1. 会議録本文
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000・会議録情報
明治三十九年三月十六日(金曜日)午後一時六分開議
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議事日程 第十五號 明治三十九年三月十六日
午後一時開議
第一 官國幣社經費に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選舉
第三 貨幣法中改正法律案(政府提出貴族院送付) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選舉
第五 徴兵令中改正法律案(政府提出貴族院送付) 第一讀會
第六 右議案の審査を付託すへき委員の選舉
第七 鐵道國有法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 京釜鐵道買收法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第九 韓國に於ける裁判事務に關する法律案(政府提出貴族院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十 醤油税則中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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001・杉田定一
○議長(杉田定一君) 是ヨリ諸般ノ報告ヲ致シマス
〔書記朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
農工銀行補助法中改正法律案
一貴族院ヨリ送付セラレタル政府提出案左ノ如シ
臺灣總督府鐵道部現金前渡官吏設置ニ關スル法律案
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
明治三十三年勅令第百三十二號廢止ニ關スル建議案
提出者川島瀧藏君神崎東藏君
一明治三十三年法律第八十六號改正法律案
提出者內山吉太君中西六三郞君柳田藤吉君
恆松隆慶君
一山根正次君提出不良藥品ノ取締ニ關スル質問ニ對シ原內務大臣ヨリ左ノ答辯
アリタリ
衆議院議員山根正次君提出不良藥品ノ取締ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書
差進候也
明治三十九年三月十五日內閣總理大臣侯爵西園寺公望
衆議院議長杉田定一殿
內務省衆公第八號
衆議院議員山根正次君提出ニ係ル不良藥品取締ニ關スル質問ニ對スル答
辯書
政府カ本期議會ニ藥品營業竝藥品取扱規則改正法律案ヲ提出セサルハ尙調査
ヲ要スル處アリト認ムルニ由ル
右及答辯候也
明治三十九年三月十四日內務大臣原敬
一貴族院ハ本院送付ニ係ル明治三十九年度歲入歳出總豫算追加案(第一號)ヲ
否決シタル旨同院ヨリ通牒アリタリ
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲玆ニ揭載ス〕
一委員長及理事左ノ通當選セラレタリ
裁判所管轄區域變更ニ關スル法律案
委員長寺井純司君理事武滿義雄君
明治三十八年法律第七十號中改正法律案
委員長大淵龍太郎君理事加瀨禧逸君
內國官憲ノ管掌ニ關スル事項ニ付統監ノ職權ニ關スル法律案
委員長橫井時雄君理事小川平吉君
日本體育會國庫補助ニ關スル建議案
委員長山根正次君理事鈴木友治郞君
催眠術取締ニ關スル建議案
委員長西山彰君理事安藤新太郞君
民事訴訟法中改正法律案
委員長向坂弘君理事岡井藤之丞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=1
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002・杉田定一
○議長(杉田定一君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、御諮リヲ致シマスコトガアリマス、森懋
君ハ病氣ノタメ、明治三十八年法律第七號中改正法律案ノ委員ノ辭任ヲ願出ラレ
マシタ、許可シテ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=2
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003・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ガナイト認メマス、然ラバ其補缺トシテ、北村左吉君ヲ
指名致シマスー諸君ニチヨット申上ゲルコトガアリマスガ、近來往々脊廣服ヲ御著用
ニナリ、又ハ縞ノ羽織ヲ御著用ニナッテ、御臨席ノ御方ガアルヤノ趣デアリマス、衆議院
規則第百七十二條ニ脊廣服ト云フモノハナリマセヌ
〔「高聲ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=3
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004・杉田定一
○議長(杉田定一君) 改メテ申上ゲマス、近來往々脊廣服ヲ御著用ニナリ、又ハ縞
ノ羽織ヲ御著用ニナッテ議場ニ御出席ノ御方ガアルヤノ趣デアリマス、此脊廣ノ服ハ、規
則ニ於テナリマセヌト云フコトデアリマスカラ、先年モサウ云フ物ヲ著タ御方ノ御出席ヲ
止メタヤウナ次第デゴザイマス、又縞ノ羽織ハ略服ト云フコトニナルト思ヒマス、ソレデド
ウカ將來脊廣ノ服、又ハ縞ノ羽織ヲ御著用ニナッテ、御出席ノナイヤウニ御注意ヲ願ヒマ
ス-日程第一、官國幣社經費ニ關スル法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、議案ノ朗讀
第一官國幣社經費ニ關スル法律案(政府提出)第一讀會
〔書記朗讀〕
官國幣社經費ニ關スル法律案
第一條官國幣社ノ經費ハ國庫ヨリ之ヲ供進シ其ノ各社ニ對スル金額ハ內
務大臣之ヲ定ム
天災事變ノ爲要スル臨時費用ノ外前項ノ經費ハ明治四十九年度ニ至ル迄
ハ每年二十二萬圓ヲ超ユルコトヲ得ス
第二條從前官國幣社ニ於テ積立テタル永遠資本金及維持元資金ハ官國幣
社ノ基本財產トシ其ノ元本及利子ハ之ヲ費消スルコトヲ得ス
官國幣社ハ內務大臣ノ定ムル所ニ依リ前條供進金ノ一部ヲ蓄積シ前項ノ
基本財產ニ繰入ル, )
內務大臣ニ於テ必要ト認ムルトキハ基本財產ノ利子ヲ官國幣社ノ經費ニ
充ツルコトヲ得
官國幣社ノ財產及其ノ收入ハ內務大臣ノ定ムル所ニ依り經費ニ充ツ
第三條官國幣社ハ內務大臣ノ定ムル所ニ依リ臨時ノ費用ニ充ツル爲第一
條供進金ノ中ヨリ一定ノ積立ヲ爲スヘシ
前項ノ積立金ハ各社共通ノ費途ニ充テ內務大臣ハ內務省神社局長ヲシテ
之ヲ保管セシメ其ノ收支ヲ取扱ハシム
第四條從前官國幣社ニ於テ積立テタル官國幣社保存費共通金ハ前條各社
共通金ニ編入ス
第五條本法ハ官幣大社臺灣神社及別格官幣社靖國神社ニ適用セス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=4
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005・杉田定一
○議長(杉田定一君) 原內務大臣
〔內務大臣原敬君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=5
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006・原敬
○內務大臣(原敬君) 官國幣社經費ニ關スル法律案ニ付イテ、大體ノ說明ヲ致シ
マス、此法律ハ屢〓議會ヨリ建議モゴザイマス、又法律案ノ提出モアッタコトデ、衆議院
ニ於テハ、諸君ノ極メテ熟知セラルヽ法案デゴザイマス、要スルニ官國幣社ハ、國庫ヨリ其
經費ヲ支辨スルト云フコトノ趣意ヲ明カニスルニ過ギヌノデアリマス、今日ニ於テモ國庫
ヨリ相當ノ補助ヲ與ヘマシテ、其中ノ幾分ヲ積立金ト致サセ、將來ニ於テ神社ハ其經
費ヲ以テ維持スルコトノ仕組ニ相成ッテ居リマスルガ、尙之ヲ國家ヨリ其祭粢ヲ供スルト
云フコトノ趣意ヲ明カニシテ置クタメニ、此法案ヲ提出シタ次第デアリマス、其金額ハ第一
條中ニ揭ゲテアリマスル通ニ、今日國庫ヨリ支辨致シテ居ル金額ニ相當致スノデアリマ
シテ、別段ニ之ガタメニ經費ヲ增スト云フ次第デアリマセヌ、官國幣社ハ國家ニ於テ祭
ルト云フ趣意ヲ明カニスルニ過ギヌノデアリマス、尙詳細ノコトハ委員會ニ於テ說明致サ
ウト思ヒマスガ、大體右ノ次第デアリマスカラ、願クハ速ニ御協賛アランコトヲ希望致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=6
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007・遠山正和
○遠山正和君 唯今御讀ミニナリマシタ、此法案ハ、官國幣社ノ經營ハ法律ヲ以テ
セヌケレバ完全ナラヌト云フ趣意デゴザイマスガ、此法律案ヲ見マスルト、範圍ガ大變狹
イ是デハ勅令ヲ以テ範圍ガ廣クナッテ居ッタノヲ、是ノ如ク法律ヲ以テ狹クシナケレバナ
ラヌト云フ理由ハドウモ私ハ解セヌノヂアリマスカラ、此〓ヲ詳カニ承リタイ、ソレカラ
豫算ニ於キマシテハ、三十九年度デハ、二十二万三千九百二十四圓ト云フ額デゴザイ
マスルガ、本案ニ據ルト、二十二万圓ト極メテゴザイマス、將來我國體ニ於テハ官國幣
社ト云フ者ハ最モ重ンゼンナラヌ必要ガゴザイマス、將來經費ヲ增サナケレバナラヌ必要ガ
アラウト思フノデアリマスガ、此經費ヲ減スト云フノハドウ云フ譯デアリマスカ、此二〓ヲ
御答ヲ願ヒマス
〔政府委員法學博士水野練太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=7
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008・水野錬太郎
○政府委員(法學博士水野練太郞君) 唯今ノ御質問ニ御答辯致シマス、此案ヲ
法律案ト致シマシタ理由ハ、今日ノ會計法ノ補則ニ-卽チ法律トナッテ居ル補則ニ、
神社費ト云フモノガ、義務費トナッテ居リマス、而シテ官國幣社ニ從來下附シテ居リマ
シタ保存費ト申シマスルモノハ、政府ノ義務ニナッテ居ルノデアリマス、ソレデ今度ハ配付
額ヲ多少變ヘナケレバナラヌ必要ガアリマシテ、法律ヲ以テスルノガ適當デアルト信ジマシタ
カラ、此案ヲ法律案ト致シタノデアリマス、ソレカラ第二ニ、此豫算ノ關係デアリマスガ、
成程豫算ノ神社費ト云フトコロニ、二十二万何千圓ト云フコトニナッテ居ルノデアリマ
ス、其豫算ノ二十二万イクラト云フノハ、官國幣社ノ費用ニ止ラヌノデ、官國幣社ニ
加フルニ、招魂社ノ費用ガ這入ッテ居リマス、官國幣社ノ費用ハ、其中二十一万イク
ラナンデス、故ニ法律デ二十二万圓ヲ超ユルコトヲ得ズト致シマシテモ、官國幣社今日
ノ豫算ノ上ニ於テハ差支ナイト認メタノデアリマスカラ、第一條ノ法律デ、二十二万
圓ト致シマシテモ、、現時ノ狀態ニ於テハ、差支ガナイト認メルノデゴザイマス、此〓ヲ御答
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=8
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009・恒松隆慶
○恆松隆慶君 第二ノ日程ニ移ラレンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=9
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010・杉田定一
○議長(杉田定一君) 日程第二、右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選擧ニ移リマ
ス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=10
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011・恒松隆慶
○恆松隆慶君 九名ノ委員、議長指名アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=11
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012・杉田定一
○議長(杉田定一君) 恆松君發議ノ通、九名ノ委員、議長指名ニ御異議ゴザイマ
セヌカ
(「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=12
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013・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ハナイト認メマス-第三、貨幣法中改正法律案ノ
第一讀會ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=13
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014・恒松隆慶
○恆松隆慶君 朗讀ハ省略セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=14
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015・杉田定一
○議長(杉田定一君) 議案ノ朗讀ハ省略致シマス-阪谷大藏大臣
第三貨幣法中改正法律案(政府提出貴族院送付)第一讀會
(小字及-ハ貴族院修正)
貨幣法中改正法律案
貨幣法中左ノ通改正ス
第六條中第四號及第五號ヲ左ノ如ク改ム
四五十錢銀貨幣二匁七分(十「グラム」一二五〇)
五二十錢銀貨幣一匁零分八厘(四「グラム」〇五〇〇)
第十條中第二號ヲ左ノ如ク改ム
二銀貨幣五十錢ハ每片二厘一毛六(〇「グラム」〇八一〇10)一千枚每ニ
八
一匁零分八厘(四「クラム」〇五〇〇〇)二十錢ハ每片一厘零毛六七
五四
(○「グラム」〇四〇〇一)一千枚每ニ六分五厘(二「グラム」四三七五
四九〇
(○)十錢ハ每片一厘零毛零八(〇「グラム」○三七八〇)一千枚每ニ五
六
分八厘(二「グラム」一化五〇〇)トス
附則
本法ハ明治三十九年六月一日ヨリ之ヲ施行ス
從來發行ノ銀貨幣ハ從前ノ通通用スヘシ
本法施行前發行シタル衆皆幣ハ從前ノ規定ニ依ル
〔大藏大臣法學博士阪谷芳郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=15
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016・阪谷芳郎
○大藏大臣(法學博士阪谷芳郞君) 此法案ハ現在ノ補助貨幣ノ中デ、銀貨ノ五
十錢竝ニ一十錢ノ量目ヲ輕ク致シマシテ、便利ニスルト云フ趣意デゴザイマス、御承
知ノ通ニ、近來各國共ニ此補助貨幣ハ成ルベク携帶ノ便利ヲ計ッテ、量目ヲ輕クスル
ト云フコトニナッテ居リマスル、我國ノ補助貨幣ハ明治三十年金貨本位實施ノ際ニ於
キマシテ、從前ノ儘ニナッテ居リマシタガタメニ少シク目方ガ重過ギルノデ、ソレ故ニ多
年此改正ノコトニ付キマシテハ、取調ベテ居リマシテ、唯今五十錢ト二十錢ノ量目ヲ
改正ノコトガ調査ヲ終リマシタ、十錢ノ銀貨ハ此度ハマダ改正致シマセヌ、是ハ假リニ
調査致シマシタナレドモ、未ダ適當ナル形ヲ發見スルコトガ出來マセヌノデゴザイマシテ、
十錢ダケハ暫ク現行ノ儘ト致シテ置ク積リデアリマス、又銅貨ノ方ハ調ガ出來テ居リマ
セヌ、是モ現在ノ補助銅貨幣ハ、矢張目方カ重過ギマスカラ、モウ少シ輕便ノモノニ致
シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、是ハマダ調査ヲ終リマセヌ、卽チ調査ノ終リマシタ五十
錢竝ニ二十錢ダケハ、此度量目ヲ改正シタイト云フ法律案デゴザイマス、是ノ如ク改正
ニ相成リマシタ結果、新タナル五十錢、二十錢ノ中ニ含マレテ居ル銀ト金ノ値段ヲ比
較致シマスルト、一ニ付イテ二十一ト云フ割合ニナリマス、各國ニ行ハレテ居ルノハ、或
ハ一ニ付イテ十六位ニナッテ居リマス、併ナガラ現在ノ日本ノ銀貨ノ補助貨幣ノ比準カ
ラ見マスト、現行ハ一ニ付イテ二十八位ニナッテ居リマス餘程比準ガ少ナクナリマシタ
割合ニナリマス、サウ致シマスルト將來銀貨ニ變動ガアリマシテモ、此補助貨ガ鑄潰サレ
ルト云フ憂ニ遠ザカル譯ニナリマス、是ハ貴族院ニ於キマシテモ、別段異議ハ無カッタノデ
ゴザイマス、併ナガラ貴族院ニ於キマシテハ多少ノ修正ガゴザイマシタノハ、別段ニ大體
ノ趣意ニ變リガアルノデハゴザイマセヌデ、法交ノ上ニ現ハシテ居ルトコロノ數字ノ書方ガ
學理ニ適當シナイ、ソレ故ニ學理ニ適當シタヤウニ修正シタ方ガ宜カラウト云フノデ、貴
族院ニ於テ修正ニナリマシタノデ、其事ニ付キマシテハ政府ト貴族院トハ十分協議致シ
マシテ、貴族院ノ修正ハ至極適當デアラウト考ヘマシテ、之ヲ同意ヲ表シテアリマス、貴
族院修正ノ通ニ本院ニ於キマシテモ、御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=16
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017・早速整爾
○早速整爾君 チヨット質問ガアリマス、唯今ノ御說明デ此案ノ大體ノ要〓ハ能ク分ッテ
居リマスルシ、大體ニ於テ異議ノナイヤウニ考ヘマスガ、此十錢銀貨ニ對シテハ、少シモ
改メルコトヲシナイデ現在ノ儘ニシテ置カレルト云フ理由ニ付イテ、チヨット承ッテ見タイノ
デアリマス。チヨット貴族院ノ方ノ議事ノ經過ニ付イテ考ヘマシテモ、大藏大臣ノ御說明ニ
依ルト、十錢銀貨ハ之ヲ五十錢、二十錢、ニ改メル割合ニスルト、餘程小サクナル、却
テ通用ノ上ニ於テ不便ヲ感ズルヤウニナルシ、殊ニ十錢銀貨ニ付イテハ、價格ガ違ッテ來
テモ、別ニ鑄潰スト云フヤウナコトハ無カラウト云フ御說明ノヤウニ考ヘマス、併シ今日
此補助貨ノ流通高ノ上カラ見マスト、實ハ五十錢ヨリモ二十錢ヨリモ、十錢銀貨ガ一
番多額ヲ占メテ居ルノデアル、ソレデアルカラ此銀ノ價ガ騰貴スルト云フ場合ガ參リマスレ
バ、十錢銀貨ハ鑄潰スヤウニ相成ルモノト考ヘマスガ、之ニ對シテハドウ云フ御見込ヲ
持ッテ居ラルルカ、形ガ餘リ小サ過ギテ通用上不便ト云フコトニナレバ、寧口品位ヲ下ゲテ
適當ノ形ニシテ、之ヲ鑄替ヘスト云フ方法ヲ取ルガ如キモ、一ツノ途デハアルマイカ、之ヲ
鑄潰スコトニ付イテ非常ナ差支ガアリ、十錢銀貨ハ改鑄シナイデモ宜シイト云フ根本ノ
御見込ガアルナラ承ッテ置キタイノデアリマス、ソレカラ序ニ貨幣法改正ト云フコトニ付イ
テ承ッテ見タイト思ヒマスノハ、是マデ通用シテ居ルトコロノ一圓紙幣ノ始末デアル、貨幣
法ヲ改正セラルヽト云フ時機ニ方ッテハ、此一圓紙幣ノ始末ニ付イテ何トカ一ツ方法ヲ
講ジラレルト云フコトガ、必要デハアルマイカ、私共ガ考ヘマシテモ、從來ノ此一圓紙幣ト
云フモノハ、本位貨ヲ代表シテ居ル者デアルカ、或ハ補助貨デアルカ少シモ其性質ガ分
ラナイノデアル言ッテ見レバ曖昧ナル性質ヲ帶ビテ居ル貨幣デアル、勿論政府ハ此一圓
紙幣ヲ囘收スルト云フ御方針デアル、是ハ無論其當時ハ必要ガアッタノデゴザイマセウケ
レドモ、實際ニ於テ此一圓紙幣ヲ必要トスルト云フ社會ノ事情カラ、囘收ト云フコトニ
付イテモ、手控ヘニナッテ居ル模樣デアル、如何ニモ一圓紙幣ト云フモノハ、今日ノ社會
ノ事情ト致シマシテモ、最モ必要ナル貨幣トシテ、日本ノ國デハ行ハレテ居ルモノデゴザイ
マスケレドモ、此貨幣法ヲ改正スルト云フ時期ニ方ッテ、一圓紙幣ノ始末ヲドウスルト云
フ方針ヲ決定セラレルトー云フコトハ、頗ル適當ナル處置デアルト考ヘルノデアリマス、之ヲ
純然タル補助貨トスルト云フコトハ出來ナイ、或ハ五十錢ノ補助貨ヲ止メテ、更二一圓
ノ補助貨ト云フモノヲ銀貨デ以テ拵ヘルト云フヤウナコトノ出來ナイモノカ、免ニ角是マ
デ通用シテ居ル一圓紙幣ノ性質ノ曖眛ナルモノヲ改メル、ト云フ方法ヲ執ルコトハ出來
ナイモノデアルカ、此〓ニ關シテ政府ノ御見込ヲ伺ッテ見タイノデアリマス、ソレカラ銀貨ノ
改鑄ヲシテ在來ノモノモ、之ヲ使フテ置クコトニスルト、非常ニ流通貨幣ガ補助貨ニ替ツ
タ物ガ、二種ノ變ッタモノガ二通リ通用スルコトニナリマスカラ、是ニ付イテハ別ニ不都合
ナ〓ハゴザイマスマイカ、チヨット御見込ヲ伺ッテ置キタイ
〔大藏大臣法學博士阪谷芳郞君登壇〕
〔「答辯ニ及バズ答辯ノ必要ナシ無用々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=17
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018・阪谷芳郎
○大藏大臣法學博士阪谷芳郞君 簡單ニ御答致シマス、十錢ノ銀貨ハ之ヲ小サク致
シマスコトニハ品位ヲ墜スト云フコトヨリ外ニ途ハナイ、今日ノ補助銀貨ハ八百位ニナツ
テ居リマスガ、之ヲ七百乃至七百五十位ニ品位ヲ墜シマスレバ、形ヲ小サクセズニ出來
マイ、併ナガラ、サウ致シマスルト云フト、銀ノ色ガ惡ルクナリマシテ、流通上却ッテ不便ヲ
生ズルデアラウト云フノガ、多數調査委員ノ意見デアリマス、ソレデ十錢ハ此儘ニ致シテ
置キマシテモ、之ヲ買占メテ改鑄スルト云フヤウナコトハ、言フベクシテ出來ルモノデナイノ
デアリマスカラ、暫ク現行ノ儘ニ存シテ、尙適當ナル考案ヲ加ヘルト云フヲ相當ト認メマ
ス(「弊害ハゴザイマセヌカ」ト呼フ者アリ)弊害ハアリマセヌ、ソレカラ一圓札ハ急激ニハ
囘收致シマセヌ、段々小サイ札ト云フモノガ、商業ノ發達ト共ニ其便利ハ感ジマセヌモノ
デアリマスカラ、追々大キナル札ニ改メマスガ、決シテ之ヲ急激ニ囘收スルト云フコトハ致シ
マセヌ、此度ノ補助貨幣ノコトニ付キマシテ、矢張一圓ノ補助貨幣ヲ造ルト云フコトモ
十分調査致シマシタガ、是ハ矢張一利一害デ、現在本位貨幣ノ一圓ト云フモノハ、滿洲
及〓國其他ニ通用致シテ居リマスカラ、其本位貨幣ノ一圓ト、補助貨幣ノ一圓トガ紛ラ
ハシクナルト云フ議論デアリマシテ、其議論ノ解決ヲ告グルニ至ラナイカラ、此一圓ノ補助
貨幣ト云フコトハ其考デゴザイマスガ、是ハマダ此度決行スルト云フ時機ニハ達シテ居リ
マセヌ、暫ク是ハ後ノ考ニ讓リタイト思ヒマス、ソレカラ五十錢、二十錢ヲ新タニ改造致
シマスルニ付キマシテ、從來ノ分ト新規ナルモノガ、同時ニ通用致シマシテモ、是ハドチ
ラモ實價ガ廉イノデゴザイマスカラ、決シテ此通用上ニ妨ゲニナル氣遣ヒハゴザイマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=18
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019・杉田定一
○議長(杉田定一君) 日程第四、右議案ノ審査ヲ附託スベキ委員ノ選舉ニ移リマス
第四右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=19
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020・恒松隆慶
○恆松隆慶君 十八名ノ委員議長指名アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=20
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021・杉田定一
○議長(杉田定一君) 恆松君ノ發議ノ通リ十八名ノ委員、議長指名ニ御異議ハゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=21
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022・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ガナケレバ其通リ決シマス、日程第五、徵兵令中改
正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、議案ノ朗讀ハ省略致シマス
第五徵兵令中改正法律案(政府提出貴族院送付)第一讀會
(小字及-ハ貴族院修正)
徵兵令中改正法律案
徴兵令中左ノ通改正ス
第二十三條第二項中「外國ニ在ル者朝鮮國ニ在ル者ヲ除ク」ヲ「韓國、露國領沿海州、露
國領薩哈嗹、清國、靑港、澳門以外ノ外國ニ在ル者ニ改ム
第二十五條中「每年一月ヨリ十二月迄ニ滿二十歲ト爲ル者ハ其年ノ一月一
日ヨリ同月三十一日迄ニ」ヲ「每年一月一日ヨリ十一月三十日迄ニ滿二十歲
ト爲ル者ハ其年一月中ニ十二月一日ヨリ同月三十一日迄ニ滿二十歲ト爲
ル者ハ翌年一月中ニ」ニ改ム
附則
本法○
第二十三選第二項中ノ改正人法達布ノ目リ、第二十五條中ノ故正ニ
治四十年一月一日ヨリ之ヲ施行ス
施行
本法發布ノ際現ニ露國領沿海州、露國領薩哈嗹〓國、香港又ハ澳門ニ在リ
テ徵集猶豫中ノ者ハ從前ノ規定ニ依リ徵集ヲ猶豫ス
〔政府委員石本新六君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=22
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023・石本新六
○政府委員(石本新六君) 此法律ノ改正ハ今日ノ事態ニ於キマシテ、極メテ必要ナ
コトニ差迫リマシタノデアリマスカラ、ドウゾ御審議ノ上速ニ御贊成アランコトヲ希望致シ
テ置キマス、委細ハ委員會デ述ベマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=23
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024・杉田定一
○議長(杉田定一君) 日程第六、右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉ニ移リマス
第六右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=24
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025・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本案モ十八名ノ委員、議長指名アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=25
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026・杉田定一
○議長(杉田定一君) 恆松君發議ノ通リ十八名ノ委員、議長指名ニ御異議ハゴザ
イマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=26
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027・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ガナケレバ其通リ決シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=27
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028・恒松隆慶
○恆松隆慶君 第七、第八併セテ委員長ノ報告アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=28
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029・杉田定一
○議長(杉田定一君) 第七、第八ハ同一委員ニ付託シテアリマスガ、一括シテ委員長
ニ報告致サセマス
第七鐵道國有法案(政府提出)第一讀會ノ續/報〓(委員長)
〔長谷場純孝君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=29
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030・長谷場純孝
○長谷場純孝君 鐵道國有法案ノ特別委員會ノ經過及結果ヲ御報告致シマス、本
問題ハ積年朝野ノ間ニ議論ヲ生ヲツヽアッタ重大ナル問題デゴザイマシテ、而シテ愈〓本
期議會ニ提出ヲ見マシタ、特別委員會ハ特別委員會ニ付託セラレテヨリ、日曜日ヲ除
クノ外、連日非常ナ勉强ヲ以テ調査審議ヲ盡シマシタ、而シテ其結果ハ昨日ノ委員
會ニ於キマシテ、鐵道國有法案ニ於テハ、凡ソ十四ニ對スル三十ノ大多數ヲ以テ、原
案ヲ一字一句モ修正セズシテ可決スルコトニ決定致シマシタ、又京釜鐵道買收法案
ニ於テハ多少ノ討議ヲ盡シタル末、昨日ノ委員會ハ滿場一致ヲ以テ一ノ異議ナク
原案ノ儘ニ通過致シマシタ、私ハ委員長トシテ此鐵道國有法案ニ對スル委員會ニ於ケル、
贊否ノ議論ノ大要ヲ述ブルハ、相當ノコトヽ思ヒマスカラ、極ク搔摘ンデ其〓略ヲ御
報告致シ置キマス、此法案ハ既ニ諸君ノ御承知ノ通、尙委員會ニ於ケル質問及政府
說明ノ事柄ハ、日々速記錄ヲ以テ諸君ノ御手許ニ御配付致シテゴザイマスカラ、諸君
ハ御熟知ノコトヽ信ジマス、我國ニ於テ此鐵道ノ國有ト云フ大方針ヲ立テタノハ、京濱
鐵道ヲ起シタ以來ノコトデアルト云フコトハ、前日總理大臣ガ此壇ニ於テ、述ベラレタ通
ノ次第デ、其事柄ニ付イテモ種々ノ質疑モ起リマスシ、又政府ハソレニ對シテ答辯ヲ盡
サレタ次第デゴザイマス、要スルニ鐵道ノ國有ト云フコトハ卽チ此鐵道ノ系絡今ノ有
樣デハ三十有餘ノ會社ガ、日本帝國內ニ割據ノ姿ヲナシテ居ッテ、ソレニ對シテ種々ノ
弊害ガ無キニシモアラナイ、將來產業ノ勃興生產力ノ發達ヲ企圖スル上ニ於テハ益:
此鐵道ノ統一ヲ圖リ、而シテ運賃ノ低減ヲ期シ、物產ノ蕃殖ヲ圖ルガ第一ノ要務デア
ル、況ヤ國防ノ點ニ於テモ、三十有餘ノ會社ガ割據ノ姿ヲナシテ居ルノト、是ヲ國家ガ
統一シテ系絡ヲ一ニスルノハ言ハズシテ何レカ利益ト云フコトハ明カナルコトデアル、其
細目ヲ御報告致シマスルト、ナカ〓〓長クナリマス故ニ、私ハ玆ニ唯其〓要ヲ述ベ置イ
テ、委員會ノ報告ニ止メヤウト思ヒマス、本問題ニ對シテハ反對贊成共ニ多數ノ發言
通告者ガゴザイマシテ、各〓其所見ヲ此壇ニ立ッテ述ベラルヽコトデアラウト思ヒマスカラ、
諸君ハ是ニ付イテ宜シク贊否ヲ御決定ニナルコトヽ信ジマス、又反對意見トシテハ今日
ハ現ニ三十有餘ノ會社ガ、縱令割據シテ居ルト雖モ、現ニ大ナル弊害ヲ見ズシテ、鐵道
ノ運搬經營等ノコトハナシツヽアルデハナイカト云フ御議論モアッタノデゴザイマス、又俄ニ
今日ノ場合ニ數億ノ公債ヲ發行シテハ、經濟市場ヲ大ニ惑亂スルノ慮ガアルト云フ御
議論モアッタノデアル、之ニ對シテ贊成ノ議論ハ此法案ニ依ルト、數年ヲ期シテ其經濟
市場及財政ノ都合ヲ見計ッテ、適宜ノ度合ニ於テ漸次ニ公債ヲ發行スルノデアルカラ、
經濟市場ヲ攪亂スルノ憂ハナイ、況ヤ流通貨幣ヲ以テ之ニ換フルニアラズシテ、公債ヲ
以テ株劵ニ換フルノミデアルカラシテ、反對論者ノ憂アルガ如キノ憂ハ、國家ノ上ニ貽ス
コトハナイト云フ論據デアッタノデアリマス其他種々ナル理由モゴザイマシタケレドモ、前
來申シマス通、委員會ニ於ケル贊否ノ〓要ハ、先ヅ是ノ如キモノト御承知ヲ願ヒタイ、
其細目ニ至ッテハ前ニ申述ベマシタ通リ、反對贊成ノ論者ガ、此壇ニ立ッテ、自カラ詳
細ナル御演說ガアルト信ジマス、是ガ卽チ鐵道國有案ニ對スル、委員會ノ經過デゴザイマ
入、京釜鐵道買收法案ニ對シテハ前ニ御報告致シマシタ通リ、多少ノ質問ニ止マッテ、
本法律案ニ對シマシテハ、大ナル議論ナクシテ、滿場一致ヲ以テ可決致シマシタ、此段御
報告致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=30
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031・楠目玄
○楠目玄君 本員ハ此案ノ將來ニ於キマシテ、聊カ憂慮スル〓ガアリマスカラ、當局者
ニチヨット質問ヲシテ置キタイト思ヒマスル、ソレハ此第二條ノ末項ニ依ッテ見マスルト、未
ダ運輸ヲ開始セザル鐵道モ、亦買收スルト云フコトニナッテ居リマス、其開始セナイ鐵道
ト云フモノハ、ドレ〓〓デアルカト云フコトヲ、既ニ委員會ニ於テ尋ネマシタトキニ、當局者
ノ答ニ依ッテ見ルト、橫濱鐵道、備後鐵道ノ二ツデアルト云フコトヲ答ヘラレタ、サウシテ
其買上ノコトハドウ云フコトニシテ買上ゲルカト云フコトニナッテ見ルト、第七條ニ依ッテ
卽チ此敷設費ノ以內ニ於テ買上ゲルト云フコトデアル、卽チ建設費以內ニ於テ買上ゲ
ルト云フコトガアル卽チ建設費以內ニ於テ買上ゲル、斯ウ云フコトデアル、ソレカラ他ニ
別ニ何ニモナイデ、其以內ト云フコトハ、何ノ標準ニ依ッテ之ヲ買收スルコトデアリマスルカ、
聞クトコロニ依レバ、卽チ此橫濱鐵道ノ如キモノハハヤ既ニイロ〓ノ風說ヲシテ、種々
ノ情實ガ行ハレツヽアルト云フコトヲ聞キマスル、マダ此通過シナイ先キニ、サウ云フコト
ガ發表セラルヽヤウナコトデハ、將來幾多ノ鐵道ヲ買上ゲルトキニ於テハ、ドウ云フ弊害
ガ生ズルデアラウカト云フコトヲ、本員ハ大イニ憂慮ニ堪エナイノデアル、併シ是ハ隨分大
イナル問題デアリマシテ、何レモ此事ニ付イテハ心配ヲシテ居ルトコロノコトデアリマスカラ、
是ニ於テ當局者ノ確カリシタ、私ハ御答ガ聽キタイト思フソレハ何カト云ヘバ卽チ此
將來買收スルノ當局者ノ態度デアル、是ハ當局者ハ之ヲ買上ゲル場合ニ於テハ、一少
モ假借セズ、少シノ精實モ挾マズ、法律ノ示ストコロニ於テ、ドシーヤルデアラウト云フ
コトハ、小生モー本員モ之ヲ信ジテ居ルガ、今ニ於テ既ニサウ云フコトヲ風聞スルト云
フコトニナルト、餘程此前途ガ憂慮ニ堪エラレナイノデアル、ソレデ此事ニ付イテ當局者
ニ於テ、ハッキリシタ御答ガ聽キタイノデアル、デ此第七條ノ如キモノハドウ云フコトヲ標
準ニシテ買收スルデアルカ、又其他ノ點ニ於テモ、少シモ情實ヲ挾マナク、能ク儼然ト此
法律ヲ施行スルノデアルカ其邊ヲ能ク明確ニ御答ニ與リタイト思ヒマス
〔遞信大臣山縣伊三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=31
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032・山縣伊三郎
○遞信大臣(山縣伊三郞君) 御答致シマス、唯今御尋ノ此法律案ガ通過シタル曉
ニハ、嚴重ニヤルカ否ヤ、ト斯ウ云フコトデアリマスガ、固ヨリ此法律ニ依ッテ十分情實ニ
拘泥セズ、嚴重ニヤル積リデゴザイマス
〔拍手スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=32
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033・岡田治衞武
○岡田治衞武君 本員ハ本案ノ討議ニ入ルノ前ニ於テ、政府ノ意思ヲ確メテ置キタイ
コトガアリマス(「君ハ此委員デアッタジヤナイカ、委員會デ聽イタラウ」ト呼フ者アリ)ソ
レハ第十八條ニ於テ「買收ヲ受クヘキ會社カ兼業ヲ營ム場合ニ於テハ其兼業ニ屬スル資
產ヲ併セテ買收スルコトヲ得」トアル、此事ニ付イテハ、本員ガ委員會ニ於テ、政府ノ意
思ヲ遞信大臣ニ御尋ヲシテ、答ハ確カニ受ケテ居ル、併ナガラ尙本會ニ於テ明カニ意
思ヲ固メテ置キタイノデアル、ソレハ此兼業ト云フ文字バカリニ致シタナラバ後日或ハ濫
買ノ弊ヲ生ズルト云フヤウナ虞ガアルニ依ッテ、此兼業ト云フ意味ハ、卽チ運送ノ用ニ供
スル、直接ノ性質ノモノハ買收ヲスルコトヲ得ルガ、其他ノモノハ買收シナイト云フコトヲ、
明カニ御答シテ貫ヒタイト思フ、例ヘバ(「簡單々々」ト呼フ者アリ)差向キ北海道炭礦
鐵道ノ卽チ炭山ノ如キモノハ、決シテ買ハナイデアル、買收セヌノデアルト云フ御答テ
アッタカラ、ソレニ間違ナイカ、ドウカ、ソレカラ尙將來ニ於テモ、交通上ニ直接關係ノナ
イモノハ、買收セヌト云フコトヲ、本會ニ於テ明ニ答ヘテ貫ヒタイト思フノデアリマス
遞言大臣山縣伊三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=33
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034・山縣伊三郎
○遞信大臣山縣伊三郞君 御答致シマス、昨日モ委員會ニ於テ、御答致シタ通、炭
礦ノ如キハ之ヲ買收致シマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=34
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035・岡田治衞武
○岡田治衞武君 尙其他ノ項モ······
〔「無用々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=35
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036・杉田定一
○議長(杉田定一君) 日程第七、鐵道國有法案、第一讀會ノ續ヲ開キマス、武富
時敏君
〔武富時敏君登壇
(拍手スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=36
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037・武富時敏
○武富時敏君 私ハ此鐵道國有法案ニハ、反對ヲ致シマスル一人デゴザイマス、ソレ
CH3
デ、反對ノ理由ヲ略〓述ベタイト思ヒマス、過日西園寺總理大臣ハ、
提出ノ理由ト致シマシテ、此鐵道國有法案
政府ハ、當初ヨリ今日マデ、鐵道ハ國有タルベキ方針ヲ有シ
テ居ルト云フノ趣意ヲ述ベラレマシテ、新橋橫濱間ノ鐵道ヲ、明治四年ニ政府ガ建築
工事ニ著手致シマシタ、古イ歷史カラ繰立テヽ、此法案提出ノ理由ノ一ト致サレマシタ
ガ、斯樣ナ古イ歷史ヲ緣立テヽ此國有法案ノ是非ニ何ノ關係ガアルノデゴザイマセウ
カ、私ハワレハ存ジマセヌ、併ナガラ、若シ古イ歷史ヲ緣立テマスレバ、從來政府ハ鐵道
ニ對シテ、嘗テ一定ノ方針ハゴザイマセヌ、今日マデ維新ノ當初ヨリ、政府ガ全國ノ各鐵
道ニ對シテ如何ナル方針ヲ採ッタカ、決シテ一定ノ方針ハゴザイマセヌ、其證據ニハ一方
ニハ國有ノ方針ヲ採ッテ居ルガ如キ態度ヲ致ス傍ラニハ、明治二十二年ニハ北海道ノ鐵
道ハ、政府デ建築ヲ致シテ、其建築費ノ殆ド年額ニモ足ラザル、二束三文ノ直段ヲ以
テ、之ヲ民間ニ拂下ゲタノデアル、當時ハ誰ノ內閣デゴサイマシタカ、黒田內閣デゴザイマ
シタカ、山縣内閣デゴザイマシタカ、其邊ハ今確カニ記憶ハ致シマセヌガ、是ハ何デモ明
治二十二年、明治二十三年ノ頃ノコトデゴザイマス、其他是マデ鐵道ノ言ハヾ切賣ト云
フヤウナコトヲ致シタコトハ度〓アル、此一例ヲ以テモ從來政府ガ鐵道ニ對シテ、嘗テ一定ノ
方針ガナカッタト云フコトハ、明白デゴザイマス、併ナガラ斯樣ナ古イ歷史ヲ繰立テヽ政府
ニ一定ノ方針ノ有無ヲ爭フノハ、是ハ無益ノコトニ屬スルノデ、私ハ强テ爭ハ致シマセヌ、
ソコデ果シテ從來政府ハ國有ヲ以テ一定ノ方針トシテ居ッタト言ヘバソレデモ苦シカラ
ヌ、ソレデモ宜イ、又過日西園寺總理大臣ガ言ハレマシタヤウニ、是マデ鐵道ノ民設ヲ
許シタノハ、鐵道ノ速成擴張ヲ圖ルタメ、一時ノ權宣ノ處置ニ過ギナイ、斯樣ナコトヲ
言ハレテ居リマス、ソレデモ宜シイ、民設ヲ許シタノガ、鐵道ノ改良擴張ヲ圖ル權宜ノ處
置デアッタト言ヘバ、權宜ノ處置デモ宜シイ、併ナガラ權宜ノ處置デモ宜シイガ、今日ハ
此權宜ノ處置ヲ止メルノ時期デハナイト、私ハ言ハウト思フ、權宜ノ處置ナリトシテモ宜
イガ、此權宜ノ處置ヲ今日止メル時期デハナイ、如何トナレバ、鐵道ノ速成擴張ヲ圖ル
ト云フコトハ今日ニ於テモ從來ヨリモ少シモ減ジマセヌ、鐵道ノ改良速成ヲ圖ルノ必
要ト云フコトハ、從來ニ比シテ、今日ハ益〓急ナルコトヲ吾ミハ信ズルノデアル益〓ナ
ルコトヲ信ジマスガ故ニ、此錢道ノ速成改良ヲ圖ルタメノ、權宜ノ處置トシテ民設ヲ許
スノ政策ヲ繼續スルノ必要ハ益〓切ナルコトヲ感ズルノデアル、成程權宜ノ處置ト謂ハヾ
言ヘ此民設ヲ許シタル政府ノ政策ハ、誠ニ其當ヲ得タルモノデアヲテ、其效果ト云フモ
ノハ、今日著シク現ハレテ居ル、ソレハ政府ハ明治四年ニ鐵道ノ工事ニ著手ヲ致シマシ
テ、今日マテ三十四五年間ノ歲月ヲ費シテ、其成績ハドウデアル、三十年三十四
五年間ノ歲月ヲ費シテ、政府ガ建築シ得タルトコロノ鐵道ト云フモノハ、漸ク千三百哩
-千三百哩ニ過ギマセヌ、然ルニ一方ノ民間ニ於テハドウデアル、民間ニ於テハ鐵
道工事ニ著手ヲ致シマシタノハ、政府ノ鐵道工事ニ著手ヲ致シマシタヨリモ、十年モ十
五年モ後レテ著手ヲ致シテ居ル、十年モ十五年モ後レテ著手ヲシテ居ッテ、僅カニ二十年
間バカリニ、ドレダケノ鐵道ヲ落成セシメタカト云フト、三千何百哩ト云フ、政府ノ鐵道ノ
殆ド二倍半ニ當ル鐵道ヲ落成サセテ居ル、是ハ民間ノ事業デ落成シタノデアル、民設ニ許
シタル、所謂西園寺首相ノ權宜ノ處置ト云フモノハ、誠ニ其效果著シキモノデアッテ、斯樣
ニ民間ノ事業ヲ發達シテ、民間ノ鐵道ハ民設ノ鐵道ハ政府ノ官線ヨリモ殆ド二
倍半ノ延長ヲ見タト云フモノハ、誠ニ是ハ著シキ效果ト言ハザルヲ得マセヌ、ソレ故ニ今
日益〓此鐵道ノ改良發達ヲ圖ルノ急ヲ感ズル時代ニ、何ヲ苦ンデ政府ハ此權宜ノ處置
ヲ止メヤウトスルノデアル更ニ其趣向ノアルトコロヲ知ルニ吾〓ハ苦シムノデアリマス、是
ニ付イテハ-此國有法案ヲ提出スルニ付イテハ、二ツノ理由トシテ政府ノ言フトコロハ
一ハ軍事上ノ理由、一ハ經濟上ノ理由、此二ツノ理由ニ付キマシテハ過日來委員會ニ
於テ十分ニ質問致シマシタガ、如何セン政府ノ答ヘルトコロハ、一トシテ吾〓ハ其要領ヲ得
ナイ、第一此軍事上ノ理由トシテ、今日ノヤウニ各私立會社ガ全國各地ニ割據シテ居ツ
テ、何等ノ不都合ヲ陸軍省ノ當事者ハ感ズルカト云ヘソレハ何等ノ不都合ヲ是マ
デ感ジタコトハナイト一云フ話デアル從來ドウ云フ不都合ガアッタカ、日〓戰爭ノ年、
若クハ今度ノ日露戰爭ノ年ニ當ッテ、鐵道ヲ民設ニ許可シテアルガタメニ、軍事上何
等ノ不便ヲ見タカト云ヘバ、陸軍大臣ハ之ニ答ヘテ、嘗テ何等ノ不便ヲ見タコトハナイ、
併ナガラ陸軍大臣ハ曰ク、從來ノ經驗ハ兵ヲ海外ニ送ルトキノ經驗デアッテ、敵ヲ國內
ニ引受ケタトキノ經驗ハ未ダナイ、ソレデ若シ是ハ萬々アルベカラザルコトデハアルガ、萬々
一ニモ敵ヲ國內ニ引受ケタトキハ、隨分今日ノ鐵道制度デハ不都合ヲ感ズルコトガアラ
ウト思フニ依ッテ、當局者トシテハ萬一ノ變ヲモ尙慮ッテ、其事柄ヲナサナケレバナラヌ、
斯ウ云フ說デアル是ハマルデ言言ヾヾ妄想トデモ評スベキコトデゴザイマシテ、我國內ニ敵
ヲ引受ケヤウナドヽ云フコトハ萬々アリ得ベカラザルコトデアル、併ナガラソレハ萬々アルベ
カラザルコトデモアルト云フコトヲ慮ッテ、其事柄ヲナスハ、軍事當局者トシテ然ルベキコト
デモゴザイマセウガ、偖サウ云フ場合ヲ、今日ヨリ慮ッテ置イテ、此鐵道ニ對シテ、軍事當局
者ハドウ云フ註文ガアルカ-ドウ云フ註文ガアルカト云フコトヲ、餘程尋ネテ見マシタトコ
ロガ、ソレニハ聊カ答ヘルトコロガゴザイマシテ、先ヅ第一ニ一列車ヲ以テ千人以上ノ人
ヲ乘スルニ足ル車輛ヲ備ヘルコトガ必要デアル、又必要ナ場所ニハ千人以上ヲ上下セシ
ムルニ足ル停車場ヲ建築セシムルコトガ必要デアル、併ナガラ是等ノコトト云フモノハ、短
距離ノ間ニ小資本ヲ以テ營業ヲ致シテ居ル私立會社ニ命令スルト云フコトハ、到底無
理タルヲ免カレヌ、ソレ故ニ是ハ官設ニシナケレバ致方ガアルマイト思フト云フ、陸軍大臣
ノ說デゴザリマス、成程ソレハ小サナ會社ガカツ〓〓營業ヲ致シテ居ルモノニ對シテハ寂
シイ線路ノ鐵道ニ對シテハ、一列車デ千人以上ヲ積ムト云フヤウナ汽罐車ナリ、車輛ナ
リヲ備ヘ、又千人以上ノ人ヲ上ゲ下シスルニ差支ヘノナイヤウナ停車場ヲ建築シテ置ク
ト云フコトハ無理ニ相違ナイ、勿論無理デアルサウ云フ設備ニ金ヲ費シテ致シマスレ
バ其會社ハ損失ヲ被ルト云フコトハ無論ナ話デアル、併ナガラ私設鐵道ニ對シテ、無
理ナル註文、之ヲ官設ニシテモ尙無理タルヲ免レヌ、官設ニスレバト申シテ、政府ハ鐵道
ニ投ズル無限ノ金ヲ持ッテ居ル譯デハナイ、政府ガ經營シテモ、民間デ經營シテモ、鐵道
ト云フモノハ、一ツノ是ハ營利事業デゴザイマスカラ、其線路ノ收益ガ得失相償ウテ、
立ッテ往クヤウデナケレバ、此鐵道ト云フモノハ立往クモノデハゴザイマセヌ、成程ソレハ政
府ノ經營ニ屬シテ、全國各鐵道ヲ一手ニ持ックラパ、有無相通ジテ、多少ハ損ヲスルヤ
ウナ線ガアッテモ、鐵道局ノ都合ハ左程苦カラヌト云フコトモゴザイマセウガ、併ナガラ、今
ノヤウノ註文ヲ全國各地ノ短距離ノ線路ニ對シテマデモ、陸軍ノ希望通ニ十分ニ之ヲ
完ウスルト云フコトハヽ政府ノ鐵道トシテモ、是ハ無理タル註文ヲ免カレヌ、又無理ナル註
文デモ、是ハ軍事上ニ必要ト云フノデ、是非シナケレバナラヌト云フコトデアレバ詰リ金
サヘ出セバ私立會社ニシテ置イテモ、政府ガ持ッテ居ッテモ、出來ルコトハドッチニシテモ出
來ル、詰リ出來ルカ出來ヌカト一云フコトハ、是ハ金トノ相談、算盤トノ相談デアル、私立
會社ガ損ヲシテハ、誠ニ是ハ可哀サウデアルカラ、政府カラ補助ヲシテ、ソレダケノ設備ヲ
平生サシテ置クト云フコトデアレバ、ソレデモ出來ル、又是ガ官設ニナッテモ、サウ云フ無理
ナ註文ヲ仕掛ケラレヽバ鐵道ノ方デハ、ソレニ補ヒト云フモノガ出テ來ナケレバ、ソレハ
出來マセヌ、詰リ出來ル出來ヌハ官設ト民設デソレガ岐レルノデナクテ、唯金トノ相談
デ出來ル出來ヌト云フコトハ岐ルノデアル、又必シモサウ云フ無理ナ註文ヲ是非トモ達
シナクテモ、サウ云フ線路ニ對シテハ、附近ノ官線ト連絡ヲ保ツヤウニ仕掛ケテ、十分ニ
完備シテサヘ置ケバ、一朝有事ノ日ハ、→如何樣ニモ之ヲ用井ルコトガ出來ルノデアリマ
ス、ソレハ必シモ私ガ此處デ詳シイコトヲ說明シナクッテモ、諸君ハ十分ニ御了解ノコト
デアラウト思フノデアリマス、是ノ如ク軍事上ノ理由ト云フモノニ付イテモ、此國有ヲ必
要トスル理由ニハナリマセヌ、皆私立會社ニ遣ラシテ置イテモ、十分ニ出來得ルコトバカ
リデアル、更ニ國有ノ必要タル理由ニハナリマセヌ、次ノ經濟上ノ理由ニ至ヲテハ、尙更
ノコト、經濟上ノ理由トシテ、大藏大臣ナリ、若クハ遞信大臣ガ說明スルトコロハ唯統
一ト云フノデアル、全國鐵道ノ統一ト云フコトガ、經濟上必要デアル、全國鐵道ノ統一ト
云フコトハ、吾〓モ無論望ム、吾〓モ無論望ムガ、此鐵道ノ統一ト、國有ト何ノ關係ガア
ル、國有ニシナゲレバ統一ガ保テナイト云フ理由ハドコニアル、統一ト云フコトハ、國有ニシテ
モ、民有ニシテモ出來ル、國有ニシタレバトテ、必シモ國有ニシタバカリデ統一ノ出來ル譯ノ
モノデナイ、民有ニシテ三十若クハ四十ノ會社ガ全國各地ニ割據シテ居ッテモ、之ヲ指揮
監督スルモノハ、政府ノ權能ニ屬スルモノデゴザイマスカラ、政府ガ之ヲ監督シテ十分ニ
其間ニ脈絡ヲ通ゼシムル手段ト云フモノハ幾重ニモアル、又現ニ私設鐵道法ナリ、其他
ノ法律命令ニ依ッテ、政府ガ此統一ノタメニ畫策スルノ手段ト云フモノハ、イクラモアル
ノデアル、唯今日ハ政府ハ此手段ヲ怠ッテ居ル統一ヲ保ツ手段ヲ採ラナイノデアル、ソ
レ故ニ統一ガ出來テ居リマセヌ、成程今日ハ統一ヲ保ッテ居リマセヌ、統一ヲ保ッテ居ラ
ヌガ、其統一ヲ保ッテ居ラヌ所以ノ根源ト云フモノハドコニアルカト云ヘバ、政府ガ監
督ヲ怠ッテ居ル、詰リ今日ノ鐵道ノ不統一ト云フコトハ、監督者タル政府ノ無能ヲ表
示スルノデアル、私立會社ノ方ヨリシテ、却テ政府ノ鐵道ノ作業局ニ向ッテ連絡輸送ノ
交渉ヲ申出テ、作業局ハ之ヲ拒ンダ事實ハイクラモアル其他私立會社ヨリ、此交通
ノ便利ノタメニ、種々ナ手段ヲ講究致シマシテ、作業局ニ交涉ヲ致シテ見ルト、獨り作
業局ハ作業局自身ノ利益ヲ保護スルガタメニ私立會社ノ交涉ヲ拒絕シタ事實モイクラ
モアル、ソコデ申サバ鐵道ノ統一ヲ妨害シテ居ルモノハ誰カト言ヘバ、政府デアル、(「ヒヤ
ヒヤ」ト呼フ者アリ)私立會社ガ、鐵道ノ統一ヲ妨害シテ居ル事實モ、ソレハ少シハアリ
モ致シマセウ-アリモシヤウガ、サウ云フ事實ガアルナラバ、政府ハ之ヲ監督スルノ權能
ガアルノデゴザリマスカラ、此監督權ニ依ッテ、全國鐵道ノ統一ヲ保タシムルコトヲ計ラ
ナケレバナラヌ、併ナガラ其統一ヲ保ツコトヲ計ラナケレバナラヌ、政府ガ、其手段ヲ怠ッテ
居ルノデゴザイマスル、ソレ故ニ此經濟上ノ理由トシテ、所謂統一々々ト頻リニ此統一
ト云フコトヲ呼ハルノデゴザイマスルガ、此統一ト云フノハ、國有クルト民有タルトヲ問ハ
ズ、出來ルコトデゴザイマスカラ、此統一呼ハリハ、鐵道國有ノ理由ニナラヌト云フコト
ハ、最早明確デアラウト思フ、是ノ如ク鐵道國有ノ二ツノ理由トシテ、政府カ賴ムトコロ
ノ軍事上竝ニ經濟上ノ理由ト云フモノハ、右申ス通一トシテ國有ヲ必要トスル理由ニ
ハナリマセヌ、然ルニ何故ニ此鐵道國有ヲ主張スル人ガ、世間ニアルデアラウカ、又强テ
此全國ノ鐵道ヲ國有トシテ、之ヲ政府ノ獨占事業ニ致シマシタナラバ、最早是限リ我
國鐵道ノ改良發逹ト云フモノハ玆ニ止マルノデアル(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)元來唯
理窟カラ申シテモ、改良進歩ト云フモノハ、競爭ノ結果デアル、競爭ニ依ッテ始メテ改良
進步ト云フコトガ出來ルノデゴザイマスルガ、是ガ政府ノ獨占事業ニナレバ、此理窟カラ
申シテモ、改良進步ト云フモノハ、玆ニ止マルト云フコトハ論ヲ待タヌ、又是マデ官設鐵
道デ改良進步ヲ舉ゲタ事實ガアルカ否ヤ、皆鐵道ノ設備ニ進步ヲ見タノハ、私立會社
ヨリ其始メヲ爲シテ、私立會社ノシタ仕事ニ依ッテ、作業局ハ其儘クッ付イテ居ルニ過
ギナイ、總テ客車ノ設備、又ハ貨物ノ取扱振リモ、皆私立會社ガ始メテ改良ノ手段
ヲ執ッテ、私立會社ガサウ云フ改良ノ手段ヲ執ルガタメニ、餘儀ナクセラレテ、政府ノ鐵
道モ其後ニクッ付イテ、眞似テ居ルト云フコトハ、誰モ知ッテ居ル事實デアル、現ニ一例ヲ
申セバ、明治五年以來、三十五年ノ間、此新橋ト橫濱間ハ、五十何分ノ速力デ、鐵
道ハ走ッテ居ック、是ガ近來電車ガ出來テ新橋橫濱間ヲ二十七分間テ達スルコトニナッ
タカラ、サア鐵道局ハ驚イテ急行列車ヲ發スルコトニナッテ、二十七分間ニ東京橫濱ヲ
走ルト云フ計畫ヲシタノデアリマス、果シテ二十七分間ニ新橋橫濱間ヲ走ルダケノ
力ガアルモノナレバ、明治五年カラ今日マデ三十五年ノ間、三十分ノ時間ハナゼ損ヲシ
テ居ル、時是金也ト云フハ、卽チ經濟上ノ金言デゴザイマシテ、ソレヲ政府ノ作業局ハ
塩ラー今日三十五年ガ間、競爭ガナイタメニ、五十何分ノ時間ヲ費シテ、東京ト橫
濱ノ連絡ヲ附ケテ居ル、ソレガ電車ノ競爭ニ出ツクハセテ、始メテ驚イテ、漸ク近來二十
七分間デ東京橫濱ノ連絡ガ取レルコトニナッタノデアル、競爭ノ賜ハ是ノ如シ、然ルニ全
國各地ノ鐵道ガ、政府ノ獨占事業トナッタナラバ、改良發達ハ玆ニ止マルト云フコトハ
明々白々一點ノ疑モゴザリマセヌ、又是ハ唯理窟ノコトデゴザリマスルガ、實地ニ考ヘテ
見ルニ、鐵道改良發達ト云フコトハ、金ガナケレバ出來ナイ、金ガナケレバ鐵道ノ改良發
達ハドウシテモ出來ルモノデナイ、然ルニ政府ハ如何ニシテ此全國各鐵道權ヲ一手ニ引
受ケテ、改良發達ノ資金ヲドコヨリ持ッテ來ヤウト思フノデアルカ、(「ヒヤノ」ト呼フ者
アリ)委員會デ、遞信省ノ政府委員ハ、說明シテ曰ク、果シテ此案ガ通過ヲ致シタ曉
ニハ、鐵道ハ特別會計トナシテ、十分ニ改良發達ノ實ヲ舉グル積リデゴザル、所ガ特別
會計ナルモノハ無イモノヲ有ルヤウニスル魔術デハゴザリマセヌ、特別會計ニシテモ、何ノ
會計ニシテモ無イモノハドコマデモ無イ、特別會計ニシタカラト申シテ無イ金ガ出ル氣遣ハ
更ニナイノデアリマス(「分リマシタト呼フ者アリ)如何ニシテ此鐵道ノ改良發達ノ資金ヲ
得ヤウトスルノデゴザイマスルカ、此鐵道國有法案ト同時ニ、諸君ノ御手許ニ配付サレテ居
ル四十年計畫ノ表ト云フモノガアルアレバ吾〓ハ何カ當局者ガ出鱈目ノ計算ヲ拵ヘ
テ、チヨット虚飾ヲシタノデアラウト存ジテ居リマシタガ、アノ表ハ政府ノ方デハ餘程重キヲ
置イテ居ルモノト思ハレル、如何トナレバ阪谷大藏大臣ハ、過日委員會ニ於テ說明シ
テ曰ク、此表ニシテ果シテ確實デアルナラバ、鐵道ヲ國有ニシテモ、財政經濟ノ前途ニ、
憂慮ヲ懷クニハ及バヌ、果シテ確實デアルナラバ、前途憂ヲ懷ク氣遣ヒハ要ラヌ、斯ウ云
フコトデゴザイマシタ、ソコデアノ表ノ確實不確實ト云フコトハ、此國有案ノ通過如何ニ、
餘程ノ關係ヲ持ッテ居ル、假リニアノ表ヲ確實ナリト信ジテ見テモ、アノ表ニ依ッテサヘモ、
鐵道國有ト云フモノハ、三四年間ハ買收公債ノ利息サヘモ拂フコトガ出來ズニ、年々損
失ヲシナケレバナラヌ、アノ表ニ依ッテサヘモ三四年間ト云フモノハ損失ヲ免レマセヌ、旣
ニ損失ヲ免レヌ以上、此鐵道ノ今後ノ改良發達ニ、ドコヨリ金ヲ持來ルデアラウカ、改
良發達ノ資金ヲ得ル所ハナイト云フコトハ明白デハゴザイマセヌカ、如何ニ之ヲ特別會計
ニ爲シタレバトテ、損失ヲスル鐵道ノ經濟ガ、俄ニ儲ッテ、改良發達ノ資金ニデモ、ソレカ
ラ產出シテ來ルト云フヤウナ魔術ハ、決シテ世間ニアルモノデハナイ、ドコマデモ無イモノハ
無イ、損失ヲスルモノハ矢張損失ヲスル、又所謂四十年計畫ノ表ト云フモノハ吾〓ノ眼
デ見ルト、誠ニ杜撰ヲ極メタルモノデゴザイマシテ、少シモ當テニナリマセヌ、第一ガ誰ガ考
ヘテ見テモ、政府ノ事業ト、民間ノ事業ト比較スレバ、政府ノ事業ノ方ガ不經濟デアラ
ウト云フコトハ誰モ是ハ疑ヲ容レヌコトデゴザイマシテ、現ニ此鐵道ニ於テモ、政府ノ
官線ニ係ル營業費ト、私立會社ノ鐵道營業費トヲ比較シテ見ルト、非常ナ相違ガア
ル、(「私立ノ方ガ多イ」ト呼フ者アリ)私立ノ方ガ多イト云フ聲ガ聽エマスガ、ソレハ成程
私立會社デ政府ノ官線ヨリモ多イ所モ、小サイ會社ニハアルカモ知レナイ、小サイ會社ニ
ハアルカモ知レナイガ、全國デ申シテ見ルト、、私立會社ノ方ガ餘程經費ハ少ナイノデアリマ
ス、現ニ線路ノ一哩ニ平均シテ見テモ、官線ノ方デハ一哩ノ平均ガ六千八百圓、殆ド
七千圓ト云フ金ニナル私立會社ノ所謂私線ト云フ方デゴザリマスト、五千三百何十
圓ト云フ金デゴザリマス、併ナガラ之ニ對シテハ、過日委員會ニ政府委員ハ辯ジテ曰ク、
ソレハ成程線路ノ一哩ニ平均シテ見ルト、サウ云云計數モ出テハ來ルガ、營業費ノ多少
ト云フモノハ詰リ線路ノ狀態ニ依ルノデアッテ、一〓ニ一哩ノ平均ヲ以テ多少ヲ論ズ
ルコトハ出來ナイ、成程ソレハ其通、ソレハ尤ノ議論デアル、唯一哩平均ノミヲ以テ、多
少ヲ論ズルト云フコトハ無理デアリマス、併ナガラ、一哩平均ノミヲ以テ論ズルハ、無理
デゴザイマセウガ、何レノ方面ヨリ統計ヲ取ッテ見テモ、私立會社ノ方ガ、誠ニ經濟デ、
官線ノ方ハ誠ニ不經濟ヲ極メテ居ルト云フ數字ハ歷々トシテ出テ來ル、列車ノ走ル、
所謂列車走行哩數ト云フモノニ平均ヲシテ見テモ、私設ノ方ガ餘程少ナイ、何レノ方
面カラ見テモ、私設會社ノ方ガ、餘程經濟ニ出來上ッテ居ルガ、政府ノ當局者ハ、ド
ウシテモ官線ノ營業費ガ、私線ノ營業費ヨリモ廉ク見エルヤウナ統計ヲ出シタイト思ハ
レタノデアリマスカ、ドウデアリマスカ、ソコマデハ穿鑿ヲ致シマセヌガ、人噸哩ト云フコトヲ
考出シタ、人噸哩ト云フノハ、隨分妙ナ言葉デアルガ、詰リ旅客ノ人數ト、貨物ノ噸
數ト、之ニ營業費ヲ割當テヽ、其百哩ニ付イテ、官線ガイクラニ當リ、私線ガイクラニ
當ルト云フ統計ヲ考出シテ來タノデアリマス、之ヲ考出シテ來テ、且ツ是ハ最モ事實ニ
近イ殊ニ官私ノ營業費ノ比較ヲスルニハ、最モ確實ナル標準デアル、斯ウ云フ前置ヲ致
シテ、出シテ來マシタトコロノ所謂人噸哩ト云フノガドウデアルカト云フト、是デモ矢張
官線ノ方ガ少々高イ百哩ニ付イテ八十錢-官線ノ方ハ八十錢ト、私線ノ方ハ七十
八錢誠ニ是ハ少々ノ違ヒデアル、先ヅ是ナレバ殆ド官線モ私線モ營業費ハ同一ト見テモ
宜シウゴザイマスルガ、偖熟〓考ヘルト此同一ナルノガ、卽チ官線ノ最モ不經濟ヲ極メテ居
ルト云フ證據ニナル、人噸哩ト云ヘバ、所謂旅客ノ人數、貨物ノ噸數ニ、營業費ヲ割當
テタノデゴザイマスルカラ、官線ノ此東海道線ノ如キ、東京大阪ト云フヤウナ、日本
最大ノ都會ヲ連絡スル線路デゴザイマスルカラ、旅客モ貨物モ何時デモ例車ニハ積切レ
ヌ程ノモノガアル決シテ空車ヲ引張ッテ往クト云フヤウナ憂ハ、年百年中嘗テゴザイマセ
ヌ、然ルニ私線ニナリマスルト迚モ東海道線ノヤウニ、旅客貨物ノ多イ線路ハゴザイマセ
ヌノデ、田舍ヘ參リマスレバ、皆御承知ノ通リ一等車ナドヽ云フモノハ殆ド空車バカリ
引張ッテ居ル、又貨車ニ致シマシテモ、積載量ハ五噸カ六噸ゴザイマシテモ、依賴ノ貨物
ガ、二噸カ三噸ニ過ギナイノデ、六噸ノ積載量ヲ持チナガラ、三噸ノ貨物ヲ載セテ引張ツ
テ居ルト云フノモ、始終有勝ノ例デゴザイマス、併ナガラ一列車ヲ動カスニハ、矢張同ジ
營業費ガ掛ルノデゴザイマスカラ、此營業費ヲ少ナイ旅客ノ數ト、少ナイ貨物ノ數ニ割
當テマシタモノガ、官線ノ東海道線ノヤウナ旅客貨物ノ非常ニ輻湊スル、此線路ニ對ス
ル營業費ヲ多イ族客ノ數ト、多イ貨物ノ數デ、割ッタモノト少ナイ旅客ノ數ト、少ナイ
貨物ノ數デ割ック營業費ノ額ヲ比較シテ、同一デアルト云フノハ官線ガ非常ニ不經濟
ヲシテ居ルト云フコトハ、是デ明白ノ數デアラウト思フ、是ノ如ク官線ノ營業ト云フモノ
ハ不經濟ヲ極メテ居ルノデアル、ソレニ今度政府ノ計晝通、三十二ノ會社ヲ買收シ
テ、其鐵道ノ改良費ハ、ドウスルカ、三年間バカリト云フモノハ改良費ト云フモノハ皆
無デアル損ヲスルノデアルカラ、改良費ナドノ出ヤウハナイ、又三年先ハ多少儲ルヤウナコ
トニ計算ヲ拵ヘテ、其儲ッタ後ハ改良費ハイクラ支出ヲスルカト云フト、此四十年間ノ
表ノ前ノ二十年間バカリノ計算デハ、改良費ト云フモノハ建設費ノ一部ニモ足ラヌ
位デアル、然ルニ是マデ私設鐵道ノ成績ニ徵シテ見ルト、ドノ位ノ改良費ヲ費シテ居
ルカト云フト、ソレハ全國ノ鐵道ノ種類ニ依ッテハ、イロ〓〓ゴザイマスルガ、〓シテ平均
三分-建設費ニ對シテ三分乃至四分ノ改良費ヲ使ッテ居ルノデアル、然ルニ政府ハ
之ヲ買收シテ、三年間ト云フモノハ、改良費ハ皆無其後ノ改良費ト云フノモ、僅ニ建
設費ニ對シテハ、一分ニモ充タヌ位ナ、誠ニ九牛ノ一毛トモ云フベキ、改良費デ、ドウシ
テ此鐵道ノ改良ガ出來ヤウカ、如何ニシテ此鐵道ノ現狀サヘモ維持スルコトガ出來ヤウ
カ、斯樣ナモノ總テ、此四十年間ノ表ト云フモノガ、全ク架空ノ忘想ヨリ成立ッテ居ル表
ト我輩ハ評シテ憚ラヌ、總テ架空ノ忘想デ、此表ト云フモノガ出來テ居ル、況ヤ又剩ヘ軍
事當局者ガ希望セラレハガ如ク、寥々タル寒村ニモ、尙且千人以上ノ旅客ヲ上下セシムル
ニ足ルヤウナ、停車場ヲ建築スルトカ、或ハ平生ハ旅客モ貨物モ餘リナイヤウナ、極ク寂
シイ線路ニ對シテモ、千人以上ヲ載スルヤウナ列車ノ汽罐車ナリ、客車ナリヲ準備シテ
置クト云フヤウナ註文ガ續々ト出テ來テ、少ナカラヌ金ヲ此鐵道ニ費サナケレバナラヌ
ト云フコトニナリマスト云フト、三十二會社ヲ買潰シテ、全國ノ鐵道ヲ政府ノ一手ニ引
受ケテ、其公債ノ元利サヘモ拂フコトガ出來ヌト云フヤウナ結果ニナルカモ知レマセヌ、總
テ此計算ト云フモノガ、架空ナ妄想ニ出テ居ルノデゴザイマスカラ、今後ノ結果ハ、如何
ニ成行クカ、吾〓ハ甚ダ憂慮ニ堪ヘナイ、ソコデ阪谷大藏大臣ハ此表ニシテ確實ナレバ、
財政經濟上將來憂フルトコロハナイト言ハレマシタガ、此表ノ確實ナラザルコトハ、今申
ス通デゴザイマスカラ、財政ノ局ニ當ッテ、其責任ヲ持ッテ居ラルヽ阪谷大藏大臣ハ宜
シク再ビ閣議ヲ開クコトヲ請求シテ、此案ノタメニ再議ヲ盡サレンコトヲ私ハ望ムノデア
ル、(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)然ラザレバ財政當局者ノ責任トシテ、上ハ陛下ニ對シ下
ハ國民ニ對シテ、相濟ムマイト考ヘルノデアリマス、(「ヒヤ〓〓」又ハ「然リ」ト呼フ者アリ)
殊ニ又此三千哩以上ノ線路ヲ政府ガ引受ケタ以上ハ、是ニ對シテ少ナカラヌ改良費
ガ要ルノミナラズ、今後ハ益〓之ヲ擴張ヲシテ往カナケレバナラヌト云フコトハ勿論ノコ
トデゴザイマスガ、今申ス通ノ譯デハドウシテ之ガ出來ルノデアリマセウ、又公債デモ募
集スルト云フヨリ外ニ手段ハナイノデ、サスレバ既ニ買收ノタメニ四億七千万圓ノ公
債ヲ、募リ又今後此鐵道ノ改良發達ヲ圖ルタメニ、公債ヲ募集スル、詰リ四億七千
万圓ノ公債ガ、五億トナリ六億トナルト云フコトハ、瞬ク間デアラウト思フ、併ナガラ、旣
ニ政府ノ經營ニ屬シテシマッタ以上ハ、改良發達ノ一日モ忽セニスルコトハ出來ヌト云
フ工事ニ對シテモ、政府ノ都合ニ依シテ始終之ハ繰延ベ或ハ工事ノ中止ト云フコトガ、
他ノ政務ノ都合ノタメニ、此鐵道ガ其影響ヲ受ケナケレバナラヌト云フ境遇ニ陷ル、ソレ
ハ是マデモ總テノ鐵道ガ動モスルト政府ノ都合ニ依ッテ-政府ノ他ノ政務ノ都合ニ依ッ
テ工事ガ中止サレ、或ハ繰延ベラレルト云フコトハ、始終アル例デアリマシテ、私ガ必シモ
今喋々スルコトヲ要シマセヌ、所ガ全國ノ各鐵道ハ皆其有樣ニ陷リ、果シテ鐵道ノ經濟
ノタメニ何ノ利益ガアル、鐵道ト云フモノハ政治ノ影響ヲ受ケズニ、自然ノ發達ヲ遂グル
ヨ、經濟上利益ノコトデゴザリマスガ、政府ハ百般ノ政務ニ當ッテ居ルノデゴザイマス
カラ、政府ノ經營ニ屬シタ以上ハ、矢張政府ノ都合ニ依クテ始終此鐵道ト云フモノガ左
右サレル、支那ニ騒動ガ起ッテ兵ヲ出サナケレバナラヌ、之ニ費用ガ掛ル、サア鐵道ヲ繰
延ベロト云フヤウナコトガ始終アッテハ鐵道ノタメニハ誠ニタマッタ話デハナイノデ、殊ニ又
從來政府ノ情弊ト致シテ、有力ナル大臣ガ坐リマシタ省ノ事業ト云フモノハ、忽チ盛ン
ニナル其實體ニ於テハ左程急要ナラザル事業モ、有力ナル大臣ガ坐ッテ居ル省ノ所管
デアレバ、ズンズンソレハ〓ッテ往ク、若又世間デ云フトココロノ伴食大臣ノ居ル省ノ仕事
デアルト、急要ナ仕事、必要ナ仕事デアッテモ、動モスルト閣議デ打消サレル、斯ウ云フ
コトハ從來ノ情弊トシテ、政府ノ免レザルトコロデアル、ソコデ此鐵道ヲ管理スル遞信省ト
云フモノガ、伴食大臣デアルカ否ヤト云フコトハ、我輩ノ知ルトコロデハゴザイマセヌ今日
ノ遞信大臣ハ免モ角モ名前ガ名前デゴザイマスカラ、隅ニハ置ケナイカモ知レマセヌ、併ナ
ガラ今日ノ遞信大臣ガ、永久ニ續カウト云フ保證モ出來ナイ、斯樣ナ大イナル仕事ヲ
引受ケテ、財政經濟上恐ルベキ影響ガアル仕事ヲ引受ケテハ其責任ノ重大ナルニ堪
ヘズシテ、遠カラズ罷メラレルカモ知レマセヌ(「罷メナイカモ知レヌ」ト呼フ者アリ)若シ又
今ノ遞信大臣ガ罷メラレテ、所謂伴〓大臣ガ此遞信省ニ坐ルト云フコトニナリマスレバ
其伴〓大臣ノタメニ、鐵道ノ受ケル、影響ト云フモノハ、誠ニ少ナカラヌ、鐵道ノ延長
ハ必要ナリト云ッテモ、伴食大臣ノ要求スルトコロハ閣議ニ容レラレマセヌ、動モスルト斥
ケラレテ、其工事ハ繰延、或ハ中止ト云フヤウナ不幸ニ陷井ルコトハ是マデ多々其實
例ガアル、斯樣ナ有樣ニ諸君ハ此全國ノ鐵道ヲ置カウト云フ積リデゴザイマスルカ(「其
通リ」ト呼フ者アリ)餘リ鐵道ノタメニ圖ルニ親切ナラザル仕方デハアルマイカト私ハ思フ
ノデアリマス、斯樣ニ鐵道國有ノ理由ノナイコトハ明白デアッテ、且又我國ノ鐵道ト云フ
モノハ、此國有案ガ通過スレバソレマデヽ、既ニ改良發達ノコトヽ云フモノハ止マルト云
フコトハ明白デゴザイマス、況ヤ又此國有ヲ實行スルニ付イテ、是ガ我國ノ財政經濟
上ニ及ボス影響ト云フモノハ、誠ニ私ハ寒心ニ堪ヘマセヌ、恐ルベキ結果ハ是ヨリシテ
生ジハシナイカト云フコトヲ、今ヨリ憂慮ニ堪ヘマセヌ、先ヅ此鐵道ヲ賣收スルタメニ、公
債ヲ發行スルノガ、改良其他ノ公債ハ除イテ、買收ダケデ旣ニ四億七千万圓、若シ今
後之ガ改良發達ヲ計ルタメニ、公債ヲ募集スルト云フコトニナルト、五億六億ノ公債ニ
是ガナル、サスレバ是マデノ公債ト臨時事件ノタメニ起シタトコロノ公債ト、之ヲ合計ス
レバ、是マデハ僅カニ五億足ラズノ公債デアッタノガ、俄ニ三十億近クノ公債ヲ引受ケル
ト云フコトニナル、此三十億近クノ公債ヲ背負ッテ、是ガ信用ヲ保ツ、是ガ價格ヲ保ッテ
往カウト云フ將來ノ成算ハ、今ノ財政當局者ハ果シテアルカ否ヤ、如何ナル成算ガアレ
バ斯ル無鐵砲ナル國有法案ニ大藏大臣ハ同意シテ居ルノデアラウカ、大藏大臣ハ嘗テ
委員會ニ於テ說明シテ曰ク、公債ガ下落スレバ若シ下落ノ傾キガアレバ、政府ハ之ヲ
買上ゲル、何ノ金デ政府ハ之ヲ買上ゲルノカ、ソレハ減債基金モアレバ、預金局モアル、
政府ハソレ〓〓ノ機關ヲ備ヘテ居リマスカラ、決シテ憂慮ニハ及ビマセヌ、斯樣ナコト
ヲ云ハレテ居ル、是ハ明カニ速記錄ニ遺ッテ居リマス、減債基金ト云フモノハ、鐵道ノ
買收、公債ノ減債基金デハゴザイマセヌ、申スマデモナク、臨時事件ノ公債ノ減債基金
デアル、臨時事件ノ公債ノ元利仕拂ノタメニ設ケテアル減債基金デアル、然ルニ鐵道買
收ノタメ發行スル公債が、若シ非常ニ多ク賣出サレテ、下落スルヤウナ徵候ガ見エレバ、
政府ハ一方ノ減債基金ヲ以テ來テ、之ヲ買上ゲヤウト云フ、斯樣ナコトヲシテ、日本政
府ノ信用ト云フモノガ、保タルデアリマセウカ、少シク御考下サイマシタナラバ、斯ル亂暴
ナル言葉ガドウシテ大藏大臣ノ口カラ出タデアラウト疑ハレル、又預金局モアル預金局ナ
ンデアル、預金局ニイクラノ金ガアル、三千万圓カ四千萬預金ノ高デアル、ソレハ大〓
公債ニ化ケテシマッテ居ル、政府ハ是マデモ預金局ヲ使ッテ、公債ノ相場ヲ維持スルタメニ
遣繰シテ居ル、預金局ノ力一杯ニ政府ノ遣繰算段ヲヤリツヽアル、ヤッテ居ルノデアル、
此上ニ此鐵道ノ買收ヲスルニ於テモ、政府ハ五年間ト云フヤウナ猶豫ガアッテ、其上ニ
尙二年間ハ買收命令ノ日カラ、公債發行ノ日マデ猶豫ガアルカラ、都合七年間ハ宜
イ卽チ此鐵道買收ト云フモノハ、其性質トシテ、四億何千万圓ノ公債ヲ漸次ニダ
ラ〓〓ト割ゥテ出スト云フヤウナコトハ出來マセヌ、日本鐵道ノ一會社ヲ買フウニモ、矢
張一億三千万ト云フ公債ヲ出サナケレバナラヌ、是ハ一口ニ出サナケレバナラヌ、一億三
千万圓ト云フヤウナ巨額ノ公債ヲ一口ニ市場ニ出シタナラバ、此經濟市場ニ及ボス影
響ハ、誠ニ著シキモノガアルト云フコトハ、誰モ疑ヲ容レヌ話デアル、其時ニ至ッテ、政府
ガ公債買上ヲシテ、價格ヲ維持シヤウトシテ、掛ッテア見テモ、預金局ノ力誠ニ微々タ
ルモノデ、知レタモノデアル、百万カ二百万ノ一時ノ遣繰ト云フモノハ、預金局ノ力デモ
出來ヤウガ、ナカ〓〓サウ多額ノ公債ヲ預金局デ引受ケルナドト云フコトハ、勿論出來
マセヌ、然ラバドウシテ減債基金ヲ出シテ、鐵道公債ヲ買上ゲルカ、減債基金ヲ此方ニ
流用スルト云フコトガアッタナラバ、臨時事件公債ト云フモノハ過半ガ外國ノ公債デア
ル、日本政府ノ外國市場ニ於ケル信用ハ如何デアラウ、サウ云フコトハ到底日本ノ政
府トシテ出來ルモノデナイ、ソコデ此鐵道買收ノ影響ハ忽チ此公債市場ニ及ンデ、公債下
落ノ非ヲ現ハスト云フコトハ、誰モ疑ヲ容レナイコトデアリマス、而シテ此公債下落ノ反
動ガ、ドノ位ニ起ルカ、今日ヨリ豫メ其程度ヲ想像スルコトハ出來マセヌガ、若シモ意外
ニ此影響ガ廣クシテ、日本ノ內地ニ於テ外國人ガ買入レテ居ル公債ニデモ、外國人ハ
最早日本ノ公債ト云フモノハ非常ニ下落ノ兆候ヲ呈シテ來タト云フノデ、慌テヽ之ヲ賣
飛バシテ、現金ヲ囘收スルヤウナコトニナル、斯ルコトガゴザイマシタナラバ、經濟市場ハ如何
ナル影響ヲ受クルデアリマセウカ、經濟市場ノ影響ドコロデナイ忽チ日本銀行ノ兌換制度
ノ危機ニ瀕スルヤウナコトガアリハシナイカト云フコトヲ、今日ヨリ私ハ甚ダ憂慮ニ堪ヘナ
イノデアリマス、是ノ如ク恐ルベキ影響ノ我國ノ財政經濟ニアルト云フコトモ顧ミズ而モ
一モ國有ヲ必要トスル理由モナイニ拘ハラズ、何故ニ政府ハ此鐵道國有案ヲ此議會ニ
提出シタノデアリマセウカ、又此政府ノ案ニ諸君ハ何ノ心ヲ以テ贊成ヲセラルノデアリマ
セウカ、私ハ甚ダ政府ノ意思ト、贊成ノ諸君ノ意思ヲ知ルニ苦シムノデアリマス、先ヅ政
府ハ鐵道ノ統一ドコロデナイ、政府自身ノ統一コソ今日ノ急務デアル、政府行政ハ如
何ナル有樣デアル、果シテ行政ハ統一サレテ官紀ハ〓ッテ居ルカ、最モ紀律ノ嚴肅デア
ルベキ陸海軍ニ於テモ、或ハ〓育部ニ於テモ、從來種々ノ惡事ガ行ハレテ居ル私ハ世
間ニ現ハレザル政府ノ內部ノ隱微ヲ、玆デ計イテ自カラ快シトスルモノデハゴザイマセヌ、
併ナガラ蔽ハントシテ蔽フベカラザルコトハ、旣ニ世間ニ知レ亙ッテ居ル事實ハイクラモア
ル、例ヘバ陸軍ノ方デ申セバ、昨年ノ議場デ隨分ヤカマシイ議論ヲ惹起シタトコロノ旭川
事件ノ如キ、又ハ海軍ニ於テハ倫敦ニ於ケル三十万圓持逃ノ如キ、(「議長何ノ演說デ
ス」ト呼フ者アリ)鐵道國有ニ反對ノ演說ヲシテ居ルノデアル、(「何ノ演說デス」又「默レ」
ト呼フ者アリ)〓育部ニ於テ〓科書事件ノ如キ、殆ド指ヲ届スルニ遑ナイ、又(「折角ノ
演說ノ價値ガナクナルゾ」ト呼フ者アリ)財政ノ方カラ申スト、年々決算報告ニ現ハレテ
居ル役人ノ惡事ト云フモノハ、二百件乃至三百件、是ハ諸君ノ眼前ニ決算報告ヲ以
テ提出サレテ居ル、是ノ如ク政府ノ內部ハ旣ニ紊亂シテ、官紀ハ頽廢シテ居ル、然ルニ
西園寺內閣ハ戰爭ノ前後ニ依ッテ行政ノ整理ハ打切ル、戰爭ノ前後ニ依ッテ行政ノ整
理不整理ノ異ナルトコロガゴザリマセウカ、戰爭後果シテ政府ノ諸機關ハ統一サレタノデ
ゴザイマセウカ、果シテ政府ノ官紀ハ振肅サレタデゴザイマセウカ、矢張依然トシテ行政ハ統
一ヲ闕キ、官紀ハ頽廢シテ居ル、此行政ノ頽廢シ官紀ノ紊レテ居ルトコロノ政府ニ、全
國ノ鐵道ヲ統一スルガ如キ大事業ヲ、諸君ガ安ンジテ託スルニ足ルト思召スデゴザイマセ
ウカ(「軌道ヲ外レヌヤウニ願ヒマス」ト呼フ者アリ)吾ミハ斯樣ナ政府ニ向ッテ、全國各鐵
道ノ統一ト云フガ如キ大事業ヲ託スルニ足ラヌト信ズルノデアリマス、終リニ一言致シテ置
キマスルノハ、唯今マデノコトハ、鐵道ニ對スル利害得失ノ論デゴザイマシタガ、利害得失
ノ論ヲ離レテ、此鐵道ノ國有ト云フモノハ法律デ年限ヲ定メテ、人民ニ許可シテアル
權利ヲ取上ゲルノデゴザリマスルカラ、憲法ノ保障ヲ破リ、法律ノ信用ヲ失ヒ、延イテ國
家ノ信用ヲ內外ニ失フ所以ノ處置デアルト云フコトハ疑ヲ容レマセヌコトデゴザリマスルカ
ラドウカ諸君ハ國家ノ前途ノタメニ十分ニ御熟慮ヲ下サルヤウニ、偏ニ希望致シマス
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=37
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038・杉田定一
○議長(杉田定一君) 佐々友房君
〔佐々友房君登壇〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=38
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039・佐々友房
○佐々友房君 諸君、(「大キナ聲デ願ヒマス」ト呼フ者アリ)私ハ此鐵道國有法案ニ
贊成ノ一人デアリマス、諸君、此振古未曾有ノ大戰役ノ後ニ於キマシテ、戰後ノ大經綸
ヲ爲サナクテハナラヌトキニ於キマシテ、此大法案ノ提出ヲ見ルト云フコトハ吾〓先以
テ、我心ヲ得タリト云フ外ナイノデアル(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)此案ノ提出ニ付キマシ
テハ、有力ナル一大臣ハ、爲ニ辭表ヲ呈シタト云フ困難ニ遭遇シナガラ、其他種々ナル
困難ニ遭遇シナガラ、終ニ此提出ヲ見ルニ至ッタ、現內閣ノ英斷ハ吾ミノ稱讚ノ外ナイ
ノデアリマス、吾ミハ玆ニ贊成ノ理由ヲ各方面ヨリ羅列シテ、諸君ノ御同意ヲ得ンコト
ヲ希望スルモノデアリマス、第一鐵道ノ性質上ヨリシテ、吾ミハ贊成ヲスルモノデアル、此法
案ノ第一條ニ「一般運輸ノ用ニ供スル鐵道ハ國ノ所有トス云々」トアリマスガ、卽チ此
主義ニ於テ、吾〓ハ平生ノ所信ニ照シテ、最モ贊成ヲ表スルモノデアリマス、一體鐵道
其物ノ性質ハ如何ナルモノデアリマセウカ、吾〓ノ平生學ブトコロ、信ズルトコロニ依リマ
スレバ、是ハ國家ノ公道デアル、又社會共通ノ道路デアル、此鐵道其物ノ性質ニ於キ
マシテ、既業ニ國家所有ノ-國家所屬ノ事業ニスベキモノテアルト信ジマス、卽チ普通ノ
道路、又ハ郵便電信ノ如キモノデアッテ是ハ必ズ國家所屬ノ事業デナケレバナラヌト云フ
コトヲ、平生信ジテ居ルノデアリマス、ソレ故ニ此國家ノ所有ニ屬スルト同時ニ、又社會共
通ノモノデアリマスカラシテ、社會ノ方面ヨリ見マシテモ、是ハ眞ニ社會公共ノモノデア
リマスカラシテ、一二富豪、又ハ私立會社ノ專有ニ屬スベキモノデ無イト信ジマス(「ヒ
ヤ」ト呼フ者アリ)諸君御承知ノ通、輓近歐羅巴ニ於キマシテモ、此種ノ論ハ大
イニ盛ニ行ハレマシテ、現ニ獨逸ナリ、墺地利ナリ、匈牙利、白耳義、丁抹、瑞西等ノ
歐羅巴大陸ニ於キマシテハ續々此國有主義ガ現在ニ行ハレツヽアルノデアリマス、恐ク
ハ英佛ノ兩國、又ハ米國ニ於キマシテモ、今新ニ國家事情ノ變化ヲ致シマシタトキニハ、
必ズ此種ノ論ガ勝ヲ制スルカモ知レマセヌト思ヒマスケレドモ、彼ノ兩國ハ既業ニ歷史
ガ是ノ如クナッテ居リマスカラ、今更致シ方ハアリマスマイケレドモ、世界ノ大勢、吾〓ノ
信ズルガ如ク、國家公共ノモノデアル、社會共通ノモノデアルト一云フコトハ實ニ學說上理
論上ニ於テ、益〓其說ガ盛ンニナリツヽアルノデアリマスカラ、吾〓ノ平生信ズルトコロノ
所論ト正ニ一致シテ居リマスカラ、先以テ此主義ニ於テ絕對ニ賛成ヲスルモノデアリマ
ス、又第二、是ハ國防上ヨリ贊成ヲ表スルノデアリマス、此鐵道ヲ國有ニスルト云フハ、
卽チ其必要ハ最モ統一ニアル、其他鐵道ノ普及モアリマスケレドモ、先以テ統一デアリ
マス、其統一ハ先刻來進步黨ノ諸君ガ段々民有統一ノ論モアリマシタケレドモ是ハ成程
一論デアルニ相違ナイ、併ナガラ何レニ統一スルカト云ヘパ是ハ主義上ヨリ見テモ、便
利上ヨリ見テモ、ドウシテモ是ハ國家ガ統一シナケレバナラヌト思ヒマス、其統一ノ結果
ハドウカト云ヘバ、卽チ首尾貫通シ脈絡系統ガ一筋ヨリ割出シテ、所謂肱ノ指ヲ使フガ
如ク、行ハレテ參リマスカラシテ、最モ軍事上敏活、迅速、整頓ト云フ〓カラ申シマスル
ト誠ニ便益ノモノニ相違ナイ、尙日〓戰爭ノ當時、日露戰爭ノ當時ニ於キマシテ、私
立會社ガ甚シキ不都合ガアッタカ、失策ガアッタト申シマスレバソレハ相當ナル働キヲ爲
シ六、全ク日〓戰爭、日露戰爭ニ對シテ、私立會社ガ十分ナル働キヲ爲シタト云フコト
ハ吾輩モ認メル、併ナガラ之ヲ國家ノ手ニ統一シテ、而シテ敏活、迅速ニ能ク規則正
シクヤルトコロノ便益ニ比スレバ、是マデノ私立會社ノヤリ方ハ、尙且國家ノ手ニ收メル
ノ便益ナルニ如カナイダラウト信ジマス、此軍事上ノコトハ、吾輩長ク申シマセヌ、是ノ如
キ理由ニ依リマシテ、第二卽チ軍事上ノ必要ヨリシテ、贊成ヲ表スルノデアリマス、第三
鐵道ノ經營上ヨリ贊成ヲ表スルモノデアリマス、此鐵道ヲ國有ニスルハ卽チ鐵道ノ統一
ト鐵道ノ普及トヲ目的トスルモノデアリマス現在全國官私ノ鐵道ハ五千哩、而シテ四
十何會社ニ分レテ居リマス、其間犬牙錯綜、所在割據シマシテ其弊害ト云フモノハ、
貨物ノ停滯ヲ來シ、又ハ時間ノ遲著、或ハ商業ノ機會ヲ失シ、其不便不利ナルコト
ハ舉ゲテ算フベカラザル程ノモノデアリマス若シ今日本案ノ如クニ之ヲ統一シテヤリ
マシタ日ニハ、此作業上ノ合併ト云ヒ、其他種々ノ便益ガアルノデアリマシテ、例ヘバ此
製作所ノ合併ノ如キハ、現在ソコノ新橋ニ大キナ製作所ガアリマスカト思ヘバ、ソコノ大
宮ニ於テ、又是ノ如キ大キナモノガアル又神戶ニアルカト思ヘバ、兵庫ニアル、是ノ如
キ、重複複雜ナルモノガ、何ガタメニアルカト云ヘバ全ク鐵道ノ統一ヲシナイ、五千哩
ノ哩數ニ四十幾會社ト云フヤウナ、複雜ナル組織ヲ爲シテ居リマスガ故ニ、之ヲ統一
致シマシタ日ニハ、卽チ其吏員ノ減少、又ハ費用ノ節減、又ハ賃銀ノ低減、連帶運
送等ノ便ヲ得マシテ、實ニ尠カラザル便益ヲ得マスカラ、公衆ノ便利、物貨ノ流通ノ圓
滿ヲ計ル等ノコトハ、實ニ此統一ニ優ルコトハナカラウト信ジマス、現在本案ニ反對ヲ表
シテ居ラレルトコロノ進步黨ノ諸君モ、此統一論ノ如キハ夙ニ唱道セラレテ居ル先日
世上ニ發表セラレマシタ統一論モ、正ニ此意味デアラウト思フ唯吾ミト諸君ト意見ヲ
異ニスルノハ、諸君ハ民有統一ヲ主張セラルヽモノヽ如ク思ハレル吾〓ハ之ヲ民間ニ統
一スルノ困難ナルヨリハ、之ヲ國家ノ手ニ統一スルト云フコトガ、誠ニ相當ノ道理デアリ、
且便利デアルト云フコトヲ、深ク信ズルノデアリマスカラ、卽チ鐵道經營ノ上ヨリシテ、本
案ニ贊成ヲ表スルノデアリマス、又第四、國庫ノ歲入ノ增加ト云フ點ヨリシテ贊成ヲ表
スルノデアリマス、本來鐵道ナルモノス、國家無二ノ財源デアリマス、此法案ニ據リマシテモ、
當局者ノ信ズルトコロデハ四十年間ニ元利ヲ償却シテ、而シテ五千五六百万圓ノ年々
歲入ヲ得ルト云フコトニナッテ居リマス、唯今武富君ハ杜撰粗漏ノ豫算デアルト云フコト
ヲ申サレマシタケレドモ、私ハ當局者ノ豫算ヲ信ズルノデアリマス、尤モ吾〓ハ歲入增加ヲ
專ラトシテ、立案シテ見マスナラバ、先日本案ニ對シテ修正ヲ試ミテ見タイト云フコトモ
考ヘマシタガ、是ハ小鐵道ヲ省イテ、年度ノ變更ヲ致シタ日ニハ、此歲入增加ノ〓ニ於
テハ、著シク效果ヲ見マスカラ、一時修正ノ意見モ考ヘテ見マシタケレドモ、亦吾〓ノ鐵道
國有ニ贊成スル所以ノモノハ、啻ニ歲入增加ノミナラズ、間接ニ一般國家經濟ノ發逹
ヲ期スルガタメニ、贊成ヲ致シマシタカラシテ、卽チ本案ノ通、三十二會社、又ハ三十
八年度上半期ヲ入ルヽト云フコトニ、本案ニ同意ヲ致シタノデアリマスガ、單ニ財政ノ增
加ヲ計ルト云フ、歲入ノ增加一〓ヨリ致シマスレバ、吾ミノ修正シタイト一時考ヘタノガ
當リマスケレドモ、併ナガラ國家百年ノコトカラ申シマスルト、直接ニ國庫歲入ノ增加
ト、又ハ間接ニ一般經濟ノ發展トニ依リマスカラシテ、其間ヲ折衷シテ尙且國庫歲入
ノ增加モ得ラルヽノデアリマス、殊更外國ノ例ヲ引クニモ及ビマセヌケレドモ、是ノ如キコ
トハ又外國ハ餘程經驗モ有リマスカラ、今假ニ獨逸ノ實例ヲ以テ見マスレバ、獨逸ノ
元ト私設鐵道會社ノ三万里アッタモノヲ、資本五十五億馬克、公債四十五億馬克、
卽チ百億馬克、日本ノ金ニ致シマシテ五十億万圓、是ダケノ金ヲ掛ケテ、三万哩餘ヲ
買收シタ、其結果ハ御承知ノ通、獨逸ノ財政ハ歲入ガ二十三億二千万馬克デアルノ
ニ、其內鐵道ノ收入ガ十二億八千馬克デアリマスカラ、歲入ノ半額以上ハ、鐵道收入
デ支辨シテ居ル而シテ其內歲入總額ノ四分ノ一ハ、全ク鐵道ノ純益ヲ以テ支辨シテ
居リマスト云フヤウナコトハ歐羅巴ノ先進國タル獨逸ニ於テ是ノ如ク明白ナル成績ヲ
得テ居リマス、尤モ我國ノ現狀デアリマスレバ、獨逸ノ如ク、忽ニシテ歲入四分ノ一ノ純
益ヲ得ルト云フコトハムヅカシカラウト考ヘマスケレドモ、凡ソ鐵道程有利有益ナル事業
ハナイノデアリマスカラ、是ヲ國家ガ買收シテ、サウシテ國庫歲入ノ財源ニ充テルト云フコ
トハ、策ノ得タルモノデアッテ、殆ド吾〓ハ國家ノ財政政策トシテ、是程ノ名案ハナイトマ
テ、確信スルノデアリマス、又反對論者ノ諸君ニ向ッテ中シマスガ、是ノ如ク吾輩ガ論
ズレバ徒ラニ政府ノ財政ノミガ膨脹シテ、却ッテ人民ガ困窮スルガ如キ感ヲ懷カレルカモ
知レマセヌガ、ソレハ決シテサウデナイ、右御話シク通リノ結果ニ依リマスカラ、是モ現在
歐羅巴ノ諸强國ノ統計表ニ依リマシテ、一般政費ガ、例ヘバ獨逸ハ一般政費ニ於キマ
シテ一人前ガ七十三馬克、英吉利ハ八十七馬克、佛蘭西ハ九十五馬克、墺地利ハ七
十馬克、伊太利ハ六十四馬克、是ハ一般政費ヲ人民ニ各自ニ割付ケタ數デアリマス、
而シテ其各自ノ負擔ハドウナッテ居ルカト云フト、大抵英、佛、獨、伊ノ諸國ハ一般政
費ノ支出分ト、一個人民ノ負擔分ト、大抵平均シテ居リマスノニ、單リ獨逸バカリガ七
十馬克ニ對シマシテ、二十九馬克ト云フ數ガ出テ居リマス、是ノ如ク人民負擔ノ輕減サ
レタコトハ何ノタメデアルカト云フト、卽チ鐵道收入ガ多イカラシテ、ソレガタメニ民力休
養トナッテ、人民ノ負擔ガ輕減サレルノデアリマスカラ、此鐵道國有デモッテ、國庫歲入ノ
增加ヲ來シタルガタメニ、民力ハ却ッテ疲弊スルガ如キ誤解ヲ來サナイヤウニ、最モ是ハ民
力ヲ休養ノタメニモ、鐵道ヲ國有ニシナケレバナラヌト云フ、結論ガ生ジテ來ルノデアリマ
ス、(拍手起ル)我帝國ノ從來ノ官設鐵道モ、私設鐵道モ既往ニ徵シマシテ、最良
成績ヲ得テ居ル卽チ開業線路ノ資本ニ對スル純益合計ノ率ガ、一割零三分、ソレニ
補修費ヲ引去ッテ、尙八朱三厘ニナッテ居リマス、卽チ獨逸ノ純益九朱內外ト、殆ド大
差ナキマデニ進ンデ居リマスカラ我帝國ノ鐵道經濟モ是ヨリ進ンデ參リマスト私ノ
唯今申シタ通獨逸ノ如キ好成績ニ至ルコトハ決シテ遠カラヌコトヽ信ジマス、是ノ如キ理
由デアリマスカラ、是亦鐵道國有ニ大贊成ヲ表スルノデアリマス、又第五、一般ノ經濟
ノ發達上ヨリ、贊成ヲ表スルノデアリマス、此鐵道ノ統一及普及スルトキニ於キマシテ
ハ申スマデモナク運輸ノ疏通、運搬ノ增加、而シテ最モ迅速ニ、而モ價ガ低廉ニイケ
ル、加之一會社一私人ノ仕事トハ違ヒマシテ、國家ガナスコトデアリマスカラ、山村僻地
マデモ普及スル方針ヲ執リマス日ニ於キマシテハ、是マデハ發掘セザル物產モ開發セラ
レテ、其生產力ノ發達、製造貿易ノ發達ヲ促スコトハ申スマデモナイコトデアリマスカラ、
爲ニ國力充實スルコトヲ得テ前途我帝國ノ發展ハ、是ヨリ良策ハナイト信ジマスル加
之鐵道國有ニシマシテ、卽チ鐵道買收ノ結果ハ又目下ノ經濟救濟策ニモナルノデア
リマス、我帝國ニ於ケル第一等ノ富豪大株主、其他多數ノ株主等ハ、此買收ノ結果、
巨額ノ資本ヲ如何ニスルカト云フテモ、公債ニ安ンジテ便々トシテ居ル譯ニハ參リマセヌ
カラ必ズ他ノ方ニ向ッテ各種ノ事業ヲ起スニ相違ナイ、其結果トシテ事業ガ勃興致シ
マシテ、遂ニ戰後ノ大經營大發展ヲナスコトハ、眼前ニ見エテ居リマスカラ、是ヨリ貿易
ノ伸張ヲ見ルコトハ洵ニ睹易キ道理デアリマスカラ、此鐵道買收ノ結果ト云フモノハ、問
接ニ又目下經濟ノ發展救濟ヲナスニ於テ、最モ便利ナルコトヽ考ヘマス、是ノ如キ理由
デアリマスカラシテ、是又吾ミノ國有ヲ贊成スル所以デアリマス、ソレカラ第六、鐵道買收
ノ時期ニ於テ、最モ好時機ナリト信ジマス、諸君、凡ソ天下ノ大事業ヲ爲スニ於キマシ
テハ時期ヲ選バナケレバナラヌ、此日露戰爭ノ後ニ於キマシテ、所謂國勢一變シテ人
心維新タナルトキデアリマスカラ、斯樣ナトキニ於テ、是ノ如キ大法案ヲ出シテ、國家大
發展ノ端〓トスルコトハ、最モ其時ヲ得タルモノデアリマス、實ハ我輩ハ日〓戰爭ノトキ
ニ於テ、國有論ノ實行ヲ致シタイト思ッテ、其當時ノ諸君ト、卽チ政友會ノ諸君
ト當時專ラ其事ニ付イテ御相談ヲ致シタコトモアッタケレドモ、到頭實行ヲ見ルニ至ラ
ズシテ止ミマシタノハ、今ニ深ク遺憾トシテ居リマスガ、幸ニ此日露戰爭デ以テ、是ノ如
キ人心ノ新ニシテ、國勢一變ノ期ニ際シマシタカラ、此好時機ハ再ビ來ラザルモノデアル
カラ、此時ヲ利用シテ是ノ如キ大法案ヲ決行スルハ、最モ機ノ得タルモノト信ジマス、以
上第二ヨリ第五ニ至ルトコロノ理由、卽チ主義ノ點カラシテ、國防上、及鐵道ノ經營、
國庫歲入上、又ハ一般經濟ノ發展、此五ツノ理由ニ依リマシテ、鐵道國有法案ハ誠
ニ吾〓ノ衷心贊成スルトコロデアリマシテ、殊ニ此時此時機ニ於テ、最モ適當ナル時機
ト信ジマスル斯樣ナ譯デアリマシテ、理由ニ於テ贊成シ、其時機ニ於テ最モ宜シキニ適
フモノト考ヘマシテ、是ノ如キ滿腹ノ同情ヲ以テ贊成スルノデアリマスガ、諸君、先日當
院ニ於キマシテ、所謂二大問題ト稱シタ基金、竝ニ戰時增稅ノ繼續、此二問題ハ進
步黨ノ諸君ヲ除キマシテ、滿場大多數ヲ以テ決定致シマシタ我輩モ其贊成ノ一人デ
アリマシタガ、是ハ吾〓ノ見ル所ヲ以テスレバ、此鐵道國有法案ガ根本デアル是ノ如ク
ニ國家ノ根本的ノ大法案ガ通過シテ、而シテ初メテ戰時增稅繼續ノコトニ及ビ、而シテ
基金ノ必要ヲ生ズル此三ツノモノト相關聯シテ居ルモノデアッテ、寧ロ我輩ヲシテ言ハシ
ムレバ、鐵道法案ガ本デアッテ、而シテ戰時增稅、而シテ基金、ト斯ウ云フ立論ヲスルノ
デアリマスカラ、今日鐵道國有法案ニ對シテ是ノ如キ滿腹ノ同情ヲ表スルノハ卽チ先
日來ノ二大問題ト關聯シテ吾〓ハ是ノ如ク贊成ヲスルノデアル又別案ニハナッテ居リ
マスケレドモ京釜鐵道ノコト、是ハ矢張同一ノ趣意デアリマスカラ、此事ニ付キマシテハ、
最早多辯ヲ要シマセヌ、卽チ韓國經營ノ急務デアリマスカラ、是ハ滿場一致ノ摸樣デア
リマスカラ、此處ニ論ズル必要ハアリマセヌ、要スルニ唯今此好時機ニ際シテ、此鐵道法
案ヲ通過シテ置カナケレバ他日必ズ臍ヲ噬ムノ悔ガアル、モウ現在ノ亞米利加アタリノ
容子ハ、諸君モ御承知ノ通、最早アヽナリマシテハ、如何ナル國家ノ勢力モ動カス能ハザ
ル程、牢トシテ拔クベカラザル程ニナッテ居ルノデアル、現在我國ニ於キマシテモ、今
日ハ私設會社ハ益〓隆々トシテ進步シテ居リマスカラ、先年一時行ハレマシタルトコロノ
官設鐵道拂下運動ト云フコトガアリマシタガ、必ズ早晩サウ云フコトモ起ルニ相違ナイ、
之ヲ要スルニ鐵道ナルモノハ國家ニ取ッテ、非常ナル有利有益ナル問題デアリマスカラ、ソ
レデ之ヲ國家ノ手ニ收メテ置キマスレバ益こ國家全般ノ福利ヲ增進スルニ於テ遺憾ナ
キモノト思ヒマス、或論者ノ如ク、自由競爭デナクテハ進步シナイト云フ御論モアリマス
ケレドモソレハ成程世界ノ經濟主義ニ於テ、二大主義アッテ、決シテ之ヲ悉ク非難ス
ルノデハアリマセヌケレドモ、又今日ノ世界ノ趨勢ハ、此自由競爭ノ弊トシテ、一二、富
豪又ハ私設會社ガ是ノ如キ有利有益ナルモノ壟斷致シマシタ弊ハ、是亦弊害ヲ被ルモノ
ハ總テノ國民デゴザイマス、故ニ國家ガ之ヲ監理シテ居ルト彼ノ富豪又ハ私設會社ガ
營利一方ノ眼ヲ以テ經營シテ居ルモノト、兩々相對シテ見マスレバ國家ハ誠ニ公平ナ
ルモノデアル國家ハ決シテ比較的不公平ナモノデハナイ、社會ハ又是公平ナモノデアリ
マスカラ、近項社會問題ガ我國ニモ勃興シテ居ル今日デアリマスガ、諸君御承知ノ通、
今日社會主義ヲ唱フル人ハ、此鐵國案ニ付イテ滿腹ノ同情ヲ寄セテアルデハアリマセヌ
ガ、此國家ト社會トハ、公平ナモノデアル、其中間ニ在ルトコロノ富豪、又ハ私設會社ト
云フモノハ專ラ營利ノミヲ主トシテ居リマスカラシテ、甚ダ比較的ニ不公平ナルモノデア
ルカラ、是ハ國家ト社會ト今日ハ夾擊ヲシテ、此鐵國案ノ如キハ今日ヲ措イテ外ニ好
時機ノナイト云フ程ノトキデアリマスカラ、之ヲ通過スルハ最モ緊要ナルモノト信ジマス
諸君、此私設鐵道會社ハ、吾〓國家論者ノ最モ採ラザルトコロ、又社會論者ノ敵視
スルトコロデアル現在此法案ニ付キマシテモ、熱心ニ反對シタモノハ唯デアルカト言ッタ
ラバ、日本一流ノ富豪、之ニ亞グトコロノ會社員株主、其一種ノ株主ヲ除クノ
外普通ノ株主ハ寧ロ贊成ヲシテ居ル、之ヲ要スルニ此國家ト社會ノ利益ヲ圖ルニ
於テ鐵道ヲ國有ニスルト一ムフコトハ當ニ闕クベカラザルノ政策デアッテ、今日此時ヲ
以テ斷行スルハ最モ策ノ得タルモノト信ジマスガ故ニ、速ニ此事ノ決行サレンコトヲ希
望スルノデアリマス又反對論者ノ御議論モ種々アリマスケレドモ、サマデ聽クニ足ルノ論
モ私ハナイト信ジマスガ、一二申シテ見マスレバ、此私權蹂〓ト云フコトガ頗ル論據ニ
ナッテ居ルヤウデアリマス、是ハ成程私設鐵道條例三十五條ニ、二十五箇年云々ト云
フ規定ガアリマスカラ、之ヲ諸君ガ殆ド憲法蹂躪、法律無視トマデ絕叫サルヽ方ガアリ
マスケレドモ、吾〓ノ信ズルトコロニ依レバ何等憲法法律ニ差支ハナイ、苟モ國家ガ國
家ノタメニ決議ヲ爲シテ、之ヲ斷行スルニ、決シテ差支ハナイ、又土地收用法ノ如キ、煙
草專賣法ノ如キニ、現在行ハレテ居ル先例モ澤山アリマスカラシテ、何ゾ諸君ノ御心配
ノヤウニ、憲法蹂躪トカ法律無視トカ云フヤウナコトハ、最モ御心配ニ及バヌコトヽ思ヒ
マハ、現在歐羅巴ニ於キマシテモ、瑞西ノ如キハ、共和國デアル、其共和國ガ千八百
九十八年ニ、强制的ニ全國ノ鐵道二千三百哩ヲ買收シタト云フコトガアリマスル、最
モ歐羅巴デハ私權ヲ重ンズル國デアリマシテ、而モ共和國デスラ、是ノ如キコトガ行ハレ
テ居リマス、吾〓ハ此私權蹂〓論ニ付イテハ、一向耳ヲ傾クルノ價値ナキモノト信ジマ
ス、又此公債增發ノコトニ付イテ、餘程憂慮ヲ懷カシテ居ル諸君ガアリマスガ、是ハ一
應御尤ナコトヽ思ヒマス、併ナガラ此鐵道公債ナルモノハ所謂消費的ノ公債ニアラズ
シテ、全ク起業的ノ公債デアル、殊ニ最モ實力アル公債デアル、ソレガタメニ別ニ國民ノ
負擔ヲ增スコトモアリマセヌ、又此公債ガ增セバ、全體ノ公債ノ信用ヲ傷クルト云フ說
ガアリマスケレドモ、實際株劵デアレ、公債デアレ、旣ニ有價證券トシテ外國人ノ手ニモ
澤山入ッテ居リマスカラ、實際同ジモノデアル、又正貨ノ流出スルト云フ嫌モアルト云フ
說デアリマスケレドモ、矢張株券モ同ジモノデアッテ、決シテ異ルコトハナイノデアル、況ヤ
此四十年後ニ於テ、國庫ハツレガタメニ五千万圓ノ確實ナル收入ヲ得ルト云フ見込ガ
アリマス、以上ハ國家ガ是ノ如キ有利有益ナル財源ヲ所持シタト云フ曉ニ於キマシテハ、
外人ハ寧ロ信用ヲ固クスルノデアッテ、日本政府ハ是マデノ確實ナル財源ヲ持ッテ居ルト
云フコトニ、信用ヲ置クノデアッテ、之ガタメニ日本ノ公債ノ信用ヲ減ズルト云フコトハ、
吾〓ハ斷ジテナイコトヽ信ジマス、(「然リ」ト呼フ者アリ)以上ノ理由ニ依リマシテ、吾ミ
ハ徹頭徹尾、此案ノ滿場大多數ヲ以テ、通過スルコトヲ希望スルノデアリマスガ、終リニ
臨ンデ、我反對論者ノ大立者大石正己君ニ問ハント欲ス(笑聲起ル)大石正己君
ハ、明治二十四年十二月ノ出版ニ係ル、富强策ト云フモノヲ著述サレテ居ル、是ハ以
前カラ大石君トハ懇意ノ間柄デアリマスカラ、大石君ガ贈ラレタカラ、吾〓ハ始終愛讀
シテ居ルノデアリマス吾〓無學デアルカラ、大石君カラ是ノ如キ名說ヲ〓ハッタト申シテ
モ宜カラウト思フ、其富强策ノ中ニ此國家鐵道是ハ大石君ガ翻譯サレタ國有ト云フ字
ハ其事デアル、國家鐵道、鐵道ハ國家鐵道ニ如クモノハナイ、其利益ヲ五箇條舉ゲテア
ル、第一ノ利益ハ、國防ニアリ云々、第二ノ利益ハ、國家經濟ヲシテ非常ニ其發達ヲ
迅速ナラシムルニアリ云々、第三ノ利益ハ乗客貨物ノ運賃ヲ低落スルニアリ二云々、第
四ノ利益ハ迅速ニ鐵道ヲ延長スルコトヲ得ルニアリ第五ノ利益ハ卽チ放入多キ線路
ト、收入少キ線路トヲ平均シテ、以テ其發車ヲ增減スルコト是ナリ云々、而シテ國家ノ
公道タル鐵道ヲ、一ニ私立會社ノ手ニ委ネテ、社會公衆ノ利益ヲ無視スルハ云々ト言ッ
テ殊ニ痛罵ヲ加ヘテアル又大石君ノ同ジク明治二十五年五月出版ニ係ル著述ノ日
本ノ二大政策ノ其第三節ニ、三大鐵道ノ連絡、是ハ日本ノデス、東北鐵道ハ既ニ橫
濱ニ通ジ、東西鐵道ハ既ニ備後ノ尾ノ道ニ到リ、西南鐵道ハ門司港ヨリ佐賀ニ達セリ
云々、盛ニ統一貫通ノ論ヲ鼓吹シテ、誠ニ痛快ニ論ゼラレテ居ル、大石君(笑聲起ル)
君ハ是ノ如キ名論ヲ吐カレテ、吾〓ハ大イニソレガタメニ益スルトコロアッタト思フノデアリ
マスガ、大石君ハ在野ノ大政治家デアル能ク世ト推移スル人デアル、願クハ更ニ大石
君著述ノ趣意ニ復舊サレテ、速ニ君子ノ豹變サレンコトヲ希望スルノデアル
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=39
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040・杉田定一
○議長(杉田定一君) 淺野陽吉君
〔淺野陽吉君登壇〕
〔「簡單ケ々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=40
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041・淺野陽吉
○淺野陽吉君 先般此當議會ノ初メニ當リマシテ、西園寺首相ノ施政方針ノ演說
ノ中ニ、私等ガ最モ記憶シテ感謝スベキ一言ガアッタヤウニ思ヒマスル、其言葉ハ私等議
員一同ニ望マルヽニ、努力シテ國論ノ一定ヲ圖ラルヽヤウニト云フコトガゴザイマスル、ソ
レハ要スルニ總テ議案ハ審議ヲ盡シテ、是非曲直ヲ明カニシテサウシテ國論ノ一定ヲ圖レ
ト云ノコトデアラウト思ヒマスカラ、私ハ本案ニ對シテ信ズルトコロノ大要ヲ此ニ披瀝致サ
ウト存ジマスル、唯今私等ノ少壯者トシテハ最モ尊敬ノ意ヲ拂フベキ佐々君ノ御演說モ
ゴザイマシタケレドモ、ソレニハ頓著ナク、私ハ直チニ此內閣諸君ノ論據トナサルヽトコロノ
理由ニ向シテ、私ガ信ジ得ベカラザル理由ヲ述ベテ、駁論ヲ加ヘタイト思ヒマス、內閣諸
公ノ本案ヲ出サレマシタ理由ノ一箇條ニ、第一ニ揭ゲマシタノハ、軍事上ノ必要ト云フ
コトデゴザイマシタ、此軍事上ノコトヽ云フノハ門外漢ノ頗ル解釋ニ苦ムコトデアッテ、サ
ウシテ多クノ場合ニ於テ、此當局者ガ祕密ト云フコトノ一語ヲ以テ、詳シイ說明ヲ與ヘ
テ呉レナイトコロノ言葉デゴザイマスル、ソレガタメニ此軍事上云々ト云フコトハ常ニ多
クノ場合ニ於テ事實以上ノ直打ト必要ガアリハシナイカト云フ疑ヲ吾ミニ懷カシメルトコ
ロノ言葉デアル、私ハ最モ此軍事上ノ必要云々ト云フコトニ付イテハ、心配ヲ致シテ居ツ
タノデゴザイマス、デ或理由ト大ナル必要ガ此中ニ籠ッテ居ルナラバ、平生信ジテ居ルトコ
日、此國有主義ニ反對デアル、國家ノ鐵道ヲ悉ク引上ゲテ國有ニスルコトハ反對デア
ルト云フ考ヲ翻シテ、內閣ノ提案ニ贊成ヲシテモ差支ナカラウ、此軍事上云々ト云フコ
トニ付イテ、大ナル理由ガアルナラバト斯樣ニ信ジテ頗ル內閣諸公ノ說明ニ耳ヲ傾ケ、且
意ヲ傾ケテ聞カントシテ心配ヲシテ居タコトデアリマス、所ガ幸ニモ寺內陸軍大臣ハ詳細
ナル說明ヲ私等ニ下サレタノデアル例ヲ引キ理ヲ說イテ、內閣諸大臣中、本案ニ對ス
ル說明ノ中デハ最モ具體的デ最モ能ク其意ヲ盡サレタコトヽ信ジマス、ソレニ依ッテ判
斷ヲ下シマスルト、幸ニモ私等ノ門外漢トシテ、尙是ハ利害得失ノ判斷ノ出來得ル程
度ノコトデアッタ、甚シク心配ヲシナクテモ宜イコトデアッタ、此事ハ私ハ帝國ノタメニ幸福ト
シテ喜ンデ宜イコトヽ存ジマス、幸ニシテ提供サレタ要求ハ、軍事上國有ガ必要ト云フ
要求ハ、門外漢ノ御互ニ於テ、判定ノ付クコトデゴザイマシタ故ニ、私ハ此寺內大臣ノ
論據ヨリシテ、此軍事上ニ於テモ我國ノ鐵道ヲ悉ク引上ゲテ、三十二ノ鐵道ヲ引上
ゲテ、皆國有ニシナケレバナラヌ必要ハナイト信ジマスルガ故ニ、茲ニ其要ヲ述ベタイト思ヒ
マ、陸軍大臣ハ此軍事上ノ要求ヲ說明ナサルヽ中ニ於テ、進出ノ場合ト受身ノ場
合ト、二ツヲ舉ゲテサウシテ本員ノ委員會ニ於テノ質問ニ對シテハ紀州半島ノ例ヲ
舉ゲテ、詳シク御說明ニナック、其御厚意ハ誠ニ感謝致シマスガ、其要〓ヲ摘ミマスレ
バ詰リ全國ノ鐵道ヲ國有ニシナケレバ他日一タビ事ガアルトキニ一絲紊レズ、手ノ
指ヲ使フガ如キコトガ出來ナイト云フコトデゴザイマシタガ、此事ハ詰リ遞信大臣ノ技倆
如何ト云フコトカラ推論スルノ外ニハ、私ハ途ハナカラウト思ヒマス、其今マデ管理シ
久鐵道ヲ管理シタ政府ノ技倆ヲ考ヘテ見マスルト、私ハ一ノ例ヲ舉ゲテ、將來旨ク
イカヌデアラウト云フコトノ理由ハ玆ニ說キ盡スコトガ出來ルグラウト思ヒマス、本年ノ
初メデゴザイマシタガ、經濟社會ニ於テハ最モ大事ナ事柄デアッタ、初荷ノ輸送ガ名古
屋ニ下スベキモノハ京都ニ往キ、京都ニ下スベキモノハ神戶ニマデ往ッテ甚シク實業社
會ノ攻擊ヲ受ケタコトガ、官線鐵道ニハアッタノデゴザイマス、斯樣ナ實例ヲ舉ゲレバ頻々
トシテ數限リモナイコトデアラウト思ヒマス、無論私設鐵道ニモ是ノ如キ不始末ハアル
ノデゴザイマスケレドモ、官有鐵道ニ於テモ、亦私設ヨリモ決シテ少ナイト云フコトハ、信
ジ得ラレヌノデゴザイマス是ノ如キ過去ニ於ケル技倆ノ拙ナルコトカラ考ヘテ是レバ、將
來今日漸ク全國鐵道ノ四分ノ一ヲ政府ハ管理シテ、尙是ノ如キ不始末ハ時ニ起リ、
且ツ日々絕エナイト云フコトニナッテ居ル、況ヤ全國鐵道ノ全部ヲ舉ゲテ、政府ニ委ネマス
レバ、四分ノ一ノ範圍內ヲ管理スル今日ニ於テ、此不始末ノモノガ、全部ノ四分ノ四ヲ得
タトキニ、是ヨリモヨリ以上ノ働キヲナスコトハ推定ハ付カヌト思ヒマス、又此軍事上ノコト
ハ一絲紊レズ、手ノ指ヲ使フガ如クナサネバナラヌト云フ必要ハ當局者ノ技能ガアリマス
レバ、必シモ國有ニシナクトモ今ノ民有デモ爲シ得ル事柄デアリマス、ソレハ此鐵道軍事
供用令ト云フモノガアッテ、十八箇條備ッテ、モウ細目ニ亙ッテ、總テ鐵道ハ當局者一
旦事緩急アリマスルトキハ總テ當局者ノ手中ニ歸セシムルト云フコトガ出來ルコトニナッテ
居ル當局者ニシテ働キガアリマスレバ、此事ハイツ何時ニ於テモ、軍事供用令ト云フ
法律ヲ以テ、全國ノ鐵道ヲ意ノ儘ニ御使ヒナサルコトガ出來ル、決シテ國有ニシナケレ
バ此目的ヲ達シ得ラレナイト云フ道理ハ、一モ今日ハナイノデゴザイマス、ツレカラ其次
ニ、陸軍大臣ノ說明サレタノハ、運轉材料ノ不揃デアルト云フコトデゴザイマス、是ハ私
ガ思ヒマスノニ、今ノ鐵道ニ於テ、最モ闕ケテ居ル事柄デアラウト思フ、獨リ民有ノミナ
ラズ、國有ニモ、此闕點ハ今最モ世ノ中ノタメニ措ムベキコトデアルト思ヒマス、併ナガラ
之ヲ足スノニハ、詰リ將來鐵道ノ經營ノ上カラ生ズルトコロノ財政如何ト云フ問題デア
ラウト思フ、是ハ民有デアルカラ十分デナイ、國有デアルカラ十分デナイト云フヤウナコト
デハナカラウト私ハ思ヒマス、其次ニ陸軍大臣ノ舉ゲラレタ此一ノ弊害ハ運賃ガ區々
デモッテ、計算ガ甚ダ苦シイコトデアッテ、民有デアレバ三十二ノ會社ニ跨ルノデアルカラ、
運賃ヲ計算スルノニ頗ル困難デアル、ソレ故ニ軍事輸送ノ際ニ當ッテ、非常ナ不便ガア
ルト云フコトデゴザイマシタガ、此直通賃率ヲ定メテ、サウシテ能ク此途ヲ開キマスレバ
此運賃ガ區々デアッテ、サウシテ計算ニ苦シムト云フ弊害ハ、濟ヒ得ラルヽコトデアルト私ハ
思ヒマス、其途ハ既ニ此私設鐵道法ノ法令ノ中ニ詳シク規定サレテアッテ、何時ニテモ
政府ニ其技能ガアレバ、之ヲ救ヒ得ラルヽコトニナッテ居リマス、政府ガ此法令ノ精神ヲ
能ク意ヲ盡シテ、行政ノ方法宜シキヲ得マシタナラバ、是ノ如キノ弊害ハ國有ヲ待ッテ後
始メテ得ラルヽ事柄デハナイノデ、民有デアッテモ其宜シキ方法サヘ立テバ、今ガ今デモ是
ハ開キ得ラルヽトコロノ便利デゴザイマス、其次ニハ此私設鐵道ハ甚タ數ガ多クテ、事ア
ルトキニ話ヲツケルノニ頗ル面倒デアルト云フコトガゴザイマシタケレドモ、我國ノ商人ハ御
承知ノ通、極メテ從順ニシテ、決シテ官命ニ逆ラフモノデハナイノデアリマス況ヤ一朝事
アルトキニ、此軍事上ノ問題ヨリ官命ヲ下サレタナラバ豫テ忠勇義烈ト云フ精神ハ
總テノ人ノ持ッテ居ル此國ノ人民テゴザイマスガ故ニ、決シテ是モ不便ト云フコトハ是
ヨリ生ズルコトハナカラウ、何時ニテモ其用ハ足サルヽデゴザイマセウト思ヒマス、其次ニ此
停車場ノ設備ガ、頗ル不完全デアルカラ、之ヲ足スタメニ國有ニシナケレバナラヌ、是ハ
私ハ一理アルト思ヒマス、民設鐵道ノ停車場ハ、比較的ニ頗ル不十分デゴザイマス、此
十分ヲ期スルタメニハ或ハ官設ト云フコトニ移スノモ一理アルコトヽ思ヒマスガ併ナガ
ラ是トテモ將來之ヲ完備ニスルノニハ、鐵道經濟ニ餘裕ヲ生ズルヤ否ヤト云フコトノ問
題デアラウト思フ私ハ思ヒマスノニ、此將來國有鐵道ニ移シタ後ニ於テモ鐵道經濟
ノ十分ヲ期スルト云フコトハ、餘程ムヅカシイト思ウテ居リマスルガタメニ、此陸軍大臣ノ
要求サレタトコロノ停車場ノ設備モ、民設ニ於テ充タシ得ル程度ヨリ以上ノコトハ、
後日國有ニシテモ期スルト云フコトハムヅカシイノデアルカラ、ソレデナクトモ線路建設ノ
如キ大ナル費用ヲ要セナイノデアルカラ、陸軍當局者ト遞信大臣ト能ク御諮リニナッテ、
民有會社トノ間ニ協議ヲ遂ゲラレタナラバ是トテモ決シテ民設ニ於テ達シ得ベカラザル
コトデハナイト斯ク思ヒマス是ダケ考ヘテ見マスレバ、此軍事上ノ要求ト云フコトヨリハ
私等決シテ不安ノ念ガナカッタノデ、是ハ國有ニシナクトモ民設鐵道ニ於テ、救ヒ得ル事
柄デアッタガ故ニ、私ハ國家ノタメニ之ヲ喜ンダノデゴザイマス、要スルニ總テノコトニ於
テ、事一度軍事ニ係レバ、全國ノ鐵道ニ對シテ政府ハ萬能ノ權ヲ持ッテ居ルノデアルカ
ラ、其施政宜シキヲ得タナラバ、決シテ陸軍大臣モ此事ガ民設デアルガ故ニ、心配デア
ルト云フ憂ハナイト私ハ思ヒマス、ソレ故ニ此軍事上ノ關係カラ總テノコトヲ考ヘテ見マ
スレバ、日露戰爭ノトキニ於テモ、日〓戰爭ノトキニ於テモ、政府ガ最モ不便ヲ感ジラレ
タノハ、陸運ヨリハ寧ロ海運デアッタラウト思フ、紀州半島ニ假設的ノ適例ヲ作ッテ、說
明サレタ陸軍大臣ノ御說明モ、深ク考ヘテ見マスレバ、左程心配シナクトモ宜イコトデ
アッテ、民設デモ其便利ヲ後日ニ於テ達セラルヽコトデアラウト私ハ思ッテ、此〓ニ於テハ
左程心配ヲシナイデ安心ヲシテ居リマス、其次ニ政府ガ述ベマシタノハ經濟上ノ利益ト
云フコトデゴザイマシタガ、其經濟上ノ利益ト云フコトヲ政府ガ述ベタ、其利益ノ生ズル
事柄ハ詰リ統一ト云フ事柄デゴザイマス其統一ヲスレバ何ガタメニ經濟上ニ利益ヲ生
ズルカト云フコトヲ考ヘテ見ルト、長距離直通ト云フコトヽ長距離直通ヨリ來ルトコロ
ノ運賃ノ低減デアッタ、政府ガ論ズルトコロノ運費ノ低減ト云フノハ長距離直通ヨリ來
ルトコロノ利益デゴザイマス、是ナラバ私ガ思フノニ、決シテ此國有ノミニ限ッタ特色デハ
ナイト思フ、民設ニ於キマシテモ此私設鐵道法ヲ能ク讀ミマスレバ、既ニ此法ヲ開ク途
ハ十分ニ備ッテ居ル、政府ガ能ク此途ヲ盡シマスレバ民設デモ直通列車ト云フモノハ
開ケテ、直通列車ヨリ生ズルトコロノ長距離割引ハ、今デモ達シ得ラレルコトデアル、其
事ハ旣ニ民設會社ガ今日希望シテ行ハントシテ居ルコトデゴザイマス、山陽鐵道ハ現ニ
此新橋ト下ノ關トノ間ニ直通列車ヲ將ニ開カントシテ居ル、日鐵ハ旣ニ直江津ト上野
ノ間ニ直通列車ヲ開イテ居ッテ、其直通賃率ノ割引ヲ行ッテ居ルノデアル、此後トテモ
漸次民設モ亦此事ヲ自カラ希望シテ居ル、決シテ國有ノ後ニ始メテ是ハ行ハレベキ絕
對的國有ノ特有デハゴザイマセヌ、民設ニ於テモ尙此事ハ能ク政府ガ宜シキ方法ヲ以
テ、全國ノ私設鐵道ヲ率ヒテ往カレタナラバ此途ハ今ニ於テモ能ク開カルヽノデゴザイ
マリ、ソレ故ニ私ハ此途ヲ開クノニハ、國有主義デナクテハナラヌ、民有主義ハ決シテ此
途ヲ開クトコロノ便ガナイノデアルト云フヤウナコトハ、此中ニ道理ハ立タナイコトヽ私ハ
思フ民有主義デモ宜シ、國有デモ宜シ、民有國有現在ノヤウニ旨ク配在シテ往ッテ
モ、此道ハ能ク付クコトヽ思ヒマスノミナラズ民設夫レ自身ガ旣ニ今ハ統一ヲ希望シテ
居ルサウシテ統一ヲ實行シツヽゴザイマス、御承知ノ通ニ九州ノ鐵道ヲ見マスレバ博
多灣ト云フ一ツノ小サナ鐵道ガ一隅ニ割據シテ居ルダケデアッテ、後トハ總テ九州鐵道
(税シテ居リマス、僅々鹿兒島ヨリ走ッテ來ルトコロノ官有鐵道が、今僅カナ部分出
來テ居ルツコデ九州ノ鐵道ハ殆ド十中ノ八九ハ九州鐵道ニ依ッテ統一ヲサレテ居ッテ、
今後ノコトハ鹿兒島ヨリ來ルトコロノ官線ノ鹿兒島線トノ間ニサヘ、直通列車ガ能ク協
議ガ付イテ開カルレバ、九州ニ於ケル此鐵道ノ統一ト云フコトハ、事實ノ上ニ於テ今既
ニ行ハレントシテ居ル、又北海道ノ鐵道ヲ見マシテモ、北海道鐵道ト北海道炭礦ト、ソ
レト官線ト此三ツノ種類ガアルノミデアッテ、此三ツノ間ニサヘ協議ガ能ク纏レバ、政府
ノ望ムトコロノ卽チ事實上ノ統一ハ今既ニ行ハルヽノデアル、何ゾ必シモ是ガ國有ヲ待ツ
テ後ニ、始メテ此統一ガ行ハルヽト云フコトハ生ズルノデハゴザイマセヌ、其他大阪附近ニ
於キマシテモ、關西鐵道ハ既ニ奈良鐵道ト難波鐵道ト紀和鐵道ヲ合セテ、サウシテ統
一シ掛ッテ居ルノデゴザイマス山陽ノ筋ニナリマスルト、旣ニ山陽鐵道ト中國鐵道ノ間
ニハ合併ノ談合ノ途ハ旣ニ開ケテ居ルノデアル、今日是サヘ合併シマスレバ、山陽一體
ノ地ハ山陽鐵道ニ依ッテスッカリ統一ヲサレルノデゴザイマス、今ハ三十二ノ會社ガアル
ト云フノデ、政府ハ頗ル驚カレルノデゴザイマスケレドモ、其實是ハ五年、十年、ヲ待タズ
シテ頗ル少ナイ數ニ減ズルノデアッテ、政府ハ其間ノ連絡サヘ能ク施政宜シキヲ得テ行ハ
レタナレバ決シテ國有主義ヲ待ッテ、始メテ此統一ノ利益ヲ生ズルノデナイ民有又決
シテ妨ゲナイト私ハ思ヒマス、且此直通列車ト云フコト、竝ニ直通貨率ト云フコト、卽
チ連絡列車、直通運賃ト云フコトニ付イテハ常ニ民設ノ方ガ官設ニ關係ノアル所ハ
常ニ進ンデ相談ヲシタコトデアル、之ヲ拒ンダコトハ民設ニ少ナクシテ、却テ官有線ニ多
ウカッタノデアル、卽チ之ヲ言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ、私立鐵道ヨリハ常ニ之ヲ希望シテ
之ヲ拒ンダモノハ、多クノ場合ニ於テハ鐵道作業局デアッタト私ハ思ヒマス、ソレ故ニ此
直通列車竝ニ遠距離割引ト云フ事柄、運輸ノ便ト、ソレカラ賃錢割引ト云フコトヲ稱
シテ、社會ノ產業ヲ助ケルト云フコトハ獨リ國有主義ノミニ限ッタノデハナイ、民有ニ於
テモ是ハ決シテ促サレヌコトハナイ、又行ハレナイコトハナイノデアル、今現在存シテ居ルト
コロノ三十二ノ會社ノ數ニ驚カルヽノハ、餘リ膽玉ガ小サ過ギルト私ハ思ヒマス、其途ハ
自カラ法令ニ依ッテ、私設鐵道法ヲ御覽下サレバスッカリ御分リニナルノデゴザイマス將
來ニ政府ガ之ヲ舉グルトコロノ途ハ、旣ニ法律ガ之ヲ許シテ、萬能ノ權ヲ政府ニ與ヘテア
ル其次ニ政府ガ唱ヘマシタトコロノ理由ハ、財政上ノ卽チ利益デゴザイマシタガ、此間
ニ私ハ一ツ加ヘテ申上ゲタイノハ一體經濟上ノ利益如何ト云ムコトハ、農商務ノ局ニ
當ッテ居ラルヽトコロノ大臣ガ、確乎タル理由ガアッテ、是ハ御說明ガナクテハナラヌト思ツ
テ居リマシタ、ソレ故ニ之ヲ委員會ニ於テ質問ヲ致シマスルト殆ド農商務大臣ノ論據
ト云フノハ、此二ツニ過ギナカッタ、將來ノコトハ遞信大臣ガ能ク遣ルデアラウ、過去ノコ
ト竝ニ現在ノコトハ、現在ノ官私線ノ運賃ト、過去ノ官私線ノ運賃トノ產業上ノ關係
ハ自分ハ深イ關係ハナイカラ知ラヌノデアル、將來遞信大臣ガ能クヤルデアラウト云フ
ヨリ外ニハ、何等ノ論據ハナカッタノデアリマス、併ナガラ此事ハ能ク考ヘナケレバナラヌコ
トデ、將來ノコト如何ト云フコトハ、殆ド此遞信大臣ノ信用如何ト云フコトニ係ハッテ
來ルダラウト思フ、若シ內閣ガ將來此鐵道經營ヲ能タヤルデアラウカ、ドウデアラウカト
云フコトハ、此內閣ヲ信ズルヤ否ヤト云フトコロノ問題デアラウト思ヒマスル、過日減債
基金案ノ際ニ方ッテ政府贊成論者ハ斯ウ云フコトヲ言ハレタノデアル、現內閣ガ出來
上ッテカラ僅カニ二十日カ三十日ノ際ニ方ッテ、將來ノ計畫ダモ將來ノ方針ダモ、之二
向ッテ聞クコトハ無理デアル詰リ望月君ノ口吻ヲ藉レバ、乳ヲ哺ンデ育ツカ、或ハ早ク
死ヌカト云フ內閣ニ向ッテ、將來ノ方針ハドウ定メテ居ルカト云フコトヲ聞クダモ愚デアル
ト云フ御話ガアリマシタ、然ルニ此減債基金問題ガ片付キマシテカラ、今日マデハ僅カニ
二十日カソコラノ日數ヲ經タバカリデ、現內閣ガ成ッテヨリ以來、未ダ百日ニ出デナイ、卽
チマグ乳ヲ哺ミツヽアルガ、將來能ク之ガ育ツカドウカト云フ疑問ハ、今以テアラウト思
フ、、何一ツ事實ノ上ニ於テ、吾〓ニ是ノ如ク手腕ガアルト云フコトヲ示サレタコトハナイ
多少ノ法律ヲ作ラレタダケノコトデアル、其內閣ニ向ッテ將來ハ能クヤルデアラウト云フヤ
ウニ、農商務大臣ハ樂天的ニ依賴サレルト云フコトハ私ハ甚ダ其意ヲ得ヌト思フ、若
シ遞信大臣ニ於テ、運輸及其賃率ニ於テ、是ノ如キ不便ノコトヲ來スコトガアルナラバ
私ハ遞信大臣ニ向ッテ國有ト爲ス以上ハ、是ノ如キ要求ガアル、希望ガアルト云フコト
ノ計畫ガナクテハナラヌト思フ、此事ニ至ッテハ、私ハ誠ニ遺憾ニ存ジマシタ、其次ニ此
政府ガ頻リニ唱ヘマスルノハ日本ノ財政ノ今日ハ決シテ二十億ヤ三十億ノ公債ヲ玆
ニ出シテモ、我財政ニ於テ憂愛ベキトコロノ變態ハ來サナイノデアルト云フノガ、大藏大臣
ノ論據デゴザリマシタ、其理由ハ詰リ株ト云フノガ變ッテ、公債ニ今度ナルノミデアル、此
鐵道買收ノタメニ發行スルトコロノ公債ノ五億ト云フノハ、株ノ形ヲ變ヘテ公債トスルバ
カリデアルガ故ニ、決シテ憂フベキコトデハナイ、斯樣ナ議論デゴザリマシタ、併ナガラ此
株ガ變ッテ公債トナル、卽チ有價證券ノ變體ニ過ギナイト云フノデアルケレドモ、是ガ一
旦株主ノ手ニ渡ッタ以上ハ其固定的ノ公債ヲ持タンヨリモ寧ロ將來强力ノアル株ヲ
求メンガタメニ或ハ抵當トシテ銀行ニ入レルデゴザリマセウ、或ハ賣物トシテ市場ニ出ス
ノモアラウ、或ハ保證トシテ銀行ノ庫ニ入レルデアラウ、保證若クハ抵當、若クハ市場ニ
賣出サレルトコロノ其金額ノ總計ハ卽チ此通貨ノ需用トナルノデゴザイマスルカ故ニ、ワ
レダケハ經濟市場カラ、公債ヲ募集シタト私ハ大差ナイトコロノ結果ヲ生ズルダロウト思
フ、其金額ノ需用額ダケハ、詰リ公債ノ價格ト云フコトニ向ッテ、何等カノ變動ヲ與ヘナ
ケレバナラヌト、私ハ思ヒマス、旣ニ今日ガ二十四億ト云フ公債ヲ持ッテ居ル、政府ノ今
度ノ計畫ニ依リマスレバ、明治四十四年度ニハ約二十八億、三十億ニ近イトコロノ公
債額面トナルノデゴザリマス、ソレハ如何ニシテモ、今日ノ一般ノ財政ガ、旣ニ歲入ニ關
陷ヲ生ジテ、一般財政ノ補塡トシテ、年々五六千万圓、若クハ七八千万圓ノ公債ヲ
募ラナケレバナラヌト云フ、今日ノ場合ニ於ケル三十億ニ近イ公債ヲ作ルトー云フコトハ、
多少將來ニ於テ、財政上ノ危險ヲ免レナイコトヽ私ハ思フ、又將來ニ於テ危險ノ分
子ヲ含ムトコロノ財政策ハ、今日ニ於テ、大藏大臣トシテ最モ愼ンデ戴カネバナラヌコト
ト私ハ思ヒマスルデ、之ヲ大藏大臣ハ說明シテ曰ク、多少ノ危險ハアルニ違ヒナイ、多
少公債ノ下落ハアルデアラウ、其公債ノ下落ハ、卽チ先刻武富君ノ演說中ニアリマシタ
通減債基金部、ソレカラ預金部、日本銀行、興業銀行ナドヲスッカリ利用シテ、サウ
シテ大藏省ハ之ヲ買入レテ、此公債ノ價格ヲ保ツト云フノガ、論據デアッタ、此事ハ殆ド
此日本ノ財政ヲ將來株屋一流ノ政策ヲ以テ行ハルヽノデアルト私ハ思ヒマスル、最モ公
債ノ多イ場合ニ於テ、是ノ如キ政策ハ時トシテ必要デゴザリマセウ、併シナガラ是ノ如キ
賣買ヲ激シクスルトコロノ財政策ヲ常ニ執ルコトハ、頗ル不安心デアル、併ナガラ財政上
ノ將來ハ公債ノ額面ト、將來一般歳入ノ闕陷トヲ考ヘテ見レバ我國ノ後日ノ政策ハ必
ヤ公債ヲ賣買ヲスルト云フコトヲ以テ、大藏大臣ノ唯一ノ政策トシナケレバナラヌト云フ
悲境ニ陷ルダラウト思ヒマス、卽チ株屋一流ノ政策ヲ以テ、我國ノ財政ヲ維持シナケレバ
ナラヌト云フコトガ、一般ノ財政ノ常道ニナリハシナイカト、斯樣ニ憂フルノデアリマス、此
事ハ殆ド日本ノ財政ヲ露西亞流ニナスノデアッタ、サウシテ「ウ井ッテ」ノ政策ヲ以テ漸ク
維持セントスルトコロノモノデアラウト思フ、堂々タル此戰捷國ノ財政ヲ、露西亞流ニナ
シ、且株屋一流ニ終ルト云フコトハ私ハ甚ダ恐ルベキコトデアラウト思ヒマスル、從來
大藏大臣ハ極ク穩健ナル財政家トシテ世ニ聞エテ居ッテ、私モ是ハ至極穩健ナ財政ヲ
執ラレル人デアルトシテ、之ニ信賴ヲシテ居ッタノデアルガ、今日ノ狀況ヨリ考ヘテ見マス
レバ、將來ニ於テ危險ノ分子ヲ含ンデ居ルトコロノ露西亞流ノ財政ヲ採ラナケレバ、立
場ガナイヤウニナリハシマイカト云フコトヲ憂フルガタメニ、私ハ財政問題トシテモ、此國
有鐵道ト云フモノヲ、今之ヲ行フト云フコトハ甚ダ不贊成デゴザリマスル、其次ニ此將
來ノ未成線ノ擴張ト云フコトヽ、ソレカラ將來ノ財源ノ涵養ト云フコトニ付イテ、內閣
ハ頻リト此統一ノ利益ヲ說カレタノデゴザリマスル遞信大臣ノ說明ニ依リマスルト、將
來ノ未成線ハ、近キ將來ニ於テ、其計畫ヲ立テヽ議會ニ向ッテ其案ヲ問フデアラウト
云フ御話デアリマシタガ、此事ガ能ク出來ルデアラウカ、如何デアラウカト云フコトハ)
疑問デアルト私ハ思ヒマスル、我國ノ鐵道ノ經營ノ方法ヲ見マスレバ此官線ノ營業ノ
費用ト私線ノ營業費用ノ比較ニ於キマシテハ昨日委員會ニ於テ、私ハ武富君ト共
二、政府委員ヨリ一ノ御叱リヲ受ケテ、多少ノ違算ガアッタト一云フノデ、非常ニ駁論ヲ
加ヘラレタノデゴザイマスケレドモ、如何ニ表ヲ繰ヲテ此事ヲ見テ見マシテモ矢張官設ハ
不經濟ハ不經濟ニ終ッテ居ルノデアル此陰陽線ノ如キハ-官線ノ陰陽線ノ如キハ、
最モ高イノデ收入百圓ニ對シテ百六十三圓ノ營業費ガ要ッテ居ル、北海道線ガ百二
十五圓要ッテ居リマス、サウシテ官線ノ一番低イノハ東海道線デ、四十圓ノ營業費ヲ使ッ
百合、私線ノ一番高イノハ西成鐵道ガ七十八圓デアッテ。一番低イノハ參宮ノ三十
四圓、其他日鐵、九州、山陽ノ如キハ多クハ四十八圓カラ四十三圓デゴザイマス、
此金ハ私が昨日委員會ニ於テ述ベタ通リ、十年間最近ノ平均デゴザイマス、此事ヲ見
テ見ルト如何ニシテモ此私設鐵道ヨリハ官線ノ營業が旨ク往ッテ居ルトハ思ハレナイ、
是ヲ將來四分ノ一ノ鐵道ヲ管理シテ居ル現遞信大臣ノ管下ノ鐵道營業ノ成績ノ是ノ
如クデアルガ、四分ノ三ヲ合セテ全部ノ經營ヲナシテ、是ヨリモ一層節約ヲ加ヘテ好クナ
スデアラウト云フコトハ如何ニシテモ信ジ得ラレヌノデゴザイマス、ソレ故ニ此推論ヨリ鐵
道經營ヨリ生ズルトコロノ利益ノ中カラ、未成線竝ニ豫定線ノ擴張費ヲ產ムト云フコト
ハ、餘程ムヅカシイノデアッテ、此鐵道ノ營業ヨリ生ズルトコロノ利益ノ內カラ、公債ノ利
子ト改良費ト、公債元金ノ幾分ヲ拂ッテ(「簡單」ト呼フ者アリ)サウシテ尙且未成線
ノ擴張費ヲ取ルト云フコトハ、餘程ムヅカシイト思フ、是亦他日公債ニ依ラナケレバナル
マイト思フ(「マグ演說者ガ澤山ゴザイマス」ト呼フ者アリ)是ノ如ク惜シイコトニ民設ヲ
許スト云フコトニシテ居レバ、鐵道ノ延長ヲ漸次圖ルコトガ出來マシテ、國利民福ヲ助ケ
ルト云フコトガ出來ルケレドモ、(「簡單々々」ト呼フ者アリ)是ヲ國有ニ致シタタメニ、遂
ニ此未成線ノ擴張ト云フコトモ、將來ニ於テ餘程ムヅカシクハナイカト私ハ斯ク憂フルヨ
リ此〓ニ於テモ反對ヲ致シマス(「簡單々々」ト呼フ者アリ)無論サウ長クハ言ハナイノ
デス、委員會ニ於テ私ハ十分述ベテ置キマシタカラ、ホンノ大要ヲ摘ンダノデス(「簡單々々」
ト呼フ者アリ)是ダケ考ヘテ見マスレバ、此鐵道ヲ國有トスルトコロノ十分ナル理由ハ
一ツモナクシテ、サウシテ一ノ民權卽チ既得權ノ蹂〓ニナリハシナイカト云フ一ツノ憂ト
ソレヨリ生ズルトコロノ社會ノ不安心ヲ招イデマデモ是ヲナサネバナラヌト云フトコロノ必
要ハナイ(「簡單々々」ト呼フ者アリ)將來ノ財政上ノ危險ト、經濟上ノ攪亂ト云フコト
ト、私權ノ蹂〓ト云フコトノ憂マデモ、玆ニ曝ケ出シテ之ヲ顧ミズシテ、以テ此國有鐵道
ヲ是非共行ハナケレバナラヌ必要ハ私ハ見出サナイ、故ニ此案ニ反對ヲ致スノデゴザイマ
ス(「モウ宜カラウ」「濟ンダノ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=41
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042・杉田定一
○議長(杉田定一君) 竹越與三郞君
〔竹越與三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=42
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043・竹越與三郎
○竹越與三郞君 諸君唯今淺野君ノ縷々數万言ヲ伺ヒマシタガ、私ハ同君ノ議論ニ
對シテ敢テ反駁スル必要ヲ認メマセヌ、健氣ニモ能ク論陣ヲ御布キニナッタト申上ゲルヨ
リ外ハナイ、而シテ私ハ武富時敏君ノ議論ニ向ッテ一言シタイト思フ、是ハ必シモ淺野
君ヲ輕ンジテ武富君ヲ重ンズルト云フ譯デハナイノデス、淺野君ハ僅ニ一人ノ意見ヲ代
表セラルヽノデ、武富君ハ進步黨ヲ代表セラルヽカラデアルノデアリマス是ハ淺野君ニ
對シテ敢テ敬意ヲ缺ク譯デハアリマセヌ、私ハ謹デ武富君ノ御意見ヲ伺ヒマシタ、誠ニ
此聲ハ議場ニ於テナカルベカラザル聲ト思ウタノデアリマス、誠ニ能ク批評的ノ眼デ又
國有法案ノ前途ヲ御心配ニナッタ良イ御注意デアッタ、併ナガラ其言ハルヽコトハ〓シ
テ歎息憂憤、危惧ニ過ギズシテ、此國家勃興ノ盛運ニ對シテ、)此國家ヲ擔當スル
氣魄精神ト云フモノヲ缺イテ居ラレルト云フコトハ、甚ダ遺憾ニ堪ヘヌノデゴザイマス(「ヒ
ヤ〓〓」ト呼フ者アリ又「拍手」スル者アリ)又同君ハ此法案ノ施行ニ付イテノ御心配ハ
アッタガ、鐵道國有ト云フ原則ニ向ッテハ、何等ノ御意見ヲ表明セラレナカッタノハ本
員ノ竊カニ遺憾トスルトコロデアリマス、過日大石君ガ委員會ニ於テ述ベラレタトコロヲ
見レバ國有法案ノ如キハ名デアッテ、名ハ敢テ爭フニ足ラヌト云フヤウナ御意見ガアッ
ク、武富君ハ或ハ同意見デハナイカト思フ、若シ果シテ然ラバ是ハ大ナル間違テアル、國
有法案ハ決シテ名ノ爭デハナイ、叩ケバ響ク突ケバ血ノ出ル、活キタ活實現實ノ大問題
デアルデス旣ニ獨逸ニ於テ成功シ、白耳義ニ於テ成功シ、瑞西ニ於テ成功シ、澳地利
ニ於テ成功シ、伊太利ニ於テ成功シテ、歐羅巴諸國ニ於テ燎原ノ勢ヲ以テ解決セラレ
ツヽアルトコロノ大問題デアッテ是ガ我國ニ來ッタルハ、恰モ國民皆兵主義若クハ議院
制度ト同ジ勢ヲ以テ、我國ノ解決ヲ促シテ居ル活キタ大問題デアリマス、此問題ニ
向ッテ進步黨ノ諸君ハ唯名ノ問題デアッテ、ドウデモ宜シイト云フヤウナ曖昧ナ御意見
ヲ表セラルヽニ止マルハ、本員ノ甚ダ遺憾ニ存ズルトコロデアリマス、反對ノ諸君ハ此法
案ヲ名ケテ「ビスマルク」ノ眞似ヲシタトカ獨逸ノ眞似ヲシタトカ言ハルヽガ、決シテ然ラ
ズ、是ハ諸君が金科玉條ト信ゼラルヽトコロノ「グラッドストン」ガ最初解決シタ問題デ
アリマス、千八百四十四年「グラッドストン」ガ農商務大臣トシテ此國有法案ヲ決シテ、
議會ニ提出シテ滿場一致ノ贊成ヲ得テ、法律トナッテ居ルノデス、唯之ヲ今日ニ實行ス
ルコトノ出來ナイノハ、議場ニ於ケル鐵道株主勢力ガ過大ニシテ之ヲ實地ニ運用スル
コトガ出來ヌト云フニ止マルノデアリマス、是ノ如ク歐洲列國ヲ風靡シテ我國ニ來テ
我國ノ戰後大經營トシテ、解決ヲ促シテ居ル最高ノ經倫デアリマス、此經倫ノ前ニ對
シテハ其區々タル方法トカ時期トカ云フコトハ、犧牲トシナケレバナラヌノデアリマス(「ノ
ウ」ト呼フ者アリ)然ルニ諸君ハ唯其方法ニ付イテノ批評、名ハドウデモ宜シイト云
フヤウナ聲ニ隱レラレルト云フコトハ、竊ニ信ズル、諸君ノ良心ハ又吾ミト同意見デアラ
ウト思フノデアリマス、私ハ諸君ト口舌ノ間ニ相爭フコトヲ遺憾ニ存ジママ、併シ名譽ア
ル諸君ノ良心ヲ友トスルトコロハ甚ダ愉快ニ思フノデアリマス(「良心ガアルカ」ト呼フ者ア
リ)而シテ反對ノ諸君ハ此原則ニ於テ相爭ハズシテ、私權論ト云フモノニ第一ノ城廓ヲ
構ヘラレテ居リマス、鐵道ヲ買上ゲルト云フコトハ、鐵道會社ノ私權ヲ侵害スルト云フコ
トデアリマス、諸君、私ハ私權ヲ重ンズルコトハ諸君ト同意見デアリマス、併ナガラ諸君
ノ言ハルヽ私權ハ、兩刃ノ劒デアッテ、吾ミヲ斬ルト同時ニ、諸君ヲモ斬ルノデアリマス諸
君、此鐵道ト云フモノハドウシテ成立ッタカト云ヘバ國家ハ國有ノ土地ヲ與ヘ、私人ノ
土地ハ國家ガ土地收用法デ買上ゲテ、是ヲ會社ニヤリ、而シテ鐵道ノ敷イテアル土地ニ
ハ租稅ヲ掛ケナイ、其鐵道ノタメニハ競爭線ヲ架ケヤウトシテモ許サヌノミナラズ、國民ガ
粒々辛苦カラ出ス租稅カラ、補助金ヲヤッタモノガ此鐵道デアルノデス、卽チ鐵道ハ特權
カラ成立ッテ居ルモノデアル、諸君、特權ト私權トハ、相竝立ツモノデハナイノデアル、鐵
道國有法ハ特權ノ塊マリ、會社ヲ解散セシメテ之ヲ國民ノ間ニ平等ニ分配シテ、國民
ヲシテ悉ク株主タラシメルト云フノガ國有法案デアリマス(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)其
一例ヲ舉ゲマスレバ、日本鐵道、山陽鐵道ハ最モ强ク此法案ニ反對シテ居ルト云フコ
トデアルガ、日本鐵道ハ何者デアルカ、明治十四年カラ昨年マデ國家ノ保護ヲ受ケテ居〃
タ會社デアル、國家ハ既ニソレニ向ッテ九百十二万圓ノ補助金ヲヤッテ居ル利息ヲ勘
定スレバ一千万圓デアル、日本鐵道會社ノ建設費ハ五千万圓デアル、五千万圓中一
千万圓ハ國家カラ出シテ居ルノデアリマス、此一千万圓ノ金ニ付イテハ第一議會以來
ヤカマシイ問題デアッテ、或時ハ自由黨、進步黨、合同シテ政府ニ向ッテ、此保護金ハ約
束期限內ト雖トモ中止シテシマハナケレバナラヌト云フコトヲ政府ニ迫ッタコトガアリマ
ス、玆ニ居ラレル進步黨ノ諸君ハ、其中ニ調印セラレタ人ミガ多クアラウト思フノデアリ
マス諸君、、約束期限以內デアッテモ國家ハ其約束ヲ取消シテ、金ヲヤラヌヤウニセネバ
ナラヌト云フコトヲ諸君ハ御承知ニナッタノデアリマス、然ラバ其約束カラ成立ッタトコロノ
鐵道ヲ、代價ヲ拂ッテ買上ゲルト一云フコトハ、諸君ハ何等ノ差支イハナイ同論デアルノデ
ス、又山陽鐵道モ其通デアッテ、是モ同ジク明治十四年ヨリ昨年マデ五十九万零八百
圓ノ保護金ヲ國家カラ受ケテ居ルノデアリマス、是ノ如ク特權カラ成立ッタモノハ卽チ
私權ト反シテ居ルモノデアル、吾ミハ私權ヲ尊重スルガ故ニ是ヲ國民全體ノ間ニ廣ゲ
ヤウト云フノデアリマス、然ルニ私權論ニ依ッテ特權ヲ保護セントスルニ至ッテハ遁辭ハ
我レ其窮スル所ヲ知ルト云フノ外ハナイノデアリマス、是ノ如ク私權論ナルモノハ、其根
據既ニ薄弱デアルト見ルヤ、直チニ反對ノ諸君ハ經濟論ニ又城廓ヲ構ヘラレテ居ルノデア
ル其經濟論ハドウデアル千篇一律此公債ガ增加シタナラバ國家ハ破產ノ外ハナイ
ト云フヤウナ御議論デアル、誠ニ前途ヲ甚ダ憂ヘラレルニ至ッテハ、健氣ノコトヽ云ハネバ
ナラヌ、併ナガラ諸君、幽靈ト云フモノハ暗イ時ニ出ルモノデアル未來ト云フモノハ儈
侶ガ手玉ニ使フ所デアル、來世ト云フモノハ地獄極樂ト云フコトデ、以テ愚人愚婦
ヲ瞞ス道具トナルガ、此經濟論程分ラヌモノハナイ、分ラヌガ故ニ經濟論トナルト、自稱
豫言者ガ澤山出テ來ルノデ、卽チ未來ハ亡國デアル未來ハ株ガ下ルトカ分ラヌコトヲ
倒っ、直チニ澤山ノ豫言者ガ出來ルノデ、然ルトコロ此豫言者ガ果シテ未來ヲ豫言ス
ルノ資格ガアルヤ否ヤト云フコトハ、先ヅ〓究セネバナラヌ、先程未來亡國論ヲ唱ヘラレ
タ武富君ハ、如何ナル豫言者ノ資格ガアル、此三十一年ノ地租增徵論ノ出タトキ、武
富時敏君ハ此演壇ニ登ヲテ、地租ヲ增徵スルナラバ、農民ノ力ハ枯渴シテシマッテ、國家
ハ爲ニ亡滅ノ域ニ至ラントスルトマデ斷言セラレタ、此斷言ハ少ナカラヌ影響ヲ與ヘラレ
タルノミナラズ外國マデ電報デ傳ヘラレテ、少ナカラヌ妨害ヲ公債ニ及ボシタノデアリマス、
諸君其後國家ハ果シテ亡ビタルヤ、農民ガ果シテ枯渴シタルヤ否ナ、其時ニ決シタト
コロノ增稅法ニ依シテ我海軍ハ擴張セラレテ、昨年ノ立派ノ海戰ガ出來タノデアリマス、
然ラバ武富君ハ豫言者ノ資格ガナイト云フ確ナ證據デアラウト思フ、偖テ此似面非豫
言者ノ豫言スルトコロハ又同時ニ當テニナラヌト一云フコトモ又明白デアル諸君、公債ヲ
增發スレバ株劵ガ下ガルト云ハレル、是ハ座上ノ空論デアル、公債、株劵、紙幣、是ノ如
ク經濟社會ハ、尙此自然法ニ支配セラレタモノデアッテ、一ノ穴ガ明ケバ空氣ハ直グ這入
ルノデアル四億万ノ公債ヲ發行スルト云フコトハ、唯出スノデハナイ、四億万圓ノ株劵
ヲ引取ッタ、其穴ヲ埋メルノデアル、卽チ空氣ハ自然ニ穴ニ這入ルノデアル、然ラバ新タニ非
常ニ公債ガ殖エルノデナクシテ、株劵ガ形ヲ變ヘルニ過ギヌノデアル、諸君、株券ト云フモノ
ハ公債ト同ジク紙幣デナイト云フコトハ明白ノコトデアラウト思フ、先程我同論者ハ公債
ハ賣ラレルカモ知レヌ、併ナガラ同時ニ事業費トナッテ起業セラレルト云フコトヲ言ハレル、
是レ實ニ我意ヲ得タモノデアル、經濟社會ニ於テハ米ガ總テノ物價ノ標準ニナルガ如ク、
此一段上ノ經濟社會ニ於テハ株券ガ總テノ價ヲ支配スル標準トナッテ居ルノデアル株
劵ガ上ガレバ公債ガ上ガル、株劵ガ下ガレバ公債ガ下ガルノデアル、今公債ヲ賣ッタモノガ
事業ヲ起ス、事業ガ卽チ株劵ノ價ヲ生ズルノデアル、株劵ノ價ガ出レバ公債ノ價ガ出
ルト云フコトハ自明ノ理デアリマス、加之今ヤ我經濟社會ハ世界共通トナッテ、東京
灣ノ水ハ「ゴールデンゲート」ノ水ト相通ッテ居ルノテアル、苟モ公債ノ利率ニシテ宜カッタ
ナラバ我日本ノミナラズ歐羅巴ノ經濟社會ハ、ドシ〓〓是ヲ吸集シテシマフノデアリマ
ス我新公債ノ空ノ公債ニアラズシテ、仕拂力ノアル鐵道ヲ持ッテ居ル政府ガ出シタモノ
デアルト云フナラバ其公債ハ羽ノ生ヘタルガ如ク、瞬ク間ニ歐羅巴ニ吸收セラレテシマ
フダラウト思フノデアル、諸君、我國ノ事情ハ外國ニ能ク分ッテ居ルヤウデアッテ、往々ニ
シテ分ラヌコトガアル、此新內闇ノ出來ルヤ「タイムス」新聞ニハ新內閣ノ最大問題トシテ、
甚グ困ル問題ハ多分東北ノ饑饉救濟法デアラウト、斯ウ云フヤウニ評論ヲシテ居ルノ
デ、諸君、是ノ如ク我事情ヲ誤解スル外國ハ、我國力ヲ見ズシテ我政府ヲ見ルノデア
ル、我政府ガ財源トシテ非常ニ大キナル鐵道ヲ國有トシタト云フコトデアルナラバ、此鐵
道ヲ抵當トシテ公債ノ價ガ出ルノミナラズ從來ノ舊公債モ亦非常ニ値ガ出ルト云フコ
トハ是亦自然ノ勢デアルデス、諸君、諸君ハ如何ニ呌バルヽトモ數理ハ嚴肅ナル判決
ヲ下スノデ、如何ニ大キナ聲ヲナサレテモ、二二ガ四ヨリ動カナイノデアル、如何ニ悲マレ
テモ、三七ハ二十一トシカナラヌノデアリマス諸君ハ中ニハ鐵道ノ値ガ下ッタナラバ、
減債基金デ買フト云フコトヲ非難シテ、以テノ外デアルト言ハレル併ナガラ此減債基
金法案ナルモノハ、此鐵道國有法案ヲ期待セラレテ、拵ヘタモノデアッテ、其金デ買フノ
デ、從來ノ公債デアラウト、新公債デアロウト、一向差支ナイノデス、舊來ノ公債ニ判ヲ
打ッテ居ルノデモ何デモナイノデス(「ヒヤ〓〓」又「ノウ〓〓」ノ聲起ル)諸君、先ヅ反對論
ノ心ニ浮ンダトコロヲ私ガ非難スレバ、是ノ如キモノデアリマス是ヨリ進ンデ私ハ此法
案ヲ贊成スルノ理由ヲ述ベタイト思ヒマス、諸君、日露戰爭終シテ平和ノ戰爭ニ入ッタ
ト云フコトハ、諸君モ私モ同意見デアリマス、此戰爭ハ如何ナル方法デ往クカト云ヘバ
尙滿洲ノ戰爭ノ如ク、總テ國際ノ商業戰爭ハ集團的組織的ニ出來テ居ルト」ムフコ
トハ是ハ諸君モ同感デアラウト思フ私ハ其集團的戰爭ラスルニ當ッテ、獨逸ノ「カル
テルシステム」亞米利加ノ「シンヂケート」是ノ如キ方法ニ對シテ、我國ガ鬪フニ當ッテ
果シテ今日ノ鐵道ガ闘フニ十分デアルカト云フニ、諸君モ亦サウデハナイト言ハレルデア
ラウ、ソレハ諸君モ統一セナケレバナラヌト云フコトハ、屢〓言ハレルノニ依ッテ是ヲトスルノ
デアル、我國ハ此間カラ委員會デ議論ヲ聽ケバ、獨逸デナイカラ統一ハ要ラヌト云フ論
モアル、獨逸ハ聯邦デアルカラ統一ヲ必要トスル、我國ハ聯邦デナイカラ統一ノ必要ガナ
イト云フ議論ガアルガ、實ハ我國ハ經濟上ノ聯邦デアル、九州ハ九州鐵道デ獨立シテ
居ル、山陽ハ山陽鐵道ニ依ッテ占領セラレテ居ル、是ノ如ク今日ハ三十二ノ會社ガアッ
テ經濟上ノ聯邦ヲシテ居ルノデアリマス、此結果ハ卽チ鐵道運輸ノ不統一デアル、諸君、
先程此演壇ニ立ツ人ミハ、頻リニ鐵道作業局ノヤリ方ガ惡ルイト云フコトヲ言ハレ
ル、是ハ惡ルイカモ知レマセヌ、本員モ其惡ルイ一二ノ例ハ知ッテ居ル、併ナガラ鐵道作
業局ガ惡ルイニモセヨ、會社ガ惡ルイニモセヨ、鐵道ガ不統一ト云フコトハ事實デアリマ
ス、例ヘバ一例ヲ舉ゲテ見マスレバ、越後カラ貨物ヲ一車借切デ東京ヘ持ッテ來ヤウト
思フ、其時官線ハ頻リニヤリタガルケレドモ、日本鐵道ガ承知セザルガタメニ、貸切ト云フ
コトハ出來ヌノデアリマス、又或線ト或線ト連絡シテ居ルトキハ、他ノ線路ヲ妨害スルタメ
ニ、僅カニ一分遲著スレバ、直グ汽笛ヲ鳴ラシテ出發スルト云フコトガアル、之ガタメニ三
時間モ四時間モ待タナケレバナラヌト云フコトハ、此東京ノ附近ヲ旅行セラルヽ諸君ノ
實見セラルヽトコロデアラウト思ヒマス、又或會社ハ他ノ會社カラ持ッテ來タ貨車ハ、自
分ノ構內ヘ抛棄シテ、少シモ取合ハヌ、數〓催促ヲ經タ後デナケレバ、是ヲ處分セヌト云
フヤウナコトハ數〓アルノデアリマス、故ニ今日ニ於テハ是ノ如キ不統一ノ結果トシテ、遠
キ處ヨリ物ヲ取寄セルニ、其物ガ何日以內ニ到著スルヤ、豫期スルコトガ出來ヌト云フ
位デアル若シ形容シテ言ヘバ長崎カラ玉子ヲ東京ヘ送ッタナラバ東京ヘ到著スルト
キハモウ玉子ハ鷄トナッテ、時ノ聲ヲ揭ゲルト云フ位デアラウト思ヒさく、諸君、又貿易ノ
發達ハ運賃ノ廉價デアルト云フコトハ第一ニ看易キ道理デアリマス、此不統一ノ結果
ハ運賃ガ果シテ高イト云フコトニナルノデス、我國ノ官線ハ一哩八厘ヨリ一錢六厘五
デアル山陽ハ九厘ヨリ一錢五厘、日本鐵道ハ一錢ヨリ一錢六厘デアリマス、然ルニ歐
羅巴ハドウデアル、白耳義ハ二錢一厘ヨリ二錢三厘、獨逸ハ二錢八厘七、佛蘭西ハ
二錢二厘ニ、英吉利ハ五錢、墺地利ハ一錢二厘ヨリ一錢五厘デアル歐羅巴ノ方ガ
少シ餘計デアリマスガ、併シ物貨ノ高低生活ノ程度ヲ比較シタナラバ、我國ノ高イト云
フコトハ明白デアル、又更ニ貨物ニ付イテ云ヘバ、實ニ恐ルベキコトガアル一噸ノ米ヲ
西貢ヨリ日本ヘ持ッテ來ル神戶マデハ銀四圓八十錢デアル、又香港ヨリ神戶ヘ持ッテ
來ルト、二圓二十錢デアル、而シテ鐵道ナレバドウナルカ、長崎ヨリ橫濱マデ七百三十
九哩ノ間、一噸ノ米ハ八圓三錢掛ルノデアリマス、諸君、海ト鐵道ハ無論價ハ違フノ
デアリマスガ、吾ミガ長崎ヨリノ米ヲ取ルヨリモ、西貢ヨリ米ヲ取寄セル方ガ遙ニ廉イト
云フヤウナコトニナレバ、我農作物ハ悉ク外國ノ農產物ノタメニ、侵略スルトコロトナルノ
デアリマス、又上海ヨリ門司ニ鷄卵ヲ取寄セレバ一噸四圓五十錢デアル、所ガ長崎ヨ
リ橫濱マデハ十三圓三十錢掛ルノデアリマス、是ノ如キコトハ決シテ我經濟社會ヲ賑カ
ナラシムル所以デナイノデアリマス、是ヲ統一スレバドウナルカ、當局者ハ答ヘテ居ル、現
今ノ割合ニ依レバ、山陽線ヲ經テ下ノ關、靑森ノ間ハ運賃ハ現今十二圓四十五錢
デアルガ、統一シテ割引スレバ十圓四十六錢トナル又新潟ヨリ上野ヘ出ヅル賃錢ハ一
噸五圓十二錢デアリマス、之ヲ統一ノ結果ハ三圓八十二錢トナルト云フ答デアリマス、
諸君是ハ一割五分減ルノデアリマスガ、今日本ノ鐵道ノ運賃幾許ノ收入ガアルカト
言ヘバ年々五千万圓デアル、十年ノ後ハ從來ノ割合ニ依レバ、一億三四千万圓トナ
ルノデアリマス、一億三四千万圓ヨリ一割五分ノ經濟ニナルト云フコトデアレバ、是ハ實
ニ國本培養ノ大法案ト云ハナケレバナラヌノデアリマス、(拍手起ル)豈啻ツレノミナラン
ヤ所謂勾牙利ノ「ゾーンチッケット」ヲ出シテ、日本ヲ數區ニ割ッテドシ〓〓大取引ヲシ
タナラバ、物價ノ運賃ハ非常ノ物デ、我國ハ獨リ船賃デ競爭スルノミナラズ、坐ナガラニシ
テ晩香坡、加奈陀線、馬耳塞、伯林線ト競爭スルコトガ出來ルノデアリマス、然ルトコロ反
對ノ人〓ハサウ云フ統一ハ國有ニ依ランデモ宜シイト云フ御意見ガアル、是レ寔ニ穩カナル
議論ノヤウニ思ハレルノデアル、併シ此穩ナル議論ハ、極メテ危險ナル議論デアル、、諸君ハ
先程カラ競爭サセレバ改良ガ出來ルナドヽ言ハレタガ、今日ノ鐵道ニ競爭ナドガアル
モノデハナイノデス、九州ハ既ニ九州鐵道ノ專制力ノ下ニアルノデス、又山陽ハ山陽鐵道ノ
專制力ノ下ニアル、山陽ハ四國鐵道モ買入レテ居ルノデス、今御話ニ依レバ中國鐵道モ買
入レントシテ居ルト云フ御話デアル、日本鐵道ハ中仙道ヲ悉ク占領シテ、是等ノ會社ニハ競
爭モナニモナイ、其傍ニアル小サナ鐵道會社ハ、大鐵道會社ノタメニ悉ク頸ヲ捻ヂラレ掛ケテ
居ル、是ヲ合同セシメルトドウナル、卽チ日本鐵道、山陽鐵道、九州鐵道ノ三ツガ話合ヲ
付ケレバ日本全體ヲ占領スル一人專制君主ガ出來ルノデアリマス、諸君、此鐵道ガ話合
ヲ付ケテ「トラスト」ヲ組ンダナラバ、其資本ハ四億万、其使フ人ハ四万五千人、是ニ依ッ
テ政治的衣〓ヲスル者ガ一一千幾人デアル、是ガ合同シテ政治上ニ働キ、又貨物ヲ專制
ノ下ニ置イタナラバ、却テ國民ハ總テ此大會社ノ抑壓ノ下ニ憐ミヲ請ハナケレバナラヌト
云フヤウニナルノデアリマス(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)諸君鐵道ガ「トラスト」組織トナッ
テ困家ニ弊害ヲ及ボスト云フコトハ、先程御話シタ英國デ、既ニ國有法案ヲ確定シナガ
ラ、實行スルコトガ出來ナイト云フ一例デ、御分リニナラウト思フ、現ニ英國ガ頻リニ鐵
道「トラスト」ニ苦ンデ居ルコトハ諸君モ御承知デアルデアラウト思フ、否ナ、是ハ獨リ
英國ノミデハナイ、今ヤ靑年ニシテ功名心ニ富ンダ、我內閣ノ一大臣ハ此問題ノタメニ
席ヲ蹶ッテ立ッタデハアリマセヌカ、鐵道ノ潜勢力ノ大ナルコトハ是ノ如キモノデアリマス
(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)若シ國家ガ鐵道ヲ國有トシナケレバ、鐵道會社ガ國家ヲ社
有トスルニ終ルノデアリマス(「ヒヤノ」ト呼フ者アリ)斯ウ云ヘバ人或ハ國有鐵道ハ
富豪退治デアルト云フカ知ラヌガ、決シテサウデハナイ、富豪保護デアル今日ノ如クシ
テ鐵道ヲ非常ナ勢デ「トラスト」ニセシメタナラバ、其結果トシテ生ズルトコロノモノハ階
級戰爭ニ外ナラヌノデアル、數万ノ貧民ガ富豪ヲ取圍ム、内亂ノ狀態ニ終ルノデアル
國家ハ富豪ヲシテ、是ノ如キ狀態ニ陷ラシメヌヤウニ階級戰爭カラ彼等ヲ救出スノガ、
鐵道國有問題デアリマス(「論ジ得テ妙」ト呼フ者アリ)其他時機ガ惡ルイトカ、
或ハ兵事上ニ於テ不都合ナト云フ議論ガアリマスケレドモ、私ハ敢テ之ヲ再論セヌノデアル、
併ナガラ唯日露ノ戰爭ニ、何ノ不都合ガナカッタカト云フヤウナ議論ニ對シテハ、反駁デ
ハナイガ、一言注意ヲ與ヘテ置キタイト思フ兵士ヲ動スニハ、陸軍大臣トシテ不十分
デアッタトハ言ヘナイデアラウト思フ、併ナガラ十分デハナカッタト云フコトハ、又事實吾ミ
ガ認メルノデアル是ガ更ニ國有鐵道デ手足ヲ動ス如ク、使フコトガ出來タナラバ用兵
ノ方モ亦自カラ一變スルコトガアッタノデアラウト思ヒマス、加之兵士運送ノタメニ、我國
ノ運輪ガ一時止ッタト云フコトハ、諸君ガ御實驗ノコトデアラウト思フ是等ノコトハ敢
テ反駁スル程デモナイガ、御注意ノタメニ言ッテ置クノデアリマス、是ノ如クシテ鐵道國有
ハ何レノ方面ヨリ見テモ、斷行セネバナラヌ時機ニ迫ッテ居ルノデアリマス尙其利害デア
ルトカ、方法ガドウダトカ、前途ガドウトカ云ッテ居ラレルノハ、是ハ舟中大學ヲ講ズル人
人ノ言草デアラウト思フノデアリマス、終ニリ臨ンデ一言シテ置キマスガ、此法案ハ前內
閣ノ法案ヲ、今ノ內閣ガ踏襲シタ、踏襲ハイケヌト云フヤウナ御議論ガアルノヲ、屢〓見受
ケマス、凡ソ天ガ下ニ自分ガ考ヘテ自分ガ行フト云フヤウナコトハ何處ニアリマスガ、政治
上ニ於テハ、屢〓他人ガ說キ、、言ヒ、論ジ、討論シ而シテ明カニナッタモノヲ行フト云フコト
ノ外政治上ニハナイノデアリマス、唯政治家ニ貴プトコロハ、其適當ナル時機ヲ見テ、
之ヲ斷行スルノ勇氣ト、之ヲ行フノ信用如何ニアルノデス、此內閣ハ其適當ナル時機ヲ
見テ之ヲ斷行スルトコロノ勇氣ヲ持ッテ居リ、而シテ又之ヲ通過スルノ信用ヲ有シテ居
ルコトハ、本員ノ竊ニ賀スルトコロデアリマス
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=43
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044・杉田定一
○議長(杉田定一君) 島田三郞君
〔島田三郞君登壇〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=44
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045・島田三郎
○島田三郞君 諸君、本員ハ不幸ニシテ、現內閣ノ提出セラルヽ重大ナル議案ニ皆反
對セザルヲ得ザルノ位置ニ立チマシタノハ本員顧ミテ自カラ嘆息スルコトデアリマス、本
員ハ現内閣組織ノ始メニ當ッテ、少ナカラヌ希望ヲ有シテ之ヲ歡迎シタルモノノ一一人デニコ
アリマス、ソレハ首相ノ人格、竝ニ首相ノ財利ニ淡泊ナルコトヲ、私ハ知ッテ居リマス、又
首相ガ夙ニ歐洲ノ〓育ヲ受ケテ、自由ノ空氣ヲ呼吸セラレテ、其爽カナル空氣ヲ日本
ニ傳ヘラレタルコトヲ木員ハ記憶シテ居リマスソレ故ニ少ナクモ前內閣ニ比シテ、十中ノ
半バハ吾〓ノ贊成スベキ議案ガ本議會ニ於テ見ルデアラウト思ッテ居リマシタガ、不幸ニシ
テ此希望ハ空想トナッテ、現內閣ノ命脈ノ係ルトコロト認メラレタトコロノ重大ナル議案
ハ、本員ガ皆反對セザルヲ得ヌ境遇ニアッテ、今日ノ議案モ亦同ジ運命ニ際會シタノハ
木員之ヲ悲ムノデアリマス、且又首相ガ嘗テ明言セラレタトコロノ言葉ト反對デアッテ、
誠意ヲ以テ國ニ臨ムト言ハレタノデアリマスガ、本員ノ見ル所ニ依ルト、總テノ議案ヲ說
明セラルヽニ當ッテ、誠意ヲ何レノトコロニ見出スベキカヲ疑フノデアリマス、本員ハ虛心
坦懷少ナカラザルトコロノ敬意ヲ拂ッテ、內閣竝ニ政府委員ノ辯明答辯ヲ拜聽致シマシ
ク、又少ナカラザルトコロノ注意ヲ拂ッテ速記錄ヲ通覽致シマシタケレドモ、其答辯ト云
ヒ說明ト云ヒ、一モ本員ヲシテ成程是ノ如キ考ヲ以テ、斯ク說明セラルヽデアラウト信ズ
ベキトコロノ分子ヲ其中ニ見出スコト極メテ稀ニシテ、誠意ハ何レノトコロニ求ムベキカ、
本員ノ疑フトコロノ言デアリマス、既ニ武富君モ說明セラレタ如キコトデ、又或贊成論
者ハ國有ト云フコトハ天然法ノ定メタル原則デモアルカノ如ク、我國ノ鐵道ハ國有デナ
ケレバナラヌト、其趣意ヲ細カニ說明シテ、直チニ斷定ヲ下サレタル佐々友房君ノ如キ御
方モアリマス、竹越君ニ至ッテハ稍〓其理由ヲ說明セラレマシタカラ、其理由ニ付イテ
尙本員ハ細カニ批評ヲ下サウト思ッテ居リマスガ、西園寺首相ハ斯樣ニ申サレタ、國有
義ハ我國ノ元來ノ確定シタル主義デアッテ、一時私有ヲ許シタノハ權宜デアルト言ハレマ
シタケレドモ、其例トシテ引カレタ我國第一ノ鐵道設立ノトキニハ、實ハ我國ノ程度ハ
國有ナリ私有ナリト云フ辨別ハ、我國人ノ思想ノ上ニ浮バナカッタノデ、國民ノ之ヲ企
テルモノガナカッタカラ、政府自カラ之ヲ企ックト云フニ過ギヌノデアリマスカラ、是等ハ殆
ド、若シ西園寺首相ガ此事實ヲ知ッテ、是ノ如ク言ハレタナラバ虛僞デアル、知ラズシテ
申サレタナラバ餘リ政治上ノ經歷ニ富ンデ居レル御方ニ取ッテ、不似合ナル事實ノ證
明テアルト本員ハ思フ此事ニ付イテハ特ニ武富君ガ審カニ述ベラレマシタカラ本員ハ
詳シク述ベマセヌガ、尙二三述ベナケレバナラヌコトガアル、元來我國ノ鐵道ガ模範ヲ
英國ニ採ッタノハ履歷ノアルコトデ、我國ノ鐵道ニ功ノアルトコロノ井上勝君ガ、其事實
ヲ英國ニ學ンデ、其人ノ力ニ依ッテ、鐵道ノ起原ヲ開イタノデアリマスカラ、勢ヒ英國ニ
模範ヲ採ルコトハ自然ノ結果デアルト思ヒマスソレ故ニ我國ニハ明治四年鐵道ヲ造リ
マストキニ、重キトコロノ技師モ、輕キトコロノ技手モ、英國人ヲ雇ウテ、其物品モ、盡ク英
國カラ入レマシタカラ、其規則モ英國流デアッタ、其英國流ハ私立鐵道創立者デアルカ
ラ、其後イロノ〓變遷ハ經マシタケレドモ、先ヅ私設鐵道ノ國ト見テ宜カラウト思ヒマ
ス、此事ハ其時代ニ確定シタ事實デアッテ、決シテ國有主義ト云フモノハ、我國ノ既往
ニハ成立ッテ居リマセヌ、ソレカラ後ドウデアッタカト申シマスト、明治十年以前ニ、元ノ
岩倉右府ガ華族ノ後來ヲ案ジテ、世襲財產トシテ確タルモノヲ持クセタイ、ソレ故ニ世
襲財產トシテ官有鐵道ヲ拂下ゲタラ宜カラウト云フ、議ヲ立テラレタ、此事ハ當時ノ事
實ヲ記憶シテ居ルトコロノモノガ、今日モアルノデゴザイマス、然ルニ此事ノ未ダ行ハレザ
ル先キニ、西南ノ變ガ生ジマシテ、國事一變致シマシタガ、此經歷ガ依然トシテ引續イ
テ居ッテ、今日國有論者ガ頻リニ打擊ヲ加ヘラレルトコロノ我國ノ私設鐵道ノ第一
デ、期限ガ長ク、其哩數モ多クナッテ居ルトコロノ日本鐵道會社ガ、抑誰ノ誘導ニ依
リ誰ノ說諭ニ依ッテ、成立ッタモノデアリマスカ、岩倉右府ガ主トシテ華族、竝ニ財產
家ヲ說諭誘導シテ、其募リニ應ジサセンガタメニ保護規則ヲ立テ、サウシテ之ヲ成立セシ
メタノデ、實ニ私設鐵道會社ト云フモノハ、英國ノ如ク民間有志者ガ、之ヲ發起シテ、設
立シタニアラズシテ、政府ノ權力ヲ持ッテ居ル人ガ、之ヲ誘ウテ建テラレタモノデアル、是
ニ與ッタルトコロノ古老モ、歷々トシテ存シテ居リマスカラ、此事ニ一〓ノ虛僞ハナイノデ
アリマス、ソレ故ニ我國ノ國有鐵道ノ主義ガ、確定シタト云フコトヲ若シ知クテ言ハルヽ
ナラバ、首相ノ說明ハ虛僞ノ說明デアル知ラズシテ言ハルヽナラバ、是ハ事實ニ粗雜ナ
リト云フ謗リハ免レヌ、ト本員ハ思フ、是ガ第一本員ガ記錄ニ留メテ内閣ハ虛僞ノ說
明ヲセラレタト云フコトヲ、世ノ中ニ申シテ差支ナイトコロノ事實ノ說明デゴザイマス、ソ
レカラ漠然トシテ今日ハ鐵道ノ經綸ヲ定メテ、其基礎ヲ立テナケレバナラヌト云フノデ、此
大變革ヲ國ノ經濟ニ起ストコロノ議案ヲ提出シテ、之ヲ贊成セラレタ佐々君ノ如キハ
大戰爭ノ後ニ大經綸ヲ建テタ大議案ヲ出シタト、如何ニモ壯大ナル言論ヲ重ネラレマシ
タガ、是ハ本員カラ見マスルト、殆ド空中樓閣ニ過ギヌト、本員ハ思ウテ居リマス、(「ノ
ウ〓〓」ト呼フ者アリ)空中樓閣ニ過ギヌト云フコトヲ、是カラ說明シテ、ノウ〓〓ト言ハ
ルヽ御方ニ答ヘヤウト思ヒマスガ、且又斯ウ云フコトガアル、時期ノ問題ニ付イテ、首相
ハ斯樣ニ說明セラレタ、來年度ニナルト、種々ノ經綸ノ事業ガ多クナッテ來ルカラ、最早
鐵道ノ事業ヲ考ヘテ協議スル暇ガナイカラ、先以テ之ヲ提出致シタト云フノデ、今日ハ
最モ適當ナ時期ナリト說明セラレタ、ソレカラ軍事ニ係ッテハ、最モ簡單ニ軍事ノ必要ト
云フ首相ノ一言ニ止マリマスガ、其詳細ナル說明ハ、陸軍大臣ノ說明ニ依ッテ本員ハ、
其意ノアルトコロヲ知リマシタカラ、是ハ此次ニ批評ヲ下ス積デアリマスガ、斯ウ云フヤ
ウナ譯デ、全體國有トカ私有トカ云フコトハ我國デハ近時ノ問題デ、翻譯輸入ノ言
葉デアラウト思ヒマス、又國有デナケレバナラヌト云フ原則ハ決シテ宇宙ノ間ニ存スルノ
デハナイノデ、政治ト物理學トハ、全ク原則ガ違ッテ居リマスカラ、政治カラ云ヘバ、其
國ノ事情、形勢、時期等ノ利害得失ノ問題ヲ以テ、私有デナケレバナラヌ、國有デナケ
レバナラヌト云フコトヲ、ドコニ誰ガ極メテ物理學上ノ原則ガ、世ノ中ニ現ハレマシタカ、
本員ハ之ヲ佐々君ニ伺ヒタイノデアル、ソレ故ニ本員ハ歴史ニ徴シテ、其利害得失ヲ論
ジナケレバナラヌト思ウテ居リマスガ、本員ノ理想ヲ申シマスレバ國ノ幹線大動脈ハ、
國有デアルコトヲ宜イト致シマス、此事ハ本員確カニ明言致シマス、併ナガラ、ソレニモ適
當ナル時期ガアッテ、尙且今日私設ノ會社ヲ買收シテ、之ヲ國有トナスニ至ッテハ是
ハ暴人ノ暴舉デアルト、本員ハ斷定ヲ致スノデゴザイマス、是非トモ競爭ヲ此間ニ
殘シテ置カナケレバ、他ノ進步ガ止ムト同ジ道理ヲ以テ、鐵道ノ進步モ止ムト思ウテ
居リマス、(「競爭ハアリマス」ト呼フ者アリ)其競爭ニ付イテ、本員ハ論ズルノデゴザイマ
スカラ、尙御聽キヲ願ヒマス、頻リニ獨逸ノ例ヲ引イテ、獨逸ガ鐵道ヲ買上ゲテ、サウシ
テ大イニ成功シタト申サレマシタケレドモ獨逸モ諸君ノ申サルヽガ如キ成績ヲ奏セズ、又
諸君ノ空想セラルガ如キ經歷ニ依ッテ、之ヲ買上ゲタノデハナイト本員ハ信ジテ居リマス、
ソレ故ニ始メテ之ヲ買上ゲマスルトキニ、孛漏西國ノ鐵道ヲ統一シテ、殆ド孛漏西ガ獨
逸聯邦ノ首位ヲ占メテ、此力ヲ以テ他ノ聯邦ヲ統一スル機關ニ備ヘタノデアリマシテ、
獨逸聯邦ノモノヲ、一時ニ買上ゲルト云フヤウナ暴舉ハ致シマセヌ、又其財源ハ我國ノ
如ク、公債ヲ殖シテヤッタノデハナクシテ、佛蘭西ヨリ戰捷ノ結果得タル償金ヲ利用シテ
ヤッタノデアリマスカラ、經濟ノ上ニ於テモ全ク事情ガ違ッテ居リマス、我國デ封建ヲ碎イ
テ、諸藩ヲ統一スル場合ニ於テ、若シ其時ニ諸藩ニ鐵道ト云フモノガアッタナラバ、之ヲ
統一スルトコロノ必要モ起ルデゴザイマセウシ、尙又其間ニ幹線ノモノガアッタナラバ、此幹
線ヲ統一スル必要ガ、恰モ獨逸ノ聯邦ヲ統一スル必要ト同ジヤウナ形勢ガアッタラウト
思ヒマスガ、我國ハ前ニ申ス通政府ガ誘導シテ、政府ノ獨力爲ス能ハザルトコロノ地方
ニ、鐵道ヲ敷カシタノデゴザイマスカラ、其力ノ乏シキモノハ、今尙先キノ如シト思ウテ居
リマス、今俄ニ政府ノ一手ニ取ッテ其乏シキトコロノ財源ヲ以テ、是ニ臨ミマシタナラバ
仕上ゲタ鐵道ヲ修理改良ヲスルノニ、蓋シ其人ヲ闕キ、其手ヲ闕キ、尙其財源ヲ關イ
テ、是ヨリ以後鐵道ノ延長ト云フモノハ全ク止ムニ相違ナイト思ヒマスカラ、本員ハ此
財源ノ上カラ、形勢ノ上カラ、竝ニ歷史ノ上カラ論ジテ、是ノ如キ暴擧ヲ一時ニ斷行ス
ルト云フコトハ、斷然國利デナイト信ジテ居ルノデゴザイマス尙是ヨリ進ンデ申シマスル
ト云フト、政府ハ屢〓迷ウタノデゴザイマス、本員ガ理想ヲ以テ見マスレバ甲武鐵道線ノ
如キ、アレハ主トシテ政府ガ企ツベキトコロノ線路デアルト思ウテ居リマス、本員ハ決シテ
私設鐵道會社ニ固著スルモノニアラズ、又國有主義ガ憲法ノ如ク定マッテ居ルモノトモ
思ウテ居ラヌ國ノ形勢ト、當時ノ事情ト、其利害得失ニ據ッテ判斷ヲ下スノデゴザイマ
スカラ、果シテ當初カラ首相ノ演說セラレタ如キ、國有主義デアッタナラバ政府ガ何故
ニ此甲武鐵道-東京カラ八王子ニ至ル短イ線路ヲ、、私有線ニ許シタカ、是ガ抑〓
政府ノ迷ッテ居ッタ、政府ニ一定ノ主義ノ無イト云フ確證デアラウト思フ、アレハ中央鐵
道ノ吐口デアッテ中央鐵道ガアレヨリ延長シテ、甲信ノ地ヲ貫イテ、難路ヲ通ッテ岐阜
縣下ニ向ッテ往クトコロノ我國ノ脊髓難線デアルトコロノ、此難工事ハ政府ガ大ナル
負擔ヲ國民ニ負ハシメテ、其利益ヲ一會社ニ與ヘテ、甲武鐵道ニ許可シタト云フトキニ
於テハ、私立會社又可ナリト思ウテ居ラレタ時代デアラウト本員ハ思ヒマス、今日之ヲ
買上ゲルニ、漢大ナ金額ヲ投ジナケレバナラヌト云フノハ、政府ニ確信ノナカッタ確證デア
ラウト、本員ハ思ッテ居リマス、斯ウ云フ譯デアリマシテ、尙且日本鐵道ノ特許ハ英國
流ニ出來テ居ッテ、九十九箇年ノ特許ヲ與ヘテ、特許條約ト云フ不思議ナ文字ガ使ッ
テアルノデゴザイマス、此時ニ當ッテ、國有ノ考ノ毛頭政府ニ無カッタト云フコトハ明白
ナ事實デアラウト信ジマス、甲武線ヲ許可シ尙炭礦鐵道ヲ拂下ゲ、日本鐵道其他ノ
モノヲ成立セシメタル、同ジ政府ニ嘗テ國有主義ノ無カッタト云フコトハヽ最早他ノ辯明
ヲ待タズシテ明カデアラウト思ヒマス、次ニ統一論デアリマス、統一ト云フト誠ニ文字ガ
立派デアッテ、總テ區々ニ岐レテ居ルトコロノモノヲ、一樣ニスルノハ結構デアルト、彼ノ
大經綸トカ、大經濟トカ大發展トカ云フ、彼ノ虛飾誇大ノ言ヲ以テ、人ノ耳目ヲ聳
動スル論者ハ、統一云々ト申サレ、政府モ亦統一云々ト云フコトヲ頻リニ申サレマスガ、
是ハ唯一ノ口實ニ過ギヌノデ、本員ハ事實ヲ分析シタナラバ全ク是ハ事實ノ問題ニア
ラズシテ、一ノ口實テアルト云フコトニ歸著スルデアラウト思ヒマス、本員ハ斷然トシア斯
ク明言致シマス、今日諸會社ノ分立シテ、統一ヲ闕クノハ、全ク政府ノ怠慢無能ノ事
實ヲ證據立テタモノデアッテ、會社自カラ是ノ如キコトヲ世ノ中ニ現出シタモノデナイト斯
樣ニ斷言致シマス、是ハ私立鐵道法ヲ讀マレタナラバ直チニ分ルデゴザイマセウ、設計カ
ラ圖面カラ總テノモノヲ悉ク政府ニ差出シテ、政府ガ是ニ許可ヲ與ヘ、尙之ヲ檢査ヲシ
テ、惡ルイ所ガアルナラバ是ヲ改造セシムルト云フ條件モ出來テ居ルノデゴザイマスカラ、
若シ今マデノコトガ、統一ガ無イガ故ニ、後來モ長ク總テノ鐵道ヲ政府ノ一手ニ括ラナケ
レバナラヌト云フコトデアレバ政府ハ今マデ統一ノ意思ナクシテ、是ノ如ク錯雜シタルモ
ノヲ現出セシメテ、慌テヽ昨ノ夢ノ覺メタル如ク、世ノ中ニ大變動ヲ與フルトコロノ暴舉ヲ
金は、過チヲ繰返スモノナリト言ロハナケレバナラヌノデアル、若又運賃ノ上ニ區々ニ別レテ
居ッテ、統一ガ付カント云フコトデアレバ是亦運賃ヲ定メルノハ此方カラ書面ヲ出シ
テ、當局ノ人ガ定メルノデアリマス、玆ニ條ヲ讀上ケマス「會社ハ運輸ニ關スル規定ヲ定
メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ」ト書イテゴザイマス、「會社ハ旅
客及荷物ノ運賃ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ」「主務大
臣ハ公益上必要ト認ムルトキハ運賃ノ變更ヲ命スルコトヲ得」ト書イテアリマス、是等ヲ
讀ミマシタナラバ本員ガ無用ノ言ヲ費ヤサズトモ、竹越君ガ喋々論ゼラレタトコロハ根
柢ヨリ瓦解スルト思フ、運賃ヲ上ゲルモ下ゲルモ大臣ガ定メルノデアル、定メルコトヲ定メズ
シテ運輸ノ規則ガゴタ〓シテ居ルト云フノハ(無用々々ノ聲起ル)是ノ如キ無能無責任
ノ人ニ己レノ持ッテ居ル鐵道ヨリ二倍三倍ノ鐵道ヲ預ケテ、ソレデ完全ナコトヲ望ミ得ベ
キカ、甚ダ疑ハシイト思フ、立法部ノ人ハ法律ノ大體ハ御承知デゴザイマセウガ、此
規則ハ政府ガ定メタモノデ、鐵道ノ運賃ガ區々デアル、運輸ノ方法ガ別々デアルト云フ
コトヲ答メルナラバ何故ニ此權利ヲ持ッテ居ル遞信大臣ヲ咎メナイノデアルカト中サナケ
レバナラヌ、設計モ是ノ如ク、運輸モ是ノ如ク、設立ノ條項皆是ノ如クニ斯ウナッテ居ッテ
是デ尙手足ガ動カヌト云フナラバ、是ヲ無能ト言ハナケレバナラヌ(ノウ〓〓ノ聲起ル)尙
其他ノコトヲ舉ゲテ見マスルト言フト「會社ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非ラサレハ鐵道
運送ニ對シ何等ノ名義ヲ問ハス運賃以外ノ料金ヲ請求スルコトヲ得ス」ト書イテアリ
マス「會社ハ列車ノ發著時間及度數ヲ定メ主務大臣ノ定ムル規定ニ依リ認可ヲ受
クヘシ之ヲ變更スルトキ亦同シ」竹越君ハ殊更ニ時間ヲ違ヘテ、他ノ聯絡ヲ絕ツ會社ガア
ルト言ハレマスガ、是ノ如キ會社ガアレバ、會社ノ不埒ト大臣ノ盲目ヲ證據立ッタモノデ
アラウト思フ、是ノ如キ法律ガアルニ拘ハラズ時間ヲ變ヘテ、イロノ〓ノ不便ヲ旅客ニ與
フルモノナラバ法律無效ノ事實ヲ政府ハ披露シタモノデアッテ、誠ニ濟ヌコトヽ思フ、尙又
斯ウ云フ明文ガアル私ハ讀ミマス「主務大臣ハ公益上必要ヲ認ムルトキハ列車ノ種類
發著時間及度數ヲ定メ其施行ヲ會社ニ命スルコトヲ得」(「無用々々朗讀省略」ト呼フ
者アリ)朗讀ヲ省略スルコトハ出來マセヌ、言葉デ話スヨリハ斯ク明文ヲ讀ンダ方ガ短カ
ウゴサイマスカラ、省略スルコトハ出來マセヌ、是ガ確證デゴザイマス、竹越君ガ喋々辯ゼ
ラレタルトコロハ、皆空論デアッタト本員ハ唯一言シテ足レリト思フノデゴザイマス、全體
申シマスト言フト、外國ノ例ヲ引イテ種々ニ申シマスケレドモ、外國ト我日本ノ官省ガ
私會社ニ臨ムトコロノ權力ニ、非常ナ違ヒガアル、例ヘバ米國、英國、ノ如キハ特權ヲ一
度得タナラバ、一步モ假サヌトコロノ國風デアッテ政府ト雖モ是ニ一寸ノ力ヲ加ヘルコト
ガ出來ナイノデアリマスガ、我國ハ之ニ反シテ是ノ如ク細密デアル、時間ノ規定、運賃ノ
度合設計ノ總テノ條項ヲ皆定メテ、其役人マデモ替ヘルコトガ書イテアル不適任ト
認ムルトキハ、主任ノ技師ヲ替ヘルコトガ出來ルト書イテアル「主任技術者ヲ不適任ト
認ムルトキハ主務大臣ハ其ノ解任ヲ命スルコトヲ得」ソレ故ニ鐵道會社ノ組立テカラ、總
テ運賃カラ總テノ遣リ方ハ悉ク大臣ガ唯私立會社ニ間接ニヤラセルノデ、直接ニハ政府
ガ之ヲ監督シテ其實資本ハ民間ノ人ガ出シテ居リマスケレドモ、支配權ハ間接ニ政府ニ
アルト云ッテモ宜シイノデゴザイマスカラ、今日私設鐵道ノ上ノ紊亂ハ間接ニ政府ノ責任
ナリト論ジテ、少シモ差支ナイノデアル、權力ガ有ッテ其權力ヲ適當ニ行フニアラザレバ
其責任ヲ怠ッタモノト思フノデアリマス、是カラシテ尙其上ニモ一ツ確定シタ文章ヲ本員ハ
讀マナケレバナラヌ、私設鐵道法ノ五十二條ニハ(「簡單々々」ト呼フモノアリ)簡單ニハ出
來マセヌ、凡ソ二時間程ハカヽル(「分ッテ居ル」ト呼フ者アリ)オダマンナサイ、、「主務大臣
ハ公衆ノ安全ノ爲官設鐵道ニ實施スル事物ヲ會社ニ命シテ施設セシメ其ノ他官設鐵
道ニ實施スル規則ヲ私設鐵道ニ適用スルコトヲ得」玆ニ至ッテ官設私設ノ別ハ殆ド規
則上ニハナイノデアリマス、規則上ノ區別無クシテ、實際ノ上ニ區別有ルノハ言葉ヲ極
ク輕ク申シマスレバ當局ノ人ガ意氣地ガ無イト云フコトヲ以テ、此國有論ノ根柢ノ主
張ヲ拒ムノガ適當デアルト思ヒマス、ソレカラシテ私設鐵道ハ進步ガ早クシテ官設鐵道ハ
常ニ私設鐵道ノタメニ競ハレテ、漸ク進步スル形勢ヲ持ッテ居ルト本員ハ信ズル是
運輸ノ點竝ニ線路延長ノ〓皆然リト存ジマス先キニ武富君ノ申サレタ通、京濱間ハ
長ク五十五分ヲ要シテ、本員モ長ク不便ヲ受ケテ居リマシタガ、先キニ電氣鐵道ガ出
來テ二十七分デ達スルコトガ出來ルヤウニナッタ、其他連絡ノ〓ハ如何、聯絡ハ海陸ノ
連絡ヲ便利ニスルノガ、鐵道ノ效用デアリマシテ、港ハ國ノ來口捌口デアリマスカラ、旅
客竝ニ貨物ヲ速ニ鐵道ニ直接ニ上ゲルト云フコトデナケレバ、鐵道ノ效用ハ半バ空シト
言ハナケレバナラヌ、我國ノ第一ノ鐵道ナル京濱間ハ、港ノ連絡ガナイ此間ヲ馬車デ
ヤッテ居ルコト實ニ三十五年ト云フハ何ト緩慢ナモノデハアリマセヌカ、漸ク今年豫算
ガ出テ、連絡線ガ是カラ著手セラルヽト云フコトハ官設鐵道ハ利益ガアッテモ利益ガナ
クッテモ、定ッタル給料ニ割賦ガ無イモノデアルカラ、人情トシテ政府ノ利益ヲ高メテ、會社
モ利益シ公衆モ利益シ、共ニ其福利ヲ享ケヤウト云フ、其動機ガ成立ッテ居ラヌカラ、是
ノ如ク連絡ノ上ニモ大ナル缺〓アリト云フコトヲ、事實ガ確證スルノデアリマス、是デモ尙
官設ハ私設ニ優リ進步アリト言ヒ得ルカ、反對ノ人ハ其事實ヲ舉ゲルコトヲ望ム運送
ニ付イテ申セバ富山、直江津間ハ、是ガ繫ガリマスレバ東海、北陸ノ間ノ連絡線ト
ナリ、貨物ノ上旅客ノ上ニ便利ヲ得、利益ヲ與フルノデアリマスガ、長イ間豫定線ニ
ナッテ居リマスガ、此線路ハ中斷セラレテ居ッテ、此循環鐵道ノ效用ヲ遂ゲルコトガ出來
ナイ、是ハ私設カ官設カト云フト、別ニ文書ヲ繰廣ゲズトモ官設ト云フコトガ分ル、此怠
ハ如何、本員ハ記憶シテ居リマスガ、中央鐵道ヲモット早ク延長シテ、長野其他ノ縣カ
ラ中央ノ山間ニ在ルトコロノ物貨ヲ、廉ク諸所ヘ運じタイト云フノデ、此連絡ノ一日モ
速ナランコトヲ望ンデ居ルガ、此線路ガ遲々タルガタメニ、鹽尻近傍ノ村ハ數村聯合シテ、
郡ニ及ボシテイクラカ獻金ヲシテ、早ク延長シテ賞ヒタイト云フ請願ヲスルタメニ、調印
ヲ取ッテ居ッタト云フコトヲ記憶シテ居ル是ハ官線カ私線カ、官線ノ怠慢是ノ如シ
ソレカラ贊成論者ハ斯樣ニ申サレル、若シ官線ニスレバ寒村解落マデ線路ヲ延バスカラ、
國民ガ利益ヲ被ムルト言ハレマスケレドモ、山陰ノ方面ノ官線ハ如何、山陽ハ敷キ易イ
ト云フ便利ガアリマスケレドモ、山陽鐵道會社ハ軍事ニモ間ニ合ッテ遺憾ナカラシムル程
ノ働ハシマタガ、山ヲ一ツ越ヘマシテ、山陰ノ鐵道ハ官線ノ領域デアリマスケレドモ、其土
地ノ人民ガ非常ナ不便ヲ受ケテ、屢ニ請願ヲ議會ニ提出スルノヲ、諸君ハ御記憶ハア
リマセヌカ、是ハ官線ノ領域デアルカ、私線ノ領域デアルカ、無論官線ノ領域デアラウガ、
既往ノ事是ノ如クニ、官線ガ一時ニ敷ケバ、寒村僻落マデ線路ガ延ビヤウト云フノハ、
贊成論者ハ事實ヲ根據トセズシテ、夢ヲ見テ居ラレヌカト本員ハ冷評ヲ致シマスノデ(「ノ
ウ〓〓」ト呼フ者アリ)ノウト云フナラバ其理由ヲ承リタイ、前ニ申シマス通、本員ハ官
線デナケレバナラヌ、私線ナケレバナラヌト云フコトニ固著スルモノデハナイ、國ノ宜シキニ
適シテ、早ク人民ノタメニ便利ヲ開キ、運賃ヲ薄クシテ、國力ノ發達ヲ望ムノデアリマス
ガ、現在ノ事情是ノ如クニ明カデアルノニ、官線ニ左祖シテ唯獨逸ノ翻譯ノ文章ヲ讀
ムノガ、議會ノ能事デハナイト田心フノデアリマス、競爭ガナイト言ハレマスガ、本員ハ競爭
ガアルト思ヒマス、競爭ハ必ズ竝行線バカリガ競爭ト思フノハ、如何ニモ淺薄ナル意見デ
アル、荷物ノ扱方カラ運賃ノ上ゲ下ゲガ皆是ガ競爭デアル、然ルニ私設線ガ却テ廉ニシ
テ官線ガ高イト云フニ至ッテハ、マダ官線ガ今日ダケニ止ッテ居ルノハ、此運賃ノ競爭カ
ラ吾〓ガ甚シイ害ヲ被ラナイノデアラウト本員ハ思ウテ居ル、總テノ競爭ハ皆進步ノ友デ
ゴザイマスカラ、本員ハ競爭ヲ一切絕ッテ、空名ノ下ニ國有ニ統一セシムルト云フコトニ付
イテハ、大イニ諸君ノ反省ヲ煩サナケレバナラヌト思ヒマス、抑山陽線ノ他ノ線路ニ比
シテ進步致シマシタノハ、別段ノ理由デハナイ瀨戶內ニ往復致シマストコロノ船舶ニ依ツ
テ旅客ガ便利ヲ得、荷物ガ廉ク往クカラ、山陽線ハ此競爭ニ促サレテ、旅客ヲ大事ニ
致シマス、旅客ニ對シテ左樣ニ親切ニ取扱フ線ガアルカラ、政府ノ官線ガサウドウモ旅
客ヲ惡シク扱フコトガ出來ナイ、サウ運賃ヲ高ク上ゲルコトガ出來ヌノデアルト云フノデ、
今現在ニ止マッテ居ルノデアラウト思フ、尙共通ノ列車ヲ許シテ貫ヒタイト云フトコロノ
願出ヲ、鐵道局ニ出シタト云フコトヲ承ッテ居リマスガ、官線ノ方ヨリ官線ノ方ニ餘リア
ルト云ッテ、私設線路ニ列車ヲ貸サウト云フコトハ嘗テ無クシテ、却テ不行屆デアルト云
ハレル山陽會社ガ、政府ノ線路ニ自分ノ列車ヲ入レテ、往來ノ區域ヲ擴メタイト云フト
コロノ請求ヲ致シタトコロヲ見ルト云フト、山陽ノ方ハ働掛ケデアッテ、政府ノ方ハ受身デ
アルノデ、是ヲ較ベテ見マシタナラバ、强弱ノ〓ハ判然ト分ルデアラウト思ヒマス、是ハ決
シテ私ガ政府ノ當局者ヲ罪スル譯デナイ、制度ノ然ラシムルトコロデ、總テ利益ガアリマ
スレバ其利益ガ下ニ及プト云フ商業的ノ組立ハ、總テ規則デヤル、規則ニ違ハナケレ
バ反則ニアラズト云フ官營ノ組立ハ、根柢ノ基礎ガ違ッテ居リマスカラ、是ノ如キ弊害ヲ
生ズルノデ、例ヘバ長ク鐵道局ニ奉職シテ居ラレタ仙石君ガ、九州鐵道ニ入ッテ敏活ニ
働カレテ、彼ヲ改良シタト云フノデアルガ、是ハ人ノ違ヒニアラズシテ制度ノ違ヒカラ自
分ノ力ヲ、伸ブルコトガ出來ルト思フノデ、今日ノ私設會社ヲ殘ラズ統一シテ、總テノ政
府ノ手ニ歸シタナラバ、此固有ノ弊害タル無競爭ノ害ハドウシテモ受ケルデアラウト思
ウテ居リマス、唯今申シマスル通リ、斯ウナッテ居リマス、ソレカラ細カイトコロノ里數割
ノ人數ノ使方モ政府ノ方ガ一哩ニ付イテ多クナッテ居リマス、營業ノ上ノ利益ト云フ
コトモ政府ノ方ガ多クナッテ、私設會社ハ少ナクナッテ居リマス、是ヲ明言シテ置キマスガ、
一々讀ムノハ煩雜ニ亙リマスカラ止メマス、抑〓政府ガ鐵道國有ヲ主張スル主タル目的
ハドコニ在ルカト云フコトヲ聽イテ見タイ、主タル目的ハ軍事ヲ主トスルノデアルカ、國
力ノ發達ヲ主トスルノデアルカ、首相ノ演說ヲ承ルト民力開發ノタメ、運賃引下ト云フ
ヤウナ意味ガ這入ッテ居リマスガ、此民力開發ト云フコト、運賃引下ゲト云フコトモ、本
員ノ考ヘルトコロデハ果シテ其希望ヲ達セラルヽヤ否ヤ、恐クハ否ト答ヘザル得ヌト思ヒ
さ、、然ルニ贊成論者ノ中ニハ此壇ニ登ッテ、發言ハセラレマセヌケレドモ、斯ウ云フコト
ヲ言ッテ居ラレル、確ニ人ニ語ッテ申サレル中ニ、今後五千万圓ノ收入ヲ得ル、確實ノ
官營事業ハ鐵道ヲ除イテ外ニナイノデアルカラ、是非是ハ國有ニシテ、サウシテ政府ノ財
源ヲ助クルニ好財源デアル、此理由ヲ以テ鐵道國有ニ贊成スルト言ハレタ方ガアル、ソ
レニナリマスト云フト、全ク三ツノ目的ニ分レル、一ハ利源開發デアルト一云フノデアルカ
ラ、成ルタケ費用ヲ少ナクシテ多クノ荷物ヲ容易ニ出サセヤウト云フノデ、營業ノ費用ガ
少ナケレバソレダケ割合ヲ下ゲテ、多クノ人ヲ乘セ、多クノ荷物ヲ出サセルト一云フ方ニシナ
ケレバナラヌ、若シ營利ノ目的デアッタナラバ、高クシテ此差ヲ多クシテ、政府ノ國庫ヲ富マ
スト云フ方デ往カナケレバナラヌ、若シ又軍事ヲ目的トスレバ軍艦ヲ造リ砲臺ヲ造ルト
同ジ考ヲ以テ造ラナケレバナラヌノデアルガ、此目的ハ如何ニ調和セラルヽカ、種々ノ內
闇ノ權力ハ、首相ノ一身ニ集マルノデアリマスカラ、首相ハ陸軍大臣ニ左袒シテ、軍事ノ
目的ニ專ラ考ヘラレルカ、抑〓亦大藏大臣ニ左袒シテ收益ヲ目的トセラルヽノデアリマス
カ、此區別ノ調和如何ト云フコトヲ本員ハ承リタイト思フノデアリマス、此所ハ委員會
ニアラズ、本員ハ不幸ニシテ委員ニ漏レマシタカラ、聽クコトガ出來ナカッタ、其故ニ今日
此事ヲ社會公衆ト共ニ承リタイト云フ質問ヲ、此壇ニ發シテ置キマス、本員ノ考ヘルト
コロニ依リマスレバ、恐クバ收入ニ陷リハセヌカト思ヒマス、軍事ノ目的モナカ〓〓要求
ガ强イ、收入ノ目的モナカ〓〓强クシテ、サウシテ遂ニ必要ニ迫ラレテ、收入ニ陷ラネバ
宜イガト本員ハ憂ヘテ居リマス、政府ノ國庫ハ決シテ裕デナイ、裕ト言ハンヨリハ寧ロ窮
迫シテ居ル、常收入ヲ以テ常支出ヲ償フ能ハザル形勢デ、減債基金ノ如キ誠ニ入組ン
ダ機關ヲ以テ、此難事ニ處シテ居ラレルコトヲ知ッテ居リマスカラ、是ニナリマスト若シ政
府ノ一手ニ是ヲ集メテ、此鐵道カラ收益ガ多クナッテ、或論者ガ希望スルガ如ク、大層利
益ガアルニ拘ハラズ、此利益ヲ收入ノ目的ニ使ハレルノデアリマスカラ、運賃ノ下ガル目的
ガ無ク、從ッテ國カ開發ト云フ目的ハ塞ガルデアラウト思ヒマス、是ニ於テ丁度兩大臣ガ
旨ク答ヘラレタコトヲ本員ハ速記錄デ發見シタ、或議員ガ政府ノ直接ノ管理ニ歸シテ
國有ニシナケレバ、統一ガ出來ナイカト云フコトヲ問ヒマシタラ作業局長ノ平井君ハ完全
ナル統一ハ政府ニ握ラナケレバ出來ヌト言ハレタ、誠ニ是ハ巧ミナル答デアッテ、本員ノ論
ズル如ク私設鐵道法デ何故統一ガ出來ナイカト云フ問ハ、至當ナル銳敏ナル議員ノ問
デゴザイマスカラ、其故ニ統一ガ出來ナイト云フコトハ物ヲ知ッテ居ル作業局長ニハ
言ハレナイ、流石ニ此人ハ苦勞人デアルカラ、內務次官カラ移ラレタ方ハ素人デアルカ
ラ、漠然ト統一ガ出來ヌト、遞信大臣ハ答ヘル餘地ガアリマスケレドモ、作業局長ハ苦
勞人デアルカラ、完全ナル統一ガ出來ナイト逃ゲラレタノハ極メテ辯護士的ノ口調デア
ルト、本員ハ冷評ヲ以テ是ヲ迎ヘタ、其次ハ公債償還年限計算表ト云フモノガ出來
テ、此年限表ハ幾年ノ後ニナルト、元金モ返レバ儲カルト云フ表ニナッテ居リマス、是ニ
向ッテ問ヲ發スレバ果シテ此表ノ如クンバ、誠ニ政府ハ德ガアルト阪谷大藏大臣ハ答
ヘラレタガ、是モ亦大藏大臣ノ腦髓デハ此計算ヲ信用セラレザルトコロノ言葉デアッテ、大
藏省ハドウシテモ此責任ヲ執ラルヽダケ、暗眛デナイト本員ハ大藏大臣ノ腦髓ヲ信ジテ
居ルカラ、是ハ極メテ巧ミナル答辯デ、果シテ此表ノ如クンバト云フノデ、大藏大臣ハ此
責任ヲ免レタハ誠ニアブナイトコロノ機關デアッテ、此機關ノ上ニ大鐵道ヲ政府ノ手ニ歸
サウト云フハ、如何ニモ氣樂ナルトコロノ諸君デアルト、本員ハ笑ッテ之ヲ評サナケレバナラヌ
(拍手起ル、此時發言者多ン)尙諸君ガ御退キニナリマシテモ一向差支ナイ、定足數ノ
闕ゲルマデハ本員ハヤリマス(「ヒヤノ〓ヤルベシ」ト呼フ者アリ)且又空想ヲ逞シウシ
テ政府ノ手ニ歸スレバ儉約ガ屆ク、ソレ故ニ此割合ヲ低メルコトガ出來ルト言ハレマシタガ、
本員ノ記憶スルトコロニ依リマスト云フト、政府ノ手ニ歸シタル鐵道ハ決シテ此割合ヲ
低メルコトハ出來ナイ、寧ロ唯今申シマシタ四邊ノ事情ニ迫ラレテ高メルデアラウ、競爭
ヲ斷チマシタナラバ、一方ニハ進步ガ止ッテ、一方ニハ競爭ヲ離レタルガタメニ、割合ヲ上
ゲテモ乗ラザルヲ得ヌト云フ窮地ニ國民ハ陷井ルト思ウテ居リマスルガ、何故ニ政府ヲ
斯クマデ本員ガ信ゼヌカト云フト最初ヨリ政府ハ此一般ノ通信機關、一般ノ運輸
機關ニ依ッテ益ヲ得ルト云フ方針デアッテ、決シテ其實際ノ費用ヲ拂ヒ切ッテシマッタラ
バ後トハ直段ヲ下ゲルト云フ方針ヲ執ッタコトガナイ、寧口上ゲタコトヲ、本員ハ記憶シ
テ居ル、ソレハドウ云フコトデアルカト云フト、前年地租增徵ノ案ガ政府カラ出マシタトキ
ニ衆議院ハ此割合ヲ減ジタノデアル、マルデ否決ハ致シマセヌガ、政府ガ望ムダケノ割
合ヲ與ヘヌダケノ修正ヲ加ヘタカラ、ツコニ政府ガ望ムダケノ額トノ差額ガ出タ、此差ヲ
如何ニスルカト云ヘバ政府ハ斯樣ニヤッタ其一ハ確カ山縣內閣ノトキト思ッテ居リマ
スガ、一ハ郵便賃ヲ上ゲルノデ、市內ニ今マデアリマシタ一錢ノ端書ガ、一錢五厘ニナク
タノハ此時デ國中平均二錢ノ郵稅ガ、三錢ニ上ッタノハ此時デアル、是ト同時ニ是
ハ法律デナク、行政ノ一ノ命令テ是ノ如ク出來ルノデアリマスガ、鐵道ノ運賃此差ニ
對スル豫算ノ上ニハ、之ヲ以テ補フト云フコトデ、今日鐵道ノ運賃ノ上ッタコトハ此
譯カラデアル此事蹟ノアルニ、尙諸君ハ政府ノ手ニ歸スレバ運賃ガ下ガルト思ハルヽカ、
氣樂モ亦甚シイ哉ト本員ハ思フ、尙政府ガ之ヲ上ゲタガタメニ私設鐵道モ上ゲタノデ
アリマスガ、是ハ國民ノ損デアッテ、政府ノ會計ヲ殖ヤスト同時ニ、私設鐵道ノ利益ヲ
政府ガ媒介シテ殖ヤシテヤッタト云フ結果ニナルカラ、既往ノ例是ノ如キモノデアレバ後
來之ヲ一手ニ歸シテ、如何ニシテ運賃ヲ下ゲル望ミヲ屬スルコトガ出來マス、是ヨリシテ
本員ハ緩急論ニ至ッテ、殆ド評スルトコロヲ知ラヌ位驚イタ、何故ナレバ首相ハ唯今申
シマス通リ、國ノ富ヲ開發スル、運輸ヲ便ニスルト言ハレルガ、其一部ノ責任ヲ帶ビタル
陸軍大臣ノ說明ニ依リマスレバ是トハ全ク事實矛盾シテ居ル、ト本員ハ思フノデアリ
マス、竹越君ハ誠ニ戰捷後ノ日本ハ大規摸ヲ以テ大ニ發展ノ勢ヲ示サナケレバナラヌノ
ニ、武富君ハ極メテ悲觀テアルト言ハレタガ、本員ハ武富君ガ悲觀デアレバ、寺內陸軍大
臣ハ極度ノ悲觀論者デアルト評サナケレバナラヌト思フ、ソレハドウ云フコトデアルカト
云フト軍事ノ問ノ連絡ガナケレバナラヌ、統一ガナケレバナラヌト云フ議論ガアッテ、果シ
テ日露ノ大戰ノ間ニ、ドウ云フ有樣デアッタカト委員ノ一人ガ問ハレタラ、陸軍大臣ハ
斯樣ニ申サレタ、今囘ノ大戰爭ハ働キカケノ戰爭デアッテ、外ヘ兵ヲ出シタノデアルカラ、
相當ニ往ッタ、斯ウ明言シテアルソレハ確ニ速記錄ニ載ッテ居リマスカラ、陸軍大臣ハ
多クノ遺憾ヲ私設官設錯雜シテ居ル此線路ニ於テ、感ゼラレナカッタコトハ確デアル百
万ノ兵ト之ニ伴フ軍需品ノ輸送が、相當ニ往ッタノデ、殊ニ最モ繁激ナル衝路ニ當ッタノ
ハ、山陽線ト九州線デアラウト思ヒマスカラ、是ニシテ遺憾ナクンバ、私設鐵道ハ相當ノ
役目ヲ勤メタト思ッテ居リマスガ、然ルニ陸相ハ斯樣ニ申サレタ、今囘ノハ働キカケノ戰デ
アーチ、外ヘ兵ヲ出シタノデアルカラ斯ウデアル、ケレドモ若シ受身ノ戰デ、外敵ヲ引受ケタ
トキニハ唯今ノデハムヅカシカラウ、其外敵ヲ引受ケテ敵軍ガ我海濱ニ攻上ッタ場合ヲ
指シテ、受身ノ戰ト申サレタノデアリマセウガ、此受身ノ戰ハ陸相ハマダ實驗ガナイ實
驗ガナイケレドモ、想像ノ上デハ恐ラク是デハ遺憾ガアルダラウカラ、國有鐵道ニシテ、總
テヲ丁度肱ノ手ヲ使ヒ、手ノ指ヲ使フ如クニシナケレバナラヌト思フ、是ノ如キ大體ノ議
論カラ進ンデ、其實例ヲ示サレタノハ紀州半島ニ敵軍ガ上陸シタ場合ニ、大阪附近
ニ兵ヲ送ッテ、自由自在ニ動スニハ、唯今ノ鐵道デハイカヌト一云ハレタ、本員ハ實ニ大規
模ノ戰捷後ノ日本帝國ガ海軍全滅シテ敵ノ陸兵ガ近畿ニ上ッタト云フコトヲ假定シテ、
鐵道政策ヲ立ツルニ至ッテハ悲觀ノ極度デアルト思フ(拍手起ル)是ハ海軍全滅シタ場
合ヲ想ハナケレバナラヌ、海軍全滅シテ、後ノ陸軍ノ計畫ヲ今カラー今日ハ日英同
盟モ成リマシテ、甚ダ氣强イトコロノ時勢ニ進ンダト云ッテ、外交者ニ向ッテ贊辭ヲ呈ス
ルトコロノ政府黨ガ、何故ニ此條約モ無視シ、尙且僅ニ浦鹽斯德ニ數隻ノ船ヲ止メタダ
ケ、歐羅巴カラ輸送シタトコロノ相當ノ軍艦ハ、悉ク日本海ニ沈沒シテ、之ヲ恢復スル
ニハ十年ノ時日ヲ要スルデアラウト假定セラルヽトコロノ露西亞ヲ相手トシテ、日本國ガ
何レノ敵ヲ引受ケテ、海軍全滅ヲ假定スルコトガ出來マスカ、是ニ至ッテハ本員ハ理財
ノ上ニハ現在闕陷ガアルカラ之ヲ憂フルノハ杞憂ニアラズシテ、相當ノ憂デアルガ、戰捷國
ノ日本帝國ガ海軍全滅ヲ豫想シテ、紀州半島ニ敵ガ上ッタト一云フコトヲ豫想シテ、全國
ノ鐵道政策ヲ定メントスルニ至ッテハ實ニ悲觀ノ極度デアルト本員ハ思フノデアル、尙本
員ハ是ニ於テ記憶ヲ惹起スコトガアル是ハ委員會ノ中デアルカラ、本院ノ御方ハ御承
知アリマスマイガ、本員ハ明治二十六年ト覺エテ居リマスガ、鐵道敷設法ノ委員會ニ臨
ンデ、大切ナル事實ヲ本員ハ聽得タノデアル、此時ニ方ッテ鐵道敷設ノ計畫ヲ致シマシ
テ、線路ヲ豫定スルトキニ、委員トシテ出ラレタノハ、今ハ歿クナラレタ、故ノ松本莊一
郞君ガ、鐵道局長トシテ出ラレ、唯今ノ臺灣總督ノ兒玉源太郞君ガ、陸軍次官トシ
テ出ラレテ、陸軍ト遞信トノ間ノ聯合ノ政府委員ガ、吾〓ニ向ッテ說明セラレタ、其
餘談ヲ悉ク今日ハ諸君ニ御報〓ヲシテ、軍事ノ基礎ニ於テ、平常ノ鐵道ヲ計畫スル
ト云フコトハ謬レルモノデアルト云フコトヲ說明ヲシタイト思ヒマス(「謹聽」ト呼フ者ア
リ)斯ウ云フコトデアル、其時ニハ總テノ鐵道ヲ早ク敷イテ日本ノ國富ヲ開發シタイト云
フノハ鐵道局ノ意見デアッテ、尙東海道ヲ複線ニシテ、此運輸ヲ便ニシタイト云フノ
鐵道局ノ意見、陸軍省ハ若シ陸軍ヲシテ專門ニ喙ヲ容レシムレバ、海濱ニ鐵道ヲ
敷クト云フコトハ、甚ダ危險デアル、海岸ヲ砲擊セラルヽトキニハ、直チニ鐵道ヲ斷タレル
ノデアルカラ、ドウシテモ中央ヘ敷カナケレバナラヌト云フガ、陸軍省ノ說明、其時ニ陸軍
省デハ費用多キニ拘ハラズ是非共早ク開カナケレバナラヌト云フノハ、甲州ヲ經テ信州ニ
到ル八王子線ノ先キノ方デ、是ニハ幾多ノ隧道ガアルカラ、非常ニ鐵道局ノ方デハ難工
事トシテ、費用ノ多キニ苦ンダガ其委員ノ說明ニ依ルト、東海道ニイクラ線路ヲ敷イテモ、
アレハ一タビ海岸カラ砲擊セラレヽバ斷ヘテシマフ若シ東京灣ガ砲擊サレタナラバ尊キ御
方ヲ何レノ地ニ置クカ、ドウシテモ申州ヲ以テ尊キ御方ノ行在地ト定メナケレバナラヌカ
ラ、早クアノ隧道ヲ穿タナケレバナラヌト云フコトガ、中央ノ隧道ヲ急ギマシテ、多クノ費
用ヲ厭ハズ、之ヲ急イダト云フコトノ理由デアッテ、此時ニ餘談トシテ故松本莊一郞君ノ
話サレタコトガアリマス、是ハ初メカラアル議論デアッテ、東海道ノ鐵道ヲ敷クトキニ、旣
ニ此事ガ陸軍部內カラ聞イタコトガアル、此時ニ日本ハ國力ヲ養ウテ、大體ノ基礎ヲ定
メズシテ、此國帑ヲ使ヒ潰ス方ニ先ヅ手ヲ著ケルト云フコトハ日本ノ建國ノ大方針ア
ナイト如何ナル論ガアッテモ、東海道線路ヲ選定スル、是ダケノモノヲ開イタノハ井上勝
君ノ功ナリト、松本君ハ明カニ木員ニ語ラレタ、此人旣ニ死シマシタカラ、直チニ其證
言ヲ證人トシテ呼ブコトハ出來マセヌガ、名譽ニ掛ケヲ此人ガ井上勝君ノ功ナリト言ハ
レタコトハ本員ハ記憶シテ居リマス、凡ソ軍事ヲ根柢ノ基礎トシテ、鐵道ヲ敷設スル
カ、經濟ヲ根柢ノ基礎トシテ鐵道ヲ敷設スルカ、鐵道ヲ敷設シマスルニハ、先ヅ是ダケノ
違ヒガアル今日先ヅ諸君ガ中央ノ線路ヲ穿タナケレバナラヌ、或ハ東海道ノ線路ヲ
敷設スルト云フ論ガアッタトキニ、東海道ノ線路ガ今日マデ敷設セラレナカッタナラバ日
本ハ如何ナル損害ヲ受ケテ居リマスルカ、發達スルトコロノモノガ如何ニ阻害セラルヽカ、
誠ニ想像ニ餘リアルト思フ、ソレ故ニ陸軍大臣ガ總テノ寒村僻地マデモ、國有鐵道ヲ
望ムト云フノハ實ニ悲觀極ッタモノデアッテ、國力涵養ノ主張ノ第一ニ明言セラレタ、
民力ヲ發展シ國力ヲ開發セラレントスル方針トハ如何ニ調和スベキヤハ甚ダ問題デア
ルト思フノデアル、且又本員ハ今囘ノ買收方法ニ付イテ、矢張陸軍當局者ノ主張ハ矛
盾スルコトヲ言ハナケレバナラヌ、承ハリマスレバ初メ內閣ニ出デマシタ原案ハ、十七會社
ノ線路ヲ買ト云フ案デアッタノガ、度々ノ閣議ニ於テ甲論ジ乙論ジテ、遂ニ三十二會
社ヲ併セテ買收スルトコロノ唯今議會ニ現ハレテ居ル議案ニナッテ居ルト伺ヒマシタガ、
果シテ是ノ如キモノデアッタカ否ヤハ本員ハ知リマセヌ、併ナガラサウデアッタラウト推測ス
ル是ニ於テ本員ハ此竝ベテアリマス三十二社ノ線路ヲ見ルト、唯驚クノ外ハナイ、其
中ドウ云フ線路ガアルカト云フト、近江鐵道、高野鐵道、豐川鐵道、成田鐵道、水
戶鐵道、豆相鐵道、河南鐵道、中國鐵道、上武鐵道、東武鐵道ナドヽ云フヤウナ
モノデアッテ、非常ニ弱ッテ居ル會社ノ線路ガ皆含マレテ居リマスガ、此中ニ若シ陸軍大臣
ノ申サルヽ如キ、本員ガ又理想的ニ望ンデ居ルガ如キ、宗谷ノ海峽カラ薩摩ノ端ニ至ル
マデノ幹線ハ他日國有ニナルベキ性質ノモノデアル故ニ甲武鐵道ヲ國有トスルハ政
府ノ誤リデアルト論ズル本員ハ、若シ他ニ障礙ナクシテ經濟的ニナシ得ラルヽナラバ、是
ノ如キモノハ國有ニスルコトハ、多分諸君ニ御同意ヲ表スルデアラウト思ヒマス、併ナガラ
他ニ形勢ノ不可ナルモノガアルカラ、本員ハ反對ヲスルノデアルガ、何レニシテモ最早近江
鐵道高野鐵道、豐川鐵道、成田鐵道、水戶鐵道、豆相鐵道河南鐵道ナドガ何
デ軍事ニ關係ガアリマスカ、是ハ一モ關係ハナイ、高野鐵道ハ高野山ニ參詣ノタメニ出
來タ、豐川鐵道ハ咜択尼天參詣ノタメニ出來タ、成田鐵道ハ成田ニ參詣ノタメニ出
來タ是等ノ鐵道ハ何デ國有ニ關係シマス(拍手起ル)知ルベシ、情實ノ結果デアッテ、多
數ヲ得ルニハ方ミノモノヲ併セナケレバ成立ツコトガ出來ナイ、情實ノ確證ト思フ、是ハ
國民ノ損害デアル、近江鐵道ノ下落シテ居ルノモ、必ズ經濟ニ詳シイ御方ハ御承知デ
アリマセウ、豐川鐵道モ既ニ破產ニ瀕シテ居ルト云フコトモ諸君御承知デアリマセウ、水
戶鐵道ガ或銀行ノ抵當ニナッテ居ルト云フコトモ諸君御承知デゴザイマセウ、是等ノ中
ニ關係ノ御方ガアッタナラバ、尙詳細ニ御承知デアラウト思フ、七尾鐵道ノ如キモ、亦
是ノ如クデ、本員ハ七尾鐵道ノコトナドハ能ク知リマセヌガ、拂込ガ三十圓デ、唯今七
圓ニ下落シテ居ッタガ、此騒ノタメニ上ッタト承ッテ居ル、然ラバ外見國有ヲ以テ軍備ヲ
立派ニスルナドヽ云フコトハ虛僞ノ甚シキモノデアッテ、西園寺首相ガ誠意ヲ以テ民ニ
臨ムト宣言セラレタノハ、ドコニ誠意ヲ見出スコトガ出來ル、併ナガラ斯樣ニシナケレバ多
數ヲ取ルコトガ出來ナイ、七尾ノ方ノ利害ヲ持ッテ居ル御方モアリマセウ、近江ニ關係
ノ御方モアリマセウ、豐川ニ關係ノアル御方モアリマセウ、高野ニ關係ノアル御方モアリ
マセウ、ソレ故ニ多數ヲ得ルタメニ出シタト云フナラバ、本員ハ其理由ニ於テ、サモアルベ
シト承ルノデアリマスガ、其中ニ若シ是ガ軍事ニ關係ガアルト云フナラバ是ハ足利ヨリ以
上ニ溯ッテ、國ニ難ノアルトキハ高野山ニ御祈禱ヲスル位ノタメデアラウ、(笑聲起ル)
尙溯ッテ成田ノ不動ニ勝ヲ祈ッタ、源平盛衰記時代ノ話デアラウ、明治ノ世ノ中ニ成
田鐵道、高野鐵道、豐川鐵道ガ軍事ニ關係アルト云フニ至ッテハ、唯本員ハ笑フヨリ
外ニ評シ方ハナイト思フ(誠意ヲ以テ論ズベシ」ト呼フ者アリ)決シテ其通デ事實ハ一モ
誤リハナイノデアル-少シモ誤リハナイノデアル事實ニ一〓ノ誤リガナイカラ、諸君ハ
本員ノ言フコトヲ御聽キニナッテ宜イ(「一二小會社ノタメニ主義ヲ曲ゲルコトガ出來ルカ
ト呼フ者アリ)諸君ガ御騷ギニナレバ靜マルマデ本員ハ此壇ヲ去リマセヌ、議長ノ命ニア
ラザレバ本員ヲ妨ゲルノ權利ハ議員ニハナイ筈デアル、ソコデ官業鐵道國有ノ弊ト云フ
モノヲ、本員ハ玆ニ例ヲ舉ゲテ論ズルコトハ武富君ノ詳シキ說明ニ讓リマスガ、森林事
業ハ如何デアリマス、森林事業ハ政府ガ多クノ財產ヲ有シテ居ッテ、多クノ土地ヲ領ス
ル、封建ガ總テ破レテ、政府ノ手ニ諸藩ノ止メ山ガ這入ッテ居リマスカラ、政府ノ持ッテ
居ル森林ガ立派ナモノデ、民ガ伐ッテ賣ルモノトハ競フコトガ出來ナイ、止メ山ガ皆政府
ノ所有ニナッテ居ルケレドモ、其財產ヲ較レバ其所得ガ極メテ少ナイノハ、是ハ官有事業
固有ノ弊デアル森林ニシテ尙是ノ如キモノデアレバ鐵道獨リ政府ノ手ニ歸シテ、有利
ナリト論ズルコトハ理ニ於テ許スベカラザルコトヽ本員ハ思フ、ソレ故ニ是ヲ分析スルナ
レバ、一モ全國鐵道ヲ一手ニ歸スルト云フコトハ、正確ノ理由ハナイノデアッテ、事實事
情カラ起ッタモノデアルト本員ハ推定ヲスル、サレバ是マデ屢く現ハレマシタ文書、或ハ新
聞雜誌ニ出テ居ル贊成論者ノ口實ニハ、奇怪不思議ノモノガアル、外人ガ鐵道ノ株ヲ所
有スルト云フコトニナルト遂ニハ重役ヲ舉ゲルコトニナルサウスレバ軍事ノ改良ヲ加ヘ
ルト云フコトニモ甚ダ覺東ナイカラ、今ノトキガ卽チ買收ノトキデアルト云フ議論ガ、貴族
院議員等ノ中ニナカ〓〓行ハレテ居ルコトハ、世ノ中ニモ漏レテ知ラレテ居リマスルガ、
是等モ亦夢ニ過ギナイ、本員ガ調ベタトコロニ依リマスト、總テノ大イナル鐵道會社デ五
十株以上外人ノ手ニ這入ッタモノハ一モアリマセヌ、外人ハ好ンデ鐵道株ヲ買フモノニアラ
ズ、若シ買フナラバ日本公債ヲ買ヒマス、公債ヲ買フ方ガ誠ニ容易イ、若シ又賣ルトキハ
倫敦市場デ賣リマスカラ、公債ノ方ニ手ヲ出シマスガ、外人ガ好ンデ所有權ノ確定セヌ政
府ノ干渉ノ甚シイ此遠イ所ノ國ニ對シテ、鐵道株ヲ買上ゲテサウシテソレニ依シテ重役ヲ
出タスナドヽ諸君ノ中ニハ左樣ナル夢ヲ見ル方ガアルカモ知ラヌ、有リトハ言ハヌ、併ナ
ガラ外人ノ中ニハ絕ヘテナイト本員ハ明言シヤウト思フ、ソレ故ニ此等ハ空想テ必竟遁
辭ハ其窮スルトコロヲ知ルト云フ古諺ニ背カヌト思ヒマス、ツレカラ經濟上ノ一問題トシ
テ、軍事ノタメニ最モ否定スベキ事實ヲ述ベナケレバナラヌ、十八億ノ公債ハ最早其數ニ
達セントシテ居ル、其前ノヲ合セマスルト總計二十四億トナルト云フノハ誰モ知ッテ居ル、
然ルニ此上ニ又四億カ五億ノ株券ヲ公債ニ換ヘルト云フコトニ付イテ杞憂ヲ懷カレマス
ノハ、武富君ガ詳細述ベラレマシタガ、本員ハ駁論ニ向ッテ一言述ベテ置カウト思フ、
是ハ本院ニ說モアリ、尙責任アル人ガ嘗テ舉ゲタ說デモアリマスカラ、ソレマデ說明ノ材
料トシテ論ジナケレバナラヌ、株劵ガ公債ニ變ル、此公債ハ確實ナルトコロノ財產ノ引當
ノアルモノデアルカラ、源ノナキトコロノ公債デハナイ、ソレ故ニ是ハ相場ニ影響ヲシナイト
信ゼラルヽトコロノ政府ノ當局者モ、竹越君モ、又此論法ヲ以テ言ハレマシタケレドモ、
是ハ經濟ノ初步ヲ理解シテ居ルモノハ同意シナイ、本ノ有ル無イヲ言フナラバ、日本ノ
公債何レカ本ノ無イモノガアリマセウ、國ノ信用ヲ基トシテ出シテ居ルモノデアルカラ、本
ノ有ル無イト云フノハ、一ツノ物ヲ言フニアラズシテ、日本ノ富ガ卽チ本デアル、然ラバ政
府ノ公債ハ本ノ無イトコロノ公債ガアリマセウカ、併ナガラ此公債ニ高低ノアルノハ何デ
アルカ、物多ケレバ價ヲ失ッテ需用者ガ少ナケレバ價ヲ失ッテ、供給者ガ多ケレバ價ガ下
ガルト云フコトヽ同ジコトデアル、ソレト同ジコトデアッテ、株劵ノ所有者ト公債ノ所有者
ト、物ノ種類ガ違フノデアリマスカラ、株券ガ公債ニ變リマスレバ日本帝國ノ信用トシ
テ成立ツニセヨ、鐵道ノ實物ガ、抵當トシテ成立ツニセヨ、多ケレバ價ヲ失フノハ自然ノ
數デアッテ、是ヲ自分ガ所有スルノヲ好マズシテ、鐵道株ヲ好ムモノデアリ、鑛山ヲ好ムモ
ノデアリ、他ノモノヲ好ムモノナラバ皆利ノ薄キ公債ヲ賣ルニ相違ナイ、賣レバ下ガル簡
單ニ見易イ道理ヲ以テ竹越君ニ私ハ答ヘヤウト思ヒマスノハ若シ竹越君ノ說明ノ如ク
ンバ斯クナリマセウ、株劵ノ穴ニ公債ガ篏ッテ來ルカラ、公債ガ殖エテモ直段ガ下ガラヌ
ト云フナラバ、試ミニモウ一步進メテ此五億ダケノ紙幣ヲ發シマシータナラバ如何デアル、
五億ノ公債ヲ引込マシテシマッテ、是デ紙幣ヲ發シタラ紙幣ガ下ラザルヤ否ヤ、此假定
ヲシテ見タラバ株券ガ公債ニ變ッテ下ガルト云フコトハ、恰モ公債ガ紙幣ニ變ッテ下ガルト
同ジ道理デアルカラ、是ガ分ラナイノハ腦ノ鈍イノデアルト考ヘル、腦ガ銳敏デアレバ
分ルノデアル、此原理ガ本統デアルナラバ、之ニ代ッテ市場ニ多クノ公債ガ出マスレバ、
必ズ公債ノ下アルト云フコトガ道理アル推定デアル、尙又大藏大臣ハ斯樣ニ答ヘラレ
ク、前後通ジテ七年間ニ市場ノ有樣ヲ見テ出スノデアルカラ、決シテ下ガル憂ハナイト
言ハレマシタガ、此市場ノ有樣ニ付イテ本員ガ一步進メテ問ハフト思フノハ七年ノ
間ニ若シ公債ガ減ルト云フ餘地ガアッテ、其代リニ出テ來ルナラバ、七年ノ間ニ公債ガ市
場ニ溢レルト云フコトハナイケレドモ、併ナガラ公債ハ殖エルコトガアッテモ減ルコトハナイト
云フ有樣デ、此數年間過ギルノデアリマスカラ、此間ニ出テ來タモノハ下ガル、下ガッテモ
割合ガ宜シケレバ外人ノ手ニ歸スルカラ、先以テ下ガルコトハ防ゲルト思ヒマスケレドモ、
併ナガラ鐵道株劵ガ外人ニ歸スルコトヲ恐レル杞憂論者ハ同時ニ公債ガ多ク外人ニ
歸スルコトヲ恐レナケレバナラヌノハ論理上自然ノ結論デゴザイマセヌカ、茲ニ至ルト云
フト拂フ者ハ皆金ヲ以テ拂フノデアルカラ、同ジ憂ハ伴ウテ出テ來ルノデ、移ラズシテ此
經濟ヲ攪亂スルトコロノ現狀ヲ暫ク維持シテ、其時ヲ待ッテモ可ナリデアラウト思フ、
此議論ハ本員ガ始メテ唱ヘルニアラズ、玆ニ明確ナル文書ガアル、ソレハ外ノコトデアリマ
セヌガ、明治三十二年ニ鐵道ノ調査會ト云フモノガアリマシテ、鐵道國有論ガ其調査
會ノ中ニ起ッタ、所ガ鐵道調査會ノ人ハ專ラ理財ノ方ニ明ルイ人バカリデナイ、鐵道ノ
コトニ熱心ナル人ガ集ッタノデアルカラ、理財ノコトハ理財ノ當局者ニ聞クベシト云フトコ
ロノ普通ノ理ニ從ッテ大藏省ニ問合セタ、大藏省ノ理財局長ノ松尾臣善君ハ唯今本
員ノ論ジタ如ク、同ジ道理ヲ以テ今日ハマダ、イロ〓〓ナ公債ヲ發布シナケレバナラヌ時
期デアル、臺灣事業公債其他イロ〓〓ノ事業公債ヲマダ發シナケレバナラヌ時節デアル
カラ、今鐵道公債ヲ出サルルト云フコトハ、頗ル不安デアルト云フトコロノ答ヲ與ヘタノ
ハ、是ハ今ノ日本銀行總裁ノ松尾臣善君デアッテ、是ノ如ク專ラ理財ノコトニ身ヲ委ネ
テ居ルトコロノ松尾臣善君ガ、一人デ調ベタノデナク、大藏省ノ理財局ノ調、若クハ省
ノ調トシテ鐵道調査會ニ與ヘタ文書ハ、今嚴トシテ玆ニ本文ガアリマス、御望ミナラバド
ナタニモ御示シスル、尙本員ハ是ヲ速記錄ニ留メテ本員ノ說明ニアラズシテ、理財專門
ノ人ガ是ノ如ク言ッテ居ルト云フコトヲ申サウト思フ、大藏省ノ三十二年ノ意見ハ是
ノ如キモノデアリマシタガ、當時ノ公債ハ總テ合セマシテモ、多分五億以下ナモノデアラウ
ト思ヒマスガ、今日ハ三十二年カラ較ベマシテ、日本ノ經濟ハドレ程發達致シマシタカ、
國力ハドレ程發達致シマシタカ、五億ノ公債ノトキニ尙且ツ理財局長ノ松尾君ハ危險
ナリト答ヘラレタガ、今ノ日本銀行ノ總裁ハ恐ラク同ジ意見ヲ持ッテ居ルデアラウト思フ
サウシマシタナラバ十八億、總計合セマシテ二十四億ノ公債ノトキニ、更ニ五億ニ近イモノ
ヲ出スノハ、一層危險ヲ感ゼラレルト思ヒマスガ、松尾氏ノ意見ヲ聞クコトハ出來マセヌガ、
日本銀行ノ副總裁ノ高橋君ハ、矢張倫敦ヨリ歸ッテ直チニ日本ニ發表シタ意見ハ、今
日ハ鐵道ヲ公債ヲ以テ買上ゲルノハ危險ナリト言ッテ居リマスガ、是ガ日本銀行ノ副總
裁ノ意見デゴザイマスカラ、理財專務ノ人ハ恐ラク是ノ如キ考ヲ持ッテ居ルデアラウト思
フ、決シテ本員ノ架空ノ說ニアラズシテ、總テ是ノ如キ根據アルトコロノ危惧ヲ懷イテ居
ルカラ、竹越君ガ言ハレタ如ク、杞憂論者ニモアラズ、悲觀論者ニモアラズ、若シ悲觀
論者デアルトスレバ日本ノ財務ニ大關係アル人ミモ同ジ悲觀ヲ懷イテ居ルト云フコトノ
答ガ出來ルノデアリマス、是カラ博覽ノ佐々友房君ガ外國ノ例ヲ引イテ種々論ジラレマシ
タカラ、是ニモ一言答ヘル必要ガアルト思ヒマスガ、、佐々君ハ獨逸ノ例ヲ引キ、ソレカラ伊
太利ノ例ヲ引キ尙瑞西ノ例ヲ引キ、處々ノ例ヲ引イテ、國有ニアラズンバ鐵道ノ本體
ニ副ハナイ、鐵道ハ元來天ヨリ命ジテ國有タラシムルモノナリト、恰モ物理學ノ原則ノ如
ク論ジマシタガ、本員ハ餘程是ヲ聽イテ疑ヲ生ジテ、頗ル失禮デアリマスガ、笑ヲ禁ズル
コトヲ得ナカッタノデアル全體獨逸ノ國有鐵道ハ是ノ如キ簡單ナル理由ニ依ッテ成立ッ
タト本員ハ信ジテ居リマセヌ、獨逸ハ御承知ノ如ク、封建ノ遺政ヲ殘ッテ戾ッテ、普魯
亞ハ其一部デアッテ、聯邦ノ盟主ト漸ク近年ナッタノデアリマスカラ、孛漏西ニ威ヲ振フ
コトハ獨逸全體ニ向ッテ餘リ愉快ノ感ヲ與ヘヌ部分ガ多イノデアル、殊ニ孛漏西ハ左樣
ナ考ヘデゴザイマシテ、先ヅ以テ經濟統一ノタメニ其以前ノ官線ヲ撤去シテ、總テヲ協定
スルト云フノデ、帝國統一ノ謀ヲ立テ、次ニ交通ヲ統一シテサウシテ帝國統一ヲ計ラウト
云フ歷史的必要ガアッタノデアリマスガ、流石ニ「ビスマーク」ハ公然ト左樣ニ言ハナカッ
ク、帝國ノ統一ト云フコトハ、「ビスマーク」ハ辯護シテ居ラヌ、「ビスマーク」ガ議會ニ說明
シタ其演說ヲ讀ンデ見マスルト、獨逸ハ分立シテ居ッテ、經濟上ノ共通デナイカラ、丁度
官線ヲ撤去シタト同ジヤウナ形勢ノ下ニ、鐵道ヲ統一スル必要ガアルト論ジテ居ルハ、他
ノ諸聯邦ノ嫉ニ反對ヲ避ケンガタメデアッタノデアル、故ニ當時ハ孛漏西ダケニ是ヲ
行フコトガ出來テ、徐〓トシテ他ハ聯邦ニ及ボシテ確カ八年バカリヲ經テ、漸ク是ヲ完成
シタト記憶スル、此例ガ違ヘバ佐々君ノ御正シヲ願フノデアリマスガ、本員ノ記憶スルト
コロハ是ノ如キモノデアル、ソコデ是ノ如キ必要カラ是ヲヤリマシタノト、竝ニ大陸國デアッ
テ四隣ノ國ハ皆鐵道ヲ敏活ニ用井テ、兵ヲ出スト云フ恐レガアル、私ハ「ビスマーク」ノ此
事業ノ如キハ矢張左袒セザルヲ得ヌ、殊ニ此場合ニハ相當デアルト思ウテ居ル、併ナ
ガラ尙米國ヲ旅行シテ歸ラレタトコロノ御方ガ言フトコロヲ見ルト、本員ハ頗ル是ニ不同
意ヲ表スルノデアル米國ノ鐵道ハ「トラスト」デ以テ會社ガ大勢力ヲ持ッテ居ル大統
領モ議會モ制スルコトガ出來ナイ大勢力ヲ持ッテ居ルカラ、今日ハ鐵道民有論ガ民論ト
シテ盛ンデアルト言ハレマシタガ、大統領ノ意見書ヲ讀ンデ見ルト云フト決シテサウ云フ
極度ノモノデナイ、米國ニハ丁度英國流儀デ、百年トカ九十九年ト云フ長イ間特許ヲ
得テ、其特許ガ盛ンニ勢力ヲ得テ米國ヲ支配スルヤウニナッテ居ツテ、此組合ハ國論ヲ
左右スルニ至ルカラ、何トカシテ是ヲ制スルトコロノ法律ヲ立テタイト一云フノデ、少ナクト
モ日本ノ私設鐵道法ノ如キモノヲ大統領ガ議會ニ設定セシメテ是ヲ支配スル其割合
ヲ餘リ高クセシメタクナイ、其荷物ニ餘リ不便ヲ與ヘサセナイヤウニ「トラスト」ヲ以テ直
段ヲ上ゲルト云フコトヲ防グトコロノ權力ヲ、政府ニ有シタイト云フ意見デアルカラ、鐵道
私設法ノナイ强大ナルトコロノ米國ガ之ニ對シテ言フベキコトデアッテ、鐵道私設法ノア
ル日本ニ於テ、是ノ如キコトヲ言フノハ是亦夢ニ過ギナイト私ハ田心フノデアル是カラシテ
竹越君ハ白耳義ニ於テ、著シク國有鐵道ガ成功シタト言ハレマシタガ、本員ノ讀ンダ書
ハ反對デアル、白耳義デヤリカケテ一時成功シタガ大ニ弱ッテ、議會ガ調査シテ此議案
ヲ豫算委員會デ討議ヲシタトコロノ記錄ガアリマスルガ、是ハ餘程前ノコトデアル丁度
獨逸ガ國有鐵道ヲ拵ヘルト同時代ニ、歐羅巴ヲ席卷シ風靡シタトコロノ議論デアル、
ソレデ詰リ其以前ニ白耳義ノ方ガヤリマシタカラ、經驗ヲ以テ少シ弱ッタトコロノ經
驗ヲ本員ハ知ッテ居リマス千八百七十三年カラ七十四年ノ間ニ、政府ノ國有鐵道
ハ非常ニ損ヲシテ、今マデ收入ガ有ルト思ッタモノガ無クナッテ俄カニ弱ック、其弱ッタ原因ハ
何デアルカト云ヘバ、國有鐵道ニ向ッテ批評ヲ加フルトコロノ白耳義ノ論者ノ意見ハ斯
樣デアル、凡ソ私立會社ノ物品ヲ買入レルニ、其規則ニ拘束セラレズニ廉イ時分ニ買
入レル、今直グニ使ハナイデモ軌道ヤ車ヲ註文ヲシテ早ク準備ヲスル、政府ノ會計規則
デ拘束スル國有鐵道デハ、ソレガヤレヌタメニ廉イ品物ヲ買フコトガ出來ヌ、高イトキニ
高イ物ヲ買ハナケレバナラヌ必要ニ迫ラレテ、白耳義ノ鐵道國有ハ大損ヲシテ議會ノ問
題トナッタノガ千八百七十三年ト七十四年ノ間ノ問題デアルカラ、竹越君ノ言ハレル如
キ成功ハナカッタト思フ、ソレカラ鐵道ノ上ニ付イテ伊太利デモ矢張左樣ナ經驗ヲ經テ、
トウ〓〓私立ノ方ニ分ケナケレバナラヌト云フトコロノ論ガ沸騰シタ、是等ノ諸國ガ皆成
功ヲシタト云フコトハ本員ハ請合フコトハ出來ナイ、況ヤ日本ニ於テオヤト思フ、日本ニ
於テオヤト云フノハ、前ニ申シマシタル通リ、鐵道ノ賃銀ヲ上ゲタノハ、私設鐵道ニアラズシ
テ官設鐵道ノ例ニ倣フテ上ゲタノデアル、ソレカラ進歩ノ度ハドウデアルカト云フニ、官設
鐵道ガ成功スルト云フコトハ受合フコトガ出來ナイ、本員ハ獨逸ノ一例ヲ以テ總テヲ極メル
ト云フコトハ:餘リ早計デアラウト思フ、斯ウ考ヘテ見マスルト、此滿韓經營ノ方針モマダ定マ
ラナケレバ、稅則改正ノ方針モ定マラズ、内地ニ於ケル諸般ノ設備モ亦次ノ議會ニ出スト云
フ、其調ベ中デアルト云フ時代ニ於テ、直チニ鐵道國有ヲ實行シナケレバ國ノ安危ニ係ハ
ルガ如ク、外敵境ニ迫マルコトヲ豫想スルガ如キ理由ヲ以テ、鐵道國有論ヲ主張スルニ
至ッテハ、本員ハ何分是ガ眞正ノ理由ナリトシテ、受取ルコトハ出來ナイ、唯本員ガ聞イ
テ居ッテ頗ル怪ンデ居ルトコロノ一ノ事實ガアリマスソレハ斯ウ云フコトデアル、昨年戰
爭中ニ一度ハ關稅ヲ抵當ニシ、一度ハ專賣煙草ヲ抵當トシテ、尙戰ガ續イタナラバ、
何カ金ニナリ易イ物品ヲ政府ガ持ッテ、金ニ替ヘナケレバナラヌ、其時ハ鐵道ヲ內地ノ公
債デ以テ、人民カラ買上ゲテ、是ヲ金貨ニ替ヘル、一ノ基本財產デアラウト云フ論ガアッ
タト云フコトヲ本員ハ聞イテ居ル、是ハ戰爭酣ナルトキニ民間ニ傳ッタ一ノ風說デアル、
是ガ根據デアリハシナイカト思ッテ居ルノガ是ハ公ノ理由、モウ一ツ私ノ理由ヲ私ハ玆
ニ公言スルノモ餘リ快クナイトコロノ理由ガ一ツアリマス、ソレハドウデアルカト言ヘバ、方々
ノ鐵道會社ハ、多年買收セラレンコトヲ希望シテ居ッタ、ソレデ其準備ヲシテ居ッタ、準
備ト云フノハ外ノコトデハナイガ、買上ゲル年ニハ成ルベク割賦金ヲ多クシテ、高ク買上
ゲラレル準備ヲスル、ソレニハ鐵道ノ普請ヲシナイ、鐵道ノ方ノ言葉デ申シマスルト、線路ヲ
虐使シテ鐵道ニ金ヲ入レナイデ多クノ割賦ヲシテ株ヲ上ゲテ置イテ、久シク準備ヲシテ
持ッテ居レバ政府ノ國有ニシテ貰ヘルト云フ或會社ガアッタト承ッテ居リマスガ、此會社
ノ請願モ亦一ノ理由ニナッテ居ルト聞イテ居リマス、是ハ現內閣ニ出シタニアラズシテ、
前內閣ニ出シタトコロノ請求デアルト承ッテ居リマス、若シ是ガ事實ナリトセバ、二ツ
共ニ非ナリ戰已ニ終リタルトキニ當ッテハ政府ガ是ノ如キモノヲ所有スルニ及バヌ、況
ヤ其後ニ公債ガ無抵當デ出來ル位ナ日本ガ、何ヲ苦ンデ過去ノコトヲ夢ミテ、鐵道ヲ所
有シナケレバナラヌト云フ必要ガアリマスルカ、第二ハ彼我ノ請託ニ依ッテ或會社ガ準備
ヲシテ買上ゲヲ望ムダコトガ一ノ理由デアレバ本員ハ奮然トシテ國民ノ心情ニ訴ヘナケ
レバナラヌ、是ハ本員ノ唯想像バカリデナイ、或ソレト符合スル事實ガ世ノ中ニアルニ至ッ
テハ本員驚カザルヲ得ナイ、是ハ本月十二日ノ國民新聞ノ中ニ「法理ノ蹂〓」ト云フ論
題デ載ッテ居リマスルガ、某法學者ノ談トシテ載ッテ居リマス、其文章ノ必要ナルトコロヲ
讀ミマス(「無用無用」ト呼フ者アリ)無用デナイ有用デアリマス「鐵道國有ナルモノハ固
ト鐵道業者ノ要求スル所ニシテ(「無用々々」ト呼ヒ議場騒然)諸君ノ御靜ニナルマデ待ッ
テ居リマセウ「鐵道國有ナルモノハ固ト鐵道業者ノ要求スル所ニシテ今日トテモ一部ノ
何カ爲メニスル者ノ外ハ皆ナ國有案贊成者タルノ實アリ云々」是ハ一篇ノ論文デアッテ、
本月十二日ノ紙上ニ出テ居ル「法理ノ蹂〓」ト書イテ、某法學者ガ此法是律ヲ以テ買收
ヲスルノハ、私權ヲ蹂躙スルモノナリト云フ反對ノ論ニ答ヘルトコロノ論旨デアリマスカラ、
詰リ政府ニ贊成スルトコロノ論旨デアル、無論國民新聞ハ前內閣ニ付イテハ、今ノ內
閣ヨリ關係ノ深イコトハ世ノ人ガ認メテ居リマスルカラ、此原因ニ付イテハ前內閣ニ溯ッ
テ尋ネル程、是ハ脈絡ノアル論文デアルト云ッテ宜イ、其論文ニハ鐵道國有ナルモノハ、
元ト鐵道業者ノ要求スルトコロニシテ(「無用々々」ト呼ヒ議場騒然)サウ致シマスルト、
此論文ニシテ根據アリトスレバ、此國有案ハ政府ノ自由獨立ノ意思カラ發シタルニアラ
ズシテ、或鐵道業者ノ要求ガ原因ニナッタト推斷スルコトガ出來ル(拍手起ル)此論文
ヲ抹殺スルコトハ出來ナイ、是ハ萬人ノ目ニ觸レテ居ル論文デアル、是ハ前內閣ノタ
メニ辯護ノ勞ヲ執ッタトコロノモノデアル、然ラバ某會社ガ豫テ買收セラレンコトヲ用意
シテー準備シテ、サウシテ鐵道ヲ虐使シテ割賦金ヲ殖ヤシテ株劵ヲ高メテ、高ク買上
ゲラレヤウト云フ請求ガ一部ノ原因ニナッタカト思フ、本員ガ當局ヨリ示サレタル鐵道ノ
參考表ヲ見ルト、或會社ハ大ナル割合ヲ以テ算定セラレテ居ルノハ、多クノ割賦ヲシタ
線デアルト本員ハ思フ、是ノ如ク種々ナル方面カラ推定シテ見タラバ、是ハ或ハ民間ノ或
一部ノ發意ヲ政府ガ採用セラレタノデハアルマイカ、前內閣ガ採用シタ案ヲ現內閣ガ承
繼イダモノデハアルマイカト云フコトハ、決シテ本員ハ無根ノ推論ニハアラズト信ジマスワ
コデ本員ガ思ヒマスルニハ、成程鐵道業者ガ是ハ贊成スル譯デアル、前ニ申シマシタ通、
七尾鐵道、豐川鐵道、近江鐵道、豆相鐵道、尙私設鐵道ヲ買上ゲマスレバ、日本全國
ノ民間ガ疲弊シテ居ル間ニ、或少數ノ人ガ俄ニ巨万ノ富ヲ得ルトコロノ現象ガ必ズ此
案ノ過ギタ後、一年ナラズシテ現ハレルコトハ本員ノ豫言スルコトガ出來ル、如何ト
ナレバ價ノ下ガッテ居ル鐵道ヲ國家ガ損害ヲ顧ミズシテ買上ゲレバ、買上ゲラレタモノハ俄
ニ巨多ノ利益ヲ得ルコトハ推定上、算出上、明確ナル事實デアリマスカラ、本員ハ此議
案ノ經過シタ後ニ、一年ナラズシテ社會ニ現ハレルトコロノ現象ヲ、冷眼ヲ以テ是ヲ觀
察シヤウト思ウテ居リマス、斯ウ考ヘテ見タナラバ(「宜シイ」ト呼フ者アリ)此案ト云フモ
ノハ眞ニ國家ノ利益カラ割出サレタル案ニアラズシテ、種々ナル空想ガ促シテ玆ニ至ラシ
メタモノデアル、ソレ故ニ現內閣ガ未ダ稅則ノ改正モ〓ニ就カズ、滿韓ノ經營モ手ヲ著
ケズシテ、直チニ是ヲ出サナケレバナラヌト云フ必要ニ迫ラレタトハ思ヘマセヌ、本員ハ此〓
ニ於テ幹線ハ其年限ノ盡キルニ從ッテ、政府ガ選ンデサウシテ段々國有ニナシテ、自然ト
此儘ニ放任シテ私設ト官設トノ間ニ、健穩ナルトコロノ競爭ヲ開カシメテ此進步ト竝ニ
安全ト云フモノヲ保ッテ國民ノ福利ヲ完クスルノ處置ヲ執ラルヽト云フコトデアルナラバ
本員ハ其方法ニ依ッテハ、此政策ヲ贊成シテハ、國有鐵道トスルモ非ナラズトノ論斷ヲ下
スコトモ出來ルデアリマセウガ、今日ノ案ニ於テハ本員ガ唯今マデ列舉シタルトコロノ事
實ト道理トニ依ッテ全然國ヲ誤ルモノナリ、國民多數ノ損害ハ、政府ノ手ヲ經テ、少數
ノ人ニ期スルトコロノ案デアッテ、價ナキトコロノ案デアリ、道理ナキトコロノ案デアルト、論
斷シナケレバナラヌ、成田鐵道ノ如キ、或ハ高野鐵道ノ如キ或ハ豐川鐵道ノ如キ、參詣
ノ用ニ當テルトコロノ鐵道マデモ或ハ陸軍ニ必要ナリトノ名ニ依シテ或ハ經濟上有利ナ
リトノ名ニ依ッテ、之ヲ政府ノ手ニ收ムルト云フノハ、政府ノタメニ極メテ悲ムベキコトデ
アルト言ハナケレハナラヌ、本員ハ此理由ニ依ッテ、此案ヲ廢棄セラレンコトヲ望ミマス
〔參照〕
鐵道國有ト財政經濟
鐵道國有ノ財政上及ビ經濟上甚ダ危險ナル次第ハ屢、本紙ノ論ジタル處ナルガ去
ル三十二年ノ鐵道國有調査會ノ求メニ應ジ時ノ大藏省ハ理財局長松尾臣善氏
ノ名義ヲ以テ經濟上財政危險ナルコトヲ論述セリ三十二年ト今日ノ經濟財政ヲ
對照セバ果シテ如何ナル結論ヲ生ズベキヤ左ニ三十一一年當時ノ所論ヲ紹介スベシ
私設鐵道ヲ國有トスルニ田リ其代價ハ公債證書ヲ以テ會社ニ交付スルモノトスルト
キハ每年凡ソ幾何ノ高マデ右ノ債證書ハ發行スルモ差支ナキカトノ問題ニ對シテ直
ニ金額ヲ指定シテ明確ナル答辯ヲナスコトハ頗ル困難ナルコトナリトス〓括シテ云ヘバ
鐵道ニ一旦投セラレタル資本ハ鐵道ニ固定セルモノナリトスレハ其資本カ株券ヲ以テ
表示セラルヽモ公債證書ヲ以テ表示セラルヽモ既ニ投セラレタル資本ニ異動ヲ及ホス
モノニアラス而シテ公債證書モ株劵モ共ニ均シク一ノ有價證券ニシテ投資ノ目的物
タル上ヨリ見レハ彼ヲ以テ之ニ換フルモ資金ノ需要ヲ增減スルモノニアラス從ツテ此事
タルヤ一見スレハ金融如何トハ毫モ關係ヲ有セサルニ似タリ然レドモ公債證書ト株劵
トハ均シク有價證券ナルニモ關ハラス其性質ニ於テ少ナカラサル差異アリ卽チ公債證
書ノ利子ハ一定スレドモ株券ノ配當ハ一定セス又公債證書ノ所有者ハ或ル條件ニ
從イテ元金ノ償還ヲ受クルノ權利アルニ過キサレドモ株劵ノ所有者ハ株主トシテ種々
ノ權利ヲ有ス而シテ又公債ノ價格ハ主トシテ金利ノ昂低ニヨリ高下スレドモ株劵ノ
價格ハ金利ノ昂低ノ外營業ノ狀況ニ依リ高下ス斯ノ如ク公債證書ト株劵トノ間ニ
性質上差異アルヲ以テ株劵ノ需要者ト公債證書ノ需要者トハ其範圍ハ必ズシモ同
一ナラズ投機者流ハ株劵ヲ需要スベク最モ確實ナル收入ヲ欲スルモノハ公債證書ヲ
需要スベク中間ニ位スルモノハ經濟上其他ノ事情ヨリ彼ヲ需要シ又此ヲ需要スベシ
今鐵道ヲ買上グルニ公債證書ヲ以テスルトセハ是レ卽チ株劵ヲ變ジテ公債證書ト爲
スモノニシテ一方ニ株券ノ供給ヲ減ズルト共ニ公債證書ノ供給ヲ增加スルモノナリ株
券ノ需要者ト公債證書ノ需要者トノ境界ハ經濟上其他ノ狀況ニ依リ伸縮ノ餘地
アリト雖モ公債證書ヲ交付サレタル者ニシテ株券ヲ需要スルモノナルトキハ公債證書
ヲ賣リテ株劵ニ得ントスベク此株劵ノ需要ニ對シテハ新事業會社ノ設立ヲ見ルコトヽ
ナルベシ其結果タルヤ之ガタメ設立セラレタル新事業會社ノ資本額ニ相當スル公債ヲ
市場ヨリ募集シタルト同一ノ影響ヲ直接ニ金融市場ニ與フベシ其影響タルヤ其額ト
其時ノ經濟上ノ事情ニ依リ差異アルベキヲ以テ豫メ言フコト能ハズト雖モ或ハ公債
證書ノ價格ヲ下落セシメ又金利ヲ騰貴セシムルコトアルベシ
故ニ金融ニ大ナル影響ヲ與フルコトナクシテ公債ヲ發行シテ私設鐵道ヲ買上ントスル
ニハ其公債額ノ其時ノ金融市場ニ於テ普通ノ手續ヲ以テ平穩ニ募集シ得ル額ニ止
ムルヲ以テ最モ安全ナルモノト認ム然ルニ事業公債鐵道公債ノ募集未濟額ハ八千
六百六十八万餘圓アリ其他臺灣事業公債三千五百万圓復錄處分ニ要スベキ者
凡一千万圓ヲ合計スレバ實ニ一億二千餘万圓トナル內四五千万圓ハ預金部ニテ
償却ヲ受ケタルモノヲ以テ應募スルトスルモ七八千万圓ハ今後數年間ニ於テ一般市
場ヨリ募集セザルベカラザル額ナリトス此金額ノ公債ヲ募集スルニ當リ金融市場ニ大
ナル影響ナカラシメントスルハ頗ル注意セザルベカラザルコトタリ此ノ如キ時ニ際シテ鐵
道買上ノ爲メ公債ヲ發行シテ金融市場ニ動搖ヲ與ヘザル如キハ頗ル難事ニ屬スルノ
ミナラズ强テ其發行ヲ爲サバ之ニ依テ公債ノ供給增加スルコトヽナリテ今後既定ノ計
畫ニ依リテ募集スヘキ公債ノ募集ニ著シキ障害ヲ爲スノ危險アリ
之ヲ要スルニ私設鐵道ノ買上ニ公債ヲ發行シテ交付スルハ今日ノ場合ニアリテハ經
濟上竝ニ財政上安全ノ方法ニアラズト認ム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=45
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046・杉田定一
○議長(杉田定一君) 望月小太郞君
(「討論終結」ト呼フ者アリ「贊成」ト呼フ者アリ發言スル者交〓起リ議場騒場〕
〔望月小太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=46
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047・杉田定一
○議長(杉田定一君) 靜カニナサイ、時刻ガ參リマシタカラ、時間ノ延長ヲシマス
(「異議ナシ」「討論終結」「默レ」「島田君ノ長演說ヲ聽イタヂヤナイカ」ト呼フ者
アリ議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=47
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048・望月小太郎
○望月小太郞君 諸君、攻擊ハ易ク、防禦ハ難シ、而モ本員自カラ好ンデ、其易キ地
位ヨリシテ、此難キ陣頭ニ登ボリマシタ所以ノモノハ、ドウゾ此戰後經營ノ根本的政策
トシテ、何卒此鐵道國有案ヲ通過サセタイト云フ、希望ヨリ致シマシテ、本員ハ玆ニ
單刀直入雙手ヲ舉ゲテ本案贊成ヲ絕叫スル一人デアリマス、諸君、何故ニ贊成スベキ
カ、否ヤ、何故ニ反對セザルベカラザルカ、既ニ贊成論者ニ於テハ、二三ノ人ニ依ッテ
其意味ヲ盡シタルニモ拘ハラズ、尙本案ガ世ノ中ニ提出セラレマシタ以來、內外識者ノ
辯難攻擊中、現ニ加藤前外務大臣ノ如キハ是ガタメニ辭職シ、而シテ今又武富君ハ
韓非子流義ノ論鋒ヲ以テ、之ニ反對ヲナサレテ居ッタノデアル、就中、島田三郞君ニ至ッ
テハ、輕妙圓轉、恰モ鶯ノ囀ルガ如キ微妙ノ音樂ヲ、吾ミニ聞カセテ呉レタノデアル(笑
聲起ル)去リナガラ、此微妙ノ音樂ノ止ムト共ニ其論據ハ跡消ヘテナクナルト云フ、恰
モ美人ニ遭ッテハット思フ間ニ影ガナクナッタニ等シイト云フ憾ミヲ、本員ハ懷クノデアル、本
員ハ此等有效ナル、此等無效ナル反對黨ノ議論ヲ綜合致シテ、而シテ本員自カラ本
案ニ贊成スル陣地ヲ固ムルタメニ、直チニ敵ノ論據ニ肉薄シヤウト思フノデアル(「ヒ
y」ト呼フ者フリ)諸君、反對論ノ骨子ト致シマス第一ニハ、此鐵道國有法案ハ
憲法ノ精神ニ違背シ、法律ヲ以テ保障シタルトコロノ私權ヲ蹂〓スルモノデアルト云フコ
トデアル憲法違反私權蹂躙ト云フ八大文字ハ、如何ニ誘惑的ニ吾〓ノ判斷ヲ迷ハシ
タカ、本員モ亦タ嘗テ其迷ノ中ニ彷徨シタル一人ノミナラズ(笑聲起ル)本來各國ノ鐵道
國有法案ニモ今日我國ニ行ハレントスルガ如キ法律ノ類例ハ絕無デハナイガ、之ヲ求ム
ルニ甚グエシイト云フコトハ本員ハ之ヲ認ムルニ躊躇シナイノデアル、去リナガラ直チニ
之ガ憲法違反デアル、私權蹂躪デアルト云フニ至ッテハ無斷ヲ免カレナイト思フ、何トナ
レバ、憲法ニ於テ御同樣臣民ノ權利義務ノ保障ナルモノハ、絕對無限ナルモノニアラズシ
テ、比較的消極的ノモノデアル卽チ二十七條ノ但書ニ於テ、公益ノタメ必要ナル處
分ハ法律ノ力ニ依ルト云フ、主權以外ニ主權ナク、此主權ノ必要ニ依ッテハ臣民ノ
所有權ニ向ッテ、一部ノ制限ヲ加ヘ否、剝奪ヲ加ヘルト云フコトハ明々白々、日本憲
法ノ條文ニ明カニ書イテアルトコロノ文字デアル、卽チ本案ノ如キハ、一方ニ於テ財政ヲ
鞏固ニシ更ニ進ンデ經濟ノ發達ヲ充實ニシ、尙此上ニ搗テ加ヘテ軍事行動ニ便益ヲ
來タスト云フ其三大目的諸君是以上ニ所謂公益ナルモノガドコニゴザイマセウ、
此公益ノタメニハ諸君ハ現ニ煙草專賣、鹽專賣、將來アラユル專賣モ國家ノ必要如
何ニ依ッテハ是ヲシナケレバナラヌト云フ、是ハ則チ主權ノ發動タル公用徴收ノ原則デア
ルト本員ハ信ズルノデアル或ハ曰ク日本鐵道ニ附與シタルトコロノ特許ハ國家ト私
人トノ契約ニシテ、法律ヲ以テ破ルコトハ出來ナイト云フ御議論ガアル去リナガラ之ニ
向ッテ本員ハ是ハ一種ノ行政命令デアルト云フ、其論據ヲ確ムルタメニ、玆ニ適切ナル
實例ヲ申上ゲル、適切ナル實例ト云フト島田君ノ如キ多辯多識ノ反對家ハ、又シテモ
無イモノヲ有ルカノ如ク政治家年表ヲ呼バルカモ知ラヌガ此適例ハ島田三郞君著述
但シ胸中未出版ノ政治家年表ナラ卒知ラズ、丸善ニ於テ買フタル政治家年表ニハナイ
ト云フコトヲ一言シテ置キマス(「ヒヤ〓〓」又「愉快々々」ト呼フ者アリ)偖私ノ外國ノ實
例ハ何デアルカト云フト、十年前「スエス」ノ國ニ於テ丁度我國ト同ジヤウニ鐵道ヲ國有
ニスル其豫備條件ト致シマシテ、特別會計法ナルモノヲ鐵道ニ應用スルノ規則ヲ行ヒ
マシタ、此法律ナルモノガ、焉ゾ知ラン前ニ與ヘタトコロノ會社ノ權利ヲ剝奪スルト云フ
トコロノ丁度島田君一派ノ議論ノ如ク、是ハ私權蹂躪デアルト云フ輿論ガ起ッタノデ
アル、去リナガラ「スエス」ノ立法部デハ、是ハ私權ノ蹂〓ニアラズシテ、法律ヲ以テ法律
ヲ改廢スルニ、何ゾ妨ゲント云フ其意見ノ衝突ノ結果遂ニ御案內ノ如ク最終ノ裁判
タル人民ノ投票權ニ問フテ見タトコロガ私權蹂躪說ハ、十七万六千、私權蹂躪ニアラ
ズト云フ說ハ、二十二万三千、卽チ四五万ノ多數ヲ以テ通過シタコトハ、多辯而シテ
多識ナル望ムトコロノ島田君ニ參考マデニ申上ゲテ置クノデアル、(拍手スル者アリ)否、
一步退イテ若シ一旦法律ニ於テ與ヘタルトコロノ私權ナルモノハ、之ヲ奪フコトガ出來ナ
イト云フタラバ卽チ法律ノ力ニ依ッテモ、尙且ツ改廢ガ出來ナイト云フナラバ、諸君凡
ソ過去ノ法律ノ闕〓〓ハ如何ニシテ之ヲ補フコトガ出來マセウ、此等ノ問題ニ付イテハ
唯一ニ公共經濟ノ原則ヲ應用スレバ則チ足レリト、本員ハ信ジマスルヲ以テ、此私權万
能論ノ如キハ、國家ヲ成スコトノ出來ナイ、猶太民族以外ノ今日ニ於テハ、既ニ滅亡
シタル歷史中ノ殘灰ヲ持ッテ來テ、此議場ニ振撤カウトスル愚論ナリト斷言セザルヲ得ナ
イ、(「ヒヤノ」ト呼フ者アリ)反對ノ第二論ハ頗ル有力ニ聞ヘマス、卽チ財政經濟ノ
上カラシテ、此公債ガ下落シヤウト云フ杞憂論デアリマス過去十八億ノ公債ニ向ッテ、
更ニ新公債ヲ募ッタナラバ公債又公債、遂ニ日本公債ノ相場ヲ紊亂スルデアラウト
云フコトハ一應ハ尤デアルケレドモ是ハ公債學ナルモノヲ御存ジナイトコロノ無學者流
ノ相憂ト、本員ハ言フノデアル、言フマデモナク、公債ノ定義ニ於テ一方ニ生產的公
債考クハ再生產力アル公債ト他方ニ於テハ不生產的若クハ消費的公債ト此
區別サヘ分カッタナラバ、同ジ名ハ公債デアッテモ其實質ニ於テ、全ク違フデアル恰モ政
府ト云ヘバ何處マデモ反對セヌケレバナラヌト云フノハ反對黨諸君ノ御希望デアルサ
リナガラ政府ノ實質如何ニ於テハ、全ク之ニ異ナルノデアル、公債モ亦是ノ如シ、不生
產的公債ヲ發スル程恐ロシイ併シ生產的公債ニ至ッテハ公債ノ目的物其モノガ坐ナ
ガラニシテ、元利ヲ產ンデ往クノデアル卽チ我國ハ此鐵道國有法案ニ依ッテ、四十年
ノ後ニハ年々五千七百万圓ノ利益ト、五千哩ノ鐵道ガ、國家ノ利益トナッテ來ル斯カル
生產的公債ニ向テテ反對スルト云フコトハ、公債論ノ原則スラモ御存知ナイトコロノ無理ナ
ル御議論ト本員ハ斷言スルノデアル、適切ニ申セバ、既往十八億ノ公債ハ恰モ不動產ヲ
擔保ニシテ振出ストコロノ手形ノ如ク、斯カル手形ノ濫發ハ無論其信用ヲ害スルガ、今
囘ノ公債バ正金ヲ準備シテ居ッテ一覽拂ヲ仕出ス如キモノデアル要スル點ハ、流通貨
幣ノ運轉如何デアルト云フコト、其運轉ノタメニコツ、政府ハ五箇年ノ餘裕ト云フモノヲ
先ヅ公債ノ中ニ入レタノデ、拔ケ目ナク斯クマデ此公債ノ上ニ注意ヲ致シテ居ルニ、本員
ノ更ニ切望シテ諸君ノ同情ヲ求メナケレバナラヌコトハ、元來此十八億ハ既往ノ公債ニ
對スル一億ノ利子ノ負擔ハ國民ニ向ッテ重大デアル、此重大ナルモノハ何トカ輕減シナ
ケレバナラヌ、輕減スルニハドウデアルドウシテモ斯ウシテモ、敢テ西園寺內閣ト云ハズ、
時ノ政府ニ向ッテ、新シク財源ヲ拵ヘルヨリ他ニ方法ハナイノデアル、其新シキ財源ヲ拵
ヘ、其確實ナル財源ニ依シテ古ク高キトコロノ公債ヲ新シク廉キトコロノ公債ト借換ヘテ
往クト云フ以外ニハ、日本ノ公債整理政略トシテ、此外ニ私ハ明案ト云フモノハナイト信
ズルノデアル、現ニ此生產的公債ニ於テハ二十九年ノ事業公債ヲ見ルニ付イテモ、臺灣
ノ公債ヲ見ルニ付イテ又北海道ノ公債ヲ見ルニ付ケテモ皆著々成功シタノデアル、前途ノ
形勢ハ智者ヲ待タズシテ後知ルベキノミト、本員ハ斷言シタイノデアル、更ニ經濟上ヨリ
モ一言ヲ加ヘナケレバナラヌ、諸君戰後ノ目的ハ無論、亞細亞大陸ニアルノデアル、亞
細亞大陸ニ對スル我國民ノ經營ニ於テ、第一ニ憂フベキモノハ、資本ノ闕乏、金利
ノ騰貴、隨ッテ事業界ノ銷沈デアル然ルニ此度ノ四億六千万圓ノ公債ハ既往ノ固定
資本ヲ一變シテ、流通資本ト致シ、其結果ハ今後日本ノ商工業ハ是ヨリ漸ク亞細
亞大陸ニ向ッテ發展スル其經濟的資本トナルト云フコトヲ思フニ付ケテモ、此案ト云
フモノハ經濟學上決シテ恐ルベキモノデナイコトヽ本員ハ確信スルノデアル、諸君(「簡單
簡單」ト呼フ者アリ)畢竟、反對論者ト吾ミトノ議論ハ、根本ニ於テ異ナッテ居ル、卽チ消
極的ト積極的ノ議論デアル、諸君既ニ亞細亞大陸ノ一隅ニ馬ヲ進メタトコロノ日本ガ
消極的ノ方策ヲ以テ、如何ニ此經濟ノ運用ヲ致スコトガ出來マセウ既ニ大石君モ見
エラレヌガ、先刻ノ言葉ニ依ッテ見ルト、大石君ハ積極論者デアルカラ、必ズ本案ニ贊成
シテ吳レルダラウト信ズルガ、其他ノ消極論者ノ如キハ曰ク歲入ニ從ッテ國家ノ經營ヲ
完ウセヨ、曰ク、自然ノ發展ニ一任セヨト云フコトハ本員ハ嘗テ之ヲ評シテ後家算盤ト
言ッタガ、生產的公債ニマデ反對スル人ハ之ニシヲ掛ケテ老後家ノ鐚錢勘定ト本員ハ
罵倒スルノデアル、(「簡單々々」又ハ「ヤリ給ヘ」ト呼フ者アリ)反對論ノ第二ト致シテ
ハ將來ノ經理上政府ハ果シテ是ガ目的ヲ達シ得ルヤ否ヤト云フコトデアル是ハ見込
問題デアルガ、是ハ本員ハ達シ得ラレルト信ズルノデアル、卽チ經費節減ノ上ニ於テモ、
百三十万圓ヲ示シ、而シテ輸送力ハ將來ニ於テ一倍以上二倍ヲ增ス其他賃錢ノ低減
ニ付イテハ竹越君ヨリ說明シテ居ルガ更ニ進ンデ日本ノ貿易品ヲ海外ニ發展スルニ至ツ
テモ、鐵道國有トナッタ曉ニハ·····本員ハ一二玆ニ品名ヲ申上ゲテ見レバ例ヘバ福
島ト橫濱間ノ生絲一噸ガ一哩七圓六十八錢ノ運賃ハ約其半分卽チ三圓八十四錢
ニ減ジ、(阿漕)神戶間ノ茶ハ一噸二圓七十錢ガ一圓八錢、能代橫濱間ノ銅ハ六
圓十九錢ト云フモノガ、四圓十一錢トナル、斯ウ云フ實例ハ、獨リ日本ノ前途ノミナ
ラズ、過去ノ歐洲各國ニ於テ、鐵道國有ヲ致シタ國ミニ於テ、實驗シタコトデアル、先
刻島田君ハ伊太利ノコトニ向ッテ失敗デアルカノ如クニ、本員ハ聽キマシタケレドモ伊
太利ハ昨年一月カラ、鐵道國有ヲ實行シ、六月カラ十二月マデ其私立會社ノ時ニ當ッ
テ收益一万六千法ノモノガ鐵道國有トナッテ一万七千法、卽チ一千万法ト云フモノ
ガ半期ニ增シタト云フ實證ヲ確メタノデアル、斯ウ致シテ見タナラバ縱ンバ旣往ノ內
闇中ニ適所ニ適材ヲ用井ナカッタ弊ガアリトシテ見タトコロガ、此大膽ニシテ思慮アル新
內閣ガ而カモ自己ノ名譽ニ訴へテ提出シタ、其鐵道國有ガ、前途經營ガ出來ナイト
云フコトニ成ッテハ諸君區々タル五千哩ノ鐵道、亞米利加ニ於テハ「ハリマン」一人ガ二
万哩ヲ支配シテ居ル其五千哩ニ至ッテ前途ノ經營ムヅカシイデアラウト憂フルガ如キ
御議論ハ、畢竟內閣ニ對スル攻擊ニアラズシテ、寧ロ此天才湧クガ如キ事務的材幹アル
トコロノ御同樣ノ國民ヲ侮辱スルモノデハゴザイマスマイカ(拍手スルモノアリ)故ニ本員ハ
反對黨諸君ニ向ッテハ、暫ク現內閣ガ多數ヲ有スル間、之ニ信任シ暫ラク其技倆ヲシ
テ可ナリト云フコトヲ忠言致シタイノデアル諸君論ジテ玆ニ至リマスレバ、最早反對黨
ノ論據ト云フモノハ開城ヨリ外ナカラウト思フ、(拍手起ル)去リナガラ本員ハ尙茲ニ本
案贊成ノ理由ヲ一層明白ニセンガタメニ今一言附加ヘルトコロノ必要ガアル、諸君、
軍事上鐵道國有ノ非要デアルト云フコトニ關シテ、陸軍大臣ハ頗ル追窮セラレタノデアル、
殊ニ島田君ノ如キハ、之ニ向ッテ唯今モ非難ヲ加ヘラレマシタケレドモ、此陸軍大臣ハ受働的
見地カラシテ、此鐵道國有ノ必要ヲ說イタカラ、反對ヲ受ケタノデアル、本員ハ區々タル
專門技術ノ末ニ拘ハラズシテ、積極的卽チ攻擊的ノ軍事行動ヨリシテ、此鐵道國有ノ
必要ヲ一言シテ見タイト思フ(「謹聽又簡單」ト呼フモノアリ)諸君、全國三十何
箇所ニ分レテ居ル鐵道會社ノ「レール」ニ汽罐ニ、運轉車ニ、貨車其他、各材料ノ
不一致ナルコトモ明白デアル、其結果ハドウデアルカ、官設線ノ輸送力ト、私設鐵道ノ
輸送力トハ、全ク統一シナイノデアル、此結果日露戰爭ニ實際及ンダトコロノ其證據
ヲ諸君ニ申上ゲテ、成程鐵道ハ國有ニナサヾルベカラザルト云フコトヲ、軍事上私ハ立
證シテ見ヤウト思フ、諸君、東海道線ハ一日二十列車ノ運送力ガアル、然ルニ、此官
設線ハ二十列車ヲ輸送シ得ルニモ拘ハラズ、神戶以南ノ私線ハ、之ニ伴ナハザル結果
已ムヲ得ズ戰時ニ於テハ、十四列車ヲ以テ極端ト致シタノデアル卽チ一日六列車ノ差
別ト云フモノハ兵士ニ於テ見ルト約五千人、馬ニシテ見ルト五百何頭ト云フモノヽ停
滯ヲ致スト云フコトハ、論ヨリ證據戰機ノ熟スルマデ、空シク海岸ニ何日トナク兵士ヲ
停滯サセテ、第八師團ノ如キハ大阪ニ止マルコト二箇月以上ニ及ンダコトハ、諸君ノ御
承知ノコトデアル、斯カル實例ハ則チ官設鐵道ノ輸送カト、私設鐵道ノ輸送力ノ不
平均ナル結果デアルト云フコトハ寧ロ消極的證據デアル更ニ積極的證據ニ至ッテハ)
重大ナル事實ガアル、忘レモセヌ、奧大將ノ第二師團ハ、諸君、如何ナル苦心經營ノ
下ニ於テ此輪送ヲ實行致シマシタカ、當時一方ニ於テハ旅順、他方ニ於テハ「クロバ
トキン」ノ中軍ニ喰入ガハタメニ、奧大將ハ一瞬間ヲモ爭フ程ノ急速力ヲ以テ、亞細亞大
陸ニ上陸ヲシナケレバナラヌ、然ルニ輸送力ノ不統一ノ結果ハ、ドウデゴザイマセウ已ム
ナク先發隊ノ多クノ者ハ、鎭南浦附近ニ於テ、十四日間後發隊ヲ船中ニ於テ待タナケ
レバナラヌ、然ルニ普通ナラバ四日ハ減縮サレタノデアル、諸君、此四日間ハ方ニ是
國家興亡ノ其四日間、若シモ露國ガ數理的ノ頭腦ヲ以テ日本ノ輸送力ヲ計算サレタナ
ラバ此名譽アルトコロノ奧師團ナルモノヽ、貔子窩ニ於ケル結果ハ、如何ナル有樣ニ陷ッ
タデゴザイマセウカ、本員ハ今尙之ヲ憶フモ、其肌ノ慄然トシテ寒サヲ感ズルニ堪ヘナイ
ノデアル(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)是ノミナラズ、今日輸送シテ居ルトコロノ軍隊ハ、五箇
月ヲ要シナケレバ、此六十万ハ內地ニ歸レナイノデアルナゼ五箇月ヲ要スルカト云フニ、
大連マデ到ルトコロノ東〓鐵道ノ輸送力ト、大連カラ內地ニ至ルトコロノ海上ノ輸送
力ハ平均スル、併シ內地ニ至ルト、瓢簞ノ口ノ如ク段々トツボマッテ來ルガタメニ、四箇
月ノモノガ五箇月ニナル諸君、一箇月ノ經費ハ幾ラカト云ヘバ、八千万圓掛ルノデア
ル、斯ウ云フ明白ナル事實ヲ見來ッタナラバ豈啻受動的軍事行動ノミナランヤ、攻擊
的軍事行動ノ必要上、鐵道國有ト云フモノハ卽チ經濟ノ上、財政ノ上ニ伴ッテ、軍
事上又大必要デアルト云フコトハ明確デアルト思フ終リニ臨ンデ、以上立論スルガ如
ク、本案ハ財政上、經濟上、軍事上、是非共通過ヲ希望スルト共ニ、本員ハ此機會ヲ
利用シ前外務大臣加藤氏ガ、本員等ト不幸意見ヲ異ニシテ、其意見ハ免ニ角、玆
斷然勇退セラレタト云フコトハ、流石カニ諸君ノ贊成スルトコロノ立憲內閣ニ於テ、大
臣補弼ノ責任ヲ完ウシタモノト、本員玆ニ感謝ヲ表スルト共ニ、此有力ナル一外務大臣
ヲ失フテモ、尙且斷々乎トシテ本案ヲ提出シタルトコロノ當內閣、就中西園寺總理大
臣ニ向ッテ無限ノ同情ト尊敬トヲ表スルノデアル、(拍手起ル)諸君曩ニ減債基金ノ
時ニ於テ、反對黨ノ諸君ハ何ト言ハレタノデアル、減債基金ヲ致シタトコロガ、日本ノ信
用決シテ增加シナイト言ハレタ、其悲觀的想像ハ如何ニナッテ來タカ、一月二十七日減
債基金法ノ提出ノ時以來、世界ノ金融市場ハ「モロッコ」事件及露西亞ガ五億ノ新
公債ヲ募ッタ、此影響アルニ拘ハラズ、日本ノ公債ハ、諸君ノ大多數ヲ以テ通過シテ呉
レタタメニ、其市價ヲ維持シ來タッタノデアル、又此軍事、經濟、財政ノタメニ必要ナル
鐵道國有法案ガ、議會ニ提出サレタ、此三月三日以來ノ相場ヲ見ルト、是モ亦順潮
デアル順潮ヲ得タノミナラズ、段々此案ノ通過ガ明カニナルニ從ッテ、日本ノ公債ト云フ
モノハ騰貴シタノデアル、三月三日八十九磅八分ノ一ノ四分利付ノモノハ一昨日、
九十磅四分ノ三ニナッテ、六分利付ノ百三磅四分ノ三ノモノハ、百四磅八分ノ一
ニ騰貴シタノデアル其他順潮ナル市場ノ形勢ヲ見ルニ付ケテモ、反對黨ノ諸君ハ宜シ
ク御安心下サッテ可ナリト本員ハ思フノデアル(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ)當時島田君
ノ如キハ本員ノミナラズ、諸君ヲ以テ猿智慧ト云ハレタケレドモ、此猿智慧ノ結果ハ
今果シテ如何、島田君ハ名譽ヲ重ンズル紳士トシテ、本員ハ尊敬スルト共ニ、此猿智
慧ト呼ンダトコロノ結果ヲ見タナラバ、今日ハ島田君ト雖トモ殊ニ先刻我親友竹越
君ヲ罵倒シ、虛飾誇大ノ言ヲ弄シタト云ムトハ島田三郞君自ラガ虛飾誇大ノ言ヲ弄
シタ適證デアル諸君智者ハ坐ナガラニシテ天下ヲ知ル若モ島田君智者デアッタナラ
バ、此智識ハ不幸ニシテ此際ニ於テハ每日新聞樓上內以外ニハ走ラナカッタト云フコ
トニ付イテ、本員ハ玆ニ謹ンデ本日此席ニ於テ、先日受ケタトコロノ猿智慧ト云フ言葉
ニ付イテハ、熨斗付ノマヽ之ヲ島田先輩ニ返呈致ス(笑聲起リ拍手起ル)ト共ニ終リデ
ナイ、最後ニ於テ賢明ナル諸君ニ向ッテ、訴ヘタイコトハ今ヤ我國ハ日露戰爭ノタメ地
理上ニ於テハ亞細亞大陸ニ跨リ、歷史的ニ於テハ既ニ歐洲ノ一强國ト提携致シタ
日本バ實ニ世界ノ日本デアル、此世界ノ日本ヲ經營スルニ於テ、彼ノ村夫子的ノ議
論ヲ以テドウシテ諸君此經濟的難關ガ切拔ケラレマセウカ、希クハ諸君ハ曩ノ減債基
金法ニ向ッテ大多數ヲ以テ通過シテ呉レタ如ク、更ニ此鐵道國有法案ニ向ッテモ、又大
多數ノ通過ガ出來タナラバ吾〓ハ此名譽アル第二十二議會ノ最後ノ頁ニ於テ、所謂
錦上花ヲ添ヘルト云フ、卽チ國民ノ奉公心ハ此以上ニナイト云フコトヲ本員ハ確信ス
ルト共ニ、不幸萬一此事ガ否決セラルヽガ如キコトガアッタナラバ九仞ノ功ヲ一簣ニ闕ク
ト思フカラ、希クハ一人モ多ク反對黨諸君ニ於テ、此案ニ御贊成アランコトヲ切望致ス
次第デアリマス(拍手起ル)
(「討論終結」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=48
-
049・長谷場純孝
○長谷場純孝君 討論終結ノ動議ヲ、提出致シマス、最早議モ熟シタト考ヘマス、今
ノ此案ヲ通過シマシタ以上ハ直チニ京釜鐵道買收法案ヲ是非今日中ニ議了致シタ
イト思ヒマスカラ、此案ノ討論終結ノ動議ヲ提出致シマス
〔「贊成々々」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=49
-
050・杉田定一
○議長(杉田定一君) 討論終結ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=50
-
051・杉田定一
○議長(杉田定一君) 討論終結ニ定規ノ贊成アリト認メマス、討論ハ終結致シマシ
ク、採決ノ方法ニ依リマシテ、長谷場純字君外數名ヨリ定規ノ贊成ヲ以テ記名投票
ヲ要求ノ書面ガ出テ居リマス、因テ衆議院規則第八十七條ニ依リマシテ、記名投票ヲ
以テ採決ヲ致シマス
〔「贊成々々」「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=51
-
052・杉田定一
○議長(杉田定一君) 尙申上ゲマスガ、二讀會ヲ開クベシト云フ御方ハ、白イ札ヲ
御持參ニナルヤウニ願ヒマス、又二讀會ヲ開クベカラズト云フ御方ハ靑キ。ルヲ御持參ニt
ナルヤウニ願ヒマス閉鎖
〔書記氏名ヲ〓呼ス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=52
-
053・杉田定一
○議長(杉田定一君) 投票漏ハアリマセヌカ--投票漏ハナイト認メマス-開
鎖-開匣
〔書記官投票ノ數ヲ計算ス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=53
-
054・杉田定一
○議長(杉田定一君) 投票ノ結果ヲ書記官長ヨリ報告致サセマス
〔林田書記官長朗讀〕
出席總員三百五十二
可トスル者二百四十三
否トスル者百九
〔拍手起ル〕
〔參照〕
〔本案ノ第二讀會ヲ開クヘシトスル者〕
竹越與三郞君粕谷義三君植場安山森
中林友信君工藤善助君改野作耕郞藏三平藤新水君君君君
四時森久保君君君君君江原素六
內長磯山 公 司谷場啓友治原
太次三純郎郞郎雄君君君君君藤松木隆慶好評配信
島栗山毛奧宮橫津塚崎里野古井保市虎次郞君勝大盛典
田井島柳吾君
省良惟章貞
吾君新 師 郎君君君
山和北京市公安局西城分局一君良知野川井野太ト山遠多大栗岩森池新福靑管肇
孫刀剣乱舞』本フランスへ繁鈴森阿西村天立大上山佐恆鈴藤雲三平君君
滿(原宿久亮
立體育小學生物科學生活佛國學院繁三郞君島野常右大本書き書き本山田野原元
藤良君本君專作
浦五次兵育木 部村僅330幸正
輝武君茂生君
樂藏次郎衞吉君君君君君金作君藤三郞君
批評時一
本野藤嘉芳珪中村北村左吉君小
三浦藝術界松田吉三郞君麥田
賀岡
野
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植
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板 路南水投 秘安朗読書店矢富山寺三 石田兩人大分古辣公 務印度石油松 米片山井上久久米澤 印用淨額長崎 政一吉原根石前海棒上街市面有本木 大阪市
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書籍書法書法書法書法 法務省理法瀨田村千代
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藤山市藤林永井島
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善三
君正君君君
助九百太山六六
內君作太郞君辻林橫近
松本大吉君
川眞田德三郞君
橋本久太郞君岩本
〔本案ノ第二讀會ヲ開クヘカラストスル者〕
吉君高橋金治君川島
弼君井上精一郞君
藏君山口達太郞君大熊
晴登君遊田
數郞助理器
歩シ
愛藏君
引き継ぎ
病 80弘郎君君
坂
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卿哲太四木谷
直
山
小淺臼宮神石丸坂元內植長宮牧山
茂龍壽傳介郎三雄郞郞輔彥介七彰平郎郎夫治君君君君君君君君君君君君君君君君
田戶原禰山輪
復三
重省三
宜山
原宣
藤信之之太
友郞房丞君君君
谷傳四
淵 龍太郎君
五郞君
赳
里
太
茂秀長善 新 書 籍 船 員 會
次
幸寧時宇
倉
谷榮
東京都港区銀行
有
晴
瀧藏君松原
波多野傳三郞君角田
三之助君
藤
井
藤
元
前
井
野
田
部畑堀
藤繩島
田
見
伊藤傳右衞門
小
中西光三郞
野
小部元
田
井嵯
部
田羽
摠
治
上
小
四
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倉
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正
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順
三
純
松
才久
郎
茂九郞
太郎
兵
介
太郞
十
九郞君
眞平君
元
馬郞藏彥次衞藏靖夫襄三信郎俊肇一
津村惟昌武一郞君君福松井本長平君守屋此助君
東 ピ君君君龜郞三郞君久米保田謙三君
津石正己良貞君與四郞君
淳- )は、加西神木石竹村入仁太郞君指揮獎勵 原因有效率的佐藤伊助君
善次半兵衞君麿君齋藤宇郞君
尾水野隆藏郞德郞君君君君東郞藏實君乾奈良吉君
肥佐鈴坂星東〓關大大根田平太井手武右衞
野仙平太郞君雄門
口久仁次一郞西關須武尾山見富形時藤三陸重
藤木郞君君君君藤次松夫郎三
庫浦丹春千歸部落書館 長野山營養建築物語君
塚龍喜·下野駅治藤上澤 寺山 藤澤寺敬和
地.雄太郞君井〓合齋野藤關田鳩星首管
田卓爾君口源一田養谷村製作直
左一衞門君君君君君君君君君君君君君君君君君君君上澤平君
田文行君來連太太勘嘉七君
國菊市北安犬鞍兵具特別推薦
田耕治郞君上池田畠田福太郞君
菊關濱加岡荒澤小金森靑桂吉君門野次藏要郎江角千代次郞君
池口田瀨本谷田田又田瀨本谷金太郞君野口林井左熊仲重谷亨君陽吉君
禧逸君輪信次郞君勝
國松君島堀富三島暢夫君花早藤高淺井速崎橋野藏爾之七君君君君
口東京府町田谷左治郞君卓整朋
武佛教雄郵便局田三郞君
鈴置倉次郞君鵜飼石田貫之助君米田武八郞君
濱口擔君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=54
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055・杉田定一
○議長(杉田定一君) 是ニテ本案ハ二讀會ヲ開クベシト云フコトニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=55
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056・長谷場純孝
○長谷場純孝君 本案ハ直チニ二讀會ヲ開カレ、且逐條審議ヲ省イテ議案ノ全部ヲ
議題ニサレ尙進ンデ三讀會ヲ省略シ一一讀會ニ於テ確定サレンコトノ動議ヲ提出致シ
マス
〔「贊成々々」ノ聲起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=56
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057・杉田定一
○議長(杉田定一君) 長谷場君發議ノ通、直チニ一一讀會ヲ開キ、三讀會ヲ省略シ
テ確定スルコトニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ノ聲起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=57
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058・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ガナイト認メマス直チニ二讀會ヲ開キマス
國有鐵道法案確定議
〔「原案贊成異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=58
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059・杉田定一
○議長(杉田定一君) 採決致シマス、本案ニ付イテハ別段御異議ガアリマセヌカラ、
逐條審議ニ涉ラズ、全部ヲ一括シテ採決致シマス、委員長報告通原案ニ贊成ノ御方
ノ起立ヲ願ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=59
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060・杉田定一
○議長(杉田定一君) 大多數ト認メマス、原案ニ可決セラレマシタ、是ニテ本案ハ確
定ヲ致シマス、日程第八、京釜鐵道買收法案第一讀會ノ續
第八京釜鐵道買收法案(政府提出)第一讀會ノ續発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=60
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061・長谷場純孝
○長谷場純孝君 此京釜鐵道買收法案ハ、先刻委員長トシテ御報告申シマシタ通、
特別委員會ニ於テハ四十五名中、一人ノ異議者ナク一字ノ修正ナク、政府提出ノ案
ニ贊成ヲ表シタノデゴザイマス、故ニ直チニ二讀會ヲ開キ、續イテ三讀會ヲ省略シテ、政
府原案ノ通リ可決セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成々々」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=61
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062・杉田定一
○議長(杉田定一君) 本案ニ付イテ二讀會ヲ開クニ付イテ、御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=62
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063・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ハナイト認メマス、長谷場君發議ノ通、直チニ二讀會
ヲ開キ三讀會ヲ省略シテ確定スルコトニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=63
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064・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ハナイト認メマス、全部ヲ議題ニ供シマス
京釜鐵道買收法案確定議
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=64
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065・杉田定一
○議長(杉田定一君) 委員長報告通り原案ニ付イテ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=65
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066・杉田定一
○議長(杉田定一君) 御異議ハナイト認メマス、本案ハ是ニテ確定ヲ致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=66
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067・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本日ハ是ニテ散會ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=67
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068・杉田定一
○議長(杉田定一君) マダ議題ガ殘ッテ居リマスガ、今日ハ是ニテ散會致シマス、尙報
告スルコトガアリマス
〔書記朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
明治三十八年法律第十七號中改正法律案
(第二號)明治三十九年度歲入歳出總豫算追加案
(特第一號)明治三十九年度特別會計歲入歲出豫算追加案
(追第二號)豫算外國庫ノ負擔ト爲ルヘキ契約ヲナスヲ要スル件
一委員ヲ指名スル左ノ如シ
官國幣社經費ニ關スル法律案
築山和一君遠山正和君本正
大津淳一郞君小田文行君小松根本長一平君君君
持田若佐君井上與一郞君田貫
森本澤田佐助君松天野藤三君
春節 解傳右衞門影山甚右衞門君本君平君
茂七生武富時敏君
市田兵大臣は一甲車項 單價野上代表一千創業第一
小熊本 大阪剛吉君
早速林仲次君永見寛二君
大沼所左衛門
橫井時雄君田宰三郞君鳥山敬二郞君
木暮武太夫君壽
松本孫右衞門君消費劑止劑 請求書丹万若者
大石熊吉君桂吉君瑞格大全海電視 2017.0.20君君君君君 君は
福留〓四郞君時善君德
小川平吉君神藤才一君晴発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=68
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069・杉田定一
○議長(杉田定一君) 明日ノ日程ヲ朗讀致サセマス
〔書記朗讀〕
議事日程第十六號明治三十九年三月十七日(土曜日)
午後一時開議
第農工銀行補助法中改正法律案(政府提出)第一讀會
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉
韓國ニ於ケル裁判事務ニ關スル法律案委員長
第三政府提出貴第一讀會ノ續(報〓
族院送付
內國官憲ノ管掌ニ屬スル事項ニ付統監
第四ノ職權ニ關スル法律案(政府提出黃第一讀會ノ續(報告調查金庫
族院送付
第五醬油稅則中改正法律案(政府提出)第一讀會ノ續委員長
報〓
第六軍人思給法中改正法律案(政府提出)第一讀會ノ續報〓小金
第七郡制廢止法律案(政府提出)第一讀會ノ續委員長
報〓
第八市制改正法律案(政府提出)第一讀會ノ續委員長
報〓
第九町村制改正法律案(政府提出)第一讀會ノ續委員長
報〓
第十郡制廢止法律案(尾見濱五郞君)第一讀會ノ續委員長
外二名提出報〓\
債務者ニ代位スル債權者ノ登記申請電話番号の一
第十一高橋安爾君第一讀會ノ續/報〓
ニ關スル法律案(外二名提出)
裁判所管轄區域變更ニ關スル法律案(委員長)
第十二所 後藤總計60分第一讀會ノ續報報
第十三民事訴訟法中改正法律案森田卓爾君第一讀會ノ續(電話本局二四)
外三名提出報〓
第十四齒科醫師法案靑柳信五郞君第一讀會
外一名提出
第十五衆議院議員選舉法中改正法律案(森本駿君外第一讀會
一名提出
第十六衆議院議員選舉法中改正法律案(波多野傳三郞)第一讀會
君外一名提出
第十七衆議院議員選舉法中改正法律案(外九名艦船)高橋安爾君第一讀會
第十八屠場法案川島瀧藏君)第一讀會
外一名提出望月長夫君
第十九監視廢止ニ關スル法律案外六名提出第一讀會
第二十四幹線鐵道敷設ニ關スル建議案依竹作太郞君外)(委員長報告)
三十八名提出
第二十一精神病學科設置ニ關スル建議案(山根正次君)(委員長報告)
外一名提出
日本體育會國庫補助ニ關スル建議案(五人次山根
第二十二君外二(委員長報告)
第二十三航海補助ニ關スル建議案近江谷榮次君)(委員長報告)
外一名提出
市町村立小學校〓員條給國庫補助ニ關スル建議集
第二十四(根本正君外
五名提出
第二十五高等水產學校設立ニ關スル建議案(川原茂輔君提出)
外四名
第二十六羽越鐵道速成ニ關スル建議案(瀨下秀夫君
外三名提出発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=69
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070・杉田定一
○議長(杉田定一君) 本日ハ是ニテ散會致シマス
午後六時五十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002213242X01619060316&spkNum=70
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