1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十一年十二月五日(木曜日)
午後一時十一分開議
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議事日程 第五號
昭和二十一年十二月五日
午後一時開議
第一 皇室典範案(政府提出) 第一讀會
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〔朗讀を省略した報告〕
一、政府から提出された議案は次ぎの通りである。
内閣法案
(以上十二月四日提出)
一、昨四日貴族院から受領した政府提出案は次ぎの通りである。
議院法の特例に關する法律案
一、議員から提出された議案は次ぎの通りである。
東京、鹿兒島間直通急行列車運轉復活に關する建議案
提出者
上林山榮吉君 宇田國榮君
松田正治君 井上知治君
小柳冨太郎君 杉本勝次君
(以上十二月三日提出)
一、去る三日吉田内閣總理大臣から次ぎの通り發令があつた旨の通牒を受領した。
復員事務官 荒尾興功
同 山本善雄
第九十一囘帝國議會政府委員被仰付
一、昨四日吉田内閣總理大臣から次ぎの通り發令があつた旨の通牒を受領した。
商工事務官 細井富太郎
同 松田太郎
特許標準局長官 久保敬二郎
石炭廳長官 菅禮之助
石炭廳次長 岡松成太郎
第九十一囘帝國議會商工省所管事務政府委員被仰付
一、去る三日議長において次ぎの通り常任委員辭任の許可があつた。
第六部選出豫算委員 寺田榮吉君
第一部選出請願委員 青木泰助君
一、去る三日常任委員補闕選擧の結果次ぎの通り當選した。
第一部選出
懲罰委員 武藤常介君(荒木武行君補闕)
一、昨四日常任委員補闕選擧の結果次ぎの通り當選した。
第一部選出
請願委員 竹内歌子君(青木泰助君補闕)
第六部選出
豫算委員 九鬼紋十郎君(寺田榮吉君補闕)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=0
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001・山崎猛
○議長(山崎猛君) これより會議を開きます。日程第一、皇室典範案の第一讀會を開きます。吉田内閣總理大臣。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=1
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002・会議録情報2
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第一 皇室典範案(政府提出) 第一讀會
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皇室典範案
皇室典範
第一章 皇位継承
第一條 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
第二條 皇位は、左の順序により、皇族に、これを傳える。
一 皇長子
二 皇長孫
三 その他の皇長子の子孫
四 皇次子及びその子孫
五 その他の皇子孫
六 皇兄弟及びその子孫
七 皇伯叔父及びその子孫
前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを傳える。
前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
第三條 皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議に議により、前條に定める順序に從つて、皇位継承の順序を変えることができる。
第四條 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。
第二章 皇族
第五條 皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。
第六條 嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。
第七條 王が皇位を継承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを親王及び内親王とする。
第八條 皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という。
第九條 天皇及び皇族は、養子をすることができない。
第十條 立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第十一條 年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
第十二條 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。
第十三條 皇族の身分を離れる親王又は王の妃並びに直系卑属及びその妃は、他の皇族と婚姻した女子及びその直系卑属を除き、同時に皇族の身分を離れる。但し、直系卑属及びその妃については、皇室会議の議により、皇族の身分を離れないものとすることができる。
第十四條 皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたときは、その意思により、皇族の身分を離れることができる。
前項の者が、その夫を失つたときは、同項による場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
第一項の者は、離婚したときは、皇族の身分を離れる。
第一項及び前項の規定は、前條の他の皇族と婚姻した女子に、これを準用する。
第十五條 皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。
第三章 攝政
第十六條 天皇が成年に達しないときは、攝政を置く。
天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、國事に関する行爲をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、攝政を置く。
第十七條 攝政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一 皇太子又は皇太孫
二 親王及び王
三 皇后
四 皇太后
五 太皇太后
六 内親王及び女王
前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に從い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。
第十八條 攝政又は攝政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前條に定める順序に從つて、攝政又は攝政となる順序を変えることができる。
第十九條 攝政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前條の故障があるために、他の皇族が、攝政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いては、攝政の任を讓ることがない。
第二十條 第十六條第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、攝政を廃する。
第二十一條 攝政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
第四章 成年、敬称即位の礼、大喪の礼、皇統譜及び陵墓
第二十二條 天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、十八年とする。
第二十三條 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬称は、陛下とする。
前項の皇族以外の皇族の敬称は、殿下とする。
第二十四條 皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う。
第二十五條 天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う。
第二十六條 天皇及び皇族の身分に関する事項は、これを皇統譜に登録する。
第二十七條 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所を陵、その他の皇族を葬る所を墓とし、陵及び墓に関する事項は、これを陵籍及び墓籍に登録する。
第五章 皇室会議
第二十八條 皇室会議は、議員十人でこれを組織する。
議員は、皇族二人、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、宮内府の長並びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。
議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各各成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九條 内閣総理大臣たる議員は、皇室会議の議長となる。
第三十條 皇室会議に、予備議員十人を置く。
皇族及び最高裁判所の裁判官たる議員の予備議員については、第二十八條第三項の規定を準用する。
衆議院及び参議院の議長及び副議長たる議員の予備議員は、各各衆議院及び参議院の議員の互選による。
前二項の予備議員の員数は、各各その議員の員数と同数とし、その職務を行う順序は、互選の際、これを定める。
内閣總理大臣たる議員の予備議員は、内閣法の規定により臨時に内閣總理大臣の職務を行う者として指定された國務大臣を以て、これに充てる。
宮内府の長たる議員の予備議員は、内閣総理大臣の指定する宮内府の官吏を以て、これに充てる。
議員の事故のあるとき、又は議員が欠けたときは、その予備議員がその職務を行う。
第三十一條 第二十八條及び前條において、衆議院の議長、副議長又は議員とあるのは、衆議院が解散されたときは、後任者の定まるまでは、各各解散の際衆議院の議長、副議長又は議員であつた者とする。
第三十二條 皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官たる議員及び予備議員の任期は、四年とする。
第三十三條 皇室会議は、議長が、これを招集する。
皇室会議は、第三條、第十六條第二項、第十八條及び第二十條の場合には、四人以上の議員の要求があるときは、これを招集することを要する。
第三十四條 皇室会議は、六人以上の議員の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
第三十五條 皇室会議の議事は、第三條、第十六條第二項、第十八條及び第二十條の場合には、出席した議員の三分の二以上の多数でこれを決し、その他の場合には、過半数でこれを決する。
前項後段の場合において、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第三十六條 議員は、自分の利害に特別の関係のある議事には、参與することができない。 第三十七條 皇室会議は、この法律及び他の法律に基く権限のみを行う。
附 則
この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
現在の皇族は、この法律による皇族とし、第六條の規定の適用については、これを嫡男系嫡出の者とする。
現在の陵及び墓は、これを第二十七條の陵及び墓とする。
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〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=2
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003・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 只今上程になりました皇室典範案についてその提案の理由を説明いたします。
政府は臨時法制調査會の答申を基礎といたしまして、皇室典範案を立案いたして、ここに本會議に提案するに至つた次第であります。改正憲法の第二條には「皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」とあり、また第五條には「皇室典範の定めるところにより攝政を置くときは、攝政は、天皇の名でその國事に関する行爲を行ふ。」とあるのであります。本案は、この皇位繼承と攝政に關する事項を中心といたしまして、これに密接な關係のある事項を規定しておるのであります。現行の皇室典範に比べますると、第一、皇室の御一家に關する事項はこれを除外し、第二に皇室の經濟に關する事項は皇室經濟法案に讓り、第三、訴訟に關してはこれを一般の訴訟法規等に任せることにいたしました點において、顯著な相違があるのであります。しかしてこれらの事項を除いた爾餘の事項は、概ね現行の皇室典範の規定する所を踏襲して規定することにいたしておるのであります。この規定の中で、現制との間で比較的著しい相違の點は、皇位繼承の資格、從つて皇族の範圍を定むるに當りまして、嫡男系、嫡出に限る原則を採用いたしたことであります。三世以下をもつて王及び女王としたこと、皇族竝に立法、行政及び司法の各分野からの十人の議員にて組織する皇室會議を設け、皇嗣の変更、攝政の設置、その他皇室に關する重要な事項の議に當らしむることにしたこと等の諸點であります。何とぞ御審議御協贊を希望いたします。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=3
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004・山崎猛
○議長(山崎猛君) 質疑の通告があります。順次これを許します。北浦圭太郎君より質疑に入るはずでありますが、只今おられませんから、次ぎの吉田安君に發言を許します。吉田安君。
〔吉田安君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=4
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005・吉田安
○吉田安君 政府が、去る第九十囘帝國議會に、ほとんど五十日の長き會期を費されまして、國家の基盤をなす憲法の大改革、その他各種重要法案を制定いたされましたことは、國民ひとしくこれを多とする次第であります。しかるに今また、ほとんど息つく暇もなく今議會を召集相なりまして、憲法附屬の大法典でありまする皇室典範を御提案に相なりまして、われわれ國會が直ちに本日この審議に入ることを得ましたことは、これまたまことに幸いと存ずる次第であります。御承知の通りに、明治憲法の下に存在しておりまする現行典範は、私個人の感情から申し上げますると、何か知ら割り切れない所の、一種の妙な存在であるのであります。と申しますことは、なるほど皇室典範は一般法律ではありません。從來の思想觀念からいたしましたならば、これは皇室御一家内の、いわば家法であり、家憲であります。その家法であり、家憲でありまするが故に、その家長であられる、その首長にわたらせられる所の天皇御自身が、その保有せられる自主權によりましてこれを御制定遊ばされる次第であると存じます。從つて明治憲法におきましても、皇室典範の改正は帝國議會の議を經るを要せずと明記いたしておるのであります。しかしながら今日のこの新憲法の世の中になりますると、その觀念が當然變つて來ることは勿論であります。なんとなれば、天皇が皇室の家長であらせられ、首長であらせられるといたしまするならば、國家國民の立場からいたしましても、天皇は國家の家長であり、首長であらせらるることは疑いのないことだと存ずるのであります。從つてその皇室典範は、これは國民が直接關與して改正し得ることは當然のことではないかと考える。それが新憲法が制定になりますると、民主主義憲法の建前からいたしまして、當然今日のわれわれ國民が、しかも正當に選擧せられたる國會における代表者たるわれわれが、直接この大法典を自由に審議いたしまするということは、まことに大慶の至りであると私はかように存ずるのであります。今までは一切のことが關與を許されなかつた。それが直ちに關與される。ここにおいてか私は、新憲法のその精神及びあり方が、ことさらにはつきりいたされまして、限りなき感激と幸福を味う次第であります。以下少しく私は意見を述べながら、日本進歩黨を代表いたしまして、若干の質疑を試みたいと思うのであります。
まづ第一に、吉田總理大臣にお尋ねをいたしまするが、只今提案理由の御説明にもありました通りに、皇位の繼承に關するその資格の問題であります。何が故に現政府は、この皇位の繼承を、皇統たる正統に基づく男系の嫡出子に限られて、同じく皇統である所の男系の庶子孫を排除されたかということであります。私はこの點に對しましては、いささか當局の御眞意を解するに苦しむ次第であります。なんとなれば、今日の新憲法の建前からいたしましても、人間は平等でなくちやならない。そこに區別があつてはならない。自由平等は新憲法の大原則でありまして、その原則をとりながら、こと皇室の皇位に關することではありませうが、同じ正統を承けたる所の、ただ庶系であるというだけの故をもつて、皇族からまでも除外なされ、加うるに皇位の繼承の資格なしとなされて、これを排除される理由が、私は了解に苦しむのであります。この點、總理大臣の明確なる御答辯を承りまして、委員會における參考にしたいと思います。
次に、今ちよつと觸れましたが、庶系の子孫は皇族からまでもこれを除外されることは、これまた私は甚だ了解に苦しむ點であります。その點は、第六條のこの法典の精神から解釋いたしますると、正統の血統を繼がれておつても、庶系であるが故にこれに皇族たる身分を與えないということは、いかなる理由であるか。これも憲法の人間平等の建前から行きますならば、そうした區別をなさることはいかがなものであろうか、かように存ずるのであります。この點も併せてお尋ねいたしておきます。
後に戻るようで恐縮でありますが、現行の典範によりますると、その第四條には、皇位の繼承に關しましては、「皇子孫ノ皇位ヲ繼承スルハ嫡出ヲ先ニス皇庶子孫ノ皇位ヲ繼承スルハ皇嫡子孫皆在ラサルトキニ限ル」、こう現定してあります。これで私は皇位の繼承に庶子を認めた所で、一向將來に關係はないものではないかと思います。いわんや國家悠久性から考えました時に、私はこれを排除する理由はないではないか。かように存ずる次第であります。
第二の問題を聽くのでありますが、何故に女帝を認めないか。女帝を認めない理由奈邊にありやということを、お尋ねしたいのであります。これまた國家の悠久性を考えまする時に、女帝を認むることは決して不要のものではない、かように存ずる次第であります。いわんや今日、新憲法の大原則たる男女平等の原則をその精神といたしまする以上は、この點と新憲法の精神と、いささか食違いを感ずる次第であります。この點に對する金森國務大臣の御答辯を伺ひたいと思うのであります。男女平等、男女平等ということを新憲法で申しながら、それを一般國民に要求しておいて、ひとり皇位に關する點においてこれを排除なさるという理由については、割り切れないものを感ずる次第であります。よろしく女帝を認めてしかるべきである。(「同感」と呼ぶ者あり、拍手)それも女帝を認めて、すぐに女帝が出現するというわけではありません。その順位のごときは、これはゆつくり研究の餘地があるのであります。私はこの意味からいたしまして、女帝はお認めになつて差支えないことではないか、かように存ずる次第であります。
第三にお尋ねいたしたいことは、皇位の繼承と三種の神器との關係であります。現行典範の第十條でありましたか、「天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」。まことに一讀嚴肅さを感ずる規定が、現行典範には存在いたしておるのでありますが、新典範を見ますると、天皇が崩ぜられた時には、皇嗣が直ちに即位せられるというだけのことでありまして、神器はどこに一體行くのであるか。この點は恐らく金森國務大臣の日頃仰せになる言葉を拜借いたしましたならば、この場合神器はやはり皇位繼承と不可分に存在することを認むることが、傳統的なわが國の國民感情に一致するものではないか、かように存ずるのであります。なるほど即位というものは、ここに崩御があれば瞬間を許さずして、そこに既に踐祚即位があることは勿論でありますが、次いで祖宗の神器を承くということが、私は國民感情としてもまことに適切なるものである、かように存ずるのであります。あまりセンチ的な考え方かは知りませんが、これが日本國民の感情である。われわれ國民が、日本國の象徴たる天皇、憧れの天皇として仰ぐ場合に、この神器の存在もまた一概に排斥すべきものではない、かように私は存ずるのであります。この點に對する御説明も伺いたいと思います。
第四に改正典範を見ると、第十條に「立后及び皇族男子の婚姻は、皇室會議の議を經ることを要する。」とあります。立后と皇族男子の婚姻には、憲法第二十四條のごとく直ちに成立するものではなくて、皇室會議の議を經ることを要件といたしたかのごとく、解釋さるるのでありますが、はたしてしからば、これは憲法第二十四條と何らかの矛盾を生ぜざるやということを疑う次第であります。この點に關する御答辯を承つておきたいと思うのであります。
次ぎには、現行典範を見ますると、第一章に皇位の繼承に關する大原則を定め、直ちに第二章には踐祚即位の章を設けて、嚴肅にこれを取扱つております。しかるに今囘の改正典範では、わずかに皇位繼承のうち、第四條まで皇位繼承の章としておきながら、その最後に來て、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」と、まことにあつけなく、まことに寂しく取扱つてあるがごとき感じがいたすのであります。これに反して現行典範は、別に獨立したる踐祚即位の章を設けまして、「天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」、さらに「即位ノ禮及大嘗祭ハ京都ニ於テ之ヲ行フ」、元號は云々ということを嚴肅裡に規定しているのであります。にも拘わりませず、ただ一條、天皇崩ずるときは直ちに皇嗣がこれを相續するということに取扱つてありますことは、まことに寂しさを感ずるのであります。いわんや、即位ということは天皇一世一度の大典であります。これは輕々しく取扱うべきものではないと、かように存ずるのであります。にも拘わらず、ただそれを皇位繼承の最後の章に至つて、「天皇が崩じたときは、皇嗣が直ちに即位する。」、なるほど即位は瞬間的にいたしまするけれどもが、これだけでは、讀む人をして何かしら一沫の寂しさを感ぜしめるのであります。それに引換えまして、現行典範には、第一章に即位の順序を定め、第二章には特別に踐祚即位の章として、今申し上げましたようなことを規定しておりまして、讀む者をして一讀襟を正さしむる感じをもたすのであります。これは天皇御一人の大典であるのみならず、またこれは國家國民の、大なる一つの大典であると、かように私は考えるのであります。それをあまりにも平々凡々と取扱われた所の當局の御意思は、どこにあるのであるか、この點を重ねて伺いたいのであります。
次ぎに總理大臣は、提案理由の説明といたされまして、この點からいろいろ皇室内部に關すること、經濟に關すること、訴訟に關すること、かようなことは別に特別法をお出しになるという御意思を承るのでありますが、それにいたしましても、この皇室典範は、この條章をもつてはたして完全とお思いになるのでありますかどうか、併せて伺つておきたいと存ずるのであります。以上簡單ではありますが、これをもつて私の質疑といたした次第であります。(拍手)
〔國務大臣吉田茂君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=5
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006・吉田茂
○國務大臣(吉田茂君) 吉田君の御質問に對してお答えいたします。天皇陛下は國の象徴、國民おのおのの象徴として、すなわち國民道義の儀表たるべきお方であるのでありますから、その御地位に即かれるお方も、正當の婚姻によつて生れられたお方に限りたい、これが提案の趣旨であります。(拍手)また御血統の純粹性を保つ上からも、皇室會議の議を經たる、正當の結婚に基づいてお生れになつたお方に限るとすることが適當である、(拍手)こう考へましたわけであります。その他の御質問に對しては、金森國務大臣からお答えいたすはずであります。
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=6
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007・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 吉田君の御質疑に對しましてお答えいたしますが、第一に女帝を認めざる理由如何、これを認めざることは、新憲法の精神と何らか適合しない點があるのでないかという御趣旨でありました。申し上げますまでもなく、わが國の過去の歴史におきましては、女帝がおわしましたこと十代でありまして、人數にして八人の御方があつたわけであります。その點から顧みますると、女性の天皇を戴くことも理由あるがごとくに考へらるる筋はございますけれども、それらの十代の女性の天皇の御位にお即きになりました諸種の事情を考えてみますると、多くは特殊な場合、たとえば男の方がお即きになるべき順序でありながら、そのしばらくの間を充たすためといふことが大部分であつたのでありまして、いろいろの學問上の研究を聞いてみますると、大體本格的な筋合ではない、一時の便宜に應ずるものであるというふうに言われております。そこでこれを今囘の憲法改正の場合に當てはめて考えてみますると、一面から申しますれば、兩性の平等という見地からこれを認めますることは、決して理由なしとは考えられないのではありますけれども、大體が男系ということを根本にいたしておりますために、女性の天皇が御位にお即きになりますと、それから先の男系の子孫ということを考えることが困難でありまするが故に、その點でいわば皇位をお繼ぎになる方が行詰りになるというような懸念も直觀的に――理窟ではありませんが、直觀的にさような考えも出て來る餘地があるわけであります。他の一面から申しますと、女帝を認めまするにつきましても、それは順序の關係におきまして、男性の方が順序の中におわしまさぬ場合に、恐らく考えらるると思いまして、しかしてさような場合は、およそ見透しまする所、容易に起り得ないことのように考えますので、これらの諸點を考え合わせますると、今日の現状におきまして、直ちに女性の天皇の制度をはつきりと認めますことには、なお相當研究の餘地を殘しておるものと存じます。そこで現段階におきましては、現行の皇室典範の成立についての研究の結果を一應受け繼ぎまして、これらに關する特別なる規定を設けていないわけでありまして、なお今後の研究によりまして、十分論究を進めて參りたいものと考えております。
次ぎに皇位の繼承と、三種の神器との關係がいかになるかというお尋ねでありましたが、これは皇位が繼承せられますれば、三種の神器がそれに追隨するということは、こととして當然のことと考えてをります。しかしながらこれに關しまする規定を、皇室典範の中には設けておりません。その次第は、他に考うべき點もありますけれども、主たる點は、三種の神器は一面におきまして信仰ということと結ぴつけておる場面が非常に多いのでありますから、これを皇室典範そのものの中に表わすことが必ずしも適當でないというふうに考えまして、皇室典範の上にその規定が現われてはいないわけであります。しかしながら三種の神器が皇位の繼承と結びついておることはもとよりでありまするので、その物的の面、詰まり信仰の面ではなくして、物的の面におきましての結びつきを、何らか豫想しなければなりませんので、その點は、恐らく後に御審議を煩わすことになるであろうと存じまするところの皇室經濟法の中に、片鱗を示す規定があることと考えております。
次に、婚姻の關係について特別なる制限があることはというふうの御質疑がありました。これは先ほど總理大臣から答えられました中に、大體現われておりまするけれども、皇室の範圍その他は、常に皇位の繼承と、攝政におなりになる方の範圍ということを中心として考えておりまするからして、その天皇が國の象徴でおわしますということと組み合わせて考えてみますると、一般の道理だけでは行き屆きかねる部分があるのであります。そこで諸般の事情を考えまして、御婚姻の場合におきましても、さきに御指摘になりましたような皇室會議の議を經ることを定めたわけであります。
次に踐祚即位につきましての特別なる章を設けなかつたのはどういうのであるかというお尋ねでありましたが、踐祚及び即位に關しまする規定は、現行の皇室典範には御説のごとく三箇條規定があるわけであります。そうしてこれに基づきまする諸般の制度は、登極令という皇室令の中に定まつておるのでありまするが、これを分解して一つ一つに考えてみますると、踐祚に關する規定、すなわち天皇崩御になりますれば、皇嗣すなわち踐祚を遊ばされるという規定が一つでありまして、これは先にも御指摘になりましたように、文字こそ變つておりまするけれども、ほとんどそのままに今囘の改正案の中にはいつておるのであります。また即位の禮を行わせられ、大嘗祭を行わせられるというふうの規定は、これはその即位の禮に關しましては、今囘制定せられまする典範の中にやはり規定が設けてありまして、實質において異なるところはございませんので、大嘗祭等のことを細かに書くことが一面の理がないわけではありませんが、これはやはり信仰に關する點を多分に含んでおりまするが故に、皇室典範の中に姿を現わすことは、或は不適當であろうと考えておるのであります。なお元號を設けまする點がそこに現われておりまするが、今度の制度におきましては、改正憲法の規定によりまして、天皇が御みずから元號をお定めになるという場面はないと考えております。從つて元號は、もし規定をおくとすれば、ほかの方法によるべきものと存じておりまするが、明治元年の行政官の布告というものがありまして、それによりまして元號の制は基本的には存在しておるわけであります。從つて皇室典範の中の元號の規定がなくなりましても、本質においては存在しておりまするが故に、今囘はそれにつきまして何らの特別なる規定を設けなかつたわけであります。
次ぎに、訴訟その他現在皇室典範の中にありまする多數の規定が省かれても支障はないかというような御質疑と心得ましたが、御承知のごとく現在の皇室典範は、先に述べましたように、皇室の御一家の規定とみるべきものと、國の規定とみるべきものと、二組はいつておるのであります。皇室御一家の規定とみるべきものは、國の掟としてこれを定める必要はございませんで、これは除き去つて差支えないものでございます。そのほかに皇室と國民との間に關しまする訴訟その他の關係の規定がございまするけれども、これは憲法改正の場合に御説明を申し上げましたように、御一人たる立場におきましては、皇室の各位は國民の一人として考うべきでありまするが故に、それらに關しまする規定は、一般の法律の中に必要なる特例を伴いつつ規定せられますれば、支障ないことと考えておるわけであります。大體お尋ねの點はこれだけであつたと考えております。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=7
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008・吉田安
○吉田安君 御答辯によりまして大體了承することができましたために、爾餘の點は委員會に讓ることにいたします。私の質疑はこれで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=8
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009・山崎猛
○議長(山崎猛君) 及川規君。
〔及川規君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=9
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010・及川規
○及川規君 私は社會黨を代表いたしまして、皇室典範のこの法案に對しまして、次ぎの四點の質問をいたすのであります。まづ第一に、本法案には天皇退位の規定が認められませんが、それは何故であるかというのであります。わが國の歴史に徴しますると、上古神武天皇より皇極天皇に至るまでの間におきましては、讓位受禪の事例はないのであります。皇位の繼承は、ひとり天皇の崩御によつてのみ行われたのであります。しかし三十五代皇極天皇以來、讓位受禪の例がしきりに起りまして、大正天皇に至る八十九代の天皇中、五十七人の天皇が讓位せられたのであります。特に四十五代聖武天皇以後は、讓位はむしろ本體となり、爾後大正天皇に至る七十九代の天皇中、讓位せられた御方は實に五十三人の多きに及びまして、聖武天皇以後の天皇の六割七分、すなわち七割近くの御方が讓位せられておるのであります。崩御によつて起る即位は、むしろ例外と稱すべき状態であつたのであります。しかるに現皇室典範制定に當りまして、從來のこの恆例を破り、讓位の制を廢し、上古の制に復せられたのは何故であるかと推察いたしまするに、史實に徴して明らかなるように、讓位の原因に種々好ましからざるものが多々あつたからであろうと思うのであります。由來讓位に際しましては、多くは詔をもつてその理由を示されておるのでありまするが、この詔によりますると、老齢または疾病により政務の總攬に堪えずとせられておるもの、天災地異または疫病その他の災異により、不徳のいたす所なりとして責任をとつておられるもの、確たる理由を示したまわずして、單に萬機に堪えずとされておられるもの、次ぎに女帝にして既に皇嗣の長じたまえるによりとされているものなどであります。しかしながらこれらは、多くは詔勅の表面に現われました理由に過ぎませんで、當時の事情によつて、眞實の原因であると思われるものを推度するならば、およそ次ぎのごときものであつたと思うのであります。一つには院中において政事をきかんとの思召によるもの、次ぎには權臣の横暴を憤りたまえるによるもの、次ぎには討幕のことを擧げんとせんがためにせられたもの、次ぎには出家遁世のためにせられたるもの、稀に異常の政變のためになされたるものなどであります。また以上のごとく自發的叡慮によらずして、他からの強要によると認められる例も見受けられるのであります。權臣の強要によると認められるものといたしましては、藤原道長の三條天皇を強要して、後一條天皇に御位を讓らしめたるごとき、平清盛が高倉天皇を強要して、安徳天皇を立てたるがごとき、北條氏が陪臣の身をもつて、後宇多天皇以後數代にわたつて皇位繼承に容喙し、讓位を奏請したごときであります。また上皇または母后の意思に基づくものとみなされるものといたしましては、崇徳天皇が御父鳥羽法皇の院旨によつて讓位せられたるがごとき、土御門天皇が後鳥羽上皇の内諭によりまして、また六條天皇が御祖父後白河天皇の叡慮に基づきまして、朱雀天皇が母后の内意によつて讓位せられたごときものがあります。更にきわめて異例といたしましては、全く聖慮に基づかず、天皇に重大なる事故あり、または異常の變に際し、臣僚の議をもつて退位のことを決し、讓位の御儀の行われなかつた例もあるのであります。陽成天皇、花山天皇、仲恭天皇の御退位のごときはこれに屬するのであります。ただ唯一の廢位の例といたしましては、孝謙天皇が淳仁天皇を廢せられた例がただ一つあるのであります。以上擧げましたごとく、讓位の原因、事情等に種々好ましからぬものが存在することは否定できぬ事實でありまするが、しからばこれらの弊害は、今後のわが新しき天皇制においても生ずるの危險があるかどうかを懸念いたしまする時、今後の日本の天皇制の下においては、かかる危險は絶對に發生するの餘地なきものと信ずるものであります。以上の弊害は主として封建的天皇制の下に生じたものであるのであります。
以上は消極的に天皇退位の不當ならざるを論證したのでありまするが、私は積極的に天皇の絶對的自由なる御意思に基づく御退位は、これを實行せられ得る規定を設くることが、人間天皇の眞の姿を具現する所以であると確信するものであります。(拍手)過ぐる元旦の詔におきまして、今上陛下は、敢然として永き傳統の桎梏たる神祕の衣を脱ぎ捨てられ、世界に向つて人間天皇を宣言遊ばされたのであります。諸國民に喚び起したる好感、國民全般に與えたる深き感銘、今なお記憶に新たなるものがあります。人間天皇こそは、新憲法下における天皇制の眞にあるべき姿であります。しからば人間の人間たる資格、すなわち人格の本質はいずこに求むべきでありませうか。カントの言葉をまつまでもなく、意思の自由こそは人格の本質であり、人間の人間たる所以を表示するものであります。新憲法はその第十三條、第十九條において、國民の基本的權利として、思想の自由、良心の自由を力強く保障しております。意思の自由は天皇においてより強く認められ、保障せられねばならぬと思うのであります。國民の總意をもつてしても、天皇を再び運命の絆に繋ぎ、運命の子たらしめることは、人間天皇の本質に反することと思うのであります。象徴たるの故をもつて、人間の本質たる意思の自由を否定するがごときは、不當のきわみであり、意思の自由の否定は、人間の否定であり、人間の否定は、やがて人間天皇の否定であるのであります。時に外部勢力の影響を恐れるというならば、その防止に萬全を期すべき方策を講ずることは、もとより當然のことでありまするが、これがために天皇の自由なる御意思までも抑制せんとするがごときは、ひとり天皇に對して忠なる所以でないばかりでなく、國家の象徴としての尊嚴を維持する所以でもないと思うのであります。絶對自由の御意思をもつて、積極的に眞に國民の象徴たらんとの熱意をもつて臨まれる天皇の御姿こそは、眞に國民の憧れの的となり、心の繋りの中心となられるに、ふさわしいものと思うのであります。
時に國民の確信という言辭を用いまして、皇位のあり方の論據とする議論を見受けるのでありまするが、かかる時、この國民の確信という言葉の含蓄する所の意味を深く檢討するの要があると思うのであります。現在の國民の確信を知らんがためには、爲政者はすべからく主觀をむなしうし、あらゆる努力、あらゆる手段を講じて、國民の總意の那邊にあるかを探らねばなりません。と同時に、國民の總意そのものは、時勢の進展につれて變り行くことを忘れてはならない。特に現今のごとく、事態の變轉きわめて急激なる時において、しかりと思うのであります。ひとり事態の變動の急激なるのみならず、國民の總意確信も、日に日に發揚されつつある所の合理的精神、批判的精神の故に合理化されて行くものなることを、牢記せねばならないのであります。國民の確信を、あたかも不變不動の固定觀念、乃至信念のごとく思惟いたしまして、ただ漫然としてこの語を用いて、舊態を維持せんとする所の態度は、鋭く批判せられ、是正されなければならぬと思うのであります。
次ぎに第二點といたしまして、前質問者も質問いたしましたが、別なる觀點より、私も女帝を認めざるの理由をお尋ねいたしたいと思うのであります。提出の法案によりますれば、「皇位は、皇統に屬する男系の男子が、これを繼承する。」とあつて、女子は省かれておるのであります。男尊女卑の思想は、從來わが國において長年にわたつて培われ、國民の思想を支配し、今なお牢固として拔くべからざる根強さを有しておる弊風であります。しかしながら改正憲法は、ほとんど革命的態度をもつてこの陋習を破り、その第十四條において、男女の完全なる平等無差別の原則を樹立したのであります。今般皇位の繼承より女子を除外したのは、男尊女卑の思想に由來したものでないと言うかも知れません。しかしながら他に國民を首肯せしむるに足る確乎たる理由のない限り、女子除外の措置は、男尊女卑の弊風の拂拭の妨げとなり、否、この思想肯定の根據とさえなる恐れがあると言はなければなりません。他に重大なる支障の存せざる限り、男女平等の原則は、國の象徴たる皇位の繼承においても尊重されねばならぬと信ずるものであります。(拍手)皇室は、新憲法において天皇が象徴となられたことにより、一層國民の儀表たるの地位を高めたものであります。從つて皇室は、すべての點において範を國民に垂れさせられ、眞に國民憧れの中心とならるべきものと思うのであります。憲法に折角樹立せられた男女平等同權の原則が、まず皇室典範において破られておるということは、遺憾のきわみであります。(拍手)もとより象徴たる御地位に鑑みて、無條件に民法的原則が採用さるべきであるとは考えておりません。象徴であり、また諸種の儀禮を掌られる關係から、皇位はでき得る限り男子が繼がるることは望ましいことでありまするが、しかしながら親等のきわめて遠い皇族男子が、繼承の順位に當る如き場合において、もし前天皇に内親王があらせられるならば、この親等の最も近い嫡出の内親王が、まず皇位に即かれることは、自然の感情にも合致し、正當のことと思われるのであります。象徴たる地位が、男子特有の能力を要するならばまた格別、天皇の行爲はすべて内閣の助言と承認とによるのであつて、概して儀禮的、形式的行爲であるが故に、女帝において著しく困難もしくは不可能ということは、あり得ないのであります。攝政となられることは、現に本案も豫定しておるのであり、攝政となり得る以上、皇位に即かれぬということは、あり得ないと思うのであります。これを諸國の事例に見るも、女帝が立派にその任務をはたしておるものも少くなく、またわが國に於ても、異例ではありまするが、重祚を除き、八人の女帝の即位せられた歴史を有しておるのであります。現行皇室典範制定に當り、皇位繼承より女子を除外した理由として擧げられる所を見ると、只今金森國務相の御答辯のごとく、一時の權宜にして常憲にあらずと言い、或は祖宗の遺したる意思――遺意を紹述したるに過ぎずと言つておるのであります。一時の權宜とはいえ、女帝を認めることの必要、または妥當の場合のあることを歴史が證明する以上、これをその時々の便宜手段に委ねずして、かかる場合を豫想して、豫め一定の順序手段をふんでこれを實現するよう法制化することを、至當と信ずるものであります。或は女帝は、配偶者あらるる場合、その配偶者が困難なる立場に立たれることを顧念する人々もあるようでありまするが、平民の女子が皇族となることを豫想する以上、女帝の配偶者が特殊の地位に立たれることは、やむを得ない事情であらうと思います。何よりも大切なことは、われわれは實際にかかる場合の生ぜざらんことを念願するものでありますけれども、天皇の嫡出の女たる内親王も、皇位繼承の順位の中に豫定せらるることは、三千八百萬の女子國民に與える道義的影響、否、全國民に與える男女同權に對する道義的信念の強化は、はかり知るべからざるものがあると思うのであります。(拍手)百言は一行にしかず、皇室典範にこの規定を取入れることによつて、男女平等の原則は、公法、私法のあらゆる面に徹底し、新憲法の眞精神をますます發揚する所以であると思うものであります。先ほど金森國務相は、女帝を認めることは一應行詰まりになるというようなお話でありましたが、男系を認める以上、男系の女子を認めれば、そこで皇位は行詰まりでありますけれども、認めなくとも行詰まりでありまして、傍系に行くのでありまして、それはなんらの立論の根據とならぬものと思うものであります。
次ぎに第三といたしましては、皇位繼承の變更、ならびに攝政を置く時、またはこれを廢する時、これは法案によりますれば、皇室會議に付することになつておりまするが、さらにこれを國會の議に付することが至當でないかというのであります。この皇位繼承順位の變更、或は攝政を置く場合、これを廢する場合の皇室會議の審議は、その可否を決定するのではなくして、それが發生の原因たる事實の認否を確定するものであるという説でありまするが、この事實の認定そのものも、その適不適が國務に重大なる影響を及ぼすべきものであると思うのでありまして、かるが故にこれは國會の議に付すべきものであると思うのであります。さらに天皇の象徴たる地位は、國民の總意に基づくことは、憲法の趣意より明らかでありまして、この象徴の地位を充たすべき人間の變動は、國民總意の表明たる國會の意思にかからしめることが至當であると思うのであります。さらにこれを國會の議に付することによりまして、國民と天皇もしくは攝政との關係を密にし、國民の皇室に對する關心を昂揚し、皇室に對する國民の親しみをも増さしむるに、あずかつて力あるものであると思うのであります。
次ぎに第四は、皇室會議の議長に衆議院議長を充つべきではないかという質問であります。理由といたしましては、議長の職務は、勿論議事を整理し、議事の圓滑なる進行をはかるにありましようけれども、實際の面におきましてこれを見まするならば、議長の職務の仕方は、議事の議決の方向に相當の影響のあることも事實であります。かくして議長の職務は、單なる議事の運營という以上に、重大なる意味を持つて來るのでありまして、かかる意味におきまして、國家の最高機關たる國會の長というものがありませんので、國會の代表者ともみなすべき衆議院の議長をこれに充てるが至當であると思うのであります。かくしてこの國會が、眞に國家の最高機關たるの實を擧げることもできるのであると思うのであります。内閣總理大臣をもつてこれに充てたことは、事務の圓滑なる運行をはかるためである、事務運用の便宜上であるとするならば、かかることを犧牲にいたしましても、なお國會の尊嚴を維持するために、衆議院議長をこれに充てることが至當ではないかと思うのであります。
以上四點につきまして、内閣總理大臣竝びに金森國務相の御答辯をお願いいたします。(拍手)
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=10
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011・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 及川君の御質疑に對してお答えをいたします。
第一に天皇御退位の規定のないことについて、いろいろとお教えをいただきました。御論議がことごとく熱情に基礎をもつておるということは、十分拜聽いたしました。私ども大いに心の上に影響する所があつたわけであります。かような問題につきましては、いろいろの考え方が成立し得ると思いまするが、私どもの今まで考えておりました立場は、天皇は國の象徴であるということは、憲法の認めておる所でありまするし、その根本におきまして、われわれ日本國民は、天皇を精神的結合の中心として、確乎たる何千年の信念をもつておるということを申しました。從つて甚だ行き過ぎる言葉であるかも知れませんけれども、天皇の御在位につきまして、國民はその萬世一系の系統の或る時期をお充たしになるということに、絶對の心のつながりをもつておるわけであります。從つて天皇御一人のお考えによりまして、その御位をお動きになるということは、恐らくはこの國民の信念と結びつけまして、調和せざる點があるのではないかと、かような所に重點をおいたわけであります。人間天皇としての御立場を考えますと、御讓位の途があることが、一面において理由なしとはいたしませんけれども、この國民信念の歸著する所を基本として考えますると、たとえ御讓位ということに、過去にありましたような諸種の弊害は毫末もないとはいたしましても、天皇に私なし、すべてが公事であるという所に重點をおきまして、御讓位の規定は、すなわち御退位の規定は、今般の典範においてこれを豫期しなかつた次第でございます。
第二に、女性の天皇を認めざることについての御質疑でありましたが、これはだいたいは先ほど申し上げました所と同じたことになるわけであります。天皇が女性であることをこの典範が認めなかつたことは、配偶者がおありになるとか、或は御權能の關係とか、そういうような著想から來ておるわけではございません。だいたい日本の基本の考え方が、男系によるということにつきまして、過去において例外がなかつたのであります。男系によるということが何故に正しきや否やということの論議は、相當にむずかしいことであると存じまするし、今後とも深き研究を要するものと思いまするが、現在においては、男系ということを、動かすべからざる一つの日本の皇位繼承の原理として考えております。その原理を重じて行きますると、どうしても先にちよつと仰せになりましたけれども、男系の御子孫という所を逐うて行きまして、結局女性の天皇を考えますると、その後において系統の行き途がない、皇位繼承の範圍がそこにおいて盡くるということになります。しかもそれを他のどういう順位の男性の方と比べて優劣をつけるかというような問題になりますると、かなり困難なる問題が起るのでありまして、この點は今後なお十分の研究を重ねて、さうして誤りなき、的確なを結論を得る方がいいと思うのでありまして、今日なおその時期が至つていないわけでございます。
第三に、皇室會議の結果を國會の議に付するようにしたならばどうかというお尋ねでありました。これも確かに一面の考え方であると存じております。しかしながら皇室會議に上りまする所の多くの問題のうちには、一般の公の論議に現わすことが自然好ましからざるものも多かろうと存ずるわけでありまして、そこで皇室會議のうちに、衆議院議長、副議長及び參議院議長、副議長というような方を含めて、その十人のうちに四人の國會の首腦者を含めることによつて皇室會議を開くことにして、婉曲ではありまするけれども、國民の心持がこの上にほぼ十分に表われる、かういうことを著想といたしたわけでありますから、それ以上に及ぶことは、原案では考えていなかつた次第であります。
次ぎに、皇室會議の議長を衆議院議長にすることがいいのではないかということも、確かに一つの御議論と考えております。しかし原案の著想といたしましては、この皇室會議に上りますることは、必ずしも立法に關することばかりではありませんので、法規解釋というやうな問題に強い關係がありまする所は、最高裁判所の長官も出て來なければならぬ。國民の全體の要望を基礎としてという場面におきましては、國會のいわば代表者たる四人の方が、強く立場をおもちになる。そうしてまた皇室の内部の事情によくお考えをおめぐらしを願うという立場におきましては、皇族の方が議員におなりになるというようなわけで、かなりその範圍が綜合的な廣い部面を占めておりまするが故に、その議長といたしましては、綜合的な立場として、内閣總理大臣が當るのが一つの理由をもつものと言えるのではなかろうか。殊に内閣總理大臣は、今後の組織におきましては、國會に密接に基礎をもつておるものでありまするが故に、かような行き方は自然妥當なことと言い得るのではなかろうか、かようなふうに考えたわけであります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=11
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012・山崎猛
○議長(山崎猛君) 及川君、御質疑がありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=12
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013・及川規
○及川規君 第一の點におきまして、御答辯がやや明瞭を缺いて理解に苦しむものでありまするが、いずれ委員會におきましてさらに質問をいたすことにいたしまして、本日はこれで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=13
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014・山崎猛
○議長(山崎猛君) 酒井俊雄君
〔酒井俊雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=14
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015・酒井俊雄
○酒井俊雄君 私は協同民主黨を代表いたしまして、この典範案につき、いささか政府に御質問を試みたいのでございます。だいたい前のお二人の御質問のうちに含まれておりますることは省略をいたしまして、重複をしないように御質問を申し上げます。實は女帝に關することにつきましても御質問をしたいと思つておりましたが、お二人の質問がございましたので省略をいたします。
皇位繼承の順序は、この典範に明らかに定められておりまするが、ただこの典範のみでは、皇位繼承の際、或る特殊なる事情の下には、その皇嗣が不明であるというやうな事情の生ずる恐れがある場合があると信ずるのであります。第一番にお尋ねいたしたいのは、天皇崩御の際、ほかに皇子がなくて、胎中皇子かおわする場合、かかる胎中の皇子に對して、御繼承の地位を認めることは考えられないかどうかという問題であります。民法九百六十八條には、胎兒の相續權が認められておりまするが、勿論民法上の相續と皇位繼承とは、絶對に本質を異にするものでありまするが、しかし祖宗の皇胤をもつて、しかも直系の皇胤をもつて、皇位繼承の原則といたしますることは、皇位繼承に關する日本古來からの大原則でありまするので、かかる原則から申しますれば、遙かに遠い傍系の王へ繼承されるよりも、胎中皇子がおわします時には、ここへ繼承されることができるならば、これが原則に基づくものだとわれわれは信ずるものでありまするが、この胎中皇子に對する取扱いは、いかなる考えでおられるかどうかということをお伺いしたいと思うのであります。
次ぎに皇位繼承に關する儀式の點につきまして、現行典範の規定を省きましたことは、最初の質問者からの御質問もありました通りでありまするが、しかしこの皇位繼承の儀式は、國法の根本なるものであると考えるのであります。國法上の規定として、當然どこかになけらねばならぬものであると考えますので、たとへば踐祚に關する規則にいたしましても、大嘗祭に關する規則にいたしましても、典範からは省いたが、ほかにこれを國法として規定をされるかどうかということをお伺いしたいのであります。
なほ三種の神器は、これは踐祚の要件であるとされ、私ども國民はかく信じて參つたものであります。三種の神器存する所、正當なる皇統の存する所だと信じて參つたものでありまするから、この三種の神器を事實上授受するが、法律上これを取扱わないということになりますれば、これは國法の問題でなく、事實の問題となりまして、この重要なる國家規則の規定される所がなくなることになると、私どもは信ずるのでありまするから、この三種の神器に對しては、いかなる法律にいかなる規定をする御豫定であるかということを承りたいのであります。なお大嘗祭につきましても、即位の禮直後に、これは京都で行われておつたのでありまするが、かかる行爲は、やはり法律上の行爲としてこれを行われるかどうかといういとをお伺ひしたいのであります。
次ぎに、元號の規定が現行典範から省かれ、新しい典範にはこれが上つておりませんが、元號は、かつては樞密顧問の諮詢を經られまして、天皇陛下が御勅裁をなさつたのでありまするが、元號そのものの本質は、皇室の元號ではなくて、國家の元號、國民の元號であると信ずるのでありまするから、元號を定めることは、國法の範圍内であると思うのであります。しからば典範からはこの元號の規則は取り去つたが、いかなる法律、いかなる規則にこれを定められるか、明治維新のあの定めのみに、將來も永久によつて行くのかどうかということをお尋ねしたいのであります。そうして元號が國家の元號であり、國民の元號である限りは、本質上どうしても國會の議を經て定めるということが本體であると、私どもは考えるのでありまするから、明治初年のあの法令だけでは、本質を盡くさない、要を盡くさないものと考えるものであります。
次ぎにお伺いいたしたいのは、皇族の御身位につきまして、親王及び内親王を四世まで現行典範では認めておりましたのを、二世に限りました。民主主義の原則を貫ぬく立場から私どもこれに贊成をいたすものであります。一方それ以下は王、女王となられるのでありまするが、この王、女王は際限なく子孫に傳えられるのでありまするが、かかる時は非常に皇族の數が殖える場合が豫想されるのでありまして、日本の過去の歴史上から見ましても、非常に皇族の數が殖えまして、皇族亂れ、中には皇族の尊貴を亂すというようなことも生じて、困つた場合があつた歴史上の事實がございます。かかることを予想いたしまするとともに、なお民主主義の大原則を貫ぬく建前から、五世以下は皇族の限りにあらず、五世をもつて限りをつけたらどうかと私どもは考えるのでありますが、政府におかれて、かかる考えはお持ちにならないかどうかということをお伺ひする次第であります。
次ぎにお伺いいたしたいのは、皇族の特權についてでありまするが、勿論皇族の御身位に直接密著しておりまする御特權なるものは、當然な特權でありまして、これをとやかく申し上げるのではないのでありまするが、皇族の御地位と密接なり、離るべからざるものなりと考えられない所の種々なる特權が、現在皇族には與えられておるのであります。たとえば民事上の關係につきましても、皇族相互の間を規律いたしますこの規律は、國民一般法がここへ適用されなくて、皇族によつて規律されておるのであります。
〔議長退席、副議長著席〕
これはまずまずしかりとしても、皇族と臣民との間における權利義務の規定に關しましても、原則として、一般國法が適用されないことになつておるのでありますが、民主主義の建前上、普通一般の權利義務關係は、やはり皇族といえども、國民一般の法則に從うのが原則でなければならないのじやないかと私どもは考えるものであります。今のところ、皇族に適用されるとしておる一般司法關係におきましては、皇族法自體におきまして、この一般法律は皇族に適用があると定めた場合、或は一般法律におきまして、この法律は皇族も適用を受けなければならないと定めた場合のみが皇族に適用されるという原則になつております。具體的に申しますれば、今のところ皇族が適用を受けまする一般法は、勳章、記章に關する法律、財産權に關する民法の第一編乃至第三編、商法及び附屬法令の規定、公益のためにする財産の收用徴發または制限に關する法令、地租、地租附加税、段別割に關する法令、このようなものが主なるものでありまして、これ以外の一般法というものは、ほとんど皇室には適用されない特例になつておるのでありますが、かかる特例をそのまま認めて行く趣旨かどうか。民主主義の大原則の立場からいたしまして、大いに改革さるべき問題だと私どもは考えるものであります。
次ぎに、皇族の榮典に關しまする特例につきましても、御地位に直接御關係のある御稱號とかいう御榮典、これはもとより動かすべきものじやないのでありまするけれども、皇族を一般國民から、さしたる理由もないのに特殊扱いをいたしまして、敍勳の特例を設けるとか、或は刑法に皇族に對する不敬罪の規則を設けまして、皇族に危害を加え又は加えんとしたる者は、一般の者に對するよりも重刑をもつて臨むというような特例も設けられておりまするし、皇族に對しては職員を附けまして、特殊扱いにするという例も作られております。その他種々なる榮譽特權が定められておりまするが、かかる榮譽特權を將來いかに取扱われる御意思か、これを承りたいのであります。
なお司法上の特權、これにつきましても種々なる特例が認められております。非訟事件は一般に皇族には適用をされないのであります。民事訴訟につきましては、先ほど申しましたやうに、皇族相互の民事訴訟は、全く一般裁判所の管轄外である。皇族と一般國民との間における權利義務關係の訴訟は、特別なる裁判管轄がございまして、これは一般の管轄とは取扱いが違つておるのであります。刑事訴訟におきましても特例がございまして、禁錮以上の刑については、大審院が管轄權を有することになつており、皇族は、勅許を得るにあらざれば裁判所は召喚することができないという特例が定められております。これらの種々なる特例につきまして、民主主義の大原則の立場から、將來これがいかに變更され、いかに取扱わるべきかということをお尋ねしたいと思うのであります。
次ぎに、皇室の特權を民主的に取り除くとともに、今まで存しました皇室のいろいろな制限を取り除く必要があると私どもは考えるのであります。たとえば皇族に對して居住を制限いたしまして、原則として必らず東京都内に住まなければならぬという規則が設けられているし、また商業を營むことはならぬ、營利法人の社員となることはならない、任官によるほか報酬を受ける職務に就くことはできない、公共團體の吏員または議員となることはできないというような、種々なる制限がございまするが、人間皇族といたしまして、民主主義の建前から、皇族も將來は御自活の道をお選びになるような立場に立ち至られることも種々あるかと思います。かるが故に、かかる制限を設けておくことは、非常に民主主義の原則に反する、根本の問題だと思うのであります。
最後に一點、皇室會議は新しく定められた制度でありまするが、重要なる國法の根本的なる事柄をも、皇室會議の權限によつてきめることになつておりまするが、この典範案のうち、重要なる皇室會議の權限、具體的に申しまするならば、三條の皇位繼承の順序の變更、十六條の二項の攝政を置く必要ありや否や、十八條の攝政を變え或は攝政の順位を變える場合、二十條の攝政を廢すべきか否かを決定する場合、この四つの場合におきましては、いやしくも國家根本の規定に關するものだと思いますので、皇室會議の結果を議會に報告し、議會の承認を要すると定むることが、民主主義の建前上至當じやないかと考えるのであります。以上の點につきまして、御答辯を願いたいと思います。
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=15
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016・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 酒井君の私に對する――多分私に對するお尋ねに對しまして、お答えを申し上げます。第一は、いわゆる胎中皇子と皇位繼承との關係であります。現在の皇室典範の上におきましても、胎中皇子が、天皇崩御の場合に皇位繼承の順位に當らせられるかどうかということにつきましては、何らの明文はございません。しかし一般の解釋といたしましては、胎中皇子は、その立場において皇位繼承の順位をおもちにならないということになつているように思うのであります。今囘の法律としての皇室典範の中の規定も、およそその氣持を受けているのでありまして、胎中の皇子は、皇位繼承の順位をその立場においておもちにならないというふうに考えているのであります。その理由は、恐らく皆樣方の御承知のように、國の象徴としての皇位は、一日も滿されていなければならない、かように考うるのであります。しかるに未だお生まれにならない方が國の象徴でおありになるということは、これを攝政その他の方法によつて調節いたしまするにしても、非常に不合理でありまして、後よりして紛糾を生ずる。お生まれになつたのが男子でおありにならなかつたというようなことがありますると、かなり甚しい紛糾を生じまして、これは從前通りの行き道として起案をしているわけであります。
次ぎに皇位の繼承に關する儀式という場合につきましては、これは先にも少しくお答えはいたしましたが、皇位繼承に伴つて、種々なる儀式が行わせられることは、恐らく現在の有樣と同じような方向に向いておると存じております。しかしながら改正憲法におきましては、宗教上の意義をもつた事柄は、國の當然の儀式とはいたさないことになつております。從つて皇位繼承に關する諸種の儀式の中につきましても、宗教的なる意味を多く含んでおりまするものは――或は少しでも含んでおりまするものは、皇室典範の中に取り入れることが困難であるわけであります。三種の神器を授受するということは、恐らく實際において行わるることと思つております。しかしその中には、殊に賢所のお祭りのごときは、宗教的意味をかなり含んでおるものと存じまするが故に、これを皇室典範に取り入れることは困難であるわけであります。また大嘗祭は、同じような理由によりまして、皇室典範の中に取り入れることもできませんわけで、またこれに基づきまする施行の命令というものの中に取り入れるかと申しますると、これも國の規則でありまするが故に、宗教的なるものにつきましては規定することができません。そこの所は、適當にしかるべく範圍を見はからつて、命令その他に規定することに方針をきめておりまして、少くとも即位に關しまする大禮は、國の規則においてこれの詳細を定むることになろうと考えております。なお元號につきましては、仰せの通り元號は國の元號でありまするからして、本來の性質は國法の規律すべきものであることは疑いを入れません。現在は皇室典範中に元號のことの規定がありまするけれども、しかし今後は性質から言えば、國の法律をもつて定むるのが正當であろうと考えております。詰まり元號に關することそれ自身が、國の法律の事項になるべきものと思つておるわけであります。しかしながら現實の制度といたしましては、明治元年の行政官の布告がありまして、それをもつて既に實際上の目的を達しておりまするし、また元號につきまして諸般の規定を設けまするについては、いろいろ考えなければならない所の事情もあるのでありまするが故に、今囘はこれを規定することを考えてはいないわけであります。
次ぎに第四の點としまして、親王及び内親王を二世にしたいということは贊成であるけれども、しかし王、女王としての御地位が、永久に續くのであるということはどうであらうか。それを五世程度に限定することが適當ではなからうかという御質疑でありまして、これは恐らくはお考えの方向に、正しきものが幾多含まれておると思うわけであります。しかしながらこれを具體的に何世までとはつきりきめますることは、ものごとの彈力性をはかりまする上に、かなり不便が起ろうと思うのであります。極く淡白に申しあげますると、皇族の範圍が、非常に多くおいでになるということにも、一つの好ましき理由があります。しかしながらこれが多きに過ぎるということにも、好ましからざる點がありまして、要するに皇位の繼承及び攝政ということを組み合わせて、その御範圍を考えなければなりません。しかしこれが非常に複雜な姿をもつているものでありまするが故に、形式的に規定をもつて限定をするということは、避けている次第であります。
次ぎに第五に、皇族の特權として種種なるものがある。たとえば皇族に關する私法のごときは、特に一般の法律と違つておる。裁判所に現わるるいろいろな手續も違つておるというお説でありましたが、全く現在はその通りであります。しかしそれは今日の皇室典範、殊に皇室典範増補によつて、かような特別なる權利が認められておるのでありまするが、この憲法の改正に伴いまして、皇室典範も、また皇室典範増補も、現在の姿のものは恐らくなくなるものと考えております。從つてその系統によりましてできておりまする皇族の特權というものは、自然なくなることと考えております。今後におきましては、現在のこの議會に提出されておりまする皇室典範、及びそのほかの各個の法律に基づくもののみが、特別なる法規として殘ることと考えておりまするが故に、大體のお答えといたしましては、そういう特權はなくなるのである。そうして特別なる考慮によつて殘らなければならぬ種類のものは、一般の法律の中にさような特例が規定せらるることになろうと考えておるわけであります。そのほかなおお尋ねになりました刑罰法規等の特例とか、何かいろいろ仰せになりましたが、そういうものも原則としてはなくなる、必要なることだけが個々の法律において、その姿を現わすものと考えておるわけであります。
なお皇族のいろいろな面における制限を除く必要がある、居住の制限とか、職業の制限とかいうようなことがなくなるべきものではないかというお尋ねでありましたが、かようなことも、今後特別なる法律が出ません限り、なくなるべき性質のものと存じております。
皇室會議の權限につきまして、四つの場合をお示しになりました。國の根本的事項に關するものは、議會にさらに報告して、議會の議決を求むることが正當ではなかろうかという御質疑でありました。これも前から申し上げておりまする通り、さようにお考えになるのも、確かに一つの議論として成立するものと思つております。ただ原案者の立場から申しますると、多くそこに現われましたる問題は、一般の公論に付するということに、好ましからざる點がありまするが、故に、國會の代表者を多く取り入れた所の皇室會議によつてこれをきめることが妥當であろうという見地から、今囘の法律案を提出したわけでございます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=16
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017・酒井俊雄
○酒井俊雄君 細かい點は委員會に讓りまして、これで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=17
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018・木村小左衞門
○副議長(木村小左衞門君) 井上赳君。
〔井上赳君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=18
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019・井上赳
○井上赳君 私は國民黨を代表いたしまして、上程になりました皇室典範案に對しまして、若干の質疑をいたしたいと思います。わが黨の早川代議士が、首相の演説に對する質疑の問題として、劈頭女子天皇即位のことを申したのでありますが、本日は進歩黨、社會黨、協同黨の方々から、すべて女子天皇即位ということについてお説があつたのであります。この點につきまして金森國務相の御答辯もありまして、その御考えは或る程度了承はいたすのでありますが、この問題は既に各黨で相當重大問題として御發言になつたことであります。私もまた非常にこれは將來重大な問題であると考えますが故に、多少變りました觀點から、重複いたしまする點は除きまして、一應所見を述べさしていただきたい。それにつきまして重ねて御研究を願い、御所見を伺いたいと思うのであります。
まず新典範案には、庶子が認められないのであります。これは今日の皇室の御實情もそうでありますし、また民主主義憲法の精神に照らして考えました時に、まことにしかるべきことと私どもは大いに贊意を表する次第であります。しかしながら、前に進歩黨の方からお話がありましたように、これは事すこぶる重大であると私は考えるのであります。詰まり皇統を萬世に傳えるという根本原則に微動だもあらしめないということのために庶子を認めないということは、これまでもきわめて重大な場合があつたことを私は考え合わせるのであります。勿論將來にもまたこういうことがあるのではなからうか、ここに詳しく事例は述べません。もし必要がございますれば、委員會で申し上げたいと思うのであります。
さらにこのたびの新典範案は、第十一條以下に、皇族の範圍を限定すべき條件をつくられておるように私は考えております。このことも民主主義的な精神に照らしまして、當然の歸結かと考えるのでありまするが、ここにも、またわれわれは深く考慮をめぐらさなければならぬ問題があると思うのであります。今日わが國に澎湃たる民主思想は、申すまでもなく國民が封建的君主制に對して戰いとつたものではないのであります。敗戰の結果、ポツダム宣言受諾に伴う當然の歸結として、これを受入れつつあるのであります。そうしてこのことは、國民とともに天皇及び皇族におかせられても同樣であると考えるのであります。否、むしろ實情を一歩進めて申しますならば、およそ民主主義の受入れということにおきまして、最も眞劍であらせられるのが天皇であろうと思うのであります。天皇及び皇族がむしろ率先なさつておるのであつて、國民一般はこれに追從しておるといつた有樣であると私は考えるのであります。はたしてしかりといたしますれば、日本の民主化は天皇に始まり、下國民に及ぶものであると思うのであります。このことは、わが歴朝が常に道の根源であらせられ、文化の源泉、指導者であらせられることと一致しておると思うのであります。かつてマツカーサー元帥を御訪問になりました時に、天皇はひそかに、英國皇帝のような立場でありたいということをお漏らしになつたということを承つておりますが、そのころこれを新聞紙上で拜しました國民の中には、一體天皇ははたして英國憲法を御存じであろうか、英國皇帝がはたしていかなる御地位にあられるかということを御存じであろうかといつたようなことを申して、あたかも天皇御自身が御行過ぎであるかのごとく心配する向きもあつたのであります。所で一たび憲法草案がなりまするや、最も進歩せる主權在國民の憲法が實現いたしました。天皇の御希望は私はほぼ達成せられると信ずるのであります。また第九十議會に賜わりました勅語は、憲法草案をそのまま、口語體をおとりになりました。これは私はけだし空前のことであると思うのであります。續いて今議會には、さきに文部省が發表いたしました新かなづかいを率先御採用になつたのであります。それを契機としまして、議會の奉答文はもとより、今までまだ採用しておりませんでした新聞なども、はつきりと態度をきめて參りました。恐らく今後は、教科書も雜誌も一般圖書も、次第にこれに從つて行かなければならなくなるのではなかろうか。私は、今上陛下が國語問題について御關心の深かつたことは、既に十數年の昔にそうであつたということを承つておるのであります。世の中は一變いたしまして、恐らく天皇も皇族も、國民以上に民主主義を率先御實行になるに相違ないと私は思います。そうしてこの境地にお立ちになりまする時に、聰明な皇族という皇族は、第十一條以下の規定に從つて、臣籍に御降下になる御希望が或は多いのではなかろうか。これまで輝やかしい榮職にあられたればこそ、國民の前に皇族らしさというものも保たれたのでありまするが、それでもなお早くから目覺められた皇族もあつたように私は聞いております。今日以後、皇族たるが故に人間的な御生活もできず――將來學問とか文化の推進研究というようなことに御努力なさることと思うのでありまするが、そういうことをなさればなさるほど、恐らく皇族の御位置からお退きになりたいといつたような御希望が現われて來るものと私は信ずるものであります。そこで考えますることは、庶子は認めない、また第十一條以下によつて皇族の身を離れる方が多くなる、こういうことになりますと、これが民主主義當然の歸結であるにいたしましても、他面これがために起り得る皇統の萬一ということに際しまして、その御安泰を期すべき積極的方途を講ずる遠謀深慮が大事だと私は信ずるのであります。こういう觀點からいたしまして、わが皇統を――一方民主主義の點に照らして皇族の方々の範圍が縮小されるとともに、一方には、しかし皇統を安泰ならしめるという立場から、あらかじめこれに對して十分の考慮をめぐらす必要がある、こういう觀點から考えました時に、私は女子の天皇の御即位を一まず認めておくといふことが、將來の皇統の安泰を期する上に、きわめて大切なことではなかろうかと思うのであります。この點お考えを承りたいと思ふのであります。これが一つの觀點であります。
次に第二の觀點といたしまして、皇室の御傳統というものを、今日の民主主義の立場から再檢討してみる必要があると思うのであります。少くとも男系の女子の方が天皇に即位されたことは、これは歴史の上にあることは、既にしばしばここで意見の出たことでありまするが、もとより金森國務相の御答辯のごとく、これらの女子天皇は、現在の典範の精神に照らして考えますと、攝政としてお立ちになる場合に、天皇として即位されたということもあるのでありまするけれども、しかしただそれだけで解釋のできない場合が私はあると思うのであると思うのであります。勿論攝政でなく、儼として天皇であらせられたことは事實であります。特に推古天皇のごときは、別に攝政をお立てになつて、そして御在位三十八年という長きに及んでおるのであります。皇極天皇の中大兄皇子における御關係も、ほぼ御同樣である。この方は重祚までなさつて、齊明天皇とまで申し上げたのであります。これらは、ただ單に攝政としての場合ということとは私は受取れない。そこにやはり特別の意味があることを考えなければならぬと思うのであります。それは何かと申しますと、由來わが國の上古、中古の風が、勿論男女全く平等でないにしましても、後世の武家封建時代のごとく、しかく女子を男子の下風におく、すなわち全く女子は男子に隸屬するものといつた考え方においたような時代と、上古、中古の風は違つていた。かかる上古、中古の女性は、政治の上に、また軍事の上に、またもとより文化の上に、堂々と男子に伍して活躍していたのであります。女子天皇が御立ちになつたということも、實は上古、中古のこうした風俗の反映にほかならないと私は考えるのであります。しかるにその後ようやく佛教の五障の教、或は儒教の三從の教というものが社會に浸潤いたしまして、それとともに專ら武力を第一といたします武士の生活が、女子を家庭に追い込んでしまつた實情にあつたということは、皆さんも御承知のことと思うのであります。こうなりまして、あらゆる人的關係が主從をもつて律せられ、男女もまた主從の關係におかれてしまつたのであります。こういうふうな行き方から、男子のみが重んぜられ、女子はほとんどそれの隸屬物となつて、權利の客體とさえなるに至つたのであります。一方には、牝鷄の晨する禍とか、或は女子は三界に家なきものだといつたような考え方におかれた。從つて女子の相續などということは、ほとんど認められなくなつてしまつたのでありまするが、いわばわが國の極端な男尊女卑の風は、上古、中古の風にあらずして、武家封建制の下に確立したものであつた。そうしてこの武家六百年を通じて釀成されました、こういう男女の封建制が、今日といえどもわれわれ國民の間から牢固として拔け去らないのであります。ところで、ただ皇室だけは、近世までこの男女封建から超越されまして、江戸時代に二人の女子の天皇が即位されたのでありまするが、明治の皇室典範に至つて、全く時代を逆に、武家封建制が取り入れられ、皇位の繼承は男系男子に限るということになつてしまつた、こう考えられるのであります。しかるにポツダム宣言の受諾の第一歩といたしまして、民主新憲法の公布された今日に、この附屬法典の一つとして現われました新典範案が、明治典範をそのまま取り入れるということは、ここに大いなる考慮を要する問題ではなかろうかと思うのであります。
第三番目に、私は文化國家の建設という面から、女子 皇を考えたいのであります。殊にわが國に出現されました女子天皇の、輝やかしき御功績というものは、歴史の上に歴々たるものがあるのであります。特に推古天皇が、聖徳太子をして文化國家の基礎をおかしめられた。あの當時、朝鮮の經營にしばしば失敗を重ね、内には閥族鬪爭の跋扈が重なりまして、まことに國運の危うかつた時でありますが、よく内治を革新し、外交を振興し、文化を政治の基盤として、藝術の香りのゆかしい飛鳥文化を築かれたのであります。これは今日われわれ國民の三思し、學ぶべき所と思うのであります。爾來大化の改新といいましても、絢爛たる奈良、平安の文化といいましても、總てその源流基礎は推古文化であつて、その延長擴充にほかならなかつたと私は信ずるのであります。このほか、續く皇極天皇、その時に大化の新政の幕が切つて落された。或は持統天皇には暦文化の功績が長く殘つておる。或は元明天皇は奈良の都をお定めになつて、その時代に古事記の編纂、風土記の選進とかいつた、空前不朽の文化が殘つておるのであります。續く元正天皇の時代に、日本書紀がつくられ、或は養老の律令が編纂されたのであります。かくのごとく、女子の天皇とわが國の文化、殊に文化の源流というものは、切つても切れない關係にある。こういう位置にあるのでありますが、こう考えます時、われわれは文化國家の象徴として、女子天皇の出現はまことにふさわしいものがあるように感ずるのであります。しかのみならず、わが國は永久に戰爭を放棄いたしまして、あらゆる軍備を撤廢することを憲法において宣言したのであります。從つてこの平和國家の象徴として、女子天皇の出現すべき可能性を、この際法規の上に殘しておくということが、この宣言の誠實な實踐の第一歩として、私は國際間にも一大好感をもたれるのであろうと確信するものであります。(拍手)これに對しまして、政府のお考えを承りたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=19
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020・木村小左衞門
○副議長(木村小左衞門君) 井上君、時間の制限がありますが‥‥。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=20
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021・井上赳
○井上赳君(續) きわめて簡單に申し上げます。第二番目といたしまして、先ほど踐祚、即位の問題がございました。これは既にほかの方からも話がございました。ここでは述べませんが、要するに典範の規定においても踐祚、即位の實が殘るということでありますから、私はそれを諒承いたします。
最後に皇室會議というものがございますが、その構成は、皇族がお二方、あとが皇族にあらざる方が八人で構成されておるのであります。この皇族が――先ほど申しました通り、わが國の民主主義はむしろ上皇室から始まる、そういう立場から考えまして、皇族が御二方であり、國民を代表するものが八人であるということは、民主的な立場から申しまして、しかるべき構成のように見えますが、これはむしろ逆ではないか。一方に民主主義というものは平等ということを原則といたすように考えるのであります。こういう點から申しまして、皇室會議の構成に、皇族の御二方というのは、やや當を失していはしないか、こういうふうに私は考えるものでありますが、この點につきまして御所見を伺いたいと思うのであります。
以上三點につきまして御答辯を得られますれば、私は仕合せと思います。(拍手)
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=21
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022・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 井上君の御質疑に對してお答えをいたしまするが、女性天皇を認めるや否やということにつきましての御論旨は、よく傾聽をいたしました。たびたび申し上げておりまするように、この問題に關しましては、考うべき幾多の點が存在しておりまするので、それらのすべての角度から考えまして、最も妥當なる結論を得ることを努めておるのでありまするけれども、現段階、すなわちこの典範を議會に提出いたしまするその段階におきましては、原案のごとき程度よりほかに適當なるものを見出さなかつた、こういう趣旨でございますから、事柄に對して、まだ結論的なものをもつているわけではございません。
次ぎに踐祚、即位のことについてのお話で、これはだいたい御諒承を得ていると思いまするが、その中でも踐祚の式のことは別として、即位の式に關しますることは、明白に典範に規定してあるわけでございまして、それの細目となるべきものは、またこれに附屬する命令をもつて明らかにされることと考えております。
次ぎに皇室會議におきまして、皇族御二方のみが議員であるということは、少しく程度において少な過ぎるではないかという御趣旨でありましたが、この數をいかにすることが妥當であるかということは、相當考えてみたのであります。しかし何分にもかような問題は、いろいろな角度から議論の立ち得る問題でありまして、確定不動な、これこそ絶對に正しいということを申し上げることは相當困難でありますけれども、だいたいの着想といたしましては、これは國の大事である、皇室會議にかかりますることは國の大事であるが故に、皇室が特に多くの人を委員にお加えになる必要はなかろう。そこで皇族の方も御二人、あと立法、司法、行政というふうに分けまして、おのおの二人ずつ、しかして特に國會については重きをおいて、國會だけは衆議院と參議院とからおのおの二人というふうに考えまして、だいたいいろいろな角度から物を議しまする上に、ほどよく行つているのではなかろうかと考えている次第であります。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=22
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023・木村小左衞門
○副議長(木村小左衞門君) 井上君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=23
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024・井上赳
○井上赳君 これでよろしゆうございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=24
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025・木村小左衞門
○副議長(木村小左衞門君) 細迫兼光君。
〔細迫兼光君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=25
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026・細迫兼光
○細迫兼光君 先の質問者と重複を避けまして、私三つの點に關しまして質問をいたしたいと思います。第一は、この議會におきまして審議の結果でき上りました皇室典範の效力に對しまして、私は根柢的な疑問をもつのであります。憲法第二條は、皇位の繼承につきまして、皇位の繼承は國會の議決した皇室典範によるということを要求しておるのであります。これは重大な二つのことを要求しておるのでありまして、皇位の繼承は皇室典範によらなければならないということ、その皇室典範は國會の議決になつた皇室典範でなければいけないということ、これを半面から申しますれば、いかに名前が皇室典範であろうとも、現在の皇室典範のような、天皇がただおきめになつたようなもの、或は國會でないほかの機關がきめたもの、それに基づいての皇位繼承は無效だ、こういうことを宣言しておるものといわなければならぬのであります。ところが現在國會はありません。われわれは國會ではない。國會はいうまでもなく參議院と衆議院で構成いたしまして、その參議院は、全國民を代表する、選擧せられた議員によつて組織せられたものでなければならない。組織上においても勿論そんなものはどこにもありませんし、今日の議會と將來の國會との權限上の差異の重大なること、これは言うまでもありません。左樣なものがきめました皇室典範、それを基礎とした皇位の繼承が將來行われた場合に、はたしてそれが、國會で議決した皇室典範による皇位の繼承と言われるであろうか、非常な大きな疑問をもたざるを得ないのであります。それは或は憲法の補則第百條に、憲法施行に必要なる法律の制定は六箇月前でもできる。六箇月をまたないでもできるというその規定に基づいてやることも有效なのだ、こういう議論が反對論としてできるであらうと思うのであります。それは施行に必要ないろいろなもの、國會法或は參議院法、參議院議員選擧法――勿論これらのことはどしどしやつて有效でありましよう。しかしながらこの皇室典範は、從來の學説によりますれば、法律というその言葉に含めてよいかどうかすらも疑問である。皇室典範は法律よりも上位のものであり、憲法の下位に屬するものである。こういうふうなことが、だいたいの學説であつたと思うのでありまするが、まあそれはさておきまして、この憲法第二條が、皇位の繼承は國会の議決した皇室典範によらなければならないということは、これは積極的に全國民を代表する、そうして國權の最高機關であるところの國會が、きめたものでなければいけないということを、積極的に要求しているものであると理解しなければならぬと確信いたすのであります。(拍手)今日この議會で皇室典範を定めて參りまして、これに基づいて將來皇位の繼承が行われた場合、必らず必らず私は斷言しておきまするが、あの皇室典範は國會の議決したものではない。それに基づける皇位の繼承は無效だという議論が起るに違いないのであります。さような疑問のありますこの皇室典範を、この議會に提出して差支えない、今日拵えて差支えない、そう言われる論據を承りたいのであります。差支えなしとする論據、有效なりとする理由、――私は必ずや將來の國會において、少くともこれを追認するという手續をとられるに至るのではないかというようなことすらも考えるのでありますが、この議會で議決しまする皇室典範の效力について、有效なる所以の理由を説明していただきたいと思うのであります。
〔副議長退席、議長著席〕
第二には、この原案によりますれば‥‥(「議會を弄んではいかん」「默つて聽け」と呼ぶ者あり)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=26
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027・山崎猛
○議長(山崎猛君) 靜肅に。
〔「默つて聽けるか、審議すべからずと言つているではないか」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=27
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028・山崎猛
○議長(山崎猛君) 私語を禁じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=28
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029・細迫兼光
○細迫兼光君(續) 皇室會議は、皇位繼承の順位を變更する場合がありましよう。その場合、その順位變更につきまして異議ある者はどこに訴えるか。裁くのは誰であるか。この規定を見ることができません。この點に關してはいかなるお考えをお持ちであるか、御所見を承りたいと思うのであります。
第三は、お聽き下さつているならば首相からも御答辯をお願いいたしたいのでありまするが、現行の皇室典範の一體どこが惡いから、こういう新しい皇室典範をつくらなければならないとお考えになるのであるか。ただこれは、新憲法が國會の議決することを要求しているからというだけが理由であるのか。私はどこが惡いからこうした改正をする、新らしいものをつくる、こうでなくては新らしい改革に對する熱意というものは出て來ないものだ、こう確信いたす、吉田首相が憲法の改正提案理由におきまして、わが國は五箇條の御誓文を見てもわかるように、由來民主國なのだ、だが内外の情勢、いわばやむを得ず改正を必要とするから改正を提案するんだというようなことでは、新らしいものへ、こう改革せねばならぬという熱意は、そこからは湧いて來ないはずである。懺悔と反省、これではいけなかつた、あれではいけないから、こうしなくちやならぬという所に、初めて改革改正に對する熱意が湧くのであります。一體何がいけなかつたか、どこがいけなかつたから、こうしなくちやならないという、改正に對する熱望の根據根柢、これが承りたいのであります。ただ憲法に、國會が議決することを要求しているからというだけの形式的のものでありましては、その改正の精神というものが拔けて來るのであります。この改正にあたりましては、われわれは、從來の非常なる封建的なすべての意味における教育によりまして、非常に封建的な觀念に鍛え上げられております。われわれがよほどそれから拔け出たと思いましても、まだその殼の中におる場合が多いのであります。叩き込まれて――憲法に隸從を排斥すると宣言いたしましても、われわれは隸從そのものにも快感すら覺えるほどに、封建的に教育され、仕込まれている。われわれはうんと飛び離れた、よほど思い切つた民主的な飛躍をいたさなければならないのでありまして、その根本は、なんとしても從來の封建的な要素の中心問題でありまする皇室に關することは、よほど思ひ切つた改正がなされなければならないのであります。現状のわれわれの感情、感じ、それはとても世界の標準から見れば非常な封建的なものである。よほど思ひ切つた理想を掲げて行かなくては、ほんとうの憲法の精神が要求している所に到達することはできないと思うのであります。そういう意味におきまして、どこがいけなかつたから、こういう民主主義にする必要があるからといふ理由を、どこに求めておられるか、お考えのほどを承りたいと思うのであります。(拍手)
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=29
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030・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 細迫君よりの御質疑に對して御答えを申し上げます。第一に、皇室典範を憲法の要請する所に從つて改正をいたしまするためには、國會を經なければならぬ。この議會を經ることによつては、その正當性がないのであつて、將來かくのごとき典範の制定をもつて無效なりとする者があるであろうという御所見を付しての御質疑でございました。申すまでもなく改正憲法の第百條第二項におきましては、細迫君が御指摘になりましたように、憲法の施行に必要なる法律を設くることができるわけであります。しかして皇室典範は、法律ということを言ひ現わす特別な言葉として、國會の議を經たる皇室典範をもつて作れということでありまするが故に、解釋上憲法の補則の示す所に從つて、この議會において協贊を經て、皇室典範をつくり得ることは、疑いのない所と存じております。(拍手)なおこの議會は國會ではないというふうに考えまするならば、改正憲法自體が、その前文に示してありまするように、ちやんと國會という言葉を用いているわけであります。(拍手)
次ぎに皇室會議に關する諸般の議決、殊にその皇位繼承の順位について異議のあるような場合にはどうするかというような御質疑でありましたが、皇族及び立法、司法、行政の三權の代表者をもつてとも言ふべき、この會議體の構成員から考えまして、ここにおいて決定したる所に誤りあるものとは考えられません。それに對しまする特別なる途は設けてありません。(拍手)
次ぎに現行の皇室典範にはどこに缺點があるのか、その缺點を指摘しなければ改正に關する熱情は起らない、こういう御趣旨でありましたが、皇室典範の現行の制度にどこに缺點があるかというよりも、憲法自身が皇室典範を法律をもつて定むべきことを要請しておりまするが故に、それに對する答えとして、今囘の改正が必要であるということがまず第一點であります。言ひ換えますれば、現在までは典範と憲法とが二元的に對立をしていました。今囘は憲法の下に皇室典範を設くということによりまして、改正の趣旨があろうと思います。それ以外のことにおきまして、どういう改正の必要があつたかは、この改正の皇室典範と現行典範とを比較して、その差のある所が改正の理由であると御承知を願いたいと思ひます。(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=30
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031・細迫兼光
○細迫兼光君 簡單でありますから、自席から發言のお許しを願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=31
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032・山崎猛
○議長(山崎猛君) 發言を許可いたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=32
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033・細迫兼光
○細迫兼光君 いかに第百條の補則がありましようとも、この議會が將來の國會でないことは間違いないのでありまして、この政府は、やがてできまするこの皇室典範をもつて、これは國會で議決した皇室典範だと國民の前に示そうとする大膽に、一驚せざるを得ないのでありまするが、論議は別といたしまして、質問はこれで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=33
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034・山崎猛
○議長(山崎猛君) 北浦圭太郎君。
〔北浦圭太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=34
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035・北浦圭太郎
○北浦圭太郎君 諸君、皇室典範は諸君御承知の通り實質的には憲法であります。この重要なる法案を、私は十分か二十分でやれと言われた所で、不肖にしてやることができないのであります。しかしながら幸い各黨各派の同僚の諸君の演説を拜聽いたしておりまして、それらを省略いたしまして、私は各派交渉會の制限に服從することができるかと思いまするから、ここにお許しを得て、私の所見を申し述べたいと思います。
只今議題となりました皇室典範、これは金森國務相も御承知の通り、非常に疑問の多い法典でございます。なかんづく皇室典範が皇室の家法であるか、或は國家法であるか、これすらにわかに斷定を許さない性質のものであります。しかしながら憲法を、形式的憲法と實質的憲法とに分類いたしてみますると、皇室典範の一部、たとえば攝政法或は皇位繼承法、これは明白に國家機關の組織についての法典でありますから、この部分は憲法であり、國家法に相違はございません。そういたしますると、この皇室典範と、そうしてさきに改正されました所の憲法とは、まことによく調和がとれていなければならない。前後矛盾があつてはならない。私の見る所によりますると、澤山はございませんが、間々どうもそこに遺憾な點があると思うのであります。これは換言いたして見ますると、英國の民主主義憲法を、改正憲法は飛躍的に跳躍前進しておる。しかるにこの皇室典範は、ドイツのビスマルク時代の各國王家の家法――これは前の典範が、日本の皇室典範が、これにならつたということでありまするが、あまり距りができていない。英國の法典だけで論じて見ますると、この改正憲法は、英國の憲法を遙かに追い拔いておる。民主主義的になつておる。しかるにこの皇室典範は、英國のアクト・オブ・セツツルメント、いわゆる王位確定法、これよりも後れている。私は第一點の質問として、女帝論を豫期いたしておりましたが、これは重複いたしまするから省略いたしますが、女帝論なんかはたしかにこの英國の王位確定法より後れております。これは金森さん御承知の通り、そこで最も重大なりと信じます點、これは六つの問題を提げておりましたが、まず時間も遲うございますし、重複を避けまして、三點、時間がありましたら四點、その點について金森國務大臣の御意見を伺います。
諸君、過日改正されましたる所の改正憲法につきまして、全國の青年男女、この人々が最も早く理解されました條文は第二十四條であります。これは私は直接講演に行つて取調べもして見ました。まことによく記憶する。すなわち「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、」、この明文をよく記憶いたしておられるのでありまするが、これは一面、私見でござりまするが、青年男女幸福追求の權利と關連いたします、まことに民主的の條文であります。そこでこの條文は、誰が何と申しましても、他人は勿論のこと、親兄弟といえども、いかなる權力といえども、侵すことのできない、人類普遍の基本的權利でございまして、私はこの規定によりまして、將來わが日本の家庭から、いろいろな悲劇が一掃されることを期待しております。そこで金森國務大臣にお伺いするのでありますが、皇族男子は何か。日本の皇族男子、これもまた日本國民に相違ないのであります。日本國民だ。從つて六箇月後におきましては、若きプリンスも當然この權利を享有されることは、一點疑いない。舊皇室典範によりますると、皇室の婚嫁は、皇族または華族に限られておりました。今囘は諸君御承知の通り、華族制度は新憲法によりまして全廢いたされましたから、皇族男子の方々は、今後は一般國民の令孃と婚姻遊ばさるることも憲法の認むる所であります。勿論この場合にも、婚姻は兩性の合意のみによつて成立する。何者も、とやかくこれに干渉することは許されない。憲法の固く禁ずる所であります。しかるにこの草案になんと書いてあるか。「皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。」と書いてある。これは「経ることを得」ならば、まだ論議の餘地がありまするが、「経ることを要する」と書いてございます。その皇室會議の組織中には、本院の議長、副議長も當然議員に指定されておるのでありまするから、この皇室典範案が無事兩院を通過いたしますると、議長、副議長兩先輩は、若き殿下の婚姻を左右されることになるのであります。まことに兩先輩に對して申し上げにくいことでありまするが、さようなことは、私は感心できないと思う。そこでこの改正憲法は、只今も細迫君が御論じ相なりましたように、疑問がある。しかし私は、憲法第百條に基づきまして、純然たる法律として提案されているということは疑いません。これは私は贊成であります。そこでこの皇室典範は法律である。法律として提出された。この法律をもつて憲法の原則を變更することはできない。憲法はわが國の最高の法規でありまして、その條規に反する法律は無效でありまするから、ここに若き皇族男子と妙齡の婦人との間の合意さえ成立いたしますると、皇族會議がかりにこれを否決いたしましても、この若き兩性は、憲法上立派な夫婦であると私は確信いたす。この問題はやがて皇后樣にも影響すると思いまするから、先ほどどこかその邊でおやじりになつたように、ほかに立派に憲法上の條文があればお示しを願いたい。
次ぎは攝政刑事無責任の問題であります。舊皇室典範によりますると、攝政は天皇の代理といたしまして、天皇の大權事項――これは舊憲法のことを申しております。大權事項は、悉くこれを行使することができたのでありまするが、天皇一身上の特權、これは享有することができなかつたのであります。たとえば皇族が攝政となられましても、陛下の尊稱は稱えられなかつた。同樣に不可侵權、これも天皇の特權でありましたから、攝政はこれを享有せられなかつた。そこで攝政令によりまして、「攝政ハ其ノ任ニ在ル間刑事ノ訴追ヲ受クルコトナシ」と規定されてあつたのであります。この改正典範は、これをそのまま採用された。そうして攝政の刑事の無責任を明らかにいたされました。これは私は贊成です。これはこうなければならぬ。攝政はそれでよいのでありまするが、天皇は一體どうなるか。天皇は一體憲法のいかなる條文によつて、或はまたその皇室典範のどれによつてこの刑事無責任を保障いたされるのであるか、この點であります。改正憲法からは、諸君御承知の通り、神聖不可侵權の條文はその姿を消しました。舊憲法第三條には「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」と規定いたしておりましたから、かりに天皇に――今まではさようなことはなかつたのでありまするが、かりに天皇に不法不當ありといたしましても、これは刑事訴追をすることは許されなかつた――憲法第三條によつて。そこで我我は考えて見ます。英國の法諺、王は惡をなす能はず――ヒー・キング・キヤン・ドウ・ノー・ロング――なすことが出來ない。これによつて刑事の無責任の規定などはいらないではないか。王は惡事をなさないのだ。この規定によりまして、さようなものはいらないのだ、かように考えております。天皇國事に關する總ての行爲に對しては、内閣の助言と承認を必要といたしまして、内閣がその責に任じますから、國事に關する限りは、刑事訴追はこれを許されない、かように解釋もして見ました。その他國事に關係ない事件、かりにありといたしましても、主權者たる日本國民、今度は國民が主權者、その主權者たる日本國民の總意によつて天皇を日本國の象徴と仰ぎました以上は、主權の一作用に過ぎない司法權が、天皇をどうして訴追することができるか。これは不可能である。かようにも考えて見たのであります。しかしながら英國におきましても、王家の永久と安全とを期するために生まれました、國王は惡事をなす能はず、この鐵則も憲法にしつかりした規定がなかつたがために、間もなくチヤールス一世は處刑された。フランスにもその例があります。諸君御承知の通りロシヤにもあります。わが日本國におきましては、ここ二十年、三十年は大丈夫でありませう。しかし百年後に誰がこれを保證するか。現に一群の人々は、全面的に改正憲法に反對されまして、しばしば天皇を惡罵して、もつて進歩的なりとはき違えておる人もあります。恐らくいかなる問題にいたしましても、贊成か反對か、それは諸君の勝手だ。各個人の自由でありまするが、しかし一旦その反對が破れて、しかして確定されたる法律となりました以上、命令と出た以上は、その確定されたる法令に最も忠實に服從いたすということが、民主主義憲法の眞髓である。(拍手)しかるに名を勞働運動にかり、國家を混亂に導いて、よつてもつて憲法の精神を蹂躪せんとするがごときは、かれらはもはや天下の政黨でなくして、亂民徒黨の群であるといわなければならぬ。(拍手)私は、最近内閣發行にかかりまする「新憲法の解説」を熟讀してみましたが、これらの點につきましては、一言もタツチされていないのであります。この「新憲法の解説」には、金森國務相も序文を書いておられます。この問題は、ただに天皇の刑事責任の問題だけではなくして、やがて國民が皇室に對する犯罪にまで影響を與えるものであます。たとえば不敬罪は刑法には復雜に規定されておりますが、これを國民に對する名譽毀損の罪、侮辱の罪、禮拜所、墳墓に關する罪、これを嚴格に區別すべき憲法上の法的根據をどこに求めるか。やがてこの議場に現われるだろうと思いまするが、やはり不敬罪も現われるに違いない。そうしてその罪は、われわれの名譽毀損と區別されて、嚴罰であることは想像いたします。そういうふうに區別する法的根據をどこに置くか。金森國務相は今日この議場においてこれを明白にいたされなければ、將來噬臍の悔いを殘される時が來るかを恐れるのであります。
次ぎに私は吉田内閣總理大臣にお伺いいたしたいのでありまするが、お留守でありまするから、幣原さんで結構であります。天皇は改正憲法によりまして、日本國の特別機關であります。しかしてその地位は、日本國の象徴にして日本國民統合の象徴であらせられます。從つてその地位にふさわしき皇室經費、これを請求する權利があります。國家はその請求權に應ずる義務がありまする。物價高の今日、從來の四百五十萬圓にいく倍する豫算をこの議場に提出さるることは當然でありますが、なおこのほかに天皇の特權として、生命、身體、榮譽、自由、皇陵、これらはすべて刑法上特別に保護されなければ、皇室典範は完成されたということはできない。これらのことは絶對に必要であります。しかしながらわれわれは、ただそれだけでは皇室に對して禮を盡くしたとは考えていない。財政的に、法律的に國民として十分の禮を盡くしましても、なおより重要なる獻上物のあることを忘れてはならないと思うのであります。それは何か、それは天皇及び皇室に對して自由を與えよということであります。從來の皇室典範及びその附屬の法令には、陛下の御出入には特定の鹵簿を整える。從來でありますると、御承知の通り近衞兵が第一鹵簿と申しまするか、盛んに行列を整えてお供をしておつたのでありまするが、また慶事凶事に當つては、國令をもつて國民ことごとく慶弔するということに相なつておつたのであります。これらのことは、勿論今後といえども必要であります。しかしながら從來は、その必要以上程度を越え、まるで封建時代の將軍、大名が百姓、町人を待つがごとき振舞いが、警察官や、憲兵隊や、それから宮内省の役人どもによつて行われておつたのであります。殊に宮内省の役人のごときは、陛下行幸の二、三日以前からやつて參りまして、ホテルを獨占する。戰爭中、われわれは勿論一般國民が見ることもできないような御馳走を運んで來る。そしてそれを食つて、それに醉う。警察官は、まるで自家作成のブラツク・リストから、罪科もない所の國民を行幸一週間も前から豚箱に入れ、陛下が……‥。(「何を質問する」と呼ぶ者あり)默つて聽きなさい。後でわかる。所がやがて陛下がお歸りになつてからこれを放免するといふようなやり方である。こういうやり方でありまするから、國民の自由を束縛する。それがやがて天皇の自由を束縛することになる。かくのごとき官僚の封建的思想は、天皇の自由を束縛した。國民と皇室との間に大きな溝をつくつた。國民は實際皇太后陛下や皇后陛下のお顔を知らない。たまに奈良や京都に御參拜になりましても、われわれにはお姿も拜まさない。これでは諸君、皇室は國民の忠誠と眞心とを御存じありますまいでしようし、國民また、終戰以來の陛下の御心境をどうしてお察しすることができましよう。われわれは昭和憲法の發布を一新紀元といたしまして、奧深き宮廷生活から陛下や殿下を解放し奉つて、陛下や殿下がお供も連れないで銀座街頭もお歩きになり、或はまた皇太子殿下や内親王樣方は、この議場へしばしば御臨御遊ばされまして、熱心なる同僚議員の國政審議を御見學遊ばされる。これをお待ち申し上げるのであります。(拍手)日本全國津々浦々は、天皇陛下御研究の博物學の樂しき學園であります。山川草木、山紫水明、ことごとく天皇を喜んでお迎え申し上げるのであります。
そこで結論といたしまして、今後は親しく國民の皇室としてきわめて自由に、きわめてお心やすく行幸に相なられますることは、ひとり國民の幸福だけではない、天皇、皇室に對する自由と平和とを献上する所以の道であります。かくして終戰以來の憂いの姿も御慰め奉ることができると信ずるのでありまするが、要は宮内省官吏や警務官、その他側近の封建的思想を叩き潰すことである。非民主的なる天皇學、これを廢止なされまして、その好む所に從つて學問遊ばすことであります。精神的にも、身體的にも、思想的にも、學問的にも、すべて自由の空氣をお吸ひ遊ばすことであります。われらは、傳統的に自由を尊び、自由を生命とする自由黨の名において、天皇と皇室に自由を與えよと主張いたしまして、これは幣原國務相の御答辯を待ちます。
次ぎはもう一點、皇室會議の問題であります。皇室典範中、皇族會議ほど重要な地位を占める機關は他にありません。たとえば憲法における國會と同等の重大な決議機關であります。皇后その他皇室の大事を決定すべき重大な任務をもつ。そこで舊皇室典範は、皇家の家法なりという建前をとつておりましたから、成年に達せられました皇族男子をもつて、皇族會議を組織せられておつたのでありまするが、改正典範はこれを法律なりと認め、その組織を根本的に改正されました。そこでそのおもなるメンバーは、衆議院、參議院の正副議長、内閣總理大臣、大審院長、その他皇族の御二方であります。その人物は、立法、司法、行政の最高峰によつて組織せられておる。ここは諸君も同僚として御研究を願いたいのでありまする。第一このメンバー組織については、よほど立案者はお考えになつたと私は思うております。しかしそれは誤りである。間違いである。私は確信する。諸君、モンテスキユーの三權分立は、分立するが故に三權である。合流すれば殘るものはナンセンス。モンテスキユーは死んでしまう。諸君三權の長たる立法府の議長、副議長、それから内閣總理大臣、最高裁判所の長、この三權が合流して皇室の大事を決定せんとすることは、大いなる誤りではないか。この僅々六名のものが肚を合わせますると、皇位繼承の順序を變えることができる。最も極端な例を擧げますると、天皇久しきにわたる故障なくても、攝政を置くことができる。この攝政を廢止することができる。勿論現在の總理大臣や議長、副議長、人格崇高にしてさようなことは決してなさらない。なさりませんが、しかし、百年の將來を考えなければいかぬ。かりに東條英機を再び總理大臣とする、鈴木貞一を議長とする、阿部信行を大審院長とする、しからば、われわれの憂うるところは必ずある。これは今から防いでおかなければならぬ。これを防ぐためには、立法、司法、行政、おのおのその分を守つて、互いに相牽制いたしまして、三作用の效果を發揮せしめなければならないのであります。これを合立せしめまするが故に專制政治になる。現に專制政治――わが日本の現在の状態においても、あの當時、立法も司法も東條英機に抑えられておつたがために、今日の日本になつた。そこで私はお伺いするのでありまするが、政府はこの草案の組織中から、せめて司法部を除いて、大審院長をして、皇室の大事に下法不正あればこれを審判せしむるよう、本來の任務に歸らしむるよう、この組織を變更すべきであると考えるが、金森國務相の御意見如何。まだありまするけれども、この時間が許しませんからこれで終ります。(拍手)
〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=35
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036・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 只今北浦君より御質疑になりました四點のうち、三點につきまて、私からお答えを申し上げたいと存じます。
第一にお尋ねになりましたのは、婚姻は兩性の自由であるという趣旨が憲法の中に保障してある、しかるにも拘らず皇族の範圍におきましては、婚姻が皇室會議の議を經ることを要するというのは、不調和ではないかという御質疑であつたのであります。皇族の方方も、前に憲法改正の場合に私から申し上げましたやうに、國民の一員であらせられまするが故に、その婚姻も兩性の自由ということを基礎とすべきことは、理の當然と存じております。しかしながら、國の象徴たる皇位及びこれと關連深き所の皇族の方々につきましては、特にその御地位の關係より來る所の、或る程度の制約が來ることは、これはやむを得ぬと存じます。決して憲法はこれを否定しておる趣旨ではない、かように考えておりまするが、これは憲法第二條の、皇室典範に委任しておる規定によつても明らかであろうと存じます。そこでこの皇室典範におきましては、その兩面を考えまして、最小限度に御自由の制限を考え、できるだけ少くするという方針をとつております。從つて皇族の方の御結婚をお考えになる場合におきましても、その制約は、皇族であるという御地位と關連しておるのでありまして、個人としての御立場と、必ずしも直接には關係をしておりません。皇族たる身分をお離れになる場合も認められておりまして、そのことがこの問題と關係をもつておるものと考えております。
それから次ぎに、攝政には無答責の規定がある、天皇にはその規定がない。いかにも不都合である。こういう意味のお尋ねでありましたが、天皇は國の象徴であり、國民統合の象徴であらせられまするが故に、事の性質として當然に無答責であるということは、憲法改正の場合に申し上げたのであります。ほんとうの國民の確信からして、ここにわざわざ無答責の規定を設けることすらもふさわしくないというのが、憲法の精神であると思つてをりますが故に、攝政につきまして無答責の規定ができましても、相調和するものであつて、決して不調和を來すものではないのであります。逆に申しまするならば、攝政についてのみこの規定があるということは、すなわち天皇についてはその規定が要らないということを、はつきり指しておるものと考へております。
それから皇室會議の構成の中におきまして、いわゆる三權を分立せしめずして、合立せしめた嫌いがあるということを本にして御議論になりましたが、三權を分立せしめまするのも適當であり、合立せしめまするのも適當である。つまり、場合々々によつて、その目的に從つて物の組織をきめなければなりませんので、皇室會議の中味となりますることは、立法にも、司法にも、行政にも關係する、複雜なる内容をもつております。從つてこれを議せられまする場合におきまして、皇族を代表せられる皇族、ほかに三權おのおのを代表せられる人を加えまして、特に國會については人數の上において重點をおくという方法を設け、しかもその三分の二の多數決によつて議決の成立するやうに準備をしてをりまするが故に、日本の諸般の制度の中で、最も安全なる組立て方であると考えておる次第でございます。
〔國務大臣男爵幣原喜重郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=36
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037・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 只今北浦君より私を名指しての御質問が二點あつたのでありますが、その中の第一點は、天皇の無答責ということでありました。この點につきましては、只今金森國務大臣より既に御答辯があつたのでありまして、私も同樣なことを繰返すより仕方がありません。すなわち天皇は日本國家の象徴であらせられる。國家の象徴の罪を問うということは、私としては考へられません。
それから第二點は、陛下の行幸の際におけるいろいろな警衞のこと、その他官吏の甚だよろしくない態度のことをお話になりました。これは最近陛下が行幸遊ばした時の實況を拜せられたならば、こういつたような御質問は、恐らく起らなかつたろうと思います。(拍手)私は今年の始まりごろでありましたか、陛下が京都へおいでになりました時、お歸りになりました時に、私は拜謁いたしたことがありますが、その節、その警衞はきわめて簡素にしろという御命令が徹底いたしまして、自分は今囘初めて自分の心が國民の心臟に直接に接觸したやうな氣持がしたということを仰せられまして、私はまことに感涙にむせんだのであります。(拍手)この一言をもつても、陛下の御意思のある所もわかり、また今日實際におきまして、宮内省とか或は警察官というものが面白くない行動をしたということは、絶對にないと私は信じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=37
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038・山崎猛
○議長(山崎猛君) 北浦君、重ねて御質疑がありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=38
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039・北浦圭太郎
○北浦圭太郎君 委員會で詳細に‥‥‥。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=39
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040・山崎猛
○議長(山崎猛君) これにて質疑は終了いたしました。本案の審査を付記すベき委員の選擧についておはかりいたします。
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=40
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041・山口喜久一郎
○山口喜久一郎君 本案は議長指名四十五名の委員に付託せられんことを望みます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=41
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042・山崎猛
○議長(山崎猛君) 山口君の動議に御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=42
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043・山崎猛
○議長(山崎猛君) 御異議なしと認めます。よつて動議のごとく決しました。
これにて議事日程は議了いたしまた。次會の議事日程は公報をもつて通知いたします。本日はこれにて散會いたします。
午後四時十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009113242X00619461205&spkNum=43
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