1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働關係調整法案(政府提出)
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昭和二十一年八月十六日(金曜日)
午前十一時十三分開議
出席委員
委員長 逢澤寛君
理事 江崎眞澄君 理事 武田信之助君
理事 竹田儀一君 理事 原健三郎君
理事 川崎秀二君 理事 松岡駒吉君
飯國壯三郎君 今井はつ君
大内一郎君 花月純誠君
杉田馨子君 原侑君
村上勇君 木村公平君
山本勝市君 椎熊三郎君
白井秀吉君 橘直治君
仲川房次郎君 山下春江君
辻井民之助君 土井直作君
今村等君 中原健次君
東隆君 中野四郎君
野本品吉君 細迫兼光君
八月十四日委員穗積七郎君、岡部得三君、古賀喜太郎君及び關谷勝利君辭任に付其の補闕として野本品吉君、原健三郎君、北村徳太郎君及び天野久君を議長に於て選定した
八月十五日委員藤田榮君、瀧澤脩作君及び山田善三君辭任に付其の補闕として細迫兼光君、武田信之助君及び木村公平君を議長に於て選定した
八月十六日委員北村徳太郎君及び天野久君辭任に付其の補闕として椎熊三郎君及び白井秀吉君を議長に於て選定した
八月十六日理事瀧澤脩作君、岡部得三君及び古賀喜太郎君の補闕として武田信之助君、原健三郎君及び川崎秀二君が理事に當選した
出席國務大臣
厚生大臣 河合良成君
出席政府委員
厚生事務官 吉武恵市君
厚生事務官 富樫總一君
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本日の會議に付した議案
勞働關係調整法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=0
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001・逢澤寛
○逢澤委員長 是より開會致します、此の際御諮り致します、去る十四日理事岡部得三君、理事古賀喜太郎君、及び十五日に理事瀧澤脩作君が委員を辭任致しましたので、右三人の理事の補闕と致しまして、原健三郎君と川崎秀二君及び武田信之助君とを推薦致したいと思ひますが、御異議はありませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=1
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002・逢澤寛
○逢澤委員長 それでは原健三郎君と川崎秀二君及び武田信之助君とは理事に御當選になりました、是より勞働關係調整法案を議題として討論に付します、討論は通告順に依り之を許します──江崎眞澄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=2
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003・江崎眞澄
○江崎委員 私は日本自由黨を代表致しまして、本法案に對しまして贊意を表する者であります、我我は敗戰後平和を愛好する國民たらんと云ふ誓ひを世界に致したのであります、以來恰も一年、既にしまして憲法草案にも、四圍武力を擁しまする中に、之を敢然抛棄し、平和愛好の精神を實踐せんとする氣構へを示して居るのであります、外に平和愛好を言ひながら、今眞の産業再建を前にして居る時、職場に過激なる階級鬪爭が斷えず起つて居ると云ふことを一體如何に考へるべきであるか、例へば我々家庭に於きましても、男女同權を説くの餘り斷えず家庭に於て風波が絶えないと云ふやうなことが、即ち平和を志す所の國民としての在り方であるかどうかと云ふことを考へまする時に、今日鬪爭を以て發展の母なりと云ふ觀念は、少くとも昭和二十年の八月十五日を以て我々日本には通用しなくなつたと私は思ふのであります、本調整法案をして一方の味方であると解する所に、私は世上の誤解があると云ふことを泌々感ずるのであります、私共は厚生大臣にも屡次此の點に付て質したのでありまするが、正に勞働者の味方であるとか、或は資本家の立場を代表したものであるとか云ふやうなものであつたならば、既に我々としても審議の必要を認めないのであります、私共と雖も全國約八割を占める勤勞者の代表であると云ふ感じに於きましては、又勞働者諸君の地位の向上を圖り、其の發展を希ふ熱情に於きましては、社會黨及び本法案に反對をせられんとする所の諸君達と同樣の熱意を以て居ることに變りはないのであります、今日物價騰貴と食粮不足と云ふ生活危機より生ずる眞劍なる勞働者諸君の要求は、公平に判斷をせられ、飽くまで其の生活が保障せられなければならぬと云ふことは言ふまでもないことであります、併し是は所謂破壊的な鬪爭に依つて齎らされるものではなく、飽くまで建設的な協調に依つて初めて齎らされることであります、又今日被占領國家である日本の立場を忘れ、勞働者と資本家とがそれぞれの立場を固守致しまして、對立抗爭する所などには斷じて眞の産業再建と云ふものは見られないのであります、現業の民主化と云ふものは、眞に秩序正しく最も合法的に而も組織的に行はれるのでありませぬでしたならば、結局失敗に終ることは世界の歴史にも多く之を見る所であります、茲に我が黨は爭議當事者間に於きまして、どうしても解決の出來なかつた場合、公正に是が調停であるとか或は斡旋しようとする本法の制定に對しましては、洵に時宜に適した措置であるとして贊成をする者であります、今月までの委員會に於きまして、特に社會黨の諸君が反對意見として集中せられました點、第一に生産管理を全面的に否定すると云ふのは不當ではないか、第二に公益事業の爭議開始までに、三十日間の期間を設けることは、之を事前に彈壓するものである、第三には一般官公使の爭議禁止は基本的に人權を蹂躙するものであると云ふ意見の如くに承るのでありまするが、之を一口にして言へば恐るべき一種の誤解である、此の點に對しましては何れ本會議に於きまして詳細私は論駁をし、敢て世間の誤解を解かんとするものであります、延期説を言はれまする協同黨は偖て措きまして、社會黨に於きまして松岡駒吉氏は本法原案作成の任に當られ、而も其の際窮極贊意を表して居られるかに承つて居ります、勞働者の親として尊敬を一身に集められた松岡氏の如き人物を擁しながら今全面反對の擧に社會黨は出でられ、而も一部勞働者の誤解を一層深からしめるが如きことは、如何にも私共として諒解に苦しむ所であります、既に「マッカーサ」司令部に於きましても、極端なる勞働運動指導者は指導者としての適格性を缺くと云ふ見解をはつきり發表して居られるのでありますが、今日是等極端なる指導者に誤られたるかの傾向を多分に見受けられまする一部勞働者を見ながらに、之に迎合的態度を執られ、益益其の途を誤らしめるが如き社會黨の態度は、一體世論を社會黨は御指導になられるのか、或は世論に依つて社會黨自體の態度を決せられるものであるか、日本産業再建の途を阻碍せんとする此の態度は、洵に今日公黨としての面目又何れにありやと私は言ひたいのであります(拍手)私共自由黨の委員それぞれの者は在京の勞働組合の代表者は勿論、我々の選擧區にある勞働組合の代表者達の訪問を受けたのであります、私達は此の健全なる勞働者諸君の誤解、誤られたる此の反對空氣を眺めまして其の度毎に屡屡其の誤謬たることを指摘し、諒解に努めたのでありますが、其の人達の一部に於きましては若しもあなた方が本法案に贊成をして通過せられるやうなことがあつたならば、我々は再びあたた方に一票を投じないであらうと云ふ言葉を聽いたのであります、又若しもあなた方が敢て此の法案を強硬に押し通されようと云ふのであつたならば、我々は「ゼネスト」を以て之に對抗しようと云ふ言葉も聽いたのであります、私共は日本の前途の爲にも、勞働者諸君が若しも「ゼネスト」に出られるが如きことがあつては絶對にならないと云ふ實に切實なる感に打たれて居ります、又曾ては私共を支持し、又私共若僧までも議會に送つて呉れた所の健全なる勤勞者諸君が、此の勞働關係調整法案を繞つて再び一票を投ぜずとして今日離れて行かれることに對しましては一抹の淋しさを覺えるのであります、さりながら私共は次期選擧よりも現在日本の當面して居る所の實情のより深刻なるを思へばこそ、又現在課されたる我々の任務が如何に重いかと云ふことを痛感するが故に敢て之に贊意を表し、贊意を表することに依つて必ずや現在誤解されたる健全なる勞働者諸君の疑惑も解き得ると云ふ固い決意に燃えて居るものであります(拍手)我々は今日眞に日本全體の立場に立ち、日本の政治家として使命の重きを感じますが故に敢て贊意を表する次第でございます
以上甚だ簡單ではありましたが、自由黨を代表した所見の一端を申述べ、尚ほ本法案通過に際し附帶決議として次の事項を取上げます
附帶決議案
勞働組合運動の正常なる發達は我等の常に深く念ずるところである、平和の精神を體し過激なる階級鬪爭を却け勞資一體、生産増強に邁進することこそ、荒廢せる日本を再建すべき必須の條件なりと確信する
本法は右の精神に基き國家公共の福祉と國務の遂行に支障を生ずることなきを期するものにして寧ろ勞働運動を健全に發展せしむるものと認む
唯本法實施に當りては勞働委員會の適切なる構成運營と共に次の三條項の實行を強く要望して本法の制定に贊成す
一、政府は速かに勞働者の生活を深く考慮せる勞働基準法案を次期議會に提出すべし
一、官使の待遇改善に關し内閣に民主的なる對策委員會を設け萬全の措置を講ずべし
一、政府は本法施行の時日に就き官公吏竝に一般公益事業從業員の人格を尊重し、よろしく深甚なる政治的考慮を爲すべし
此の點を強く政府に要望し贊成演説を終りたいと思ひます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=3
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004・逢澤寛
○逢澤委員長 川崎秀二君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=4
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005・川崎秀二
○川崎委員 私は日本進歩黨を代表して、只今本案に對し自由黨の代表から述べられたる所の趣旨と更に附帶條件に贊成致すものであります、自由黨の代表は、此の法案に贊成する根本的な立場、更には此の法案に對する從來の經過竝に意見の後に、數十分間の後に採決を豫想せられて居る所の運命に付て十分な見透しをなされた御議論がありましたので、私はそれには觸れないで置きます、進歩黨は何故に此の法案に贊成するかと云ふ立場は自由黨と同じではあるけれども、私は更に之を附言致したい、此の法案は何等勞働組合運動の彈壓法ではない、何故彈壓法でないかと言へば、勞働者、資本家があつて、其の間に爭議が勃發する、其の際に國家公共の福祉に重大なる影響を持つ所の事業、更には又國務の遂行に多大の支障を來すことの問題に付て之を調停せんとする必要があることは、何人も認めざるを得ない問題であると私は思ふからであります、此の法律と云ふものは、之を法律的に眺むれば極めて平板的な法律であつて何等そこに勞働者を彈壓し、或は資本家を逆に壓迫すると云ふやうな法律ではないことを私ははつきり申上げて置きたいと思ふのであります
第二には世界の勞働運動を見まするに、凡ゆる國に於て勞働爭議調停法と云ふものが成立を致して居ります、殊に先進國米英兩國、更には其の流れを汲む「カナダ」「オーストラリア」の國々に於ては、勞働爭議と云ふものは、調停法が出來た爲に極めて圓滿なる解決を告げて居ることは周知の事實であると私は思ふのでありますが、日本の勞働組合が將來世界の勞働聯合に參加すると云ふ時期に於きましては、どうしてもやはり勞働爭議の調停に付て、一つの劃然たる法律を持つて居らなければならぬと私は思ふのであります、爭議の調停法なくしては、世界の勞働組合に參加をする一つの基礎的な條件を喪失すると云ふことを私は強く指摘を致したいと思ひます
更に第三には、是は一つの希望意見でありますけれども、此の法案の運命は懸つて今後の勞働委員會の公正なる運用にあると思ふのでありますけれども、先般私は本會議の質問演説の際にも、勞働委員會の適切なる構成と運營こそ、此の法案を左右するものであると云ふことを申したのでありますが、勞働者の代表と資本家側の代表と、更には又中立側の代表が眞に民主的に選出をされることは今日最も要望される所でありまして、政府は本案實施に付ては、勞働委員會の公正なる運營と云ふことに最大の力を入れて戴きたいと思ふものであります
最後に私は本法實施の時期竝に勞働基準法制定の問題に付て、私共自進兩黨が苦慮致しました經緯に付て少しく説明を致したいと思ふのであります、巷の聲には、勞働保護法を先づ先に出すべきではなかつたか、或は勞働保護法を伴はずして勞働調整法を出すと云ふことは本末を顛倒すると云ふ意見がある、私は遽かに此の意見に贊同する者ではないけれども、併しながら勞働者の最低生活を保障する所の廣汎なる勞働立法が出來ずしては勞働調整法だけが議會に先に提出されたと云ふことに付ては多少意見を持つて居るからして、先程の議會に於ても質問を致したのであります、そこで勞働基準法は今勞務法制審議會の手に於て着着草案を脱稿し、今や最後の締括りに到達して居ると云ふ風に私共は情報は受けて居りますが、其の際に廣く輿論に徴しまして、殊に未だ未聽取である所の政黨側の意見も十分に願慮されて、勞働基準法を作られることが望ましいと云ふことを私共は強く主張致しますと共に、勞働基準法と此の法案の實施の時期に付ては、十分に願慮して戴きたいと思ふからして、附帶條件の第三に、勞働基準法の制定と云ふ文字はありませぬけれども、此の調整法案を實施するに付ては、十分に政治的情勢を願慮して實施をされたいと云ふことを申述べて居る次第なのであります、私共が此の法案に贊成致しましたことの眞意に付ては、只今江崎議員から言はれた通りに、國家公共の福祉が最も重大であると云ふ點から私共は此の法案に贊成をし、勞働組合の正常なる發展を冀ふことからして贊成を致したのであります、先程江崎君が明確に指摘されたる通り、我々進歩黨並に敬愛すきべき友黨自由黨は今日國民的政黨の立場に於て正しき判斷をなさんとしたものであります(拍手)國民政黨か階級政黨かと云ふことは、勞働調整法案を繞つてはつきりしたる所の事實ではないかと云ふことの私は結論を申上げて贊成演説を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=5
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006・逢澤寛
○逢澤委員長 辻井民之助君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=6
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007・辻井民之助
○辻井委員 日本社會黨に於きましては本法案に對しまして全面的に反對するものであります、私は其の反對理由の主なる點に付きまして、成べく簡單に明かに致したいと考へます、先づ第一に申上げたいと思ふことは、現在の勞働爭議の發生の原因に付てであります、厚生省勞政局の調査に依りましても明かな通りに、勞働爭議の原因は實に今日の經濟情勢、社會情勢に依るものであります、今厚生省勞政局の發表に基いて之をば述べまするならば、本年一月より三月までに至る間の爭議原因三百六十二件の中、生活不安に因るものが實に二百九十一件の壓倒的多數を占めて居るのであります、又爭議要求に付きましては千三百二件の中、賃金引上要求が實に三百二十八件の第一位を占めて居るのであります、此の事實を以て見ましても、今日の勞働爭議が實に社會不安の結果窮乏せる生活をば打破る爲に、最低生活をば擁護せんが爲の巳むに止まれない要求に出て居ることは明かであると考へます、更に本年二月六大府縣に於ける工業に從事する男女從業員平均の賃金を調べて見ますと、前年十月に比較致しまして約三倍、又前月に比べますと九%の増額をば來して居るのでありまするが、此の賃金の増額が何れも爭議の結果として得られたのでありまして、決して資本家側が自發的に一齋に、普遍的に經濟情勢に即應せしむべく勞働者の最低生活を保障する爲に引上げたのではないことは、何れも是れ亦厚生省の調査に依つて明かになつて居る所であります、我が國の現下の情勢に於きましては、勞働者が辛うじて生活を支へんが爲にも、爭議に愬へるより外に途がないのであります、且つ爭議に依らなければ僅かに最低生活の保障すら期し得られないと云ふ事實をば、以上の統計は明かに示して居るのであります、故に社會的情勢の上から考へましても、爭議は實に正當なる生活權の擁護手段であります、業種、業態に依つて此の權利の行使に區別を設けることは絶對に不合理であると言はなければならぬと考へます、爭議の原因が主として生活不安にある以上、此の主因を除くことなくして唯一片の法律を以て其の結果のみをば拘束しようと致しますることは、要するに勞働階級の生活權を否定するに等しいのであります、爭議權は勞働組合法に依つて確認された勞働組合の基本的な權利でありまして、勞働が一箇の商品として取扱はれて居る資本主義制度の今日の我が國に於きましては、爭議權の確保なくして商品たる勞働力の取引を有利ならしめることは絶對に不可能であります、換言すれば資本主義の下にあつては爭議權と勞働權とは全く不可分の關係にあるのであります、隨て又爭議權の否定は實に勞働權の否定に外ならぬと言はざるを得ぬのであります、本法制定の眼目とする所が所謂公益事業に於ける勞働爭議の制限及び官公吏の爭議禁止にあることは疑ひを容れないのであります、而して政府は前者の規定に付きましては三十日の制限は爭議の禁止ではない、單に豫告期間を設けたのであつて、決して禁止ではないと言ひ、又官公吏に對しましては國又は公共團體の現業以外の行政又は司法の事務を保障する爲めの巳むを得ざる措置であると稱して居ります、併しながら若し公益事業であるが故に其の從業員が他の一般企業の勞働者よりも爭議に關して不利な制限を受けねばならぬとしまするならば、其の代償として當然生活の保障を與へねばならぬのでありますが、數回に亙る此の委員會に於きまして、私は或は司法大臣或は厚生大臣に、或は文部大臣に内務大臣に繰返し繰返し斯樣に團結權をば否定し或は爭議を制限し、其の權利を剥奪する以上は、爭議を起さなくても最低生活の保障を與へる何等かの考慮があるかと云ふことをば質問したのでありますが、何等の施策も考慮も持つて居ないと云ふことが本委員會に於て暴露せられて居るのであります、又本法案を見ましても是等に對しては何處にも何等の規定もせられて居ないのであります、而も本法に規定して居る公益事業の中には、例へば運輸であるとか電氣又は「ガス」であるとか醫院等のやうな公衆の用に供する事業ではあるが、而も私的經營に委ねられて居るものが少くないのであります、公益の性質を有する事業をば利潤追求を目的とする私的經營に任せて置きながら、單に事業の公益性の故を以て從業員の爭議權のみを制限するのはどう考へても明かに不合理であると共に不公正であると言はざるを得ぬのであります、全國の關係勞働者が猛烈に反對するのは決して無理ではないと私は言はざるを得ぬのであります、爭議も亦勞資間に於ける一つの戰爭であります、國際間に平和を提唱する我が國が國内に於て鬪爭することは怪しからぬ、又聯合軍の進駐下に於て斯樣なことは怪しからぬ、斯樣なことを江崎君は申されたのでありますが、今日勞働組合法が制定せられるに至り、又勞働組合が敗戰以來續々と擡頭して參りましたのは是は、明かに日本を民主化する爲には勞働組合の發達が最も大きな力を致すものであると云ふ聯合軍の指令に基いて實現したのであります(拍手)
占領下であればあるだけに今日まで抑壓に抑壓を加へられ、彈壓に彈壓を加へられ、而も支配的の地位に居る所の保守勢力は相變らず封建的な保守的な頭が拔け切らない、現状をば飽までも維持しようと努めて勞働階級、勤勞階級の上に壓力を加へて居る、此の日本の封建性、此の保守的な反民主的な勢力や思想をば紛碎して、日本の民主化を圖る爲にはどうしても勞働階級、勤勞階級が團結し、組合を作りまして、自分が日本再建産業復興の爲に甘んじて邁進し得る所の最低生活の保障を得んが爲には、彼等頑冥な奮勢力に對して堂々と鬪ふより途はないのであります(拍手)飽までも合法的に鬪ふより途はないのであります、是は斷じて占領政策と矛盾するものでもなく、又國際平和を主張した我が國の建前と矛盾するものでもないと私は確信致すものであります
斯樣に我々は爭議は勞働者が一身を守る爲の巳むを得ざる所の最後の手段であると考へて居ります、爭議も亦斯樣な意味に於きまして一つの戰ひである、戰ひには戰機と云ふものがある、適當の時期に起ち上がらなければ勝てる戰ひも勝つことが出來ない、正當な要求も之を貫くことが出來ない、然るに日本の現状に於て若し勞働爭議を起すのに三十日の期間を設けられると云ふやうなことになりまするならば、明かに是は戰機を失してしまう、時機を失つてしまう、而も組合側、勞働者側に對する三十日の制限の期間に於て、資本家側使用者側が如何に勞働組合を切り崩さうとも、凡ゆる陋劣なる手段に出でやうともそれに對して何等の制限が加へられて居ない、之を抑へる何等の條項も本法案には設けられて居ないのであります、讀賣の爭議を見ましても明かでありますやうに、最近全國に資本家側が反動攻勢に出て居ります、至る所に我々は左樣な事實を體驗して居るのでありますが、資本家側は必ず勞働者側に對して猛烈に凡ゆる陋劣手段を講じ、切崩しを行ふ、三十日間爭議の禁止をする、さうして其の間に資本家側は決してぢつとして居ない、凡ゆる陋劣な手段を以てそれに對抗して來る、之に對して勞働組合側に何等の保障も與へられて居ない、是れ程片手落ちなことはないと私は考へるのであります、故に三十日間の禁止は取りも直さず、是は勞働爭議を禁止するに等しい結果を持ち來さざるを得ないと言つて差支へないと思ひます、又官公使の爭議に關しましては、其の職責の性質上より見て、特に行政司法等の國務に重大な支障を及ぼすべき危險は必ずしも絶無ではないと我々も亦考へます、併し官公使の上層にある少數の支配的官僚は別と致しまして、單に事務に從事する最多數の下級官公使が勞働者に比して、寧ろ劣つた生活條件の下にありまして、而も豫算、給與令等の關係に拘束せられまして、容易に給與の値上げの要求も實現されない不利な事情にあることは申すまでもないのであります、我々は官公使の爭議を認容すれば、官僚的の支配の復活を齎らし官僚が其の爭議を反政府的の倒閣運動に利用するの危險を胚胎すると云ふ一部論者の意見に對しましては斷乎として反對するものであります、勞働組合運動の發展が官僚組織の中に勤勞階級意識「プロレタリア」の意識を注入して、下級官公使の「プロレタリア」的自覺を促進することは、第一次世界大戰後の「イギリス」や「ドイツ」に顯著に現はれた所であります、日本に於ても官公使の勞働組合運動の發展は、反動的な支配的な官僚が制壓する官界を民主化する上に絶對に必要であり、隨て現に官公使の間に發展しつつある勞働組合運動こそ論者の憂ふるが如き反政府運動などに官使の勞働組合を利用するとか、さう云ふ運動に行く虞れがあると憂へる如き上層の支配的官僚が、倒閣運動に爭議を利用する危險に對して、却て下級官使大衆の批判と抑制との保證を提供するものであると我々は考へるのであります、官公使の爭議が反政府的行動に利用せられる危惧と反對とは、唯それが反動的な意圖に依つて行はれた場合に對してのみの理由があります、一般勞働組合にせよ、官公使の組合にせよ、彼らの政治的、經濟的行動の自由が政府を援助する支柱となるか、又一部の憂ふるが如く、政府の生命取りになるかと云ふことは、一に懸つて政府が彼等勤勞官公使の生活の安定と、民主主義的自由の爲に如何に有效適切なる熱意と手段とを講ずるか否かに依つて決定されるのであると我々は考へるものであります、我々が本法の根底に於て看取する所は、即ち實に勞働階級及び一般勤勞大衆に對する政府の不信猜疑である、我々は勿論現下の情勢下に於きまして、濫りに爭議の勃發することに對して憂慮を禁じ得ざるものであることは固よりであります、併しながら勞働者が好んで爭議に出るが如く想像する程誤つた考へはないのであります、爭議は勞働者に取つては、賃金の喪失、失業の危惧、生活の窮迫をば意味しそれに對する絶對絶命の手段であります、而も其の辛苦と犧牲とを忍んで、尚且つ爭議に訴へなければならない所以は、政府も資本家も理屈に依つては説得することが出來ないと云ふ、此の嚴然たる事實に因るものであります、同じ問題に對して連日數回に亘つて討議を致しましても、自由黨、進歩黨の諸君と我々とは全くそれに依つて得る所が違つて居る、理屈に依つては全然解決しない場合があると云ふことは、此の委員會に於ける一事を見ましても明かであります、多年の壓迫から突如として解放され而も未曾有の政治的、經濟的、社會的混亂の中に投ぜられた勞働者が、其の生活上の苦境をば打破らんとする行動の上に多少の行過ぎがあつたと致しましても、是は組織運動其のものの發達と育成の過程に於て自然に更正される問題であります、然るに單に一、二の多少の行過ぎがあつたとか、或は失敗があつたと云ふやうなことを以て、此の根本的な施策を後に致しまして、唯法律を以て行動の自由を束縛せんとするが如きは、所謂角を矯めて牛を殺さんとする類であると言はざるを得ぬのであります、而して其の根本原因は勞働者は無知豪味であり、貧慾で徒らに爭議を弄び或は一部少數の指導者が大衆の意思に關係なく、任意に爭議を捲起すことが出來ると云ふやうな、實に馬迦げた政府の獨斷迷妄に外ならぬのでありまして、勞働爭議の禁壓法が存することと、勞働爭議がなくなることとは別箇の問題であります、爭議の原因を除くことに努め、勞働組合の自由と權利とを保護し、政府が心から勞働階級を信頼して、民主主義日本建設の爲に其の全幅的な協力を求めることこそ、現下の情勢に應じたる勞働政策でなければならぬと我々は確信するものであります
今日全國の勞働階級は實に猛烈に本法案に反對を致して居ります、數萬の勞働者が議會の周圍にでも行進を行ひ、此の炎熱下に而も街路に何萬の勞働者が空腹を抱へてでも行進を行ふと云ふことは決して生優しいお道樂で出來る運動ではないのであります、又議會開會以來連日の如く全國の勞働者の大會が開かれまして、本法案に反對をし、多くの代表は續々と上京して我々に反對の陳情を致して居ることは、是れ亦政府當局を初め自由黨の諸君も進歩黨の諸君も十分に御存じになつて居る所であります、本法案に對して彼等勞働階級が全面的に反對して居ることは、取りも直さず現内閣の資本家的性格と資本主義的施政とに對する勞働階級の不信任を表現するものであります、民主主義日本再建の基礎たるべき産業の復興、生産の再建は勞働階級の全幅的な協力を得るにあらざれば絶對に不可能であります、而して勞働階級は祖國日本の救濟の爲めに、産業復興の熱意を傾注披瀝して居るにも拘らず、政府が勞働階級の全面的反對を押切つて本法を強行せんとするならば、其の勞働者に及ぼすべき心理的影響は實に重大であると言はなければなりませぬ、燃え上がる彼等の日本再建への熱情を挫折紛碎するに至るであらうと我々は憂へざるを得ぬのであります
本法案の目的と致しまして「勞働爭議を豫防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて經濟の興隆に寄與する」云々と謳はれて居るのでありまするが、若し此の勞働階級の猛烈な反對を押切つて此の法案が遮二無二通過致しまするならば、却て此の目的に相反した結果を惹起し、産業平和の維持とは凡そ反對なる社會不安を我々は憂慮せざるを得ぬのでありまして、斯樣な立場から我が日本社會黨は本法案に對しまして絶對に反對をする次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=7
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008・逢澤寛
○逢澤委員長 東隆君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=8
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009・東隆
○東委員 協同民主黨は本法案を、次に提出されると御約束になつて居ります勞働基礎法と一緒に審議をせられることが宜いのではないか、斯う云ふ考へであります、隨て是が認められませぬ以上は反對になる譯であります、そこで理由を申上げます、第一番目の理由は、本法の中で規定をされて居ります所の公益事業の再建と官公吏の爭議權の禁止、此のことを除きますと、本法は勞働組合法或は次に生まるべき勞働基礎法の施行規則、さう云ふものに依つて當然出來上るのではないかと考へる譯であります、さう云ふ觀點から考へ、公益事業と云ふ點に付て考へます時に、私益事業と云ふものが公益事業の中に入つて居る、是は公平な立場から言つて公益事業の名に隱れて、私益事業に於ける勞働者の爭議權が抑壓されて居る、斯う云ふ部面が非常にあるので、此の點に付て私は反對であります
其の次に官公吏が本法の成立を中心にして動搖して居ると云ふことは現實の問題でありまして、之を否定することは出來ないのであります、隨て斯う云ふやうなものを今早急に出すことに依つて反對を起す、さう云ふやうなことは執らない方が宜いと云ふ意見であります
其の次に官吏が爭議を起さない、斯う云ふことを政府の方で言はれて居りますが、若しさう云ふ確信がありまするならば、空文のやうなものを存置する必要がないと考へます、同時に私は斯う云ふ法律を出す以前にもう少し先に出さるべきもの或は打つべきものがあらうと思ふ譯であります、今問題になつて居る爭議の中心は生活問題であります、隨て之を解決する爲には私は形式的な待遇の改善、さう云ふやうなものに依つてはどうしても解決は付かないと思ふ、實質的な生活の改善となりますと、私はどうしても形式的な賃金ではなくて、實質的な賃金に行かなけれぢならぬと思ふ、それを最も旨くやつて行くのは協同組合であると思ふのであります、隨て勞働調整法を出す前に少くとも協同組合、さう云ふやうなものに付て是がどうしても先行をしなければならぬ、斯う云ふ確信を持つ者であります
次に私はさう云ふやうな協同組合を通して勞働階級の消費面に於ける所の教養、協同組合に依つて教養を高めて行く、斯う云ふやうな方途が講ぜられなければならぬ、斯う云ふ點であります、併せて此の法案を出す前に勞働者に關係を持つて居りまする所の保險或は共濟關係の事業を全面的に推進める、斯う云ふことを前提條件に置いて私は先程のやうに勞働の基礎法を中心にして、今回の問題を併せて審議をするが宜いと思ふ、斯う云ふ風に考へるのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=9
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010・逢澤寛
○逢澤委員長 次に野本品吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=10
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011・野本品吉
○野本委員 新政會を代表致しまして、本案に對しまして遺憾ながら反對の意を表せざるを得ないのであります、言ふまでもなく政治の要諦は國民をして政府を信頼せしむるにあるのであります、併し國民をして政府を信頼せしむる爲には先づ政府が國民を信頼しなければならぬと云ふことであります、政府が國民を信頼する所、そこには國民の強き責任感が起きまして自奮自勵國家の繁榮、産業の興隆に協力する態勢と機運とを釀成することは當然であります、之に反する態度に出ました時に國民は退嬰的となり消極的となり、一歩過ぎれば反抗的態度に出ることは是は亦言ふを俟たないのであります、斯樣な觀點から本法案を見ます時に此の法案が全國の勤勞者に、果して政府が我々を信頼して我々の責任と我々の自覺に如何に期待して居るかと云ふ風に考へさせたか或は自主的な自立的な努力に依つて日本を再建しようとする意欲に「ブレーキ」を掛けるものであると感じさせたでありませうか、私は遺憾ながら全國の勤勞大衆は少くとも彼等の盛上つて來る勤勞意欲に「ブレーキ」を掛けるものとしての印象を受けたと思ふのであります
次に勞働組合が公に認められまして全國に幾多の勞働組合が發生しましたが、此の組合が誕生して未だ半年にならないのであります、此の半年の期間に先程も御意見があつたやうでありますが、多少の行過ぎがあり、遺憾な點がないでもないと思ひますけれども、一部の者の考へを以て、所謂一斑を以て全豹を律すると云ふやうなものの考へ方は、少くも日本の勞働運動を正常に健全に育成する指導的立場にあるものの考へとしては私共は贊成し得ないのであります、是は恰も子供が少しいたづらをしたと云ふので其の子供の逞しき教育を若芽の中に弱體化しようとする結果さへも惧れられるのであります
次に此の法案が少數者の企畫及び支配に依つて對立的な生活の中に追込まれて居つた勞働者を、自主的に自律的に自らの努力に依つて運命を開拓し、國運の繁榮に寄與しようとする氣持を抑へた、即ち勞働者を解放して、彼等の全能力を日本の爲に貢獻させようとする勞働組合法の制定せられた當時の考へ方及びあの精神と完全に一致するものであるかどうかと云ふ點に疑ひを持つものであります、次に官公吏の爭議禁止の問題に付きましては、先程屡屡御話がありましたから私は諄くは申しませぬが、第一に申しましたやうに、國民を信頼することに依つて善き政治が行はれると云ふ立場から申しますならば、官公吏は政府に取りましては可愛い子であり弟妹であります、此の子女弟妹の運動に對して餘り「ブレーキ」を掛ける如きことは是亦贊成し得ないのであります、事實我々の直接曾ひました官公吏の人達は、我々は決して我々の運動を爭議權として行はうとするのではない、正當防衞權として行ひたいのである、現實に迫つて居る此の生活の不安をどうして解決するか、生活を擁護し、其の不安を除去することは我々に與へられたる正當防衞權として考へる、斯う言うて居る者が多いのであります、私は爭議權の起因と云ふよりは寧ろ此の正當なる生活を擁護し、生活を防衞して行く要求を多少でも抑へるが如きことは我々の斷じて執らない所であります
更に私は想ひ起すことがあります、それは一般的に考へまして、法律を濫發致しまして、國民の自由な溌刺たる活動を拘束することは、今までの日本の政治の一つの宿弊ではなかつたかと私は考へます、私は曾て滿州國に於きまして次の如きことを耳に致しました、滿州國に三つの匪賊があつた、其の一つの匪賊は兵匪である、是は兵隊上りの匪賊である、一つの匪賊は士匪である、是は地方の無頼漢の集まつたものである、もう一つの匪賊は法匪であります、法匪即ち法律の匪賊であります、此の法匪と云ふ名前はいつから生れたか、是は日系官吏が餘りにも法律法律と失繼早に之を作つて、民衆の自由溌刺な思想行動を抑へんとしたことに對する反溌であります、私は以上のやうな點から考へまして、尚ほ時間が許しますならば色々申上げたいのでありますが、重複する點もありますので、以上を申上げまして反對の意を明かに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=11
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012・逢澤寛
○逢澤委員長 細迫兼光君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=12
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013・細迫兼光
○細迫委員 無所屬倶樂部を代表して反對の意見を申述べます、大體本案に反對の趣旨は、既に社會黨の鈴木君から屡屡述べられましたので、多くを加へる必要はないのでありますが、少しく補足を致したいと思ひます、色々な反對理由もありませうが、要するに其の根底、其の中心的なるものは、官公吏の罷業禁止、公益事業の罷業の制限、茲に集中せられるものだと思ふのであります、今や俸給生活者は急激なる沒落過程を迎つて居ります、官公吏と雖も此の列外にあるものではないのであります、然るに此の官公吏から全然罷業權を剥奪しようとするものである、又資本家の收益利得は公認して而して公益事業に携つて居ります勞働者の攻撃方法を禁止しよう、制限しようとするものでありまして、少くとも公平でない、謂はば不當と見なければならぬものであつて、其の根底は民主的の精神に反する、之を禁止し或は制限しようとする御心配は無暗に爭議を起されてはいけない、斯う云ふ所にあるやうであります、併しながら先に鈴木君が申されたやうに爭議は決して生易しく起されるものではないのであります、其の間賃金を貰ふことも禁止され、貰はなくては自分の生活も苦しくなる或は其の間切崩しがあつて組合は分裂すると云ふ危險もある、色々な危險を冒して巳むに巳まれず爭議と云ふものは起るものである、或は一部の煽動家に依つて起されると云ふことも反對せんが爲に反對する論として言はれるのでありますが、決して左樣なものではない、是は水の中に三百「キロ」の燒痍彈を落してもそこに火は移らないのでありますが「ガソリン」の傍で「マッチ」一本擦つても、「ガソリン」に燃え付くのであります、爭議が勃發するかしないかは煽動家があるかないかの問題でなくて、そこに爭議が勃發するかどうかと云ふ本質があるかないかに依るのであります、水に幾ら、「マッチ」を擦り付けたつて燃上るものではないのである、さう云ふやうな巳むに巳まれざる最後の方法として起る此の爭議に對して、無理に法律で決めなくても、勞働者は決して無暗矢鱈にやるものではない、而も官公吏或は公益事業に於ける關係者の如きは國民大衆とは利害關係が非常に多いのであります、爭議に勝たうと思へば國民大衆の支持がなくては出來ない、是は勞働者の健全なる判斷官公吏の人格、常識、責任觀に信頼して宜しい、それで爭議をやつたならば決して國民の支持は受けられない、國民に迷惑を掛けると云ふやうな場合には、爭議は勝利の見込なしとしてやらないのである、そこに賢明なる判斷が行はれると、矢鱈に起るものではないのである、大いに是は勞働者の、或は官公吏の人格を尊重し、其の判斷と常識、責任觀に任せて宜しい問題であると思ふのであります、是で反對の根本理由は述べましたが、進んで之に贊成なさる議論に多少の批判を加へて贊成することの不當であることを申述べ、反對論の一層の強化を致したいと思ふのでありまするが、附帶決議と云ふやうなものは大した力のあるものでないことは從來の事實に依つて明かであります(「ノーノー」「從來の政府と性質が違ふ」「政黨政治ではない」と呼ぶ者あり)尚ほ自由黨の方の御言葉の中に、世界平和を主張しなければならぬ此の際に國内で爭ふと云ふ如きことはいけないと云ふ御趣旨の所があつたのでありますが、此の言葉は私は突詰めて行きますならば、勞働組合はない方が宜いのだ、斯う云ふことになるのであります、そこに勞働組合は何の爲に出來た、勞働者の生活擁護の爲には勞働爭議も場合に依つてはやると云ふ爲にあるのであります、それがなければ勞働組合はない方が宜い爭ひをしない方が宜いと言ふなら、勞働組合はない方が宜い、何の爲に勞働組合を認めるのか、結局其の思想は、國民的立場、或は國民的な政黨、斯う云つた言葉を言はれまするけれども、併しながらやはり是は客觀的に見ますれば資本家の利益を擁護する立場であると思ふのであります(拍手)斯う斷ぜざるを得ない、それは勞働組合と云ふものがない方が宜しいと云ふことは、新しい衣を着て、新しい洋服を着て現はれましても、本質に於ては結局勞働組合はない方が宜しいと云ふ所の東條首相の其の思想の裏返しである、東條さんも勞働組合はない方が宜しいと云つて是の抹殺に努めたのであります
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=13
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014・逢澤寛
○逢澤委員長 靜肅に願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=14
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015・細迫兼光
○細迫委員 其のことの本質はそこにある、大體其の人達が主觀的にどう考へて居るかと云ふことから決まるのではなく、客觀的にどうであるかと云ふことに依つて決まる、私は自由黨或は進歩黨の人に知合があつて、非常に公正な御考への方があることを能く知つて居るのであります、併しながら其の主觀的なものに依つては決まらない、東條さんも忠誠の途を行くと云ふやうな御考へであつた、さう云ふ個人的な主觀的なことに依つてことは決まらない、それが具體的にどう云ふ效果を齎すかと云ふことに依つてこそ決まるのである発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=15
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016・逢澤寛
○逢澤委員長 細迫さんに一寸注意致します、もう少し大聲に言はなければ速記が取れないと言つて居りますが……
〔發言する者多し〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=16
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017・逢澤寛
○逢澤委員長 靜かに願ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=17
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018・細迫兼光
○細迫委員 もう五分ばかりで止める積りであります、今日は何より彼より民主的な體制を一日も早く確立すると云ふことが一番の大切なことであるのであります、比の根本は言はずと知れたやうに、人權の基本的な尊重である、基本的な人權を尊重すると云ふことでありまして、勞働權の擁護、勞働爭議權の擁護と云ふことは、是は基本的な人權と密接不離なものであるのであります、之を尊重せずして何の民主主義體制の確立ありやと言はざるを得ないのであります、斯くの如くに勞働者の勞働爭議權と云ふものを否認し、或は制限しようとするが如きことは、之を若し我が議會が通過せしめるとしましたならば、是は世界に向つて我が議會が民主制度なるものは如何なるものであるか、民主主義と云ふものの精神が何處にあるかと云ふことを知らないものだと云ふことを告白するに過ぎないものであると思ふのであります、此の意味に於きまして、私は我が衆議院の權威の爲に此の原案は否決し去るべきものであると確信する次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=18
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019・逢澤寛
○逢澤委員長 討論は是にて終局致しました、是より採決を致すのでありますが、そちらの方に記者諸君が席に居られるやうでありますから、委員外の方の退席を一つ御願ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=19
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020・松岡駒吉
○松岡(駒)委員 委員長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=20
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021・逢澤寛
○逢澤委員長 あなたの御話がありますが、是は大臣の場合もありますから、一寸後に廻して戴きたい、只今は討論に入つて居りますから、あとにして下さい、それでは原案に贊成の諸君の御起立を御願ひ致します
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=21
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022・逢澤寛
○逢澤委員長 起立多數、仍て本案は原案の通りに確定致しました(拍手)
次に江崎君より提出致されました自由、進歩兩黨の附帶決議案に付て採決致します、此の附帶決議案に贊成の諸君は起立を御願ひ致します
〔贊成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=22
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023・逢澤寛
○逢澤委員長 起立多數、仍て本案附帶條項は決定致しました
此の際政府より發言の通告があります、之を許します──河合厚生大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=23
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024・河合良成
○河合國務大臣 國民全般の公益擁護と日本再建に資することを主たる目的と致して居ります本勞働關係調整法案が、本委員會に於て多數を以て決議せられたことを厚く感謝する次第であります、尚ほ附帶事項に付きましては、本法が二院通過の曉は政府に於て誠意を以て之を實行することを茲に言明する次第であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=24
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025・逢澤寛
○逢澤委員長 此の際委員諸君に一寸御諮り致します、只今松岡君から討論中の質疑に對して一身上の辯明をしたいと云ふ御話があります、併し委員長は前例のないことでありますから許せないと思ふのでありますが、併し特にさう云ふやうな申出がありましたので、如何致しませうか
〔「許す必要なし」「許すべきだ」其の他發言多し〕
〔松岡委員「私のは江崎君の發言中間違つた發言があつたから、それを訂正したいと思ふのであります」と呼ぶ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=25
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026・逢澤寛
○逢澤委員長 それでは一寸委員長の皆さんに對する御挨拶を申上げます、本案は非常に重大な法案でありまして、院の内外に大きな關心を拂はれて居りました問題であります、隨ひまして委員諸君は各黨各派に亙りまして、連日に亙りまして、最も御熱心に本案に對する御審議をなすつて下さつたことは、委員長と致しまして、洵に感謝に堪へない所であります、又政府の各位も本案の重大性を確認せられまして、親切丁寧に事に處して戴きましたことに對しまして厚く御禮を申上げます、之を以て本日は散會致します
午後零時三十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009013756X01119460816&spkNum=26
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