1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○皇室典範案
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昭和二十一年十二月十七日(火曜日)
午後一時十五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=0
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001・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) それでは只今から本委員會を開會致します國務大臣金森君の御説明を伺ふことに致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=1
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002・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 本日總理大臣が出て御説明申上げる豫定を致して居りましたが、已むを得ざる事情がございまして、僭越でありまするが、私よりして本委員會に付託されました皇室典範につき大略の御説明を申上げたいと存じて居ります、曩に公布せられました改正憲法の第二條及び第五條に依りますと、皇位繼承のこと及び攝政のことは皇室典範を以て定めることが、豫定せられてあつた譯であります、そこで本案は此の皇位繼承と攝政とに關しまする事柄を中心と致しまして、此の二つのことに密接な關係を持つて居りまする若干の事項を併せて規定した譯であります、其の若干の事項と申しまするのは、皇族の事柄、それから皇族の成年に關する事柄、敬稱、即位の禮、大喪の禮、皇統譜、陵墓及び皇室會議に關する事項を指すのであります、左樣でありまするが故に、現在の皇室典範の中に規定してありまする事柄の中に於きまして、皇室の御一家に規則とも考へるべき部分及び一般の法令に任すことが適當と考へられまする部分は之を取除きまして、殘る部分を法律たる今囘の皇室典範の案に盛込んだ譯であります、其の結果と致しまして、現在の皇室典範の中にありまする色々な規定の中の皇族の監督及び懲戒、太傳の規定、改元、皇族の訴訟等に關しまするものは除くこととなつた譯であります、次に此の皇室典範の中の條章の問題でありまするが、先づ章を分けまするのにどう云ふやうにするかと申しますると、規定事項の内容を本に致しまして之を定めたのでありまして、先づ第一章に於きましては、憲法に基く主眼目でありまする所の皇位繼承の規定を設けました、次に主として皇位繼承資格者の範圍に關する規定と致しまして、第二章に皇族の章を設けました、次に本案の第二眼目とも謂ふべき攝政に付きまして第三章を設け、其の次の第四章に於きましては、此の皇位繼承と攝政と云ふ兩眼目を中心としつつ、是と密接な關係にありまする所の成年、敬稱、即位の禮、大喪の禮、皇統譜及び陵墓に關する規定を設けました、最後に、以上申上げました諸般の規定の運用の上に必要でありまする所の皇室會議の規定を設くる必要がありまするので、第五章に相當詳細なる規定を設けた譯であります、そこで今申しました章に從ひまして、内容の重點を御説明申上げたいと存じまするが、第一章の皇位繼承と云ふ部分に付きましては、中身に盛込まれてありまする所は、大體現行制度と同じやうである譯であります、唯皇位繼承されまする資格者は、今後は嫡男系嫡出に限定することに致したのであります、又現在の典範に於きましては、皇位繼承の順序の變更は皇族會議と樞密顧問に諮詢することになつて居るのでありまするけれども、本案に於きましては皇室會議と云ふ一つの會議の議に依ることになつて居る譯であります、それから第二章の皇族の章に於きましては、只今申しましたやうに其の範圍を嫡男系嫡出に限つたこと、それから親王及び内親王の範圍を縮小致しまして、大寶令の規定とも違ひ又現行の規定とも異つては居りまするが、三世以下は男を王、女を女王と致しましたこと、それから臣籍降下に關しまする規定を改正憲法の趣旨に照しまして更に一層合理的にしたことが現制と異る所である譯であります、それから第三章攝政の部分に付きましては、實際に於きましては現制と殆ど差がないと申上げて宜いのでありまするが、唯僅かに配偶者のある皇族女子にも攝政就任資格を認めましたことと、それから攝政の廢止の場合の規定、それから攝政訴追の制限のことは、現在は攝政令中に規定があるのでありまするが、それを此の部分に移したと云つて宜からうと存じます、それから第四には、種々なる事項を併せて規定を致したのでありまして、即位の禮と云ふものに對應して大喪の禮を規定し、又陵墓に關する規定を茲に設けて居る等の内容であります、次に第五章の皇室會議のことでありまするが、先づ皇室會議の組織に付きまして、色々な方面を考慮して皇族竝に立法、行政及び司法の各分野から人を集めまして、十人の議員で之を組織することとし、議長には内閣總理大臣たる議員がなることに致しまするし、又之に豫備の議員を置くと云ふ風の規定を致しまして、運營に付き一貫して居る原則を定めたのであります、更に稍稍注目すべき規定と致しましては、皇室會議は此の法律及び他の法律に基く權限のみを行ふ旨を規定して居るのでありまして、之を他面から言へば、法律に依らざる權限を個々の命令等に依つて變へることの出來ないやうになつて居る譯であります、それから最後に附則の點でありまするが、是は固より當然のことではありまするけれども、此の法律が日本國憲法と同時に施行せらるべきことと云ふことと、それから現在の皇族及び陵墓は今囘の法律の制定に拘らず從來の地位を保つことと云ふ風に規定して居る譯であります、以上申しました諸點は、曩に内閣に設けられました所の臨時法制調査會に於きまして審議答申せられました要綱を基本と致しまして、輕微なる相違點はありまするけれども、概ね其の内容に從つて立案致した譯であります、要するに眼目と致しまして改正憲法の精神を具體化させ、而も他の一面に於きまして、皇室の尊嚴を維持し、其の由緒深き傳統を活かすことに最善の注意を廻らした譯でございます、どうぞ御審議を御願致したいと考へます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=2
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003・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 只今より暫く懇談に入りたいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=3
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004・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 御異議ないものと認めます、速記を止めて
午前一時二十五分懇談會に移る
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午後二時三十五分懇談會を終る発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=4
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005・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 懇談が終りましたので、是から委員會に入ります、通告順に依りまして質疑を願ひます、渡部信君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=5
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006・渡部信
○渡部信君 私は先づ總論的の事柄、或は又直接に此の案の中に關係のある條文が見えないやうな事柄に付きまして、數點御伺ひ致したいと思ふのでございます、其の第一は現在の皇室典範、是は憲法施行の日にどうなるかと云ふことに付きましては、昨日の本會議に於きましても、先刻の懇談會でも、金森大臣は、それは改正憲法の施行せられる其の瞬間に無くなるやうな手續が執られるであらうと云ふ風な御説明があつたのでありますが、此の點は私は少し疑問を持つのであります、從來の皇室典範は議會の議も經て居りませぬし、又皇室の家法と云ふやうな意味で、皇室典範と云ふ特別の形式を以て制定せられて居りまして、明治二十二年の皇室典範は公布もされて居らないことは御承知の通りであります、然るに新しい典範は、改正されました憲法に依つて國會の議決を要すると云ふことになつて、形式も今度は法律案になつて居りまするから、前後の皇室典範が直接に法規上の連絡を明かにすると云ふことは、是はもうむづかしいと云ふことは分りますので、憲法のやうに改正の形を採ることはむづかしいことは分るのでありまするが、唯現在の皇室典範六十二條には、將來此の典範を改正し、或は増補する必要がある時には、皇族會議及樞密顧問に諮詢して勅定すると云ふことが書いてあります、公式令にも皇室典範のことはありますが、改正のことだけしかないのでありまして、さう云ふことから見ますと、何か皇室典範は法理上其の儘效力を失はしめることが出來ないと云ふやうに思はれるのであります、其の結果若し皇室典範を廢止するとか、效力をなくすると云ふやうなことになつても、其の廢止は無效だと云ふやうな議論が立つのではないでせうか、若しさうなると、今日の此の典範の案が出來ましても、二つの、新舊兩典範が兩立すると云ふことになつては困るのでありますが、さう云ふ心配はないでありませうか、而も兩方形が違ひますので、前法が後法を廢止すると云ふやうな理論もちよつと適用が出來ないやうに思ひます、改正憲法九十八條には此の憲法に反する規定は無效だと云ふやうな規定もありますけれども、どうも其の中に皇室典範が入るやうにもちよつと見えにくいやうに見えます、其の點をちよつと伺ひたい、それで最高裁判所で色々法規の有效無效を決定する權限があるやうでありますが、此の憲法の八十一條を見ましても、どうも此の皇室典範はそれにも入つて居るやうに見えませぬので、此の點に付きまして、先づ法理論をちよつと御伺ひ致したいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=6
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007・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 皇室典範と憲法との關係と云ふものは、現在の法律の中に於きましても色々な學説上の疑問がある譯であります、併し今囘の改正憲法の下に於きましては、そこに根本的なる考の差が現れて居りまして、所謂國法一元化と申しまするか、憲法を以て成文法中の最高のものとして、其の外には是と對立するものを認めないと云ふ原理が含まれて居るものと思ふ譯であります、併し何處にさう云ふ證據があるかと云ふことになりますると、條文解釋の上から行きますれば、多少のそこに論議の存する餘地があり得るのでありまするけれども、併し是は斯樣な非常な大改正の道行きとして、國法一元化は之に依つて行はれて居るものと考へて居ります、其の顯著なる目印は改正憲法の第二條及び第五條に於きまして、皇室典範は國の法律である、國會の議決を經ると云ふことを決めて、さうして斯樣な皇室典範の中には皇位繼承及び攝政のことを規定してある、斯う書かれて居ることに依つて明かであると存じまするし、又國民平等の原則が示され、さうして其の國民の中には天皇も含まれて居ると云ふことは、憲法改正の場合に述べました所の説明でありまして、其の説明が是認せらるる限り茲に變化があつたものと思ふ譯であります、併し現實の手續の上に於きましては、現在の皇室典範を其の儘殘して置いて、さうして新なる法律、皇室典範を定めますると云ふと、是は多分二重の國法が殘ることになりまして、前の皇室典範が其の儘なくなる理窟はありませぬ、從つて二重の法律が出來まして、此の二重の法律が前法、後法とか、一般法、特別法とか云ふ原理に依つて、どれが殘つて居る活きた法かどうか、斯う云ふことを決めてかからねばならぬことになるだらうと存じて居ります、併しそれは甚だ煩雜なる道行きでありまするが故に、現在の皇室典範系統の法制は自發的に之を止めて戴いて、さうして其所が空白になつた時に、此の憲法に基いての皇室典範が現れて來ると云ふ道行きを執る方が、解釋上の煩雜を避けると云ふ意味に於てなだらかである、斯う云ふ風に考へて、今囘の皇室典範は改正法ではなくて新に制定するものとして提出を致した譯であります、さうなりますると問題になりますのは、現行の皇室典範は先程仰せになりましたやうに改訂と増補との二つの場合を豫想して居るのであります、廢止する場合を豫想して居ない、茲に一つの問題が起ると云ふ御趣旨でありまして、確に其の問題は起るのであります、詳しい事情は存じませぬけれども、非常に大事と思ひ、容易に渝ることなき法と考へまする場合には、それを一種の恆久法として取扱ひ、渝らざるものとする考へ方は人間世界にあり勝ちなものと存じて居ります、例へば大寶令の如きものは是は多分渝らざる掟として定められたのでありまして、永い間に一遍も改正はなかつたのであります、併し後から色々な法が補はれると云ふ道順を持つて來て居るのでありますけれども、今日大寶令が現實に行はれて居るとは實は考へられないのでありまして、當初廢止せざる法として意圖して規定せられましても、冷やかなる法律の動き方に依りましては、それが廢止せられることはあり得ると思ふのであります、そこで此の皇室典範も亦皇室に於て御廢止になることは可能であると考ふるのでありますが、今申しましたやうに其の手續は改正と増補とのみ豫想せられて廢止の規定はないのであります、之を如何にして行つたならば宜いかと云ふ問題が起るのでありまして、是は運用上の一つの解釋問題を生み出して居ると存じます、此の點は宮内省の方が主として管理せられて居る問題でありまするが故に、私からして今此の際的確に其の方法を申上げることは困難でありまするけれども、一つの方法と致しましては、極く理論的に申しますれば、廢止の手續に關する規定を皇室典範に現在の儘規定してあると云ふのが一つの行き道であらうと思ひます、第二の行き道と致しましては、解釋に依りまして典範を改正増補する其の手續として皇室典範を廢止することも出來るのではなからうか、改正或は増補と云ふことを極度に延長して行きますれば、結局廢止と云ふ理論的なる部面に到達致しまするが故に、其のやうな解釋も生れるものではないかと思つて居りますけれども、現實の結論は今日まだ政府の側に於きましては確定は致して居りませぬ、宮内省の考に委せて居ると存じて居ります、何れに致しましても、其の所定の手續を執つて廢止を願ふと云ふことに宮内關係では豫定を致して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=7
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008・渡部信
○渡部信君 只今の御話はよく了解致しましたが、私は其の點に付ての疑問がまだ殘るやうに思ひますので、今後よく御研究を願つて置きたいと思ひます、次の問題を一つ御伺ひ致します、昨日本會義で佐々木さんから、現在の皇室典範の今申上げた六十二條に、典範の改正増補は皇族會議に諮詢するとあるが、此の度の皇室典範の案を皇族會議に諮詢したかと云ふ御質問がありまして、それに對して、現在の皇室典範と此の度の典範とは形式も效力も全く別である、本案は改正憲法に基く皇室典範であるから、皇族會議に諮詢せらるべきものぢやないと云ふ意味の御答辯を幣原國務大臣、金森國務大臣から承つたのでありますが、私は此の點に付て又御伺ひしたいのです、此の典範の案は改正憲法に基くものでありますから、それは現在の皇室典範の六十二條に定める手續を要しないと云ふことは、それは勿論であらうと思ひます、併しながら改正憲法に依れば樞密院は廳止せられるにも拘らず、此の度の案は樞密顧問にも御諮詢になつたやうに新聞でちよつと見えて居りますし、それが事實と致しますれば、此の度の案は改正憲法の趣旨のみでやつたものでもないやうに思ひますが、樞密院の諮詢は別と致しましても、此の度の皇室典範は實質上、皇族の御身位、權利義務に重大な影響があることは勿論で、從來の皇室の制度を大幅に改正しようと云ふ案でありますから、此の實質的の方面から視てよく皇族方の御意見を承り十分皇族方の御理解を得ると云ふ爲に、皇族會議の議を經ると云ふことが妥當であらうと云ふ感がするのであります、此の案は法律の案でありまするが、前例はないかも知れませぬけれども、公式令を見ましても法律の案を皇族會議の議に付してはいけないと云ふ明文もないやうであります、それで改正憲法に依りますると、總て國民は個人として尊重せられる、自由も權利も十分に保障せられると云ふことになつて居るのであります、此の案のやうに一般の國民の利害には比較的に關係は薄いのでありますが、反對に皇室、皇族に對しては、極めて密接な重大な關係のある法律案でありまするから、斯う云ふ案を皇族會議に御諮詢になつてこそ、皇族を個人としても尊重し、又其の自由、權利を保障せらるる所以ではないかと思ひます、此の意味に於て此の典範の案を樞密顧問だけに御諮詢になつて、皇族會議に御諮詢がなかつたと云ふことは、此の現在の皇室典範には違反しないかも知れませぬけれども、民主主義を基調とした改正憲法の精神には合はないやうに思はれるのでありますが、其の點は如何でございますか、御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=8
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009・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御説の點は、一つの考へ方を推して行きますれば非常に理由のある御意見と存じて居ります、併し政府の立場と致しましては、皇室典範は憲法に基く所の法律案として提出するのである、即ち憲法附屬的のものとして考へて居りまするので、一般の憲法に關係する法律の扱ひ方に從つて處置をして行きまして、假令其のことが皇室に深き御關係があると致しましても、正式に皇族會議に御諮詢を願ふ所の途を講じなかつたのであります、詰り是が公の法葎の面と云ふ所に重點を置いた譯であります、併し現實の扱ひ方と致しましては、法制調査會を經由致しました外に、宮内省と密接なる連繋を取り事實に於きましては、其の筋を通して十分皇室側の御意見を伺ひ得て居ると信じ、又原案を茲に編込みまする上に於きましては、宮内省側の意見と完全に一致して居ると云ふ方法を以て結論を得て居りまするので、實質に於きましては、十分然るべき方面の意嚮を質して居ることにならうかと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=9
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010・渡部信
○渡部信君 實際上に宮内省と御連絡を御取りになつたと云ふことでありまするが、私は正式に樞密顧問に御諮詢になつたと云ふことでありますれば、矢張り皇族會議にも正式に御諮詢になつた方が宜くないかと思ひますが、それは意見になることでございますから一應打切りまして、同じ趣旨で此の典範の將來の改正に付てでありますが、是も國會に提出する前に、皇族が構成員に加はつて居られる皇室會議の議を矢張り經ることに規定せられる方が、宜しいのではないかと思ひますが、其の點を序でに伺つて置きます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=10
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011・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此の憲法の改正と云ふものが、從來の斯樣な面に對しまする考へ方に相當の變化を及ぼして居ると、斯樣に信じて居ります、どう云ふ所に變化を及ぼして居るかと言へば、皇族も亦國民の一員であると云ふ見地を取り、從つて皇室典範が今後共法律であるならば、一般の法律制定の手續に依るべきものであつて、皇族の方々は矢張り國會に代表せられるべき筋合のものと、斯樣な風の考を踏襲して居ります、故に制度に於きまして、皇族會議或は茲に豫想して居りまする皇室會議に意見を問ふと云ふ途は設けて居りませぬ、けれども現實の皇室典範を改正するやうな場面に於きましては、何等かの方法を以て、實質上皇室の方々の意見を能く採入れるやうにすることは勿論のことと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=11
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012・渡部信
○渡部信君 次に伺ひたいことは、現在の憲法七十四條に於きましては、皇室典範の改正は帝國議會の議を經るを要しないとありますが、改正の憲法では、皇室典範は國會の議を經ると云ふことに改められました、此の點を除きますと、新憲法の二條、五條に、皇位繼承、攝政のことは皇室典範に定めると規定してある條文は、現在の憲法の二條、十七條に皇位繼承と攝政のことは皇室典範に定めると書いてある條文に照應するやうに思はれるのでありまするが、現在の憲法に所謂皇室典範と云ふものは、憲法でもなく、法律でもなく、命令でもなく、何れにも屬しない、又どれとも違つた特別の形式の法規であると云ふことは、現實の事實でありますし、公式令から見ましてもさう云ふことは窺はれるのであります、それでは、此の度の新しい典範の形式はどう云ふ風にしたら宜いかと云ふ問題でありますが、改正憲法の二條に、「國會の議決した皇室典範」と斯うあります爲に、前議會以來、又昨日本會議に於ても、金森大臣から是は法律案の意味であると云ふ御説明があつて、現に此の案も法律の案になつて居りますが、私は此の點に付て疑問を抱くのであります、現在の憲法と改正憲法とを通じまして、帝國議會或は國會の議決を要する事項は色々あります、憲法なり緊急勅令なり、今度の憲法に依る條約や其の外豫算、決算、何れも帝國議會なり國會なりの議決を經ることになつて居りますが、議決を經ても憲法は憲法であり、勅令は勅令であり、議會の協贊を經たから條約が法律になつたりする譯ではないのであります、一面新憲法の條文の中に、「法律の定めるところとある所をよく讀んで見ますると、内閣法、國會法、裁判所構成法、會計檢査院法、參議院選擧法と置き換へても分ると思はれますのに、皆特に法律を以て定めると書いてあります、所が皇室典範だけは「法律の定めるところにより」と言ひませぬで、特に「國會の議決した皇室典範の定めるところ」と斯うあります、そこで改正憲法の解釋上の問題になるのですが、皇室典範は國會の議決は經るのでありまするけれども、それだから典範は法律で規定すべきものだと云ふ論が必ずしも當然に來ないやうに思はれる、現在の憲法以來の立法の沿革から見ましても、改正憲法に依つて國會の議決を經ることにはなりましたが、法律の形式に依らず、皇室典範と云ふ特別の形式の法規とすべきものぢやないかと云ふことを伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=12
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013・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御尋ねの點は、言葉だけから申しますると左樣な疑ひが起り得ると云ふことがある譯でありますが、併し典範と云ふ言葉は、謂はば法と云ふ意味に理解を致しますれば、皇室法、斯う云ふ風になる譯でありまして、皇室に關する法であつて、國會の議決を經ると云ふことになりますれば、恐らく性質上法律の一種である、と云ふ風に解釋されて然るべきもののやうに思つて居りまするし、憲法に關する諸般の説明の上に於きましても、大體其の趣旨を以て御説明を申上げて居つたと存じて居ります、さうして其の事の明白なる結果は、今の御示しになりました第七條に於きまして、「憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること」と云ふことの權能が書いてありまして、特に皇室典範を公布すると云ふことは書いてありませぬ、何れにしても常識上公布せらるべきものであるに拘らず、此處に特掲して居ないと云ふやうなこと、其の外他の條文に於きまして、此の憲法の條規に反する法律、命令等は效力を有しないと云ふやうな所を見ましても、結局特別なる形式が皇室典範に豫想せられて居る證據はございませぬ、即ち今申しましたのは、實質的に言つて皇室典範は法律であることが、第二條に依つて明かであります、而して他の部分に於きましては、形式的に法律以外の左樣な規定のあることを豫想して居ない、此の兩面から申しますれば、皇室典範は法律の一種であると云ふ風に了解して、解釋上一點の疑ひはないものと存じて居ります、偶偶茲に皇室典範と云ふ特別なる規定を設けましたのは、皇室の取扱ひ方に付きまして其の法規の文字を莊重にすると云ふ考に出て居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=13
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014・渡部信
○渡部信君 只今の御話でありまするが、憲法第二條に明かであると云はれるけれど、私は明かでないと思ふから御伺ひしたのでありますが、明かであると云ふ御見解で、典範としては公布の方にも入つて居らないと云はれる、それは私も氣が付いて居るのでありまするけれども、此の皇室典範は新しい憲法の上から言へば、公布せられる方が宜しいのでありませうけれども、その内容は多くは天皇、皇族の内部の關係を規定したものでありまして、從來の最も大切な明治二十二年の皇室典範も今尚公布せられて居らない位でありまして、絶對に公布せられなければならないと云ふ程でないやうにも解釋せられる餘地があるのではないか、是は斯うした方が宜いと云ふ斷定的な意味ではありませぬけれども、さう云ふやうにも取り得るのでありまして、さう云ふ考から申しますと、必ずしも御話のやうに明かではないと思ひますけれども、是以上は議論でありますから、御趣旨だけを伺ひまして、次のことを御伺ひしたいと思ひます、次に此の案には女帝を認めてないと云ふこと、又御退位の制度がないと云ふこと、是は昨日の本會議に於ても御質問がありまして、幣原、金森兩大臣の御説明も拜聽致しました、私も原則として其の御説明には極めて同感に存ずる次第であります、御退位などは弊害の多い場合も非常にあるのでありまして、又女帝の方も權宜の處置としては實例がありまするけれども、是も極めて例外的のものでありまするから、原則として御決めにならぬと云ふことは非常に結構ぢやないかと思ふのでありまするが、唯茲に胎中皇族を皇嗣として認めるかどうかと云ふ問題に關聯して、或特別な場合だけ女帝を御認めになり、又御退位の制度を認められたら、其の方が却て國民の總意にも適ふものぢやないかと思ふやうな場合があるやうに思はれまするので、一應御尋ね致して見たいと思ひます、是は第一に、今の胎中皇族を皇嗣として、即ち第一順位の皇位繼承者として御認めになるかどうかと云ふことに付て伺ひたいと思ふのでありますが、一般法制上、胎兒に付ては色々な關係に於て生れたものと看做して其の權利を保護して居ることは言ふ迄もないことでありますが、將來我が國の家督相續の制度と云ふものが廢せられるかも知れませぬ、假に家督相續の制度を廢せられると致しましても、遺産相續とか、不法行爲の損害賠償權と云ふやうな關係で、胎兒の權利は今後も或程度認められるのではないかと思はれます、現に皇室財産令に於きましても皇族の遺産相續に付ては、胎中皇族の權利を認める規定があるのでありますし、此の皇室典範の中でも、胎中皇族を生れたものと見て其の御身位を認めるやうな條文もあるやうに思はれます、併し胎中皇族と云ふものを皇嗣として認めるかどうかと云ふことに付ては、現在の皇室典範の解釋上、從來色々學者間にも肯定説と否定説と兩方あるやうでありますが、其の學説の當否は別と致しまして、胎中皇族の皇嗣たる地位及び其の權利を明文を以て認める方が宜くはないかと思はれる場合があるやうに思はれます、例へば天皇崩御の際に、先程御示しになりました表に見えますやうに、非常に血統の遠い何十親等も離れた皇族男子はおいでになりますけれども、天子樣の皇子は居られない、或は皇子は居られても内親王だけで、而かも皇后樣は御妊娠中だと云ふ場合を想像致しまして、其の場合には胎中皇子が崩御の一日前に御生れになつて、さうして親王でいらしたならば、其の方が皇位を繼承すると云ふことは最も望ましいと云ふことは疑ひないのであります、唯親王であるか内親王であるか、崩御前には分りません爲に、皇位は一日も空しうしてはいけないと云ふ譯で、遠い親等の皇族男子が御位に即くことになるのでありませうが、今申上げたやうな場合に限り特に胎中皇子の皇位に對する未必の權利即ちエベンチュアル・ライトを保護する爲、斯う云ふ場合に限つて、特別の權宜の制度として、一應攝政におなりになる資格を持つて居られる所の皇后或は皇子たる内親王、どちらかが女帝として御即位になる、さうして其の後皇子が御誕生になる譯でありますが、御誕生になりましたら、其の皇子が親王でも内親王でも、女帝は御退位になると云ふ制度を設けてお置きになる、さうして若し新しい皇子が親王でいらつしやつたならば其の方が御即位になる、それが一番宜いのであります、又若しお生れになつた方が内親王であれば、其の時初めて其の次の順位にある親等の遠い皇族男子が御即位になると云ふ風に、さう云ふ特別の場合に限り特別の制度を決めたらどうかと思はれる、斯う致しますれば、天皇崩御の後に空位は無論ない、さう云ふ空位の期間を存する憂はありませんし、それから極めて臨時の處置たる女帝でありますから、皇婿即ちプリンス・コンソートと云ふやうな問題もありますし、又男女平等を認めた改正憲法の趣旨にも近づいて來ることにもなります、又歴史に現はれた十代八方の女帝の場合と同樣に、女帝は何處迄も極く權宜の制度に止まつて、攝政のやうな臨時の制度になりますが、其の上に又例外的な女帝を介して、先帝の嫡出の男系の男子である方に皇位を傳へると云ふ機會もそこで逸せずに濟むのでありますから、憲法、皇室典範の大原則にも一致致します、其の上に、天皇を憧れの中心として仰ぐ八千萬國民の感情にも一致する譯ぢやないかと思はれますが、斯う云ふ風な特別な場合でも絶對に女帝を認めない、或は胎中皇族の皇嗣たる權利を認めないと云ふやうな御考でありまするかどうか、それを伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=14
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015・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 胎中皇子の皇位の繼承權を認めるかどうかと云ふことは、今御示しになりましたやうに、學者の間に議論のある所でありまして、現在の皇室典範の下に於きましても、斯樣な皇位繼承が認めらるると一つの意見、認められないと云ふ意見とあるやうに見受けられます、此の問題は學説的な系統を辿つて行きますると、色々な、どちらにも理由のあることのやうに察せられますけれども、此の皇室典範は此の點に付きましては特別の明文を設けずして、現在の皇室典範の執つて居る態度に從つたのであります、さうして此の解釋に於きまして、現在皇室典範に付きましても、大體基本的な解釋は、是は認定の問題でありますけれども……基本的な解釋と認められまする所に從つて、胎中皇子には皇位の繼承せられる場合なし、斯う云ふ風に解釋して居るのであります、其の事は結局其の解釋論は色々な所に引掛りがありまして、是非善惡を此の際申上げることは困難でありますけれども、天皇が御崩御になりますれば皇嗣が直ちに即位すると云ふ此の規定だけで申しましても、未だ胎中においでになる方が直ちに即位すると云ふ觀念は成立致しませぬ、極く平坦に文字を讀みます限り、胎中天皇と申上ぐべき方のあるやうに解釋することが無理であると存じて居るのであります、そこで何等か成文の規定を設けまして、胎中天皇に皇位の繼承が行はれるやうにすることはどうかと云ふ、立法上の問題になりまするけれども、是は結局價値判斷の問題でありまして、どの考が絶對的に正しいものであると云ふことは言ひ切れませぬが、其の利害得失に付きましては大體先程渡部さんが仰しやつたやうであつて、殘る問題はそれ等の利害得失を綜合させて見て、どちらに十分の最後の理由ありとするかと云ふことになるのでありまするし、之を物差で理由の大小を計ると云ふことも相當に困難であると存ぜられます、私共の認むる所に依りましては、皇位は國民の仰ぎ奉る所の國の象徴である、此の象徴は何時もまざまざとはつきりと何人の目にも映る所の姿を以て國の中心を成しておいでになる方が望ましいのである、として見れば、現實に御生れになつた方を以て皇位繼承者と致しまして、未だ御生れにならない方は然らずとすることが正しいのではないかと云ふのが根本の考であります、尚實行の面に於きまして、御生れになるのを待つて居ると云ふ姿に於て國の象徴を考へまする時には、色々な此の形式上の紛糾が起つて來るのであります、先程も既に仰せになりましたが、御生れになつたのが内親王であるか、親王であるかに依つて、場合に依つては新たに又皇位の別の系統に依る繼承が起つて來ると云ふやうなことになりまして、さう云ふやうな動搖を生じますることは決して好ましくないと云ふ風に考へる譯であります、尚其の他此の胎中皇子を認めますると、色々細かい點ではありますけれども紛雜が豫想せられ、それに依つて國民思想に面白くない影響のある場面を豫想し得るのであります、唯胎中皇子に繼承權ありとする唯一の強き理由は、之を認めるとすれば比較的眞直の系統を追つて皇位繼承が行はれるけれども、之を認めざる時に於きましては思ひもよらぬ遠い所に皇位の繼承が移つて行くと云ふ場合がある譯でありまして、是は確かに重大な問題であると考へて居ります、併し稀有の場合を豫想して其の若干の理由を確保致しますよりも、萬代不易の皇位に付きまして、國民の關心も、秩序の紊亂も何等起る餘地がないやうにすることが正しいと思つた譯であります、勿論此の民法等の關係に於きまして、財産の關係に於きましての胎中皇族の立場は、是は先程既に御觸れになりましたが、一般民事規定の適用を受けることでありまして、今の私の申しましたこととは全然別關係になつて來る譯であります、從つて胎中皇子の皇位繼承權を認めなかつたと云ふことの關係から、女性の天皇を認めると云ふことに多少の影響を持つて來るのでありますが、私共の現在の考へ方から申しますと、女性の天皇を認めないと云ふ理由に付きましては相當考究すべき點があるのでありまして、若し之を研究した結果として認むべきものであると致しますならば、今の胎中皇子と云ふ關係に於て考ふるのでなく、もつと本質的な、兩性の根本的平等と云ふやうな方向に於て判斷が生れて來るものと存じて居ります、併し是は既に本會議に於て申上げましたやうに、幾多の困難、なる解釋問題、それは日本國民の過去に於て抱いて居つた複雜なる思想と組合はされて居りますが故に、俄に研究の結論を得ることが出來ませぬ、そこで今後の問題として殘されて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=15
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016・渡部信
○渡部信君 次に此の度の案では庶子といふものは皇族とせず、又其の皇位繼承權も認めて居らないやうであります、此の點はどう云ふ譯でありますかと云ふことを御尋ね致したいのであります、我が國の人口は明治以後非常な増加であるに拘らず皇族方の數と云ふものは數十年來殆ど増減が無いやうに承つて居ります、明治、大正、昭和を通じまして凡そ六十方から七十方の間である、先程御配布の表の中でもさうでありますが、其の位の間を住來して居るやうな實情のやうに記憶致して居ります、間違つて居るかも知れませぬが、其の半數約三十三、四方の皇族男子が數十年間を通じおありになつた譯であります、昨日本會議で幣原國務大臣は皇統の男系の男子の無くなるやうな心配は無いと仰しやつたのでありますが、現在宮號を賜はつて居る十四宮の中で六宮樣は殘念ながら今尚男子たる御子が無い有樣であります、さうして新しい典範の案は、現在の皇室典範に比較致しまして降下の範圍を非常に擴めておいでになる、其の上に又今度は庶子は絶對に認めないと云ふことになります、尚確かなことは當になりませぬが、最近色々な新聞に度々傳へられる所に依りますと、現在の宮家の中、臣籍に降下される方が相當におありになると云ふやうなことが書いてあるのであります、萬一さう云ふやうなことが事實になりますと、皇族の數と云ふものは急に減つて參りまして、皇位繼承の上に憂ふべき場合を生ずる惧れが無い譯でないと存じます、一體庶子を排斥するのは、國民の儀表たるべき皇室御一家の倫理道徳の觀念として望ましいことは勿論でありますけれども併し色々な情勢に依りまして一概に其の庶子の生れたことが罪惡であると云ふ風に見られない場合もあるのではないかと存ぜられます、假に如何なる事情があつても庶子の生れることは好くないことだと致しましても、其の過ちと云ふか、それは父である方、母である方の御責任でありまして、其の庶子の親である皇族の御責任を問ふと云ふことは是は考へ得ることでありませうけれども何も罪の無い庶子たる皇子、庶子たる皇族の子の、皇族たる御身分を奪つてしまひ、其の皇位繼承權迄全く奪ふと云ふことは、妥當でないやうに考へられますが、如何でありますか、甚だ恐多いことでありますけれども、我が歴史上明君と仰がれる英邁なる天子樣で庶出の方が少くないのであります、近くは明治天皇、大正天皇も庶子でいらせられますし、遠くは平安朝を初められた桓武天皇、或は承久の亂で武家を抑へようと爲さつた後鳥羽天皇、或は建武の中興の後醍醐天皇、孝明天皇、外にも澤山居られるのでありますが、此の方々は、是は別に祕密のことでもなく、色々の本に書いてあることでありますが、斯う云ふ明君も譯山いらつしやるのであります、さう云ふことを考へましても、此の度庶子を認めないと云ふことは如何かと思はれるのであります、古來、皇室の制度にも色々な變遷があつたのでありますが、此の度のやうに庶系を全面的に排除すると云ふやうな先例が我國の歴史にあるのでありませうか、併せて御伺ひ致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=16
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017・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 皇位繼承の範圍に庶子を入れるか入れないかと云ふ點に付きましては、色々な角度から考へなければならないと思ふ譯であります、大體日本の天皇の皇位繼承の問題は、根本的には何を基準として考ふるかと申しますれば、國民の核心として存在して居る一つの原理、即ち萬世一系の血筋を下ると云ふことでなければならぬと存じます、併し是は萬世一系の血筋を下ると云ふ其の内容を細かに見て行きますると、其の過去の歴史に依つて出來たものを其の儘踏襲すると云ふことにもならないかと存じて居ります、詰り根本に於きましては、一つのはつきりした大筋がある、併しそれが現實の場合に當箝つて來まする其の細かい點は、時代々々の歴史が常に違つた道行を教へて居りまして、或場合には女性の天皇が御即位になる場合もあり、或場合には斯樣なことは大體避けて居る場合もあると云ふやうな風に、色々の變化も起つて居るのでありまして、私共の採りまする根本の方針としては、萬世一系と云ふ中核の考へ方を時代々々の道義心其の他を以て調節して、具體的のことを決めて行かなければならぬと存じて居ります、そこで皇位の繼承者が非常に澤山御ありになつて、何等繼承の上に斷絶を生ずる疑ひは起さないと云ふことに致しまする爲には、庶子が皇族の中に數へらるることが好ましいと思ひます、併しながら他の一面に於きまして、現在の道義心の要請する所は、正當なる結婚に依つて御生れになつた方が此の萬世一系の血筋を御充しになると考ふることの方が、國民の核心に該當するものではなからうかと思ふのであります、そこで斯樣な現代的なる國民の道義心の導く所と、竹の園生の彌増に榮えることを望む所の考とが、如何にして安全に調和せらるるかと云ふ問題が殘つて來る譯でありまして、斯樣な問題に付きましては、本筋から言へば、萬世一系の傳ふると云ふ所に根本の原理を置くのであります、其の外の比較的從たる問題に注意すべきことでないことは勿論であると思ふのであります、現在の實情から精密に判斷して行きますると、嫡出子を以て皇位繼承者の範圍を限ることは、御繼承の中に障碍があると斷定するだけの情勢はございませぬ、從つて道義心の導く所の結果たる嫡出子のみに皇位の繼承者を限定致しまして、斯樣な皇室典範の案を作つた譯であります、尚最惡の問題とか、斯う云ふことは念頭に置いて居りませぬ、庶子が何等の御責任がないことはそれは言ふ迄もないことでありまするけれども、併し其の點でなくて、正當なる結婚に依つて此の血筋が傳はると云ふことが現代の國民の一般意識であらうと存じまして、其の線を遂うて立法した譯であります、唯疑いますれば、皇位繼承の萬代不易を期する上に庶出子も亦認めなければならぬ場合も起り得る可能性があるではないかと云ふ風の御疑惑の點は、是は想像を致し、推理を續けて行きますと、左樣な場面も考へられるのでありますが、變化極りなき場合に處します所の手段を、此の皇室典範が完全に盛込む必要はないのでありまして、若し左樣な場合が起りますれば、茲に國民の總意に基く適切なる立法が答を供給して呉れるものであらうと云ふ風に考へて居りますから、是は絶對的の考へ方と御認めにならないで、此の典範の建前は、今の現實を基礎としつつ深思熟慮の結果得たる結論である、斯う云ふ風に御了解を願いたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=17
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018・渡部信
○渡部信君 次に皇位の繼承がありました時には三種の神器を御受けになること、それから即位禮と共に大嘗祭が行はれると云ふことは、現在の皇室典範にあるのでありますが、是が本案に規定せられて居りませぬのはどう云ふ譯であるかと云ふことを御伺ひしたいのであります、天皇が日本國の象徴であり、日本國民統合の象徴であるが如く、神器は皇位の象徴でありまして、祖宗以來、皇位と共に傳へられて居ります、又將來も永久に傳へらるべき法の精神であると云ふことは、皇室經濟法案の七條にも多少窺はれるやうな規定があるのであります、併しどうも神器を物的、經濟的方面から見るよりも、皇位のシンボルである見地からして、此の皇室典範の中に其のことをはつきり規定してはいけないのでありませうが、それから大嘗祭のことでありますが、大嘗祭も非常に古くから行はれて居ります悠久の沿革を持つて居りますが、所謂御大禮の一部でありまして、即位禮とはもう不可分の離すべからざる儀式であります、何故に之を此の度の典範の中に明文を御置きにならないのでありませうか、或は明文がなくても、此の案の二十四條に、即位禮の一部として行ふものと解することが出來るかも知れませぬが、其の點も御伺ひしたいのであります、成る程、大嘗祭は一種の信仰的儀式ではありまするが、昔は大嘗祭が行はれない以前に御退位になつた時には、世の中が半帝と申し上げると云ふやうなことも記録に載つて居ります、只今のは仲恭天皇の御代のことでありますが、それ等のことまで言はれた位で、大嘗祭と云ふものは御即位に伴ふ重要な儀式であつて、即位禮と大嘗祭は必ず行はせられる沿革であります、又一面大嘗祭は宮中のみの儀式ではないのでありまして、例の齋田點定と云ふものは全國に關係がありまして、一つの國家的の行事でもあるのであります、大嘗祭に伴ふ大饗、是なども一つの國家的の仕事でもありますし、只多少信仰的の儀式でありますから改正憲法の二十條に觸れると云ふやうな御意見があるのかも知れませぬが、併し改正憲法の上で、男女は平等であると云ふのに、典範には絶對に女帝は認めない、又憲法上、婚姻は兩性の合意のみに基いて成立すべきものであると云ふのにも拘らず、此の典範に依りますれば、天皇、皇后の婚姻は皇室會議の議を經なければいけないと云ふ風に、皇位繼承に關聯して居ります事柄は、憲法の趣旨に多少反しても特例として典範に規定すると云ふことが妨げないと致しますれば、此の神器のこと、大嘗祭のこと、これも數千年來皇位繼承に不可分の關係のある事柄として、特に此の典範の中に明文を御設けになつても差支へないやうにも思はれるのでありますが、如何でありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=18
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019・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 今囘の憲法の改正自體は色々むづかしい問題を包含して居りまするが、私は此の憲法は日本國民の政治的なる組織の面を規定して居るものと思ふのでありまして其の政治的なる組織の面の外にありまして、信教の面とか思想の面とか云ふやうなことを別の範圍にして居る、斯う云ふのが此の憲法の持つて居る一つの根本の思想と思ふ譯であります、でありまするから、此の憲法の下に、及び之に附隨して出來て來まする所の諸般の制度は、宗教と云ふことを離れて設けられて行く、斯う云ふ原理を推論し得るものと思つて居ります、今囘皇室典範が提案せられまする場合に於きまして、從來皇室の面に於きましても、亦國民の面に於きましても、御即位に關聯を致しまして幾多の宗教的なる儀式があつたことは固より認めらるるのでありまするけれども、此の政治面の制度と致しまして、左樣な宗教的なる規定は、之を設けることは憲法の趣旨と背馳するもののやうに思はるるのであります、我々の政治は神祕的なるものを離れまして、合理的なる、常識的なる舞臺に於て行はれなければならぬと云ふ見地を採りまする限り、事實は如何樣にあらうとも、此の政治の世界に於きましては、左樣な風のことを離脱することが正當かと思はれます、そこで御即位の禮とか、三種の神器とか云ふ面に於きまして、宗教的發現と見らるべき部分は全部皇室典範の法規の外に割愛したのであります、詰り國の秩序の外にあるものとして扱つた譯であります、でありまするから、先づ三種の神器に付て申しますると、是は皇位の繼承であるとして傳へられて來た、皇位のある所に三種の神器が歸屬すると云ふことは、古來の長い間の慣例であると云ふことは固より承知して居りまするけれども、併し其の中味は多分に宗教的なるものを織込んで居りまして、之を現實の、謂はば俗的政治の面に規定をすることは避けなければならぬと思ふ譯であります、でありまするから、此の皇室典範の上に於きまして左樣な規定を置かなかつた譯であります、併し現實に三種の神器が如何に扱はるるかと云ふことは、少しく今迄の考へ方と違つては來るのでありまするが、皇室の中のこととして扱ふ趣旨である譯であります、さうして今ちよつと御觸れになりましたやうに、三種の神器に伴ひまする其の物的方面……精神的方面でありませぬ、物的方面は、是は皇室經濟法の中に一つの規定を設けて道行きを明かにして居ります、精神的な方面に付きましては、固より法律の關與する面ではないと考へて居ります、それから大嘗祭は是も今仰せになりました通りでありまするけれども、即位の禮と大嘗祭は、程度の差はありまするが、固より或思想を以て今迄一貫されて居つたものであらうと考へて居ります、けれども今後の合理的なる政治の面に於きましては、信仰に關係のない部面だけを採入れると云ふことにして大禮の規定を皇窒典範に織込みまして、信仰的なる部面のことは國の制度の外に置くと云ふ考になつて居ります、從つてそれは制度自身の上から見ますると、矢張り外に出てしまふことになりまして、恐らくは皇室の御儀式として、皇室内部の御儀式として續行せられて行くことであらうと想像を致して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=19
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020・渡部信
○渡部信君 さう致しますと、大嘗祭は即位禮の中に入ると云ふ解釋も出來ないのでありませうか、全然さう云ふことは御認めにならないのでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=20
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021・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 細かいことは、或は精密なことは今後の研究に俟たなければなりませぬけれども、現在の所では信仰に關係のない部面だけが即位の禮として此の皇室典範の豫想する所である、斯う云ふ風に考へて居ります、大嘗祭は裏表と申しますか、表裏一體の實質的結合はありませうけれども、制度の中には入らぬ、斯う云ふ風に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=21
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022・渡部信
○渡部信君 其の次に天皇踐祚の後に改元と云ふことが行はれるのでありまするか、或は今後は皇紀何年とか、西暦何年とか、さう云ふことに據るのでありませうか、若し今後も改元と云ふことが行はれると致しますれば、明治元年九月の行政官布告がありますが、あれにある一世一元と云ふ其の趣旨は今後も適用されるのでありませうか、若しさうであれば何故之を皇室典範に規定しないのでありませうか、改元と云ふことは國家の公の仕事でありますが、若し皇室典範が從來のやうに皇室の家法であると云ふやうな觀念であれば、是こそ皇室典範の中に改元のことを規定致しますことが適當でないと云ふ論も立ち得るのであります、然るに新しい皇室典範は、此の案に依りますれば國會の議決を經る立派な國法でありまするから、改元のことも典範の中に規定しても差支ないやうに思はれます、從來の先例に依りますると、即位禮、大喪儀、是等は皆國の事務、即ち國務であるとして取扱つて居りますが、此の典範の中に此の即位禮や大喪儀のことが規定してあるのは、皇位繼承に密接の關係のある事柄と云ふ風に御認めになつたのぢやないかと思ひます、改元が若し今迄の先例にあつたやうに行はれると致しますれば、天皇御踐祚の後に御大喪や御即位禮の行はれる前に、踐祚の後直ちに行はれると云ふことでありますれば、改元も亦皇位繼承に密接の關係のある重大な事柄として此の皇室典範の中に御規定になつても差支ないやうにも思はれます、明治元年の布告は、現在の皇室典範の十二條で實際上其の役目を果して居るやうに思はれますが、法令輯覽にも載つて居りますから、今尚有效な法規ではありませうが、兎に角明治元年の規則で、明治二十二年の憲法發布から更にずつと前に出たやうな規則でありまするから、法規整理の意味から言ひましても、斯う云ふものは廢止か何かにしまして、即位禮、大喪儀の規定と一緒に皇室典範の中に明文を設けた方が宜いやうに思はれますが、如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=22
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023・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 改元のことを現在の處實質に於て何等變化を生ぜしむるものと考へて居りませぬ、皇室典範の十二條は改元の制度を定めて、明治元年の定制に從ふ旨を明かにして居ります、今囘現行皇室典範が無くなりまして、之に代る規定が法律で出來ないと致しますれば、それは明治元年の定制が復活することになる譯であります、さう致しますと、現在に於きましては明治元年の行政官布告があつてそれの支へとなつて居つたものが皇室典範の第十二條であつた譯であります、其の皇室典範の十二條が無くなりますれば、其の現行の規定の支へとなつて居る一つのものが無くなつたと云ふことになるのであります、併し本體たる行政官の布告は依然として現在し有效に殘つて居る譯であります、斯樣な状況になつて居りまするから、實效の上に於きましては特に支障もなく、何等疑惑を生ずる餘地はないと考へて居ります、それでは何故それを皇室典範の中に採入れないかと云ふ疑問が起つて來まするけれども、是等の制度に付きましては、尚色々考を廻らすべき點もあるのであり、今日特に法律は出さなくても、明治初年の規定が殘つて居りまするから、新たなる積極的なる制度を設くる必要もないと云ふ譯で、今囘は何等の、例へば法律の中に之を規定すると云ふやうな態度を執らなかつた次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=23
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024・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 渡部君にちよつと伺ひますが、御質問はまだ相當續きますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=24
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025・渡部信
○渡部信君 どうも甚だ長い時間を取つて申譯ないのでありますが、もう二つ三つ……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=25
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026・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 大體四時に終りたいと思ひますからどうぞ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=26
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027・渡部信
○渡部信君 承知致しました、それでは成るべく簡單に……今日の皇室典範の解釋上、一般の國法は特に明文のある場合の外は皇族に適用がないと云ふことになつて居るのでありますが、今後は一般皇族に付ては原則として總て適用がある、斯う云うやうに解すべきものでありまするか、天皇と攝政とはどうなりますか、例へば民法とか刑法とか、税法とか、戸籍法とか、全部のことは申されませぬが、二三の法規に付て天皇と攝政と一般皇族に分けて大體のことをちよつと伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=27
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028・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 仰せの如く今囘は此の法律たる皇室典範に於きましては、皇族及天皇、攝政を含めての從來の私法の扱ひ方とは違ふのでありまして、總て一般の法律に從ふといふことを原則と致して居ります、でありまするから、實體法に於きましては、殆ど國民一般と變な所はないやうになると思つて居ります、偶偶財産の承繼に付きまして、先程問題の出ました皇室經濟法の第七條があると云ふやうなことは特別なるものであると思ひます、そこで手續の面に於きまして、例へば裁判所の何處へ持つて行くか、或は法律上の代理人をどうするかと云ふやうな點に於きまして、考慮すべき點は殘つて居ると思ひまするけれども、それ等は今研究中でありまして、大體の道行は決まりつつありまするけれども、何れ案を整理して通常議會に一般の法律の一部として御協贊を仰ぐやうなことにならうかと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=28
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029・渡部信
○渡部信君 一般の法律が皇族に適用があると云ふことになりますると、例へば今皇族さんには御名前だけありまして、氏、姓と云ふものはないのでありまするが、色々な法律に氏名を要することになつて居りますが、今後皇族方の氏と云ふものはどうなりますか、今持つて居らつしやる宮號と云ふやうなものは其の儘殘るのでありませうか、それを伺ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=29
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030・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 其の點は多分現在に近い姿を持つて行くものと考へて居りまするけれども、其の方はまだ私の手許に於て研究する迄の段階に入つて居りませぬ、御答へしにくい程度であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=30
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031・渡部信
○渡部信君 一般の法律が皇族に適用があると云ふことになりますると、從來の皇室典範附屬の皇室令として色々天皇、皇族の御身分や權利義務、儀式のことに關した重要な規定が澤山ありますが、是等の中で此の皇室典範の中に決められたものは別と致しまして、其の外のものはどうなるのでありませうか、さつきの話に依ると、皇室典範と一緒に自然なくなると云ふやうな措置が執られると云ふやうな御話もありましたが、中には法律の明文で皇室令に委任したやうなものもあります、さう云ふやうなものはどうなりますか、例へば王公族の權義に關する件とか、財産税法、戰時補償打切の法律の中にある皇室令で定める事項、さう云ふやうな法律の規定があるものと、さうでないものとの區別がありますか、お伺ひしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=31
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032・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 大體今囘の建前は、國民ば總て法律の下に平等であると云ふ原理を採つて居りまして、如何なる場合に於きましても、之に例外を作りますことは、其の根據を憲法に求めなければならぬと云ふ風に考へて居ります、從つて國の象徴たる關係に於きまして、及び是と近接する關係に於かれての此の皇族に對しましては、其の見地から見たる特例は設くべきことでありますけれども、其の他範圍に於きましては、特例を設くることは、原則としてはあり得ないことと考へて居ります、今偶偶御例示になりましたやうな部分のものはなくなるべき筈のものと考へて居ります、それから現在の皇室典範の中に、或はこれに基いて出來て居ります諸種の事項の中で、本當の皇室御一家に關しまするものは、是は法律は全然與り知らぬ、皇室御内部の規定として御規定になる、斯う云ふことになつて居りますが、さうでない、色々儀式等に關しまする若干の問題は、今まだ具體的に迄掘下げては居りませぬけれども、例へば立太子の式とかなんとか云ふ方面を考へる必要が起りますれば、それは多分政令等を以て規定されることと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=32
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033・渡部信
○渡部信君 今御話の點でありますが、儀式のこと、其の外に皇室の御紋章とか、天皇旗、皇族旗等の旗章とか、皇族の宮中席次とも申すべき皇族の班位、それ等のことほ今後皇室内部のことになりますか、どうも此の御紋章、皇室の旗章、皇族の班位などは、一般の國民もよく知つて置くべき大事なことでありますので、何か典範の中に入れて戴くか、でなけれは至急に法律で規定せられるか、さう云ふ規定を要するやうなものは其の他にもあるやうに思ひますが、憲法施行迄に間に合ふやうでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=33
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034・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 今御示しになつたやうな、例へば御紋章等のことに付きましては、臨時法制調査會等に於きまして、相當の御議論のあつた點でありますけれども、此の憲法に於きましての特例に基いて、皇室典範に規定するを要するものは、現在御覽になつて居ります成案の程度を以て足れりと云ふやうに決められまして、斯う云ふやうなことは漸次是から制度を具體化させまして、事の宜しきを制するやうに考へて居ります、今まだ、實際の所を申しますと、一つ一つどう處置して行くかと云ふことに付きましては、大部分は研究中であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=34
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035・渡部信
○渡部信君 もう一つ最後に伺ひたいのでありますが、今後は宮中、府中と云ふ區別は恐らくなくなることと思はれますし、又昨日來の御説明に依れば、宮内府と云ふものも一つの行政部内に入る、宮内府の官吏の任免も大體内閣に於て行はれるやうでありますが、憲法の施行後、將來主として議院内閣とか政黨内閣とかになりますと、會計檢査院や裁判所などと云ふものを除いては、官吏が政變毎に大政黨の黨略とか、方針と云ふものに依つて頻々更迭するやうなことがあるのぢやないか、若しさうなつて宮内府の長官とか、側近の官吏が頻々と更迭すると云ふことになれば、宮内官吏が政黨化するやうな虞があり、累を皇室に及ぼすやうな弊害を生ずる虞があるのではないかと思ひますが、英國などでは宮廷の三長官のロード・スチュアート、ロード・チェムバレン、マスター・オヴ・ホース、斯う云ふ職員は大體國王御自身の御任命でありまして、その次席の人は政府が監督的に任命すると云ふことになつて居るやうに聞いて居りますが、日本の宮内府を其の通りにしたらと云ふ譯ではありませぬけれども、宮内府の官吏の政黨化と云ふことを防ぐ爲に、或程度迄に宮内府職員を獨立させて職員の身分も或程度保障して、或種の宮内官は天皇の御自由な任命にすると云ふやうな御考はないでせうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=35
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036・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御説の實質的な面、詰り宮内府職員が政治上の波瀾に依つて動搖しないと云ふ風にすべきだと云ふことは其の通りと考へて居ります、併し現實の制度の上に於きまして、はつきりと一般の官吏と全然扱ひの違つた風にすると云ふことは、制度の均等を圖ります上に多少無理が起つて來ると存じて居りまして、左樣な具體的な方法を講ずると云ふことは現在の所考へて居りませぬ、唯事の性質に於きまして、例へば大學教授は政治上の變化の爲に動かない、併し或官廳の官吏は多少動くと云ふことがあるのでありまして、宮内府の職員も適當に其の制度を運用して行きまするならば、政治上の影響を受けないやうに實施し得るものと存じて居ります、それ等の問題は結局人事の問題と、良き慣習を作り立てる問題、此の二つに分れると存じて居りまして、此の法規的は制度の面に於きましては、餘りそれに大した利益はない、又やることが實際色々な點からして面白くないと、斯う考へて居ります、運用をどう云ふ風にするかと云ふことに付きまして、今相當考慮して居りまするが、結果に於ては御趣旨に合ふやうに實現したいと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=36
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037・渡部信
○渡部信君 色々と私一人で長く御尋ね致しまして申譯ありませぬでしたが、一般的の質問は是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=37
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038・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) それでは今日は四時になりましたので、此の程度に致しまして散會致したいと思ひます、明日は國務大臣の方で御都合が矢張り午前中にお付きにならぬさうでありますから、今日の如く一時に開會致したいと思ひます、本日は是にて散會致します
午後三時五十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=38
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039・会議録情報2
出席者左の如し
委員長 伯爵 二荒芳徳君
副委員長 男爵 今園國貞君
委員
侯爵 東郷彪君
侯爵 淺野長武君
侯爵 前田利建君
伯爵 大木喜福君
男爵 白根松介君
子爵 黒田長敬君
子爵 北小路三郎君
子爵 梅園篤彦君
子爵 高木正得君
子爵 三島通陽君
子爵 梅溪通虎君
小山松吉君
松村眞一郎君
羽田亨君
村上恭一君
渡部信君
男爵 飯田精太郎君
慶松勝左衞門君
副島千八君
男爵 鶴殿家勝君
男爵 岡俊二君
男爵 島津忠彦君
坂田幹太君
松尾國松君
瀧川儀作君
菅澤重雄君
有馬忠三郎君
小汀利得君
長島銀藏君
國務大臣
國務大臣 金森徳次郎君
政府委員
法制局事務官 井手成三君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00219461217&spkNum=39
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