1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
明治三十四年三月二十四日(日曜日)
午前十時十一分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第十九號 明治三十四年三月二十四日
午前十時開議
第一 請願委員長報告
第二 永代借地權に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(特別委員長報告)
第三 鐵道敷設法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(特別委員長報告)
第四 事業公債條例中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(特別委員長報告)
第五 所得税法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會の續(特別委員長報告)
第六 郵便貯金利子割増に關する法律案(衆議院提出) 第一讀會の續(特別委員長報告)
第七 開墾地、開拓地、新開地年期繼續に關する法律案(衆議院提出) 第一讀會
第八 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第九 山形縣下郡界變更法律案(衆議院提出) 第一讀會
第十 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第十一 不動産登記法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第十二 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第十三 監視廢止に關する法律案(衆議院提出) 第一讀會
第十四 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第十五 民法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第十六 右議案の審査を付託すへき特別委員の選舉
第十七 憲法上の保障に關する上奏案(子爵谷干城君提出) 會議
第十八 官公立學校生徒鐵道乘車賃金低減の請願 會議
第十九 北海道帝國大學設立の請願 會議
第二十 青森開港の請願 會議
第二十一 北見鐵道線路變更急設の請願 會議
第二十二 千島總督設置の請願 會議
第二十三 協定税率廢止に關する請願 會議
第二十四 試掘鑛區課税に關する請願 會議
第二十五 鑛毒被害救濟の請願 會議
第二十六 國字改良に關する請願 會議
第二十七 染織業奬勵保護に關する請願 會議
第二十八 言文一致の實行に關する請願 會議
第二十九 足尾銅山鑛毒被害救濟の請願 會議
第三十 電信線架設の請願 會議
第三十一 登記所増設の請願 會議
第三十二 生絲檢査所設置に關する請願 會議
第三十三 葉煙草收納方法竝試驗場設置に關する請願 會議
第三十四 葉煙草鑑定に公選の鑑定人を加ふる請願 會議
第三十五 褒賞費増加の請願 會議
第三十六 矢作川改修の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=0
-
001・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 報〓ヲ致シマス
〔小原書記官朗讀〕
昨二十三日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ卽日內閣總理大臣ヲ經
由シテ裁可ヲ奏請シ及可決ノ旨ヲ衆議院ヘ通知セリ
明治三十四年度歲入歳出總豫算案竝明治三十四年度各特別會計歲入歲出
豫算案
明治三十四年度歲入歲出總豫算追加案(第二號)
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(追第二號)
明治三十四年度歲入歲出豫算追加案
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(追加)
明治三十四年度特別會計歲入歲出豫算追加案(特追第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(追第四號)
印紙稅法中改正法律案
北海道會法案
北海道地方費法案
屯田兵及屯田兵村ニ給與シタル土地ノ登錄稅免除ニ關スル法律案
登錄稅法中改正法律案
内務省所管歲出臨時部土木事業費中信濃川河口修築費繰越ニ關スル法律
案
明治三十二年豫備金支出ノ件
明治三十二年度特別會計豫備金支出ノ件
明治三十二年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件
生絲檢査所法中改正法律案
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ衆議院提出案ハ卽日内閣總理大臣ヲ經由シ
テ裁可ヲ奏請シ及可決ノ旨ヲ衆議院ヘ通知シタリ
民法中改正法律案
關稅定率法附屬輸入稅表中改正法律案
葉煙草專賣法中改正法律案
瀆職法案
同日衆議院ノ囘付ニ係ル政府提出畜牛結核病豫防法案ハ同院ノ修正ニ同意
シ卽日內閣總理大臣ヲ經由シテ裁可ヲ奏請シ及同意ノ旨ヲ衆議院ヘ通知セ
リ
同日左ノ衆議院提出案ハ本院ニ於テ否決セル旨ヲ衆議院ヘ通知セリ
府縣制中改正法律案
郡制中改正法律案
市制中改正法律案
町村制中改正法律案
同日本院ニ於テ修正議決シタル衆議院提出狩獵法改正法律案ハ卽日衆議院
ヘ囘付セリ
同日本院ニ於テ可決セル政府提出稅關貨物取扱人法案ハ卽日衆議院ヘ送付
セリ
同日衆議院ヨリ政府提出事業公債條例中改正法律案ヲ受領セリ
同日左ノ衆議院提出案ヲ受領セリ
開墾地開拓地新開地年期繼續ニ關スル法律案
不動產登記法中改正法律案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ハ本院ノ議決ニ同意シ奏上セル旨ノ通牒ヲ
受領セリ
稅關貨物取扱人法案
司法官試補實地修習期間ニ關スル法律案
同日本院ノ囘付ニ係ル衆議院提出狩獵法改正法律案ハ本院ノ修正ニ同意シ
奏上セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
同日政府ヨリ左ノ通牒ヲ受領セリ
貴族院議員伯爵〓棲家〓君外三名提出警察及監獄ノ職務執行ニ關スル質
問ニ對シ別紙司法四務兩大臣答辯書及御囘付候也
明治三十四年三月二十三日内閣總理大臣侯爵伊藤博文
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
貴族院議員伯爵〓棲家〓君外三名提出警察及監獄ノ職務執行ニ關スル質
問ノ件ニ對シ別紙答辯書差進候也
明治三十四年三月二十日
司法大臣男爵金子堅太郞
內務大臣:30%,謙澄
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
貴族院議員伯爵〓棲家〓君外三名ヨリ提出ニ係ル警察及監獄ノ職
務執行ニ關スル質問ニ對スル答辯書
一僞證罪被〓人後藤亮之助ヲ勾留狀執行後三日間警視廳留置場ニ留
置シタルハ事實ナルモ右ハ從來勾留狀執行後被告人ヲ留置場ニ留
置スルノ慣例アルニ依リタルモノニシテ特ニ後藤亮之助ニ對シ異
例ノ取扱ヲ爲シタルニ非ス但此慣例ニ就テハ今後之ヲ廢止スルノ
措置ヲ執ラントス
二警視廳ニ於テ收賄罪被〓人太田直次宛ノ書面ヲ豫審判事又ハ檢事
ノ檢閱ヲ經スシテ同人ニ交付シタルコトナシ但同廳鍛冶橋監獄署
ニ於テ右太田直次ヨリ辯護依賴ノ件ニ付二囘毛布差入ノ件ニ付一
囘通信ヲ爲スニ際シ豫審判事又ハ檢事ノ檢閱ヲ經スシテ之ヲ許可
シタル事實アルモ右ハ犯罪事實ニ關係ナキ發信ニ付テハ從來裁判
所竝ニ檢事局ト協議シ其同意ヲ得テ典獄限リ取扱ヒ來リタル慣例
ニ準據シタルモノニシテ特ニ太田直次ノ爲メニ異例ノ取扱ヲ爲シ
タルニ非ス
三被〓人後藤亮之助ニ關シテ質問第三ノ如キ事實ナシ但警視廳ニ於
テ同廳警部カ右亮之助ノ僞證被〓事件ニ付キ捜査ノ爲メ名ヲ亮之
助ニ面會ニ藉リ同人留守宅ヘ電話ヲ以テ辯護士某ノ出頭ヲ促シタ
ル事實竝ニ東京地方裁判所ニ於テ警視廳巡査ノ不注意ニ因リ亮之
助ノ女某竝ニ辯護士某ト亮之助偶然ニ霎時言語ヲ交ヘタル事實ア
リ之ニ對シテハ右警部及巡査ヲ各懲戒處分若クハ懲罰處分ニ付シ
監督ノ不行屆ニ就テハ目下詮議中ナリ
右及答辯候也
明治三十四年三月二十日
司法大臣男爵金子堅太郞
內務大臣文學博末松謙澄
士男爵
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔參照〕
警察及監獄ノ職務執行ニ關スル質問書
一東京市參事會員稻田政吉等ノ收賄被告事件ニ關スル僞證被告人後藤亮之助ヲ勾留狀執行後
數日間監獄ニ移サス警視廳留置所ニ留置シタルノ事實アリト聞ク政府ハ之レニ對シ如何ナ
ル措置ヲ取ルヤ
二警視廳ニ於テ收賄被告人太田直次ヨリ他人ニ宛テ他人ヨリ太 直次ニ宛タル書面ヲ豫審判
事又ハ檢事ノ檢閱ヲ經スシテ受授セシメタルノ事實アリト聞ク政府ハ之レニ對シ如何ナル
措置ヲ取ルヤ
三警視廳ハ擅ニ其留置所ニ在ル被〓人後藤亮之助ノ依賴ヲ受ケ電話ヲ以テ前後數囘其留守宅
ニ消息ヲ通シ又留置所ニ於テ亮之助ト他人トノ面會ヲ取計ヒタルコトナキカ
右議院法第四十八條ニ依リ提出候也
明治三十四年三月九日
提出者伯爵〓棲家〓男爵有地品之允南〓茂光
石井忠恭
贊成者公爵二條基弘
外百七名
同日議員伯爵吉井幸藏君ヨリ三十一名ノ賛成ヲ以テ樟腦專賣ニ關スル質問
書ヲ提出セラレタリ
〔參照〕
樟腦專賣ニ關スル質問
政府ハ曩ニ帝國ノ特產物タル樟腦ノ供給ヲ調理シ兼テ特別會計ノ財源タラ
シムルノ計〓ヲ以テ臺灣ニ之カ專賣制度ヲ施行セリ其結果トシテ歐米市場
ニ於ケル市價ヲ高メ爾來之ヲ維持スルコトヲ得テ事業漸ク其ノ〓ニ就カン
トスルニ方リ內地ニ於テハ未タ樟林ニ對スル制度ナク之ヲ放任セルカ爲價
格ノ騰貴ニ誘ハレテ濫伐ノ弊ニ陷リ目下ノ勢ヲ以テ進ムトキハ遠カラス數
年來濫伐ノ餘ヲ承ケ僅ニ存スル樟林ヲ全ク荒廢セシムルニ至ルノ恐アリ
加之近來歐米市場ニ於テ臺灣樟腦ト競爭ノ實ヲ呈シ專賣制度施行以來維持
シ來レル價格ヲ下落セシメ漁夫ノ利ヲ占メラレムトスルノ勢アリト聞ク
如斯キハ新領土ニ於ケル專賣制度ノ基礎ヲ危フシ同時ニ帝國ニ於ケル樟林
ヲ絕滅ニ歸セシムル所以ナリ政府ハ如何ナル方針ヲ以テ之ニ處セムトスル
カ
右議院法第四十八條ニ依リ提出候也
明治三十四年三月二十三日
提出者伯爵吉井幸藏賛成者侯爵細川護成
外三十名発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=1
-
002・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ヨリ日程ニ移リマス、請願委員長報告
〔石井省一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=2
-
003・石井省一郎
○石井省一郞君 本日ハ請願委員長不參ニ附キマシテ私ヨリ御報道ヲ致シマ
ス、前囘報告後卽チ去二十一日ヨリ本日マデニ受領致シマシタ請願書ノ總數
ハ二百八十通デゴザイマスル中、其大部分ヲ占メタルモノハ眞言宗分派獨立
非認ノ請願デアリマス、前囘報告シマシタ受領請願書中第四百十四號ヨリ第
七百七十八號マデ第八回文書表ヲ以テ議長ニ報告シマシタ、唯今印刷ガマダ
出來マセヌデゴザイマス、委員會ニ於キマシテ採擇スベシト決シタルモノハ
合計五通デゴザイマス、併ナガラ孰モ矢作川改修ノ件デゴザイマシテ、卽チ
昨日特別報告第二號追加ト致シマシテ報告ヲシテアリマス、報〓文中右十八
件トアルノハ右十九件ト訂正致シマスル次第デアリマス、此段ヲ御報告致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=3
-
004・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 永代借地權ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送
付、第一讀會ノ續、特別委員報〓
〔左ノ報告書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
永代借地權ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決ス依テ及報〓候也
明治三十四年三月二十三日
右特別委員長
子爵岡部長職
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔子爵岡部長職君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=4
-
005・岡部長職
○子爵岡部長職君 諸君、昨日委員付託ニ相成リマシタル永代借地權ニ關ス
ル法律案ニ附キマシテ速ニ委員會ヲ開キマシテ、段々外務大臣竝ニ政府委
員ニモ質問ヲ致シマシタノデアリマス、其結果本案ハ衆議院ヨリ送付ニナリ
マシタ通ニ可決スベキモノト決シマシタノデアリマス、此案ハ諸君モ御承知
ノ通極ク狹イ地域ニ適用スル法律デアリマスル、卽チ東京、大阪、横濱、神戶、
長崎、凾館ノ如キ場所ニ於テ舊幕府以來ノ條約ノ結果ニ依ッテ今日ニ於キマ
シテモ尙ホ永代借地ノ形ヲ以テ各國人ニ使用權ヲ許シテアリマスヤウナコト
デアリマス、此極ク狹キ地域ニ對シマシテハ何トカ特別ノ法律ヲ以ヲ取扱ヒ
ヲ爲サ子バナラナイ必要ヲ認メタノデ、政府ハ此度此法律案ヲ提出致シマシ
タ趣デアリマス、今日ニ至リマスマデハ此案ノ第一條ニ在リマス如ク民法施
行法第四十五條ニ規定アリマスル所ヲ以テソレニ伴フ勅令モ發布サレテア
リソレヲ以テ必用ニ應ジ來ッテアリマシタノデアリマスルガ、今日ノ場合ニ
於テハ唯〓問題ニナッテ居リマスルガ如キ法律ヲ制定スルコトハ最モ必要ナ
ルコトヲ感ゼラレタ趣デ、其理由ハ段々委員會ニ於キマシテ聽取リマシタル
所ガ至極尤ナルコトヽ考ヘラルヽガ、委員會ニ於キマシテハ此案ハ卽チ衆議
院ノ修正ノ方ガ原案ヨリ宜シイト云フ所デ衆議院ヨリ送付ノ儘可決スベキモ
ノト決シマシタノデアリマス、此內容ニ附キマシテ御質問ノ廉ガゴザイマス
ナラバ外務大臣又ハ政府委員ノ方へ御尋ニナリマスコトヲ希望シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=5
-
006・村田保
○村田保君 本員ハ此法案ノ委員ノ一人デゴザイマスルガ、之ニ贊成ヲ致シ
マシタ者デゴザイマスルガ、此一條ノ中ニ民法中所有權ニ關スル規定ヲ準用
スルト云フコトニ今度ナリマシタ、此事ニ附キマシテハ此主義ヲ此處デ定メ
テ置キマセヌト後日、所有權ト云フコトデゴザイマスルカラシテ解釋上或ハ
ドウ云フ風ニ解釋サレルカ分リマセヌ、或ハ解釋ニ依リマシテ後日餘程不都
合ガ生ジハシナイカト存ジマスカラ、本員ハ此處デ我〓共賛成ヲ致シマシタ
趣意ヲ一應述べタイト考ヘマス、此永代借地權ト申シマスモノハ固ヨリ日本
ノ民法ニハナイコトデゴザイマスカラ、特ニ此外國人ニバカリ與ヘテアリマ
シタ、是ハ今日此法律デ與ヘル譯デナシニ舊幕以來是ハ與ヘ來ッテアリマス
コトデゴザイマスカラ、條約改正ノ時ニモ總テサウ云フ永代借地權ナドヽ云
フモノハ有效ナモノト認メルト云フコトニナッテ居リマスカラシテ永代借地
權ト云フモノハ是ハ變ヘルト云フコトハドウシテモ性質上出來ナイコトデ
アル、ソレニ附キマシテ永代借地權ト云フモノハドウ云フモノデアルカト云
フト、決シテ所有權デハナイ、所有權ト云フモノハ完全ナル權利デ、是ハ政府
ガ所持シテアルモノデアリマス、ソレナレバ是ハ地上權カト云ヘパ地上權デ
モナイ、地上權ト云フモノデゴザイマスルト權利ノ消滅スルコトガゴザイマ
スガ、是レハ權利ノ消滅スベキモノデナイデスカラ地上權ト云フコトモ出
來ナイ一種又特別ナモノデアル、ソレナラ是ハドウ云フ性質ノモノデアルカ
ト云ヘバ、是ハ立派ナル民法上ノ權利デアル民法上ノ權利デアリマスルケレ
ドモ民法ニハ斯ウ云フコトハ揭ゲテナイ、ソレデ政府ガ三十二年ニ勅令ヲ發
シマシテ是ハ地上權、其地上權ノ下ニ永代借地權ト云フ括弧ヲ入レマシテ地
上權ノ方ヘ引附ケテ仕舞ッタ、ソレデ外國人ハ是マデ永代無限ノ借地ト思ッテ
居リマシタモノヲ之ヲ地上權ノ權利ノ消滅スルモノヽ方へ引附ケラレマシタ
ニ依ッテ外國人ハ之ニ不安ノ心ヲ懷イタニ相違ナイ、ソレデ種々苦情ヲ述ベ
ルニ相違ナイ、之ヲ心配スルノハ一理アルコトヽ思ヒマス、ソレデ今囘ハ政
府ガ此法律ヲ發シテ、サウシテ之ヲ所有權ノ方ヘ引附ケテ仕舞フト云フコト
ニナッタ、所ガ是デ民法ノ所有權ヲ準用スルト云フコトニナッテ居ル、所ガ此
準用ト云フコトガ解釋ニ依ッテハ隨分廣クモ解釋スルコトガ出來マスレバ、或
ハ狹クモ解釋スルコトガ出來ルコトデアリマスカラ、之ヲ若シ廣ク解釋セラ
レルコトニナリマスルト多少不都合ガ生ジハシマイカト云フ考ヲ持ッテ居リ
マス、ソレニ此永代借地權ト云フモノハ卽チ借地權ヲ準用シテ居ルダケノコ
トデアリマスカラシテ、卽チ權利ニ附イテ所有權ノ規定ヲ準用スルト云フ意
味ニ略〓解釋シテ居リマスカラ、少モ差支ナイコトヽ思ヒマス、ソレデ政府ハ
此案ニ對シマシテハ勅合ヲ發セラレルニ相違ナイ、勅令ヲ發シマス時分ニハ
ドウゾ此準用ノ字ヲ廣ク解釋シナイヤウニ、卽チ準所有權ト云フヤウナコト
ヲ明ニヤラレヌコトヲ豫メ政府ヘ希望シテ置キマス、ソレダケヲ述ベマシテ
本案ニ贊成シ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=6
-
007・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 本案ヲ二讀會ニ移スベキヤ否ヤノ決ヲ採リマス、
本案ヲ二讀會ニ移スベシトシテ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=7
-
008・中川興長
○男爵中川興長君 直ニ二讀會ヲ開カレンコトヲ
〔「賛成」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=8
-
009・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 御異議ナクバ直ニ二讀會ヲ開キマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=9
-
010・近衞篤麿
○議長(公爵近衛篤麿君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、御異議ナクバ原案ニ
決シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=10
-
011・中川興長
○男爵中川興長君 直ニ第三讀會ヲ開カレンコトヲ希望シマス
〔「賛成」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=11
-
012・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 御異議ナクバ三讀會ヲ開キマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=12
-
013・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 御異議ナクバ原案ニ決シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=13
-
014・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 鐵道敷設法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會ノ續、特別委員長報〓
鐵道敷設法中改正法律案
事業公債條例中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決ス依テ及報告候也
明治三十四年三月二十三日
右特別委員長
子爵曾我祐準
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔子爵曾我祐準君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=14
-
015・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 本案審査委員會ノ報〓ヲ致シマス、本案ハ至テ簡單ナ案
デアリマス、サリナガラ段々內容ヲ審査致シマスト文字ノ簡單ナルガ如ク簡
單ナ案デハナイデアリマス、何分餘日ガアリマセヌニ依ッテ十分ノ審査ハ少
シ出來兼子タカ知リマセヌガ、昨日ナドハ審査ノ程度ニ於テ御議論モゴザイ
マシタカラ豫メ御斷リ申シテ置キマスガ、十分ニハ審査ガ出來ヌデアッタカ
知リマセヌガ、此案ヲ可決スルト云フコトニ附イテ確ニ可決シテ間違ガナイ
ト云フダケノ審査ハ遂ゲマシタ積デアリマス、二十六年鐵道敷設法ノ出タ時
分ニ金六千萬圓ト斯樣ニナッテアリマシタノヲバ今度九千五百萬圓ニ變ヘヤ
ウト斯ウ云フ案デアリマス、何デモナイ唯金ノ數ヲ多クスルト云フノニ過ギ
マセヌ、サリナガラ何故ニ斯樣ニ六千万圓ノヲ九千五百萬圓ニモ增サナクテ
ハナラヌカ、卽チ三千五百万圓ヲ增サナクテハナラヌカト云フノハ、是ハ第十
議會卽チ三十年ニ於キマシテ敦賀富山間ノ鐵道敷設ノ增加竝ニ八王子名古屋
間ノ鐵道敷設ノ增加トシテ兩院ヲ通過シテ居ル金高八百十万圓餘ト云フモノ
ガアリマス、ソレカラ第十三議會、三十二年ニモ亦敦賀富山及篠ノ井鹽尻ノタ
メニ五百十三万圓餘ト云フモノガ增加シテ居ル、ソレカラ第十四議會卽チ三
十三年ニ福島靑森間及海田市吳間、此兩線ノタメニ又二千三百六十八万圓ト
云フモノガ增加シテアリマス、ソレデ奇妙ナ理窟ニ是ガナッテ居ルノデ、鐵
道敷設法デハ六千万圓ト極ッテ居ルノニ、其六千万圓外ニ斯ノ如ク幾千万圓ト
云フモノヲ三度ノ議會ニ於テ、第十、第十三、第十四ノ三會ニ於テ兩院ヲ通
過シテ此金ハ使フト云フコトニナッテ居ル、サリナガラモトノ六千万圓ノ內
ハ色〓ナ線路ニ振附ケテ居リマスニ依ッテ其金ガナクナッタデハナイ、其金ハ
各方々ニ割附ケテアル、今著手シタ所ノアル線ハ先刻申シマシタ〓賀富山八
王子名古屋或ハ篠ノ井鹽尻トカ云フ所ニ不足ヲ生ジテ段々增シテ來テ居ル、
法律ノ改正サレヌ先キニ諸君ハ·····諸君バカリデハナイ兩院ハ通過シテ、斯ウ
云フ金ハ使フト云フコトニナッテ居リマスカ、後ト蒔キニ法律ノ方ハ九千五百
万圓ニ增サナクテハナラヌト斯ウ云フ譯ニナルノデアリマス、大體ハ左樣デ
アリマス、ソレデ詰リ增シタ理由ト云フモノハ設計ノ變更モアリマス、ソレハ
福島米澤間ノ如キハ元ト丁度信州ニ行ク確氷ノヤウニ「アプト」式ヲ用ヰル積
デアッタサウデアリマスガ「アプト」式ノ結果甚ダ宜シクナイタメニ三十五分
カ幾ラカノ傾斜ヲ以テ「アプト」式ニセズニ「トン子ル」ヲ澤山ホカシテヤル、
斯ウ云フコトニナッタタメニ費用ガ澤山イル、ソンナノハ設計ノ變更、ソレカ
ラ其時分トハ物價ガ大變高クナッタ爲ニ意外ニ金ガイル、是ガ一ツノ原因デ
アル、抑〓元ト敷設法ノ六千万圓ト極メタノハ一モ計算上カラ起ッタコトデナ
〃唯好イ加減ニ無暗ニ紙ノ上ニ鐵道線路ヲ引張ッテ第一期線トシテ書イテ
六千万圓デ行クト云フヤウナ漠然タルコトデ、其時分貴族院ニ於テ非常ニ議
論ノアッタコトモ諸君ハ御承知ノコトデアラウト思ヒマス、果セルカナ六千
万圓デハナカ〓〓出來ヌ、無論第一期線ダケノ話デアルガ······出來ヌ證據ハ
今度斯ノ如ク增シテ九千五百万圓ニモ法律ヲ改メナクテハナラヌト云フコト
ニナッタノデアリマス、然ラバ九千五百万圓デ此前豫定ノ一期線ダケノモノ
ガ出來ルカト云フト、ソレデモ出來ヌサウデアリマス、是ハ餘事ナガラ調査
ノ結果トシテ御話申スノデアリマス、尙ホ不足シマス、ソレハ鹿兒島線ノ如
キ、中央線卽チ八王子名古屋間ノ如キ、陰陽聯絡線ノ如キ尙ホ不足スベキモ
ノガアル、詰リ政府ノ敷設スル鐵道ハ皆難所バカリデ、宜イ所ハ私設ノ鐵道
ニ取ラレテ仕舞ッテ、魚デ云フト肉ハ皆私設鐵道ニ食ハレテ骨バカリデアル、
ソレデ非常ニ高イモノニナル、當局者ニ聞クト尙ホ五千万圓モイルダラウ
ト云フコトテアル、サウスルト之ヲ成功スルニハ一億五千万圓モ掛ル、而シ
テ其哩數ハ幾ラニナルカト云フト、僅ニ一千哩バカリデアリマス、サウスルト
一哩十五万圓位ノ高イモノニ付ク、是ハ今日茲ニ提出ニナッテ居ル案卽チ九千
五百万圓デ此鐵道千哩バカリノモノガ出來上ル氣遣ハナイト云フコトハ、調
査ノ結果分リマシタ、尙ホイツカ又增加ガ出ルデアリマセウカラ、此段ヲ御報
告致シマス、大體右ノ如キ都合デ委員會ニ於テハ可決スベキモノト決シマシ
タ、ドウゾ諸君御贊成ヲ願ヒマス、幸ニ御議論ガゴザイマセ子バ讀會省略ヲ
以テ決セラレムコトヲ希望致シマス
〔「讀會省略ニ贊成」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=15
-
016・村田保
○村田保君 本員ハ少シ伺ヒタイ、鐵道敷設法ニ於キマシテ六千萬圓ヲ順次
公債ヲ以テ募集スルト云フコトガアリマス、此六千萬圓ハ旣ニ募集シ終ッタノ
デアリマスカ、ソレヲ一ツ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=16
-
017・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 ソレハ政府委員ノ方ガ私ヨリ委シウゴザイマスカラ、能
ク御聞キニナルニハ政府委員ノ方ガ宜シウゴサイマスガ、調査會デ聞キマシタ
所デハ六千萬圓ハ此年度ニ於テ二千萬圓バカリ募ルサウデアリマス、今マデ
ハマダ募リ終ッテハ居ラヌ、此年度ニハ六千萬圓ヲ超スト云フコトデアリマス
〔村田保君「サウシマストマダ殘ッテ居ルノデス子」ト述フ〕
此法律ガ通レバ尙ホ是ヨリ多ク募ルコトガ出來ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=17
-
018・村田保
○村田保君 第十、第十三、第十四ノ帝國議會ニ於テ三千四百八十餘萬圓ト
云フモノヲ增加シタ、其金ヲ今度公債デ募ルト云フノデアリマスカ、其募ヲ
タノヲバ其方ヲ補塡スルト云フノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=18
-
019・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 ソレハ私ニハ分リマセヌ、ドウモ調査ガソコマデハ行キ
マセヌ實ハ委員會デ昨日直グニヤルカラト云フノデ、モウコヽラデ宜カラ
ウト云フコトデ決シタノデアリマス、ソレハ初ニ御斷シテ置イタ通ノ譯デア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=19
-
020・村田保
○村田保君 此間旣ニ政府委員カラ公債ノ困難云々ト云フコトハ縷々コヽデ
言ハレマシタガ、本員ノ考ヘテ居ル所デハ全國デハ公債ガ殆ド五億カラ募集
シテアリマスカラ、モウ國庫ヲ始メ、各銀行、或ハ學校、病院マデ公債デ埋ッ
テ居ルト云フ有樣デアル、ソレデモ尙ホ募レル御見込デアリマスカ、委員會
デ其御調ガナケレバ政府委員デモ宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=20
-
021・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 政府委員デナケレバソレハ分リマセヌガ、此事業公債、
鐵道公債、北海道鐵道公債ノタメニ募ルベキ金ガ一億八十一萬圓アルト云フ
コトハ此案ノタメデハナイ追加案ノタメニ調査致シマシタコトガアリマ
ス、ソレダケヲ申シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=21
-
022・尾崎三良
○男爵尾崎三良君 チヨットモウ一言委員長ニ質問致シタウゴザイマス、今
ノ御說明ヲ伺ヒマスト、此上マダ五千萬圓位ハ足ラナイ、ソレデ出來上ルノ
ハドノ位カト云ヘバ千哩バカリデアル、依ッテ一哩ノ費用ガ十五萬圓バカリ
掛ル見込デアルト云フ御話デアリマシタガ、ソレハ公債證書ノ高デアリマス
カ、若クハ實額ノ割合ノ高デアリマスカ、ソコヲ御尋申ス所以ト云フモノ
ハ、今日ハ公債ハ旣ニ二三日前ニ發行ニナリマシタ公債ハ八十八圓デアリマ
ス、呼ビ價ハ百圓デアリマスケレドモ、其實價ハ八十八圓デアリマスカラ、
一億五千萬圓ノ公債ナラバ其割合デシマスルト、僅ニ一億三千何百萬圓ト云
フモノヨリ得ラレナイ、シテ見ルト今ノ一哩十五萬圓ト云フモノガ、十三
萬何百圓ト云フモノニナルノカ、又其實額十五萬圓ノ割合デ公債證書ニシマ
スレバ一億七千何百萬圓ト云フモノニナルノデアルカ其邊ヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=22
-
023・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 ソレハ調査ハ致シマセヌガ、サリナガラ公債額デハナイ、
實價ダラウト思ヒマス、ナゼト云フニ公債ガ五十圓ニナッタカラ其鐵道ト云フ
モノハ廉イモノニナル、若モ公債ガ十圓ニナッタ、五圓ニナッタ、三圓ニナッタ、
ト云ヘバ、非常ニ廉イモノニナルカラ······ソレハ迚モソンナコトハアルマイ
ト道理ノ上デ信ジマス、是ハ必ズ金ヲヤラナケレバ······紙デハ鐵道ハ出來マ
スマイカラ、公債デハナイ、實額デアラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=23
-
024・村田保
○村田保君 私ガ唯今申シタコトヲ政府委員ヨリ御說明ヲ願ヒマス
〔政府委員松尾臣善君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=24
-
025・松尾臣善
○政府委員(松尾善臣君) 唯今村田サンノ御尋ハ少シ聽漏シマシタガ、公債
ヲ募リ得ルカト云フ······発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=25
-
026・村田保
○村田保君 鐵道敷設法ニ依リマスト、六千万圓ヲバ十二箇年ニ漸次公債ヲ
募集スルト云フコトニナル、其公債ト云フモノハ、此敷設法ノ六千万圓ト云
フモノハ皆募ッテ仕舞ッタカト云フコトヲ第一ニ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=26
-
027・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 六千万圓中デ今日マデニ募ッテ居リマスノガ、三千
五百四十八万五千百圓募ッテ居ル、ソレカラ三十三年度ニ募ラヌケレバナラ
ヌモノガ千九百八十五萬圓、ソレカラ三十四年度デ募ラヌケレバナラヌモノ
ガ千三百九十五萬圓、三十四年度ノ經畫ニナッテ居リマスモノマデ總テ募ル
トシマスレバ六千二百二十八萬八千圓トナリマス、ソレデ二百二十八萬圓ト
云フモノガ法律ノ面ヨリ超ス譯ニナリマス、故ニ此際旣ニ極ッテ居リマスモ
ノヨリ三千五百萬圓バカリノモノヲ法律ニ加算シテ九千五百萬圓ト云フ高ニ
直シテ戴キタイト云フ要求デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=27
-
028・村田保
○村田保君 分リマシタ、ソレカラ其何ハドウ云フモノデアリマスカ、唯今
委員長ニ尋子マシタ此十三、十四ノ帝國議會ニ豫算ヲ三千幾百萬圓增加シタ
其金ハ公債ヲ以テ補塡スルト云フノデアルト云フ、ソレハドウ云フ譯デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=28
-
029・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 公債ヲ以テ補塡スルト云フノハ少シ分リマセヌ
ガ、詰リ〓シテ申シマスレバ、六千萬圓デ經畫シテゴザイマシタ事業デゴザイ
マス子、ソレヲ十四議會マデニ尙ホ三千四百九十萬圓餘リノモノヲ增加セラ
レタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=29
-
030・村田保
○村田保君 ソレハ補塡ト云フ譯デハ無イノデスナ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=30
-
031・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 補塡デハゴザイマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=31
-
032・村田保
○村田保君 ソレカラ年限ヲ取ラレマシタノハ、是ハドウ云フ趣意ヲ以テ取
ラレマシタカ、モット早ク造ラウト云フ趣意デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=32
-
033・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 現在ノ所ノ法律デ見マスルト、二十六年カラ三十
七年マデ十二年ニナリマス、所ガ確カ十四議會ノ時デアッタト存ジマスガ、其
年割額ガ實際三十八年マデニナッテ居ッテ、旣ニ今日豫算デ決定セラレタ年度
ト法律ニ定メテアリマス所ノ年度トハ相伴ッテ居リマセヌ、ソレデ之ヲ十三
箇年トシマスレバ、現在ノ豫算デ協贊ヲ受ケマシタ年度ト相均シクナルノデ
アリマスケレドモ、此事業費ハ繼續費デアリマスカラ、協賛ヲ與ヘラレタ時
ニ年度ガ極ッテ居リマスカラ、此法律ニ於テ年度ヲ存シテ置キマスル必要ガ
ナイト存ジマシテ、之ヲ削除スルコトニ致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=33
-
034・村田保
○村田保君 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=34
-
035・尾崎三良
○男爵尾崎三良君 チヨット政府委員ニ唯今委員長ニ質問シタ御說明ヲ願ヒ
タイノデアリマスガ、此現在ノ案ニナッテ居リマス、九千五百萬圓ト云フモ
ノハ公債ノ呼ビ高デアッテ實價デハナイノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=35
-
036・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 左樣デゴザイス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=36
-
037・尾崎三良
○男爵尾崎三良君 サウスルト實際ハ是ヨリ減ル譯デスナ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=37
-
038・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 若シ公債ガ百圓以內デ募ルコトニナリマスレバ、
九千五百萬圓以内ノ現金ヨリ得ルコトハ出來ナイ譯ニナリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=38
-
039・田中源太郎
○田中源太郞君 政府委員ニ御尋子致シマスガ、前刻委員長ヨリノ報告ニ依
リマスト、此改正案ハ既ニ豫算デ議決シテ居ルモノト、此法律トノ喰違セニ
ナッテ居ルカラ、ソレダケヲ改正スルノデアル、而シテ是デ第一期線ガ殘ラズ
出來上ルカドウカト云フト、出來ヌノデアル、協贊ヲ得タモノダケノ改正ニ
止ッテ居ル、サウシテ見マスルト中央線ニアレ、陰陽連絡線ニアレ、鹿兒島線ニ
アレ、此公債デ、全體ガ出來上ルモノデナイト云フ委員長ノ御報告デアリマ
シタガ、ソレラノコトガ極ッテ居ルノナラ、既ニ豫算經畫ハスッカリ立ッテ居
ルモノト思ヒマスガ、ナゼ是ハ御一〓ニ御出シニナラヌデアリマスカ、其邊
ヲ一應伺ヒマス
〔政府委員平井晴二郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=39
-
040・平井晴二郎
○政府委員(平井晴二郞君) 唯今ノ田中君ノ御問ニ御答イタシマスガ、鹿兒
島線、中央線、竝ニ陰陽連絡線ニ對スル豫算ノ不足額ハマダ十分ノ調査ヲ遂ゲ
マセヌノデ、今期ノ議會ニハ此不足額ヲ合セテ要求スルコトガ出來ナカッタノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=40
-
041・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ガ出テ十名以上ノ賛成ガアッタト
認メマス、之ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=41
-
042・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 三分ノ二以上ト認メマス、讀會ハ省略ニナリマシ
タ······御異議ガナクバ本案可決ト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=42
-
043・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 事業公債條例中改正法律案、政府提出、衆議院送
付第一讀會ノ續、特別委員長報告
〔子爵曾我祐準君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=43
-
044・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 本案委員會ノ結果ヲ御報道致シマス、本案モ至ッテ簡單
ノ案デゴザイマス、事業公債條例中ノ第一條ニ「一億三千五百萬圓」トアル
ノヲバ「一億五千萬圓」ニ改メタイト斯ウ云フ案デゴザイマス、其理由ハ三
十一年ニ製鐵所ノタメニ六百四十七萬幾ラト云フモノ、ソレカラ三十二年ニ
同ジク製鐵所ノタメニ八百六十三萬幾ラト云フモノ合セテ一千五百十萬六千
九百一圓ト云フモノハ、其方ニ使フコトニナッテ居リマスニ依ッテ事業費ニ足
ラヌ、事業公債デ使フベキ金ガ足ラナイ、斯ウ云フコトニナリマシタニ依ツ
テ是モ事業公債條例中ノ金高ヲ增スノ已ムヲ得スト云フコトニナッタト云フ
ダケデアリマス、至ッテ簡單ナ案デアリマス、委員會ニ於テハ無論可決スベキ
モノト認メマシタ、是モ御異議ガ無ケレバ讀會省略ヲ請求致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=44
-
045・小笠原壽長
○子爵小笠原壽長君 贊成
〔「賛成」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=45
-
046・村田保
○村田保君 本員ハ之ニ附キマシテ政府委員ニ御尋致シタイノハ、此一億三
千五百萬圓ト云フモノハ今日現在ハドノクラヰ募ッテゴザイマスカ、ソレヲ
御尋子シタイ
〔政府委員松尾臣善君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=46
-
047・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 御答イタシマスルガ、一億三千五百萬圓ノ中デ昨
年ノ十二月マデニ募リマシタ高ガ一億二千二百六十八萬千三百圓、是ダケガ
既ニ募ッテアルノデアリマス、ソレデ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=47
-
048・村田保
○村田保君 サウ致シマスルト此千五百萬圓ト云フモノハ、イツ頃カラ募ラ
レマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=48
-
049・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) ソレハ三十四年ニハモウ幾分カ其中ヲ募ラナケレ
バナリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=49
-
050・村田保
○村田保君 所ガ政府委員ハ先日明カニ此所デ公債ト云フモノハ賣ルコトモ
出來ヌ、賣レヌト云フヤウナ何デシタガ、ソレデモ矢張リ募ルト云フ御見込
ガアルノデゴザイマセウカ、先程モチヨット何シマシタガ、中央政府······地方
マデモ公債ヲ募ッテ一億カラノ公債ラ募リ、續々公債公債ト云フコトニナッタ
ラ全國公債デ埋ッテ仕舞ヒハシナイカト云フヤウニ公債ヲ募ラレルガ、消却ノ
方ハ少シモ付カヌト言ッタラ仕方ガナイト思ヒマスガ、其邊ハドウ致サレル
積デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=50
-
051・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 此場合極ッテ居リマス、旣ニ兩院ノ協賛ヲ受ケテ
決シテ居リマス員數デアリマス
〔村田保君「ソレハ知ッテ居リマス」ト呼フ〕
ソレヲ法律ト既ニ改メラレタ豫算ノ協贊ト均シクシヤウト云フコトノ改正ヲ
此所デ提出致シマシタノデアリマス
〔村田保君「ソレハ一億三千五百萬圓ハ與ヘテアリマスガ、一千五百
萬圓ハ與ヘテナイ」ト述フ〕
サウデハゴザイマセヌ、ソレハ法律ノ上ニハ一千五百萬圓ハ書イテゴザイマ
セヌガ、豫算デ既ニ協賛ヲ得テ居ルノデアリマス、旣ニ協賛ヲ得テ居リマスカ
ラ、更ニ增スノデハアリマセヌ、法律ノ文面デハ法律一片デハ千五百萬圓ヲ
增スト云フヤウニ見エマスガ、千五百萬圓ノ協賛ハ既ニ前ノ議會ニ協賛ヲ得
テ居ル高ナノデアリマス、公債ヲ募リマスル經畫ガ增スト云フノデハナイノ
デアリマス、ソレハ先刻委員長カラモ御報告ニナリマシタガ、三十一年卽チ
十二議會ニ於キマシテ六百四十七萬圓ト云フモノヲ製鐵所ノ創立費ニ加ヘラ
レテ居リマス、ソレハ此事業公債ヲ募ッテ增募ヲシテ此費用ニ充ツルト云フ
コトニナッテ居リマス、ソレカラ三十二年十三議會ニ於キマシテ、八百六十三
萬圓餘ト云フモノヲ製鐵所ノ創立費ニ增加セラレテ、ソレハ卽チ事業公債ヲ
募ッテ充ツルト云フコトヲ豫算ノ上ニ於テ決定セラレテ居ル、然ルニ此事業
公債條例ノ方ニ於キマシテ其額ガ未ダ增加ニナッテ居リマセヌ、ソレダケヲ此
法律ノ上ニ加ヘテ一億五千萬圓トシテ事業公債條例ノ方ト相伴フヤウニシテ
戴キタイト云フノガ趣意デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=51
-
052・村田保
○村田保君 是マデハ仕方ハゴザイマセヌガ、公債ノ處分ヲ付ケテ欲シイト
思ヒマス、又本年募ルト云フト又本年ナドハ餘程安クナケレバ募レナイト云
フコトヲ心配シテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=52
-
053・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省畧ノ動議ニ十名以上ノ贊成ガアリマシタ、
之ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=53
-
054・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 三分ノ二以上ト認メマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=54
-
055・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 本案御異議ガ無クハ原案ニ決シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=55
-
056・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 所得稅法中改正法律案、衆議院提出、第一讀會ノ
續特別委員長報告
所得稅法中改正法律案
右別册ノ通リ修正セリ依テ及報〓候也
明治三十四年三月二十四日
右特別委員長
男爵有地品之允
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔特別委員ノ修正ナキ箇條ハ揭載セス〕
第四條第一項第三號中「割賦賞與金」ヲ削リ「田畑ヨリノ所得」ヲ「山林ノ所
得ハ前年所得ニ依ル田畑ノ所得」ニ改ム
第五條第七號「配當金」ノ下ニ「及割賦賞與金」ヲ加フ
第三十七條ニ左ノ一項ヲ追加ス
第三十一條ノ規定ハ之ヲ審査委員會ノ決議ニ準用ス
〔男爵有地品之允君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=56
-
057・有地品之允
○男爵有地品之允君 委員會ノ結果ヲ御報道致シマス、此案ハ衆議院ノ提出
案デアリマシテ昨日兩囘ノ委員會ヲ開キマシタ、諸君ノ御手許ニ囘ッテ居リ
マスル通リニ尙ホ修正ヲ加ヘルコトニ決議致シタノデアリマス、衆議院案ノ
「第四條第一項第一號中」云々ト云フコトヲ削リマシタノハ、此儘ニ存シテ置
キマスルト、會社ノ中ナドデ割賦スル賞與金マデ稅ヲ課スルト云フコトニ至
リマスカラ、是ハ不條理デアルト云フコトヲ以テ削リマシタ、サウシマシテ
其次ノ第四條ノ第一項第三號中「割賦賞與金」ト云フ文字ヲ削リマシタ、ソレ
ハ前ノ賞與金ヲ削リマシタ結果、コチラノ方モ削ラナケレバナラヌト云フコ
トニナッタノデゴザイマス、ソレ故ニ第五條ノ第七號ニ「配當金」ト云フ下ニ
「及割賦賞與金」ト云フ文字ヲ加ヘマシテ、此一個人ニ於ケル所ノ配當金ノ課
稅ヲシナイト云フコトニシマシタノデアリマス、ソレカラ尙ホ三十七條ニ一
項ヲ加ヘマシタノハ、調査會ニ於キマシテモ之ヲ揭載スル方ガ必要ト認メタ
譯デ一項ヲ加ヘタ譯デアリマス、是ハ政府ニ於キマシテモ同意スルト云フコ
トニ承リマシタ、ドウゾ是レモ御異議ガゴザイマセヌケレバ讀會省略デ可決
アラムコトヲ希望シマス、尙ホ數字等ニ於キマシテ御質問ガアリマスレバ委
シイコトハ政府委員ニ御質問アラムコトヲ願ヒマス
〔政府委員若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=57
-
058・若槻禮次郎
○政府委員(若槻禮次郞君) 此所得稅法中ノ改正デゴザイマスガ、衆議院カ
ラ提出ニナリマシタ案ハ其大體ニ於テハ現行法ノ不備ヲ補フト云フ案デゴザ
イマシテ、同意致シテ置キマシタガ、此四條ノ第一項第一號中ノ改正ト云フコ
トニ衆議院ニ於テモ同意致シ兼ヌルト云フコトヲ申シテ置キマシタ、ソレハ
ドウ云フ譯デアルカト云フト衆議院ノ案ハ會社ニ所得稅ヲ掛ケマス場合ニ於
テ其賞與金ニ充テルトシテアル、利益ノ部分ニ對シテハ所得稅ヲ掛ケマイト
云フ案デゴザイマス、併ナガラ既ニ利益ノ中カラ賞與金ヲ分ケテヤルト云フ
コトデゴザイマスレバ賞與ニ充ツル金ト雖モ矢張リ稅金ノ一部デゴザイマス
カラ、之ニ課稅ヲシナイ理由ハナイト云フ、斯ウ云フコトデ反對シテ居リマシ
タ、所ガ本院ノ特別委員會ニ於テハ矢張政府ノ見マスル所ト同樣ナ御意見デ
ゴザイマシテ、ソレハ矢張控除スベキモノデナイ、併ナガラ旣ニ會社ダケニ
於テ所得稅ヲカケテ賞與金カラ割賦賞與金トシテ受ケルノデアリマスカラ、
一個人ニ向ッテハ取ラヌ方ガ宜イト云フ、斯ウ云フ御論ガ出マシテ、左樣ナリ
マスコトハ今日旣ニ配當金ニ附イテハ課稅ヲ致シテ居リマセヌカラ、或ハ相
當デアルカモ知レヌト考ヘマシテ、其御修正ハ至極宜シカラウト云フノデ御
同意申シテ居ルノデゴザイマス、卽チ本院ノ特別委員會ノ御修正ノ如クニナ
レバ最モ今日ニ適シタ御修正デアラウト考ヘマス、尙ホ特別委員會ニ於キマ
シテ三十七條ニ一項ヲ加ヘラレマシタコトハ最モ今日ノ必要ニ應ズル御改正
ト考ヘマスノデ、其事ハ殊ニ特別委員會ノ修正ニ向ッテハ同意ヲ表シテ居ル
次第デアリマス、其次第ト申上ゲマスノハ今日審査委員會ト云フモノガ諸方
ニゴザイマス、所ガ此審査委員會ハ法律上ノ解釋ヲ異ニシテ居リマスノデ、
全國各地ニ於テ法律ノ解釋ガ違ッテ適用サレテ居ルト云フコトガ起ッテ居リマ
ス、ソレハ丁度此改正ニ據ッテ不當デアレバ再議ニ付スルシ、尙ホ不當デアレ
バ政府ノ見ル所ノ解釋ニ依ルト云フコトデ、全國ノ解釋ヲ一定シヤウト云フ
コトデゴザイマシタ、而シテ尙ホソレニ對シテ行政上ノ訴願ナリ訴訟ナリ起
スコトガ出來マスノデ、斯樣ニ改正ノ出來マスノハ最モ適當デアラウト考ヘ
マシテ、本院ノ特別委員會ノ修正ノ通リ可決アランコトヲ希望致シマス
〔「讀會省略ニ贊成」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=58
-
059・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ニハ段々賛成ガアリマス、ソレニ同意ノ
諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=59
-
060・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 三分ノ二以上ト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=60
-
061・田中源太郎
○田中源太郞君 委員長若クハ委員ノ方ニ御尋ヲシタイ、此衆議院ノ案デハ
賞與金ニ對スル部分ハ會社ノ方デ取ラヌト云フコトニナッテ居ル、此賞與金ニ
對スルコトハ種々行政裁判所ノ判決モアリ、アチラコチラデ解釋モ異ッテ出
テ居ルノデアル、ソレデ此政府ガ私共ハ賞與金ニ對シテ取ルノガ間違ッテ居
ルト見テ居ルノデ、然ルニ此委員會ノ方デハ會社ノ方デ取ッテ、コッチノ方デ
取ラヌ、斯ウ云フコトニナッタヤウニ見受ケラレマス、是ハドウ云フ理由カラ
サウ云フコトニナッタノデゴザイマスカ、ソレヲ伺ヒタイ、ソレカラ此修正ニ
ナリマシタ中ニ前ノ第三號中ニモアリマシタ賞與金ノ上ニ「割賦」ト云フ字ガ
附ケテゴザイマス、割賦賞與金ダケニ取ラヌコトニシテ普通賞與金ニハ取ル
ノデスカ、其御積ハドウ云フ御意見カラ「割賦」ト云フ字ガ加ッタノデゴザイマ
スカ、ソレヲ一應伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=61
-
062・武井守正
○武井守正君 私モ特別委員ノ一人デゴザイマスカラ、私カラ田中君ニ向ツ
テ一應御答ヘヲ致シマス、賞與金ハ田中君ノ御意見デハ衆議院案ノ通リ法人
ノ場合ニハ取ルト云フ說デアリマスガ、抑〓賞與金ナルモノハ定款ニ定メタ、
例ヘバ百分ノ十、若クハ八乃至十五ト云フヤウナ定款デ極メテアッテ、損益勘
定ヲシタ後ニ割出スモノデアリマスカラ、決算ヲシタ後デナクテハ此金ハ出
ナイ、既ニ決算ヲシテ損益收支ノ勘定ヲシタ其純益デアレバ所得稅ヲ掛ケラ
ルヽト云フコトハ是ハ逃レヌ譯デアリマスガ、衆議院ハ其法人ニ向ッテ割賦
ト云フコトハドウシテモ出ヤウノナイ譯デアルカラ、ソレ故ニ是ハ衆議院デ
修正シタ譯デアル、又個人ノ方ニ掛ケルト云フノハ是マデ法人ニカケ、又割
賦セラレタ個人ニ向ッテ卽チ二重ニ取ッテ居ルノハ所得稅ニ於テ是一ツアルノ
デアリマス、ソレ故ニ個人ニ會社ノ方デ取ルト云フコトガ相當デアルト委員
會デハ見マシタ、割賦賞與金ト云フ「割賦」ト云フ字ハ別ニ意味ハナイ、唯
ソレ〓〓分割スルカラ、ソレデ割賦賞與ト云フモノデ、賞與金ノ外ニ割賦賞與
ガ別ニアル積リデハ無イ修正デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=62
-
063・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 委員會ノ修正ニ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=63
-
064・藤村紫朗
○男爵藤村紫朗君 特別委員ニチヨット御尋シマス、武井君カラ割賦賞與金ノ
コトニ附イテ御辯明ガアリマシタ、意味ハナイ唯割ルノデアリマスカラ割賦
賞與金デアルト云フコトデゴザイマシタガ、私ノ見ル所デハ賞與金ニハ二樣
ノモノガアルヤウニ思フノデス、所謂利益金ノ中カラ百分ノ十トカ百分ノ八
トカ分ケルコトガ定款デ定メテアルノト會社或ハ銀行ニ依リマスト利益ノ內
デナク經費ノ內カラ賞與ヲヤルト云フコトモアル、デソレハ區別ノアルノデ
アル、私等ノ見ル所デハ利益金ノ內カラ步合ヲ以テヤルノガ割賦賞與金ト云
フコトニ解シテ居ッタンデスガ、利益デナイ經費ノ內カラソレヲヤルト云フコ
トハ、サウスルト此修正デハドウ云フ意味ニナリマスカ、チヨット御尋致シタ
ウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=64
-
065・有地品之允
○男爵有地品之允君 今割賦賞與金ト云フコトニ附イテ段々御尋ガアリマス
ルガ、是ハ元ノ文字ヲ削ッタノデ今更削ッタニ付テ割賦賞與金ノ講釋ハ要ラヌ
話ダラウト思ヒマス
〔政府委員若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=65
-
066・若槻禮次郎
○政府委員(若槻禮次郞君) 委員會ノ修正案ニ政府ハ同意ヲシテ居リマスル
カラ唯今ノ御尋子ニ對シテ私カラ御答ヘ申上ゲマス、賞與金ノ內ニ經費カラ
拂フモノガアルト仰セニナリマシタガ、經費カラ若シ拂フ賞與金デゴザイマ
スレバ、ソレハ賞與金ト名ヅケテ居ッテモ其實ハ給料若クハ俸給ト云フ性質
ノモノデゴザイマスルノデ、ソレハ全ク給料ノヤウニ心得ルノデアリマス、サ
ウデナクシテ利益カラ割賦賞與ヲ與ヘルト云フ賞與金デナクテ、全ク臨時與
ヘルト云フ賞與デゴザイマスレバ、ソレハ豫メ豫算ノ立タヌモノデゴザイマ
スカラ、所得稅法ニ於テ當然所得稅ヲ課セナイモノデゴザイマス、其事ハ第
五條ニ營利ノ目的ニアラザル所ノ一時ノ所得ト云フモノハ計算セヌト云フコ
トガゴザイマス、其方ニナリマス、サウ云フ賞與金ハ課稅ヲ致シマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=66
-
067・田中源太郎
○田中源太郞君 私ハ簡單デゴザイマスカラ是カラ述ベマス、衆議院ノ送付
案ニ贊成、此賞與金ト云フモノハ政府ガ是マデ課シテ居ルノハ私共ハ間違ッテ
居ルト思フノデ、唯衆議院ノハソレヲ明ニシタ位ノコトニ思フテ居リマス、成
程兩方ニ取ルノハ最モ無理デス、會社デ取ルトシマスルト此委員ノ修正通リ
一方ヲ取ラヌト云フガ、第五條ニ取除ケタノハ尤ト考ヘマス、ソレニ今武井
君ガ述ベラレタ如ク何十分ノ一トカ何分ノ一トカ會社デ取ル、賞與金ト云フ
モノハ交際若クハ賞與トシテ恰モ給料ノ增シト同樣ナモノデ、一時ノ總損金
ニ相違ナイ、總損金ニ搦ンデ居ルノデ、決シテ會社トシテノ利得デハナイノ
デ、ソレデ是カラ所得稅ヲ課スルト云フノハ最モ不當ト思ヒマス、先ヅ個人
ガ賞與金ヲ得テ其賞與金ノ所得稅ヲ取ルト云フノガ是ハ當然ノコトト思ヒマ
ス、ソレデ私ハ衆議院ノ送付案ニ賛成イタシマシテ委員ノ修正ニハ不同意デ
ゴザイマス、其理由ヲ一言述ベテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=67
-
068・武井守正
○武井守正君 田中サンニ一應御尋致シタイデスガ、損益勘定デナクテハ純
益ト云フモノヲ見ルコトハ出來ナイ、然ラバ純益ハ配當案ニ於テ始メテ賞與
ノ額ト云フモノガ表レテ出ナケレバナラヌデスガ、アナタノ御說ニスルトド
ウスレバ分配案ノ外ニ之ヲ見ルコトガ出來ルノデアリマスカ、書キヤウノナ
イ譯ダラウト思フ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=68
-
069・田中源太郎
○田中源太郞君 武井君ニ御答ヘ致シマス、武井君ハ或ル會社ノ利益ノ何分
ノ一ヲ賞與金トスルト云フ定款バッカリ御覽ニナッテ居ルノデ、會社ノ多數ア
ル中ニハサウ云フ分バカリハゴザイマセヌ、賞與金交際費ヲ引去ッタ後利益
トシテ居ルノガ澤山アル、誠ニ此所得稅ガ······斯ノ如キ法律ガ出マシテ其後
大藏省ノ稅ノ課シ方ニ依テ殊更定款ヲ改正シタモノガ澤山アル、ソレカラ今
ノ賞與金ニ課シテ居ラヌ府縣ト課シテ居ル府縣ト區々ニナッテ居ル、ソレデ成
ル程武井君ノ仰セノ如ク賞與金ト云フ目ヲ設ケテ利益ノ何十分ノ一以內トカ
以外トカサウ云フ所得稅ニ其賞與金ハ······今ノ御尋ノ如ク見エマス、是等ヲ
引去ルノハ何ノ計算ノ仕惡イコトデナイノデ、或ハ又純益トスルノモ別段ム
ヅカシイコトハアルマイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=69
-
070・武井守正
○武井守正君 モウ一應御尋子シタイト思ヒマス、賞與金ハ年度內ニ取ル利
益ガ有ッタカ無イカ分ラナイノニ賞與金ヲ引去ルト云フ御積リニ見エマス、定
款ニ揭ゲテアル有無ニ拘ラズ賞與金ト云フモノハ利益デアッテ利益ニ附イテ
其內幾分ヲ其勞ニ報ウルタメニヤルデアラウト思ハレル、其決算ヲシテ見テ
利益ノ多寡ニ依ッテ引去ルコトト本員ハ信ジマスガ、ドウ云フ場合ニ取ルデス
カ、決算ヲシテ見ナイデ純益ヲ見ヌウチニ賞與ノ分ケヤウハナイ譯ト本員ハ
思フ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=70
-
071・田中源太郎
○田中源太郞君 武井君ハ相變ラズ何十分ノ一ト云フ定款ニ拘泥シテ居ラレ
ルヤウデアリマス、賞與金ハ利益金ノ何十分ノ一トシタ定款ノアルノト其定
款ノ無イ所ト自由自在ニ出來ルノデアリマス、殊ニ此何十分ノ一ト定款ニ致
シマシテモ畢竟取締以上卽チ重役、重役ソレ自身ガ取ルノヲ自分デ極メルコ
トハイカヌカラ、アレデ極メテ居ルノデ、重役以外ノ分ハ決シテ利益ニ關ラ
ズ重役ガ使用人ニ對シテ相當ノ利益ノ目的ヲ立テヽサウシテ勝手ニヤリ得
ラレルノデアリマス、其事ハ澤山實行シテ居ル所ガアルノデ、ソレデ此利益
ヲ見ナケレバ賞與金ヲヤラヌト云フコトハナイ、以前各社必ズ澤山取ッテ居ツ
タノデ、利益ノ何十分ノ一ト云フ定款ニ拘泥シテ居ルカラ是ガ見ラレヌト云
フ御見解ニナルノデ、決シテサウデハナイ、利益ヲ目的トシテ決算ヲ目的ト
シナイ會社ガ澤山アル
〔「採決」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=71
-
072・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 委員會ノ修正ニ同意ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=72
-
073・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 過半數ト認メマス、ソレデハ委員會ノ修正ニ決シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=73
-
074・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 郵便貯金利子割增ニ關スル法律案、衆議院提出、第
一讀會ノ續、特別委員長報告、京極子爵
郵便貯金利子割增ニ關スル法律案
右否決スヘキモノナリト議決ス依テ及報告候也
明治三十四年三月二十三日
右特別委員長
子爵京極高典
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔子爵京極高典君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=74
-
075・京極高典
○子爵京極高典君 委員會ノ結果ヲ御報告致シマス、委員會ハ一昨日、昨日
兩度ニ開キマシテ、政府委員當局大臣モ出ラレマシテ、段々質問モ隨分澤山
ゴザイマシタ、然ルニ此案ハ衆議院カラ出マシテ政府ハソレニ同意シタト云
フコト、全ク同意シタ其譯ト云フモノハ、兼テ此案ニ付テハ政府デモ一二年
アトカラ十分ニ考ヘテ居ッラ、旣ニ略、調ノ附イタニ附イテハ旣ニ此議會ニモ
提出シヤウト思フテ居ッタ位デアッタ、然ルニ衆議院カラ出シタニ付テ最早提
出ハシナカッタガ、全ク其趣意ハ當局大臣アタリモ衆議院ノ提出案ト同樣ナ
コトデアルカラ贊成シタ、斯ウ云フ先ヅ政府ノ側ノ說明デアリマシタ、ソレ
カラ尙ホ段々質問等モゴザイマシテ、遂ニ採決ニ付シマシタラ······其時分ニ
兩人不參ガゴザイマシテ、アトハ殘ラズ出席シテ居リマシタガ、採決ニ付シ
マシタ所ガ全會一致ヲ以テ否決ト爲ッタ、此否決ノ理由ト申シマスルモノハ勿
論此案ガ絕對的ニ惡ルイト云フ方ノ考デハナイ、併ナガラ之ヲ唯今直チニ實
施スル場合ニナッタナラバ經濟社會ニ大イナ難澁ヲ起サウト云フ斯ウ云フコ
トガ第一デアル、ソレハドウ云フ譯デ經濟社會ニ影響ヲ及ボスカト云ヘバ、政
府ノ方デ此奬勵金ヲ以テ抽籤ヲシテ當ルト云フコトニナルト、現在アル銀行
殊ニ直接ニ關係スルノ貯蓄銀行ノ如キ何レモ幾分カ其抽籖ニ目ヲ注イテ僥倖
ヲ得ヤウト云フ心持ヲ自然ニ起スニ極ッテ居ル、悉クサウデハナカラウケレド
モ多クハサウ云フ傾ニナラウ、スルト今マデ貯蓄銀行ニ入レテ置イタ者
ガ續々引出シテ仕舞ッテ、皆此郵便貯蓄ノ方ヘ振込ンデ仕舞フト云フ、斯ウ
云フ傾ニナル、サウスレバ單リ此貯蓄銀行ノミナラズ他ノ銀行モ矢張當座
預ト云フ種類ガアル、ソレモ幾分カ引出シテ來テ皆此郵便貯蓄ノ方ニ振込ン
デ仕舞フト云フコトニナル、サウスレバ第一ニハ一番直接ノ關係ヲ起スノハ
貯蓄銀行ノ株主アタリニ於テハ殊ニ困難ヲ感ジマスル、又其他ノ銀行ニ於テ
モ續々引出サレタ日ニハ大ニ困難ヲ生ジテ、詰リ社會ノ經濟上ニモ大ニ及ボ
スコトニモナル、此心配ガ一ツ、ソレカラモウ一ツニハ官業ト民業ト或ハ相
爭フト云フヤウナコトガ出來スルカモ知レナイ、ナゼト云フノニ政府ノ方デ
此今ノ奬勵法ヲ設ケテ抽籤法ニスレバ、今申ス貯蓄銀行其他ノ銀行アタリデ
ハ是ハ、ドウモ容易ニウカ〓〓シテ居レバ皆吸收サレテ仕舞フト云フ考ヲ起
ス、ソレ故ニ又何トカ別ノ方法ヲ設ケテ之ニ對シテ自分ノ方ニ引付ケルヤウ
ナ考ヲ起スカモ知レナイ、然レバサウ云フ場合ニナレバ必ズ官ト民トノ間ニ
戰ヲ起スト云フヤウナ傾ガ出來スルカモ知レナイ、先ヅ大體ノ理由ト云フノ
ハ其邊デアル、併シ段々他ニモ質問ガ色〓アリマシタ、ソレデ先ヅ此事柄ト云
フモノハ容易ニコイツ實施サレナイ、旣ニ承ハル所デハ現在アル所ノ貯蓄銀
行アタリデモドウカ不完全ナ所モアルノデ、ソレヲ保護スルタメニ別段ニ一
ツ方法ヲ設ケルト云フコトモ既ニ委員會デ當局者モ申シテ居リマシタ、サウ
云フコトナレバ尙更ソレハ幸ナコトデアル、其邊ノ十分今日危ク見エルヤウ
ナ貯蓄銀行ノ如キハ十分ノ保護ヲ加ヘルコトガ出來シテ、然ル後ニ此法ガ出、
又今申ス官業民業ノ爭モ起ラヌヤウナ方法ヲシッカリ極メテ置イテ、サウシテ
出シタ曉ニハ隨分是モ一ノ便法デ宜カラウ、就テハ此會期ハ宜シクナイカラ
此邊ノ調ノ就クマデハ、ドウモ是ハ贊成ガ出來ヌ、尙ホ此次ノ會期ニ於テ出
サレテ、此邊ガ屆イタ上ニ出シテモ宜カラウ、斯ウ云フマアコトデ否決ニナ
リマシタ、尙ホ其否決ノコトニ付テ御尋ガゴザイマスレバ、悉クモ本員ハ記
憶ヲ致シテ居リマセヌカラ、委員ノ諸君モ御出デニナッテ居リマスカラ、委員
諸君ヘ御尋下サリマスルヤウニ願ヒマス、此段ヲ御報道致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=75
-
076・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 本案ヲ二讀會ニ移スベキヤ否ヤノ決ヲ採リマス、
本案ヲ二讀會ニ移スベシトスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者無シ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=76
-
077・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 起立者ハアリマセヌ、本案ハ否決ニナリマシタ
〔松本鼎君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=77
-
078・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 松本君ハ何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=78
-
079・松本鼎
○松本鼎君 第七ヨリ第十五マデハ衆議院ノ提出案デゴザイマスカラ一括シ
テ議題ニ供セラレムコトヲ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=79
-
080・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 第七ヨリ第十五マデノ議案ハ是ハ一讀會デ特別委
員ヲ選擧スルマデノコトデアリマスカラ、一括シテ··
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=80
-
081・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 然ラバ·····
開墾地開拓地、新開地年期繼續ニ關スル法律案
右本院提出案及送付候也
明治三十四年三月二十三日衆議院議長片岡健吉
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
開墾著手後九年ヲ經過セサル土地又ハ鍬下年期、新開免租年期若ハ地價据
置年期ヲ有スル土地ニ對シ荒地免租年期又ハ低價年期ヲ許可シタルトキハ
其ノ期間ハ地租條例第十六條第二項ノ十年中ニ又ハ鍬下年期、新開免租年
期若ハ地價据置年期中ニ算入セス
附則
本法ハ開墾著手後九年以內ニ又ハ鍬下年期、新開免租年期若ハ地價据置年
期中ニ荒地免租年期又ハ低價年期ノ許可ヲ受ケ其ノ年期明ニ至リ未タ地價
ノ設定又ハ修正ヲ爲ササルモノニモ之ヲ適用ス
山形縣下郡界變更法律案
右本院提出案及送付候也
明治三十四年三月二十二日衆議院議長片岡健吉
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
山形縣羽前國北村山郡ノ一部(山口村、田麥野村)ヲ同縣同國東村山郡ニ編
入ス
附則
本法ハ明治三十四年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
明治三十四年三月三十一日現在ノ山形縣羽前國北村山郡ノ郡債ハ本法郡換
ノ部分ニ於テ償還費分任ノ義務ヲ負フモノトス
山形縣羽前國北村山郡ハ前項償還費ヲ特別經濟トシ郡制規定ノ郡費分賦方
法ニ依リ本法郡換ノ部分ニ分賦スルコトヲ得
不動產登記法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治三十四年三月二十三日衆議院議長片岡健吉
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
不動產登記法中左ノ通改正ス
不動產登記法第五十九條中「行政區畫又ハ其名稱」ノ下ニ「若ハ戶籍番號」ヲ
加フ
監視廢止ニ關スル法律案
右本院提出案及送付候也
明治三十四年三月二十三日衆議院議長片岡健吉
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
第一條刑法陸軍刑法海軍刑法其ノ他ノ法令中監視ニ關スル規定ハ之ヲ廢
止ス
第二條本法施行以前ニ於テ確定セル判決ノ執行ニ依リ監視ニ付セラルヘ
キ者若ハ監視執行中ノ者ニ對シテハ本法施行ノ日ヨリ其ノ執行ヲ免ス
民法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治三十四年三月二十三日衆議院議長片岡健吉
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
民法中左ノ通改正ス
民法第七百四十三條ニ左ノ一項ヲ加フ
家族カ分家ヲ爲シタル場合ニ於テハ本家ニ在ル其直系卑屬ハ之ニ從ヒテ
其家ニ入ル
〔政府委員目賀田種太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=81
-
082・目賀田種太郎
○政府委員(目賀田種太郞君) 此開墾地云々ノ案デゴザイマスガ、開墾年期
中ニ荒地ニ掛リマシタ時分ニハ前ノ銀下年期ハ消滅スルコトニナッテ、地租條
例施行上甚ダ不使ナコトデアルト云フノデアリマシテ、政府ハ差支ナイモノ
ト認メマシテ、成ルベクハ切迫ノ折柄デアリマスガ此案ノ成立スルコトヲ希
望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=82
-
083・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ハ特別委員ハ議長ニ於テ······
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=83
-
084・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ直グ指名シマス
〔太田書記官長朗讀〕
開墾地、開拓地、新開地年期繼續ニ關スル法律案特別委員
伯爵廣澤金次郞君三好退藏君男爵松平正直君
男爵赤松則良君男爵岩村高俊君村田保君
男爵中川興長君天春文衞君角田林兵衞君
山形縣下郡界變更法律案特別委員
伯爵德川達孝君子爵伏原宣足君子爵前田利鬯君
子爵大宮以季君子爵梅小路定行君男爵鍋島幹君
千阪高雅君森山茂君日向三右衞門君
監視廢止ニ關スル法律案特別委員
子爵松平乘承君子爵久松定弘君子爵本莊壽巨君
男爵岡内重俊君村田保君小原重哉君
男爵小早川四郞君富井政章君米谷半平君
不動產登記法中改正法律案特別委員
子爵平松時厚君子爵藤井行德君子爵唐橋在正君
子爵鍋島直虎君三浦安君名村泰藏君
石井省一郞君都筑馨六君岡田太平治君
民法中改正法律案特別委員
侯爵細川護成君子爵細川興貫君子爵內田正學君
男爵尾崎三良君平山成信君男爵長松幹君
谷森眞男君高木豐三君本間千代吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=84
-
085・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 憲法上ノ保障ニ關スル上奏案、子爵谷干城君提出、
會議
憲法上ノ保障ニ關スル上奏案
右貴族院規則第六十四條ニ依リ提出候也
明治三十四年三月十八日
發議者子爵谷干城賛成者侯爵大炊御門幾麿
外五十名
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
貴族院議長臣某誠恐誠惶謹テ奏ス
明治三十年十月一日時ノ內閣ハ當時ノ臺灣總督府高等法院長臺灣總督府法
院判官ニ對シ內閣ノ名ヲ以テ非職ヲ命シ續テ同年十二月十八日其ノ本官ヲ
免シタリ然ルニ該法院長ハ憲法ノ保障ヲ以テ其ノ職務ニ在ルモノナルカ故
ニ右ノ非職及免官ノ辭令ハ違憲背法ニシテ無效ナリトノ抗議ヲ提出シ其ノ
辭令ヲ返付セリ此ノ事ニ付キ前內閣ハ帝國議會衆議院ノ質問ニ向テ臺灣總
督府法院判官ハ憲法第五十八條第二項ノ保障ヲ得ルモノト認ムト答辯セリ
然ルニ今日ニ至ルモ未タ其ノ解決ヲ見ルニ及ハサルハ臣等ノ甚憾ミトスル
所ナリ伏シテ願クハ
聖明陛下聖鑑ヲ垂レサセ給ヒ今日ノ內閣ヲシテ憲法ノ要義ヲ明カニシ後
日ノ非違ヲ防遏シ以テ憲政ノ完美ヲ成サシメ給ハムコトヲ臣等誠恐誠惶謹
ミ奏ス
〔子爵谷干城君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=85
-
086・谷干城
○子爵谷干城君 諸君、先日本員ガ本院ヘ提出ヲ致シマシタ上奏案ハ、少シ
ク考ヘル所ガゴザイマシテ、修正ヲ致シマシテ再ビ差出シマシテゴザイマス
ルデ、御手許ニ達シテ居ルコトヽ考ヘマスル、デ此再ビ出シマシタ中ニ少シ
ク字ノ宜シウナイ所ガゴザイマスルデ、之ヲ訂正イタシマスカラ御聽キヲ願
ヒマスルデ此初メニゴザイマスル「貴族院議長臣某誠恐誠惶謹テ」ト「テ」ノ
字ガゴザイマスガ「謹ミ」ト「テ」ノ字ガ「ミ」ノ字ニ直リマス、ソレカラシテ先
ヘ參リマシテ「臣等ノ甚憾ミトスル所ナリ」トゴザイマスルノヲ「臣等ノ」此三
字ヲ削リマス、ソレカラ終ヒノ端ノ方ニ行キマシテ「臣等」トゴザイマス、此
「等」ノ字ヲ削リマシテ「臣誠恐誠惶謹ミ奏ス」ト斯ウナリマスデゴザイマス、
ドウゾ左樣御心得ヲ願ヒマス、サテ此問題ハ誠ニ長イ問題デゴザイマシテ、殆
ド五箇年ニ涉ッテ居リマス、最初ノ程ハナカ〓〓ノ人望デゴザイマシテ、舊自
由黨ノ諸君ナドハ殆ド擧ゲテ感ヲ同ジウセラルルヤウナ有樣デゴザイマシ
タ、然ルニ年ヲ經ルニ從ヒマシテカラニ、次第ニ此情ハ薄ラギマシテ、今日五
年ノ星霜ヲ經タ今日ニ至ッテ本員ガ之ヲ提出致シマスルト云フモノハ誠ニ時
候後レノヤウニアリマスルガ、抑〓本員ハ初メ此高野問題ニ附イテハ世上ノ騷
グ人ト聊カ意見ヲ異ニシテ居リマシタ、ソレ故ニ其當時ハ同意ヲ致シマセナ
ンダノデアリマス、其最初同意ヲ致シマセザッタ理由ハ、何分此事タルヤ甚ダ
宣シクナイ仕方、憲法ヲ無視シタ仕方ト云フコトハ最初ヨリ認メテ居ッテ、甚
ダ宜シクナイトハ思ヒマシタ、併ナガラ兎モ角旣ニモウ決行サレタ以上ハ、
隨分西洋ナドニハ「クーデター」トカ何トカ申シテ無理ナ事ヲスルコトモアル
樣子デゴザイマスルカラ、或ハ一部ノ「クーデター」ミタヤウナコトヲセラレ
マシテモ、ドウモ仕方ガナイ、先ヅ泣イテ頭ヲ下ゲルヨリ仕方ガアルマイ、
誠ニ悲シイコトデアル、ケレドモドウモ仕樣ハアルマイト申スノデ、高野ハ
一向昨年會ウタ位デ其高野ノ同志ノ者ノ川上トカ申ス男デアリマシタカト存
ジマスガ、書記カ何カヲシテ居ッタ者ガ來テ頻ニ論ジマシタケレドモ、私ハ其
時分ニハ今ノヤウナ考デアリマシタカラシテハ、其人ナドハ說得シテドウモ
今日頭ヲ擲ラレタ以上ハ、マア泣イテ耐ヘテ居レト云フコトヲ實ハ言ウタノ
デス、今日之ヲ又持出スト其人ナドニ對シテハ甚ダ申譯ノナイコトヽ思ヒマ
ス、然リマスルニ段々其後ニ至リマシテ、卽チ昨年事情ヲ詳ニ致シマシテ、
又憲法ナドノヤウナモノヲ能ク調ベマシテ見マスルト、ドウモ是ハ甚ダ不都
合ナ仕方ト愈〓確信イタシタノデアリマス、デ既ニ如何ニモ不都合ナ事ト確信
ヲシテ、マダ其事ガ今日政府ニ於テモ有耶無耶ニナッテ解決ヲ與ヘラレテ居リ
マセヌ今日ト見マシタトキニハ、ドウシテモ是ハ上奏セ子バナルマイト云フ
考ヲ起シマシタカラ、之ヲ差出シタノデアリマス、固ヨリ私ナドノ意見ニ反
對ノ御方ニハ堂々タル法律家ノ諸君モアリマスル樣子ニ聞エマスルカラ、私
ガ法律論ヲ此所デ申スト云フコトハ甚ダ不似合ナコトデアル、私ハ此事ノ實
ニ其憲法ニ障リ、畏レナガラ御上ノ不明ヲ遺シ奉ルヤウニナリハセヌカト云
フコトノ心配ノ餘リニ申スノデ、ソレ故ニ谷干城ニ於キマシテハ假令此案ガ
潰レマシテモ一個人トシテ他ニ上聽ニ達スル途ヲ圖ル積デアリマス、先ヅ此
反對ノ御方ノ御意見ト云フモノヲ見マスルト、ドウ云フコトガ主ニナッテ居ル
カト云フト、政府ガ衆議院ノ間ニ答ヘテ臺灣總督府法院判官ト云フモノハ憲
法第五十八條第二項ノ保障ヲ得ルモノト認メルト唯辯ジタリト雖モ、サレド
モ是ハ唯憲法上一般ノ解釋ヲ致シタノデアル、決シテ一個ノ臺灣總督府法院
判官タル高野孟矩ニ對シテ當時ノ內閣ガ免官ノ辭令ヲ發シタヲ違憲ナリト認
メタ譯デナイ、斯ウ云フコトガマア第一ノ主ニナッテ居ルヤウニアル、然ル
ニ此所ガ卽チ其謂ハユル有耶無耶デ判然セヌノデアリマス、既ニ臺灣總督府
ノ法院判官ガ憲法第五十八條ノ二項ノ保障ヲ得ベキモノト認メタナラバ、則
チ高野孟矩ノ非職及免官ノ辭令ヲ內閣ヨリ渡シタノハ非法タルコトハ是ハ明
カナ譯デアル、ガソレヲ此答デ政府ト云フモノガ明言シナイト云フモノハ、
明言セラレザル所ガアルカラシテ、斯ノ如キ漠然タル答ヲナシタニ相違ナイ
ト私ハ思ヒマスル、又今ノ反對ノ說ニ大權奉行ノ職責ニ在ル內閣總理大臣其
者ガ、其權限ニ依ッテ奉行シタモノナレバ其發令ト與ニ效果ヲ生ズベキハ當
然デアル、旣ニ效果ヲ生ジタ後トニ於テカラニ無效タラシムルコトハ出來ル
モノデナイト斯ウ云フ論デアリマス、成ル程ソレハ其通ニ相違ナイ、大權奉行
ノ職責ヲ有シテ居ル者ガ其權限內ノコトナラバ出來ル、出來ルガ卽チ其第五
十八條ノ如キハ總理大臣ノ權限內ニ在ルコトデナイ、權限外ノコトデアル、
卽チ取除ニナッテ居ル所デアルカラシテハ是ハ其職權ヲ以テ奉行シタモノト
認ノルコトハ出來ナイデアリマス、若シ是ガ出來ルモノトスレバ詰リ此憲法
五十八條ノ但書ト云フモノハ無效ニ歸シテ仕舞ハ子バナラナイ、デ權力ノ有
ル大臣ガ上ヘ申上ゲテサウシテ御裁可ヲ經テ直ニ行ヒ、サウシテ自分ガ責デ
モ引イテ退イテ仕舞ッタラ後トバドンナ惡イコトデモ直スコトガ出來ナイト
斯ウナル、サウナレバ遂ニ此憲法ノ保障ト云フモノハ何ノ效力モナイモノニ
ナルノデアリマス、デアルカラシテ我〓此或ル人ノ論ニ於テモ感心ヲシナイ、
ソレデ如何ニ權力ガ有リ如何ニドウ云フコトガアッテモ裁判官ト云フモノハ
左樣ナコトハ出來ナイト云フノデ、始テ此上官ニ屈ス所ナクシテカラニ、執
法ノ職ヲ行フコトガ出來ル譯ニナッテ居リマス、ソレカラ又反對ノ人ノ言ハ
ルヽニハ內閣總理大臣ガ職責ヲ以テ上奏裁可ヲ經テ公式ニ依ッテ發シタル辭
令ハ其有效無效ヲ判斷ヲスルノ權力ヲ有スル機關ガナイ、ソレ故ニ今日ニナッ
テ致方ガナイ、斯ウ云フコトモ言フテアリマス、此所ガ卽チ上奏ノ已ムヲ得
ザル所デアリマス、若シ其機關ガ有ルナラバ何ゾ必シモ上奏スルニモ及バヌ、
ケレドモ兎モ角モ總理大臣ノ職責ヲ以テ上奏裁可ヲ請フベカラザルモノヲ請
ウテ、サウシテ裁可ニナッタト云フ譯デアルカラシテハ、ドウシテモ是ハ遺
憾ナガラ御上ヘ訴へ奉ッテカラニ、此黑白ヲ分ケテ戴クヨリ外ニ仕方ハ無イ
ト本員ハ深ク信ズルノデアリマス、又反對ノ人ノ言フニハ陛下ガ一旦御裁
可ニナッタル辭令ヲ非難シ、其辭令ノ取消ヲ請求スルト云フハ誠ニ恐懼ニ堪
ヘヌ譯デアル、決シテ臣民ノ分トシテ斯樣ナコトヲ言フモノデナイ、斯ウ云
フコトヽ見エル、是ハ驚入ッタコトデアル、デ憲法上ノ解釋ニ於キマシテハ
色〓ソレハ見解ノ下シヤウモアリマセウケレドモ、旦御裁可ニナッタモノ
ヲ非難スル、非難スルト云フ譯デハナイ、卽チ哀訴シ奉ルノデアル、陛下
ヲ非難シ奉ルニアラズシテ之ヲ上奏裁可ヲ請ウタ其大臣ヲ非難スルノデア
ル若シ斯ノ如キ理由ヲ以テ、陛下ノ一旦御裁可ニナッタモノハドノヤウナ
コトデモ決シテソレヲ匡正スル道理ハナイ、ドンナコトデモ服從セ子バナラ
ヌト、斯ウ云フコトニナリマスルト、大體此憲法ヲ發セラレタル所ノ詔勅ニ矛
盾スルヤウニナラウト思フ、又憲法全體ニ對シテモ矛盾スルヤウニナラウト
思フ、ソレデ玆ニ至ッテ考ヘマスルニ若シ此違法ノ······私共カラ見ルト違法ノ
命令、違法ノ命令ガ效果ヲ生ズルモノトシマスルトキハ其責ハ裁可ヲ奏請シ
タル所ノ大臣ノ誤デアルカ、又ハ恐ナガラ御裁可遊バサレタ陛下ノ御裁可
ナサレ損ヒト云フ恐多イコトニナルカ、此二ツニ歸スルコトヽ思フ、ガ然ル
ニ大臣ハ天皇ヲ輔佐シ其責ニ任スルト云フ憲法ニ明文ノ在ル以上ハドコ〓〓
マデモ是ハ大臣ガ其責任ヲ負ハネバナラヌ、デ不法ノ命令ヲ上奏裁可ヲ請ウ
タ所ノ大臣ニ其責ノアルハ明ナコトデアル、又此今問題ニナッテ居リマスル
所ハ、一ハ憲法ノ保障、憲法ヲ蹂躪シタト云フ問題ト、一ハ又人民ノ權利ヲ
蹂躪シタト云フノ問題ト二ツニナル、憲法ヲ蹂躪シタト云フ方ハドウ云フコ
トカト云フト、今申シタル通リ、五十八條ノ第二項ヲ無視シテ、法律ニ依ラズ
シテカラニ裁判官ヲ非職又ハ免黜シテ今日ノ有樣ニ致シタノデアル、叉ハ
恩給其他人民ノ大切ナ權利ニ關スルコトヲ科モナイ者ニ其命令ガ不法デアル
ト云フテ抗拒シタガタメニ總テ之ヲ剝奪シテ仕舞ッタト云フ譯デアル、ドウモ
是ハ實ニ暴極マル話デ、又愈〓此高野孟矩ナル者ガ非職ヲ命ゼンナラヌト云フ
罪ガ有ルナラバナゼ其時ニ非職ト共ニ給ヲ上ゲタ、職、給料ヲ上ゲテサウシテ
非職ニナッタ、是ハ恩惠的ニサウ云フコトハ往々アル樣子デアリマスガ、罪ノ
有ル不都合ナ者ニサウ云フコトノ有ラウ道理ハナイ、サウ云フコトマデシテ
アルサウシテカラニ一方デハ今言フ通罪ノ無イ者ノ官ヲ奪ヒ多年勤メタ者
ニ恩給モ何モヤラヌト云フ酷イコトヽ爲ッテ居リマス、我陛下ハ至仁至聖誠
ニ有難イ陛下ニ渡ラセラルヽ御事デアリマス、斯ノ如キ殘酷、ムゴイコトヲ
遊バサルル道理ハ決シテナイ、又斯ノ如キ背理ノコトヲ御裁可アラセラルベ
キ道理ハ決シテナイ、是ハ中間ニ於テ如何ナ上奏裁可ヲ請フタモノガ、上奏
シタ人ノ其上奏ノ仕樣ガ甚ダ怪シイト本員ナドハ思フノデアル、古ヨリ聖明
ナル天子ハ一ノ不義モ行ハナイ一ノ不辜ヲ殺スコトモシナイ、是ガ若モ斯ノ
如キコトガ、是ハ濟マナイト云フコトガ申上ゲテ御氣ガ付カセラレタナラバ
是ハ可哀サウナコトデアル、ドウカシテヤラウト云フ御思召ノ發セラルヽ
我〓信ジテ疑ハナイ、人窮スレバ天ニ賴ル、斯ノ如キ苦痛ヲ受ケ斯ノ如キ不
法ノコトヲ實行サレテ、マダ今後モ繼續シテ、ドウ云フコトニナラウヤラ知
レヌト云フ恐ルベキ事柄ヲ上奏スルニ於テ何ノ不可カアル、定メテ是ハ能ク
氣ヲ付ケテ吳レタト思召スニ相違ナイト私ナドハ臣子ノ分トシテ深ク信ズル
ノデアル、唯上ヘ申上ゲルハ畏多イ畏多イト言ッテ、斯ノ如キコトヲ申上ゲマ
スレバ、終ニ其忠臣ト云フモノハドウ云フ人ガ忠臣ニナルカト言ヘバモウ
甲州デ言ヘバ長坂長閑トカ跡部勝資トカ云フヤウナ者ガ却ッテ忠臣ニナル、又
元弘ノ時分デハドウ云フ者ガ忠臣カト言ヘハ、詰リ參議〓忠ト云フヤウナ者
ガ忠臣デ御爭ヒ申上ゲル所ノ藤房ナドハ不忠ト爲ル、ソレデ古ヨリ大忠ト小
忠トノ別ガアル、上ノ御過チヲ救ヒ奉ルノハ卽チ大忠デアル、ソレヲ蔽ヒ奉
ルノハ卽チ小忠デアル、決シテ不忠トハ言ハナイ、我〓ハデ斯ノ如キ
私ハ精神ヲ以テ、大ニ是ハ議場ノ諸君能ク御考ニナッテ、永ク陛下ノ御失德
ニ相成ラヌヤウニ此恢復ヲ願ヒ奉ルコトハ至當ノコトヽ私ハ考ヘル、デ之ヲ
此儘ニ抛棄シテ置クトキニハ永ク陛下ノ御過チ、御裁可ノ御過チヲ後世ノ
歷史ニ留メルト云フコトニナル、或ハ曰ク綸言汗ノ如シ、一旦御裁可ニナッ
タコトハ取消スコトハ出來ヌ、或ハ曲學ノ徒ハ唯ダ定見ヲ重ンゼンタメニ種
種曲解ヲ下シテカラニ之ヲ防禦スル人ガアルカモ知レナイガ、干城ニ於テハ
決シテ左樣ナ論ニハ同意ガ出來ナイ、デ殊ニ玆ニ一箇條高野孟矩ガ裁判官其
他政府ヘ出シタ其紙面ニハ臺灣法院長ノ高野某ト云フモノデ官名ヲ出シテ居
ル、ソレヲ裁判官モ取消モセズ、向フカラモ返スニモ矢張其法院長何〓ヲ認
メテ書イテ寄越シテ居ル、サウスレバ裁判官モ此法院長云々ト云フコトガ決
シテ消エテ居ラヌモノト見テ居ルト認メニヤナラヌ、若シ是ガ消エテ居ラヌ
モノト認メタトキニハ官ノ名稱ヲ濫用シタコトニナルカラ刑法ニ當テ子バナ
ラヌ、ソレガ刑法ニ當テルコトモ出來ナイ、矢張今日デモヤッテ居ル、若シ是
ガ愈〓不法トスレバ高野孟矩ヲ引縛ッテ刑法ニ當テルガ宜イ、デ斯樣ノ先ヅ今
日ノ際デゴザイマスカラ、モウ長イコトハ申シマセヌ、皆分リ切ッタコトデア
ル斯樣ナ譯デアリマスルカラ此事ヲ御上ニ申上ゲタラ不敬ニ當ルダラウト
云フノデハナイ、却ッテ申上ゲヌノガ不敬ニ當ル、申上ゲタナラバ定メテ誠ニ
御悅ビ遊バサルルコトト深ク信ズル、決シテ非ヲ遂ゲテドコ〓〓マデモ御遣
リ遊バセト云フコトヲ御勸メ申スコトヲ御悅ビ遊バサルヽヤウナ我陛下ニ
アラザルコトハ諸君モ御承知ノコトデアル、尤モ若シ是ガ單ニ全體此斯ウ云
フコトヲシテモ構ハヌ、少モ其差支ナイ、憲法ニ少モ差支ナイ、構ハヌト云
フ御論ノ方ハ格別デアル、一旦モウ斯ウナッタラ仕方ガナイト云フ御論旨ナラ
バ、ドウゾ此過チヲ後世へ貽サヌヤウニ、再ビサセナイヤウニ、先例ニ斯ウ云
フコトガアル、直グニ先例ガ出テ來ルカラ之ヲ防グニハ今日上奏ヨリ外ニ仕
方ガナイ、之ヲ上奏シマシタトキニハドウナルカト申スト、樞密院ヘ必ズ
御諮詢ニナッテ何トカ御判斷ガ付クデアラウト思ヒマス、此御判斷ヲ以テ最終
ノモノトシテカラニ我〓ハ泣イテ御辭儀ヲスルヨリ別ニ仕方ガナイト思ヒマ
ス、ドウカ諸君篤ト御考ニナリマシテ、段々此有力ノ人ノ御反對モアリマセ
ウ、又餘程御考ガ固クナッテ居ル御方モ澤山アリマスル、ガ御裁可ニナッタモ
ノハ、モウ再ビドウスルコトモ出來ヌト云フコトニ決シルハ頗ル惡例ヲ後世
ニ貽スモノト思ヒマスカラ、篤ト御考ヲ希フノデアリマス
〔國務大臣男爵末松謙澄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=86
-
087・末松謙澄
○國務大臣(男爵末松謙澄君) 唯今谷子爵ヨリ上奏案ニ附キマシテノ御演說
ガアリマシテ、之ニ對シマシテ自分ハ其當局者ト致シマシテ、極ク簡單ニ一言
述ベタイ次第デアリマスルノデス、抑〓此事件タルヤ既ニ數年ニ亙リ數内閣
ヲ渉ッタル事件デアルコトハ、唯今谷子爵ノ御述ニナッタル通デアリマスルノ
デアリマス、而シテ其事ノ起ハ谷子爵ノ申サレタル如ク當時ノ制度ガ明々白
白デアッタナラバ今日ノ如キコトニハ及バナカッタデアリマセウ、卽チ明ニ申
シマスレバ內地ノ司法官デアリ構成法ノ如キモノガ立派ニ成立ッテ居ッタルモ
ノデアリマシタナラバ、必ヤ斯ノ如キコトハ起ッタコトハナイト信ズルノデ
アリマス、併シ今日ヨリ考ヘテ見マスレバ、當時ノ臺灣ニ關スル制度ト申ス
モノハ未ダ草創ノ時ニ屬シテ居ルガ故ニ、諸種ノ方面ニ向ッテ完全ト云フ次
第デナカッタノデアル、故ニ此法院ノ組織ニ致シマシテモ、實ハ組立ニ內地ノ
各裁判所ノ如キモノハ出來テ居ナイノデアルノデアル、構成法モナシ懲戒法
モナカッタト云フヤウナ次第デアル、卽チ高野孟矩氏自身ニ於キマシテモ臺
灣ノ事務官トシ法院ノ部長トシテ行政官トシテ彼ノ地ニ赴イテ而シテ判官ヲ
兼子テ居ッタト云フヤウナ次第デアル若モ內地ノ法官デアリマシタナラバ、
行政官トドダイ兼帶ナドヽ云フモノガ出來ヌヤウナル次第デアルト云フヤウ
ナル次第デアリマシテ、當時此法院ノ關係ノ者ハ果シテ内地ノ判官ノ通ノモ
ノデアルヤラ行政官デアルヤラト云フコトハ自ラ見ル所ニ依ッテ其見解ヲ異
ニシテ居ッタ位ノ話デ、卽チ高野孟矩氏ハ其部長タル時分ニ當ッテ、矢張他ノ
者ニ非免ヲ行ッタルコトモアルト云フコトヲ承ッテ居リマスルヤウナル次第デ
アリマス、斯ノ如キ次第デアリマシテ彼ノ問題ガ起ッタル次第デアル、而シ
テ其免官ト申スモノハ旣ニ實行サレタル次第デ、其代リハ出來テ段々來ッタ
ト云フヤウナル次第デアリマス、ソレニ向ッテ段々議員ノ質問モアリ、衆議
院アタリノ質問モアリマシタガ、又一面ニ於キマシテハ常局者ニ於テハ將來
ニ於テ斯ノ如キ事ノ起ラザルヤウニ、斯ノ如キ疑點ノ起ラザルヤウニト云フ
ガタメニ三十一年ニ於テ彼ノ地ノ裁判制度モ改正致シ、竝ニ懲戒法ト云フヤ
ウナルモノモ設ケテ、將來ノコトハ全ク防イタト云フヤウナ次第ニナッテ居
リマスル、故ニ此上奏案中ニ書イテアリマスルヤウナ後日ノ非違ト云フヤウ
ナコトハ再ビ起リマスルヤウナコトハナイ次第デアリマス、而シテ此政府ニ
於キマシテハ段々ノ答辯ノ沿革モアリマスルガ、三十一年ノ三月ニ於キマ
シテ答ヘタノニ······衆議院ノ質問ニ答ヘタノニ明治三十一年律令第十六號臺
灣總督府法院條例ノ改正ニ依リ判官ノ任用資格及其位置ノ保障ヲ明確ナラシ
メ竝ニ同年律令第十八號ヲ以テ臺灣總督府法院判官懲戒令ヲ制定シタル以
後ニ在テハ法院判官ノ進退ニ關スル規定ノ確立シタルモノト認ム、而シテ
先ノ内閣ニ於テ爲シタル法院判官ノ任免ニ關スル處分ノ跡ニ對シ新ニ施措
スルノ途ナキガ故ニ今日正否ヲ言明スルノ必要ヲ認メズト、斯ウ云フ答ニ
ナッテ居ルノガ三十二年ノ三月四日ノ發表デアリマスルノデアリマスデ其
後尙ホ質問ニ對シマシテ答ヘタル中ニ、即チ法院條例ガ改正ニナリ竝ニ懲戒
令ヲ設ケラレタル後ニ、此臺灣ノ判官ト云フモノハ憲法第五十八條第二項
ノ保障ヲ得タルモノト認ムト云フ答ガ出テ居リマス、ソレガ三十二年二月
二十一日······是ハチョット前後シマシタ、其前ニ今ノハ三十二年二月二十一
日附デ出テ居ル次第ニナッデ居リマス、ソコデ段々議論ガ起ルコトト存ジマ
スガ、之ニ保障ヲ得ルト云フコトデアルナラバ、其以前ノハ處分ガ惡ルイカ
ラ之ヲドウカ元ニ復セト云フヤウナル御議論ニ歸著スルヤウニ考ヘラレマ
スガ、之ニ附キマシテハ其當時ノ內閣ヨリ致シマシテ、是ハ到底出來ナイコ
トデアルト云フ段々詮議ニナッテ居リマシテ、遂ニ三十三年ノ三月十二日附
ニ於キマシテ、內務當局者ヨリ致シマシテ衆議院ノ建議ニ對シテ閣議ニ提出
シタルコトガアリマスルノデ、ソレハ衆議院ニ於キマシテハ此方法ヲ何トカ
講ジタラ宜カラウト云フコトニナッテ居リマシテ、而シテ政府ニ於キマシテ
ハ是ハ到底爲シ能ハザルコトデアルト云フコトデアリマシテ、其理由ハソレ
ゾレ書イテアリマスルノデ、此任免ノコトニ附イテハ天皇ノ大權ノ發動ニ屬
シテ、卽チ其發令ト共ニ直チニ效果ヲ生ジタルモノト云フコト、竝ニ之ヲ變
更スルコトハ出來ナイト云フコト、又時ノ實地ニ於テ臺灣ニ是マデノ法院長
ガアリ、更ニ新ニ命ゼラレタ者ガ其司法ノコトヲシテ居ルノデアレハ同時ニ
二人ノ者ガ居ッタト云フコトニナル、サウスレバ或ハ後ノ者ガ爲シタル裁判
ハ無效デアルト云フコトニナル、然ル時ニハソレノ扱ッタ裁判ナドモ無效ニ
ナルト云フコトデ、事實上ニ於テモ到底出來ナイト云フヤウナル種々ノ理由
ヲ具ヘテ閻議ニナリマシテ、旣ニ其事ニ於キマシテハ、三十三年ノ六月二十九
日附ニ於テ内閣ハ其請議ノ通如何トモスルコトハ出來ナイト云フノデ、卽チ
衆議院ノ建議ノ通ニナラヌト云フコトニ決セラレテ居ルノデアリマス、而シ
テ其後ヲ承ケマシタ今日ニ當リマシテハ自分ガ內務ニ職ヲ奉ジテ居リマス
ルガ、自分ガ之ニ當リマシテ考ヘマシテモ、此外ニハ如何トモスベキ矢張リ
名案ハナイノデアリマスルノデアリマス、卽チ之ヲ元ニ復スト云フコトニハ
ナラヌノデアリマス、而シテ善後ノ策ニ付キマシテハ谷子爵ガ御憂ニナリマ
スルケレドモ、之ニ附キマシテハ旣ニ相當ノ事ガ出來テ居リマスルシ、又當
時ノコトハ各、見解ガ違ッタト云フ所カラ出タノデ、是ハ各〓其論ズル所ハア
リマスル次第デアリマスルカラシテ、若モ明々白々内地ノ裁判所構成法ノ
如キモノガアル場合ニ、斯ノ如キコトガ起リマシタラ徹頭徹尾御爭ヒニナッ
テモ決シテ不同意ハ申シマセヌガ、此臺灣ノ事件ニ附キマシテハ當時ノ事
情。竝ニ法律解釋ノ異ル所カラ起リ、而シテ善後ノ策モソレ〓〓講ゼラレタ
ル今日ニ至リ、又之ヲ元ニ復スト云フヤウナル方法ハ出來ナイト云フ事實ヲ
御承知ニナリマシタラ、自分ガ此當局ニ當ル政府ニ於キマシテモ、矢張昨
年自分等ノ前任者ノ決定セラレタル通ニ致ス外ニハ他ニ新案ヲ出スコトノ
出來ナイト云フコトヲ御承知ヲ願ヒタイ次第デアリマス、サウ云フ次第デア
リマスルガ故ニ、今日マデ未ダ解決ヲ與ヘズト云フコトガ書イテゴザイマス
ルケレドモ、政府ニ於テハ既ニ解決シタモノト認メテ居ル次第デアリマスカ
ラ、此コトヲ一應申述ベテ置キマスガ至當ト考ヘマスルカラ、時ノ短縮ニモ
拘ラズ一言申述ベタ次第デアリマス、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=87
-
088・都筑馨六
○都筑馨六君 私パ簡單デゴザイマスカラ此處カラ述ベテ置キマス、私ハコ
ノ上奏案ニハ絕對ニ反對ヲ表スル者デアリマス、ト申スノハ憲法ガ第一、國
旗ニ伴フモノデアルヤ否ヤト云フコトハ學理上ニ於テモ議論ノアルコトデ、
今日ノ學理ニ於テハ憲法ハ國旗ニ當然伴ハヌト云フ解釋ニナッテ居ル、普通
ハ······又何レノ國ノ實際ヲ見マシテモ普漏西、其他殖民地ヲ持ッテ居ル、英吉
利トカ佛蘭西トカ、アヽ云フヤウナ國ヲ見マシテモ、必シモ本國ノ憲法ハ植
民地竝ニ新領土ニ適用スベキモノデナイト云フ解釋ヲ採ッテ居ル、又日本ノ實
際カラ言ヒマシテモサウデアリマス、通常ノ法律ハ特ニ明文デ斷ルニアラザ
レバ施行ガ出來ナイノヲ原則トシテアル、又實際ノ便否上カラ申シテモデ
ス一方ニ大岡裁判的ノ政治ヲ布イテ以テ民ヲ撫育シ、他ノ一方ニハ兵力ヲ
以テ之ヲ鎭壓スルト云フヤウナ政治ニ法三章ノ政治ヲ必要トスル場合ニ憲法
ノ各條ヲ總テ行ヒ、又法律ガ行レルト云フ解釋ヲ取ルノハ將來ノ發達上ニ於
テモ甚ダ危險デアルト思ヒマス、假ニ一步讓ッテ憲法全部ガ當然臺灣ニ行ハ
レタモノト解釋シテモデス、サウ解釋シテモマダ憲法違反デアルト云フコト
ハ出テ來ナイ、今丁度內務大臣カラ述ベラレタヤウニ、若シ裁判所構成法ガ
成立シタル時代デアッテ、斯ウ云フコトヲシテモ尙ホ憲法違反デアルト云フ
解釋ハ出テ來ナイ、併ナガラ是モ亦更ニ一步ヲ讓ッテ憲法違反デアルト假定
ナサレテモ、憲法違反デアルカラ無效デアルト云フコトハ言ヘナイ、法律違
反ノコトデ尙ホ效力ヲ生ズルコトハ澤山ニアルノデ、現ニ行政裁判所ニ職ヲ
奉ズル方ガ此中ニアリマセウガ、其御方ガ終始扱ッテイラッシヤル方法ノ範
圍內デアリマスレバ、法律違犯ノ手續デ法律ニ違犯シテアッテモ其效力ハ其
儘ニ生ズル、無論法律違犯ノ事ヲシタノハ其責任ハ外ニ於テ問ハナケレバナ
リマセヌガ、其事柄ハ當然效力ヲ生ズルノデアルソレデ天皇ノ大權ニハ判
事ヲ命ジ、又他ノ文武官ヲ任免スル權ハ確カニアリマスルカラ、其任免ノ辭
令ヲ受ケタラ直チニ效力ハ生ジテ居ル、其玆ニ至ラシメタル手續ガ違法デア
ルヤ否ヤト云フコトハ別問題トシテ、效力ハ確ニ生ジテ居ル、ソレヲ彼是言フ
ノハ死ンダ子ノ年ヲ數ヘルト同ジデアル、再ビ之ヲ死ンダ子ノ年ヲ數ヘタニ
依ッテ生返ラ、セルト云フ譯ニハイカナイ、ソレカラ又此違法ノ事ニ附イテノ
責任ハ其行爲ヲ爲シタル時ノ内閣ニ向ッテ糺スノハ宜シイガ、其内閣モアリ
モシナイノニ、之ヲ出シタ所ガ唯既往ノ愚癡ヲ繰返スニ過ギナイト私ハ思ヒ
やく、歷史家トシテ之ヲ調ベルノハ宜シウゴザイマセウガ、政治家トシテハ
時ノ當局者ニ向ッテ之ヲ糺スヨリ外ニ途ハナイノデアル、ヨシ是ガ違法ナ手
續デアルニシタ所ガ、兎ニ角今日ノ政府ニ向ッテ責メタ所ガ致方モナシ、又
效果ハ十分ニ生ジテ居ルモノデアリマスカラ、其效果ヲ旣往ニ遡シテ無效ニス
ルト云フノハ是ハ到底法理上出來ヌコトデアル、ノミナラズ强テサウ云フ解
釋ヲスレバ既ニ新シイ法官ガシタ所ノ判決カラ何カラ總テ無效ニ歸シ唯一人
ノ人ニ氣ノ毒ダカラト云フト遂ニ裁判ヲ受ケタ所ノ多數ノ人民ノ裁判ヲ滅茶
滅茶ニシテ非常ナ氣ノ毒ナ思ヲ多數ノ人民ニ加へナケレバナラヌト云フ結果
ガ生ズル、又法律上サウ云フ解釋ガイカヌノミナラズ萬一サウ云フ解釋ニナッ
テハ今ノヤウナ結果ヲ來スノデ、要スルニ歷史家ガ內閣ニ對シテ旣往ノ不平
ヲ唱ヘルナラバ兎モ角モ、九重ノ雲深ク聖聽ヲ煩ハスト云フノハ我〓ノ最モ
反對セントスル所デアル、是ハ名ヲ憲法ノ擁護ニ藉リテ以テ憲法ノ上奏ヲ濫
用スル恐ガアルト思フ、斯ノ如キ案ガ此議場ニ現レ、而モ尙ホ谷君ノ如キ先
輩ニ對シテ私ガ反對ヲ唱ヘナケレバナラヌト云フコトハ實ニ私ハ最モ悲ム所
デアル、萬一通ッタラ尙ホ悲ムノデアル、無論委員付託デモナク一モ二モナク
否決アランコトヲ熱心ニ希望スルノデアル
〔子爵谷干城君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=88
-
089・谷干城
○子爵谷干城君 今內務大臣ヨリ縷々其順序ヲ陳述ニナリマシテ、サウシテ
又都筑君カラシテ反對ノ御說ガ出マシテゴザイマス、ソレハ固ヨリ私モ考ヘ
テ居ル、サウ云フ說ノ出ルノハ考ヘテ居ル、然ルニ此高野孟矩ナル者ハコ
チラデハ唯ノ人間デアッテ向フヘ行ッタノデアリマスルカ、即チコチラノ裁判
官デアッテ向フヘ法院判官ト爲ッテ唯名稱ガ變ッテ行ッテ居ルデアリマセウ、ス
レバ例ヘテ言ヘバ陸軍ニシマシテモ熊本鎭臺ナラ熊本鎭臺ノ何聯隊デ此處ニ
居ル、ソレガ卽チ臺灣ノ守備隊ト爲ッテ向フヘ行キヨル、其將校ト云フモノ
ハ、矢張內地ノ士官取扱ト同一デナケラ子バナラヌ、是亦臺灣ノタメニ別ニ
法律ガアルデモ何デモナイ、又裁判官ニ於テモ其通デアリマス、出張シテ向
フヘ行テ居ル、行テ居ル者ガトウ云フ身分カト云ヘバ內地カラ派遣シテ行テ
居ル者デアル、臺灣ヘ行タガタメニ俄ニ判官ノ資格ガ變ラウト云フ譯ハナ
イ、陸軍デ申シテモ彼ノ柴中佐ナドハ武官デアリナガラ北京ノ事務官ヲ兼子
テヤッテ居ル、ケレドモソレハ兼テヤツテ居ッテモ全體ハ卽チ日本カラシテ派
遣セラレタル所ノ陸軍中佐ニ相違ナイ、ソレガタメニ向フヘ行テ事務官ニ
ナッテ居ルカラシテ文官ノ取扱ニナルト云フ法理ハ出テ來ヌト本員ハ考ヘル、
ソレト同ジ事デアル、ソレヲ後トヨリシテ色〓ト名ヲ附ケテ、サウシテ前ノ
失ヲ無理ニ蔽ハウト云フノデアルカラシテハ後ニ構成法ガ臺灣ニナカッタカ
ラト云フヲ名ニシテ、後ニアヽ云フモノヲ作ッテ其跡ヲ蔽ハウト云フノデア
ル、ソシカラシテ又行政官共ニ往々アル、裁判官デモ裁判ヲ仕損ウタト云フ
ノデ元ヘ戾シテハ治リガ附カヌト云フコトデアルガ、ソレハ大變筋ガ違フト
思フ、我〓ハ裁判ノコトハ知ラヌケレドモ、一旦初審デ敗レ、ソレカラ控訴
院マデ持テ來テカラ勝ツコトモアリ負ケルコトモアルガ、ソレヲ何モ引合ニ
出シテ此事ヲ論ズル必要ハナイト思フ、ソレ等ハ一向憲法ニ關係シナイコト
ト思フ、ソレデ明ニ憲法ノ正條ト齟齬スルカラ申スノデアル、詰リ今都筑君
ナドノ說ハ學者トシテノ說ハ立ツカ知ラヌケレドモ、誠ニ牽强附會、後トカラ
種々ノ事ヲ以テ說ヲ附ケタモノト思フ、我〓ノ眼カラ見ルト斯ウ云フ見解ヲ
スル人ヲ以テ曲學阿世ノ人ト云フノデアル、情モナサケモ少モ知ラナイ、ソ
レデ情モナサケモ知ラナイヤウナ人ガ大分出テ來テハ困ル、其時ニハ之ヲ
陛下ニ訴ヘ奉ルニ何ノ不都合ガアル、是ハ我〓ハ不都合トハ思ハナイ、斯ウ
云フ間違ッタコトガゴザイマス、斯ウ云フ間違ッタコトガゴザイマスト云フコ
トヲ申上ゲルノハ卽チ議員ハドウ云フ職責カト云ヘバ、一ツニハ彈効ノ職責
モ持ッテ居ルカラシテハ、之ヲ申上ゲルニ何モ不都合ナコトハナイ、デ昔ナ
ラバ彈正臺ト云フモノモアリヨッタケレドモ、今日ハサウ云フモノガナイ以
上ハ、不都合トミタトキニハ、ドウシテモ議院デ其意思ヲ述ベルヨリ仕方ハ
ナイ、機會ハナイノデアル、若シ此處デイカヌ日ニハ臣民一個トシテカラニ
敬禮ヲ盡シテ訴願スルト云フコトモアルカラ、其道ハ全ク絕エルト云フ譯デ
ハナイト本員ナドハ考ヘテ居ルコトモアル、ケレドモ何シロ科モ罪モナイ者
ヲ非職ヲ命ズル、是ガ甚ダ不道理デアルト云フコトヲ言ヘバ直ニ免官シテ
サウシテ恩給モ何モヤラナイ、數年勤メタ者モ何モ恩給モヤラズニソレヲ
抛ッテ置カウト云フコトハ實ニ法律ノ世ノ中ト云フモノカハ知ラヌケレドモ
情ケナイ話デアル、情ケナイコトハ之ヲ訴ヘ奉ルニ何モ不都合ハナイ、本員
ハサウ云フ考デアリマスカラ、ドウカ御同意ノ御方ハ何分御贊成ヲ願フノデ
アル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=89
-
090・末松謙澄
○國務大臣(男爵末松謙澄君) 唯今ノ御演說ヲ駁スルノデハアリマセヌガ、
チヨット事實ダケ申述ベテ置キマス、唯今谷子爵ヨリ高野孟矩氏ハ司法官ノ
儘アチラヘ行ッタヤウニ御辯明ニナッタガ、少シ事實ガ違ッテ居リマスカラ申
シマス、二十九年四月九日ニ臺灣總督府民政局事務官ニ任ゼラレテ、法務部長
ヲ命ゼラレタノデ、是ハ行政官、同年五月十三日ニ臺灣總督府法院判官、高
等官二等、兼民政局事務官ニ任ゼラレ高等法院長ニ補シ法務部長ヲ命ゼラル
斯樣ニ私ノ持ッテ居ル書類ニ事實ガ載ッテ居リマスカラ此事ダケヲチヨット申
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=90
-
091・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 採決致シマス、上奏案ニ同意ノ諸君ハ起立ヲ請ヒ
マス
起立者少數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=91
-
092・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 少數ト認メマス、次ハ第十九ヨリ三十六マデノ請
願是レハ一括シテ問題ニ供シマス
意見書案
官公立學校生徒鐵道乘車賃金低減ノ件
和歌山縣伊都郡橋本町平民一色繫之助外十七名呈出
右ノ請願ハ今ヤ我カ邦普ク鐵道ノ敷設セラルヽアリ學校生徒ヲシテ遠隔ノ
地ヘモ日々家庭ヨリ通學セシムルヲ得監督上ノ便利大ナリトス而シテ此等
ノ生徒ハ多ク未成年者ニ屬シ體量狹少ニシテ客車ヲ壅塞スルコト一般旅客
ノ如ク大ナラス且定時ニ乘車スル者ニシテ取扱上ニモ便利アリ故ニ鐵道會
社ヲシテ其ノ國家ヨリ特殊ノ保護ヲ與ヘラレ居ルモノノ義務トシテ文運進
步、〓育奬勵ノ爲此等學校生徒ノ乘車賃ヲ一哩金三厘以內ニ低減セシムル
コトヲ私設鐵道法中ニ規定セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
ハ採擇スヘキモノト決定致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
北海道帝國大學設立ノ件
石狩國札幌區北七條平民谷七太郞外七百二十六名呈出
右ノ請願ハ今ヤ本道ノ拓殖漸ク其ノ〓ニ就ケルヲ以テ更ニ高等〓育ノ設備
ヲナシ利用厚生ノ途ヲ講セサルヘカラス且本道ニ於ケル中學校ノ設立益
多キヲ致スヲ以テ既ニ農科大學ト同一ノ資格ヲ備へ巨萬ノ基本財產ヲ有ス
ル札幌農學校ヲ擴張シテ農科大學ト改稱シ漸次工科理科醫科文科等ヲ新設
シ以テ北海道帝國大學ヲ設立セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候
也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
靑森開港ノ件
靑森縣靑森市長工藤卓爾呈出
右ノ請願ハ靑森港ハ陸奥灣中ニ在リテ極メテ開港場タルニ適スルモ同灣中
ニ在ル大港カ未タ軍港ト指定セラルヽヤ否ヤ確定セサル間ハ之ヲ貿易港ト
爲ス能ハストノ說アリ是實地ニ適セサルノ論ト謂フヘシ靑森港ト大港トハ
同シク陸奧灣内ニ在リト雖相距ルコト實ニ二十里ニ餘リ且夏泊崎其ノ中間
ニ斗出シテ灣內ヲ分割シ所謂野邊地灣、靑森灣ヲ形成ス故ニ靑森港ヲ貿易
港トスルモ毫モ大港ノ軍港タルヲ害セサルコト猶ホ東京灣中ニ橫須賀、橫
濱ノ兩存シ紀淡砲臺ノ下ニ神戶ノ在ルカ如シ況ンヤ國家民人ノ福利ヨリ視
レハ商港ハ重ク軍港ハ輕キニ於テヲヤ又靑森港ハ之ヲ貿易港トナスモ貿易
品ナカルヘシトノ說ヲ爲スモノアルモ現ニ函館ヲ經由シテ魯領ヨリ本港ニ
輸入スル巨額ノ魚類ハ本港ニ直接輸入セラルヽニ至リ益〓其ノ數ノ增加ヲ
見ルヘク秋田縣ノ硫黃本縣及秋田山形諸縣ノ米穀若ハ食牛ノ輸出等其ノ數
額實ニ莫大ニシテ決シテ貿易品ノ少ナキヲ憂ヘサルナリ斯ノ如クナルヲ以
テ靑森ヲ以テ他ノ指定貿易港ト同シク勅令ヲ以テ貿易港ニ追加セラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候依テ議院
法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
北見鐵道線路變更急設ノ件
北海道北見國枝幸郡枝幸村平民白阪庫太外百一名呈出
右ノ請願ハ北見國ハ農工水產共ニ近時長足ノ進步ヲ爲シ枝幸港ノ附近ハ移
民ヲ以テ充塞セラルヽノ日遠キニアラサラムトス然ルニ交通機關ノ設備ナ
キカ爲冬期交通杜絕シ住民ノ困難尠カラス而シテ政府カ曩ニ本道東海岸ノ
鐵道ヲ〓子第一期線トシ獨リ北見線ニ限リ之ヲ第二期線ト定メタルハ今日
ノ如ク北見カ急速ノ進步ヲ爲シ且湧別常呂ニ多數兵員ノ配置ヲ見ルニ至ル
ヲ豫期セサリシニ由ルモノニシテ今日ノ情勢ニ於テハ北見幹線ヲ第一期線
ニ繰上ルト同時ニ天鹽國名崎ヨリ北見國興部ニ通スル既定線ヲ變更シテ天
鹽鐵道線ヲ「ヲトイ子ッフ」ヨリ分岐シ枝幸郡幌別原野ヲ貫通シ枝幸ヲ經テ
網走ニ達セシメ枝幸稚內間ノ山間線ノ新設ヲ以テ利便頗ル大ナルモノトス
由テ北見鐵道線ヲ變更シ之ヲ急設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意
ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送
付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
千島總督設置ノ件
宮城縣仙臺市二日町平民白瀨矗呈出
右ノ請願ハ千島群島ハ大サ約一千方里ナルモ一二島ヲ除クノ外ハ無人ノ〓
ニシテ人口二千內外ニ過キス北海道廳ハ之ヲ根室、紗那兩支廳ノ管轄ニ委
シテ殆ト顧ミサルノ狀態ナリ隨テ其ノ利益ハ多ク外人ニ壟斷セラレ永ク人
煙稀少ノ寒郷タルヲ免ル能ハス故ニ此ノ際千島ヲ北海道廳ノ管轄ヨリ獨立
セシメ總督ヲ置テ之ヲ統轄セシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
協定稅率廢止ニ關スル件
東市東京商業會議所會頭男爵澁澤榮一呈出
右ノ請願ハ我カ國ノ通商條約ニハ一種ノ協定稅率ナルモノアルカ爲我ヨリ
外國ニ輸出スルハ難ク外國ヨリ我ニ輸入スルハ易ク我カ國商工業ノ發達ヲ
阻害スルコト最甚シク洵ニ國家ノ一大不幸ナリトス若シ此ノ協定稅率ヲ廢
シ機ニ應シテ自由ニ改定スルコトヲ得ハ我カ商工業ノ發達ハ期シテ待ツヲ
得ヘシ故ニ一日モ速ニ之カ廢棄ヲ見ムコトヲ望ムトノ旨趣ニシテ貴族院ハ
願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册
及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
試掘鑛區課稅ニ關スル件
東京市東京商業會議所會頭男爵澁澤榮一呈出
右ノ請願ハ政府ハ本期ノ帝國議會ニ鑛業條例改正案ヲ提出シ鑛山試掘地ニ
課稅セムトスト聞ク然レトモ本邦鑛業界ノ漸ク盛況ヲ呈スルニ至リタルハ
職トシテ試掘ノ認可ヲ受クルニ依リテ鑛脈ノ存否ヲ探檢スルノ多カリシニ
由ラスムハアヲス然ルニ今之ニ課稅スルカ如キハ發達ノ機ヲ妨遮スルモノ
ナリ政府改正ノ理由ハ蓋シ之ヲ以テ鑛區占有ノ弊ヲ矯正セムトスルニ在リ
ト雖探檢ハ固ト鑛物ノ存否ヲ知ルカ爲ニスルモノナルヲ以テ之ニ課稅スル
ハ課稅ノ目的物タル性質ヲ具備セサルモノニ課稅セムトスルモノニシテ失
當ノ處置ナリトストノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト
議決致侯因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
鑛毒被害救濟ノ件
栃木縣足利郡筑波村平民飯田德次郞外二百四名呈出
群馬縣山田郡韮川村平民澁澤彥九郞外七十五名呈出
右ノ請願ハ足尾銅山主ハ曩ニ政府ノ命令ニ依リ毒水ヲ濾過シ烟毒ヲ消除ス
ルカ爲沈澱池、脫硫塔等除害ノ設備ヲ爲シタルモ爾後ノ實況ニ徵スルニ沈
澱池ハ降雨每ニ氾濫橫溢シ脫硫塔ハ高臺ト成リタルカ爲烟毒播布ノ地域ヲ
廣メ毫モ其ノ效ナク被害ノ慘狀益〓甚シク山野生色ナキニ拘ラス昨三十三
年九月ヲ以テ免租滿期トナリ收稅吏ハ納租ヲ迫リテ止マス人民ノ困苦甚キ
ヲ以テ議會ニ於テ鑛毒被害處分法ヲ議決シ且再ヒ調査會ヲ設ケテ十分請願
人等ノ權利生命財產保全ノ道ヲ立テラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意
ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送
付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
國字改良ニ關スル件
德島縣麻植郡西尾村平民工藤茂三郞呈出
右ノ請願ハ從來我カ國ニ行ハルヽ國語國字ハ漢語漢字ニ根據スルモノ多ク
且之ニ假名ヲ添フルヲ以テ其ノ不便甚シク複雜ナル文明ノ社會ニ立チ優勝
劣敗ノ競爭場裡ニ馳騁セムトスルニ於テ實ニ一著ヲ輸セサルヘカラサルニ
至ルヘシ洵ニ國運ノ消長ニ關スルコト尠シトセス故ニ國字改良ノ爲一種ノ
新文字ヲ製作シタルヲ以テ之ヲ可否セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及
送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
染織業奬勵保護ノ件
新潟縣古志郡上鹽谷村平民齋藤捨藏呈出
右ノ請願ハ從來我カ國ノ主產物ハ生絲ニシテ其ノ輸出額莫大ナルモ斯ノ如
ク未製品ノ輸出ニ甘ムセス既製品トシテ輸出スルノ利益アルニ如カサルヲ
以テ染織物試驗講習所ヲ設ケ模範ヲ當業者ニ示授シ又我カ國ノ輸出品製造
者ハ外商ノ狡策ニ罹リ投賣スルノ巳ヲ得サルニ至ルコト少ナカラサルヲ以
テ染織者ヲ保護スルカ爲勸業銀行農工銀行ヲシテ機織物ヲ擔保トシテ資金
ヲ融通スルニ便ヲ與ヘシメ又在外領事ヲ增員シテ敏活ニ機業ニ關スル報告
ヲ爲シ以テ當業者ヲ指導セシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候
也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
言文一致ノ實行ニ關スル件
東京市本郷區西片町士族理學博士坪井正五郞外二十七名呈出
右ノ請願ハ言文ノ不統一ハ國勢ヲ衰亡セシムルモノニシテ古今ノ事例少カ
ラス而ルニ我カ國ノ言語文字ハ繁雜ニシテ習熟ニ困難ナルコト世界ニ比ナ
ク學校生徒ヲシテ徒ニ精力ヲ言語文字ノ習熟ニ消耗セシメ其ノ發育ヲ碍ク
ルコト極テ大ナリ故ニ學制改革ノ先決問題トシテ先ツ國語國文國字ヲ改良
スルカ爲速ニ國語調査會ヲ設ケ言文一致ノ實行ヲ國家事業トセラレタシト
ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法
第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
足尾銅山鑛毒被害救濟ノ件
京都府與謝郡日置村平民橋野鶴之助外五名呈出
右ノ請願ハ請願人等ノ籍ハ無害ノ地ニアリト雖一度足尾鋼山鑛毒被害地タ
ル渡良瀨河畔茫々ノ被害地ヲ踏査シ六萬ノ美田豪圃ヲ害シ三十五萬ノ人民
ヲ苦シメ遠ク利根ニ注瀉シ南江戶川ノ漁利ヲ奪ヒ東京灣頭北東ノ汀渚ヲ侵
シ更ニ銚子港口ヲ侵害スルヲ顧ミレハ同胞トシテ坐視スルニ忍ヒス足尾銅
山除害工事ノ功ナク被害ノ慘狀日々增加スルヲ以テ鑛毒調査會ヲ至急開設
セラレ慘狀ノ眞相ヲ調査シ以テ臣民ノ權利ヲ完フシ生命保護ト財產保全ノ
道ヲ講セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト
議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
電信線架設ノ件
三重縣桑名郡多度村平民西田喜兵衞外六名呈出
右ノ請願ハ三重縣桑名郡七取村大字香取ハ縣下北部ノ一都會ニシテ商業最
頻繁ノ地ナリトス而シテ從來每月六囘卽チ四九ノ日ヲ以テ互市ヲ開キ之ヲ
香取市ト稱シ肩磨穀擊モ啻ナラス郵便局アリ學校アリ銀行其ノ他都會タル
ノ施設略ホ備ハレリト雖未タ電線ノ架設ナキハ地方人民ハ勿論商業上ノ取
引先ニ至ル迄深ク遺憾トスル所ニシテ之カ爲相互取引通信ノ遲緩ヨリ不測
ノ損害ヲ被ムルコト多キカ故ニ現在ノ香取郵便局ヲ以テ郵便電信併置ノ局
トシ南ハ伊勢國桑名町ヨリ北美濃國高須町ヘ連續線ヲ架シ一ハ土地ノ不振
ヲ興シ一ハ人民ノ不幸ヲ救ハレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
登記所增設ノ件
三重縣桑名郡多度村平民西田喜兵衞外六名呈出
右ノ請願ハ請願人等ノ地方ハ現今四日市區裁判所桑名出張所ノ所屬ニシテ
其最遠村落トノ距離五里以上ニ達シ登記出願上極メテ急速ヲ要スヘキ場合
ニ容易ニ事ヲ辨スル能ハス爲ニ意外ノ失費ヲ來ス等ノコトアルヲ以テ本郡
北部ニ一ノ登記所ヲ增設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣候爵伊藤博文殿
意見書案
生絲檢査所設置ノ件
西陣織物同業組合長松室以忠外四名呈出
右ノ請願ハ國運ノ進ムト否ハ一ニ工業ノ消長ニ據ル而シテ工業中織物ノ如
キハ最重要ノ位置ヲ占メ國富ノ增進ニ與リテ力アリト謂フヘシ然ルニ我カ
邦ノ現狀ヲ顧ミルニ斯業ニ關シテハ唯生絲輸出ニ對シテ一二保護機關ノ具
備スルアルノミ內地需用ノ生絲ニ對シテ未タ其ノ機關ノ設備アルヲ見サル
ハ豈ニ當業者ノ不幸ナラストセムヤ惟フニ京都ノ如キ織物ノ產額實ニ二千
五百萬ニ達シ生絲ノ消費額亦一千二百萬ニ下ラサルノ盛況ヲ呈スト雖其ノ
原質タル生絲ノ品等正量伸張纎度練減等ニ關シテハ更ニ顧慮スルモノナク
若シ夫レ奮慣ノ墨守ニ任セムカ乃チ西陣丹後ノ聲價條チ地ニ墜ヲ復舊ノ策
ナキニ至ラム今ニ於テ生絲檢査所ヲ京都ニ設置シ織物保健ノ實ヲ舉ケ國富
ノ增進ヲシテ闕クル所ナカラシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
葉煙草收納方法竝ニ試驗場設置ノ件
栃木縣那須郡境村平民齋藤松壽外十六名呈出
右ノ請願ハ葉煙草専賣法ノ施行セラルヽモ葉煙草試驗場ノ設置二三ニ止マ
リ且葉煙草收納ノ方法ニ就キ不便利ヲ免レサル所アリ栃木縣ノ如キ耕作地
ノ廣大ナルカ爲所管専賣支局ハ近キモ數里遠キハ十數里ヲ越ユルノ地ニ在
リ且道路ノ不便之ニ加ルモノアリ容積重量共ニ多キ物品ナレハ駄馬若ハ荷
車ニ依ルノ外適當ノ運搬方法無キカ爲遠隔地ニシテ小畝步ノ耕作者ハ僅少
ノ葉煙草納付ニモ數日ヲ要シ甚シキハ耕作全部ノ利益ヲ擧ケ運搬納付ノ費
用ニ足ラス全ク損失ニ歸セシムルコトアリ故ニ專賣支局若ハ出張所ヲ距ル
コト五里以上ノ耕作地ニ對シテハ便宜日割ヲ定メ官吏出張シテ之ヲ收納ス
ルノ方法ヲ設ケ耕作人ニ便宜ヲ與フルト同時ニ作段別ノ多キ全國中隨一ナ
ル栃木縣下ニ國庫支辨ノ葉煙草栽培試驗場ヲ設置シ葉煙草耕作ヲ奬勵セラ
レタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
葉煙草鑑定ニ公選ノ鑑定人ヲ加フル件
栃木縣芳賀郡山前村長柳澤桂次外十九名呈出
右ノ請願ハ葉煙草専賣法ノ旨趣ニ基ツキ官民共ニ協力シ發達ヲ謀ルヘキニ
到ル所鑑定ノ不公平ヲ鳴シ官民漸ク反目シ減作スルカ如キ狀アルハ現行專
賣法ハ官吏ノミニ鑑定セシメ耕作人ヲシテ之ニ加ラシメサルニ依ル故ニ現
行專賣法ヲ改正シ葉煙草鑑定ニハ鑑定人ノ半數ヲ耕作人中ヨリ公選セシメ
支局ノ鑑定人ト共ニ鑑定セシムルコトニ定メラレタシトノ旨趣ニテ貴族院
ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別
册及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
褒賞費增加ノ件
京都府乙訓郡神足村平民岡本爺平呈出
右ノ請願ハ大政維新以降文物制度專ラ則ヲ歐米ニ採リ刑法治罪法ノ如キモ
一ニ彼ノ原理ニ據リ制定セラレ之ヲ舊法ニ比較スレハ其寬ナルコト殆ト日
ヲ同フシテ談ルヘカラス故ニ誤テ刑辟ニ觸ルノ徒モ亦聖思ノ大ナルニ感泣
セサル者ナシ而シテ眸ヲ轉シ世ノ孝子貞婦忠婢義僕等ノ偶〓褒賞ヲ受クル
者アルヲ見ルニ依然維新前ノ舊典ニ準シテ其ノ賜與金幣ノ輕微ナル寧ロ菲
薄ニ失セリ今ヤ奸惡ノ徒ヲ懲治スル所ノ地方監獄費ハ擧テ之ヲ國庫支辨ニ
移サレタリ而シテ之ヲ善良者ニ賜與セラルヽ所ノ褒賞費ニ對照スレハ寔ニ
雲泥モ啻ナラサルナリ抑モ賞罰ハ治國ノ二柄執政者ノ惡ヲ罰シ善ヲ賞スル
決シテ偏輕偏重ナルヘカラサルナリ然ルニ好惡ノ徒ヲ懲治スルカ爲ニ費ス
所彼カ如ク多大ニシテ善良者ヲ褒賞スルカ爲ニ與フル所ハ此ノ如ク些少ナ
ルハ頗ル當ヲ失スルヲ以テ政費ノ一部ヲ節減シ特ニ褒賞費ヲ增シ以テ明治
ノ風〓ニ資セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモ
ノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤麿
內閣總理大臣侯爵伊藤博文殿
意見書案
矢作川改修ノ件
愛知縣額田郡相見村平民山本鍬之助外七百四名呈出
右ノ請願ハ矢作川ハ三河國三大川中ノ最大流ニシテ五郡ノ地ニ蜿蜒屈曲シ
灌漑ノ利運輸ノ便他川ノ比ニアラス然レトモ其ノ曲折多キカ爲洪水汎濫シ
人民ノ慘害ヲ被ムルコト極テ甚シトス而シテ從來地方費ヲ以テ治水ノ工事
ヲ營ミ來リタルモ財力足ラサルヲ以テ砂防工事ノ如キハ每ニ姑息ニ陷リ之
カ爲水利ハ倏忽ニシテ水害ニ變スルヲ常トス依テ速ニ國費ヲ以テ河身ヲ改
修セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
明治三十四年三月日貴族院議長公爵近衞篤謄
内閣總理大臣侯爵伊藤博文殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=92
-
093・堀田正養
○子爵堀田正養君 本員ハ今朝政府カラ答ヘラレタ警察及監獄ノ職務ニ關ス
ル質問書、卽チ〓棲家〓君外三名ノ質問書、ソレカラ官紀ニ關スルノ質問書ト
云フモノニ附イテ答辯書ガ昨日出マシタガ、我〓ニハ皆要領ヲ得ナイト考へ
ル、ソレニ附イテハ尙ホ當局大臣ノ出席ヲ請ウテ分ラヌ所ニ向ッテハ質問ヲ
シタイ考デアリマスカラ、ドウゾ午後ハ內務大臣及司法大臣ニ出席アランコ
トヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=93
-
094・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 今堀田君ノ發議ハ甚ダ贊成致シマスカラ、ドウゾ堀田君
請求ノ如ク午後ハ兩大臣此席ニ臨マレテ十分ニ答辯ヲ與ヘラレンコトヲ希望
シマス、御通牒ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=94
-
095・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 唯質問ト云フコトデアリマスルト此規則ノ······議
院法ニ依リマスト書面デ出ス手續ニ依ラ子バナリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=95
-
096・堀田正養
○子爵堀田正養君 其質問ノ答辯書ニ附イテ要領ヲ得ヌ所ヲ尙ホ時日ノ無イ
ニ依ッテ出席ヲ請ウテ質問シテ要領ヲ得タイト云フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=96
-
097・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 問題ニナッテ居ルモノデアリマスト、其事ニ附イテ
大臣ノ出席ヲ請フコトハ例モアリマスルシ差支ナイコトデス、日程ノ中ニ無
イコトデアリマスカラ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=97
-
098・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 政府ニ向ッテ我〓質問ヲ致シマシタトキニ、政府ハ辭ヲ
以テ答ヘテモ宜シイ、又ハ書附ヲ以テ答ヘテモ宜シイ、斯ウ云フコトニナツ
テ居ル位デアリマス、然ルニ政府ガ今日答ヲ與ヘラレタコトニ附イテ、甚ダ
不十分デアルニ依ッテ、更ニ今ヨリ質問書ヲ拵ヘテ提出スル時間ハナイカラ、
幸ニ大臣モ此院ヘ見エテ居ルヤウデアルカラ、午後ハ此席ニ臨マレテ更ニ今
少シ深ク答ヘラレタラバ獨リ我〓ノ便利ノミナラズ政府ノ方ニモ政府ト我〓
トノ情實ガ能ク通ジテ便利デアラウカト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=98
-
099・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 政府ノ答辯ハ書面ニシテモ口頭デシテモ差支ナイ
デアリマセウガ、質問ヲ致ス方ニ於テハ規則ニ於テ書面ヲ以テ出スコトニナ
ッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=99
-
100・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 ソレデハ唯〓書面ヲ調製シマセウ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=100
-
101・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレナラソレデ宜ウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=101
-
102・岡部長職
○子爵岡部長職君 請願ノ問題ノ採決ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=102
-
103・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) マダ請願ノ決ヲ採ッテ居リマセヌカラ、請願ハ一括
シテ可決ト認メマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=103
-
104・廣澤金次郎
○伯爵廣澤金次郞君 先程御依託ニナリマシタ開墾地、開拓地、新開地年期
繼續ニ關スル法律案、是ハ簡單ナモノデ今委員會ヲ終ヘマシタ、就テハ議事
日程ヲ變更シテ此際議決ヲ希望シマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=104
-
105・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=105
-
106・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ開墾地、開拓地、新開地年期繼續ニ關スル
法律案、第一讀會ノ續
開墾地、開拓地、新開地年期繼續ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
明治三十四年三月二十四日
右特別委員長
伯爵廣澤金次郞
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔伯爵廣澤金次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=106
-
107・廣澤金次郎
○伯爵廣澤金次郞君 此案ハ衆議院提出案デゴザイマスガ、唯今委員會ヲ開
キマシテ全會一致デ可決致シマシタ、詰リ極簡短ニ申シマスルト、是ハ開墾
年限ハ荒地或ハ低價年期ニ於テ年期ガ延ビタ時分ニ十年ノ中ニ加ヘズシテ延
長スルト云フ案デアリマス、此附則ハ今日マデ荒地其他ニ限ッテ、年期ガ延ビ
タモノハ十年ノ內ニ勘定シナイデ先ヘ延長シテ置イテアルノデ、至極尤ダト
云フノデ、委員會ハ全會一致デ議決シマシタカラ其事ヲ報〓ヲ致シマス、尙
ホ讀會省略ヲ以テ可決アランコトヲ希望シマス
〔「賛成」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=107
-
108・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=108
-
109・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ三分ノ二以上アルモノト認メテ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=109
-
110・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 本案ハ委員長ノ報告通ト認メマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=110
-
111・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 其通決シマス、今日ノ日程ハ是ニテ終リマシタ、政
府ヨリ質問ノ答辯ガアリマスカラ朗讀致シマス
〔小原書記官朗讀〕
貴族院議員伯爵島津忠亮君提出外交ニ關スル質問ニ對シ別紙外務大臣答辯
書及御囘付候也
明治三十四年三月二十四日內閣總理大臣侯爵伊藤博文
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔別紙〕
貴族院議員伯爵島津忠亮君提出ノ外交ニ關スル質問書ニ對スル別紙答辯書
差進候也
明治三十四年三月二十三日外務大臣加藤高明
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔別紙〕
貴族院議員伯爵島津忠亮君提出ノ外交ニ關スル質問ニ對スル答辯書
一露〓兩國間條約ノ件ニ付政府ハ露國ニ對シ「警告」ヲ爲シタルコトナシ
一政府ノ得タル報告ニ據レハ獨國宰相ビユロー伯ハ同國議會ニ於テ滿州ハ
英獨協商適用ノ限ニアラストノ主旨ヲ述ヘタル由ナルモ政府ハ右協商ニ
對スル其見解カ之カ爲ニ變更セラレスト云フノ外本質問ニ對シテハ未タ
答辯ノ時機ニアラスト認ム
右及答辯候也
〔參照〕
外交ニ關スル質問主意書
一露〓特約ニ關シ政府ハ露國ニ對シ何等ノ警告ヲモ爲サヽリシ乎
一獨逸總理大臣ビユロー伯カ獨逸國會ニ於テ英獨協商ハ滿州ニ對シテ無關係ナリト明言シタリト
ノ說眞ナラハ政府カ衆議院ニ答辯シタル見解ト相反ス之ニ對シテ政府ハ何等ノ措置ヲ爲サムト
スル乎
右議院法第四十八條ニ依リ及質間候也
明治三十四年三月二十三日
提出者伯爵島津忠亮賛成者公爵二條基弘
外三十名
貴族院議員伯爵吉井幸藏君提出樟腦專賣ニ關スル質問ニ對シ別紙農商務大
臣答辯書及御囘付候也
明治三十四年三月二十四日內閣總理大臣侯爵伊藤博文
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔別紙〕
貴族院議員伯爵吉井幸藏君提出樟腦專賣ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差
進候也
明治三十四年三月二十四日農商務大臣林有造
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔別紙〕
貴族院議員伯爵吉井幸藏君提出樟腦專賣ニ關スル質問ニ對スル答辯
書
內地ニ於ケル樟樹ニ關シテハ從來政府ニ於テ他ノ樹木ト取扱ヲ異ニジ特ニ
一層ノ注意ヲ以テ保護繁殖ヲ期スルモ其效果ノ未タ顯著ナラサルハ遺憾ト
スル所ナリ然レトモ尙進ンテ此特產ヲ永遠ニ增殖スルノ速成方法ニ關シテ
ハ既ニ其必要ヲ認メ現ニ之レカ調査ヲ爲シツヽアリ故ニ該調査結了ノ上ハ
植伐製腦等ニ關シ特殊ノ取締法ヲ設ケルカ或ハ專賣制度ヲ開始スルノ必要
ヲ見ルニ至ルヘキカ末タ之ヲ明言スルコト能ハサルモ今ヤ諸種ノ企劃上充
分ナル材料ト鄭重ノ孜究ヲ盡サムコトヲ期セリ
右及答辯候也
明治三十四年三月二十四日農商務大臣林有造
所得稅法中改正法律案
右貴族院ノ囘付ニ係ル本院提出案本院ハ貴院ノ修正ニ同意シ奏上セリ因テ
議院法第五十五條ニ依リ及通知候也
明治三十四年三月二十四日衆議院議長片岡健吉
貴族院議長公爵近衞篤麿殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=111
-
112・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ニテ今日ハ散會ヲ致シマス
午後零時三十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001503242X01819010324&spkNum=112
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。