1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
付託議案
勞働基準法案(政府提出)(第九號)
—————————————————————
昭和二十三年三月十二日(水曜日)午前十時三十七分開議
出席委員
委員長 矢野庄太郎君
理事 小島徹三君 理事 椎熊三郎君
理事 土井直作君
關谷勝利君 荒畑勝三君
伊藤卯四郎君 中原健次君
石田一松君 野本品吉君
野村ミス君
三月十一日委員小川半次君辭任につき、その補闕として山下春江君を議長において選定した。
出席國務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
厚生大臣 河合良成君
文部大臣 高橋誠一郎君
出席政府委員
文部事務官 稻田清助君
厚生事務官 吉武惠市君
厚生事務官 寺本廣作君
━━━━━━━━━━━━━
本日の會議に付した議案
勞働基準法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=0
-
001・矢野庄太郎
○矢野委員長 會議を開きます。法案について厚生大臣より提案理由の説明を求めます。厚生大臣。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=1
-
002・河合良成
○河合國務大臣 勞働基準法案の概要について説明いたします。本法案は既に本會議でも説明いたしました通り、勞働條件の最低基準を定める法律であります。憲法第二十七條の趣旨竝びに現下の勞働情勢に鑑みまして、勞働者の基本的權利と目すべき最低勞働條件を法律で規定することは、わが國の再建にとつて必要缺くべからざるところであります。本法案はかかる要請に基いて提出されているのでありますが、その規定するところの概要は次の通りであります。
すなわち第一章總則は勞働條件の決定に關する基本的な諸原則を規定したものであります。國際勞働會議の設置を決定した一九一九年の平和條約勞働編は勞働憲章として、勞働が單なる商品と認めらるべきものにあらずとする原則のほか八原則を掲げているのでありますが、その後における勞働問題の進展と、わが國勞働問題の特殊性に鑑みまして、ここに勞働條件の原則を規定したのであります。勞働條件の原則としては、勞働者解放の歴史に徴し、勞働者に對して人格に値する生活を保障することを目的としまして、勞働條件の決定については、勞働者と使用者の間を法律的意義においてのみでなく、事實の上においても對等たらしめんとする勞働法制の理想をうたいまして、均等待遇、男女同一賃金の原則においては、新憲法の掲ぐる平等の理想を勞働法の分野において具現することを企圖いたしまして、強制勞働の禁止、中間搾取の排除におきましては、わが國の勞働關係に殘存する封建的惡習の絶滅を期しまして、公民權の保障においては、勞働者の地位の向上に伴つて擴大して來たその公的活動を保障せんとするものであります。この章はこれらの諸原則を明示いたしまして、勞働條件の決定にあたりましては、勞資双方にその赴くべき基本的方向を示さんとするものであります。
第二章は勞働契約の締結及び解除に伴う諸般の問題について規定したものであります。雇傭契約については民法にその一般原則に關する規定がありますが、その規定には近時の勞働契約にはそのまま適用しがたいものがあります。またその效力においても不十分な點がありますから、ここには勞働法制上必要な特別な規定をおきまして、すなわち勞働契約に附隨して惹起されやすい勞働者の身分的拘束を排除するために、契約期間、賠償豫定の禁止、前借金相殺の禁止、強制貯金の禁止等に關する規定を設けまして、勞働契約の締結または解除に際し發生する勞働者の生活問題を必要の最小限度に保障するために、勞働條件の明示、解雇制限、解雇豫告等に關する規定を設けたのであります。
第三章は賃金支給に關する原則的事項及び最低賃金を規定したものであります。物給制の禁止、一定期日拂、直接拂、全額拂等は勞働者の基本的權利として必要な規定であります。使用者の責に歸すべき事由による休業の場合には、賃金の六割までは休業手當として強制力をもつこの法律で保障することに致しました。最低賃金制に關しては、この法律自體にはその金額を定めることとせず、ただ單にその方法と原案作成の手續と効力を規定するに止めました。すなわちその方法としては、最低賃金が事業別、職業別に定められるべきこと、その原案は勞働者側使用者側及び公益代表をもつて構成されておる賃金委員會が作成すべきこと、及び一旦最低賃金が決定された場合には、特殊の事例を除きこれ以下の賃金による勞働者の使用は認められぬことを現定しております。最低賃金制は勞働者の最低生活保障に關し特に重要な意義をもつものでありますが、その金額は經濟情勢の變化に應じ斷えず變化すべきものでありますから、これを法定することとせず、ここには一般の最低賃金法制の例にならい、原則的規定を掲げるに止めまして、これが具體的決定は所要の制約の下に行政官廳に委任することとしたのであります。
第四章は勞働時間、休憩、休日及び年次有給休暇に關する規定であります。勞働時間としては實働八時間制を、休日としましては週休制を規定しました。八時間勞働制と週休制は、第一囘國際勞働會議以來國際社會のみならず、あまねくわが國においても理解せられ、今日既に廣汎に實施せられておるのでありまして、これを法律上の最低基準とすべき時期であると考えるのであります。ただわが國の實情に鑑みまして、八時間勞働制と週休制とはこれを嚴格なものとせず、團體協約と二割五分の割増賃金という二つの條件の下に例外を認めることといたしました。なお八時間勞働制に關しましては、非工業的企業については、特殊の必要がある限り命令をもつて特例を定め得ることといたしました。年次有給休暇につきましては、廣く國民に理解されている制度でありますので、全勞働日の八割出勤を條件として、繼續一年について六勞働日の有給休暇を認めることといたしました。
第五章は安全衞生に關する規定であります。職場が安全にして建康に適するものであるか否かは、働く者にとつて最も大きな關心事の一つであります。その詳細は法律では定めがたいものがありますので、この法律は原則的事項を規定するに止めまして、具體的な内容の規定はこれを命令に讓つております。疲弊せるわが國産業の現状をもつてすれば、この方面における物的施設の改善については、多くを期待し得ぬものがありますが、なお事情の許す限り、命令において高き水準が企圖されなければならぬと存ずる次第であります。
第六章は女子及び年少者に關する規定であります。健康上特殊の考慮が要請されております女子及び年少者に對しまして特別の規定を設け、これが保護に遺憾なきを期することは、社會主義に立脚せる民主國家の當然の責務であります。この法律では、年少者の保護年齡を十八歳に定めまして、最低年齡を十五歳とし、非工業的企業では滿十二歳以上の者を特定の嚴格な條件のもとで使用することを認めました。滿十五歳以下のものについては、一日の勞働時間を修學時間を通算して七時間とし、滿十五歳以上の保護年齡該當者には嚴格な八時間制を適用し、その他安全、衞生、深夜業等で特別の保護を加えました。女子については、八時間制に對する勞働協約による時間外勞働に一定の制限を加えまして、休日勞働を禁止し、深夜業、産前産後、育兒時間等從來認められてゐた制度にはそれぞれの改善を加えまして、また生理休暇については、所要の最小限度においてこれを法律に規定することにいたしました。
第七章は技能者の養成に關する規定であります。從來徒弟制度はわが國における劣惡勞働の一事例とされておるのでありますが、ここにはその弊害を除去するとともに、勞働の過程において技能者を養成する特殊の必要がある場合には、技能者養成委員會に諮つて特別の規程をつくりまして、この規定において技能者養成のための必要と、この法律の最低基準との調整をはかることといたしました。而してこの規程によつて技能者たらんとする者を使用する場合には行政官廳の認可を要することとして、産業の必要を充足するとともに、弊害の防止に遺憾なからんことを期したのであります。
第八章は災害補償に關する規定であります。その原則は從來わが國の勞働法制で確立されているところを踏襲したものでありますが、この法律では災害補償に關する實質上の責任と、これに對する補償義務をでき得る限り一致させることといたしました。また災害補償の義務額は、産業の負擔力の限度において災害犧牲者の最低の必要を充足することを目途としてこれを決定いたしました。災害補償に關する紛議については、これを簡易に、迅速に、公正に處理するため、監督官による審査仲裁のほか、勞働者側使用者側及び公益代表をもつて構成する勞働者災害補償審査委員會を設け、これが審査仲裁に當らせることといたしました。
第九章は就業規則に關する規定であります。就業規則は勞働協約がない場合、または勞働協約の規定せざる勞働條件については、個々の勞働契約に對して準則的效力をもつものであります。ここには、就業規則のかかる效力を法律に規定するとともに、その作成を一定規模以上の事業場に要求しまして、これが作成については勞働者に發言の機會を興えることにいたしました。
第十章は寄宿舍に關する規定であります。土建、纖維等においてその例を見るごとく、通勤距離内において所要の勞務が充足されない場合、事業附屬の寄宿舍が設置されるのはやむを得ない制度でありますが、寄宿舍生活においては、從來ややもすれば勞働者は一定期間その全生活の自由を拘束されるがごとき觀を呈する事例なしとしないのであります。本章の規定はかかる弊害を除去し、寄宿舍における勞働者の私生活の自由を確保することを目的としたものであります。
第十一章は監督官に關する規定であります。この種の勞働條件に關する法律の實施を確保するための行政機構については、先進諸國においては長い間の歴史に基いて確立された制度があります。前に申しました勞働憲章は、その一項目として監督制度の確立を掲げ、かつ國際勞働會議は各國監督制度の實績に根ざす詳細な勸告を採用しております。この法律の監督制度は、國際的に是認されているこれらの制度に則つて規定したものであります。
第十二章は雜則でありまして、主としてこの法律の實施上必要な諸般の事項を規定したものであります。
第十三章は罰則に關する規定であります。他の刑罰規定との均衡を考慮の上、この法律の實施を有效ならしめるため、必要な限度において所要の罰則が規定されております。
本案の概要は以上説明いたしました通りであります。何とぞ御審議の上御協贊あらんことを希望する次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=2
-
003・矢野庄太郎
○矢野委員長 それでは質疑に入ります。通告順によつて許します。中原健次君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=3
-
004・中原健次
○中原委員 私はこの法案に對する質問に入りまする前に、私ども特に勞働者の立場に立ちまする者にとりまして、この勞働基準法の實現することに對する待望はまことに切なるものがあつたのでございます。この間いろいろな曲折もございましたことと思いますが、特にここにこれだけの内容において上程されましたことについては、厚生當局、特に事務當局の御苦心に對しまして、心から敬意と感謝をささげておく次第であります。しかしながら内容をつぶさに檢討いたしてみますると、私どもといたしましては、いま少し滿足しがたい點を、しかも各所に發見いたすのであります。もちろんこれにはわが日本のいろいろなる國内事情に關連いたしまして、やむを得ざる點もあつたであろうということは、もとよりこれを想像するにかたくないのでありますが、しかしながら、またものによりますと、いわゆる認識の相違點も原因いたしましたか、必ずなさるべきはずのものがなされていない點を指摘しなければならぬのであります。このような意味におきまして、この法律案をより完全なものたらしめ、より勞働者の期待に副わしめるために、善意なる努力をお拂い下さることを、まず衷心より念願してやみません。
まず私が質問をいたしたいと思いまする最初の一點は、勞働時間に關する事柄でございます。この勞働時間のことに關しまして、さきの本會議において厚生大臣は、八時間勞働制を決定したことは、わが國の各種の事情に鑑みてまことに適當なるものであるという意味のお答えがあつたように記憶するのであります。これにつきまして、私はまず八時間勞働時間を御決定になりました、その妥當であるとするための理論的な根據がどこにおかれたのであるか。このことについてまずはつきりと大臣の御見解を承りまして、引續き質問を續けたいと考えるものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=4
-
005・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの中原君の御質問にお答えいたします。この法律は、いろいろ當局において急いでやりましたのですが、どうも前議會に出すことができないで、今議會までになつたことははなはだ遺憾でありました。しかしいろいろ當局が苦心したことについて、お言葉を賜つてはなはだ感謝にたえない次第であります。それで勞働時間の問題につきましては、これは將來の理想としましては、拘束八時間、もし産業的、技術的に國力が非常に發達しますれば、それ以上にも勞働者の時間を短縮すべきことはよいと私どもも考えておりまするが、この日本の現状から見まして、しかもこの法律が最少限度をきめるものだという意味をもつて、國際的の大體の水準でありまするところの最低限實働八時間をとることが、内外の情勢から見まして適當であると考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=5
-
006・中原健次
○中原委員 國際的な最低限度の勞働時間として、八時間を採用したというお言葉でありましたが、私はこの八時間の問題につきましては、最初に、現在わが日本の國内における勞働實情がいかがになつておるかということに對する認識が、まず必要なのではなかろうかと考えるのであります。現在わが日本の勞働時間の大體常識は、拘束八時間ということになつておるのであります。殊にこの世界的に劣惡なる、勞働條件のもとにおかれておるわが日本において、拘束八時間の常識を既にここにつくり上げるに至つたという事柄は、その間勞働階級が言いしれぬ數々の困難を排除いたしまして、勞働階級の文化的、健康的生活を守るために、ようやくここにかち得たところの成果であるのであります。そうであるならば、その勞働階級がようやくかち得たその成果を、しかもこの進歩的に規定されるべきはずの勞働基準法が、その下を濳る、すなわち實働八時間という點にこれを規定づけようとする事柄は、その勞働階級の苦心に對して、ある種の反逆的なことになるのではないか。このように私は憂えるのであります。殊にまた實情から申しますると、決してそれは拘束八時間だけではなくて、さらに進歩的な工場におきましては、拘束七時間の工場もあるのであります。あるいはまた土曜日をいわゆる半日勞働にいたしておる工場もあるのでありまして、これらの進歩的な工場も、決してそのためにその經營の採算上、大きな打撃を與えておるのではなくして、むしろそのような時間上の進歩性は、かえつて生産を増強せしめておるという實情とも相關連せしめて考えまするならば、必ずしもわが日本の現實の、いわゆる經濟復興の過程にある實情から、休憩時間を除くいわゆる實働八時間でなくてはやむを得ないというような理論は、必ずしもうがつてないのではないか。また私の知つておりまするある化學工場では、これは三井化學でありまするが、三井化學のごときは拘束七時間を採用しておるということである。これまた現實の疑いなき事實なのでありますが、このような事柄は必ずしも一、二の特別の例外ではないのでありまして、全國を通して考えまするならば、相當數のそれら進歩的な時間制をもつ工場を見出すことはかたくないのであります。こういうような實情から考えまして、なおかつ實働八時間を固守せなければならぬということは、私にはどうもうなずきがたいのであります。從いまして、わが日本の現實の事情に照らし合わせて、この原案をもう一つ思い切つて、拘束八時間にまで修正するための御所見はどうであろうかということを、もう一度繰返してお尋ねいたしておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=6
-
007・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの御意見、私どもも同感のところもありますが、ただこれは勞働時間の點につきましては、御承知の通りに、勞働者に對する衞生的の見地、一つの健康的においてという觀點から見なければならぬ。一つは能率の點、結局勞働時間と能率との關係というような點を見なくてはならぬと思うのでありますが、御承知の通りに、日本の産業につきましても、いろいろの状態を呈しておるのでありまして、時間を短かくしてかえつて能率が非常に上るような状態における設備なり、機械なり、あるいは勞働者の訓練なり、自覺なりのできている状態もありまするし、またそこまで行きませんで、やはり時間を實働八時間程度にしなければ、能率なり生産力が上らぬという環境、條件の工場もある。それからまた、この法律は工場ばかりでなく、非常に廣い範圍において勞働者、勤勞者にフイツトしてゆくことになつておる状況などもありまするので、やはり、今日の状態、特に日本再建ということを目標としておる状態においては、實働八時間という制度をとつてゆく。しかしこれは最低限度でありまして、廣い眼で見渡しまして、こうしなくてはならぬという制度であるから、もちろん事業の状態、條件いかんによつては、もつとこれよりも時間を短縮してゆくという制度は、それは隨所にとらるべきであり、またそれが自發的にとるべきである。殊に團體交渉權もこういうふうに相當強く働いて來ておるようなふうに勞働問題も發達したのでありますから、その間において勞働者、使用者の間において協議の上、いろいろこれ以上の結局短縮した状態にもなり得る最小限度の、全體を見渡しました上において最小限度の規定であるというふうにお考へくだされば、これで私は日本の實情においていいのではないかというふうに考えております。政府としましても、ただいまはこれを拘束八時間にするという考えはもちません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=7
-
008・中原健次
○中原委員 最初の御言葉から想像いたしますと、將來必ずそこに飛躍するであろうということも豫想されるのでありますが、現在わが日本は御存じのように、工場のあります主要都市は、大體戰災のために勞働者はかなり遠隔の地から通勤をいたしておる實情にあるのであります。從いまして交通機關、殊にあのはなはだ不滿足な交通機關を利用して、かなり遠隔の土地から工場なり事業場なりに通勤いたしまする勞働者にとりましては——なるほど實働八時間だけで考えますと、ただ八時間という數字のうちに内において議論が起るのでありますが、その家庭から工場まで出かけてまいりますために一時間、二時間を費しておる者は決して少くないのであります。從いまして、かりにそれを平均一時間半といたしましても、通勤のために往復三時間は消費されるのであります。しかもその消費されます往復三時間は決して樂なものではないのでありまして、その往復三時間の通勤時間中に消耗するエネルギーの消耗の量は、相當大きなものがあるのであります。わが日本の現在の經濟復興過程における實情から言えば、勞働者も極力働くことを覺悟いたしておりますけれども、往復の三時間に消耗するエネルギーの囘復、そのためにまた相當程度の休養を要することは言うまでもないのであります。これを合わせて考えまするならば、なるほど日本の特殊事情の後者の一つは、特にまた重要視しなければならない一點ではなかろうか。これが電車に乘りましても、直ちに腰をおろしてやすやすと通勤し得る場合における交通時の疲勞と今日のそれとは、そこに大きな開きをもつておるのでありまして、そういう點を十分考慮いたしまするならば、單に八時間という數字にだけとらわれて勞働日のことを考えることもできがたいのであります。特に勞働階級の眞の幸福を念願するための勞働基準法でありまする以上、この點に對しても愼重なる考慮を拂うことが絶對に要請されなければならぬと信ずるものであります。從いまして日本の實情ということの中に、勞働者にとつて最も困難なる實情を、特に大きく取上げて考慮すべきではなかろうか。このように思うのでありまするが、この一點について勞働者の通勤時における疲勞に對する御所見はいかがでございましようか。この點も一應この場合に承つておきたいと考えるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=8
-
009・河合良成
○河合國務大臣 交通機關に關するお尋ねはごもつともでございまして、これはどうしても他の面から是正しなくちや日本の産業生産力にも非常に影響をもつことは、お説の通りであります。ただこの法律は最低限度を規定しましたので、これ以上のことは法律をもつて禁止する、刑罰をもつて臨むという規定を全國的に設けておる趣旨でありますから、そういう場合には生産に大きな阻害のない事情において、いろいろ經營者と勞働者との協定もできましようし、またただいま御指摘のような、交通關係の害惡をこうむることきわめて少い所も全國に多々あることであります。これは最低限度をきめた——これ以上のことは刑罰をもつて臨むという最低限度をきめたことでありますから、その上はいろいろの事情によつて彈力をもつてゆくべきものであり、また實際はそうであると考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=9
-
010・中原健次
○中原委員 法律が一應こういう規定をいたしますと、いろいろな意味で、當然勞働日の點を考慮しなければならない工場が、基準法においてこうであるからという口實のもとに、この最低が最低ではなくして一つの標準になるというおそれは多分にあるのであります。さきに申しましたように、現在既により進歩的な勞働時間制を採用いたしておりまする工場が、もとより理由ありてそのようになつておるのでありまするが、この工場が今後さらに勞働條件の改善のために、時間の問題を取上げることが必ずあるとわれわれは期待するのでありまするが、そのような場合にこの勞働基準法が障害になりまして、基準法は實働八時間と規定しておるのであるから、拘束八時間あるいは七時間という制度をもつておりまする工場が、これ以上に時間の短縮をはかるということは既に考慮することをやめるのではないか、すなわち天井を打つのではないか。こういうおそれもあるのでありまして、この實働八時間にきめられました事柄は、そのような面においていろいろ勞働階級が不利益になる點が多々あるということを十分御認識願いたいのであります。殊に最初ちよつと觸れましたように、勞働時間が短縮されることによつて生産の能率が低下するという考え方は、一般資本家階級の通念でありまして、企業者はいつの場合にも、長く勞働者を使えばそれだけ生産の能率が上るというような、實に常識的なものの考え方をいたしておるのであります。しかしながらこの勞働時間のことがやかましく取上げられるに至りまして以來、國際的にもまた國内的にも勞働時間と生産能率の問題は、非常に熱心にそれぞれ專門家によつてこれが研究調査されてまいつたのであります。その結果からみましても、もちろん私がここでこのことをつぶさに申し上げるまでもなく、當局は既によく御認識と存じまするが、この勞働時間を適當な量に引下げたことによりまして、むしろ一時間あたりの生産能率は高まつておるという實情は、既に證明濟なのであります。さらにまたそれを一日の生産能率にいたしましても、これまた高められておるという證明が立派になされております今日でありますから、勞働時間を實働にせなければ國家の經濟再建のためにはなはだ支障を來すというような見解は、ここに既に容れられないのではないか。もちろんこの點につきまして大臣は、わが日本のいわゆる設備その他もろもろの實情から、必ずしも世界的なそういう專門的な研究にこたえるだけの事情にはない場合もあるというような言葉もございましたので、私もその點ではもちろん同感でありまするが、しかしながら現實われわれが今經驗してまいりましたいろいろな生産の職場、工場等における實情から申しまするならば、やはり適當なる休憩時間の配置、あるいは休息時間を相當程度與えるということによつて、いわゆる生産能率は一層飛躍高揚するということを、まのあたりに經驗をいたしておるのでありまして、この點については必ずしも實働八時間を固執せなければならない根據とはならない。このように考えるのであります。もちろん本法がいわゆる憲法の命ずるところによつて、國民に健康にして文化的な生活を保障するための一つの考慮をこの中に要請されておると考えるのでありまするが、そうなればなおさらにこの實働八時間の問題は、あくまでこれを固執するということではなくて、相當考慮する必要があるのではないか、このように私は考えるのであります。この點についてはもう繰返して御答辯を求めようとは考えませんが、一應私の所見をつけ加えておきます。
その次は三十六條でありまするが、この三十六條にいわゆる「協定で定めるところによつて勞働時間を延長し、」この點でありまするが、この三十六條によりますると、協定によれば無制限に勞働時間は延長することもまた可能である。こういうような解釋になると思うのであります。これはまた最初繰返し繰返し申し上げましたような見地から、はなはだ危險が伴うのではないかというふうに、私は解釋いたすのであります。協定によるといえども、その勞働時間を無制限に延ばすというようなことは、やはりこの基準法の性質から考えましても、相當考慮すべき一點ではなかろうかとかように考えるのであります。ひとりここに坑内勞働に關しましては「二時間を超えてはならない」ということをうたつてあるようでありまするが、この考慮、この用意が一般の場合にも考えらるべきではなかろうか、このように思うのであります。ことにまた坑内勞働の場合は二時間を超えてはならないということについて、これもこの二時間という時間の限度がはたして妥當かどうか。これについても私は疑惑なきを得ないのでありまするが、この兩者についての大臣の御見解を伺つてみたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=10
-
011・河合良成
○河合國務大臣 この問題は大體この勞働法規の建前から見ましてコレクテイブ・バーゲンを認めまして、そうしてやはり勞働者の、何と申しますか、個性というか、自由を認めることを大體の建前といたしておりまするので、それで契約の原則によつて、相方の當事者がそれでよかろうというときにはやつてもいいということを、大體の根本的建前にしております。と申すのはやはり賃金の收入の關係もありまするし、それからそういうふうにして増産可能の場合に、増産した方が相方のためにいいというふうに意見が合致しますれば、こういうふうにしても差支ないということを根本の建前にするわけであります。しかしながら公益的に見て、これはどうもそういうことをしては無理であるというようなものについては、炭鑛坑内勞働なり、あるいは特に有害なものについては、命令でそれを制限して行くというふうの建前が、まず今日の民主主義的に見て適當であろう。相方のことを考えましてこういうふうな建前にしたというふうに御諒承願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=11
-
012・中原健次
○中原委員 御存知のように勞働日の問題につきましては、既に國際的な一つの標準がきまつておると思うのであります。すなわち工場勞働に關しまする場合には、一日の勞働時間二時間以上を超えることは有害である。そして一週間それを三日以上續けることは健康、災害等の關係と關連いたしまして、はなはだ過ち多きものであるということが、既に證明されておると私は信じておるのであります。そうであるならば、そういう學界の報告なぞはかなり重要視さるべきではないか。もちろん個々人の勞働者の自由を尊重するというお言葉はまことは有難いのでありますが、自由ということにもまたおのずから一應の軌道が必要だと思うのであります。そういう意味から言いますと、ただ契約の自由というような一點からだけ取上げるのではなしに、やはり勞働者保護という觀點に立つての、そのような善意の考慮は當然拂わるべきものではないか、私はかように考えるのであります。この點についてもう一應御所見が承われば幸だと思います。
さらに今度は三十七條でありまするが、割増賃金の問題であります。この割増賃金については、これもまた實情とははなはだ遠く離れておると私は考えるのであります。現在わが日本の工場、職場における實情から申し上げますると、深夜業作業につきましては、相當大きく割増賃金の點が考慮されておるのが實情であります。殊にまた今後わが日本の再建過程において重要視されておりまする紡績、いわゆる纖維關係勞働等を併せて連想いたしまするならば、この纖維關係勞働者が、從來どんな劣惡な條件の中に押し込められていたかということについて、私どもは今いろいろなことを想像しても戰慄をさえ覺えるのでありまするが、そういうようなことの關連をもここに想起しまして、むしろ深夜業作業に對しては、相當進んだ保護的な規定が必要なのではないか、かように考えるのであります。殊にまた先きにもちよつと觸れましたように、勞働時間延長による疲勞にこたえるためには、その勞にこたえるためには、計算額の二割五分というのではいささか少きに失するのではないか。いささかというより、むしろはなはだ少きに失するのではないかというふうに考えるのであります。この點について一應御所見をこの際伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=12
-
013・河合良成
○河合國務大臣 この協定によりまする勞働時間の延長につきましては、これは大體の建前としまして、やはり女子とかあるいは年少者に對する保護というような點、こういう點については、どうしても法律をもつてよほど深く入つて行かなくちやならぬ。それから健康上特に有害な業務と認めるものについては、これは公益上の見地から深く入つて行かなくちやならぬと考えまして、まず大體勞働者と經營者との間の話合いで行くならば、青年男子に對しましてはそこまで深く入らぬのが適當なりという考えで行つておる。それは先ほど説明しました通りでありますが、その點を御諒承願いたいと思います。
それから第二の問題の第三十七條に對するお尋ねでありますが、これは大體二割五分というのは二割五分以上ということでありまして、決してこれも二割五分ときめたわけでありません。これも二割五分を最低限度としたわけでありまして、これはやはり國際勞働會議の、國際的の水準に大體よつておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=13
-
014・中原健次
○中原委員 この最低を取極めになられます場合に、特に私は御考慮がいただきたいと思います點は、なるほどこれは最低に相違ございません。從いまして二割五分以上は自由であつて、何倍になろうとも干渉するところではないということになると思いますが、しかしこの一應きめました最低というのは、しばしばそれが最低にあらずして標準になるということを併せて申し上げたいのであります。從いましてこの最低を決定するときは、この點についての考慮を拂いつつ率割を決定すべきではないかというふうに私は考えるのであります。さらに昨日いただきました資料によりますと、對日理事會におけるソ連代表の勸告の中の第六に、「一日八時間以上の時間外勞働については勞働組合の同意を必要とし賃金を正規勞働の一倍半ないし二倍を支拂うことを要する」というふうになつておりますが、このソ連代表勸告に對するお考えを一應伺いたいと考えます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=14
-
015・吉武惠市
○吉武政府委員 ソ連代表の勸告にそういうことをうたつてあることはお話の通りでありますが、大體今の時間外の割増賃金につきましては、世界の中一、二の特殊な國におきましては五割増しという國もございますけれども、先ほど大臣から御説明いたしましたように、國際勞働會議によつて決定されている水準は二割五分でありまして、今日大體多數の國におきましてはこれが最低の基準になつておりますので、今日の日本の國情におきましては、このところがまずやむを得ない所じやなかろうか、かように存じておるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=15
-
016・中原健次
○中原委員 次に六十七條の生理休暇の問題であります。この生理休暇のことにつきましては、現在女子勞働者が一番大きく、しかも毎月のように經驗する苦痛なのであります。この條文によりますと「生理日の就業が著しく困難な女子又は生理に有害な業務に從事する女子が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない。」すなわち本人の自由意思に委ねるというふうなことになつておりますが、著しく困難な生理状態、あるいは有害なる業務に從うところの女子のその場合というようなことが前提されておりまする以上は、これは本人の請求したときということより、當然與えるというふうなことになるべきものではなかろうか、かように考えるのであります。これが一般的に言われる場合でありますならばもちろん別でありますが、特殊の状態においてのみこれが取上げれているのでありまして、特に著しく困難でなかつたり、あるいは有害な業務でなかつたりする場合には、休暇を與えなくてもいいというふうな解釋もできるのではないかと思うのであります。そういうふうな特例の設けられている場合であります以上は、本人の請求に基くというのではなくて、當然與えるというような取扱いになることが適當なのではなかろうか、かように解釋いたすのでありますが、この點はいかがでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=16
-
017・河合良成
○河合國務大臣 この點につきましては、いろいろ日本の實情を調べてみ、また勞働者側の意見もいろいろ聽き、それからまた外國の實例、特にアメリカなどにおける事情などもよほど考慮しまして、そして公聽會などにもかけまして、この程度の方が日本の實情に最も適當なりという斷定を得ましたので、こういうふうにした次第であります。これは見方によりましては、御意見のような意見も立つと思いますけれども、實情に即してこういうふうにしたということにお考え願えば結構だと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=17
-
018・中原健次
○中原委員 現在この生理休暇のことにつきまして、既に實施されております工場はもちろん多々ございます。大體標準休養日は二日ないし三日というように理解いたしておりますが、この規定に基きますと、もちろん日にちの制限はございませんので、必要ならば、いわゆる苦痛を訴えるならば三日でも五日でも許されるであろうと確信いたしますが、大體この生理事情は、特に冷える勞働と申しますか、工場設備の惡いところ、あるいはその作業の事情によりまして、非常に冷氣を催しているところの環境で働いております勞働者にとりましては、特にこの痛苦が大きいと聞き及んでおります。從いましてこの點については、相當そこに指導的な取扱いが今後必要になつてくるのではないか。という事柄は、請求した場合にはそれを就業さしてはならないということになつておりますものの、今までの慣習から申しますと、勞働者ははなはだ卑屈になつておりまして、なるべくそういうことは訴えたくない、言いたくない、こういう心理が常に働くのであります。從いまして實際は苦痛であつてもがまんをして、遂にその一日を過す、顔をしかめながらがんばり通して、遂に苦痛をよう訴えなかつたというふうな實情は、しばしば耳にいたすところであります。從いまして今後この問題については、特にその取扱いの上において、積極的な指導といいますか、あるいはこの問題に對する勞働者の自覺を與えるように仕向けることを考慮されたい。かように考えるのであります。
さらに五十六條の最低年齡の問題に觸れたいと思います。この最低年齡によりますと、滿十五歳が限界になつていると考えます。ところが、この滿十五歳という年齡がはたして適富な年齡であるかどうかということについて、一應當局の御見解を承つておきたいと考えるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=18
-
019・吉武惠市
○吉武政府委員 最低年齡の十五歳は、國際條約におきまして大體十五歳となつておりますので、その水準をとつたのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=19
-
020・中原健次
○中原委員 お取扱いの上の點ではなるほどそういう基準があつたでありましようが、私は今こういうふうにこの點を考えるのであります。しからばこの滿十五歳という年齡は、少年の成長期の問題とどういう關連をもつかという事柄であります。私の研究の範圍では、少年の成長期は十五、十六と、この一、二年が最も大きい率を示しているというふうに聞いているのであります。そうであるならば、滿十五歳という年齡は特に重要視されなければならない年齡である。むしろこの十五歳、十六歳という成長期の年齡を考慮いたしまする場合には、十六歳と十七歳との間の限界に問題をもつていくべきではないか、かような解釋が起つてまいるのであります。從いまして、滿歳十五というのを滿歳十六ということにもつていくことが、子供の成育の實情から考えますと一番適當であるというふうに思われるのであります。特に勞働者の文化的な、そして健康なる生活を念願するための考慮である以上は、なおさらのことこの點とついて十二分に檢討を加え、かつ考慮する責任がありはしないか。このように思うのであります。しかもこの法によりますと、場合によれば、滿十二歳以上の兒童が——もちろん勞働時間の制限は相當加えてありますが、使用されることもまた許されている。殊にまた義務教育を終るならば、滿十四歳以上の兒童もまた可能である、こういうふうになつておりまする以上はなおさらのこと、この勞働階級の將來のために、これは輕く取扱う問題ではない。このように考えるのであります。殊に勞働階級は、この十五歳前後を事業場に追いやられて働かされるために、相當その定命さえ傷つけられ、あるいは滿足なる成長を阻害されるおそれがあるということが豫想されまする以上は、なおさらのこと、この年齡の最低水準については、わが日本はわが日本としての獨自な考慮が拂われなければならぬのではないか。殊にわが日本の今までの勞働事情から申しますると、年少の兒童を職場、工場に追いやりまして、これを早くからその業につかしめて、しかも苦勞させるということが、あたかもその子の將來のためであるかのごとくに誤り考えられておる節が多々あるのでありまして、こういう今までの慣習から考えましても、この際思い切つて、いわゆる勞働階級のよき將來をつくらしめるために、大きく指導的な規定が設けられなければならぬのではないか。このように考えるのであります。はなはだ御迷惑でございましようが、もう一度この點について、單にそれが國際的な水準であるからというような意味からではなくて、わが日本の特殊事情を加味されての御所見が承れれば幸いだと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=20
-
021・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま御意見のありましたように、十五歳から滿十八歳までの間が發育期でありまするので、これにつきましての特別の考慮を拂わなければならぬことはごもつともなことであります。それで年齡は許せば最低年齡が高い方がよいのではありますけれども、これをただいたずらに上げましては、本人もしくは家族の生計の道を絶つことになりますので、その點をも併せ考えなければならぬ問題ではなかろうかと思うのであります。そこで本法といたしましては、滿十五歳を最低年齡といたしまして、今お話がありましたように、滿十五歳から十八歳の間の者につきましては、御趣旨のように特別の保護を拂いまして、たとえば時間制につきましても八時間制の延長を認めない、あるいは深夜業を禁止するとか、その他危險有害の作業につけてはならないとか、各種の嚴格なる保護を加えておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=21
-
022・中原健次
○中原委員 このことに關連しまして、私はいわゆる就業不十分の學童を考慮いたしまして、教育上の問題について承りたいと考えるのでありますが、それは願わくば厚生當局竝びに文部當局兩者の御意見を伺いたいのでありまして、時間の都合上、それは文部大臣の御出席を待ちましてその點に觸れさせていただきたいと考えるのであります。
最後に承りたいのでございますが、監督組織の點であります。今囘の立法によつて最も大きな役割をもつものは、いわゆる監督組織それ自身であろうと考えるのであります。せつかく進歩的な立法ができましても、これの運用が圓滑を期され、そうしてその立法の趣旨にほんとうに副うべく行使されるかどうかという事柄は、かかつてこの監督機關の双肩にあるとさえ言うことができるのではないか。もちろんその重要性があるが故に、ここに監督機關がそれぞれ設けられたことであろうと考えますが、これにつきましては、この監督機關、組織それ自身のもつておりまする性格といいますか、その監督組織それ自身が、ほんとうに歪められない民主的な、正しい動きを見せるためには、この規定の命ずるような方法において、はたして立派になし遂げられ得るであろうかどうか。しばしば言うところのいわゆる官僚獨善的な傾向に陷るおそれはないか。こういう心配なのであります。もとより私は今後官僚という機構についても、必ずしも從來の概念をもつて今後の官僚機構を考えなければならぬことはないと思う。むしろ從來の概念によるところの官僚機構ではなくて、民主日本として再出發いたしました今後においては、官僚機構といえどもわれわれの從來の概念をみごとに拂拭し去り得るものであろうと信じておりますが、しかしながらそれはまだまだ多分に今後大いに切磋琢磨され、かつまたその機構の民主性が確保されてこそこれは達成し得る限度でありまして、今の場合、この瞬間においてまだまだ多分にそのおそれなしとしないのであります。でありまする以上は、この監督組織の點について、少くともまず總括的に、基本的に、この機構が民主的に運營され得るための論據を一應承つておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=22
-
023・河合良成
○河合國務大臣 勞働監督の監督機關、監督制度につきましては、これは今まで日本におきましてもいろいろ體驗がありますので、實は私も三十何年前に工場監督官をやつた經驗をもつております。もとはやはり産業省に置いてありましたのが内務行政に移りました。それで内務行政に移つても、御承知の通り警察の監督とは別にやつておりましたけれども、やはり大分官僚的色彩が濃厚になつたのぢやないかという懸念も實はもたれたのであります。今度はすつぱり、これは勞働省がどうせできましようから、勞働大臣の監督下における一つの監督行政としてやつてゆくわけであります。そうして言うまでもなく、勞働基準法は勞働者のためにつくられた法律であるということが根本の建前になつてゆくことでありますから、今度はよほど變る。またかえなければならぬというふうに考えております。それで何とはなしに、官吏と言いますといかにも官僚ということをすぐ連想されますけれども、まつたく地方廳ともわかれました一つの勞働省における監督機關でありますから、よほど性格が變つてくる。また監督官もできるだけ民主的の人を使い、女子なども大分使うつもりでおります。その上に勞働基準監督委員會を置きまして、民主的の意見をそこで織込みましてゆくことになりますから、よほど今までと違つた性格になる、またしなくちやならないというように考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=23
-
024・中原健次
○中原委員 まことに字句にとらわれてつまらぬことを申すようでありますが、かつて戰時中の經驗から申しますと、たとえば勞働基準監督署と書いてありますが、その署の字が非常におかしなものになるのでありまして、大體警察署というあの署との關連がありまして、勞働動員署がこういう文字に變えられました瞬間から、特に目立つてこれが官僚的な獨善的な、獨裁的な妙なものになつてしまつたのでありますが、もちろんその當時の國内の事情、あるいは勞働動員署のもつておりまする軍事的な役割のゆえにそうなつたのでありまするけれども、そういうような關連もありまして、勞働基準監督署というこの署の字のごときは、相當考えらるべきではないかと私は思うのであります。文字はその體を表わすのであつて、監督署それ自身の機能を眞に民主的なものたらしめようとするならば、文字もやはりお考え願いたいと思うのであります。字句にとらわれてはなはだつまらぬことのようでございますけれども、これは決してそうではなくして、私は大事な一點であらうと思うのであります。人間の概念に訴える效果は非常に大きいのでありまして、これはなんとか一つ御考慮なさるべきではないかと考えます。もちろんこの點につきまして相當議論すベき責任があるように實は感ずるのでありますけれども、大體當局の御意向ものみこめましたので、このためにいたずらに議論するつもりはありません。取敢ずこの監督組織の民主的運營を可能ならしめるため、十分注意を拂われんことを切望いたしまして、一應總括的な質問はこれで終りたいと思います。そうして逐條的の吟味になりまして、また細かい點はお尋ねいたしたいと考えるのであります。なお午後文部大臣が出られましたなら、時間をいただきまして、先ほど簡單にちよつと觸れました少年勞働者と教育の問題についての質疑をさせていただきたいことを政府側にお願いいたして、一應これで打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=24
-
025・矢野庄太郎
○矢野委員長 中原君に御相談申し上げますが、午後文部大臣の出席を求めてあなたの質問をされて、それで一應打切られますね——承知いたしました。
それでは午前はこの程度にいたしまして、午後一時まで休憩いたします。
午前十一時五十三分休憩
————◇—————
午後一時十分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=25
-
026・矢野庄太郎
○矢野委員長 休憩前に引續き質疑に入ります。中原君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=26
-
027・中原健次
○中原委員 それでは主として文部大臣にお尋ねを申し上げます。なお併せて厚生當局の御見解も承りたいと思うのであります。問題は基準法第五十六條に最低年齡の制限が規定されておりますが、これに相關連をいたすのであります。このたび學制が改革されまして、いわゆる六・三・三のことが實現をみたことは、教育の普及徹底の意味からある程度まで共感をもつ次第でありますが、つきましては、いわゆる憲法の命ずるところによりまして、國民の生活、文化度の高揚をはかるということは、當局においても當然考慮されつつあることと考えるのであります。それにつきましてたまたまここに勞働基準法が上程になりまして、勞働基準法は勞働者の最低年齡を滿十五歳と括つておるのでありますが、この滿十五歳といふ年齡と、いわゆる新制中學校、すなわち六・三・三の最初の三の最高年齡との關連を考えてみますと、大體十五歳とのつながりがあるように思うのであります。ところでこの十五歳という年齡がはたして適當な年齡であるかどうかについて、一應私は見解を異にするのであります。すなわち滿十五歳という年齡はまだ子供の領域に屬するのでありまして、いわゆる新制中學は、その子供の限度の最低の線までその教育の時間が保障されなければならぬと考えるのであります。從いまして子供の年齡の最高を大體滿十六歳と私は考え、かつまたそれぞれ專門家によつてもこのことは證言され、あるいは主張されておるのであります。すなわち婦人教育の河崎なつ氏のごときも、女學校等の實情から見れば、滿十六歳までは子供の部類であつて、從つてこれはいわゆる下級中等教育のらち内にあるべきものであると言われておりまするし、あるいはまた勞働科學の見地から申しましても、滿十六歳までは最も盛んな成長期に屬するので、滿十六歳までの者はいわゆる成長の十分なる條件を主張すべきものであるというようなことが、すなわち勞働科學界の泰斗である暉峻博士等によつても言われておると思うのでありますが、そういうようなことから考えましても、大體この勞働年齡は滿十六歳を限度とすべきものではないかというような結論に至るのであります。從いましてそれとの關連において、新制中學は滿十六歳までを收容するという狙いの下に、六・三・三のものを六・四・三とすることが合理的ではないか。そうして滿十六歳までは工場に追いやるのではなくて、國家が相當程度の保障の上に義務教育を施すという體制を整えるべきではないか、こういう見解も立つのであります。從いまして文部大臣にお尋ね申し上げたい點は、新制中學の六・三・三の點を六・四・三とこの際一飛躍を試みることの必要があるのではないかという點についての御見解を一應承つておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=27
-
028・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 お答えいたします。この點に關しましては、いろいろ意見の相違があつたことと思いますが、とにかく教育刷新委員會において愼重に審査をした結果によつて得られたところのものでありまして、專門の教育者諸君が多數はいつておられます教育刷新委員會第二特別委員會において、愼重審議せられた結果でございますので、文部省といたしましてはこれをとり容れた次第でございます。六・三制實施により滿十五歳に達した日の屬する學年の終りまで義務教育を受けなければならぬことになつておりますので、御説のところとは極めてわずかな違いになるのではないかと考えられるのでございますが、專門家の意見に從つたことでありまして、私としては特にこの點において只今意見を申し述べるだけの材料をもつておらないのでございます。なおこちらに以前學校教育局次長をしておられた方が政府委員として出席せられておりますので、私の答辯で御不滿な點は、どうぞ前の次長からお聽とり願いたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=28
-
029・中原健次
○中原委員 滿十五歳に達する日まで義務教育を施すと、ちようどそこで私の言う滿十六歳との間に一年の差が生ずるのでありますが、實は工場に勤めておりまする少年の教育の問題が、當然ここに關連してまいるのであります。思し出しますと、ちようど戰時中に工場では青年學校なるものを設けまして、青少年子弟をそこに一定時間收容し、そうして學業を授けるなどいたしたことでありましたが、もちろんその當時の青年學校のもつております役割は、言うまでもなく戰時態勢にこれをあてはめまして、あくまで戰爭へ動員するための教育である、あるいは軍事に對して決定的な、身體的、精神的疲勞を犧牲にして、いわゆる戰時國家、軍時國家に勞働のすべてをささげさせるための強制教育であつたということは、あまりにも明らかでありますが、それがいずれにいたしましても、その當時の政府はとにかく工場の勞働者に對してそれだけの時間を割くことを強制しておつたのであります。ここに初めてその軍事的、戰時的な態勢が解かれ、かつ拒否されまして、新らしく民主的な態勢に出發せんとするこのときにあたりまして、工場、職場に働いておりまする年少勞働者が、教育程度においては非常にそれが低く、そのままの教育實情をもつていたしましたのでは、文化人としての教養の最末端にまでも手を屆けることが不可能であると考えられるのであります。殊に憲法の命ずるところにより、すなわち健康にして文化的なる生活を保障せんとする場合におきまして、またこれを一つの權利として獲得しております日本國民が、その家庭の貧しさのために一定の教育を受けることができないという實情に對して、政府は積極的な考慮を拂わるべきではないか。ちようど先日本會議において、たしか石田君の御質問であつたかと考えますが、大臣の御答辯の中に、いわゆる夜間新制高等學校をもつてこたえるという御答辯もございましたが、その場合の對象としては、少くとも向學の氣に燃える特定の勞働青少年であると考えるのであります。今私の言わんとするところは、そういう特定の向學の氣に燃える選ばれた少數の秀才ではなくて、多數の、あるいは全體の青少年勞働者に對して、國家はこれをどう取扱わんとするか、この問題であります。さつき申し上げました新制中等學校の學制をもう一年延ばすということに關連もありますが、工場に驅使されまする工場年少勞働者に對して、今後指導教育の問題はどのように取り上げていこうとなさるのでございましようか。それについての御答辯を求めたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=29
-
030・高橋誠一郎
○高橋國務大臣 現在の青年學校の全部を今度の新制高等學校の定時制課程に組み入れますかどうかということは、新制高等學校の設置基準に關しまする委員會の決定を待ちませんければ、ただいまのところなんとも申し上げかねる次第でございます。なお定時制の高等學校を義務制とするかどうかにつきましても、目下研究中でございます。はなはだ不十分な答辯でございますが、ただいまのところではこれだけしか申し上げることができませんのでございます。近く研究を遂げて決定いたしたいと考えておる次第でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=30
-
031・中原健次
○中原委員 それではその問題につきまして厚生當局の御見解を伺いたいのでありますが、厚生省當局といたしましては、工場、事業場、職場内に働いておりまする年少勞働者に對して、これが教育方針をいかようにもたれんとなさるのでありますか、この點についての御見解をこの場合に承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=31
-
032・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま中原委員からお話がありましたように、年少勞働者が勞働時間の餘暇に教育施設をもつということは、私望ましいことだと思います。ただ從來のやつておりました青年學校の制度につきましては、ただいま文部大臣からもお話がありましたように、いろいろ文部當局においてほかの方法を考慮されておるようであります。その制度によるよらざるにかかわらず、年少勞働者の勞働の餘暇においていろいろな文化的な、あるいは教育的な方面に工場でも力を入れるということはまことに望ましいことだと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=32
-
033・中原健次
○中原委員 私が特にこの場合申し上げたいと思う點は、すなわち勞働時間の中にこの教育の時間を割込ましめるという意味においての教育對策なのであります。さつきからも繰返し申し上げますように、大體年齡の點でいろいろな意見を異にする點があるのでありますが、その點をしばらくおくといたしまして、とりあえず滿十五歳以上の青少年が工場、事業場に動員される。また中には從來の義務教育を終えました滿十四歳の者もこれを認めるというようなことになつておるといたしますと、十四歳あるいは十五歳、十八歳未滿のそれらの子弟が、一日の疲勞のあとの時間をもつて教育に時間を割くというようなことは、恐らく考えられないのであります。もちろん、それはきわめて少數の、特定の能力者のみはいかなる困苦にも耐えて、相當程度の研究に精力を傾倒し得るでありましようけれども、それは特殊性でありまして、一般性から申すと、そういうことは望みがたいし、また制度としては、そういう點を考慮して適當なものが設定さるべきであると、かように思うのであります。從いまして青少年に對する對策として、特に教育問題を中心として厚生當局といたしましては、これに對して積極的な氣構えと、從つてそれに對する積極的、具體的な方策をおもちになられることが當然ではないか、かように思うのであります。とりわけ憲法も、繰返し申しますように、文化的にして健康なる生活ということをうたつておりまする以上、その憲法の精神をほんとうに如實に生かさせるためには、少くとも國民の多數者でありまする勤勞大衆の青少年期において、文化的な條件を具備し得るだけの教育指導というものが當然考慮されなければ、この憲法の折角うたわれました理想も、遂にその實を結ぶことなくして、きわめて少數の限られた者のみにこれは適用されることになるのではないか。國民全體にその憲法の命ずるところを浸透せしむるためには、やはりこの點から問題を解決してゆく方策が要るのではないか。かように私は思うのであります。從いまして厚生當局が、子弟の教育についての積極的な御意見をこの際明確に示され、かつそれに對する方針を聲明せられんことを私は要請してやまぬのであります。ただ遺憾ながらこの基準法の條文の中を見ますると、何らその點に觸れた面がないのでありまして、これはやはり勞働者の保護のために勞働者に對するほんとうの心使いの現われとして、そこまでなさるべきではないか。かように私は思うのであります。とりわけ第一條が申しておりまするように、勞働者が人たるに値する生活をいたすためにこの立法がなされたといたしまするならば、人たるに値する生活を確保せしむるためには、經濟的、精神的な面、あるいは健康的な面、それぞれが十分考慮されなければならぬことは言うまでもないのであります。特にその中でこの教育、教授法の範圍内においては、何らの具體的なものが規定されていないということを私遺憾に存ずるのであります。せつかくこの立派な大憲章がここに制定されんといたす場合において、この點のみが缺如しておるということは、まことによく申しまするように、最後に眼をいれないところの不十分さにこれが陷るのそしりを免れ得ないのではないか、かように氣づかうのでありまして、この點についての相當積極的な御所見を承ることを希望してやみません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=33
-
034・吉武惠市
○吉武政府委員 中原委員の青少年勤勞者に對する教育についての御意見につきましては、まことに望ましいところでありますけれども、御承知のように、この法律はいわゆる勞働條件の最低を規定し、またあらゆる業態、あらゆるものについての最低の保護を法律で強制する限度をきめておるのでありまして、從つて國の義務教育として考えております部分につきましては、すなわち十五歳未滿の者につきましては、本法につきましても修學時間を含めて七時間でなくてはならぬという點を考慮しておるのであります。ただ義務教育以上の者につきましては、いわゆる事業主においてできるだけそういうふうに教育方面においても力を入れてくれることは望ましいことではありますけれども、それを法律で強制するというわけには行きにくいと思います。ただこの中にもございまするように、技能者養成につきましては從來は徒弟としていろいろな封建的な制度のもとに使つておつたのでありますが、そういう制度を取りやめまして、そうして眞に合理的な、そうして青少年としての技能と同時に、教養につとめるという方法は、技能者養成の部面で相當嚴重な監督のもとに施行する考えをもつておるのであります。さよう御諒承をいただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=34
-
035・中原健次
○中原委員 最後に、ちようどこれは本會議の場合、わが黨の山花君の質問に對しまして厚生大臣から御答辯があつたのでありまするが、すなわち失業に對する問題であります。失業對策に對してどういう御方針かというような質問に對する御答辯として、失業對策は別にこれを考えるものであつて、この法律はそれに觸れる必要はない、こういう御答辯であつたと記憶するのであります。この失業對策に對しましては、あるいは失業保險法の制定という點もございましよう。あるいはその他積極的ないろいろな面もございまするが、いずれにいたしましても今日わが日本の實情から考えますると、勞働力を十分に吸收消化することができにくいような状態に置かれておることは言うまでもないのであります。從いましてここにいわゆる勞働者の待遇改善を通じて、たとえば具體的には勞働時間等の縮小を通じて、あるいは青少年勞働者の年齡の引上を通じて、未消化、未吸收の、いわゆる勞働意欲をもつ失業者に對しまして、嚴密な意味においての失業者に對しまして、これをここに吸收してゆくという作用も豫想されるのでありますが、それについては、先ほどから繰返し申しまするように、この基準法で規定いたしました時間、年齡においては、大して過去のそれを大きく變化したものではないのでありまして、現状維持以上に出るものでない。ただ最低の基準が法律をもつて定められたに過ぎないのでありますが、期待はできにくいと思います。從いましてそういう面では街頭に溢れる勞働者、やみ商人、みずから欲せざるままにやむをえず轉落してゆくところの多數の失業者に對しまして、何らの效果をもたらすことができないということが考えられるのであります。そうであるならば、少くとも勞働行政の擔任當局でありまする厚生省は、この失業問題を今後どうするかということについての、相當積極的な御方針がなければならぬと思います。本會議の日の御答辯だけでは、ただそれは別にきめるべきものであるという、取扱い上の議論を展開されたに過ぎないのでありまして、それに對する具體的な方針は示されなかつたと思うのであります。從いましてこの委員會の席上において失業對策に對する厚生省のいわゆる限界内においての方針、そうしてまた御見解を承つておきたいと考えるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=35
-
036・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま中原委員からお話があり、また先般本會議でも山花さんからもお話がありましたが、この勞働條件を失業對策と併せ考えて、そうして失業對策のために勞働時間を制限するとか、あるいはいろいろな條件を上げるという考えの方も一つの考えではございます。しかしながら何を申しましても、この勞働條件というものは産業の基礎をなし、そうして勞働條件というものが、その生産の相當重要な部門をなすのでありまするから、やはり勞働條件はこの使用關係の適正な條件というところをもつて標準をきめるべきでありまして、他の目的のためにこの條件を左右するということは、よほどほかに途がない場合に考慮さるべきものじやなかろうかと思うのであります。失業問題といたしましては、政府といたしましては今のところでは他に失業對策事業というものを相當起しまして、その方で吸收してゆく、その方法を講じておるのであります。さよう御諒承いただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=36
-
037・中原健次
○中原委員 失業對策について他にその解決の施策を求めなければならない。もちろん吸收するためのいわゆる失業救濟を意味した事業がいろいろ企畫されているだろうことは想像するにかたくないのでありますが、しかしながらそれをもつていたしましても、なおかつ現在の失業状態を抹殺することはできがたい實情にあると思います。從いましてその實情の中におけるわが日本といたしましては、その失業が何のために由來したかということを思う時に、國家はますますその責任を痛切に感じなければならないと思うのであります。國民の欲せざる戰爭によつて、かくのごとき結果に到達いたしましたわが日本といたしましては、何としてもその戰爭犧牲の一つの現われとしての失業状態を、われわれはまた認識しなければならないのであります。そうであるならば、その失業者に對する失業對策は、積極面と消極面との兩者を併せて實行に移す用意が必要である、かように思うのであります。從いましてもはや既にこれは長く論議されてまいつたのでありますが、失業保險法の制定という面も、この場合、特に積極的に意識に上ぼせ、かつそういう具體的な施策に向わんとする用意が必要ではないか、私はそのように思うのであります。從いまして政府當局とされましては、この際失業保險法の制定という面については、どのような御見解をお持ちであるか、さいわい既に用意ができておりますならば、近くこういうような方法によつて失業保險法の制定に向わんとしているというお言葉が承りたいと期待するのであります。從いまして失業保險制度そのものに對する御見解を承つておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=37
-
038・吉武惠市
○吉武政府委員 これは私からお答えしていいかどうかとも思いまするが、失業問題に對する失業保險制度につきましては、これは各國ともいろいろ研究をされ、またある國では實施しているところでありますが、なかなかこの失業保險制度というものはむつかしい。いろいろと財源の點もよほど考慮を要する問題でありまするので、厚生省といたしましては、終戰後保險制度調査會を設けまして、この失業保險についての問題を論議研究をされております。まだ成案を得ておりませんし、また政府としてこれを近いうちに出すかどうかということはまだきまつておりませんけれども、その問題については熱心に調査審議を續けていることだけは申し上げたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=38
-
039・中原健次
○中原委員 現在厚生省で御調査になつておられまする限度で、失業者の實數についての數字がございますかどうか、あるいは豫想される失業事情に對して、すなわち賠償工場接收その他の問題に關連しまして、當然豫想されるべき程度の失業者の實數について、この場合承ることができれば幸だと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=39
-
040・吉武惠市
○吉武政府委員 正確な數字はあとで一つ調べまして、お答えを申し上げたいと思います。大體私どもの見當としては、四百萬くらいの失業者があるのではないか、こういうふうに今考えております。しかしながらこれらのものがただ職がなくてじつとしているかというと、今日のような状況ではまあいろいろな商賣でありますとか、何とかそういう方面で、ある程度は收入の途を得ているのじやないだろうかと思うのであります。ただ從來のような定職にありついていないという者は、四百萬ないし五百萬程度のものを推定しておりますが、しかしその實數につきしまては、あとで調査いたしまして、お答えをいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=40
-
041・中原健次
○中原委員 ただいまのお言葉にもございましたように、すなわち失業者が一應職を離れたという意味において失業者の數に、はいるわけだと思いますが、しかしながら現在の政情がその人人をして必ずしも遊ばせてはいない。この點が實は非常に心配な點なのであります。わが日本の現實、すなわちやみの横行につきまして、もとよりこれは横行するための客觀的な、あるいは主體的な條件も具わつているために、おのずから阻止されがたく、ここにやみが横行濶歩をいたすのであります。しかしながら少くともわが日本のよき囘復を念願する限りにおいては、このやみをほんとうに解消せしめつくすだけの施策が要ることは當然だと思うのであります。從いましてその一つの方法としても、やむを得ずここに職場を離れました勞働者に對しまして、これをそのよう忌まわしき方向におのずから落ち込んで行くことを防ぐということが、きわめて重大な關心事でなくてはならぬと思うのであります。從いましてそれがもし今日遊んでいないといたしましても、むしろその働きは一層國家の囘復を困難ならしめる状態を釀成しつつある。それがその原因になるということについて、相當深い考慮が要るのではないかと考えられるのであります。從いましてそのように考える以上、なおさらこの失業勞働者に對しまする對策は、よほど愼重に、そうして複雜なる觀點から、數々の問題を適當に處理するようないわゆる失業者對策というものが、これはひとり失業保險ばかりでなくて、特にその事務當局である厚生省におかれては、かなり進んだ御研究と御對策とがなければならぬと、このように私は思うのであります。まつたく現在の状態をそのままに押し過ごしてまいりますならば、國家の壞滅はその一角から起るのではないかと申しましても過言ではない。このように私は憂えるのであります。希くは厚生當局はその點について、單にこれを消極的な面からだけ考えるのではなくて、そういう失業状態がさらに國家を危うくするための大きな要素にもなるということを、併わせ御考慮がいただきたい。もちろんわれわれも當然そのことに對しては、積極的に參加協力して行くことは言うまでもありませんが、主務官廳としての當局は、飽くまでもこれについて精進を續けられまするように、この場合希望的に一言いたしまして、私の質問をひとまず打切ることにいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=41
-
042・矢野庄太郎
○矢野委員長 石田一松君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=42
-
043・石田一松
○石田委員 私はただいま中原委員の質問と重複する點を省きまして、一、二の厚生大臣に主要な政治的方面の質問と、司法大臣に對する質問とを、後刻兩大臣の出席まで保留いたしまして、こまかい點について厚生當局の政府委員に一、二お尋ねをしたいと思います。
まず第一に勞働基準法の第四條の「使用者は勞働者が女子であることを理由として、賃金について、男子と差別的取扱をしてはならない。」私の記憶する限りでは、厚生省の原案は同一勞働價値に對する同一賃金というような意味のことが含まれていたのではないかと思いますが、この條文から見ますと、その點が大變ぼやけておりまして、ただ勞働者が女子であることを理由として、債金について男子と差別的取扱いをしてはならない。すると男子と女子との間に同じ仕事に携つていて、同じ時間勞働をして、男子の方がまず一の仕事をした場合、女子の方は體力の相違で八分の仕事しかできなかつた。こういう場合にでも、これは女であるからというような理由で、この賃金について男子と差別的取扱いをしてはいけないのかどうか。この同一價値に對する同一賃金という原則がこの中に含まれておるのかどうか。もしその點が含まれていないといたしますと、今後使用者はあらゆる口實を設けて、女子の勞働者の雇傭にあたりまして、これを拒否する態度に出で、あるいはまた現在使用しておるところの女子勞働者を、できる限り速やかに解雇するというふうな傾向が出てくるのではないか。その點非常に疑問に思つておりますが、この點に關はる當局の第四條の御説明をお願いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=43
-
044・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま石田委員から御指摘になりました通りでございまして、第四條は女子の同一價値勞働に對して同一賃金を拂うという原則をきめたものであります。從いまして御指摘になつたように、ある仕事をやるのに男子は百の仕事をやる、女子は八十の仕事しかやれないというならば、それは同一價値ではございませんから、おのずからそこに差があるのはやむを得ないと思います。ただ從來往々にして、男子であつても女子であつても同じ仕事をしておりながら、ただ女子であるというだけでそこに差を設けておりましたので、そういう點はいけないのだということをきめたのでございます。それから先ほどお話がありましたように、そうしませんと、事實差があるにもかかわらず、男子と女子と同じということになれば、それは逆作用と言いますか、逆選擇をいたしまして、それだつたら女子は雇はないということになつて、かえつて女子の保護にならないという場合も想像されるのであります。これは同じ價値によつて同じ賃金を拂う、こういうことであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=44
-
045・石田一松
○石田委員 それで私も安心をいたしました。次に第六條の場合でございますが、これは中間搾取の排除の問題であります。「何人も法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」これはすなわち本基準法の原則的なものであると思います。ただし例外として法律に基いて許される場合の業の中で、他人の就業に介入して中間搾取を許される商賣があると、こういうことになります。それがすなわち第八條の九號の媒介、周旋この業に相當するものであるかどうか、この點をちよつと御説明願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=45
-
046・吉武惠市
○吉武政府委員 今お話がありましたように、第六條は勞働關係の間に入りまして、いわゆる中間搾取をやめさせるという規定であり、ただその際に法律で合法的にこれが必要であるとして認められておるものはやむを得ないというのであります。どの程度を法律で認め、どういう程度を禁止するかということは、個々の問題に當つてみなければちよつと今ここで一概に申し上げかねると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=46
-
047・石田一松
○石田委員 ただいま私が質問いたしましたのは、そういう意味でなくて、ただいまの政府委員の答辯は六條の説明だけでありまして、私がお尋ねした八條との關係が何らお答えがありません。すなわち八條の九號の媒介、周旋という業は、少くとも常識としては他人の就業に介入をして利益を得ることを業とする稼業なのであります。でありますから、この九號の媒介とか周旋とかいうものは、六條のいわゆる法律に基いて許される場合の業であるかどうかということをお尋ねしておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=47
-
048・吉武惠市
○吉武政府委員 その通りでございまして、九號に掲げておる媒介、周旋というのにはいろいろなものがあるだろうと思います。その中でいまの勞働關係の間に入つて、もしその間に利益を得るものがあるといたしますれば、それは職業紹介法その他において合法的に認められたものだけが許されるのでありまして、それ以外はこの第六條の原則によつて禁止されるということに相なるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=48
-
049・石田一松
○石田委員 職業紹介法などにおいて許された範圍内における、いわゆる例外として媒介周旋が認められるわけであります。原則として他人の就業に介入して利益を得てならないと中間搾取の排除を規定しておきながら、その中間搾取を業とするものをこの基準法で保護するということは、何だか矛盾を感ずるような、おかしい感じが私にもいたします。しかし私の特に言いたいと思いますことは、この媒介周旋という業が個人に許される場合には、往々にして不當なる搾取がなされるのであります。この點において最近職業紹介所あたりのいわゆる地方自治團體または公共團體による媒介周旋のみにこの業を限定して、個人には絶對に他人の業務に介入して利益を得てはならないというふうにもつていかないと、今後必ずあらゆる手段を講じて合法的な方法で、法律に許される場合のその權利を得まして、その權利の下に、この周旋媒介の業にある者が勞働者の中間搾取をするという結果が相當起きると私は考えます。そこでむしろこれはただいま申し上げましたように、個人にこうした業を原則として許可しないでゆくことが勞働者の利益でもあり、また使用者側の利益でもあると思うのでござまいすが、政府委員においてはどうお考えでございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=49
-
050・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま石田委員のお話は、まことにごつもともでございまして、われわれといたしましても、御趣旨のように運用をしてゆきたいと思つております。ただ全部これを廢止するか、あるいはある程度必要やむを得ないものを殘すかという點は、もつと考えてみたいと思います。大體は今石田委員の御指摘になりましたように運營してゆきたいという考えでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=50
-
051・石田一松
○石田委員 私のただいま申し上げました趣旨において運營してゆきたいという政府當局の言明を得ましたことを、まことに私は仕合せに思います。
次は第十五條の問題でございますが、十五條の第二項に「前項の規定によつて明示された勞働條件が事實と相違する場合においては、勞働者は即時に勞働契約を解除することができる。」とこうなつております。この際勞働者は明示された勞働條件と事實が相違するので、即時に勞働契約を解除することができるばかりでなく、その勞働者が解除を欲しない場合には、他の條章にも見えたと思いますが、少くともこの場合には特に明示されたる勞働條件に合致するような勞働條件を實施するよう、使用者側に義務を負わせるべきであると私は考えるのでございますが、もしこの條章のみでまいりますと、ただ勞働者は、明示された自分と契約した勞働條件が事實と相反するというので、勞働契約を解除することができるというだけでは、大變不備なそしりを免れないと思うのでございますが、それは他の關係の條章によつて何らか保護される方法がありますかどうか、お尋ねいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=51
-
052・吉武惠市
○吉武政府委員 ごもつともでありまして、初めに明示された勞働條件に相違いたしまするものにつきましては、その初めに約束された勞働條件を履行させることは必要であります。ただここに規定しておりまするのは、初めの約束と違つて、契約を結んでなおかつその使用關係を拘束されるということであつてはなりませんので、そういう約束の違つたときには、いつ何時でもその契約を解除して、自由になれるぞというところを規定したのでございます。なお三項におきましては、そういう場合特に住所を變更するようなものにつきましては、その間旅費をかけて來ておりますから、そういう場合には旅費を支給しなければならぬということも規定しております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=52
-
053・石田一松
○石田委員 次に二十條の問題でありますが、使用者は勞働者を解雇しようとする場合には、少くとも三十日前にその豫告をしなければならない。三十日前に豫告しない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支拂わなければならないという規定がございますが、これは最近の物價高、インフレに關係しまして、共産黨の志賀君も本會議で觸れたことでありますが、志賀君は三箇月の豫告をしなければならないと言つておりました。その點に對して厚生大臣は、いろいろと研究し、また答申に關する雙方の意見を尊重して、三十日が相當であろうと思つてこうしたということでありましたが、私は少くともこの三十日では豫告期間が、短か過ぎるのではないかという考えももつております。それはさておきまして、この三十日前に豫告をするか、または三十日前に豫告しない使用者は、三十日分以上の平均賃金を拂つたならば、使用者は勞働者を解雇する權利を、この規定において得るのであるかどうか、この點について御答辯を願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=53
-
054・吉武惠市
○吉武政府委員 この點につきましては多少誤解もあるように存じまするので、御説明申し上げたいと思いますが、この二十條はいわゆる俗に言う退職手當ではございませんで、解雇をだしぬけにしない。豫告をして解雇をするという原則をきめたのであります。ただ豫告をしない場合にはその三十日の豫告の手當をやるようにというのであります。この豫告期間の三十日は、御承知のように民法におきましても、契約を解除する場合には十四日という原則がございまするし、また從前の工場法等におきましても、十四日の豫告か、ないしは十四日分の手當を支給するという原則が定められておるのであります。この點は各國の法制におきましても大體十四日が普通でございます。ただしかし實際として十四日の豫告は今日の實情ではいかにも短か過ぎまするので、大體三十日くらいにする必要があろうと思つて掲げたのであります。なおこの點は公聽會等におきましても、大體まあその邊が至當であらうという意見が多數でありましたので、三十日にしたのであります。從つて先ほど申しましたように、永年勤めておつた者がやめるとまに、ただ三十日の豫告の手當だけかというと、それは別の問題でありまして、永年勤めた者がやめるときに退職手當をもらつてゆくというのは、それは從前の慣行等により、また各事業、各職場においてそれぞれの取扱いがございまして、支給されておるのであります。ここに言うのはいわゆる退職手當ではございませんで、解雇の豫告期間を三十日とし、その三十日の豫告期間をもし與えないときには、それだけを支給しなければならぬというふうに御諒承いただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=54
-
055・石田一松
○石田委員 ただいま外國の基準法は大概十四日くらいになつておる。であるのに今度のこの基準法はその倍以上の三十日として現下の情勢を考えたいと、こうおつしやいますが、現下の日本の情勢から考えてみて、どこの外國の立法を參考になすつたかしらないが、外國の豫告期間の十四日の倍の豫告期間で當然だというふうなお考えは、たとえば卑近な例をとつてすれば、外國における物價が十である場合、日本における物價が二十だというような單純な考えのようでありますが、現在の日本のこの窮迫した、勞働者が生活にあえいでおる有樣は、おそらく政府で今おつしやつた、外國の生活の何十倍も何百倍も窮迫した状態にあると思つております。でありますので私は外國が十四日であるからわれわれは日本の現状を考えて三十日にしたなどということは、全然三十日の豫告期間にした論據にはならぬと思います。ただ私が先ほどもお尋ね申し上げたのは、この三十日分以上の平均賃金が、ただいま政府委員のおつしやつた退職手當などを含むとは毛頭考えておりません。ただ重大な問題は、いかなる場合にでも使用者は勞働者を解雇しようとする場合においては、三十日前に豫告をするか、さもなければ三十日分以上の平均賃金を支拂つたならば勞働者を解雇することができるかどうか。すなわちこの第二十條によつて、使用者はこの條件に適う方法であれば、勞働者を解雇することができるかどうかということでありまして、私はこの條文には、少くとも正當な理由なくして使用者が一方的に勞働者を解雇することのできない規定をも附け加えるべきではないか。こういふ意味において質問をしたのであります。その點に關しての御答辯を願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=55
-
056・吉武惠市
○吉武政府委員 二十條におきましては、法律的にはできるのであります。ただ實際問題といたしましては、やはり解雇するには解雇する相當の事由があることは當然でございます。正當の事由なくしてむやみに解雇してというわけにはいかないのであります。法律的には解雇する時には豫告三十日あればいいというふうに御諒承を願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=56
-
057・石田一松
○石田委員 するとこの二十條は、使用者側が法律的にみても社會の通念上から考えても、勞働者を解雇することが當然であると思われる場合にのみ、少くとも三十日前に豫告をするか、三十日分以上の平均賃金を拂うというふうに私は今承わりましたが、さよう了承して構いませんか。
〔委員長退席、椎熊委員長代理著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=57
-
058・河合良成
○河合國務大臣 この規定は三十日の豫告を經なくては解雇していかぬという意味のことだけ規定したのでありまして、正當の事由なくして勞働者を解雇していいか惡いかという問題をこの規定は規定しておるのではありません。まつたく別の觀點から見た規定であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=58
-
059・石田一松
○石田委員 別の觀點から見たという厚生大臣のお答えでございますが、ただいま私のお尋ねしたのは、この二十條は、いわゆる合法的に、しかもただいま申し上げた社會通念から言つても、勞働者を解雇するのが當然であると思われる場合にのみ、この條文が適用されるかどうかということでありましす。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=59
-
060・河合良成
○河合國務大臣 その問題と關係ありません。それですから勞働者を解雇していいか惡いかということは、一般契約の原則なり、あるいは他の法規から來る問題でありまして、この條項はそういう問題には觸れておりません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=60
-
061・石田一松
○石田委員 この二十二條の第三項の問題でありますが、「使用者は、豫め第三者と謀り、勞働者の就業を妨げることを目的として、勞働者の國籍、信條、社會的身分若しくは勞働組合運動に關する通信をし、又は第一項の證明書に祕密の記號を記入してはならない。」という規定がございますが、この際私のお尋ねしたいことは、事實これはわれわれが身をもつて體驗しておることでございますが、ここに規定してある以外のことで、同業者同志が二、三紳士協約などという雲をつかむような契約をあらかじめいたしまして、その契約の中には一つの使用者が勞働者を解雇した場合、または正當に勞働者が使用者との合意によつて辭職をした場合、そういう場合にでも第三者である使用者は、元の使用者に一應承諾を得なければその勞働者を雇傭することができないというふうな契約を、隨分取交しておる使用者があるのでございますが、この二十二條の第三項の場合に「勞働者の國籍、信條、社會的身分若しくは勞働組合運動に關する通信をし、又は」というこれ以外に、かかる使用者側のあらかじめ交す契約をこの際斷乎として取締る。そして解雇された、またはある一つの事業場を自分から退いた者が、自由に他の使用者と雇傭契約を結ぶことのできるような立法をしなければならないと思いますが、この點に對して當局のお考えを承わりたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=61
-
062・吉武惠市
○吉武政府委員 ごもつともな御意見でありましたが、實はここに二十二條の三項に規定いたしておりまするのは、御承知とは思いますが、いわゆるブラツク・リストと稱しまして、國籍が違うものとか、あるいはどういう思想をもつておるとか、あるいは社會的の身分がこうこうだ、あるいは勞働運動についてこうこうだというようなことを、ブラツク・リストを取交して、そして就業を妨げるということが往々行われがちでありますので、それを保護するために規定したものであります。ただいま石田委員からお話しになりましたのは、お互の商賣仲間で競業の禁止と申しますか、引拔きの禁止というようなこと、何かそういうことで行われておることだと思いますが、それはここでは及んでおりません。その方は普通の民法にいう契約の問題になつて、それがあまり極端になれば公序良俗に反する契約だということで問題になるかと思いますが、ここはいわゆる從來の勞働問題において弊害とされておりました問題を除去する。いわゆるプラツク・リストの規定でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=62
-
063・石田一松
○石田委員 ただいまそういう引拔きなどの禁止の各業者間の契約は、民法の公序良俗に反する場合の規定によつて考慮されるべき問題で、ここではそれを規定してないという御答辯でございましたが、もしそうだといたしますと、この勞働基準法の勞働者の勞働條件を、よりよい世界的水準にもつて行くという觀點から申し上げますならば、この基準法の中にそうした使用者側のあらかじめ第三者とはかる。民法の陰に隱れた公序良俗に反しないかのごとき契約を取交し、しかもそれが勞働者自身の就職の機會を妨げておる事實が澤山あるのであります。そういう規定がこの勞働基準法になされていないとするならば、何としても勞働者の利益を、また人たるに値する生活を營ましめるという第一條の目的にも、私は適わないものではないかと思いますが、この基準法の適當なところに、そうした禁止條項を挿入するお考えはございませんでせうか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=63
-
064・吉武惠市
○吉武政府委員 御意見ごもつともな點もございまするが、例の競業禁止の問題になりますと、いろいろ關係する點が多うございますので、いまのところこの法でそういう問題を規定しようという考えはございません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=64
-
065・石田一松
○石田委員 これは立場の相違、觀點の相違と申しますか、この基準法で、いまそういうことを規定する考えはないとおつしやればそれまででありますが、非常にこれは重大なる問題でありまして、今後この基準法が實施された曉には、使用者側において、そうした方法が民法の契約に基いて多數取行われるおそれが多分にあると思います。もしそういう場合が招來いたしましたならば、私は勞働者のために實に遺憾なことであるということをここに申し上げて、この質問に關しては次に讓ることにいたします。
その次に四十條、四十一條の特例の條についてお尋ねして見たいと思います。すなわち第四十條では第八條の第四號、第五號及び第八號ないし第十七號の事業を特例としてこれは省いておるようでございますが、私たちが永い間經驗したことでありますが、ここに特例を設けられた八から十六までの各事業に從事する勞働者は、過去において實に慘憺たる勞働條件のもとに生活して來た者ばかりであります。特に私が申し上げたいことは、この十號の「映畫の製作又は映寫、演劇その他興行の事業」これなどに至つては日本における、封建的雇傭制度の見本のようなものでございます。いわゆる資本家の温情主義的なその場逃れの口先でもつて勞働者を酷使し、または物凄い搾取を行つてもおります。しかもこの業に携つております者たちは、大衆に休息を與えることを目的とし、精神的な糧を與えることを目的としております。にもかかわらずその大衆に精神的糧を與える業に携つている勞働者は、自らは精神的慰安の糧を求める機會がほとんどないといつていいくらいであります。私はこの業者たちが過去において、この條章でも禁止してありますが、事實五年、十年と勞働者を使用しておりながら、その法律上の屆出は日傭勞働者と同じような取扱いをして、いつでもこれを解雇し、しかも一文の手當も支給しないで省みないというふうなことも、過去においては多々行われたのであります。私はこうした所に從事する勞働者が、公衆の便利のために、または不便を避けるためにという理由で、この勞働時間竝に休息の原則から特例として除外されるということは實に遺憾だと思います。もし事業の性質上どうしてもそれができないということをお考えになりますならば、これは勞働者の人員を増加することによつて、現在二部制でやつているものを三部制にするとか、一部制でやつておるものを二部制にするというふうな方法を講ずるならば、何もこれを特例の中に含ませるという根據はないと私は考えるのでございます。この點に關して、特に八號から十六號に掲げる、過去において劣惡なる勞働條件の下に酷使され、搾取され續けてきた勞働者に對して、特に考慮を拂つていただきたいと思います。この點に關して厚生當局の御意見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=65
-
066・河合良成
○河合國務大臣 大體の御趣旨についてはごもつともと存じますが、從來行つてきました工場法というものと比べて見まして、今度は一般勤勞者、勞働者全體を本案の對象といたしました關係と、永い間の日本の慣行もありますので、まずただいまのところではこの程度において寛嚴の差をつけまして、相當の訓練を經た上でだんだんこの範圍を擴張し、或は嚴格にして行くという方が、日本の工業に適當だという考えから、こういう建前にしたわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=66
-
067・石田一松
○石田委員 司法大臣がお急ぎになるそうでありますから、司法大臣に對して、一、二の點をお尋ねしておきたいと思います。すなわちこの度政府より提出されましたこの勞働基準法の各條文は、いわゆる法律は既往に遡らず、法の不遡及の原則が適用されて、この法律でも原則に從つて既往に遡らないと解釋すべきであるか、それともたとえば第十三條等にありますが、この勞働條件に達しない勞働契約は、その部分については無效にするとこうありますが、こういう場合、この基準法が實施されるわずかばかり前に契約された勞働契約がこの基準法に定めた基準に達しない場合に、あとから實施されたこの勞働基準法は既往に遡つて、過去の契約された勞働契約のしかもこの基準に達しないところを無效にする效力があるかどうか。この點についてお尋ねいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=67
-
068・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 石田君のただいまの御質問にお答えいたします。勞働基準法第十三條、「この法律で定める基準に達しない勞働條件を定める勞働契約は、この部分については無效とする。」この法律の施行前に締結された勞働契約でありましても、ただいま仰せのように、たとえ一日でも二日でも施行前につくられた勞働契約にして、その内容がこの法律で定めた基準に達しない勞働條件であれば、この法律の施行後においてはそれを無效として、そうしてその無效となつた部分についてはこの法律で定めた基準による。かように解釋すべきものであると信じております。從いましてこの法律の施行後に締結された勞働契約はむろんのこと、施行前につくられた勞働契約でありましても、その内容にして基準に達しない部分はすべて無效となる。こう解釋されるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=68
-
069・石田一松
○石田委員 司法大臣よりの確たる明言を得まして、私どもは滿足に思うものでございます。第二點は憲法の第十三條にも「すべて國民は、個人として尊重される。」ということが明記されております。ここでこの法案のいわゆる勞働契約は、個人としてこの勞働者と個人としての使用者が特別に契約を結んだ場合においても、これは個人として尊重されて、その契約は效力があるかどうか。もちろんこれは勞働組合の關係などとも重要な關係があることでございますが、法的に言つて、個人と個人とで使用者と勞働者が契約しても、この勞働基準法によつて保護されるかどうか。すなわち民法の契約の自由の原則は、公序良俗に反しない限り、この條章の勞働契約として認められるかどうかということも、もう一つこれを司法大臣にお尋ねしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=69
-
070・木村篤太郎
○木村(篤)國務大臣 お答えいたします。ただいま御質問のように、勞働組合が契約の當事者になつたときはもちろんのこと、個人が契約の當事者でありましても、この條項は適用になると考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=70
-
071・石田一松
○石田委員 司法大臣に關する私の質問は以上の二點でございまして、いずれも私は滿足いたします。さて最後に私は厚生大臣にお尋ねをいたしますが、最近新聞などの報ずるところによりますと、この勞働基準法は第九十二通常議會においては審議未了に終るおそれがあるのではないか。そういう傾向が多分にあるというふうな新聞記事を見ておりますが、厚生當局としては、この九十二通常議會に必ずこの勞働基準法を成立せしめ得るという見透しがおありでございますかどうか。この點に關してちよつと御所見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=71
-
072・河合良成
○河合國務大臣 ぜひこの議會にお通しを願いたいものであるという考えをもちまして、政府はこの議會で審議未了になるなんということを考えてもおりません。これは委員各位にもその點を厚くお願いする次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=72
-
073・石田一松
○石田委員 先だつても本會議で厚生大臣から御懇切なる御答辯を得たのでございますが、ただその中にこの勞働基準法と憲法第二十五條との關係について私がお尋ねしたのに對して、厚生大臣はこれは非常に重要なる問題であるがというふうな意味でお答えになりました。すなわち第二十五條には「すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」第二項は「國は、すべての生活部面について、社會福祉、社會保障及び公衆衞生の向上及び増進に努めなければならない。」すなわち國民全部が健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有するのであります。しかも國家はこの國民に對して社會福祉、社會保障及び公衆衞生上の向上及び増進に努めなければならぬという義務を負つておるものと思います。この前もお尋ねをしたのでございますが、すなわちこの二十五條の二項の、國家が國民に最低生活を保障すべき義務を有しておる。その本來の國家の義務を憲法第二十七條の第二項によつて使用者側にこれを轉嫁するのではないかということを私は御質問申し上げましたが、この點についてははつきりした御答辯がなかつたように私は思います。もしそうだといたしますと、本來は國家が國民の最低生活を保障してやるべき義務を負つておるものが、憲法第二十七條の第二項によつてこれが使用者に轉嫁され、その結果として大資本による事業ならばともかくも、小資本による町工場、いわゆる設備の整つていない中小商工業においては、この勞働基準法の勞働條件にかなうような設備を使用者側がしようと思いましても、經濟的に非常に困難なる場合が生ずると私は思います。この際には、國家としてこれらの工場に負擔の一部を援助してやるお考えであるのかどうか。もし援助をする意思がないとするならば、こうした小資本の町工場あるいは小商業において、この勞働基準法をみずからの力でその最低線を守り得ないような貧弱な事業は、いわゆる協同組合化と申しますか、細末機構を整備統合してこの勞働基準法に耐えるべき事業體に再編成しなければならないと私は考えるものでございますが、この點についての厚生大臣の御所見を承りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=73
-
074・河合良成
○河合國務大臣 憲法第二十五條によりまして、國民は健康で文化的最低生活を營む權利を有することは、これはもちろんのことでありまして、それに對して政府としては、社會の福祉その他生活保障ということに對して、その増進に努めなくてはならぬということは當然のことでありますが、その二十七條の規定と二十五條の規定は、もちろん一部關係は持つておりますけれども、健康で文化的な最低生活を營ませるということの國家の施設というものは、勞働基準法の規定はもちろんその一部にはなりますけれども、そのほかにも非常に廣い分野を持つわけであります。たとえば生活保護法とか、失業對策であるとか、あるいは社會保險の制度とか、いろいろな面を持つておりますので、非常に廣汎な意味において國家では努力をしなければならぬということだと考えます。もちろん今御説明になつた論旨と私の申すことと矛盾しておることは少しもない。その線に沿うたことだと思いますけれども、範圍から申すとそういう問題として扱つて行かなければならない。それは二十五條の社會保障的の線に向つて努力をしなければならぬということは、これは國の義務でありまして、事業者の義務ではないと思つております。そうだから勞働基準法に關する限りにおきましては、國民の文化的最低生活の保障ということはあくまで國の義務である。これをもつて事業家にそれを轉嫁しておるという氣持ではなく、事業家は事業家といたしまして、勞働者と經營者との間における一つの權利義務關係及び基準法等によつてその間を裁定し、その間に特殊な義務を國家が課しておるというふうに考えていいのではないかと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=74
-
075・石田一松
○石田委員 ただいまの厚生大臣の憲法第二十五條の解釋については、私は釋然としないものであります。なんとなればこの憲法第二十五條は第三章の國民の權利及び義務の中に規定されておるものでありまして、十條から三章の最後の條章に至るまで、これは國民の權利及び義務を規定したものであります。この基準法第一條の人たるに値する生活というものが、少くとも二十五條の健康で文化的な最低限度の生活であると私は思います。それともこの基準法の「人たるに値する」は、國民すべてが健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有するということである。それ以上の人たるに値する生活ということに厚生大臣のお言葉によるとなつてまいりますが、實にそれでは不合理きわまることと思います。少くとも一貫したこの憲法の精神においては、國民のすべてが人たるに値する生活を營む權利を有するのであります。その權利を有する國民の中の一部の勞働者は、特にこの二十七條の第二項の規定によつて、賃金とか就業時間、休息その他の勤勞條件に關する基準を法律で別に定めることになつております。そこで私の申しますのは、本來どの國民にも人たるに値する生活を營ましめるべき義務を國家が負つておることは當然のことなのであります。そこで私がただいま申し上げまする中小商工業と小資本の使用者が、もしこの基準法に定めてある最低の基準をも守れないという場合に、この使用者に對して、これが守り得るような國家的な財政的な援助をするのであるかどうか。しかももし財政の援助ができないとするならば、その基準法を守り得ない、いわゆる企業というものを協同組合化して、この基準法を守り得る程度の企業設備に合流せしむる。いわゆる企業整備というものが必要になつて來るのではないか。この點について私は特にお尋ねをしたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=75
-
076・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの仰せの初めの部分は、私の申し上げたのと趣旨が變つてはおらぬと思うのでありまして、結局すべての國民に對して政府は最低生活の保障をやつていかなければならぬということは、これは憲法二十五條の明示するところであります。二十七條は勞働者と事業者との關係においての基準的のことをきめることを要求しておるのであります。それでありますから、私の申すのは二十七條だけで二十五條を全部カヴアするものでなく、二十七條というものは狹い範圍のものである。二十五條は一般國民に關するものでありますから、非常に範圍の廣いものである。その範圍の廣狹を申し上げたに過ぎないのであつて、その前後の關係、優先關係をどうとかいつて、あるいはこの方は厚い、この方は薄いということを申し上げた趣旨ではありません。それで御主張とは一致しておると思います。ただ私のお答え申したい點は、二十五條は國家の義務を規定したものであります。二十七條は勞働者と使用者の關係に對する賃金その他の勞働條件の問題であります。國家の義務はあくまでも國家の義務であつて、國家は二十七條の第二項によつて事業家に轉嫁したものでないということは明かであると思います。從つてその事業家が資本その他でもつて産業設備ができないから、國家が援助を與えてこれをやらなくちやならぬということは、當然出てくるものでないということははつきり申し上げなくちやならぬ。しかしながら國家の工業政策として、中小工業というものが勞働者と圓滿に仕事がやつていける方向に行くべきことはもちろんであります。そして今の状態でそれがうまくいかぬときには、協同組合その他でやることは、特に中小工業として適當であるということは御同感であります。しかし法律の解釋としてはそう行くべきではないか。むしろ國家の經濟政策としてそうやることは非常に結構で、御同感であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=76
-
077・石田一松
○石田委員 この點は後日の機會に讓りまして、私の本法に關する細部の質問はまずこの程度で打切りたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=77
-
078・椎熊三郎
○椎熊委員長代理 それでは本日はこの程度に止めまして、明日午前十時より開會いたします。本日はこれにて散會いたします。
午後二時四十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00219470312&spkNum=78
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。