1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
○皇室典範案
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昭和二十一年十二月十八日(水曜日)
午後一時七分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=0
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001・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 是から委員會を開催致します、村上恭一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=1
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002・村上恭一
○村上恭一君 本案の皇室典範は其の附則の第一項に掲げてあります通り、改正憲法施行の日から施行されるものであります、就きましては明年五月三日迄に此の改正皇室典範が成立すれば宜しいのであります、それは必要であり、又それで十分であります、從ひまして帝國議會に於て此の案を審議しまするのは、次の通常議會で事足る筈であります、敢て只今の臨時議會を要するものではないと思ひまするが、此の臨時議會の會期の短い際に、我々が何とはなしに慌だしい心持を以て之を審議せねばならぬと云ふことは如何でございませうか、次の通常議會に於て十分なる期間を與へられ、遺憾なく我々が之を審議することが出來ましたならば、どんなに宜かつたらうと思ひます、是は重要なる案件でございまするから、從ひまして之が審議には幾多困難なる論點に遭遇するに違ひありませぬ、其のやうな重大な、さうしてむつかしい案件は十分の時間を以て審議することこそ當然であらうと存じますが、折角新しく出來るものであるから、成るべく早く出してやると云ふことも一應尤もではありまするけれども、併し是が爲に左程に急ぐべき筋合のものではないと思ひます、又新しい規定が出來ますれば、之が實施には多少の準備を要する、其の準備の期間を十分にする爲に、其の規定を早く拵へ上げると云ふことも屡屡考へられまするが、此の皇室典範に付きましては、左程實施の準備に手間取ることはないと思ひまする、察する處、精々今の宮内省が新しい宮内府になりまする、其の間の機構の整理に付ては相當の準備を要しませうが、是にはそんなに多くの時間を要する筈がありませぬ、色々の點から考へまして、彼を想ひ、此れを想ひまして、此の皇室典範案が只今の會期の短い臨時議會に提出されまして、我々が何とはなく慌だしい心持を以て之を審議せねばならぬと云ふことを私は遺憾に感じます、是は質問の積りではありませぬ、政府當局に向つて、何故に此の臨時議會に提出なさつたのかと云ふことの答辯を求める、さう云ふ心持ではありませぬ、唯是より以下私が本案に付て不審とする所數點に關して政府當局の御辯明を求めまする其の前書としまして、只今に於ける私の感想、只今此の重要なる、そして困難なる案件を審議せねばならぬ、左樣に餘儀なくされ、強いられたことを遺憾に存ずると云ふことを申述べて置くのでございます、私の質問は數點に分れまするが、大體に於きまして初に形式面のことを擧げまして、次に追々に實質面に移つて參る積りでございます、先づ伺ひますることは、此の皇室典範は帝國議會の議決を經て成立するものでございまするから、其の性格に於きましては法律であるに違ひありませぬ、現に此の皇室典範の附則第一項に「この法律は、」と斯う書いてありますので、此の點から言ひましても、此の皇室典範が法律であることは明かであります、處で是は名稱のことでありまするが、併しそれは單に名稱に過ぎない、重んずるに足らぬ事柄だと言ひ捨てる譯には參らぬと思ひます、總て法律には法と云ふ文字、或は法律と云ふ文字が其の名稱に加へてあります、何何法、或は何々に關する法律と云ふのが法律の名稱になつて居ります、尤も古く、現行の憲法成立前に成立しました規定には、後に法律として取扱はれて居るもの、法律たる性格を有するものであつて、法律と云ふ、法と云ふ文字を名稱の中に加へられてないものがありはしまする、例へば其の一例でありまするが、今は廢止せられましたけれども、稍稍近年迄實施されて居りました兵役に關する基本規定、後の兵役法の前身は徴兵令と云ふものであり、是は明治の初年太政官布告と云ふやうな形式を以て發布せられたものであります、徴兵令と申しまして、其の名稱の中には法とも、法律ともありませぬが、併しそれは性格に於て法律たるものであり、法律として取扱はれて居りました、古いものにはさう云ふ例が若干あると存じますが、憲法施行後に於きましては例外なく法律には何々法、何々に關する法律と云ふやうに、それが法律であると云ふことが、名稱に於て明かにせられて居るのであります、然るに此の皇室典範は法律でありながら法といふ字、法律と云ふ文字が此の名稱の中に加つて居りませぬ、皇室典範だけであります、是は皇室典範法と云ふか、或は皇室法と云ふか、さう云つたやうに、矢張り法と云ふ又は法律と云ふ文字を此の名稱の中に加へることが妥當であるに違ひないと存じます、尤もそれは既に成立しました改正憲法に關聯をしまするのでありまして、御承知の通り其の憲法第二條に皇室典範とあります、此處で以て此の皇室典範の名稱が確定してしまつたと云ふのでありますれば、其の憲法が成立しました以上、今更致し方ない事柄であらうかとも思ひますか、併し解釋の如何に依りまして、憲法から委任せられた皇室典範には、別に皇室典範法とか皇室法とか云ふ名稱を持つことが必ずしも出來ないのではないかと思ふのであります、さう云ふやうに申すことは、此の皇室典範の性格に何等か關聯するやうに思ふのであります、皇室典範の性格は法律であると云ふことは疑ひない、先刻申述べた通りでありますが、併し其の法律の中に何かしら稍稍特殊な、效力の一段強いもの、皇室典範はそれだと云つたやうな心持が起りはしないであらうかと云ふことを私は考へるのでございます、抑抑今日に於きましては、皇室典範は帝國憲法と相竝んで國家の根本の法規である、兩々對立するものである、尤も此の點に付きましては一部の憲法學者の間には議論がありまして、所謂國法一元説に基きまして、現在でも皇室典範は憲法に基いて成立するものであると云ふやうに説いて居りまするが、併し他の一方寧ろそれが通説であらうかとも思ひますが、所謂國法二元説に依りまして、帝國憲法と皇室典範とは相竝んで國家最高の根本の法律であると云ふやうに考へて居ります、其の國法二元説は今囘の憲法改正に依つて完全に解消せざるを得ないのであります、疑ひもなく國法一元説の外はありませぬ、皇室典範は憲法に基いて成立するものであります、即ちそれは法律である、併しながら名稱に於て法とは言はぬ、法律とは言はぬ、だからその性格に於ても一般の法律よりも稍稍強い、一段高い地位にあるものであると云ふやうな感じを起すことはないでありませうか、さう考へますことは從前の通説であつたと私の考へまする國法二元説にまだ幾らかの係はりを持ち、國法二元説の殘滓と申しますか、さう云ふやうなものがにじみ出て居るやうにも思ふのであります、此の點即ち皇室典範の性格、延ひて其の名稱と云ふことに付きまして、先づ政府當局の御考を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=2
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003・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 皇室典範の名稱は、改正憲法の第二條にある所を其の儘踏襲を致しまして法律の名稱とした譯であります、憲法に掲げてありまする所の此の典範と云ふ言葉が、形式的に固定せられたる名稱であるのか、それとも實質的に決めたのであつて、形式的に如何樣に引用するのも差支はないのであるかと云ふ點に付きましては、實は餘り深き研究を致して居りませぬ、兎に角此の名前を踏襲して書くことが、憲法とぴつたり合致する所以であらうと云ふ程度の解釋を以て今囘の規定の表題とした譯であります、從來法律でありまするものは、大體に於きまして法とか、或は法律とか云ふ言葉が表題に使はれて居りますることは、御説の通りであると考へて居りまするし、又事の性質に於きまして、然るべき實質の理由があらうと考へて居ります、併し必ずしもそれと決つて居ると云ふ程の根本原理はないのではないかと存じて居ります、例へば明治三十一年に出來ました所の法律で、法例、法のたとへと書きました其の法例は、法例法とは言はないで、唯法例と言ひ放しで居るやうに思ふのであります、詰り斯う云ふことは諸般の事情に依りまして、法とか、法律とか云ふ言葉を使はなくても宜い場合には、左樣な慣例が生れて來るものと存じて居ります、皇室典範の典範と云ふ言葉は色々な意味に取れませうけれども、併し大體に於きまして、其の言葉自身が法と云ふことの内容を表すものでありまするが故に、態態皇室典範法と書きますることは如何にも煩雜なやうに考へまして、憲法の起案の場合にも左樣な法と云ふ字のない言葉を用ひましたし、又今囘も法と云ふ字を用ひなかつたのであります、左樣な次第でありまして、特別深い意味を持つて居る譯ではありませぬ、そこで次に起りまする問題は、御尋の唯皇室典範と言ひ放しで置くと、此の現在の皇室典範と結局紛はしいのであります、今の典範に伴つて居る所の法律二元説の考が今後にも移り行つて、何となく此の皇室典範と云ふものが法の中の特別なるものであると云ふ聯想を起すと云ふことに觸れて御尋になりましたが、私自身の現在の考と致しましては、皇室に關しまする規定に付きまして、或程度の相應しき尊嚴さを備へますることは適當なことと考へて居ります、皇室に關しまする根本の制度でありまするが故に、一般の法と云ふ言葉より何となく莊重に聞えまする所の典範と云ふ言葉を用ひて表題にすることは、其の莊重ならしむると云ふ意味に於て理由があると思ひます、併しそれが爲に法律的の扱ひ方に於て、特に其の效力に於て別個の特色を備へて居るのかと云ふことになりますると、左樣なことはないと考へて居ります、憲法は其の點に於きまして、特別なる效力の差を認めて居りませぬ、其の結果として此の皇室典範には何等特別なることはないと存じて居ります、尚是が公布せられまする場合に於きましては、恐らく其の法律第何號と云ふやうな形に依つて示さるるのでありまするからして、見る人は之を法律として逸早く理解することが出來るのでありましてそこから生ずる錯覺もないことと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=3
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004・村上恭一
○村上恭一君 只今の御答辯は私も竊に豫期して居つた所でございます、其のやうに御答辯になるより外はなからうと考へます、次に改正憲法第二條に依りますれば「國會の議決した皇室典範」とあります、即ち新しい皇室典範は國會の議決を經て成立するものであります、其の國會なるものは改正憲法に依つて成立するものであります、今日從前の帝國憲法の支配の下に於きましては、帝國議會はありまするけれども國會はありませぬ、彼と是と照應するものであります、該當するものであります、併しながら現行憲法に於ける帝國議會と改正憲法に於ける國會とは別の存在であります、直ちに彼を以て之に代へると云ふことは出來ませぬ、之を許す爲には憲法の上に、改正憲法ですか、或は現行の憲法ですか、兎に角憲法上に其の根據がなくてはならぬ、成文の根據がなくてはならぬ、斯う思ひます、其の考に依りますると、今此處で帝國議會の議決がありましても、それは改正憲法の要求する國會の議決ではないのであるから、何等國法上の效力はない、之に依つては有效なる皇室典範は成立しない、斯う言はねばならぬと思ひます、同時に又飜つて考へますれば、今日の帝國議會、此の議會に於ては新しい皇室典範を審議する權限がないのではないかと云ふやうにも思はれます、尤も議會は政府から提案せられた法律案を審議するのが職能である、さうすれば彼此言はずに與へられた議案を審議する迄でありまするが、一歩溯つて考へますれば政府は斯樣な法律案を此の帝國議會に提出する權限があるのかないのかと云ふ所に疑を起して參ります、そこででも亦政府は如何樣なる内容を有する法律案でも之を帝國議會に提出することが出來るのだ、斯う言ひ切ればそれ迄でありますが、成る程憲法上では政府は帝國議會に法律案を提出するとあるだけでありまして、別に其の法律案の内容は制限して居りませぬ、併しながら政府は有效に成立すべき法律案をこそ提出すべきでありまして、效力の疑はしいものを提出すべきではない、假に憲法上では差支ないとしましても、政治的に考へまして甚だ奇妙な振舞であらうと存じます、此の點どう解釋されまするか、簡單に申しますれば、新しい皇室典範は新しい國會に於て議決することが改正憲法の要求する所である、今此の帝國議會に於て我々が此の新しい皇室典範を審議するのは其の處を失つたものではないかと云ふことであります、此の點は新聞の記事に依りますれば早くも衆議院に於て問題となつた所のやうであります、當時政府當局から最善と思量せらるる答辯を爲すつたことでありませうが、事甚だ重大であります、形式に亙ることではありまするが、極めて重大でありまするから、此の席に於て改めて政府當局の御辯明を伺ひたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=4
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005・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 改正憲法の第二條に於きまして「國會の議決した皇室典範の定めるところにより、」とあるのであります、是は解釋の上に於きましては皇室典範は法律を以て定めると云ふことの趣旨でありまして、「國會の議決した」と云ふ言葉は、其の實體の方から皇室典範の法律である所以を示して居るものと考へて居る譯であります、既に左樣に考へまして第二に憲法が改正せられた後に於きましてこの皇位の繼承と云ふことは瞬間的にもう規則として明白にして置かなければならないことでありまするが故に、憲法施行の其の瞬間から、明白なる繼承規定がなければならぬことと考へて居ります、從つて憲法の施行に伴ひまして、どうしても法律を以て定むる所の皇室典範がなければならぬ、斯樣なものを決めることは、憲法施行の準備を致す所以になり得ると、斯樣に考へて居ります、そこで改正憲法の補則第百條に依りますれば、此の憲法を施行する爲に必要なる法律の制定は、前項の期日よりも前に之を行ふことが出來る、と云ふ意味の規定があるのでありまするから、原則として斯樣な意味を持つて居る法律は、此の時期の點から申しまして、憲法の施行せられざる今日に於て、爲し得ることと思ふのであります、更に次の問題になりました、それでは如何なる手續に依るかと云ふ風になりますると、固より憲法が施行せられて居ない譯でありますから、憲法に依る新しき國會はまだ出來て居ないのであります、けれども第百條が備つて居りまする所以のものは、出來ないことを書いて居る譯ではございませぬから、此の規定の裏面に於きましては、現在の法律の作り方に從つて準備法律を設けることが出來る、斯う云ふ趣旨であらうと考へて居ります、左樣に考へて行きますれば新たなる皇室典範は、矢張り今日の法律制定の手續に依つて、之を設けて然るべきものと考へる外はございませぬ、即ち政府に於て案を定め、議會の協贊を得むとした譯であります、尚左樣な場合に於きまして、現在の議會と云ふものが、國會と云ふ言葉の中に含まれ得ると云ふ精神は改正憲法の前文の中にも示されて居る所でありまして、それ等の關係は論理明白と迄は言ふことは出來ませぬけれども、直觀的に全く緊密な連繋を持ち、時を異にする場合に於きましては、彼此相通じ得る趣旨を持つて居ることが、示されて居るものと考へて居ります、斯樣な考へ方に依りまして、皇室典範と表題せる法律案を、議會に提出致しましたことは有效なることと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=5
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006・村上恭一
○村上恭一君 失禮ながら苦しい辯明と申上げる外はないやうに思ひまする、併し改正憲法の文言通りにしますると、現行憲法の效力を失ふと同時に、現行の皇室典範が效力を失ふ、軈て新憲法に基く國會の議決に依つて、新しい皇室典範が成立する、それ迄の間一時皇室典範が存在しない、斯う云ふ間隙を生ずることになりまする、是も好ましくない事實でありまする、其の好ましくない事實を救ふ爲には、要するに只今金森國務大臣が御陳述下さつたやうな考に從ふ外はないだらうと私も了承致します、只今の私の質問に關聯しましては、此の新しい皇室典範は、現行の皇室典範の改正ではないと云ふことであります、現行の皇室典範の規定に基いて、之を全部改正する、さうして其の新しい皇室典範が出來上がるのでなく、固より實質に於ては彼と此と連續するものでありまするが、形式に於ては彼此絶縁しまして、從來の皇室典範には關係なく、新しい皇室典範が成立する、斯う考へる外はない、それは其の通りであります、就きましては現行の皇室典範は、形式上如何に始末せられるのか、どう云ふ手續で葬り去られるのかと云ふことが、必然問題となるのでありまするが、此の點に付きましては昨日渡部委員からの御質問がありまして、金森當局大臣の御答辯もありまして、其の意のある所を略略了解することが出來ましたから、是は私の質問致しましたのは省略致します、皇位繼承の根本の要件は世襲と云ふことであり、萬世一系と云ふことでありまするが、此の世襲と云ふことと、萬世一系と云ふことが違ふと云ふことは……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=6
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007・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) ちよつと御注意致しますが、渡部委員の昨日御話になつたのは、速記録には載つて居りませぬでございますね、宜しうございますね発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=7
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008・村上恭一
○村上恭一君 宜しうございます、世襲と云ふことと、萬世一系と云ふことが違ふと云ふことは、曩に帝國憲法改正案の審議の際に、佐々木博士から縷縷陳述せられた所でございます、私共も全然同感でございます、然るに其の世襲なることは、憲法第二條に明記せられて居りまして結構でありまするが、萬世一系と云ふことは茲に現れて居りませぬ、そこで私共は憲法改正案審議の際に、せめてそれは後に皇室典範の制定せられまする際、そこに之を打出して戴きたいと云ふことを念願したのでございます、然るに今囘提案せられました皇室典範を見ますると、矢張り萬世一系と云ふことは書き出してないのでありまする、其の字義は分りまする、此の皇室典範第一條に、「皇位は、皇統に屬する男系の男子が、これを繼承する、」とあります、其の皇統とは天皇の血統と云ふことと思ひまする、其の天皇とは架空の天皇ではない、現在又は過去の天皇でありまする、天皇たりし御方の血統を見ますれば、それは即ち皇祖皇宗以來萬世一系の系統に違ひないのでありまするから、趣旨は分りまする、併し文字の上に表現して居ないと云ふことを私は遺憾に存ずるのでありまする、萬世一系と云ふことは固より國民の信念、情操に於きまして何とも言へない有難い意味を持つて居ります、人口に膾炙して居りまする有名な俳句、是は故人内藤鳴雪翁の絶世の明吟であると存じまする、「元日や萬世一系不二の山」或は私の記憶違ひであるか分りませぬが、大體斯う云ふ文句であつたと思ひます、國民は此の萬世一系と云ふ言葉に深い深い意味を感じて居ります、金森國務大臣の常套の言葉を借用しますれば、國民の天皇に對する憧れ、それは萬世一系と云ふ文字に凝結して居る、斯う言うても宜しいと存じます、萬世一系と云ふ言葉は其のやうな、謂はば道徳的の意味を持つて居る所に貴重なる價値がありまするが、そればかりではない、國法上にも立派に重要な意義を持つ觀念であります、皇統に屬すると云ふことで、自らそれが分ると云ふのでなくして、此の皇室典範の第一條に皇位繼承の根本の要件を定めた項に於きまして、端的に此の萬世一系と云ふ言葉が表明せられますことが極めて望ましかつたと斯う思ひます、此の點甚だ遺憾に感じますると同時に、何故に原案に於きまして萬世一系と云ふ言葉を用ひなかつたのか、殊更之を避けたかの如き感を私共は起さざるを得ませぬ、何故に萬世一系と云ふ道徳的の、將國法的にも意味のある立派な言葉を避けたのであるかと云ふことを伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=8
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009・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 憲法の中の世襲と云ふ文字は、成る程萬世一系と云ふことを表す文字とは違つて居りまするけれども、斯樣な文字の中に含めました意味は、萬世一系と云ふ考であつた譯であります、從つて皇室典範を設けます場合に、更に之を繰返しますると云ふことは寧ろ必要のないことであり、國民の間に染込んで居る萬世一系の思想、此の憲法其のものの上に簡略なる文字に依つて表はされて居ると解する方が適切だと云ふ風に考へて居ります、尚萬世一系とか云ふやうな、例へた言葉を用ひますることは萬世に限らないのでありまして、何萬世、又それより大きい數になり得る譯のものでありまするから、斯樣な比喩的な文字を以て言ひ表しますることは、何となく新しき憲法の率直なる文字を用ひまする行き路にそぐはない、斯う云ふやうに考へましたので、今仰せになりましたやうな方面の考慮は之を避けたのであります、斯う云ふことは、非常に蛇足ではありまするが、先程御示しになりました内藤鳴雪氏の俳句なぞの例を採りますると、私の記憶では「元日や一系の天子不二の山」と云ふやうな句でありまして、萬世と云ふ言葉は使はれて居りませぬでしたけれども、併し直感としては同じやうに響いて來まするので、複雜なる文字を使はないやうで、一理あるやうに考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=9
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010・村上恭一
○村上恭一君 何處迄も遺憾に存じまするが、併し只今の論議は已むを得ず此の程度に止めて置きます、皇室の構成、成り立ちと云ふ問題でございますが、是は申す迄もなく天皇と皇族とを以て組織せられる一つの集團であります、此の皇室の構成に付ての根本原則は、所謂百世皇族の原則と皇室一家の原則であります、皇室に出生せられた御方は甞ての天皇より百世の後に至る迄皇族である、當然皇族である、軈て皇族の身分を離れられることはありまするが、一應は皇族となる、是が百世皇族の原則でありまして、其のことは本案の皇室典範でも認められて居ると存じます、即ち第六條に「三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする、」、三世以下無制限に萬世迄でも嫡男系であり嫡出である以上は王であり女王であり皇族であると云ふことを明かに定められて居りまして、是は當然さうあるべきことと私も誠に滿足する次第であります、處で其の出生に依つて當然皇族たる御方、それが皇族の身分を離れられる場合に付きまして第十一條其の他數條に規定がありまするが、そこらに「やむを得ない特別の事由があるときは、」云々と云ふことがありまして、是はどう言ふ場合を意味するのであるか御辯明を伺ふべきでありますが、是は後に逐條審議の際逐條的質問のあります際に、他の御方からも御質疑があるだらうと存じますから、此の際そこ迄に觸れずに置きます、皇室一家の原則と申しまするのは、敢て之を此處で講説する積りでございませぬが、皇室は天皇及び總ての皇族を一括して一つの集團を成すものである、一つの家である、其の中に細別はないと云ふことを意味するものであります、御承知の通り幾つもの宮家と稱するものが出來て居りまするが、是は皇族方の中で、御夫婦であるとか、御親子であるとか、御兄弟であるとか、殊に御關係の深い方が自ら一つの御邸宅に於て御居住なさる、そこであちらとこちらとを區別する爲に、其の名稱として定められたものであります、唯それだけの意味しかない、國法上別段の意味のあるものではありませぬ、皇室一家であればこそ、皇室には氏名がない、日本國中苗字のないのは唯皇室あるばかりであります、宮家なるものはさう云ふものであると存じます、就きまして是は甚だ些細のことに亙りますが、併し今申したことに關聯しますから申し添へたい、參考としまして皇室の御血統を圖に現はしたものを戴きました、誠に結構でございますが、此の終りの備考の所に、其の第二項でありますが、「本系統圖は實系の男系によつて、示した、」誠にさうあるべきで結構であります、其の次の「宮系又は女系によれば」云々と云ふことであります、女系と云ふのは男系に對することで能く分ります、宮系と云ふのは何でありますか、一つの宮家を本位としてそれから出て來る系統と云ふ意味らしく感じられますが、さう致しますれば、一つの宮家を本位として系統を考へると云ふことが間違つたことである、いけないことである、皇室は唯一、唯一本でありまして皇室の系統はあります、それは現在又は嘗ての天皇を基本とした系統でありまする、其の外に各宮家を中心とした系統、宮系と云ふもののあるべき筈はない、斯う云ふことを考へますのは私は間違ひであると云ふ風に考へます、若し此の私の考が間違つて居りますれば御示教を願ひます、是は皇室一家の原則に反するものである、斯う私は考へるのでございます、偖其のやうに皇室が一家でありますれば、一つの集團でありますれば、其の皇室の内部に於て相當な秩序が維持されねばならぬ筈であります、其の秩序を維持する爲に何等か其處に權力と申しますか、或力の働がなくてはならぬやうに思ひます、現行の皇室典範に於きましては、此の點は甚だ明確でありまして、總てがさう云ふやうな頭で編み綴られて居りまして、其の中心を集約することとしまして第三十五條に「皇族ハ天皇之ヲ監督ス」とあります、天皇は皇族を監督する權力を御持ちになつて居るのであります、その權力がどう云ふ形で行はれるか、どう云ふ範圍、どう云ふ程度で行はれるか、是は事、細目に亙ります、そして又それは時に變遷のあるべきものでありまして、今日迄のそれと今後のそれとが異なる所のあるべきは當然でありまするが、今後に於きましても皇室一家に於て、其の内部の秩序を維持せられる爲には天皇が皇族を監督する、或形に於て、或範圍、或程度に於て其の監督の力を行はせられると云ふことがなくてはならぬと思ひます、其のことは此の新しい皇室典範に少しも現れて居りませぬ、此の點はどう云ふ風に考へて宜しいものか、政府當局に於てはどう考へて居られまするか、承りたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=10
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011・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 皇室御一家の原則は御説の通りと存じて居ります、宮系と云ふ言葉が御廻し致しました所の書類の一部にあるやうでありまするが、宮系といふことは恐らく何所かの部分に於て用ひられて居る所の慣用語でありまして、格別なる深い意味はないと思ふ譯でありまするが、過去に於きまして御養子と云ふ途がありました爲に、古い時代に左樣な關係の爲に特別なる言葉を以て系統の續き工合を言ひ表す理由があつたかと思つて居りますが、是は結局參考書を作製しました人の考でありまするので、私が今、的確に御説明を申上ぐるのは不適當な立場にあります、次に皇族の御監督に關する規定の御質疑がありましたが、天皇が皇族を御監督になりまする場合は、ありと致しますれば、私法の場面に於てあると考へて居ります、詰り私の法の場面に於てあるものであるならば、皇室典範に之を書くことは必ずしも適當ではないと思ふ譯であります、若し亦是が公の法秩序の關係でありますならば、之を國の法律の中に書き表しますることは、改正せられました憲法の天皇の御權能に顧みまして、列記せられました事項の外に當るものと考へる譯であります、それ等の考慮の下に於きまして、此の典範は天皇が皇族を御監督になると云ふ規定を設けては居りませぬ、必要な部面に於きましては民法上の規定が之に當つて來るものと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=11
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012・村上恭一
○村上恭一君 次に天皇及び皇族の身位其の他の權義と云ふことに關して御尋したいと存じます、現行の皇室典範増補は明治四十年二月に制定せられたものであります、其の第七條第一項に「皇族ノ身位其ノ他ノ權義ニ關スル規程ハ此ノ典範ニ定メタルモノノ外別ニ之ヲ定ム」とあります、皇族に於て然り、況や天皇に於てをやであります、天皇及び皇族の身位其の他の權義に關しては別段の規定を設けることがある、それは一般の人民のそれとは違つたものであると云ふことが茲に定められて居ります、此の天皇及び皇族の身位其の他の權義に關する規定は今後どうなるのでありませうか、天皇は勿論、皇族も亦何としましても特殊の地位を持つて居られます、之には國法上別段の意味を取付けるのが當然であります、從つて天皇及び皇族の身位其の他の權義に付きましては何等か特殊の規定がなくてはならぬ、其の規定の内容、是は又時に依つて異なるべきものであります、殊に今囘國法の上に重大な變換があるのでありますから、今日迄のそれと今後のそれとが全然同じであるべき筈はありませぬ、大いに異なる所がありませうが、併し今後は全然さう云ふ規定は無くなる、又さう云ふ規定を設けてはならぬのだと云ふものではなからうと思ひます、曩に帝國憲法改正案の審議せられました際、其の第三章國民の權利及び義務、此の章に於ける各條の規定が天皇に適用があるのかないのか、茲に謂ふ國民の中に天皇を含むのか含まないのか、是は當時白熱的論戰の一つの對象となつたものであります、我々としましては遂に明確な定論に歸著することは出來ませず、各自の判斷に殘されたやうな姿でありました、天皇は姑く措きまして、皇族は是は第三章に謂ふ所の國民の中に含む、其の各條の規定は皇族に適用があると申して宜しいのであらうかと私は思ひます、としますと、皇族の身位其の他の權義に付きましても、此の憲法第三章各條の規定が適用せられ、其の範圍内に於て此の規定に牴觸しない限度に於て特別の規定を設ける外はないと云ふことにならうかと思ひます、そこで伺ひたいのは、天皇も同樣でありますが、姑く天皇は別にしまして、皇族に付きましては、原則としては一般の人民と同じ規定が適用せられる、憲法に許す限度に於て特殊の規定は設けることはあるが、其の特殊の規定のない以上は一般の規定、一般の人民に適用すると同じ規定、身分關係、財産關係と言へば、主として民法、さうして又其のやうな關係に付て爭を生じ、皇族相互間又は皇族と人民との間に爭を生じて訴訟となつたと云ふ場合には、それは民事に付ては民事訴訟法、裁判所構成法、さう云ふ普通法の適用を受けるのであります、此のやうに了解して宜しいのでございませうか、其の點を伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=12
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013・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 大體御説のやうな考へ方を以て政府は事物を進行さして居ります、詰り此の前憲法改正の論議の時に、此處で實際問題となりましたが、皇族も亦國民の一人であるかどうか、或は天皇も亦國民の一人であるかどうかと云ふ點に付きまして、各々解釋は自由であると云ふことに話は進行したと記憶をして居りますが、政府としては一つの解釋を持たなければならない、其の前提から申しますと、私の生活に於ては皇族も亦國民として考ふべきものである、斯樣な風に考へまして、さうして皇位繼承と攝政就任と芸ふ、此の憲法の掲げて居りまする特別なる事柄と結附けまして、特殊なる例外を求むる場合は例外を認めても宜しいけれども、其のやうな關係から例外を求むる理由の起らない場合は、總て國民は法律の下に平等であると云ふ原則が當嵌つて行くと考へて居ります、其の趣旨に基きまして、今御示になりましたやうに私法の關係に於きましては、原則として國民と同じであつて宜しいと云ふ考へ方に到達致して居ります、又司る法の關係に於きましても、大體に於きまして一般の規定に依つて宜いと云ふ風の方向に於て研究を進めて居ります、其の外幾分の例外は固より起り來るものと存じて居ります、例へば戸籍法の如き問題になりますると、此の皇室典範に豫想して居ります所の皇統譜と云ふものが特別なる意味合を持つて來まして、そこに何等かの例外が起つて來るであらうと想像して居ります、大體左樣な考へ方に基きまして目下法律の研究をして、來るべき通常議會にそれ等の規定を議會に提出して協贊を求めたいと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=13
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014・村上恭一
○村上恭一君 そこで續いて御伺ひ致しまするが、皇族にも大體に於て普通の法規が適用せられると云ふことを前提としまして、併し皇族に關しては場合に依つては例外の規定を設くることもある、併し其の例外の規定は、憲法の原則に牴觸してはなるまいと思ひまする、で一つ問題として伺ひたいことは、憲法第二十四條の第一項に「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、」云々とあります、婚姻の要件は唯當事者二人の合意のみに限るのでありまして、其の他に現行の規定にありますやうに、やれ家族にありては戸主の同意を要するとか、又は或年齡未滿の者にありては父母の同意を要する、さう云ふ條件を取附けてはならぬと云ふことにならうと存じます、現に現行の民法はさう云ふ方向に向つて、さう云ふ線に沿うて之が改正を目下當局に於て御審議中であるやうに伺つて居りまする、處で轉じて此の皇室典範の議案を見まするに、其の第十條に立后是は天皇に關することでありまするから暫く別と致しまして、「皇族男子の婚姻は、皇室會議の議を經ることを要する、」、此の皇室會議の議を經ると云ふのが、單に諮問に答申すると云ふのか、或は決議すると云ふのか、言ひ換へれば、此の關係に於て皇室會議は諮問機關なのであるか、決議機關なのであるか、稍稍疑はしいやうに存じまするが、是は逐條審議の際の質疑に讓ることに致しませう、何れにしましても、此の皇族男子の婚姻が皇室會議の議を經ると云ふ條件を必要とする、當事者二人の合意の外に斯樣な要件が必要と云ふことは、憲法第二十四條第一項の要求する所に合致しないのではないかと云ふやうなことを私は疑ふのであります、さうして強いて想像を逞くして、最惡の事態を頭に浮べて見ますれば皇室會議の議を經ずして皇族男子が婚姻を爲さむとする、其の婚姻が法律上有效であるかどうかと云ふことが爭となつて、遂に裁判所の事件となつた、そんなこともあり得ないとは言へない、まさかそんなことが事實起つて來ようとは思ひませぬけれども、強ひて想像すればさう云ふことも頭に浮ぶ、さう云つた事態となりました際には、裁判所は憲法に依つて違憲立法を排斥する權能を與へられて居ります、憲法に違反すると認める法律は無效なりとして、之を適用しないと云ふ權能を與へられて居ります、裁判所が此の違憲立法審査權限に基きまして、皇室典範第十條に、「皇族男子の婚姻は、皇室會議の議を經ることを要する、」と云ふ規定は、憲法第二十四條第一項の規定に違反するものである、是は無效である、斯う言つて皇室典範の部分的の無效を宣言すると云ふやうなことも起つて來るのぢやなからうか、斯う云つたやうなことが考へられます、そこで今日問題として伺ふ所は、廣く關聯はしまするが、其の一端としまして、皇室典範第十條の規定、それは憲法第二十四條第一項の規定に牴觸する虞はないかと云ふことを此處で御尋ねしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=14
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015・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御説の通り憲法第二十四條第一項の規定に依りまして、婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立すると云ふことは儼然たる法則であり、之に對する例外ははつきりした理由がなければあり得べからざることと考へて居ります、併しながら此の憲法の第三章に掲げてありまする所の自由權は、一應は絶對的の規定ではありまするけれども、而もそれは第十二條等に依りまして、「公共の福祉のため」と云ふ枠の中に於てのみ用ひらるる規定であると云ふことは、憲法解釋上當然のことと考へて居る譯であります、さうして又憲法は皇位繼承と云ふことに付きましては、世襲と云ふ言葉を用ひ、其の考の中に、文字には當然には入つては居りませぬけれども、世襲と云ふことに結び合はせて持つて居る基礎原理と致しましては、血統が世襲と云ふことに相應しい程度に純潔でなければならぬと云ふことを含んで居ると存じます、是等を綜合して考へて行きますれば、憲法二十四條には「兩性の合意のみに基いて成立し、」と云ふことになつて居りまするけれども、皇位繼承の基本の原理に當嵌めまして必要なる制限を爲し得ることは、其の條文の相互の關係から顧みまして當然でありまするし、又今の二十四條が、直接には公共の福祉の範圍内に於て存在すると云ふ明文がある點から見ましても、斯樣な皇室典範第十條の規定が生れ出ることは憲法上正當であると、斯樣に考へて居ります、唯念の爲に附加へて置きまするが、此の規定は已むを得ざる最小限度に於て、此の婚姻の成立の條件を附したのでありまして、運用の實際に於きましては可なり裕りのある規定と存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=15
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016・村上恭一
○村上恭一君 尚他に御伺したい點も多々ございますが、併しう大分時間も經ちましたから、私としましては最後に一點伺ひまして、此の機會に於ける質問を終りたいと思ひまする、それは外でもありませぬ、元號のことでございます、年號、此のことは昨日渡部委員から御質問もございましたが、私は勿論關聯はしまするが、少しく別の側から御伺して見たいと存じます、抑抑此の元號なるものは皇室典範に屬する事柄ではないのでありまして、現行の皇室典範の中の其の第十二條でありまするが、「踐祚ノ後元號ヲ建テ」云々とありまする、此のやうに元號のことが皇室典範の中に規定してあるのは間違ひだと云ふ説がありまして、私は尤もと思ひまする、併し現行の皇室典範に規定してあることでありまするから、此の機會に私は問題としたいのであります、尚元號なる制度は、私一個の私案としましては、之を全廢するが宜いと云ふことを考へて居りまして、今日迄或機會に其の私見を漏らしましたことも二三囘ございまする、若し之を斷行するならば今こそ絶好の機會であると思ひまする、併し政府にはさう云ふ御意思もないやうでございまするから、そこ迄私は突き進んで論じようとは思ひませぬ、元號を存する、それは御一世の間に之を變更せられない、所謂一代一元、是は明治元年の定制である、之に據ると云ふことでございます、元號を存置せられまする以上は、せめては此の一代一元と云ふことでなくてはいかぬ、それがさうありますることは結構であります、唯其のことが今後はどう行はれませるか、承る所に依りますれば、明治元年のあれは太政官の布告でありましたか、今後は御一代の間に年號を改められることはないと云ふことを定められたのでありまして、其の所謂明治元年の定制は今以て效力があるに違ひない、皇室典範第十二條には「明治元年ノ定制ニ從フ」とあります、明治元年の定制が生きて居る、其の生きて居る明治元年の定制の通りにするのでありまして、明治元年の定制なるものは太政官布告、それは今尚有效なものでありまする、でありまするが、其の明治元年の定制、太政官布告の趣旨を解釋しまするに、其の年號は勅定せられる、天皇が之を御決定遊ばされるものと解せられる、さう解釋する外はなからうと思ひます、其のことが今後尚差支なく行はれるでありませうか、と申しまするのは、改正憲法に依りますると、天皇の權限、それは極度に制限されてしまふのであります、即ち憲法第四條の第一項に「天皇はこの憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、國政に關する權能を有しない、」、天皇の權限は憲法所定の國事に關する行爲だけに限るのであります、處で元號を定めると云ふことは、正に國事に關する一つの事件であります、天皇が之を行はせられれば、それは國事に關する天皇の行爲でありまする、併し之に付ては憲法に何等規定がない、「憲法の定める國事に關する行爲」の中には、年號を定めると云ふことを含まないとしますると、新憲法の下に於ては天皇は年號を御決めになる權限がなくなると云ふことになるのではないか、さうすると其の年號は一體誰がどう云ふ手續で之を決めるのかと云ふことが分らなくなつて參りますのです、そこを伺ひたい、それから年號に付きましては、何か明確な規定が矢張りあつた方が宜い、明治元年の太政官布告、それを八十年後の今日、今後も亦長い間、其の儘持續けて行くよりも、此の機會に於て、形式は或は法律でありませうか何かを以て、年號に付ての明確な規定を設けるのが當然ではないかと、斯う考へるのであります、將來年號はどう云ふ手續で決まるのか、之に付て明確な規定を設ける意思が政府にないかと云ふことを伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=16
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017・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 元號の點に付きましては、今大體御示を願ひまして、其の御示し下さいましたことが答となり得べき部分が大部分であります、御説の通り明治元年の九月八日の太政官布告に依りまして、年號は一世一元であると云ふ方針が立てられて居りまするが故に、今日皇室典範第十二條の規定が無くなりましても、此の基本のものが存在して居りまするからして、實行上に於きまして差支はない、即ち現在の年號が其の儘國法上の價値を以て行はれて行くと云ふ點に付きましては、一點の疑はございませぬ、而して更に將來年號が定められまするやうな場合に於きまして、如何なる基準の規定があるかと云ふことになりますると、是は問題が多少起り得ると存じて居ります、私の只今の見解では、矢張り此の明治元年の太政官布告が其の儘效力を持つて居るが故に、之に準據して元號を定むべきものであると考へて居ります、併しながら今御示のやうに、天皇の御權能の中には、多分元號を定めまする權能は含まれて居ないと存じて居ります、從つて此の元號を定めまするのは、解釋だけの範圍で進むものと致しますれば、明治元年の太政官布告の規定と、新しき憲法の規定と、之を組合せまして、そこに解釋論が生れて來るものと存じて居ります、天皇の御勅定になつたと云ふ此の明治元年の規則、憲法の定まつたる新たなる後に於きましては、恐らくは内閣の所管することであるか、或は法律を以て定むべきものであるかの孰れかになるものであるかと存じて居ります、私は内閣で決め得るものと、只今の所では解釋をして居ります、尚附加へではありまするが、左樣な場合に天皇と組合はされて考へられまする所の年號が、内閣だけで決まると云ふことは甚だ不自然なやうに響かないではございませぬけれども、併し改正憲法の規定から致しますと、是は冷やかなる法理の導く所に從はなければならぬ、併し儀式に關しますることは天皇の權能に續するのでありますから、左樣な内閣で決つた所の元號と云ふことを儀式の面に於きまして天皇の御權能の範圍に導き入れることは考へ得べきものと思つて居ります、そこで次に起りまする問題は、今御示しになりましたやうに左樣な問題であるならば、此の際適當なる立法其の他の措置を講じて、將來の此の元號の基礎を確かにして置くのが宜いではないかと云ふ御尋かと存じまするが、是は御尤もなる問題と存じて居ります、併し他の一面に於て考へなければなりませぬことは、今村上さん自身が御示しになりましたやうに、此の元號と云ふものを今後存續することに付きまして考へなければならない幾多の面があると云ふ點であります、例へば此の元號と云ふものは定めることは定めるけれども、年を現す爲にどう云ふ範圍で之を使ふのか、或範圍の人は之を使ふ、或範圍の人は紀元年數を使ふ、或範圍の人は西暦を使ふと云ふやうに國法秩序の上に於てばらばらであつて宜いのであるかどうか、それは一つの問題であります、或は斯樣な元號と云ふものを將來とも持續することに何か尚考へて見なければならない點があるのではなからうか、斯う云ふ點、それから又天皇を國の象徴として仰いで居る限り、其の天皇の御治世に結び合はせて、新たなる元號が出て來るやうな制度が正しいではないか、と云ふやうな考へが幾多起つて來る譯でありまして、是等を研究致しまする爲には、今日それに對して積極的なる法理上秩序を作ることは稍稍考慮すべき點がありますので、現在は過去の制度が生きて居ることを其の儘活用して特別なる立法の措置を講じない次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=17
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018・村上恭一
○村上恭一君 私は是で終りました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=18
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019・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 私は此の機會にほんの一二點簡單に伺つて置きたいと思ふのであります、それは皇室典範案の第六條には、「三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする、」とありまして、現行皇室典範の五世以下と云ふのに比較致しますると、餘程短縮された譯であります、此の五世以下と云ふ規定は恐らく大寶令に於きまして五世以下を以て臣下とするとあります所から出たものであらうかと思ふのでありまするが、兎も角現行皇室典範に於きまして五世とありまするのを、皇室典範案に於きまして特に三世と短縮されました其の理由をば一つ伺つて置きたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=19
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020・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 第六條に於きまして親王、内親王の範圍を狹く致しましたのは、結局大寶令の考とそれから明治の皇室典範との考との中間を行くやうな折衷的な考へ方であります、今御示しになりましたやうに、大寶令に於きましては、親王の範圍は非常に狹い譯であります、皇兄弟と皇子だけが親王でありまして、二世、三世、四世は王であります、五世以下は皇族ではないと、斯う云ふ風に非常に狹くせられて居つたのでありますが、それが實際の事情に合はない爲に、漸次擴大されて稍稍統一を失つたやうな、状況になつて居つたのでありますが、此の明治の皇室典範に於きまして、さう云ふ點を考慮せられまして、皇族の範圍を相當擴大せられまして、今迄と違つて四世迄は親王、内親王でありまして、五世以後は永久の皇族である、斯う云ふ風に定められた譯であります、此の考へ方を新たなる法律案を制定致しまする立場に於て、もう一遍考へ直して見ますると、此の皇位の斷承が何等の斷絶なくなだらかに行はれて行きまする一面を考へ、他の一面に於きましては、國民の中に特別に扱はるる人が少い、全く皇位繼承、攝政就任と云ふことからして考へ合せて、國民の中の此の特別の地位を有する人の範圍を決めて行くと云ふ考へ方を折衷させて行きますと、どうも現在の制度は廣過ぎると云ふ考が起りまして、結局是は後は腰だめと云ふより外に仕樣がありませぬが、大寶令と現在の制度との中間を取りまして、二世迄を親王、内親王とする、三世以下は王、女王とする、而も是は制度の建前に於きましては、永久皇族の制度を取るが、運用に於きましては、そこに大なる注意を加へて、皇族外に御移りになる場面を豐かに認めて置く、斯う云ふ風に出來たのでありまして、要するに實際の事情を考へ合せまして、折衷的なる規定を定めた譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=20
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021・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 次に伺ひたいと存じまするのは、現行皇室典範に於きましては、勅旨又は情願に依りまして、華族に列せらるるとありまするからして、臣籍に御入りになることが明かに出來る譯でありまするが、皇室典範案に依りますると、此の點に付きまして、聊か疑を懷く餘地があるかのやうにも考へられるのであります、即ち皇室典範案の第六條に於きまして、五世をば三世に短縮をされました同條の精神から申しますると、同法第十一條に於きましても、皇族の御意思を尊重致しまして、皇族御自身の御意思だけで以て臣籍に御入りになることが出來るやうに致す方が矛盾がなくて宜いのぢやないかと考へられるのであります、然るに同法第十一條には「年齡十五年以上の内親王及び女王は、その意思に基き、皇室會議の議により、皇族の身分を離れる、」云々とありまして、皇族は自己の御意思だけでは臣籍に御入りになれない、どうしても皇室會議の議を經なければならないと云ふことになる譯であります、然らば皇族は自己の御意思だけで皇族たる身分を離れられることは出來ないのでありまするか、伺ひたいのであります、皇族御自身の御意思に依つて臣籍に御入りになれないと云ふことは相當重大な問題であるかと考へられまするが故に、特に此の點に付ての御説明を煩はしたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=21
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022・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御説の點は相當此の皇室典範の全般に亙りまして、色々な所に姿を現して來る問題であります、と申しまするのは、國民の自由と云ふ思想と皇室の組立と云ふこととの間に色々な境界線の問題が起つて來まして、其の一つに屬する譯でありますが、此の典範の建前と致しましては、皇族は何故に特別なる地位を御持ちになるかと言へば、皇位繼承とそれから攝政御就任と云ふ一つの重大なる任務がありまして、其の順序、機會が生じ來りますれば、否應なしに皇位の繼承、攝政就任と云ふ重大なる地位に御就きになる譯であります、勿論皇族の配偶者は是は稍稍事情を異に致しまするが、生れつきの皇族に付きましては、左樣な考が基になつて來る譯です、して見ますれば、さう云ふ重要なる、國の中心となります仕事に責任を御持ちになる限り、茲に何等かの制約が現れまして、一般國民の持つて居る自由と違つて來ることは、是は免がれ得ないことと存じて居ります、唯制度を作ります時に、斯う云ふ所に不自然の所のないやうには常に注意をしなければなりませぬが、理論としてはどうしてもさう云ふ場面が出て來るのであります、從つて第十一條の一項に示されて居りますやるに、内親王及び王、女王が皇族たるの身分を御離れになる場合に於きましては、御一人の意思だけではいけない、更に皇族全體の樣子から考へまして、今御離れになつても宜しいかどうかと云ふことを、曩に述べましたやうな、皇位繼承、攝政就任と云ふことと關聯をさして、皇室會議で議すると云ふ趣旨に致しますれば理論にも合ひ、實際に無理がない程度に於て缺點が除かれると云ふことが、此の規定の考であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=22
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023・梅園篤彦
○子爵梅園篤彦君 私は皇室典範案に於きましても、皇族が其の御意思だけに依つて臣籍に御入りになる途があつて宜いと云ふやうに考へますが、此の點は此の程度に止めて置きます、次に新憲法の施行に依りまして、有爵者がなくなる譯でありますが、從つて有爵者あつての華族でありますから、華族と云ふ族稱は自然消滅するものと考へます、左樣に了解して宜しいのでありますか、念の爲に伺つて置きたいのであります、尚華族の族稱もなくなると致しますれば、皇族の御降下と言つた場合に於きましても、相當御困りになることがあるのぢやないかと云ふやうに思はれますが、此の點に付ての大臣の御所見を伺つて置きたいと思ひます、又之に關聯致しまして士族の族稱に付て併せて伺ひたいのでありますが、士族の族稱廢止に付きましては、寡聞にして何等聞くところがないのでありますが、士族の族稱は其の儘に存置されるのでありますか、或は又之に對しまして何等かの措置を執られるのでありますか、此の機會に伺ひたいと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=23
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024・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御尋の、華族と云ふ族稱が自然改正憲法の實施に依りましてなくなることと存じて居ります、從つて皇族が皇族の身分を御離れになる場合に於きましても、現在のやうに臣籍降下とか、或は家督相續の爲の降下と云ふ途はなくなつてしまつて、一般の國民と同じやうな地位に御成りになると思ひます、それは現行の制度から見ますと、可なり飛躍的な感じがせぬでもありませぬが、憲法改正の建前から申しますれば、左樣な結果になるの外はないと存じて居ります、又此の士族の稱號、其の族稱を廢するかどうかと云ふ問題に付きまして、既に華族と云ふ名稱がなくなり、其の他特別なものがなくなりました今日に於きまして、理論に於きましては士族と云ふ族稱も何とかしなければならないもののやうに私は考へて居りますけれども、此の問題は私の所管を離れて居りますので、まあ學説的な意見を述べる程度に於て今日は御許を願ひたいと思ひます、此の問題は司法大臣から申上げたならば、或は司法大臣か、内務大臣か、どちらかはつきり存じませぬが、其の方からはつきり御答をした方が宜しいかと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=24
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025・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 宜しうございますか……次に松村君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=25
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026・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は皇室典範が法律であると云ふことが了解が出來ない、何處に法律と云ふことが書いてありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=26
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027・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 文字のない所に法を發見すると云ふことは、法律解釋の範圍内に於て既に存在するものと存じて居ります、皇室典範の來るべき形が法律であると云ふことは、其の趣旨に於て、改正憲法第二條の問題でありますが、其の結論を導き出し得るものと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=27
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028・松村眞一郎
○松村眞一郎君 それは解釋問題でありますから、私は法律にあらずと云ふことを解釋致して居る、何故かと云ふと、憲法の中に法律と云ふことを明かにする必要があれば、何もさう云ふことを避ける必要はない、法律を以て皇室皇範を定めると書けば宜い、何が故に憲法に法律と云ふことを書かなかつたのでありますか、其の書かなかつた理由を承りたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=28
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029・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 何が故に書かなかつたかと云ふことは、詰り書かなくても宜かつたから書かなかつたと、斯う御答をする方が、簡單にして適格であると存じますが、其の内容が法規であり、而も國會の議を經るものであると云ふ場合に於ては、それが法律であると云ふことは、此の建前を見て行けば、自然に分ることと存じて居ります、さうして典範と云ふ言葉は、先にも述べましたやうに、法と云ふ言葉の一つの尊嚴なる言ひ表し方である、勿論場合に依つて違ひますが、廣い法の中の或特殊なものを指す場合の、尊嚴なる言ひ表し方であると言へると思ひます、でありますから、皇室典範と云ふことは法であつて、それが國會の議を經て居ると云ふことでありますから、茲で即ち法律であると云ふ風に考へます、其の趣旨に依つて、例へば法律公布とか云ふやうなものの規定とも相照應して居ります、或は此の憲法に反する法律は效力を持たないと云ふやうな規定とも照應し、其の他法律と云ふ言葉が使つて居ります所に於きまして、此の典範を拔いて讀むと幾多の不合理が起つて來るのであります、是等を綜合すれば、憲法全體の意味から見て、法律であることは疑ないものと見て居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=29
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030・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は疑があると考へますから伺つて居るのであります、是は解釋論であります、何が故に憲法を作る際に特に法律と書かなかつたかと云ふ理由が、私は今の御説明では分らぬと思ひます、書いてないけれども、法律と云ふやうに解釋するの外はないと云ふ言ひ譯であれば、私は了解致しますけれども、書かないと云ふ理由に私はならないと思ひます、何が故に書かなかつたかと云ふことを私は伺つて居る、何が故に書かなかつたのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=30
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031・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 過去の憲法制定の色々な理由を蒸し返して、此處で説明することが若し委員長に依つて許されれば、其の條件の下に御答を致したいと思ひます、實際此の改正憲法の骨子と致しましては、内容は最も合理的なる現代の姿に合はさなければならぬ、併しながら皇室の尊嚴に付きましては、相當字句の間に用意を用ひると云ふ主義を執つて居ります、從つて皇室典範と云ふ言葉を用ひることが好ましかつたのであります、併しながらそれが若し法律でないと云ふ誤解を受けると、甚だ不適當でありまするが故に、「國會の議決した」と云ふ言葉を加へまして、婉曲にそれが法律であることを示したことは、是は皇室に關する制度に付きまして、一種の莊重さを與へる趣旨に基いて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=31
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032・松村眞一郎
○松村眞一郎君 莊重さを加へると云ふことが、法律と云ふ字を避けなければならぬと云ふ理由にはならないと思ひます、寧ろ是は法律でないと云ふことに憲法は初から決めて居ると私は考へる、何故かと云ふと、此の皇室典範と憲法と云ふものと、兩々相對立して居つて、實質的の憲法であると云ふことを、是は穗積八束先生などは言つて居られる、是は金森さんの能く御承知の通りであります、私は憲法と云ふものは、成文の日本國憲法に示されて居る全部が憲法ではないと云ふことは、本會議の演説に於て明瞭に申して居ります、日本の國の秩序を維持する所の根本法規の中で或ものを成文憲法として示したのでありますから、それに掲げるに至らなかつたものは實質的の憲法であると私は考へます、從來の學説は皆さうである、皇室典範と云ふものは其の實質上の憲法と見て居るのでありまして、兩々相對立して居るものと云ふ考へであります、今金森國務大臣の言はれた言葉を取つて申しますならば、特に尊嚴に致さなければならぬと云ふことを言つて居られる、特に尊嚴と云ふことは、法律の上に於ても特に尊嚴と云ふ意味と解釋するより他はない、特に尊嚴と云ふことは、意味をなさない、法律と同じ高さにすると云ふならば特に尊嚴でも何でもない、金森國務大臣の答辯それ自身が示して居る如く法律よりも特に尊嚴であるべきであると云ふことは明瞭でありますから、それで之を法律としなかつたと云ふことに私は解釋します、是は解釋の爭ひであります、如何にさう云ふことを仰せられましても、此の憲法が法律と書いてない以上は、憲法は法律として居ないと言ふことは、決して誤りと云ふことは言へないと私は思ひますが、其の點に付て如何でありますか、尊嚴であるとか、之を非常に重きを置かなければならぬと云ふことが、法律と云ふ文字を避けるべき理由になるのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=32
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033・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) それは言葉を使ふ時の、其の時々の考へ方に依るのでありまして、法律と云ふ言葉を用ふる代りに、其の法律の一つの場合を、皇室典範と云ふ、國會の議決を經たる皇室典範と云ふ言葉を以て言ひ表はすと云ふ考へ方は、兎も角も成立し得る行き道であらうと存じて居ります、御話の通りになるや否や、是は解釋は自由でありますから如何とも致し方はございませぬ、それで尊嚴と云ふ意味で書いたならば、そこに別個の法律になる、斯う云ふ御話でありましたが、之も一つの考へ方であります、必ずしもさうばかりとは言ひ切れないと存じます、例へば此の皇室典範の案に於きまして、天皇が崩ずると云ふ言葉が使はれて居ります、崩ずると云ふ言葉は死すると云ふことと違ふと云ふことにはならないと存じて居ります、又立后と云ふ言葉を用ひて居りますが、他の場合には婚姻と云ふ言葉があるのでありますが、是も言葉は違ひましても内容は同じ譯でありまして、矢張り斯樣な國の樞機と申しますか、根本に關しまするやうな規定を設けまする時には、文字の上にそれ相應の變化のあることは、まあ然るべきことのやうに思ひまして、文字の變化があるから内容に變化がないと斷じまする迄には、尚他の論據を必要とするのではないかと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=33
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034・松村眞一郎
○松村眞一郎君 益益私は了解に苦しみます、元來此の皇室典範なるものの内容に於ては、從來の典範と異る所はないと考へますが、如何でありますか、其の重要性です、國の根本法規としての重要性が今度の典範に依つて輕くなつたのでありますか、重くなつたのでありますか、私は同じであらうと思ひますが、如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=34
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035・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 輕くなつたか重くなつたかと云ふことは、私には能く其の意味が掴めませぬので、それに對しましては御答は出來ませぬが、形式的なる意味に於きましては輕くなつたと思ひます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=35
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036・松村眞一郎
○松村眞一郎君 實質を伺つて居るのです、實質上、國の秩序の根本法規である、根本規範である、此の典範と云ふ字があれば、それは法であると云ふことは明瞭である、それは宗教とか倫理とか云ふことに對する意味の法と云ふことには了解出來ますけれども、典範と云ふ字があれば、それが法律である、さう云ふことは直ぐ出て來ることはないと思ふ、兎も角憲法が非常に用意周到に法律と云ふ字を避けて居るのは法律と云ふものよりも重いものであると云ふ考に於て、憲法は殊更に法律と云ふ字を用ひなかつたと云ふ方に私は議論を立てるのが相當であると考へる、只今申された崩御とか死亡とか云ふことは、字は同じである、典範と云ふ字を書いて法律であると申しますことは何人が先に申して居りますか、文字は典範と書いてある場合には法律よりも上のものである、憲法と同じものであると云ふことに實質上解釋して居つたものが今度……、死亡と云ふ字は内容は同じである、何人も疑はない、併しながら私が今申しました如くに、典範と云ふ字は、典範と云ふものが法律と云ふことには從來解釋して居ない、憲法と對立したものであると解釋して居ることは御承知の通りであります、さう云ふ意味に於て、私は只今言はれたことは了解致しませぬ、尚重ねて伺ひますが、此の典範を議するに當りまして、衆議院と參議院との意見の一致しなかつた場合には、五十九條の規定の適用があるのですか、衆議院の方で三分の二以上の多數で可決したものは法律になると云ふ其の適用もあると云ふ御考でありますか、如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=36
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037・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 典範と云ふ言葉は法と云ふ意味を持つて居ないと云ふ、斯う云ふ御意見でありましたが、私共は左樣に考へて居りませぬ、典範と云ふ言葉は、或範圍に於きましては、法と云ふ意味を持つて居ると考へて居ります、從つて是は理由にはなりませぬ、唯當時の私共の氣持を論證するだけであります、英文に飜譯致しました場合に於きましては、等しく「ロー」と云ふ言葉を使つて居ります、そこで問題は只今の御質疑に移りまして、貴衆兩院の意見の相違があつた時に、改正憲法の二者の意見の違つた場合に當嵌まる第五十九條の規定が、如何に用ひられるかと云ふことでありましたが、それは此の憲法の本文は未だ效力を持つて居りませぬが故に、適用はないものと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=37
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038・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は、典範と云ふ字が法と云ふ意味であると云ふことは認めて居るのです、「ロー」と云ふことに飜譯するより外はありませぬ、それは私が先程申しました「ロー」と云ふ意味の法と云ふことは、倫理とか宗教とかと云ふものに對する言葉なのでありますから、典範が法であると云ふことに付ては、私は何も異議を言うて居るのぢやない、法律、憲法の認めて居る法律であると云ふことがどうして分りますかと云ふことを申上げて居るのであります、尚第五十九條の適用は、今日の典範に付て私は申して居るのぢやない、將來日本國憲法が施行された場合に於て、典範の改正案が茲に提案された場合に於きまして、衆議院のみの議決で宜しいのであるかとうかと云ふととを伺つて居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=38
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039・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御尋を誤解致しまして、恐縮致しました、改正憲法が施行せられました後に於きましては、此の規定は適用になることと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=39
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040・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私はそれに對して異議を持つて居るのみならず、さう云ふことに取扱ふべきものでないと考へます、典範は國の根本法規でありますから、衆議院だけの議決で法律として成立せしめると云ふやうな精神を以て取扱ふべきものでないと私は考へます、それは憲法自身の改正に付きまして、第九十六條に、憲法改正の場合には各議院の總議員の三分の二以上の贊成で議決しなければならぬと書いてある如く、莊重なる國の根本法規を定めるに當りましては、多數で押して行くと云ふやうな精神は、此の憲法の中にはないものと私は考へます、何故ならば、憲法それ自身の改正の場合には、衆議院と參議院との間に甲乙を付けて居ないで、國全體が行ふべきである、根本法規に付きましては、愼重の上にも愼重を加へて、兩院の贊成を得て成立せしめると云ふ精神であると私は考へます、それ故に、典範の如き根本法規は、衆議院の多數で以て決めるべき趣旨でないが故に、國會の議決を經てと云ふことを書いてある、唯率直に讀みました場合に、國會の議決を經ると云ふ意味は、第五十九條の規定の適用のないものであると私は解釋致すのであります、國會の議決と云ふ其の國會は、特別の明文なき以上は、兩院共に議決すると云ふ意味である、參議院の議決はなくても宜しいと云ふやうな意味には、私は第二條は解釋することは出來ないと云ふ關係から、典範は法律に非らず、法律と違つたものである、さう云ふ風に私は解釋するのであります、それは意見の相違であると言へばそれは別でありますが、私はさう解釋を致す者であります、それは只今の御説明に依りましても、典範が法律であると云ふことを、憲法それ自身、はつきりして居る規定のないことは明瞭なのである、それは御認になるのでせう、典範は法律と云ふことを直接に書いてある規定はない、何處かに直接に書いてある所がありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=40
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041・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 直接に書いてある規定はございませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=41
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042・松村眞一郎
○松村眞一郎君 それであるが故に典範は法律でない、法でないと云ふのぢやありませぬ、法律でない、法令であるとか、政令とか、條約と云ふことは書いてある、此の憲法に謂ふ法律は憲法の下のものである、併しながら皇室典範は從來憲法と對立して同じものである、實質に於て同じと云ふならば、それは形式に於てもさう云ふ程度に於て尊重しなければならぬものと私は考へますが、是は意見の相違と仰せられればそれで宜しい、で典範の公布と云ふことに付ては、どの規定に依つて致すのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=42
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043・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 意見の相違と云ふ風に仰せになりましたが、詰り解釋の相違と云ふことに歸著するかも知れませぬ、私は皇室典範は今後法律の一種であると考へて居りまして、憲法の中に規定してある所の法律に關する規定が、總て皇室典範に適用されて行くものと存じて居ります、そこで第五十九條は皇室典範に適用があると申しました、若し此の規定がなければ皇室典範がどう云ふ手續で國會の議を經るかと云ふことに付てすらも、はつきりした規定がないことになる譯であります、それから今の公布のことに付きましては、法律と存じて居りまするが故に、法律に關しまする公布の規定が當嵌つて行くことと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=43
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044・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は典範と云ふものの性質上、必ずしも公布を要するかどうかと云ふことは是は別に考へて宜いかと思ひますけれども、法律にないと云ふか、あるかどうかと云ふことが先決問題でありますから、典範の公布と云ふことは、私の解釋では憲法の直接の明文としては現れて居ないのでありますから、如何に公布されるかは、それは時の便宜に依つて致さるべきものと考へます、それと同じ關係は、豫算に付ては如何でありますか、豫算の公布に付ては如何致しますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=44
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045・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此の憲法の改正の下に於きましては、憲法の條件として豫算を公布することは必要がないと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=45
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046・松村眞一郎
○松村眞一郎君 さう致しますと、金森國務大臣の御解釋では豫算は今後公布しないと云ふ、又しないことが當然であると云ふ意味でありますか、公布すべきものでないと云ふ御議論ですか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=46
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047・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此の憲法の規定の下に於て公布する必要がないと斯う申しましたが、實際の運用に於きまして、それを一般の人の知り得る状況に置くことが正當かどうかと云ふことは別の問題となると考へて居ります、此の憲法の下に於きましては、豫算は政府に於きまして財政の見積りをして、それを國會に依つて承認して貰ふと云ふことでありまするが故に、他の法律と異りまして、公布を必然的に必要なりとする議論は生じて來ませぬ、後は便宜の問題が殘る次第と存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=47
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048・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は豫算の公布と典範の公布とは同じやうな考へ方で公布されて宜いだらうと存じます、豫算は從來公布し來つて居るものでありまして、新憲法が出ましたからと云つて豫算の公布をしないと云ふことは私は必ず行はれないと思ひます、必ず公布されると存じます、さう云ふ譯でありますから、必ずしも此の憲法の文字にあるからと云つてそれに拘泥する必要はないと存じます、典範が本質上に於て法律でないからと云つて、法律的の取扱をすると云ふことは、是は一向差支ないと思ひます、併しながら本質が法律でないと云ふ關係を徹底して、國民の總意に依つて決めらるべき此の皇位の繼承と云ふことに付きましては、衆議院の議決のみを以て典範が成立すると云ふが如き解釋は許すべからざるものであると私は考へまするが故に、典範は法律でないと云ふことの結論を私は持つて居ることを申上げます、次に女帝の問題でありますが、女帝を皇室典範にお書きにならないと云ふ意味は、それは兩性の平等と云ふ關係は考慮に入れながら、其の問題に付ては尚色々考究すべき問題もあり、色々な點に付て未だ政府としての意見の熟せざる所あるが故に、典範に規定するに至らないと云ふお考でありますか、如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=48
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049・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 御意見の通りであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=49
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050・松村眞一郎
○松村眞一郎君 次に讓位の問題であります、此の讓位の問題に付きまして、政府のお考は、憲法が第二條に於て、典範に定めるべきものとして規定して居りまする中には、讓位と云ふ問題を考へて居ると云ふ意味の御解釋になつて居るのでありまするか、私は繼承のことだけが典範に掲げらるべきものであると解釋致して居るのでありますが、如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=50
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051・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 私と松村議員との間には、皇室典範と云ふものに關しまする所の基本の觀念に於て稍稍違つて居りまするが如くに感ぜられまする爲に、今のお尋に付きましては、私の答が御趣旨に合はないかも知れぬと惧るる譯でありますが、私は此の皇室典範は飽く迄も法律の一種であると考へて居ります、從つて皇室典範と名付けましても名付けなくても、それは一つの法律でありまするが故に、其の中に單り皇位繼承及び攝政のことばかりではなく、若干の他のものを規定することは、何等支障はないと考へて居ります、其の見地に立つて此の皇室典範の案が出來て居るのでありまするが、左樣な意味に於きまして、詰り皇室に關しまして繼承と攝政と云ふことそれ自體及び之に關聯をして緊密なる關係にあるものは規定して宜いものと考へて居ります、其の立場から若しも讓位と云ふことが問題になりますならば、此の典範の中に規定しても差支はないものと思つて居ります、併し讓位と云ふことの實質に付きましては、毫末も贊成の考を持つて居りませぬ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=51
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052・松村眞一郎
○松村眞一郎君 此の點に付きましては、私は意見を異にして居るのでありますが、元來典範の規定を見ましても、例へば皇位繼承に付ての順位の變更であるとか攝政に付ても斯う云つた條項がある譯でありますが、其の場合取扱と致しましては、皇室會議の議を經て決定されることになつて居る、私は讓位と云ふやうな問題は、さう云つたやうな程度の議決を以て決定し得べきものでないと考へます、もう少し更に國民の總意を必要とするやうな事件でありまするが故に、今金森國務大臣の仰せられて居るが如く、憲法の下の法律で規定すべきものでないと考へます、若し金森國務大臣の御議論を徹底して行きますと云ふと、さう云つた問題も亦此の憲法第五十九條の規定に依つて、衆議院の議決だけで決定すると云ふことになる譯でありますか、如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=52
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053・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 左樣になると存じて居ります、又なつて然るべきものと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=53
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054・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私は其の點はもう全然所感を異に致して居るのでありまして、憲法の改正自身に付て第五十九條の規定がありまして、兩院の三分の二以上の議決を俟つて、憲法それ自身が改正されると云ふ程の鄭重さを憲法の改正に付て執つて居る場合に、只今申しました一旦皇位の繼承をなされた現在の天皇のやうな問題に關する場合に、衆議院の議決のみを以て其の問題が解決すると云ふが如く輕く取扱はれると云ふ解釋は、私は全然反對致して居ります、それだけ明瞭に申して置きます、憲法それ自身が定める以上に鄭重なる手續を以て、さう云ふ問題は考慮せらるべきものであると考へまするが故に、此の關係から申しましても、讓位と云ふが如き重大な問題を、此の政府提案の法律なりと解釋せられて居る所の皇室典範に定めることは、當を得ないものと私は考へまするが、是は意見でありまするから、一應さう云ふことを申上げて置きます、私は只今申しました讓位と云ふが如き問題は、極めて重大なる問題であり、皇室典範に於て考慮し得るものであるけれども、考慮しなかつたと云ふことの御議論のやうでありまするが、さう云ふ問題は御考慮になつたのでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=54
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055・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) さう云ふ問題を考へたかと云ふことでありまするが、其のさう云ふ問題と申しまするのは、讓位と云ふことを法律の中に書くやうな必要があるかと云ふ點に付て考へたのであります、讓位と云ふ規定を置くことが宜いと云ふやうを意味に於て考へたのではございませぬ、さう云ふことを書いたらどうかと云ふ世間の一つの議論はある、之に對して此の典範を起草する時に如何に考へて行くか、斯う云ふ關係に於て考へて、それは書く必要なしと云ふ風にして解決をした譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=55
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056・松村眞一郎
○松村眞一郎君 私はもう是で結構であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=56
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057・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 次に有馬君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=57
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058・有馬忠三郎
○有馬忠三郎君 私の質問申上げたいことは、大部分既に各委員から御質問になつたことが多いのでありまして、重ねて重複する必要はないのでありまするが、唯一點だけ補足的に承つて置きたいことがあります、それは此の憲法第二條に關係しまして、皇室典範は「國會の議決した皇室典範」、是は非常に重大な問題であらうと思ふ、試みに我々が數十年後に身を置いて見て、我我の子孫が此の皇室典範案が皇室典範になつた時に讀んで、さうして何か爭ひが起つた時に、一體此の皇室典範は國會の議決を經たものかどうかと云ふことが第一に疑問になると思ふ、今日こそ國會の議決に代るに議會の議決を經たと云ふやうなことを考へて居るが、我々の子孫が皇室典範を見た時分に、皇室典範を國會が議決すると云ふことが憲法にあるが、此の皇室典範は國會の議決を經て居ないぢやないかと云ふことが我々の頭にでも浮ぶのであります、從ひまして此の點に付きまして、國務大臣が既に御説明になつたことは大體了解は出來るのでありまするが、此の點をもう少し成るたけはつきり致して置きたいと思ふのであります、此の「國會の議決した」と云ふ二條は、國會を必要としないのであると云ふことは、憲法の百條の二項に依るのであります、此の百條の二項で此の憲法を施行する爲に必要なる法律、此の中に入るのだと、斯う云ふ御説明でありましたが、其の通りで宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=58
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059・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 左樣でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=59
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060・有馬忠三郎
○有馬忠三郎君 そこで只今のやうな、松村委員の御意見のやうに、此の皇室典範と云ふものと、憲法に依る法律と云ふものは、根本的に違ふのだと云ふ議論も、松村委員の如き博學の方でも御起しになる、現在に於ても又後世に於ても斯う云ふ疑は起り得るのである、私は此の二條の皇室典範が、百條の法律と云ふことに入らぬと云ふことを申すのではありませぬ、唯さう云ふ松村委員の如き疑を懷かれる方も、外にもあるぢやないかと思はれる、若し此の百條の法律と皇室典範と云ふものは違ふことになれば、百條に依つてと云ふ説明は何にもならぬことになるのであります、併し此の點は先づ第二に讓りまして、假に第二條の皇室典範は、百條の制定の法律と云ふことに入ると致しまして、然らば此の憲法を施行する爲に、皇室典範の必要がどの點に於てあるのでありますか、具體的に申しますると、皇室典範がなければ憲法のどの條文が施行に必要なんでありますか、その點をちよつと……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=60
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061・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 問題はどの條文にと云ふやうな考へ方よりも、此の皇室典範の基本として考へて居りまする天皇の法律的基礎が、國法上樹立されて居ない、此の憲法の要請する形に於て國法上樹立されて居ないと、斯う云ふことにならうと思ふのであります、併し是とて稀有の場合が起りまして、何ともならない時に、法律的解釋を加へると云ふやうな所迄進みますれば、それは又別の考でありますが、唯普通に考へまして、此の憲法が施行されると致しますれば、茲に此の憲法の豫期して居りますやうな、即ち第二條の規定が充實せられて、皇位の繼承の關係がはつきりさせられて居なければならない、又第五條の規定に依りまして、攝政が何時でも置けるやうな態勢が定まつて居なければならない、現實に是が必要になると云ふのではない、抽象的に斯樣な制度が整つて居なければ、此の憲法が合理的に施行せられたと云ふことにはならない、斯う云ふ意味に於ての施行に必要な法律と、斯樣に考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=61
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062・有馬忠三郎
○有馬忠三郎君 只今の御答辯は、大體私も了解を致したのであります、強ひて私の問のやうな、具體的にどの條文かと云ふことは、仰つしやる通りむづかしいのでありますが、私は寧ろ第一條の天皇が日本國の象徴であると云ふ點からして、象徴と云ふやうなものは、一日も缺くべからざるものである、であるからして寧ろ具體的に條文を申せば、第一條と云ふことが宜いぢやないかと思ふが、御答辯も大體さう云ふ御趣旨でありますから、其の點は了解致しました、併し次に憲法第二條の皇室典範と云ふことと、それから百條、此の典範が、百條の二項の、此の憲法を施行するに必要な法律と云ふものは、之に該當すると云ふことは、文言の上からも意味の上からも、どうもぴんと來ないのであります、假に皇室典範は法律にあらずと云ふ、松村委員の御議論は別にしても、皇室典範と云ふものは、國務大臣が言はれるやうな、普通の法律よりも、名稱に於ても尊嚴味を持つと云ふことは爭はれない、普通の法律よりも何となく日本國民としては、感情上尊嚴味を持つた法律であります、それならば非常に大事な法律であるから、百條に持つていつて、若し豫め憲法施行と同時に起さなければならぬものならば、もう少し明確なる過渡的な規定があつて然るべきぢやないかと思ふ、例へば百一條に、此の憲法施行の際に、參議院がまだ成立しない場合には、衆議院は國會としての權限を行ふ、斯う云ふ過渡的な規定があるのでありますからして、特殊の此の皇室典範に付きましては、國會は議決すると云ふけれども、國會でなくても、初め拵へる時分には議會でも宜いんだと云ふやうなことは、明かにする上から云つても、過渡的な規定があつて然るべきと思ふのであります、それがないと云ふのは、憲法の缺點と云ふよりも寧ろ外に意味があるのではないか、と申しますと、外の意味と云ふことになれば、矢張り文字通り國會の議決を必要とするのだ、さうすると憲法施行の瞬間に於ては、國會と云ふものはあり得ないのであるからして、皇室典範と云ふものはないと云ふことになるのぢやないかと云ふ考に落ちて來るのであります、茲で御伺ひ致して置きたいのは、先刻村上委員は國會で議決すると云ふことになると、憲法施行から國會の成立迄に間隔がある、其の間皇室典範がなくなる、斯う云ふことの意味も言はれたのでありまするが、此の時分には假にさう云ふととがあつたとすれば、皇室典範案の如き新しい皇室典範はないが、現行の皇室典範と云ふものが效力があると思ふのでありますが、此の點は如何でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=62
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063・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 其の點は、解釋上篤と考へなければならない點でございます、併し此の改正憲法は私の初からの考へ方、固より私一人の意見ではありませぬが、初からの考へ方に於きましては、法規の二元化、皇室典範と憲法との二元化であると云ふことが、日本の根本思想に於て、當を得て居ないのであると云ふ點に強く著目を致しまして、國民主權の原理に則り、國民の總意に依つて此の憲法の各個の規定が動いて行くと、斯う云ふ建前を採つて居りました譯であります、現在の皇室典範が憲法に觸れる部分に於きましては、其の效力を認めないと云ふ考へ方が正しいのではなからうと存じて居ります、是は相當困難な問題を含んで居りまして此の際はつきり御答することには稍稍躊躇は致しますけれども、之を實施して來まする見地から申しますと、今囘の憲法が一番眼目を置いて居る其の點を一口に申しますれば、國民の總意に基いて天皇の御地位が決つて行くと云ふ原理を根本と致して居りまするが故に、それと異る原理の如き姿を以て作られて居りまする現在の皇室典範が此の憲法と相反するものではなからうか、從つて其の反する分部に於ては效力を失ふものではなからうかと考へて居るのであります、併し現在の皇室典範が、全部效力を失ふと云ふ譯ではございませぬ、皇室典範の中にも、例へば皇室の内部の御規則、其の外此の憲法と相渉ることなき部分は、それは生きて居るであらうと思ひます、打棄つて置けば……、併し此の憲法と正面衝突をする内容のものは、恐らく效力を失ふと云ふことにならうと思ひます、でありますから、逸早く之に代るべき必要なる皇室典範を設けて置くと云ふことが、物の普通の考へ方ではなからうかと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=63
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064・有馬忠三郎
○有馬忠三郎君 此の國民の總意を尊重すると申す點に於きましては、國會と云ふことを非常に重く置いて居るのであります、特に二條に國會の議決と……國會と云ふものは只今の議會とは餘程效力も權威も違ふのでありますから、素直に讀めば、特に國會の議決と云ふことに意味がある、成るべくならば素直に讀んで、此の國會の議決した皇室典範と言ひたい、之に非常に差支があれば、今のやうな便宜の解釋を考へなくちやならぬと思ふのでありますが、一體實際問題として考へてみますると、憲法が實施せられて國會が成立しないと云ふやうな時間は、非常に短く考へ得るのであります、案が出來て居れば、極端に言へば二日か三日で出來るかも分らぬ、或は數箇月と云ふことで出來るかも知れないことになります、其の間假に例へば皇位繼承の問題でも起つたと致しまするか、其の間に新憲法に牴觸しない部分の現行の皇室典範が生きて居るとしましても、實際問題としては大した不都合はないと思はれる、之を時間を短縮して考へますれば、益益さうでありまして、其の間の不安、危惧と云ふものは極く少く考へ得るのであります、それと一方に其の極く短い間の不安、不都合と云ふものと、國會の議決、正々堂々と國會で何人が見ても疑のないやうな國會の議決をさせると云ふこととの利益を考へますると、さう逕庭はないのであります、さう云ふ見地から見ますると、矢張り國會の議決と云ふことをやつたが宜いぢやないかと云ふやうな考が成立つ譯であります、此の點に付きましては、是は議論になるのでありまするが、大體御答辯に依りまして政府の御趣旨は分りましたが、其の次は解釋でありますが、餘程むづかしいものでありますから、尚御熟考下さることがあれば幸甚と思ひます、是で私の質問を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=64
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065・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 次に坂田君が御發言を求めて居られます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=65
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066・坂田幹太
○坂田幹太君 私のは直接に此の典範に關係がないかも知れませぬ、典範案は大臣より御説明がありましたやうに、皇位繼承に關聨しまして、皇族の範圍と申しまするか、さう云ふやうなことも嫡出にあらざる線を除外せられることになつて、非常な變革であると思ひます、直接皇位繼承には關聯ないことでありまするから、此の典範案に直接の關係はないのでありますが、王族公族と申しまするか、朝鮮の王族公族に付きましては、無論新憲法に依りまして、先刻日本の皇族に對しましても大體に於て一般の私法を適用されると云ふことでありますから、左樣なことになられることと思ひまするが、御承知の通り特殊の關係に從來ありましたあの王族公族と云ふものに對しまして、是からどう云ふやうな、全然私法的に於ては平等であるとは言ひましても、何か其處に幾分かでも御考になる何があるのでありませうか、或は政府の方として何か其の點に對しまして、今迄の關係に付て御考慮になつたやうな點を伺ふことが出來れば、此の際直接の此の問題ではありませぬが、伺つてみたいと思ふのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=66
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067・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 王公族の點に付きましては、是は沿革の上に於きましても、相當混み入つた事情があり、國法體系の上からの地位に付きましても色々な問題の存して居るところのものであります、今迄は一面に於きましては普通人と異るが如き形を取りながら他の一面に於きましては普通の國民と同じやうな立場を取つて居ります、此の兩方の面から規定せられて居る譯であります、例へば其の權利義務に關しまする規定は國の一般の法律を基礎として、さうして其の中味を決めまするのは宮内省關係の規定で出來て居る、斯んなやうな風に可なり複雜な姿を呈して居るのであります、處が今囘の憲法の規定が實施されて來ることになりますと、皇族等に付きましては憲法第一章の特別の規定がありまするが故に、國民平等の原則に例外を作ることは出來る譯でありまするけれども、それ以外の場面に於きましては國民平等の例外を作ることが憲法の上には恐らく認められないことと思ふのであります、沿革的に色々な事情はあるに致しましても、それを此の憲法と絡み合せて考へまする時に、國民平等の原則を破るだけの法律的基礎を持つことであらうかと考へて行きますると、是は尚研究を要することでありまするが、今の段階に於きましては、國民平等の原則を破る根據にはならないと云ふ風に考へて居ります、既にそれがならないと云ふことになりますれば、其の原則に從つて諸般の事項を制限して行かなければならぬと云ふことに、まあならうと考へつつ目下研究を致して居るのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=67
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068・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 坂田君宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=68
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069・坂田幹太
○坂田幹太君 宜しうございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=69
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070・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 渡部君御質疑の通告がありますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=70
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071・渡部信
○渡部信君 第一章に入つて宜しうございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=71
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072・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 第一章でございますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=72
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073・渡部信
○渡部信君 第一章の質問ですから‥発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=73
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074・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) さう云ふ意味でございますか、ちよつと御諮り致しますが、他に總則の方面で御質問の方はございませぬか、ございませぬと認めます、では渡部君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=74
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075・渡部信
○渡部信君 第一章の條文のことで、逐條審議に入つたものと見て御伺ひ致したいのでありますが、此の第三條に「皇嗣に、精神若しくは身體の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、」とありますが、「事故があるとき」と云ふのはどう云ふ場合を御考になつていらつしやるのか、それから「皇室會議の議により、」とありますが、それは誰がさう云ふことを發案されるのか、其の發案される方はどう云ふ時期に、例へば皇嗣の御方が御身體が惡いとか云ふことを基にするか、どう云ふ風な場合に發案されますか、「前條に定める順序に從つて、」とありますが、それは一番と二番とを入れ替へになると云ふ意味でありますか、或は皇位繼承の方が假に三十人あると致しまして、一番の人を三十番にして、それから二番から順々と繰上げると云ふ斯う云ふことになるのでありますか、それ等の點をちよつと伺ひたいと思ひます、順順でも結構でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=75
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076・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 第三條の解釋でありまするが、「重大な事故」と云ふことに何を豫想して居るか、是は單に重大な事故と云ふことだけでありまして、内容に如何なることを豫想するかと云ふことは、ちよつと御答に惑ふ次第でありますが、強ひて假想的に申しまするならば、まだ皇嗣の時代、天皇の御地位と何としても調和することの出來ないやうな、道徳的な問題でもあつたとか云ふ場合には、假想的ではありますが之に入り得るものではないかと考へて居るのであります、それから是はまだ少しく私は疑を持つて居りまするけれども、例へば皇嗣が行方不明である、未だ失踪と云ふ段階迄は決められてゐない、實際に皇位繼承の時期に何とも處置のつかぬと云ふ場合のある時に、それが此の一つの例として假想して擧げられ得るではないかと云ふ程度の疑問を持つて居ります、それから「皇室會議の議により」と云ふことに依りまして、誰が招集し誰が發議をするかといふやうなことでありまするが、是は結局皇室會議の運用は議長たる内閣總理大臣或はそれの代理をする者と云ふところで是等の會議の招集の事務を扱ふものと解釋を致して居ります、それから「前條に定める順序に從つて」と云ふことは、是は御承知の如く從來の解釋に於きましても、非常に疑問の點でありまして、何等か私共も能くはその種類を存じませぬが、三通り位の解釋があるかの如く聞き及んで居ります、併し私自身は是は今迄の言葉を踏襲したに過ぎませぬけれども、文字通りに解釋を致しまして、前條に定める順序に從つて、その第一順位の方の皇位繼承の地位が變ると云ふだけでありまするが故に、今ちよつと御擧げになりました第二順位におなりになる、さうして第二順位の人が第一順位を御滿しになる、斯ういふ解釋が一番正當であると存じて居ります、その外何かございましたか、一つそれだけ御答へ申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=76
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077・渡部信
○渡部信君 もう一つ伺ひましたのは發案の時期でございます、どう云ふ場合に發案するか、詰り時期と申しますか、御病氣でございましても色々むづかしい問題がありませうが、皇位繼承が迫つて居るから斯ういふことをすると云ふのか、或はその御方の御病氣なり、今御話のやうな特別の事故を主としておやりになるのか、尚序に此の皇位繼承の順序の變更の効力の發生時期でございます、それは之に「議を經て」でなく「議による」とありますから、或は議決があつたその瞬間に發生するのでありますかどうかと云ふ効力發生の時期、發案の時期、序に天皇の御意思と云ふものは少しも是は入らないのであるかどうか、先程私法的のことは民法の規定によると云ふ御話がありましたが、此の天皇の御後繼に關することであるに拘らず、總理大臣が發議するのであつて、皇室會議が決める、天皇の御意思は全く關係ないと云ふのでありますかどうですか、其の點ちよつと御伺ひ致したい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=77
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078・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此の第三條の規定を發動せしめる時期と云ふのは別段の制限はございませぬ、現實の皇位繼承の起り得る可能性のある場合に考へ得ることもありませうし、さういふ時期でなくて皇嗣に精神若しくは身體の不治の重患があると云ふことを念頭に置いて、此のことが行はせられることであらうと思ひますが、併し自然にそこには何か決まるやうな問題が起つて來ると思ふのであります、詰り矢張り用心をして準備して置かなければならぬと云ふ條件がありませぬければ、此の規定をそんなに急いで適用すると云ふことはなからうかと存じて居ります、それから「議により」と云ふ言葉が示して居りますやうに、皇室會議の議がありますれば、それに依つて變更の效力を生ずると云ふ風に存じて居ります、此の「議により」と云ふことは、皇位繼承の順序を變へようと云ふ議ではなく、皇位繼承の順序を變へる事實のあると云ふことの認定と考へて居ります、それから此の場合に天皇の御意思が加はるかどうかと云ふことになりまするが、斯樣な皇位繼承の順序が變はると云ふことは、畢意國のことであります、詰り國政の一端であると考へて居ります、從つて憲法の規定する所に依つて天皇の御意思を此の場合に根據にすることはむづかしいと存じて居りますから、此の規定の表面にほ左樣なものは現はれて居ないのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=78
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079・渡部信
○渡部信君 少し細かいことでありますが、今の繼承の順序を大體御話のやうに、第一順位の方と第二順位の方とを入替へると云ふやうな御解釋、御尤もと思ひますが、其の場合に御入替へになつた時には、第二順位の方が詰り第一順位になりますから、其の御系統が、ずつと何と申しますか、其の第一順位の方の御子さんが後から生れた場合には、其の順位はどうなりますか、皇嗣の方が御病氣の爲に、其の御子さんが既に御ありになれば、嫡出の男系の男子が御ありになれば、其の方が無論なるでありませうが、まだ其の皇嗣が御妊娠中と云ふやうな場合に、其の次の御弟さんに順序が變つた、其の後第二順位の方の御子さんが生れた云ふ場合に、第二順位の其の御弟さんの御系統に移るのか、それを伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=79
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080・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此處の解釋の行き道は非常に複雜でありまして、私共の今迄考へて居ります所では、本の條文の解釋は實にむづかしいのであります、むづかしければはつきり書けば宜いと云ふことになりますが、是は現行の規定を踏襲した譯でありまして、此の解釋も第二順位に移つて、其處に皇位繼承と云ふことが起れば、それを基準として一般の皇位繼承に依つてずんずん進んで行くのでありまして、第一順位の方が其處に復活すると云ふ場合は起らないものと考へて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=80
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081・渡部信
○渡部信君 それは能く分りました、此の皇嗣の身體に不治の重患あり、或は重大な事故がある、其の皇嗣の順序を御變へになつた後で御病氣が御癒りになつた、或は重大な事故がなくなつたと云ふ場合にはどうなるのでありませうか、天皇の御自身の場合……攝政の場合はそれは御癒りになればと云ふ規定があります、それから攝政若しくは攝政となるべきものの順位規定に付ては、曖昧の規定がありますが、此の皇嗣の場合には何とも書いてないのでありますが、不治の重患とありまするから、是は癒ることはないのだと云ふ御考かも知れませぬが、不治とかどうとか云ふことは醫師の認定でありませうし、假に今醫師の判斷が間違つて居らなかつたとしても奇蹟と云ふやうなことがありまして、御癒りになると云ふこともあり得るのぢやありませぬでせうか、殊に重大な事故が、殊に御示になつた例は、後から故障の囘復すると云ふこともありませう、何年も行方不明であられたものが突然御歸りになる、斯う云ふ例を擧げてはどうかと思ひますが、杉野兵曹長は生きて居ると云ふやうな説もあるやうな譯でありまして、さう云ふ重大な事故も場合に依つては囘復し得る場合もあると思ひますが、之にはさう云ふ天皇の場合のやうにも之を括めて言へば、故障が囘復された場合の規定がないやうでありまするが、是は絶對に囘復しない御見込かどうか、其のことを伺ひたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=81
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082・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此の規定は、一遍順序を此の條件に依つて變へれば、其の變へた結果が、其の時に正しい結果となる、それで元に復活することが當然にはない、斯樣に解釋致して居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=82
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083・渡部信
○渡部信君 其の條文に關聯があるかと思ひますが、或はないかも知れませぬが、第二條の六に皇兄弟、御兄さんが位を繼ぐ場合が此處に書いてありますが、それはどう云ふ場合のことでありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=83
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084・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 此の皇兄弟と云ふ場合には、今後恐らく嫡出子のみに繼承權があると云ふことになりますると、兄の方に移る場合は、現實には普通に豫想出來ないと存じて居ります、併し……私、少し錯覺して居りましたが、私の考へて居りましたのは、經過規定の方で規定して居る皇庶子の場合があると思ひましたが、直接には第三條で順位變更と云ふ結果があつて、其の爲に皇兄の系統がまだ殘つて居ると云ふ場合には、そちらに移ると云ふ解釋でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=84
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085・渡部信
○渡部信君 多分さう云ふ御考だらうと存じますが、唯私は、此の今の皇位繼承の順序を變更した後に御病氣が御癒りになつた、或は重大な事故が除かれた、斯う云ふ場合に其の順序を元に戻さないと云ふ理由がどうもはつきり呑込めないのでありまして、斯う云ふ場合には元に御戻しになるべきではないでせうかと考へますが、此の今の御兄さんの場合に、偶偶さう云ふ場合に御兄さんが事故がなくなつたと云ふことなら大變宜しいのでありますが、萬一故障の、不治の重患が其の儘であつた場合にも、尚御兄さんが其の弟さんの後を承けるのだと云ふことになると、是は如何でありませうか、御即位前に御後繼ぎ、皇嗣としてすら非常に不適當だと云ふ方が國の象徴である天皇とおなりになることは差支ない、攝政は無論置かれることになるかも知れませぬが、どうもさう云ふことがありますと制度として不自然のやうな感じが致します、皇嗣として不適當であるのに天皇におなりになることは差支ない、斯う云ふことは、是は私だけの感じかも知れませぬが、不自然のやうな感じが致します、天皇と云ふものは神樣扱ひを止めるのだ、人間天皇として國民にも親しまれるのであると云ふのに、初から一向に麗はしい龍顔を拜することが出來ないやうな御方を天子樣に戴くと云ふ制度になりますと、是は適當であるかどうか、其の場合には恐らく御即位禮なども勿論行はせられない事情にならうと思ひますが、是が庶子がある場合ですと、此の皇兄弟と云ふことはすらすらと讀めるのでありますが、同じ文句であるに拘らず、今度は嫡出に限るものでありますから、伯父の場合も同じでありますが、不自然のやうな感じが致しますが、制度として如何なものでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=85
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086・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 第三條の皇位繼承の順序を變へると云ふことの規定に付きまして、今仰せになりましたやうに、一遍順序を變へられましても、其の故障が取除かれますれば、再び復活せられると云ふ考へ方を持つが宜いかどうかと云ふ問題が第一次に起つて參りまして、さう云ふ風に一度順位を後に廻されても、尚後に於きまして此の故障が除かれますれば、再び元の地位に戻られると云ふことにも一理あると考へて居りました、併し其のことは皇位の安定性を害する點に於きまして頗る注意すべき點がありまするし、實際は此の順序變更は鄭重に行はれるのでありますから、容易なことで左樣な場面も出て來ないと云ふ理由もありまして、斯樣な場合に、多少其の復活が望ましき事情があるにしても、大義明分に付て何等の紛糾の起らないやうにする爲には、變つたものは變つたものとして何處迄も扱つて行くが宜いと考へて、私は御説明を申上げたのであります、從つて此の順序を戻す規定も設けなかつた譯であります、そこで今仰せになりましたやうに、第二條の皇兄弟と云ふ規定が豫想して居りまするが如く、次の繼承に於きまして、それらの一度除かれた方が、是は稀有なこととは存じまするが、一度順序を除かれた方が後の順序に從つて御位に御即きになる場面が起る、それはをかしいではないかと云ふ御質問と思つて居りますが、それは若しさう云ふ場合が起りますれば多少をかしいと存じます、併し左樣な場合に於きましても、矢張り第三條を又適用を致しまして、其の順位の變更をする注意があつて然るべきものであらうと思ひまするが故に、實際に於ては運用宜しきを得まするならば、左樣な場面は普通には起らないことと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=86
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087・渡部信
○渡部信君 御話の通り第三條を運用して行けば今申上げたやうな場合は起らない筈、從つて皇兄弟の兄に行かれる場合は事實上殆どなくなるのではないかと思ひますが、私は先程申した通り、皇位繼承の順序を變へた後に故障を恢復せられましたならば、天皇の場合と同じやうに、矢張りそれは元の位置に囘復せられ、攝政を廢する規定に準じたやうな規定がある方が宜いやうに思ひますが、是は意見でありますから、第一章に付てのことは是で終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=87
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088・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 別に第一章に付ての御質疑の通告はございませぬから第二章に移りたいと思ひます、渡部君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=88
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089・渡部信
○渡部信君 第二章に入りまして、第五條に是々の方は皇族とすると列擧されてございますが、此の中に、皇太子、皇太子妃、皇太孫、皇太孫妃、是等の方々を皇族と列擧してないのはどう云ふ譯でございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=89
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090・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 左樣な場合は、此の第五條に掲げてある皇族の何れかの下に含まれて居ると、斯樣に考へて居ります、例へば親王と云ふ中に或は親王妃と云ふ中に含まれて居らるるが故に、特別に之を掲ぐる必要はないと云ふ考から來て居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=90
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091・渡部信
○渡部信君 恐らくさう仰しやるとは思つて居りますが、併し親王、親王妃としては皇族でありまするが、皇太子或は皇太子妃、皇太子孫、皇太子孫妃としては皇族でないと云ふことになりますが、其の方が必ず親王、親王妃でゐらつしやるのですから、其の點に於ては皇族たることは疑ひませぬが、皇太子、皇太孫、又は其の妃の關係に於きましては皇族でないと云ふことに解釋せられまするが、其の點宜しいのでありませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=91
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092・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 親王又は王に非らざる皇太子と云ふものは考へられませぬ、單純に皇太子と云ふ名を加へませぬでも、皇族の範圍は之に依つて一點の疑ひもなく定つて居りますから、列擧しない方が寧ろ論理的に正確ではないかと云ふ風に考へて居ります、現在の皇室典範に於きましては、それが入り混ぜてありまするが爲に何となく煩雜さを増して居るやうな感じが致しまして、そこを少しく徹底化さしたと云ふ譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=92
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093・渡部信
○渡部信君 私は此處に皇太子、皇太孫と云ふ方が必ず親王である、從つて皇族であると云ふことは、それは親王としては申せますが、皇太子としてはそれが入つて居りませぬと法律的には皇族でないことになるのではないか、内親王が王妃になられたり、女王が親王妃になられたりして、親王皇族たる身分の重複する場合はありますが、兎に角此處に入つて居りませぬと其の他の條文にも影響して來ると思はれます例へば皇族には殿下の敬稱がある、併し皇太子と云ふことは皇族でない、ですから皇太子明仁親王殿下と云ふことは申上げることが出來るが、明仁と云ふことを略して皇太子殿下と云ふことは、事實は無論申せませうが、法律的にはいけないのぢやないかと云ふことになりはしませぬでありませうか、其の外に此處に攝政になるものは「左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。」と書いてありますが、それに「皇太子又は皇太孫」とありますが、是は皇太子、皇太孫と言はなければ正確でないやうになりはしませぬでせうか、第二條に、皇位は、左の順序により、皇族に、これを傳える。」とありますが、是は皇太子としては御傳へになるのではなく、親王として傳へると云ふことで、此處にも皇族と云ふ中に皇太子が入らないと工合が惡いと云ふことになりはしませぬか、現在の皇室典範にはそれが入つて居ることなんでありまして、私はそれは非常に意味があるやうに思ひますが、此處に今御入れにならないと云ふ理由は少し薄弱のやうに存じますが如何でありませうか、要するに皇太子、皇太孫、同妃と云ふ方は、公式には皇族ではない、其の御身分は皇族から出ますけれども、攝政は必ず皇族から出る、今日の皇室典範で言へば皇室の後繼人は皇族から出ると書いてありますが、それが爲に後繼人を陛下と申上げることは、俗には申しますが、如何でありませうか、王子殿下とか皇孫殿下と云ふやうに申して居りますが、正確には今後は王子には殿下と言へる嫡出の方と殿下と言へない庶子の方とあるでありませうが、王子殿下とは俗には申せますが、法律的には、さう云ふことは言へなくなるやうに思ひますが、其の點は如何でありますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=93
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094・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 非常に緻密に言葉を御分けになりまして御考になりますれば、左樣な言葉の御考へ方は成立するかと存じますが、能く白馬は馬に非ずと云ふやうな議論と同じやうに、餘りに物を緻密に考へますと、却て制度の實態を複雜化するやうな處もありして、私共は當然皇太子は親王であると云ふことが他の規定に依つてはつきりして居りまして、さうして親王は皇族であると云ふことが明かでありまするが故に、矢張り皇太子たる方は常に皇族であると云ふことが、大した推理を用ひず、疑惑を待たずして明瞭になつて居ると、斯う云ふ風に考へて斯樣な規定を設けて、是は實は制度簡素化と喜んで居つたのでありますが、伺ひますと又大分問題が起ると思ひますが、其處迄考へるのは矢張り思ひ過しと云ふことになるのぢやないかと存じて居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=94
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095・渡部信
○渡部信君 實は繼承のことは後に出て居りますので此處で申上げては甚だ申譯ないのでありますが、御承知の通り大實令の沿革などは皇太子以上を殿下と申上げて、其の他の親王には殿下と云ふ敬稱がない、それは沿革的にもさう云ふことがありまして、皇太子と云ふ方は特別のさう云ふ御身分でありますから、必ず親王ではゐらつしやいますけれども、皇太子と云ふことを、特に正式に殿下と申上げられるやうに制度を作つて御置きになることは、現在あるものを態態止めて迄なさると云ふことは如何であらうかと云ふ風な感じが致しますが、それはまあさうなれば意見の問題でありますから……、もう一つ伺ひたいのは太皇太后と云ふのはどう云ふ方を申上げるのでございませうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=95
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096・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 太皇太后と申しますのは、先々代の皇后を主として指すのでありまするし、場合に依りまして、若し其の前の皇后が生存しておいでになりまする場合には、そこ迄も含まれるものと解釋を致して居ります、併しそれは解釋でありまして、そこ迄此の規定が明白にして居ると云ふ次第ではございませぬし、餘り稀有なことを豫想致しますることは不自然でありますので、文字としては斯う簡單に取扱つて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=96
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097・渡部信
○渡部信君 只今の御説明で分りました、色々細かいことは、まだ「たいこうたいごう」か、「たいごうたいこう」か、「こうたいごう」か「こうたいこう」か、色々讀み方に問題があるやうでありますが、此の點は段々にはつきりして戴きたいと思ひますが、第六條に皇子、皇孫と云ふことが書いてありまして、第八條にも「皇嗣たる皇子を皇太子という。」「皇嗣たる皇孫を皇太孫という。」と云ふことがございまするが、此の皇子と言ひ皇孫と云ふ字は、兩方意味が大分違つて居るやうに思ひますが、如何でせうか、同じに解釋すべきものぢやないやうに思ひますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=97
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098・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) ちよつと渡部さん、もう一遍仰しやつて戴きたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=98
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099・渡部信
○渡部信君 第六條に皇子、皇孫と云ふ字が出て居ります、第八條にも皇子、皇孫と云ふ字が出て居りますが、それは非常に意味が違ふやうに思ひますが、皇子、皇孫と云ふ字が私は結局紛はしいから、改めて戴きたいと思つて居るのですが、免に角現實に違ふやうに思ひまするが、同じやうに御考になるかどうか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=99
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100・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 私は今突然でちよつと御趣旨が分り兼ねまするけれども、同じ意味に使はれて居ると考へて居ります、詰り第六條の「嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫」と申しまするのは、詰り、子孫と云ふことの意味を指して居ると存じます、第八條の方で「皇嗣たる皇孫を皇太孫という。」と云ふ場合の皇孫と云ふのも御孫と云ふ意味に使はれて居ると考へて居ります、さうして特別なる場合と致しまして、其の意味の皇太孫がなくて、もう一人その方の御子樣が御ありになりまして、儲嗣である場合にそれを何と申上げるかと云ふ時に、それも亦皇太孫と申上ぐべきものと存じて居りますけれども、それは解釋の問題であつて、此の文字が直接に指すものと了解は致して居りませぬ、又少しく複雜でありまするけれども、左樣にして此の字を使つて居る譯であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=100
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101・渡部信
○渡部信君 只今六條と八條の皇子、皇孫と云ふ意味は、大體同じだと仰しやいましたが、私は非常に違ふやうに思ふのですが、第八條の皇子と云ふ意味は、現在の天皇の御子に限ると思ふのであります、處が此の下の皇孫と云ふ意味も現在の天皇の御孫に當る方に限ると思ひます、然るに六條の方は、現在の天皇の御子が皇子であることは勿論でありますけれども前の天皇の皇子であつた方、それも矢張り此の皇子に當るのぢやないでせうか、それから現在御生れにならないで皇后樣が御妊娠中であれば、其の方が御生れになる時は、皇太后の御子として天子樣の御弟樣として御生れになるのであるけれども、それも矢張り皇子に當ると言はなければならぬのぢやないか、皇孫に至つてはもつと烈しいのでありまして、現在の天皇の御孫さんでもなく、又御孫さんとして御妊娠して居られない方も皇孫と言はなけれはならぬ、例へば三笠宮樣の御子樣は内親王と仰しやる、三笠宮樣の御子樣は現在の天皇の御孫さんでもなければ、御孫さんとして御妊娠になつたのでもないけれども、それに入れなければ親王、内親王と言へない、三つも四つもあるやうに思ひますので、私が申上げるのは此の六條と八條と意味が違ふので、六條の意味であれば、例へば秩父宮樣は皇子である限り親王と云ふことになるが、皇太子樣の御生れになる前には、秩父宮樣は皇嗣たる皇子と云ふことになりますので、皇太子と云ふことが言へるかどうか、それは言へないと思ふ、是は現在の方に限ると思はれるので、其の點が尚紛はしくなつて來るので、儲嗣と云ふ字が使つてあれば、斯う云ふ漢字はありませぬが、あの字は非常にはつきりして居るので、秩父宮樣も皇太子かと云ふことは言へないのですが、儲嗣と云ふ字が使つてないので、皇嗣として第一順位の皇位繼承に當る方が非常に漠然として居るので、秩父宮樣も皇太子と言へるかどうかと云ふふことになります、儲嗣と云ふ字が使へれば非常に宜いと思ひますが、常用漢字の問題もありますから、今は別に致しますが、私が今申上げたやうに六條と、八條は皇子と言ひ、皇孫と言ひ、非常に意味が違ふのでありまして、皇室典範の皇子とか、皇孫と云ふ言葉が、條文に依つて意味が違ふことがあちらこちらにあつては非常に困るので、何とかして誤解がないやうにして戴きたい、それには六條の書き方を改めて戴いたらどうか、是は討論になりますけれども、さう云ふ意味で伺つて居るのでありまして、天皇から數へて一世及び二世の男は親王、女は内親王、斯う御書きになれば誤解がないと思ひますので、さう云ふ風なことを書いたらどうか、と云ふ風なことの爲に、實は申上げて居るのでありますが……発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=101
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102・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 私は實は御尋を誤解して御答を致しましたが、左樣な意味に於きましては六條と八條との間に解釋上の差が出て來ると思ひます、併しそれは皇孫とか、皇子とか云ふ言葉の意味の差ではなくて、其の計算する根據が此の條文の關係に於きまして違つて來ると云ふだけのことでありまして、言葉の意味が違ふとは私は了解しなかつたから左樣に申しました、御趣旨の通り此の使ひ分けがあることは是は事實であります、私は寧ろ御質疑は、先の御答を辯明するやうでありますが、第八條の「皇嗣たる皇孫を皇太孫という。」此の皇嗣たる皇孫と云ふ中には皇曾孫をも含むのではないかと云ふ御質疑かと思つて御答へしたのであります、今の御示しになつた所は確に違つて居ります、前後の關係で分ると云ふ前提で出來て居ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=102
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103・二荒芳徳
○委員長(伯爵二荒芳徳君) 渡部君に申上げますが、もう四時近くになりますから、今日は此の程度で止めたいと思ひます、明日は矢張り今日と同じく午後一時から開會を致したいと思ひます、本日は是にて散會致します
午後三時五十七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=103
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104・会議録情報2
出席者左ノ如シ
委員長 伯爵 二荒芳徳君
副委員長 男爵 今園國貞君
委員
侯爵 東郷彪君
侯爵 久我通顯君
侯爵 淺野長武君
侯爵 前田利建君
伯爵 大木喜福君
男爵 白根松介君
子爵 黒田長敬君
子爵 梅園篤彦君
子爵 高木正得君
子爵 三島通陽君
子爵 梅渓通虎君
小山松吉君
松村眞一郎君
羽田亨君
村上恭一君
渡部信君
男爵 飯田精太郎君
慶松勝左衞門君
男爵 鶴殿家勝君
男爵 岡俊二君
男爵 島津忠彦君
坂田幹太君
瀧川儀作君
有馬忠三郎君
長島銀藏君
國務大臣
國務大臣 金森徳次郎君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009100896X00319461218&spkNum=104
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