1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
勞働基準法案(政府提出)(第九號)
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昭和二十二年三月十五日(土曜日)午前十一時三十五分開議
出席委員
委員長 矢野庄太郎君
理事 小島徹三君 理事 椎熊三郎君
理事 土井直作君
滝澤脩作君 江崎眞澄君
山下春江君 荒畑勝三君
伊藤卯四郎君 山崎道子君
石田一松君
三月十四日委員岩本信行君辭任に付きその補闕として滝澤脩作君を議長において選定した。
出席國務大臣
厚生大臣 河合良成君
商工大臣 石井光次郎君
出席政府委員
内務事務官 小林與三次君
厚生事務官 吉武惠市君
厚生事務官 寺本廣作君
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本日の會議に付した議案
勞働基準法案(政府提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=0
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001・土井直作
○土井委員長代理 それでは前會に引續きまして會議を開きます。質疑に入ります。山崎君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=1
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002・山崎道子
○山崎(道)委員 私は第八條の中に「同居の親族のみを使用する事業若しくは事務所又は家事使用人については適用しない。」という條項があるのでございますが、これはいろいろ取締りがむずかしいからという御答辯があつたそうでありますが、このごろ家事使用人殊に女中でございますけれども、非常に默過するに忍びないような状態があるのでございますけれども、これはどうしてもこの條項から削らなければならないのでございましようか。いろいろの例を耳にいたしておりまする。すなわち家庭が今のような經濟になりましたので、内職を請けてきたりいたしまして、これができ上つたらその收入はお前にもやる。私もやるからお前もやろうではないかということで、主人が女中に内職を強要いたしたり、そうしてできたものを相當搾取したりしておるような現状があるのであります。こういう場合には何とか保護する方法がないものでございましようか。私はやはり條文の中に、家事使用人のことも入れていただきたい。かように考えますけれども、その點をちよつとお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=2
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003・河合良成
○河合國務大臣 これは家庭生活の内容に關係のあることで、どうもやはり一般の企業と同樣にみるというのに、少し實際上の問題から無理がなかろうかと思う趣旨でありまして、大抵各國とも家事使用人は適用しておりませんような實情ですから、だんだんこの法律に慣れてきまして、そこまでに及ぼしてもいいという時期も來るだろう。また一面におきまして、こういう個人思想の展開とともに、だんだんそういう今までの弊害の面が直される。そういう線に沿つて考えなくちやならぬのじやないかというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=3
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004・山崎道子
○山崎(道)委員 日本の習慣が民主的でないためにいたし方もないと言えば言えるのでございますけれども、まつたく女中は朝早くから夜遲くまで、寸時も自分の自由をもたない。まるで奴隷のような存在でございますので、何とか休養、自由の時間というものを、與えるようなことにできないかと私は思いますけれども、ひとつ御研究願いたいと思います。それから派出婦人會などで派出いたしております婦人——あるいは病人の世話とか洗濯とか家事の手傳いとかをする派出婦人會というものがございまするけれども、この派出婦人の數は相當に上つておりますが、これらの保護はどういうことですか。ちよつとその點を……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=4
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005・寺本廣作
○寺本政府委員 派出婦の事業が家事使用人という家事の業であるか、それとも派出の業という特別の業であるか、派出婦を雇つております雇主が、その出先の主人であるか、それとも派出婦會の會長であるかというようなことは、個々の事實を調べました上で、この法律を適用するようにいたしたいと思います。なおこの法律の各項に該當しないぢやないかというようなお話でございますれば、八條の十七號の「その他命令で定める事業又は事務所」というのがございますので、派出の事業をこれに適用するかどうかは、この法律の運用でやつていけることだと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=5
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006・山崎道子
○山崎(道)委員 このごろいろいろ雜工業と申しましようか、内職でございますけれども、家庭に請けてやつておりまする内職、主としてこれは家庭婦人がやつておるのでございますけれども、非常に低賃金でございます。この面に非常に搾取があると思うのでありますけれども、これはどういう條項で……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=6
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007・寺本廣作
○寺本政府委員 内職といいましても、それが、純然たる請負の恰好でやつておりますが、それとも雇ひ主との關係で使用從屬關係、雇傭關係があるかどうかというような、個々の問題を調べて見ませんと、一概に内職がこの法律の適用からはずれるとも申しかねるのでありますが、純然たる請負事業としてやられておつて、そのものの勞働時間とか、いろいろな關係で使用關係が成り立つておらないということであれば、この法律の適用からのけるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=7
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008・山崎道子
○山崎(道)委員 これから家庭の生活も苦しくなりますから、少しでも内職をしたいという人が殖えてまいります。そうしますと、おもちやのようなものでも、——工場でやらなくて、もち出してやつておるのがたくさんございますが、こういうものはどうでございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=8
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009・寺本廣作
○寺本政府委員 脱法行爲は、法律の解釋で十分防げると思います。今のように、資材を工場から供給しておるかどうかというようないろいろな點が個個の問題になりますと、調査できますので、脱法行爲は、法律の解釋で十分防げると思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=9
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010・山崎道子
○山崎(道)委員 法律の解釋で防ぎ得るという、そこに非常に不安があるのです。事實脱ける途もあるわけです。ぜひ正しく防いでいただかなければ、被搾取階級が餘計にみじめになつてくる、かように存じております。
それから第二十七條の「出來高拂制その他の請負制で使用する勞働者については使用者は、勞働時間に應じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」こういうところに入らないのですか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=10
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011・寺本廣作
○寺本政府委員 内職は、勞働關係が成り立つておるかどうかが問題でございまして、二十七條は、勞働關係が成り立つておる場合に適用される條文でございますので、二十七條にいきなり内職をあてはめるのは、ちよつと無理かと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=11
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012・山崎道子
○山崎(道)委員 こういうふうな私は特殊な條文を一つつくつてもらいたいと思うのです。法律は、私は素人ですからわかりませんけれども、どこにまいりましても、このごろ内職がそこの工場主を相當に支えておるという例が多々あるのであります。どうぞその點を少し御研究になつていただきたいように思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=12
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013・河合良成
○河合國務大臣 ただいまのお尋ねは、結局この第八條に掲げる、あるいは命令で掲げます仕事の中に、今御指摘の内職というものはどういうふうの關係をもつかという問題ですが、それはたとえば私のところの妻女が内職をいたします場合は何ら差支えない、こういうものの適用はないのです。ところが、そこに多數の人が寄りまして内職をするという場合を考えまして、そういう場合に勞働關係が成り立つか成り立たぬかということは、事實問題としてそのときの状況できまるのです。そこで勞働關係が成り立つておれば、この法律が適用される。成り立つておらぬ場合に、ただそこに場所だけ貸して、お互いみなおかみさんが寄つてやつているというのは、それはちよつとも妨げぬ。そういうふうに個々の場合においてちやんと明確にきまる。だから法律としましては、この法律で十分なりと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=13
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014・山崎道子
○山崎(道)委員 授産場のような所で大ぜいやつております。授産場といいますか、共同作業場……。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=14
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015・河合良成
○河合國務大臣 授産場、共同作業場は大部分入ると思います。と申しますのは、それはそこで品物なり、まとめて受取りまして、そうしてそこでやはり賃金の形にして支拂つているのでありますから… 。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=15
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016・山崎道子
○山崎(道)委員 私はこの際、生活苦が非常に深刻になりまして、まつたく内職でもしなければ生活を支えられない家庭が深刻に殖えていると考えますので、この點を特に憂慮いたすものでございます。迫りくるインフレとともに、このごろの新聞で御承知のように、各所に悲劇が起きております。このままに放置していたならば一體どうなるだろうかということを、母心といたしまして、私は寢る目も寢られないくらい案じているのでございますが、今囘厚生省におかれましては、要保護者が、昨年は八百萬人を對象とするというようなお話でございましたのに、今年は三百萬人というように減じられましたのは、どういうお氣持でございましようか。むしろ昨年よりも要保護者が殖えている。もし厚生大臣の言われますように、三百萬人に減つた、それだけしか要保護者がないというお考えで豫算をお減らしになつたといたしますれば、十分に適用を受けていない階級が相當ある。かように私は解釋いたしますけれども、その點厚生大臣はどのようにお考えくださいますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=16
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017・河合良成
○河合國務大臣 昨年度の八百萬人という數字の基礎は、これは生活保護法をやりますときにとつた數字でありまして、それは引揚者などが非常に多いので、引揚者の大部分というものは生活保護法の適用を受けなくちやなるまいという見地から、あの數字は非常に大きくなつておつたのであります。ところが實際だんだんこの法律を運用してみますと、引揚者のお方でも、國内でいろいろな事情でほかの方の關係で生活保護法の關係をお受けにならなくてもよい方もありますし、それから一方庶民金庫その他で大分金も——八億ばかりも融通しておりますというようなことで、案外生活保護法の運用を受ける人が、豫想よりもよほど減つたのであります。それで最近の状況では二百三十萬人と記憶しておりますが、そういう實情でありまして、その數字に目途をおきまして、ただいま二十二年度の豫算を編成するときに、三百萬人と押えたというのが實情であります。それでこれは御承知の通り、彈力をもつた豫算でありますから、法律によつて、生活保護をどうしてもやつていかなければならぬ國家は義務をもつておるわけでありますから、それが殖えますれば、豫備金なり追加豫算なりということで、またその金が補充費として殖えてこなくちやならぬことは當然でありまして、その點についてはほかの豫算とは違いまして、多少彈力性をもつた性質のものであります。しかし大體生活保護法の適用を受ける對象が増加するかどうかということにつきましては、御承知の通りにインフレーシヨンの進行するときと、それから國家の財政などのために財政緊縮をやりまするときと、大分形が違いますので、私は財政緊縮をやるとその數は殖えやせぬか。そうしていろいろな深刻な事實が起きてきやせぬかということに、非常な懸念をもつておりまする一人であります。從つて將來は三百萬人で足らないだろうということも考えられまするが、しかしただいまの状態から推してまず三百萬人、あとは豫算の彈力をもつてやつていくという考えでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=17
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018・山崎道子
○山崎(道)委員 大臣の御計算ではこのように現われてきたと存じまするけれども、生活保護法審議のときに、私たちが憂慮いたしました地方町村におきまする一割の負擔金でございます。あれは分與税でもつてまわすから町村の負擔にならぬ。と同時に土地の人たちも温かい社會愛でこれを見なければならぬという、そうした氣持を育成する上においても、この條項は殘したい。全額國庫負擔になれば濫救になるというようなお言葉であつたと私は記憶いたしております。ところが憂慮いたしましたことが實現をいたしております。各地方町村の責任者が地方の負擔になることを非常に恐れまして、幾たび申告にまいりましてもこれを阻んでおる實情は、私たくさん知つておりますので、從つて數が少くなつている。何とかこの點は生活保護法を改正していただかなければならないというのが、各方面からあがつている聲でございます。それと同時になかなか手續がうるそうございまして、民生委員と名前をかえましても、今なお方面委員と少しも變つていない、あくまでも恩惠的な熊度でこれに臨んでいるので、非常に泣いている人がたくさんございます。もしこれが十分に適用されておりまするならば、引揚者がわずかに與えられまする雀の涙のような配給切符を、やむを得ず生活の代にかえている。こうした現状は起きてこないと存じます。それから近頃新聞を見ましても親子心中がある。あるいは不良少年少女が殖えていく。それなども幾多生活苦が原因しているということを考えまするとき、私は大臣の必要さえあれば殖やすというお言葉をかたく昨年は信じておりましたけれども、大きな疑問をもつものでございます。この點についての大臣の御見解を伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=18
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019・河合良成
○河合國務大臣 ただいまお尋ねの分與税一割ということにつきましては、これは全額國庫補助とすべきか、一割を分與税にして地方に與えて濫救を防ぐかという問題につきましては、もちろん兩方の主張のあつたところでありまして、當時議會で説明いたしましたごとく、政府は一割分與税ということにいたしました。しかもその結果につきましては、いま御指摘のような事實も私ども多分に聞いておりますので、この點はさらに考究いたしております。それでこの議會には間に合いませんでしたが、この次の議會までに、結論がつきますればそれを變えたいと考えております。
なお生活保護法が十分でないという點につきましては、これはごもつともと思います。ただ御承知の通り、法律實施後まだ數箇月でありまして、日本のデモクラシーの變化は非常に急激であります。なかなか今までのことをすべて國民の頭から取去ることは困難な問題でありまして、政府としましてもできるだけその線に沿いたいと努力しております。また方面委員の殘滓がなお殘つているというお話、これもごもつともであります。民生委員にかえましたけれども、半分は元の方面委員が殘つている。といつてこれを初めからやり直したらこれまた混亂は免れぬことでありますから、やはりそこは漸進的に調和を見てやつていきたいという考えであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=19
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020・山崎道子
○山崎(道)委員 私は大臣お説のように、濫救は防げたでございましようが、漏救が多いことを指摘したいのであります。私どもこの法を審議するに當りましては、直に心血を注いでやり、そうして大臣のお言葉を固く信じておりました。ところが今日泣く人々があまりに多いことを考えまするとき、厚生大臣はあくまでも要保護者級の心持に立つて、その立場に立つて、一つ大藏當局とも御交渉を願われますことを私は切にお願いしたいのでございます。誰に訴えようもない。ほんとうに身寄りを失つておりまする要保護者の人たち、この頃平和になつて周圍の復員者が歸る。その氣の毒なリユツクサツク一つの姿を見てさえも羨ましいといつて、若い未亡人は子供を抱えて泣いております。手足をもがれた傷痍軍人たちは——私一昨日も熱海の驛で、山崎さんですかと駈け寄つてきた白衣の勇士から縷々訴えられました言葉などからいつて、決して生活保護法が滿足に運營されていないことを知り、私も深く責任を感じさせられたのでございます。國家がこうした自由意思をもたざる被占領國の立場でありまして、まさに破滅に瀕しておりまする國内經濟を思いまするとき私どもは決して無理な要求をいたすものではございませんが、少くとも命を繋ぐに足るだけの最低の生活保障はしていただかなければかえつてそうした人たちの中から惡い思想も現われてまいりましよう。そうしたことを考えまするとき、その人たちの立場から、私は生活保護法の運營を、また法律の中の惡い點は改めていただかなければならないと、いうことを切にお願いするのでございます。
それから國立病院におりまする白衣の勇士たちは、今なお冷遇をされております。大臣はあのとき私に對しまして、必らず生活保護法を適用して、その人たちを生活苦に陷れるというようなことはしないというお言葉でございましたので、私はその人たちの立場に立つて、大臣に心からお禮を申し上げた記憶がございます。ところが各所の傷痍の人たちから寄せられまする手紙は、私の期待を全部裏切つております。どうか永遠に歸ることのない夫、わが子を失いました遺族の人たち、また手足を失いまして、一生をかたわとして生きていかなければならない人たち、しかも病院にいる人たちに對してぐらいは、私はもつと温かくやつていただきましても、國民は一人もその方面に使つた費用に對して文句を言う者はないと思いますけれども、遺憾な點が多々ございまするが、大臣はどのようにお考えでございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=20
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021・河合良成
○河合國務大臣 御趣旨は御同感でございまして、できるだけの最善をいたすつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=21
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022・山崎道子
○山崎(道)委員 それからこの生活保護法の一番がんになつておりますのは、扶養義務者という條項がございますので、大抵の人たちが、引揚者にしましても、傷痍軍人にしましても、そうした關係の人があるのでございます。そのために脊髓をやられまして身動きのできない、永遠に生きる屍で家へ送られましたある傷痍軍人の手紙によりますと、十四人を抱えた貧農の家庭で、その兄のもとへ寄せられました私は、永遠に月の日の當らない薄暗いなんどへ寢かされたままで、そして兄や兄嫁のつらい言葉の節や待遇を受けながら、じいつと横たわつておるだけでございます。しかも私には自殺の自由もない。そして私たちが何とか生活保護法を受けたいということをお願いいたしましても、町村當局では扶養義務者があるからだめだと言つて、これに對しましては生活保護費の適用を受けることができないのでございます。ぜひ厚生大臣にお願いをして、戰の場に召された者は獨身が多い、そして歸つて來てこういう状態にある者のために、特別にそういう扱いが、受けられるようにしていただきたい。こういう切々とした手紙が、つい最近に私のところへ寄せられております。私は大臣のお心持は、特例を認めているのだから、そういう者には十分扱われてよろしいという御答辯が、いただけると思うのでございますけれども、實際の場合におきましてはそれがなされておりません。でございますから私の希望といたしましては、當局の教育、民生委員の教育も必要でございますけれども、市町村長の頭の切替がなければいけないと存じまするので、その點の御考慮を願いたいことが一つ。それから扶養義務者の條項を削つていただいて、安心して困る人が見てもらえるように私はしていただきたい。こうすることが民生を安定することにもなる。私はかように存じておりますけれども、大臣のお考えはいかがでございますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=22
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023・河合良成
○河合國務大臣 ただいま手もとに生活保護法をもちませんので、その點について正確な御答辯はいたしかねますが、大體において扶養義務者があるからというて、生活保護法の適用がないというわけではありませんので、やはり生活保護法としては、いかなる場合においても、手の屆かぬ人には手を屆かせるという建前になつております。運用において十分氣をつけることにいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=23
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024・山崎道子
○山崎(道)委員 私はこれに對しまして、たしかあの條項の中には看護人の費用もいただけることになつておつたと存じますが、ひとつそういう人たち、永遠に身動きのできない人たち、こういう人たちの立場に對しましては、そうした面も御考慮が願いたいということと、それから、扶養義務者があつても受けられると言われますけれでも、實際は受けられておりませんから、その點の指令を少し徹底させていただきたいということをお願いいたします。とにかく、地方分與税がございましても、それがほとんど生活保護法の面へはまわつていないという事實。それから、生活保護費が地方へ送られますのが非常に遲れております。あれは前渡し制度でやられるというお話でございましたけれども、書類は早くまいりますけれども、お金がなかなか來ておりません。ひどい所には二月も三月も遲れておるというような現實がございますけれども、これをもつと生きた運營に變えていただかなければ救われないであろう。かように私は考えておりますけれども、その點をお改革願えるでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=24
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025・河合良成
○河合國務大臣 金の拂いも前渡し制度をとつておると記憶しておりますけれども、實は今日は生活保護法の問題でないと思いまして、今それらに對するこまかい材料も持合わせがありませんので、後日また適當な機會に御答辯いたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=25
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026・山崎道子
○山崎(道)委員 お願いいたします。私がこの勞働基準法の中へこれを持ち出しましたのは、當を得ていないかとも存じますけれども、結局勤勞大衆の生活に直接に關係のある生活保護法だと存じます。とにかく勤勞大衆の生活が安定いたしまして、人たるに値する生活が營まれ、そうして失業いたしました場合にも失業保險によつて生活が支えられるというふうなことがはつきりと實現されましたならば、こうして泣く人もなくなつてくる。かように考えますので、特に御答辯を要求したような次第でございます。とにかく、りつぱな法律ができましても、運營いたすのは人でございます。どうぞ働く者の立場に立ち、また生活にあえいでおります人たちの立場に立つて、すべての法律を御運營くださることを切に私はお願いをいたすものでございます。
それから最後にもう一つお伺いをいたしたいことは、子供があるから働けないという人がたくさんございます。そうしてやむなく惡の道へ轉落して行く人がございますので、生活保護法でもうたつてありますと同樣に、ひとつ早く保育所というようなものを設置して、働く婦人を安んじて働けるようにしていただきたいということを強く考えております。先日來兒童保護法と申しますか、それが今度兒童福祉法案に變更されたようでございますけれども、働く婦人、また一般婦人が切望いたしておりますこの法案は、今議會に御提出になるかと存じておりましたけれども、その後の成行きはどういうふうになつておるのでございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=26
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027・河合良成
○河合國務大臣 この議會は非常に時間が短いのと、憲法實施に伴う直接の問題だけを取扱うという大體の方針でおりますので、兒童福祉法は次期議會に提案するつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=27
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028・山崎道子
○山崎(道)委員 私は働きながら、生きる喜びをもつて生きることのできる人だけが幸福だと存じております。生活保護法によつて扶助を受けて生活するよりも、子供を預けて、そうして自分が働いて、みずからの力によつて生きていこうとしておる人がたくさんありますのに、子供を見てくれる人がない。あるいは子供があるがゆえに使つてもらうことができない。こういう人たちがたくさんございますので、そういう設備を一日も早く實施してくださることを強く要求をいたします。と同時に、できまするならば、婦人勞働者を使つております工場へは、そこに附屬の託兒所というようなものをぜひ設置していただきたいということを、併せてお願いいたします。私の質問は終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=28
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029・土井直作
○土井委員長代理 椎熊君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=29
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030・椎熊三郎
○椎熊委員 私は實は午後ゆつくり申したいのですが午後は豫算が本會議に上つてくるので、私は本會議が開かれると委員會に出られませんから、たいへん皆さんに御迷惑ですけれども、ごく簡單にお伺いしておきたいと思います。敗戰後のわが國の産業界が非常に荒廢しており、これを再建するためにはどうしても重要な役割を演ずるものは勞働者である。そういうところに非常な深い考慮をめぐらして、そうして少くとも國際的に認められた勞働條件を保障して、その基盤の上に各種の産業を再建していくということが切に要望せられておると信ずるのでありますが、わが黨といたしましては過ぐる第九十議會におきまして、勞働關係調整法案を可決した際にも、これだけではいけないので、附帶決議として勞働者の生活を深く考慮するところの勞働基準法を次期議會に提出せよ、そういうことを政府とかたく約束した。しかるにその後勞働調整法案の方が先になつて、肝心な基準法の方が今日に至つたということは、その間における勞働組合運動などに與えた惡影響が非常に大きなものがある。非常に政府等も誤解されておるような状態にあると私は思う。しかしながら世間では反動とか保守とかいうところの今日の内閣が、しかしてこの前の内閣が、勞働組合法をつくり、勞働調整法をつくり、さうして勞働基準法を出す。こういう進歩的な法律を、反對的の立場の人からは保守反動とののしられるようなこの内閣の手によつてできたということは、與黨たるわれわれとしてすこぶる滿足するところで、この勞働基準法がほんとうに實施せられる時において、ほんとうに勞働者の立場を了解し、ほんとうに勞働者の味方であるというのは、單に一派の人々だけではないということが、漸次社會に諒解されるであろうことを私は信ずるものであります。しかしながらそうは申しましても、とかく現内閣の勞働政策、あるいは勞働者に對する考え方が、ともすれば世間から誤解を招くような状態にあることを、私は非常に遺憾に思うもので、先般も本會議の席上におきまして二・一ゼネスト問題に對する政府の熱意の足りなさ、誠意の足りなさ、交渉の仕方の拙劣さについて私は言及いたしました。今後とも起るべき多くの勞働爭議に對しても、政府はもう少し眞劍に、もう少し熱意のある行動をもつて、この進歩的勞働基準法をつくるほどの誠意をもつてなすならば、一切の爭議のごときはもつと了解あるよき解決をみることができるであろうことを私は確信いたします。その點についての厚生大臣の勞働問題についての御決心をまず伺つておきたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=30
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031・河合良成
○河合國務大臣 ただいま椎熊君から勞働組合法、勞働調整法、勞働基準法についての、出た時期に對する御意見及びお尋ねがありました。また政府の勞働問題に對する根本的の考えについて御意見及びお尋ねがありました。私どもはただいまの御意見については全然同感でありまして、もともとこの三大法律は同時に出すことが最も理想的であつたのでありまするが、終戰後の變革に應じまして、とりあえずできるものからということで第一に勞働組合法ができ、第二に勞働調整法ができ、第三に勞働基準法ができた。特に勞働基準法はごらんの通り内容の尨大なものであり、また非常に專門的なことでありますので、勞働者及び事業家側の完全なる意見を聽取しなくては、間違つては困るということで、やむを得ず第九十一議會にも提案することができないで、第九十二議會になつたということでありまして、これは事實上やむを得ぬことであつたからフアクトとしてお認め願います。政府は決してこの法律を遲らすというような考えなどは毛頭もつていない。進んで勞働者のために、勞働者の基準となる法律をなるべく早く實施したいという考えをもつてスタートし、またその線に沿つて今まで行動してきたことをお認め願いたいと思います。
なお勞働問題の根本問題につきましては、現政府は決して反動的の考えをもちません、時代の進運に從いまして、殊に日本再建の上において、勞働者の勤勞というものはいかに日本再建の根底をなしているか、また今日の國民生活の基礎をなしているかということにつきましては、深い確信をもつておりまして、その線に沿うて行動したのであります。また現にただいまの政府の抱いている勞働對策と、たとえば社會黨の抱いている勞働對策と比較いたしましても、ほとんど寸分の差もないくらい、同一であるといつてもいいくらいでありまして、ただ少數一派の獨裁的傾向のものに妨げられまして時々禍を受けるということが眞底の實情であります。そうしてこの勞働問題は、積極的に派手なことをやれと要求になつても、これはできぬ問題であります。これは戰後及び世界の大勢に順應して行く問題でありますから、ここで棒杭を建てたようなことをやりまして、派手なことをやると、やるだけそれは時代にかえつて逆行するものである。大體の傾向に從つてこれを指導して行くということに勞働問題の解決、またほんとうの考えがあるものだという考えをもちまして、政府は勞働問題に對する根本對策をやつておるわけであります。ただ根本思想は勞働者に對する人たるに値する生活を與えて、そうして日本産業の復活をはからうという根本については、少しもそれに間違つた考えはもちませんが、そのことがいろいろなデマ、プロパガンダその他いろんな事情のために世間に誤解されていることは、はなはだ遣憾に思つている次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=31
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032・椎熊三郎
○椎熊委員 私はただいまの厚生大臣の決意を承りまして、これを通じて現内閣の働勞問題に對する深き理解の點に共鳴するものであります。從つて私は最近の國際の情勢に鑑みて、わが國の勞働運動はどのように發展飛躍すべきかについてお伺いしたい。それは最近の新聞によりますると、目下私どもが占領統治せられている主體的な立場にあるアメリカ本國におきましては、勞働運動の正常なる發展のためには共産主義的運動が非常に阻害をしておる。そういうところからアメリカの勞働局長官は勞働組合から共産主義者をパージするということを言明し、アメリカの議會においてもそういうことが問題になつております。それかあらぬか、ごく最近においてこの風潮が日本の政治上にも反映したと私は感知されます。そのことは一昨日來院内に響いております選擧法改正問題であります。そうしてそれは選擧區制の改正の問題が、ともすれば一部の人々の口からは、これはマツカーサー司令部の眞意にあらずして、反動内閣の謀略的選擧手段に過ぎないということを言われておるのであります。またもう一つの理由としては、わが國の發展途上にある勞働組合運動に對する一部の共産主義者の矯激なる働きかけが、かえつて勞働運動の發展を正常有效にするものではない。そういう點からこういう者たちを政治上からも、あるいは勞働運動がらも分離させなければならぬというようなうわさもあるように聞くのであります。それらが今度の選擧區制改正等にも結びつけて論議されているのが、院内の一部の空氣であります。私は、わが國の勞働組合運動組合と、そうしてこれに働きかけて政治的野望を全うせんとする一部の共産主義者の運動というものを、厚生大臣はいかにお考えになるかを承つておきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=32
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033・河合良成
○河合國務大臣 勞働組合運動につきましては、正常にして健全なる發達を期待しておる次第でありまして、これに反するような獨裁的傾向をもつた運動には政府は贊成いたしません。それから大體は世界の情勢の變化等に從いまして、勞働運動がだんだん自覺的性質をもつてきて、そうしてレールにはずれたものをだんだんにレールに載せていこうという傾向になつておることを、われわれは非常に喜んでおる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=33
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034・椎熊三郎
○椎熊委員 ただいままでの質問を前提といたしまして、私は本案について二、三の點をお伺いしておきたいと思います。一體法律の制定は、常に國家全體の福祉がねらいでなければならないので、一部階級あるいは特定の人、そういうものを對象とするものではなくて、國家が法律を制定すの精神は、社會全般の福祉にあると私は思うのであります。そういう觀點から、今度出ましたこの勞働基準法案を見まするときに、これはまつたく、ほとんど大部分において、勞働者の利益擁護のみを考慮したかのごとき感を與える法律でありまして、これだけの大法典の中に、勞働者がこれだけの保護、これだけの認められ方をしておりながら、それに對する勞働者の義務規定がはなはだ不足だと私は思うのであります。現に勞働者の義務に屬する分としては、第二條にただ一言「誠實に各各その義務を履行しなければならない。」という、勞働者、それから資本家も加えての義務が規定されておる。すなわち資本家も加えての勞働者の義務という字句が、この第二條にたつた一點より見えておらぬのです。その他にも多少義務らしいところがなきにしもあらずですが、全般におきましてこれほど勞働者の生活を保障し、勞働者の地位を認め、そうして勞働者の生活を保護せんとする、これだけの進化的な、そうして畫期的な法律であるにもかかわらず、現在の荒廢したる日本の産業界を復興せんとする重要なる役廻りをもつておる勞働者の義務については、はなはだ考え方が足らなかつたのではなかろうかと私は思う。勞働者が單に權利を主張して、單にみずからの生活擁護だけをして、そうしてなるべく働かずに、なるべくわずかの時間働いて多くの賃金をとつて、ゆたかな生活をして、ということだけでは、現在の日本の復興には、はなはだ面白くないと思うのです。これらの點について、當局におかれましては、あるいは失業對策であるとか、國民保健の問題等、いろいろ別箇の法律も考えられておることではございましようが、社會全般のために、なぜ勞働者の能率に關する規定をもう少し力強く主張せられるように感ぜられる點を、法文のうちに盛りこむことができなかつたか。この點について大臣の御意見をお伺いしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=34
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035・河合良成
○河合國務大臣 大體國家の目的は、個性の完成ということと同時に、ただいまとしましては、日本再建と申しますか、そういうような二つの面を考えてまいらなくてはならぬのでありまして、それで結局勞働基準法によつて勞働者を保護するということは、一面においては人たるに値する生活を營まして、個性の完成を期するというゆえんであり、また一面においては、それがすなわち國家全體の利益であるという見地に基いておるのであります。そうしてこの勞働基準法は、憲法第何條でありましたか、忘れましたが、それによつて賃金その他の基準を定めることを命じておるものを受取つて規定しておるのでありまして、建前が、大體勞働者の保護に關することを、憲法に從つて規定しておる趣旨でありまするから、主として勞働者の保護の點を記載した。また沿革的に、歴史的に申しましても、勞働者と事業家との、ある意味における對立關係というものに對して、いつも勞働者が弱者の關係にあつたということから、沿革的にもそういうふうになつておる。そういう意味でありまして、この法律は勞働者の義務を規定すること少いがゆえに、勞働者の責任がないという意味ではありません。そのことを御諒承願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=35
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036・椎熊三郎
○椎熊委員 大體諒承いたしまするが、さてこの法案の全體を見まするときに、非常に低級と申しましようか、小さな企業に至るまで、ほとんどこの法案の適用を受ける。今日の日本の産業界は、もう財閥も解體せられ、大きな工場は今度撤收せられるという状態で、當分の間は日本の産業界というものは中小企業に依存するところが非常に多いと思う。しかもその中小企業たるや、まつたく今日までのあり方というものは封建的の在存でありまして、徒弟制度等がその中心をなしておつたと思うのであります。しかし大戰爭が始まつて以來は、これらの小企業も大工場の下請工場などをやつて、一時すこぶる殷賑をきわめた状況を呈した時期もあつたのでございますが、終戰後におきましては、下請工場等によつて復活するということはとうてい望みがたい現状にあります。なお資材、金融等について非常な不便を感じておるので、その上勞働者の最低賃金が確定せられ、多くの使用者の義務負擔ということになりますると、今度の戰爭によつて大被害を受けた、ただいまの日本の場合として、はたしてこの法律を、使用者側として、それらの微弱なる小資本家的企業者が、これを受け入れる能力がありや否や。戰爭前といえども日本の對外貿易の殷賑をきわめたということは、これはもとより望ましい貿易關係ではなかつたでありましよう。厚生大臣特に御承知の、財界の大御所であつた郷誠之助先生の書かれた本の中にも、日本の外國貿易の殷賑の最大の原因は、勞働賃金の低廉であるということを幾度も繰返して明記せられておる。すなわちそれが勞働者の飢餓によつて、貧困によつて、そうして低廉なる物資を輸出することができたというような、状態で、いかに貿易が盛んであつても、そのために日本の勞働者はちつとも人間的の生活をしたのではない。たとえば一派の人々の特に使いたがる言乘で言えば、資本家の搾取によつて、貿易の殷賑とともに勞働者はますます貧困に陷つたのかもしらぬ。そこで今日以後の日本の産業界は、おそらくは外國貿易を許さるることによつて、世界有無相通ずるの貿易政策を確立することによつて、日本の産業界を復興する以外に途はないであろうと思われるが、しかしながら今日の國際間の勞働に對する觀念から言いましても、人間的本質から考えましても、舊來のごとく、日本は勞働者の生活を犧牲にしての、低賃金をもととするところの廉價貿易では、とうていそういうことは世界も許さぬ。日本の勞働者も許さぬ。日本の正義感もそれを許さぬということに相なると思います。そうすると舊來の侵略的貿易政策、大陸に市場を獲得しようとする貿易政策のごときは、今日もう終止符を打たれたと言わなければならぬ。そういう實情のときに、この戰禍を受けたる、しかも今日わが國民が最も依存しなければならぬ中小企業家が、現在の段階において、かくのごときこの基本法をうのみにしてはたして今日の日本の産業界が成り立ち得るの自信があつたのであろうかどうか。特に厚生大臣は實業界においても各般の事情に精通の方でありますから、その點を今日の時局とにらみ合わして納得のいくように、この法律案の成立に關する御決意を承つておきたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=36
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037・河合良成
○河合國務大臣 ただいまのお尋ねにつきまして、もとはたとえば工場法でありますが、工場法の範圍があらゆる事業、あらゆる企業の面にまで、非常に廣く及んだという點につきましては、ただいま御所説のような心配も一應出て來るわけでありますが、また飜つて考えますと、この法律の目ざすところは、やはり年令とか、時間とか、休憩とか、あるいは業務上の疾病、災害の問題とか、最低賃金の問題もきめることになつておりますけれども、それらの點が中心でありまして、そこからの太い線のことについては、國民としてそれだけのことはどうしても覺悟をもたなければならぬ。これがやはり個性の完成を期する上においても、またほんとうの意味における日本再建のためにおいて必要なりという點が、今の現状に對する心配よりももつと重いということの結果、この法律を實施しようとする考えをもつたわけであります。もちろん今までの日本の事業というもの、殊に外國貿易は、戰前におきましては御承知の通りソーシヤル・ダンピンクが中心であつて、これは低賃金ということ、低賃金も生活がシンプルであるという點もあるだらうし、また企業利潤が多かつたという點もありましよう。いろいろな點があるが、いずれにしましてもソーシヤル・ダンピングということで日本がやつて來たということは事實であります。ただいま椎熊君のお説とまつたく同感ですがそういう意味において日本の將來の國策を立てて行くということは妥當でない。やはり賃金を相當にし、待遇を相當にして、今度は能率の増進、あるいは技術の向上、そういう面においてほかの諸國に對して競爭力をもつていく。正當な意味における競爭力を中心にして考える。それにはやはり一番大事なのは勞働者勤勞者の自覺であります。ほんとうに生活も相當にやり、そうしてほんとの自覺をもつて、その線に沿うてこの日本の産業というものを立ててゆくということにいかなければほんとうでない。それでなければほんとうの民主主義でないという基礎的の觀念におきまして、どうしてもやはり勞働條件の水準というものは保障しなければいかぬというのでこの法律を立てたわけであります。なお運用の上におきましては、一面においては嚴格に運用しなければならぬ點もありますが、一面においては、國民がこの法律を體得するまでは、できるだけ親切に、相當彈力をもつて、工場監督官がその衝に當つてやるべきものだというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=37
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038・椎熊三郎
○椎熊委員 私は日本の産業界の現段階において、この法律を忠實に守るためには、さしあたり多くの困難が生ずると思われます。企業家側におけるこの法律に對する理解の程度、それから實力の程度、なかんずくその實力の程度は、容易にこの法律を消化していくことはできないのではないかと思う。しかしながらただいま厚生大臣が言われたように、日本の將來の産業計畫は、まつたくこの基盤に立つて、すなわち勞働者を搾取せず、ほんとうに人たるの生活を與えつつ、日本の産業を復興してゆくのだという建前であれば、商工當局におきましては、この日本の産業界がある水準に達するまで、そうしてこの法律ほがんとうに徹底する時期まで、それが長いとは言わぬが、相當の期間何らか國家的の保護を與えるとか、國家的施設を設けるとかいうことをしなければ、この法律實施と同時にある期間の間、非常に世の中に凸凹ができて來て、まずいものができるのではないか。そういうものの用意があるのかということを、他日商工當局から適當の機會に伺つておきます。
それからただいま厚生大臣のおつしやるように、勞働者の義務の觀念は、まつたく自覺にまつより途はないのだと仰せられましたが、その通りです。しからば勞働者の自覺というものはどこから出るのか。まず第一には生活の問題でしよう。食うことのできない者は善惡の判斷さえできません。いわんや教育の程度においてやや低きにあるところの勞働階級が、食うことができなくて何の自覺でございましようか。そこでこの基本法によつて最低限度の生活を保障し、人たるの生活をさせるという段階になりまして、食うことがまずできたならば、神聖なる意味における勞働の社會的意味というものをほんとうに自覺せしむるためには、教育の問題だと私は思う。そこでこの法案を見ましても、勞側者の權利を保障し、勞働者の地位を向上せしむる上に、まことに微に入り、細をうがつた親切な法案であるが、さて勞働者をいかに精神的に向上せしむるかという教育の問題については、はなはだ薄いと思う。要は生活の保障があり。勞働者の生活を保障した以上、彼らの自覺にまつて、喜んで神聖なる勞働に從事するという意欲を暢達せしむるがためには、教育の問題が絶對的に必要だと私は考えるのでありますが、御意見いかがでありますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=38
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039・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの御意見はごもつともでございまして、政府としても勞働教育ということに非常な重點を置き、またこれに對して相當つつこんだことをやる決意をもつております、ただいま具體的の計畫を立案しておりますが、これは勞働基準法關係ばかりでなく、勞働組合法とも非常に重大な關係をもつておりますので、どうしてもこの面においてよほど進んだ計畫をやるにあらずんば、なかなかほんとうの健全なる勞働運動の發達を期することはできぬものだということを、固く信じておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=39
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040・椎熊三郎
○椎熊委員 商工大臣がお見えになりましたので、石炭の問題についてちよつとお伺いします。先般本會議において、この法案實施によつても、なおかつ三千萬トンの増産ができるのであるかということについてお伺いいたしました。議場の騷擾等もありました關係で、商工大臣の御答辯が私は明確に聽きとれなかつたことを遺憾と思ひましたので、簡單にもう一度この點に觸れてみたい。石炭を増産するために、炭鑛勞務者を非常に日本の政府は大事にせられまして、これに對する食糧の問題、衣料の問題等、ずいぶん御苦心のようですが、たまたま私先般北海道へ歸りまして、夕張等の實情を聽きました時に、主食の増配等の關係を聽きますと、それは一時非常によかつたそうですが、時としては、米が足らなかつたという實情から來たのでございましようけれども、粉食を配給してくれる。坑内勞務者などは粉食なんか、それをパンにして食べるのか、どうして食べるのかわかりませんが、パンにして食べるにしても、一般の中流の人のように上手にもできますまいし、設備がないのですし、粉食などではとうてい勞働力が出てこない。そういうことがあつたとすれば、これは非常に不親切な話です。食糧の問題については特に御考慮願いたい。問題は坑口八時間勞働問題です。現在のようなこんな危險のない時でも、夕張炭鑛では實働四時間半に及ぶものはほとんどないくらいです。勞働組合運動が一時脱線しかかつたころのような状態の時などは、ほとんど一日實働二時間ぐらいよりなつておらぬ。それが去年の十一月には、勞働組合の方も非常な自覺に燃えて、國家再建のために自分らが先端に立つてやらなければならぬという、非常によい傾向に進んできて、共産黨の指導者などを追放して、あらゆる組合組織などをやりかけてから、非常に能率が上つたということですが、それでも現在實働四時間半だという。これが坑口八時間ということになりまするときに、はたして今日だけの實働時間を維持することができるのかどうか。九州三池炭礦のごときは、ほとんど四時間を割つておるということを聞いておりますが、そういう状熊でこの坑口八時間を嚴格に實施させて、なおかつ三千萬トンの石炭を掘り出すことができるかどうかを、具體的に納得がいくようにお説明を願いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=40
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041・石井光次郎
○石井國務大臣 ただいまのお尋ね、實はこの間本會議におきまして、この基準法が出ても三千萬トンは出ると私は確信しておるという御返事をいたしたのでありますが、これは適用の問題になりますると、まことに今お話のありましたように、時間制の問題以外におきましても、優遇はするということを言いましも、なかなかその通りいつてない問題がたくさんあつたように聞いております。今の粉食の問題もまことにその通りであつたように聞いております。どこでどれだけの間そうであつたかという資料はただいまもつておりませんが、福岡縣あたりでもそうであつて、米麥を必ず六合やると言いながらそれができなくて粉を食つた、あるいはとうもろこしを食つたというような事情は、私ども現地において前に聞いたことがあるのであります。こういうような面は、ぜひ一日も早くそういうことのないように、農林省當局も非常に努力してくれておりますので、原則的に米麥を中心——というより、米麥をもつてやられるような状態にぜひ進めていただくように、私どもも努力いたしたいと思つております。
それから時間の問題でありますが、これが嚴格に今のように行われて、それはそれとしても、勞務者諸君がみんな一齊に、ほんとうに實働する場合は力を入れてやつてくれさえすれば、私は八時間制か行われましても、必ず今の生産あるいはそれ以上にやることができると思つておるのであります。また實際的の問題といたしまして、この規定にもありまするように、ある場合におきましてはそれ以上の時間も、勞働組合との話合いによつてはできるということになつておりまするし、要は勞務者諸君がほんとうに働くか働かないかという心持の問題で生産はきまると思つております。時間の問題もちろん必要でありますが、時間をただ長く——かりに八時間を十時間とか十二時間にしても、ほんとにう働かなければ何もならない、働く意思が發動しなければどうにもならないのは、御承知の通りであります。幸いにいたしまして、先ごろ賃金値上問題が起つたのでありまするが、この問題につきまして政府が出るとか、あるいは第三者が仲裁に入るとかいうことまで至らずして、業者と勞務者との間に隨分いろいろと折衝して、基本的にいろいろ論じ合い、ある場合には話が破れそうになつたのでありますが、兩方とも、どうしても生産増強という面において話合いをするという熱烈な氣持が結晶いたしまして、遂に兩者の間に妥結をみた。それによりまして、業者と勞務者とがそろつて私のところへ共同聲明をもつてみえまして、その共同聲明によりますと、われわれは三千萬トン増産にあらゆる努力をする、この間の賃金値上問題も、實は三千萬トンにするためにわれわれは要求したのである、ただいたずらに要求を事としておるわけではなかつたのだという意味の説明がありました。共同聲明において、今年はぜひ三千萬トン出すのだという聲明をいただきまして、私も非常に喜んでおるわけであります。そうい状態でありますから、必ず私は來年度三千萬トン増産はできるだろうということを確信いたしておるわけでございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=41
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042・椎熊三郎
○椎熊委員 墾切なる御説明を伺いまして、私は日本産業界復興のために慶賀にたえません。さて勞働者の能率の問題は一に勞働者の自覺にまつということを大臣はおつしやられましたが、これは先ほど來厚生大臣とも幾たびも繰返えしてお話合いをしたところであります。しかしながら勞働者の自覺が能率を増すというなら、日本の勞働組合を正純な形において發展させていく以外には今日の段階では途はないと思います。勞働組合に對する厚生當局あるいは政府などの考え方が、もう少し親身でなければそうはいかぬと思う。勞働組合の正純なる發展を阻害せられるような行爲をかりそめにもなすもの、あるいはそういう傾向のある政治上の働きかけなども、政府の力によつて何らか、勞働者自身の永遠の幸福のために排除してやるというくらいな、積極的の熱意がなければ私はいかぬのだと思います。要は能率の問題は勞働者の自覺だという、自覺だというならば、今日勞働組合によつて指導されておる勞働者というものの、その組合の正純なる發達を期待する以外に途はないので、それらについては厚生當局等は特に直接關係があるのですから、勞働組合の正純なる發展のために積極的にどういうようなお考えをもつておるか、なおそれに對する一つの方法等があるかどうか、ただ漫然と自然に任しておくのかどうかということについて、もつとそれを正純にするためにこの基本法ができるのでありましようから、こういうことによつてやつていくというだけなら、それは通り一遍のお答えであつて、勞働運動に對する厚生大臣の信念的な御答辯を伺いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=42
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043・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの御質問ごもつともでございますが、やはり根本問題といたしましては、先ほど申し上げました勞働教育という問題が根底になると思います。それから勞働基準法を中心にしまして、その形の運用は勞調法でやつていくという形におきまする、何といいますか、一つのアジヤストメントということで、勞働者にも十分に生活のできるような條件を與え、そうして勤勞意欲も増進させていくということが建前でありまして、なお勞働組合法につきましても、あれは御承知の通り旬率の際にできたものでありまして、運用上にいろいろ支障のある點もあります。これはいろいろ民意を徴しまして、實際の考えに基きまして、適當な機會にまた改正をしたいという考えでおります。またただいま御指摘の、勞働組合の正常なる運用を阻害するような行爲に對して、どういう考えをとるかというようなお尋ねでありましたが、一方におきましては、これは憲法による言論の自由ということも十分尊重しなくてはなりませず、また同じやり方でも、よほどデリケートな關係がありまして、また彈壓的の傾向をもつてもこれはいかぬのでありまして、ここらは寛嚴よろしきを得て、そうしてほんとうにこれはいかぬというところは、政府も腹をきめてやつていくという考えをもつております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=43
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044・椎熊三郎
○椎熊委員 關連してもう一點厚生大臣に最後に伺つておきます。それは私は先般本會議でこのことを發言したのでありますが、そのために議場騷亂になつて私の趣旨が徹底しなかつたようですし、この際特に念のために重大な點ですから厚生大臣に伺つておきたいと思います。私は勞働組合の、正純なる發展のために、日本の勞働組合の將來のためにこのことを一言しておきたいのであります。それは過ぎる二・一ゼネストにまさにはいらんとする直前において、マツカーサー元師の聲明が發せられた。そのことによつて、ゼネストにはいらずして、不幸を見ずにこの問題が收まつた。それが勞働協約あるいは賃金等の問題に關しても、やや打開の途が開けるようになりましたことは、御同樣國家のために慶賀にたえないことであります。今後新憲法のもとに戰爭放棄までも決意している日本民族が、再び國内において流血の慘事を見るなどということは、まさに日本を滅亡のふちに沈淪せしめる以外の何ものでもない。すなわちこれらの指導者というもの、一部の徒黨を組んだる者どもが、この混亂に乘じて政治的野望を全うし、彼らの國をもつてすれば人民政府樹立というのでございましようが、一つの流血的革命をあえてしてまでも野望を達せんとする不逞の行動であると私は言う。總理大臣が一月一日に、一部不逞の徒があると言つて物議を釀したというのはそのことなんだ。われわれは日本の勞働者全般を不逞の徒とは申しません。私が一月一日に總理大臣がああ言われた言葉はなるほどと納得できるというのは、そこなんです。こういう者どもに對する厚生當局のお考えはどうなのか、政府の考え方はどうなのか。これを取締らずして何を取締るのか、私はただいま申し上げたことがただ一片の世間の風評に過ぎないとしたならば、日本のために幸福だと思つている。しかるにそれから三日の後、共産黨の志賀君が本會議の壇上に立つてこのことを裏書されました。そういうことを言つたのは共産黨でない、共産黨を脱落した者だと言う。そうしてそれは石川島造船所の勞働組合に居るんだと言う。私は愕然とした。これは單に世間のうわさだと思つたら、現に帝都のまん中、志賀君の言葉を聽くならば、石川島造船所の組合で現にそういうことが行われている。しかしそれを指導したのは共産黨を脱落した者だ——脱落したかしないか、たれが知つているか。すなわちそれは共産主義者であつたに違いない。そういう者の存在を日本の勞働運動の正純な發達のために默過していいのだらうか、それが日本の勞働者の幸福であらうか、驚くべきことだ。私は日本の勞働運動の正純な發達のために、政府はよほどの決意がなければいかぬものだということをこの際特に力強く申し上げたいのであります。これはあえて大臣の御答辯を私は要求するのではない。本會議における私の陳辯が、議場騷擾のため不徹底でありましたために、この際特に繰返して、日本勞働運動の正純なる發展のために、かくのごとき不逞の行動が現に行われつつあることを私は悲しむのあまり、そうして國民とともにこれを警戒しなければならぬということを、特に政府當局においては注意を喚起していただきたいと思います。
最後に、この基準法は、昨年の春以來當局においては非常に御苦心をなされまして、しかも公聽會等を開き、日本の政府において提案せられたる法律中、このくらい民主的なる手續を經て、このくらい進歩的な法律は未だかつてあるまいと思う。殊に日本の民主化のために、勞働者の人間たるの生活を保障するためのこの法律は、世間いわゆる保守陣營と言われる吉田内閣、あるいは勞働組合法案においては幣原内閣、こういう、極端なる人間は反動保守などと言う側の手によつて、勞働者の保護のための三大法案が決定せられるということも、これはおもしろい現象でありまして、世間いうところの反動でもなければ、保守でもない。今日の日本に保守反動などということはあり得ない。まつたく現實を見て、ほんとうに現實に即した政治をやつていくというところにほんとうの政治がある。空理空論を抱いたり、あるいは夢のごとき理想を抱き、はなはだしきに至りましては、勞働者の指導を混亂に導いて政治上の野望を滿たさんとするがごとき徒輩によつては、祖國は斷じて復興ができないのだ、こういうことを私は考えまして、われわれが與黨である今日の吉田内閣は、勞働基準法をつくるがごとき誠意と熱情をもつて、あらゆる政策、あらゆる政治行動は徹底していただきたい。そのことをわが國の勞働運動の正純なる發展のために祈りをささげつつ、政府の健全なる御健鬪を私は祈りつつ、この法案に贊成の意を表するものであります。私の質問をこれで終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=44
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045・土井直作
○土井委員長代理 午前の會議はこの程度で終りまして、午後二時まで休憩をいたします。
午後零時五十七分休憩
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午後二時三十二分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=45
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046・土井直作
○土井委員長代理 引續き會議を開きます。質疑に入ります。伊藤君。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=46
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047・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 各委員から逐條的に質疑が行われておりますので、私はその重複を避ける意味におきまして、重要だと思います點につきまして、先に厚生大臣に質問したいと思います。昨年の夏の議會の時に、勞調法が委員會にかかりました時に、私は河合厚生大臣に勞働調整法による公益事業に從事する從業員の爭議を制限をされておること、官公吏の爭議を禁止をされておること、この人たちに對してはいわゆる公益公務に從事しておるがゆえに、勞働組合法による當然の爭議權というものを制限禁止されておるのであるから、この人々に對しては特に生活を保護し、保障するということが大事であろう。そういう點からそうした勞働組合の代表者を加え、國民の代表を加え、あるいは當業の責任者をもつて、特別なるところの生活保護、保障の機關を設置して、この人々をして爭議に至らしめないように、また生活の不安を起さしめないように、その時代に適應したるところの生活を保障するということが大事である。そういう見地から、そういふ機關を設置して、この人々の不安を除去するようにという質問をいたしましたのに對して、河合厚生大臣は、それは大事なことであると思うから、ぜひそういうことをしたいという、きわめて熱心に贊成的な答辯をされておるのであります。ところがそれは單なる當時の政治的なゼスチユアとして答辯されたに過ぎないことを私ははなはだ遣憾に思つておるのであります。もし當時河合厚生大臣が約束をされたことを即時に實施されておつたならば、たとえば電産爭議のあの問題のごとき、特に先般の二・一ストのあの騷ぎのごときは、當然この機關によつて解決されたはずである。ところが、何らそういうことに責任をもつて果されない結果が、そうした數々の重大な事件をひき起してきておるのであるが、これに對して政治的な良心、責任というものをどういうようにお感じになつておるかということをまず先に伺つておきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=47
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048・河合良成
○河合國務大臣 ただいま伊藤君からお尋ねがありました點にお答えいたしますが、昨年の勞勵調整法の通りましたのは九月末かと存じております。それから御承知の通りに、電産のストが起き、その他いろいろ教職員の問題、今年のゼネストにかかつておることはもう御承知の通りでございますが、政府といたしましても、できるだけ迅速にあの時にお約策しました給與審議會をつくり、あるいは官公職員の待遇改善委員會をつくるという線に沿うては、ずいぶん努力をしまして、その時からすでに、議會が終つて間もなくその意圖も明らかにし、その案もつくつて進行したわけであります。ところが、いろいろこれは事情がありまして、なかなか思うように捗りませんということは、はなはだ遺憾な次第でありまして、はなはだ遲れたことについては申譯ないと思つておりますが、政府としましては、決してその間に努力を怠つたということは事實上はないのであります。それからもう一つ、社會的情勢が御承知の通りに昨年から非常なピツチで變りまして、あの時の十月くらいから十二月、今年の一月二月と、物價の問題、あるいは賃金の問題などが非常なテンポで變つておりますので、いわばこの間というものは、非常なめまぐるしい變化がありまして、それでそれに追われるというような形でありまして、やはり情勢の變化、あるいは一種の安定ということを見て問題を具體的にきめなければならぬというような情勢にあつた點も、多少御考慮願いたいと思つております。ただ事實上はこの二つの問題がはなはだ遲れたことは、遺憾に思う次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=48
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049・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 そうした公益事業、宜公吏諸君等の待遇、給與等に關する特別なる機關を設置するということは、別に法律を要しないで私はやれることだと思うのであります。そうすれば昨年の秋に直ちにそうした機關を制定されてあつたならば、當然國民がああしたような不安を抱く。あるいはマツカーサー司令部からああした命令を受ける。そういうような國民に不安をもたせ、司令部から特別な命令を受ける失態を演じなくて、大體問題が片づけられたのではないか。しかるにそういうことをやろうと思えば直ちに機關構成がやれることをやられないであつたということは、この重大なる爭議事件等に關する責任が、河合厚生大臣、同時に現政府に全的にあるものだと私は思う。いわゆる政治的怠慢の結果がこうした結果をひき起していると思うが、この點に對して政治上の責任をどういうようにお考えになつておりますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=49
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050・河合良成
○河合國務大臣 政府としては努力をいたしておりまして、怠慢ということはあたらぬと思つております。しかしながら結果として事實上その問題が遲れたということには、はなはだ遺憾の意を表するというふうに御諒承を願いたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=50
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051・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 それならば、その後に至つて、特に二・一スト問題等のああした重大なる事件後において、昨年勞調法のときに私の質問に對して公約をされたそうした機關設置に對して、急速にやらなきやならぬということをお感じになつているかどうか、あるいはさような必要はないとお感じになつておられるか、この點を伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=51
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052・河合良成
○河合國務大臣 機關の設置につきましては急速にやらなくちやならぬことは同感でありまして、現に給與審議會のごときも第一囘を開きまして、近いうちに第二囘を開く豫定であります。官公吏職員の待遇改善委員會のごときも、現に事實上の會としまして、準備會を開いて進行しているわけであります。ただ給與審議會につきまして、はなはだ遺憾なのは、第一囘を開きましたところ、いろいろの事情及び御主張があつたために、議事の進行が圓滿にまいりません。しかし性質がきわめて協調的にやるべき會の性質でありまするから、その圓滿を期するために昨今非常な努力をしておるのでありまして、大體の見込みが立つたので、近いうちに實質上の會合を開きたいというつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=52
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053・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 そうした一般給與機關等で、この公益事業に從事する勞働者、あるいは爭議を法律上禁止されているところの官公吏の人々の待遇、給與問題も、一般給與問題の中において取上げられるつもりであるか。昨年からの公約による特別なる機關等をもつてやられるつもりであるか、この點を伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=53
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054・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま御意見がありましたが、少し詳しく申し上げますと、昨年の勞調法が出ましたときに、伊藤さんから御質疑がありまして、大臣がお答えいたしましたのは、官公吏の待遇について、委員會のようなものを設け、そこで合理的な方法で進めていきたい、こういうことであります。今公益事業を御指摘になりましたが、公益事業全部についてという意味ではないのでありまして、御承知のように公益事業と目されるものは大體政府事業が多うございますから、事實上ほとんど大部分は官吏待遇改善委員會によつて進めてまいることになると思いまするけれども、政府事業でないものにつきましては、今の官吏待遇改善委員會で取上げるというわけにいかないと思います。それらは一般のいわゆる經營審議會なりあるいは勞働委員會等の合理的な機關によつて進めざるを得ないのではないかと思います。ただいま大臣からは、その兩方についての經過を御説明になつたのでありまするが、事實その通りでありまして、政府は勞調法を施行いたしますると同時に、待遇改善委員會を約束いたしましたから、直ちにその機構をつくつて進めたのでありまするが、これもいろいろ折衝するところも多うございまするし、またその中の機構につきまして内部にもいろいろ意見が出まして、延び延びになつたことは私どももはなはだ遺憾に思いまするが、政府としては、全力を注いでそれが結成に努力はしてまいつたのであります。二・一ゼネスト以後、直ちに官吏待遇改善委員會は、正式な委員會ということになりますとなかなか日をとりまするので、準備會として、官公吏のあの爭議の解決をいたしました翌日か翌々日ぐらいから、實は數囘にわたつて審議を進めております。さしあたつての問題は、先般決定されました暫定給與を中心にいたしまして、今進みつつあるような状況であります。それから一般の問題といたしましては、やはり何を申しましても給與の問題が中心でありまして、これにつきましてはいろいろ意見がある。それにはやはり科學的な資料に基いて、合理的な一つの水準をつくりませんと、雙方に意見がありまして、いたずらなる紛議を生ずるのでありまするから、これはまた給與審議會として、一般の給與の問題を取扱うべく進めているわけであります。これもただ大臣からお話のありましたように、なかなかいろいろな意見がありまして、議事の進行が必ずしもはかばかしくございませんが、その後勞資間に非公式に折衝を進めまして、ようやく大體の意見がまとまりまして、近く發足するつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=54
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055・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 私はこの吉田内閣に對してはなはだ疑惑をもち、同時にその政治的良心と責任を非常に疑わざるを得ない多くの點を、あるいは經濟面に、あるいは産業面に、あるいは今進行しております勞働面に感じているのでありますが、大體において本議會においても委員會等においても、そうした約束をされるが、これがあるいは半年經ち、一年經ち、そのうちに内閣が交迭をする。それでお流れになるというようなことが、とにかく今日まで歴代政治上に行われてきているところなのであります。先般來から、各大臣が地方等にもまわられたときに、地方の勞働者階級あるいは國民から、内閣の發表されたことがほとんど不渡りになつているじやないかということを隨分責められていることは事實である。そういう點から、先般豫算委員會においても、石橋大藏大臣は、今までどうもあまりしやベり過ぎまして、今度は不言實行をいたすようにいたしますという逃げ口上の答辯をされておつたのでありますが、そういうことでとにかく本會議なり委員會等で答辯されたことは、政治的に非常に重大なる責任を感じられなければならぬ。政治家として良心的でなければならぬはずである。ところが國民から疑惑をもつて政府を信頼しない、閣議決定を信頼しないということになるなら、一體國民はどの政府、どの政治を信頼してよいかということにならざるを得ないと私は思うのである。今もこの意見がなかなかまとまらないという答辯でありますが、それは各省間における交渉が不統一で、意見が對立してまとまらぬのですか。たとえば各省間における、從來から官僚のもつているセクシヨナリズムの對立、あるいは内閣の各省間における不統一とか、内輪のことからそれがさらに後れるとか、もしくは關係方面の點において非常に後れるのか、この點を明確にしていただきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=55
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056・河合良成
○河合國務大臣 ただいま現政府が約束をほごにするような意味のお尋ねがありましたが、終戰後の國家情勢ということをも御考慮願えば、できることとできぬこと、早くいくことといかぬこととありまして、政府としては決して怠つているのではありません。たとえば食糧問題にしても、肥料問題にしても、石炭の問題は三千萬トンがともかくも緒についた。官公吏の問題も一段落ついた。これは豫算の問題にしても、財政の問題にしても、多端なときにバランスがとれたということでありますから、一面政府のやつた實績もお考え願いたい。しかしながら意のごとくにならぬことも事實でありますが、これは大戰爭後のことでありまするから……、ただ政府は誠心誠意國民のため、國家再建のため一生懸命やつているということだけは、私は斷言して憚らぬつもりであります。
審議會の後れた事情については、ただいま役所内のセクシヨナリズムは非常に減りました。たとえば豫算にしても、千三百億の豫算が六百億に一般豫算がつまつたときも、豫算の復活の請求のときにも、わずか二時間か三時間で片づいている。今までの例によると數日間を費す。殊に内閣がそのために瓦解したこともある。しかるに今度は細かいことは皆伏せて、すべて國家再建のためにいこうじやないかということに各省とも意見が一致しておりますから、おびただしいセクシヨナリズムは、私はよほど減つたという考えであります。この問題はセクシヨナリズムのために後れたのでないことを私は言明してよろしいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=56
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057・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 セクシヨナリズムもだいぶ薄らぎ、統一がとれて急速にやられるということはまことに結構でありますが、一體官吏の給與のそうした特別機關の設置なり、あるいは給與審議會の信頼されるような機能の發揮なり、そういうことはおそらくいつごろまでに制定されるつもりであるか。實はこうした差しつめた問題をお伺いするのは、とかく答辯が政治的ゼスチユアになつて、證據物權があとに殘らないことになりますから、これをきわめて時間的に伺いたい。時間的にしつかりしなければ國民も勞働者も信頼しないのであります。そういう意味で大體いつごろまでにそういうことを制定される見當であるか、お伺いしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=57
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058・吉武惠市
○吉武政府委員 給與審議會についてはすでに成立し、發足しております。ただ發足しましたけれども、當初にいろいろ議論が出まして、議事の進行が思うようにいかない。それをむりやりに進めることはよろしくありませんから、非公式に勞資双方の折衝をしておるという状況であります。これも先ほど申しましたように、大體意見が落ちつきまして、ごく近く再開して進行することになつております。御諒承願いたいと思います。それから官吏待遇改善委員會は、實は準備會として既に發足しております。正式の會は近くつくるつもりでありますが、これは組合側の意向もありまして、正式の會よりも、準備會のような形でしばらくやつてほしいということでありまして、實はそういう形になつておるわけであります。御諒承願います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=58
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059・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 その點は今度は必らずお約束が實行されるものだと信じて、おくことにいたします。
〔土井委員長代理退席、委員長著席〕
本法の二條にある、勞働條件は勞働者と使用者がその對等の立場において決定するということになつております。これは今後きわめて重大なる本法の根本になる點だと思います。そういう點からこの二條はかなり廣い意味においてお伺いしておかなければならぬと思います。御承知のように勞働組合はずいぶんたくさんできましたが、いまだ勞働協約を締結しておらない組合が、全體からいえば半分以上あるということが、新聞その他に發表されていますが、この點は厚生當局がよく御承知と思います。そういうことで、對等の地位といつても、いまだ對等の地位を具體的に實行するという勞働協約の締結もできておらぬ現状であります。勞働協約のできている組合と使用者の間においても、經營協議會とか、いろいろな形で、勞資双方の機關構成をしておるが、その多くはいまだ形式的につくられておるのでありまして、經營協議會といつても、この線までははいつてよろしいが、この線以上にはいつては相ならぬということで、眞に經營に參加するような、協力のできるような點まで進められた、勞働協約による機關構成の運營はやられておらぬというのが現状である。そういう點からしばしば勞働協約を結んでおつても、それが無視されて爭議行爲にはいらざるを得ないことが多い。だから勞働協約による經營協議會の運營によるその經營體の安定性というものが、今なお定まつておらないということは御承知の通りであります。以上のようなことでありますと、一體對等の地位に立つてきめるという良心的な點だけで、はたしてこれがやれるか。法文によればこのきめられたことが實行の面に強制されるというものは、何ものもここに見出すことはできぬのであるが、この條文にそうした強制的な面がなくて、大體こうしたこの法に盛られたような一切が完全に實施され得るとお考えになつているかどうかを伺います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=59
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060・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまお話がありましたように、組合は相當結成されましたが、組合内で協約の締結されているものはまだまだそう多くございません。お話の通りであります。これは今後勞働協約を締結さして行くということの望ましいことは、お話の通りであります。また協約のあるものについても經營協議會があるが、實際經營參加まではいつていないというお話でありますが、經營協議會の設けられていることはこれまた非常に結構だと思います。しかしながら、經營協議會を法律をもつて強制をするということは、必ずしもこれは私どもよくないと思います。というのは、企業にはいろいろな企業があり、またいろいろの事情がありまして、それはやはり使用者側、勞働者側お互いの納得の上でゆきませんと、それを法律をもちまして畫一的に強制をするということは、形の上ではできましても、事實上運營の上において缺くるところが多い。これはかつてドイツでも、そういう事例が第一次大戰後においてあつたように私ども聞いておりまするので、その點は強制をいたさないことにしているのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=60
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061・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 この二條にありますように、ここできめられました一切が、ただ双方の誠實に義務の履行というだけで、それのみによつてはたしてこの勞働基準法に盛られてありますところの、この第二條のすべてがここに掛つていると私は思うのであるが、ただこの條文の程度で、はたして完全に勞資双方が平和的にやつていけるかどうか。勞働協約は御承知の通りに、産業の安全、平和の保障機關であるが、保障機關であるものが、今日の日本の現段階等において、ただ誠實と義務の履行というだけを信頼されて、はたして勞資双方が平和裡にやつていけるかどうか。これがやつていけるということであるならば、その多くが勞働協約を放棄して今日團體交渉に移り、ストライキに訴えんとしていることは、厚生當局はすでに御承知のはずである。そのおもなるもの、大きなものはほとんどといつていいくらい、勞働協約及び經營協議會がつくられてあつても、業者側でこれらを履行しない。それから協約は形式的である。實際に勞働者を對等の地位、資格において勞働組合を扱つていないというところから、この勞働協約を放棄し經營協議會を信頼しないで、團體交渉等によつて問題がひき起されていることは御承知の通りである。こうした事實が現に深刻に現われているときに、一體この程度ではたして完全にやつていけるというお考であるかどうか。われわれはこれに對して非常な疑惑というか、不安をもつているのである。だからこの第二條に對しては、現段階においては、協約締結されたものは相當強制力をもつというようなものをもつてされなければ、私は勞働協約の根本精神に立つ産業平和、安全保障としての勞働組合が、完全に信頼提携をして協力していくということが、依然として破棄されてくるということになりはしないかと思うが、この點に對してどうお考えになりますか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=61
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062・河合良成
○河合國務大臣 勞働基準法といたしましては、大體公益上の見地から、勞働者保護に必要な面だけは、できるだけ明らかに規定していくことが必要だと思いますけれども、大體はやはり國家が積極的にこれを保護するというくらいのことは、やはり經營者側と勞働者側の協調と申しますか、あるいはデモクラチツクな發達によりまして、自主的にやつていくという建前をとつていくべきもので、勞働問題全體を見渡しまして、ある點までは國家の權力をもつて規定し、バツクしていく。ある點までは自由の自主的の展開發達、自覺にまつという、二つの大きな思想の、やはりなわのようになつたところに勞働問題の健全なる發達があるのだというふうに考えておりまして、そのマージンを、その線をどこでひくかの問題、ただいまの質問もそういうふうに觸れておると思いますが、私どもは今日の各般の情勢を考えまして、この程度が適當なりというふうに考えておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=62
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063・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 産業の新規再開、すなわち新らしい建設への方向というものは、なんといつても完全なる勞働協約締結、それが施行されていかなければならない。完全な勞働協約というものは、やはり協約の上に締結されたる勞働條件というものが、完全に實施されていくということでなかつたならば、私は勞働協約による經營協議會運營というものに對して、勞働組合が、勞働者側がこれを信頼してやつていかないと思うのである。ところが今日の場合に、さつきから質問いたしましたように、とにかく完全にその點がやられておらぬのである。そういう點から見ましても、私はこの第二條の程度では、具體的なこの産業再開の線に、勞働協約を通じて勞資對等の地位に立つて、本問題を解決して、安んじて今後の産業再開、再建の上に進むのに非常な不安があると思う。その證據には、御承知のように産業はいまだ再開、再建の軌道に乘つていない。先般來から勞資團體間において經濟復興會議というものがつくられておりますけれども、勞働組合側、現場側においてこれにやはり少からざる疑惑をもつて、經濟復興會議に協力しようという熊勢がなかなか容易にできないでおるのであります。それというのはやはり勞働組合ができており、勞働協約を結んでおつても、それを對等の地位に立つて、眞にこれを認めてやつていこうということを資本家側の方でやつておらぬのである。たとえば經營が非常に不振で赤字の場合は、その帳簿を見せていろいろ説明をするが、たとえば赤字の中におけるところの借り金を、別途な方面にそれを支出しておる。あるいはまた材料を買込んだ中に置いて、その材料は使つたごとく帳面に書上げて、實はそれはまだ倉庫に殘つておるというようなことの檢査なんというものに對しては、これはやはり隱そうとしておる。そういうような點で經濟面に勞働組合側がタツチするということについてはいろいろな意味でこれを拒んでおる。そういう點から經濟復興會議、産業復興というか、産業再開、再建に對して、現場側において、勞働組合側は眞にざつくばらんな氣持で勞働協約を尊敬し、經營協議會を信頼してやつていこうとしておらない。そういう點からまだ對等の地位に一歩も扱おうとしておらぬし、また扱つておらぬ。そういう點からしばしばいろいろな問題が締結されても、經濟面に勞働組合がタツチしておらぬところからそれが認められないで、實行されないところから問題が起つてきておるのである。だから私はこの質問は單なる賃金、待遇問題とか、勞働條件の問題ということばかりでなくして、敗戰日本の産業の再開、再建は、新しい日本の産業經濟を勞働協約、經營協議會の軌道に乘せるにあらずんば再建できないと、こういう大きな觀點から私はこれを取上げ〓質問をしておるのでありますが、現代のような状態において産業が再開、再建されて、完全にやれるという見透しをもつておられるかどうかということを、お伺いしたいのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=63
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064・河合良成
○河合國務大臣 勞働協約の點、あるいは使用者側の點について、ただいま御指摘のような事實も、多くの中には私はあることだと思つております。しかしながら大體において、やはり勞働協約というものは契約原則に基きまして、そうしてここに勞資との間の彈力性をもたせていく。そうして百態百樣、工場の状態なり、産業の状態に應じていくということは大切なことであります。殊に今日のような日本の状態におきましては、いろいろな點において變化性がはなはだしく、そうして不十分な點も多いのでありますから、この勞働協約であまり固く縛つていくということはどうであろうか。これに一つのノルマルをもたせたり、あるいは強制力をもたせたりして、一つの國家の法律のようになつていくということは、私はかえつてどうかという氣持をもつて、ただいまの御質問を聽いた次第であります。しかしただいまお話の産業復興會議のごとき問題いろいろありまして、なかなかこれは思うようにまいらぬということは、これは事實であります。事實であるけれども、これはただ勞資の間の問題だけよりも、もつと日本というものの終戰後における本質的な問題がいろいろあるので、勞働協約がどうなるからというので、この問題がどう轉囘されるかというようには、私は考えません。もつと複雜なものであるというふうに私は考えております。しかしながらただいま御指摘のごとき點も一つの原因には相違ありませんから、將來は勞働協約の締結及びその實行ということに對しましても、政府も十分注意していく考えでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=64
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065・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 これは非常に時間的にさし迫つた點になりますからお伺いしておきたいと思いますが、從來から炭鑛の勞働賃金の點におきましては、政府も何らかの機會等において發表されておるのでありますが、坑内勞働賃金は地上勞働の八〇%收入を多くしなければならないであろうというようなことを言つておられるし、炭鑛の勞働賃金に對しては、一般工場その他より相當待遇をせねばならぬであらうというようなことも言われておるようでありますが、そうかと思うと、昨年幣原國務大臣は九州の炭鑛に行かれたときに、炭鑛は大變立派で、坑内は立派で涼しくつてよかつた、だから一般の賃金より高くする必要はないといふようなことを言われておるのでありますが、そこで現内閣は炭鑛勞働賃金に對して、ほんとうに責任のある考えはどういう點にあるのかということを、私非常に疑惑をもつておるのでありますが、先般來から全日本の炭鑛勞働がゼネスト等の問題にはいりはしないかどうかということが、非常に國民的に危惧されておつたのでありましたが、この問題はさいわいに片づきましたが、しかしながらこれは本年度の暫定處置として片づいておるだけでありまして、明年度、いわゆる來る四月から新しい賃金の制定が行われなければ、先般來からのあの不安状態をそのまま延長されておるということでありますから、そこで炭鑛勞働賃金をどういうように制定するかということは、かかつてこの三月、今月に時間的にあると思うのでありますが、こうした國家再建上重大なる石炭産業における勞働者の賃金を、どういうように、おきめになるおつもりであるか、ということをお伺いしておきたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=65
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066・河合良成
○河合國務大臣 御指摘の具體的問題は、商工大臣の手もとにおいて目下進行しておることと思つておりますし、政府全體としましても、この問題の一日も早く決定をして、そうして勞資相方に圓滿なる妥結を見まして、政府計畫の三千萬トン遂行ということに、うまくいくことを期待しておる次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=66
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067・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 今内務省に選擧に關係する問題等で——、内務省からお見えになつておるようでありますから、多分お急ぎではなからうかと思いますので、この點を先にお伺いすることにいたします。實は御承知のように、この春にはおそらく歴史的にないところの選擧が數々行われるわけでありまして、これはおそらく世界的に類例のない大きな選擧であるだろうと思うのでありますが、御承知のように炭鑛鑛山等は非常に地理的に不便なところにあることは申し上げるまでもございません。選擧の投票場であるところの學校なり、指定の場所に行くこともかなりな距離があることも御承知の通りであります。そこで今度のようにこんなに一時にたくさんな選擧が行われるということになれば、やはり炭鑛としてもこれを全部公休日にするということはなかなか容易でない。また公休日にすることが、それだけ重要な石炭の出炭ができなくなるのじやないか。これはやはり國家産業再建上から見ても、單に形式だけで取扱つてはいかぬのじやないか。そこでやはり炭を出すためにはわざわざ休んで行けないということになると、おのずから棄權ということにもなつてくるのじやないか。そこで棄權を防止することをまず第一考えなければなりますまい。同時に今の日本で急ぐ石炭を、そのために一トンでも少くしないために、萬全の對策を立てなければなりますまい。そういう見地から炭鑛等でも、今度の選擧においては個々の炭鑛に投票箱等を備えつけまして、その炭鑛においてあるいは朝か夜か、仕事の出かけか、歸りがけに投票ができるようにする便利を與えてやるということになれば、棄權も防止され、重要な石炭の増産にも障害を來させないという、一擧兩得のことも行えるのじやないか。そういう點から勞働組合關係等におきましても、また經營者側においてもそれを切實に希望しておるのでありますが、この點に對して、内務當局の方ではどういうお考えをもつておられるかを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=67
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068・小林與三次
○小林政府委員 ただいまのお話まことにごもつともでございます。私たちといたしましても、今度の選擧で棄權の點を非常に心配いたしておるのでありまして、なるべく各選擧人の御便宜になるように投票所を増設して、その場所も有權者が一番便利な場所を選ぶように、實は前々から地方に指導いたしておるわけであります。そこで大體、今度は少くとも投票所は從來の倍は設けることにいたしております。結局今の質問は、投票所を具體的にどこへ置くかという問題になるだろうと思うのであります。個々の鑛山とか、炭鑛等にそれぞれ一つずつ設けるということは、ちよつとこれはお約束しかねますけれども、結局住民の大多數の人たちが鑛山に働き、工場におつて、そこに設けた方が全體として非常に便利だということになれば、そういう所に設けた方がよろしいのではないかと考えております。大體投票所の問題は、御承知の通り市町村の選擧管理委員會がそれぞれ適當な場所に置くことにいたしておるのでありまして、かたがた今の石炭の問題につきましては、關係省の方からもかねがね御要望もありますので、内務省といたしましては、それぞれ地方廳にその點を十分考慮して、投票所については十分配意するように指導いたしたいと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=68
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069・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 この點は、そういうことが大體内務當局の方でそれぞれ關係方面等と、連絡がとられてあることは大變結構だと思いますので、既にこれもきわめて時間的に迫つておるのでありますから、その場合にまごつかないように十分の準備手配をして、萬全を期していただきたいということを希望いたしまして、この點はその程度にしておきます。
それから厚生當局でありますが、大體この法の全體を見まして、まだこの法の適用を受ける人々に對する十分な計畫等をつくられていないことを、われわれははなはだ遺憾に思いますので、そうした點についてお伺いしてみたいと思います。有給休暇を設定することにつきまして、大體において、普通勤勉に働きました勞働者に對しましては、少くも年間二週間以上の有給休暇を與えているのが、歐米各國におけるやり方であると見てよろしい。ところがこの法を見まして、そういう點がまだ明確にされておりません。たとえば一年間一生懸命働いて休暇をもらつた場合に、直にその健康を取捩し、特に炭鑛のごときにおきましては、あのまつ暗いところで、ほとんど年中日光に當らない。坑内の暗やみから家庭に歸つてくればまた夜である。そのようにして大切な日光を浴びることができなくなつている。そういう點からしましても、やはり年間勤勉に働いた者に對しては、少くとも二週間以上の有給休暇を與え、その休暇を利用して一定の場所において十分休養し、保健をして、さらに明年度十分働くための體力をつくろうという點において、まことにわれわれこの法案〓全般を見て、その點に考慮が拂われていないことを遺憾に思つているのでありますが、そういう點に對して、現在ここにつくられている程度で十分とお考えになつているかどうか、伺つてみたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=69
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070・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいまの有給休暇の御質問でありますが、本法に取上げております、すなわち一年間勤續勤務いたしました者については、六勞働日の有給休暇を掲げているのでありますが、これは國際勞働會議におきまして採擇された標準であります。御承知のようにこの法律は大體あらゆる業態、あらゆる方面に適用される法律でありまするから、その最小限度を法律をもつて強制しているのでありまして、これ以上のものを、個々の状態においてもつと引上げて有給休暇をやられることは、これは望ましいことであります。この法律はこれをもつて強制する。いわゆる標準といたしましては、國際勞働會議に採擇された水準でやむを得ないのではなかろうか、また結構かと存じております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=70
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071・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 その點は、六日間か二週間以上かということは、これは議論になりますから私は申し上げませんが、しかし厚生當局もお調べになつておられるであろうが、今日歐米各國等のいわゆる文化國と言われ、民主國と言われるところの國においての、勞働者の勤勉に對する年間の有給休暇ということを見ますと、六日間なんというものは私はあまり見たことはないので、その多くはやはり少くとも二週間以上ぐらいに、實際にあたつて事實上實行されておるということを、私も歐米各國の勞働組合を訪ねましたときにも、そういうことを見聞をしてきたのであります。だからわれわれはやはり今後民主主義的な文化國の勞働者として、その健康を保持して勞働にいそしんで働かすためには、少くとも年間勤勉の者に對しては、二週間以上の有給休暇を與えることが最も妥當だと私は思つておりますけれども、これは見解の問題になりますから多くを申し上げません。そこで、それならば現在のようにつくられてあります程度のものといたしましても、有給休暇を與えておるといつても、有給休暇をどういうように健康的に利用せしめるかということが考えられなかつたのである。たとえば休みをやつたといつても、ただお前の好きにしろということでは、私は今日のこのような惡性インフレ下の現状において、とうてい休暇をもらつたところで、その健康をみずから囘復するというようなところを選んで、有意義に健康のために過すということはできぬのじやないか。そういう點から、やはり國としては、あるいは海なり山なり温泉場なり、そういうその時節もつとも健康にふさわしいところに、そういう機關を設置をしまして、とにかくそこに行けば、安くて季節に應じて日光もとられ、あにいは十分なる健康を囘復することができる。こういう機關を設置して、そこにみずから喜んで行けるというようなものをつくつてやらなければ、せつかくのこの休暇というものを有意義に勞働者の方で利用することはできぬのじやないかと、こう思うが、こういう點に對して何ら盛られていないようであるが、そういう點をどういうようにお考えになつておるかをお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=71
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072・河合良成
○河合國務大臣 勞働者の有給休暇をいかに善用するかという問題につきましては、私どもまつたくただいまの御所見御同感でありまして、實は私個人においても、そういう問題を大分專門的に研究したことがあります。特にドイツのK・D・Fの組識など大分研究したことがありますが、どうもあれは、あまりに一律一體的でどうかと思う點もありまするけれども、あの施設などについてはよほど考慮すべき點もあろうと思つております、將來はどうしてもそういう線に向つていつて、そうして勞働者の有給休暇をもつともうまく利用し、そしてこれに慰安を與え、リクリエーシヨンをやるということは最も重大な點であるということは私も御同感であります。ただその實行につきましては、今日の物資不足と、財政難の折柄でありまするから、思うようにまいらぬですが、そういう線に向つてどしどし進めて行くということについては御同感でございます。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=72
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073・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 この問題等につきましては、別に法律をもつてせなくてもよろしいのであります。たとえば適當な地域にそういう機關を設置するということは、國がある程度の金を出す、あるいはまた經營者側等においてもある程度の金を出すというような、結局問題は金の問題で片づくのじやないか。そこで物資不足、そういう物が足らないということもいま厚生大臣が言われたのであるけれども、しかしながらこの點は、私はやろうと思えば、戰爭中につくりましたところの、また徴用しておりましたところの、いろいろのそういう機關がたくさんあるのであります。戰爭中に軍などが、あるいは強制的に命令的に、當時の政府がやつておりましたところのものがある。こういうものを結局國と業者側との間で金を出し合つて、買收するなり、借りるなり、設備を施すなりすれば、簡單にこれはやれることでありまして、厚生大臣がもしやらうという決意をもつてやられるならば、私はこれは朝飯前にできることじやないかと思う。そういう點に對して、別に手續上面倒なことはないのであるから、積極的に厚生大臣がやられるという決意をおもちになつているかどうか。あるいはまたそういうものができた場合に、從來はとかくそれが官僚的にやられてあつたところから、非常に不親切である。何かそこに行つて休養することを恥辱と感ずる、こういうことが、從來せつかくのこういう機關に對して、そこへ行く者に不愉快な感じをもたした經營のやり方でありました。まことに今日まで、從來の軍なり官僚的なやり方が、國民に對してはなはだ不愉快を感じさせたのはそういう點でありましまたが、今後はそういうものの經營に對しては、必ず勞働組合等も、その經營というか運營というか、あるいはそのサービスというか、そういう點に對して快く、ほんとうに自分らの安息所だというような氣持で參加のできるようにすることが、大事だと思うのでありますが、併せてこういう點に對して厚生大臣のお考えになつている點をお伺いしたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=73
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074・河合良成
○河合國務大臣 私はその問題に對しては非常な熱意をもち、また實は相當の知識ももつております。ぜひそれを實行の緒につけたいものだと考えております。ただなかなか——たとえば、一定の期間に若い者に登山の機會を與えるとか、あるいは女の人に對して日光浴の機關を置くと、それからフオーゲル・ヒユツテですか、結局鳥のように泊つて行くヒユツテの組織をつくりますとか、あるいは航海をやらせるとか、ほんとうに都會に近い伊豆の諸島のような所などは、非常に京濱の勞働者などに對する慰安地となるのであります。しかし實際問題に當つてみますと、ただいま金だとお言いになりましたけれども、なかなかそうはまいらぬので、今日占領治下におきまして、いろいろ木材などがどういうふうに動いているかということも御承知でありましようし、セメントなども——岩家を、岩の家をつくるにいたしましても、セメントなどなかなか要るのであります。それからトランスポーテーシヨンの關係がありまして、あまり遠くへは多數の者が行けないというような關係、いろいろの點に拘束を受けますので、實際問題としてはなかなか單純にはまいりませんが、その方向に向つて、許す範圍において進めたいという考えでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=74
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075・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 次は職業病の問題でありますが、どうも政府としましても、また經營者側等においても、日本の全體の責任者の考え方といたしまして、職業病に對して非常に冷膽なのである、現にいろいろ專門的な研究の結果、それぞれの有害なる産業において職業病というものがどんどん出まして、非常に熱心に働いた結果、若くしてその不幸に陷つていることも隨分あるのであります。たとえば鑛山等におきましても、御承知のように職業病というものが非常にあるのであります。ところがこういう職業病に對しての療養、完全にそれを治してやるような施設が問題にならないことをわれわれはいつも遺憾に思つておるのであるが、こうした職業病に對する療養施設、あるいはそうした人々を慰めて、なんとかまた健康に復さすように、あるいは健康に復し得ないならば、それらの人々を産業の犧牲者として不安なからしめるようにしてやることが、やはり全勞働者、また危險な事業に從事する勞働者が、喜んでそれに從事することにもなるのであろうと思うのである。現在の場合そういうものがない關係上、お互いに皆危險な作業、有害な作業に對して從事することを欲しないことは事實であります。そういう見地から見ても、やはり有害な産業に從事する犧牲者の職業病に對して、積極的にそういう對策や施設をもつてやらなければならぬと思うが、こういう點も何ら取上げられていない冷膽な状態である。こういう點をどういうようにお考えになつておるか伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=75
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076・河合良成
○河合國務大臣 職業病につきましては御説の通りでありまして、鑛山におけるいろいろな病氣、あるいは酸、アルカリの處理、その他毒藥物の取扱い等に對しまして、いろいろ職業病の起ることは事實であります。しかし大體の見當は、工場法實施以來專門的にはついておる問題でありまして、この間もちよつと答辯しましたが、肺結核などの問題について、どこまでをもつて職業病と見るかというような——職業病というよりは何と言いますか、使用者側の責に歸すべき疾病と見るかというような問題に對して疑問がありまするが、大體の職業病につきましては、燐とかあるいは鉛とか、いろいろ見當がついておりまして、それに對する療養の施設も、ただいまのところでは特別な療養所はもちませんけれども、相當の病院ならば大體の見當がつきます。今後國立病院の經營の普及あるいは國立病院の地方病院のようなものをどんどんつくつていきますと、そういうところならば、そういうものに對する對策も完全に行われると思います。しかし特にそういう病氣の多いような地方とか、たとえば炭鑛の中心地にそういう地方的中央病院をつくることにつきましては、できるだけこの目的に副うように苦慮しておるのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=76
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077・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 今厚生大臣の言われました使用者側の責任に歸するという點、これは私もまつたくそれが多いことを感じておるのであります。ところが使用者側の多くは、設備をし、注意をしてやれば、職業病にかかる不幸な人々を當然相當救い得るにかかわらず、使用者側が營利的な考えから怠つておるために、こういう職業病の不幸な人々を出すということをわれわれも考えておるのであるが、これに對して、たとえばそういうものに對する注意、警告あるいはそういう結果から出た職業病にかかつた人々に對する療養施設に對する命令、監督ということについても、まことに遺憾の點が到るところにあることをわれわれは見受けるのであるが、こういう點に對して、もつと積極的に關係當局はやらなければならぬと思うが、この怠慢な状態に對してどういうようにお考えになつておるかを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=77
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078・河合良成
○河合國務大臣 工場監督官の制度を今度はよほど親切にやるつもりでありまして、やはり第一に工場監督官制度の完成ということが、それに對する對策を講ずる最も適當な方法だと思つております。しかしなお今度例の勞働災害保險法によりまして、病院の設備なども完成していきまして、そこで治療を受けさせるというような點に對して、十分注意をしていくつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=78
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079・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 次は炭鑛の住宅の問題についてでありますが、厚生大臣はこれを視察されたかどうか私はしりませんが、とにかく炭鑛の多くの住居というものは實に言語道斷でありまして、まつたくそれは奴隷の住居と極言しても私は過言でないと思う。戸をあけて一つの部屋に寢ておる姿を見るならば、何人もよくこんなところでたくさんな家族が住んでおるものだと、ほんとうにびつくりするだろうと思うほどであるけれども、從來から住みなれておるから、まあしかたなしに鑛夫諸君も住んでおるものと思いますが、住居があれでは、私はとうてい健康にして文化的な日本の勞働者として、勞働に一つの意義と希望を感じ、鑛山勞働者の重要性に誇りをもつていくことはできないと思う。今後民主的な、文化的な日本の勞働者として、あの山間僻地の不自由な所で働く鑛山勞働者、炭鑛勞働者に對しては、私は何とか住居だけでも、もう少し人間の住んでおるような住居にしてやる必要がある。たとえば汚い話であるけれども、便所のごときにしたところで、一つの長屋の十戸建なら十戸建の端に一つしかない。それから衛生的な點などもまるで言語道斷というようなことで、とにかく便所へ行くといつたところで、一囘一囘その棟割長屋をまわつていかなければならぬというような状態では、とうてい私は睡眠を保持し、健康を維持し、勞働に誇りをもつというようなことはできないと思う。こういう點に對しても、當局としてはそれらを放任されてある。それで大きなそういうことを相當考えているところでは、最近いくらか、二間くらいのものでもつくるとか、二階と下をつくつてやるとかいうところもあるけれども、これはまつたく數えるほどもないのであります。そのほとんどは舊熊依然たる奴隷のような住居であるが、こういう點に對しても、もつと私は産業の重要性から考え、そういう不自由な所に苦痛な勞働をしておる勞働者の特殊性を考えて、こういう點はもつとこの法の中に、やはり鑛山勞働者の特殊な保護というか、そういうものを盛るべきであつたと思うのであるが、そういう點はほとんど問題にされていない。まずそういう點から、この住宅等の問題について、一體どういうようにお考えになるか。最近においてはほとんど雨の漏り放題、壁の破れ放題で、破れた壁の間から隣同志が物の取引をしておる、隣りの方をこつちから覗いて見ておる、莚を張つておる、そういうようなことをそのまま當局では放置しておいて、それで石炭を掘れとか、やあ鑛山勞働者は日本の救國の再建者だと言つたところで、そういう讚辭を受くる前に、まずわれわれの住居をもつとよくしてくれということが切實に叫ばれておることである。こういうことに對して何ら施されてないが、一體どういうように厚生大臣はお考えになつておるか、この點を伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=79
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080・河合良成
○河合國務大臣 ただいまのお説、御同感でございまして、石炭というものは二年や三年だけの問題でなく日本の將來から見まして、どうしてもこれは永久にやつていかなくちやならぬ問題でありまするから、炭鑛に對する住宅その他の設備、殊に文化、慰安の設備は、ほんとうに根本的にやりまして、そうして小學校も建てれば、慰安所もつくる、住宅も相當の程度にやつてゆくということが最も望ましい。またただいまは政府においても住宅の急造に非常に努力をしておるようであります。それは住宅の不足ということが、一番困難なものですから、住宅を補うという點を第一次として、まだその改善というところまでは十分至らぬということは、はなはだ殘念としておりますが、厚生省のわれわれの方針といたしましては、できるだけこれが設備の完成ということに努力をしたいつもりでおります。ただ法律上それをここに書くということにつきましては、問題の性質がちよつとどうも、法律でどうという規定を書くということは、抽象的のことは書けますけれども、具體的にどうするということはできない問題であります。また各國の勞働法規も、そういうような幾分積極性をもつた問題については、書いてないのではないかと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=80
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081・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 やはり何らか國で一つの規格というか、そういうものをお立てにならないと、經營の方は採算上の見地から從來の古い習慣そのままを維持して、新しくつくるについても、修理をするについても、やはり五十年、百年一日のごとき考え方で扱つていることは言うまでもない。そういう點から、今後炭鑛勞務者の家をつくる場合には、こういう程度のものでなければならぬぞという規格を、國で示す必要があると私は思う。それに對して十分なる監督をしてやる必要がある。さらにまた從來は經營者本位でやつているのを、今後は國として監督を嚴にすることと、勞働組合なども、そういう問題等については代表者を參畫さして、ほんとうに自分たちの住居をつくるために、修理するために、健康を維持するために、自分らも協力をしてやらなければならぬという氣持を、もたす必要もまたあると思うのであるが、こういう點に對して今後の方針について、どういうお考えをおもちになつておるかを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=81
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082・河合良成
○河合國務大臣 危害の防止とか、安全装置そういう意味におきましては規定を設けておりますけれども、福利の問題については、この法律では規格を定めていないのであります。まあ住宅という問題は、福利の問題になつていくかどうかということに對しては疑問はありますけれども、大體そういう線につきましては、やはり福利施設の指導方針としまして、今の御質問のような點をやつていきたいという考えでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=82
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083・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 これはまあ御承知かと思うが、大體工場、鑛山等においても、中以上のところには、あるいは病院なり、そうした醫療施設なり、健康上の點についても、それぞれある程度やつてをりますけれども、中以下のところになると、ほとんどそうい醫療なり、あるいは病院なり、健康なりそういものに對するところの機關というものがまつたくなつていない。また全然もつていないところも隨分多いのである。こういう状態では、われわれは今後日本の勞働者を再建に奮起さす點から見て、まことに遺憾にたえぬのであるが、特に日本の今後は中小工場、鑛山等の産業に力點を置かなければならぬ。それが今後の日本の再建の母體になると言つてもよろしいと思うのであります。ところがそういう方面に大多數の日本の勞働者か働くのであるが、そういう方面においては、今のように病院なり、醫療なり、それから健康等の、そういう施設というものがなつていない。また皆無の状熊にある。こういう状熊では、とうてい今後日本の産業の母體をなすこの中小以下の工場、鑛山の勞働者の健康を保持して、勞働者を明るさをもつて奮起さすことはできないのであるが、こういう點に對しても、何ら具體的に政府の方針も聽かぬし、また勞働憲章ともいうべきこの基準法においても、そうしたものに對して注意換起をするというようなことも、取上げられてないようであるが、こういう點に對しては一體どういうようにお考えになつておるか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=83
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084・吉武惠市
○吉武政府委員 ただいま鑛山における住宅の點に關連して、いろいろの福利施設に對する御意見ごもつともでございます。ただこの法律といたしましては、先ほど大臣からお話がありましたように、衛生上あるいは危害上の立場からはある程度のことができますが、それ以上の福利施設につきましては、法律で強制するという問題ではなく、今後の指導によるところであると思います。われわれといたしましてはこの法律で強制するだけで、法律の施行が十分だとは考えておりません。この法律の上にまだまだ勞働者保護のために盡すべき問題がたくさんある。今お話がありました住宅の件、醫療施設の件、その他各種の勞働者に對する施設につきましては、今後とも努力するつもりでおります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=84
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085・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 努力をされるということであれば、努力を信頼しなければならぬということになると思いますけれども、どうも從來から、とかく努力ということは逃げ口上の一つであるというようにわれわれは考えさせられておるのであります。そこで具體的なものとして、ここにそういう機關をもつだけの資力なり實力がないとするならば、ある地域々々にそういうものをつくつて、その機關を共同的に利用さすとか、あるいはまたそういう機關の共同施設から醫者なり、あるいは看護婦なり、保健婦というものを巡囘的に訪ねさせてやる。そういうようなことをしてやらなければ、なかなかそれは容易にできぬのではないかと思う。そういうものを國みずからつくつてやり、これをよく運營していくように十分監督指導をしてやる。そうして大きい所に働く者も、中以下の所に働く者も、日本の國としては同等にこれを待遇し、保護しておるものであるというようなことを、取上げてやらなければ、だんだんそういう施設の惡い所にいい勞働者が行かなくなる。それから定着性が少くなるということになつて來れば、今後の日本の産業再建は、中小を主體として見なければならぬのに、そういう所があらゆる勞働諸條件、健康、衞生、一切の福利厚生上の點からも惠まれないということになれば、行き手がだんだんなくなつてくる、そういう所にいつて働く者は、自然にやはり輕蔑されるということになつてくると、そういう所に定着して働くことを欲しなくなつてくるのではないか。こういう點も日本の産業再建上という大見地から考えて、私はきわめて大事な點であると思う。今私が一、二理由をあげましたような具體的な點について、お考えになるつもりがあるかどうかを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=85
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086・河合良成
○河合國務大臣 ただいま伊藤君のお述べになつた點については、至極同感でございます。ただ國家の情勢がこういう事態でありますから、豫算的措置としまして、どこまで豫算がとれるかという問題になるのでありまして、財政の許す範圍内において、できるだけ福利施設の問題に向つて進出したいという考えでおります。特に石炭のごときは、やはり石炭の戰後における勞働者のいろいろの轉換、その他の問題に對しまして、どうしても私はほかの産業よりも、特にこの問題については、根本的に勞働者が安んじて仕事をしていけるというような積極的體制は、これはできるだけ早い機會においてとらなくちやならぬと考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=86
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087・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 これは具體的な問題になりますが、二十六條の「使用者の責に歸すべき事由による休業の場合においては」、という點でありますが、御承知のように石炭が足らぬ。あるいは渇水の場合には特に水力電氣も足らぬという點から、火力、水力等の電力減のために、工場地帶においては非常な電休をやつておるという状態、あるいは一週間に一日ぐらいしか働くことができない。またそういうことを理由にして、業者の方では營利的にそれを利用してやつておるという事實がある。こういう點に對して、電休日に賃金が拂われておるかというと、實は拂われていないことが非常にある。あるいは拂われておつても、あてがい扶持ということが非常に多い。これは勞働者の責に歸すべきものじやなくして、あるいは國全體というか、あるいは國の政治の方針によるというか、そういう大きな責に歸すべきものでありまして、そのために勞働者が休ませられて、給料がもらえないで生活に困る。そういう結果遂に他に働きに出る、あるいは副業を見つける。あるいはやみ商をやる。そしていつの間にか職場から離れ、熱心さを失うということも起つて來ておるのが今日の實情である。こういう場合に對して、具體的にどういうように解決をしてやるというお考えをもつておられるかを伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=87
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088・河合良成
○河合國務大臣 これは前囘にもお答えいたしましたが、使用者の責に歸すべき場合に對する六割の手當ということは、結局使用者の一種のコンペンセーシヨンでありまして、使用者の責任から出て來る問題なのであります。しかしながらこれ以外に勞働者の責に歸すべき場合もあるし、勞働者の責に歸すべき場合はこれは勞働者の責任でありますが、使用者の責に歸すべきことでもない。勞働者の責に歸すべきことでもない場合がありまして、それは國家というか、國家なら國家の責に歸すべきこともあろうし、また國家の責に歸すべからざることもあろうと思います。この法律では使用者の責に歸すべき面から規定したのでありまして、それ以外の點において、勞働者が生活ができないという場合にどうするかということになると、これは一般國民と同樣に考うべきことである。生活保護法なり、あるいはその他の救濟ということでいくべき問題である。そういうふうにこの問題をわけて考えなくちやならぬ。從つてここには使用者の責に歸すべき理由におけるコンペンセーシヨンを書いたのだというふうに解釋いたします。しかして實際ただいまおあげになつた電力制限の問題なども、その電力の制限が使用者の責に歸すべき理由であつて拂つていないとすれば、それは遺憾でありますけれども、それが使用者の責に歸すべからざる理由によつて拂つておらないものであれば、いたし方ない。それを恩惠的になお拂つておるという場合があれば、それはもちろん結構である。恩惠的という言葉は多少語弊があつたかもしれませんが、そういうように問題を解釋すべきではないかと考える次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=88
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089・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 使用者の責任に歸すのなら、當然使用者がその責任をもつべく、監督命令をされるということにならなければならぬと思うのでありますが、現在における状態としては、政府の責任に歸すべきものが相當あるのではないか。政府がもつと政治的にどんどん解決をしていつてやれば、問題をもつと解決して、たとえば電休日なりその他のいわゆる工場を休ます、あるいは鑛山を休ますというようなことがなくて濟むのではないか。それが政府の怠慢によるために、努力の足りないために、そういう結果の起つておるということも、われわれは認めなければならぬことがしばしばあるのであるが、そういうものは今の厚生大臣の御答辯によれば、業者以外の大きな見地からの問題は、これは國がその責任をもつて、そういう場合の勞働者の資金、給與、生活を保障してやるということに大體了承してよろしうございましようか。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=89
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090・河合良成
○河合國務大臣 第二十六條は、使用者の責に歸すべき事由について規定しただけでありまして、それ以外のことにつきましては、政府の責任だというお言葉でありましたけれども、これは非常にむずかしい問題で、もしこの政府でなかりせばこうだつたろうというようなことは、これはむずかしい問題で、じき政府の責任々々ということになると、政府といえども、この内閣はやはり議會からできた民主的なものであつて、そうすれば國民にも關連のあることであつて、この問題は、直ちに政府の責任だから、政府はどうするというようにはならないと思います。ただ新憲法によりまして、最低生活を政府はどうしてもやらしていかなければならぬという意味における責任をもつております。そういう意味において、大きな問題としてやつていかなくてはならないということは考えておりますけれども、またそうあるべきものだと思いますけれども、水力が出ない、電力が出ないということは、それは政府のやり方がまずいからだという意味において、直接にここに關連性をもつて、政府の責任だというふうには解釋しておりません。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=90
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091・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 どうも政府は自分で努力しないで、失態になつてくると、それは國民が負擔するのだといつて、その責を國民に轉嫁されようとすることを、しばしばこの議會の中にも聞くのでありますが、私は實に遺憾に思うのである。政治的に政府が解決しなければならないことは、國民の責任ではなく、あくまで政府當局、内閣の責任であるということを、もつと強く感じていただきたい。國民に轉嫁されてははなはだ迷惑であるということを申し上げておきます。
それから三十五條でありますが、これはいずれの國におきましても勞働組合を法律で認め、これを國家機關とし、公のものとしてやつております國々においては、五月一日のメーデーというものを國際的な勞働祭として、これを祝典としてやつておる。そういう場合には有給休日としてやつておるということも、既に御承知の通りであります。わが國においても、もはや勞働組合というものは、勞働法によつて完全にこれは國家的なものとして認められて、健全な發達を希つておるのでありますから、この勞働組合の健全なる發達のために、勞働の喜びを與えるために、このメーデーを諸外國の民主的な、進歩的な國々と同等に、これを有給休日に一定の國の方針としてやる。あるいは年末、年始等の休日には、これをやはり有給とさせるようなことをしてやる。こういうことを私ははつきり國の方針としてやらなければ、やるところもあり、やらぬところもあつてますますその結果が、結局この問題の物議を釀すきつかけになる。そういうことが健全な運動の發展のためにもはななだ面白くないと思うのであるが、この點に對してどういうふうにお考えになつておるか。伺いたい。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=91
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092・河合良成
○河合國務大臣 先ほど第二十六條について、政府が責任を囘避するがごときお説がありましたけれども、政府は政治上の責任は囘避する考えは一つもありません。それは議會に對して責任をもつております。ただこの二十六條は、ともかくも正確な民法上の債權債務のような關係における責任というほどの意味のお尋ねでありますれば、そういう意味の責任はもたぬのであるという意味を明確にしたのでありまして、政治的の責任を囘避するわけではありません。
それからメーデーの休日に對しましてどうかということと、もう一つは正月、年末等に對するお尋ねがありましたが、これは有給休暇をもつてあてておる場合もありましようし、あるいはまた慣行でいくべきものだろうというふうに考えて、特にここには規定しておかぬ次第であります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=92
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093・伊藤卯四郎
○伊藤(卯)委員 他に豫算委員會との關係で急ぐ會合等が起つてきましたので、まだ敷々質問したいことがありますけれども、そういう關係で私の質問は以上をもつて打切ることにいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=93
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094・滝澤脩作
○滝澤(脩)委員 私は本日補闕で代りましたのですが、既に同僚議員から多方面より御質疑があつたと存ずるのであります。私の聽かんと思いまする點は、まことに條文は結構にできておるのでありますが、ただ一、二條ぐらい伺いたいと思います點は、義務の履行の點について、その義務が私事業體え對しますところの責任であるか、あるいは國家えの義務であるかといつた方面を、はつきりお尋ねいたしたいと思うのであります。御承知の通り權利と自由を許されました關係からして、非常に浮浪者と申しますか、あるいは失業者と申しますか、こういつた人がたくさん出ております。これらの人はある一種の、これらの人に言わせますならば、ある一種の業をしておるのである。勞働をしているのであるというふうにも考えておるのではないかと思われる點があるのであります。それはやみ商人の手傳いをするとか、あるいはやみ行爲を探し探しするとかいつたような、生産に從事いたしませずに、ただ肉體を動かすことがそれが勞慟であるかのごとき觀念をもつて、非常にその方面に向つておるようにも見受けられるのであります。これらに對しまして、政府のお考えは奈邊にありますか、お尋ねしたいのであります。言いかえますなれば、これらの浮浪者、あるいは失業者と申しますか、これらの者がこれを自由勞働であるというふうに曲解して、やみ行爲をしておるというような者に對しまして、正業につかすといつたような強い御意思があるかないか、この邊を承りたいと思うのであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=94
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095・河合良成
○河合國務大臣 ただいまこの勞働の義務ないし勞働者の義務ということに對してお尋ねがありましたが、この勞働基準法の第二條に掲げておりまする義務というのは、これは主として勞働者と使用者との間における權利義務關係を書いたものでありますから、これは使用者に對する義務が主體であるというふうに私は考えております。しかし憲法第二十七條にある「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」というような意味になりますと、よほどこの義務の性質が公約の性質を帶びてくると考えておりまして、結局反面から言いますと、民主主義というものは權利の主張ばかりでなく、責任及び義務の遂行であるというふうに私どもは考えている次第であります。今日の世情、世態がいかにも權利の主張に急であつて、義務の履行を怠る、あるいはまた勤勞につかないで、勝手な自分の仕事だけをやつて、それで義務が終つたというような錯覺を起しているという點については、御同感であります。政府の方針としましても、できるだけそういうようなこの擬裝勞働者を、ほんとうの勞働者、勤勞者に仕向けるということを心がけてゆくつもりであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=95
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096・滝澤脩作
○滝澤(脩)委員 從來の勤勞状態を見てみますと、非常に勤勞者は依存心が強いのでありまして、もちろんそれは戰爭前、戰爭中に非常に指導をしてまいりました關係からいたしまして、非常なる依存心というものが、敗戰後の今日にいたりましても、いまだその根を洗わないといつたようなところが見受けられるのであります。この殘された依存心がありますために、政府におきまして新憲法發布のもと、あらゆる方面の角度よりいたしまして、今日ここに勞働基準法のごとき、まことに勞働者にとつて、その保障を確實にいたします法ができますことに對しましても、やはり依存をしておりはせぬかという點が見受けられるのであります。それと同時に、また政府におきましては、導いてやるということが、今まで缺けておつたのではないかというふうな點を濃く反映されているのであります。この法を施行なさいます場合におきまして、ただ法にあてはめさすのみでなくして、それの育成に努めてやるといつたようなお考えがありますかどうか、お尋ねをしたいと思います。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=96
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097・河合良成
○河合國務大臣 ただいまの御意見はごもつともでございまして、政府としましては、この法律の實施とともに勞働者の教育、結局勞働者の自覺、教育という點に、非常に重大な關心をもつておりまして、この線に沿うように極力努めたい。そうして勞働者にありがちの依存心、雷同心というようなものを取去るようにやつてゆくつもりであります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=97
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098・滝澤脩作
○滝澤(脩)委員 なお一點お尋ねいたしたいと思います。先般本會議において上程されました船員法の改正の中に、船長に對しまして相當な責任と義務とを負わしているようでありますが、飜つてこの勞働基準法の上から申しますならば、既に世上の勞働態勢は、生産管理とか、あるいは勞働協約とかいつた面にまで、突き進んでまいりかけているのであります。さてその生産管理状態、あるいは勞働協約がそこに締結され、實現されるということになりました場合は、從つてその事業體の生産に對しまして、責任が生まれてくるということにあるのであります。そうしてまたその團體を代表しておりますところの團體長、あるいは組合員といつたような人に對して、責任あるいは義務というものが生まれてくるのであります。こういつた點につきまして、この基準法に對しまして、船員法にあります船長の責任義務に對抗いたすべき條項を入れられるお考えがあるかないか。その邊をお伺いいたします。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=98
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099・河合良成
○河合國務大臣 船員法における船長の地位は、御承知の通りに陸を離れまして、船としての單獨の生存をやつていかなければならぬ點に重點がありまして、それで非常にそこに強いいろいろの權利義務が與えられてあるのだと思います。
事業の經營、特に工場などの場合におきましては、これはやはり經營權と勤勞權、勞働權というものは建前がはつきりわかれておりまして、經營上のこと及び人事上のことは、事業者がもつていくということは、もう動かぬところであります。從つて經營者側の同意なくして、生産管理の状態にはいつていくということは考えられないのでありまして、これは適法でないと認めております。しかし同意をした場合に、事業者と勤勞者、勞働者とがお互いに相助け合つて、ここに兩者をまぜたような一つの態勢をとつていくというようなことはあり得ることで、これはまた結構なことだと思います。そういう場合におきましては、既に勞働者は、經營者に一歩足を踏み入れておる場合であります。そういう場合はいろいろそこに經營上の責任もできてくるということが言えますから、事業者側と似たような權利義務關係が、そこに自然と生じてくるということは考えられるのであります。ただ經營權と勞働權とが截然とわかれておる場合における勞働者のチーフになる者、これは民主的に選ばれた人であり、そしてこれは勞働團體交渉權としての配置としての、權利義務をもつというふうに考えていきますから、自然船員法における船長のごとき規定は必要がなかろうというふうに考えております。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=99
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100・滝澤脩作
○滝澤(脩)委員 いろいろ有難うございました。私のお願いせんとする點は以上でありますが、重ねてお願いをいたしたいと思いますのは、勞働條件は生産を目的としたものでないと收まらないと思うのでありまして、この邊お含みではありましようが、十分に御鞭撻を願いたいと思います。以上をもちまして私の質疑を終ります。発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=100
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101・矢野庄太郎
○矢野委員長 これをもつて質疑は大體終了いたしました。次會は明後日月曜午後二時より開會をいたします。本日はこれにて散會いたします。
午後四時二十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=009213758X00519470315&spkNum=101
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