1. 会議録本文
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000・会議録情報
會議
明治四十四年一月二十七日午前十時四十五分開議
出席委員左の如し
徳田譲甫君 大井卜新君 丹尾頼馬君
根岸きん太郎君 古野孫太郎君 國井庫君
石田平吉君
出席政府委員左の如し
大藏省主税局長 菅原通敬君
本日の會議に上りたる議案左の如し
國税徴收法中改正法律案
○委員長(大井卜新君)は開會を宣告す
○根岸きん太郎君は本案提出の理由は本會議に於て陳述したるか故に茲には之を省くこととし先づ本案に對する政府の意見を聞かんことを願ふと述ふ
○政府委員(菅原通敬君)は本案は地租に對しても他の國税同樣交付金を與へんとするものなるか元來地租と他の國税とは大に其の趣を異にするものにして市町村か義務として地租を徴收するは近年に始まりたるものにあらす古き歴史を有するものなり即ち地租以前に於ては地租は國の正租にして俗に之を御年貢と稱し納税人自ら之を御上に持參して上納すへきものとせり今の市町村長即ち昔の莊屋又は村役人は納税者より地租を集め納税者に代りて之を御上に上納すべきものにして、市町村の義務として當然爲すへきものなれは政府より手數料其の他交付金を受けて爲すへき觀念は毫もあらさりき、個は我國固有の美風にして飽くまても尊重し保持すへきものなり、所得税營業税の如きは、新に徴收の義務を命したるものなれは之に向っては相當の交付金を與ふることとなりたるなり、即ち地租と他の國税との間には大に沿革上の理由を異にす、加之本案の如くするときは新に三百万圓内外の歳出を要し國庫の負擔を増加することとなる故に財政上餘裕なき今日に於ては到底實行すへからさることとす、從って本案に對しては政府は全然同意すること能はざるなり然し姑く過去の歴史沿革を離れ現在の事實に付て之を見るに、或税に對して交付金を與へ或税に對して之を與へさるは事實不公平なるを免れさるを以て若し新に國庫の負擔を増加することなくして他に適當の矯正方法ありとせは政府としても之に反對するものあらす只三百圓内外の多額の犧牲を拂って迄も矯正せさるへからすと云ふ必要を認めさるに歸著す然らは國庫の負擔を増加せすして此の不公平を矯正するの方法ありやと云ふに現在國庫の支出する百六七十万圓の市町村交付金を適當に各税の間に分配するの方法を採るときは能く其の目的を達し得へし然れとも此の方法を採るにしても現行の如く又本案の如く單に市町村の徴收金額に比例してのみ交付するときは不公平となるを以て交付金の標準は徴收金と納税告知書數との二者に取るの必要あり同しく十万圓の税金を徴收するにも一人より一口に十万圓を徴收すると一圓つつ十万人より徴收すると非常の相違あるか故に納税告知書數を交付金の標準に加ふると云ふは最も必要のことなり徴收金額に幾何の割合を持たせ納税告知書數に幾何の割合を持たすこと適當なりやと云ふことは別に計算せるを以て參考に供するも可なり又他の一點は納期内に納税せさる者に對し一定の割合にて延滯金を徴收するの制度を設くることなり現行法に於ては納期内に徴收したる税金に對しては交付金を與ふるも納期を經過し滯納したる税金に對しては假令市町村に於て納税告知書の發布其の他徴收の手續を盡したりとも之に交付金を與へさるなり之は當然のことなりとす故に市町村に於ては成るへく納期内の徴收を圖り當然受くへき交付金を受くることを期せさるへからす就ては納期を經過して滯納する者に對しては一定の割合に應して延滯金を徴收するの制度を設け納期内の完納を督勵すると云ふこと必要なりとす之は交付金に對する延滯金徴收の制度の利益の點を見たるものなれとも延滯金の徴收の制度を設くる必要は租税制度の上より最も大なるものにして近來租税の負擔中中重く國民は之を納付するに付て大なる苦痛を感し正直なる者は苦痛を忍んて眞面目に納期内に完納するに拘らす或者は怠慢に因り或者は故意に滯納し甚しきに至りては税金の日歩を計算して特更に滯納し滯納處分として收税官吏の出張したる場合に現金を提供するか如き者あり此の種の者は比較的多額の税金を納むる者にして納税資力の大なる者に多く此の惡風は年を追って増加する傾向あり實に嘆すへきことなり斯くの如く一方には正直に納期内に税金を納むる者あり他方には故意に税金を滯納する者ありとせは雙方の間に甚しく負擔の不公平を來すに至るを以て此等滯納者に刺戟を與へて納期を重んせしむると同時に滯納に因る負擔の不公平を矯正するか爲一定の割合の延滯金を徴收することは最も必要なりとす即ち延滯金は一は制裁的意味を含み一は遲延利息の意味を含むものなり、要するに本案は其儘に於ては政府は之に反對せざるへからさるも若し以上述ふる所の趣旨を以て本案を修正せらるるに於ては之に同意するものなりと述ふ
○國井庫君は政府委員は市町村か其の義務として地租を徴收するは改租以前よりの歴史に因るものなりと云へり改租以前に於ても尚地租と他の國税との間に區別ありしやと問ふ
○政府委員(菅原通敬君)は改租以前に於ては地租と他の國税との間には區別なかりしものと信す尤も當時に於ては地租即ち國税にして地租以外の租税なるものは僅かに微々たる雜税位に過きさりしを以て地租以外の租税の賦課徴收に付ては算する程の勞費を要せさりしものと思ふ、所得税營業税の如きは從來なかりしものを新に加へたるものなれは其の徴收に要する經費を償ふことと爲るものなりと答ふ
○國井庫君は外國に於ては市町村に國税徴收の義務を負はしめ之に交付金を與へさるか如き實例ありやと問ふ
○政府委員(菅原通敬君)は外國は各其の制度を異にするか故に一概に言ひ難し市町村を命して徴收せしむるものもあれは、税務署に於て直接に徴收するものもあり市町村に徴集を命するものに付ては大概交付金を與へ居ると思ふ併し是れは國體及歴史の異る我國には採って學ふへきものにあらす我國には前述の如く他國に比類無き善良なる美風あるを以て此の美風は之を尊重し保存する必要あると思ふ旨を答ふ
○國井庫君は現行の交付金は市町村に於ける國税徴收の實費を償ひ居れりやと問ふ
○政府委員(菅原通敬君)は市町村に依りて異るか故に概括して言ふこと能はさるも市に於ては實費を償ふて餘りあり町村に於ては町村の負擔に屬するもの多き實況あり尤も若し現行の交付金總額百六七十万圓を各税に適當に分配する如き方法を採るときは市町村の間に平均することとなり同時に總體に於て實費を償ふことを得るの目算あり即ち現在市町村に於て徴收する租税に對し徴收金百圓に付一圓納税告知書一通に付一錢二厘の割合を以て交付金を配當するときは恰も現在交付金の總額百六十七万圓に達し殆と増減なき計算を得ることとなるも納税告知書一通の實費は一錢未滿なるへきか故に一錢二厘を得るときは實費を償ふて尚餘りある計算となるへし而して徴收金額百圓に對し一圓を與ふるは現金取扱の手數料危險の保險料等に相當するものなるか故に實際に於て實費を償ふこととなるへしと答ふ
○古野孫太郎君は政府か今日の場合國庫の負擔を増して迄も交付金の公平を計らさるへからさる程に急切なる必要を認めぬと云ふことは一應理由ある主張と思ふも昨年建議案審議の場合に於ては必すしも國庫の負擔を増すの方法に依るを要せす交付金の公平を期するを得れは足れりとの趣意も含まれ在りし故政府に於て若し現在の交付金の範圍内に於て公平を期するの方法ありとせは何故に之か提案を爲ささるか何故に政府は衆議院の建議を閑却したりや次に若し此の改正案を成立するものとし之を明治四十四年度より施行するものとせは市町村の財政計畫に支障を生せさる見込みなりや又國税たる地租の徴收に付ても交付金を市町村に與ふるものとせは府縣税たる地租附加税の徴收に付ても交付金を與ふるを相當なりと思ふ政府は府縣税徴收に關する勅令を改正するの意思ありや否や
○政府委員(菅原通敬君)は政府に於ては衆議院の建議は決して閑却せす種々調査を重ね居たるも徴收法を改正することとなれは尚他に幾多の改正すへき條項あり之か研究に遲延し從って未た改正案提出の運に至らさる場合に於て議會開會劈頭に本案の提出を見るに至りたり本案に對し政府の意見の通り修正を加へられ成立するものとせは或は政府は改正案の提出を要せさることとなるへし次に本案が明治四十四年度より施行せらるるものとして市町財政に支障を來ささるや否やの點に付ては若し本案か市町村の間の收入に變動を生する結果を惹起するに至るときは收入を減する市町村に於ては其の收入補填の計畫を立てさるへからす自然追加豫算の計畫を必要とすへし又府縣税たる地租附加税の徴收に付ても交付金を與ふるを可とするや否やは本案とは全く別個の問題に屬す本件は内務省の主管に屬するか故に之に關する意見を陳述することを避くへしと答ふ
○根岸きん太郎君は政府は地租名寄帳の調製及整理を以て國税たる地租徴收の爲にのみ必要なる事務と見居らさるか如し如何と問ふ
○政府委員(菅原通敬君)は地租名寄帳は地租徴收の爲めに特に調製し整理するものなるに相違なきも土地の事務及地租の事務は市町村行政に於ては廢すへからさる性質のものに屬するか故に假令國税たる地租徴收のことなしとするも何か之に代るへきものを調製整理するの必要あるへく要するに地租名寄帳は直接には國税たる地租徴收の必要に依り調製整理するものなれとも間接には市町村は地租名寄帳利用の便宜を有するものなりと謂ふへしと答ふ
○委員長(大井卜新君)は次會は公報を以て通知する旨を告け散會を宣告す
于時正午十二時発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002711006X00219110127&spkNum=0
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