1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二十二年三月二十五日(火曜日)午前十時二十九分開會
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議事日程 第二十三號
昭和二十二年三月二十五日
午前十時開議
第一 教育基本法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會ノ續(委員長報告)
第二 昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會ノ續(委員長報告)
第三 郵便法の一部を改正する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會ノ續(委員長報告)
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001・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 諸般の報告は御異議がなければ朗讀を省略致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=1
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002・会議録情報2
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〔參照〕
一昨二十三日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
日本銀行法の一部を改正する等の法律案
金融機関債券発行特例法案
臨時物資需給調整法の一部を改正する法律案
同日第一部ニ於テ豫算委員男爵久保田敬一君ノ補闕選擧ヲ行ヒシニ男爵宮原旭君當選セリ
同日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
郵便法の一部を改正する法律案特別委員會
委員長 子爵 齋藤齊君
副委員長 男爵 八代五郎造君
地方自治法案特別委員會
委員長 男爵 松平外與麿君
副委員長 子爵 藤井兼誼君
船員法を改正する法律案特別委員會
委員長 伯爵 後藤一藏君
副委員長 男爵 伊藤一郎君
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
教育基本法案可決報告書
咋二十四日委員長ヨリ豫算委員男爵宮原旭君ヲ第五分科擔當委員、第三分科兼務委員ニ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案可決報告書
郵便法の一部を改正する法律案可決報告書
帝國鉄道会計法を改正する法律案可決報告書
通信事業特別会計法を改正する法律案可決報告書
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通第九十二囘帝國議會政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏省所管事務政府委員
大藏參與官 高橋英吉君
司法省所管事務政府委員
司法事務官 石井良三君
厚生省所管事務政府委員
厚生事務官 米澤常道君
引揚援護院次長 大野連治君
同日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
皇室経済法の施行に関する法律案
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=2
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003・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 是より本日の會議を開きます、日程第一、教育基本法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、委員長今園男爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=3
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004・会議録情報3
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教育基本法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十二年三月二十三日
委員長 男爵今園 國貞
貴族院議長公爵徳川家正殿
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〔男爵今園國貞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=4
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005・今園國貞
○男爵今園國貞君 教育基本法案の特別委員會の審議の經過竝に結果を御報告致します、本委員會は去る十九日から四囘に亙りまして、中に懇談も致しまして、愼重審議を致しました結果、政府原案通り可決すべきものなりと決定致しました、委員會は最初に文部大臣より提案理由の説明を聽取致しましたが、それは過日本議場に於きまして、同大臣からせられました説明を多少敷衍したと云ふ程度のものでございまするから、茲には省略致しまして重ねて申上げませぬ、質疑應答の主なるものに付御報告致します、或一委員から、教育の目的は日本人として善良な人間を造るにある、斯う思ふが、其の意味が此の法案の何處に現はれて居るか、不十分ではないか、斯う云ふ御質問がございましたが、それに對しまして文部大臣は、此の法案の前文に「個性ゆたかな文化の創造をめざす教育」、斯う云ふことが書いてあるが、此の「個性ゆたかな」と云ふのは個人的なものではなくて、日本の國民性の十分に現はれた文化の創造、斯う云ふ意味と解せられる、此の意味に於て善良な日本人を造る、さう云ふ趣旨が十分に現はれて居る、尚又此の基本法は普遍的なものと同時に、日本的なものをも求めて進まうとするさう云ふ精神に基いて作られたものであるから、御尋の點は十分に現はされて居ると思ひます、斯う云ふ御答でございました、又他の一委員から、日本國民を國家社會に對し犧牲、獻身、奉仕的な國民とすることが、平和的國家として日本を發達せしめる上に必要である、斯う思ふがどうであるか、斯う云ふ御尋に對しましては、同じく大臣は、第一條の「國家及び社会の形成者」、斯うある、此の文字は、單に其の一員であると云ふだけではなくて、其の構成者であると云ふ意味も含まれて居るのである、又同じく第一條に「勤勞と責任を重んじ」とも書かれて居るのでありますから、御尋の趣旨は十分に盛られて居ると云ふ御答でございました、又他の一委員から、現在我が國の教育界の現状を見るのに、師道が頽廢して師長に對する尊敬の念が非常に薄いのは特に憂ふべき現象である、斯う自分は思ふが、此の點、基本法に於ては餘り重きを置いて居ないやうに思はれるがどうであるか、斯う云ふ御質問がございましたが、之に付きましては、本法の第六條に「教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、」と書いてあります、教員の取るべき道を示して居りまするし、又學生に對しましては、第二條に「自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢獻するように努めなければならない。」斯う述べてありまするから、御心配の點は十分に救はれると、斯う云ふ御答がございました、又一委員からの、教育は智育、徳育、體育から成つて居るが、其の中の徳育に於て、人格を完成する上に宗教的情操が必要であると思ふが、此の法案に於てそれが現れて居るかと云ふ御尋に對しまして大臣は、此の點に付ては積極的には規定せられて居ないが、第九條に「宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。」斯うある、其の言葉から宗教的情操が湧いて來ると考へる、斯う云ふ御答でございました、又一委員から、教育勅語と此の基本法との關係に付ての御質問がございましたが、之に對しましては、教育勅語は統治權者の意思を示されたものとして國民を拘束すべき效力を持つて居つたものでありますが、日本國憲法及び此の教育基本法の施行と同時に、是と牴觸する部分は無效となりまするが、其の他の部分は兩立するものである、即ち政治的效力を失ひまするが、孔孟の教と同樣なものとなつて存在すると云ふ、斯う云ふ御答でございました、尚又或委員から、學校教育は國家の活動として行ふのか、即ち國家を主體とする活動であるかと云ふ御尋に對しましては、學校には國が經營するもの、或は地方公共團體が經營するもの、又法律に定めた法人が經營するものなどがありまするが、第六條にありまするやうに、總て學校は公の性質を持つものであります、併し地方分權主義に則りまして、中央集權を廢しまする立場から、國以下に於て致します場合は、地方公共團體が教育をすると云ふことになるのであらうと云ふ御答でございました、又或委員から、教員が勞働運動に參加し、又勞働組合に加入すると云ふことの可否に付て御尋がございましたが、之に對しましては、勞働組合を結成すると云ふことを禁ずると云ふことは、團體權が保障されて居りまする以上出來ないことでございまするが、併し教員は第六條にありまする通り、一般勞働者と違つた性格と使命とを持つて居りまする故に、其の罷業權に付ても、他の勞働者と違つて、教員自體の自覺に依る行動が望ましいのである、從つて第六條は、教員の罷業權に付て勞働組合法以上に何等規定して居りませぬ、さうして教員の自覺に委ねて居るのである、が又一方に於て、教員の待遇を改善することに依りまして、不謹愼な態度に出ることを抑制しなければならぬと信ずると云ふ御答でございました、尚其の外、政治教育、宗教教育、教員の身分、待遇、私學振興、男女共學と云ふやうな點に付きまして、或は日本國憲法第八十九條及び二十六條との關係などに付きまして、頗る多岐に亙つて御熱心な質疑應答がございましたが、それ等は總て速記録に讓りまして、茲には省略致します、斯樣に致しまして、討論に入りまして五人の委員の方から御發言がございまして、色々な論點から御論じになりましたが、何れも皆贊成の御意見の御開陳のみであつたのでございます、續いて採決を致しました處、一人の御反對もなく原案通り可決致すべきものなりと決定致しました、右御報告申上げます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=5
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006・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 質疑の通告がございます、長岡半太郎君
〔長岡半太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=6
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007・長岡半太郎
○長岡半太郎君 私は科學方面のことに付て特に文部大臣に質問を發したいと思ふのでございます、第一囘の世界大戰が終りました直ぐ後でございます、數學者のパンルヴエ、同じく數學者ボレルの兩氏が東大の物理學教室を參觀に參りました、御存じの通りにパンルヴエは數學者ではございまするけれども、亦政治家であつて世界大戰中ヴエルダンの要塞は此の儘にして置けば陷落すると云ふことを數學的に説明した者であります、で議員はそれに贊成しまして大いに防備に努めた譯であります、此の功に依つて陸軍大臣になり、又數箇月の間總理大臣もして居た人で、政治的見識もあり、又數學的の見識もある人であります、それからボレルは數學者ではありまするけれども、海軍大臣を勤めた人であります、でパンルヴエは幾らも見ませぬでしたが、もう一度來るからと云つて海軍大臣であつたボレルが參りまして‥‥普通外國人が參觀に來れば先づ三十分位の間に見てしまふものでございます、ボレルは六時間掛つて何から何迄恐ろしく斬込んで見て參りました、終りにどう云ふことを言ふかと云ふと、此處の教室は何を目的としてやつて居るか、どう云ふ學生を育てるのか、毎年三十人入ると云ふ話であつたが、卒業生が澤山出るとか、設備が完備して居るとか云ふやうなことを言ふ人は、是は餘程の野暮な人間である、卒業生の千や二千は何のことはないが、是は大人物を拵へると云ふ所に注意を集中しなければならない、例へばフランスで若しラプラスが居なかつたならば天文學はどんなに世界中遲れたであらうか、コーシーが居なかつたならば數學はどんなに進まなかつたであらうか、パスツールが居なかつたならば微生物學なんと云ふものは今あるかないかそれは疑はしい、即ち黴菌と云ふものの存在を確かに認め、それを又喰止める方法等を講じた、此のパスツールが居なかつたならばどうだらうか、斯う云ふ二三人の人と云ふものは何萬人、何千人の人を救ひ、又知識を開發したが、其の大人物を拵へることに努めずして、徒に有象無象を何百人、何千人と數へた所で何の役にも立たない、此の人數だとか、設備の良い惡いを批評、標榜して色々話をする人があるが、それは殆ど注目に値するものではない、之を名附けてコロニヤルの大學だと言ふ、さう云ふことを言つて別れました、誠に痛切な勸告であつて、今日迄耳につんと響いて居るやうな心持が致します、頂門の一針、感銘すべきものでありました、それで私考へて見るに、日本國の教育法と云ふものは今科學のやうなものに於ては人が足りないからと言つて無暗に卒業生を澤山出すことを奬勵して居る、又教授もそれに努めつつ居る、併し此の教室を出て世界に有益なる發明をし、發見をした人が幾人あつたらうかと云ふことを前に聽かれましてちよつと赤面を致した次第でございます、觀方が違ふのです、コロニヤルであると云ふ批評をされたことが二三囘ございます、例へばアインシユタインが日本に來ました時に、三十人も物理學者を拵へて何處へそれを吐く積りか、平凡極まるものであらうと云ふことを言はれました、矢張りコロニヤル、又オーストラリヤから來た某動物學者も是も有名な人でありますが、平凡なコロニヤルな大學は日本には澤山あつて、同じやうなことばかり教へて居る、斯う云ふことを言つたことを覺えて居ります、是は我々は頗ぶる警戒しなければならぬ點であり、又其の方に向つて進まなければならぬのである、併しながらそれを實行するには今の方法ではいかない、即ち多くの點は試驗制度にあると私は思つて居ります、試驗制度は下から上迄一貫して行はれた、是れ位試驗を度々する所はなからうと思ふ、勿論支那の科學などと云ふものも此の發端になつて居ると考へまするが、科學と雖も中には良い人が出て來るか知らぬが、さうばかりとも限らない、是は不平の人がある、所謂奸譎の士なる者が時々出て不平を洩らす、斯う云ふ風になることは何處も同じでありませうが、日本の試驗制度と云ふものはちよつと恐ろしい所があります、先づ第一國民學校なんかに於ける試驗制度がある、是でどう云ふ弊害を生ずるかと言へば、是は早熟生が跳梁すると云ふことでございます、早熟である、何でも宜くやる、總てのことが巧く行く、併しながら飛拔けて良い學科と云ふやうなものは、さう云ふ人には割合に見出しにくい、即ち先生の言ふことを能く暗記し、又其の命令に從ふ、さう云ふやうな生徒が首席を占めて大いに氣焔を吐くやうなことがありまするが、併し是は餘程警戒を要する點でありまして、多くは早熟で早くから大人染みたことをやる、さう云ふ人が推奬される時代に於ては、どうも天才などと云ふものは出さうもないのです、さう云ふ世界の文化に關係のあるやうな人が、若し總て何も彼も出來ると云ふやうなことがあつたならば、それはもう全く間違ひなくて宜しいのでありまするけれども、それは割合に少いのであります、外國の科學の天才を調べて見まするとそれは少い、殆どないやうに思ひます、何處か天才には缺點がある、唯一つ申上げるのは、ライプニツツ、是はもう法理學もやる、數學はニユートンと竝び立つ、哲學もやる、詩も作る、有らゆる方面に優れた人でありましたが、此の人を除いて私は殆どなからうと思ひます、此の状態に於て如何に試驗制度に對處すべきかと云ふことが私は問題だと思ふのであります、日本人は一體に早熟であると云ふことは私は前から考へて居ることでありまして、其の一例を取りますると、カリフオルニヤに移住した日本の人が、日本の兩親の間に出來た子供が國民學校に入り可なりの成績を收める、米人の子供と競爭して餘り負けない状況にある、初めは巧く行くけれども、段々と進んで來るに從つて衰へて來る、大學に入る頃になれば遂に落伍する者が多いと云ふことを聞いて居ります、是は確かに早熟の標しであると思ひます、さう云ふ早熟な者が國民學校等に於て首席を占めて活躍すると云ふやうなことになると、是はちよつと考へなければならぬことであると思ひます、又日本の國家の状況を考へて見ますると、鎖國主義を破つて外國と交通してから、まだ一世紀にもならないのに、五大強國と云ふ範に入つて非常な發達をした、此の發達なるものが健全な發達であらうか、なかつたらうかと思ひますると、即ち今度の大戰、丁度早熟兒童が國民學校でえらく評判が好かつたと同じやうに、國家は遂に其の早熟であつたことを氣付かずして聯合國に向つて宣戰し、一敗地に塗れて今日民衆が非常な苦しみをして居る次第でございます、是は兒童の早熟と竝行して、矢張り多少の國民性も現はして居るのではないかと思ひます、斯樣な早熟性のことを餘程御調にならないと、又將來煩ひを來すやうなことがありはしないかと私は考へるのであります、文部省に於ても私の不可解なことが幾つもある、即ち民主主義、永久平和を基礎として教育令、學校令等も御拵へになつたことは承知して居りまするが、其の文部省内に於ける状況はどうであらうか、まだ大臣御送りになつてから、日にちがありませぬからして、別に大臣に責任を私は感ずる次第ではありませぬけれども、其の主義、即ち民主主義、永久平和と云ふことに對して、間違ひのないやうな人間を御使用にならないと、動もすると口では民主主義、永久平和と云ふことを唱へて、其の實は元の地金が出ると云ふことも恐ろしいことだと思ひます、此の點は御答辯を願ひたいと考へて居る次第であります、今申す通りに此の學生、生徒を試驗の點數を基準として御採りになることは、或は外に方法がないのではなからうかとも思はれますけれども、是はもう少し研究して見たらば、必ず幾らか緩和することが出來るかと思ひます、それで私が望む所は、此の世界の民衆に關係あるやうな偉大なる人物を養成されることを望むのであります、國民全體が良くなる、善良な民になるやうにさるることは、是はもう當り前のことでありまするけれども、僅か指折りする位の數の人で宜いのでありまするからして、天才的の人が出るやうな仕組を御考を願ひたいと思ふのであります、是れ迄英才教育と云ふやうなことを文部省に於て行はれて居りましたが、是は私考ふるに、先きに申す早熟性が多く入つて居ると思ひます、さう云ふものは却て害があるので、昨年英才教育を撤廢になりましたことを私は誠に欣んだのであります、何を英才として選擇したのであらうか、皆んな科目は異つて居つても、宜い加減に揃つて良くなる、即ち點數が良くなると云ふ點に著眼して推薦したのぢやないか、是は恐しい點である、さう云ふ者が入らない天才の教育をして戴きたいと云ふ考であります、天才はどうしても何處かに缺陷があります
〔議長退席、副議長著席〕
一方面、或は二三方面に於て著しく發達し得るけれども、或點に於ては殆ど常識のないやうな人が多いのであります、能く知れて居る人を申せばニユートンの如き、是は數學、物理等に於ては是迄ない英才であつたんでありますけれども、普通の人間の考では如何にも愚鈍の常人以下の人間であつたんであります、普通生活に於てはニユートンを眞似たならば、是はもうまるで世の中に立つて行けない状況にあつた人であります、斯う云ふ人は其の良い所を採つて惡い所は捨てる、まあさう云ふ主義でなくちやならない、若しさう云ふ人が生れたとすれば、是はまあ日本のやうな所では捨てられてしまひます、齡するに足らぬと皆言つてしまふ、併しそれを採上げてあれだけの人になしたと云ふことは、大なる功勞であつてケンブリツヂのトリニテイー、カレツヂに於ては其のニユートンを採上げた人を、ニユートンの傍に像を造つて表彰してあるのを見ると、是はイギリスでも其の天才を採上げると云ふことを困難なるを感じて斯くの如きことをしたのであらうと思ひます、天才の認識と云ふことが最も困難なる點であつて、是はどうしたらば宜いか分りませぬ、又教育することもさうむつかしくはない、多くの場合に於て自分の得意とすることは先生以上でありまするからして、所謂一を聞いて十を知るでなく、一を聞いて百を知る、千を知ると云ふやうな工合に卓越して居りまするからして、其の天才を伸ばして行く爲の教育と云ふものは殆ど力を用ひずして宜いのである、力を最も用ひなければならぬのは國民學校、或は中學校の落第生であると私は考へます、大學に於ても其の嫌ひがあります、呼んで色々諭して見るとさう云ふのが私の教へた中に四五人あつたのであります、私は小學校でも中等校でも首席に居りまして、今落第するのはとつても郷里に歸つて親類に會ふ顏がありませぬからして、どうぞ及第さして下さいなんと云ふ歎願をする者迄もあつたことを覺えて居ります、是は教員が早熟であると云ふことを見分けが付かなかつた弊害であると私は考へるのであります、天才を採上げると云ふ點に於て困難が著しくあると云ふのは、先づ今日の状況に於て、世界が狹くなつたと云ふことは誰も知つて居ることであります、例へば飛行機が出來て、元四十日も掛つて世界を一周したものが、今日では數日で安全に一周することが出來る、又電波を用ひる、所謂無線電信が開けてから一瞬にして世界中色々な報知が廻る、又ラヂオが出來て短波を用ひますると、隣の人に話をするやうに明瞭に、又高音に話が出來る、是は世界をひどく狹くしたものであります、其の狹くした仕事をマルコニであるとか、又其の元のマツクスウエルであるとか、フアラデーであると云ふやうな人を繹ねて見ますると、マルコニは御存じの通りにイタリーの人でありまするが、此の人はボロニヤの工業大學に學び、學生である間に、自分の家で試驗をしまして、無線電信と云ふものが、是は確かに行はれると云ふことを見極めて、學校などはもう抛り放して、工業大學を卒業したか、しないか、是は問題であると思ふのであります、そこに併し一つのタレントと云ふか、策謀と云ふか知りませぬが、此のイタリーの政府を見るに、斯樣な貧乏な政府が無線電信を始めた所で、到底擁護して呉れることはないと云ふことを悟つて、飄然とイギリスに行きまして、イギリスの遞信省の援けを借りて成功した譯であります、若し學問上から云へば、それは普通の學生よりは惡かつたかも知れない、併し其の電波を用ひると云ふ點に於ては著しく優れて居た、誰もそれを考へて居なかつた、其のやうにして今日我々は非常に其の功勞に謝さなければならぬ状態である、併し電波と云ふものが既にはつきりして居たから出來たのでありまして、電波の存在と云ふことは、イギリスのマツクスウエルが言ひ出したことである、其のマツクスウエルに言ひ出させた元は是はフアラデーの實驗であります、フアラデーと云ふ人は鍛治屋の息子で、小學校教育はうまく行つて居つたかどうか、それは疑問でありまするが、兎に角之を拾ひ上げた人がある、是はデーウイと云ふ人である、若し功績を云へば、デーウイは非常に澤山の仕事をしましたけれども、フアラデーを見付けたのが私の一番の功績であると言つたことがあります、其のフアラデーの實驗を元と致しましてマルコニが電氣磁氣のことを二つの方程式に依つて表はすことになりました、是があつて初めて電氣工學などと云ふものも盛に發達するやうになり、又電波と云ふものも、其の中に確かに存在する、光も電波である、エツクス光線も電波である、通信に使つて居る長い波長のものも電波である、さう云ふことが出て來るので、別にむつかしいこともない、唯其の二つの方程式を得ると云ふことが困難であつた譯であります、併しマツクスウエルの手に掛けると何でもない、之をば天才と言つて宜いか、早熟ではないのですが、天才でありませう、唯話が能く分らない、是が又一つの缺點であつたのであります、十三の時にレンズのことを考へました、是は卵形曲面なるもの、即ち卵のやうな形をしたものが一番良いレンズになると云ふことを言ひ出したのであります、それから殆ど百年になりまするが、今日の最高等のレンズと云ふものは、それを少しもぢつたものでありまして、十三位の子供が、それだけの卓越した識見を持つて居たと云ふことは、實に驚くべきことであります、早熟にも見えるが、是は天才である、丁度モツアルトが五六歳の時に樂團に飛躍したと同樣なことであります、其の後の成績に於て、茲に申上げるには、講釋じみて申上げられませぬが、實に立派な人である、ニユートンの如き常識を缺いた人ではなかつたのである、唯是は、其の當時の學問を預つて居る人にはあの講釋は分らない、諭旨免職を二度喰つたのでありまするが、幸ひにして資産がありまして、一向生計には困らなかつた、エヂソンの如きも矢張り同樣なることをやりました、即ち此のフアラデーに似て居る所があり、小學教育に止つて‥‥まあ澤山のエヂソンの功勞と云ふものは、民衆的に現れて居りまして、今茲で申上げる必要はない、大臣に伺ひたいのは、斯樣な人物が日本にも出なければ、國の光、國の誇と云ふものは到底得られないのであります、之を見出すに如何にしたらば宜からうか、其の方に御意見がございまするならば伺ひたいのであります、教育することは極めて簡單である、是は尋常な學生に比べれば、僅かの講釋を聽き、僅かの實驗で、先生よりは終ひには偉くなるのでありまして、少しも費用は掛らぬと私は思ひます、併し費用を掛けて大學に入れ、大學院に於て研究して、それで又出來上つた人もあります、それは多くの教授であります、日本でも世界に飛躍すると云ふ程の發見をした人はありませぬが、併し其の次の一部分をやつた人は二三あるに依つて、是は又將來大天才の出る徴候ぢやないかと思つて、私は喜んで居る次第でございます、此の試驗制度が我が國に於て幾らか改まらなければ、どうも大人物は逃してしまふ、知られずにしまふと云ふ惧れが十分にあります、是等の状況を見ますると、どうも學校で教へて天才が出たと云ふのは、割合に少くして、民衆の間に知らず識らずさう云ふものが生れ出たと云ふことを認めるのであります、それは國が違ふ、人種が違ふから別だと云ふ御議論があるならば、是は又別問題でありまするけれども、兎に角民衆の間に生れた、是も注意すべき點であります、將來に於て學校教育上、大天才を摘發すると云ふことも一つの國家的手段ぢやなからうか、又是がフアラデーの如き貧乏人であつたならば擁護すると云ふことも必要である、種々そこに問題がありまするが、是等は恐らく文部省所管のことになると私は思ひまするが、今の大學の如きは、どうも見た所では、本當に世界に名を擧げ、又世界民衆の爲になるやうなことをすると云ふ人を拾ひ出すと云ふことに於ては、まだ胡亂な所があるではないかと思ひます、此の點に付て何か名案があれば宜いと思ひまするけれども、私のやうな愚鈍の者には、どうも考へ付きませぬのであります、それで此の天才の教育と云ふよりは摘出、之を拾ひ出すと云ふことに付て、最も私は注意を要すると思ひまする、さうして早熟性と天才とを區別すると云ふことも考へなければならぬ色々なことがありまするが、それ等の點に付て文部大臣に十分御考慮願ひ、又既に案がございまするならば承りたいと存じまして、演壇に立つた次第でございます(拍手)
〔國務大臣高橋誠一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=7
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008・高橋誠一郎
○國務大臣(高橋誠一郎君) 長岡先生の御質問に御答へ致します、我が國の是迄の試驗制度が動とも致しますると云ふと、早熟性を養ひ、歪められた人間を造り上げると云ふ惧れのありましたことは、御説の通りでございます、試驗制度を改廢致しますることは、多年の問題であつたのでございまするが、殊に入學試驗の如きものには種々なる弊害が伴ひまして、誠に寒心すべきものがあつたのであります、中等學校の入學考査に付きましては、御承知のやうに、昭和十四年以來從來の學科試驗を廢しまして、小學校長からの報告書、中學校に於ける口頭試問及び身體檢査の三者を綜合制定致しまして、入學者を決定することと致しました、受驗準備の弊を廢しまして、濶達な氣風の育成に努めて來たのであります、之に依りまして餘程自由な氣風を教育界に注入することが出來たと考へて居るのでありまするが、本年度に於きましては、更に其の趣旨を進めまして、報告書と身體檢査及び學科的要素を含まない面接試問に依りまして、入學者を決定することに致したのでありまして、小學校に於ける學科成績も、昭和十八年以來點數制を採らずに、優、良、可を以て記載することに定められまして、席次は全く之を廢するなど、生徒の濶達な個性の發展に遺憾のないやうに配慮して參つた次第でございます、高等學校、專門學校の入學試驗は、中等學校よりの調査報告書、身體檢査及び筆答試問に依つて行ふのでありまするが、其の内筆答試問は、本年度からは學力檢査の外に知能検査を併せ行ひまして、生徒の高等教育に對する適應牲を、受驗準備を要しない客觀的な檢査法に基きまして、檢査を行ふことに致したのであります、尚學校教育法の實施を見まするやうになりますと共に、御趣旨に副ひまして、必要な措置を行ひたいと考へて居るのであります、尚又天才教育に付てでありまするが、特に此の點に關しまして、私と致しましても、亦文部省と致しましても、名案もないのでありまするが、十分な才能を持ちながら、家貧にして學ぶことの出來ない者に對しましては、育英事業を盛ならしめまして、斯くの如き者に十分な教育の機會を與へて參りたいと考へて居るのであります、特に學校に於きまして、天才教育を施すと云ふやうなことは致さぬのでございまするが、何とかして天才が十分に其の才能を發揮せしめることの出來るやうに致したいとは考へて居るのでございまするが、これぞと申す案の持合せも只今ございませぬことを甚だ遺憾とするのでございまするが、十分に此の點研究して參りたいと考へて居るのでございます、天才兒を發見致しますることは、一面に於きましては、又家庭の力に依る所がなければならぬと考へて居るのであります、色々泰西の優れた學者に付て御話があつたのでございまするが、社會科學者中に於きまして、我々の知る限り最も優れた者の一人と考へて居りますジヨン・スチユアート・ミルの如き者は、自敍傳中に記して居りますやうに、我三歳にしてギリシア語を學ぶと云ふやうなことを説いて居るのでありまするが、斯くの如くして彼の天才を十分に發揮せしめることの出來ましたものは、其の父ジエームズ・ミルの力に依る所が甚だ多かつたと考へるのであります、兒童の教育に付きましては、どうしても親達を再教育して參らなければならぬと考へまするので、文部省と致しましては、今囘特に兩親學級と稱しまするものに力を盡しまして、親達の再教育を行ひまして、之に依りまして、十分自分の子供達に才能を發揮せしめますやうな教育を、家庭に於て行ひたいと考へて居るのでございます、尚文部省内に於きましては、平和國家の建設、文化國家の建設を害するやうな人達がありはしないかと云ふ御疑念がございましたやうに伺ひますのでありまするが、文部省内に於きまして、超國家主義者、或は軍國主義者と看做さるべき者が、幾分居りましたことは事實でございまするが、是等の人達は、今日に於きましては、悉く追放若しくは除去せられまして、今日に於きましては、斯くの如き人はないと考へて居るのでございまするが、或は若し斯くの如き者が隱れて居ると致しまするならば、文部省と致しましては、是非是等の者を除去致しまして、明朗な空氣を省内に漂はしめ、將來の文化國家の建設の爲に、十分の力を致したいと考へて居るのでございます、一言御答へ申上げました次第であります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=8
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009・長岡半太郎
○長岡半太郎君 色々御深切に御答辯下さいまして‥‥、國民學校の優、良、可と云ふのは、前に申しました平均點數を以て優、良、可を決めるのぢやないかと思ふのであります、矢つ張り點數は附くのでありまして、それでなければ優、良、可を附ける譯にいかない、處で、文學の天才になるやうな人は、概して數學の方に疎い、文章を書かせると立派に書くけれども、數學をやらせると如何にもいけない、それで兩方埋め合せを致しますると、矢つ張り惡くなる、そこで國民學校に於て、既に幾らかの學科別の優、良、可を附けたらば、其の人の得意に活躍し得る方面に、兩親達も向けはしないかと考へるのであります、點數ぢやないが、粗雜にしても平均に付て優、良、可を決めると云ふことは、どうしても宜しくないことと私は考へます、其の點が、少し私は意見が違つて居ります、其の他私が申した點に付ては、御配慮になつて居ると云ふことを承りまして、誠に喜ばしいことと思ひます、又民主主義、永久平和のことに付て此處で大びらに御話することは、餘り時間も取りますし、又面白くもありませぬので、何れ御目に掛つて、私は意見を申上げたいと存じます、有難うございました発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=9
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010・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 是より討論に移ります、澤田牛麿君
〔澤田牛麿君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=10
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011・澤田牛麿
○澤田牛麿君 本案は、見樣に依りましては、非常に重大な案であると思ひまするから、此の案其のものに書いてある事柄だけでなく、是は憲法に次ぐ重大な問題であるとも思はれまするから、少しく私の此の案に對する批判を試みて、政府に對して私は此の案に反對すると云ふことを申して置きたいと思ひます、論旨は大體五段に分けて御話をしたいと思ふのであります、第一段は法律論でございますが、是は私共は此の案は曾つても質問の際にも申した通り、法律の眞價に逆行するものであると思ひまするから、法學書生の一人として其の意味に於て反對するのであります、併し是は度々述べて居りますから、詳しいことはもう申しませぬ、でそれだけの結論だけのことを申して第一段を終りまするが、それに對する當局者の御答は、法律は必ずしも法規のみでなくても宜いと云ふやうな御説でありまするから、暫く此の法律の本質論は棚上しまして、法律の中に南無妙法蓮華經と書いても宜いと云ふやうな考に暫く歩調を合せて、そんならば其の内容のことはどうであるかと云ふ點の第二段の點に移りたいと思ひます、此の案が宣言である、或は理想であると云ふやうな御答を、曾つて質問の際に得たやうでありまするが、若しさうであるとするならば、私は此の案が高遠な理想を缺いて居る、雄渾な氣魄を缺いて居ると云ふ點に付て、甚だ此の案に付て不滿足を表するものであります、之を古今に通じて謬らず之を中外に施して悖らずと云ふやうな、雄渾な氣魄が何處にも見えて居らぬと云ふことは、甚だ私は遺憾に存ずる次第であります、さう申しますると、それはお前の言ふことは空論ではないか、高遠な理想とは何だ、具體的に言はなければ分らぬぢやないかと云ふやうな御議論が出るかも知れませぬが、少しく長くなりまするけれども、具體的に私の考を申述べたいと思ふ、一體今日の人類の惱みは何であるかと言へば、過去數十年來發生した所の一種の何と言ひまするか、理想觀と言ひまするか、何かさう云ふ哲學と言ひまするか、ドクトリンと言ひまするか、さう云ふものに付て非常な災害を人類が蒙つて居ると私は思ふのであります、其の理想、其のドクトリンと云ふやうなものは、一言にして言へば、私の茲で言はむと欲する所は、即ち鬪爭の精神である、喧嘩の精神である、之が一種の學説のやうな、倫理觀のやうなものに形成されて、之が爲に人類は非常な災害を蒙つて居ると思ふのであります、先づ此の公の方の所謂國家と國家との關係と云ふ方の點から見ますると云ふと、此の鬪爭精神、即ちカンプ、ドイツ人のカンプ・ウムス・レヒトとマイン・カンプとか云ふカンプ精神、カンプ・ドクトリンと申しますか、さう云ふものの爲にどれだけドイツ國民は差當り非常な損害を蒙つて居るのでありませうか、又ドイツ國民のみならず、學問の乏しかつた日本の陸軍が、ドイツの此のカンプ精神を述べて居る所のベルンハルベーや、トライチケ等の説に心醉して、其の結果として今日日本の此の慘めな状態を來して居るのであります、唐の詩人は、國亡びて山河あり、城春にして草木青しと申しましたが、私共から申しますると、まだそれは宜い方である、今日の日本の現状は、國亡びて山河荒れて居ります、城春なれども草木なしと云ふ程度であります、是は即ち鬪爭ドクトリン、喧嘩ドクトリンの齎した災害であると思ふのであります、是等は曩に憲法に於て戰爭を放棄すると云ふことを規定されたので、一應國家と國家との間の爭と云ふものは、先づ日本人の只今の心掛としては、段落が附いたとも申されませう、併しながら國家と國家との爭だけが一段落が附き、或程度の結論が得られたとしても、それだけでは私は人類の幸福は決して達成されて居らぬと思ふ、鬪爭精神の排除と云ふことが完全に行渡らなければ、此の人類の災害と云ふものは到底止まないもんであると思ふのであります、元來人間は、是は私の申す迄もなく、牙とか或は蹴爪とか云ふものはないのであつて、人間の體には鬪爭の武器はないのであります、でありまするからして、人間は鬪爭のないものを本態としなければならぬのであつて、鬪爭を本態とする動物、猛獸などとは生理的に違つて居るもんと言はなければならぬ、然るに此の數十年來のヨーロツパに於て發生したる色々な學説に依りますると、鬪爭が本態であると云ふ如き觀念を養成して居る、さうして自己の主張、自己主張と云ふことのみが強くなつて、例へばニーチエの如き、へーゲルの如き、さう云ふ學説は皆自己の主張、それから其の手段としては鬪爭と云ふやうなことを盛に述べて居るのであります、日本に於てもそれが大變流行しまして、此の二月一日のゼネラル・ストライキなどと云ふこと迄に發展して來たのであります、幸にしてマツカーサー元帥の英斷に依つて此の危機は一應救はれましたけれども、日本の將來に對しては鬪爭精神を撃滅しなければ、私は日本は再建はなかなかむつかしいと思ふ、又全人類に對してもさう云ふ方面に力を入れなければ、色々形の上、具體的な形の上に於て色々な施設をした所が、其の精神が改まらぬければ、人類の不幸は永續するもんと思ふのであります、其の意味に於て此の教育基本法等に於て、斯う云ふことに對する高遠な理想を述べ、雄大な氣魄を以て此を實行すると云ふことが盛られて居らぬければ、基本法の價値は甚だ乏しいもんと私は思ふのであります、教員がストライキをするとか何とか云ふやうなことは、我々は實は想像もし得なかつた所であります、それが今日社會の事實として實現されて居ると云ふことは、私は甚だ遺憾に思ふ、殊に日本人としてはさう云ふことは最も賤しむべきことと今迄見て居つたんではないかと思ふ、それが當然の權利であると認められるやうになつたと云ふことは、是は甚だ遺憾なことではないか、此の鬪爭精神と云ふことを是認すると云ふやうなことは、是はベンジヤミン・キツドの言つたやうにぺガン・エシツクである、外道心理であつて、私は是は人間性の本質に背くと思ふのであります
斯う云ふ點に付て朝野共にもう少し眞劍にもつと深刻に考へて、斯う云ふことに對する處置や心構を講ずると云ふことが大切ではないかと思ふ、それには教育基本法などと云ふことに於て丁度言及すべき程度のものではないかと思ふのでありまするが、それが此の基本法には何等さう云ふ點に付て及んで居らぬやうに思ふ、是が私の此の法律に對する不滿の一つであります、それから第三段には、人間には二元的と言ひますか、二通りの資格がある、即ち一個人としてと、又國家社會の組織の一員としての二つの資格があるのであるが、此の基本法に於ては、主として個人完成と云ふことに重きを置かれて居るやうであつて、國家社會の一員としての義務心掛と云ふ點に付ては甚だ觸れて居る所が少いし簿い、殆ど私共には看取出來ないやうに思ふのであります、米國の教育使節團の報告と云ふものを少し聞きましたが、それ等に付ても決して愛國心或は遵法心と云ふやうなことに付て否認はして居らぬやうであります、教育勅語に所謂「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ」云々と云ふことは必ずしも軍國主義の意味ではないと思ふ、さう云ふ詰り遵法精神、法律を重んずる法に遵ふと云ふやうな精神は、是はどうしても強調して行かなければならぬことであると思ふが、さう云ふ點に付て、此の基本法は餘りに力を入れて居らぬ、主として個人完成と云ふやうな、個人的の見方から出て居る所の文句、文章が多いやうに思ふ、是が私の不滿な點であります、個人の尊ぶべきことは是は勿論であります、併しながらデモクラシーと云ふことは必ずしも個人主義、インデイビジユアリズムと同一ではない、個人主義を行はんければデモクラシーが行はれないと云ふことは、是は非常な間違ひであると思ふのであります、さう云ふ事柄に付ては、もう少し基本法に於て考へるべきではないかと私は思ふのであります、是が私の第三の不滿の點であります、第四には、基本法の第一條に、是は質問の際にも申上げましたが、基本法の第一條に「眞理と正義を愛し」、と云ふことがあります、眞善はあるが、美がないのである、此の審美性と云ふことに付ては、是は日本人が卓越した長所を持つて居ると云ふことは、外國人も屡屡色々な人が論じて居るので、それを一々茲に引くことは時間が許しませぬから、ほんの一つか二つを申上げて見たいと思ふのでありまするが、此の間歿くなつたやうでありますが、アメリカのメーソンと云ふ人が、日本へも來たことがありますが、此の人の説に審美性と實用功利の手段とをうまく調和して、さうして此の實用と審美性とを共同一致さして進歩させて行くと云ふことは、何れの時代に於ても、何れの國民に於ても不可能のことであると思はれて居つた、然るに之に見事成功したのは日本人である、日本人は此のことを仕遂げたと云ふことに付て、獨得の名譽を有するものであると云ふやうな意味のことを、メーソンのゼ・クリエーチーブ・イーストと云ふ本で論じて居るやうであります、それから是はハーンであつたか誰であつたかちよつと覺えませぬけれども、日本人の審美性は古代ギリシヤのペリグレス時代のギリシヤ人が僅かに匹敵し得る位のものであつて、外になかなか之に匹敵するものがないと云ふ位に、日本人の審美性を賞めて居る、斯う云ふ論は色々ありますやうでありますが、此の日本人の審美性が非常に卓越したるものであると云ふことは、最早私は今日疑ふ必要はないと思ふのでありまするが、之を發達さして、さうして之に依つて世界の文化に貢獻すると云ふことが、日本人の責務であり、同時に特權であると私は思ふのであります、今日此の鬪爭精神、マルクスや何かの言ふやうな鬪爭精神の緩和を圖ると云ふには、宗教に依る、宗教の即ち愛の教に依るもの、或は審美性に依つて美しい心掛になる、此の二つの途しか救濟の途はないと思ふのであります、耶蘇教は愛を信條とする宗教でありまするから、是は至極結構なことであると思ふが、併しながら宗教の勢力は今日、忌憚なく言へば、どちらかと言へば、段段減退して居るやうに私は思ふ、私は決して宗教を排斥するのではないけれども、宗教のみに依つて世界人心の幸福を齎すと云ふことは、なかなかむつかしいことであると思ふのであります、然らば之に補助若しくは之に對等の一つの働くフアクトルとして審美性を應用して、各世界の人類が皆審美眼に於て發達して來たならば、宗教の足りない所も助け、弱い所も強くして、之に依つて人類の鬪爭性を緩和し、人類の不幸を救濟することが出來ると思ふのでありまするが、此の點に付て、此の基本法は何等寸毫も觸れて居らぬと云ふことは、是は私は寧ろ奇怪千萬に思ふので、其の意味が了解出來ない位に不思議に思ふのであります、審美性を發達せしむると云ふことは、日本の見返り物資をどうするとか何とか云ふやうな小乘的な利益でなくして、大乘的に世界人心の平和を來す一つの重要なる要素として、大事なものではないかと思ふのであります、何故に此の點に付て、此の審美性に付て此の教育基本法が一言も觸れて居らないかと云ふことは、私が甚だ了解に苦しむ所であります、尚斯う云ふことは、詳しく述べますると際限のないことでありまするから、極く私の論旨の項目だけを擧げる程度に於て止めて置きたいと思ひます、最早十二時近くにもなつて居りまするから、長いことはもう遠慮しやうと思ふのでありますが、此の點に付て私は第四點として不滿足を感ずるのであります、それから第五段は、是は最後の論旨でありまするが、新憲法の施行に付て種々な法令が必要になつて來る、どうしても急を要する法令が澤山あるので、此の議會に於ても審議の期間が殆どない位の際にも、無理やりにも之を通さなければならぬと云ふものが澤山ありまする、併し此の教育基本法案の如きは、さう云ふものとは少し性質が違ふ、或は自治體のこととか、官吏のこととかは、少少不滿足があつても原案を通さなければ、原案の進行に妨げのあるやうなことは、新憲法の實施の上に影響を及すことであるからして、我々としては差控へなければならぬことと思ひますが、此の教育基本法の如きは、さう云ふものではない、是は否決しても、何しても一向差支ないものである、此の基本法の中に盛つてある所の法規的の性質を持つものは、学校教育法に又重ねて出て居るのです、同じことが規定してある、是は又法律論になりまするけれども、同じ法文をあつちこつちに幾つにも書くと云ふことは、是は大體法律の亂雜を來すもので、甚だ忌むべきことであると私は思ひますが、併し現在の起案者はさう云ふことには一向お構ひないやうであるから、それは暫くそれとして置いて、此の基本法が排斥せられましても、否決になりましても、基本法に書いてある法規的の事柄は、悉く又学校教育法に載つて居るのでありますから、是はなくても學校教育の新制度に何等差支はない、学校教育法案はまだ本會議に出て、委員長の報告になつて居りませぬけれども、是も實は私は疑問を持つて居る、四月一日からやらうと云ふのに、三月の末になつて基本の原則を是から定めようと云ふのでありますから、隨分無理な話である、實行をする上に於ても學校の設備とか、教員の數とか色々な點に於て、甚だしく私は不便なものではないかと思ふ、義務教育の八年を九年にすると云ふことは結構でありませうけれども、何もそれは一日を急ぐ問題ではない、相當の準備をするのに、一年位の餘裕を置いてやるのが當り前であると思ふのでありますが、是は少し本法から脱線して、学校教育法に移つたやうでありますが、是も長くは申しませぬが、さう云ふ點で学校教育法も四月一日から直ぐやらうと云ふのは無理なやり方でありますから、それは暫くそれとして置いても、学校教育法が可決されれば義務教育九年の新案も何等支障なく實行されるのでありますからして、此の基本法は此の儘葬り去つても實際事務に於ては何等差支ない、斯かる憲法の次に位するやうな重大な教育基本法、それから理想を宣言すると當局も御説明になりました、理想の宣言であるならば、もう少し雄大なる、もう少し高遠なる理想を謳つて貰ひたい、色々論じて見ますると、政府に於てももう良い加減に兜をお脱ぎになつて、此の法は御撤囘になつたらどうか、更に碩學鴻儒を集めて十分な討論をし、十分な考究をして、眞に新日本の教育の基本たるべき高遠なる理想、雄渾なる氣魄を以て制定されむことを私は希望するのであつて、教育基本法と云ふものは何か陰氣なやうな氣がしまして、どうも雄大な我々を感奮させるやうな文辭がない、是は甚だ遺憾でありますから、私は政府が此の案を一應御撤囘になつて、尚更にもつと立派なものを出して戴いて、之を憲法に次ぐ重要なる法規と云ふのもをかしいですが、重要なる法として、更に御提案にならむことを希望する意味に於て、私は此の案に反對するものであります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=11
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012・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 荒川文六君
〔荒川文六君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=12
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013・荒川文六
○荒川文六君 我が國が新しい日本國憲法の精神に則りまして、遺憾のない發展を遂げて、本當に平和的な、又民主的な日本國が建設せられます爲には、教育が最も重要な役割を爲さなければならないと云ふことは、先般來此の議場に於きましても、多くの方々から屡屡論議せられました所でありまして、之に對しては何人も異議を挿む餘地はないものと思ふのであります、而して政府は此のやうな重要な役割を持つ教育に付きまして、其の根本的理念を明確にして、我が國に於ける教育の目的を明かに示し、教育の基本を確立する爲に、只今議題となつて居ります教育基本法を制定しやうとして居られますことは、誠に私は結構なことと思ふのであります、斯う云ふ種類の法律は、其の性質から申しまするならば、過日文部大臣は之を本議場に於て、我が國の教育に關する嚴肅な宣言であり、又教育の憲章とも稱へらるべきものであると申されたのでありますが、斯う云ふ種類の法律が、其のやうな重要なものであると云ふことは、是亦何人も認むることが出來ることと思ふのであります、又それと同時に、是は我々日本國民が新しい平和的な國家及び社會を形作る一員として守るべき國民生活の道徳的基準を示すものとなるべきものであると思ふのであります、斯う云ふ風な意味におきまして、此の教育基本法と申しますものは、非常に重大な意義を持つて居るものでありまするから、我々と致しましても、之に關して愼重に之を考究する必要があると思ふのでありますが、何分會期の切迫して居ります際に提出せられましたので、其の内容に付て之を十分に練る暇のなかつたことは、私としては遺憾に存ずる次第でございます、特別委員會に於ける本法案の審議の經過及び其の結果に付きましては、先程委員長から詳細に御報告がありました通りでありますが、私は我が國が此の新しい教育の制度を採用しやうとして居ります今日、此のやうな基本制が制定せられますことは、假令それが十分に完全なものでないに致しましても、極めて必要のことと考へますので、本案の成立に贊成の意を表するものであります、唯併し本案の内容を仔細に檢討致しますと、色々の問題に付て尚十分に考究しなければならない點が多くあるやうに思ふのであります、私は只今それ等の事柄の總てに付て、彼此論じやうと思ふのではございませぬけれども、唯其の中の二つの最も重要なりと思はれる點に付て、聊か卑見を述べさして戴きまして、或はそれが將來此の法律を更に完璧なものとする場合に於ける參考とでもなることが出來れば幸であると考へる次第でございます、偖、問題の第一は、本法案の第一條に掲げてあります教育の目的に付てでございます、茲に教育の目的として掲げられてありますのを見ますと、人格の完成を目指して、平和的な國家及び社會の形成者として國民を育成して行くことであると、謳つてあるのでございますが、之には勿論何等間違ひはないと思ふのであります、さうして其の平和的な國家及び社會の形成者として國民を育成する爲に、如何なる目標が掲げられてあるかと申しますと、眞理と正義とを愛すること、個人の價値を尊ぶこと、勤勞と責任とを重んずること、自主的精神に滿ちた心身共に健康であること、等の諸點が擧げられて居るのでありますが、是等の何れも誠に結構なことでありまして、我々日本國民の生活の道徳的基準を示して居るものと稱しても、差支ないと思ふのであります、唯私が之を讀みまして、聊か物足らなく感じますことは、我が國が本當に平和な、又民主的な國家として立つ爲に、國民として育成せられなければならない大切なものが尚一つあるのに、それが此の條文の中に表されて居ないと云ふことであります、即ちそれは一語にして申しますれば奉仕の精神であります、即ち犧牲、獻身の精神とも言ふべきものであります、國家、社會、隣人を愛して之に仕へるの精神、舊來の軍國的、或は極端な國家主義的のものでなく、新しい意味に於ける、民主的の意味に於ける愛國の精神であります、人は能く、官吏は民衆の公僕でなければならないと申すのでありますが、公僕であると云ふことは何も官吏に限つたことではありませぬ、我々國民が、何れも社會の公僕であると云ふことが、民主的で平和的な國家及び社會を形成する爲に、極めて大切なことであると思ふのであります、此のやうな精神に、我々國民が充されて居るのでなければ、本當に平和的な、民主的な日本國家の建設はむつかしいと言はなければなりませぬ、それ故に、新日本建設を目指す教育の根本理念には、此のことを明かに表して置くことが大切ではないかと思ふのでありますが、本法案の第一條には遺憾ながらそれが明かに示されて居りませぬ、本法案の特別委員會に於きまして、此のことに付て御尋を致した際に、大臣の御答辯には條文の中には總ての徳目を竝べることは不可能であるので、只今のやうなことは明かには謳つてはないけれども、併し其の趣旨は、例へば平和的な國家、及び社會の形成者として勤勞と責任とを重んずると云ふことを教へることに依つて、其の目的を達することが出來ると云ふやうな御答でありましたが、併し私の申します奉仕の精神と申しますのは、唯單に勤勞に務めるとか、責任を果すとか云ふのではないのでありまして、責任以上のことを喜んで行ふと云ふ精神を申すのであります、彼のバイブルに教へてありますやうな、若し人が一里の道を行くことを求めたならば、喜んで之と共に二里の道を行くと云ふ精神であります、人を使ふ者となるのではなくて、人に使はれる者となると云ふ精神であります、責任を重んずると云ふことは、以前軍人の教育等にも力を籠めて教へられて居たのでありまするが、其の結果はどうであつたかと言へば、動もすれば、言ひ付けられたことだけをすればそれで澤山だ、それで責任を果したのだと云ふやうな風が出來まして、所謂要領能くやつて置く、或は又骨惜みをすると云ふやうなことが頻々として行はれて參つたのであります、而して此のやうな風潮は、只今に於ても、尚廣く世間に漲つて居るやうに見えるのであります、是は誠に悲しむべきことと申さなければならないのであります、我々が此の社會に於て、色々の仕事を行ひます場合には無駄を省いて效率を能くして、最小の努力を以て最大の效果を擧げることに努めることは勿論でありますが、併し其の仕事を行ふ場合に於ける心構へは、效果の最小であることを厭はないで、最大の力を盡すと云ふことでなければならないと思ふのであります、私は我が國が只今直面致して居ります差當りの困難な社會の情勢も、若し國民が此の奉仕的の精神に充されて居るならば、必ず之を乘切ることが出來ると思ふのであります、將來我が日本國が平和的の民主國家として發展する爲には、どうしても國民が此の精神に充たされて、我が國家を愛し、社會を愛し、眞理を愛するやうにならなければならないと思ふのであります、それ故に本法案の第一條に、教育の目的が此のやうに掲げられてあるのでありますならば、斯くの如き條文の中に書き記されまして、解釋に依つて初めて分ると云ふのでなくして、一讀して直ちに其のことが明かにされるやうにして置くことが至當ではないかと思ふのであります、次に問題の第二は宗教に關することであります、本法案には、第九條に於て宗教教育に關することが謳つてありますが、其の第一項は、日本國憲法第二十條の第一項及び第二項にあります信教の自由に關した規定を少しく形を變へて書いたものと見ることが出來ると思ふのでありますし、又本法第九條の第二項は、矢張り憲法第二十條の第三項を敷衍して書いたものと見ることが出來ると思ふのであります、私は本法案のやうな教育の根本理念を明かにする爲の法律であるならば、其の中に於て宗教と云ふものに對して、國家は教育の上から如何なる態度を執るのであるかと云ふことを明かにすることが必要なのではないかと思ふのであります、曾てソ聯に於ては、宗教を麻醉劑のやうなものであるから有害であると云ふて、國民教育の上から全然之を否定し去つたのでありますが、是は甚だ亂暴なやうなやり方ではありますけれども、國家が宗教に對して執つた一つの態度として見ることが出來ると思ふのであります、私は國民の教育、殊に道徳的の教育の面に於ては、宗教の力は決して之を無視することは出來ないと固く信ずるのであります、殊に曩に私が申述べましたやうな、國家、社會、隣人を愛する奉仕の精神の意味に於ける愛國の精神と云ふものは、宗教の正しい信仰に依るのでなければ、之を本當に育成することは出來ないと思ふのであります、殊に本法の第七條に於て社會教育の見出しの中に含まれて居ります家庭教育の如きは、正しい宗教的信仰の下に於て行はれるのでなければ、其の效果を十分に擧げることは出來ないであらうと思ふのであります、それ故に私は國家は須く國民の間に健全な宗教心の勃興することを奬勵して、此のやうな健全な宗教心を養ふ爲の宗教教育を尊重すると云ふ態度を明かにして置くことが必要ではないかと考へるのであります、此の點から申しますと、本法案の第九條第一項に記されて居ります所は、聊か瞹眛であり、又何となく微温的であるやうに感ぜられるのであります、勿論國家は或一つの特定の宗教を庇護するとか、奬勵するとか云ふことは、之を行つてはならないのでありますけれども、苟くも健全な信仰心を養ふ爲の宗教教育であり、宗教的活動であるならば、それが或は神道であり、或は佛教であり、或はキリスト教であり、等しく適當な方法を以て之を奬勵し、或は少くとも之を妨害しないと云ふ國家の態度を明かにすることが必要ではないかと思ふのであります、私が今日特に採上げましたのは、此の二つの問題でありますが、此の外にも本法案の中には尚研究を要する事柄が多くあるやうに考へられます、例へば男女共學の問題のやうなことに於きましても、世間には隨分盲目的に之に依らなければならないと言ふ人もありますけれども、是は現在の我が國の状態に鑑みまして、之が實行には愼重に考ふべきものも少くないと考へるのであります、併し以上のやうな私として不滿の點もございます、曩に澤田議員から仰せになりましたやうな點も、此の法案の十分でないと云ふ點も御指摘になりました、併し私は此の法案を見ますと、其の中には我が日本の教育をして舊來の型を破つて、新しい理念の下に進ましめやうとする努力の跡が現れて居ると見ることが出來ると思ひますので、例へば憲法に依つて保障せられました教育の機會均等をやらうと云ふやうなことがありましても、又殊に國民の半分を占めて居る女子に對して、男子と同じ程度の教育を受け得る機會を與へると云ふやうなことにありましても、又更に學校に於ける教育ばかりでなく、從來動もすれば閑却せられ勝でありました社會教育乃至家庭教育を奬勵する、又是からの民主的國家として發達させて參ります爲に最も必要な政治教育に付てのこと、又國民の道義心を昂揚するに必要な宗教教育に關すること、其の他のこと、是等のことに關しまして、假令不十分ではありますけれども、國家の教育の面に於て、是等のことに付て關心を持たなければならないことが織込まれてありますことは、誠に結構なことと申さなければならないのであります、此の法案は斯くの如く其の内容に於ては未だ十分でない點があると感じます、けれども私は國家が大きな轉換を爲す此の時機に於て、さうして新しい制度に依つて教育を施さうと云ふ時機に於て、何等かの斯う云ふ法案が出來まして、教育の理念と云ふものを現して置くと云ふことは、極めて必要なことであると云ふ感じが致しますので、此のやうな理由に依りまして本法案の成立することを心から希望して居る次第でございます、私の今澤田議員の御話を伺ひまして心に感じたことであります、日本が戰爭を放棄したと云ふことに付て、鬪爭精神を排除することを努めなければならぬと云ふ御意見のやうに伺つたのでありますが、私は是からの教育に付ては、其の鬪爭の相手を正しく認めると云ふことを教へなければならぬと思ふのであります、人と人とが鬪爭すると云ふことでなくして、我々の社會の惡に對して敢鬪して行くと云ふ、此の敢鬪精神は是からの教育に於て十分に盛に行はれなければならないことであらうかと思ふのであります、一言私の意見を附加へまして私の此の法案に贊成する意見を申述べた次第でございます(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=13
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014・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 三島子爵
〔子爵三島通陽君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=14
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015・三島通陽
○子爵三島通陽君 時間のない處甚だ恐縮でございますが、簡單に私の意見を申上げまして、本案に贊成する者でございます、私の本案に贊成致します意味は四つあります、それを簡單に申上げます、第一平和日本、文化日本の建設は教育に俟つより仕方がないと思ひます、新憲法が發布せられました以上、之に從つて教育の根本理念を明示することは目下の急務であると考へざるを得ませぬ、茲に教育の根本理念を明示する必要があるとすれば、それは教育憲章と云ふやうなものが必要であつて、此の法案が即ちそれに當るのであると思ひます、此の基本法の内容のやうなものを文部省の訓令で出すことは出來ると思ひます、併し私はそれよりも議會で協贊をされた基本法と云ふやうなものが出來ることが、もつと適切であり、又もつと必要であると思ふのであります、是が第一の理由であります、第二、此の法案が法律的に體を成して居ないのではないか、斯う云ふ疑問も一應はせられることであります、殊にドイツ的な法理論的な目で文を見ますれば、或はさう云ふことが言へるかも知れないと思ひます、併し此の基本法なるものが、先に申上げましたやうに教育の憲章であつて見れば、より哲學的であり、より教育學的であつてちつとも差支ないではないか、斯う云ふやうに考へられるのであります、是が私の此の法案を贊成する所以の第二點であります、次に第三點であります、此の法案を拜見して私の第一に考へたことは、是が少しく日本的でないのではないかと云ふやうに考へられるのでありますが、併し能く又考へて見ますと、教育の根本理念を明示したものであれば、それが普遍的であるのは當然であつて、今古東西に施して悖らないものでなければならない、さうして此の基本法を日本人が實行し、日本人が日本の環境の中で、日本の零圍氣の中で之を實行する場合には、それは自づと日本的になつて來るのは必然である、であるから無理に之を日本的色彩を加へようとして、從來我々が陷つた所の弊を之に持つて來て、餘り木に竹を繼いだやうになつてはどうか知らん、却て此の行き方で行つた方が宜いではないかと云ふやうな考にもなつて來るのであります、私は茲に悲しむべき今囘の大戰爭に捲き込まれた時の我々日本人、又終戰後の日本の姿を見詰めまして、實に明治時代以來の教育の失敗が原因の一つとして認めざるを得ない、反省せざるを得ないと考へられるのであります、そこで次に來るべき時代の子供達は、眞に立派な教育をしてやりたいと云ふ念願に燃えます、而も此の反省を此の基本法は十分にして、さうして其の缺點を補はうとして居る點が十分に認められると思ひます、少しくエピソードを申上げて恐縮でございますが、成る程日本の今の青少年は非常に迷つて居ります、併し澤山の良い青年があります、彼等良い青年を見ますと、正義に對する觀念とか、或は眞理に對する探究と云ふやうなものは、相當強く持つて居ると思ふのでありますが、私共が年來磨かうとして居つた所の、例へば東洋的な道徳、東洋的な所謂徳と云ふやうなものを求めむとする心が、少し缺けて居るのではないかと云ふやうに私は最近考へて心配を致して居つたものであります、私も最近又一方アメリカの進駐軍の若い人々とも大分知り合ひが出來まして、彼等に接近しますと、彼等は實に東洋的な徳と云ふやうなものを立派に備へて居る青年が非常に多いやうに思ふのでありまして、或は此のカルチユアと云ふやうな言葉の中からも見られるのかも知れませぬが、寧ろ我々よりも徳が高い、我々の青年よりも餘程彼等の方が徳が高いと云ふやうに考へられる場合が隨分あるのであります、そこで此の法案にも何か東洋的な徳と云ふやうなものを強調するものがあつて宜いのではないかと云ふやうに一應は考へたのでありますが、併し又反省してみますと、隨分明治以來我我は道徳々々と、餘りに形式的に走り過ぎた道徳、所謂學校の修身で教へられて、而もそれが本當に身に着いて居なかつたと云ふ所に缺點が、反省をせられるので、それよりも寧ろ此の法案の行き方で出直しをして、さうして人格の完成に向つて邁進するとか、或は自他の敬愛と協力と云ふことに重きを置いて、矢張り此の行き方で進むのも、却て宜いのではないかと云ふやうな風な結論に到達して來たのであります、先程來澤田委員の御反對の御意見を伺つて居りまして、私も同感な點が多いのでありますが、併し澤田委員の御心配は矢張り此の法案の中に、此の人格の完成とか、自他の敬愛の協力とか云ふ言葉の中で立派に出て居るのではないか、而も道は少しく違ふかも知れないが、踏み登る麓の道は違つても、矢張り同じ高嶺の月を見る所に行かむとして居る所が見える、それならば寧ろ茲に出直すのには、斯う云ふ行き方で行くのが宜いのぢやないかと云ふやうに考へられるのであります、是が私の贊成する第三點であります、第四點、第四點は一般的なことでありまして、此の法案の中に盛られて居る法律的な色々の條項が、私が常に希望して居る點が十分に盛られて居ると云ふことであります、色々の教育制度、此の法案に對する今迄の缺陷を十分に反省して、今後行くべき新しき制度が茲に示されて居ると云ふことであります、教育の機會均等と云ひ、男女共學の問題と云ひ、又從來動もすれば文部省が學校省であると云ふやうな非難があつたのでありますが、此の法案は社會教育、宗教教育と云ふものの必要性が十分に盛り込まれて居る點、又是からは政治と學校教育と云ふやうなものが非常にむづかしくなると思ひますが、此の點も茲にはつきりして居る點、又教育行政が、今迄其の末端に於て文部行政と内務行政との間に色々なむづかしいこんがらがりの問題があつたと云ふやうなことも、茲にはつきり其の理念が示されて居る點等、幾多の私は贊成する條項を此の中に發見を致します、是が第四の私が此の法案を贊成する所以であります、以上の四つの理由に基きまして、私は此の教育基本法を贊成する者であります(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=15
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016・徳川宗敬
○副議長(伯爵徳川宗敬君) 是にて討論を終ります、休憩を致します、午後は一時三十分より開會致します
午後零時二十三分休憩
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午後一時五十五分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=16
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017・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 休憩前に引續いて會議を開きます、教育基本法案を休憩前に引續いて議題に供します、是より採決を致します、本案の第二讀會を開くことに贊成の諸君の起立を請ひます
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=17
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018・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 過半數と認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=18
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019・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=19
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020・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=20
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021・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=21
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022・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=22
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023・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第二讀會を開きます、御異議がなければ全部を問題に供します、本案全部委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=23
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024・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=24
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025・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=25
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026・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=26
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027・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=27
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028・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=28
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029・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第三讀會を開きます、本案全部第二讀會の決議通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=29
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030・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=30
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031・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第二、昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、梅渓子爵
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昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十二年三月二十四日
委員長 子爵梅渓 通虎
貴族院議長公爵徳川家正殿
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〔子爵梅渓通虎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=31
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032・梅渓通虎
○子爵梅渓通虎君 只今議題と相成りました昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案特別委員會の經過竝に結果を御報告申上げます、本委員會は三月二十日開會致しまして、正副委員長の互選を行ひ、二十二日、二十四日の兩日に亙り委員會を開き、先づ政府の提案説明があり、次いで質疑に入り愼重審議の結果全員異議なく之を可決すべきものと決定致した次第でございます、政府の説明を通じ、本案の内容を檢討致しまするに、國有境内地約三萬七千町歩、保管林約二萬六千町歩に付きまして、從來より神社、寺院等に對し行はれて居りました國有境内地の無償貸付關係、或は社寺上地林に認められて居りました社寺保管林制度とを整備致します爲に、昭和十四年法律第七十八号即ち「寺院等ニ無償ニテ貸付アル國有財産ノ處分ニ關スル件」の法律を全部改正しやうとするものでありまして、即ち國有境内地の無償貸付制度を廢止すると共に、從來の沿革、其の他一定の條件の下に、社寺等に對しまして國有境内地を讓與し、又は市價の半額で賣拂ひ、又保管林制度を廢止すると共に、一定の條件の下に神社、寺院に對し部分林を設定し、或は補償すること等を骨子とするものであります、次に質疑應答の中其の主なるものを御紹介致します、先づ一委員より、無償貸付關係及び保管林制度等を何故に此の際整備する必要があるかとの質疑に對しましては、政府委員より、是等の諸制度は宗教保護の爲宗教團體に國の財産を利用せしめて居るのでありまして、是は新憲法第八十九條の規定の公の財産を宗教團體に利用せしめてはならないとの趣旨に牴觸する虞がある爲、此の際斯かる社會制度を整理し、政教分離の精神の徹底を期す爲でありますとの御答辯でありました、又一委員より、本會計の運用に當り、官廳が從來の如き官僚獨善の態度で個々の事案を處理する時は社寺等は實情に即しない處分を受け、不測の損害を蒙る虞があるが、此の點はどうかとの質疑に對しましては、政府委員より、讓與若しくは半額賣拂の範圍は勅令に精細に規定せられる豫定であり、又事案處理に當りましては、官民同數の委員より成ります境内地處分審査會、又は保管林處分審査會に於て、個々の社寺に付一々審査の上民主的に判斷して處理せられることとなり、斯かる虞はないと思ふとの答辯を得たのであります、次に一委員より、宗教活動に必要でない土地は讓與又は半額賣拂を受けることが出來ないのであつて、社寺側の希望に依り時價で賣拂ひ、又は有償で貸付けることとなるのであるが、田畑、保管林其の他國より借用して居る土地よりの收益で教育事業や社會事業等を經營致して居る社寺等に取つては、是等の土地がどう取扱はれるかと云ふことは甚だ重要な點であり、此の點に關する政府の所見如何との質疑に對しましては、政府委員より、田畑、山林等の如く收益が第一次の目的となつて居り、假令其の收益に依つて社會事業、教育事業等を經營して居りましても、其の土地が直接是等の事業に使用せられて居らないのであつて、其の收益が間接的に公益事業に使用せられるのであるから、斯かる土地を讓與又は半額で賣拂ひを致しますことは、宗教保護となり、新憲法第八十九條の精神に反しますので、讓與又は半額賣拂をすることは出來ないとの答辯でありました、又一委員より、社寺等が國有境内地の讓與を受ける爲には土地、地租改正等の沿革を立證しなければならないのであるが、總ての社寺が完全な立證をなし得るか否かは大いに疑問であり、此の點如何かとの御質疑に對しましては、政府委員より、文書等の直接的な證據の外、間接的な傍證でも差支ないとの答辯を得たのであります、又一委員より、社寺等が時價又は半額にて國有境内地を買受ける場合の代金支拂方法が現在社寺等に即金で納めさせるのは酷な事情にあるので、之に付ての便法を何か考へて居るかとの質疑に對しては、政府委員は、從來の昭和十四年法律第七十八號に於ては十年以内の年賦延納を認めて居つたのでありますが、今囘は此の外に土地に依る代物辨濟をも認めるのでありまして、是等の便法に依り社寺等は大なる困難なく買受代金を納めることが出來ると考へますとの御答辯を得たのであります、最後に第一條に規定せられて居ります地方公共團體からの寄附に付ては、之に實質上負擔を生ぜしめなかつたものに限る旨の規定の解釋、或は第九條及び第十一條で規定せられて居ります、國有財産法及び國有林野法の一部の規定の廢止に關する規定の質疑等、其の外委員各位より種々熱心なる質疑がございましたが、是は省略致しまして詳細は速記録に依つて御承知を願ひます、以上のやうな次第で質疑を終りまして、討論に入りました處、別に御發言もございませぬので、採決を致しました處、全會一致を以て可決せられたのでございます、以上を以ちまして御報告を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=32
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033・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 別に御發言もなければ本案の採決を致します、本案の第二讀會を開くことに御異議ございませか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=33
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034・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=34
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035・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=35
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036・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=36
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037・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=37
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038・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=38
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039・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第二讀會を開きます、御異議がなければ全部を問題に供します、本案全部、委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=39
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040・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=40
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041・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=41
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042・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=42
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043・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=43
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044・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=44
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045・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第三讀會を開きます、本案全部第二讀會の決議通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=45
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046・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます。
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=46
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047・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 日程第三、郵便法の一部を改正する法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、委員長齋藤子爵
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郵便法の一部を改正する法律案右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十二年三月二十四日
委員長 子爵齋藤 齊
貴族院議長公爵徳川家正殿
━━━━━━━━━━━━━
〔子爵齋藤齊君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=47
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048・齋藤齊
○子爵齋藤齊君 郵便法の一部を改正する法律案特別委員會に於ける審議の經過竝に結果に付て御報告致します、委員會は二十三、二十四日の兩日開催せられまして愼重審議の結果、全會一致原案通り可決すべきものなりと決定致しました、委員會に於ける政府側の提案理由の説明は、大體本議場に於ける説明と同樣でありますから、之を省略致しますが、尚此の郵便料金改正に依つて得られる昭和二十二年度増收額の概數は普通通常郵便料金に於て十一億二千七百餘萬圓、小包郵便料金に於て一億五百餘萬圓、特殊取扱料金に於て三億九千三百餘萬圓、合計十六億二千六百餘萬圓となる見込とのことであります、次に委員會に於ける質疑應答の概要を申上げます、先づ一委員より、昨年六月郵便法一部改正法律案委員會に於て其の際の値上で大體收支償ふ旨の説明があつたのに拘らず、半歳後の今日今囘更に葉書三倍半足らず、書状を四倍に引上げることは其の後の諸物價値上りに對比して著しい値上りとなるが、其の理由如何との質疑に對し、政府側より、昭和二十二年度豫算の中、人件費は六十四億圓であつて、業務費の約七割を占めて居る如く、人件費の割合は大きいのであるが、昨年の郵便料値上に當つては人件費の根據を從業員待遇改善の所謂三月案即ち平均給三百圓に置き、年額として總額十三億三千餘萬圓を計上したのであつたが、其の後七月案の實施に依り給與標準は平均五百五十圓となり、人件費は年額として總額約二十六億圓となつた、又物件費の面から見れば、二十一年度豫算編成當時に比し、其の後の値上りは著しく、二十一年度の郵便電信電話等の事業收入十七億餘圓に對して相當の不足を生ずる實情となり、結局約十六億圓の赤字借入金を以て漸く收入の均衡を得た次第である、二十二年度豫算に於ける人件費は其の根據を平均給一千二百圓案に置き、總額六十四億圓餘を計上した、從つて料金値上を爲さなければ結局年度末に於ける歳入不足は五十二億九千四百萬圓餘となるので、此の赤字補填を圖る爲本改正法律案に依る増收を含めて總額五千一億圓餘の收入増を得る目的で通信事業各部に於て料金の値上をするのである、尚此の收入増でも不足するものは、節約及びサービスの改善に依る増收を以て賭ふ積りである、要するに今囘の値上は業務運營の爲に必要な經常的な經費を毎年赤字で賄ふことは出來ないので、料金値上は已むを得ないとのことでありました、又一委員より、今後も尚物價騰貴が豫想せられるのであるが、此の際寧ろ原案に對し更に二割程度の引上増加を行つて此の財源に依つて通信事業の施設を充實し、積極的に事業利用増進と、機動的運營を圖るべきではないかとの問に對しまして、現在の一般的經濟情勢等も考慮に入れて、國民の通信料金の負擔を出來るだけ最小限度に止めたい次第であるとの答辯でありました、次に郵便料金構成の體系に付きまして、もつと實際取扱上の面を考慮して簡易にすべきではないかとの問に對しましては、十分さう云ふ趣旨で今囘の値上も檢討した譯であるが、今後も十分考慮して行きたいとの答でありました、又一委員より、現在通信官署では通信以外の業務をも取扱つて居るが、之を切離して純然たる通信業務のみに專念する考はないかとの質問がありましたが、之に對しては、左樣な考はない、尚通信以外の業務に對しては、それぞれの他の會計から業務費に相當する額を繰入れて居る旨の答辯がありました、以上が質疑の大要でありますが、續いて討論に入りましたが、別に御發言もなく、直ちに採決に入り、全會一致を以て可決致しました、簡單でございますが、以上を以て報告を終ります発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=48
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049・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 別に御發言もなければ本案の採決を致します、本案の第二讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=49
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050・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=50
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051・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第二讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=51
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052・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=52
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053・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=53
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054・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=54
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055・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第二讀會を開きます、御異議がなければ全部を問題に供します、本案全部、委員長の報告通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=55
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056・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=56
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057・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ちに本案の第三讀會を開かれむことを希望致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=57
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058・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=58
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059・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西大路子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=59
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060・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=60
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061・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 本案の第三讀會を開きます、本案全部第二讀會の決議通りで御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=61
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062・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=62
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063・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 昨日政府より提出せられました、皇室経済法の施行に関する法律案を、此の際議事日程に追加して第一讀會を開くことに御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=63
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064・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、金森國務大臣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=64
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065・会議録情報4
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皇室経済法の施行に関する法律案
右
勅旨を奉じて帝國議会に提出する。
昭和二十二年三月二十四日
内閣総理大臣 吉田茂
大藏大臣 石橋湛山
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皇室経済法の施行に関する法律案
第一條 日本國憲法施行後の最初の國会において、皇室経済法第二條の一定價額が定められるまでは、同條の規定にかかわらず、相当の対價による賣買等通常の私的経済行爲に係る場合の外、通計五十万円を超えない範囲においては、その度毎に國会の議決を経なくても、皇室に財産を讓り渡し、又は皇室が財産を讓り受け、若しくは賜與することができる。
第二條 皇室経済法第四條第一項の定額は、八百万円とする。
前項の規定は、この法律施行後二年を限り、その効力を有する。但し、物價の変動その他の事由により、前項に定める額が、不適当と認められるに至つたときは、速かにその額の変更について、法律改正の手続をとらなければならない。
第三條 日本國憲法施行後の最初の國会において、皇室経済法第六條第一項の年額の定額が定められるまでは、十五万円を以てこれに代わるものとする。
前項に規定する國会において、皇室経済法第六條第一項の一時金額が定められるまでは、同條の一時金額に関する規定は、これを適用しない。
附 則
この法律は、皇室経済法施行の日から、これを施行する。
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〔國務大臣金森徳次郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=65
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066・金森徳次郎
○國務大臣(金森徳次郎君) 只今上程せられました皇室経済法の施行に関する法律案に付きまして、提案の理由を御説明申上げます、此の法律案は、曩に公布せられました所の皇室経済法の中に於きまして、別に法律で定むるものとせられて居りました所の色々の事項、言ひ換へますと、皇室と皇室外との間に於ける財産授受の制限に關する定額、是が一つであります、又内廷費及び皇族費の定額、是が第二であります、之を定めむとするものであります、唯各般の事情から是等の事柄を今日全面的に、且恆久的に確定を致しますることに付きましては、尚篤と檢討を要するものがありと考へまするので、今囘は差當つて必要な規定のみを設けるに止めました、本案の内容を御説明を申上げますと、第一は皇室と皇室外との間に行はれます所の財産の授受に關する定額に付ての規定であります、皇室経済法第二條に依りますると、皇室と皇室外との間に行はれまする財産の授受に付きまして、特別な手續なくして自由に行ひ得まする價額の限度、又皇室經濟會議の議を經る必要はあるけれども、國會の議を經ることを要しない價額の限度等を定めることを豫定して居るのでありまするが、是等は日本國憲法施行後の最初の國會に於きまして、是等の額が恆久的に定められまする迄の間に付ての差當りの措置と致しまして、私的經濟行爲に係りまする場合の外、皇室全體に付きまして通計五十萬圓を超えない範圍に於きましては、其の度毎に國會の議決を經ないでも、賜與、又は讓受を爲し得る旨を定めた次第であります、第二の點と致しまして、内廷費の定額に關することであります、内廷費は天皇及び内廷にある皇族の日常の御費用、其の他内廷諸費に充てられるものでございますが、此の法律案に於きましては其の額を八百萬圓と定めたのでございます、此の定額に付きましては、物價の變動等の影響を相當考慮する必要がございますので、其の規定の有效期間を一應二年と定めた譯でありますが、此の期間内に於きましても、其の金額が時宜に適しないと云ふやうな場合に於ては、速かに法律改正の手續を執るべき旨を定めた次第であります、第三の點は、皇族費の定額に關する規定であります、先の皇室経済法第六條に依りますると、皇族費の年額、それから皇族たる身分を離脱せられまする際の一時金額の算出の基礎たる定額を法律で定めることになつて居るのでありまするが、其の年額算出の基準たるべき定額が、是も亦日本國憲法施行後の最初の國會に於て定められまする迄、皇族費の年額は十五萬圓を基準と致しまして之を算出することに致しました、尚又其の一時金額の方の算出の基準となるべき定額は、日本國憲法施行後の最初の國會に於て定めらるべきものと致しまして、それ迄は、一時金額に關しまする皇室経済法の規定は暫時適用しないと云ふ旨を定めたのでございます、以上が此の法律案の大要でございまするが、何卒御審議の上御協贊あらむことを御願ひする次第でございます発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=66
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067・戸澤正己
○子爵戸澤正己君 只今議題となりました皇室経済法の施行に関する法律案は裁判所法案外一件の特別委員に併託せられむことの動議を提出致します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=67
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068・秋田重季
○子爵秋田重季君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=68
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069・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 戸澤子爵の動議に御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=69
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070・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます
――――◇―――――発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=70
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071・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 報告を致させます
〔宮坂書記官朗讀〕
本日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ昭和二十二年度歳入歳出予算案、昭和二十二年度特別会計歳入歳出予算案、昭和二十一年度改定歳入歳出総予算追加案(改第二号)、昭和二十一年度特別会計改定歳入歳出予算追加案(改特第一号)、予算外國庫の負担となるべき契約を爲すを要する件(改追第一号)可決報告書
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=71
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072・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 此の際昭和二十二年度歳入歳出予算案、昭和二十二年度特別会計歳入歳出予算案、昭和二十一年度改定歳入歳出総予算追加案、改第二号、昭和二十一年度特別会計改定歳入歳出予算追加案、改特第一号、予算外國庫の負担となるべき契約を爲すを要する件、改追第一号、是等の五案を議事日程に追加し、一括して議題と爲し、委員長の報告を求めたいと存じます、御異議ございませぬか
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=72
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073・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 御異議ないと認めます、豫算委員長林伯爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=73
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074・会議録情報5
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一 昭和二十二年度歳入歳出予算案
一 昭和二十二年度特別会計歳入歳出予算案
一 昭和二十一年度改定歳入歳出総予算追加案(改第二号)
一 昭和二十一年度特別会計改定歳入歳出予算追加案(改特第一号)
一 予算外國庫の負担となるべき契約を爲すを要する件(改追第一号)
右衆議院ヨリ受領シタル各案ヲ審査シ總テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二十二年三月二十五日
委員長 伯爵林 博太郎
貴族院議長公爵徳川家正殿
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〔伯爵林博太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=74
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075・林博太郎
○伯爵林博太郎君 只今議題となりました昭和二十二年度歳入歳出予算案、同じく特別会計歳入歳出予算案、昭和二十一年度改定歳入歳出総予算追加案改第二号、昭和二十一年度特別会計改定歳入歳出予算追加案改特第一号、予算外國庫の負担となるべき契約を爲すを要する件改追第一号、以上五案の豫算委員會の經過竝に結果を御報告致します、去る三月十九日から今日迄愼重に審議を致しまして、本日午後討論に入りまして全會一致を以て可決すべきものと決定しました、新憲法の施行に伴ひまして、財政の民主化を圖る爲に財政法案を議會に提出して豫算の形式を根本的に一新すると云ふのであります、昭和二十二年度からは其の一年間だけの完全な豫算を提出すると云ふことになつたのであります、之に依つて追加豫算と云ふやうな、後から追つ驅けて來るやうなものの審議を煩はす弊を一掃する、そこに今度の豫算の特徴があると云ふことを極力大藏大臣より説明があつたのであります、内譯を極く簡單に申上げますと、昭和二十二年度一般會計豫算と云ふものは一千百四十五億三百餘萬圓になつて居ります、公債發行に財源を求めたものは僅かに四十八億七千三百萬圓となつて居るだけであります、其の内譯は第一民生安定費百五十六億五千三百萬圓、第二經濟再建費九十五億圓、第三教育文化費三十八億九千萬圓、第四同胞引揚費三十六億二千三百萬圓、是は前年度から四十三億圓減じて居ります、第五終戰處理費、二十二年度には百二十六億圓を激減しまして、結局二百七十億圓となつて居ります、第六國債費八十一億五千八百萬圓、第八國庫豫備金三十億圓、其の他の諸支出は八十四億六千五百萬圓、以上は歳出であります、此の歳入はどうしてやるかと云ふと、第一に租税であります、是が六百八十七億九千九百萬圓、印紙收入七億一千五百萬圓、第二は官業及官有財産の收入が、二百五十八億六千七百萬圓であります、第三雜收入六十七億、第四財産税等の收入が七十五億餘であります、第五公債金及借入金收入四十八億七千三百萬圓、それから昭和二十二年度特別會計の豫算を申しますと、歳入は二千五百八十八億五千八百萬圓、歳出が二千三百四十四億二千二百萬圓であります、是は殊に國有鐵道及び通信事業と云ふものに於きまして、物價が非常に騰貴をしました、又職員其の他の待遇改善で多額の不足が出ましたので、取敢ず借入金で補填することになつたのでありますが、然るに郵便料の引上が出來ましたものですから、此の借入金を行ふ必要がなくなつたのであります、鐵道事業費に於きましても、運賃の引上を實施して不足を補填することになつたのであります、此の兩特別會計の建設改良等の支出と云ふものは、其の財源を大部分公債に依つて居ります、其の合計が七十四億七千四百萬圓となつて居つて、其の公債發行をやる譯になつて居ります、食糧管理特別會計、主食の價格と云ふものは豫算で一應現在の儘、其の不足額は食糧證券の發行限度を引上げればやれるのであるが、尚研究して收支の調査をやりたいと云ふことであります、昭和二十一年度改定歳入歳出總豫算に對しまして今囘追加計上した金額は歳入歳出とも二百六十億五千七百萬圓、之を今日迄の議會の協贊を得ました改定本豫算竝に追加豫算に加へますと云ふと、昭和二十一年度一般會計の總額は歳入歳出共に一千百九十億八千七百萬圓となります、改第二號に計上されたものは損害保險中央會及び生命保險中央會等の損失補填に必要なる經費二百十億圓であります、政府職員等の待遇改善に伴ふ經費二十五億四千八百萬圓となる譯であります、其處等に於きまして大體の御報告を終りまして、今度は質問に付きましての要領だけを申上げます、先づ財政の問題に付きましては、二十二年度は公債の發行をしないのであるか、一般會計では金融機關補償金等は交付公債でやつて赤字公債は發行しない、特別會計では投資勘定の部分は公債となるが是は預金の範圍で消化をして金融機關補償金の交付公債はどうも妥當でないと思ふがどうであるか、補償金は第一封鎖の支拂準備金であります、資産補填であるから當面の通貨に影響はない、斯う云ふ答辯であります、此の頃色々の諮問機關が濫立して居るが、其の中には大臣が其の委員會の爲に制肘されるやうなことがあるやうに見えるが其の點はどうであるか、例へば通貨審議會の如きはさうのやうであるがどうだ、通貨審議會の場合は稍稍其の傾向があるやうであるが、其の通貨發行の限度は内閣が之を決定するので、委員會が決定するのではないのであるから其の心配はない、それから此のインフレの問題等に付きましても色々の質問應答がありました、是等はまあ始終方々の委員會で出ますから約して置きませう、法人の名を藉りた不正事業の課税對象と云ふものはどうなるか、之に對しては二十二年度の法人、税は二十億圓を豫定して居る、大法人にありましては補償打切で是は大打撃を受けて居るものでありますから其の査定は甘くなつて居る、闇をして居ると思われる小法人なんかは多く課税をする方針で掛つて居る、又斯う云ふ質問もありました、是は極めて小さい問題であるけれどもどうか斯う云ふことには特に大藏省は注意をして貰ひたい、税務署の問題であります、三月十五日で以て一應期限が來ると云ふことで非常に新聞等にも宣傳して是が遲れたら是々の罰則があるなんと云ふことが書いてあるので、其の爲に國民は大いに危惧の念を持つて居つたのである、其の一例としまして十五日にはどうもどうしても方法が付かないから、第一封鎖でやれないから、どうしたら宜いかと云ふことを税務署に聽きに來た處が、なければそれはまあ現金で以て拂へと云ふのでありまするが、無理やりをして現金で拂つた處が、十五日が又三十日迄延びてしまつた、斯う云ふのは隨分酷い話で何とか其の點を前以て助けてやれば宜かつたのであるがどうであるかと云ふ質問が出ましたが、それは成る程大いに間違つて居るから、其の現金は税務署から本人に返すやうに全國の税務署に通知する、斯う云ふことであります、それから農地物納の問題でありますが、或人が農地を物納するために農地委員會に通知をしないでやつたものであるから、それはどうも無效になつてしまつたと云ふことを聞いて居るが、それはどうであるか、是は農林省とも能く申合せて始終やることになつて居るので、さう云ふことはない筈である、恐らくそれは何かの誤りであらうと云ふ答辯でありました、それから段々平和會議も近付いて來るやうであるが、財産所有權の轉換と云ふことを考へまして、在外資産を今日からでも精密に調査する必要がある、之を以て平和會議に資することがなくてはならぬが、其の點はどうであるか、又之を今日十分調べて居るかどうかと云ふことであります、即ち其の説明としては國際法で元來沒收と云ふことを許して居るのは敵の船だけに對してであつて、財産其の他の問題に付てはさう云ふことは國際法に於て許してない、沒收は出來ない筈のものである、然るに第一次戰爭の時からドイツに對してやり始めて、どうも是が今日でも影響を持つて居るやうに思ふ、だから海外の財産の損失に對しては之に甘んじて居つてはいけないのだ、若し賠償に當てられたならば、それだけの財産は政府が拂はなければならないのである、例へば滿鐵の如き何百億と云ふ財産が中國の賠償に當てられてしまつたと云ふことになれば、是は日本の政府が拂ふべきものであるのだ、それ等の點から在外の資産に付ては十分に能く調査をして善後策を執つて貰ひたいと思ふがどうであるか、政府は之に對しまして、國際法の純粹の理論から言へば、其の通りである、御尤なる點であるが、併しながら今日の我が財政の現状其の他から考へて見て、事實上之を實現し得るやどうかと云ふことはちよつと明言が出來ない、要するに詳しく一つ調査をして研究して見たい、それから此の大藏省の問題としましては色々ありますが、就中必要なことは鹽、特に食鹽のことであります、自給製鹽と云ふことが今日の場合に於てはどうしても必要であるが、元來六千萬トンで五箇年計畫十四億圓と云ふやうな豫算でやつて見たやうであるが、電力もなければ石炭も出ないものであるから實際に於ては一向其の效果も現はれなかつた、今年に於きましても、先づ八十萬トン位の供給しか出來ない、其の中工業用其の他がありますから、食鹽となつて來るものは六十萬トンだけしかないのである、二十二年度も此の二十一年度と同じ位の程度しか出來ない、動もすれば二十一年度の程度よりも少くなるかも知れないやうな誠に悲觀すべき時期に遭遇して居るのである、まあ石炭さへ出れば是も出來るのでありますが、電力があつても宜いのでありますが、それが不足であるとなかなか心配なものだ、併し食鹽は人間の衞生上どうしても缺乏してはならないものでありますから、政府は十分之に對しては善處して行きたいと思つて居る、又輸入に依存することもどうしても必要であるけれども、それも船がなかつたり色々なことで以て是も出來ない、併しまあ何とかしなければならぬから、極力骨を折る、此處で先程もちよつと觸れましたが、此の全體の豫算が今度形式が變りまして、其の一箇年のことを一本で纏めると云ふことは大變結構があるが、今度の豫算案に付てはちよつとそこに修正を要すべき點が見えたやうであつたのであります、其の點に付きまして、まあ修正をしないで、此の豫算を全部通したいと云ふ所で、政府が説明した所を申上げて置きます、遞信省所管に於きまして、特別會計で通信事業の運營の財源不足を、借入金を受入れ五十二億九千萬圓で補つて行かうとすることが計上されてあります、處が是は郵便料金の値上があつたものだから、それだけの金が餘つた、そこで借入金の必要がなくなつてしまつた、次に又國有鐵道事業で繼續費と云ふものが載せられて居るのです、昭和二十三年、二十四年の年度のものが載つて居るのであります、二十三年度は十七億五千萬圓、二十四年度は九億五千萬圓となつて居ります、今度財政法で繼續費は認められない、斯う云ふので此の豫算は修正をすべきものであるかどうかと云ふ點でありました、政府は此の説明を致しまして、次の如く述べて居ります、第一に借入金のことでありますが、此の郵便料金を値上したものであるから、お金が出來て其の借入が必要がなくなつてしまつた、豫算に編成します時には、まだ料金値上の問題が確定して居りませぬでしたから、借入と書いたのである、其の後通信料金問題が決つて來たのである、併しながら是は歳入であります、其の儘でどうか通過を願つて、後に修正をしたいと云ふことであります、それから繼續費の方でありますが、豫算は財政法の建前で行かなければならないのでありましたが、實は是は法律としてまだ財政法は實施されて居るのではない、現在は繼續費等は認められて居る、さう云ふ譯でありますからして、是も亦此の儘通過しても差支ないと政府は思ふ、斯う云ふ譯であります、是は相當重大な問題でありましたから申上げて置きます、それから商工省關係の問題に付ての質問應答、紙が今日不足して居る、特に教科書、教育に於ては教科書であります、又一般に於ては新聞紙の不足竝に出版全體の不足である、元來新聞と云ふものは文化の方面に於ける其の發展上の標準となるものである、此の新聞が制限致されると云ふことは最も文化の向上に支障を來すものであることは明瞭なことであります、總てに於て紙と云ふものは重大なる文化的の貢獻を爲すものであるが、それがうまく行かない、割當だけでなく、能く生産に努めて文化政策の上に貢獻して貰ひたい、新聞及び用紙割當委員會と云ふものがあるが、是は右と左に分れて居つて大分混雜をして居る、どうか積極的に此の方面を努力して貰ひたいと云ふことを、今日迄の紙の不足して來た事柄に付きまして、順序正しく説明されて、其の計數まで擧げて質問されたのでありますが、政府も之に對しては十分に努力すると云ふことであります、石炭のことでありますが、今日石炭が非常に足りないと云ふことは誠に殘念なことである、でさう足りないならば、新しい炭山もあるやうだから、それをやつたならどうであるか、又廢鑛になつて廢めてしまつたものもあるやうであるから、其の休鑛になつたものなども調べまして、さうしてそれを掘つて行つたらば、又違ふのではないか、全力を盡せと云ふことでありましたが、元來廢めたものはやり切れないから廢めたので、休鑛をするのにもそれぞれの理由がある、現状では現存の只今掘つて居る所の鑛山に全力を盡して、其の方も資材が足りないから、抗木其の他の物を出來るだけ出して、さうして出炭をさせると云ふことが第一であると思ふ、其の方からやつて三千萬トンに達したいと思ふのである、それから生糸とナイロンとの關係などに付ても質問應答がありました、電力が近頃不足して居るのは誠に此の生産上困ることであるが、其の點は大體見透しを着けて居るのであるか、見返り品への電力と云ふものはどうしたつて確保して行かなければならぬ、從來は火力主體で石炭で以て電力を起すことに努力して居り、水力電氣は第二であつたが、日本のやうな水力の多い處では宜しく水力主義に改めて行かなければならない、政府も之に對しては贊成でありまして、火力主義よりも今度は水力主義の方へ進んで行かう、それにはダムが不完全である、其の不完全な點を直して行かなければならないが、悲しいかなセメントと鐵が足りない、是等に付ても十分に努力したいと思ふのである、それから先月でありますか、電力を超過して使つた者に十倍の罰を與へると云ふので、大分金が入つたのであるが、其の罰金は何に一體使ふのであるか、是は戰災地の復舊の方に十分に配りまして、大部分そちらの方へやつて、之を利用すると云ふことであります、其の他、電力、石炭に付きましての質問應答は澤山ありますが、要するにそれ等は今日の場合省略をさせて戴きます、それから農政問題に付きまして申上げますが、北海道の山林行政と云ふことに付て色々の質問應答がありました、元來是は元々農林省は統制をして行きたいと云ふし、北海道は北海道、獨自の立場で以て、綜合的、統制的にやりたい、兩方の議論があつて今日迄來て居るのである、昨年も豫算總會で議論が出たのでありますが、此の度は又北海道と云ふものは特別な所であるから、其の林政の發達と開發と共に綜合統一計畫を北海道廳にやらせる、北海道でしなければならないと云ふ議論を述べられて、政府の意見を聞かれたのであります、此の林政一元化の趣旨から、北海道の山林を農林省に移したのであるが、實際の運營に當りましては、北海道廳長官を長とする委員會を内閣の中に設けまして、さうして之に當らして行くのであるからして、内閣の意思も通るし、北海道獨自の立場も之に依つて運營をされることであるから都合が好いと思ふ、さう云ふ風にやつて行きたいと云ふのであります、食糧問題に付きましても、色々議論が出ました、特に蛋白質の給源と云ふものを考へなければならない、それから家畜と飼料の關係、特に飼料の問題、牛を飼ふ所の餌の問題であります、結局是は自給飼料團と云ふものを作つて、さうして是が統制をしまして、さうして先づ牛から之を始めて行くのである、さうして田畑の一部を融通して、それで以て飼料を確保するやうにしたいのである、其の足りない所は米とか糠とか、さう云ふものも加へて行く、さうしたならば餘程今迄よりも良くなるであらうと思ふ、何分支那、滿洲からの穀類が來ませぬから、何とかして自給して行かなければならないと思ふ、それから家畜の衞生と云ふことがどうも日本では屆いて居らない、それから肉の檢査などに至つては、どうも心配な點が多いと云ふことに付いての質問應答もありました、それから主食の統制、野菜の統制、それから市場をどういう風に配置するか、市場配置の合理化に付ての色々の質問がありましたが、政府は單一制から復數制にやつて、十分に特に大都市の都民に對しましては、出來るだけ配給を良くして行くやうにしたいと云ふことであります、それから又今迄はデマがありまして、山林も五町以上持たせないことになると云ふことの説が傳つて居るやうであるが、それはどうであるか、政府は是は明言をしまして、山林を五町歩しか持たせないと云ふやうなことは、是は決して言つたこともなければ、それは僞だ、誤であると云ふことであります、其の他は略します、それから内政に付きまして申上げますと、戰災都市の復興、それに關しまして過小宅地の整理をどうするか、復興院の方では斯う申すのであります、若しも大都會を、燒けた跡を其の儘にして置きますと、小さな家が林立して、庭もなければ、衞生上に於て非常に不健全なものが、出來るに違ひないのである、だから最小限度三十坪にしたい、それより小さいものはもう衞生に害があるからさせない、さう云ふ風なことを述べて居ります、さうして火災とか衞生とか云ふことを注意したい、土地の國家管理と云ふやうな所迄は今日は行つて居らない、要するに只今基礎的調査をやる次第である、それから砂防のことが出ました、治山、治水、之が又詳しく兩方から質問應答があつたんでありますが、其の根を絶つて葉を枯らすと云ふことがあるが、山を治めないと山が惡くなる、砂防が不完全であれば泥が流れて、下の下流は氾濫をするに違ひないのである、それであるから治水の方を先にして砂防の方を後にすると云ふやり方では、何時迄經つても水害は止まないものであるのだ、先づ以て砂防を中心に治山の方をやつて、それから治水に及ぼす、之が農林省、内務省との間によく繩張爭其の他のものが出來て來まして、うまく調節することが出來ない、それ等をうまく融合統制をしなければならないのと同時に、どうしても治山主義に改めて行かなければならぬ、是は政府も其の通りであつて、出來るだけさう云ふ風にやる、又内務と農林との間に色々なことがあると云ふ噂もあるけれども、それは正しく之を運營しさへすれば、さう云ふことは決して起らないものであると思ふ、それから官吏服務紀律のことに付きまして重要な質問應答がありました、官吏の服務紀律と云ふものは、明治二十年七月三十日に出たものであつて、六十年の歴史を持つて居る、其の服務紀律の内容を見ますと云ふと、職務に忠實であれ、長官の命令に服從せよ、但し自分の意見は十分に述べて宜しいだとか、それから祕密をよく守れ、請負其の他からして賄路を取つたり、饗宴に臨んだり、御馳走をされたりすることは相成らぬ、と云ふやうな、今日に於きましても大變御尤な點ばかりが述べられて居る、併しながら時代が古いのであるからして、今度憲法が改正になりますと云ふと、色々なことが民主的になつて、是等と相衝突し、矛盾をするやうなことが起り得るかと思ふ、其の點はどう云ふ風に考へるのであるか、官吏法と云ふものが今度の議會には間に合はなかつたけれども、是はどうしても作らなければならない、憲法が實施されれば、服務紀律と云ふやうな命令的のものでなく、之が皆法令化即ち法律になつて現れなければならぬ、今度の新憲法は總てのことを法律で行ふと云ふ所に又一つの特長がある、今まだ五月三日になりませぬから、官吏の服務紀律は今迄通りのものが殘される譯でありますが、新憲法が出ました後は、是は法律的になる譯であります、なぜ官吏法がさう遲れたかと云ふと、是は兎に角重大なものであります、まあ道徳と法律と一緒に行くやうにすると云ふ所もありますからして、官吏服務紀律などに於ては特にむつかしいのであるが、此の官吏法と云ふものはなかなか遽か作りではいけない、それから又よく愼重に調査してやらなければいけないと云ふ此の二つの點からして今迄遲れて居るが、追つて出すので、内閣に行政制度の部局を作りまして、其處で愼重に審議をして之を作ります、服務紀律と云ふものは憲法で法律としての效力を得るやうにするのである、即ち憲法施行に伴ふ法律たるべきものは法律として取扱ふと云ふ法案が、目下衆議院の方に出て居る、是は形式的ではありますが、兎に角明かなものになる積りである、從來の服務紀律は矢張り道徳的なものでありまして、抽象論が多いのである、それは祕密を守れとかと云ふやうなことは結構なことであるが、もう少し具體化しなければ不明瞭であるから、其の點を今度は注意をする積りである、労働基準法と云ふものが今度ありますが、元來勞働、即ち勤勞、勤勞と云ふことになつて來ると、權利とか義務とか云ふものが現はれて來ますから、今迄の此の不適法なものが今度は適法なものになると云ふやうなことになつて來るのであります、殊に此の勤務時間等に付きましては、今迄の服務と云ふこととは矛盾することも或は起るかも知らぬ、どう云ふ時を休日にするとか、休暇を得るとか云ふやうな點に付ても、議論が出るかも知れない、唯勤勞者の普通の者とは違ひまして、官吏に對しましては官吏に特別に又彈力性のあるものを附けまして、さうしてゆとりを與へて拵へなければならない、何れにしても新らしい憲法で、其の都度、其の都度足りない所を補ひながら法律として現はしまして、さうして憲法に即した立派な官吏法を作る積りである、而も彈力性を持たせる、斯う云ふ答辯でありました、是は一つ重大な點であると思ふのであります、次に厚生省の問題に入ります、是は衞生が主でありましたが、日本醫療團とそれから醫療費のことであります、どうもお醫者さんは高いし、藥は高いし、貧民はなかなか治療が出來ない、一億七千九百萬圓位では國民健康保險には誠に不足なものである、仍てさう金が足りないのであれば、保健税とか、健康税とかと云ふやうなものを一つ作つて見たらどうかと云ふやうな質問が出ましたのであります、是等に對しましては、それは成る程非常に重要なことでありますけれども、今日の財政に於きましては容易に之を實行することが出來ないが、十分に其の點に付ては努力する積りであると云ふことであります、それから近頃牛肉を内緒で賣ることもありますが、どうも殺し過ぎたりなんかして困るのである、毎月數百頭の牝牛、乳牛が屠殺されるのでありますが、司令部の方から、乳牛は殺してはいかぬ、是は新らしい飼育者にやつて貰ひたいと云ふ注意が出て居る位である、兎角乳牛がどうして止めても殺されるかと云ふことになると、乳牛を檢査する者が牡だか牝だか分らないやうな官吏が來て、指導者が來てやるもんだから、さう云ふことが起るので、どうも農林省以外に厚生省、内務省、御互に一つ協力して一元化して、さう云ふ間違が起らぬやうにやつて貰ひたいとの意見を述べられて、此の道の善處を望んだんであります、外交の問題に付きましては、矢張り平和會議が近く起りますから、千島、樺太と云ふやうな日本と歴史關係の非常に深いもの、それが今囘日本から離れるやうな始末になつたのは、歴史的關係が十分に分つて居らないと云ふ點もあるだらうと思ふので十分に此の點を研究して、今から講和會議への準備をして貰ひたい、總理大臣は之に對して、公然ではないけれども、直接間接に此の歴史的事實を十分に調べまして、今日迄に申出て居るのである、恐らく考慮されることであると思ふ、それから移民のことであります、八千萬人の同胞が此の小さな島の中に居つて、八千萬人に對しては九千萬石の米が穫れなければ、六千萬石や五千五百萬石では足りる譯はないのであります、山の天邊迄陸稻や田を拵へた所で、足りつこはない、どうしても人間が餘り多過ぎるからして、移民と云ふことで解決すると云ふことが先決問題でなくてはならないのである、其の點に付てどう云ふ考を持つて居るか、之に付きましても、司令部の方へ色々努力して居る次第であるんだから、又其の效果も漸次現れることであらうと思ふと云ふことであります、それから交通のことに付きましも色々、自動車道路網、トラツク、それからデイゼルの車、それから陸輸と海の方の汽船の方面、燃料問題等に付て、詳しい色々計數等を擧げた質問應答がありましたが、是等は總て速記録に讓ります、其の外重大な問題も多々ありますけれども、是は割愛さして戴きます、而して本日午前各分科主査の報告を承りまして、午後討論に入りまして、採決を致しました處、豫算案全部、原案通り可決に相成りました、此の段御報告申します発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=75
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076・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 西男爵より討論の通告がございましたが、席に居られませぬから、通告は放棄せられたものと認めます、別に御發言もなければ、是より採決を致します、御異議がなければ、五案全部を問題に供します、五案に贊成の諸君の起立を請ひます
〔總員起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=76
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077・徳川家正
○議長(公爵徳川家正君) 全員起立、予算各案は全會一致を以て可決せられました、明日は午前十時より開會致します、議事日程は彙報を以て御通知に及びます、本日は是にて散會致します
午後二時五十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009203242X02319470325&spkNum=77
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