1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年十月五日(土曜日)
午後二時四十八分開議
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議事日程 第五十一號
昭和二十一年十月五日
午後一時開議
第一 自作農創設特別措置法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二 農地調整法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 飼料政策確立に關する建議案(永井勝次郎君外九名提出)
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〔朗讀を省略した報告〕
一、議員から提出された議案は次の通りである
來るべき農村恐慌對策に關する決議案
提出者
布利秋君 原侑君
石原登君 菅又薫君
橋本二郎君 五坪茂雄君
二階堂進君 米山文子君
田原春次君 原尻束君
岡田勢一君 松本瀧藏君
鈴木彌五郎君 笠井重治君
高橋英吉君
(以上十月四日提出)
一、去三日議長に於て撤囘を許可した議案は次の通りである
陸軍刑法及び海軍刑法を廢止する法律案
提出者
細迫兼光君 北浦圭太郎君
水谷長三郎君 吉田安君
小島徹三君
一、昨四日建議委員長より次の要求書を受領した
要求書
一、飼料政策確立に關する建議案(永井勝次郎君外九名提出)
右は提出者より即決の要求あり委員會において之を承認した因つて本院において即決せられ度ここに要求する
昭和二十一年十月四日
建議委員長 日比野民平
衆議院議長山崎猛殿
一、昨四日常任委員補闕選擧の結果次の通り當選した
第七部選出
豫算委員 笠井重治君(喜多楢治郎君補闕)
一、昨四日次の通り特別委員の異動があつた
戰時補償特別措置法案(政府提出)外五件委員
辭任 久保猛夫君 補闕 岡田勢一君
一、昨四日特別委員理事補闕選擧の結果次の通り當選した
戰時補償特別措置法案(政府提出)外五件委員
理事 岡田勢一君(理事 久保猛夫君作四日委員辭任に付其の補闕)
─────────────────────発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=0
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001・山崎猛
○議長(山崎猛君) 是より會議を開きます、日程第一及び第二は、同一委員に付託したる議案でありますから、一括議題となすに御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=1
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002・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て日程第一、自作農創設特別措置法案、日程第二、農地調整法の一部を改正する法律案、右兩案を一括して第一讀會の續を開きます、委員長の報告を求めます──委員長葉梨新五郎君
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第一 自作農創設特別措置法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二 農地調整法の一部を改正する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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報告書
一 自作農創設特別措置法案(政府提出)
右は本院に於て可決すべきものと議決した因つてここに報告する
昭和二十一年十月四日
委員長 葉梨新五郎
衆議院議長山崎猛殿
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報告書
一 農地調整法の一部を改正する法律案(政府提出)
右は本院に於て可決すべきものと議決した因つてここに報告する
昭和二十一年十月四日
委員長 葉梨新五郎
衆議院議長山崎猛殿
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〔葉梨新五郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=2
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003・葉梨新五郎
○葉梨新五郎君 只今より自作農創設特別措置法案竝に農地調整法の一部を改正する法律案委員會の議事の内容を御報告申上げます
昨年十二月農地調整法の改正に依りまして、農村民主化の基礎として農地改革は、其の緒に就いたのでありますが、其の後の新たなる情勢に對應致しまして、之を一層強力に推進致す爲に、政府より曩に本院に對し自作農創設特別措置法案竝に農地調整法改正法律案の提出があつた次第であります、兩法案は、申すまでもなく明治以來の農村土地所有制度を根本的に改革致さんとするものでありまして、農地所有者竝に耕作者に對しまして及ぼす影響は、洵に深刻なるものがありますばかりでなく、是が成否は日本農業の將來を決すると言つて過言ではありませぬ、隨て當委員會に於きましては、囘を重ぬること實に十七囘、各委員に於かれましては、法案の精神、運用方針は固より、各條文に付きまして、終始熱心にして周密なる討議を行ひました次第であります、以下兩法案に付きまして、法文の内容と共に、重要な質疑を御報告致します
先づ自作農創設特別措置法案から申上げます、第一條は法案の目的でありまして、自作農の急速且つ廣汎なる創設が、耕作者に地位の安定と勞働の成果の公正なる享受とを齎し、延いて農業生産力の發展と、農村の民主的傾向の促進を圖ることが謳つてあるのであります、此の第一條に對する總括的な質疑と致しましては、第一に耕作者は眞に本案に贊成して居るかどうかと云ふ點であります、即ち耕作者の希望は、耕作權の確立と小作料の適正化であつて、農地を所有するならば、税とか村の色々な寄附金に付て、甚だ耕作者の負擔は大となりまして、自作農となることは必ずしも好む所でないと云ふ御意見であります、之に對しまして農林當局は、詳細な數字を擧げまして、今囘の措置に依つて自作農となることが、現在小作農で居るよりも有利である旨、繰返し答辯致されたのであります、即ち二十四年賦で支拂へば、年賦金は買受代金の六%に過ぎず、中庸田に付て言へば、價格は反當七百五十圓、隨て年賦金は四十五圓となり、之に地租等の負擔を加へましても、尚ほ現行の小作料の負擔より少い、更に農産物が甚だしく下落致すならば、政府は年賦金の減免等の措置を執ると云ふのであります、第二は新憲法と本法案との關係であります、新憲法草案第二十七條に依りますれば、第一項には「財産權は、これを侵してはならない。」とあり、第三項には「私有財産は、正當な補償の下にこれを公共のために用ひることができる。」とありますが、自作農創設は、果して「公共のため」と言ふことが出來ますかどうか、更に農地買收價格、田に付ては賃貸價格の四十倍、畑に付ては賃貸價格の四十八倍と云ふものが、果して憲法に云ふ正當な補償と言へるかどうかと云ふ點であります、政府當局は之に對し、自作農を創設して耕作者の地位を安定し、農業生産力の發展と農村の民主的傾向の促進を圖りますことは、即ち「公共のため」であります、農地の價格に付ても、農地の代償に對する年賦金と土地負擔との合計が現行の小作料より安く、創設された自作農の經營が十分成立つやうに定められた譯でありますが、是は適正小作料に依る地主の收入を還元致しましても略略此の額となりまするので、本案の精神から言ひましても、「正當な補償」と言ふべきであると云ふ答辯でありました
尚ほ第一條に關しましては、別の方面からの御議論もありました、農村の封建性を打破する爲には、耕地は全部耕作者の所有に歸すべきで、平均一町歩の小作地は何故殘すかと云ふ點であります、即ち耕作者の地位の安定とか、農村の民主的傾向の促進を圖ります爲には、小作地は擧げて小作農に取得せしむべきではないかと云ふ御意見であります、之に對しまして農林當局は、本法案の内容が徹底的に遂行致されますならば、農村の民主化は可能である、小作地一町歩の保有に付きましては、假に全部自作地としましても、家族勞力が減少致すならば小作關係が生じますし、又耕作者が經營を擴大する爲の餘地としまして、耕地の一割前後が小作地であることは、農業經營の發展の面から言つても適當なのではないか、唯一町歩の小作地の保有を認めますことは、地主の土地取上を容認する趣旨ではないと云ふ旨の答辯がありました、勿論後に述べますやうに、地主の自作を相當とする場合で、市町村農地委員會の承認──是は當分の間は地方長官の許可となつて居るのであります──を得たものは、地主が自作出來ますことは申すまでもないのであります、更に創設された自作農が、將來農産物價格の下落に遭遇致します場合に、果して自作農として留まり得るや否や、再び彼等を小作農に轉落せしめざる爲には、政府は如何なる施策を講ずるやと云ふ御質疑が盛んに行はれたのであります、此の問題に付きましては、各委員から、活溌にして極めて建設的な御意見の開陳があつたのであります、農産物の價格は、農家の生産費を十分に償ふべきものでなければならないこと、日本農業に全面的に畜力を導入すべきこと、農業の協同化や電化、機械化に依つて農業生産力の増進を圖るべきこと、在來の農家の單なる副業の如きものでなく、眞に農家の生活を安定せしむる爲に、協同組合組織に依る各種の農村工業を興隆せしむべきこと、國費に依る土地改良、水利施設の新設改良等の事業を徹底的に遂行すべきこと、農業保險制度の改善を圖るべきこと、試驗場、技術指導農場の充實強化に依つて農業技術を刷新し、是が各農家への普及を圖るべきこと等、各種の問題に付て、各委員より農林當局を鞭撻した次第であります
第二條は農地などの定義であります、第三條は國が買收する農地に付て規定致してあります、小作地に付て、不在地主の所有するもの全部と、在村地主の所有するもの、北海道では四町歩、内地では平均一町歩を超える部分を國が買收する、更に在村地主の自作地と小作地と合せて、北海道では十二町歩、内地では平均三町歩を超える場合は、一町歩以下の小作地でも買收致す譯であります、個人の自作地は原則として買收致しませぬが、耕作の業務が適正でないものに付きましては、北海道では十二町歩、内地では平均三町歩を超える部分に付て買收する等の内容であります
地主の保有面積に付ても色々質疑がなされました、其の一つは、眞面目な地主に活路を開く意味で、地主が自作を希望する場合は、成べく之を認めて、其の分は國が買收しないこととしてはどうかと云ふ問題であります、之に對しまして政府は、農地調整法第九條で、所謂自作を相當とする場合、即ち地主が自作を希望するばかりでなく、自作が可能であるし、地主が耕作する方が、小作に任せて置くよりも生産力が上り、且つ其の土地を手放しても小作人が生活に困らない等の事情にあると云ふ場合は、是は當然地主の自作が許されるのでありますが、それ以外は土地の取立てを認めることは出來ないと云ふ答辯でありました、其の二は不在地主の問題で、有識者を村に還す建前から云つて、墳墓の地にはせめて五反歩位の保有を認めるべきではないかと云ふ御意見であります、農林當局は不在地主に其のやうな例外を認めることは、開放面積を少くするので認められないと云ふ御答辯でありました、其の三は、第五條、第六條に依つて、自作農が病氣や出征をした等の特別の事情で耕作が出來なくなつて、一時他人に小作させた農地で、市町村農地委員會が、其の者が近く自作するものと認め、且つ其の自作を相當と認めるもので國が買收致さないものは、第三條で保有を認められて居る小作地との關係に於きましては、性質上自作農に付て通常認められて居る範圍と同一に取扱ふのが至當であるかどうかと云ふ點であります、之に對しましては政府も同感の意を表された次第であります、其の四は、北海道の特殊事情から來る問題であります、即ち北海道に於きましては、當初の開拓計畫に依りまして、耕地の區劃が正確に五町歩とされて居るのに、小作地の保有面積が四町歩であるのは事情にそぐはぬと云ふ御意見であります、之に對しまして農林當局からは、北海道四町歩と云ふ面積は、各都道府縣と同樣に、内部で幾つかの區域に分けて、面積を變更することが出來、其の面積の平均が大體に於て四町歩になれば宜いのであるから、北海道内部の事情に應じて適當に措置することが出來ると云ふことでありました、次に個人の自作地でも、内地では平均三町歩を超える部分は買收されることがある譯でありますが、此の基準となる耕作の業務が適正でないとはどう云ふことであるかと云ふ御質疑であります、之に對しまして農林當局から、家族勞力を基幹とするかどうか、生産力が高いかどうかと云ふことを基準にして、市町村農地委員會に於て決定すべきことを勅令に於て規定する趣旨の御答辯があつた次第であります
第四條は、以上の面積は個人に付て決めず、世帶に付て決める旨の規定であります、病氣や出征等特別の事情で一時故郷を去つて居る者は、不在地主とはされませぬ、第五條は、特別の理由で國に買收しない農地であります、例へば自作農が一時賃貸借したもので、市町村農地委員會が近く其の自作を相當と認めたもの、又は近く宅地とすることの相當な農地で、市町村農地委員會が都道府縣農地委員會の承認を得て指定したものの如きであります
第六條乃至第九條は、政府に依る買收の手續であります、地主からどの土地を買收するかと云ふことに付ては、地主、小作人双方の意見を聽いて、市町村農地委員會が公正な立場で決めることが農林當局より明かにされました、又市町村農地委員會は、不當な土地の取上や不當な賣買に關しましては、附則で、昭和二十年十一月二十三日現在の事實に基いて買收計畫を作成するのでありますが、土地の取上でも、小作人が納得し、市町村農地委員會も承認し、何人も公正なものと思ふものに付ては、遡つて買收計畫を立てることを致さない譯でありますし、今後でも土地の返還が適法正當になされたものに付きましては、遡ることは致さない旨の答辯があつた次第であります、次に市町村農地委員會で立てまする農地買收計畫に關する書類の縱覽期間は十日でありまして、農地の所有者は、此の期間中に限つて市町村農地委員會に異議を申立てることが出來るのでありますが、此の期間は餘りに短か過ぎるのではないかと云ふ御意見であります、之に對しまして農林當局は、市町村農地委員會が買收計畫を立てます場合は、十分に地主なり管理人なりと打合せ致すやうに指導するのでありますから、十日間でも不都合は起らないものと信ずる旨の御答辯があつた譯であります
農地の價格は、第六條第三項に依りまして、田にあつては賃貸價格の四十倍、畑にあつては四十八倍の範圍内に於て、市町村農地委員會が具體的に決めることになつて居りますが、之に付ては各委員に依り熱心な質疑が繰返されました、其の第一點は、是が地主に取つて適正なものであるかどうかと云ふことであります、それは新憲法との關係に於ても論ぜられましたが、小作料との關係に於ても問題とされました、即ち農地調整法第九條の八で、最高小作料としまして、田に付ては、通常收穫される米の價格の二割五分を超えることが出來ぬ旨の規定があります、現在は米一石三百圓、收穫を二石とすれば六百圓、其の二割五分を小作料としますれば百五十圓でありますが此の百五十圓を基礎として價格を算定すべきである、隨て利子を三分としますれば五千圓、五分としますれば三千圓であるべきであると云ふ議論であります、更に現行の農地價格は、前議會に於ける當局の説明に依れば、自作收益價格を基準にしたと云ふことでありますが、當時の米價は石百五十圓であります、それが現在は三百圓になつて居る、近く再び米價は改訂されると云ふ情勢でありますから、自作收益價格も騰貴すべきである、隨て農地價格も改訂を要すると云ふ議論であります、此の兩者に對しまして農林當局は、小作料二割五分と云ふのは、農産物の下落した場合の最惡な小作料であり、現在是で小作料を決めるべきではなく、隨て農地價格の基準とはならない、又今囘は耕作者の負擔を増大させない爲に價格を据置くので、自作收益價格の理論には依らないが、假に之に依ると致しましても、米價の値上りは生産費の騰貴に依るので、地代部分は却て減少して居りますので、價格を上げる理由は成立ち兼ねると云ふ答辯でありました、更に農地價格は、田にあつては賃貸價格に四十倍、畑にあつては賃貸價格に四十八倍を乘じて得た額の範圍内で定めるのでありますが、範圍内と云ふことでは、市町村農地委員會が公定價格より極めて低く價格を決める危險性があるが、どうかと云ふ問題であります、之に對して農林當局は、公定價格は最高價格であるが、實際に於て此の公定價格で決める場合が多いのでありませう、例外として此の公定價格に依らない場合としては、次の二通りの場合が考へられる、例へば減租年期にあります土地とか、賃貸價格設定後、地主が多額の出費をして土地改良ふしたやうな土地は、公定價格では買收せずに、市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて定めた特別價格で買收する、反對に作株の付いた土地で、耕作權が確立し、それが現に相當の價格を持つて居りますれば、底土だけを買收する場合には、公定價格から作株の代價を差引く、又小作料が沿革的に言つて特に安く定められて居る土地は、公定價格より安く買收することが至當であります、更に耕地整理事業の施行地で、地主が將來も負擔を負つて居る場合は、通常買受人が債務を承繼する譯でありますから、其の負擔の現價額だけ公定價格から控除致す譯でありす、勿論控除する負擔は、用排水費などの恒久的な負擔ではなく、一時的な出費であります、耕地整理施行地に付ては、多くの場合は特別價格の認可がありますから、負擔を差引きましても、均衡の取れた價格であると信じます、此のやうに公定價格を下廻る場合は例外的でありますし、地主は法律に依つて市町村農地委員會に對して異議を申立て、都道府縣農地委員會へ訴願を提起し、更に通常裁判所に出訴を許されて居りますから、地主の利益を不當に害することはないと云ふ答辯でありました、更に農地の公定價格の財産税の評價の食違ひが質疑されましたが、大藏當局は、農地の財産税の評價は、農地の價格統制とは矛盾しないやうにやる、報償金に付きましても、交付された土地のみ之を價格に「プラス」して評價する方針を執る旨の明瞭なる答辯があつた次第であります、尚ほ買收價格は是で宜いが、賣渡價格は、耕作者の負擔能力から言つて半額にすべきだと云ふ少數意見もありましたことを、一言附加へて置きます
第十條は、面積は原則として土地臺帳に依る旨の規定であります、第十二條は買收に依つて擔保權が消滅する規定であります、ここで地主が土地を抵當に入れて借金をして居る場合、買收される農地の對價が、其の借金を支拂ふに足らない場合は政府としてどうするかと云ふ問題が論ぜられました、政府は之に對して、農地價格は昭和十六年以來統制致して居るので、金融機關が農地の公定價格を超えて資金を融通する事例は餘りないと思はれるが、若し借金額が多いとしても、政府としては金融機關に補償するとか、地主に特別の對價を支拂ふ意思はない旨を明かに致しました
第十三條は報償金交付の規定であります、反當り田では二百二十圓、畑では百三十圓平均でありますが、交付の方法と致しましては、田にあつては賃貸價格の十一倍、畑にあつては十四倍を原則として、特別價格の認可があるやうな場合には、之に應じて修正する旨が明かとされました、尚ほ此の點に付きましては、報償金は、現行制度では自作農創設の爲め、地主の提供する土地に付て全部交付することになつて居ります、今囘は平均三町歩を限度とすると云ふことでありますが、其の理由如何と云ふ御質疑であります、之に對して政府は、財政上の考慮に依り、主として中小地主に之を交付することと致したと云ふ答辯であります、尚ほ此の問題に付きましては、法案の精神から言ひましても、國家の財政から見ましても、地主に報償金を交付する必要なしと云ふ意見も開陳されましたことも、併せて御報告致す次第であります
第十五條は、自作農となるべき者の爲に、採草地、宅地、住宅などを國が買收致す規定であります、第十六條乃至第二十二條は國が買收致した農地の賣渡に關する規定であります、賣渡の手續は、大體買收に準じて居ります、賣渡の相手方に付きましては、「自作農として農業に精進する見込のあるもの」となつて居りますが、其の性格が問題にされました、さうして討論の中に於きまして、原則として其の農地の小作人に賣渡することが明かにされました、極く極く小規模の農家で、農業に精進する見込のない者に對しては、賣渡さずに、單に小作させて置くやうな場合も考へられるが、賣渡は所謂適正規模農家に限る趣旨ではないのであります、尚ほ國の買收致した農地の買受を小作人が希望せず、且つ耕作も止めようと致す場合には、舊所有者で自作を希望致し、それが相當でありますならば、之に國が賣渡す場合もあるのであります
第二十三條乃至第二十五條は、耕作者の土地買受の機會を公正に致す爲に行ふ農地の交換に關する規定であります、第二十六條は、農地の買受代金に付て長期年賦を認める規定でありますが、政府は大體代金の三割程度の一時支拂を期待して居り、殘金に付ては、現行制度通り二十四年賦と致す方針を明かに致されました
第二十七條は、農産物の價格が下落致しました場合、買受人を保護致す爲に、年賦金の支拂延期や減免をなし得る規定であります、第二十八條は、國から買受けた自作地に付ては、自作をやめる場合には政府に於て買收する規定であります、即ち再び國に其の土地は賣渡さなければならぬと云ふことであります、第二十九條は、政府の買收した採草地、宅地などの賣渡に關する規定であります、第三十條乃至第四十一條は、開發の爲に未墾地等の取得竝に自作農となるべき者に對する賣渡に關する規定であります、政府が未墾地を買收致します場合は、原則として都道府縣農地委員會が買收の計畫を作成致します、さうして小面積のもののみに付て市町村農地委員會が原案を立てる譯であります、それ以外は農地の買收と略略同樣の規定であります、未墾地の價格は、農地と異なり、從來公定價格はありませぬ、本法では、命令の定める所に依り、近傍類似の農地の時價を參酌して決めることになつて居りますが、近傍類似の農地の公定價格に、中央農地委員會の、定める率を乘じたものの範圍内で、之を決める旨が明かとされました
第四十三條は、買收された農地等の所有者に交付される農地證券に關する規定であります、償還期間二十四年、年利三分六厘五毛、元利均等償還で、發行價格は「パー」であります、尚ほ農地證券に付きましては、如何なる事態に於ても其の價値を維持するかと云ふことが論議されました、政府當局の説明に依りますれば、平價切下等の一般的影響を蒙るべき場合に於ては別と致しまして、例へば農地の買受人からの償還金が減免されたり、不拂になることに依つて、證券の所有者に迷惑の及ぶことは萬ないと云ふことであります
第四十四條は登記の簡易化に關する規定であります、第五十條及び第五十一條は罰則に關する規定であります
次に農地調整法中一部を改正する法律に付て申上げます、此の法律の中、自作農の創設に關します部分は、自作農創設特別措置法が制定されます爲に全部削除されました、次に改正法の主な内容及び質疑の要點に付て申上げます、第一條は目的であります、農地關係の調整が、耕作者の地位の安定及び農業生産力の維持増進にあることを謳うてあります、此の點に付て大分論議がございました、本法の目的として、從來は「互讓相助の精神に則り」、「農地の所有者及び耕作者の地位の安定を圖る」、或は「農村平和の保持を期する」等の語句があつたのでありますが、改正法に於きましては、單に「耕作者の地位の安定を圖る爲め」とされたのでありまして、是は法の精神から言つて、地主を不當に取扱ふ意味であるかどうかと云ふ點であります、之に對しまして農林當局は、規定の内容から申しますれば、確かに耕作者の地位を重視はしましたが、決して地主の利益を不當に取扱ふ趣旨でないと云ふ答辯でありました
第四條及び第五條は、農地に關して所有權其の他の權利の移轉を統制致す規定であります、第六條は農地の潰廢を制限致す規定であります、第八條及第九條は、土地取上の制限など、耕作權確立の爲の規定であります
第九條に依りまして、土地取上は今後一層窮屈となりました、即ち第一に取上の要件が嚴重に制限されて居ることであります、即ち小作人が尤もな理由もないのに小作料を支拂はない等、信義に反した行爲があること、土地使用目的の變更を相當とすること、先に申上げました如く地主の自作を相當とすること、其の他正當な理由のある場合には宜しい譯であります、第二に、土地の取上は、市町村農地委員會の承認──當分の間は地方長官の認可であります──がなければ、法律上效力を生じないし、且つ罰則があると云ふ譯であります、小作地の取上に付きましては色々論議されました、先づ不當な取上は全部無效にしないかと云ふ意見であります、之に對して全部無效にする意圖はないが、昭和二十年十一月二十三日以降、不當に取上げて地主が自作致して居る場合は、之を同日現在で小作地として買收出來ますし、又新しい市町村農地委員會は、不當なる取上に對して事實上勸告し、地主の善處を求めることが出來る旨の農林當局の答辯がありました、又市町村農地委員會の承認を得ない土地の不當な取上は、法律上罰せられるべきであるのに、檢察當局の態度は生緩いと云ふ御議論もありました、司法當局は之に對しまして、證據のあるものに付ては嚴重に處分する旨の通牒を既に發して居りますので、市町村農地委員會などの活動を希望する旨の答辯がありました、第九條の二は、小作料金納化の規定であります、小作料金納化は、既に本年の四月一日から實施されて居りますが、是は農村の實情にそぐはないので、金納、物納併用で行くべきであると云ふ御意見が熱心に開陳されました、之に對しまして農林當局は、小作料金納化は、小作人が地主の影響から離れて、獨立生産者として農業經營に精進する爲の條件であるから、金納小作料一本で行きたい、小作料の支拂期が到來して、小作人の希望を地主が容れれば、代物辨濟も出來るのであるから、現行法で差支へないものと思ふ旨の答辯でありました、第九條の三乃至第九條の五は、小作料の「ストップ」竝に適正化に關する規定で、是も從前通りであります、第九條の八は最高小作料に關する規定であります、即ち農産物の價格が如何に下落致しましても、小作料が、田に付ては米の平年收穫物の價格の二割五分、畑に付ては主作物の平年收穫物の價格の一割五分以上になりますれば、そこまで小作料を引下げる規定であります、此の規定に付きましても相當論議がありました、即ち小作料は、田では二割五分にまで當然上げて宜いかと云ふ議論に對しましては、農林當局から、小作料二割五分と云ふのは、飽くまで農産物價格の下落した時に於ける最惡の小作料であつて、現在の小作料統制とは別の問題である旨、繰返し答辯されました、更に二割五分に達しなければ、小作人から減免の要求が不可能であるかと云ふ質疑に對しましては、二割五分を超える場合は、法律上當然に減免の要求が出來るのであり、二割五分を超えぬ場合でも、契約上減免條件の定めがあれば、不作減免は出來る旨の答辯があつた次第であります、第九條の九は小作契約を文書化致す規定であります
第十五條乃至第十五條の十二は、市町村農地委員會に關する規定であります、市町村農地委員會の委員の構成が、原則として地主三、自作二、小作五でありますので、市町村農地委員會の作成する農地買收計畫は、耕作者の立場に立ち過ぎて居り、地主に不利益に運用される危險があるが、どうかと云ふことが問題にされましたが、之に對しまして農林當局は、農村の實情に於ては、不公正な結果は起らぬであらうと云ふことでありました、第十五條の十三乃至第十五條の十五は、都道府縣農地委員會に關する規定であります
兩法案の内容竝に質疑の中、主要なるものは以上の通りであります、兩法案を通じまして、相當重要な事項で、勅令又は命令に讓られて居る點が多數ありますが、政府に於きましては、可及的速かな機會に於て、議會の代表者等に依り構成せられます所の委員會に諮つて、十分愼重に決定致す旨の發言がありました
兩法案に關しまして昨日討論採決を致したのでありますが、其の結果を簡單に御報告致します、先づ自由黨を代表して森幸太郎君より、本法案の運用の妙を期待致す旨希望して、原案に贊成致されました、進歩黨を代表して荒木武行君からも、略略同樣の旨の發言がありました、次に社會黨を代表して中原健次君から、小作地一町歩の保有を認めざる等の修正案の提出がありました、詳しくは御手許の案を御覽願ひます、次に協同民主黨を代表して藤本虎喜君から、創設された自作農の維持に關しまして若干の希望意見を開陳されまして、原案に贊成の旨の發言がありました、更に國民黨を代表して井出一太郎君から、略略同樣の旨の發言がありました、最後に無所屬倶樂部を代表しまして北政清君から、小作地一町歩の保有を認めざる等の修正案が提出されました、採決の結果、社會黨竝に無所屬倶樂部の修正案は、それぞれ少數を以て否決され、原案が通過致した次第であります、此の段御報告に及びます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=3
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004・山崎猛
○議長(山崎猛君) 兩案に對しては、冨吉榮二君外二名及び北政清君より、それぞれ成規に依り修正案が提出せられて居ります、討論は、便宜上第二讀會に於て修正案の趣旨辯明を聽きたる上之をなすことと致します、兩案の第二讀會を開くに御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=4
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005・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て兩案の第二讀會を開くに決しました
─────────────────────発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=5
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006・村上勇
○村上勇君 直ちに兩案の第二讀會を開かれんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=6
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007・山崎猛
○議長(山崎猛君) 村上君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=7
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008・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに兩案の第二讀會を開き、議案全部を議題と致します、此の際順次修正案の趣旨辯明を許します──冨吉榮二君
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自作農創設特別措置法案 第二讀會
農地調整法の一部を改正する法律案 第二讀會
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自作農創設特別措置法案(政府提出)に對する修正案
右成規に據り提出する
昭和二十一年十月五日
提出者 冨吉榮二
外二名
自作農創設特別措置法案の一部を次のやうに修正する。
第三條第一項を次のやうに改め、第二項乃至第四項を削る。
小作地である農地は、政府が、これを買收する。
同條第五項第一號中「第一項第三號」を「北海道にあつては十二町、都府縣にあつては中央農地委員會が都府縣別に定める概ね三町歩」に改める。
第四條第二項を削る。
第十三條第三項乃至第五項を削る。
第四十三條第一項中「第十三條第三項に規定する報償金」を削る。
第四十八條中『この場合において、第三條第一項中「市町村の區域」とあるのは、「地區農地委員會の設けられてゐる地區」と、同項第一號中「隣接市町村の區域」とあるのは、「隣接市町村の區域内の地域又は他の地區農地委員會の設けられてゐる地區で當該地區に隣接する地區」と讀み替へるものとする。』を削る。
附則第二項を次のやうに改める。
第三條第一項の規定による農地の買收については、市町村農地委員會は、昭和二十年八月十五日現在における事實に基いて第六條の規定による農地買收計畫を定める。
附則第二項の次に左の一項を加へる。
昭和二十年八月十五日以後本法施行までの間になされた、農地の所有權、賃借權、地上權その他の權利の設定又は移轉は、無效とする。
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農地調整法の一部を改正する法律案(政府提出)に對する修正案
右成規に據り提出する。
昭和二十一年十月五日
提出者 冨吉榮二
外二名
農地調整法の一部を改正する法律案の一部を次のやうに修正する。
第九條の八第二項但書中「田に在りては二割五分、畑に在りては」を削る。
第十五條の二第六項中「五人」を「六人」に、「三人」を「一人」に、「二人」を「三人」に改める。
第十五條の十四第三項中「十人」を「十二人」に、「六人」を「二人」に、「四人」を「六人」に改める。
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農地調整法の一部を改正する法律案
(政府提出)に對する修正案
右成規に據り提出する。
昭和二十一年十月五日
提出者 北政清
農地調整法の一部を改正する法律案の一部を次のやうに修正する。
第七條の二を改正する規定の次に次のやうに加へる。
第九條第一項の次に次の一項を加へる。
前項の宥恕すへき事情信義に反する行爲等に付當事者間の意見一致せざる場合は市町村農地委員會の裁定に從ふものとす
第十五條の二第四項中「同居の戸主若は家族」を「戸主若は同居の家族」に、「同居せざるに至りたるものの所有する農地は之を當該耕作の業務を營む者の所有する農地」を「同居せざるに至りたるものも同じ」に、第五項中「同居の戸主又は家族」を「戸主又は同居の家族」に改める。
第十五條の三第一項中「同居の戸主若は家族」を「戸主若は同居の家族」に改める。
第十五條の四第一項第三號を削り、第四號を第三號に改め、同號中「六年未滿の」を削る。
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〔冨吉榮二君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=8
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009・冨吉榮二
○冨吉榮二君 私は日本社會黨を代表致しまして、只今議題となつて居ります法案に對する日本社會黨の修正案の趣旨辯明を致したいと思ひます、先づ最初に案文を朗讀致します
自作農創設特別措置法案の一部を次のやうに修正する。
第三條第一項を次のやうに改め、第二項乃至第四項を削る。
小作地である農地は、政府が、これを買收する。
同條第五項第一號中「第一項第三號」を「北海道にあつては十二町、都府縣にあつては中央農地委員會が都府縣別に定める概ね三町歩」に改める。
第四條第二項を削る。
第十三條第三項乃至第五項を削る。
第四十三條第一項中「第十三條第三項に規定する報償金」を削る。
第四十八條中『この場合において、第三條第一項中「市町村の區域」とあるのは、「地區農地委員會の設けられてゐる地區」、と同項第一號中「隣接市町村の區域」とあるのは、「隣接市町村の區域内の地域又は他の地區農地委員會の設けられてゐる地區で當該地區に隣接する地區」と讀み替へるものとする。』を削る。
附則第二項を次のやうに改める。
第三條第一項の規定による農地の買收については、市町村農地委員會は、昭和二十年八月十五日現在における事實に基いて第六條の規定による農地買收計畫を定める。
附則第二項の次に左の一項を加へる。
昭和二十年八月十五日以後本法施行までの間になされた、農地の所有權、賃借權、地上權その他の權利の設定又は移轉は、無效とする。
次に
農地調整法の一部を改正する法律案の一部を次のやうに修正する。
第九條の八第二項但書中「田に在りては二割五分、畑に在りては」を削る。
第十五條の二第六項中「五人」を「六人」に、「三人」を「一人」に、「二人」を「三人」に改める。
第十五條の十四第三項中「十人」を「十二人」に、「六人」を「二人」に、「四人」を「六人」に改める。
今囘の農地改革法案は、我が國の土地制度の上に於ける所の劃期的な法案であることは御承知の通りであります、假令それが政府の發意に依らないものであつたにもしろ、農林當局の之に對する竝々ならぬ苦勞と努力は、私共之を諒と致します、併しながら仔細に本法案の内容を檢討致しまする時には、そこに多くの矛盾と缺陷とが内包されて居ることを、遺憾ながら否定することが出來ないのであります
先づ第一點に於きましては、一町歩を小作地として殘すと云ふのである、政府の説明に依りますると、約二百八十萬町歩の小作地の中の二百二十萬町歩が買收の對象となつて、一町歩を殘す結果として、六十萬町歩が小作地として殘る、此の結果、假に一町歩平均と致しまするならば、六十萬戸の小作農が取殘される、併しながら五反歩平均と致しまする時は百二十萬戸、三反歩平均と致しまするならば、實に驚く勿れ二百萬戸と云ふ小作人が其の儘殘ることになる、さう致しますると、固より是等の百二十萬戸乃至二百萬戸の小作農は、他の土地を買ひ得る機會を與へられまするので、必ずしも純粹の小作農ではありますまい、隨ひまして本法案を檢討致しますると、是は自作農創定案にあらずして自小作農創定法案である、法案の趣旨は第一此の點に於て既に食違ひを生じて參るのであります、次に又小作制度があると云ふことは、實に何人も否定すべからざる所の、所謂封建遺制が農村に殘る、農村が保守的であり、封建的であると云ふことが、抑抑今囘の農地改革の根本原因となつて居り、此の法案の提案理由の説明にも、又法案第一條に掲げられてある所に依つて見ましても、農村の民主的傾向を促進すると云ふことが謳つてある、それにも拘らず、何を好んで此の小作制度と云ふものを依然として殘さなければならないかと云ふことに、私共疑ひなきを得ないのであります、之に依つて來る所の種々な弊害を申述べまするならば、第一に──私は決して「イデオロギー」を申上げて居るのではありませぬ、事實上此の法案を實施すると云ふ熱意に燃えて之を考へまする時に於て、非常に事務的に煩雜になることを考へなければならぬ、一體どの土地を買上げて、どの土地を小作地として殘すかと云ふ農地委員會の買收計畫の決定に當つては、是は容易ならざる問題を惹起すると私は思ふのであります、事務的に非常に困難なばかりでなくして、耕作農民は完全に二つに分裂致します、即ち土地を買ひ得る農民と、買ひ得ざる農民との二つに分裂致すのであります、此の一町歩を廻つて、地主と農地委員會との間に、小作人と小作人との間に、好ましからざる事態の紛糾が起りますることは、火を賭るより明かであります(拍手)農地の爭奪戰が起る、さうして愈愈以て買ひ得ないと云ふことになつた者だけは、本法案に對する極めて不滿どころでない、反感をすら私は釀成すると思つて居る、此の點に於きまして、耕作農民の分裂は、軈て我が國農業政策の將來に、或は共同耕作、或は機械に依る所の經營の方針、斯うした點に非常なる禍根を殘すものとして、私共は此の點に對して甚だ遺憾に思ふのである、それだけではありませぬ、愈愈此の確定的に殘された一町歩に付ても、小作爭議の頻發することは、即ち第一次農地法改革以來の事實に徴して明かな所でございまして、何人も此の點に付ては杞憂を持つて居るのであります、生きんが爲の爭議は、之を私共否定致しませぬ、併しながらそれは必ず其の兩者のどちらかに一つの缺點がある、然るに法の不備に依つて、政府の決斷のなかつたことに依つて起つて來る所の是等の紛爭に對しては、當然政府當局が其の責任を負はなければならないものだと私は考へる(拍手)農民の土地に對する渇仰は、一部の例外を除いては殆ど信仰的である、土地に對する愛著は、實に農民の斷ち難き愛慾であります、此の農民が、此の度憧れた土地を買ひ得る、孜々營々と働き來つたことが恵まれる、其の後に來る打算や其の他の問題を超越して、無性に戀しき此の土地が得られると思つたのに、それが得られなかつた、取殘された時の小作人の惱み、此の失望落膽を想ふ時、三十年農民と共に生き、農民と共に戰ひ來つた私は、實に胸中暗然たらざるを得ないのであります、此の點に於て、一町歩の問題は、如何なる點より之を見まするも、我々の了承し得ざる所である、質疑應答に於て承ります所に依りましても、どうしても納得が行かないのであります、之を要するに、寧ろ斯うしたことは、一部の所謂保守勢力に政府が迎合したのである(拍手)斯う云ふ態度では、民主日本などと云ふことは、耳を掩うて鈴を盜むの類である、斷じて出來ませぬ、文化國家と言ひ、平和國家と言ひ、口に結構利口なことを言つても、さう云ふ心構へでは、斷乎として再建日本などはあり得ないと私は茲に警告致して置きます(拍手)
次は報償金の問題でありますが、政府は買上げます所の土地に對しまして、一段歩、田にありましては二百二十圓、畑にありましては百三十圓の報償金を、三町歩を限つて交付すると規定致して居るのであります、是は報償──報ひ償ふと云ふのでありますが、何に報ひ償ふのか、地主の今囘拂ふ犧牲であると斯う言ふ、併し相當の價格を以て──賃貸價格の、田にありては四十倍、畑にありては四十八倍と云ふ相當の値段を以て、寧ろ私共の「アイディア」から致しますならば、高價に失する價格を以て買收して置きながら、何が故に報償金を出さなければならないのか、一體地主の諸君は、農村に於ける指導的地位を持たれ、農村開發の爲に努力して來たと、色々御議論も承つて居りますが、是は洵に農村を知らざる人の議論であると思ふ(「ノーノー」)大體に於きまして──極く一部の例外は私は論じませぬ、大體論を致しますが、大體に於きまして、現在の地主の所有する土地と云ふものは、或は藥代、或は肥料代、或は金利、或は高率小作料の其の結晶である、洵に此の土地には、父祖傳來、永年に亙る所謂農民の孜々營々たる汗と涙と膏が滲んで居るのであります(拍手)土地を取上げるに一方的に勝手に取上げることを認めるやうな状態に置いて、此の二十數萬件と云ふ土地取上に對して何等手を下し得なかつた政府が、茲に再建日本の首途に當る土地改革に於て、斯くの如き報償金をやる理由を私共は認め難い
飜つて引揚同胞或は戰災者等の状態を眺めますならば、其の不公平も甚だしいと言はなければならぬ、更に「インフレ」は一層助長の傾向にある、國家財政は實に窮迫せる今日に於きまして、二十億圓と云ふものを報償金として出しますることは、私共の了解に苦しむ所であります、仍て私共は之に對して贊成致し難いのである
次に附則中に於きまして、先程委員長も申述べられたるが如く、昨年の、即ち昭和二十年十一月二十三日の事實に基いて、農地委員會が買收計畫を定めることが出來ると云ふやうな、曖昧な文句で規定されてありまするが、十一月三日は第一次農地改革が閣議に於て決定された日ださうであります、併し十一月二十三日と云ふやうな日が、一體農地委員會が此の事實を査定致しまする時にはつきり調査が出來るかどうか、是は利害相反する地主、小作の間に於て決してはつきりとなつて來ませぬ、仍て私共は、八月十五日を以て此の境目とすることが最も明白であり、事實を事實として遂行する上に正しいことであり、農地委員との間に忌はしき問題等を惹起しないことを考へて、之を必ず八月十五日としなければならないと信ずるものであります(拍手)殊に幾度か言ひ古されたが如く、土地取上等は頻發し、政府の提出せる所の資料に依りましても、實に二十五萬件以上と云ふものが見られるのであります、斯くの如く農村不安に陷つた實情を考へまする時に、生じつかな、することが出來ると云ふやうな曖昧な文句で、一體此の政府の買收計畫が行はれるのか、私は斷じて否と答へざるを得ないのであります(拍手)以上が自作農創設特別措置法に關する問題であります
次は農地調整法の關係であります、小作料を、田にあつては二割五分、畑にあつては一割五分で押へる、是は一應素人が聞くと本當のやうである、併し我々問題を實際に檢討して居りまする者、更に農村の今後の經濟の動向及び農業恐慌を皆さん最も御心配になつて居る今日に於きまして、私共は二割五分と云ふのは高きに失すると思ふ、一體小作制度、農地の地主制度と云ふものは否定して行くと云ふのが、此の土地制度改革の根本思想であることは、何としても否むことは出來ない、斯かる「イデオロギー」の上に立つならば、此の政府の法案の指向する所の、又具體的に規定致します所の法案改正の趣旨に於きましても、耕作者の生活を安定すると書いて居りまする以上は、安きに失する程の安い小作料で當然と見なければならぬのであります(拍手)私共は凡ゆる角度から之を檢討致しまして、田と畑とを區別する必要は毛頭ない、一割五分と云ふことが最も妥當なりとして修正せんとするものであります(拍手)
次は農地委員會の構成の問題でありまするが、原案に依りますると、委員長御説明の通り、小作五、地主三、自作二となつて居ります、私共は之を小作六、自作三、地主は一で宜しいと言ふのである、何の爲に自作農創設特別措置法をやるのか、今度の農地改革及び農民の生活保障と云ふのは、働く所の耕作農民を擁護すると云ふのである(拍手)然るに農地委員會に、少數の地主を代表すべき委員を三人も出すことは、私共は毛頭其の理由が立たぬと思ふ、仍て法案の趣旨と社會情勢とを勘案する時に、一、三、六と云ふ比率が最も正しい比率である、殊に皆さん御承認の如く、地主は指導的立場である、指導的立場である旦那樣と、指導されて來た小作人と竝びまする農地委員會が、果して公平なことが出來るか、此の實力關係から、又社會關係から考へて正しく判定致します者には、小作人の人數を殖やすと云ふことが最も正當なりと云ふ理窟は、必ず御承認願へなければならぬ筈だと思ふ(拍手)それをしも承認しないと言はれるならば、それは利己的見解で、又何をか言はんやである
更に此の農地委員制度を見てみますると、市町村農地委員會に對して、地方長官が三名の、まあ學識經驗者と云ふのでありますが、それを任命するとなつて居る、一體民主主義の今日、地方長官の任命などと云ふやうなことは果して正しいことであるか、私共は之を了解するに苦しむのであります、而も、最も大事な、又最も懸念せられ、必ず私共が掌を指すが如く、火を賭るが如く明かであると思ふ所の農地委員の不正行爲、此の農地委員の不正行爲に對して、何等處罰規定を設けて居らない、或は酒肴を以て、或は買收を以て、或は又情實を以て此の委員會の運營がなさるることなきやを私共は非常に惧れるのである、是は過去の事實が證明する、二十五萬件の土地取上を敢てした地主、それを又援護したる農地委員會の過去の實績に鑑みて、私共は斷言し得るのである
斯かる意味に於て、私共は修正案を提出したのでありますが、之を要するに此の法案は極めて不徹底であり、多くの缺陷を包藏して居るのである、隔靴掻痒、羊頭狗肉とは、正に此のことなりと私は言ひたい、政府にして其の間の事情が御分りにならぬ筈はない、先刻申上げたるが如く、實に所謂或る種の保守勢力に迎合せる所の、何とかして通せば宜いと云つたやうな態度が、此の法案に窺はれるのであります(拍手)私共は斯くの如き法案を作成致しますることは、以上指摘致しましたるが如く、農村の混亂を招き、且又必ず第三次農地改革をやらなければならぬと云ふ結果になると思ふのであります(拍手)第三次農地改革は、即ち日本社會黨内閣を以て之をやると云ふことを申上げまして、私の趣旨辯明を終ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=9
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010・山崎猛
○議長(山崎猛君) 北政清君
〔北政清君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=10
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011・北政清
○北政清君 私は無所屬倶樂部の多數の方を代表致しまして、只今議題になつて居ります二法案に付きまして、修正の動議を出すものであります、印刷物がまだ御手許に行つて居りませぬので、甚だ御分りにくいと思ひますが、一應朗讀します、時間を縮める爲に少し早口で申すかも知れませぬから、御諒承願ひます
自作農創設特別措置法案の一部を次のやうに修正する。
第二條第二項乃至第四項を次のやうに改める。
この法律において、自作地とは、所有權者が耕作してゐる農地をいひ、小作地とは、農地を所有しない者が賃借權、使用貸借による權利、永小作權、地上權又は質權に基き耕作してゐる農地をいふ。
前項の規定の適用については、耕作の業務を營む者の戸主若しくは同居の家族又は命令で定める特別の事由に因りその者と同居しなくなつたものも同じいものとみなす。
この法律において、自作農とは、所有地に就き耕作の業務を營む個人をいひ、小作農とは、小作地に就き耕作の業務を營む個人をいふ。
第三條第一項第一號を次のやうに改め、第二號を削る。
一農地の所有者が自ら耕作の業務をなさざる小作地。
同條第一項第三號を第二號に改め、同號中「面積の當該區域内の」を削る。
同條第二項を削り、第三項及び第四項中「又は第三號」を削る。
同條第五項第一號中「第一項第三號の面積を超える場合、當該面積を超える面積の自作地」を「第一項第二號の面積を超える面積の自作地」に改め、第二號中「自作地で當該自作地に就いての」を削る。
第四條 前條の規定の適用については、農地の所有者の戸主若しくは同居の家族又は第二條第三項に規定する特別の事由に因りその者と同居しなくなつた者も同じいものとみなす。
第五條第七號「切替畑」の下に「牧草畑」を加へる。
第六條第三項但書中「當該農地につき額を定めたときは、その額による。」を「當該農地につき定めた額による。」に改める。
第九條第二項但書中「又は抵當權を有する者が知れないとき、その他」を「又は抵當權を有する者に」に改める。
第十二條第一項中「これを取得し、當該農地に關する權利は、消滅する。」を「これを取得する。」に改める。
第十三條第三項中「同條第一項第三號」を「同條第一項第三號」に、「同條第三項」を「同條第二項」に改める。
第二十六條に次の一項を加へる。年賦金及び諸負擔の合計が現行契約小作料の三分の二を超えてはならない。
第二十七條第一項中「當該農地の對價の支拂につき年賦金額を」の下に「この法律公布の時の物價に比例して」を、「減免し、」の下に「凶作不作等の災害については」を加へる。
第二十八條第一項中「政府は、命令の定めるところにより、その者に對して當該農地を買ひ取るべきことを」を「政府に賣渡しを」に、第二項中「その時にその申入において定めた條件によつて當該農地の賣買が成立する。」を「本法の定めによる自作農を創設する。」に改める。
主な點のみを簡單に申上げたいと思ふのであります、主な點は、一町歩の保有を止めたいと云ふのであります、先程社會黨の方から御提案もありましたが、私は更に異つた角度から之を考へて居るのでありまして、農地の再分配、即ち今度の農地の改革であります、日本の農業の一番の缺陷は、土地が細分化して居りまして、彼處に一反、此處に二反、其處に三反と離れて居りますので、農地改良も出來なければ、機械を使ふことも出來ませぬ、共同の耕作をすることも出來ないと云ふのが、日本農業の大きな缺陷であります、是が一町歩以下を保有させることに依りまして、此の大部分がなくなつてしまふのであります、農地改革の根本の大半が是で失はれるのであつて、實に重大なことと考へて居るのであります、小作農民は現在約三百五十萬戸ありまするが、一町歩以下の耕作者は二百四十萬戸あります、斯く致しまして、是は耕作面積から申しますが、所有面積から見ましても、二百萬戸は優にある、此の二百萬戸と云ふ農村の正三分の一以上のものが、小さな散在したものを作らなければならぬのであります、此の故に於きまして、此の農地制度の如き昔から出來上つて來たものを變へると云ふことは、斯う云ふやうな場合でなければ出來ないのであります、斯かるが故にどうしても此の際決めたいと思ふのであります
其の次の主な點と致しましては、小作人は今までの契約小作料よりは、私の計算ではどうしても政府の年賦金及び之に加へる負擔金の方が高くなるのであります、此の計算を知つたならば、小作人は買はないであらう、それでは折角二年間にやらなければならぬ此の法律案が、實際は行はれないと云ふ危險を持つて居るのであります、政府は全面積の平均を以て言つて居ります、私は資力の標準を以て言ふべきである、日本の賃貸價格は、田に於きましては二十圓以上三十圓までの賃貸價格のものが九十六萬町歩であります、二百六十萬町歩の中、九十六萬町歩までは是であります、其の平均されたものの中程、之を取つて來ると二十五圓、其の四十倍、千圓の所が標準となつて居るのであります、之を七百四十幾らと見ることは大きな間違ひであります
更に政府は契約小作料を以て言うて居ります、一體契約は小作料通り、何年經つても何時でも取れるものではない、總體として見ますならば、少くとも一割は減じて居る、政府の出した資料に依りましても、一石の小作料の所で九斗一升八合、斯う云ふやうな實際の數であります、此の九斗幾らと云ふ、一割減にしたものならば何れも高くなるのであります、是では小作人を助けてやるのぢやない、民主化するのぢやないのであります、農村から追ひ出すことになるのであります、實に重大な問題でありまして、之を政府が安いと言ふならば、私の言ふことに贊成して貰はなければならす、即ち私は現行契約小作料の三分の二を超えてはならないと、斯う決めて置きたいのであります、政府が安いと言ふならば、其の自信はある筈であります、是は今の相場で物を買ひまして、今後の金で三十年拂はねばならぬのであります、簡單に申しますならば、「インフレ」の札で借金の證文を書いて、正金で拂はねばならぬ、「デフレ」の金で拂はねばならぬ、是が「デフレ」にならぬと云ふことは大きな間違ひです、必ず近い内にやらねばならぬでせう、既に政府は第一封鎖、第二封鎖、財産税をやらうとして居る、更にもつと手を打たなければならぬであらうと私は考へて居るのであります、それでなければ外國との貿易も出來ませぬ、更に外國との通商が普通に再開されました場合、低廉な生産費の所から、どんどん入らぬとも限らぬのである、其の際に今決まつた金額の年賦金をどうして拂つて行けるか、どうしても拂へない、そこで政府は減免又は猶豫と云ふことが書いてあると言ふ、減免又は猶豫と書いてある、其の何れを使ふかを明瞭にさせる爲に、本法公布の日から物價に比例をして減免をすると云ふことをはつきり入れる必要がある、さうでなければ當事者は、是は猶豫と書いてあるのだから猶豫されるとされますならば、百年經つても拂へないのであります、又私は災害、凶作に付きましては、是は猶豫で宜しい、其の限界をはつきりして置く、是が主な點でありまして、後は之に附隨しての字句の修正と、もう一つは、此の法律は非常に文句が分りにくくなつて居ります、簡單に出來るものを簡單にして居りませぬ、そこで誰でも分るやうに──政府の當局者だけ分るのではいかぬ、農民の總體が分るやうに簡易にしようとして修正を出して居るのであります
尚ほ私は更に本法の實施に付きまして、三つの希望條件を附するものであります、一つは農産物價格の公正を期することであります、過般來、或は經濟安定本部長より、或は大藏大臣に致しましても、農林大臣にしましても、農民を不平等にすることが當り前のやうな御返事を屡屡なさつて居る、私共甚だ憤慨に堪へないものであります、今度の新憲法の第二十九條に於きまして、公正な補償の下にと云ふ字句は、是は完全に活きて居るのだ、其の公正なと云ふは、政府の決めることが直ちに公正だと云ふものではありませぬ、現に昨年、一石四斗の生産が二石四斗と誤つて計算されて居ります、之に對して大藏大臣は、間違つてやつたが、あれで丁度宜い加減だと言ふ、農林大臣は五百圓生活の爲には仕方ないのだと言ふ、又膳國務大臣は、過般の中央金庫の委員會に於きまして、農民の勞賃は別なものだ、斯う云ふのであります、又農業勞働と云ふものは繁閑がある、閑な時もあるのだから安いのが當り前だ、一體一反歩から一石の收入を上げるのに、どれだけの人夫が掛つて居るかと云ふことは、耕すのに幾ら、草取りに幾ら、刈取りに幾ら、調製に幾らと斯う勘定して、立派な人間が一日十五時間も働いたのを計算して居る、他のものはどうだ、日曜あり、祭日あり、生理休暇あり、買出し休暇あり、是でも給料は出て居るのだ、爭議をやつて休んでも給料は出て居る、我々農民は本當の働く日だけを勘定して居る、何處に繁閑があると言ひ得るか、農民勞働に對して斯くの如き考へ方をして居るから、今日のやうな滅茶滅茶な相場が出て來る、農村の生産費のみで考へて見ましても、南瓜が一貫目九圓、米が一升三圓、何處から勘定しても、どんな榮養分から考へても、こんな相場が出る筈がない、之を完全に公正にさせなければ、如何に自作農にしてもやつて行けるものではない、今小作料を全部廢めますよりは、農産物價格を倍にすれば經營が出來るのであります、小作料は最高取つても二割五分より取つてはいかぬ、あと七割五分は販賣すべきものでせう、此の價格が倍になつたらどうであるか、極めて簡易なものである、而もそれを滅茶苦茶な値段にして居るから、闇賣をしたがる、隨て消費者の口には入らぬ、今年でも私共は三合配給は樂々だと思ふけれども、今のやうな價格でやられては出來ますまい、本當に公正な價格に持つて來れば、農民は期せずして出荷するのだ、供出だなどと云ふ生意氣な言葉を使はないでやつて行けるのだ、斯く致しまして農産物の價格を本當に公正にするのである
其の次は中間機關を廢めること、即ち戰時中統制の名に於て出來上つた統制會社、各統制團體、是等のものを速かに廢めさせて、生産者にも消費者にも無理な負擔の掛らないやうに、要らない費用の掛らないやうにしてやることだと思ふ、(「商人はどうするのだ」と呼ぶ者あり)中間に居つて營利を取ると云ふことが間違つて居るのだ、其の次は農村の必需物資は所謂商人、營利業者、之にやらして居るから今日のやうなことになつて居る、それだから闇で行かなければ品物を呉れない、米を持つて行かなければ呉れない、それでありますから、私は之を速かに一元化せよと言ふのであります、要は自作農創設が完全に出來ることを期待しまして、それが出來るやうにする爲には、私が申上げるやうな修正に御同意を願ひたいのであります
次いで農地調整法の一部を改正する件であります、此の修正に付きましては(「簡單々々」と呼ぶ者あり)それでは讀むのを止めまして簡單に致します、第九條の第一項の次に斯う云ふことを入れたいのであります、「前項の宥恕すべき事情信義に反する行爲等に付き當事者間の意見一致せざる場合は市町村農地委員會の裁定に從ふものとす」と入れたい、是は耕作權を何處まで確立するか、所有權を何處まで置くかと云ふ境がはつきりして居らぬ、是が紛議の種であります、小作人は二俵しか穫れぬ、だから拂はないと言ふ、地主は四俵穫れたのに二俵しか穫れぬと言ふ小作人は不都合だと云ふことになる、そこでどつちが正當か、どつちが宥恕すべき事情信義に反するかと云ふことを茲にはつきりして置かなければならぬ、成程後に解除とか、さう云ふことは中央農地委員會の査定に俟つと云ふことはありますけれども、其の以前に根本が決まらなければ駄目なんだ、其の爲には此の限界をはつきりし、それを決めるものは市町村農地委員會だと云ふことをはつきりする、小作も地主も其の決定には從ふのだ、斯うしたいのであります、今の勞働委員會の讀賣爭議に對する問題に付ても、私共見て居りますと、何だか裁定に從へば宜いのか惡いのかはつきりせぬ、私は茲に之をはつきりしたい、其の次は六年の懲役若しくは禁錮以上の刑に處せられた者、斯う云ふのがありますが、私は六年の刑に處せられましても、其の責任を果し、眞面目な人間になつて歸つて來て居る者に、何時までも農地委員の選擧權すら與へないと云ふことは、却て其の本人を惡くする、さう云ふ者は社會が喜んで受入れるべきだ、さうすることに依つて、其の惡いことは直つて來る、唯責めるばかりが人を直す方法ではない、でありますから懲役又は禁錮の刑を受けて、其の執行を受けることのなきに至つた者はそれで宜しい、其の點を改正したい、是は政府に於ても肚の中では御同意の筈であります、併し今までの法律がさうなつて居るからやつて居るのだと云ふ程度であります、是等の人達は全國から言へば極く少數であり、前途に光明を齎さるものであるが故に、是非とも之に御贊成を願ひたいと思ふ次第であります、以上を以て終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=11
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012・山崎猛
○議長(山崎猛君) 是より討論に入ります──三浦寅之助君
〔三浦寅之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=12
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013・三浦寅之助
○三浦寅之助君 私は日本自由黨を代表致しまして、委員長の報告通り原案に贊成せんとするものであります、此の原案に對しまして社會黨竝に無所屬倶樂部の北氏より修正意見が出て居るのでありまして、此の點に對して先づ檢討して見たいと思ふのであります、社會黨の修正案の第一點は、所謂小作地全部を政府が買收して自作農にせしめると云ふことであります、都府縣一町歩、乃至北海道四町歩の地主の保有を削除せんとする案であります、此の案に付きましては、縷々提案の理由を聽きましたけれども、畢竟するに其の内容は、唯階級的立場に立つて、單なる形式的理論にのみ趨つて、實際の農業經營を無視する所の理論であると考へざるを得ないのであります(拍手)何となれば、農家の經營は決して一定不變のものではないのであります、今日自作農或は篤農家として立派なる農業經營は致して居るけれども、明日に於て或は農業勞働力を失ひ、或は疾病、轉職等の理由に依つて、農業經營を繼續することの出來得ない困難なる場合に立つことを、我々は先づ考へる必要があるのであります、又將來の農村經營を考へましても、今日の如く農産物價の騰貴に依る所の好景氣の時代ばかりあるとは、斷じて考へられないのであります、或は農村の一大凶作に見舞はれることもあるでありませう、或は將來に於きまして日本が幸ひに講和條約でも出來、外國の物資を輸入するやうな時代を我々は考へても宜しいと思ふのであります、さう云ふやうな凡ゆる角度から考ふるならば、將來に於て相當農村の恐慌時代をも我々は豫測するに難くはないのであります、斯う云ふやうな農村恐慌の時代を考へる際に於きましては、所謂其の買收代金を支拂ふことが困難なる場合も生ずるでありませうし、或は土地所有者に對する公租公課、其の他の負擔に堪へられない所の困難なる事情も生ずるでありませう、況や先程來の説明にもありまする通り、日本の耕作農民は所謂五反百姓であり、大半は一町歩以下の耕作農民であります、單なる耕作だけに依つて農家經濟を維持出來ない現状に於ては、尚更農村恐慌の場合に於ては、自作農民が負擔に堪へ切れずして、已むを得ず他に轉職し、或は他に適當なる職を見付ける農民が出來、或はそれが農民生活に於て最も必要である場合も生ずることを我々は考へなければならない、又耕作農民の立場から言ふならば、必ずしも自作農だけを作らなくても宜しい筈である、所謂耕作權が確立して居つて、妥當なる所の金納の小作料ならば、却て負擔少く、安心して農耕出來る場合も考へられる、自作農だけが耕作農民の幸福なりとする獨斷的見解こそ、却て耕作農民を誤らせるものと斷ぜざるを得ないのであります、實際問題を考へるならば、斯くの如く耕作農民が耕作を廢めて、他に轉職することが有利な場合もあるでありませうし、又階級的立場に立つ諸君は、地主を以て恰も仇敵視し、恰も農村を誤るが如き單なる感情論にのみ支配されて居るけれども、一部の地主に於ては勿論感心しない人間もあるでありませう、併しながら是は全部封建的存在であり、農村の民主化を妨害する地主農民なりと云ふことは、是れ亦獨斷であります、今日の自作、今日の農民の保有する耕作反別を考へて御覽なさい、地主と稱するものに於きましても、五反歩もあれば、又一町歩以下の地主が是れ亦大半を占めて居る事實を見逃す譯には行かない、斯くの如き少數の耕作反別を持つて居る地主は、營々辛苦して蓄積し、自分の財産を得、或は正當妥當なる立場に於て地主となり、地方農村の爲に立派なる働きをなし、貢獻をなしたる所の地主であることをも見逃すことは出來ない、又農村の地主の立場から見て、從來篤農家として農村發展の爲に努力致して居つた所の地主も、或は名譽職に就き、或は家庭の事情に依つて土地を離れ、地主となつて、其の土地を他の者をして耕作せしむる場合の多くある事實を見逃す譯に行きますまい、而も是等の地主が、又家庭に勞働力が出來、或は村に歸つた場合に於て、而も耕作農民が他に轉職して、耕作地を返還しようとする場合に於ては、此の耕作農民の趣旨を尊重し、且又元に還つて自作農民として農業經營に専念せんとするの善良なる地主のある場合に於て、私は斯くの如き場合の餘裕を認める上に於ても、一町歩位の地主の保有を認めることが、實際の農村の實情に即したるものであると斷ぜざるを得ないのであります、此の一町歩の保有を殘すことは、斷じて耕作農民の地位を不安定ならしめるものではない、又社會黨の代表者の御説明の如く、必ずしも耕作農民の分裂を來し、或は紛爭を起すが如きことは考へられないのである、それは單なる僻みの意見であつて、實情に即さないものと言はなければならない、又共同經營をする場合に於きましても、耕作權の安定する耕作農民と自作農民に於て、地方の實情に於て農民組合なり、或は協同組合なり、或は其の他の共同經營に何等の支障を來すものではないのであつて、此の意味に於きまして、第一點に於ける意見は、根本から我々は反對せざるを得ない、而も又北君の意見に於て、農地の細分配をしては土地改良が出來ないと言はれる、併しながら今日直ちに五反百姓なり、或は一町歩以下の小耕作人をなくして、大農を經營するが如きことにするならば、此の案は所謂農民解放にあらずして、小作民締出しの結果になることを考へなければならない、斯樣なことに於きまして、私は所謂此の土地一町歩の保有は、當然認むべきであると考へるのであります
第二點は報償金の問題であります、此の報償金の問題に於きましても、是は當該農地の收穫或は位置其の他の状況を參酌して、主務大臣が實情に即して之を決定するのである、而も現在の農地の所有者は、僅かに五反歩、一町歩以下の土地の所有者が大半を占めて居ることを考へる場合に於て、況や三町歩となれば、大半地主となるのである、是等の人々の將來のことを考へる時に於て、況や憲法では財産權を保障され、又同時に正當の補償を受けることが國民の權利である、而して今日の物價水準から見て、正當の補償として、粒々辛苦したる小中地主の爲に此の位の補償をした所で何であるか、當然の補償であると斷ぜざるを得ないのである(拍手)茲に斯くの如きけちを付けんとするが如きは、單なる耕作農民大衆に迎合せんとするものと言はなければならない(拍手)
第三には、昭和二十年十一月二十三日前に遡及して、即ち終戰の時の八月十五日にせんとする案であります、此の意見は單なる時局便乘の意見に過ぎない、何となれば、昭和二十年十一月二十三日前に於ては…
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=13
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014・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=14
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015・三浦寅之助
○三浦寅之助君(續) 國民は農地改革の實情は知つて居らないのである、而も其の間に於て正當に取引せられ、或は耕地を分配し、或は賃貸借を設定し、或は擔保權を設定する所の正當なる取引を致した場合に於て、之をしも單に八月十五日に遡及して全部無效とするが如きは、正當に取引されたる權利を破壞し、農村の平和を害し、經濟秩序を破るものであつて、斷じて農村平和を維持するものではないと言はざるを得ないのである(拍手)
第四は小作料の問題である、茲に私は非常に奇怪に考へることは、國家が全部小作地を買收すると云ふ立場に立つての社會黨案から言ふならば、是は全部自作農となつて、小作人の存在する餘地はないのではないか、然るに此の減額の問題に於て、田の二割五分を一割五分に減額すると云ふことは、是は所謂地主の存在を前提とする所の、一貫せざる議論と言はざるを得ないではないか
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=15
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016・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=16
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017・三浦寅之助
○三浦寅之助君(續) 何故に全部の農地を買收するならば、此の小作料の條文を全部削除する案を出さないか(發言する者多し)斯くの如きことは、其の實際に即せざる所の、首尾一貫せざる所の修正案と斷ぜざるを得ない、又現在の小作料は、是は物納にあらずして、金納であります
〔「眞面目にやれ」其の他發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=17
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018・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=18
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019・三浦寅之助
○三浦寅之助君(續) 眞面目にやつて居る、所謂今日の小作料は金納であります以上、從來の物納の如く、先づ第一に小作農民の負擔を多くすると云ふことは考へられない、而も今日の物價の水準からするならば、此の位の範圍に於て、而もそれは勝手に決めるのではない、中央の農地委員會の定むる基準に從つて、道府縣農地委員會が定むるのであつて、而も農地委員會なるものが、立派な小作農民の意思を尊重して…
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=19
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020・山崎猛
○議長(山崎猛君) 私語を禁じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=20
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021・三浦寅之助
○三浦寅之助君(續) 意思を尊重し、十分に常識的に妥當なる所の下に於ての決定であるのであつて、決して是が小作料の標準を決定するに於ても、地主や官僚が勝手に決めるものではないことを我々は知らなければならぬ、斯う云ふやうに考へるならば、單に二割五分を一割五分にすると云ふやうなことをしなくても、實情に即して實際運用する場合に於ては、一割五分にでも一割にでも出來る、要は其の農地委員會の運用如何に係はるならば、故らに斯くの如き窮屈にしなくても、其の實情に應じて十分になし得る餘地を認めると云ふことが當然であると言はなければならない(拍手)
次は農地委員會の問題であります、社會黨の案から見るならば、小作人六、自作人三、地主一として居つて、絶對的に小作人の有利なる地位を認めて居る、併しながら實際の問題から言ふと、小作人は、既に草案に於ては半數の委員であり、而も又自作農の立場を考へるならば、自作農は必ずしも地主の味方をすると云ふやうなことは偏見である、或る意味に於ては、自作人はやはり小作人と手を携へて、立派なる農村經營に進むことを私は確信する、斯う云ふ意味合に於て、實際に於て小作人が五、自作人が二であるならば、此の點に於て小作農民の意思は十分に尊重せられるのである、斯くの如く十分に小作農民の意思を反映せしめるならば、何も好んで單に小作人のみに有利に考へ、唯階級的立場にのみ囚はれると云ふ必要はない、是は將來の農村經營上、農村平和の上に於ても斷じて採らざる所であります(拍手)今のやうな議論をするならば、いつそのこと徹底して、なぜ農地の國有でも主張し、さもなければ地主の代表を一切削除して、農民だけの代表を主張しないか、さう云ふやうな徹底したることを主張せずして、眞の階級と云ふ立場に立つて、さうして自分の信念を吐露することなくして、唯自分の曖昧なる態度を以て、地主を全部封建的存在として仇敵視すると云ふことは、洵に私は遺憾千萬に堪へないのであります
以上の點から言ひまして、私は此の社會黨の修正意見に對しましては、當然採用すべからざるものであると思ふのであります(拍手)此の度の農地法案は、申すまでもなく、自作農の創設、小作料の金納化、或は此の政策遂行の主體としての農地委員制度の改正でありますが、是等の制度を通じまして、立派に耕作農民を從來の隸屬的地位から解放して、眞に合理的發揚を圖り、農村經濟の民主化に依つて農業生産力を最高度に發揮せんとする、我が國農業政策の劃期的な此の法案に對しましては、私は茲に滿腔の贊成を表するものであります
最後に、此の劃期的法案を實施せんと致しましても、從來の農村の複雜なる、因縁情實の錯綜して居る場合に於て、之の豫定通り二箇年の間に完成すると云ふことは、幾多の困難が豫想されるのであります、私は、當局に於きましては此の困難を突破して、斷乎として此の改革案の遂行に萬全を期せられんことを要望致しまして私の演説を終ります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=21
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022・山崎猛
○議長(山崎猛君) 高倉輝君
〔高倉輝君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=22
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023・高倉輝
○高倉輝君 私は日本共産黨を代表致しまして、此の二つの法案に對して反對の意見を申述べることと致します
反對の理由の第一は、此の法案の中に殘されて居ります所の封建的な要素、隨ひまして軍國主義的な要素であります、是までの日本の土地制度の中には、最も深い封建制の根がある
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=23
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024・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=24
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025・高倉輝
○高倉輝君(續) 軍國主義の一番深い源でありました、隨ひまして「ポツダム」宣言を受諾しまして、日本民主化の國際的な義務を負ひました時に、日本の政府は、當然此の土地問題の根本的な改革に乘出さなければならなかつた筈であります、所が政府は此の義務をさぼつたものでありますから、遂に昨年の十二月九日の聯合國側からの指令となつて現はれまして、第一次農調法を出さざるを得ない立場に立至つたものであります、所が此の際にも、尚ほ眞に封建的な要素を取去ることをなさず、軍國主義の根を殘して居たものでありますから、遂に五月の司令部からの批判となつて現はれまして、再び茲に第二次の農調法を出さざるを得なくなつたのであります、若しも政府が、「ポツダム」宣言を受諾すると同時に農地の根本的改革に乘出して居りましたならば、聯合國側からの指令も批判も決して現はれなかつたのであります(拍手)隨ひまして只今の日本の政府、竝に其の基礎となつて居る所の保守勢力は、土地問題の根本的な改革に對しては、指令や批判があるまでは全然手を著ける意思がなかつたと云ふことを、茲に最も重大に考へなければならないのであります(「ノーノー」拍手)先程委員長の報告にもありました通り、第一次農調法の第一條には、相助互讓の精神であるとか、或は耕地所有者の地位の安定とか云ふやうな文句がありまして、地主と小作人との兩方の位置を平等に認めるやうな文句があつたのでありますが、是は聯合國の指令に依りまして之を取去つて、耕作者の地位の安定と云ふ一本で行く第一條の方針に依らなければならなくなつたものであります、隨ひまして耕作者の地位の安定を圖る爲に一切のものを犧牲にすると云ふならば、私共は此の法案に絶對の贊成をするものであります、所が事實はどうか、此の第一條の精神を以て此の法案が貫かれて居るかどうか、此の法案を實行しました結果は一體どう云ふ事實となつて現はれるか、第一に土地を買ふことの出來ない所の小作、貧農は其の儘殘らなければならない、第二に土地を買ひまして自作農となつた所の農民の場合はどうか、是は和田さんの説明にありました通り、大體三十年間現行の小作料を拂ひ續けることに依つて自作農にさせるのだと云ふ説明でありますから、是は三十年間今の封建的な搾取と同じ代金を拂ひまして、詰り別の言葉で申しますならば、斯くの如き封建的搾取を三十年間制度化するに外ならないのであります、日本の農村を民主化し、農民の生活の安定を圖ると云ふならば、それは三十年後に圖つて宜いのではない、是は今直ぐ圖らなければいけないのであります、和田さんの言ふ通りのことが行はれても、實際に小作人が自作農になれるのは三十年後のことであります、是までは非常に高い所の所謂封建的な小作料が、働く農民の大部分を占めて居ります所の小作人に重い搾取を加へました爲に、日本の農民の大部分は甚だしい貧困に陷らざるを得なかつた、其の結果はどう云ふ風に現はれて來たか、第一には非常に多くの勞力を耕地の上に注ぎ込む所の、所謂集約農業と云ふものを生まざるを得なかつた、隨ひまして農業を近代化し、機械化し、或は集團化し、畜力化する所の經濟的餘力を農民は持つことが出來なかつた、隨ひまして日本農業と云ふものは、國際的に見て極めて低位な位地に止まらざるを得なかつたのであります、是が第一、第二の問題は、農民が斯くの如き貧困の状態に陷れられました結果は、農村に低賃金の基礎が置かれた、農民の勞力は極めて安い賃金で買取られる結果となつて、低賃金の基礎が置かれた、是は潜在的な失業者群として、都市の勞働者竝に一般勤勞階級の生活を引下げる結果となつて居りました、是は戰爭前に於て、農民が如何に多く都市に流れ出して來たかと云ふ事實を考へて見れば極めて明かであります、詰り此の土地制度を基礎と致しまして、日本の凡ゆる働く階級の上に低賃金の基礎が生れ、其の生活を引下げる結果となつて居たのであります、隨ひまして其の結果は、日本全土に於きまして購買力が低下し、商品の市場としての價値を極めて低いものにしたのであります、そこに於きまして日本の支配者達は、國内の購買力がない爲に、新しい商品の市場を外國に求めざるを得なくなつて、滿洲事變以來太平洋戰爭に至るまでの、あの侵略戰爭を決行せざるを得なくなつたものであります、隨ひまして軍國主義の基礎と云ふものは、是は日本の社會に根があつた、何處にあつたか、言ふまでもなく土地制度にあつたのであります、此の前吉田さんは、日本は軍國主義でないのに、外國が軍國主義であるかの如くに誤解したと云ふ風なことを言ひましたが、斯くの如き言ひ方は、是は先程どなたかの話にありました、鈴を盜むに耳を掩ふのと同じであります、我々は再び戰爭の禍ひから逃れる爲には、何處に軍國主義の根があつたかと云ふことを徹底的に反省しなければならない、斯くの如き軍國主義の根を日本の社會から拔取ることがなくて、どうして戰爭を止めることが出來るか、今度の憲法草案に一切の戰爭を止めると書いてあるけれども、日本の社會から戰爭の根を拔くことなくして、どうして戰爭を止めることが出來るか、是は今度の法案の實行に依りまして、明かに軍國主義の根を日本の社會に殘すものでありますから、憲法草案の意思とも反對の立場に立つものであると云ふことを申さなければならないのであります
第二の理由は、此の土地改革に含まれて居る所の地主的な性格であります、是は先程社會黨の代表から可なり詳しく説明がありましたから、私は簡單にしか申上げませぬが、此の法案の中に含まれて居ります所の、例へば土地取上を合理化する拔け道、地主が富農に變ることが出來る拔け道、次には地主に與へる所の報償金の問題、第三には農地委員會の組立──先達て委員會で和田さんに御伺ひしました時には、大體自作農と云ふものは地主の立場に立つものであるから、三と二とで五になる、小作人の五と合せて、五對五の平等な位地に置くのが目的であると云ふ説明がありましたが、是は明かに第一次農調法の相助互讓の精神に基礎を置いたものであつて、今後の第二次の改革案に於ける、働く農民を基礎とすると云ふ第一條の文句と明かに矛盾するものであります、是はなぜさう云ふ現象が起きたかと言ひますと、第一條には、働く農民を中心とすると言つて置きながら、其の内容に於ては、地主の利益の爲に、地主的立場から此の改革がなされて居ると云ふことを、何よりも明かに示して居るからであります
第三には、此の改革案が來るべき農業恐慌に對して、其の抵抗力を一層低める結果になるからであります、農業恐慌が近い將來に日本に現はれて來ますことは、最早爭ふことの出來ない事實であります、先達ての委員會に於きまして、此の點を政府に質問致しましても、此の來るべき農業恐慌に對して、政府は何等の對策を持つて居ないと云ふことをはつきりと暴露致しました、軈て來るべき農業恐慌は、是までの農業恐慌とは根本的に性格の違ふ農業恐慌であります、是までの農業恐慌は、資本主義の内部矛盾から現はれて來る農業恐慌でありましたが、今度の農業恐慌には、其の外に更に日本の農業の國際的競爭力の弱さと云ふ要素が加はつて參りますので、是までに曾てない所の性格を持つた、新しい農業恐慌であります、是まで日本農業の國際的な競爭力の弱さを守ります爲には、第一には保護關税の政策、第二には外地米に對する輸入制限、外米に對する原則的な輸入禁止、此の方法を執つて居りました、所が現在はどうか、敗戰の結果、是等の方法は全く執ることが出來なくなつた、否でも應でも日本農業は、自由市場に於て國際的な自由競爭の立場に立たなければいけなくなりました、是まで非常に澤山の勞力を農地に注ぎ込んで、辛うじて一定の生産力を擧げて居りました日本農業は、其の爲に、極めて原始的な南方の米の産地の農産物とも、又極めて高度に進んだ「アメリカ」、「カナダ」の近代的な農業とも競爭の出來ない、對等の太刀打の出來ない弱點を實際に持つて居つたのであります、所が現在はどうか、極めて分り易い實例を申上げましても、一「ドル」十五圓と換算致しまして、委員會でも申上げました通り、「シヤム」の米一石は、現在の日本の圓に直して百二十圓に當ります、「カナダ」の小麥一石は、やはり一「ドル」十五圓と換算致しまして、一石百三十一圓五十五錢と云ふ勘定になります、今日の新聞に依りますると、一石の買上値段五百五十圓、賣渡値段四百五十圓と云ふ記事が出て居りますが、此の四百五十圓の米が、どうして百二十圓の米と競爭が出來るか、此の農業恐慌なるものは、三十年後に小作人が皆自作農になつてから來るのではない、此の農業恐慌は直ぐ眼の前に迫つて居るのである、此の農業恐慌に對して、我々は命懸けで其の準備をして居なければならぬ、其の政策を政府は何にも持つて居ないのであります、此の農業恐慌に對する所の根本的な方針と云ふものは、日本農業を近代化し、集團化し、機械化して、生産「コスト」を下げる以外には絶對に途がないのであります、所が此の農地法案の實行の結果は、農地は一層細分化し、生産力は自ら低下せざるを得ないのであります、詰り農業の近代化、集團化、機械化、畜力化と云ふことの大きな妨げを、此の法案が作り出す結果とならざるを得ないものと思ひます、斯う云ふやうな農業恐慌が眼の前に迫つて居るにも拘らず、地主的な性格を持つた日本の農業の正しい發展を圖らうとしない結果は、當然日本農業の崩壞を生み出し、隨ひまして其の結果は日本民族の崩壞を招く結果とならざるを得ないでありませう(「君等はそれを待望して居るのだらう」と呼ぶ者あり)斯くの如き理由からして、此の法案に對して私共は反對せざるを得ぬのであります
社會黨の修正案に對しましては、私共日本共産黨は、是まで根本的に日本の土地改革を主張して參りまして、其の爲の政策を發表致して居ります、それと比べましては、社會黨の今度の修正案は多少の開きがありますけれども、併し其の根本に於て、日本の農村から軍國主義の根を取去り、封建性を拭ひ取らうとする所の方針を持つて居ります點に於きまして、是は私共は心から贊成するものであります(拍手)此の修正案は、政府の原案とは性格的に全く反對の立場に立つものでありまして、明かに民主的の方向を持つて居るものでありますから、之に對しては私共は贊成の意思をはつきり示すものであります(拍手)
斯くの如き理由からして、今度の二つの法案に對しましては、反對すると云ふことをはつきり申上げるものであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=25
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026・山崎猛
○議長(山崎猛君) 飯島祐之君
〔飯島祐之君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=26
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027・飯島祐之
○飯島祐之君 私は日本進歩黨を代表して、只今議題となつて居りまする自作農創設特別措置法案外一件に對しまして、二、三の希望條件を附して、原案通り贊成するものであります
我が國農地の問題は、前後二囘の大改革を經まして、茲に愈愈最後的段階に至り、正に我が國農村の因習と封建性は打破せられて、茲に初めて民主化せられたる農村の黎明は訪れんと致して居るのであります、固より革命的大法案なるが故に、是が農村に與へつつある影響に付きましては、正に深刻なるものがあることは蔽ひ難い事實であります、併しながら耕す者に土地を與へることは正しき農村の姿であります、其の故に我々は、そこに農地に別るる者の痛苦を身に沁みて知つて居りながらも散て我等が本案に贊成する所以があるのであります、農地に生き、農地に死する農民の日常を能く知り、正に農地即農民の命なることを知る以上、一片の「イデオロギー」に依つて事を行はんとするは、斷じて本法有終の美を發揮する所以ではありませぬ(拍手)茲に我等の本法運用に當つて、政府當局の注意を喚起すべき先づ第一點が置かれて居るのであります、それは要約すれば、本法運用に當つて、政府は犧牲者の身になつて之を實施せよと云ふことであります(「ヒヤヒヤ」)本案に依りますると、新たに二百萬町歩の小作地を、僅々二箇年の間に開放して、自作農を創設せんとするのであります、即ち農地の讓渡人は地主であり、之を讓受ける者は政府であり、政府より之を讓受ける者は小作人であります、此の政府、小作人、地主の三者の間に温かい血が通ふにあらざれば、此の大事業遂行に當つて非常なる支障を生ずべきことは今より明かなることであります、就中大地主は別とするも、五町歩、三町歩の所謂中小地主、又は地主兼自作農の大部分は、朝に霜を踏んで農地に出で、夕に星を戴いて歸ると云ふ、營々として撓まざる汗の結晶が、彼等の今日の地位を築いて居ることを我々は忘れてはいけない(「ヒヤヒヤ」拍手)先程社會黨の修正案に言はれて居る所に依りますると、其の汗の結晶である土地を地主に殘すことを、それすらも──僅かに一町を殘すことすらも止めよと云ふのが、社會黨の修正案でありましたが、私は是は階級的理論にのみ準據して、血と涙を忘れたる政治の現はれであることを痛感するのであります(拍手)苟くも政治を以て立つ者は、恩威竝び行ふ所の政治を心掛けねばいけない、今後政府は、本法施行に當りましては、一片の法理に立籠つて事をなさず、若し一片の法理に立籠つて、血も涙もなきやり方を以て政府が運營に當るならば、今後は農民の本質たる勤勉の性質を阻碍し、精農も惰農に陷り、農業生産力の増強は却て阻止せられるのを我々は惧れざるを得ないのであります(拍手)換言すれば、勤勉心其のものに依つて今日を築き上げた中小地主が、能く納得して農地を讓渡し、それに代る新しき自作農が、より以上の勤勉と努力に依つて生産増強を圖ることが出來るやうに、私は政府に對し、法規一片に依らざる、血の通ふ運用を要望するものであります(拍手)
第二點は、自作農の小作農への轉落防止に付てであります、大正十五年自作農制度創設以來、何代かの政府は、自作農を創設すべく努力し續けて來たのでありますけれども、統計に現はれたる自作農の數は、政府の斯かる相當の努力があつたにも拘らず、決して殖えて居らざるのみか、寧ろ漸減の傾向を辿つて居ることは、統計上明かであります(「それは地主が妨害したからだ」と呼ぶ者あり)是に於て我々は、其の由つて來る所の、自作農が何故小作農に轉落するかの原因を探求して、此の根本に斧鉞を入れるにあらざれば、本法を施行しても、又しても自作農が小作農に陷る心配があるのであります、然らば其の由つて來る原因は一體何れにあつたか、幾多の原因はそこにありませうけれども、其の主要なる點として先づ第一に私が擧げたいのは、土地に對する負擔の過重であります、第二に農産物價格の低廉であり、第三に農家購入品價格の高價であり、第四に過小農經營であつたのであります、敗戰後、之に加ふるに農村人口の激増があるのであります、是等の原因が重なり合つて、過去の農村不況、自作農の小作農への轉落が現はれて居つたのであります、只今私の擧げましたる、自作農が小作農へ顛落した第一點、土地に對する負擔の過重に付て、政府當局は極めて之を輕く取扱つて居つたやうであります、併しながらそれは農村の實體を知らざるものであると私は思ふのであります、即ち公課公租の外に、農村に歸りますと、區の費用であるとか、或は神社佛閣の寄附金であるとか、或は道路の普請であるとか、其の他社會的負擔は、容赦なく農地の上に掩ひ被さつて來て居るのであります、我が國の小作料が世界的に高率であることも、今又農地が開放されても、再び小作農に轉落するのではないか、小作人は耕作權さへ確立されて居れば、土地を買ふ氣持にならないと云ふ風に識者が惧れて居りますことも、總ては此の土地の負擔の過重に原因して居るものと思ふのであります(拍手)第二の、農作物價格の低廉がより重大なる農村窮乏の原因であつたことは、今更贅言を要せざる所であります、即ち第三の原因たる農家購入品價格の高價と併せ考へるならば、實に我が國農村は、之を圍繞する所の商工業者の搾取の對象であつたことは、隱れもない事實であります(拍手)是に於て政府は宜しく農産物價格の最低生産費を保障すると共に、他面に於て協同組合に依る農家の自給自足經濟樹立に當つて、眞劍なる努力を傾くべきである、斯樣に私は信ずるものであります(拍手)第四の過小農經營より來る窮乏と第五の人口激増より來る所の失業苦の救濟の途は、農工一如の農村の建設以外に、其の根本策を持つて來ることは出來ないと斷ずるものであります(拍手)是に於て政府は萬難を排して農村に工業を取入れ、過小農經營より來る所の餘剩勞力竝に過剩人口を此の工業に吸收し、以て工業面より收入の途を講ずるやう農村を指導することは、急務中の急務なりと私は信ずるのであります(拍手)斯くて初めて、如何なる不況にもたじろがざる健全農村が建設されるのであります、其の基盤の上に立つてこそ、初めて本法運用の有終の美が發揮し得られるものであると、私は固く信ずる者であります(拍手)
最後に本法案施行に當る政府當局の心構へに付て一言したいと思ふのであります、本法案の如き革命的性格を持つ大法案の施行に當る政府當局の今後の並々ならぬ御苦心に付ては、正に察するに餘りがあるのであります、併しながら苟くも政治の衝に當る者は、何時如何なる場合に於ても忘れてならないことは、毅然たる態度であります、顧みて直くんば千萬人と雖も我れ往かん、此の心意氣こそ、政治家に取つて忘れてはならない心構へでなければなりませぬ(拍手)今日の如き激動する過渡期にあつて、信念なき政治家は、動もすれば時流に迎合して大局を誤る虞があるのであります、私は本法案施行に當つて、政府當局が輕佻浮薄なる言論に迷ふことなく、斷乎として所信に邁進せられんことを御願ひするのであります(拍手)忘れてならないことは、聲なき聲を聽くことが政治家の要務なることであります(拍手)私は以上主なる三點を要望して、原案に贊成の意を表する者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=27
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028・山崎猛
○議長(山崎猛君) 麻生正藏君
〔麻生正藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=28
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029・麻生正藏
○麻生正藏君 私は協同民主黨を代表致しまして、聊か本案に對し意見を述べんとする者であります、我が國農地の改革は、先づ復興日本の根本國策を樹立致しまして、其の上に立脚したる産業計畫、國土計畫に基いて、之に適應するやう廣く土地改革の一齣として斷行すべきが本筋でありまするが、現下の情勢を諒と致しまして、不本意ながら、以下五點の希望意見を付しまして、本案に贊成せんとするものであります(拍手)
本案の對象であります農地の一齊國家買上の方法は、急速に實施することが出來ます長所はありますが、大部の土地が國の手に殘る結果、農地は國有となり、耕作權が所有權のやうな形に變るのではないかと思はれるのであります、それ故に政府は本案の實施に當りましては、耕作農家が其の農地を所有することに依りまして、初めて有利に農業の經營が出來るやうに、負擔の輕減其の他凡ゆる施策を講ずるやうになすべきであると思ふのであります(拍手)
第二點は、本案は農業生産力の發展を目標として居りまするが、是が爲には適正規模農家の設定を第一要義とすべきものであります、將來の我が日本農業のあり方は、好むと好まざるとに拘らず、過剩人口の處置、農村の二、三男の分家、歸農者の收容などを考へますれば、寧ろ宿命的に農地は細分化され、農業經營は零細化されるに至ることと思ふのであります、隨て農業に對する高度技術の導入、農業經營の多角經營、農村の電化、農業への工業導入に依る所謂農工一體的經營などに付きまして、政治は積極的に恆久施策を講ずべきであると思ふのであります(拍手)
又第三點と致しましては、本案の實施に依り、所期の自作農が創設せられたに致しましても、其の農家の經濟が、先程來諸君が申されます通り、維持出來ないと云ふことでありますれば、再び轉落の餘儀なきに至ることは必至であるのであります、それでありますから、先づ第一は、農産物價格を、他物價と均衡の取れるやうに是正し、安定を圖ることであります(拍手)次は肥料農機具など、農業生産資材の生産の増強を圖ると共に、其の價格を農産物價格に適應するやうに引下げることであります(拍手)次は農家の生活必需資材の増産を圖ると共に、生産資材と同樣、配給を一元化することであります、次は農業科學技術の普及滲透に、積極的の施策を講ずることであります、又農業保險制度の擴充強化を圖ると云ふやうに、是等の施策を講じまして、農家經濟の安定を圖るやう、政府は萬全の努力を拂ふべきであると思ふのであります(拍手)
第四點は、將來八千萬人口を養ひまするには、開拓に依つて農地の擴張を圖ると共に、現在の農地を改良しまして、一定の面積よりの生産力を、より以上に擧げしむると云ふことが最も緊要なことであります、是が爲には、政府は農地改革に依り、働く農民に土地を有せしむると共に、土地改良事業を積極的に奬勵することが、最も必須の要件と思ふのであります
第五點は、本案は其の第一條に於て、耕作者の地位の安定と、其の勞働の公正なる成果を享受せしむることに依つて、農村に於ける民主的傾向の助長を期する爲に、急速且つ廣汎に自作農を創設することを目的とすると規定されて居りまするが、如何に革新政策と雖も、之を實行するに當りましては、能く實際の状況を究めまして、之に即應するやうに細心の注意を拂つて、出來るだけ秩序の混亂を避けることが最も肝要と思ふのであります、苟くも「イデオロギー」のみに囚はれ、觀念的に趨りまして、實情に副はず、其の功を急ぎまして、却て大混亂を招來したるやうな例は、歐洲に於ても少くないのでありまして、大いに是は戒しむべきだと思ふのであります、今囘の我が國農地制度の改革も、長年に亙り築かれて參りました最も保守的な農村組織を、二箇年間の短時日に一擧に改組せんとするものでありますから、餘程の準備と注意を以て之をなさなかつたならば、却て秩序ある農村の民主化を妨げる結果となるのであります、由來我が國の農村は保守的で、封建的の温床の如く言はれて居りますが、我が敗戰日本が今日尚ほ思想的にも、經濟的にも、其の健全性と強靭性を保持して居るのは、此の農村の基盤の上に立つて居るからであります(拍手)此の際農村の健全性を保持しつつ一方に於て民主化することこそ、最も大切な事柄であるのであります(拍手)徒らに觀念論や感情論に囚はれず、農村より階級鬪爭觀念的の對立を拂拭して、農村を直ちに自主、相愛、相助を基調とした、所謂有機的協同體として存置せねばならぬと思ふのであります(拍手)政府は宜しく以上の諸點に絶大の注意を拂つて、本法施行に當つて萬遺憾なきを期せられんことを希望して贊成するものであります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=29
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030・山崎猛
○議長(山崎猛君) 鈴木憲一君
〔鈴木憲一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=30
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031・鈴木憲一
○鈴木憲一君 私は國民黨を代表致しまして、簡單に贊成の意を表し、若干の希望を附したいと思ふのであります(拍手)
此の度の農地改革案は、我が國の農業が多年に亙りまして辛酸を嘗め、苦汁を飮みました其の面から見まして、農村の非常に大いなる解放である、其のことが明かではありまするが、併しながら此の度の改革案は、單なる解放の序幕でありまして、決して本舞臺に出て居るものではないと思ふのであります、軈て來るべき、世界市場裡に於きまする所の我が農村の恐慌を考へまする時に、今囘の改革案も、其の大波の上には、三町も一町もない、今まで温まつて居た農村のお金も、一朝の夢と化す時が來るのではないか、低位「コスト」の農産物に對して、手の込んだ我が國の農産物が、之に對抗出來るや否やと云ふことは、火を賭るよりも明かであります、政府は宜しく直ちに此の競爭に對しまして、我が農業が競爭力の増加を圖るやうに、適切な手を即刻に打たなければならぬと思ふのであります、農業の合理化を強く促進しなければならない、所が今囘の改革案は、土地の所有權の面に付ては、零細な農業者を澤山作る結果となつて、寧ろ合理化や近代化の面では、「ブレーキ」となり、「プラス」とならないと云ふ風に考へられるのであります、此の面からしまして、政府は根本的にも、補強的にも、急遽大なる施策を此の面に施さなければならないと考へるのであります、其の施策の一つとしましては、技術の滲透と云ふことが考へられます、眞に強力な技術の滲透と云ふことが取上げられなければならない、今でのやうに、官立の試驗場や大學の實驗室の延長位の技術であつては、及ばざること遠しと言はなければなりませぬ、由來狹小な耕地と、慢性的な人口過剩との此の二つは、日本農業の宿命でありまして、其の宿命の中にありまして、明治以來日本の農業は、富國強兵、殖産興業、さう云つた掛聲の中に追立てられ、搾り上げられまして、眞の耕作者自身の自主的な農業の發達と云ふものに對しては、殆ど顧みられなかつたと云ふ風にも考へられる、斯う云ふ面に對しまして、政府は過去の實情を深く顧みて、以て新生日本の農業の建設に全力を擧げなければならない、又更に日本經濟の再建の面から考へましても、生産再開の最も急速に可能であるものは、農業であると考へるのであります、故に潰滅に近き我が經濟界の再建に當つて、政府は寧ろ此の際農村に重點を置いて、經營を促進すべきではないか、今にして日本の再建の爲に眞に農村を起たしめないならば、從來の如く農村は、文化を低位に置かれ、經濟の搾取場となり、過剩人口の溜池となつて居つたやうな過去から脱し得ないと云ふ風に考へられるのであります、勇敢に、而も「スピード」を以ちまして、農村の解決に一大努力をなさなければならない、唯汗水を流すのみを以て、或は生の肉體勞働力のみを以て進んで來た日本の農民達をして、今後は知識水準の引上に、農工の新たなる一體化に、日本文化の源泉地としての農村に立還らせることが、解決の根本策であると私は思ふのであります(拍手)今後は單に農林省のみを主體とした施策でなしに、寧ろ政府全體、國民全體の新たなる綜合的なる施策であり、農村復興の運動でなければならぬと思ふのであります、以上を以ちまして、洵に簡單ではありますが、贊意を表するものであります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=31
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032・山崎猛
○議長(山崎猛君) 是にて討論は終局致しました、是より採決致します、先づ兩案に對する北政清君提出の修正案に付き採決致します、兩修正案に贊成の諸君の起立を求めます
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=32
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033・山崎猛
○議長(山崎猛君) 起立少數、仍て北政清君提出の兩修正案は否決されました(拍手)
次に兩案に對する冨吉榮二君外二名提出の修正案に付き採決致します、兩修正案に贊成の諸君の起立を求めます
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=33
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034・山崎猛
○議長(山崎猛君) 起立少數、仍て冨吉榮二君外二名提出の兩修正案は否決されました(拍手)
次に原案を一括して採決致します、兩案の委員長報告は何れも可決であります、兩案に贊成の諸君の起立を求めます
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=34
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035・山崎猛
○議長(山崎猛君) 起立多數(拍手)兩案は原案の通り可決しました、是にて兩案の第二讀會は終了致しました
─────────────────────発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=35
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036・村上勇
○村上勇君 直ちに兩案の第三讀會を開かれんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=36
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037・山崎猛
○議長(山崎猛君) 村上君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=37
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038・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て直ちに兩案の第三讀會を開き議案全部を議題と致します
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自作農創設特別措置法案 第三讀會
農地調整法の一部を改正する法律案 第三讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=38
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039・山崎猛
○議長(山崎猛君) 別に御發議もございませぬ、兩案とも第二讀會議決の通り可決確定致しました(拍手)
─────────────────────発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=39
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040・村上勇
○村上勇君 殘餘の日程は之を延期し、明六日は日曜日でありますが、會期切迫に鑑み特に定刻より本會議を開くこととし、本日は是にて散會せられんことを望みます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=40
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041・山崎猛
○議長(山崎猛君) 村上君の動議に御異議ありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=41
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042・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます、仍て動議の如く決しました、議事日程は公報を以て通知致します、本日は是にて散會致します
午後五時三十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013242X05219461005&spkNum=42
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