1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働基準法案(政府提出)(第九號)
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昭和二十二年三月十三日(木曜日)午前十時三十三分開議
出席委員
委員長 矢野庄太郎君
理事 小島徹三君 理事 椎熊三郎君
理事 土井直作君
岩本信行君 荒畑勝三君
伊藤卯四郎君 中原健次君
山崎道子君 野本品吉君
野村ミス君
三月十三日委員中原健次君辭任につきその補關として山崎道子君を議長において選定した
出席國務大臣
厚生大臣 河合良成君
商工大臣 石井光次郎君
出席政府委員
文部事務官 剣木亨弘君
厚生事務官 吉武惠市君
厚生事務官 寺本廣作君
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本日の會議に付した議案
勞働基準法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=0
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001・矢野庄太郎
○矢野委員長 前會に引續き會議を開きます。質疑に入ります。土井直作君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=1
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002・土井直作
○土井委員 本案に對しましては、厚生當局としてかなり各般における調査研究の結果立案されたものでありまして、内容的には非常に整備されているということだけは十分にうかがわれるのであります。私は本案中におきまする條項で、その一二をきわめて簡單に御質問申し上げたいと思います。本來商工大臣が見えますならば、商工大臣の答辯によりまして、順次厚生大臣の御答辯が願えれば非常にいいのでありますが、まだ見えておりませんから、途中から質問するような形になりまするが、二、三質問を申し上げたい。
第一に考えられまする點は、この法案中における災害補償に對してでありまするが、實は昨日の會議におきまして、石田君が質問をしておりました點について、厚生大臣は明確に答辯をしておらないのであります。言いかえまするならば、今囘の法案が勞働階級のために最もよき基準となりまして、その希望を達し得られるかどうかということは、かかつて運營にあると思うのであります。ところがこの災害補償に對しまする關係はかなり進歩的な、あるいは高額な補償がある意味において行われていくのでありまして、中小工場のごときははたしてその負擔に耐え得るや否や、この點が非常に考えられるのであります。もし中小工場等が實際の面においてこれを履行しない場合、たとえば災害補償等における事柄等が履行されない場合がありまするならば、法文は單なる畫餅に相なつてしまうのであります。そこで中小工場がはたしてこれらのものを負擔し得るだけの經濟的餘力があるということを前提として起案されておつたかどうか、この點について一應お伺いしたいと思います。
〔委員長退席、小島委員長代理著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=2
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003・河合良成
○河合國務大臣 業務上の死亡、負傷、疾病その他に關する災害補償は、お話の通りに勞働基準法中の非常に重大な點になつておりまして殊に中小工に對しましては勞働者を十分保護せんと欲すれば中小工があるいは立つていかないような場合がありはせぬかというような懸念はもちろんあります。この點につきましては災害補償の保險法を出すつもりでおりまして、今日閣議の決定を見ましたので、できるだけ早くこの議會に提出いたします。この問題で災害補償の中小工に對する負擔を轉嫁していこう。保險法によりまして保險率から算定しますると、これならば中小工も堪え得るという目途がつく次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=3
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004・土井直作
○土井委員 保險法が起案されて提出の運びになつているそうでありまするが、その場合、保險法自體は在來の保險法のごとく、勞働者及び工場主兩者が保險掛金をかけるのであるか、あるいは災害のために一方的に、たとえば事業者自身の補償の面から保險法が立案されているのかどうか、この點をお伺い申し上げます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=4
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005・河合良成
○河合國務大臣 勞働者に對する負擔はかけておりません。全部事業者側の負擔になつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=5
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006・土井直作
○土井委員 さらにお伺いしたいのでありまするが、勞働者の災害補償審査委員會というものが設けられることになつておりまするが、これは事實の問題といたしまして、いわゆる審査機關であつて、諮問的な内容をもつているのか、さらに進んでは執行的な面にまで行く權限を有するようなものになるかどうか。この點を御答辯願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=6
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007・吉武惠市
○吉武政府委員 この勞働者災害補償審査委員會は、單なる諮問ではございません。そこで審査をいたしまして、決定をいたすものであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=7
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008・土井直作
○土井委員 大體災害に對しまする關係は、戰前いろいろな角度で、われわれがつとに經驗しておるところであるのであります。ややもいたしますると、災害の認定が比較的低位なところにもたらされる場合がしばしばあるのであります。極端なことを申し上げまするならば、醫師と工場主が相當結託、連絡いたしまして、災害の内容につきまして、それが一級に該當いたします場合のものを、三級なり、五級なりにする場合がしばしばあつたのであります。そこでこれらの事柄は、結局個々の勞働階級が、十分にその不當を是正するところの機關が全然なかつたわけであります。ところが今日これが災害補償審査委員會というものによつて、ただいま御説明のごとく、そこで審査をして、決定するということに相なつておるそうでありますが、ただ問題は、直接それらのものについての審査をいたしますることには相なつておらないのであります。いわゆる勞働基準法の監督官が大體現状を調査し、それを委員會にかけるのではないか。委員一人一人が具體的なる事實の問題を、積極的に調査するような權限が附與されていくかどうか。この點が非常に問題なのであります。しかもこの委員はきわめて少數の委員であるように思われておるのでありますが、もしそうだといたしますならば、かなりたくさんの勞働階級を十分に徹底して遺漏なきを期するということは、困難が伴うのではないかと思いますが、これはこの基準法の中にありまするように、わずかな數によつてこれをやるということでなくて、さらにこれを擴大いたしまして、あるいはまたこれに對するところの補助的な機關として、民間人の、あるいはこの方面におけるところの學識、經驗者をあげて、これらの仕事に携わらせる意思を有しておられるかどうか。この點をお伺い申し上げます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=8
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009・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまの土井さんの御意見ごもつともでありますが、實はこういう災害については、お話のありましたように、まず監督官が、そういう事實があれば嚴密なる審査を遂げまして、公正なる決定をいたすものであります。お話のように監督官が全然信用にならぬというようなことでは、この法律の施行はとうてい望めないのでありまして、私どもといたしましては、監督官は今後こういう問題につきましても、公正に勞働者の方のために、獻身の努力をささげたいつもりでおります。しかしながらただ監督官だけによつて審査をし、それに基いて決定をするということでは、このせつかくの審査委員會というものが意味をなしません。從ひましてもちろんこの審査委員會は、獨自の立場において審査の權能もございまするし、調査されて結構であります。それからこの委員につきましては、もちろん勞働者を代表する者もはいり、あるいは事業主を代表する者もはいり、また公益を代表する者もはいるのでありまして、それらにつきましては、民間の學識經驗のある人に參畫していただきまして、この災害の審査に遺憾なきを期したい考えをもつておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=9
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010・土井直作
○土井委員 さらに七十八條に「勞働者が重大な過失によつて業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官廳の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。」こういうことに相なつておるのでありまするが、この認定をいたしまするものは、これは災害補償審査委員會でやることに相なるものでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=10
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011・吉武惠市
○吉武政府委員 この行政官廳の認定は、いわゆる勞働行政を掌りまする官廳でありまして、すなわち末端におきましては監督官が認定をすることになると思うのであります。もしその認定に不服があり、間違いがあれば、先ほどの審査委員會にかかりまして、それによつて最後の決定はなし得るのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=11
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012・土井直作
○土井委員 そうしますると監督官が大體認定するということでありますが、それは監督官個人で認定するのですか。それとも監督官の會議機關というようなものがあつて、そこにはかつてやることになるのですか。その機關があるかないかということです。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=12
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013・吉武惠市
○吉武政府委員 實際の監督にあたり、調べるものは監督官でありまするが、それを決定するものは行政官廳でありまするから、地方にできまする監督官廳の長が、それを最後に決定をすることになります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=13
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014・土井直作
○土井委員 この問題は實際の面において、非常に重大な關係があるのでありまするが、たとえば勞働者が重大な過失によつて業務上負傷するということは、これは多くの場合外傷でありますから、大體業務上の過失ということが明確になるのでありますが、たとえばこれは業務上疾病であるというふうに考えられるような場合がしばしばあります。たとえば鑛山におきまするところの、いわゆる職業病と言われておるよろけ病のようなものであります。普通鑛山の場合におきまして、大體年齡十四五歳からはいりまして、約十五年坑夫をやつておりまして、三十そこそこになつてまいりますると、よろけがはいつて來るのであります。これは鑛山のごときは、明確にある意味においてよろけ病という、すなわち業務上の疾病という形に相なつておるのでありますが、鑛山と類似しておりまするところの石工であるとか、あるいはまた紡績工場等に働くところの女工さんに結核が多いとか、あるいはガラス製造の方面に働くところの人々とか、あるいはまたセメント産業のように粉末が非常に多い、塵埃の非常に多いところ、こういうところに働く者が、ある年月を經過いたしますると、自然に肺を冒されてまいるような場合が、あるのであります。こういう場合には、一體これを疾病とみなすのかどうか、またそれに對するところの疾病の一定の基準があるのかどうか、その點についてお伺い申し上げておきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=14
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015・河合良成
○河合國務大臣 これは七十八條の重大な過失によるところの疾病という意味ではない。職業病的の意味のお尋ねと拜承しましたが、そういう意味でありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=15
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016・土井直作
○土井委員 そうでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=16
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017・河合良成
○河合國務大臣 そうしますと、もう鑛山のよろけ病のごときはもちろんはいります。それから石工の異物がはいつて起すというような問題。これはもちろんはいります。ただ今纖維工業の肺結核の問題ですが、これはその混綿などの所におる者はもちろんはいつておりますけれども、これは非常に認定のむずかしい問題です。全部紡績工場の肺結核が職業病という認定は、ただいまのところではちよつとつきにくいのではないか。そこに多少疑問をもつておりますが、大抵のほかの病氣につきましては職業病の範圍は比較的明確に、今まで日本の工場法の實施の結果大體見當はついております。肺結核の原因は、必ずしもその紡績から起きない場合も多い。殊に纖維工業——あの製絲工場などになりますると濕氣の關係で起きる場合と起きぬ場合というような、問題が非常に微妙な點がありますので、この點は全部それが職業病だというわけにはまだいかぬ状態だろうと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=17
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018・土井直作
○土井委員 さらに第八十二條の中に「使用者は、支拂能力のあることを證明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合においては、第七十七條又は第七十九條の規定による補償に替え、平均賃金に別表第二に定める日數を乘じて得た金額を、六年にわたり毎年補償する」ということに相なつておりまするが、この場合に、單に使用者は支拂能力あることを證明するということでありまするが、この證明は一體どこがやるのであるか、たとえば官廳がこれを裏書するのであるか、あるいは單に銀行會社等の預金通帳というようなものを出すのか、こういう細かいことをお聽きするということは、實際の面においてしばしばあり得ることですが、われわれ過去において災害補償の交渉をいたしまして、そうして事業主は證文を入れまして必ず拂うということを言つておりましても、事業經營が非常に困難になりますと、この關係で遂にこれを拂えない。結局民事の訴えをしなければならないという場合がしばしばあつたのであります。この場合における支拂能力を證明するのに、一體どこがどういう形で證明すればよろしいのか、この點について何か規定がありまするならばお示しを願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=18
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019・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまの御意見、ごもつともでありますが、これは根本としてはすぐさま拂うことになつております。それを分割して拂う場合でありますので、本人の同意を得なければならぬというところにもつていつておるのであります。ただ本人の同意を得ると言つたつていかないので、その際に大丈夫だ、支拂能力があるということを證明させるのであります。どういう場合かということは、個々のいろいろな問題がありますから一概に言えないですが、まず第一に本人に同意を求める、本人がこれなら大丈夫だと思えるような證明をすればそれでよい。こういうことであります。官廳といたしましては、こういう問題につきましては十分監督を加えまして、また勞働者がだまかされて同意をするというようなことのないようには十分監督するつもりでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=19
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020・土井直作
○土井委員 どうも、もとより補償を受ける者が同意を與えるということが前提になつていることは言うまでもないのでありまするが、元來會社と從業員ということに相なつてまいりますので、いきおい會社側から事情を訴えられる場合においては、一概にこれを拒否するということが、實際の問題を取扱う場合にはできがたいことがしばしばあるのであります。そこで事實上はたとえば何箇年間、すなわち六年間でありまするが、前半二、三年間は拂つてくれたけれども、それから後は拂わないというような場合が起るのであります。そういう場合において、これに違反すればもとより罰を受けることには相なつてはおりますけれども、しかし實際上は當人がそれだけの損失をする。もとより自分がそれに對して同意を與えたのだから、自己の責任においてやるべきであるというようなことでありまするが、しかしわれわれから考えまするならば、そういう一つの意識的な詐術によつて補償を分割いたしまして、後半支拂わないというような場合が、現實の面においてしばしば散見するところであります。こういうことはもとよりいろいろな面において、勞働組合があり、あるいはその他の監督官廳がありますから、適當にやれるだろうというような考え方はありまするが、個々の人々に對しまする問題が、しかく容易に徹底して取上げられない場合があり得るのであります。そこでこの證明という問題が非常に重大なことに相なつて來るのでありまして、こういう場合における證明は少くとも監督官廳であり、あるいはこの面を擔當しているところの行政官廳が、何か責任をもつてこれが履行をなし得るような、現實的な處置が講ぜられてしかるべきじやないかと思うのでありますが、この點についての御意見はいかがであるかお聽きしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=20
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021・吉武惠市
○吉武政府委員 この點は先ほども申しましたように、分割をするということによつて勞働者が不利を受けるというようなことは許さるべきものではございませんので、監督官廳としては、屆出をやるなり、その後の經過を隨時屆け出させるなり、もしそれが不履行でありまするならば、今お話がありましたように、法の制裁もありまするし、それはもう嚴重にやる方法はいくらでもあると思います。
それからもう一つはこれはこうなつておりまするけれども、保險制度が完備いたしますると、この保險の方でやれまするから、ただ個人の間でこういう問題が起るというのは、問題としては非常に少い場合じやないかと思います。それからもう一つは、これはまあ事業主の便利というばかりでやつたのではありませんで、勞働者側にも、一ぺんに金を貰つてその工場を去つてしもうよりも、まあ繼續していくという場合もありましようし、また一時に金が入りましてそれを使つてしもうというよりも、まあ分割していく方がいいという場合もあろうし、勞働者側にそう不利になるというつもりではございません。監督は十分私どもといたしましてやるつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=21
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022・土井直作
○土井委員 なおこの災害補償に對しまするところの別表第一にありまする數字、この數字というものは、在來の補償率からいたしまするならば、かなり増額されているということが見受けられるのでありまするが、この基本的なるよりどころ、言いかえれば、この數字が出てきましたところの根據がどういう所にあつたか、その點についてお伺い申し上げます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=22
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023・寺本廣作
○寺本政府委員 現在の工場法では、第一級の傷害を標準賃金六百日分といたしております。この六百日分といいますのは、一年の總日數を三百六十日として計算し、それから休みの日數五十二日を引きまして、それが三百八日になります。その三百八日の一年の勞働日の所得の三分の二を一年分として補償する。つまり二百八日分を一年分として補償する。そうしてその第一級のけがをしたものには二百八日分を三年間面倒見る。それを一遍に拂うものですから金利を差引きまして六百日分という數字が出ております。現在の工場法では三年定期という考え方に基いておるのでありますが、この基準法の日數千三百四十日と申しますのは、この三年定期の考え方を六年定期に改めたのであります。六年定期に改めまして、今度の平均賃金の建て方が働いた日だけの賃金でなく、それに休日、休暇を入れまして計算いたしました生活費を基礎にしておりますから、一年の三百六十日から、今度の平均賃金を使います場合には休日を控除する必要がありません。休日は平均賃金の方で見てありますから、三百六十日分をそのまま三分の二、從來の工場法の考え方で三分の二の賃金を見る。三百六十日の三分の二で二百四十日、その二百四十日分の賃金を六年間見るということで、三分の金利を見まして六年間で千三百四十日、こうなるのであります。各國の立法例を見ますと、勞働能力を喪失したものは一生のけが、一生の勞働能力喪失でありますから、生涯面例を見るような法制もありますが、一時金といたしましては十年間分を見るとか、六年分を見るとかいろいろ例がありますが、これを六年定期と私たち呼びますのは、計算の手段として六年分見るということをいたしただけでありまして、實際これを完全な賃金に直しますと三年半分ということになるのであります。各國の立法例に比べますと非常に少いのでありますが、わが國の現状から言つてその邊が適當であろうということで、この六年定期の制度をとつたのであります。六年定期は現在の厚生年金で、障害年金を受ける權利のあるものが業務外の場合で亡くなつた、その場合に對して六年分の定期を支拂うということで、厚生年金制度では六年定期説を既にとつております。厚生年金の考え方、六年定期説を日本の現状から言つて妥當であるということで、千三百四十日という數字を出しております。今の工場法に比べますと二倍とちよつとよくなる程度であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=23
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024・土井直作
○土井委員 わが日本におきましては比較的社會施設が不徹底でありまして、殊に勞働階級が疾病傷害等によつて一生働くことができないように相なる場合がしばしばあるのであります。これらに對しましては比較的冷淡に從來取扱つておるのでありますが、この勞働基準法の制定されましたところのものは、憲法に示めすところのいわゆる人たるべき權利を基本といたしまして、勞働者が健康にして文化的な生活を營むことのできるようにということが建前に相なつておると思うのであります。こういう觀點から考えまして、將來これら産業に從事して貢獻したところの勞働階級が、みずから傷つきまして、再び職につくことができない場合が出てまいりますものについて、政府はいろいろな角度でこれを補償するところの制度を設けなければならないということは言うまでもないのであります。一應打切扶助料によりましてこれを打切られるのでありましようが、さらにその後におけるところのこれらの勞働階級に對しては、どういう方法によつてそれらの人々の生活を保障するという考へ方をもつておるか。これに對しましてお考えがありますならばお示しを願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=24
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025・河合良成
○河合國務大臣 この災害補償の問題は、大體がやはりコンペンセーシヨンの觀念から來ておりますので、經營者と勞働者との關係においてここで一段落をつけるという建前であります。それ以上のことは、一般國民に對する國家の義務としてやつていくことでありまして、生活保護法その他の方法でもつて、できるだけの施設を施すべきものだというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=25
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026・土井直作
○土井委員 なおこれに關連してではありまするが、この災害補償によりますところのそれぞれの補償金支拂の基準は、先ほどお聽きしたので、基準的な關係はやや分つたのでありまするが、特にこの賃金の算定であります。この賃金の算定に對しましては、元來日本では二重賃金あるいは三重賃金というような形において賃金制度が設けられておるのであります。しかしながらそれが二重賃金であろうと三重賃金でありましようとも、それを總括して合計したものによつて勞働階級が生活を營んでおるのであります。こういう點から考えていきまするならば、賃金というものは勞働者の收入全體をトータルしたものでなければならないのが基本原則だと思うのであります。そこでまず第一に現に行われつつありますところの二重賃金制度について、これを撤廢するような方針があるかどうか。この點をお伺いしたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=26
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027・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまの土井さんの御意見ごもつともでありまして、從來いろいろ賃金につきましては標準賃金その他の賃金の制度がございまして、それが實際の總收入からだんだんかけ離れておるということは、私どもも認めておるのであります。從いまして本法ではそういうことのないようにということで、ここに規定しております平均賃金の出し方におきましては、總收入をもとにして平均賃金を出す。架空的な標準賃金というものを避けております。御諒承願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=27
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028・土井直作
○土井委員 非常に結構な御答辯を伺つて私も滿足でございますが、そこでこれは具體的なものとしてお伺いしたいのでありますが、たとえば現に行われております家族手當あるいは通勤手當、こういうものは戰時中にでき上つたものでありますが、もとより戰前からもこれに類似した形のものは相當あるのであります。殊に資本家は巧妙な搾取手段といたしまして、勞働者を使うことを考えておりまして、そのために賃金というものが、どちらかといいますれば、本給よりも手當の方が本給以上のものがある場合がしばしばあつたのであります。古い例ではありますが、私が日本電氣に働いておりましたような場合においては、本給の七割五分というものが割増金であつた時代があります。そのほかに通勤手當とか皆勤手當とか、いろいろなものを加えますと、實際は本給よりもそうした割増金あるいはまた通勤手當、皆勤手當、こういうものによりまして辛うじて生活を營むことができるというような状態になつておる。それはどういうところからそういうことが考えられるかというと、御承知の通りまず第一に、こういう災害補償のようなものが基本的な給料によつて算定される。それから解退職手當のごときものも、これは割増金であるとか、あるいは手當であるとかいうようなものがいよいよという場合には加算されないのであります。解雇手當一箇年分ということにかりにいたしましても、それは本給の一箇年分であつて、實際は手當というようなものは、これから除外されるということが今までの通例になつておるのであります。そこでこの二重賃金ということは、勞働階級に對していろいろな面で不都合を來しておるということは論をまたないところであります。ただいまお伺いいたしますると、災害補償の立案においては總括的な賃金を算定して出しておるということでありまするが、將來こういうような通勤手當、あるいは戰時中につくられましたところの家族手當のごときものはこれを廢止して、なくしまして、そうしていわゆる基本的な給料の中に入れるべきではないか、こう思うのでありますが、これに對する御見解を承りたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=28
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029・河合良成
○河合國務大臣 御説の通りにだんだん基本給の面を大きくして、家族手當その他を減らすことはいいと思つております。思つておりまするけれども、御承知のこの物價騰貴の現勢からいたしまして、生活が非常な變動を受けて來たものですから、給與が能率給というよりも、生活給の面に非常に重點がかかつて來たというような實情でありまして、家族手當についても、何とかよい方法はないかということも考慮してみましたが、これも事實上困難で、實は當惑しておる次第であります。將來の方針といたしましては、今御説のような面に向つて進むべきものだということは、御同感でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=29
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030・土井直作
○土井委員 將來二重賃金制度を廢止して、一本建てにするというようなことについて贊意を表されましたことについては、非常に私の喜びとするところであります。特にわれわれが考えておりまする點は、私は外國の事例はあまり知りませんが、一體外國ではこういうような二重賃金制度を實際の面においてどの程度採用しておるものか。この點について若し存じておりまする點がありまするならば、この機會に一つ御教示願えれば結構だと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=30
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031・河合良成
○河合國務大臣 私は具體的のことはよく存じませんけれども、大體においてアメリカにしましても、イギリスにしましても、二重賃金制度の傾向は非常に少いと思つております。と申すのはやはり貨幣價値の安定が基礎です、ドルなりポンドというものは——ポンドは最近は少し事情も違つておりますけれども、イギリスに十年前に行たつのと、十年後に行つたのと、やはり下宿料の支拂が大體同じようなわけでありまして、ともかくも貨幣價値のスタビリゼーシヨンというものは非常についておる。それだからこの基本賃金を基礎にしていつてよろしいのですが、日本では非常に變化を受けておりまして、その變化に應じてすぐ生活状態が變るから、そこでいろいろな彈力をつけて行くということは、やむを得ずやつてきたのぢやないかと思つておりますけれども、基本賃金をはつきりきめてゆくには、どうしても經濟の基礎が確立して、通貨の購買力の安定ということが一番重大な點であるというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=31
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032・土井直作
○土井委員 現在の状態では通貨は安定しておらないことは言うまでもありませんし、また物價指數においても非常に變動のはげしい時でありまするからして、事實の面において賃金を一定づけるということの困難であるということは御説の通りだと思うのであります。われわれはただ現在の場合において、そういう一つの考え方をもち得るのでありますが、資本家自身が、あるいは工場主自身が考えまするところの過去の關係は、通貨が安定している場合におきましても、あるいは物價等が安定しておりまする時代においても、この二重、三重の賃金制度によつて巧みに勞働者を搾取する、あるいは自己の負擔を輕減するという態度をとつておつたのであります。これは將來大臣の御説明のごとき結果になりまするならば、この制度を廢止しまして、賃金というものは一本にするというような意思を明確にしていただきまして、そして勞働階級が十分安心して勞働にいそしてむように御配慮おきを願いたいと思います。
次に第二十四條に、賃金に對しましてはこれを一カ月一囘以上支拂うということになつておるのでありまするが、御承知の通り、日本の賃金支拂の方法というものは、そうした形において行われております。私はこの賃金が月一囘以上ということでありまするからして、もとより何囘も、たとえば二囘拂いにするとか、あるいは三囘拂いにするとか、あるいは週給にするというような事柄も考えられると思うのでありますが、先ずこの基準法が基準に相なりまして、各事業主は月に一囘を限度としてやる、言いかえれば、金融その他の關係において、こういうことがとり上げられてゆくのでありますが、少くもわれわれはこの給料支拂に對しましては、理想的な面から言いまするならば、週給で進めてもらいたいと思うのであります。しかし今急速に週給まで行くということは、いろいろな面において困難が伴うであろうということは想像にかたくないのであります。そこで少くとも進歩的だと考えられるところの基準法の面から行きまするならば、給料は二囘以上、すなわち月に二囘以上拂うというように修正すべきではないかと思うのでありますが、これに對しまして御見解を承りたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=32
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033・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま大臣の申されましたように、だんだん月給拂いか、あるいは週給ということに變つて行くと思いますが、承知のように、この法律はあらゆる企業、あらゆる規模のものに適用がありまするので、これを全國にわたつて、今直ちに月二囘というようなことは非常に無理でなかろうかということで、一囘以上としておるわけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=33
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034・土井直作
○土井委員 吉武政府委員にお伺いしたいのでありますが、その一囘以上は無理だと言われておることに何か明確な根據がおありになりますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=34
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035・吉武惠市
○吉武政府委員 別に明確な數字的な根據があるわけでございませんで、大體の常識上考えられるというところであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=35
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036・土井直作
○土井委員 これは結局一つの惰性から來る、あるいは慣習から來る形であつて、われわれは新しい時代におけるところの勞働立法、殊に勞働基準法という面から見まするならば、そういうとらわれた慣習的なものに基準を置くということは、非常に贊意を表しがたいのであります。少くとも厚生當局が、この基準法においてはかなり熱意をもつて、殊に精密なる調査研究の結果起案されたものでありまするので、われわれはこの給料支拂というような面においては、もう少し進歩的なものが提示されるのではないかという期待をもつておつたのでありますが、おいおいとか、將來とかいうようなことは、これはその場限りの言葉に相なる場合がしばしばあるのでありまして、私から申しまするならば、思い切つてこういうような點は——これは二囘以上現に各工場においては、かなり前から支給しておるところがたくさんあるのであります。われわれの經驗から行きましても、大正七八年というような相當過去になつておりまする時代においても大工場、大會社等は二囘の給料支拂いということをやつておるのであります。こういうことから考えまするならば、なるほど廣い意味合においてこの基準法が制定されておるのでありまするから、全般的な振合ということを考えれば、あるいは二囘以上ということはできないかもしれないというようなお説でありまするが、しかし日本の現在の實情から考へまするならば、一囘は必ず拂つておるのであります。二箇月に一囘とか、あるいは半年に一囘の給料拂いというようなものは、單なる雇人の場合でも、あるいはたとえば女中とか下僕というような場合におきましても、そういうようなことが行われていない。言いかえれば一囘は必ず各方面に行われている。そういうことから考えますれば、私は一囘を基準にするということは當を得た處置でないと思いますので、將來こういう點について十分御考慮の上、積極的にこれが二囘以上あるいは三囘、あるいは週給にするように御配慮おきを願いたいと思います。これは希望でありますから御答辯を煩わす必要はないと思うのであります。
さらにお聽きしたいと思いますることは、これはきわめて聽く方がどうかといつて、かえつてそういうお話を承わるようなことに相なるかもしれませんが、念のためにお伺いしておきたいのであります。この基準法の適用は、官公吏は言うまでもありませんが、警察官であるとか、あるいは監獄の看守であるとか、そういうような方面にも適用さるべきものである。こう考えておるのでありまするが、この點についてはどうお考えになつておるか、一應お伺いしたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=36
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037・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの賃金の毎月一囘以上の支拂の點ですが、これはただいまの慣行でも、工場におきましてはお説の通りにケースが非常に多いのですけれども、この法律は申すまでもなく、もう一般の官吏から勤人一切を網羅するわけでありまして、料理屋の女中から郵便局もみんな入つてくるわけでありまして、今までの慣行からみますると、工場以外では一囘の場合が非常に多いのであります。また工場におきましても、日給という觀念を去つて月給で、こうじやないか、その方がかえつて能率が上るというようなふうに進みつつある業態もあります。そういう百樣百態の業態をとらえるのでありますから、やはり法律としましては、最低限度としましては一囘以上ということにした方が今日の情勢、また近い將來の情勢においても適當であると考えております。しかしながら工場の賃金の支拂などにつきましては、できるだけ今お話のようなふうに進むのがいいんじやないか、そこらは行政の運用また指導方針でいくんじやなかろうかというふうに考えております。
それから第二の點はこれはお説の通りにそういう方面、警察官、看守その他に適用があります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=37
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038・土井直作
○土井委員 さらにお伺いしたいと思いまする點は、昨日石田君が質問しておりましたことについて御答辯がなかつたのでありますが、中小工場が協同組合的なものをつくつて、連帶責任を負わせるような、そういう形をつくる必要があるのではないかということを言われておりましたが、これは單に戰時中におけるところのいわゆる事業の統制だとか、あるいはそういうような面で私は申し上げるのではないのでありますが、將來日本の中小工場というものは相當にこのケースから見ますと事業經營の上に困難が伴うのではないか、たとえば中小工場がいろいろな面における負擔をなし得ないような場合があつてはいかぬというので、保險法によつて保險金をかけさしておいて、あらかじめ萬一の場合に備えておくと先ほど御答辯がありましたが、實際はその保險金をかけること自體が相當に困難な者ができてくる場合も想像にかたくないのであります。殊に中小工場の場合において、そういう面が多分に現われてくるのじやないか。そこで大體保險金の率合い、言いかえますならば、このケースに入つておりまするところのいろいろな負擔をなしますることによつて、一體どの程度の保險金をかければその補償ができるかどうか。またその補償をすることが相當に困難だとするならば中小工場がそれぞれ協同的に協同組合式なものをつくりまして、お互いがカバーし合うというような、こういうことの指導をすることがよいことではないかと思うのでありますが、この協同組合式なものをつくらせるということについての意向と、それから保險金の負擔が中小工場、殊に小工場に對しまして、一體どの程度のもので賄い得るか、これについての基本的な數字がもし示せるならば、この場合お示しを願ひたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=38
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039・河合良成
○河合國務大臣 日本の中小工は將來どういうふうにやつていくかという問題は、ただいまの問題と非常に關連性をもつておりますので、きわめて重大な問題であると思つております。それで御指摘のような協同組合的な組織などは、最も歡迎すべき一つの樣態であろうと思つております。そのほかいろいろ最近考えておりまするのでは、工場アパートのようなものもだんだんやつて、一つの大きな工場を分割しまして、そうして中小工を入れてやる、そうしますと自然そこにやはり電力とかその他の關係、あるいは經營指導の方の技術上の問題などについても關連性をもつてきて、中小工の經營を樂にするという面、いろいろな面において方法もあろうと思つておりますが、これは主として商工大臣からお答えになるべきことだと思つております。今の保險の負擔を輕減するという——それをお互いにカバーするという面については、できるだけそういう點に進むのがよかろうという考えでおります。また保險料の負擔の程度につきましては、この間から災害保險を見まして私の頭へ入つている記憶では、比較的少くて濟む、これならば大體やつてゆけるという見込みでありますが、細かい數字はただいま政府委員から申し上げます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=39
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040・寺本廣作
○寺本政府委員 勞働者災害補償保險の掛金の率でありますが、現在まで事務當局で準備いたしております法案の掛金の率は、一般職員につましては俸給一圓について掛金が二厘であります。一般勞働者につきましては俸給一圓について掛金が六厘である、現在の健康保險が一圓について勞働者二錢四厘、事業主二錢四厘、年金保險の一圓について五錢五厘となつております保險に比べますと、きわめて低率で勞働者災害補償が成立つという計算であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=40
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041・土井直作
○土井委員 次にお伺いしたいと思いますることは、この法規によりますると、紡績工場等におきまするところのいわゆる寄宿舍制度、紡績工場ばかりでありません。最近は各方面における産業場に寄宿舍制度が採用されておりまするが、今度はこれに對しまして比較的自主的なものを認めまして、在來やつてまいりましたような、工場がこれに一々容喙するというようなことをせぬことに相なつているのでありまするが、そこで實際の面におきましては、われわれから考えれば、法規の面ではそういうことになつておりまするが、しかしはたしてそういうことが可能であるかどうかという點であります。そこでこの問題を徹底せしむるためには、どうしても監督機關というものが十分に活用されていかなければならないと思うのであります。さらに女工さん等を取扱う面におきましては、男の監督よりも女子の監督が必要であるのであります。最近警察官なども女子を採用しておりますが、勞働者の面においてこの女工さんを取扱うことのために女の監督が相當に必要だと思うのでありまするが、もとよりこういう面は、過般本會議あるいはまた當委員會におきましても、同僚議員の諸君の質問に對して答えておられまするが、全國的に見まして、この女の監督官を一體どういうような形で、どの程度のものを採用することになつておるか。もう一つこれらの人々の監督の内容は、實際の面において、たとえば女の警察官を採用いたしましても、その仕事の上において制限があるように承知しておるのでありまするが、同じ監督官でありましても、仕事の面において何か特別な職分が區分されていくのかどうか。こういう點について念のためお伺いしておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=41
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042・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま寄宿舍の問題についてのお話から、監督官についての御意見がございましたが、寄宿舍制度につきましては、お話のように從前の寄宿舍制度は、ややもしますると身分拘束的な制度でございますので、本法におきましてはその點を一掃いたしまして、自治的な寄宿舍というものを設けることにいたしております。これが實際の面に具現いたしまするには相當の困難があるかと思いまするが、これは今日の情勢におきましては、當然押し切つていかなければならぬと思つております。それにつきましては監督官の制度を完備しなければなりません。これは寄宿舍ばかりではございません、本法の施行につきましては、御承知のように、相當進んでおり、またその關係する部面が從來の工場、鑛山ばかりでなく、あらゆる業態にわたつておりまするので、監督制度の完備ということは本法施行の上において最も重要なところであります、大體豫算の方面におきましても、從來は監督官というものは非常にわずかしか認められておりませんでしたが、今囘は相當思い切つた監督官の數をも認めてもらつておりますので、その中にはもちろん女子も相當思い切つて參加させるつもりでおります。その際の女子の監督官の職分でありまするが、もちろん女子の監督官は、女子の保護の上には女子が當るということが、最も關心も深いし、熱意もあると思つて、そういう方面に携わらせるつもりでおりますけれども、今すぐに女子の監督官はこれこれだというふうな、こまかい構想はもつておりません。主として女子、子供等の保護に當らせる考えをもつております。
〔小島委員長代理退席、委員長著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=42
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043・土井直作
○土井委員 三十六條に書いてありまするところの、當該事業場に、勞働者の過半數で組織する勞働組合がある場合においてはその勞働組合、その勞働組合のない場合においては、勞働者の過半數を代表するものと協定しなければならないということでありまするが、いわゆる勞働組合のない場合における勞働者の過半數というもの、これに對する方法は一體どういうふうにしてやるのか、代表會議のようなものを開いて、それでやらせるのか、あるいは過半數という事柄について、具體的にはどういうことによつて決定しようというお考えをもつているのか、この點をお聽きしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=43
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044・吉武惠市
○吉武政府委員 組合があれば簡單でありまするが、ない場合にはめんどうな點もあろうかと思いまするが、それはやはりその場その場に應じて公正な方法をとらせるよりほかないと思つております。委任状によつて決定する場合がありましようし、あるいはまた全部集まつてもらつて、そこで討議する場合もありましよう。それはその個々の場合で公正な過半數の代表をとる方法を認めるほかないと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=44
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045・土井直作
○土井委員 ただいまの御答辯によりますると、その工場々々の特殊的な事情に從つて講ずるということでありまするが、たとえば時間の延長その他を考えている場合、いわゆる常時殘業その他が行われるという場合でありまするならばこれはやり得るのでありまするが、しかしこの基準法は原則として定時間制というものを認めていく。言いかえればオーパー・タイムというものは萬やむを得ない臨時的なものであつて、常時的なものではあり得ないということが原則になるのであります。こういう場合に、たとえば急に仕事がはいつてきて、一定の日限あるいは二日なり三日なりというような豫則されない仕事がきた場合において、一々代表會議を開くとか、あるいは投票によるとかいうようなことは相當に困難が伴うのじやないかと思いまするが、こういう點につきまして、當局の見解は常時こうしたオーパー・タイムがあるという御見解の上に立つて考えられておるのかいつの場合でも勞働者の健康と、あるいは文化的生活をなさしむることのためには定時間制を嚴密に行う。萬やむを得ないときだけこのオーパー・タイムや何かを認めるという、この立場においてお考えになつているといたしますならば、實際の面において、これを運營することが相當時間的にも技術的にも困難な場合ができるのではないかと思うのでありますが、この點についての實際上から見たお考えがあれば示してもらいたいと思ひます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=45
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046・吉武惠市
○吉武政府委員 ごもつともでありますが、この三十六條で豫定してございますものは、大體普通の場合豫定されるものについてあらかじめ協定をしておくということであります。臨時に思いがけなく出てきたときにすぐ組合の意見を聽くとか、あるいは過半數の代表の意見を聽くというようなことは、なかなかできないことであります。そういう臨時に起つてきた問題につきましては、三十三條にありまする臨時必要な場合においての處置があるのであります。ただしかしこれはそう簡單にいつでも臨時必要というわけには認められませんが、避くべからざる事由によつて臨時必要があるような、ごく臨時的なものは三十三條でいくのであります。普通の場合はあらかじめ豫定されるものについてやつておくということであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=46
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047・土井直作
○土井委員 そこでわれわれの懸念される點は、たとえば工場全體が時間外の勞働をするというような場合でありまするが大きな工場等になりまするとデパート、デパートによるところの部分的なものが生ずる場合があるのであります。これはかなり現實的な面においてこのことが行われていると私は見るのであります。このデパート、デパートにおいてやる場合におけるいわゆる過半數というのはそのデパートに限定されるものであるのか。あるいはやはり工場全體としてその問題を取扱うのであるか。こういう點についての御見解をお示し願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=47
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048・吉武惠市
○吉武政府委員 組合がありまするときには、やはり組合全體としての行動をとる方が望ましいから、從つて組合の同意を得るということになると思います。それから組合のないときには、今のような部分的な問題については問題はありますが、しかしこれはただ組合がないということだけでありまして、やはりそこの職場に働く勞働者としては共通の利害關係がありますから、やはりその全體の意見をあらかじめ聽いておくということが望ましいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=48
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049・土井直作
○土井委員 どうも實際の面にはいつてくると、これは非常にむずかしい問題になるのじやないかと思うのです。勞働組合のある場合においては勞働組合が自治的にやりますから、局部的なデパートによつてそれぞれその時間外の勞働をするということは、あらかじめ協定もできるでありましようし、あるいはその可能性が十分認められるのであります。ところが勞働組合がない場合に、殊にある一定のデパートだけが常時殘業をしなければならぬという場合がしばしばあるのであります。たとえば他のデパートではほとんど殘業がない。しかしあるデパートに限つて仕事が非常に多いために殘業をやるという場合がある。その場合に、この條文からゆきますると、いわゆる勞働者の過半數を代表するものとの書面による協定ということになつておるのであります。その場合に一體過半數ということは、この法律の面から見ますると、全工場の從業員の過半數と、こう私は認定するのでありますが、利害關係のない、言いかえれば殘業制度に對して直接關係のないデパートの諸君と、それから殘業をしなければならないところのデパートの諸君とのいろいろな錯綜した利害關係とか、その他の面がありまして、それで全體的に統一をとることが非常に困難になつて事業の上に影響をもたらす場合がありはせぬかと、こう考えるのであります。これについて一體どういうふうな處置を當局としてとられる意思をもつて立法されておるかということなのであります。これは具體的な面において將來起つてきて、疑問になる點じやないかと思うのであります。そこをひとつ明確にしておいていただかなければ、非常に困る場合ができ上るのじやないか、かように思つておるわけであります。その點についてさらにひとつ御答辯願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=49
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050・吉武惠市
○吉武政府委員 大體土井さんの意見に贊成でありまして、そのつもりでつくつております。ただしかしその當該事業場というのは、たとえば一つの會社があつて、その會社の工場が二つも三つもあるという場合に、その二つも三つもある工場全體の組合があれば簡單ですけれども、組合がない場合に、その工場全體なのか、一つなのやら。その一つの工場が一つの當該事業場であるかというような點は、個々の認定によつて見なければならない場合があろうかと思つて、若干私は含みをもつて申し上げたのですが、大體一つの組合が組織されるような職域については、その全體の勞働者の過半數というふうにもちろん運用してゆきたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=50
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051・土井直作
○土井委員 どうもまだ納得がゆかないのですが、私は一つの工場内におけるデパート、たとえば電機會社のような場合においては、變壓工場とか、あるいは絶縁工場であるとか、卷線工場であるとか、あるいは鑄物工場であるとか、あるいは板金工場であるとか、機械工場であるとか、それは別に離れているわけではない。要するに同一工場内におけるところの敷地内で、同一の建物の中に二つも三つもパートがわかれている場合がある。その場合に、限られたパートだけが殘業するような場合において、勞働組合があれば問題じやない。勞働組合がない場合においての過半數ということになると、一體そのパートだけの、たとえば機械工場だけの過半數でいいのか、そうでなくて、要するに全體ということになると、利害關係がないところのものとのあれでもつて、非常にむずかしい問題ができてくるのぢやないか。こう思うわけであります。それで全體としては、一々わずかのパートだけを、これはぜひ殘業しなければならぬということになつておるにかかわらず、全體の代表の、全體の人の過半數の承認を得るということは、これは工場、會社としてなかなかやることに困る場合ができてくるのぢやないか。そういう場合を言うのでありまして、工場が全然別個の所に第一工場、第二工場、第三工場とあるという場合ならば、その工場單位にやつていいと思うのでありますが、同じ棟の中にそれぞれパートが違つておるというような場合、部分的パートの殘業の場合に一體どう取扱うか。こういうことなんであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=51
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052・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまの土井さんの御意見のような場合であれば當然その全體を意味しております。今の、工場の中の部分でありませんで、個々のデパートでなくして、全體の勞働者の過半數。だから土井さんの御意見の通りであります。土井さんの御意見は、部分だけの同意でいいかという御意見であれば、そうではありません。部分的ではなくて、全體の意見を聞くということであります。實際そうでなければ、たとえば三人のうち二人が殘業したい場合には、本人の同意を得ればそれでいいかということになる。そうではない。ただ組合がないときに、その組合の同意を得るということができませんから、組合に代る方法によつて全體の意見を聽くという建前をとつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=52
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053・土井直作
○土井委員 われわれは實際的な面でこの問題を考えておるのですが、たとえば極端な場合を言いますと、私日本電機にも働いたことがあるし、芝浦製作所にももと働いたことがありますが、たとえば芝浦製作所のような場合においては、總合的な仕事をやつておりますので、工場がいろいろに分割されておるわけであります。今言いましたように、鑄物工場があるかと思えばエナメル工場がある。あるいは板金工場があるかと思えば機械工場がある。あるいは絶縁工場がある、卷線工場がある。卷線工場があるかと思えば煽風機の工場がある。いろいろある。日本電機のような場合でもそうである。電話調整器がある。調整器の中にも受話器がある、送話器がある。發電機がある。あるいはモーター係がある。あるいは木工があるとか鑄物があるとか、いろいろわかれておる。そういう場合に勞働組合があればいいけれども、勞働組合がない場合に、たとえば鑄物だけを殘業しなければならぬという場合に、全體の人の意見を聽くということになると、それは非常に仕事がやりづらくなる、できなくなる。その場合にはやはりそのパートパートの過半數ということでいいのかどうか。私はそれでなければ事實の運營については困る場合ができてくるのぢやないか、こう思うわけなんです。これは三十六條なり、あるいは場合によつては九十條とか、こういうような面では實際にかなり疑義を生ずる場合がある。そうして事實の仕事の上において困難を來す。言いかえれば、千人も二千人もいる中で、百人の單なるデパートだけが殘業しなければならないという場合が現實の問題としてはしばしば起る。その場合に、百人の人を殘業せしめるために千九百人の人の——過半數だから一千人以上の人の同意を得なければ、その局部的な百人の人の殘業ができないということになつたならば、これは作業をやつてゆく經營者の面から言つても、非常に困難が伴うということを考えるのです。この點についてどうも實際の面と符合しない場合があるので、單なる問答になつてはかえつていけないと思うのでありますが、さらにひとつ明確にしていただくことがいいのぢやないか。こう思うのでありますが、いかがでしよう。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=53
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054・吉武惠市
○吉武政府委員 この三十六條の問題を、臨時に個々に起つたときに、すぐそこで同意を得ようというような御趣旨に考えられますると、今のような非常に面倒な問題が起ると思います。そういう個々に起つたときに、すぐそこで同意を得るかどうかという臨時の問題は、そういう同意でなくして三十三條の方にあります臨時の必要でやるわけであります。ただその工場の全體の經營としてあらかじめ豫定される、どういうときにはどの程度の殘業をやろう、そういうときの條件はどういうふうにするということを、あらかじめきめておく場合を規定しておるわけであります。普通勞働組合があるときには、そういうものは勞働協約で當然規定されるのであります。勞働組合のないところでも、それに代わるような方法によつて、民主的な全體の勞働者の意見を聽いて、あらかじめつくつておくことが望ましい。こういう方法をとつておるのでありますから、個々に臨時にぽつと起つてきたそのときに、さあ同意を得るにはどこの部面の勞働者の過半數の同意でいいかどうかというようにお考えになりますと、きわめて困難のように思いますが、そういうことを豫定しておるのではないのであります。從つてこのなかには方々にそういう規定がございます。たとえば就業規則をつくる場合におきましても、ただ就業規則が一方的に會社の方でつくられるということは望ましくないから、民主的に、その勞働者の意見を聽く、勞働者の意見を聽いてみて、それを反映してつくるという場合には、組合があれば簡單ですから組合でできますが、組合のない場合といたしましては、やはりそこに勤めておりまする勞働者の全體の過半數の意見を反映してやるということが望ましいと思つておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=54
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055・土井直作
○土井委員 大體私の質問は以上で打ち切りまして、あとは商工大臣が歸つてまいりましたら、その機會にさらに質問を繼續することにいたしまして、ひとまず打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=55
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056・矢野庄太郎
○矢野委員長 それでは午前はこの程度にいたしておきまして、午後は一時から開會をいたします。
午前十一時五十二分休憩
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午後一時十八分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=56
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057・矢野庄太郎
○矢野委員長 休憩前に引き續き會議を開きます。質疑に入ります。土井君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=57
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058・土井直作
○土井委員 商工大臣に御質問申し上げたいと思うのでありますが、まず第一にお伺いしたいと思います點は、勞働基準法が實施されますことによりまして、殊に勞働基準法の面におきましては、事業會社がかなり大きな負擔をするという結果に相なると思うのであります。そこでこの基準法が實施されますことによりまして、わが國のいわゆる産業經濟にどういうやうな影響をもたらしてくるか、この點をお伺いしたいと思うのであります。それはどういうことであるかと申しまするならば、御承知の通りわが國の從來の産業は、低賃金と過重な勞働によりましてその産業が維持されていつたのであります。もとより事業者が過大な利潤を追求するという面もありましたから、在來のいわゆる事業者の利潤を大幅に縮小いたしまして、この基準法が制定されますることによつて生ずるすべての負擔を、肩がわりするということも考えられるのでありますけれども、いずれにいたしましても、基準法制定は、各産業の面にかなり時間的な關係において、あるいは實際的な賃金の支拂いの上において、あるいはまた災害補償、その他の問題を通じまして、經濟的な負擔が加重されていくだろうということを考えるのであります。これによつて及ぼす影響がどうであるかということについての御見解をお伺いしたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=58
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059・石井光次郎
○石井國務大臣 今度の勞働基準法によりまして、勞働時間の點、あるいは賃金の點等におきまして、今お話のように、このままの形で賃金が上り、あるいは勞働時間が縮小されれば、産業には生産面において非常な惡影響を及ぼすわけでありますが、私はそのままにはとらないのでありまして、産業の面におきましては、かえつてよい影響を及ぼすのじやないかという方に考えをもつておるのであります。それはどういうことかと申しますると、第一には勞務者自身の待遇改善によりまして、勞務者の働らく面におきましての生産意欲というものに、非常によい影響を及ぼすのではないか。それから經營者と勞務者の氣持が、生産を盛んにしなければ、俸給も渡り得ないであらう。どうしても働かなくちやならぬということに考えが及んで、勞務者と經營者が一體となつて、生産を盛んにしていくという氣持も起つてくるであろうという、これは心持の上の面でまずそう思います。それから實際的の仕事の面からみますると、時間的にいろいろ制限されていく。あるいは賃金値上げによつてきます經營上の、算數上の打撃はどこからそれを埋めていくかという問題になるのでありますが、今申しましたような氣持によつて生産が増加すること、また品質の向上という面におきましては、私ども特にこれは中小工業の面でこの間からやかましく言つておるのでありますが、經營の合理化と生産技術の指導ということに努力をいたしていくことを、この間からしきりに申しておるのでありますが、そういう方面からいたしまして、生産品そのものをよくしていく。そうして數も増していくということになりますれば、かえつて日本の經濟基礎と申しまするか、製品の面において、國内はもちろんでありまするが、海外の貿易關係におきましても、よい状態に進んでいくのではないかと考えておりまして、結論といたしまして、産業經濟の面にはかえつて長い目で見ればよい影響を及ぼすであろうということを考えております。またお話の中に、その過渡期において非常に困難なことがありはせぬかというお話であります。これには私の申しましたようなことは、今日からすぐということはできないものでありまして、過渡的には多少の困難を伴うと思うのでありますが、そういうことに對しまして、中小商工業等においてはできるだけ協同的にいろいろ仕事をやつていくということによりまして、いわゆるさつき申しました經營の合理化という方面でいろいろ指導援助をしていけば、その點は補い得るのではないが。しばらく不自由あるいは經營上に多少の打撃はありましても、これをやつていくことによりまして、長い目で見れば日本の經濟は立派な方向に進んで行き得るということを信じておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=59
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060・土井直作
○土井委員 勞働階級の地位が、精神的な面からあるいは物質的な面から向上されていくことは、日本の産業發展のためにきわめて望ましいことでもあり、好結果を與えていくということは言うまでもないのでありますが、ただいま商工大臣の御答辯によりますならば、過渡的には相當に困難も伴うかもしれぬが、長い目で見ていけば必ずしも悲觀すべきものではないというようなことであります。もとよりわれわれはそのことを期待しておるのでありますが、ただ日本の産業の面からいきますならば、必ずしも歐洲の先進國と比較して、日本の産業が優位にあるとは考えられないのであります。そこで事業主が負擔する面が急速なる、あるいは過重なる形においてでき上つてまいりますならば、日本の産業發展の上において、あるいは惡い結果をもたらす場合もあるのではないかということも考慮の中に入れなければならぬのであります。萬一日本の産業が思わしくないような形になつてまいりますと、その結果この基準法によつて決定されていこうとするものが、いろいろな面において實行されていかないような場合ができましては、かえつて勞働階級全體の生産意欲なり、あるいはその文化向上のためにも惡い影響をもたらすと思うのであります。そこで一體今度の基準法を實行することによつて産業界が負擔しなければならない數字はどういう形において現われてくるか。言いかえれば從來の慣例からいきまして、生産の面においてどの程度の負擔をれしなければならないかということを、商工省としては數字的に檢討したことがあるかどうか。また數字的に檢討したといたしますならば、その結果は一體どういうふうになつておるか。この點をお伺いしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=60
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061・石井光次郎
○石井國務大臣 今のお尋ねのような數字的の調査をいたしたことは、商工省として未だないのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=61
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062・土井直作
○土井委員 特にわれわれが重大に考えられる點は、日本の産業が殊に日本の産業の面において大宗と言われております紡績産業は、外綿を輸入してやるのでありますが、外綿を輸入してやる紡績産業は、どちらかといえば手間工賃という形に相なるのであります。この手間工賃ということになつてまいりますると、實際の面において事業家の負擔するところの面が非常に高いもの、あるいは過重なものになつてまいりまするというと、外國との貿易關係において競爭が成立たない場合ができ上つてくるおそれもないではないと思うのであります。かつて昭和五年から後であると記憶しておりまするが、當時日本の製品はソーシヤル・ダンピングによつて海外の市場を荒らしてゆく。言いかえればそれは勞働者の低賃金と過重勞働によつてあがない得たものであるということを言われておつたのであります。將來日本の産業の面において、殊にこの紡績のような場合におきましては、手間賃仕事であるという面から行きまして、その生産コストが相當高くなりまするならば、海外との貿易というものが、競爭が成り立たないという場合が生ずる憂えもあるのであります。そういうことは結局日本再建に對するところの大きな影響をもたらしてくるのでありまして、この點について、將來海外貿易が許された場合において、生産コストの相當高くなる日本商品がその競爭にうち勝つて、そうして日本の經濟を再建することができるかどうか。そういう點についてのお見透しがどうであるかということについてお伺いをしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=62
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063・石井光次郎
○石井國務大臣 紡績の面におきまして、かつてレーパー・ダンピングと言われました時代があつたことも事實でありまするが、だんだんと日本の紡績業が、その後においての發展の經路を見ましても、賃金の面において外國よりはなるほど安いが、日本の生活においてひどい惡待遇ではないというようなことも一時われわれ聞いておつたのであります。さてこれから先それではどうなるかという問題でありまするが、綿花が絲になつて、絲のままで出てゆくとか、あるいは織られまして生地のままで出てゆくとかいうことよりも、もつと進んだ仕事をして、たとえば染織をし、あるいはそれにもつて加工して品物を出すということが現在の形においてもいいだろう。司令部の方からもそういう品物を出した方がいいだろう、ただ生地のままではなかなか向うでもつて今のところ、お話の中にありましたように、品物としての競爭の面もあるとみえまして、何か加工したものがよろしいというようなことで、先ごろから數字で申すと四千萬平方ヤールでありますか、それだけ染織加工して出せという話が來て、でき上りました品物に加工するような手順を今しておる状態でありまするが。こういうふうなことにして素材を第一次的に加工し、また第二次、第三次的にだんだん加工した品物が出るようになつてゆくということになりますると、その間のいろいろ値段の上においても有利な展開をすることができるだろうと思つております。ただ勞働賃金が製品に及ぼす影響の大きくなることは、どの場合においても同じようにかかつてくるわけでありまするが、これはどうしても製品をよくしてゆく。そうして高い値段でも賣れるようにということと、それからもう一つは、それをたくさんの製品にかけて、一つの品物に對する勞働の單價を低くするという、これは二つの面からしかゆく途はないのでありまして、それが實際上困難かどうか、簡單には何でもないことだということができぬのも事實でありまするが、これはこれから先のその業態の經營の行き方によりまして、だんだんこの負擔を緩和することができるのじやないか。日本の紡績業が盛んになつてきて、世界にのしていつたということも單に勞働賃金が安かつたというだけでなく、日本の綿をもつてきて、そうして世界各國の綿に混綿をする仕方が上手であるとか、あるいはでき上る品物がそれぞれの地帶に向くように——何も先進國にもつてゆくだけではない。後進國の方にもいろいろもつてゆくということについての、商賣上のいろいろな上手な行き方もあつたということで、日本の紡績業は、伸びてきておつたのでありまするから、私は必ずやこの前途は悲觀することはいらぬと、こう思つております。
〔委員長退席小島委員長代理著席〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=63
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064・土井直作
○土井委員 戰爭前における日本の對外貿易は、大體においてわれわれの見るところによれば、要するに勞働の過重と低賃金によつてかち得たものであるといことを、斷定的に申し上げることは多少控えなければならぬかもしれませんが相當強くその點を申し上げることができるのじやないかと思うのであります、たとえば今商工大臣が一例として、紡績産業の面において素材をそれぞれ密度の加工によつてやるということによりまして、將來決して他國の製品と劣るようなことがなくなつてゆき、海外貿易の上においても影響するところは少いだろうということを言われておりますが、現に私は昭和三年以來染織勞働組合に關係をもつておりまして、染織は單なる手間工賃の業であります。言いかえますならば、製品に對して捺染、さらさ、あるいは刺繍その他を行いましてやるのでありますが、結果におきましては勞働階級全體に對するところの賃金は、いわゆる發注者と生産者との間におきまして、サンドウイツチ的な壓迫をこうむつて、それが事業家から必然的に勞働階級の低賃金を強要し、あるいは過重なる勞働を強要するということになつておつたのであります。こういうことが將來起らないであろう、あるいはまたいろいろな面においての生産の技術的向上によりまして、これを防ぐことができるであろうという大臣の御見解は、ある意味において安易な御見解ではないかと思うのであります。われわれは勞働階級全體が健全なる形において將來生活を營むことのできるように、この勞働基準法によつて基礎的な條件を確保していただくということはぜひ必要であります。またそれを將來恒久的に實施していただかなければならない。同時にそれは日本の産業の面においてすなわち經濟の面においてこれが確立されていかなければならないということを考えておるのであります。現在の日本の經濟状態は、必ずしも將來樂觀を許さない状態になつておるのであります。一面において相當理想的な勞働基準法というものができ上つてきておるのでありますが、しかし日本經濟の將來の面におきまして、樂觀すべきよりもむしろ悲觀すべき状態であるということを考えまするならば、今日描かれておりまするところのものが、實際の場合にこれを實施するときに、それが履行できないということは、われわれとして大きなる苦痛であり、また失望でなければならないのであります。私はそのことをおそれるゆえに、いわゆる經濟再建の面において、日本の將來の産業がどういう形において行われていくかということが、非常にこの問題と關連を有すると思うのであります。
そこで實際の面におきまして、私から考えまするならば、なるほど日本の從來の産業におきましても、必ずしも低勞働賃金と勞働時間の過重によつて行われたものでるいということを言われておりまするけれども、事實はしからずして、むしろ私が言いまするように、勞働時間の延長と、それから低賃金によつてもたらされたところの一つの大きな結果であると思うのであります。そこで現在いわゆる勞働攻勢、あるいは勞働階級の階級的意識水準の向上によりまして、人件費は非常に大きくかさばつてまいつております。官公省等における人件費においてもしかりであります。工場會社等における人件費もしかりであります。その生産コストの七割ないし八割を人件費に投じなければならぬという状態であります。こういうことになりまするならば、いきおい勞働基準法というものが制定されて、もし産業全體が維持、經營することが困難であるとするならば、個人の企業の面から離しまして、これを國家企業の面に移行し、國家全體の上においてカバーしていくということが必要じやないか。商工大臣といたしましては、將來こういうような面において支障を來す場合に、それぞれの産業を國家の機構經營の中に包容していく。すなわち國營に徐々に展開していくというところの必要があるのではなかろうかと思いまするが、この點についての御見解をお伺いしたいのでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=64
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065・石井光次郎
○石井國務大臣 今のお話の御心配になりました點は、私どもも非常に心配している點であります。せつかくこの基準法を出した以上は、この基準法の精神がいつまでも守られていつて、勞務者の立場、勞務者の健康、給與というようなものを確保して、そのまま守り通せるということにあらゆる努力をしなければならぬと思うのであります。うまくいくだろうというような、簡單にそういくとは私思いません。ただ前途の見透しはそうなるだろう。またそうしなくちやならぬ。そうするには官も民もともにいいという施設はどんどん取入れていくのだ。そうしてこれを守ろうじやないかというその説明を加えて、私は將來はいいという見透しを申し上げたわけでありまするが、今のお話の、だんだんいけなくなつたらしまいには國營にする意思はないかというお話でありますが、私は國有問題につきまして、たとえば石炭の問題とか、肥料の問題等についても、それに似たような意味のお尋ねをほかで受けたときにも申し上げたのでありますが、私はそういう場合に國營に持つていくということは考えていないのであります。私自身としては國營に持つていかずに、國民そのものの創意によつていろいろな面が改善されていき得る、またそれと同時に、政府の方においても、その經營がうまく合理化されて、工員の待遇もよくなり、一方製品もよくなるという面にあらゆる努力をして、援助をしてやつていけるのではないか。將來のことは知りませんが、現在は私そういうように思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=65
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066・土井直作
○土井委員 商工大臣に對する質問はその程度で打切りまして、厚生關係で一、二御質問を申し上げたいと思います。今度の勞働基準法の制定と關連いたしまして、政府がその機構の面におきましてそれぞれの局を設け、その局の下に、またその下部組織というものをつくることになつているのでありまするが、現在の機構の内容では勞働省の下に六局を設ける。この六局のうちに特に勞働基準法なり、あるいはまた勞働基準法と關連するところのいろんな仕事を取扱う面におきまして、たとえば勞働基準局、あるいは婦人兒童局、あるいは勞働統計局、あるいは職業安定局、あるいは纖維局——纖維局は直接これにははいつておりませんが、とにかくこの四つのものが主たるものとして置かれている。そうしてこの勞働基準局の下には府縣單位に勞働基準局、あるいは勞働監督署というものを設け、また職業安定局の中には、さらに地方におけるところの職業安定事務局というものを設ける。あるいはその下にさらに職業安定署というものを設けて行こう。上から下までずつと一本建の形になつていくのでありますが、これから見ていきますると、要するに勞働基準局と職業安定局などというものは、局を二つにわけてそれを全面的に下部組織にまでもつていくというようなことは、腹は腹で踊れ、背中は背中で動けというような、一人の人間を半分にしたような組織の機構に見えるのであります。こういうようなものは一つの局にしてやつていくことが必要じやないか。しかも勞働省の一つの案といたしましてつくられた六局というものは、ある意味においてセクト的な、ほとんど繩張り的なものの考え方に出發してつくられておるのじやないかという疑いがあるのであります。この點について勞働省の將來の構成機構の基本的なものがどこにあつたかということをお伺いしたのであります。
なおそれと關連いたしましてもう一つお伺いしたいのは、從來の地方行政機關でありまするところの府縣廳、これと下部組織のたとえば地方の勞働基準局であるとか、あるいは勞働監督署というようなもの、これの權限またそれの關係運營の面におけるところの具體的な内容等、一應お聽かせ願えまするならば非常に幸だと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=66
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067・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま土井委員の御質問は勞働關係の機構の問題だと存じますが、勞働省の機構の問題が新聞等に出ておりますけれども、實はまだ勞働省の中の機構はきまつておりませんので、ここでお答え申し上げにくいと思います。ただこの基準法に關する限りにおきましては、この基準法の中に施行の機構というものが規定されておりまして、これはこの中にありまするように、中央に勞働省ができるとできぬにかかわらず、勞働基準局というものを設けまして、この法律の施行の責任の局を明確にしております。なお地方におきましては、ただいま御質問もございましたが、地方にはこの中に規定しておりまするように各府縣にやはりその下部機構として、府縣勞働基準局というものを置きまして、それがこの法律の施行の責任に當る。なお各府縣に一つずつの局ができますが、やはりその縣内には方々にいろいろな工場地帶その他もございまして、ただ縣の中心だけで監督は行屆きませんから、その下になお數箇所監督署というものを置きまして、それが實際の監督に當るというような機構になつております。
それからいま勞働基準局と職業安定局との關連のお話がございましたが、將來勞働省ができる場合にどういう機構になるか存じませんが本省におきましては、やはりこういう工場監督の部面を掌る責任の局は必要だろう。なおまた職業の斡旋紹介等をいたしまする專門の局もやはり必要であると思います。現在でも勤勞局というものがございまして、勞働監督については勞政局がやつているのでありますが、その他それぞれの專門に當る局というものはこれは私必要だと思います。ただ地方の機構についての土井さんの御意見は一應ごもつともと思います。地方で同じ勞働行政をやる機構がそういくつもわかれているよりは、一つに統合してやる方がいいじやないかということは一つの御見解であります。しかしながらとかく總合的に一つの機構でやりますると、それぞれの責任というものが總合的になりますために重點がかからないというところで、やはりそれぞれの專門の部局をつくつたがよいという意見もまたかなり有力にあり得るわけであります。本法の施行につきましてはいわゆるその後者の方の專門の部局が責任を擔當してゆく方がいいというところで、これは別個に今の基準局をおき、その下にまた監督署というものをおいておるわけであります。地方の機構につきましては勞働省と關連いたしまして、まだはつきりいたしませんが、大體の構想といたしましては、現在のところでは、いわゆる勞働爭議に對する斡旋とか調停とか、そういう問題、あるいは勞働組合のいろいろな關係の仕事というものは、府縣に殘しまして、府縣知事の責任においてその中に勞政擔當の部課をおきましてやつて行く。それから勞働保護に關する監督機關は府縣から獨立いたしまして、國の直轄で部局をつくつてやつてゆくという構想であります。職業紹介の方の關係も、これは各府縣というよりはブロツクブロツクに國の直轄の職業安定に關する局をおきまして、その下部として現在ありまする職業紹介所というようなものを多少變えまして、職業紹介所あたりにやはり窓口はやらせてゆくという考えでおります。まだこれは決定しておりません。大體の構想だけであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=67
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068・土井直作
○土井委員 大體わかりましたが、なおお伺いしておきたいのは、地方勞働基準局というものがこれは大體一級官がなるのか、二級官がなるのかわかりませんが、これと縣の關係、それは一體どういう形になるのか。言いかえまするならば、縣が監督するところの權限をもつのか。この地方の勞働基準局というものは、將來勞働省ができまするならば、直接勞働省が監督するところのものであつて、縣等は直接何らの關係のないものになるのかどうか。それからもう一つ、その下における勞働監督署というものは、現在は御承知の通り、勞政の方の關係は縣廳においてこれを支配しておりまするが、將來はやはり地方の官廳がこれに對しまして十分監督をしたり、あるいは指揮することができるような組織になるのかどうか。この點をお伺いしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=68
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069・吉武惠市
○吉武政府委員 この法律に規定しておりまするように、地方勞働基準局は、いわゆる本省の直轄でございます。勞働省ができればもちろん勞働大臣の直轄の機構でありまして、府縣から獨立しております。勞働行政の部面ですから、お互い連絡はとつてやりますが、機構の上ではいろいろ府縣の指揮監督を受けないで、獨立して直接中央の指揮監督に屬する。こういうように御承知願います。それからその末端の勞働基準監督署でございますが、それもやはり直轄でございまして、中央の主務省から地方基準局、その地方基準局を通じて指揮監督をする。府縣から獨立した機構に相なるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=69
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070・土井直作
○土井委員 そうしますと、勞働基準局のことはお聽きしたのですが、地方に安定事務局というようなものも直轄になり、その下における公共職業安定署というようなものも、從來はこれは府縣の豫算と國の豫算において合辯でやつておつたのでありますが、將來はこれらのものが獨立した形になつて、國の豫算一本で行つて、府縣は直接これに關係をもたないということになりますというと、實際の職務運營の上においては、相當に府縣の協力を仰がなければならないということになるのでありますが、えてして官廳の仕事というものは、それぞれ繩張的に考えられまして、他の部門にまで容喙するということは容易にしないのでありまして、機構の上で何か截然と分離されておるというと、勢い府縣の援助協力を得るということが困難になつて、その結果というものは、實際上の面において相當支障を來すのではないか。かりに監督署がたとえば違反した事項等をやりまする場合において、具體的に言いまするならば、警察署などを利用するような、あるいはこれを指揮命令するようなことが將來あるのかどうか。全然警察署なんというものを、今やつておりまするように、いわゆる勞政課が警察署を使つて、そうしてそれぞれ勞働問題について干與しておるような場合があり得るのでありますが、將來は一切そういうことはなくなつてしまつて、そうして一本建の形のもので一切を運營するということになるのかどうか、この點をお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=70
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071・吉武惠市
○吉武政府委員 私が先ほど申しましたのは、基準法の施行に關する基準局について申し上げたのでありますが、職業の紹介斡旋に關するいわゆる職業安定署と仰しやいましたが、その方の關係につきましては、やはり一部は直轄のようであるが、同時にまた府縣を通ずるようにも考えられております。まだはつきりいたしておりませんから、明確には申し上げられませんが、全然獨立でなしに、やはり府縣行政とかなり關係があるということで、關連をもたしておるようであります。さよう御諒承をいただきたいと思います。
基準局の方の關係は、これは府縣から獨立いたしまして、これはいろいろ御意見はあろうと思います。勞働行政は一部はやはり府縣行政とも關連があり、地方行政との關係があるから、府縣行政の中に入れたらどうかという意見も相當ございますが、同時にまたこの施行は、一つは監督的な仕事でありまして、全國的にやはり相當嚴格な監督を加えなければなりませんから、府縣行政から獨立した方が施行の公正を期するという點もございます。兩方の意見は相當有力にあるのでありますが、本案は最初大臣からも説明の際に申し上げましたように、大體國際勞働會議において採擇されております監督の機構の方式をとりまして、獨立主義をとつたわけであります。ただ先ほどもちよつと觸れましたが、それでは一切の勞働行政が府縣から獨立して基準局でやるかと申しますと、そうではなくして、この勞働保護の監督の部面、いわゆる基準法の施行に關する部面は獨立してやりますが、いわゆる勞働爭議の斡旋であるか、調停とかいう問題は、これは府縣行政とかなり密接な關係がございます。府縣知事ともかなり關係の多い仕事でございますから、その方に殘しまして、府縣行政として殘つてゆくわけであります。從つて勞働組合の施行等に關する仕事も府縣の中に殘つていつて、基準局の方ではやらないのでございます。
それからもう一つの御質問として、基準局なり基準監督署ができたときに、警察署に指揮監督ができるかということでございますが、勞働行政は從前警察署あたりと關連がございましたが、今日ではこれと全然關係はございませんで、警察署を使うというようなことは考えておりません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=71
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072・土井直作
○土井委員 大體以上で私の質問を一應打切ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=72
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073・小島徹三
○小島委員長代理 野本君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=73
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074・野本品吉
○野本委員 非常に綿密な調査研究を遂げられ、なお民主的な手續によりまして、最近にない進歩的な法案が提出されましたことを私達は喜んでおるわけであります。なおいろいろ問題は考えておりましたが、既に前の方から出ておる事柄が相當大部分でありますので、私は今まで出なかつた點につきまして、重複を避けて數點お伺いしておきたいと思います。なお私のお伺いたしますことは厚生省、文部省兩方に跨つた關係のあります事柄が多いのでありますから、この點あらかじめ申し上げておきます。
第一にお伺いいたしたいと思いますことは、基準法の第五十六條、ここに「滿十五歳に滿たない兒童は、勞働者として使用してはならない。」ということが原則として示されております。そのしまいの方にまいりますと、兒童の健康にさしたる影響のないもの、あるいは勞働が輕易なものにつきましては、行政官廳の許可を得て十二歳以上の者を勞働者として使用することができるとある。ここに私は問題があるように思うのであります。と申しますのは、教育基本法の第四條に、國民はその保護する子女に對して滿六歳より滿十五歳まで、九箇年の普通教育を受けさせる義務を負う、この教育基本法、第四條の義務教育の規定というものが、本法の五十六條のしまいの方に書かれておる事柄によりまして空文化されるおそれを多分に感ずるわけでございます。事實私どもの知つておる範圍におきまして、かつて小學校の義務教育が四年から六年に延長されましたときに、地方の實情を見ますというと、子供を背負い、その他の用務をもつて學校へまいりました子供が非常に多いのであります。そのために子供學校、子守學級というようなものを特設しなければならないような状況が各地に頻發したのであります。私はこの十二歳以上の者を勞働者として雇うことができるという規定によりまして、かつて日本の教育の非常な支障として感ぜられましたかような状態が、再び繰返されるのではないかということをおそれておるわけであります。この點につきましてどのような話合いがありましたか。また厚生省とし文部省としてどういう御見解をもたれておりますか。一應お伺いいたしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=74
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075・吉武惠市
○吉武政府委員 お答え申し上げますが、御指摘になりました第五十六條の二項は、いわゆる勞働のごく輕易な、そうしてそれが兒童の健康なり、福祉に害でないという例外的なものについて、十二歳以上の兒童を使うことができるのでありまするが、しかしこれはそこにありまするように、修學時間外に使用することができるというのでありまして、修學を妨げることを許しておるのではございません。それからなおこれにつきましては後の方の條文で、第六十條の二項にもございまするが、今の五十六條の二項、御引用になりましたそういう十二歳以上の兒童を、ごく輕易な仕事につかす場合においては、いわゆる八時間勞働が、修學時間を含めて一日について七時間と制限をしておるわけでございます。さよう御諒承を願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=75
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076・野本品吉
○野本委員 文部省の方にお伺いしますが、これで文部省の期待しております義務教育が、完全に行い得るものとの確信をおもちになつておりますのですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=76
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077・剣木亨弘
○剣木政府委員 お答え申し上げます。十二歳以上の者をやはり輕易な勞務でありましても、なるべくならば、義務教育の實施の上から申しますれば、專心學業につくように仕向けてゆきたいと希望するのでございますが、これを絶對にできないとすることもまたできない社會情勢があるかと存じます。できましたら修學奬勵その他によりまして、できるだけ修學の方を可能にするようにしたいと考えております。なお近く議會に提出いたしまして御協贊を得たいと存じております學校教育法におきましては、子女を使用いたします者が、この使用によつて義務教育を受けることを妨げてはならないという條項を入れまして、なおこの點につきましての十分なる實施を確保したいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=77
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078・野本品吉
○野本委員 文部省の方に關しましては、また學校教育法等の方でいろいろ話合いもつこうと思いますから、厚生省の方へお願いしておきますことは、この法の實施されますときに、その趣旨を十分徹底されて、そうして子供の修學というものが完全に履行されますように、特段の御配慮をお願いしまして、この項を終ります。
次に第七十條の規定でございますが、ここに「長期の教習を必要とする特定の技能者を勞働の過程において養成する」という場合の規定がございます。このうち勞働時間及び賃金に關する規定は命令で定める。そのほかにもありますが、これは具體的にはどういうふうにお考えになつておられますか。一應お伺いしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=78
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079・吉武惠市
○吉武政府委員 これは實は御承知のように、從前徒弟という制度が相當長く行われておりまして、徒弟はいわゆる技能を教えるという名のもとに、實は住込みまして、ほとんど賃金も得られないし、しかも長年の間拘束を受けるというふうな状況であります。これは最近におきましては著しく減りまして、ごくわずかな殘滓を殘しておるような状況ではございまするが、徒弟制度というものがあつたわけであります。本法におきましては徒弟制度をやめました。そうかといつて從前の普通の勞働者のように技能を習熟した者をただ雇つていくというふうにはまいりません。やはり見習の若い者を入れて、特別な藝術品をつくるというような仕事だとかなにかにおきましては、やはり特別の仕事を教えながら使つていくという部面もあると思います。それを技能者養成という合理的な方法を講じましてやらしていこうというのが、この條項の趣旨であります。今賃金なり時間なりというものは、個々のいろいろの業態について適正なるものを定めなければなりませんので、ここでどうという一律的なことは考えておりませんが、それをつくるのに、ただ官廳が一方的に考えまして、これならよかろうというふうではやはり保護になりませんので、特にこの點につきましては嚴格に技能者養成委員會というようなものを設けまして、これに民間の方なり、あるいは學識經驗者なりを入れまして、個々のいわゆる業態について、たとえば漆なら漆塗りのあの非常に特殊な技能をもつたその業態に技能養成者を入れているという場合には、その期間は一體何年くらいかかれば一人前になれるかというような問題、それからそれには一日にどれくらいの時間ならいいかという問題、それからまたそれには賃金はどれくらい支給したらいいかというふうな、個々の業態について嚴格なる、民主的な方法で御研究を願つてつくつていくつもりでおりますから、今ここではちよつと申し上げかねます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=79
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080・野本品吉
○野本委員 ただいまのことは大體わかりましたが、私がさらにお伺いしたいと思いますことは、一旦就職してその途中においてこういう機會が起つてくるだらうと思う。その場合につまり教育ということが生産なんだ、こういう觀點から、技能者として養成を受けるその期間中に賃金等が低減されるおそれがあるのではないか、こう思いますが、この點についての御見解はいかがですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=80
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081・吉武惠市
○吉武政府委員 大體技能養成につきまして今申しましたように、嚴重なる監督の方法を講ずるつもりでおりまするので、初め入るときから大體この技能養成に何年間なら何年間を經て普通の職工として使うとかいうふうに、入つて後にというふうには考えておりませんけれども、いずれにしましても特別な技能を教えながらやることでありまするから、賃金につきましても多少その點が普通の一人前の人を使う場合とは低い場合があろうかと思います。ただしかし從前のように、技能を教えるからというのでごくわずかな賃金をやつて、そうしい長年使うということはもう嚴格に取締るし、また許さないつもりでおるのであります。ただ普通よりも多少賃金についての差がつくということは、そのかわり特別の技能を教え込むという點がございますので、そういうこともあり得ると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=81
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082・野本品吉
○野本委員 ただいまので大體わかりましたが、ここではつきり申し上げておきたいと思いますことは、從來資本家的な考え方から言いますと、ややもしますと技能を修練させるとか、あるいは教育するということが、生産ということと離れておるかのごとく感じ易かつた。すなわち教育なり技能の修練ということは生産そのものである。この觀點から賃金その他の問題を考えて行かなければならぬということを申し上げたいのであります。この點はこれで終ります。
次にここで問題になりますのは、十五歳以上の勤勞青年の問題であります。これは文部省の方と關係があるのでありますが、新制高等學校に開かれましたところの十五歳から十八歳までの勤勞青年のための夜間制あるいは定時制の教育というものが、この規定によりまして機會を奪われるというようなおそれはないか。この點についての文部省のお考えを伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=82
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083・小島徹三
○小島主査代理 野本君に申し上げます。文部省の事務官は來ておりましたが、あなたがさつき文部省の關係は濟んだとおつしやつたので、誤解して歸つてしまつたようですが。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=83
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084・野本品吉
○野本委員 もう一度呼んでいただきましよう。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=84
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085・小島徹三
○小島主査代理 それでは來るまでほかの質問を續けてください。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=85
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086・野本品吉
○野本委員 勞働基準法の公聽會等の状況を見まするに、使用者側はこの基準法が最高基準であると考え、勞働者側はこれが最低基準であると考えておる向きがあるように思うのであります。この兩者の見解の相違というものが、今後この法を運用して行きます上においていろいろと支障を起すのではないかということを私はおそれるのであります。ここで私がお考えを承りたいと思います事柄は、勞働基準法のみならず、特に勞働關係の法に對する使用者竝びに勞働者のための指導方策というようなことを、厚生省はお考えになつておりますか。教育指導の方策でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=86
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087・河合良成
○河合國務大臣 大體この法律の建前は最低基準を建前としております。それでそのことは最低と明文で明記してありまして、使用者側はこれれが最高基準だと思うのは思い違いだと思います。しかし最低最高ということに觸れない條項ももちろんありますけれども、程度の問題のことは最低何々以上というように書いてありますから、公聽會は實は私出席しておりませんので、その樣子はわかりませんけれども、大體の建前はこうなつておるから、その點は疑いないと思つております。
それからもう一つ、將來の教育なり指導方針についてのお尋ねでありますが、これは大體こういう問題に對しましては、勞働教育というものは非常に重大な問題として取上げられなくちやならぬのでありまして、ただいまもいろいろ關係筋とも協議しまして、大體の立て方を勞働者側、使用者側おのおのでひとつ協議會でも開きまして、そうしてその方針をきめて、それをきめた上に勞資なりあるいは公益代表などをまぜた審議會でもつくりまして、その教育の方針を具體的にきめたいというふうにただいまのところ考案をもつております。そうしてこの點に最も重點を置くつもりであります。特に勞働基準法の實行の問題になりますると、これはやはり勞働監督官その他の監督行政に當る者は、よほどイニシアチーブをとつてゆかねばならず、またそれをさせるつもりであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=87
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088・野本品吉
○野本委員 ただいまのお話を承りまして私も非常に結構なものであると思つております。大體今までの状況を見ますると、勞働運動に對する指導機關が民間にありますけれども、これらの指導機關は、ややともしますと一黨一派に片寄つた指導をしておることを私は遺憾に思つております。この事柄が日本の正常健全なる勞働組合運動の發達の上に決していい影響は與えない。從つてあくまで公正な立場に立つた、勞働者及び使用者の兩方に向つて公正な立場からの指導機關について今後とも十分御努力を願いたいということを申し上げておきます。
それから文部省の方に申し上げるのでありますが、さつきお歸りになつてから申し上げたことは、新制高等學校に開かれました十五歳から十八歳の間の勤勞青年のための夜間制、それから定時制の教育の機會が奪われるおそれがあるのではないかということを法文を見まして感じておる。その點についての御意見を承りたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=88
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089・剣木亨弘
○剣木政府委員 現在の青年學校が新制度に移行いたしましたことについて、新制の六・三・三の上級中學、いわゆる高等學校におきまして、その制度をどう取入れるかという問題につきましては、内閣に設けられました教育刷新委員會におきましても非常に重要な問題といたしまして論議されたのでございますが、その際におきまして十八歳までのいわゆる青年學校、定時制の高等學校にまいります者に對する處置につきまして、勞働基準法のようなものにおきまして十八歳まで一定の時間を限つて青年學校に就學する義務を妨げることはできないというような規定を設くることを可とする意見と、それから定時制の高等學校におきまして、一定の時間の普通教育を行うことにいたしまして、この普通教育を義務制とする、憲法の條項に照らしまして十八歳までを義務制とするという意見と二つございまして、一應刷新委員會の意見といたしましては、後者の義務制にするという意見の答申があつたのでございます。これにつきまして、文部省といたしましては、これをどう實施面に現わしてゆくかということについて研究しておるのでございますが、現在の情勢といたしましては、まず義務教育年限を六三の九年に延長いたしまして、また直ちに十八歳まで義務教育を延長するということは、國家の現状といたしまして非常に困難であろうかと存じまして、その義務制につきましては、現在の六三の義務制の完成をまちまして、その進行に伴いまして十分考慮したいというふうに考えております。結局暫定的には現在の青年學校は殘るのでございますが、昭和二十三年度におきまして高等學校の編成をいたしまして、そこに定時制をつけまして、義務ではございませんが、できるだけ教育内容の方におきまして、大衆勤勞青年が喜んでこの定時制の學校に來るようなふうにもつてゆきたいと現在考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=89
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090・野本品吉
○野本委員 實は昨日も全國の青年學校を今年卒える生徒が集まりまして、衆議院の各黨に陳情を行つております。その要旨は、今年青年學校を卒えてしまう、僕たちは勉強したいのだが、これから先どこでどういうふうに勉強さしてくれるのか。この點について非常な不安をもつておるわけであります。なお青年學校を當分續けるというようなことにつきましては、これまたそれらの生徒は非常な不滿をもつております。要するに僕たちの勉強を、すぐ十分できるような機會と方法とを考究してもらいたいという切實な希望を、青年の純情を傾けて申し出ております。關係方面におきましては、これらの眞面目な青年に十分な教養を與えるということが、一つには生産の質的な、あるいは量的な増強の根源でもありますし、もう一つは健全な民主化の大きな力になるということをお考えになりまして、急速にこの問題の解決に當つていただきたい。こう思うのです。現在地方の勤勞青年がややもしますというと、私どもの立場から見れば好ましからざる者の指導の手にすぐ乘つてしまうのは、彼らが實に批判力をもたないからであります。一刻も早くこれら大衆青年の教養を高めまして、そうしてこれにしつかりと批判力をもたせる。このことによつて、私たちは簡單に煽動の手に乘るというようなことが完全に防ぎ得ると信じておりますので、これらの點を十分お考えおきの上善處していただきたい。かように考えます。
次にこれはこの基準法の明文とは直接の關係はないのでありますが、小學校、中學校の教職員の勞働條件といたしまして、非常に重大な關係をもつ學校教育法の第三十四條、第四十六條の事務職員に關する規定であります。これはむしろ學校教育法の論議の際に申し述ぶべきであろうと思いますが、これが勞働條件といたしまして重大な關係がありますから、ここで兩省の方のおられる前で私は申し上げたいと思います。從來小學校には事務職員がありません。大小一切の雜務を、しかも實に複雜多岐な雜務を、これらの教職員が教育したほかの時間で裁いておる。このことが時間的にも精神的にも、肉體的にも非常な負擔になりまして、あるいは教材の研究、あるいは兒童の研究等、教育の本質的な活動の面に非常な影響を及ぼしております。私はこの學校教育法の三十四條、四十六條にあります事務職員に關する規定の中の、特別の事情ある場合は事務職員を置かないことができるというこの一項は、これらの教職員の勞働條件をよくするために削除すべきである。これがありますと從來もそうした條項が、惡用されまして非常に負擔が重くなつておるのであります。この點に關しまして文部省の方のお考えを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=90
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091・剣木亨弘
○剣木政府委員 お尋ねの點特に小學校の先生が勞働上に非常に事務的な負擔までいたしまして、現在困つておりますのは事實でございます。この點につきましては二つの問題があると思うのであります。その一つは、小學校の教員の定數は大體一學級に對して一・〇二くらいな非常に低いものであります。一學級一人と大體言つてよいような程度でございます。それに加えまして事務職員がいないというような状況で、事務及び學科につきまして非常な過重な勞務に服しておるという關係になるわけでございます。この點につきましてはできるだけ教員の定數を増してゆきたいということと、事務職員を設置いたしまして事務的な負擔をなくしようという意味合いにおきまして、事務職員を置かなければならない、こう規定したのでございますが、ただ現在の状況におきましては非常に規模の小さい小學校がなお相當存在しておるのでございまして、その小さい小學校にまで事務職員を全部必ず強制的に置くということは、現在といたしましてはいかがかと存じまして、一應例規外定を設けておるのでございますけれども、これはできるだけやはり例外を設けないように、自發的に市町村の方で事務職員を置いていただくということを希望しておるわけでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=91
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092・野本品吉
○野本委員 なお併せて申し上げておきますが、實はそれらの雜務を誰が擔當しておつたかということです。それら雜務は一般の状況から申しますと、その學校の教頭、つまり上席訓導がこれを擔當しておつた。學校教育活動の推進力であり、中心的な立場に立つております者がこの雜務を擔當しておる、このことは非常に重大な問題でありますので、二、三學級というような、もし山間僻地のごく小さな學校であるなら別でありますが、普通の學校におきましては原則として必ず事務職員を設置するという諒解のもとにただいまのお話はお聽きすることにいたします。
その他いろいろ問題はありましたが、先ほど申しましたように、既に出盡しておりますから、私は一切省きまして、これで質問を終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=92
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093・小島徹三
○小島委員長代理 荒畑君に御相談しますが、山崎道子さんが來られるはずですが、まだお見えにならぬのですが、あなたは明日の朝にいたしますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=93
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094・荒畑勝三
○荒畑委員 はあ。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=94
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095・小島徹三
○小島委員長代理 それではしばらくこのままお待ち願いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=95
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096・小島徹三
○小島委員長代理 暫時休憩いたします。
午後二時四十五分休憩
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午後三時八分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=96
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097・矢野庄太郎
○矢野委員長 休憩前に引續き會議を開きます。質疑に入ります。山崎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=97
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098・山崎道子
○山崎(道)委員 今囘の勞働基準法は非常に畫期的なものだと言われておりまするけれども、私はこれに對しまして、婦人勞働者の立場から種々まだ不備な點がございますので、その點をお質しいたしたいのでございます。まず憲法におきまして男女本質的な平等が規定されておりながら、今なお婦人に對しましては勞働賃金の點におきまして、あまりにも不合理な點が多々あるのでございます。全勞働賃金を通じまして、ほとんど男子の半分にも滿たないような現状に放置されております。どこに婦人の向上があるのでございましよう。とにかく婦人だからと申しまして、十分な勞働をしているにもかかわらず、男の人の半分の給料より與えられてはおりません。なお今日の社會情勢は、今までのように婦人が男子に依存して生活しているということは許されないのでございます。一家の柱となりまして、あるいは未亡人、あるいは種々なる状態によりまして、自分が働くことによつて一家を支えている人がたくさんございます。これらの人がはたして男の半分の俸給で食べていけるでございましようか。また男の人たちの中から、これに對しましては、まだ婦人の能力がどうだとか、こうだとかいうことを耳にいたしまするけれども、これはあまりにも封建的な考え方だと存じます。あくまでも正しき勞力を認識なさいまして、この平等の基準によりましてお取扱いを願いたい。かように考えておりまするけれども、この點に對しましてどういう御意見をおもちでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=98
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099・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま山崎さんから、婦人の勞働條件についてのお尋ねでありましたが、私も從來婦人の賃金が男子に比して著しく低いという點は認めます。新憲法は、性別のいかんにかかわらず差別待遇をしてはいけないということを、憲法の條章にもうたつておりますし、またこの基準法におきましても、その點は最初の總則の所に、勞働憲章として、第四條に、使用者は、勞働者が女子であることを理由として、賃金について、男子と差別してはいけないという原則を掲げておるのであります。今後これを施行する上においてなかなかむずかしい點もあろうかと思いますが、とにかく女子が男子と同じ勞働能率をあげておるものにつきましては、男子と女子との間に差別はさせない、同一の賃金を支拂わせたいという考えをもつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=99
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100・山崎道子
○山崎(道)委員 法律はあくまでも人が運營するのでありまして、いつも政府の御答辯によつて、信用しておると裏切られる。生活保護法において私は苦い經驗をなめておりますので、その點はつきりと條文に現わしてもらいたい。こういうふうに考えております。それから、同一の能力ある者に對してはというお答えでありましたけれども、それならばどの程度をもつてそれを基準とするお考えでありましようか。今國家の再建にあたりまして、重要な役割を占めております纖維産業に從事しております子供たち、これは女子でなければできない仕事であります。太平洋の平和は糸によつて結ばれておるという言葉は、あまりにも有名な言葉であります。敗戰後の今日、國家再建は實に纖維産業にかかつておるといつても過言でないと私は存じておりますけれども、この紡績に働いております女子勞働者、これの勞力は男子に比較してどの程度にお考えになる豫定でありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=100
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101・吉武惠市
○吉武政府委員 女子のやる産業と男子のやる産業といいますか、部面が全然違つておるものにつきましての比較は、これはなかなかむずかしいと思います。同じ仕事を男と女がやつておれば、これは能率も表にすぐ出ますから、同一賃金の適用は簡單でありますが、今のように全然違う分野についての比較というものは、これはなかなかつきにくいと思います。けれども、これはだんだんほかの方との關連において、漸次女子の賃金が全體として低くないようになつて行くでありましようし、またわれわれとしても努力したいつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=101
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102・山崎道子
○山崎(道)委員 男子と女子が同じ仕事をしておればわかるけれども、今の男子專制の世の中では、女だという蔑視がありますので、初めから女の仕事だということで輕く扱つておる。ところが、紡績などは、輕勞働のように見えますけれども、實際に見ていただけば容易ならぬ仕事であります。けれども紡績という仕事に對しましては非常に世間が輕く扱つている。私が最近心から頭が下つて、手を合わせたいような氣持になりましたのは、九州の炭坑に參りましたときに、まつ裸で、しかも汗にまみれながら働いておいでになる坑夫の姿、それから紡績のか弱い子供たちが、綿埃にまみれながら、まつ白になつて、しかも空腹に耐えながら、機械に食い入るように強いまなざしを送りながら働く姿、この二つには私は心から頭が下りました。手を合わせたいような心持になりました。この國家の運命をも背負つている人たちの勞働に對しましても、十分御考慮を願わなければならない。しかも男の人の中には、男女同一賃金ということは、これは女はこういう點で劣つているじやないか、ああじやないか。と言つて、さながら女を低い階級に追いやつておくことが、男の世界を守るのだというような觀念がごさいますけれども、これは私は大きな間違いだと思います。もし男の人達がいつまでもそういう觀念でおられましたならば、かえつて向上してまいりまする女子によつて、男の人の職場が奪われる結果になるとすら私は考えております。あくまでも男女の差別的觀念を拂拭していただきたい。これは私は強く要求するものであります。
それから紡績のことが出ましたので、引續いて私は紡績の問題を取上げてまいりたいと思いますけれども、今日米綿が輸入せられて、昨年度におきまして消化すべきはずであつた八十九萬俵という米綿が入荷され私たちは敗戰後ほんとうに心から明るい氣持がいたしましたのに、その生産の結果は非常に惡いのでございます。わずか七割しか消化していない。この隘路の原因には種々ございましようけれども、結局勞働力の關係が多いというふうに私は考えております。これに對しまして政府はどういうふうにお考えになつておられますか。そうしてまたこの紡績について、最も私が憂慮いたします問題は、あまりにも劣惡な條件の下に、今なお少しも人權が認められておりません。先日豫算總會でも私申しましたが、とにかく募集の方法は勞働基準法だと大臣はおつしやつたのでございますけれども、この間のお答辯では私は滿足ができないのでございます。民主的にやつている。またやつていくつもりであるし、勞働基準法ができればそれはもとよりそうならなければならないものであるというようなお言葉でございましたけれども、あくまでも法律は人が運營する。今日なお一人募集してまいりまするのに五十圓の日當を拂つているということは、これは現實の問題でございます。ここにどうして人權が認められていると言われるでございましようか。この募集の方法から私はまずほんとうのお心持を聽きたい。はたして今のような状態で民主的な募集をやつていける。そうして勞働人員を得ていく自信がおありになるかどうか。その點を第一にお伺いしたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=102
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103・吉武惠市
○吉武政府委員 私からまずお答えいたしますが、紡績女工の勞働條件が從來低かつたようには私も思いますが、最近紡績の方面におきましても非常に力をいたされまして、昨年の暮でありますか、相當思い切つた勞働協約が、勞働者側と資本家側とに結ばれております。これは全纖維産業について結ばれて、おそらくもう實行されているかと思いますが、從前に比べまして相當思い切つた引上げが行われておるのであります。今お話がありましたが、今後といえども、纖維産業における女子の工員の重要性に鑑みて、もつともつと待遇を向上さすべきだと思いまするけれども、從前とは違いまして、最近においては紡績業における婦人の賃金は相當あがつておりまするから、御諒承いただきたいと思います。
それから募集の點はなかなかむずかしいのでございます。これは紡績につきましては、今言つたように、田舍あたりの食糧關係と都會地の食糧關係は相當開きがありますために、なかなか募集には困難しておりますが、とにかく政府としてはできるだけの努力をいたすつもりであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=103
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104・山崎道子
○山崎(道)委員 私は昨年の紡績復興會議において協定されまして、最低手取り二百五十圓になつたことは承知いたしております。けれどもこれは食糧と寄宿代は差引かれておりますが、結局日用品は全部買わなければならないのでございます。ここに詳しい生活費料が來ておりますけれども、一箇月一囘外出していくら、履物が月に三十圓、被服が五十圓、これは修理の程度でございます。化粧品二十圓、齒みがきやビンその他で十圓ちり紙十圓、石鹸二十圓、これは洗濯石鹸と顏を洗う石鹸の兩方でございます。教養娯樂費、新聞雜誌五圓、これは値上げになつてもう五圓では買えません。これは昨年の十二月の表でございます。それから映畫を一囘見にいきまして十圓、これは電車に乘つてまいりますことなんかも計算いたしております。學用品十圓、通信費、交際費いくら、その他雜費十五圓というようなものを、ごくうちわに十二月に計算しても二百七十二圓と出ております。これは十二月の計算ですから、今紡績の子供たちは小ずかいは田舍からもらわなければならないような子供もございます。こういう状態でございますから、從來よりも高められたことは私は認めますけれども、從來はあなた方も御承知の通り有名な女工衷史という言葉がある。紡績産業はか弱い女性の搾取と肺結核の上に支えられたと言われても過言でないような劣惡な條件で使用されたのでございますけれども、昭和の今日そういうことは絶對に許されないはずでありますから、今の程度で相當だとお考えでございましようか、私はこうした現實の面に立脚して、いま一應お伺いいたしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=104
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105・河合良成
○河合國務大臣 賃金が相當不相當ということは非常にむづかしい問題でありまして、私が相當だと言つても、今それでは社會状態において賃金は皆相當の額にあるかということを見ますと、これは御承知の通りに皆食つていけないで困つておる状態なものですから、そうするとどの點を基準にとつて相當だということになるか、その基準をはつきりお示しを願いませんと、そうしてこれは紡績産業との關係がありまして、どうもちよつと相當とか不相當と言つてお尋ねになつても、實はこの席で、はつきりこれは相當とも不相當とも申しにくいのであります。私の知識が足らぬのかもしれませんが、そのことを御諒承願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=105
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106・山崎道子
○山崎(道)委員 憲法の二十五條に「國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。」というような意味から、殊に將來の母性たる大切な女性のみが集つておる所でございますから、その點を御考慮願いまして、最低限度の教養も積み、樂しみをもつて働けるように、人間らしい生活をもつて私は相當と思つております。
それから募集に對しましてはなかなか困難だというお話でございますけれども、募集は困難ではないと思う。勞働條件が改善されて、人たるに値する生活ができるということになれば、當然今日人が集つて來なければならないと思つております。今募集員が、會社へ行けば食糧はこうだ、あるいは娯樂施設がある。あるいは寄宿舍はこういうふうだ、現物給與があると、いろいろ詐言をもつてつれて來ておりますから、來てみてあまりに現實が相違しておるような所で幻滅を感じ、怒りを感じて歸つておるというのが現状でございます。
それからそうした劣惡な勞働條件に放置されておりますがゆえに、社會全般がいわゆる紡績女工というような觀念で蔑視しております。働く者も肩見が狹い思いをして働いております。ですから勞働條件が改善されて、社會の觀念が切替えられましたならば、何も苦勞をしなくても集つて來る。それで勞働條件を人たるに値する條件までに高めてまいりますことがまず第一である。そうでなければいかに學校を通じ、いかに何十圓の金を出してつれてまいりましても、これは不可能なことであろう。結局は勞働條件の改善が大事であると考えておりますが、大臣はどのように考えておられますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=106
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107・吉武惠市
○吉武政府委員 お話の通りでありまして、勞働條件が非常によければ苦勞をしなくてもわけなく集ると思います。ただ御了承いただきたいのは、今日の日本の國情におきましては、全體的になかなかむつかしい状態でありますので、待遇改善につきましてはできるだけ努めたい。また事業主としてもやるべきでありますけれども、一方産業の再開は今途上にありまして、なかなかむつかしいときでありますので、非常に困難だと思います。將來産業がだんだん再開されるにつれまして、お話のように、從前のいわゆる女工というふうな状況でなく、もつともつとよい條件にしたいということはわれわれの念願であり、またそうなろうと思うのでありますが、今日の状況は、食糧の問題にいたしましても、その他にいたしましても、先生ほど大臣からお話がありましたように、一般の賃金問題にいたしましても、賃金は上がりつつあるわけでありますけれども、實際の生活はなかなか窮屈であるという状況でありますので、その點は一つ御了承をいただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=107
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108・山崎道子
○山崎(道)委員 私は現在だから紡績の待遇を改善して欲しいと思つております。今までは原綿一こりに對しまして九人くらいで製品にあげていたのです。ところが現在は一番よい工場で十五人、最惡の工場におきましては實に二十五人を要しております。これでは一體どうなりますか。しかもつれて來られた状態が非常に惡いために十月、十一月、十二月では、入社が八百三十六人に對し退社が七百五十三人というような移動率をもつております。この移動率が激しければ一體どうなるか。結局紡績作業は一年から三年くらいが一番技術が發達するときだと言われております。ところが現在では平均六箇月であります。從つてその平均の中には滿十年くらいおる人もまじつている、熱練工がわずかに八人、未熟練工が九十二人、これは絶えず變つておるそうであります。こういうことを考えまするとき、現状だからこそ私はもつともつと改善してもらう點が多いと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=108
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109・吉武惠市
○吉武政府委員 私も詳しい數字は存じませんが、今山崎さんが御指摘になつたように、おそらく定著をしないで、移動が高いのではないかと想像しております。その點はただ勞働條件と申しましても、特に私は食糧の關係が田舍あたりにおられますと相當惠まれるのでありまするが、それが都會地なり、あるいは工場にはいつてゆきますと、相當の加配はしておりまするけれども、なかなか不十分でありまして、そういうような點あたりも相當原因しておるのではないかと思うのであります。これも御承知のように、今日の食糧事情でありまするので、なかなか十分なことにゆきませんで、はなはだ遺憾な點でありまするが、食糧事情等もよくなれば、そういうこともだんだん解消していくのではないかと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=109
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110・山崎道子
○山崎(道)委員 たしかに食糧が重大な關係をもつております。食糧が重大でございまするのに、それに對して政府はどうお考えになつておられまするか、私はここに參考に紡績工場の食糧を持つて來ておりますから、どうぞ後でごらんを願いたいと思います。紡績に對しましては一合の加配米が認められております。これではたして三合五勺の食糧があるでございましようか、しかも紡績では獻立表は實に立派でございます。一日二千五百カロリーくらいに現われておりまするけれども、實際はこの通りの状態であります。ここに私は、どこに人權が認められておるかということを聲を大にして申し上げたい。ぜひ後で皆さんでごらんになつていただきたい。これを食べて働けといつても働けるものではない。しかも三合五勺で一合の加配が認められておると言われまするけれども、今日はもうすでに七勺に減らされております。女工さんを寄宿に千人、通勤その他を入れまして千五百名を抱えておりまする日本紡におきまして、一昨日まいりました女子勞働者の話によりますると、すでに十四日の遲配である。これは農林省の關係で、やかましく言つても仕方がないかもしれませんが、食糧事情が原因であると言いながら、この食糧に對しましては、どういうふうに政府はお考えになつておられるか、それを伺いたいと思います。
それともう一つ、寄宿舍の榮養食の内容でございまするけれども、この監督の部局の所在を私は伺いたいと思うのであります。これで一體監督されておるのかどうか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=110
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111・吉武惠市
○吉武政府委員 食糧の問題は、お話のように勤勞者につきましては、全體とはゆきませんが、國家的に重要な産業につきましては若干の加配をしております。しかし御承知のように、一般の配給も實は遲配がちな状態でありまして、全體の食糧事情が惡いのでありますから、なかなか思うようにまいりません。これは私の方からもやかましく言い、農林省あたりでも相當骨折つておられまするけれども、今日の食糧事情でありまするので、なかなか十分なことにいかないということは、われわれもはなはだ遺憾に存じております。ただ實際のいくべき食糧がいつていないということにつきましては、われわれ十分なる監督を加えなければならぬと思つております。
それから工場食の關係でございますが、工場における衞生の見地からの問題は、ずつと前は勞働行政一本でやつたのでありましたが、戰時中これは衞生關係の方に移管されまして、工場における衞生問題は衞生の方の部局が擔當しておつたのでありますが、これは近く勞働省が設置されることになりますれば、當然また勞働行政一本としてやるつもりでおります。
しかしながらわれわれといたしましては、その所管がいかにあるにかかわらず、およそ勞働者の勞働條件に關することにつきましては、われわれもちろん責任があると存じております。工場食につきましても、今日の食糧不足のときでありますから、なかなか十分なことはできませんが、その中においても、十分われわれは努力をいたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=111
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112・山崎道子
○山崎(道)委員 それでは伺いますが、今度あなたの方にこの工場衞生の方が統轄されるのですか、そうでありましたならば、責任をもつて工場の榮養食の方も御指導願えるわけでしようがそうしたときには、ひとつ榮養士を置いて、ほんとうに女子の榮養の面を十分監督していただきたいと同時に、その榮養士には女子の榮養士の監督官を置いてもらいたいと思いますが、その點に對しましては、どういうお考えでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=112
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113・吉武惠市
○吉武政府委員 從前も工場食のために榮養士を置いておりましたが、今度基準法を施行する上においては、相當の監督官も配置するつもりでおりますし、その中には女子監督官も相當置くつもりでおります。從つて今御意見がございましたように、そういう女子の工員をたくさん使つております紡績その他における工場食につきましても、女子の榮養士等をも置きまして、監督をいたしたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=113
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114・山崎道子
○山崎(道)委員 食糧の問題は特に重要でございますから、責任をもつてお願いをいたします。食糧問題が解決しなければ、絶對に定著はないと存じております。
次に、私は寄宿の問題を取上げてみたいと思います。厚生省ではしばしば工場は視察しておいでになると存じますけれども、今までの寄宿は實に遺憾な點が多いのでございます。勞働基準法によつて大分明朗になるようでございます。けれども、實際においてもつと熱意をもつて改善していただきたいと思います。現在寄宿舍は、これは全部とは申しませんが、私がつい一週間ばかり前に視察いたしましたところでは、十五疊の室に十五、六人雜居しております。疊も破れている、そういう所へ若い娘たちを追い込んでおいて、そこに何の慰安もないということになりましたならば、私のような者でも、落ちついてはいられないと存じます。しかも寄宿制度として寮母さんのようなものがありますけれども、これを私は將來は自主的に、この條文通りにやつてもらわなければならぬと思います。しかしこういうことを聞いております。名目は自主的に寮母を選出するようなことをやらせている工場もございますけれども、それはただ表面であつて、内容はなかなかそうなつていない、いろいろ投げ道があるようでございますので、その點をひとつ十分御監督を願わなければならぬと存じます。それから寄宿舍にもつと文化設備をしてもらいたいと存じます。現状を見まするとき、私は幾多不安をもつものでございます。殊に婦人の勞働者が全部といつてもよいくらいでございますから、とりわけ私はこの寄宿設備の中へ、特殊な洗濯場というようなものも設置してもらいたいというような希望をもつものでございまするけれども、その點についての御意見を伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=114
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115・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま御指摘になりました特に紡績の寄宿舍制度につきましては、これはよはど監督しなければならない問題でありまして、從來の工場監督におきましても、この紡績におけ寄宿舍の監督というものは、相當やかましくはやつており、また關心をもつておつたのであります。私も相當以前から關係をしておりましての感じでありますが、戰前におきましては、紡績あたり全部ではありませんが、漸次紡績あたりの寄宿舍は改善されまして、いいのになりますと相當いい施設等もしておつたように思いまするが、戰後のこの今日の事情でありますので、なかなか昔のようによくないようなところがあるのではないかと思います。それから十五疊に十五人くらいというお話でございますが、これは今日の工場法の規定におきましては、一人當り一疊半という制限をしておるのであります。もしそういうふうなことをしておるといたしますれば、これははなはだ遺憾に存じているわけであります。なお寮母とか、室長等の關係におきましても、これは本法には特に取上げておりますように、今後は寄宿舍制度は從前と違いして、全く自治的な自由な立場をとることにいたしておりますから、今後はうんと面目を改めてくるのではないかと思つております。それから文化施設の點でありますが、これもお話の通りでありまして、寄宿舍等における文化施設はまだまだよくございません。先ほど申しました戰前のいいところの紡績工場あたりの寄宿舍は、相當力を盡しているところもあつたようでございまするけれども、全般的に見るならば、この文化施設はまだまだ非常に低調でございまして、この點につきましては、今後大いに努力しなければならぬと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=115
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116・山崎道子
○山崎(道)委員 御指摘になつたようなところがあれば、工場法違反だというふうに伺いましたのですが、現實にございますから、どうぞお取締りをお願いいたします。それからもう一つお願いしたいことは、もし事實があればと言われました通りに、お役所の人たちが相當地方の工場へお出かけになりますけれども、いつも先ぶれがしてある。ですからおいでになるときはよそ行きだけを見ておいでになる。これではほんとうのことはわからないと思います。先日も私が工場へ參りまして、これは靜岡縣の工場でございまするけれども、あまりにひどい點を指摘いたしまして、そうして縣知事のところへ參りまして、いろいろ縣知事に樣子を話した、そうしてその後私が縣廳へ參りましたところが、「山崎さん、この間私が行つて來たけれども、ちやんときれいに掃除ができておりますよ。」と言われた。しかしそれはちやんと前觸れがしてある。大騷ぎをして寄宿舍の掃除から整頓を濟まして、よそ行姿になつている。どこの國にお父さんが娘のところへ見に行くのにそんなことをする必要があるかと私は思う。突然においでになつて、そうして現實を見て改正していただかなければ、いつまで經つても駄目だ、かように存じますので、強くこの點を要求いたします。
それから生理休暇の問題、これに對しましてはいろいろ異論があるようでございます。婦人代議士の中においてすら、これに反對をしている人もございます。けれども私は日本の現状から推しまして、絶對に生理休暇は必要だと存じております。でこの反對の理由といたしましては、病氣ではない、生理的な現象であるから、特に休暇をやる必要はないということが、反對理由でございますけれども、私も確かに病氣でないということは認めているんです。生理的の現象であるということは私は承知いたしておりますけれども、それならば生理的のものであるから苦痛がないかということになれば、これは別でございます。女の特殊的なこの問題に對しましては、やはり女でなければわからないと存じます。外傷の七割までは生理日に起つております。こうしたことを考えますとき、私は絶對にこの生理休暇というものは必要であると思うのであります。またある人はアメリカにおいては生理休暇がない。だから日本でも要らないという方がございます。けれどもアメリカの状態と日本の状態とを比較して見ましたときに、この論據は私は成り立たないと存じますアメリカのように勞働條件が完備しておりまして、そうしてその地位は高められ、しかも資材もあり、すべての條件の揃つておりまする國の勞働者と、日本のように衞生知識もない、勞働條件は劣惡である。しかも資材もないというような所で働かしておりますることは、まことに無理が伴つておると存じます。これは大切な大切な母性を保護する意味におきまして、人類至高の使命を達成する、この大切な母性を損わないためにおきましても、私はこの點を、この有害な業務に從事するというだけでなく、必要がある人には與えるというふうにしていただきたいと存じますが、その點につきまして、お伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=116
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117・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまお話になりました生理休暇の問題につきましては、今お話にもありましたように、これはいろいろ議論のあるところであります。御指摘になつたように、生理は病氣ではなくて、生理的の現象であるというのであります。しかしそうだからといつて全然影響がないかというと、影響のある部面も私ども存じております。しかしながらその程度でありまして、就業ができないかどうかというと、一般的に申しまするならば生理日において就業ができないとは申しがたいと思います。これは今お話がありましたように、婦人あたりの專門家もそういうふうに言われているのであります。ただ問題は、それが今お話のあつたように、人によつて非常に病的にくるのがあります。そういう方にとりましてはそれは仕事自體がそう過激な仕事でなくても、その人の個人的の現象として、就業がむつかしいというのがございますから、本法におきましてはまづ第一、生理休暇は全體の婦人について、あらゆる業態、あらゆる者に全部やるという方針をとらないで、就業が著しく困難なる女子は、要求すれば與えなければならぬということを一つ設けたのであります。
それからもう一つの點は、全體的にはこれは專門家が言われるように、生理日であるからといつて、就業ができぬとは思いませんけれども、特にこの生理に有害な業務、たとえばバスに乘つて非常な激動の仕事をするとかいうような業態になりますと、これはその人個人に非常にそういう現象がくるというばかりでなしに、普通の人なら今度は逆に影響をもつ者もございまするから、そういう特に生理に有害なような業務につきましては、これを指定いたしまして、生理休暇を與えるという建前を本法はとつておるのであります。いろいろこの問題については議論のあるところでありまするけれども、女子についてあらゆる職業、あらゆるものに生理日にはこれを休ませなければならぬというところにまでは、これは無理ぢやなからうか。これは各國ともそういうふうには取扱つておりません。生理休暇についてのこの條項は、實は日本のこの基準法に明文を初めて設けておるような状況でございまするので、その點は一つ御諒承をいただきたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=117
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118・山崎道子
○山崎(道)委員 「著しく困難な」というところに私は問題があると思うのであります。勞働組合などで、團體協約で獲得したところにおきましても、生理休暇をとる人が少いというのであります。だから現實に要らぬじやないかということが大分強く反對意見になつておるのであります。ところが生理休暇をもらいますのに手續きとか非常に事務が煩雜なのであります。そうしてまたそれを扱いまするのが男であります。若い娘たちがはずかしさを忍んで休暇の手續きにまいりましても、これをからかつたり、揶揄したりする態度で迎えまするために申し出る人が少い。それで病氣だとかなんとかいう名目で現實に休んでおります。でございまするから私は勞働者の人格を信用して、そうして手續きなどごく簡單にいたしまして、大體において一ケ月に一囘ということになつておるのでございまするから、この手續きを簡易化することと、それからこの有害な業務に從事するということを特定しなくてもよいじやないかと思う。婦人勞働者を一つ信用していただきまして、必要ある者には與えるようにしていただきたい。なぜ私はこういうふうに強く言うかと申しますと、タイピストなんかはきつとこの必要な中にはいつていないと思うのでありますが、ところがタイピストが非常に打ち違いますのは生理日であります。生理日をわずか二日休ませましても、それによつてそれだけの能率は取返せるのであります。これは女でなければわからないので、あなた方は信用しないかもしれませんけれども、就業に差支えないと申しましても、相當氣分的に不快なものが伴うことは事實でありますから、それはどういうふうにお考えになりますか。先日アメリカの勞働官と基準法について座談會をいたしましたときに、日本ではアメリカにないからということが大分言われておるけれども、アメリカはアメリカである。日本にはまた日本の特殊條件がある。アメリカにないからといつて遠慮することはない。日本の情勢に應じてあなた方は要求すべきであるということを、はつきり言われておるのであります。どうか前例がないからというような官僚的なお考えでなく、一つよく考えてもらいたい。あなた方は男でありますが、結局奧さんやお孃さんは女であります。ぜひ一つお願いをいたします。この程度でございます。この條項を削つていただけないものでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=118
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119・吉武惠市
○吉武政府委員 先ほどから申上げましたように、お話のように、その生理的な現象が能率に影響がないとは私どもも存じません。あるとは思います。ただその程度がどうしても仕事を休まなければならぬものか、それとも多少能率に影響はあるけれども、その程度で就業するかという問題であると思います。そこで先ほど申しましたように、個人の特殊性によつて、ただ能率に影響があるばかりじやない。身體に非常に害がある、著しく困難であるような場合は、請求すれば休める。また個人的な問題を離れて、生理自體に健康上惡影響を及ぼすというようなものはやはり休めるというところで、全然影響がないとは申しませんけれども、その影響の程度が、先ほど申しましたように、どうしても休ませなければならぬものか。それとも多少は影響はあるけれども、しかし休むまでの必要はないかというところによつてこの問題を取扱わざるを得んじやないかと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=119
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120・山崎道子
○山崎(道)委員 私がこの問題をくどく申しますのは、先日私はある工場に參りました。そこは流れ作業でございまして、あまり御不淨へ參りますと、非常にそこに集積される。そのために行きたいときに御不淨へ行かれないものでございますから、ついそそうをいたします。それをひどく男性が侮辱いたしましたので、それは女でございますけれども氣違のようになりました。御承知のように女子の犯罪の八割までは生理日だと言われておるくらいでありますから、精神的に非常に激昂する。そこで非常に問題を起しましたことを現に私は見ております。こういう意味におきまして、重勞働でなくても、流れ作業をやつているものは一人拔けると全體の仕事に影響するというようなことがありますので、私は特にこの點を要求する次第でございます。
次に私は醫療施設の問題、工場の病院について伺います。この病院は大體完備してはまいりましたけれども、特に今非常に困つておるのは——また一般的だと言つて逃げられるかもしれませんけれども、お藥がなくて非常に困難しております。私はここに病氣の表ももつておりますけれども、非常に困難をいたしておりますので、特別にということは無理かと存じますけれども、なんとか一つ御配慮が願いたい。特に現在困つておるのが驅蟲劑であります。蛔蟲によつに死んでまいります子供が多々ございます。御承知かどうか、蛔蟲で死にますものは非常な苦悶をいたします。腸捻轉かと思つて間違えられるくらいだと聽いておりますが、この驅蟲劑は結局國内に少ないので、いろいろ困難もございましようけれども、非常に今日人命を損つておるという點をお考えいただきまして、連合軍側へでもお願いをして、何とか至急にお考えを願いたい。かように存じておりますが、親のもとを遠く離れて來ました可憐な子供が、先日も相ついで蛔蟲のために死んでいつたということを私は聽きまして、特にこの點をお願いしたいのでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=120
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121・吉武惠市
○吉武政府委員 これは衞生關係の方でやつておることでありますけれども、御指摘の通りでありまして、最近非常に蛔蟲のために惱まされておる。その一つは藥が足りない。今お話がありましたように、私も專門家でありませんからよくわかりませんが、驅蟲劑がもとは南方の方から來ていたそうですが、その道を斷たれまして、非常に苦勞をしておるようであります。しかし今日蛔蟲のために非常に惱んでおるということは、衞生關係の方で十分了承しておりまして、それに代る内地で生産されるものも相當努力しつつあるのでありまして、非常にむずかしいとは思いますけれども衞生當局の方で非常に努力をしておる點を御諒承願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=121
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122・山崎道子
○山崎(道)委員 次に勞働行政の面でございます。この基準法にも婦人監督官を置いていただけることが、規定されておるようでございますけれども、現在いかに日本政府が勞働行政に對して不熱心であるか。とりわけ女子の點におきまして熱意が缺けておるかということは、全國にわずかに三名より婦人の勞務官がおりません。しかもこの三名の婦人勞務官も、いろいろな仕事に禍いされまして、男子の中にわずかにまじつておりまするために、獨自性が認められておりません。非常に仕事の上に困難があるということを私は聞いております。男女同權を規定されました今日、獨自性を持たせて、十分婦人としての能力が發揮できるように、一つ機構を改めていただく。それから全國にやはり勞務官を至急に増設していただきたいと思いまするけれども、その點はいかがでございましよう。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=122
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123・吉武惠市
○吉武政府委員 從前とも工場監督につきまして、婦人について決して冷淡なわけではございません。相當工場監督のうちにおきましては、婦人及び子供についての監督に、重點を置いてやつておつたのでありまするが、御指摘のように婦人の監督官は二名が三名でございまして、その點ははなはだ遺憾に思います。やはり婦人の問題は、男の監督官がいかに熱心でありましても、婦人が婦人を見る方がいいと思いまするので、今後は婦人監督官は相當増員をする覺悟でございます。それから午前中もちよつと申し上げましたが、この基準法の施行に伴いまして、從來工場監督官というものは、實は非常に少かつたのでありまするが、この施行に伴いまして、相當思い切つた人員を今度の豫算で認められておりますので、これが通過いたしまするならば、相當各府縣に監督官が置けるのであります。その際は婦人監督官も相當思い切つて増員をいたすつもりでありますから、御諒承願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=123
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124・山崎道子
○山崎(道)委員 とにかく私はいくら男女同權が認められましても、婦人が男子に比して現在は劣つておることを認めております。けれども婦人を早く育成して、眞に人間としての能力を發揮するまでに高めて行かなければならない婦人の地位は文明の尺度を現わすものであると言われております通り、今日本の再建にあたりまして、最も急がなければならないのは青少年の教育と、そうして婦人の向上であろう。かように考えておりまするがゆえに、女だからというような輕い氣持でなく、ぜひ婦人が早く一人前になりまして、十分國家再建の一翼を擔當することのできるまでにして行かなければならない。かように考えまするがゆえに、私は婦人勞働者の教育問題を一つ御考慮が願いたいのでございます。そして婦人はお嫁に行くまでの腰掛けで働いておるのだからというようなことが、非常に勞働條件を劣惡にしておるものの一つであろうと考えておりますので、婦人に能力ある者は、十分にそれを技術教育をいたしまして、その技術を發揮することのできるように、指導して行くような教育がなされなければならないということを考えておりますけれども、政府におかれましては婦人の勞働教育と申しますか、技術教育と申しますか、そういう點に對しましての何かお考えがございましたら、お聞かせを願いたいと存じます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=124
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125・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまの御意見は、婦人の全般的な教養の問題、いわゆる公民教育の御趣旨かと思います。これは文部省の方で相當考慮いたしておることと思いまするが、しかし婦人の勞働問題に對するいろいろな指導教育の點につきましては、私の方に責任がございまするから、この點については御趣旨のように十分力を今後いたすつもりでおります。先ほど大臣からもお話がありましたが、今後勞働教育については、いろいろ民主的な方法をも講じまして、やりたいと思つておりますが、先ほど觸れました工場監督官も、ただ法律の施行の監督をするというだけではございません。その反面まだまだもつと大きな問題は、やはりこれらの勞働者のいろいろな指導と申しまするか、教育という方面にまで力をいたさなければならぬと思いまするから、その邊を通じまして、勞働の關係については御趣旨のように努めたいと思つております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=125
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126・山崎道子
○山崎(道)委員 私は今まで委員會に出席しておりませんので、各委員から十分にもう御討議になつたことと存じまするので、特に婦人の立場からの要求のみに止めておくことといたします。今申し上げました通り、何といたしましても婦人に差別的な考えが殘つておると存じますので、その點をぜひ早く改めていただくこと、特に寄宿の問題、報酬方法、婦人の勞働條件というようなものを、一日も早く平等に高めていただけますることを、また寄宿制度等は廢止していただくことを、強く要求をいたしまして、勞働基準法に對しましての私の質問は、これをもつて終りたいと存じます。
續きまして先ほどお許しを得ておりまするが、厚生省へ一つ私は抗議いたしたいと思います。いかなる法律も人が運營するという通りでございまするから、この基準法ができましても、私は非常な不安を持つておりますると同時に、なぜ私がこれを申すかと言いますと、昨年私が審議さしていただきました生活保護法であります。これの運營がまことに適正を缺いております。しかも今度の豫算の上におきまして、昨年は要保護者の對象が、八百萬人という政府の豫定でございましたのが、大臣の説明では二百六十萬人、その他を入れて三百萬人というような御報告でございましたけれども、一年足らずにおいて、半年において、八百萬人と見込みましたものが、一擧に三百萬人と減らされた根據がどこにあるかということを、私はお伺いしたいのです、擔當が違いますけれども、御答辯願えますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=126
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127・矢野庄太郎
○矢野委員長 山崎さんに御相談申し上げます。答辯は明日當局から伺うことにしてはいかがでしようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=127
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128・山崎道子
○山崎(道)委員 結構でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=128
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129・矢野庄太郎
○矢野委員長 本日はこの程度において散會いたします。明日は午後一時より開會をいたします。
午後四時九分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00319470313&spkNum=129
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