1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
所得税法を改正する法律案(政府提出)(第二五號)
法人税法を改正する法律案(政府提出)(第二六號)
特別法人税法の一部を改正する等の法律案(政府提出)(第二七號)
土地台帳法案(政府提出)(第二八號)
家屋台帳法案(政府提出)(第二九號)
地方税法の一部を改正する法律案(政府提出)(第三〇號)
地方分與税法を改正する法律案(政府提出)(第三一號)
相續税法を改正する法律案(政府提出)(第五三號)
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昭和二十二年三月二十四日(月曜日)
午前十一時三分開議
出席委員
委員長 金光義邦君
理事 神田博君 理事 宮前進君
理事 中崎敏君
安部俊吾君 中野武雄君
亘四郎君 武田信之助君
田中實司君 神戸眞君
菅原エン君 林田正治君
松永義雄君 川島金次君
石崎千松君 的場金右衞門君
三月二十三日委員二階堂進君辭任につき、その補闕として的場金右衞門君を議長において選定した。
三月二十四日委員八木佐太治君辭任につき、その補闕として林田正治君を議長において選定した。
三月二十四日委員菊池長右ェ門君、厚東常吉君及び綿貫佐民君辭任につき、その補闕として中野武雄君、亘四郎君及び田中實司君を議長において選定した。
出席政府委員
内務事務官 柏村信雄君
大藏政務次官 北村徳太郎君
大藏事務官 前尾繁三郎君
大藏事務官 福田赳夫君
大藏事務官 渡邊喜久造君
大藏事務官 忠佐市君
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本日の會議に付した議案
所得税法を改正する法律案(政府提出)
法人税法を改正する法律案(政府提出)
特別法人税法の一部を改正する等の法律案(政府提出)
土地台帳法案(政府提出)
家屋台帳法案(政府提出)
地方税法の一部を改正する法律案(政府提出)
地方分與税法を改正する法律案(政府提出)
相續税法を改正する法律案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=0
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001・金光義邦
○金光委員長 會議を開きます。この際お諮りいたしますが、去る二十二日をもつて本委員會における質疑は終了いたしましたが、的場金右衞門君より質疑の通告を昨日受けましたので、簡單な補充的質疑ならこれを許したいと思いますが、御異議はございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=1
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002・金光義邦
○金光委員長 それでは的場君簡單に願います。的場金右衞門君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=2
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003・的場金右衞門
○的場委員 自作農創設のための不動産讓渡に對する利得上の特例が廢止されまして、今までは自作農創設によつて土地を賣つた者に對しては免税になる特例があつたのでありますが、それがなくなるということになると、從來は土地をもつている者が自由意思によつて販賣したのに、それでも免税と同じような恩典が與えてあつたのに、今度は強權をもつて無理に土地の所有者から農地を買上げて、自作農を創設しようとする。そのためには非常な無理もあるのに、こういう恩典をなくすることは、非常に不合理なように思いますが、これは別な方法で適當に處置していただくのでありますか、その點をお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=3
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004・前尾繁三郎
○前尾政府委員 この自作農創設のために買入れをする。その半面に地主が賣却いたします場合については、讓渡所得は御承知のように財産税の評價の價格により、三月三日前から保有していたものについては、財産税の評價に五%プラスしたものを超える場合に、初めて譲渡所得がかかるのでございます。現在の政府の買入價格によつては、讓渡所得は全然出ないのです。讓渡所得がかからないということによつて課税いたしておらないのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=4
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005・的場金右衞門
○的場委員 全然課税されないことになりますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=5
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006・前尾繁三郎
○前尾政府委員 全然課税されません発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=6
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007・的場金右衞門
○的場委員 次に勤勞所得に對しては所得税の免税點が引上げられることになりました。その際農業所得の免税點を同樣に引上げることに、附帶條件として決議されておりますが、これに對してはいかなる措置をなさるのであるか。農業所得は御承知の通り、その大部分が農業者の勞賃にひとしいものが農業所得になるのでありまして、正しくこれは勤勞所得であるが、これについて免税點引上げをどうなさるか、お伺いしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=7
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008・前尾繁三郎
○前尾政府委員 從來の農業所得は二千四百圓の基礎控除であり、事業所得は千二百圓の基礎控除でありましたが今囘は一率に四千八百圓を控除するということにいたしたのであります。ただ勤勞所得については、所得から二割控除する措置を講じておりますが、農業所得については、自家勞力はもちろん相當以上に使つておるのでありますが、なお普通においてはやはり資産と勤勞との共同所得というように考えているのであります。しかし從來のように、基礎控除が半分だというようなことより一率にこの際引上げ、同一にした方がむしろ簡明であり、また小農者に對する負擔を輕減するという趣旨に副うというようなつもりで、いずれも四千八百圓の基礎控除にいたしたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=8
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009・的場金右衞門
○的場委員 税制調査會の答申案の中に、農業税を創設するという御意見が加わつておるようでありますが、政府はこれに對して、いかようにお考えになつておるのでありますか。農業税というようなものを創設される御意向があるのでありますか。どうですか。これをお伺いします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=9
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010・前尾繁三郎
○前尾政府委員 農業税という思想は從來地租の課税が最近におきましてはずつと以前の賃貸價格を使つておりますので、地租の負擔が割合に輕い。從いまして最近の純益に對して課税をしておる。すなわち營業所得と農業所得の間のギヤツプができてまいつておるのであります。また最近は農村は比較的裕福であるというような意味からして、農業所得に對する特別の課税を考えたらどうかという税制調査會の御意見でございます。私どもといたしましても、ある程度の理由はあると考えておるのでありますが、それは結局地租の負擔が非常に安いというところに原因がありますのと、もう一つは農業に對して特別の課税と言いましても、適當な課税がただいまのところ見あたらないのであります。これは愼重研究した上でありませんと、ただいまのような際に、簡單に農業所得に課税するというようなことでは、かえつて大きな弊害も出てまいります。これは相當研究した結果でないと何とも申し上げられないというつもりで、今囘は全然考えておりません。將來の問題として研究は進めてみたいというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=10
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011・的場金右衞門
○的場委員 農業税を創設するというような御意見に對しては、私どもは絶對反對の意思を表示するものであります。農業所得というものは、これは隱れたるところに收入がないので、すベて表向きになりますので、むしろ重税に陷りやすいのでありまして、ほかの所得税に比べて、農業所得に對する税金は重税にこそなれ、比較的輕過ぎるというような考え方は、間違つておると私どもは考えておるものであります。今主税局長の御答辯によつて、現在は考えておらないが、やがて研究を進めるというお話でありますが、この意味において、將來もこういう惡税を創設されないように、御配慮を願いたいと考える次第であります。
その次にお伺いいたしたいのは、大藏大臣が先般の議會において、農業所得に對しては生産費を差引いた純所得に課税するとお答えになつておるのでありますが、その生産費の計算が税務署の方で計算されますときに區々まちまちでもあつて、はなはだ不合理、不適正なる計算によつて課税されますので、不公平があり適正を缺く場合がしばしばあるのでありますが、これを適正にするために、農業の專門家の調査したところを尊重して、それによつて課税をするというような方法に改められた方が適正な課税ができると思います。農業に關して何らの知識經驗のない税務署の吏員たちが計算されますのでは純所得の出方が非常に場所により人によつて違うので、不合理な點が多いようでありますが、これを何とか是正する考慮はされておらないものでありますか。この點をお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=11
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012・前尾繁三郎
○前尾政府委員 昨年の農業所得の課税につきましては、從來御承知のように、農業所得に對してはあまり大きな課税をいたしておりません。ところが昨年におきましては、米價の引上、その他かなりやみ所得等の激増いたしたものがありますので、かなり所得を一般的に引上げたのであります。それが初めてのことでございますので、あるいは課税が徹底しなかつた。あるいは必要經費その他の見積り方等に對しまして、御趣旨に副うようなわけにいかなかつた場合も多々あつたと思います。それに對してはもちろんわれわれといたしまして相當研究し、もちろん將來におきましても研究いたしまして最も適正な基準でやりたいと考えておるのであります。ただこの計算の基準は、もちろん税務署で調べるのであります。また從來におきましても、各農家について實際の支出がどういうようになつておるかというようなことを多數調査いたしました結果によつて基準をきめておるのでありまするが、その際に農家の方の意見、あるいは農業の專門家の意見というようなものについても、從來からも聽いておる次第であります。ただ昨年は先ほども申し上げましたような事情で、あるいは徹底していなかつた點が多々あつたかと思うのでありまするが、もちろんその實際の經費がどういうふうにかかつておるかということについては、將來につきましても、十分各專門家の意見を參考といたしまして、きめていきたいというふうに考えておりますので、將來はかなり公正な計算をいたすことに相なることは、私ここで十分お約束申し上げることができると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=12
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013・的場金右衞門
○的場委員 もう一つお伺いしておきますが、農業者の自家用に使つておりまする運搬用車、いわゆる牛車、荷馬車でありますが、これを免税される御意思がないのでありますか。また自家用であつても、時々賃稼ぎをするというようなものについては、營業用のものと特別の處置を講ぜられる御意思はないのでありますか、その點を伺います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=13
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014・柏村信雄
○柏村政府委員 ただいまお話の點は、むしろ國で一律できめるべきものでありませんで、地方税として特別に法定外獨立税ということで府縣の實情に應じて徴收しておるわけであります。一律にとつておるところもありますし、區別してとることが適當と感ずる府縣におきましては、そういうふうに措置しておるわけでありまして、特別この點について中央で畫一的な指導はいたしておらぬ次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=14
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015・的場金右衞門
○的場委員 私の質問はこれで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=15
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016・金光義邦
○金光委員長 これにて質疑は終了いたしました。これより所得税法を改正する法律案、法人税法を改正する法律案、特別法人税法の一部を改正する等の法律案、土地臺帳法案、家屋臺帳法案、地方税法の一部を改正する法律案地方分與税法を改正する法律案、相續税法を改正する法律案を一括、議題として討論に付します。討論は通告順によつてこれを許します。日本自由黨神田博君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=16
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017・神田博
○神田委員 私はただいま上程に相なりました法案につきまして、日本自由黨を代表いたしまして、政府提出原案に賛成せんとする者であります。本法案は實に中央地方を通じまして、税制といたしましては、まつたく畫期的の大改正であり、まだ相當の増税にも相なつているのであります。從いましてこれが施行にあたりましては、親切かつ公平を期せられまして、いやしくも苛劍誅求にわたらないような御配慮を切望いたしたいと思うのであります。以上申し上げまして原案に賛成する次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=17
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018・金光義邦
○金光委員長 林田正治君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=18
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019・林田正治
○林田(正)委員 私は日本進歩黨を代表しまして、ただいま上程せられました所得税法一部改正ほか七件について原案に賛成する者であります。なお原案賛成の趣旨につきましては、ただいま自由黨の代表が述べられたことに全然同感であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=19
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020・金光義邦
○金光委員長 松永義雄君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=20
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021・松永義雄
○松永(義)委員 私は所得税法ほか七件につきまして、日本社會黨を代表しまして反對の意思を表明する者であります。
その理由はこのたびの税法の意圖する目的の重大なる一つは、もちろん惡性インフレ防止にあると思うのであります。しかるに一方に物量が不足しております。他方に厖大なる通貨量の存在しているがために、著しく物價高を刺激しまして、その結果かえつて生産力を阻害する程度に立至つていることを認めなければならないのであります。從つて財政政策においても、また税制政策においても、斷固たる處置をとらなければならないわけであります。ところが依然舊態を保持して資本家本位の温存政策に堕している方針をとつております結果、あるいはこの先とつております結果、あるいはこの先破綻に瀕するやもしれぬという警鐘を耳にするような次第であります。國民はこうした非常時のときは、すべて乏しきに耐える覺悟をもつて、お互いにがまんしてやつていかなければならぬのでありますが、それもかかわらず、もしそこに極端に不平均なる生活をつくり出すようなことがあるとするならば、今日必死の努力をもつて日本の再建を行つていこうという障害になるのではないかと思うのであります。
まず第一に考えられますことは税の徴収が本來はデフレを起して物價の下落を招くべきではありますが、かえつて今日の税の徴收が物價の騰貴を來しているという現象を見ているのであります。すなわち間接税が消費者に轉嫁されるというならばまだよろしいけれども、比較的轉嫁のしにくい直接税であるところの財産税やあるいはまた増加所得税が、商品の製造工場あるいは商人におきまして、あたかもこれが輕微なるがごとくに見なして、そうして製品の價格に加算して販賣しているようなわけであります。それがために商品の價格というものは、きわめて浮動であります。また區々としてほとんど統一を見ておらないような現象を呈してまつたく市價というものがないような感がありまして、隣同志でもつて同じような品物を賣つているにもかかわらず、値段の相違を來しているというような現象を所在に見ているのであります。これはもとより物の量の不足せるゆえんであることはもちろんでありますが、ただ問題は、こうした品物を買い得る人と買い得ざる人とが存在することであります。また買い得る人が少いにもかかわらず、そのように價格がなぜ上つていくかということは、物量が非常に少いからなのであります。こうした購買力が、きわめて一部に偏在し、また物がきわめて一部に集まつてそうして變化しないばかりでなく、しかもそのものが生活必需品なる場合において、きわめてこれは重大なりと言わなければならぬのであります。かくのごとき結果を生じたことは、財政經濟政策が誤つているがためであります生産政策が伴わないためでありまして二十二年度の豫算を何がゆえに社會黨が返上するにいたつたかという一つの理由なのであります。一方にこうした生産政策を缺いている、そうしてかくのごとき徴税がかえつてインフレを刺激しているその本來の趣旨であるところのデフレの健全財政の目的と背馳する結果に陷りつつあることが、すなわち私がただいま議題に上つている本案に對して反對するゆえんの一つなのであります。かりに一歩讓つて今度の税制政策が健全財政の線に沿つて、どうやらこうやら、このままもつていくということを想像するにいたしましてもこのインフレ對策としてこの税制の中に非常に隙間が多いということを認めなければならぬのであります。これを簡單に申し上げますと、つまりインフレ所得層の高額所得者に對して課税する程度がはなはだ低いということであります。すなわち換物利得者が非常にある。ところが換物利得者に對しては何ら對策を講じておらぬ。また自然にインフレによつて値上りを來たして、非常に財産を増加している者がある。こうした財産を増加している者に對して、何らの利得税というようなものを考えておらぬ。今日のような場合において、物のきわめて少いときには、しかもまた札が驚くほど出ているときに、インフレの對策としては、微に入り細にわたつて、そうして網の目を細かくして、できるだけこれを捕捉するという努力がなければならぬのでありますところがそうした努力はほとんど見受けられないのであります。しかもなお消費税は比較的多い。勤勞階級の負擔になつているところの消費税がきわめて多い。しかも他方高額所得者に對する直接税の面において、十分にこれを研究しておらないそうです。ただいま議題になつておりますところの税制改革案というものは、決してインフレ對策として完全なものではないということを、われわれは申し上げなければならぬのであります。
さらに申し上げたいことは大藏大臣は健全財政をとることができた、ようやくにしてその目的を達したかのごとく言われた。これに對する批判を幾多豫算委員會において論議せられておるのでありますが、ともかく大藏大臣は五月頃に至れば何とか落ちつくだろう。こういうことを申されております。しかし五月に落ちつくことがはたして勤勞階級にとつて幸いな結果になるかどうかということについて、大きな疑いがあるのであります。なぜならば現在ここに多額な通貨量が出ておる。しかも物が少い。なるほど勤勞階級の諸君は爭議によつて一應曲りなりにも所得を増加することができ得たでありましよう、給與を殖やすことができ得たでありましようが、それに伴つて物價というものが平均し、均衡を得ておるならばよいけれども、物價はますますその後高騰するばりでありまして、勤勞階級の生活は、ますます苦しくなつていくばかりであります。わずかに勤勞階級は札の面からみると未だかつてもらわないような多量の紙幣をもらつておりますために、何かこう一時自分がたくさん金が入つたような感覺をもつて、その瞬間はともかく何か幾分でも滿たされたような感じをもつておるのでありますが、ひとたびこれを物に替えようとして物を買いに出ますと、いかにも自分のもらつた札の少いということを、今さら覺るのであります。すなわちインフレの一つの麻醉政策にかかつておるのでありまして、自分が非常に損をしているにもかかわらず、わずかな給料の値上げによつて一まずそれで滿されたような感じをもつていることは、やがてはいつかははね返りまして、自分のほんとうの數字に立ち返る時が來るであろうと思うのでありますが、そのように今日勤勞階級の生活というものは非常に苦しい。その苦しさの原因となつておりますこの通貨量なり、あるいはまた物の不足というこの現状が、五月ごろに至つて安定する、そして五月ごろまで現状が維持されていくということになりますれば、勤勞階級は多少浮び上るような感じをもつておるけれども、依然として苦しさは續くばかりでなく、ますますその苦しさが増していくということになる。すなわちわれわれからいうならば、通貨量をもう少し低いところに引きおろしたい。また物價をもう少し下げたい。そしてせつかくもらつたのでありますから、その給料が物に換え得るような程度に物價を引きおろしたいという希望に燃えておるのでありますが、ところが現状のまま持續されていくようなことがありますと、勤勞階級はますますその生活に苦しんで再びまた不祥事を釀さないとも限らない。あるいはまた釀さなければならぬような結果になるということを憂えるものである。私としましては、こうした財政政策というものは、ちようど濱口内閣が行つた財政政策と同じようなものである。問題はデフレとインフレの差だけである。ただいまも最後に御質問がありました農業所得税の問題について反對せられたその趣旨も、また農村と都會とを比較してみますと、當時農村はその生産費におきまして非常に蒿みまするが、反對にいかに物をやみ賣りで賣りましても、勘定はとれないというような結果に陷り、依然として都會の勤勞階級と農業者は苦しまなければならぬ。われわれも濱口デフレ財政におきまして、勤勞階級が街頭に放り出されて失業者となり、農村においては金錢收入が不足していわゆるモラトリアム運動を起した。今はなるほど未だかつてみない金錢收入を得たために、農村は喜んでおりまするが、しかしそれは一片の麻醉劑に過ぎない。また都會においては、既にこれは自覺されつつあるのでありまするが、給料が殖えてみたところで、それ以上に物價が上りつつあるのでありますから、勤勞階級は苦しんでいかなければならぬ。こうしたことは、やがては勤勞階級の本然の目標であるところの勤勞意欲にも大きな關係がもたれてきまして、生産力の上昇の上に、大きな障害になろうと私は思うのであります。依然として石橋大藏大臣の財政というものは、昔からのあり來りのままの指導精神によつておるのであります。そうではなくこの物の少いとき、お互いに苦しんでいかなければならぬときに、しかもごく少數のものであるけれども、非常に豐かな者がある。他方においては物が少いからがまんをしろといつてむやみにおしつけられるところの層がきわめて多數存在しておる。こうした財政政策なり豫算なりが、生産力の上に大きな惡影響を及ぼすことは當然でありまして、豫算におきまして生産力を増し他方に税制政策において税金をとり得る者からこれをとり上げるというところに、初めてそこに日本の建設ができるのでありまするが、大藏大臣の考え方は依然として金をもうけることが生産力を刺激する。もうかるものにはうんともうけさせろ、そういつた方針をとられてこられておるのでありますが一時はそれである程度に目的を達するかもしれませんが、ある段階に達しますと、それが自覺されてきますときにまたもや昔の濱口内閣以後におけるところのいろいろの現象が生れて來はしないかということを、憂えるものであるのであります。
ゆえに私はいろいろの理由をもつておりますが、主として以上述べました觀點からしまして、われわれが豫算案を返上いたしましたと同じように、われわれは遺憾ながらここに議題になつておりますところの議案に對して、反對の意思を表示して、返上しなければならぬのであります。以上日本社會黨を代表しまして、反對の意見を表明するものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=21
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022・金光義邦
○金光委員長 石崎千松君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=22
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023・石崎千松
○石崎委員 私がかつてここでお尋ねしましたように、物價がますます上つていくということは、大藏當局が認められておる。そうしてその行きつく先はどこであるか、どこに行つて止まるかということもわからない。それに對してはあらゆる施策が必要であると述べられております。私もその説には一應承服するものであります。しかしながら、今日の日本の状態をみまして、あらゆる施策を用いてみても、國内だけでは容易に收まらないと考えております。かような例は外國にも幾らもあります。一國内に自然に起つたところの經濟變動というものが、一國内の手によつてこれが克服された、あるいは收まつたといつたようなものは、ほとんどないと言つていいのであります。日本もまたこの自然に起つたところの經濟變動、この經濟現象というものに對して、日本一箇國だけの手をもつてこれをしとめようとすることは、大河の水をせき止めようとするに似ておつて私はほとんど不可能な状態にあるように考えるのであります。しかしながら、ともあれ政府はあらゆる手段を講じでこれを止めようとしております。そうなくちやならないのであります。その一つとして、租税の面においてかような手を打つ、國家が必要なだけのものを支出するにあたつては、必要なだけの收入を考えなくちやならぬということにおいて異議はないのであります。從つて私は本日上程されておりますところのこの議案に對して、國民協同黨を代表いたしまして賛成の意を表明しますが、ただあらゆる施策というものは、速やかに行われぬ限りには、この改正法案というものは、幾たび繰返しても効能がない、絶えずこういうような煩雜さを經ていかなければならぬということになりまするから、どうかこの點を十分御注意下さつて、さらにまたこの改正にあたりましても、もつともつとより勤勞大衆というものに對して十分お考えをくださつて、國家の背骨であるところの中産階級あるいは勤勞大衆というものに封じまして、もう少し同情のあるようなやり方を、今後やつていただきたいということを附加えて賛成の意思の表明をするものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=23
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024・金光義邦
○金光委員長 討論は終局いたしました。これより採決をいたします。各案とも原案に賛成の諸君は起立を願います。
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=24
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025・金光義邦
○金光委員長 起立多數。よつて各案はいずれも原案の通り可決いたしました。
この場合一言御挨拶を申し上げます。委員長不慣れのため、御審議上の御不便多かりしことと恐縮いたしております。本税制諸案は、國民の負擔に大影響を有する重要法案であるにもかかわらず、短時日の間に議了をみましたことは、委員各位連日の御精勵の結果にほかならず、その御勞苦に對し深甚の敬意を表する次第であります。これにて散會いたします。
午前十一時四十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009211577X00419470324&spkNum=25
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