1. 会議録本文
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000・会議録情報
會議
明治四十二年三月三日午前十時四十分開議
出席委員左の如し
長晴登君 松野祐次郎君 山根正次君
森田俊左久君 東條良平君 八木逸郎君
高原篤行君
出席政府委員左の如し
内務次官法學博士 一木喜徳郎君 内務省衞生局長 窪田靜太郎君
委員長の許可を得て出席したる者左の如し
内務技師 野田忠廣君
本日の會議に上りたる議案左の如し
種痘法案
○委員長(長晴登君)は開會を宣告す
○政府委員(窪田靜太郎君)は本案の大體につき説明をなすへき旨を告げて曰く現行法改正の要點は第一兒童の種痘を爲すへき年齡を一定するの要あり即ち現行法に滿一年以内とあるを出生より翌年六月に至るとなし五年乃至七年とあるを數へ年十歳となしたり是れ從來各人によりて種痘時期を異にし之れが調査に際し現行法によれば生年月日時迄も計算するの要ありて取扱上多大の煩累を來し爲めに事務處辨の敏活を缺くの恐れあるを以て數へ年法を用ゐ努めて取扱に簡便敏活を期したり又種痘は普通二度にて稍稍免疫するも痘病流行の際は感染力強烈なるを以て臨時施行によりて之れが防遏を期せんが爲め第十七條に之れが規定を設けたり而して平常は本案第一條所定の通り種痘定期を二期となし之れが励行によりて以て流行を防ぎ免疫の目的を達するものと信す尚ほ種痘感應の良否は又種痘術の巧拙に關するものあるを以て之れが講習の方法を設けて良好の結果を得たしと思考すと述べたり
○東條良平君は本案につきては別に細則樣のものありやと質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は細則とてはなきも種痘心得なるものありと答へ更に第二の改正の要點は兒童種痘の義務者を明了にし責任を有せしめて種痘の普及励行を期するに在り是れ本案第二條第三條第二十二條に規定し保護者の責任を明かにし更に保護者をして其義務を履行せしむべき責任者をも明示したり第三には從來市町村が種痘の責に任じ居れども是れ便宜上此に至りたるものにして當然と云ふべきものにあらざるが故に將來は法律の明文を以て市町村をして當然其責に任せしめ以て種痘の普及勵行を期せんと欲す是れ本案第五條を規定したる所以なり第四には種痘の濟否を證明する方法を確實明白ならしむるを要するに在り從來は種痘證なるものを交付したるも動もすれば紛失輕視せられ後日の取調に不尠不便を招くを以て之を排し世人の尤も貴重となせる戸籍簿及學校の卒業證に簡明なる記載方によりて濟否を明了ならしむるを以て最も適當なる方法なりと信ず是れ本案第八條第十二條第十五條を設けたる所以なり尚ほ臨時種痘の場合は地方長官をして本法に準じて施行の責に當らしめたり要するに痘疫の人身に及ぼす災禍は甚だ恐るべきものあるを以て之れが流行を嚴密に防遏するの必要あるが爲め法律の力を以て之れが勵行を期せんとするに在りと述べたり
○東條良平君は下宿屋の其の宿泊者に對する關係は本案第三條に含有せりやと質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は下宿屋の其宿泊人に對しては唯だ食事を供し居室を貸すのみに過ぎず教育監護等の身分上の關係なきものなるが故に本案第三條には包含せずと答へたり
○東條良平君は本案第六條第九條の場合に於て種痘定期者の人名調査の方法如何を質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は戸籍簿により之を調べ戸口調査等の方法により勸誘せしむるに在りと答へたり
○東條良平君は第九條の直に種痘を行ふべしとの意味如何を質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は本法の明文に基き市町村醫をして直接強制的に行はしむるの意なりと答へたり
○東條良平君は參考の爲めなりとて全國の第一期二期の種痘者の數竝に其の前三年間の平均數及之れに交付したる痘苗の官製民製兩者の數如何又た痘苗は何傳迄繼續するや及ひ官民兩者製造法の異同如何と質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は種痘者の數を知ることは數へ年十歳のものの統計なきが爲め之を知ること容易ならず痘苗配付數は官製は明らかなるも私製は不明なりと答へたり
○東條良平君は本案立法提出の趣旨を貫徹せんが爲め他日無償配付の場合なしとせざるが故に前三年間の配苗の數を知ることは必要なりと信ず政府の所見如何と質問せり
○内務技師(野田忠廣君)は政府出生數の統計に基き第一期種痘數を千人につき三十人第二期種痘を千人につき二十人とし定期を二十分の一と概算せり又た三十七年の統計によれば出生數百四十四万三百七十一人なりと述べたり
○東條良平君は傳染病研究所及私立痘苗製造所より配付したる痘苗の數如何を質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は研究所より四十年度四百五十八万二千二百九十四具卅九年度八十七万九千五百四十八具卅八年度百八万九千九百十九具なり而して斯の如く各年度間に大差あるは四十年の末より四十一年に掛けて該疫流行したるが爲めなり又私立製造所より配付したるは凡そ八十万乃至二百二十万具の間にあらんと信ずと答へたり
○内務技師(野田忠廣君)は痘苗の傳數は傳染病研究所の分は二百傳にして私立製造所の分は三傳なりと述べたり
○東條良平君は私立製造所に兩傳比較研究を命するの良否如何と質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は傳染病研究所にては兩者比較を爲し居ると答へたり
○東條良平君は私製痘苗と官製痘苗と感應の差如何と質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は兩者感染の程度は同一ならんと答へたり
○東條良平君は政府は既に本案の如く法律の力を以て強制的に種痘を勵行せんと欲せば其趣旨を貫徹せんが爲めに痘苗を無償配付するの考なきやと質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は無償配付の考なきにあらざれとも傳染病研究所費十八万圓に對し無償配付によりて生ずる二万圓の收入減缺につき大藏省にて之を輕視せざるべし加之臨時種痘の場合の如きは其配付額又臣額に上ることなしとせず四十年度の如きは賣下高十二万圓に上りたり之を無償とすれば十万圓位になるべし之れ考慮を要する點なりと答へたり
○東條良平君は大藏省にて同意せば内務省は無償配付の道に出づるやと質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は之を無償にすれば其の配付額を定むるに際し其濫費を防ぐが爲め郡役所等の機關を經由して標準高を調査するの必要を生じ爲めに繁雜なる手數を招き從て本案立法提出の趣旨たる敏速勵行の目的を達するに至らざるべし現今既に市町村傳染病豫防費の五分の一は縣費より補助を與へ居るが故に更に無償となて補助をなすの要なかるべし其他無償配付に對しては幾多の弊害を招くの恐れなきやの感あり故に收入の減額と手數の煩累とよりして無償配付は目下の處必らずしも最善の法なりと云ふ能はざるべしよし又無償配付となすも之れは豫算に於て決すべき性質の問題にして之を法文の上に明示すべきものに非らざるべしと答へたり
○八木逸郎君は之れは無償配付問題決定の參考ならんとて歐洲に斯の例ありやと質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は獨逸に其の例あるも該國は市町村を以て單に種痘施行の區域となすに過ぎず我國の如く種痘の義務を負はせ居らざるが如く其の種痘制度の根本に於て兩者其趣きを異にせるが爲め彼の例を以て直ちに我れを律せんとするは不倫なるべしと答へたり
○八木逸郎君は本案第六條の種痘定期の算定に就て質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は出生後直ちに種痘するにあらず三月頃最も良好の時期なりとす又出生後翌年六月迄とは立法の趣旨漠然たるが如きも之れ一に算定の便利取扱の敏速を期せんが爲めにして從來の滿何年と算したるを數へ年の算法に改めたる亦然り又臨時種痘の範圍及施行は地方長官をして本法に準じて之れが任に當らしむるの考へなりと答へたり
○森田俊左久君は種痘施行の義務者を第二條と第五條とに規定せるは義務者示定に重複の嫌なきやと質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は第二條は直接兒童をして種痘を受けしむるの身分と義務者を示し第五條は種痘制度を實施する行政上の義務者を明らかにしたるものにして兩者義務の性質を異にせるものなれば立法上重複の嫌なしと答へたり
○松野祐次郎君は本案第一條の末文は事實に於て同條第二項のみに適用せらるるものなれば該文を第一條の末位に獨立存置せしむるは法文の體裁上其宜しきを得たるものに非らずと信ず政府の所見如何と質問せり
○政府委員(窪田靜太郎君)は或は然らんと答へたり
○山根正次君は本案は大切なるが故に次囘より速記を附して更に質問を續行するの要ありと發議せり
○委員長(長晴登君)は山根正次君發議に異議なきを認め更に囘を重ね質問を續行する旨を告げ散會を宣告したり
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