1. 会議録本文
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000・会議録情報
明治四十五年三月十九日(火曜日)午後一時十三分開議
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議事日程 第二十一號 明治四十五年三月十九日
午後一時開議
質問
一 對米外交に關する質問(服部綾雄君提出)
二 國家的精神の根本觀念に關する質問(荒川五郎君提出)
三 對支那外交問題に關する質問(佐々木安五郎君提出)
四 海外輸入品防止に關する質問(才賀藤吉君提出)
五 鐵政策に關する質問(武藤金吉君提出)
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第一 擔保附社債信託法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 鐵道又は船舶と露國の鐵道又は船舶との貨物の聯絡運送に關する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 樺太に於ける石炭の採掘に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第六 朝鮮に於ける學校職員にして國庫より俸給の支給を受けさる文官判任以上の者の退隱料及遺族扶助料に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第七 日本勸業銀行法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 農工銀行法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第九 北海道拓殖銀行法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十 藥品營業竝藥品取扱規則中改正法律案(綾部惣兵衞君提出) 第一讀會
第十一 民事上告豫納金手續廢止法律案(富島暢夫君外一名提出) 第一讀會
第十二 新聞紙法中改正法律案(松田源治君外五名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十三 災害地地租特別處分法案(國井庫君外十名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十四 朝鮮總督府新聞紙規則改正に關する建議案(關和知君外一名提出)
第十五 輕便鐵道速成に關する建議案(矢島中君外一名提出)
第十六 銚子港修築に關する建議案(吉植庄一郎君外二名提出) (委員長報告)
第十七 北海道拓殖經營に關する建議案(小橋榮太郎君提出) (委員長報告)
第十八 明治五十年日本大博覽會開催に關する建議案(高木益太郎君提出) (委員長報告)
第十九 區裁判所事務復舊開始に關する建議案(名村忠治君提出) (委員長報告)
第二十 區裁判所出張所設置に關する建議案(名村忠治君提出) (委員長報告)
第二十一 中川改修工事速成に關する建議案(齋藤珪次君外一名提出) (委員長報告)
第二十二 蠶業政策に關する建議案(武藤金吉君外二名提出) (委員長報告)
第二十三 (特別報告第六七號)酒造税納期變更の請願 (委員長報告)
第二十四 (特別報告第一八一號)燈臺急設の請願 (委員長報告)
第二十五 (特別報告第一八二號)鐵道敷設速成の請願 (委員長報告)
第二十六 (特別報告第一八三號)七尾鐵道延長の請願 (委員長報告)
第二十七 (特別報告第一八四號)鐵道敷設の請願 (委員長報告)
第二十八 (特別報告第一八五號)鐵道敷設速成の請願 (委員長報告)
第二十九 (特別報告第一八六號)鐵道敷設速成の請願 (委員長報告)
第三十 (特別報告第一八七號)鐵道敷設速成の請願 (委員長報告)
第三十一 (特別報告第一八八號)假乘降場設置の請願 (委員長報告)
第三十二 (特別報告第一八九號)鐵道敷設速成の請願 (委員長報告)
第三十三 (特別報告第一九〇號)鐵道敷設の請願 (委員長報告)
第三十四 (特別報告第一九一號)輕便鐵道敷設速成の請願 (委員長報告)
第三十五 (特別報告第一九二號)鐵道大貨物等級中水産物等級改正竝貨車準備の請願 (委員長報告)
第三十六 (特別報告第一九三號)多治見驛を途中下車驛と爲すの請願 (委員長報告)
第三十七 (特別報告第一九六號)營業税法改正の請願 (委員長報告)
第三十八 (特別報告第一九七號)酒造税法竝砂糖消費税法改正の請願 (委員長報告)
第三十九 (特別報告第一九八號)織物消費税法中改正の請願 (委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=0
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001・大岡育造
○議長(大岡育造君) 諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔書記朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
擔保附社債信託法中改正法律案
(第四號)明治四十四年度歲入歲出總豫算追加案
(追第一號)像算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
(第一號)明治四十五年度歲入歲出總豫算追加案
(第二號)明治四十五年度歲入歲出總豫算追加案
(特第二號)明治四十五年度特別會計歲入歲出豫算追加案
(特第三號)明治四十五年度各特別會計歲入歲出豫算追加案
(第三號)明治四十五年度歲入歳出總豫算追加案
一貴族院ヨリ受領シタル政府提出案左ノ如シ
鐵道又ハ船舶ト路國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運送ニ關スル法律案
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
輕便鐵道速成ニ關スル建議案
提出者矢島中君江原節君
拓殖會議創設ニ關スル建識素
提出者竹越與三郞君
民事上告豫納金手續廢止法律案
提出者富島暢夫君向坂弘君
成田鐵道國有ニ關スル建議案
提出者稻村辰次郞君
煉乳業奬勵ニ關スル建議案
提出者德田讓甫君黃金井爲造君三浦覺一君
一昨十八日貴族院ニ於テ本院ノ送付ニ係ル左ノ本院提出案ヲ可決シタル旨同院
ヨリ通牒ヲ受領セリ
關稅定率法輸入稅表中改正法律案
一今十九日明治四十三年度豫備金支出ノ件外三件(承諾ヲ求ムル件)委員水品
平右衞門君田中定吉君病氣ノ爲辭任ニ付其補闕トシテ小久保喜七君東武君
ヲ議長ニ於テ選定セリ
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ揭載ス〕
一委員長及理事左ノ通リ當選セラレタリ
日本勸業銀行法中改正法律案外二件委員會
委員長西谷金藏君理事森正君
朝鮮ニ於ケル學校職員ニシテ國庫ヨリ俸給ノ支給ヲ受ケサル文官判任以上ノ者
ノ退隱料及遺族扶助料ニ關スル法律案委員會
委員長橫山金太郞君理事世良靜一君
新二十錢銀貨改鑄ニ關スル建議案委員會
委員長森茂生君理事安川保次郞君
(左ノ質問書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ揭載ス)
對米外交ニ關スル質問主意書
右成規ニ據り提出候也
明治四十五年三月七日
提出者服部綾雄贊成者武富時敏
外八十四人
對米外交ニ關スル質問主意書
過般來北米合衆國元老院ニテ審議中ナル同院議員「井リアム、デリンハム」ノ提出
ニ係ル外國人合衆國來住法改正法律案中ニハ帝國ノ體面及利益ニ重大ノ關係ヲ
有スルモノアリト認ム仍テ本員ハ左ノ件々ニ付帝國政府ノ誠實ニシテ明確ナル答辯ヲ
望ム
第一右改正法律案ノ第三條中ニハ「歸化ニ依リテ合衆國市民トナルコト能ハサル
者ハ米國入境ヲ禁止セラルヘシ」トノ一句アリ後元老院委員會ニテ之ヲ改メ右ノ
「者ハ」ト「米國入境」トノ間ニ「旅行券ニ付別ニ條約協約又ハ取極ヲ以テ規定ス
ルニ非サレハ」ノ一句ヲ挿入スルコトニ決定シタリト聞ク
帝國政府ノ得タル〓報モ果シテ右ノ如クナル乎若差異アラハ右文句ニ關シテ政府
ノ得タル正文如何
第二不能歸化外國人ノ北米合衆國入境禁止ニ關スル改正案ニ對シテ北米合
衆國元老院委員ノ加ヘタリト稱スル前記(第一項)修正ノ效果ニ依リ帝國臣民
ノ北米合衆國入境ハ北米合衆國國法上全然自由ト爲リタルモノナリヤ
右ニ付帝國政府ノ所見如何
第三北米合衆國政府ハ今日事實上日本人ヲハ不能歸化外國人ノ部類ニ編入
シツツアリ帝國政府ハ北米合衆國政府ノ當該解釋ニ全ク同意ナル乎
若同意ナルニ於テハ列强國人齊シク米國ニ在リテ歸化權ヲ享有スルニ方リ獨リ日
本人ノミ除外セラルルノ不對等ニ對シテ帝國政府ハ是迄何等カノ根本的解決ヲ
試ミタルコトアリヤ若之レナシトスルモ此ノ際何等カノ根本的解決ヲ試ムルノ意思
アリヤ否
第四帝國政府ハ昨年二月日米通商新條約ヲ締結スルニ方リ同月二十七日附
公文書ヲ北米合衆國政府ニ致シ以テ北米合衆國「元老院ノ決議ニ由レハ右條
約ノ批准ニ對スル元老院ノ協賛ハ該條約カ一九〇七年二月二十日裁可ノ外國
人合衆國來住法ト題スル法律ノ何レノ條項ヲモ廢棄シ又ハ之ニ影響スルモノト認
メラレサルヘシトノ見解ヲ批准書中ニ記入スヘキコトトシテ與ヘラレタル旨ヲモ」一水諾
シタリ卽チ新條約ノ爲現行外國人合衆國來住法ノ一〓一晝ヲモ動カスコトナカ
ルヘキヲ條件トシテ爰ニ始メテ新條約ヲ成立セシメタルノ觀ナキニ非ス
然ルニ今ヤ「デリンハム」提出ノ前顯新外國人來住法成立スルニ至ラハ帝國政府
ハ右承諾書ノ效力ヲ當該新外國人來住法ニモ當然及ホスモノト解釋スルカ若其
ノ效力カ一九〇七年二月二十日裁可ノ外國人合衆國來住法ノミニ及フモノト
セハ此ノ際北米合衆國政府ヨリ之カ同意ヲ要メ來ルモ帝國政府ハ之ヲ承諾セサ
ルノ意思アリヤ如何
第五帝國臣民ノ渡米制限ヲ確實ナラシムル目的ヲ以テ日米兩國間ニハ目下旅
行券下付取締若ハ其ノ他ノ方法ニ付何等カノ協約又取極アリヤ有ラハ之カ內容
如何
若之レ無シトセハ帝國政府ハ此ノ際本件ニ關シ北米合衆國政府ヨリ現ニ何等カ
ノ提案ニ接シ居ラサルヤ居ラハ之ニ對スル帝國政府ノ方針如何
右及質間候也
國家的精神ノ根本觀念ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
明治四十五年三月九日
提出者荒川五郞贊成者石田孝吉
外四十七人
國家的精神ノ根本觀念ニ關スル質問主意書
政府ハ福岡日日新聞第一萬三十八號(明治四十四年十二月二日)紙上ニ記載
セル「門司驛員自殺問題」ト題セル九州帝國大學總長山川健次郞ノ所說ヲ以テ我
カ國家的精神ノ根本觀念ニ背馳スルモノト認メサル乎
右及質問候也
對支那外交問題ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
明治四十五年三月九日
握出者佐々木安五郞贊成者高木益太郞
外八十四人
對支那外交問題ニ關スル質問主意書
支那ノ騷亂ハ東洋全局ノ安危ニ關シ最帝國ノ休戚ニ係ルモノ多シ此ノ際帝國ノ外
交ハ最愼重ニ且敏活ナラサルヘカラス之ニ對スル當局外交ノ方針ハ豫メ其ノ疑惑ノ
存スル所ヲ舉ケテ之ヲ國民ノ前ニ質シ舉國一致ノ力ヲ以テ之カ解決ニ從ハサルヘカラ
ス是レ左ノ箇條ニ依リ質問ヲ提出スル所以ナリ
一我カ當局カ支那ニ對スル外交ハ其ノ機關ニ統一ヲ缺キ其ノ連絡ニ機敏ヲ缺キ
其ノ晝策ニ〓究ヲ缺キタルノ憾アリ政府ハ根本ヨリ之ヲ一新スルノ意ナキヤ如
何
二我カ帝國ト他列國トカ支那ニ對スル本來ノ立場ハ自ラ軒輕アルヘキ筈ナリ政府
ハ之ヲ同一視シ若ハ帝國ヲ以テ他國ノ後塵ニ座スヘキモノト思考セルニハ非サ
ルカ否カ
三支那ニ對スル領土保全ト政體不干渉ノ兩主義ハ必シモ竝立スヘキ性質ノモノ
ニ非ス二者扞格ノ場合政府ハ孰レヲ取ルカ
四若絕體ニ政體不干涉ナリトセハ伊集院公使カ立憲君主說ヲ以テ袁世凱ニ强
井タルハ本國政府ノ節度ニ違ヒシモノトシテ速ニ之ヲ交迭シ以テ內外ノ疑惑ヲ
避ケサルヘカラス然ルニ今ニ於テ猶此ノ事ナキハ如何
五支那ニ於ケル共和論者ニ對シ政體不干渉ヲ唱ヘ來リシ政府ハ他日滿蒙其ノ
他ニ於テ保皇論者ノ勃興スルコトアラム時ニモ亦同一ノ態度ニ出ツヘキヤ如何
六我カ當局ハ曾テ孫黃等革命論者ノ我カ帝國內ニ在ルヲ忌ミ壓迫疎外シテ以
テ時ノ〓廷ニ好意ヲ示セシコトアリ今後モ亦袁政府ニ反對意見ヲ有セル者ニ
對シテハ當年ノ孫黃ニ對スルト同樣ノ取扱ヲ爲ス積リナリヤ否
七今囘勃發ノ北京暴動ニ對シ政府ハ之ヲ一時的ノ小故ト見ルカ將ク又永續的
ノ大患ト見ルカ猶之ニ對スル最後ノ方策ハ如何
八支那借款問題ニ對スル政府ノ方針ヲ問フ
右及質問候也
海外輸入品防止ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
明治四十五年三月九日
提出者才賀藤吉贊成者稻茂登三郞
外二十九人
海外輸入品防止ニ關スル質問主意書
一鐵道、電氣、瓦斯ノ如キ特許ヲ要スル事業ノ需要品ハ一切內地製造品ヲ以テ
供給セシムヘキ方針ヲ採ルコトハ我カ邦現下ノ急務ナリト信ス政府ノ所見如何
二外國品防止ノ消極的施設ノミニ止マラス進テ支那方面一切ノ需用ニ應スヘキ
自覺竝實際ノ設備ヲ要スルモノト信ス政府ノ所見如何
三我カ邦機械及材料ノ製造工業ヲ發逹セシムルノ目的ヲ以テ特種金融機關ノ
組織ヲ爲ス意思ナキヤ
四官營製鐵所ハ五十磅以下ノ「レール」製造ヲ見合セシ理由如何
右及質問候也
事務簡捷ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
明治四十五年三月十二日
提出者石橋爲之助贊成者稻茂登三郞
外二十九人
事務簡捷ニ關スル質問主意書
內務大臣ハ曩ニ管下ノ諸官廳ニ向ッテ繁文縟禮ヲ去リ事務ヲ簡捷ニスヘキヲ訓令セ
リ其ノ主旨甚タ可ナリ然レトモ事務簡捷ノ必要ハ單ニ內務省管下ニ止マラス直接
人民ニ接スル稅務署又ハ區裁判所登記所ノ如キ最執務冗漫ニシテ人民ヲシテ無益
ニ時間ヲ消費セシムルノ弊ニ堪ヘサルモノアリ中ニハ附近飮食店ト結托シテ故ラニ事
務ヲ澁滯シ午前ヨリ午後ニ跨カラシムルモノナキニ非ス故ニ政府ハ更ニ一般諸官衙
ニ亙リテ監督ヲ嚴ニシ手續ヲ簡易ニシ以テ此等ノ惡弊ヲ矯正スルノ必要ヲ認メサルカ
右及質問候也
但シ本質問ハ別ニ主旨說明ノ演說ヲ爲サス速ニ答辯アラムコトヲ乞フ
在〓軍人團竝地方靑年團ニ對スル取締方針ニ關スル質問主意書
右成規ニ據り提出候也
明治四十五年三月九日
提出者澤來太郞贊成者石田仁太郞
外三十人
在〓軍人團竝地方靑年團ニ對スル取締方針ニ關スル質問主意書
在〓軍人團竝地方靑年團體取締ニ關シ從來成ルヘク政治上ニ干與セシメサル方針ヲ
以テ指導シ來レリト聞ク果シテ然ルカ若然リトセハ將來モ尙此ノ方針ヲ改メサルノ意乎
右及質問候也
說明
本員ノ御尋致サウトスル問題ハ、旣ニ質問書ヲ提出シテ置イタ通リ、帝國在〓軍人會
竝ニ地方靑年團ニ對スル取締方針ニ關スルコトデアリマス、第一ニ順序トシテ軍人會ノ
方カラ伺ヒマスガ、此軍人會ナルモノハ明治四十三年十一月三日ニ創立サレマシタモ
ノデ設立ノ趣意書ニ依レバ「其團體ノ目的トスルトコロハ軍人精神ノ鍛練ト軍事智
識ノ增進トヲ圖リ併セテ會員ノ相互扶助慰藉ノ方法ヲ講セントス」トアリマス、此他
ニハ何等ノ目的ヲ有シテ居ラヌノデアル、然ルニ實際ハ如何ニナッテ居ルカト見マスレ
バ絕對的ニ政治上ニ干涉セシメザル目的ヲ以テ創立サレタルモノヽ如クニナッテ居ル、
尙寺內會長ノ宣言サレタル所謂宣言書ニ徵スルニ、斯樣ナコトヲ宣言サレテ居リマス
「第一本會會員ニシテ此團結力ヲ利用シ政治ニ干與スル如キコトアラムカ啻ニ軍人
會設立ノ本旨ニ悖戾スルノミナラス弊害ノ及フトコロ實ニ測リ知ラサルモノアラムトス」
斯樣ナコトヲ宣告サレテアリマスガ、如何ニモ軍人會ト云フ〓結カラ其儘政治ニ利用
スルト云フガ如キコトガアッタナラバ、多少ノ弊害ハ免レヌモノト思フ、然ルニ實際地方
ニ於テ此在〓軍人會員ニシテ個人的ニ政治ニ干與スルコトガアリマシテモ、之ニ對シ
テ拘束ヲ加ヘツヽアルコトハ事實デアリマス、人權ヲ拘束スルモ亦甚シキモノト言ハザル
ヲ得ヌノデアル、若シ在〓軍人會員ニシテ政治ニ干與スルコトガ假ニ惡シキコトヽ致シ
マシテモ、會長タル寺內君ノ行動ニ比スレバ、遙ニ穩健ノ行動ト言ハナケレバナラヌ、何
故ナレバ並會員ニシテスラ政治ニ干與スルコトガ惡ルイト云フナラバ況ヤ是ガ會長タ
ルベキ寺内君ノ如キハヨリ以上、惡シキ行動ト言ハナケレバナラヌノデアル、然ルニ寺內
會長ハ現ニ朝鮮總督トシテ政治ニ干與スルドコロカ全ク政治ノ責任者トナッテ居ルノ
デアルノミナラズ、時ニ貴族院ヲ操縱シ時ニ或ハ衆議院ヲ操縱スルガ如キ行動ヲナサレ
テ居ルト云フコトハ、是亦掩フベカラザル事實デアリマス、是ニ由テ之ヲ觀レバ在〓軍人
會員ヲ遇スルコト甚ダ酷ニシテ、自己ヲ許スニ甚ダ寬ナルモノト申サナケレバナリマセヌ、
是レ人ヲ咎ムルニ急ニシテ、己レヲ許スニ頗ル寛大ナル勝手氣儘ナ行動ト斷言セザルヲ
得ヌノデアリマス、殊ニ況ヤ我軍人ナルモノハ現役時代ニ於テハ勿論政治三千與スルヲ
託シマセヌケレドモ現役後豫備若クハ後備ニ屬シタル以上ハ普通人民ト同ク民間ニアリ
テ、政治ノ利害得失ヲ均シク受ケナケレバナラヌモノデアリマス、サレバ隨ッテ普通人民ト
同ク政治ニ干與スルノ權利ヲ有スルモノナルコトハ我欽定憲法ノ許ストコロデアッテ在〓
軍人會ニ屬スル會員ノ均シク有スルトコロノ憲法上既得ノ權利デアリマス、然ルニ在〓軍
人會ニ付テ此憲法上ニ於ケル既得ノ權利ヲ拘束若クハ壓迫スルガ如キコトハ、明カニ
憲法違反ノ行爲ナリト斷言セザルヲ得ヌノデアリマス、現政府ハ前内閣ト其性質ヲ異ニ
シテ、政黨內閣ト呼バレ、責任內閣ト目セラレテ居ルノデアリマスカラ、職ニ陸軍大臣ノ
任ニ在ラルヽ石本君ハ必ズヤ、前內閣同樣ナ非立憲的方針ハ取ラレヌモノト思フ、然
レドモ其經歷ニ徵シ、其系統ヨリ見レバ世ニ所謂官僚派非立憲派ニ屬セラレテ居ル
ノデアルカラ、或ハ前內閣同樣ノ御方針ヲ以テ在〓軍人會員ヲ遇シ若クハ取締ヲシテ
居ルノデハナカラウカト疑ハザルヲ得ヌノデアル、、若シ本員ノ疑フトコロヲシテ眞ナラシメバ
國務大臣ノ身トシテ憲法ノ規定ニ反シ、國民旣得ノ公權ヲ拘束シ蹂〓シテ顧ルトコロ
ヲ知ラザルモノト言ハナケレバナリマセヌ、果シテ前內閣同樣此在〓軍人會ニ對シテ、絕
對的ニ會員ヲシテ政治ニ干與セシメザル御方針ヲ繼續スルト云フノデアルカ、將タ改ムル
トコロアラントスルノデアルカ、此〓ヲ明カニ御答辯アリタキモノデアリマス、終リニ臨ンデ內
閣總理大臣ヨリ御答辯ヲ得タイト思フコトハ在〓軍人會ノ如ク事實ニ於テ憲法違反
ノ行動ヲ取リツヽアルモノガアル以上ハ、立憲國ノ總理大臣トシテ決シテ看過スベカラザ
ルコトヽ思フ、之ニ對シテ注意ヲ加ヘ、若クハ其非立憲的行動ヲシテ根本的ニ之ヲ休メ
サスルト云フ御考ヲ持ッテ居ラルヽヤ否ヤ、併セテ御答辯ヲ願ヒタイノデアリマス、其次ハ
地方靑年團ニ關スル件ニ付テ內務大臣ヨリ御答辯アランコトヲ希望致シマス、ソレハ別
義デモアリマセヌガ、是モ在〓軍人會ト同樣前內閣時代ニ於テ創立サレマシタ地方靑
年團ニ關スル指導方針ニ關シテデアリマス、地方靑年團ニ加ハリ居ル靑年ヲシテ政治ニ
干與セシメズ、若クハ成ベク關係ヲ有セシメザルヤウノ方針ヲ取來ッタルコトハ在〓軍人
會員ヲシテサウセシメタルト同一筆法ニナッテ居リマスル、是亦謂ハレナキコトニシテ、苟モ
立憲國ノ靑年ヲシテ政治ニ干與セシメズト云フガ如キコトハ、恰モ水中ニアル魚ニ命ジテ
水ヲ飮ム勿レト云フト何ノ擇ムトコロガナイノデアリマス、既ニ立憲政治ヲ布カレタ以上
ハ、其國ニ在ル國民ハ其年齡ノ如何ニ拘ラズ生レナガラニシテ立憲國民デアル、生レナガラ
ニシテ立憲國民デアルモノガ、立憲國民的ノ行動ヲ爲シア惡ルイト云フコトハ實ニ道理ナ
キコトニシテ、寧ロ噴飯ニ堪ヘザルノデアリマス,殊ニ靑年ナルモノハ元氣旺盛意氣衝天
ノ時代ニアルモノナルヲ以テ、此立憲政治ヲシテ益〓發達セシメントスルナラバ寧ロ此靑
年ヲシテ立憲的ノ智識ヲ應用セシメ隨ッテ立憲的行動ヲ活潑ナラシムルノ方針ヲ取ルベ
キヲ相當トスルノデアル、然ルニ實際ニ就テ之ヲ徵スルニ、啻ニ其智識ノ應用ヲ束縛スル
ノミナラズ、隨ッテ其行動ヲ嚴重ニ拘束シ掣肘シテ居ルノデアル是レ取リモ直サズ元氣
旺盛ナル立憲國ノ靑年ニ對シテ去勢術ヲ施スモノト云バザルヲ得ヌノデアル、凡ソ此去
勢術ナルモノハ牛馬ニ施スノ術ニシテ決シテ人類ニ施スベキ術デハナイ、然ルニ牛馬ニ施
スノ術ヲ以テ之ヲ我ガ敬愛スベキ靑年一般ニ施スト一ムフコトハ取リモ直サズ立憲國ノ
青年ヲ牛馬視スルモノト云ハザルヲ得ヌノデアル新聞ノ名ハ忘レマシタガ、十日バカリ
前ノ某新聞ニ依ッテ散見スルノニ某地方ノ靑年會ノ役員ニナッテ居ル一靑年ガ縣會議
員ノ選舉ニ奔走シ、政黨、政派ノ間ニ關係ヲ結ンダト云フ廉ヲ以テ、遂ニ其役員ヲ免ゼ
ラレタコトガ揭ゲラレテアリマス、此ノ如キコトハ全國到ル處アルコトデアッテ、獨リ新聞所
載ノ某地ニ限ラレテ居ルノデハアリマセヌ、而シテ此靑年團ナルモノヽ役員組織ナルモノハ
動モスレバ團員ヲ拘束シ、若クバ掣肘スルニ便利ニ出來ヲ居ル、如何トナレバ到ル處ノ地
方靑年團ナルモノヽ其會長ナルモノハ其郡ノ郡長デアル故ニ、此郡長ナル者ハ靑年團
ナルモノヽ本旨ヲ誤解シ、又一方ニ於テハ總テ自己ノ命令ニ從順ナラシメントシテ、動モ
スレバ靑年團ノ設立ノ目的竝ニ其權限ヲ超エテ、會長ト云フ地位ヲ利用シテ、此靑年
ヲ束縛セントスルノデアル、殊ニ驚クベキハ全國靑年團中ニ模範靑年團ト稱スルモノガア
ル、此模範靑年圍ト稱スルモノハ如何ナルモノデアルカト見テ見ルノニ模範ノ第一義ハ
能ク郡長ノ命令ヲ遵奉スル者ニ限ラレテ居ル、恰モ納稅期限ヲ誤ラザル町村デアレバ
其他ノコトハ兔モ角モ模範町村ト云フ名譽ヲ與ヘラルヽト同一ニナッテ居リマス、是レ取
リモ直サズ靑年〓ナルモノヲ自己ニ便用セントスル不法ノ行爲デアッテ、立憲國ニアルマジ
キ行動ト申サナケレバナリマセヌ、如何ニモ團體トシテ政治ニ干與スルト云フコトハ多少
ノ弊害アルヲ免レマセヌケレドモ、縱令團體員ナル個人トシテ政治ニ干與スルコトハ、寧ロ
立憲國民ノ進ンデ努ムベキコトニシテ、、決シテ之ニ對シテ何者モ拘束ヲ加フル能ハザルモ
ノデアリマス、現政府ハ果シテ此事實ヲ認メザルカ若シ認ムルモノトスレバ此弊害ヲ改
メ、若クハ之ヲ禁止スルノ御意志ナキヤ否ヤ、實ニ立憲國ノ消長ニ關スル問題ニシテ、
又人權問題トシテモ容易ナラザル大問題ナルヲ以テ、特ニ御明答アランコトヲ希望スル
ノデアル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=1
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002・大岡育造
○議長(大岡育造君) 是ヨリ質問ヲ許可シマス、提出者服部綾雄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=2
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003・服部綾雄
○服部絞雄君 私ハ演說ヲ成ペク略シテ質問ノ數ヲ多クシタイト思ウテ居ルノデアリマ
スルガ、答辯スル方ガナイ見エマセヌカラ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=3
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004・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御延バシニナリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=4
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005・服部綾雄
○服部綾雄君 私ハ御呼出ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=5
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006・大岡育造
○議長(大岡育造君) 豫テ通知ガシテアリマスカラ、其中ニ出テ來ルト思ヒマスー
次ノ質問ニ移リマス、荒川五郞君-尙アリマセヌカラ次ノ質問ニ移リマス、佐々木安
五郞君
〔荒川五郞君、佐々木安五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=6
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007・大岡育造
○議長(大岡育造君) 佐々木安五郞君ニ許シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=7
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008・佐々木安五郎
○佐々木安五郞君 讓ッテモ宜シイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=8
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009・荒川五郎
○荒川五郞君 御讓リ下サイ、二十分バカリダ簡單ニスル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=9
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010・佐々木安五郎
○佐々木安五郞君 緩リヤリ給ヘ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=10
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011・大岡育造
○議長(大岡育造君) ソレデハ荒川五郞君ニ許シマス
〔佐々木安五郎君降壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=11
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012・荒川五郎
○荒川五郞君 諸君、私ハ國家的精神ノ根本觀念ニ關スル質問ヲ提出致シマシタ、
全體此事タル彼ノ南北朝問題ニモ勝ル重大ナ事柄デ、政府苟モ之ヲ是認シナイ以上
ハ、一日モ看過スルコトノ出來ナイ譯デアルガ故ニ、實ハ先々月來差控ヘテ注意シテ、政
府ノ處置如何ヲ待ッテ居ッタノデ、成ルベク質問ナド避ケタイト思ウテ居ッタノデアリマス、
併シ事今日ニ至リ已ムナク、已ムナク此處ニ質問セナクテハナラヌコトニナリマシタノハ、
呉ミモ不本意ニ思フノデアリマス、諸君、此事ハ昨年ノ秋我大元帥陛下ガ九州ノ野
ニ行幸アラセラルヽ折柄、門司驛デ畏多クモ御召列車ガ脫線致シタ、ソレニ原因致スノ
デ、氣〓ニ富ミ、職務ニ熱誠ナル〓水正次郞君、〓水正次郞君ハ當時構內主任ノ
重任ニ當リ、ドウカ何事モナク御無事ニ御通過アラセラルヽヤウニ、寸毫モ故障失態等
ノナイヤウニト、天下萬民ト倶ニ殊ニ當局關係ノ人〓ト共ニ、一層深ク心ニ祈ッテ居ッタ
デアリマセウ、然ルニ不幸意外ニモ斯ル故障ヲ生ジ、畏多クモ至尊ヲシテ一時間餘
リニ亙ッテ御野立ヲ餘儀ナクシ參ラセ奉ッタニ付キマシテハ重大ナル責任ノ自覺ヨリ恐懼
ノ念ニ堪ヘズ、遂ニ三十五歳ヲ一期トシテ、敢ナク山陽線上其身ヲ果シタノデアリマス、
其義烈ノ赤誠ハ天下ノ人ヲシテ感動セシメ、苟モ常識ヲ備ヘ、國家心アル者ハ皆均シ
ク〓水君ノ死ヲ悲ミ、〓水君ノ心事、氣節ヲ壯ト致シタノデ、是ガ天下ノ人心ヲ刺激
シ、責任自覺ノ觀念ノ上ニ〓訓ヲ與ヘタコトハ、實ニ多大デアルト思フノデアリマス、此
事畏レ多クモ天聽ニ逹シマスルヤ、辱ナクモ弔慰料ヲ遺族ニ下賜セラレマシテ、孰レモ聖
旨ノ有難キニ感泣シ、是ガ表彰ノ碑ヲ立テントシツヽアル者モアル、然ルニ意外ニモ九
州大學總長山川健次郞君-山川健次郞君ハ此〓水君ノ行爲ヲ非難シ、表彰
ノ碑ヲ建テルコトヲ非難シ「門司驛員自殺問題」ト題シテ之ヲ十二月二日ノ福岡日々
新聞紙上ニ發表セラレテ居リマス今ソレヲ見ルニ初メニハ小倉市デ〓育會ノ席上デ
「自殺論」ト云フ演說ヲシタコトヲ載セテ、是ハ從來ヨリノ意見デアルト云フコトヲ示シ、
其次ニ「今囘ノ門司驛員ノ行爲ニ對シテハ贊成致シマセヌ、死者ノ心事ニ對シテハ同情
スベキデアリマスガ、彼ノ事件ガ果シテ生命ヲ捨テネバナラヌ程ノ重大ナコトデアッタカドウ
カ陛下カラ祭粢料ヲ賜ック御趣意ノ如何ハ固ヨリ彼此ト忖度スルモ畏多イコトデス
ガ、彼ノ行爲ヲ稱讃シ、或ハ碑ヲ立テヽ之ヲ表彰スルナドヽ云フヤウナコトニ至ッテハ、ド
ウアッテモ同意スル譯ニハ行カナイノデス」ト斯ウアリマス、諸君、何ト畏多イ言葉デ
ハアリマセヌカ、身ハ大學總長ト云フ高等學府ノ長トシテ、博士ノ學位一等ノ高官ニア
ル山川君タル者若シ意見ガアリマスレバ相當方法モアリマセウノニ然ルニ之ヲ公ケニ
新聞ニ發表シ祭粢料御下賜ヲ云々スルニ至ッテハ唯之ヲ官紀ノ上ヨリ云フモ實ニ不
謹愼ノ至リデアリマセヌカ、又諸君、〓水君ノ行爲ノ如キハ是ハ〓ノ問題、自覺ノ問題
テ、決シテ理窟ノ問題デハナイ、生命ヲ斷タネバナラヌ程ノ重大ナコトデアッタカドウカハ
理窟ニ依ッテ他カラ彼此論ズベキモノデハアリマスマイ、斯樣ナ場合ニ於テ是ハ洵ニ相濟
マ、活キテハ居ラレヌト感ズル者モアリマセウ、又サウマデ感ジナイ人モアリマセウ、是ハ
其人ノ修養ト自覺心ニ依ルコトデ、斯樣ナ場合ニハ必ズ死スベキモノ、又死スベカラザル
モノト云フガ如キ理窟ハナイ、人〓個々ノ責任ノ觀念ニ依ルコトデアル、〓水君ハ其書置
ヲ讀ンデ見テモ「十日大元帥陛下演習地行幸ノ際門司棧橋御休憩中門司驛ニテ
御召列車ヲ下リ線ニ入レ換フルニ當リ不幸意外ニモ脫線シソレガタメ復舊工事ニ時間
ヲ費シ御豫定以上一時間ニ亙リテ御休憩アラセ參ラセ奉リタルコト實ニ恐懼ノ至リニ
堪ヘズ生涯ノ過チ是ヨリ大ナルハナシ一死焉ゾ其大過ヲ償フニ足ランヤ而モ衷心其罪
過ノ大ナルニ想ヒ到レバ恐懼自ラ其生命ヲ持續スル能ハズ茲ニ死ヲ以テ萬一ニ償ヒ奉
ラントス」云々トアリマス、斯樣ニ重大ナ責任ヲ自覺シタラバコソ、其生命ヲ以テ〓水君ハ
其責任ヲ帶ビタノデアル感ジタ其感ジノ深サ、自覺シタ其自覺ノ程度ハ當面其人テ
ナクテハ分ラナイ譯デハアリマセヌカ諸君、ツレカラ山川君ハ其次ニ德川時代ノ御鷹匠
ノ例ヲ引イテ、斯ウ云ウテ居ラレマス「德川初世ノコトグト思ヒマスガ、當時ノコトヽテ將軍
ノ御鷹ト言ヘバ非常ニ大切ニサレタモノデ、從ッテ鷹匠ナドモナカ〓〓威張ッテ「御鷹」
ニ會ウテハ萬民皆之ニ道ヲ讓ルノ勢デシタ、其項旗本侍ノ久世三四郞デアッタノカト思ヒ
マスガ「御鷹ガ何ダ、我ハ御人ダ、御鷹ト御人トドチラガ大切ダ」ト云ッタト言フコトガア
リマス、鳳車ノ遲滯ハ固ヨリ恐懼ノコトデハアルガ、其申譯ノタメトシテ陛下ノ赤子タ
ル大切ナ「御人」ヲ殺スト云フコトハ果シテ陛下ノ叡慮ニ副ッタコトデアッタカドウカ」ト
說イテアリマス、畏多クモ至尊ヲシテ一時間餘リニ亙ッテ棧橋ノ上ニ御野立ヲ餘儀ナ
クシ奉リ申シタト云フコトニ對シテ御鷹ノ例ヲ引イテ彼此言フノハ實ニ言語道斷ノ次第
デハアリマセヌカ、實ニ言語道斷ノ次第デハアリマセヌカ、ソレカラ博士ハ尙進ンデ學校ノ
御眞影ノコトニ移ッテ、ソレカラ其コトヲ述ベタ後ニ門司驛員ノ行爲ヲ稱讚シ、奬勵スル
ト云フコトハ取リモ直サズ自殺ヲ奬勵スルコトニナルカラ、ソレハ大ニ考モノダト思ヒマス
云々ト論ジ續イテ說イテ人ノ經濟ノコトニ及ビ、經濟ノコトハ金錢バカリデハナイ、人
間ノ生命モ少シハ經濟的ニ使用セネバナラヌト論ゼラレテ居リマス、諸君、如何デセウ、
以上述ベタ言說ガ並〓ノ人デハナイ、人格ガ高イトセラレテ、世人ヨリモ尊敬ヲ拂ハレテ居
ル山川博士、高等學府ノ長タル山川總長ノ其口ヨリモ出デントハ、實ニ是レ意外ノ至
リデ、其及ブトコロノ影響ハ非常デアルト思フ、實ニ歎クベク憂フベキコトデハアリマセヌ
カ、諸君、勿論人命ハ重ンズベキデアル、死ハ決シテ輕ミシクスベキモノデハナイ、ケレドモ
人ハ大切ナ其生命ヨリモ尙大切ナモノガアル、海嶽ヨリモ重イ義、卽チ責任ノ上ニ立ツ
テハ死ハ鴻毛ヨリモ輕イ場合ガアル、〓水君ガ重大ナル責任ヲ自覺シテ、大切ナル身ヲ
果シタノハ、氣節ノ廢レタ責任ノ自覺ニ乏シイ今ノ世ノ中ニ於テ世道人心ニ益スルコト
ハ實ニ尠ナクナイト思フノデアリマス、諸君、我日本帝國ノ國家的精神卽チ大和魂ハ此
犧牲、責任ノ觀念ガ基礎トナッテ、サウシテ日本ノ特有ノ團體ヲ維持シ、世界ニ比類ナキ
鞏固ノ國民性ヲ作シテ居ルノデアル故ニ此死ヲ以テ重大ナ責任ヲ謝シタ〓水君ノ心
事ヲ想ウテ、其靈ヲ慰メントスルハ、卽チ是レ忠愛ノ國家的精神ヲ奬勵スル所以デ、大
和魂ノ涵養ノ上ニ嘉スベキ計畫ト思フノデアリマス、決シテ自殺ヲ奬勵スルノデナイ、偏
狭ナ氣性ヲ養フト云フノデナイ、ソレガタメニ自ラ生命ヲ輕ズル者、或ハ自殺スル者ガ殖
エルト云フコトハ斷ジテナイト信ズル、諸君、ソレカラ山川總長ハ聯隊旗、軍艦旗
軍旗ノコトニ言及ンデ居リマセヌガ、死ヲ以テ軍旗ヲ護ル、是ハ我軍隊精神ノ粹デハア
ル、然ルニ死ルヲ以テ軍旗ヲ護ル、軍旗ハ死物ヂヤ、人ハ大切ヂヤ、大切ナ人ヲ捨テヽ
軍旗ヲ護ルニ及バヌト申シタラ、我軍隊精神ハドウシテ此維持ガ出來マセウ、軍隊ノ紀
律ヲドウシテ守ルコトガ出來マセウ、將タ我國家ハドウシテ護ルコトガ出來マセウ、諸君
入ります
人ハ大切デアル、而モ責任ヲ重ズルガ故ニ、人ハ大切デアル、責任ヲ思ハズ、義務ノ觀
念ノナイ人ハ人タル價ガアリマセウカ、山川總長ハ人ノ經濟ノコトヲ說及ボサレテ居リマ
スガ、一人ヲ活カシテモ万人ガ責任ノ自覺ノナイ、卽チ責任上死物デアッタナラ何ゾ人タ
ルニアランヤ、〓水君ノ死ハ一人以テ万人ヲ活ス所以デ、ソレガ卽チ人ノ經濟デアリマセ
ヌカ、諸君、實ニ山川總長ノ言說ハ國家的根本ノ觀念ニ背馳シ、且實ニ不謹愼極ル
モノデ、既ニ世間物議ノ種子トナリ、貴族院ニ於テモ先月ノ豫算分科會デ質問請求ガ
アッタト承知スル、然ルニ今尙政府ニ於テ何等ノ處置ヲ執ラレタト云フコトヲ聞カヌノハ、
甚ダ其意ヲ解シナイ次第デアル、昨年京都大學ノ某博士ガ大臣ヲ馬鹿ダトカ、氣狂ダ
トカ云ッタト云フコトデスラ物議ヲ惹起シテ、政府ハ是ガ取調ニ手ヲ掛ケタト聞イテ居ル、
此度ノ山川總長ノ言論ト云フモノハ是トハ實ニ雲泥、天地ノ差ガアル、實ニ大差ヒガ
アルノデアリマス、殊ニ山川總長ハ其言說ノ中ニ「叡慮ニ適ッタコトカドウカ」ト云フ言ガ
二箇所モアリマス、畏多クモ陛下ノ渥キ大御心ハ天下万姓一人モ皆其所ヲ得、其
生ヲ安ゼンコトヲ常ニ冀ハセ給フコトハ申スマデモナイ、既ニ當時陛下ニハ此事ヲ聞召
シテ、怪我人ハナカッタカト云フ有難イ御尋ガアッタト云フコトヲ仄ニ承ッテ居ル、況ヤ此
〓水君ガ死ナウトハ微塵ダモ思ハセ給フ筈ガナイ、唯吾〓臣民タル-臣民タル吾〓ガ
忠愛ノ精神ヲ以テ心ノ限リヲ盡スノハ是ハ自ラ臣民ノ至誠ノ自然カラ出ルノデ、決シ
テ叡慮ヲ推測リ奉ッテ致スノデナイ、諸君、尙此上ニ說キマスレバ其關スルトコロハ廣ク
亙リマスガ、併シ私ハ今ハ玆ニ此以上ニ論ズルコトヲ避ケテ、賢明ナル諸君ノ御判斷ニ
任ズルノヲ至當ト思ヒマス、之ヲ要スルニ山川博士ハ人格ハ高イカ知ラヌガ、大切ナ國
家的思想ノ大本ヲ逸シタモノデアル、國家ノ存立、國家ノ擁護、殊ニ我日本帝國ノ國
體維持ノ上ニ由々シキ大事デ、斷ジテ一日モ看過スベカラザルコトヽ思フ政府ハ我國
民道德ノ根本觀念ニ背馳シ、、國家ノ存立ニ危害ヲ與フル是等ノ言、之ヲ其責任上ド
ウセラルヽデアルカ、ドウセラルヽデアルカ、私ハ國家ノタメ將來ノタメ、、實ニ實ニ優慮ニ堪ヘ
マセヌカラ、玆ニ已ムナク此質問ヲ提出シテ、內閣大臣ノ責任アル答辯ヲ望ムト同時
ニ、忠愛ノ精神ニ富マセラルヽ滿堂諸君、將タ滿天下ノ人士ニ深ク注意ヲ拂ハレンコト
ヲ切ニ希望シテ止マナイ次第デアリマス(喝采)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=12
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013・佐々木安五郎
○佐々木安五郞君 本員ハ對〓外交問題ニ付、質問致シマスニ付テハ外務大臣自
ラ出テ答辯スベキ要求ヲシテ置イタノデアリマスガ、私ノミナラズ服部君ノ質問モ外交ニ
關スル演說デアリマス、然ルニ拘ラズマダ御顏ガ見エマセヌガ、會期切迫ノ今日時間ヲ空
シク過ス譯ニイカヌカラ荒川君ニ讓ッテ荒川君ガ今演說サレタノデアリマスガ、此後トハ
服部君ガ演壇ニ立ッテ演說サルヽデアリマセウガ、服部君ニ御讓リシタノデアルカラ併ナガ
ラ此ノ如キ重大ナル問題ノアルニモ拘ラズ外務大臣其人ガ出ラレナイト云フコトハ國政
ニ不親切デアルト云フコトヲ申上ゲルト同時ニ、議長カラ出席ヲ要求シテ貰ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=13
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014・大岡育造
○議長(大岡育造君) 外務大臣ヨリ通告ガアリマス、本日ハ國務ノ都合ニ依。テ出
席シ兼ネルカラ、書面ヲ以テ答辯スルト云フコトデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=14
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015・佐々木安五郎
○佐々木安五郞君 國務ノ都合トハドウ云フ都合デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=15
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016・大岡育造
○議長(大岡育造君) ソレハ廣イ意味デス、且質問ノ順序ハ日程ニキメタコトデアリマ
スカラ、私ニ讓リ合ウテ前後セラルヽコトハ出來マセヌ、順次ニ許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=16
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017・服部綾雄
○服部綾雄君 尙御諮リヲ願ヒタイ、、政府委員ガ見エタヤウデアリマスガ、私ハ長ク話ス
ノデナイガ、大臣ガ御出ガナイカラ控ヘタノデアリマス、其故ニ議場ニ御諮リ下サイ、私ニ
御讓リヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=17
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018・大岡育造
○議長(大岡育造君) 如何デス、質問ハ甚ダ數ガ多イノデアリマスカラ、成ベク本議會
ノ會期中ニ諸君ノ質問ヲ終ラセタイト思ウテ運ンデ居ルノデアリマスガ····
(「服部君ニ許スベシ」ト呼フ者アリ「異議ナシ異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=18
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019・大岡育造
○議長(大岡育造君) 服部綾雄君
〔服部綾雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=19
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020・服部綾雄
○服部綾雄君 極ク簡單ニシマスガ、少シク時間ヲ保留スルコトヲ願ヒタイ、此質問ニ
付テ起リマシタコト其他後ニ出來タ二三ニ付テ外務大臣ニ聽キタイト思フテ居タデ
スガ、私ノ質問書ニ出シテ置イタノハ明瞭ナル質問デアリマスガ、唯私ハ一言茲ニ日米
ノ兩國ノ親厚ハ永遠ニ續ク、此戰爭ノ日米戰爭ノ如キコトノ必無ナル其豫想ハ十分持ッ
テ居ルモノデアリマス、ダガ米國ニ於テ此頃現レタルトコロノ事柄ニ付テ誠ニ遺憾ニ思フ
ガ故ニ、私ハ此質問ヲ出シタノデアリマス、政府委員ガ此處ニ御出ニナル故ニ御答辯下
サルノナラバ、私ハ政府委員ニ直グ此事ヲ伺ッテ二三續ケテ問ヲシタイ
〔服部綾雄君降壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=20
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021・大岡育造
○議長(大岡育造君) 服部君、ドウ云フ御趣意デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=21
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022・服部綾雄
○服部綾雄君 質問書ガ出テ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=22
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023・大岡育造
○議長(大岡育造君) 茲ニ御尋ニナッテ、政府ガ答ヘラレルコトナラバ、直グ答ヘラレ
ルデアラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=23
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024・服部綾雄
○服部綾雄君 私ハ席ヲ讓ツタノデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=24
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025・大岡育造
○議長(大岡育造君) 書面デ答辯スルト云フコトハ先刻私カラ佐々木君ニ答ヘル時
分ニ申シタノデ、御分リニナッタラウト思ヒマス、外務大臣ハ本日公務ノ都合ニ依り出
席シ兼ネルカラ、追ッテ書面ヲ以テ答辯スルト云フノデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=25
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026・服部綾雄
○服部綾雄君 ソレナラバ聊私ハ時間ヲ戴キマス
〔服部綾雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=26
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027・服部綾雄
○服部綾雄君 私ノ質問書ニ出シテ置キマシタ事柄ハ皆樣ノ御手許ニ廻ッテ居リマス
故ニ、極ク明瞭ナルコトデアルト思ヒマス實ハ疾クニ質問シタコトデゴザイマスカラ、書面
ヲ以テノ御答ナラバ餘程以前ニ御答ガアルベキコトヽ思ッテ居ッタ、此問題ハ一等國ノ體
面ニ關スル大問題デアルト、私ハ信ズルノデアリマス、「デレンハム」案トシテ知ラレテ居ル
トコロノ俗ニ移民法改正案ト稱ヘラレテ居ルトコロノモノデアリマスルガ、私ハヤハリ日米
條約ノ上ニ關係アルモノトシテ、附屬ノ書類ニ現レタル外國人合衆國來住法ト云フ名
ヲ取ッタノデアリマス、我國ニハ移民ト非移民ノ區別アルガ故ニ、移民法改正ト云フト
單ニ移民ニノミ關スルモノヽ如ク思フノデアリマス、併シ移民法ト譯シテ居ルトコロノモノ
ハ合衆國ニ於テ入國法ト譯シテモ宜イノデアル、ダガ外國人合衆國來住法ト譯サレタル
ガ故ニ、私ハ其言葉ヲ取ッテ質問書ニ記シタノデアリマス、我帝國ノ臣民ハ不能歸化外
國人ナリト云フ認定ヨリシマシテ、不能歸化外國人ノ入國ヲ禁止スルトコロノ法律案ヲ
上院ニ提出セラレタノデアリマス、此法律案ノ通過セラルヽ場合アリトシタナラバ、或ハ一
等國民デアルナトヽ申シテ居ル吾〓帝國臣民ノ面目ハ政府ノ面目ト共ニ潰レルノデア
リマス、然ルニ其後聞クトコロニ依リマスト政府當局者ノ盡力ニ依リテ遂ニ「ロイド」議
員ヨリ提出セラレタルトコロノ修正說ガ委員會ニ於テ通過セラレ、其修正說ガ通過ノタメ
ニ日本人ノ面目ヲ維持シタルモノヽ如ク稱ヘルガ故ニ、私ハ此質問ヲ提出シタ次第デア
リマス「ロイド」氏ノ提出シタルトコロノ其修正ナルモノハ如何ナルモノデアルカト云フナラ
バ、歸化シ能ハザルトコロノ外國人ヲ入國セシメザルコトヲ極メルト同時ニ、條約又ハ協約
ノ類ヲ以テ取除キタルトコロノモノハ此限リニアラズト云フガ如キ意味ナリト承知シテ居ル
ノデアリマス、果シテ此事ガ誤ラザルコトデアリマスルナラバ帝國ノ臣民ハ不能歸化人ト
云フモノヽ種類ニ編入セラレテシマッタノデアリマス、ダガ旅券制度ノ或ル規則ニ依ッテ日本
ノ旅券ヲ持ッテ來ルトコロノモノニ限ッテ之ヲ許スト云フ如キ取除キヲ以テ、現在米國ニ
入國シツヽ居ルトコロノモノヽ入國ハ差支ナイト云フ立場ニナッテ來テアルト私ハ思フノデ
アリマス、ダガ之ニハ二ツノ大問題ガ關係シテ居リマス、一ツハ渡米セントスル帝國ノ臣
民ノ權利デス、一ツハ在米帝國臣民ノ權利デアリマス、此「デレンハム」改正案ニ基キマ
シタナラバ全ク帝國ノ臣民ハ不能歸化人ノ中ニ編入セラレタルモノナルガ故ニ、全然
入國ヲ禁止セラルヽモノデアルノデス、併シ政府ヨリ特ニ旅券ヲ以テ送ルトコロノモノハ之
ヲ許ス、許スニ付テハ其旅劵ハ如何ナルモノニ之ヲ與ヘルカト云フコトノ註文ガ先方ヨリ
アルノデアリマス、是ニ於テ權利ガ帝國ヨリ行クトコロノモノヽ一般ニ關係シ、モウ一ツハ
其目的ヲ外レテ米國ニ止マル場合ニ於テハ之ヲ送還スルトコロノ權能スラ彼ニアルコトヲ
明カニスルモノデアリマス、此〓ニ於テ最モ心配スルノハ果シテ私ガ聞クガ如クデアルナラ
バ、農民ノ保護、農民ノ居住ニ關スル總テノ權利ガ確立シテ居ルモノデアルト信ズルトコ
ロカラ致シテハ此農民ヲ最初入ッタルトコロノモノト異ッタルトコロノモノトシテ取扱フト
コロノ案ヲ作ルノデハナイ、現ニ此法律ノ通過ノ後ニ於テハ最初ノ目的ト違ッタモノトシ
テ之ヲ送還スルコトモ出來ナイノデハアリマセヌ、新ニ「カリホルニヤ」ノ方面ニ起ラントスル
大問題デアルト私ハ信ズルノデアリマス、ツレハ實ハ條約改正ノ局ニ當ラレタル內田大使
ガ今大臣トナッテ居ラルコトデアルガ故ニ、直接ニ其大臣ニ向ツテ條約改正ノ問題ニ付テ
伺ヒ、玆ニ私ガ述ベルトコロノ此問題ノ起ッテ來ル其成行ヲ明カニ質シタイト希望シタノ
デアリマス、併ナガラ私ガ以テ大切ナル問題トスルガ故ニ、當局者ニ於テモ大切ナル問題
トセラルヽカ、書面ヲ以テ御答下サルト云フコトデアリマス、其書面ニ依ッテ答ヘラレル結
果ハ私ハ斷ジテ私共國民ノ意見ヲ玆ニ發表シタイト思フノデアリマスケレドモ其書面ハ
或ハ末日デアルカ知ラヌ、何レノ日議會ノ開會中何レノトキニ之ヲ受クルコトガ出
來ルカ知ラヌガ、誠ニ私ハ不親切ナル取扱デアルト云フコトヲ一言茲ニ述ベネバナラヌノデ
アリマス(「早ク出セバ宜イ」「謹聽タ々」ト呼フ者アリ)ソレカラ此質問ヲ爲シテヨリ日米ノ
間ニ起リ來ッタトコロノ問題ハ此以外ニアルノデアリマス、私ハ此問題ニ付テハ書面ヲ以
テ受ケルトシ、玆ニ更メテ私ハ二三ヲ加ヘタイト思フ、第一、是ヨリ添ウテ出テ來ルコトデアリ
レオ、私ハ此終リニナリ、何カ協約ノ申込ヲ受ケテ居ラヌカト云フ〓ヨリ起ルノデス、果
シテ政府ガ米國ヨリ協約ノコトニ付テ申込マレテ居ルナラバ、ソレニ對シテ私ハ意見ヲ述
ベタイノデアリマス、又私ノ惑ヲ散ラシテ戴キタイト云フ希望ガアルノデアリマス、一ツハ博
覽會ノコトニ付テ、私ハ少シク皆サンニ此問題ト關聯シタル〓ヲ述ベテ見タイ、桑港ニ
博覽會ガ開カレントシテ居ル、果シテ政府ハ是ガ協賛ヲ爲ス積リデアルカ、是ガ公然タ
ル通知ヲ得タルト云フコト、委員會ニ於テ答辯ニナッテ居ルノデアリマス、故ニ通知ハア
ル、之ヲ贊助スルヤ否ヤト云フコトハ牧野農商務大臣、石井外務次官ハ「デ、ヤング」ガ
日本ヘ參リマシタルトキニ確ニ之ヲ贊助スルノ意アルコトヲ示サレタルモノデアルコトハ事
實デアラウト思フノデアリマス、私ハ之ヲ贊助スルコトニ於テ、全ク贊成ノ意ヲ表スルモノデ
アリマス、嘗テ「シヤトル」ニ博覽會ヲ開カルヽトキニ於テ其必要ヲ感ジテ是非トモ之ヲ贊
助スルハ、卽チ日本ノ關係上誠ニ好結果ヲ來スモノデアルト思ウテ之ヲ述ベタルコトモア
ん、其當時英國ニ於テ開カレタルトコロノ、卽チ一野人ノタメニ弄パサレタルトコロノ日英
ノ博覽會ニハ十分ノ力ヲ注イダガ、此「シアトル」ニ開カレタ博覽會ニハ何ノ助ケモ與ヘナ
カッタ、今度ハ此桑港ニ開カレントスルトコロノ此博覽會ニハ十分ナル力ヲ注ガルヽコトデ
アラウ、日本ニ開カレントスルトコロノ大博覽會ノタメニハ、米國政府ガ三百万弗ノ金ヲ費
シテ之ニ臨マントシテ、又其局スラ彼國ニ設ケラレテアルコトデアリマス、故ニ必ズ此博覽
會ヲ止メルコトニ對シテモ、桑港ノ博覽會ハ十分之ヲ助ケルデアラウト思フ、ダガ此桑港
ノ博覽會ヲ贊助スル其所以ノモノハ二ツノ目的、卽チ通商上ノ利益ヲ完ウスルタメ航
海ノ進步ヲ望ムガタメデアラウト思フノデアリマス、通商、航海ノコトヲ取除イタナラバ、何モ
桑港ノ博覽會ヲ助ケル必要ハ無カラウト思フ、然ルニ此通商ノタメ、此航海ノタメニ桑港
ノ博覽會ヲ贊助セントスルニ米國政府ガ上院ニ於テ其國民ヲ絕對ニ今日質問書ニ出
シテアルガ如キ法律ヲ作ッテ、之ヲ土耳古人ノ如キ、之ヲ印度人ノ如キ、之ヲ支那人ノ
如キ地位ニ立タシメテ同ジ待遇ヲ爲サシメントスルハ、誠ニ解シ得ザルコトデ、一方ハ斯ル
有樣ニ在ルニモ拘ラズ此桑港ノ博覽會ヲ助ケテ、或ハ通商ニ、或ハ航海ニ、之ニ力ヲ添
ヘントスル意ヲ解スルニ苦ムモノデアリマス、殊ニ諸君ノ注意ヲ茲ニ求メテ置クコトハ、通
商ト言フ言葉デアリマス、通商ハ貿易ノミヲ意味スルモノニアラズシテ、通商ナル言葉ノ
中ニハ卽チ移民ナルモノガ入ッテ居ルノデアリマス、私ハ日本將來ノ政策ノ上ニ於テ、移
民ノ最モ大切ナルコトヲ思フガ故ニ、憚ラズ此事ヲ言フノデアリマス移民ト云フト何ヤ
ラ又服部ノ移民問題カト一云フコトガ往々友人ノ中ニモ、同志ノ中ニモ言ハレマスケレドモ、
私ハ此移民ナルモノハ、通商ト云フ言葉ノ中ノ半ヲ占メテ居ルモノデアルコトハ忘レテハ
ナラヌト思フ、移民ヲ禁止スル米國ノ權能ハ何所カラ起ッテ來ルノデアリマス、憲法ニ基
イテ移民ヲ取扱フ、其權能ノ現レテ來ルトコロノモノハ卽チ憲法ノ中ニ殘ッテ居ル通商
ト云フ言葉カラ米國議會ハ移民ノ問題ニ付テ、總テヲ議スルノデアリマス、米國ノ議會
ガ移民問題ニ關係スル權能ハ全ク米國ノ憲法第八條ノ三項ニ基イテ、卽チ合衆國
ハ通商上ノコトニ付テ、國會ガ議スル權能ヲ得テ居ルガ故ニ、此通商ト云フ言葉ニ基イ
テ、移民ノ取扱ヲ議會ニ於テ極メテ居リマス、第一項ニ於テ租稅ノコト、第二項ニ於テモ
ウ一項アッテ、サウシテ第二一項ニ於テ通商ノコトガ明カニ書イテアリマス、ソコデ日本ニ於
テモ政府當局者ハ通商ト云ヘバ必ズ此移民ヲ含マレテ居ルモノデアルト云フコ·ハ
私ト同說ノモノデアルト思フ、米國ト同ジ解釋ヲ持ッテ居ル政府當局者ナリト信ズル
ノデアリマス、ツレハ明カニ外務省ノ中ニ通商局ナルモノヲ設ケラレテ、之ヲ三課ニ分ッ
テ、第一課ニ於テハ亞細亞ノ通商、第二課ニ於テハ亞細亞以外ノ通商、第三課ニ於
テハ移民ト云フ課ヲ設ケテアルコトニ於テモ、通商ナル文字ノ中ニハ移民ト云フモノガ
籠ッテ居ルト云フコトガ明カデアリマス、此通商ノタメニ博覽會ヲモ助ケ此通商ノタメニ出
來得ル力ヲ鄰國ノタメニ使フノデアリマス、若モ通商ナル此大切ナルコトニ關係ガ無イトシ
タラバ博覽會ヲ贊助スル必要が何所ニ在リマスカ、博覽會ヲ贊助スルト云フコトハ私
ハ大ニ贊成スルケレドモ、ソレト同時ニ一方ニ通商ノ最モ大切ナル一部分デアル國民
排斥ノ法案ヲ其國ニ於テ通過サレントスル場合ニ於テモ、是ガ根本的解釋ヲ爲スノ決
心アリヤ否ヤト云フコトヲ尋ネルノハ、當然ナル問デアルト思フ、モウ一ツ仲裁條約ニ關
シテ私ハ自分ノ問ウタトコロノ質問ニ關聯スルトコロガアルノデアリマス、英米仲裁條約
ナルモノガ上院ヲ通過シタ、此第三條ヲ削去セラレタト云フコトニ付テハ骨拔ニナッタト
コロノ案デアルト云フコトヲ言ハレマス、卽チ第三條ノ第三項ノ割除セラレタコトデスケレ
ドモ、削除ト共ニ加ヘラレタルコトヲ我ミハ見遁シテハナラヌト思フ、仲裁條約修正ノ中最
モ見遁スベカラザルトコロノモノハ、其三條三項ノ削除ト共ニ第一ガ國是ト決定シタル政
策ニ關シ、第二移民問題ニ關シ、第三國際的貸借問題ニ對シテハ此仲裁條約ニ依
ラザルモノナリト云フノ修正ガ「オレゴン」州ノ議員ヨリ提出セラレテ、是ガ可決シタルコト
ハ此仲裁問題ガ特ニ吾ミ帝國ノ臣民ニ關係アルモノナリト私ハ言フ所以ノモノデアリマ
ス、國是ト決定シタル政策トハドノヤウノモノデアルカト云ヘバ能ク人ノ口ニモ言ハレ、
吾ミノ口ニモ言ハレマス亞米利加ノ「モンロー」主義デアリマス、亞米利加ノ「モンロー」主
義トハ歐羅巴ノ勢力ガ南米ニ伸ビントスルヲ亞米利加ガ之ヲ遮ラントスルヲ以テ國是ナ
リト思ウテ居ッタモノガ、此案ヲ提出セラレタルニ付テ、贊成シタルトコロノ「ロッヂ」ト云フ
外交委員長ノ言葉ヲ引イテ中サウナラバ、或ル東洋ノ强國ガ墨其西哥ノ一ツノ灣ニ其
根據地ヲ求メントスルガ如キ場合アルニ於テハ、斯ル問題ヲ仲裁條約ニ依ッテ仲裁
裁判ニ訴ヘルガ如キコトニ反對スルモノナリト云フコトヲ明カニ申シテ居リマス、東洋ノ一
强國、墨其西哥ニ船寄場ヲ作ラントスルガ如キ目論見アル場合ニ於テト云フトキニハ、何
者ヲ指サレタルモノデアリマセウカ、昨年十二月三十日ニ發行セラレタル「アウトルック」ト
云フ雜誌ヲ見ルナラバ、上院ニ於テ述ベラレタルトコロノ此三箇條ニモウ一箇條加ヘテ、第
四ニ米國政府發給ノ旅行券否認ノ件ト云フ、此第四ヲ加ヘテ仲裁裁判所ニ訴ヘ得ザ
ルトコロノモノト云フコトガ、前ノ大統領「ルーズベルト」ニ依ッテ述ベラレテ居ルノデアリマ
ス、然ルニ上院ニハ第四ノ米國政府發給ノ旅行券否認ノ件ト云フコトハ出テ居リマ
セヌ、此邊ハ最モ注意ニ注意ヲセラレタルモノデアラウト思フ、卽チ亞米利加ト露西亞ト
ノ條約ヲ廢棄シタルモ、何ガタメデアルカ、卽チ米國政府ヨリ出サレタルトコロノ旅行券ヲ
否認スルトコロノ其否認スル力ニ憤ッテノ結果デハゴザイマセヌカ、然ルニ此仲裁條約ヲ
定メルニ當ッテ大切ナル此第四ヲ拔イテ、前ノ三ツヲ以テ之ヲ理由トシテ、此三箇條ハ
仲裁裁判所ニ訴ヘザルトコロノモノト云フコトニシテ、通過シタコトヲ考ヘテ見テモ、亞米
利加ト英吉利トノ間ニ結バレタル此仲裁條約ナルモノハ、如何ニ亞米利加ノ議院ニ於
テハ我帝國ニ對スル態度ヲ取ラレタモノデアルカト云フコトヲ疑ハシムルトコロノ事實ガ籠ッ
テ居ルノデアリマス(拍手スル者アリ)米國政府ニ於テ發給シタル旅行劵否認ノ件ニ付
テ條約ヲ破棄スルトコロノ力アッタナラバ、我帝國ノ當局者ニシテ同ジ立場ニ立ツトコロ
ノモノナラバ確ニ覺書ヲ添ヘ、或ハ宣言書ヲ加ヘテ、條約ヲ改正スルガ如キ不態ナルコ
トハセザルモノデアラウト信ズルノデアリマス(拍手スル者アリ)我帝國ヨリ發スルトコロノ旅
行券ヲ如何ニ輕蔑セラレ、如何ニ侮辱セラレテアルカヲ思ウタトキニ米國ガ幸ニモ露西
亞ニ對シテ主張スルトコロノ主張ヲ捉ヘテモ、帝國ノ面目ハ維持シナケレバナラヌ立場ニ
在ルモノデアルト私ハ信ズル者デアリマス(拍手スル者アリ)ケレドモ此問題ノ一箇條ヲ拔
イタ所以ノモノハ若シ亞米利加ニシテ之ヲ以テ主張スルノナラバ、吾〓日本モ亦同ジ問
題ヲ以テ之ヲ主張スルガ故ニ、是ハ省イタノデアリマセウ、是ハ私ノ推測ガ誤ルカドウカ知
ラヌガ、先ヅ四ツノ大問題ヲ「ルーズベルト」ハ述ベタニモ拘ラズ、最初ノ三ツヲ以テ上院
ヲ通過セシメテアルノデアリマス、サウシテ此國是ト決定シタル政策、卽チ「モンロー」主義
ナルモノハ何ニ依ッテ述ベラレタルモノデアルカナラバ確ニ墨其西哥ノ例ヲ引キ、東洋强
國ノ例ヲ引イタニ取ッテモ、我帝國ヲ指シタモノデハナイカト云フ疑ハ當然ナルモノデアラ
ウト思ヒマス、此時ニ當ッテ斯ル待遇ニ甘ンジテ帝國政府ガ如何ナル協約ヲ爲サントスル
カ、私ハ之ヲ聽キタイノデアリマス、卽チ「ロッヂ」ノ提出ニ依ッテ修正セラレタルトコロノ其
修正說ヲ通過セシメタコトデアルノナレバ、帝國ノ面目ニハ關セザルモノナリト云フ其關
セズト云フトコロヲ私ハ伺ヒタイノデアリマス、若モ仲裁約條ガ果シテ成立ッテ-勿
論佛蘭西ガ之ヲ容レルカ、英吉利ガ之ヲ受ケルカハ別問題デアリマス、ダガ今日ノ場合之
ヲ見誤ルコトアルナラバ、支那ノ外交ヲ見誤ルトコロノ眼孔ニアラザレバ見誤ルコト能ハ
ザルトコロノ問題デアリマス、私ハ確ニ通過スルモノナリト信ズル者デアリマス、私ハ袁ノ
勢力ト、孫ノ勢力ガ合シテ力アル働ヲ爲スモノナリト信ジタ一人デアリマスガ、ヤハリ此
佛蘭西ト獨逸ノ力ハ米國ト共ニ結ンデ東洋ニ力ヲ得ントスル日本ヲ壓迫センガタメニ働
キツヽアルモノデハナイカト云フ疑ヲ十分滿チテ居ル者デアリマス(拍手スル者アリ)前ニ申
シマシタルガ如ク此ノ如ク言ヘバトテ、私ハ決シテ日米戰爭ノ如キモノヲ夢ミル者デハアリマ
セヌ、我帝國ノ外交振ハズシテ、今日ノ有樣ニ在ルナラバ大丈夫デアリマス是ガ起ッテ
强クナッタラ、ソレデハ危イガ、サウデナイノデス、私ハ弱イ間ハ政府ニ於テハ異論ガアルマ
イ國民果シテ此事實ヲ明カニシタ場合アリトシタナラバ、國民ノ聲トシテハ此外交ノ弱
キヲ憤ッテ勃發スルトキガアルノデゴザイマス、其時ハ最モ恐ルベキノトキデアルト私ハ思フ、
日〓、日露ノ戰爭ノ如キモ、外交家ノ誇ルベキトコロデハナイノデアリマス、外交家トシテ
ハ實ニ慚愧ニ堪ヘザル次第、外交ノ失敗ヲ巳ムヲ得ズ陸軍、海軍ノ武力ヲ以テ國威ヲ保
存シタト云フニ過ギザルモノデアリマス、故ニ若モ今日ノ外交ガ今ノ儘ニシテ續ク場合ア
リトシタナラバ、吾〓ガ豫期セザルトコロノ結果ヲ見ルハ、決シテ怪マザルトコロ、疑フベカ
ラザル事實ナリト吾〓ハ覺悟シテ宜イノデアルト思フデス、ソレ故ニ外交當局者ニ向ッテ此
質問ヲスル、日〓戰爭ヲ避ケネバナラナカッタ、然ルニ避ケルコトガ出來ナクテ、遂ニ武力
ニ訴ヘテ國力ヲ守ラナケレバナラヌトキ、國ノ面目ヲ保タナケレバナラヌ場合ガアッタ、日
露戰爭亦然リ、サラバ來ラントスルトコロノ前ニアルトコロノ事柄ヲ明カニシテ、之ヲ防グノ
途ヲ講ズルハ政府當局者ノ爲スベキコトデアラウト思フノデス、然ルニ外交ヲ祕密ニ祕
密ニシテ、吾〓國民之ヲ知ラザルガ故ニ、默ッテ居ルヤウナモノヽ果シテ今日ノ米國ト日
本トノ關係ヲ明カニシタナラバ是デ吾〓ガ多年望ムトコロノ親交ヲ永久ニ續ケ、戰爭ハ
必無ノモノナリトノ確信ヲ以テ進マントスルハ、誠ニ困難ナルコトデアル(拍手スル者ア
リ)決シテ我日本帝國ノ臣民ガ困難ヲ感ズルノミナラズ、相對スルトコロノ列國民亦然
リト私ハ言フ者デアリマス(拍手スル者アリ)支那ニ於ケルトコロノ外交ハ遂ニ英吉
利-同盟國ノ英吉利ヲスラ獨逸ノ力ニ引付ケラレタルノ觀アルデハアリマセヌカ、或ハ
英吉利ノ如キ、佛蘭西ノ如キ、獨逸ノ如キ、亞米利加ノ如キ、是等ニ於テハ滿洲政
策ト共ニ支那ニ對スル政策ヲ一致ナラシメテ、我國ノ政策ヲ苦メントスル有樣デアル、
又太平洋ヲ控ヘテ亞米利加ノ此仲裁條約ナルモノヽ力ヲ以テ我日本ニ追リ來ラントス
ルトコロノ違ッタル方面ヨリ同ジ力ヲ感ズル今日デハアリマセヌカ、私ハ此不能歸化ニ編
入セラレタル帝國臣民トシテ、私ハ實ニ〓歎スルコトヲ知ラヌト云フ程私ハ深ク歎クモノ
デアリマス、政府ハ此特別待遇所謂、上ニ特別デハナイ、下ニ特別待遇ヲ與ヘツヽアル
此根本ノ解決ヲ爲スノ意アリヤ否ヤ、爲スノ意アリトシタナラバ是マデ何ヲ爲シタカ、今
後何ヲ爲サントスルカ、米國ガ如何ニ論ゼラルヽコトアリトモ、私ハ最高當局者ガ人道カ
ラシテ立ッテ居ルトコロノ「ルーズベルト」或ハ日本ト親交アルトコロノ「タフト」氏ノ如ク、今
ニ於テハ日本モデス「エタブリッシユド、ポリシー」私ガ英語ヲ使ヒマシテ御免下サイ、之ヲ直
シマスガ「既ニ定ッタルトコロノ米國ノ國是」ハ何モノガアッテモ之ヲ動カスコトハ出來ナイ、雪
「モンロー」主義ノ如キ、移民政策ノ如キ、米國ニ「エスダブリツシユド、ポリシー」ガアルナラバ
我帝國モ定ッタル國是ヲ以テ之ニ當ルハ當然デハゴザイマセヌカ、其定ッタル國是ハ曩ノ大
統領「ルーズベルト」ニ依ッテ唱ヘラレ、上院議員ニ依テテ述ベラレタルトコロノ定ッタル國是
ガアッテ、誇トスル共和國デアルノデアリマス、吾ミ帝國ノ臣民モ其定ッタル國是ハ祕密ナ
ル國是デハナイ、公ケナル國是ニシテ「タフト」氏ニ對シテモ「ルーズベルト」氏ニ對シテモ
卽チ、「エスダブリシッユド、ポリシー」ナルモノヲ以テ當ナラケレバナラヌモノデアルト思フノデ
ス、私ハ外交全體ニ付テ茲ニ述ベルノデハアリマセヌガ、此「デレンハム」ノ提出シタルト
コロノ不能歸化法ナルモノハ確ニ帝國ノ臣民ヲ侮辱シタルモノデアリマス、米國ハ之ニ付テ
ハ反省スベキモノダラウト私ハ思フノデアリマス、若モ政府ガ此處ニ氣付テ居ラルヽナラバ
縱シ氣付イテ居ラレヌナラバ國民ハ聲ヲ揚ゲテ是ガタメニ盡サナケレバナラヌモノデアル
ト思フ、私ハ此ノ如ク思フノデゴザイマス政府ハ帝國ガ國際間ニ有スル今日ノ地位ヲ
顧念セズ、北米合衆國ガ列强國人民ニ附與セル一切ノ待遇特權ヲ帝國臣民ヨリ控
除セントスル提案ヲ承認シ、之ヲ基礎トシテ條約若クハ協約ヲ締結セントスルハ、自ラ帝
國ノ名譽及權利ヲ毀損セントスル甚大ナルモノト認ムト云フガ如キ決心ヲ持ッテ居ル
モノデアリマス私ハ之ヲ帝國ノ國民ノ一部ノ聲トシテ必ズ政府當局者ニ求ムルトコロア
ルト同時ニ親交アル米國ノ當路者ニ向ッテ、私ハ反省ヲ求ムルモノデアリマス、少ナクト
モ吾〓帝國臣民ヲシテ歐羅巴諸國ノ人〓ガ受ケツヽアルトコロノ特權待遇ハ必ズ同胞ノ
求ムルトコロノ權利ナリ、吾〓之ヲ求ムルノ責アルモノデアルト思フ、一言宣〓師達
ガ玆ニ居ラレマスルナラバ或ハ外國ノ方ミガ居ルノデアルカラ、ドノヤウナ方デアルカ知ラ
ヌガ、卽チ米國ノ人〓ガ常ニ唱ヘテ居ル天賦ノ地位ナルモノヲ-所謂平等ナルコトヲ
眞向ニ翳シテ、世界ニ傳道スル人ミデアリ、又之ヲ誇トスル人〓デアリナガラ、獨リ此福
音ヲ-帝國ニ對シテ特殊ノ待遇ヲ與ヘヌト云フノハ何故デアルカ、吾〓爭ヲ好ンデ云
フニアラズ、正義ノ聲ヲ放ッテ導カントスル、卽チ彼等ノ誇トスル〓ニ向ッテ、其人〓ニ對シ
テ私ハ國民一部ノ聲ヲ放ッテ反省ヲ求メ、帝國ノ取ルトコロハ必ズ一定シタル政策ヲ立
テラレテ、此人道ヲ眞向ニ翳シテ居ル米國ニ對セラレンコトヲ希望スル次第デアリマス、
此希望ヲ以テ私ハ此質問ヲ提出シタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=27
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028・日向輝武
○日向輝武君 服部君ニ御尋ヲ致シタイコトガアリマス、誠ニ大演說デアリマシテ、頗
ル感服ノ至リデゴザイマス、全部ニ於テ御意見ニ贊同セザルヲ得ナイ、併ナガラ御演說ノ
中ニ〓ヲ乞ハナケレバナラヌ〓ヲ見出シマシテ、默シ難ク玆ニ御尋ヲ致ス次第デゴザイマ
ス、御質問ノ全體ニ對シテハ「デレンハム」ノ移民法ニ對スルノ問題デゴザイマスケレドモ、
其中ニ於テハ御述ベニナリマシタ英米仲裁條約ニ對スル米國上院ノ大修正ニ對シマシ
テノ御言論ニ付テハ大ニ本員ト見ルトコロヲ異ニシテ居ル重大ナル〓ガ一ツアルノデアリマ
ス、服部君ハ上院ノ大修正ヲ以テ之ヲ日本帝國ニ對スルモノデアル、日本人民ニ對スル
モノナリト玆ニ明言セラレタノデアリマス、是ハ實ニ重大ナル影響ヲ持ツ御言葉デアリマシ
テ、米國ノ立法府タル最高ノ位置ヲ占メテ居ル「セネート」ガ世界ノ平和ニ大影響ヲ及ボ
ストコロノ英米仲裁條約ニ對シテ其大修正ナルモノガ單ニ日本人ノミヲ指シタルトコロノ
モノデアルト云フガ如キコトヲ明言サレルニ至リマシテハ、決シテ此議會ハ之ヲ默視スルコ
トハ出來ナイノデアリマス、上院ガ英米仲裁條約ニ加ヘマシタルトコロノ修正ハ其第三
條第三項デアリマス、是ハ米國大統領「タフト」ガ昨年八月以來熱心ニ其通過ヲ希望
致サレタルトコロノ〓デアリマシテ、屢〓此問題ガ上院委員會ノ手ニアル中ニ於テー上
院ノ委員會ニ附セラレタル中ニテ避暑地ヨリシテ屢〓書面ヲ送ラレテ、自分ノ意見ノ貫
徹スルコトヲ切望シタノデアリマス、殆ド大統領「タフト」ハ自分ノ全體ノ名譽モ位置モ
此大事業ノ爲ニ賭シテ掛ッテ居ル、而シテ米國ノ上院ナルモノハ大統領「タフト」ニ對シ
テハ實ニ多大ノ敬意ヲ表シテ居ルノデアル、其人格其見識ニ於テ非常ナル敬意ヲ拂ッテ
居ル〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=28
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029・大岡育造
○議長(大岡育造君) 日向君、御中言デアリマスガ、先例ガアリマスカラ之ヲ諮ルマデ
チヨット御待下サイ-前例ニ依リマスト質問ノ趣意辯明ニ對スル質疑ハ之ヲ許サヾル例
ニナッテ居リマス、先キニモ之ヲ議場ニ諮ッタル結果ガ斯ウ云フ風ニ定ッテ居ルノデアリマ
ス、今新ニ之ヲ許スノ例ヲ開クヤ否ヤヲ諸君ニ諮ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=29
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030・日向輝武
○日向輝武君 私ハ直グ濟ミマスカラ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=30
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031・大岡育造
○議長(大岡育造君) 議事ノ進行上カラ云ヘバ政府ガ答ヘル場合ニ於テノ疑義ヲ質
スコトハ當然デアルケレドモ、側面ヨリノ質問ハ許サヾル例ヲ守リタイト議長ハ思ヒマスガ、
如何デゴザイマスカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=31
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032・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御意見ガナケレバ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=32
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033・日向輝武
○日向輝武君 私ハ服部君ノ質問ニ對シテ簡單ナル御辯明ヲ要シタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=33
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034・大岡育造
○議長(大岡育造君) ソレデモイケマセヌ、旣ニ議場ニ諮ッテ先例ヲ守ルコトニ決定致
シマシタカラ、日向君ノ質問ハ此所ニ止メラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=34
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035・服部綾雄
○服部綾雄君 御極メニナッタラ何デスガ、私ハ今ノ問題ガ問題デアルカラ成ベクナラバ
一言答辯ヲ御許ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=35
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036・大岡育造
○議長(大岡育造君) 既ニ定ッタ以上ハ如何トモ仕方ガアリマセヌ、佐々木安五郞君
〔佐々木安五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=36
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037・佐々木安五郎
○佐々木安五郞君 本員ノ此壇上ニ立ッテ問ハント欲スルトコロノ問題ハ對支那外交
問題、此問題ハ言フマデモナク一黨、一派ノ問題デハナイノデアリマス、國家的見地ヨリ
シテ十分〓究ヲ致シテ見タイ、就テハ國事ニ熱心ナリト云フ評アル內田外務大臣ハ宜
シク此席上ニ列シテ、十分目リ聽クベキ筈デアルニ依ッテ、前以テ議長ニ此事ヲ希望シ
テ置イタ譯デアリマス、唯今通牒ガアッタト云フコトデ、公務多端ト云フヤウナ意味ニ
於テノ通牒ガアッタト云フコトデアル議會ノ議事ハ公務ニアラザルカ、議會ノ議事ハ
重大ナル公務デアル此公務ノ重大ナリト云フコトヲ知リツヽモ此席上ニ來ル能ハザ
ルト云フコトガ、既ニ外交ノ無能力デアルト云フコトヲ遺憾ナク表白シテ居ル譯デアル
(拍手起ル)本員ハ內田外務大臣ニ向ッテ殊更ニ挑戰的態度ヲ執ラウト思フモノデハナイ、
內田外務大臣ガ曾テ〓國ニ公使タリシトキニ、吾ミモ〓國北京ニ在リテ內田外務大
臣トハ一片ノ交情ヲ有スルモノデアルカラ、平素ノ因ミニ對シテモ、極ク御手柔ニ申上ゲ
ヤウト思ッテ居ッタノデアル、然ルニ今日ノ有樣ヲ以テ見ルト云フト、國事ヲ輕ンジラレルヤ
ウナ風ガアル、吾〓ハ一片ノ同情ヲ持ッテ居ルトコロノ同胞デアル、佐々木安五郞スラモ滿
足セシムル能ハザル外交官ガ、能ク糾紛錯雜セルトコロノ外交場裡ニ立ッテ樽爼折衝
ノ間ニ外國ノ人ヲ滿足セシムルコトガ出來ルヤ否ヤ、此一事ヲ以テモ旣ニ外交ニ於テ
能力ノ頗ル乏シキモノデアルト云フコトヲ自白セルニ了ルモノデアルト云フコトヲ私ハ申
シテ置ク、ソコデ私ハ此問題ハ決シテ黨派的ニ見タクナイノデアル、又役人窘メノクメニ言
フノデハナイデアル、向フニ行ッテ見ルト云フト內地デハ分ラヌコトデモ支那ニ行ッテ見ルト
歴々手ニ取ルヤウニ分ル、例ヘバ彼ノ幻燈ニ映ズルモノガ、幻燈ノ硝子ノ中ヲ覗イテモ
分ラヌケレドモ、向フニ引張ッテアル幕ニ映ズルモノヲ見ル方ガ早ク分ルヤウナモノデ、東
京ノ眞中ニ居ッテ外交ノ遣リ口ガ分ルカ分ラヌカト云フヨリカ、映ジラレタル〓國方面ニ
如何ニ是ガ現レテ來ルカト云フコトヲ見ル方ガ早ク分ル、見レバ見ル程呆レ果テタル外交ト
言ハザルヲ得ヌノデアル、是ニ於テ國家ノタメニ外交ヲ根本的ニ改造シテ貫ヒタイト云フ
意味ニ於テ、一條一派ノ黨派心ヲ去ッテ、眞面目ニ〓究ヲシテ見タイト云フタメニ此
壇上ニ立ッタ譯デアリマス(「質問デスカ、〓究デスカ」ト呼フ者アリ)第一番ノ質問ハ「我
當局ガ支那ニ對スル外交ハ其機關ニ統一ヲ缺キ其連絡ニ機敏ヲ缺キ其畫策ニ〓究ヲ
缺キタルノ憾アリ政府ハ根本ヨリ之ヲ一新スルノ意ナキヤ如何」是ガ第一箇條、機關ト
云ヒマシテモ外交ノ機關ニモイロ〓〓アル、間接ノ機關モアレバ直接ノ機關モアル、正面
ノ機關モ側面ノ機關モアリマスガ、歐羅巴諸國ニ於テハ帝王外交ト稱シテ、帝王自
ラガ外交機關ノ樞軸トナッテ活動サレル所モアリマスケレドモ、我國ハ國體ノ相違ト、國
情ノ差ニ依ッテ、帝王外交ト云フコトハ望ムベカラズトスルモ、セメテハ國民外交ト云フモ
ノ位ハヤッテ見タイト思フ、國民外交トハ何ヅヤ、國民ノ全體ガ外交ノ機關トナルノデア
ル、卽チ輿論ノ聲ヲ外交ノ後楯テトスルノガ始リデアル、然ルニモ拘ハラズ是ハ唯今ノ內
闇ノミヲ攻メルノデナイガ、霞ヶ關ト云フ所ノアノ外務省ノ邸ニ〓付イテ居ル病氣ガアル、
其病氣ハドウ云フ病氣カト云フニ、何時デモ彼處ノ邸宅ニ入ッタモノハ必ズ其病氣ニ罹
〓ドウ云フ病氣ニ罹ルカト云フト、輿論ヲ無視スル、輿論トハ何ゾヤ、新聞、雜誌等
ニ現ハレルモノ、演說、講演、口ニ現ハレルモノ、之ニ依ッテ國民ノ意思ヲ發表スルトコ
ロノ其聲、卽チソレガ輿論、之ヲ時ノ外務ハドウ云フ具合ニ見ルカト云フト、何時デモ外
務ト云フモノガ輿論ヲ蔑視シテ輿論ノ要求スルトコロニ聞カザルノミナラズ、時々ハ輿論ノ
鎭壓ニ掛ル、之ヲ歐羅巴諸國ノ外交ニ較ベテ見ルト、歐羅巴デハ成ルベク外交ノ後楯
テトナルヤウナ輿論ヲ人民ニ起サセテ置イテ、口ニ筆ニ人民ハ此ノ如ク言フカラ私ノ言フ
コトハ通ジテ呉レナケレバ困ルト云ウテ相手國ニ申込ム、然ルニ日本ノ方ハ人民ノ要求ス
ル聲ト云フモノヲ成ルベク鎭壓シテ置ィテ、人民ハ極クオトナシイ人民デゴザルト言ッテ、
向フニ懸合フ、國民ノ聲デハナイト云ッテ、何時デモ輕蔑サレルノデアル是ガ卽チ日本ノ
外交官ガ外交ノ機關卽チ國民ヲ外交ノ機關トスルコトヲ知ラザル過カラ起ッタコトデア
ルノデ、之ヲ餘リ壓迫シ過シタ結果賴ミニ思ッタ外務、其外務ノ働キガ國民ノ輿論ニ副
ハナカッタ、輿論ヲ鎭壓サレタケレドモ、蓋ヲ取ッテ現ハレタルモノハ思掛ケナイモノデアッタ
ト云フタメニ爆發シタモノガ九月十五日ノ燒討デアル、輿論ノ聲ヲ壓迫シタヽメニ起ッタ
不祥ナル現象デアル、或ハソレハ國民ノコトデ、直接外交ノ機關デナイト云フカ知ラヌガ、
外交ト云フモノハ國民ヲ離レテアルベキモノデナイ、國民ノ利害ト一致セザレバ外交ノ本
能ガ發揮サレルモノデナイ、併ナガラ其輿論ハ輿論デアルト云フナラバ更ニ然ラバ外務
ノ方ノ直接ノ機關、出先キニ出テ居ルトコロノ公使ト云フモノト、リレカラ本省外
務ノ本省ト云フモノトノ連絡ガ取レテ居ルヤ否ヤト云フコトヲ御尋申シタイ、北京ニ行ク
テ聞イテ見ルト、北京ノ方ノ公使館デ此度ノ支那ノ動亂ニ對スル意見ト云フモノト、本
省ノ意見ト云フモノハ、動モスレバ統一ヲ缺イタ形ガアル、不統一ニ陷ッテ居ルノミナラズ、
同ジ日本カラ行ックモノデモ例ヘバ公使ノ下ニ居ル領事-領事ガ居ルト云フト、傍ニ
守備隊長ガ居ル、領事ト守備隊長デ外交ヲヤル、守備隊長ハ左ニ行カウト言フシ、領
事ハ右ニ行カウト云フ、人々別々ノ目的ヲ執ッタト云フコトヲ聞イテ居ル、滿洲ノ如キニ
行ッテ見ルト、更ニ能ク分ル、南滿鐵道ト云フモノハ南滿鐵道デ外交ヲヤッテ居ル、關東
都督府ハ關東都督府デ外交ヲヤッテ居ル其外ニ領事ハ領事デヤッテ居ル、領事ノ下ニ
居ル警察官軍隊ノ下ニ居ル憲兵、其憲兵ガ捕ヘテ有罪ニシタモノヲ警察官ガ無罪ヲ
主張スル或ル所ニ行クト、其或ル所トハ鐵嶺デアル鐵嶺ノ橋ヲコチラカラ渡ルト一圓
九十五錢取ラレルガ、コチラカラ渡ルト只ハデ宜イ、支那人ハ日本ノ政治ハ妙デアル、左カ
ラ渡ルト一圓九十五錢ノ罰金料ヲ仰付ケラレ、右カラ通ルト科料ガナクテ宜イ、ソコデ
第三者ノ支那人カラ見ルト日本ト云フ國ハドウ云フ國デアルカ、頭ガ二ツ三ツアッテ少
シモ統一ヲシテ居ラヌ、ドウ云フ國デアラウカ、革命軍ニ對スル舉動デモドウデアル、或ル
方面ニ付テハ革命軍ヲシテ右翼ヲ伸バサセルヤウニシテ、滿洲ニ於テ發展スルカト思フ
ト、一方カラハピッシヤリトソレハナラヌト云フ、ヤレト云フノモ日本ノ官憲デ、止メルノモ
日本ノ官憲デアル、是デ統一ガ行ハレテ居ルカドウカ、若モ具體的ニ聽キタイト仰シヤ
レバ何ンデモ申シマス、地名、人名モ舉ゲテ申シマスガ、ソレニハ及ブマイト思ヒマスカラ
控ヘテ居リマス、外交ニ於テハ機關ノ統一ノ缺ケテ居ルコトハ事實デアルト云フコトハ諸
君モ御認メニナッタデアラウト思フ、然ラバ聯絡ト云フモノガアルカ聯絡ガ機敏ニ出來テ
居ルカドウカ聯絡ノ機敏ナラザルモ夥シイノデ、殆ド聯絡ガナイト云ウテモ宜シイ、或ル西
洋人ガ斯ウ云フコトヲ云ッタ、日本ハ生命ヲ懸ケテ戰フ戰爭ト云フコトニ付テハ、誠ニ働
ガ立派デアルガ、生命ヲ懸ケヌデモ濟ム外交ト云フモノニ付テハ誠ニ働ガ鈍イ、ナゼサウ云
フ譯デアラウト云フ評ヲシタコトガアル、生命ヲ懸ケヌコトニハ後ニ退リタガリ、生命ヲ懸ケ
ナイデ濟ムコトニハ進ミタガルガ人情デアルガ、生命懸ケノコトハ立派ニ出來テ、生命ヲ懸
ケヌデモ濟ムコトハ後ト退リヲスルト云フコトノ意味ガ分ラヌ、是ニ於テ〓究ヲシテ、或
軍人ニ問ウテ見ルト、或ル軍人ハ笑ッテ曰ク、吾ミガ戰爭ヲスルニハ斥候ト本隊ト聯絡ガ
アル、外務省ノ外交ニハ斥候兵ガ居ルヤ否ヤ、斥候ガ何處ニ出シテアルカ悲イ哉、外務
省ノ外交ニハ斥候兵ガ居ラヌ、敵ガ何レニ在ルヤ、敵ノ弱〓ガ何處ニアルカ、敵ノ長所
ガ何處ニアルカ、一向分ラヌ暗中ノ摸索、探リ探リニ出テ行ッテ、田舎者ガ「パノラマ」ヲ
見ルヤウニ暗イ所カラニユット明ルイ所ヘ出テ、背景ノ大キナノニ驚イテ、何處ガ本物ヤ
ラ、何處ガ附ケ物ヤラ、粉面棒ヲ振ッテ居ルノデアル是ニ於テ何ヲヤラウト思ッテモ、ヤ
リヤウガナイ若モ聯絡ガ立派ニ付テ居ルト云フナラバ袁世凱ノ手許ニハ何處ノ國ガ
一番聯絡ヲシテ居ルカ諸君、亞米利加ノ軍人ガ袁世凱ノ手許ニ行ッテ居ルカ、英國
ノ軍人カ、露西亞ノ軍人カ、日本ノ軍人ガ行ッテ居ルカ、是ハ公然ノ秘密ダカラ云24
云ハナイデモ同ジデアルガ、袁世凱ノ手許ニハ日本ノ軍人而モ阪西ト云フ人ガ行ッテ居
リマス、聯絡ガ若モ機敏ニ取ラレタナラバ袁世凱ノ心ハ一舉一動鏡ニ懸ケテ見ルガ如
ク分ラナケレバナラヌガ、日本カラ軍人ハ行ッテ居リナガラモ其軍人ガ袁世凱ノタメニ働イ
タカモ知レヌガ、日本ニ對シテハドウ云フコトヲシテ居ルカ、餘リ聯絡ノ形ガ見エヌ、袁世
凱ノヤルコトガ一モ分ッテ居ラヌ、是ガ聯絡ノ取レナイ證據デアル此聯絡ノ取レナイコト
ヲ有形的ニ現ハシテ見セヤウ、最モ見易イトコロデ、ソレハ何ンデアルカ、安奉線デアル、
安奉線ト云フモノガ通ジタ、ソレヲ通ズルニ付テハ南滿鐵道ガ二千五百万圓ヲカケテ居
ルノミナラズ、鴨綠江ノ架橋ヲヤルニ朝鮮鐵道カラ二百万圓出シテアル、是ハ何ニカ歐
羅巴ト亞細亞トノ聯絡ヲ付ケル、サウ云フ意味ニ於テ一一千五百万圓ヤ二千八百万圓
ハ惜クハナイト云フ意味ニ於テ安奉線ノ鐵道ヲ拵ヘルニ付テハ支那ガ故障ヲ云ッタト
云フノデ、然ラバ自由行動ヲ取ルト云ッテ刀ニ手ヲ掛ケテ威張リ散ラシタトコロノ鐵道デ
アル、此鐵道ガ出來上ッタ今日ノ外務省ハ之ヲ取ルトキニハ此ノ如キ決心ヲ以テヤッ
タガ、其後ノ運用ハ如何ニシテ居ルカ、此歐羅巴ト亞細亞ヲ繫グタメニ取ッタ其鐵道ガ、
日本カラ郵便物ヲ載セテ呉レナイノハドウデス、天津、北京ニ行ッテ見ルト云フト、何時
デモ郵便ハ二週間三週間モ掛ル、安奉線ガ通ジテナゼソンナニ遲イカト云フト、安奉線
ハ載セテ呉レナイカラデアル載セテ呉レヽバ每日々々遲レ馳セナガラモ日ニ〓〓新聞、雜
誌ナドモ到著スル譯ニナルガ、安奉線ハ世界ノタメノ通路ヲ拵ヘルト云ッテ、國家ノ費用
ヲ抛ッテ居リナガラ、國民ノ便宜ト云フモノハ一モ計ッテ居ラヌガドウダ、此ノ如ク聯絡ノ
マズイコトデ、電光石火ト云フ外交ノ社會ニ立ッテ、如何ニ此外交ヲ運用スルコトガ出
來ルカ、若モ外務省ガ最初自由行動デモ取ッテヤルゾト言ッテ、支那ヲ威シツケタト云フ
權幕デヤル必要ガアルナラバ、取ッタ後ノ經營ハ益〓立派ニシナケレバナラヌト思フ、日本
ヨリ外ニ出テ居ル者ハ恰モ絕海ノ孤島ニ流サレタ「ロピンソン」俊寛ノヤウニナッテ居ル、此
ノ如キ慘狀ニ陷ッテ居ッテモ知ラヌ顏ヲシテ居ルノデアル、ソレデモ聯絡ガ立派ニ取レテア
ルカナイカ、能ク考ヘテ見レバ分ラウト思フ、現ニ天津、營口ニ通ズル電信線、此線ハ日
本ノ外交官ノ腰一ツデ日本ガ架ケルコトハ何時デモ出來タノデアルガ、ソレモ出來ナイ、
此頃新聞ニ揭ゲテ居ルトコロヲ見ルト、ソレガタメニ何倍ト云フ橫文字電報料ノ非常ニ
高イモノヲ出サナケレバナラヌ、其出ス金ハドウカト云フト此議會デ何時デモ默ッテ支出ス
ル、ソレヲ能ク調ベテ見ルト、ソンナニ高ク出サヌデモ外交官ノ腕一本デ出來ルコトデアル
ノニ、外交官ノ無能ナルガタメニ國民ハ何時デモ無用ナル負擔ヲシナケレバナラヌ、是等
總テノコトニ付テ聯絡ガ取レテ居ナイ證據デアルノミナラズ、外交ヲヤルト云フコトニ付テハ
民間ノ士-各方面ノモノ商人デアラウガ、何ンデアラウガ、聯絡ヲ取ッテ、總テノモノヲ
斥候兵ニ使ウテ、アレヲ斯ウスレバドウナル、何處ヲ打テバ斯ウ響クト云フコトヲ考ヘテ外
交ヲシナケレバナラヌノニ、商人ハ商人デアル、書生ハ書生デアル浪人ハ浪人デアルト云ッ
テ、役人唯獨リ尊シ、外交ハ十三行罫紙ニ叩込ンデアルモノト云ハヌバカリニ、汝等何
ヲ知ルカト云フ態度デアルガタメニ、ドンナコトヲ知ッテ居ルモノデモ云ウテ聽カセルコトヲ
憚ル、石井次官ハ極ク領事ト商人トノ聯絡ガ取レテ居ルト云フコトヲ云ハレタガ、ソレハ
噓デアルト云フコトヲ憚ラヌ、ナゼ憚ラヌカ、一モ聯絡ガ取レテ居ナイ、澤來太郞君ガ
天津ニ行ッタトキニ此動亂ニ付テ領事ハドウ云フコトヲ實業家諸君ニ注意シタカト云フ
問題ヲ出シタトキニ、何ニモアリマセヌ、其所ニ於テ澤來太郎君ハソレハ怪シカラメコトデ
アルカラ、諸君ガ此動亂ニ付テ希望ガアレバ〓究ヲスルト云フノデ、其要求ニ依ッテ始メ
テ天津ノ商人ガ意見ヲ出シタト云フ譯デアル何事モ言ハナカッタト云フノハ卽チ聯絡
ノ取レテ居ナイ證據デアル若モ聯絡ガ取レテ居ッタナラバ明治四十二年一月一日ニ袁
世凱ノ方カラ電報ヲ打ッテ日本ニ居ル革命黨ノ主領黃興ノ所ニ光〓皇帝崩ゼラレタア
トハモウ自分モ險呑デアルカラ、革命黨ノ味方ヲシヤウ、手ヲ握ラウヂヤナイカト云フコト
ヲ申シテ來タコトハ事實デアル、是ハ黃興ノ友人デアル宮崎滔天、此人間ガ自ラ發表シ
テ居ルカラ公然ノ祕密デアル、又日本ノ外交官ニシテ革命ノ事情ヲ探ルタメニ熱心デアッ
テ、滔天ヲシテ聯絡ヲ取ラシメタナラバ袁世凱ガ革命黨ニ對スル態度ハ疾クノ昔知レ
テ居ラヌケレバナラヌ譯デアルニ拘ラズ、君主立憲ト謂ヘバ何處マデモ君主立憲デヤル人
間デアラウ、斯ウ云フ具合ニ思込ンダコトハ聯絡ヲ缺イテ居ッタトコロノ病デアルノデア
ル、各種ノ方面ニ亙ッテ竝ベテ見レバ、竝ベテ見ル程聯絡ガ切レテ居ルコトハ明カナ譯デ
アル(「講談デスカ」ト呼フ者アリ)殊ニ畫策ト云フコトニ付テハ機敏ヲ缺イテ居ル、畫策
ニ付テハ〓究ヲ缺イテ居ル、此畫策ト云フコトハ餘程〓究ヲシナケレバナラヌコトデアルニ
拘ラズ、日本ノ立テタル畫策ハドウ云フ〓究ガアルノデアルカ、最初ハ傍觀デアッタ、其次
ハ立憲君主ヲ言ウテ見タ、立憲君主デ都合ガ惡ルイ、英國ガ贊成シナイ、英國ガ贊成
シナイトクルット引繰リ返ッテ、今度ハ又暫ク傍觀、ソレカラ共和ニナルト今度ハ共和贊
成、七面鳥ノ顏ノ如ク早變リヲスルトコロノ日本ノ外交ニ誰ガ信用ヲ措キマスカ革命黨
モ信ヲ措カズ、袁世凱モ信ヲ措カヌ結果ハ、〓究ノ仕方ガ足ラズニ唯暗中ニ模索シテ、
無暗ニテタラメ放題ノコトヲヤッタタメニ、何レノ方面ニモ信用ヲ得ルコトガ出來ヌト云フ
今日ノ勢ニナッテ居ル、此ノ如キハ今ノ外交ノミデハナイ、從前カラアリ來ッタ病デアルガ、
其最モ甚シキハ〓國事件ニ付テ其病ヲ遺憾ナク發揮シタ譯デアル、或ル意味カラ言ヘバ
暴露シタ譯デアル、暴露シタニ付テハ過ギタルコトハ既ニ仕方ガナイトシテ、今カラ改メル
ヤウナ意味ガアルカナイカ、改メルト云フ意味ガアルナラバ諸君ノ面前ニ於テ今ヨリ後ハ必
ズ此病ヲ改メルト云フコトヲ誓ッテ貰ヒタイノデアル、此意味ガアルカナイカト一云フコトヲ承
リタイ、ソレカラ第二ハ「我帝國ト他列國トカ支那ニ對スル本來ノ立場ハ自カラ軒輊ア
ルヘキ筈ナリ政府ハ之ヲ同一視シ若クハ帝國ヲ以テ他國ノ後塵ニ座スヘキモノト思考
セルニハ非サルカ否カ」日本ト他ノ列國ト支那ニ對スル此關係ノ上ニ於テ自ラ甲乙ガ
アルベキ筈デアル日本ハ東洋ニ居リ支那モ東洋ニ居ル、歐羅巴諸國-西洋ガ支
那ニ對スルノト鄰同士ノ日本ガ支那ニ對スルノトハ)其間ニドウシテモ立場ガ違ハナケ
レバナラヌ譯デアル然ルニモ拘ラズ日本ノ政府者ハ列國ガドウ言フデアラウ-外國ガ
ドウ言フデアラウ、先ヅ西洋ノ方ノ顔ヲ御覽ゼラレル譯デアル、而シテ後ニ自分ノ意思、
自分ノ定見ト云フモノハナクシテ、鄰リ而モ遠キ鄰リノ顏バカリ見テ、其後ニアトカラソ
ロ〓〓往カウト云フヤウナ立方ガ屢〓顯ハレテ居ルノデアル、ソレデ是ハ同ジ火事デモ川向
フノ火事ト鄰同士ノ火事ハ火事ガ違フ、火事ハ火事デモ火事ガ違フ、火事ニ遭フ立場ガ
違フ西洋列國ノ人間ガ支那ニ對シテハ川向フノ火事デアルガ日本ガ支那ノ動亂ニ對スルノ
ハ軒續キノ火事デアル、軒續キノ火事ニハ軒續キニ對スルダケノコトヲシナケレバナラヌ、川
向フノ火事ノ人ガ見テ居ルヤウナコトデ外ノヤツガヤラヌカラ俺モヤラヌト言ッテ居レルカ居
レナイカ、西洋ノ人ハ何ント言ッテ居ル、露西亞ノ司令官ハ斯ウ云ウテ居ル、日本ハ亞細
亞ノ主人公デアルト云フコトハ誰モ今日異論ハナイコトデアルカラ日本ハ亞細亞ノ主人
公トシテ十分働イテ良イ、唯門戶ヲ閉ヂテ貰ッテハ困ルカラ、列國ノタメニ門戶ヲ明ケテ置
イテ呉レサヘスレバ日本ガ亞細亞ノ主人公タル役目ヲ取ルコトハ一向差支ナイト云フ
コトスラモ明言シテ居ル、シテ見レバ日本ガ此際十分東洋ノ主人公トシテ發動的ノ意味
ニ於テ-自ラ働キ掛ケノ意味ニ於テ活動シナケレバナラヌ事件ニモ拘ラズ、外交官ノヤ
リ口ヲ見ルト仲裁一ツスルニモ、照會一ツスルニモ、先ヅ英國ト相談ヲシヤウト言フ、英國
ト相談甚ダ宜ラウ、英國ハ日英同盟デアルカラ頗ル日英同盟ヲ尊敬スル意味ニ於テ英
國ト相談ナサルモ宜シイガ、其英國ハ何ント言フ、御仲間入リハナリマセヌト言ッテ、北京
デ刎ネテシマッタ、サウデスカ、英國ガ仲間ニ入ラナケレパ困ルト言ッテ、日本ガ手ヲ引イテ
居ルト、豈ニ圖ランヤ英國ハ領事ノ名ニ於テ漢口ノ方面デ仲裁ヲヤラセタ、而シテ日本
ノ公使カラ、アレハドウ云フ譯カト言ッテ尋ネタラ、アレハ領事ガヤッタコトデアルカラ、私ハ
知ラナカッタト言フコトデ濟マシテ居ルソレデハ私モ付テ往キマセウカト言ッテ跡カラ
復タソロノ付テ往ッタノデアル、是ハドウ云フモノデアル、若モ日英同盟ナルモノガ健實
ニ今ニ其楔ガ結付ケテアルナラバ、日本ガ英國ニ相談シタトキニ英國ノ公使ハ之ニ應ズ
ベキ筈デアラウト私ハ思フ、向フガ拔ケ驅ノ功名ヲスルヤウナ水臭イ程度ノモノナラバ、外
交官ハ此位ノ程度ノモノデアルト言フコトヲ先キニ見切リヲ付ケテ、向フガ刎ネタトキニ
ハ、然ラバ御先キニ失敬シマスト言ッテ差支ナイ、東洋ニ居ル東洋ノ主人公タル日本ガ
自ラ率先シテ先ンジテヤルコトハ何ニモ差支ナイ譯デアルニモ拘ラズ、英國カラ刎ネラレバ、
サウデスカト言ッテ引込ンデ、英國ノ領事ガ片ッ方デヤッタ、其跡ヲ復タ日本ガソロ〓〓付
テ往カウト云フコトハ、日本ヲシテ頗ル輕カラシムル所以デアルト私ハ思フノデアル(拍手
起ル)昔西〓隆盛ガ「パークス」ニ逢ッテイロ〓〓ノ談判ヲ持掛ケルト「パークス」ハイツモ
佛蘭西ガ承諾シナイト言フコトヲ口癖ニシテ居ッタト云フコトデアル、所ガ或ル席上デ西
〓隆盛ガ「パークス」ニ出會ッテ卒然トシテ問ウテ曰ク、時ニ英國ハ佛蘭西ノ屬國デアル
カト言ッタ所ガ「パークス」大ニ怒ッテ何ニガ屬國デアル、英國ハ獨立國デアルト言ッタ、然
ラバ英國ハ英國ダケテ考ガ付キサウナモノデアル、何ヲ言ウテモ「パークス」ハ佛蘭西ニ相談
ヲスル、相談ヲスルト言ッテ、アナタガ仰シヤルカラ佛蘭西ノ命令ヲ御聽キナサル國ト思ッ
テ居ッタカラ、ソレデ屬國カト問ウタ譯デアルト言ッテ、一言ピシヤット言ッタトコロガ「パーク
ス」大ニヘコタレテシマッタ、若シ西〓隆盛ガ今アラバ、日本ハ英國ノ屬國デアルカト云フ
問ヲ起スカモ知レヌノデアル、之ニ對スル外務大臣ノ答辯ガ承ハリタイ、ドウ云フ答辯ガ
出來ル(笑聲起リ、拍手起ル)ソコデ日本ハ日本トシテノ立場ガアル以上ハ日本ハドウシ
テモ他ノ列國ヨリモ一頭地ヲ挺イテ居ル東洋ノ主人公ヲ以テ自ラ任ジテモ、世界ノ人間
ハ異論ハナイト云フコトハ北京デモ日本ガ今度ハ何ニカシテ呉レルダラウト言ッテ暫ク控
ヘテ居ッタトコロガ、何ニモシナイ、シナイカラ英國ガ然ラバト言ッテヤリ出シタ、始メハ日
本ノヤリ口ヲ見テ居ッタトコロガ、何ニモシナイノデ、日本ハ誰カ何ニカスルダラウ、自分ハ
其跡ニ付テ往ケバ良イト云フ顏ヲシテ居ッタタメニ後囘シニナッテ、向フカラ先ンゼラレタ、一
事ガ萬事イツデモ遲レ馳セニナッテ居ル、此ノ如キハ日本ヲ以テ他ノ國ノ立場ト同一視シ
テ居ルカ、サモナケレバ日本ハ他ノ國ヨリ遙カ後坐-アトノ方ニ坐ラナケレバナラヌト
思ッテ居ルガ、外務大臣ノ之ニ對スル意見ガ承リタイ、ドウ云フ積リデアルカ、是ガ第二
番、第三番ハ支那ニ對スル領土保全ト政體不干涉ト云フ一一ツノ主義ハ竝立ッテ往クト
キモアリ、往カナイトキモアル、或時ニ於テハ領土保全ト云フコトヽ政體不干渉ト云フコ
トガ竝立ツコトガアルガ、或時ハ竝立タヌコトガアル、ナゼ竝立タヌカ、甲ノ持ッテ居ル屋
敷其地面、此等ハ人ニ讓ルコトハ出來ヌ、人ニモ分割サセナイ、質ニモ入レサセヌ、
抵當ニモ入レサセヌ、賣ルコトモナラヌ、家屋敷ダケハ殘シテヤル、保存シテヤルト云フコト
ハ、是ハ領土保全ト能ク似テ居ルガ、併ナガラ其家屋敷ヲ賣拂ッタリ何ニカスル起リハ
何ンデアルカト云フト、財政ノ不如意、卽チ家ノ政治ノ立方ガ惡ルイト遂ニハ家屋敷
ヲ賣リコカサナケレバナラヌ、此場合ニ於テハ先ヅ家屋敷ヲ保ッテヤルタメニ家ノ政
治家政ニモ喙ヲ容レナケレバナラヌコトガ出來テ來ルニ違ヒナイ、是ニ於テ支那ニ於
テノ政治ノ仕方ガ善イ惡ルイ、其政體ノ立方ノ善イ惡ルイニ付テハ、其支那ノ領土ガ四
分五裂ニナルト云フ大ナル患ガ生ズルコトガアルカモ知レヌ、又此場合ニ於テハ領土保全
モ大事デアルガ、政體不干渉モ大事デアルガ、何レヲ採ルカト云フコトガ一問題ニナッテ
來ル領土保全ヲスルタメニモ政體ニ干渉セザルベカラズト云フヤウナコトガ出テ來ルカモ
知レヌ、此場合ニ於テハドウ云フ處置ヲ執ルカ前以テ聽イテ置キタイ是ガ第三番目デア
ル、第四番目ハ若モ絕對ニ政體不干渉ト云フコトデアルナラバ、日本政府ハ支那ノ領
土ガ四分五裂ニナッテモ政體不干涉ダト言ッテノケルト云フナラバ、ソレデモ宜シイ、一
貫シタ主義ガ此ニアッタラ宜シイ、主義アル行動ナラバ宜シイ、絕對ニ政體不干涉ト云
フコトデアリトスルナラバ伊集院公使ガ立憲君主ト云フ說ヲ以テ袁世〓ニ强ヒ付ケタト
云フコトハ是ハ政體ニ干渉シタノデアル、政府ノ趣旨ハドコマデモ政體不干涉デアルナラ
バ、伊集院公使ハ政體干渉ヲヤッタノデアル、政府ノ節度ニ違ウタモノト言ハナケレバナラ
ヌノデアル所ガ此事ハ伊集院公使ノ誤解デアルカドウカ、外務大臣ハ曰ク、伊集院公
使ハ個人トシテヤッタコトデアッテ、政府ハ知ラヌト云フコトヲ言ハレテ居ルガ、個人トシテノ
ヤル人ニモ人ニ依ル、公使ト云フヤウナ人間ガヤルトキニハ、ドコデモ個人トシテヤッタ仕
事トハ見マセヌ、一國ノ公使ガヤッタト云フコトニナッテ來ルノデアル、西洋各國ノ北京ニ
於テノ外交ノヤリ方ヲ見ルト、ドウ云フコトヲヤッテ居ル、或ル難問題ガ起ルト其間題ノ
起ッタトキニ先ニ手ヲ出スノハ誰ガヤルカト云フト、公使ノ下ニアル一等書記官位ノモ
ノガ難問題ヲヤッテ見テ、公使ハポント餘所ヘ往ッテ不在ニナッテ居ル、サウシテ其不在ノ
間ニ一等書記官位ガ試ミテ見テ、ソレガ巧ク行クト公使ハ戾ッテ來テ本當ニ談判ヲスル
若シヤリ損ヘバ、アレハ不在ニ書記官ガヤッタコトダカラト言ッテ、書記官ニ轉任ヲ命ズ
ル、一個人デヤッタト言ッテモ、公使デハ言譯ニシマセヌ、不埒ナコトヲシタト言ッテ、公使ガ
後トデ揉直ス、是ガドコノ國デモ外交ノ殆ド慣例ニナッテ居ル、然ルニモ拘ラズ政體問題、
極メテ重大ナル問題ニ公使ガ不干涉ト云フヤウナ本國政府ノ趣旨ニ違ウテ、干涉シタ
ト云フナラバ他國ノ嫌疑ヲ避ケルタメニシテモ、又ハ己レノ節ヲ守ラシメルト云フ上カラシ
テモ、何レニシテモ公使ト云フモノヲ交迭シテ置イテ、內外ノ疑惑ヲ解イテ、外交ノ〓ヲ
滑カナラシメナケレバナラヌコトガ必要デアラウト思フ、然ルニモ拘ラズ今日マデ其儘ニシ
テ居ル、其儘ニシテ居ルカラ、縱令伊集院公使ガ是カラ後居ラレタトコロガ、一旦失ウ
タル信用ト云フモノハ容易ニ取返スコトハ出來ヌニ依ッテ、唯人形然ト坐ッテ居ルコトハ
出來ルカモ知レヌガ、他ノ列國ノ公使ト共ニ縱橫ニ角逐スルコトハ想ヒモ依ラヌコトヽ思
フ、此ノ如キ公使ヲ此ノ如ク惱マシテ置イテ、恬然トシテ見テ居ッテ、是デ外交ノ趣意
ヲ達シ得ルモノデアルカドウカ、外交ガ機敏デアルナラバ、公使ニハ十分働ケルダケノ餘地
ヲ作ッテヤルガ宜イノデアル、、働ケルダケノ餘地ヲ作ッテヤッテ働カザレバ、其トキニハ取替ヘ
ルガ宜シイ、働ケヌヤウニシテ置イテ之ニ働ケト云フコトハ無理デアル、今ハ働カウトシテモ
働クコトノ出來ナイ處ニ當篏メラレテ居ルカラ、伊集院公使ニ對シテハ甚ダ御氣ノ毒デ
アルガ、伊集院公使タルモノハ自ラ去ルカ、サモナケレバ政府ハ彼ヲシテ其職ヲ得セシメ
テ、更ニ第二ノ新タナル方面ニ此幕ヲ切落サヌト、散々失敗ニ失敗ヲ累ネタル此外交ヲ刷
新振張スルコトハ容易ニ出來マイト思フ是ガ今ニ於テ此ニ伊集院公使其人ヲ其儘ニ
シテ置クト云フトコロノ意味ハドウ云フ意味デアルカ、其事ヲ承リタイ、是ハ改メル積デア
ルカ、改メヌ積デアルカ、ドウ云云積デアル、是ガ第四番目ノ質問デアル、第五番目ハ支那
ニ於ケル共和論者ニ對シ政體不干渉ヲ唱ヘ來リシ政府ハ他日滿蒙其他ノ地ニ於テ勤
王論其他共和反對論者ノ起ッタトキニ於テモ、ヤハリ政體不干涉ト云ウテ知ラヌ顏ヲシ
テ見テ居ルカドウカ、之ヲ承リタイ、今現ニ昌蔭ト云フ男ハ峽西ノ方ニ興シテ端郡王ヲ
引伴レテ謀反ヲ起シ掛ケテ居ル、彼ハ共和反對デアル、滿洲ノ或ル方面ニモ張作霖ナ
ル者ガ立ッテ、共和反對ヲヤリ掛ケテ居ル、其他方々ニ此模樣ガアルガ、其中ニハ將來
囘々〓徒ノ如キモノガ動出スカモ分ラヌガ、是ガ動出シタトキニハ、再ビ支那ハ大擾亂
ノ位置ニ立ッテモ其時ニヤハリ政體不干渉ト見テ居ル積リデアルカドウカ、殊ニ日本ニ利
害ノ最モ厚イ滿洲方面、蒙古方面ニ大騒動ガ持上ッタト云フトキニ於テモ政府ハドコマ
デモ知ラヌ顏ヲシテ居ル積デアルカドウカ、此時ニ對スル處置ヲ承リタイ、ソレカラ第六番
目ハ「我當局ハ曾テ孫黃等革命論者ノ我帝國內ニ在ルヲ忌ミ壓迫疎外シテ以テ時ノ
〓廷ニ好意ヲ示セシコトアリ今後モ亦袁政府ニ反對意見ヲ有セル者ニ對シテハ當年ノ
孫黃ニ對スルト同樣ノ取扱ヲ爲ス積リナリヤ否ヤ」我政府ハ孫逸仙、黃興ガ日本ニ來タト
キニアラユル虐待ヲ加ヘテ居ッタ是ハ噓デハナイ、彼處ニモ居ラセヌ、此處ニモ居ラセヌ、下
宿屋ニ居レバ彼等ヲ泊メテ呉レルナト云ッテ、下宿屋ニモ居ラレヌヤウニシタ、イロ〓〓ナ
ル追害ヲ加ヘタ、此頃革命ト云フコトニナルトソロ〓〓出テ往ッテ手續ヲヤラウト云ッテ
モ、ソレデハ誰モ歡迎スルモノデハナイ、是ハ畢章隱レタルトコロニ眼ガ屆カナイデ、當面ニ
現レテ居ルモノバカリ大事ガッテ、·將來勢力ヲ興ストコロニ眼ヲ注ガヌカラ、斯樣ナ失敗
ガ起ルノデアルガ、是カラ先ニ於テモ亦今ハ袁世凱ガ出デ大總統トナッテ居ルガ、出タ日ヲ拜
ムコトノミニ離齦シテ居ッテ、反對ノ人間ガ居ルノデアルガ、其人間ガ我日本ヘ逃ゲテ來
タナラバ、當年ハ〓廷ニ對シテ好意ヲ示スタメニ〓廷ニ反對スルモノヲ虐待セルガ、其
如ク今日ニ於テモ袁世凱ニ反對ノ意見ヲ持ッテ居ルモノヲ日本政府ハ何ト取扱フカ、ヤ
ハリ虐待スルカドウカ、現ニ或ル親王ハ、日本ノ旅順ノ官舎ニ居ル、又袁世凱ニ反對ノ
人間ハ日本ヘ逃ゲテ來サウデアル、逃ゲテ來サウナモノガ澤山見エルガ、是ハ前以テドウ
考ヘルカ、ソレハドコマデモ其時盛ナ人間サヘ拜メバ宜イ、後トカラドンナ人間ニナッテモ
宜イト云フノデアルカドウカ、英國ノ如キハドウデアル孫逸仙ハ香港ニ於テ牢獄ニ捕ヘ
ラレタ、香港ハ自分ノ領分デアリナガラ支那ノ官吏ハソレヲ受領スルコトガ出來ナイデ、
英國ハ談判シテ孫ヲ奪ッテ來テ保護スル、是レ英國ノ大ヲ成ス所以デアル、日本ハドウ
デアル、窮鳥懷ニ入ルトキハ獵夫モ是ヲ捕ラズト云フ義俠ヲ以テ任ジテ居ル國デアル然
ルニモ拘ラズ偶〓賴ッテ來タモノニ向ッテソレヲ迫害バカリシテ居ルノデアル、迫害ヲシタ人
間ガ漸ク芽ヲ出スト、後トカラ付イテ往カウトシテ居ル人ガアルヤウニ承リマス、政府ハヨ
モヤ斯ル淺薄ナル考デハアルマイト思フケレドモ、是マデ往々サウ云フ嫌ヒガアッタカラ、今
度ハドウナルカト云フコトヲ聽イテ置キタイ、是ガ第六番目ノ質問デアル、第七番目ハ今
囘勃發シタトコロノ北京ノ暴動ニ對シテハ政府ハ之ヲ一時的ノモノト見テ居ルカ、又ハ
永續的ノ大患ト見テ居ルカ、ドウデアルカ、永續的ノモノデアルトスレバ最後ノ方策ハド
ウスル積デアルカ、私共ノ考ヘルトコロデハ今囘起ッタトコロノ革命騒動、共和論ノ如キ
モノハ南ノ方デハ徹底シテ居ルカモ知レヌケレドモ、北方ニ於テハ人民ハ共和ノ何モノタ
ルヤ殆ド知ラヌノデアル、革命ノ何モノタルコトヲ知ラヌノデアル、革命トハ何ダ、租稅ヲ
拂ハズニ政治ガシテ貫ハレルサウダ、共和トハ何ダ、役人ガ居ラヌヤウニナルサウデアル、斯
樣ノ意味ニシカ實際解釋シテ居ラヌ、然ルニ愈〓共和政府ヲ建テヽ百般ノ政治ヲ新ニス
ルニ付テハ金ガ澤山掛ル、然ルニ政府ニ金ガ無クナッタコトハ私ガ云フマデモナク現ニ今
集ッテ居ルトコロノ兵隊ヲ解散スルニ付テハ金ガ掛ル、金ガ掛ルバカリデナク、此兵隊ガ
各〓解放サレテ自分々々ノ國ヘ往ッタ後ニハドウデアルカ、金ガ足リナイカラ兵隊ヲ解放ス
ルト、掠奪ガ起ル、現ニ起ッテ居ル、支那ハ電信ガ十分通ゼザル處ガ多イカラ日本ヘ來ル
情報ハ甚ダ少ナイノデアルガ、支那ハ到ル處麻ノ亂レシ如クニ亂レテ居ルノデアル、此次
ニ起ルトコロノモノハ人民ハ掠奪ニ遭ヘバ戶ヲ閉ヂテ商賣人ハ商賣ヲ廢メル、工ハ工ヲ廢
メル、農ハ農ヲ廢メル、從ッテ金融ハ逼迫スル、總テ不景氣ノ襲フトコロトナッテ、遂ニハ支那
四百餘州ノ人民ハ悉ク飢餓ニ迫ラナケレバナラヌ、サウナッテ來ルト彼等ハ共和トカ革命
トカ云フヤウナ空漠タル抽象的問題ト云フヤウナコトノ以外ノ口ノ問題、麵麭ノ問題ト
云フモノヲ此ニ於テ絕叫シテ立ツトキニ方ッテハ、支那ノ動亂ト云フモノハ非常ナモノヲ
現ハシテ來ルト解釋シテ居ル、然ルニモ拘ラズ政府ノ或ル處デハ今度ノ動亂ハ直キニ治
マルト云フ人ガアルサウデアルガ、サウ云フ積リデ居ラレルカドウカ、若シサウニムフ事柄デアリ
トスルナラバ、大動亂ノ起ッタ曉ニハ何ト爲サルカ、其覺悟ヲ今カラ聽イテ置キタイ、ソレ
デ最後ニハドウナルカト云フト第一番ガ學生ノ亂、第二番ガ兵隊ノ亂第三番ガ百姓ノ
亂ト移ッテ來ルト、支那ハ殆ド四分五裂ニナッテ來ル、學生ノ亂ニ革命共和ト云フ間ハ
外國人ノ生命財產ハ尊重スベシ、安全ニシテヤルベシト云フコトヲ云ウテ居ルケレドモ、
第二ノ兵隊ノ掠奪戰爭ニ移ッタトキニハ、日本ノ扶桑館ト云フ北京ニアル宿屋ハ掠奪サ
レタ、獨逸ノ人間モ、英國ノ宣〓師モ、殺サレタト云フコトデアルガ、外國人モ支那人モ
構ハヌト云フコトニナル、モウ一ツ範圍ガ廣ッテ來ルト、、第三番目ハ殆ド義和團ノ如キ形
勢ヲ現ハシハセヌカト云フ虞レガアル、此時ニ於テ能ク東洋ノ治安ヲ保ツ實力ヲ有シテ
居ルモノハ日本ニアラザレバ露西亞、日露ノ兩國ヲ除イテハ殆ドナイ、サウスルト列國ハ
又再ビ人道問題ト云フコトノタメニ、日本カラ兵隊ヲ出シテ呉レト云ウテ來ルニ相違ナ
イ、今ヤ云ウテ來サウニ承承テ居ル、此場合ニ於テヨシ來タ、日本ハ何日デモ東洋ノ巡査
デアレバ宜イト云ウテ、巡査的ニソロ〓〓出テ往ク積リデアルヤ否ヤ、出テ往クナレバ出テ
往ク前ニ日本ハ此ノ如キ動亂ニ對シテハ此ノ如キ處置ヲ執ルカラ、之ニ付テハ列國ハドウ
云フコトヲシテ呉レルカ、支那ハ如何ナル報酬ヲ與ヘルカト云フ位ニ前以テ極メヲ定メズ
ニ置イテ、人道問題デアルト云ヘバ直樣出テ往クト云フコトハ善イコトデアルカ、惡イ事
デアルカ、コイツハ考フベキ問題デアルト思ヒマスガ、政府ガ最後ノ之ニ對スル方策ヲ承
リタイ、是ガ第七番目、第八番目ハ支那ノ借款問題ニ關スルコトデアル此借款問題
ハ唯今四國借款ノ中ニ日本ト露西亞ガ割込マウトシテ居ルサウデアルガ、袁世〓ノ借リ
タイト云フノハ六億万圓デアル六億万圓ヲ借リテ之ヲ六箇國カラ分配シテ貸ストシテ
モ一億万圓宛貸サナケレバナラヌ、一億万圓宛貸シテソレデ濟ムカ濟マヌカト云フコト
ニナルト、ソレダケデハ濟ミサウモナイガ、又貸シテ呉レト云フコトデ又第二ノ借款ヲ云ウ
テ來ル、第一ハ能クヤッタガ、第二ニ應ジラレヌヤウナ不體裁ガアッテハナラヌ、此借款問
題ト云フモノハドウ云フ具合ニ働クカニ付テ〓究ヲ要スル、此度ノ革命亂ニ付テ四國借
款問題ハ二億万圓デアル二億万圓ヲ貸シタノハ鐵道國有ヲヤラウト云フノガ四川ニ
於テ暴動ガ發シタノデ、片ッ方ニハ利權囘收借款ニ對スルイロ〓〓ノ權利ヲ抵當ニ入レ
タノヲ人民ガ反對ヲシテ、アノ權利ハ取戾サナケレバナラヌ、此權利ハ取戾サナケレバナラ
ヌト云フコトニナリマシタガ、今度日本ガ加ハルト云フ評判ノアル四國借款ニハ、日本ガ
本當ハ加ハッテ居ルカドウカ、本當ニ加ハッテ居ルナラバ、之ニ對シテ利權囘收問題、第
二ノ動亂ノ原因ヲスル虞ガアルカナイカアルナラバ、ドウ云フ方法デ之ヲ防イデ、サウシテ
自分ガ他ノ列國ト共ニ耻シカラヌヤウナ組入ヲスル積リデアルカドウカ承リタイ、今日ハ恰
モ借款問題ニ對シテ私ノ知ッテ居ル小田切万壽之助君ガ今日出發スルサウデアルカラ、
此極ク適切ナル最近ノ問題ニ付テ政府ハ此借款問題ニ付テドウ云フ積リヲ持ッテ居
ルカ、之ヲ承リタイ、以上八箇條デアルガ、玆ニ外務大臣ガ來テ居ラレヌノデ、自分ハ敵
ナキニ矢ヲ放ツノ憾ミナキニアラズデアルガ、外務大臣ガ來テ居ラレタトコロトガトテモ自分
ニ滿足ヲ與ヘラレルヤウナ答辯ハ出來ヌト思ヒマスカラ、居ラヌトコロデアルガ、此事ヲ質問
シテ置キマス、是ダケデアリマス(拍手スル者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=37
-
038・大岡育造
○議長(大岡育造君) 才賀藤吉君
〔才賀藤吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=38
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039・才賀藤吉
○才賀藤吉君 諸君、本員ガ政府ニ質問書ヲ提出致シマシタ趣意ハ、海外輸入品防
止ニ關スル件デアリマス、我國今日ノ海外貿易ハ諸君モ御承知ノ通リ年々歲々輸入超
過ヲ示シテ、加フルニ我國ハ多年債務國トシテ其結果海外ニ又多額ノ利子ヲ拂ハナケ
レバナラヌ運命ニ居リマス、旁〓以テ我財政ノ基礎ヲシテ不安ナラシメマスルコトハ上下
共ニ頗ル之ヲ憂慮スル次第デアリマス、因テ私ハ其財政ノ一端ヲ補フタメニ玆ニ輸入品
ヲ防遏スル政策ヲ講ジタイノガ、一ツノ目的デアリマス
〔議長大岡育造君議長席ヲ退キ副議長肥塚龍君議長席ニ著ク〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=39
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040・肥塚龍
○副議長(肥塚龍君) 暫時此席ニ著キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=40
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041・才賀藤吉
○才賀藤吉君 獨逸ガ今日ノ發逹ヲ爲シタノハ實ニ工業政策其宜シキヲ得タクメデア
リマシテ、獨逸ノ工業上ノ發達ニ付テハ澤山ナ例ガアリマスガ、玆ニ一例ヲ舉ゲテ見マス
レバ英吉利ガ從來製造工業ニ付テノ先進國デアル英吉利ノ「ネットホール」ト云フ或ル
會社ガ多年木捻子ヲ造ッテ世界ノ信用ヲ博シタ、其「ネットホール」ノ會社ノ造ッタ木捻
子ト同ジ寸法ノモノガ日本ニ來レバ「クロス」五十錢モスル、是ト同等ノ品物ガ獨逸デ造
ラレルモノハ三十五錢デアル、同ジ品物ヲ非常ナ差ヲ以テ獨逸ハ供給スルノデアリマス、
ソレ故ニ世界デハ-世界デ信用ノアル「ネットホール」ニ向ッテオ前ノ方モ獨逸ノ如ク相
當ノ値段ノモノヲ造ッタラバ、ドウカト云フコトヲ屢〓得意先カラ注文ヲシマシテモ英吉利
ハ廉イ物ガ欲シケレバ、獨逸ノ物ヲ御買ヒナサイ、高イ物ガ好ケレバ私ノ物ヲ買ウテ下サ
イト云フコトヲ多年主張シテ居リマシタガ、遂ニ近來獨逸ニ打勝ツコトガ出來ズシテ、獨
逸製ノ「ネットホール」ト云フモノヲ造出シタヤウナ譯ニナッテ居リマス、デ其代價ハ獨逸ト
同ジ代價デ供給スルコトニナリマシタ、是等ハ英吉利ト雖モ遂ニ獨逸ノ工業政策ニ負ケ
タンデアラウト思フノデス、又我國デ造リマスルトコロノ此日本酒ノ如キモ日本酒ト云フ
名ノ下ニ其原料ノ大部分ハ獨逸ノ「パールク」ヲ使ッテ居ル、實ニ是等モ日本ハ獨逸ノ工
業ニ壓セラレテ居ルノデアリマス、此ノ如キ例ハ澤山アリマスガ、又米國ノ現時ノ富ハ實ニ
工業ノ發達ニ大原因ヲ爲シテ居ルト思フノデアリマス、今日ヨリ二十五六年前ハ米國
ハ諸機械ハ皆歐羅巴ヨリ輸入致シマシタガ、二十五六年後ハ年々歲々世界ニ向ッテ輸
出スル國トナリマシタ、我國ノ今日ノ工業上ノ學識、技能、是等ノ〓ハ日々進步シテ大
ニ見ルベキモノガアリマスルニ拘ラズ、國民一般ハヤハリ歐米ノ製品ニ重キ信用ヲ拂シテ、
內地ノ製造品ヲ輕視スルコトハ殆ド先天的ノ習慣トナッテ居リマス、是等ハ頗ル我國ノ
產業上〓嘆スベキコトデアラウト自分ハ考ヘルノデアリマス、デ是等ノ先入主トナッタル
原因カラシテ益〓輸入ヲ助長致シマシテ、年々歲々此輸入超過ト云フコトヲ見ルヤウナ
譯デアリマスカラ、私ハ是ニ付テ大ニ諸君ト共ニ此憂ヲ分チタイト思フノデアリマス、第一
質問致シマスル趣意ハ「鐵道電氣瓦斯ノ如キ特許ヲ要スル事業ノ需用品ハ一切內地
製造品ヲ以テ供給セシムヘキ方法ヲ採ルコトハ我邦現下ノ急務ナリト信ス」輸入品防
遏ノ方法モ種々ゴザイマセウガ、私ハムヅカシイ、大言壯論ヲ致スノデハゴザイマセヌ、出
來易イ實行シ易イモノカラ漸次其目的ヲ達シタイト思ヒマス、卽チ此鐵道事業或ハ電氣
事業、瓦斯事業ノ如キ、特ニ監督官廳ノ許可又ハ特許ヲ要スル事業、或ハ官省ガ自ラ經
營スルトコロノ事業、卽チ鐵道デアリ、其他機械其他ノ材料ヲ利用スベキ事業、是等ノ
事業ニ向ヲテ出來得ルダケ內地ノ製造品ヲ使用スルト云フ趣意ヲ以テ致シタイノデアル
官省モ自ラ此方針ヲ執リ、國民モ一般ニ此方針ヲ執リマシタナラバ幾分カ以テ或ハ此
輸入ヲ防遏スルコトガ出來ヤウト考ヘテ居リマス、昨年ノ輸入品中諸機械ヲ輸入シマシ
タ高ガ、二千六百七万餘圓ニナッテ居リマスガ、其他電話、電氣用ノ「ケーブル」鐵道鐵
橋用ノ材料、機關車車臺、鐵管、是等ノモノヲ合計シマスルト約七千五百万圓カ
ラニ達シテ居リマスデ政府ガ今日マデ爲シテ居ルトコロノ事業ノ多クハ、ヤハリ所謂舶
來品ナルモノヲ使ヒ、又一般國民ガ爲ストコロノ事業ニモ多ク此舶來品ナルモノヲ使ッテ
居リマスルガ、玆ニ米國ノ一例ヲ舉ゲテ見マスレバ先年亞米利加ガ比律賓群島ヲ手
ニ入レマシタ際ニ於テ、大平洋ニ海底電線ヲ敷設スルニ當ッテ、從來ハ亞米利加ニ於テ
海底電信線ナドハ製造ガ出來ナカッタニ拘ラズ、亞米利加製ノ電線ヲ使用セヨ之ヲ使
用スルニ付テ費用ガ多大ニ要ルナラバ軍艦ヲ貸シテヤッテモ宜イト云フ位、亞米利加政
府ハ內地ノ事業ヲ保護致シマシタ、又亞米利加ニ於テ電氣鐵道ヲ出願スレバ出願スル
先方ハ相當人民ニ於テ皆利益ノアルコトハ計算シテ來ルノデアラウカラ、何處デモ宜シイ
ト云フノデ許ス代リニ、使用スベキ物品ハ內地品ヲ使用セヨ、斯ル條件命令ヲ發シテ許
可スルサウデアリマス、然ルニ我國ハ曩ニモ申シタ通リ臣民共ニ輸入品ヲ喜ブノデアリマ
ス、殊ニ此民間ノ事業ヲ政府ノ役人ガ檢査ニ參リマスト、心ナキ下級ノ檢査官ナドハ舶
來品ナラバ百ノ程度ニ試驗スベキモノデモ、之ヲ九十ノ程度ニ試驗シテ安心シテ居ル、若
シ之ヲ日本製ト云フナラバ、百ノ程度ニ試驗スベキモノヲ百以上ニ試驗シテ、尙之ニ不
安ノ念ヲ懷イテ居ルヤウナコトガアルノデアリマス、從來內地製ハ頗ル粗造ナモノモ澤山ゴ
ザイマシタガ、近來ハ學術共ニ進步致シマシテ、頗ル完全ナモノガ、追ミニ出來テ參リマ
シタ、內國ニ製造サレル品ヲ以テ內國ノ事業ニ充テルコトハ餘リ困難デナクナッタノデアサ
マ、、旣ニ諸君モ過日橫須賀ノ造船所ニ往ッテ御覽ニナリマシタ通リ、彼ノ河內艦ハ二
万八百噸アリマスガ、其中材料ハ約八割日本製ヲ用井タト言ヒマス、其前ニ建造サレタ
トコロノ薩摩艦ハ一万九千三百五十噸デアリマシテ、內國製ノ材料ヲ用井マシタノハ六
割一步ニナッテ居リマス、河內ハ薩摩ヨリ大キクシテ、而モ內地ノ材料ヲ使ッタコトガ二割
カラ澤山ニ使ッテ居リマス、之ヲ以テ見マシテモ內國製品デ追ミ總テノコトニ用ガ足スト
云フコトハ明カニナッテ居ラウト思フデス、本員等モ大ニ之ヲ見テ喜ンダ一人デゴザイマス
ガ、偖マダ其中ニ大分〓究スベキ餘地ガ殘ッテ居リマス、御覽ニナリマシタ通リ小サナ電
動機ハ皆內地品デ造リマスガ、肝腎ナ發電所ニ往シテ見レバ盡ク外國品ヲ使ッテ居ル
而モ其電氣方式ハ依然トシテ直流電氣ノ方式ヲ守ッテ居ル、無線電信ハ固ヨリ高流
電氣デナケレバイケマセヌガ、其他高流電氣ヲ使用スレバマグ簡便ニ出來ルモノガアラウ
ト本員ハ考ヘマシテ、當局者ニ就テ二三御尋ヲ致シマシタケレドモ、當局者ハマグ〓究
ニナッテ居ラヌヤウデアリマシテ、餘程以前ノ時代ニ於テ總テノ軍艦ニ施設シタトコロノ同
ジ方式ノ直流電氣式ヲ用井テ居ルト云フコトハ又是本員ガ頗ル滿足ノ出來ヌ次第デア
リマス、併シ內地ニ於テ近來電氣事業ガ發達スルト同時ニ此地下線ナルモノモ追〓進ン
デ參リマシタガ、此地下線モ或ハ電話ノ地下線モ同ジコトデス、是等ハ殆ド總テガ輸入
品ニナッテ居リマスガ、近來其製造會社ニ於テハ是等モ完全ナルモノガ造出サレタノデ
アリマスカラ、內地品ヲ使ッテモ十分安心シテ其使用ノ途ニ充テルコトガ出來ヤウト思フ
ノデアリマス、內地ノ工業ハ學術ト技術ト共ニ斯ノ如ク進步シテ參リマシタガ、今一段
是ニ保護ト奬勵ヲ加ヘテ更ニ一倍ノ進步ヲサスコトガ目下ノ急務デアラト思フノデス、ワ
レ故ニ政府ハ政府自ラ爲ストコロノ官署ノ事業ニ內地ノ製造品ヲ用井、又民間ノ事業
ニモ內地品ヲ使用セヨト云フ特別ノ命合カ或ハ條件ヲ附シテ益ノ內地製品ヲ盛ナラシム
ルコトガ必要デアラウト田心フノデアリマス、デ旁、是ガ盛ニナリマスレバ輸入品ノ防遏モ出
來ルコトデアリマスカラ、政府ハ是等ニ向ッテ極メテ必要ナコトヽシテ內地製品ヲ多ク使
七、又民間事業ニモ之ヲ使ハシムルノ意思有リヤ否ヤト云フコトガ本員ノ第一問デアリ
マス第二問ハ「啻〓輸入品防止ノ消極的施設ノミナラス進ンテ支那方面一切ノ需用
ニ應スヘキ自覺竝ニ實際ノ設備ヲ要スルモノト信ス」旣ニ內國品ガ完全ニ出來マシタ以
上ハ此地勢上支那ニ對シテハ列國ニ比較シテ最モ優越ノ地位ヲ占メテ居ル我邦デアリ
マスカラ、大ニ支那ヲ指導啓發シテ彼ニ向ッテ物質的文明ノ品ヲ供給シナケレバナラヌ
ト信ズルノデアリマス、政府ハ之ヲ保護奬勵スル意思ガアルカドウカト云フノガ此趣意テ
アリマス、一例ヲ申シマスレバ我國ニ近來輕便鐵道法ガ許サレテ、小サナ輕便鐵道ガ諸
方ニ起リマシタガ、此機關車ト云フモノハ多ク獨逸カラ輸入サレテ居ル、何故ニ是ガ獨
逸カラ輸入サレルカト言ヒマスト、獨逸ノ政府ハ機關車一臺輸出スレバ、之ニ對シテ幾
許カノ保護ヲシテヤッテ居ル、ソレ故ニ各國ハ皆値段ノ競爭ニ於テ獨逸ニ負ケルノデアリ
マス、我政府ハ支那ニ向シテ內地ノ機械ヲ輸出スル場合ニハ此ノ如キ覺悟ガアルカ否否
ト云フコトガ第二ノ間デアリマス、第三ノ質問ハ「我邦機械及材料ノ製造工業ヲ發達セ
シムルノ目的ヲ以テ特種金融機關ノ組織ヲ爲ス意思ナキヤ」我邦ノ製造工業家ノ多ク
ハ資本ニ乏シイノデアリマス、國家ガ財政ニ乏シイト同ジク工業家ハ頗ル資本ニ乏シイノ
デアリマス、且此工業ト申スモノハ資本ノ運用上實ニ多大ノ苦勞ラスルノデアリマス、未
ダ工業經濟上ノ金融機關ノ完全ニナッテ居ラナイノハ頗ル遺憾トシテ居リマス、明治四
十四年末ノ銀行ノ總資本金ヲ見マスレバ、七億四千七百十九万圓ト云フコトニナッテ
居リマスケレドモ、此等ハ多クハ商業資本ニ使用サレ、又其一部ハ不動產資本ニ使用
サレテ居ッテ、工業ノ資本ト云フモノガ極メテ少ナイモノデ、其數ハ明カニナッテ居リマセヌ、
又勸業銀行ガ貸出シテ居ルトコロノ總額ハ一億三千二一百五十七万圓餘トナッテ居リマ
スケレドモ、四十三年ノ末ニ於テ製造工業專用ニ貸出シタモノハ僅二三千四百四十九
万圓シカニナッテ居リマセヌ、日本興業銀行ハ三千九百七十五万圓ノ貸出ヲシテ居リマ
スケレドモ、是亦工業資本ニ向ッテ幾ラ貸出シテアルカト云フコトハ不明デアリマス、此ノ
如ク製造工業ト云フモノニ重キヲ置カレテ居ラナイ、然ルニ製造工業ハ一旦資本ヲ投ズレ
バ其資本ガ現金ニ變ルマデノ間ハ頗ル技術上ノ苦心ヲ要シ、又其物品販賣上ニ苦心ヲ
要シ其間ニ於テ幾多ノ日子ヲ費サナケレバ元ノ金ニ變ッテ來ナイノデアリマスデ、我邦ノ製
造家ハ資本ヲ得ルニ急ニシテ、而モ是ガ不便利デアルガタメニ或ハ一面製品ノ粗製ニ流レ
ル虞モナイコトハナイノデアリマス頗ル此等ハ本員ハ遺憾トスルトコロデアリマスガ、近ク大
阪ノ某銀行ハ此等ノ點ヲ憂ヘテ、商工業家ニ資本ヲ流通スル目的ヲ以テ五百万圓ノ
增資ヲシタサウデアリマス、此ノ如キ計畫ガ續々現レテ參リマスコトハ、製造工業家ノ最
モ喜ブトコロデアリマシテ、從ッテ安心シテ業務ニ從事スルコトガ出來、進ンデ技術モ精
巧ニナリ、製品モ亦自ラ巧妙ナモノガ出來ルヤウニナルデアラウト思ヒマスガ、併ナガラ現今
我邦ノ工業界ニ對シテハ以上ノ如キ小資本デアッテハ到底滿足ノ出來ナイモノデアリ
マス故ニ、政府ハ特種ノ金融機關ヲ組織スルカ、又ハ現在ノ特種銀行ヲシテ更ニ此工
業經濟上資金流通ノ方法ヲ講ジテ我邦製造工業ノ發達ヲ大ナラシムルノ意ガ有ルヤ
否ヤ、是ガ第三問デアリマス、第四問ハ「官營製鐵所ハ五十磅以下ノ「レール」製造ヲ見
合セシ理由如何」四十四年ノ我邦ノ軌道ノ輸入額ハ五百五十万三千圓ニナッテ居リ
マスガ、今輕便鐵道法ガ實施サレマシテ以來、今日マデ鐵道ヲ計畫サレテ居ルモノヽ中
官有線ヲ除キマシテモ、尙二千九百二十二哩アリマス、此輕便鐵道ニ要スル軌道ヲ三
十磅ノ軌道ヲ使用スルトシマシテモ、其軌道代ノミデ約一億一千六百八十八万圓ヲ要
スル譯デアリマス、其他國有鐵道ニ使用スルトコロノ軌道代ヲ合セマシタナラバ、實ニ多
大ノ額ニ上ルノデアリマス、而シテ國有ノモノハ假ニ製鐵所ニ於テ完全ニ製作スルト致シ
マシテモ、此二千九百二十二哩アルトコロノ輕便鐵道用ノ軌道ハ內地デ一箇處モ造ッ
テ居ラナイノデアリマス、製鐵所ハ前年マデハ五十磅以下ノ軌道ヲ製造致シマシタニ拘
ラズ、一兩年前ヨリ之ヲ中止致シマシタ、輕便鐵道ハ國家ガ利子ヲ補給シテマデモ其
施設ノ完全ナランコトヲ助ケテ居ルニ拘ラズ、由來製鐵所ハ國費ヲ年々損失シツヽ尙此
需用ニ應ズルコト能ハズシテ、徒ニ輸入ノ助長セシムルト云フコトハ實ニ國家財政上當
ヲ得タコトデナカラウト自分ハ信ズルノデアリマス、眼前旣ニ一億圓以上ノ需用ガアルニ
拘ラズ、五十磅以下ノ軌道ヲ何故ニ使用セザルカト云フノガ本員ノ第四間デス、デ以
上ノ政策ニシテ當ヲ得マシタナラバ、我國財政基礎ノ幾分ヲ安固ナラシムル最モ捷徑デ
アラウト信ジマシタ故ニ、貴重ノ時間ヲ費シテ此質問ヲ提出致シマシタ次第デアリマス、
之ニ對シ滿足ナ答辯ヲ得マシタラ、本員ハ誠ニ滿足ニ存ジマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=41
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042・肥塚龍
○副議長(肥塚龍君) 質問第五、鐵政策ニ關スル質問演說ハ武藤金吉君ヨリ之
ヲ明日ニ延期シタイ、斯ウ云フ申出ガアリマスガ、御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=42
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043・肥塚龍
○副議長(肥塚龍君) 然ラバ是ハ延期スルコトニ致シマス、是ヨリ日程第一、擔保附
社債信託法中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス
第一擔保附社債信託法中改正法律案(政府提出)第一讀會
擔保附社債信託法中改正法律案
擔保附社債信託法中左ノ通改正ス
第四條ニ左ノ一號ヲ加フ
九輕便鐵道抵當
〔政府委員橋本圭三郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=43
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044・橋本圭三郎
○政府委員(橋本主三郞君) 擔保附社債信託法ノ第四條ニ「社債ニ附スルコトヲ
得ヘキ物上擔保ハ左ニ揭クモノニ限ル」ト云フコトニナッテ居リマシテ、此輕便鐵道ガ入ッ
テ居ラヌノデアリマス、ソレデ此丁度今才賀君ノ御話ニナッタ輕便鐵道ガ段々出來テ參
リマスニ依ッテ、此輕便鐵道モ「軌道抵當」ト云フ第八ノ次ヘ加ヘマシテ、便利ヲ圖リタ
イト云フ極ク簡單ナ案デアリマスドウカ御協賛ヲ願ヒマス
〔副議長肥塚龍君議長席ヲ退キ、議長大岡育造君復席ス)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=44
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045・大岡育造
○議長(大岡育造君) 日程第二ニ移リマス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=45
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046・恒松隆慶
○恆松隆慶君 此案ハ議長指名九名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=46
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047・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=47
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048・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガ無ケレバ本案ハ議長指名·九名ノ委員ニ付託スルコ
トニ決シマシタ、日程第三、鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運
送ニ關スル法律案第一讀會ヲ開キマス
第三鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯第一讀會
絡運送ニ關スル法律案(政府提出貴族院送付)
鐵道又ハ船舶ト露國ノ鐵道又ハ船舶トノ貨物ノ聯絡運送ニ關スル
法律案
(小字及-ーハ貴族院修正)
第一條鐵道又ハ船舶カ主務大臣ノ認可ヲ得タル契約ニ依リ露國ノ鐵道又
ハ船舶ト物品ノ聯絡運送ヲ爲ス場合ニ於テハ本法ニ依ル
第二條鐵道營業法第五條乃至第九條ノ規定ハ船舶ニ之ヲ準用ス但シ運送
品ノ發送ハ運送申込ノ順序ニ依リテ之ヲ爲スヘシ
第三條運送契約ハ鐵道又ハ船舶カ運送ヲ爲スコトヲ約シ荷送人ヨリ運送
品及運送狀ヲ受取ルニ因リテ其ノ效力ヲ生ス
鐵道又ハ船舶カ運送契約ヲ爲シタルトキハ荷送人ニ運送狀ノ副狀ヲ交付
スヘシ
運送狀及運送狀ノ副狀ニ記載スヘキ事項及其ノ記載ニ關シ必要ナル事項
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條運送狀、貨物引換證及船荷證券ニ關スル商法ノ規定ハ之ヲ適用セス
第五條鐵道又ハ船舶ノ使用人ハ運送狀ノ作成ニ付テハ荷送人ノ代理人ト
爲ルコトヲ得
第六條特定ノ者ニ對シ運送賃ノ割引ヲ爲ス特約ハ之ヲ無效トス但シ總テ
ノ鐵道及船舶ノ合意ニ依ル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第七條運送品及運送狀ヲ受取リタルトキハ荷受人ハ運送狀ニ記載シタル
金額ヲ鐵道又ハ船舶ニ支拂フ義務ヲ負フ
前項ノ支拂ハ荷送人竝總テノ鐵道及船舶ニ對シテ之ヲ爲シタルモノトス
第八條鐵道又ハ船舶ハ運送品ヲ受取リタル旨ヲ記載シタル運送狀ノ副狀
及運送狀ニ記載シタル金額ト引換ニ非サレハ運送品ヲ荷受人ニ引渡スコト
ヲ要セス但シ運送狀ノ副狀ヲ紛失シタル場合ニ於テ鐵道又ハ船舶ノ定ム
ル規程ニ依リ荷受人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第九條運送品引渡ニ關スル手續ニ付テハ鐵道又ハ船舶ノ定ムル規程ニ依
ル
第十條運送品ノ全部若ハ一部ノ滅失又ハ毀損ニ關シテハ鐵道又ハ船舶ハ
直ニ運送品ノ狀態竝損害ノ原因、額及發生時期ヲ證スル書面ヲ作成スヘ
シ運送契約ニ基キ運送品ニ付權利ヲ有スル者カ運送品ノ全部若ハ一部ノ
滅失又ハ毀損アルコトヲ主張スルトキ亦同シ
前項ノ書面ニ記載シタル事項ハ請求ニ因リ利害關係人ニ之ヲ通知スヘシ
第十一條荷受人ハ損害ノ調査ノ完了スル迄運送品ノ受取ヲ拒ムコトヲ得
第十二條運送狀ニ揭ケタル物品中不足アルトキハ荷受人ハ運送品受取ノ
際鐵道又ハ船舶ニ對シ之ヲ證スル書面ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第十三條鐵道又ハ船舶ノ責任ハ荷受人カ運送品ヲ受取リ且運送賃其ノ他
ノ費用ヲ支拂ヒタルトキハ消滅ス但シ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ハ此
ノ限ニ在ラス
-荷受人カ鐵道又ハ船舶ノ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リテ損害ノ生シ
タルコトヲ證明シタルトキ
二荷受人カ運送品ヲ受取リタル日ヨリ十四日內ニ第十六條第二項ノ鐵
道又ハ船舶ノ一ニ對シ延著ニ關スル損害賠償ノ請求ヲ爲シタルトキ
三荷受人カ第十條第一項ノ規定ニ依リテ證明セラレタル運送品ノ一部
滅失又ハ毀損ニ付損害賠償ノ請求ヲ爲シタルトキ
四鐵道又ハ船舶カ第十條第一項ノ規定ニ依リ爲スヘキ調査ヲ其ノ過失
ニ因リ爲ササリシ運送品ノ一部滅失又ハ毀損ニ付荷受人カ損害賠償
ノ請求ヲ爲シタルトキ
五荷受人カ直ニ發見スルコト能ハサル運送品ノ一部滅失又ハ毀損ニ付
損害賠償ノ請求ヲ爲シタルトキ但シ運送品ヲ受取リタル日ヨリ十四
日內ニ鐵道又ハ船舶ニ對シ一部滅失又ハ毀損ノ通知ヲ發シタルトキ
一起八
前項ノ請求ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
○又ハ假置場
第十四條運送ゆカ到達輕又ハ到達淺ニ比シタル後稅關又ハ保税倉庫。「之之
ヲ引渡シタルトキハ其ノ後ニ生シタル運送品ノ滅失又ハ毀損ニ因ル損害
ニ付テハ鐵道又ハ船舶ハ其ノ責ニ任セス荷送人トノ間ニ於ケル契約ノ定
ムル所ニ依リ私設倉庫ニ引渡シタルトキ亦同シ
第十五條惡意又ハ重大ナル過失ニ因ラサル運送品ノ滅失、毀損又ハ延著
ニ付テハ鐵道又ハ船舶ハ其ノ責任ニ關シ特約ヲ爲スコトヲ得
前項ノ特約ハ荷受人ニ對シ及荷受人ノ爲ニ其ノ效力ヲ生ス
第十六條運送契約ヲ爲シタル鐵道又ハ船舶竝運送狀ト共ニ運送品ノ引繼
ヲ受ケタル鐵道及船舶ハ運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ付連帶シテ損害
賠償ノ責ニ任ス
前項ノ損害賠償ノ請求ノ訴ハ運送契約ヲ爲シタル鐵道若ハ船舶、最後ニ
運送狀ト共ニ運送品ノ引繼ヲ受ケタル鐵道若ハ船舶又ハ損害ヲ生セシメ
タル鐵道若ハ船舶ノ一ニ對シテノミ之ヲ提起スルコトヲ得
第一項ノ損害賠償ノ請求ハ本訴カ同一ノ運送契約ニ基ク場合ニ於テハ反
訴又ハ相殺ノ抗辯ニ依リ前項以外ノ鐵道又ハ船舶ニ對シ之ヲ主張スルコ
トヲ得
第十七條引渡期間滿了後三十日內ニ運送品ノ引渡ナキトキハ運送品ハ滅
失シタルモノト推定ス
第十八條鐵道又ハ船舶カ運送狀ノ副狀ノ呈示ヲ荷送人ニ請求セスシテ其
ノ指圖ニ從ヒタルトキハ鐵道又ハ船舶ハ運送狀ノ副狀ヲ所持スル荷受人
ニ對シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第十九條滅失シタル運送品ニ對スル賠償金ヲ受取リタル者其ノ受取證書
中ニ運送品カ引渡期間滿了後四月內ニ發見セラレタル場合ニ於テ直ニ鐵
道又ハ船舶ヨリ通知ヲ受クヘキ旨ヲ記載シタルトキハ其ノ通知ヲ受クル
權利ヲ有ス鐵道又ハ船舶ハ此ノ記載ヲ證スル書面ヲ交付スヘシ
運送品カ發見セラレタルトキハ前項ノ權利者ハ賠償金ヲ返還シテ發送驛
若ハ發送港又ハ到達驛若ハ到達港ニ於テ無償ニテ運送品ヲ引渡スヘキコ
トヲ請求スルコトヲ得但シ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日ヲ經過シ
タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十條鐵道又ハ船舶ノ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リ生シタル運送品ノ
滅失、毀損又ハ延著ニ關スル損害賠償ノ請求權ハ三年ヲ經過シタルトキ
ハ時效ニ因リテ消滅ス
第二十一條損害賠償ノ請求權ノ消滅時效ハ運送品ノ一部滅失又ハ毀損ノ
場合ニ於テハ引渡ノ日ヨリ運送品ノ全部滅失又ハ延著ノ場合ニ於テハ
引渡期間滿了ノ日ヨリ進行ス
第二十二條運送賃又ハ附帶料金ノ不足額追徵ノ請求權ハ運送賃又ハ附帶
料金ノ支拂ノ日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
割增金徵收ノ請求權ハ運送賃支拂ノ日ヨリ、支拂フヘキ運送賃ナキトキ
ハ運送契約ヲ爲シタル日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消
滅ス
運送賃、附帶料金又ハ割增金ノ過徵額返還ノ請求權ハ過徵額支拂ノ日ヨ
リ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第二十三條鐵道又ハ船舶ニ對スル運送賃又ハ附帶料金ノ過徵額返還ノ請
求ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
前項ノ書面ニ記載スヘキ事項及之ニ添附スヘキ書類ハ鐵道又ハ船舶ノ定
ムル規程ニ依ル
第二十四條運送賃若ハ附帶料金ノ不足額ノ追徵又ハ其ノ過徵額ノ返還ノ
請求權、割增金ノ徵收又ハ返還ノ請求權及運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ
關スル損害賠償ノ請求權ニ付テハ書面ヲ以テ請求ヲ爲シタル時ヨリ時效
ノ進行ヲ停止ス
前項ノ請求ヲ受ケタル者カ書面ヲ以テ拒絕ノ旨ヲ通知シ且請求書ニ添附
シタル書類ヲ返還シタルトキハ其ノ通知及返還ノ時ヨリ殘餘期間ニ付時
效ハ進行ス再請求ヲ爲スモ時效ノ進行ヲ停止セス
第二十五條鐵道又ハ船舶ニ對スル損害賠償ノ請求權ニ付テハ民法第百四
十五條及第五百八條ノ規定ヲ適用セス
第二十六條運送契約ニ基ク裁判上ノ請求ニシテ鐵道又ハ船舶ニ對スルモ
ノハ荷送人又ハ荷受人ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第二十七條聯絡運送ニ關スル訴訟ニ付テハ民事訴訟法第八十八條第一項
ノ規定ヲ適用セス
第二十八條鐵道又ハ船舶カ他ノ鐵道又ハ船舶ヲ共同被〓トシ聯絡運送ニ
基ク損害賠償ノ求償ノ訴ヲ提起シタルトキハ裁判所ハ同一ノ判決ヲ以テ
裁判ヲ爲スヘシ
第二十九條聯絡運送ニ關シテ露國裁判所ノ爲シタル判決ノ執行判決ニ付
テハ民事訴訟法第五百十五條第二項第五號ノ規定ヲ適用セス
第三十條第八條但書、第九條及第二十三條第二項ノ規程ハ主務大臣ノ
認可ヲ受ケ且之ヲ告示スヘシ
第三十一條本法ニ於テ裁判所ト稱スルハ裁判權ヲ行フ官廳ヲ謂フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=48
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049・大岡育造
○議長(大岡育造君) 日程第四、右議案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選舉ニ移リマス
第四右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=49
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050・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本案ハ十分委員會デ說明アルモノト致シマシテ、議長指名十八名ノ
委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=50
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051・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=51
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052・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ恆松君ノ動議ノ如ク、十八名ノ委員議長指
名ニ決シマシタ、日程第五、樺太ニ於ケル石炭ノ採掘ニ關スル法律案、第一讀會ノ續
ヲ開キマス、委員長井上角五郞君
第五樺太ニ於ケル石炭ノ採掘ニ關スル法律第一讀會ノ續(鬼打棒)
案(政府提出)報報
〔井上角五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=52
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053・井上角五郎
○井上角五郞君 諸君、本法律案ハ樺太ニ於ケル石炭鑛區······政府ニ於テ十分ニ
調査致シマシタルトコロノ南部、北部、中央部ノ石炭ノ鑛區ノ石炭ヲ競爭入札ニ附シ
テ、採掘料ヲ徵收シテ、之ニ採掘サスト云フ法案デゴザイマス、元來樺太ニ於テノ鑛業
法ノ施行ハ勅令ヲ以テ之ヲ定メ、之ニ對スル各種ノ條件ハ皆今マデ勅令ヲ以テ定メテ
居リマシタガ、今囘ハ其樣ナコトヲ勅令デヤルヨリハ法律デヤルガ宜カラウト云フノデ、是
ガ出來マシタノデ、其法律案モ極メテ適當ナモノトモ心得マスシ、且ハ勅令デヤッテ居ッタ
モノヲ更メテ、今後法律デ同意ヲ求メテ來マシタモノデゴザイマスカラ、委員會ニ於キマシ
テハ別ニ異議ナク原案ノ儘可決致シマシテゴザイマス、此段御報告致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=53
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054・恒松隆慶
○恆松隆慶君 別ニ議論モナイヤウニ見受ケマスカラ、讀會ヲ省略シテ確定セラレンコ
トヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=54
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055・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
樺太ニ於ケル石炭ノ採掘ニ關スル法律案確定議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=55
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056・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ讀會ヲ省略シテ本案ハ可決確定致シマシ
タ、日程第六、朝鮮ニ於ケル學校職員ニシテ國庫ヨリ俸給ノ支給ヲ受ケサル文官判任
以上ノ者ノ退隱料及遺族扶助料ニ關スル法律素第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長橫
山金太郞君
朝鮮ニ於ケル學校職員ニシテ國庫ヨリ
第六俸給ノ支給ヲ受ケサル文官判任以上第一讀會ノ續(委員長)
ノ者ノ退隱料及遺族扶助料ニ關スル報告
法律案(政府提出)
〔橫山金太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=56
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057・横山金太郎
○橫山金太郞君 諸君、本員ハ本案ニ付テノ委員會ノ經過及結果ヲ報告致シマス、
本案ハ頗ル簡單デゴザイマスルノミナラズ、會期切迫ノ折柄デゴザイマシタ故ニ、委員會ヲ
開キマスルコトハ僅ニ二囘ニ止ッテ居リマスルケレドモ、併シ審議ハ愼重ニ盡サレタノデゴザ
イマス、本案ハ恆松代議士ノ叫バレマシタ如ク、題目ハ甚ダ長クアリマスルガ、要スルニ國
家ノ直營卽チ官立デス、又私立デナイ所謂國家ノ直營デナイ、私立デナイ、朝鮮ノ文官
判任以上ノ學校職員ニ對シマスル退隱料及遺族扶助料ヲ與フルコトヲ規定スベク政
府ヨリ提出サレタ案デアルノデアリマス、案ノ內容ハ明治二十三年以來數囘ノ改正ヲ經
マシテ、今日現ニ行ハレテ居リマスルトコロノ內地ニ於ケル府縣郡市町長ノ公立ニ係ル
學校職員ニ對シマスル退隱料及遺族扶助料ヲ規定セラレタ法律ト同一デアルノデアリ
マ、、故ニ此案ガ法律トナリマシタ曉ニ於テ、其支配ヲ受ケルトコロノモノハ日韓合併以
前ニ在ッテ韓國ノ經營ニ係ッテ居リマスル學校ノ職員ト我帝國ガ在外指定學校トシテ
取扱ッテ居リマシタ學校ノ職員トデアリマス、就中在外指定學校ノ職員ニ對シマシテハ、
旣ニ明治三十八年ノ法律六十四號ニ依ッテ從來本案ト同一待遇ガ與ヘラレツヽアッタ
モノデアリマス、併シ一朝此日韓ガ合併致シマシテ、日本ノ領土トシテノ朝鮮トナッタ後
ニ至ッテハ、在外指定學校ト云フ其名稱ヲ尙存シテ、且之ニ對シテ其法律ニ依ッテ之ガ
給與ヲナスト云フコトハ、自ラ穩當ナラザルコトニ歸著スルト云フ理由ガ一ツト、ソレカラ
又在來ノ韓國國立學校ノ職員ハ何等此法律ノ保護待遇ヲ受ケタモノデハナイノデアル、
デ此ノ如キハ合併後齊シク皇化ニ服シタル新附ノ國ヲ懷ケ、民ヲ柔グル所以デハナイト
云フコトモ一ノ理由トナリ、加フルニ明治四十四年ノ九月ニ勅令ノ二百二十九號ヲ以
テ〓育令ガ發布セラレマシタ結果トシテ、朝鮮ニ於ケル〓育行政ノ統一ガ計ラレマシタノ
デアリマス、其極彼ト此トノ間ニ取扱ヲ異ニスルト云フコトハ甚ダ理由ノナイコトデアルカ
ラ、同一ノ法規ノ下ニ同一ノ待遇ヲ與ヘルコトハ、甚ダ適當ナルコトデアル、殊ニ本案ノ
如キハ內地ニ於ケル府縣立其他ノ公立學校職員ノ退隱料及遺族扶助料ノ法律ト共
ニ、我國ノ〓育ノ普及奬勵ヲナス上ニ於テ與ッテ力ノアル言ハバ甚ダ效能ノアルトコロノ
モノデアルト云フコトハ疑ノナイコトデアル、委員會ハ卽チ以上ノ理由ノ下ニ全會一致ヲ
以テ之ヲ可決スルコトニ決定ヲ致シマシタ、此段御報告ニ及ビマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=57
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058・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本案モ讀會ヲ省略シテ確定セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=58
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059・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
朝鮮ニ於ケル學校職員ニシテ國庫ヨリ俸給ノ支給ヲ受ケサル確定議
文官判任以上ノ者ノ退隱料及遺族扶助料ニ關スル法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=59
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060・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ナケレバ本案モ讀會ヲ省略シテ可決確定ヲ宣告致シ
マス、日程第七乃至第九ハ同一委員ニ付託シ關聯シタル議案デアリマスカラ一括シテ
議題トナシマス、御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=60
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061・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ一括シテ議題ニ付シマス、委員長西谷金藏
君
第七日本勸業銀行法中改正法律案(政第一讀會ノ續(委員長
府提出)報告
第八農工銀行法中改正法律案(政府提第一讀會ノ續(報告ヘ委員長
〓
第九北海道拓殖銀行法中改正法律案第一讀會ノ續(委員長)
(政府提出)報〓
〔西谷金藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=61
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062・西谷金藏
○西谷金藏君 諸君、唯今議題ニナリマシタ此三案ハ何レモ同一ノ委員デゴザイマス、
此勸業銀行、農工銀行、拓殖銀行ニ於テ賣出ストコロノ債券ガ改正商法ニ依レバ一
一申込書ヲ取ルコトニナッテ居ルノデス、然ルニ此申込書ヲ取ルコトハ雙方共ニ非常ナ
繁雜ニシテ不便ヲ感ズルノデアルカラ、之ヲ商法ヨリ取除法ヲ設ケテ從來ノ通り申込
書ヲ徵セズシテ募集スルノ方法ヲ取リタイ、此事ニ付テハ商法ヲ審議サレルトキニ當ッテ、
法律取調委員會ニ於テモ特別取除法ヲ設ケルコトハ、議論ガ一致シテ居ルトコロノ問
題ニシテ、委員會ハ滿場一致ヲ以テ政府案ニ同意スルコトニ可決致シマシタ、此段御
報告申シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=62
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063・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本三案ハ一括トシテ議題ト爲シ、唯今委員長ノ報告通リ讀會ヲ省
略シテ確定セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=63
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064・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
日本勸業銀行法中改正法律案確定議
農工銀行法中改正法律案確定議
北海道拓殖銀行法中改正法律案確定議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=64
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065・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ナケレバ三案トモ委員長報告通リ可決確定致シマシ
タ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=65
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066・恒松隆慶
○恆松隆慶君 此場合日程ヲ變更シテ追加豫算案及明治四十三年度豫備金支
出ノ件外三案ゴザイマス、都合此四案ノ報告ヲ委員長ヨリセラレンコトヲ希望致シマス、
引續イテ議題ト致シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=66
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067・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=67
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068・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレパ日程ヲ變更シテ是ヨリ委員長ノ報告ヲ受ケ
マスー野田卯太郞君
(特第一號)明治四十五年度各特別會計歲入歲出豫算追加案
(第四號)明治四十四年度歲入歳出總豫算追加案
(追第一號)豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
(第一號)明治四十五年度歲入歳出總豫算追加案
(第二號)明治四十五年度歲入歲出總豫算追加案
(特第二號)明治四十五年度特別會計歲入歳出豫算追加案
(特第三號)明治四十五年度各特別會計歲入歲出豫算追加案
〔野田卯太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=68
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069・野田卯太郎
○野田卯太郞君 是ヨリ豫算委員會ノ經過ヲ報告シマス、明治四十四年度ノ歲入
歲出總豫算ノ追加案第四號デス、次ガ第一號明治四十五年度歲入歲出總豫算ノ
追加案、第二號同ク四十五年ノ追加案デアリマス、特第一號四十五年ノ特別會計ノ
歲入歳出ノ追加案デアル、特第二號特第三號、追第一號、是ハ豫算外國庫ノ負
擔トナルヘキ契約ニ關スル件、是ダケデゴザイマスガ、此案ハ總テ必要ナルモノナリトシマ
シハ、總テ原案ニ可決致シタ次第デアリマス、尤モ玆ニ申上ゲテ置キマスノハ第三號ト
云フ追加案ガ出テ居リマスガ、是ハ露國ト鐵道及船舶ノ連絡ニ關スル案デアリマシテ、
是ハ別ニ法律案ガ貴族院カラ昨日アタリ囘ッテ居ルヤウデゴザイマス、法律案ガ決定シナ
イタメニ此案ダケハ豫算秀貝會デ取除ケテ置キマシタカラ、追テ又御報告スル譯デゴザイ
マセウカラ、ドウカ決定シマシタ分ハ本會ニ於テ滿場一致ノ御贊成アランコトヲ希望致シ
マス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=69
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070・大岡育造
○議長(大岡育造君) 全部ヲ議題ト致シマス
(「委員長報告通リ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=70
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071・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異論ハアリマセヌカ
〔「ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=71
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072・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異論ガナケレバ一括シテ可決確定ヲ宣告致シマス-次ニ
事後承諾モ議事日程變更ニ入ッテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=72
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073・恒松隆慶
○恆松隆慶君 無論其積リデ申シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=73
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074・野田卯太郎
○野田卯太郞君 尙申上ゲテ置キマスガ、乙號丙號モ第二號ノ中デゴザイマスガ、是
モ原案ノ通リニ可決致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=74
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075・大岡育造
○議長(大岡育造君) 總テ報告ノ通リニ可決致シマシタ、御異論ハアリマスマイ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=75
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076・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異論モアリマセヌカラ、追加ノ分モ可決シマシタ、明治四十
三年度豫備金支出ノ件外三件承諾ヲ求ムル件、委員長管原傳君
明治四十三年度豫備金支出ノ件
明治四十三年度豫備金外ニ於テ豫算超過及
豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
明治四十三年度特別會計豫備金支出ノ件
明治四十三年度特別會計豫備金外ニ於テ豫
算超過及豫算外支出ノ件
〔菅原傳君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=76
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077・菅原傳
○菅原傳君 明治四十三年度豫備金支出ノ件、外三件ニ對スル特別委員會ノ經過
ト結果ヲ簡單ニ御報告致シマス、特別委員會ハ八囘開會致シマシタガ、今〓要ヲ申述
ベレバ四十三年度ニ於キマシテ一般會計ニ於テ第一豫備金百万圓、第二豫備金二百
万圓ヲ支出シマシテ、尙其上ニ國庫剩餘金千三十幾万圓ヲ支出シテアル次第デアリマ
ス、特別會計ノ方ニ於キマシテモ豫備金以外ニ巨額ノ剩餘金ヲ支出シテアルノデアリマ
ス、是等計數ニ關スルコトハ御手許ニアルトコロノ計算書ニ明記シテアリマスカラ、玆ニ
ハ略シテ置キマス、唯是等巨額ノ支出ニ對シテ一言申上ゲテ置キマスレバ、是等巨額ノ
金ハ各省ニ亙ッテ居ル次第デアリマスケレドモ、殊ニ朝鮮併合ノ場合ニ臨時ニ多額ノ費
用ヲ要シ、且四十三年度ニ於テ關東、東北等ニ大洪水ノアッタタメニ支出ガ多カッタ
ト云フコトガ、殊ニ四十三年度ニ於テ剰餘金ノ支出ノ多イト云フ一原因ニナッテ居ルノ
デアリマス、計數ニ關スルコトハ大體此ノ如キデアリマスガ、之ニ對シテ承諾ヲ與ヘルカ、
與ヘヌカト云フコトニ付キマシテハ、議論二ツニ岐レタノデアリマス、一方ハ承諾ヲ與フベ
カラズ、一方ハ承諾ヲ與フベシ、且承諾ヲ與フベカラズト云フ議論ハ之ニ附帶シテ豫備
金ヲ增額スベシ、第一豫備金ニ於テ三百万圓、第二豫備金ニ於テ四百万圓、合計豫
備金ニ於テ七百万圓ヲ增加スベシ、承諾ヲ與ヘザルト同時ニ此七百万圓ノ豫備金ヲ
增加スベシト云フ意味ヲ以テ論ゼラレタノデアリマス、一方ニ承諾ヲ與フベシト云フ方ニ
於キマシテハ附帶ノ希望ガアッタノデアリマス、其希望ハ豫備金以外ニ政府ガ責任ヲ以
テ支出シタルモノニ對シテハ、次期ノ議會ニ提出シテ承諾ヲ求ムベシ、斯ウ云フ希望ヲ附
帶シテ承諾ヲ與ヘタノデアリマス、今此兩方ノ論議セラレタトコロノ論據ニ付テ簡單ニ申
上ゲテ見マスレバ、承諾ヲ與フベカラズト云フ人ノ論據ハ、要スルニ違憲デアルト云フノデ
ス、尙少シク足リヌトコロガアリマスカラ附加ヘテ置キマスガ、此豫備金ニ付テハ別ニ議論
ガナカッタノデ、豫備金以外ツマリ剩餘金二付テ議論ガアッタノデアリマス、少シ訂正シ
テ置キシマス-豫備金以外剩餘金ニ付テ承諾ヲ與フベカラズト云フノハ、憲法違反デ
アル、一體豫算ハ申上ゲルマデモナク每年ノ經費ト云フモノハ豫算デ極ッテ居ルノデアル、
ソレ以外避クベカラザルトコロノ豫算ノ不足ハ-豫算外ノ支出ニ付キマシテハ憲
法六十條ニ依ッテ第一第二ノ豫備金ト云フモノガ設ケラレテアル故ニ、通常ノ豫算ノ
外ハ第一、第二豫備金ニ依ッテ支辨スベキモノデアル、其以上他ニ於テ支出ヲ許ス場合
ハ憲法七十條ノ公共ノ安全ヲ保持スル云々ト、緊急ノ場合、此七十條ニ依ル外途ハ
ナイノデアル要スルニ第一豫備金、第二豫備金、憲法七十條ノ此三ツノ種類ノモノニ
依ルヨリ外ナイノデアル、剩餘金ヲ政府ガ支出スル如キハ憲法ヨリ見テモ會計法ヨリ
見テモ、違憲デアル故ニ、是ハ承諾ヲ與フベカラズト云フ趣意デアリマス、ソレニ關聯シテ
特別會計ニ付テモ議論ガアリマシタガ、殊ニ朝鮮ノ特別會計千二百何万圓ト云フコト
ニ付テハ法規ヲ無視シタトコロノ支出デアル、又此韓國併合ノ場合ノ百五十万圓ノ機
密費ノ如キモ政府ノ說明ヲ以テ滿足スルコトハ出來ヌノデアル說明ガ不十分デアル、
是等ノ〓ニ付テモ不當デアルト云フ、要スルニ憲法違反ト云フ〓カラシテ承諾ヲ與フベカ
ラズト云フ議論デアリマシタ、豫備金ヲ增加スルト云フコトニ付テハ歲計ガ一億ノ場合
モ、亦今日ノ如ク六億ニモ垂ントスル場合モ、豫備金ガ同ジデアルト云フコトハ道理ニ於
テ當前ノ事情カラ言ウテモ許スベカラザルコトデ、相當ニ增加スベキモノデアル、故ニ七百
万圓ニ增スベキモノデアルト云フヤウナ理由デアッタノデアリマス、是ガ承諾ヲ與フベカラズ
ト云フ議論ノ大要デアリマス、之ニ對シ承諾ヲ與フベシト云フ議論ノ大體ヲ申シテ見マ
スレバ、承諾ヲ與フベカラズ、憲法違反デアルト云フコトハ、必ズ排スベキ反對スベキ議論
デナイ、一應道理ノアル議論デアル、サリナガラ剩餘金ニ付テハ議會開設以來幾多ノ論
爭、幾多ノ議論ニ付テモ變化ガアリ、或ル場合ニ於テハ議會ニ於テ憲法違反ノ決議モア
リ、或ル場合ニ於テハ實地問題ヲ取ッテ可否ヲ決シタコトガアリ、殊ニ第九議會以來ハ
寧ロ實地問題ニ付テ其支出シタトコロノ事項ニ付テ可否ヲ決シテ來タヤウナ慣例デア
ル、故ニ不文法的此慣例ニ依ッテ處置スルガ相當デアル、唯今議題ニナッテ居ル四十三年
度ノ此剩餘金ノ支出ニ付テモ其事柄ニ付テ見ルトキハ必要已ムヲ得ザルトコロノモノデア
ル故ニ、第九議會以來ノ慣例ニ依ッテ承諾ヲ與ヘルノガ相當デアル、サリナガラ行政官
ヲシテ漫ニ剩餘金ヲ支出セシムルガ如キハ-濫出スルガ如キハ最モ不可ナルモノデアル、
立法者トシテ監督ヲ嚴重ニシ出來得ルグケ責任支出ト云フガ如キヲ爲サシメザルガ宜イ
ノデアル、若シ此剩餘金ヲ濫リニ支山山スルコトアッテハ不可デアル、監督上ノ點カラシテ是マ
デハ翌々年度ニ剩餘金ノ支出ヲ議會ニ提出シテ是ガ承諾ヲ求メタノデアリマシタガ、ソレ
デハ監督上責任ヲ問フ上ニ於テモ、手ヌルイノデアル、翌年-次ノ會期ニ出スト云フ
コトニスルノガ當然デアルト云フノデ、將來ノ希望ヲ附加ヘテ承諾ヲ與ヘルト云フコトニシ
タノデアリマス、尙此豫備金增加ノコト、朝鮮合併ノトキニ機密費ノコトニ就テ承諾ヲ
與ヘザル議論ニ反對スル承諾ヲ與フル方ノ議論ガアリマシタガ、之ヲ短ク申セバ豫備金
ヲ或ル程度マデ增加スルト云フコトハ惡ルイコトデハナイケレドモ、多額ノ豫備金ヲ增加スルト
云フコトハ今日ノ財政デ不可ナルモノデアル、加之餘リ豫備金ヲ多クシテ當局者ニ勝手
ニ使ハシムルコトハイカヌカラ、餘リ多ク增スコトハイカヌト云フ趣意ガアッタノデアリマス、
又朝鮮ノ機密費ト云フコトニ就テモ是ハ祕密會デアル、說明モ不十分トハ申スモノヽ一
面カラ申セバ朝鮮併合ヲ大兵ヲ動カサズシテ、所謂一兵ヲモ衂ラズシテ、アノ併合ヲ爲
シタト云フコトヲ見レバ當局者ノ力ヲ多トシナケレバナラヌ、此意味合カラスレバ百五
十万圓ト云フ金額モ必ズ多イトノミハ言ヘナイ、承諾ヲ與ヘル方ハ相當デアラウト云フ
意味合デアッタノデアリマス、此ノ如ク兩方ノ意見ガアッタノデアリマスルガ、反對ノ方ハ大
體ノ根據ハ違憲論ナリト云フ趣意ニ於テ承諾ヲ與ヘズ、承諾ヲ與ヘル方ハ今日マデノ
慣例ニ依リ、事業ヲ調査シテ不當デナイカラ承諾ヲ與ヘル、且將來監督ヲ嚴ニスル意
味ニ於テ將來ハ次ギノ議會ニ此剩餘金ノ支出ハ承諾ヲ求ムルコトニ爲スベシト云フ意
味デ決シタノデアリマス、〓要御報告致シマス
(大藏大臣山本達雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=77
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078・山本達雄
○大藏大臣(山本達雄君) 今日此問題ニナリマシタ豫備金以外ノ支出ニ至リマシテ
委員會ニ於テ、支出シタ次期ノ議會ニ於テ事後承諾ヲ求ムルガ如何ト云フ希望ヲ以テ
御決議ニナリマシタ、其當時ニ私ハ政府ノ方針ヲ御答申シタガ、稍〓明瞭ヲ缺イテ居
ル點ガアリマシタ故ニ、此所ニ改メテ御答ヲ致シマス、豫備金以外ニ於テ政府ノ責任ヲ
以テ豫算外支出ヲ爲シマシタ場合ニハ、次期ノ議會ニ之ヲ提出ヲ致シマシテ、事後承
諾ヲ求メルヤウニト云フ御希望ニ對シマシテハ出來ルコトナラバ、御希望ニ副フヤウニ致
シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、併ナガラ現行ノ取扱ハ既ニ多年行ヒ來リマシタモノデ
アッテ之ヲ改メマスト云フコトハ、愼重ニ考慮ヲ要スルコトデアリマスルシ、又法規ノ關係
ニ付キマシテ、十分ナル攻究ヲ遂ゲナケレバナラヌコトデアリマス、從ッテ此際之ヲ如何ニス
ルカト云フコトヲ極メテ御答申スコトハ出來難イ次第デゴザイマス、要スルニ愼重ニ考慮
ヲ致シ、十分ニ攻究ヲ盡シマシタ上デ、意見ヲ決定致シタイト考ヘマス、左樣御了承アラ
ンコトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=78
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079・卜部喜太郎
○卜部喜太郞君 大藏大臣ニ御尋ヲシタイノデアリマス、唯今事後ノ承諾ヲ求メマス
時期ニ就テ委員會ニ於ケルトコロノ質問ニ對スル答ヲ明瞭ニサレタノデアリマスガ、其時
期ノコトハ姑ク措キマシテ、政府ハ今後ニ於キマシテ憲法竝ニ會計法ノ明文ニナイ國庫
剩餘金ノ支出ト云フヤウナコトヲ舊來ノ慣例ニ依ッテ相變ラズ實行ナサルト云フ御考デ
アルノデアリマセウカ、ドウデアリマセウカ、是ハ簡單ナル質問デアリマスケレドモ、甚ダ大切
ナル點デアリマスカラシテ、此際單ニ事後承諾ヲ求ムル時期ニ關スル辯明ノミニアラズシ
テ、今後モ尙舊來ノ惡慣習ヲ襲踏シテ、憲法違反ノ行爲ヲ敢テ爲サルト云フ御所存デ
アリマセウカ、ドウデアリマセウカ、此〓ニ就テハッキリシタ御答ヲ得テ置キタイノデアリマス
(大藏大臣山本達雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=79
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080・山本達雄
○大藏大臣(山本達雄君) 御答致シマス、政府ハ今日豫算外ノ支出ヲ以テ憲法違
反トハ信ジテ居ラナイ、ソレカラ又此後ニ至リマシテモ、成ベク此ノ如キコトハ實際ノ上ニ
避ケタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、併ナガラ事實實際ニ於テテ已ムヲ得ナイコトガアリマ
スナラバ、ヤハリ今日ノ場合支出スルヨリ外ニ致方ナイノデアリマス、御答致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=80
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081・大岡育造
○議長(大岡育造君) 加藤政之助君
〔加藤政之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=81
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082・加藤政之助
○加藤政之助君 諸君、本員ハ此問題ヲ否認致シテ、併セテ將來此ノ如キ剩餘金支
出ノ弊害ヲ根絕センコトヲ希望致ストコロノモノデアリマス、此豫算外支出ノ問題ハ諸
君ノ御承知ノ通リ第二議會以來、今日マデ連年政府ト議會トノ間ニ紛爭ヲ重ネタル
トコロノ問題デアリマス、ソレ故ニ之ヲ詳シク諸君ニ此憲法上ノコトヲ御話スルマデモナ
〃諸君ノ御承知ノトコロデアリマスケレドモ、手續キトシテ其要領ダケハ申上ゲナケレバ
ナラヌト思フノデアリマス、而シテ其豫備費ノ支出ト云フモノハ諸君ノ御承知アラセラレル
通リ憲法ノ六十九條ニ依ッテ豫備費ヲ設クベシト云フコトガ規定セラレテアル、而シテ憲
法ノ六十四條ハ之ヲ受ケテ此豫算ノ款項ニ不足シタル費用若クハ豫算外ニ生ジタル支
出ノアッタトキニハ、後日帝國議會ノ承諾ヲ求ムベシト云フコトガ明記シテアルノデゴザイ
マス、而シテ第一、第二ノ豫備金以外ニハ政府ハ憲法上、法律上、何等ノ金ヲモ支出ス
ルトコロノ權能ハ與ヘラレテ居ラヌノデアリマス、唯其以外ニ於テ若シ政府ガ支出スル權能
アリト致シマスルナレバ、諸君ノ御承知ノ通リ憲法ノ七十條ニ依ッテ帝國議會ヲ召集ス
ルコト能ハザル場合ニ、勅令ヲ以テ財政上ノ處分ヲ爲スコトガ出來ルト云フ餘地ガアル
ノミデアリマス、然ルニ第二議會以來今日マデ政府ハ此憲法ノ規定ニ頓著セズシテ、財
政上ニ生ジタルトコロノ剩餘金ヲ恣ニ支出シテ、事後承諾ヲ求ムルト云フ慣例ヲ襲踏シ
來ッタノデアリマス、而シテ議會ハ常ニ之ヲ否認スル態度ヲ取ッテ參フタノデアリマス、所ガ
本年ニ於テハ唯今委員長ヨリ報告セラレマシタ通リ一般會計ニ於テ一千三十餘万圓、
特別會計特ニ朝鮮ノ關係ニ於テ一千二百何十万圓、此巨額ノ剩餘金ヲ恣ニ支出シ
テ、而シテ本期議會ニ於テ事後承諾ヲ求ムル案ヲ玆ニ提起セラレタノデアリマス、諸君、
此事後承諾ヲ求ムルト云フ案ヲ玆ニ政府ガ提出致シマシタガ、其說明ヲ承ッテ見ルト、
政府ノ當局者ハ斯樣ナコトヲ申スノデアリマス、此剩餘金ノ支出ハ憲法ノ何レノ條項、
會計法ノ何レノ條文、ツレニ據ッタモノデハナイノデアル、政府ハ何等ノ憲法法律ニ據ラ
ズシテ唯責任ヲ以テ此支出ヲナシタノデアルカラ、此責任解除ヲ求ムルノデアル、斯樣ナ
政府ノ辯解デアリマス、諸君、此豫算ト云フモノハ極メテ重要ナルモノデアリマシテ、國家
ハ一文半厘ト雖モ帝國議會ノ協贊ヲ經ズシテ支出スルコトガ出來ナイト云フコトハ云フ
マデモナイトコロノモノデアリマス、然ルニ憲法ノ條文、法律ノ條文ニ據ラズシテ、政府ガ
責任ヲ以テ此支出ヲナシタト云フコトハ、是ハ極メテ重大ナル事件デアリマス、故ニ政府
モ之ヲナスニ當ッテハ愼重ノ態度ヲ以テ十分考慮ノ上ニ是ハ國家ノ進運上萬已ムヲ得
ナイト云フ極メテ必要ナル經費ニ限ルベキ筈デアリマス、而シテ其支出ヲナシタ場合ニハ、
法律ニ據ラザル支出デアリマスカラ、直ニ次ノ議會ガ開カラルヽトキハ其次ノ議會ニ於テ
政府ハ是ガ事後承諾ヲ求ムルコトガ當然デアルト思フノデアリマス、然ルニ此巨額ナル豫
算外ノ支出卽チ剩餘金ヲ恣ニ支出シテ置キナガラ、議會ガ既ニ協賛ヲ與ヘタルトコロノ
第一豫備金、第二豫備金ト之ヲ關聯セシメテ、ソレト同樣ノ取扱ヲ爲シテ、一議會通
リ越シタルトコロノ今期ノ議會ニ之ヲ提出シタト云フコトハ、私共ノ考デハ如何ニモ違法
不當ナルトコロノ處置デアルト云フコトニ考ヘルノデアル、殊ニ剩餘金ノ支出ノ中ニハ憲
法ノ第八條、七十條之ニ依ッテ發セラレタルトコロノ勅令四百六號ハ何ンデアルカト申
シマスト、朝鮮ノ特別會計デアリマス、此勅令四百六號ニ依シテ支出セラレタル金ガ一
千二百何十万圓ト云フコトニナルノデアリマス、サウスルト是ハ憲法ノ第八條ト七十條
ニ依ッテ提出シタト云フノデアリマスカラ、憲法七十條ニハ諸君ノ御承知ノ通リ財政上
必要ノ處分ヲ爲シタトキニハ、次ノ議會ニ提出シテ、事後承諾ヲ求メヨト明記シテアル
ノデアル、是レ憲法ノ命ズルトコロデアル、然ラバ政府ハ此七十條ニ依ッテ處分シタルトコ
ロノ特別會計ノ朝鮮ノ千一一百何十万圓ト云フコトハ憲法七十條ノ命ズルトコロニ依ツ
テ、次ノ議會卽チ第二十七議會ニ提出シテ、議會ノ承諾ヲ求ムルガ當然ト思ヒマス、然
ルニ之ヲ爲サズシテ、今期ノ議會ニ之ヲ提出シタノデアル、故ニ是ハ違憲ノ處置デハ
ナイカト云フコトヲ委員會ニ於テ、政府當局者ニ質問ヲ致シマシタトコロガ、當局者ノ申
スニハ是ハ陛下ニ奏上シテ裁可ヲ仰ギ、憲法六十四條ノ二項ニ依ッテ裁可ヲ與ヘラレ
タノデアルカラ、ソレ故ニ此六十四條ノ二項ニ後日帝國議會ノ承諾ヲ求ムベシト云フ
形式ヲ取ッタノデアルト、斯樣ナ辯解デアリマス、所ガ是ハ如何ニモ、ドウモ政府ノ辯解ノ
仕方若シ是ガ六十四條ノ一一項ニ依ッテ裁可ヲ仰イダト云フモノデアリマスレバ、私ハ七
十四條ニ依ッテ處分シタル件ヲ六十四條ノ二項デ裁可ヲ仰イダト云フコト、是亦其手
續ヲ誤ッタモノデアルト斷言セザルヲ得ナイト思フノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマシテ、
其事後承諾案ハ違憲、違法ノ處置デアルト考ヘマスカラ、吾ミハ之ヲ不當ト決議シテ
政府ノ反省ヲ促サンコトヲ望ムノデアル、併ナガラ吾ミモ徒ニ政府ト爭ヲ重ネルコトヲ望
ムトコロノ者デハナイ、出來得ベクンバ此ノ如キ弊害ハ之ヲ根絕センコトヲ希望スルトコロ
ノ者デアリマス、而シテ此ノ如キ弊害ヲ根絕スルト云フコトハ本期ノ議會ノ如キハ最モ
私ハ時機ヲ得タル場合デアルト考ヘルノデアル、ナゼカト云フト此處ニ列セラルヽトコロノ
政友會ノ諸君ハ、多年吾ミト共ニ此剩餘金支出ヲ以テ或ハ違憲ナリトシ、或ハ違法
ナリトシテ、時ニ之ヲ否認シ、時ニ政府ニ警告ヲ與ヘタルトコロノ諸君デアル、故ニ此ノ
如ク剩餘金ノ支出ヲ政府ガ濫リニ續ケルト云フコトハ、政友會所屬ノ議員諸君ノ望マ
ザルトコロデアラウ、而シテ現內閣ハ政友會ノ內閣ト稱シテ居ルノデアル、此ノ如キ場合コ
ソ此殆ド二十年ニ垂ントスル久シキ間政府ト議會トノ間ニ紛爭ヲ重ネタル問題ヲ解決
シテ、將來此弊害ヲ根絕スルト云フコトハ、殊ニ好機デアルト私ハ考ヘルノデアル、ソレデサ
ウスルニハ如何ニシタラ宜カラウカ、豫備金ヲ設ケマシタコトハ今ヨリモ十數年前ノコトデ
アッテ、我帝國ノ歲入歲出トモ僅カ數千万ニ過ギナカッタトキノ時代デアリマス、、然ルニ今
ヤ是ガ五億何千万圓、殆ド六億ニ垂ントスルトコロノ歲出デアル、此場合ニ於テ十數年
前ニ定メタルトコロノ第一豫備金百万圓、第二豫備金百万圓、此ノ如キ少額ノ金
ヲ以テ當局者ニ豫算外ノ支出ヲ爲スベカラズト求メテモ、是ハ實際ニ於テハ、或ハ運用
上無理デハナイカト云フコトヲ吾〓ハ考ヘルノデアル、然ラバ此弊害ヲ根絕スルノ途ハドウ
スレバ宜イカト申シマスルト、先ヅ第一豫備金、第二豫備金ヲ相當ノ程度マデ增加致
シテ、サウシテ政府ニ將來剩餘金ヲ恣ニ支出スルコトナカラシムルノガ、一番適當ナル此紛
爭ノ解決方デアルト吾ミハ考ヘルノデアリマス、而シテ先刻委員長ハ此豫備金ノ增加ヲ
七百万圓新ニ增加スルガ如ク述ベラレタヤウデアリマスケレドモ、吾〓ノ主張ハサウデハナ
イノデアル、卽チ第一豫備金ヲ三百万圓ニ增シ、第二豫備金ヲ四百万圓ニ增シ、都合
七百万圓ニスルト云フノデアリマス、而シテ諸君、過去ノ政府ガ剩餘金ヲ支出致シマシタ
ルトコロノ平均ノ金額ヲ見マスルト云フト、議會開設以來否ナ、近キ二十年間、此二十
年ノ間デ日露戰爭ノトキト朝鮮合併ノトキト、此三箇年ヲ除キマスレバ剩餘金ノ支出
ノ平均額ハ三百四十万圓デアリマス、而シテ現在ノ第一豫備金、第二豫備金ハ三百
万圓デアリマス、サウスルト云フト是ニ加フルニ三百四十万圓ヲ以テスレバ、此十數年間
ノ平均ニ該當シテ居ル譯デアリマス、故ニ第一豫備金ヲ三百万圓トシ、第二豫備金ヲ
四百万圓トスレバ爾來政府ガ其責任ヲ重ンジテ議會ノ議決シタルトコロノ金額ノ外、
分厘モ濫リニ使フベカラザルモノデアルト云フコトノ覺悟ヲ以テ、我財政ノ衝ニ當ラレタナ
ラバ、之デ過去剰餘金ヲ支出シタト云フ此弊根ヲ全ク斷ツコトガ出來ルノデアラウト
吾〓ハ考ヘルノデアリマス、而シテ是ニ於テノ一ノ問題ハ、政府ノ當局者モ言ヒマスル、又
委員會ニ於テモサウ云フ考ヲ持タレタトコロノ諸君ガアルノデアリマスガ、ソレハ一ノ此弊
ヲ根絕スルトコロノ方法デアルニハ違ヒナイ、併ナガラ我財政ノ現況ニ於テハ今日ハ四百
万圓ト云フ豫備金ヲ增加スル其財源何レニアルヤ、其財源ガナケレバ出來ヌデハナイカ、
斯ウ云フコトヲ言ハレルノデアリマス、所ガ吾ミノ考ヘルトコロニ依レバ此弊ヲ根絕スルト
共ニ此財源ヲ作ルコトハサノミ至難ノコトデハナイ、隨分出來得ル事柄デアルト考ヘルノ
デアル、ソレハ如何ナル方法デアルカト申シマスレバ、過去ニ於テハ全ク豫算不用ニ屬スル
トコロノ剩餘金又自然ノ歲入ノ增加ヨリ來タルトコロノ剩餘金、是ハ年々歲々多少アル
ノデアリマス、殊ニ近キ數年間ニハ巨額ノ剩餘金ガアッタノデアル、此ノ如キ剩餘金ガ財
政上ニ存在シテ居レバコソ、當局者ハ過去ノ慣例ニ依ッテ不用意ニモ此剩餘金ヲ濫リ
ニ支出スルコトヲ致スノデアリマスル、故ニ斯ノ如キ種類ノ剩餘金ハ將來ニ於テハ我現
在帝國ガ負フテ居ルトコロノ巨額ノ公債、此公債ノ償還ノ財源ニ充テルト云フコトニ極
メテシマフガ宜カラウト思フ、此ノ如キ剩餘金ハ若シ剩餘金ガアッタナラバアッタダケノ額
ヲ必ズ公債ヲ償還スルトコロノ基金ニ繰入レル-組込ムト云フコトニ一方極メテシマ
フ、サウ極メテシマフト云フト、此剩餘金ガ自然ニ公債償還ノ基金ニ囘ッテ往クカラシ
テ、今マテ一般會計カラ公債ニ繰入レタトコロノ此金額ガ、ソレガタメニアイテ來ルト云
フコトハ、一方ニソレハ不用ニナルト云フコトガ生ズル、故ニ此不用ニナルトコロノ金ヲ以
テ此第一豫備金、第二豫備金ノ增加額、卽チ四百万圓ヲ作出スト云フコトハ、是
極メテ容易ナル話デ、爲シ得ルトコロノ事柄デアルト斯樣ニ考ヘルノデアリマス、此ノ如キ
其財源マデ明カニアルト云フ以上ハ此豫備金ヲ增加シテ、サウシテ過去ノ剩餘金ヲ支
出シタ弊害ヲ根絕スルト云フ、吾ミノ所見ニ對シテ反對ヲ試ムル理由ハ寸分ナイコトデ
アラウト私共ハ考ヘマス、故ニ此剩餘金支出ノ現在ノヤリ方ヲ否認致シテ、而シテ將來
之ヲ根絕センガタメニ豫備金ノ增加ヲ主張スルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=82
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083・大岡育造
○議長(大岡育造君) 齋藤珪次君
〔齋藤珪次君登壇〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=83
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084・齋藤珪次
○齋藤珪次君 諸君、唯今尊敬スルトコロノ加藤君カラ本案否認ノ御議論ヲ承リマ
シテゴザイマスル、私共ハ卽チ委員長報告通リ本案ヲ承認致シテ、之ト同時ニ希望ノ
條件ヲ抱持スルモノデアリマシテ、卽チ大藏大臣ノ唯今答辯ヲ致サレマシタトコロノ希望
ヲ私共ハ持ッテ此案ヲ承認セントスルモノデアリマス、加藤サンノ豫備金ヲ設ケテ將來此
問題ヲ解決シテ此弊害ヲ根絕セシメントスルコトハ、一應御尤モノ議論ノヤウニ見エマス
ル、併ナガラ此剩餘金ノ支出卽チ豫備金以外ノ支出ト云フコトハ、今日マデノ實例ニ徵
シマシテ、トテモ四百万ヤ五百万ダケデ必シモ之ガ根絕ガ出來ルト云フノ實例ハナイノデ
アリマスル、一例ヲ以テ御話致シマシテモ此二十四年度ヨリシテ四十三年度ニ至リマス
ルマデノ間ニ於テ、日露戰爭以外ニ於テモ五百万、六百万ヲ支出シテ居ルコトハ幾多ア
ルノデアリマシテ、平均致シマシテマルデ支出ヲセヌコトガ三度アリマシテモ、尙平均シタ額
ハ五百七十八万二千幾ラト云フモノガ剰餘金支出ノ平均額ニナッテ居ルノデアリマス、
故ニ玆ニ或ル一定ノ豫備費ヲ設ケタカラ、此剩餘金支出ヲ根絕セシムルト云フコト
ハ、言フベクシテ事實ニ於テ是ハ容易ニ行ハレナイノデアル若シ之ヲ際限ナキ要求ニ向ッ
テ之ヲ應ゼントナラバ、豫備費ヲ大ナル額ニ設ケナケレバナラヌノデアッテ、然ルトキニハ是
亦一ノ濫費濫出ヲ致サシメルノデアリマスル、卽チ豫備費トシテ一旦協贊ヲ與ヘタ
モノヽ支出ハ剩餘金トシテ免ニ角憲法上明記シテ許サレザルモノトノ、此支出ニ於テ政
府ノ卽チ政府者タルモノヽ之ヲ支出スルニ於テ窮屈ナル度合ハ許サレタルモノト、許サレザ
ルモノトニ於テ必ズ相違ガアルニ違ヒナイ、故ニ豫備金ヲシテ多カラシムルノハ之ヲ言ヘ
バ卽チ濫費濫出ノ弊ヲ增スノデアッテ、寧ロソレヨリモ此協賛ヲ與ヘズシテ置イテ、而シテ之
ヲ支出スルニ於テハ責任ノ問題ヲ以テ所謂責任支出ヲ致サシメテ、而シテ之ヲ今日ノ如
ク次ノ次ノ議會ニ出スト一云フガ如キ、此緩漫ナル承認ノ仕方デナク、免ニ角一部剩餘
金ヲ支出シタル以上ハ、之ヲ次ノ會期ノ帝國議會ニ提出セシメテ其責任ヲ問フト云フ
コトヲスルコトガ全ク時機ニ適シタルモノト吾〓ハ信ズルノデアリマスル、憲法上ノ議論ハ
加藤サンモ申サレテアリマスガ、恐ク滿場ノ諸君モ初期議會以來ノ問題デゴザイマスカ
5、是ハ吾〓共申ス必要ハナカラウト思フ、又之ニ付テハ適當ナル法律家ノ所論ニ任セ
テ實例カラシテ吾〓共ハ立論致シテ居ルノデアリマスガ、加藤サンノ御議論ハ政府ニ向ツ
テ本案提出ノ理由ヲ聞クト、政府ハ憲法上ノ條規ニ據リタルニモアラズ、會計法ノ明文
ニ據リタルニモアラズ、唯慣例ヲ以テ之ヲ支出シタト云フガ如キハ實ニ違憲、違法ノ處置
デアルト絕叫セラレテ居ル、是ハ成程其御議論ハ一期以來是亦繼續シテ居ル問題デア
ル、今更此處ニ御聞ヲスル要ハナイノデアル、此議論ヲ併シ政府ヲシテ今日言ハシムルニ
至ッタトコロノ慣例ヲ作ッタモノハ抑〓何時デアッタカ、卽チ加藤サンナドモ其內閣ニ就テ
內閣ヲ助ケ、其政府ノ處置ニ同意ヲセラレタトコロノ松隈內閣ニ於テ初メテ此議論ハ
起ッテ來タト私ハ記憶シテ居ル、卽チ憲法上ノ爭議ハ其場合ニ於テ遂ニ政府議會ノ間
ニ一新面目ヲ起シテ卽チ憲法上ノ議論ハ御互ニ盡キルコトガナイノデアル、故ニ此承諾
問題ニ付テハ憲法ノ問題ヲ避ケテ玆ニ事實問題ニ付テ其當否ヲ攻究シテ而シテ承諾ヲ
與ヘルヤウニ致サウト云フコトガ、、卽チ松隈內閣ノ當時ニ於テ是ハ濫觴ヲ致シタノデアル、
故ニ是ハ全ク今日カラ見レバ是ガ惡ルイ、私共ハ言フノデナイ、議會ノ進行上憲法ノ解釋
ヲ政府ト共ニ常ニ衝突シテ居ッタ議會ガ免ニ角政府者ト議會デ玆ニ憲法ノ妥協ガ出來
タノデアル(「憲法ノ妥協トハ何ゾヤ」ト呼フ者アリ)故ニ解釋ノ一進步ト見ナケレバナラ
ヌ、何故ナラバ何時マデモ此憲法ノ爭ヲ議會ト政府デヤッタトコロガ決スルトコロナカッタノ
デアル、私共ハ第三議會ニ於テ彼ノ憲法論ニハ同意ヲ表シテヤッタモノデアッタノデアルケ
レドモ、委員會ニ於テ否決シタルトコロノ此違反論ハ本會ニ於テ遂ニ倒レタノデアル
卽チ違憲ニアラズト本會ハ之ヲ決セラレタノデアル、次ニ於テ又此議論ハ違憲論ガ勝ヲ
得マシテカラニ遂ニ本會ニ於テ違憲ナリト云フ決議ハ致シタノデアル、併ナガラ之ニ向ッ
テ敢テ政府ノ反應ガナカッタノデアル、是ハ第一番ニ於テ卽チ第三議會ニ於テハ吾〓ハ
此支出ハ違憲ニアラズ、剩餘金支出ハ違憲ニアラズト議會ハ之ヲ容レテ其後ニ於テ違
憲ナリト決議シタ先例ガアルガ故ニ、兩者ノ議論マダ一致シナイ中ニ、遂ニ兩者トモ此議
論ニ疲レテ、第九議會ニ於テ此妥協ハ成立ッテ、卽チ憲法上ノ議論ハ之シ避ケ事實ニ於
テ其問題ニ付テ當否ヲ決スルト云フコトノ進行ニナッタノデアリマスル、故ニ今日ノ政府ニ
於テ之ヲ言フモ、決シテ是ハ今日ノ政府ガ發明シタノデハナイ、卽チ第九議會以來襲
踏シ來リシトコロノ問題デアル、然レバ政府ハ之ニ對シテ憲法其他ニ依ルコトナクシテヤッタ
カト追窮ヲスレバ、已ムヲ得ナイ前ニ遡シテ六十四條第二項ニ依ルト明言セザルヲ得ナイ
ト云フノデアル、故ニ追窮シ來レバ、ヤハリ是ハ憲法ノ爭ニナルノデアッテ、窮極スル處ガナ
イノデアル、故ニ今日ノ場合ニ於テハ私共ハ議會ノ先例ヲ守リ、卽チ免ニ角此爭ヲシテ
一旦避ケシメテ此先例ヲ重シトシテ是ハヤハリ承諾ヲ與ヘタイト信ズル、併ナガラ加藤サ
ンノ御議論其他憲法ノ御議論ニ付テハ私共ハ敢テ反對シナイノテアル、成ベク政府者
ヲシテ責任支出ナル其責任ヲ有效ニ確的ニ之ヲ致サセタイノデアル、今マデノ如クニ責任
デアルトハ言ヒナガラモ之ヲ翌々年度ニ提出スルガ如キハ、甚ダ緩漫タルモノデアルガ故ニ、
玆ニ今囘新ニ次期ノ會期ニ於テ之ヲ提出スルト云フコトノ希望ヲ以テ之ヲ通過セシメン
トスルモノデアル、若モダ、段々御批評ガアルヤウデゴザイマスケレドモ、加藤サンノ御議論
ノヤウニシテ、唯豫備費ヲ以テ之ヲ根絕スルト云フ御趣旨デアッタナラバ、是ハ誠ニ此議
論ハ薄弱タルモノデ、モウ直グニ翌年ニ於テ若シ大水害ノ如キ、若クハ大事變ガ起ッテ御
覽ナサイ、翌年ニ於テ直グニ其議論ハ破レテシマフノデアル(此時發言スル者アリ)何デ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=84
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085・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=85
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086・齋藤珪次
○齋藤珪次君 私共ハ何議論デモ鄭重ニ聞イテ居リマスカラ、暫クハ御聽キニナッタラ
如何、藏原サント云フ方ハ常ニ駄辯ヲ弄スル方デアルガ、モウ少シ愼ンダラ宜シイ(此時發
言スル者アリ)下ラヌトハ何事デアル、人ノ議論ヲ-要スルニ吾ミハ今日ニ於テ此剩餘
金支出ヲ認ムルト云フコトハ相當ナルコトヽ信ジテ居ルノデアル、然ルトコロガ此憲法論
ヲナサルニモ拘ラズ論者ノ一人ハ其憲法論デ大體之ヲ否認シテ置キナガラ、尙且小サ
イ問題ニ之ヲ否認スルコトヲバ例ニ擧ゲテ居ルノデアル、憲法論デ否認スルナラバ、ソレデ
ハ不十分デアル、而シテ朝鮮ノ合併ニ對シテ支出シタルトコロノ機密費ガ不當デアル、或
ハ此合併ニ付テノ費用ガ不當デアルト云フ如キ議論ヲ致シマスケレドモ、是等ニ付テハ
私共ハ前ニ申ス如ク事實ニ於テ是ガ當不當ヲ認メルノ考タルガ故ニ、是等モ相當ト認
ムルノデアル、何トナレバ朝鮮ノ合併ニ百五十万圓ノ機密費ヲ使ヒマシタノハ高イト云ヘ
バ高イカモ知レヌ、多額ト云ヘバ多額ト言ハレルカモ知レヌ、併ナガラ一度之ヲ實行シタ
ナラバ如何デアル、免ニ角二千万ノ民衆ヲ有シテ居ル朝鮮國ノ併合ヲシテ一兵ニ衂ラ
ズ、砲火ヲ發スルコトナクシテ、此併合ヲ實行シタニ於テハ、百五十万圓ノ犠牲ハ決シテ
高イモノデナイト吾〓ハ確信スルノデアル、此ノ如キ事柄ヲ以テ而モ是ハ機密費ニ開ススモモルモ
ノデアルノニ此問題ノ內情ニマデ立入ッテサウシテ唯感情的ニ之ヲ否認スルガ如キハ、私共
取ラヌノデアル、又或ル論者ハ此ノ如キ剩餘金支出ヲ爲シ續ケテ若シ剩餘金ガ無クナリシ
トキハ如何スルト立派ナ難問ヲ出サレタヤウデアルガ、國家ニ剰餘金ノ無イト云フコトハ決
シテナイノデアッテ、卽チ其年ノ豫算ト云フモノガアッテ、其殘ッテ居ルモノハ總テ剩餘金ト
云フ範圍ニ於テ之ヲ見ルハ決シテ爲シ得ラレナイコトデナイノデアル、況ヤ吾ミハ他ノ外
國ノ例證等ニ付テ見マシテモ、何レノ國デモ今日ニ於テ爲政者ニ向シテ其國家ノ急務ニ
屬スル支出ト云フモノヲ許サナイモノデハナイ、日本ノ如キ窮窟ナル憲法ト云フモノハ僅ニ
一國位シカ今日ハナイ、何レノ國デモ此支出ト云フモノハ相當ナル途ヲ開イテ居ルコトデア
レバ我邦ノ今日此立憲ノ-憲法運用ノ進ムニ致シマシテハ此不足ヲ補フノトキハ蓋シ近
キニアルダラウト信ジマスケレドモ、今日ノ場合ハ何人ガ爲政者ニナルト雖モ、現狀ニ於テ
此運用微リセバ政務ヲ執ルコトハ出來ナイノデアッテ、卽チ加藤サンガ先キニモ申シタ通
リ豫備金ノ如キ-三百万圓ノ豫備金デ五億-幾億圓ノ歲出ヲ處理シテ往クニ
至リマシテハ、實ニ其權衡ヲ失シテ居ルモノデアルガ故ニ、此場合ニ於テハ此豫備金ノ
不足ヲ補フタメニ宜シク責任支出ノ先例ヲ開イテ、サウシテ政府者ヲシテ十分責任ヲ持
タシテ、此問題ヲ解決スルガ相當ト信ジマシテ、吾〓ハ此承諾案ニ贊成スル者デアリマス
(拍手スル者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=86
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087・大岡育造
○議長(大岡育造君) 卜部喜太郞君
〔卜部喜太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=87
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088・卜部喜太郎
○ト部喜太郞君 諸君、豫備金以外ニ國庫剩餘金ヲ支出シテ居ルト云フ事柄ガ憲
法竝ニ會計法ノ明文ニ據ッテ居ラナイト云フニ付テハ反對論者モ少シモ異論ノナイトコ
ロデアリマス、吾〓ノ希望致シマスルトコロハ國家ノ政務ヲ運用スル上ニ於テ必要ナル經
費ノ支出ヲ拒ムモノデハナイノデアリマス、必要ナル場合ニ於テハ幾ラ支出シテモ宜イノデ
アリマスルガ、憲法政治ノ下ニ在リテハドウゾ此憲法竝ニ法律ノ規定ノ範圍內ニ於テ適
法ナル國費ノ支出ヲシタイト云フノガ、吾〓ノ希望デアリマス、反對論者ノ齋藤君ノ御
論ヲ聽キマスルト憲法ハ甚ダ窮窟デアッテ、如何ニモ國家ノ必要ニ應ズルコトノ出來ナイ
不完全ナルモノヽ如キ口氣ヲ洩ラサレテ居ルノデアリマスルケレドモ(「其通リ」ト呼フ者ア
リ)我憲法ノ規定ト云フモノハ決シテソンナ窮窟ノモノデハナイノデアリマス、緊急必要ノ
經費ヲ支出スル途ニ於キマシテ立派ナル規定ガ存シテ居ルノデアリマス、唯之ヲ用ユルモ
ノガ亂暴ニモ憲法ノ規定トー云フモノヲ無視シテ其規定ニ從ハナイ結果、遂ニ二十有餘
年ノ間今日ノ如キ惡習慣ト云フモノヲ襲踏シ來ッタト云フコトニナルノデアリマス反對論
者ハ憲法違反デアルト云フ論ニ其〓ニ付テハヤハリ同感デアル、然レドモ國家必要ノ經
費ヲ支出スル場合ニ於テハ所謂責任支出ト云フモノヲ認メナケレバナラヌノデアルト云フノ
デアリフマスケレドモ、憲法ノ七十條ニハ反對論者ノ云ハルヽガ如キ場合ニ於テ政府ノ責任
ヲ以テ玄出スルコトノ出來ル規定ノ明文ガアルノデゴザイマス、若夫レ此明文ニ依ッテモ尙且
國家ノ必要ニ應ズルコトガ出來ナイ場合ガアッタナラバ、立派ニ臨時帝國議會ヲ開イテ議
會ノ協賛ヲ受ケテ然ルベキコトデアルノデアリマス(「政府ノ見解ハソコデナイ」ト呼フ者ア
リ)政政會ノ人々ハ動モスルト此重大ナル問題ニ付テ希望ヲ述べ、或ハ警〓ヲ加ヘルト
云フヤウナ態度ヲ御採リニナッテ居ルノデアリマス、二十有餘年以來此或ハ希望ヲ加ヘ、
警告ヲ與ヘテ、諸君ガ決議ニナッタ其事柄ガ滿足ノ效果ヲ奏シタトコロノ例ガ一ツデモア
リマスカ、憲法行ハレテ二十有餘年ノ間コンナ惡習慣ト云フモノガ今日マデ繼續シテ居
ルト云フノハヤハリ希望ヲ述ベルトカ、或ハ警告ヲ與ヘルト云フヤウナ少シモ賴寄リナイ
コトヲ賴寄リニサレテ、サウシテ此違法違憲ノ行爲ト云フモノヲ默過シテ參ッタタメデハア
リマセヌカ、ソレ故ニ吾〓ハデス、飽マデ憲法ノ明交會計法ノ明文ニ則レテ國家ノ必要
ノ經費ヲ支出シテ往キタイ憲法ト云フモノハ飽マデ守ッテ往キタイト云フ精神カラ此機
會ニ於テ此事後承諾案ニ對シテ否認ヲシテ、將來之ヲ改メルト云フ途ヲ開キタイト云
フノガ吾〓ノ希望デアッテ、恐ク此希望ニ反對ノ諸君ト云フモノハ私ハ一人モナカラウト思
フノデアリマス、諸君、少シク問題ガ餘所ニ外レルノ感ナキニシモアラズデアリマスケレド
モ、私ハ此近來議會ノ權能ト云フモノガ段々ニ縮小サレルヤウナ感ジガアルノデアリマス、
六億ニ近イトコロノ豫算ト云フモノハ年々歲々政府ノ希印王通リニ殆ド僅ノ削減モナク通
過シテ居ルノデアリマス、又政府ノ希望通リニイロ〓〓ノ豫備費ナドモ設ケテ居ルノデ
アリマス、此豫算ヲ使用シタ其決算ニ付テハドウ云フ態度ヲ取ッテ居ルカト申シマスト云
フト、會計檢査院ノ審査ニ附セラレテ本院ニ提出サレタトコロノ、此決算ノ結果ニ依リマ
スト、年々歲々不法違法ノ此支出ト云フモノガ澤山ニアルノデアリマス、アルケレドモ其度每ニ
將來ニ向ッテ警告ヲ與ヘルト云フ意味ニ於テ常ニ之ヲ承認シテ居ルノデアリマス豫算
ニ於テハ政府ノ註文通リニ悉ク之ヲ認メ、決算ニ於テモ多クハ單ニ將來ヲ警告スルトームフ
意味ニ於テ常ニ違法不當ノ支出ト云フモノヲ看過シ來シテ居ルノデアリマス、斯樣ニ議會
ハ常ニ政府ニ向ッテ寛大ナル態度ヲ取ッテ居ルニモ拘ラズ尙ホソレニモ慊ラナイデ、國庫剩
餘金ト云フモノヲ無暗ニ摑出シテ其摑出シタ結果ハ憲法ノ第何條ニ據ルノデアルカ、會
計法第何條ニ據ルノデアルカト云フコトヲ尋ネレバ、明カニ之ニ答フルコトヲシナイノデア
リマス、又顧ミテ此立法ノ方面ヲ見マスルト新ニ臺灣ハ日本ノ領土ニ加ハリ新ニ朝鮮ハ
日本ニ合併サレタト云フヤウナ場合ニ於キマシテモ、帝國議會ガ立派ニ持ッテ居ル立法
權ト云フモノハ所謂委任立法ノ形式ニ依ッテ臺灣總督若クバ朝鮮總督ノ手ニ移サレテ
居ルノデアリマス、法律ヲ作ルノ權能ハ行政官ニ悉ク之ヲ委任ヲシ、決算ニ付テハ不
法、不當ノ支出ト云フモノヲ答ムルナクシテ、單ニ將來ヲ警告スルト云フヤウナ方法ヲ以テ
之ヲ承認シ國費ノ濫費ト云フコトニ付テハ憲法違反ノ行爲マデモ之ヲ看過スルコトニ
ナリマスレバ、國運ハ益〓進暢シテ、領土モ擴張シ、誠ニ立派ニ國ハ進ンデ參リマスケレド
モ、吾〓議會ノ權能ト云フモノハ一年ヲ經ル每ニ段々小サクナッテ來ル、議會ノ權利ト
云フモノハ日ニ消滅シ去ルモノデアルト云ッテモ決シテ私ハ過言ナキ有樣デアラウト思フノ
デアリマス、ソレ故ニ私ハ今日ノ場合ニ於キマシテハドウカ一ハ憲法政治ノ常道ニ立復タテ、
憲法ト云フモノヲ十分ニ擁護シテ往クトコロノ途ヲ立テタイト云フ希望カラ本案ニ承諾ヲ
與フベカラズト云フ意見ヲ述ベル次第デアリマス、若夫レ唯今ノ問題ト云フモノハ政友
會ノ內閣ノ時代ニヤッタコトデハゴザイマセヌカラシテ、卽チ既往ノコトハ今之ヲ答メ立テ
ヲスルト云ウテモ、責任ノ歸スルトコロト云フモノガナイモノデアルカラ已ムヲ得ヌトシマシテ
モ、將來然ラバ今ノ政府ト云フモノガ斯ウ云フヤウナ違法ノ支出、違憲ノ支出ハ一切ナ
ラヌト云フ覺悟デアルト云フナラバ、又考ヘヤウモアルノデアリマスケレドモ、此〓ニ付テ大
藏大臣等ニ段々ノ質問ヲ加ヘマシタケレドモ、將來トテモドウモ如何トモシ難イノデアル、
先刻本員ノ質問ニ對シテモ大藏大臣ハ成ベク斯樣ナ處置ヲ執ルコトハ避ケヤウトスルケレ
ドモ、万已ムヲ得ザル場合ニハ又如何ナル處置ヲナスカモ知レヌ、マダ追〓此ノ如キ處置ヲ
繼續シテ行カナケレバナラヌカノ如キ答辯ガアッタノデアリマス、斯樣ニ今ノ政府ノ態度
ガ曖昧デアッテ、ヤハリ惡習慣ヲ益〓繼續シテ行カウト云フヤウナ、政府ニ所存ノアルノヲ
吾ミガ認メタル今日ニ於テハ益〓此惡慣例ヲ一時ニ打破シテ、新面目ニ向ッテ此途ヲ
開イテ行ク必要ト云フモノハ、目前ニ迫ッテ居ルコトデハナイカト思ハレルノデアリマス、私ハ
豫言ヲ致シマスルガ、齋藤君ノ如キ御希望ヲ以テ本案ヲ可決致シマシタトコロデ、來年
度ニ至ッテモ又候同一ノ論爭ヲ此壇上ニ於テ續ケナケレバナラヌト云フヤウナ、誠ニ悲ム
ベキ運命ニ諸君ハ陷ルデアラウト云フコトヲ私ハ思フノデアリマス、ソレ故ニ將來ノコトヲ
慮リ、詰リ此際斷然タル處置ヲシテ、憲法ヲ守ルト云フコトガ目今ノ急務デアルガ故ニ、
斷ジテ國庫剩餘金ノ支出ニ付テ承諾ヲ與フベカラズト云フ意見ヲ持ツ者デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=88
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089・大岡育造
○議長(大岡育造君) 松田源治君
〔松田源治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=89
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090・松田源治
○松田源治君 本員ハ委員長ノ報告ニ贊成スル一人デアリマス、本問題ハ第三期ノ
帝國議會ヨリ現ハレテ、今日マデ繼續シテ居ル問題デアリマス、吾ミハ豫備金以外ノ支
出ハ憲法ニ認メザル行爲デアル、因ッテ政府ハ責任ヲ以テ憲法ニ認メナイトコロノ行爲ヲ
爲シタモノデアルカラ、後日責任解除ノタメ帝國議會ニ提出シテ其承諾ヲ求ムルモノデ
アルト云フ解釋ヲ採ルノデゴザイマス、此問題ニ付キマシテハ第三期以來問題ニハナッテ
居リマスケレドモ、第十囘ノ帝國議會ニ於テ殆ド解決サレテ居ルノデゴザイマス、私ハ是
ヨリ簡單ニ此問題ノ歷史ヲ諸君ニ訴ヘマシテ、本問題ヲ解決スル御參考ニ供シテ見タ
イト思フノデアリマス、ソレハ第三期議會ニ於テ初メテ起リマシタ、第三議會ニ於キマシテ
ハ委員會ハ如何ナル意見ヲ以テ憲法違反ナリトシタカト云フコトハ、是ハ菅原委員長モ
述ベラレタ通リ、六十四條ノ二項ト、六十九條ハ關聯セル條文デアッテ、六十四條ノ二
項ハ後日帝國議會ノ承諾ヲ求メヨト云フコトパカリ書イテアル、六十九條ニ於テハ其財
源ヲ規定シテアルノデアルカラ、豫備金以外ノ支出ハ憲法違反ナリト云フコトガ委員會
ヲ通過致シテ居ルノデアリマス、然ルニ本會議ニ於キマシテハ憲法違反ニアラズト云フ決
定ヲ第三帝國議會ニ於テ結末ヲ付ケテ居ルノデゴザイマス、ソレカラ第四及第六囘ノ帝
國議會ニ於キマシテハ、憲法違反トシテ不承諾ニナッテ居リマス、而シテ第六帝國議會ニ
於テハ別ニ決議案ヲ提出シマシテ、剩餘金ノ支出ハ憲法違反ナリト云フ決議ヲ致シテ居
リマス、ソレカラ第九議會ニ於テハ少々此論〓ガ變ッテ來マシタ、如何ナル理由ニ依ッテ
帝國議會ハ豫備以外ノ剩餘金ノ支出ヲ承諾シタカ、ドウモ不明デアリマスケレドモ、其
時ノ委員會ニ於キマシテ委員ノ一人ガ政府委員ニ質問ヲ致シテ居ル、ドウ云フ質
問ヲ致シテ居ルカト申シマスレバ、政府ハ剩餘金ヲ支出シタルハ憲法ノ箇條ニ依リテ
ナシタリト云フニアラズシテ、國家ノ發展上爲サヾルヲ得ザルモノナルヨリ責任ヲ帶ビテ之
ヲ爲シタリト云フニアルカトノ質問ニ對シテ、政府ハ大體ニ於テハ委員ノ意見ノ如シ、然
レドモ若シ憲法第何條ニ依ッテ支出シタルヤノ質問アリトセバ巳ムヲ得ズ六十四條第二
項ニ依ッテ支出シタリト云フ答辯ヲ爲シタ、卽チ强テ固執スルノデナイ憲法ガ認メテ居ナ
イカラ、委員一人ノ解釋ノ通リ憲法上ニナイケレドモ、國家ノ發展上爲サヾルヲ得ナイ
カラ責任ヲ以テ支出ヲシタモノデアルト云フコトヲ第九囘ノ帝國議會ニ於テ答ヘテ居ル、
第十囘ノ帝國議會ニ於テ明瞭ニナッタ、此內閣ハ何レノ內閣デアリマスカト云フト、松
方正義伯ヲ總理大臣ト爲シ、進步黨ノ大隈重信君ヲ外務大臣ト爲シタル、世ノ所謂
松隈內閣デアル、是ハ明瞭ニ政府ハ答ヘテ居ル、ソレハドウ云フ風ニ答ヘテアルカト申シ
マスレバ、政府委員ハ政府ヲ代表シテ政府ニ於テハ憲法第六十四條二項ニ依ルノ意
見ヲ固持スルモノニアラズ、要スルニ必要避クベカラザル費用ナルガ故ニ、責任ヲ以テ財
政上ノ處分ヲ爲シタルモノナリト書イテアル、是ニ於テ憲法ノ解釋ハ一決シタ、松隈內
閣ニ於テ憲法ノ六十四條ノ二項ニ依ッタモノデハナイ、卽チ責任ヲ以テ財政上ノ處分
ヲ爲シタト云フコトヲ決定シテ、而シテ事後承諾ヲ責任解除ノ意味ヲ以テ未メテ居ル
ト云フコトハ、第十帝國議會ニ於テ政府委員ノ答辯ニ依ッテ明カニナッテ居ル、其後ノ
議會ニ於キマシテハ此慣例ヲ(「慣例ハ憲法ヲ破ル能ハズ」ト呼フ者アリ)私ハ憲法ノ條
文ヲ言フノデハナイ、憲法法理論トシテ此解釋ヲ政府ガ執ッテ居ルノデアル、而シテ第十
二帝國議會ヨリ今日マデ此松隈內閣ノ慣例ヲ採ル內閣モアリ、採ラザル內閣モアリマ
シテ、免モ角モ不文ノ法典、不文ノ慣例トシテ、政府ハ剩餘金ノ支出ヲ責任ヲ以テヤツ
タモノデアル、而シテ責任解除ノ意味ニ於テ帝國議會ニ提出スルト云フコトハ殆ド曾テ
動カスベカラザル論理ニナッテ居ルノデアル(「ソレヲ破ルガ吾ミデアル」ト呼フ者アリ)默ッ
テ御聽キナサイ、事實ハ此通リデアル、是ガ宜イ、卽チ諸外國ニ於キマシテモ憲法八條
ノ緊急勅令卽チ法律ニ代ルベキ勅令ヲ認メテナイトコロノ國ガアル、佛蘭西ノ如キ其他
ノ國デアル、其時分ハ國家ノ進運上法律ニ代ルベキ勅令ヲ發シナケレバ國家ノ進運ヲ
阻碍スルガ故ニ、爲政者ハ責任ヲ以テ憲法ニ違反スルノ行爲ヲナシ憲法ニ認メザル行爲
ヲナシテ、他日國家ニ責任解除ノ意味ヲ以テ其勅令案ヲ提出致ルテ居ルト云フコトハ、
是ハ歐米等ニ於テモ澤山アル、卽チ財政上ニ於テモ豫備金ヲ使ッテシマッテ國家ノ進運上
金ノ支出ガ要ル、國家ノ發展上國家ノ進運ヲ阻碍スルコトハ出來ナイ、爲政者ハ行政
ノ運轉ヲ阻害スルコトガ出來ナイ、故ニ責任ヲ以テ憲法ニ依ラズ卽チ憲法ニ認メザル行
爲ヲ責任ヲ以テ後日帝國議會ニ責任解除ノタメニ提出スルト云フコトハ憲法政治論
トシテ卽チ立憲政治運用ノ妙ナリト私ハ申スノデアリマス(「政府モ議會モ憲法ヲ破ル能
ハズ」又「序ニ豫算廢止論ヲヤリ給ヘ」ト呼フ者アリ)卽チ本件ハ本員等ハ今日マデ議會
ノ採リ來レル慣例ニ依リ政府ハ-(「慣例ハ憲法ヲ破ル能ハズ」ト呼ア者アリ)責任ヲ
以テ憲法ニ認メザル行爲ヲ爲シ、而シテ帝國議會ノ豫算協贊權ヲ侵シタルガ故ニ、次ノ
議會、其次ノ議會ニ於テ、責任解除ヲ求ムル意味ヲ以テ、本案ヲ提出シタル理由ニ基イ
テ其支出如何ヲ論ゼズ、事實ガ適當ナラバ適當ト承諾シ、事實ガ不適當ナラバ卽チ之
ニ不承諾ヲ與ヘル、卽チ適當ナル憲法論ト、憲法ノ明文論以外ニ政府ノ責任ヲ以テナ
シタル行爲ヲ認メテ、而シテ其事實ニ於テ決定スルト云フコトハ最モ當ヲ得タルモノト本
員ハ考ヘルノデアリマス、(「事實ハ憲法ヲ蹂〓スル能ハズ」ト呼フ者アリ)之ヲ要スルニ此
處デ再ビ明言シテ置キマス、要スルニ今日マデノ慣例ニ依ッテ責任ヲ以テ爲政者ガ國家
ノ進運ヲ阻止スルコトヲ得ズ、剩餘金ヲ支出シタモノデアルカラシテ、帝國議會ノ豫算
協賛權ヲ害シタル理由ニ依り、豫備金以外支出ナル本問題ヲ帝國議會ノ承諾ヲ求ム
ルタメニ提出シタルモノト、吾ミハ考慮致シマシテ、而シテ本案ニ向ッテ事實ヲ審査シテ適
當ナリト認メマシタカラ、是ニ承諾ヲ與フルコトハ當然ナリト思フノデアリマス、而シテ次ノ
議會ニ提出スルト云フ希望ハ憲法ノ第七十條ニ據リマシテモ、憲法ノ認メテ居ル行爲
ニ付テモ、其提出ヲ憲法ハ要求シテ居ルノデアリマスカラシテ、本件ノ如キ憲法ニ認メザ
ル行爲ハ尙政府ノ責任トシテ次ノ議會ニ提出スルコトヲ相當ナリトスルノデゴザイマスカ
ラ、此〓ニ於テ政府ニ希望ヲ述ベマシテ本案ハ事實ニ依ッテ決定スル、事實ガ適當デ
アレバ之ヲ承諾スルガ當然ナリト考ヘマスカラシテ、本員ハ事實ニ依ッテ之ヲ承認シタイト
云フ考デアリマス
(「採決々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=90
-
091・大岡育造
○議長(大岡育造君) 採決ヲシマス、明治四十三年度豫備金支出外三件ノ決ヲ
採リマス、委員長ノ報告ニ贊成ノ諸君ハ起立ヲ求メマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=91
-
092・大岡育造
○議長(大岡育造君) 多數、豫備金支出外三件共ニ可決致シマシタ、日程第十
一、民事上告豫納金手續廢止法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=92
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093・恒松隆慶
○恆松隆慶君 第十ガゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=93
-
094・大岡育造
○議長(大岡育造君) 第十ハ延期ヲ申込マレテアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=94
-
095・恒松隆慶
○恆松隆慶君 延期ヲサレルコトヲ御報告下サラナケレバナラヌ、提出者カラ延期スル
ナラ承諾シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=95
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096・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御諮リヲシマス第十ハ延期ノ申込ガアリマスガ、之ヲ許可シテ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=96
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097・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ許可スルコトニ致シマス、改メテ日程第十
一、民事上告豫納金手續廢止法律案第一讀會ヲ開キマス、富島暢夫君
第十一民事上告豫納金手續廢止法律案(富島暢夫第一讀會
君外一名提出)
民事上告豫納金手續廢止法律案
明治十年二月布告第十九號民事上告豫納金手續ハ之ヲ廢止ス
〔富島暢夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=97
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098・富島暢夫
○富島暢夫君 私ノ此處ニ提出致シマシタ、法律案ハ民事上告豫納金ヲ廢止シタイ
ト云フ案テゴザイマシテ、理由ハ至ッテ簡單ナノデゴザイマス、民事訴訟ニ付キマシテ一二
審ノ事實裁判ヲ經マシテ第三審ノ上告ヲ爲ス場合ニ十圓ノ保證金ヲ納メルト云フコト
ニナッテ居リマス、而シテ此十圓ノ保證金ハ上告ノ趣意ガ立チマシタトキニハ納メタ人ニ
返シテ吳レマスケレドモ、其趣意ノ立タナイトキニハ沒收ヲスルコトニナッテ居ル、是ハ畢竟
濫訴ヲ防グト云フ目的カラ出テ居ル法律ト思ヒマスケレドモ、人智ノ進ミマシタル今日ニ
於キマシテハ、吾〓ハ十分此訴訟ニ付キマシテ利害關係ヲ〓究スル能力ヲ持ッテ居リマス
ルカラシテ、今日デハ此濫訴ノ弊害ハナイ筈デアルト考ヘマスノミナリマセズ、大ナル事件
ニ於キマシテハ僅ニ十圓位デ訴訟ヲ止メルモノデナイ、然ルニ小サナル事件ニ至リマスト
云フト、殊ニ貧困者ノ訴訟ヲ爲ス場合ニ於キマシテ此十圓ト云フモノガ非常ニ妨ヲ致ス
ノデアリマス、此〓ニ於キマシテ是ハ吾〓ノ出訴ノ自由ノ權利ヲ妨ゲルト云フコトニナルト
思ヒマス、ソレデ是ハ今日デハ有害無益ノ法律デアルト考ヘルノデ、此法律ハ三十五年
前ノ舊思想ニ基イテ、出來テ居ル法律デゴザイマシテ、智識ニハ適合シナイ法律デアルト
考ヘルノデ、ソレデ此案ヲ出シマシタ譯デゴザイマス、御贊成ヲ願ヒタイ終リニ一言致シタ
イノハ此法律ヲ廢シマスト云フト、國車ノ收入ヲ幾分減ズルト云フコトニナルノデアリマ
スケレドモ、此法律ガ徵稅主義デ存在セシメナケレバナラヌト云フコトニナリマスレバ、益〓
非理ナル法律デアルト考へルノデアリマス、何トナレバ吾ミハ訴訟ヲ爲シマスニ付キマシテ、
印紙法ニ依ッテ相當ノ印紙ヲ納メテ居リマス、然ルニ此保證金ヲ積マセテ之ヲ沒收スル
ト云フコトニナリマスト、罰金ヲ食ハスヤウナ譯ニナッテ居リマス、ソレデ益〓非理ナ法律デ
アリマスカラシテ、本案ヲ提出致シマシタ次第デアリマス、御贊成ヲ願ヒマス
〔「採決々々」ト呼フ者アリ〕
(政府委員法學博士齋藤十一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=98
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099・齋藤十一郎
○政府委員(法學博士齋藤十一郞君) 極ク簡單ニ政府ノ意向ヲ此際申シマス、此
案ニ付キマシテハ現行ノ裁判所ノ組織ノ上カラト、ソレカラ經費ノ〓カラト此二點カラ
致シマシテ、多年政府ハ此案ニハ反對ヲ致シテ參ッタノデアリマス、然ルトコロ此度行政
整理ノ計畫ガ政府ニゴザイマスコトハ御承知ノ通リ、而シテ其整理ノ範圍ハ申スマデモ
ナク此裁判所ノ構成ノ上ニモ及プ見込デアリマス、就キマシテハ政府ニ於キマシテモ多年
當院ノ御意見ヲ尊重致シマシテ、是ハ整理ノ一ノ問題ト致ス計畫ニナッテ居ルノデアリ
マ、此際ニ本年直ニ此案ヲ御決定ニ相成リマシテ實行ヲセラレマシテハ政府ハ實ハ誠
ニ困難ヲ致ス次第デアリマス、是ダケノコトヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=99
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100・大岡育造
○議長(大岡育造君) 決ヲ採リマス、本案ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=100
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101・恒松隆慶
○恆松隆慶君 今政府委員ノ明瞭ナ答辯ガゴザイマシタ、デ提出者ノ御考ヲ伺ハウト
思ヒマシタガ、提出者ガ何トモ申シマセヌカラ此場合是ハ兔ニ角九名ノ委員ヲ議長ヨリ
指名アランコトヲ願ヒマス
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=101
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102・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=102
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103・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ本案ハ議長指名九名ノ委員ニ附託スルコト
ニ決シマシタ、日程第十二、新聞紙法中改正法律案、委員長松田源治君
第十二新聞紙法中改正法律案(松田源治第一讀會ノ讀(配達中心
君外五名提出)報〓
〔松田源治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=103
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104・松田源治
○松田源治君 新聞紙法中改正法律案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ報告シマス、新
聞紙法案ハ二囘委員會ヲ開キマシテ愼重ナル調査ヲ遂ゲマシテ「第十七條第一項中
「全文」ヲ「要旨」ニ改メ第二項ヲ削ル」此改正ニ付キマシテハ、現行法ノ方ガ適當デアルト
云フ理由デ十七條ノ改正ハ削除シテ現行法通リニスルト云フ修正ノ意見ガ出マシタ、ソ
レハ本案ハ正誤文ヲ新聞紙ニ出シタル時分ニ、全文ヲ載セズシテ要旨ノミヲ載セテ、而
シテ正誤文ノ活字ハ新聞ニ記載シタルトコロノ活字ト同一デナケレバナラヌト云フ現行
法ノ規定デアリマシタガ、之ヲ「全文」ヲ「要旨」ニ改メルト云フコトニナリマスルト、正誤文
ノ正誤者ニ重要ナリト認メタルトコロヲ、新聞社デ之ヲ揭載セゼシテ、自由ニ其部分ダケ
ヲ削除スルコトガ出來ルカラ、正誤者ノ意見ヲ新聞紙ニ揭載シテ正誤ヲナストコロノ目
的ヲ達シナイカラ、是ハヤハリ要旨ト云フコトハイカナイ、全文ヲ掲載スルト云フ現行法
通リガ至當デアル、第二項ヲ削ルト云フノハ正誤文ヲ出シタル活字ハ以前新聞ニ出シタル
活字ヨリモ小サイ活字ヲ使ッテ正誤ノ目的ヲ達シナイト云フコトニナッテハ甚タ遺憾デ
アリマスカラ、第十七條ノ改正ハ現行法ヲ相當ト認メマシテ修正通リニ可決致シ
マシタ、其他ハ第九條ノ第一號ヲ削ル、ツレカラ第十九條ノ改正及第四十三條ノ
「乃至」ヲ削ルト云フコトハ、全會一致ヲ以テ可決致シマシタ、此新聞紙法案ハ申スマデ
モナク憲法ノ認メテ居ルトコロノ言論ノ自由ヲ當該官憲ガ干涉スベキ範圍ヲ定メタノデ
アリマス、因テ十九條ノ如キハ、今日檢事ガ新聞紙ノ記事ヲ差止メルケレドモ、是ハ獨
立セザル行政官ニ此差止權ヲ與ヘルト云フコトハ言論尊重ノ意味カラシテ不適當デア
ル、因テ檢事ノ差止權ハ之ヲ奪ッタ方ガ宜イ、又四十三條ノ「乃至」ト云フコトヲ削ッタ
ノハ、安寧秩序ヲ紊シ、風俗ヲ壞亂スベキトコロノ行爲ヲ爲シタル新聞ニ向ッテハ、其揭
載シタルトコロノ新聞紙ノ發賣ヲ禁止シ、又差押ヘルコトモ出來ルノデアル、其後ニハ同
趣意ノ言論ハ次囘以後ノ新聞紙ニ揭載シタル時分ニハ差止メルコトモ出來ル、併セテ
嚴重ナル制裁ヲモ加ヘルコトガ出來ルノデアルカラ、是ハ發行禁止權ヲ官廳ニ認メナイ
方ガ言論尊重ノ意味ニ適スルノデアラウカラ、是ハ「乃至」ト云フ字ヲ削ッタガ相當デアル
ト云フコトデゴザイマスル是ガ委員會ノ經過竝ニ結果デアリマス、ドウカ滿場一致ヲ以
テ本案ニ贊成アランコトヲ希望致シマス
(「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=104
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105・大岡育造
○議長(大岡育造君) 村松君
〔村松恆一郞君登壇〕
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=105
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106・村松恒一郎
○村松恆一郞君 議長(笑聲起ル)唯今委員長ヨリ御報告ニナリマシタ新聞紙法ノ
改正案ハ本員ニ於テモ無論贊成デアリマス、而シテ是ハ委員會ニ於テモ滿場一致ヲ
以テ通過ヲ致シ、又本案ノ提出者モ贊成者モ殆ト此衆議院ノ大多數テアリマスカラ此
場合ニ於テ別ニ贊成ノ意見ヲ述ベル必要ハナイノデアリマス、併ナガラ委員會ニ於テハ數
囘政府委員ニ向ッテ政府ノ意見ヲ尋ネマスルト、政府ハ全然是ニ不同意デアルト云フコ
トヲ表明シテ居ルノデアリマス、故ニ若シ此案ガ本院ヲ通過致シマシテモ、貴族院ニ於テ
ハ必ズ政府委員ハ不同意ヲ唱ヘラレルニ違ヒナイノデアル而シテ此場合ニ於テ一方ノ
此衆議院ノ側ハ何等ノ意見ヲモ吐クコトガ出來ヌノデアル、ツマリ貴族院ニ於テハ缺席
裁判ヲ受ケルト云フ形ニナルノデアル、故ニ此場合ニ於テ、何故ニ此改正ガ必要デアルカト
云フコトヲ述ベテ置クコトハ遙ニ貴族院ニ對シテ參考ノ材料トナルモノデアラウト思フノデ
アル、而シテ此事ハ單ニ此新聞社ノ利害ノミニ關スル問題デハナイノデアリマス、總テノ
社會上ノ問題デアルノデアリマス、此事ハ新聞事業ニ關係ノ無イ御方ハ、餘リ重大ト御
考ヘニナラヌカモ知レマセヌケレドモ、極メテ是ハ總テノ方面ニ關係ノアル事柄デアルノデス、
是ニ付テ何故ニ此改正ガ今日必要デアルカト云フコトニ付テハ、是非トモ是ハ此席ニ於テ述
ベテ置カナケレバナラヌ必要ガアルノデス、(「簡單」ト呼フ者アリ)元來此現行法ト云フモノ
ハ明治四十二年ニ實施ヲセラレマシテ、マダ僅ニ二年カ三年ノ經過ヲシテ居ルダケナノデ、
既ニ提出者モ述ベラレタ如ク、今日ニ於テ之ヲ改正スルト云フコトハ或ハ一方ニ於テ輕
卒ナリト云フ譏リガアルカモ知レヌノデアリマスケレドモ、此實施ノ經驗上是非トモ之ヲ改
正ヲ致サナケレバナラヌト云フ必要ガアルノデアリマシテ、是ハ此現行法ノ制定ノ當時ニ
遡ッテ考ヘレバ直グ分ル、抑〓此四十二年、卽チ第二十五議會ニ於テ本員等ガ此現行
法ノ改正案ヲ提出致シタ趣旨ハ、何デアルカト申シマスレバ、舊新聞紙條例ニ於テ豫審
ニ關スル事項ハ悉ク揭載ヲ許サナイ、豫審ニ關スル事柄デアッタナラバ何事デモ一度新
聞紙ニ現シタナラバ、悉ク之ヲ告發ヲ致シテ、是ニ體刑若クハ金刑ヲ科シタノデアリマシ
テ、現ニ是ガタメニ其當時東京ノ新聞社ダケデモ十四社モ告發ヲサレテ、ソレ〓〓體刑
若クハ罰金刑ヲ受ケタト云フヤウナ譯テ、新聞社ハ殆ド安ジテ筆ヲ執ルコトガ出來ナイ、
營業ヲスルコトガ出來ナイト云フ立場デアッタノデアリマス、是故ニ本員等ハ其當時舊新
聞紙條例ノ改正案ヲ提出致シテ、サウシテ此豫審ニ關スル事項云々ト云フコトヲ全部
削除スルト云フコトヲ目的トシテ改正案ヲ提出シタノデアッタノデスワレニ續イテハヤハリ
今囘ノ法律案ニモ出テ居ル通リ署名人以外ニ執筆者ガアッタナラパ、其者ヲモ罰スルト
云フコトモ是モ亦舊法律ニヤハリアッタノデアリマス、斯樣ナコトハドウシテモ削除シナケレ
バ新聞社ハ安ジテ筆ヲ執ルコトガ出來ナイト云フタメニ此新聞紙法ノ改正案ヲ提出シタ
ノデアリマス、然ルニ政府ニ於テハ、之ヲ全部削除サレテハ、當局者ハ甚タ困ルノデアル、
犯罪ノ檢査ト云フ上ニ付テ一々之ヲ新聞紙ニ書カレテハ當局者ハ甚ダ此犯罪ノ捜査ニ
差支ヘルノデアルト云フヤウナコトニ付テ、政府ハ容易ニ之ヲ讓ラナカッタノデアリマス、是ニ
於テ一方新聞社ノ便宜ト云フコトモ圖ラナケレバナラヌノデアルガ、立法者ノ立場トシテ
單ニ當業者ノ便宜利益ト云フコトバカリデハイカヌノデアルカラ、當時ノ委員會モツレニ
多少ノ條件ヲ附ケテサウシテ豫審ニ關スル云々ト云フコトハ、此現行法通リヤハリ贊成シ
テ置イタノデアル、是ハ政府ノ申込卽チ政府ノ希望ヲ幾分カ委員會ガ容レタニ付テハ
其當時是ニ付テ政府委員ノ言明ト云フモノガアル、ツマリ濫リニ此檢事ヲシテ差止ヲヤ
ラセナイト云フコトニ付テ其當時言質ヲ取ッテ置イタノデアリマス、此言質ノ下ニ其當時
ノ委員會ハ之ヲ承認シタノデアリマスカラ、此言質ノ通リニ政府ガ常ニ之ヲ守ッテ居レバ
何モ言フコトハナイノデアル、併ナガラ法律ハ法律デアル、如何ニ言質ガアッテモ之ヲ當局
者ガ勝手ニ解釋スレバ仕方ガナイ話デアル是ガ卽チ今囘ノ改正ヲ吾〓ガ贊成スル所以
デアル其當時政府委員ハ何ト言ッタカト云ヘバ無論此檢事ノ差止ト云フコトハ濫リニ
ヤラセルコトデハナイ、犯罪ノ搜査ノ時分ニ已ムヲ得ズシテ之ヲ行フコトデアルト云フコト
ヲ言明シテ、此事ハ檢事ニモ十分ツレ〓〓內訓ヲスルト云フ一ノ殆ド約束ガアッタノデアリ
マく、然ルニモ拘ラズ政府ハ此言質ヲ無視シテ、其以來頻々トシテ新聞ノ記事ノ差止
ヲセラレ、殆ド重大ナル社會ノ出來事ト云フモノハ少シモ社會ニ發表セラレナイ、世人ハ
之ヲ知ラナイノデアル、現ニ最近ニ至ルマデ斯樣ナコトガ行ハレテ居ル例ヘバ本月ノ八
日ニ小石川ノ或ル小學生徒ガ斬殺サレタコトガアル此等ハ一般ノ人ノ注意ヲ惹カナ
ケレバナラヌ、大ニ警戒シナケレバナラヌコトデアルガ、是モ全然差止メラレテシマッタタメニ
世人ハ何ニモ知ラナイ然ラバ眞ニ此差止ノ效果ヲ奏シテ居ルカト云ヘバ決シテサウデハナ
1、大阪ノ新聞ニハアリ〓〓ト出テ居ル、知ラナイノハ東京ノ人間バカリ、何ノ差止ノ效
能ガナイ而モ今日マデ差止メマシタ事柄ニ付テ見マスレバ彼ノ二本榎斬殺事件、或ハ
不忍池ノ生首事件、大久保ノ四人殺、三菱原ノ婦人殺ト云フヤウナ極メテ重大ナル
殺人事件ガ其差止ヲシテアルニモ拘ラズ、差止ヲシタナラバ犯罪ノ搜査ガ容易デアルナラ
バ目的ヲ達シ得ナケレバナラヌニモ拘ラズ、今日マデ少シモ是ガ檢舉ヲサレテ居ナイノデア
ル、シテ見レバ此差止モ犯罪搜査ニハ格別效果ガナイ、又新聞紙ノ記載ヲ差止メザル
事柄ニ於テモ、ヤハリ搜查ノ目的ヲ達シテ居ナイモノガアルツマリ捜査ノ目的ヲ
達スル達シ得ナイト云フコトハ、新聞紙ニ記載スルシナイト云フコトニハ何等ノ關係ガア
ルコトデハナイト云フコトヲ、此事實ガ能ク證明サレテ居ル、然ルニモ拘ラズ唯何事モ一タ
ビ重大ナル事件ガ起レバ、悉ク其記載ヲ差止メルト云フコトニシテ、新聞紙ガ果シテ何デ
職責ヲ盡スコトガ出來ルカ(「何ヲ言フカ分ラヌ」「ワンナコトハ知ッテ居ル」ト言フ者アリ)
諸君ハ囂々トシテ本員ノ議論ヲ批評セラレルガ、是ハ讀者ノ側カラ見テモ、決シテ滿足ス
ベキ事柄デハナイノデアル、是ガ卽チ本員ノ十九條ノ改正案ヲ贊成スル理由デアル、又
此執筆者ノ責任署名人ト云フモノハ旣ニ全部ニ對シテ責任ヲ負フ以上ハ、其裏面ニ立
入ッテマデ其責任ヲ問ヒ、其執筆者ノ罪ヲ問フト一云フヤウナコトヲシテ、是デドウシテ新聞
雜誌ガ出來ルカ、今日ノ新聞雜誌ハ一人ノ力デ出來ナイコトハ分ッテ居ルソレヲ悉ク
裏山ニ立入ッテ其執筆者ヲ罪スルト云フコトナラバドウシテ新聞雜誌ガ出來ルカ、故一
此事モ前囘ノ改正ノ際ニ於テ本員等ガ改正案ノ中ニ入レタノデアルガ、是ハ舊新聞條
例ニアルガ面モ屢〓セラルヽコトデハナイカラ宜イデハナイカト云フヤウナコトガ委員會ノ多
數ノ意見デアッタタメニ、不満足ナガラ其儘ニ差措イタ譯デアル、ケレドモ此二ツノ事柄
ハ新聞事業ノタメニハ非常ナル妨害デアリ、新聞事業ノ妨害ハ卽チ言論ノ妨害デアル
(「君ノ議論ハ此案ノ最モ妨害デアル」ト呼フ者アリ)君ノ方ガ人ノ演說ノ妨害ヲシテ居
ルデハナイカ(「簡單々々」ト呼フ者アリ)此ノ如ク此改正ノ中ノ要旨ハ此二ツニ止マルノ
テ、其他ノ箇條ハ別ニ申シマセヌ、申シマセヌガ免ニ角斯樣ナコトハ現在諸君ハ贊成シテ
置キナガラ動モスレバ之ニ向ッテ妙ナ批評ヲ加ヘ、妨害ヲ加ヘルノハ何ノコトカ、衆議院
ニ於テ眞面目ナ態度ヲ以テ決定シナイモノヲ、貴族院ニ於テ如何ニシテ眞面目ニ之ヲ
決定スルカ、既ニ法律案トシテ提出シタ以上ハ贊成シタル以上ハ之ヲシテ成立セシムル
ヤウニシナケレバナラヌ、本員ガ玆ニ此意見ヲ述ベルノハ卽チ本案改正ノ理由ヲ明カニシ
テ、而シテ貴族院ニ贊成シテ貰ヒタイト云フノデ述ベルノデアル(「分ラヌ分ラヌ」ト呼フ者
アリ)分ラヌコトハナイ(「君自ラガ分ラヌノダ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=106
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107・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜肅ニ願ヒマス-一言此場合注意致シマス、凡ツ討論ナル
モノハ贊否ノ間ニ於テ初メテ有要ノモノデアリマスカラ、既ニ贊成ト極ッテ一人ノ異論ノ
ナキコトニ向ッテ演說スルハ餘リニ御丁寧ニ過ギハセヌカ、御注意願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=107
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108・村松恒一郎
○村松恆一郞君 唯今ノ議長ノ御注意デアリマシタケレドモ旣ニ政府ガ不同意ト云
フコトヲ唱ヘテ居ル以上ハ、之ニ向ッテ反駁ヲ加ヘルノハ當然デアル、是ハ本員等ノ權利
デアル、併ナガラ旣ニ本員ノ述ベルダケハ述ベタノデアルカラ、是デ本員ハ退キマスガ、併ナ
ガラ唯今ノ議長ノ御注意ハ決シテ本員ハ受ケマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=108
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109・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本案ハ讀會省略ヲ以テ確定セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=109
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110・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松君ノ動議ニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
新聞紙法中改正法律案確定議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=110
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111・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ本案ハ讀會ヲ省略シテ、可決確定シタルコ
トヲ宣告致シマス··日程第十三、災害地租特別處分法案第一讀曾ノ續ヲ開キマ
ス、委員長河上英君
第十三災害地地租特別處分法案(國井第一讀會ノ續(委員長)
庫君外十名提出)(報告
〔河上英君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=111
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112・河上英
○河上英君 極メテ簡單ニ申上ゲマス、是ハ災害地地租特別處分法案デアリマシ
テ〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=112
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113・加瀬禧逸
○加瀨禧逸君 唯今ノ議長ノ宣告ニ依リマスト、直ニ讀會ヲ省略シテ確定ト云フコト
デアリマスガ、二讀會ヲ御開キニナラヌデモ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=113
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114・大岡育造
○議長(大岡育造君) 讀會省略ト云フコトガ極ッテ居リマスカラ二讀會ニ移シテ、三讀
會ヲヤルト云フ意味デナク讀會省略ヲ求メラレタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=114
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115・河上英
○河上英君 ソレデ此案ハ提案者ガ理由ヲ御述ベニナリマシテ、ソレカラ政府ニ對シテ
質問ヲシマシテ尙御討議ニナリマシタノデ、三囘開イタノデアリマスガ、ツマリ災害ハ御承
知ノ通リ水害ト云フコトニ付キマシテハ免租ニナッテ居リマスガ、他ノ災害ハ延納ト云フコ
トニナッテ居リマシテ甚ダ不公平デアル、免ニ角實際收穫ノ無イモノデアリマシタ以上ハ、
是ハ事實ニ於キマシテ調ガ付イタ以上ハ免租シテヤルノガ至當デアルト云フノデアリマス、
近來ハ追〓農業モ集約的ニ進ンデ參リマスノデ、人口ヲ加フレバ加フル程隨テ之ニ對シ
テ又イロ〓〓ノ仕事ガ出來テ來ル、農民ハソレト申シマシテ收穫ト云フ方ハサウ倍加ス
ルモノデナイ、災厄ニ出逢ヒマシタトキニハ甚タ困ルノデ、ドウカ是ハ法律ヲ設ケテ其災害
ニ遭ヒマシタ困難ヲ救濟シテヤッテ呉レト云フノガ大體ノ提案者ノ御趣意デアリマス、之
ニ對シマシテ政府ノ意見ヲ聞キマシタトコロガ、政府ハ租稅ト云フ上カラ第一ニ贊成スルコ
トガ出來ナイ、反對デアル、第二ハ財政ノ上カラモ政府ハ之ヲ贊成スルコトガ出來ナイノ
デアル、ソレカラ第三ハ行政ノ上カラモ反對デアル、此租稅ノ原則ト云フコトニ付キマシテ
ハ、少シヤカマシイ議論モアリマシタケレドモ、ツマリ租稅ハ其當時ノ收穫ヲ標準トシマシテ
其地價ヲ持ツノデアル、其モノニ更ニ今度地租ヲ課スルノデアッテ、玆ニ至リマシテ物ガ
殖エタカラ餘計取ル又無イカラト云フテ之ヲ免除スルト云フコトハ租稅ノ原則トシテハ
甚ダ困ル問題デアル、又財政ノ上カラ申シマシテモ、幾分カ此穴ガ開クノデアリマスカラ
之ヲ補塡スルトコロノ途モ講ジナクテハナラヌ、行政ノ上カラ申シマシテモ、ナカ〓〓之ヲ
實地ニ就テ此免租ト云フコトニ付テハ困雜ナモノデアルカラ、ドウモ之ヲ贊成スルコトガ出
來ナイ、斯ウ云フノデアリマシタ、ツレカラ此案ヲ種々御審議ノ末、反對ノ方ノ側ハヤハ
リ政府ガ申サレマシタ彼ノ租稅ノ原則カラシマシテ反對セラレタ、ソレカラ方法トシマシテ
此第二條ニアリマストコロノ被害現狀ノ存スル間ニ於テ其事ヲ證明スルト云フコトハナ
カ事實ニ於テ行ハレル問題デハナイ、斯ウ云フノデアリマス、ソレカラ事情ト云フ反
對ノ理由モアリマシタガ、是ハ餘リ根據ノ强イノデモナカッタケレドモ、ソレハ各〓其地方ノ
事情ニ依ッテ見解ヲ異ニシテ居ラレタノデアリマス、斯ウ云フ理由ニ於キマシテ此案ニハ反
對シテ卽チ否決ヲシタイト云フノデアリマス、ソコデ七名ノ出席ニ對シマシテ、四名ノ否
決ト云フ方ニ御贊成デアッタノデアリマスカラ、此案ハ否決シタノデアリマス、此段御報
告致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=115
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116・大岡育造
○議長(大岡育造君) 高木正年君
〔高木正年君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=116
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117・高木正年
○高木正年君 今日ハ長イ討論ノ後ヲ承ケテ壇上ニ立チマスコトハ諸君ニモ御氣ノ毒
デアルト同時ニ、自分モ甚ダ迷惑ニ思フノデアリマス、併シ此災害地地租ノ免除法案ハ
議會ノ末ニ於テ比較的是ハ重大ナ問題ト云ハネバナラヌノデアリマス、此災害地地租
免除法案ハ唯今委員長ヨリ簡明ニ御話ニナッタヤウデアリマスガ、今少シク此實體ヲ御
話シテヾナイト案ノ贊否ニ付テノ議論ガ判明シマセヌカラシテ、極メテ此場合簡單ニ申ス
ツモリデアリマスカラ、少シノ間御聽ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、此災害地地租免
除法案ハ當面ノ問題トシテハ秋田縣、山形縣ニ於ケル稻熱病、又東京府ノ北多摩郡
ニ於ケルトコロ此雹害ノ前後ニ於ケル善後策トシテ一面ハ之ヲ提出シタノデアリマス、併ナ
ガラ案ノ本來ハ總テノ場合ニ於テ天災若クハ其他氣候不順等ニ依ッテ農作物ノ不良ニ
歸シタ場合ニ之ヲ救濟スルト云フコトガ案ノ元來ノ是ハ目的デアルノデアリマス、是ニ於
テ唯今委員長ノ言ハレタ如ク、此案ハ三箇ノ理由ノタメニ排斥ヲサレタノデアリマス、第
一ハ此案ノ求メルトコロノ免租ナルモノガ此租稅ノ原則ニ反スルト云フコトガ政府委員
ノ言明デアッタ、之ヲ贊成スル長晴登君モヤハリ同樣ノ言葉ヲ以テ此案ニ反對セラレテ
居ル、是ダケデハ分ラヌノデアリマス、少シク其政府委員ノ言フトコロ長晴登君ノ言ハ
レタコトヲ解剖シテ見マスト、地租ナルモノハ幾年カノ平均ニ依ッテ多少其間ニ於テ豐作
若クハ不作ノ場合ヲ平均シタモノデアル、ソレ故ニ災害ノ場合ニ於テ之ヲ免除スルト云
フコトハ其原則トシテ爲スベキコトデナイト云フコトガ重ナル理由ノヤウニ聞エテ居ル、併シ
嘗テ明治六年ニ地租改正ヲ爲シタトキニ於テ所謂皆無作マデハ見テ居ラヌノデアリマ
ス、如何ナル場合ニ免除スルカト云フト所謂皆無作ノ場合ニ免除スルノデアリマス、今
日國民ノ負擔ガ增シテ居ル、就中此農業ハ最モ利益ノ薄イモノト考ヘラルヽ時代ニ於
テ、五分作以下ノ場合ニ於テハ租稅ヲ免除サレテモ、、餘リ農民ハ喜バナイノデアリマス、
況ヤ五分作ニアラズシテ皆無作ノ場合ニ於テ、始メテ之ヲ免除セラレルノデアリマス、殊
ニ明治六年地租改正ノ場合ヨリハ農民ノ負擔ハ彌ガ上ニモ增シテ居ル或ハ收穫物ノ
價格騰貴シタリト云フコトヲ以テスル人ガアルカモ知レマセヌガ農業ニ要スルトコロノ
勞働ニ費サルヽトコロノ總テノ消費物ニ關スル租稅ト云フモノガ、非常ナ今日ハ負擔ニ
ナッテ居ルノデアル、是等ノ比較ノ上デ決シテ今日ノ農業ト云フモノガ明治六年ニ定メラ
レタ地租改正ノ率ヲ以テ或ル場合ニ於ケル皆無作ヲモ見込ンデ地租ヲ定メタリト云フヨ
トハ、決シテ今日ニ於テ之ヲ諾スルコトハ出來ナイノデアリマス、此議論ヲ以テスレバ既ニ
政府ガ免除セラレツヽアルトコロノ水害ニ於ケル免除マデモ、ヤハリ租稅ノ原則ニ反スル
コトニナルノデアリマス、一方ニ於テ水害ニ於テハ免租ヲシツヽ、地方ニ於テハ免租シナイ
ト云フコトハ、ドウシテモ道理上、常識上、斯樣ナ判決ヲ爲スコトハ出來ナイ、併ナガラ政
府ハ此水害ニ於ケル免租スラモ實際今日ハ之ヲ嫌ウテ居ル獨リ之ヲ嫌フノミナラズ嘗
テハ二十六議會ニ此免租案ヲ變ジテ延納案トセンガタメニ衆議院ニ提出サレタコトガア
ルノデアリマス、當時議會ハ之ヲ更メテ卽チ免租案ト爲シタ歷史ノアルノハ諸君ノ御承
知ノコトデアリマス然ルニ今日ノ農業ト云フモノハ一體ドンナ狀態ニ參ッテ居ルカト申シ
マスルト云フト、我國ハ農業國デアルニモ拘ラズ、最モ今日我國ノ產業中利益少クシテ
動モスレバ其事務ノ危險デアルト云フ傾キヲ認メラレツヽアルノデアリマス何ガ危險デア
リマス、一年ノ間粒々辛苦所謂晨ニ星ヲ戴キ、夕ニ月ヲ踏ンデ歸ル人〓ガ、一年ノ或ルト
キニ天災若クハ其他ノ災害ニ遭フトキハ忽チ此一年ノ間ノ辛苦ト云フモノハ水
泡ニ歸サネバナラヌノデアリマスル若シ此場合ニ於テ之ヲ〓濟スルモノガナカッタナラバ、
遂ニハ國民ハ農業ヲ厭フト云フ狀態ニナラヌトモ限ラヌノデアリマス、之ヲ救濟スレバ一
方ニ於テハ農業ヲ奬勵スル意味ニモナリ、一方ニ於テハ農家ヲ慰安スル途ニモナルノデア
リマス、殊ニ秋田山形ニ於ケル稻熱病ノ如キハ、肥料ヲ入レテ、而モ之ヲ耕育シタモノガ
却テ此ノ如キ病熱ニ冒サレルト云フコトニ至ッタノデアル、若シ斯ル場合ニ租稅ヲ免ゼザ
ル、乃チ免租ト云フコトヲナサナイト云フコトニナッタナラバ由來農作物ヲ爲シ多クノ肥
料ヲ使ヒ、多クノ耕耘ニ手數ヲ要スルト云フコトハ〓ゲテ之ヲ廢メルト云フ狀態ニナラヌ
トモ限ラヌノデアリマス租稅ノ性質ニ於テ水害ヲ免除シテ常識ノ判斷ノ上カラ考ヘテ見マ
シテモ、他ノ災害ニ於テ之ヲ免除スルト云フコトハ頗ル是ハ至當ノ手段ナリト云フヲ憚ラヌ
ノデアリマス、政府ハ歲入ノ缺陷ニ於テ之ヲ如何トモスルコトガ出來ナイト云フコトハ常
ニ政府ノ言フトコロデアリマス、所ガ三十五年以後八年間ノ延納ノ統計ヲ調ベテ見マスル
ト一年僅ニ三万三千七百八十圓ト云フ平均ガ出ル、水害ノ方ハドウデアルカ
ト云フト三十三万圓ト云フ平均ガ出ルノデアリマス、多キトコロノ三十三万圓ハ之ヲ
免除スル、少ナキトコロノ三万三千七百八十圓ハ之ヲ免除スルコトノ出來ナイト云フコト
ハ數字ノ上ニ於テモ是ハ言ヒ得ルコトデナイト思ハナケレバナラヌノデアリマスル(「簡單」
ト呼フ者アリ)斯樣ナ計數ヲ得ルノデアリマス、溯ッテ四十四年ノ秋田、山形ノ稻熱病
東京府ノ電害ニ對スル損害ヲ計算致シテ見マシテモ、僅ニ五万八千圓延納ニ
屬スルモノヽ金額ハ五万八千圓此外ニ現狀ノ尙被害ノ存スルモノニ於テ調査ヲナシア
之ヲ增加シタリトシテモ、幾許モ之ヲ增スコトハナイノデアリマス、而モ斯ル少額ノ金額ニ
於テ一方ニ農家ノ慰安ヲ與ヘ一方ニ於テハ之ヲ以テ一ノ奬勵策ト爲シ產業ノ發展
ニ利益スルト思ヘバ、其金額ノ少ナキヨリ其利益ノ大ナルコトヲ考ヘテ見ナケレバナラヌノ
デアリマス、是ニ至ッテ(「簡單ニヤリ給ヘ、ナンボ見エナイカラト云ッテモ大〓議場ノ形勢
ハ分リサウナモノダ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=117
-
118・大岡育造
○議長(大岡育造君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=118
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119・高木正年
○高木正年君 殊ニ政友會ノ諸君ニ私ハ敬意ヲ拂フガ上ニ、特ニ注意ヲセネバナリ
マセヌ、此災害免租案ハ所謂三派ノ合同ノ提出案ニナッテ居リマス、此免除ニナルトナ
ラヌトハ一ニ政友會諸君ノ責任ニ歸スルノデアリマス、嘗テハ二十六議會ニ於テ政府ガ
免租法案ヲ變ジテ延納法案トナサントスルトキニ當ッテ、議會ハ之ヲ修正シテ、免租法案
トナシタノデアリマス官僚內閣ノトキニハ議會ノ多數ガ延納ヲ變ジテ免租トシテ、國民
ニ幾分ノ慰安ヲ與ヘントシタモノガ、今ハ政友會ヲ基礎トスル內閣ノトキニ於テ、却テ官
僚內閣ノ當時ニ於テ、政府ノ採ラントスルトコロヲ學バルヽト云フニ至ッテハ、私共深ク
政友會諸君ノタメニ惜マナケレバナラヌノデアリマス(「ヒヤノ」)願クハ此案ヲ贊成セラ
レテ、將來ニ於ケル農業ノ發展ヲ益セラレンコトヲ深ク私ハ熱望スルノデアリマス(拍手
起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=119
-
120・恒松隆慶
○恆松隆慶君 討論終結ノ動議ヲ提出致シマス
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=120
-
121・大岡育造
○議長(大岡育造君) 恆松隆慶君ノ討論終、結ノ動議ニ贊成ガアリマスカ
〔「異議ナシ」「大贊成」「反對」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=121
-
122・大岡育造
○議長(大岡育造君) 多數ノ贊成ガアルト認メマス、討論終結ニ御異議ハアリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=122
-
123・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナイモノト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=123
-
124・恒松隆慶
○恆松隆慶君 本案ハ委員長報告通リ二讀會ヲ開クベカラズト決セラレンコトヲ望ミ
マス
〔「ノウ〓〓」「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=124
-
125・大岡育造
○議長(大岡育造君) 委員長ノ報告ニ反シテ二讀會ヲ開クベシトスル諸君ノ起立ヲ
求メマス
(「少數ナリ」「多數」ト呼フ者アリ〕
起立者少數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=125
-
126・大岡育造
○議長(大岡育造君) 少數デアリマス
〔「多數々々」「少數」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=126
-
127・大岡育造
○議長(大岡育造君) 少數デス
(「異議ヲ申立テマス」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=127
-
128・大岡育造
○議長(大岡育造君) 因テ否決トナリマシタ-此場合ニチヨット御諮リヲ申シマス、
會期モ切迫シテ參リマシタシ、明後日ハ祭日デモアリマスカラ明日ハ常例ノ日デハアリマ
セヌケレドモ、明日モ本會ヲ開ク積リデアリマスカラ···
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=128
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129・大岡育造
○議長(大岡育造君) 御異議ガナケレバ其事ニ運ビマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=129
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130・大岡育造
○議長(大岡育造君) 從ッテ本日ハ是ニテ散會ヲ致シマス、委員ノ指名及日程ハ公
報ヲ以テ御通知致シマス
午後五時四十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=002813242X02219120319&spkNum=130
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