1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年七月十六日(火曜日)
午後二時二十六分開議
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議事日程 第十六號
昭和二十一年七月十六日
午後一時開議
第一 聯合國最高司令官に對する感謝決議案(大野伴睦君外十二名提出)
第二 勞働關係調整法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
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〔朗讀を省略した報告〕
一、政府から提出された議案は次の通りである
政府出資特別會計法外二十一法令の廢止等に關する法律案
(以上七月十五日提出)
一、議員から提出された議案は次の通りである
協同組合法案
提出者
北勝太郎君 麻生正藏君
米倉龍也君 竹山祐太郎君
北政清君 東隆君
太田鐵太郎君 船田享二君
平野八郎君 的場金右衞門君
地方競馬法案
提出者
小笠原八十美君 野溝勝君
麻生正藏君 佐伯忠義君
瀧澤濱吉君
馬券税法中改正法律案
提出者
小笠原八十美君 野溝勝君
麻生正藏君 佐伯忠義君
瀧澤濱吉君
聯合國最高司令官に對する感謝決議案
提出案
大野伴睦君 北れい吉君
田中萬逸君 成島勇君
西尾末廣君 中村高一君
北勝太郎君 船田享二君
中島茂喜君 疋田敏男君
松原一彦君 岡田勢一君
志賀義雄君
(以上七月十三日提出)
一、議員の異動
香川縣選出議員三木武吉君が辭職されたに付其の補闕として福田繁芳君が當選された
宮崎縣選出議員甲斐政治君が辭職されたに付其の補闕として川越博君が當選された
一、去十三日吉田内閣總理大臣から次の通り發令があつた旨の通牒を受領した
復員事務官 森田俊介
第九十囘帝國議會政府委員被仰付
一、去十三日次の通り特別委員の異動があつた
帝國憲法改正案(政府提出)委員
辭任 秋田大助君 補闕 笹森順造君
辭任 關谷勝利君 補闕 坪川信三君
東京都制の一部を改正する法律案
(政府提出)外三件委員
辭任 坪川信三君 補闕 青木清左ヱ門君
特別都市計畫法案(政府提出、貴族院送付)委員
辭任 原國君 補闕 鹿島透君
一、昨十五日衆議院規則第十五條に依り議長に於て議席を次の通り指定した
一 福田繁芳君
三六八 川越博君
一、昨十五日衆議院規則第十五條但書に依り議長に於て議席を次の通り變更した
五 吉田セイ君
八 赤澤正道君
九 森曉君
一四 磯田正則君
一六 増井慶太郎君
一八 小西寅松君
二三 疋田敏男君
五九 林田正治君
六〇 神戸眞君
六四 太田秋之助君
六五 山崎岩男君
六六 稻本早苗君
九〇 石黒武重君
九一 寺島隆太郎君
九二 有馬英二君
一四三 廣川弘禪君
一五一 綿貫佐民君
二一一 古賀太郎君
二二四 田中実司君
三〇〇 田中健吉君
三〇一 松澤一君
四四二 的場金右衞門君
四四四 藤本虎喜君
四四五 橋本二郎君
四六四 木下榮君
四六五 船田享二君
四六六 北勝太郎君
一、昨十五日議長に於て次の通り常任委員辭任の許可があつた
第六部選出豫算委員 寺島隆太郎君
一、昨十五日次の通り特別委員の異動があつた
帝國憲法改正案(政府提出)委員
辭任 大久保留次郎君 補闕 高橋英吉君
―――――――――――――――――――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=0
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001・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 是より會議を開きます、此の際新たに議席に著かれました議員を御紹介致します、第一番、香川縣選出議員福田繁芳君
〔福田繁芳君起立〕
〔拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=1
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002・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 第三百五十八番、廣島縣選出議員藤井正男君
〔藤井正男君起立〕
〔拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=2
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003・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 第三百六十八番、宮崎縣選出議員川越博君
〔川越博君起立〕
〔拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=3
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004・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 日程第一、聯合國最高司令官に對する感謝決議案を議題と致します、其の趣旨辯明を許します──大久保留次郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=4
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005・会議録情報2
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第一 聯合國最高司令官に對する感謝決議案(大野伴睦君外十二名提出)
聯合國最高司令官に對する感謝決議案
聯合國最高司令官に對する感謝決議
今や我國は、未會有の食糧飢饉に際會し、全國民悉く窮乏と饑餓に陷り、生活不安はその極に達す。この時に方り聯合國最高司令官は、これが救援にあらゆる手段を講じ、遂に米國より輸入せる食糧を我國民に放出せらる。全國民齊しく感謝感激せざるなし。我等はこの人道的精神に則り、益益同胞愛の自覺を深め、相共に乏しきを分ち、足らざるを補ひ、以つて最高司令官の厚意に報ひ、この食糧危機を克服せんとす。衆議院は、特に院議をもつて聯合國最高司令官に對し深甚なる感謝の意を表す。
右決議す。
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〔大久保留次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=5
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006・大久保留次郎
○大久保留次郎君 只今議題となりました聯合國最高司令官に對する感謝決議案の趣旨を辯明致したいと存じます、先づ決議案文を朗讀致します
聯合國最高司令官に對する感謝決議
今や我國は、未會有の食糧飢饉に際會し、全國民悉く窮乏と饑餓に陷り、生活不安はその極に達す。この時に方り聯合國最高司令官は、これが救援にあらゆる手段を講じ、遂に米國より輸入せる食糧を我國民に放出せらる。全國民齊しく感謝感激せざるなし。我等はこの人道的精神に則り、益益同胞愛の自覺を深め、相共に乏しきを分ち、足らざるを補ひ、以つて最高司令官の厚意に報ひ、この食糧危機を克服せんとす。衆議院は、特に院議をもつて聯合國最高司令官に對し深甚なる感謝の意を表す。
右決議す。
〔拍手〕
私は此の際諸君と共に全國民を代表致しまして、聯合國最高司令官が我が國刻下の食糧飢饉に付き寄せられつ、ある厚き御同情に對し、衷心より謝意を表する次第であります(拍手)
惟ふに我が國は終戰以來國を擧げて「ポツダム」宣言を忠實に履行し、速かに平和國家再建を完成し、以て世界恆久の平和に寄與せんものと、凡ゆる努力を傾注しつつあるのでありまするが、此の建設途上に起つた一大障碍は、何と申しても食糧飢饉であります、然るに一般消費者に對しては最低限度の食糧配給をなさねばならず、重要産業の勞働者には加配米も分配せねばならぬのでありまするが、今日では缺配に缺配を續けて、大都市は云ふに及ばず、全國津々浦々に至るまで、明日の食糧はおろか、今日食べる物さへないと云ふ者が充ち滿ちて居る有樣であります、斯くては道義地に墜ち、人心日に月に荒ぶることも亦巳むなき次第であると存じます、全國の農民を初め國民各自が、眞劍に此の食糧問題の解決に當つて居るのでありまするが、兎に角絶對量の不足にはどうすることも出來ないのであります、私共は我が國が直面致して居る此の事實、此の慘状を此の儘放置するに於きましては、日本再建はおろか、却て滅亡の一途を辿るの外なきを深憂せざるを得ないのであります(拍手)是に於てか、最後の手段として「マッカーサー」最高司令官閣下に對し、食糧輸入を懇請するの外はなかつたのであります、即ち昨年十一月我が政府は、本年度分の食糧の輸入を懇請するに至りました、然る所食糧不足の問題は、獨り我が國のみではなく、世界的のものでありまして、其の最低必要量に不足を生じて居るのであります、斯かる事情であるに拘らず、「マッカーサー」最高司令官閣下は此の政府の懇請に對し、人道的見地から、日本食糧飢饉を救ふ爲に百方手段を盡されて居るのであります、米國本土に於きましては、大統領自らが節食の範を示され、曩に前大統領「フーヴァー」氏を團長とする調査團を派遣され、其の調査に基き、日本に對する食糧輸入に付き絶大なる努力を拂はれ、今又米國民間援護會から日本救濟使節團を派遣されるとの報を耳に致して居ります、重ね重ねの御厚意に對し、國民齋しく感激に堪へない次第であります(拍手)
去月二十二日の本會議に於て、農林大臣より、最高司令官の御厚意に依つて、京濱地區に對し二萬數千「トン」の輸入食糧を放出されることになつたとの報告を受け、國民は安堵の胸を撫下し、深く感激致したのでありまするが、更に又七月二日の本會議に於ては、四萬七千「トン」餘の米國輸入食糧を、全國中最も食糧の窮迫せる地域に對し放出を許可されたとの報に接しました、ここ數十日來米の顏さへ見なかつた國民の食膳に、加州米や、純白な小麥粉の食事が供せられた時の感激を思へば、目頭が熱くなり、胸迫るものがございます(拍手)此の人道的行爲が、我が國戰後の混沌たる國民道徳と思想に及ぼした影響は、洵に絶大であると申さねばなりませぬ(拍手)我が國民が之に依つて同胞愛の自覺を深め、相共に乏しきを分ち、足らざるを補ひ、相互扶助と博愛の精神に奮ひ起つならば、是は獨り日本の幸ひのみでなく、人類の爲の偉大なる事業と申さねばなりませぬ(拍手)斯くて我が國民も、物心兩面に於て救はる、こととなるのであります、我が國民は此の御厚意を無にしてはなりませぬ、何處までも高い精神に則つて、或は食糧の公平な分配に於て、或は生産増進の努力に於て萬遺憾なきを期し、全世界に對して我が國民の道義と勤勉との實を示さねばなりませぬ(拍手)
さあれ、日本國民の危機救援に温かい手を差伸べられた「マッカーサー」最高司令官閣下に對し、衆議院は全國民に代り、特に院議を以て深甚なる感謝の意を表明すると共に、今後も引續き一層の御同情を仰ぎたく、本決議を致さうと存じます(拍手)何卒滿場の諸君の御贊成を御願ひ致す次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=6
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007・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 採決致します、本案に贊成の諸君の起立を求めます
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=7
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008・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 起立總員
〔拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=8
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009・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 仍て本案は全會一致可決致しました(拍手)議事日程第二の第一讀會を開き、質疑を繼續致します──穗積七郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=9
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010・会議録情報3
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第二 勞働關係調整法案(政府提出) 第一讀會(前會の續)
〔穗積七郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=10
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011・穗積七郎
○穗積七郎君 今議會に於きまする最も重要なる法案の一つであり、同時に又唯一つの勞働立法であると豫想される此の法案に對しまして、私は厚生大臣閣下を初め、星島商工大臣竝に大藏大臣閣下に御質問致したいと存じます
私の質問の要點は、後日委員會に於きまして細目に亙つて討論する爲の前提として、此の法案の基本的なる點に付て數箇所御尋ね致したいと存じて居ります、と申しますことは、由來資本主義社會の政治に於きまして、其の政治思想を表現し、其の經濟思想の根柢を表現するものは、一に其の政府の勞働政策の中に最も鮮明に表現されて居ると言はれたのであります、正しく此處に上程されて居りまする法案は、勞働爭議に對しまする調整法案であり、それは即ち次に勞働生活の確保を目標とする法案、乃至は勞働者の組織に對しまする基礎の、今日で申しますならば勞働組合法でありまするが、更にもう一つ遡りますならば、勞働の基本的なる性格竝に權利に付て規定致しまする勞働根本法に繋がるべきであると思ひます、此の勞働根本法は、更に遡りますならば、言ふまでもなく其の國に於ける民主主義政治がどのやうに、どの程度に具現されて居るかと云ふことを表明するものと致しまして、基本的なる生産の企業體制が何であるかに繋がるものであると私は信ずるのであります、隨て茲に上程されて居りまする法案の第一條に於ても、此の法案の最も基本的なる性格を表現致して居りまするし、同時に過日河合厚生大臣に依つて説明された提案理由の中にも、是れ亦基本的に此の法案の執つて居りまする立場と云ふものを表現致して居るのであります、言ひ換へますならば、此の法案は、現政府の持つて居りまする生産經濟復興政策の勞働面への表現に外ならないと私は信ずるのであります(拍手)そこで私が其の意味に於て先づ第一番に御尋ね致して置きたいことは、其の基本的なる生産復興を願つて居られまする現政府の、生産體制に對する基本的なる構想とはどんなものであるかと云ふことであります、第二の質問は、其の基本的なる生産構造の中に占むる勞働の位置に對する政府の認識竝みに今後の方針に付て御尋ね致したいのであります
第一番の基本的なる生産構造への質問と云ふことは、實は二つの面から是が言ひ得られると存じます、一つは企業の經理の面からする國營乃至國家管理の問題であり、もう一つは各個々の企業體内部に於きまする生産關係の組織であります、私は出來得るならば其の兩面の御答へを戴くならば、此の法案を論議致します爲に最も正確なる前提の條件と云ふものを握ることが出來ると思ひまするが、軈て軍需補償の打切に伴ふ企業整備の案が大藏當局から立案され、此處に上程されることが豫定されますので、生産構造に對しまする第一經理、經營の面に付ては、今日は質問の外に致して置きます、私が御尋ね致したいのは、其の第二の面である個々の企業體内に於きまする生産構造其のものに付てであります
第二に申しました質問、即ち此の生産體制内部に於きまする勞働の占むる位置に對する政府の認識竝に方針でありまするが、それは今申しました通り、此の法案の第一條に謳つて居る如く、又河合厚相の提案の説明にある如く、今後に於きまする我が國の生産復興は、勞働者自身の自覺に依る、内發的なる自覺に依る、其の自覺に立つて、國家の生産復興は我々自身の腕に依らなければならないと云ふことを、其の生産復興の基本方針として強調されて居るのでありまするが、其の勞働への主體的なる起ち上りを、今後の我が國に於ける生産復興の生産體制何部に於て、一體如何に表現されて居られるのか、是が問題であるのであります、言ひ換へますならば、勞働者の生産に對しまする主體的なる立場と云ふものを如何に理解され、之を具體的なる企業體制の中に如何に表現されようとして居るかと云ふことが、私が提出致しました第二の質問の理由であるのであります、此の二つの基本的なる質問に付きまして、なぜ私が斯くの如きことを質問するかと云ふならば、實は敗戰後の我が國の經濟生活に於きまして、國民大衆が最も此の議會の論議に期待を掛け、それが正しく論ぜられ、我々自身の前に示されんことを願つて居るものは、一つは政治に於ける天皇制の問題であるもう一つは資本主義經濟に於きまする今日の段階に於て、一體如何なる生産體制を築き上げるであらうかと云ふことが、最も聽きたいとする所の二點であるのであります、世俗の話でありまするが、我々の個人の生活に於きましても、今まで住んで居つた家に家族の數が多くなつた、そこで建増しをしなければならないと云ふ時でありますならば、建て増すべき家の造り、或は襖の飾りを相談すれば、それでこと濟むのであり、大工は叩き大工で濟むのでありまするが、今日の如く一度び一切が燒野ヶ原になつて、其の燒野ヶ原の中に新たなる政治經濟の殿堂を建てんとするならば、先づ我我が論ずべきものは、一つ一つの部屋ではなしに、此の殿堂の中心の大黒柱の配りであり、四方の柱の配りであるのであります、實は其のことが、此の新生第一の建設民主主義議會に於て私は討論の中心となることを期待して參つたのであります、我こそは民主主義者であり、民主主義思想を持つて居ると、其の發言の意欲を持ちながら發言することが出來なかつたものは、唯豐多摩の刑務所に呻吟して居つた共産黨員だけではない、我々も亦發言すべきものを持つて居つたと自負し、誇稱して、此の内閣が出來、此の新たなる議會が出來たのであります、隋て猿轡を除けられましたる民主主義議會は、此の二つの、日本政治が解決しなければならない中心の問題に對して、眞劍なる討議が行はれることを私は期待して參つたのでありまするが、遺憾ながら本議會に於きまして、最も熱心に論ぜられましたものは幾多あるのでありまするが、之に對する政府の御答辯は、聊か之を外らすの感があつたのであります、其の意味に於きまして、私は今申しました二點に付て、政府の御答辯を切に御願ひして已まないのであります
此の基本的なる問題に對する裏付をし、更に私の第三の質問を導き出す爲に、私は此處で一言致して置きたいことがあるのであります、それは我が國の勞働政策が考へられ、又勞働運動が指導される場合に於きまして、我々が其の基礎として掴まなければならないものは、敗戰後の日本の資本主義經濟の實態其のものに外ならないと私は確信するものであります、それが動とも致しますると、前世紀に於て米英の資本主義經濟が、植民地經濟の包攝の下に上し昇つ、發展して參りましたる資本主義時代の、其の勞働政策乃至は勞働運動と云ふものを眼前に描きつつ日本の勞働政策が論ぜられ、勞働運動が論ぜられて居るのではないかと云ふ危惧を持つのであります
由來我が國に於きましては、生産體制内部に於きまする勞働の位置は、幕府時代からの言葉でありまする、百姓は殺すべからず、生かすべからずの思想を以て是が指導され、一貫して參つたのであります、是は昨年の八月十四日まで續きましたる我が國に於ける經濟思想であり、經濟現實であつたのであります、此の生産體制に於きまする、勞働を生産の手段とし、乃至は客體として取扱ふ勞働政策或は經營政策と云ふものは、私は是こそが今日深刻に批判されなければならぬと信ずるのであります、此の勞働思想其のものが、若し今後の新たなる勞働政策、或は新たなる勞働法制の中に續いて生きて居ると致しますならば、私は、口には民主主義を稱へながら、其の結果とする所は大きなる反動が參ると云ふことを憂ふるのであります、戰爭中に於きましては、總力戰と言はれながら、實は勞働者を動員致します爲に、或は勞働者の勞働を強制する爲に、凡ゆる國家的なる言葉が使はれたのでありまするが、其の實際は、勞働者の意欲と國家の運命とが直結することを阻んで參つたのであります、此の勞働を一つの生産の手段とし、生産の主體として理解することが出來ない思想が、若し今日に至つて尚且つ經濟の中に殘つて居ると致しますならば、私は一切の勞働思想と云ふものが反動化すことを最も惧れるのであります
〔發言する者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=11
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012・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 靜肅に願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=12
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013・穗積七郎
○穗積七郎君(續) そこで我が國の立つて居ります今日の經濟と勞働の現實と云ふものは、實は戰ひに敗れます前までは、明治時代から大正、即ち歐州大戰以後に掛けまして、此の勞働を客體として使ひ、而も勞働の立つて居りまする基盤が、農村の封建的な産業豫備軍の中に置かれまして、所謂低賃金に依る苛酷なる勞働政策が行はれ、是が戰爭中、或は戰爭以前に於きまして、幾度か我が國に於きまする「ソシアル・ダンビング」の問題として取上げられたのであります、所が敗戰後の我が國の状況に於きましては、一切の資本は一應壞滅し、一切の領土竝に資源及び市場と云ふものが封鎖されまして、さうして其の後に我々に與へられたるものは何かと云ふならば、先づ賠償の遂行と云ふことであります、而も我が國に於きまして賠償の遂行を完遂しなければならない、解決を與へなければならない勞働政策に對しまして、「マッカーサー」指令は、賢明にも其の封建的な勞働體制、或は「ソシアル・ダンピング」の基礎を封鎖する爲に、勞働組合法竝に農地法の制定が行はれたのであります、斯くの如く致しまして、形の上では先づ「ソシアル・ダンピング」乃至は農村に於ける封建的なる其の生産體制に於きまする苛酷なる勞働の基礎と云ふものが打破られたる如くでありまするが、決して實はそれだけに依つて解決するのではないのであります
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=13
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014・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 靜肅に──穗積君、穗積君に御注意します、成るべく本問題に直接關係のある御質問を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=14
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015・穗積七郎
○穗積七郎君(續) そこで私は此の新たなる條件の中に於ける、即ち資源を持たず、資本を持たず、それから自由なる市場を持たぬ我が國の經濟復興竝に生産體制の中に於きまして、何に依つて一體我々の今後に於きまする生産體制を建設せんとするか、茲で私は御尋ね致したいことは、生産體制の内部に於きまする勞働の位置に付てであります
私は第三に御尋ね致したいと思ひますることは…
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=15
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016・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 靜肅に願ひます──靜肅に願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=16
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017・穗積七郎
○穗積七郎君(續) 我が國に於ける生産の根柢は、一に勤勞の建設以外にない、武力を持たず、資本の力を持たず、他に經濟建設をするものは、勤勞以外にないと私は信ずるのであります、言ひ換へるならば、茲で私は總ての國民に勤勞の場を與へる、働く者が安心して食へる體制を作らなければならない、第三には、働かざる者食ふべからず、第四番目に於きましては、新たなる憲法に於きまして、勤勞の權利が此處に謳はれて居るのでありまするが、私は同時に、我が國の勞働根本法の中に於て、勤勞の義務が確立され、同時に其の全生産勤勞者が、生産に對する參加の發言權を確保することにならなければならぬと信ずるのであります、實は今日の事態に於きまして、私は深刻に、我が國の今日まで發展して參りましたる勞働の立つて居りまする内外の情勢、竝に戰爭中を通じまして、主體的に盛上つて來ましたる勞働者の意欲、此のものを考へまして、實は勞働と云ふものを、もう一度生産政策の手段、客體として考へて、之に或る程度の生活を確立し、社會政策を行つて、其の勞働が惠まれたる、他から與へられたる厚生政策に依つて、新なる自覺を持ちながら、次の段階、即ち生産の主體者として起ち上つて行くことを思つたのでありまするが、今日私は思ひまするに、此の態勢が直ちに確立されなければならぬ
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=17
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018・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 靜肅に──穗積君に御注意します、御注意します、意見に亙ることは差控へて、質疑を願ひます──靜肅に願ひます──靜肅に願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=18
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019・穗積七郎
○穗積七郎君(續) そこで私は第一、第二に提出致しましたる質問の裏付けと致しまして、第三の質問を致したいのであります、言ひ換へますならば、此の法案が其の目的と致して居りまする生産復興の基本的なる政策として、厚生大臣が其の勞働者の主體的なる起ち上りを要望して居られまするものを、私は現實の生産體制の中に、言ひ換へるならば、我が國の勞働立法の中に、此の勞働者の生産に對する發言權の確立の意思なきや否やと云ふことであります、私は先程申しました通り、本法案の最も基礎をなしまする勞働の基本法に於きまして、今申しました生産への勞働者の合理的なる發言と、經營への合理的なる參加と云ふものを建設する、確立する必要があると思ふのでありまするが、其の御意思がないかどうかと云ふことを御尋ねするのであります
之に續きまして今まで論ぜられました經營協議會の性格に付きまして、今私が論じましたやうな、我が國内外の最も危機なる民族の經濟の破局の前に立ちまして、勞働に立つ以外に私は生産の途はないと云ふ觀點に思ひを一歩進められまして、此の厚生大臣が第一に謳つて居りまする、生産復興の場合に於ける勞働の主體的なる生産への參加、經營への合理的なる參加と云ふものを、經營協議會の指導の中に盛るべきであると思ひますが、其の御意思がないかと云ふことを重ねて御尋ね致したいのであります(拍手)是が此の法案を論じます爲に、私が最も國民と共に熱烈に希望して論じ、且つ御答へを載かうと思つて居る基本的なる三つの問題であるのであります
そこで次に私は更に此の法案に一歩足を進めまして、二つの問題に入りたいと思ふのであります、第一は勞働爭議に依る要求をやりながら、而して自分の勞働生活を確保することを對象と致しました本法案でありますが、其の自分達の勞働生活を確保する爲に、勞働爭議すらやることの出來ない失業者の大群があります、是が我が國の敗戰後の國民生活に於きまして最も重大で、食糧の危機と「インフレ」の危機と失業の危機と、三つの危機があるのでありますが、其の中で私は、次の我が國の經濟の舞臺に於て、最も基本的に苦しまなければならない、今日から之を眞劍に論じて置かなければならないと信ずるものは、寧ろ失業問題にあると信ずるのであります、此の失業問題に對しまする確固たる方針がないならば、假令「マッカーサー」の厚意に依りまして、此の八月、九月の端境期が乘り越えられたと致しましても、絶對に其の後の我が國の經濟竝に政治の危機は去らぬと思ふのであります、之に對して今日から明確なる政府の方針を樹立することが「マッカーサー」司令部の食糧厚意に對する感謝である、私は又勞働爭議すら起すことの出來ない失業者の大群、而も現在是等の人々は、同時に「インフレ」を増發する爲の闇商人となって、我が國の經濟に對して、一部の人々の勞働爭議以上の深刻な破局的なる行爲、經濟の建設竝に政治に向つて反逆を試みて居るのであります、此の失業者群に對する對策に於て、前の質問者は失業保險の問題を御提案になりましたが、私は此處で河合厚生大臣に新たに自分の提案をしながら、一つの御意見を御尋ね致したいのであります、それは何かと云ふならば、此の特殊の、即ち上昇する資本主義經濟の中にあり、戰爭に勝つた國の失業問題と違いまして、我が國の今日の失業問題は、御説明の如く敗戰後の、物資を奪はれ、自由な市場を失ひ、而も過剩なる人口の中にある深刻なる失業問題に對しまする對策と致しまして、私は一九二三年に英國の勞働黨が執り、二九年に行詰りを來しましたる失業保險を我が國の手本とするよりは、寧ろ戰時中に英國が執りましたる總合的なる社會保險の樹立を、而も其の綜合的なる社會保險と云ふものの背後には、巨大なる保險資金に依りまして、一切の我が國經濟の建設の基礎産業の開發の生産事業を伴う所の、綜合的なる社會保險の樹立を急ぐことが必要であると信ずるのでありますが、之に對する厚生大臣の御所見を承りたいと存ずるのであります
其の次にもう一つ勞働者の勞働爭議の問題に入る前に、我々が論じて置かなければならないことは、今後に於きまする勞働生活に於ける逼迫せる状況であります、我が國の勞働運動の過去を讀取つて見まして、此の法案が大體目標と致して居りまするやうな、煽動的なる、爲にせんとする勞働爭議と云ふものは、我が國資本主義始まつて以來、何萬の件數の中で殆ど寥々たるものであります、一切の勞働爭議と云ふものは、殆ど總てが、先程申しました、殺すべからず、活かすべからずの勞働政策の故に、已むを得ず起したる勞働爭議であつたのでありまするが、其の防衞をする爲には、勞働生活に對しまする確保であります、之に對ましては、厚生大臣は近き時日に於て勞働保護法を提案する用意ありと御答へになりましたが、同時に茲で二つのことを併せて御尋ね致したいと思ふのであります
それは去月十三日に政府は食糧突破對策に對して御聲明になつたのでありまするが、其の中で勞働者の生活に對する重點的なる物資の配給と云ふことを提案されて居りますし、同時に自主的なる供出竝に配給體制の確立と云ふことを謳つて居られるのであります、此の聲明に從つて、今日危惧されまする勞働對策を考へる時に、星島商工大臣は、其の勞働生活に對する重點的なる物資の配給の方策を如何に御考へになり、同時に又第三には、此の物資配給の體制に對しまして、私は急速に全般的なる配給體制の樹立が最も必要であると思ひまするが、其の配給體制の中で、一般の地域配給と共に、二本建と致しまして職域配給の綜合的なる體制を樹立する必要ありと信ずるのであります、之に對して併せて商工大臣の御答へを御願ひ致したいと存ずるのであります
第三は、勞働生活に關係致しまして物價の問題でありまするが、今申しました通り、勞働爭議を起して賃金値上の要求をやりましても、それは又次の物價騰貴に依つて追掛けられ、それが軈ては我が國が貿易に依つてのみ立ち得る經濟復興の場合に於きまして──何れかの時に講和條約で貿易の自由を獲得致しまするが、此の生産費の「コスト」の高い我が國の經濟に於て、どうして世界經濟の中に太刀打が出來るか、言換へるならば、勞働生活の保護と、確立と、もう一つは新たなる生産政策と致しまして、物價の對策と云ふものが重要なるものでありまするが、其の關聯に於きまして、大藏大臣に其の御方針を御尋ね致したいのであります、以上二つが私は爭議の基礎となり、此の法律以上に産業の平和を確立し、生産の確保をする爲の基礎條件であると信じまするが故に、此の法案の中に直接は出て居りませぬが、是こそが生産復興對策、勞働爭議對策の基本的なるものとして、私は商工、大藏兩大臣に御尋ね致すのであります
そこで私は更に一歩を進めて、勞働爭議の領域の中に入りまして、具體的に數箇點に付て御尋ね致したいのであります、私は先づ第一番に此の法案を讀みまして感じましたることは、一部の勞働運動の行過ぎの方向に對して、之を拒否する爲の、防止する爲の對策として是が唱へられて居りながら、實は其の背後に於きまして、最も「イージー・ゴーイング」に、現在までの生産體制竝に勞働秩序の現状維持の中に於て、勞働爭議の取締が行はれんとするやうな印象を持つのでありまするが、それ等のことに付きましては委員會に讓りまして、其の討論の爲の基礎として二、三御尋ね致して置きます
先づ第一番に御尋ね致したいと思ひますのは、中央勞働委員會を初めとし、各地方に於きまする勞働委員會でありまするが、是は先般法定されましたる勞働組合法竝に此の法案を通じまして重大なる機關になつて居ります、所が現在我が國に行はれて居りまする勞働委員會、特に中央勞働委員會は如何なる經過に依つて之が構成され、而して其の後に於て勞働組合法が法定されて居るのでありますが、それに依りますと、勞働組合法二十六條竝に施行令三十七條に其のことが規定されて居りますが、それとの關係に於きまして、現在の中央勞働委員會竝に地方に於ける勞働委員會の構成の經過竝に今後に於ける状況、方針に對して御尋ね致して置きたいと思ふのであります
其の次に御尋ね致したいと思ひまするのは第四章の仲裁規定の條項に付てであります、此の條項に於きましては、三十四條、五條に於きまして此の仲裁の規定と云ふものは勞働協約と同一の效力を持つことになつて居ります、是が一度採上げられた場合には、爭議當事者から拒否權がないことになつて居るやうに思はれるのであります、其の拒否權を一囘、少くとも仲裁を預けました兩者が、其の裁定された仲裁の内容に對して、一囘の期限を限つて拒否權の必要がないかと云ふことを私は思ふのであります、之に對する厚生大臣の御所感を御伺ひ致したいのであります
其の次は勞働爭議の制限竝に禁止の條項の中に於きまして、特に重要なる點一つだけ御尋ね致したいと思ひまするが、公益事業竝に官公吏に對しまする勞働爭議の制限及び禁止がありますが、是は前の質問者が述べられたので同じ質問は打切りますが、此の公益事業に於ける從業員は、通告を致しまして三十日間勞働爭議を起すことが出來ない、併しながら爭議と云ふものは豫告致してから三十日を經過致しましたならば、是は勞働爭議の勝敗に關して決定的なる影響を持つのであります、そこで此の三十日の期間、竝に禁止されて居りまする官公吏に對しまして第八條二項に於て規定されて居りまする業務を停止せしめる勞働爭議の行爲でありますが、其の行爲以外に、即ち從來勞働紛議と言はれたる要求歎願書を提出致しまして、其の業務に對しては正常通りの行爲を繼續して居る、斯う云ふ紛議の形態があるのでありまするが、此の公共事業に於ける從業員が、豫告してから三十日間、其の官公吏が、全部是等の者が、共に此の八條に規定されて居る爭議行爲以外の紛議、即ち要求歎願の方法に依る此の行爲、勞働紛議の行爲と云ふものを、中央委員會竝に地方の勞働委員會に於て取上げまして、之を一つの纒まつた從業員の勞働組合の要求と致しまして、正當に取上げるやうなことの法制化が必要であると思ふのでありますが、其の御意思はないかどうか、御尋ね致したいのであります
最後に三十八條でありまするが、官公吏の現業と書いてあります、「現業以外の行政」云々とありまするが、此の現業員の範圍は一體何處に置いて居られるのか、其の點に付て厚生大臣に御明示を御願ひ致したいと思ふのであります、尚ほ一つ罰則が附加へられて居りまするが、我が國の曾ての勞働運動の中に於きまして、外國に其の例を見ない爭議手當なるものが、勞働組合の幹部に補給される場合が相當多かつたのであります、是が勞働組合の大衆性を奪ひ、乃至は幹部に對する疑ひを持つて、世間は「デマ」の材料とすると云ふやうなことが行はれたのでありまするが、此の勞働爭議の爭議費用に對する何等かの合理的な規定と云ふものが、罰則に附加へられまして規定さるべきであると思ふのでありまするが、之に對して厚生大臣は勞働運動の現實と云ふものを今まで最も能く御存じであられますので、其の我が國に於ける現實の状況を勘案されまして、如何なる御所感を持つて居られるか御尋ね致したいと思ふのであります、以上私は基本的なる三つの問題から、竝にあと七つの問題に對しまして、三大臣に御尋ね致したのでありまするが、最初に申しました通り、國民と共に其の基本的なものが最も熱心に明快に御答辯されることを切望致しまして、私の質問を打切ることに致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=19
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020・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 河合厚生大臣
〔「議長、議事進行に付て」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=20
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021・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 發言中であります
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=21
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022・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の穗積君の御質問に對して御答へ致します
第一、第二の點は、企業體制及び勞働者の地位に對して政府は將來どう云ふ考へを持つかと云ふ御質問のやうに拜承致しました、それで私は之を勞働問題の立場から極く簡單に御答へ致します、大體只今の政府の斯う云ふ問題に對しまする考へ方は、民主主義の線に沿ひまして個人の人權を尊重する、快活なる自由の展開を求めると云ふ個人的の立場と、もう一つは日本經濟を再建しなくちやならぬ、日本經濟の興隆を圖らなくちやならぬと云ふ二つの線に沿うて全體の問題を考へて居ります、そこで個人の所謂人權尊重の面に付きましては、憲法を初め勞働組合法、或は只今提出の調整法、それから將來提出せんとする勞働保護法其の他の線に沿つて進むと同時に、又個人の自由權利を尊重すると云ふことは、一方相手方の權利の自由を尊重すると云ふ裏付けを持たなくちやなりませぬから、此の面に付て先日來申しました生産管理の否認等の問題、又資本家「サボ」の抑壓と云ふ問題に入らなくちやらなぬのであります
もう一つ國家再建の點、此の點に付きましては、色々問題が複雜でありまするが、問題の重點は勞働者の面から見ますれば、勞働者の自覺之に依つて生産意欲の向上を圖りまして、さうして、日本再建を圖ると云ふ點に重點を置いて居ります、勿論之には經營者の問題、資本家の問題等、色々こんがらがつて參りますが、大體に於て是は人間社會であるから人が中心である、是は疑ひないことであります、さうして人、即ち勞働、勤勞、或は經營權の如きも其の中に入ると思ひます、此の屬人的の線が最も重大な線であります、併しながら御承知の通りに物がなくちや世の中は旨く行かないのだ、人が此の物を巧みに利用して行くと云ふ點に於て、やはり一つの重大な點があると云ふことは御含みを願ひたい、此の二つの線に於て色々の錯覺、交錯がありまするが、結局に於て是は段々人間の自覺を、個人の自覺を中心にしまして、さうして旨く人が物を支配して行くと云ふことを理想として居ります、組合運動、協同組合のやうな思想も此の中に入りますれば、勞働者の地位の向上と云ふ問題も入るし、それから經營と資本との分離的傾向と云ふことも入りませうし、斯う云ふ問題は具體的に申せば色々面倒になると思ひますが、大體さう云ふ風に考へて居ると云ふことで御承知を願ひたいと思ひます
其の次の問題は、勞働者の合理的發言をどう云ふ風に認めて行くか、結局經營協議會の性格に付ての御尋ねだと存じますが、此の經營協議會と云ふものは出來るだけ公的に認めまして、さうして此の經營協議會の内容としましては、此の線に於て勞働者の經營に對する發言を段々認めて行くと云ふことを奬勵したい方針で居ります、併しながら經營權と勞働權と云ふものは、やはり截然と二つに分けて行きます、さうして願はくは勞働者が經營にも參加し得る實質的の向上を期待して居る譯であります、それで經營協議會の性格と云ふことに付きましては、茲にはつきりした決まつたことを今やると云ふのはどうかと思ひます、色々時代に依り、發達に應じて、又事業に應じて、色々な變化に依つて之をやつて行きたいと云ふ考へで居ります
それから勞働爭議をやれない範圍の失業者に付てはどう云ふ考へを持つかと云ふことでありますが、是は前に松岡君の御質問に對しても御答へしたと思ひますが、生活の保障と云ふことは今度憲法草案にも特記してある事項でありまして、此の線に沿うて先づ失業者救濟をやつて行かなくちやならぬのでありますが、一面に於て一石二鳥と云ふ立場で、之に依つて生産を増加しさうして日本再建の基礎になして行きたいと云ふ考へも持つて居ります、併しながら二つとも中々相容れたやうな場合には、今日は非常に重大な失業對策の時機でありますが故に、寧ろ第二の點に「ウエート」を置くと云ふ考へを私は持つて居ります
それから失業問題に付きましては、勿論熱意を以て日夜實は考へて居る次第であります、是は金高も六十億と云ふ風に限られて居ります、役所の金と云ふものは、一遍使ふとそれ切りになつてしまひます、何とか此の金を巧く廻轉をしてやる方法はないかと、實は心膽を碎いて居る次第であります、又其の線に沿うたことは、結局今までの官治的の失業救濟と云ふことでなく、盛上る民意を反映して、さうして出來るだけ民間の力を借りて此の救濟をやる、隨て金の如きも、さう云ふ問題に付て何か廻はす方法がないかと云ふことを今考へて居る最中であります、尚ほ補導機關とか授産機關とか云ふ問題に相當の重點を置いて行く積りであります
其の次の問題は勞働委員會の今日までの經過及び將來の考へと云ふことと拜承致しますが、此の點に付きましては、御承知の通りに勞働組合の出來た時には、勞働組合の團體は能く固まつて居りませぬ、經營者側の團體も能く固まつて居りませぬので、施行法三十七條第五項に依りまして、政府が音頭を取つて決めたと云ふことになつて居りまして、必ずしも完全と申すことは出來ませぬ、是は出來るだけ近い機會に於て改めたいと思ひます、併し其の方法をどう云ふ風にするかと云ふことは中々難かしい、只今中央委員會に其の案を諮問して居ります、出來次第それに依つて實行する積りで居ります
其の次は仲裁裁定に對して、當事者に一遍位拒否權を與へてはどうかと云ふ御考へでありますが、此の點は一つの問題だと思ひますけれども、仲裁と云ふものは強制規定ではありませぬ、仲裁は商法の同意でありますから、同意してそれに決まつたものは、先づ拒否權を持たせぬと云ふのが私は論理だと思ひます、只今の所は、政府は之に拒否權を持たせる考へを持つて居りませぬ
其の次の問題は、勞働爭議にならない、勞働紛議と稱すべきものを勞働委員會で取上げて、之に一つの協定其の他をやつてはどうかと云ふやうな御所論と思ひまするが、是は勞働爭議になる、爭議行爲の虞あるものに付きましては既にそれをやることになつて居ると思ひますので、其の程度の問題は、日中から夕方になるやうな問題で、中中難かしいと思ひまするが、自ら社會通念的の線が引けるのであります、先づそれで大丈夫だと思つて居ります、併しながら是も任意的に勞働委員會がお世話を燒いて行くことを否定するものでないと考へて居ります
それから其の次の問題は、公益事業に於ける現業と云ふ問題に付ての範圍を示せと云ふことでございましたが、是は鐵道、遞信、電氣、水道等の如く、國又は公共團體がありまする公企業の現業の意味です、公企業の現業と云ふと、現業とは何ぞやと云ふことになりますが、現業とは企業を直接實體的にやつて行くこと、さう云ふことで、是も社會通念的の一つの線が引けると思ひます
それから最後の點でありまするが、幹部に爭議手當をやることはどうか、禁止するかと云ふ御話でありまするが、現段階に於きましては、法律を以てそれをどうするかと云ふ考へを持ちませぬ、唯買收的にやると云ふことは勿論良くはありませぬが、爭議團自體に金を渡すことは是は差支へないと云ふ風に考へて居ります(拍手)
〔國務大臣星島二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=22
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023・星島二郎
○國務大臣(星島二郎君) 穗積君仰せの通りに、此の敗戰日本に殘つて居るものは、唯一つ此の七千八百萬の人の力であります、此の勞働力を本當に結集して再建に資せなければなりませぬ、それに付きましてはお互ひが人格を尊重し、人權を尊重し、從來の如き所謂商品化した勞働力でなくして、互ひに友愛の精神と勤勞の精神に燃えて行くことを基本とする觀念で總ての勞働行政を扱つて行きたいと、斯樣に思うて居ります、尚ほ生産計畫に勞働者を參加さしてはと云ふ御話でありましたが、正に御意見通りに既に私共所管に於きましても、先般の肥料の生産計畫に付きましては、勞働組合の代表者の參加を願つて大變良い結果を收めて居ります(拍手)さう云ふ調子に今後經營協議會に於きましても、常に其のやうな心構へで總てをやつて行きたいと存じて居る譯であります、又配給等に付きまして職域配給をやつてはどうか、現に或る種のものはやつて居ります、今後もつと研究を致しまして、勞働組合、消費組合等に便宜なやうにやつて行くべきであつて、殊に此の食糧危機突破に際しましても、此の勞働尊重、或は石炭其の他の職域に加配米を出す等に付きましても、やはり職域の組合と調子を合はさぬといけない點が澤山ありますので、仰せのやうに十分研究して參りたいと思つて居ります(拍手)
〔政府委員上塚司君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=23
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024・上塚司
○政府委員(上塚司君) 穗積君の物價及び生産「コスト」の問題に付て御答へを致します、現在の物價問題で最も肝腎なことは、均衡を得たる安定を圖ることでありまして、政府は目下極力其の線に沿うて研究を續けて居ります、尚ほ生産「コスト」の引下に付きましては、近く企業の整理が行はれますれば、其の經理状態が安定致して參ります、さう致しますると、其の堅實なる基礎の上に立ちまして、合理的な生産「コスト」と云ふものが確立せられると考へます、之を以て御答へと致します(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=24
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025・穗積七郎
○穗積七郎君 此の席から御許しを願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=25
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026・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=26
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027・穗積七郎
○穗積七郎君 御答辯を戴きまして、不明瞭な點もありますので、委員會に於て又御尋ね致したいと思ひますが、唯一つだけ河合厚生大臣に、失業對策と致しましての總合的なる社會保險の意思ありや否やと云ふことに付て御答辯が漏れましたので、是は重要なことであると思ひますから、此の席でもう一度御答へを戴きたいと存じます
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=27
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028・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 御答へ致します、綜合的な社會保險の制度に付きましては、只今社會保險制度委員會を設けて研究して居ります、其の制度を完備すると云ふのには時が掛かりますので、只今の問題はもつと急に來て居りますから、失業對策及び生活保護法と云ふ線を以て處理して行くと云ふ考へでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=28
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029・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 石田一松君
〔石田一松君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=29
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030・石田一松
○石田一松君 私は新光倶樂部を代表致しまして、今囘政府の提案になる勞働關係調整法案に對して質疑を致します、私は此の勞働關係調整法案の第一條後段に明示しある本案の目的、即ち「經濟の興隆に寄與する」と云ふことには全面的に贊意を表するものでございますが、本案の立法精神竝に立法技術の拙劣、勞働組合法との關係、竝に新憲法草案に於て保障されんとして居る人間の基本的人權の蹂躙の疑ひ、竝に勞働組合運動の我が國現下の情勢より判斷致しまして、以下數項に亙つて、主として厚生大臣竝に各關係閣僚に質問を致します、先づ最初の質問であります、誠意を以て後答辯を願ひます、特に厚生大臣は、先日來非常に御名前に似合はぬ低聲であつたので、今日はうんと高聲に願ひたいと思ひます
私は本案の第一條と勞働組合法の第一條との關係如何と云ふことを第一の質問と致します、此の二つの法案は、何れも第一條に於て經濟の興隆に寄與すると云ふことが究極の目的であると思ひます、何が故に同一事象に對する同一目的の爲に、相異つた二つの法律が必要なのでありますか、若し本案の第一條に掲げてある所の目的が眞に文字通りに政府の意圖なさつて居る所であつたならば、何も苦し紛れに勞働關係調整法などと云ふやうな名前を付けて──宛ら調味料の唐辛子のやうなものである、折角生産意欲を燃やして居る勞働者を刺戟して、何處に此の法律の利益があるかと云ふのであります、同一の目的の爲に制定された勞働組合法と云ふ日本では劃期的な立派な法律があるのですから、若し本案に謂ふ目的だけの爲に是が作られたのであつたならば、同じ目的の、先にある法律を修正するとか、又凡ゆる方面からそれを檢討して、之に依つて本案の目的を十分に果すことが出來るのではないかと思ひます、併し具さに經濟の興隆に寄與すると云ふ此の勞働組合法と、本案との立案者の立法精神の根本を解剖して見ますと、受働組合法第一條には「團結權の保障及び團體交渉權の保護助成に依り勞働者の地位の向上を圖り、」此の圖ることに依つて經濟の興隆に寄與すると云ふことが目的になつて居る、是は明かに讀んで字の如く、勞働者自身の利益を考へ、勞働者の基本的人權を尊重すると云ふ立法精神に基いて立案されたる法律であると思つて居る、然るに昨年の十二月勞働組合法が此の趣旨で制定されてまだ七箇月ばかりしか經つて居ないのに、再び今囘政府より提案されたる勞働關係調整法案の第一條には、「勞働組合法と相俟つて、勞働關係の公正な調整を圖り、勞働爭議を豫防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて經濟の興隆に寄與することを目的とする。」と言つて居る、勞働爭議を豫防する、宛ら傳染病の如くに勞働爭議を取扱つて居る、「勞働組合法と相俟つて」と、斯う云ふことで勞働組合法と相俟つことが出來るかどうか、是は勞働組合法の蔭に隱れて、と云ふ間違ひではないかと云ふ私は疑ひを持つて居る(拍手)要するに本案の根本立法精神は、勞働組合法の立法の根本精神と全く相反するものであると私は斷言致します(拍手)換言すれば、勞働組合法は勞働者の利益の爲に、今度提出されたる此の勞働關係調整法は資本家の利益の爲にと云ふ、互ひに相矛盾する立法精神に依つて立案されたものであると私は看做して居ります、此の兩者の間に、國家意思である所の立法精神の一貫性と云ふものがありませぬ、即ち自らを放火をして置きながら、消火をしろ、消火をしろと奬勵して居るのと同じでございます、私は茲で徒らに資本家の利益を、或は私有財産を否認せんとするものではありませぬ、日本再建の爲に私は此の資本の重要さは認めて居るのであります、併しそれより以上に、敗戰後の日本に於ける勤勞階級、勞働者の勤勞意欲と云ふものは、資本家の資本より以上に、現下の日本に取つては、有效なる、又重要なる無形資本であると私は思つて居ります(拍手)故に本案の如く徒らに勞働者る刺戟するやうな法律を作つて、其の結果勞働者は自暴自棄に陷り、遂には勤勞意欲の低下をさへ來しまして、本案の目的を阻碍するやうな處が多分に私は此の法案に包含されて居ると思ふのであります、故に政府は宜しく此の際本案を撤囘なすつて、勞働組合法の運營に依つて、或は此の法案の中の制度に關する機構、組織等の條文を勞働組合法に持つて行つて、而も勞働組合法の精神に依つて、本案の目的である經濟の興隆に寄與される方が、目的達成には寧ろ近道であると私は信じて居りますが、厚生大臣の之に對する御所見を伺ひたいのであります
第二は本案の立法技術竝に成文化されたる各條章の大部分が、道徳の範疇に屬するものではないかと云ふ點であります、本案の各條章を檢討して見ると、各所に於て恰も國民學校の修身の教科書を讀んで居るかのやうな錯覺に陷ることがあります、例へば第二條の後段「勞働爭議が發生したときは、誠意をもつて自主的にこれを解決する」云々、又第三條の後段、第五條の全文等々であります、斯かることは何も故らに法律に規定をしないで、道徳の範疇に任すべき性質のものであります、少くとも勞働者竝に使用者各自の善意ある自覺に一任すべき問題であります、而も本法の第四條、第十六條、第二十八條、第三十五條──「此の章の規定は、勞働爭議の當事者が、双方の合意又は勞働協約の定により、別の斡旋方法によつて、事件の解決を圖ることを妨げるものではない。」と云ふのが十六條、それで十六條を讀んで十八條を讀みたかつたら、此の十六條をもう一遍見て、斡旋と云ふ所を調停か仲裁かに換へれば宜い、二十八條にも此の條文と同じことが書いてあります、是等の條文から察すると、本案の是等の條文其のものが、本案は必要ではないと云ふことを各章で立證して居ることになります、要らないと言つて居るのであります、是でやらなくても宜い、お互ひにやれ、それならこんなものを作らなくても宜い、初めから任せて置いたら宜いのであります、さう云ふ意思は厚生大臣にないかと云ふのであります
偖て第三二、生産管理を否認することに依つて生ずるであらう今後の總罷業と云ふことに對する責任を本案に轉嫁し、進んで勞働者に轉嫁しようとして居るのではないか、五月三十日現在の統計より見ますと、爭議が起つて調停に依つて解決したものが五件、之に對して爭議になつて自主的に解決したものが約七件となつて居ります、又昨年の一月から七月まで、即ち終戰前勞働爭議の起つた件數は十三件でありますが、戰爭最中にも拘らず、約十三件の中で九件は同盟罷業に入つて居ります、此の「パーセンテージ」は約六九%の同盟罷業になつて居るのであります、然るに敗戰後今日までで、勞働爭議の發生した件數は、一番多かつた今年二月の二百三十件の勞働爭議の中で、同盟罷業に入つた件數は僅かに十九件であります、此の「パーセンテージ」を取つて見ると、約八%にしかなつて居りませぬ、此の統計から見ましても、敗戰後の勤勞者が如何に生産増強の必要を自覺し、勞働組合法に依つて與へられたる團體交渉權を、忠實に、民主的に、而も穩健に之を使つて、徒らに罷業に入ることなく、自肅自戒をしながら働いて居るかと云ふことが、此の統計で立證出來ると思ひます(拍手)罷業を行つて生産の減少を來すことを惧れ、勞働者は生産の低下を防ぎつつ否、生産に努力しつ、自己の主張を貫徹せんが爲に、爭議の一手段として、已むに已まれず生産管理を行つて居るのであります、政府は之を否認し續けて居るやうであるが、今少し此の生産管理と云ふものを、善意に解釋してやつて貰うことは出來ぬか、若し勞働者の眞意を御存じだつたならば、もう少し勞働者に同情の目を以て此の生産管理を解釋してやつて貰ひたい、本朝あたりの關係筋の報ずる所を讀んで見ますと、是はどうしても認められないが、私もそれでは認めよとは言はぬ、認めよとは言はぬが、故らに否認することはないと思ふ、私は若し政府がどうしても此の生産管理を否認すると云ふやうなことを言つて居たら、當然是から起る勞働爭議は、直ぐに同盟罷業の形を取るやうなことになりはしないかと思ひます、即ち政府は、生産管理を否認した結果、勞働爭議が罷業に入る、それ故に本法を急遽強引に立案して、今後發生するであらう所の罷業の責任、それより生ずる生産の低下の責任を、勞働者自らの責任に轉嫁せんが爲に、此の法案を志したのではないかと思ふ、此の點をはつきり言つて貰ひたい、宜しく政府は此の際寧ろ反省して、先程も申しました勞働者自身、勤勞階級自身が生産意欲に燃えて居る、平和國家の建設に挺身して居ると云ふ此の眞心を御酌み取り下さいまして、生産に必要なる資本をまで私はどう斯うと云ふのではありませぬ、之を擁護して上げて下さい、して上げて欲しいが、此の爭議の手段としての生産管理を、一應何とか考へては貰へないかと云ふことであります、而も長期に亙る生産管理は、勿論財産權の否認ともなるでせうから、其の時に、例へば第三者を交へるとか、又勞働者、使用者を交へた委員會などを作つて、生産管理調停法などを御作りになれば、決して資本家の利益を阻碍するやうなことは私はないと思つて居ります、其の點を一つ御聽きしたいと思ひます
偖て第四は、本案は人間の基本的權利を規定した新憲法の草案の趣旨に反して居ないかと云ふことをであります、總て爭議の發生は、勞働者の生活改善と云ふ已むことを得ない要求から來て居ります、即ち人間が生きんとすることは、人間の基本的權利の一つであると思ひます、而も是は新憲法草案に明かに保障して居る所であります、然るに本案の第五章に於ける爭議行爲の制限竝に禁止は、新憲法草案の第三章國民の權利及び義務の第十條「國民は、すべての基本的人權の享有を妨げられない。この憲法が國民に保障する基本的人權は、侵すことのできない永久の權利として、現在及び將來の國民に與へられる。」、而も第十二條竝に勤勞權を確立せんとする第二十五條、第二十六條には、明かに是は反するものであると私は思ひます、其の最も顯著なる例は、本案の第六條の後段に、爭議が發生する虞ある状態を勞働爭議と規定して居ることであります、爭議行爲がまだ發生せずに、勞働組合法で認められた團體交渉權の過程にある生活改善の要求を提出しただけでも、其の時其の時の委員の解釋の一つに依つては、之を爭議と看做して、國民の自由、基本的權利の制限まですることが出來るやうになると私は解釋致します、斯う云ふことは人間の意志まで法律に依つて對象にせんとする、凡そ非民主的な、相反する立法ではないかと私は思ふ、新憲法制定の曉には、恐らく新憲法の第七十七條に依つて、此の法案は最高裁判所の裁斷に掛けられる價値が十分にあると私は信じて居ります、而も本案の第三十八條、警察官吏、消防職員竝にあの監獄に於て勤務なされる方、其の他の者の爭議の禁止に至つては、警察官吏や消防職員などの社會的身分に依つて、政治的、經濟的、社會的の差別を是は受けしめるものでございますから、明らかに新憲法草案の第十三條一項と、絶對に兩立し得ないものであると私は考へて居ります(拍手)特に是は田中文部大臣に一寸御尋ねしたいのでありますが(「居らぬぞ」「初めから斷つて置け」と呼ぶ者あり)斷つてあります、此の第三十八條に教職員を加へて見たり、削除して見たり、過日の本會議の質問に對して、教育者は爭議をなさざることが望ましいが、法律で之を明瞭にすることは好ましからざる事由がある、教育者自身の良心に任せる方が效果的であると思ふ、文相としては今までの信念が微動だもして居ないと答辯をなさいましたが、今までの信念と仰しやるのは、此の第三十八條に官公私立の學校の教職員を附加すると云ふ信念か、それともしない方が宜いと云ふ信念であるかと云ふことを、はつきり一つ御答へ願ひたいと思ひます、教育者自身の良心に任せる方がより效果的であると云ふことを、現内閣の閣僚の一人文部大臣が言つて居ります、それであつたらば、なぜ一歩進めて勞働者の良心に任せた方がより效果的であると厚生大臣は返事をして呉れぬか、私はさう思ひます、是非此の勤勞階級の良心を信頼して戴きたいと思ひます、而も教育者は爭議をなさざることが望ましいと云ふ文相の此の答辯は、總て教育者は生活問題なんかは全然口に出してはいけない、武士は食はねど高楊枝だ、清貧に甘んじて教育に専念するのが是が本當の人格者だ、などと云ふことは勿論御考へになつて居ないことと思ひますが、私は今後の參考の爲に、さう云ふ風な人格者を作ることが既に封建的なものではないかと思つて居ります、最近發生した教育者の爭議は、日本全國四十萬人の中の僅か一%にも足りない少い人なのであります、此の僅かな人の爲に、殘りの九九%の大部分が危くも此の三十八條の犧牲にならうとして居たのであります、文相の言葉を藉りて言ふならば、第三十八條の警察官吏、消防職員以下の官吏其の他の者から、此の法律に依つて明かに爭議權を奪ふと云ふことは、實に好ましからざる事由が存在して居ませぬか、即ち若し此の勞働關係調整法案が強引に制定されると云ふことになつたならば、──昨日のあの示威運動中の代表の言つた一言に、時に依ると「ゼネラル・ストライキ」を決行するかも知れぬと云ふことを言つて居ります、是が若し決行されたとして、再建途上にある我が國産業經濟が假令二日でも三日でも中絶して、其の結果に因つて惹起するのであらう所の政治的、經濟的、社會的な混亂と、七千萬以上の國民が之に因つて被る大損害と、又之に因つて若し餓死時期を促進するやうなことがあつたり、餓死者の數が激増するかのやうなことが若しあつたならば、其の責任は明かに此の法案を強引に制定せんとする現内閣の責任であると私は斷言して置く(拍手)内務大臣竝に厚生大臣は、此の重大なる社會の動き、勞働者の動きを如何に考へて居られるか、斯かる犧牲を敢てしてまでも此の法案をどうしても制定しなければならぬと云ふ、それ程重大なる根據があるのならば、其の根據と理由を此處ではつきり御答へ願ひたいのであります
第五は少くとも我が國現下の勞働組合運動の實情より見まして、此の法律は時期尚早ではないでせうかと云ふ點であります、即ちお互ひが經濟の興隆を望んで居る、其の目的には皆贊成して居るのでありますが、時期が一寸早くはないか、例へば此の法案をもう少し修正して、後日を期して制定をしたならば、此の法案の價値も幾分認められなくはないのでありますが、社會の情勢、勞働組合運動が今日はそれ程健全に發達して居るとは言へないと思ひます、本案の作成に當つた審議會の構成「メンバー」であるとか、又本案に謂ふ所の各委員が、公正に勞働組合の總意を代表し、或は又使用者の總意を代表すると云ふ機構が完全に完成した後、失業保險法或は勞働立法等が完成しまして、勞働者自身の勤勞權が確立され、新憲法第二十五條に依つて、而も彼等の勞働條件、經濟的地位が確保されて後に、本案の如き趣旨の立法がなさるべきものであると私は信じます、而も是等の立法がなされない中に本案が提出されたと云ふことは、少くとも本末を誤まつたものであると私は考へますが、厚生大臣は如何に御考へなさいますか、「カナダ」に於ける強制調停が、政府の命令一下直ちに忠實に實行されて居ると云ふ事實はありますが、それは日本の事情、政治状態と事情が違ひます、「カナダ」のあの強制的な命令的な調停法が忠實に勞働者に依つて實行されると云ふのは、「カナダ」の勞働黨の内閣が國民の勞働者全部から全面的に信頼をされて居るから是は出來ることなのであります、にも拘らず私は失禮なことを申しますが、少くとも現内閣は日本の全勞働者から絶對に信頼されて居るとはお世辭にも言へないと思ふのであります、然らば此の内閣が此の難かしい法案を制定しようとする所にどうしても無理が生ずるのであります、誠意がどうしても之に現れて來ないのであります、此の點に於きまして、此の法案の制定は、少なくとも新憲法の制定の曉──先づ七、八箇月早いのではないかと思ふが、此の點を御尋ねしたいのであります
更に御尋ねしたいことは、生産「サボ」に對することに付て商工大臣に──是は先程もありましたが、先程は失業と云ふ方面から論ぜられました、私は爭議をする相手を持つて居ない庶民階級と云ふ立場から一寸御伺ひしたいと思ひます、又もう一つは、此の爭議の解決の結果が、他の國民大衆の犧牲に於てなされる官業方面の最近のあり方に付て遞信大臣、運輸大臣等に一寸御尋ねしたいと思ひます、少くとも私は理論的には、法理的には、官業に從事なさる方々にも絶對に罷業權を認めたいと云ふものでありますが、其の結果として直ちに汽車賃を三倍にも四倍にも、二度も三度も、誰に斷りもなく値上をして見たり、直接國民大衆の五百圓生活を脅威して恬として恥ぢない、而も煙草などに至つては、戰爭最中に戰時負擔價格であると云つて國民を納得さして、戰爭に敗けてしまつたにも拘らず戰時負擔價格がずつと其の儘續いて居る、まだそれだけではない、今度は又再び大幅に値上をされました、而も郵便料金も三倍位に上げることになつて居る、斯くの如く國民の生活に直接重大なる影響を與へる政府の事業の總ての値上と云ふやうな問題は、特別會計、獨立會計と云ふことがあるのでせうが、少くとも其の値上の時には、郵便料金と同じやうに本議會で協贊を經られると云ふやうな御考へはないかどうかと云ふことを一寸御聽きしたい、勿論私は先程も言ふやうに、話が違ひますが、勞働者と雖も爭議權を濫用して、無茶苦茶に何でも爭議をやらう、罷業をやらうとして居るのではないと思ひます、生活さへ維持されたら、誰も空腹を抱へて爭議をやらうとする者はないと思ひます、生きんが爲にやらうとして居るのであります、而も先程も言ひましたやうに、此の氣の毒な勞働者が爭議をなさることを、あああの人達は爭議が出來る、羨ましいと思つて羨やんで居る人が事實あるのであります、所謂私の言ふ庶民階級と云ふのであります、即ち今次の戰爭の犧牲となつて永遠に歸つて來ない父親を、今日は歸るか、明日は歸るかと母親に無心に尋ねながら、母親の手に抱かれた二人の幼兒、此の三人は生活の收入の糧を全部現在絶たれて居りまして、燒出されて僅かに殘つた二、三枚の着物の中、夏だから冬は何とかなるであらうと云ふので、冬の着物を今賣拂つて、是から得た金で、二人の子供を抱へて千葉方面へ買出しに行つて、電車に揉まれて夜半の終電車で家へ歸つて來て、明日の朝から露店の隅へ出て埃に塗れ、幼兒に出ないお乳を飮ませながら、口には出しませぬ、涙こそ出して居りませぬが、恐らく心の中では何と云ふ無策な内閣なのであらうか、何と云ふ無情な内閣であらうかと怨んで居る、此の道行く人に商ひをしながら居ると云ふ現況を御存じないのではないと思ひます、どうぞ斯う云ふ方面にも手を差伸べてやつて貰ひたい、而も斯かる國民に對する施策として、生活保護法を用意して、三十億圓の豫算も上程することになつて居ると云ふ話でございますが、之に依つて最高一人二百五十圓當りでございます、此の配分方法で彼等が餓死地獄から脱出出來ると厚生大臣は考へていらつしやるかどうか、而も財産税、戰時利得税より得る數百億の財源の假令一部分でも、斯かる悲慘なる戰爭犧牲者の爲に使つてやらうと思つていらつしやるか、若し思つていらつしやるとしたら、それはどの程度に支出されるものであるかと云ふことを私は一寸御聽きして置きたいと思ひます
我等は慈善を欲せず、我等は勞働を欲する、と云ふのは、一九〇五年英京「ロンドン」に於て開かれた失業大會の時の「スローガン」であると聞く、我々日本國民を假令餓死線上に彷徨して居ても、決して慈善に依る涙金を欲しがつて居るのではない、勞働を欲し、勞働權を欲し、而して勞働の義務を忠實に負はんとして居るのであります、斯う云ふことを厚生大臣は能く認識なさいまして、勞働者の眞意を酌んで、是非此の法案は檢討して載けませぬでせうか、過去に於ける資本主義的生産手段がどうしても資本家の利潤のみを追求すると云ふ結果に終つたのは、是は已むを得ませぬが、併し此の資本家の利潤を追求することが第一であつて、國家社會の目的利益が第二と云ふ風な考へ方はどうかと思ひます、此の點で斯かる資本主義的な經濟機構を全面的に排撃せよと言ふのではございませぬが、思ひ切つた、少くとも大きな「メス」を入れて、相當大幅なる資本主義經濟機構の社會化がなされたならば、今言はれる生産「サボ」の問題も是は解消するのではないかと私は考へて居ります、此のことに依つてのみ、勞資の、事實文字通り良心と良心との融和に依る生産増強があり得るのでありまして、一方のみがお互ひに自己の利益のみ守らうとするやうな勞働組合法と、此の勞働關係調整法と云ふものが、法律の上に於て資本家と勞働者の立場をはつきり出して、是が闘ひ合つて居るやうでは、絶對に今後資本家と勞働者の融和に依る生産の増強はあり得ないと思ふが、厚生大臣の御考へを伺ひたいのであります
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=30
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031・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の石田君の御質問に御答へ致します、政府は國家全體の、國民全體の公共的利益を目標として居りまして、一つの階級の利益を目的として居りませぬ、それから色々細かいことに付て御答へ致しますが、勞働組合法と此の調整法とは、一つで宜いではないかと云ふ御話がありましたが、政府はやはり二つ作る必要があると思つて作りました
それから又勞働保護法も別に作ります、それから修身の本のやうに書いてあるではないかと云ふことでありますが、成べく一般大衆に分るやうに親切に書きました
それから第三は、生産管理に付ての問題でありまするが、是は二、三日前に最高司令部から發表もありましたことは、石田君の只今御指摘の通りであります、萬事明瞭になつて居ると思ひます、それで生産管理は正當でないからやつてはならぬのであります、決して政府は勞働者に責任を轉嫁したと云ふやうな考へは一つもありませぬ、又生産管理を止めました結果は宜しいやうでございます
それから其の次の點に付て御答へしますが、此の勞働關係調整法は憲法の趣旨に反しはしないかと云ふ御話がございましたが、決して反することはありませぬ、憲法第十一條、第十二條等には、國民の權利自由は公共の福祉の爲に利用されねばならぬ、或は又公共の福祉に反せざる限度と云ふやうなことを明瞭に書いてありまして、此の法案は公共の福祉を狙ひとして居ります
それから最後に戰爭の犧牲になった氣の毒な御方に對しては、深甚なる同情を我々は禁じ得ないものでありまして、政府も出來るだけの方法を講じて居ります
〔國務大臣田中耕太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=31
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032・田中耕太郎
○國務大臣(田中耕太郎君) 教員の爭議行爲の禁止の問題に付て御答へ致します、教員が爭議行爲をなすことが不適當であると云ふことに付きましての私の信念は微動だも致しませぬ、はつきり此處でもう一遍繰返して申上げて置きます、それを法文で以て規定するや否やと云ふ問題になりますと、是は議論の餘地ある所でありまして、現在の所、私は教員の品位及び自覺に滿腔の信頼を置きまして、是を法文に表はす必要はないと云ふ風に存じて居る次第でございます(拍手)
次に御質問の第二點でございますが、私が教職員は日常の生活問題に關して口に出すべきものではない、武士は食はねど高揚枝式の封建的な教員觀を持つて居るのではないかと云ふ御質問でありましたが、教職員と雖も君子でもありませぬし、聖人でもありませぬ、一般には多數の教職員もやはり人間であります、それでありますから聖人君子であることを全部に對して要求するものではございませぬ、隋て日常の生活の問題に付て我々は本當に懇切に御相談に與つて居るのであります、隋て私は若し武士は食はねど高揚枝式の封建的な教育觀を持つて居るとすれば一日も此の職に留つては居りませぬ(拍手)
〔國務大臣平塚常次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=32
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033・平塚常次郎
○國務大臣(平塚常次郎君) 運賃値上に付て御答へ致します、運賃は機動的性質を持つて居りまするので、其の變更に當りましては一々議會に掛ける意思を持つて居りませぬ、從來運賃の値上は、運賃審議委員會に於て十分審議して變更をして居つたのであります、併しながら將來は──今囘新たに鐵道會議を設置致しました、其の設置に當りまして、其の委員の選任に當りましては、民主的に貴衆兩院議員竝に各種團體の關係者を以て廣く人を選びまして、さうして組織したのであります、隋て今後運賃の改正の必要のある場合には、此の會議に諮り、十分民意を酌取つて變更する考へであります○議長(樋貝詮三君) 石田君に申上げます、豫めの御通告がありませぬでしたから、商工大臣と遞信大臣は出席致して居りませぬ──もう宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=33
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034・石田一松
○石田一松君 先程大藏大臣の御病氣であると云ふことは聞いて居りました、但し只今の御答辯に付て一寸申上げます、公共の利益を政府は考へて居ると仰しやつたが、然らば公共の利益とは何ぞやと云ふことになります、私の今言つた勤勞階級、働かなければ食べられない人は公共の利益に中に入つて居ないかと云ふことを言ひたいのであります…発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=34
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035・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 石田君に申上げます、長いのですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=35
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036・石田一松
○石田一松君(續) いえ直ぐであります、而も公共の利益を圖ることは分つて居るが、最大多數の最大利益を圖るのが公共の利益ではないかと云ふのであります
第二には此の法案を作つたのは、二つ作る必要があつたから作つたとは何と云ふ御答辯であるか、二つ作る理由があるならば、其の理由をはつきり答へて貰ひたいと云ふのであります、生産管理其の他に付て文相の御答辯は、私の思つた通りの御答辯を戴きまして滿足であります、又運輸大臣の懇切なる御答辯にも滿足致します、唯今の點に付て厚生大臣にもう一遍御答辯願ひたい
〔國務大臣河合良成君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=36
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037・河合良成
○國務大臣(河合良成君) 只今の重ねての御質問に對して御答へ致します、公共の利益に理由を附せねばならないと云ふやうな點などが、非常に面白い含みのあることでありまして、結局勞働者の權利と云ふものが、公共の利益と巧みな調和を持つて行かなくちやならぬと云ふ意味と考へます、それで何が公共の利益であると云ふことは、一寸此處で御答辯するのも困りますが、勿論國民全體の利益、最大多數の利益であると云ふことは疑ひありませぬ、併しながらそれと勞働權との交錯、或は經營權との交錯と云ふ問題になつて來ますと、色々の場面がありますと云ふことで、其の場面々々に付て問題を具體的に申上げるより仕方がないと思ひます
それから第二の點の必要があるからと申しましたのは、御尋ねの趣旨が形式的に一つの法か二つの法かと云ふことに承りました、内容の點に付て斯うあるべきだが、何故斯うしないかと云ふ御尋ねと拜承しなかつた爲に、それで必要があると簡單に申しました趣旨でありまして、其の必要と申すのは碎いて申しますれば、調停、仲裁等のことは勞働組合法に極く簡單に書いてありますけれども、調整法でそれを受けまして、勞働組合法との關係に於て、或る意味に於て私法的の法律と云ふ意味も盛つて之を書かねばならぬと云ふ必要もあつた、是が第一であります、もう一つの理由は勞働爭議權と云ふものは無限なものではありませぬ、それでやはり公共の福祉との間に調和點を求めなくてはならぬのであります、其の調和點を如何樣に求めるか、現に例へば山の手線のあの「ストライキ」にしましても、皆日常生活に困つたと云ふことは現實の事實であります、それから又官吏が「ストライキ」でもやりましたならば、國務は直ちに停滯する、さうすれば政府と云ふものはどうするか、是はやはり公共の福祉上非常に重大な問題と思ひます、さう云ふ日常生活の確保、又公務の執行、公共事務の執行と云ふやうな點に付て、是は公共的の見地から爭議權と云ふものに一つの制限を置かなくちやならぬ、是は何處の國にもあることであります、さう云ふ意味に於て此の法律が必要な一面を持つて居ります、さう云ふ理由で別の法律を作りました、併し是は絶對的とは申しませぬ、若し時の關係がありましたら、此の次に作る勞働保護法も調整法も勞働組合法も一つに作ると云ふことは不可能なりとは言へない、時の關係もあり、又物の本末と云ふ關係もあると思ひまして、斯う云ふ風に二つに作つた趣旨であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=37
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038・石田一松
○石田一松君 何度質問致しましても同じことでありますから、是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=38
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039・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 是にて質疑は終了致しました、本案の審査を付託すべき委員の選擧に付て御諮り致します
―――――――――――――――――――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=39
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040・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名三十六名の委員に付託せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=40
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041・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 山口君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=41
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042・樋貝詮三
○議長(樋貝詮三君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました、是にて議事日程は議了致しました、次會の議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後四時二十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X01719460716&spkNum=42
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