すると云ふやうな方策も採つたのでありますが、實は乳牛の場合に、其の乳牛を飼養して居りまする農家に對しては、供出をさせない畑を認めるか、或は供出した牛乳に應じて麥其の他の飼料を還元するか、どちらの案を採るかと云ふことに付きまして業者の方々の御意向を伺つつたのでありますが、結局牛乳を出した場合に麥を還元して貰ふと云ふ方法を欲する向きが多かつたので、唯今申上げましたやうな方策を採つたのであります、併し全體の問題と致しましては今申しますやうに、從來のぢり貧政策から出來るだけ早く昔に戻るやうな方向に行きたいと考へて居るのであります、又開墾地のものに付て、之をどう云ふ風にやつて行くかと云ふことに付ての御意見等も承つたのでありますが、是等の問題は能く檢討さして戴きたいと存ずるのであります、併し開墾地の經營に付きましては、是は御承知のやうに、非常に生産力の少い、又酸性の多い土地に付て今後開墾をやつて行かなければならぬ譯でありますから、結局是等の地方に於きましては、どうしても家畜を導入し、有畜農業と云ふことを相當強度に取入れませぬと、是からの開墾地に於きまする農業經營の觀點から見ましても、又土地の生産力を維持して行く、或は改善して行くと云ふ觀點から見ましても、どうしても此の問題は併せて考へなければならぬ問題だと存じて居るのであります
それから最後に五千萬石の點に付て、味噌、醤油等が入つて居るかどうかと云ふ御尋ね、竝に人口増の問題でありますが、實は味噌に付きましては、是は大體原料は御承知のやうに大豆類でありまして、之に米を若干入れるのでありますが、此の入れます方の米は入つて居りますけれども、主原料であります大豆と云ふやうなものは五千萬石と申上げました數字には入つて居らないのであります、醤油に付きましても同樣であります、是等の大豆其の他の原材料の確保と云ふことに付きましては、私共の方としては別途考へて行きたいと存じて居り、現状は是等の原材料が非常に窮迫致して居りますので、聯合軍の援助を懇請して居るやうな状況であります、それから人口増の問題でありますが、本年は海外よりの歸還者等に付きましては、其の方の擔當の部局からの報告に基きまして、海外復員者の數は織込んで居るのでありますが、同時に人口の自然増と云ふものを大體年間七%位を見て居るのであります、斯う云ふことで本年は需給の推算を立てて居るのであります、是は昨日も申上げましたやうに、今後やはり人口はどんどん殖えて行く譯でありますから、それに即應して此の五千萬石と云ふ數字も變つて來ると云ふことになる譯であります、尚ほ五千萬石は二合一勺を「ベース」にして居るかどうかと云ふ御尋ねでございましたが、現状の此の二合一勺で行けば五千萬石である、併し是も昨日申上げましたやうに、將來之を舊に戻し、二合一勺を殖やして行くと云ふことになつて參りますれば、當然此の五千萬石と云ふ數字は殖えて參る、斯う云ふ風に御諒承願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=3
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004・岩本信行
○岩本委員 唯今肥料の問題に付て御答へがありましたが、今日の時局は、もう食糧増産に付ては其の一點に掛つて居るのでありまして、唯今の御話を聽きますと、國家管理の極く一面を扱つて居ると云ふやうな行き方の、國家管理に準じて居るやうでありますが、丁度戰爭中の軍需會社法のやうな、凡ゆる工場を飛行機製造一本に轉換させたと云ふ、ああ云ふ意味に持つて行かなければ肥料の問題は解決しないと思ふのでありまして、隨て軍需會社法に準じたやうな食糧確保會社とでも申しますか、さう云ふ意味の會社を作つて、それを國家が扱つて行くと云ふ位まで行かねば駄目だと思ふのであります、國營の研究もあり、民營の是非論もありますから、さう云ふ風に私は思ひますが、尚ほ愼重に其の點に付き御考へを願つて置きます
尚ほ繭の綜合供出制に付きましては、生産者の食糧に事缺かないやうにと云ふ程度の考へ方では絶對殖えて參らぬと私は思ふ、併しながら生産者に本當に事缺かない程度まで扱つてやれるのなら、それは理想に行くのでありますけれども、十貫目出して何升だ、先程申上げましたやうに、一貫二百目の繭と米一俵と丁度交換になるものを、十貫目出して何升だけを生産者に與へると云ふやうな生緩いことでは駄目だと思ひます、是は再質問致しませぬけれども、其の點はもつと愼重に御考へを願ひたいと思ふ、それだけ申上げて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=4
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005・成島勇
○成島委員長 叶凸君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=5
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006・叶凸
○叶委員 質問に先だちまして、議事進行に付て委員長に希望意見があります、農林省關係の法案は數々出るさうでありますので、私の質問は大體要點に止めたいと思ふのでありまするが、尚ほ其の討論に觸れなければならない問題が多々あるのでありますが、それは尚ほ機會を得て發言して宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=6
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007・成島勇
○成島委員長 結構でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=7
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008・叶凸
○叶委員 現在の凡ゆる問題が一に増産、二に増産、三に増産、總て増産に懸つて居ると信ずるものでありまするが、食糧緊急措置令に關しまして、農村に於きまする増産の面、其の農村に於きまする所の食糧を如何にして都市に持つて行き、又農村に於て生産に從事致して居ります所の耕作農民が安んじて食糧の増産に勵み得るやうな、さう云ふ缺くべからざる所の品物を都市の勞働者諸君から運んで來て貰ふ、さう云ふ物と物との交流面に於きまして、特に農村の面を強く反映致しまして御質問申上げたいと存ずる次第でありますが、質問事項に付きましては、第一に土地の問題、是は農林大臣に御伺ひしたいのであります
第二に農民組織の問題、是も同じく農林大臣に御質問申上げたいと思ひます、次に第三と致しまして食糧の問題、是も農林大臣に御伺ひしたいのでありますが、大別致しまして米麥其の他食物に關する問題、供出、強權發動の問題、又割當の問題、第二項と致しましては、青果、魚介其の他副食物に關する問題、此の點に付きましては集荷と配給の面に付て御質問申上げたいのでありますが、自由販賣を斷行されましたる時の農林次官であります現厚生大臣に、現在の心境、御考へを一つ御伺ひしたいと、特に希望する次第であります、第四に肥料、農機具、資材の問題、特に國營の問題に付きましては、農林大臣、商工大臣、兩御者の代表的御意見を一つ聽かせて戴きたいのであります、第五に價格の問題、是は三、四、五と關聯する譯でありますが、都會に於ける生産物と農村に於きまする生産物との價格の「バランス」、端的に申しまするならば、米の價格をどうするか、斯う云ふやうなことに付て御質問申上げたいと思ふのであります、是は同じく農林大臣と商工大臣に御願ひしたいのであります、第六は開拓干拓、休閑地の利用、軍用地、軍需工場の未建設の敷地がある、さう云ふ土地の利用の問題、是は農林大臣に御質問申上げたいと存ずる次第であります、第七は水産の問題、是も農林大臣に抱負經綸の程を伺ひたいと存じますが、此の問題に付きましては、他に此の方に詳しい同志もありますので、資料の提出を特に御願ひして置きます、第八は、食生活に依る所の國民の犯罪が非常に増加して居る、それに付きまして内務大臣に一つ御質問申上げたいと存ずる次第であります、第九に、最近の農民に課せられつつある所の重税の問題、所得税の問題に付きまして大藏當局の御答辯を御願ひしたいと存ずる次第であります、以下項目に付きまして御質問申上げたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=8
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009・成島勇
○成島委員長 叶君に申上げますが、農林大臣は午前中「マッカーサー」司令部においでになつて見えないさうであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=9
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010・叶凸
○叶委員 非常に優秀な農林次官が居られますから結構であります——第一の問題に入る前に、食糧の増産と農産物の供出を阻碍して居る主なる原因は、私は左の五點であると考へて居ります、一つは土地制度改革の遲延、第二、農業經營物資の不如意と農家必需品の不足、第三に、政府への不信と現地官公吏に對する不滿、第四に、民主的農民組織の不備、第五、供出割當制の不完全と米價の他物價との不均衡、斯う云ふことであります、質問に入る前提として、農林當局に對する希望でありますが、何と申しましても、如何なる良い方針を立て、如何なる論議をやりましても、結局は人の問題で、推進力と斷乎たる決意を以て之をやり通すと云ふ熱意なしには何も出來ない譯でございまして、當農林省關係の委員會に於きまして、農林省を中心として青年官公吏諸君が現在の食生活の解決の爲に猛烈に刷新運動でも起されて、一つの大いなる目的に向つて邁進せられんことを先づ希望的に申上げる次第であります
昭和二十一年二月十七日の緊急勅令、食糧緊急措置令は「帝國憲法第八條第一項及第七十條第一項に依り」云云と書いてございますが、此の帝國憲法第八條第一項竝に第七十條第一項を讀上げますと「天皇は公共の安全を保持し又は其の災厄を避くる爲緊急の必要に由り帝國議會閉會の場合に於て法律に代るへき勅令を發す」次に第七十條の第一項でありますが、「公共の安全を保持する爲緊急の需用ある場合に於て内外の情形に因り政府は帝國議會を召集すること能はさるときは勅令に依り財政上必要の處分を爲すことを得」斯う云ふ風に書かれて居ります、それで先づ御質問申上げたいことは、此の緊急勅令の理由と致しまして、食糧需給の逼迫した状況に鑑みて、主要食糧の收用其の他食糧の供出の促進、配給の公正化等を圖る措置を講ずる緊急の必要があつた爲め、斯う云ふ文章があるのでありますが、私共の考へ方から致しますと、どうも政府の農民大衆に對しまする所の考へ方と申しまするか、私共が感得するものは、政府は、なぜに農民の愛國心に全面的に信頼し、協力を求めないのか、斯う云ふ感想であります、憲法第八條第一項、第七十條第一項と食糧緊急措置令との關係を、もう一度御説明を願ひたい、斯樣に存ずる次第であります、政府の諸君は民衆と共に祖國の苦難に心身を捧げ盡すと云ふ所の熱意を持ち、さうして此の緊急勅令なんかは、從來特權階級が民衆に對しまする所の、袞龍の袖に隱れて發しました所の一つの法律提出の方法でありまして、之をなぜ今日唯今でも、此の農民大衆に對しまして、本會議に於きまする所の農林大臣の發言を聽いて見ましても、之を墨守しようと云ふ所の熱意を持つて居るのはどう云ふことなのか、斯う云ふことに付て先づ御質問申上げる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=10
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011・楠見義男
○楠見政府委員 御答へ申上げます、食糧緊急措置令の制定を致しました當時の状況竝に其の理由と云ふことに付きましては、本會議竝に此の委員會の劈頭に於きまして、農林大臣から申上げました通りでありますが、唯今叶さんから御尋ねでございましたので、もう一度此の點を申上げて見たいと思ふのであります、御話になりましたやうに、本來此の供出と云ふものは、盛上る愛國心、或は同胞愛と云ふものに依つて之を解決するのが本筋である譯であります、併しながら其の情勢は然らばどうであつたかと申せば、結局總ての農民とは申しませぬが、一部の農民の間には、極めて日和見的の態度が多かつたのであります、是は叶さんも能く御承知の通りでありまして、何處の村内でも、一人か二人極めて不良な人が居るのでありますが、此の人達が出さない、さうして之を供出せずして闇に流して居る、正直な人は供出割當を完了するのでありますが、此の一人、二人の極く小數の人々の存在と云ふものが、非常に惡い影響を與へたのであります、具體的に申せば、例へば一昨年もあの人達は何等の處分も受けず、堂堂と闇をやつて居つた、去年もさうであつた、今年も亦さう云ふ風なことである、斯う云ふことでは、我々は一生懸命、國の食糧事情が苦しいから出さうと思つても、ああ云ふ人が存在して居る以上は出せぬ、馬鹿らしい、斯う云ふのが本當に農村に於ける聲であつたのであります、私も直接農村人からさう云ふ話も伺ひました、尤も色々其の前に割當の公正、或は不十分であると云ふやうな問題もありますけれども、日和見的態度を執り、馬鹿らしい、其の氣持を持つた最も大きな理由はさう云ふ點にあつたのであります、政府はなぜ斯う云ふ惡徳な、惡質な農家をやらないのだ、我々ばかりを出せ出せと言つて責めて、斯う云ふことをどうしてやらないのだと云ふのが一般の聲であつたと私は承知して居るのであります、隨て斯う云ふことから致しまして、現實の此の集荷の状況を御覽願へれば、是は一目瞭然である譯でありますが、結局米は穫れた、併し出て來るのは少い、さうして是が闇に流れると云ふことになります、此の場合に、當時其の闇は一體どう云ふ方面に流れたか、勿論所に依りましては普遍的に流れた場合もごさいませうけれども、極く一部の人々の所に流れて居る、斯う云ふことになつて參りますと、それが又價格を吊上げ、結局是も先程岩本さんに御話し申上げたのでありますが、例は違ひますけれども、惡循環に惡循環を重ねて、結局國民全體が非常に飢ゑると云ふことになりまして、當時は外國からの食糧を輸入はして貰へると云ふ原則的の許可はあつたのでありますが、併し何時入つて來るかと云ふことは當時分らなかつたのであります、そこで確實に輸入食糧を得られるけれども、入つて來るまでの間は、何としても國内で食ひ繋いで參りませぬと由々しき事態になり、食糧需給の破綻は結局公共の安寧秩序と云ふものに、極めて重大な、直接的な影響を持つて參る、斯う云ふことから致しまして、緊急勅令の御制定を仰いだやうな次第であります、又財政上の處分の關係に付きましては、政府は其の米を需給特別會計で買收致しますので、此の方の財政上の關係から致しまして、其の條項に該當致しますので、併せて是も原因と致しまして御制定を仰いだ、斯う云ふことに相成つて居るのであります、當時の供出の状況、又農村に於ける一般の風潮竝に中間指導者の一部の人々の風潮、斯う云ふものを能く振返つて御考へ願ひますと、結局此の緊急勅令はどうしても國を救ふ爲には已むを得ざるの處置であつたと云ふことが十分御諒承願へることと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=11
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012・叶凸
○叶委員 農林次官の御發言に對して、私も二十年近く農民運動をやつて來たものでありますので、實情を能く知つて居る譯であります、遺憾ながら農林次官の御發言の趣旨に反するやうな事態を我々は多く見聞して居る譯であります、或る老農は斯う云ふことを言つて居るのであります、即ち戰爭中のやうな、警察の諸君が土足を以て農家に供出其の他の壓制をやることが出來なくなつたので、政府は斯う云ふ風な緊急勅令を出して我々貧農をいぢめるのではないか、斯う云ふことを言つて居るのであります、寧ろ私共の見聞致しまする所に依りますと、相當餘剩米を持つて居る所の農家は中農以上の人達でありまして、さう云ふ人達は供出をすることも出來まするし、又餘剩を自分の親類縁者に分つだけの餘裕を持つて居る譯であります、所が私が河内の農家に於きまして實際に見聞致しましたる所では、五段百姓以下の百姓と申しますものは、自分の一家族がありますならば、必ず外に賃金勞働或は女工に行くと云ふ風で、現金收入の途を講じて居りまして、眞面目に政府が要求するやうな供出に關する食物を作つて居るやうなもの、さう云ふやうな五段百姓は、都會の人達が考へて居る程それ程宜いものではないのであります、實際戰火に燒かれましたる所の親戚を抱へ、自分の子弟はまだ戰爭から歸つて來ないと云ふやうな悲慘な農家が、秋に收穫する爲に既に新米を借りて食込んで居る、それが一年、三年、五年、十年と重なる譯でありますから、供出なんかも十分出來ないのであります、さう云ふ所に對しまして強權發動の令状が執行される、やはり官吏も血もあり涙もある譯でありますから、其處へ參りますと、とんでもない實情であるから、一應出したことにして置け、還元米をやりませう、斯う云ふことで解決を見て居るのであります、私も實際足を運んだ所が二箇所や三箇所ではないのでございまして、農林當局から出されて居ります所の資料に依りますと、大阪に於きましてはさう云ふ所はないと云ふ風に統計に出て居りますけれども、それは私共が賢明なる當局の人達と實際に折衝した所が、此の數字の上に於きましては、出ると云ふ形になつて現はれて居る譯であります、時間のこともありますので論旨を進めますが、遺憾ながら農林次官の仰しやつて居ることと反對の現象を我々は多く見聞して居ると云ふことを申したいと思ふのであります
それから土地問題でございまするが、先づ第一に當局の持つ土地改革の構想と云ふものを一つ御聽きしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=12
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013・楠見義男
○楠見政府委員 土地の問題に付きましては、現在關係方面とも色々折衝中でございまして、近く此の議會にも提出の運びにならうと思ふのでありますが、唯今は今申しましたやうな經過になつて居りますので、別の機會に御答へ申上げたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=13
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014・叶凸
○叶委員 農林次官の御答辯は豫て私の豫期して居つた譯でありますが、新聞でありますとか色々な點に付きましては、農林當局の談として出て居る譯でありますが、日本に於ける代表的新聞などに發表されて居りまする所の、色々な農林當局が示して居ります土地改革の構想を、大體農林當局諸君の御考へになつて居る構想であると私共は考へて宜い譯ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=14
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015・楠見義男
○楠見政府委員 農林當局の意向を新聞等に發表致したことは實はございませぬ、是は御承知のやうに、土地の問題は非常に重要でありますと同時に、國際的の問題として、是も御承知と思ひますが、對日理事會あたりでも非常に揉んで居る問題であり、事柄が極めて微妙でございまするので、農林當局と致しましては新聞等にはまだ發表はして居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=15
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016・叶凸
○叶委員 農地調整法の改正が昭和二十年十二月二十八日になされて居る譯でありますが、更に其の改正の意圖が農林當局におありになる譯でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=16
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017・楠見義男
○楠見政府委員 先般御協贊を得ました農地調整法の改正法律に付きましては、更に本年の三月十五日を期限と致しまして司令部からも指示がございまして、從前の土地改革に付て更に改善の歩を進めると云ふことで現在進んで居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=17
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018・成島勇
○成島委員長 叶君、唯今厚生大臣が見えましたから、其の方を先に御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=18
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019・叶凸
○叶委員 それでは厚生大臣に伺ひます、實は「實業之日本」の六月號に、我が黨の河野密君と河合厚生大臣の、資本主義か社會主義かと云ふことに付きましての御話が載つて居る譯でございますが、聞く所に依りますと、當時の生鮮食料品の自由販賣を斷行されたのは、厚生大臣が農林次官でおありになつた時であると云ふ風に聞いて居りますが、現在八大都市で青果物の入荷が問題にならない程少いのであります、是が非常に大きな問題になつて居る譯でございまして是は黨の意見よりも、私個人の見解として御聽取りを願ひたいと思ひますが、現在の應急對策は非常に大きな問題ではないかと存ずるのであります、昔からなま物に値ひなしと申しまして、鮮度の高い生鮮物の取扱ひ方と云ふものは非常に難かしいのであります、殊に現在の惡循環などに關聯致しまして、丸公などの面から考へましても、凡ゆる觀點から見ましても、非常に難かしい、又統制經濟の一番弱い環であるやうに私は見て居る譯でありますが、厚生大臣はさう云ふ青果物の集荷配給に付きまして、現在どう云ふ考へを持つて居られるかと云ふことを御參考までに聽かせて戴きたいと思ふのであります
それから、是は御願ひでありますが、工場の加配米に付てであります、大阪の實例で申しますと、一般配給が一箇月十八萬石要る、一日消費しますと約六千石、所が工場加配米一箇月が約七千五百石でありますから、工場に働いて居る勞働者諸君に加配米を一箇月渡す爲には、全體の一日分を割けば宜い譯であります、現在農村なども農機具、肥料、色々の物を作つて貰ひたい譯でありますが、勞働者諸君の胃の腑を空つぽに致して置きますと、機械が廻らずに眼が廻ると云ふ結果になるのでございまして、此の點に付きまして厚生大臣は如何なる御努力を直接の農林當局と御折衝中でございますか、それも序に御願ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=19
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020・河合良成
○河合國務大臣 唯今「實業之日本」に付ての御話でございましたが、實はあれは私が厚生大臣にならぬ前に話したのですが、雜誌の出たのが遲いものですから、厚生大臣と河野密君との對談と云ふことになつて居るのでありまして、其の點を第一に御諒承願ひたいのであります
それから今青果物に付てどう云ふ考へを持つて居るかと云ふ御尋ねでございましたが、是は實は私の所管でないものですから、其の儘私の考へを申上げますことはどうかと思ふ點もありますので、寧ろ私が其の撤廢をしました時の状態を申上げて御推測を願ふ方が適當ではないかと思ひますので、左樣御承知を願ひたいと思ひます、私が農林次官になりましたのは昨年十月四日かでございましたが、其の前の情勢は、御承知の通りに、昨年夏から秋の初めに掛けまして青果物、野菜、魚と云ふものは殆ど市民の手に入らぬ、當時の數字は、魚も野菜も僅かに一日一錢分しか入らないで、あとは皆買出しで、ああ云ふ風に雜踏したと云ふやうな状況であります、それであの統制經濟と云ふものは一つの型でやつて行きますと結局行詰るものであります、今まで統制經濟で旨く行つたことは世の中に一つもなからうと思ひますが、其の丁度行詰りの頂點に來ましたから、是はいかぬと思つて、表のものを裏に引繰返した、是はいかぬ、統制經濟だから——是はあの時の情勢ですが——と云ふので之を撤廢しまして、司令部に行つて十一月十五日に司令部の指示を受けまして、十一月二十日から之を撤廢したのであります、さうしますと、俄然品物は殖えました、東京に集つたのは例へば十一月上旬には一日二萬二千貫來て居りましたものが、之を撤廢した十一月下旬には八萬二千貫來て居ります、十二月上旬には十二萬八千貫、十二月中旬には十三萬五千貫、十二月下旬には十一萬五千貫と云ふやうに、野菜の數量が非常に増した、此の點は私は宜かつたと思ひます、それは何に拘らず、兎に角市民の口に入れなければ此の危機は脱せぬ、それだから値は少々高くなつても、結局正當防衞の爲めやりました結果入つた、けれども値は上りました、尤もあの時の公定價格が大根一貫目二十六錢、協定價格になりましても二圓五十錢位、特別に扱つても二圓五十錢位であつたが、値は十七、八圓、十數圓と云ふのも出ました、それかを九圓、五圓に落著き、安いのは三圓五十錢と云ふやうに色々なりまして、先づ十一月、十二月中頃までは大したことはなかつたのでありますが、其の後非常に暴騰した、さうして野菜の冬枯れになるもんだから非常に暴騰して、一月半ば頃でしたか、私が辭める時には大分高くなつて、是は「インフレ」を誘致するのだと云ふやうな色々な議論が起つた、是は私は絶對的に良いと云ふ信念でやつた譯でなく、行詰つた状態をくるつと變へなければならぬと云ふ信念でやつた、それで段々世間も喧しくなつた、併しながら冬の眞最中になるから、是は統制をしても、値を高くしても出て來ない、それで廉賣制度を實施しようと云ふので、内閣が頻りに協議して居る時に私は辭めた、其の後私の考へをもつと「デベロープ」して廉賣制度をやつて此の冬を越したと云ふのが實情であります、當時の實情を考へますると、それから色々なことが言へる、統制經濟は巧くやらぬと、中々旨く行かぬものだ、殊に青果物は兎も角として、魚は中々旨く行かぬ、と言つて野放しにして置くとやはり困ることもある、それであの問題の爲に今までこちらから買出しに行つてばらばらになつて居たものが、兎に角近在から東京に出て來る「ルート」が出來た、それで廉賣に依つて「ルート」を獲得した、是で又元へ戻つた、そこで私が辭めた後廉賣制度をやつて、廉賣制度をやつた後統制的に「ルート」に載せた、斯う云ふ譯であります、青果物は一つの生き物で餘り變てこな統制もいかず、と云つて野放しもいかぬと云ふ問題ではなからうかと思ふ、此の點に關して、魚の方は御承知の通り非常に旨く行つて居る、それは魚と油の「リンク」制に依つて旨く行つて居る、是は當時から私が頻りに唱へて居つたことで、幸ひにして聯合國の方で非常な好意を以て毎月十一萬何千「トン」の油を配給して呉れるので、それを魚に「リンク」してやつて居る、それで魚の方は「リンク」制を中心にして「ルート」に乘つたと云ふことを申上げて宜からうと思ひます、所が野菜の方にはさう云うことがないので、之をどう云ふ風にして行つたら宜いか、是は色々難かしいことがあらうと思ひます
次に勞務加配の問題に付て申上げます、是は農林省の方と厚生省の方と密接なる連絡を取つて御協議申上げてやつて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=20
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021・叶凸
○叶委員 出來るだけ御努力を御願ひしたいと思ひます、更に質問を續行致します、土地問題に移ります
農地調整法の改正が昭和二十年十二月八日に成立したのでありますが、此の出來ました農地調整法の第一條を讀んで見ますと中々立派なことが謳つてある、「本法は互讓相助の精神に則り農地の所有者及び耕作者の他位の安定及農業生産力の維持増進を圖り以て農村の經濟更生及農村平和の保持を期する爲農地關係の調整を爲すを以て目的とす」洵に結構なことが謳つてあるのであります、所が四月二十五日、時の和田農政局長、詰り現在の農林大臣が我々日本農民組合の關係代議士會に來られて、御話を承つたのでありますが、實は其の改正農地調整法なるものに關し、「マッカーサー」司今部の指令に依り農林當局に於きまして立案されると云ふ土地改革の噂が飛び出しましてから、其の前に戰爭中田地、畑地は總て榮養失調に陷りまして、人手不足の爲に廢墟と化するのではないかと思はれる方向に向いて居つたのであります、所が内地の人口増加と云ふことも見越しまするし、更に失業と云ふやうな問題も絡んだ譯でありますが、直接の動機と致しましては、此の農地調整法が一度出ると云ふ噂に依りまして、非常な國内に土他爭奪戰が出現した譯であります、それは大體土地取上の問題となつて現はれて居るのであります、和田農政局長曰く、昭和二十年一月から八月まで土地取上要求件數が九千七百件、土地返還をした件數が三千四百件、終戰直後の八月十六日から十二月三十一日までに土地取上要求件數が五萬八千七百件、約二萬四千七百町歩、土地返還せる件數が一萬七千八百件、其の町歩が一萬三千九百町歩、昭和二十年一月から我々が當時の和田農政局長と會ひました時の四月二十五日までで、土地返還をしたであらうと云ふ推定面積が約一萬町歩弱あると云ふ御話でありました、是は農林當局の「アンテナ」に感得された所の件數でございまして、それ以外闇から闇の、此の件數に上らない所の土地取上の件數は非常に多いのであります、而もそれが中小地主を中心とする所の問題に化して居りまして、正に血みどろの闘爭に轉化されんとしつつある状態であります、さう云ふ状態に對しまして農林當局は如何なる政治的な手を打たれたかと申しますと、私共の聞いて居りますのでは、土地返還禁止の通牒を十二月中旬に出されて居るらしいのであります、所が一片の通牒では現實の問題は斷じて解決して居ないのであります、そこで農林當局に御尋ねする譯でございますが、此の農地調整法の改正を繞りまして起りました所の一切の農村の混沌たる状態、其の中の最も農民の生産意欲を阻碍し、増産の障碍になつて居ります所の土地返還、其の他に付き政府は八月十五日、終戰後の一切の不當土地取上を、元の小作人に返し、土地の賣逃げ、闇價格の不當價格に依る小作人の損失を地主から吐出させ、惡「ブローカー」を處罰される意思はないかどうかと云ふことを御尋ねしたいのであります、如何なる進歩的なる法案も、政治力がそれに伴はなかつたら何にもならない譯でございます、農民が土地の再分配の恩惠に與かる、土地の微笑と云ふものは甚だ不思議なものでございまして、農民はそれに依りまして毎日毎日汗水垂らして働いて居る譯でございますが、母の微笑に勝る所の土地——其の母である所の土地が自分の手に入るのだと云ふ農地法が出ますると、豈に圖らんや、地主と小作人の血塗れの闘爭と云ふことになりまして、現在農地委員の選擧も行はれず——色々の事情もございませうが、それに對します所の政治的な手も打たず、斯かる現實にある譯でございますが、さう云ふ所の地主さんの土地の賣逃げ、それから小作さんからの不當土地取上、さう云ふものの跡始末を政府はどう云ふ風になさいますか、之を一つはつきりと御答へを御願ひしたいと思ふのであります、官吏の方の中にも非常に良心的な方もある譯でございます、之に依りますと、私は誇大なる所の言辭を弄するものでないと云ふことが、はつきり證明されると思ひますので讀み上げます、是は奈良縣の經濟部長が市町村長、市町村農業會長、市町村農地委員會長殿宛に送られて居る所の指令であります、それは昭和二十一年五月十六日附となつて居ります「小作地引上防止に關する件、標記の件に付ては曩に本年一月三十一日附を以て特に各位に此の種事件の取扱指導の上遺憾のないやう通牒を致し、それぞれ其の趣旨に副ひ善處して戴いて居るものとは存ずるが、市町村農地委員會委員の選擧も延期と相成り、且又植付も次第に迫つた今日、縣下各地に小作地引上が漸次増加し紛議を釀し又は紛議に至らずとも泣寢入り的に土地を奪はれ又は奪はれんとして耕作上の不安に驅られ、折角準備した肥料も施用を躊躇して居る實情である、此のやうな状態に永く放置する時は刻下の食糧増産の急なる際、減收を來すのみならず、又一面小作農家の農業經營も動搖を來し、農村平和保持も圖り難く究極たる、新生日本の建設も期し難きに依り、從來其の不償に耐へ耕作し來りたる農家の耕作權を十分尊重し、今次の土地改革の趣意に違背をなさざるやう適切な指導と趣旨の普及徹底を圖るは勿論、急を要せざる小作地引上に付ては、次期農地委員會委員の新たなる公選を待ちて是が審議をなしたく、更に急を要するものにありても、次の諸點を御留意の上處理なされたし」云々、其の次は略します、斯う云ふやうに懇切なる所の指令を出された所の奈良縣の經濟部長の如きもあるのでございますが、併しながら私共の考へなければならないことは、從來の市町村長或は農業會の幹部、從來の農地委員と云ふものは、ともすれば貧農は一人もなつて居りませずに、土地の所有者が多かつたのであります、人情の致す所自分の意に滿たぬことを村の衆に全部振れ廻すと云ふことは、是は不可能でございまして、斯かる所に農地法が改正になりましたと云ふことも、十分農民には本當の意味に於て理解されて居ないのであります、各人各樣の利益の纒はり付きました所の間違つた考へ方を持つて居るのであります、殊に農民は「ラジオ」を聽き、新聞を讀むではないかと仰しやいませうが、併しながら此の政府の言ふことは、農民の氣に入るやうなことは戰爭中から一つもない、でありますから農民は「ラジオ」は浪花節を聽く時だけ掛ける、あとは政府の演説となると「スヰツチ」を切ると云ふやうな悲しむべき状態にある譯であります、さう云ふ譯で斯う云ふ混亂が起つて居るのであらうとは存じまするけれども、政府は斯かる農地の根本的な改革をなさんとする所の假に熱意があるとしまするならば、何故斯かる混亂を惹起するやうなことを致しまして、一片の通牒を以て事足れりとしたのであるかどうか、此の點を一つ聽きたいと思ふのであります、でありまするから私は質問の前提と致しまして、農林當局青年官僚諸君の蹶起を促して居るのである、此の八月十五日後の土地取上に搦む所の混亂に對して、政府は責任を持つて貰はなければならぬ、元に戻して貰はなければならぬ、さう云ふことに付きまして農林次官の確たる所の御返事を御願ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=21
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022・楠見義男
○楠見政府委員 是等の御尋ねになりましたやうな點に付きましては、別の機會に農林大臣から御答へ申上げた方が適當であらうと存じますので、私からは御答へを差控へたいと思ひますが、色々御話になりましたやうな點、其の他の事柄等を合はせまして、農地の改善案として現在折衝を續けて居ると云ふことだけを申上げて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=22
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023・叶凸
○叶委員 では農林大臣に十分御傳へを御願ひ致します、次に農民組織の問題でございます、先づ第一に政府は今議會に農業協同組合法案提出の準備があるやに聞きますが、政府の抱く協同組合に對する理念と、其の構想、目的とを一つ御聽きしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=23
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024・楠見義男
○楠見政府委員 農業協同組合の問題に付きましては、色々團體制度の改革等に付きまして、關係各方面の御意向も現に承つて居ると同時に、それ等を中心と致しまして尚ほ檢討を致して居るやうな状況であります、今日只今の所、此の議會に提出するかどうかと云ふことはまだ確定を致して居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=24
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025・叶凸
○叶委員 それでは少し角度を變へて御質問申します、「マ」司令部の農民解放令竝に之に關する政府への指示、是は全國農業會から出た所の「プリント」に依つて讀んだ譯でありますが、確かに「マ」司令部の農民解放令の中にも、協同組合と云ふものが書かれて居るのでありますが、「マ」司令部の農民解放令の協同組合運動と云ふものを、政府は如何なる具體的な形に於て從來の古い組織が崩壞し去らんとし、新しい日本の農村を建設する爲には、先づ農民組織が問題になるのでありますが、其の面に於きまして協同組合と云ふものに對しましては如何なる考へを持つて居るか、之を御聽ききします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=25
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026・楠見義男
○楠見政府委員 農業者の組織を出來る限り之を民主化して參ると云ふことが、司令部の意向のやうであります、協同組合と云ふ言葉でありますが、是は例へば現在の農業會も謂はば農民の爲の農業者の組織でありまして、共に協同組合も、農業會も、英語で申せば同じく「コーポラテイヴ・アソシエーション」になる譯でございます、結局司令部の意圖致しまする所も、先程申上げましたやうに出來る限り之を民主化して參る譯であります、そこで政府と致しまして先づ差當りの措置として執りましたことは、御承知のやうに此の前の議會に於きまして農業會の役員の公選、直接選擧に依りまして市町村の役員を公選して行くこと、其の他色々行政官職の權限の撤廢乃至縮減等の措置を講じて參つたのであります、農業團體の問題に付きましては、御承知のやうに戰爭前、又戰爭初期の間に於て、色々な團體組織がございました、之を戰爭中農業會組織に統合致しまして、謂はば官製的の色彩が非常に強いやうな團體が出來たのであります、隨て之を只今申上げますやうに、出來るだけ民主化する爲に官製色を拂拭することを先づ第一段として進めて參つたのであります、第二段として之をどうして行くかと云ふことに付きましては、先程申上げましたやうな次第でありまして、現在尚ほ研究致して居る状況であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=26
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027・叶凸
○叶委員 色々意見もありまするが、何れ論議を重ねる機會があると存じます
次に農村民主化の原動力である所の日本農民組合を其の主體とする自主的農民組織を、政府は何と御覽になつて居るかと云ふことを一つ端的に御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=27
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028・楠見義男
○楠見政府委員 政府と致しましては敬意を表して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=28
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029・叶凸
○叶委員 非常に嬉しいです、それでは次に御尋ね致しますが、政府は農民組合と協力する意思はないか、方向は民主的日本農村の建設と云ふことですが、如何ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=29
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030・楠見義男
○楠見政府委員 斯う云ふやうな食糧の非常時の際でありますから、此の非常時突破の爲には各方面の御協力を仰がなければならぬと考へて居るのであります、今までは或は政府の申しまする全體の食糧突破の爲に、或る場合に於ては手を引き足を引張られたやうな向きもあつたのでありますが、斯う云ふ際でありますから、總ての御協力を得、隨て當然農民組合等の協力も請はなければならぬと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=30
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031・叶凸
○叶委員 農林次官の食糧の答辯から尻尾を掴むことは中々難かしいやうですから、次に論旨を進めて參りたいと思ひます、食糧の問題であります、先づ第一に米麥馬鈴薯等主食物の増産の計畫の根幹をなす所の農民の生産意欲を振ひ起すには、どう云ふ風にしたら宜いと云ふことを政府は御考へになつて居るか、之を御尋ねしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=31
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032・楠見義男
○楠見政府委員 生産意欲増強の問題に付きましては、色々各方面からも、例へば資材の問題、或は又價格の問題、それから昨日も色々御話がございましたやうに生産物の處理の問題、其の他各面に亙りまして御意見を伺つて居るのであります、其の中には昨日も一寸申しましたやうに、全體の關係から致しまして、又今後の在り方から致しまして、政府と致しましてはそれを取入れることの困難なる問題もあらうかと存ずるのでありますが、併しさう云ふことのない限り、又出來るだけ生産意欲を向上する爲に、色々我々に聽かして戴いて居りまする方策は講じて參りたい、斯う云ふやうに實は考へて居るのであります、隨てそれ等の問題に付きまして、例へば土地の問題に付きましても、又資材、肥料、農機具其の他の資材の問題に付きましても、或は又價格の問題其の他に付きましても、私共と致しましては出來る限りさう云ふ御意見も伺ひ、又農民諸君の希望に出來るだけ——丸々とは中々困難の場合もございませうが、出來るだけそれに副ふやうに努めたい、斯樣に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=32
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033・叶凸
○叶委員 甚だ不滿足な御答辯であります、私は爾かく考へて居ないのであります、農民は戰爭前のやうな程度に肥料があつたり、或は地下足袋の配給にありつくと云ふやうなことは考へて居ないのであります、都會の状態は、やはり自分の血縁を通じてでも能く生生しく知つて居るのであります、自分の娘が都會に嫁に行つて居る、米を一升呉れ、二升呉れの悲慘なる要求が、都市の血縁からある譯でございまして、總て是れ勤勞大衆の親戚でございまして、働く農民は能く知つて居る、農民の生産意欲を奮ひ起たすにはさう云ふちやちな、少量な、甚だ御挨拶的な物の支給に依つてのみ農民の生産意欲が振ひ起つと云ふやうに農林當局が考へて居ると云ふ風にしか取れない所の其の答辯は、私共を十分納得さすことが出來ない、農林當局が敬意を表されました所の日本農民組合の一員と致しましても、農民大衆から支持された所の、さうして此の議會に席を持つ所の私の初めての發言としても、絶對にさう云ふ風な考へ方に付きましては贊成することが出來ないのであります、さう云ふ風な考へ方を持つて居るからして、此の前の本會議に於きまして、是は農林次官ではなしに、和田農林大臣でありましたが、曰く、政府は傳家の寶刀と稱し、供出を強權發動の威嚇の下にやらんとするが如き表現にも取れるが如き表現を持たれ、此の緊急勅令に對します所の多分の御執心を示されたのであります、傳家の寶刀とは何事ぞ、原子爆彈時代に、民主日本の第一囘の議會に於きまして、此の食糧緊急措置令の緊急勅令を以て傳家の寶刀なりと自負する所の農林當局に、果して現下の斯う云ふやうな難局に立つて二進も三進も行かない所の、此の袋小路に追込まれましたる我が日本の食糧問題の解決と云ふものが、本當に血を流さずにやつて行けるかどうかと云ふことに對しまして、非常に不安の念に驅られる次第であります、傳家の寶刀とは官尊民卑以外の何ものでもないではありませぬか
次に御質問申す次第でありますが、政府は割當供出をやつて行く積りなのでありますか、或は自由的供出をやつて行くのでありますか、其の何れの途を執られんとするのでありますか、其の點を一つ聽きたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=33
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034・楠見義男
○楠見政府委員 生産意欲の問題に付きまして誤解があるやうでありますから、此の際申上げて置きたいと思ふのであります、政府と致しましては勿論農民諸君の盛り上る救國精神で以てやつて參りたい、斯う云ふことは當然のことでありまして、此のことは既に新聞等で御承知願つて居ることと存ずるのでありますが、又或は御參加を願つて居ることと存じますけれども、食糧緊急對策に於きまして、はつきりと其の點を明示して居るのであります、此の事柄は當然のことでありまするので、特に申上げなかつたのでありますが、或は其の點を全然無視して居ると云ふ風に御取りになつたと致しますれば、非常な誤解でございますので、特に申上げて置きたいと思ふのであります、唯此の場合に、常に私共は直接農民の方々から、又それ等の代表者の方方からも伺ひますことは、幾ら精神運動をやつても駄目ぢやないか、精神運動は勿論必要である、根本である、併し精神運動だけで現在物が動くと思つたら間違ひぢやないか、隨て農民からも出して貰ふと同時に、農民の欲する物も與へなければいかぬぢやないかと云ふことを能く伺ふのであります、叶さんからは伺つたことはございませぬが、叶さんの同志からも伺つたこともあるのであります、隨ひまして根本は御話ございまするやうに救國的の精神で以て、又同胞愛の精神で以て進まなければならないと思ふのであります、併し今申しますやうに、又一面政府としても、其の勞に報ゆる所のことはやらなければいかぬと云ふ意味で申上げたのでありますが、此の點は誤解があるといけませぬから特に申上げて置きたいと思ふのであります
傳家の寶刀と云ふことに付ての御話もあつたのでありますが、是はどうも今までの古來の日本語を實は使ひました爲に、さう云ふやうなことでありまして、決して是はそれ以外に別に他意があつて申して居ることではないのでありますから、此の點も特に御諒承を得て置きたいと思ふのであります、それから割當の問題でありますが、是は或る程度食糧事情の現状の下に於きましては、上からと下からとが、やはり噛み合はなければならぬ問題であらうと思ふのであります、一面から申しますと、國の需要と云ふものも考へなければならぬと思ふのでありますが、同時に此の下の方から見まして、生産量其の他からも之を受けて行くと云ふ、上からと下からとの噛み合せの問題が出て來ようと思ふのであります、御尋ねの民主的の問題でありますが、是は勿論從來の戰爭中にありましたやうな天降り的な、又祕密的な割當方法でいけないことは當然のことでありまして、民主的の問題に付きましては、此の割當又供出と云ふ上から下り、又下から上ると云ふ方法に付きまして、當然民主的な方法で以て進んで行かなければならぬと云ふことは、全く御話の通り私共も同感に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=34
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035・叶凸
○叶委員 次に御尋ねしたいことは、供出割當の府縣割の基礎を何處に置かれて居るかと云ふことであります、如何なる基準に置かれて居るか、其の數字の統計に誤りはないか、實は統計と云ふことに付きましては、我々も長い間戰爭の準備期間中から、戰爭中から民間に於きまする所の、農村に於きまする所の色々な調査と云ふものが絶對に阻まれて居りまして、終戰後の今日に至つても、十分な統計を我々自身持つことが困難なやうな實情にございまして、我々は官廳統計に對しまして、民間側の權威ある所の統計を對比して論議することが出來ないのを甚だ遺憾に考へる譯でございます、輕く聞いて戴きたいと思ふのでありますが、農林省等に於きまする所の微に入り細を穿つて居る所の此の統計の基礎と云ふものに付きまして、私共農村に居りますと云ふと、色々な統計報告と云ふものを作成して居るのを見聞するのでありますが、多少の誤差があるのではないか、是が全國的に集計されるのでありますならば、大いなる誤差になるのではなからうか、斯う云ふやうな感想を持つて居るのであります、斯う云ふ統計に依らずしても、昨年度の産米に付きましては、私共は斯樣なる感想を持つて居ります、例へて申しますと云ふと、九州地方の農家は恐らく昨年度の産米の田植時期には、空襲下に於て鐵兜冠つて田植をやつて居つた筈であります、又私共は新聞なんかに於て寫眞を見て居りますけれども、除草も碌々出來なかつた地帶があるのではないか、さう云ふ所の供出割當なんか、如何なる所の基準に於て供出割當をなさつたのか、さう云ふ點に於きまして供出割定の基礎、基準と云ふやうな點、さう云ふ統計の蒐集の御苦心談でも結構でありますが、さう云ふ點に付て一つ御答辯を願ひたいと存ずる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=35
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036・片柳眞吉
○片柳政府委員 私から綜合割當の點に付きまして御説明を申上げます、米麥等の割當に付きましては、實は御指摘のやうに生産高の把握に付きまして、毎年非常に苦慮を致して居るのであります、過般實施致しました本年の麥、馬鈴薯の生産供出割當に付きましても、實は非常な苦心を致した譯でありまして、其の苦衷も此の際に申上げまして、良い御智慧がありましたならば御聞かせを願ひたいと思ふのであります、今年行ひました麥と馬鈴薯との割當の大體の考へ方を申して見ますると、先づ昨年穫れました所の米なり、或は芋類なり、或は雜穀の今日の殘存數量を推定をしたのであります、推定の致し方は、昨年の米或は麥等に付きまして、各府縣から供出をされました數量を控除して、控除したものから今日まで何程の消費があつたであらうと云ふ推定を致しまして、昨年の米なり麥等の今後の殘存數量を第一には推定をした譯であります、それから第二の點と致しましては、今申上げました問題と、今年の麥なり或は馬鈴薯の生産見込を加へまして、此の兩者を合計したものの中から、今後の農家が再生産に必要なる勞務加配等の必要量を殘したものを出して戴く、斯樣な計算で各府縣とも割當を致した譯であります、そこで先程次官からも御答辯がありましたが、結局我々が一番苦慮致します點は、戰爭中から逐次主要食糧の生産統計と云ひますか、生産高が非常に實際と遊離をして居る 更に端的に申しますれば、實際よりも非常に少く出ると云ふ傾向は、是は皆さんも大體御承知と思ふのであります、昨年の實收高は冒頭に大臣からも説明がありましたやうに、各府縣が食糧檢査所等を通じまして、非常に精密な調査をやつた、之には一點の間違ひがないと云ふ結果が、實は四千萬石を切ると云ふやうな——箆棒と稱して宜いと私は思ふのでありますが、左樣な非常に少い數字が出て居るのであります、此の點は軈て聯合國側に食糧の輸入申請を致すに付きましても、左樣な少い數字で輸入申請を致すことに付きましては、相當な惡影響を持つて居るのであります、同樣な「エラー」が本年の麥作に付ても、略略言ひ得るのではないかと云ふ點に付きましては、實は非常に遺憾の考へを持つて居りますと共に、今後生産高を如何にして把握して行つたら宜いであらうかと云ふ點に付て、皆樣方の御意見も拜聽した上で善處して參りたいと云ふ風に考へて居ります、生産高の把握の方法に付きましては、御承知と思ひまするが、現在では所謂一町村大體百箇所以上の全刈調査を實施致しまして、客觀的に脱穀から調整までやつて見て生産高を押へると云ふ風な、相當客觀的な「ファクター」も織入れまして調査をやつて居る譯でありますが、併し其の結果が、遺憾ながら昨年の米が四千萬石を切り、今年の麥の生産高が非常なる低い數字を府縣から言つて來て居る譯でありまして、此の全刈をやつても尚ほ少い數字が出ると云ふ點に付ては、調査方法に於きまして、今年の新米に付きましては何か新しい方法を考慮致しまして、出來るだけ實體を押へて行きたいと云ふ風に考へて居るものであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=36
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037・成島勇
○成島委員長 叶君に申上げますが、今内務大臣がお見えになりましたから、内務大臣に關係のある點を御聽きを願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=37
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038・叶凸
○叶委員 内務大臣に御質問申上げます、戰爭中から戰爭後に掛けまして、食糧に關係する所の犯罪が非常に多い譯でございます、是は私の從來の經驗から申しますると、第六感から申しますると、柿を一包盜つて逮捕に來ましたる警察官を溝に突落して殺す、斯う云ふ風な犯罪の恰好と云ふものは、是はもう必ず素人であると云ふ風に私は見て居るのであります、さう云ふ譯で、日本人全體が此の食に原因する所の凡ゆる不愉快なる道徳的なる氣持に於ける罪と云ふ觀念、又具體的には刑事問題を起して居る譯であります、私はさう云ふ點に對しまして、直接國内の治安の職務に當つて居られます所の内務當局の御意見、それに對する御感想などを一つ聽かして貰ひたい、直接的には農民の生産意欲に關係する所なのであります、私は河内に住んで居るのでありすまるが、野荒しが非常に多いのであります、而も此の頃の野荒しは、血を伴ふやうな結果が往々あるのであります、最近に於きましても、三島郡に於きまして或る人が野荒しに殺されて居ります、それは玉葱の泥棒でございました、それからもう一つは牛泥棒が非常に多いのであります、所が牛泥棒に遭ひますと、都會の人達は農家は新圓がだぶ付いて居るやうに考へますけれども、さうでないのでありまして、相當な農家でも直ぐに牛を手に入れるとしますと、河内の方に於きましては、役に立つ所の牛ならば一萬圓から一萬二、三千圓位の新圓を持つて行かなければ急速の間に合はないのであります
〔委員長退席、須永委員長代理著席〕
さう云ふ譯で牛泥棒が多い、之に付きまして、大阪農耕用牛馬保護組合と云ふ——盜難に遭ひましたる時にはお互ひに積立金を致して居りまして、其の半分位を其處から保險金として出す組織なのでございますが、大阪農耕用牛馬保護組合なんかと云ふものを自主的に拵へつつある譯であります、時間の關係もある譯でありますので、其の趣旨とか規約に付きましては略しますが、さう云ふやうな保險組合までも作りまして、何とかしなければならないと云ふ風に考へて居るやうな譯でございます、例へて申しますれば、農民諸君の表現を用ひますと、大きくなつてから馬鈴薯を盜つて呉れたら宜いのに、親指の尖位な内に馬鈴薯を盜られてしまひますならば、是は盜つた方も困るだらうけれども、盜られた方も大困りでありまして、供出をする爲に馬鈴薯を外から闇で買つて來てでも果さぬと、即ち斯う云ふ食糧緊急勅令と云ふやうなものがございまして、傳家の寶刀を頭の上で振廻される結果になる譯でございます、兎に角さう云ふ犯罪が農民の生産意欲を非常に阻碍する譯でございます、それから次に、市民大衆に對しまする經濟事犯と云ふものが非常に多いのでございます、昨日の「サン」と云ふ東京の寫眞の新聞紙に依りますと色々賢明なる所の警官諸君は相當温情のある手續を執つて居られるやに見たのでございまするけれども、私共は斯う云ふ經濟事犯其のものに對する社會相に對し、治安と云ふ問題を中心に致しまして、大衆的な、集團的なものにも化して行かうとする所の食の生活諸問題に對する内務當局の御見解を一つ御聽きしたいと思ふのであります
次に市民が愛稱して青空市場とか自由市場とか申して居りますが、或る人はあれを闇市場と申して居ります、全國の都市に此の自由市場が出來まして、さうして窮屈なる丸公に依ります所の來らざる食糧の配給品を、大衆と致しまして之を利用致して居るのでございますが、私の一番懸念する所は、此の衞生と云ふやうな問題であります、斯う云ふことに付きまして、内務當局なんかは如何御考へになつて居るのでありませうか、私の隣家にも駐在所があるのでございますけれども、此の警察官の方々の生活をもう少し何とか考へなければ、我々日本人は枕を高くして眼ることが出來ないと云ふやうな世相になりつつあるのであります、河内の農家なんかに於きましては、夜通し兎に角街燈を澤山點けまして、道路よりも部落に入りますると、蟻の這ふのも分るやうに部落を明るくして、自衞團なんかを常時持つて警戒に當つて居ると云ふやうな實情にあるのでございますが、やはりさう云ふ時に、勇敢に色々指導して戴く警察官の方々のさう云ふ色々な待遇の問題なんかも睨み合せて、内務當局は如何なる治安の御方針を持つて居られるかと云ふことに付きまして、一つ御話を承りたいと存ずる次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=38
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039・大村清一
○大村國務大臣 唯今御述べになりました如く、我が國の現在の社會状態は、警察面から之を見ますると、洵に容易ならぬ事態が展開を致して居るのであります、其の原因は多々あるのでありませう、御話の如く食糧の逼迫と云ふことは、確かに最も大きな原因の一つであらうと思ひまするが、其の他の點に於きましても、物價の昂騰乃至海外から殆ど裸一貫で歸還されて來た人が多數にあります、是が歸國致しまして、生活をして行く上に於きましては、非常な困難さがある、又經濟界の激變に依りまして、相當多數の所謂經濟破綻を出して居ると云ふやうなこともあります、それから尚ほ他の一つの重大な原因と致しましては、終戰後遵法精神が低下したと申しますか、或は人心が荒廢したと申しますか、是も一つの重大な警察對象を増加させました原因の一つだと思ふのであります、此のやうな惡條件が山積致しまして、今日警察の對象となります所の事件が、非常に激増致して居るのであります、其の量に於きまして激増致して居りますのみならず、其の質に於きましても洵に取扱の困難なものがあるのであります、之を一口に申しますると、犯罪事件が兇暴性を非常に加へて來て居るのであります、防犯警察の見地から犯罪の現行犯を取押へると云ふやうな場合に於きましても、警察官が前以て計畫的に相當強力なる實力を備へて其處に臨まなければ、犯人の兇暴性に反撃せられまして、或は傷害を被る、間々警察官が職務の爲に人命を落すと云ふやうなことが頻發致して居るのであります、尚ほ一面に於きましては我が國の警察力其のものの上に於きましても、洵に憂慮すべき事情があるのであります、即ち終戰後に於きまして、世の中の變り方が激變致しました爲に、警察官が職務を執行するに當りまして、如何なる指針方針に基いて行動すべきかと云ふやうな點に付きまして戸惑ひをした、能く世間に言はれることでありますが、國民一般も敗戰後放心状態に陷つたと言はれて居りますが、それと類似しましたことが、警察界にも確かに存在したと云ふことを遺憾ながら認めざるを得ないのであります、尚ほ一面に於きましては、警察官も人でございますから、食糧問題、「インフレ」問題等の惡影響は等しく受けるのであります、警察官は職務を執行する前に、家族の生活に氣を取られると云ふやうなことも、數多く存在して居るのであります、尚ほ陸海軍なき後の我が國の治安は、警察の一手に懸つて居るのであります、先程來申上げますやうな事情から致しまして、警察官の數を思ひ切つて増加すると云ふことは、我が國治安を確保する上に於きまして、非常に重要な問題でございまするが、是は敗戰後の我が國の實情と致しまして、直ちに實現を許されない事情が伏在致して居ります、警察力が戰前よりも低下して居ることも事實であります、又只今申上げましたやうな、之を補ふ警察官の増員と云ふことに付きましても、今直ちに之を實現することは出來ないと云ふやうな事情がございまして、先程來申上げますやうな警察の對象が激増して居るに拘らず、それに對處する警察力が洵に心許ないと云ふやうなことでありまして、今日私共は警察官の士氣を引立てまして、此の事態に極力努力精進をすると云ふことに鞭撻は致して居りますが、有體に申しまして手が及び兼ねると云ふやうな次第であります、例へば朝鮮人等の集團買出と云ふやうなことは、是は食糧問題の上に於きましても、又經濟秩序の維持の上に於きましても、十分取締らなければならぬ、又一般國民があの暴状に對して齒痒さを感じて居る、又切齒扼腕をして居ると申しても宜からうと思ひますが、是等に對しまして、其の非違を正すことに付きましては、關係方面も今日に於きましては十二分に納得をして呉れまして、蔭ながら好意ある援助まで得て居るのでありますが、之を現實の問題と致しまして、それならば警察力を以て毎列車、毎客車を徹底的に掃除をすると云ふことは、遺憾ながら今日の警察力では十分にやつて行けないのであります、と申しますのは、彼等は集團的に行動致します、さうして情報連絡が極めて巧妙である、尚ほ其の集團行動には、往々にして暴力を持つて居るのであります、それに二人や三人の弱體警察力で臨みますれば、何等の實效を收めざるのみならず、却つて反撃に遭つてしまふ、一層國民をして切齒扼腕させると云ふやうな事態さへ起るのであります、故に是等に對處致しますに付きましては、警察方面に於きましても、前以て計畫的に相當の警察官を集結致しまして、場合に依れば檢擧せんとする列車の特定の箱を鐵道當局と隱密の間に打合せまして切離しまして、それを數百人の警察官で取卷いて、さうして嚴重に檢擧をすると云ふやうなことも行ふ、其のやうな準備をして掛りますと、彼等の情報網に依りまして、本日は甲地方に手入れがあるやうだと云ふことになりますと、甲地方には一切姿を見せぬで、集團は乙地方に參ると云ふやうなことでありまして、洵に持餘して居ると云ふやうな事態でありますが、併し是等の問題に付きましても色々工夫を致し、餘り遠からざる中に相當の成果を擧げ得る手配が出來て居ります、尚ほ此の列車内の乘客の暴状に付ては、是が撤底的取締をすると云ふことに付きましても、政府として新しい方途を講じなければならぬやうに考へまして、折角今手配中でございます
〔須永委員長代理退席、委員長著席〕
それから野荒しの事例を御指摘になりましたが、食糧の逼迫の情勢から、其のやうな事項が全國的に頻發して居ると云ふことは事實であります、併し此の野荒しの中には之を大別しまして凡そ二つあると思ひます、食糧の缺配、遲配等に依りまして、或る家庭に依りましては生命すら維持出來ないやうな窮況に落込まれた者が、惡い事とは知りながら野荒しをすると云ふやうな、洵に同情すべき動機から其のやうな犯行に出て居る者も間々あるのでありますが、併し實際問題と致しまして最も私共が遺憾とし、又之を放置することの出來ないのは、職業的野荒しであります、此のやうな事犯は各地に非常に廣くある、寧ろ後者の方が實害は多いのではないかと云ふ風にすら思つて居るのであります、と申しますのは、一夜の中に極めて廣い面積の野荒しをして行く、あの收穫は到底個人が消費するものではありませぬ、恐らくそれに依つて利を得る爲に、或は之を闇市に流す、乃至は隱れて之を消費家に賣渡すと云ふやうな、極めて惡質の者があるのであります、之に臨みます警察と致しましては、固より兩者共適當に取締らなければならぬことでありますが、特に後者の點に重點を置きまして、努力は致さして居る次第でありますが、何に致せ耕作地は障壁もないことであります、又監視も十分に行屆かない所でありまして、先程來申しまするやうな今日の實情下に比較致しまして、微弱なる警察力のみを以てしては、其の完璧を期することも出來ないやうな状況にありますことは、甚だ相濟まぬことと考へて居ります、此のやうな警察力の缺陷を補充する爲に、地方農民に於かれましては夜番をして野荒しを監視する、又其のやうな時に狂暴性の犯人がありまして、そこに危害を加へられたと云ふやうなことも時に起つて居りますことは、洵に遺憾千萬であり、相濟まぬことに考へて居るのでありますが、率直に私は茲に警察の實情を申上げまして、今日の状態を御報告申上げる次第であります、唯併し其のやうでは洵に心許ない警察のやうでありますが、併し段々と警察も立直りつつありますが、敗戰後日を經るに從ひまして、社會状態も安定とまでは參りませぬが、段々安定の方向に向つて居りまして、警察の對象となるべき事件も、段々減少しつつあるやうに見受けられるのであります、又警察官に於きましても、其の職責の重大なることを一層自覺して來て居りますることは固よりでありまするが、先に一言致しましたやうに、敗戰後警察官の行動に付ての方向指針と云ふやうなものに付きまして、自信を失つて居つたのでありますが、不良朝鮮人に對する取締方針に付ての各方面の諒解が段々濟みましたこと、乃至は「デモ」の取締に付きまして聯合國司令官に於てはつきりした線を劃定せられ、其の他色々の點に於て警察の進むべき道が段々とはつきりして參りましたので、方針が立たないと云ふ面に於ける警察力の弱化と云ふことは、餘程囘復して參つたのであります、是は日ならず完全に拂拭されまして、警察の使命達成に向つて勇往邁進し得ると期待を致して居る次第であります、尚ほ又警察力の増強に付きましては、今直ちに約十萬の警察官を増員することが不可能であると致しまするならば、之に對處致す方法と致しましては、警察の取扱つて居りまする仕事の或る大きな部分を、其の質に依つて、出來ますものは近く之を市に委讓したらどうか、此の内容に付きましては目下檢討中でありますが、市の警察を作つて、市警察で取扱はせると云ふことに致しますれば、そこに現在の府縣警察の上に手が餘つて來ることであります、又例へば列車内に於ける警察の如きは、是は運輸省所管の警察にして行つた方が、寧ろ現在の事態に即應するのではないかと云ふやうなことも考へられるのであります、其のやうな點に付きましても色々改善を今考究中であります、尚ほ又敗戰後警察の裝備の點に於きまして、洵に遺憾千萬なことのみであつたのであります、例へば近頃の犯行は集團的で行はれまするのみならず、多くは自動車、「トラック」の如きものを活用して居る、其のやうな場合に警察が出動すると致しましても、公衆電話は固より警察電話の如きでさへ殆ど其の用をなして居りませぬ、現に東京都下に於ける警察署管内の警察電話は、種々故障だらけであります、それから尚ほ事件が自動車で行はれます場合に於きましては、之を取押へに行くものが同じく自動車を使はなければ、到底問題にはならないのでありますが、是が非常に手薄でありまして、殆どなきに等しいと云ふやうな状態でありまして、其の他警察の裝備の點に於きましては極めて不完全であります、そして又之を補充すると致しましても、敗戰後の實情と致しまして、資材の缺乏から中々思ふやうに參らぬと云ふやうなこともございまして、甚だ殘念であつたのでありまするが、段々我が國の生産力も囘復上昇しつつありますので、警察裝備の充實に際しましては、それ等の上昇したる生産力を優先的に活用すると云ふやうな方途も講じなければならぬ、尚ほ又此の警察官の優遇と云ふやうな問題に付きましては、一般官吏が等しく苦しんで居る時に、警察官だけを優遇すると云ふことは、中々言ふべくして行はれないことでございまするが、近く政府に於きましては一般官吏等に對しまして、今日の經濟事情に即應しましての所謂優遇も、目鼻が付く段階に達して居ります、之に依りまして警察官は優遇とまでは參りませぬでも、後顧の憂ひなく職務に從事すると云ふことも可能になつて參る次第でありますので、今後日と共に警察力は相當に力を囘復し、充實して來ると云ふことがはつきり申上げ得ると思ふのであります、尚ほ此のやうな實情でございまするが、我が國の警察は終戰後大いに改善を要する、殊に民主主義の線に沿うて、新しい意味の警察を打ち立てると云ふことが、絶對に必要な段階に達して居ることでもあります、此のやうな色々の條件を取入れまして適切なる警察改善諸策を至急に打立てまして、さうして其の目標に向つて改善を實施すると云ふことにしなければならぬと考へて居ります、是等の點に付きましては尚ほ研究中でありまして、確乎たる結論に達した譯では固よりございませぬ、併し適當の機會に其の改善方針の下案と申しますか、素案申しますか、と云ふやうなものを各位にも御覽に入れまして、議會初め世間の御意見を聽き新しい民主主議の線に沿うた警察を確立すると云ふことに致したい、それ等の改善諸方策が結論に達しまするに從ひまして、此の議會には間に合ひませぬが、次の臨時議會、通常議會等には必要なる法律案、豫算案等も是非之を提出しまして、御審議御協贊を得たいと云ふ風に考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=39
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040・叶凸
○叶委員 衞生の點は発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=40
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041・大村清一
○大村國務大臣 所謂青空市場、闇市と申しますか、の繁榮振りは御話の通りであります、此の青空市場に對しましては、是は實際上の必要から生れて來て居るのでありまして、是が民生に役立つて居る面の現實は承認しなければならぬと思ひますが、併し青空市場には色々の弊害を伴つて居るのであります、禁制品を隱密の間に販賣すると云ふやうなことは、固より警察として取締らなければならぬことであります、又御話の如く設備が極めて不完全でありまして、衞生上洵に憂慮すべき事態が現はれて居るのでありまするが、是等の點に付きましても、是は根本の問題は寧ろ警察と申しますよりも、厚生省の衞生行政の範圍に入る次第ではありまするが、出來るだけの改善をしなければなりませぬ、又其の不衞生の状態が警察の取締對象になりますに付きましては、警察と致しましても善處致さなければならぬことでありまするが、何に致せ青空市場は、建物の燒失致しました所に、物資不足の時設けられて居るのでありまして、其の現實も相當同情を以て見てやらなければならぬ點もありますので、衞生状態が惡いからと云ふことで、一概に之を撲滅すると云ふ譯には參り兼ねると考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=41
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042・叶凸
○叶委員 御同感であります、内務大臣に對する質問を打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=42
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043・成島勇
○成島委員長 大藏省の主税局長が見えて居ります、大藏省の關係があるなら……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=43
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044・叶凸
○叶委員 さうですか——それでは御質問申上げます、最近農民に課せられて居りまする所の所得税は非常に重いのであります、重税であります、其の實例と致しましては、新潟縣中頸城郡板倉村に於きまして、三月以降の供出分に對し一俵四百圓の闇賣りとして課税した、其の爲め六百八十四戸、二千八百五十俵、全部で七十九萬八千圓税金が課つて來て居るのであります、又未供出農家の分に對しましては、八俵以上の分は四百圓の倍として課税して居るのであります、但し二月までは一俵百二十圓の割でありまするけれども、さう云ふことであります、それから蔬菜は闇に賣つたとして課税をして來て居るのであります、是は新潟縣の例でありまするが、私の居住致して居りまする所の部落は、代表的な蔬菜作りの所でございまして、河内の農家に於きましても實に箆棒の重税が來て居るのであります、或る農家の如きは二萬圓餘り來たのでありまするが、税務署に出掛けて行きますると云ふと、一遍に一萬圓足らずのものに負けたと云ふやうな例もあるのでございまして、税務署の方全部が出鱈目だと云ふ譯ではございませぬけれども、餘り掛値が大き過ぎると私は考へる次第であります、大體勤勞所得税に對しましては、我が黨は全部撤廢すべしと云ふ意見を持つて居るのであります、一夜千金を投じて散財することの出來る所の新圓成金がまだ現在居る譯であります、さう云ふ者になぜ課税しないのか、戰爭中戰爭の爲に儲けまして、温く温くと寢込んで居る人達がまだ居るのであります、指摘するならば數々あります、さう云ふ人達からなぜ税金を取らないのか、此の農民に課せられました所の重税に關しまして、大藏省に於きましては、直接所管廳として、農民全部が闇をして居るから税金を取ると云ふことでありまするならば、農民は全部闇をやれと云ふことに解釋して宜しいのでありますか、大體善良な農家は其の方針の理解に苦しんで居る譯でございまするが、一つ其の點に對しまして、御考へ方を御答へ願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=44
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045・池田勇人
○池田(勇)政府委員 御答へ申上げます、今年の農業所得が非常に上つた、而も或る程度闇を加算して上げたのではないかと云ふ御質問と思ひます、昭和二十一年分の農業所得に付きましては二十年中、殊に二十年の下期に當りまして、相當農産物價格が上昇致しました爲に、從來に比較致しますと、可なりの所得の増に相成つて居ると思ふのでございます、御指摘の新潟縣に於きまして最近に供出された米に付きまして、特別の課税を致したと云ふ點はまだ聞及んで居りませぬが、若し御話の通りであれば訂正すべきものと考へて居ります、又闇と云ふものを所得の決定にどう云ふ風に使つて居るかと云ふ御話でございますが、課税に當りましては、私は農家の人の實際の所得を掴まへて行くのが一番宜いのだと思ひます、隨ひまして出來上りました農産物中から供出分を控除し、又或る程度の自家用分を控除致しまして、若し他に賣るならば、又賣られたならばどれ位の收穫があるかと云ふことを見込みまして課税して居るのではないかと思つて居ります、斯く致しますことが各農家の實際の所得に合致しない場合に於きましては、税務當局としては直ちに訂正致すべきものと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=45
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046・叶凸
○叶委員 能く分りましたが、新潟縣などの實例は一つ調査方を御願ひ致して置きます、それから出來得べくんば、少くとも政府の官吏でありますから、實際の所得がどれ程と云ふことに付きましては、やはり相當良心的に確たる調査の上に立つて、農民が斯う云ふことを言つて來ても、斯うではないかと云ふことが言ひ得るやうな立場にあつてこそ、現在の政府に對する農民大衆の不信と云ふものが徐々に解消して、喜ぶべき現象に移つて行く譯でございまして、ぽんと税金を課けて來る、それに對しまして實際を持つて行くならば、忽ちそれを訂正すると云ふことでは、是がどう云ふ結果になるか、私は寒心に堪へないのであります、戰爭中から戰爭後の今日に至るまでの政府のやり方が、餘りにさう云ふ喰ひ違ひが多過ぎるのであります、如何に善意に解釋しましても、農民は不信の聲を揚げざるを得ないやうな實情でございます、我々は勤勞所得税の撤廢を叫んで居る、大藏大臣はそれに對して我々と見解を異にする發言をして居られましたが、此の點に付きましては時間の關係上、此の程度に致して置きたいと思ひますけれども、我々が信の觀念に立ちます所の民主的なる日本を建設すると云ふことは、祖國救濟の先づ前提である、一日も早く世界の仲間入りが出來ると云ふことでありますれば、殊に此の税金の賦課と云ふやうなことに付きましては、非常に影響する所が多い譯でございますから、尚ほ一層御愼重なる態度を以て臨まれることを希望致しまして、私の質問を打切ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=46
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047・成島勇
○成島委員長 それでは今日は是で打切りまして、明後日午後一時より開きたいと思ひます、本日は是にて散會致します
午後零時三十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009011791X00419460706&spkNum=47
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