1. 会議録本文
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000・会議録情報
明治三十六年六月三日（水曜日）
午前十時九分開議
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議事日程 第五號 明治三十六年六月三日
午前十時開議
第一 鐵道敷設法中改正法律案（政府提出衆議院送付） 第一讀會の續（特別委員長報告）
第二 事業公債條例中改正法律案（政府提出衆議院送付） 第一讀會の續（特別委員長報告）
第三 臺灣事業公債法中改正法律案（政府提出衆議院送付） 第一讀會の續（特別委員長報告）
第四 日本勸業銀行法中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會の續（特別委員長報告）
第五 耕地整理法中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會の續（特別委員長報告）
第六 財政に關する建議案（侯爵黒田長成君外七名發議） 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/0
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001・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ヨリ報〓ヲ致シマス
〔小原書記官朗讀〕
各特別委員會ニ於テ當選シタル委員長及副委員長ノ氏名左ノ如シ
鐵道敷設法中改正法律案及明治二十七年法律第十號中改正法律案特別委
員會
委員長公爵二條基弘君副委員長子爵堀田正養君
鐵道敷設法中改正法律案及事業公債條例中改正法律案特別委員會
委員長子爵曾我祐準君副委員長男爵松平正直君
昨二日衆議院ヨリ同院提出農工銀行法中改正法律案ヲ受領セリ
同日同院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
明治三十四年度豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
明治三十四年度特別會計豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
明治三十四年度〓國事件第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ卽日内閣總理大臣ヲ經由シテ
裁可ヲ奏請シ及可決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
明治三十六年度歲入歲出總豫算追加案
明治三十六年度歲入歲出總豫算追加案(第二號)
明治三十六年度歲入歲出總豫算追加案(第三號)
明治三十六年度各特別會計歲入歲出豫算追加案
明治三十六年度特別會計歲入歲出豫算追加案(特第二號)
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(第二號)
鐵道敷設法中改正法律案
明治二十七年法律第十號中改正法律案
同日本院ニ於テ可決シタル衆議院提出地租條例中改正法律案ハ卽日內閣總
理大臣ヲ經由シテ裁可ヲ奏請シ及可決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
同日本院ニ於テ可決シタル政府提出粗製樟腦、樟腦油専賣法案ハ卽日衆議
院ニ送付セリ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/1
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002・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ヨリ日程ニ移リマス、鐵道敷設法中改正法律案、
政府提出、衆議院送付、一讀會ノ續、特別委員長報告
〔左ノ報告書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
鐵道敷設法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決ス依テ及報告候也
明治三十六年六月二日
右特別委員長
子爵曾我祐準
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
事業公債條例中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決ス依テ及報告候也
明治三十六年六月二日
右特別委員長
子爵曾我祐準
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔子爵曾我祐準君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/2
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003・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 議事日程ニ上ッテ居リベス第一第二案ヲ束ネテ報告ヲ致
シマス、日程ノ順序ニ依リマシテ鐵道敷設法ノ方ヲ先ニ申シマス、此案ハ文字
ハ至ッテ簡單デアリマスガ、文字ノ簡單ナルニ似ズ非常ニ煩雜ナル數字ヲ含ン
デ居ルノデアリマス、大要ヲ申シマスレバ元來此鐵道敷設法ト申シマスモノ
ハ初ハ公債ノミヲ以テ鐵道ヲ敷設スルト云フコトニナッテ居リマシタ、卽チ公
債六千万圓ト極メマシタ時分ノ話デアリマス、先年條例ヲ改正セラレマシテ
九千五百万圓ト云フコトニナリマシタ、又他ニ條例ヲ改メラレタ所ガアッテ必
シモ公債ニ依ラズ一般收入ヨリモ鐵道ノ敷設ニ使フ、斯ウ云フコトニナリマ
シタニ依ッテ、鐵道敷設法ニ載ッテ居ル公債ノ額、ソレノミデ鐵道ガ出來ルト
云フモノデハナイノデアリマス、尙ホ他ニモ國庫ノ一般ノ收入中ヨリ鐵道敷
設ノ方ニ向ケル、斯ウ云フコトニナッテ居ル、ソレデ初ノ是〓ノ哩數ヲ是〓ノ
金デ造ル、卽チ六千万ト極メラレタ時分トハ大變物ガ變ヲテ居ル、實際一般收
入ヨリ鐵道ノ爲ニ支出セラレタ金ガ四千五百万圓バカリアル、卽チ二三年前
現內閣ガ公債ニ依ラナイト云フ政策ヲ執ラレタ以後ノコトデアリマセウ、然
ルニ此度又例ノ借金政略ガ復活シタト云フ譯デ、卽チ公債ニ依ルノ已ムヲ得
ヌ譯ニナッタニ依ッテ卽チ一般收入ノ中ヲ以テ海軍擴張ヲスル、斯ノ如クナッタ
ニ依テ一般收入ヨリ此鐵道ニ便フ金ガ無イコトニナル、ソレデ茲ニ其穴ヲ埋
メルタメ卽チ海軍ノタメ取去ラレタ穴ヲ埋メル爲ニ鐵道ニハ一般收入カラ出
サレヌニ依ッテ此穴ヲ埋メル爲ニ公債ヲ募ル必要ガ起ッテ來タ、大約ガ斯ウ云
フヤウナ譯デアリマス、ソレデ此際九千五百万圓ニ七百万圓ヲ加ヘテ一億二
百万圓ニスル必要ガ出來タ、斯ウ云フ譯デアリマス、其數字ノ詳ナルコトハ
色〓ナ表モアリマスガ、非常ニ錯雜ナモノデアリマシテ私デハチヨット茲ニ說
明ガ出來マセヌ、此案デハ別ニ何等申シヤウモ無イコトデアリマシテ調查委
員デハ原案可決ト云フコトニナリマシタ、議事日程ノ第二ノモノ此案モ前
ト略、似タヤウナモノデアリマシテ、現在法律ノ上ニ定ッテ居ル金額ノ上ニ、
政府ガ提出セラレタ案ハ三千万圓ヲ增加セムト欲スル案デアリマシタガ、衆
議院ニ於テ政府ト妥協ノ結果トシテ三千万圓ヲ五百万圓減ジテ二千五百万圓
ト修正ニナッテ來タ案デアリマス、申スマデモゴザイマセヌ、此必要ノ原因ト
云フモノハ先ニ申シタル如ク、是モ海軍擴張費ニ一般歲入ノ中ヲ引去ラレル
ニ依ッテ不足ヲ生ズル、其不足ヲ充タス爲ニ此增額ノ已ムヲ得ヌニ至ッタト云
フノデアリマス、尤モ是ハ本年募集スルノデハナイ、此金額ハ今年募集スル
必要ハ無イト云フコトデアリマス、併ナガラ豫算ヲ編成スル上ニ於テ歲出歲
入ノ平均ヲ保ツ爲ニ今ココニ是ダケノ公債ヲ募リ得ルト云フコトヲ決議スル
必要ガアル、斯ウ云フノデアリマス、ソレデ今年募集スル必要モ無イ金デア
ル故ニ、臨時會ノ今日ニ之ヲ可決セイデモ宜カラウ、否決シ得ルベキモノデ
ナイカト云フコトモ詮議シテ見マシタガ法律上已ムヲ得ヌ次第デ、ドウモ此
儘可決スルヨリ外ナイヤウナ譯ニナリマシタ、詰リ是ハ海軍擴張······地租案
ガ破レタニ拘ラズ海軍擴張ヲヤリマスカラ皆其跡腹デアリマス、故ニ是モ可
決スルト云フコトニナリマシタガ、委シキコトハ政府委員ニ御尋ヲ願ヒマス、
委員長デハ御答ガ出來ヌノデアリマス元來此豫算ノ、殊ニ此公債ニ係ルコト
ハ非常ニ錯雜シテ居リマシテ、素人ガ一時間二時間說法ヲ承ッテモ迚モ本人サ
ヘ覺束ナイノデアリマスカラ諸君ニ御分リニナルヤウニ話ハ出來マセヌ、時
トシテハ大藏大臣モアブナイノデス、是ハ松尾君ト阪谷君ニ限ルノデアリマ
ス、ドウカ御兩君ニ御尋ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/3
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004・久保田譲
○久保田讓君 委員長ニ御尋イタシマス、委員長ニハ御分リニナラヌト云フ
コトデアリマスカラ强ヒテ御尋スル譯デモアリマセヌガ、私ノ御尋ネ申スコ
トハ御分リナラウカト思ヒマス、第一ノ此鐵道敷設法中改正法律案、此公債
ノ卽チ增加ニナッタ公債ハ實際餘リ必要ガ無イ公債ダト云フコトデアリマス
ガ、サウスルト此法律ハ精神ハ旣ニ死ンデ仕舞シテ居ルノヲ唯形式ニ是ダケ要
ルト云フコトデ此法律ヲ改正スルト云フコトニナッタカト思ヒマスガ、如何デ
アリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/4
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005・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 第一ノ方ハ九千五百万圓ト云フモノニ極メテアリマシタ
ガ鐵道敷設ノタメ九千五百万圓以上ノ金ヲ使ハナクテハナラヌ、其高ガ彼是
差引キマシテ六百何十万圓、七百万圓ニ近イ、約七百万圓ヲ新ニ法律ニ加ヘ
ル、矢張リ使ハネバナラヌノデアリマスガ、三十六年度ニハ一般歲入カラ支
出スル金ガアルカラ、今日此鐵道ヲ造ルニハ此金ノ必要ハ無イト云フコトデ
アリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/5
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006・久保田譲
○久保田讓君 ソレハ表面上ノコトデアリマセウ、詰リ斯ウ云フコトニ考ヘ
マスガ、政府デハ衆議院ノ要求ニ係ッテ、鐵道特別會計ノコトヲ政府ガ承諾シ
テ次ノ議會ニ其案ヲ出スト云フコトデモアッテ、サウスルト其末特別經濟ニナ
レバ何モ公債ヲ募ル必要ハ無イト云フコトニナリマスカラ、ソレ故私ガ御尋
ネ申スノハ旣ニ必要ガ無イ、精神ハ死シテ居ルケレドモ唯形式ニノミ是ダケ
ノ入用デアルカラ法律ヲ拵ヘルノデアルカト云フ御尋デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/6
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007・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 サウデハ無イ、私モサウ云フコトデハナイカト思ウタガ、
サウデハ無イヤウデス、其鐵道ヲ以テ鐵道ヲ經營スルト云フコトニナルノハ
又一ツノ大ナル問題デ、ソレハ此間委員席デモ大藏大臣ノ言ハレル通リ鐵道
ノ爲ニ一億万圓ニモ近イ金ノ利子ヲ拂ッテ見タリ、ソレカラ日々ノ營業ニ使
ッタリスルト幾ラモ殘ラヌヤウナ譯ニナルサウデアリマス、皆是ハ國庫ノ借金
デナイモノデ日本ノ鐵道ガ政府ノ手ニ得テ居ルモノナラバ其收入ト云フモノ
ハ悉ク純益ニナルケレドモ一面ニ借銀ヲシテ造ッタ鐵道デアルカラ借銀ノ金
利ヨリコッチノ利益ガ少ナケレバ損ガ行クガサウ損ハ無イ、五步グラ井ノ利ニ
ナルサウダガ、ソレニナッテモ矢張リ必要デアリマス、必要デアル精神ハ確ニ
申シマシタ、ソレカラ先ノコトハ委シイコトハ御免ヲ蒙ラスト非常ナムヅカ
シイコトデ、金ヲ借リタ時分ノ利子、ソレカラ倫敦ニ於テノ手數料ヤ何ヂヤ
彼ヂヤ加ヘルカト思フト片ツ方デ引去ルト云フコトデアリマス、其現ハレタ
金ガ悉ク鐵道ニ要ッタト云フ譯デモ無シ餘ホド面倒デアリマスカラ、ソコ等デ
御免ヲ蒙リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/7
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008・西村亮吉
○西村亮吉君 私ハ委員長ニチヨット質問イタシマス、サウムヅカシイコトデ
ハゴザイマセヌ御分リ易イコトデ御尋シマス、御報告ノ中ニ法律上巳ムヲ得
ズ此公債條例ノ改正ヲ必要トスルト云フ御報告デアリマシタガ、所ガ成程モ
ウ旣ニ使込ンデ居ル千五百万圓ヲ餘計使フヤウニナッテ置イタナラバ法律上
巳ムヲ得ヌト云フコトニナリマセウガ、其金ト云フモノハ何モ唯今使フノデ
ハナイ、何デモ三十七年度ニ使フ金ニ當ルヤウニ思ヒマスガ、サウデハアリ
マセヌカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/8
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009・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 無論三十七年以後、今年ハ金ガ餘ッテ、遞信大臣ハ金ガブ
ウ〓〓唸ッテ困ルナント云フ······遞信大臣デハナイ鐵道局長ガソンナ戯談ヲ
申シテ居リマシタ、使フノデハナイサウデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/9
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010・西村亮吉
○西村亮吉君 尙ホ御尋ネ申シマス、サウスルト何モ此議會ニ出シテ極メヌ
ナラヌト云フ必要モ無イヤウデゴザイマス、次ノ議會マデ、待ッテモ宜イヤウ
デゴザイマス其邊ハドウ云フ御相談ガアリマシカタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/10
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011・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 サウ云フ風ニチヨット見ラレマスガ、ソレハ豫算ノトキニ
モ之ト同ジコトガアリマシタ、ドウモ極メテ置カヌト當テノ無イコトヲ極メ
ルヤウナコトニナル、鐵道ノ爲ニ豫算デ極メテ置カスト三十七年ニ對シテ橋
トカ隧道トカニ著手ガ出來ナイ、斯ウ云フ政府ノ方デ說明デアリマシタネ、
ソレデ三十七年ニ使フ金ダカラシテ三十六年度デ極メテ置カヌデモ宜イヤウ
ナモノデアルケレドモ、三十七年度ニ使フマデノ約束ヲシテ置カヌト三十七
年度ニ這入ッテ見ルト何モ仕事ガ無イ、役人ガ手ヲ拱イテ居ラナクテハナラ
ヌソレデ解散後ノ議院デアルカラ政府ガ怺ヘテモ宜シイト云フ議論モアッ
タ、ケレドモ政府モ役人ガ手ヲ拱イテ金ヲ眺メテ居ルノモ困ル、隨分仕事ヲ
セズニ居ルノモ困リマス、サウ云フ困リ方デアリマスト戯談ミタヤウナ話デ
アリマスガ事實ガサウ言ハレマシタ、詰リ無イ金ヲ使ッタカラ方々ニ關係ガ及
ンデ來マス、ドウモ私ドモ考ヘタ所デハ三十六年度ニ使ハナイ金ハ一切公債
ハ募ラナイデモ宜カラウト云フコトヲ餘程考ヘマシタガ、ドウシテモサウイ
カヌヤウデス、其イカヌ譯モ私ダケニハチャント分ッテ居リマスガ、モウ少シ委
シイコトヲ御尋ニナルナラバ政府委員ニ限リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/11
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012・西村亮吉
○西村亮吉君 マア一應御尋ネ申シマス、大體ハ御話デ分リマシタガ、委員
會デハドウ云フコトノ御話ガアリマシタカ、此法律ヲ直シテサウシテ之ヲ一
般ニ募集スルコトガ出來ルカ出來ヌカト云フヤウナコトハアリマセナンダラ
ウカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/12
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013・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 ソレハ少シバカリアリマシタ、ソレハ隨分銀行ニモ遊ン
デ居ル金ガアルカラ何レ來年度ノコトデゴザリマセウ、先ヅ何時デモ募レル
見込ノヤウニ聞キマシタ、確ニドウト云フコトハ無イガ、ソレハ少シバカリ
其話ヲ承リマシタ、サウ云フ見込ノヤウニ私ハ聞取リマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/13
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014・西村亮吉
○西村亮吉君 政府委員ヘ御尋イタシタイノデアリマス、此公債ヲ澤山募集
スルト云フコトハ隨分出來ルカ出來ヌカト云フコトモ一般ニ定メルコトハ面
倒イコトデ、出來ナイトマア私ハ考ヘテ居ル、所ガ唯預金部ニ預カル金デ買上
證劵ヲ以テ其金デ應ゼラルルダラウト思ヒマス、此預金部ノコトヲ少シ是ハ
賛否ニ付テ能ク承ッテ置カヌト困リマス、預金部ニ年々大抵證劵ガドレダケ集
マリマスルデセウ、ソレヲ一ツ··
〔政府委員松尾臣善君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/14
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015・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 御答ヲ致シマス、預金部ニドノ位ヰ集マルト云フ
豫算モ他働デアリマスカラ委シク立チマセヌケレドモ、先ヅ三四百万圓グラ
ヰマデハ集マリマスル、事ニ依リマスルトソレヨリ上ノコトモアリマス、
又減ズルコトモアリマスドウモ他働ノコトデアリマスカラ確ニ申上ゲルコ
トハ出來マセヌ、今申上ゲル位ナコトハ出來マセウト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/15
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016・西村亮吉
○西村亮吉君 尙ホチヨット御尋イタシマス、今大分集"テ居ル預金部ノ買上
證劵ヲ以テ應ゼラルルダラウト思ヒマス、所ガ現今預金部ニ持ッテ居ル公債ノ
種類ト云フモノハドンナモノデアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/16
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017・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 預金部ノ公債ノ種類ヲ申上ゲルノデスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/17
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018・西村亮吉
○西村亮吉君 〓略ノ種類ヲ··発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/18
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019・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 現在預金局ニ持ッテ居リマスル公債ノ種類ハ舊公
債ガ十九万千圓、整理公債ガ十四万八千圓、軍事公債ガ七万四千圓、帝國五
步利付公債ガ三千百三十万圓、臺灣公債ガ千四百二十九万圓、〓國ノ四步利
付公債ガ四千八百八十七万圓、是ダケ持ッテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/19
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020・西村亮吉
○西村亮吉君 尙ホ御尋シマス、此預金部カラ鐵道公債、事業公債、北海道
起業公債合セタモノニ付テ二千七百万圓ニ承ッテ居リマスガ、唯今伺ヒマシタ
ノハ其外デアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/20
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021・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 二千七百万圓ト云フノハ何デゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/21
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022・西村亮吉
○西村亮吉君 預金部カラ鐵道公債、事業公債、北海道事業公債ニ應ジテ居
ル金高ガ、四千七百一万千六百圓ト云フモノヲ三十五年二月マデニ應ジテ居
ル、其外ニ唯今御話ノ舊公債或ハ軍事公債ト云フヤウナモノハ、唯〓ノ外デ
スカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/22
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023・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 其內デゴザイマス、ソレデ預金局ガ募集ニ應ジマ
シテ、ジット持ッテハ居リマセヌ、矢張リ買手ガアリマスレバ其方ヘ賣ッテ行キ
マスカラ、今申上ゲタノハ現在預金局ニ殘ッテ居ル高デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/23
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024・中島永元
○中島永元君 私モ序ニ質問イタシマス、先日一讀會ノ時ニ計算ノコトハ略
御說明デ分リマシタガ、此議會ニ此案ヲ是非議了シナケレバナラヌト云フコ
トハ、マダソレホド必要ト感ズル程ノ答辯ハ無カッタヤウニアリマス、唯法律
ト豫算ノ既定額ト相當ルヤウニシテ行カネバ不都合デアルカラト云フヤウナ
御答辯デアリマシタガ、ソレハ固ヨリ雙方丁度合シテ行ク方ガ是ヨリ宜イコ
トハナイ、本員等モ其通リアリタイト豫テ思ッテ居リマスガ、此鐵道ノ建設費
ニ付テハ從來法律ノ既定額ト豫算ノ現定額トハ始終喰違ッテ居ル、ソレハ先日
モ一讀會デ御說明ニナッタ通リニ九千五百万圓ノ法律ノ旣定額ニ、旣ニ十六議
會ニ於テ四百何十万圓ト云フモノハ豫算デハ極ッテ、法律ハ改正ニナラナイ、
ソレカラ今度四千百万圓要求ニナリマシタ、是ハ旣ニモウ豫算デハ可決ニナ
リマシタ、其四千百万圓ト云フモノハ、十七議會ニモ出サレタノデアリマス、
サウシテ其時ニモ尙更法律ノ額ト豫算ノ額トハ喰違ッテ來ル譯デアリマシタ
ガ、アノ十七議會ハ通常議會デアッテ、ユックリサウ云フコトモ議セラレルノ
ニ、其時モ此法律案ハ提出ニナラズ、此短期ノ議會ニ限ッテ議定シテ貰ヒタイ
ト云フ理由ガ私ニハ一向分ラナイ、畢竟是ハ彼ノ妥協ノ結果デアラウト思ヒ
マスガ、ソレハ妥協ハ妥協デドウデモ宜ウゴザイマスガ、旣ニ豫算ガ決シタ以
上ハ仕方ガ無イ、、本員等ハ豫算ニモ不同意デアリマシタケレドモ、次ノ議會ヲ
待タレヌト云フ事情モ幾ラカ聞エタノデアリマシテ、委員長カラ御報告ノ通
リ、併ナガラ此法律案ニ付テハ一向事業上ニ差支ハ無イ、而シテ此計算ハ甚ダ
不明瞭デアルト本員等ハ考ヘマス、先達テ四千五百三十万圓ハ普通歲入カラ
支出シテ差引クカラ豫算ノ歲出額ト法律ノ既定額ト額ガ違フ、スレバ普通歲
入ヨリ四千五百三十万圓支出スルニ依ッテ、差引クカラトカ何トカ云フ計算デ
アリマシタガ、其四千五百万圓ト云フモノハ、マダ皆支出シタノデハナイト本
員ハ考ヘマス、將來支出スベキモノ、ソコラカラ考ヘテモ計算ハ甚ダ不明瞭
デアル、ソコデ十九議會ヲ待ッテ能ク調查ノ上デ法律案ヲ極メテ、屢、變ルコ
トノ無イヤウニシタイト思フ、畢竟財政ノ膨脹トカ或ハ不整理トカ申スコト
モ、此議會デ種々ニ決議シテ、サウシテ行政官ニ任ズルニ依ッテ、アヽ云フコ
トニナルノデ、實ハ責任ハ議會ニアルノデゴザイマス、ソレヲ唯行政官ニ向
ッテ整理ノ事ヲ迫ルト云フ······全體議會デ議決スルノガ疎漫ニ流レルカラ、サ
ウ云フ不都合モ起ッテ來ル、是ハ餘程考ヘテ決議ヲセネバナラヌト思ヒマス、
ソレデ是非決議ヲセネバナラヌト云フ要領ヲ伺ヒタイノデアリマス
〔政府委員松尾臣善君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/24
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025・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 過日此席デ御尋ニ對シマシテ計算ノコトハ略〓申
上ゲマシテ、尙又昨日委員會ニ於キマシテハ委シク申上ゲマシタノデ、計算
ノ上ニ付テ不明瞭ト仰セラレル點ハ何レニゴザイマスカ、其不明瞭ナル點ヲ
伺ヒマシタナラバ、如何樣ナ詳細ナルコトデモ申上グテ御分リニナルマデ申
上ゲマス、計算ガ不明瞭デアルカラ云々ト云フ御說ハ甚ダ此計算ヲ執ッテ居リ
マス者ノ爲ニハ迷惑ニ存ジマスカラ、御分リニナルマデ申上ゲマスカラ、ド
ウゾ不明瞭ナル點ヲ擧ゲテ一ツ御問ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/25
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026・中島永元
○中島永元君 併ナガラ委員長ヨリモ明瞭ニ說明ガ出來ナイト云フヤウナコ
トデアリマシタガ、本員等モ亦先日ノ御說明ダケデハ明瞭ト思ハレナイ、ソ
レカラ金額ノ上デモ衆議院デ御說明ニナッテ居ルノトハ折〓違フヤウナコト発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/26
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027・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 昨日委員會ノ席デ委員長ニモ申上ゲマシタ、其他
委員諸君ニモ御聽キニナッテ居ル譯デゴザイマス、ソレデ委員長カラノ御話
ニ、巨細ナルコトハ政府委員カラ聞イテ貰ッタ方ガ宜カラウト云フ其言葉ノ
ヤウニ私ハ伺ッテ居リマシタ、ガ其計算ノ不明瞭ノ點ト云フノハ決シテ私ハア
リマセヌト思ヒマス、又衆議院デ申シマシタノト此席デ申上ゲマシタノト違
ヒマス點ハ衆議院ニ於テ豫算ニ訂正ヲ加ヘラレマシタカラ、ソレデ其員數
ガ達ウテ居ルノデゴザイマス、其事モ昨日委員會デハ申上ゲマシタ、ソレデ
ゴザイマスカラ、ドノ點ニ對シマシテモ計算ノ不明瞭ト云フコトハ、御指シ
下サイマスレバ委シク申上ゲマス、又全體ヲモウ一遍申上ゲタ方ガ宜イト云
フ思召ナラバ、尙ホ詳細ニ申上ゲルヤウニ致シマス、御都合次第御注文ノ通
リニ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/27
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028・中島永元
○中島永元君 其計算ノ點ハ餘リ長クナッテ滿場諸君ニ御氣ノ玉母ニ思ヒマス
カラ、其事ハ別ニシテ其他ニ御尋シタ所ヲ···発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/28
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029・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) ソレカラ其次ニハ此豫算ト法律ハ常ニ伴ウテ居ナ
イノデアル、旣ニ十六議會ニモ增シテ居ルケレドモ法律ハ變ヘナンダ、十七
議會卽チ此前ノ議會ニ提出シタ時分ニモ變ヘナンダ、此度變ヘルト云フコト
ハサウ必要デハナイデハナイカト云フ御問ノヤウニ伺ヒマシタガ、ソレハ
番初メ此敷設法ニ揭ゲテゴザイマシタ公債ノ高ハ六千万圓デゴザイマシタ、
ソレカラ段々經費ノ增加ニ付キマシテ九千五百万圓、是ハ卽チ豫算ト法律ト
相合セタノデゴザイマス、ソレカラ十六議會十七議會ト云フノハ、御承知ノ
通リニ成ルベク一般ノ會計ヨリ支辨シ得ラルルダケハ支辨スルト云フ傾ニナ
ッテ、旣ニ十七議會ナドニハ固ヨリ此公債ニ依ラズニ是マデノ募集殘リノ分モ
合セテ一般ノ會計カラ支辨ヲスルト云フコトノ方針デゴザイマシタガ故ニ、
此法律案ニハ手ヲ付ケナンダノデゴザイマス、所ガ此度ハ此鐵道ハ兩樣一般
會計カラ支辨シ得ラルルダケ支辨シテ、其殘ノ額ハ公債ニ依ルト云フコトニ
ナリマシタガ故ニ、卽チ昨日一昨日來豫算ノ方モ其方デ以テ御決議ニナッタ次
第デゴザイマス、ソレデ此公債ノ上ニ付キマシテモ、兩樣一般會計ヨリ支辨
シ得ラルベキ員數ヲ差引イテ殘ヲ法律ガ募集ノ出來ル額ニ加ヘラレルコトヲ
請求イタシマシタ、ソレデ豫算ノ方ハ議決セラレマシテ、財源ノ方ガ議決サ
レヌト云フコトハ、甚ダ此事務上差支ヲ來シマスノデゴザイマス、是ガ以前
ノヤウニ一般會計ヨリ支辨ヲ爲シ得ベキ見込ノモノデゴザイマスレバ、此改
正ハ要リマセヌケレドモ、經畫ヲ今日變へ此不足分ハ公債ニ依ルト云フコト
ニナリマシタ以上ハ、此公債ヲ募集シ得ベキ權利ヲ法律デ政府ニ與ヘラレヌ
ケレバ、事務ノ執行ガ出來マセヌノデゴザイマスガ故ニ、此度之ヲ改正ノコ
トヲ請求イタシタ譯デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/29
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030・中島永元
○中島永元君 固ヨリ財源ヲ永久ニ出サヌト云フ譯デハアリマセヌ、此年度
ハ金ガ澤山アルト云フコトノ委員長ノ報告ガアッタ譯デアリマスカラ、豫算ハ
年度ガ極ッタ以上、モウ財源ハ此年度ニハ差支ハ無イト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/30
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031・松尾臣善
○政府委員(松尾臣善君) 此年度ハ御承知ノ通リニ一般會計カラ仕拂フコト
ノ經畫ニナッテ居リマスケレドモ、三十七年度ヨリハ一般會計ト此公債ヲ募集
シテ、併セテ事業費ニ拂フト云フコトニナリマシタノデゴザイマス、ソレデ
矢張リ茲デ御極メ置キヲ願ハヌト、此三十七年度ニ至リマスト困ルノデゴザ
イマス、ソレカラ金ガ餘ッテ困ルト云フコトヲ今委員長カラ御話ガアリマシタ
ガ、ソレハ遞信省ノ方ノ話デゴザイマス、金ト云フノデハナク豫算デ、遞信
省デ使フベキ權利ノ方カラ言葉ヲ立ッテ居リマスノデ、私ガ申上ゲマスノハ全
ク其現金ノ方デゴザリマス、ソレデアリマスカラ金ト書イテゴザイマスケレ
ドモ、遞信省デ言ハレル金ト云フノハ之ヲ使用シ得ラルル權利ヲ御話ニナッタ
コトト考ヘマス、ソレカラ現金ノ方ハドウシテモ公債ヲ募ッテ、一般會計ノ歲
入ニ之ヲ繰上ゲマシテ財源トスルニハ公債ヲ募ッテ現金ヲ以テ拂ハナケレバ
ナリマセヌ、其方ハ矢張リ此公債ヲ募ラネバ不足イタシマスノデゴザイマス、
其邊ドウゾ御承知ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/31
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032・中川興長
○男爵中川興長君 本案ハ讀會省略ノ動議ヲ提出イタシマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/32
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033・西村亮吉
○西村亮吉君 此際意見ヲ述ベヤウト思ヒマスガ······発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/33
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034・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/34
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035・西村亮吉
○西村亮吉君 此第一ノ鐵道敷設法ダケ·····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/35
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036・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 第一ダケ問題ニナッテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/36
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037・西村亮吉
○西村亮吉君 此第一ダケ申上ゲマス、此法律案ハ二讀會ヲ開クベカラザル
モノト私ハ認メマス、ト云フモノハ此法律ヲ以テ增スト云フコトヲスルニ及
バヌ、次ノ議會マデ待テルモノ、豫算ノ時ニ不同意デアリマシタガ、イツノ
間ニカ通過イタシマシテ不同意ヲ申上ゲラレマセヌ、今日議決スル必要ガナ
イサウシテ置カヌト年度割ノ金ト辻褄ガ合ハヌ、サウ云フヤウナ譯デアリ
マスカラ、決シテ其豫算ト辻褄ガ合ッテ居ラヌ、二十九年度ニハ歲入歳出ノ辻
褄ガ合ウテ居ラヌ、詰リ大臣方ハ御承知ハアルマイト思フ、此三十四年度ニ
ハ歲入ガ二億七千八百万デ歲出ガドレ程カト云フト三億三千万ニナッテ居ル、
ソレカラ三十三年度ハドウカト云フト二億五千四百万圓ノ歲入デ、歲出ガ三
億五千九百万ニナッテ居ル、斯ウ云フコトニ年々ナッテ居ル、何デモ合ハヌデ
宜シイデスカラ、此次ノ議會デ以テ其時ニ議シテ宜シイ、故ニ此案ハ二讀會
ヲ開クベカラズト云フ意見ヲ述ベマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/37
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038・岡部長職
○子爵岡部長職君 唯今ノ讀會省略ノ動議ニ贊成イタシマシテ宜シウゴザリ
マスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/38
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039・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/39
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040・谷森眞男
○谷森眞男君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/40
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041・本田親雄
○男爵本田親雄君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/41
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042・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 第二讀會ヲ開クベカラスト云フ意見ニ贊成ハアリ
マセヌカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/42
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043・松平正直
○男爵松平正直君 讀會省略ニ贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/43
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044・玉松眞幸
○男爵玉松眞幸君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/44
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045・渡邊清
○男爵渡邊淸君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/45
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046・山田卓介
○山田卓介君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/46
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047・武井守正
○武井守正君 贊成
〔其他「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/47
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048・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ハ成立チマシタト認メマス、之ニ
同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
────◇─────発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/48
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049・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ハ成立チマシタ、唯今二讀會ヲ開
クベカラズト云フ議論モアリマスカラ、此議決ハ起立ニ問ヒマス、二讀會ヲ
開クベカラズトスル諸君ハ起立ヲ請ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/49
-
050・岡部長職
○子爵岡部長職君 讀會省略ハ濟ミマシタト思ヒマスガ··発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/50
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051・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ハ申誤リマシタ、本案ヲ可トスル諸君ノ起立ヲ
請ヒマス
起立者多數発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/51
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052・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 過半數ト認メマス、事業公債條例中改正法律案、
政府提出、衆議院送付発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/52
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053・西村亮吉
○西村亮吉君 是モ二讀會ヲ開クベカラズ、モウ格別主意ハ······第一ノ主意
ト同一デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/53
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054・西五辻文仲
○男爵西五辻文仲君 讀會省略ヲ-発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/54
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055・中川興長
○男爵中川興長君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/55
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056・武井守正
○武井守正君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/56
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057・大田原一清
○子爵大田原一淸君 賛成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/57
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058・山田卓介
○山田卓介君 賛成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/58
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059・南郷茂光
○南鄕茂光君 賛成
〔其他「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/59
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060・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 請會省略ノ動議ハ成立ッタモノト認メマス、之ニ同
意ノ諸君ハ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/60
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061・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ハ成立チマシタ、是亦否決ノ意見
ガアリマスカラ起立ニ問ヒマス、本案ヲ可トスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數
────◇─────発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/61
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062・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 過半數ト認メマス、臺灣事業公債法中改正法律案
政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、特別委員長報告
臺灣事業公債法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決ス依テ及報告候也
明治三十六年六月二日
右特別委員長
男爵尾崎三良
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔男爵尾崎三良君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/62
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063・尾崎三良
○男爵尾崎三良君 臺灣事業公債法ノ改正案ニ付キマシテ、特別委員長トシ
テ報告ヲ致シマス、昨日特別委員會ヲ開キマシテ吾吾九人ノ委員ノ內七人ダ
ケ出席イタシマシテ、全會一致ヲ以テ之ヲ可決イタシマシテゴザイマス、此法
案ハ今度ノ妥協問題ニモ關係ノ無イモノデ又豫算削除ノ結果デモナイ、地租
案撤回ノ結果デモナイ、是ハ全ク單獨ノモノデアリマス、初ハ本員等モ此前
ニ議セラレタ鐵道公債法其他ノ如ク今度ノ豫算ノ變更彼是ノ關係カラ是モ必
要ニナッタノカト考ヘテ居リマシタ、所ガ段々政府委員ノ說明ヲ聞キマスレバ
全ク是等ノコトニハ關係ノ無イ獨立ノ是ハ改正案デアリマス、然ラバ何デ此
短期ノ議會ニ之ヲ提出サレタカ、ソレ程ニ緊急ナモノデモナイダラウト考ヘ
マシタ所ガ、是亦政府委員ノ說ヲ聞イテ見マスレバ一刻モ早ク改正セニヤナ
ラヌ必要アリト吾ゝ委員モ同意ヲ致シマシタノデアリマス、此臺灣事業公債
法案ト云フモノハ御承知ノ通リ明治三十二年ニ制定ニナッタモノデアリマス、
臺灣ノ鐵道敷設、土地調査、築港調査、建築ト云フ如キ事業ノ爲ニ公債ヲ募ッ
テ之ヲ支辨スルト云フ法案デアリマス、現行法律ニ依リマスレバ此法律ニ依ッ
テ募集シ得ベキ公債ハ一一千五百万ト限ッテアリマス、是ハ段々當局者ノ話ヲ
聞キマスルト初ハ臺灣ニ於テ公債ヲ發行スルノデアリマスカラ臺灣ノ人民又
ハ支那人ニ對シテ之ヲ持タセタイト云フ希望デアッタサウデアリマス、ソレ
ユヱ特別ニ臺灣事業公債ト云フモノヲ立テテ他ノ公債ト全ク色分ケヲ致シテ
アッタノデゴザイマス、然ル所ガ事豫期ニ反シテドウモ其通リニ參ラヌ、依ッテ
ハ已ムヲ得ズ矢張リ外ノ公債ト同ジヤウニ日本帝國ノ人民ガ之ニ應ジニヤア
ナラヌ之ヲ募ルヨリ外ハ途ハ無イト云フコトニナッタ、然ルニ此臺灣事業公債
ト云フモノハ一種名ガ異ッテ居ルノミナラズ事柄モ異ッテ居ルモノデアリマス
カラ、ドウモ人民ニ望人ガ少ナイ、今日マデ既ニ二千七十万圓ト云フ發行ニ
ナッテ居ルサウデゴザイマスルガ、其中ノ大部分ハ預金部デ引受ケテ居ル丁
度先刻政府委員ヨリ申述ベラレタ通リ預金部デ其過半ヲ引受ケテ居ル、其過
半ハ臺灣銀行デ殆ド義務的ニ引受ケテ居ルト云フ有樣デドウモ人民ガ之ヲ持
ツコトヲ望マナイ、尤モ臺灣ノ方ニ種々ノ關係カラ已ムヲ得ズ四五万圓ノ公
債ヲ持ッテ居ル人民ハアルサウデアリマス、サウ云フヤウナ譯デアリマシテ甚
ダ不便デアル、現ニ預金部ニ持ッテ居ル所ノ千四百万圓ト云フ此臺灣事業公債
モ追ゝ民間ニ之ヲ賣放シタイト云フ考ハアルケレドモ何分望人ガ少ナイ、帝
國五分利付公債トカ或ハ軍事公債トカ整利公債トカ云ヘバ世間ニ普ク知レテ
居ルシ直段モ能ク分ッテ居ルカラ公債ヲ望ム人モアル、賣ラウト思ヘバ直チ
ニ買人ガアル、所ガ此臺灣事業公債ト云フモノニナルト何ダカ譯ガ分ラヌデ
マア止シマセウト云フヤウナ話デ、强ヒテ賣ラウトスレバ餘ホド直段ガ安ク
ナケレバ誰モ引受人ガ無イト云フ有樣デアル、斯ノ如ク同ジ日本帝國ノ責任
ヲ持ッテ發行シテ居ル公債デアリナガラ一ハ人ノ望ガ少クシテソレガ爲ニ價
格モ下ニアルト云フコトハ甚ダ得策デゴザイマセヌ、依ッテ此際其不便利ヲ改
正スルト云フノガ、マア此改正ノ大眼目デアリマス、ソレ故ニ第三條「左ノ
如ク加フ」ト云フノデ「政府ハ時宜ニ由リ前項ノ据置年限ヲ五箇年トシ其ノ
翌年ヨリ五十箇年間ニ償還スルモノトシテ起債スルコトヲ得」トアッテ、ソレ
カラ次ニハ利子ノ規定ガ三月、九月トシテアル、此規定ハ卽チ今日行ハレテ
居ル所ノ帝國五分利付公債ト同ジヤウニナルノデアリマス、ソレナラバナゼ
根本カラ現行法ヲマルデ改正シナイカ、斯ウ云フヤウナ生ラ半若ナモノヲ拵
ヘルカト云フ疑モ生ジマスガドウモ現行法ヲマルデ廢メテ之ニ變ヘルト云フ
コトガ出來ナイ、其出來ナイト云フ譯ハ旣ニ現行法ニ依ッテ發行シテ居ル公
債ガアルノデアリマス、尤モ多數ハ預金部ニアリマスケレドモ總テ少數タリ
トモ人民ノ手ニアル以上ハ是ガ一ツノ契約ニナッテ居リマスカラ假令其契約
ガ一方ニ不便デアラウガ、勝手ニ是ハ變ヘルト云フコトハ出來マセヌ、ソレ
デ此現行法ハ此儘ニ存シテ置イテ、サウシテ其不便ヲ補フ爲ニ政府ハ「時宜
ニ由リ」ト云フコトヲ加ヘテ、是カラソレデハ此「時宜ニ由リ」ト云フコトデ
ヤラウト云フ考デアルサウデアリマス、ソンナラ是ハ此次ノ議會マデ待ッタラ
ドウダト云フ考モアリマシテ、段々委員中ニモ質問イタシマシタガ、何分臺
灣ノ事業ト云フモノハ著々進ンデ行カニャアナラヌ、所ガ旣ニ預金部デ千四百
万圓以上モ引受ケテ居ル、之ヲ人民ニ其中幾許カヲ賣ッテ更ニ此公債ヲ引受
ケヤウト思ウテモ賣ルコトガ出來ナイ、依ッテハ現今持ッテ居ル所ノ公債モ此
五分利附ト同ジヤウニシタイト云フ精神デアリマス、ソレ故ニ此一番ノ終ヒ
ヘ持テ行ッテ「第一項ノ規定ニ依ル公債ハ債權者ノ請求ニ依リ第二項ノ規定ニ
依ル公債ニ變換スルコトヲ得」ト云フノデ今持ッテ居ル人デモ望ンデ、ドウカ
今度ノ改正ノ通リノ公債ニシテ欲シイト云フコトヲ持主カラ望メバ是ハシテ
ヤルト云フ規定デアリマス、預金部デ持ッテ居ル所ノ事業公債モ此法律ガ出
マスレバ直グニソレニ引直シテ人民ニ賣ル、賣ッテ更ニ又臺灣事業ノ爲ニ必要
ナル公債ヲ引受ケル、是ガ一刻モ早ク極ラヌト何デモナイコトノ爲ニ非常ニ
不便ヲ感ズルノミナラズ實際事業ニ差支ヘルト云フ有樣デアリマスカラ吾〓
委員ニ於テ一統異議ナク原案ヲ可決シマシタノデアリマス、尤モ此數字ヤ何
カ其他原案ノコトニ付テハ一通リ本員ガ聞キマシタコトヲ御報告申シマシタ
ガ、マダ此上諸君ニ於テ御不滿足ノコトモアリマセウガ、其上私ガ答ヘルコ
トガ出來ルヤ出來スヤ不案內デゴザイマスカラ、ドウゾ此上ハ政府委員ニ御
尋ヲ願ヒタイノデス、先ヅ一通リ此案ノ必要ナルコトヲ感ジテ議決シタ所以
ヲ御報〓イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/63
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064・谷森眞男
○谷森眞男君 チヨット委員長ニ御尋イタシマス、現行法ニ依ッテ既ニ募集シ
テアル所ノ額ハドノ位アリマスカ、チヨット伺ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/64
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065・尾崎三良
○男爵尾崎三良君 是ハ政府委員カラ答辯サレタ方ガ宜カラウト思ヒマス
ガ、幸ニ此所ニ記入シテアリマスカラ申上ゲマス、其旣ニ募集シテアル額ハ二
千七十万七千九百圓ト云フ譯ダサウデス、ソレダケノコトハ聞イテ置キマシ
タカラ申上ゲマスガ、ドウゾ委シイ計算ノコトハ政府委員ニ御尋ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/65
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066・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 別段御發議ガ無クバ本案····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/66
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067・西五辻文仲
○男爵西五辻文仲君 本案ハ讀會省略ヲセラレムコトヲ希望イタシマス
〔「賛成」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/67
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068・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ガ出マシテ、段々贊成ガアリマス、
讀會省略ノ動議ガ成立ッタモノト認メマス、之ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/68
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069・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 三分ノ二以上ト認メマス、本案ハ可決ト認メマシ
テ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/69
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070・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 日本勸業銀行法中改正法律案、衆議院提出、第
讀會ノ續、特別委員長報告
日本勸業銀行法中改正法律案
右別册ノ通リ修正セリ依テ及報〓候也
明治三十六年六月二日
右特別委員長
伯爵正親町實正
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
日本勸業銀行法中左ノ通改正ス
第十四條第二項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
日本勸業銀行ハ臺灣ニ於テ貸付ヲ爲ス場合ニハ業主權ヲ擔保ニ徵スルコ
トヲ得此ノ場合ニ於テハ本法中抵當ニ關スル規定ヲ準用ス
第十五條ニ左ノ一項ヲ加フ
耕地整理法ニ依リ耕地整理ヲ施行スル場合ニ於テ參加土地所有者總員カ
連帶責任ヲ以テ借用ヲ申出タルトキ又ハ整理委員カ規約ノ定ムル所ニ依
リ借用ヲ申出タルトキハ抵當ヲ徵セスシテ定期償還貸付又ハ年賦償還貸
付ヲ爲スコトヲ得
耕地整理法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決ス依テ及報告候也
明治三十六年六月二日
右特別委員長
伯爵正親町實正
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔伯爵正親町實正君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/70
-
071・正親町實正
○伯爵正親町實正君 唯今議題ニ上ッテ居リマスルノハ日本勸業銀行法中改
正法律案デアリマスガ此法案ハ次ノ日程ニゴザリマス耕地整理法中改正法律
案ト頗ル牽連シタ案デゴザイマス、唯今議長ノ許可ヲ得マシテゴザイマスカ
ラ御報告ハ同時ニ致シマス、此案ノ改正ヲ致シマスル理由ハ、衆議院ノ方カ
ラ回リマシタ案ノ理由ハ、詰リ其耕地整理法ノ資金ニ付キマシテ農工銀行ノ
方カラハ勿論借リルコトハ出來マスルガ、日本勸業銀行カラハ貸ス譯ニナッ
テ居リマセヌ、御承知ノ如ク此整理法ト云フモノハ隨分中〓大キナ事業デア
リマスカラシテ、資金ノ需要ヲ成ルベク廣ク求メルト云フコトガ必要デアル
カラシテ、此日本勸業銀行カラモ借リルコトニシタイト云フコトト、且ツ殊ニ
此年賦償還貸付ト云フコトハ至極便利デアルト云フ意味ナノデアリマスソ
レデ段々委員會ニ於テ審議ヲ盡シマシタノデアリマスガ、是ハ至極適當ノ改
正デアラウト云フコトカラシテ、別段異議モ無ク此案ニ付テハ決シマシテゴ
ザイマスハ然ルニ委員長ヨリ此改正ニ伴ヒマシテ今一ツノ必要ノコトガアル
カラ之ヲ修正トシテ玆ニ差加ヘタイト云フ動議デアリマシテ其修正ハ此十四
條ノ第二項ノ次ニ左ノ一項ヲ加ヘルト云フノデアリマス、ソレハマルデ此耕
地整理法トハ別ノコトデアリマスルガ、併シ法律ノ改正ニハ違ヒナイノデア
リマス、デソレハ其臺灣ニ關係シタコトデアリマシテ、臺灣ト申ス所ハ御承
知ノ如ク米作砂糖ニ付キマシテハ此改良發逹ヲ圖ルト云フコトハ目下ノ最モ
急務デアル、然ルニ資金ノ需要供給ガ甚ダ不十分ナルガ爲ニ成ルベク低利ノ
資金ヲ其事業ニ向ケルヤウニ致シタイ、ソレニ付テハ日本勸業銀行カラ資金
ヲ借出スト云フコトノ必要ガ生ジテ來タンデアル、然ルニ諸君御承知ノ如ク
此日本勸業銀行ノ現在ノ法律デアリマスルト不動產ヲ抵當トシナケレバ借リ
ルコトガ出來ヌト云フコトニナッテ居リマス、然ルニ臺灣ハ······今此臺灣ノ土
地ニ付キマシテハ純然タル所有權ト云フモノガマダ出來テ居ラヌ······法律ガ
出來テ居ラヌノデアリマシテ、從ッテ此抵當ノ制度ト云フモノモ備ッテ居ラヌ
ノデアリマス、ソコデ此所有權ニ一番先ヅ似寄ッタ近イ所ノ業主權ト云フモ
ノヲ擔保トシテ貸スト云フコトニスレバ宜カラウ、デ此業主權ト云フモノハ
ドウ云フモノカ私モ未ダ心得マセヌガ、業主權ト云フモノハチヨット所有權
ニ似タヤウナモノデ、其土地ニ付テノ使用、收益處分ノ權利ハ矢張リ持ッテ居
ル、併ナガラソレカラ見マスルト所有權ノヤウデゴザイマシテ、大租權ガア
リマシテ其大租權ニ向ッテ租稅ノヤウナモノヲ拂フト云フコトニナッテ居リマ
スソレデアルカラ其土地ヲ使フコトモ出來レバ出來タモノノ收穫ヲ收メル
コトモ出來ル、賣買モ出來ル、ケレドモ純粹ノ所有權デハナイサウデアリマ
ス、其土地ニ付イタ所ノ名ケテ業主權ト申スサウデアリマス、其業主權ヲ擔
保トシテ貸スコトガ出來ル、併シ其場合ニ於テハ本法中抵當ニ關スル規定ヲ
準用スルト云フコトデアリマス、然ルニデス、一ツハ丁度諸君ノ御手許ニ出
テ居ル如キ政府カラモ此勸業銀行法ノ改正ガ出テ居リマス、マダ是ハ議事ニ
ハナリマセヌガ、諸君ノ御手許ニハ回ッテ居リマス、其第一項ノ改正ガ恰モ同
ジ改正デアリマス丁度政府ノ改正案ヲヒヨックリ持ッテ來タト少シモ違ハヌ
ノデアリマス、政府ニ於テモ此修正ニハ全ク同意ヲ表スルノミナラズ此修正
ヲ望マレルト云フ譯デアリマス、ソレ故ニ委員會ニ於キマシテモ全會一致ヲ
以テ此修正ヲ容レルト云フコトニ決リマシタ譯デアリマス、ソレカラ其次ハ
耕地整理法デアリマスガ、此一ツモデガンス、此日本勸業銀行カラ資金ヲ貸
スト云フコトニ付テ、此耕地整理法ノ法律ノ不備ヲ補ッタ修正デアリマシテ、
一向何ノ差支モナク且ツ適當ノ修正デアルト云フコトニ委員ハ認メマシタノ
デアリマス、其大體ノ趣旨ヲ申上ゲマスレバ四十四條ノ修正デアリマスガ、是
ハ詰リ現行ノ整理法デアリマスルト唯整理委員ハ「設計書及規約ノ定ムル所
ニ依リ整理施行ノ責ニ任ス」ト云フダケデアリマシテ債務ノ辨濟ニ就テハ一
向責任ガ甚ダ不明デアル、ノミナラズ此整理委員ノ整理事務ノ濟ンダ時分ニ
債務ハ債務トシテ處理シテ仕拂フト云フ譯ナサウデアリマス、ソレデ債務ノ
辨濟ト云フコトニ就テハ非常ニ責任ガ薄イカラシテ、ソレヲ此整理委員ト云
ファイ、「整理工事ノ施行、整理ニ關シテ生シタル債務ノ辨濟其ノ他整理施行
ニ關シ一切ノ事務ヲ處理スルノ責ニ任ス」ト云フノデ餘ホド整理委員ノ責任
ヲ重クシタ譯デアリマス、其次ハ六十四條ノ二項ハ詰リ唯今マデハ此通リデ
アリマスガ、其所ニ日本勸業銀行ト云フコトヲ入レマシタダケデアリマス、
ソレカラ第六十五條モ一項ト三項ハ現行法ノ儘デアリマスガ、此眞中ニ二項
ヲ一ツ加ヘマシテ、ソレハ何ゼサウシタカト云ヘバ若シ一項ニアル如ク「參
加土地所有者費用ヲ完納セサルトキハ市町村長ハ整理委員ノ請求ニ因リ市町
村稅徵收ノ方法ニ準シテ之ヲ徵收ス」トアリマスケレドモガ、其徵收ニ就テ
ノ先取權ガ認メテ無イ、矢張リ一般ノモノト餘リ區別ガ無イヤウニナッテ居
リマスカラ、ソコデ此二項ニ持ッテ行ッテ、「前項徵收金ハ整理地區ニ編入シタ
ル土地ニ關シ市町村其ノ他之ニ準スヘキモノノ徵收金ニ次テ先取特權ヲ有
ス」市町村其他ノソレニ準スヘキ工費ヲ取ッテ仕舞ウタナラバ其次ニハ直グ
ニ整理法デ先取スルダケノ權利ガアルト云フ先取權ヲ認メタノデアリマス、
此三項ハ詰リ一番終ヒニ「前項ノ規定ニ依ル」ト云フノヲ「前二項ノ規定ニ依
ル」ト「二」ノ字ガ這入リマシタ、ソレダケガ現行法ト變リマシタ、要スルニ
整理ニ就テ日本勸業銀行カラ金ヲ使フコトガ元デアッテ其結果トシテ耕地整
理法ハ其不備ヲ補ヒマシタダケデアリマス、是モ委員會ニ於キマシテ何ノ異
議モアリマセズ適當ノ修正デアラウト云フコトデ是亦全會一致ヲ以テ原案ノ
通リニ可決イタシマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/71
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072・奥山政敬
○奧山政敬君 委員長ニ一ツ質問ガアリマス、唯今御說明デアリマシタガ、
此勸業銀行ノ業主權ト云フモノガアリマスガ、是マデ業主權ト云フモノハ餘
リ聞イタコトガ無イヤウデアリマス、ドウ云フ事柄ヲ指シテ業主權ト云フ名
ガ付イタノデアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/72
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073・正親町實正
○伯爵正親町實正君 是ハ一名小租權ト申スサウデアリマス、小租權トモ申
スサウデゴザイマスガ併シ法律上ノ用語デ近頃業主權ト云フモノデゴザイ
やじ、其業主權ト云フモノハドウ云フモノデアルカト云ヘバ先刻中シタ通リ
使用權モアリ、ソレカラ收益權モアリ、處分權モアリ、是ダケノモノデアリ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/73
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074・奥山政敬
○奧山政敬君 地主デハナイノデゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/74
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075・正親町實正
○伯爵正親町實正君 地主デハナイ、其上モウ一ツ大租權者ト云フモノガア発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/75
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076・伊澤修二
○伊澤修二君 本員ハチヨット政府委員ニ質問シタイコトガアリマス、此業主
權ト云フモノヲ唯今委員長ノ御報告ニ依ッテ承リマスト、唯今大〓土地所有
權ト同ジヤウナモノニ認メテ居ル、丁度其確實ナルモノトシテ擔保ヲ許スト
云フコトニナル、ソレニ就テ一ツ私ハ確メテ置キタイコトハ大租權ト云フモ
ノハドウ云フ風ニ一體今日ハ當局者ガ認メラレテ居ルカ、全體此大租、小租ト
云フコトハ隨分コレハムヅカシイコトノヤウニ本員等ハ聞イテ居リマスガ、
此大租權ト云フモノヲ一時當局者ニ於テ買收シヤウト云フコトハ大問題デ
アッタ、然ルニ今日此業主權ノコトハ殆ド土地所有權ト同ジヤウニ認メマスル
ト云フト前キノ大租權ト云フモノヲ買收スルト云フヤウナコトノ目的ハ旣ニ
棄テラレタモノデアルカ、如何ナ程度ニアルコトデアルカ、チヨット當局者ノ
御考ヲ伺ヒタイ
〔政府委員男爵兒玉源太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/76
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077・兒玉源太郎
○政府委員(男爵兒玉源太郞君) 唯今ノ伊澤君ノ御質問ニ御答ヲ申シマス、
大租權ヲ買收イタシマスルト云フコトハ矢張リ實行イタシマスノデゴザイ
ず、 、然ルニ此事柄ハ土地調査ガ結了イタシマセヌト之ニハ手ガ付ケラレマ
セヌ、故ニ土地調査ヲ終ヘマシタ後ニ大租權ノ買收ト云フコトヲ經畫シマス
積リデゴザイマス、而シテ大租權ト業主權トノ關係如何ト云フコトノ御質問
ト思ヒマス、此業主權ト云フモノハ殆ド內地ノ所有權ト同ジヤウナモノデア
リマシテ、元ト〓國時代ヨリシテ臺灣ノ土地ニハ私有ノ土地ト云フモノガ一
ツモゴザイマセヌ皆例へバ國有ト云フ如キ有樣デゴザイマス、故ニ地上ノ總
テノ權利ハ持ッテ居リマスケレドモガ私有トハナッテ居リマセヌ、其習慣ガ今
日マデニ引續イテ參ッテ居ルノデ、是ガ私有ノ土地デナイ、業主權ト之ヲ稱シ
テ居ルノデゴザイマス、故ニ大租トノ關係ニ於キマシテハ卽チ業主權ヲ持ッテ
居リマス者ガ其土地ノ賣買抵當質入等ニモ之ヲ致シマス、其質入抵當賣買等
ヲ致シマシタ節ハ大租ノ付イテ居リマス部分ハ大租モ共ニ動クノデゴザイマ
ス、ソレ故ニ大租ヲ持ッテ居リマス者ガ此質入抵當賣買ヲ拒ム權利ガゴザイマ
セヌ、卽チ他人ニソレガ移リマスレバ大租權モ共ニ第二者ニ移ル、斯ウ云フ
次第デゴザイマスカラ此業主權ト大租トノ關係ハ其權利ガ移轉シマスルト同
時ニ其大租トノ關係モ付イテ回ル、斯ウ云フ譯デゴザイマスカラ他日之ヲ大
租ヲ買収スル場合ニナッテモ少シモ差支ハ持チマセヌト考ヘマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/77
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078・伊澤修二
○伊澤修二君 チヨット重ネテ承リタイノデアリマスガ、サウ致シマスルト大
租ト云フモノヲ買收ニナリマシテモ殆ト大租ト云フモノハ價値ノ無イヤウナ
モノニナリハセヌカト、チヨット考ヘラレマスガ、サウ云フモノハドウ云フコ
トニナリマスカ
〔政府委員男爵兒玉源太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/78
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079・兒玉源太郎
○政府委員(男爵兒玉源太郞君) 此一般ノ地面ニ皆大租ガ付イテ居ルト云フ
譯デハゴザイマセヌガ、多クノ地面ニハ大租ガ付イテ居リマス、其大租ト申シ
マスレバ小租カラ大租ニ向ッテ幾分カノ稅金ヲ納メル、其稅金ノアルコトヲ承
諾シテ其上デ仕事ヲシテ居リマスノガ卽チ小租デゴザイマス故ニ大租權ヲ
買上ゲマスルト大租權ト云フモノハソレデ小租トノ關係ヲ絕ッテ仕舞ッテ、國
ト大租權トノ關係ニナッテ參リマスルノデ大租ト小租トノ關係ヲ離レルダケ
デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/79
-
080・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 他ニ御發議ガ無クバ本案委員會ノ報告ニ就テ決ヲ
採リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/80
-
081・新荘直陳
○子爵新莊直陳君 讀會省略ヲ·····
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/81
-
082・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ御請求ガアリマスガ、是ハ修正ガアリ
マスカラ修正モ共ニト云フ御考デアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/82
-
083・新荘直陳
○子爵新莊直陳君 左樣デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/83
-
084・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ハ成立チマセヌ、又本案ヲ二讀會
ニ移スベシトシテ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/84
-
085・大原重朝
○伯爵大原重朝君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ··
〔「賛成」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/85
-
086・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 直チニ第二讀會ヲ開クト云フ動議ニ贊成ガアリマ
ス、御異議ガナケレバ二讀會ニ移リマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/86
-
087・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ直チニ二讀會ヲ開キマス······別段御發議
ガ無クバ、委員會ノ修正デ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/87
-
088・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ其通リニ決シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/88
-
089・正親町實正
○伯爵正親町實正君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ····
〔「贊成」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/89
-
090・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 直チニ三讀會ヲ開クコトニ御異議ガゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/90
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091・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ三讀會ニ移リマス······本案御異議ガ無ク
バ原案ニ決シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/91
-
092・谷干城
○子爵谷干城君 チヨット私ハ一言デ宜シイ、御許シヲ願ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/92
-
093・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 何ノ事デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/93
-
094・谷干城
○子爵谷干城君 本員ヨリ鑛毒事件ニ就テ質問ガ出シテゴザイマスガ、最早
明日ギリノコトデゴザイマス、一向何等ノ御答モ承ラヌヤウデ······平田農商
務大臣ガ御出席ニナッテ居ルヤウデアリマスガ、今日直接ニ御答ヲ願フノデハ
無イ、併ナガラ是ハ多年ニ亙ッタ苦情デアリマスガ、定メテ調査ノコトハ精
密ニ何カ出來テ居ルト思ヒマス、ドウゾ明日マデニ書付ナリ何ナリ御答ヲ願
ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/94
-
095・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 答辯ハ既ニ來テ居リマス、今日參リマシタ······耕
地整理法中改正法律案、衆議院提出発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/95
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096・正親町實正
○伯爵正親町實正君 是ハ修正モゴザリマセヌシ、簡短ナ案デゴザリマスカ
ラ讀會省略ヲ
〔「贊成」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/96
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097・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 讀會省略ノ動議ニハ段々賛成ガアッテ成立シタモノ
ト認メマス、是ハ別段ニ御異議ガ無クバ三分ノ二以上ト認メテ宜シウゴザイ
マスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/97
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098・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ讀會省略ニシマス·······本案御異議ガ無ク
バ原案ニ決シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/98
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099・天春文衞
○天春文衞君 私ハ此際日程ヲ變更セラレムコトヲ希望イタシマス、ソレハ
衆議院カラ迴ッテ居リマスル所ノ農工銀行法中改正法律案デゴザイマス、是ハ
唯今議場へ出マシタ所ノ勸業銀行法ト同性質ノモノデアリマスカラ是ガ矢張
リ改正ニナリマセヌト云フト片跛ノモノニナリマスカラ、mドウカ此際議事日
程ヲ變更サレムコトヲ希望イタシマス
〔「贊成」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/99
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100・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 天春君ノ動議ハ農工銀行法中改正法律案ヲ此際議
サウト云フコトデ贊成ガアリマス、御異議ガ無ケレバ其通リ致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/100
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101・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 農工銀行法中改正法律案、衆議院提出、第一讀會
農工銀行法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治三十六年六月二日衆議院副議長杉田定一
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
農工銀行法中左ノ通改正ス
第六條第三號中「市町村」ノ上ニ「郡」ヲ加フ
同條第四號ヲ左ノ如ク改ム
耕地整理法ニ依リ耕地整理ヲ施行スル場合ニ於テ參加土地所有者總員カ
連帶責任ヲ以テ借用ヲ申出タルトキ又ハ整理委員カ規約ノ定ムル所ニ依
リ借用ヲ申出タルトキハ無抵當ニテ本條第一號、第二號ノ貸付ヲ爲スコト
第二十條中「市町村」ノ上ニ「郡」ヲ加フ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/101
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102・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 次ニ委員ノ選定ニ移ル筈デアリマスガ、是ハ前ノ
勸業銀行法中改正法律案ト同一委員ニ付託スルト云フコトデ御異議ハゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/102
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103・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ其通リ致シマス、此際建議案ノ前ニ、事
後承諾ノ議案ガ出テ居リマスガ、多分御手許ニアラウト思ヒマス、其議案ニ
移リタイト思ヒマス、是ハ速ク議決スベキ必要ガアラウト思ヒマス、明治三
十四年度豫備金支出ノ件、明治三十四年度特別會計豫備金支出ノ件、明治三
十四年度〓國事件第二豫備金支出ノ件、是デゴザイマス、御異議ガ無クバ其
通リ致シマス
一明治三十四年度豫備金支出ノ件
一明治三十四年度特別會計豫備金支出ノ件
一明治三十四年度〓國事件第二豫備金支出ノ件
右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送
付候也
明治三十六年六月二日衆議院副議長杉田定一
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔政府委員阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/103
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104・阪谷芳郎
○政府委員(阪谷芳郞君) 唯今日程變更ニナリマシタノハ例年通リ提出イタ
シマス豫備金事後承諾ノコトデアリマス、誠ニ會期切迫ノ際デゴザイマスガ、
昨日衆議院デハ承諾ヲ與ヘラレマシタノデアリマス、本院デ決議ニナリマセ
ヌト云フト〓再ビ議案ヲ提出シナケレバナラヌコトニナリマス、成ルベク速
ニ承諾ヲ與ヘラルルヤウニ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/104
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105・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 此特別委員モ例ニ依ッテ議長ノ指名デ御異議ハゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/105
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106・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ唯〓ノ議案ニ對スル特別委員ノ氏名ヲ直
グ此際御報道ジマス
〔太田書記官長朗讀〕
明治三十四年度豫備金支出ノ件外二件特別委員
子爵長岡護美君子爵本莊壽巨君宮本小一君
男爵岡内重俊君柴原和君關義臣君
兒玉淳一郞君三木與吉郞君色部義太夫君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/106
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107・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 次ニ財政ニ關スル建議案、黑田侯爵外七名發議、
會議
財政ニ關スル建議案
右貴族院規則第六十四條ニ依リ提出候也
明治三十六年六月一日
提出者
侯爵黑田長成子爵三島彌太郞男爵本田親雄
男爵渡邊〓男爵松平正直男爵有地品之允
小松原英太郞田中源太郞
賛成者
伯爵壬生基修
外百十九名
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
財政ニ關スル建議
政府ハ曩ニ事業費ヲ公債ニ待ツノ國家經濟ニ影響スルコト少カラスシテ延
テ財政ノ基礎ヲ動スノ虞アルコトヲ認メ其ノ方針ヲ改メ一般歲入ヲ以テ其
ノ財源ニ充ツルノ計畫ヲ立テ之ヲ第十六議會ニ提出シ議會ハ其ノ政策ニ對
シ大ニ賛同ノ意ヲ表セリ然ルニ今回政府ハ增稅ニ關スル地租條例中改正法
律案ヲ撤回スルヤ歲入ニ缺陷ヲ生スルニ因リ之ニ充ツルニ再ヒ公債支辨ニ
據ルヲ以テ已ムヲ得サルモノト爲セリ然レトモ曩ニ定ムル所ノ財政計畫ハ
内、經濟ノ基礎ヲ固フシ外、國家ノ信用ヲ厚フスルモノニシテ今ヤ再ヒ公債
政策ニ復セントスルハ國家ノ爲メ最モ取ラサル所ナリ依テ政府ハ猶ホ銳意
行政財政ノ整理ヲ行ヒ又事業ニ在テハ其ノ緩急ヲ精査シ苟モ繰延ノ餘地ア
ルモノハ之ヲ繰延ヘ又ハ他ニ適當ノ財源ヲ撰擇シ萬已ムヲ得サルノ場合ヲ
除クノ外斷シテ公債ノ募集ヲ避ケ既定ノ財政方針ヲ持續セラレンコトヲ切
望ス依テ茲ニ之ヲ建議ス
〔侯爵黑田長成君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/107
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108・黒田長成
○侯爵黑田長成君 諸君、此建議案ハ本文ニモアリマスル通リ財政ノ大體ニ
關スル事柄デアリマシテ、最早多數ノ賛成ヲ得テ提出イタシテ居ルノデアリ
マスカラ、大體議場ノ大勢ハ今ヨリ推測ルコトガ出來ヤウト考ヘマス、且又
會期モ最早後ト一日ヲ餘スダケノコトデモアリマスカラ旁〓簡單ニ此主意ヲ
辯明イタサウト思ヒマス、近來政府ノ財政ノ經畫ハ往々動搖シマシテ其經畫
ガ或ハ豫定ノ通リニ進行シナイコトガアルヤウニ思ヒマス、ソレハ畢竟財源
ヲ公債ニ求メルカラサウ云フコトニナルト考ヘル、詰リ行政財政ノ紊亂スル
根本ハ專ラ公債政策ニ在ルト申シテモ宜シカラウト考ヘル、此事ハ本員等ノ
考デハアリマセス、上下一般能ク認メテ居ル所ト考ヘマス、ソレデ曩ニ十六
議會ノトキニモ政府ハ是マデノ公債政策ハ甚ダ宜シクナイト云フコトヲ感ジ
テ、ソレヨリ以後ハ一般ノ歲入ヲ以テ事業費ニ充テルコトニシテ將來ハ公債
政策ヲ取ラナイト云フコトヲ確ニ明言セラレ、且又ソレ〓〓實行ニ著手セラ
レタト考ヘルノデアリマス、其際我〓ハ固ヨリ其政府ノ主義ヲ贊成シマシテ、
其政府ノ方針ガドウカ長ク續イテ愈〓其實ヲ擧ゲラルルヤウニナルコトヲ希
望シテ大ニ將來ニ望ミヲ屬シテ居ッタノデアリマス、然ル所ガ其後ノ政府ノ態
度ヲ見マスルノニ前議會ノ解散以來、彼ノ衆議院トノ間ニ妥協ヲ成立セシム
ルコトニノミ專ラ力ヲ注ガレタヤウデアリマス、其結果妥協ガ成立ハシマシ
タ、併ナガラ此妥協ヲ成立セシムルニハ幾多ノ時日ヲ費シ、又非常ナル面倒ヲ
以テ此妥協ガ漸ク出來ルコトハ出來マシタ、ソレデ政府モ同ジ政府デアリ、
又歲月モ僅ナ歲月デアッテ、マルデ手ヲ翻スヤウニ今マデ否認シタ所ノ公債政
策ニ立返ルト云フコトハ實ニ政府ノ信ズル所ノ厚クナイノニ驚カザルヲ得ナ
イノデアリマス、一ノ匹夫デスラモ一タビ申出シタコトハ容易ニ故ナクソレ
ヲ取消スコトハ無イノデ、若モサウ云フコトガアレバ忽チ信用ヲ落シテ仕舞
フ、況ヤ堂々タル我帝國ノ國務大臣タル者ノ所爲トシテハ斯ノ如キ輕擧ニ出
デラルルノハ如何デアラウカト思ヒマス、然ルニ今日ノ我國ノ情態ヲ省ミマ
スレバ實ニ容易ナラヌ時期デアッテ益〓東洋ノコトモ急ヲ告ゲルシ、從ッテ我
軍備ノ擴張ハ一日モ忽セニスルコトガ出來ナイト云フコトガ分ッタ以上ハ其
經畫ヲ成立タシムルコトニハ十分力ヲ用井ナケレバナルマイト思ヒマス、ソ
レ故ニ政府ハ此建議ニモアリマス通リ銳意奮發シテ先ヅ行政財政ノ整理ヲ行
ハレ、又鐵道其他ノ事業ニアッテモ事ノ緩急ヲ計ッテ緊縮ヲ加ヘラルルモノハ
十分緊縮ヲ加へ繰延ノ出來ルモノハ成ルベク繰延ベテソレデモ尙ホ財源ガ足
ラナイトキニハ他ニ適當ナ財源モ選擇セラレテサウシテ此公債政策ト云フモ
ノニハ據ラレナイヤウニ努メラルルコトガ今日政府ノ緊急ノ要務デアラウト
思フ、政府ニシテ其決心ガアリサヘスレバ必ズ此事ハ出來ナイコトトハ思ヒ
マセヌ又ソソダケノコトヲ政府カ爲シ遂ゲラルレバ今マデノ不都合モ打消ス
コトモ出來ヤウト思ヒマス、彼ノ天災地變其他非常ノ困難ナコトニ遭遇シナ
イ限リハドウトカ途ガ無イ筈ハナイ、若シサウ云フ非常ノ出來事ノ爲ニ歲入
ニ大イナル缺陷ヲ生ズレバ格別、左モナイ以上ハ政府ノ決心次第デ出來得ル
コトト堅ク信ジマス、若モ政府ガ此我〓ノ意見ヲ採用セズ荏苒日ヲ送ッテ彼ノ
公債政策ノ途ガ開ケタノヲ幸ニ、行政財政ノ整理モ行ハズ政費ノ節減モセズ
此公債募集ノ方法ニノミ依ッテ一日ノ安ヲ偷マルルヤウナコトガアルナラバ
我〓ハ次ノ議會ニ於テ大ニ決スル所ガアリマス、次ノ議會モ最早サウ間モア
リマセヌ、故ニ諸君ト共ニ政府今後ノ所爲ヲ刮目シテ見ヤウト考ヘル、我〓
ハ斯ノ如キ建議案ヲ此會期切迫ノ際ニ出スノモ決シテ徒ラニ出シタ譯デハナ
イ、大ニ此國家ノ前途多事ナル時ニ當ッテ其將來ヲ憂ヒマスル餘リ默スルニ
忍ビズシテ斯ノ如キ建議ヲ提出シタノデアリマス、政府ハ宜シク此我〓多數
ノ意思ヲ諒セラレテ十分奮發勉勵シテ前過ヲ償ハレムコトヲ切ニ望ミマス
〔子爵曾我祐準君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/108
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109・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 諸君、本員ハ此唯今議題ニ上ッテ居ル所ノ財政ニ關スル
建議案ニ付テ意見ヲ陳述シタイノデアリマス、此建議ノ大體ト申シマスモノ
ハ公債政略ハ宜シクナイ、行政財政ヲ整理セヨ、事業ノ繰延バシ得ラルルモノ
ハ繰延バシテ適當ナ財源ヲ得テ成ルベク公債募集ハ避ケヨ、既ニ定ッタル財政
方針ハ維持セヨ、斯ウ云フ御議論デアリマシタ、是ハ總テ我〓モ贊成シマス、
皆善イコトデアリマス、又提出者ノ一人トシテ唯今黑田侯爵ハ尙ホ言葉ヲ添
ヘテ强ク此次ノ議會ニ於テ我〓ハ決心スル所モアラウ、又政府ハ薄志弱行、
素志ヲ翻サレタ傾ガアルト云フ意味ノ御演說モアリマシタ、是最モ我〓ノ贊
成スル所デアリマス、一ノ非難ノ打チ所モアリマセヌ、一ノ非難ノ打チ所モ
無イ議案ニ對シテ如何ナル理由ヲ持ッテ反對スルカ、私ハ此案ニ反對スル一人
デアリマス、一ノ非難ノ打チ所ノ無イ議案ニ向ッテ反對スルニハ多少ノ理由
ガ無クテハナラヌ、之ニ反對スル理由ヲ玆ニ陳述イタシマス、元來此建議ナ
ドト云フモノハ諸君モ御經驗ガアリマセウガ、之ヲ實地ニ經驗シタノニ餘リ
效能ガ無イモノデアル、所謂咽喉元通レバ熱サヲ忘ルルト云フヤウナ理窟デ、
成ルホド建議シタ當時ハ利キ目ガアルカノ如ク思ハレルケレドモ、存外利キ
目ノ無イモノデアル、併シ黑田侯爵ハ殊更ニ言葉ヲ加ヘテ次ノ議會ニ於テ大
ニ決スル所ガアルト云フ御議論デアッテ愈〓此意ガ深クナリマシタカラ多少ノ
利キ目モアラウト思ヒマス、サリナガラ此主意、卽チコヽニ列ネテアル所ノ御
主意ハ政府ガ悟ッテ居ラナイモノデハアルマイト本員ハ思フノデアリマス、
政府ハ議會ニ於テ幾タビカ此事ハ申シテ居リマス、又現ニ此事ヲ實地ニヤッタ
コトモアル、卽チ公債政略ノ如キハ一時止メテ一般歲入ヨリ取ルトセラレタ
如キ之ヲ實際ニ試ミタノデアル、其他行政整理財政整理ノ如キハ殆ド近年ノ
熟語ニナッテ居ル、如何ナル政府デモ斯ノ如ク申シテ居ル、況ヤ現內閣ハ實地
ニ多少試ミテモ居ラレル、ソレデ之ヲ建議シマスモ決シテ惡クハアリマセヌ
ケレドモ、政府ハ悟ッテ悟リ切ッテ居ルコトト思ヒマス、唯此約ヲ違ヘヌヤウニ
スルヤ否ヤト云フ一點ダケハ利キ目ガアルカ知レヌケレドモ、行政整理ニセ
ヨ事業ノ繰延ニセヨ他ノ適當ノ財源ヲ求ムルコトニセヨ、成ルベク公債ノ募
集ヲ避ケヨト云フコトニセヨ斯ウ云フコトハ政府ハ度〓言表ハシテ居ル、實
際ニモ幾ラカヤッテ居ル、唯時〓變ルノガ困ル、ソレデ唯斯ウ云フコトヲヤッ
タ所デ釋迦ニ說法デハナイカ、孔子サンニ論語ノ講釋ヲ聽カセテヤルヤウナ
モノデハナイカ、政府ノ氣付カヌコトハ無イト思ヒマス、ソレデ實ハ建議スル
價値ガ無イノデハナイカト思ヒマス、事柄ハ良イケレドモ政府モ度〓繰返シ
テ申シテ居ルコトデアルカラ別段建議スル程ノ必要ハ無イデハナカラウカト
思フ、併シ黑田侯爵ノ御演說中ニモ必ズ之ヲ持續セヨ次ノ議會ニ於テハ大ニ
決スル所ガアルト云フヤウナ强イ御言葉ガアリマシタカラ、此文案ニハサウ
云フコトハ見エマセヌケレドモ其言葉ガアッタ爲ニ多少ノ利キ目ハアラウト
認メマス、サリナガラ是モ矢張リ賛成スル程ノ利キ目ハアルマイト思ヒマス、
近年ハ御承知ノ通リ貴族院ノ團體ニ於キマシテモ交涉ノ手段ト云フモノガ段
段進步シマシテ大〓ノ議案ニ就キマシテハ御申合セノ上、步調ヲ揃ヘテ居リ
マシタニモ拘ラズ我〓ガ此案ニ對シテ反對ヲ試ミマスノハ多少理由ガアリマ
ス、更ニ多少ノ理由ト申シマスレバ卽チ政府ノ悟ッテ居リ、知ッテ知ッテ知リ拔
イテ居ルコトヲ建議スルヨリハ政府ノ注意ノ少ナイ所、或ハ政府ガ忘レテ居
リハセヌカト思フ所ヲ建議シタラバ如何デアラウ、是ガ私ドモガ玆ニ申サウ
ト思フ所デアリマス、政府ノ注意ノ薄キ所或ハ怠ッテハ居ラヌカ或ハ氣附カヌ
デハ居ラヌカト思フ所ガ澤山ニアリマスガ、本員等ガ先ヅ考ヘテ見マスルト
二點バカリ重モナルモノガアラウト思ヒマス、唯今ノ內閣ハ一個人カラ申シ
マスト近年ノ各內閣ノ中デモ最モ私ドモ友誼上厚イ人バカリ多イノデアリマ
ス、ソレハ數十年來ノ友人モアリマス、同ジ所ニ職ヲ奉ジタ人モアリマス、ソ
レ故ニ折角建議スルノナラバ、モウ少シ此內閣ヲシテ過ヲ少カラシムルト云
フ所ノ建議ヲシタイト思フノデアリマス、斯ノ如クナレバ政府モ大ニ悟ル所
モアリ或ハ大ニ注意サレル所ガアリハシナイカト斯ウ思フノデアリマス、何
カ現内閣ニ於テ不注意デハナイカ或ハ餘リ念ヲ置カレヌデハナイカト云フコ
トヲ考ヘマスルト二ツバカリアリマス、其點ハ何デアル、責任ヲ重ンズルト
云フコトニ就テハ現内閣ハ餘リ重キヲ置カレヌヤウニ思ヒマス、ソレカラ又
德義ヲ重ンズルコトニ付テモ現内閣ハ餘リ重キヲ置カレヌカノヤウニ思ヒマ
ス、此二點ヲ政府ニ勸〓シタナラバ政府ニ於テハ或ハ大臣ハ大ニ喜バレテ以
後御愼ミニナラウカト思フノデアリマス、先ヅ責任ノ重ンズベキヨリ一ツ論
ヲ起シマセウ、前議會ニ於テ衆議院ノ解散ヲ賭シテソレガ成功セザルニモ拘
ラズ政府ハ自ラ決スルコト能ハヌデアッタ、今議會ニ於テハ初ヨリ通過ノ見込
ノ無イト云フ重大ナル地租案ヲ提出シ又容易ニ之ヲ撤回シ、又二年前ニ自ラ
申出シタ所ノ財政ノ大方針ナリト自ラ立テタ所ノ經畫ヲ又容易ニ自ラ破リ再
ビ公債政策ニ復スルガ如キハ責任ヲ重ンズル者ノ所行デアルヤ否ヤト云フコ
トハ疑ハザルヲ得ヌノデアリマス、ヨシヤ交讓妥協ノ結果トハ申シナガラ己
レノ本領マデモ讓ヲテ自ラ非トシ自ラ不可トスル所ノ政策ヲ執ッテ政務ニ當ラ
ナケレバナラヌト云フハ責任ヲ重ンズル者ノスルコトデアリマセウカ、我輩
之ヲ疑ハザルヲ得ヌノデアリマス、諸君ガ折角御建議ヲナサルノナラバ內閣
諸公ノ或ハ注意ノ薄イト信ゼラルル所卽チ吾〓ノ信ズル所、此建議ハ重大ナ
リト信ズル所ヲ出シテハ如何ダラウト信ズルノデアリマス、又德義ヲ貴バザ
ル點ニ於テモ政府ノ注意ヲ喚起スル必要ガアルト認メマス、今之ヲ說明シマ
スノニハ古キ昔ノ例ヲ引クヤラ又遠キ外國ノ例ヲ引クニモ及バヌ、最モ近キ
明治政府ニアッタル一例ヲ擧ゲテ諸君ノ前ニ御話ヲ致シタウゴザイマス、ソ
レハ何事デアル、其一例トハ何事デアル、明治ノ功臣タル一人大村永敏、兵部
大輔ト申ス人ガアリマシタ、此御方ニ就テノ事實談デアリマス、此事實ハ議
員中ニモ壬生伯爵、坊城伯爵、由利子爵、*長岡子爵、船越男爵、小澤男爵、
E
原田男爵、西村亮吉君、藤村男爵ノ如キハ御承知デゴザイマセウ、其他ニモ
澤山アルデアラウト存ジマスノデアリマス、内閣ノ中ニハ總理大臣モ勿論御
承知、其他ニモ御承知ノ方モアラウト信ズルノデアリマス、維新ノ初、明治
二年ノ頃、大村兵部大輔ト云フ人ガ京都木屋町ニ於テ當時ノ所謂浮浪ノ手ニ
罹ッテ暗殺ニ遭ヒマシタコトガアリマス、私ハ其時分職ヲ兵部ニ奉ジテ居リ
マシタ、當時兵部卿ノ親王殿下ノ令旨ヲ奉ジテ御使ニ參リマシタ、慰問使ト
シテ御使ニ參リマシタガ、悲イカナ同大輔ハ此傷ノ爲ニ十數日ニシテ薨去サ
レマシタ、所ガ兵部大輔ガ病床ニアル際ニ一書ヲ奉呈サレマシタ、此時ニ當
テノ天皇ハ赫怒遊バサレマシタ、臣僚殊ニ吾ゝノ如キ當時職ヲ兵部ニ奉ジテ
居ル奏任以上ガ連署シテ此罪人ヲ速ニ捕縛アラムコトヲ政府ニ迫ッタコトモ
アリマス、其際公ハ病中ヨリ何事ヲ奏上サレマシタカ、何ト文案ヲ認メラレ
マシタカ、諸君、公ガ此時病中ヨリ呈セラレタ書ハ此暗殺ニ對シテ「是レ臣
ガ不德ノ致ス所、謹ンデ本官ヲ辭シ奉ル」如何デアリマス、兇徒ノ手ニ罹ッテ
大村兵部大輔ハ殺サレマシタ、其未ダ死セザル前ニ「是レ臣ガ不德ノ致ス所、
謹ンデ本官ヲ辭シ奉ル」此事變ヲ以テ大村兵部大輔ハ己レノ不德ト致サレマ
シタ、文章ニ於テハ多少違ヒガアルカ知レマセヌ、或ハ「進退ヲ伺ヒ奉ル」デ
アッタカモ知レマセヌガ、此骨子ハ全ク「臣ガ不德」ト云フ文字ガ確ニ這入ッテ
居リマシタ、他ノ御方モ保證モナサルデアリマセウ、私ハ此時言フベカラザ
ル感ニ打タレマシタ、今日心肝ニ銘ジテ居リマス、凡ソ一國ノ重臣トナッテ
陛下ノ信任ヲ辱ウシ大政ニ當ル者ノ心得ト云フモノハ斯ノ如クナラネバナ
ルマイト思ヒマス、假令己ノ失策ニアラズ己ノシクヂリニアラズト雖モ彼ノ
亂暴狼藉ナル刺客ノ爲ニ暗殺ニ遭フガ如キ非常ナル不幸ニ遭遇シタルトキト
雖モ尙且ツ曰ク「是レ臣ガ不德ノ致ス所、謹ンデ本官ヲ辭シ奉ル」如何デアリ
マス、諸君、斯ノ如キハ實ニ德義ノ重ナルモノト思ヒマス、至仁ナル陛下ハ
何ニ依ッテ大村君ノ罪ヲ御問ニナリマセウカ、分リ切ッタコトデアリマス、併
ナガラ「是レ臣ノ不德ノ致ス所」斯ノ如キハ忠臣タル者ノ最モ爲スベキ所デア
ラウト思ヒマス、此德義ノ妙味ト云フモノハ法律家ニハ分リマセヌ、法律外ノ
モノデアリマス、法律以上ノモノデアリマス、是實ニ三十餘年前ノ事實デアリ
マス、今ヤ如何、三十年後ノ今日ハ如何、内閣諸公ニシテ果シテ此想像ヲ爲シ
···此思想ヲ有シ此德義ヲ守ル風ガアルデアリマセウカ、若シ夫レ法律ガド
ウトカ規則ガ斯ウトカ云フコトハ是實ニ小理窟ヲ竝ベテ分疏スル如キ國家
ノ重任ニ膺ル者ノ卽チ大臣ノ口ヨリ出ヅベキコトデハナイト私ハ信ズルノデ
アリマス、德義上ノ問題ハ實ニ法律外、德義ノ妙味ハ法律以上ノモノデアリマ
ス、若シ此美風ガ今日ニ存在シテ居ルト言ヘバソレデ宜シイ、折角建議ヲスル
ナラバ若シ之ガ薄ロイデ居ルト云フヤウナコトデアッタナラバ折角ノ建議デ
アルカラ德義ヲ重ンゼヨト云フコトヲ建議ナスッタラ宜カラウト思ヒマス、尙
ホ附加ヘテ申シマスガ、輿論ノ制裁ト云フモノハ隨分强イモノト私ハ信ズル
ノデアリマス、此一例トシテ決シテ遠イ昔ヲ引キマセヌ、諸君ガ三年前卽チ貴
族院ノ諸君ガ三年前ニ實行サレタル一事實ガアリマス、諸君ノ多數ガ三年前
ニ實行サレタル事實トハ何デアル、最モ近ク伊藤内閣ノ創立組織セラルルヤ
當時星亨ト云フ人ガ遞信大臣ニナッテ閣員ノ一員ニ備ハリマシタ、貴族院議員
ノ多數ハ百有餘名ノ連名ヲ以テ伊藤總理大臣ニ忠告書ヲ送リマシタ、其時ノ
御方ハ此中ノ過半數デアルト思ヒマス、其忠告ノ第一ニ何ト書キマシタ、星亨
君ガ閣員タルコトヲ非難シタ、何ト書キマシタ、其時ノ主動者ハ〓浦男爵デア
リマス、私モ主動者デアリマシタ、私ヲ主動者ノ一人ト御認メ下サレバ辱ナ
イ、或ハ陣笠ノ一人カモ知レマセヌ、併シ〓浦君ハ確ニ主動者ノ一人ト認メマ
ス、曾禰君モ連名ノ一人デアリマセウ、平田君ハ存ジマセヌ、其星亨ヲ排斥ス
ルノ理由ハ何デアル星亨ノ如キ人物ヲ內閣ニ置クハ宜シクナイト云フ理由ハ
何デアル、陛下ノ内閣ニ斯ノ如キ人ヲ置クノハ惡ルイトハ何デアル、唯〓
一ノ漠然タル「天下自ラ公論アラン」斯ウ云フコトデアル、若モ之ヲ罪案ト言
ヒ得ベクンバ諸君ガ星亨君ニ渡サレタル所ノ罪案ハ「天下自ラ公論アラン」斯
ウ云フコトデアリマス、私ハ其御使ノ一人トシテ六七名ノ中ノ一人トシテソ
レニ參リマシタ、諸君ハ必ズ御記憶ニナッテ居ルデアリマセウ、黑田侯爵モ御
一〓デアッタト思ヒマス、岡部子爵モ御一〓ニ參リマシタト心得テ居リマス、
星亨君ハ間モナク內閣ヲ退キマシタ、輿論ノ制裁ト云フモノハ隨分有力ナモ
ノデアリマス、是モ亦德義ノ問題デアル、決シテ法律ノ問題デハアリマセヌ、
元來貴族院ノ執ル所ノ態度ト云フモノハ如何ニスレバ宜イカ、是ハ私ノ理想
カハ存ジマセヌガ、私ノ信ズル所ヲ御話イタシマス、何レノ內閣ニ對シテモ、
內閣大臣ハ誰デアラウトモ、總理大臣ハ何人デアラウトモ、貴族院ノ態度ト
シテ是ハ公明正大、不偏不黨、是ヲ是トシ非ヲ非トシ、天下ノ望ニ背カズ公衆
ニ威信ヲ墜サヾルヤウニ最モ心ヲ置カネバナラヌト思ヒマス若夫レ親ム所
ニ私シ其好ム所ニ僻シテ、昨是今非、昨日ノ非トシタルコトヲ今日ハ是トシ、
公平ノ判斷ヲ誤リ公平ノ所置ヲ缺クコトアラバ貴族院ハ忽チ天下ノ信用ヲ墜
シマス、公衆ニ厭忌サレマス、終ニハ厄介者ト見ラレマス.終ニハ萬民ノ怨
府トナルカモ知レマセヌ、果シテ斯ノ如キニ至ラシメバ是ハ誰ノ罪デアリマ
セウ、御互貴族院議員ノ罪デアリマス、若シ斯ノ如キ怨府トナルト云フコトニ
至ラバ吾〓ノ罪デアリマス、如何ナル内閣ニ向ッテモ是ハ是、非ハ非、幾ラ心安
キ大臣デモ惡イコトハ惡イコト善イコトハ善イ、公明正大、心安イト心安ク
ナイトハ別ノ事デアル、吾〓ハ心安イ內閣ニ對シテハ所謂親厚ニ交モスル、併
シ天下ノ政治ノ上ニ就テハ如何ニ心安イ御方デモ惡イコトハ惡イ、善イコト
ハ善イト判斷シナケレバナラヌト思ヒマス、諸君、靜ニ御考ヘナスッタナラバ
今本員ノ申述ベタル中ニハ多少ノ眞理ノ存スルト云フコトヲ御發明ニナルデ
アラウト私ハ信ズルノデアリマス、私ノ精神ハ貴族院ハ貴族院ノ體面ヲ重ン
ジ貴族院ノ信用ヲ失ハズ貴族院ノ責任ヲ完ウスルト云フコトヲ以テ最モ希望
ノ重要ナルモノトシテ置キマス、ソレ故ニ是ハ是トシ非ハ非トシ公明正大ノ
心ヲ以テ内閣ニモ衆議院ニモ天下ニモ對シテ立タネバナラヌ、心安イカラ惡
イコトガ善クナル、心安クナイカラ善イコトモ惡クナルト云フヤウナコトハ
決シテアッテハナラヌ、斯ウ云フコトガ度々若モアッタナラバ貴族院ハ其名譽
ヲ損ジマスルゾト云フコトヲ諸君ハ萬御承知デアラウガ憂慮ノ餘リニ一言附
加ヘテ置キマス、是ダケガ私ノ諸君ノ御靜聽ヲ汚シマシタ趣意デアリマス
〔子爵板倉勝達君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/109
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110・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 板倉子爵ハ何デスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/110
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111・板倉勝達
○子爵板倉勝達君 曾我子爵ニ質問イタシマス、本員ハ曾我子爵ニ伺ヒタイ
コトガアル、唯今ノ建議案ニ就テ意見ガアルト云フガ、其意見タルヤ如何ナコ
トデアルカト云フコトヲ伺ヒタイ、先ヅ此建議案ノ意味ニ付テハ完全無缺デ
少シモ御非難ハ無イ誠ニ是ハ贊成ハスル、贊成ハスルナレドモ反對ヲスル、其
反對ト云フノハ所謂孔子ニ論語ノ講釋、釋迦ニ說法ノヤウナモノデ、誠ニ無
用ナコトデアル、ソレダカラ反對スル、斯ウ云フ御議論デアル、私モソレニハ
御同感:発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/111
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112・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 サウデハナイ、一箇所ダケ御聽取リニナッテ他ノ箇條ヲ
御聽取リニナラナイヤウデスカラ·····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/112
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113・板倉勝達
○子爵板倉勝逹君 ソコデ餘計ノコトカハ知レマセヌガ申上ゲマス、曾我子
爵ノ御意見ハ成ルホド御尤ト思フ、是ハ內閣ニ於テハ釋迦ニ說法、孔子ニ論語
ノ講釋ニ相違ナイト思フ、曾我子爵ニ於テ先頃豫算委員會ノ時分ニ德義上ニ
於テ處決ナサルコトガアラウト言ッタ所ガ、總理大臣ノ御答ハドウカト云ヘ
バ親任ノモノガアルカラ衆議院ノ決議ニ依ツテ進退ヲスル內閣デナイト云フ
ヤウナ、甚ダ德義モ何モ無イ內閣デアル、併ナガラ今曾我子爵ガ之ヲ反對ト云
フ所ハ、良イコトダガ、ドウモ是ハ內閣ニ一向效能ガ無イモノダラウカラ止シ
タガ宜カラウト云フヤウナ御議論ノヤウニ思ヒマスガ、何カ御胸中ニ立派ナ
ル建議案トカ彈効上奏案トカ云フヤウナモノヲ御蓄ヘニナッテ之ヲ無用トナ
サル譯デアルカ、先ヅサウ云フモノガ無ケレバ、私ノ考デハ曾我子爵ニサウ云
フ御蓄ヘガ無イモノトスレバ釋迦ニ說法、孔子ニ論語ノ講釋ト仰ツシヤイマ
スガ、建議ナルモノガアル方ガ幾分カ今日ハ內閣ニ於テモ取ル所ガアラウ、併
シ伺フノハ此他ニ好イ御考ガアッテ建議案トカ或ハ上奏案トカ云フコトヲ曾
我子爵ニハ御蓄へニナッテ當議會切迫ノ際デモ御出シニナル御考デアリマス
カ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/113
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114・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 分リマシタ、大體ニ於テハ惡イトハ思ハヌノニ贊成ヲシ
ナイノハドウ云フ譯カ、オ前ハ他ニ上奏案ナリ決議案ナリ出ス考ガアルカト
云フ、斯ウ云フ譯デスナ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/114
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115・板倉勝達
○子爵板倉勝達君 左樣デ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/115
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116・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 諸君ノ御多數ガ御賛成ニナレバ何カ出サヌニモ限リマス
マイガ、旣ニ斯ノ如キ多數ノモノガ出來テ居リマスカラ、私ノ主意ハ折角建議
ヲナサルナラバ今少シ利キ目ノアル建議ヲナスッタラ如何デアルカト云フコ
トヲ申シタ、利キ目ノアル建議ヲナスッタラ如何デアルカト云フコトヲ申シ
タニ付テ諸君ガソレヲ御容レニナッテ御賛成下サルナラ、今ヨリ筆ヲ起スカ
モ知レマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/116
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117・板倉勝達
○子爵板倉勝達君 斯ウ云フモノガアルト云フ草稿デモ何デモアリマスレ
バ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/117
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118・曾我祐準
○子爵曾我祐準君 草稿ハアリマセヌ、私ニハアリマセヌ私ドモノ同志ニハ
アルカモ知レマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/118
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119・伊達宗敦
○男爵伊達宗敦君 私ハ曾我サンニ質問デハアリマセヌ、總理大臣ニ質問シ
マス、此黑田侯爵ノ述べラレタ建議案ニ付テハ別ニ答辯スル必要モ無イト考
ヘマスガ、唯今曾我子爵ノ述ベラレタ中ニハ少シ穩カデナイト思フ言語ガア
ル、ソレハ現内閣ノ責任ヲ重ンジナイ、德義ヲ重ンジナイト云フコトヲ述べラ
レタノデアル、總理大臣ハ之ニ對シテ一言ノ御答モナサラヌ、語ヲ換ヘテ言ヘ
バ曾我君ノ責任ヲ重ンジナイ德義ヲ重ンジナイト云フコトハ自ラ認メルコト
デアリマスカ、其點ヲ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/119
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120・松平正直
○男爵松平正直君 本員モ此建議案ノ贊成者ノ一人、提出者ノ一人デアリマ
スガ、唯今曾我君ノ反對ノ御說ガゴザイマシタカラ、簡單ニ其反對ナサレタ主
意ニ對シテ意志ヲ述べテ置キマス、曾我君ハ反對ナサルノニ縷々唯今御話ガ
アリマシタガ、或ハ大村ノ歷史ガアル、或ハ德義ノ御話ガアル、種々ノ話ハア
リマスケレドモ、此建議ニ對シテ反對ト云フ要領ト云フモノハ僅ニ一二點シ
カナイ、其點ハ何ダト云ヘバ大體ハ同意デアルガ效ガ無イデアラウ、今一ツハ
建議シテモ、黑田侯爵ノ「決スル所ガアル」ト云フ御言葉ガアッタカラ利キ目
ガアラウガ、先例トシテ一向利イタコトガ無イ、所ガ我〓ドモガ之ヲ建議スル
主意ハ、政府ガ承知シテモ、百モ承知、孔子ニ論語ノ講釋ヲスルハ無益デアル、
ナイト云フコトハ斯ノ如キ問題ニハ這入ラヌ、貴族院ノ院議トシテ、貴族院ノ
信ズル所ハ斯ノ如キデアル、貴族院ノ意見ハ一貫シテ斯ノ如キデアル、ト云フ
コトヲ當局ノ政府ニ向ッテ十分ニ此事ノ建議ヲシタイト云フ精神ニ他ナラナ
イ、ソレヲ申述ベル爲ノ建議デアリマスカラ、滿場ノ諸君、建議ノ精神ノアル
所ハ豫メ之ガ效ガ有ルカ無イカト云フコトヲ期シテ掛ラズ、是デ內閣大臣ガ
處決ナサル筈デアルトカナイトカ、云フヤウナ考カラ之ヲ建議スル譯デナイ、
實ハ國家ノ上カラ考ヘレバ十六議會ニ經濟上ニ於テ、貴族院ハ政府ノ經畫ニ
贊成シテ院議ヲ通過シタ以上ハ是ガ貴族院デ信ジテ居ル要領、信ジテ居ル點
デアル、ソレデ再ビ前ノ經濟ノ方針ニ之ヲ取直シテ行ク方略ヲ取ッテ行クコト
ヲ希望スルト云フニ他ナラナイ、ソレガ行ハレルコトヲ期シテ居ルノデアリ
マス、ソレダケノ建議デアリマスカラ、唯今大變長イ反對ノ御演說ガアッタガ、
實ハ曾我君モ要領ダケニハ御不同意ハ無イト認メテ居ルノデアリマスカラ、
ドウゾ滿場ノ諸君、此建議案ニハ皆御贊成アラムコトヲ希望シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/120
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121・谷干城
○子爵谷干城君 私ハ少シ申スコトガ長ウゴザイマスガ、最早食事ノ時デゴ
ザイマスガ、御休憩ナサレテ、ソレカラニ願ヒタウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/121
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122・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 長ケレバ休憩シマス、ソレデハ午後ニナサイマス
カ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/122
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123・谷干城
○子爵谷干城君 ドウゾサウ願ヒマス、最早十二時ハ過ギテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/123
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124・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ休憩イタシマス
午後零時八分休憩
午後一時十分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/124
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125・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 谷子爵ヨリ提出ニナリマシタ鑛毒ニ關スル質問ニ
對シテ内閣ヨリ答辯書ガ參リマシタ、併シソレニ附帶シテ足尾銅山ニ關スル
調査報告ト云フモノガアリマスガ、ソレハ浩瀚ナモノデアリマスカラ其朗讀
ハ省略シマシテ、單ニ答辯書ノミヲ朗讀イタサセマス
〔小原書記官朗讀〕
貴族院議員子爵谷干城君提出鑛毒ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書及御回付
候也
明治三十六年六月三日
内閣總理大臣伯爵桂太郞
貴族院議長公爵近衞篤麿殿
〔別紙〕
貴族院議員子爵谷干城君提出鑛毒ニ關スル質問ニ對スル答辯書
質問事項中調査シ得ルモノハ別册鑛毒調査委員會報告書ニ詳記セルヲ以テ
就テ知悉セラレムコトヲ望ム該報告書中事ノ直ニ實行シ得ヘキモノハ之カ
實行ニ著手スヘシト雖善後處分中巨額ノ支出ヲ要スルモノニ付テハ更ニ實
查ヲ遂ケ詳細ノ費額ヲ查定シ之カ財源ヲ調査シ財政ノ許ス限リニ於テ之ヲ
實行セムコトヲ期ス
右及答辯候也
明治三十六年六月三日
內閣總理大臣伯爵桂太郞
内務大臣男爵内海忠勝
大藏大臣男爵曾禰荒助
農商務大臣男爵平田東助
〔左ノ調査報告書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス〕
足尾銅山ニ關スル調査報告書
目次
第一章被害ノ狀況
第一節足尾附近森林ノ狀況
第煙害裸地
第二煙害激甚地
第三煙害地
第二節渡良瀨川沿岸農作地ノ狀況
第收穫ノ減少
第二土壤ノ變質
第三被害ノ程度及區域
第三節被害地方衞生ノ狀況
第四節被害地方蠶業ノ狀況
第二章被害ノ原因
第一節足尾附近森林被害ノ原因
第鑛山作業
第二森林作業
第三森林取締
第二節渡良瀨川沿岸農作地被害ノ原因
第收穫減少ノ原因
一銅分
二冠水
第二土壤變質ノ原因
-河水ノ氾濫
二河水ノ引用
第三節被害地方衞生不良ノ原因
第四節被害地方蠶業ニ對スル被害ノ原因
第蠶業ノ狀況
第二銅分ト蠶兒トノ關係
第三章鑛毒ノ根源
第一節渡良瀨河床ノ土砂
第二節鑛山現業ニ基ク排出物
第三節渡良瀨川本支流ノ河水
第渡良瀨川上流及支流ノ河水
第二渡良瀨川下流及支流ノ河水
第三出水時ニ於ケル渡良瀨川本支流ノ河水
第四節渡良瀨川流域ノ岩石
第四章鑛毒被害救治ノ方法
第一節足尾銅山ニ於ケル除害
第二節林野ノ經營
第足尾地方林野ノ經營
一造林事業
二野火豫防
三砂防工事
四保安林編入
第二渡良瀨川流域林野ノ經營
第三節治水事業
第四節灌漑水ノ除害
第水量制限
第二取入口改良
第三沈澱設備
第五節被害地農事ノ改良
第六節渡良瀨川沿岸被害地地價修正
明治三十五年三月十七日本會ノ組織セラレシ以來委員ノ分擔ヲ定メ各擔任
事項ニ付諸般ノ調査ヲ遂ケ會議ヲ開クコト十數回茲ニ足尾銅山ニ關スル調
査ヲ終了シ本會ノ決議ニ基キ本報告書ヲ提出ス
鑛毒調査委員會ノ目的ハ官制ノ定ムル所ニ從ヒ鑛毒ニ關スル實況及處分ノ
方法ヲ調査スルニ在リ抑〓鑛毒ノ何タルヤハ頗ル明確ヲ闕クト雖蓋シ足尾
附近ニ於テ森林荒廢シ渡良瀨川沿岸ニ於テ土地ノ生產力減殺セラレ住民ノ
衞生狀況不良ナル等其ノ原因足尾銅山ノ鑛業ヨリ排出スル有害物ニ存スト
爲シ之ヲ稱シテ鑛毒ト謂フモノノ如シ依テ案スルニ實況ノ調査トシテハ第
一足尾附近森林及渡良瀨川沿岸ニ於テハ果シテ前記ノ狀況存在スルヤ否
ヤ第二、存在ストセハ其ノ原因如何第三、此等原因ハ足尾銅山ノ鑛業ニ關ス
ルモノアリヤ否ヤヲ決定シ又處分方法ノ調査トシテハ被害ヲ救治スル方法
ヲ決定スルヲ要スルヲ以テ此等ノ點ニ關シ以下章ヲ分テ記述セム
第一章被害ノ狀況
第一節足尾附近森林ノ狀況
足尾地方森林被害ノ狀況ハ所ニ依リ程度同シカラスト雖煙突附近ノ如キハ
草木悉ク枯死シ地表全ク裸出シ地肉漸ク剝脫シ其ノ荒廢ヲ極ムルコト苟モ
該地方ニ足ヲ入レタル者ノ普ク認ムル所ナリ、今該地方植物生育ノ狀態ニ
付被害ノ箇所ヲ指摘シ其ノ一端ヲ示セハ日光地方ヨリ細尾峠ヲ越へ足尾ノ
部內ニ入リ柏平ノ苗圃附近ニ至レハ土地ノ禿ケ居ルモノ所々ニ現ハレ特ニ
煙源ニ向ヘル方面ニ於テ植物ノ生育〓シテ不良ナルヲ認ム而シテ足尾本宿
附近ハ其ノ生育稍〓良好ナリト雖字赤澤向ニ至リ落葉松ノ葉其ノ尖端ヨリ
黃褐色ヲ呈セルモノ多シ久藏川ニ沿フテ北進セル中禪寺道及松木川ニ沿フ
テ新設セル林道ノ兩側ニ於テハ植物ノ發育他ノ各方面ニ比シ著シク不良ナ
リ久藏ヨリ中禪寺方面ニ越ユル阪路ノ中間ニ於テ左右ニ檜ノ造林地アリ其
結果甚タ不良ナリ特ニ右側ノモノハ枯死最モ多シ仁田元川ニ沿フテ進メハ
其ノ松木川ト合スル附近ハ荒廢頗大ナリ此ノ被害ノ原因ニ付テハ後ニ述フ
ル所アリト雖今煙害ヲ基礎トシテ被害區域ヲ分類スレハ左ノ如シ
第煙害裸地
此ノ區域ハ現ニ殆ト植物ヲ闕キ將來植物ヲ植栽スル見込ナク專砂防護岸ノ
策ヲ講スヘキモノニシテ煙突ヨリ松木方面へ約十町、間藤方面へ約七町、京
子內澤方面へ約五町半其ノ面積約八十五町步トス
第二煙害激甚地
此ノ區域ハ現在多少ノ草及灌木ノ或種類ヲ有スルモ地肉多クハ剝脫シテ岩
骨露出セルモノ多ク然ラサルモ其ノ地力甚シク衰弱シ普通ノ林業ヲ行フ能
ハス唯砂防工事ノ補助トシテ或種類ノ草木ヲ植栽シ若ハ先ツ砂防工事ノ效
果ニ依リ或樹種ヲ選ミテ造林スルコトヲ得ヘキ所ニシテ南ハ神子內川合流
點西側ノ裸山ニ始リ字向間藤及字銅山間ノ峯ヲ境トシ本山川ノ兩側ニ於テ
大ニ西ニ廣カリ備前館ノ頂上ヨリ北方仁田元川ノ岸ニ至リ少シク東ニ折レ
又北ニ進ミテ松木川ニ至リ林道ニ沿ヒ少シク西向シ更ニ東ニ走リ久藏川ニ
出テ字大畑字赤井澤字畑ノ澤ノ西部ヲ含ミ南向シテ前記ノ起點ニ合スルモ
ノトス其ノ面積約五百町步ナリ
小瀧ニ於ケル舊製鍊所附近一帶ノ區域ハ向後煙害ヲ被ルコトナシト雖其ノ
製鍊當時ノ煙害ニ因リテ地表全ク裸出セルヲ以テ之カ殖林ニハ常ニ先ツ砂
防工事ヲ施ササルヘカラス故ニ煙害激甚地ニ準スルヲ便トス其ノ面積約四
百七十町步ナリ
第三煙害地
此ノ區域ニ於テモ現時稍、荒廢ニ傾ケルモノ尠カラス然レトモ之レ主トシ
テ濫伐及野火ノ結果ニシテ煙害ノ程度ハ微弱ナルヲ以テ樹木ヲシテ枯死セ
シムルニ至ラス適當ノ樹種ヲ選ムトキハ善ク林業ヲ行ヒ得ル所ニシテ切幹
ノ後背ヨリ有越ヲ經テ澁川ト庚申山川トノ間ノ峯筋ヲ通リ備前館ニ至リ西
ニ折レ字水山及うるい坂ノ北境ヲ經テ北ニ折レテ字向山ノ西境ヲ經北進シ
仁田元川ニ出テ仁田元川松木川間ノ峯ヲ傳フテ西ニ進ミ拇たば澤ノ東部ヲ
經松木川ヲ橫キリ北進シ村界ニ至リ之ニ沿フテ東進シ久藏川ト神子內川ト
ノ分水嶺ヲ南下シ字笠松トにたのたわノ境ニ沿フテ神子內川ニ出テ其ノ東
岸ニ廣カリ南向シテ古峯ケ原道ノ粕尾ヘノ分岐點ニ至リ西向シテ前記ノ起
點ニ合スルモノトス其ノ面積約四千町歩ナリ
第二節渡良瀨川沿岸農作地ノ狀況
第收穫ノ減少
被害地ニ於ケル收穫減少ノ程度ヲ調査スルニハ實地ニ就キ各種ノ農作物ニ
關シ精査スルニアラサレハ正確ヲ期スル能ハスト雖之レ短日月ノ間ニ遂ク
ル能ハサル所ナルヲ以テ本會ニ於テハ一二主要ナル農作物ニ付其ノ收穫ヲ
檢定シ又從來調査セルモノニシテ信憑スルニ足ルモノヲ材料トシ以テ被害
ノ狀況ヲ考查セリ
麥
被害地中百五十餘箇所ニ就キ坪刈ヲ爲シ大小麥ノ收穫ヲ檢セシニ土質、品
種、培養其ノ他各種ノ狀況同シカラサルヲ以テ其ノ量ニ大差アリト雖一段
步大麥二石以上小麥一石五斗以上ノモノ甚稀ニシテ一石以下ノモノ尠カラ
ス其ノ平均大麥ニ在リテハ一石四斗乃至一石七斗小麥ニ在リテハ六斗乃至
一石二斗トス然ルニ地形土性略ホ同一ノ健全地ニ在リテハ大麥二石五斗小
麥一石七斗ナルヲ以テ其ノ收穫步合大麥ニ於テハ六割八步乃至五割六分小
麥ニ於テハ七割乃至三割五分ニ過キス
二桑樹
被害地方七十二箇所ニ於ケル坪刈ノ結果ニ依ルニ桑園ノ全刈桑量ハ上園ニ
於テハ三百八十八貫目餘中園ニ於テハ二百十一貫目餘下園ニ於テハ百一貫
目餘ニシテ比較ノ爲調查セル同地方ノ健全地ノモノハ上園七百八十七貫目
餘中園五百七十貫目餘下園三百二十三貫目餘ナルヲ以テ其ノ收穫步合上園
ニ於テハ四割九步中園ニ於テハ三割七分下園ニ於テハ三割一分ニ過キス
三米
米ニ付テモ亦實地ニ就キ其ノ收穫ヲ檢スルコトハ最モ希望セシ所ナリト雖
水害ノ爲適當ナル調査ヲ遂クル能ハサリシヲ以テ東京稅務管理局ノ資料ニ
付調査スルニ明治三十年ヨリ同三十四年ニ至ル五箇年間被害地ノ水田一段
步ノ平均收穫ハ最多量玄米一石七斗最少量七斗ニシテ附近健全地ニ在リテ
ハ一段步少クトモ二石ナルヲ以テ其ノ收穫步合八割五分乃至三割五分ニ過
キス
第二土壤ノ變質
數多試驗ノ成績ニ依ルニ被害地方士地固有ノ性質ハ〓シテ豐穣ノ地タルヘ
キヲ示ス殊ニ渡良瀨川ノ冲積土ニ於テ然リトス蓋冲積土ハ現時存在スル河
流ニ依リテ構成セラレタルモノナルカ故ニ堤防等ノ設アラスンハ常ニ洪水
ノ氾濫ヲ受クヘキハ當然ナリト雖退水スレハ土壤ヲ沃化シテ生產力ヲ增進
スルヲ常トス然ルニ被害地方ニ於テ反對ノ結果ヲ呈スルハ之レ河水中ニ一
般ノ河流ニ存セサル害物ヲ含有シ氾濫ノ際之ヲ殘留スルニ因ル試驗ノ成績
ニ依ルニ被害地土壤中ニハ比較的多量ノ銅分ヲ含有シ而カモ此ノ銅分ハ該
地方土地固有ノ成分ニ非スシテ主トシテ渡良瀨河水ノ送致スルモノタルコ
トヲ知ル現ニ堤外地、無堤地、用水ノ引入口ノ如キ直接ニ渡良瀨河水ヲ受ク
ル所ハ銅分ヲ含有スルコト多量ナル事實ニ徵スルモ明ナリ
第三被害ノ程度及區域
被害ノ原因ニ付テハ後ニ詳述スヘシト雖土壤中銅分ノ存在ハ疑モナク其ノ
主因ナルヲ以テ被害地全部ニ亘リ二千二百餘箇所ニ就キ土壤ノ一定量ヲ採
集シ以テ一千有餘ノ試料ヲ調製シ分析試驗ニ依リ之ヲ精查シ含有銅分(九號風乾
對スル酸化銅)ノ如何ニ依リ被害ノ程度及區域ヲ查定スルコト左ノ如シ
百分率ニ依ル
特類
土砂入、押堀、河成等全ク地形ヲ變更シタル土地ニシテ銅分亦多量ノ爲作物
ヲ栽培スルニ適セサルハ勿論將來復舊ノ望ナシ其ノ面積二百五十六町六段
五畝十七步
二第一類
銅分〇、一五以上ヲ含有スル土地ニシテ銅分過多ノ爲〓シテ作物ヲ栽培ス
ルニ適セス其ノ面積六百十五町六段五畝二十五步
甲銅分二〇以上
内面積三百四十二町六段六畝二十步
乙銅分五以上〇二〇以下
面積二百七十二町九段九畝五步
三第二類
銅分〇、一〇以上〇、一五以下ヲ含有スル土地ニシテ其ノ甲ニ屬スル土地ハ
〓シテ作物ノ栽培ニ適セサルモ其ノ乙ニ屬スル土地ハ改良法ヲ行ヘハ銅分
ニ抵抗力强キ作物ヲ栽培シ得ヘシ其ノ面積四百九十六町二十七步
甲銅分○二五以上〇、一五〇以下
內面積百四十五町三段六畝三步
乙銅分○○以上○一二五以下
面積三百五十町六段四畝二十四步
四第三類
銅分〇、〇六以上〇、一〇以下ヲ含有スル土地ニシテ改良法ヲ行ヘハ銅分ニ
抵抗力强キ作物ヲ栽培シ得ヘシ其ノ面積九百七十九町四段五畝六步
甲銅分〇八以上〇、-○以下
內面積三百町七段三畝九步
乙銅積分〇六以上〇〇八以下
面六百七十八町七段一畝二十七步
五第四類
銅分〇、〇二以上〇、〇六以下ヲ含有スル土地ニシテ改良法ヲ行ヘハ諸種ノ
作物ヲ栽培シ得ヘシ其ノ面積六千九百六十二町八段二畝十三步
甲銅分〇四以上〇、〇六以下
內面積千二百五十五町五段二十二步
乙面銅積分○〇二以上〇四以下
五千七百七町三段一畝二十一步
六第五類
銅分〇、〇二以下ヲ含有スル土地ニシテ其ノ甲ニ屬スル土地ハ改良法ヲ行
ヘハ各種ノ作物ヲ栽培シ得ヘク其ノ乙ニ屬スル土地ハ銅分ノ爲害アルヲ認
メス其面積一万四千十四町一段六畝十一步
銅分一四以上〇〇二以下
甲或ハ銅分ノ全量之ニ達セサルモ溶解性銅分〇、〇〇〇五以上
內面積六千五百三町二段八畝二十五步
乙銅分〇四以下ニシテ溶解性銅分〇、〇〇〇五以下
面積七千五百十町八段七畝十六步
以上ハ專ラ銅量ヲ標準トセル調査ナリ若夫レ實際ノ被害ニ至リテハ後ニ述
ル所アル如ク洪水ノ害ト相關スルモノナレハ必スシモ前記ノ標準ニノミ依
ルヘカラス猶後章ニ於テ更ニ記述スル所アルヘシ
第三節被害地方衞生ノ狀況
第四節被害地方蠶業ノ狀況
被害地方衞生ノ狀況不良ナル被害地ニ於ケル蠶業ノ不結果ナル共ニ鑛毒ニ
原因ストハ往々耳ニスル所ナリ本會ニ於テ此ノ點ニ關シ特ニ精査スル所ア
リシニ衞生及蠶業ノ狀況不良ナルハ事實ナリト雖之ヲ以テ直ニ鑛毒ニ歸ス
ル能ハス他ニ原因ノ存スルアルヲ知レリ次章ニ於テ詳記スル所アルヘシ
第二章被害ノ原因
第一節足尾附近森林被害ノ原因
森林被害ノ狀況ニ付テハ前述ノ如シ而シテ前章ニ於テハ煙害ヲ基礎トシテ
其ノ區域及程度ヲ記述セリ然レトモ足尾附近森林荒廢ハ必シモ煙害ノミ歸
スヘカラサルナリ今其ノ原因ヲ考究スルニ左ノ如シ
第鑛山作業
鑛業所ヨリ發散スル亞硫酸其ノ他ノ瓦斯ノ植物ニ害アルハ學說及實況ニ依
リ明ナリ
然ルニ從來何等ノ施設スル所ナカリシヲ以テ森林ヲ荒廢スルニ至レルハ當
然ノコトナリ、明治三十年ノ豫防命令ヲ以テ鑛業人ヲシテ脫硫塔ヲ設置セ
シメタルモ未タ充分ナル效果ヲ收ムルニ至ラス
第二森林作業
足尾銅山鑛業ノ發達ニ伴ヒ製鍊用ノ燃料其ノ他用材ノ需用著シク增加シタ
ル爲附近森林ノ大部分ヲ伐採シ跡地ノ造林上ニ付テハ何等施設セシコトナ
ク三十年豫防命令迄ハ全ク之ヲ自然ニ放置シタルモノノ如シ之レ亦森林荒
廢ノ一因ナリ
第三森林取締
足尾地方林野ノ荒廢ハ主トシテ之ヲ前記鑛山及森林作業ニ歸スヘシト雖該
地方ニ於ケル野火ノ災害モ亦之ヲ其ノ一因ニ數ヘサルヘカラス、政府ハ明
治三十年以來森林ノ取締ニ注意スルニ至レリト雖未タ全ク災害ヲ絕ツニ至
ラス
第二節渡良瀨川沿岸農作地被害ノ原因
第收穫減少ノ原因
渡良瀨川沿岸農作地ニ於テ植物ノ生育宜シカラサルハ主トシテ土壤中ニ
較〓多量ノ銅分ノ存在スル土地卑濕ニシテ冠水スルコト頻繁ナルトニ基ク
モノナリ被害土壤中ニ存在スル硫化鑛物ノ分解シテ遊離硫酸及酸性硫酸鹽
類ヲ生スルカ如キ細微ナル土砂ノ土壤竄透性ヲ害スルカ如キモ亦其ノ因タ
ルナリ被害土壤中往々存スル砒素ノ如キハ其ノ量極メテ微ニシテ植物ニ害
ヲ及ホスモノト認メ難シ尙左ニ少シク詳述セン
-銅分
銅鹽類ノ植物ニ有害ナルハ多數學者ノ唱道スル所ニシテ幾多ノ實驗ハ之ヲ
證シ得テ餘アリ被害地土壤中ニハ較〓多量ノ銅分存在シ稀薄ナル有機酸ニ
容易ニ溶解スルモノ尠カラサルヲ以テ植物ハ爲ニ根部ノ細胞ヲ腐蝕セラレ
其ノ生活機能ヲ阻害セラルルニ至ルハ理論上既ニ明ナリト雖其ノ被害ノ程
度ハ土地ノ性狀ニ依リ必シモ一樣ナラサルヲ以テ本會ニ於テ特ニ諸種ノ土
壤ヲ以テ試驗ヲ行ヒタルニ渡良瀨川沿岸地ノ土壤ニ在リテハ酸化銅一萬分
ノ一乃至五ニシテ稻ヲ害シ其ノ量千分ノ一ナルトキハ收穫ノ減少六割ニ、
千分ノ一、五ナルトキハ八割ニ千分ノ二ナルトキハ九割ニ達ス而シテ被害
地中ニハ前章ニ記セル如ク其ノ銅分此ノ限界內ニ居ルモノ多キヲ以テ其ノ
生產力ヲ害セラルルヤ言ヲ俟タサルナリ但シ被害地土壤中ノ銅分ハ前記試
驗ニ於ケルモノト其ノ形體ヲ異ニシ〓シテ加害ノ程度輕カルヘク又實際ニ
於テハ他ニ諸種ノ原因隨伴スルヲ以テ被害ノ程度ハ此ノ試驗ノ結果ト多少
ノ差違アルヘシ
二冠水
被害地中其ノ收穫減少ノ原因冠水ニ存スルモノ尠カラス此ノ關係ヲ明ニス
ル爲本會ニ於テハ被害地ノ高低測量ヲ爲シ渡良瀨川增水ト被害地冠水トノ
關係ヲ調査セシニ增水平均低水位上四尺ナルトキハ河水ノ浸ス所七百四十
町步ニ達ス而シテ四尺ノ增水ハ一箇年平均百回以上ニ及フヲ以テ此等ノ地
積ハ水害ニ因リテ業ニ旣ニ農作地タルノ價値ナキモノタリ增水六尺ニ及ヘ
ハ浸水區域二百八十七町步ヲ增ス而シテ六尺ノ增水ハ一箇年平均三十回以
上ナリ故ニ之レ亦農作地ニ適セサル所タリ八尺ノ增水ニ至レハ河水ノ浸ス
所更ニ七百町步ヲ加フ若夫レ十四尺ノ增水アルニ當リテハ浸水ノ區域實ニ
五千有餘町步ノ多キニ達シ得ヘシトス而シテ十四尺以上ノ增水ハ決シテ稀
ニアラス
以上ノ面積ハ無堤地及堤外地ニ付河水トノ關係ヲ測定シ之ヲ〓示セルナリ
藤岡、海老瀨地方及思川、巴波川等ノ沿岸耕地ハ頗ル卑濕ニシテ作物ノ栽培
ニ適セサル所尠カラス今其ノ面積ヲ算スルニ低水位上六尺以內ノ低地殆ン
ト四千町步アリ之レ堤防ノ繞圍スルアルヲ以テ直接氾濫ノ害尠シトスルモ
水流緩慢ニシテ水停滯シ易ク農作地タルノ價甚少ナシ其ノ内低水位上四尺
以內ノ地二千二百七十餘町步ニ至リテハ到底耕地ニ適セス
以上ノ如ク渡良瀨沿岸農作地收穫減少ノ原因一ナラスト雖就中銅分ノ存在
ト冠水トハ其ノ主要ナルモノニシテ而モ銅分ハ浸水ニ依リテ送致セラルル
コト多キニ居ルヲ以テ兩因相合シテ被害ノ原因ヲ爲スモノナリ猶各地ニ就
テ精密ニ調查スレハ銅分カ主ナル被害ノ原因ニシテ冠水ハ副タル部分アリ
冠水主ニシテ銅分副タル部分アリ單獨ニ銅分又ハ冠水カ被害ノ原因タルア
リ
終ニ砒素ニ付テ一言セムニ被害地中ノ土壤ヲ以テ試驗ヲ行ヒタル結果ニ依
レハ砒素ハ風乾土中十萬分ノ一乃至五ニシテ稻及麥ヲ害シ一萬分ノ二ニ達
スレハ植物殆ト生育セス然レトモ分析ノ成績ヲ見ルニ被害地土壤中砒素ノ
含有量ハ百萬分ノ五ヲ超過スルモノナシ故ニ砒素ニ對シ稻及麥ヨリ抵抗力
弱キ植物ト雖實際上其ノ害ヲ被ルコト無キモノトス
第二土壤變質ノ原因
渡良瀨川沿岸地土壤變質ノ原因ヲ探究スルニ河水ノ氾濫ト其ノ引用トニ存
ス左ニ之ヲ敍述セム
-河水ノ氾濫
渡良瀨河水ト被害地トノ水位上ノ關係ハ旣ニ述ヘタル所ノ如ク被害地ノ大
部分ハ少シク河水ノ增昂スルアラハ直ニ冠水スヘキモノタルヲ以テ淤泥ノ
地上ニ沈澱スルハ當ニ然ルヘキ所ナリ土性調査ノ成績ニ依ルニ被害地方ノ
低地ハ全面含銅土層ヲ以テ被ハレ猶延ヒテ臺地ニモ及ヘリ之レ河床ノ著シ
ク嵩マリ洪水氾濫ノ區域擴大セルヲ證スルニ足ル
渡良瀨河水ノ銅分ハ主トシテ不溶解態ニシテ洪水時ニ於ケル如ク河水ノ溷
濁セル際ハ平時〓澄ノ時ヨリ含有銅分多量ナリトス今一二ノ分析表ヲ左ニ
揭ケン
明治三十五年八月六日ヨリ九日ニ至ル洪水時ニ於ケル河水分析表
一「リットル」中「グラム」量
採酌場所
全浮游物全酸化銅全銅
山田郡川内村須永一、二五〇四三〇、〇〇三五一五〇、〇〇二八二
足利郡梁田村福富〇、八七六七〇〇、〇〇一二五〇〇、〇〇一〇〇
安蘇郡植野村船津川〇、五二六七二〇、〇〇二〇〇六〇、〇〇一六一
北埼玉郡川邊村小野袋〇、〇二五四二〇、〇〇〇一一三〇、〇〇〇〇九
明治三十五年九月二十九日ノ洪水時ニ於ケル河水分析表
足利郡梁田村福富二、八三六〇〇、〇〇二六九三〇、〇〇二一五四
安蘇郡植野村船津川一、三一八〇〇、〇〇一三八四〇、〇〇一一〇七
此ノ如キ銅分ヲ含ム濁水ノ氾濫スルニ於テハ有害淤泥ヲ殘留シ其ノ土壤ヲ
變質スルヤ言ヲ俟タサルナリ左ニ前記洪水ノ際田圃ニ沈澱セル淤泥ノ分析
表ヲ揭ケン
明治三十五年八月八日ノ洪水ニ因ル沈澱土分析表
採集場所全酸化銅百分率
安蘇郡界村大字高山字權現向〇、二二五
下都賀郡谷中村大字下宮字本〓〇、二二五
同字稻荷森〇、一五〇
明治三十五年九月二十九日ノ洪水ニ因ル沈澱土分析表
山田郡桐生町大字新宿濱ノ京申〇、〇三八
同境野村大字境中通〇、〇四五
同廣野村大字廣野字福島〇、〇六〇
足利郡小俣村字町田〇、〇三八
同山前村大字山下字向河原〇、〇七五
同山邊村大字田中〇、〇六〇
同吾妻村大字下羽田字一丁目〇、〇五三
安蘇郡界村大字高山字權現向〇、〇六〇
邑樂郡海老瀨村字山口〇、一五〇
以上述フル所ニ依リ被害地土壤變質ノ一大原因ハ渡良瀨川ノ氾濫ニ伴フ含
銅淤泥ノ沈澱ニ存スルコト明ナリ
二河水ノ引用
渡良瀨河水ハ沿岸水田ノ主要ナル灌漑水源ニシテ之ヲ引用スル用水九、其
ノ灌漑公稱段別六千數百町步ナリ其ノ他水利組合ニ加入セスシテ用水ノ分
配ヲ受クル水田亦尠カラス今灌漑水ニ付行ヒタル數多分析ノ成績ニ徵シ平
均〓數ヲ求ルニ大間々以下足利附近ニ於ケル河水中溶解性酸化銅ノ量ハ一
「リツトル」中○、○〇〇五八「グラム」卽河水平均約一億分ノ六トス故ニ此
ノ割合ヲ以テ各用水元口ニ流入スルモノト假定スルヲ得ヘシ(勿論溝路ニ
流入後ニ於テモ若干ノ變化アルヘシ)本會ニ於テ行ヒシ水耕試驗及砂耕試
驗ノ成績ニ依ルニ銅ノ植物ニ有害ナルハ明ナリト雖其ノ量ニシテ一定ノ程
度ニ達セサレハ中毒ノ感應ナキモ亦明ナリ而シテ又實地普通ノ農作ニ至リ
テハ他ノ諸種ノ關係條件ヲ考察セサルヘカラス此等ノ條件中銅分ニ至大ノ
關係ヲ有スルモノハ普通耕土ニ存スル銅分吸收作用ナリトス卽土壤ハ通常
或ル程度迄ハ銅分ノ有害作用ヲ防止シ又ハ緩和スルコト之レナリ但シ吸收
力ハ土壤ニ依リ差違アルカ故ニ一定量ノ銅分ハ如何ナル場合ニ於テモ常ニ
同一ノ害ヲ惹起スルモノト速斷スル能ハサルナリ
試驗ノ結果ニ依ルニ被害地ニ於ケル灌漑水ノ溶解性銅分ハ植物ニ有害ナル
程度ニ達セサルコト遠シト雖前述ノ如ク土壤ニ銅分ヲ吸收スル力アル所以
ハ又銅分ヲ其ノ內ニ集積增大ナラシムル原因タリ故ニ微量ノ銅分ヲ含ムモ
ノト雖之ヲ灌漑水ニ用井ルコト久シキニ亙ルトキハ土壤ハ漸次銅分ヲ蓄積
シ其ノ量遂ニハ有害ナル程度ニ達スルノ虞アルヘキヲ以テ本會ニ於テハ現
地土壤及灌漑水ニ付諸般ノ試驗ヲ行ヒタルニ渡良瀨河水中ノ溶解性銅分ノ
作用ハ實際上之ヲ憂フルニ足ラサルヲ知レリ
溶解性銅分ニ付テハ上述ノ如シ然ルニ灌漑水中ニハ亦不溶解性ノ銅分ヲ含
有シ土壤變質ノ原因タルヘキコト勿論ナルヲ以テ之レカ除害方法ニ付テハ
後章ニ詳論スヘシ
第三節被害地方衞生狀况不良ノ原因
渡良瀨川沿岸被害地方ニ於テ一般ノ衞生狀况不良ナルハ其ノ原因主トシテ
土地ノ卑濕、飮料水ノ不良其ノ他生計不振等ノ爲住民ノ營養完カラス從テ
種々ナル疾病ノ地方病トシテ各地ニ蔓延スルニ存シ直接ニ鑛毒ニ基因スル
モノアルヲ認メス左ニ調査ノ〓要ヲ記セム
被害地方住民ノ所謂鑛毒病ナリト自稱スル慢性病患者及授乳婦、乳兒等六
百有餘名ニ付テ精細ナル診査ヲ行ヒタルニ十二指腸蟲病及トラホーム最多
數ヲ占メ特ニ十二指腸蟲病ハ平均百人中五十一人ニ達シ間歇熱、咽頭尖、肺
氣腫、氣管支炎等之ニ亞キ鑛物中毒ハ其ノ疑アルモノタモ發見セス、又被害
地ニ於テ十二指腸蟲病患者多キ所以ノモノハ其ノ水源地タル足尾銅山住民
ノ糞便ノ流下シテ渡良瀨川ニ入ルニ存ストノ說ヲ耳ニスルヲ以テ本會ニ於
テハ特ニ此ノ點ニ注意シ精密ナル方法ヲ以テ足尾山銅職夫及其ノ居住民中
慢性疾病及其ノ他ノ疑アル者ニ付精査シタルニ總計百五十人中該患者僅ニ
四人ニ過キスシテ其ノ割合遙ニ被害地方ヨリ尠シ以テ其ノ病源茲ニ存セサ
ルヲ知ルヘシ
分析試驗ノ成績ニ依レハ渡良瀨河水ハ常ニ一「リットル」中〇、〇〇〇〇三五
乃至〇、〇〇〇五六「グラム」ノ鋼分ヲ含ミ出水アルトキハ稍〓其ノ量ヲ增加
ス從テ被害地方ノ井水及農產物ニ少量ノ銅分ヲ含有スルコトハ事實ナリト
雖翻テ東京附近其ノ他無害地ノ井水農產物ヲ檢スルニ亦悉ク之レアルヲ認
メタリ而シテ被害地ト無害地トヲ比較スルニ銅量ノ多キコト水ニ在テハ一
億分ノ一、米麥ニ在テハ百万分ノ一强ニ過キス之ヲ歐州ニ於ケル諸家ノ〓
究報告ニ徵スルモ亦特ニ植物性食品中銅ヲ含有スルモノ頗ル多シ故ニ銅ハ
殆ント食品中ノ常成分ナリト稱スルヲ得ヘシ加之歐州ニ於テハ故意ニ食品
中ニ伍用シ又ハ野菜類ノ著色ニ用井ルコトアリ被害地住民ノ攝取シツツア
ル銅量ハ多キモ一日五「ミリグラム」ニシテレーマン氏所說無害量ノ四分ノ
一乃至六分ノ一ニ過キサルヲ以テ飮食品中ノ銅ニ依リテ住民ノ健康ニ直接
ノ危害ヲ及ホスモノト認ムルヲ得ス尙被害地住民ノ飮食物中ニハ分析上砒
素ヲ檢出シタルコトナシ
衞生統計上ノ調査成績ニ依レハ被害町村ノ死亡率ハ無害地ニ比シ稍高シト
雖鑛毒被害ノ程度如何ニ關セス能ク一般ノ衞生狀况ニ符合セリ故ニ鑛毒ノ
有無ニ拘ラス所謂不健康ナル地ニ在リテハ被害激甚地ヲ凌駕スルモノアリ
而シテ成績不良ノ町村ニ於ケル死亡ノ原因多クハ傳染病、呼吸器病、發育及
營養的病、消化器病ニシテ殊ニ去明治二十九年乃至三十二年ノ赤痢流行ニ
際シ衞生狀况不良ナル地ハ其ノ慘害ヲ被リタルモノトス其ノ他被害地小學
校生徒間ニハ寄生蟲病ノ蔓延甚シク蟲卵ヲ有セサルモノ平均百人中三十人
ニ過キス特ニ十二指膓蟲病ノ平均百人中二十九人ニ達スルカ如キハ恐ルヘ
キノ狀况ナリトス右檢便調査ハ栃木、群馬二縣下數校ニ於テ行ヒタルモノ
ナルモ亦以テ十二指膓蟲病流行ノ一斑ヲ窺フニ足ルヘシ、斯ル實況ナルヲ
以テ被害地ノ死亡率比較的高キハ毫モ恠ムヲ要セス卽其ノ原因ヲ鑛毒ニ歸
スヘカラサルヤ明ナリ生產率ハ一般ニ多ク死產率ハ被害ノ有無ニ拘ラス不
定ナリ
銅ノ慢性中毒ニ關スル問題ハ古來諸家ノ〓鑽シタル報告ニ從ヘハ少量ノ銅
ハ永久ニ之ヲ攝取スルモ人身ノ健康ニ有害作用ヲ及ホスモノニアラストナ
セリ本會ニ於テハ銅山ニ於テ比較的多量ノ銅ヲ吸收シツツアル工夫其ノ他
ニ付テ精密ナル診査ヲ遂ケタルニ中毒症候ヲ具フル者ヲ認メス之ニ反シテ
一「リットル」中○、〇〇〇四九「グラム」ノ銅ヲ含有スル乳汁ヲ以テ養ハルル
乳兒ノ發育營養頗ル佳良ナル實例ヲ得タリ其ノ他健康者ノ尿、乳汁及糞便
中ニ於テ比較的多量ノ銅ヲ檢出シタル成績等ヲ綜合セハレーマン、レヴイ
ン、フィレーネ等諸家ノ慢性銅中毒否認說ニ符合スル所アルヲ知ルヘシ
調査ノ成績上述ノ如ク鑛毒ニ直接基因スル害ハ之ヲ認メサルモ鑛毒ハ洪水
ト相伴フテ農作物ヲ害シ住民ノ生計ヲ困難ニシ間接ニ其ノ衞生狀况ヲ不良
ナラシムルノ一因トナリ加之洪水ノ氾濫ハ井水ヲ不潔ニ陷ラシメ寄生蟲
病、傳染病ノ蔓延ヲ幇助シタル實跡アリテ爲ニ被害地人民ハ十數年來之ヲ
以テ鑛毒病ト誤信スルニ至リタルモノトス
第四節蠶業ニ對スル被害ノ原因
蠶業ト鑛毒トノ關係ニ付精査ヲ遂ケシニ其ノ〓要左ノ如シ
第蠶業ノ狀况
被害地ニ於テハ從來蠶業ヲ營ミタル者多カラサリシカ洪水汎濫ノ爲沃土ヲ
流失シ或ハ土壤變質ノ爲普通農作物ノ栽培意ノ如クナラサルニ至リシヲ以
テ農家ハ之ニ代フルニ桑樹ヲ以テシ斯業ハ年ヲ逐フテ隆盛ニ趣ケリ蓋桑樹
ハ深根植物ニシテ之ヲ穀菽作物ニ比スレハ栽植稍容易ニ其ノ生育亦割合ニ
佳良ニシテ到底普通作物ヲ栽培シ能ハサル土地モ桑葉ノ收穫ニ於テハ多少
ノ望ヲ囑シ得ラルヘキヲ以テナリ然ルニ洪水ノ害ハ更ニ桑園ヲ荒廢シタル
ヲ以テ一時稍斯業ニ有望ナリシ土地モ再其ノ衰頽ヲ來セル箇所ナキニアラ
スト雖多クハ普通作物ノ圃場ヲ桑園ニ改變シ又ハ新ニ山林原野ヲ開墾シテ
桑樹ヲ栽植スル等ニ依リ一般桑園段別ヲ增加シ年々收繭量ヲ遞進セリ
第二銅分ト繭業トノ關係
被害地ニ於テ栽植シタル桑葉ヲ蠶兒ニ給與スルカ爲蠶兒ハ直接ニ中毒性ノ
徵候ヲ呈スルカ如キコトハ蓋有ルヘカラサルモノタリ被害地ノ桑樹ハ其ノ
根端ヨリ養液ト共ニ土壤中ノ銅分ヲ吸ヒ從テ梢條內又ハ葉片中ニ其ノ幾分
ヲ含有スルカ如キハ之レ無キニ非スト雖斯ル狀況ニ於テ存在スル葉片中ノ
銅分ハ繭糞ト共ニ體外ニ排泄セラルルヲ以テ胃中ニ於テ浸出セラレ以テ繭
兒ヲ浸害スルカ如キハ決シテ有ルヘカラス然レトモ桑質不良ナル爲蠶兒ノ
營養佳ナラス體質虛弱ニ陷ルノ憂アリ從テ各種蠶病ノ誘因トナル等間接ノ
害アルハ免ル能ハサル所ナリ要スルニ鑛毒ノ蠶業ニ及フハ間接ニシテ桑樹
被害ノ影響ニ過キス
第三章鑛毒ノ根源
前二章ニ述ヘタル如ク被害ノ原因ニシテ所謂鑛毒ト稱スヘキモノハ森林ニ
對スル有害瓦斯ト渡良瀨川沿岸農作地ニ於ケル銅分ナリ有害瓦斯ハ鑛業上
ノ作業ヨリ發生スルコト明ナルヲ以テ措テ論セス銅分ハ果シテ全然足尾銅
山ノ鑛業ニ其ノ源ヲ發スルヤ否ヤヲ左ニ敍述セム
第一節渡良瀨河床ノ土砂
河床ノ土砂ハ洪水時ニ際シ水勢ノ激スルアラハ之ニ攪拌セラレ水中ニ浮游
シ冠水地域ニ輸致セラレ農作地ニ沈澱スルモノナルヲ以テ鑛毒ノ根源ニ大
ナル關係ヲ有ス
渡良瀨川上流及下流ノ河床ノ土砂ヲ檢査シタルニ皆銅分ヲ含有ス其ノ成績
ヲ例示セハ左表ノ如シ
第一表渡良瀨河床面土砂分析表
採集場所採集月日全銅量百分率
切幹原橋下明治三十五年九月十三日〇、〇六四
同(細砂)同日〇、一〇一
同同十月二日〇、〇七四
同(細砂)同日〇、一〇二
大間々附近淺所(細砂)同九月十三日〇、一五〇
同出水後岩上殘留同日〇、〇八五
同同日〇、〇七五
第二表渡良瀨河床面及河床面以下土砂分析表
全銅量百分率
採集場所河床面以下河床面以下河床面以下
河床面五尺十尺十五尺
山田郡桐生町地先鐵橋ヨリ上流約二〇、一〇八〇、一四四
町
同下流約二町〇、〇七二〇、一二〇
足利郡足利町地先借宿渡船場ノ上流〇、〇六〇〇、〇四八
約三十間
同渡良瀨橋下流約四町〇、〇八四〇、〇四八
足利郡梁田村大字福富地先〇、〇三九二〇、〇一九二〇、〇一六〇
足利郡富田村大字奧戶地先〇、〇三六〇〇、〇二四〇〇、〇一四四
安蘇郡植野村大字船津川地先〇、〇〇九六〇、〇〇二四〇、〇〇五六
邑樂郡西谷田村大字西岡地先〇、一〇二四〇、〇二四〇〇、〇〇四〇〇、〇〇一六
邑樂郡海老瀨村地先〇、〇四八〇〇、〇四二四〇、〇一二〇〇、〇〇五六
同堤外地〇、〇二四〇〇、〇〇二四〇、〇〇一六〇、〇〇一六
猿島郡古河町大字惡戶新田地先〇、〇八四〇〇、〇一四四〇、〇〇四八〇、〇〇一六
下都賀郡谷中村大字惠下野地先思〇、〇〇一六〇、〇〇〇八痕跡痕跡
川筋)
北埼玉郡川邊村大字本〓地先〇、〇一四四〇、〇〇八〇〇、〇〇九六〇、〇〇一六
此銅分ハ舊時足尾銅山ヨリ多量ニ放出シタル含銅物ノ流下シテ殘留スルト
現時銅山其ノ他ヨリ流下スルトニ因レリ而シテ此ノ銅分ハ洪水時ハ勿論平
時ニ於テモ河水ノ爲漸次下方ニ輸送セラルルモノナレトモ同時ニ又上流ヨ
リ銅分ノ流レ來リテ河床ニ沈滯スルモノアルコト明瞭ナリ
第二節鑛山現業ニ基ク排出物
鑛業上ノ排出物ニシテ河流ニ注入スルモノハ主トシテ濾過池放水ナリ左表
ハ其ノ平均銅量ヲ示ス
濾過池放水分析表
一「リットル」中「グラム」量
名稱
溶解銅不溶解銅全銅
本山濾過池放水〇、〇〇〇一五〇〇、〇〇〇一九五〇、〇〇〇三四五
通洞濾過池放水〇、〇〇〇一〇六〇、〇〇〇四五八〇、〇〇〇五六四
小瀧濾過池放水〇、〇〇〇〇二七〇、〇〇〇〇三六〇、〇〇〇〇六三
濾過池放水ハ常ニ銅ヲ含有セリ然レトモ其ノ量僅少ニシテ鑛毒ノ著シキ根
源ナリトスルニ足ラス
足尾銅山ノ現業ニ基ク排出物ハ尙別ニ數種アレトモ次章ニ述フル如ク此等
ニ對シテハ各除害設備ニ依リ其ノ散逸ヲ防止シアルヲ以テ河流ニ入リテ鑛
毒ノ著シキ根源トナルモノアルヲ認メス
第三節渡良瀨川本支流ノ河水
第渡良瀨川上流及支流ノ河水
足尾銅山附近ノ水流ハ切幹ニ於テ悉ク相合スルヲ以テ此ノ合流ノ下ニ於ケ
ル水質ヲ檢査スルハ鑛毒根源ノ調査上最モ重要ノコトナリ左表ハ其ノ成績
ヲ示ス
渡良瀨川切幹河水分析表
一「リットル」中「グラム」量
採酌月日
溶解銅不溶解銅全銅
明治三十五年七月三日O(O〇〇〇三〇、〇〇〇三〇〇、〇〇〇三三
十七日〇、〇〇〇一六〇、〇〇〇四一〇、〇〇〇五七
同同
八月十七日〇、〇〇〇一八〇、〇〇〇五七〇、〇〇〇七五
同八月二十七日〇、〇〇〇一〇〇、〇〇〇六四〇、〇〇〇七四
同八月三十日〇、〇〇〇一二〇、〇〇〇四五〇、〇〇〇五七
同九月十九日〇、〇〇〇〇九〇、〇〇〇六〇〇、〇〇〇六九
上表ニ示ス所ノ銅量ハ常ニ僅少ナレトモ濾過池放水中ノ銅量及放水量竝河
水量ヲ參酌シテ計算スルトキハ猶一層稀薄ナルヘキニ事ノ之ニ反スルハ之
レ銅山附近ノ水流中ニ比較的多量ノ銅ヲ含有スルモノアリテ本山川及庚申
山川ニ注入スルニ因レリ銅山附近ノ各水流ヲ檢査シテ得タル結果左表ノ
如シ
足尾銅山附近河水分析表
一「リツトル」中「グラム」量
採酌場所採酌月日
溶解銅不溶解銅全銅量
本山川切幹上明治三十五年七月〇、〇〇〇二一OO〇〇四〇〇、〇〇〇六一
四日
同同八月十七日〇、〇〇〇一二〇、〇〇〇三五〇、〇〇〇四七
同同八月二十七日〇、〇〇〇一六〇、〇〇〇五三〇、〇〇〇六九
庚申山川切幹上同七月三日〇、〇〇〇三〇〇、〇〇〇四〇〇、〇〇〇七〇
同同八月十七日〇、〇〇〇一二〇、〇〇〇三〇〇、〇〇〇四二
同同八月二十七日〇、〇〇〇一二〇、〇〇〇四〇、〇〇〇五三
澁川同七月四日〇、〇〇四九〇〇、〇〇〇〇二〇、〇〇四九二
同同八月十九日〇、〇〇四六〇〇、〇〇〇〇四〇、〇〇四六四
內籠川同七月四日〇、〇〇〇〇三1〇、〇〇〇〇三
神子內川同日〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇三
出川同七月十六日〇、〇〇八八〇〇、〇〇〇一四〇、〇〇八九四
同同九月七日〇、〇〇七二〇〇、〇〇〇一二〇、〇〇七三二
久藏川同九月十一日〇、〇〇〇〇六
仁田元川同九月十八日〇、〇〇〇〇一
松木川同日〇、〇〇〇〇二
小瀧文象澤同九月十九日〇、〇二三〇〇〇、〇〇〇〇五〇、〇二三〇五
庚申山川小瀧鑛同七月十七日〇、〇〇〇〇二
業所上
銅山附近河流中直接銅山ニ關係ナキモノ卽內籠川、神子內川、久藏川、仁田
元川、松木川、庚申山川上流等ノ河水ニモ亦皆銅ヲ含有スレトモ其ノ量ハ僅
少ナリ然ルニ澁川、出川、文象澤ノ水中ニハ比較的多量ノ銅ヲ含有セリ之レ
注目スヘキ鑛毒ノ一根源ニシテ而シテ切幹ニ於ケル銅量增加ノ原因ナリト
云フヘシ
第二渡良瀨川下流及支流ノ河水
渡良瀨川下流ノ水中ニハ常ニ銅ヲ含有セリ然レトモ其ノ量ハ僅少ナリ支流
中桐生川、秋山川等ノ水ニモ常ニ少量ノ銅ヲ含有セリ左表ハ檢查ノ成績ヲ
示ス
渡良瀨川下流及支流平時河水分析表
一「リットル」中「グラム」量
河名採酌場所採酌月日全銅
溶解銅不溶解銅
渡良瀨川桐生町ノ上赤明治三十五年〇、〇〇〇〇五〇〇三〇、〇〇〇〇八
岩堰四月四日
桐生川桐生町端ヨリ同九月十九日〇、〇〇〇〇三
二十餘丁上
秋山川佐野町ヨリ二同日〇、〇〇〇〇一五
里上沼田町
思川小山鐵橋ヨリ同日
半里上豐田村
附言桐生及足利地方ニ於ケル染工所ヨリ排出スル水ハ多少銅分其ノ
他有害物ヲ含有スルモ植物ヲ害スルノ程度ニ至ラス
第三出水時ニ於ケル渡良瀨川及支流ノ河水
出水時ニ於ケル渡良瀨川及支流ノ河水ヲ分析シタル成績左表ノ如シ
渡良瀨川下流及支流出水時河水分析表
一「リットル」中「グラム」量浮游物
河名採酌場所採酌月日水位中
浮游物溶解銅不溶解全銅銅量
銅百分率
渡良瀨川山田郡川內村明治三十五年七尺一、二五〇四三〇、〇〇〇一六〇、〇〇二六六〇、〇〇二八二〇、二一二〇
須永八月六日
同足利郡梁田村同九尺三〇、八七六一七·〇、〇〇〇一二〇、〇〇〇八八〇、〇〇一〇〇〇、一〇〇四
福富八月九日寸
同同堤內同日同六、、五四八〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇八三〇、〇〇〇八七〇、〇一二七
同安蘇郡植野村同〇、五二六七二〇、〇〇〇〇四九〇、〇〇一五六七〇、〇〇一六一二〇、二九七五
船津用八月八日十七尺
同同堤外同日同〇、三六二八五〇、〇〇〇〇五六〇、〇〇〇七四六〇、〇〇〇八〇二0二〇六〇
同北埼玉郡川邊同十五尺〇、〇二五四二〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇六〇、〇〇〇〇九〇、二四〇〇
村小野袋八月九日四寸
桐生川山田郡桐生町同尺〇、二〇三三〇、〇〇〇〇一四〇、〇〇〇〇四三〇、〇〇〇〇三七〇、〇二二一
八月八日六
秋山川安蘇郡佐野町同〇〇一一四四九〇、〇〇〇〇〇七〇。、〇〇〇〇七〇、〇〇〇〇五七〇〇、、〇四八三
八月九日同
巴波川下都賀郡生井同日十四尺〇、一八六五〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇〇六七〇、〇〇〇一一七〇、〇三五九
村白鳥
思川小山町同日未詳〇、一九九六〇、〇〇〇〇〇四〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇〇五四〇、〇二五〇
渡良瀨川足利郡足利町同十尺五ノ、二七四三〇、〇〇〇〇二八〇、〇〇〇六五〇〇、〇〇〇六七八〇、〇五一〇
九月八日寸
同北埼玉郡川邊同十七尺〇、一〇三〇、〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇一四七〇、〇〇〇一七七〇、一三一八
村小野袋九月十日五寸
同山田郡川內村同未詳四、四一五七一〇、〇〇〇〇二八〇、〇〇一四三〇〇、〇〇一四五八〇、〇三二四
須永九月二十九日
同足利郡梁田村同14-15元〇、〇〇〇〇九九〇、〇〇一八三〇〇、〇〇一九二九〇、〇三四三
福富九月二十八日
同安蘇郡植野村同日十八尺四、五七七一〇、〇〇〇一三〇〇、〇〇一六九〇〇、〇〇一八二〇〇、〇三七〇
船津川
同北埼玉郡川邊同メロ月三三日〓〓尺〓、一六九八〇、〇〇〇〇二七〇、〇〇〇一二五 〇、〇〇〇一五二〇、〇七三七
村小野袋
同大間々附近同尺〇、〇〇〇〇五〇〇、〇〇〇一九〇〇、〇〇〇二四〇
九月十二日二
此ノ結果ニ依レハ出水時ニ於テハ溶解銅ノ量平時ニ於ケルヨリモ減少シ不
溶解銅ノ量ハ浮游物ト相伴フテ增加セリ之レ一部ハ銅山區域一帶ノ地及他
ノ水源地竝沿岸ノ地ニ於テ雨水ノ爲ニ洗ヒ去ラレタル含銅物ノ流入ニ因ル
ヘシト雖主トシテ洪水ノ激勢ニ依リ渡良瀨川上流竝下流ノ水底ニ沈滯セル
含銅土砂ノ浮上スルニ因ルカ如シ
第四節渡良瀨川流域ノ岩石
渡良瀨川本支流ノ地ヲ構成スル岩石及河床ノ土砂ヲ精査シ此等土砂中ニ水
源地岩石ノ碎片存在スルヤ否ヤヲ檢查シタルニ各水源地岩石ト同種ノモノ
混在スルヲ認メタレトモ其ノ何レヨリ來レルヤハ之ヲ鑑別スルニ由ナシ今
流域ヨリ採集セル岩石ヲ分析シタル成績ヲ左ニ揭ケン
渡良瀨川流域岩石分析表
採集地名稱銅量百分率
足尾高原木鐵營橋粘板岩〇、〇〇〇五
仁田元山神社粘土質砂岩〇、〇〇一五
足尾中禪寺間あしくら澤石英班岩〇、〇〇〇七
間藤同〇、〇〇〇八
渡良瀨神子內間、柏平花崗岩〇、〇〇〇五
渡良瀨栃木平間黑澤ノ橋石英班岩〇、〇〇〇五
栃木平同〇、〇〇〇八
足尾中禪寺間利根倉澤同〇、〇〇七二
文象粘板岩〇、〇〇二六
久藏ほどくぼ間同〇、〇〇六九
久藏ノ下同〇、〇〇三二
庚申山神社附近安山岩〇、〇〇五二
小瀧庚申山間ささむき澤粘板岩〇、〇〇三三
鷹巢附近流紋岩〇、〇〇〇五
赤岩粘板岩〇、〇〇六五
銀山平釣橋ノ邊流紋岩〇、〇〇〇六
大間々澤入間、板倉川安山岩〇、〇〇一七
同水沼ノ北粘板岩〇、〇〇二八
同小中川安山岩〇、〇〇一四
同水沼萩原間粘板岩〇、〇〇〇九
同宮澤花崗岩〇、〇〇〇五
同水沼橋側安山岩〇、〇〇〇六
同神戶ノ橋附近粘板岩〇、〇〇二〇
同下田澤附近同〇、〇〇六八
同神梅角岩〇、〇〇一七
同足尾銅山用石灰岩石灰岩〇、〇〇〇四
同水澤下田澤間角岩〇、〇〇四二
同深澤橋輝綠凝灰岩〇、〇〇二二
同神梅大間々間同〇、〇〇一三
同宮澤草木間浮岩〇、〇〇〇四
同下田澤輝綠凝灰岩〇、〇〇六五
赤鳩二ノ鳥居邊安山岩〇、〇〇〇九
同長七郞山同〇、〇〇〇四
同茶ノ木畑同〇、〇〇一四
同鳥居峠同〇、〇〇〇五
猶多クノ岩石ニハ銅分ヲ含有スルコトハ內外學者ノ實驗ニ依リ明ナリ依テ
參考ノ爲流域外ヨリ採集シタル岩石ニ付行ヒタル分柱ノ結果ヲ左ニ揭ケン
同上流域外岩石分析表
採集地名稱銅量百分率
日光男體山安山岩〇、〇〇一二
同同〇、〇〇一四
日光大平石英班岩〇、〇〇〇九
以上各節ニ敍述スル所ニ由リ之ヲ觀レハ渡良瀨河水中ノ銅分ノ由來ニ數箇
アリト雖足尾銅山以外ヨリ來ルモノハ其量極メテ微少ナルヲ以テ鑛毒ノ根
源ハ主トシテ足尾銅山ニ存シ而シテ明治三十年豫防命令以前ニ於ケル鑛業
上ノ排出物ノ足尾銅山一帶ノ地域及渡良瀨河床ニ殘留スルモノ其ノ大部分
ラ占メ足尾銅山現業ニ基因スルモノハ比較的小部分ニ過キサルヲ知ル
第四章鑛毒被害救治ノ方法
森林及土地ノ被害トシテ鑛毒ニ基因スルモノアルハ前數章ニ述ヘタル所ニ
依リ明ナリ以下之カ救治ノ方法ヲ述ヘム
第一節足尾銅山ニ於ケル除害
足尾銅山ニ對スル除害ニ付テハ從來當局ニ於テ命令ヲ下シ現ニ之ヲ實行ス
ルヲ以テ本會ニ於テハ其ノ完否ヲ精査シ尙必要ト認ムル點ハ之ヲ修補セシ
ムルノ方法ヲ以テ調査セリ左ニ其ノ成績ヲ揭ケム
第瓦斯及烟煤
製鍊ノ作業ニヨリテ發生スル瓦斯及烟煤ハ銅、亞鉛、砒素、硫黄等種々ノ有
害ナル物質ヲ含有スルヲ以テ之ニ對スル除害ノ方法ヲ講セサルヘカラス足
尾銅山ニ於テハ特ニ設ケタル烟道及烟室ニ於テ烟煤ノ大部ヲ凝結沈降セシ
メ然ル後脫硫塔內ニ於テ石灰乳ヲ雨下シテ亞硫酸、硫酸等ヲ吸收シ而シテ
比較的無害ノ瓦斯ヲ空氣中ニ放散スルノ設備ヲナセリ此ノ脫硫塔ハ其ノ使
用上頗ル費用ト勞力トヲ要スルニ拘ラス其ノ效力充分ナル能ハス卽分析ノ
結果ニ依レハ脫硫前ノ瓦斯ハ其ノ容積百分中平均一、〇二ノ亞硫酸ヲ含ミ
脫硫塔內ニ於テ〇、二七ヲ吸收セラレ〇、七五ヲ以テ塔外ニ飛散スルモノニ
シテ脫硫效率ハ二十六ニ過キス故ニ猶此ノ設備ニ改良ヲ加ヘテ飛散瓦斯ノ
毒性ヲ減却スルノ目的ヲ以テ諸種ノ試驗ヲ爲セリト雖末適實ナル方法ヲ發
見スルニ至ラス
第二脫硫塔排水、坑水及選鑛排水
脫硫塔排水ヲ檢査シテ得タル成績左ノ如シ
脫硫塔排水分析表
一「リットル」中「グラム」量
名稱
溶解狀不溶解狀全量
銅〇、〇〇〇六〇、〇四二二〇、〇四二八
鐵〇、〇三八三〇、〇一五三〇、〇五三六
亞鉛〇、〇二〇八〇、〇〇三五〇、〇二四三
滿俺〇、〇一一七〇、〇〇一八〇、〇一三五
カルシウム〇、七〇五四〇、〇〇四四〇、七〇九八
砒素〇、〇四九二〇、〇〇三六〇、〇五二八
亞硫酸一、二八〇〇〇、〇〇八二一、二八八二
3)
硫酸(So.〇、六四九六〇、〇三一五〇、六八一一
次ニ各所ノ坑水ヲ檢查シテ得タル成績左ノ如シ
坑水分析表
一「リットル」中「グラム」量
各稱銅3)
鐵亞鉛硫酸
本山坑水〇、〇二八五〇、〇三八五〇、〇二二〇〇、二六四二
通洞坑水〇、〇三九〇〇、〇三七五〇、〇二八〇〇、三二八五
小瀧坑水〇、〇五〇〇〇、一四三一〇、〇二三〇〇、三八四二
選鑛水ハ一部ハ坑水ヲ用井一部ハ〓水ヲ用ウ而シテ坑水ハ既ニ有害物ヲ含
有シ又選鑛ノ作業ニ依リテ更ニ水中ニ有害物ヲ混入スルヲ以テ選鑛排水ハ
甚汚穢ナルモノナリトス
坑水竝選鑛排水ハ之ヲ石灰混和場ニ送リ適量ノ石灰ヲ混和シテ水中ニ含有
スル硫酸銅、硫酸亞鉛、硫酸鐵等ヲ變シテ不溶解性ノ水酸化物トシテ沈澱
池ニ於テ之ヲ沈澱セシメ更ニ濾過池ニ於テ浮游物ヲ除去シタル後河流ニ放
出ス但シ本山ニ於テハ脫硫塔排水モ亦坑水等ト共ニ之ヲ處分スルモノトス
此等除害ニ關スル設備ハ工業上大體ニ於テ闕點アルヲ認メス然レトモ通洞
ニ於ケル沈澱濾過ノ作用ハ充分ナラサルヲ以テ猶其ノ設備ヲ改良スルノ必
要アリト認ム
化學的檢查ニ依リテ上記除害設備ノ效力ヲ測定セムカ爲本山、通洞及小瀧
ニ於ケル濾過池ノ放水ヲ採酌シ其ノ分析ヲ行ヒ左表ニ示ス所ノ成績ヲ得
タリ
本山濾過池放水分析表
「リツトル」中「グラム」量
採酌月日
溶解銅不溶解銅全銅量溶解鐵不溶解鐵全鐵量書類
明治三十五年四月〇、〇〇八八二〇、〇〇〇〇二〇、〇〇八八四〇、〇〇六七〇〇、〇〇〇〇八〇、〇〇六七八〇、〇〇一二五
八日
同七月三日〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇三七〇、〇〇〇四一〇、〇〇〇〇三〇、〇〇一五〇、〇〇〇一八〇、〇〇〇四三
同七月十七日〇、〇〇〇二一〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇二三〇、〇〇〇一七〇、〇〇〇〇八〇、〇〇〇二五〇、〇〇〇八六
同八月十七日〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇一五〇、〇〇〇一七〇、〇〇〇〇一〇、〇〇〇二三〇、〇〇〇二四〇、〇〇〇一〇
同八月二十一日〇、〇〇〇五七〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇六一〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇六三〇、〇〇〇六六〇、〇〇〇七〇
同八月二十八日〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇〇七〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇〇七〇、〇〇〇一〇
同九月九日〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇五五〇、〇〇〇五七〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇四五〇、〇〇〇四七〇、〇〇〇〇五
通洞濾過池放水分析表
ヘリツトル」中「グヲム」量
採酌月日
溶解銅不溶解銅全銅量溶解鐵不溶解鐵全鐵量製作專門
明治三十五年七月〇、〇〇一九二〇、〇〇〇七二〇、〇〇二六四〇、〇〇一六〇
三日〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇四〇〇、〇〇〇四五
同七月十七日〇、〇〇〇一〇〇、〇〇〇八〇〇、〇〇〇九〇〇、〇〇〇〇三〇、〇〇一〇〇〇、〇〇一〇三〇、〇〇〇三〇
同八月十七日〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇四六〇、〇〇〇五一〇、〇〇〇二ヨ〇、〇〇〇九一〇、〇〇一一四
同八月二十一日〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇五五〇、〇〇〇五九〇、〇〇〇〇三〇、〇〇一二〇〇、〇〇一二三〇、〇〇〇四五
同八月二十六日〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇四五〇、〇〇〇四九〇、〇〇〇〇二〇、〇〇一二二〇、〇〇一二四〇、〇〇〇六〇
同九月二十日〇、〇〇〇〇八〇、〇〇一六〇〇、〇〇一六八〇、〇〇〇〇五〇、〇〇五二〇〇、〇〇五二五〇、〇〇一〇〇
小瀧濾過池放水分析表
「リツトル」中「グヲム」量
採酌月日全亞王トシ
溶解銅不溶解鋼全銅量溶解鐵不溶解鐵全鐵量鉛量解狀
明治三十五年四月〇、〇〇七四〇
九日〇、〇〇〇〇九〇、〇〇七四九〇、〇〇一一七〇、〇〇〇八〇〇、〇〇一九七〇、〇〇五一六
同七月三日〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇〇七〇、〇〇〇一一〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇二〇〇、〇〇〇二四〇、〇〇〇四〇
同七月十七日〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇六〇、〇〇〇六〇
同八月十七日〇、〇〇〇〇ニ〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇六〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇七〇
同八月二十一日〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇〇六〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇〇七〇、〇〇〇〇五
同八月三十日〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇四〇、〇〇〇〇二〇、〇〇〇〇三〇、〇〇〇〇五〇、〇〇〇〇五
此ノ結果ニ依レハ放水中ニ存在スル有害物ノ量ハ僅少ナルヲ常トス然レト
モ時々例外ノ增量ヲ示スコトアリ之レ設備ノ不完全ナルカ爲ニアラス寧操
作ノ注意闕クル所アルニ因ルカ如シ又放水ハ全ク〓澄ナルモノニアラス〓
シテ多少ノ含銅浮游物ヲ含有シ其銅量ハ溶解銅量ニ超過セリ故ニ濾過池ノ
操作ニ一層ノ注意ヲ加フルノ必要アリト認ム
第三沈澱池ノ泥渣
各所ノ沈澱池ノ泥渣ヲ分析シテ得タル成績左ノ如シ
沈澱池泥渣分析表
百分率
名稱
銅亞鉛砒素
本山沈澱池二、九六一〇、四〇二〇、〇五六五
通洞沈澱池三、三六〇〇、三六四〇、〇〇六三
小瀧沈澱池二、二五〇〇、三八三〇、〇〇五五
沈澱池泥渣ハ皆比較的多量ノ銅ヲ含有ス特ニ本山沈澱池ニハ脫硫塔ノ排水
ヲ注入スルヲ以テ其ノ泥渣ニハ較多量ノ砒素ノ存在ヲ見ル然レトモ此等ノ
泥渣ハ乾燥シタル後盡ク之ヲ一定ノ堆積場ニ輸送スルヲ以テ散逸ノ虞アル
ヲ認メス
第四堆積場
各所ノ堆積場ハ〓必要ノ設備ヲ施セルモノニシテ大體ニ於テ著明ノ闕點ア
ルヲ認メス然レトモ幾分滲透水ノ流出スルモノアリ其ノ水量ハ僅少ナリト
雖其ノ設備ニ付一層ノ注意ヲ要ス
第五足尾銅山ノ滲透水
出川、澁川、文象澤ノ水ニハ比較的多量ノ銅ヲ含有スルコトハ前章ニ述ヘ
タル如シ之レ坑水又ハ滲透水ノ流入スルモノアルニ因レリ之ヲ以テ既ニ各
所ニ於テ沈銅法ヲ施セリト雖其ノ設備完全ナラス尙適當ノ除害設備ヲ要ス
ルモノト認ム
以上本節ニ述ル所ニ基キ左ノ除害設備ヲ必要ナリト認ム
一京子內堆積場ノ排水法ヲ改良シ滲透水ハ沈澱池ニ導クコト
二鷹巢坑舊捨石置場ノ下ニ堰堤ヲ增設シ又ハ現堰堤ヲ高ムルコト
三本口坑舊捨石置場ノ下ニ堰堤ヲ增設シ又ハ現堰堤ヲ高ムルコト
四本口坑水ハ坑内ニ於テ完全ニ有木坑道ニ流下セシムルコト
五本口坑澤ノ滲透水ハ平時ニ在テハ沈澱池ニ導クコト
六向間籐沈澱池ノ背面ニ於ケル土砂扞止ヲ嚴重ニシ且排水溝ヲ改良スル
コト
七簀橋出會坑ノ現坑口ヲ密閉スルコト
八通洞坑前ノ河崖ニ堅固ナル擁壁ヲ設クルコト
九中才ニ於ケル濾過池ヲ高ムルカ又ハ其ノ河崖ニ堅固ナル擁壁ヲ設クル
コト
十中才ニ於ケル沈澱設備ヲ改良擴張スルコト
十一文象澤舊捨石置場ノ下ニ堰堤ヲ增設シ又ハ現堰堤ヲ高ムルコト
十二文象澤ノ滲透水ハ平時ニ在リテハ沈澱ニ導クコト
十三文象大切坑口ヲ除クノ外文象澤ニ於ケル各坑口ヲ密閉スルコト
十四小瀧ニ於ケル砂集器ヲ撤去シ水樋ノ勾配ヲ急ニスルコト
十五小瀧坑口ノ位置ヲ變更スルコト
茲ニ一言ヲ要スルコトアリ除害ノ設備ハ如何ニ間然スル所ナシト雖其操作
ニ宜シキヲ得サレハ充分ナル效果ヲ收ムル能ハス故ニ平素農業衞生其ノ他
各種ノ方面ヨリ一層監督ヲ周密ニシテ又常ニ水質試驗ヲ行ヒ其ノ成績ヲ公
示シ以テ公私ノ參考ニ資スルハ極メテ必要ノコトナリトス
第二節林野ノ經營
足尾地方森林被害ノ狀況及其ノ原因ニ付テハ既述ノ如シ蓋シ治水ハ鑛毒被
害救治法中主要ナルモノニシテ而カモ森林ノ狀況ハ河水ニ至大ノ關係ヲ有
スルヲ以テ林野ノ經營又極メテ必要ナリ左ニ之ヲ述ヘム
第足尾地方林野ノ經營
-造林事業
明治三十年ノ豫防命令中足尾國有林ノ造林事業ニ對スル設計ノ要旨ハ其ノ
大體ニ於テ適當ナルヲ認ム故ニ本會ニ於テハ曩ノ豫防命令ノ要旨ニ據リ只
設計ノ不完全ナル點及其ノ成績ノ良好ナラサル點ニ對シ改善補修ヲ加ルノ
方針ヲ以テ調査セリ
煙害ノ區域ニ付テハ前ニ述ヘタル所ナリ而シテ煙害裸地及煙害激甚地ニ對
シテハ主トシテ砂防工事ニ依リ地盤ノ固定ヲ維特スヘキヲ以テ後ニ之ヲ論
スルコトトシ茲ニハ專ラ林業ニ依リ經營スヘキ區域ニ付述ヘム
(4)煙地
煙害地ニ屬スル面積約四千町步ノ土地ハ全ク林業上ノ經營ヲ以テ林相ノ回
復ヲ圖ラサルヘカラス此ノ區域モ亦多少ノ煙害ヲ免レスト雖樹種ノ選擇其
ノ宜シキヲ得且苗木養生ヨリ植栽手入ニ至ル迄注意周到ナルニ於テハ能ク
林相ヲ回復シテ將來林業ヲ營ムコト難シトセサルナリ
此ノ區域ニ於テ造林スヘキ樹種ハみづなら、たほならヲ主トシ次テひのき、
さはら、はうのき、さはぐるみ、しほぢ、やまざくら、こなら、いてふ等
其ノ地形位置地質ニ應シテ採用スヘク高地又ハ北面寒風ノ襲フ所ニハひの
き、さはらヲ避ケ可成たほなら、みづなら、かしはヲ用井地力ノ荒廢甚シ
キ所ニハ之ニさいかちヲ加フルモ可ナリ
猶實際ノ造林ニ際シテハ地勢地質氣候等ニ徵シ適當ナル樹種ノ繁殖ヲ圖ラ
サルヘカラス殊ニ天然生ノ雜木密生セル地ニ於テハ適宜ノ洗伐ヲ施シテ不
良樹種ヲ除キ以テ良樹種ノ成長ヲ助ケ其ノ不足セル所ニハ前記樹種ノ內ヨ
リ適宜補植ヲナシ成ルヘク天然生ヲ利用シテ成林セシムルヲ可トス
明治三十年ノ豫防命令ニ基ク植樹ニハ此ノ區域中ニ赤松、落葉松、杉等ヲ
用井タリト雖採用スヘキ樹種ニアラス此ノ區域ニ屬スル字野宿、字社山、
字利根倉、字永橋、字あそう澤、字上向、字下向及字井戶澤ニ於テ明治三
十一年度扁柏ノ植栽地約百八十町步アリ其ノ成績甚不結果ニシテ五割乃至
九割ノ枯損ヲ見ルニ至レリ之レ該方面ハ煙害ノ衝路ニ常リ林業上ニ於テハ
此ノ區域中ノ難所ト謂フヘキ場所ナルニ因ル故ニ是等ハ將來みずなら、た
ほなら、かしは等ノ濶葉樹ヲ補植スルヲ要ス
( )煙害地區域外
煙害地區域外ニ屬スル字小房子、字畑ノ澤及字今倉澤ニ於テ明治三十二年
度ひのきノ新植地約三百六十町步アリ其ノ成績甚不良ナリ此等ノ場所ハ海
面上ノ高四千尺以上ニシテ冬期ノ溫度甚低クひのきノ耐ユヘキ所ニアラス
宜シク耐寒性ノからまつヲ以テ補植スヘシ
明治三十年豫防命令ノ際官林ニ編入セラレタル土地ニシテ當時全ク植樹ノ
設計外ニ屬シタルモノアリ其ノ内面積約五十町步ハ樹木ノ植栽ニ適シ毫モ
鄰接ノ森林地ト區別シテ特殊ノ取扱ヲ爲スヘキ理由アルヲ發見セス故ニ新
ニ植樹スルヲ可トス而シテ高地ナルヲ以テ樹種ハからまつヲ採用スヘシ
以上(イ)及(ロ)ニ揭クルモノノ外國有林約百八十二町步私有林野約五百町
步ハ後來野火ノ害ニ罹ルコトナクムハ數十年ノ後ニハ天然生雜木林ノ成立
ヲ見ルヘキコト疑ナシト雖野火ノ虞多キ所ナルヲ以テ速ニ適當ノ樹種ヲ選
擇シテ植樹ヲ行フヘシ
二野火ノ豫防
防火線ノ設備アルニ拘ラス尙野火ノ害ヲ絕ツコト能ハサルモノハ他ニ原因
ナカルヘカラス或ハ其延燒ハ防火線内ノ燃燒物例ハ雜草小柴ノ刈除ヲ怠リ
シニ因ルモノ無キニアラスト雖モ其主因ハ之ヲ地方人民及鑛業夫等ノ惡習
慣ニ歸セサルヘカラス蓋足尾地方ハ耕地甚少クシテ食料ノ野菜ヲ得ルニ困
難ナルヲ以テ地方細民及鑛業夫等ガわらび、うど等ノ副食物ヲ得ムカ爲メ
又ハ牛馬ノ飼養ニ要スル生草等ヲ得ムカ爲故ラニ火ヲ草山若ハ幼穉ノ雜木
林ニ放テ此等〓物ノ發生ヲ促サントスルニ由ルナリ之ヲ以テ火災ニ罹ルハ
事業ノ行屆キタル人造ノ良林ニ少クシテ未立木ノ草山又ハ天生セル雜木林
ニ多シ、野火豫防ニ付テハ種々ノ方面ニ注意スルノ必要アリト雖モ先ツ放
火ノ惡習慣ヲ廢絕スルニ勗メサルヘカラス森林警察上林野ノ巡視ヲ周到ニ
シテ犯者ノ逮捕ニ勗ムルカ如キモ素ヨリ有效ナルヘシト雖森林ノ保護ヲ町
村又ハ其ノ一部ニ委託スル等ノ方法ニ依リ地方人民ヲシテ森林ヲ愛護スル
ノ情ヲ起サシムル如キハ最モ必要ノコトナルヘシ
三砂防工事
砂防工事ハ煙害ノ區域ニ依リ其ノ施設ヲ異ニセサルヘカラス左ニ之ヲ述へ
ム
(4)煙害裸地
煙害裸地ニ屬スル本山鑛業所附近約八十五町步ノ區域ニハ全然植物ノ生育
ヲ斷念セサルヘカラス唯土砂岩石ノ流出墜落ヲ扞止シ地盤ヲ保維スルヲ以
テ足レリトスヘシ
( 크)煙害激甚地
煙害激甚地ニ屬スル約五百町步ノ土地モ現狀ニ於テハ普通ノ林業ヲ施行ス
ルニ由ナク主トシテ砂防工事ヲ施シ唯其ノ補助トシテ適當ナル植物ノ生育
ヲ圖リ以テ漸ク地力ヲ回復セサルヘカラス此ノ區域ニ生育セシムヘキ植物
ハ煙害ノミナラス瘠惡ナル土地ニ耐フルモノナラサルヘカラス故ニ針葉樹
ハ到底生育ノ見込ナキヲ以テ濶葉樹灌木若ハ草類中ヨリ之ヲ選定スルヲ要
ス
其樹種ハやまさくら、たほなら、みづなら、さいかちヲ主トシテ荒廢甚シ
キ所ニハ更ニ笹類、だうだん、りようぶ、あぶらちやん、はしばみ類やし
やぶし、くさぎ、こくさぎ、にはとこ、いぬつげ等ノ內其ノ地方附近ノ林
野ヨリ容易ニ移植シ得ラルヘキ灌木又ハ半喬木ヲ混植シ或ハ又早ク地表ヲ
被覆シテ土砂ヲ扞止シ主要林木ノ發育ヲ完全ナラシメンカ爲ニ茅類、いた
どり、ははきぐさ、あかざ、たで、ひね次テちやんぱぎく、やまうど、よ
もぎ類等ヲ便宜根株稚苗又ハ種子ニヨリテ繁殖セシムヘシ
小瀧方面ハ向後煙害ノ虞無キヲ以テ普通砂防工ノ原則ニ依リ專荒廢地ニ適
スル植物ヲ選定シテ可ナリ卽林木トシテハあかまつ、ひのきヲ主トシ荒廢
甚キ所ニハはげしばり、ねむ、さいかち、にせあかちや等ヲ用ヒ溫暖ナル
低地ニハくろまつを用フヘシ
（ハ） 煙害地及煙害區域外ノ土地
此ノ兩區域内ノ林野ハ專ラ林業ヲ經營スヘキ部分ナルヲ以テ其ノ林相復舊
ハ主トシテ造林ニ依ルヘキモノナリ然レトモ此ノ區域内ニモ林野ノ地盤ヲ
固定スル爲砂防工事ノ施行ヲ必要トスヘキ箇所尠カラス
四保安林ノ編入
明治三十年豫防命令ニ依リ許多ノ保安林ヲ設定シタリト雖猶不穩當ト認ム
ル點アルヲ以テ左ニ之ヲ述ヘム
（イ）私有ノ保安林中平坦地又ハ緩斜地ニシテ直接土砂扞止ニ關係尠キ場
所約百八十町步ハ伐木ノ禁止ヲ解キ適當ノ作業方法ヲ指定シテ人民ノ植林
思想ヲ發揚セシムヘシ
（ロ）松木及久藏方面ノ全體及字丸石大屈等ノ荒廢地ヲ併セ約三千九百四十
町步ノ國有林野ハ之ヲ保安林ニ編入シ伐木ヲ禁止スヘシ
（ハ）一私有林野中土石崩壞ノ虞アル場所約二十七町步ハ之ヲ保安林ニ編入
シ伐木ヲ禁止スヘシ
第二 渡良瀨川流域ニ屬スル林野ノ經營
渡良瀨川流域ハ約百五十方里ノ廣大ナル面積ヲ有ス內足尾方面ヲ除キ森林
面積ノ步合ヲ調査スルニ林野約六割耕地其ノ他約四割ヲ占ム而シテ林野ニ
付立木ノ有無ヲ調查スルニ本川流域ニ在リテハ林野面積ノ一割丑分思川流
域ニ在リテハ其ノ一割一分無立木地ナリトス而シテ其ノ立木地ト稱スルモ
ノト雖疎惡ナル林相ノモノ大部分ヲ占メ良好ナル針葉樹林ハ極メテ尠シ故
ニ此ノ區域ニ於テモ森林ノ經營ハ必要ナリトス
第三節 治水事業
渡良瀨川ハ源ヲ栃木縣上都賀郡大嶽山ニ發シ大小支川二十九流ヲ合セ茨
城縣猿島郡新〓村字中田新田ニ至リ利根川ニ合ス流路約二十七里流域ハ栃
木、群馬、茨城、埼玉ノ四縣ニ跨リ其ノ面積約百五十餘方里アリ
本川ハ水源ヨリ群馬縣大間々町ニ至ルノ間〓溪谷ノ間ヲ流レ水面勾配頗急
峻ナリ大間々町附近ニ於テ初メテ山地部ヲ離ル平地部ニ入ル勾配モ漸次急
峻ノ度ヲ減ス下テ足利町附近ニ至レハ河身屈曲甚シク河幅亦大ナリ而シテ
夫レヨリ下ルコト數町毛野村岩井附近ニ至リ河幅頓ニ狹隘トナリ恰モ全川
ノ咽喉ヲ扼スルノ狀ヲ呈ス而シテ此ノ狭窄部ヲ過クルト同時ニ河狀ハ一變
シ水面勾配モ著シク緩トナリ利根川合流附近ニ至リテハ僅ニ〇、〇〇〇二八
ノ上ニ出テス之ヲ利根川筋飯野中田間(卽渡良瀨川合流點ノ前後)ノ勾配〇、
〇〇〇三五ニ比スレハ合流附近ニ於テ渡良瀨川反テ利根川ヨリモ緩ナリ之
レ渡良瀨川治水ニ一大障碍ヲ與フルモノニシテ洪水每ニ渡良瀨川ノ水ハ其ノ
合流附近ニ停滯シ其ノ結果河水氾濫堤防決壞屢、水害ノ逞キヲ見ル所以ナリ」
利根、渡良瀨、思三川ノ出水關係ヲ案スルニ地質粗鬆ノ度山野配置ノ勢ヨ
リ考フルトキハ渡良瀨川先ツ出水シ思川、利根川之ニ次クヲ順序トス然レ
トモ雨量風向ノ不同河底傾斜ノ緩急等ニ依リテ大ナル影響ヲ受ケ其ノ出
水ノ順序必シモ一定セス或ハ利根川先ツ出水シテ渡良瀨川之ニ次クコトア
リ或ハ三川同時ニ出水スルコトアリ且洪水每ニ必破堤浸水ノ伴ハサルコト
ナキヲ以テ合流附近ニ於ケル此等三川ノ影響ハ獨立ニ考フルコト素ヨリ至
難ノ業トス今渡良瀨川筋福富ニ於ケル最高水位二十三尺ニ對スル流量每秒
約九万立方尺及思川筋楢木ニ於ケル最高水位十九尺四寸ニ對スル流量每秒
約五万立方尺ヲシテ其ノ流量曲線ノ狀態ノ變スルコトナク流下シテ飯野ニ
於ケル利根川ノ流量ト中田ニ相會セシムルモノトシ而シテ利根川ノ既定計
晝ヲ危害ナカラシメムトセハ勢ヒ渡良瀨川流量ノ一部ヲ一時遊水セシメ本
川ノ減水スルヲ俟チテ徐ロニ之ヲ排出シ去ルノ策ヲ講セサルヘカラス假ニ
遊水池ノ深ヲ平均十尺トスルトキハ之ニ要スル全面積ハ二千八百町步乃至
三千百町步トス此ノ遊水池ヲ設クル外河身改修工事ヲ施行シ河幅ヲ整理シ
河身屈曲ノ度ヲ緩ニシ又護岸工ヲ施シ治水上ニ支障ナキ所ニハ堤防ヲ新設
修補スルヲ要ス其ノ詳細ナル設計及工費等ニ付テハ更ニ精密ナル調查ヲ遂
ケサルヘカラス
以上ノ調査ハ渡良瀨川下流現狀ニ於ケル出水量ヲ基礎トシテ爲セルモノナ
リ、該川現狀ニ就テ見ルニ上流ニ於ケル所謂鑛毒激甚地タル堤外地及無堤
地ハ出水アル每ニ常ニ其氾濫スル所トナリ天然ノ遊水池タル作用ヲ爲スモ
ノナルヲ以テ新ニ堤防等ヲ築造シ其ノ氾濫ヲ防止セムトセハ此ノ積勢ハ何
處ニ於テ破裂スルヤ豫メ期スヘカラスシテ而カモ其ノ街ニ於テ更ニ深大ナ
ル慘害ヲ來スヘキヲ以テ之ヲ遊水池ト爲シ置クヲ必要ト認ム
第四節灌漑水ノ除害
渡良瀨河水ノ氾濫ヨリ來ル被害救治ノ方法ハ旣ニ之ヲ述ヘタルヲ以テ茲ニ
ハ其ノ引用ニ基ク被害救治ノ方法ヲ述ヘム
第水量制限
銅分ハ灌漑水ニ依リ輸致セラルルモノナルヲ以テ其ノ水量ノ制限ハ被害ヲ
輕減スルノ一策タルヘシ渡良瀨沿岸耕地ノ實況ヲ見ルニ灌漑水其ノ必要量
ヲ超過スルコト甚シキヲ以テ須ラク之ヲ制限スヘシ
第二取入口
渡良瀨川沿岸用水路ノ多クハ流量ヲ節制スル樋門ヲ備ヘス偶、之ヲ備フル
モ充分ニ流量ヲ節制スル能ハス故ニ常時徒ニ多大ノ水量ヲ流入セシメ有害
物ノ耕地ニ浸入スル勢ヲ助長シ出水ノ際ハ有害物ニ富ム濁流ラシテ放ニ耕
地ニ浸入スルヲ得セシム之レ灌漑水ヨリ來ル被害程度ヲ今日ノ如ク劇甚ナ
ラシメタル所以ナリ故ニ取入口ヲ改良シ平時必要ノ水ヲ限リテ之ヲ流過セ
シメ增水ノ際ハ其ノ濁流ヲシテ用水路ニ入ル能ハサラシメハ將來灌漑水ヨ
リ來ル害ハ大ニ之ヲ輕減スルヲ得ヘシ
第三沈澱設備
渡良瀨河水ノ有害物ハ主トシテ浮游物中ニ存ス故ニ灌漑水ヲ耕地ニ分配ス
ル以前ニ於テ一時滯溜セシメ之ヲ沈澱セシムルトキハ大ニ其ノ害ヲ輕減ス
ルヲ得ヘシ其ノ方法左ノ如シ
各用水元口ニ適當ナル沈澱設備ヲ爲シ先ツ土砂ノ大部分ヲ沈澱セシム
地面に
二水田各區ノ水口ニ於テ適當ナル沈澱設備ヲ爲シ地形ニ應シ畦畔ノ內側
ニ沿ヒ迂回セル溝路ヲ經テ本田ニ注入セシムルコト
三溝路畦畔其ノ他ニ於テ既ニ存在スル含銅土砂ヲ再ヒ流失ノ虞ナキ適當
ノ場所ニ移スコト
第五節被害地農事ノ改良
被害地農事ノ改良トシテハ各人ノ自營ト當局者ノ誘導奬勵トニ依リ左記事
項ノ實施ヲ必要ト認ム
第農作地ニ石灰ヲ施用スルコト
石灰ハ銅分ノ有害作用ヲ緩和スルヲ以テ之カ施用ハ鑛毒除害ニ頗有效ナル
モノトス其ノ用量ハ土性及土壤中ノ銅分ニ依リ異ルヘキモ二箇年目ニ一段
步五十貫目乃至百頁目ノ割合ヲ以テスルヲ適當トス然レトモ亦其ノ多量ニ
過クルハ害アッテ利ナキヲ以テ其ノ弊ニ陷ラサルニ注意シ又有機質肥料ノ
共用ヲ勗ムヘシ
第二桑園ヲ改良スルコト
從來ノ根刈及中刈仕立ヲ廢シ高刈又ハ高木仕立ト爲スヘシ而シテ之ヲ行フ
ニハ從來生育セル桑樹中强壯ナルモノ一段步約百株ヲ選ミ前記ノ仕立方ニ
栽培シ其ノ成長スルニ從ヒ順次他ノ桑樹ヲ除去スルヲ可トス又深ク株際ノ
表土ヲ堀リ腐熟セル厩肥等ヲ與ヘ桑樹ノ營養ヲ充分ナラシムヘシ
桑園ヲ新設スルニ當リテハ靑木、十文字、魯桑ノ三年苗ヲ畦幅約二間株間
九尺ニ植ヘ前記ノ仕立方ニ栽培スルヲ可トス
第三適當ナル作物ヲ栽培スルこ〓p·
作物ノ種類ニ依リ銅分ノ感應同シカラサルハ勿論土質地形等ニ依リ適否ア
ルヲ以テ各地ニ就キ適當ナル作物ヲ栽培スルヲ計ルヘシ而シテ到底農作ニ
適セサル地ニハ行李柳、櫟其ノ他深根性ノ樹木ノ植付クルヲ可トス
第四含銅土壤ノ捨場ヲ設クルコト
土地改良トシテ耕地ニ於ケル含銅土壤ノ除却ヲ要スルコトアルヘク又灌漑
水ノ除害ノ爲溝路畦畔等ニ存スル含銅土砂ノ再耕地ニ侵入スルコトナカラ
シムル爲一定ノ捨場ヲ設クヘシ
第五試作場ヲ設クルコト
被害地ノ地勢及土質ハ固ヨリ區々タリ被害ノ程度亦同シカラス故ニ適當ノ
試作場ヲ設ケ土地ノ改良方法ヲ講シ各地ニ適スル作物ノ選定耕作法ノ〓究
等常ニ農事改良ノ指導タラシムヘシ
第六節渡良川沿岸被害地地價修正
前數節ニ述ヘタル諸種ノ方法ヲ實施スルトキハ將來ニ於テハ所謂鑛毒ノ害
ハ之ヲ防止スルヲ得ヘシト雖渡良瀨川沿岸農作地ニシテ其ノ土壤變質シ生
產力減殺セラレタルモノニ付テハ此ノ際被害ノ程度ニ應シ地價ヲ修正スル
ハ蓋シ至當ノ處置ナリト認ム発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/125
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126・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 是ヨリ午前ニ引續イテ會議ヲ開キマス
〔子爵谷干城君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/126
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127・谷干城
○子爵谷干城君 諸君、唯今議題ニナッテ居リマスル財政ニ關スル建議ト云フ
モノハ、篤ト拜見ヲ致シマスルト、ドウモ本員ナドハ誠ニ受取リ兼ネルコトガ
アル、デ曾我子爵ハ從來私ナドノ政友デアリマスルガ、主意ハ大變賛成ノヤウ
ニ御說キニナリマシタガ私ハ少シ又ソレトハ意見ガ違ウテ、大體ニ於テ如何
ト思フカラ、ドウモ贊成ヲスル譯ニイキマセヌ、又提出者ノ總代トシテ黑田侯
爵ノ述ベラレマシタ結末ニ、若シ是ニシテ政府ガ省ミネバ次ノ議會ニハ大ニ
決スル所ガアルト云フ御結論デゴザイマシタガ、此事ハ誠ニ私ハ御同感デア
ル、ソレデ先ヅ其大體ニ付テ御不同意ヲ申ス所ヲ述ベヤウト思ヒマス、ソレヨ
リ大體ノ自分ノ意見ヲ申上ゲマス、デ此建議案ト云フモノハ是マデ始終借錢
政略デ、公債ヲ募ッテハ事業ヲシテ行クト云フ、誠ニ我〓ガ高利貸カラ金ヲ借ッ
テソレデ今日ヲ凌イデ行クト云フヤウナ有樣ノ譯デ、ドウモ甚ダ不都合デア
ルト、先ヅソレヨリハ此財政ノ整理ノ付クマデハ溫カナ著物モ二枚著ルモノ
ナラ一枚ニ減ズルトカ食フ物モマヅイ物ヲ食ッテ耐ヘルトカ云フ方デ成ルタ
ケ節儉ヲ耐ヘテヤラウ、ソレデ公債ノ今マデヤリ居ッタモノヲ止メテ仕舞フガ
宜イト云フ御主意デ、其點ハ我〓ノ希望スルノミナラズ、政府ハ最モ希望ス
ル、最モ希望スル譯デアルケレドモ、屢、大藏大臣ノ申サレタル通リ所謂已ム
ヲ得ヌ、始終比議場へ出テノ御答辯ハ已ムヲ得ヌ、已ムヲ得ヌト云フコトガ
屢〓アル、ソレデ海軍擴張ニ付テハドウシテモ外ニ財源ガ無イカラ、ソレ故巳
ムヲ得ズ地租案ヲ出シタ譯デ、所ガ地租案ヲ出シテ見タ所ガ、喜ンデドコロ
デハナイ已ムヲ得ズ出シテ見タケレドモ、併ナガラ衆議院ノ多數ガ之ヲ容レ
ラレナイデ解散ニナッタ、ソレデ今度解散ヲシタカラ政府ノ意見ヲ賛成スル議
員ガ澤山出ルダラウカト思ウテ見タ所ガ、衆議院ノ景況ト云フモノハ矢張リ
舊ニ依ッテ大反對ノ譯デアル、ソコデ已ムヲ得ズ之ヲ又撤回シタノデアル、前
議會ノ時ニ公言ヲシテ公債政略ハ止メル、斯ウ云フコトヲ言ウタノデアル、
ソレハ決シテ言ハヌデハナイ、言ウタノデアル、ケレドモ已ムヲ得ズ公債政
略ヲ取ッタノデアル、決シテ是ハ政府ガ出來ルニ、セラレヌト云フノデハナイ、
萬已ムヲ得ヌカラ斯ウスルト云フ、私ナドハ全體ノ事ニ付テ甚ダ不同意デハ
アルケレドモ、併ナガラ今日政府ガ已ムヲ得スト言ハルルコトハ如何ニモ已
ムヲ得ヌト思フ、デソレニモ拘ラズ此建議案ノ何ヲ見マスルト、已ムヲ得ヌ
デモヤレト斯ウ仰シャルナラバ筋ガ立ツノデ所ガ「萬己ムヲ得サルノ場合ヲ
除クノ外」ト云フト、斯ウスルト政府ノ御注文通リノ事デ、是ハ政府ハ萬已ム
ヲ得ヌカラ此通リノ事ヲヤッテ居ル、萬已ムヲ得ズシテ出シテ斯ウ云フ政略ニ
ナッテ居ルモノヲ、又コチラカラ建議ヲナサル、萬已ムヲ得イデモ止メイト云
フコトナレバ分ルケレドモ、萬已ムヲ得ヌ時ニハヤレト、斯ウ云フトチャント
政府ノ注文通リデ、何ノ事ヤラ私ドモニハ道理ガ分ラヌ、ソコノ所ニ付テハ、
ドウゾアトデ御辯明ヲ願ヒタイ、ソレカラモウ一ツ此案ニ付テ私ガ不同意ト
思フ所ガアル、公債募集、此公債募集ト云フモノハ何モ政府ノ······或ハ聖上
ノ大權ニ屬スル事柄デモナイ、公債ヲ募ラセルモ募ラセマイモ、公債政略ヲヤ
ラセルノモヤラセナイノモ議會ガ斷ジテ否決シテ仕舞ウタラ政府ハ止メル
ヨリ外ニ仕方ガナイ、是ハ全ク議院ノ權能ニ在ル譯デアル、其公債政略マデ
モドウゾ止メテ貰ヒタイト云フコトハ殆ド貴族院議員トシテ其議院ノ權能ヲ
放擲シテ自ラ無イモノト認メル譯ニナラウト思ヒマスル、是等ハ私ハ能ク御
考ニナラヌト不都合ナコトニナリハセヌカト思ヒマス、是等ハ曾我君ハ半分
御同意ナヤウナ御意見ガアリマシタニ拘ラズ私ハ絕對ニ斯ウ云フ建議案ハ議
院ノ權能ヲ放擲スルモノト思フカラ宜シクナイト思フ、ソレデドウカ是ハ百
二三十名ノ御連名ノコトデ尤モ通過スルニハ相違アリマセヌガ、ソコラノ所
ヲ能ク御考ニナッテドウカ委員附託ニデモナリマスルカ、尙ホ黑田侯爵ノ申サ
レタヤウニ暮ノ議會ニマデ御延シナサッタル方ガ宜クハナイカト思ヒマス
又私ノ意見デハ全體此政府ヘ建議ヲナサルルト云フコトハドウデアラウカ、
私ナドハ別ニ一種ノ考ヲ持ッテ居ル、ソレデ大體ノ所ハ今申ス通リ公債募集ナ
ドハ、サセウトサスマイト貴族院議員タル者ノ權能ニ在ルコンナコトマデ政
府ニ建議ヲシテハ貴族院ノ體面ニ係ルト云フノハ是ハ御考ナサレタイト云フ
ノガ一ツ、ソレト公債ガ惡イカラ適當ノ財源ヲ認メテ斷然公債ヲ止メイト仰
シヤッタラ理窟ガ立チマスガ、萬已ムヲ得ヌトキニハ······此萬已ムヲ得ヌトキ
ニハ募レト云フノハ政府ノ云フ通リノコトデ別ニ建言ヲナサルルダケノ價値
ハ無イ、一モ價値ガ無イト私共ハ考ヘル斯ウ云フ憚リナガラ建議案ガ多數デ
通ッタト云フコトニナリマスルトデス、實ニ貴族院ノ價値ニ關係シマスカラ是
ハドウゾ······此二點デ御再考ヲ仰ギタイト思フ、ソレカラ先刻板倉子爵ヨリ、
ソレナラバオ前方ニハ何カ考ガアルカト云フ御質問ガ出タ、其時ニ草案デモ
アルカト云フヤウナコトノ御尋モアリマシタガ、曾我君カラソレハ同志ノ中
ニ持ッテ居ル人ガアラウト云フ御話デアッタ卽チ私ハ玆ニ其草案ヲ持ッテ居ル、
實ハ自分ナドハ大ニ考ヘル所ガアリマシテ、諸君ニ御賛成ヲ得タイト云フ考
デアリマシタケレドモ、如何セン此今出テ居リマスル建議案ト云フモノニ多
數ノ御人數ガ見エテ居ル、是ヘ以テ私ドモノ意見ヲ差出シタ所ガ到底行ハレ
ナイト云フヤウナコトカラシテ實ハ已ムヲ得ズ控ヘテ居ル、ソレデ若シ御許
シニナルナラバ卽チ此私ドモノ意見ハ茲ニ持ッテ居ルカラソレヲ讀ンデモ宜
シイ、又賛成者モ實ハ出來テ居リマスルカラ之ヲ御考ヘナサレテデス、今出
テ居ルノヲ御考ヘナサレテ議會モ今一日アリマスルカラ、ソレデ御同意ナサ
ルルト云フコトニナレバ私ドモハ實ニ今此席デモ提出スルコトハ出來ルノデ
アル、ソレデ上奏案ノ草稿モ出來テ居リマスルカラ若シ御聽キナサルコトヲ
希望シテ御許シナサルナラ私ハ茲デ朗讀スルコトモ出來マス
〔男爵伊達宗敦君「朗讀ヲ希望シマス」ト述フ〕
ガ、併シ私ノ此案ニ付キマシテ御同意ガ出來ズ、又一ツ斯ウ云フ意見ヲ懷イ
テ居ルカラドウゾ是ハ今御出シニナッタガヲ御考ヘニナッテ私ドモノ意見へ御
賛同ヲ仰ギタイト云フ其主意ヲ述べマス、デ實ニ今日ノ有樣ト云フモノハ私
ハ單ニ現政府ヲ御責メ申スデハナイ、前々ノ政府カラ段々茲ニ因襲シテ居ル
困難デアル、ソレデ此有樣デハ何人ガ此局ニ當ッテモ矢張リ無責任ノ事ヲ言ッ
テ逃ゲルヨリ他ニ仕方ガ無イ、デ此現政府ノ御方〓ノ前年ノ議會ニハ公債政
略ヲ止メタイト云ヒ、今年ハ又公債政略ヲ採ルト云フ、ソレカラシテ前ニハ
地租ノ案ヲ出シテ今日ハ又已ムヲ得ズ之ヲ引イタ、誠ニ是ハ無責任ノヤウニ
ハアルケレドモ靜ニ能ク日本ノ情況ヲ御考ヘニナッタラ如何デアルカ、丁度此
我〓ドモガ貧乏世帶ヲ引受ケテ、其所デ金ヲ借リ此所デ金ヲ借リ、或ハ其所
ヘモ拂ハニャナラヌ金ガアル、此所ヘモ拂ハネバナラヌ金ガアル、一方デハソ
レヲ拵ヘロ、之ヲ拵ヘテ吳レト云フヤウニ種々ナ注文ガ來ル、斯ウ云フ有樣
デアルカラシテハ誰ガ局ニ當ッテモ滿足ニヤッテ行クコトハ出來ヌ、ソレデ大
抵此議會ト政府トノ衝突ハ何ヨリ來ルカト云フト、卽チ此財政ノコト、家
ノ家ニ例ヘテ見レバ貧乏世帶ヲ見タヤウナモノデ、イヤ飯ノ食ハセヤウガ少
イトカ、小遣ノ渡シヤウカ少イト云ッテ兄弟喧嘩ヲスルノト同ジヤウナ理窟デ
アル、ソレデ一家ノ中デモ此口舌ヲ根本的ニ絕ヤサウトスレバ餘程斷然タル
改革ヲシテ眞ニ一家協同シテカラニ儉約ヲスルト云フコトニナラナケレバソ
レハ出來ナイ、ソレト今日ノ國家モ同ジコトデアラウト思フ、總テ議會ノ爲
ニ恐レナガラ叡慮ヲ煩ハシ奉ルト云フコトハ幾タビトアリマセヌ、又貴族
院ニ於テモ卽チ前ノ伊藤内閣ノ時分ニ北支那ノ戰爭ノコトニ付テ增稅ヲ出シ
タ、之ニ付テ又反對ヲシテ遂ニ恐レナガラ叡慮ヲ煩ハシ奉ルト云フコトニ
ナッタノモ諸君ノ御記憶ノ通リデアル、是モ矢張リ其原因ハ何カト申セバ貧乏
世帶カラノコトデアル、總テ此色〓ノ弊害色〓ノ困難ガアリマスケレドモ要
スルニ其ノ根原タル所ハ財政ノ困難卽チ貧乏ノ爲ノ口舌ガ元ニナッテ居ル、是
モ實ニ無理ナラヌ話デ、ナゼカト申スニ明治二十七八年ノ戰爭以前ニアリマ
シテハ歲入ハ僅ニ八九千万圓デアリマシタ、ソレデモカツ〓〓國政ヲ料理
シテサウシテ年々六七百万圓ホドハ國庫ニ餘ッタ、デ此ノ時分マテノ人心ト
云フモノハドウデアッタカト云フト官民共ニ矢張リ其分ヲ知ッタノデアル、其
分ヲ知ッテ皆儉約ヲシテ正直ニヤッタノデアリマス、ソレ故ニ東學黨ノ起ッタ時
分ニ遂ニ日本ヨリモ兵ヲ出サヌナラヌコトノアリマシタトキニ國庫ノ蓄積ハ
積ンデ二三千万圓ホドノ高ニナッテ居リマシタ、ソレ故ニ先以テ其急ニ應ジテ
兵ヲ出スコトガ出來タノデアリマス、ソレヨリ引續イテ遂ニ支那トノ大戰爭
ト云フコトニナリマシテ公債ヲ募ルニ至リマシタトキニ一億ト云フ隨分日本
カラ云ヘバ巨額ノ公債デアリマス、ソレニモ拘ラズ其ノ一億ノ公債ヲ募ル目
的ヲ達シテ尙ホ餘リガアリマシテゴザイマスデ是ハドウ云フ譯カト言ウテ
見ルト、畢竟當時ノ國家ノ財政ト云フモノハ無法ニ取ッテ取ッテ取盡クスト云
フコトガシテナイ、國ノ······所謂日本國全體ノ富ノ力ト稍、相當シテ居ッタト
私ナドハ認メル、又其時分マデハ國民モ公債ニ應ズルコトガ出來ル程ノ譯デ
アリマスカラシテハ皆多少ノ餘裕ガアッタノデアリマス、其時分マデハ又官吏
ニ於キマシテモ今日ノ如キ有樣ニアラズシテ餘程勤儉愼密ニ職務ヲ勤メタト
私ハ信ジマス又國民モ此時分マデハ隨分質素ニシテ奢侈傲慢ノヤウナ風ハ
今日ニ較ブレバ餘程少カッタ、ソレデ段々統計ヲ調ベテ見マスト殊ニ此戰爭當
時ノ輸出入ノ所ヲ調ベテ見ルニ、明治二十八年ニハ戰爭ガアッテ內モ隨分混雜
ヲシテ居ルニ拘ラズ、皆質素勤勉ヲシマシタ結果トシテ、此當時ハ爾來超
過スルニ拘ラズ輸出ハ輸入ニ超過シテ······空デハ覺エテ居リマセヌガ、何デ
モ五百万圓ホド交易上ノ利益ガコチラニ立ッテ居ル、ソレカラ以來ト云フモノ
ハ年々歲々輸入ガ超過シテ輸出ノ負ケテ居ルコトハ皆サンノ御承知ノ通リデ
アル、デ右申ス通リ僅ニ七八千万圓ノ歲入デアリナガラ二三千万ノ貯モ出來
テ居リ、且又一億ト云フ巨額ノ公債ヲ募リマシテ、ソレデ以テ此諸般ノ軍備
費ヲ辨ジテ參ッタ、ガ此時分マデハマダ人ガ餘程正直ニアッタト見エルハ、費用
ハ存外······豫算ヲ見マスルト割ニ少クシテカラニサウシテ其功ハ實ニ世界ヲ
驚カス程ノ大功ヲ立テタノデアリマス、是等ハ獨リ軍隊ノ忠勇ナルノミナラ
ズ自ラ此人民······官吏ハ固ヨリ人民マデ親切ニ事ニ從ウテ、今日ノ如キ浮薄
ニシテ大切ナ民ノ膏血ヨリ得タ所ノ費用ヲ湯水ノ如クニ使フ如キコトハセザ
ッタノデアリマス、其證據デアリマス、然ルニ戰㨗後ノ情況ハドウカト言ウテ
見マスト、全ク之ニ反シマシテ上ハ官吏ヨリ下ハ國民ニ至ルマデ勤儉忠實ノ
風ト云フモノハ漸ク緩ミ衰へ、次第ニ奢侈ニナリ次第ニ傲岸ニナリ忽チ大國
ニナッタヤウナ積リニ、誰モ彼モエライ顏ヲスルヤウニナッテ、早ヤ梅ケ谷デモ
取ツカマヘテカラニ投倒サウト云フヤウナ有樣ニ見エル、デ少シモ國力ノ如
何ハ顧ミヌ、サウ云フ有樣デアリマスルカラシテ支那ヨリ得タ所ノ巨額ノ償
金ト云フモノハ僅々三四年間ニ悉ク蕩盡シテシマッタ、固ヨリ或點カラ言ヒマ
スレバ大部分ハ軍艦ニナッタカラシテ誠ニ國威ハ增シタヤウニアリマスルケ
レドモ、併ナガラ國ノ國力卽チ生產力ヲ助ケタコトニ至ッテハ誠ニ僅々ナモノ
ト思フ、ソレ故ニ此起シタ所ノ新事業ト云フモノハ何事ニ依ラズ半途ニシテ
資力ノ缺乏ヲ來タスト云フコトニナッタ、殊ニ其大ナルモノハ彼ノ枝光ノ製鐵
所ノ如キモマダ是カラドレホド金ガ掛カルモ知レナイ、又人民ノ事業ニ於キ
マシテモ我〓絕對ニ反對ヲシマシタ此大阪築港ノ如キモノモガラリト豫算ガ
違ッテ非常ナ巨額ニ上ッテマダ是ガ出來ナイ、卽チ是ハ新事業ノ半途ニシテ金
ガ無クナッテ總テ是ハ日本人マルデ狂人ニナッタト云フト同ジコトニナッテ居
ル、ソレデ凡ソ國力ノ發達ト云フモノヲ知リマスルニハドウカト考ヘテ見マ
スルト國力ノ發達ヲ證スルニハ稅率ヲ增シ稅目ヲ殖サズ國民ノ力ガ次第ニ發
達シテカラニ來マスレバ自然ト國庫ヘ納マル所ノ收入ガ餘計ニナル、ソレデ
今ノ日本ノ有樣ト云フモノハ之ニ反シテ僅々數年ノ間ニ於キマシテ稅率ヲ高
メ又稅目ヲ增加シ殆ト取ルベキモノハ數ヘテ取ッテ仕舞ッテ居ル是カラマダ
足ラヌカラシテ何カ見付ケ出シテ使ハウト云フ譯デアル、五六年ノ間ニ年々
稅率ヲ增シ稅目ヲ加ヘルト云フ國ハ何レノ國ニアリマスルカ、實ニ驚イタ譯
デアル、ソレデ日本ノ憲法ニ於キマシテハ誠ニ此遲ク出來タモノデアリマス
ルカラシテ、先進ノ歐羅巴各國ノ先生ニ聞イテサウシテ決シテ解散ヲスルト
カ云フヤウナ憂ハ成ルタケ避ケ得ルヤウニ拵ヘテアル、ソレハ卽チ此憲法ノ
會計ト云フ所ニ於キマシテ、チヤント前年度ノ豫算ニ據ル七十二條デアリマ
シタカ前年度ノ豫算ニ據ルト云フコトガアッテ、サウシテ不時ニ出來タコトハ
豫備金デ支出シテ行ク、斯ウ云フヤウニナッテ居ルカラ決シテ支ヘハナイ筈
デアル、ケレドモ歐羅巴ノ有樣ハ今申ス通リ其樣ニ年々ドン〓〓ドン〓〓增
シテ行クト云フコトハナイカラ彼先生等ノ忠告ニ據ッテ出來タ憲法デアリマ
スケレドモ、サウ年々歲々使フ所ガ殖エル、ソコデサウ前年度ノ豫算ニ據ルコ
トハ出來ナイト云フ結果ニナッテ殆ト前年度ノ豫算ニ據ルト云フ大事ナ好イ
條目デアルニ拘ラズ一モ活用セヌヤウニナッテ居ル、是モ決シテ今ノ當局諸公
ヲ私ハ責メナイ、議院ニ於テモ金ヲ使フコトハ何トモナイ、人民ノ金ハドン
〓〓法律デ取ッテ使フ、斯ウ云フヤウナ有樣デ官モ民モ卽チ根本ノ國家經濟ト
云フコトハ殆ド眼中ニ無イ、斯ウ云フ有樣ヲ見テハ財政鞏固ナ國カラハ何ト
感ジマセウカ、餘ホド私ハ不安ヲ懷クデアラウト思フ、今申上ゲタ通リ國庫ノ
收入ハ八九千万圓デ事ガ足リ居ッタモノガ今日ニ至ッテハ二億六七千万圓ニ
上ッテ居ル、又是ガ三億ニナッテモ今ノ有樣デハ足ラナイヤウニナル、二億七千
万圓デカラニ年々始終不足ヲ〓ゲテ、サウシテ今言フ通リ公債ヲ募ラネバナ
ラヌ、斯ウ云フヤウナコトニナッテ來テ居ル、卽チ是ハ已ミヲ得ヌ、單ニ是ハ政
府ガ惡イノデハナイ、一體ニ日本ノ財政總テガ惡イノデアル、ソコデ政府ニ於
テハ是位ナケレバナラヌト云フテ出ス、議會ハソレデハナラヌト云ウテ議論
ガ合ハナイ、始終衝突ヲスル、衝突ニ衝突ノ結果ハ解散ト云フコトニナル、ソ
レデ衆議院ニ於テモ政府ガ無責任デアル、無責任デアルト云フコトヲ頻ニ言
フガ、ツク〓〓考ヘテ見ルト矢張リ此貴衆兩院共ニ其點ニ至ッテハ無責任デハ
ナイカト思フ、餘程此所ハ私ハ御注意ヲ願ヒタイト思フ、衆議院ノ政府ヲ無
責任ト云ウテ答メルガ、又色〓ノ法律ヲ出シテ法律ニ從フ入費ト云フコトハ
少シモ眼中ニ置カス、一ツ法律ヲ拵ヘタラソレガ爲ニ必ズ錢ガ要ル、ソレモ
眼中ニ置カズシテ、ドン〓〓法律ヲ拵ヘ、サウシテ注文ハスル、注文ハシテ
置イテ金ガ足ラヌ、サアソレハ出サヌ、斯ウ云フヤウナ事柄ニナルノガ往々
アル、ソレデ能ク誰モ口ニシマスル、財政ヲ整理セネバナラヌ、行政ヲ整理
セヌナラヌ、始終口ニスルニ少シモ出來ナイ、現ニ前內閣伊藤侯ノ時ニ、北
支那戰爭ノ時ニ增稅ガ通過シテアトデ我〓ニ話サレタ經晝ノ大略ト云フモノ
ハ、ドウシテモ是レデハイカヌ、ソレデ行政ノ改革ハ是ハ往々天皇陛下ノ御
大權ニ屬スルト云フコトガアルカラ是ハ議院ト相談スル譯ニハイカヌケレド
モ財政整理ノコトニ付テハ、ドウシテモ是ハ議院ノ力ヲ借ラネバナラズ、協同
一致シテ大ニヤラネバナラヌト云フコトハ前總理大臣ノ伊藤侯、又前大藏大
臣ノ渡邊子ナドハ公然我〓ニ話サレタコトデアル、定メテ諸君ノ中ニハソレ
ラノ事ヲ御聞キニナッテ居ルコトモアラウト思フ、ソレニ最早此財政ヲ整理セ
ヌナラヌ行政ヲ整理セヌナラヌト云フコトハ官民共ニ認ムル所、天下ノ輿論
トナッテ居ル所デアリマス、然ルニデス、我邦ノ維新以來ニ於テハ百事何事モ
大ニ面目ヲ改メテ歐羅巴ノ文明ノ長ヲ採シテ形ノ上ニ於テハ如何ニモ立派ニ
アリマス、其長ヲ採ッテ居ルニ拘ラズ、獨リ最モ怪ムベキハ行政機關、行政機
關ニ至ッテハ尙ホ舊イ制度ヲ襲ウテ居ルト思フ、我ゝハ俄ニ千有餘年前ノ大寶
令ガ其儘行ハレテ居ルトマデハ言ハナイ、大分形ハ變ヲテ居ルケレドモ併ナガ
ラ餘ホド舊イ制度ノ精神ガ其儘ニ行ハレテ居ルト云ウテモ宜シイ、ソレデ私
ドモノ考ヘルニハ先ヅ此財政ヲ整理スルニ當ッテハ、ドウシテモ行政機關ト
云フモノヲ大ニ改良シナケレバナラヌ、其改良ノ模範ハドコニ取ルカト云ヘ
バ歐羅巴各國今日誠ニ簡易ニ行ハレテ居ル、其文明國ノ制度ニ則ヲ取リタイ
ト思フ、今日諸事文明國ニ則ヲ取ッテ居ルガ、官制ノ有樣ニ至ッテハ矢張リ舊
大寶令ノ精神ガ繼續セラレテ居ル、ソレヘ以テ行ッテ、大寶合ニハソレ〓〓定
員ガアルガ、今日ハドコモカモ定員ナシ、唯情實ニ情實ヲ重ネ、各省共ニ銘
銘我省ノ威權ヲ張ラムトスル所ヨリシテ、要リモセヌ課ヲ拵ヘ、要リモセヌ
局ヲ拵ヘ、實ニ複雜ニナッテ居ル、之ヲ例ヘテ申シマスレバ、蒸氣船ニ喩ヘレ
バ誠ニ極ク速力ガ鈍イ、併シ釜ガ厚イ爲ニ湯ヲ沸スニモ非常ニ石炭ヲ費ス
ソレデ走ルノハドウカト云フト至ッテ遲イ、今日ノ蒸氣ノ進步シタ社會ニ漸ク
七浬カ八浬ホカ得步カナイト云フ全體マヌルイコトデアルソレハ畢竟役人
ガ多シ機械ノ組立バカリ大キクテ少シモ船ノ速ニ動クヤウニ拵ヘテナイ、若
シ之ヲ速ニ動クヤウニスルトソコヤ玆ヤニ關係シテ情實ニ搦マレマスカラ
之ヲ擊碎クコトハ、ドナタガヤッテモ出來ナイ、是ガ出來ナイ以上ハ、皆學校
ノ生徒ノ夥シク出テ來ル者ハ、卽チ此官府ト云フ一ツノ飯食ヒ所ヲ目途トシ
テヤルモノデアリマスカラシテハ、眞正ニ國家ノ生產力ヲ增シ、大ニ事業ニ就
テヤラウト云フ者ハ無イ、皆役人目的ノ者バカリデアル、サウシテ役人目的デ
食ヘル、今日官吏ト云フ者ハドレホド居ルカ殆ド七万······ソレヘ以テ行ッテ官
吏ガ〓へルト共ニ公吏ガ夥シイ、諸縣ニ於テ色〓ナ名ヲ付ケテ公吏ガ夥シイ
コトニ聞イテ居ル、此證據ヲ一ツ擧ゲテ申シテ見マスレバ私ドモノ縣ハ黨派
ノ弊ノ最モ甚シイ所デアルガ、縣ノ委員郡ノ委員ナドト云フ者ヲ拵ヘテ三十
圓四十圓ホド月給ヲヤッテ居ル、ソレハ皆民費デサウ云フモノガ出來テ居ル、
是モ矢張リ一ツノ公吏デ、其樣ナ者マデモ飼ウテヤラニャナラヌト云フ有樣ニ
ナッテ居ル、併シ是ハ昨年以來黨派ノ混雜カラシテ漸クソンナ者ガ廢サレタヤ
ウデアリマス、デ此黨派ノ混雜デサウ云ヲ者ガ廢サレタヤ何カシテ、サウシ
テ縣民ハドノ位ノ恩惠ヲ蒙ッタカト云フト、昨年ノ縣費デハ七万圓ホド減ッタ
ト云フコトヲ聞イテ居ルガ、是私ハ數字ヲ以テ推シタノデハナイカラ確ニハ
御話ハ出來ナイガ減ッタニハ相違ナイ、若シ七万圓減フタトスルト、今度地租
增徵ガ否決ニナリ元ノ通リ戾サルルト土佐ニ於テ納ムル金高ハ七万四五千
圓カ八万圓グラ井ノモノデ殆ド同額グラサデアルガ、是ハ各縣ニ於テモ同樣
デアリマシテ、民費ノ無益ニ嵩ンデ居ルト云フコトハ誰モ明ニ認メテ居ル、
官ノ入費ヲ滅スト共ニ縣ノ入費モ大ニ牽制ヲ加ヘテ不都合ノナイヤウニシテ
貰ヒタイデアリマス、ソレデ自然ト是ハ誰モ申ス通リ人ガ減レバ三人デ今
マデ受持ッテ居ッタモノヲ一人デセヌナラヌ、ナカ〓〓骨ガ折レル、骨ガ折レ
ルニ相違ナイガ、人間ノ才智學問働キヲ比ベテ御覽ナサイ一人デ五人前出
來ル人モアル、又甚シキハ十人前ヤル人モアラウト思フ、之ニ反シテ唯員ニ
備ハッテ居ルノミデ何ニモ出來ナイ者ハ幾人居ノテモ役ニ立タヌ、役所ニ於テ
煙草ヲスパ〓〓燻べ或ハ新聞ヲ見ル、煙草ヲ燻ベタリ新聞ヲ見タリシテ役所
デノロ〓〓シヨル國ガ、歐羅巴各國ドコニアリマセウカ、若シアレバ土耳古
グラ井ノモノヂャナイカト思フ、是ハ大變煙草ヲ飮ム所ダ、是ハ決シテ人ノコ
トハ言ハレヌ、自分ナドモ始終口ニ煙草ヲ衝ヘル流義デアルガ、先ヅ日本ノ
風俗ト云フモノガ煙草ヲ飮ムト云フガ一ノ御用ミタヤウニナッテ居ル、ソレデ
私ナドハ竊ニ考ヘテ居リマスガ、之ヲ整理スレバ整理スルコトノ出來ナイコ
トハアルマイト思フガ、ナカ〓〓人力デ出來ナイ、ト云フモノハ、伊藤侯ガ
內閣ノ時ニ二千一百万圓ト云フ增稅ヲシタ、是ハ全ク北支那戰爭ノ爲ニ、戰
爭稅トシテ取ッタノデアル、是ハ臨時ノモノトセネバナラヌ、ソレカラシテ戰
爭モ案外早ク片付イテ、ソレカラ實際償金ヲ手ニ取ッタト云フ譯デハアリマセ
ヌケレドモ、其結果トシテ支那ノ債劵ト云フモノヲ受取ルコトニナッタカラ、
是又唯戰爭ヲシタノデハナイ、矢張リ報酬ハアルノデアル、詰リ二千一百万
圓ノ臨時費ハ年々取レルコトガ出來、又ソレニ債劵ガ出來タト云フモノデア
ル、其跡ヲ御引請ニナッタ卽チ現政府、私ナドハ竊ニサウ言ウタ、實ニ桂總理
ハ誠ニ幸福ナ御方デアル伊藤サンノ財產流レヲソックリ引請ケタノデ、是カ
ラハ稍、〓ニ就クデアラウ、斯ウ思ウタノデアリマス、所ガ何ゾ圖ラン、此二千
一百万圓ナドト云フモノハ殆ト今日ハ何ニ使ッタヤラ我〓ハトント分ラナイ、
デ色〓其政府ノ委員、殊ニ經濟ニ精シイ松尾君ナドノ御說明ヲ聞イタラ屹度
分ルカモ知レヌケレドモ、分ラナイ、ソレデ政府當局ノ御方モ、實ハ分ラヌカ
モ知レヌト思フ、是デ行ケルト思ウタヤツガイクナイ、ソコデ所謂已ミヲ得
ズト云フ字ガ幾ラモ重ナッテ出テ來ル、是ハ私ハ決シテ今ノ政府ノ御方ヲ咎メ
ルデハナイ、總テ皆自カラ省ミルコトヲシナイカラ巳ムヲ得ズ已ムヲ得ズト
云フコトニナルノデ、ソレデ私ナドガ此案ニ對シテ······今ノ御多數デ御出シ
ニナル案ニ對シテ、斯クアリタイト云フコトヲ持ッテ居ルノハ上奏ヨリ外ニ仕
方ハ無イ、デ今ノ現政府ノ御方ハ自ラ出來ナイト云フコトヲ自白シテゴザル、
自白シテゴザルノハ何カト云ヘバ已ミヲ得ヌ已ミヲ得ヌト云フコトガ幾ツモ
出ル、是ハサウ云フ最早已ミヲ得ヌト思ッテゴザル者ニ、何ト云ウタ所ガ仕方
ガナイ、ソレデ前ニモ申シタ通リ是ハ誰ガ出テモ人力デアルカラ出來ナイ、
是ハドウゾ畏レナガラ人力以上ノ所ヘ訴ヘ奉ッテ、サウシテ大イニ聖意ヲ仰
ギタイト思フ、サウナッタ時ニハ今マデ惡イコトヲ仕居ッタ者ハ、仕損ナウタ人
モ更始一新共ニ一致合體シテ我財政經濟ヲ大ニ恢復シ、從ッテ諸外國ニ對シ
テ、信用ヲ恢復スル方法ガ立タウト思フ、今ノ儘ノ貧乏世帶デカラニ始終行キ
居ッタナラバ一〓ニ連レ合ウテカラニ行カウヂャアナイカト云フヤウナ約束ヲ
シテ置イテモ、アア云フ貧乏人ハ迚モ引當テニナラヌト云フコトニナルト振
リ放スヤウナコトニナル、ソレデ餘リ今ハエラガッタ所ガ此有樣ノ所デハ仕方
ガナイト思フ、故ニドウゾ此案ハ兎モ角モ貴族院ノ體面上撤囘ヲナサルカ、
若クハ私ドモノ意見ノヤウニナサルカ、此二ツヲ私ハ御勘考ヲ願ヒタイト思
フ、實ニ此建議案ハ政府ノ言フ通リノコトニシテアルカラ、誠ニ無益ノ手數
ト思フ、ソレダケノ意見デ····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/127
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128・三島彌太郎
○子爵三島彌太郞君 私ハ此案ノ提出者ノ一人デゴザイマスカラ、唯今ノ谷
子爵ノ御疑ニ對シテ、極簡單ニ一言茲カラ申述ベテ置キタウゴザイマス谷
子爵ハ我〓ガ此案ヲ出シタノハ實ニ政府ニ難キヲ責ムルモノデアル、且ツ已
ムヲ得ナイコトハドウモ已ムヲ得ナイデハナイカト云フ仰セデゴザイマスケ
レドモ、我〓ガ此案ヲ提出イタシマシタノハ決シテ無謀無計算デ出シタノデ
ハナイノデアリマス、我邦ノ今日ノ經濟······財政ノ實況ヲ顧ミマスレバ政府
ノ經畫イタシテ居ル所ノ諸繼續費ハ年々減ジマスルガ、三年後ニハ大ナル餘
裕ヲ生スベキ計算ニナッテ居ル、故ニ此三年間グラ井ハ事業ニ多少ノ緊縮ヲ加
へ、又未ダ著手シナイ所ノ事業ハ其著手ヲ繰延ベテ適當ノ方法ヲ執ッタナラバ
決シテ公債ノ如キモノハ募集ヲ致サズトモ歲計ニ不足ヲ生ズルコトナク、又
事業ノ如キモ其成功ノ年限ニ至ッテハ決シテ甚シク後ルルコトナクシテ出來
ルモノト信ジテ居ルモノデアリマス、私ハ茲ニ長タラシク數字ヲ持出ココト
ハ好マヌノデアリマスガ、深ク信ズル所ガアッテ出シタ案デアリマシテ、歲入
ニ甚ダシキ〓陷ヲ生セズ、若シサウ云フ場合ハ已ムヲ得ズ公債ヲ募ラナケレ
バナラヌカモ知レマセヌガ、出來得ル限リ公債ヲ募ラズシテ財政ノ料理ヲナ
スッテ下サルヤウニト云フコトヲ建議スルノデゴザイマス、諸君モ何卒此意ヲ
諒セラレテ此案ニ御贊成アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/128
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129・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 最早討論ハ盡キタリト認メテ御異議ハゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/129
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130・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) ソレデハ採決シマス、本建議案ヲ可トスル諸君ノ
起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/130
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131・近衞篤麿
○議長(公爵近衞篤麿君) 過半數ト認メマス、本建議案ハ可決シマシタ、明
日ノ日程ハ追テ御報道イタシマス、今日ハ散會
午後二時七分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/001803242X00519030603/131
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