1. 会議録本文
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000・会議録情報
明治四十五年三月十二日（火曜日）
午前十時三分開議
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議事日程 第九號 明治四十五年三月十二日
午前十時開議
第一 鐵道又は船舶と露國の鐵道又は船舶との貨物の聯絡運送に關する法律案（政府提出） 第一讀會
第二 陸軍作業會計法中改正法律案（政府提出、衆議院送付） 第一讀會
第三 産牛馬組合法改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
第四 水道條例中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
第五 關税定率法輸入税表中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
第六 水利組合法中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
第七 群馬縣下郡界變更に關する法律案（衆議院提出） 第一讀會の續（委員長報告）
第八 海外貿易振興に關する建議案（前田正名君發議） 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=0
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001・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 是ヨリ諸般ノ報告ヲ致シマス
〔東久世書記官朗讀〕
去ル九日本院ニ於テ否決シタル左ノ衆議院提出案ハ第二讀會ヲ開カサルコ
トヲ議決シタル旨ヲ衆議院ニ通知セリ
未成年者飮酒取締ニ關スル法律案
同日本院ニ於テ採擇スヘキモノト議決シタル岩木川改修工事速成ノ請願外
三十一件ノ請願ハ各意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ送付セリ
同日政府ヨリ左ノ法律案ヲ提出セリ
鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運送ニ關スル法律案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
陸軍作業會計法中改正法律案
同日衆議院ヨリ左ノ法律案ヲ提出セリ
水利組合法中改正法律案
同日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
群馬縣下郡界變更ニ關スル法律案特別委員會
委員長男爵眞田幸世君副委員長子爵土御門晴榮君
水先法中改正法律案特別委員會
委員長伯爵吉井幸藏君副委員長子爵本多忠鋒君
同日特別委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
群馬縣下郡界變更ニ關スル法律案否決報告書
昨十一日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
衆議院議員選擧法中改正法律案特別委員會
委員長子爵三島彌太郎君副委員長男爵有地品之允君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=1
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002・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、第一、鐵道又ハ
船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡連送ニ關スル法律案、政府提出、
第一讀會
〔河井書記官朗讀〕
鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運送ニ關スル法律案
右
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
明治四十五年三月九日
内閣總理大臣侯爵西園寺公望
遞信大臣伯爵林董
司法大臣松田正久
外務大臣子爵内田康哉
〔左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運送ニ關スル法
律案
第一條鐵道又ハ船舶カ主務大臣ノ認可ヲ得タル契約ニ依リ露國ノ鐵道又
ハ船舶ト物品ノ聯絡運送ヲ爲ス場合ニ於テハ本法ニ依ル
第二條鐵道營業法第五條乃至第九條ノ規定ハ船舶ニ之ヲ準用ス但シ運送
品ノ發送ハ運送申込ノ順序ニ依リテ之ヲ爲スヘシ
第三條運送契約ハ鐵道又ハ船舶カ運送ヲ爲スコトヲ約シ荷送人ヨリ運送
品及連送狀ヲ受取ルニ因リテ其ノ效力ヲ生ス
鐵道又ハ船舶カ運送契約ヲ爲シタルトキハ荷送人ニ運送狀ノ副狀ヲ交付
スヘシ
運送狀及蓮送狀ノ副狀ニ記載スヘキ事項及其ノ記載ニ關シ必要ナル事項
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條運送狀、貨物引換證及船荷證劵ニ關スル商法ノ規定ハ之ヲ適用セス
第五條鐵道又ハ船舶ノ使用人ハ運送狀ノ作成ニ付テハ荷送人ノ代理人ト
爲ルコトヲ得
第六條特定ノ者ニ對シ運送賃ノ割引ヲ爲ス特約ハ之ヲ無效トス但シ總テ
ノ鐵道及船舶ノ合意ニ依ル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第七條運送品及運送狀ヲ受取リタルトキハ荷受人ハ運送狀ニ記載シタル
金額ヲ鐵道又ハ船舶ニ支拂フ義務ヲ負フ
前項ノ支拂ハ荷送人竝總テノ鐵道及船舶ニ對シテ之ヲ爲シタルモノトス
第八條鐵道又ハ船舶ハ運送品ヲ受取リタル旨ヲ記載シタル運送狀ノ副狀
及運送狀ニ記載シタル金額ト引換ニ非サレハ運送品ヲ荷受人ニ引渡スコ
トヲ要セス但シ運送狀ノ副狀ヲ紛失シタル場合ニ於テ鐵道又ハ船舶ノ定
ムル規程ニ依リ荷受人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタルトキハ此ノ限ニ在ラ
ス
第九條運送品引渡ニ關スル手續ニ付テハ鐵道又ハ船舶ノ定ムル規程ニ依
ル
第十條運送品ノ全部若ハ一部ノ滅失又ハ毀損ニ關シテハ鐵道又ハ船舶ハ
直ニ運送品ノ狀態竝損害ノ原因、額及發生時期ヲ證スル書面ヲ作成スヘ
シ運送契約ニ基キ運送品ニ付權利ヲ有スル者カ運送品ノ全部若ハ一部ノ
滅失又ハ毀損アルコトヲ主張スルトキ亦同シ
前項ノ書面ニ記載シタル事項ハ請求ニ因リ利害關係人ニ之ヲ通知スヘシ
第十一條荷受人ハ損害ノ調査ノ完了スル迄運送品ノ受取ヲ拒ムコトヲ得
第十二條運送狀ニ揭ケタル物品中不足アルトキハ荷受人ハ運送品受取ノ
際鐵道又ハ船舶ニ對シ之ヲ證スル書面ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第十三條鐵道又ハ船舶ノ責任ハ荷受人カ運送品ヲ受取リ且運送賃其ノ他
ノ費用ヲ支拂ヒタルトキハ消滅ス但シ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ハ此
ノ限ニ在ラス
-荷受人カ鐵道又ハ船舶ノ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リテ損害ノ生シ
タルコトヲ證明シタルトキ
二荷受人カ運送品ヲ受取リタル日ヨリ十四日內ニ第十六條第二項ノ鐵
道又ハ船舶ノ一ニ對シ延著ニ關スル損害賠償ノ請求ヲ爲シタルトキ
三荷受人カ第十條第一項ノ規定ニ依リテ證明セラレタル運送品ノ一部
滅失又ハ毀損ニ付損害賠償ノ請求ヲ爲シタルトキ
四鐵道又ハ船舶カ第十條第一項ノ規定ニ依リ爲スヘキ調査ヲ其ノ過失
ニ因リ爲ササリシ運送品ノ一部滅失又ハ毀損ニ付荷受人カ損害賠償
ノ請求ヲ爲シタルトキ
五荷受人カ直ニ發見スルコト能ハサル運送品ノ一部滅失又ハ毀損ニ付
損害賠償ノ請求ヲ爲シタルトキ但シ運送品ヲ受取リタル日ヨリ十四
日內ニ鐵道又ハ船舶ニ對シ一部滅失又ハ毀損ノ通知ヲ發シタルトキ
5枚入
前項ノ請求ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第十四條運送品カ到達驛又ハ到達港ニ達シタル後稅關又ハ保稅倉庫ニ之
ヲ引渡シタルトキハ其ノ後ニ生シタル運送品ノ滅失又ハ毀損ニ因ル損害
ニ付テハ鐵道又ハ船舶ハ其ノ責ニ任セス荷送人トノ間ニ於ケル契約ノ定
ムル所ニ依リ私設倉庫ニ引渡シタルトキ亦同シ
第十五條惡意又ハ重大ナル過失ニ因ラサル運送品ノ滅失、毀損又ハ延著
ニ付テハ鐵道又ハ船舶ハ其ノ責任ニ關シ特約ヲ爲スコトヲ得
前項ノ特約ハ荷受人ニ對シ及荷受人ノ爲ニ其ノ效力ヲ生ス
第十六條運送契約ヲ爲シタル鐵道又ハ船舶竝運送狀ト共ニ運送品ノ引繼
ヲ受ケタル鐵道及船舶ハ運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ付連帶シテ損害
賠償ノ責ニ任ス
前項ノ損害賠償ノ請求ノ訴ハ運送契約ヲ爲シタル鐵道若ハ船舶、最後ニ
運送狀ト共ニ運送品ノ引繼ヲ受ケタル鐵道若ハ船舶又ハ損害ヲ生セシメ
タル鐵道若ハ船舶ノ一ニ對シテノミ之ヲ提起スルコトヲ得
第一項ノ損害賠償ノ請求ハ本訴カ同一ノ運送契約ニ基ク場合ニ於テハ反
訴又ハ相殺ノ抗辯ニ依リ前項以外ノ鐵道又ハ船舶ニ對シ之ヲ主張スルコ
トヲ得
第十七條引渡期間滿了後三十日內ニ運送品ノ引渡ナキトキハ運送品ハ滅
失シタルモノト推定ス
第十八條鐵道又ハ船舶カ運送狀ノ副狀ノ呈示ヲ荷送人ニ請求セスシテ其
ノ指圖ニ從ヒタルトキハ鐵道又ハ船舶ハ運送狀ノ副狀ヲ所持スル荷受人
ニ對シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第十九條滅失シタル運送品ニ對スル賠償金ヲ受取リタル者其ノ受取證書
中ニ運送品カ引渡期間滿了後四月內ニ發見セラレタル場合ニ於テ直ニ鐵
道又ハ船舶ヨリ通知ヲ受クヘキ旨ヲ記載シタルトキハ其ノ通知ヲ受クル
權利ヲ有ス鐵道又ハ船舶ハ此ノ記載ヲ證スル書面ヲ交付スヘシ
運送品カ發見セラレタルトキハ前項ノ權利者ハ賠償金ヲ返還シテ發送驛
若ハ發送港又ハ到達驛若ハ到達港ニ於テ無償ニテ運送品ヲ引渡スヘキコ
トヲ請求スルコトヲ得但シ前項ノ通知ヲ取ケタル日ヨリ三十日ヲ經過シ
タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十條鐵道又ハ船舶ノ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リ生シタル運送品ノ
滅失、毀損又ハ延著ニ關スル損害賠償ノ請求權ハ三年ヲ經過シタルトキ
ハ時效ニ因リテ消滅ス
第二十一條損害賠償ノ請求權ノ消滅時效ハ運送品ノ一部滅失又ハ毀損ノ
場合ニ於テハ引渡ノ日ヨリ、運送品ノ全部滅失又ハ延著ノ場合ニ於テハ
引渡期間滿了ノ日ヨリ進行ス
第二十二條運送賃又ハ附帶料金ノ不足額追徵ノ請求權ハ運送賃又ハ附帶
料金ノ支拂ノ日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
割增金徵收ノ請求權ハ運送賃支拂ノ日ヨリ、支拂フヘキ運送賃ナキトキ
ハ運送契約ヲ爲シタル日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅
ス
運送賃、附帶料金又ハ割增金ノ過徵額返還ノ請求權ハ過徵額支拂ノ日ヨ
リ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第二十三條鐵道又ハ船舶ニ對スル運送賃又ハ附帶料金ノ過徵額返還ノ請
求ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
前項ノ書面ニ記載スヘキ事項及之ニ添附スヘキ書類ハ鐵道又ハ船舶ノ定
ムル規程ニ依ル
第二十四條運送賃若ハ附帶料金ノ不足額ノ追徵又ハ其ノ過徵額ノ返還ノ
請求權、割增金ノ徵收又ハ返還ノ請求權及運送品ノ滅失、毀損又ハ延著
ニ關スル損害賠償ノ請求權ニ付テハ書面ヲ以テ請求ヲ爲シタル時ヨリ時
效ノ進行ヲ停止ス
前項ノ請求ヲ受ケタル者カ書面ヲ以テ拒絕ノ旨ヲ通知シ且請求書ニ添附
シタル書類ヲ返還シタルトキハ其ノ通知及返還ノ時ヨリ殘餘期間ニ付時
效ハ進行ス再請求ヲ爲スモ時效ノ進行ヲ停止セス
第二十五條鐵道又ハ船舶ニ對スル損害賠償ノ請求權ニ付テハ民法第百四
十五條及第五百八條ノ規定ヲ適用セス
第二十六條運送契約ニ基ク裁判上ノ請求ニシテ鐵道又ハ船舶ニ對スルモ
ノハ荷送人又ハ荷受人ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第二十七條聯絡運送ニ關スル訴訟ニ付テハ民事訴訟法第八十八條第一項
ノ規定ヲ適用セス
第二十八條鐵道又ハ船舶カ他ノ鐵道又ハ船舶ヲ共同被〓トシ連絡運送ニ
基ク損害賠償ノ求償ノ訴ヲ提起シタルトキハ裁判所ハ同一ノ判決ヲ以テ
裁判ヲ爲スヘシ
第二十九條聯絡連送ニ關シテ露國裁判所ノ爲シタル判決ノ執行判決ニ付
テハ民事訴訟法第五百十五條第二項第五號ノ規定ヲ適用セス
第三十條第八條但書、第九條及第二十三條第二項ノ規程ハ主務大臣ノ認
可ヲ受ケ且之ヲ告示スヘシ
第三十一條本法ニ於テ裁判所ト稱スルハ裁判權ヲ行フ官廳ヲ謂フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅合ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=2
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003・原敬
○國務大臣(原敬君) 鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡連
送ニ關スル法律案ニ付キマシテ大體ノ說明ヲ致シマス、此案ハ法案ノ形式ハ
異ッテ居リマスケレドモ、昨年ノ議會ニ於テ當院ニ提出ニナリマシテ當院ハ
通過イタシマシタガ、衆議院ニ於テ其形式上ニ付キマシテ議論ヲ生ジ、ソレ
ガ爲ニ政府ニ於テ撤囘イタシタ法案デアリマス、當時ノ案ハ法律ニ據ッテ行政
命令ニ大體ニ於テ委任スル法案デアリマシタケレドモ、今囘ハ其現在ノ法律
ニ及ボス各關係ニ付キマシテ更ニ法律ヲ規定スルノ方針ヲ採リマシタノデア
リマス、此事柄ニ付キマシテハ日露ノ間ニ御承知ノ如ク南滿鐵道ニ依ッテ線
路ガ聯絡イタシテ居リマス、サリナガラ其旅客貨物等ノ輸送ニ付キマシテ
旅客ノ方ハ先年協議ニ依リマシテ聯絡ノ途ガ付イテ居リマス、貨物ニ關
シマシテハ旅客ノ纒マッタニ拘ラズ、其聯絡ノ協定ハ成立イタシテ居ラヌノ
デアリマス、ソレ故ニ段々關係鐵道竝ニ船舶、卽チ商船會社等ノ代表者ニ依
リマシテ、露國ノ東〓鐵道竝ニ義勇艦隊ノ代表者ト協議ヲ致シマシテ、此貨
物聯絡ノ輸送ニ關スル取極メヲ致シタノデアリマス、併ナガラ既ニ申シマシ
タ如ク此取極メヲ實行イタサセマスルニハ、兩國共ニ既定ノ法律ニ多少ノ關
係ヲ及ボスノデアリマス、故ニ我ガ政府ニ於キマシテモ此抵觸スル部分ニ關
シテ立法ノ方針ヲ採リマシテ、聯絡輸送ノ約束ヲ成立イタサシメテ、之ヲ實
行ニ便利ナルヤウニ致サナケレバナラヌ譯デアリマス、ソレ等ノ事情ヲ以チ
マシテ此法案ヲ提出イタシタ次第デアリマス、立法關係デアリマシテ詳細ノ
コトハ何レ委員會ニ於テ陳述イタスコトヽ致シマシテ、大體ニ於テ日本ノ領
土ヨリ船舶ニ依リ又汽車ニ依ッテ露國トノ間ノ貨物ノ輸送ノ聯絡ヲ完成イタ
スガ爲ニ此法律ヲ必要トスル次第デアリマス、十分御審査ノ上、御協賛ヲ請
ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=3
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004・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 別ニ御質問モ無イト認メマスカラ次ノ日程ニ移
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=4
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005・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 第二、陸軍作業會計法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會
〔河井書記官朗讀〕
陸軍作業會計法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
明治四十五年三月九日
衆議院議長大岡育造
貴族院議長公爵德川家達殿
陸軍作業會計法中改正法律案
陸軍作業會計法中左ノ通改正ス
第二條第一項中「建物」ヲ「土地建物」ニ改ム
第三條第一項中「東京及大阪砲兵工廠ハ」ノ下ニ「俸給諸給旅費廳費」ヲ加ヘ
「建物」ヲ「土地建物」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員岡市之助君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=5
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006・岡市之助
○政府委員(岡市之助君) 陸軍作業會計法中ノ改正案ヲ提出イタシマシタ理
由ノ大要ヲ申述べマス、今日マデ東京大阪ノ兩砲兵工廠ハ一種特別ノ作業會
計ヲ取ッテ居リマシタ、ソレハ職員ノ俸給、諸給、廳費、旅費等ハ軍事費ノ
補給ヲ受ケテ使用ヲシテ居リマス、土地モ一般會計ノモノヲ使用シテ居リマ
シタ千住製絨所トハ趣ガ違ッテ居リマス、今日マデノ實驗ニ依リマスル
ト、陸軍ノ作業會計ノ統一ヲ闕イテ居リマスシ、又實行上不便不利尠カラヌ
點ガゴザイマスノデ、之ヲ純然タル作業會計ニ引直シタイト云フ考デゴザイ
マス、之ガ爲ニハ特ニ費用ハ增加ハ致シマセヌ、今マデ軍事費支辨ヲ致シテ
居リマシタモノヲ兵器費ノ方ニ組替ヲ致シマスニ止リマス、此案ハ四十六年
度ヨリ實行ヲ致シタイト云フ希望ヲ有ツテ居リマスルガ、當年度ハ豫算編製
ニ關係ガゴザイマスノデ當議會ニ提出ヲ致シマシタ次第デゴザイマス、御協
贊ヲ請ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=6
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007・黒田長成
○副議長(候爵黑田長成君) 次ノ日程ニ移リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=7
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008・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 第三、產牛馬組合法改正法律案、衆議院提出、
第一讀會
〔河井書記官朗讀〕
產牛馬組合法改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治四十五年三月七日
衆議院議長大岡育造
貴族院議長公爵德川家達殿
產牛馬組合法
第一條牛又ハ馬ノ生產ニ從事スル者ハ本法ニ依リ組合ヲ設置スルコトヲ
得
組合ノ地區ハ郡市以上ノ區域ニ依リ之ヲ定ムヘシ但シ特別ノ事由アルト
キハ地方長官ノ認可ヲ得テ此ノ制限ニ依ラサルコトヲ得
第二條組合ハ牛馬ノ改良及組合員ノ共同ノ利益ヲ圖ルヲ以テ目的トス
監督官廳ハ必要ト認ムルトキハ組合ヲシテ種牛馬ノ供給、牛馬ノ系統登
錄牛馬ノ共濟保險ヲ爲サシメ又ハ糶場ヲ設ケシムルコトヲ得
第三條組合ヲ設置セムトスルトキハ其ノ地區內ニ於テ組合員タルヘキ者
ノ三分ノ二以上ノ同意ヲ得ヲ創立總會ヲ開キ定款ヲ議定シ地方長官ノ認
可ヲ受クヘシ但シ牛ノ生產ニ從事スル者及馬ノ生產ニ從事スル者相合シ
テ組合ヲ設置セムトスルトキハ各別ニ三分ノ二以上ノ同意ヲ要ス
第四條組合設置ノ地區內ニ於テ組合員ト同一ノ業ヲ營ム者ハ其ノ組合ニ
加入スヘシ
第五條組合ノ經費ハ定款ノ定ムル所ニ依リ組合員之ヲ負擔ス
組合經費徵收ノ方法ハ地方長官ノ認可ヲ受クヘシ
第六條組合ニ於テ負債ヲ起サムトスルトキハ起債ノ方法、利息ノ定率、
償還ノ方法ヲ定ノ地方長官ノ認可ヲ受クヘシ其ノ之ヲ變更セムトスルト
キ亦同シ
第七條組合ハ相互ノ氣脈ヲ通シ其ノ目的ヲ達スル爲組合聯合會ヲ設クル
コトヲ得
組合聯合會ノ經費ハ聯合各組合ノ負擔トス
第八條主務大臣ハ必要ト認ムルトキハ地方又ハ地區ヲ指定シ組合又ハ組
合聯合會ノ設置ヲ命スルコトヲ得
第九條組合及組合聯合會ノ普及發達及聯絡ヲ圖ル目的ヲ以テ主務大臣ノ
認可ヲ經テ組合中央會ヲ設クルコトヲ得
組合中央會ハ組合及組合聯合會ヲ以テ會員トシ其ノ經費ハ會員ノ負擔ト
ス但シ定款ノ定ムル所ニ依リ本項以外ノ者ト雖會員ト爲ルコトヲ得
第十條組合、組合聯合會及組合中央會ハ法人トシ營利事業ヲ爲スコトヲ
得ス
第十一條監督官廳ハ何時ニテモ組合、組合聯合會及組合中央會ノ事業ニ
關スル報告ヲ徵シ事業ニ付認可ヲ受ケシメ事業及財產ノ狀況ヲ檢査シ其
ノ他監督上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第十二條組合、組合聯合會又ハ組合中央會ノ決議若ハ役員ノ行爲ニシテ
法令又ハ監督官廳ノ命令若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ
虞アリト認ムルトキハ監督官廳ハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
-決議ノ取消
二役員ノ解職
三組合、組合聯合會又ハ組合中央會ノ解散又ハ其ノ業務ノ停止
第十三條組合及組合聯合會ハ地方長官ニ組合中央會ハ主務大臣ニ各其ノ
事務ニ關シ建議スルコトヲ得
又諮問アルトキハ答申スヘシ
第十四條本法ニ規定スルモノノ外組合、組合聯合會又ハ組合中央會ノ設
立管理、分合、解散、精算其ノ他ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之
ヲ定ム
第十五條第四條ノ規定ニ違反シタル者ハ二百圓以下ノ過料ニ處ス
前項ノ過料ニ付テハ非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ヲ
準用ス
附則
第十六條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治三十三年法律第二十號產牛馬組合法ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廢止ス
第十七條前條第二項ノ產牛馬組合法ニ依リ設ケタル產牛馬組合又ハ產牛
馬組合聯合會ハ本法ニ依リ設立シタルモノト看做ス
〔政府委員下岡忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=8
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009・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 本案ニハ政府ハ反對デゴザイマスカラ其意思ヲ表
明シテ置キマス、簡單ニ其理由ヲ申上ゲマスト、本案改正ノ眼目ニ當ッテ居
リマスル點、卽チ家畜ノ共濟保險ヲヤラウト云フコト、及中央會ヲ作ラウ
斯ウ云フ二點ゴザイマスルガ此兩點トモ政府ハ必シモ反對デハゴザイマセ
ヌ趣意ニ於テハ反對デハゴザイマセヌガ、此第一ノ家畜保險ト云フ事柄、
此共濟保險ト云フ事柄モ至極結構ナコトデハアルケレドモ、共濟保險ニ關ス
ル大體ノ制度ヲ大體決メテ、其制度ヲ決メタ上デ產牛馬組合ヲシテ斯ウ云フ
仕事ヲヤラスト云フコトノ順序ヲ取ルノガ當リ前デゴザイマシテ、マダ其共
濟保險ニ關スル如何ナル制度ヲ採ッテ宜イカト云フコトハ調査中ニ屬シテ居
ルモノデアルカラ、直チニ產牛馬組合ヲシテ此仕事ヲヤラスコトガドウデア
ラウカト云フ點ト、又中央會ニ付キマシテモ、地方ニ於ケル產牛馬ニ關スル
聯合會ト云フモノガ、マダ餘リ數ガ出來テ居ラヌ、將來是ガ段々數ガ出來ル
ト云フコトデアレバ、中央ニ於テサウ云フ機關ヲ作ルト云フコトモ必要デア
ラウガ、其點カラ考ヘテ見ルト時機尙早デハナカラウカト云フ考モゴザイマ
スカラ、旁此兩點トモ直チニ現行法ヲ改正スルト云フコトガドウデアラウ
ト云フ考デゴザイマスルノト尙ホ本改正案中ニハ餘ホド其闕點ガ澤山ゴザ
イマシテ、實行上ドウデアラウカト云フ懸念モゴザイマスルカラ、旁-シュニ
ハ反對ヲスルノデゴザイマスルガ、併シ現行ノ產牛馬組合法ハ不完全ナル點
ガ非常ニ多イカラシテ、是非之ニ付イテハ改正ヲ加ヘタイト云フ考デ、昨年
來政府デモ其調査ヲ致シテ居リマスルカラ、其調ベガ十分出來上ッタ上デ現
行法ヲ改正シテ、現行法ノ不備ナル點ヲドコマデモ改メタイト云フ考ハ有ツ
テ居ルノデゴザイマスカラ、兎モ角モ本案ニ付イテハ據ロナク右樣ノ次第デ
アルカラシテ、政府ハ同意スルコトガ出來ナイノデゴザイマス、御參考ノ爲
ニ申上ゲテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=9
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010・藤田四郎
○藤田四郞君 一向心得マセヌデゴザイマスガ、現行ノ法律ニ於キマシテ
ハ、第四條トカ、或ハ第十五條ノ如キモノガ既ニ有リマスノデゴザイマスカ、
如何デゴザイマス、ソレカラ第六條
〔政府委員下岡忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=10
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011・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 御答ヘ申上ゲマス、第四條ノ如キ規定ハ現行法ニ
ゴザイマス、ソレカラ次ハ何デゴザイマシタカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=11
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012・藤田四郎
○藤田四郞君 第六條、第十五條発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=12
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013・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 第六條ノ規定ハゴザイマセヌ、第七條ノ規定ハゴ
ザイマス、是ハ現行ノ重要物產同業組合法ノ規定ヲ準用スト云フコトニナツ
テ、他ノ規定ヲ準用シテ居リマスケレドモ、實質上斯ノ如キ規定ハアルコトニ
ナッテ居ルノデゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=13
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014・藤田四郎
○藤田四郞君 同業組合法ハイツ出來マシタ法律デゴザイマス、法律トシテ
ハ
〔政府委員下岡忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=14
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015・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 此產牛馬組合法デゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=15
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016・藤田四郎
○藤田四郞君 同業組合法ニ準ズルト云フ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=16
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017・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 同業組合法ハ重要物產同業組合法トナリマシタノ
ハ其時期ハ今チヨット記憶イタシテ居リマヒヌデスガ、三十二三年頃デハ
ナカラウカト思ッテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=17
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018・藤田四郎
○藤田四郞君 法律ニナッタノハ、イツデゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=18
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019・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) チヨット発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=19
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020・藤田四郎
○藤田四郞君 法律デハゴザイマスマイ、ソレハ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=20
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021・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 重要物產同業組合法デスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=21
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022・藤田四郎
○藤田四郞君 ハイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=22
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023・下岡忠治
○政府委員(下岡忠治君) 重要物產同業組合法ハ法律デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=23
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024・藤田四郎
○藤田四郞君 既ニ現行ノ法律ニ於テモ稍〓幾分ノ闕點モアリマスヤウデゴ
ザイマスガ、今日地方ノ情況ニ於キマシテ地方ノ人民ノ負擔力ト云フモノ
ハナカ〓〓多クナッテ居リマス、一般ニ負擔ガナカ〓〓堪ヘナイヤウナ有樣
チシテ居リマス、斯ノ如キ法律ニ據リマシテ更ニ組合ガ或ハ借金ヲシ或ハ
一時負債ヲ起シ、ソレニ依ッテ或ハ糶賣ヲスルトカ、種付ヲスルトカ或ハ共
濟保險ヲスルトカ云フヤウナコトニナリマシタナラバ、此事ニ賛成セザル所
ノ人民ハ馬ノ生產········牛馬ノ生產ノ爲ニ矢張リ此組合ニ這入ラヌケレバナラ
ヌ、這入ラヌトキニハ過料ニ處セラルヽ何遍デモ過料ニ處セラルヽト云フコ
トデゴザイマシテ、畢竟地方ノ負擔ヲ增スコトヽ思フ、勿論銘々ノ勝手ニ依
ッテ負擔ヲ增スコトハ已ムヲ得ノイガ、法律ニ據ッテ斯ウ云フ負擔ヲ增サス
ト云フコトハ尠カラザル困難ヲ生ズルダラウト思ヒマスガ、唯今政府ニ於キ
マシテモ私ノ意見トハ違フ所ノ點ニ於テモ反對デアルト云フコトデゴザイマ
スレバ、旁〓本案ハ誠心誠意國家ノ爲ニ否決アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=24
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025・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 他ニ御質問ガゴザイマセネバ次ノ日程ニ移リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=25
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026・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) 第四、水道條例中改正法律案、衆議院提出、第
一讀會
〔河井書記官朗讀〕
水道條例中改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治四十五年三月七日
衆議院議長大岡育造
貴族院議長公爵德川家達殿
水道條例中左ノ通改正ス
第二條第一項但書ヲ左ノ如ク改ム
但當該市町村ニ於テ其資力ニ堪ヘサルトキハ市町村以外ノ企業者ニ水道
ノ布設ヲ許可スルコトアルヘシ
同條第二項ヲ削ル
第三條第二項中「、元資償却ノ方法」ヲ削ル
第十七條市町村ニ非サル企業者ノ布設シタル水道ニシテ許可年限ノ滿了
シタル後ハ關係市町村ハ水道布設ニ要シタル費用ヲ支拂ヒ其水道及水道
經營ニ必要ナル土地物件ヲ買收スルコトヲ得但水道及水道經營ニ必要ナ
ル土地物件ニシテ布設當時ニ比シ價格ヲ減損シタルモノアルトキハ水道
布設ニ要シタル費用ヨリ之ヲ控除ス
前項費用ノ範圍及金額ニ關シ當該市町村ト企業者トノ間ニ爭アルトキハ
地方長官之ヲ決定ス其決定ニ不服アル者ハ內務大臣ニ訴願スルコトヲ得
第十八條市町村ニ非サル企業者ノ布設シタル水道ニシテ關係市町村ニ於
テ必要ト認ムルトキハ許可年限ノ滿了前ト雖之ヲ買收スルコトヲ得
前項ノ買收價格ハ協議ニ依リ之ヲ定ム協議調ハサルトキハ鑑定人ノ意見
ヲ徵シ地方長官之ヲ決定ス其決定ニ不服アル者ハ內務大臣ニ訴願スルコ
トヲ得
第十九條本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ市町村又ハ市町村ニ非
サル企業者ニ於テ履行スヘキ事項ヲ履行セス又ハ之ヲ履行スルモ充分ナ
ラスト認ムルトキ又ハ必要ノ時限內ニ履行シ得スト認ムルトキハ地方長
官ハ府縣費ヲ以テ之ヲ施行シ其費用ヲ市町村又ハ市町村ニ非サル企業者
ヨリ之ヲ追徵スルコトヲ得
前項ノ處分ハ豫メ履行期間ヲ指定シテ戒告スルニ非サレハ之ヲ爲スコト
ヲ得ス但第八條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十條市町村ニ非サル企業者ニシテ前條ノ費用ヲ指定ノ期限內ニ納付
セサルトキハ國稅徵收ニ關スル規定ニ依リ之ヲ徵收ス
第二十一條內務大臣ハ必要ト認ムルトキハ水道ノ布設ヲ市町村ニ命スル
コトヲ得発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=26
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027・藤田四郎
○藤田四郞君 先刻ノハモウ委員ニ付託ニナリマシタノデゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=27
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028・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) ナル筈デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=28
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029・藤田四郎
○藤田四郞君 是ハ衆議院提出案デゴザイマスガ、默ッテ居テナリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=29
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030・黒田長成
○副議長(侯爵黑田長成君) ナリマス
〔政府委員水野鍊太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=30
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031・水野錬太郎
○政府委員(水野鍊太郞君) 本案ハ衆議院ノ提出案デゴザイマスルガ、政府
ハ之ニ同意イタシタノデゴザイマス、依ッテ其理由ヲ簡單ニ申上ゲテ置カウ
ト思ヒマス、御承知ノ如ク水道條例中改正法律案ハ昨年モ出タノデゴザイマ
シノ、昨年ハ當院ノ協賛ヲ經マシテ其改正案ガ現行法律トナッタノデゴザイ
やっ、然ルニ昨年ノ法律ニ據リマスルト云フト、市町村以外ノ企業者ガ水道
事業ヲ經營スルニ付キマシテハ種々ノ制限ガアルノデゴザイマス、例ヘバ土
地開發ノ爲デナケラネバナラヌ、或ハ又其企業者ガ水道事業ヲ經營スルノニ
ハ元資償却ヲ目的トスル場合デナケラネバナラヌ、然カモ其元資償却ト云フ
ノハ敷設費及其利子ト云フ風ニ限定イタシマシテ、其利子モ年五分以內トス
ルト云フヤウナ種々ナ條件ガ附イテ居リマス、又他日是ガ公共團體ニ歸屬ス
ル場合ニ於キマシテモ無償デ歸屬スルト云フコトニナッテ居リマシテ、折角
水道ノ普及ヲ圖ルガ爲ニ私設經營ヲ許シマシタガ、斯ル條件ガアリマスルガ
爲ニ私人ガ之ヲ經營スルコトガ甚ダ困難デアルト云フ實況デアリマシタ、今
日ノ經濟狀態ニ於キマシテ利子ガ五分以內デアルトカ、或ハ元資償却ヲ限度
トスルトカ云フヤウナ事デアリマシテハ、ドウシテモ私設經營ハ出來ナイト
云フヤウナコトニナリマス、此法律發布以來、私設經營ヲ企圖イタシテ居ル
者ハ有ルノデアリマスルケレドモ、事實ニ於テ行ハレナイト云フコトデ、現
ニ願出テ居ル者モ從前カラノ此法律ニ據リマシテ願出テ居ル者ガ僅カ一人ア
ルト云フコトデアリマス、然カモソレモ許可シ得ラレナイト云フ狀態デアリ
や 、然ルニ一面ニ於キマシテハ市以外ノ町村ニ於キマシテモ水道ノ布設ヲ
必要トスル者ガ多々アルノデアリマス、御承知ノ如ク市ト雖モ尙ホ國ノ補助
ヲ俟タナクレバ水道事業ヲ行フト云フコトガ出來ナイト云フ情況デゴザイマ
ス、況ヤ町村ニ於キマシテハ、ドウシテモ補助ガ無ケラネバ行ハレナイト云
フコトデアリマスガ、然カモ是等ノ總テノ市町村ニ對シテ國カラ補助ヲ與ヘ
ルト云フコトハ今日ノ情況ニ於テ行ハレ難イコトデアリマス、水道ノ普及ヲ
圖ル爲ニハ昨年出マシタ法律ト同一趣旨ニ基キマシテ水道ノ普及ヲ圖ルガ爲
ニ今日ノ狀態ニ於テハ私設企業ヲ許スト云フコトノ已ムヲ得ザルモノアルヲ
認メテ居ルノデアリマス、其主義ハ昨年旣ニ水道ノ如キ公共事業ハ市町村ニ
限ルト云フコトデアリマシタケレドモ、尙ホ已ムヲ得ザル場合ニハ私設企業
ヲ許ス主義ヲ認メタノデアリマス、唯其私設企業ニ對シマシテ唯今申述ベマ
シタ如ク各種ノ制限ガアリマス爲ニ之ヲ實行スルニ困難デアルト云フコトデ
アリマシタカラ、ソレ等ノ制限ノ上ニ巳ムヲ得ナイモノヲ削ッテ、事實ニ於キ
マシテ水道ノ普及ヲ圖ル必要ガ有ルト云フノデ、此法案ガ是等ノ點ノ修正案
トシテ出タノデ、段々取調べマシタガ、今日ノ實況ニ於キマシテハ是ハ已ム
ヲ得ナイモノト認メマシテ、詰リ市町村ノ如キ公共圍體ノ利益ト私設企業ト
相戾ラザル範圍ニ於キマシテ之ヲ認メルト云フコトハ水道事業ヲ普及セシメ
ルト云フ上ニ於テ必要ナリト認メマシタノデアリマス、因ッテ此理由ニ依リ
マシテ政府ハ此法律案ニ同意ヲ表シタ譯デゴザイマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第五、關稅定率法輸入稅表中改正法律案、
衆議院提出、第一讀會
〔河井書記官朗讀〕
關稅定率法輸入稅表中改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治四十五年三月七日
衆議院議長大岡育造
貴族院議長公爵德川家達殿
關稅定率法輸入稅表中左ノ通改正ス
一七五鹽化加里及硫酸加里
-精製ノモノ從價二割
二其ノ他無稅
附則
本法ハ明治四十五年四月十日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員櫻井鐵太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=32
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033・櫻井鐵太郎
○政府委員(櫻井鐵太郞君 本案ハ衆議院ノ提出ニ係ル法律案デゴザイマ
ス燐寸ノ藥品トナリマス「クロール」酸加里ノ製造ノ原料、又人造肥料ノ原
料トナリマス所ノ鹽化加里、之ヲ無稅ト致ス法律案デアリマス、本案ニ對
シマシテハ政府ハ同意ヲ表シテ居リマスルカラ、然ルベク御審議ヲ願ヒマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=33
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034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第六、水利組合法中改正法律案、衆議院
提出、第一讀會
〔河井書記官朗讀〕
水利組合法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
明治四十五年三月九日
衆議院議長大岡育造
貴族院議長公爵德川家達殿
水利組合法中左ノ通改正ス
第九條ノ二水利組合ノ事業施行ノ爲灌漑排水ヲ爲ス土地ニ付登記又ハ登
錄ヲ爲ストキハ登錄稅ヲ免除ス
〔政府委員菅原通敬君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=34
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035・菅原通敬
○政府委員(菅原通敬君) 本案ニ對シマシテハ政府ハ反對ヲ致シテ居リマス
ル故ニ、其理由ヲ簡單ニ申上ゲテ置キマス本案ハ法文ノ意義ガ甚ダ明瞭ヲ
闕イテ居リマスルガ、其趣旨ト致シマスル所ハ水利組合員ガ········水利組合ガ
行ヒマスル排水灌漑ノ利便ヲ利用イタシマシテ土地ノ開墾又ハ地目變換等ヲ
致シマスル場合ニ、其土地ニ付イテ登記又ハ登錄ヲ受ケマスル場合ニ於テ其
登錄稅ヲ免除セムトスルノニ在ルノデアリマス、水利組合ニ於キマシテ其目
的タル灌漑排水ノ事業ヲ行フニ付キマシテ、其必要トスル土地ニ付イテ登記
又ハ登錄ヲ受ケマスル場合ニ於テハ、現ニ登錄稅法第十九條ニ於キマシテ登
錄稅ヲ免除スルコトニナッテ居ルノデアリマス、此點ニ於テハ勿論論ハ無イ
ノデアリマス、然ルニ本案ノ如クナリマスト云フト、水利組合ノ組合員ガ其
水利組合ニ屬シテ居ルト云フノ理由ヲ以チマシテ、組合員ガ個々ニ行ヒマス
ル開墾ナリ又ハ地自變換ニ付イテ登記ヲ受ケマスルトキニ於テ登錄稅ヲ免除
スルト云フコトニナルノデアリマスカラ、甚ダ其理由ニ乏シイコトヽ思フノ
デアリマス、恰モ此場合ハ各一個人ガ或ハ溜池ヲ附ケマストカ、或ハ水路ヲ
設ケマストカ云フコトニ依ッテ、ソレヲ利用イタシマシテ、開墾又ハ地目ヲ
變換スル場合ト少シモ擇ム所ハ無イノデアリマス、故ニ此レニ課稅イタシマ
シテ彼レノ場合ニ免稅ヲ致スト云フコトニナリマスト云フト、其間ニ公平ヲ
失フト云フコトニナルノデアリマシテ、本案提出ノ理由書ニアル如ク耕地整
理ノ場合トノ權衡ヲ論ジテ居リマスノハ是ハ甚ダ當ヲ得ヌト思フノデアリマ
ス、御承知ノ通リ、耕地整理ノ場合ニ於キマシテハ、土地ノ交換ヲナシ、ヌハ
分合ヲナシ、或ハ開墾ヲナシ、又ハ地目變換ヲ致スト云フコトガ、其耕地整
理組合ノ事業トナッテ居ルノデゴザイマス、而シテ耕地整理ニ於キマシテ
ハ其耕地整理ノ結果ト致シマシテ土地ガ改良セラレマシテ、其土地ノ價ガ
增スコトガアリマシテモ土地ノ地價ハ動カサヌコトニ致シテ居リマス、卽
チ從前ノ負擔ト云フモノハ變更イタサヌト云フコトヲ原則ト致シテ居ルノデ
アリマス、殊ニ土地ノ交換ヲ致スト云フヤウナコトハ、普通ノ土地所有權ノ
移轉トハ大ニ其趣ヲ異ニ致シテ居リマスル故ニ、此場合ニ於テハ登錄稅ヲ免
除イタスト云フコトニナッテ居リマス、然ルニ水利組合ノ場合ニ於キマシテ
ハ全ク之ト趣ヲ異ニ致シテ居ルノデアリマシテ、水利組合ノ事業ト云フモノ
ハ、灌漑排水ヲナスト云フノニ在ルノデアリマスデ、灌漑排水ヲ致シマシテ其
個人ガ········利便ヲ利用イタシマシテ各個人ガ或ハ開墾ヲ致シ、或ハ地目變換
ヲ致スト云フコトハ、全ク獨立シタル行爲ニナッテ居ルノデアリマシテ、水
利組合ノ事業其モノト直接ノ關係ハ有ッテ居ラヌノデアリマス、ソレデアリ
マス故ニ、此場合ニ於テ若シ登錄稅ヲ免除イタスト云フコトニナリマスト云
フト、此一般ノ人〓ガ地目變換又ハ開墾ヲ致ス場合ニ於テ登錄稅ヲ課セラレ
ルト云フモノトノ間ニ大ナル不權衡ヲ生ズルト云フコトニナルノデアリマシ
テ、甚ダ宜シクナイコトヽ思フノデアリマス、故ニ之ニ向ッテハ反對ヲ致シテ
居ルノデアリマス、ドウゾ本案ハ否決セラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=35
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036・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第七、群馬縣下郡界變更ニ關スル法律案、
衆議院提出、第一讀會ノ續、委員長報告
〔左ノ報〓書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
群馬縣下郡界變更ニ關スル法律案
右否決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
明治四十五年三月九日
右特別委員長
男爵眞田幸世
貴族院議長公爵德川家達殿
〔男爵眞田幸世君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=36
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037・眞田幸世
○男爵眞田幸世君 唯今ヨリ此衆議院カラ送付ニナリマシタ群馬縣下郡界變
更ニ關スル法律案ノ特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告イタス積リデアリマ
ス、本案ノ委員會ハ、去ル九日ノ議事散會ノ後ニ午後一時カラ開キマシテ正
副委員長ノ互選ヲ行ヒマシテ、引續キマシテ會議ヲ開キマシタ、初メニ當リ
マシテ政府委員ノ意思ノ在ル所ヲ詳細ニ聽取リマシテ、ソレカラ質問ニ移リ
マシタ、委員ノ方〓ヨリ詳細ナル御質問モ多々アリマシテ後ニ採決イタシマ
シタ所ガ全會一致ヲ以テ否決ト云フコトニナリマシタ、其否決ニナリマシタ
理由ヲ申上ゲマスルニ付イテハ政府ノ意向ノ在ル所カラ申上ゲヤウト思ヒマ
ス、抑〓此案ハ群馬縣下ノ山田郡ノ內ノ毛里田村、韮川村、矢場川村、休泊村ヲ
同縣新田郡ニ編入スルニ過ギナイノデゴザイマス、此案ハ衆議院ニ元ト請願
トシテ二三回出テ居リマス、本院ニモ數囘出テ居ル案デアリマシテ、既ニ昨
年本院ニ於テハ不採擇ニナッタ案デゴザイマス、トコロガ政府ニ於キマシテ其
都度不同意ヲ唱ヘテ居ル案デゴザイマス、今囘モ此特別委員會ニ於キマシテ
ハ政府ハ絕對ニ反對ト申ス譯デモゴザイマセヌガ、現今ノ所ハ不同意ト云フ
コトデゴザイマス、其譯ヲ申上ゲマセウト思ヒマス、此山田郡ハ二箇町十箇村
ヨリ成ッテ居ル郡デアリマス、其人口ハ八万二千人ゴザイマス、又直接國稅
ハ十五万圓負擔シテ居ルヤウデアリマス、然ルニ此毛里田村外三箇村ニハ人
口一万九千ヲ有ッテ居リマシテ、直接國稅ハ五万圓ノ負擔デアルヤウデゴザイ
TV,其十箇村ノ内、四箇村ヲ新田郡ニ編入イタシマストキハ人口戶數トモ
餘ホド減ル譯ニナリマス、又直接國稅ノ額ニ於キマシテモ其三分ノ一ヲ失フ
譯ニナリマス、然ルトキハ其殘餘ノ町村ハ其負擔額ヲ增ス譯ニナリマシテ、
郡ノ事業ノ經營ニ甚ダ困難ヲ感ズルヤウナ次第ニナリマセウト思ヒマス、ソ
レデ山田郡ハ唯今、郡立高等女學校モ立ッテ居リマシテ、是ガ經費ハ八千圓餘
モ要シテ居ル、其他郡費トシテ支出シテ居ル額ハ總計九千七百圓デアルヤウ
デアリマス、而シテ尙ホ此山田郡ノ内ノ桐生町ハ人口ガ三万二千人アルヤウ
デアリマス、最モ繁盛ナル機業地デゴザイマス、若シ將來此桐生町ニ市制ヲ
施行サレマス場合ニナリマスレバ自然、山田郡ヨリ分離サルヽヤウニナルデ
アリマセウ、故ニ山田郡ハ益〓小サナ郡ニナラナケレバナリマセヌ、、然ルトキ
ハ郡ノ獨立ヲ保ツ上カラ見マシテモ甚ダ苦シイ境遇ニナルカモ知レナイト思
フノデアリマス、或ル論者ノ申スコトニハ、サウ云フ場合ニハ小郡ヲ合併シ
テ仕舞ヘバ差支アルマイト云フヤウナ說モアルヤウデアリマス、併ナガラ郡
ノ廢置分合ト申スコトハ政府委員ノ申スニモ輕〓シク實行スルコトハ出來
ナイモノデアルト申サレテ居リマス、ソレニ土地ニハ舊慣ト云フモノガアリ、
又人情風俗等ニ付キマシテモ愼重ノ考慮ヲ要シ、又十分ノ調査ヲ遂グタ上デ
ナケレバ政府ニ於テハ同意ヲスルコトハ出來ナイト申スコトデアリマス、ソ
レデ此法案ノ內容ニ付イテ少シク御話ヲ申上ゲマス、サテ此法案ハ請願ガ元
デアリマシテ、其請願ノ趣意ヲ少シク申上ゲマスレバ、此山田郡ノ四箇村ハ
詰リ水利上及郵便、電信又ハ登記等ノコトニ依リマシテモ山田郡ノ郡役所ノ
在ル桐生町ニ參リマスニハ五里以上モアリマシテ、又租稅ナドヲ納メル場合
ニハ泊リ掛ケナドデ行カナケレバナラヌト云フ遠距離ニ在ルノデアリマス
新田郡ノ郡役所ノゴザイマス太田町ニ參リマスニハ近キハ、七八町、遠キモ
一里ホド隔タナイノデゴザイマスソレ故ニ太田町ニ行ク方ガ甚ダ便利デア
ルト云フ故ヲ以テ此法案ヲ出サレタヤウナ次第デアリマス、併シ此特別委員
會ニ於キマシテハ前ニ申上ゲマシタ通リ、政府ノ意思ト同一ノ意向ヲ以チマ
シテ、今囘ハ否決スルコトニ相成リマシタ、此段御報告ヲ申上ゲマス、終リ
ニ臨ンデ申上ゲテ置キマスガ、若シ此案ニ付イテ御質問等モゴザイマスレバ、
私ヨリ不完全ナル御答ヘヲ申スヨリモ政府ノ意思モ出テ居リマスカラ、ドウ
カ政府委員ニ御質問ノアルヤウニ願ヒタウゴザイマス、此段御報告申上ゲマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=37
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038・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御發言モ無イト認メマスカラ採決ヲ致シマ
ス、本案ノ第二讀曾ヲ開クベシトスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者無シ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=38
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039・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 起立者ナイト認メマス、本案ハ否決セラレマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=39
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040・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ノ議事日程ニ移ル筈デゴザイマスガ、此際諸君
ニ御諮リヲ致スコトガゴザイマス、中島永元君ヨリ、過日同君ヨリ政府ヘ提出
セラレマシタ質問ノ趣意ヲ述べラレタイト云フ要求ガゴザイマス、此際其要
求ヲ許シテ宜シイヤ否ヤ、諸君ノ御意見ヲ伺ヒマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=40
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041・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=41
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042・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 中島永元君
〔左ノ質問主意書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
財政ニ關スル質問主意書
近來制限外兌換銀行券ノ發行頻繁ニシテ殆ムト無制限ト異ナルナシ其
ノ結果物價騰貴輸入超過ノ一大原因ヲ爲セルコト顯著ナリ今ヤ當局者
ノ抑制策ニ依リ制限外發行ハ消滅シタリト雖モ是レ一時ノ現象ナラム
政府ハ根本的ニ紙幣ヲ收縮スルノ意見ナキ乎
二本位正貨ハ公私ノ外國債利拂及貿易不均衡ノ爲メ年一年ヨリ減少ノ度
ヲ增シ消盡ノ期將ニ近キニアラムトス政府ハ如何ニ之ヲ救濟セムトス
ル乎
三我國力ノ發展ハ主トシテ工業ニ俟タサルヘカラス然ルニ勞力餘リアリ
テ工業振起セサルハ畢竟物價騰貴ノ爲メ工費多クシテ損益相償ハサル
ニ因ル之ニ對スル政府ノ意見如何
四內國金融機關近來著ルシク發達シ各種銀行ノ預金郵便貯金ノ如キ旣ニ
巨額ニ上リ尙ホ年々增加ノ趨勢ナレハ融通力ノ餘地アルコト疑ヲ容レ
ス然ルニ私債ハ兎モ角モ國債地方債ニシテ動モスレハ外國ヨリ募集シ
國家ノ不利ヲ顧慮セサル傾向アルハ如何ナル理由ニ依ル乎
右議院法第四十八條ニ依リ及質問候也
明治四十五年三月七日
提出者
中島永元
贊成者
公爵二條基弘
外三十一名
〔中島永元君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=42
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043・中島永元
○中島永元君 本員ハ今議長ヨリ御宣告ニナリマシタル通リ過日提出イタシ
マシタル質問書ニ付キマシテ少シ趣意ヲ御參考ノ爲ニ申述ベヤウト思ヒマ
ス此趣意ヲ述ベマスルニ先ダチマシテ一言申上ゲテ置カネバナラヌコトガ
ゴザイマス、ソレハ質問ト殆ド同一ノ事柄ガ近ゴロノ新聞紙上等ニ問題トナ
ッテ居リマシテ、私ノ質問モ或ハ之ガ動機トナッテ提出シタカノヤウニ誤解ス
ル人ガ無イトモ限リマセヌガ、私ハサウ云フ本意デハアリマセヌ、此問題ハ久
シク〓究シツヽアル問題デゴザイマシテ、我ガ經濟界ノ近狀頗ル悲境ニ陷ッテ
居リマス、ソレ等ノコトニ付イテハ豫ネテ同志者諸君等ニモ御相談ヲシ或ハ
〓究ヲシテ、サウシテ其〓鑽ヲ重ネマシタ末、政府モ整理整理トハ言ハレマ
スケレドモ、少シマダ不安心ノ所モアリマスカラ注意ノタメ建議書デモ出サ
ウ、或ハ質問書デモ出シタ方ガ宜カラウト云ヒ居ル所ニ、丁度アノコトガ起
リマシテ、銀行集會所デ何カ懇親會ノ席上デ、酒席カ何カ席上デ演說ガ花ガ
咲イテ、ソレガ世間ノ問題トナリマシテ、其事柄ガ幸カ不幸カ丁度私ドモガ質
問デモシヤウト思フコトヽ殆ド同樣ノコトデゴザイマス、少シ提出スルニモ
ドウデアラウカト躊躇シタ位ノコトデゴザイマス、併ナガラ折角思ヒ立チマ
シタコトデゴザイマスカラ、ソレ等ノ情實ニ拘ラズ、遂ニ提出ヲ致シマシタ、
此邊ノ事情ガ若シ誤解ヲ致サレマスレバ、私ノ迷惑ハ構ヒマセヌケレドモ、
折角御贊成ヲ爲シ下サレタ諸君ニ對シマシテモ相濟マヌ譯デゴザイマス、
應此事ハ申上ゲテ置キマス、此事情ハ能ク同志者諸君ハ御承知ノコトデゴザ
イマスドウカ此邊ノ事情ハ御諒察ヲ願ヒタウゴザイマス、サテ此質問ニ移
リマスルガ、凡ソ此經濟問題ト申シマスルモノハ、諸君モ御承知ノ通リ頗ル
錯雜デゴザイマシテ、就中、貨幣論ノ如キハ〓究スレバ〓究スルホド却ッテ
ムヅカシクナッテ、右ト云ヒ、左ト云ヒ、白トカ、黑トカ何トデモ理窟ハ付
クヤウナモノデゴザイマシテ、ナカ〓〓面倒ナ問題デゴザイマス、又私ハ斯
ノ如キ學識モゴザイマセヌ、〓師ガ學校デ〓科書ヲ講釋スルヤウナ譯ニ參リ
マセヌ、ソレデ唯實際ヨリ〓究ヲ致シマシテ、目下我國ノ經濟ノ斯ク悲境ニ
陷ヲテ居ルノハ、如何ナル原因カラ來テ居ルデアラウ、又此狀況ヲ救濟スル
ニハ如何ニシタラ宜イデアラウト云フヤウナ國家ノ前途ヲ憂慮イタシマス所
ヨリ、實際ノ統計表トカ又ハ兌換制度ノ是マデ如何ニ運用サレテ居ルカト云
フヤウナ實際ノ事ヲ〓究イタシマシテ、素人的ニ判斷ヲ下シテ遂ニ玆ニ提出
イタスヤウナ譯ニナリマシタ、併ナガラ一言玆ニ申シテ置キマセネバナリマ
セヌコトハ、此今問題ニナッテ居リマスル兌換劵ハ通貨デナイトカ、通貨ノ膨
脹ハ物價ニ影響シナイトカ云フヤウナコトハ一言辯ジテ置キマセネバ私ノ此
質問ハ、マルデ無用ナモノニナッテ仕舞ヒマスカラ、其事ハ一言シテ置カウト
思ヒマス、モト私ノ此第一項ノ趣意ハ政府ハ根本的ニ紙幣ヲ收縮スルノ意見
ナキヤ、是ダケガ第一ノ眼目デゴザイマス、其前ノ所ハ誰ニモ分カルコトデ
ゴザイマシテ、別段說明ナドモ要ラヌ積リデ居リマシタ、併シ今玆ニ說明ノ
必要ヲ感ジマシタカラ申上ゲマス、此兌換劵ガ法律ノ力ヲ以テ國內一般ニ
强制的ニ流通シテ居ルコトハ御承知ノ通リデアリマシテ、約束手形ヤ小切手
ナドヽハ同一ノモノデアリマセヌ、此手形類ハ甲乙ノ人ガ相互間ノ信用ニ依
リマシテ受渡シヲスルト云フモノデアリマシテ、强制的ニ紙幣ノヤウニ流通
スルコトハ出來マセヌ、又法令其他ノ公文ノ中ニモ通貨トカ現金トカ書イテ
アリマスルトキニハ、イツデモ兌換劵ヲ以テ換ハルモノデアリマシテ、有價
證劵ナドヽハ別段ニ區別シテアリマス、又甚ダ平凡ナ例證デハゴザイマスケ
レドモ、我〓ガ政府ヨリ受取ッテ居ル歲入歲出ノ豫算參考書ニモ兌換劵ハ紙
幣ノ中ニチヤント明カニ數ヘテアリマスル、先ヅ素人ノ判斷デハ此事ガ一番、
力ガ强カラウト思ヒマス、別段ニ學說ナドヲ引出サヌデモ宜カラウト思ヒマ
ス、又ソレダケノ事ハ出來マセヌ、若シ又兌換劵ガ通貨デナイト申シマスレ
バ今日本ニハ殆ド通貨ハ無イト云ッテ宜イ、金貨ト云フモノハ一向流通シ
テ居リマセヌ、是ハ日本人デモナカ〓〓見タ人ハ少イト云フ位ナ、マア有樣
ニナッテ居リマシテ、其他補助貨モアリマスケレドモ、此補助貨ト云フモノハ
法貨デアリマセヌカラ、十圓マデハ法貨トシテ通用イタシマスケレドモ、十
圓以上ハ相手ノ人ガ受取ラヌト言ヘバ渡スコトハ出來マセヌ、ダカラ兌換劵
ガ重モニ通貨トナッテ居リマス、マア此事ハ別段ニ長ク說明スルコトモアル
マイト思ヒマス、ソレデ通貨ノ膨脹ハ物價ニ影響ナシト云フコトデゴザイマ
ス、此事モ少シ申上ゲテ置カウト存ジマス、是ハ矢張リ經濟普通ノ原則デ「グ
レシヤム」モ惡貨幣ハ良貨幣ヲ驅逐スルトカ云フヤウナコトヲ言ッテ、學者モ
是ハ原則トカ何トカ言ッテ居リマス、此二ツノモノニ依ッテ之ヲ解釋シテモ直
チニ分カルト思ヒマス、凡ソ物ガ多ケレバ廉ク、又少ケレバ高イト云フコト
ハ是ハ經濟普通ノ原則デアラウト思ヒマス、ソレデ銀塊ガ多ク產出イタシ
マスレバ、銀貨ガ廉クナッテ銀貨本位ノ國ノ物價ハ高クナル、ソレカラ又金
ノ產出ガ多クナリマシテ近ゴロ世界デ大分、金ガ出テ居リマス、其金ガ多ク
出マスレバ、金貨本位ノ國ハ物價ガドウシテモ高クナルト云フヤウナコトハ、
是ハモウ一般ニ認メテ居ッテ、近ゴロハ西洋デモ此物價騰貴ノ原因ヲ之ニ大〓
見テ居ルヤウデゴザイマシテ、頻ニ今喧マシクナッテ居リマス、其道理カラ申
シマスレバ、紙幣モ多ク發行スレバ、是ハ固ヨリ紙ノコトデアリマスカラ、尙
更價ガ下落シテ物價ハ愈、騰貴スルト云フコトハ、是ハモウ自然ノ原則デアラ
ウト思ヒマス、サリナガラ此紙幣ハ御承知ノ通リ、モト正貨ノ代表貨幣デアリ
マスカラ、正貨準備ニ對スル兌換劵ノ發行ハ物價ヲ高クスルコトハ無イト學
者ナドモ言ッテ居ルヤウデアリマス、是ハ勿論ノ話デアリマス、何トナラバ
正貨ハ銀行ノ金庫ノ中ニ貯藏シテ居ル、サウシテ其代リニ流通シテ居リマス
カラ、通貨ハ少シモ殖エマセヌ、膨脹イタシマセヌ、是ハ物價ニ關係ガアル
譯ハナイ、併ナガラ此保證準備ニ對スル兌換劵ノ發行ハ、是ハ發行ノ高ダケ通
貨ヲ膨脹スル譯ニナリマスルカラ、一時物價ヲ騰貴セシムルコトニナリマス、
而シテ其物價ガ騰貴ノ結果ハ外國貨物ガ這入リマス、外國貨物ノ輸入ヲ誘致
スルコトニナリマスルカラ遂ニ又硬貨ガ出テ行ク、硬貨ト紙幣ト竝ビ行ハレ
テ居リマスル國デアリマスレバ、其硬貨ガ出テ行キマスルカラ、其出テ行ッタ
ダケハ通貨ヲ收縮イタシマスルカラ物價ハ平準ヲ保ツ、斯ウ云フコトニナル
ト思ヒマス、其論理ヨリ致シマシテ、本邦ニ於テハ紙幣ノ發行益〓多キヲ加ヘ
ルニ從ヒマシテ、硬貨ガ愈〓流出イタシマシテ、サウシテ遂ニ流出シ盡シテ、モ
ウサッパリ無イヤウニナリマス、ソレデ今ヤ通貨ノ全部ガ紙幣トナッテ········紙
幣ト申シマスルモノハ御承知ノ通リ是ハ自然ニ伸縮スルコトハ出來マセヌ、
自然伸縮ノ機能ヲ持チマセヌ、人爲デナクテハ········ソレデ膨脹スレバ膨脹ス
ルダケ物價ガ高クナッテ行キマス結果ハ、物價ト貨幣ト平準ヲ保ツト云フコト
ニナッテ居ル譯デアリマス、ソレデ私ノ述べマシタ所ノ理窟カラ申シマスレバ
ドウシテモ今我國ノ通貨ハ多過ギルト云フコトハ顯然ナコトヽ存ジマス、多
過ギルト云フ觀察ハ誤リハ致シマセヌケレドモ、併シ此紙幣ヲ大ニ收縮イタ
シマシテ物價ノ低下ヲ圖リ、硬貨ガ人爲デナク自然的ニ外國ヨリ流入スルト
云ヲ時機ニ達シマセヌ間ハ我ガ通貨ノ尺度ト云フモノハ何人ニモ實ハ分カ
ラヌ、測定ガ出來ナイ譯デアリマス、ソレデソレマデハ正貨ヲ外國ニ保留シテ
置クコトハ寧ロ安全ノ策ト言フノ外ハアルマイト信ジマス、實ニ慨歎ノ至リ
デゴザイマス、物價騰貴ハ無論、兌換劵ノミデハゴザイマセヌ、其原因ハイロ
〓〓ニアリマス、重稅トカ或ハ金利トカ或ハ世界ノ金ノ產出額ガ多イトカ云
フヤウナコトハ枚擧ニ遑アラヌ位ゴザイマス、畢竟今日ノ狀態ニ立至リマシ
タ原因ハ申スマデモナク二度ノ大戰役ニアリト觀察ヲスルガ至當デアラウト
思ヒマス、ソレデマダ其大戰役ノ······大事變ノ創痍ガ未ダ癒エズト云フ狀態
ニ今アリト思ヒマス、ソレデ政府モ大ニ此際決心ヲ持タレテ何所マデモ整理
ヲ付ケテ貰ハネバナラヌト思ヒマスソレデ私ノ此一方ノ眼目ト致シマスル
所ノ、將來如何ニ此制度ヲ改正シテ永久的ニ紙幣ガ增サヌヤウニシタラ宜イ
デアラウカト云フ考カラ少シ意見ヲ中上ゲマス、私ノ本來ノ主義ハ此伸縮制
限法ヲ餘リ好マナイ方デゴザイマス、矢張リ英國ノ如ク全ク制限外ノ發行ヲ
許サヌト云フコトニシタイト云フノガ元ノ主意デゴザイマスサウ致シマス
レバ正貨モ多少流通スルヤウニナルデアラウト云フ見込デゴザイマスルケレ
ドモ、多年習慣トナリマシタ此法規ヲ一時ニ廢止スルト云フコトハ容易ノコ
トデゴザイセヌカラ、一步ヲ讓リマシテ此制限外發行稅ノ五分率ヲ七分以上
ニ引上ゲテ、サウシテ成ルダケ非常ノ時デナケレバ制限外發行ガ出來ナイト
斯ウ云フ風ニシタイト思フ抑、伸縮制限法ノ本旨ヲ全クセムトシマスルニハ
日本現時ノ程度ニ於テハ五分率グラキノ稅率デハ之ヲ抑ヘルコトガ出來マセ
ヌ、試ニ二十七年來ノ日本銀行ノ公定利率ヲ調査イタシマシタ所ガ、其平均
利率ハ割引ニ於テ七分强ニナッテ居リマス、貸付ニ於テハ七分八厘强ニナッテ
居リマス、ソレデアリマスルカラ是ハ十何年カノ平均率デゴザイマス、割引、
貸付、共ニ七分以上ニナッテ居リマス、サウ云フ狀態デアリマスルカラ此五分
稅デハ少シ壓縮力ガ薄弱デゴザイマス、ソレデ之ヲ濫用シテ二十七年以來、
「近來」ト書キマシタケレドモ實ハ二十七年以來ノコトヲ示シタ積リデス、二
十七年以來慣習ヲ爲シテ今日ニ至リマシタ、是ハ偶然ノコトデハナイ、矢張リ
理由ガアッテ斯ウナッタノデス、併ナガラ私ガ今申ス通リニナリマシタナラバ
實業社會等ニ於キマシテハ利息ガ高クナッテ困ルト云フコトガ必ズ議論ガ起
ルデアラウト思ヒマスガ、是ハ唯一時ノコトデゴザイマス、從來ノ如ク容易
ニ發行シナイ、關門ヲ開カヌト云フコトニナリマスレバ當事者モ戒心ヲ致
シマスルシ、ソレ〓〓用意モアリマスルカラ、ナカ〓〓其發行ノ度數ガ今ノ
ヤウニ頻繁ニナルコトハアリマスマイト思ヒマス固ヨリ是ハ非常ナ何カ危
急ナ場合ニ、ドウシテモ救助ヲ仰ガネバ行ケナイト云フ時分ニ開イテ發行ヲ
スルト云フコトガ、是ガ元ト此伸縮法ノ精神デゴザイマスルカラ、ソレデ度數
ガ少クナリマス、又囘收モ速ニナリマスル、是ハ一時ノコトデアリマスルカラ
一般ノ利子ニサウ影響スルト云フヤウナコトハアルマイト思ヒマス、又法律
ニ五分以上トアルカラハ監督官廳ガ七分デモ八分デモ取ルコトガ出來ル、別
段法律ヲ改正スルニ及バナイデハナイカ、斯ウ云フ論ガアルト思ヒマス、是ハ
現ニ政府委員等ヨリモ豫算委員會ニ於テ聽イタコトデアリマスルガ、併ナガ
ラ其制限外發行ヲ請求スルモノハ多クハ此政府ノ財政ノ都合ニ依ルト思ヒマ
ス、却ッテ市場ヨリハ政府ノ方ガ多クハアルマイカト思ヒマス、是ハ分リマ
セヌケレドモ········政府モ亦サウ云フ事情ガアルノモ是ハ已ムヲ得ヌ事情ガア
ルト見ネバナリマセヌ是ハ納稅ノ期限ガ遲クシテ仕拂ハ年度ノ初メカラ拂
ハネバナラヌト云フトキニ必ズ日本銀行ニ賴ムデアラウト思ヒマス、サウ云
フコトデアリマスカラ五分以上ノ率ヲ取ルト云フコトハ人情義理ニモ出來ナ
イコト·思ヒマス、實際五分以上ノ高率ヲ課シタコトハ何デモ一兩度アルサ
ウデアリマス、ソレハ唯話デ能ク分リマセヌ、若シ五分以上トアルカラ政府
ノ見込次第デ幾ラデモ取レルト云フコトデゴザイマスレバ、二分ト書イテモ
三分ト書イテモ宜イト思ヒマス三分以上ト書イテモ或ハ全ク書カイデモ差
支アリマセヌ、稅率ヲ示サズニ適宜課稅スト書イテモ宜シウゴザイマス、併
ナガラ七分トアレバ、ドウシテモ七分取ル、五分ト書ケバ五分ヨリ取ラヌト
云フコトハ是ハ凡ソ常識ノ仕方デアラウト思ヒマス元來此五分以上ト定メ
タル其時ノ事情ヲ申シマスルト、二十一年頃ノコトデゴザイマシタ、其時分
ノ我ガ經濟界ノ情況ト申シマスルモノハ誠ニ順境ニゴザイマシテ、外國貿易
ナドハ終始輸出ガ勝ツト云フコトデゴザイマシタ、是ハ松方侯ノ財政整理ノ
效果ガ大ニ現ハレタ時デゴザイマス、當時ハ五分以上トシテ置ケバ差支ナイ
ト云フ見込デアッタラウト思ヒマス、果シテ二十一年ヨリ二十七年ノ日〓事件
ノ起リマスルマデハ、唯二十三年ニ一囘暫時制限外發行ヲ致シマシタ、其外ハ
二十一年ヨリ二十七年ノ事件マデハ全ク發行イタシマセヌ、而シテ二十七八
年後ハ前陳ノ如ク財政經濟ニ大變動ヲ來タシテ終ニ五分ノ發行稅モ利カナク
ナリマシタ、故ニ七分ノ稅率ハ此時勢ニ適當シタ政策デハアルマイカト思ヒ
マイ、モウ一ツ私ハ意見ヲ有ッテ居リマスノデ、此兌換劵ニ付イテ右樣ノ制限
外發行ニ對シテハ稅ヲ增シマスル、又一方ニハ保證準備內ノ發行稅デアリマ
ス、是ハ全廢シタイト思ヒマス、實ハ是ハ突飛ナヤウニ御感ジニナルカ知レマ
セヌガ、サウシテ成ルベク中央銀行ノ利子ヲ下ゲマシタナラバ延イテ一般ノ
利息モ下ガリマセウ、又幾分カ物價モ廉クナリハセヌカ、是ハ色〓ドウシタラ
物價ガ廉クナリ利子ガ廉クナルデアラウカト研究ヲ致シマシタ末ニ是ハ思付
イタコトデアリマス、此發行稅ヲ課スルヤウニナリマシタコトハ、皆サンモ御
承知ノ通リニ三十二年デゴザイマシタ、當時日〓戰役後ノ經營トシテ軍備擴
張其他行政膨脹ト云フヤウナコトデ歲出ガ益〓增加シマシタ、サウシテ政府
モ財源ニ困ッテカラ此稅ヲ課スルコトニナッタデアラウト思ヒマスル、最前
ハ斯ウ云フ稅ハ無カッタノデス、十七年兌換制度創定ノ際ニハ斯ウ云フ稅ハ
無カッタノデス、ソレカラ十餘年後ノ三十二年ニナッテ課稅サレタ、當時、
其法案ニ對シマシテ、此貴族院ニ於キマシテハ委員諸君ガ種々御調査ヲナサ
レノ、何デモ原案ヨリ幾ラカ此稅率ヲ輕減サレテ漸ク成立シタト記憶シテ居
リマス、卽チ此課稅ト云フコトハ當時ノ事情已ムヲ得ヌコトヽ思ハレマシ
タ、サリナガラ若シ此稅ヲ廢止シマシタナラバ銀行ハ斯ノ如キ非常ナ特典ヲ
政府カラ得テ居ッテ何モ負擔スルコトハ無イト云フコトニナリマス、國家ノ
恩惠ガ餘リ過グルト云フコトニナリマス、是ハドウシテモ相當ノ上納金ヲ納
メサセネバナリマセヌ、最初創立ノ際トハ違ヒマシテ段々資本ガ大キクナリ、
積立金ガ多クナリマシテ基礎ガ鞏固ニナッテ來居リマス、ソレ故ニ相當ノ負擔
ヲスルト云フコトハ、是ハ列國何所デモ無イ所ハゴザイマセヌ、何カ名義ハ
色〓違ヒマスケレドモ相當ノ上納金ハシテ居リマス、併シ一方ニ稅ヲ廢シテ
一方ニ又上納金ヲスルナラバ是ハ朝三暮四デ同ジ事デナイカト云フ議論ガ起
リマセウ、併ナガラ紙幣發行稅ヲ一分デモ二分デモ課シマスレバ、ソレダケ
ハ債務者ニ之ヲ負擔サセヤウト云フコトハ營業會社トシテハ是ハ人情免レヌ
コトヽ思ヒマス、是ハ私ノ空想バカリデハゴザイマセヌ、事實ガ證明シテ居
リマス、三十二年ノ課稅前後ノ各十年間、日本銀行ノ公定利率ヲ調査ヲ致
シマシテ、サウシテ平均利率ヲ以テ課稅前後ヲ比較イタシマスレバ、課稅後
ハ割引ハ一分二厘、貸付ハ一分五厘强カ弱カ、マダ數字ガアリマシタケレド
モ餘リ諄〓シイカラ除キマス、何レ其邊ニ大差ハ無カラウト思ヒマス、ソレ
ダケノ增率ヲ日本銀行ハ致ス、ンレデ發行稅率ハ千分ノ十二半デアリマス、凡
ソ此增率ガ此稅率ト比例スル位ニナリマスル、デ斯ウ云フコトヲ改正イタシ
マシタナラバ、餘ホド經濟界ノ調節ヲ助ケルコトニナルデアラウト私ハ信ジ
マスル、先ヅ改正意見ハソレダケデアリマス、此兌換劵ノ緊縮ヲ圖ッタナラバ、
餘ホド是ハ經濟界ニ大打擊ヲ受ケルデアラウト云フコトハ皆論ノアル所デ此
事ハ隨分ムヅカシイコトデアリマス、併ナガラ之ヲ急激ニスレバ或ハ一時市
場ノ困ルコトガアルカモ知レマセヌケレドモ、是ハ又仕樣ニ依ッテ、サウ急激
デナクテモ宜シウゴザイマセウ、ソコラハ手心デヤッタラバドウデモ行キマセ
ウ、又通貨ヲ減ズルト云ッテモ、正貨ノ方ハ少シモ減ジナイ、正貨準備ナリ、正
貨其物ガ流通スルコトハ幾ラデモ流通シテ自然ニ任セテ行ク、ソコデ愈通
貨ノ果シテ多イカ少イカト云フコトモ分カルヤウニナリマス、固ヨリ此兌換
劵ヲ收縮スルト云フノハ其精神カラ致スコトデアリマスカラ、一時ハ成ルホ
ド市場ニ幾ラカ不景氣ヲ來タスヤウナコトハゴザイマセウケレドモ、是ハ暫
クスルト直ル、アトハ段々鞏固ナル基礎ノ上ニ發展ヲスルデアラウト考ヘ
やす、御承知ノ如ク英國ノ········成ルベク外國ノ事ハ申シマスマイト思ヒマス
ケレドモ、是ハ好イ例デアラウト思ヒマスカラ·········英國ノ兌換制度ハ制限外
ハアリマセヌ、ソレデ其制限ト云フモノハ千四百万磅デアリマス、ソレカラ
他ノ銀行ノ特權ガ移ッテ來タノヤラ何ヤラ合セテ四百五十万磅バカリ別ニア
ルサウデアリマス、其額ト云フモノハ、千八百四十四年ニ彼ノ「ピール」條例ト
云フモノデ定メタ額デゴザイマス、其時ノ額ハマダ多カッタ、其他澤山ノ銀
行ガ特權ヲ有ッテ居リマシイソレヲ放棄シタカ、期限ガ切レテ消滅シタカ、
何デモ「イングランド」銀行ニ今移ッテ居ルノデ、四百五十万磅ト千四百万
磅。合セテ千八百五十万磅ホド發行シテ居ル、ソレガ千八百四十四年、丁度
六十八九年前ノコトデアリマス、其額デ是マデヤッテ來テ居ル、勿論ソレハ
非難ハ澤山アリマス、今モ尚ホアル其當時ハ餘ホドノ非難ガアッタ、又段
々其制度施行ノ後、二三度バカリハ餘ホド困ッタコトガアリマシタ、法律ヲ停
止シテサウシテ發行シタ、制限外ヲ發行シタト云フコトモアリマスルケレド
モ、モウソレガ千八百六十六年ガ終ヒデゴザイマス、丁度日本ノ慶應二年ク
ラヰノ所ニ當リマス、其後ハ困ラナイ、困ラヌト云フモノハ、能ク人ハ小切手
ガアル、ソレデ紙幣ガ少クテモ宜イト申シマスケレドモ、ソレモ勿論アリマ
スケレドモ、矢張リ正貨ガ澤山流通シテ居ル、紙幣ヨリ倍モ流通シテ居リマ
ス、ソレハ良イカ惡ルイカ色ミ論モアリマセウケレドモ、固イコトハ固イニ
違ヒナイ、日本ハ全ク無イ、英國ハ殆ド金貨ガ流通シテ居ルト云フヤウナ、
是ハモウ善シ惡シハ直グ分カリマス、サウ云フ有樣デゴザイマスカラ、正貨
ニ制限ガ無イ以上ハ、サウ貨幣ニ困ルト云フ論ハ實ハ立タナイ、今改メテ申
スマデモナク、此紙幣ト云フモノハ無クテモ宜イモノデアリマスケレドモ、
ソレハ流通ニ困ル、取引ニ困ルト云フ所カラ紙幣ハ行ハレテ居ルドウシテモ
是ハ制限ガアッテ適度ニ之ヲ定メナクテハ餘ホド國ノ害ニナリマセウト思ヒ
やす、其信用取引ガ能ク行ハレテ居ルト申シマスケレドモ、我ガ日本デモ信
用取引ハ餘ホド能ク行ハレテ居ッタト思ヒマス、手形ヤ小切手ノヤウナモノ
ハ甚ダ幼稚デハアリマセウケレドモ是モ行ハレテ居ル、信用ト云フコトハ昔
カラ日本ノ敦厚ナル美風デ餘ホド行ハレテ居ッタ、實ハ口約束デモ、ナカナ
カ堅ク行ハレテ居ッタ、ソレガ段々西洋ノ文明ヤ何カ入ッテ來テ、世ガ澆季
ニナリマシテ、人ガ輕薄ニモナリ、惡ル者モ出マスケレドモ、尙ホ其美風ハ
幾ラカ存シテ居ル、ソレデ信用取引ト云フモノハ實際ハ餘ホド行ハレテ居ラ
ウト思ヒマス、就中、京阪地方、アレカラ西ニカケテ長崎アタリマデハ、
半歲ノ期限ヲ以テ唯貸シテ置ク、懸賣ニシテ置クト云フコトモアル、ート
月ノ懸ケニシテ置クト云フコトハ澤山アル、東京ニモアリマス、ソレデ實際
ハ紙幣ヲ手許ニ置カナクテモ、通帳ナリ判取帳ナリ、アンナ物デ濟マシテ居
ル。是ナドハ若シ信用取引ガ通貨ヲ節約スルト云フコトニナリマスレバ、矢
張リ日本モサウ云フコトハ格別西洋ト違ハヌヤウニ行ハレテ居ルト思ヒマ
ス、ケレドモ私ハ小切手ャ今ノ通帳ナドハ左ホド通貨ヲ節約スルトハ思ヒマ
セヌ、是ハ紙幣トハ違ッテ、ドウモサウ幾度モ循環シテ行クト云フヤウナモ
ノデハナイ、切手ヤ手形、ソレカラ帳面ナドハ尙更嵩ハ澤山アリマスケレド
モ通貨ノ用ヲ爲シテ居ルト云フノハ僅カナモノデアラウト思ヒマス、ソレ
ハ何億万トカ其數ハ澤山アルデアリマセウケレドモ、ドウシテモ正貨ガ行ハ
レナケレバ紙幣バカリデハ流通ガ出來ナイ、併シ今ノ儘ニシテ置ケバ正貨ノ
流通ト云フコトハ出來ヌコトニナル、ドウトカシナケレバナラヌ、ソレデ先
刻申シマシタ通リニ紙幣ヲ減ジタラ正貨ハ幾ラカ必要ヲ增スト云フコトヲ見
込ンデ居リマス、是ハ是非サウナケレバナラヌノデゴザイマス、唯通貨ガ少
クシテ困ル困ルト言ッテ此儘ニシテ置ケバ大ナル害毒ヲ貽スデアラウト思ヒ
やく、全體日本ハ信用ガ餘リ過ギルト思ヒマス、信用ノ過ギルヤウナコトハ
決シテ西洋デハセヌコトヽ思ヒマス、ソレガ·······今日日本ノ經濟界ノ信用ト
云フモノガ害ヲ貽シテ居リハセヌカト思フ位デゴザイマス、先ヅ此第一項ノ
コトハ其邊ニ止メテ置キマシテ、第二項ハ是ハモウ分ッタ話デアリマス、是
ハ說明ヲ要スルマデナイコトヽ思ヒマス、是ハ唯一項ニ關係シテ出テ來タヤ
ウナコトデ、唯此正貨ガ貿易ノ不均衡ト、ソレト外國債ノ利拂、是ダケニ皆
出テ行クヤウニ見エルガ、實ハ又外國カラ這入ッテ來ルモノト內國ヨリ出ル
モノト貿易以外國際勘定ガゴザイマス、其數ハ能ク分リマセヌ、分リマセヌ
ケレドモ這入ッテ來ルモノガ餘ホド多イヤウデゴザイマス、ソレデ必シモ此
二項ニ書イテアル通リ全部海外ヘ出ル譯デハゴザイマセヌ、是ハモウ申サヌ
デモ御承知ノ通リデゴザイマス、唯第一項カラ關係シテ餘儀ナク是ガ出テ來
タト云フヤウナ譯デアリマス、ソレカラ此三項ノ工業ノコトデゴザイマス、
是ニ少シ理由ガゴザイマスゴザイマスケレドモモウ段々御飽キニナッテ居
リマセウカラ多クハ申シマセヌガ、我國ノ土地ト云フモノハ格別大キクゴザ
イマセヌ、サウシテ人口ガ繁殖スル爲ニ自國ノ天產物デハ衣食共ニ足ラヌ所
カラ、外國ノ供給ヲ仰グコトモ少カラヌ高ヲ仰イデ居ルノデゴザイマス、ソ
コデ是ハ工業、工業ヲ起サネバ········外ニモ產業ハ幾ラモゴザイマシテ、必シ
モ工業ニ限ッタコトデハゴザイマセヌ、現ニ農業ト云フモノハ比較的進步シ
テ居リマスカラ、殊更ニ玆ニハ產業ト書カナカッタノデゴザイマス、工業ト云
フモノヲ大ニ盛大ニ發展セネバイクマイト思ヒマスカラ、玆ニハ工業ノミヲ
デ是ガ又需要供給モ限リ無イコトデゴザイマシテ、唯其土地ノ天產物ハ
其土地限リノモノデゴザイマシテ、就中我國ノ如キ狹イ國ハ從ッテ天產物
ガ少イニ相違ゴザイマセヌ、ソコデ此工業ト云フモノヲ大ニ起サナケレバナ
ラヌノデゴザイマス、是ハ前田君モ亦此點ニ付イテ御考ガ有ルヤウデゴザイ
マスカラ、何レ御名論ガ出マセウカラ私ハ申シマセヌガ、唯其中ニ勞力ハ餘
リアリテ、サウシテ工業ハ起ラヌト云フコトヲ書イテ置キマシタガ、之ニ付
イテハ此物價ノ騰貴ト云フコトヲ一ツ由·上ゲヌト分ラヌト思ヒマス、是ハ成
ルホド粗製濫造デ外國向ニ評判モ惡ルシ、買手モ無イノデゴザイマセウガ、畢
竟スルニ物價ノ騰貴ガ斯クセシメル、粗製濫造ニ········其證據ニハ內國需要品
ハ段々進步ヲシテ行キマス、內國需要品ノ共進會ヤ博覽會ヤ其他三越ノ吳服
店ナドヘ行ッテ見テモ分リマスガ、アノ通リニ內國需要品ガ進步シテ居ル所
ヲ見レバ、外國需要品モ進步シナイト云フコトハナカラウト思ヒマス、畢竟ス
ルニ外國需要品ハ高イ物ハ賣レナイ、内國需要品ハ賣レル、外國需要品ハ競爭
ガアルカラ高イモノハ賣レナイノデゴザイマス、內國需要品ニ至ッテハ外國ノ
競爭ト云フモノガ無イノデアリマスカラ少シ高クテモ構ハヌノデアリマスカ
ラ、其通リ精巧ノ物ヲ造リ出シテ居ルノデゴザイマス、併ナガラ外國需要品
ニ至テハ外國ノ製品ト競爭ヲセネバナリマセヌ、ドウシテモ是ハ成ルダケ工
費ヲ省クコトヲ圖ラヌケレバ競爭ヲスルコトガ出來マセヌ、ソレガ爲ニ外國
需要品ハ發展セヌノデアラウト思ヒマス、元來風俗ガ異ナルユヱ內外ノ需要
ノ有樣ヲ見レバ外國需要品ノ競爭ノ有ル物ハ努メテ廉クシナケレバナリマ
セヌ、其競爭ノ無イモノ卽チ內國ダケデ需要スルモノハ少シ價ガ高クテモ賣
レルト云フ狀態デゴザイマス、就中、絹布、帶地ト云フヤウナ物ハ餘ホド立
派ナ物ヲ造ルニ相違ゴザイマセヌ、併ナガラ其需要者ト云フモノハ、範圍
ガ定マッテ居リマシテ、僅ニ千人カ万人カ上等ノ需要者ハ多クナイ故ニ、年々
新意匠トカ、新柄トカ何トカ彼トカ言ウテ賣付ケヤウトスル、是ハ風俗ガ益s
浮華ニ流レ奢侈ニナリ、チヨット見タ所ハ誠ニ立派ナヤウデゴザイマスガ、
サウ云フ品ハ外國カラ來テ買フ者ハゴザイマセヌ、此邊ハ餘ホド考ヘナケレ
バナリマセヌ、近ゴロ新聞ナドガ趣味ノ有ル表ヲ出シテ居ルノデゴザイマ
ス、此工業ノ中デモ衣服ノ用ヲ爲ス織物ハ餘ホド注意ヲシテヤラナケレバナ
リマセヌ、衣服ト云フモノハ御承知ノ通リ自國ノ需要ノミニハ限リマセヌ、自
國ダケノ需要ヲ充タシテ尙ホ外國ヘモ出スモノデゴザイマス、サウシテ世界
ハ廣イモノデ其需要モ限リノ無イコトデゴザイマスカラ、是ヨリ工業ノ限リ
ナク大キクナルノハドノ位デアルカ分リマセヌ、何所ノ國ノ工業ニシテモ機
業ヲ主トシテ居ル有樣デ、日本ニ於キマシテハ勿論此織物ト云フモノガ首位
ヲ占メテ居リマスガ、如何ニセム僅ニ二億五六千万圓ニ止マッテ居リマス、五
千万ノ人口ヲ有ッテ居ル日本ニシテ僅ニ二億五六千万圓トスレバ一人ニ付イ
テ僅ニ四五圓ニ當ルノデゴザイマスガ、其中カラシテ幾分カハ外國ヘモ出ル
ノデゴザイマス斯樣ナ有樣デハ到底、國ガ興ル譯ハゴザイマセヌ、此二億
五千万ヲ二十億ニモ增シ、尙ホモット增スヤウニセネバ迚モ日本ノ發達ハ期
セラレヌト思ヒマス、先ヅ大〓ソレダケノコトデ、モウ其他四項ノ〓數ノコ
トハ此銀行預金ト云フモノヲ見マシテモ十八億圓·······郵便貯金ト云フモノガ
二億圓バカリモゴザイマスガ、併ナガラ其金ガ銀行ニ遊金トシテ遊ンデ居ル
譯デハゴザイマセヌ、大抵ハ之ヲ貸出シテゴザイマスケレドモ、又年々ニ幾
分カ增スモノデゴザイマスソレデ國債トカ公債トカ云ヘバ必ズ喜ンデ之ニ
應ズルデアラウト思ヒマス、ソレニ付イテモ色〓例證モゴザイマスガ、餘リ
長クナリマスカラ此邊デ御參考ニ供シテ置キマス、甚ダ詰マラヌコトヲ長ク
申シマシテ恐縮デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=43
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044・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第八、海外貿易振興ニ關スル建議案、前
田正名君發議、會議、建議案ノ朗讀ハ省略シテ御異存ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=44
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045・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス
〔左ノ建議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス〕
海外貿易振興ニ關スル建議案
右貴族院規則第六十四條ニ依リ提出候也
明治四十五年三月八日
發議者
前田正名
贊成者
伯爵〓閑寺經房
外百三十五名
貴族院議長公爵德川家達殿
海外貿易振興ニ關スル建議
日露戰役以來國家ノ債務漸ク多キヲ加ヘ國民ノ負擔亦其ノ重キニ苦シムノ
狀ナキニ非ス我カ財政ノ基礎ヲ鞏ウシ經濟ノ調和ヲ圖ルハ目下朝野ノ齊ク
焦心措ク能ハサル所ナリ加之戰後ノ經營未タ全ク成ラス國防充實ノ急務一
日モ忽諸ニ付スヘカラサルモノアリ此ノ際ニ當リ刻下ノ否運ヲ濟フノ策ハ
我カ海外貿易ノ振興ヲ計ルヨリ急ナルハナシ
顧ミレハ現今我カ輸出貿易ノ增進遲々タルモノアリ是レ一ニハ粗製濫造ノ
結果我カ商品ノ信用漸ク地ニ墜チ外國ノ模造品隆々トシテ其ノ勢力ヲ增大
シ我カ販路ヲ杜絕スルニ因ル若今ニ於テ矯正振作ノ途ヲ講セスムハ我カ輸
出貿易品ハ遂ニ全然歐米市場ヨリ驅逐セラルルノ悲境ニ陷ラムモ知ルヘカ
ラス豈寒心セサルヘケムヤ故ニ政府ハ銳意邁進海外貿易ノ振興ヲ畫策セラ
レムコトヲ望ム
右建議ス
理由書
理由ハ本文ニ明ナルヲ以テ之ヲ略ス
〔前田正名君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=45
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046・前田正名
○前田正名君 殘念ナガラ十分申上ゲル時間ガ無イヤウニゴザイマスカラ、
一項ニ付キマシテ二三分ヅヽ說明ヲシタイト考ヘマス、此案ハ多數ノ御贊成
ヲ得マシテ建議スルヤウニナリマシタガ、モウ此上モ廣ク國民ニ知ラセマシ
テ、此實行ヲ早メタイト考ヘル次第デス、チヨット本問題ニ入リマス前ニ開港
以來ノコトヲ一二言申上ゲタイト思ヒマス、極ク短ク御話ヲシマスカラ暫ク
御〓聽ヲ煩ハスノデゴザイマス、是ハ開港以來明治十年マデ、不肖ハ海外ニ居
リマシタカラ、明治初年ヨリ十年マデノ間ニ、貿易上ノ調査ヲシタノヲ其當
時政府ニ建議ヲシタノデゴザリマス、其後、貿易竝ニ產業ノコトニ付イテ時〓
調査攻究シタコトハ到底時間ヲ要シマスカラ略シマスガ、此貿易上ニ付イテ、
チヨット申上ゲテ置キタイノハ極ク短ク申上ゲマスト、明治十四五年頃マデ
ハ多ク品ヲ買ハレテ、賣ル力ハ無イト言ッテ宜シイノデアリマス、又買フ物モ
買ハセラレルノデアッタ故ニ、賣ルコトモ出來ズ、買フコトモ出來ナイト云フ
有樣デアリマシタ、漸クニシテ買フ力ニナリ、又賣ル力ニナッタノデアリマス、
是ガ貿易ノ開港以來今日マデノ進步デアリマス、ケレドモ今ダニ明治十年ノ
頃建議シマシタ目的ヲ達シテ居ラナイノデアリマス、是等ノコトニ付キマシ
テハ十分ノ御話ヲシタイト思ヒマスケレドモ時間ノ許サヌ爲ニ遺憾ナガラ御
話ガ出來ナイノデ、付キマシテ玆ニ差迫ツタル强敵トモ言フペキ貿易上ニ二
三ノ品ガアル、其品ハ卽チ此人造絹絲デアリマス、是デアリマス、(實物ヲ示
ス)、一昨年歐洲ヲ視察シマシタトキハ左ホド心配モシマセナカッタガ、昨年
行キマシタトキニハ非常ナル心配ヲシ始メマシタノハ卽チ是デアリマス、
昨年ノハ火ニ恐ロシイトカ、或ハ彈力ガ無イトカ、或ハ水ニ洗濯ガ出來ナイト
云フモノデアリマシタガ、是ハ洗濯モ出來ル、又火ノ心配ガアッテモ普通、
紙ノ燃ユル如キ、絲ノ燃ユル位ノ如キモノデアッテ、之ヲ心配スルノデアリ
マス、併シ不思議ニハ此人造絹絲ニ付イテ我ガ國民ガ格別心配ヲシナイノハ
誠ニ驚イテ居ル次第デアリマス、故ニドウゾ廣ク此事ヲ御知ラセ下サルヤウ
二、又是等ノコトニ付イテハ十分ニ御熟考ニナルヤウニ祈ッテ居ル次第デア
リマス、此人造絹絲ハマダ恐ラク日本人ハ見ナイノデアリマス、極ク最新ノ
物デアリマス、此特長ハ何「マイルス」デモ節ナク蠶ノ蟲ヨリ出來タモノ
如ク節ハ無ク、幾「マイルス」デモ長ク節ナク出來マスカラ、玆ニ御覽ニ入
レルヤウナ立派ナ織物ガ出來ルノデアリマス、第二ニ日本ノ如ク絹ヲ洗張ル
トカ、洗フトカシナイ、十ノ八九ハ洗ハナイノデアリマス、汚レタラ汚レキ
リ用ヰルモノガアルノデアリマス、故ニ格別洗ヒハ利カズトテモ濟ム品物デ
アリマス、ドウデセウカ、是ガ段々此需要ガ廣クナッテ來ルコトハ確カデア
リマス、我ガ生絲ガ歐維巴亞米利加ニ每年賣レ方ガ減ジテ來マシタトキニ
ハ、我ガ國家ノ經濟ハ立ッテ行キマセウカ、之ヲサッパリ氣ニシナイニ至ヲ
テハ實ニ驚イテ居ル、人曰ク日本ノ絲ニ及バヌ、無論ナコト天成ノ絲ト人造
トノ區別、無論及バナイ、併ナガラ生絲ノ及バナイ所ハドウカト云フト、第
一廉ク付ク、玆ニ皆直段ガ付イテ居リマスガ驚ク程廉イノデアリマス、殆ド
綿ノ如クデアリマス、第二ハ何「マイルス」デモ同一ノ節ノ無イモノガ出來
マスカラ、彼等ノ用ヰル所ノ織物ニハ蠶ノ蟲ノ及バヌ所ノモノガ出來テ來
ル是ホド日本ノ强敵ハ無イト考ヘマス、イツモ開港以來我ガ國民ハ、+二
大事ナイト云フ、大事ナイト云フ時ガ大事ナノデアッテ、大事ニナッテカラハ
最早及バナイノデアル、此歷史ヲ申シマスト、綿ハドウデアリマセウ、悉ク
英吉利ハ綿ハ出來マセヌカラ、東洋卽チ日本ヨリモ········私ナドハ現ニソレヲ
見テ居ルノデアリマス、日本ノ綿ヲ買ッテ行ッテソレヲ「マンチェスター」
デ織ッテ亞細亞ニモ織物ヲ賣ッタノデ、遂ニ棉畑ハ我ガ帝國ニ一段モ見ルコ
トガ出來ナクナッタノデアリマス、皆其通リデアッテ茶ノ如キ誠ニ安全ナル
茶デアリマシタガ、是モ漸々斯ウ云フ敵ヲ防イダ次第デアッテ、明治十七年
頃ハ綿ノ如ク討死ノ如クナラナクテハナラヌノニ、漸ク人ノ力ヲ以テ助カツ
タト云フヤウナコトヲ考ヘマスト、萬ガ一、我ガ桑畑ガ、一時茶ノ畑ガ毎日、
茶ノ樹ヲ拔イテ薪ニシタ如クニ或ハナルカモ知レナイト云フコトハ最早覺悟
ヲシナクテハナラナイ、此問題ハ貿易ト名ハ小サウゴザイマスケレドモ、國
家ニ取ッテハ大々關係ヲ有シテ居ルノデゴザイマス、故ニ何カ危ゲ無イトキ
ニ其用意ヲシナクテハ、最早危クナッテ來タトキニハ到底之ヲ防グト云フコ
トハ出來ナイノデゴザイマスカラ、ドウゾ綿ノ如キ其他ノ我ガ物產ノ悉ク今
日衰退ニナリマシタノハ全ク油斷ノ結果デアリマスカラ、是ホド差迫ッテ心
配ノモノハ無イノデアリマス、又其次ニハ此「ラミー」ノ如キ是ハ日本ノ
天成ノ物ガ多ウゴザイマスガ、昨年漸ク社會中ノ學者ガドウシテモ出來ナイ
ノヲ出來サシタノガ「ヂブスケ」ト云フ人ノ發明デ、是ハ非常ナ關係ヲ有ッ
テ居ル、是モ日本ノ牛血ヲ非常ニ吸ッテ來ルヤウニナリマス、其次ニハ銅像
ガ一「ミニユート」ノ中ニ寫眞ニナッテ出來ル、或ハ最モ日本ニ適當スル所
ノ賊除ケ、是ハ奇代ナ發明デアリマス、掛時計ノヤウナ、チツポカイ道具デ
アリマス、之ヲ例ヘバ一分トカ八分トカ室ニ入ッテ置イテ、賊ガ額ヲ外スト
カ或ハ机ヲチヨット動カスト:、マデ聞エルノデアリマス、或人曰クソレ
ハ家ノ構造ニ依ルデアラウト言ヒマスガ、ソレカモ知レナイガ、併ナガラ此
機械ハ山林ノ盜伐ヲスルトキニ、山林·······山ニ仕掛ケテ居ッテモ盜伐ガ知レ
ルト云フカラ家ノ構造ニ依ルノデハナイ、最モ日本ノ賊ノ多イ所ニ適當ナモ
ノデアル、ソレ等ノコトハ大變ナモノデアリマス、陸續サウ云フH本ノ生血
ヲ吸フモノガ這入ッテ來マスルガ、此貿易上ニ付イテハ貿易ニ從事シテ居ル人
ダケデナイ、五千万ノ人悉ク今日、滿洲デ我ガ兵ガ戰フト云フヨリ、マ一ツ
氣ヲ入レナクテハナラヌノニ、サッパリ意トシナイ、不思議千万ト考ヘマス、
時間ガアリマセヌカラ御覽ニ入レルコトハ出來マセヌガ、是ハ火ニ御燻ベニ
ナッテモ、是マデノ絲ト違ッテ決シテ燃エハ致シマセヌ、是等ノ織物ノ如キ
皆此人造デアル、是等ノハ私ハ此機械場ヲ見タ爲ニ記念ノ椅子ヲ造ッテ居ル、
此頃送ッテ來マシタガ斯ウ云フ强イモノヲ試ミレト云フコトダト思ヒマス、
其他是等ノ物(實物ヲ示ス)ハ皆是レ丁度日本風ノ物デゴザイマセウカ、全
ク日本デアリマス、皆是レ日本ノ物ヲ取ッテ彼レ日本トシテ賣ッテ居ル、日
本ヨリ最早之ヲ輸出スルコトハ出來ナイヤウナ有樣、皆日本デアリマス、飯
椀モアッチデ出來ルカモ知レマセヌ、此紙モズット日本ニ來ル、是モ日本ニ
這入ッテ來ル、一カラ十、悉ク這入ッテ來ル、是ハ樟腦、龍腦、人造デス、
楠ハ要ラナイノデアリマス、御承知ノ通リ、併ナガラ今皆知ッテ居ルノ
デアリマスガ、今楠ヨリ採ル樟腦ホドニ廉ク付カナイカラ、ヂットシテ居リ
マスケレドモ、是モ矢張リ生絲ノ如キ、當局者ハマア大丈夫デアル大丈夫デ
アルト言ヒマセウ、併ナガラ是モ人造絹絲ノ如ク、モウ楠デナクテ引合フヤ
ウニナッテ來マセウ、是ハ香水デス(實物ヲ示ス)、今日本ニ來ル香水ト云フ
モノハ薔薇ノ花「バイオレット」ノ花ヨリ採ルモノデハナイ、悉ク人造デア
リマス、氣候モ要ラズ花モ要ラズ、斯ウ云フ人造デアリマス、故ニ日本國民
ガ呑氣ニ此頃ノ流行言葉ノ樂觀的、或ハ悲觀的、天氣ノ好イトキニハ天氣ガ
好イト云ッテ腕ヲ組ンデ居ル、雨ガ降ルト仕方ガナイト云フ········樂觀ノトキ
ニ油斷ヲシテハイカヌ、悲觀ノトキニハ悲觀ニ打勝タナクテハナラヌ、時々
ソレハ我ガ國家、此國ヲ離レテ遠方ヨリ見マスルト實ニ危險ト言フヨリ外ニ
言ハレナイ、ソレヲ能ク知ラナイ爲ニ、樂觀デアル、心配スベキモノデナイ
ト言フ、何ヲ以テ樂觀トスルカ、何ヲ以テ悲觀トスルカ、樂觀ニ負ケ悲觀ニ
負ケテ居ル今日デアル、ナカ〓〓二十七八年ノ日本ノ戰爭ドコロデハナイ、
非常ナル戰爭ヲシテ居ルノデアル、卽チ明治十年マデ歐羅巴ニ在ッテ此貿易
ノ事ヲ聊カ〓究シタノハ卽チ是デアリマス、故ニ此十年ニ言ッタコトヲマダ
達スルコトモ出來ナイカラ、皆サンニ斯ウ云フ訴ヲスルコトデアリマス、餘
リ長クナリマスケレドモ今暫ク御聽キ下サリタイコトハドウゾ澤山、參考
品モ有リマスケレドモ、皆此所ニ持ッテ來マセナカッタガ、是ダケハチヨッ
ト御覽ヲ願ヒタイト思ヒマス、私ノ話ハ決シテ前田正名ノ意見デナイ四十
年間始終事物ト相談ヲシ、調査攻究ノ結果、不肖蓄音機トナリ寫眞機トナッ
テ、ソレガ御耳ニ訴ヘルノデゴザイマスカラ、事物其物ガ言フコトヲ御取次
ヲスルニ止マル次第デアル、故ニ之ヲドウスルカト申シマスルト、第一ニ差
迫ッタノハ此人造絹絲ヲ防ガナクテハナラヌ、何ヲ以テ防グカト云フト、確
カニ防グコトガ出來ル、唯悲觀ヲシテ腕ヲ組ンデ居ルモノデナイ、其悲觀ニ
打勝ッテ行カナクテハナラヌ今日ノ日本デアル、何ヲ以テ打勝ッテ行クカト
云フト、丁度例ヘテ見ルト敵ノ武器ヲ取ッテ敵ヲ討ツト云フコトデアル、ソ
レハ何デアルカト云フト、此發明家ヨリ直接ニ親シク聞ク所ニ依リマスルト
云フト、是ハ東洋ノ製造場デヤラナクテハナラヌ、東洋ノ製造場ト云フノハ
ドコカ、日本デアル、是ハ不肖等ハ始終、東洋ノ製造地ハ我ガ日本帝國ト斯
ウ思ッテ居ル、彼等曰ク此原料ハ恐ラク瑞典ノ松ノ木デセウ、卽チ「ポルプ」
デアリマス、是ガ卽チ松ノ木デアリマス、是ガ「ポルプ」デアラウト云フノ
デアリマス、棉ノヤウニナスノデアリマス、其棉卽チ人造、是ガ最新ノ發明
デアラウト思ヒマス、確カナコトハ知リマセヌ、大變ナ祕密デアリマスカラ、
若シ是ガ「ポルプ」トシタナラバ瑞典邊ノ松ノ木デアル、其松ノ木ト云フモ
ノハ諾威、瑞典、獨逸邊ニ御覽ノ通リ此クラキナ松ヲ育テルニハ五十年カ
リマス、我ガ日向ノ如キ秋田ノ松ハ十年ニシテ殆ド是レ以上斯ウナリマス、
又松ダケデナイ、日本ヨリ此草木ニ富ンデ居ル所ハ無イカラ松、檜〓松、
蝦夷松、楢樣〓ナ原料ヲ有ッテ居ル、同ジ「ファミリー」兄弟ノ木ヲ澤山
有ッテ居ル、モウ是デ勝ッテ居ル、發明ニハ負ケマシタ、發明ハ此敵デ討タ
ナクテハナラヌ、第二ニハ空氣ガ格別乾燥シナイノガ大變我〓ガ忌ム所ダ、
ケレドモ是ニハ最モ適シテ居ルサウデアリマス、第三ハ水ヲ要スル、是ハ世
界中、日本ノ如キ水ノ良イ所ハナイ、第四ハ此工女ノ指先、男女共ニ指先ノ
利器ト云フモノハ世界ニ日本ヨリ無イ、其四ツノ特長ヲ有ッテ居リマスル爲
ニ必ズ是ハ日本國ノ物產ニナッテ來ナクテハナラヌノデアリマス、是ハドウ
スルカト云ヘバ、卽チ日本デアリマスカラ、今聽手ニ向ッテ始終紹介ヲシテ
居ル次第デアリマス、紹介ヲシテ其聽ク人、採ルベキ人ガ採ッテ早ク之ニ著
手シテ手ヲ著ケナクテハ遂ニ其織物業者モ之ヲ買フコトニナッテ來マセウ、
スルト日本ノ生絲ノ直段ト是トハ十分ノ一ト斯ウナッテ來ル、又粗製濫造ノ
長所ナル我ガ日本國民ガ、又我ガ生產ノ生絲ヲ何分カヅヽ年々減ジタトキニ
ハ其桑畑ハドウ云フ有樣ニナリマセウカ、覺悟セネバナラヌ、業ニ已ニ此新
發明ニ及バナイ昨年一昨年マデ見タ所恐ロシクナイト云フ生絲人造絹絲サヘ
モ大變今日ハ入ッテ來ル、羽織ノ紐デアルトカ、流行ノ「リボン」皆這入ッ
テ來ル、況ヤ斯ウ云フ此稍、絹製ニ劣ラナイ物ト云フヤウナモノ出來ルトキ
ハ········マア是ハ防ギマセウ、萬々這入ラナイトシテモ、我ガ今一二、產ヲ爭
フ第一ニ日本ノ命脈ヲ繋イデ居ル所ノ生絲ガ歐米ノ市場ニ在ッテ、每年此相
場ヲ落サレルカ或ハ減ゼラルヽトナッタトキハ我ガ經濟界ハドウナリマス、
昨年ハ伊太利ノ總理大臣ニ始メテ會ッタトキハ、實ニ親シイモノデアッテ、私ハ
其總理大臣ハ始メテ········他ノ人モ知ッテ居ルガ········前田君ドウダ日本ノ生絲
ト伊太利ノ生絲ト佛蘭西ト········那那ハ何デモナイダラウカラ········之ヲ之ヲ合
同シテ伊太利ノ「マーケット」ノ市場ノ相場ヲ進メテ行カウヂヤナイカト總
理大臣ガ親シク話スヤウナ次第、併ナガラ昨年ノ如キ斯ウ云フ新發明ガ來マ
シタトキハ一モ二モナク此相場ヲ狂ハセラレルト云フコトハ自然ニ分ッテ居
ル、伊太利ノ總理大臣ガ言ハレル伊太利、佛蘭西ノ此絲ノ「マーケット」ヲ
狂ハスドコロデハナイ、之ヲ以テ行クコトニナリマシテハ實ニ心配シナクチ
ヤナラヌ、其心配ニ負ケチヤイケマセヌカラ心配シテ之ニ打勝タナケレバナ
ラヌノデアリマス、先刻機業モ申上ゲマシタ、諸君モ御承知デアリマスガ、
明治初年前カラ開港以來、伊太利ノ種紙屋、佛蘭西ノ種紙屋ガ澤山日本ニ來
マシテ、ソレヲ伊太利ヤ佛蘭西ニ持ッテ行ッタノガ抑、初マリデゴザイマセウ
ガ、旣ニ日本ノ敵ヲ以テ彼ノ業ヲ以テ日本ヲ殺シテ居ルト言ハナケレバナラ
ヌ、故ニ綿ダケデナク養蠶ノ爲ニ日本ヨリモ立派ナ絲ヲ拵ヘルヤウニナル、
種々斯ウ云フ器物デモ悉ク日本ノ物ヲ以テ日本ヲ打ツト云フヤウニナッテ居
リマスカラ、其軌轍ヲ履マナイヤウニ今日ハ朝野擧フテシナクチヤラヌ問題
ヂヤラウト考ヘル、一問題ヲ一分二分ト見マシタガ大變長クナリマシタ玆
二一二ヲ以テ便利上玆ニ此演說ヲ········大切ナ事デアリマスカラ、チヨット趣
意ダケヲ書イテ來マシタカラ若シ協フコトナレバ之ヲ演說トシテ速記ニ書イ
タモノトシテ貰ヒマシテ、速記錄ニ依ッテ御覽クダサル方ガ便利チャナイカト
思ヒマス、併ナガラ是等ノ事ハサウ行クモノカ行カヌモノカ存ジマセヌカラ、
チヨット玆ニ餘リ長クナリマスカラ是ハ略スル積リデアリマス、唯要ハソコ
ニ
〔議長、前田正名君ニ注意ス〕
ソレヂヤ議長ノ御許シヲ得マシタカラ速記錄ニ願フコトニ致シマス、第一ハ
歐洲ニ於テ日本新古美術展覽會ヲ開催ノコト、第二ハ重要生產品貿易ニ關ス
ル統一機關ヲ東京ニ設置スルコト、第三ハ海外ニ注文品引受所ヲ設置スルコ
ト、第四ハ從來ノ各府縣共進會竝ニ博覽會等ノ改善ヲ計ルコト、是等ハ大ニ
議論ガアリマス、博覽會、共進會ノ如キ一時ノ御祭リ騒ギ···諸縣ノ出品ヲ
飾ッテ騷グト云フヤウナ時デナイノデアリマスガ、是ハ大變ナ議論ガゴザイ
マスルガ措キマス、以上直接ニ海外貿易ノ振興ヲ爲スベキ二三ノ方法ヲ揭グ
ルノミ、此次ニ第一ニ外人ト企業ノ共同經營ヲ奬勵スルコト第二ニ將來開
通スベキ海外ノ交通路ニ伴フベキ相當ノ設備ヲ爲スコト、第三ニ國民風俗ノ
改善、第四ニ國ノ特色ヲ失フコト、此特色ヲ今失ヒツヽゴザリマスルガ、此
特色ヲ失フトキハ國ハ既ニ危イト言ッテ憚ラズ申上ゲル次第デゴザイマス、
チヨット今日デモ申上ゲマスノハ我ガ美術工藝品ハ世界ニ無比ノモノデアリ
マイク。是ハ誰ガ御師匠サンデアルカト云フト、印度、支那、朝鮮デゴザリマ
ス、ドウデアリマスカ、印度、支那、朝鮮ノ有樣ト申スモノハ·········皆我ガ日
本帝國民ガ我ガ特長ト爲シテ仕舞ッテ其御師匠サンノ國ハ今日ハドウナッテ居
リマセウ、卽チ我ガ日本ノ工藝其他ノ物ハ外國カラ吸取ラレ吸取ラレツヽア
ッテ實ニ是ヨリ恐ロシイモノハナイ、何ゾ工藝品ニ限ラム、其他言フニ言ハレ
ナイ特長ヲ有シテ居ルモノヲ失ヒツヽアル今日デアリマスカラ、實ニ眼前ノ
事ニノミ········將來此國家ヲドウスルト云フコトハ實ニ何トモ言ハレナイ感ヲ
起スノデアリマス、是モ實地イクサヲ見ルト實ニ感ジマスケレドモ我國ヲ見
ルニハ我國デハナイ、海外ヨリ我國ヲ見ナケレバ到底見レルモノデナイト考
ヘマス、丁度議長ノ御注意ニナッテ御許シ下サイマシタカラ大略玆ニ揭ゲテ
ゴザリマスカラ、ドウゾ速記錄ヲ以テ御覽ヲ願ヒマス、チヨット玆ニ面白イ
モノヲ申上ゲマス、(針金製ノ小器具ヲ示ス)、是ハ倫敦デ買ッテ來マシタ、是
ハ日本ニ極ク適當ナ品デゴザリマス、日本ノ國力增進ト申シマス上ニ········民
間ニシテモ働イタダケ食ッテ仕舞フト云フコトハ日本國民ノ誠ニ弊デアリマ
ス、又昨今ノ失フ所ハ非常ナモノデゴザイマス、是ハ倫敦デチヨット買ヒマ
シタガ、石鹼ヲ以テ········石鹸ガ此位ニ小サクナリマシタラ其白鹼ヲ之ニ入レ
テ柱ノ釘ヘ掛ケテ置ク、彼是澤山ニナッタ時ハ女中ガ洗濯ヲヤル、實ニ外國
モ國力增進ヲヤルニハ第一ハ節儉、徒勞ナ事ハシナイ、丁度石鹼ト節儉ト言
葉ガ合ッテル、チヨット面白イカラ、チヨット申上ゲル私一體フザケルコ
トハ嫌ヒダガ丁度節儉デゴザイマス、ドウゾ是ハ家庭ニ最モ注意シテ國家ヲ
作ラナクテハナラナイ責任ヲ有シテ居ル、此御一新ノ際ト言ッテモ宜シイ、
併シ失フ所多ク得ル所少ク外國人モ慨歎シテ居ル次第デアリマスカラ、ドウ
ゾ日本ノ特長ヲ失ハヌヤウニ願ヒタイ、折角及バズナガラ此實業ダケノ方面
ニ向ッテ盡力スル次第デゴザリマス
〔參照〕
海外貿易振興ノ方法ヲ根本的ニ解說セントセハ其意義極メテ廣汎ニシテ其
問題亦甚タ多岐ニ渉リ或ハ法制〓育ノ改善或ハ幣制交通ノ革新等論スヘキ
モノ一ニシテ足ラス今務メテ之レヲ直接關係アル二三ノ要點ニ止メ其方案
ヲ說カンカ
第歐洲ニ於テ日本新古美術展覽會開催ノコト
一歐洲ノ一都府ヲ撰ミ每年一囘我新古品展覽會ヲ開催シ世界ニ比類ナキ
我國ノ歷史及美術等ノ發達淵源及我國文明ノ眞髓ヲ紹介シ併セテ彼我
專門家ノ接近ヲ計リ智識ノ交換ヲ爲スコト
一前項ノ展覽會ニハ開催地ニ存在スル我古美術品ヲ蒐集出品セシメ我國
ヨリハ新作品ヲ精撰シテ之レニ出陳スルコト
一我國斯業ノ專門家ヲ派シ出品物ノ鑑定及說明ヲ爲サシメ歷史上ヨリ製
品ノ由緒緣起竝ニ其製品ト歷史、製品ニ對スル製作者ノ眞意及製品ニ
存スル寓意、風俗ト製品ノ變遷進步我國民ノ禮儀作法ト製品トノ關係
ヲ諒解セシメ且是等ノ蒐集品ニ關スル美術及風俗史ヲ各開催地ノ國語
ニ編纂シテ普ク其國人ニ我文明ノ卓越セルヲ知ラシムルコト
一以上ノ目的ヲ達スヘキ爲メ一ノ協會ヲ組織スルコト
第二重要生產品貿易ニ關スル統一機關ヲ東京ニ設置スルコト
一內外需要物品ノ粗製濫造ヲ嚴督シ商業道德ヲ進捗セシムル爲メ一ノ機
關ヲ組織シ海外ニ於ケル我商品ノ信用ヲ恢復シ貿易ノ發展ヲ計ルヘキ
こ
一統一機關ノ目的ハ純良正確ナル物品ヲ海外ニ紹介シ注文ヲ受ケテ責任
的販賣ヲ爲スヘキコト
但其組織ニ付テハ尙大ニ〓究調査ヲ爲スノ要アリ
第三海外ニ注文品引受所ヲ設置スルコト
一我正確ナル物品ヲ市場ニ紹介シ且責任ヲ以テ注文ニ應スルカ爲メ海外
ニ注文引受所ヲ開設スルノ必要アリ而カモ之レト共ニ內ニハ信用スヘ
キ製造家ノ團體ヲ有スルニアラサレハ目的ヲ達シ難キコト
一外國貿易ハ輸出入ノ一方ノミニテ成立スヘキモノニアラス故ニ我國ノ
產業發達ノ上ニ於テ必要ノ器械有益ナル發明品等アラハ之レヲ敏速ニ
購入シ若シクハ我當業者ニ紹介シ以テ彼我ノ便益ヲ計ルヘキコト
第四從來ノ各府縣共進會竝ニ博覽會等ノ改善ヲ計ルコト
一我國ノ經濟及物質的狀態ヨリスレハ外國品ノ輸入ヲ防止シ輸出ノ增加
ヲ計リ以テ國際貿易ノ關係ヲ進ムルコト急ナルハナシ故ニ刻下第一ノ
要務ハ輸出奬勵ノ方法ヲ考究スルニアルコト固ヨリ論ヲ俟タス
一然ルニ從來內國ニ開催セル各種ノ博覽會、共進會等ヲ觀ルニ單ニ一時
的其地方ヲ繁榮セシムルニ止リ貿易及地方產業奬勵ノ主旨ヨリシテハ
常ニ反對ノ結果ヲ見ルヲ遺憾トス又海外ニ開催セラレタル博覽會ニ贊
同スルニ際シテモ我出品者ハ國產紹介ノ手段ニ出テスシテ却テ粗製濫
造ト商業上ノ德義心ナキコトヲ廣〓セルノ觀アリ是レ全ク製造人ニ對
スル取締リナク又商業道德ニ重キヲ置カサリシ結果ナルヲ以テ博覽會
組織ノ改善ハ一日モ忽諸ニ付スヘカラサルコト
一以上ノ弊害ヲ矯正シ博覽會ヲシテ名實相伴ハシノントスルニハ商業上
ノ德義心ヲ進ムヘキ適切ノ機關ヲ備フルヲ急務トス
一而シテ從來ノ如キ時世ニ伴ハサル博覽會共進會ヲ改善シ製造家ヲ督勵
シテ内外商業ノ發展ヲ期セントセハ中央ニ全國輸出品品評會、地方ニ
一府縣限リノ品評會ヲ開催シ以テ海外貿易振興ノ練習ヲ爲スコト最モ
必要ノ施設ナリト信ス
以上ハ直接ニ海外貿易ノ振興ヲ爲スヘキ二三ノ方法ヲ擧ケタルノミ今更ニ
二三直間接ニ關係ヲ有スル問題ヲ說カンカ
第外人ト企業ノ共同經營ヲ奬勵スルコト
東洋ニ於テ我國カ生產上有利ノ地位ニアルハ言ヲ俟タス而シテ資本ノ缺乏
ハ外資輸入ノ急ヲ說ク者ヲ生スルニ至レリ然リト雖モ一國ノ生產ハ其國民
カ主働的地位ニアルコトヲ要シ受働的地位ニアルヘカラサルハ國民經濟上
忘ルヘカラサルノコトナリトス是レ企業ニ共同經營ノ必要アル所以ナリ
第二將來開通スヘキ海外ノ交通路ニ伴フヘキ相當ノ設備ヲ爲スコ
交通機關ノ發達ハ日一日ト其影響ヲ大ニシツヽアリ近クパナマ運河ノ開通
ヲ見ンカ我國ハ世界ノ通路ニ於ケル五大停車場ヲ有スルニ至ルヘシ此等ノ
地ニハ豫メ官民合力シテ旅客ノ運搬ニ付キ又ハ遊覽案內等ニ付キ十分ノ設
備ヲナスノ急務アルニアラスヤ
第三國民風俗ノ改善
先ツ第一ニ我國ノ外人ニ輕蔑セラルヽハ國民ニ公德心ノ缺如セルト衣服々
制ノ定マラサル世界的禮節ノ備ハラサル等風俗ノ改善極メテ急要ナルヲ信
ス此一事ニシテ備ハラサランカ何ヲ以テ彼我國民ノ交際ヲ進メ利害ヲ共通
セシムルヲ得ンヤ當路者深ク此ノ點ニ注意セサルヘカラス
第四國ノ特色ヲ失フコト
日本ノ特色ハ氣候ノ溫和、風光ノ絕佳、國民ノ優美、物產ノ豐富ナルニ存ス
然ルニ今ヤ漸ク其特色ヲ減殺シツ·アリ國民ハ日ニ輕薄ニ流レ日本魂ノ光
彩已ニ暗ク風景ノ地廢レテ設備亦整ハス又世界ニ卓絶スル工藝、織物、陶
磁器、漆器、金屬器等ハ今ヤ粗製濫造ニ流レ歐米ニ於ケル模造却テ技術ノ
發達ヲ示ス是レ實ニ寒心スヘキニアラスヤ印度支那朝鮮ハ日本工藝ノ祖ナ
リ然ルニ彼レニ倣ヘル我國ハ採テ以テ自己ノ特產トナシ其師祖タル彼等ハ
今日ノ衰境ニ陷レリ殷鑑遠カラス須ラク考慮ヲ要ス凡ソ一國其特長ヲ失フ
ハ國家ノ不幸是レヨリ大ナルハナシ先進諸國ノ此點ニ意ヲ用ユルノ深キ蓋
世人想像ノ外ニアリ海外貿易振興ニ關シ留意スヘキ重要ノ點此ニ存ス
第五遊覽地ノ設備
全國各地ノ好位置ニ在ル避暑避寒ノ地竝ニ景勝ノ地ヲ撰定シ其土地ノ事業
トシテ百般ノ設備ヲナサシメ外人ノ遊覽地ト爲スコト瑞西、伊太利ノ如ク
シ此天然ノ富ヲ利用セサルヘカラス
第六海運事業
日本ノ位置已ニ船體ノ如シ優勢ノ海上權ヲ有セサレハ其位置ヲ保ツ能ハサ
ルハ必然ノ理勢ナリトス又日本ハ位置トシテ其收ムヘキ利益ハ悉ク海外ニ
アリ而カモ一國ノ製產ニハ限リアリ優勢ノ海運業ニヨリ他國ノ物產ヲ以テ
已レノ業ト爲サヽルヘカラス海運業ノ發展ハ貿易ト離ルヘカラサル關係ア
リ實ニ一國ノ消長ニ關ス思ハサルヘケンヤ
第七他國民トノ交際
平和ノ關係ハ國民間ノ交際ニ俟ツモノ多シ政府ト政府トノ交際固ヨリ親密
ナルヲ要スルモ文明ノ進步ト共ニ更ラニ國民間ノ交際ヲ發達セシメサルヘ
カラス國民交際ノ敦厚ニ依リ相互ノ利益ヲ增進セシムルノ結果ハ世界ノ平
和ヲ確立スルノ基礎タルコトヲ忘ルヘカラス而カモ政府間ノ國際關係ノミ
ヲ以テ其目的ヲ果サントスルハ蓋シ難事ナリ思ハサルヘケンヤ
以上ノ諸項ハ本問題ニ直間接ノ關係アル所感ヲ述ヘタルニ過キス固ヨリ之
ヲ以テ盡クセリト爲スニ非ス政府當局者深ク本問題ヲ講究シ適當ノ措置ア
ランコトヲ望ム発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=46
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047・高木兼寛
○男爵高木兼寬君 發議者ニ質問イタシタウゴザイマスガ、宜シウゴザイマ
スカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=47
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048・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 高木男爵発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=48
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049・高木兼寛
○男爵高木兼寬君 今日、御建議ニナリマシタ趣旨ヲ承リマシテ感服ノ外ゴ
ザイマセヌガ、最モ心配ヲ致シマスル箇條ハ第一ニ御示シニナッタ人造絹絲ノ
事デアリマス、今ヤ我國ハ北海道ノ端ヨリ南ノ端臺灣ニ至ルマデ土地ヲ起シ
マシテ桑ヲ植付ケ天然的ノ生絲ヲ製造セムコトニ專ラ努メテ居ル次第デアリ
やば、然ルニ一方ニ於テハ斯ノ如キ價ノ廉イモノデ代用ヲ爲スコトガ出來ル
モノガ盛ンニ出來ルト云フコトヲ承ッテ見テハ、一日モ安ンジテ居ルコトハ出
來ヌヤウナ次第デアリマス、然ルニ之ニ打勝ツ方法ガ必ズヤ一ツアラウト云
フ御意見デアリマス、トコロデ成ルホド氣候其他御述べノ通リ得ル所ハ彼レ
ニ優ル所ヲ我ガ有シテ居ルコトガ我レニアルニ致セ、大祕密デアルト云フ御
話デアル、其法ガ分ラズシテ如何ニ心配シテ此物ヲ我國デ拵ヘルト云フコト
ハ頗ル難儀デアラウト思フ、付イテハ此分ハ學者ガ〓究イタシマスレバ容易
ニ發見スルコトガ出來ルモノカ、若シ容易ニ發見ガ出來ナイト云フコトニ致
シマスレバ、之ヲ拵ヘルノ法ハ得ル途モ亦アルモノデアリマセウカ、果シテ
得ルコトガ出來ルモノデアレバ誠ニ仕合セノ至リト云フノ外ナイヤウニ思ヒ
マイク。故ニ前田君ノ御考デハ生絲ヲ製造スル方法、謂ハユル絹絲ヲ製造スル
法ヲ得ルコトモ亦出來ルモノト云フ御意見ガ確カニアルノデアリマセウカ、
若シ又是ハ學者ニ賴ンデ晝夜兼行デ之ヲ拵ヘル途ヲ新タニ發見シナケレバナ
ラヌト云フコトデアリマスレバ、又其方面ニ向ッテモ專ラ力ヲ集中スルト云
フ必要ガアラウト思ヒマス、尙ホ一二伺ヒタイコトガアラウト思ヒマスケレ
ドモ先ヅ之ニ對スル御答辯ヲ煩ハシタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=49
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050・前田正名
○前田正名君 先刻申上グル如ク悲觀シテ腕ヲ組ンデ居ル私デナイ、悲觀ニ
打勝ツト云フ精神デアル爲ニ續ケテ歐羅巴ニ行キマシタガ、先刻申上グル如
ク是ハ歸ッテ後オ前ノ椅千ニ拵ヘヨト云ッテ贈ッテ吳レル如クニ親シク申シ
マシタカラ是ハ約束ヲシテ來マシタ、此專賣ヲ特ニ日本ニ向ッテハ廉ク賣ラ
ナクテハナラヌ、如何トナレバ我ガ發明ヲ廣ク世界ニ擴ゲタイ爲ニ自分ガ行ッ
テ便宜ナヤウニスル故ニ絲ガ澤山出來ル國デアルカラ絲ノ出來ナイ所ヨリ
毛、ウント廉クシテ上ゲル、自ラ行ッテモ········日本ニハ行キタイカラ自分ガ
行ッテヤッテ宜シイ、斯ウ云フ約束ガ出來テ居リマス、故ニ此節ハ西伯利カ
ラ朝鮮ヲ經マシテ遂ニ此福岡ニ九州中ノ實業家ヲ集メテ置キマシテ丁度十二
月十八日デアリマシタ、尙ホ關西、北陸ノ實業家ヲ京都ニ一一十一日ニ集メマ
シテ、サウシテ京都ノ方デ言フテ來マシタ、ソレカラ尙ホ名古屋、靜岡ニ行ッ
テ言ッテ來マシタガ、今ダニドウモ········段々承ッテ見ルト心配ハ無イト云フヤ
ウナ鹽梅デアッテ少シモ之ニ其感ジヲ起シマセヌ、故ニ先刻申上グル通リ、又
種紙ノ如キ又生絲ノ如キ茶ノ如キ、我ガ物產ノ陶磁器、漆器、紙、其他ノ如キ
矢張リ其敵ガ攻メテ來ルマデハ抛ッテ置クノカト云フコトヲ先刻申上ゲタガ、
少シ御答ヘガ長クナリマシタケレドモ、確カニ之ヲ廉ク我ガ土地ニ來テ貰ッ
テ專賣ヲ買ッテ我レ主トナッテ彼レガ製造場デナク我レガ製造トナッテ之ヲ
造ルコトガ出來ルト云フ御答ヘヲ申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=50
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051・高木兼寛
○男爵高木兼寛君 今一ツ伺ヒタイコトハ、本員共モ兩度ホド外國マデ參リ
マシテ、日本ヨリ賣出ス所ノ品物ニ付イテ外國人ノ評スル所ヲ承ッタ機會モ
度〓アルノデアリマス、ソレニ付イテ最モ遺憾ナル點ハ、我ガ國民ガ製造シ
テ出ス所ノ品物ガ詰リ一定セヌ品物デアッテ、或ハ種類モアリマセウケレド
モ、甲乙丙丁各、其質ヲ異ニスルガ如キコトデアッテ多數ノ物ヲ一度ニ注文デ
モ致シテ之ヲ買入レ外國へ販賣スルト云フヤウナコトガ極メテ困難デアル、
ソレ故ニ寧ロ日本人ニ依賴シテ品物ヲ拵ヘテ貰ッテ商賣ヲスルヨリモ自ラ拵
ヘタ方カ廉上ガリデアリ、且ツ揃ッタ品物ガ出來ルト云フヤウナコトヲ承ッタ
場合ガ幾ラモアルノデアリマス、付イテハ我國ヨリ出ス所ノ品物ヲ一定シテ
外國市場ニ送リ立派ナ商品トナスト云フコトニ付イテノ御意見カラデアルカ
ト思ヒマス、題目ダケヲ御讀ミニナッタ中ニソレ等ノ機關ヲ設ケナケレバナ
ラヌト云フ御話ガアリマシタガ、其機關ハ如何ナルモノヲ拵ヘテ帝國ノ生產
品ヲ優良ノ物ニシテ外國市場ニ賣出スコトガ實際出來ルト云フ御見込ガゴザ
イマセウカ、實際唯言ウテ見マスルト、我國ニ於テ今日マデ此方面ノ進步ガ斯
ノ如ク遲々タル所以ガアルダラウト思フ、ナゼ同士討ナドヲスルト云フコト
ガ起ルカ、必ズ其弊害ノ歸スル所ガアルニ違ヒナイノデアル、付イテハ其原
因卽チ今日マデ斯ノ如キコトノ出來ナイ所以ガアラウト思ヒマスカラシテ、
之ニ付イテ如何ナル御考ガアルカ、今日マデ出來ナイ所以ヲ御〓究ニナッテ
分ッテ居ルコトデアリマスレバ、ソレヲ如何ニシテ除クカ、除イテ而シテ後ニ
我ガ生產品ヲ立派ニ世界ニ於ケル所ノ市場品トナスコトヲ圖ルコトガ出來ル
カト云フヤウナコトニ付イテノ御意見ヲ承リタイモノデアルト思フ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=51
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052・前田正名
○前田正名君 誠ニ仕合セナル御質問デアリマス、ソレハ丁度玆ニ此重要生
產品貿易ニ關スル統一機關ヲ東京ニ設置スルコトヽ云フ所ヨリ御答ヘヲ致シ
タウゴザイマス、不肖ナガラ明治十年マデ此貿易ノコトニ、海外ニ從事シマ
シテ、幸ニシテ明治十年ニ歸リマシテ、大博覽會ノ事務長ヲ命ゼラレテ、是
ガ日本ノ見世開キデアルト進ンデ行ッタ次第デアリマス、其時ハ日本國民ヲ
バ全ク「エスキモー」ノ如ク支那ノ屬國ノ如ク見ラレテ居ル時デゴザイマシタ
カラ、芝居マデモサセテ日本ノ國風ヲ知ラシタノデアリマス、餘計ナガラ
言申上ゲマス、其當時ヨリ此日本制度ノ事ニ付キマシテ夜晝ニ繼キ在職中ハ
調査攻究シタ積リデアリマス、詰リ此團結ト云フコトノ必要ヲ感ジマシタ爲
ニ御承知モアラセラレマスルガ、農事會、蠶絲會、茶業會、其他十二團體ヲ
拵ヘマシタ、其絲ノコトニ付イテノ御質問ニ丁度通合スルヂヤラウト考ヘマ
スコトガ我ガ百二十萬人ノ茶業者デアッタ、是ガ柳ノ葉ヲ入レル、樣〓ノコ
トヲシテ遂ニ「ユーナイテットステート」ノ政府カラ日本茶ヲ禁ゼラレタコ
トガ明治十七年デアリマス、其時政府ヨリ二十萬ノ保護ヲ願ッテ出來マシタ
ケレドモ、不肖ハ其當時農商務次官デアリマシテ、思フ所アッテ退イテ、其
時ニ二十萬圓ノ金ヲ取上ゲラレタカラ宜シイ、百二十萬ノ茶業者ヨリ茶半斤
出セ、出セバ六十萬斤出來ル、之ヲ五十錢トスレバ三十萬圓ノ金ガ出來ルカ
ラ、每年三十萬圓ノ金ヲ以テ此茶ノ討死スルノヲ活カシテヤラウト云フノガ
茶業ノ會デアリマス、是ガ九州ニ茶業會ガアリ、關東ニ茶業會ガアリ、東北
ニ茶業會ガアルト云フ如キ三ツノ〓體ヲ拵ヘタ爲ニ此規約ト云フモノ、規約
ト云フモノハ法律ヨリ重ウゴザイマス、此規約ヲ以テトウ〓〓亞米利加ニ日
本國旗ヲ以テ市場ニ向ッテ戰ヒヲ開キマシタ其結果、ドウデゴザイマセウ、
日本國民ハ滿洲ノ戰ヒハ號外ヲ貰ッテ喜ブケレドモ、此茶業ノ戰爭ハ號外ヲ
出ス人モ無シ喜ブ人モ無イソレハ何ヂヤラウカト云フト先刻申上ゲル如ク
橫濱神戶ノ城········城城、商戰上ノ城廓トモ云フベキ居留地ニ茶デアル、絲デ
アル、悉ク居留地·······横濱ノ居留地ノ專有デアル、全ク城廓デアリマシタガ、
茶業者ガ諛ッテ御買上ヲ願ヒマス、御買上ヲ願ヒマスト云ッテ卽チ買ハレテ
居ッタ、其我ガ日本ノ國旗ヲ樹テ、戰爭場裡卽チ亞米利加ニ向ッテ出シマシ
タ結果、是ハ長クナリマスカラ申上ゲマセヌガ、遂ニ今日ノ茶業ハ我ガ靜岡
ノ茶業トナッタ、卽チ家康ノ城廓ノ如クニナッテ外國人ガ買ヒマセウ、買ヒ
マスカラ卽チ賣ルト云フ機關ニナッタ、神戶橫濱ニ居ル城廓ハ卽チ隊ニ師團
トモ云フベキ隊ハ悉ク退却シテ、卽ヲ居留地ノ今日ノ有樣ハナンボデモ先ヅ
買フコトニナッタノデアリマス、是ハ卽チ日本商權ノ恢復デアッテ、國民ハ
非常ニ之ヲ喜バナクチヤナラヌノデアリマスケレドモ、先刻申上ゲル通リ明
治十年ニ今日言フコトヲ言ッテ建議シテアルケレドモ、半バ達シマシタケ
レドモマダ達シナイカラ此節ハ此團體ヲマ少シ堅固········マ少シ堅固ニシテ又
其茶ノ如キ、絲ノ如キ團體ヨリ成ッテ居ル········成ラナイモノヲ纒メテ一ノ茲
ニ大機關ヲ作ラナクチヤナラヌ、其機關ヲ作ルニハ地方ノ團體ガ是ニ皆寄ッ
テ來ナクチヤナラヌト云フ、是ガ卽チ第二ノ御質問ノ問題ニ當ルノデアリマ
ス、尙ホ私ノハ枝葉ニ入ッテ仕舞ヒマスカラ要領ヲ得ナイヤウナ御話ニナル
カモ知レナイガ兎モ角モ統一ヲ作ラナクチヤナラヌ、ト云フモノハ現ニ今、
里〓ノ羽二重、第二ニツク卽チ大產物デアリマスガ、此羽二重ニ從事シテ居
ルノハ高島ナリ、堀越商店、三井物產會社、原善、橫濱ノ中澤、斯ウ云フ五
軒列ベテ居ッテ矢張リ是ガ味方討ヲシテ居ルヤウナ鹽梅デアリマス、之ヲ統
一スルニハ、ドウシテモ玆ニ東京ニ統一スルモノヲ作ラナケレバ到底此戰場
ニ出テ此戰ヒヲ全ウスルト云フコトハ出來ナイ、唯個々ニ視察トカ何トカ云
ウテ始終、調査トカ、視察トカ、〓究ヂャトカ········視察、〓究、調査ト云フ
時デハナイ、言論ノ時デハナイ、實行スル時デアル、其實行ヨリ割出シテ行
ク所ノ調査攻究デナクチヤナラヌ、丁度斥候ニ於ケル········兵ナクシテ斥候ハ
無駄デアル、斥候ノ效ハ兵ガ有ッテコソ斥候ノ效ヲ爲ス、始終報告調査グラ
ヰヲシテ居ッテハ到底今日ノ危急ノ場合ヲ救フ譯ニハ行カヌ、餘計ナガラチ
ヨット申上ゲマス、故ニ丁度適例ヲ申上ゲマスト昔········昔ノ通リデナクチヤ
ナラヌト云ウテ宜シイ、又今日歐羅巴ノ文明ノ如クナラナクチヤナラヌト云ツ
テ宜シイ、ソレハ何デアルカト云フト尾張ノ陶器瀨戶物、尾張候ハ是
ガ卽チ尾張ノ參勤交代ノ費用ノ金トシテ此陶器ノ制········組織ト云フモノハ到
底今日ノ及ブ所デナイ、薩摩ノ參勤交代ノ費用ハ砂糖デアル、土佐ハ何デア
ルカト云フト紙、德島ハ何カト云ヘバ藍ヲ以テヤル、其組織ト云フモノハ非
常ナモノデアル、今日ノ
〔議長、前田正名君ニ注意ス〕
〓 1御注意デ·······先ヅ是デ御分リデゴザイマセウ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=52
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053・高木兼寛
○男爵高木兼寬君 マダ伺ヒタイコトガ澤山アリマスケレドモ、就中要用ト
思フモノニ付イテ、モウ一コト伺ヒタイ、本員ニ於キマシテモ、國家ノ長所
ヲ失ヒツヽアルト云フ考ヲ持シテ居ルノデアリマス、御演說中ニ矢張リ其意
ヲ御漏ラシニナッタヤヴデ誠ニ遺憾ノコトデアル、大體ニ於テ一口ニ申セバ
世界ノ大勢ハ斯ク斯クデアルカラ我國モ必ズヤソレニ隨伴シナケレバナラヌ
カノ如キコトヲ承ルノデアリマス、是ハ甚ダ本員等ノ遺憾ニ思ッテ居ル次第
デアリマス、故ニ唯閣下ニ伺フ所ハ、如何ナル特長ヲ失ヒツヽアリマスカ、
殊ニ御話ノ時ニ力ヲ入レテ御話デアリマシタガ、ドウゾ我ガ國家ノ長所ヲ是
レ是レノ點ニ於テ失ヒツヽアルト云フコトヲ極ク簡單ニ御答辯ヲ煩ハシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=53
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054・前田正名
○前田正名君 第一ハ此議場デ申スコトヲ憚リマス、第二ハ此道德デアリマ
ス、擢ンデタモノデアリマス、昔ハ證文········金百兩、或ハ金一兩、右借用仕
候事實正也萬ガ一返濟イタサズ候節ハ人中ニテ御笑ヒ下サルベク候ト云フコ
トデアリマシタ、是ガ今日ノ歐羅巴ハ如何デアリマス其特長ト云フモノヲ
悉ク失ッテ居リマス、第二ハ········第三ニハ········第一ハ申シマセヌ、第二ハ
今申シマシタ、第三ハ成ルホド此織物、陶磁器、漆器、金屬ナリ、紙、敷物、
雜貨等、技巧········奇麗ニハナッテ來マシタケレドモ、ソレヲ外國人ニ賣リマ
スルニハ退步デアル、唯奇麗デアリマスカラ、子供ハ喜ビマスガ、今日日本
ノ特色ヲ失ッテ居ルト云フコトハ卽チ世界中デ以テ見ル所デアリマス、故ニ
此特長ヲ失フト云フコトハ、モウ先刻チヨット申上ゲテ置キマシタガ、一番.
國ノ是ヨリ大事ナコトハ無イ、之ヲ救フハ今ニアル、遲レテハイカナイト云
フコトヲ申上ゲタ次第デアリマス、是デ御滿足デアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 採決イタシマス
〔前田正名君「ソレデハ是デ·······」ト述フ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=55
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056・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本建議案ヲ可トスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=57
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058・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ御報告ニ及ビマス
〔東久世書記官朗讀〕
鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運送ニ關スル法律案特
別委員
公爵德川慶久君伯爵寺島誠一郞君子爵靑山幸宜君
子爵新莊直陳君子爵入江爲守君男爵田健治郞君
谷森眞男君仲小路廉君廣瀨滿正君
陸軍作業會計法中改正法律案特別委員
伯爵松平直之君子爵樋口誠康君男爵沖原光孚君
男爵山名義路君男爵山内長人君男爵外松孫太郞君
男爵北大路實信君森田庄兵衛君木本源吉君
產牛馬組合法改正法律案特別委員
伯爵〓閑寺經房君子爵伏原宣足君子爵伊集院兼知君
和田彥次郞君男爵竹腰正己君男爵靑山元君
男爵坪井九八郞君藤田四郞君土居通博君
水道條例中改正法律案特別委員
侯爵花山院親家君伯爵〓棲家〓君子爵野宮定穀君
男爵石黑忠悳君男爵尙順君關〓英君
古莊嘉門君岩村兼善君鎌田勝太郞君
關稅定率法輸入稅表中改正法律案特別委員
伯爵大原重朝君子爵松平乗承君子爵稻垣太祥君
男爵小早川四郞君男爵藤大路親春君男爵黑田長和君
平山靖彥君田島竹之助君小野光景君
水利組合法中改正法律案特別委員
伯爵萬里小路通房君子爵京極高備君子爵野村益三君
小野田元熙君小牧昌業君男爵毛利五郞君
三宅秀君何禮之君兒玉淳一郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=58
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059・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ノ議事日程ハ決定次第、彙報ヲ以テ御通知ニ及
ビマス、本日ハ是デ散會イタシマス
午後零時三十一分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002803242X00919120312&spkNum=59
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