1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
皇室典範案(政府提出)
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昭和二十一年十二月九日(月曜日)午前十時四十二分開議
出席委員
委員長 樋貝詮三君
理事 北浦圭太郎君 理事 小島徹三君
理事 吉田安君 理事 菊地養之輔君
理事 酒井俊雄君
井上卓一君 稻葉道意君
田中善内君 竹内茂代君
殿田孝次君 藥師神岩太郎君
池村平太郎君 馬越晃君
菅又薫君 津島文治君
長尾達生君 星一君
森山ヨネ君 新妻イト君
井伊誠一君 及川規君
島田晋作君 松本七郎君
武藤運十郎君 森三樹二君
今井耕君 川野芳滿君
越原はる君 井上赳君
久芳庄二郎君 野本品吉君
大石ヨシエ君
出席國務大臣
國務大臣 男爵 幣原喜重郎君
國務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局次長 佐藤達夫君
法制局事務官 井手成三君
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本日の會議に付した議案
皇室典範案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=0
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001・樋貝詮三
○樋貝委員長 それではこれより會議を開きます、これより質疑に入るのでありますが、委員長より總括いたしまして資料の提出を政府に要求いたします
第一には皇統譜の略式なものを御提出願いたいと思ひます
第二に新皇室典範による皇位繼承一覽圖というようなものをつくつて御提出願います
第三には御陵墓の表をお願いします
第四には外國立法例、ドイツの古いの、オランダその他御調査のできる限りにおきまして、外國立法例をお出し願いたいと思ひます
これから質疑に入ります、質疑者は發言席でお願いいたしたいと思ひます——殿田孝次君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=1
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002・殿田孝次
○殿田委員 私は本日私の所屬している所の日本自由黨の代表という意味ではなしに、一議員としてその職責を盡くす意味において、自由な質疑をこれから試みたいと思つております
今囘政府が提出しました所の、この皇室典範案を見ますと、その全卷を通じて最も強く感ずることは、封建的な臭味が非常に横溢しているということ、また保守性や反動性が到る處露骨に現われているといふことであります、元來皇室典範は、專ら皇室に關する事項を規定するものでありまするが故に、これは皇室に關する事項を規定しているものでありますけれども、しかしながら、これは決して單なる皇室内部の家法ではない、その效力は廣く國家國民を拘束するものだと私は信じます、また金森國務大臣の説明によりますと、現行皇室典範は憲法とともに竝立して、いわゆる國法の重要な法源をなすものである。いわゆる憲法と同じものであるという説明でありましたが、今度の改正典範案は憲法の下における法律であつていわば憲法の傘の中にできる所の法律であると言われたのでありますが、その意味においても、憲法の條項と、憲法に取り入れられた權利と相反してはならないものだと私は考えます、またそれと同時に、他の法律、すなわち司法上の原則とも合致するようにつくられなければならぬと考えるのであります、しかるにこの典範案を見ますと、新憲法や司法上の權利に反する規定を、到る處に發見することができるのであります、五日の本會議で同僚諸君が指摘せられた所も、多くはこの點であつたろうと思います、一つ例を擧げましても、天皇は自由意思では退位できないということが指摘されましたが、それと同じように、その自由意思によつて皇位繼承を拒否することはできない、また第二番目に、皇太子及び皇太孫も同樣であつて、その自由意思によつて皇太子や皇太孫たる身分の取得を拒否したり、或は途中において辭退することができない、また攝政は、その順位に當り、しかもその條件を充たしている場合に、その就任を拒絶したり、或は途中において辭退することはできない。また天皇及び皇族は自由意思によつて結婚ができない、それと同時にまた離婚もできない、第五番目に天皇及び皇族は養子をすることはできないこれは全部新憲法によつて保障された所の、人間の基本的人權に對する極端な制限であると私は考えます、また皇太子及び皇太孫は十八年でもつて成年となるという規定であります、或は胎中皇子に對しては皇位の繼承權は認められていない、また庶出の子孫は天皇となることができないばかりでなく、皇族ともなり得ない、これらの條項は、全部民法上認められている所の原則に對する例外規定でありまして、一般國民と非常に差別待遇されるものであります
またこの皇室典範によりますと、男女の性的差別が非常に極端に現われております、まず第一に、皇位の繼承には女系の子孫は一切排除されておる、それから女帝が認められていない、皇族女子は天皇及び皇族以外の者と結婚したる時には、皇族の身分を離れなければならない、しかもまた結婚した場合といえども、離婚した場合にはまた身分を離れなければならない、或はその配偶を失つた場合には、當然皇族たる地位を離れなければならないような規定を設けてあります
また最後に皇室會議というものは非公開であつて、しかも一審終審である、控訴する途もなければ、彈劾する方法も開かれていない。かういうふうにちよつと擧げて來ても、どうも民主主義の原理に反し、憲法司法上の原理と非常に相矛盾した點が澤山あると思うのであります、私といたしましても、國家の象徴たる天皇の身分については、或る程度の例外規定があつてもまたやむを得ないと思うのでありますが、自然人たる天皇、すなわち人間天皇や、人間皇族に對して、その身分の上について差別待遇をなすという必要は、毫もないだろうと私は考えます
かかる前提の下に私は一言金森國務大臣にお尋ねしたいのは、この皇室典範案は憲法の下にでき上つておる法律でありますが、この皇室典範と憲法とが相矛盾した場合には、どういうことになりますか、私は昨日の朝日新聞によつて讀んだのでありますが、三笠宮樣が今度の皇室典範案に對して、一應の批評を試みられておる、その中で、皇室會議の結果配偶者をきめられた場合に、皇族が妻となられる方に非常に不滿をもち、どうしても兩性の意思の合致できないというふうな場合には、憲法違反として最高裁判所に訴えることができるかどうかというふうな疑問を話されておる記事を讀みましたが、私は勿論憲法第二條によつてきめられた皇室典範、憲法の例外規定として、そういう規定が皇室典範にあつても決して矛盾しない、法律の上からは決して矛盾しないものであつて、もしもこの皇室典範によつてでき上つた婚姻というものが憲法と矛盾しておつても、それは最高裁判所に訴えて出るということはできないし、或は訴えて出ても、これは效力がないものではないかというふうに考えるのでありますが、その點どういうふうにお考えですか、政府の所見を承りたいと思います
また先程申し述べたいろいろの問題の中には、民法の相續法に關する規定と非常に矛盾しているものがある、また民法の行爲能力、この條項にも違反しておる點が澤山あるのであります、民法と皇室典範とがお互いに矛盾しておる場合に、これが競合した場合に、はたしてどちらを重しとし、どちらを輕しとするかというふうな點について、同じ憲法の傘の下における法律としての地位をお伺いいたしたいと思います
次ぎに吉田總理大臣にお尋ねしたかつたのでありますけれども、本日は吉田總理大臣所用のために出席されませんので、代つて幣原國務大臣にお尋ねしたいのであります、こういうふうに、今度の皇室典範は、民主主義の原理に反して、或は憲法の條項や、私法上の原則に非常に矛盾した點が多々あるのでありますが、これらの點について金森國務大臣は一昨日この席上で、憲法の改正は大いにやつた、しかしながら皇室典範は一少部分の改正に止まつた、それは皇位の尊嚴を保持するためである、皇位の傳統性を重んずるためであるということを強調されました、しかしながら私は皇位の尊嚴を保つためには、それがためにも民主主義の原理を大いに注入しなければならぬと思うのであります、民主主義の原理と皇位の尊嚴とは決して矛盾するものじやないと私は考えております、また從來の傳統でも憲法において變えた、大改正を行つたと同じように、皇室典範においてもその趣旨に則つて大いに改正することが、眞の意味において皇室の傳統を活かすことになるだらうと思うのでありますが、この點について幣原國務大臣の御意見をお伺いしたいと思いますまたもう一つ昨日の新聞によりますと、三笠宮樣は今度の典範案に對していろいろ疑義をもつておられるような口吻が掲載されておつたのであります、しかもこれでは何かしらあきたらないというふうな感じを私は受けたのでありますが、政府においてこの皇室典範案を作るに際しまして、眞に天皇或は皇族方の意見を十分取り入れられたかどうか、東條内閣の當時においては、陛下の思召が國民に傳わらなかつた、その間に軍閥や官僚がおいて、陛下の御意思を曲げて國民に傳えておつたといふ事實が多々あつたのでありますが、今度の皇室典範の場合に、陛下に非常に畏れ多いことでありますけれども、一應の御意見を聽かれたかどうか、この答辯は非常にむつかしいと思う、しかしながら、そういう點について手續上の遺漏なきを期してあるかどうかということに對しまして、幣原國務大臣の御答辯をお願いいたしたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=2
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003・幣原喜重郎
○幣原國務大臣 私に御質問になりました點は、第一に皇室典範案というものが、いかにも非民主的である、民主主義が徹底していないということであります、詳しい法律上の議論は別問題にいたしまして、これは金森國務大臣からお話しなさることと思いますが、だいたいから見ますると、皇室典範といふものは從來法律ではなかつた、これが議會の議決を要するといふことになつたのは、これこそ大いなる民主化の趣意に基づいたものと私は言えると思うのであります、それから皇室典範というものは、從來の運營を見ますると、皇族會議というものと、それから樞密顧問というものとが議にあづかつているのでありまして、いはば皇室内部の問題であるというような色彩が濃厚であつた、今囘は全く形を改めまして、これを議會の問題としている、國家的機關たる皇室會議、ここでもつて決定するということになつております、この皇室會議というものが設けられるようになつたことも、大いなる民主化であろうと思います、單に皇族樣とか、或は樞密顧問だけで、皇室内部のことをきめておつたというような感じはもう捨てて、新しい基礎から來ているのであります、だいたいから言えば、そういう點から封建主義であるとか、非民主主義であるとかいうことは、私は言えまいと思ひます、民法その他の法律との牴觸の問題につきましては、金森國務大臣からお話し下さることと思います、それから三笠宮樣が、何か新聞に御意見を御發表になつたということお話しになりましたが、實は私は昨日のその新聞を讀んでいないのでありますけれども、いずれにいたしましても、この典範の案ができまする時には、宮内省及び政府側がたびたび寄り合つて、會合をして意見を交換して、この案ができたのであります、もとより陛下の御裁可を得ております、この案をつくるまでには、徹頭徹尾このなり行きを陛下に奏上して、そうして陛下の御裁可を得ているのであります、それ故にこれが陛下の御裁可も得ず、又政府と宮内省側と、或は皇族樣達の連絡がついておらぬといふ御心配がありますならば、そういうことは決してありまぜん、ただ宮樣方個人といたしまして、どういうお考えをおもちになつているか、これはわれわれは詳しいことは存じません、いろいろのお考えもあるでありませう、今日皇族樣であるからといつて、何も一定の解釋に拘泥される必要はないのでありますから、このほかに別のお考えをおもちになりますことはあり得ると思います、しかしながら新聞に出ました記事につきましては、正確であるか、不正確であるか、その點は私は存じておりません、詳しいことは金森さんから御答辯下さることと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=3
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004・金森徳次郎
○金森國務大臣 私にお尋ねになりました點をお答え申し上げようと存じますが、それより先だちまして、お尋ねのお言葉の中では、今囘の皇室典範が依然として從前の保守的なる性格を多分にもつているという前提から仰せになつておりますが、そのお言葉は或る意味において正しいと思います、しかし或る意味においては正しくないと考えておる譯であります、と申しまするのは、天皇に關する多くの問題は、結局日本國民の間に、傳統的に發展しておりまする思想の流れを追うて考えて行くよりほかに途がございません、つまり萬世一系の天皇を戴いておるということそれ自身が、日本の國民の心の中に流れておる一つの思想の現われと思いますが、その萬世一系という意味自身も、どういうふうに流れて行くことが萬世一系であるかということ自身も、國民の基本觀念の中に流れておるものでありますが故に、時代の進化に伴いまして、個々の點はもとより補正しなければなりませんが、だいたいの思想の流れは、國民の間にもつているものが根本的に變らない限り、それを踏襲して是正をして行くよりほかに途がございません、ということ、現在の皇室典範が、明治の初めにおきまして相當封建的なる遺物を拂い淨めてあつて、繼承の順位等につきましては純粹化されている點が多いのであります、今囘これを法律に移しまする時でも、實質は根本の思想に副つて考えて行きまする限り、大きな變化を加えまする餘地が非常に乏しいわけであります、そこで形が現行の制度を踏襲しておるに近いということになりますけれども、心持は封建的なものを少しも受けておるということはございません、今囘の憲法で國民の間の兩性の平等というような權、義等の關係におきましては、これはでき得る限り十分に工夫を用いまして、皇位の繼承と攝政ということと關係させまして、どうしてものつぴきならぬものだけは特別なる途を設け、その他は一般の原則に從うというふうに考えている次第でありまして、たとえば胎中天皇のことにつきまして仰せになりましたが、これは皇位をお繼ぎになるという關係におきましては、皇位という一日も缺くことのできない事でありますから、現にまだお生れにならない方に皇位を認めますることは、これは非常に困る事情がありまして、御決裁を仰ぐという場合が起りましても胎中の天皇という考えではその道がうまくできませんし、それから長い間お生れになるのを待ち上げておりましても、お生れになるのが男性の方であるか、女性の方であるかわからないということになりまして、それは非常に困るというような考慮から、從前の考えを踏襲しております、しかし民法上の財産の相續の關係とかいうようなことになりますと、これは別なことになります、それは一般の法規によつて規律せらるることでありまして、即位ということは關係がなくなるというふうに考えております
それから御結婚の問題等につきましても、兩性の自由なる意思によつて御婚姻ができるのが本來でありまするが故に、皇室典範におきまして、それについて皇室會議の議を經ることになつておりますが、これとても最小限度にやむを得ざる制限だけをこれで期待しておりまして、たとえばその意に反する御婚姻が、この皇室會議によつてできまするというようなことは、毛頭考えておりません、ただ極くあり得べからざる稀有の場合を豫想いたしますると、或は血統の關係等におきまして、皇室とどうも不調和なというような場合が、漸次諸般の制度が開放されて來るに從いまして、理論的には豫想できまするので、そういうような場合につきまして、適切なるやむを得ざる制限だけを、この制度によつて考えておる次第でありまして、實質においてはそう立ち入つたことを考えておりません、ただ規定にいたしますると、法規というものはどうしても概括的にできて來るのでありまして、特別の制限を豫想しているに拘らず、概括的にしかも婉曲に書きますと、ちよつと見るとなんでもかんでもはいつて來るというような感じがいたしますけれども、そういう趣旨は毛頭含んでいるわけではございません
そのほか皇位の尊嚴を保持するようにと私は申しましたが、これは陛下、殿下というような敬稱の點において、從前の形を踏襲したという意味でありまして、何から何まで昔の制度をいいというわけではございません、たとえば今囘でも親王の範圍を狹くしたとかいうような方法によりまして、極度に一般の制度と調和をはかつておりますし、その他詳細は御質疑に應じまして、お答え申し上げたいと思いますが、のつびきならぬものだけに特例を設けているわけであります
そこで御質問の本體にはいりまして、憲法と皇室典範と矛盾しているような場合には、どうなるかということでございましたが、これは御承知のごとく、皇室典範もやはり憲法の下にある一般の法律の一種で、もしも皇室典範が憲法と背反するという場合が起りますれば、その點におきましては、最高裁判所の判決を受ける場面が現われて來ることは、もとより豫想しているわけであります、具體的の例をお擧げになりまして、配偶者をきめる場合に、憲法違反として最高裁判所に訴えることができるかという點がありましたが、具體的の制度の組合せから考えて行きますると、そういうことの實際起る場面をちよつと想像いたしかねまするけれども、理論といたしましては、もしも最高裁判所に現わるるような場合がありますれば、そこにおきまして皇室典範が憲法に適つているかどうかを批判することは、裁判所がなし得ることのように考えております、民法の相續法とこの皇室典範と相競合するような場合に、どういうふうにその矛盾が解決できるかというお尋ねでありましたが、これは結局、憲法の下に一般の民法と皇室典範とがありまして、この二つの規定がどこかで食い違うという場面が起つて參りますれば、これはいわゆる一般法、特別法の原理によつて、ほどよく解決すべきものと考えております、從つてさきに仰せになりました皇太子等の成年が十八歳であるというような場面になりますと、この場合には十八歳という方が勝ちを占めて行きまして、民法の一般原則の特例をなすということになろうと思ひます、なぜ十八歳に書いたかということは、これは確かに御議論に値すると思いますけれども、實際の皇位繼承の方法から考えて行きまして、十八歳ごろとか二十歳ごろとかいう二年か三年の差は、大したことにならないようにも思いますけれども、過去の歴史を見て行きますと、そのころの年齡で皇位の御繼承が行われることがありがちでございます、その時に、まだ未成年であるから攝政を置くということになりますると、制度が非常に煩雜になつて來るわけでありまして、從來から皇位の繼承に關しましては、十八歳ぐらいの御年齡であれば、攝政を置かなくても、ものがうまく運んで行けるというわけでございます、いわば無理やりに若くして成年にしたわけでございますが、これは攝政を置くことを極力避けようという考えから來ておるのでありまして、ほかに特に不公平なことを考えているわけではございません、そうして現實には皇室典範は、相續ということと實は關係が薄いのでありまして、民法とほかに多く牴觸する場合はなからうと思います、今の成年の場合ぐらいでありまして、そのほかに起りましても、そういう所は今申しました一般法、特別法で解決できるように思つております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=4
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005・殿田孝次
○殿田委員 只今お答えになりました天皇、皇太子及び皇太孫が、十八年をもつて成年になられるといふ條項でありますが、一般國民が滿二十歳にならなければ、知能や身體が一人前に發達しない、法律上效力のある行爲をすることができないということを、はつきり民法上の原則として取り極めているのに、天皇なり或は皇太子、皇太孫というものが、何かしらわれわれ一般國民よりも、より以上に立派なものである、超人的の存在である、或はもつと極端に言いますならば、神格化するのじやないか、こういうような感じを多分に受けるのでありますが、これまた帝王神權説の亞流を汲むものではないか、折角今年の元日に、陛下は詔書を賜わつて、日本の天皇制というものは神話や傳説から來たものではない、天皇は神樣ではなくして、人間であるということを、はつきり宣言された、その趣旨にも反している、私はかように考へるのであります、しかしながらこの議論も、近く民法も改正されて、一般國民も十八歳でもつて法律上の行爲能力ありときめるということになれば、私はおのずから問題は別になつて來ると思う、過去十年間の戰爭において、日本國民の知能や身體が非常に向上發達した、だからして國民もまた十八歳でもつて成年とするということになれば、差別待遇は全然ないのでありますから、ここに問題は別になつて來るのでありますけれども、しかし現行民法の滿二十歳説を依然としてとられるならば、一般國民と天皇とは、まるつきり能力の違つたものだというふうに印象づけられる、これは私は、いわゆる今年の元日に下したもうた詔書に反すると思う、天皇や皇太子及び皇太孫の能力が、われわれ國民と同樣である、その行爲能力も國民と同樣であるということになれば、一人前でない所の、滿二十歳に達しられない天皇が、國會を召集したり、衆議院を解散したり、或は憲法を改正するような重大な國務を行われるといふことになつて、そこにどうもわれわれの納得しきれないものがあるのであります、そういうふうにして差別的待遇をすることが、どうも私はよろしくないと思う、金森國務大臣が指摘されたように、なるべく攝政を置かずに、天皇みずから政をされるようにしたいという議論は、一應なり立つようでありますけれども、これは便宜論で、實際の能力のない者がその地位に留まるということは、決して私はいい結果をもたらすものではないというふうに考えるのでありますが、國務大臣の御意見はどうでありましようか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=5
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006・金森徳次郎
○金森國務大臣 仰せの行爲能力を、はつきりさせる意味におきまして、二十歳が成年であるということは、一般の見地から見て正當であると考えております、しかしこれとても絶對の原理と言うことはできないのでありまして、普通の民法の範圍におきましても、或る營業につきましては、特別な行爲能力を認めるようなこともありまして、場合々々によつて精密に考えますれば——一括して二十歳とすること自身は原則的には正しいのでありまするけれども、個々の場合を考えますれば、これに對しまして斟酌を加える餘地はあろうかと思つております、この天皇の制度に關しまして、行爲能力を十八歳といたしましたのは、實際におきまして、内閣の助言と承認を伴うことによつて國務に關する行爲がありまする故に、十八歳、二十歳という所の、自然に發達して行きます行爲能力につきまして、この場合には十八歳の方に著想いたしまして、これらの國のいろいろな組織が相關連して働きます場合には、十八歳でもよからうではないか、そうしてこれは古來の慣習でもあり、またさきに申しましたような、攝政という、まことに例外な制度をできるだけ避けるようにするためにはやむを得ない、こういうふうに考えましたので、別に神權説とかなんとかいうようなことの嫌いは全然ございません、ただいろいろな社會的な多角形な事情を考えて、從前の形を踏襲したわけであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=6
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007・殿田孝次
○殿田委員 次ぎに皇族の男女に關する性的差別の問題を一つお尋ねしたいと思います、勿論皇位繼承の範圍を、男系の男子と規定されたことに對しましては、從來の歴史がはつきりそういうふうに規定しておる、わが國の古來の傳統において、男系をもつて皇位の繼承者としたということは、例外なしに確立されておる原理である、また女帝を認めないという點も、男系の原理を採用しておる以上は、當然の歸著であるということに對しては、一應この問題はよいとしましても、それは國家の象徴たる天皇においてのみ限定さるべき問題であつて、天皇以外の皇族にまで適用されるということは、どうしても容認できないことだと私は考えます、今度の典範案の十二條によると、皇族の男女について非常な差別的待遇があります、すなわち「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる、」ということを、はつきり規定して、男の場合と女の場合と非常に差別待遇をしてある、また第十四條の第三項において、皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者がその夫と離婚した場合には皇族の身分を離れるとか、第十四條の第一項においては「皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたときは、その意思により、皇族の身分を離れることができる、」こういうふうに規定してある、この一番最後の「その夫を失つたときは、その意思により」、ということを一應規定してありますけれども、この條文があるというと、夫が亡くなつた場合には、自分の意思によつて一應皇族の身分を辭退しなければならぬように書いてあると私は考えるのであります、この點國務大臣はどういうふうに考えておられますか、私はこういう行き方は古い、いわゆる女を蔑視した所の封建的な家族制度の遺物だと考えまするし、また人間よりも家を重んじた所の、封建的な遺風であると考えるのでありますが、この點いかなる御意見をおもちでありましようか、一つ伺いたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=7
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008・金森徳次郎
○金森國務大臣 この皇室典範が、女性の皇族の地位につきまして、男性の皇族の場合と幾分異なる規定をしておることは事實でございます、今御指摘になりましたような問題も、自然その一つの現われとして出ておるわけであります、これは非常にわからない問題を澤山含んでおりまするが故に、きわめて明白に私からお答え申し上げることは、力量の許さない所でありますけれども、これは私ばかりでなく、實際に説明のしにくい點を含んでおるのであります、問題の骨子は、結局日本の皇位繼承につきまして女帝を排除した理由如何ということに根源があるわけでありまして、男系であるといふことにつきましては、過去百二十數代の間におきまして、一つの例外もなく男系を尊重されております、外國の例、たとえばイギリスの君主の地位の繼承等につきましては、必ずしも男系を基本としていないようでありまして、かくのごとく國によつて考え方が違うといふことを、ほんとうに正確に説明いたしまして、何人にも一點の疑惑なからしむるということは、實は今後の學問上の職責であらうと考えておりまするけれども、なかなかこの問題は困難なる事柄であります、結局われわれの現段階の判斷といたしましては、從來多年行われておつた所の制度は、一應それを正しきものとして認めて、實際の實行をきめて行くよりほかにしようがない、こういうことになるわけであります、この憲法に基づきまして典範は男系主義を認めたわけであります、既にこの男系主義を認めますと、その影響がいろいろな部分に現われて來ることはやむを得ぬのでありまして、たとえば女帝を認めるという問題になりましても、理論的に女帝を認めます根抵は十分あり得るものと考えておりますけれども、しかしやはりこれを考えて來ます時にその順序の問題とか、或は、さきにも申しましたけれども、女帝の所に行くとそれから先の男系の子孫といふものは考えられません、そこで皇位の行詰まりといふ論爭を起しまして、萬世一系の皇位の繼承をきめます時、どうしてもそこに不自然な所がある、ここから先はもはや皇位の續く所がないということを、明らかに法の上に豫見いたしますことは、甚だ好ましくないのでありまして、いろいろ考えまして、そういう種類の問題は今後一括して、もう小し學問的に及び歴史的にはつきり考えて行きたいという考えをもつております、そこで今お尋ねになりましたような、一般の方面から來られたる親王妃及び王妃は、婚姻の解消によつて、その意思によつて民間にまた戻られることができるという規定の趣旨になつて來るのでありますが、これは御承知のごとく、皇族以外の女性が皇族におなりになり得る途は、婚姻關係であるということだけでございます、既に婚姻關係によつて皇族と同じになるそうしてこの憲法下の制度として、皇族特有の一つの尊嚴を維持されますのでありますが、これは婚姻を基礎といたしておりまするが故に、もしその基礎たる婚姻の關係が根こそぎ取り除かれます場合には、皇族としての權威ある地位をおもちにならないことが、自然の道理ではなかろうかというように考えられます、そこで自由意思によつて離婚をせられたという場合におきましては、基礎の關係がなくなるのでありますから、皇族でなく、おなりになるのが正當であるというように考えます、しかしながら、その夫の死亡というような事情によりまして、難婚ではなくて、その他のやむを得ざる事情によつて婚姻が解消になられた場合におきましては、皇族におなりになる基礎の關係は少しも壞れておりません、婚姻によつて皇族におなりになつたということに對して、變化は行われていないと考えるのが、正しいのでありますから、それによつて臣籍といいますか、皇族外にお出になることがないというのが一つの道理と見ることができるのであります、しかし實際には人間世界の複雜な感情とか、或は社會生活に對するいろいろな氣持とかいう所から、皇族でおありになることをお好みにならない場面も起つて來ると思います、その時には自由意思によつて本來の皇族外の地位にお戻りになることがあつても、これを無理にお妨げする事由はないという趣旨から、さきに御指摘になりました典範の條文ができたのでありまして、決して積極的に皇族の範圍からお離れになることを豫想しておるような規定では全然ございません発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=8
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009・殿田孝次
○殿田委員 それでは現行皇室典範の八條においては、庶子の皇位繼承權を認めておりますし、また皇族にもなり得ることとなつておりますが、改正典範案ではこれを全然認めていないのは、明らかに私は改惡だと考えます、庶出の子供をつくらないようにすることはまことに望ましいことであります、そうして庶出の子供をつくつた親は道徳的に指彈さるべきであるということは、はつきりしているのでありますけれども、親のつくつた罪で子供が罰せられるというのは、いかにも不合理だと私は考えるのであります、憲法第十四條には、法の下に國民は全部平等であるという原則がきめられた、特に門地で差別待遇はされないと書いてありますが、同じ胤でも甲の門から出て來た者は皇族になることができる、乙の門から出て來た者は皇族になることができないといふのは、どう考えても非常な不都合であつて、人道上の問題としても相當大きな問題だらうと私は考えるのであります、この點について國務大臣の御意見を伺いたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=9
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010・金森徳次郎
○金森國務大臣 庶出子と皇族との關係につきましては、この改正の制度を考えまする時に、非常に實は苦慮した點でございます、この行き道を私の考えで御説明を申し上げますると、一體皇位の繼承について、最も望むべきものは萬世一系の御血筋が長く傳わるということであらねばならぬ、この根本の原理を維持いたしまするためには、外のことは幾分輕く見てもいいといふ考えが起り得るのでありまして、從つて庶出子も嫡出子もやはり必要な場合が——萬世一系を維持するという見地から申しますると、庶出子があつた方がむしろ安全感を與うるといふ氣持は十分あると思うのであります、恐らく現在までの皇室典範におきまして、庶出子にさような取扱いがありましたのは、基本としてその考えに基づいているものと存じているわけであります、しかし國民の間におきましての道義心の内容の變化というものは、これは時代とともに發展して行くものでありまして、支那の古い時代におきましては、君主が結婚をせらるる時には、一つの皇位でたしか九人を同時に入れられるというようなことがありまして、まことに今日の目で見てはおかしいのでありますが、しかしその時代においては、それは正しいとされておつたらうと思いますが、さような考え方が、今日になつてはつきり見極めて行きますと、一般國民の間にある所の道義心と違うような制度といい、萬世一系の系統を尊重するという見地から申しまして、もはやその考えは維持できないのではなからうか、かように考えるわけであります、そこで庶出子は正しい系統ではない、こういうように考えますると、さきに申し上げました皇族の結婚につきましては、皇室會議の議を經るというのが正しい血統を擁護するという趣旨からできているといたしますならば、そういう場面に現われて來ない筋からできて來る所の庶出子はおのずから特別なる扱いを受けなければならないようになつて行くのであります、その時にどうするかといえば、皇族の婚姻の範圍にはこれを置かないという行き道しかないわけでありまして、外の民法上のいろいろな、たとえば財産の關係とか何かは、これは民法に從つて一般國民と同じような道行きでよかろうと思います、しかし皇室の範圍に入れて、皇位繼承と組み合せてその尊嚴を認めて行きまする立場におきましては、やはり一般人のもつている道義心と、始終調和をさした制度を立てるより外に道はないと考まして、今御質疑になりました事情もありますけれども、結局主たる方面を尊重いたしまする結果として、從たる方面はやむを得ざる扱いになつて來るということになる、しかし、それが國民の間の一般の民事上の扱いよりも惡い立場になるかというと、そういうことは考えておりません、ただ皇族という特殊なる範圍には入れないという趣旨であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=10
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011・殿田孝次
○殿田委員 どうもこの點納得が行かないのでありますが、だいたいキリスト教の戒律によりますと、庶出の子供を絶對認めないという方針であります、從つてキリスト教國である所の歐米諸國の法律は、みなこの主義を採用しているように考えるのでありますが、それで敗戰日本の現在の政府が、連合國に媚を賣らんがために、歐米諸國のこの庶出子を認めないという改正を行つたものじやないかという風な疑いができるが、〔「のうのう」〕また政府がキリスト教の戒律を採用したとするならば、政府は今度國王の中に宗教的な雰圍氣を絶對に取入れないことにした、特に皇室典範には三種の神器と大嘗祭の規定を今度削除したと言われておりますが、この主義と相反するものではないかということを一言お尋ねしたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=11
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012・金森徳次郎
○金森國務大臣 庶子の制度につきまして、典範の改正が行われましたのは、キリスト教とは全然關係ございません、實はそういう方面の對立すらも今日私としては初めて伺いましたような次第で、甚だ不思議に感ずるのでございましたが、この結婚の正しさということに關しまする理解は、漸次進んで來ておりまして、一般國民を規律する民法の方面におきましても、相當はつきりした取扱いも今後できて來るものと思つております、して見ますれば、もつとこの道義心の根源として、國民から仰がれる所の自然状態にあります皇室の制度につきましては、やはりかような行き途をとるよりほかに適當な方法はない、そう考えただけの次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=12
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013・殿田孝次
○殿田委員 私は最後に胎中天皇の問題について一つお尋ねしたいと思うのであります、いつかの本會議で金森國務大臣は、胎中の皇子の皇位繼承權を認めないということが通説であると述べられました、しからばまず、第一番に通説というものはどういうものか、二番目に、これが通説であるかどうかということをはかる尺度は一體全體何であるか、第三番目に胎中皇子の皇位繼承權を認めないというのは、現行典範或は今度の提出されておる改正典範案の解釋上そう言われるのか、或はまた日本の天皇制の本質に則つて理論上認めないことが正しいということであるか、或はもう一つ皇位繼承權を認めないということが好もしいという希望であるかどうか、この五つの點について承りたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=13
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014・金森徳次郎
○金森國務大臣 いろいろの點からお尋ねになりましたが、法律學上の通説ということを申しましたのは、これは面倒な言葉をながながというかわりに、簡便法で申しましたので、何が通説であるかを判定することは、相當に困難であります、それを通説と見るか見ないかにつきましては、その發言者のいはば得手勝手が入つているかも知れませんが、唯私の考えておりますのは、これを通説であると信ずるだけの、つまり概括して、原則としての解釋の仕方であると考えております若干の根據をもつておる次第であります、この皇室典範につきましての日本のオーソドックスの方面の權威者と言われております穗積八束博士などは、とうの昔から、胎中皇子というものは繼承權のないことを言われております、それが比較的根源の考え方として傳えられております、そうして多くの學者はその流れを追うておつたのでありますが、たしか美濃部博士と思いますが、美濃部博士は、昔の或る時期におきましては新進の學徒でありまして、既成の解釋に對しまして、常に新しき方面から批判をされておるので、その見地から、胎中皇子或は胎中天皇に對する相當詳細な研究を日本に發表しております、その中には歴史的な事例を擧げられて、それだけを見ておりますと、如何にも尤もである、これ以上に正しい考えはないように思われておるかも知れませんけれども、しかし必らずしも多數の學者はこれに追隨していないと思うのであります、實際家といいますか、なおそこであまり詳しい所まで御追究を願うと答辯に困りますけれども、そういう方面のことを現實の問題として擔任している所の方面におきましても、初めからさような問題は考えていないのであります、かつ皇室典範の議せられまする當初におきましても、この點は相當論議せられたと傳わつておりまするが故に、私はさような考をもつのである、こう申したわけであります、次ぎに胎中天皇を認むることを避けるのはどういふ理由かというふうの前提において、いくつかに分けて御質疑になつたと思つておりますが、これはローマ法以來、胎中の子供に對して或る意味の相續權を認めるかどうかということは考えられている問題と聞いておりまして、世界的にいえば、やはり學説は二つに分れている、相續權を認めるがいいという考えと、相續權を認めるは不適當だという考えと二つあるように聞いておりまするが、同じものを相續するにいたしましても、財産を相續するというだけのことでありますると、それは主として胎の中にいる人の利益に關する問題であります、たまたま十日あとに生れた、そのために親の財産が人の手にはいつてしまつたということでありますると、その胎の中におつた子供が非常な損害を受けることになりますれば、ここに一つの方便を設けて、生れざりしといえども親の死んだ時に生れた者と同樣に扱うという考え方がいいのでありまして、それはその胎中の子供に對しての保護として十分考えられる途と思つているのであります、しかしそういう個人的な利益という面から考えませぬで、公の制度、國の中樞たる現行の制度で申しまするならば一番よく分りまするが、統治權の總攬者である、こういう立場で一日を缺くことを得ないという意味と結び合わせて考えてみますると、これは私益の問題ではございませぬで、直ちに公の事務を擔任するに適するや否やということと、萬世一系の血統を傳えるということの二點を睨み合わせて考えなければなりませぬ、この萬世一系の血統を傳えるということから考えますると、今はお生れにならずといえども、胎中の皇子の方が血統が濃いという場合には、胎中のお生れになるのを待つた方がいいということも固より出て來るわけであります、けれども現實のこの政治の面から申しますると、國の中心、大黒柱が今日ぼやぼやとしているということでは國政はうまく行かないということになりますれば、正當の血統のことは考えを捨てて、現實な方にのみ繼承權を認むるということが正當である、こういう議論に行きまして、これは從來いろいろな考え方もあつたに相違ありませぬが、國の中心を常にはつきりさせておくといふ見地から、胎中皇子には繼承權なしということが力説せられて、皇室典範もその考えに來ているらしいのであります、この改正の法律もやはりその趣旨を傳えたのであります、今度逆に、そんな窮屈なことを言わないで、あらゆるほかのことは眼をつむつて、胎中天皇に皇位維承權ありとしたならばどうかという一つの問題が起つて來るのであります、試みにその考え方に從いまして、まだ皇子はお生れにならない、しかし多分この胎中の方が皇位繼承者におなりになつてしかるべき順位である、こう考えておりまする場合にどうしたらいいかと申しまするに、お生れにならないお方のために攝政をおくというよりほかに考えようはございませぬ、でありますから、適當な順位の方を攝政に立てておいて、お生れになる日を待つているということになろうと存じます、それも一應の考えであります、所がお生れになつたのが男の方でありますれば、その系統を逐うて割合にあとの手續は簡便でありまするけれども、女の方であつたということになりますると、すつかり問題は逆戻りになりまして、過去に遡つて女の方が天皇ということはちよつと繼承法ではいえませぬ、長い間胎中天皇はなかつた、こういうことになつて遡つてまた問題を考え直す、それが九箇月といふことに遡りますとかなり政治上に大きな影響をもたらします、で先ずこの點は從來通りの形をとる方が妥當であるという結論に到達したのでありますが、議論としてその反對論が成立し得る餘地のある問題だと考えております(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=14
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015・殿田孝次
○殿田委員 説という點について引用されましたが、美濃部博士の説でありますが、今年一月に改訂された本にも依然として胎中皇子の皇位繼承權を認めることが正しい、現行皇室典範の解釋もさうしなければならない、またさうすることが一番好ましいと言う、私一昨日ここの圖書館で調べた所によりますと、學者の説というけれどもいろいろあつて、どれが通説か殆ど分らないようになつておる、先刻御指摘されたやうに穗積八束博士と宮澤俊義博士は、やはり否認の態度をとつておられる、また松尾重敏博士及び上杉愼吉博士は、現行皇室典範の解澤上否認されておるけれども、理論上は繼承權を認めることが正しいという議論のようであります、また副島義一博士は、解釋上はいけないけれども、また理論的にも非常な疑問だというように言つておられますし、清水澄博士は何にも意見を述べられずに、かういう議論のある問題を、この儘殘して置くことはいけない、だから一日も早く明文を作つてこの點をはつきりさせなければいけないというように述べられております、ここで私の御指摘申し上げたいのは、金森國務大臣自身の書物であります、曾て金森國務大臣は、昭和七年であつたかと思いますが、みずから書いておられる憲法の本に、胎中天皇の條項において
天皇崩御ノ際母胎内ニ在ル皇子其ノ他ノ皇族男子ハ既ニ生レタル者ト同樣ニ皇位繼承ノ順位ヲ有シ得ヘキヤ議論ノアル所ナリ、皇室典範ハ何等ノ規定ヲ設ケス、規定ナキハ即チ之ヲ認メサルノ趣旨ナリトスルヲ通説
トス
ここでやはり通説といつておられる、しかし
蓋皇位ハ一日モ曠クスヘカラス未タ生レサルノ人ヲ待ツヲ許ササルモノアリ、又皇位ノ繼承ハ皇子ニアラサレハ得ヘカラス而モ胎兒ノ男女ハ識別スルコトヲ得ス、脂兒ニ繼承ノ道ヲ認ムレハ皇位ヲ長ク不明ノ中ニ置クヲ免レス
といつて、一應この通説を肯定されるがごとく書いてあります、(拍手)しかしながらこれからいよいよ問題である
是等ノ點ハ此ノ説ノ利トスル所ナリ、然レトモ尚ホ一考スルニ、胎兒ノ相續權ヲ認ムルハ私法ノ通念ニシテ必スシモ明文ヲ要スルモノニアラサルヘク、皇位ノ繼承ハ嚴ニ言ヘハ固ヨリ相續ノ觀念ト異ルト雖モ此ノ場合特ニ此ノ思想ヲ容レサルヘキ特殊ノ理由ナシ、而シテ繼承ノ順位ハ血統ノ本系ニ近キヲ欲ス、胎中ノ者ノ順位ヲ排除スルハ即チ本系ヲ離ルルニ近ツクモノナリ、典範ノ趣旨果シテ之ニ在ルカ疑ナキ能ハス
こういつておる、あなたは非常に疑問とされておつて、最後に行きますと
而シテ歴史上ニモ胎中皇子ノ皇位繼承ノ實例ナキニアラス典範カ果シテ上記ノ通念ニ反シ此ノ實例ノ示ス所ヲ廢止セントスルノ趣旨ニ出テタルモノナリヤ一層疑ナキ能ハス、或ハ積極説ヲ可トスルニアラサルカ
かように認める方に贊成しておられるやうでありますが、國務大臣はいつから改論變節されたのでありますか、承りたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=15
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016・金森徳次郎
○金森國務大臣 お説の所はよく傾聽いたしました、實際この胎中天皇につきましての考へ方はかなりむずかしい問題でありまして、私共の書物を書きまする時に、相當結論をつけるに迷つておつたということは今御引證になりました書物の示す所であります、しかしそれは昭和七年頃でありましたが、その頃の私の考えの段階を示しておるものでありまして、その後だんだん世の中の状態を理解して行くようになりますと、やはり國家の基本的な秩序は、學問的な微細な判斷でする、微細というか、微密というか、こまかいことを辯説してつくる、その道行きではうまく行かないのでありまして、大きな筋を逐つて、疑いなき、はつきりした筋道をとらなければ行くものではないというふうの氣持が私を支配しておりました、その後とても胎中天皇の問題は、やはり古くからの穗積八束博士等の考えがよいのではないかと考えておるわけであります、なおその後實際の事情を申しますると、こういう方面に關しまする現實の問題を扱つておる人等の意見を聽き、みづから反省をいたしまして、今日におきましては確固不動の道行きでなければ皇室の確實性というものは保てないという確信をもつて、その考えに從つて典範を解釋しておるわけでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=16
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017・殿田孝次
○殿田委員 かくのごとくこの問題に關しては學者の間にもいろいろ紛糾しておる、議論がその一致する所を知らない、しかしながら事いやしくも日本國家の重大問題である、この際なんとかはつきりきめておく必要があると思うのです、疑いの起らないように、それはまた子々孫々に至るまでこういうことで疑問を起さないように、はつきりした明文を設けておく必要がある、私はこう信ずるのでありますが、國務大臣どういうふうに考えておられますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=17
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018・金森徳次郎
○金森國務大臣 或るわからない問題を、つまり疑義のある問題を明文をもつてはつきりさせておくということは、一つの考え方であろうと思つております、しかしこれは或はこの際申し上げますることが行き過ぎになるかも知れませんが、私どもの多年の經驗から普通の結論としておりますることは、わからない問題は明文をもつて解決しない方がよいという一つの結論をもつております、と申しますのは、人間の考えは時とともに變化するものであり、常に眞理をその時の一番正しいという考えで判斷をするものと思つております、今の胎中天皇の問題は、私どもの現在の考えはどうかといわれますれば、わからないということは答えられません、だからかくあるという結論をつくつております、しかし社會意識というものは生き物でありまするから、そこで、そういう所でなお私の今の考えが間違つているということであれば、後世の識者がこれを叩き潰してよいわけであります、生きた判斷を——そこになお餘裕を多く殘しておく方がよいものではなかろうかと、かようにも考えておりまして、少し一段高い立場から物を見た考え方であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=18
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019・殿田孝次
○殿田委員 以上で私の質疑を大體終りたいと思うのでありますが、私が本日この席上で指摘した所も、いつかの本會議において同僚諸君が澤山の問題を指摘されておりますが、これらの問題もほとんど例外なしにこの典範案には民主主義の原理に反し、或は新しい憲法や司法上の原則とも矛盾している封建的な條項が澤山盛られておるということであります、少くとも民主主義の下に平和な新日本を再建し、無血革命によつて文化的な日本を建設しようとする所の趣旨とは、全然相容れない條項が澤山含まれていると私は考えます、勿論國家の象徴たる天皇については、多少の例外はあつてもよい、すなわち憲法二十二條において、一般國民はいづれの國籍を取得することもできる、そういう條項は天皇には當てはまらないと私は信じます、天皇が外國の國籍を取得されるようなことになれば重大問題になりますが、そういう條項を除いて人間天皇、自然人の天皇というふうな場合には、或はそれらの皇族について差別的な待遇はなるべくやめなければならぬと私は信じます、こういう點について政府がよく反省され、また同僚諸君もいろいろ研究なされて、この皇室典範が民主主義の原理に反しないように改正されることを私は希望いたしまして、私の質疑を打切りたいと思います(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=19
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020・樋貝詮三
○樋貝委員長 本日午後續行するつもりでおりましたが、本日の午後は金森國務大臣が樞密院で皇室經濟法の審議に出席されるそうでありまして、そのために故障がありますので、本委員會に出席ができないということでありますから、今日の會議はこの程度に止めることにいたします、明日の午前も同樣な事情で出席できないという話でありますから、明日も休みまして、次會は明後十一日の午前十時から開會することにいたしますから御諒承願いたいと思います、本日はこれにて散會いたします
午後十一時五十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00319461209&spkNum=20
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