1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働關係調整法案(政府提出)
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昭和二十一年七月十八日(木曜日)
午前十時十九分開議
出席委員
委員長 逢澤寛君
理事 江崎眞澄君 理事 瀧澤脩作君
理事 竹田儀一君 理事 古賀喜太郎君
理事 伊藤卯四郎君 理事 松岡駒吉君
飯國壯三郎君 今井はつ君
大内一郎君 花月純誠君
原侑君 山田善三君
山本勝市君 川崎秀二君
關谷勝利君 長尾達生君
山下春江君 辻井民之助君
土井直作君 永江一夫君
安平鹿一君 山下榮二君
東隆君 木下榮君
原國君 藤井正男君
磯田正則君 穗積七郎君
久保猛夫君 疋田敏男君
同日委員久保猛夫君辭任に付其の補闕として野本品吉君を議長に於て選定した
出席國務大臣
内務大臣 大村清一君
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
厚生參與官 佐藤久雄君
厚生事務官 吉武惠市君
厚生事務官 吉田忠一君
厚生事務官 富樫總一君
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本日の會議に付した議案
勞働關係調整法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=0
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001・逢澤寛
○逢澤委員長 是より開會致します、先づ政府の説明を求めます──厚生大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=1
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002・河合良成
○河合國務大臣 勞働關係調整法案の概要に付きまして御説明申上げます、本法案の提案理由に付きましては既に本會議に於て申述べた通りでありまして、本法は勞働組合法に依りまして勞働組合の健全なる發達を促進助成致しますることと相俟ちまして、爭議權に最小限度の制限を加へて公共の福祉を擁護致しまして一方勞働關係の當事者間に不幸にして意見の不一致を招來致しました場合に、之を公正に且つ迅速に解決して産業の平和を維持し、以て日本再建に寄與せんとするものであります
以下簡單に其の内容を説明致しますると、先づ第一章總則に於きましては、以上申述べました根本精神を明かにしたものであります特に第二條及び第三條等に於きましては、爭議は當事者の自主的努力に依り解決すべきことを本旨と致して居ります、さうして政府は其の自主的努力に援助を與ふるに止まるものであることを明かにし又第八條に於きましては公益事業の範圍を必要の限度に止むることを規定して居る次第であります
次に第二章、第三章及び第四章に於きましては、勞働爭議が發生したる場合に於ける斡旋、調停、及び仲裁に關し規定したものでありまするが、茲に斡旋と申しますのは、斯う云ふことに所謂學識經驗を有して居る者が當事者間を斡旋し、自主的に和解せしむる制度であります又調停と申しまするのは、調停委員會が當事者双方の意見を能く聽きまして調定案を作成致しまして、之を兩當事者に提示して其の受諾を勸告するものであります、第十八條第一項第三號乃至第五號の所謂強制調停の場合と雖も、調停案の受諾を強制するものではありませぬ、次に仲裁と申しまするのは勞働委員會の仲裁裁定には當事者が必ず之に服さなければならないと云ふ制度であります、隨ひまして之に付きましては必ず豫め、當事者双方に於て、之に服すべき旨の同意を前提として居る次第であります、而して以上三方法の何れの、場合に於きましても、當事者双方の合意に依りまして、本法に規定する者以外の者の斡旋、調停乃至仲裁を受けんとすることを妨げざることと致して居ります
第五章は爭議行爲の制限禁止等に關する規定でありまして、第一に安全を危くする行爲を禁じ、次に公益の事業に付ては所謂拔打爭議を禁止致しまして、國家、公衆に於て爭議行爲發生に對處する爲に必要なる餘裕を與へ、且つ此の間輿論の批判を十分に受け得るやうに致しまして、更に警察官吏、消防職員、監獄勤務者、官公吏等の爭議行爲に付ては、其の職務が國家的に不可缺の性質のものであることに鑑みまして、之を禁止すると共に、最後に使用者は勞働者に對して爭議行爲をなしたるの故を以て解雇其の他の不利益なる取扱をなし得ざることと致しまして以て勞働者に付て正當なる爭議權を確保することと致して居る次第であります
最後に第六章に於きましては必要なる費用の辨償に關して規定して居ります
以上が本法案の概要でありまするが、本法案自體は勞働爭議の豫防解決に關する技術的規定であり又諸外國の法制に比較致しましても寧ろ消極的な感があるのでありまして、是のみを以て爭議豫防解決の方途の全部でないことは申すまでもない所でありまして、爭議發生に到る原因、例へば賃金其の他の勞働條件、更に根本的には食糧問題、「インフレ」問題、失業問題等を解決することが必要であることは言ふまでもないのであります、政府は是等に付ても能ふ限りの努力を傾注致して居るのでありまして、兩々相俟つて勞働關係の公正なる調整を圖り、以て新日本建設に資したき所存であります
以上の趣旨を以て本法案を提案致した次第であります、何卒御審議の上速かに御賛成あらんことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=2
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003・逢澤寛
○逢澤委員長 質疑の通告があります──花月委員発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=3
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004・花月純誠
○花月委員 此の法律を審議致します前提としまして二、三御尋ねを致して置きたいのであります今日の情勢から見まして此の勞働關係調整法案と云ふものは時代的に非常に重要なものでありまして殊に凡ゆる法案が出て居りますけれども、生活と云ふものと直接關係がありますので、此の法案が本當に企圖した所が達成するかどうかに依つて是は社會的な影響が非常に多いと思ひます、隨て此の法案を御提出になりました精神に付て後では色々各條項に亙つて質問を致さねばならぬ部分がありますけれども、初め二、三御尋ねを致して置きたいと思ふのであります、それはどう云ふことかと言ひますと、私の考へを初めに申上げますと、私は今日まで自分の五十年の人生生活と、それから十年ばかり前からの地方議會に於ける經驗、さう云ふものとを考へ合せまして私は官僚と云ふものの比較的中正穩健な思想と云ふものを今日まで維持して來たのであります、此の立場を私ははつきりして置かなければならぬ、それは所謂官僚と云ふものが比較的教養を受けて居ると云ふこと、色々な周圍の環境から考へ方は非常に中正穩健なる考へ方を持つて居るし、法案其の他の規則を拵へる場合に於きましても、私は政黨生活を營んで居つた者でありますが、一寸無理な註文を出しても官僚と云ふものの意見を聽いて見ると非常に公平な意見を吐露する、斯う云ふ意味に於きまして、今日まで私は官僚の考へ方と云ふものを殆ど全部維持して來た一人であります、それでは官僚を信頼して居るかと云へば、私は又官僚を絶對に信頼しない一人であります、それはどう云ふ譯かと云へば、考へ方は非常に中正穩健であり、其の目的とする法案とか規則と云ふものは非常に良く出來て居るのでありますけれども、其の實行に當つて遺憾な點を今日まで私は非常に澤山其の實例を眺めて來て居るのであります、それはどう云ふことであるかと云へば、官僚と云ふものの性格からして、殊に教養を受けた「インテリ」層と云ふものはどうしても勞資の關係に於て比較的資本家に組し易い性格を持つて居る、又周圍の事情から申しまして資本家と云ふものと結託──と云ふ言葉は私は用ひたくないのでありますけれども色々の状況からして資本家側に組し易い因縁を持つて居る、斯う云ふ意味に於て極めて立派な人であり徳も高いと云ふ人間、我々の學生時代の友達は既に今日の日本の官僚の中心をなして居るのでありまするが、さう云ふ立派な人々でありながら周圍の環境色々の事情からして、どうも所謂地主とか資本家と云ふものを擁護する立場に今日まで立つて來た實情を私は眺めて見て、それは大臣は勿論でありますが、極めて未端の低級な官吏に至るまでさう云ふ傾向のあることを私は今日まで非常に見て居るのであります、隨て勞働關係調整法を議するに當つて次の二、三點に付て政府當局の考へ方を先づ最初に確めて置きたいと思ふのであります、第一番はどう云ふことであるかと云へば此の法案が勞働組合法と併せてと書いてありまするが、勞働組合法と併せて此の法案を提出なさる所以のものは、併せてと云ふことは勞働組合法の補助的な法律として其の完成を期するが爲に御出しになるのであるか、或は勞働組合法と同じ力を持つた二つのものとして之を御提出になるのか、或は其の企圖する所は全然違ふのだ、即ち之をもつと具體的に言ふならば、勞働組合法と云ふものは、あれは勞働者を保護する法律であつて、今度出すのは資本家を擁護する法律なんだ。斯う云ふ意味に於て御出しになるのか是は私は資本家を擁護される法律が出ると云ふことに反對と云ふ意見ではないのです、勞働者を保護して資本家を擁護する法律がないと云ふことは、私は不思議に思ふ、勞働者を保護すると云ふことは資本家を潰すと云ふ意味が含まれて居るのではない、勞働者が極めて其の適正な生活を送る爲に、勞働者を保護するのであつて、勞働者の保護は即ち資本家を潰すと云ふ意味に取らない、即ち資本家も勞働者も共に生きなければならないのですから、さう云ふ意味に於て決して反對をするのではないのですが、一方勞働組合法は勞働者の保護の爲に拵へたのだが、どうもあれだけではいけないから今度は資本家を擁護する爲に此の法律を拵へたのだ、是は肚を打割つて御説明を願ひたいのであります、或は勞働組合法だけで實は止めて置く積りであつたが、今日の勞働運動なんかをじつと見て居ると、どうも行過ぎて困る、隨て勞働組合法だけではいけないから、それを一つ適正に「ブレーキ」を掛ける爲に今度の調整法案と云ふものを拵へる、さう云ふ意味であるか、此の御提出になつた根本的な思想、根本の御考へを私ははつきりと御聽かせを願つて置きたいのであります
次にもう一つ御尋ね致して置きたい事柄は、是は少し御答へにくいと思ひますけれども、はつきり私は御答へを願ひたいのであります、先程私が前提として申上げました通り、今日まで官僚は非常に穩健な考へを持ち、而も其の企圖する所、拵へた法律案とか規則と云ふものは、比較的讀んで見れば良いものが出來て居るのでありますけれども、不幸にして今日まで私はどうしても官僚と云ふものが資本家とか大地主とか云ふものと結託──結託は少しをかしいのですが、さう云ふものに加擔し易い傾向がある、それは悉く私はあると自ら信じて居るのでありますなぜさう云ふ工合になるかと言へば、勞働者が持つて居る實力は何かと云へば、是は一つの團體の力である、隨て彼等は示威運動をやる「デモンセトレーション」をやる或は「パンフレツト」を配布するとか、貼紙「ビラ」宣傳をやるとか、或は其の他の言論機關を用ひるとか、或る場合に於きましては非合法的な運動としまして暴力を用ひる、斯う云ふことは屡屡あつたのでありますが、是等の合法的非合法的共に官僚は非常に嫌ひであります、殊に「インテリ」官僚に至つては斯う云ふ運動を非常に嫌ふものでありますから、中にはさう云ふ勇ましい運動を見て勞働者は非常に目覺めて來たと喜ぶ人もあるかも知れぬけれども、併し官僚の大部分と云ふものは勞働者のさう云ふ姿を非常に喜ばない所が一方に於て資本家が持つて居る武器は何かと言へばそれはいつの場合に於きましても所謂社交的な因縁情實であり、一方に於ては金力である、此の金力と云ふものは常に女とか酒と云ふものを伴ふものでありまして、それには人間と云ふものは入り易い、隨て官僚と云ふものは資本家と結託するのぢやないけれども、そこに因縁情實が出來金錢に捉はれ酒とか女と云ふものに禍ひされまして、どうしても資本家と云ふもの或は大地主と云ふものと結託するやうな恰好になつて來たのが今日までの實情だと私は考へて居る、是は特に詭辯を用ひれば知りませぬけれども可なり官僚の末端に至るまで資本家、地主と云ふものを擁護して來たと云ふことは蔽ひ隱すことの出來ない現實であると考へる、是は高級な人々のみならず五十圓、七十圓と云ふ可なりな低級な月給取に至るまで、私等が學校で教へて是は良いと思つて縣廳なりさう云ふ所に世話したのが直ぐ一種の官僚的な考へを持つて來て、私等の期待に反して居る、是は何十、何百、何千と實例を見て來た話でありまして、是は決して誤りはないと思つて居る、そこで政府は今日までの官僚と云ふものがさう云ふ傾向にあつたと云ふことを認めるか認めないか、是は大事な問題です、認めないと仰しやつても構はない、認めると仰しやるならば私は此の法案に對する考へ方を餘程決心しなければならぬ、私は是は一つの體驗と言ふか、本當に體に味得致して居るのでありますから私はさう信じて居るのでありますが、政府は今日まで官僚と云ふものがさう云ふ傾向にあつたと云ふことを認めるか認めぬか、之をはつきりと御尋ね致して置きたいと思ふのであります、是が第二の問題であります
第三に御尋ね致したいのでありますが、若しもさう云ふ傾向が今日まで官僚と云ふものにあつたとすれば──ないと仰しやれば勿論別でありますが、あるとすれば、此の法案を御提出になるに付きましては餘程政府は決意をなさらなければならぬ、即ち官僚と云ふものにさう云ふ傾向があるとするならば、どんな法案を御作りになりましても、結局如何に良い法案であつても結論は分つて居る、社會黨或は共産黨の方が反對なさるのは此の法案が惡いと仰しやるのぢやなくて、其の結果を非常に案じて居なさるのだと私は信じて居る私は此の法案は惡いとは決して思はない、社會黨、共産黨あたりの方が之を惡いと仰しやるならば、私にはそれが分らない、又色々と陳情が來て居りますが、此の法案を惡いと言ふ陳情に對しては私は一顧も與へない、併しながら此の法案が通過しても、此の法案通り旨く行かない、即ちそれは結局に於て資本家或は大地主を擁護するのだ、官僚が自分の權力を揮つて勞働者を抑へ付ける結果になるのだと云ふ御心配に對して、私は尤もだと思ふ、さう云ふ意味に於て本當に此の法案の精神を活かさんが爲には、政府は餘程御決心をなさらないと、官僚思想と云ふものを餘程拂拭して、眞に今日までの官僚が資本家に對し或は勞働者に對した態度を──是は厚生省ばかりでなく、文部省、内務省邊りと十分御連絡を取りまして、それをおやりにならなければ、私は此の法案の本當の精神は活きて來ないと思ふのでありますが、それに付きましては政府は一體どう云ふう御考へを御持ちになつて居るか、是が第三であります
もう一つ御尋ね致します、私は今日の勞働運動が進んで來たことを非常に喜ぶ者でありますが、一面勞働運動が一部に於ては非常に行き過ぎて居る、私は勞働運動が盛んになつて來ること民主的傾向を帶びて來ることを非常に喜ぶと同時に、一部に於ては非常に行き過ぎて居る、或は部分に於ては非合法的の運動をなして居る、あの淺ましい姿を見て、私は心密に國家の前途の爲に憂へて居るのであります、之を放置して置けば決して勞働運動の完全なる發達は遂げられないと思ふのでありますが、政府は之を未然に起らうとするものを唯抑へようとする斯う云ふ法律を御作りになつただけでは、決して勞働運動の發達は出來ませぬし、又勞資の本當の融合は出來ぬのであります、是は資本家或は地主の方が或る意味に於て教養が高いと思ふのでありますが、勞働運動を行はれる場合に於きましては基本的な精神を考へ、或は教養を與へ、色々の點に於て勞働運動を指導する一つの機關を御設けにならなければ、今の儘では一種の「モツブ」の運動になる、私は甚だ憂ふべきものが出來ると思ふのであります、私は自由黨の人間でありますけれども、勞働運動には可なり興味を持ち、或は勞働運動に付ては私は實は勞働者の味方である積りでありますが、其の勞働者の味方である私に於てすら、如何にも勞働者はいかぬ、是ぢや勞働者はなつて居らぬと時々顰蹙をする場合があるのであります、殊に今日の日本の道義の頽廢と云ふものを考へて見た時に、勞働者の一部の中に實に眼を蔽ふやうな言葉を使ひ、口にも言へず、眼にも見られぬやうな言動をなすものがある時に、極めて正常なる勞働運動を行つて居る是等の人々が、斯う云ふ一部の非合法的と云ふか、野蠻的な人々の爲に誤られて勞働運動が行過ぎである、斷壓を加へられても宜いと云うて、勞働運動に斷壓を加へられると云ふ事實を見て居る、其の爲に警察官が横暴だ、無理だとか云ふことが起つて居るのであります、之を眺めて、思ひ切つて政府が斯う云ふ法律を拵へて巧く勞働運動が成長すると御考へになつたら非常に誤りである、之に對しては私は十分な設備施設と云ふものがなければ決して巧く行かぬと思ふのであります
今日の勞働運動が正常に行はれて居るか、若し行はれて居るならばどう云ふ方法に依つて助長するお積りであるか、先づ此の四つの問題だけを初めに御尋ねして置きまして、さうして又更に色々と御尋ねさして戴きたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=4
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005・河合良成
○河合國務大臣 只今の花月君からの御質問に御答へ致します、勞働組合法と勞働關係調整法とどう云ふ關係にあるかと云ふ意味の第一の御質問でありますが、勞働組合法と云ふものは勞働者の國體權擁護と云ふものを根本にして居ることは疑ひないのでありますけれども、なぜ勞働組合法が出來たかと云ふことは、是はやはり資本家との關係になります、資本家との關係になると云ふことは、結局勞働組合法第一條にも明記して居りまする通りに、經濟の興隆と云ふことを主眼として居りまして、勞働組合法に於て國體權を認めて、之を勞資とも擁護して行くと云ふことは、結局經濟の興隆であり、それが即ち日本に於ける──日本でも世界でもさうですが、やはり資本家、經營者側にそれが又本當の利益である、双方及び社會全體の利益である、双方及び社會全體の利益であると云ふ見地に立つて居りまするから、さう云ふ見地で勞働組合法と云ふものを御考へ下されば、自然勞働組合法の意味もはつきりして來ると思ふのでありまも、それから調整法と勞働組合法とはどう云ふ點に於てどちらが重いかと云ふ御質問でございますが、此の調整法は一方には言ふまでもなく勞働組合法の妹と云ふやうな法律になつて居ります、と申しますのは斡旋にしましても調停にしましても、仲裁にしましても勞働組合法でははつきりして居りませぬ、それを受けまして之を規定して居りますから、其の點から言ひますると從たる關係と云うて宜いと思ひます、併しながら一方に於てやはり公共の福祉擁護の上から爭議權に或る程度の制限を加へて居ります、此の點は調整法獨得のものと云うても宜からうと思ひますが、其の點に付ては自主的の立場を持つて居ります、さう云ふことから一概に是は主たり從たりと云ふことには參りませぬけれども、一部は從であり、一部は主であると云ふ風に御考へ願つたら宜いではないかと云ふ風に考へて居ります、隨て組合法にしましても、調整法にしましても、どちらの階級の爲に特に作つたと云ふ趣旨でありませぬで、兩方共日本經濟の興隆と云ふ所に合流點を求めて居るのでありまして、今御指摘のやうな、調整法と云ふものは資本家を擁護するのだと思ふやうな意味は一つも持たぬと私は考へて居ります、是は勞働關係を調整して行くと云ふことが眼目でありまして──公益の擁護と云ふことはありますけれども、資本家側を擁護し、或は勞働者を斷壓すると云ふやうな趣旨は一つもありませぬ勿論爭議權と云ふものは絶對のものであるかと云ふと、爭議權と云ふものが絶對のものと考へることの出來ないのは、是は憲法の草案にも明示した所であります、唯公共の利益に於て一種の制限を加へると云ふことを此の法律に於て明かにした點はあります、けれども決して是は彈壓と云ふ點ではないのであります、況や資本家を擁護した點ではありませぬ、やはり兩方を全く同じ立場に於て見て居るさう云ふ風に私は考へるのであります
それから第二の點であります、官僚と云ふものは今まで資本家なり、地主なりを擁護して來たのぢやないか、と云ふ御尋ねでありますが、其の事實に付ては、それを擁護したとかせぬとかと云ふことを此處で批判しても仕方のないことで、擁護した、せぬと云ふことをはつきり申上げる責任を私は一寸持ちたくない、持ちたくないけれども、私も今まで官僚制度に對する不滿を抱いて居る一人でありまして、御同感な點が多々あると云ふことを申上げて置きます、私は元官僚出でありまして、それから民間に居り、又時々官僚をやつて居りまして、それに對する事情を能く知つて居りますが、是は官僚自體感じて居ります、其の點に付ては、御同感でありますが、大體に於て勞働者の權利を餘り認めないで、資本家、地主の勢力が社會的に非常に強かつた今までの時代でありますから、さう云ふ時代にはどうしても官僚と云ふものはさう云ふ方面と接觸が非常に多かつたと云ふ事實は認めなくてはなりませぬが、勞働問題が盛んになつてから、果して官僚が勞働者に偏らなかつたかと云ふ點に付きましては、是は一概に言へぬと思ひます、官僚はやはり片方へ傾いたことの多い點もあり、又さうでない點もあると思はれますので、是は箇々の事實でありますから、其の批判は私には出來ませぬ、が大體に於て官僚制度と云ふものが餘に今りまで巧く行つて居らぬので、之を改めなくてはならぬと云ふ點に於ては御同感であります
それから第三の問題であります結局官僚制度を改めなくてはならぬと云ふことになりますと、大體今度の調整法なり、組合法と云ふものは官僚を動かして行くと云ふ場面は絶對にないではありませぬ厚生省中心で或は司法省に關係がありませうし、内務省にも關係がありませう、が主として是は公益擁護の立場に立つて居る場合でありまして、公益擁護の立場に於ける官僚と云ふものが、どう云ふ働きをしたかと云ふと、先に御指摘の點と多少問題の角度が違つて來るやうに思はれますが、大體は此の勞働問題の運用と云ふものは民主的にやつて行く、殊に勞働委員會と云ふものを中心にやつて行くと云ふことは此の法規全體に現はれて居る所であります、又組合法に於ても其の通りになつて居りますので、此の點に重點を置いて來ますから、官僚の惡い所は勿論變へなくてはならぬが、官僚の惡い所を變へると云ふことが、百「パーセント」此の問題が斯う云ふ風に行くと云ふことと同一に考へる譯に行かぬ、少し説明は諄くなりますけれども、さう云ふやうに考へます、寧ろ此の問題と云ふものは民主的に、自主的に是は一種の裁定をなさなくてはならぬ立場にあるから、其の裁定權と云ふものは勞働委員會に集中して行く、而も其の勞働委員會はそれを強制しないと云ふ立場で問題を取扱つて行く、或は平行線のやうに此の勞資の問題が食ひ合はぬと云ふことは、或る場合には豫想されるかも知れませぬが、それでも之を片方から食ひ合はせて行く、裁判的にすぱつと決めて行くと云ふことは妥當ではなからうと云ふ位に御諒承願ひたいと思ひます
それから第四の問題でありますが只今の勞働問題は間々行過ぎのあつたことは私も御同感であります、此の際勞働者の自覺と教養と云ふことを切望して已まぬことも御同感でありまするが、社會現象はどうしてもやはり斯う云ふことを通つて行くべきものであり、それ自身がやはり進歩であり、發展であり、向上であると私は考へて居りますので、之に對して餘り官治的に指導すると云ふやうなことは勿論考へて居りませぬ、併しながら適當な民主的方法で適當なそれに對する指導方法があれば非常に結構だ、さう云ふ風に問題を考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=5
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006・川崎秀二
○川崎(秀)委員 私は曩に本會議でも質問を致して居りますので、本日は重複を避けまして、極めて具體的に質問を致したいと思ひます、どうぞてきぱきと御答辯を願ひたいと思ひます、勞働委員會が占むる位置が、今後此の法案が成立すれば、極めて、重要なる位地になると云ふことは、多くの方々から指摘されて居り、私も指摘した一人であります、それが爲に勞働委員會が、民主的に今後改組されなければならぬ、是は必然の運命であると私は考へますが、現在の中央勞働委員會、或は地方勞働委員會と云ふものは、一體どのやうな活動を示して居るのか、先頃或る新聞の報道に依ると、勞働委員會が勞働爭議を調停して成功した事實が非常に殖えて居ると云ふ報道や、又聞く所に依ると勞働委員會の調停が成功せずして、爭議の調停から手を引いたと云ふやうな事件もあると云ふことを聞いて居ります、最近の活動状況の大體の所を御示し願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=6
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007・河合良成
○河合國務大臣 勞働委員會の組成に付きましては、是は本會議でも申上げましたが、經過的に勞働委員會を組成せざるの已むを得ざる事情であつた爲に、勞働組合法施行令第三十七條第四項但書及び第五項の特別の規定を適用しまして、暫定的に作つた次第であります、それで愈々組合の方も段々固まつて行きまするし、經營者側の方の團體も段々固まつて參りまして、今度は本當に組合法の趣旨に從つて、勞働委員會を組織し直す爲に、目下努力して居りまして、昨日も中央委員會へ其の委員の選出方法を諮問して、意見を求めて居るやうな次第であります、是は出來るだけ早い機會に於て滿足なものにしたい、民意を反映した民主的なものにしたいと云ふ考へで居ります、それから其の成績に付きましては今の御指摘の通り色々でございますが、大體の數字其の他のことは政府委員から御説明申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=7
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008・吉武惠市
○吉武政府委員 勞働委員會の活動状況に付て申上げますが、今まで分つて居りまする數字を先づ申上げますると、中央勞働委員會で關係致しました件は、爭議に付きましては三件ございます、其の中の二件は調査を致して、後の一件は自主的に解決をして居ります、勿論是には直接の解決案は示しませぬが、調査に依つて取持つた點が多くあつたと思つて居ります、それから地方勞働委員會の方で關係致しました件數が二十八件ございます、其の内譯を申しますると十二件が調査を致し、五件は勸告を致して居ります、それから十一件は調停を致して居ります、それに依つて解決致しましたのは五件でありまして、自主的に解決をしたのが四件であります、又未解決になつて居るものが十九件ございます、是は五月の末日までに報告のありました状況であります、一般的に申しますると勞働委員會は組合法の施行が三月の一日から施行になつた、それから各地とも大體は三月中に結成を終つて居りますが、最初取扱つたものは所謂組合法に依つて組合が屆けられたものが、資格があるかないかと云ふ點の、所謂資格審査と云ふ點が相當多く出て居りましたので、四、五月頃は各地方の勞働委員會は其の資格審査に非常に追はれて居つたやうであります、其の後爭議が段々勞働委員會に持掛けられまして、勞働委員會が或は調査に乘出し、或は勸告をする、さう云ふ風になりまして漸次勞働委員會が活溌に役立つて居るやうに私共は考へて居ります、此の組織に付きましては色々意見がある所でありまするが、是は當初でありまして、又組合も十分に結成されて居りませぬから、便宜的な方法で結成された點もございますので、只今大臣から御話がありましたやうに、中央、地方を通じて近い機會に改組して、完全なものにしたい、斯樣に存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=8
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009・川崎秀二
○川崎(秀)委員 今勞政局長からの御話では、近い將來に於て勞働委員會を改組せられると云ふ御話であります、勞働者側の代表は、勞働者の全國的な團體から選出されたものでなければならない、又使用者側の團體は經營者を代表するものでなければならない、第三者の代表は勞資双方の同意を得て而も學識經驗ある者でなければならないと云ふ風に私は考へて居る勞働委員會の構成に對する一つの基準でありますが、近き將來に於て改組すると致しまして、勞働者側の團體として其の對象になり得る團體があれば、此處で御答へ願へる範圍に於て御答へ願ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=9
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010・吉武惠市
○吉武政府委員 只今御話になりました線に大體私共も考へて居りますが、今の全國的な組織體と云ふのは、中央の勞働委員會に付ての御言葉であらうと思ひます、地方は又府縣内に於ける組合の代表或は使用者關係の代表をそれぞれ出すべきであります、今中央、地方共にどう云ふ團體から推薦さしたら宜いかと云ふ點は、中央勞働委員會に厚生大臣から諮問になつて居りまして、中央勞働委員會に於きましても唯委員が勝手に作ると云ふことでなしに、各組合其の他の意見を徴して作らうと云ふことで、目下進行中でございます、目下の所中央の全國的な團體と目されて居りまする勞働組合には、勞働總同盟が一つございます、尚ほ其の外に産別單一勞働組合が十數箇出來て居りまして、それが一つの産別勞働組合會議と云ふ形式を取つて居るものがございます、其の外、國鐵でありまするとか、其の他さう云ふ企業別に出來て居る勞働組合が數箇あるやうな状況でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=10
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011・川崎秀二
○川崎(秀)委員 本法案の第三十八條にあります「警察官吏、消防職員、監獄において勤務する者その他國又は公共團體の現業以外の」と云ふ、此の現業の意味でありますが、之に對しまして本會議で穗積君であつたかと思ひますが御質問になりまして、之に對して厚生大臣は個々の場合に於て社會通念を基礎にして決めると云ふやうな御話でありましたが、之をもう一歩具體的に表明して戴く譯にいかないか、例へば遞信、運輸と云ふやうな團體に於ける所の現業或は東京都の都電或は都「バス」と云ふものは現業に入るものかどうか、是等に付て御答へ願へれば結構と思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=11
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012・吉武惠市
○吉武政府委員 三十八條に所謂現業とありまするのは、國家、公共團體の行ひまする公企業で行ふ現業の意味であります、隨ひまして只今御言葉にありましたやうに國鐵の現業でありまするとか、或は市電の現業、或は「バス」の現業或は遞信關係で言ふ所謂郵送の現業、さう云ふ意味でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=12
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013・川崎秀二
○川崎(秀)委員 今一つ第十八條に關聯して質問致したいのでありますが、第十八條の五でありますか、公益に著しい障害を及ぼす事件に付き、行政官廳の請求に依つて、事件の調停が行はれると云ふやうなことが書いてありますが、是は一體行政官廳に依つて行はれると云ふと、勞働爭議の彈壓と云ふやうなことも考へられる、之に付て御答辯を御願ひしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=13
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014・河合良成
○河合國務大臣 是は行政官廳か「イニシアティーヴ」を取つて勞働委員會に請求すると云ふことになつて居りまして、勞働委員會の權限に於てそれを調停して行くと云ふことになつて居ります、そこでやはり行政官廳と云ふものは公益擁護と云ふことが一番目標の重大なものになつて居るのでありますから、斯う云ふ途も開いて置く必要があると云ふ意味であります併しながら調停と云ふことは、調停は案が出來ましてもそれを勸告するのでありまして、是は強制するのではありませぬから、結局に於て強制力を持たぬから、先づ是れ位の「イニシアティーヴ」を取らしても宜からうと云ふ意味であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=14
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015・川崎秀二
○川崎(秀)委員 次に私は最近新聞の爭議に付て極めて注目すべき事件が起つて居るのではないか、それは何であるかと云ふならば、日本に於ける有數な新聞の一つである讀賣新聞が爭議を起し、最近は「ストライキ」を起して四日間でありますか、新聞が發行不能になつた、そして問題を客觀的に見て行きます時に、是は可なり新聞社の内部事情に發したものであると云ふ風に考へます、殊に政治的な意味が其の中に隱されて居るやうに私共には感ぜられるのでありますが、是は新聞と勞働組合と云ふ問題に付て極めて深刻な問題を展開して居るのではないかと私は考へるのであります、讀賣新聞が昨年日本の新聞界に於て、戰爭中の戰爭責任を追及を致しまして、又勞働組合の發展の爲に其の「トツプ」を切つた、新聞の民主化のとつぷを切つたと云ふことでは私は洵に敬服に堪へない所であります其の結果讀賣新聞は日本の新聞界の先頭を切つて新聞民主化、言論の自由と云ふことに付て非常な努力をされたことは、私共は之を認むるに吝かでない、併しながら次第に此の讀賣新聞の傾向と云ふものが、或る一黨一派の影響を強く受けて來たと云ふことも、是は事實ではないかと私は考へる、昨年言論の自由、言論の解放と云ふことが叫ばれて、凡ゆる面に於て言論の自由は極度に發揮をされました、洵に喜ぶべき現象であるとは思ふのでありますが、本年の三、四月頃から五月頃に掛けて、特に幣原内閣の退陣、吉田内閣の誕生と云ふ此の頃の時期に於きまして日本の新聞界の一部が極めて無政府主義的な言論の自由を極度に發揮して、例へべ眞實の報道を歪曲するやうな記事があつたり、或は報道の中に自分の意見を附加へて行くと云ふやうな現象が起きて居る、是は私は質問したつて恐らく誰も答へる者はないと思ふから、私は唯此の際關聯して申上げて居るのでありますけれども、讀賣新聞の五月十三日頃の新聞を見てみると、裏も表もまるで報道の中に自分の意見を勝手に附加へて居る勿論私は論説であるとか、個人の署名があるやうな初めから自分の主張をする記事は、是は如何にどのやうなことを書いても差支へない、今日極端なる軍國主義以外の一切の思想と云ふものは許されて居る、併しながら報道の中へ自分の意見を勝手に書き加へて來て、此の動搖と混亂の最中の國民を感はせるが如き報道をなした新聞は大いに我々之を是正しなければならぬと考へて居るのであります、そこで一體是は言論の自由と云ふ問題は無制限であるかどうかと云ふ問題に付ては、責任を持たなければならぬと云ふことを私は強調致したいのでありますが、今日内務省は言論の取締と云ふ力を失つて居る、恐らく答辯もされないと思ふのでありますので、敢て質問はしませぬけれども、今回の讀賣新聞の爭議の發端になつたものは勞働組合が勞働條件の改善、勞働者の地位を向上して經濟の興隆に寄與すると云ふ勞働組合の目的を達成する爲に起した爭議ではなくして、一二編輯權の確立と云ふことに端を發して居るものであると私は思ふ、そこで私が御伺ひを致したい點は、讀賣新聞の爭議を一一此處で經過を發表して貰ひたいと云ふのではありませぬが、是れ程重要な新聞が爭議をしたと云ふことは厚生當局は無關心ではあり得ないと私は思ふ、隨て爭議の發端が何に原因したかと云ふこと位は明確に御答辯を願ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=15
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016・河合良成
○河合國務大臣 讀賣新聞爭議の發端に付きましては政府として──政府としてと云ふよりも厚生省としてと申した方が宜いが、特別に調査した事實はありませぬ、司法省或は内務省方面にはどう云ふことになつて居るか、そこの連絡はまだ存じませぬ、それで是はもう御承知の通り、色々非常に複雜な階梯を經過して來て居りますが最近の「ストライキ」と云ふものは新聞通信單一組合と云ふもの方から是は勞働組合法違反なりと云ふことで、あの五人か六人馘首したんだと云ふ風の理由で東京都の勞働委員會に提訴されて居ります、それに對して新聞社側は、あれは編輯上の目的からの都合であつたのであつて、組合法違反でないと云ふ主張になつて居りまして、それを只今東京都勞働委員會に於て審査して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=16
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017・川崎秀二
○川崎(秀)委員 私は厚生大臣の只今の答辯は全く不滿であります是れ程の大新聞の爭議に對して爭議の發端が何であるかと云ふことを私は聽いて居るのでありまして事實は新聞單一組合が提訴をしたと云ふことだけは事實だと云ふことを言つて居られますが、全く私は是は詭辯ではないかと考へるのであります、併し爭議の發端が何であるかと云ふことを厚生當局は明示されませぬでしたが、我々が得た所では──只今厚生大臣は慥か新聞社側と云はれましたが、新聞社側と勞働組合との對立ではなくして、讀賣新聞の從業員の中に「ストライキ」をやると云ふことに贊成する者が少數で、反對する者が多數であると云ふ一つの内紛を私は此の中に含まれて居るやうに考へるのであります、そこで私は御質問を致したいのは、假に多數の者が「ストライキ」に反對し少數の者だけが「ストライキ」を敢行した場合に、其の爭議と云ふものは一體合法であるのか非合法であるのか、此の點を一つ御聽きしたいと思ふ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=17
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018・河合良成
○河合國務大臣 讀賣新聞の問題に關聯しまして、それが事實新聞など傳へて居ることは私も承知して居ります、個人としては多分に此の問題は承知して居ります、併しながらどうも政府としまして、具體的な此の問題に對してどう思ふかと云ふことに對して、只今其の意見を發表する時期に至つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=18
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019・川崎秀二
○川崎(秀)委員 それでは讀賣新聞の場合と切離して、今私が申上げた例へば少數の者が「ストライキ」を敢行し、大多數の者が之に反對する、總會の決議に於て「ストライキ」は非合法なりと云ふ宣言を從業員組合が宣言すると云ふことになつたならば、其の「ストライキ」を行つて居る者は非合法ではないか、私はさう思ふのでありますが、組合法の中に斯う云ふ規定がないことが間違ひではないかと考へる、例へば千八百名の從業員が居つて、總會で千六百名出席をした、其の結果「ストライキ」をやるかやらないかと云ふことの自由に表明された意思で、七百九十九名が賛成して、八百一名が反對すれば、其の爭議は有效でないと思ふのでありますが、若しも有效でないと云ふことであるならば斯う云ふものを組合法の中に謳つて行かないと、今後大きな紛爭が起るのではないか斯う考へるのでありますが、如何でございませう発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=19
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020・河合良成
○河合國務大臣 組合内部の問題に亙りますので、之を第三者的に見まして、適當でなからうと云ふことは言へると思ひます、併し合法、非合法と云ふ問題とは自ら線が違つて居ると考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=20
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021・川崎秀二
○川崎(秀)委員 そこで私は最後に、是は極めて重要な問題であると思ふので、厚生大臣の明確な答辯を私は期待を致して居ります、過ぐる本會議に於きましても、私は日本の勞働組合が正しく且つ逞ましく發展をする爲には、一黨一派の爲に利用されることのないやうにしなければならない、勞働組合の政治活動と云ふものは、其の目的を達成する爲に自由であるべきであるが、或る特定の政黨の看板を常に擔ぐが如く、或は政黨の地盤競爭の具に供せられるが如きことは過ちでないかと云ふことを厚生大臣に質問をした、厚生大臣は之に對して勞働組合と云ふものは主として政治上のことをやるのではないのだからさう云ふ行動は好ましくないと云ふやうな御返事があつたと私は承知を致して居ります、そこで私は今日御尋ねを致したいことは、是は正確に申上げないと後日のこともありますので原文を追つて申上げる、七月十五日「マツカーサー」司令部渉外局が我が國の勞働運動に對して極めて重要なる發表を行つて居る、此の原文に付ては十分御承知だと思ひますので、長いこと話しませぬが、其の中で、日本國内では或る種の左翼分子が例のやうな誇張した宣傳や眞實の歪曲で、曾ての右翼がやつたやうに大衆の軍隊的組織化を圖る目的で勞働運動の指導權を握らうと努めて居る、斯う云ふことが指摘をされて居ります、即ちさう云ふやうなものを勞働組合は避けねばならないと云ふことを言はれて居るのであると私は解釋して居る、更に其の二、三日前「アチソン」「アメリカ」代表は對日理事會の席上で、日本の勞働運動は極右極左の何れをも採らず、中道を歩むことが望ましいと云ふことをはつきり言はれて居るのでありますが、私は勞働組合が眞に民主的に動くならば、それはどのやうな主義でも差支へない、自由主義であらうと共産主義であらうと、社會主義であらうと如何なるものでも自由に表明された多數の意思に依つて勞働組合が動くならば、而も穩健なる行き方で動くならば、それはどのやうなものであつても差支へないと私は思ふ、併しながら現在の極左翼の勞働組合に對する動きは是等の點に於て確かに調子を失して居るのではないかと思ふのでありまして、「マツカーサー」司令部及び「アチソン」代表が指摘されたことは確實に其の「ポイント」を私は突いて居ると思ふ、そこで厚生大臣は勞働組合の健全なる發達の爲には極右、極左の何れをも採らず、一黨一派に偏することなく、勞働組合運動が逞ましく發展して行くと云ふことに御同意であるかどうか、其の點に付て明快なる御答辯を私は望みたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=21
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022・河合良成
○河合國務大臣 「マツカーサー」司令部から發表になつた御意見に付て同感であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=22
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023・川崎秀二
○川崎(秀)委員 私は尚ほ勤勞者の體位向上、勞働者の「スポーツ」政策を如何にすべきかと云ふことに付て文部當局に御尋ねを致さうと思ひましたが、文部大臣は憲法委員會で御忙しいさうでありますから、後日の機會に讓りまして、是で私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=23
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024・逢澤寛
○逢澤委員長 辻井民之助君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=24
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025・辻井民之助
○辻井委員 私は文部大臣竝に司法大臣にも御尋ねしたいことがありますのですが、先づ御出席の厚生大臣に御尋ねしたいと思ひます本案が上程されると云ふことが傳はりまするや、當局も御承知のやうに、此の法案に依つて爭議を制限される官公吏或は公共事業に從事する勞働者、職員を以て作つて居りまする全國の勞働組合は申すに及ばず、殆んど總ての勞働者が之に向つて猛烈に反對をば續けて居ります、此の反對の理由と致しましては、先に必ずしも内容に反對するのではなからう、官僚に依る運用に對する不安から反對するのではないかと云ふやうな同僚からの御意見もありましたが、私の知る所では決してさうではありませぬ、内容に付ての反對も勿論色色ありまするが、それよりも反對の先づ根本的な理由は此の法案をば政府が提案するに至つた所の動機とか、意圖とか、又其の制定の仕方と云ふやうなことに付て、先づ第一に大なる不滿をば持つて居るのであります、是等の多くの勞働組合に於きましては、勞働運動或は爭議に對して事業の性質等の爲に多少の制限を受けることに根本的に反對して居るものは私もないと考へます、併し斯樣なものをば茲に出す爲には相當な準備や順序を履むべきでありまして、官公吏或は公共事業に從事して居る者に爭議の制限をば加へようとするならば自分等の要求を十分に爭議に依つて解決することの出來ない立場に置かれる者に對して、先づさう云ふ要求をしたり、爭議をする必要なからしめるやうな處置を執るべきことが、政府の執るべき根本的な行き方ではないかと思ひます、終戰以來勞働組合が急速に發展して參りまして、官公署にも或は公共事業にも同樣に續々と勞働組合が生れて參つたのでありますが、今も相當行過ぎになつたと云ふやうな批判もありましたが、確かに私等もそれを認めます、併し永年壓迫の加へられ、彈壓に彈壓を被つて參りました勞働者が漸くにして戰爭に因る莫大な、言語に絶する犧牲の代償として自由が與へられたのであります、さうして奔流の如く組合を作つて乘出して來たのでありますから、多少の行過ぎや失敗が伴ふのは決して無理ではない、多少の行過ぎのあつたやうな向きに於きましても、社會の批判、或は自己批判に依りまして、段々正しい方向へと向つて居るのが事實であります、是等勞働組合の今日までの運動の結果、どれ程日本の再建の爲め、産業復興の爲に大きな任務をば果して來て居るか分らない、是は當局も恐らく御認めにならぬ譯に行かぬと考へます、是等の公共事業の從業員でありまするとか、特に官公吏と云ふやうな地位にある人々の待遇は實に劣惡極まる状態であります、簡單に仕事を辭めることが出來ない、又要求も簡單に出來ない敗戰までは特に凡ゆる任務を負はされまして、何等上に向つて要求も何も出來ない立場に置かれて居るにも拘らず、是等の官公吏、從業員に對して何等其の待遇に對して特別の考慮が拂はれて居ない、要求の出來ないのを宜いことにして、是等の人々は特に劣惡な状態に置かれて居る、食へないやうな状態に置かれて居れば、結局食ふ爲に何等かの形を執つて其の要求を充たさうとする、其の結果結局役人は役得をやる、或は上に對する不平、不滿を民衆に向つて爆發をさす、非常に不親切になる、横柄になる、所謂官僚主義と言はれるやうな傾向が非常に強くなる、戰爭中は特に一般の批判がなかつた爲に、ひどかつたのでありますが、終戰後に於きましても少しも變つて居ない、此の間の本會議で我が黨の田万君が丸亀の區裁判所の判事が囚人の米を食つたと云ふ發言をしたのに對して司法大臣は非常に司法部の威信の爲に憤慨をされ、又自由黨や進歩黨に於ても非常に之を問題にされまして、結局取消をしたのでありますが、其の後共同通信等の調査の結果に依りますと、決して事實無根ではない、明かに未決に入つて居る人々に對する配給の米を裁判官が食つて居つたのは事實であつて、外食券も何もなしに配給でない物をば食つて居つた事實が明かになつて居る、是は必ずしも丸亀の區裁判所だけに起つた問題ではない、曩に大阪の裁判所に於きまして、檢事や判事が横流れの砂糖をば不正な分配をして處分を受けたと云ふやうな事實も現にある、京都に於きましてもそれに似たやうな事件が起つて居る、斯うして役得の出來る者は、俸給で食へなければ盛んに役得をやる、或は從業員は、鐵道の從業員は荷の拔取りをやりますとか、或は色々取締の相手に對して便宜を與へて、收賄にならないやうな方法に依つて「サービス」を受けると云ふやうなことが盛んに終戰後も行はれて居る、私は之をば攻撃する爲に言ふのではありませぬから、色々な材料を持つて居りまするが是れ以上は申上げませぬ、斯樣なことが此の民主主義化しなければならない日本に於きまして盛んに行はれて居つたのではどうにもならぬのでありまして、此の悲しむべき状態に對して目覺めた官公吏や從業員は、斯樣の卑屈な生活を打破つて、さうして官公吏として、又重要なる公共事業に從事して居る勞働者としての面目を維持し、名譽を十分に保持して、飽くまでも其の重大な職責に挺身することが出來るやうに最低生活を保障して貰ふ、斯樣な所から是等の目覺めた諸君は先に立つて續々組合を作つて要求をし、最低生活の確保の爲に戰つて參つたのであります、斯うして要求をし、或は爭議一歩手前まで行かなければ少しも自分等の生活を考へて呉れない、現に今度の遞信從業員職員の要求の問題にしてもさうであり、或は都の職員、從業員の問題に對しましても最近やつと解決が付きましたけれども、業務管理でありますとか、或は爭議一歩手前まで行かなければ最低生活を保障する當然な俸給、賃金の引上さへもして貰へない、斯う云ふ状態にある、何等の適切な、特別の處置も執らずに、對策も講ぜずに、唯爭議だけを制限しようと云ふのでありますから、是等の組合が猛烈に反對するのは決して無理ではないと思ひます、若し今是等の正當な理由が、切實な理由がある反對をば押切つて、さうして遮二無二多數に依つて此の法案が議會を通過し、制定せられました場合に、果して是等の反對をして居りまする勞働組合に屬して居る何百萬の勞働者或は官公吏はどう云ふ感じを持つか、それが官廳事務や或は此の重大な、爭議をやつてさへいけない公共事業の上にどれ程惡影響を來すか、厚生大臣は此の點如何に御考へになつて居るか、私は是等の多くの官公吏或は從業員は日本再建の爲に必要であつて、「イギリス」で戰爭中行うて居りましたやうに戰爭中は一切「ストライキ」をやつてはならぬと云ふやうな法律にも甘んじて支持をしたのであります、日本再建の爲に本當に自分等が「ストライキ」を止めて頑張らなければならぬのであると云ふことが納得されるならば、どんな苦痛でも今日の目覺めた勞働者は甘んじてそれに堪へると思ふのであります、然るに納得せしめずに彼等が重大な國家の事務或は公共團體の仕事に働きながら要求しなければ最低生活の保障をして呉れない、一方では戰時利得者や有産者は贅澤三昧をやつて居る斯う云ふ者に對して何等の徹底した取締を依然として加へない、さうして此の重要な日本再建の爲の仕事に邁進して居る者が、爭議一歩手前まで頑張らなければ最低生活の保障がして貰へない、斯樣なことをして置きながら其の爭議を制限すると云ふことをやるならば、必ず之に對して色々な形に於て反撥が起つて來る、是は産業の復興の上にも、或は役所の民主化の上にも、恐るべき結果を來すと私は思ひます、此の點を先づ私は厚生大臣が如何に御考へになつて居るのかを承りまして、其の上で更に質問を續けたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=25
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026・河合良成
○河合國務大臣 只今の御質問の要旨は、大體官業關係の勞働者或は其の他の職員等が、此の法案の内容自體には反對ではないけれども、先づ其の待遇を良くしなければいかぬと云ふ大體の御趣旨と拜承致しますが、官公吏の待遇を良くしなくちやならぬと云ふ點に付ては全く御同感でございます、此の間も御承知の通り大分上りまして、それで遞信省なり鐵道關係の爭議が未然に防止されたと云ふことは、是は既に御承知のことと思ひますが、此の上とも何とかもう少し致さなくちやならぬのぢやないかと云ふ氣持は持つて居りますけれども、國家財政の現状も斯う云ふことでございますし、事實問題として非常に政府も困却して居る次第であります、大體此の官吏の俸給なり或は官業從事者の俸給と云ふものは、是は「インフレーション」、「デフレーション」の關係と非常に關係の深いものでありまして、昔或る時代には官吏と云ふものの俸給は何よりも結構だ、官吏と云ふものは宜いものぢやないかと云ふ時代もありました、所が「インフレ」になつて來ますと事業界は收入が殖えますけれども、役所の收入は中々殖えませぬ公共事業と云ふものは中々大衆に關係があるので、例へば「ニユーヨーク」の地下鐵の如きは、迚も繼續が困難だから政府がやつたと云ふので、中々公共事業と云ふものはやり切れぬ、斯う云ふ關係で政府の收入と云ふものは、「インフレ」の波が來る時には何時でも遲れる、「バス」に乘遲れると云ふやうな傾向が顯著である、其の代り「デフレ」になりましても、官公吏を能率本位でどんどん落して行くと云ふやうなことはしない「デフレ」になると何とか宜い隱れ場所になると云ふ時代の來たこともありまして、中々「インフレ」「デフレ」の波と、官公吏の收入と云ふものは、實業界一般のやうには反映して來ないのであります、是は物の本質から來て居る問題であります、又日本の官僚制度から來て居る點であります、併しながら斯う云ふことがあるからうつちやつて置いて宜いと云ふことはない、斯う云ふことがあればこそ尚ほ注意しなければならぬと云ふ議論にもなる譯でございます、此の間も申上げましたやうに、精々今後も注意して行かなくちやならぬと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=26
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027・辻井民之助
○辻井委員 厚生大臣の今の御答辯に依りますと、今の御意見は、全く是は資本主義の平和な状態の御考へでありまして、滿洲事變までの時代でありますならば、好況の後には悲況が襲うて來る、そこを頑張れば又景氣が良くなる、斯う云ふやうな時代であるならば何年か平均すれば出入がないと云ふことになるのでありますが、現在は所謂資本主義が沒落期に入り所謂帝國主義の段階に入つて、あの恐ろしい戰爭が起つた位であります、從來の自由主義的な資本主義の状態ではどうにもならぬと云ふことはもう既に今日の常識であると思ひます、滿洲事變以來物價は上るばかりで下つた例しがない、さう云ふ時代が二十年も續いて居る、滿洲事變前に生れた者が今日もう役所に入つて雇などで勤めて居る場合に、さう云ふ上り下りの平均で我慢しなければならぬと云ふやうな御考へに對しては、恐らく全國の勞働者は言ふまでもなく、政府の官吏の中にも大なる不滿を持つ者が多いと申さざるを得ないのであります、さう云ふ生易しい時代ではないのであります、今日「インフレ」に對して徹底的なる處置が執られぬ限り、幾らでも物價は上つて行く、政府自身が鐵道料金を引上げ、或は郵便料金や煙草代を次から次と御上げになつて居る、斯うして政府自身が惡性「インフレ」を次から次へ助長されなければならない時代でございます、斯う云ふ際、平均して考へたならばなどと云ふのは、全く時代を超越した考へでございます、今日のやうな事態に於ては家族一人では最低生活を維持するのに一箇月幾ら必要であるか、何人殖える毎にどれだけなければならないかと云ふやうなことを綜合的に、合理的に研究し、配給だけでは足らぬ、又配給が止まるから闇で補はなければならぬので、闇物價と云ふものも十分調査する、又一方に於ては必要な最低限の「カロリー」の調査もする、さうして、前に最低賃金の制定に付て質問した時には、直ぐには出來ないと云ふやうな御答辯であつたと思ひますが、斯樣に經濟情勢が非常に不安定な場合には最低賃金を決めることが困難であるとする最ならば、絶えず其の時其の時の最低生活費を十分な調査と根據の上に立つて調査すると云ふ、さふ云ふ機關を設ける、又勞働組合も作れない、「ストライキ」もやれないやうな警察官であるとか、消防、刑務所の官吏に對しましては、民主的に、政府と是等の立場に居る官吏との間で俸給、待遇の問題に付て常に折衝をして、合理的にそれを是正して行くやうな機關位はどうしても作るべきであると私は思ふ、斯樣な十分な民主的な對策も講ぜずに唯制限をするのは怪しからぬと云ふのであります
それからもう一つ御斷り申上げて置きますが、内容的には反對ではないかと云ふのであります、内容に對する賛成、反對は第二として、先づ提案の仕方が怪しからぬ十分な準備も、又適切な施設も設けずして唯制限すると云ふやうな法案を眞先に出したのが怪しからぬと云ふのであります、斯う云ふ點に付て今後十分考慮すると云ふ、天降り的に考慮されるだけでは碌なことが今日まで出來なかつたし、將來も出來ようとは思はぬのであります、斯う云ふ點に付て何か適切な御考へがあれば伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=27
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028・河合良成
○河合國務大臣 只今斯う云ふ問題に對して出來るだけ民主的な方法を執つたから宜からうと云ふ御趣旨でございますから、出來るだけさう云ふ點に付て考へます、それから、先程私から「インフレ」「デフレ」のことを、申上げたのは、さう云ふ傾向も今まであつたから特に政府はさう云ふ問題に付て注意して行かなければならぬのだと云ふことを申したことと御諒承を願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=28
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029・辻井民之助
○辻井委員 内務大臣が今お見えになりましたから多少重複するかと思ひますが、内務大臣に御伺ひしたいと思ひます、今度の調整法案に依りますると、刑務所は司法關係でありますから別として、警察官或は消防官は組合を作れない、さうして勿論「ストライキ」も出來ない譯なのでありますが、斯う云ふ制限を受ける以上は、要求しなくても最低生活の保障の出來るやうな適切な方法、或は施設を設けなければならぬのであるが今日までは要求のないものは少しも顧みられなかつた、是は京都に於きましても、私自身が直接承知して居る事實であります、本年の初頭に物價の暴騰の爲に俸給だけでは──京都府だけでは勿論ありませぬが、京都府に於ても警察官がどうにもならない、政府へ幾ら折衝しても埒が開かない、毎日の生活を愚圖々々して居る譯に行かないと云ふので、京都府の警察部に於きましては、警察毎に管内の所謂有力者に集まつて貰つて、さうして警察官の生活擁護に協力を求め、さうして管内の所謂有力者の相當の額の寄附を得て二箇月分の生活の援助を行うたと云ふ例があるのであります、斯樣に今日敗戰で混亂して居る時代に相當警察に纒つた寄附の出來るやうな者は、一概にも言へないけれども多くは所謂戰爭成金か、さうでなければ闇「ブロカー」で儲けて居ると云ふ者が多いのであります、又さうして脛に傷を持つて居るやうな者が進んで纒つた寄附をするのであります、斯う云ふ寄附を警察官の生活援護の爲に貰つて居れば知らず識らずの間に取締の上にも良い影響は來さないのは理の當然であります、斯う云ふ状態に警察官が今日まで置かれて來て居る、又一般に官吏の待遇が惡い爲に、此の間も地方事務所の廢止をする方が宜からうと云ふやうな御意見が出て居りましたが、全く地方事務所には甚しい弊害が伴つて居る、府縣の役人が物資を調達する爲に地方事務所が相當利用せられて居る、斯うして取締る立場にある者が食つて行けなければ結局其の職權を笠に着て色々民衆を苦しめて面白くないことをやる、と言うても私はそれを咎めるのではない、是は已むを得ぬ結果であります、斯う云ふ要求も出來ない者には、要求しなくても、或は爭議をやらなくても、最低生活の保障がもう自動的に行はれて行くやうな十分な民主的な施設と云ふやうなものでもなければ、結局食つて行けなければ斯う云ふことが盛んに行はれて來ます、綱紀の肅正も何もあつたものではなくなるのであります、斯う云ふ點に付て内務大臣はどう云ふやうに御考へになつて居るか、一應内相の御意見を承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=29
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030・逢澤寛
○逢澤委員長 一寸辻井さんに御相談申上げますが、今厚生大臣を憲法委員會の方で五分か十分か借りたいと云ふ話があるのですが、内務大臣の御答辯中にどうでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=30
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031・辻井民之助
○辻井委員 結構です発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=31
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032・大村清一
○大村國務大臣 只今御尋ねになりまたし御趣旨に對しましては私は全然同感の意を表する者であります、警察官の職務に鑑みまして、勞働運動、勞働爭議に付て極端なる制限を受けることは其の職責上已むを得ざることであります、さりながら、それを宜いことにして警察官の待遇を改善することに遺憾な點がありましては絶對に相成らぬことだと考へるのであります、今後此の勞働組合調整法が成立して運用されると云ふやうなことになりましたならば、警察官の職責に鑑みまして十分なる待遇をすると云ふことに政府として大いに配意する積りで居ります、段々御引例になりました點に付きましては是亦全面的に承認を致すものであります、御承知の如く、終戰後我が國の經濟情勢が急激に變化して參りまして、政府から給與を貰つて居ります一般職員の生活を脅威したことは、單に警察官と申さず一般職員に通じての問題でございますが、殊に警察官は私共の見る所と致しましては、一般職員に比しまして從來の待遇は寧ろ低かつたと思ふのであります、其の結果警察官は、經濟界の變動に依りまして非常な生活上の窮境に陷れられた、それに對處する爲に、殊に大都市に於きましては生活の窮迫が顯著でありますので、京都其の他に於きまして機宜の措置を講じたことも是は報告を受けて居ります、さうして之に付きましては、警察部に對する寄附金に依りて一時を糊塗すると云ふやうな策も用ひられたのでありますが、警察官の特質に鑑みまして其のやうなことで解決を致しますことに付ては確かに弊害も伴ふことでありまして、警察寄附の如きは出來るだけ避けなければならぬと云ふことで進んで來て居るのでありますが、併しあの際の急場を凌ぐ爲には之を承認するを得ざる事情にあつたものと思ふのであります、警察官の優遇は焦眉の急務でありますが、政府から給與を受けて居りまする一般職員に共通したる優遇問題があります時期に於きまして、警察官獨り特殊な優遇をすると云ふことも實際問題として實行難であります、幸ひに政府に於きましては、此の現状を直視致しまして、政府の給與を受けて居る一般職員に對して、兎も角も生活の安定を與へると云ふ點に着眼致しまして、給與の改善が進行致して居ります、不日其の實施を見ることと思ふのであります、それに依りまして警察官は一應の安定を得ることと思ふのであります、併し先程來申上げますやうに、警察官の待遇は一般職員に對しまして比較的低位にあると云ふことは廣く承認せられて居る所でもありますので、是までに於きましても出來るだけ努力は致して居るのであります、現に本年度に於きましては、極めて少額ではありまするが本俸を増給すると云ふ點に於きまして、政府財政の許す限度に於きまして、年額一千五百萬圓だけを下級警察官の本俸の増額に特に振向けると云ふ豫算に相成つて居ります、是は他の一般職員に對しまして特別の例外的扱ひになつて居るのでありまして、金額に致しますと、下級警察官に於て本俸が十圓餘り位しか上らないことでありますけれども、併し特別の措置と云ふ點に付きまして、警察官一般に非常に喜ばれて居るやうな次第であります、尚ほ此の警察官の地位に鑑みまして、殊に勞働組合調整法等に依りまして、彼等の生活を自力で擁護すると云ふことを制限されて居る點に付きましては深甚の注意を拂ひまして更に此の警察官の優遇に付きましては私共努力致しまして、制限をされて居るから其の爲に生活上特別の酷遇を受けると云ふことのないやうに、之を確保することに努力する積りであります、尚ほ只今の所と致しまして警察官の地位の特殊性に鑑みまして、職務の重大性に應じたる危險手當と云ふやうなものも別途に考慮すると云ふやうなことを考へて居ります、政府財政の都合もあることでありまして其の成果を得ます點に付ては直ちに茲にはつきり申上げることが出來ませぬが、其のやうな警察官の特殊性に鑑みまして、適切なる給與の増額も今後に於て實現をさせたいと云ふやうに考へて居る次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=32
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033・辻井民之助
○辻井委員 只今警察官に對する待遇に付て色々御考慮になつて居ることは承つたのでありまするが、私の御尋ねしたいと思ふのは今後も斯う云ふ經濟情勢が續きまする以上は生活費は昂騰するのではないかと思はれます、左樣な場合に、又それだけではなしに色々待遇の改善、豫算を伴ふやうなものも少くないと思ひます、やり方次第で豫算を伴はずして下級の警察官が滿足をする、さうして張切つて職務に努力をするやうになると云ふやうな行き方が少くないと思ひます、斯樣な點に付て、勞働組合を作り、或は「ストライキ」が出來ないのならばそれに代る、一般の下の意思を上に反映せしめて常に民主的に待遇給與の問題に付て適切なる措置を執つて行く機關と言ひまするか、施設と申しまするか、さう云ふやうなものに付て何等御考慮がないかどうか、之を御尋ねしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=33
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034・大村清一
○大村國務大臣 洵に御尤もな御尋ねでございますが、現在警察官に於きましては共濟組合と云ふものを多年運用して來て居りますが是が實際の活動に付きましては時局下さらに新しき方法を考へて適切なる活動をさせる必要があることを痛感して居ります、尚ほ又從來の共濟組合の運營に付きましては、之を民主化する上に於きまして改善を要する點があると考へて居ます、此の既存の共濟組合を機構的にも之を改善し、又それを事業的にも十分なる活動をさせると云ふことに依りまして、只今御尋ねの趣旨を出來るだけ宜く實現させると云ふことに致したいと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=34
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035・辻井民之助
○辻井委員 最後に厚生大臣に御伺ひしたいと思ふのであります、今厚生大臣竝に内務大臣に爭議の制限を受ける、或は勞働組合に參加が出來ないと云ふ立場にある者に對して、要求をしなくても十分にそれ等の人々の意思が反映し、さうして進んで最低生活の保障に付ては措置を執ると云ふやうな何等かの機關のやうなものに付ての具體的なものを御考へになつて居るかどうかを御尋ねしましたが、さう云ふものはまだ何等具體的に御考へになつて居ない、要するに組合に入ることを禁止し或は爭議を制限するだけでありまして、それに代る是等の人々を納得せしむるやうな對策が何等執られて居ない、又一方では、一般の勞働者に取りましては「ストライキ」は現在事實上行へない、又行ふべきでもない、斯う云ふ情勢下に要求を通す爭議手段としては生産管理より外にないのでありまして、日本の斯樣な特殊な經濟情勢が生産管理と云ふ爭議形態を生み出した、大した弊害もなしに──一部には行過ぎのあることも初めは認められましたが、段々それも改められまして、それが「ストライキ」に代る合法的な爭議手段として勞働者の爲の唯一の武器となつて居るそれすらも非合法であると云ふやうな聲明をせられて居る、勞働者側から見ますならば──勞働組合側から見ますならば、明かに是は所謂保守勢力の反動攻勢であると云ふやうに考へるのも私は決して無理ではないと思ふのであります、前に本會議で幣原國務大臣は自分は勞働組合法を制定し、或は憲法の改正案を作り、着々やつて來たのだと云ふやうな御話があつたが、一般の勤勞大衆は是は所謂「ポツダム」宣言に對する義務の履行として司令部の壓力の爲に已むを得ずやつて來たのである、それをば食糧「メーデー」以來の司令部の聲明に便乘して、愈愈反動攻勢に出て來たのであると云ふ見方を勤勞階級の多くはして居るのであります、斯う云ふ場合に遮二無二斯樣なものをば──今私が御聽きしても、何等納得の行くやうな之に對する對策も何もなしに之をば御通しになりました場合に、今大いに自分等が頑張つて一つでも多く物を造り、産業復興の爲に或は行政事務の能率を上げる爲に頑張らなくちやならぬと云ふので勞働組合を作り、張切つて勤勞意慾或は生産意慾をば發揮してやつて居る是等の勞働組合或は職員組合に屬して居ります者が、どれ程出鼻を挫かれ、さうしてさう云ふ精神をば傷けられるか分らない、是は日本再建、産業復興の上に非常に私は恐しい惡影響を來すと思ふのであります、さう云ふ點に付てさう云ふことでなしにやつて行けると云ふやうな自信が厚生大臣におありになるかどうか、私は最後に厚生大臣或は政府當局が、勞働階級の多數が猛烈に反對して居るのを十分に納得せしめることも出來ずして、之を遮二無二御通しになつた場合の反動と言ひますか反撥と言ひますか、勤勞階級の恐しい結果に對して、果して十分にさう云ふことなしにやつて行けると云ふ自信を御持ちになつて居るかどうか、私は必ず是は恐るべき反撥を生じて來る、非常な支障を日本再建の上に來すと考へるのであります、果して其の點に十分な御自信を御持ちになつて居るかどうか、最後に此の一點を御聽きしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=35
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036・河合良成
○河合國務大臣 此の法規は決して反動的のものとは考へませぬ、是は調停とか仲裁とかをやる手續のことと、それから公益擁護の爲にどうしても必要な制限、例へば省線の安全運轉のやうなことをやられては困ると云ふことから來て居るのでありまして、是は國民大衆が支持して呉れて居ると思ふのであります、それで若しさう云ふことになつて面倒だと云ふことだと、出來るだけ御盡力を願つて、國家再建の爲に國民全體が一緒にやつて欲しいと云ふ氣持で居ります、私に確信があるかと云ふ御話でございますが、人間のことですから、出來るだけのことをやる、巧く行くと思つて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=36
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037・逢澤寛
○逢澤委員長 それでは本日は之を以て散會致します
午後零時五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=37
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038・会議録情報2
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勞働關係調整法案委員會要求參考資料
一、英、米、ソ等の國々に於ける官公吏の待遇に關するもの
二、各國の勞働組合法規
三、日本勞働組合法及び調停法に關するもの
四、全國爭議件數
五、從業生産管理件數
六、全國賃金値上、生産の比較発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X00219460718&spkNum=38
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