1. 会議録本文
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000・会議録情報
明治三十四年三月二十一日(木曜日)午後一時九分開議
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議事日程 第十七號 明治三十四年三月二十一日
午後一時開議
一 明治三十四年度歳入歳出總豫算追加案
二 (追加)豫算外國庫の負擔となるへき契約を爲すを要する件
三 (特追第一號)明治三十四年度特別會計歳入歳出豫算追加案
四 明治三十二年度豫備金支出の件(政府提出承諾を求むる件) (委員長報告)
五 明治三十二年度特別會計豫備金支出の件(政府提出承諾を求むる件) (委員長報告)
六 明治三十二年度特別會計豫備金外に於て豫算外支出の件(政府提出承諾を求むる件) (委員長報告)
七 鐵道敷設法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
八 右議案の審査を付託すへき委員の選舉
九 事業公債條例中改正法律案(政府提出) 第一讀會
十 右議案の審査を付託すへき委員の選舉
十一 馬匹去勢法案(政府提出貴族院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
十二 涜職法案(後藤文一郎外九名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
十三 府縣郷村社社費に關する法律案(小田貫一外八名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
十四 官國幣社國庫支辨に關する法律案(大津淳一郎外八名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
十五 山形縣下郡界變更法律案(重野謙次郎外三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
十六 輸入原料砂糖戻税法案(栗原亮一外二名提出) 第一讀會
十七 蠶絲業組合法案(降旗元太郎提出) 第一讀會
十八 酒類造石税納期改正に關する建議案(長坂重孝外四名提出) (委員長報告)
十九 名和昆蟲研究所に交付すへき國庫補助金追加豫算の提出に關する建議案(稻垣示外四名提出) (委員長報告)
二十 札幌農學校を大學と爲すの建議案(西原清東外十二名提出) (委員長報告)
二十一 下總國舊牧開墾地に關する建議案(高津雅雄外五名提出) (委員長報告)
二十二 外國語學校擴張に關する建議案(神藤才一提出)
二十三 農會補助金追加豫算の提出に關する建議案(稻垣示外三名提出)
二十四 農事試驗場、水産試驗場國庫補助金追加豫算の提出に關する建議案(稻垣示外二名提出)
二十五 花窟神社に關する建議案(栗原亮一外二名提出)
二十六 元寇殉難者國祭に關する建議案(安部井磐根外一名提出)
二十七 家祿賞典祿處分法施行に關する建議案(恒松隆慶外十六名提出)
二十八 千島開發に關する建議案(松岡長康外二名提出)
二十九 公債抽籤償還の實施に關する建議案(栗原亮一外二十八名提出)
三十 補助貨幣の改鑄に關する建議案(栗原亮一外二十八名提出)
三十一 請願法制定の建議案(平岡萬次郎外四名提出)
三十二 宗教制度調査會設立に關する建議案(天野若圓外三名提出)
三十三 埃宮會國庫補助に關する建議案(井上角五郎外五名提出)
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001・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 諸般ノ報告ヲ致シマス
〔書記朗讀〕
明治二十九年法律第四號中改正法律案ヲ政府ニ於テ撤囘セル旨貴族院ヨリ
通牒アリ
議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
海藻磯燒ケノ原因調査ニ關スル建議案
提出者臼井哲夫君門馬尙經君
臼井哲夫君ヨリ韓國馬山及鎭海ニ關シ藤金作君ヨリ將來ノ財源ニ關スル
件樟腦專賣買制度ニ關スル件ニ附キ質問主意書ヲ提出セラレタリ
委員長及理事左ノ通當選セラレタリ
實業〓育費國庫補助法中改正法律案
委員長濱名信平君理事三田村甚三郞君
刑法中改正法律案外三件
委員長石黑涵一郞君理事安藤龜太郞君
鍬下年期、新開免租年期、地價据置年期ノ延長ニ關スル法律案外一件
委員長木村誓太郞君理事堀尾茂助君
不動產登記法中改正法律案
委員長大村和吉郞君理事三輪傳七君
(左ノ質問書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ掲載ス〕
韓國馬山及鎭海ニ關スル質問書
右成規ニ據リ提出候也
明治三十四年三月二十日
提出者臼井哲夫贊成者佐々友房
外三十八名
質問主意書
政府ハ本員ノ質問ニ答ヘテ質問ノ基礎タル事實ハ政府ノ知ル所ト異ナルモ
ノアリ從テ見解モ亦相同シカラスト云ヘリ果シテ然ラハ政府ノ知ル所ノ事
實及其ノ見解如何
右及質問候也
將來ノ財源ニ關スル質問書
右戌規ニ據リ提出候也
明治三十四年三月二十日
提出者藤金作贊成者橫山通英
外二十九名
將來ノ財源ニ關スル質問主意書
政府カ各種ノ增稅案ヲ本期ノ議會ニ提出シタルハ第一北〓軍事費ニ充テ第
二三基金ノ塡補ニ充テ且ツ三十七年度以降ハ之ヲ以テ大學校及高等學校ノ
創設其ノ他ノ新事業費竝ニ公債償違ノ資ニ充テンカ爲メナリ而シテ九州東
北二大學及高等學校ノ創設計晝ハ貴衆兩院トモ均シタ其ノ必要ナルヲ認メ
第十四議會ハ既ニ其ノ建議案ヲ可決シタルニモ拘ハラス當局者ハ口ヲ財源
ノ乏シキニ藉リテ容易ニ之カ創設ニ同セサルノ傾キアリ是レ本員等ノ深ク
遺憾トスル所ナリ今ヤ增稅案ハ既ニ可決セラレタリ政府又財源ノ乏シキヲ
理由トシテ之カ創設ヲ怠ルコト能ハサルヘシト雖トモ之ヲ旣往ニ徵スルニ
尙ホ多少ノ疑心ナキ能ハス依テ政府ハ今後十箇年間ニ渉ル經常臨時ノ歲入
歲出ヲ吟味シ繼續費ノ增減等ヲ加除斟酌シ本會期內ニ豫定計畫ノ明細ヲ示
シ正確ナル答辯ヲ與ヘラレンコトヲ望ム
〔參照〕
諸學校創立費及經常費國庫支辨額豫算表
創立費經常費
年度計
創立費寄附金國庫支辨額年度國庫支辨額
■國■圖■
三十四年度九五〇、〇〇〇九五〇、〇〇〇11
三十五年度七二五、〇〇〇四七五、〇〇〇二五〇、〇〇〇1二五〇、〇〇〇
三十六年度六九三、〇〇〇三九三、〇〇〇三〇〇、〇〇〇三〇〇、〇〇〇
三十七年度六一九、〇〇〇1六一九、〇〇〇三十七年度一〇四、〇〇〇七二三、〇〇〇
三十八年度五五〇、〇〇〇1五五〇、〇〇〇三十八年度一五〇、〇〇〇七〇〇、000
三十九年度五四七、四〇二1五四七、四〇二三十九年度七一〇、〇〇〇、二五七、四〇六
四十年度五〇〇、〇〇〇1五〇〇、〇〇〇四十年度九五〇、〇〇〇一、四五〇、〇〇〇
四十一年度五〇〇、〇〇〇1五〇〇、〇〇〇四十一年度一、一七〇、〇〇〇、六七〇、〇〇〇
四十二年度五〇〇、〇〇〇-五〇〇、〇〇〇四十二年度一、二八〇、〇〇〇一、七八〇、〇〇〇
四十三年度四九七、五五〇〔四九七、五五〇四十三年度一、二八〇、〇〇〇一、七七七、五五〇
合計六、〇八一、九五二一、八一八、〇〇〇四、二六三、九五二五、六四四、〇〇〇九、九〇七、九五二
一、八一八、〇〇〇
本表ハ經常費諸收入支辨金ノ豫算額ノ如キハ記セス全ク國庫ノ支辨タルヘキ豫算額ノミヲ示シ
タルモノ」計ノ左傍ニ揭クル數字ハ寄附金ナリ
大學增設ノ急務
〓育行政ハ國家ノ行政中重要ノ事項ニ屬ス而シテ國家苟モ〓育行政ノ實ヲ
舉ケント欲セハ須ラク先ツ學校ノ設備ヲ完ウセサル可ラス若シ夫レ學校ノ
設備ニシテ不完全ナルアランカ〓育ノ進步焉ツ得テ企圖スヘケンヤ況ヤ政
府タルモノ眼前歷々トシテ學校系統ノ上ニ一大缺陷アルヲ認定シナカラ尙
ホ輕々之ヲ觀過スルニ於テヲヤ
夫レ國民元氣ノ盛衰ト國運ノ隆替トハ國民ノ智愚如何ニ職由スルコト極メ
テ重大ニシテ國民ノ智愚如何ハ直チニ〓育ノ程度如何ニ淵源スルモノナル
コト敢テ吾人カ喋々ノ贅言ヲ待タサル可シ殊ニ日進月步駸々トシテ文明ノ
域ニ入レル我邦ノ現況ニアリテハ其朝ニアルト野ニアルト將タ又政治家タ
ルト實業家タルト若クハ行政官學校〓員タルトヲ問ハス苟モ國家ノ中堅ト
ナリテ大ニ社會ニ活動セント欲スルモノハ須ラク先ツ其準備トシテ高等ノ
知識ヲ薀蓄スヘキコトハ三尺ノ竪子ト雖トモ吾人ノ說明ヲ俟タスシテ尙ホ
能ク之ヲ知ラン
高等ノ知識果シテ國家ニ缺ク可ラストセハ大學ノ必要亦論セスシテ明ナリ
世人動モスレハ大學ヲ以テ只管學術上ノ專門家ヲ養成シ實務ニ迂遠ナル學
者ヲ出ス所トナス是レ甚シキ謬見ナリ勿論理科ト文科トニアリテハ其學科
ノ性質上薀奧ナル〓究ヲ重ネサレハ其結果殆ント見ルニ足ラス又大學ヲ卒
業シテ職業トスルモ主ニ學校〓員タルコト歐米各國皆其途ヲ同ウスト雖ト
モ單ニ此二科ヲ以テ一〓ニ論シ去ル可ラス各分科中大學中最大數ノ學生ヲ
有スル醫科大學ハ何ヲ以テ其〓育ノ目的トスルカ其卒業生ノ百中九十九ハ
實地開業又ハ病院ニ奉職スルモノニアラスヤ又學生多數ノ上ニ第二位ヲ占
ムル工科大學ハ如何土木工學ノ如キ機械工學ノ如キ造船學ノ如キ電氣工學
ノ如キ建築學ノ如キ乃至採鑛冶金學ノ如キ皆實地ノ業務ヲ目的トセスシテ
將タ何ヲ以テ其目的トナスカ其他法科大學ノ如キ其大部分ハ官ニ在リテハ
實地行政司法ノ局ニ當リ野ニ在リテハ諸會社銀行等ノ主要機關トナリ又農
科ノ如キモ直接ニ國家ノ實務ト實業トニ當リ大ニ國運ヲ裨益センコトヲ企
圖セサルハナシ今東京帝國大學一覽ニ就キ從來同大學ヲ卒業シタルモノヽ
卒業後就職表ヲ得タレハ之ヲ左ニ揭ケン
卒業生卒業後ノ狀況(明治三十三年九月末調)
種別分科法科大學醫科大學工科大學文科大學理科大學農科大學計
行政官吏三〇八三ニ二三〇1五四二二
司法官吏二九二11111ニカル
宮內官1-1-一
學校職員及〓員ヽ五三九四八七、二四七、一九六九八七七五
官廳技術員1三五三八四-五七二三二七〇八
官廳及地方病院醫員1二二九11-1二二九
官廳獸醫1/111四=里
貴衆兩院議員八1ニニ-1三
辯護士一二1--11一一二
醫術開業者1一六七六1111一六名
獸醫開業1/11二ニ
民間技術侶員員者1四二四1二九九四六二
銀行及會社一八七九1九1八二一三
僧/1一11一
院種生業三五1四一〇一大六六
海大諸學學二八三西一一四二四三四四四三
外留學生-九五三五七一1八九一七一〇九
分科大學研究生-三1二1四
大學學生111三二六
業役科ニ定服スル者-ニ六四一1西
死職兵分未五一三一五四一二一 五五
及小林
亡七三八〇五三÷三〇三九二九五
計△一、三四三七二〇一、〇大五〇九三七七四八六六四五三一
一〇四△三九△一〇七△三八△一大△二八△三三二
五
表中△ハ再出、〇ハ三出ナリ
東京京都二大學校生徒收容豫定人員ト現在生徒及各高等學校法工醫
豫科生徒對照表
收容豫定高等學校收容豫定高等學校
人員{應}現在生徒生徒數人員一煎東京現在生徒生徒數
法厚〇〇二六五一、〇七四醫一一五二四七七三、七〇二
*五〇
工一六六一一五九〇四
八四
抑大學ノ目的ハ實ニ帝國大學令ニ規定スル如ク主トシテ國家ニ須要ナル
學術技藝ヲ授クルニアリテ其蘊奧ヲ攷究スルハ專ラ大學院ノ目的トスル所
ナリ是ヲ以テ大學ハ國家ノ人材ヲ養成スル所ナリ社會ノ上流ニ活動スベキ
一個ノ紳士ヲ造リ將來國家ノ中堅タラシムヘキ所ナリ故ニ獨乙ノ如キ專門
學術ノ淵叢タルノ故ヲ以テ世界ニ有名ナル國ト雖トモ年々大學ヲ卒業スル
モノヽ多數ハ實地ノ世務ニ鞅掌シ若クハ〓職ニ盡瘁スルモノトス英國ノ如
キ佛國ノ如キ大學ノ修學ハ中流以上ニ缺ク可ラサル資格タルノ觀アリ果シ
テ然ラハ大學〓育ノ國家ニ對スル任務ト必要トハ更ニ之ヲ說クヲ要セス
今翻テ我邦大學ノ現狀ヲ觀察シ之ヲ歐米諸國ノ文運隆盛ナルニ比スレハ吾
人ハ轉タ寒心ノ情ヲ禁スル能ハス我邦ハ實ニ歐米諸强國ニ劣ラサル人口ヲ
有シナカラ既設大學ノ數ヲ問ヘハ僅々二ヲ過クル能ハス大學學生ノ數ヲ問
ヘハ二千四百五十餘人ヲ超ユル能ハス之ヲ獨乙佛國墺地利ニ比シテ其十分
ノ一ニタモ及フコト能ハス苟モ〓育ニ心アルモノヲシテ平然默視スルニ忍
ヒサラシム今獨墺英佛伊露米七箇國ノ最近ノ統計ニ據リ人口及ヒ大學生ヲ
比較スレハ左ノ如シ
人口大學學生數人口百万ニ對スル學生一人ニ對スル
學生數人口數
人人人人
五二、二七九、九〇一四〇、二〇〇七七五一、三〇〇
四一、〇五七、三〇四二四、六〇三可九九一、六六九
四〇、五五九、九五四一三、七一一二九六二、九五九
日米露伊佛英墺獨三八、五一七、九七五二六、八九七六九八一、四三二
二八、四六〇、〇〇〇二三、四二七八二二一、二一五
一〇三、六七一、三八五一八、六一八一一九五、五六八
六二、六二二、二五〇六九、三九円一、一〇九九〇八
四三、七六〇、八一五二、四五二五六一七、八四七
又以上七箇國ニ於ケル大學及大學ニ準スヘキ諸學校ヲ舉クレハ左ノ如シ
大學準大學準工科高等專計大學準大學準工科高等專計
大學門學校大學門學校
二九一六四七伊三三三一九四九
墺獨一〇
1六四一六〇露九1八二五四二
英七一〇四二四二米五六1五三三八三
佛一大七三111五八
以上ノ統計ニ據レハ我邦ノ人口一万七千八百四十七人ニ對シテ學生一人ノ
割合トスレハ米國ハ九百八人ニ一人伊太利ハ千一一百十五人ニ一人獨乙ハ千
三百人ニ一人佛朗西ハ千四百三十二人ニ一人墺地利ハ千六百六十九人ニ一
人英國ハ二千九百五十九人ニ一人ノ割合トス之ヲ以テ我國ヲシテ假リニ伊
太利ノ割合ニ匹敵セシメント欲セハ現今二千四百五十二人ノ學生ニ加フル
ニ三万四千餘人ヲ以テセサル可ラス換言スレハ現今學生ヲ增加シテ十五倍
トナササレハ我邦ハ伊太利ト肩ヲ比フルコト能ハサルナリ又之ヲ歐洲最小
國ノ一タル瑞西國ニ比スルニハ其人口ハ三百十一万九千六百三十五人ニシ
テ我邦ノ十分ノ一ニ及ハサルモ其大學數ハ七箇ニシテ其學生數ハ四千六百
四人卽チ殆ント我邦ノ學生數ニ倍ス又之ヲ和蘭ニ比スルニ其人口ハ五百七
万四千六百三十二人ニシテ我人口ノ八分ノ一ニ充タスト雖トモ大學五箇學
生三千四百八十二人ヲ有セリ又人口僅々二百七十一万二千百四十五人ノ人
口ヲ有スル丁抹國スラ尙ホ一箇ノ大學ニ二千餘名ノ學生ヲ有セリ是ヲ以テ
之ヲ見レハ我邦カ歐米諸强國ノ高等〓育ニ比シ現ニ幾十步ヲ讓リ遙カニ其
後ニ瞠若タルコト之ヲ蔽ハントシテ到底蔽フ可ラサル事實ニアラスヤ否吾
人兵力ノ上ニ於テ軍艦ノ多少ニ於テ人口ノ上ニ於テ將タ面積ノ上ニ於テ常
ニ弱國ト侮蔑シ小國ト輕視スル瑞西ノ如キ和關ノ如キ乃至丁抹ノ如キスラ
高等〓育ノ上ニ於テハ遙ニ我邦ノ上位ニアルコト最モ見易キ道理ナリトス
嗚呼曩ニ明治二十七八年後ニ於テ大ニ國威ヲ海外ニ宣揚シ盛ニ諸强國ノ間
ニ暄傳セラレタル我邦ニシテ又客年北京ノ事變ニ際シテ武勇ト軍紀トヲ以
テ列國兵ヲシテ羨望ニ堪ヘサラシメタル我邦ニシテ國家ノ中堅トナリ一國
ノ干城タルヘキモノヲ養成スル任務ヲ帶ヒタル高等〓育ノ設備ニシテ斯ノ
如ク發達幼稚ナルコト斷シテ我邦ノ恥辱ト謂ハサル可ラス之ヲ稱シテ偏武
ノ國ト誹ルモノアルモ我國民ハ敢テ之ヲ辭スルコト能ハサルヘシ偏武焉ン
ソ能ク富國ノ道ナランヤ又焉ンソ國家長久ノ策ナランヤ又焉ンソ能ク永ク
歐米ノ諸强國ニ拮抗對立スルノ道ナランヤ
吾人ハ敢テ歐米諸强國ニ大學〓育ノ隆盛ナル故ヲ以テ其粲然タル光彩ニ眩
盛り其君の時尚希ティンストラックスティックス僅小路通請勿大致
コト僅カニ三十四年
吾人焉ンソ此短日月ノ間ニ泰西諸國ト等一ノ文運ニ達スルヲ得タルモノト
期スルモノナランヤ然リト雖トモ誠ニ眼ヲ轉シテ現今ノ我邦〓育界ノ狀況
ヲ一瞥セヨ大學增設ノ佳眉ノ急務ナルコト昭々トシテ火ヲ觀ルカ如キモノ
アリ抑我邦近年學界ニ於ケル長足ノ進步ニ伴ヒ中學校ノ增加シタルハ實
ニ一驚ヲ喫スルニ堪ヘクルモノアリト雖トモ此多數ノ中學ハ其入學志望者
ノ半數ヲ收容スルコト能ハサルヲ思ハヽ更ニ其設備ノ不足ナルヲ嘆一嘆セ
サル能ハス中學既ニ然リ大學豫科豈獨リ其舊ヲ墨守スルヲ得ンヤ高等〓育
ヲ受ケントスル學生ハ年ヲ逐フテ多キヲ加ヘ旣ニ第六高等學校ノ增設アリ
尙ホ二箇增設ノ計畫アリト雖トモ其設備尙ホ狹小ナルカ爲メニ多數ノ學生
ハ志望ノ學校ニ入ルコトヲ得ス徒ニ數囘ノ入學競爭試驗ニ落第シ三々伍々
岐路ニ彷徨シテ適從スル所ヲ知ラス遂ニ滿腔ノ抱負ヲ空フシ靑雲ノ壯圖ヲ
挫キ快々トシテ前途ノ目的ヲ變更スルアリ或ハ之カ爲メニ意氣沮喪シ甚シ
キハ邪路ニ其一身ヲ誤ルアリ夫レ然リ而シテ大學豫科ノ設備ハ大學ノ設備
ニ伴フテ伸縮スヘキモノニシテ大學ノ設備狹小ナル限リハ到底猥リニ大學
豫科ノ增設ヲナスコト能ハス果シテ然ラハ現今國民ノ氣運大ニ高等〓育ニ
向フテ著々步武ヲ進ムルノ秋ニ方リ英斷一番大學增設ノ計畫ヲ定ムルハ誰
カアッテ之ヲ當然ノコトニアラスト謂ハンヤ既ニ己ニ一方ニ於テ高等學校
ノ增設ヲ計畫スルノ今日ニ方リテ更ニ大學增設ヲ計畫スルハ〓育行政上實
ニ已ムコトヲ得ス放棄スルコトヲ得サル事業タラスンハアラス
大學增設ニ反對ノ說ヲ唱フルモノ或ハ曰ク我邦財政窮厄ノ今日ニ方リ敢テ
大學增設ノ如キ不急ノ事業ヲ計畫スルハ無謀ノ極ナリト或ハ曰ク學界ノ現
狀カ大學增設ヲ促スハ勿論ナリト雖トモ財政ノ實力新規ノ計畫ニ伴フ能ハ
サル今日ニ於テ之ヲ爲スハ本末顛倒ノ施政ナリト大學ノ增設ハ不急カ火急
カ將タ本末〓倒カ首尾貫徹カ吾人ハ玆ニ再ヒ冗辯ヲ反覆スルノ必要ナカル
ヘシ然レトモ財政ノ困難ナルカ故ニ大學增設ノ計畫ヲ爲ス可ラスト謂フモ
ノアルニ至リテハ敢テ一言スル所ナカル可ラス吾人固ヨリ帝國ノ財政ヲ以
テ極メテ豐富ニシテ年々過剩ヲ積ミ其餘裕ノ用途ナキカ故ニ止ヲ得スシテ
之ヲ消費スト云フニアラス然リト雖トモ若シ今日財政困難ノ理由ヲ以テ國
家行政上ノ缺陷ヲ傍觀スルコト恰モ對岸ノ火災ノ如ク國家重要ノ事業ヲ遷
延スルコト恰モ婦女子ノ惡疫ヲ恐ルヽ如クナラハ今後幾百年ノ星箱ヲ閱ス
ルモ年々ノ豫算中特ニ大學增設ニ使用スヘキ金額トシテ吾人ノ用途ヲ待ツ
ノ過剩ヲ見ルコト萬々之ヲ豫期ス可ラス斯ノ如ク財政困難ヲ名トシテ國家
重大ノ義務ヲ等閑ニ附セントスルハ尙ホ貧困ノ故ヲ以テ納稅ノ義務ヲ免レ
ントスルカコトク今日ニ於テ之ヲ怠慢ニ放棄スルハ是レ未來永久ニ義務ヲ
怠ラントスルモノニ外ナラス我邦ハ將來別ニ官設ノ大學ヲ要セスト謂フニ
同シ況ンヤ今日增設ノ計畫ヲナスハ經費ノ之ニ充ツヘキモノアルヘキニ於
テヲヤ
反對論者或ハ曰フ新設或ハ容易ナランモ果シテ能ク永遠ニ之ヲ維持スルノ
資力アリヤ之ヲ帝國大學ニ徴スルニ明治八年度ヨリ三十二年度ニ至ルマテ
費ヤス所ノ千九百九十ハ万六千餘圓ナレハ新設大學モ創立費以外ニ費ヤス
所其幾何ナルヲ知ル可ラスト是レ又大學ノ規模ト財政ヲ辨セサルモノヽ言
ナリ夫レ各國ニ於ケル大學ハ其首府ニ設置セルモノ固ヨリ規模宏大ナリト
雖トモ地方ノモノハ未ダ必スシモ然ラス我東京帝國大學ノ如キモ大學院學
生及ヒ〓科生ヲ合算スレハ其數萬國大學中第二十三ニ位シ之ヲ刪除スルモ
第三十五位ヲ下ラス故ニ大學ノ增設アリトスルモ直チニ東京ノ如キモノナ
ルコト能ハス又之ト同一ノ規模ヲ要セサルナリ今之ヲ各國ノ例ニ考フルニ
世界中最多數ノ學生ヲ有スル佛國巴里ノ大學ニシテ其數一万二千百七十一
人ニ達セリト雖トモ同國「マルセイユ」大學ハ學生僅ニ百七十四名ニ過キス
其他二千以上二千五百以下ノモノ一、千以上ノモノ五、五百以上ノモノ六、
二百五十以下ノモノ三ナリ又獨乙伯林大學ハ一万千三百十二人ノ學生ヲ有
スレトモ「プラウンスベルヒ」大學ハ學生僅ニ六十五人「ロストツク」大學ハ
四百七十五人ニ過キス伯林ニ次キ「ミユンヘン」大學ハ四千三百二十八人
「ライブチヒ」大學ハ三千八百四十九人ナリト雖トモ學生一千ニ滿タサル大
學凡テ九箇アリ伊太利モ最大ノ大學ハ五千以上ノ學生ヲ有スレトモ官立ニ
シテ學生三百ニ滿タサルモノ三箇アリ又私立大學四簡凡テ學生三百ニ滿タ
ス三百以上千ニ滿タサルモノ四箇アリ今廣ク之ヲ全世界大學百七十五箇ノ
中ニ就テ之ヲ考フルニ
一万以上二千五百以上三小計三九
五千以上五千三百以上元四百以上八
四千以上四千以上二九三百以上九
三千以上七小計さ二百以上of
二千五百以上一〇合計一〇三一百以上六
二千以上三八百以上七小計〓
小計只六百以上七合計七二
千八百以上三五百以上五總計一一九
之ヲ要スルニ大學トハ一國中規模設備最モ宏大ナル學校ノ謂ニアラスシテ
其目的トスル所ハ高等ノ〓育府トシテ國家ニ須要ナル人材ヲ養成スルニア
リ大學ノ增設ト設備ノ規模トハ國家財政ノ許スヘキ範圍內ニ於テ之ヲ爲ス
ヘキモノナルヲ以テ財政ノ許サヽル限リハ過失ノ設備アルヘキ理ナク創立
ニ容易ニシテ維持ニ窮迫ズルコト斷シテ之レナカル可キナリ焉ンソ創立ニ
壯美ニシテ半途中絕ノ悲運ニ遭遇スルコトアランヤ
反對論者或ハ以爲ラク地方ニ大學ヲ增設スルハ現存二大學ヲ擴張スルノ經
費少ナキニ如カスト是レ稍〓道理アルノ言ニ似タリト雖トモ畢竟大學ノ性
質ヲ知悉セサルノ愚ニ基クモノナリ吾人固ヨリ現存ノ二大學ヲ以テ寸毫モ
擴張ノ餘地ナシト謂フモノニアラス然レトモ一箇ノ大學ヲ以テ無限ニ擴張
ヘキモノナリト思惟スルハ謬見ノ甚シキモノト謂ハサル可ラス何
ントカレハ大學ノ設備ニパ自ヲ〕定ノ制限アリテ若干ノ學科ハ一級ニ定員
ヲ越ユレハ之ヲ〓授スルコト能ハス又各〓場ニ狹隘ヲ告ケタルトキハ全部
ヲ改築ヌルニアラサレハ到底二三〓室ノ增設ヲ以テ此缺ヲ補フニ足ラサル
ヲ以テナリ歐米ノ諸國ニ比シテ我邦大學〓育ノ遙ニ後レタルコト既ニ縷遠
シタル所ノ如ク我邦現今學界ノ進步ニ大學增設ヲ促スコト既ニ上陳シタル
所ノ如ク吾人ハ到底二三一大學ノ增設ヲ以テ永久ノ滿足ヲ表スヘカラサルニ
方リテ僅々二箇ノ大學ヲ以テ將來無限ノ學生ヲ收容セント圖ルハ是レ恰モ
渺タル小魚ノ大海ヲ呑盡サント企ツルノ類ナラストセンヤ是レ焉ンソ國家
百年ノ大計ナリト謂フヘケンヤ
反對者或ハ曰フ東京ト地方トハ學校ノ設備ヲ同一ニスルモ學生ノ學力ニ優
劣アルコト實際ノ事實ナリト又曰ク有能ノ人物ハ地方ニ行クヲ好マサル
ヲ以テ適任ノ〓師ニ乏シク學生ノ見聞モ自ラ狹隘ニシテ〓究ニ便ナラサル
コトアリト是又理アルニ似テ必スシモ然ラス見ヨヤ欝蒼タル老松ハ磽确ナ
ル岩石ヲ嚙ンテ生長スルニアラスヤ亭々タル蓮花ハ優然トシテ惡臭紛々タ
ル泥中ニ咲クニアラスヤ王侯ノ園中尙ホ雜草ヲ生ジ夜光ノ明壁尙ホ時アリ
テ瑕瑾アルニアラスヤ是ヲ以テ之ヲ見レハ地方ノ大學焉ンソ英雄偉人ノ出
ツルヲ妨クルモノアランヤ東京ノ大學何ソ怠惰郎ノ來ルヲ防クヲ得ンヤ這
般ノ事歐米地方大學ノ事實歷々證シ得テ餘リアル所ナリ若シ夫レ〓師其人
ヲ得サルカ如キハ我邦ノ文化尙ホ幼稚ニシテ未タ充分ノ專門家ヲ出ス能ハ
ザルニ起因スルモノニシテ固ヨリ其地方大學ナルニヨルニアラス然リト雖
モ今日大學增設ヲ計畫スルハ今日大學ヲ完成スルノ謂ニアラズ吾人若シ貸
スニ歲月ヲ以テセハ地方大學ノ完備得テ望ム可ラサルノコトナカランヤ地
方大學焉ンソ始メヨリ徹頭徹尾東京大學ニ劣ルヘシト決定スヘキモノナラ
ンヤ
反對論者或ハ政府ノ大學增設ヲ以テ地方的利害ニ狂奔ストナシ大學增設ニ
ヨリテ生スル利益ヲ享受スルモノハ單ニ大學所在地ニ止マルヘシトナセリ是
亦何ソ思ハサルノ甚シキヤ大學增設ノ目的ハ固ヨリ一方ニ於テハ高等〓育ノ
普及ニアリ各地方ノ子弟ヲシテ故〓ヲ去ルコト遠カラスシテ大學〓育ヲ受
クルノ便ヲ得セシムルニアリ是レ啻ニ我國ノミナラス歐米各國ニ於テモ多
ク此方針ヲ取レリ就中其模範トナスヘキモノハ佛國ニシテ全國ヲ十六個ノ
大學區ニ分チ各大學區ニ一大學ヲ設置セリ此外六個ノ私立分科大學アレト
モ勢力極メテ微々タルモノニシテ到底官設大學ヲ壓倒スルニ足ラス又西斑
牙ハ之ヲ十大學區トナシ路西亞ハ之ヲ九大學區トナシ各大學區ニ一大學ヲ
置クハ佛國ノ制度ニ同シク米國ニモ各州一個ノ州立大學ヲ有セリ獨乙國內
ニ於ケル二十二個ノ大學モ大學區ニ配當シタルニアラサレトモ其起原ヲ尋
ヌレハ皆封建時代ノ諸侯及ヒ國王カ其領土ノ廣狭ニ應シテ設立シタルモノ
ナルヲ以テ畢竟地方的利害ヨリ打算シタルモノニ外ナラス是レ豈全國ニ幾
多ノ管區ニ分チテ師團旅團聯隊等ヲ配置スル軍隊上ノ制度ト毫モ異ナルコ
トアランヤ然リト雖トモ大學ノ普及及ヒ分布ヨリ生スル利益ハ單ニ地方人
士及ヒ學生ニ止マルモノニアラス各大學ニハ各其固有ナル特色アリ長所ア
リ又一種ノ學科ニ有名ナル〓授アリ特ニ此特色ト長所トヲ慕ヒ其〓授ノ講
義ヲ聽カンカ爲メニ交通ノ便ヲ利用シ遠路笈ヲ負フテ遊學スルヲ得ルノ便
アリ小都會ニアリテハ風俗淳樸ニシテ惡習ニ染マサルノ益アリ空氣〓淨塵
埃ニ沒セサルノ利アリ學生徒ニ多數ニシテ學生〓授ノ間若クハ學生間ニ感
情ノ疎隔ナルノ弊ヲ救フノ得アリ是ヲ以テ地方大學ノ學生ハ當該地方ノ子
弟ニ止マルモノニアラス却テ遠國ヨリ遊學スルモノ多キヲ致スノ奇觀ヲ呈
スルコトアリ此現象ハ既ニ現今我邦高等學校ニ就テ見ルモ尙ホ然リ熊本ニ
第五高等學校アリテ尙ホ熊本鹿兒島福岡長崎諸縣ノ學生ニシテ仙臺金澤ノ
如キ遠國ニ笈ヲ負フモノアルニアラスヤ是ヲ以テ之ヲ見ル大學新設ハ强チ
ニ一地方ノ利害ニ狂奔スト速斷ス可ラス反對論者若シ全國ニ交通機關ノ便
アルカ故ニ大學ハ帝都ニ設置スルヲ以テ足レリト謂フモノアラハ吾人ハ方
ニ此交通ノ便アルカ故ニ帝都ノ者尙ホ長處ヲ求メテ地方大學ニ遊學スヘシ
ト謂ハント欲スルモノナリ
反對論者或ハ曰ク新ニ大學ヲ增設スルハ既設ノ私立學校ヲ補助スルノ經費
少クシテ實利多キニ若カスト是レ亦近眼者流ノ詭辯タルヲ免ルヽコト能ハ
ス吾人ハ私設ト官設ト事業ヲ混同スヘカラサルノ理由ハ姑ラク之ヲ說カス
ヨシ反對論者ノ言ヲ許ストスルモ既設ノ私立學校ニシテ大學ニ相當スヘキ
モノ果シテ幾何アリヤ今假リニ大學ヲ以テ自ラ擬ルモノヲ舉クルモ主ニ僅
々法交二科ニ相當スルモノニアラスヤ法文科ハ設備最モ費用少クシテ政府
ノ力ヲ借ルコト少シトスルモ現今最大必要ヲ感スル醫科大學ト相當スル私
立大學果シテ何處ニアリヤ又工科大學ニ匹敵スヘキ私立學校果シテ何處ニ
アリヤ農科大學ニ匹敵スヘキ私立學校果シテ何處ニアリヤ理科大學ニ拮抗
スヘキ私立學校果シテ何處ニアリヤ思フニ此等ノ設備ハ政府ノ力ヲ借ルニ
アハノサレハ十全ヲ期スルコト能ハサレハナリ反對論者ハ單ニ一斑ヲ捉ヘ來
リテ其全豹ヲ律セントス是ラシモ無謀ノ暴言ト名ツケスンハ將タ何ヲ以テ
無謀ノ暴言ト名ク可ンヤ
今假リニ私立學校ヲ以テ設備十分ニシテ大學ニ準スヘキモノアリトスルモ
是皆東京ニ所在スルモノナリ抑〓本邦人ハ動モスレハ百般ノ文化ニ於テ悉
ク帝都ニ集注セシメンコトヲ望ミ地方人士モ切ニ帝都ニ住居センコトヲ熱
望ス若シ高等ノ學術ヲシテ悉ク東京ノ專有物トセハ各地方ハ實ニ學術技藝
ノ上ニ空々如タル形跡ヲナシ急激ニ帝都ノ文明ヲ促スヘキモ地方ハ依然ト
シテ舊套ノ中ニ浮沈スルノ奇觀ヲ生スルニ至ルヘシ是レ國家ノ爲メニ惜
ムヘキコトナリ吾人焉ンソ高等〓育ノ普及ト大學ノ分布トヲ圖ラサル可
ンヤ
吾人豈高等〓育ヲ以テ必ス政府ノ直接設置ヲ待タサレハ得テ完成ヲ期ス可
ラスト謂フモノアランヤ試ニ思ヘ官立大學ノ增設ハ果シテ私立學校ノ發達
ニ對シテ幾何ノ阻害スル處アルカ又思ヘ我邦現今ノ狀態ニアリテ若干私人
ノ資力ニヨリ果シテ莫大ノ費用ヲ要スル理科大學工科大學醫科大學等ニ對
スル充分ノ設備ヲナシ充分ノ藥品器械標本等ヲ購求シ得ルモノアリヤ吾人
又豈私立學校ヲ以テ有爲ノ人材ヲ養成スルコト能ハスト云ハンヤ誰カ又歐
米諸國ノ私立學校ノミナラス我邦ニ於テモ雄偉ノ國士彬々トシテ輩出スト
云フヲ拒マンヤ試ニ反對論者ニ借問ス國家ノ人材ハ悉ク法文二科ニ網羅ス
ルモノナリヤ又官立大學ナレハ愈〓人材ノ養成ヲ杜絕スルモノナリヤ
反對論者或ハ曰フ東京帝國大學慶應義塾専門學校同志社等ハ歷史上自ラ
塩ノ科研ノ方ハルヲ取ス產ヘトモロモ一の他リノストレスの間スノ
期スルカ如キハ本來〓育ノコトヲ解セサルモノト謂フヘキノミト論者ノ愚
モ亦茲ニ至リテ其極度ニ達シタルモノト謂フヘシ論者愚ナリト雖トモ歷史
ハ年月ノ經過ニヨリテ生スルモノナルコトヲ知ラン以上ノ諸學校其歷史長
シト雖トモ未タ四十年ニ充タサルニアラスヤ英國ノオックスフォールト大
學ハ設立以來千年ニ近ク佛國巴里大學伊太利ノホローニヤ大學ハ七百年以
上ノ歷史ヲ有セリ此等ノ諸大學ニ比スレハ慶應義塾ノ歷史是レ何物ソ專門
學校乃至同志社ノ歷史將タ何物ソ凡ソ歲月ハ未來ニ向テ幾千百万年タルコ
トヲ測定スヘカラス吾人ハ此未來永劫ノ星霜中ニ於テ如何ナル歷史モ如何
ニ熱誠ナル精神ヲ作ルモ容易ノコトナリ如何ニ淳美ナル校風ヲモ修養スル
コトヲ得ヘキナリ何ヲ苦ンテ新設ニ先チテ歷史的精神ナキヲ憂ヘンヤ
斯ク論シ來レハ大學ノ增設ハ宇宙ノ大勢ナリ國家ノ急務ナリ政府ノ義務ナ
リ反對論者ノ唱フル所ハ單ニ目前ノ瑣事ニ拘泥スルモノニシテ百年ノ大計
ニ取リテ毫モ顧慮スルニ足ルヘキモノナシ誰カ尙ホ大學增設ヲ以テ不急ノ
事業トナスカ何人カ尙ホ大學ノ增設ヲ以テ無謀ノ策トナスカ何處ニカ尙ホ
大學ノ增設ヲ以テ本末〓倒ノ施設ト謂フモノアルカ
樟腦專賣買制度ニ關スル質問書
右成規ニ據リ提出候也
明治三十四年三月二十日
提出者藤金作贊成者橫山通英
外二十九名
樟腦專賣買制度ニ關スル質問主意書
政府ハ曩ニ帝國ノ特產物タル樟腦ノ供給ヲ調理シ〓テ特別會計ノ財源タラ
シムル計畫ヲ以テ臺灣ニ之レカ專賣制度ヲ施行セリ其結果トシテ歐米市場
ニ於ケル市價ヲ高メ爾來之ヲ維持スルコトヲ得テ事業漸ク其〓ニ就カント
スルニ方リ內地ニ於テハ未タ樟林ニ對スル制度ナク之ヲ放任セルカ爲メ價
格ノ騰貴ニ誘ハレテ濫伐ノ弊ニ陷リ目下ノ勢ヲ以テ進ムトキハ遠カラス數
年來濫伐ノ餘ヲ承ケ僅カニ存スル樟林ヲ全ク荒廢セシムルニ至ルノ恐レア
リ加之近來歐米市場ニ於テ臺灣樟腦ト競爭ノ實ヲ呈シ專賣制度施行以來維
持シ來レル價格ヲ下落セシメ漁夫ノ利ヲ占メラレントスルノ勢アリト聞ク
如斯キハ新領土ニ於ケル專賣制度ノ基礎ヲ危フシ同時ニ帝國ニ於ケル樟林
ヲ絕滅ニ歸セシムル所以ナリ政府ハ如何ナル方針ヲ以テ之ニ處セントスル
カ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=1
-
002・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 是ヨリ會議ヲ開キマス藤金作君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=2
-
003・野間五造
○野間五造君(百四十九番) 會議ヲ御開キニナル前ニ當ッテ、議長ニチヨット
伺ヒタイコトガゴザイマスガ、如何デゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=3
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004・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 何デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=4
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005・野間五造
○野間五造君(百四十九番) 今日ノ會議ヲ御開キニナリマシタコトニ附イテ
念ノタメ議長ノ御意見ヲチヨット伺ヒタイ、今日ノ會議ヲ御開キニナリマシタ
ノハ是マデニナイ異例ノコトヽ考ヘマスカラ、議長ノ御考ヲ伺ッテ置キタイ
ト思ヒマス、議長ハ議長ノ特權ヲ以テ、今日ノ會議ヲ御開キニナッタモノデ
アルカ或ハ昨日ノ未定數ノアッタニ拘ラズ、議長ハ此議場ノ進行ト云フコト
ハ未定數ニ關係ノナイト云フ御考デ以テ、此議場ノ可決ニ依シテ、今日ハ御
開キニナッタノデゴザイマセウカ、此二〓ニ附キマシテ、御考ヲ伺ッテ置キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=5
-
006・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 議長ノ權內ヲ以テ極メタノデアリマス、會期切迫ノ今
日デゴザイマスカラ、祭日ヲ潰シテ此會ヲ開クコトニ致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=6
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007・野間五造
○野間五造君(百四十九番) リレナラバ、昨日此會場ニ御諮ヒニナリマシタ
ノハアレハ何デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=7
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008・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 議長ガ參考ノタメニ聽イタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=8
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009・野間五造
○野間五造君(百四十九番) ソレニ據ッタノデハナカッタノデゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=9
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010・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 左樣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=10
-
011・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十ハ番) 議長、議事ヲ御開キニナッタノデゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=11
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012・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 是ヨリ質問ガアリマスカラ、質問ガ濟デ議事日程ノ議
ヲ開キマス
〔藤金作君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=12
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013・藤金作
○藤金作君(百八十二番) 私ハ玆ニ質問ヲ提出致シマシタ、併ナガラ今日ノ
場合デゴザイマスカラ、之ニ附キ色〓理由ハアリマスルケレドモモウ此文
面ニ大要ヲ盡シテ居リマスカラ巨細ノ演說ハ致シマセヌ、就テ此案ヲ一應
朗讀致シマスレバ大要御承知ニナルコトヽ存ジマス
將來ノ財源ニ關スル質問主意書
政府カ各種ノ增稅案ヲ本期ノ議會ニ提出シタルハ第一北〓軍事費ニ充テ第
二三基金ノ塡補ニ充テ且ツ三十七年度以降ハ之ヲ以テ大學校及高等學校ノ
創設其ノ他ノ新事業費竝ニ公債償還ノ資ニ充テンカ爲メナリ而シテ九州東
北二大學及高等學校ノ創設計畫ハ貴衆兩院トモ均シク其ノ必要ナルヲ認メ
第十四議會ハ既ニ其ノ建議案ヲ可決シタルニモ拘ハラス當局者ハ口ヲ財源
ノ乏シキニ藉リテ容易ニ之カ創設ニ同セサルノ傾キアリ是レ本員等ノ深ク
遺憾トスル所ナリ今ヤ增稅案ハ既ニ可決セラレタリ政府又財源ノ乏シキヲ
理由トシテ之カ創設ヲ怠ルコト能ハサルヘシト雖モ之ヲ既往ニ數スルニ尙
ホ多少ノ疑心ナキ能ハス依テ政府ハ今後十箇年間ニ渉ル經常臨時ノ歲入歲
出ヲ吟味シ繼續費ノ增減等ヲ加除斟酌シ本會期內ニ豫定計畫ノ明細ヲ示シ
正確ナル答辯ヲ與ヘラレンコトヲ望ム
是デ大體ノ趣意ヲ盡シテ居リマスカラ、諸君ニモウ理由ハ詳細述ベマセヌ、
ソレカラ一ツ、是モ餘程必要ナル財源ニ關係アリマスルカラ之ヲ朗讀致シ
マス
樟腦專賣買制度ニ關スル質問主意書
政府ハ曩ニ帝國ノ特產物タル樟腦ノ供給ヲ調理シ兼テ特別會計ノ財源タラ
シムル計畫ヲ以テ臺灣ニ之レカ專賣制度ヲ施行セリ其結果トシテ歐米市場
ニ於ケル市價ヲ高メ爾來之ヲ維持スルコトヲ得テ事業漸ク其緒ニ就カント
スルニ方リ內地ニ於テハ未タ樟林ニ對スル制度ナク之ヲ放任セルカ爲メ價
格ノ騰貴ニ誘ハレテ濫伐ノ弊ニ陷リ目下ノ勢ヲ以テ進ムトキハ遠カラス數
年來濫伐ノ餘ヲ承ケ僅カニ存スル樟林ヲ全ク荒廢セシムルニ至ルノ恐レア
リ加之近來歐米市場ニ於テ臺灣樟腦ト競爭ノ實ヲ呈シ專賣制度施行以來維
持シ來レル價格ヲ下落セシメ漁夫ノ利ヲ占メラレントスルノ勢アリト聞ク
如斯キハ新領土ニ於ケル專賣制度ノ基礎ヲ危フシ同時ニ帝國ニ於ケル樟林
ヲ絕滅ニ歸セシムル所以ナリ政府ハ如何ナル方針ヲ以テ之ニ處セントスル
カ
此趣意デゴザイマス、チヨット政府ニ望ム所、尙ホ一言述ベテ置キタイノハ、
臺灣ニ樟腦專賣ヲ施行セヌ以前ニ於テハ其價格三十八圓-百斤ニ附キ三
十八圓ヨリ四十圓位ノ價格デアッタノガ、今日ニ至リマシテハ乙種ト云フ所ノ
百斤ノ價格ガ八十五圓、ソレヨリ甲種ト云フ方ハ、九十五圓程ノ價格ヲ保ツ
コトニナツタノデゴザイマス、故ニ臺灣樟腦ノ製造ニ附キマシテハ、二百万圓
以上ノ國庫歲入ヲ增加致シテ居リマス而シテ此價格ノ騰貴ニ誘ハレマシテ
內地ノ樟腦製造ヲ大ニ濫造致シマスタメニ、倫敦市場ニ於テハ我臺灣地ノ專
賣樟腦ノ販賣ト、內地ノ樟腦商ト、之ヲ競爭スル譯ニナリマシテ漸ク我日本
ノ特有物產タル樟腦ノ價格ヲ自ラ之ヲ下落セシメ外國人ヲシテ其利益ヲ占
メサスル場合ニ至ラントスルコトデゴザイマス、實ニ是ハ惜ムベキ事柄デア
ルノデゴザイマス、因テ政府ハ速ニ內地ノ樟腦製造ヲ政府自ラ買上ゲテ、其製
造人ニ於テモ大ニ價格ヲ保ッテ、損害ヲ受ケナイヤウニ致シマスト云フト臺
灣ニ於テ製造スル所ノ價格ハ百圓以上ヲ保ツコトハ疑ナイト信ズルノデゴ
ザイマス、今日內地製造ノ樟腦ノ數量ハ、三四十万斤ノ量デアリマスル併ナ
ガラ其三四十万斤ノ品物ヲ以テ、商人ハ五人モ六人モ-一品ヲ以テ倫敦ニ
商ハウトスル者ガ五人モ六人モアリマスカラ、其三四十万斤內地デ出來ルモ
ノガ倫敦ノ商人ニ通信スル所ハ十五万斤モ二十万斤モアルヤウニ見エ
マス是ガ日本國有樟腦ノ價格ヲ、下落セシムル原因ト爲ッテ居リマスカラ政
府ハ成ルベク國有林ノ樟木ヲ拂下ゲ樟腦ヲ製造セシムルコトハ注意シテ
止ムルコトニ政府ニ希望致シマスルノデゴザイマス、而シテ民業ニ屬スル所
ノ樟腦ハ十分高ク買上ゲルコトガ出來ル、卽チ三四十万斤ノ樟腦ヲ政府ガ
引受ケテ、倫敦市場ガ相當ノ價格デ賣ッテ、其手數料ダケヲ引去ッテ買上ゲル
ト云フコトニナリマスレバ樟腦製造人モ大ニ利益ヲ受クルコトニナリ又
一方臺灣ノ專賣所ノ樟腦モ、大ニ利益ヲ得ルコトニナリ、是ハ經濟上非常ノ
利益デゴザイマスカラ、此質問ヲ致スノデゴザイマス、政府ハ其方針ニ附イ
テ速ニ答辯アルコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=13
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014・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) チヨット諸君ニ御諮リスルコトガアリマス、石黑涵一
郞君カラ刑法改正案ノ委員會ヲ開キタイト云フコトデアリマスガ、許シテ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=14
-
015・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ナケレバ許スコトニ致シマス-議事日程ノ第
一ニ移リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=15
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016・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 私ハ此場合己ムヲ得ズ、議事日程變更ノ動議ヲ
致シタイト思ヒマハソレハ實業〓育國庫補助法案デアリマスガ、是ハ昨日
特ニ條件附デ委員ニ付託シタモノデ、是ガ委員ノ調査ガ結了致シタト云フコ
トデゴザイマス是ハ最モ急ヲ要スル問題デゴザイマス、此場合直チニ議事
日程ヲ變更シテ議セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=16
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017・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 恆松隆慶君ノ議事日程變更ニ、御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=17
-
018・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ議事日程ヲ變更スルコトニ致シマス
栗原亮一君
實業〓育費國庫補助法中改正法律案(政第一讀會ノ續(委員長
府提出貴族院送付)報報発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=18
-
019・濱名信平
○濱名信平君(百六十一)一番) 實業〓育費ニ附イテ委員長ノ報告ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=19
-
020・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 濱名信平君
〔濱名信平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=20
-
021・濱名信平
○濱名信平君(百六十三番) 實業〓育費國庫補助法案ノ委員會ハ今日午前
ニ開會致シマシテ政府委員ノ說明モ十分ニ求メマシテ審議ヲ致シマシテ
ゴザイマス、段々今日ノ〓育上ノ實況ヲ承リマスルト一ノ法律ヲ以テ金額
ヲ定メテ置キマスルコトハ奬勵上大ニ差支ヲ生ズル場合ガ事實ノ上ニ見
エマスルヤウナ場合デゴザイマシテ今日ノ實業〓育ヲ奬勵スルト云フ場合
ニ當リマシテハ寧ロ年々其必要ニ應ジテ豫算ニ組ムト云フ方ノ、便アルニ
如カヌト云フコトデアリマス委員モ之ニ同意ヲ致シマスル旁、ニ滿場一致ヲ
以チマシテ、本案ヲ通過スベキモノト議決ヲ致シマシタ、且ツ又御參考ニ申
述ベテ置キマスルガ、此案ハ貴族院ニ於テモ既ニ通過ヲ致シタト云フコト
デアリマスカラ、併テ御報、告ヲ致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=21
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022・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 直ニ二讀會ヲ開カレテ、三讀會ヲ略シテ確定ナ
ランコトヲ望ミマス
(「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=22
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023・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 恆松隆慶君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=23
-
024・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ其通致シマス、直チニ二讀會ヲ開キ
讀會ヲ省略致シマス、全部ヲ議題ニ供シマス
實業〓育費國庫補助法中改正法律案確定議
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=24
-
025・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 委員長報告ノ通リ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=25
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026・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ、委員長報告通確定致シマス、議事
日程ノ第一、明治三十四年度歲入歳出總豫算追加案--栗原亮一君
明治三十四年度歲入歳出總豫算追加案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=26
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027・栗原亮一
○栗原亮一君(六十一番) 三十四年度追加豫算ハ昨日既ニ報告ダケハシテ
アルノデゴザイマスガ、尙ホ追加報告ヲスルコトガアリマスカラ、極簡短デ
アリマスカラ、此席カラ述ベマス、此歲入經常部第二款ノ印紙收入百万圓、
卽チ第一項ニ於テ印紙收入百万圓ト爲ッテ居リマス、ソレハ訴訟用印紙改正
案ガ本院ニ政府ヨリ提出ニナッテ居リマスガ、本院ニ於テ既ニ否決ニナリ
マシタカラ、此歲入ガ消滅スル譯デアリマス、因テ委員會ニ於キマシテハ
消滅シタモノデアリマスカラ、削除シテ出スガ適當ダラウト云フ考デ、此歲
入ノ部ヲ削除シタノデアリマス因テ此豫算第一條ニ於キマシテ、明治三十
四年度歲入追加額百万圓云々トアリマスノガ、此中デ歲入追加額百万
圓此文字ヲ削ル譯デアリマスカラ、此段追加致シテ置キマス
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=27
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028・工藤行幹
○工藤行幹君(六十六番) チヨット此遞信省ノ所管ニ附イテ質問致シマス
ガ、此航路擴張費ト云フノハ是ハドノ港カラドノ港マデ、之ヲ擴張スルト
云フノデゴザイマスカドノ邊マデ航海ヲサセルト云フ積デアリマスカ、凡
ソ御見込ガアラウト思ヒマスカラソレヲ伺ヒタイ
(政府委員遞信總務長官田健治郞君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=28
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029・田健治郎
○政府委員(田健治郞君) 唯今工藤君ノ御尋ニ御答致シマス、是ハ明治二十
九年度カラシテ、九箇年ノ繼續費デ浦鹽斯德線、哥爾薩港線、此二航路ト
申スモノガ卽チ五万圓程ノモノデ補助與ヘテアッタノデアリマス、ソレガ今
度滿チマシタニ附イテ、更ニ航路ヲ變更シマシテ、今度ハ殆ド日本海ヲ周遊
スル譯ニナリマス詰リ馬關ヨリ起リマシテ、山陰道、北陸道、北海道マデ
參リマシテ、滿州ノ方ヘ參ルノデゴザイマス、朝鮮モ加ッテ居リマス、ソレカ
ラ航海度數モ倍ニナッテ居リマス、船舶ノ資格モズット延ベマシタ故ニ十五
万圓ト云フコトニナッタノデアリマス、ソレデ其內此三十四年度ガ六万何千圓
ト云フモノニナルデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=29
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030・工藤行幹
○工藤行幹君(六十六番) チヨットモウ一ツ-凡ソ此北海道ナリ、山陰道
ナリ又朝鮮ナリノ所ヘ寄港スル場所ハ、凡ソ豫定ガアリマスカ、ソレヲ伺
ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=30
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031・田健治郎
○政府委員田健治郞君 豫定ハ馬關カラ始リマシテ、境.宮津、敦賀、伏木、
箱館、小樽、其他ニモ寄ル所ガゴザイマスガ、若シ正確ニ御答ヲ要シマスル
譯ナラバ書類ニ就イテ取調ベタ上、御答ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=31
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032・工藤行幹
○工藤行幹君(六十六番) 後トデ參考トシテ戴キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=32
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033・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 格別御質問ガアリマセズ、大體ニ附イテ御論ガアリマ
セネバ、甲乙全部ヲ議題ニ供シマス
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=33
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034・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 委員長報告通異議ハゴザイマセヌ、直チニ決定
セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=34
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035・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 委員長報告通、御異議ハゴザリマセヌカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=35
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036・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ委員長報告通決シマス-議事日程
ノ二、豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件
二豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=36
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037・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 是ハ前ノ決議ノ結果デ、勢異議ハナイノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=37
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038・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 是ハ全部ヲ議題ニ供シマス、委員長ノ報告ニ御異議ハ
アリマセヌカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=38
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039・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ其通決シマス-議事日程ノ三、明
治三十四年度特別會計歲入歳出豫算追加案特追第一號-是モ全部ヲ議題ニ
供シマス
三明治三十四年度特別會計歲入歲出豫算追加案特追第一號
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=39
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040・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 委員長ノ報告通御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=40
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041・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ナケレバ其通決シマス-次ノ日程四、五、六、
此三ツヲ併セテ議題ニ供スルコトハ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=41
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042・栗原亮一
○栗原亮一君(六十二番) チヨット此際ニ豫算總會ヲ開キマスカラ、退席シ
テ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=42
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043・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 豫算委員長ヨリ豫算委員會ヲ開キタイト云フ請求ガア
リマスガ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=43
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044・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ許スコトニ致シマス-關信之介君
明治三十二年度豫備金支出ノ件(政府提出、承委員長報告
四諾ヲ求ムル件)
五明治三十二年度特別會計豫備金支出ノ件(政委員長報告
府提出、承諾ヲ求ムル件)
六明治三十二年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算委員長報告
支出ノ件(政府提出、承諾ヲ求ムル件)
〔關信之介君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=44
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045・關信之介
○關信之介君(二百八十五番) 明治三十二年度豫備金支出ノ件、明治三十二
年度特別會計豫備金支出ノ件、明治三十三年度特別會計豫備金外ノ支出ノ
件、此三案ニ附イテノ審査會ノ經過及結果ヲ御報告致シマス此三案ニ附キマ
シテハ兩度ノ審査會ヲ開キマシテ各省ノ政府委員モ出ラレヽシテ精細
ナル質問ヲシ、又詳細ナル答ヲ得マシタノデアリマス、其結果全部承諾ヲ與フ
ルコトニ決シマス但豫算外支出ニ於テ政府ニ左ノ希望ヲ述ブルコトニナリ
マシタ、其〓ハ外務省ノ所管ノ中十万九千圓、大藏省所管ノ中六十五万八千
圓、此支出ノ事實ハ巳ムヲ得ザルモノデゴザイマスカラ、承諾ヲ致シマスケレ
ドモ、此豫算外ノ支出ト云フモノハ普通ノ豫備金ト違ッテ、支出ヲ致シマシタ
場合ニハ此最近ノ議會ニ此事ヲ出シテ、承諾ヲ求ムベキモノデアル、然ルニ
既ニ三十二年度ヲモット最近ナル十四議會ニ出シテ承諾ヲ求ムルヲ、今期議
會マデ延シテ、而シテ其年度ノ終了マデ待ッタノハ、不穩當ト認メルニ依ッテ、
此〓ヲ政府ニ注意ヲ與ヘテ置クコトガ、委員會ノ決議デゴザイマス、此段報告
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=45
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046・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 委員長報告通、承諾ヲ與フルコトニ御異議アリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=46
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047・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ其通決シマス、議事日程第七鐵道敷
設法中改正法律案、第一讀會、議案ノ朗讀ハ省略致シマス
七鐵道敷設法中改正法律案(政府提出)第一讀會
鐵道敷設法中左ノ通改正ス
第九條中「金六千萬圓」ヲ「金九千五百萬圓」ニ改メ「明治二十六年度ヨリ十
二箇年間ニ」ヲ削ル
(政府委員大藏省理財局長松尾臣善君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=47
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048・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 本案ヲ提出致シマシタハ第十議會以後鐵道敷設費
ニ於キマシテ三千四百万圓ノ增加ニナッテ居リマスガ豫算ニ於テハ決定
致シテ居リマスルケレドモ法律ニ於テハ未ダ增加ノ決議ニナッテ居リマセ
ヌカラ、此額ヲ增加サレンコトヲ必要ト致シマシテ此案ヲ提出致シマシタ譯
デゴザイマスドウゾ是ニ御協贊アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=48
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049・工藤行幹
○工藤行幹君(六十六番) チヨット御尋シマスガ是ガ、九千五百万圓ガ、何
時ノ年ニドレダケト云フ豫定ニナッテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=49
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050・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 御答致シマス、第十議會ニ於テ八百十万圓餘、十
三議會ニ於テ五百十三万圓餘、十四議會ニ於テ二千百六十八万圓餘增シテ、合
計三千四百九十万圓餘增シテ居リマス、ソレデ元ノ六千万圓ニ三千四百九十
万圓ヲ加ヘテ九千五百万圓ト云フ高ニ致スノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=50
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051・工藤行幹
○工藤行幹君(六十六番) 是カラ募集スルモノニ附イテ·······前ノガ殘ッテ居
ルソレニ加ヘルノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=51
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052・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 法律ニハ六千万圓トアリマス、ソレデ鐵道敷設費
ノ六千万圓餘ニ、今ノ三千四百九十万圓ヲ三度ノ議會ニ於テ既ニ豫算ニ於テ
增加サレタノデアリマスガ、法律ノ方ニ於テハ其金高ガ殖エテ居リマセヌカ
ラソレヲ九千五百万圓ト未ダ訂正ニナッテ居リマセヌカラ、此度法律ヲ改
正シテ九千五百万圓トスルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=52
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053・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 格別御質問モゴザイマセヌケレバ、議事日程ノ八右議
案ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選舉、九名ノ委員ヲ議長ガ指名シテ御異議
アリマセヌカ
八右議案ノ審査ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=53
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054・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ其通致シマス、次ハ第九事業公債條
例法中改正法律案、議案ノ朗讀ヲ省略致シマス、松尾政府委員
九事業公債條例中改正法律案第一讀會
事業公債條例中左ノ通改正ス
第一條中「壹億參千五百萬圓」ヲ「壹億五千萬圓」ニ改ム
〔政府委員大藏省理財局長松尾臣善君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=54
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055・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 本案モ前ト同ジ趣意デゴザイマス、デ事業公債條
例ニハ一億三千五百万圓トゴザイマスガ、其上ニ十二議會ニ於キマシテ六百
四十七万圓、十三議會ニ於キマシテ八百六十三万圓、併テ千五百万圓增加致シ
マシタタメニ、一億三千五百万圓ヲ一億五千万圓ト云フ數ニ、法律ノ訂正ヲ
セラレンコトヲ望ミマスドウカ速ニ御協贊ヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=55
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056・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 格別御質問ガナケレバ、議事日程ノ第十右議案ノ審査
ヲ付託スヘキ特別委員ノ選舉ニ移リマス
十右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=56
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057・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 九名ノ委員ヲ議長ヨリ指名セラレンコトヲ望ミ
マス
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=57
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058・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ其通致シマス議事日程十一馬匹去
勢法案、政府提出、貴族院送付第一讀會ノ續委員長報告佐藤昌藏君
十一馬匹去勢法案(政府提出、貴族院送(委員長)
付第一讀會ノ續(報告
〔佐藤昌藏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=58
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059・佐藤昌藏
○佐藤昌藏君(六十五番) 諸君、馬匹去勢法案委員會ノ經過ヲ御報告致シマ
ス、昨日委員會ヲ開キマシテ、ソレノノ手續ヲ經マシテ、審議ニ取掛リマシ
テゴザリマスガ、政府委員ニ此法律ヲ施行致シマスル手續等ヲ詳細ニ質問致
シマシタ、此法案ハ產馬地方ニ於テハ、二十年前ヨリ大ニ希望シテ產馬組合蓄
產會等ヨリ、此法ヲ施行セラレンコトヲ、當局者ニ向ッテ建議ヲ提出シタコ
トモ屢くゴザイマシタ右樣地方デ希望シタ案デゴザイマス、勿論改良上ニ
モ又成育ニモ、去勢致シマスレバ、大ニ便利ナモノデゴザイマシテ且ツ又
殊更ニ軍事上ニ於キマシテハ、去勢馬デナケレバ實用ヲ爲シマセヌコトハ年
來ノ軍事ニ於テ經驗モ明カニゴザイマス、就キマシテハ委員會ニ於キマシテ
ハ全會一致ヲ以テ、貴族院送付ノ通、可決スベキモノト決シマシテゴザイ
マス本院ニ於キマシテモ速ニ可決ナランコトヲ望ミマスル、尤モ法文ハ
誠ニ簡單デモゴザイマスルシ讀會ヲ省略致サレテ、速ニ贊成アランコトヲ
希望致シマス
〔贊成ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=59
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060・橋元勗
○橋元〓君(百六番) チヨット御尋致シマス、此去勢ヲ行フト云フノハ、馬匹
ヲ所有シテ居ル者ガ、自ラ此去勢ヲ行フノデアリマスカ、又政府ガ去勢ヲ行
フ所ノ或ハ獸醫トカ役人トカ云フモノヲ、或ル期間ニ囘シマシテ、サウシテ其
所有者ニ就イテ、之ヲ行フト云フ趣意デゴザイマスカ、其邊ヲ御承知ナラ一
ツ承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=60
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061・佐藤昌藏
○佐藤昌藏君(六十五番) 其邊ノ所ヲ昨日政府委員ニ質問致シマシテゴザイ
マスルガ、唯今御尋ノ所ハ政府デ專ラ爲サルヽノデゴザイマス、尤モ之ヲ
實施スル場所ヲ一縣ニ附イテ何箇所ト云フヤウナ場所ヲ定メテ、之ヲ實施ス
ルト云フコトデゴザイマス左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=61
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062・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 本案ニ附イテハ讀會ヲ省略スルト云フ動議ガアリマ
シタガ、御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=62
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063・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ナケレバ其通決シマス、全部ヲ議題ニ供シマ
ス-委員長報告通デ、御異議ハアリマセヌカ
馬匹去勢法案確定議
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=63
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064・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ、委員長報告通リ確定致シマス
(恆松隆慶君「緊急動議ガゴザイマス」ト呼フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=64
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065・江藤新作
○江藤新作君(五番) 私ハ此場合一ノ動議ヲ提出致シマスガ、本日ノ日程十
二以下ノ議案ヲ、、明日ニ延シタイト云フ動議デアリマスガ、其理由ハ卽チ十二
ニ載ッテ居リマス瀆職法案、此法案ハ隨分重要ナル關係ノアル法案デアリマ
スガ本日ハ大祭日テアッタタメニ、今日開會セラレルコトヲ知ラズニ議員
ノ中デ際分闕席ガ多イヤウニ、私ハ見受ケマス、故ニ此法案以下ヲ明日ニ延ス
コトニ致シマシテ、本日ハ是デ散會ヲシタイト云フ動議デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=65
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066・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 江藤君ガ今御發言ニナル前ニ玆ニ議事日程變更ノ動
議ガ出テヽ居リマスカラ、フレヲ先キニ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=66
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067・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 私ハ此場合、議事日程ノ變更ヲ求メマスルガ、
ワレハ此日程ニ載ッテ居ル所ノ議員提出ノ案ガ澤山デゴザイマシテ、每日出
シマシテ定數ニ充タヌデ後レテ居リマス最早議會モ切迫デゴザイマス、其案
ダケハ一括シテ議題ト爲シテ、提出者ノ說明ヲ省キマシテ、委員付託ニシテ、
委員ダケヲ議長カラ指名シテ貫ッタラ、大ニ明日中ニ審査ガ出來テ宜カラウト
思ヒマス、ワレカラ以上ハ五番サンノ御說ニ同意スルカモ知ラヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=67
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068・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 恆松隆慶君カラ、玆ニ書付ケテドレ〓〓ノモノヲ一括
トシテ議題ニシタイト云フ動議ガ出テ居リマスカラ、チヨット、書記官ヲシ
テ朗讀サセマス
〔林田書記官長朗讀〕
日程變更ノ動議
政府案議了ノ後日程第十六第十七第二十二第二十三第二十四第二十五第二
十六第二十七第二十八第二十九第三十第三十一第三十二第三十三ノ議案ヲ
一括シテ院議ニ付スヘシ
(「贊成」ト呼ヒ又「委員付託」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=68
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069・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 今ノ恆松隆慶君ノ動議ニ御異議アリマセスカ
(「異議ナシ」ト呼ヒ「異議アリ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=69
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070・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 反對ノ人モアルナラバ、採決ヲ致シマス、恆松隆慶君
ノ動議ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=70
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071・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 多數ト認メマス
十六輸入原料砂糖戾稅法案(栗原亮一君外二名提第一讀會
〓
輸入原料砂糖戾稅法
第一條輸入ノ砂糖ヲ原料トシ政府ノ承認ヲ得テ精製糖及氷砂糖ヲ製造ス
ル者ハ其ノ原料ニ對シ納付シタル輸入稅ニ相當スル金額ノ下付ヲ政府ニ
請求スルコトヲ得
輸入後一箇年ヲ經過シタルトキハ前項ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第二條前條ニ依リ金額ノ下付ヲ請求セムトスル者ハ申請書ニ輸入稅ヲ納
付シタルコトヲ證スヘキ書類ヲ添附スルコトヲ要ス
附則
第三條本法ハ明治三十四年十月一日ヨリ施行シ同日以後輸入稅ノ賦課ヲ
受ケタル原料砂糖ニ之ヲ適用ス
十七蠶絲業組合法案(降旗元太郞君提出)第一讀會
蠶絲業組合法
第一條養蠶ニ從事シ又ハ蠶種、生絲ヲ製造シ仲買若ハ販賣スル者及繭、
屑物、桑葉ヲ仲買若ハ販賣スル者ハ本法ニ依リ組合ヲ設置スルコトヲ得
第二條組合員ハ製造ヲ改良シ販路ヲ擴張シ及組合員ノ共同利益ヲ圖ルヲ
以テ目的トス
第三條組合ハ郡市以上ノ區域ニ依リ其ノ地區ヲ定ムヘシ但シ特別ノ事由
アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四條組合ヲ設置セムトスルトキハ其ノ區內ニ於テ組合員タルヘキ者過
半數以上ノ同意ヲ得テ創立總會ヲ開キ定款ヲ議定シ地方長官ノ認可ヲ受
クヘシ但シ養蠶又ハ蠶種、生絲ヲ製造シ仲買若ハ販賣スル者及繭、屑物、
桑葉ヲ仲買若ハ販賣スル者相合シテ組合ヲ設置セムトスルトキハ各別ニ
過半數以上ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第三條但書ノ場合ニ於テハ地方長官ハ農商務大臣ノ認可ヲ得テ認可ヲ與
フヘシ
第五條農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ地方又ハ地區ヲ指定シテ組合ノ
設置ヲ命スルコトヲ得
第六條本法ニ規定ナキモノニ付テハ重要物產同業組合法第四條但書ヲ除
クノ外之ヲ本法ニ準用ス但シ同法第六條乃至第八條、第十一條及第十六條
ニ於ケル農商務大臣ノ職務ハ地方長官之ヲ行ヒ第九條、第十三條及第十
五條ニ於ケル農商務大臣ノ職務ハ地方長官ヲシテ之ヲ行ハシムルヲトコ得
附則
第七條本法ハ明治三十四年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
第八條重要物產同業組合法ノ規定ニ依リ設置シタル組合ハ本法施行ノ日
ヨリ本法ニ依リ設置シタルモノト看做ス
第九條本法施行以前ニ地方長官ノ認可ヲ經テ設置シタル組合ニシテ本法
ノ規定ニ牴觸セサルモノハ本法ニ依リ設置シタルモノト看做ス
二十二外國語學校擴張ニ關スル建議案(神藤才一君提出)
外國語學校ノ設備タル狭少ニ失シ斯道ノ發達ヲ妨クルノミナラス旋テ國家
ノ進運ニ伴フ能ハサルノ遺憾ナキ能ハス故ニ政府ハ速ニ適當ノ方法ヲ講シ
機關ヲ完備シ其ノ目的ヲ達セシメムコトヲ望ム
右建議ス
二十三農會補助金追加豫算ノ提出ニ關スル建議業(稲垣
示君外二名提出)
政府ハ農會補助金殘額七萬圓ヲ豫算追加案トシテ速ニ議會ニ提出セラレム
コトヲ望ム
右建議ス
二十四農事試驗場水產試驗場國庫補助金追加豫算ノ提出
ニ關スル建議案(稻垣示君外二名提出)
政府ハ各府縣農事試驗場及水產試驗場ニ金四萬圓ヲ支出スルコトヲ追加豫
算トシテ帝國議會ニ提出セラレムコトヲ望ム
右建議ス
二十五花窟神社ニ關スル建議案(栗原亮一君外二名提出)
紀伊國南牟婁郡花窟神社ハ皇祖伊弉册尊ノ御神蹟タルコト國史ニ顯然タ
リ然ルニ此ノ神社ニシテ國家的奉祀ニ漏レタルハ我カ國體ノ尊嚴ニ照シ誠
ニ遺憾ナリトス故ニ政府ハ該神社ニ對シ適應ノ施設アラムコトヲ望ム
右建議ス
二十六元寇殉難者國祭ニ關スル建議案(安部井磐根君外
二名提出)
謹テ惟ルニ我カ國紀元二千五百六十餘年未曾テ外寇ノ侵略ヲ受ケタルコ
トアラス若希有ノ例ヲ史上ニ求ムレハ唯リ文永弘安ノ元寇アル而已抑元
ノ勢力歐亞二洲ヲ蹂〓シ遂ニ支那四百餘州ニ君臨シ南進ノ餘威ニ乘シテ
兵ヲ我カ九州ニ加ヘ將ニ呑噬ノ慾ヲ逞クセムトス此ノ時ニ當リ幸ニ上
聖主アリ畏クモ
玉體ヲ以テ神明ニ誓ハセラレ下北條時宗ノ斷アリ將卒士民赤誠身ヲ致シ義
勇國ニ殉スルアリ以テ克ク此ノ外難ヲ危機一髪ノ間ニ救フヲ得國家之カ
爲ニ獨立ヲ全ス蓋其ノ功績ノ偉大ナル史上豈比スヘキモノアラムヤ今ヤ
時去リ跡遠クシテ人鬼祭ラレス忠魂歸スル所ヲ知ラス唯元寇紀念碑建設
ノ舉ニ對シ曩ニ優渥ナル思賜アリ福岡縣廳ノ保管ニ依リテ基礎工事既
ニ成リ其ノ落成期シテ待ツヘキ也
然リ而シテ其ノ祭祀ノ典ニ至テハ殆ト闕如タリ是忠魂ヲ慰メ國家ノ元氣
ヲ鼓勵スル所以ニアラス今維新前後ノ殉難者ハ悉ク國祭ヲ享ケサルナキ
ニ獨リ元寇殉難者ノ此ノ典ニ與ラサルハ實ニ明治昭代ノ關典ナラスヤ政
府ハ宜ク相當ノ方法ヲ以テ國祭ノ式ヲ定メ永ク追遠ノ奥ヲ舉ケラレムコ
トヲ望ム
右建議ス
二十七家祿賞典祿處分法施行ニ關スル建議案(恆松隆慶
君外十六名提出)
明治三十年法律第五十號家祿賞典祿處分法公布以來既ニ五星霜ヲ經過スル
モ政府ハ未タ此ノ法律ヲ實行スルニ至ラス是全國請願人ノ大ニ遺憾トスル
所ナリ蓋政府ハ該法律施行ノ爲一千萬圓ノ公債ヲ發行スル法律案ヲ帝國議
會ニ提出シテ其ノ協贊ヲ得爾來著々調査ヲ進行シテ既ニ明治三十三年度
ノ豫算中ニ本件公債ノ利子ヲ編入シテ議會ノ協賛ヲ經タルヲ以テ請願人ハ
當時皆其ノ處分決行ノ近キニ在ルヲ認メ私ニ之ヲ喜ヒタリト雖政府ハ今ニ
至ル迄未タ該請願ニ對シテ一箇ノ指令タモ與ヘス請願人等ノ之ヲ遺憾トス
ルハ洵ニ宜ナリト謂フヘシ
本件請願人ノ數ハ頗ル夥多ナリト雖政府ハ其ノ調査ノ爲ニ幾多ノ歲月ヲ費
シタルヲ以テ今後尙其ノ處分ヲ遷延スルカ如キコトアラハ行政怠慢ノ責決
シテ免カルヘカラサルナリ政府若此ノ非難ニ遠サカラムト欲セハ宜ク一日
モ早ク其ノ處分ヲ決行シ以テ多數請願人ヲシテ其ノ堵ニ安セシムル所ナカ
ルヘカラス若全部ノ調査今後尙時日ヲ要スルアラハ其ノ調査ノ既ニ結了セ
シ部分ヨリ漸次處分ニ著手スヘキナリ元來本件ノ請願ハ決シテ彼此相關聯
セルモノニ非ス從テ全部ノ調査未タ結了セサルカ爲ニ既ニ調査ヲ結了セシ
部分ヲ徒ニ抑留スルヲ要セス故ニ此等調査結了ノ請願ニ對シテハ速ニ之カ
處分ヲ決行セラレムコトヲ望ム
右建議ス
二十八千島開發ニ關スル建議案(松岡長康君外二名提出)
千島ハ露領束察加ニ接シ且北米「アラスカ」ト航通スルヲ得ヘキ要樞ニシテ
實ニ北門ノ鎖鑰タリ千島ノ國防上冷々看過スヘカラサルヤ論ヲ竢タス加之
其ノ環海ハ世界有數ノ臘虎、膃肭臍ノ棲息地ニシテ海馬、海豹、鯨鯢、海
豚ノ屬モ亦繁殖シ其ノ他魚族海藻百般ノ海產殆ト存セサルモノナシ特ニ
鮭、鱒、鱈ニ至テハ千島海ノ特產物タリ翻テ其ノ陸上ヲ觀レハ樹木茂生シ牧
畜ニ適シ又礦物ニ富ミ就中硫黃礦ハ無盡藏ノ礦脈ナリト稱セラル而シテ千
島諸島中船舶ヲ碇泊セシムヘキ港灣ニ乏シカラス眞ニ又極北ノ寳庫タリ之
ヲ國防ノ點ヨリ観將タ之ヲ國利ノ上ニ観ルニ決シテ一日モ忽諸ニ付スヘカ
ラサルモノアリ故ニ政府ハ一日モ速ニ全島開發ノ實ヲ舉ラレムコトヲ望ム
右建議ス
二十九公債抽籤償還ノ實施ニ關スル建議案(栗原亮一君
外二十八名提出〕
今ヤ經濟界ノ窮迫ハ殆ト其ノ極ニ達シ資本ノ闕乏產業ノ委靡實ニ甚キヲ致
シ之ヲ救濟スルノ急ヲ告ク依テ政府ハ三十四年度初ニ於テ豫算ノ定ムル所
ニ據リ公債償還金全額ノ抽籤償還ヲ實施シ以テ其ノ急ニ應セムコトヲ望ム
右建議ス
三十補助貨幣ノ改鑄ニ關スル建議案(栗原亮一君外二十
八名提出)
補助貨幣ハ取扱ノ便ヲ主トシ固ヨリ呼價相當ノ實價ヲ有スルモノニアラス
然ルニ我カ國ノ補助貨幣タル銀貨幣及靑銅貨幣ハ其ノ形量共ニ大ニ過キ取
扱ノ不便實ニ甚キヲ以テ其ノ形量ヲ適當ニ減小スルヲ可トス英、獨、米等文
明諸國ノ補助貨幣皆此ノ如クナラサル莫シ其ノ結果造幣益金ヲ增加スル附
帶ノ利益アリ故ニ政府ハ貨幣法ヲ改正シ銀貨幣及靑銅貨幣ヲ改鑄シ其ノ形
量ヲ減小シテ取扱ノ不便ヲ除カレムコトヲ望ム
右建議ス
三十一請願法制定ニ關スル建議案(平岡萬次郞君外四名
提出)
憲法第三十條ニハ日本臣民ハ相當ノ敬禮ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ從ヒ
請願ヲ爲スコトヲ得トアリ然ルニ憲法實施以來旣ニ十年ニ達シタルノ今日
帝國議會ニ對スル請願ノ外未タ其ノ規程ヲ定メス是憲法ヲ尊重スル所以ノ
道ニアラス政府ハ速ニ請願法ヲ設ケ帝國議會ノ協贊ヲ求ムヘシ
右建議ス
三十二宗〓制度調査會設立ニ關スル建議案(天野若
圓君外三名提出)
夫レ宗〓ハ國民ノ思想ヲ支配シ風〓ヲ維持スルモノニシテ國家ニ重大ノ關
係ヲ有スルヲ以テ之ヲ取締ルノ法律ハ最完全ナラサルヘカラス而シテ我カ
帝國ノ宗〓ニ對スル從來ノ省令調令等未タ以テ完備ノ宗〓制度ト爲スニ足
ルモノナシ故ニ政府ハ此ノ際左ノ組織ニ依リ宗〓制度調査會ヲ設ケ最愼重
ニ各宗〓ノ性質習慣等ヲ調査シ完全ナル宗〓法ヲ制定シ以テ宗〓ノ安全ヲ
保護シ千載憾ミナキノ長計ヲ確立セラレムコトヲ望ム
一宗〓制度調査會ハ政府當局者貴衆兩院議員各宗派管長若ハ代表者ヲ以
テ組織ス
右建議ス
三十三埃宮會國庫補助ニ關スル建議案(井上角五郞
君外五名提出)
本院ハ第十三囘帝國議會ニ於テ安藝國ナル多家神社埃宮會ニ對シ國庫補助
金交付ノ建議ヲ爲シタルモ今ニ於テ何等ノ處置ナキハ遺憾トスル所ナリ依
テ政府ハ速ニ相當ノ補助金ヲ同會ニ交付アラムコトヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=71
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072・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 此委員ハ議長ノ手許ニ書イテアル通ニ、議長カ
ラ指名ニナランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=72
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073・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 又恆松慶隆君カラモウ一ツ動議ガアリマス
〔林田書記官長朗讀〕
動議
各案中日程第二十三第二十四ノ二案及第二十九第三十ノ二案ハ同一ノ委員
ニ他ハ各案各別ノ委員ニ付託ス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=73
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074・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 委員ノ數ガアリマセヌガ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=74
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075・恒松隆慶
○恆松隆慶君(百三十六番) 九名宛デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=75
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076・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 今ノ恆松隆慶君ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=76
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077・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 御異議ガナケレバ其通決シマス、今江藤新作君カラ議
事ヲ延スト云フ動議ガ出テ居リマスガ、之ニ附イテ採決ヲ致シマス、江藤新作
君ノ動議ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=77
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078・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 大多數ト認メマス、是ニテ議事ハ延スコトニナリマシ
タ-報〓ガアリマス
〔書記朗讀〕
委員ヲ指定スル左ノ如シ
鐵道敷設法中改正法律案
鹽田忠左衞門君星松三郞君大塚成吉君
高岡忠〓君新開貢君森東一郞君
千田軍之助君重野謙次郞君山田莊左衞門君
事業公債條例中改正法律案
田口卯吉君川定次郞君永田佐次郞君
三輪潤太郞君麻長高坂重孝君大三輪長兵衞君
國重政亮君生太吉君齋藤和平太君
輸入原料砂糖戾稅法案
並河理二郞君田久松君〓愼
正義君有限額有限公司國際會議員岩栗鞍瀨原谷武亮司一君君君
業大內瀧傳十郞君村連君
營業金庫羅
中村彌六君江島久米雄君秋山元藏君
秋保親兼君本西谷金藏君鹽谷條五十五錢
脇阪行三君間直君
宗〓制度調査會設立ニ關スル建議案
天野若圓君佐治幸平君佐々木正藏君
金岡又左衞門君多田作兵衞君野尻岩次郞君
植木致一君關信之介君下飯坂權三郞君
埃宮會國庫補助ニ關スル建議案
木村格之輔君水村誓太郞君飼眞平君
小松喜平治君井上角五郞君齋井犬上信雄八君君
大久保鐵作君中田彌平君藤壽
外國語學校擴張ニ關スル建議案
佐藤〓君根本正君河北勘七君
宮崎榮治君菅原傳君繁成 お
寺田彥太郞君鹽路彥右衞門君久安米川
Bayou
農會補助金追加豫算ノ提出ニ關スル建議案外一件
星野助左衞門君廣瀨貞文君稻垣示君
瀧口歸一君松岡長康君麻生太吉君
秋山元藏君佐治幸平君森川六右衞門君
花窟神社ニ關スル建議案
栗原亮一君土屋平左衞門君小林乾一郎君
中田彌平君齋藤卯八君時中彥太郎君
宮原幸三郞君小松 喜平治君正造君
元寇殉難者國祭ニ關スル建議案
鈴木重遠君松尾又雄君寺田彥太郞君
秋山源兵衞君河口善之助君佐本間〓直君君
熊代慊三郞君平田力之助君藤
家祿賞典祿處分法施行ニ關スル建議案
菊池九郞君多田通君岡本松太郎君
望月長夫君恆松隆慶君灣海巳代治君
高須賀穰君森本確也君順平君
千島開發ニ關スル建議案
竹內正志君廣瀨貞文君赳城君
首藤陸三君鈴木文三郞君小松原田岡田佐藤芳香
三輪傳七君新井章吾君貫一君
公債抽籤償還ノ實施ニ關スル建議案外一件
內山松世君四宮有信君三田村甚三郞君
栗原亮一君君飯島正治君靑柳四郞君
秋岡義江藤新作君靑木正太郞君
請願法制定ノ建議案
須藤善一郞君安部井磐根君
宮原幸三郞君西原〓東君大佐平 安全平均有限公司中華人民幣通代君
西村淳藏君井上信八君
委員長及理事左ノ通當選セラレタリ
町村制中改正法律案
委員長松尾巳代治君理事山田順一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=78
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079・片岡健吉
○議長(片岡健吉君) 明日ノ議事日程ハ公報ヲ以テ御通知シマス、今日ハ是
ニテ散會シマス
午後一時五十三分散會
地方行政ノ紊亂ニ關スル質問ノ參考書
〔參照〕
官紀紊亂ノ事實書拔抄
一官職ヲ利用シ又ハ之ヲ曠廢シテ黨派ノ擴張ヲ爲セリ
其一林農商務大臣ハ職務出張中政友會支部發會式ニ臨ミ黨勢擴張ノ演說ヲ爲セリ
立憲國國務大臣ハ公會ニ於テ政治上ノ意見ヲ發表シ又ハ政黨員トシテ自黨ノ主義方針ヲ演說スル
コトハ之ヲ非難スル價値ナシトスルモ職務出張中政黨ノ集會ニ臨ミ政黨加入ノ勸告ヲナシ公私ヲ
混同スルハ官紀ヲ紊亂シタル大ナルモノトス乃チ林農相ニ關シテハ左ノ事實アリ
農相ハ昨年十一月十日故野官房長松元祕書官ヲ隨ヒ筑豐地方ニ於ケル炭鑛及製鐵事業等ノ視察ヲ
ナス爲メニ出張シ同月十三日同地方ニ到著シ翌十四日ヨリ事業ノ視察ニ從事シタリ然レトモ其歸
京ヲ急キテ各種ノ事業ヲ視ス有志ノ之ヲ求ムルアルモ寸暇ナキノ故ヲ以テ之ヲ避ケ偶〓小倉築港
ヲ視察スルヤ其市長ヨリ地圖ニ就キテ說明ヲ聞キタルノミ農相カ同地ニテ演說シタル要領ニ曰ク
今囘ハ製鐵所及炭鑛視察ノ爲メ出張セシモノニテ寸暇ナキ爲メ各種民間ノ事業ヲ見聞スルコト
ヲ得サルハ甚タ殘念テ御座リマス唯今小倉築港ノ說明ヲ聞クニ豫テ聞キタル如ク關西ニ於テ實
ニ珍ラシキ港灣ヲ得ヘク諸君ノ注意周到ナルヲ謝スル所テアリマス(下略)
斯ノ如ク歸京ヲ急キ筑豐地方ニ在ルコト僅ニ三日間而シテ京阪地方ニ來ルヤ神戶ニ大阪ニ京都ニ
大津ニ止マリ或ハ山縣侯ヲ訪問シテ時事ヲ談シ或ハ大津町ニ於ケル滋賀縣政友會支部發會式ニ臨
ミ又タ京都ニ引返シテ同地ノ政友會支部發會式ニ臨ミ何レモ黨勢擴張ノ演說ヲナセリ其要領ニ日
余ハ農商務大臣タル要務ヲ帶ヒテ過日來九州地方ニ出張セシカ今日歸途京都支部發會式ノ盛大
ナル式場ニ臨ミ黨員諸君ト面會ノ機ヲ得タルハ大ニ滿足スル所ナリ(中略)故ニ諸君カ吾黨ノ責
任カ斯ク重大ナルヲ體シテ以後益く黨務ヲ擴張セラレンコトヲ希望ス(下略)
滋賀縣支部ニ於テモ同樣ノ演說ヲナセリ之ヲ要スルニ九州ニ於テ歸京ヲ急キタルハ滋賀及京都支
部發會式ニ臨ムノ豫約アルカ爲メニ外ナラス(以上九州日報、大阪朝日新聞
大阪每日新聞 其他各新聞
其二末松內務大臣ハ地方長官ノ政黨集會ニ臨ムヲ默許セリ
地方長官ハ最モ嚴正ナラサルヘカラス苟モ政黨ノ集會ニ臨ミ黨務ノ擴張ヲ爲サンカ其弊害實ニ恐
ルヘキナリ而シテ之ヲ監督スル内務大臣ニシテ其行爲ヲ默許シ若クハ之ヲ奬動スルニ至ラハ官紀
ノ紊亂モ極マレリト云フヘシ現内閣成立後往々此ノ種ノ行動ヲ認ム其一例ヲ擧クレハ左ノ事實ア
リ
末松内務大臣ハ昨年十一月三十日東京ヲ發シ新潟縣政友會支部發會式ニ臨ムノ送次同夜長野ニ一
泊シ翌一日長野ヲ發シ新潟ニ向ヘリ而シテ内相カ長野ヲ發シタル翌日ハ長野町ニ於テ長野町ノ政
友會支部發會式アルカ故縣下ノ黨員及縣知事縣高等官ハ内相ノ旅館ヲ訪問シテ協議スル所アリ
愈〓支部發會式開カルヽヤ押川長野縣知事及書記官警部長等モ出席シテ押川知事ノ如キハ其式場
ニ於テ演說ヲナセリ其他靜岡佐賀等ノ各縣ニアリテハ地方高等官ノ陰ニ陽ニ政友會ノ黨務擴張ニ
力スルノ事買ヲ原限シタルコト少シャマス(韓国電気鉄道の駅)
靜岡縣秕政〓要
本縣ハ前任知事小野田元凞前任警部長天野三郞前任參事官折原已一郞竝ニ現任書記官池永端現任警
視永井弘以下各縣官郡吏警察官等ノ猛烈ナル撰擧干涉ニ依リテ自由黨ヲシテ縣會ノ多數ヲ制セシメ
尋テ靜岡農工銀行ヲ乘取ラシメ有ラユル行政機關ハ今日ノ政友會ト同身一體タル有樣ヲ呈シ百般ノ
秕政悉ク之ヨリ釀生セサルハナシ
第土木工事ニ付收賄
本縣土木請負規則ハ公入札ヲ原則トスルニ拘ハラス大小ノ工事擧テ指名入札トナシ其入札者ハ四個
所ノ土木管理區内ニ於テ各五名乃至七名ヲ豫定シ何レモ政友會員若クハ同臭味ノ者ニ限リ決シテ他
派ヲ交ヘス縣參事會員ハ常ニ是等ノ請負業者ト氣脈ヲ通シ彼等ニ請負ハシム可キ工事豫算ハ充分ニ
見積リ決シテ減額セサル代リニ工事費總額ノ一割ヲ黨費トシテ縣參事會員ニ納ム可キコトヲ內約シ
入札ヲ施行スル毎ニ其豫定金額ヲ内示スルヲ以テ落札高ハ〓ネ皆豫定額ノ四五圓安ナラサルハナシ
今一例ヲ擧レハ昨年掛川沼津韮山三中學校ノ建築ハ擧テ東京ノ請負業者木口米吉ト隨意契約ヲナシ
工費約十万圓ノ一割則チ一万圓ヲ納附セシムル代リニ政友會員福島勝太郞カ豫テ借用セル靜岡城外
ノ縣有地ニ七棟ノ官舍ヲ建築セシメタリ其工事ハ已ニ落成シテ知事書記官警部長參事官警視技師視
學官等ノ住宅ニ充テ現ニ居住シツヽアリ目下ハ世評ヲ憚リテ借家ノ體ニ裝ヒツヽアルモ次ノ縣會ニ
於テハ縣費ヲ以テ右ノ各官舍ヲ買上ケシメ其代金ハ政友會ノ收入タルヘキコト殆ント公然ノ秘密ニ
シテ彼我共ニ之ヲ疑フモノナシ此官舍カ假令賄賂ノ代リニ建築シタルモノニ非ラストスルモ方今地
方行政費ノ膨脹實ニ際限ナキニ方リ何ソ各高等官ノ官舍ヲ新築スルノ餘裕アラン乎
第二縣費ヲ以テ政黨募集ノ好餌トナス
道路改良、堤防修繕、避病舎建築、其他勸業衞生等ノ事業中縣費ノ補助ニ係ルモノハ政友會員ヨリノ
出願ニ非サレハ縣官竝二縣參事會ニ於テ之ヲ許可セス補助費支出ノ須要條件トシテ關係町村人民ノ
重立タルモノヲ政友會ニ加盟セシメ且補助額ノ一部ヲ收賄スルヲ常トス縣會ノ多數黨ハ先年此非行
ヲ遂クルノ便宜ヲ計リテ縣參事會委任條件中ニ左ノ如キ重大ナル權能ヲ附加セリ
土木費又ハ土木補助費中個所ノ指定ナクシテ議決シタル豫算ノ支出順序ヲ定ムル事
市町村土木補助費豫算ノ如キハ一切其支途ヲ示サス漠然總額ヲ議定スル事トシ三十四年度ノ土木補
助費ハ二十一万圓ト決定セシカ此金額ハ事業ノ緩急ニ依テ支出スルニ非ラス一ニ各町村人民ノ政友
會ニ加盟スルヤ否ヤ補助費ノ幾部分ヲ黨費ニ寄附スルヤ否ヤニ依テ決定スルナリ其例證ハ本縣下ニ
普シト雖就中顯著ナルハ志太郡葉梨小川和田其他諸村、榛原村白羽御前崎相良吉田諸村、磐田郡天龍
村外數個村、小笠郡佐束下内田諸村、庵原郡小島村外數村、安倍郡〓澤村〓水町三保村賀茂郡仁科村
外諸村ノ人民カ縣費補助ヲ得ンカ爲已ヲ得ス良心ニ背キテ政友會ニ加盟シタル事是ナリ
第三官物ヲ私ス
近年縣有地ヲ貸附ケ拂下ケ又ハ民地ト交換スルモノ少ナカラス而シテ其惠澤ヲ受ルモノハ〓ネ政友
會員ナラサルハナシ畢竟行政官カ黨人ト狎親シテ官物ヲ抛棄スルニ外ナラス其一例ヲ擧レハ明治二
十九年靜岡縣廳ノ正門ヲ作リ門外ノ池沼ヲ埋メテ道路ヲ敷設シタリシカ該池沼ハ安倍郡豐田村外二
十個村用水組合ノ共有物ナリシヲ以テ當時本縣ハ相當ノ手續ヲ盡シテ道路數設ノ承諾ヲ得タリ其後
三個年ヲ經過シテ明治三十三年八月ニ至リ政友會派ノ縣參事會員山田唯吉ハ此道路數地タル池沼三
畝步ノ所有權ヲ用水組合ヨリ讓リ受ケ縣官ト結托シテ右ノ道路敷地ト靜岡城内ノ縣有地畑一段一畝
步トヲ交換ノ不義ノ利益ヲ占メタリ猶ホ同池沼ニ連リタル池沼二段七畝八步ハ政友會員川邊宰兵衞
田宮久五郞兩人之ヲ買取リテ同時ニ縣有地ノ開墾地二町五段六畝二十步ト交換シ是亦不當ノ利益ヲ
占メタリ縣官ト黨人トカ相狎親シテ不義不正ノ利慾ヲ貪ホルコト〓ネ此類ナリ
第四縣費ノ濫用
靜岡縣ノ行政官ハ政友會員ト狎親シテ同身一體ノ如クナレハ同黨人ノ求ムル所ハ之ヲ與ヘスト云フ
コトナシ現ニ縣參事會員山田唯吉ハ安倍川沿岸ノ開墾地十數町步ヲ買入レタルカ之ヲ保護スヘキ堤
防ナキカ爲ニ官營ノ舊慣ナキ所ニ官營堤塘百數十間ノ工事ヲ出願シ直ニ許可ヲ得テ工事已ニ出來シ
右ノ開墾地ハ忽チ數倍ノ價格ヲ有スルニ至レリ大井川沿岸金谷町字鎌塚ノ人民ハ政友會員タルノユ
エヲ以テ民費ノ堤塘ヲ官營堤塘トナシタリ磐田郡豐濱村ノ太田川橋梁ハ二千三百餘圓ノ修繕費ヲ出
願シ却テ三千圓ノ補助金ヲ交附サレ其内三百餘圓ハ醜類ノ賄賂ニ供セラレタリ其他各町村ノ避病舍
建築費等ハ〓ネ實際工費額ヨリモ多ク交附シテ而シテ其剩餘ハ賄賂トナリ其關係人民ハ腐敗シテ政
友會ニ加入スルヲ常トス
第五縣事業ニ關スル收賄事件
本縣ノ政友會員カ縣事業ニ關シテ賄賂ヲ貪ホル事ハ前段ニ略述シタルカ如シ面シテ政友會大會ノ際
ニ同黨員中ヨリ配布シタル彈効狀ハ實ニ之ヲ證明スルモノナリ其要ニ曰ク
大橋某ハ支部黨費ノ寄附ヲ口實トシテ富士天龍安倍大井諸川ノ堤防工事、掛川韮山沼津各中
學校ノ建築工事竝ニ洞道路燒津築堤工事等ニ付各請負人ヨリ工費總額ノ一割以下五分以上ヲ支
部ニ納附セシメ且ツ已レ自ラ五分以下三分以上ヲ收賄シタリ其金額正ニ金五千圓餘ナル可シ
明治三十二年八月縣會議員總選擧ノ際ハ靜岡師範學校附屬物建築請負人ヨリ金五百圓ヲ自由
黨支部ニ寄附セシメタリ
小學校〓科書審査會ニ際シ支部ハ纔カニ金三千圓ヲ得タルモ大橋ハ各審查委員ヘ配分スト稱
シテ金港堂ヨリ三千圓國光社ヨリ千圓秀英堂ヨリ千圓ヲ收賄シタリ
武德會ノ積金一万四千餘圓(警察官ノ威力ヲ以テ廣ク縣民ヨリ募集シタル金)ハ大橋ノ頭取タ
ル遠江共同銀行カ無利息ニテ預リ居レリ
以上ハ政友會ノ内訌ヨリ同臭ノ醜ヲ發キタルモノナレハ勿論虛構ノ讒誣ト見ルヘカラス吾人ノ聽ク
所ニ編テ、前路三土産度のなり吹くせるのには
テ二万八千圓天城墜道工事ニ於テ八千五百圓掛川韮山沼津三中學校建築ニ於テ一万圓天龍大井富士
三大川工事ニ於テ一万圓其他ハ道路改良等ノ各補助費ニ於テ取得セリト稱ス現ニ政友會靜岡支部ハ
同年度內ニ於ケル普通ノ黨費外ニ金三千五百圓ヲ投シテ新聞社ヲ購入シ金三千圓ヲ以テ事務所敷地
ヲ買取シ金二千四百圓ヲ散シテ事務所ヲ建築シ地方ノ政黨支部トシテハ無比ノ費金ヲ要シタルニ拘
ハラス其財源ハ甚タ瞹眛ナルモノアリ以テ其内部ヲ想像スヘシ
第六土木官吏ノ腐敗
本縣行政ノ首脳全ク腐敗シ縣政監督ノ縣會竝ニ縣參事會ハ却テ縣政ノ紊亂者ナレハ其下ニ屬スル官
吏ノ腐敗スルヤ固ヨリ怪シムヲ要セス就中土木吏ノ如キハ殆ント腐敗セサレハ其職ニ居ル能ハサル
有樣ナリ土木請負者ハ旣ニ工費ノ一割餘ヲ贈賄スレハ道路堤防建築物等ノ別ナク其工事自カラ粗略
ニ流ルヽハ自然ノ結果ニシテ而シテ土木吏モ亦其内情ヲ知ルカ故ニ嚴重ナル取締リヲ爲スニ由ナク
却テ不正ノ饗應贈物ヲ受ケテ不正工事ヲ默認スルコトアルハ隱レナキ事實ナリ凡ソ一工事アレハ當
業者ハ〓ネ工費ノ二十分一ヲ監督吏ニ贈進スルヲ以テ通例ナリト稱スルニ至レリ故ニ本縣下ニ在テ
ハ「昔ハ收稅吏今ハ土木吏」ノ語アリ俸給薄クシテ奢侈贅澤ナルモノ土木吏ノ上ニ出ルモノナカル
ヘシ甚タシキハ賄賂ヲ受ケテ民堤ヲ官堤トナシ或ハ使用セサル人夫ノ賃銀ヲ騙取シ或ハ請托ニ因テ
不急ノ土木ヲ起スノ陋弊舉テ數フヘカラス而シテ土木吏カ一般ニ黨派的感情ヲ以テ工事ノ緩急前後
ヲ定メ之カ設計ヲ爲スコトハ殆ント公然ノ秘密ナリ
第七以公殉私ノ陋弊
舊自由黨靜岡支部ノ幹事山岡〓三等ハ昨年ノ春頃米國移民事業ヲ企テ同派ノ町村長數名ト密謀シテ他
府縣ノ勞働者俄カニ本縣ニ轉籍シタルカ如ク戶籍ヲ僞造シ何レモ農工業視察ノ目的ナリト詐リテ海
外渡航免狀ノ下附ヲ出願シ昨年二月中旬ヨリ三月末ニ至ル迄ニ一千二百余名ヲ米國ニ渡航セシメ之
ト同時ニ遠藤爲吉ナルモノモ亦別ニ一會社ヲ組織シテ四百余名ヲ渡航セシメタリ其戶籍僞造竝ニ免
狀詐取ノ方法タルヤ極メテ淺薄ニシテ少シク心アルモノハ一見詐術ヲ看破スヘキニ拘ハラス有方ナ
ル自由黨員ノ所業ナルヲ以テ小笠郡長板垣昌德庵原郡長星田茂幹等ハ何等ノ取調ヲ爲サスシテ其不
都合ナキ旨ヲ證明シ當時ノ警部長天野三郞保安課長永井弘等ハ渡航者ノ身元ヲ取調フヘキ職守ニ在
リナカラ是亦タ調査ヲモ爲サスシテ不都合ナキ旨ヲ認メ當時ノ小野田知事池谷書記官折原參事官等
ハ固ヨリ山岡〓三ト同臭味ナルヲ以テ容易ニ彼等ノ顯書ヲ容レテ千有余名ノ戶籍僞造者ニ海外渡航
免狀ヲ授ケタリ然ルニ本年四月ニ至リ海外渡航ノ願書中ニ私書竝ニ私印ノ僞造物アルコト發覺シ延
テ戶籍僞造等ノ犯罪續々暴露シタルモ當時本縣高等官中ニハ山岡〓三等ヲ庇護セントスル者多ク且
ツ重立タル政友會員ノ運動アリシヲ以テ久シク此ノ一大罪犯ヲ陰蔽シ居タリ然ルニ偶マ靜岡市選出
代議士ノ候補者爭ヒアリ縣官ハ悉ク政友會員松本君平ヲ推薦セントシ山岡〓三ハ同黨員福島勝太郞
ノ有力ナル參謀ナリシヨリ警視永井弘ト山岡〓三トノ間ニ衝突起リ其結果永井警視ハ斷然山岡ヲ排
除セント欲シ遂ニ惡事露見ノ後四個月ヲ經テ昨年八月二十五日檢事局ニ向テ告發スル事トナリタリ
其結果參事官折原已一郞モ亦詐僞受免狀知情下附ノ刑事被〓トナリ小野田天野油永永井以下多數ノ
縣官郡長等モ亦數々法官ノ取調ヘヲ受ルニ至リ山岡折原等ノ豫審既ニ終結シテ來二月十三日ヨリ公
判ヲ開クノ運ヒトナレリ抑モ斯ノ如キ大獄起リタルハ畢竟縣官カ黨人ト狎親シテ其私曲ヲ助クルノ
陋弊ニ基因スト云フモ敢テ誣言ニ非ラス
第八警察ノ腐敗
本縣警察官ハ曩ニ縣會議員ノ總選擧ニ際シ極力自由派ヲ助ケテ選舉ニ干渉シ縣官ト自由派ニ對シテ
大ナル功勞アリ爲ニ其勢力强大ニシテ靜岡警察署長ノ如キハ首トシテ官宅ヲ建築セシメ警視カ縣下
政友會ノ樞機ヲ握リテ勢力知事ヲ壓スル程ナルモ博徒浮浪人等ハ警官許狎親シテ毫モ警察官ノ威力
行ハレス常ニ博徒ト交際シテ彼等ノ贈物ヲ受ケ賭博ヲ默許スルガ爲ニ賭博ノ流行今日ヨリ甚タシキ
ハナク甚タシキハ小學校ノ兒童モ亦之ヲ弄スルニ至レリ賭博犯ノ現行者カ政友會ニ加盟シ賄賂ヲ贈
リテ放免サレタリト稱シ或ハ每月定額ノ金ヲ納メテ賭博スルモノアリト傳ヘ怪說紛々タリ
現ニ靜岡警察署詰ノ刑事巡査タリシ枝英一郞ハ濱松警察署在勤中博徒ヨリ金五十圓ヲ收メテ其罪跡
ヲ隱蔽シタリト告發セラレ證據不充分ニテ免訴サレタリ又警視兼靜岡警察署長永井弘ハ娼妓廢業防
遏ニ關スル收賄竝ニ火災ノ火元隱蔽等數件ノ〓發ヲ受ケシカ確乎タル證據ナキ爲ニ不起訴トナリシ
モ醜業者ノ內談ヲ受ケテ娼妓廢業運動ノ妨害ニ關係シ且ツ此不正運動ノ報酬受授ニ關係シタルコト
ハ永井弘ト共ニ併セテ告發サレタル菅野道親内田勉平兩人ニ對スル左ノ裁判宣〓文ニ徵シテ明白
ナリ
(宣〓書ハ稅政補遺ニ載スルヲ以テ略ス)
之ニ依テ之ヲ觀レハ永井警視ハ醜業者等ニ對シテ娼妓廢業ノ防止ヲ菅野內田兩氏ニ依賴スルコトヲ
是認シ且ツ報酬トシテ金五百圓ヲ贈ルコトヲモ至當ト認メ其ノ贈金方法ヲ指圖シタルコト明白ナリ
假令永井自カラ賄賂ヲ手ニ觸レストスルモ此ノ如キハ行政官トシテ爲スヘカラサル事ヲ爲シタルモ
ノト謂フヘク且ツ之カ爲ニ暴漢ヲ使嗾シテ宣〓師米人バンダイク竝ニ瀬川彌久茂ヲ白晝公然毆打ス
ルモノアルニ至リシハ公權濫用ノ極ト云フ可シ
本縣警視永井弘カ警視ニ陛任サレタル時舊自由黨支部ヨリ金時計ヲ贈リ萱野道親ハ縮緬一反竝ニ仙
臺平ノ袴ヲ贈リタルカ永井ノ部下ニ屬スル權田渡邊兩警部ハ縣下一般ノ警官ヨリ月俸ノ百分ノ五宛
ヲ醵出セシメ其他料理店宿屋質屋貸座敷業者博徒等ヲ初メ平生警察ノ取締リヲ受ル者ヨリ應分ノ寄
附金ヲ募リ現金三百七十餘圓ハ收納シ此外五六百圓ノ未納金アリシカ永井ハ其後俄カニ之ヲ辭退シ
前記ノ金時計縮緬袴地等ハ之ヲ贈主ニ返却シ寄附金ノ未納ナルモノハ其拂込ミヲ謝絕シタリ然レト
モ現金三百七十餘圓ヲ前段ニ述タル刑事被〓人枝英一郞竝ニ巡查高梨米太郞兩人ノ名義ニテ靜岡銀
行ニ預ケ入レ後日永井カ轉任免官等ノ場合ニ之ヲ贈ル事トナシタル事ハ爭フヘカラサル事ニテ此事
件ヲ記述シタル靜岡民友新聞ニ對スル權田渡邊兩警部ノ取消請求書ニ據ルモ其一般ヲ知ルヲ得可シ
取消請求書
明治三十三年十二月二十五日貴社發行民友新聞第二千七百六十七號雜報欄內警察ノ貯金ト題シ左
ノ記事アリ
是ハ今囘ノ〓發事件ニハ直接ノ關係ナキモ間接ニハ餘程重大ナル關係アレハ玆ニ記サンカ永井
弘氏カ警視ニ陞任セシ時自由黨支部ヨリハ金時計ヲ贈リ菅野氏ヨリハ縮緬一反竝ニ仙臺平ノ袴
ヲ贈リタルモ共ニ返却シタル事ハ既報ノ如シ然ルニ其頃權田警部等主任トナツテ永井氏ニ陛任
紀念品ヲ贈呈セントテ縣下一般警官ヨリ月俸ノ百分ノ五宛ヲ醵出セシメ其他料理店宿屋質屋貸
座敷業者傅徒等ヲ初メ平生警察ノ取締ヲ受ル者ヨリ應分ノ寄附金ヲ募リ現金三百七十餘圓ニ達
シタル頃此ノコト知事警部長等ノ耳ニ入リ事態穩ナラストテ差止ラレ永井氏モ亦辭退シタル由
云々
右記事中料理店宿屋質屋貸座敷業者博徒等ヲ初メ平生警察ノ取締ヲ受クル者ヨリ應分ノ寄附金ヲ
募リ云々トアレトモ是等ノ者ヨリ寄附金ヲ受ケタル事無之又知事警部長等ノ耳ニ入リ事態穩カナ
ラストテ差止メラレ永井氏モ亦辭退シタリ云々トアレトモ右ハ大ニ相違セリ其事實ハ永井署長
醫視ニ陛任紀念品ヲ贈ラント各警察署長ニ計リ各自應分ノ金員ヲ醵集中永井署長ノ耳ニ入リ其厚
意ハ謝スル處ナルモ紀念品ハ受理セスト謝絕セラレタルニ付醵集金員處分方更ニ警察署長分署長
ニ商議セシ處他日永井署長カ本縣ヲ去ルカ如キコトモアラハ其送別會ノ費用ニ充ツヘキニ付暫ラ
ク保管シ吳レトノ依賴ニ付當時ノ警部長ニ事情ヲ報告ノ上本官等ニ於テ之レヲ保管スルコトヽナ
リ靜岡銀行ニ預ケタルモノニシテ知事警部長ヨリ差止メラレタル事實無之候間此全文ヲ揭ケ御取
消相成度候也
靜岡警察署詰
明治三十三年十二月二十五日警部權田悅三郞
警部渡邊董次郞
靜岡民友新聞社御中
右ノ請求書ニハ警察官以外ノ寄附金ヲ募集シタル事ナシト稱スルモ現ニ前段ニ述タル刑事被〓ノ
一人タリシ内田勉平ヲ初メトシテ普通人民ノ寄附金甚タ多シ又タ取消請求書ニハ金品ノ謝絕ヲ以テ
永井弘ノ眞意ニ出タル如ク述フルモ是レ甚タ笑フ可キ遁辭ナリ永井ニシテ眞ニ金品ヲ受ルノ心ナク
ンハ其部下ノ警部巡査等カ東奔西走シテ一千圓ニ近キ寄附金ヲ募集スルヲ初ヨリ禁止セサル理ナシ
況ヤ既納ノ現金ヲ靜岡銀行ニ貯蓄セシメ置クノ道理アルヘカラサルナリ
靜岡縣警察官ハ殆ント全ク政黨募集員ナリ靜岡市一千餘名ノ政友會員ハ〓ネ永井警視ノ手ニ依テ募
集サレタリ宿屋質屋消防夫等ヲ初メ警察ニ直接間接ノ關係アル者ハ大〓入黨セサルハナク永井警視
ハ之ヲ祕セスシテ却テ人ニ誇リ居レリ而シテ同人カ松本君平江間俊一影山秀樹大橋賴摸等ヲ初メト
シ政友會ノ重立タル黨人ト常ニ相往來シテ料理屋ニ會飮スルコトハ人ノ之ヲ知ラサルモノナシ左レ
ハ縣下各地ノ警官皆之ニ働ヒ殆ント政黨運動者ノ先驅タリ
本縣警察ノ腐敗ハ實ニ其ノ絕項ニ達シ小笠郡掛川警察署ノ如キハ現ニ遊廓ノ中央ニ在リ前後左右悉
ク醜業者ノ中ニ在リテ風紀ヲ取締リ治安ヲ保持スルノ重要ナル警務ヲ執リ居レリ又タ靜岡警察署ハ
失火者カ失火ノ屆出ヲ爲シタルニ之ヲ却下シテ其火元タル貴任ヲ道レシメタリ而シテ其理由ヲ詰レ
ハ發火ノ原因不明ナルカ故ナリト稱シテ其ノ旨ヲ永井警視ノ名ヲ以テ新聞紙ニ公ケニセリ蓋シ失火
者ハ市中重立タル政友會員ナリ此ノ如キ事實ハ眞ニ枚擧ニ遑マアラス
第九農工銀行ノ黨弊
前任知事小野田元凞ノ在職中靜岡農工銀行ノ定款ヲ改正シテ取締役三年ノ任期ヲ二年ニ短縮シ强テ
役員ヲ改選シテ悉ク自由派ヲ撰任シタル以來(同行ノ株主發言權ハ無制限ニシテ五万票ノ中一万五
千票ハ縣知事ノ有タリ)同行ノ事務員ハ悉皆小使ニ至ルマテ自由黨ニ加盟セシメ其代リ一同俸給ヲ
引上ケタリ斯ク行內同臭トナリテ以來縣金庫ハ〓ネ自派ノ銀行ニ之ヲ移シ預金ハ悉ク同臭ノ銀行ニ
於テシ黨員若クハ其ノ手ヲ經サレハ如何ニ正確ナル事業ニ對シテモ容易ニ貸出シヲ爲サス之ニ反シ
テ自黨員ヘハ脆弱ナル抵當違法ノ使途ニ對シテモ云フカ儘ニ貸出シ且ツ密カニ資金ヲ運轉シテ株主
ノ知ラサル利益ヲ貪ホルモノ甚タ多シ而シテ農工銀行ノ金ヲ借ラント欲セハ必ラス政友會ニ入黨
シ竝ニ多少ノ賄賂ヲ要スルコト廣ク縣民ノ知ル所ナリ今其一例ヲ擧レハ前條ニ述タル自由派ノ縣參
事會員山田唯吉カ官營ノ確證ナキ所ニ官營堤塘ヲ築造セシメタル安倍川沿岸ノ牛妻開墾地ニ對シテ
ハ薄弱ナル抵當ニ對シテ金五千圓ヲ貸附ケタリ同地ノ開墾ハ如何ニ多ク見積ルトモ一千五百圓ヲ出
テサル事業費タリ然ルニ五千圓ヲ貸附シテ少クトモ三千餘圓ハ他ノ事業ニ放資セシメタル如キ明カ
ニ農工銀行法違反タリ又タ貸附金ノ爲ニ政友會ニ加盟セシメタル實例ハ殆ント屈指ニ遑マアラス
前在頭取井上彥左衞門ハ同行ノ建築地トシテ當市ノ要樞ニ適當ナル地所ヲ購ヒ置タリ然ルニ現任頭
取影山秀樹ハ該地ノ民家ニ數百金ヲ與ヘテ立退カシメ其家屋ト地所トハ之ヲ同臭ノ新聞靜岡新報社
ニ貸與シ且ツ政友會靜岡支部ニ向テ該地所ヲ賣却シタリ而シテ同行ハ在來ノ位置卽チ城外ノ縣有地
ニ新築スル事トシ目下政友會支部ノ一隅ニ同居シテ政黨員ノ出入頻繁ナル所ニ在リテ農工ノ金融事
業ヲ司掌セリ天下何レノ國カ銀行ト政黨トノ一家ニ同居スルモノアラン乎實ニ靜岡農工銀行ハ遊廓
ノ醜業者ト軒ヲ竝フル掛川警察署ト好一對ノ奇觀ナリ
旣ニ政黨ト同棲スル程ナレハ其ノ政黨ノ爲ニ盡力スルハ固ヨリ明白ナル事實ニシテ靜岡農工銀行ハ
本縣警察ト共ニ政友會ノ二大機關タリ其ノ貸附上ニ於テ政黨員ヲ募集スルノミナラス各銀行半季決
算報告ノ如キハ必ラス同派ノ新聞靜岡新報ニ廣〓センコトヲ勸メ若シ反對派ノ新聞ニ廣〓セハ今後
ノ取引ヲ拒絕セントノ脅迫的檄文ヲ迴シタルコトサヘアリ本縣農工業ノ最大金融機關カ斯ル陋弊ニ
陷リタルヲ見ナカラ其監理者タル本縣書記官竝ニ大藏省ノ當局者カ默々看過スルハ〓嘆ノ至リナリ
第十自治制破壞
安倍郡長田村ハ憲政本黨ノ多數ヲ制スル自治區ニシテ昨年九月自由派ノ村長福地賢吉ハ縣會議員ノ
候補者トナランカ爲ニ辭職シ進步派ノ助役增田善右衞門其後任ニ當撰シテ監督官廳ノ認可ヲ申請シ
タルニ監督官ハ一年餘六箇月ヲ經タル今日ニ至ルマテ何等ノ指令ヲモ與ヘス然ルニ助役增田善右衞
門モ亦昨年四月ヲ以テ辭職シタレハ自治區ノ行政機關全ク停止シ安倍郡書記中里憲カ臨時ニ村政ヲ
管掌シ居タリ其ノ後監督官ハ村民中ヨリ自由派ノ梅原乙松ヲ村長臨時代理ニ撰任シタリ爾來村會ヲ
開クコト十數囘ニ及フト雖モ今猶ホ村長ノ公選ヲ爲サス之ヲ監督官廳ニ促セハ監督官ハ言ヲ左右ニ
シテ村長竝ニ助役ノ公撰ヲ許サス蓋シ同村々會議員ノ多數ハ憲政本黨員ナルヲ以テ公撰ノ結果ハ必
ラズ同派中ヨリ村長竝ニ助役ノ撰出サレンコトヲ恐レ村會議員改撰ノ後ヲ待チテ徐ロニ政友會派ヲ
村吏ニ擧ゲントスルニ外ナラス本縣行政官カ黨派心ノ爲ニ自治制度ヲ蹂躪シ人民ノ公權ト公益トヲ
妨害スルノ實例甚タ寡カラスト雖煩雜ヲ嫌フカ故ニ只タ其一例ヲ擧ル而已
靜岡縣秕政〓要錄補遺
靜岡縣下未曾有ノ稅政ハ縣會議員總選擧ノ大干涉ニ依テ其端〓ヲ啓キ爾來行政官吏ト政友會員相狎
親シテ縣政ヲ紊亂シタル事、土木工事ニ付テ巨額ノ賄賂ヲ貪ホル事、道路堤防〓育勸業衞生等ノ公共
事業ヲ以テ政黨擴張ノ好餌トナス事、縣有地ヲ黨人ニ濫授シ縣費ヲ黨人ノ爲ニ濫費スル事、土木官吏
腐敗シテ賄賂公行スル事、警察腐敗シテ社會ノ秩序紊亂スル事、警察官吏カ私事ノ爲ニ公然寄附金ヲ
募集シタル事、農工銀行カ政友會事務所ニ同居シテ其機關トナリタル事竝ニ縣官郡吏ノ黨派心ヨリ
自治制ヲ破壞シタル事ノ〓要ハ曩ニ聊カ陳述スル所アリタリ然ルニ今ヤ縣政紊亂ノ確證トシテ爭フ
ヘカラサル公文ヲ得タレハ左ニ之ヲ列擧シテ憂國ノ志士ニ訴フル所アラントス
移民事件ノ大獄
舊自由黨靜岡支部幹事山岡昂三等ハ昨年ノ春頃米國移民事業ヲ企テ當時ノ本縣知事小野田元凞同警
部長天野三郞、同書記官池永端、同參事官折原已一郞等ト數く會合シテ渡航免狀下附ノ手續ヲ簡便ナ
ラシメンコトヲ委囑シ一方ニハ同臭味ノ町村吏五名ト密謀シテ和歌山、廣島、岡山、熊本、山口、大阪
其他各府縣ノ勞働者ヲ其管轄五箇町村内ニ轉籍シタルモノヽ如ク戶籍ヲ僞造シ何レモ農業視察ノ目
的ナリト詐稱シテ海外渡航免狀ノ下附ヲ出願シ當局者ハ何等ノ調ヘモ爲サスシテ云カ儘ニ免狀ヲ下
附シ昨年二月中旬ヨリ三月末ニ至ル四十餘日内ニ一千二百餘名ヲ米國ニ渡航セシメタリ之ト同時ニ
遠藤爲吉ナルモノモ亦別ニ一會社ヲ組織シ同一手段ヲ以テ四百餘名ヲ渡航セシメ共ニ巨額ノ利益ヲ
攫取シタリ當時米國ニ於テハ日本勞働者ヲ排斥シ之カ上陸ヲ拒絕スルノ通牒アリ我外務省モ亦之カ
取締ヲ嚴ニスル折柄ナレハ當局官吏ハ其旨ヲ奉シテ法規ヲ勵行シ渡航出願者ノ身元ヲ詳細調査ス
ルハ勿論果シテ商工業視察ノ資力アルヤ否ヤヲ取調ヘ而シテ後ニ許否ヲ決スルハ當然ノ職務ナリ然
ルニ本縣知事以下各縣官ハ豫テ山岡等ト狎親シ居ルヲ以テ小笠郡長板垣昌德、庵原郡長星田茂幹、安
倍郡長松井良哉等亦專ラ山岡等ノ便宜ヲ圖リ容易ニ僞造月籍ニ證明ヲ與ヘテ願書ヲ取次キ警部長天
野三郞、保安課長永井弘等ハ直接關係ノ職守ニ在リナカラ是亦何等ノ調査ヲ爲サス一千數百通ノ願
書ニ接スル每ニ卽日不都合ナキ旨ヲ證明シ小野田知事、池永書記官、折原參事官等ハ固ヨリ同臭味ナ
レハ悉ク盲判ヲ捺シテ一日五六十通乃至二百餘通ノ渡航免狀ヲ下附スルニ至レリ特ニ甚タシキハ小
笠郡和田岡ノ一村内ヨリ二百七十七名ノ海外視察渡航出願者アルニ際シ苟クモ常識アルモノハ一見
シテ其詐欺手段アル可キヲ發見スヘキニ郡長モ之ヲ怪シマス保安課長警部長モ之ヲ不都合ナシト
認メ知事書記官參事官モ容易ニ之ヲ許容シタル如キハ如何ニ本縣ノ行政カ紊亂セルカヲ見ルニ足
ラン
同年四月ニ至リ本縣ノ一屬吏ハ渡航顧書中ニ私書私印ノ僞造物アルコトヲ發見シ從ツテ戶籍僞造等
ノ犯罪續々發覺シタルモ當時ノ高等官ハ飽マテ山岡〓三等ヲ庇護セント欲シ且ツ同黨中有力者ノ運
動アリシカ爲ニ久シク一大犯罪ヲ隱蔽シタリ然ルニ偶マ靜岡市撰出代議士ノ候補者爭ヒアリ縣官ハ
悉ク政友會員松本君平ヲ推薦セントシ山岡〓三ハ同黨員福島勝太郞ノ有力ナル參謀ナリシヨリ自然
其ノ間ニ衝突起リ內訌ノ結果山岡等ハ終ニ惡事露見ノ後四箇月ヲ經テ同年八月二十五日檢事局ニ向
テ〓發サルヽニ至リ參事官折原巳一郞モ亦詐僞受免狀知情下附ノ刑名ヲ蒙リ小野田、天野、池永、永
井以下多數ノ縣官郡長等數3法官ノ取調ヘヲ受ケ豫審已ニ終結シテ去ル二月十三日ヨリ公判開廷シ
今マ猶其進行ニ在リ豫審決定書ハ卽チ左ノ如シ
元自由黨靜岡支部幹事
輕罪山岡〓三
元自由黨新聞記者移民會社事務員
同小杉彥作
移民會社事務員
同山田今吉
同
同山田彌平治
同
同小澤周平
庵原郡飯田村長
重罪高橋正昇
庵原郡辻村長
同劒持喜三郞
小笠郡和田岡村長
同村松新太郞
小笠郡原谷村長
同大庭五郞吉
安倍郡三保村長
同遠藤爲吉
同郡同村書記
同遠藤伊三郞
靜岡縣參事官
輕罪折原巳一郞
山岡〓三等ニ對スル豫審決定書
豫審終結決定正本
靜岡縣靜岡市三番町八十六番地士族
山岡〓三
安政三年八月十六日生
同縣小笠郡掛川町掛川
小杉彥作
文久三年十一月十二日生
右ノ者ニ對スル三三(ヘ)五一八號私文書僞造三三(ヘ)五六八號私文書僞造詐欺受免狀被〓事件ニ付
三三(ヘ)五二七、五三六、五五七、五五六、五七八、五七九、六六九號事件合併審理ヲ遂ケ決定スル事左ノ
如シ
主文
三三(ヘ)五一八號私文書爲造事件中被〓〓三ハ被〓彦作ヲ〓唆シ被告彥作ハ其〓唆ニヨリ堀内松之
助、橋本吉右衞門、松谷吉次郞外十七名
右二十一名々義各轉籍屆正副二通及轉籍取消屆堀內運次郞外十七名々義ノ各旅劵下付願之ニ添付ノ
證明願及右十八名々義濫用ノ書類却下委任狀(ハ四號證内)ヲ僞造シタル點ハ之ヲ靜岡地方裁判所輕
罪公判ニ付ス
其他ノ私文僞造ニ關スル點ハ之ヲ免訴ス三三(ヘ)五六八號私文書僞造詐欺受免狀事件中被告〓三ハ
發展發生的議會
號證ノ一二ノ四)の選べシュム爲爲島(三条件三手ニヘニステ狀狀ニューハ
裁判所輕罪公判ニ付ス
其他私文書僞造ニ屬スル點ハ之ヲ免訴ス
理由
被告〓三ハ實弟山岡音高カ豫テ米國ニ渡航シ合衆國ワシントン州シヤートル市シヤクソン街ニ於テ
東洋貿易會社ヲ創立シ東洋雜貨賣捌兼鐵道工事ノ請負ヲ契約シ我帝國ヨリ之カ勞働者ヲ廣ク和歌
山、廣島、岡山、山口、熊本、大阪其他諸府縣下ヨリ募集シテ彼ノ地ニ渡航セシメ巨利ヲ博セン事ヲ計畫
セリ然ルニ我法律ノ成規ニ於テハ勞働者ノ海外航渡ニ付其員數ニ制限アリ而シテ其當時米國ノ法律
モ亦總テ移民(勞働渡航者)ノ上陸ヲ許サヽルヨリ茲ニ被〓〓三ハ名ヲ自由渡航ニ假テ夥多ノ旅劵ヲ
受ケン事ヲ圖リ自己カ當時偶々元靜岡縣自由黨支部幹事ヲ勤メ縣下同黨ノ牛耳ヲ取リ居ルヲ幸ヒ先
ツ明治三十三年一月末若クハ二月上旬頃月日不詳音高ヲ伴ヒ靜岡縣廳ニ至リ警部長天野三郞竝ニ參
事官折原已一郞ト會見シ今囘實弟音高カ米國ニ於テ大北鐵道會社ト契約シタル同會社ノ請負工事ニ
要スル人夫ヲ我帝國ヨリ募集シ彼ノ地ニ渡航セシムル計畫ナルヲ以テ海外渡航ノ手續ヲ簡易ニ致シ
貰ヒ度旨懇請シ其他彼ノ地ノ法律カ移民渡航卽チ勞働渡航ヲ禁シアル旨ヲ語リ自由渡航ノ事ニ爲シ
旅劵下付ヲ出願シタリ
尙自由渡航トスルモ十圓以上ノ地租若シクハ所得稅ヲ納ムルモノ二名以上ノ保證ヲ要スル制規アリ
テハ到底多數ノ勞働者ヲ渡航セシムル事能ハサルヨリ自分ト音高兩人ニテ豫メ渡航者全體ノ身元引
受證ヲ本縣知事ヘ差入ルヽニ付免ニ角一名ノ保證ニテ下付ヲ受ケ度旨縷述シ茲ニ同警部長參事官ハ
其意ヲ了シ法律ノ許ス限リ便宜ノ取扱ヲ爲スヘキ事ヲ承諾シ次テ被告〓三音高等ハ靜岡、廣島、神戶
ノ三ケ所ニ右東洋貿易會社ノ出張所ヲ設ケ〓三ハ靜岡出張所ニ居リテ被告彥作ヲ事務員トナシ夫ヨ
リ弟音高ハ神戶、廣島地方ニ往來シ神戶出張所ニハ被〓山田今吉ヲ主任事務員トナシ廣島出張所ニ
ハ同町追手町小林爲二郞ヲ主任事務員トナシ各出張所ニ於テ附近諸縣下ヨリ勞働者ヲ募集スル方法
トシテ被告〓三ハ右事務員等ニ對シ兼テ靜岡縣廳ニ於テ當該官ヨリ旅劵下付ノ手續ヲ得タル旨ヲ内
通シ應募者ハ總テ其意志如何ヲ問ハス右本籍ヲ一時名義上靜岡縣下ニ轉籍セシムヘク然ル後同縣廳
ニ旅劵下付出願手續ヲ爲スヘキ事ヲ申含メ被告小杉彥作、山田今吉ヲシテ專ラ轉籍屆旅劵下付願旅
劵領收等ニ關スル一切ノ手續ヲ取扱ハシメ又事務員小林爲二郞ヲシテ專一募集ニ盡力セシメ應募ア
ル每ニ各戶籍謄本ヲ徵收シテ之ヲ被〓彥作、今吉ニ向ケ郵送セシムル事ニ手順ヲ定メ彦作、今吉カ事
務取扱ニ際シ隨意他人名義ヲ濫用スヘキ事ヲ〓喚シ以下ノ如ク之ヲ決行セシメタリ被〓彦作ハ明治
三十三年五月三十日靜岡區裁判所ニ於テ氏名詐稱ノ科ニ依リ罰金二圓ニ處セラレタルモノニシテ尙
右被告山岡〓三、山岡音高ノ〓唆ニ乘シ靜岡出張所ノ事務員故神戶、廣島兩出張所ヨリ送リ來リタル
渡航者ノ戶籍謄本ヲ受ケ左ノ犯罪ヲ犯シタリ
運次郎外三十三名及廣島縣安佐郡安村高取砂岡貫吉外十五名ヲ勞働ノ目的ニテ合衆國ワシントン州
シヤートル市ヘ向ケ渡航セシムルニ當リ海外渡航旅劵ノ下付ヲ靜岡縣廳ニ出願スルニ先チ右ノ者等
ファルファルヘムルアップル
一番地ニ轉籍スル旨ノ該管轄戶籍吏高橋正昇宛各轉籍屆正副二通總計四十二通ヲ僞造シ各名下ニ有
合印ヲ捺シ各日付ノ日ニ管轄戶籍吏被〓高橋正昇役場ヘ提出シ五月七日付ニテ堀内運次郞外十七名
渡航者名義ヲ濫用シ渡航ノ目的勞働ナルヲ農業ノ爲ト僞リ各渡航者ヨリ明治三十三年五月七日付靜
岡縣知事小野田元凞宛旅券下付願十八通ヲ僞造シ各名下ニ悉ク有合印ヲ押捺シ右旅券下付願ニ添付
ノ日ニ付同知事宛十八通ノ證明願其連署シタル者ノ内渡航者及戶主ノ名義ヲ濫用シ各名下ニ有合印
ヲ押捺シテ之ヲ僞造シ右僞造ノ旅劵下付願證明願ヲ他ノ書類ト共ニ同日付ヲ以テ飯田村役場ニ差出
シ同役場村長被〓高橋正昇ハ之ニ奥書ヲ爲シ同日直ニ本籍戶籍吏ノ資格ヲ以テ旅劵下付願書類ニ各
渡航ニ關スル爲造ノ戶籍謄本(ヘ五一八號高橋正昇ニ對スル官文書僞造事件決定書參照)ヲ添付シ悉
皆之ヲ庵原郡役所ニ送付シ同郡役所郡長星田茂幹ハ該書類ニ同年同月八日付各奧印ヲ爲シ之ヲ靜岡
縣廳內務部第一課ニ於テ調査中被告彥作ハ事ノ發覺ヲ恐レ明治三十三年六月六日付委任狀(ヘ五一
八號事件ハ四號證)中堀內運次郎外十七名ノ名義ヲ濫用シ之ヲ爲造シ名下ニハ悉ク有合印ヲ押捺シ
翌七日右被告山岡〓三名義却下願ト題スル書類ニ添ヘ同縣廳主任官ニ差出シタル爲メ堀内運次郞等
三十四名ニ對シテハ旅劵下付ヲ受クルニ至ラス而シテ他ノ砂岡貫吉外十六名ニ對シテモ前同樣旅券
下付願ノ却下願ヲ差出サントナシタリシカ偶ヾ同縣廳ニ於テ事ノ不正ヲ覺知シ其調査ニ著手シタル
愛を募然のヲ作リ之ツニ至フ而シ發表於同國市方君社會協定分外太
五一八號事件ハ三號證ノ一ノ内)加藤安太郞外三名(ヘ五一八號事件ハ三號證ノ二ノ内)ノ名義ヲ濫
用シ戶籍吏被告高橋正昇ニ宛タル各轉籍取消屆ヲ僞造シ名下ニハ悉ク有合印ヲ押捺シ同日之ヲ飯田
村役場ニ差出シ轉籍ノ事跡ヲ抹消センコトヲ計リタリ
第二、和歌山縣西牟婁郡串本町島本三太郞外三十二名(ヘ五二七號事件一號證ノ二)ヲ前同樣靜岡縣
下ニ轉籍セシムルノ必要アルニヨリ三三ヘ五二七號事件二號證ノ一二轉籍屆ノ内明治三十三年三
月十六日付島本六之助、岡本三太郎名義ヲ濫用シタル靜岡縣庵原郡辻村無番地ニ轉籍スル旨ノ該管
轄戶籍吏被告劒持喜三郞宛各轉籍屆正副二通計四通ヲ僞造シ各名下ニ有合印ヲ押捺シ同日之ヲ辻村
役場ニ差出シ明治三十三年二月十七日付島本三太郞外三十三名(ヘ二二七事件一號證ノ二)ノ名義ニ
テ渡航ノ目的勞働ナルヲ工業〓究ノ爲ト僞リ各渡航者ヨリ靜岡縣知事小野田元燃ニ宛タル旅劵下付
願及之ニ添付ノ身元引受證竝ニ證明願各三十三通ヲ同役場ニ提出シ同役場村長被告劒持喜三郞ハ之
ニ奥書ヲナシ同日直ニ本籍戶籍吏ノ資格ヲ以テ旅劵下附願書類ニ各僞造戶籍謄本(ヘ五二七號翻持
喜三郎ニ對スル官文書僞造事件決定書參照)ヲ添付シ悉皆之ヲ庵原郡役所ニ送附シ同郡役所ハ該書
類ニ同年四月二十二日付郡長星田茂幹ヨリ靜岡縣廳內務部ニ囘付シタリ玆ニ被告彦作ハ同年四月三
十一日付島本三太郞外三十二名ノ族券領收方ニ附キ右被〓山岡〓三ヲ部理代理人ト定メタル旨ノ右
三十三名連署ノ委任狀一通(ヘ五二七號事件一號證ノ一)ヲ作成シ同日之ヲ同縣廳主任官ニ差出シ同
年四月二日ニ同年三月三十日付島本三太郞等三十三名ノ旅劵ヲ受ケタリ
以上事實ニ證題十分ニシテ之ヲ法律ニ照スニ被〓彥作カ被告〓三ノ〓唆ニ乘シ轉籍屆旅劵下付願證
明願委任狀轉籍取消屆ヲ僞造行使シタル所爲ハ刑法第二百十條第二百十二條詐欺受免狀ノ所爲ハ同
第二百十四條第一項ニ該當シ被告〓三カ被〓彥作ヲ〓唆シテ以上ノ犯罪ヲ決行セシメタル所爲ハ刑
法第五條第二百十條第二百十二條第二百十四條第一項ニ該當スル輕罪ナリト思料スルヲ以テ刑事訴
訟法第百六十七條第一項ニ則リ
又被〓〓三カ被告彥作ヲ〓唆シ被告彥作ハ其〓唆ニ依リ澤田市次郞外十五名砂岡甚四郞外九名右二
十六名々義ノ各轉籍屆正副二通宛及取消轉籍屆堀內榮壽外十八名
右三十二名々義ノ各旅券下付願之ニ添付ノ證明願及右三十二名々義ヲ濫用シテ書類却下ノ委任狀ヲ
僞造行使シタリトノ點及ヒ島本繁太郞外三十名ノ轉籍屆正副計六十二通島本三太郞外三十二名々義
ノ各旅劵下附願三十三通之ニ添付ノ證明願三十三通及右島本三太郞外三十二名々義ヲ濫用シテ旅劵
領收ノ委任狀ヲ僞造行使シタリトノ點ハ何レモ證鬪七分ナラサルヲ以テ刑事訴訟法第百六十五條ニ
則リ主文ノ如ク決定ス
明治三十三年十二月二十八日
豫審判事林金次郞
裁判所書記西村茂夫
休職靜岡縣參事官折原已一郞ニ對スル豫審決定書
群馬縣邑樂郡大箇野村大字下五箇村七番地
平民官吏折原已一郞
明治二年八月生
右ニ對スル三三(ヘ)六六九號詐欺受免狀知倩被告事件ニ付同(ヘ)五一八、五二七、五三六、五五六、五
五七、五六八五七八、五七九號事件ト合併審理ヲ遂ケ決定スル左ノ如シ
主文
本案被〓事件ハ之ヲ靜岡地方裁判所輕罪公判ニ付ス
理由
被告已一郞ハ靜岡縣參事官在職中明治三十三年一月末若クハ二月初日不詳同縣廳ニ於ヒテ被〓山岡
〓三同音高ト會見シ當時音高カ米國大北鐵道會社ト同會社土木工事請負契約ヲ爲シ之ニ充ツル勞働
者ヲ我帝國ヨリ募集スルニ付右兩名ヨリ此等應募者ノ渡航手續簡易ニ取扱ヒ貰度シ就テハ彼國ノ法
律ハ移民卽チ勞働渡航ヲ禁スルヲ以テ此際自由渡航ノ手續ヲ出願スルニ就テモ尙且十圓以上ノ地租
若クハ所得稅ヲ納ムル者二名以上ノ保證ヲ要スル如キ今日ノ成規ニテハ到底多數ノ勞働者ヲ渡航セ
シムル事能ハサルヨリ自分等兩名ニテ豫メ渡航者全體ノ身元引受證ヲ本縣知事ニ差入置ク故願書ニ
ハ一名位ノ保證ニテモ差支ナキ事ニ爲シ貰度旨ノ懇請ヲ受ケ茲ニ被告已一郞ハ山岡等カ手ニテ旅劵
下附ノ出願アル時ハ各出願人ノ波航ノ目的總テ勞働者ニアル事ヲ熟知シ乍ラ右兩名ニ對シチハ法律
ノ許ス限リ充分簡易ニ取扱遺ス旨ヲ應答シタリ茲ニ於テ被告已一郞ハ同年二月十七日附ヲ以テ靜岡
縣小笠郡長板垣昌德ヨリ靜岡縣廳ニ進達シタル同縣同郡原谷村無番地高杉源三郞外四十五名旅劵下
附願(ヘ五五六號事件四號證)ノ山岡〓三ノ手ニナリタル事ヲ知リツヽ而モ各顯書ニ合衆國ワシント
ン州シヤトルヘ向ケ渡航スル目的ハ工業〓究ノ爲メト記載シアルモ其實勞働ノ爲メニシテ右出願ハ
詐欺ノ所爲ニ出タル事ヲ熟知シナカラ偶く靜岡縣内務部長書記官油永端不在ナリシヨリ自己其事務
ヲ代務シ右高杉源三郞外四十五名ニ旅劵ヲ下附スルニ當リ内務部長代理トシテ之ニ決裁ヲ加ヘ遂ニ
同月二十二日付旅劵四十六枚ヲ同縣廳ニ於テ右高杉源三郎外四十五名ノ部理代理人荒井武壽ニ交附
シタリ
以上ノ事實ハ證鹽十分ニシテ之ヲ法律ニ照スニ刑法第六百十四條ニ該當スル輕罪ナリト思料スルヲ
以テ刑事訴訟法第百六十一七條ニ依リ主文ノ如ク決定ス
明治三十三年十二月二十八日
靜岡地方裁判所
豫審判事林金次郞
裁判所書記西村茂夫
山岡〓三外四名ニ對スル豫審決定書
山岡〓三
小杉彥作
小澤周平
山田今吉
山田彌平次
右五名ニ對スル三三(ヘ)五七八號及〓三、彥作、今吉、彌平次四名ニ對スル三三(ヘ)五七九號、私文書
僞造詐欺受免狀被〓事件ニ付キ三三(ヘ)五一八、五二七、五三六、五五六、五五七、五六八、六六九號事件
ト合併審理ヲ遂ケ決定スル左ノ如シ
主文
三三(ヘ)七八號私文書爲造詐欺受免狀被〓事件中被〓昂三ハ被〓今吉ヲ〓唆シ被〓今吉ハ其〓唆ニ
因リ被〓彌平次被〓周平ト共謀シ島崎藤松外十二名高杉辰七郞外五名右十九名名義ノ各轉籍屆計十
九通ヲ僞造シタル點及松島〓一外五十八名高松源三郞外四十五名ニ對スル詐欺受免狀ノ點ハ之ヲ靜
岡地方裁判所ノ輕罪公判ニ付ス其他ノ私文書爲造ニ關スル點ハ之ヲ免訴ス尙ホ被告彥作ニ對スル本
案被〓事件ハ總ヘテ之ヲ免訴ス
三三(ヘ)五七九號私文書僞造詐欺受免狀被告事件中被告〓三ハ被告今吉ヲ今吉ハ其〓唆ニ因リ被〓
彌平次ト共謀シ志垣壽吉外九名福島熊八外九名中村藤平外十五名牛島藤次郞外六十四名前田直平外
五名宮田常四郞外十九名吉川長次郞外二名上木菊太郞外二十一名右百三十四名々義ノ各轉籍屆正副
計二百六十八通橋本壽八郞久井慶三郞名義ノ旅券下附願各一通及右兩名々義ノ旅券領收ノ委任狀二
通志垣勘太郞外十七名高松勘作外十九名加藤金八外十九名牛島長太郞外九十二名小野森得外十四名
畑中岩松外十五名小田梅七外四十三名名義ノ各旅劵下附願ニ添付ノ證明願身元引受證及久井慶三郞
名義ノ證明願ヲ僞造シタル點竝ニ志垣勘太郞外二百八十四名ニ關スル詐欺受免狀ノ點ハ之ヲ靜岡地
方裁判所ノ輕罪公判ニ付ス其他ノ私文書僞造ニ關スル點ハ之ヲ免訴ス尙被告彥作ニ對スル本案被〓
事件ハ總テ之ヲ免訴ス
理由
(被告〓三ハ實弟音高ノ豫テ米國ニ渡航シ云々ヨリ相被告小杉彥作同山田今吉カ事務取扱ニ際シ
隨意他人名義ヲ濫用スヘキコトヲ〓唆シ以下ノ如ク之ヲ決行セシメタリマテ旣揭ノ山岡小杉豫審
決定書ト同一ニ付省ク)
被〓今吉ハ神戶市三ノ宮町三町目ニ於テ雜貨輸出ヲ營業ナシ居ル内明治三十三年二月頃以來相被告山
岡〓三山岡高音ノ〓唆ニ乘シ東洋貿易會社神戶出張所ノ主任事務員トナリ不正ノ方法ヲ以テ海外渡
航ノ旅劵ヲ受ケンコトヲ計リ和歌山、廣島、岡山、熊本其他諸府縣下ニ於テ出稼ヲ希望スル勞働者ヲ募
集シ應募者ノ戶籍謄本ヲ徵收シ得テ明治三十三年二月中被〓ノ〓里靜岡縣小笠郡和田岡村ニ一旦立
歸リ實父相被告山田彌平治宅ニ於テ右應募者ノ轉籍屆旅券下附願等ノ作成ニ關シ同人ト協議シ玆ニ
被〓今吉、彌平治ハ共謀シテ第一和歌山縣海草郡楠見村松島〓一外五十八名岡山縣窪屋郡三須村高杉源三
郞外四十五名ヲ勞働ノ目的ニテ合衆國ワシントン州シヤートル市ヘ向ケ渡航セシムルニ當リ海外渡
航ノ旅券下附ヲ靜岡縣廳ニ出願スルニ先チ右ノ者等ヲ靜岡縣小笠郡原谷村ニ轉籍セシムルノ必要ヲ
感スル折柄被告小澤周平ハ原谷村ノ舊家ニシテ當時同村々會議員ヲモ勤メ村長被告大庭五郞吉ニ信
用アルコトヲ察知シ明治三十二年二月上旬日不詳被告彌平治ハ被〓周平ニ對シ自己等ノ設計ヲ明シ
忽チ之カ同意ヲ得卽チ玆ニ今吉、彌平治、周平三名共謀シ三三(ヘ)五五六號事件五號證轉籍屆ノ內
明治三十三年二月十五日付島崎藤松外十二名同事件七號證轉籍屆ノ内明治三十三年二月十日付高杉
辰七郞外五名ノ名義ヲ濫用シタル靜岡縣小笠郡原谷村本〓無番地ニ轉籍スル旨ノ該管轄戶籍吏被告
大庭五郞吉宛轉籍屆計九十通ヲ爲造シ各名下ニハ有合印ヲ押捺シ各日付ノ日ニ管轄戶籍吏大庭五小
吉役場ニ提出シ尙明治三十三年二月十六日付松島〓一外五十八名ヲ同月十日付高杉源三郞外四十五
名ノ名義ニテ渡航ノ目的勞働ナルヲ農業〓究ノ爲ト爲リ各渡航者ヨリ靜岡縣知事小野田元凞ニ宛タ
ル旅券下附願及之ニ添付ノ身元引受證竝ニ證明顯各百六通ヲ各日附ノ日ニ同役場村長被告大庭五郞
吉ハ之ニ奧書ヲナシ管轄戶籍吏ノ資格ヲ以テ旅劵下附願書類ニ各僞造ノ戶籍謄本(三三ヘ六號大庭
五郞吉ニ對ス官文書僞造事件決定書參照)ヲ添付シ松島〓一外五十八名ノ書類ハ同月十九日高杉源
三郞外四十五名ノ書類ハ同月十七日小笠郡役所ニ送付シ同郡役所郡長板垣昌德ハ該書類ニ同日付各
奥書ヲナシ之ヲ靜岡縣廳内務部ニ囘付シタリ玆ニ被〓今吉等ハ旅劵受領ノ白紙委任狀二通ヲ作成シ
之ヲ同被〓小杉彥作ニ郵送シ此委任狀ヲ以テ旅劵ヲ受取吳度シトノ依賴ヲナシ同被〓彥作ハ右委任
狀ノ內松島〓一等ノ分ニ就テハ旅劵領收方ニ付被告山岡〓三ヲ部理代人ト定メ高杉源三郞等ノ分ニ
就テハ荒井武壽ヲ部理代人ト定メタル文意ヲ加筆シ共ニ之ヲ靜岡縣廳ニ差出シ松島〓一外五十八名
分ニ就テハ何レモ明治三十三年三月十日ニ同日付ノ旅劵五十九枚ヲ高杉源三郞外四十五名分ニ就テ
ハ同年二月二十一日ニ同日付ノ旅劵四十六枚ヲ領收シタリ
第二熊本縣下益城郡當尾村志垣勘太郞外五十七名同縣球摩郡上村高松勘作外十九名同縣益城郡豐
田村加藤金八外二十九名同縣玉名郡葉富村牛島長太郎外九十二名神戶市神戶下山手通八丁目小野森
得外十四名廣島縣高田郡三田村橫村政一外四十九名兵座縣明石郡垂木村畑中岩松外十五名岡山縣都
宇郡庄村小田梅吉外四十三名ヲ前同樣靜岡縣下ニ轉籍セシムル必要アルニヨリ三三ヘ五五七號事件
轉籍屆ノ内明治三十三年三月二十二日付志垣壽吉外九名福島熊八外九名村中藤平外十五名同年同月
十二日付牛島藤次郞外四十六名同年三月十五日付前田直平外五名吉村文左衞門、上本菊太郞外二十
一名同年同月七日付宮田常四郞外六名同年二月二十六日付久井金次郞外十二名名義ヲ濫用シタル靜
岡縣小笠郡和田岡村吉岡無番地ニ轉籍スル旨ノ該管轄戶籍吏被告村松新太郞宛轉籍屆正副計二百六
十二通ヲ僞造シ各名下ニハ有合印ヲ押捺シ各日附ノ日ニ管轄戶籍吏被告新太郎役場ニ提出シ尙明治
三十三年三月二十二日付志垣勘太郞外十七名高松勘作外十九名加藤金八外二十九名同年同月十二日
付牛島長太郞外九十二名同年三月十九日付小野森得外十四名畑中岩松外十五名小田梅七外四十三名
同年同月八日付梅村政一外二十二名同年二月二十八日付久井文三郞外二名ノ名義ニテ渡航ノ目的勞
働ナルヲ商業農業工業〓究ノ爲メト僞リ各渡航者ヨリ靜岡縣知事小野田元燕ニ宛タル旅劵下附願計
二百八十二通ヲ作成シ但右志垣勘太郞外十七名中橋本壽八郞及久井文三郞外二十二名中久井慶三郞
ノ旅劵下附願竝ニ久井慶三郞ノ證明願ニハ其名義ヲ濫用シ各名下ニハ有合印ヲ押捺シテ之ヲ僞造シ
又右旅劵下附願ニ添付ノ各身元引受書竝ニ證明願ノ内明治三十三年三月二十二日附渡航者同年同月
十二日付渡航者同年二月十九日付渡航者ノ名義ヲ濫用シ身元引受人トナシタル靜岡縣知事小野田元
凞宛ノ身元引受證計二百三十六通右身元引受人ヲ恣マヽニ連署シタル和田岡村々長村松新太郞宛ノ
證明願計三百三十六通但シ橋本壽八郞ノ證明顯ニハ渡航者トシテ同人名義ヲモ濫用シテ各名下ニハ
有合印ヲ押捺シテ之レヲ僞造シ各名下ニハ有合印ヲ押捺シ以上ノ書類ヲ各日附ノ日ニ同村役場ニ提
出シ同日村長被告村松新太郞ハ之ニ奥書ヲナシ管轄戶籍吏ノ資格ヲ以テ旅劵下附願書類ニ各爲造ノ
戶籍謄本ヲ添附シ小笠部役所ニ送附シ同郡役所郡長板垣昌德ハ同日附各奥書ヲナシ之ヲ靜岡縣内務
部ニ同附シタリ
玆二被〓今吉被〓彌平治ハ一號證旅券領收ノ委任狀中橋本壽八郎十一號證同委任狀中久井慶三郞ノ
名義ノミハ之ヲ濫用シ各名下ニハ有合印ヲ押捺シテ僞造シタル白紙委任狀及他ノ旅劵領收ノ白紙委
任狀計八通ヲ小杉彥作ニ送附シ之ニ委任狀ヲ以テ族劵ヲ受取リ吳レ度トノ依賴ヲナシ被〓彥作ハ右
委任狀ニ何レモ旅券領收方ニ付被告山岡昂三ヲ部理代人ト定メタル文意ヲ加筆シ靜岡縣廳ニ差出シ
同月三十日及三十一日ノ兩度ニ同月三十日附三十一日附ノ旅券計二百七十枚ヲ領收シタリ
以上ノ事實ハ證憑充分ニシテ之ヲ法律ニ照スニ被告今吉カ被告〓三ノ〓唆ニ乗シ被〓彌平治被〓周
平ト共謀シ轉籍屆旅劵下附願證明顯身元引受證委任狀ヲ僞造行使シタル所爲ハ何レモ刑法第二百十
條第二百十二條詐欺受免狀ノ所爲ハ同二百十四條第一項ニ該當シ被告〓三ハ今吉ヲ〓唆シ以上ノ
犯罪ヲ決行セシメタル所爲ハ刑法第百五條第二百十條第二百十二條第二百十四條第一項ニ該當スル
輕罪ナリト思料スルヲ以テ刑事訴訟法第百六十七條ニ則リ三三ヘ五七八號事件中被告〓三ハ被〓今
吉ヲ〓唆シ被〓今吉ハ其〓唆ニ因リ被〓彌平治被告周平ト共謀シ各轉籍屆總テノ旅劵下附願之ニ添
附ノ證明願旅劵領收ノ委任狀ヲ僞造行使シタリトノ點被告〓三ハ被告彥作ヲ〓唆シ彥作ハ其教唆ニ
因リ被〓今吉ト共ニ私文書僞造行使詐欺受免狀ノ犯罪ヲ犯シタリトノ事實被〓〓三ハ被〓今吉ヲ〓
唆シ被〓今吉其〓唆ニ因リ被告彌平治ト共謀シ各轉籍屆旅劵下附願證明願旅劵領收ノ委任狀其他總
テノ同委任狀ヲ僞造行使シタルトノ點又被告〓三ハ被告彥作ヲ〓唆シ被〓彥作ハ其〓唆ニ乘シ被〓
今吉等ト共ニ私文書僞造行使詐欺受免狀ノ犯罪ヲ犯シタリトノ事實ハ何レモ證懸十分ナラサルヲ以
テ刑事訴訟法第百六十五條ニ則リ主文ノ如ク決定ス
明治三十三年十二月二十八日
遠藤爲吉等ノ豫審決定書
靜岡縣安倍郡三保村三保百九番地平民
役場書記遠藤伊三郞
三十九年
同縣同郡同村同字四十六番地平民農
遠藤爲吉
四十二年
右兩名ニ對スル官文書僞造行使被告事件他ト併合審理ヲ遂ケ決定スル左ノ如シ
主文
被告伊三郞、爲吉兩名ニ對スル本案被告事件ハ之ヲ靜岡地方裁判所ノ重罪公判ニ付ス被告等ハ此ノ決
定ニ對シ其送達アリタル日ヨリ三日間ニ抗〓ヲナスコトヲ得
理由
被告爲吉ハ在神戶市海岸通二十六番地日米貿易會社片岡恒次郞カ貿易商兼旅客取扱業ヲ營ムノ傍在
米國ノルヅ、ラン、パシフヒツク鐵道會社熊本一二三ノ囑託ニ依リ海外渡航者募集ノ事務ヲモ取扱フ
爲メ右恆次郞ニ賴マレ勞働者募集ノ任ニ當リ奔走盡力中靜岡縣安倍郡三保村三保遠藤義雄カ數年間
米國某鐵道會社ニ在テ同會社ノ業務ニ從事シ明治三十一年中(月日不詳)事故アリテ歸朝シタルヲ幸
ヒ同人ヘモ海外渡航ノ旅劵下附出願ノコトニ關シ協議ヲ遂ケ相共ニ旅劵下附ノ取扱ヲナスコトニ一
決シ明治三十二年十一月頃被〓爲言ハ右義雄恆次郞ト共ニ渡航者ノ事ニ關シ旅劵下付ノ手續ヲ簡便
ニ取扱貰ハンコトノ交涉ヲナスノ目的ニテ靜岡市ノ名望家ナル山岡〓三ノ紹介ヲ以テ靜岡縣廳ニ出
願シ同縣參事官折原已一郞ニ面會シ恆次郞ヨリ「大北鐵道ニ人夫ヲ送リタシ旣ニ熊本ノ手ニテ二千人
カラ人夫ヲ送リアルモ鐵道工事繁忙ニテ暇ナキ爲メカ好成績テアリ國益ニモナルコトナレハ出稼希
望者ヲ送リ遣ハシタシ就テハ出來ル丈ノ簡便ノ取扱ヲナシ貰ヒタシ」「自分ノ費用ニテ渡航スルコト
ナレハ差支ナシ」「渡航シテモ數千ノ金ヲ持タサレハ學術ノ〓究又ハ視察ナトハ出來ルモノニアラス
初ノ内ハ勞働ニテ金ヲ儲ケ夫レヨリ農工業ノ視察ナリ學術ノ〓究ナリスル次第ナレハ航働ノ爲メニ
行クトハ云ヘ渡航ノ上其ノ志ス所ニ從事スルナレハ身分ノ賤カラサルモノハ自由渡航ノ事ニナシ出
願スル故其邊ノコトハ御領置ヲ願フ」云々ト懇請シ同參事官ハ「赴任日淺ク手續モ心得ス縣令ヲ調ヘ
サレハ分ラサルカ隨分取扱カ煩ハシキ樣思ハルヽ故何トカ改正セサレハナルマシ何レ取調置ク」云
云ト應答シ尙恆次郞ハ同縣廳ニ於テ前ト同ク山岡〓三ノ紹介ヲ以テ同縣醫部長天野三郞ニモ面會シ
前同樣ノコトニ關シ縷陳スル所アリタリ夫ヨリ被〓爲吉ハ明治三十三年一二月頃右義雄ト共ニ三保
村義雄宅ヘ日米貿易商會出張所ノ看板ヲ揭ケ渡航者ノ事務ヲ取扱フコトニ取極メ同所ニ於テ他縣ノ
者ヲ靜岡縣安倍郡三保村ニ轉籍セシメ海外渡航旅劵下附出願ノコトヲ取扱ヒ居ル内同年四月頃ヨリ
右義雄ハ富士郡ニテ萱穗ヲ製造シ米國ニ輸出スル業務ニ從事スル都合ノ爲メ被〓爲吉ノ關係ヲ脫シ
爾來被告爲吉ハ一人ニテ前同樣海外渡航旅劵下附出願ヲ取扱フニ際シ當時偶〓三保村役場書記ヲ奉
職スル被〓伊三郞カ同役場名譽助役柴田勝五郞ト從兄弟ノ間柄ニシテ勝五郞ノ職印ハ常ニ役場ニ備
置アリテ右助役ノ事務ハ被〓伊三郞ニ委任シアリ且ツ村長片山作平ヨリハ渡航者ニ關スル戶籍一切
ノ事務ヲ同被〓ニ分任シアルヲ奇貨トシ同被〓ト結托シ玆ニ兩名役場ノ内外ニアリテ轉籍屆旅劵下
附願等ノ取扱ヲ簡易ニナシ數多ノ海外渡航旅劵ヲ靜岡縣廳ヨリ受ケ旅劵出願ノ手數料トシテ渡航者
每ニ旅劵一枚ニ付キ五圓若クハ十圓ツヽノ手數料ヲ徵シ利益ヲ得ンコトヲ相計リ被〓爲吉ハ明治三
十三年中日不詳同年同月一日付〓水初吉外十四名轉籍屆同年同月七日付右同人十五名旅劵下附願證
明願身元引受證同年同月八日付奧村吾一外十九名轉籍屆同年同月十六日附右同人等二十名旅劵下附
顧證明顯身元引受證等ヲ作成シ同時ニ又同年同月七日付靜岡縣安倍郡三保村戶籍吏片山作平代理柴
田勝五郞名義ヲ濫用シ同名義ニテ公證シタル右〓本初吉外十四名ノ戶籍謄本〓ニ同年同月十六日付
前同樣靜岡縣安倍郡三保村戶籍吏片山作平代理柴田勝五郞名義ヲ濫用シ同名義ニテ公證シタル奥村
吾一外十九名ノ戶籍謄本ヲ作成シ被告伊三郞ニ交付シ同被〓ハ自己ノ役場ニ於テ豫テ渡航者ニ關ス
ル戶籍ノ事務ハ村長ヨリ分任ヲ受ケテ居ルヲ幸ヒ右戶籍謄本ニアル戶籍吏名下ニハ何レモ助役柴田
勝五郞ノ職印ヲ盜捺シ卽チ茲ニ被〓兩名シテ前計三十五名ノ戶籍謄本ヲ僞造シ之ヲ各人ノ旅劵下附
願ニ添付シ同年五月四日及二十二日ノ兩度ニ所管安倍郡役所ニ送致シ同郡役所郡長星田茂幹ハ同月
八日及三日ノ兩度ニ之レカ奥書ヲ爲シ一切ノ書類ヲ靜岡縣廳ニ進達シタリ
其後ニ至リ被〓兩名ハ事ノ發覺ヲ恐レ同年六月四日被告伊三郞三保村助役柴田勝五郞名義ニテ右一
切ノ旅劵下附願ニ靜岡縣ニ關スル書類ノ却下ヲ所轄安倍郡役所ヲ經テ廳ニ願出奥村吾一外十九名ノ
分ハ同月十三日江尻警察署ヲ經テ被〓伊三郞ノ役場ニ戾リ同月十六七日頃同被告ハ該書類ヲ被〓爲
吉ニ交附シ終リ他ノ〓水初吉外十四名ノ分ハ出願ノ儘遂ニ却下ヲ受クルニ至ラス以上ノ事實ハ證戀
十分ニシテ被〓伊三郞ノ所爲ハ刑法第二百五條第二百四條第二百六條ニ該當シ被〓爲吉ノ所爲ハ同
法第二百四條第二百六條ニ該當スル重罪ナリト思料スルヲ以テ刑事訴訟法第百六十八條ニ則リ主文
ノ如ク決定ス
明治三十三年十二月二十八日
高橋正昇外三村長豫審決定書
靜岡縣庵原郡飯田村長
高橋正昇
右ニ對スル官文書僞造官印盜用被〓事件ハ他ノ事件ト合併審理ヲ遂ケ決定スル左ノ如シ
主文
本案被告事件ヲ靜岡地方裁判所重罪公判ニ付ス被〓ハ此決定ニ對シ其送達アリタル日ヨリ三日內ニ
抗〓ヲナス事ヲ得
理由
被〓正昇ハ靜岡縣庵原郡飯田村役場村長奉職中元同縣自由黨支部幹事ナリシ被〓山岡〓三ノ紹介ヲ
以テ同黨ニ加入シタル緣故アル折抦明治三十三年二月日(不詳)靜岡市札ノ辻東洋貿易會社事務員被
告小杉彥作カ〓三ノ代理人トナリ被〓正昇役場ニ至リ在北米合衆國ワシントン州シヤトル市東洋貿
易會社長ナル被告〓三ノ實弟被告音高カ大北鐵道會社受負工事ノ爲メ合衆國ヘ出稼希望者ヲ和歌山
縣其他ノ縣下ニ於テ募集シ之ニ携帶セシムル外國渡航ノ旅券ヲ受クル爲メ右希望者ヲ一時名義ノミ
被告正昇管下庵原郡飯田村高橋ニ轉籍セシムルノ必要アルニ付然ルヘク便宜ニ取扱ヒ貰ヒ度旨懇請
シタルヨリ被〓正昇ハ〓三ノ歡心ヲ得ンカ爲メ之ヲ應諾シ明治三十三年四月三十日ヨリ五月七日迄
ノ間ニ於テ被告彥作ヨリ轉籍屆ヲ被〓正昇役場ニ於テ受理シナカラ制規ノ戶籍ヲ編成セス尙同年五
月七日被〓彦作ヨリ差出シタル旅券下附願ヘ添附スヘキ戶籍謄本計四十七通ハ役場ヨリ下附スヘキ
モノナルニ被告彥作ニ於テ便宜被〓正昇ノ筆勞ヲ省ク爲メ戶籍用紙ヲ靜岡市小池商店ニ印刷セシメ
之レニ各舊村役場戶籍謄本ニアル本籍地ヲ何レモ靜岡縣庵原郡飯田村高橋百三十一番地ニ改メ其他
ノ部分ハ總ヘテ舊戶籍謄本ノ儘ヲ謄寫シ各紙尾ニ(右謄本ハ戶籍原本ト相違ナキ事ヲ認證ス)ト加筆
シタルモノ四十七通ヲ作成シ右旅劵下附願書類ト共ニ被〓正昇ニ交附シタルヨリ被〓正昇ハ之ヲ自
己カ作成スヘキ戶籍謄本ニ代用シ各戶籍事項欄ニ記入ヲ要スル何地ヨリ轉籍屆出月日受付入籍ノ記
載ヲナサス從テ右謄本ハ戶籍ノ事實ト相違ノ廉アルニ係ラス之ニ明治三十三年五月七日靜岡縣庵原
郡飯田村戶籍吏高橋正昇ト年月日竝ニ職氏名ヲ加筆シ正昇名下ニハ飯田村戶籍吏トアル識印ヲ盜捺
シタル公正文書ヲ僞造シ同年同月同日右僞造ノ戶籍謄本悉皆ヲ旅劵下附頤書類ニ添附シ管轄庵原郡
役所ニ進達シ同郡役所ハ之レヲ受理シタリ
以上ノ事實ハ證憑十分ニシテ之レヲ法律ニ照スニ被告カ戶籍謄本ヲ僞造行使シ依ツテ其職印ヲ盜擦
シタル所爲ハ明治二十三年法律第百號刑法第二百四條第二百五條第二百六條第百九十七條第二項第
百九十五條ニ該當スル重罪ナリト思料スルヲ以テ刑事訴訟法第百六十八條ニ則リ主文ノ如ク決定ス
靜岡縣小笠郡和田岡村長
村松新太郞
右ノ者ニ對スル官文書僞造行使被告事件ニ付キ他ト合併審理ヲ遂ケ決定スル左ノ如シ
主文
本案被告事件ハ之ヲ靜岡地方裁判所重罪公判ニ付ス被告ハ此決定ニ對シ其送達アリタルヨリ三日内
ニ抗〓ヲナスコトヲ得
理由
被〓新太郞ハ靜岡縣小笠郡和田岡村役場村長奉職中明治三十三年二月二十八日ヨリ同年三月二十二
日迄ノ間ニ於テ被告彌平次ヨリ海外渡航旅券下附ヲ靜岡縣ニ出願スルニ當リ一時名義ノミ被〓新太
郞管下小笠郡和田岡村吉岡無番地ニ轉籍セシムル必要アルニ村キ便宜ノ取扱アリ度旨懇請ヲ受ケ被
告新太郞ハ之ヲ應諾シ同被告彌平次ヨリ同年三月二十二日以降數囘渡航出願者(二百七十八人)ノ本
籍ヲ被〓新太郞管下小笠郡和田岡村吉岡無番地ニ轉籍スル旨ノ轉籍屆各正副二通宛ヲ受理シナカラ
成規ノ戶籍ヲ編製セス從ツテ戶籍原本ナキニ拘ラス實ニ小笠郡和田岡村吉岡無番地ニ轉籍ナシタル
者ノ如ク裝ヒ(中略)戶籍膽本計二百七十八通ヲ作成シ各末尾ニ右謄本ハ戶籍ノ原本ト相違ナキコト
ヲ認證シ(中略)尙ホ他ニ靜岡縣小笠郡和田岡村戶籍吏村松新太郞ト公證ヲ加へ其名下ニ和田岡村戶
籍吏トアル職印ヲ盜捺シタル公正文書ヲ僞造シ以上戶籍謄本悉皆ヲ被〓彌平次ヨリ(中略)同シ年同
月二十日管轄小笠郡役所ニ進達シ同郡役所ハ同日之ヲ受理タリ以上ノ事實ハ證憑十分ニシテ之ヲ
法律ニ照ラスニ被〓カ戶籍謄本ヲ僞造行使シテ其職印ヲ盜捺シタルハ明治二十三年法律第百號刑法
第二百四條第二百五條第二百六條第百九十七條第二項第百九十五條ニ該當スル重罪ナリト思料スル
ヲ以テ刑事訴訟法第百六十八條ニ則リ主文ノ如ク決定ス
明治三十三年十二月二十八日
靜岡地方裁判所
豫審判事林金次郞
裁判所書記西村茂夫
(小笠部原谷村長大庭五郞吉及ヒ庵原郡辻村長劔持喜三郞ノ豫審決定書モ略ホ前揭決定書ト同樣
ナレハ玆ニ省ク)
廢娼妨害宣〓師毆打事件
靜岡縣ノ〓政擧テ竝フヘカラスト雖警視兼靜岡警察署長タル永井弘カ醜陋ナル貸座敷業者ノ相談ニ
應シテ廢娼妨害運動ニ助勢ヲ與ヘ其結果暴漢ヲ使嗾シテ米國宣教師バンダイク竝ニ日本宣教師津川
彌久茂ニ脅迫暴行ヲ加フルモノアルニ至ラシメタル如キハ殊ニ證跡ノ顯著ナルモノナリ今マ之ヲ證
明スルカ爲ニ靜岡地方裁判所ノ宣告文ヲ揭ク可シ
廢娼事件裁判宣告文
靜岡縣靜岡市西草深町二百八十七番地平民
請負業菅野道親
同縣同市同町十九番地平民請負業
內田勉平
右ノ者ニ對スル本年ヘ第六八號恐喝取財被告事件ニ付キ豫害ヲ遂ケ決定スル左ノ如シ
主文
本案被告事件ハ之ヲ免訴シ被〓菅野道親、內田勉平ハ放免ス押收ノ證據書類ハ各差出人ニ還付ス
理由
被告道親ハ過般來娼妓自由廢業問題ノ漸ク喧シクナリタルヨリ本年六月十二三日ノ頃被告勉平ヲ以
テ其當時靜岡三業組合取締タリシ小松樓主小林和兌吉及ヒ副取締德和樓主關本爲吉等ニ對シ靜岡警
察署長モ承知ノ事ナルカ娼妓廢業豫防ノ運動ヲ被〓道親ニ依賴シテハ如何ト申出テタルヨリ小林和
兌吉關本爲吉ハ喜報樓主森鑑兵衛蓬萊樓主手塚忠兵衞養子重吉等ニ謀リ被〓道親ノ申込ヲ斷ルニ於
テハ却テ反對ノ運動ヲナサルヽ恐アリ且ツ靜岡警察署長永井弘ヨリ豫テ廢娼問題ニ付キ壯士等ニ全
錢ヲ遣ス等ノコトアルヘカラストノ注意アリタレハ免モ角署長ニ面會ノ上決スヘシトノ事ニ相談纏
マリ其翌日又ハ翌〓日右樓主等四名靜岡警察署ヘ出頭署長永井弘ニ面會シ被告道親ヨリ申込ノ次第
ヲ申入レ其意見ヲ尋ネタルニ永井ハ菅野ナレハ本縣ニ於テ多少ノ名譽アル者ナレハ後日不當ノ金圓
ヲ貪ラルヽ事モナカルヘケレハ依賴スルモ差支ナカルヘシトノ事ナリシニヨリ更ニ右依賴スルニ付
テハ被〓道親ニ對シ運動費ヲ差出サヽル可カラサルカ右金額ハ本年末迄五百圓許リニテハ如何トテ
永井ニ意見ヲ求メタルニ永井ハ之レ又相當ノ金額ナルヘシ尤モ一時ニ五百圓ヲ差出スニ於テハ萬一
後日ニ至リ尙ホ出金ヲ迫ラルヽノ慮リアレハ先其三分ノ一位ヲ遣ス方可然トノ事ナリシヨリ爰ニ樓
主等ハ署長永井ノ意見ニ從フヘキ事ニ一決シタル所被告道親ハ右署長及ヒ樓主等間ノ消息ヲ知リタ
ルモノト見ヘ同月十六日午後三時頃被告內田勉平ヲ小松樓主小林和兌吉方ニ遣シ樓主等二三名道親
宅ニ來ルヘシ若シ解ラサレハ金ト實印トヲ持參スヘシト申入レタリ然ルニ樓主等ノ參ル事遲カリシ
爲メ被〓道親ハ同日午後七時再ヒ被〓勉平ヲ其督促ニ遣シタル途中樓主ハ豫テ相談一決シテ居タル
際ナレハ先ツ金二百圓ヲ渡サントテ其金策ヲ爲シ四名車ヲ列ネ道親方ニ來ルニ會シタルヨリ被〓勉
平ハ彼等ヲ伴ヒ道親方ニ至リ被〓道親ハ樓主等ト本年末迄金五百圓ニテ廢娼豫防ノ運動ヲ爲スヘキ
事ヲ口約シ內金トシテ二百圓ヲ同人等ヨリ受取リ內金十圓ヲ被〓勉平ニ分配シ尙ホ其後六月二十六
日當市安倍川町藝妓米八方ニ於テ五十圓七八月ノ頃被〓道親宅ニ於テ百圓右運動費ノ内金トシテ樓
主等ヨリ受取リタリ
以上事實ハ蒐集シタル證據書類ニ依リ明了ナリト雖モ被告等カ右樓主等ヲ欺罔シ若シクハ恐喝シタ
リトノ事實ヲ認定スヘキ證憑充分ナラス卽チ刑事訴訟法第百六十五條ニ則リ主文ノ如ク決定ス
靜岡地方裁判所
明治三十三年十二月二十二日豫審判事林金次郞
裁判所書記西村茂夫
宣〓師毆打事件
菅野道親、內田勉平等カ永井警視ノ認許セル醜業者ノ報關ヲ得テ決行シタル廢娼豫防運動ト稱スル
モノハ廢娼論ノ唱道者タル宣教師津川彌久茂〓ニ米人バンダイクヲ脅迫毆打スルニ在リシ事〓ニ永
井警視カ之ヲ默許シタルモノト認ムル事ハ菅野道親カ靜岡民友新聞社員ニ語リテ發表シタル所ニ依
テ明白ナリ其大要ハ左ノ如シ
三十三年六月十三日永井弘氏ハ予ヲ訪フテ曰ク名古屋ニ矯風會起リ宣〓師マルフ其會長トナリ當
市ノバンダイク等之ニ加祖シテ娼妓自由廢業ヲ勸誘シ居レリ貸座敷業者大ニ之ヲ憂フルモ之ヲ裁
判所ニ訴フレハ民法ノ規定上奈何トモスル能ハス去レト本縣ニハ貸座敷取締規則アリ予ハ彼等ニ
保護ヲ與ヘント欲ス其手段ハ先ツ宣〓師等ノ運動ヲ妨クルニ在リ外國人ヲ歐打スレハ自然外交上
ノ問題起ルヘシ故ニ日本宣教師ヲ懲シテ廢業誘導ヲ思ヒ止マラシメント因ツテ予ハ知事警部長書
記官等モ同意ノ上ナラハ盡力スヘシトテ承諾シタリ同十五日雙街小林和兌吉森鑑兵衞手塚忠兵衞
關本爲吉等貸座敷業者予ノ宅ニ來リ永井署長ヨリ依賴サレシ一件ハ何分宜シク賴ムト依賴シテ引
取リ翌十六日彼等ハ金二百圓ヲ持參シタレハ予ハ神本〓之助内田勉平兩人ニ命ヲ傳ヘ土方人足ヲ
使役シテ靜岡宿ノ宣〓師津川彌久茂ヲ歐打セシメタリ而シテ此土方等ハ其後八日乃至五日ノ拘留
ニ處セラレタリ云々
永井警視ハ菅野ノ談話ニ對シテ全然虛構ナリト辯駁セリト雖醜業者等カ永井警視ノ承諾ヲ經テ菅野
ニ廢娼妨察ヲ依賴シ菅野ハ其ノ部下ニ命シテ宣〓師ヲ歐打セシメタルコト丈ハ爭フヘカラサル事
ナリ
當時菅野道親ノ命ヲ受ケテ暴漢ヲ使嗾シタル神本〓之助カ菅野ノ談話ニ對スル辯駁書ハ一層深ク彼
等ノ行動ヲ審カニスルヲ以テ左ニ之ヲ揭ケン
貴社新聞自明治三十三年十二月二十八日發行第二千七百七十號至同三十四年一月八日發行第二千
七百七號間菅野氏談話ト題スル記事及宣〓師談話バ氏訪問錄ト題スル記事ハ總テ自分ニ重大ノ關
係ヲ有シ候ニ付左ノ通リ辯駁正誤致候間新聞紙條例第十三條ニ依リ全文御揭載相成度此段請求致
候也
靜岡西草深町二百八十二番地
明治三十四年一月四日神本〓之助
靜岡民友新聞社御中
貴社カ連日紙上ニ記載セラレシ萱野ノ談話ハ事實ノ眞相ヲ包藏シテ世ヲ欺キ自家ノ野心ヲ賣ラント
スルニ出タルモノト謂フノ外ナシ其ノ牧師津川彌久茂毆打事件及靜岡三業取締等ヨリ不正ニ得タル
金三百五十圓ノ支出云々ノ點ニ至テハ事實相違ノ最モ甚シキモノ既ニ菅野氏ノ云ヘル如ク余ト菅野
氏トハ是迄最モ密接ノ關係ヲ有シ殆ト六七年間余ハ菅野組工務主任トシテ又管野家政ノ内助トシテ
苦心慘憺余カ菅野氏ノ爲メ盡シタル成蹟ハ實ニ小少ナラス從テ公私ノ關係内外ノ行徑ニ於テ總テノ
祕密ヲ知ル者ハ實ニ余一人ノミ故ニ昨年九月余カ菅野氏ヲ去ルノ決心ヲ爲シ越テ十月十三日求友支店
樓上ニ同氏ト會見ノ上別杯ヲ交シタル後ハ余及菅野氏ノ親戚故舊竝ニ多數管野氏ノ債權者等ニテ向
普ク別離ノ理由ヲ告白セント欲シ稿ヲ草シテ現ニ五十余丁ノ紙數ヲ重ネタリ而モ未タ發表セサル所
以ノ者ハ聊カ德義上ニ顯ミ今マ尙ホ余ノ草稿ハ深ク筐底ニ藏シツヽアル次第ナルニ昨年十二月十三
日反間苦肉ノ策破レテ管野自身入監ノ身トナリ剩ヘ不正所得三百五十圓ノ内ヨリトシテ余ニ十圓及
四十圓ヲ渡シタリト申立テ余ヲ抱キ込ミテ十五日ニ至リ余ヲモ入監ノ身トナサシメタリ當時余ハ豫
審判事ノ訊問ニ對シ十圓ハ慥カニ受取リ四十圓ハ知ラスト答ヘ且ツ其理由ヲ陳述セリ元來余ハ一昨
三十二年ノ春頃ヨリ菅野組主任トシテ受取ルヘキ一箇月四十圓ノ報酬モ腰味ニ附セルノミカ却テ菅
野氏ノ爲メニ余ハ實ニ四千餘圓ノ債務ヲ成リ與ヘ時ニハ余ノ衣類迄モ質物ニ入レテ菅野氏ヲ助ケシ
ノミナラス昨年六七月頃ヨリ九月ニ至ル間菅野氏カ〓國事變ノ人夫請負運動トシテ廣島東京等ヘ飛
廻レル際宿屋籠城ノ困苦ヲ救ハン爲前後ニ殆ト三百圓ノ送金ヲ爲シタル程ニシテ此內百八十餘圓ハ
余ノ收益ヲ投シ或ハ余ノ親友ヲ煩シテ送リシ物タリ然ルヲ何ソヤ余カ敏腕ノ老壯士多血多涙ノ好男
子ト世ニ吹聽シ以テ外錦内腐ノ菅野氏ノ破綻ヲ繕ヒ多年辛苦ヲ嘗メタル余ノ内助ノ效勞ヲ忘レ自己
ノ藪蛇ト共ニ入監シタル道連ニ余ヲ抱キ込ミシニ至テハ實ニ呆レ果テタル次第ナリ抑モ牧師津川彌
久茂毆打事件ノ眞相ハ余一人ノ外知ル者ナク貴社新聞ノ記事ハ非常ニ誤解セラレタリ誤解ノ記事ハ
世人ヲ迷ハシム余ノ責任トシテ辯駁セサルヲ得ス元來菅野氏ハ極メテ節義ニ乏シキ人ニシテ思ノ外
膽力ヲ欠ケル人ナリ時ハ昨年六月上旬過キト覺ユ氏ハ特ニ余ニ密話シテ曰ク君ニ一ノ賴ミアリ外ナ
ラス近來基督牧師等矯風會ノ運動トシテ縣下ノ各遊廊ヲ侵シ娼妓ノ廢業ヲ企ツルノ狀況アリ依テ先
ツ靜岡江尻ノ牧師二人ヲ要擊スル非常手段是レ也君ノ知ル如ク僕ハ靜岡ニ來テヨリ大ニ自家ノ權勢
ヲ得タレハ今後益〓活動シテ以テ次期ノ選擧場裏大ニ中原ノ鹿ヲ
爭フ決心ナリ幸ヒ此ノ廢娼云々ノ事アリ而モ縣下ヲ通シテ各遊廓中選擧權ヲ有スル樓主少ナカラス
此機ニ乘シ非常手段ヲ行ヒ漸ヲ以テ各地ノ衆望ヲ獲シ將來ノ地盤ヲ造ルハ必要ナリ然レトモ此非常
手段ノ實行ハ最モ機敏ヲ要ス君須ラク其勞ヲ採レト余ハ居常菅野ノ爲ニ一死ヲ營ヘル者況ンヤ一牧
師要擊ノ事ヲヤ直ニ之ヲ諾シタリ菅野氏曰卽時其人アリヤ余曰手段ノ寬嚴ニ依テ士ヲ選ムノ必要ア
リ而モ彼等牧師ヲ殺スモ可ナリヤト氏曰殺スハ不可宜ク彼等カ〓會ニ往復スルノ夜ヲ以テ地上ニ之
ヲ擊テ且ツ靜岡江尻同時ニヤルヘシ勢ノ及フ處一肢ヲ摧ク亦タ已ムヲ得ザラン然レトモ君萬一ノ蹉
跌アリテ事發覺スルモ君ハ決シテ僕ノ〓唆ト云フ勿レト余笑ツテ日ク安心アレト斯テ物好ナル余ハ
直チニ要擊ノ準備ニ著手シタリ此ノ際實ニ菅野ハ余ニ拾圓ヲ渡シタリ然レトモ免ニ角人間ヲ打ツ仕
事ナリ況ンヤ靜岡江尻同時決行ノ事ヲヤ左レト此時余ハ懷中ニ五六十圓ヲ所持シ居リタレハ五人ヤ
十人ノ手當ニ不自由ナカラント自問自答シ菅野ヲ辭シテ決死ノ配下ニ密巳日ヲ傳フルニ至レリ其翌日
余ハ菅野ニ向テ愈〓今夜決行スル覺悟ナリト〓クルヤ彼ハ匆々支度ヲ爲シ濱松ヘ行クト余ニ告ケ靜
岡ヲ去レリ是レ實ニ萬一ノ變アルモ云々ノ依賴通リ彼ハ無責任ノ用心トシテ身ヲ遺レタル出大將戰
場ニ臨ンテ身ヲ百里ノ後ニ潛メ成敗ヲ戰後ニ探テ何レニカ其功ヲ食ラントス鄙怯未練ノ振舞ト人ハ
云ハンモ菅野氏ノ價格ヲ知ル余ニ於テハ何トモ感セス軈テ或ル朝二三ノ若者ハ余ノ宅ニ來レリ余ハ
此若者ニ祕密ノ方法ヲ示シツヽアル際來客アリ且ツ自宅ノ談合ハ機ヲ洩ラスノ恐レアリト考ヘ轉シ
テ某飮〓店ニ到リ引續キ密談ノ上先ツ牧師津川ノ容貌、動靜、家宅ノ模樣、〓會トノ距離等ヲ探ルタメ
或者ヲ傳馬町ニ遣ハシ余ハ梅泉ナル待合ニ轉シテ陣取リ報〓ヲ待チツヽアリシニ使者來テ云フ意外
ノ故障アリ牧師ノ宅ト[〓會トハ密接シ彼レノ居室ヨリ直ニ說〓壇ヘ通スルノ構造ナレハ豫定ノ手
段行ヒ難シト誠ニ菅野モ余モ是等ノ點ニ不案內ナリシナリ余ハ此報告ニ當感セシモ決心止ムヘキニ
テラステテル
シテ目的ヲ遂ケント苦心セリ然ルニ津川ハ平素夜中ノ他出ハ勿論晝スラ稀ナリトノ噂ニ違ハス毫モ
門ヲ出ツル樣子ナシ余ハ益〓苦慮シツヽ好機ヲ得ス空ク二晝夜ヲ經過セル折柄終ニ警察ノ注目スル
所トナリシト見ヘ探偵ラシキ人ハ絕ス〓會附近ヲ警戒スル如ク感シタレハ余ハ拙速ヲ以テ行ヒ事成
ラスシテ警官ノ縛スル所トナラハ實ニ遺憾千万ナリト考ヘ他日再擧ヲ計ルヲ德策トシ一切ノ準備ヲ中
止スタフニュシンク此片續性の心扉の當時文部的ニュニラ甘すタン
樂ミツヽ歸リシナラン左レト狀況ハ斯ノ如シ菅野氏失望ノ顏色ハ烈火ノ憤懣トナリ余ニ向テ實ニ惨
酷ナル罵詈ヲ極メ最早何事モ君ニ賴マヌ僕自身テヤルト放言シタリ心中既ニ再擧ト決セル余ハ直ニ
余ノ配下ニ對シテ一切ノ準備ヲ解散セシメタリ而シテ菅野ハ翌日電報ヲ以テ沼津在ノ侠客ト其子分
兩三人ヲ呼ヒ寄セ此夜双街ニ招待シテ何事カ密談シタリ余ハ心中如何ニ義氣アリ膽力アル俠客ニセ
ヨ余等テサヘ中止ト決心シタル事件ニ關シ而モ警官ノ警戒怠リナキ傳馬町ニ對シ而モ責任忌避主義
ノ菅野氏ノ頤使ニ屬シ僅カニ一宵ノ密談ヲ以テ果シテ能ク何事ヲ遂クルヤト思ヒ居タリ然リ果シテ
彼等ハ極メテ無事ニ何時トナク歸リ去レリ然ルニ二十日ニ至リ唐突牧師土方ノ騒動アリタリトノ通
知ニ接シ余ハ不審ニ感シテ急速現場ヲ探ラシメタル次第ナルカ終ニ三名ノ土方ハ處刑ヲ受クルニ至
レリ其事實ノ如何ハ已ニ該裁判宣告ニ依テ明白ナレハ余ノ解說ヲ要セサルモ此ノ際余ハ職業上ノ情
義ヲ以テ親敷彼等ヲ見舞ヒ且ツ梅泉ニ彼等ヲ呼ヒ詳細ノ〓末ヲ聽キ事實ヲ明カニスルヲ得タリ此ノ
騷動ニ與リシ土方ハ曩ニ余カ準備シタル者ト悉ク相違シ又其原因事情モ悉ク相違シ居リタルコトハ
勿論ナリト雖モ當時余ハ余ノ行懸リ上後日ノ參考トシテ事實ヲ聽取リ以テ此騒動ハ僅少ノ行違ヒニ
依テ全ク津川ノ過誤ニ出テタル出來事ナルヲ確メタルナリ然レ共其部屋附ノ如何ヲ問ハス同業者間
變事アル場合ニハ相互ノ訪問ヲ怠ラサルヲ以テ必要ノ德義ト爲ス依テ當時余ハ菅野氏ニ向テ亦タ相
當(關係ノ身分ニ應シテ)其見舞ヲ爲スヘキヲ注意シタリ氏ハ余ノ言ヲ容レテ而モ之ヲ等閑ニ附セリ
荏苒數日ヲ經テ或共同工事上ノ配當金トシテ三十圓ノ菅野ノ所得トナルヘキモノアルニ際シ漸クニ
シテ義務ヲ盡サシムルヲ得タリ日ヲ忘レタルモ時ハ夜ニシテ所ハ梅泉ナリシ此夜或ル請負人モ余ノ
談話ヲ聞キ十圓ヲ見舞ヒ翌日余ハ菅野ニ向テ昨夜郡合四十圓ヲ贈リ得タリト告ケシカ菅野ノ談話中
別ニ余ニ四十圓ヲ渡シタリトアルハ卽チ之レナラン而モ之ヲ以テ余ヲ抱キ込マントスル何ソ夫レ無
法ナル且曩ニ毆打準備ノ際菅野カ余ニ渡シタリト云フ事實ナリ余ハ單純ニ之ヲ受取リタルナリ而モ
菅野氏ハ不正ノ所得ヲ以テ車代ニ渡シタリト云フ余ハ今日ニ於テモ計算上更ニ多額ノ車代ヲ請求セ
サルヲ得ス尙附加シテ彼レヲ助ケタル質物ノ元利及ヒ菅野氏カ當然余ニ渡ス可キ種々ノ費用ハ勿論
余カ苦心ヲ以テ旅行先ヘ送リシ金額ヲ計算シ殆ント數百金ヲ請求セサルヲ得ス是等ノ事實ハ實ニ余
カ種々ノ訊問ヲ受クルニ當リ豫審判事檢事正ニ上申セシ處ナリ又菅野氏ハ三百五十圓ノ內ヨリ五十
圓ヲ土方ニ遣シタリト云ヘリ斯ル事ハ中々以テ有ルヘキ筈ナシ若シ果シテアリトセハソハ何カ故ニ
前陳ノ如ク彼レノ見舞ニ就テ不面目ヲ受ケンヤ(以下不必要ニ付キ省略ス)
宣〓師毆打ノ結果
前記ノ如キ事情ニ據リ宣〓師津川彌久茂米人バンダイクハ明治三十三年六月二十二日午後一時頃白
晝市街熱閙ノ地ニ於テ暴漢ノ爲ニ亂打セラレ數十分間數町ノ街上ヲ拳雨ノ上ニ引廻サレ遂ニ津川ハ
身體處々ニ輕カラサル負傷ヲ爲シ病床ニ就クコト三箇月餘其間思考力ヲ失ヒタリバンダイクハ幸ヒ
ニ外部ノ創傷ヲ受ケサルモ約一週間ハ雙手ノ自由ヲ關キタリ然ルニ加害者ノ罪跡ヲ檢擧シタル警察
官ハ前述ノ如ク営初ヨリ醜業者等ノ内談ヲ請ケ淺カラヌ關係アルモノナレハ不思議ニモ左ノ如キ裁
判宣告ヲ下サルニ至レリ
吉田末吉
林政吉
池田彌作
右ニ對スル毆打創傷事件ノ告訴ニ付當區裁判所ハ檢事松田喜太郞立會辯論ヲ經テ判決スル左ノ如シ
主文
被〓人吉田末吉、林政吉ヲ各拘留八日ニ處シ被〓人池田彌作ヲ拘留五日ニ處ス押收ノ蝠蝙傘壹本同
柄折共及書狀壹通ハ各差出人ニ還付ス
事實及理由
被〓末吉ハ靜岡市靜岡宿四十七番地寄留津川彌久茂カ自己ノ身體ニ危害ヲ加ヘントスル隱謀アリト
其筋ヘ密〓シタル旨ヲ〓知シ自己ノ名譽ヲ毀損セラレタリト思惟シ其實否ヲ問ヒ糺サン爲メ明治三
十三年六月二十二日午前十時頃前記津川彌久茂ノ居宅ニ相越シ談判ノ末同人ヨリ全ク人違ニテ其筋
ヘ申〓ニ及ヒタルハ不注意ニ出テタル旨三谷瀧三郞宛能狀ヲ差出シ之ヲ受取リ一旦歸宅ノ後被〓政
吉ハ右詑狀ノ意味不了解ナリトテ同日午後一時頃津川彌久茂居宅ニ往キ引續キ被〓末吉、彌作モ二
三步後ヨリ同人宅ニ赴キ先ツ被告政吉ハ同人宅玄關ニ於テ津川ニ對シ書狀ニテハ意味了解セサレハ
被告等ノ住居スル同市江川町三谷雙三郞方迄參リ吳レヨト迫リタレトモ同人ハ書狀ニテ充分ナレハ
參ルニ及ハストノ返答ヲ爲シ玆ニ双方口論ヲ生シ將ニ爭鬪ニ及ハントスル際津川彌久茂妻某カ被〓
等ヲ畏怖セシメンカ爲メ發砲セシヨリ被〓等忽チ憤激シ被告政吉、彌作ハ手ヲ以テ津川彌久茂ノ右
頭半部顏頂骨縫ノ前際ニ於テ前內方ヨリ後外方及前右方ノ貳商所ヲ毆打シ被〓末吉モ同シク手ヲ以
テ前同斷及右際指掌面第三節ヲ毆打シ疾病休業ニ至ラサル創傷ヲ負ハシメタル者ニシテ被害者カ被
告等ニ對シ多少憤激ノ念ヲ起サシムルノ端〓ヲ開キタル狀アリテ被告等ノ所爲原諒スヘキ點アルヲ
認ム又被〓彌作ハ犯時十七年三箇月ナリトス以上ノ事實ヲ認メタル證據ハ被〓末吉、彌作カ公廷ニ
於テ被害者津川彌久茂ヲ手ヲ以テ毆打シタル旨ノ供述靜岡警察署ニ於テ作成シタル被〓末吉ノ聽取
書中表ヘ引出シ乍ラ手テ二ツ三ツ牧師ヲ打タル旨ノ記載又被〓彌作ノ聽取書中手テハ打チタレトモ
蝙蝠傘ヲ打チタル事ナシ其次ニ多ク頭部ヲ打チマシタトノ記載アリ仍ホ被告政吉ノ聽取書中腹カ立
チシ故腕力テ牧師ヲ親分(三谷瀧三郞ヲ指ス)方ヘ連レテ行ント存シ表へ引出シタル旨ノ記載被害者
津川彌久茂ノ聽取書中土方體ノ者二人入來リ共ニ自分ヲ表ヘ引出シ親方ノ處迄行ケト申シ七八人ニ
テ自分ヲ毆打シタル旨ノ記載尙ホ公立靜岡病院副院長根本雄吉ノ射傷檢査書ニ津川彌久茂ノ身體ニ
前記創傷ノアリタル旨ノ記載アルニ符合シ且ツ右同人ノ追申書中創傷ハ輕徵ニシテ敢テ休業ノ阻害
ヲ來タスヘキ者ニ無之トアリ而シテ被告三名ノ前記聽取書ハ公廷ニ於テ被告等ノ認ムル處ニシテ被
告人ノ聽取書モ被告等ノ供述其他ノ狀況ニ依リ本件ノ事實ヲ認ムル資料ト爲スニ足ル以上列記セシ
證據ニ依リ被〓三名ノ前記行爲ヲ認ムルニ充分ニシテ被告等カ爭論ノ際被害者居宅內ニ砲聲アリシ
コト及ヒ被〓ノ内末吉ニ對シ不穩ノ擧動アルコトヲ其筋ヘ密〓シタルコトハ被害者及ヒ被〓三名ノ
聽取書中其旨ノ記載アルト津川彌久茂ヨリ三谷瀧三郞ニ宛タル書狀ノ文意ニ依之ヲ稚知スルニ足
ル又被告彌作年齡ノ點ハ自白ニ依リ之ヲ認メタリ之ヲ法律ニ照ラスニ被告三名ハ人ヲ毆打シ疾病休
業ニ至ラサル身體ニ創傷ヲ成シタル者ニシテ刑法第三百一條第三項ニ該當シ被〓彌作ハ犯時十六歲
以上二十歲未滿ニ付キ刑法第八十一條ヲ適用シ本刑ニ一等ヲ減シ被〓三名ハ所犯情狀原諒スヘキ處
アルヲ以テ同法第八十九條第九十條ニ依リ被〓末吉、政吉ハ本刑ニ各一等ヲ減シ被〓彌作ハ本刑ヨ
リ通シテ二等ヲ減シ處斷スヘキ押收ノ物件ハ刑事訴訟法第二百二條ニ依リ所有者ニ還付スヘキモノ
トス依テ主文ノ如ク判決ス
明治三十三年七月十日靜岡區裁判所判事北島唯、
同書記關多三郞
米國公使ノ謝狀
以上揭クル所ノ裁判宣告竝ニ關係者ノ自記スル所ヲ參照スレハ醜業者等ハ永井警視ト協議ノ上菅野
道親等ニ廢娼豫防ヲ依頼シ菅野ハ暴漢ヲ使嗾シテ宣〓師ヲ毆打シタルコト明白ナリ故ニ靜岡警察署
カ斯ル不穩ノ事アルヲ充分豫知シタル事ハ疑ヒモナク現ニ被害者津川彌久茂竝ニバンダイクカ其保
護ヲ求メタル際ニモ「卿等ノ身邊ニ危險迫ル」ト語リタルコトアリ然ルニ警察ハ之ヲ未發ニ防カサル
ノミナラス暴動ノ後ニ於テモ巧ミニ其非ヲ飾リ却テ米國公使ヨリ謝狀ヲ受クルニ至レリ其證據ハ靜
岡警察署カ毎日新聞社ニ寄セタル取消請求書ニ徵シテ明ラカナリ
本月二十一日發行貴社新聞第八千九百七十五號第三頁雜報欄内ニ「日本ノ警察ハ女郞屋ノ奴隷ナ
リ」ト題シ記載シタル事柄ハ事實無根ニ有之候勝本件ニ付テハ暴行前ヨリ嚴重警戒ヲ加ヘタルノ
ミナラス暴行當日署長自ラ被害者ノ居住セル美以〓會ニ至リ實況ヲ視察シタルニ何等ノ異狀ナク
且ツ同〓會ニ居合セタル米國人バンダイク等カ署長ニ對シ最早危險ノ虞アラサルニ付貴官ノ勞ヲ
煩ハス必要ナシト述ヘタルニヨリ署長ハ一時同所ヲ立去リタルニ間モナク土方數名同〓會ニ到リ
暴行ヲ加ヘタルモノニシテ當署ハ最初ヨリ之カ警戒ヲ加ヘ充分保護ヲ與ヘタルモ是以上ノ保護ヲ
與フルコト能ハスト云ヒ又ハ日本人マテ保護スルコト能ハスト答ヘ保護ヲ拒絕セシコトナシ蓋シ
當時當署カ如何ナル處置ヲ爲セシカハ本邦駐割米國公使ヨリ我外務大臣ニ送付セラレタル左記謝
狀ノ意味ニ依ルモ明白ナリ
宣〓師バンダイクヨリ暴徒ノ爲メ危害ニ陷リタリトノ電報ニ接シタル靜岡ノ不快事件ニ關シ閣
下及內務大臣閣下ノ處置ハ予ノ深ク滿足感謝スル處ニシテ又此事件ニ關シ靜岡地方廳ガ迅速ニ
處置シ所要ノ保護ヲ與ヘラレタルハ深ク嘆賞スル所ナリ而シテ同事件ハ電報ノ如ク重大ナラサ
リシト雖モ若シ靜岡地力廳ニ於テ充分ノ取締ヲ爲サヽリシナラハ或ハ重大ノ結果ヲ惹起シタル
ナラン然ルニ同廳カ十二分ノ處置ヲ爲シタル爲メ危害ノ直チニ除却セラレタルハ誠ニ幸福ニシ
テ予ノ深ク謝スル處ナリ
以上ノ如キ事實ニ付此全文ヲ揭ケテ取消相成度此段請求候也
明治三十三年七月二十一日靜岡縣靜岡警察署14
每日新聞社御中
結論
移民事件ノ疑獄ハ行政官吏カ黨人ニ狎親シテ其私曲ヲ助ケタルニ起因シ宣〓師毆打事件ハ警察官吏
カ醜業者ノ請托ヲ容レタルニ基ツケリ此ヲ以テ本縣萬般ノ政況ヲ推知スヘキナリ卽チ土木工事ハ收
賄ノ好財源トナリ縣費補助ハ政黨擴張ノ條件トナリ縣費濫用ノ結果ハ七八十万圓ノ縣稅一躍シテ百
三四十万圓ニ上リ溢リニ土木補助費ヲ增加シテ而シテ其使途ヲ曖昧ニシ三十四年度ノ同費目二十一
万圓ノ如キハ全然支出ノ方法ヲ議定セス一ニ縣參事會ノ司掌ニ任シ多數人民ノ政友會ニ加入スルニ
非サレハ決シテ補助費ヲ支出セス豫メ縣費買上ケヲ約シテ高等官ノ官舍六棟ヲ建築セシメ農工銀行
ハ之ヲ政友會ノ事務所內ニ移轉シ賄賂公行賭博流行ヲ極メ殆ント社會ノ秩序ヲ破壞セリ抑モ本縣秕
政ノ端ヲ啓キタルハ前々知事加藤平四郞ノ在職中ニ在リ尋テ前知事小野田元凞前警部長天野三郞前
書記池永端參事官折原巳一郞警視永井弘等ノ施設ニ依リテ大ニ之ヲ助長シタルカ今ヤ小野田天野及
ヒ池永ハ轉任シ折原ハ刑事被告人トナリ唯リ永井醫視ヲ利スト雖モ從來屬吏中ノ善良ナルモノハ〓
ネ斥ソケラレ腐敗分子ヲ重用シタルカ故ニ慣行ノ稅政ハ依然トシテ變ル所ナシ縱ヒ長官其入ヲ得ル
ト雖モ根本的ニ大刷新ヲ加フルニ非サレハ縣治ヲ改善スル能ハサル可シ剪カ稅政ノ〓要ヲ述ヘテ憂
國ノ志士ニ訴フ
靜岡縣秕政匡正ノ儀ニ付請願
靜岡縣遠江國小笠郡南〓村河井重藏謹而
衆議院議長片岡健吉殿閣下ニ請願ス現内閣ノ組織セラルヽヤ實ニ憲政有終ノ美ヲ濟スヲ以テ其ノ目
的トナシ既成政黨ノ改良ヲ以テ之レカ手段トナスコトヲ警言セリ内閣ニ首班タル伊藤侯爵閣下ハ
又タ立憲政友會ニ總裁タリ帝國憲法ノ神膸ハ其ノ自ヲ咀嚼セル所現下最大政黨ノ指導ハ其ノ自ラ
欲スル所ノ儘マナルヘシ重藏謹テ惟ルニ國家ノ本ハ地方ニ在リテ憲政ノ基ハ自治ニ存ス而シテ政
黨ノ地盤モ亦タ府縣ニ置カルヽニ由リ苟クモ國家憲政ノ美ヲ濟シ政黨改良ノ實ヲ舉ケントセハ必
ラス先ツ地方自治ノ稅政ヲ矯メ府縣政黨ノ弊害ヲ正スヨリ始メサル可ラス遠般ノ政理ヤ草莽ノ小
民尙ホ之ヲ了ス而シテ聖鑑ヲ辱フシ內外ノ重責ニ膺ルノ伊藤首相ニシテ之ヲ知ラサル事アラン
哉重藏又タ之ヲ社會ノ耳目タル新聞紙ノ報スル所ニ徵スルニ日本全國中ニ於ヲ地方政治ノ紊亂最
モ甚タシキモノアルハ靜岡縣ヲ以テ第一等トナシ和歌山縣之ニ次キ佐賀縣亦タ之ニ次クト云ヘリ
輿論ノ齊シク公認スル所ニシテ首相ノ聰明豈ニ之ヲ悟ラサルノ理アラン哉我カ譯岡縣ノ稅政ヲ矯
正スルノ事ハ現内閣ノ夙トニ其ノ任トシテ自認スル所タルヤ明ラカナリ只タ夫レ今日ニ及フマテ
未タ其ノ實地ニ着手スル所ナキモノ蓋シ稅政ノ事實ヲ詳細ニ知了セサルニ由ルコトナラン歟重藏
生レテ明治ノ昭代ニ在リ不幸ニシテ員ニ靜岡縣民ニ列ス目ノアタリ視タル所ニ由リ事實ノ詳ヲ具
シテ之ヲ左ニ敍スルコトヽナス固ト好ンテ之ヲ爲スニ非サルナリ蓋シ三州百万ノ生靈ヲシテ塗炭
ノ苦ヲ脫セシメントスルノ慷慨止ムヲ得サルニ出ツ
由來縣下三州ノ地ハ富獄ノ秀ト東海ノ〓トヲ禀ケテ之レニ住スル人民ノ性質ヤ剛健ナリ氣象ヤ溫
厚ナリ溫厚ナリ三百年來德川氏ノ流風遺澤ハ云フヲ待タス維新以降三十年所ヲ經テ令尹ノ送迎數
次ナルモ大概我カ縣民ノ性情ニ適合スルノ政ヲ施キ未タ以テ甚タシキ失態ヲ演シタルノ歷史アヲ
サリシナリ其ノ之レアルハ前々知事加藤平四郞ノ時ニ始マリ前知事小野田元凞ノ代ニ至リテ極マ
レリ遂ニ移民ノ大疑獄ヲ現出シテ司法上ノ醜狀ヲ天下ニ暴露スルニ及ヘリ二人ノ知事カ前後三年
ノ間ニ自由黨員等ト協謀シテ積重セル稅政ノ罪惡擧ケテ之ヲ盡クスヘキニ非ス今マ其ノ最モ大ナ
ルモノニ就キテ序ヲ逐ヒ記載センニ
(一)加藤平四郞ハ明治三十一年憲政黨內閣ノ組織サレタル際知事トシテ來任シタル者固ト吏務ノ
オアルニ非ス只タ少壯ヨリ自由黨員トシテ四方ニ奔走セルノ履歷カ彼レヲシテ仕官スルコトヲ得
セシメタルナリ則チ憲政黨内閣カ當年幾モナク瓦解スルニ際シ彼レハ一身地位ノ安固ヲ計ランカ
爲メ縣下ノ自由黨員等ト結託シテ從來多數ヲ占メ縣下ノ勢力タリシ進步黨員ヲ撲滅セント企テ爲
メニ三十年來不偏不黨ナル神聖ノ歷史ヲ保チタリシ所ノ靜岡縣地方政治ヲシテ全ク黨爭ノ渦中ニ
陷レ復タ拯フ可ラサルノ域ニ至ラシメタリ
(二)彼レハ其ノ爪牙ト賴ムヘキ私曲ノ吏ヲシテ郡長警察署長等ノ要地ニ居ラシメントシテ〓廉恪
勤ノ純吏ヲ罷メ代フルニ彼レノ同臭ヲ以テセリ
(11)斯クシデ播種サレタル稅政ノ弊竇日々ニ益ス大ナラントスルヨリ靜岡縣會ノ彈効スル所トナ
リシカ彼レハ毫モ悔悛ノ意アルコトナク却テ懲罰的解散ノ斷行ヲ上申シ許可ヲ得テ三十一年十二
月十日縣會ヲ解散セリ然レトモ天意人心到底正ニ與ミシテ邪ニ私セス尋テ撰擧サレタル新議員ハ
殆ント全ク舊員再撰ノ姿ニテアリシカハ彼レカ折角ノ企テハ端ナク畫餅ニ歸シタルナリ
(一四)居ルコト半年ニシテ府縣制郡制新タニ改正サレ之カ實施ノ準備トシテ縣會郡會議員ノ總撰擧
アルニ遭フ彼レハ機逸ス可ラストナシ豫ネテ部署セル乾兒ヲ率ヒテ激烈ナル撰擧干渉ヲ行ヘリ當
時全國中地方廳ノ干渉ヲ受ケタル府縣中ニ於テハ本縣ノ如キハ蓋シ比類無カリシコト天下ノ擧ケ
テ之ヲ認ムル所ナリトス此役ヤ永井弘濱松警察署長トシテ干渉最モ勗ム則チ擢ンテラレテ醫視兼
保安課長トナリ凡百ノ警察的醜穢ヲ萠サスコトヽナレリ
(五)加藤知事ノ罪惡賞盈天人共ニ之ヲ容ルヽヲ得サルニ又ヒ彼レハ三十二年八月ヲ以テ本縣ヲ辭
シ去テ山梨縣ニ赴任セリ加藤ニ代ル者ヲ小野田元熙トナス小野田ヤ元ト自由黨出身ニ非ス且ツ中
央政府ノ各廳ニ歷仕シテ多少ノ聲聞アリ靜岡縣民始メ之ヲ迎フルニ慈父ヲ以テシタルモ滯任一年
秕政ノ增長止ムコトナキニ勞レテヨリ怨嗟ノ言ハ到處ニ放タレ三十三年十一月彼レノ本縣ヲ去リ
テ官城ニ往クヤ縣民恰カモ惡魔ニ離レタルノ思ヒヲナシテ相慶賀セリ
(十)蓋シ加藤小野田兩者ノ性行ヲ比照スルニ加藤ハ小彗小才爲ス所多クハ露骨ナルモ小野田ハ則
チ多年官海ニ游泳シテ口給侫媚能ク機鉾ヲ包ムノ伎倆アリ例セハ有志者カ彼レヲ訪フテ下僚ノ菲
政ヲ陳情スルアルヤ彼レハ勉メテ之ニ聽クノ狀ヲ糀ヒ當該ニ下僚ヲ召喚シテ之ヲ有志ノ面的ニ此
責シ而ル後チ更ラニ下僚ヲ召ヒテ前キノ苦言ハ表面的ノミ毫モ意ニ介スルコト勿レト慰論スルヲ
常トセリ要之スルニ小野田ヲ以テ加藤ニ代ヘタルハ狡猫ヲシテ點鼠ニ繼カシメタルト齊シク縣民
カ爲メニ受クルノ害毒ハ却テ前日ヨリモ甚タシキヲ致タセリ
(-G)本縣ノ稅政カ他府縣ニ比シテ最モ醜陋ヲ極ムル所以ノモノハ一事一項トシテ營利的ナラサル
ナキニ在リ試ミニ〓政ノ事實ヲ點檢シ來ラン乎其ノ内容ニハ常ニ黃白ノ附隨シ居レルヲ見ル
(八)前書記官池永端ハ正面ノ衝ニ當リテ此ノ醜陋ヲ助長シタル隨一人タリ彼レ内務部長トシテ土
木課長ヲ兼ネ地方稅支辨事業ヲ左右スルハ其ノ掌中ニ在リ則チ縣參事會員等ト結托シテ營私ノ方
法到ラサル所ナシ
(九)本縣土木請負規則ハ公入札ヲ原則トスルニ拘ハラス大小ノ工事擧ケテ指名入札トナシ彼等ニ
受負ハシムヘキ工事豫算ハ十分ニ見積リ決シテ減額セサル代リニ工事費總額ノ一割ヲ私カニ納メ
シムルコトヽ定メ其ノ入金ハ或ハ縣官縣參事官ノ囊底ヲ肥ヤシ然ラスンハ自由黨支部ノ費用ニ供
セラル
(+)天城山隧道工事ニハ代議士某ノ周旋ニ由リ能ク三割ノ手數料ヲ請負人ヨリ徵收スルコトヲ得
タリ燒津浪除工事亦タ同シク三割ノ收賄ナリシカ當該工事監理技師ハ獨リ此ノ事情ヲ知悉セス設
計書ニ據リテ勳行セントシ請負人ハ斯クテハ納賂ノ損失ニ歸シ了ルヘキニ由リ事ヲ搆ヘテ工事ヲ
進行セス燒津灣沿岸八千ノ民生心魂恟悸魚腹ニ葬ラルヽノ不幸ニ遭ハンコトヲ憂ヘ日夕荷擔シテ
立テリ
(十一)善良ハ公明ニ於テシ醜惡ハ祕密ニ於テスノ格言ニ從ヒ彼等醜類ハ巨額ノ工事ト云ヘハ遠ク
數十里ヲ距ルノ東京ニ於テ請負ハシムルノ例トナシ現ニ掛川沼津韮山三中學ノ建築工事費約ソ十
萬圓ハ都下ノ木口米吉ナル者ニ命シ其ノ一万圓ハ之ヲ納附セシムルノ代リニ自由黨員福島勝太郞
カ借用セル靜岡城外ノ縣有地ニ七棟ノ官舍ヲ造ラシメ之ヲ以テ醜的縣官等カ膝ヲ容ルヽノ處ニ充
テタリ
(十二)掛川中學校新築地所ハ同町字中西ニ在リ土地低濕飮料水ノ適良ナルモノナク加フルニ脚氣
病ヲ誘フノ憂アリテ學生收容ニ宜シカラサルハ勿論甚タシキ水害ノ恐レアルコト安政五年度ニハ
ハ地點六尺以上ノ浸水ナリシテウ記錄アルニ徵シテ明ラカナルノミナラス他ニ適當ノ地所アルヨ
リシテ地方人民ノ痛ク異議アリシニモ拘ハラス當局者ハ一種ノ情實ヨリ此地ヲ撰定シ工事ヲ起シ
タル際昨年九月洪水ノ時(大洪水ニハ非ス)現ニ二尺五寸内外ノ浸水アリタルニ喫驚シ最初ハ地點
以下五寸二分ノ切下ケヲナス筈ナリシヲ變更シテ更ラニ地點上五寸ノ上置キヲナシ尙ホ其上ニ高
サ三尺ノ堤防ヲ四方ニ設ケ石垣ヲ築キテ之ヲ護スルコトヽセリ此ノ設計變更ノ爲メニ工費五千圓
ノ增加ヲ致タセルコト尙ホ恕スヘシトスルモ新設計能ク未來ニ水害ヲ除クノ保證ヲナシ得ルヤ否
ヤ好シ中學敷地ノ水害ハ之ヲ除キ得ルトスルモ此ノ敷地タル逆川ノ下流ニ沿フヲ以テ他日洪水ノ
際前述堤防工事ノ障フル所トナリ川流其ノ上方ニ横溢シテ市街ノ最モ繁榮ナル部分ハ沮洳ノ場ト
ナラサル可ラサルハ明白ナルノ數タルナリ嗚呼當局者等ハ何ヲ苦ンテ斯カル不都合ノ地所選定ヲ
ナシタル乎之ニ答フルモノハ獨リ彼等カ暗黑ナル心事ノ外ナカルヘシ
(十三)翻チ建築工事如何ト見ルニ土坪一坪二圓ノ請負ヲハ僅カニ三十五錢ノ下請負ニ委シ建築費
一坪四十圓以上ノ請賀ハ二十圓ノ下請負ニ任カシ其ノ差額ハ是レ醜類ヲ富マスノ資料タリ其ノ結
果トシテ請負當時ハ生松ノ長サ十二尺末口六寸ノ杭木ヲ地形ノ下ニ打込ムヘキ設計ナリシニ之ヲ
二ヶ切トレニ行久スムメタル以及び太原川
落ヲナシ一見人ヲシテ粟膚ノ思ヒアラシム
(十四)右掛川中學新築ノ地所ハ元ト城廓地ノ一部分ナル故ニ舊時代建築用ノ石材ハ續々地中ヨ
リ掘出サレ其ノ大ナルハ二三百貫ノ上ニ出テ小ナルモ尙ホ二十貫以上ノ物多キニ居ルヲ以テ此等
ヲ以テ新建築ノ村ニ充用セハ可ナルヘキモ此等ハ上等ノ石材ナルカ故ニ從テ其ノ價格十圓以上ノ
モノアルヨリ監督官吏人夫等ト申合セテ之ヲ他ニ賣却セシメ其ノ金員ヲ以テ酒〓ニ供シ身分不當
ノ散財ヲナス者多々アリ如此キハ曾テ評岡中學建築ノ際ニモ發覺サレ三十二年六月ノ臨時縣會速
記錄ニモ明記サルヽ所タリ這般ノ醜陋カ演セラルヽヲ見ハ其ノ請負下命ノ當時遙カニ之ヲ東京ニ
齋ラシテ執行シ絕エテ地方人民ヲシテ知了セシメサリシ魂膽亦タ照魔鏡ヲ用ヒスシテ明察サルヘ
キナリ
(十五)縣下ノ土木工費一ケ年六十万圓ナリ道路耳語スルニ一工事起ル每トニ當業者ハ工費二十分
一ヲ監督吏ニ贈賄スルト云フヲ以テセハ一年三万圓ノ金ハ彼等醜吏ノ手中ニ入ルコトナラン歟宜
ヘナリ昔シハ「收稅吏今ハ土木吏」テフ童謠ノ生スルヤ俸給薄クシテ奢侈ナルモノ彼等ノ右ニ出ス
ルハナク甚タシキハ賄賂ニ由リテ民堤ヲ官堤トナシ又タハ使用セサル人夫ノ賃銀ヲ騙取スルノミ
ナラス不急ノ土木ヲ起シテ自他相益スルノ計ヲナセリ
(十六)縣參事會員等カ縣官ト結托シテ獲ル所多キ事ハ世人ノ知悉スル所ニシテ昨ノ短褐壯士今ハ
忽チニシテ盛裝紳士トナルヲ見ルモ其一斑ヲ測リ難カラストス遠ク之ヲ世間ノ風說ニ徵スルニ及
ハス近クハ自由黨ノ大會ニ際シ其ノ內訌ヨリ萠芽セル同臭彈効狀ノ公布サレタルモノ實ニ之ヲ證
明スヘシ曰ク、大橋某ハ支部黨費ノ寄附ヲ口實トシテ富士天龍安倍大井諸川ノ堤防工事、掛川韮山
沼津各中學校ノ建築工事竝ニ洞道路燒津築堤工事等ニ付各請負人ヨリ工費總額ノ一割以下五分以
上ヲ支部ニ納附セシメ且ツ己レ自ラ五分以下三分以上ヲ收賄シタリ其金額正ニ金五千圓餘ナル可
シ、明治三十二年八月縣會議員總選擧ノ際ハ靜岡師範學校附屬物建築請負人ヨリ金五百圓ヲ自由
黨支部ニ寄附セシメタリ、小學校〓科書番査會ニ際シ支部ハ繼ニ金三千圓ヲ得タルモ大橋ハ各審
査委員ヘ配分スト稱シテ金港堂ヨリ三千圓國光社ヨリ千圓秀英堂ヨリ千圓ヲ收賄シタリ武德會
ノ積金一万四千餘圓(警察官ノ威力ヲ以テ廣ク縣民ヨリ募集シタル金)ハ大橋ノ頭取タル遠江共同
銀行カ無利息ニテ預リ居レリト云々
(十七)又タ縣參事會員山田唯吉ハ安倍川沿岸ノ開墾地十數町步ヲ買入レタルカ之ヲ保護スヘキ堤
防ナキカ爲ニ官營ノ舊慣ナキ所ニ官營堤塘百數十間ノ工事ヲ出願シ直ニ許可ヲ得テ工事已ニ出來
シ右ノ開墾地ハ忽チ數倍ノ價格ヲ有スルニ至レリ
(十八)又タ明治二十九年靜岡縣廳ノ正門ヲ作リ門外ノ池沼ヲ埋メテ道路ヲ數設シタリシカ該池沼
ハ安倍郡豐田村外二箇村用水組合ノ共有物ナリシヲ以テ當時本縣ハ相當ノ手續ヲ盡シテ道路敷設
ノ承諾ヲ得タリ其後三箇年ヲ經過シテ三十三年八月ニ至リ山田唯吉ハ此道路敷地タル池沼三畝步
ノ所有權ヲ用水組合ヨリ讓リ受ケ縣官ト結托シテ右ノ道路敷地ト靜岡城内ノ縣有地畑一段一畝步
トヲ交換シ不義ノ利益ヲ占メタリ猶ホ同池沼ニ連リタル池沼二段七畝八步ハ政友會員川邊宰兵衞
田宮久五郞兩人之ヲ買取リテ同時ニ縣有地ノ開〓地二町五段六畝二十三步ト交換シ是亦不當ノ利
益ヲ占メタリ縣官ト黨人トカ相狎親シテ不義不正ノ利慾ヲ貪ホルコト〓ネ此類ナリ
(十九)更ラニ其例ヲ擧ケンニ大井川沿岸金谷町字鎌塚ノ人民ハ自由黨員タルノユエヲ以テ民費ノ
堤塘ヲ官營堤塘トナシタリ磐田郡豐濱村ノ太田川橋梁ハ二千三百餘圓ノ修繕費ヲ出願シ却テ三千
圓ノ補助金ヲ交附サレ其内三百餘圓ハ醜類ノ賄賂ニ供セラレタリ其他各町村ノ避病舎建築費等ハ
〓ネ實際工費額ヨリモ多ク交附シテ而シテ其剩餘ハ賄路トナリ其關係人民ハ腐敗シテ自由黨ニ加
入スルヲ常トス
(二十)縣參事會員等ヲ始トシ自由黨ノ領袖等ハ一面私ヲ營シ利ヲ獵シツヽアルノ側ラ一面白家ノ
地盤ヲ鞏固ニスルノ計ヲ案シ縣費ヲ以テ政黨募集ノ好餌トナスニ至レリ卽チ道路改良、堤防修繕、
避病舍建築其他勸業衞生等ノ事業中縣費ノ補助ニ係ルモノハ自由黨員ヨリノ出願ニ非サレハ縣官
竝ニ縣參事會ニ於テ之ヲ許可セス補助費支出ノ須要條件トシテ關係町村人民ノ重立タルモノヲ白
由黨ニ加盟セシメ且補助額ノ一部ヲ收賄スルヲ常トス
(二十一)田方郡修善寺溫泉場ヨリ同郡伊東村ニ達スルノ道路改良工事ハ數年前ヨリ著手シテ今マ
ハ中間ニ於ケル柏峠ノ險ヲ開鑿スル迄ニ進行スルニ拘ハラス進路ノ前ニ橫ハレル伊東村カ進步黨
員多キ爲メ故ラニ工事ヲ遲滯セシメ伊東村ニ告ルニ全村自由黨ニ加盟セハ三十四年度ニ組入レ著
手スヘシ然ラスンハ無期中止アルノミト云フノ强迫狀ヲ以テセリ
(二十二)磐田郡井通村ニ昨年赤痢患者ヲ生シタルニ由リ豫防費トシテ三千餘圓ヲ縣稅ヨリ補助ス
ル所アリ然ルニ實際ノ支出ハ一千五百圓以內ニシテ差額ノ何レニ散布セルヤハ極メテ瞹昧タリ縣
參事會員某ハ揚言スラク我黨ヨリ名譽職ヲ出スノ結果ハ此ノ如ク利益ノ大ナルモノアルナリ渠レ
進步黨員等何ソ反省歸順セサルヤト
(二十三)掛川森町間改良道路(信州街道延長三里)ハ掛川町民故山崎干三郞等數名カ資財ヲ捐テ發
起竣功セル所タリ之ヲ縣稅支辨トシテ買上クルニ於テハ公共ノ利益尠シトセス前年來當局者ト右
發起人等ト交渉ヲ重ネツヽアリシカ縣參事會員某其間ニ入リ政商的照會ヲナシテ曰ク發起人ニ於
テ現金二千圓ヲ支出シ且ツ關係者ノ同志三十名入黨ヲ諾スルニ於テハ縣會ニテ可決セシムヘシト
山崎等ハ意外ニ感シ之ヲ知事ニ上申セリ知事モ表面意外ノ感ヲナシタル態ヲ粧ヒタレ共素ト是レ
同穴ノ狐狸タリ詮索ヲナス事モナク結局談判不調ニ終レリ
(二十四)之ニ反シ掛川大坂間道路(溜街道三里餘)ノ改良工事ハ某參事會員ノ〓唆ニ由リ沿道村民
等自由黨ニ加盟セル報酬トシテ實際工費ハ三万圓内外ナルヘキモノヲ故ラニ勾配十五分ノ一ナル
山間ニ設計シテ七万圓以上ノ費額トナシ其ノ差金ノ分配ニ與ラント孜々經營スル所アリ
(二十五)更ラニ驚クヘキコトアリ彼等ハ以公殉私ノ實ヲ達シ非行ヲ遂クルノ便宜ヲ計リテ縣參事
會委任條件中ニ左ノ如キ重大ナル權能ヲ附加セリ曰ク「土木費又ハ土木補助費中箇所ノ指定ナク
シテ議決シタル豫算ノ支出順序ヲ定ムル事」斯クテ市町村土木補助費豫算ノ如キハ一切其支途ヲ
示サス漠然總額ヲ議定スル事トシ三十四年度ノ土木補助費ハ二十一万圓ト決定セシカ此金額ハ事
業ノ緩急ニ依テ支出スルニ非ラス一ニ各町村人民ノ自由黨ニ加盟スルヤ否ヤ補助費ノ幾部分ヲ黨
費ニ寄附スルヤ否ヤニ依テ決定スルナリ其例證ハ本縣下ニ普シト雖就中顯著ナルハ志太郡葉梨小
川和田其他諸村、樣原郡白羽御前崎相良吉田諸村、磐田郡天龍村外數箇村、小笠郡佐束下内田諸村、
庵原郡小島村外數村、安倍郡〓澤村〓水町三保村賀茂郡仁科村外諸村ノ人民カ縣費補助ヲ得ンカ
爲已ヲ得ス良心ニ背キテ自由黛ニ加盟シタル事是ナリ
(二十六)聞ク所ニ據レハ明治三十三年度內ニ於テ自由黨員ノ收得シタル賄賂ハ七八万圓ヲ下ラス
〓科書審査ニ於テ二万八千圓天城隧道工事ニ於テ八千五百圓掛川韮山沼津三中學校建築ニ於テ一
万圓天龍大井富士三大川工事ニ於テ一万圓其他ハ道路改良等ノ各補助費ニ於テ收得セリト稱ス現
ニ同黨靜岡支部ハ同年度內ニ於ケル普通ノ黨費外ニ金三千五百圓ヲ投シテ新聞社ヲ購入シ金三千
圓ヲ以テ事務所數地ヲ買取シ金二千四百圓ヲ散シテ事務所ヲ建築シ地方ノ政黨支部トシテハ無比
ノ費金ヲ要シタルニ拘ハラス其財源ハ甚タ瞹眛ナルモノアリ以テ其内部ヲ想像スヘシ
(二十七)自由黨靜岡支部ノ新築ヲ敍スルニ當リ勢ヒ其ノ敷地ト農工銀行トノ關係ヲ語ラサル可ラ
ス同行前任頭取井上彥左衞門ハ同行ノ建築地トシテ當市ノ要樞ニ適當ナル地所ヲ購ヒ置タリ然ル
ニ現任頭取影山秀樹ハ該地ノ民家ニ數百金ヲ與ヘテ立退カシメ其家屋ト地所トハ之ヲ同臭ノ新聞
靜岡新報社ニ貸與シ且ツ靜岡支部ニ向テ該地所ヲ賣却シタリ而シテ同行ハ在來ノ位置卽チ城外ノ
縣有地ニ新築スル事トシ目下支部ノ一隅ニ同居シテ政黨員ノ出入類繁ナル所ニ在リテ農工ノ金融
事業ヲ司掌セリ天下何レノ國カ他ニ銀行ト政黨ト一家ニ同居スルモノアラン乎
(二十八)小野田元盤ノ在職中靜岡農工銀行ノ定款ヲ故正シテ取締役三年ノ任期ヲ二年ニ短縮シ强
テ役員ヲ改選シテ悉ク自由派ヲ選任シタル以來(同行ノ株主發言權ハ無制限ニシテ五万票ノ中一
万五千票ハ縣知事ノ有タリ)同行ノ事務員ハ悉皆小使ニ至ルマテ自由黨ニ加盟セシメ其代リ一同
俸給ヲ引上ケタリ斯ク行內同臭トナリテ以來縣金庫ハ〓ネ自派ノ銀行ニ之ヲ移シ預金ハ悉ク同臭
ノ銀行ニ於テシ黨員若クハ其ノ手ヲ經サレハ如何ニ正確ナル事業ニ對シテモ容易ニ貸出ヲ爲サス
之ニ反シテ自由黨員ヘハ脆弱ナル抵當違法ノ使途ニ對シテモ云フカ儘ニ貸出シ且ツ密カニ資金ヲ
運轉シテ株主ノ知ラサル利益ヲ貧ホルモノ甚ハタ多シ而シテ農工銀行ノ金ヲ借ラント欲セハ必ラ
ス入黨シ竝ニ多少ノ賄賂ヲ要スルコトハ廣ク縣民ノ知ル所ナリ
(二十九)其ノ一例ヲ擧クレハ前條ニ述タル山田唯吉カ官營ノ確證ナキ所ニ官營提塘ヲ築造セシメ
タル安倍川沿岸ノ牛妻開墾地ニ對シテハ薄弱ナル抵當ニ對シテ金五千圓ヲ貸附ケタリ同地ノ開墾
ハ如何ニ多ク見積ルトモ一千五百圓ヲ出テサル事業費タリ然ルニ五千圖ヲ貸附シテ少クトモ三千
餘圓ハ他ノ事業ニ放資セシメタル如キ明カニ農工銀行法違反タリ又貸附金ノ爲ニ自由黨ニ加盟セ
シメタル實例ハ殆ント屈指ニ遑マアラス
(三十)農工銀行ノ定款ニ由レハ其ノ預金ヲナスハ必ス銀行會社ニ限ル旨ヲ以テセルニ拘ハラス濱
松物產委托商曾ニ向テ低利付キノ預金ヲナシタルモノハ判然其ノ規定ニ違背セル事ニシテ高知縣
農工銀行ヨリハ之ヲ聞キ合セニ來レリト云フ是レ他ナシ該商會ノ頭取伊東磯平治カ自由派ニ緣故
アルニ外ナラス
(三十一)小學校〓員加俸金約三万圓ノ昨年四月靜岡縣ニ交附アルヤ縣下ノ各銀行等ヨリ年八朱利
ニテ預カラン事ヲ申出テタルニ拘ハラス故ラニ年七朱利ニテ遠江共同銀行ニ預ケ入レタリ他ナシ
同行ハ伊東要藏大橋賴模等カ自家ノ勢圏ヲ擴張セントシテ設立シタル金融機關タルヲ以テナリ
(三十二)全體加俸金ノ趣旨タル一日モ早ク之ヲ其ノ受取人タル小學〓員ニ交付スヘキモノタルニ
當局者等ハ昨年十月ニ入リテ始メテ其ノ手續ヲ了シタリ去レハ四月ヨリ九月ニ至ルノ間ニ遠江共
同銀行カ不當ニ收得セル利益ノ夥タシキハ言ヲ待タス彼レ酸類ハ之ヲ如何ナル方途ニ支辨セルヤ
或ハ傳フ伊藤侯ノ立憲政友會組織ニ關シテ昨年五月來縣セル時ノ接待費ノ如キ此利益金ノ中ヨリ
出テタリト
(三十三)警察ノ職ハ一面司法事務ニモ關係ヲ有シ嚴肅ナル官紀ヲ維持スルヲ主旨トン縣官公支ノ
非違アルニ於テハ之ヲ正スヘキ任ニ在ルニモ關ヒス本縣ノ警官ニ至リテハ土木吏ト相竝ンテ醜惡
ノ幫助ヲナスヲ事トセリ是レ皆ナ前警部長天野三郞及ヒ警視永井弘兩人カ其ノ俑ヲ造リタルニ外
ナラス
(三十四)靜岡縣警察官ハ殆ント全ク政黨募集員ナリ靜岡市一千餘名ノ自由黨員ハ〓ネ永井警視ノ
手ニ依テ募集サレタリ宿屋質屋消防夫等ヲ初メ〓ニニ接接間接ノ關係アル者ハ大〓入黨セサルハ
ナク永井ハ之ヲ祕セスシテ却テ人ニ誇リ居レリ而シテ同人カ松本君平江間俊一影山秀樹大橋賴模
等ヲ初メトシ重立タル黨人ト常ニ相往來シテ料理屋ニ會飮セルコトハ人ノ之ヲ知ラサルモノナシ
左レハ縣下各地ノ警官皆之ニ傚ヒ殆ント政黨運動者ノ先驅タリ
(三十五)此如ク本職以外ノ事ニ熱中スルノ結果ハ職務ノ怠慢ヲ致スヘキヤ固トヨリ論ヲ俊タス村
落駐在ノ巡査カ其巡囘ヲ怠ルハ云フ迄モナク市街地ノ警吏一般ニ其職務ニ忠實ナラサルハ現ニ東
海道鐵道線中ニ於テ掏摸ノ最モ多數ナル靜岡縣ニ過クルナシトハ旅客ノ公評ナルヲ以テモ知ラル
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(三十六)否ナ彼等ハ営タニ不良民ノ取締ヲナサヽルノミナラス却テ之ト親密ナル交際ヲ結ヘリ去
レハ其ノ轉任等ノ事アルニ際シテハ土地ノ博徒乃至賤業者等カ發起トナリテ送迎會ヲ開クヲ例ト
セリ
(三十七)之ヲ聞ク警察署長ノ制服ハ其ノ所在地ノ博徒ヨリ贈ル所タリ其他特務及ヒ巡囘ノ査官ニ
贈ル所固トヨリ少小ナラス其額殆ント一管轄內ニテ二三千圓ニ及フト故ヲ以テ博徒間ニハ往々收
支不償トノ苦情ヲ漏スモノアリ
(三十八)斯カル實況ナレハ賭博公行ノ形容モ無理ナラス地方到處ニ流行ノ勢ヲ呈シ學校生徒ニ
至ルマテ之ニ耽ルニ至レリ若シ發覺スルコトアルモ或ハ入黨シ或ハ贈賄スルニ於テハ法綱ヲ免カ
ルヽコトヲ得ヘク却テ之ヲ捕ヘタルノ警吏ハ轉任ヲ命セラルヽ等ノ奇談アリ小笠郡千濱村ノ如キ
ハ其一ナリ
(三十九)靜岡市昨年十月吳服町大火ニ際シ警察署ハ失火者カ失火ノ屆出ヲ爲シタルニ之ヲ却下シ
テ其火元タル責任ヲ道レシメタリ而シテ其ノ理由ヲ詰レハ發火ノ原因不明ナルカ故ナリト稱シテ
其旨ヲ永井警視ノ名ヲ以テ新聞紙ニ公ケニセリ蓋シ失火者ハ市中重立タル自由黨員ナリ此ノ如キ
事實ハ眞ニ枚擧ニ遑マアラス
(四十)掛川警察署ハ昨年一月同町大火ニ類燒ニ際シタル後チ其ノ假署トシテ移轉セル處ハ貸座敷
業者ノ立退地ト同番地ニシテ其ノ入口ノ表門ニハ掛川遊廓ノ標札ヲ揭ケ其ノ三方ハ皆賤業者等ノ
住居タリ拘留處留置處ノ如キハ僅カニ壁一重ヲ隔ツルノミニテ歌舞管絃ノ聲ニ接スヘシ是レ前條
ニ述ヘタル農工銀行政黨支部ノ同居ト兩々相對シテ靜岡縣ノ二大奇觀ト閣セラルヽ所以ナリ
(四十一)元同地貨座敷ハ一昨年中縣令ヲ以テ市街地外ニ移轉スヘキ旨ヲ達セラレ其ノ位置サヘモ
撰定サレアリシ事ナレハ火災類燒ヲ機會トシテ該指定地ニ移轉セシムヘキノミナラス當業者ノ中
ニハ現ニ指定地ニ新築ヲ了シ速ニ實行ヲ希望スル者アルニモ拘ハラス縣廳ハ言ヲ左右ニ托シテ之
ヲ拒ミ居レリ是レ彼ノ醜類等カ例ノ收賄手段ニ由リテ他ノ移轉候補地ヲ看出タルカ爲ナリ而シテ
貸座敷ノ容易ニ移轉セサルハ警察署ノ之ヲ憂ヘトセサルノミナラス却テ喜色アリト云フニ至テハ
驚クノ外ナシ
(四十二)昨年夏秋ノ候自由廢業問題ノ暄シキニ際シ永井警視カ之ニ關シ醜聲ヲ洩シタルコトアリ
遂ニ訴訟沙汰等トナレルノ末客臘二十二日靜岡地方裁判所豫審決定ノ文ニ由リテ之ヲ觀レハ永井
ハ醜業者等ニ對シテ娼妓廢業ノ防止ヲ菅野内田兩壯士ニ依賴スルコトヲ是認シ且ツ報酬トシテ金
五百圓ヲ贈ルコトヲモ至當ト認メ其贈金方法ヲ指圖シタルコト明白ナリ假令永井自カラ賄賂ヲ手
ニ觸レストスルモ此ノ如キハ行政官トシテ爲スヘカラサル事ヲ爲シタルモノト謂フヘク且ツ之カ
爲ニ暴漢ヲ使〓シテ宣〓師米人バンダイク竝ニ瀨川彌久茂ヲ白晝公然毆打スルモノアルニ至リシ
ハ公權濫用ノ極ト云フ可シ
(四十三)以公殉私ノ弊毒沼々トシテ底止スル所ヲ知ラス遂ニ醜類共謀シテ文害僞造ノ大膽ナル計
畫ヲナシ之ヲ實行セリ卽チ自由黨靜岡支部ノ幹事山國昂三等ハ昨年ノ春頃米國移民事業ヲ企テ同
派ノ町村長數名ト密謀シテ他府縣ノ勞働者俄カニ本縣ニ轉籍シタルカ如ク戶籍ヲ僞造シ何レモ農
工業視察ノ目的ナリト詐リテ海外渡航免狀ノ下附ヲ出願シ昨年二月中旬ヨリ三月末ニ至ル迄ニ一
千二百餘名ヲ米國ニ波航セシメ之ト同時ニ遠藤爲吉ナルモノモ亦別ニ一會社ヲ組織シテ四百餘名
ヲ渡航セシメタリ其戶籍僞造竝ニ免狀詐取ノ方法タルヤ極メテ淺薄ニシテ少シク心アルモノハ一
見詐術ヲ看破スヘキニ拘ハラス有力ナル自由黨員ノ所業ナルヲ以テ小笠部長板垣昌德庵原郡長星
田茂幹等ハ何等ノ取調ヲ爲サスシテ其不都合ナキ旨ヲ證明シ當時ノ警部長天野三郞保安課長永井
弘等ハ渡航者ノ身元ヲ取調フヘキ戰守ニ在リナカラ是亦講査ヲモ爲サスシテ不都合ナキ旨ヲ認メ
當時ノ小野田知事池永書記官折原參事官等ハ固ヨリ山岡〓三ト同臭味ナルヲ以テ容易ニ彼等ノ願
書ヲ容レテ千有餘名ノ戶籍僞造者ニ海外渡航免狀ヲ授ケタリ
(四十四)然ルニ昨年四月ニ至リ海外渡航ノ願書中ニ私書竝ニ私印ノ僞造物アルコト發覺シ延テ戶
籍僞造等ノ犯罪續々暴露シタルモ當時本縣高等官中ニハ山岡〓三等ヲ庇護セントスル者多ク且ツ
重立タル政友會員ノ運動アリシヲ以テ久シク此ノ一大犯罪ヲ陰蔽シ居タリ然ルニ偶マ靜岡市選出
代議士ノ候補者爭ヒアリテ醜類ノ內證始マリ縣官ハ悉ク政友會員松本君平ヲ推薦セントシ山岡〓
三ハ同黨員福島勝太郞ノ有力ナル參謀ナリシヨリ警視永井弘ト山岡〓三トノ間ニ衝突起リ其結果
永井警視ハ斷然山岡ヲ排除セント欲シ遂ニ惡事露見ノ後四箇月ヲ經テ昨年八月二十五日檢事局ニ
向テ告發スル事トナリタリ其結果參事官折原巳一郞モ亦詐僞受免狀知情下附ノ刑事被〓トナリ小
野田天野池永永井以下多數ノ縣官郡長等モ亦數々法官ノ取調ヘヲ受ルニ至リ山岡折原等ノ豫審既
ニ終結シ有罪ノ決定ヲ受ケテ去二月十三日ヨリ公判ヲ開キツヽアリ抑モ斯ノ如キ大獄ノ起リタル
ハ畢竟縣官カ黨人ト狎親シテ其私曲ヲ助クルノ陋弊ニ基因スト云フモ敢テ誣言ニ非ラス
(四十五)鳴呼靜岡縣ノ稅政是ニ至リテ亦タ極マレリ爾餘凡百ノ施政ハ一トシテ此ノ以公殉私ノ奸
策ヲ幫助セントスルニ非サルハナシ例セハ安倍郡長田村ハ憲政本黨ノ多數ヲ制スル自治區ニシテ
昨年九月自由派ノ村長福地賢吉ハ縣會議員ノ候補者トナランカ爲ニ辭職シ進步黨ノ助役增田善右
衛門ハ其後任ニ當選シテ監督官廳ノ認可ヲ申請シタルニ監督官ハ一年餘六箇月ヲ經タル今日ニ至
ルマテ何等ノ指令ヲモ與ヘス然ルニ助役增田善右衞門モ亦昨年四月ヲ以テ辭職シタレハ自治區ノ
行政機關全ク停止シ安倍郡書記中里憲カ臨時ニ村政ヲ管掌シ居タリ其ノ後監督官ハ村民中ヨリ自
由派ノ梅原乙松ヲ村長臨時代理ニ選任シタリ爾來村會ヲ開クコト十數囘ニ及フト雖モ今猶ホ村長
ノ公選ヲ爲サス之ヲ監督官廳ニ促セハ監督官ハ言ヲ左右ニシテ村長竝ニ助役ノ公選ヲ許サス蓋シ
同村々會議員ノ多數ハ憲政本黨員ナルヲ以テ公選ノ結果ハ必ラス同派中ヨリ村長竝ニ助役ノ選出
サレンコトヲ恐レ村會議員改選ノ後ヲ待ツテ徐ロニ自由派ヲ村吏ニ擧ケントスルニ外ナラス本縣
行政官カ黨派心ノ爲ニ自治制度ヲ蹂躪シ人民ノ公權ト公益トヲ妨害スルノ實例甚タ寡カラスト雖
煩雜ヲ嫌フカ故ニ只タ其一例ヲ擧ル而已
(四十六)旣ニ政黨ト同棲スル程ナレハ其ノ政黨ノ爲ニ盡力スルハ固ヨリ明白ナル事實ニシテ靜岡
農工銀行ハ本縣警察ト共ニ自由黨ノ二大機關タリ其ノ貸附上ニ於テ政黨員ヲ募集スルノミナラス
各銀行半季決算報告ノ如キハ必ラス同派ノ新聞靜岡新報ニ廣告センコトヲ勤メ若シ反對派ノ新聞
ニ廣告セハ今後ノ取引ヲ拒絕セントノ脅迫的檄文ヲ廻シタルコトサヘアリ本縣農工業ノ最大金融
機關カ斯ル陋弊ニ陷リタルヲ見ナカラ其監理者タル本縣書記官竝ニ大藏省ノ當局者カ默々看過ス
ルハ〓嘆ノ至リナリ
(四十七)彼等カ對新聞政策タル啻タニ自派ノ機關ヲ富マサントスルノミナラス兼ネテ又タ彼等ニ
反對セル進步派ノ機關紙ヲ岩メントスルニ在リ現ニ縣令公布ノ如キ爾來靜岡市ノ兩派新聞ニ卽日
登載セシメタリシカ彼等ハ之ヲ自派ノ新ニノミ記載セシメ其ノ登錄料トシテ一箇年二百圓内外
ノ金額ヲ附與セント計畫セリ然ルニ進步派新紙ハ是レ公益ノ忽カセニス可ラサルモノナレハトテ
自ラ進ンテ一切補助金ヲ要セス從前通り記載センコトヲ出願セシカハ彼等ハ營私ノ計畫齟齬セル
ニ當惡シ遂ニ縣令公布ハ一切之ヲ新聞紙ニ登載セサルコトヽナシ別ニ一種ノ縣令報ヲ發行シ其印
刷ヲ自派ノ新聞社ニ托スルノ料トシテ一箇年五六百圓ヲ支拂フニ至レリ五六百金ハ少額ナリ暫ラ
ク之ヲ不問ニ措クコトヽスルモ此ノ新刊印刷物ヲ購求セサル可ラサル縣民ノ不利ト又タ縣令報ノ
配達運緩ヲ極ムルニ由リテ生スルノ不便トハ殆ント之ニ堪ユ可ラサルナリ現ニ濱松町ニ黑死病
「ペスト」發生ノ際ノ如キ速カニ新紙ニ揭載セシメサリシカ爲メ之ニ應スルノ處置頗フル機ヲ失
シタルコトアリ
(四十八)將タ右濱松ニ於ケル「ペスト」ハ昨年六月ノ發生ニシテ一時之ヲ消滅シ得タリシモ同八月
末ニ至リ俄然病毒再發シ當局者ノ驚愕一方ナラス知事衞生課長署長郡長等祕密協議ノ上ニテ上ヲ
隱蔽セシメタリ
(四十九)只タ夫レ隱クスヨリ顯ハルヽハナクシテ此事遂ニ世人ノ耳朶ニ到ルヤ一時大恐慌ヲ致シ
衞生機關ト警察機關ノ不信任極度ニ達シ何處ニ於テ患者伏在セルカモ測ラレストテ人心恟々タリ
(五十)右再發ノ患者ハ同地「ラムネ」製造販賣商ノ妻ナリシカ其ノ販賣セル「ラムネ」ハ患者死去ノ
後チ之ヲ取集メタリト云フ又タ同地ニテハ其當時「ペスト」疑似患者トシテ醫師ノ診斷ヲ受ケタ
リシ者一人モナク死後檢症ニ由リテ始メテ之ヲ認メタリシト云フ何ソ不取締ノ甚タシキ如此ナル
ヤ
(五十一)政務ノ不振ハ大ヨリ細ニ及ヒテ些ニノ洩ス所アルコトナシ試ミニ勤業ニ就テ其ノ一例ヲ揭
ケンニ昨年蟲害ノ蔓延ハ縣下各地ニ遍ク農民ハ日夜其ノ驅除ニ奔走セル知事ハ之ヲ意トセス曾テ
技師ヲ派遣シテ其ノ實況ヲ鑑査セシメサルナク却テ中央政府ノ技師派遣ニ遭ヒタレトモ飽クマテ
壅蔽ヲ勉メタリシモノト見エ農商務省員ノ復命ニハ靜岡縣ニハ蟲害ナシトアリタリト聞ク嗚呼是
レ何等ノ詐僞ナルソ
(五十二)斯クテ蟲害及ヒ水害ノ爲メニ縣下昨年度ノ被害ハ實ニ夥タシク輿論ハ之ヲ平年作ノ三割
減ナラント唱ヘ憂心冲々トシテ善後ノ策ヲ講シツヽアルニモ拘ハラス當局者等ハ却テ平年以上二
割ノ增收ナリト報〓セリ
(五十三)上來五十餘項ヲ重ネテ陳述セル所ニ由リテ縣下人民カ有形ニ無形ニ將タ消極ニ積極ニ稅
政ノ下ニ苦シメラレタル所略ホ推知サルヘキナリ而シテ其ノ害毒ノ分量標準ヲ地方稅ニ取乎從來
七八十万圓ノ政費ハ兩三年來一躍シテ百三四十万圓ニ上レリ凡ソ六七割方ノ增加ヲ見タルニテモ
其ノ一斑ヲ推知ラルヘキナリ
靜岡縣稅政ノ事實陳述玆ニ盡クセルニ非スト雖モ姑ラク其他ヲ措キ如上ノ要ヲ摘シテ之ヲ云ハンニ
ハ土木工事ハ收賄ノ好財源トナリ縣費補助ハ政黨擴張ノ條件トナリ縣費濫用ノ結果ハ七八十万圓ノ
縣稅一躍シテ百三四十万圓ニ上リ濫リニ土木補助費ヲ增加シテ而シテ其使途ヲ瞹味ニシ三十四年度
ノ同費目二十一万圓ノ如キハ全然支出ノ方法ヲ議定セス一ニ縣參事會ノ司掌ニ任シ多數人民ノ自由
黨ニ加入スルニ非ラサレハ決シテ補助ヲ支出セス豫メ縣費買上ケヲ約シテ高等實ノ官舍六棟ヲ建築
セシメ農工銀行ハ之ヲ黨派ノ事務所內ニ移轉シ賄路公行〓博流行ヲ極メ殆ト社會ノ秩序ヲ破壞セリ
抑モ本縣稅政ノ端ヲ啓キタルハ前々知事加藤平四郞ノ在職中ニ在リ尋テ前知事小野元熙前警部長天
野三郞前書記官池永端參事官折原巳一郞警視永井弘等ノ施設ニ依リテ大ニ之ヲ助長シタルカ今ヤ小
野田天野及ヒ池永ハ轉任シ折原ハ刑事被〓人トナリ唯リ永井警視ヲ剰スト雖モ從來屬吏中ノ善良ナ
ルモノハ〓ネ斥ソケラレ腐敗分子ヲ重用シタルノミナラス之ト結托セル自由黨員ノ跋扈制スルニ由
ナク慣行ノ稅政ハ依然トシテ舊ニ沿ルト云フテ不可ナル事ナシ
重戰謹ンテ惟ルニ階前千里ハ交通不便ノ往時ニ在リテ唱ヘタリシ所ニシテ黨弊改良ハ新智識的現內
闇ノ宣言セル所ナリ況ンヤ今マ行政刷新ト財政整理トノ中央政府指針トシテ言明サルヽニ際ス然レ
ハ則チ如此クニ紛糾セル三州ノ稅政マ矯正シ如此クニ紊亂セル一縣ノ財政ヲ節約シ縣下百万ノ蒼生
ヲシテ塗炭ノ苦境ヲ脫シ眞如ノ幸福ニ浴セシメントスルニハ
第縣官ノ淘汰殊トニ土木吏警察吏郡長郡吏員ノ免黜ヲ緊急實行スルコト
第二土木課警察署ノ事務ヲ刷新スルコト
第三速カニ靜岡縣會ノ解散ヲ行ヒ縣下民心ノ歸嚮ヲトシテ玆ニ施治ノ方針ヲ定ムルコト
此ノ三項ヲ實ニスルヨリ善キハナシ翼ハクハ賢明ナル閣下ノ英斷以テ之ヲ採納マランコトヲ誠恐誠
惶順首
明治三十四年三月五日
靜岡縣遠江國小笠郡南〓村大字上張
四十九番地平民農
河井重藏
安政元年七月生
衆議院議長片岡健吉殿
佐賀縣知事ノ失政一斑
佐賀縣知事關〓英去明治三十一年始メテ佐賀ニ下車セシ以來玆ニ數星霜、而シテ我輩彼レノ治績ヲ
觀ルニ唯タ縣治ヲシテ紊亂紊亂ヲ重子タルノ外一トシテ功績ノ見ルモノナキヲ癒ム、蓋シ知縣ノ要
ハ虛心坦懷公正ノ態度ヲ取リ道義ヲ以テ經トナシ法規ヲ以テ緯トナシ努メテ民心ヲ收攬シ慎ンテ屬
僚ヲ統御スルニアリ然ルニ關知事ハ事實ニ於テ全ク之ニ反スルノ行動ヲ爲シ佐賀縣ヲシテ暗黑ノ
境界ニ陷ラシメ天下ノ庶民ヲシテ佐賀縣ニ憲典ノ光明ナク又法規ノ保護ナシト絕叫セシムルニ至
リタリ、嗚呼佐賀縣民ノ不幸何モノカ之ニ加ヘン否ナ官紀ノ紊亂政綱ノ弛廢豈ニ之ニ過クルモノア
ランヤ、乃チ我輩ハ左ニ其失政一斑ヲ序シテ當局監督官ノ反省ヲ促カシ〓セテ大方志士ノ同情ニ訴
ヘン
縣官郡吏ノ大更迭(關知事失政ノ一)
關〓英佐賀縣知事トナルヤ先ツ佐賀縣下ノ各郡長ニ非職ヲ命シ又縣官及ヒ郡書記雇員等ノ大部分ニ
非職若クハ解雇ヲ命シタリ、關知事ノ此ノ斷行ハ果シテ其屬僚ヲ改革セントノ意ニ出テタルヤ否ヤ、
換言スレハ老衰事ニ堪ヘサル者若クハ無能其器ニアラサル者ヲ退クルノ意ナリシヤ否ヤ、關知事或
ハ「然リ老衰ト無能ヲ退ケタリ」ト言ハンモ事實ハ決シテ然ラサルヲ奈何セン、何トナレハ其免黜セ
ラレタル者ニシテ少壯有爲其事務ニ熟練シタル者多キニ居レハナリ寧ロ殘留セシ一部ノ屬僚ニ却テ
老衰者アリ新タニ任命セラレシ屬僚ニ無能者少ナカラサレハナリ關知事又或ハ「其退ケタル屬僚ハ
進步黨ニ心ヲ寄スル者ト認メ此斷行ヲ爲シタリ」ト辨センカ縣郡ノ屬僚ハ政務官ニアラスシテ事務
官ナリヨシ彼等ノ心中ニ於テ進步黨若クハ政友會ニ心ヲ寄スル者アルトモ公然政黨運動ニ從事セサ
ル以上ハ濫リニ官職ヲ奪フヘカラス而シテ關知事ハ實ニ其黜陟ヲ濫行シテ玉石共ニ燒キ以テ縣治澁
滯ノ素因ヲナシ縣民ヲシテ關知事ハ知事更迭コトニ過半ノ縣官郡吏(事務官)ヲ更迭スルノ先例ヲ作
レリト評セシムルニ至リヌ是レ關知事失政ノ一ト云ハサルヘカラス
議員選舉ニ橫暴ヲ逞ウス(關知事失政ノ二)
明治三十二年府縣制及郡制改正ノ結果佐賀縣ニ於テハ同年九月縣會議員ノ總選擧竝ニ郡會議員總選
擧ヲ行フタリ而シテ此時關知事ハ實ニ思ヒ切タル大々的干涉政略ヲ取リヌ、元來佐賀縣ニ於テハ明
治十四五年ノ頃所謂ル民權自由ノ論囂々トシテ天下ニ呼號セラレタル時ヨリ爾來二十年間九州改進
黨九州進步黨若クハ憲政黨或ハ憲政本黨ト其名屢く變更シタルニ拘ハラス進步主義ヲ以テ一貫シ
タルノ處ナリ隨テ其今日ニ至ルマテ憲政本黨(進步黨)ニ屬スル者縣下ニ於テ大多數タリ、而シテ関
〓英ノ佐賀縣知事トシテ赴任スルヤ此大多數ナル進步黨ヲ一朝一夕ノ間ニ悉ク撲滅センコトヲ企テ
タルモノヽ如シ、佐賀縣民如何ニ憨直ナルニモセヨ二十年來扶植シタル進步主義ノモノ豈ニ容易ク
滅亡センヤ而シテ關知事ハ之ヲ一瞬間ニ撲滅セントスル抑モ妄ノ妄ナルモノナリ關知事カ此ノ妄ニ
シテ妄ナル妄ヲ執ルハ尙ホ恕スヘシ然レトモ法憲ヲ蔑ミシ人權ヲ抑ヘ議員總選擧ニ亂暴狼籍言語道
斷ノ行動ヲ演シタルハ縣民ノ假借セサル所ナリ、今其干涉政路ノ手段數條ヲ略示セン
第一、御用候補者內定關知事ハ縣下各郡市ヨリ御用派ノ議員候補者タルヘキ者二十一名ヲ內定
シタリ而シテ此內定相談ハ知事ト御用派議員ト相提携スルノ根抵トナレリ
第二、官吏ノ勸誘縣下到ル所ロノ警部巡査ヲシテ前記御用派議員ヲ選擧スヘク各選擧民ニ說カ
シメタリ彼等ハ之ヲ一私人タル資格ヲ以テ選擧ヲ勸誘スルナリト唱ヘシカ是レ實ニ大干涉ニ進
ムノ初歩ナリキ
第三、利益授與ノ約言縣下ノ各郡町村ニテ土木補助費ノ下渡若クハ山林ノ拂下ヲ希望スル處ア
レハ警官郡吏ヲ派遣シ今囘選擧ニ某々(御用派)ヲ選擧セハ必ス多分ノ補助費ヲ下附サルヘク又
山林拂下ヲ周旋セラルヘシト說カシメタリ(藤津郡小城郡杵島郡等ニ其例證アリ)
第四、授職ノ內約家資分散者ヲ郡書記ニ採用シテ選擧運動ニ從事セシメ又選擧終了ノ後郡書記
ニ採用スヘシト約シテ御用派ニ引入レ以テ其運動ニ從事セシメタリ(杵島、藤津ノ諸郡ニ其例證
アリ)
第五、饗應政略選擧會ノ前ニ際シ各郡村ニ官民懇親會若クハ新舊村長送迎會等ノ名義ヲ以テ
盛ナル饗宴ヲ設ケ有權者ヲ招キ警官郡吏等其酒杯間ニ斡旋シテ御用派ニ投票センコトヲ勸誘シ
其饗宴ニ來ラサル者ニハ特ニ酒肴ヲ家宅ニ贈リ然シテ其經費ハ秋毫モ徵收セサリキ是レ純然タ
ル選擧取締規則違反ノ行爲ナリ(神埼、佐賀、小城、藤津、東松浦等ノ各郡ニ實例多シ)
第六、暴威脅迫御用派ノ運動ト稱シ惡漢無頼ノ徒五十名乃至百五六十名群ヲ爲シテ各有權者
ヲ訪ヒ携フ所ノ棍棒刀劍ノ類ヲ示シテ脅迫ヲ試ミ又深夜ニ関聲ヲ作リテ良民ヲ威迫シ田野ノ作
物ヲ毀ヒ果實花卉ヲ害シタルノ反則行爲ハ枚舉ニ遑アラス而シテ巡廻ノ巡査之ヲ制止セサルノ
ミナラス又實ニ其指揮者トナレリ、又進步派ノ有權者此ノ惡漢ニ毆打セラレテ巡查ニ訴ヘシモ
巡查ハ遂ニ省ミサリシ(三養基、神埼、佐賀、西松浦等ノ各郡ニ其實例アリ)
第七、毆打創傷巡査ハ惡漢ヲ指揮シテ有權者ニ脅迫ヲ爲サシメシカ遂ニ毆打創傷ヲ加ヘ七十餘
歲ノ老翁ヲシテ終身不具ノ潑疾者トナラシメタリ而シテ此ノ毆打事件ト創傷事件ハ村民ノ告發
ニ依リ司法庭ニ審問セラレテ執レモ勅令違反(選擧取結規則違反)〓ニ刑法ノ罪人トシテ處罰セ
ラレタリ(西松浦郡、神埼郡ノ實例)
第八、官選々擧警部ハ選擧ノ當日馬上ニテ各投票所ヲ巡週シ巡查等ニ命令シテ曰ク甲某(御用候補
者)ノ票數最早多數ナリ憂フルニ足ラス乙某(御用候補者〕ノ票數未タ多數ナヲス今ヨリ乙某ニノ
ミ投票セシメヨト、又警部ハ或有權者カ進步派ヲ擧ケントテ其氏名ノ頭字一字ヲ書スルヲ見ルヤ
ソンナキタナイ字ハ役ニ立タストテ喝破退場セシメ又ハ姓ノミ書キ終レハモウ其姓ノミニテ宜シ
名ヲ記スルニ及ハスト欺騙シ開票ノ際ニハ其投票ヲ無效タラシメタリ(神埼、藤津諸郡ノ實例)選
擧ノ狀態斯クノ如シ佐賀縣民呼ンテ民選ニアラスシテ官選ナリト云フモ豈ニ不當ノ名辭ナランヤ
第九、僞造ノ投票改正府縣郡制ハ單記自署選擧ノ制度トナシタレハ有權者中三割乃至四割ノ
無筆者又ハ旅行病患等ノ棄權者アルヲ常例トス然ルニ或村ノ如キハ有權者殆ント全部ノ投票ヲ
爲シ又實際死亡セル者ノ投票シタル者アリ事實上ノ盲目且無筆者ニシテ奇麗ナル投票ヲ爲シ
タル者アリ而シテ其實例ハ御用派多數ノ町村ニ於テ多シトス、縣民之ヲ僞造ノ投票ト云フ豈ニ
誣妄ナランヤ(杵島、東松浦、藤津、神府諸郡ノ實例)
第十、瞞著詐欺ノ抽籤選擧長御用派ニ屬スル町村投票所ニ於ケル立會人ハ悉ク御用派ノ人ヲ
採用セラレタリ而シテ選擧會卽チ開票所ニ於ケル立會人ハ抽籤ヲ以テ選定スル規定ナレトモ其
シラフダ
配與サレタル籤ハ悉ク是レ白札ニシテ進步派ノ當選シタル者一人モナク後方ニ在リテ窃カニ袖
中ヲ探クリ予等當選セリト叫ヒテ當リ籤ヲ出シタル者悉ク是レ御用派ノ面々ナリキ、縣民之ヲ
歸天齋正一的ノ手品抽籤ト云ヘリ(各郡ニ其實例アリ〕
第十一、爾餘ノ不正手段以上列記ノ外巡查ヲ投票所內ニ入レタルカ如キ、不法ノ命令ヲ奉セサ
ル巡査ヲ辭職セシメタルカ如キ、或ハ小學校〓員ヲ不法ナル競爭場裏ニ狂奔セシメタルカ如キ、
選擧人ノ送迎ニ腕車ヲ供シタルカ如キ若クハ有權者ニ金錢ヲ投與シタルカ如キ諸種ノ事項ハ
縱令ヒ司法庭ニ相爭フヘキ確證ヲ擧クル能ハスト雖モ十目ノ視ル所口十手ノ指ス所ロ歷々タル
不法背理ノ事實ハ一々僂示スルニ遑アラス
佐賀縣知事關〓英ハ縱令ヒ自ラ直接ニ斯ル不法背理ノ行動ヲ爲シタルニアラストモ其部下ノ官僚ヲ
シテ此ノ行動ヲ爲サシメ又此ノ行動ヲ爲シタル官僚ヲ戒飾セサルハ知事トシテ其職責ヲ盡サヽル者
ナリ否ナ自ラ此ノ不法行動ヲ爲シタリト云ハルヽモ決シテ之ヲ辯疏スルノ辭ナカルヘシ
縣會議員選舉ノ結果(關知事失政ノ三)
不法背理暴力ヲ用井テ爲シタル縣郡會議員選擧ノ結果佐賀縣ニ幾多ノ稅政ヲ生シ又種々ノ害毒ヲ來
スノ原因トハナリヌ、抑モ改正府縣郡制カ連記投票法ヲ變シテ單記投票法ノ制度ト爲シタルニ付テ
ハ多數黨多數ノ議員ヲ出シ少數黨少數ノ議員ヲ出スハ任意ノ選擧ニ當然來ルヘキノ數理ナリ、而シ
テ此ノ自然ノ數理上ヨリセハ佐賀縣ハ多年進步黨大多數ヲ占メタルノ地ナレハ縣會議員總數三十名
中二十餘名ハ進步黨之ヲ出シ又十名以内若クハ十名内外ノ議員ヲ他ノ反對黨ヨリ出スヲ當然トス、而
ルニ彼ノ不法背理暴力ヲ用井タル亂暴選舉ノ結果、少數黨多數黨ニ勝チ進步派九名ニ御用派二十一
名(豫定數ノ全員)ヲ出シ天地轉倒ノ奇顯象ヲ見ハシタリ
結果斯クノ如シ關知事ハ卽チ彼ノ多數ナル御用議員ヲ已レノ欲スル儘ニ頤使セントシ御用派議員ハ
亦其多數ヲ賴ミテ貧婪飽クナキノ要求ヲ關知事ニ持込ミヌ、故ニ知事ノ縣會及ヒ參事會ニ提出シタ
ル諸議案ハ慨ネ原案通リニ可決確定シ敢テ議場ニ花火ヲ散スノ論戰ヲ爲スノ要ナク平々坦々宛カモ
無人ノ墳ヲ行クカ如シ、然レトモ多數ナル御用派ノ要求ハ種々アリ、曰ク某村ノ土木費ニ多額ノ金員
ヲ補助セヨ、曰ク某々ノ人ヲ縣官郡吏ニ採用セヨ、曰ク御用派機關ノ新聞紙ニ補給セヨ、曰ク某鐵道布
設ノ先願權ヲ某等ニ與ヘヨ、曰ク某建築ノ受負ヲ某々ニ爲サシメヨ、曰何、曰某、其要求殆ント際限ナ
シ、而シテ關知事ハ實ニ其要求ノ大部分ヲ容レタルモノヽ如ク否ナ其總ヘテノ要求ヲ容レスンハ惡
政ノ瀬泉ハ忽チニ漬裂暴露センコトヲ怖ルヽニ似タリ、關知事ハ御用派議員ヲ奴僕ノ如ク使フト〓
モ御用派議員ハ亦關知事ヲ傀儡ニセント欲シツヽアルナリ
臨時費ノ濫用(關知事失政ノ四)
明治三十三年春夏ノ交同年秋季肥筑ノ野ニ於テ陸軍特別大演習ヲ擧行セラルヘク畏レ多クモ天皇
陛下御統監トシテ臨御アルヘシトノ說アリ卽チ佐賀縣ハ特ニ臨時縣會ヲ開キテ其準備ヲ爲ス所アラ
ントシ縣會諸事堂ノ增築(實ハ行在所新築)及ヒ土木費卽チ道路橋梁改修費竝ニ〓育費ヲ合セテ十有
餘萬圓ノ臨時費ヲ可決シタリ、而ルニ圖ラスモ北〓事變起リ廣島ナル第五師團兵ノ出師トナリ爲メ
ニ大演習ノ擧行御沙汰止トナレリト傳ヘヌ、是ニ於テヤ行在所新築ハ既ニ其工事ニ著手シタレハ中
止スルニ由ナク同年十二月下旬ニ至テ僅カニ竣工シタルモ土木費ノ大部分ハ未タ支出スルニ至ラス
シテ止ミタリ
然リ臨時會ニ議決シタル臨時土木費ノ大部分ハ存在セリ而シテ御用派議員ハ之ヲ睨ンテ他ニ流用セ
ンコトヲ企テヌ、昨年ハ佐賀縣ニ於テ螟蝗ノ爲メニ田作ヲ害セラレタルモノ少ナキニアラサレトモ
幸ニシテ暴風雨若クハ震火災ノ損害ヲ蒙ヲサリシニ拘ハラス前記ノ大切ナル臨時土木費ハ輕々參事
會ノ議ニ附シ緊急費トシテ悉ク他ニ流用セラレ了ハンヌ、其流用果シテ正當ナリセハ縣民必シモ之
ヲ不可トセス、又果シテ緊急ノ場合ナリセハ縣民或ハ之ヲ承認セン然カレトモ風火水震ノ災害ナキ
時ニ於テ漫ニ緊急ト稱スルハ縣民ノ首肯セサル所ナリ況ンヤ其流用ハ果シテ如何ナル所ニ爲サレタ
ルカ明ニ認識スル能ハサルニ於テヲヤ
是ヨリ先キ佐賀縣會ハ明治三十二年十一月ノ通常會ニ於テ參事會カ縣會ニ代ハリ臨時議決ヲ爲セシ
事項ハ議員ノ參案ニ資スル爲メ次期ノ通常會ニ詳細ノ報告ヲ爲スヘシトノ議決ヲ爲シタリ、然ルニ
前記ノ臨時土木費流用ノ一件ハ縣會カ最モ詳細ナル報告ニ接センコトヲ希望シタルニ拘ハラス三十
三年十一月ノ通常縣會ニ於テ其報告ヲ爲スヲ否ミタリ蓋シ其報告ニ踟〓セシ所以ノモノハ所謂御
用派町村ニ向ヒ溜池ノ改修若クハ河川ノ改修等ニ支出セラレ其支出ノ公平ヲ缺ケルノミナラス亦實
ニ緊急工事ニアラサリシニ因ルナリ嗟乎佐賀縣民ハ年々七十万圓内外ノ縣稅ヲ負擔スルニ尙其追
加賀擔タル十餘万圓ノ臨時費ノ大部分ハ前記ノ如ク煙ノ如クニ消費セラレシナリ之ヲシモ關知事ノ
失政ト云ハスシテ將タ何トカ云ハン
御用派議員相互ノ衝突(關知事失政ノ五)
御用派議員ハ佐賀縣會ニ多數ヲ占メタレハ彼等ハ前記ノ如ク關知事ヲ傀儡視シテ諸般ノ要求ヲ持込
ミタリ而シテ其要求ハ往々ニシテ御用派中ノ甲派乙派利害ノ衝突トナリ關知事ハ甲派(江副派)ニ利
セントスレハ乙派(川原派)多數ノ同情ヲ失フヘク又關知事乙派ニ益セントスレハ甲派ハ感情ヲ傷
フ、乃チ關知事ハ頗ル窮迫ノ位置ニ立チシカ甲乙兩派ノ衝突ハ益〓其度ヲ高メ亦融和スヘカラサル
ノ度ニ達シタリ然ルニ甲派カ關知事ニ向テノ要求益〓岐酷ナルヲ以テ既ニ嫌厭ノ情ヲ發シタル際甲
乙兩派益〓〓離セシカハ關知事ハ斷然甲派ト絕テ獨リ乙派ニ結フノ策ニ出テヌ、是レ獨リ乙派ニ結
フトモ甲派ノ少數ナル議會ニ於テハ乙派優ニ多數ヲ占タレハナラン卽チ知事ハ常ニ乙派ニ近キテ甲
派ニ遠カリ尙ホ一步ヲ進メテ乙派ヲシテ更ニ機關新聞(佐賀日々新聞)ヲ發行セシメ以テ一擧ニ甲派
ノ機關新聞(佐賀新聞)ヲ滅亡セシメンコトヲ企テタリ、是ニ於テヤ關知事ハ地方小黨爭鬩ノ盤渦中
ニ陷リ否ナ自ラ此ノ小黨分裂爭鬩ノ素因ヲ作リ知事ノ職責タル公平無私ノ態度ハ亦執ルヘカラサル
境遇ニ瀕シタリ
縣會議場ノ大亂雜(關知事失政ノ六)
前ニ記シタル臨時土木費ノ濫用ト御用派議員ノ分裂爭鬩トハ實ニ佐賀縣會ヲシテ一大亂雜ノ修羅場
トナスノ原因トナリヌ、昨三十三年十二月六日甲派議員江副靖臣議長トシテ議事ヲ開キシカ乙派議員
川原茂輔ハ參事會員ヲ代表シテ曰ク參事會ハ代議々決ヲ縣會ニ報告スルノ責任ヲ有セサルカ故ニ彼
ノ臨時土木費流用ノ件ヲモ報告セリ云々議長ハ曰ク其報告ヲ望ムハ既ニ縣會ニ於テ昨年議決セシ
事ナレハ是非トモ報〓スヘシ云々、川原議員ハ更ニ曰ク昨年縣會ノ議決ハ議長未タ當局者ニ通牒シ
居ラサルヲ以テ議決ヲ遵奉スルノ義務ナシ、議長曰ク否ナ其議決ハ議長ニ於テ確カニ通牒シ居レリ
然ルニ通牒シ居ラスト云フハ議長ヲ誣フル無禮ノ言ナリ宜シク取消スヘシ、川原議員曰ク否ナ無禮
ノ言ニアラス云々、是ニ於テ議長ハ突然川原議員ニ退場ヲ命シタルカ川原議員ハ自ラ退クノ色ナキ
ヲ以テ書記ヲシテ强ヒテ退場セシメタリ、此ノ一事ハ固ヨリ兒戲ニ類シ殆ント評言ヲ費スノ値ナシ
ト雖モ尙ホ一言スレハ川原議員ノ言未タ無禮ト名ツクルニ足ラス而シテ議長之ヲ以テ退場ヲ命セシ
ハ早計ノ甚シキモノナリト云ハン、然レトモ其玆ニ至リシ所以ノモノハ前ニ記セシ如ク御用派ノ內
訌卽チ甲乙兩派ノ衝突睽離ヨリ來ル顯象ナリト知ラサルヘカラス
翌十二月七日議事ハ江副議長ニ依テ開カレシカ是ヨリ先キ警部巡査ハ例ニナク數十名出張シテ議場
ノ内外ヲ警戒シ傍聽人モ亦例ニナク多數ヲ極メ議場ノ光景何トナク異觀ヲ呈シタリ、果然乙派議員
(三好勝一)劈頭第一ニ發言シテ曰ク「議長閣下ノ身上ニ關スル事件アレハ縣制第五十四條ニ依リ退
場セラレタシ」ト、甲派ノ江副議長曰ク事件トハ如何ナル事ナルカ若シ建議事項ナランニハ問題トナ
シテ議會ノ決ヲ採ラサルヘカラス云々而シテ議長ハ尙ホ何事ヲカ演〓セントシツヽアル際乙振ノ著
席議員自席ニ立チ揚ル者アリ或ハ議長壇ニ近寄リ進ミタル者アリ異口同音ニ「退場セヨ」「問題トナ
スノ必要ナシ」「警官彼レヲ引出セヨ」ナト呼號シ乙派議員(副議長久布白兼武)ハ議長壇下ニ進ミ他議
員ト共ニ議長ノ退場ヲ迫リ喧々囂々場內ノ亂雜ハ殆ント名狀スヘカラス進步派議員川崎辰一郞、井
原喜代太郞、加藤十四郞等屢〓起立シテ發言ヲ試ミ其理非曲直ヲ判明ニセンコトヲ求メタルモ「問題ト
ナスノ要ナシ」、「事件ヲ示スノ要ナシ」、「議論ニ及ハス」ナト叫ヒ衆口喧々ノ爲メニ妨ラレテ果サス、
參與員タル書記官及ヒ參事官モ亦「問題トナスヲ要セス」トテ議長ニ退場ヲ促シタリ、而シテ乙派議
員ノ多數ハ狂呼絕叫以テ警官ニ執行ヲ求メ警官二名巡査七八名亦直チニ場內ニ亂入シテ議長ノ身邊
ニ迫リ强制以テ議長ヲ退場セシメントシ參與員ハ敢テ之ヲ制止セサリシノミナラス書記官ハ却テ「ヤツ
テ仕舞へ」ト指揮シタリ此際御用派議員河村藤四郞(甲乙兩派中ノ專屬未明)ト進步派講員井原喜代
太郞ハ書記官ノ面前ニ進ミ此ノ狀態ハ何事ソ亂雜此ニ至ツテハ議會ノ秩序ト體面ヲ全フスル爲メ貴
官ヨリ一時停會ヲ令セラレヨト請ヒシモ書記官ハ「議長ノ遺方モ餘リヒドイデハ無イカ」ト云フノミ
ニテ其請ニ應セサリキ、而シテ一方議長席ニハ乙派議員及ヒ警官等議長ヲ强拉セントシ議長ハ之ヲ
拒ミ組ンツ舒クレツ相爭ヒ机倒レ椅子轉ヒ書類亦片々トシテ飛ヒ議場騒然又囂然ヲ極メ議長ハ大喝
一聲警官ニ向ヒ誰レノ命令ニ依テ予ヲ强拉セントスルヤト喝破シタルカ警官ハ一語ノ應フル所ロナ
ク唯タ書記官ノ指揮ニ動マサレテ無言ニ强拉シ議長ハ强拉セラレナカラ閉會ヲ命シツヽ遂ニ場外ニ
出タサレタリ抑モ議長ハ議會ノ首腦タリ議會ノ首腦ニ退席ヲ强フルハ之ヲ强フヘキ有力ノ理由ナカ
ルヘカラス而シテ其有力ナル理由アル時ト雖モ其理ヲ盡シ其手續ヲ履マサルヘカラサルハ言ヲ竢タ
サル所ナリ然ルニ彼等ハ唯タ簡短ニ「議長ノ身上ニ關スル事件」ナリトノ口實ヲ設ケ議長肯諾セサル
ニ拘ハラス亂暴ニモ狂呼疾走シ剩サヘ警察官吏ノ力ヲ藉リテ場外ニ强拉シタリ思フニ法律ハ議長ノ
一身ヲ强拉スルカ如キ處分權ヲ規定セサルカ故ニ議長如何ニ强情或ハ專權ナルニモセヨ之ニ向テ制
裁ヲ加フルニ由ナシ然ルニ佐賀縣會ノ乙派議員及警官等カ理不盡ニモ議長ヲ强拉シタルハ議長權ヲ
侵害シ議會ノ神聖ヲ蹂躪シタル背法ノ所爲亂暴ノ行動ナリトス宜ナリ本年一月中旬ニ至リ内務大臣
カ斷然佐賀縣會ヲ解散シタル事、我輩ハ内務大臣カ縣會解散ヲ以テ佐賀縣會ノ演セシ背法ノ行動ヲ
罰シタルハ適當ナル處斷タルコトヲ疑ハス
而シテ我輩ハ關知事カ此ノ縣會亂雜事件ニ深キ關係アルコトヲ宥恕寛假スル能ハス卽チ關知事ハ議
長强拉ノ前夜卽チ六日午後ノ深更ニ於テ其官邸ニ乙派議員竝ニ書記官警部長等ヲ會シテ、祕密ノ會
議ヲ催フシタリ而シテ其祕密會議ニハ六日ノ議會ニ於テ乙派ノ川原議員カ退場ヲ命セラレタルニ付
テ復仇ノ策ヲ講シ併セテ江副議長ヲ排斥センコトヲ計畫シタルハ前後ノ情況及ヒ關知事自ラ或人ニ
談話シタル所ニ據テ明ナリ乃チ警察官カ例ニナク多數ヲ以テ議場ヲ警戒シタルハ祕密會議ノ結果特
ニ命令ヲ與ヘラレタルモノニシテ又其議場ニ亂入シテ議長ヲ强拉シタルモ特ニ命令ヲ與ヘラレタル
ヲ疑ハス而シテ知事代理ノ參與員ハ當日特ニ警察官ニ向テ議長强拉ヲ頭使シタルニアラスヤ、凡ソ
議場ノ整理ヲ爲スハ議長ノ職權ニ屬シ警察官ヲシテ或ル處分ヲ行ハシムルモ獨リ議長ノミ之ヲ命ス
ルヲ得ルナリ是レ府縣制第五十九條ノ明文ニ據テ疑ナキ所ナレハ議長ノ命ナキニ警察官議場ニ亂入
セシハ不法ノ行動ナリ知事監督ノ下ニ立テル警察官ノ不法行動ハ卽チ知事自身ノ責任ナリ況ンヤ知
事自ラ彼ノ乙派議員ト相依テ此ノ不法行動ヲ畫策シタルニ於テヲヤ我輩ハ關知事ノ此ノ不法行動ニ
向テ充分ノ責任ヲ負ハシメ而シテ相當ノ處分ヲ施サヽルヘカラサルヲ信スルナリ
郡町村自治體ノ破壞(關知事失政ノ七)
一昨年九月ノ縣會及郡會議員選擧ニ就テ關知事カ飽マテ暴橫ヲ極メタルコトハ前記セル所ニ依テ其
一斑ヲ了セラルヘシ而シテ關知事ハ尙ホ之ニ飽カス更ニ郡町村自治體ニ向テ大々的干涉ヲ加ヘ其結
果自治體ヲシテ殆ント破壞ノ境遇ニ陷ラシメタリ左ニ其要領ヲ述ヘシ
(甲名譽職ニ辭職强要政治思想進步セル今日佐賀縣下到ル處ノ町村長若クハ其他ノ名譽職ニ在
ル者恐ラクハ全ク政黨政派ニ關係ヲ有セサルハナカルヘシ而シテ關知事ハ其町村名譽職特ニ町
村長カ進步黨ニ同情ヲ表シ居ルヲ聞クヤ百方手段ヲ講シテ其地位ヲ奪取センコトヲ企テ執務上
秋毫ノ過失若クハ錯誤アレハ容赦ナク懲罰シテ其職ヲ去ラシメ又職務上過誤ノ以テ咎ムヘキナ
キ者ニ向テハ例ノ警官ト惡漢トヲ使用シ四五十名乃至百名ノ群ヲシテ辭職勸〓ノ運動ニ從事セ
シメ成ハ園圓ヲ暴ラシ或ハ老母ヲ脅カシ或ハ妻子ヲ耻カシメ結局如何ニ堅忍ノ志ヲ懷キ以テ自
治制ノ完全ヲ企圖スル志士ト雖モ斷然其職ヲ擲テ身ヲ閑散ニ養フニ至ラシム而シテ其辭職ハ決
シテ町村自治ノ利益ニアラサルハ結果ノ實例能ク之ヲ證シテ明ナリ(藤津、佐賀、神埼ノ諸郡ニ
其例證アリ)
(乙)町村議員ニ辭職強要進步派ノ町村長一タヒ强要セラレテ其職ヲ辭スルヤ次ニハ進步派議員
ニ辭職ヲ强要スルヲ例トス、尤モ議員ニ辭職ヲ强要シテ次ニ町村長若クハ助役ニ及フコトアリ
其前後ハ敢テ一定セスト雖モ要スルニ進步派ノ議員若クハ役員ト云ヘハ百方計策悉ク其職ヲ奪
フニアラスンハ止マサルモノヽ如シ(杵島、藤津諸郡ノ實例)
(丙)報酬ノ大消滅進步派ノ議員ニ辭職セシメテ御用派議員多數ヲ占ムルノ町村會トナルヤ警官
郡吏ハ先ツ其議員ニ說テ進步派ノ町村長及ヒ助役ヲ困シムルノ第一手段トシテ其報酬額ニ大削
減ヲ行ハシム其一例ヲ擧ケンカ彼ノ藤津郡西嬉野村ニ於テ一ケ年百五十圓ノ報酬ヲ減シテ一ケ
年六圓ノ報酬トナシタルハ其最モ著シキモノニシテ次ニ暴行脅迫ノ辭職勸告トナレリ是レ縣民
ノ所謂「藤津郡ノ暗黑」ナルモノヽ手始メナリキ
(丁)無名ノ拘置町村長、助役若クハ議員ニ對スル辭職勸告ノ運動始マルヤ警察官ハ其名書職等
ヲ警察署ニ召喚シテ長時間署內ニ留置スルヲ例トス其召喚留置ノ所以ヲ問ヘハ曰ク某所ニアル
水車ハ卿ノ所有ナルヤ否ヲ確カメン爲メナリ曰ク某處ノ石ハ多少通行ニ妨ケアレハ之ヲ取除
カレンヲ請求スル爲メナリシナト愚ニモ附カヌ事ヲ述ヘ甚シキハ午前ヨリ召喚シテ午後ノ深更
マテ留置シ最後ニ至テ最早用ナシ歸宅セヨト云ヒ其人權ヲ害シ官權ヲ濫用スル事一々枚擧ニ遑
マアラス(昨年二三月ノ頃藤津郡ニ此實例多カリシ)
自治機關ノ缺乏進步派ヲ苦シムノ策トシテ町村長助役若クハ議員ニ辭職セシムルハ尙ホ
可ナリ然レトモ既ニ此ノ手段ニ出テシ以上ハ速ニ後任者ヲ得テ議政機關竝ニ執行機關ニ缺如ス
ル所ナカラシメサルヘカラス而シテ事實ハ常ニ之ニ反シ町村長助役等缺員ノ儘ニシテ半年以上
ヲ經過スルモノアリ議員ハ半數以上ニアリテ町村會ヲ召集スル能ハサルコト數閱月ニ超フルモ
ノアリ現今ハ三十四年度ノ〓算案ヲ附議スヘキ季節ナルニ拘ハラス議員ノ補缺選擧モ行ハス又
選擧名簿ヲモ調製セス隨テ町村會ヲ召集セサルモノアリ自治體ノ類廢監督ノ不行屆ハ目下實ニ
其極點ニ達シタルカ如シ(藤津、神埼諸郡ノ實例)
會計檢查ノ寬嚴當局督監官ノ其町村自治體ヲ監督スルヤ町村役員ノ屬スル黨派カ御用派
タルト進歩派タルトニ論ナク須ラク公平正直ノ手段ヲ取ルヘキ筈ナルニ事實ハ大ニ寬嚴ノ區別
アリ乃チ進步派ノ町村役場ニハ月ニ三囘以上ノ臨時會計檢査ヲ爲シナカラ御用派ノ町村役場ニ
ハ月ニ一囘ノ檢査ヲモ爲サヽルコトアリ甚シキハ臨時檢査ニ出張スヘシトノ内書ヲ發シ置キテ
始メテ臨檢スルコトアリ嗟乎此ノ如クニシテ果シテ監督ノ貴ヲ全フスルヲ得ヘキカ愚モ亦甚
シト云フヘシ(佐賀、神埼諸郡ノ實例)
(庚)郡會ノ不成立三十四年度藤津郡通常會ハ昨年十二月八日ヨリ召集セラレタルカ總員十七
名ニシテ内八名ハ御用派ニ屬シ殘リ九名ハ進步派ニ屬スレトモ又其内一名ハ重病ニ罹リテ出
席スル能ハス正ニ八名ツヽノ正半數ナルニ御用派議員ハ何等ノ理由アリテニヤ八名ノ者悉ク無
屆ノ儘一トシテ出席スル者ナク進步派八名ハ日々出席スルモ定數ニ滿タスシテ散會シ十四日ノ
期間全ク一議案ヲモ議了セスシテ閉會シタリ、聞クカ如クンハ斯クシテ郡長ニ原案ヲ執行セシ
メ不言不語ノ無爲策ヲ以テ御用派ノ全勝トセン計略ニシテ郡長モ亦實ニ其謀計ニ參與シタルナ
リト、是レ此ノ一部議員ハ實ニ舁屈ノ精神ヲ以テ其職貴ヲ空フスル者ニシテ郡長亦之ニ同情ヲ
表スルハ失態ノ責ヲ免カレス
(辛)訴願裁決ノ延滯關知事カ郡町村自治政ニ向テ暴橫ノ政略ヲ取ルコト以上略記スル所ノ如シ
左レハ人民ヨリシテ訴願ノ提起セラルヽモノ一ニシテ足ラス現ニ藤津郡西嬉野村ヨリハ村稅賦
課上ニ付キ職務管掌村長ノ處置ニ向テ不服ヲ唱ヘ其訴願ヲ提出シタルハ昨年三四月ノ頃ニア
リ而シテ其攻擊ハ縣參事會ノ不當議決ニモ關聯シ居レルカ爲メニヤ縣參事曾ハ今日ニ至ルマテ
何等ノ裁決ヲ與ヘス其怠慢延滯ハ竊カニ人民ノ愍笑惜カサル所ニシテ如何ニ牽强附會ノ理由ヲ
以テ訴願者ノ敗北ニ歸セシメントスルモ唯此ノ一事ハ決シテ然スルコトハサルヘシト云ヘ
リ、理由ノ是非曲直ハ兎モ角僅カ一片ノ訴願ニ殆ント一ケ年ヲ要シテ尙ホ裁決セサルハ延滯ノ
貴決シテ辭スヘカラス僅カ半日ノ參事會ニ於テ議決スヘキ事項ニシテ遲滯スルコト斯クノ如シ
他ハ推シテ知ルヘキナリ
要スルニ關知事佐賀縣ニ臨ンテヨリ郡町村ノ自治體ハ壞亂ニ壞亂ヲ重ネ進步派ノ公民ハ自治政ニ參
與スルノ權ナキカノ如クニ遇セラレ惡漢無賴者益〓其威ヲ逞フシテ隣佑相助ケ相親ム親族的ノ自治
體ハ偶〓以テ疾視反目仇敵ノ爭鬩場ト化シ去リヌ縣民關知事ヲ目スルニ破戶漢ノ親玉ヲ以テス豈ニ
故ナシトセンヤ
〓育家ノ惶惑(關知事失政ノ八)
〓育ニ從事スルモノハ政爭以外ニ特立シ事ラ靑年兒童ノ〓養ニ勉ムヘキハ言フヲ俟タサル所ナリ而シテ
佐賀縣ニ於ケル〓育家モ勉メテ政爭ノ渦中ニ陷ラサランコトヲ期スルモノヽ如シ然ルニ關知事ノ屬僚
ナル郡吏警官等ハ動モスレハ御用派贔負ノ〓育家ヲシテ御用派黨勢擴張ノ手足トナサントシ而シテ
其人ニハ等ヲ超ヘテ增俸若クハ榮轉ノ便宜ヲ與フレトモ其然ラスシテ進步派最負ノ〓育家ニ向テハ
啻ニ增俸セサルノミナラス甚シキハ其意ニ反シテ轉校ヲ命シ以テ年功加俸ノ思典ヲ褫奪シ若クハ良
〓師ノ名アル者ヲモ免〓セントセリ〓育家ヲ任免陟黜スルノ權知事及ヒ郡長ニ存スル以上亦奈何ン
トモスルナシト雖モ當局官斯クノ如クナルカ故ニ〓育者ハ惶惑措カス强テ公權(選擧權、公民權)ヲ
抛棄スル者アリ或ハ故サラニ所親ノ知友ト交通ヲ絕チ以テ無實ノ嫌ヲ避クルモノアルニ至レリ、嗚
呼斯クノ如クニシテ何ソ能ク〓育者ノ驥足ヲ展フルニ足ランヤ又學校〓育ト家庭〓育トノ連絡ヲ結
ハントスルモ得ヘケンヤ關知事ノ公平無私ナラサル施政ハ實ニ〓育ノ上ニモ幾多ノ弊ヲ流シツツア
ルナリ況ンヤ御用派ニ化セハ學校ノ分離ヲモ速ニ認可センナト云ツテ町村公民ヲ威追スルニ於テヲ
ヤ彼ハ實ニ〓育社會ヲモ自家藥籠中ノモノニセントシツヽアルナリ(杵島、神埼及師範學校等ニ此實
例アリ)
營業ヲ妨害ス(關知事失政ノ九)
左ナキタニ農工商ノ營業者ハ勉メテ官邊ノ機嫌ヲ傷ハサランコトヲ期シ官邊ニ向テ好意ヲ表スト云
ハンヨリ寧ロ阿諛スト云フヲ適當トナス程ナルニ關知事ハ此ノ弱點ニ乘シ營業者ヲ困シメツヽアリ
卽チ彼ハ縣稅七十餘萬圓ノ取扱ヲ特ニ五箇年繼續ヲ以テ或一箇ノ銀行ニ約シタリ、抑モ佐賀縣稅取
扱ハ從來一箇年更代ヲ以テ二三ノ銀行ニ命シタルニ其前例ヲ破リテ五箇年繼續トシタルハ縣民ノ最
怪訝ニ堪ヘサル所ニシテ御用派中ノ乙派(參事會員)ハ其コンミツシヨンヲ得テ新タニ一機關新聞ヲ
モ發行シタリト傳唱セリ、又某請負業者ニ縣立病院ノ新築ヲ爲サシメ乙派亦其コンミツシヨンヲ獲
得シタルハ事實ナリ、而シテ此例證ハ縣稅ヲ利用シテ巧ミニ御用派ノ私利ヲ謀リ其一方ニハ營業者
ニ無理ノ冥加金ヲ課スルモノナレハ實際上ノ營業ヲ妨害スルヤ甚タシ(佐賀市、杵島郡ノ實例)
實ハ例尙ホ此ヨリ甚シキモノアリ有明海ニ漁業スル漁者某一種ノ張切綱ヲ發明シ莫大ノ資金ヲ投シ
テ其網ヲ新調シ其營業鑑札ヲ受ケ其營業稅ヲ納付シ且漁業組合會ノ經費ヲモ納メテ實際ノ業務ニ從
事シタルニ其營業者カ進步派贔屓ノ者タルヲ聞知スルヤ漁業組合長ト警官郡吏ト相依リ突然右張切
綱ノ使用ヲ禁止シタリ、其張切網ハ實際上魚類ノ繁殖上ニ害アリトセハ縣會ノ規定及ヒ組合規約ニ
依リ禁止ノ命ヲ發シ能ハサルニアラスト雖モ其之ヲ爲サンニハ組合總代ノ議決ヲ經サルヘカラサル
規定ナルニ彼等ハ其手續ヲ履マスシテ濫リニ禁止ヲ命シタリ而シテ當業者ニ少ナカラサル損害ヲ與
ヘタルモノナリ故ニ縣民ハ之ヲ縣知事ノ責任トシテ其失態ニ歸センコトヲ欲シ且亦一方ニハ司法
官ノ審糾ヲ仰キツヽアリ(藤津郡ノ實例)
佐賀縣ハ難治ニ非ス(關知事失政ノ十)
世人往々ニシテ曰ク佐賀縣ハ政爭激烈ノ地ナリ實業起ラス頗ル難治ノ縣ナリト、是レ皮想ノ謬見ナ
リ、我輩既ニ前ニ記セシカ如ク由來佐賀縣ハ進步黨大多數ヲ極ムルノ地ニシテ爾餘ノ政黨政派ハ寥
寥唯タ指ヲ屈スルニ過キサルノミ然ルニ佐賀縣ニ知事タル者往々ニシテ進步派ヲ撲滅センコトヲ企
テ過激ナル干涉ヲ施シタリ卽チ彼ノ明治二十五年ニ於テ知事樺山資雄ナル者品川内務大臣ノ意ヲ受
ケテ暴惡ナル干涉ヲナシテ血ヲ流シ屍ヲ積ミ降テ一昨三十二年知事關〓英亦同一ノ大干渉ヲ爲シテ
佐賀縣ヲ混亂セリ乃チ明治十七年佐賀縣再置以來同二十四年迄當局知事及ヒ縣官郡吏ニ非違ノ施政
ナク最モ平和ナル縣治ヲ見タルニ拘ハラス二十五年ノ衆議院議員選擧ニ一タヒ縣治ヲ破リ其創痍未
タ癒ヘサルニ三十二年再ヒ干渉政略ヲ以テ縣治ヲ破リタリ乃チ知ル佐賀縣ノ平和ヲ害スルハ佐賀
縣民ニアラスシテ縣知事ニアリ進步派ニアラスシテ御用派ニアルヲ
試ニ佐賀縣廳ノ行政事務ヲ見ヨ書類ノ不整顧ナル勸業事務ニマレ〓育事務ニマレ一ツトシテ整然其
〓ニ就キタルモノナカルヘク屬僚屢更迭シテ眞ニ縣治行政上ニ鞅掌スル者ナキカ如シ、思フニ屬僚
中或ハ事務ニ熟練セル者モアラン又或ハ行政事務ニ忠ナランコトヲ欲スル者モアラン然レトモ縣知
事ニシテ自ラ政爭ノ渦中ニ陷リ其意ニ合ハサルノ黨派ニ向テハ汲々トシテ其撲滅策ニ維レ日モ給ラ
スシハ屬僚ニ向テ時ニ違法背理ノ命令ヲ下スコトナキニアラサルヘシ否ナ某警部カ「進步黨撲滅ニ
就テハ如何ナル」惡手段ヲモ取ルヘシ」ト放言シテ毫モ疚シキ色ナキハ關知事カ如何ニ暴橫ノ密令ヲ
與ヘタルカヲ知ルニ足ラン、知事既ニ然リ其屬僚ノ道義ヲ重ンシ法規ヲ尊ヒ以テ職務ニ忠實ナラン
コトヲ期スル者アルモ豈ニ之ヲ能スヘケンヤ縣治行政事務ノ不整理ナルハ主トシテ縣知事ニアリ而
シテ縣民ニアラサルナリ、佐賀ニ知事タル者道義ノ經法規ノ緯ヲ以テ庶民ニ臨[マハ縣治敢テ難キニ
アラサルナリ
吾輩ハ關知事カ佐賀縣ニ赴任セシ以來ノ失政十箇條ヲ數ヘタリ此十失アリ而シテ尙ホ知事ヲ懲罰ス
ルニ足ラサルカ今ハ政友會ノ内閣ナリ知事ニシテ政友會ニ同情ヲ表セハ則チ以テ之ヲ不問ニ附スト
云ハヽ我輩佐賀縣民敢テ何トカ云ハン然レトモ佐賀縣ハ國家ノ一部ナリ縣民ハ國民ノ一部ナリ故
ニ佐賀縣民獨リ暗黑ナル暴横政治ノ下ニ屈服スル能ハス願ハクハ關知事ヲ懲罰シテ佐賀縣ニ憲章ノ
光明ヲ與ヘヨ願ハクハ公平ノ牧民官ヲ派シテ縣民ニ法規ノ保護ヲ得セシメヨ
明治三十四年二月
佐賀縣有志總代
栗山賚四郞議白
衆議院議事速記錄第十四號正誤
頁段行誤正
101.下二四亦〓業ヲ終ヘ亦今後業ヲ終
後出テヘ出テ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=001513242X01719010321&spkNum=79
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