1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
皇室典範案(政府提出)
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昭和二十一年十二月十二日(木曜日)午前十時二十六分開議
出席委員
委員長 樋貝詮三君
理事 北浦圭太郎君 理事 小島徹三君
理事 武藤常介君 理事 吉田安君
理事 菊地養之輔君 理事 酒井俊雄君
稻葉道意君 大塚甚之助君
齋藤行藏君 竹内茂代君
殿田考次君 苫米地英俊君
三ツ林幸三君 藥師神岩太郎君
馬越晃君 菅又薫君
津島文治君 長尾達生君
星一君 堀川恭平君
森山ヨネ君 及川規君
新妻イト君 島田晋作君
松本七郎君 森三樹二君
今井耕君 川野芳滿君
越原はる君 井上赳君
久芳庄二郎君
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
國務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局次長 佐藤達夫君
法制局事務官 井手成三君
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本日の會議に付した議案
皇室典範案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=0
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001・樋貝詮三
○樋貝委員長 これより會議を開きます、質疑にはいります——酒井俊雄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=1
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002・酒井俊雄
○酒井委員 皇位繼承につきまして、女帝のことがたびたび問題になりましたが、金森國務大臣の御答辯を推察しますと、女帝の順位は、かりに設けるとすれば、皇族男子が盡きた場合という所へ著目されておるように受取つたのでありまするが、私どもやはり女帝を認めたいと思つておるものでありまするが、その女帝を認める場合に、その順位をどこへもつて行くかということにつきまして、結局皇位繼承の順位は直系主義であるということが原則中のまたこれが原則になつておる、そうして皇胤を重んずるという建前から、近親主義であるということも、一つの重大なる原則だと思います、そういう觀點から參りますると、女帝を認むるとすれば、その順位の地位は、この典範案第二條の五と六の間の所へもつて來るのが、前の原則から睨み合せて最も適當のような氣がするのであります、もし女帝をこの五と六の間へもつて參りますると、金森國務大臣が憂えられる、女帝の次ぎに系統が斷たれるという恐れをなくすることができるのであります、と申しますのは、内親王樣が五と六の間の御順位において皇位を繼がれた場合、ほかの男子の皇族があるわけであります、こういう場合には、男子の皇族と結婚していただくという建前をとれば、女帝の次ぎにもやはり皇胤は相續いて行く、そうして古來の大原則でありまする所の、いわゆる男系を守るという點についても支障がなく行くわけであります、女帝を男子の皇族が一人もなくなつた場合に考えるのは、これは考えないのにひとしいと、われわれは思うものであります、男子の皇族が一人もなくなつた場合には、恐らくこの典範も改正されて、その場合には當然問題なしにやはり皇室の御胤である——皇胤である所の内親王、或は女王の方が皇位に即かるるというようなことは當然豫測されるのでありますから、女帝を認めるとすれば、皇族男子が盡きてから、その後にもつて來て認めるということは、私は意義がないと考えます、そういう立場から、男女同權の今日、しかも天皇の大權なるものは大幅に變更せられまして、女であるが故に困難であるという大權上の支障はないはずだと思いまするから直系を重んずる上から、近親を重んずる上から、男女平等の民主主義の建前の上から、ぜひ女帝を私どもは認めたい、しかも女帝を認める順位は五と六の間にもつて來る、勿論傍系の女の方が立たれる場合には、男子の皇位繼承の順位に從つてそれぞれ五の次ぎにはいつて來るのは當然であると思います、かかる意味において金森國務相のお考え、さらに構想を練られる御用意ありや否やということを伺いたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=2
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003・金森徳次郎
○金森國務大臣 お尋ねの點は、昨日各種の角度から私どもの考えておる所を述べたのでありまするが、申し上げるまでもなく、男系ということを尊重いたしまする限り、できるだけその精神に合うようにほかのことも調節して行くものと思いまして、この見地に立つて考えますと、いやしくも皇族の中に男の方がおいでになるならば、その方にまず繼承權が行くと考えまして、女帝のことは、問題といたしましてはその次ぎに考えるのが男系主義をとつておる原則から見て妥當であらうというのが、私どもの研究の道程におきましての第一の結論であります、所が今仰せになりましたような各系統の直系を下つていつた一つの系統だけで、男系が盡きた時には、女子の方が皇位におつきになると考えまする意見も、今お示しになりましたように、直系主義とか、近親主義とかをとりますると、確かに一つ殘つて來る論點であるわけであります、けれどもさらに考えますると、男性と女性を平等にいたしまする見地を徹底いたしまするならば、さような順序を考えるのではなくて、むしろ全然同じ立場において、今日の男子の繼承の順序と同格にすることが、やはり一つの論としては立ち得るものでありまして、かように三つの考え方が起つて來ました時に、その善惡をきめますることは、これこそ本當に日本のもつておる根本の原理を探究してきめなければなりません、それを考えまする根本には、結局男系ということを尊重する根源の理由というものにつきまして、相當深く掘り下げませんければ、確實にして安全なる結論はできないのでありまして、私どもはその點をも一つの重要なる點として、問題を今後の研究に殘しておるわけであります、極くものを簡便に考えますると、そういうことはこの方がよいのだという結論は割合できるのでありますけれども、それに必要な要素がいくつかある時に、どれをまずとつて行くかということをきめかねますることは、普通の日常の直ぐに處理しなければならぬ問題でありますれば、これは割合簡單に、勇氣を奮つて解決いたしますけれども、三千年の歴史が生み出しておりまするこの根本の思想を、ほんとうに深く掘り下げて行くという問題でありまするが故に、もう少し歳月をかしていただきませんと、つまり各方面の識者の意見等をも探究し、十分掘り下げませんと、妥當なる結論ができないわけであります、そこでこの間も申し上げましたように、今まだそういう情勢に特に差し迫られておる實際上の理由はないと思いますから、從つてその點はもつと深く研究をしたい、こう申したわけでありまして、仰せになりましたような點は、もとより今後の研究の一つの大きな論點としてとり上ぐべきものと思つております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=3
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004・酒井俊雄
○酒井委員 次ぎに皇位繼承の順序の變更の點につきまして、典範案は條文を設け、皇嗣に精神もしくは身體の不治の重患がある時、もう一つ、重大な事故のある時は、順序を變更することをきめておりまするが、この重大なる事故と申しますると、一體如何なる場合を構想に置いておられるか、勿論具體的な場合を一々ここに列擧するということは不可能だと思いまするが、大體しかし構想の上に思い浮ばれることどもは、いくつかあると思います、特に皇室身位令では、皇嗣生死不明なると三年に及ぶ時は勅旨をもつて失踪を宣告し、三年の期間滿了の時に薨去されたものとみなす、という規定があるわけであります、かかる規定が將來も生きて活用されるかどうか、或はかかる規定は削除されて、この「重大な事故」の中へ包含して、皇嗣が行方不明になつたというような場合には考えられるか、こういう點をお伺いしたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=4
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005・金森徳次郎
○金森國務大臣 今仰せになりましたような失踪の場合は、もとより考えらるることでありまして、皇室典範はそれを規定はいたしてをりませんけれども、一般民事法規によりましてこの問題が解決せられまして、これに對しまして特に若干の特別なる例が置かるるかどうかということは、今日まだはつきりはきまつておりませんけれども、そちらの方の問題によつて解決する豫定であります、ここで「重大なる事故があるとき」と申しましたのは、かような事態と關係をもつている場合をも一つの内容として考え得らるると思いますけれども、しかし具體的なことはそう正確には豫想できません、ほんとうにこの第三條に該當する場合は生きた問題でありまして、結局皇室會議の自由なるといいますか、物の道理を辨えての自由なる判斷によつて解決せられるものと思つております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=5
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006・酒井俊雄
○酒井委員 そういたしますと、皇子の失踪宣告などは、一般の規定によつて取扱われるという建前になるのでありましようか、その點についてもう一度お伺いいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=6
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007・金森徳次郎
○金森國務大臣 法規の系統といたしましては、一般の民事法規によつてそれを規定することと考えております、ただその内容について何らかの特殊な部分が起り來るかどうかということは、今研究中でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=7
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008・酒井俊雄
○酒井委員 「重大な事故」という中に、別にこの典範案の中に明文はないのでありまするが、皇嗣が何か惡事等がありまして懲戒處分を受ける、權利を剥奪されるというようなことも、この中に豫測されておりまするかどうか、お伺いしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=8
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009・金森徳次郎
○金森國務大臣 今仰せになりましたような、甚だ好ましくない特殊な事柄も、觀念的にはこの中に含まれておるものと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=9
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010・酒井俊雄
○酒井委員 もう一つ今のことに關連したような事柄でありますが、天皇現に崩御の際に皇嗣が不明であるという場合、しかも失踪宣告の條件に滿ちる場合には、皇嗣の順位を變更することができるのでありますか、この崩御の際に失踪の條件が未だ滿ちないというような場合に、一體この順位はどう取扱われるのか、御答辯願いたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=10
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011・金森徳次郎
○金森國務大臣 この重大なる事故に該當するかどうかという認定の問題はございまするが、未だこの重大なる事故によつてという認定をしない間に皇位繼承が起りますれば、當然その未だ不明な方が皇位繼承をされておるということになりまして、攝政がその場合に置かるることになろうと考えております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=11
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012・酒井俊雄
○酒井委員 そこでたびたび問題になりました、私本會議でもお伺いしたのでありまするが、胎中皇子と申しまするか、胎内皇子と申しまするか、このお方の繼承權を認むる理由が大いにあるのではないかと私ども考えるものであります、只今申しました天皇崩御の際に皇嗣の生死の不明であるというような場合にも、これはやむを得ぬ場合でありまして、やはり攝政を置いて、その死なれたか生きておられるかわからないお方に對して、ともかくも一應御即位のことを認めるのであります、胎中の皇子は勿論死産されるか、女子であるかわからないのでありまする、これこそ直系主義から申しまして、近親主義から申しまして、男子のお子樣であれば、遠い王樣がお即きになるよりはほんとうにこれは望ましいことである、その場合に、もしもお生れになつたお方が男子である場合に、崩御の時に遡つて御踐祚になつたものと取扱う、もし不幸にして死産であり、女子であられた場合には、次順位の方が御踐祚になる、これも崩御の時に遡つて御踐祚になるのだ、その間攝政を置いて大典を代行するという建前は、いかにも人情にも合致し、皇位繼承の大きな大原則にも合致する問題であります、なお歴史の上から見ましても、御存じの通り事實上の空位というものは相當何囘も起つた問題であります、この場合皇位をむなしく空位にするわけではない、そうした大原則に合致するのを待つために、胎中皇子の御出生を待つということは、理窟に合うことだと私ども考えます、たびたびお尋ねするようでありますが、御答辯を願いたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=12
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013・金森徳次郎
○金森國務大臣 御尋ねの點は、純理をもつて右すべきか左すべきかをはつきりさせる一つの標準を見つけるということは困難な問題でありまして、複雜なる事情を綜合して、ここに價値判斷を加えまして、かくするが妥當であるかどうかということにきめてしかるべき種類の問題ではないかと思います、お話のように失踪中の皇嗣に關する場合と、胎中皇子に關する場合とはよほど類似しておる所がありまして、そういう方面からの理論を双方から進めて行きますると、よほど事情が接近したような場面になつて來ると思うのであります、そういう時にどつちがよいかということは、學説上もかなりな論爭があるくらいのものでありまして、今日にわかにそれを學問的に決定するということは、避けてしかるべきものと思いまするけれども、私どもの考えておりました所は、失踪の場合はこれは生きておいでになるということが前提となつております、しかし胎中皇子の場合は未だ人間でおありにならないということが前提となつておりまして、取扱いの上において、變態の場合に處する前後處置に若干の差が出て來るということは是認せられてしかるべきものであるように思うのであります、そうして胎中皇子の御繼承ということを認めることにつきましてのいくたの不便が起り、しかもこれを避ける途がほかにあることを考えて見まする時、結局私の申した通り、胎中皇子に繼承權なしとする從來の、いわばオーソドツクスの行き道がなお繼續せられてよかろうかと考えております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=13
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014・酒井俊雄
○酒井委員 今度は木村司法大臣に主としてお伺いしたい、皇族の重大なる特權につきまして、これがどういうふうに變更され、また維持されて行くかということについてお伺いをするものでありまするが、結局私どもの考え方を申し上げますると、皇族が皇族たる榮譽ある地位にいますという直接的な特權は、これはもう當然なものでありまして、こういうものを云々することは、そのこと自身が矛盾だと思います、たとえば皇位繼承の資格だとか、攝政となるの資格だとか、その他皇族は皇室會議の議員となられる資格があるというようなことは當然なことであります、皇族治外法權というようなものにつきましては、もうほとんどすベてが撤廢されて、やはり一般國民とともにある、國民とともに生きるという立場になることが原則でなければならぬと思います、そういう意味におきまして、皇族相互の民事關係、皇族と一般國民との間の民事關係というようなものにつきまして、すつかり一般國民に適用される普通の法律が將來は適用されることになるかどうか、今までの建前ではあまりに皇族は雲の上に閉じこもつて、國民の生活とは全然懸け離れた特殊な生活を、私どもに言わせると、むしろ餘儀なくさせられておられた立場にあるわけです、御承知の通り民事關係で適用のありまするのは、財産權に關する民法第一編乃至第三編、これも財産上のことだけでありまして、身分關係その他のことはない、商法及び附屬法令、これも主として皇族が株式をもたれるというような立場から、そんな關係で適用になるわけであります、公益のためにする財産の收用、徴發、制限に關する法令、地租附加税、段別割等に關する法令、かようなものが主でありまして、大體においては皇室自身で定める規則、これによつて原則として皇族は規律をされて行く、皇族が特に一般法に服せられる場合には、皇室の法令においてこのことは一般法に服するのだと特に定められ、或は一般法自身が、このことは皇族をも規律すると定められたもののみを適用するというような立場であります、勿論これがよほどの幅で變更されて行くということは私どもも豫測いたしまするが、こうした民事關係においては何らの特殊的な取扱いというようなものはすつかりなくなつて、一般法に服されるかどうかという點をお伺いしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=14
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015・木村篤太郎
○木村國務大臣 只今の御質疑に對してお答えいたします、皇族の特殊の御身分に關して、特に皇室典範その他に規定してある以外には、皇族といえども原則として治外法權的な特權は有せられないのであります、普通の民事、商事の法規の適用があるものと御承知を願います、今お述べになりました皇族間竝びに皇族と普通の人民間における法律關係は、すべて民事、商事の規定が、適用あるものと御承知を願いたいと思います、ただ申すまでもなく、皇族は皇位繼承に深い關係を有するものでありまするから、刑法における皇族に對する危害罪、これは普通の人と別個に取り扱う規定を設けることにいたしております、またそれらの裁判權の管轄につきましても、特に東京高等裁判所を第一審とし、これに不服のある場合には最高裁判所において取り扱うことにいたしておりますが、その他の點については普通の國民とひとしく法律の規定に支配されることになつております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=15
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016・酒井俊雄
○酒井委員 經濟關係の場合はよくわかります、たとえばこういう場合はいかがでございましようか、放蕩をなさる、道樂をなさるような皇族が出られた、これに對して禁治産或は準禁治産の宣告を與へるというような、身分にも關係し、經濟關係にも關するという問題については、今まではこれは勿論皇室自治權によつて、天皇陛下がかかることをなさつていらつしやつたのでしようが、これは一般裁判に服するものかどうか伺いたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=16
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017・木村篤太郎
○木村國務大臣 皇族につきまして、もしも不幸にしてさような事例があつた場合に、皇族關係において、さような準禁治産の宣告を求むることが適當であるというような考えであれば、裁判所にお申出になることであろうと思います、これは求められる方の御意思に關係することであつて、求められようと思うと民法の規定によつて準禁治産の宣告をお求めになるわけであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=17
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018・酒井俊雄
○酒井委員 事實としては生ずべからざるものと思いますが、かりに皇子がさういうような立場にあられて、禁治産或は準禁治産の宣告を一般裁判所がしたということになると、重大なる事故ということになりまして、皇位繼承の順位は變更されますか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=18
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019・木村篤太郎
○木村國務大臣 さような事例はわれわれは豫想もいたしませんが、かりにさようなことがありますると、皇室會議によつてはたしてそれが重大なる事故と認められるかどうかということをはかりまして、重大なる事故であると認めた場合には、皇室會議において皇位繼承の順序を變更するということに相なるであろうと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=19
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020・酒井俊雄
○酒井委員 次ぎに皇族は種々なる榮譽上の特權を受けておられます、これらの種々なる特權、たとえば特に勳章を賜わり、威儀を整えるというような點、皇族には宮中から特別の職員を附屬させられるというような點、徽章紋章その他種々なる榮譽上の特權が法律制度の上から定められておる、これらの法律制度は廢止され、かりに皇族にふさわしい特權というようなものがあるにいたしましても、これは事實上そういう取扱いを申し上げる、法令の上からはこういう考は取り除くことになるのか、やはり法令として殘されるものか、お伺いいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=20
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021・金森徳次郎
○金森國務大臣 現在の皇室に關しまする諸般の制度によりまして、かような皇族に對する特殊な扱い方が定まつておりますけれども今囘はすべて皇室典範及びこれに基づきます所の皇室令は、今は存在しておりまするが、私どもの考えておりまする所では、憲法が實施せられまする前日までにそれらの法令はなくなるものと考えております、そういたしますると、皇室に關しまする基本の法規としては、この皇室典範があるのでありまして、この皇室典範に認めておりまする一種の特別なる扱いは、これは皇族に適用あることは勿論であります、この皇室典範の第四章に書いてありまするように、格別なものもございませんけれども、敬稱というようなことは、これは勿論皇室の一つの特別なる扱い方として存續いたします、その他の部分につきましては、今後何らか新たなる法律が豫想すべからざる必要に對しましてできるかも知れませんけれども、今の所はさような特別なる法規をつくる考えはもつておりません、そこでだいたいにおきまして法律をもつてきめなければならないような意味の特典は、この皇室典範がそれに該當する、今一つは皇室經濟法におきまして特典と言つていいかどうかわかりませんけれども、經濟的なる一つの御地位がきめられまするが、それ以外は法律で特別なるものを定むることは只今の所では考えておりません発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=21
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022・酒井俊雄
○酒井委員 木村司法大臣にお尋ねいたします、司法上の特權でありまするが、非訟事件につきましては、一般裁判所は皇族に對しまして管轄權を有しない、ただ不動産の登記法が皇族財産に適用されたのみであります、この非訟事件というものは、よほど身分方面に關係の深い事柄であります、非訟事件につきましても、すベて皇族に對しては、これからは一般裁判所の管轄に屬し一般の法律に屬されるかどうかお伺いいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=22
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023・木村篤太郎
○木村國務大臣 お答えいたします、さような方向にもつて行くことに相成るだろうと考えております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=23
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024・酒井俊雄
○酒井委員 まだはつきりしておりませんか発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=24
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025・木村篤太郎
○木村國務大臣 だいたいはつきりいたしておりまするが、今法案を研究中であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=25
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026・酒井俊雄
○酒井委員 なおこの典範案では、攝政に對しましては訴追に對して特例を掲げておる、今までの取扱いでは、皇族に對しましても一般刑事法の取扱いにつきまして特例が定められておりまして、たとへば禁錮以上の刑については大審院が裁判權をもつ、また皇族は勅許を得るにあらざれば拘引しまたは裁判所に召喚することもできないというような種々なる特例があつたのであります、この典範案の攝政の規定のあるものは明らかでありますが、その他の皇族につきましては一切特例は省かれるかどうかお伺いしたい発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=26
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027・木村篤太郎
○木村國務大臣 お説の通りであります、この規定のない限りにおいては、一般の國民と同樣な取扱いを將來受けることに相なろうと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=27
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028・酒井俊雄
○酒井委員 恐らくわれわれの考え方といたしまして、種々なる特權が皇族から省かれる以上は、種々なる皇族の特殊な義務も取り除かれることと思うのであります、皇族に特殊な義務として今設けられている、たとへば居住の制限、東京にいらつしやらなければならないという制限、これはほとんど意味をなさない制限だろうと思います、わけても私どもが不都合に感じますのは職業の制限であります、商業を營むことはできない、法人の支配人となることはできない、任官によるのほか報酬を受ける職につくことはできない、公共團體の吏員または議員となることはできない、實に經濟方面におきましては金縛りであります、この典範と竝んで皇室經濟法が上程され、これも近く法律として現われるのでありますが、この皇室經濟法の立場から申しましても、皇室經濟法では皇族に對してそれぞれ年金を差し上げる、或は皇族の身分からお下りになるお方には一時金を差し上げる、この年金、一時金なるものが皇族の場合生活費であるという豫測の下になされておるのかと思いますが、私どもそういう豫測の下にこの差し上げるお金を定めるということは、非常な民主主義の點からいつて矛盾があると考える勿論皇族がその特別なる榮譽あるその御地位を保たれるために必要なる限度に差し上げることは當然でありまして、この必要を言うものではありませんが、人間の生活には、皇族といえども榮譽を保つ部分とやはり一個の人間として生きて行くといふことが、分けて考えられると思うのであります、榮譽を保つ資として一定の金額を皇族に差し上げるということは至當なことである生活の資として差し上げるということは、人間平等の原則からいつて、また人間そのものの生きるという意義から行つて、私は贊成をしないものでございます、そういう立場から言いましても、皇族といえどもやはり働いていただく、或は俸給をとつていただく、或は商業を營んでいただく、人間としての眞の經濟生活を營んでいただくということが原則でなければならぬと私は考えるのであります、そういう建前から言いましても、このような無意味な制限はすつかり取拂わるべきだと思いまするし、勿論そうなることを確信しておりまするが、これを取り拂う建前、氣持の上からは、單にこれを取り拂つて、かかる營業の自由を束縛した制度を取り拂つて、一定の金を差し上げて、これで生きて行つてもらうという建前の下に制限を外すのでは、面白くないと私どもは考えるのであります、そういう立場から今度皇族方に差上げることになる、その金につきましても、その額等について基本的な考えが生まれて來ることと思うのであります、かりにこの物價高の今日、しかもますますインフレ傾向を帶びて來る今日、議會が一定の額を定め、或は規則によつて一定の額を定めましても、とても私はそれのみによつて生きるということになると、相當に莫大な額を計上しなければならぬし、追いつくことではないと考えます、餘りこの金額が莫大になりますれば、一般國民の考えの上から言いましても、民主主義の建前から言いましても、やはり皇族特權だというような觀念を國民に起させるものでもあると思います、だからそれらの點について、いかなる構想の下に將來これが實行されて行くかという點を、金森國務大臣にお伺いしたいのであります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=28
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029・金森徳次郎
○金森國務大臣 御説の點はよく私どもも御同感申し上げる次第でありまして、皇族が特別なる地位をおもちになる所以のものは、結局皇位繼承及び攝政に就任せらるるということを根本の考えといたしまして、これに缺くべからざる範圍において、特殊なる扱いが行われるわけであります、所がそれについて考えなければなりませんのは、皇室は皇室としての品位を維持せられなければならぬということは、國の象徴ということと組合わせまして、既に仰せになりましたように、當然考えなければならぬことと思うわけであります、しかしそれ以上に突き進んで、皇室が特別なる特權をおもちになるということは望ましくないことは勿論であります、だから最後の答えといたしましては、この二つの條件を調和させて行くよりほかに行く途はないと思うわけであります、でありますから、今後皇室の方々に對しまして、職業その他につきましての法律上の特別なる制限を加えたり、居住の自由を法律をもつて制限するというようなことは考えてはおりません、しかしそれでは皇室の所屬員の方々が、普通人と全然同じように經濟行爲を行わせられ得るであろうかという點につきましては、品位維持ということと若干組合わせて、その間に種々なる妥當をはからなければならぬ、はからなければならぬというのは、法律でそうするわけではありませんけれども、自然の道行としてこれがはかられなければならぬと思うわけであります、そのために皇室に對しまして、その品位維持に必要なる經費を、憲法第八十八條の規定を通して國から差し出すということは當然であるわけでありますが、その時の金額の計上の仕方につきましては、やはり今仰せになりましたような點を考えなければならぬと思つております、でありますから、その金額は品位維持に必要な限度に限るということが第一の原則になつて來るわけであります、次ぎにまた皇族の方々でありましても、おのづから皇位繼承との關係の遠い近いという點によりまして、そこに差別があつてもしかるべきものと思うわけであります、皇位繼承の順位に非常に近接したる方に對しましては、その點を考えて金額を多からしめなければならない、しかしそれよりも非常に遠い方につきましては、みづからその經濟等を自主的にお考えになり得る場面も自然多くなつて來るものと考えられまするが故に、そういうことをも加味しつつ、若干經費の額に差等が起つてもしかるべきものと思う、こういうふうな考えでありまして、それに基づきまして皇室財産法の方では、法律の中では抽象的な規定ではありますけれども、とにかく段階がつけてある、そしてまたその具體的な金額につきましては、いずれ法律をもつてまた別に提案いたすことと思つておりますが、その中味をその時に御批判を願いましたならば、恐らくお考と違つた方向には向いていないものと思つております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=29
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030・酒井俊雄
○酒井委員 次ぎに監國の制度と申しまするか、攝政を置く場合、具體的に申しますれば、天皇一時の御疾病或は外國御旅行その他一時の御故障ある場合、一時ではあるが、大政をみづから見ることができぬというような場合、監國といつたような性質のものを置かれる用意があるかどうか、尤も新しく憲法には天皇の大權は委任することができるという規定がありまするので、この規定は天皇に御故障がないのに、何かの都合で個々の事柄を委任されるという場合を豫測してつくられておるものか、或は只今申し上げましたような天皇一時の御故障、御疾病というような場合を豫測いたしまして、全般的に監國というような機關に大權を委任されることを豫測してつくられておるものかどうかという點を睨み合わせて、この監國なる制度を設くる場合があるかどうかということをお伺いいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=30
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031・金森徳次郎
○金森國務大臣 天皇がみづから國事に關する事項を行わせられないで、他の者が代つて行いまする場合に、二つの分類ができる、一つはたとえば法定委任という思想に似たものでありまして、天皇の御意思に拘らず代理行爲ができる場合と、それから天皇の御意思を通して委任ができる場合、いわば委任代理とでもいうべき系統に屬するもの、この二つに分けて考えることができるのであります、攝政は法定代理ともいうべきものでありまして、一定の條件が具わりまする時には攝政が當然に就任して、そうして天皇の行われることを代り行うということになる、それが今囘の攝政に關する規定の中味をなしておるわけであります、御質問の中にははいりませんでしたけれども、今囘の攝政を置きまする條件は、現在の制度よりも少し變つておりまして、いくらか攝政が置かれる場合が觀念的に廣くなつております、いずれにいたしましてもそれは法定代理、すなわち天皇の個々の御意思に拘らず代理者が置かれる場合であります、所が今仰せになりましたような、古い制度の大寶令に言つております監國の制度に該當するようなものは、これは天皇の御意思を通じて行われる所の代理制度でありまするから、今囘の憲法に合わせますれば、第四條の第二項に「法律の定めるところにより、その、國事に關する行爲を委任することができる」、その規定に該當して導き出さるべきものと思つております、そこで憲法第四條第二項によつて權能を委任するという場面を現在から豫想して置くかどうか、こういう問題によつて來るのであります、極く普通に考えてみまして、天皇が國事に關する行爲を委任で代理せしめられまするような場合には、さきにお示しになりました國外に旅行になるという場面と、それなら或る仕事につきまして、きわめて事輕微であるが故に委任せらるる面、この二つを考えることができまするけれども、事輕微なる場面ということもそう澤山あるわけではございませんし、それはまたそれとして必要なる場合に、もし必要があれば委任規定を置いていいと思ふ、それから今の御旅行のような、一般的な包括的な委任というものは、それは實際の情勢を目の前に置きませんと、適當なる制度が計畫できませんで、抽象的にいたしましても、周到なる規定はできないのでありまするし、現在の所さようなことを豫期すべき場面も考えられませんので、今囘はそれらに關しまする規定は設けておりません、必要が起りまするならば憲法第四條第二項の規定によりまして、法律の制定という途をその時に考うれば目的を達することができる、かように存じております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=31
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032・酒井俊雄
○酒井委員 いろいろと有難うございました、私の質問はこれで終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=32
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033・樋貝詮三
○樋貝委員長 井上赳君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=33
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034・井上赳
○井上(赳)委員 私は初めに皇位繼承のことについてお伺いいたします、皇位繼承につきましては、古い所からいろいろ考えてみますと、皇統を萬世に傅えるという原則は微動だにしなかつたのであります、その個々の歴史的事象によりますと、明治の典範が定められまするまでは或る程度きわめて自由な、いわば彈力性のある不文律によつて決められておつたと思うのであります、これは明治の典範によつて可なり秩序を正し、順序を定められて來て、まに一面から申しますと可なり動きのとれない形になつたように思うのであります、そういう意味におきまして今度皇室典範が變りますならば、相當幅の廣い、彈力性のある皇位繼承方針が打ち立てられなければならぬのではないかというふうに私は考えるものであります、それでこのたび庶子というものを認めないということになりますが、庶子を認めないということは、國民道義の發達いたしました今日、これは當然のことであると思いまして、私ども贊意を表するものでありますが、過去の歴史に徴して考えますと、これを認めないということが一體どういう事態をひき起しておるか、もしこの新典範が明治の初年に行われたものといたしますれば、今日恐らく皇統に、また皇族に非常に大きな影響を及ぼしておつたと思うのであります、さらに御歴代というものに當つて考えてみますと、その古い所は今上天皇から遡つて徳川時代に至るまで、ほんとうに皇后からお生まれになつた方が何人あつたかと申しますと——こういうようなことを今ここで一々申し上げたくはないのでありますが、結局皇統を萬世に傳えるという所から庶子を認めるということは、今まで當然のこととなつて參つたのでありますが、これが今日以後認められないということになりますと、私は將來の慮りというものが相當大事であると思ふ、このことについては、私は本會議において申し上げましたけれども、重ねて申し上げて、この點から一つお尋ねしたいのであります、金森國務相のお説では、女帝を立てるということは結局女帝で行き止りになつて、男帝がここで止つてしまう、そういう意味で女帝を立てるということは意味をなさぬ、こういうようなお考えであるのであります、男系男子ということを鐵則といたしますればそういうことが考えられる、これは當然のことでありますけれども、しかしながら今申しましたような、將來庶子を認めないというようなことから、私は皇族というものの範圍がきわめて限定されて來る、殊に一夫一婦の嚴格な帝座ということは、ややもすれば庶子が極く連續して生まれるというようなことも、科學的に或る程度考えられる問題であるのであります、また皇族の方々が御繼子があらせられないというようなことも、明治以來相當多いのであります、こういうことを申し上げるのもどうかと思いますが、今日も或は秩父宮、或は高松宮は立てられない、今後お生れになるかも知れませんが、代りは立てられない、こういう御状態が實際古い歴史を繹ねてみますと、その都度々々多かつたのであります、隨分皇位繼承に苦心をされておる事象がしばしばあるのであります、こういう點からまた一方に第十一條以下の規定に從いまして、將來皇族の身分をお離れになる方も、これから私は相當多いと思うのであります、これは皇室會議の議を經ることもありましようし、いろいろあつて、その點で種々會議の結果きまると思いますけれども、種々の特權はあるが、しかしながら生活の上において自分というものをひく、自分が生きて行くといつたような面にお働きになるには、非常に不自由な皇族であらせられる、それが民主主義の世に向つてお出でになればなるほど、みずからの御意思として皇族をお離れになるといつたことも實は相當多いと思う、これはまた歴史的事象に照らして見まして、そういう事態も多くあつたのであります、そういう時代に皇室がなくて、皇位繼承に困られたようなことが隨分あつたと私は聞き及んでおるのであります、こういふ點から考へまして、昔から以來皇位繼承がきわめて自由な不文律に從つてやつて參つたこと、皇族の庶子を禁じられ、將來皇室の範圍は狹ばまる、そういうようなことをかれこれ照らし合はせて考えますと、第一條はたとえば皇位は皇統に屬する、男子男系が繼承すると規定して、その上になおたとえば男子なり或は女子、男系なき時は女系がこれを繼承するというような規定を、今日から設けて置かれるのがしかるべきではないか、またいかに男系をお求めになつても、男系がない場合には、女系をお立てになるよりほかに途はないのであります、金森國務相は、現在の段階では考えられないということを、常に仰しやるのでありますけれども、一方新しく公布されました新憲法は、國民の大理想、そういうふような理想生活といふものを民主主義の中にうち立てて行くといふ遠き慮りがあるように思うのであります、皇室典範はそれに比べますと、非常に現在の段階ではこれを拒んで行くといつたような嫌いがあるのではないかと私は思う、一方憲法はきわめて民主主義の法文であるのでありますが、憲法附屬の法典として、皇室典範はそれに比べると非常に封建的なにおいがする、こういうことだから、皇室典範は國民がこれを見ました場合に、この皇室典範を通して見る皇室はいかにも封建的である、こういうのは一體日本の民主主義かといわれるくらいで、大事をとられるために、かえつて皇室に累を及ぼすような結果になりはしないかというように、私は思うのであります、その意味において、まず第一に男子とともに女子、男系なき場合は女系というようなことをぜひお考えになつて、そうしてそれによつて憲法の男女平等の權を、ここにやはり現わすというようなことを、お考えになることができないものかということについてお伺いいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=34
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035・金森徳次郎
○金森國務大臣 仰せの點はかねがね申上げておりまするように、私はものの考え方として決して私どもと違つた方向に向いておるものは全然考えておりません、私どもはこの皇室典範の原案は、ここに提出いたしましたけれども、皆樣方のお考えになつてゐるような點は、何れも問題として念頭に置いて今後の研究に資さなければならぬと考えております、ただ一つどこかに私どもと考えの違いまする所は、私どもは成文法は、皇室典範も重要なる成文法でありますけれども、おのづからこれが實際の場面に當てはまつて行く必要の範圍ということを考えて規定をしたい、こういうふうに考えております、でありますから相當の場面までは考えますけれども、それよりさらに進んで、あらゆる場合を網羅するような學理的なる問題は、成文法の中に出さないという態度をとつております、學問的に申しますれば、こういう場合にはこうなるのではないかという、あらゆる場合を豫想することは當然でありますけれども、法律というものはなんといつてもわれわれを現實の世界において規律するものでありますから、一定の範圍内においてのみ規律しても一つの理由は立つものと思うのでありますのみならず、その一定の範圍内をさらに一歩進んで世の中を考えますと、わからないことが多い、そのわからないことの多い所を無理やりに規定をいたしますと、思いもつかぬ間違いの規定になつてしまうのではないか、こういうように思つているのであります、われわれが確實にこれならば大丈夫だという所に、はつきりした基盤を置いて規定をつくりまして、そうしてそれがほぼ實際の場合に當てはまるといたしますれば、それ以外のことは、なお必要に應じて今後の研究をもつて補つて行つた方がよからう、つまり一定不變、萬世變らざる規定と考えませんで、われわれの豫想し得る範圍の實用という所に重點を置く、こういうふうな所から來ていると考える次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=35
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036・井上赳
○井上(赳)委員 御趣旨はよくわかりました、だいたい同じ方向であると思いますが、多少意見の相違かと思いますので、その點はこの上敢えてお尋ねはいたしません、次ぎは第十條の后をお立てになる、立后の問題であります、天皇の御婚姻ということは、これまでは皇后にならせられる御方は、皇族乃至華族の方であつたと思います、それ以前のことはいろいろありましようが、今度は皇后はどういう身分からお立ちになるということは、全然制限はないのでありますか、その點をお尋ねいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=36
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037・金森徳次郎
○金森國務大臣 法律的なる制限は全然ないと、かように考えております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=37
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038・井上赳
○井上(赳)委員 次ぎにお尋ねいたしますのは攝政の問題であります、攝政は明治二十二年の皇室典範によりまして、皇族ということに限定されました、これは古い奈良朝時代の制限にお還しになつたものと思うのであります、しかしながら、御承知の通り臣下が攝政になつた例は、平安朝時代から開かれてまいりました、臣下が攝政になつた實際の歴史、事情はまことに芳しくない攝政の擅權というような點がありまして、その點で非常に芳しくない歴史を留めたのであります、しかしながら今日の時代から考えますならば、皇族とともに私は臣下もまた攝政になる道が開かれていいのではないか、だいたい日本の皇室と國民との關係は時代によつて多少見方が變つて來る、主として君臣の分ということが非常に強調されます時代と、それから君民一體と申しますか、或は君民和樂といつたような方面が強調されます時代とあるように思うのであります、大化以來から奈良朝時代までは、主として君臣の分というような面が、強調されて來た時代でありますが、一轉して平安朝時代にはいりますと、だいたい君民和樂というような面が強調されましたという點から、臣下が攝政になる例が開かれたと思うのであります、勿論專制時代の古いころにおきまして臣下が攝政になるということは、惡い例を開いたには相違ありませんが、この民主主義の憲法の下におきまして、天皇の御行爲というものは、結局内閣の助言と承認によつてのみ得られる形式的な行爲のみおできになるのであります、そういう憲法の下において、よし臣下が攝政にならうとも、これはあえて昔の弊害を繰返えすようなことは絶對にない、こういうふうに考えられると思うのであります、主權は國民にありということの御説明に、國民とは天皇を含めた國民である、こういうような御説明があつたように思ひます、國民が天皇と一體である、これは天皇の御詔勅にもありますように「朕ハ爾等國民ト共ニ在リ」、この「共ニ在リ」という趣旨と私は合致するものと思います、私は明治以來、この大戰爭にかけまして、君臣の分が最も強調された時代であつた、しかしながら一轉して今日は君民一體になり、「朕ハ爾等國民ト共ニ在リ」と仰せられたこの御趣旨が、結局この民主憲法として生れたことと考える、そういう觀點から考えまして、私は憲法と國民とが直結するというような面から、いろいろな點において、皇后が法律上は何ら身分の規定なく、臣下からおはいりになるのであります、攝政もまた皇族とともに、醇篤なる國民であればそれが攝政になれるような關係があつてしかるべきでないか、國民と皇室と一體になるというような觀點からそういうことを考えるものでありますが、その點について國務相の御意見を伺います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=38
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039・金森徳次郎
○金森國務大臣 御説は新しい憲法の組立てと關連いたしまして、大いに傾聽に値すると考えておりまするが、私どもの考え方は、そういう御趣旨とは違つてはおりませんけれども、應用の面のおきましては違つた結果になつて來るのであります、從來の考え方におきましては、殊にその古い時代の制度において、攝政が、藤原氏攝政關白となりといつたような人臣攝政を嫌つた根本の考え方は、政治は天皇が行わせらるべきものである、國民が政治の骨子を握るということはよくないという氣持が強く含まれておつたと考えております、所が憲法が改正せらるることによりまして、政治の根源は國民の全體にありということを確認をいたしまして、左樣な方向の問題はもはや消えてしまいました、しかも全部が民主的な色彩によつて塗り變えられておりまするからして、その點についての論議はないと存じております、現實の天皇が國事を御擔任になつておりますのは實に狹い範圍のことでありまして、その狹い範圍のことがどういうわけで天皇のお手許にあるかといえばそれは憲法の示しまするがように、國の多年の基本的なる國民思想を基といたしまして、憲法第一條ができて、これだけは象徴としてしかるべき範圍であるといいことを第六條及び第七條で認めたわけでありまして、いわば國民の總意の結晶する所から見ますると、こういうことは天皇御みずから行わせられたい、こういうふうの氣持であらうと存じます、一般の政治は、もとより國民が民主政治に則つてやるけれども、これだけは天皇が憲法に從つて行わせらるることがしかるべしという趣旨であろうと存じます、所が現實の天皇たる方に故障がありましてみずから行わせられることができないという時になりますると、それを一般國民の手に移してするがいいのか、それともまあいわば天皇の後ろに存在しておりまする一系の皇統、或は皇室という範圍の方が代理をせられる方が、國民の精神的結合として天皇を考えておりまするその思想に合うか合わないか、こういう問題になつて來ると思いまして、攝政を皇室に限りました理由は、昔の考えとは違うと思います、昔は國權が人民に移るのがいやだ、こういう見地であつた、所が今度は折角天皇の御所管事項としておつたその事柄を人民が擔任をいたしますことは、なんとなく皇室に對してこの憲法が期待しておる所に合わないのではないか、やむを得ずんばその天皇の背景をなしておる所の皇族に、そのことを擔任していただくのが國民の氣持に合うのではないか、こういうことを眼目といたしまして、しかもその皇族と申しまするのは、結局世襲の系統という所に重きをおきまして、臣下からはいりました所の皇族は原則としてこの攝政には關係がない、ただ皇后、皇太后、太皇太后は、これはいろいろな沿革を尊重しつつ別に考える、こういうようなことでできておりますので、はつきりした理窟をどこにきめなければならぬということはわかりませんけれども、だいたいの國民の考え方には今囘の方が合つておると思います、かつまた實益の方から申しましても、今囘の憲法の建前から申しまして、天皇の行わせられますことは實際範圍が限定せられておりますので、皇族からの攝政が御擔任になつてふさわしいことばかりであるようにも存じますので、その點からも原案の理由があると存じております発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=39
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040・井上赳
○井上(赳)委員 今の御説明よくわかりました、最後に皇室會議のことについてちよつと伺います、この構想につきましては、本會議で私御説明を承つて了承いたしました、ただ皇族の方は、やはり將來民主主義の世になりますれば、皇族の方自體がやはり民主的に進んでいろいろな御意思があられるだらうと思います、それを皇族の方が、わずかに二名であつては、皇族御自體の御意思というものが、はつきりそこに出て來ないのではないかというような心配も私はもつのであります、むしろ皇族は、どしどし民主的に動かれるものならば、そういう方向の線に沿つて、進んで御意思を發表されるようになるべきものだと私は思うのであります、そういう意味におきまして、皇族の人數がもう少し、たとえば二名という所は或は四名ぐらいにした方が適當ではないか、民主主義は平等ということが一つの原則であります、皇族の數を非常に限定されるということはいかがなものかと考えるのであります、朝日新聞に出ましたが、これはほんとうかどうか知りませんけれども、とにかく皇族は皇族として、やはり新しい考え方でいろいろな動きがあると思います、それが立法、行政、司法の最高の者が八人で、皇族はただ二人である、こういうようなことに私は多少妥當でないという考えをもつております、今一つ皇室會議に何か國民直接の代表というようなものが加わる方法というものはないものでありましようが、私はできるだけ將來は皇室と國民とを直結したいといふことを心で念願するものであります、そういふ意味におきましてこの皇族會議が、勿論國民の代表として或は衆議院參議院の議長副議長が加わるのでありますけれども、もつと國民の直接な代表が適當に選ばれて、そういう人が一人でも二人でも參加するといふ方法はないものでありましようか、この點について伺います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=40
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041・金森徳次郎
○金森國務大臣 その皇室會議のつくり方というものは、いろいろの意見の立ち得るものでありまして、この原案ができます前にも、いろいろの主張が鬪わされたわけでありますが、皇族を二人にいたしましたというのは、この皇室會議で、實は各派の政黨がおのおの主張を爭うとかいうような立場で爭うという意味でございませんで、各方面の思想がここに現われて、それが全体うまく、納得されて一つにきまつて行く、こういうことを狙つておるのでございますが故に、あまり數を嚴重にして、その意見できめるというようなことを當面の目的とはいたしておりません、勿論結果は數できまりますけれども、考え方は全体の納得で行くんだ、こういうような前提をとつております、そういたしますと、皇族に密接の關係のあることでありますから、皇族の内容をよく表わして、ここで御出席になれる方は一つ出ていただきたいということになりますと、皇族何人ということになります、一人がいいか、二人がいいかというと、それは人間にはいろいろな考えがあります、三人行えばわが師ありというように、三人おりますれば他の二人は自分から見て違つた方向の意見をもつておるのだということで、だいたい二人現われますれば皇族の各方面の意見もここに現われるのではないか、こんなふうに考えたわけであります、でありまするから二人で實際の事情に合うものと思つております
國民の直接代表の人をここに表わすという御意見でありまするが、それは直接表わすのがいいか、間接に表わすのがいいかという問題になるのでありますが、實際の問題としまして國民の氣持を、ここへ一人か二人でぴつたりと選擧か何かで代表者を表わすということは、なかなか困難な事情があると思います、こういうものはいろいろ綜合的に、ピラミツド型に基盤の方で國民代表者ができ、それが漸次人數が少くなつて行つて、だいたいこの邊だという所にまとめて行く方が適當だと思います、だから衆議院で言いますと、だいたい議長と副議長というものは似たような仕事でありながら、多少人柄の差が出て來ますので、まあ輿論を代表するに適するのではないかというような考えでできておりまして、實際的な考えだ、こういうふうにお考えを願いたいと存じます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=41
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042・井上赳
○井上(赳)委員 私の質問はこれで終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=42
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043・樋貝詮三
○樋貝委員長 次ぎは大石ヨシヱ君でありますが、缺席されておるようですから、新妻イト君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=43
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044・新妻イト
○新妻委員 既にもう皇位繼承の問題につきましては各委員から深く御質疑があつたようでございますが、私はまだ納得が行かない所が一點ございまするので、この問題について簡單に御質疑申し上げたいと思います、まずこれをお伺いいたします前に、金森國務大臣に一應おたしかめいたしておきたいと思いますことは、新憲法にございます「主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する、」また或は「皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する、」というように書いてございます、私どもは、今までこの憲法を制定いたします時にいろいろ御説明いただきましたごとく、天皇は國民の中にあるということを私は信じて參つたのでございますが、どうもこの皇室典範を拜見いたしますと、皇室というものが國民から浮かび上つておるように感じられてならないのでございます、この皇室典範の中の皇位繼承につきまして一々申し上げることは、これはどちらかと言えば皇室の家憲ということだけならば、私どもは濟まされるのでありますけれども、天皇は國民の中におわしますということになりますと、やはりわれわれの制度と違つたものであつては、私たち納得ができないと思うのでございます、そこにおきましてやはり女帝の問題になるのでございますが、皇位が男系の男子がこれを繼承するということになりますと、先日御發表になりました所の民法を拜見いたしますと、今度の憲法によりまして、今までの家長である戸主を中心とする所の戸主權制度というものがなくなつてしまう、そして相續權にいたしましても、その順位が妻と子供と同等であり、或はまたこれより高くするといつて、女の戸主というものがはつきり認められて參りました場合に、この皇室典範によります所の皇位の繼承だけが、男系の男子でなければ承け繼げないということは、非常に矛盾しておるのではないか、私ども女の立場から言いますと、特に考えさせられる問題なのであります、これは皇室の御世繼ぎのためにかくかくであるということでありましたならば、私どもなにも口を挾むことはないのでございますけれども、天皇が國民の中におわしますということになりますれば、すなわち私どもとなんら變りのない法律をお定めにならなければならないということが考えられるのであります、そこで今度の新憲法によりまして、女もどうやら人間並みになつたのでございますから、この男系の男子ということをどうかしてとつていただくことができないかしら、これがありますと、新憲法によりまして、今までの世界に類例のなかつた家族制度というものをいくら破りましても、實際の上におきましてやはり男系の男子が幅をきかして、女性というものがやはり奴隷化されて來るということを恐れているのでございます、只今金森國務大臣は、學理的な成文法でこれを説くことはできないと仰しやつたのでございます、これは學理的な問題でもなんでもない、そういうことが起つて來ることを恐れるのでございます、この點をお伺いいたしたいと思います発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=44
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045・金森徳次郎
○金森國務大臣 只今のお尋ねのまず第一點の、國民の中には天皇を含んでいる、天皇は御一人としては國民であるということは、私がかつても申し上げましたごとく、今日もさように考えているわけであります、それから今囘恐らくできて來るであらう所の民法の家族に關する制度、これを皇室典範における皇位繼承との間に何にか空氣が違つている、こういうお考えでございますが、一面においてはそれは正しいのでございますし、一面においては少しく事情を異にしているのであります、事情を異にしていると申しますのは、今の民法の變つて行きます考え方は、家というものをなくするというふうな考えでありまして、關係している方々だけの集團、利害關係が、その關係している人達だけの問題、こういうふうになつておりまして、財産を相續するといえば、その利害關係はその人達だけで適當に解決せらるべきものであるという前提で新たな相續制度が生れて來るわけであります、所が皇位繼承ということになりますと、これは財産を繼承するというやうなこととは全く違いまして、國の象徴という國という大きなものの中の中心的存在であります所の象徴という地位が順次承け繼がれて行くという關係でありまするが故に、一般の財産の相續というものとは全然違つております、財産の相續はその人達の仲間の財産がどう動くかという問題であります、これは天皇の御一家のことではなくして、國全體の一つの中心たる考がいかにして充たされて行くかということでありますが故に、法律的に申しますと、實は家族制度とは別のことでありまして、何んらの關係はない、こういうことにならうと思います、それは多少屁理窟に類すると言われますとそういう嫌いもありまして、その根本に流れてをります精神は、ここに一貫したものがなければならぬということはもとより言えようと思います、今囘の皇位繼承のいろいろな基本の考え方におきましては、新しく動いて來る所のこの家族制度に關する考えも相當取り入れております、ただ日本の國民全體の結合體である國というものの中心たる地位を、象徴たる地位を、順次交替して御擔任になるという、そのことはどういう原理によつてそれを解決したらいいかと言えば、もうほかによるべきものはございません、われわれ國民が何千年の間にかくありと考えておつた、その原理の線を追うてものを考えて行くよりしようがないと言えば、その基本の原理というものは歴史的な存在の中にそれを發見しなければならぬということになろうと思います、そこでこの歴史的な存在というものは、それでは一つ一つ事實を集めて行けばそれが見つかるかと言えば、そうは行きません、時代によつて變つたやり方もありますし、今日の眼で見て、どうしてもそれはあり得べからずというものも含まれておりますが故に、この歴史的なる事實の中に中核として存在してをります所の本當の原理を發見をいたしまして、その原理が結局憲法第一條及び第二條に豫想している所の國民の意思となつて來るものと思うわけでありますが、そこで問題になりますのは、歴史的事實は一通りわかつておりまするが、その歴史的事實の中に、中核の原理として掴まえ得るものは何を掴まえ得るか、それが問題となるのでありまして、この委員會におきまして始御議論を受けておりますのは、實はその點でありまして、誰も歴史は否定しない、しかし歴史にはいろいろな夾雜物があり、また補正すベきものがありまするから、その中核のものをなんとかして掴もうという共同の努力でありまして、私はここでいつもお叱りを受けたりまた反對するような立場に立つておりまするけれども、そういう考えは毛頭持つておりません、ただこの中核を共同して發見するための一因をなそう、これだけであります、そこで私どもがその歴史の示す所の原理の中核を發見しようとしているのでありまするが、しかしなかなか人間の智慧で、過去數千年のものを見透して、將來のまた數百年の基礎を立てるということは、微力にして容易にできません、私よくほかの場合にたとえて言つておりますが、私どもの智慧というものは、眞暗な中を蝋燭かなにか一本つけて歩いているものでありまして、わかつたようなことをいつておりまするが、實は足もとがはつきりいたしておりません、そのまわりの所には幾多考えなければならん多くのものがあつて、これから一生懸命必要なる限度において研究して行かなければ、一遍にすべてのことがわがるということになると、神經衰弱になるよりほかございません、そこで歴史の中に、まづ確定不動として安心して行けるものを發見して行くにはどうするか、これは日本においては男系ということは一點の疑いなく確保されております、そういたしますると、男系ということはまづ擁護しなければならんのではなからうか、そういうふうに考えます、所が、女帝ということになると、どうかといえば、百二十何分の十という約七、八分に近い例外でありまして、よほどよく考えてその利害得失を見て行かなければならぬ、こういうふうに考えておりまして、その研究も若干は試みたのでありますけれども、かような急角度の社會變化の場合におきまして新たなる皇室典範の御制定を願うような時には、なかなか右から左にそう安心のできる確定不動の原理はできません、そこでやむを得ずこの皇室典範の案のごとき所に止めたのでありまして、いろいろな御趣旨につきましていいとか惡いということの決定的な批判を加えているわけではありません、憲法の認めておりまする兩性の基本的なる平等とかいうような思想と組み合せて、始終考えて行かなければならぬことはもとよりと思つております、ただ保守的といわれましても、なんといわれましても、その御批判は受けますけれども、何か三千年の歴史を讀み通して、そこの中核の動きなき原理を發見するということはできないのでありまして、いろいろ法制調査會とかいう所に持ち出して御意見を仰いだのですけれども、まづこの邊の所が安心だろうという結論を得て、かようにしたわけでございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=45
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046・新妻イト
○新妻委員 只今の御説明よくわかりましたが、金森國務大臣の中核原理ということが、私どもにはどうも考えようによつていろいろになるのじやないかと思われますけれども、今日ここに委員會に出席されておる委員の方たちのほとんどが、女帝を認めるということになりますと、今ここに集まつていらつしやる方たちは、中核の原理を非常に國務大臣とは違つた考え方をして見ておられる方たちばかりと私は思うのでございます、なぜならば、今仰しやつたようなことでなく、いずれもが女帝を認めたいということを言つておられるのでございますが、これは三千年の歴史と申しますけれども、三千年來敗けたことのない日本が今度敗けたということは、誰しも豫想していたことでないとともに、やはり三千年の歴史の中に女帝がたつた十代しかなくて、その間にいい成績をあげなかつた例もあるのでございますけれども、それだけが中核の原理になるのじやないと思うのでございまして、新たにここの所から女帝が日本で認められたという、そこにおいて、やはりこの中に女帝も皇位を繼承することができるという一點がおかれてしかるべきではないかということを考えますので、もう一點このことをお尋ねいたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=46
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047・金森徳次郎
○金森國務大臣 お説の通り、女帝を認むべきものではなかろうかという考え方は、多くの方々の頭の中に一應湧き起つておると思います、またそういう考えが湧き起ることは、これは國民の意思によつて事物が研究されて行く現在の段階において、適當なことと思つております、けれども認めるようなものではなからうかという考えと、はつきり認めるといふ考え方との間には、若干の差がありまして、その點にはなお研究を要する問題が挾まれておるのてはないかというのが、私の立場でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=47
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048・新妻イト
○新妻委員 私はこれで終りたいと思いますけれども、希望といたしまして、どうぞあとの委員會でもつて女帝を認めるように御努力下さいますことをお願いいたしまして、終りといたします発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=48
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049・樋貝詮三
○樋貝委員長 諸君におはかりいたします、最初一般質疑をいたしまして、ついで各論にわたつて質疑をすることにきめたのでありましたが、だんだん質疑の樣子を見まして各論的質疑は或はないかも知れませんと思うのでありますが、諸君に御異議なければ、これで質疑を終了いたしたいと思います
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=49
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050・樋貝詮三
○樋貝委員長 御異議なしと認めてこれにて質疑を終了いたします、次囘の開會日時は公報をもつてお知らせいたします本日はこれにて散會いたします
午後零時六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009110895X00519461212&spkNum=50
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